アクシス達の日常 (モンスト学園・管理人)
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アクシス達の日常

時は8月の上旬。照りつける日差しは地面を焼き、少女達のか弱い柔肌に容赦無く突き刺さる。

「暑っづ〜......」

まるで夏の怪談話に出てくる亡霊のような表情をし、葡萄のごとく美しい紫の長いふわふわした髪を束ねた少女、Uボートはうんざりと呟いた。

「なんでこんな暑いのよ...溶けるわよ、溶けて欲しいの?」

そんな一人言に返答するのは、彼女に並んで歩く2人の少女達のうち1人。

「まったくじゃのう...こんな日は、一日中扇風機にあたっていたいものじゃ」

黄色のウェーブヘアーを肩まで伸ばし、小学生と見間違われる程小柄な体躯をした彼女の名は紀伊。

2人とも、モンスト学園に通う生徒で、紀伊は3年生、Uボートは4年生である。

「ふーん、紀伊ちゃんはエアコンより扇風機派なんだねぇ...私はエアコンのが好きだけどなぁ」

まるで水晶のような群青色の長髪を揺らし呟く少女の名前はティーガー。彼女もまた、2人と同じ学園に通う5年生である。

「というか」

服を暑そうにばたばたさせながら、Uボートは言う。

「前々から思ってたけど、なんであんたはそんな格好で汗一つかかないのよ!?」

「頭も身体もおかしいのじゃ」

言及され、更に酷言を頂戴したティーガー。しかし、それもそのはず、Uボートが白無地のシャツにロングのGパン、紀伊がフリルの付いたワンピースという両方夏の服装なのに対し、ティーガーはスーツにロングスカートが付属したような特殊な軍服、それに軍帽、おまけに手袋まで着けているときた。

「そんな変かなぁ?別に暑くないんだけど」

「だ!か!ら!暑くないのがおかしいって言ってんの!なんでよ!その超火耐性の身体を私と交換してよ!」

ここで少し考え込むティーガー。

「Uボートの身体は私よりかは貧相だから嫌かなぁ」

「にゃ、にゃにをーっ!!」

「またいつもの喧嘩なのじゃ...まったく、女はぼでーではないのだぞ、ティーガー」

「超幼児体系の紀伊ちゃんに言われても説得力ないかなー」

「な、ななな、なんじゃとぉ!!」

「ちょ、そんな涙目になって怒らなくても!冗談だって冗談!あ、紀伊ちゃん、流石に51cm砲はヤバいよ!ダメだよそれは!」

昼間の街中に、重い砲撃音が響いた。

 

「まったく、懲りないものじゃな」

プスプスと音をたてる人ほどの大きさの黒焦げの物体を引きずりながら、引きつった笑顔のUボートを侍らせ、紀伊は道を歩く。

「ところでUボート、目的地のパフェ屋はどこだったかのう?」

「えーと、もうすぐね...確かあの角を曲がった向こうにあるはず」

「ほぉほぉ...お、見えてきたぞ!ほれティーガー、起きるのじゃ!」

そう勧告し、ぺちぺちと謎の物体の頬を叩く。

「う〜ん...紀伊ちゃんが358人...紀伊ちゃんが359人...」

「どんな夢見てんのよ」

「ハッ!あっ!目の前に360人目の紀伊ちゃんが」

「まったく、平常運転じゃな...ほれ、目的地に着いたぞ」

3人の目の前には、この街に新しく出店したというパフェ専門店が鎮座していた。

「この儂の舌を肥やす事が出来るか楽しみじゃ...さぁ2人とも!行くのじゃ!」

そう言い、カララーン、という音と共に真っ先に入店する紀伊と、やれやれとばかしに追うUボート、そして後ろで幸せそうな顔をしながら紀伊ちゃん可愛い紀伊ちゃん可愛いとうわごとのように呟くティーガー。3人とも入店し、店員に窓際の席を勧められ、そこに座った。

席に着くと、紀伊は真っ先にメニュー表を開いた。

「いちごデラックスパフェにフルーツカット盛り合わせパフェ...あぁ...よりどりみどりじゃあ...何を選ぶか迷うのう...」

「あたしは無難にいちごパフェにしとこうかな」

「私はじゃあ紀伊ちゃん盛り合わせで」

「そんなパフェないわよ」

そんなこんなで注文を決め、店員を呼ぶUボートとティーガー。しかし、待てど暮らせど紀伊がメニュー表の中から顔を出さずにいる。

「お客様、ご注文は...」

「う〜ん...いや...この、宇治抹茶金時デラックスパフェとレモンスカッシュパフェなるもので迷っておるのじゃ...金さえ許せば2つとも買うものを...」

「...店員さん、あたしのいちごパフェ取り下げで、代わりに宇治抹茶金時デラックスパフェとレモンスカッシュパフェ1つずつで」

「かしこまりました」

「え!?...よいのか、Uボート?」

「別にいいわよ、あたしだってレモンスカッシュパフェちょっと気になってたからね。半分こしたらいいでしょ」

「ふぇ...Uボートぉ...」

「こ、こらこら、こんな事で泣かないでいいって...全くもう...」

「こ、この私が...こんな好機を見逃すとは...何たる不覚ッ....!!!」

「ちょ、ティーガー!?顔が怖いわよ!ちょ何するのやめ」

「ティーガー!Uボートをいじめるでない!儂の命の恩人だぞ!」

「いや、命の恩人では...」

「紀伊ちゃんに怒られた...あふん...♡」

「こっちはこっちで面倒臭いっ!あーもう!」

そんなこんなで騒いでいるうちに、彼女らのパフェが来たようだ。

「お待たせしました、宇治抹茶金時デラックスパフェとレモンスカッシュパフェと...って、えぇ!?」

「ん?あら、ソーちゃんじゃない、こんな所でバイトしてたのね」

驚きの余りパフェを上に打ち上げてしまった彼女の名前はソードフィッシュ。金の長髪を上の方でまとめた、基本的に慌ただしい女の子である。

彼女もまたモンスト学園に通う生徒の1人であり、Uボートの同級生でもあるのだ。2人はお互いにソーちゃん、ユーちゃんと呼び合う仲である。

そんな仲のいい友人を前にして何故そんなに驚くのか?答えは簡単。その友人以外の存在に危機感を抱いたのである。

ソードフィッシュが慄き、Uボートが級友に対し微笑み、紀伊が宙に舞い上がる愛しいパフェ達に絶望している中、ティーガーは動いた。

シャッ!と音がする程素早く動き、自由落下をするパフェ3つを器用にキャッチし、テーブルに乗せる。

紀伊から賞賛の拍手を送られ恍惚とする暇もなく、ティーガーはソードフィッシュへと首を向けた。それと同時に、恐怖の表情を浮かべるソードフィッシュ。

「ねぇ、君」

地獄の釜の蓋は開いた。

「また紀伊ちゃんの服を剥ぎ取ろうとするならば容赦しないよ」

かくん、と首を曲げ、重厚な威圧感と共にソードフィッシュに告げる。そしてまるで携帯の着信のように細かく震い上がるソードフィッシュ。

「まぁまぁ、ソーちゃんだって悪気があってやってる訳じゃあないんだから...」

そう、ソードフィッシュには特殊な能力がある。それは、気分が昂った時に人に触れると、触られた人の衣服が弾け飛ぶというなんとも破廉恥な能力だ。ついこの間、紀伊はそのソードフィッシュの能力の餌食となってしまったのだ。まぁ、場所が女子寮だったので、さほどの痛手にはならなかったが。

「認めん!やるなら私の前でやればいいのに!」

「それはどういう事じゃ。ティーガーがいたらソードフィッシュは必ず震え上がるから気分の昂りの一つも起きないのじゃよ」

その事件以来、ティーガーはソードフィッシュを見かける度に威圧、威嚇している。そのおかげでソードフィッシュはすっかりティーガー恐怖症となってしまったのだ。

「あぁッ!自分の欲望のままに動いた結果自らの首を絞める事にッ!!」

「色んな意味で馬鹿じゃの」

「完全に同意だわ。あ、ごめんねソーちゃん、バイトの邪魔しちゃって。仕事に戻ってくれて構わないわよ」

「う、うん...ありがとう、ユーちゃん...」

未だ震えているソードフィッシュは、途中、何回かこちらを振り向きながら仕事場へと戻って行った。

「さ、Uボート、パフェをはんぶんこするのじゃ!はんぶんこ、はんぶんこ!」

スプーンを握りしめ、ずいっとUボートの方に寄る紀伊。しかし、その向かいには嫉妬心に燃えるティーガーが鈍い眼光を放っていた。

「ブツブツ...紀伊ちゃんがあんなに甘えるなんて珍しい私にもあんな甘えないおかしい絶対におかしいUボートまじうらやま果てろブツブツ」

「き、紀伊、そんな慌てなくてもいいじゃない、ゆっくり2人で食べましょ、ね?」

「そうじゃの!Uボート!あーんして欲しいのじゃ!」

「ゔぇ!?あ、あーんって...」

「この前どらまで見たのじゃ!親しい男女は互いにあーんするのじゃろう?ならばしてくれぬか?」

「...紀伊ちゃんに親しい男なんかいたら...それこそ私の糧となってもらう...」

「ね、ねぇ、また今度にしない?別に今やらなくても...」

「Uボートがやらないのなら儂がやるのじゃ!はいUボート、あーん、なのじゃ!」

な、何このいきもの可愛いっ!!!

さしものUボートも紀伊のあーん連撃には耐えられず、その唇をふと許してしまった。

「あ、あーん...はむっ、ん、美味しわね、このパフェ」

「そーなのか?じゃあ儂にもあーんしてくれんかの?」

「ふふっ、いいわよ。ほら、あーん」

「んっ...ほぉぉお、美味!なんとも美味じゃ!!」

「でしょ?ティーガーも食べ...る...」

見ると、ティーガーはまるで生きた屍、例えるならばカラスに荒らされたゴミ袋のような空気に包まれていた。

「ど、どうしたのティーガー!死んでるわよ!主に顔が!」

「あ...はは...Uボートのばか...おまえなんて...Uボートじゃなくて...ウ○ォーギンだ...」

「分かりにくい上にUとボしか合ってないわよ!どうしたのよ!」

「ティーガー、どうしたのじゃ?お主もこのパフェ食べてみんか?すっごく美味じゃぞ、ほらあーん」

瞬間、机に突っ伏していたティーガーは跳ね起き、キラキラと輝かせた目を紀伊に向けた。

「!!!!!!いいの!!?!?!?」

「べ、別にいいのじゃ...うん」

紀伊が若干引き気味なのも忘れ、スプーンにぱくつくティーガー。

「あむっ...あ、本当だ、おいしいねこれ!糧になるよ」

「じゃろ?Uボートが頼んでくれたパフェじゃぞ、感謝するのじゃ」

「あー、紀伊ちゃんのスプーンで食べる事により美味しさ10倍なんて口が裂けても言えないや」

「口に出てるわよ」

「やはり51cm砲じゃな」

「ち、ちょっと紀伊ちゃん?ここは店内ですよ?こんな所で51cm砲ぶっぱしたら...」

「そうよ紀伊!流石にここではやめておいた方がいいわ、他のお客さんにも、店にも」

「何よりも軽くて薄くて起伏のない紀伊ちゃんの身体が吹っ飛んじゃう!」

 

何かが切れる音がした。

 

「51cm砲を味わうのじゃ」

 

 

モンスト学園のある街に、新しく、美味しいと評判のパフェ専門店が出来た。しかし、風の噂によるとその店はオープン直後虚しくも閉店を余儀無くされたという。

 

あくまでも噂、じゃがのう。くふふ。

 

 

 

 

 




どうも管理人です。「アクシス達の日常」どうでしたか?今回はひときわ個性的なキャラであるティーガーと紀伊を目一杯暴れさせてあげました。世話役のUボートがいなければ、街が焼け野原になっていてもおかしくないかも?ソードフィッシュはビビりまくりでしたが、本来は素直で元気ないい子なんです。ご意見、ご感想等あれば、次回作の参考に致しますので、どしどし送ってくれたら嬉しいです。Twitter→(@mnst_gakuen)


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