風の千雨 (掃き捨て芥)
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プロローグ
プロローグ 始まりの風


 とりあえず、短すぎるのもあるのでチラ裏投稿。


 

 その日、長谷川 千雨は失った。

 

「うあああぁあぁぁあぁぁあああああーっ!!」

 

 叫んだ。ただ、叫んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その日、長谷川 千雨はご機嫌だった。父と母、二人の親と一緒に出かけられたからだ。両親に手を引かれて歩いている彼女の機嫌は絶頂だった。そんな時だ、「何か」を感じたのは。

 

「…………?」

 

 「それ」を感じ取れたのは千雨だけだった。それが幸か不幸かは分からない。ただ彼女は感じ取った。感じ取って、しまった。

 

「…………!」

 

 感じ取った先を知りたくて、千雨は走った。その時両親の手と千雨の手が離れていなかったら、走り出す事は無かっただろう。そうして走った先に待っていたのは――

 

「……? 何だ? 子供? 何故気づける」

 

 そこにいたのは「鬼」だった。子供でも分かる赤い色の肌に生えた角、高さが分からない程の

巨躯。どう控えめに見ても鬼だった。その肩に一人の男を乗せている。

 

「気づけた? そうか……貴様『魔法使い』だな!」

 

 鬼の肩に乗っている男は何かに気づいた風で、怒りの感情をあらわにした。その一連の流れを

千雨は見ていた。ただ、見ていた。何が起きているか全く分からなかった。

 

「え? ……え? え?」

 

「死ねぇ!」

 

 男は鬼をけしかけて目の前に居る少女――千雨を殴ろうと、殺そうとした。だがそうはならなかった。

 

「千雨!」

 

 千雨の後を追いかけてきた父親が彼女を庇ったからだ。

 

「ぐふぅぁあっ」

 

 鬼の巨体に殴られた父親の事も、ただ見ていた。呆然と、見ていた。

 

「お、とうさ」

 

「お父さん! 千雨!」

 

 その時後方から母親が駆けて来た。鬼に殴り飛ばされた父親に体を寄せる。

 

「邪魔だぁああ!」

 

 鬼は新しく現れた母親にもその爪を伸ばした。

 

「きゃあああ」

 

 父親の体は、鬼の巨体に殴り飛ばされて「潰れて」いた。母親の体はその鋭い爪によって「切り裂かれて」いた。

 

「お、かあさ、え? え?」

 

 両親の体から出た血が、千雨の顔を染める。目の前で両親を殺された。その事実が静かに千雨の脳に浸透していく。死、ぬ。死ぬ?

 

「邪魔者はいなくなった。次は貴様だぁあぁああ」

 

その日、長谷川千雨は失った。

 

「うあああぁあぁぁあぁぁあああああーっ!!」

 

 叫んだ。ただ、叫んだ。そして、風が吹いた。

 びゅぉううう。びゅおう。激しい音と共に風が吹いた。その風はやがてうねりを上げて回転し、大きな竜巻となった。

 

「な、にぃいい!!」

 

 男は目の前で起こった現象の奥にある精霊の動きを見てとり、一瞬の空隙が生まれた。己が使役する鬼に指示する事も忘れ風に飲み込まれた。

 

「―――――――――!!」

 

 千雨はまだ叫んでいる。風の中心で。

 

 その日、長谷川 千雨は失った。その代わりに得た物。風の精霊と和す感応力(ちから)。風術。

 それが世界の分岐点となった。

 

 




 短すぎる導入。短いのは分かっていますがここが切りの良い所だったのでここで切りました。これから彼女がどうなって行くのか。見守ってあげて下さい。


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第1話 魔法、裏の世界

 男は駆けていた。地面を比喩ではなく飛ぶように駆けて、走っていた。

 

(一体、何が……?)

 

 その胸中にあるのは突然発生した現象に対する困惑だった。仕立ての良いスーツに

包まれたその身は、困惑の原因である現場に辿り着こうとやっきになっている。

 

「……!?」

 

 そしてその場に辿り着いた時、男は「それ」を見た。台風が具現したような風の奔流。圧倒的な精霊の暴走。それの前では人の身など塵芥にすぎないと思わせるほどの力の行使。それを前にして男――タカミチ・T・高畑は動きを止めていた。どんな行動を取れば良いのか分からなかったからだ。

 

(学園長を……!)

 

 頭に浮かんだのは己が身を置く世界において強き力を持った存在の事だった。その人物を頼る事しか考えられなかった。その時だ。

 

「タカミチ君!」

 

 自分の名を呼ぶ声。左後方からの呼びかけに振り返るとちょうどその人物が空を飛んで

やってきた。

 

「学園長!!」

 

 相手の名を呼ぶ。今思う事はただ一つ。目の前の状況への対処だ。

 

「わしが対応する! 君は周囲の警戒と、不用意に余人を近づかせないように誘導を

頼む!」

 

 その時タカミチの胸に浮かんだのは安堵であった。自分の手に余る状況に対応してくれる、という期待だ。責任逃れではないかという後ろめたい気持ちと共に、彼はその場を学園長に任せる

事にした。

 

(それにしても)

 

 思う事はただ一つ。

 

(一体、何が?)

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 学園長と呼ばれた人物――近衛 近右衛門(このえもん)は対応に苦慮していた。彼が観測できたその現場の

状況は、一言で言うなれば「精霊の暴走」であった。今までそれに立ち会った事がないわけでは

ない。精霊が暴走するという事はある程度の経験を持つ者であれば知っているからだ。自分の属性と反する状況に、長く置かれた精霊――水中に放置された炎の精霊や、地中に封印された風の精霊など――が発狂する場合もある事は、確認された事実である。だが今目の前で起きている現象は

その規模があまりにも大きかった。それはまさに台風の如き風の精霊の暴走。

 

(風は五行思想において木気、ならば金気によって相克出来る筈じゃ)

 

 頭に浮かんだのは長年染みついた東方の呪術だった。だが……

 

(この風の暴走は恐らく精霊術じゃ。であるならば適用されるのは四大、東方の五行思想では

どこまで対抗できるか……)

 

 胸をよぎる弱気。それを無理矢理押さえ込んで奮起する。これを抑えられるのはこの場には自分しかいないのだ。弱気になるな。全力でもって対応しろ。

 

(木気を金気で押さえ込む、理屈は合わんかも知れんがそれしかない!)

 

 老骨に鞭を打って力を振り絞る。抑えなければ目の前の暴走は規模を拡大していくかもしれないのだ。原因の分からない事象には全力でもって事に当たる。今までもそうしてきた。

 

 一時間後、無事、風の暴走は治まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……ぁ」

 

 小さな声と共に目が覚めた。最初に目に入ったのは真っ白な色。天井の色だった。

 

「あ、目が覚めた?」1

 

 声がかかる。誰の声だろう。お母さんかな。

 

「……お母さん?」

 

 自分の声に反応したその人物――二十歳ほどの女性はビクッと反応を示した。

 

「あ、ええと。その」

 

「しずな君。わしが代わろう」

 

 そう言って歩み出て来たのは異様に頭部が長い老人だった。

 

「……だれ?」

 

 その人物は自分の誰何の声に応えて名乗ってきた。

 

「わしの名前は近衛 近右衛門。麻帆良学園で学園長をしとる」

 

「学校の、がくえんちょうさん?」

 

 そんな人物が一体自分に何の用だろう?

 

「まずは、落ち着いて聞いて欲しい」

 

 近右衛門は自分に落ち着くように言うと、言葉を切った。そして、

 

「長谷川 千雨ちゃん。君のご両親は……死んだ。亡くなったのじゃ」

 

「え?」

 

 その言葉を聞いても何を言っているのか分からなかった。しかし、

 

「……? ……! ……!?」

 

 徐々に、徐々に……思い出してきた。目の前で鬼に殴り潰された父。鬼の爪に

切り裂かれた母。

 

「……はっはっ、はぁはっはぁ」

 

「む? いかん」

 

 両親の死に様を思い出して、ぶわっと汗が吹き出した様子の千雨を見て近右衛門は

そっと近づいてきた。

 

「落ち着きなさい。千雨ちゃん」

 

 そして近づいた後の近右衛門は小さな杖を取り出すと千雨の目の前で軽く振った。

するとどうだろう。千雨はゆっくりとだが落ち着きを取り戻していった。

 

「大丈夫かね」

 

「はぁっはぁっはぁっ」

 

 声をかけてくる近右衛門を見る事が出来ない。千雨の目は数時間前の両親を追っていた。

 

(お父さん。お母さん)

 

 ぎゅっと服の端を握りしめる。血に塗れた二人の姿が浮かんでは消える。千雨は怖くなって

ベッドの布団の上で丸まった。千雨が落ち着くまでに、幾ばくかの時間を要した。

 

 

 

「……落ち着いたかね」

 

「はぃ」

 

 弱々しい声で、返事をする。落ち着いたかと言われれば微妙だが、話を聞くことは出来るようになった。

 

「もう、だい、じょうぶ。です」

 

 切れ切れに言葉を押し出す。呼吸は楽になったが胸の辺りに沈む重い塊が、胸に詰まるような

感じがして苦しい。

 

「無理はせんことじゃ。水を飲みなさい」

 

 傍らに置かれた水を勧められる。汗をかいて喉が渇いていたので素直に水を飲んだ。

 

「……はーっ」

 

 水を飲んで、一息。

 

「君を苦しめるような事を言ってすまなんだな。じゃが、これから君とは話をしなければならんのじゃ」

 

「はな、し」

 

 こちらの声に頷いてくる。

 

「そう。話じゃ」

 

 それから数瞬の間をおいて、話を続ける。

 

「良いかな? まず始めに、君のご両親は亡くなった。死んでしまったのじゃ」

 

「――それ、は」

 

頭に浮かんだ両親の姿を懸命に振り払おうとする。

 

「何故、そんな事になったか。わしはあの現場を検分した所。分かった事を伝えよう。

君のご両親は悪い人に殺されたのじゃ」

 

 ころ、された。

 

「その悪人は当初、別の人物を殺めようとしてこの麻帆良にやってきたらしい。だが偶然君達家族に遭遇し、君のご両親を傷つけたのじゃろう」

 

 ころされた。ころされた。ころされた。おとうさんとおかあさんはころされた。

 

「そこで――。む?」

 

 また具合が悪くなった千雨を見た近右衛門は千雨に向かって杖を振るった。

 

「はっはっはっ。すみ、ません。話、できなくて」

 

「何、気にする事はない。ゆっくり、気を落ち着けるんじゃ」

 

 近右衛門は自分に向けて優しげに微笑んでくれた。

 

「…………」

 

「それで……ここからが重要なのじゃ。ご両親を目の前で殺された君はとある力を暴走させたのじゃ。覚えておらんかね? 自分の周りで起きた暴風を」

 

「…………」

 

 そう言えば、何か、自分の周りをとてつもない力がとりまいていたような。でも、良く覚えていない。

 

「千雨ちゃん。魔法、というものについてどう思うかね」

 

「魔法、ですか」

 

 何故、そんな事をいうのだろう。魔法なんて。

 

「魔法、なんて。そんな、漫画みたいなもの、じゃないですか」

 

「漫画みたいなもの、か。確かにのう。じゃがな、魔法というのは確かに存在するのじゃよ。先程から君を落ち着かせる為にわしは君に向けて魔法を使っておる。杖を振るっていたじゃろう?

あれがそうじゃよ」

 

 そんな、ばかな。魔法なんて、存在しないよ。

 

「わしを含め、麻帆良には魔法使いが何名もおるのじゃ。内緒じゃが、な。」

 

 魔法使いが、いる?

 

「次に君の話をしよう。先程君はとある力を暴走させたと言ったじゃろう? その力について説明させておくれ」

 

 自分の、力?

 

「君が暴走させて操った力は、『精霊術』と呼ばれる力じゃ。その中でも君は風の精霊術を使えるようじゃな。今までは自覚しておらなんだその力を、ご両親を目の前で失ったショックで発動

させたのじゃろう。わしが現場に駆けつけた時、君を中心に竜巻のような風が吹き荒れておった」

 

 ……その後、近右衛門は言葉を尽くして説明してくれた。自分が風の精霊術を操れる存在だという事。その力はとても大きなもので、ふとした事でまた暴走してしまうかも知れない事。その力の制御を、これから学んでいかなければならないという事も。

 

 その日を境に、千雨の日常は一変した。魔法、気、精霊術。様々な事象が渦巻く裏の世界に身を置く事となるのである。

 

 




 ネギま! だけを知っている人に精霊術、風術というものを理解して貰う必要が
あるので、その力に無知な千雨と一緒に読者の人にも分かる形で情報を開示していく
つもりです。ただこういう事は長々とやっても駄目なので、次の一話だけでざっくりやります。後、幼い千雨を襲った事件についても、次の次くらいに簡単に説明します。



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第2話 風術、精霊術

 今回はネギま! だけを知っている人向けに、精霊術の説明をします。
千雨の扱う風術とはどんなものなのか。それを知って頂けたらと思い書きました。



 あれから、千雨の日常は一変した。まず変わった事として、家族の事がある。父親と母親を失った自分を、近衛学園長が引き取ってくれたのだ。近衛学園長が自分の保護者となり、彼と一緒の家で過ごす事になった。学園長――おじいちゃんと呼べと言われるが頑なに学園長と呼んでいる――は両親を失った自分に優しくしてくれる。だたその優しさを素直に受け取れない自分がいる。

 

 彼を家族と呼ぶ事、彼の家から学校に通う事、共にまだ慣れない。だが慣れていくしかないのだろう。両親を失ってしまったのだから。

 

 次に変わった事が魔法使いの世界を知った事だ。麻帆良は魔法使いが住む街。この世界には魔法があり、気と呼ばれる力があり、精霊術もある。そこで聞いたのだが、どうも自分の持つ精霊術というのは特殊な力らしい。

 

 精霊術とは、今より遙か昔に栄えた体系の力らしい。千年以上昔、この国では精霊術が妖を退治する力として用いられていたらしい。妖、妖怪と呼ばれるものも確かに存在するのだと、初めて知った。その妖怪を退治する為の力として精霊術はあったらしい。理事長が言うには、精霊術は妖怪と反する力らしい。退魔の力として精霊術は一級品、との事だ。だが今日本を含めた世界では、精霊術は廃れてしまっている。魔法の方が汎用性が高いからだ。

 例えば、火の精霊術を使える者がいるとする。その者は火の力を操り「燃やす」事に特化した術者となる。妖怪退治でも火で燃やす攻撃が主体となる。だが逆に言えば火を灯す以外の事ができないのだ。千雨で言えば風を使えるが、風しか使えないという感じだ。

 

 魔法は違う。使う者の適性にもよるが、何かを燃やす事、水を出す事、空を飛ぶ事、妖怪を退治する攻撃を行う事、人の傷を癒やす事、念話で遠くの人と会話する事、様々な事が一人の人間に出来るようになる。汎用性があるのだ。

 

 それに比べると精霊術はその力そのものの特性(火・水・風・地)や、妖怪を退治する力に特化していると言っていいだろう。千雨の扱う風術は、主に補佐に特化した力と言われる。風によって遠くまで声を届けたり、空を飛んだり、精霊の力の流れを調べたり、風を操って打撃や斬撃の攻撃を行ったりできる……らしい。まだ本格的に習っていないので良く知らないのだ。

 

 それで、これからその力の使い方を学ぶという訳だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、これから貴方は風術の扱い方を学んでいく訳だけど、最初に覚えて貰いたい事がある。精霊は便利に使える使役獣なんかじゃない。あくまで力を貸して貰える対象だという事を」

 

 風術の先生、師として招かれた人物は開口一番そう言った。

 

「私達はあくまで力を貸して貰うだけ。だからその力を自分の物だと勘違いしてはいけないよ。私達が操る力は精霊に貸して貰った力だけ。決して自分の力なんかじゃないんだ」

 

 そう言ってこちらを見据えたその人物は、中国から招かれたという(ファン)一族という風術師の大家から来た人だ。自分に術を教える為だけに来てくれたらしい。真面目に学ばなければ。

 

 風術の鍛錬は苦難の連続だった。まず、自分に超常の力があるというのを正しく認識しなければならなかった。自分に「特別な力」がある。そんな事を考えた事は一度もなかった。だというのに自分には力があると言われた。しかも何やら特殊な力らしい。そんな事を考えるのは自分で思う以上にストレスとなった。

 

 次に、風の精霊を捉える、認知する事から修行は始まった。これにかなり苦労した。というのも一番最初に自分が力を発現させた時は無意識だったのだ。無意識に振るった力を意識的に使って見せろと言われても、どうすれば良いのか分からなかった。

 

 風の精霊を認識できるようになったら次はその力を操る事に腐心した。千雨はどうやら師匠曰く「才能の塊」との事で、精霊と交信する事にはさほど苦労しなかった。だが精霊と意思を通わせる事が出来たとしても、細かい技術は別物だ。文字通り針の穴をも通すような繊細なコントロールを要求された。また、全ての精霊に話しかけ、お礼を言うのも忘れずに行う。力は借りているだけなのだ。感謝の気持ちを忘れない。

 

 最初に習ったのは風を操って遠くに声を届かせる訓練だった。風を操り、試しに学園長に声を届けてみた。次に細かいコントロールを行い、特定の人物に「だけ」声を届かせる方法。その次は逆に風を操って遠くの音を聞く練習。プライバシーという言葉が裸足で逃げ出すような練習ばかりする事となった。

 

 その次に習ったのは風の精霊を操り、精霊の動きを調べられるようになる事だ。この世には火・水・風・地の四大精霊が存在する。自分が操る風以外の精霊の動きを探査出来るように訓練を重ねた。

 

 そこまで習得した所、師匠から認められて空を飛ぶ訓練が始まった。空を飛ぶのは風術の基本ではあるが扱いが難しいので、習い始めたばかりの初心者が手を出すと痛い目を見るとの事。なんでも調子に乗って落ちてしまう者も多いのだとか。

 

 空を飛べるようになった事で、師匠から風術師を名乗る事を許された。これだけ出来れば上出来との事。次に習ったのは中級の技術で、物理法則から解き放たれる事だ。どういう事かというと、精霊術は物理法則に従わず独自の法則で発現させる事が可能らしい。

 

 分かりやすく説明してみよう。火の精霊術師がいたとする。火を燃やすには酸素が必要、とは小学生でも知っている事だ。火の精霊術師も基本的にはその物理法則に従って火を燃やすのだ。だが、一定以上の力量を持つ精霊術師であれば、酸素がない場所でも火を燃やす事が出来るようになるらしい。同じように風術師でも物理法則を超越して風を操れるようになれ、と言われた。かなりの無茶ぶりではあったが、何とかこの技術もものに出来た。全く風が吹く事のない場所で風を起こす事が出来るようになったのである。

 

 精霊術に必要なもの、それは強い意志だ。魔術とは、「原初の法則」に自分の意思を

割り込ませ、新たな法則を便宜的に創り出す事によって事象を操る行為を言う。「世界」というシステムにハッキングし、プログラムを書き換えるという表現も出来るだろう。つまり、物理法則で風が起きない状態だったとしても、強い意志で物理法則を否定すれば、物理法則を超越して風を起こす事が出来るのだ。具体的には、千雨が「風を起こす」という強く念じる事で、物理法則を超える程の念を込めなければならない。それが出来た時、千雨の意思は物理法則を凌駕するのだ。

 

 そこまで習った所で、初めて攻撃する為の術を習う事が出来た。主に妖怪などを退治する際に使う術だ。だがこの術を習う事には抵抗があった。力に目覚めた事件が事件だけに、人や何かを攻撃する術など習いたくなかったのだ。

 

「甘えるな。千雨」

 

 師は言った。何かを為すには力が必要だと。自分の意思を押し通すのにも力が必要なのだ。手にした力で無闇やたらと人を傷つける必要はない。ただ大切なものを守る為に力を振るう事もあるだろう、と。

 

 その時に、魔法使いに対しての優越についても習った。魔法使いは汎用的な力を扱えるが、必ず呪文を唱えて、幾ばくかの時間を要しなければならない。それに対して精霊術は意思を働かせるだけで発動するのだ。同じ力量の魔法使いと精霊術師がいたら、必ず精霊術師の方が先に術を発動できるのだ。これは大きなアドバンテージだ。更に、千雨の使う風術は威力こそ低いものの、速さに関しては四大随一だ。千雨は同じ年の魔法使いや学園長との模擬戦を行う事によって、自分の能力の優れた部分、劣っている部分を正確に把握した。

 

 様々な術を操れるようになり、千雨は風術師になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「千雨ちゃんや、君も来月から中学生になる。その前に話しておくべき事がある」

 

 中学入学を控えたある日、学園長から話をされた。なんでも麻帆良の学校には魔法生徒というくくりがあるとの事。千雨も精霊術師という特殊な分類ではあるが、その区分けに入るので注意して欲しいと言われた。ちなみに中学からは全寮制だ。近衛学園長との生活もこれで終わりになる。

 

(そんな事言われてもな)

 

 正直、困る。元々自分は力が欲しかった訳でもないのだ。

 

(そこん所、私は魔法生徒とか先生なんかとは違うんだよな)

 

 魔法使いや、その見習いである魔法生徒は自分から魔法を使いたいと思ってそうなった人達ばかりだ。だが千雨は違うのだ。まず力があり、その使い方を学んでいっただけなのだ。

 

(まあ適当にやるさ)

 

 そんな事を思い、中学生になった。

 

 




 なるべく早く原作に突入したかったので、小学生の千雨が修行するシーンはこれで終了です。次回は中学生になった千雨です。
 風術の説明、特に重要なのは速さですね。精霊術は意思を働かせるだけで発動できます。特に千雨の扱う風術は速いです。魔法使いに対してこれ以上ないほどの優越になります。その所はこれからの話の中で、戦闘があればお見せする事になるでしょう。


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第3話 魔法先生ネギ!?

 原作開始。とはいえこの作品の変更点は千雨だけなので、千雨が関わらない部分は全て原作通りです。


 その話を聞いた時、何を言ってるんだこの人は? と思った。

 

「じゃからな。イギリスの魔法学校の卒業試験で、麻帆良で先生をやる事になったんじゃよ」

 

「……だれが?」

 

「じゃからネギ君と言って魔法学校を卒業したばかりの9歳の子供じゃよ」

 

「…………」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。眉間をもみほぐしながら言葉を吐き出す。

 

「何だか頭が痛くなってきたよ」

 

「そりゃいかん。お医者さんに行かんとな」

 

「…………おい爺さん。耄碌するのもいい加減にしろよ」

 

 少し、いやかなりの怒気を込めて睨み付ける。

 

「抗議などをしても無駄じゃぞ。これはもう決まった事じゃからな」

 

 ふざけろ。このじじい。

 

「私がそんな事を認めると思うか?」

 

「そうは言ってものう。これは最早決まった事じゃし」

 

「私が、魔法使いの事情で、一般の人間に被害が出る、それが大嫌いな事だって知ってて言ってるんだよな?」

 

「……分かっておるよ。千雨ちゃんが『そういう事』を嫌っておる事は。じゃがこちらにも譲れん事情があるんじゃ」

 

 ……結局、その後も繰り返し抗議したが、こちらの意見が通る事はなかった。来月からうちの

中学校で9歳の子供が先生をやるらしい。はははは。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ~、確かに聞いてるよ。その話」

 

「お前らは疑問に思わねーのかよ!」

 

 学校からの帰り道で、クラスメイトの春日 美空と話をする。

 

「あ~うん。千雨ちゃんなら確かに怒るだろうね。でもうちらからしたら別に……って感じだし」

 

 これだから。魔法使いって人種は本当に救えない。

 

「くそっ!」

 

「千雨ちゃん汚いよ」

 

「うるせー!」

 

 春日以外の魔法生徒とも話してみたが、概ね反応は同じだった。私だけが馬鹿みたいに怒って

いるのだ。だって許せないだろう! 何で魔法使いの勝手な事情で一般人の生徒が割を食わなきゃならないんだよ! そんな私の怒りも虚しく、件のガキはやってきたのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「鳴滝姉妹、春日、お前らそういうのやめろよ」

 

 私は新任の教師用に悪戯を仕掛けようとしているのを見とがめて、それを止めようとした。

魔法使いもたいがいだが、うちのクラスの奴らも同様に救えない。

 

「えー。でも」

 

 反論してきた姉の風香を、正論で封じ込める。

 

「お前らなぁ。新任の先生が大学を出たばかりの女の人だったらどうなると思ってんだよ」

 

 まず黒板消しを扉に挟むトラップだが、これだけでもたいがいだ。かかるのが女性だった場合、髪に白墨がこびりつく事になる。しかも頭が汚れたからって学校で洗い流す事など出来や

しないのだ。勿論私は新任の教師が9歳のガキだと分かってはいるが、それは現時点では「分からない」事なのだ。だから新任の教師が女性かも知れないと言って反論を封じる事が出来る。

 

「あー。確かに、女の人だとマズイかもねぇ」

 

「マズイかもねぇ。じゃねぇ! すぐにやめろよ」

 

 私はそう言って、仕掛けられたトラップを解除させる。扉の内側にロープを仕掛けて転ばせる

トラップとか悪質にも程があんだろ! しかも転んだ先に空のバケツと矢が降ってくるように

仕掛けやがって。

 

「春日! お前は新任の教師が誰か知ってるだろーが」

 

 怒鳴りつつも声を潜める、という真似をして春日を注意する。相手が誰か分からないでトラップを仕掛ける姉妹も姉妹だが、相手が9歳のガキだと分かっていてトラップを仕掛けるこいつもこいつだ。

 

「やー。ははは。イギリスから来る人なら大丈夫かなーと思ってさー」

 

 思ってさーじゃねーよ! 相手が魔法使いだから大丈夫とかそんな言い分があるか!

 そんな事をやっていると始業時間が近づいて来たので席に戻る。

 

「失礼します」

 

 ガラッと音を立てて扉を開けたのは、想像とそんなに違わないガキだった。メガネをかけ、

子供用のスーツに身を包んでいるそのガキは教壇に立つと自己紹介を始めた。

 

「ええと、あ……あの……ボク……ボク……」

 

 おいおい大丈夫かぁ? やっぱ9歳のガキには見知らぬ外国で先生なんて荷が重すぎるんじゃねーのか?

 

「今日からこの学校でまほ……英語を教える事になりました。ネギ・スプリングフィールドです。3学期の間だけですけど宜しくお願いします」

 

 おい今何言いかけた。魔法とか言いそうになってたぞ! ホントに大丈夫なんだろーな!?

 それはそれとして教室は混乱のるつぼに陥った。「キャー」とか「可愛い」という声が乱舞し、

ガキに質問が飛びまくる。まぁ……これは止めなくていいか。さすがに騒ぎすぎだと思うが、この程度捌けなければこのクラスの教師はやっていけない。

 そんな感じで教室の混乱は止まることなく続いた。しまいには委員長――雪広 あやか――と

神楽坂 明日菜の間でショタコンだのオヤジ趣味だのと喧嘩が始まってしまった。

 混乱は源 しずな先生が収めてくれたが、それはこの先のガキ教師が満足にクラスを抑えられない事を意味していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ガキ教師の初めての授業はさしたる混乱もなく終わった。黒板の板書に困るガキに、雪広が踏み台を差し出す一幕があったが、それ以外は大した事は起きなかった。しかし雪広の奴は相変わらずのショタコンだな。胸像まで作りやがって。

 そうしてその日の放課後になり、クラスの皆でガキ教師の歓迎会を開く事になったのだ。

 

「長谷川、ホントに参加しないの」

 

「ああ。悪いが私はあのガキを歓迎する気持ちにはなれそーにねーからな。そんな気持ちの人間がいても迷惑なだけだろ」

 

 私はそう言って歓迎会を断った。空気を読まない行動だとは思うが、ホントに歓迎の気持ちがわかないのだから仕方ない。

 その日の夜、ガキの住む部屋が神楽坂と近衛の部屋だと知って、私の限界は突破された。更に、その時の私はまだ知るよしもなかった。その日の放課後にはガキ教師の魔法が神楽坂にバレて

しまっている事を。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「じゃあ 1時間目を始めます。テキスト76ページを開いて下さい」

 

 翌日の朝。1時間目の授業がまたガキ教師の時間だ。

 

「The fall of Jason the flower. Spring came. Jason the flower was born on a branch of a tall tree. Hundreds of flowers were born on the tree. They were all friends」

 

 さすがイギリス人、発音はネイティブだな。とと、感心してる場合じゃねー。私も授業に集中

しないとな。

 

「今の所誰かに訳して貰おうかなあ。えーと……」

 

 ガキ教師の視線から、皆一様に目を逸らす。私は自信があるので目は逸らさない。すると……。

 

「じゃあアスナさん」

 

「なっ……なんで私に当てるのようっ!?」

 

 当てられた神楽坂は抗議しているが、通りそうにない。

 

「要するに分からないんですわね、アスナさん。では委員長のわたくしが代わりに……」

 

 煽んなよ。雪広。

 

「わ わかったわよ。訳すわよ。えーと……ジェイソンが……花の上……に落ち春が来た? 

ジェイソンとその花は……えと……高い木で食べたブランチで……骨……が百本? えーと……

骨が……木の………………」

 

 かなり苦しいな。神楽坂の奴。

 

「アスナさん英語ダメなんですねえ」

 

 その時ガキがくすりっと笑い飛ばした。……おい、ガキ。一生懸命解こうとしてる生徒に向かってそれはねーんじゃねーのか。私は思わずガキに向かって抗議しそうになってしまった。でも魔法と関係ない教師としての仕事に口を挟むのはな、と思い自重した。

 

「アスナは英語だけじゃなくて数学もダメですけど」

 

「国語も……」

 

「理科社会もネ」

 

「要するにバカなんですわ。いいのは保健体育くらいで」

 

 神楽坂をこれでもかと追い込むクラスメイト達。こういう空気はあまり好きじゃない。人を笑いものにするようなこの空気は。その時だ。ガキに詰め寄っていた神楽坂とガキの間に「それ」が

起きたのは。

 

「ハクション!!」

 

「うひゃあっ」

 

 ガキから巻き起こった風が神楽坂の服を吹き飛ばし下着姿にしてしまった。……それを見た

瞬間、私の中で時間が止まった。魔法使いが、一般人に、魔法を使った。

 それを知覚して、私の脳細胞は止まった。

 

 私の家族は魔法使いに殺された。魔法使いが、一般人に、魔法を使ったのだ。私にとってそれは絶対に許せない事だった。絶対に。

 あの魔法使いは当初麻帆良に住む魔法使いを目当てに侵入したらしい。だがその過程で自分達の姿を見られないようにしていたのに、何故か自分と使役する鬼を認識した自分に反応して、あの

事件が起きた。そして、千雨は力を暴走させてあの男――鬼を使役していた術者を殺した。

 千雨にとってその事実は今も続くトラウマだ。自分があの事件を引き起こした。自分に風術の

適性があって身を隠したあの男を認識してしまったから両親は死んだ。そして人を殺した。その

事実は千雨の心を苛むのに充分だった。と同時に千雨にとって魔法使い、超常の力を使う人間が

一般人を傷つける事は最大の禁忌となった。

 

 キーンコーンカーンコーン。授業のチャイムが鳴って自由に体を動かせるまで、千雨はずっと

固まったままでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あのガキをイギリスに返して下さい」

 

「ち、千雨君」

 

「…………」

 

 学園長室で、千雨は直訴していた。部屋には近右衛門と高畑がいる。

 

「あのガキは私の目の前で魔法を使いました。一般人の神楽坂に向けて。絶対に許されない事です」

 

「千雨ちゃんや。確かに君が怒る気持ちは分からんでもない。じゃがな、あの子はまだ未熟なのじゃ。……子供なのじゃ。だから今は見守ってあげてくれんか」

 

「子供だと言うのなら! ……未熟だと言うのなら、イギリスから出さないで下さい。魔法使いの学校を卒業させないで下さい。逆に卒業したのなら、ちゃんと力を振るえるようになっていなければならない筈です」

 

「千雨君、だがね」

 

「高畑先生。少なくとも私はそうでした。突然目覚めた自分の力を、制御しなさいと

言われて、制御する訓練に明け暮れました。勿論私だけの力じゃなくて、師匠の教えが

あっての事ですが。力を使えるように訓練したんです、私は。なのにあのガキは学校を

卒業してるのにその力を制御出来ていない」

 

「確かに、君の言う通りじゃ。ネギ君は未熟で力を暴発させた。じゃがな、千雨君、一度じゃ。たった一度のミスで全てを台無しにしてしまうというのは、あの子にとって酷ではないかね」

 

「…………」

 

 その後の話し合いは平行線を辿った。一度のミスですら許されないと主張する千雨と、麻帆良に来て一度目のミスなのだから、一度だけ見逃してくれという近右衛門と。

 最終的に、近右衛門は言葉を尽くして千雨を説得した。自分が面倒を見た恩すら使って説得したのだ。その結果、千雨は一度だけガキ――ネギのミスを見逃す事にした。断腸の思いだったが、

まだ子供であると言う事と、今回の事は厳重に注意、勧告すると言う近右衛門とで。

 

「今回だけ。今回だけです。ですが二度目はありません。もし二度目が起きたら、私は力ずくでもあのガキを排除します」

 

「分かった。わしの方からネギ君には厳重に、厳重に注意を行う。二度目がないという事も合わせて説明する」

 

 学園長室を出る千雨の拳は、固く握りしめられていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 とりあえず、あの場は保留という結論に至った。だが私は納得した訳じゃない。それからしばらくの間、私はあのガキの動向をつぶさに観察した。ガキはそれまでずっと携帯していた魔法使い

の杖を持ち歩かなくなった。魔法使いは杖などの魔法発動体がなければ魔法は使えない。それを知っているので私は少し安心した。

 泊まっている部屋での勉強会や、風呂場でのガキ混入騒動も見張った。

 そんな日々を過ごしていた時だ。その事件が起きたのは。

 

「ねー あのネギ君が来てから5日経ったけど、皆ネギ君のコトどう思う?」

 

 昼休み、中庭で本を読んでいる私にそんな会話が聞こえてきた。……あのガキをどう思うかだって? 魔法を暴発させる危険人物だよ。そんな事を思っていると、何やら騒ぎが起きていた。

 

「フフフわかった? あんた達中等部なんて私達高等部に比べたらお子ちゃまなのよ。お子ちゃま! 分かったらほらどいたどいた」

 

「いやーーん私達が先なのにー」

 

 何だあの大人げないバカ共は。私はそいつらを止めるべきかどうか悩んでいた。

 

「コラ――君達待ちなさーーーい」

 

 そこにガキ教師が突っ込んできた。

 

「僕のクラスの生徒をいじめるのは誰ですか? い……いじめはよくない事ですよっ!? 僕 担任だし怒りますよっ」

 

 ガキは必死に諍いを止めようとしたが、結局最初に学園に来た時のように高等部の奴らに可愛がられてしまった。その高等部の奴らを止めようとする雪広と神楽坂の間で喧嘩になった。……こいつらには学習能力というものがないのか? 

 

「女の子がとっくみ合いの喧嘩なんてみっともないぞ。君達も僕の元生徒が悪かったね。でも

中学生相手にちょっと大人気なかったかな?」

 

 高畑先生が来てくれた。これでこの場も収まるだろう。

 

「い、いえ」

 

「はい……」

 

 高等部の奴らは高畑先生に注意されて矛を収めた。良かった良かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あら、また会ったわねあんた達」

 

「偶然ね」

 

 その日の夕方、屋上で体育の授業でバレーを行おうとした私達の前に、高等部2-Dの連中が

立ちはだかった。

 

「私達 自習だからレクリエーションでバレーやるのよ。あんた達は?」

 

……アホかこいつら。自習になって自由行動になった奴らと、学校の授業でバレーをやる私達を

一緒にするな。

 

「って、あんたは何でそこで捕まってんのよネギ坊主!!」

 

「い いえ その 体育の先生が来れなくなったので代わりに来たら あの」

 

 ガキはしどろもどろになっている。やっぱ全体的に頼りねえなぁ。その時だ。

 

「あ あの……どんな争い事も暴力だけはダメです。アスナさん」

 

 ほう? 神楽坂に服を脱がせるという暴力を振るった奴が言うじゃないか。

 

「……で ではこうしたらどうでしょう。両クラス対抗でスポーツで争って勝負を決めるんです。爽やかに汗を流せばつまらないいがみ合いもなくなると思うんですけど……」

 

「いいわよ。面白いじゃない」

 

 結局その場はバレーで決着を着けるという流れになってしまった。……この街にはアホしかいないのか?

 

「長谷川、君は手伝わんのか」

 

 龍宮 真名が私に問いかけてくる。

 

「何を手伝うってんだ? アホらしい。こんなの正規の教員に来て貰えば一発で解決だろ」

 

 私はその言葉通り職員室に直行すると、その場に居た高畑先生に事のあらましを伝えて騒動を収めて貰った。自習と正規の授業ではどちらが優先されるかなんて分かりきった事だ。高等部2-Dの連中は、高等部の先生達に連れられて引っ込んで行った。

 




 ネギが最初に引っかかるあのトラップですが、大学出たての気の弱い女性教師とかだったらその日の内に家に帰ってしまう程どぎついトラップだと思います。女性の場合髪にも影響あるしね。
なので千雨にやめさせました。
 ネギの服飛ばしは色んなアンチ作品で取り上げられている要素だと思います。ですがこの作品ほど「許さない」という感情を露わにする主人公も珍しいのではないでしょうか。千雨にとって魔法や気、精霊術を使える人間が一般人を傷つける事は絶対に許されない事なのでした。今回は何とか体を傷つけるようなものでなかったのが幸いしましたね。ネギの魔法がアスナの体を傷つける類いのものであれば、近右衛門がどんなに言葉を尽くそうとも千雨はネギを認めなかったでしょう。
 近右衛門からの厳重注意により、原作2話目のホレ薬がなくなりました。それにより宮崎 
のどか(通称本屋ちゃん)のネギに対する接近度が減少しました。3話目の風呂騒動での胸爆発もなしです。4話目の杖で空を飛ぶのもなしです。そしてバレー勝負がなくなった事で、勝負の後の風魔法も無しです。……こうやって列挙すると初期のネギはホントに一般人対してや目の前での
魔法行使が目に付きますね。ですが今回の話でかなりの厳重注意がなされたので今後は改善される予定です。具体的には杖を持ち歩かなくなります。


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第4話 期末テスト

 4話まで投稿したのでチラ裏から出てきました。批判感想はお手柔らかにお願い
します。


「課題? ですか」

 

「そうじゃ。彼には一つ課題をクリアして貰おうかの。才能ある立派な魔法使い(マギステル・マギ)の候補生として――」

 

「どんなもの何ですか?」

 

 喫茶店での昼食を頬張りながら近右衛門に尋ねる。中学から学生寮になった事で心配

した学園長がこうして交流の場を設けてくれているのだ。

 

「うむ。次の期末試験で、二-Aが最下位脱出できたら正式に先生として採用してあげようというものじゃ」

 

「相っ変わらず、魔法使いと何の関係もないですね」

 

 単純に教師としての能力を測られているだけじゃねーか。それも正規の教員である高畑先生が

成し遂げられなかった事をやれ、というね。

 さてどーなる事やら。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「えーーと皆さん聞いて下さい。今日のHRは大・勉強会にしたいと思います。次の期末テストはもう すぐうそこに迫ってきています。あのっそのっ……実はうちのクラスが最下位脱出

できないと大変な事になるので~~。皆さん頑張って猛勉強していきましょ~~~~」

 

 必死だな。そりゃそーか。この期末テストの結果如何によって、卒業試験の結果が決まるんだもんな。でも自分の為に生徒に勉強させるってのは教師としてどうなんだ。それって「お前らが良い点数取らないと俺の評価が上がらないんだよ」とか言うダメ教師と何が違うんだ?

 

「はーーい♡ 提案提案」

 

「はい! 桜子さん」

 

 椎名 桜子が何やら提案があるらしい。

 

「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと思いまーーすっ!!」

 

 ずるっと音を立てて机から滑り落ちそうになった。ダメなのは教師だけじゃなくて生徒もか。

あははそれだーっじゃねーっつーの!

 

「じゃあそれで行きましょう」

 

 OKしちゃったよ!? あのガキ野球拳がどういうものか知らねーだろ! そのガキはクラス

名簿……多分成績表を見ている。その間にもクラスの奴らは野球拳を進めて服を脱いだりして

やがる。あ、頭が痛い。

 

「悪いけど付き合いきれねーや」

 

 私はその言葉を残すと、HRを抜けて保健室に急ぐのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ああ、生き返るな。風呂は命の洗濯だよ。私は今学生寮の大浴場に入っていた。

 

「アスナーーアスナーー大変やーー」

 

「何? このかー」

 

「お ちょーどバカレンジャーそろっとるな♡ 反省会か? 実はな噂なんやけど……

次の期末で最下位を取ったクラスは……」

 

 何だ?

 

「えーーっ。最下位のクラスは解散~~!?」

 

 またずるっと音を立てて風呂の中を滑った。……んなことある訳ねーだろ! アホか。

 

「そのうえ特に悪かった人は留年!! どころか小学生からやり直しとか……!!」

 

「え!?」

 

 いやだから、ありえねーって。確かにウチの学校は魔法がまかり通る不思議学校だけど。それ

以外は基本的に普通の学校なんだっつの。

 

「――ここはやはり……アレを探すしかないかもです……」

 

「夕映!? アレってまさか……」

 

「何かいい方法があるの!?」

 

「『図書館島』は知っていますよね? 我が図書館探検部の活動の場ですが……」

 

 綾瀬 夕映が何やら発言している。

 

「一応ね。あの湖に浮いているでっかい建物でしょ? 結構 危険な所って聞くけど……」

 

 図書館島か、あれもまた不思議がまかり通っている施設なんだよな。

 

「実はその図書館島の深部に――読めば頭が良くなるという『魔法の本』があるらしいのです。

まあ大方 出来のいい参考書の類とは思うのですが……それでも手に入れば強力な武器になります」

 

 あ。

 

「もー 夕映ってばアレは単なる都市伝説だし」

 

「ウチのクラスも変な人多いけどさすがに魔法なんてこの世に存在しないよねーー」

 

「あーー アスナはそーゆーの全然信じないんやったなー」

 

 そうだそうだ信じるな。

 

「いや……待って……行こう!! 図書館島へ!!」

 

「え……」

 

 待て待て待て待て! 図書館島の深部へ行くのも、魔法の本を信じるのもオススメしねーぞ!

私は慌てて立ち上がるとバカ話している奴らに近づいた。

 

「神楽坂、それからお前ら。魔法の本なんてものは存在しねーよ! バカな事言ってないで

真面目に勉強しろ!」

 

「な、何よう千雨ちゃん。そんな強く言わなくたって」

 

「お前らがバカな話してるから叱ってるんだよ。……仮に魔法の本なんてものがあったとして、

そんなズルしてお前ら嬉しいのか?」

 

「え?」

 

「期末テストを受ける皆は真面目に勉強してるんだ。なのにお前らはズルしてテストの点だけ

取るのか? そんなズルして嬉しいのかよ?」

 

「…………」

 

「私から言えるのは一つだけだ。ズルなんかしないで真面目に勉強しろよ」

 

 私は言いたい事だけ言うとその場を立ち去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間が飛んで期末テストになった。私は学園長に養って貰ってる身としては真面目にやらざるをえない。勉強はいつも真面目にやっているのだ。今回もそれなりの点数は取れるだろう。そう言えば結局あのメンバーは図書館島には行かなかったらしい。少しは自分の言葉が通じたんだろうか?

 

 それと、あのメンバー皆で集まって勉強会を行ったらしい。ガキ教師が音頭を取ってやらせた

らしい。真面目に勉強しているならそれが一番だよ。

 

 期末テストの数日前、2-Aが最下位を脱出しないとガキ教師がクビになるという話が持ち

上がった。学園長からの説明では「脱出できたら正式な先生にする」というものではあったが、

できなければクビなんて初めて聞いたぞ。どこで情報がねじ曲がったんだ?

 

 そんでテスト当日になった訳だが……あのバカ共は何をしてるんだ?

 

「もう予鈴が鳴ってしまいましたわよ! あの5人組(バカレンジャー)はまだ来ませんの!?」

 

 バカレンジャー達が何故か教室にやってこないのだ。

 

「あっ見て!! バカレンジャー達が来たー!!」

 

「ハアハアちっ遅刻ーッ」

 

「最後の悪あがきに徹夜で勉強したら遅刻アルーー」

 

「1時間で起こしてって言ったのにー」

 

 何やってんだか。そう思いながらも少し嬉しかった。地道に勉強してたみたいだな。

遅れて来た遅刻組は別教室で試験を受けるようだ。

 

「み みなさん 試験がんばって!!」

 

 ガキ教師も応援している。まあ今回の試験に限れば自分の進退がかかっているんだから応援ぐらいするか。どうも私はあのガキに対して見方が厳しくなっちまうな。

 いかんいかん。私は私で自分の試験に集中しよう。その時だった。

 

「ラス・テル・マ・スキル――フラーグランティア・フローリス・メイス・アミーキス・

ウイゴーレム・ウイーターリターテム・アウラーム・サルーターレム・レフエクテイオー」

 

 魔法!? 私の感知する範囲内で魔法の使用が感知された。風の精霊を動かす魔法だ。これは……あのガキ! また魔法を使いやがった!

 あのガキ、普段は携帯を禁じられている杖を持ってきていやがった。

 しかもこれは……対象者を覚醒させるタイプの魔法だ。あのガキ、遅刻組に対して頭をスッキリさせる為にこの魔法を使いやがったんだ。人を攻撃するような魔法じゃないなら使っていい訳じゃねーっての。私は事後なので効力がほとんどないと知りつつも、その魔法を散らす、効力を無くすように風を操ってみた。

 あのガキめ! 確かに遅刻した彼女らを心配する気持ちは分からないでもないが、特定の人物にだけ覚醒の魔法をかけるなんて許される事じゃない。それを認めるのであれば、試験の監督官が

生徒に対して「夜遅くまで勉強して疲れているだろう。特別にこの教室の者だけこの栄養ドリンクを飲んでガムを噛みながら試験を受けていいよ」ってやるようなもんだ。ふざけんな。

 私は後で学園長に報告してやるからな、と強く思いつつ、自分の試験に集中するのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 あの後、結局ガキの魔法はさほど問題にはならなかった。一度かけた魔法を解く訳にもいかないし、魔法をかけられただけの生徒から、試験の点数を引く訳にもいかない。ガキに厳重注意が

下っただけで終わった。何か凄く納得いかねえ。

 

 そして今は成績発表の時間だ。モニターの中で成績を発表される。

 

「下から三番目の22位――2-A!!」

 

 我らが2-Aは無事(?)に最下位を脱出したのだった。

 

 




 二次小説を読んでいる人には勘違いしている方がいらっしゃるかも知れませんが、ネギに与えられた課題は「最下位脱出したら正式な先生にしてあげる」というものです。クビとか何とかはコミックス2巻、9話で突然出て来たものです。多分話を聞いた生徒達が話を膨らませたんじゃないかなぁ。
 アスナ達は図書館島には行きませんでした。千雨に叱られたのもありますが、ネギが原作ほど
魔法を使っていないので、魔法に頼る意思が強まらなかったのでしょう。
 ネギが遅刻組に使った魔法に対してのツッコミ。当時マガジンを読んでいて一番納得がいかない場面でした。読んだ瞬間「はぁっ!?」と声が出たくらい納得がいきませんでした。本編に書いた通り、特定のクラスだけ栄養ドリンクとガムを配るようなもんですよ。
 そして結果発表。最下位だけは脱出できました。そんだけです。学年トップ? そんな簡単に
なれる訳ないじゃないですかー。



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桜通りの吸血鬼事件編
第5話 3年生


 活動報告にアイデアを思いついただけのプロットを投稿しました。
良ければ見てやって下さい。


 「フォフォフォ 皆にも一応紹介しておこう――新年度から正式に本校の英語科教員となる

ネギ・スプリングフィールド先生じゃ。ネギ先生には4月から『3-A』を担任して貰う予定じゃ」

 

 朝の朝礼でそう紹介される。あのガキが正式な教員と担任……ねぇ。まだ早いんじゃねーの、と思う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「という訳で2-Aの皆さん。3年になってからもよろしくお願いしまーーす」

 

 おーおー張り切ってるな。私はそんなガキ教師を冷めた目で見ていた。……まあ期末テストで

最下位を脱出したのは評価される事かな。高畑先生でも出来なかった事だもんな。それについては頑張ったと思うぜ。

 

「ハイッ先生ちょっと意見が!」

 

「はい鳴滝さん」

 

「先生は10歳なのに先生だなんてやっぱり普通じゃないと思います」

 

 い、今更。最初に赴任して来た時に言えよ!

 

「えーと……」

 

「それで史伽と考えたんですけど――……今日 これから全員で『学年最下位脱出おめでとう

パーティー』やりませんか!?」

 

 前フリと関係ないだろ、それはっ。何 みんなで大喜びしてんだ!? 私はこのクラスの

こーゆー所にもついて行けねーんだよっ。

 

「――ん? どーしたんですか長谷川さん寒気でも……?」

 

 怒りで震えていたらそんな心配をされてしまった。

 

「いえ、別に」

 

 私に構うな。私はどちらかと言えばあんたの事が嫌いなんだよ。……まあ、あんたが善良な人間だってのは認めるよ。

 

「ちょっとおなかが痛いので帰宅します」

 

 こういう日はサボるに限る。さっさと帰っちまおう。

 

 そもそもこのクラスちょっとおかしいんだよな……。一年の頃から思ってたけど……。異様に

留学生が多いし、全く次から次へと。何かデカいのやら幼稚園みたいのやら。大体 何だあのロボはっ!? 何で誰も突っ込まないんだよーどー見てもロボだろ!? ロボ!! 魔法生徒の数も

多いし……ああイライラする。極めつけはあの子供教師!! 10歳ってなんだよ~~!?

 

 私は学生寮に誰の邪魔もされる事なく帰ってくる事が出来た。サボるのは悪い事だが実際に頭が痛いのだ。早退という事で許して貰うか。

 私は制服を楽な部屋着に着替えると、ベッドに横になった。こういう時、暇な時間が出来ると

思う。私って趣味とかねーよなぁ、と。小学生の頃に両親をなくし、それ以降の学校生活は放課後全てを風術の鍛錬に当ててきた。故に趣味というものを何一つ持っていないのだ。

 なーんか、虚しいよなぁ。そうやって休んでいると部屋のドアがノックされた。

 

「長谷川さーん。いませんかー」

 

 あのガキ教師の声。くそっ。部屋まで押しかけるんじゃねーよくそガキが。それでも担任が様子を見に来たのに無視する訳にもいかず、ベッドから起き上がり応対する。

 

「何か用ですか?」

 

「あ……あの……さっきおなか痛いって言ってたので。これ おじいちゃんから貰った超効く腹痛薬です。おひとついかがですか……? 効きますよーー」

 

「確かにおなかは痛いですがストレス性のものだと思うので効かないと思います。なのでいらないです」

 

 っていうかその薬、ドクロマークじゃねーか! 殺す気か!

 

「あ あのパーティーに来ないんですか……?」

 

「私 ああいう変人の集団とはなじめないんです。部屋で休むのでもー帰って下さい」

 

「そ そうですか、皆普通だと思うけど……」

 

 そこでドアを閉じた。すぐさま鍵をかけて閉じこもる。何か言ってきてるけど無視だ無視。

 

「行きましょう長谷川さん。皆すぐ下の芝生でやってますよパーティー♪」

 

 無視だ無視!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新学期になろうかと言う夜、学生寮でガキ教師が日本にパートナーを探しに来たと噂になった。くそが。パートナーってあれだろ、魔法使いのパートナーだろ。魔法使いの従者(ミニステル・マギ)とかいう。そんな噂立てられてるんじゃねーよ!

 

 

 

 ところ変わって学校で朝のHRだ。

 

「3年! A組!! ネギ先生―っ♡」

 

 わあああ。とクラスの奴らが騒ぐ。バカどもが。

 

「えと……改めまして3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの一年間よろしくお願いします」

 

 ん? 殺気? 右を向くとエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがガキ教師の方に厳しい

視線を向けていた。そういやあいつ、ガキ教師の父親と因縁があるんだっけか? 学園長から

そんな話を聞いた事がある気がする。

 

「ネギ先生。今日は身体測定ですよ。3-Aの皆もすぐ準備して下さいね」

 

「あ そうでした。ここでですか!? わかりましたしずな先生。で では皆さん身体測定ですので……えと あのっ今すぐ脱いで準備して下さい」

 

 アホか。急に言われて慌てているんだろうが、慌てすぎだ。

 

「ネギ先生のエッチ~~ッ♡」

 

「うわ~~ん。間違えましたー」

 

 まあ、まだまだガキで、大人の仕事をやるのは早いって事だろ。……そう考えるとあのガキも

大人の都合に振り回された被害者なのかもな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あれーー? 今日まきちゃんは?」

 

「さあ?」

 

「まき絵は今日身体測定アルからズル休みしたと違うか?」

 

 佐々木の奴休みなのか。そんな会話が身体測定の着替え中に聞こえてきた。

 

「ねえねえところでさ、最近寮で流行ってるあの噂どう思う?」

 

「え……何よソレ柿崎」

 

「ああ あの桜通りの吸血鬼ね」

 

 吸血鬼?

 

「知らないの? しばらく前からある噂だけど……何かねー満月の夜になると出るんだって。寮の桜並木に……真っ黒なボロ布に包まれた……血まみれの吸血鬼が……」

 

 吸血鬼……ね。噂を聞いているあいつらは知るまい。私達のクラスメイトに同じ吸血鬼が居る事を。

 

「もーーそんな噂デタラメに決まってるでしょ。アホな事言ってないで早く並びなさいよ」

 

「そんなこと言ってアスナもちょっと怖いんでしょ~」

 

「違うわよ! あんなの日本に居るわけないでしょ!」

 

 神楽坂は黒板に書かれた謎のチュパカブラとやらを指さして否定する。

 

「その通りだな神楽坂 明日菜。噂の吸血鬼はお前のような元気でイキのいい女が好きらしい。

十分気をつける事だ」

 

 マクダウェル本人がそう言ってもな。まさかホントに神楽坂を狙ってるわけじゃねーよな?

 

「先生ーーっ大変やーーっ。まき絵が……まき絵がーー」

 

 何だ? 佐々木の奴がどうかしたのか?

 

 

 

 佐々木 まき絵が桜通りで寝てる所を見つかったらしい。

 

「なんだ大した事ないじゃん」

 

「甘酒飲んで寝てたんじゃないかなーー?」

 

「昨日暑かったし、涼んでたら 気を失ったとか」

 

 クラスメイト達はそんな心配(?)するような言葉を口々に話す。

 まあ確かに昨日は暑かったもんな。寝こけていてもおかしくはない……のか? 私はかすかに

感じた違和感を無視した。その裏であんな出来事が起きているとは思いもしないで。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、佐々木は元気に登校してきた。昨日の事は何も覚えていないらしい。

 

(妙だな。眠りこけていたとしてもその事を忘れるなんて事があるのか?)

 

 

 

「セ センセー 読み終わりましたーー」

 

 授業中、だというのにあのガキ教師はかなりぼーっとしてる。

 

「えっ!? は はい。ご苦労様です。和泉さん。えーと……あのつかぬことをお伺いしますが……和泉さんはパ……パートナーを選ぶとして 10歳の年下の男の子なんてイヤですよねーー……」

 

「なっ……」

 

「えええ。そ そんなセンセ ややわ急に……。ウ ウチ困ります。まだ中3になったばっかやし……。で でもあのその……今は特にその……そういう特定の男子はいないっていうか……」

 

 あのガキ急に何言い出しやがる! 話を振られた和泉が動揺してるじゃねーか。

 

「はあ……。――宮崎さんはどうですか?」

 

 だから! 生徒にそんなこと聞くんじゃねーよ! 魔法使いのパートナーだろうがそれとは違うパートナーだろうが!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その日の夕方、ネギ先生を元気づける会とかいう名目で大浴場で逆セクハラが行われた。私は

必死になって止めたが、クラスの奴らの大半が騒ぎ出したので止められなかった。すまんネギ

先生。さすがにこんな事に風術を使う訳にもいかねーしな。

 

 ん? なんだこの気配? 小動物のような気配がクラスの女子の間を動いている? 風術で……いや、ただの小動物が紛れ込んだだけなら風術を使うのはダメだ。

 

「キャー ネズミーッ」

 

「イタチだよ」

 

「ネズミが出たーー」

 

 どうやらただのネズミだったらしい。なら見逃しても大丈夫か。いや見逃しちゃダメだけどさ。

 最終的に逃げ回ったネズミは神楽坂に撃退されて外に出て行った。

 ネズミの正体はオコジョだったようで、しかもガキ教師のペットにするらしい。おい、それって

使い魔とかいうのじゃねーだろうな。そんなもん一般人の学生寮に持ち込むなよ。……はぁ。また学園長に報告する事が増えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おはようございますっ。エヴァンジェリンさんいますかっ!?」

 

「あー―ネギ君おはよーー」

 

「エヴァンジェリンさんなら まだ来てないですが」

 

 何だ何だ。担任がドアを開けて入って来たと思ったら、いきなりマクダウェルを呼びつけた。

 

「へ……あ……そうですか……」

 

「何やカゼでお休みするて連絡が……」

 

 カゼか、ならしょーがねーよな。確かあいつには登校させる呪いがかかっている筈だ。仮病で

呪いは突破できないだろうからマジもんのカゼだろうな。

 

「よーーし」

 

「あっ ネギ。どこ行くのよ」

 

 そんなことを考えているとガキ教師は教室を出て行ってしまった。……なんか嫌な予感がするぞ。

 結論から言うと私の嫌な予感は的中した。あのガキその後のHRや授業をボイコットしやがった。ホントにさぁ、教師の自覚全然ねーよなあのガキは。私も心の中で色々と酷い事いってるが、あのガキは「ガキ」で十分な気がしてきた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「う うわあっ。エ エヴァンジェリンさん~~!? な 何ですか果たし状のコトなら今はダメですよっ放課後ならいつでも……」

 

「ネ ネギ先生どうなさったんですの」

 

「落ち着きなって何わからん事を」

 

 何だぁ? あのガキ、マクダウェルと諍いでも起こしたのか?

 

「……昨日 世話になったからな。授業くらいは受けてやろうと思っただけだ。どーせ校内には

いるんだし」

 

 昨日はやっぱマクダウェルの家に行っていたのか。だからと言って教師の仕事を放り投げた事に変わりはないが。

 その後、ガキ教師はちゃんと授業を行い、マクダウェルも宣言通りサボる事なく授業を受けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ん? 何だコレは? 

 その事に気づいたのは学園全体が停電作業を行っている最中だった。

 

「フランス・エクサルマティオー」

 

 !? あのガキ、また学校内で魔法を……ッ!? その時風の精霊で魔法を使ったガキの周囲を探査して気づいた。

 明石 裕奈

 和泉 亜子

 大河内 アキラ

 佐々木 まき絵

 この4名がガキの周囲で戦闘を行っていた。んなバカな。あいつらは魔法生徒でも何でもない

ただの生徒だぞ!

 ……仕方ない。これをやるのは禁じ手だが、状況を知るにはやむを得ない。私は風の精霊を

操り、現場の音声を聞き取った。

 

…………!? …………!!

 

「あっの、クソ野郎! ふざけやがって!!」

 

 私は風術で体を覆い、空気密度を変えて光の屈折などを利用して自分の姿を見えなくさせると、窓を開けて外に飛び出した!

 




 この千雨は小学生時代を風術の鍛錬で過ごしたのでコスプレ趣味をもっていません。
 ネギがもってきた腹痛薬がドクロマークなのは原作準拠です。そんなもん持ってくんな。
 佐々木 まき絵が倒れているシーン。普通のオリ主であれば気づく所ですが、この千雨は精霊術(魔法の大元である精霊を直接動かせる力)があるだけなので魔法の力にはとんとうとく、気づかないのでした。
 千雨は4話の期末テスト時のように、風術の知覚範囲での魔法の行使(精霊の行使)があれば気づけます。ですが範囲外で起きている事までは分かりません。なのでネギとエヴァの最初の激突や茶々丸への襲撃も感知出来ませんでした。
 そしてやっちゃいました。エヴァ。千雨の逆鱗に触れる一般人の巻き込み。ここからエヴァの
アンチ展開が始まります。苦手な方はご注意下さい。



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第6話 橋の上の激突

 今回の話ではアンチの暴力描写があります。苦手な方はご注意下さい。


氷爆(ニウイス・カースス)

 

 ガキ教師がマクダウェルの放った氷の魔法で吹き飛ばされる。

 

「ハハハ。どうした逃げるだけか。もっとも呪文を唱える隙もないだろうがな!

リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 大気に満ちよ

白夜の国の凍土と氷河を――こおる大地(クリユスタリザティオー・テルストリス)

 

「わーーッ」

 

 再びマクダウェルが強大な氷の魔法を放ち、ガキ教師を吹き飛ばす。

 

「ふ……なるほどな。この橋は学園都市の端だ。私は呪いによって外に出られん。ピンチになれば学園外へ逃げればいいか……。意外にせこい作戦じゃないか。え? 先生」

 

 なるほど、マクダウェルは学園都市の結界に囚われている。それを利用して逃げようという作戦か。あのガキにしては悪くない。

 

「これで決着(ケリ)だ」

 

 マクダウェルがガキに近づく。私はまだ現場に到着していないが、いよいよとなったらこの距離から風を発してマクダウェルを攻撃してやる。

 

 パシイイィイン!

 

 ガキに近づいていたマクダウェルの足下から光りが迸った。

 

「なっ……!! こ これは……捕縛結界!?」

 

「あ……や……やったーーっ。エヘヘヘひっかかりましたね。エヴァンジェリンさん。

もう動けませんよエヴァンジェリンさん。これで僕の勝ちです!さあ おとなしく観念して

悪い事も もうやめてくださいね!」

 

 どうやら私はガキ教師をみくびっていたらしい。学園都市の外に逃げると見せかけて、マクダウェルを捕縛する結界にまでおびき寄せていたのだ。

 

「…………やるなあぼうや。感心したよ。ふ……アハ。アハハハ」

 

「な 何が可笑しいんですか!? 御存知のように この結界にハマれば 簡単には抜け出れないんですよっ」

 

 しかしマクダウェルの余裕は崩れない。確か600年以上生きているという吸血鬼だ。力が封じられていると言っても隠し球の二つや三つあるのだろう。

 この時私は勘違いしていたが、マクダウェルの力はとっくに解放されていたのだ。だが魔力を

感じたりする事が全く出来ない私にはマクダウェルの解放された魔力を感じ取る事が出来なかったという訳だ。

 

「そうだな 本来ならばここで私の負けだろう。茶々丸」

 

「ハイ。マスター。結界解除プログラム始動。すみませんネギ先生……」

 

「な……え!?」

 

「15年の苦汁をなめた私が この類の罠になんの対処もしていなかったと思うか」

 

 いや対処って自分の力で捕縛結界を解くとかじゃねーのかよ! 従者頼みかい!

 

 パキャアァン

 

「この通りだ」

 

 マクダウェルの体を雁字搦めにしていた結界が破壊された。

 

「えっ……そ、そんなウソ。ずるいッ」

 

 何がズルいってんだ。真剣勝負なら何もズルい事なんかねーだろ。やっぱまだガキなんだな。

 

「ぅうっ……ラス・テル あうっ」

 

 呪文を唱えようとしたガキ教師が、絡繰 茶々丸に杖を取り上げられる。確か魔法使いは魔法

発動体って奴が必要なんだろ? あれを取り上げられたら……。

 

「フン。()の杖か」

 

 ポーンとマクダウェルはその杖を橋の下、川の方へ投げてしまった。

 

「ああっ。うわーんひどいー。あれは僕の何よりも大切な杖…………」

 

 確かあの杖はあいつの父親の杖なんだっけ? 学園長がそんな事を言ってた気がする。私が学園長に抗議した後の厳重注意では携帯する事を禁じられていた筈だが。

 

「ひ ひどい。ひどいですよーエヴァさん。本当なら僕が勝ってたのにーー。ズルイですよ。

うあ~~~~んっ一対一でもう一回勝負して下さい~~っ」

 

 泣くなよ。仮にも魔法学校を卒業したんだろう。マクダウェルの事も吸血鬼と分かっていて

挑んだんだろう。……いや、これはさすがに厳しいか。私も10歳なんてただのガキだったしな。泣いてもしゃーねーか。だがマクダウェルはそう思わなかったようだ。ガキ教師の頬を張って

きつい言葉を投げかける。

 

「一度闘いを挑んだ男がキャンキャン泣き喚くんじゃない。この程度でもう負けを認めるのか!? お前の親父ならばこの程度の苦境笑って乗り越えたものだぞ」

 

 いや、それはどうよ。父親がそういう事が出来たからって、子供も同じ事が出来ると思うのは

筋違いじゃないか?

 

「う……いや……」

 

 ガキ教師は頬張られても泣きべそをかいていて、完全に闘志を失ったらしい。

 

「だが今日は良くやったよぼーや。一人で来たのは無謀だったがな。さて……血を吸わせて

貰おうか」

 

「……あ。あの マスター。ネギ先生はまだ10歳です。……あまりひどい事は……」

 

「心配するな。……別に殺しはせん。女、子供は殺らん。それにこのぼーや自身にも興味が

出てきた所だしな……」

 

 ……そこまでだッ!

 

「マクダウェルーーッ!!」

 

 私は風の精霊を使ってマクダウェルに自分の言葉を伝える。彼我の距離は約100mといった所か。これなら十分間に合うな。

 

「……? この声……長谷川 千雨か?」

 

 ガツッ

 

 派手な音がしてマクダウェルの体が吹っ飛ぶ。どうやら私の使う風でも、マクダウェルの魔法

障壁とやらは突破できたらしい。

 

「ぐっ。貴様――あれ?」

 

 私は風の精霊で空気の屈折率を変化させ、姿を隠している。探しても無駄だ。私は姿を隠した

まま、一方的に攻撃を加えた。

 

「がっぐっきっきさまぁっがっ」

 

 風の砲弾を放って殴り続ける。私の持つ風の攻撃方法は二種類だ。鋭く研ぎ澄ませて刃物のように切るか、空気を固めて砲弾のように放ち殴打するか。私は後者の手段を選んだ。前者の方法ではやりすぎてしまう可能性があるからだ。いかに不死身と言われる吸血鬼だとはいえ、クラスメイトの体をなますのように切り刻みたくはない。

<大気の拳(エーテル・フィスト)>――高密度に圧縮された空気の塊が、亜音速で叩き込まれる。激突の瞬間、およそ百分の一に圧縮された空気が瞬時に――しかも指向性を持って――復元する際に発する衝撃波は、ヘビー級プロボクサーのフィニッシュブローを遙かに凌駕する。そして<連撃(ラッシュ)>――狙いを定めて射出された弾丸は肉を抉り、骨を砕き、マクダウェルを叩き伏せた。

 私は言葉も交わさずに一方的にマクダウェルを殴り続けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なめるなよ。小娘がぁっ!!」

 

 10発ほど殴打を加えたぐらいで、マクダウェルが吼えた。と同時にそれまで通じていた空気の砲弾が見えない壁に遮られて届かなくなる。……障壁を強化したのか。

 既に私は全力で攻撃を放っている。それが通じなくなったという事は、以降の私の攻撃は一切

通じなくなった事を意味する。仕方ないか。

 私は風の膜を取り払い姿を現した。

 

「マクダウェル……」

 

「長谷川……千雨」

 

 奴は私を強く睨み付けた。だが私だって引いちゃいられない。心を強く持つとマクダウェルを

強く睨み返した。

 

「貴様……どういうつもりだ? 事と次第によっては許さんぞ」

 

 ……その言葉が、勘に障った。

 

「事と次第によっては許さない? それはこっちの台詞だ。クソ野郎! てめえ、どういうつもりで一般人の生徒を巻き込みやがった!!」

 

「……む」

 

「てめえとそこのガキの父親に因縁があるってのは聞いてる。だけどそれと、てめえが血を吸った佐々木達は何の関係もねーだろうが!! それを、てめえとそこのガキのくだらねえ諍いに一般人を巻き込みやがって! ふざけんな!」

 

 私が怒っているのはそれだ。魔法使いであるガキと戦いになっても私の知った事じゃない。

だけどこいつは私の目の前で一般人を巻き込みやがった。魔法使いの事情で、一般人を!!

 

「てめえさっき女と子供は殺らんとか何とか言ってやがったな。殺しさえしなけりゃ何をしても

いいってのかよ!」

 

「…………」

 

 マクダウェルの奴は黙っている。そりゃそうだろう。奴が何を言おうと、佐々木達の血を

吸って、その体を操った事はまぎれもない事実だからだ。今回のガキとの戦いにそれが必ず必要だった訳でもない。奴は遊んでいたのだ。佐々木達とガキを戦わせて。

 

「てめえの声を拾ったぜ。風術でな。『アハハハ。本当によくやるじゃないかあのぼーや』

だと!? てめえは何様のつもりだ!! 佐々木達とガキを戦わせて高みの見物をしやがって! その後の戦いを見れば佐々木達なんて必要がないのは丸わかりじゃねーか! てめえは遊んでいやがったんだ。ただの遊びの為だけに佐々木達を巻き込んだんだ」

 

「……否定はしない」

 

「なら、てめえは私の敵だ!」

 

 私は風を巻き起こすとマクダウェルに向かって行った。

 

「千雨君! やめるんだ!」

 

 そこに割り込みが入った。高畑先生だ。その他に多数の魔法教師も居る。全力のマクダウェルと戦って勝てるなんざ思っちゃいない。事前に風術を使って連絡しておいたのだ。

 

「千雨君、エヴァ。やめるんだ。同じ学校の君達が争って何になる」

 

「タカミチ、余計な真似はするな」

 

「高畑先生、こいつは私の目の前で一般人を巻き込みやがったんだ。許すことはできねえ」

 

「それでもだ。この場は僕に免じて収めてくれないか」

 

 三者共お互いの都合を優先しようとする。その時絡繰が叫ぶ。

 

「いけないマスター!」

 

 橋の上で大きな光が瞬いた。

 

「予定よりも7分27秒停電の復旧が早い!! マスター!!」

 

「ちっ。ええいっ。いい加減な仕事をしおって!」

 

 バシンッ

 

 マクダウェルの体を激しい光が襲った。

 

「ど どうしたの!?」

 

 いつの間にかガキ教師の傍に来ていた神楽坂が問いかける。

 

「マスター……! 停電の復旧でマスターへの封印が復活したのです。魔力がなくなればマスターはただの子供。このままでは湖へ……あと マスターは泳げません」

 

 ちっ仕方ねえ。私は風を操ると飛んでいた空から落っこちたマクダウェルをすくい上げてやった。

 

「エヴァ!!」

 

 高畑先生達も飛び込もうとしたが、私が風でさらった事に気づいたのだろう。その場に押しとどまった。

 

「……なぜ助けた?」

 

 マクダウェルが聞いてくる。

 

「私はあんたを許せない。だからと言って死んだりしていいなんて思っちゃいねーよ」

 

 クラスメイトを死なせて平気な顔をしていられる程冷酷じゃねーよ。

 

「…………バカめ……」

 

 マクダウェルはそう小さく呟いた。

 

 




 完全なるエヴァアンチ。こんな文章を書いている私ですが、エヴァの事はそこまで嫌っていません。ただ今回の事件に限っては、まき絵ちゃんや他の女子生徒を巻き込んだ事は完全にエヴァが
悪いと思っているだけです。
 吸血鬼にされて可哀想。
 その後色んな魔法使いとかに命を狙われて可哀想。
 3年という約束だったのに15年も麻帆良に縛り付けられて可哀想。
 それは確かにその通りです。でもエヴァに襲われたまき絵含む、桜通りの吸血鬼事件の
被害者には何の関係もないよね? って話です。



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第7話 後始末

 エヴァアンチがあります。苦手な方はご注意を。
 また、後書きにおいて若干不適切な表現があります。同様にご注意下さい。



「厳罰を求めます」

 

「…………」

 

「……いや、あのね。千雨君」

 

「厳罰を求めます」

 

 一同は学園長室に介していた。ただしネギ先生と、神楽坂の二人は橋の上で高畑先生に

諭されて学生寮に帰っている。

 

「マクダウェルは一般人に手を上げました。それは魔法使いのルールでも違反に当たる筈です。

厳罰を求めます」

 

 正直に言えば、女子学生達に噂になるくらい話が広まっているのに、調査が不十分だった、

事件の犯人を特定、拘束などをしなかった学園側にも言いたいことはある。

 だが私も被害者女子達と同じ寮に住んでいて何も気づかなかったのだ。私に学園を糾弾する

資格はないだろう。

 

「ふむ……確かに千雨ちゃんの言う事も最もじゃ。しかしな」

 

「しかしじゃありません。厳罰を求めます」

 

 即答する。今回はあのガキ教師の時のように妥協するつもりはない。

 

「……ふぅ」

 

 学園長がため息をつく。私は扱いにくい人間に思われているんだろうな。それでもここは引けない。

引いちゃいけない。

 

「確かにエヴァは罪を犯した。じゃがそこに至る経緯というものがある。情報酌量の余地はあると思うがのぉ」

 

 それは。

 

「マクダウェルが麻帆良に閉じ込められている事ですか」

 

「そうじゃ。彼女を閉じ込めたのはサウザンドマスターと呼ばれる魔法使いじゃ。じゃが彼は10年前に亡くなっておる。彼が力任せに呪いをかけてしまったが為に彼女はもう15年もの長きにわたり学生生活を強いられておるのじゃ。その境遇から今回の事件を起こしてしまったのじゃろう」

 

 学園長がマクダウェルに目を向ける。奴は温情をかけられた事が気にくわないのかふいっと

そっぽを向いた。

 

「その話は私も知っています。でもそれは理由になりませんよね?」

 

「むぅ」

 

 マクダウェルの奴が自分にかけられた呪いを解く為に、術者であるサウザンドマスターの血縁、子供であるガキ教師の血を吸おうとした。そして戦いになった。それが事の顛末だ。だがその事に襲われた女子生徒達は関係ない。

 

「ネギ先生と戦う為に魔力が必要。だから桜通りで一般人から血を吸って魔力を集めてたって言うじゃないですか。無関係な人間を巻き込んでいる時点で情状酌量なんて甘過ぎます」

 

 私はそこで、話を聞いていた明石教授の方を向いた。

 

「明石教授。貴方はどう思いますか。自分の娘がネギ先生と戦う為の燃料にされたって聞いて」

 

「…………確かに君の言う通り。気分の良い話じゃないですね。私もエヴァンジェリンに厳罰を

与える事に賛成です」

 

「明石先生!」

 

 高畑先生が声を上げるが無駄だろう。たった一人の自分の娘を半吸血鬼化されたんだ。許せる筈がない。

 

「それでも、じゃな」

 

 私は更に言葉を重ねようとしている理事長に向かって自分の考えを述べた。

 

「……例え話をしましょうか? 成人男性が夜道で佐々木達女子を誘い込んで暴行したとします。思いっきりぶん殴って傷も出来るし血も流れるんですよ。殴られた女子は多大な恐怖を感じるでしょうね。それをですね、魔法で傷を治して『なかった事』にしてしまうんですよ。血は失って

しまいますがそれは吸血したものとして扱います。そして感じた恐怖も記憶を魔法で操作する事によって『なくしてしまう』んです。それがマクダウェルのやった事です」

 

 私は自分でも若干きついと感じる言葉でマクダウェルを糾弾した。こいつのやった事はとても

許される事じゃない。

 

「千雨君! それは……!」

 

 高畑先生がまた声を上げた。だがそこで止まってしまう。私は自分の言っている事が間違って

いるとは思わない。私の言っている事は正論だと思う。だからこそ生半可な擁護の言葉なんて

言えないのだろう。

 

「……ふん。確かに貴様の言う通りだな。私は一般人を――佐々木 まき絵達を巻き込んだ。否定はせんよ。だがな、私が黙って罰など受けると思うか?」

 

 マクダウェルはこちらに挑発的な視線を向けてくる。それは虚勢か、それとも脅しか。

 

「てめーが大人しく罰を受けないってんなら私が力ずくでも受けさせてやるよ」

 

「ほう? 人間の小娘風情が言うじゃないか。貴様の攻撃程度が私に通じると思うのか?」

 

 私達はお互い睨み合い、一触即発の状態になる。

 

「やめんか!」

 

 学園長が机を叩いて私達を止める。学園長に言われちゃ仕方ない。ここで諍いを起こしても仕方ないからな。

 

「それで……マクダウェルにはどんな罰を与えるんですか?」

 

「…………」

 

 そこから暫くその場は静寂が支配した。魔法使いの世界に縁遠いとはいえ、千雨でも知っている。魔法使いの世界では賞罰などが整備されていないのだ。普通の社会であれば警察や裁判所などの機関が存在するが、魔法使いにはそういったものがない。魔法使い独自のルールで裁くしかないのだ。

 

「ここはやはり……魔力封印の刑が適当かのう」

 

 しばらく話し合いが行われた後、学園長が結論を口にした。魔力封印、か。直接の罰を与えて欲しい所だが、普通の社会であれば禁固こそが刑罰になるのだが、マクダウェルは既にその罰を受けているようなものなので、扱いが難しいのだ。人をオコジョに変えるオコジョ刑も検討されたが、学校に通っている手前、別の生き物に変えるのも難しいとなった。それ以前に不死身の吸血鬼

であるマクダウェルってオコジョに出来るのか? 

 私としては普通の牢屋などに入れて監視して欲しいのだが、魔法使いの世界がそのようなルールを持たない以上、一魔法生徒である自分がどれだけ主張してもそれ以上の刑罰を受けさせるのは

厳しいようだ。

 結局、マクダウェルに課せられる刑罰は魔力封印の刑になった。現在でもかなりの量の魔力を

封印されているマクダウェルだが、それでも微量の魔力は保持している。それすら完璧に封印し、そこらの一般人未満にしてしまおうというのがその刑だ。

 

「千雨ちゃんも、それで納得してくれるかのぉ」

 

「納得するもしないもないですよ。私は所詮、一魔法生徒でしかありませんからね。マクダウェルの処遇に口を挟める立場じゃありませんし。……それでも希望を言えばもっと厳しい罰を下して

欲しい所ですが」

 

「これ以上の罰というと、それこそ家の一室に閉じ込めて常時監視するくらいしかないのぉ。それも監視する人手などを考えれば現実的ではないしのぉ」

 

 これが一般の社会であればその刑罰を受けさせる所だが。魔法使いのルールは違う。

 全ては魔法使いのルールに則って決められる。魔法使いのルールで定められていない事はどうしようもないのだ。

 

「分かりました。それで納得しますよ。それじゃあ私はもう寮に帰りますがいいですか?」

 

「むぅ。千雨ちゃん。ちょっと待ってくれるかのぉ。魔法先生の皆も聞いてくれぬか」

 

 学園長はそう言って皆に向き直った。

 

「今回の事件……勿論事件を起こしたエヴァ本人に問題がある事はたしかじゃ。しかしのぉ、

今までエヴァの問題を他人事として捉えていたわし達にも問題があるんではないかと思うのじゃ」

 

 私達にも、問題?

 

「今までわしはエヴァの窮状を知りながらも最大限に力を尽くそうとはしておらなんだ気がするのじゃ。それは心のどこかでサウザンドマスターがいつか来てくれると思っていた事でもあるのじゃが。しかしこの事件が起きて改めて思うのじゃ。わしは困っているエヴァの為に何かしてやれたのかと」

 

 マクダウェルの為に、何か。

 

「わし達は心のどこかでエヴァの問題を他人事として考えていたのではないかのぉ。いつか誰かが何とかしてくれる、という風に。そんなわしらの無関心さが、今回の事件を招いた部分も少なからずあるのではないかのぉ」

 

 私達が、この事件を招いた……か。擁護の言葉を向けられたマクダウェルは相変わらずそっぽを向いていて、そのまま口を開いた。

 

「おいじじい。なめるなよ。私は中途半端な同情などいらんぞ」

 

「そうじゃな。中途半端な同情などは何の意味もないものじゃ。しかし中途半端でなければ

どうじゃ? 本気でおぬしの事を心配し、心を砕くものが現れたら……」

 

「……ふん。そんな奴など現れはしないさ」

 

 どこか寂しそうに、マクダウェルは言った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 私は学園長室から退室し、学生寮までの道を歩いていた。風術を使って空を飛んだりはしない。それは魔法使いのルールに反するからだ。

 

(私達にも問題はある、か)

 

 その道中で、先程の理事長の言葉を思い出す。

 

「わし達は心のどこかでエヴァの問題を他人事として考えていたのではないかのぉ。いつか誰かが何とかしてくれる、という風に。そんなわしらの無関心さが、今回の事件を招いた部分も少なからずあるのではないかのぉ」

 

 私達の無関心さが、マクダウェルを追い込んだ、か。確かにそう言う部分もあるのかも知れない。

 

(でもだからってあいつのした事を許すかどうかは別問題だ)

 

 そう思いながらも、心のどこかで良心が疼くのを感じていた。私は中学一年の時から

マクダウェルとクラスメイトだった。魔法生徒扱いとなった事でマクダウェルの事情も

聞いていた。だけど、『何もしなかった』

 

(私は……)

 

 マクダウェルのした事を許せない。しかしそれと彼女が囚われている事は別問題だ。

 

(私は、マクダウェルに何かしてやれるのだろうか)

 

 そんな風に、これから先の自分とマクダウェルの関係に思いを馳せ、帰路につくのだった。

 




 作中で千雨は言葉を濁していますが、つまりは「そういう事」です。成人男性の魔法使いが、
10代の女子に「そういう行為」をし、怪我をさせ血を流させ、身も凍るような恐怖を与えたとしましょう。その後に治癒魔法を使って傷を治すのです。怪我は治ります。流れた血は吸血されたものとして扱います。そして感じた恐怖などの感情は魔法で記憶を消す事で対処します。それでその女子は襲われる前とほとんど変わらない状態に戻ります。つまり、「何もなかった事」になる、
できるんです。
 こんな事を言うとそこまで言う事ないだろ! と言われるかも知れませんが、エヴァのやっている事ってつまりそういう事ですよね? だから私はこの事件に関しては全面的にエヴァが悪いと思っています。
 エヴァが酷い状況に追い込まれていると言っても、人を傷つけたら加害者です。
 被害者からしたら加害者が辛い状況にあったんだ! と言われてもそれがどうしたってなもんですよ。



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修学旅行編
第8話 修学旅行開始


 この話から修学旅行編スタートです。


 今日から修学旅行だ。行き先は京都・奈良。留学生や外国から来たガキ教師に配慮してそう決まった。うちの班は

 朝倉 和美

 那波 千鶴

 私 長谷川 千雨

 村上 夏美

 雪広 あやか

 の5名だ。

 

「ささ♡ ネギ先生こちらへどうぞ。グリーン車を借り切ってありますので、そちらでゆるりと

おくつろぎを……お供致しますわ。二人っきりで……♡」

 

「あ あの。いいんちょさん。僕 まだ仕事が……」

 

「やめろっつーの。この色ボケが」

 

 ガキ教師の手を引いて誘導しようとした雪広の後頭部をチョップ止める。まったく

こいつは。

 

「……ん 今ので5班? 1班足りないぞ?」

 

「ネギ先生……」

 

「あ……あなたは15番桜咲 刹那さん……とザジさん」

 

「はい。私が6班の班長だったのですが……エヴァンジェリンさん他2名が欠席したので6班は

ザジさんと私の二人になりました。どうすればいいんでしょうか?」

 

 そっか。マクダウェルの奴、いないのか。

 

「えっ……あ。そうですか困ったな……。わ わかりました。他の班に入れて貰いますね。じゃあアスナさん桜咲さんを。いいんちょさんはザジさんをお願いできますか?」

 

「はいはい」

 

「構いませんわネギ先生」

 

 あいつは麻帆良から出られないから修学旅行にも参加できないのか……何か土産でも

買っていってやるか。

 

「え……。あ……せっちゃん。一緒の班やなあ……」

 

「あ…………」

 

 桜咲はペコリと頭を下げるとプイッと行ってしまった。そういやあの二人、何か関係があるんだっけか。まあ私には関係な…………そう、だな。こういう関係ないって態度がダメ

なんだよな。でも私に何が出来るよ?

 それはそうとおいこらガキ。普通にオコジョを肩に乗せてるんじゃねえ。しかもそいつ魔法使い側の、人間の言葉も喋れるオコジョだろーが!! 普通のペットでさえ新幹線や電車にはマナーとして檻などに入れておくべき所を!! 私はガキにきつく注意し。もう乗ってしまったのは仕方

ないが、京都についたらすぐに檻を適当な店で買うことを厳命した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 車内では今カードゲームで遊ぶ奴が大半だ。まあ私は眠いので寝てすごそうとしているが。

 

「キャ……キャーー!?」

 

「カ……カエル~~~!?」

 

 !? カエル? 何だって?

 慌てて周囲を見回して見たら、そこら中にカエルがいやがった。

 これ、まさか関西呪術協会の仕業か?

 

 関西呪術協会。関西を中心とする魔法使いの集団だ。学園長が理事を務める関東魔法協会

(学園の学園長なので紛らわしいが、関東魔法協会ではただの理事の一人だ)とは

昔から険悪な仲だと聞いている。今回の修学旅行でも魔法先生がいるという事で京都入りに難色を示したという話だ。学園長と同じ家に住んでいたのでその手の情報は嫌でも入ってくる。

 私は周囲の風の精霊に働きかけ、情報を集めようとした。

 

「あ……あれっ!? ないっ!! 学園長先生から預かった親書が……!?」

 

「なに!?」

 

 ガキ教師とオコジョが何やら騒いでいる。確か関西呪術協会の長に親書を届ける任務を受けているんだっけか。そもそも卒業研修で来ているだけの見習いにそんな任務与えるなとツッコミたい。

 

「ほっ……何だ下のポケットにあった」

 

「び びっくりさせんなよ兄貴ーー」

 

 それは良かった。つーか風術で気づいたけどペットのオコジョ普通に話してるな。やめさせろよ。そう思った時、新幹線内の空気が動いたのを察知した。燕のような外見のそれは恐らく関西

呪術協会の奴が放った式神だ。式神はガキ教師の手から親書を奪うと通路を飛んでいこうとした。

……させるかよっ!

 私は式神に風の刃を飛ばすとその身を切り刻んだ。

 

「待てーーっ!!」

 

 その後も風を操って式神からこぼれた親書をガキ教師に届けさせる。

 

「あっえっ!?」

 

 私はガキ教師の前に姿を現すと今起こった事を説明してやった。

 

「大丈夫かよ。ネギ先生。親書は大事なものなんだろ? 肌身離さず持ってろよ」

 

「は……長谷川さん……?」

 

「気をつけろよ、先生。関西の手の人間が妨害してきてるみてーだからな」

 

「あ、あの! 長谷川さん。あの時は、その……」

 

「ああ、そうだ。先生。私はただの一魔法生徒だからな。それなりに協力はするけど、

過度な期待はするなよ」

 

 私は言いたい事だけを言うとさっさと席に戻った。修学旅行でまで面倒を背負い込むなんて冗談じゃねー。……まあ、あのガキがどうしても困っている時は助けるけどな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「まもなく京都です。お忘れものないよう――」

 

 やっと京都についた。あの後は関西呪術協会からの妨害などはなかった。車内で仕掛けてきたという事は同じ新幹線に乗っている筈ではあるんだけどな。残念ながら私は魔法使いを見分ける方法など持ち合わせていないので、犯人が誰かは特定出来なかった。

 

「では皆さんいざ京都へ!!」

 

「おーー♡」

 

 ガキはのーてんきだな。自分が責務を背負っている立場だって認識出来てるのかね。

 

 

 

「京都ぉーーっ!!」

 

「これが噂の飛び降りるアレ」

 

「誰かっ!! 飛び降りれっ」

 

「では拙者が」

 

「おやめなさいっ」

 

 テンションたけーなーこいつら。まあ確かに絶景だけどな。清水寺。

 

「ここが清水寺の本堂、いわゆる『清水の舞台』ですね。本来は本尊の観音様に能や踊りを

楽しんで貰う為の装置であり国宝に指定されています。有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで……』の言葉どおり 江戸時代実際に234件もの飛び降り事件が記録されていますが生存率は85%と意外に高く……」

 

「うわっ!? 変な人がいるよ!?」

 

「夕映は神社仏閣仏像マニアだから」

 

 ホントうちのクラスは変人の集まりだな。……私もその一員とか思って少し凹んだ。

 

「そうそう、ここから先に進むと夢占いで女性に大人気の地主神社があるです」

 

「恋占い!? ではネギ先生一緒にその恋占いなど……」

 

「は、はあ」

 

 おーい。早速変人がガキに迷惑かけてるよ。バカ委員長自重しろ。

 

「ちなみに……そこの石段を下るとあそこ! 有名な『音羽の滝』に出ます。あの三筋の水は飲むとそれぞれ健康・学業・縁結びが成就するとか……」

 

「縁結び!?」

 

「それだ!!」

 

 それにしてもこいつらホントに節操ないな。縁結び……かぁ。私が誰かと恋愛したり

結婚したりとか考えられないな。

 ……私は絶対に隠さなければならない秘密、風術というものがあるからな。例え結婚

しても絶対に話せないと考えれば、そうそう結婚なんてできねーよ。それに……私は暴発とはいえ人を殺しているからな。例えそれが、自分の身を守る緊急避難的なものだったとしても。

 

「へーー 目をつむってこの石からあの石へたどり着ければ恋が成就するんですかぁ」

 

「遠ッ」

 

「ちょっとコレ20m位はない!?」

 

「で では早速クラス委員長の私から……」

 

「あー ずるい。私もいく」

 

「わ 私もーー……」

 

 雪広の奴はともかく、佐々木と引っ込み思案な宮崎もか。何か意外だな。……あの噂

マジなのかな? 宮崎があのガキ教師に恋してるっていう。

 

「ターゲット確認! 行きますわよ!」

 

 ズボッ

 

「あンッ!?」

 

「きゃあ」

 

 !? 雪広と佐々木の二人が急に消えたぞ!?

 

「キャーーッ!?」

 

「な 何。またカエルーー!?」

 

 あ、何だ。消えたと思ったら落とし穴にはまっただけか。……カエル? もしかしてこれも関西呪術協会の行動か? でもだとしたら何の意味があるんだ?

 私は落とし穴に落ちて難儀している雪広に手を貸して引っ張り上げてやる。それと同時に風の

精霊に働きかけ、周囲の探索を行う。

 

(ミスったな。一度でも魔法を使ってきたんだ。常に風の精霊で探査し続けるべきだったか)

 

 私は気を引き締め直すと、風の精霊に頼み周囲の探査を行った。

 

(ん? 何だコレ?)

 

 先に進んだ音羽の滝の所で妙なものを見つけた。

 

「ゆえゆえっ。どれが何だっけー!?」

 

「右から健康・学業・縁むすびです」

 

 綾瀬が説明している三つの水の屋根の上、樽に入った酒が置いてある。これじゃあ水を飲んだ

人間が混入した酒で酔っ払っちまう。私は急いでその樽に風をぶつけて吹っ飛ばした。

 

「……何か みんな。酔いつぶれてしまったようですが……」

 

 私の取った行動は少し遅かったらしい。クラスの大半が既に酒を飲んでしまっていた。その後、ガキ教師達は怪しむ新田先生や瀬流彦先生、源先生からクラスの奴らをかばい、バスに押し込んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 無事(?)旅館に着いた。酒に酔った奴らは布団に寝かせてある。今は風呂の時間だが、寝て

いる奴らは起きないだろうな。

 

 その時、風の精霊が動いた気配を感じた。意識を集中させてその辺りを探ってみると……

なんだ。ガキ教師と桜咲の奴が風呂の中でくっついてやがった。会話を聞いてみるとどうやら桜咲の奴が関西呪術協会の仲間だと疑われているらしい。面倒な事になってんなーなどとのんきに構えていた時だった。脱衣所で神楽坂と近衛が猿の式神に襲われていた。襲われているといっても攻撃されているのではなく、服を脱がせようとしてやがる。私はその行動のくだらなさに辟易しつつも、風を操って式神を潰してやった。

 式神が潰れた後のその場では、桜咲が近衛から逃げていた。……やっぱあいつら何とかした方が良いのかな?

 

 脱衣所から逃げ出した桜咲は今、式神返しの結界を張っている。敵の攻撃を撃退した縁(?)で私も一応その場に居合わせている。とそこにガキ教師と神楽坂がやってきた。

 

「な 何やってるんですか? 刹那さん、長谷川さん」

 

「ム……。これは式神返しの結界です……」

 

 そこで桜咲はガキ教師に式神などの説明を始めた。だが……。

 

「あ……神楽坂さんには話しても?」

 

「ハ ハイ。大丈夫です」

 

「もう思いっ切り巻き込まれてるわよ」

 

 ……これは、どう捉えたらいいんだろうな。神楽坂が巻き込まれているのは、マクダウェルの

一件で橋の上に来ていた事から分かっていたが、私としては許容できない事柄だ。だけど神楽坂は平気そうな顔をしている。……本人が構わないと思っているのに、第三者の私が口を挟むのは筋違いか。

 

 マクダウェルの一件も本来であれば私が口を挟むのはどうかと思わないでもなかったが、どの道被害者である彼女らが魔法で記憶を消されてしまうと思ったからあの橋の上に行ったのだ。

本来であれば被害者である彼女らが抗議するべき所だが、それが出来ないなら私が、

と思ったのだ。

 

「敵のいやがらせがかなりエスカレートしてきました。このままではこのかお嬢様にも

被害が及びかねません。それなりの対策を講じなくては……。ネギ先生は優秀な

西洋魔術師と聞いてましたので上手く対処してくれると思ったのですが……。

意外と対応が不甲斐なかったので 敵も調子に乗ったようです」

 

 このガキが優秀……ねえ。それは学校の成績とかの話だろ。それもどこまで信用できたもんだか分かったもんじゃない。何せ魔力を制御できずに風の魔法を暴発させてるんだからな。

 

「あうっ……ス スミマセン。まだ未熟なもので」

 

 まあ本人が自分が未熟である事を自覚してるならいいか。……何か私、やたら上から

目線だな。自分だってそんなに人に誇れるほど熟練している訳じゃないのに。

 

 その後、ガキ教師と桜咲はお互いの誤解を解き合った。桜咲は敵の呪符使いや京都神鳴流について説明した。まあ基本前衛と後衛に別れる魔法使いのスタイルだな。西洋魔術師は従者を従えているが、日本の魔術師――陰陽師は強力な式神を前衛として配置する。

 

「神鳴流とは元々、京を護り 魔を討つ為に組織された掛け値無しの力を持つ戦闘集団。呪符使いの護衛として神鳴流剣士が付く事もあり、そうなってしまえば非常に手強いと言わざるを得ません」

 

「じゃ じゃあ神鳴流ってゆーのはやっぱり敵じゃないですか」

 

「はい……彼らにとってみれば西を抜け東についた私は言わば『裏切り者』。でも 私の

望みはこのかお嬢様をお守りする事です。仕方ありません。私は……お嬢様を守れれば

満足なんです」

 

 少なくとも桜咲は本気で近衛を守ろうとしているようだ。

 

「よーし、わかったよ桜咲さん!! あんたがこのかの事嫌ってなくて良かった。

それが分かれば十分!! 友達の友達は友達だからね。私も協力するわよ」

 

 神楽坂が立ち上がって桜咲の肩を叩く。

 

「よし じゃあ決まりですね。3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)結成ですよ。関西呪術協会からクラスの皆を守りましょう!!」

 

 ガキ教師はだいぶ息巻いているようだ。神楽坂は「えーー!? 何その名前」などと

言っている。私もそんな名前で呼ばれるのは恥ずかしいんだがな。

 

「……私もか?」

 

「え!? 長谷川さんは加わってくれないんですか!?」

 

「いや……私もクラスの皆を守る事に異議はないけどさ」

 

 その後もなんやかんやと言われつつ、防衛隊とやらに組み込まれる事となったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 私は周囲の警戒をするため、旅館の屋根に登っていた。勿論風で姿は消してある。旅館の周囲を風で探査する。私に把握できる距離は半径5kmの球形だ。その領域内であれば、精霊の動きなども察知できる。日本の陰陽師であっても、魔法、魔術を使う際には精霊を動かしているのだ。ただ逆に言えば魔法を使わない限り怪しい人物などは察知できないという事だ。

 その時、旅館の内部で精霊の動きを察知した。精霊が動いた場所を風で詳しく探査する。

すると、今まさに部屋のトイレで攫われそうになっている近衛と術者を見つけた。

 

(マジかよ!? 桜咲は気づいてないのか!?)

 

 同時に把握した情報によると桜咲は部屋の外にいる。くそ、ずっとつきっきりで護衛

していれば! ……いや、言ってもしょうがないか。それを言うなら私も近衛の周囲をずっと

風で把握しておくべきだったのだ。私はすぐさま風を操って桜咲に危険を知らせる声を届けた。

 

 桜咲は慌てて声を上げながら部屋に入ったが、その声を聞いた術者はトイレの窓から外に脱出した。……させるかよっ! 私は窓から外に出た術者に向かった攻撃を放った。空気を集めて固め、相手の頭に向けてぶつける。だが術者は猿のかぶり物をしていて(多分式神の一種だ)ダメージの通りが悪い、だが後頭部に攻撃を食らって体がぐらついたようで、その隙を狙って私は別の風を

巻き起こし近衛の体をさらった。そしてすぐさま近衛の体も私同様、風の膜で覆い不可視状態にする。これで奴は近衛の姿を見失った筈だ。私は風に乗せた声で術者に降伏を要求した。

 

「近衛は返して貰ったぜ。あんたの企みは防がせて貰った。悪い事は言わねえ。大人しく帰りな」

 

「ななっ、なんや。何もない所から声が……」

 

 混乱しているようだな。だがこっちが風の精霊術師だとバラしてやる必要はない。私は無言で

術者に向けて空気の弾丸を射出した。

 

「あへっ。ごぽっ。むげっ。ぺぽーっ」

 

 一般人である近衛を攫おうとした奴だ。温情なんてかけてやるこたーない。私は遠慮容赦なく

攻撃を加えてやった。だがダメージの通りが悪い。陰陽師だとすれば守りの護符でも装備しているのかも知れない。

 

「な、なんなんや。一体。見えない、攻撃? ……くっ。お おぼえてなはれーー」

 

 術者はそんな言葉を口にすると、呪符を使い空高く舞い上がって逃げて行った。攻撃を加える事も出来るが、……そこまでやらなくていいか。私はその術者を見逃す事にした。深追いしても危険だしな。

 

 私は自分と近衛にかけた風の膜を消すと、空を飛んで近衛の元に急いだ。

 

「近衛! おい近衛! しっかりしろ!」

 

 攫われた時に特別な術などは受けていない筈だから、これで目覚める筈だが……。

 

「ん……。……あれ、千雨ちゃん……?」

 

 無事目覚めてくれた。私はほっと胸をなで下ろした。

 

「良かった。もう大丈夫だぞ。近衛」

 

 さて、こうして近衛は目覚めた訳だが、それに対する上手い言い訳を思いつかないとな。私は

浴衣姿の近衛を抱えたまま、その命題に頭を悩ますのだった。

 

 




 本作は成り代わり要素が存在します。早速せっちゃんの代わりをしてしまいました。
これによりこのかの千雨に対する好感度がちょびっとだけ増加しました。
 あと今更ですが、橋の上でエヴァと戦うのも成り代わり要素の一つですね。本作に
おいてネギはエヴァに捕縛結界を破られて杖を投げ捨てられ、泣きべそをかいた所で
止まっています。ネギの成長も阻害する。なんとも罪な成り代わり系主人公です。
 それから少しだけ明らかになった千雨の能力。半径5km、直径10kmの球形を探査
できます。
  意外とあっさりしてるかもしれませんが、明日菜に対する千雨の態度はこれで。
自分から望んで関わる人間は認めるスタイルです。だって普通の魔法生徒や先生も
極論すれば「自分から望んでその世界に入った元一般人」なわけですからね。



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第9話 修学旅行2日目 ~ 3日目

「いただきます」

 

「「「いただきまーーす」」」

 

 朝の食事の時間だが、昨夜の活動のせいで少し眠い。欠伸が出る。

 

「ふぁ」

 

 見るとガキ教師や神楽坂達も眠そうにしている。

 

「せっちゃん何で逃げるんーー」

 

「刹那さーーん」

 

 ガキ教師と近衛から桜咲が逃げている。何だ、あいつまだ近衛と近づけてないのか。

昨日、あの後に駆けつけた桜咲と近衛の間でやりとりがあったのだが、それでもあいつは近衛に

近づく気がないらしい。

 

(何でなんだろうな? 護衛ってんなら傍に付いているのが普通だと思うんだが)

 

 疑問だ。だがまあ別にいいだろう。敵の狙いが近衛一人だというなら、こっちも近衛に絞って

守れば良いだけだ。今後は常に風の精霊を使って近衛の周辺を見張っている事にしよう。

 

「ネギくん 今日ウチの班と見学しよーー」

 

「わーーっ」

 

「ちょっ まき絵さんネギ先生はウチの3班と見学を!」

 

 ガキ教師を取り合って佐々木や雪広が発奮している。……あんなガキのどこが良いんだろうな? 全く分からん。

 

「あ……あのネギ先生(せんせー)!!

よ よろしければ今日の自由行動……私達と一緒に回りませんかーー!?」

 

「え えーと。あの……わかりました宮崎さん! 今日はぼく宮崎さんの5班と回る事にします」

 

 おお、あの引っ込み思案な宮崎が勝つとはな。でもあのガキ教師にそんな甲斐性ある訳ねーか。どうせ狙われてる近衛と神楽坂、桜咲がまとまってる班だから選んだんだろうな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 奈良公園にやってきた。クラスの皆はのんきに観光しているが、私は逐一風で近衛を中心とした

一帯を警戒している。くそ、なんだか一人だけ割をくってるような気がするぞ。大体このクラスには私以外にも春日とか魔法生徒やそれに準じた奴がいるのに何故私だけが。……まあそんなに

ぼやいていても状況は変わらないんだけどな。

 

 

 

 奈良公園では特段、襲撃などなかった。それは良かったのだが……。

 

「ううー……でも……。あああーーどうすればー親書のこともあるしー」

 

 奈良公園から旅館に戻ってきたらガキ教師が身悶えていた。なにやってんだ?

 

「ネギ先生どうされたんですの?」

 

「昼の奈良公園で何かあったの? ネギ君」

 

 こういう時に動くのは決まって雪広と佐々木だな。あいつらもマジなのか?

 

「い いやあの別に何も……。誰も僕に告ッたりなんか……」

 

「え!? 告った!?」

 

「えーーそれホントネギ君!? 誰からされたのー」

 

 何だ、宮崎の奴にでも告白されたのかあのガキ教師。……お前らは平和でいいな。こっちは常時気を張ってるから疲れてしゃーねーよ。

 

 

 

 それから暫く経った時だった。近場で風の精霊が行使された気配を察知した。

 

(何だ? また誰か術者が襲ってきたのか?)

 

 その現場をくまなく探査したところ、宙を飛んで着地した車が目に入った。その傍には杖を

持って猫を抱いて「よかった無事だ……」などと言っているガキ教師の姿が。まさかまた魔法を使ったのかあのガキ教師。いや前後の状況からすると猫を助ける為にやむなくって所なんだろうが、いや、でも、うーん。そう考え込んでいると私の風は同時にガキ教師を影から見ている朝倉 和美の姿も捉えていた。やばいな。

 

(おい! ガ……いやネギ先生。あんた今朝倉に見られてんぞ)

 

 私は指向性の風でガキ教師だけに声を届けてやった。

 

「ああーーっ。朝倉さんっ!?」

 

「マズいバレてるぜ! 記憶を消しちまえっ」

 

 傍についているオコジョが素早く助言する。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル――消えろーーーっ」

 

 ガキ教師は反射的に即座に動いて朝倉の記憶を消す魔法を使った。

 

「あ、れ……」

 

 朝倉は魔法をしっかりと食らって記憶が失われたようだ。私としては魔法で記憶を消す事に思う所はあるが、魔法に、裏の世界に関わらせない為に記憶消去はやむを得ないと思っている。

 

 その後、ガキ教師は気を失った朝倉を旅館に担ぎ込んだ。何とか魔法バレはしなかったらしい。良かった良かった。神楽坂に次いで朝倉までなんて冗談じゃねーよ。

 

 その日の夜、見回りに出るガキ教師が桜咲から貰った身代わり符を書き損じて複数人のガキ教師が旅館を徘徊するという混乱が起きたが、私の定点攻撃で事なきを得た。その日の夜は警戒して、桜咲と私と神楽坂で、交代で寝ずの番をしたが、敵の襲撃などは無かった。……眠い。

 

 それはそれとしてガキ教師が宮崎に告白の返事をするというイベントもあったのだが、割愛させて頂く。綾瀬の奴が足を宮崎の足に引っかけて二人がキスしたとか色々あったが、魔法に関係無い出来事なので無視だ無視。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、眠い目をこすりながら私達は集まっていた。その時オコジョから仮契約について説明があった。

 

「出し方はこう持って来れ(アデアット)って言うんだ」

 

「え~~? やだなあ」

 

 仮契約(パクティオ―)カードか。私も詳しくはないが一通りの事は知っている。

神楽坂がカードを持って合い言葉を言うと、手に持ったカードがハリセンに変化した。

 

「しまう時は去れ(アベアット)だぜ」

 

 仮契約について説明を終えたオコジョは私や桜咲にも仮契約を勧めてきたが断った。

別にこだわりがある訳じゃないが私は風術師だからな。魔法使いに組み込まれるつもりはない。

 

「よーし。皆も自由行動だし今日こそ親書を渡しに行けるぞーー」

 

 ガキ教師は3日目の今日、自由行動の時間を利用して、関西呪術協会の総本山に出向くつもりだ。近衛のガードは私や桜咲が担当する。旅館を出た当初こそ生徒達に捕まってしまったようだが、途中から神楽坂とオコジョと共に抜け出て行動した。……あ。

 

(おいネギ先生! 神楽坂! 宮崎が後つけてるぞ!)

 

 二人の姿を見逃さなかった宮崎が後をついて行こうとしている。なので二人に注意を

促した。二人は後ろに注意を配り、宮崎を巻いた。ふう、危ない危ない。また一般人を

巻き込む所だったな。……やっぱあのガキ教師含め麻帆良の魔法先生は一般人に対して

かなり負担をかけている気がする。

 

 その後、近衛のガードを行っていると、桜咲から連絡があった。どうも式神を放ってガキ教師の元に配置しておいたようだが、その式神から連絡があったらしい。ガキ教師達は無間方処の咒法だとかいうものに閉じ込められてしまったらしい。あっちを狙って来たか、しかし結界に閉じ込められたというならこちらから助ける事は出来ないだろう。中に居る二人で何とかするしかない。ガキ教師に活躍して貰うとしよう。

 

 ……しばらくして、また式神から連絡があった。どうやらガキ教師達は負けてしまったらしい。相変わらず閉じ込められている二人を置いて、私達は知恵を出し合った。その結果、桜咲の式神で関西呪術協会の本山と連絡を取る。んでもって助けを寄こして貰うのだ。何とも他力本願な方法

だがこれしか方法がない。

 

 またしばらく時間が経った後、二人は結界の中から助け出された。どうも敵とは限りなく引き分けに近い負けだったらしく、救助はスムーズに済んだとの事。

 

 そんな風に連絡を取り合っていたらこちらにも敵がやってきた。敵の攻撃は桜咲が防いでくれているがマズいな……。しばらく走ってシネマ村についた桜咲は何かを考えついたらしい。班の仲間である綾瀬と早乙女に声をかけて、シネマ村の中に入って行く。

 

(これだけ人がいれば襲ってはこれないでしょう)

 

確かにかなりの人出だ。これならそう簡単に襲撃してはこれまい。一般人を巻き込まないのは東も西も変わらないしな。

 

「せっちゃんせっちゃん~~♡」

 

「はい?」

 

「じゃーん♡」

 

「わあっ!?」

 

 近衛が着物姿になっている。貸衣装屋で貸して貰ったらしい。

 

「お お嬢様。その格好は!?」

 

「知らんの? そこの更衣所で着物 貸してくれるんえー。えへへ。どうどう? 

せっちゃん」

 

「ハッ……いえっそのっ。おキレイというか何と言うかですね……」

 

「キャーーー。やったーー」

 

 ……てめえら。私は朝からずっと風で警戒してるってのに随分とのんきじゃねーか!

 

「ホレホレせっちゃんも着替えよ♡ ウチが選らんだげるーー」

 

「えっ いえ。お嬢様っ。私こーゆーのはあまり……ああっ」

 

 もう好きにしろよ。もう。

 

「なぜ私は男物の扮装なのですか? 夕凪が死ぬほどそぐわない……」

 

 桜咲は新選組の紛争をさせられている。その後も二人して写真を撮ったりしている。もうなんか私は疲れたよ。

 

 そこに人力車が近づいて来た。

 

「お……お前は!?」

 

「どうもーー神鳴流です~~」

 

 神鳴流? って事は剣士か!? 

 その神鳴流の剣士は劇に見せかけて衆人環視の中堂々と近衛を攫おうとしているようだった。

 

「このか様をかけて決闘を申し込ませて頂きますーー30分後。場所はシネマ村正門横

『日本橋』にて――」

 

 神鳴流の剣士は月詠と名乗った。30分後に決闘を申し込まれた。桜咲は覚悟を決めた顔をしている。私は風を使って桜咲に言葉を届けた。私は群衆に紛れているから注目されていない。

 

(桜咲、向こうは立ち会う人間がお前だけだと油断してるだろうから、その隙をついて私が攻撃する)

 

(……それは)

 

(剣士であるお前としちゃ抵抗があるかも知れないが、近衛を守る為だ。我慢してくれ)

 

(……はい)

 

 向こうには一昨日の夜に襲撃してきた術者がいるだろうから、私の存在も伝わっているかも知れないな。それでも常に見えない角度から攻撃されるかも知れないというのはかなりの負担になるだろう。それで桜咲が優位に事を運べれば十分だ。

 

 そして戦いが始まった。何を勘違いしたのか雪広達一般人も立ち会ってしまったが、それは敵の放った式神で相殺されている。……まあ、無闇に傷つける類いの力じゃなければ助けてなくても

いいな。式神達は着物の裾をまくったりとセクハラめいた事をしている。

 

(長谷川さん。このかお嬢様を連れて安全な場所へ退避して下さい)

 

 攻撃するより近衛の身の安全が優先か、確かにそうした方が良いかもな。

 

(分かった。無理はするなよ)

 

 私は風の補助を使って近衛を抱えると、その場を逃げ出した。

 

 

 

「ようこそこのかお嬢様。月詠はん上手く追い込んでくれはったみたいやな」

 

 ち、バレたか。しゃーない。近衛に極力魔法バレせずに撃退してやる。

 

「さあ おとなしくお嬢様を渡して貰おうか」

 

「だーれが! 素直に渡してなんかやるもんかよ」

 

 私は風の精霊を自分の周囲に集めると全力で風を行使し始めた。今私と近衛、それと敵は城の

屋根の上に登っている。敵は体の大きな式神を呼び出して弓矢を構えさせた。

 

「あーーーっ!? 何で射つんやーーーッ。お嬢様に死なれたら困るやろーっ」

 

 敵が矢を射ってきた。だから誰がそんな事させるかよっ! 私は素早く風を操ると式神が射た矢を打ち落とそうとした。だが、

 

 ダンッ

 

「桜咲!」

 

 桜咲がその身を呈して近衛を庇っていた。バッカ野郎! 矢は私の風で簡単に打ち落とせたんだよ。それを……。

 

「せ……せっちゃーん!」

 

 矢に射られてバランスを崩し、城の屋根から落ちそうになった桜咲を追いかけて近衛も屋根から身を投げ出した。……だから私がいれば風で対応出来るんだってば。私は風を操ると敵に牽制を

しつつ、落ちた桜咲と近衛を風ですくい上げてやった。

 

 カッ

 

 その時、落ちた近衛と桜咲を激しい光が包んだ。いや、これは近衛から光りが発せられているのか?

 

「せっちゃん……よかった」

 

「お……お嬢様……。傷が……ない……。お……お嬢様、チカラをお使いに……?」

 

 桜咲の射られた傷が治っていた。あれは近衛の力か?

 

「ウ ウチ今何やったん? 夢中で……」

 

(桜咲! 敵の数も多い、ここは一度引こう)

 

「……お嬢様。今からお嬢様の御実家へ参りましょう。神楽坂さん達と合流します」

 

「え……」

 

 桜咲に抱えられた近衛はポカンとした顔をした。 

 

 




 朝倉に魔法バレするも即時記憶消去が成功。ネギま二次としては珍しい展開ではなかろうか。原作でもネギ先生は記憶消去しようとするのですが、事件の後で少し時間をおいた朝倉に対応されてしまっているのです。ですがこの作品では即時行動したので成功しました。なので原作2日目の夜に行われたキッス大作戦も無しです。
 基本省エネ執筆を目指しております。本屋ちゃんとネギ先生のキスは原作通りですが、カモが
対応しきれなかったので仮契約も無しです。本屋ちゃんがアドバイスしないので本気の小太郎に
ネギは負けました。別にネギを負けさせようというアンチ精神がある訳ではないのですが、風術を使える千雨がいると、こうするだろ、そうなるとああなってこうなるよね。とシミュレーションすると自然とこんな感じになりました。


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第10話 修学旅行3日目午後

 書いていて自分でも、何の山もない話だなぁ……と思ってしまいました。
 ……精進します。


 シネマ村から脱出した私・桜咲・近衛は困り果てていた。というのも桜咲は近衛を抱えて、私は風を使って走ってきたのだが、朝倉・綾瀬・宮崎・早乙女に追いつかれてしまったのだ。

 

「こんなコトもあろうかと桜咲さんの荷物にGPS携帯放り込んどいたから。位置は

バッチリ♡」

 

 てなわけだ。朝倉は一度魔法を見ているがガキ教師が記憶を消したので魔法について認識して

いないのだ。魔法を認識していないのは私にとって嬉しい事だが、それは危険性を認識出来ない事と同じなのだ。

 

「お帰りなさいませ。このかお嬢様ーーッ」

 

 そして私達は既に救出されたガキ教師達と合流すべく、関西呪術協会の本山に来ていた。

 

「うっひゃーコレみんなこのかのお屋敷の人? 家広――いっ」

 

「いいんちょ並みのお嬢様だったんだねー」

 

 関西呪術協会の総本山はそのまま近衛の実家でもある。今実家に近づくと近衛が危険だと思われていたのだが、シネマ村ではそれが裏目に出てしまった。だからいっそのこと実家に飛び込んで

しまおうという訳だ。

 

「なんかスゴイ歓迎だねーーこりゃ。うひゃひゃ♡」

 

「これはどーゆーコトですか?」

 

「は はい 実は僕、修学旅行とは別に秘密の任務があってここへ……」

 

 おいガキ、それは言っちゃ駄目な裏の事情だろーが。何さらっと言ってんだよアホかお前。

 

「お待たせしました。ようこそ明日菜君。このかのクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ

先生」

 

「お父様♡ 久しぶりやー」

 

 近衛が関西呪術協会の長――自分の父親に抱きつく。久しぶりに会ったんだろうから

甘えたいのも道理か。

 

「あ あの長さんこれを……東の長麻帆良学園学園長近衛近右衛門から、西の長への親書です

お受け取り下さい」

 

 だから、一般人がいる前でやるなっつーのにこのガキ。そういうのは後でコッソリ渡せよ!

 

「……いいでしょう。東に長の意を汲み私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。

任務御苦労!! ネギ・スプリングフィールド君!!」

 

 だからさぁ……西の長までこんな感じかよ。ちょっとは機密とかに考えが及ばないのか? 朝倉達は「何かわかんないけどおめでとー」等と言っているが、彼女らの前でやっちゃダメだろ。

 

「今から山を降りると 日が暮れてしまいます。君達も今日は泊まっていくといいでしょう。歓迎の宴を御用意致しますよ」

 

 歓迎……ね。任務が終わって、近衛の安全も確保されたなら私は旅館に帰って眠りたいんだけどな。さすがに一人だけ固辞するのも空気読めてないようで気まずい、か。

 

「あっ……でも僕達修学旅行中だから帰らないと……」

 

「それは大丈夫です。私が身代わりをたてておきましょう」

 

 身代わり? 妙な言い方だな? 普通は連絡を入れるだけって言わねーか?

 

 そしてどんちゃん騒ぎの宴が始まった。私はこういう席苦手だな……早く終わらねーかな。

 

「刹那君」

 

「こ これは長。私のような者にお声を……」

 

 長が桜咲に話しかけてくる。

 

「ハハ……そうかしこまらないで下さい。昔からそうですねー君は。……この2年間このかの護衛をありがとうございます。私の個人的な頼みに応え、よくがんばってくれました。苦労をかけましたね」

 

 桜咲が護衛を頑張っていたねぇ。それはどうかな。学生寮の部屋も別々だったし、つきっきりの護衛という訳じゃなかったからなぁ。そんなに護衛していると思わないのは私だけか?

 

「ハッ……いえ。お嬢様の護衛は元より私の望みなれば……もったいないお言葉です。

し しかし申し訳ありません。私は結局 今日お嬢様に……」

 

 守れなかった、か。それを言うなら私もだ。いや守ろうとしたら桜咲が先走ったんだけどさ。

 

「話は聞きました。このかが力を使ったそうですね」

 

「ハイ。重傷のハズの私の傷を完全に治癒する程のお力です」

 

「……それで刹那君が大事に至らなかったのならむしろ幸いでした。このかの力の発言のきっかけは君との仮契約(パクティオ―)かな? ネギ君」

 

「ブフォッ」

 

 仮契約!? 何してくれてやがんだあのガキ!? 近衛は裏を知らない一般人だっつーのに。

 

「あう えっ!? 何で知って……そ そ そ そうなんですか!? あの僕っ……

す す すいませっ」

 

「ハハハいいのですよネギ君」

 

 いいんだ。……まあ私としては思う所あるが、本人の親がそれでいいと言ってるん

だったら納得するしかねーな。

 

「このかには普通の女の子として生活してもらいたいと思い 秘密にしてきましたが……いずれにせよ、こうなる日は来たのかもしれません。刹那君 君の口からそれとなくこのかに伝えてあげてもらえますか」

 

「長……」

 

 近衛はこっち側に来る事になるのか。……それは本人の為になるのだろうか?

私は一人そんな事を考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 私と神楽坂、桜咲の三人は風呂に入っていた。

 

「あの……神楽坂さん実は……」

 

「え。あーあの……何か……明日菜でいいよ 私。言いにくいでしょ私の名字」

 

「あ……そうですね。じゃあ私も刹那で……くす」

 

 何だよ。何こっち見てんだよ。

 

「分かった分かった。私も千雨でいいよ。んで明日菜に刹那って呼べばいいんだな?」

 

 な、何か恥ずかしいな。

 

「あの……明日菜さん。千雨さん。色々と話したい事があるので……あとでこのかお嬢様と一緒にこのお風呂場に来て頂けますか?」

 

「え……? うん。いいけど……」

 

「私も構わねーけど……」

 

 一体何だ? 改まって。

 

「ハハハハ。しかし10歳で先生とは やはりスゴイ」

 

「いえ そんな」

 

(あの声はネギとこのかのお父さん)

 

(なっ……あわわどうしましょう明日菜さん千雨さん)

 

(どうしろったって……こうするか)

 

 私はいつものように風を使って私達三人の姿を隠した。その上で岩場の影に隠れる。

入って来た二人にはどうやら気づかれていないようだ。

 

「この度はウチの者達が迷惑をかけてしまい申し訳ありません。昔から東を快く思わない人はいたのですが……。今回は実際に動いた者が少人数で良かった。後の事は私達に任せて下さい。生憎

どこも人手不足で腕の立つ者は仕事で西日本全域に出払っているんですが……明日の昼には各地

から腕利きの部下達が戻りますので奴らをひっ捕まえますよ」

 

「は……はい! それで……彼らの目的は何だったんですか?」

 

「彼ら……天ヶ崎 千草のコトですか。彼女には色々と西洋魔術師に対する恨みのようなものがあって……。いや 困ったものです……」

 

 西洋魔術師に対する恨み……か。私はかつて私の両親を殺した、麻帆良に侵入した奴の事を思い出していた。あの男も西洋魔術師に恨みのある西の人間という事だったな。

 

「何故 このかさんを狙うんですか」

 

「切り札が欲しいのでしょう」

 

「切り札?」

 

「ええ ネギ君も薄々お気づきとは思いますが……。やんごとなき血脈を代々受け継ぐあのこには凄まじい呪力……魔力を操る力が眠っています。その力は君のお父さん。サウザンドマスターをも凌ぐ程です。つまり このかはとてつもない力を持った魔法使いなんですよ」

 

 知っていた。学園長から聞かされていたからな。近衛が潜在的に凄まじい力を

秘めているってのは。

 

「その力を上手く利用すれば西を乗っ取るどころか東を討つことも容易いと考えたの

でしょう。ですからこのかを守る為に安全な麻帆良学園に住まわせ、このか自身にも

それを秘密にして来たのですが……」

 

 近衛自身にも秘密に……か。それにしちゃー魔法使いであるあのガキと同室にしたのはどういう事なんだ? 学園長は近衛が魔法を知っても構わないと思っていたのか?

 

 その後、話はガキ教師の父親、サウザンドマスターの事に移っていった。の、のぼせるから早く出ていって欲しいんだけどな。

 

 




 変な所で切りましたが、次の話との長さなどを考えると、ここで切るのがベターだったのでそうしました。 



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第11話 戦いの夜 そして

 私、それと近衛と神楽坂は仕立てて貰った着物を着て共に歩いていた。

 

「わー 夜桜綺麗ねー」

 

「うん ここ、結構 遅くまで咲いとるんや」

 

 神楽坂はぼーっとしている。さっきの話を考えているんだろうな。

 

「どうかしたんアスナ?」

 

「えっ ううん。何でもっ……。……あ、あの……さあ、このか……」

 

「何? アスナ」

 

「……あ ううん。何でもない」

 

 おい、いくら何でも挙動不審だぞ、神楽坂。

 

「? 変なアスナやなーー。せっちゃん何の話やろねーー千雨ちゃん」

 

「さーな。何だろな」

 

 多分魔法に関する事を洗いざらい話すんだろうな。

 

「あた」

 

 その時、神楽坂が扉から突き出た棒のような物に頭をぶつけた。

 

「え……」

 

 良く見るとそれは……石像だった。

 

「な……何よコレ……。せ……石像? こんなのあったっけ?」

 

 まさか!?

 私は屋敷の中に入って気を抜いていた。急いで風の精霊を集めて探査する。その間

神楽坂は仮契約(パクティオー)カードを使ってガキ教師と連絡を取っているようだ。

 

「ア……アスナー何があったん?」

 

 近衛が不安そうな声を上げる。

 

「このか……。……このかよく聞いてね。悪い人達がここに来てあんたのこと狙ってるの」

 

「わ……悪い人って 昼のシネマ村の人……?」

 

「そうよ。でも大丈夫、安心して。私達が守るから。来れ(アデアット)

 

 神楽坂は仮契約カードを手に持つと、合い言葉を告げて自分の武器――ハリセンを

具現化させた。私も風の精霊を集めてすぐに対応できるよう準備する。

 

「周囲の警戒は任せろ。神楽坂、あんたは近衛の傍についていてくれ」

 

「うん、わかった。このか、私の後ろにいてね」

 

 その時だった。私の風が近衛と神楽坂の後ろに出現した敵を捉えた。

 

「ふっ」

 

 スパァンと音を立てて神楽坂が反射的に後ろに振り返りつつハリセンで敵の頭を殴りつける。と同時に私も風で敵の体を打った。

 

「すごい。訓練された戦士のような反応だ。でも お姫様を守るには役者不足かな。君も眠って

貰うよ」

 

 敵――白髪の少年はそう呟くと呪文の詠唱をし始めた。させるかっ! 私は負けじと風で攻撃を加える。すると少年の周囲から煙が立ち上った。

 

(この煙、地の精霊だ! 石化の呪文か!? こいつが本山の皆を石化させたのか!?)

 

 私は慌てて風を使って煙を吹き飛ばした。

 

「……君のその能力はやっかいだね」

 

 ズン

 

 その言葉を聞いた次の瞬間には、少年の拳が私の胸に突き刺さっていた。

 

「か……は……!」

 

「少し眠っていて貰うよ」

 

「千雨ちゃん!」

 

 私は、気を失った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「長谷川さん! 大丈夫ですか長谷川さん!」

 

 ガキ教師の声で目が覚めた。……どうやら気絶していたらしい。私が気絶している間に、近衛はさらわれてしまったらしい。くそっ。私は気を失っていた間の事を聞くと体勢を立て直した。……気を失っている間に石化させられなかっただけでも儲けものと考えるしかないか。

 

「アスナさんはここで待っていて下さい。このかさんは 僕が必ず取り戻します」

 

「とにかく追いましょうネギ先生! 気の跡をたどれば……ぐっ」

 

「刹那さん大丈夫ですか!? 見せて下さい軽い傷なら僕にも治せます」

 

 ネギ先生が簡単な傷の治療が出来ると言うので、桜咲と私の傷を治して貰った。その後、仮契約を勧めるうるさいオコジョを黙らせて、私達は敵を追いかけた。

 

 

 

「待て!! そこまでだ。お嬢様を放せ!!」

 

「……またあんたらか」

 

 私達は屋敷の傍に居た敵を首尾良く発見できた。捕らわれている近衛を見る。近衛っ!

今助けるぞ!

 

「天ヶ崎 千草!! 明日の朝にはお前を捕らえに応援が来るぞ。無駄な抵抗はやめ投降するが

いい!」

 

 桜咲のその威勢の良い言葉に、敵の女性は冷笑を返してきた。

 

「ふふん……。応援が何ぼのもんや。あの場所まで行きさえすれば……。それよりも……あんたらにお嬢様の力の一端を見せたるわ。本山でガタガタ震えてれば良かったと後悔するで」

 

 天ヶ崎は近衛に符を貼り付けると文言を唱え始めた。

 

「させるかよっ!」

 

 私が放った風術は白髪の少年に防がれてしまった。くそっ。近衛が。近衛が!

 

「お嬢様!!」

 

「このか……っ……!?」

 

「近衛っ!!」

 

 文言が唱え終わると、その場に100体くらいの鬼が出現した。

 

「あんたらにはその鬼どもと遊んでてっもらおか。おとついのおかえし 出血大サービスや。

ま ガキやし殺さんよーにだけ(・・)は言っとくわ。安心しときぃ。ほな♡」

 

 ふざけやがって!

 

「逆巻け春の嵐。我らに風の加護を――風花(フランス)旋風(・パリエース)風障壁(・ウエンティ・ウェルテンティス)

 

 その時、ガキ教師が盛大な風の障壁を張ってくれた。これなら鬼どもに攻め込まれる

心配はないだろうが、こんな障壁数分ともたねーだろ。

 障壁が消えるまでの間、私達は作戦を話し合った。その結果、二手にわかれる事となった。

桜咲と神楽坂の前衛コンビが鬼どもを引きつけ、空を飛べる私とガキ教師が近衛を奪還しに行くというものだ。分の悪い賭けだが他に代案はない。その際ガキ教師と桜咲が緊急事態という事で

仮契約……キスをした。こんな時になんだが、あのオコジョにはどうにも良くない波動を感じる。

 

雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)

 

 ガキ教師が餞別とばかりに放った雷の魔法で、鬼どもを蹴散らしつつ進む。

 

「兄貴!! 感じるかこの魔力!! 奴ら何かおっ始めやがったぜ!? 急げ!!」

 

 私には感知できないが、どうやら近衛の魔力を使って何かをやらかそうとしているらしい。

させるかよっ。

 

「見えた!! あそこだ!!!」

 

 私にも風で見えたし感じ取れたぜ。近衛があそこに居る。

 

「むぅ!? こ この強力な魔力は……!? 儀式召喚魔法だ!! 何か でけえもんを呼び出す気だぜ!! 兄貴 急げ。手遅れになる前に!!」

 

 その時、地上から私達めがけて攻撃が飛んできた。ガキ教師は防御に失敗して弾かれた。だが私は防御ではなく回避を選択したので何とか避ける事が出来た。地上に落ちたガキ教師は……

何やら同じガキに格闘戦を申し込まれているらしい。……知るかっ! 私はガキ共を無視すると

近衛の方向に飛んで行った。

 

 私は今空を飛んでいる。上から祭壇のある場所が見える。近衛が捕らわれている。近衛がっ! まだ魔法を知らされていない一般人の近衛が。……許せねえよなぁ。とても許せねえ!

私は、覚悟を決めた。

 

 

 

「千雨、お前は良い弟子だ。私の教えた事を素直に吸収して、短期間の内にここまでの

風術師になった。だがな、そんなお前にも教えられない事がある」

 

「教えられない事……ですか?」

 

「ああ。私はお前に攻撃の為の術を教えた。だがその術を実際に人や妖怪などに使えるかは、お前が実戦の場に出た時でないと分からない。お前が覚悟を決めて攻撃出来るかどうかは」

 

「…………」

 

「まだ実戦に出ていないお前に言える事は唯一つだ。“その時”になったら躊躇(ためら)うな。一切の躊躇いを捨てて攻撃するんだ。そうでなければお前が死ぬ。それが戦場だ」

 

 

 

 私が躊躇えば、近衛が、死ぬ。敵の目的は分からないがどうせろくでもない事なんだ。それに

近衛を巻き込む訳にはいかない。私は覚悟を決めた。心を、意思を、最大限まで研ぎ澄ませた。

 

 私に出来る最大の攻撃。極限まで研ぎ澄ませた風の刃。それを、放った。

 

 ザンッ

 

 そんな物騒な音と共に、敵――天ヶ崎の腕に斬撃がたたき込まれた。そして、腕が、飛んだ。

私が、天ヶ崎の、腕を斬り落とした。その事を知覚する。天ヶ崎は自分の体に起こった事をろくに認識出来ないようだ。私は風を操って祭壇に居る近衛の体をさらうと、自分の手元に引き寄せた。白髪の少年を警戒していたが、どうやら気を取り直したガキ教師が引きつけてくれているようだ。

 

「近衛! 近衛! 目を開けろ!」

 

「……あれ。千雨ちゃん。へへ……また助けにきてくれたん?」

 

「近衛、どこか痛む所なんかはないか?」

 

「いや……大丈夫やよ。平気や」

 

 そうか。私は安心して気が抜けかけた。おっといけない。ここはまだ敵の懐だ。気を抜いちゃ

ダメだ。私は再度気を引き締めると、風を使って一気に後方へ飛んだ。ガキ教師と桜咲、神楽坂には風で声を届けて撤退を促す。私達も屋敷に戻る。

 

「千雨ちゃん。ウチ、空を飛んでるんか?」

 

「へ? あーいやこれはだな。その……」

 

 私が答えに窮していると、

 

「へへ。何か千雨ちゃん、天使みたいやなー」

 

 天使、か。そんないいもんじゃないよ。私は先程の天ヶ崎を攻撃した手応えを思い出していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後の顛末を少しだけ語ろう。桜咲と神楽坂が相手をしていた鬼どもは、綾瀬の連絡を受けた龍宮と(クー)が駆けつけて救援してくれたらしい。

 途中で出て来たガキは長瀬が、白髪の少年は限定的に封印を解かれたマクダウェルが

京都まで転移魔法で来て撃退してくれた。

 そんな中、私と近衛は二人してゆっくりと関西呪術協会の屋敷に戻っていた。屋敷の人間は皆、白髪の少年の魔法で石化していたが、次の日の昼に応援に来た呪術協会の面々が治療して事なきを得た。それまでは近衛が長に張り付いて大変だった。そりゃ自分の父親が石化していたら冷静で

いられないだろうし仕方ない。

 石化が解けて、戦闘の傷も癒えた後、3-Aの旅館に飛ばした私達の身代わり紙型が大暴れしているという連絡を受け、私達は急いで旅館に戻ったのだった。

 

 その後、マクダウェルの京都観光だとかガキ教師の父親の別荘を見て回るとかあったが、私は

辞退した。そんな気分ではなかったからだ。呪術協会の長からは天ヶ崎 千草は厳罰を持って処する事になると聞いている。傷の治療は行われたが、完全には繋がらなかったらしい。……そんな事を聞いて気軽に観光などに行く気持ちにはなれなかったのだ。

 

 それ以外にも思う事があった。結局近衛はこちら側の世界に足を突っ込む事となったのだ。

私のした事は無駄とまでは言わないが、意味のないものとなった。私は事件の最中、必死に近衛を守ろうとしていた。その理由が分かった。気づいたのだ。

 

 私は、自分を守りたかったのだ。かつて魔法使いに両親を殺された自分。魔法の世界に強制的に引っ張り込まれた自分。そんなかつての幼い自分を守りたかったのだ。近衛は言ってみれば幼い

自分の代わりだったのだ。

 

 そして、私は気づいていた。近衛を守った所で、幼いあの頃の自分を救う事など出来はしないのだと。代償行為など何の意味も無いのだと。更に言えばその代償行為すら完璧に出来なかった。

結局近衛は魔法の事を知ってしまったからだ。

 

 私は麻帆良までの帰りの車中で、そんな事を考えていた。

 




 千雨ちゃんまさかの油断。まあ2日目ずっと風でこのかを見張ってて、夜は交代で寝ずの番を
して、3日目も変わらずずっと見張って……とかやっていたので、本山に到着した後気を抜いたのは仕方ないね。
 その後の戦闘では純粋に技量負けです。タカミチにも勝てないこの千雨では、フェイトの相手は荷がかちすぎていました。
 成り代わり系主人公千雨の本領発揮。なんとせっちゃんとこのかの仲直りイベントをぶち壊してしまいました(汗)で、でもしょうがなかったんですよ、空を飛べて即時攻撃可能な人間がいると、シミュレーションすると簡単にこのかを取り戻せちゃうんですよ。私もせっちゃんのイベントを潰してしまうのは心苦しいのですが。「制作者の都合で登場人物を動かす」というのが大嫌いなので、泣く泣くそのままに。
 Q:このかと仮契約してないけどネギは大丈夫なの? A:このかを奪還した千雨からの連絡で素早く撤退し始めていたので石化魔法食らわなかったのです。

 そして千雨が自分の望みを知ったようです。ですがそれは絶対に叶わない望みなのです。


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第12話 修学旅行のその後

 修学旅行が終わった後、それぞれに色々な事があった。ガキ教師が父親の持っていた

地図を調べたりだとか、それに綾瀬・早乙女・宮崎の図書館探検部が付き合わされたり

とか、ガキ教師が戦った相手のマクダウェルに弟子入りしたりとか。

 

 だがそれらの事に私の心が動かされる事は無かった。あのガキ教師の事も今はもうどうでも

いい。天ヶ崎 千草を斬った手応えも今はもう消えつつある。だが私の心は渇いたままだった。

 

 笑ってしまう。私は結局過去の自分、幼い頃の私を救いたかっただけなんだ。そして

それは絶対に叶わない望みなんだ。それに気づいてしまってから、全てが虚しく思えて

しまっていたのだ。だからガキ教師の父親探しに綾瀬と宮崎が巻き込まれてしまった

としても、止める気力がわかなかった。本人が望んでいるなら好きにすりゃー

いいじゃねーかと思ってしまったからだ。

 

 そう思えてしまうのは近衛が魔法使いへの道を歩き出した事が大きい。結局私は近衛が魔法を

知るのを少しばかり遅らせただけで大した事は出来なかったと思ったからだ。そう思ってしまうとな。

 

(虚しい……)

 

 クラスの奴らは雪広がリゾートに連れて行くというイベントに沸き立っていたが、私の心は冷めていた。どうでもいい。もう全てがどうでもいい。好きにしたらいいじゃないか。

やけになっているな。それを自覚しつつも心は全く動かなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ネギ君疲れてるってゆかヤツれてない?」

 

 そんな声を聞きつつ、欠伸をかみ殺す。

 

「……くぁ……」

 

 眠い。昨夜は考え事をしていて眠いのだ。ガキ教師の事なんてどーでもいいよ。

 

 

 

 それは雨が降る雷雨の日だった。やたら風が騒がしい事が気になっていた。

 

(何だ? やたら風の精霊がざわめいてやがる)

 

 私は良くない兆候を感じ取った。ここ数ヶ月ろくでもない事件が続いている。万が一の事があるかも知れないから、風を使った探査を試みた。

 

(なんだあ? この気配?)

 

 やたら強大な気配を感じて、私の嫌な予感は更に高まった。そこで私は禁じ手の、音の収集を

試みた。

 

 

 

「やあ早かったね。ネギ・スプリングフィールド君」

 

「!? な……那波さん!?」

 

「て てめえは!?」

 

「その人を離して下さい」

 

「うむ。君の仲間と思われる7人を既に預かっている。無事返して欲しくば私と一勝負

したまえ」

 

「え……!?」

 

「何だと!?」

 

「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。仲間の身を案じるなら助けを請う

のも控えるのが賢明だね……」

 

「あっ待て……」

 

 

 

 私は、声を、拾った。それで分かった事は、ガキ教師を目的とした敵が麻帆良に侵入

したという事。既に神楽坂ら7人の仲間が(さら)われている事。そしてたった今、一般人の

那波 千鶴が攫われたという事だ。私は……窓に足をかけると外に飛び出した!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「来たでおっさん!!」

 

「みんなを返して下さい!!」

 

 ガキ教師と京都で敵対したガキ……「ガキ共」で十分だな。はとにかく敵と相対している。私は適度に離れた位置に毎度おなじみ風を使った隠形で身を隠している。大気密度を操る事で、光の

屈折率を変えて透明化しているのだ。全ては相手の虚を突く為に。

 ガキ共は楽しそうに敵に向かって行く。神楽坂が何かされているらしいな。何やら特殊な状況におかれているようだ。まあでも助けないがな。神楽坂はもうガキ教師の従者、パートナーだ。

自分の危機ぐらい自分で何とかしてくれ。

 私は那波を助け出す事に集中するだけだ。…………良し。今だ! 私は風の刃を降り降ろした。不可視の刃が、空気分子すら切り分けながら、那波ちづるを捕らえていた水牢を真っ二つに断ち斬った。

 

「むっ」

 

 敵の老人が反応を示すが遅い。私は割り開いた水牢から那波を助け出すと、風に乗って一緒に

飛び始めた。

 

「待ちたまえ。それはいささか無粋ではないかね?」

 

 知るか。一般人を巻き込むようなクソ野郎相手に手加減するつもりは一切無い。私は本気の攻撃を放つとガキ教師にだけ

 

「那波は私が助け出した。後は好きにしてくれ――」

 

 とだけ伝えてその場を立ち去った。後の相手はガキ共がしてくれるだろう。それが私への追撃を防ぐ役目を担ってくれる。我ながら悪辣だとは思うが、那波を助ける為だ。許して貰おう。

 

 

 

 学生寮に戻ってきた。私は抱えたままの那波を下ろす為、彼女の部屋に向かった。部屋には村上 夏美がいた。私が那波を抱えて現れたので驚いている。

 

「ちづ姉!」

 

「村上……悪かったな。私らの事情に那波とあんたを巻き込んじまった。本当にすまない」

 

 私はこんなことじゃとても慰めにはならないと思ったが、謝った。意味はないかも知れないけれど。

 

「長谷川さん!? ど、どうして長谷川さんが?」

 

「この部屋に乗り込んで来た男が居ただろう。そいつらと私は……言わば同じ穴のムジナなんだ。だからあいつに那波が攫われたのが許せなかった。だから私は那波を助け出してきたんだ」

 

「長谷川さん……」

 

 気を失っている那波をベッドに寝かせると。私はしばらくその部屋に留まった。敵の相手はガキ共だけじゃなく、学園長にも風を使って報告してあるので魔法先生が対応してくれるだろうが、

万が一という事がある。事態が収まるまで私は那波と村上の部屋に居座らせて貰った。村上はこちらに何か聞きたそうにしていたが、私が話しかけて欲しくない雰囲気を出していたので聞いてこなかった。

 そうして、その事件は終わった。

 

 事件の顛末は後で学園長に聞いた。なんでもガキ共じゃあの悪魔(モノホンの悪魔だった

そうだ)を倒しきれず、魔法先生が駆けつけて何とか事なきを得たらしい。まあそんな事は

どうでもいい。それよりも那波や村上への対応を私は聞きたかった。

 

「あの二人……記憶を消したりするんですか?」

 

「いや……今回の事件、あの二人は完全な被害者じゃ。わしらの事を黙っていてくれる

なら記憶の消去という手段は取らない予定じゃよ」

 

 それを聞いて安心した。魔法使いの事情に首を突っ込ませるのも気が引けるが、記憶を消去するというのも、それはそれで心が痛むからな。

 

「学園長……私の話を聞いてくれますか?」

 

「話……か。わかった。いいじゃろう」

 

「私は……この前の修学旅行の一件で気づいてしまったんです。自分の望みに」

 

「自分の望み、かのう」

 

「はい。私はマクダウェルの事件が起きた時、一般人を巻き込んだマクダウェルに怒りを感じました。同じ様に一般人の近衛を巻き込もうとした修学旅行の事件でも私は憤りを感じました。その

理由が分かったんです」

 

「……ふむ。その理由とは一体なんじゃったんじゃ?」

 

「その理由ってのは……私は、自分を救いたかったんです。幼い頃の、魔法使いの事件に巻き

込まれた自分を」

 

「…………」

 

 学園長は、静かに聞いてくれている。

 

「あの事件に遭った自分を救いたくて、私は目の前の『魔法使いの都合に巻き込まれる一般人』

を救おうとしていたんです。その事に、気づいたんです」

 

「うむ、じゃがそれは別に悪い事ではなかろう」

 

「はい。悪い事だとは思ってないです。でも、無意味じゃないですか。昔の自分を救いたいだ

なんて。そんなのただの代償行為です」

 

「代償行為、か」

 

「その事に、私は凄く虚しさを感じていました。修学旅行から帰って来てしばらくは

無気力になっていました。でも……」

 

「でも?」

 

「今回の事件で、一般人の那波が巻き込まれたと知って自然と体が動いていたんです。

彼女を助けようって」

 

「そうか。それは……良かったのう」

 

「はい。良かった……です。代償行為かも知れないけど、虚しい事かも知れないけれど、私は

やっぱり魔法使いの事情に巻き込まれる一般人を見過ごせません。これからも、そういう人を

見つけたら助けて行きたいと思います」

 

 私は、自分の心情を精一杯吐露してすっきりした気分になっていた。

 

「学園長。話を聞いてくれてありがとうございます」

 

「いや、いいんじゃよ。修学旅行から帰って来た君が思い悩んでいる事は知っていた。

じゃが悩んでいる君本人が答えを出さねばならない事だとも思ったので見守っていたのじゃ。

自分なりの答えを見つけられたなら良かった」

 

「はい」

 

 

 私は魔法使いの事情で命を落とす人なんて見たくない。私はこれからも、そういった

出来事に抗って行こう。

 

 




 Q:千雨が攫われなかったのは何故? A:あの後攫われる予定でした。
 まあ別に襲撃されるのもいいかと思ったのですが、千雨だと普通に撃退してしまう
でしょうからね。結局は結末は変わらないのでこういう風に書きました。
 事態は収束する。のどか(本屋ちゃん)結局ネギパーティー入りしました。行動の源泉がネギに対する恋心だから仕方ないね。本屋ちゃんを魔法から遠ざけたかったら、ネギに惚れる所から
何とかしないと。

 千雨一歩前進。ほんの少しだけですが前に進めたようです。


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学園祭事件編
第13話 学園祭


 麻帆良学園に学園祭の季節がやってきた。最近まで落ち込んでいた私も今はクラスの出し物の

準備に追われている。3-Aの出し物はお化け屋敷だ。本物の幽霊が出るという騒動もあったり

したが、準備は概ね問題なく終わった。徹夜で作業をやったりした気がするが気のせいだ。

学生の徹夜は禁止されているしな。

 学園祭が近付いた事で、世界樹伝説の伝達、6箇所の魔力溜まりでの見張り作業などが課せられた。まあ私も一応魔法生徒というくくりだからな。任せられた分の仕事はするさ。

 そんなこんなで、麻帆良祭の当日になったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 麻帆良祭の当日を迎えるに当たって、一つの出来事があった。私自身もまだ上手く整理出来て

いないので、こうして考える事で考えを整理したい。

 

 それは前夜祭の夜の事だった。

 

「で? 私に話って何だよ(チャオ)

 

「いやーハハハ。まずは落ち着いて座ってくれないカナ」

 

 私は同じクラスの超 鈴音に呼び出されていた。超は確か……危険人物として魔法教師などから認定されていたはずだ。魔法の存在に踏み込む女。……まあ、前情報だけで人を判断するのも悪い事か。私はとりあえず勧められた席に座ると飲み物を注文した。

 

「話というのは他でもない、私に協力してくれないカ? という事ネ」

 

「協力……って一体何の話だよ」

 

「ふふ。複雑なようで実はとても簡単な話ヨ。世界に散らばる『魔法使い』の人数、私の調べた所によると……東京圏の人口の約2倍。全世界の華僑の人口よりも多い……これはかなりの人数ネ」

 

「………………それで?」

 

 魔法使いの事をおおっぴらに話している事に突っ込まずに話を促す。まあこんな喫茶店の一室での話なんて漫画かゲームの話でもしているんだろう、で終わるからな。

 

「心配しなくても大丈夫ヨ長谷川。一般人に迷惑をかけるようおなことはしない。私の

目的は――彼等『魔法使い』総人口 6千7百万人。その存在を全世界に対し公表(バラ)す。それだけネ。……ネ? たいした事ではないヨ♡」

 

「は、はぁあ!? そ、そんな事したら……!!」

 

 驚きだ。まさか超がそんな事を考えていたとは。だが……、

 

「……超てめぇ、何を考えてやがる?」

 

「何を……とは?」

 

「私は腐ってもこの麻帆良学園の魔法生徒って扱いだ。その私の前で一般人への魔法バレを促すような事を言うなんて、自殺行為じゃねーか」

 

「長谷川には説得の切り札があるからネ」

 

「切り札?」

 

「一般の人全てに魔法の知識があれば、魔法使いの都合に巻き込まれる一般人は減らせるのでは無いかな?」

 

「…………」

 

「全ての人が魔法の知識を備えるようになれば、今のような密かに魔法使いが暗躍する事はなくなる。一般人と魔法使いの間に置かれる境界線、それがハッキリとした形で示されれば、魔法使いの都合で犠牲者が出ることも少なくなるのではないかネ?」

 

「それは……」

 

 確かに、そうかも知れない。魔法使いという特別な存在が居るのだと、ハッキリとした形で示されれば、無力な一般人は魔法使いに無闇に近付こうとしなくなるだろう。だが……。

 

「そして何より、魔法使いと一般人の境目が明確になっていたならば、麻帆良という土地はこのような魔法使いの街にはなっていなかただろうネ。そして麻帆良がこのような街になっていなければ……長谷川の両親が亡くなる事もなかたのではないかナ?」

 

「――! …………それ、は」

 

 それは確かにその通りだ。魔法使いと一般人の境目がハッキリとしていれば、あの事件は起こらなかった。だけど、

 

「そんな事! 今更言ってもどうしようもねえ事だろうが!」

 

 そうだ。全ては後の祭りだ。何を言った所で、何をやった所で、両親は帰ってこない。あの時の自分は救えない。

 

「とと、落ち着いて欲しいヨ長谷川サン。私は別に貴方を怒らせるつもりはないヨ」

 

「……それはいい。私の事はどうでもいい。それよりお前の計画の事だ。相当の混乱が

起きるだろうな、それに……魔法使いの力を求める一般人というのも出てくるだろう?」

 

「世界中に起きる混乱は私の力で押さえ込むヨ。……私には、秘策があるのヨ♡」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから数日、私は……私は未だに超に対する態度を決めかねていた。超の言葉が頭をよぎる。

 

 

 

「両親が死んだその日……もしもその日に戻れるとしたら、不幸な過去を変えてみたいとは

思わないカナ?」

 

 

 

「う~~~! …………!!」

 

 

 頭をかきむしる。どうする。どうすればいい。あいつの行動を見過ごしていれば全世界に魔法使いの存在がバレる。それは麻帆良の魔法生徒である私にとっては防がなければならない事態だ。

だが、長谷川 千雨個人としては……。止めるべきなのだろうか。それとも見過ごすべきなのか。私は迷ったままでいた。

 

「ご来場の皆様お待たせ致しました!! 只今よりまほら武道会第一試合に入らせて頂きます」

 

 まほら武道会、超が主催者となったその大会も、ただ見ていた。調査は主に高畑先生がやっていてくれる。私が動く必要はないと言えばない。だが今の私は魔法生徒として背任行為をしているようなものだ。迷いを断ち切り、早めに態度を決めないと……。

 

 そんなこんなで迷っていると高畑先生が地下に閉じ込められたと知った。犯人はやはり超だ。そしてまほら武道会も進行している。その大会では参加者が盛大に魔法を使っていやがる。それを見て私は心が疼くのを感じていた。一般人の前で魔法を使ってんじゃねーよ。いつものような思考、それで私は少しだけ自分を取り戻していた。

 そうだ、私はいつも一般人への魔法バレを防いでいたじゃないか。いつも、いつも、いつも。

規則だからじゃない。無力な一般人が巻き込まれるのが嫌だったからだ。

 

 私は、まほら武道会が終わった後の超の前に立ちふさがっていた。私がというより魔法先生達のオマケだけどな。

 

「やあ高畑先生。これはこれは皆さんもおそろいで……お仕事御苦労様ネ。長谷川サンも♡」

 

「職員室まで来て貰おう超君。君に幾つか話を聞きたい」

 

 高畑先生が勧告する。

 

「何の罪でカナ?」

 

「罪じゃないよ。ただ話を聞きたいだけさ」

 

「高畑先生! 何を甘い事を言っているんです。要注意生徒どころではない、この子は

危険です!! 魔法使いの存在を公表するなんて……とんでもない事です」

 

 超の奴、自分の目的を魔法先生達にバラしたのか。ならもう私だけが悩まなくても良いのか。

 

「フフ……古今東西。児童小説 漫画でも魔法使いはその存在を世間に対し秘密にしている……というお話は多いネ。何故カナ? 私から逆に聞こう。何故君達はその存在を世界に対し隠しているのかナ? 例えば……今大会のように強大な力を持つ個人が存在する事を秘密にしておく事は人間社会にとって危険ではないカ?」

 

 それは。それは、確かにその通りだ。

 

「な……それは逆だ! 無用な誤解や混乱を避け現代社会と平和裏に共存する為に我々は秘密を守っている! それに強大な力を持つ魔法使い等というのはごくわずかだ!!」

 

 魔法先生が反論する。それも、一理ある。

 

「……と とにかく多少強引にでも君を連れて行く」

 

「ふむ……できるかナ?」

 

「捕まえるぞ。この子は何をしてくるか分からない気をつけろ!!」

 

 魔法先生達が超を捕らえようと動く。超の奴は懐に隠し持っていた時計を取り出すと

それを起動させた。

 

「3日目にまた会おう。魔法使いの諸君♡」

 

 その瞬間、超の姿がかき消えた。私の風でも捕捉出来なくなった。

 

「なっ……。き……消えた?」

 

 魔法先生達でも、魔力でも動きをトレース出来なかったらしい。一体どうやって消えたんだ? 私の風で捕捉できなかったという事は、魔法による精霊の行使ではないという事だ。一番可能性が高いのは転移魔法、(ゲート)を開くという方法だが、それは無いと断言できる。転移魔法でも精霊の

行使が感知できるのは、私の修行中に学園長に転移魔法をやってもらって試してある。だから超は転移魔法を使っていない。となると……、考えられるのは、魔法を使わない瞬間移動……か? 

そんな事がありえるのか?

 私達は超が消えてしまったその場所で立ち尽くした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、私は風の精霊を総動員して探査に力をいれた。だがそれからしばらくの間、近辺を

探しても、超は見つからなかった。そうして頭が割れそうになりながらも風の精霊を行使していると、携帯電話にメールが入った。超のお別れ会をするから準備してくれ、との事だった。私は訳が分からなかったが、とにかく超に会えるならとその場に急行した。その途中で私は感知した。超 鈴音の存在を。

 

「ようこそ。超りんお別れ会へ!!」

 

「お……」

 

 超はさすがに度肝を抜かれたような顔をする。そこにいたのは3-Aの生徒達……多数の一般人だった。

 

「ちゃおちゃおーっイキナリお別れなんて 突然すぎるよーーっ」

 

「その服 何!? コスプレ!? カッコイー♡」

 

「何で何も言ってくれなかったの!? てゆーか転校するってホントにホントなの!? 超!!」

 

 まさか超に対してこんな手段をとるとはな。予想もつかない事だったらしく、超も目を白黒させている。……私もまた準備で大工作業をやらされたしな。 

 

「な……む……。話はほんとネ。どうしようもない 家の事情でネ……」

 

「そっかーホントかー……」

 

「家の事情じゃ仕方ないねー……」

 

 超が全世界への魔法バレという暗躍をしようとしていたのは聞いていたが、転校するという話は聞いていなかった。まあ普通に考えればそれは当たり前の事ではあるのだが。

 

「てことはもう格安激旨肉まんは食べられないってこと!? 死活問題ッ」

 

「ハハハ五月(さつき)に頼めば大丈夫ヨ」

 

 風で把握した所、ガキ教師と超の奴は激突していた。そこに長瀬と桜咲が割って入って、上手いこと謀ってやった訳だが、さてここからどーする?

 

「それでは委員長である私から、乾杯の言葉を……」

 

 その後、委員長が長くて湿っぽい挨拶をしたがそれはさておき。

 

「カンパーイッ!!」

 

「今日も朝までブワーーッと騒ぐよーー!」

 

「これが……奥の手……ですか?」

 

「しかし楓姉さん思い切ったなー。超が血迷って実力行使でもしたらどうするつもりだったんでい」

 

 おいそこのガキ教師、普通に使い魔を喋らせてるんじゃねえよ!

 

「ハハハ あの聡い超殿に限ってそれはないでござるよ。彼女にどんな事情があるにしても……

学園を去るという話が本当ならば、級友達(クラスメイト)とのこのような席は必要でござろう。彼女も……2年を共にした拙者達のクラスメイトでござるからな。もっとも この場に連れて来れば彼女も下手に動くまいという打算もあったでござるが」

 

 長瀬がそんな事を話している。この場はあいつが用意したもんか。クラスメイト……か、確かにそうだな。私にとっても超はクラスメイトだ。

 

「ほにゃらば緊急特別企画!! 旅立つ超りんへプレゼントターーイムッ!!」

 

「何!?」

 

 超が驚いているが私もだよ!? 急な事だから何も準備してねーぞ。

 

 その後、宴会は楽しく続いた。委員長の雪広はまた胸像なんてもんを用意していやがったが。超の涙を拝ませてもらおうと、エロいくすぐりなどがあったりもしたが、まあいいだろう。あいつ

世界中に魔法使いの存在をバラそうとしてるような奴だし。

 

「イヤイヤヒドイ目にあたヨ」

 

「ハハハ。まーまー」

 

「超……」

 

(クー)……」

 

 超の前に古が立つ。この二人はことに仲が良かったからな。

 

「私からも餞別(プレゼント)があるネ。コレ……わが師からもらた双剣ネ。超にやるアル」

 

「何ト? そんな大切なモノは頂けないネ……古」

 

「超の故郷は遠くて 会うのはもう……難しいアルネ? だから超にもらてほしいアル」

 

 遠い……ね。超の故郷か。どこなんだ?

 

「そうか……わかたネ」

 

「皆に内緒と言ッてたのに悪かったアルネ。超はこーゆーお別れ会みたいのは苦手だた

アルよネー」

 

「いや……自分でも意外だが……嬉しかたヨ。ありがとネ……古」

 

 さて、お別れ会も終わりに近づいた。

 

「さて それでは旅立つ超さんから言葉を頂きましょうか」

 

 超がお別れの言葉を言おうとした時、それは起こった。世界樹がさらに発光したのだ。

 

「さらに光った!!」

 

「電気消して」

 

「んーー♡ 22年に一度の大自然の神秘が見られるなんてラッキーだね♡」

 

「コホン……んーー……何とゆーか。正直 入学した当初このクラスは脳天気のバカチンばかりで どーかと思てたが……」

 

「何だとー」

 

「どーせバカだよー」

 

 全くその通りだが……。

 

「この2年間は思いの他楽しかたネ。それにこんな会まで開いてくれて……今日はちょと感動してしまたヨ。……ありがとうみんな。私はここで学校を去るが……みんなは元気で卒業してほしいネ」

 

 そうして、超の挨拶は終わった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ねぇねぇねぇ。さっきの 故郷が遠くて会えないってどーゆーこと?」

 

 む?

 

「……私の故郷が知りたいカ? いやーーしかしこれは私にとても最重要な……何と

ゆーかネタバレでネ」

 

「ええーー何だよソレ教えろよーーッ」

 

「超の故郷って中国じゃないの!?」

 

「いや もっともっとずーーーーっと遠い場所ネ。……どうしても知りたいカネ」

 

「うん!!」

 

「そうか……わかた。特別に教えるネ。みんなにはかなわないネー」

 

「実は私は……何と火星から来た火星人ネ!!」

 

「うおおおーーいっ!!」

 

「またそれか貴様ーーッ!!」

 

 クラスメイト達から壮絶なツッコミが入る。あの固い桜咲までツッコミしてるよ。

 

「いやいや火星人ウソつかないネ。今後百年で火星は人の住める星になる……私は未来からやって来た、ネギ坊主の子孫ネ」

 

 ガキ教師の……子孫? なんだそりゃ。そして超は意味ありげにガキ教師の方を向いた。その目は確かに真実を言っているように思えた。

 クラスメイト達はその後も騒ぎ続けた。だが連日の準備日からの徹夜がたたったのだろう、すぐに眠りについてしまった。そして超と私達裏の人間の時間がやってきた。

 

「……。さっきの話アレは……本当の……?」

 

「ハハハ。あまりに突飛だと信じてくれないものネ。私は……『君達にとっての未来』

『私にとっての過去』つまり『歴史』を変えるためにここへ来た。それが目的ネ」

 

「え……れ 歴史って超さん……イ、イキナリお話が大きく……」

 

「世界樹の力を使えば それだけのロングスパンの時間跳躍が可能ネ。そんな力を持てたとしたらネギ坊主ならどうする?」

 

 世界樹の力!? それにロングスパンの時間跳躍……だと!? どういう事だ。

 

「父が死んだという10年前……村が壊滅した6年前……不幸な過去を変えてみたいとは思わないカナ」

 

 それは。わたし、は……。

 

「……今日の午前中はまだ動かない。また会おうネギ坊主」

 

「あっ……。まっ 待って下さい!!」

 

 ガキ教師が引き留める言葉を放つ。だが超はまた消えてしまった。まただ。風の精霊でも把握

できない瞬間移動。まさか……本当に?

 

 その後、また超の居場所を捕捉できなくなった私は、奴がこだわっていたガキ教師の傍にいる事にした。




 まほら武道会全面カット。まあ原作との相違点が千雨だけの本作では、ほぼ原作通り
ですしおすし。一般人の前で魔法が使われる事に反応する千雨さんは相違点ですね。
 超の千雨説得のターン。一般人が魔法に巻き込まれる事が最大の禁忌な千雨にとって、世界中に魔法使いの存在を知らしめる。魔法使いと一般人の境界線を明確にする、というのはそれなりに
効力のある説得だったようです。少なくとも魔法が世間一般に広まっている世界なら両親は死なずにすんだハズですしね。それを思うと……。


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第14話 天才少女の完全勝利

 

「わ わ わ な ななななな……何じゃこりゃああ~~!?」

 

 私は今、マクダウェルの持つ魔法球、通称「別荘」に来ていた。しっかしよぉ……。

 

「スゴイッ広いッ」

 

「スゴイでござるなー」

 

「これどこの魔空空間よ!? 不思議時空!? 暑いッ。夏じゃんかココ♡

ええーーっ!? プールにスパもあんのッ!? いたれり尽くせりじゃんっ。そりゃもー泳ぐしかっ」

 

 その別荘には長瀬、(クー)、そして宮崎、綾瀬、そんでもって早乙女まで来ていた。……いい加減にしろよクソガキ!

 

「ネギ先生! ちょーっとお話いいですかぁ!?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「はい、はい。すみません。すみませんでした。」

 

「ホントに分かってるんですか!! この状況は問題ですよ! も・ん・だ・い!!」

 

 私は今ガキ教師に説教していた。説教なんてホントはやりたくないんだ。だがこの状況じゃそうも言ってられない。

 

「スイマセンじゃなくてあんたの問題だろーがあああああ!!」

 

 私は烈火の如く怒っていた。ガキ教師は平謝りするばかりだ。パートナーである神楽坂も早乙女を連れ込んだ事は問題視している。

 

「ヤバイじゃんかッ!! あんたオコジョの話はどーなったのよッ!? もうオコジョよ あんた!! もうほとんど70%位オコジョよーーー!!」

 

「ひいいーーーースイマセンーーーーッ」

 

 あまり怒ってばかりいても話が進まないか。私は少しクールダウンする事にした。

 

「……ネギ先生。真面目な話をしますけどね。私は少し前からちょっと悩みがあったというか、

それでネギ先生の魔法バレも看過していたような所があります。でもね、これはちょっと行きすぎでしょう。尋常じゃないですよこの状況は」

 

「はっはい、すみません本当に」

 

「それで? ネギ先生はどれだけ覚悟しているんですか?」

 

「覚悟……ですか?」

 

 キョトンとした顔をするんじゃねえよ。

 

「この際だから告白しておきますが、私がこの世界に足を踏み入れたのは、魔法使いの

事情に巻き込まれたからです。その時の事件で私は……両親を失っています。死んだん

ですよ私の両親は。魔法使いの、事情に、巻き込まれて!!」

 

「…………」

 

 ガキ教師は青ざめている。そりゃ当然か。私だって他人にこんな話されたら顔色悪く

するよ。

 

「私は、それ以来魔法使いの事情に一般人を巻き込む事を絶対に許せない事として

きました。マクダウェルが一般人の佐々木達を巻き込んだ時に怒ったのもそれが理由です。

そして、半分くらいは魔法使いの世界に足を突っ込んでましたが、京都で近衛が狙われた

時に動いた理由もそれです。後は先日の悪魔野郎ですね。あいつは那波を巻き込みました。なので申し訳なかったですが、先生達をおとりにして那波だけを助けさせて貰いました」

 

 私はその場にいるマクダウェルと近衛を見ながら言葉を紡ぐ。ガキ教師は黙って聞いている。

 

「千雨ちゃん……」

 

 神楽坂や近衛が複雑そうな顔をしてこちらを見てくる。両親の事とかも一気に話した

からな、引かれたのかも知れない。だが構っちゃいられない。

 

「ネギ先生、貴方は危険な、死ぬ事があるかも知れない自分の事情に生徒を巻き込んで

いるんですよ。もうバレてしまった事は仕方ありません。ですがその事に覚悟はあるんですか?」

 

「……覚悟。はい、確かにその通りです。僕は自分の未熟さで生徒の皆さんを巻き込みました。

それは許されない事だと分かっています」

 

 そこで、神楽坂があまりに私が責める論調なので気を使ったのだろう。ガキ教師にフォローを

入れてきた。

 

「千雨ちゃん、ネギも悪気があってやってる訳じゃなくて……」

 

「ああ、それは私も分かってるよ。ネギ先生が悪意を持って生徒を巻き込んでいるんじゃないって事は」

 

「……ふむ、長谷川 千雨、少しの間ぼーやを借りるぞ」

 

「え、おい!?」

 

 そう言うとマクダウェルはガキ教師をひっつかんで連れて行ってしまった。そうしてしばらくの間、ガキ教師はマクダウェルにしごかれたらしい。つーか今更だけどガキ教師はマクダウェルの

弟子になってるんだよなぁ。私がぼーっとしている間にそんな事になってるなんてな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「みなさん、千雨さん! 僕の話を聞いて下さい!!」

 

 復帰したガキ教師はそう言ってみんなの注目を集めた。

 

「僕は……僕は、当面の目標として、先生として(チャオ)さんを止めます! みんなの力を僕に貸して下さい!!」

 

 マクダウェルと話して吹っ切れたのか、ガキ教師はそう言った。

 

「ネギ先生、それはここにいるみんなを巻き込む覚悟を決めたって事ですよね」

 

「はい、僕は覚悟を決めました。みんなを仲間として認め、力を借りたいと思います!」

 

 ガキ教師――ネギ先生の顔は晴れやかだった。本当に吹っ切れたのだろう。なら私から言う事はもうない。

 

「分かりました。ネギ先生。貴方が覚悟を決めたというなら私はそれを止めたりしません。神楽坂が貴方のパートナーとなった時も思った事です。本人が危険を承知で『踏み込んで』いるなら、

私にそれを止める権利はないでしょう。ただし!! いいですか!! 『これ以上』は

絶対にダメですからね!!」

 

「は、はい。もちろん分かってます。が、頑張ります」

 

 分かった。それならこの話はこれで終わりだ。その後、私達は超の事に話を移した。

 

「ええッ!? し……子孫!? かか 火星人!?」

 

 話を聞いた神楽坂――高畑先生に失恋した痛手で別荘に籠もっていたらしい――は

そんな反応をした。そりゃそーだよなぁ。普通に話を聞けばそうなるよなぁ。

 

「馬鹿げて聞こえますが、全て先程本人が言った事です」

 

「ちょ ちょっと待つヨ。お話多くて分からなくなったネ。整理してもらえるアルカ?」

 

 古がそう提案する。確かに一度整理してみるか。つーか今気づいたけどここにいる

メンバー成績が悪いバカ四人衆が揃ってんぞ。

 

「えと……超さんは百年以上先の未来から来た火星人で……」

 

「しかもなんとネギ君の子孫!?」

 

「目的は航時機(タイムマシン)による歴史の改変。その為に魔法の事を世界にバラそうとしてて」

 

「学園祭3日目にそれを行動に移す……でござるか」

 

 私達はそれぞれ発言して現状を整理した。しかし、

 

「世迷い言だな……」

 

「確かに酔っ払いの戯れ言以下という感じですが……」

 

「やはり全て嘘と考えた方が良いでしょうか」

 

 つーか火星人とか未来人とか かぶってんだろ。子孫とかネタ多すぎんだよ。世迷い言にしてもどれかに絞っとけっつーの。

 

「…………。でも さっきの超さんはまるっきりの嘘を言っているようには……僕には

見えなかったんです。それに全部嘘だったとしても……この……超さんからお借りした

タイムマシンは本物です」

 

 それな。どうもネギ先生はマジモンのタイムマシンを超にもらっていたらしい。それも神楽坂達を巻き込んで作動させて時間を巻き戻すという経験もしているらしい。とても信じられなかったが、みなが口を揃えて本当だと言うので信じざるを得なかった。まあ魔法の世界にいるのに何を今更って話だよな。

 

「先程の話が全て本当だとしてそれでも疑問点が2つあります。一つは『魔法をバラす』事が何故『歴史の改変』という話に繋がるのか……。もう一つはそもそも 何故超さんはわざわざ百年も先の未来から来てまでそんな事をしようとしているのか」

 

 綾瀬が簡単にまとめてくれる。こいつ頭は良いんだよな。学校の成績がアレなだけで。

 

「え ええ、そうです……。それに……僕……超さんがやろうとしている事が本当に悪い事なのかどうか……」

 

 ネギ先生は単純に超を悪人とはみなしていないのか。魔法バレは魔法使いにとってあっちゃ

いけない事なんだが……ああそうかこの先生秘匿の意識とかゼロだったっけ。

 

「何言ってんのよ。超さんは高畑先生を拉致監禁してたのよ? 悪い事してるって

いうのはもう確定済みでしょ!」

 

 神楽坂が怒っている。愛する高畑先生に酷い事をされたとあっちゃ許す訳ないか。その会話の合間にも私達はネギ先生と仮契約(パクティオー)した奴らのアーティファクトなどをチェックしている。戦力を確認するのは大事だよな。こっちの陣営は回復役の近衛に、近接攻撃ができる神楽坂、桜咲、長瀬、古だ。後方支援は宮崎、綾瀬、早乙女、それと私……か。この非常識なメンツと行動を共にするとか正直言ってかなり寒気がするのだが。

 

「そんな事言うなよ。そうだ!! ちさめっちも仮契約しねえか?」

 

「するかバカッ!!」

 

「いいじゃん千雨ちゃん♡ やっちゃおーよ仲間じゃーん♡」

 

「いつ私がお前らの仲間になったんだッ!! 私に抱きつくんじゃねぇええ」

 

 抱きつくなバカ早乙女!

 

「私は一切手を貸さんからな。頼るなよ」

 

 マクダウェルは協力してくれないのか。まあ前の事件のように封印が解けていないならそこまで強力な味方にはなってくれないもんな。

 む、ネギ先生の様子が優れないな。超と戦う事をそこまで吹っ切れてないのか?

 

「まあまあ 兄貴。超の奴も級友(クラスメイト)(タマ)を奪るって話までにゃならねーよ。心配すんなって」

 

 なんだ、超の攻撃と超に対する生徒達の攻撃を気にしてたのか。

 

「しかし問題は超殿でござるな。超殿の術の正体が分からなければいくら人数が揃っても……」

 

 長瀬が問題を指摘する。聞いた話じゃ、まほら武道会を準優勝した先生も、桜咲と長瀬も同時にかかったが煙のようにかき消えるような現象を起こして攻撃を回避・対処されてしまったらしいからな。しかし私の予想じゃ……。

 

「確証はありませんが……超さんは僕が何とかできると思います。僕に任せて下さい」

 

 ネギ先生は少しだけ自信ありげにそう言った。タイムマシンを持ってるネギ先生が。

やっぱりネギ先生も気づいたか。そうだよな。それしかないよな。

 その後、生徒達はユニット名なるものを決め始めた。お前らの脳天気さがうらやましいよ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お……おおお……。ススス スゲェッ!! スケブに描いたテキトーな落書きが

モリモリ動いてるッ」

 

 早乙女が発奮しとる。ネギ先生と仮契約をしてアーティファクトを生み出したからだ。私としては仮契約もさせたくはなかったのだが、本人が望んで踏み込んだなら私はどうこう言わない。これが私のスタンスだ。

 綾瀬のはどうやら「魔法使い初心者セット」と同じものみたいなものみたいだ。まあそう簡単に

役立つ道具なんて選んで得られるもんじゃないよな。

 その夜、私達は別荘に泊まった。別荘の中は時間の経過が一致していない。別荘の中では一日

過ごしても、外では一時間しか経過しない。それを利用して別荘の中でたっぷり休息を取ろうと言う訳だ。

 

「みなさんゆっくり休めましたか?」

 

 ネギ先生がみんなに聞いて回る。私達は十分に休息を取れた。大丈夫だ。

 

「みなさん僕の話を聞いて下さい!! 超さんは学祭最終日、つまり今日 大変な作戦を実行しようとしています。目的は『魔法』の存在を全世界にバラすこと。作戦の詳細は分かりませんが、もし この目的が達せられれば、世界中が大混乱……少なくとも大騒ぎになってたくさんの人に迷惑がかかったり色々な問題が起こる事が当然予想されます」

 

 そうだな。それは私も同意見だ。たくさんの人に迷惑がかかる、それは止めなきゃならない事だ。

 

「まあ『魔法』だしねぇ。世界にバレたらどうなることか」

 

「バレたらどうなるんやろ~世界中みんな魔法使いになったり?」

 

 想像したくもねぇな。

 

「ただ正直言って……超さんの最終目的が本当に悪い事なのか僕には分かりません。でも……」

 

「何言ってんのよあんたまた!! 悪いに決まってんでしょ!! 脱がされたのよ、私達ロボに」

 

 迷っているネギ先生に神楽坂がまた怒る。どうやらネギ先生の迷いは完全には消えなかったらしい。

 私は……私は一般人の前で魔法が使われたまほら武道会と、ネギ先生の魔法バレで心は決まった。いや、正確には夜眠るときに寝付けなくて考えをまとめていたのだが、それで私は決断した。超のする事はもしかしたら多くの人に恩恵をもたらす事なのかも知れない。でも私は魔法使いの勝手な事情で――超も立派な魔法使い側だ――一般人に迷惑をかけるのは、巻き込むのは認められない。それが私が決めた、私の答えだ。

 

「最後まで話を聞いて下さいアスナさん。でも 超さんはその過程でタカミチを地下に

閉じ込めたり悪い事をしていますし、まず話し合いを という僕の呼び掛けにも応じて

くれず、作戦を強行しようとしている事。また良し悪しに関わらず作戦成功時の影響が

これ以上ないほど甚大である事などから……僕には先生として超さんを止めなければ

いけない責任があると思います。例え力ずくでも……僕は……先生として超さんを

止めます。みんなの力を僕に貸して下さい!!」

 

 おっと。どうやら迷いながらもネギ先生の心は決まってくれたらしい。それなら私は

それに協力するまでだ。

 

「任せといてよっ!!!」

 

「改めて頼まなくてもいーってのバカネギ」

 

 先生のパートナーとして戦闘などもこなした神楽坂と違い、早乙女……お前は仮契約でアーティファクトを得ただけの人間だろ。あんまり自分の力を過信するのは……。私は奮起している早乙女、綾瀬などの戦闘の経験が薄い人間に危惧を覚えた。

 私は風術を学ぶ過程で、常に客観的な自己評価を心がけろと教えられていた。無意味な虚勢や

過大評価がどれほどの危険を呼ぶか、過去の経験からいやと言うほど学んでいたからだ。

 

 

 その後、私達は別荘を出たが超は午後まで動かないと行っていたので、午前中は何も

出来る事がないかも……という事で一時解散になった。まあ私はそんな敵の言葉を信じたりしてねーがな。午前中も、自分に出来る範囲で風の探査を行う予定だ。

 ネギ先生はなんとのんきにも村上の舞台を見に行くらしい。ぶ、舞台て。いやネギ先生は曲がりなりにも正式に配属されている教員な訳だから、生徒一人一人を無視する訳にもいかねーのかも

知れないが、それはあまりに気を抜きすぎだろう。だが言っても今更このガ……ネギ先生の意識が変わるとは思えなかったので好きにさせといた。その分私が頑張りゃーいいだけだした。

 

「なあなあアスナはどー思う? 超さんの作戦の話♡」

 

「世界に魔法をバラすって話?」

 

「うん♡ ウチ ちょっとそーなってもえーかなって思うんよ」

 

「え!?」

 

 何で!? な、ななな急にどうした近衛。いきなり身内から裏切りかぁ!?

 

「世界中の人がウチみたく治す系の魔法覚えはじめたら、今よりもっとたくさんケガや

病気の人治せるやろ?」

 

 あー。確かにな。それはあるかもな。だが近衛。その言葉は私にとって毒だ。あまり

聞かせないでくれ。せっかく昨日の夜に決心を固めたというのに心が揺らぐじゃねーか。

 

「しかし お嬢様この問題には良い面だけでなく負の側面も……」

 

 桜咲は慎重な心向きのようだな。なんだかちょっと安心した。

 

「それにみんなホーキやじゅーたん乗って飛んだりしてたらスゴイ楽しそーやん♡ カモくんとかゼロちゃんみたいのが たくさんいたり……」

 

「私はイヤだね。超の奴はどう言葉を取り繕うが魔法使い側の人間だ。そいつの勝手な

事情で一般人を巻き込む? 論外だね。それは私にとって認められない事だ」

 

 超の側に幾ばくかの正義があるのは認める。近衛が言うように有用な面も少なからずあるのだろう。だがその作業をやるのだったら、一般人に、本当に、最低限度の迷惑しかかからないように

細心の注意を払いながらやるのでなければ認められない。魔法使いの犠牲になる人間をみすみす

見過ごすつもりはない。巻き込まれる一般人なんて出しちゃいけないんだ。

 

「……?」

 

 なんだ? 何か周囲の様子がおかしい。

 

「でもさーーやっぱ世界に魔法がバレるのはヤバイよ。」

 

「あん アスナもそー思うん? 何でーー」

 

「まあまあお嬢様、いずれにせよ超さんを止めなければ学園祭は大騒ぎですし……」

 

 おかしい。風の探査に引っかかる周囲の人間が少なすぎる。やっぱりこれは……。

 

「オイ桜咲。オイ! 聞け桜咲!」

 

私は桜咲の頭に軽くチョップしてやった。何度も呼んでるんだ。気づけ!

 

「えっ……? 長谷川さん」

 

「意外にヌケててカワイイな あんた。周りを見てみろ」

 

 私は言葉を切って、続ける。

 

「よく見ろ。これは……学祭最終日の風景じゃねぇ」

 

 学祭の最終日にしては人が少なすぎる(・・・・・・・)。最終日である事を考えれば、もっと人出があってしかるべきだ。だが周囲には全く戸言っていいほどそのざわめきが感じられない。

 

 そこに、綾瀬達3人が新聞を持ってやってきた。

 

「はああぁ!? 今日が学祭の一週間後ーーッ!!?」

 

「駅前のテレビで朝のニュースの日付も見てきました。間違いありません」

 

 神楽坂はだいぶ混乱している。その間に私はカフェのPC端末を借りて日付を確認した。

 

「確かに間違いねぇな。今日は6月30日だ。世界中どこ見ても」

 

「え“うっ……。で でもでも何で? エヴァちゃんの別荘が故障しちゃったとかそーゆー……?」

 

 いや、これはもしや……超の仕込みか!?

 

「いや……恐らく故障などではないでござる。我々は 超殿の罠に落ちた……と 考えるのが妥当でござろう」

 

 長瀬がその可能性を指摘する。やっぱりそうか。

 

「わ わ 罠ってどーゆーこと!?」

 

「状況から推察するにエヴァ殿の別荘の出入りの時に何か仕掛けがあったのでござろう。拙者達は 学祭最終日に超一味と一戦交える覚悟だった訳だが、勢い込んで別荘を出てみればそこは一週間後……。つまり、戦わずして我々は超殿に負けたという事でござるな。拙者の推測が当たっていればの話でござるが」

 

 つまり、超の作戦は労せずして成功しちまった……という事なのか!?

 

「い いえ、学園側には使い手が何十人もいます。私達がいなかったとしても 簡単には……」

 

「どうかな……」

 

 私はのぞき込んでいる端末で表示した動画を見て青ざめた。

 

『おっ出て来た。たった今 麻帆良中2-D 佐倉メイさんが学生寮から出てきました。メイさんちょっと宜しいですか』

 

『ひゃああ!? 何ですか あなた達はーーッ』

 

『まほらTVです。このまほら武道会の映像ですが、突然あなたの手にほうきが出現したように

見えます。これこそが今ネットで話題の魔法と考えて宜しいんでしょうか!?』

 

 その後も魔法生徒、佐倉 メイがてんやわんやでその場から逃げる様子が動画に映し出された。

 

「もう……5日前の映像だ。少なくともこの麻帆良学園内じゃバレバレらしいな」

 

 こうしていても仕方ない。私達はネギ先生も異変に気づいている筈だと言う事で集合場所であるマクダウェルの別荘に戻る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「げげげっ。何じゃあこりゃあっ」

 

 別荘に戻った私達を迎えてくれたのは、別荘のミニチュアに貼られた私の勝ちネ♡ と

書かれたビデオメッセージだった。

 

「ぬぬぬぬぬ。しょ 勝利宣言~~!?」

 

「超さんの書き置きですね」

 

「大胆でござるなー」

 

 悔しがる早乙女に対して桜咲と長瀬はそこまで慌ててはいないらしい。冷静な人間が

いるというのは助かるな。

 

「じゃ じゃあ マジで私達 負けちゃったって訳!? まだ何もしてないのに」

 

 だから落ち着け、早乙女。

 

「あ 私コレ知ってる。魔法使いの手紙よココを押すとSF映画みたく立体に動画が……」

 

 神楽坂が操作すると超の3D映像が浮かび上がった。ホログラフ……だな。

 

『やあ 元気カナ? ネギ先生とそのお仲間達。スマナイがこれで……君達の負けネ。

いささか納得のいかぬ敗北ではあろうガ……。だが 最も良い戦略とは戦わずして勝つ事。

悪く思わないで欲しいネ。油断した君達が悪い』

 

 確かに納得のいかない敗北だが……してやられたのはこっちだ。素直に負けを認める

しかない。

 

『こんなこともあろうかと、元々 ネギ坊主に貸した航時機には 時限式の罠を仕掛けさせてもらていたヨ。君達に最終日が訪れないようにする罠がネ……。ネギ坊主が味方になてくれれば解除するつもりだたが。さて……見事私の罠にハマた君達は、なんとビックリ歴史改変後の未来にいるハズヨ。もう今までの君達の日常には戻れないがネ。……ようこそ諸君、我が新世界へ』

 

 その後、超は細かく自分の計画について語ってくれたので、それを簡単にまとめてみた。

 超は、膨大な世界樹の魔力を利用して、全世界に対して「強制認識魔法」を行使した。学園最終日、6月22日 午後7時37分。超は世界樹の魔力が最も増大するこの時間を狙って6箇所の「魔力溜まり」を大量のロボット兵器群を用いて占拠。直径3キロの魔法陣と世界樹の魔力で発動した「強制認識魔法」は更に地球上に12箇所存在する麻帆良と同等の「聖地」の魔力と共振・増幅され、3時間後には全地球を覆い尽くす事になった。

 

 全世界に拡散した「強制認識魔法」の内容は、人々の 魔法等超現実存在へのハードルを下げるというごく簡単な催眠術程度の威力に留まったらしいが、何しろ規模が違った。超の計画にはそれで充分だったらしい。

 

 また、超はインターネット上に魔法使いについての情報をバラまいていた。表向きはまほら武道会のトンデモバトルのネタ映像として流布しているが、興味を持って検索すれば魔法使いについての様々な情報、果ては魔法界(マギアニタース)についての情報にまで行き当たるようになっていた。

 

 魔法先生達はこの一週間、事態の収拾に努めていたが、超の高度なプログラムによって守護され拡散し続けるそれらの情報を消去し尽くす事は不可能だった。もう既にかなりの人間が世界の真相に迫っているだろうとの事。最初は知る人ぞ知る世界の秘密だったが、一週間が経ち学園の住人はそのほとんどが信じ始めている。一ヶ月後には先進諸国各国の人間が信じ始める事になるだろう。……ごく自然に、自発的に。半年が経つ頃には、世界全ての人間が魔法の存在を自明のものとして認識する事となる。

 

『……以上が私の作戦の全容ネ♡ 今後5年から10年は混乱が続くだろうし君達にも幾らか迷惑をかけると思うが、何 実際過ごしてみればそれほど悪い世界ではないハズヨ。では……また会おう(・・・・・)諸君』

 

「……なるほどな。奴がこの時代を選んだのは丁度インターネットが普及し終わった時代だったからかもしれねえな。色々ツッコミたいのは置いといて」

 

 私はそんな自分の言葉をどこか他人事のように聞いていた。

 ……くそっ……!! 冗談じゃねぇぞ。そこに、更に悪い知らせがオコジョによってもたらされた。

 

「ネ……ネギがオコジョにされる……!?」

 

「ああ今回の責任をとってな。今は地下に閉じ込められてる」

 

「な 何でよ!? 今回の事ネギが悪い訳じゃないでしょ!?」

 

 神楽坂はパートナーがそんな目に遭う事が認められないようだ。反対にオコジョは

比較的冷静らしい。

 

「……これだけの事件だ。それも当然さ。兄貴にも確かに自分の言葉への責任がある。兄貴はまだ10歳だしな……オコジョの刑は数ヶ月で済むかもしれねえが、本国に強制送還されるのは間違いねえだろう。下手するともう……二度と会えねぇかも」

 

 その言葉に宮崎などはショックを受けている。いや……まあネギ先生が本国へ強制送還されるのは私としてはそこまで反対する事じゃないのだが。今は目前にあるこの大問題を何とかしないと。

 

「は 話し合いは出来ないのですか?」

 

「どうかな頭の堅い連中だしな。それにあいつらはあいつらで 責任を負う事になるハズなんだ……追い詰められてんのさ」

 

 綾瀬の提案にもオコジョは冷静に返す。

 

「そんなの知らないわよ。うだうだゆ―なら私がブッ飛ばしてやるわ」

 

「まあ待て神楽坂。おい 小動物。お前の持ってるそのタイムマシンはどうなんだ。それを使って もう一度最終日に戻れば超の作戦を止められるんじゃねぇのか?」

 

「おおっ!!」

 

「……それなんだが……このか姉さん航時機の説明書を」

 

「う うん」

 

 オコジョはその小さい体を使って目一杯に説明書を広げた。

 

「……やはりか。この航時機は世界樹の魔力充ちる学祭期間中しか使えねぇ。見ろ 針が動いてねぇだろ? これじゃただの懐中時計としても使えねぇぜ」

 

「ええええっ!?」

 

「こいつぁ 起動に世界樹の魔力も触媒として必要としていたんだ。そうそう便利な道具は

ねぇってこったな……」

 

「じゃ……じゃあ世界は本当にこのまま……? ど どうすんだよ……」

 

 頭のてっぺんから血の気が引いていくのが分かる。きっと今の自分は真っ白い顔をしているのだろう。

 

「まあ待てあせるんじゃねぇよちさめっち。まだ何か……まだ何か打つ手があるハズだ!」

 

「とにかくネギを助けに行こうよ!! 話はそれからでいいでしょ!!」

 

「しかし アスナさん。魔法先生と対立するのは、もう少し考えてからでも」

 

「待て 刹那。考える時間はなさそうでござるよ。どうやら……向こうから出向いてきたようでござる」

 

 私は慌てて風の精霊を集める。気配を感じなかったので油断していた。これからは常に気を

張っていないと……!

 そして二人の人物がログハウスの前に姿を現した。

 

「魔法先生……! 刀子さん……」

 

「な……なぜです?」

 

「うむ……ここはエヴァ殿の別荘でござる。超殿の仲間と疑われたか、ネギ坊主の仲間だからか……どうする? 話し合うか、それとも……」

 

 魔法先生達と戦う……!? マジかよっ。

 




 ずっとアンチ路線で来たこのSSもついに和解(?)する時がやって参りました。賛否両論は
あるでしょうが、本人が良いと言っている以上、他人が口出しするのは野暮というものです。


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第15話 タイムマシンのタイムリミット

 ほぼ原作通りです。スミマセン。


「神楽坂明日菜 以下9名……そこにいるのはわかっています。大人しく出てきて私達に同行して下さい! 危害を加えるつもりもあなた方の不利益になるようなことをするつもりもありません。ただ 今回の事件の重要な参考人として事情を聞かせて欲しいだけです」

 

 ログハウスの前に現れた二人の内片方の女性……葛葉 刀子はそう言った。

 

「……って言ってるぜ? ああやって平和的に言ってきてんだ。出ていった方が

いいんじゃねぇか」

 

「いや……待て、今 少し思いついた事がある。やはりここは力ずくで切り抜け、兄貴の救出に向かおう」

 

 オコジョはあくまでネギ先生の救出を宣言する。

 

「世界を巻き込む事件だ。今 連れて行かれたら何時間何日 拘束されるかわからねぇぞ?

さらに万が一そのまま参考人としてまほーの国に連れて行かれでもしたらどうする?

開ける道も開けなくなるぜ」

 

「開ける道……?」

 

「何か策があるでござるなカモ殿」

 

「ちさめっちネットで調べて欲しいモンがある」

 

「ここじゃ無理だ。駅前の無線LAN接続エリアにでも行ければ……」

 

 私にはパソコンの知識とかそこまでないのだ。せいぜい学校の授業で習った程度だ。

 

「OKだそれでいい。よし……準備はいいか? 行くぜ嬢ちゃん達!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ログハウスの前に特大の雷が落ちた。恐らく神鳴流の雷鳴剣だろう。だがこっちがわざわざ敵の戦闘に突き合ってやる必要はない。私達はログハウス内に早乙女のアーティファクトで作った簡易ゴーレムを待機させ、時間を稼いだ。二人の魔法先生達は長瀬と桜咲に任せた。しかし、アーティファクトよりこいつのペン速の方がよっぽど異常だぜ。2分で三体かよ。

 

「おいっオコジョ!! 見ろ!! こんな林道に電話BOX!!」

 

「おおおっ!? ラッキー♪ そいつでネットに繋げるのか!?」

 

「ちと時間はかかるかもしれんがやってみる」

 

「OK 早速調べてくれ!! コトは一刻を争うかもしれねぇ。麻帆良大の『世界樹をこよなく

愛する会』のHP(ホームページ)だ」

 

 私は電話回線からネットを繋いでみようとする。

 

「む……来るアル!」

 

「お待ちなさい!!」

 

 現れたのは3人の少女とその使い魔……だろうか。黒い装束に仮面を被った人(?)が十数人だ。どこの魔界軍団だよ。

 

「てゆーか あんたウルスラの脱げ女!!!」

 

「脱げっ……!? ま まあいいでしょう……。大人しく同行してもらえるならよし。

あくまで抵抗するという事でしたら、この正義の味方高音・D・グッドマンが成敗させて

頂きます!!」

 

 何で泣いてんだ? まあいい、この程度なら私の風で蹴散らせる……けど、戦っていいのか? 私が、麻帆良の魔法生徒と?

 

「くーふぇ」

 

「うむ?」

 

 私が迷っている間に神楽坂は覚悟を決めたようだ。一気に接近してアーティファクトのハリセンを振るう。高音さんの纏っていた黒い衣(魔法で作ったものだろう)を紙切れのように破りさってしまった。そこに(クー)の拳が襲いかかる。

 

(神楽坂は魔法を無効化できるんだよな? なら戦闘はあいつに任せて私はネットの検索を優先させるか)

 

 相手の魔法生徒達が唱えた呪文で、水や炎が生まれてこちらを捕らえようとしてくる。だが前に出た神楽坂のハリセンで両方とも掻き消された。神楽坂はそのまま高音さんの影も全て吹き飛ばした。

 

「くっ。佐倉 愛衣(メイ)アーティファクト『オソウジダイスキ』」

 

 佐倉が自身のアーティファクトを顕現させ、こちらに振るう。彼女のアーティファクトは一定

範囲への即時武装解除だ。それを食らった早乙女達の服が脱げて下着姿になった。

 

「あ……ややたっ♡ やりました! お姉様―……え!?」

 

「ゴメン愛衣ちゃん。そーゆーの 私効かないみたい」

 

 そう言って神楽坂が前に出る。今気づいたがアーティファクトがハリセンから剣になっていた。

 その後、神楽坂の魔法無効化と古菲の接近戦(腹パン)を食らった彼女達は倒れた。

 

「いえ スミマセン。あの ホントにスミマセンー……えと あのー……佐倉愛衣さん。ネギ先生の居場所はー……」

 

 宮崎がアーティファクトを利用してネギ先生の居場所を聞きだしている。反則だよな、

あのアーティファクト。相手の心が読めるんだから。それはそうとネットの検索だ。

 

「なるほど確かにこの数値は……でもよ小動物」

 

「本当にこれで行けるのですか?」

 

 私の言葉を綾瀬が引き継ぐ。

 

「……と 信じたい。しかし 思ったより時間がねぇ……もう何時間もないかもだな。急いで兄貴を助けよう!」

 

 私達は宮崎のおかげで判明したネギ先生の居場所に急行するのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 見張りをしていたガンドルフィーニ先生と瀬流彦先生を眠らせて(神楽坂と古の連携はマジ

パネェ)地下への通路を探る。

 

「ハァッハァッ。お おいっほ……本屋! ホントにこっちでいいのか?」

 

 私達は今長い螺旋階段を降りていた。ホントは風術で全員飛ばせればいいのだが、人数が人数だ。万が一操作を誤ったらと思うと、躊躇せざるをえなかった。

 

「ハ ハイー魔法な警備システムをかい潜るにはこの古い階段を降りるのが一番と……」

 

「もう40分はこの螺旋階段を降りてるぞ!? 階段が違うんじゃねーか?」

 

 文句を言いつつ階段を降りる。幻術でないのは魔法無効化を持つ神楽坂と私で確認してある。私も魔法行使の大元である精霊を操るので、幻術の類いは効きにくいのだが……。

 

「着いた。地下30階よ!!」

 

「姐さん時間がねぇ。急ぐぜ!!」

 

 その時、風の探査で私達以外の人間を察知した。

 

「ま……待って下さいアスナさん。何かイヤな予感が……」

 

「え? 何ゆえちゃん」

 

 綾瀬が神楽坂を呼び止めようとした時、それは起こった。神楽坂がもの凄いスピードで背後に吹き飛んだのだ。

 

「アスナさん!?」

 

 いや、だがこれは……私が風で感知している範囲では、神楽坂は吹き飛んでなどいない(・・・・・・・・・・・・・・)。つまり、これは……。私は先程、風で察知した人間(肉眼ではいない、見えない)に風の打撃を食らわせた。

 

「ぎゃっ」

 

 体が小さいので小学生とかその辺りだと思い、軽めの打撃にしておいたが、大丈夫だっただろうか? 風の打撃が当たった瞬間、私達を惑わしていた幻覚は全て消え去った。そこに残ったのは

矮躯をブルブルと震わせて立っている小学生くらいの女子だった。

 

「す……すいまひぇん……。パ……パパがオコジョになっちゃうから……どうしても何かお手伝いしっ……したくて……」

 

「殴るアルカ?」

 

「えーと……」

 

 古と神楽坂が会話しているが、私は既に「殴った後」なんだよな。罪悪感がすげー。

 

「しかし よく気づけたな、ちさめっち」

 

「私の操る精霊術は精霊の動きに敏感なんだよ。とくに風の精霊術はな。だから魔法の

幻術とかは簡単に察知できるんだ」

 

 肉眼で見てるものと、風で「観てる」もの、それが違うんだから簡単に分かるという

ものだ。

 そうしてトンネルのようになっている場所を走って進む。するとその先に居たのは。

 

「あっ。た……高畑先生!」

 

「……フ……行きなさいアスナ君。立場上 協力はできないでけど……10分ほど居眠りをしちゃう……なんてことは僕でもあるかもな。寝てないし」

 

「あ……ありがとうございますっ」

 

 高畑先生はどうやら私達の味方らしい。いや、私達というよりネギ先生の……かな。今はどうでもいい。ネットで調べた情報を元に動くだけだ。

 私達は更に先へと進んだ。

 

「見てあれ!」

 

「あーっ」

 

「ネギ!!」

 

「アスナさん!! みんな!!」

 

 私達はようやく、ネギ先生と合流できたのであった。

 

 

 

「あーー コラてめぇら」

 

「楽しい雰囲気の所 悪ぃが時間がねぇ。タカミチさんもしばらく目をつぶるって言ってくれた

だけだ」

 

 合流した皆とネギ先生が騒いでいる中、オコジョは冷静だな。あと綾瀬もか。

 

「そ そうだカモ君!! 急いで地上に戻って一週間前に戻らないと!!」

 

「いや 兄貴、残念だが地上じゃ今カシオペアは使えねえ。唯一の策がある。ここまで

降りて来てるのは好都合だ。このまま世界樹の深部へと潜る。準備はいいかみんな?」

 

 そうだ。私達は世界樹の深部へと行かなければならないのだ。私達は一斉に走り出した。

 

「みんながんばれ。もう少しだ」

 

「カ……カモ君! 聞いていい? 何で世界樹の根っこの中心部に向かってるの!?」

 

 私はノートパソコンを開くとネギ先生に見せた。

 

「これを見て下さいネギ先生。麻帆大『世界樹をこよなく愛する会』による学祭期間前後の世界樹発光量観察記録です。御苦労な事にこの60年以上の観察記録がHPにまとめてあります。これを見ると……」

 

 私の言葉をオコジョが引き継いだ。

 

「例年は学園祭が終わると世界樹の発光は終わっちまうが、記録に残っている‘82年 ‘60年 ’38年の大発光の年を見ると学園祭後7~8日間はわずかだが発光が続いている。今年も同様だ」

 

「……ということはつまり……」

 

「ああ!! 一週間後の今なら まだ魔力が残っている可能性がある。一番可能性が高いのが世界樹最深部だ! ただし グラフを見て分かる通りほぼ消えかけだ。まだ魔力が残ってるかは五分

五分……残ってるのに賭けて急ぐしかねぇって訳だ。」

 

「カ……カモさん!! 見て下さい!! 世界樹の根がぼんやりと……」

 

 おお。世界樹が光っている。まだ可能性はあるってこったな。

 

「当たりだぜ世界樹の魔力だ!! 兄貴!! カシオペアを!!」

 

「うん!! 動いてる!! 使えるよ!!」

 

 ネギ先生の持つ懐中時計――タイムマシン――はその針をチクタクと動かしていた。

良かった。これで望みが繋がった。

 

「……? カモ君オカシイよ。……! 時計が動いてない!!」

 

「ち ちょっと見て!! 世界樹の光が……消えてく……!」

 

 マズイ、魔力が消えてってるんだ。あの光を追わないと!

 

「オイッ。何固まってんだ!? 急いで……」

 

 ズシャッ!

 

 ズシン……と大きな音を響かせて登場したのは……巨大な竜、ドラゴンだった。なんでこんな所にこんな奴がいるんだよ!!

 

「み……みんな逃げて下さいーーっ」

 

 私達は一斉に逃げ出した。早乙女と宮崎はネギ先生の杖で一緒に飛んでいる。近衛は古が、綾瀬は神楽坂がかついでいる。

 

「さすがにこれは手に負えないネ」

 

「何でもいいから逃げろ 逃げろーーーーっ」

 

「って お!? ラッキー!! あのトカゲデカ過ぎてつっかえてやがるぜ!」

 

 そのオコジョの言葉通り、ドラゴンはその巨体が邪魔して通路を通る事が出来ないでいた。しかし……。

 

「げ」

 

「まずい」

 

 ドラゴンは口から火を漏れ出したかと思うと、大きく口を開けてブレスを吐いてきた。私とネギ先生は風を使って結界を張り、防御する。よし、これでドラゴンはもう怖くない。ネギ先生は仮契約(パクティオ―)カードで桜咲と交信している。そして桜咲が召喚された。後は長瀬が追いついてくるのを待つだけだ。

 

「出口!? 光に追いついたです」

 

「よぉし!!」

 

「みんなっあそこだ! あの中心部! 世界樹の魔力の最後の残り!」

 

「走れ走れ! あれが正真正銘ゴールだ」

 

 何とか走って中心部まで辿り着いた。一応身体強化などが出来ない宮崎らの背中を風で押してやっているが……みんな体力の限界だ。

 

「兄貴!! カシオペアは!?」

 

「イケるよ」

 

「よ よしっ もーいい。やれっ! いけっ! やっちまえ!!」

 

「楓さんがまだですっ」

 

 ネギ先生がそう言った時だ。長瀬が何とか追いついた。

 

「拙者ならここに」

 

 全員揃った。これで良し! …………ん? ネギ先生? どうした?

 

「兄貴っ!! 何ぐずぐずしてんだ!? 早く押せっ!!」

 

「……! みんな摑まって下さい!! いきます!!」

 

 ネギ先生が、時計のボタンを押した。

 

「みんな手え離すなよっ」

 

「わ あああ あ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ぷあッ。ど……どうなった!? 成功したのか!?」

 

「ぐ……」

 

「ネギ君大丈夫!?」

 

「げっ……」

 

「んな!?」

 

「ちょっ……バッ……」

 

「うわあああっ」

 

 私達は、空へ、投げ出されていた。

 

「な なな 何で空の上なのーーっ」

 

「知るかーっ」

 

「桜咲ッ、ネギ先生。大丈夫だ私に任せろ!」

 

 私は風を操ると全員を地面に軟着陸させた。全員を風で操るのは辛かったが何とか出来た。

 

「たッ……助かったー……」

 

「見ろッ。パレードだ」

 

「……ってことは、戻ったーーっ!!」

 

 私は持っていたノートパソコンをネットに繋ぐと、すぐに日時を確認した。

 

「間違いない最終日だ。時間は午前8時」

 

「一気に7日以上の時間跳躍ですか……」

 

「でも 何で空の上だったのよ!? 死ぬかと思ったわよ!!」

 

 長時間の跳躍をしたせいで空間座標がわずかにズレたのかもな。まあとくかく成功

だった訳だし今は良しとしよう。

 

「まあとにかくこれでようやく超りんに反撃ができるってもん……」

 

 その時ネギ先生が急に倒れた。

 

「ネギ先生!?」

 

「ちょっとネギ!?」

 

「ネギせんせー」

 

 

 

「ここなら学園祭中 誰も入ってこないと思いますー。図書関係のイベントは総て図書館島ですし、どのサークルも ここは使ってないですからー。あのー……ネギ先生は……」

 

 宮崎の説明を聞きながら、神楽坂がネギ先生をソファに寝かしつける。

 

「長距離(?)の時間跳躍で魔力を使い果たしちまったんだ。大丈夫半日も寝てれば回復するさ」

 

 ネギ先生はスミマセンとか謝っているが、ここまで時間跳躍させてくれただけでも大助かりなんだ。ゆっくり休んでくれ。

 

「まぁ とにかく最終日に戻ってこれたんだ。夕方まで時間もある。(チャオ) 鈴音(リンシェン)の計画を阻止する作戦を考えようぜ!! いいな!? みんな!!」

 

「おおっ!!」

 

「……って言っても……具体的にはどうすんのよ」

 

 そこでオコジョが情報を整理してくれた。超は今日の午後7時頃までに約2500体のロボと6体の巨大な生体兵器(?)で6箇所の「魔力溜まり」を占拠。直径3キロの巨大魔法陣を作り、全世界に対する「強制認識魔法」を発動させる。

 

「に……2500体……?」

 

「お……多いですね」

 

 ロボ軍団はかなりの強さだという事で、厄介だ。しかし、この情報から一つの防衛策が浮かび上がる。

 

「『拠点防衛』だ。この6箇所のうち一つでも守っていれば奴はこの大魔法を発動できない」

 

 但し、それはあくまで守りの作戦。戦力差を考えればいつまでも守っていられない。

攻めの作戦が必要だ。

 

「ゆえっち」

 

「ハイ。この全世界規模という巨大な強制認識魔法ですが、魔法陣を用いた儀式魔法である以上、発動には数十分の複雑な儀式と術者の呪文詠唱が必要です。少なくとも呪文詠唱だけは機械等では代用不可能。しかも巨大魔法である制約上術者は天井等の遮蔽物のないある程度開けた場所で儀式を行わなければならない。術者……恐らく超さんですが、術者は発動の少なくとも数十分前から

直径3キロの魔法陣上のどこかの屋外に姿を現すという事です」

 

 直径3キロのどこか……か、それなら私の風で位置を探査できるな。呪文を詠唱するには集中も必要だろうし……それを私の風で乱してやれば、上手くいく……か?

 

「つまりまとめると作戦はこうなる。俺達がどこか一箇所の魔力溜まりを死守している間は大魔法は発動しない。その隙に別働隊が何としても超 鈴音を探し出しこれを捕らえる。それで俺達の

勝ちだ。どうでい!?」

 

 オコジョの言葉に桜咲が答える。

 

「悪くない……というかそれしかないでしょうね」

 

「直径3キロの範囲から超を探し出すのは私の仕事だな。私の風なら直径10キロの球形をカバー出来る」

 

「まあ さすがの超も俺達が一週間後から戻ってきているとは思わねぇだろ。多分。その油断を

突くしか……」

 

「そうですね。じゃあ みんなよろしくお願いします。この作戦に世界の未来がかかってますから」

 

 ネギ先生のその言葉で、作戦会議は締めくくられた。

 

 




 ネギ先生の大胆な作戦がほぼカットです。何故ならチームメンバーに千雨がいるから。千雨は
3キロの範囲を完璧に網羅出来ます。なので千雨が一週間後に消えてしまった世界では防げなくても、千雨がいるこの世界では超の作戦は大元から瓦解しているのです。


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第16話 誰もが過去を背負ってる

 クライマックスです。ですが私の小説に、盛り上がりなんてありません。


「これで……良かったんでしょうか? (チャオ)さんが驚くくらいの作戦じゃなければ勝てないと思うのですが……」

 

 ネギ先生が弱気に呟く。私はそれを宥めるように言葉をかける。

 

「でも、現状で今以上の作戦は思いつかなかったんじゃしょうがないでしょう?」

 

「それは……そうです。ですけど僕、超さんが本当に間違っているのかまだ……」

 

 どうやらネギ先生はまだ超に対して迷っていたらしい。

 

「……あ!? 何だよ先生。まだ悩んでたのかよ!? 力には力を!! 言ってもダメなバカは

ぶん殴ってでもわからせる。世の真理だぜ!! 何が悪い!? リーダーがウジウジ悩んでんじゃねーぞ。男なら腹決めてドーンとしてろってんだ!!」

 

 私はもう先生に協力するって決めてるんだ。そのリーダーがうじうじ悩んでいては始まらない。

 

「あうう。で でも……せめてもう一度話し合いを――……」

 

「アホッ」

 

 そこに綾瀬が口を挟んできた。

 

「……主義主張相容れぬ者が『力』を行使してきた時、既にそこに『話し合い』の場などなく、『力』に対するは同じ『力の行使』か『力を後ろ盾とした交渉(・・)』が基本……確かに世の真理です。でも悩む事が悪いとは思わないです。自分が正しいと思ってしまえばそこで全ての回路は閉じて

しまうですから。少なくとも貴方は間違っていないと思うですよ。ネギ先生」

 

 そうだ。私は両親を魔法使いに殺された。その過去があったから私は人一倍魔法使いが一般人に魔法を使う事にこだわっている。一般人が犠牲になったから。その過去があるから今の私になった。過去が、自分を作った。その私が、超を止める。確かに救われる人間も出るのかも知れない。だが超のやり方は余りに性急すぎる。やつは混乱などは自分が収めると言っていたが、私は無理だと思う。一般人に迷惑がかからない訳が無いのだ。それに奴の計画だと強制認識というちょっと

したものではあるが、魔法使いが一般人に魔法を使う事になる。それは私にとって許せない。

 だから、奴を止める。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ことここに至ってもまだ「話し合い」か。確かにあんたは先生だよ。ネギ先生。だが私は話し合いなんてするつもりはない。無駄に話をするつもりなんてなく、一発で勝負を決めるつもりだ。

 そうこうしてたら麻帆良湖湖岸に大量のロボット兵器群が出現した。魔法先生達は対応に追われている。私は中空に風を使って浮かびながら周囲を把握していた。

 魔法先生達、学園長に私達の持っている情報は全て渡してある。未来から戻って来たなどと荒唐無稽な事ではあるが、学園長は何とか信じて対応してくれた。

 

 すると全高30m以上はある巨大ロボが出現した。こいつが現れたという事は、学園

結界が破られたって事だな。超の奴計画を早めたのか。巨大ロボに認識阻害がかかった

魔法先生達が立ち向かう。巨大ロボはある程度のダメージを与えなければ封印処理

出来ないらしい。その作業は主に高畑先生がやってくれている。さすが高畑先生だ。

 その時、高畑先生の前の空間に衝撃が走った。風で察知した所何か(・・)が飛んできて高畑先生が拳圧でそれを防いだらしい。

 

「どうした高畑君!?」

 

「狙撃です! 気をつけて」

 

「何!? 例の特殊弾とか言うアレか! 全員 魔法障壁全力展開!! 障壁貫通弾の

可能性がある打ち合わせどおり対抗策忘れずに。封印処理続行急げ!!」

 

 今の狙撃はシビアだった。高畑先生だから防げたようなもんだ。そう言ってたらまた

狙撃だ。巨大ロボの処理班の人が狙われた! 処理班の人の背後で弾が止まっている。

対物魔法障壁か。

 

「処理班大丈夫か!?」

 

「大丈夫です障壁で……!?」

 

 言葉の途中で止まっていた弾が広がり、撃たれた人間を覆い尽くした。黒い闇色のそれに

捕らわれた人間は、直径2mほどの黒い球が掌サイズに縮みキュンッという音と共に空間に消えて

しまった。どうやら狙撃手の弾は魔法障壁ごと飲み込む武器みたいだ。みたことのないその武器は、魔法先生や生徒を連続で撃ち抜いていく。狙撃手は……龍宮か!

 

「今のは多分強制転移魔法だ!! 撃たれた皆は無事だよ!! しかし 弾丸にそんな力を込めても転送距離はせいぜい3kmのハズ。そんなことをして 何の意味が……」

 

「その通りネ。戦場ならともかく今 この状況で3km先に転送した所で戦略的にさほど意味は

ない。しかしそれが3km先ではなく……3時間先(・・・・)だったら……どうカナ?」

 

 超! 現れやがったな!

 

(チャオ) 鈴音(リンシェン)!!」

 

「超さん!!」

 

 その場に居た桜咲と神楽坂も臨戦態勢を取る。

 

「ちなみに魔法ではなく科学だがネ」

 

「3時間先……だって?」

 

 距離じゃなく時間を飛ばす弾丸だってのか!

 

「よくぞ私の罠を抜けて戻てきた。明日菜サン刹那サン」

 

「ぬけぬけと……貴様の方から現れてくれるとはな」

 

 桜咲が刀に手をかける。

 

「おっと刹那サン止めた方がいいヨ。昨夜の二の舞ネ。……ネギ坊主はどこカ?」

 

「ネギはいないわこのバカ鈴音!! あんたは今から私達がブッ倒してやるわよ!!」

 

「フフ……元気がいいネ明日菜サン。いいだろう。だが今の私にわずかでも対抗できる

可能性があるのはネギ坊主だけと思うガネ」

 

 バシンッと激しい音と共に超の拳が神楽坂の腹を撃ち抜いた。私の風でも高畑先生でも知覚できない瞬間移動……間違いない。やはり奴はタイムマシンを短時間単位で使用してやがる。

 

「元気なだけではダメなようネ」

 

「貴様ァッ」

 

 

 

「ネ? 昨夜の二の舞ネ」

 

 また瞬間移動した超は桜咲の背後に回っている。桜咲がやられる!

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さすが高畑先生ネ。圧倒的な能力差がありながらここまで粘るとは……これが戦闘経験の

違い……いや 踏んできた場数の違いということカナ?」

 

「例え君が 今日一人の犠牲を出さなくとも一度世界に魔法の存在が知れれば、相応の

混乱が世界を覆う事となる。それは分かっているのか? 超君」

 

 神楽坂と桜咲が倒れた場で、高畑先生が言葉で説得を試みる。

 

「もちろん承知ネ。だが この方法が最も混乱とリスクが少ない。それは高畑先生も分かっている

ハズ。そして今後十数年の混乱に伴って それでも起こりうる政治的軍事的に致命的(フェイタル)な不測の事態については私が監視し調整する。その為の技術と財力は用意した」

 

 技術と財力で一般人の混乱を収めようってか。私はそれでも全てをカバーするのは無理だと

思うな。犠牲は必ず出ると思う。

 

「なるほど……しかしそれは危険なやり方であり考えだ。そういった考えを抱いた者に

成功者はいない。ましてや 世界の管理などと……」

 

「世界が安定を得るまでの僅かの期間ヨ。安心してほしい。私はうまくやる(・・・・・)。それに貴方のような仕事をしている人間には分かるハズ。この世界の不正と歪みと不均衡を正すには、私のようなやり方しかないと。どうカナ高畑先生。私の仲間にならないカ?」

 

 超がまた瞬間移動……いやタイムトリップか? で背後に回られた高畑先生は超の弾丸を

食らってしまった。

 

「隙アリ。僅かに動揺したネ」

 

 黒い球体が発生し高畑先生を飲み込む。このままじゃ……。

 

「ではまた高畑先生。3時間後私の計画の成功後の世界で」

 

 ……随分と調子に乗ってるようじゃねーか超。だがな、あんたの全てを観察し続けた私がまだ

ここにいるぜ。私がいる限りてめーの思い通りにはさせねー。 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「も もう撃ってこないみたいよ!? 今のウチに行った方がいいんじゃない!?」

 

「いや ダメだ。動けば撃たれる。今は身を潜めるしかないでござる」

 

 (クー)、長瀬、早乙女、宮崎、綾瀬らの仲間達に、ネギ先生が合流した。どうやらネギ先生は魔力の枯渇から回復できたらしいな。

 

「楓さん!! 何か打つ手はないのですか!?」

 

 綾瀬が声を荒げる。

 

「周囲1kmの気配を探ったが狙撃手らしき者はいない。ただの人間のスナイパーならば打つ手もあるでござるが……相手があの真名ならば生半可な目くらましは通用しない。今動けば確実に全員消されるでござる」

 

(長瀬、みんな。任せろ。龍宮の大まかな位置は既に特定してある)

 

 私は風を使ってみんなの元に声を届けた。

 

(敵を欺く為にも、私の声なんて聞こえてないってフリをしてくれ。龍宮の位置は左手

前方に見える高い塔だ。そこに奴はいる)

 

「……このまま隠れてれば大丈夫なんじゃ……」

 

「確かにやられはしないかもですがそれではダメです。敵の目的は我々の足止め。このまま

動けずにいれば……」

 

「そのとおり君達の負けだ綾瀬」

 

 ネギ先生達が潜んでいる電車に電波を乗っ取って通信してきた。舐めてやがるな。

 

「た……龍宮隊長!! 何故超さんに協力を!? やっぱりお金……し……仕事だから

ですか?」

 

「……ああそうだ。……いや違うな。それだけではない。君に対して嘘を言うのはやめにしよう。私は超の志に共感し、彼女の計画に賛同し協力している。君にならわかってもらえると思うが、私は私の信念に従い行動している。君に対して恥じる事は一つとしてない。フフ……もっとも報酬もしっかり頂いているがな。君達との根比べを楽しみたい所だが、生憎 他にも仕事がある。悪いが君達にはここで消えてもらおう。じゃあ……元気でなネギ先生」

 

「イカンネギ坊主!! 電車を出ろ」

 

龍宮の銃砲から発射された弾丸が電車を包んだ。間に合わなかったか……?

 

「着弾した瞬間周囲の空間ごと3時間後へと送り飛ばす強制時間跳躍弾(B・C・T・L)。超 鈴音曰く『最強の

銃弾』だそうだ。(もっと)も22年に一度、数時間しか使えない期間限定品だがな。魔法障壁も剣での防御も無駄。大きく回避するか遠距離で打ち落とす他ない。ひとたびこの銃弾を喰らったが最後、あの闇の福音ですら 脱出は不可能……だそうだ」

 

 大きく回避するか、遠距離で打ち落とす? それなら……私ならその銃弾を防げるんじゃないか?

 

「そっ そんな……ネギ君達が……」

 

「ハルナ殿、電車の中は危ない外へ出るでござるよ」

 

 早乙女と長瀬は外に出ていて無事だったらしいな。良かった。

 

「位置は掴んだでござる」

 

 どうやら長瀬の方でも龍宮の位置は特定出来たらしいな。

 

(長瀬、私が援護しようか? 私の力なら龍宮の弾丸を防げるぜ。多分な)

 

(……いや、千雨殿は控えていて欲しいでござる。千雨殿はこちらの切り札。今真名と

対峙しては千雨殿の位置がバレてしまうでござる)

 

「ケホッコホッ」

 

「な 何が起こったんですかー」

 

 電車の辺りを覆っていた煙が晴れた。そこに居たのは……。

 

「ネギ君!!!」

 

「ネギ坊主!! なんと……」

 

 ネギ先生達だ。どうやら奥の手を使って回避できたらしいな。

 

「驚いたな……今 何をしたんだ、ネギ先生?」

 

「企業秘密です龍宮隊長」

 

 その時、ネギ先生の持つ懐中時計がバチッバチッと音を立てる。

 

「ネギ先生」

 

「兄貴ッそれは……」

 

(しっ隊長に聞かれます。どこで壊れたのか……一週間の長距離時間跳躍で無理がかかったのかも あと何回使えるか分かりません。今のは何とか切り抜けましたが……。超さんとの戦いもあります。もう 今の脱出技は使えません)

 

 次は無いって事か……。すると長瀬が前に出た。

 

「ここは拙者が。龍宮 真名は拙者が引き受ける。いけネギ坊主」

 

「でっでも楓さん……」

 

「拙者を信じろ」

 

 信じる……か。私の風と長瀬の体術なら龍宮を倒せるかも知れないが、私達の目的は

龍宮を倒す事じゃない。世界への強制認識魔法を止める事だ。それを優先しろって訳か。

 

「龍宮さん。龍宮さんそれでも僕は……貴方達の計画を止めさせてもらいます!!」

 

「……そうか」

 

「いきます!」

 

 ネギ先生がその場を去ろうとする。と、綾瀬が言葉を挟んだ。

 

「しばしお待ちを! ……龍宮さん一つだけお聞きしたい事があるです。超さんが変えようとしている不幸な未来とは地球……或いは人類の存亡といった究極的事態に関係しているのでしょうか?」

 

 綾瀬が龍宮に質問する。確かにそれは私も気になっていたんだ。

 

「いや……そんなSFめいた大袈裟な話はないさ。奴の動機の源泉は今現在も この世界のどこかで起こっているありふれた悲劇と変わりはないだろう」

 

 ……そうか。そうなのかよ。だったら……奴だけ特別に、タイムマシンで過去を変えるのなんて認める訳にはいかないな。この世界には悲劇によって苦しみ喘いでいる人が山ほど、腐るほど居るのだ。その中で奴だけ特別扱いは出来ない。この世界に生きていて家族を事故や病気などで失った人が「時間を戻してくれ!」と叫んだとしよう。だがその願いは叶えられる事はない。時間跳躍なんて出来ないんだから。その中で奴だけ「特別」に、「1人だけ」過去に戻って過去を変えて幸せになろうだなんて許される事じゃない。それをやるならあんたの持つ知識を世界中に公開して世界中の人間に時間跳躍が出来るようにしろってんだ。

 私は超を止める決心を更に固めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後もネギ先生は各所の襲撃を他の生徒に任せて先に進んだ。こちらの切り札は二人。

ネギ先生と私だ。タイムマシンを持つネギ先生、そして一瞬の即時定点攻撃が可能な私。両名が、どちらかが超を止められれば僥倖という事だ。なので私達は今二手に別れている。真っ直ぐに超を狙うネギ先生と、中空に浮いて姿を消している私に。だから私からネギ先生への手助けは最小限にとどめている。安易に手を出して共倒れしたらシャレにならないからな。

 しかしマズイ……な。世界樹の魔力溜まり六箇所、その内五つのポイントが敵に占拠された。残る世界樹前広場を占拠されてしまえば全て終わり。私達の負けだ。

 だが、もう少しだ。大魔法発動は7時37分辺り……。あと20分程度だ。その時間になれば敵は数十分の複雑な儀式と呪文詠唱をする必要がある。それを私の風かネギ先生が止められれば……! どこかの屋外に、直径3kmの魔法陣の上で呪文の詠唱に入るハズなのだ。発見はある程度容易だと思われる。

 

 その時だった。上空……地上から4kmほど離れた空に飛行船を感知した。早速風で詳しく探査する。……超の姿を見つけた! 魔法発動の場所はどうやらこの飛行船で間違いないようだ。私は空を飛んで超の元へと急いだ。

 

 だが前方がチカッと光ったかと思うと、周囲に張っていた風の障壁に引っかかった。黒い球体、強制時間跳躍弾か! だが私は先の龍宮の言葉を聞いてから周囲50m範囲で風の結界を張っている。私には通用しねーぞ。一般の魔法使いの使う障壁、対物魔法障壁というんだったか? は術者の体の周り、せいぜい1mくらいしか守っていないだろう。だから強制時間跳躍弾にやられたのだ。だが私は、風の精霊に特化した私の障壁は数十m単位で障壁を張れる。これなら跳躍弾に巻き込まれずにすむって訳だ。いや、跳躍弾は当たってるけど私の障壁が大きすぎて囲めないと表現

した方がいいか?

 

 弾を撃ってきた敵は……絡繰の同タイプ、妹か。空戦タイプみたいだな。だが風を操って即時定点攻撃できる私の敵じゃない。私は相手がロボだという事で手加減の必要がなくなったのもあり、風の斬撃を次々と放った。空は私の独壇場だぜ。スピードは精霊術の中で最速だ。敵が行動するより先に精霊を召喚始め、相手が充分に力を蓄えられない内に攻撃する。そのタイミングさえ読み切れば負けはない。

 

 私の放った攻撃を受けたロボは、次々と体を切り離されて墜落していった。私は一直線に超の元へと向かっていた。後ろをネギ先生が着いて来ているのが分かる。だがネギ先生が辿り着く前に

決着がつくだろうな、と私は他人事のように考えていた。

 

 飛行船には超の他に葉加瀬も居た。どうやら呪文を詠唱しているのは葉加瀬のようだ。……私は少しばかり心に抵抗を感じた。詠唱しているのが葉加瀬という事は、彼女を物理的(・・・)に止める必要があるからだ。葉加瀬は恐らく魔力も気も使えない一般人だろう。その彼女に攻撃する事に、引っかかりを感じた。だがやらなければならない。ここでやらなければ世界中に魔法がバレてしまうのだ。世界中の人に魔法が掛けられてしまうのだ。

 

「地球上12箇所の聖地及び月との同期完了です。後は残る世界樹前広場の占拠を待つのみ……

いよいよですね――」

 

「よし……ハカセは儀式の最終段階、最後の呪文詠唱に入るネ」

 

「仕上げの呪文は11分6秒です。大丈夫でしょうか――?」

 

「大丈夫ヨ。初めてクレ」

 

「……でも本当にいいんですか――超さん。この計画を完遂して……」

 

 超と葉加瀬が会話している。余裕……なのか?

 

「……ああ。いや……この場面において計画の可否を決めるは、どうやら私ではなく……彼女ネ」

 

 私は、飛行船の上に到着した。既に姿は隠していない。向こうから私の姿は空の青を

バックに良く見えているハズだ。

 言葉はない。必要ないのだ。私には戦いの前に敵と言葉を交わす趣味なんて無い。

だから決着はこの後、一瞬後につくはずだ。超がある程度の武術を習っている事は古に聞いて

知っている。もしかしたら魔法もある程度使えるかも知れない。だが私の風を防ぐ事は出来ない。何故なら私の風は一瞬で行える定点攻撃だからだ。

 既に私は呪文詠唱をしているのが葉加瀬だと「知って」いる。だから私の側としては

葉加瀬に攻撃して呪文詠唱をやめさせれば良いのだ。葉加瀬の頭か胸にでも空気の弾丸を放ち気絶させる。それで終わりだ。

 私の風術は発動するのに時間を要しない。攻撃する、という意識を働かせるだけでいい。反則的なまでの速さ。それが風術だ。

 魔法使いの使う障壁は1m程度しかカバーできない。だから超がもし魔法を使えたとしても、葉加瀬の体をカバーしようと思ったら葉加瀬に抱きつくような形で葉加瀬を守らなければならない。だが、今超と葉加瀬は数m離れた場所に立っている。超と葉加瀬両方に向けて定点攻撃を行えば、

それで事は終わる。この騒がしい夜も終わりだ。

 

「は――」

 

 ゴッ!!

 

 それで終わった。

 

 



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第17話 祭りの後

 最終話です。残す所はエピローグのみ。


「御苦労じゃったな、千雨ちゃん」

 

「いえ……」

 

 私は今学園長室に来ていた。既に事件の首謀者である(チャオ)と葉加瀬の身柄は渡してある。龍宮もしばらくの間抵抗していたが、超が敗れたと知って抵抗をやめた。「契約主が敗れたのならば私も引くべきだろう」とは彼女の弁だ。

 そう、超は私の風の前に倒れた。風を使った定点攻撃で葉加瀬と超の頭を全くの同時に撃ち抜いたのだ。超の奴はタイムマシンを持っていたのでそれで躱される事も想定していたが、こちらに

言葉をかけてこようとする甘さにつけ込んで一撃で仕留めさせてもらった。

 

「本当に、御苦労じゃったな。クラスメイトと戦うのは辛かったじゃろう」

 

「…………。魔力も気も使えない葉加瀬に風を打ち込んだのはきつかったですね。あの感触は

しばらく手を離れそうにありません」

 

「う……む」

 

 沈黙が場を支配した。事件を起こした側だろうと、一般人である葉加瀬を攻撃した事はやはり

辛かった。学園長もそれを認識してくれているのだろう。結局、千雨は一般人に魔法を使うのを

止める為に、「自分が」一般人に精霊術を使う事になったのである。葉加瀬を完全な一般人と見るのかどうかは意見が分かれるだろうが。

 

「学園長。超の処罰はどうなりますか? 彼女は、彼女の言葉を信じれば未来人という事になりますが……」

 

「ふむ……そうじゃな。難しい問題じゃな」

 

 超を本来彼女が存在しない、今の時間で裁く事になれば色々と問題も出て来るだろう。だが

だからと言って未来の人間だからと言って野放しにするのもそれはそれで問題だ。

 

「学園長、私の希望を言ってもいいですか?」

 

「ふむ? 希望とな?」

 

「私の希望を言わせてもらえれば……超はこの時間で、私達のルールで裁いて欲しいです」

 

 それが、私の希望だ。超はこの時間で罪を犯した。ならこの時間で裁かれるべきだろう。問題はその罪が公式に認められた法律ではないという事だ。

 

「理由を……聞いてもいいかの?」

 

「はい。超は未来ではなくこの時間で罪を犯しました。ならこの時間で裁かれるべきだと思います」

 

「ふむ。確かにのう。じゃが問題もあるじゃろう。彼女をこの時間で拘束するという事は、世界樹の魔力を使った時間移動が出来なくなるという事でもある」

 

 そう。それも問題なのだ。例えば今から少しの間超を拘束したとしよう。すると超は

この期間での世界樹の発光、22年ぶりの魔力で未来に帰る事が出来なくなってしまうのだ。

だけど……。

 

「それに関しては問題ないんじゃないでしょうか? 超は計画が成功していればこの時間帯に

留まるつもりだったのでしょう。ならこの時間である程度拘束して、22年後まで帰れなくなってしまっても彼女の元の予定とはそう違わないハズです」

 

 自分でも詭弁を言っているな、と自覚する。超自身がそれを受容していたからといって、他者が強制的にこの時間に拘束させるのはまた次元の違う話だ。

 

「本音を……言ってもいいですか? 私が超を許せないと感じているのは自分に置き換えて考えているからです。もし私がタイムマシンを使えたら。使ってあの日に戻れたら、あの事件が起きる前にあの男を『私が』殺したとします。過去の私じゃなくて。そうしたらあの事件は起こらない訳ですが……その場合私は過去で行った殺人で、その時間で裁かれるべきだと思います。だからです」

 

「……なるほどのう」

 

「まあ、それもこれも一人の魔法生徒としての勝手な意見です。最終的には学園長が裁定を下す事だと思うので、後は好きにして下さい。どんな結果になろうと私はそれを受け入れます」

 

「いや、彼女らを捕らえた第一功の君の意見じゃ。参考にさせてもらおう」

 

「……よろしくお願いします」

 

 そうして、私は学園長室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 麻帆良は学園祭の後という事で、僅かばかりの騒がしさを残していた。だがこの喧噪ももう少し経てば完全に収まるだろう。学園祭は終わったのだ。

 その中で、私は超の言った言葉を、色々な事を考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 学園祭から一週間経った。超一味への処罰も既に決定した。超はオコジョとなり魔法使いのオコジョ収監所で禁固刑。葉加瀬は……最初は記憶消去が検討されたらしいが、2年以上前から絡繰の作成などで魔法を知っていたので、魔法に関する記憶を消せば影響が大きすぎるという事で魔法

使いに対する無料奉仕に決まった。龍宮も同じく無料奉仕だ。金の亡者であるあいつにはことさら良く効く処罰だろう。絡繰は無罪放免だ。ロボである以上自分を作ったマスターには逆らえない

だろうからな。だが監視は付けられる事になっている。

 

 そして今日、私はわがままを言ってマクダウェルの別荘を使わせてもらっていた。魔法使い関係の集まりを開きたかったので、絶対に一般人が入り込めない場所が欲しかったのだ。マクダウェルには借りが出来たな。

 

「それで? 話って何ですか長谷川さん?」

 

 ネギ先生が聞いてくる。この場にはネギ先生、神楽坂、近衛、桜咲、宮崎、綾瀬、早乙女、(クー)、長瀬、そしてマクダウェルと絡繰が居る。あ、あと私な。

 

「ん。みんなも超達に下された処罰はもう聞いているだろう?」

 

「それは……」

 

 私がその事に触れるとネギ先生と古が特に渋い顔をした。彼らにとっては納得できない処罰

だったのだろう。特にネギ先生にとっては魔法バレという事なら自分もしてる事だからな。

 

「私は……私達は、超の計画を止めた。あいつを否定したんだ。それであいつらは処罰を受ける事になった訳だが……、私達には私達の責任があるんじゃないかと思うんだ」

 

「私達の……責任?」

 

 神楽坂が不思議そうな顔をする。みんなもいまいちピンときていない様子だ。

 

「私は、魔法をバラした方が幸せになる人も居る、という超の論理は認められると思うんだ。実際に、超の計画が上手くいった状態で、今より幸せになれる人がいた場合、私達はその人達の幸せをたたき壊した事になる。私達が、私達の手によって」

 

「そんな……!」

 

「千雨さん。それは確かにその通りかも知れませんが、それは私達にはどうしようもない事では

ないですか?」

 

 綾瀬が反論してくる。確かにな。

 

「確かに。私達にはどうしようもない事で、どうにかする必要もない事かも知れない。私達が超の計画を止めたからって、その計画が成功していた時の事まで考えてやる必要はないのかも知れない。でもな? 思うんだ。それでも私には、超を止めた私には、あいつらの計画を止めた責任があるんじゃないかって」

 

「千雨殿……しかしそれは……少しばかり考えすぎではないでござるか?」

 

「ああそうだ。考えすぎだし、気の回しすぎかもしれねえ。でも私は思っちまったんだよ。超が

救おうとしていた人間、その十分の一でも助ける事はできねえかってな」

 

「フン……」

 

 マクダウェルが冷笑する。馬鹿な奴だと思われてるんだろうな。

 

「で、でもでも。責任って言っても何をどうするんですかー?」

 

 宮崎が聞いてくる。それに対する答えはもう用意してある。

 

「私が今考えているのは、超がやろうとしたような性急なものじゃなく、一般人に魔法を知らしめる事が出来ないかって事なんだ。もちろん普通にやったら魔法バレって事でオコジョ刑になっちまうから、まずは魔法使い側の体制に届け出とか申請とかをして、活動を認めてもらってから動かなきゃならないだろうがな」

 

「一般人に、魔法を知らせる。ですか」

 

 桜咲が驚いた様子で頷く。

 

「まず魔法使い側に、限定的ではあるが魔法バレについて認めてもらう。次に一般人の側に少しずつ魔法の事を教えていく。そして最終的には穏やかに、長大な時間をかけて、魔法を世界中に知らしめる。超がやろうとした事をもの凄い時間をかけてやろうって訳さ。これが、私が考えた、超の計画を止めた私の責任の取り方だ」

 

「長谷川さん……」

 

 ネギ先生が僅かに微笑んでいる。賛同してもらえるだろうか? 私の、このバカな企みを。

 

「このメンバーを集めたのは、手始めに活動する為のメンバーになって欲しいからだ。私は繰り

返し責任って言葉を使ったけど、別に重荷に思わなくていいし、遠慮とかもいらない。本心で参加したいと思ってくれた場合だけ、参加してくれればいいからさ」

 

 私はみんなの顔を見回した。肯定的な顔、迷ってる顔。様々な表情がそこにあった。

だけど私の心はもう決まっていた。超を止めた者として、超の計画を引き継ぐ。例え時間がかかっても、一般人に、世界に魔法使いを認識させる。さーて、大変な大仕事だぞ。

 

 




 まずは前話の解説から。超あっさりやられすぎじゃね? という感想があるでしょうが、これは千雨の能力が特異すぎる事が原因です。千雨の使う風術は意識の上で「攻撃する」と考えただけで発動します。数十メートル、数百メートル離れていても定点攻撃できます。超がこれを防ごうと思ったら、千雨が考えたように葉加瀬の体に覆いかぶさって、抱きつくような形になり、なおかつ魔法の障壁を発動しなければなりません。だけど超は基本魔法を使えないというね。
 つまり……千雨が十全の状態で超の居る飛行船上に現れた時点で、超側は詰んでいたのです。第12話で、超が千雨だけを個別で説得しようとしているシーンがあったかと思います。何故超が千雨だけを説得しようとしたか、それは彼女が敵になると高い確率で計画が失敗すると分かっていたからです。
 抑えとして真名やロボ軍団を配置していましたが、真名は楓が抑え、ロボ軍団は千雨によって蹴散らされました。頼みの時間跳躍弾も千雨の風の結界(障壁)の前では通用しなかったのです。
 カシオペア(タイムマシン)はどうした? と思われるでしょうが、タイムマシンを使うにもある程度、超が「考える」意識する時間が必要です。その時間すら許さず定点攻撃で狙撃された、
頭を撃ち抜かれたのでした。
 

 話を16話に移します。原作を読んでいる時から不思議だったんですよね。未来人であろうと、過去に来て罪を犯したなら、過去で裁かれるべきじゃないか? 逃げるように未来に帰るのは卑怯じゃないか? と思ったのです。
 そして千雨の提案。原作では魔法世界編まで行くと結局世界中への魔法バレは行われるんですけどね。だけどそういう「結果的に」じゃなくて、超の計画を阻止した時点で、学園祭終了直後に、こういう事を言い出す人が一人くらい居てもいいんじゃないかなーと思ったので千雨に提案させました。ネギ辺りは賛同してくれるような気がします。
 超の計画を止めたのに超と同じ事をするのか? と思う方もいるでしょうが、あくまで千雨がこだわったのは魔法使いが一般人に(強制認識)魔法を使う事と、短時間でそれを行う事によって魔法使いの事情で一般人に多大な迷惑がかかる事です。もし超が、長大な時間をかけて、ゆっくりと事を行い。誰にも迷惑をかけないような方法を選んだなら千雨も賛同したと思います。


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エピローグ 変えていけるいま

 

 あれから、少しばかりの時間が過ぎた。私達の活動は遅々として進まない。まず魔法使いの

皆に理解を求める必要があるからだ。そんな時間を過ごしながら、私達は中学校を卒業しようと

していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 卒業式を終えた私達は、魔法使いのオコジョ収監所に来ていた。あいつを迎える為だ。あいつの出所の日がこの日だというのは学園長の計らいがあったのかもしれない。結局あいつは魔法バレを行った訳ではなくて、未遂だったのも大きかったのだろう。規模はとても大きかったが。

 

「もうここには来るなよ」

 

「お世話になりましたネ」

 

 出所する所を見るというのも……何というかアレだな。

 

(チャオ)!」

 

「……! 長谷川サン、か。それにみんなも」

 

「ああ、みんなで、迎えに来たぞ」

 

「超! 久しぶりアル!」

 

「久しぶりね。元気にしてた?」

 

 私達はみんなで声を掛ける。

 

「みなさん、超さんもいきなり会いに来られて混乱しているでしょうから、どこか落ち着ける場所に行くです」

 

 綾瀬が提案する。そうだな。どこか落ち着ける場所で話そう。

 

 

 

 少しばかり移動して、手軽な喫茶店に入った。

 

「それにしても久しぶりね! オコジョって生活とかどうなってるのよ」

 

 神楽坂が聞く。そういうデリケートな話題を普通に聞けるのはこいつの人徳だよな。

 

「ああ、それはネ……」

 

 それから私達はお互いの近況などを話し合った。

 

「しかし今日は一体どうしたネ? 迎えに来てくれるのは嬉しいが随分と盛大ではないカ」

 

「ああ、お前が転校したって扱いになってからみんな寂しがってな。本当なら卒業記念に全員で

会いに来ても良かったんだが、魔法の事情を知っている人間は限られているからな」

 

「そうか、みんなも元気でやっているカ。しかしそれはそれとして、長谷川サンが来たのは予想外だったネ」

 

「ああ、それはな。お前に話があったんだよ」

 

「話? はてどんなコトかネ?」

 

 そこで私は超に話した。自分が魔法を一般人の世界に認識させる活動を始めた事を。

そしてここにいるメンバーが参加者になっている事も。

 

「長谷川サン……」

 

「それでな、私がここに来たのはお前も誘いに来たからだよ。……なあ、超。また世界樹が発光する21年後まで、お前は未来に帰れないんだよな。だったら、私達の活動に参加してくれないか。お前もメンバーになってくれよ」

 

「…………」

 

「超、あんたは未来からやってきた人間だ。でも今はこの時間で生きてるんだ。だから、この時間で、『生きて』みないか? 私達と、一緒に」

 

「…………。フ……、それも、悪くはないかもネ」

 

 超は僅かに微笑んでくれた。未来は変えられるか分からない、でも、現在(いま)なら変えていけるから。

 

 ここから、始めよう。

 

 

 

 彼女達の活動が実を結んだか、それは誰にも分からない。何故ならこの物語はここで幕を閉じるからだ。彼女達の行く先がどうなったか、それはそこに吹く風だけが知っている。

 

 ただ、風だけが――。

 

 

 

                                      風の千雨 fin

 

 




 これにて風の千雨は完結です。おつきあい頂き、ありがとうございました。


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後書き
全体の後書き


 さて、ちょっと書きそこねた事があるので全体の後書きです。


 過去の世界に留まり続ける(チャオ)。彼女が21年後に帰ったかどうかは決めていません。活動を

続ける内にもしかしたら過去の世界に居続ける事を選んだかも知れません。そうならない可能性ももちろんありますがね。

 

 ここで物語を切った理由としては、まあ長々と地味な布教活動を描いても仕方ないという理由が一つ、もう一つの理由としては未来に希望が持てるような形で物語を閉めたかったからです。未来まで描いてしまうと、色々と問題や障害なども描く必要があります。ただ、未来に辿り着く前の現在(いま)でシーンを切れば、希望があるのではないかなぁと思ったからです。

 

 

 実際千雨が始めた活動は障害も多く困難が待ち受けているでしょうね。

 

 

 さて、それはそれとして魔法世界編を全面カットした訳ですが、しょうがないね。この千雨じゃネギま部とか入らないし魔法世界にもついて行かないからね。エピローグがネギが魔法世界に行った世界なのか行ってないのかについては……すいませんそこまで考えてません。まあ普通に考えれば、この千雨なら魔法世界に行こうとするネギを止めたでしょうね。先生なんだから生徒を連れて無責任に行動するなと。案外魔法世界編始まらなかったかも。

 

 しかし、「長谷川 千雨のいないネギの魔法世界編」というものにも興味はありますね。彼女が居なければ原作世界とどれだけ違ったものになるのか……。まあさすがにそれを書く気力はないです。

 

 実は当初のプロットでは千雨とネギを和解(?)させるつもりはさらさらありませんでした。どういうプロットかと言うと、超とネギが戦闘している所に全く空気を読まずに疾風のように突撃し、会話する間もなくあっさり超を倒してしまい物語終了という感じでした。前作の「臆病な~」を読んでくれた方なら分かるでしょうが、私は制作者の思惑を作品世界に落とし込むのが凄く嫌いなんです。なので、作品のドラマチックさ? イベントを盛り上げる見応えのある戦闘? 何それ美味しいの? とばかりに空気を読まない作品世界の都合を最優先させた戦闘とも呼べない戦闘をして終了にするつもりでした。なのでネギは横で見ているだけなので、和解も無しという訳です。それが原作片手に読みながら書いていたら、こんな具合いに。やはり物語には魔物が住むというものですかな。

 

 ネギと和解したのは賛否両論あると思います。アンチものなんだったら貫き通せよ、と。ですが私が描きたかったのは「一般人への魔法行使をとても嫌がる長谷川 千雨(風術師)」というものだったので、ネギアンチはちょっとしたスパイス程度に考えていました。

 

 エヴァとははっきり和解した感じではありませんね。言うなれば休戦状態といった感じでしょうか? 第7話で希望を持たせたような書き方をしたのは何だったんだよ!? と思われるかも知れませんが、一度本気で喧嘩した相手と気まずくなる、上手く仲直り出来ないというのもリアルだと思います。実際私のリアル経験がそうだったもので……。私が人と上手く仲直り出来るような性格ならエヴァとの和解ももう少し違った形で書けていたかも知れませんね。

 

 実はエピローグ後のAFTERもののプロットとかも一応あったりします。魔法世界に視察に行く「一般人に少しずつ魔法を知らしめる活動会」を描いた物語とか。でもプロットだけでやめにしました。書いて欲しいと言う人もいるかも知れませんけどね。千雨が風のようにやって来て風のように去って行くちょっとした物語を夢想していました。

 

 さて、後書きもだいぶ書き尽くした感があるのでここらで打ち止めにしておきます。

 

それで……アホみたいな話なんですが、今日からまたネギま! ものの二次小説を毎日投稿する予定です。以前の活動報告に書いた転生者双子ものです。同じ作者なので同じような流れになる部分も多いですが……。それも完結まで書き上げてありますのでエタる心配はございません。安心してお読み頂けると思います。宜しければそちらも読んで見て下さい。

 

 ではでは。

 

 



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