やはり俺の転移譚は先が読めない (Mr,嶺上開花)
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序話 冷暗

なぜか新しく書こうと思った
……受験で時間無いのに


社会は嘘と平和を潤滑油に動いている。

 

 

 

そんな事をふと考えるようになったきっかけは多分、中学3年の頃だ。当時は受験勉強に追われ、時間に追われ、それでも出来た登校している間の空き時間や学校の休み時間などはいつもそんな思想を追究していた。

 

それは受験は何のためにするのか、そんなことを考えたのが始まりだった。

将来にやりたいこと、なりたいものは無いが、それが見つかった時の為に勉強は出来た方が良い、そのくらいのことは分かっていた。それでも何のためにこんな無作為にただシャーペンで文字を綴り続ける作業に没頭しなければならないのか、考えた。

 

そもそも夢を持つ持たない関わらず、大抵の人間はサラリーマンとしてどんなに良い大学を卒業したとしても社畜になり、結局のところ学生のようにルーチンワークに勤しむことになる。使うものがペンからパソコンになっただけだ。そうした生活に身を擦り減らし、それらを全て投げ捨てて命を絶った人間も少なくはない。

 

 

更に言うならば、勉強することを努力と称するのもどこか間違っている気がする。

 

例えば、努力してこの学校入ったんだね、などと第三者に言われたとする。だがどんなに努力しようとも、勉強を一芸にすることは絶対に叶わない。もしも歌が上手く歌えたり、誰よりも足が早かったりしたならばまた別の話にシフトしただろう。

しかし、勉強が出来てもそれが直接役に立つわけではない。何かあるわけでもない。結果として残るのは成績表と多少の自尊心。自分より出来の悪い人間を見下す権利を得る事が出来るだけで、実際何も意味はない。

 

 

 

そんな事を考えながらも、俺は地域でも進学校である総武高校に進学した。未だに何故俺は勉強しているのかを胸に秘めつつ。

 

学校初日から事故に遭いつつも一週間ほどで復帰し、公欠と引き換えに手に入れたのは孤独だった。中学でも常に1人ではあったから、まあ特にこれといった感情は湧かなかったが。

 

 

そうして1人、クラス内を観察していると面白い集団が入り混じっていた。いや、中学からいることは知っていたが初めて見た。

 

リア充グールプ。学校内、主には自クラス内で様々な特権が黙認して与えられ、それを行使することができる。それ以下の立場の者は全員言われるがまましなければ平穏な日常が一瞬にして壊されてしまう。

そうしたグールプの存在により、ある人はその状況をスクールカーストと呼んだ。まさにその通りだと思う。

 

そして、これは現代社会にも通じるものがある。年功序列制度、成果主義制度、そう言ったその会社内で採用された評価基準に従ってこいつが上であいつが下だと決めていく。上になるほど給料は上がり、また下の人間を見がちになっしまう。それも、彼等にとってはきっも努力の結果と言うのだろう。そうして一生を終えていく。ただ金と自尊心を貯蓄し続けてーーー

 

 

 

 

ーーーそう思うと、こんな世界に嫌気がさした。

周りは誰も彼もが何かと付けて誰かと自分を比べたがる。そうしてあいつは俺より下だ、そう確信することで一抹の優越感を得る。そしてその相手が後に頭角を現して自分を越えると、今度は嫉妬が芽生える。それで自分を高めるならばまだしも、大抵は陰口嫌がらせハラスメント行為に走り、精神的に、社会的に、相手の品格を落としにかかる。

 

ーーならば頭角を現さなければいい、しかしそうすると待っているのは代わり映えのしない、それこそ家と会社との往復生活。社会には自分の代わりは沢山存在する、そう考えるだけで鬱病でも発症しそうな日常だ。

 

 

もっと、俺に医者になりたいや、パティシエになりたいなどの、将来志望があればきっとまた違う考え方をしていただろう。

だが現に俺には夢はない。楽しみは暇を潰す道具を手にする瞬間、噛み砕いて言えば新発売のゲームを買って、それを初めて機体に入れる瞬間…といえば分かるだろうか。

つまり、実質無いのと同じだ。

 

未来も無い。娯楽も無い。何も無い。

生きる理由も、きっと無い。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。周りは色々騒がしくなるが俺は1人カバンを手に教室を出る。それに気付く人間もいるはずがなく、いつも通りつまらない平坦で平凡で、いつまでも均衡で整った舗装路を足で踏みしめる。

 

家に着くと鍵を開ける。まだ誰も帰って来てはいないようだった。

…まあそれもそうだろう。両親は連日夜遅くまで残業、妹は学校の付き合いでまたファミレスやら何やらへと行って、現代流の学生社交界でもしているのだろう。

 

 

 

自分の部屋に入る。

家庭の中で割り振られた俺の部屋、しかしそれは別に俺の居場所の存在を揶揄しているわけでは決してない。

ただ、世間的には一軒家で子供に一部屋与えないのは可笑しい、それだけの理由だ。両親には他意はない。両親に溺愛されている妹の場合は別かも知れないが、俺には何一つそのような親子愛じみた感情は無いのだろう。

 

そう思えば思うほど、この部屋、大局的にはこの家に今居たくいなくなっていた。それも当然だろう、学校内での周囲は悪しからず、ましてや自分の家内に対して負の感情を抱きしめて、それでいてその家で過ごすのはあまりにも居づらい。罪悪感のようなしこりが胸を締め付けて止まないのだ。

 

 

だがきっと、こんな感情もすぐ何処かへ行ってくれる。時間が経てば時が全てを解決してくれるとは良く言ったものだと素直に感心した。確かに、まあ解決はしてないが先延ばしにはなっている。

 

そう思いながら俺は手早く私服に着替えて外へ出る。

ドアを開けると春の暖かさが吹き込み、道に沿って人工的に植えられた桜の花びらを揺らす。入学してだいたい2週間、そろそろ桜の花びらが落ちてきてもいい頃合いだが未だ根気強くその桜色の花を離さんとばかり枝に付ける。

 

 

そんな中を歩いて少々、辿り着いたのは海浜稲毛公園という地元ではそれなりに大きな部類に入る公園だ。そこで俺は自動販売機でMAXコーヒーを買い、近くに空いてるベンチを見積もってベンチの上の砂や葉っぱを払ってから座る。

プルタブを開けて一口、甘味を口の中へ放り込む。そしてただ目の前の光景に、自分の過去に、そして未来に、黄昏る。

 

こうして夕暮れ時まで過ごすのも、俺の日常の一端である。

 

 

 

家へ帰ると既に空は薄黒く、さすがに中学生である妹は帰宅していた。

 

「おかえりお兄ちゃん」

 

「ただいま」

 

会話終了。特に話す事も話題も無くただただリビングでの時間が過ぎ、妹ーーー小町と二人だけの夕飯も終始無言。テレビだけがその空間で音を響かせていた。

 

 

 

夕飯を食べ終わればもう小町と顔を合わせることは無い。後は少々の支度の後部屋に籠るだけだ。

 

そんなつまらなく、展望が無く、何より退屈が極まりない日々。

世界は勝利者に優しく、弱者に厳しい。

そんな世界に俺はきっと失望していた。

 

 

 





導入なので、次回からちゃんと始まります。


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壱 転移

文字数は何でもいいと思っている分こっちの方が書きやすい
それに割とオリジナルの方が作りやすいからね


 

 

初めに気付いたのは人の呼びかけるだ。名前を呼ばれている気がする。だが意識が覚醒しない。そもそも俺は誰かから呼ばれるなんて状況下に有ったか?

学校でも家庭でも、どこででも大抵の事では俺は呼ばれず、珍しく家内で呼ばれるときだって決まってその晩は夕飯が用意されてない事を明言されるためだった。

 

…というか此処はどこだ?

俺はハッキリしない頭を探っていき、思い当たったのは最近良く行くあの海浜公園だった。現実逃避の逃げ場、と言われるかもしれないが俺は嫌な事が有ったり腐った将来を考えたりするとよく足を運んだ。それは四月から始まり、6月になった今もそうだ。少し蒸し暑くはなってきたが雨が降らない限りは行っている。

 

だが、そこで新たな疑問が生じる。

ーーーあの場所で俺を呼ぶ人間など誰一人居ない筈なのだ。

学校とはそこまで距離は離れていないが、根本的に学校に知り合いなどいない上にまさか家族の誰かが俺を迎えに来るなんてことも想像し難い。

 

 

考えれば考えるほどに思考がこんがらがり、しかし逆に、徐々にだが視界も見えてくる。

まず見えたのは俺の真上から顔を除く誰かの姿だった。誰かは分からない、ただ俺の知らない人物だろうとは予測をつけれた。なぜなら金髪に俺の知り合いはいないからだ。顔の細部はまだ見えないが、それでもそこで確定出来る。

 

視線を外し、次に周囲を軽く首を動かして確認すると全面赤色の壁が見えた。…何かのトレンドなのだろうか?

時間が経つにつれ視界は鮮明になるが、壁の色は変化しない。均一な、赤。ただ少し分かったのは赤と言っても黒ずんで、茶色味かかった赤という。仮にその色の物質を表すなら銅だ。

 

 

頭も回り始め、段々と状況が理解できるようになると、ようやく俺は自身に起きていることを整理できるようになっていた。なので目を瞑って考えることにする。

 

まず俺が意識を失った場所、これは恐らくあのいつもの海浜公園で間違いないだろう。いつも通り、何となく放課後にあそこへ赴いた。ただ一つ変化を述べるのするならば4月の時とは違い直接行くようになったことだろうか?

…まあ家に帰っても帰らなくとも特に何も無いから良いんだが。

 

 

そして肝心なのは二つ目、俺は何故ここにいるのか?

そしてここは一体何処なのか?

だが、先ほど少し見た限りではどうやら現在俺は室内に誰かと居るらしい。

 

そこで一つ思いつく仮説と言えば、本当に性懲りも無い仮説だが、よくネットでは見かける異世界トリップと言うものだ。

このジャンルは総じて、ある日突然何のきっかけも無く異世界に行くというものだが、それにも大きく二つ種類がある。

 

一つは自由トリップ型、つまるところ始めは草原がダンジョンが、そういう場所から始まって後々冒険者として大成するルートだ。俺ならそんなハイリスクハイリターンな職は選ばず、最初の危ない場を凌いだら街で商売とかするが。

 

そしてもう一つは有名な召喚トリップだ。一時代前を風靡したと言ってもいいルートである。

これは簡単に言えば、魔王の復活やら魔族の逆襲やらで困った国が、召喚術を行使して主人公を日本から引き寄せるというものである。

これに関しては特に、主人公と王や姫とのやりとりは最早全て出尽くされたレベルで流行りまくり、今は鳴りを潜めている。雑な小説になると、「はいはいテンプレテンプレ〜」だとか突然言われてとても萎えたものである。

 

この周囲の環境から察するに、前者か後者、どちらかといえば後者の確率が高い。もし仮に前者だとしたら、倒れ込んでいる人をまずこんな珍妙な部屋に連れこんだりはしないだろう。ここが家ならともかく。

 

 

必要な情報は整理し終えた俺は、もう一度目を開けた。そこにやはり金髪の、しかし予想外に俺と同年代くらいの整った顔たちの女がこちらを覗き込んだ。金髪ロングのストレート、そして温和な顔立ち。服装も中世の純白のドレスで、それでいて装飾はそこまで目立たない程度。

それはどこか本当に姫のようなものを俺に感じさせていた。

 

 

「…起きました?」

 

始めに一言発したのは間も無く、目がばっちり完全に合った時だった。つかさっきから気付いてたんだが、それに気づかなかったのかよ。俺が転がっている側にいたのに。

 

「…まあ、な」

 

なので歯切れ悪く俺は答えるしかなかった。別に今はそんなことはどうでもいいしな。

 

「じゃあまず一つ聞くぞ…ここは何処だ?」

 

多分、いや絶対この女は俺のこの現状を俺以上に知っていると確信する。まあこりゃルートは後者で決定だな、路頭に迷わなくてよかった。

 

「ここは、皇国ジルアール。しがいない大きな大陸の端っこにある小さな国です」

 

…何か、自分の国なのに冷めた言い方だな。かく言う俺も今の世界を否定しているので人のことを批判出来る身ではないが。

 

「それで、俺は今からどうなるんだ?牢屋にでも監禁されながら勇者ごっことかすりゃ良いのか?」

 

「い…いえ!全く違います!」

 

速攻大否定、どうやら王の奴隷コースは何とか免れていたようである。

実際は王様本人の口からでないと信用性はそこまで無いが、というか本当にこいつ姫と皇女的な立ち位置で良いのか?もし魔法使いですとか言われたら何ともアレな話になるんだが…。

…ドレス着てるから姫だよな?或いはそれ的な某だよな?

 

 

そう思っていると彼女は口を開いた。

 

「貴方様には魔導士になって欲しいのです…!」

 

 

うーわ、マジか…。ほぼ当たっちゃったよ俺の危惧が。

 

 

魔導士。そう言われると、俺の中でら炎出したり雷出したりして派手な事をするイメージがある。そして最終的にはアルティメットなんちゃらだの極・なんちゃらだのと起句に強調効果のある単語を付けたがる。要は中二病だ、それも俺はそういう人種になった事は無いので中二病を演じなければならないピエロだ。

 

「…拒否権は?」

 

「ありますが、断れば元の世界には帰ることが出来なくなると思います」

 

 

…正直なところ、元の世界には一片のしこりも心残りも無い。それは断言出来る。

だが、この未知の環境で一人放り出されたとしたならば、俺は果たして生き残っていけるのだろうか?…当然無理だろう。

 

「…分かった、受け入れよう」

 

そう言うと喜んだようにドレス姿の女は俺の手を握った。柔らかい…が意識を取り乱す程でもない、特にこれと言うことは無いのだから。

 

「交渉成立ですね!これから少しの間、宜しくお願いします!」

 

「ああ、まあ期間はともあれ宜しくな」

 

目の前の女が笑顔を浮かべる。…だが、俺にはその理由が全く分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

俺はいい加減姿勢を起こし、端っこの方に座る。

女も目の前に座った。まるで透明の椅子が存在するかのように、空気の上に。…魔法ってあるんだな。

 

「突然外に出るのは危険なので、先ずはこの場で簡単にこの世界の大まかなことを説明しますね」

 

そう言って両手を広げると地図が突然現れる。見た感じでは世界地図と言うよりは一国の地図っぽいので、恐らく女の言っていた皇国ジルアールとやらの地図なのだろう。

 

「ああ、頼んだ」

 

「まずこの点在する壁で囲われた場所、これは全て街です。ついで中心にあるのが王都になります」

 

女は人差し指で指しながらそう説明する。確かに地図で描かれた王都を仕切る壁は、他の街より少し厚い気がする。

 

「そしてこれらの街の外、その地域を一括して全て危険領域と呼んでいます」

 

多すぎだろ危険領域。街が地図に10個くらいしかないのに対してその危険領域は10倍以上はあるぞ。

 

「…あまり聞きたくはないが、何で危険領域と呼ばれてるんだ?」

 

その質問に簡単に女は答えた。

 

「それは、モンスターが現れるからです」

 

ほらきた異世界因子。魔法があるからって調子乗ってモンスターまで出さしてくるなよ。せめて電気ネズミとか始めははねるしか覚えない魚とかそんぐらいにしろよ。

 

「そして、私たちが行く場所は此処です」

 

そう言って指を指したのはどの街からも外れていて、地図で見る限り森の奥地、かつ危険領域の何もなさそうな場所だった。

 

「…モンスターが現れる上に森しかないが?」

 

「大丈夫です、実は地図には載ってないんですけど村というものが各地に点在しています。それに、私たちが行く場所はその村からも離れていますが、何よりお師匠様が居ます!」

 

そんな信頼し切った目の前の人間に俺は羨望を覚えた。何故かは分からない、だがきっと俺には一生手に入れることは出来ないのだろう。

だからこそ、俺は分からないのだ。

 

 

 

 

 

 

「…じゃあそろそろ行きますよ」

 

そう目の前の女は言うが、周りは銅のような物質に囲まれていて出口は無い。ただ、先ほどは気付かなかったが小さな空気孔のような物が幾つか存在していた。確かにそうじゃなきゃ窒息死コース一直線だしな、当たり前の処置ではあるだろう。

 

「だが、ここどうやって出るんだ?」

 

そんな俺の発言には取り合わず女は何事かをブツブツと呟く。…詠唱とか呪文とか、そんなやつか?

ブツブツと何かを言い終えると、こちらへと向き直った。

 

「じゃあ、…ようこそジルアールへ!」

 

突然足元に魔法陣のような物が現れ、神々しく緑の光を放つ。外円部分には英語のアルファベットのような文字が円を形作るように光っている。

 

そうして、一瞬だった。

 

ーーー景色は赤から緑へと変化した。

 



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