ゲッターロボ対ストライクウィッチーズ (座椅子崩壊)
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プロローグ

「おのれ…………憎しや」

 

 無限に等しい永い時間。

 無限に等しい広大な空間。

 全てを熱する灼熱の光と全てが凍てつく闇。

 その宇宙という地獄の中に恨み続ける鬼の魂が存在していた。

 その鬼が遠くで見つめていたのは彼らの夢の跡とでもいうべき要塞だった巨大な屑鉄。

 そこから怨念のこもった呪詛の言葉をひたすら投げかけていた。

 そして、その鬼へ手を差し伸ばした者も…………

 

 

 

 

 

 

 流竜馬がまず目を開けて見えた景色は遥か遠くの真下に広がる雲と海だった。

 

「ぶはっ!」

 

  知数の新型機のテストのためにいつものパイロットスーツとは異なり、安全性を重視したためにまるで鎧の上に更に鎧を着たようなパイロットスーツはずんぐりむっくりとした姿をし、とても重い上に息苦しい。あまりの息苦しさにそのヘルメットを竜馬が取り外し、機体のモニターを確認し、一度ゆっくり瞬きをしてから見つめなおした。

 

「一体何だ? これは?」

 

流竜馬はその時混乱していた。

 

 先日、早乙女研究所は百鬼帝国らしき敵から攻撃を受けて、これを今使っているゲッターで撃退することに成功した。その時、戦ったブライからは「悲劇」とゲッターは称された。

 未完成でかかわらずに真ゲッターは広島、長崎に落とされた原子爆弾やそれをはるかに上回る水爆などの核兵器を超える脅威になると言っていた。それでも、宇宙の塵へと散ったはずのブライと百鬼獣を蘇生して研究所へ送り込んだ新たな敵がいる以上は対抗するためにも新しい力である真ゲッターを手放すことはできずにいた。

 そのために竜馬が先ほどまでその真ゲッターをより完全なものにするためのテストをしていた。テストは少々の違和感があったものの真ゲッター自身は好調ですさまじい性能をはじき出していた。だが、そのテストの最中に操縦不能状態に陥り加速を続けて光速さに近づきそうな速度の中で竜馬の目の前が一瞬真っ白になったとおもったら海上一万メートルにいた。

 気絶している間に安全装置によって自動操縦機能が働いてゆっくり地上へと落ちていったのかもしれないが海の上にいたことが問題ではなかった。目の前にあったのは海上には軍艦が数隻、その軍艦は黒い無数の飛翔体から攻撃を受け、そして、真ゲッターも攻撃を受けていた。

 

「百鬼帝国の残党か! おい、博士! 隼人! 応答しろ! おい誰か! こちら早乙女研所属のゲッターロボ」 

 

 早乙女研究所、海上の軍艦へ、いろいろな回線を用いても通信を試みるが虚しく応答はない。真ゲッターの通信機器が壊れているのか、妨害電波が出ているのかは分からないが今はどこにも通信することができないことだけは確かである。

 今はテスト中で戦闘のために出てきたわけでないため、本来ならば研究所に帰還するべきなのかもしれないが、目の前の戦闘を放置すれば海上の軍艦は増していく。竜馬の性分ではこのような状況ではここは多少の違反であろうと動くことを考えた。

 

「ここはやるしかないのか……」

 

 敵の大きさは二メートルから数メートル程度しかなく、五十メートルを超える真ゲッターからすればピンポン球サイズなのだが敵は空を埋め尽くすような規模、バカバカしくなるほどに数が多い。

 一々、それらを一体一体を相手にするような細かい作業をするようなことをしていたら、時間がいくらあっても足りない。その間にも海上の軍艦の被害が取り返しの付かないことになるかもしれないということは竜馬にも分かった。

 そのことから、まとめて倒すことが一番だと竜馬は考える、真ゲッターの兵装の中でそれに適しているのはゲッタービームであった。この機体のゲッタービームの射程上にあるものは戦闘機だろうが、戦艦だろうが、山だろうが、全てを軽く吹き飛ばしかねない破壊力があり、熱量や射程もそれ相応のものがあるために味方への被害に気を使う必要がある。

 人間が多数乗っているであろう、軍艦を巻き込まないようにするには真ゲッターは高度をある程度の高さにまで落とさないといけない。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

 真ゲッターは大斧を肩から取り出して盾にしながら降下する。

 その速度は一瞬にして音速という壁を遥かに超え超音速の世界へと到達し、それすらもすぐに凌駕した。

 正面の敵は大斧で弾き飛ばされて空気ごと切断、あるいは粉砕される。真ゲッターの周りを覆う空気赤く焼けた壁となり、それに触れた敵は蒸発あるいは潰され、横を通り過ぎるだけでも敵は嵐のような衝撃波で粉々になる。

 敵の大部分より高度を低くなったところで竜馬は高度を充分に落としと判断し真ゲッターは下降を止める。

 降下を止めたと同時にゲッターの腹部が緑色の放電を繰り返しながら徐々に赤色に輝く、目標は敵の群れのど真ん中。出力は出せる分だけのありったけ。

 

「ゲッタービーム!」

 

 真ゲッターの腹部から赤色の光が敵の群れの真ん中へと照射される。

 光は雲を散らし、群れの命中したところを中心に敵が爆発を繰り返す。直接、照射されていない部分ですらすさまじい熱量が約百メートル半径を焼きつくされ、敵の砕けた破片が燃焼し、空が緑色の閃光で輝き。

 

「まだだ!!」

 

 真ゲッターは体をひねる。それによりゲッタービームは右へ、左へ、上へ、下へと薙ぎ払うように照射をされる。空中の爆発が増えるたびに敵が見る見るうちに数を減らしていく。

 照射が二十秒続いたところでゲッタービームが徐々に細くなりやがて消滅した。

 空に敵が残っているが、先ほどのゲッタービームによって大部分がいなくなり点々といるような状態にまでなっており軍艦から砲撃がそれを漏らさないように潰していた。

 軍艦から何かが発進したのが竜馬に見えた。艦載機だろうかと竜馬は思ったがそれにしては小さすぎる。

 確認するためにもう一度目を凝らして見た。

 

「うん?」

 

 目玉にゴミが入ったのだろうと判断して竜馬は目をこすった。

 真ゲッターのカメラでそれを拡大して竜馬はもう一度確認した。

 

「うん?」

 

 竜馬は自分の頬をおもいっきり摘んだ。テストや気絶や戦闘などが重なったから昔、頭の中がチカチカして目の中で虫が飛んでいるようなものを見るということがあると格闘技の師である父から教えられたことを思い出していた。

 竜馬がそれを確かめるかのように一度目を閉じ、深呼吸してからもう一度モニターを見た。

 

「なんだ? ありゃあ?」

 

先ほど軍艦から艦載機のように飛んでいったのは人間。それも竜馬と同じの年頃からかなり年下まで多くの人間の少女であった。足のおかしな機械で飛んでいるだろう。

その機械を使うためか下半身の露出が多く、状況が状況ならば竜馬は鼻血を出していたかもしれないが、今の竜馬にはさらに混乱させられるものでしかなかった。

 

 

 竜馬はこの後迷いながらもコクピットを開いて飛んでいる少女を介して軍艦にコンタクトを取った。たまたま、その少女達の中に日本語が通じる者がいたのは竜馬にとっても相手にとっても幸いであったのだろう。だが、それでも警戒をされて基地へと連れて行かれた。竜馬に対する対応も乱暴ではなく、腫れ物を触るかのように乱暴のことをしていなかったために竜馬も抵抗はしなかった。

 それは竜馬自身が何かの勘違いか自分がなんらかの問題行為をしたか、研究所からの命令無視したことによる警戒や拘束で早乙女研究所にすぐに話しが通って開放されるだろうと考えていたからであった。確かに早乙女研究上とゲッターロボの活躍を相手が知っている前提なら正しい判断だったのかもしれない。

 だが、相手がゲッターロボと早乙女研究所どころか日本という国さえを知らない、そもそも、竜馬がいた世界とは異なるゲッターすら存在していない世界だということを竜馬は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして限りなく遠くの世界の一人の女性へと話は移る。

 その女性はあるものと一緒にこの世界に来てしまった異邦人。

 戦いと世界を超えたことで力を使い果たし衰弱し深い眠りの世界の中にいた。

 ただ、その疲れも少し癒え、時刻は昼に近づき気温が上がり心地よい陽気が女性の眠る部屋に満たされる。

 

「う……ん」

 

 女性、坂本美緒は痛む体の節々の痛みとともに目を覚まさした。

 だが、不思議と目覚めは良かった。心の中は何かをやりきった感じに溢れていたからだ。

 




ご覧いただきまして誠にありがとうございます。

時系列の補足ですが
ストライクウィッチーズ側はアニメ二期の最終話途中から
ゲッター側は真ゲッター中盤ぐらいから
という感じになっています。


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一話

「……し……真ゲッター…………反応が完全にロストしました…………」

「そんな……リョウくん」

 

 静寂が支配し唖然としている管制室。

 実験テストをしていた真ゲッターの加速が止まらなくなる暴走、それによって常識を逸した光に限りなく近い速度を出し、その果てに真ゲッターからの信号がなくなったのだわずかに緩む。

 真ゲッターのテストパイロットを務めている流竜馬の戦友、神隼人は冷や汗を白衣の袖で拭いながら、もしもの時にサポートさせるために出撃させていたゲッター1に指示をだす。

 

「心配させて…………やっぱり、俺がやればよかった」

 

 テストパイロットの候補だった車弁慶は安堵したためか顔をほころばせていた。

 

「えっ? 高度が低すぎ――――なんだ! 未知のエネルギー反応だと!?」

 

 レーダーを見ていた男の顔が驚愕に染まる。

 隼人は睨むようにその男とレーダーを振り向く。

 

「それになんだ、この大きさは…………で、でかい!? 真ゲッターじゃない? ゲッター1確認へ急げ!」

 

 再び、場の空気の緊張の糸が張り詰めて険しくなる。

 

「ゲッター1からの映像が送られましたモニターに写します」

「こ、これは……」

 

 それは巨大な真っ黒の物体であった。

 この場の者達はいままで、恐竜帝国や百鬼帝国などの人にあらざる者達が作った兵器と戦っていたがこれは人間の手によって作られたものにしか見えなかった。なぜならば、眼前に映る物体は黒くて、六角形状の板状のものに覆われているが、これは紛れも無く第二次世界大戦の戦艦――――

 

「大和……」

 

 早乙女博士が呟いた名前、「大和」。

 その大和としか思えない戦艦のような物体がなぜか空中に突然現れたのだ。しかもゆっくり下降し宙に浮いているという非現実的な光景がモニターに映されている。

 

 

 

 

 

 全世界を揺るがした第二次世界大戦から、数十年経った世界。

 だが、恐竜帝国、百鬼帝国の人類の敵の出現により世界の秩序は壊された。

 それに立ち向かったのは戦争によって傷ついた日本のある組織、そして浅間山には人類の敵に立ち向かったとある研究施設がある。

 その施設――早乙女研究所は人類の新たな開拓地になりうる宇宙に進出するためにあるものを研究が続けられていた所であった。

 そこで主に研究されていたゲッター線、それは人類の新たな希望になりえた存在であった。

 無公害で莫大なエネルギーとなり、物質に様々な影響を与える夢の様な光だったゲッター線。しかし、それは人類の敵の出現によって世界を守るために戦う兵器へと使用された。

 ようやくその戦いも数カ月前に終焉したはずだった…………恐竜帝国の残党と隕石に偽装して落ちてきたかつての百鬼帝国の帝王のブライ…………それは新たな戦いを感じさせるのに十分であった。

 その戦いに備えて新たな戦力である真ゲッターロボ、その力を試すためにテストをしていた。

 そして、事態は更なる展開を見せることになった。

 

 

 

 

 

 

「う……ん」

 

 坂本美緒は痛む体の節々の痛みとともに目を覚まさした。

 だが、不思議と目覚めは良かった。

 心のなかが何かをやりきった達成感に溢れていたからだ

 

「ここは? 病院……そうだ! 作戦はどうなったんだ」

 

 坂本美緒が参加していた作戦、それはロマーニャという国の間近を舞台にした、その後の人類未来の戦況を担う作戦であり、その結果によっては人類の未来に大きく関わると言っても過言ではない作戦。

 彼女と所属していた部隊は選りすぐりの強力な魔女(ウィッチ)で構成されている。その作戦の重大な存在であり、戦い、切り札である大和を護衛を任されていた。

 起動した大和は敵に向かったがトラブルが発生し、そこで自分がその対処にあたることでトドメの砲撃を――――というところまでを思い出して美緒に冷静さが戻り始めた。

 その作戦の結果が気になるが。「その中心地にいた自分が、生存しているなら作戦は成功しているのだろう、最悪の事態は起きては自分が回収されるような余裕はないのだから」とそう結論づけ、落ち着きを取り戻すと今度は、美緒は足が落ち着かない感覚を覚えた。

 

「…………まさか」

 

 足の違和感に美緒は想像したくない予想をする。

 膝から下がなくなっているかもしれない。

 現代の魔女の箒「ストライカー」によって足は保護されている。

 しかし、そこから上は…………そしてシールドを張るほどの魔力がない自分は…………そして、大規模な戦いの後であることが不安を強くした。

 

「…………なんともない」

 

 ちゃんと、自分の足があることを確認し、ベッドから立ち上がろうとする。

 戦いの疲労からか少しふらつくものの問題はなく歩け、その部屋の扉に手を掛けるが。ビクとも開かない。

 

「裾が長いな?」

 

 立ってみて改めて気づいたが患者衣の裾が長い。普通はあっても太ももぐらいまでのものだがこの服はなぜか“膝下”まであるのだ。どうやら、違和感の正体はこの裾のようだと気づいた。裾をめくったものの擦り傷の跡などはあれど、特に目立った怪我はなかった。

 

「なんだ、これは? 電話?」

 

 先ほどまで寝ていたベッドの近くに置かれている棚の上に何かの機械らしきものが置かれておいた。

 今まで見た電話の中でも異質とも言えるほど平たく、ボタンも見慣れないものであった。

 その電話らしきものの近くに、看護師か医者かは分からないが何かの連絡先が書かれた紙が置かれていた。

 美緒はいくらなんでも自分を陥れるための罠ということは回りくどすぎて考えにくいのでこの機械の操作を試みる。その機械の操作方法を知らないために失敗しながらも美緒は入力を試み、受話器の向こうから声がしたのは六回目の挑戦であった。

 

 

 

 浅間山から十数キロ離れた山の中そこは戦艦大和らしきもの巨大な物体の墜落現場である。山と森の中のために元々から人通りは決して多くはないが念の為に墜落現場から半径数キロにわたって封鎖されている。そのためにここを出入りしているのは早乙女研究所の者か政府関係者だけであった。

 その場所の中心近くにこの戦艦を調査するためのその集められた人員が利用している大きなテントがある。そこに妖怪と形容もできる奇妙な老人がいた。

 

「敷島博士、差し入れです」

 

 背の高い男と恰幅のいい男が敷島と呼ばれた老人におにぎりの詰まれたバスケットと茶の入った水筒を渡す。恰幅のいい男、車弁慶が眉をひそめて恐る恐る敷島に尋ねる。

 

「どうです?」

「ふむ。確かに大和そっくりじゃが、中によくわからんものがあってのう」

 

 敷島は口にペンを咥え振りながらも簡易机の上に広げられた資料を食い入れるように目を離さずに男たちとの話を続ける。

 

「よくわからないもの?」

「これじゃ…………」

 

 敷島は図面の一部と写真を示す、エンジンや動力関係の機械であることはわかるが弁慶にはよくわからなかったが傍らの背の高い男、神隼人はどこか、何かに勘付いたかのようにピンとしたかのように目を少しだけ大きくし興味を示す、そして敷島の顔は無邪気の子供が新しい玩具を見つけたかのような歓喜、いや狂気の色で染まり歪む。

 

「おもしろ、おかしくて、すばらしぃ~兵器の匂いがする」

「げぇ~」

 

 この老人は兵器にかけては世界においても右に出るものがいないと言える程の人物である。

 水爆の開発にも関わっており、世界の有名な兵器関連に関わっていてもおかしくないということでその道では有名な人間である。

 それと平行して有名なのは水爆級の変人であることである。

 死ぬなら自分の兵器で、できるだけ危機で惨たらしく、その瞬間を撮影して永遠に残して欲しいということが最大の望みであるらしい。

 それは彼が兵器を心の底から愛しているからであるのだが、それは他人からしたら次元の違う狂気以外の何物でもない。

 だから、その性格で孤立していたところを早乙女博士が自身の研究所にスカウトしたという経緯があるから、世界有数レベルの男がここにいる。

 もちろん弁慶はそのことを知っており、困った顔と言葉を隠せなかった。

 

「なのじゃが…………例の娘っ子が目覚めてからじゃのう」

「そのことですが博士、あっ隼人さん、弁慶さん。いらしたのですか」

 

 研究員の一人が無線機を片手に三人に声をかける。

 

「例の女性が目を覚ましました」

 

 弁慶と隼人は顔を合わせて、隼人が腕を組み、瞼を少しの間つぶる。

 早乙女研究所の所長の早乙女博士は今、竜馬と真ゲッターが消えたことについての研究や調査に力を入れている。

 だが、躍起になりすぎて判断力が落ちている状態でまともに尋問できるかわからない状態である。

 そもそも、早乙女博士にあまり負担を掛けたくないからここは――

 敷島は嬉しそうな顔をしているのを見て、弁慶がそれを諌めるように敷島の肩に手を置く。

 

「わかった。尋問は俺にもさせてもらおう」

「おいおい、大丈夫か」

「尋問ならゲッターチームに入る前から――――」

 

 弁慶は一瞬肝が冷える。隼人の経歴は超過激派学生運動に参加していた、いわばテロリストでもあり、しかも一つの組織のリーダー格であった。ゲッターで戦うことになってからは抜けたがその問題で一騒動があったこともあった。今はそういった学生運動から足を洗っていて、その所属していた組織も壊滅しているが、過去が過去だけに手荒なことに慣れすぎているのだ。そのために、弁慶自身も竜馬程でもないにしても仕事柄、荒事に慣れているが隼人は自分たちとはそういった方面では別格と考えている

 そう考えると甘いのかもしれないが、相手が正体不明でも見た目が若い女性で自分たちと歳があんまり変わらないのもあって相手のことが心配でたまらなくなる。

 

「いや、娘のほうが…………」

「安心しろ。貴重な情報源だからな」

 

 顔に少しの不安の色の弁慶と「後でワシも」とちょっと膨れ面になりながら言う敷島を置いてこの場を後に早乙女研究所への帰路へと隼人は一瞥もせずに向かった。

 

 

 

 

 美緒が電話を使ったすぐ後に医者が急ぎ駆けつけて検査を受け、その後病室に戻ると神隼人と名乗る長身の男が銃を持った男を二人引き連れて入室した。

 どうやら、話を聞きたいということで美緒も最初は戦闘の記録や大和に親友の静止を振り払い大和に向かったことが命令無視ということで上層部が判断を下したため、その詳細を知るための取り調べかと美緒は考えていた。

 人類存亡をかけた大作戦における勝手な行動は軽くはない罪だ、場合によっては銃殺刑もありえる話だから重々しい雰囲気なこと事自体がおかしい話でもなかった。

 だが、現実は彼女の予想を超えたものであった。

 

「45年? 扶桑? 海軍? 少佐? 坂本? なんだそれは?」

 

 美緒の目の前にいる神隼人は冷たい蛇のような眼で美緒を真剣に見つめていた。戸惑いや疑問はあるが、そこには一切のふざけやからかいはなく、真剣そのもののように見えた。

 だが、やはりどこか噛み合っていなく反応が明らかにおかしい。

 

「何を言っている。見たところ、お前もそこの者も、この基地の者は扶桑人じゃないのか」

「扶桑人?」

 

 美緒は憤った。目を覚ましたら、目の前の男とまるで話が通じないのだ。たとえ扶桑の人間でなくとも一般常識があれば、『扶桑』始めとするこの言葉らを知らないわけが無いのだ。

 美緒は意識を取り戻して時間が短時間しか経っていないために今自分がいる施設を全部見ることができたということはないが、前線にしてはかなり立派なものであることは分かる。

 軍人である自分が治療を受けていたことと今取り調べを受けていることを考えるとこの施設は軍関係で目の前の男も軍関係者だと思われる。美緒の経験からしてこの神隼人という男は鍛えられた体を持っているのも分かった。軍関係者で取り調べをする以上はそれなりの教育は受けているはずである。

 だが、神隼人が口に出したことは美緒の予想を全く異なるものであった。

 

「そもそも、扶桑という国はこの地球にはない」

「なっ……なんだと!? じゃあ、お前が話している言語はなんだ? 扶桑語ではないのか!」 

「日本語だ」

 

 不思議なものを見るような顔で淡々と隼人は自分がいうことを否定する。まるで美緒は自分が狂人扱いされている気分になり、苛立ちが強まる。

 

「そもそも、ネウロイってなんだ? 恐竜帝国か百鬼帝国じゃないのか?」

「ネウロイも知らんだと!? そっちこそ、恐竜とか鬼とか何を言っている?」

 

 今度は隼人の口から聞いたこともない言葉が出てくる。

 伝承などで語り継がれている、過去に出現し、存在していたネウロイに恐竜や鬼に似ているものがいなかったわけではないと思われるが、そんなものがいたとしてもほんの一部でネウロイ全体を示しているにしては違和感がある。

 そもそも、ネウロイは詳しい形などはともかく名称は軍関係者だけではなく一般にも浸透しているのにこの男はネウロイを知らないといっている。

 

「それと言っておく、1945年は遠い過去だ。俺も生まれてさえいない時代だ」

 

 美緒は強烈な目眩を覚え、頭を抑えた。

 部屋を照らす蛍光灯の形に美緒は覚えはないが埃や汚れでその蛍光灯がずいぶん長く使い込まれていることが分かる。

 

「一体何だ? これは?」



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二話

「一体何だ? これは?」

 

 真ゲッターのテスト中をしていたら、真ゲッターが暴走してしまい。目の前が一瞬真っ白になったとおもったら海上にいた。

気絶している間に安全装置でも働いたのかもしれないが、目の前にあったのは海上には軍艦が数隻、その軍艦は黒い無数の飛翔体から攻撃を受け、そして、真ゲッターも攻撃を受けていた。

 

「百鬼帝国の残党か! ゲッタートマホーク!」

 

 真ゲッターは巨大な斧を構え――――

 

 

 

 

「――ということで………」

 

 男は目の前の少女に物語を語り聞かせるように証言をしていた。

「幼いころ見た、紙芝居がこんなかんじだったな」と男は心のなかでつぶやいていた。

 

 とある軍の施設、そこにある無骨な取り調べ室。この部屋には今、二人の人間がいた。

 一人は青年で、無骨なこの部屋には全く違和感がないような屈強な男であった。

 一人はまだどこか幼さが残り、微笑みが似合いそうな愛嬌のある少女であった。

 

「えっ? 本当ですか?」

「そうそう、あのときな」

 

 少女――宮藤芳佳と机を挟んでいる男――流竜馬と何も知らない人から見たら仲良く談笑していた。

 竜馬からしてみれば久々に安心して話せる相手でもある。

 この地に竜馬が来てから一週間が経過していた。同時にわけの分からぬままに軟禁されて経過された時間でもある。

 最初はどこか外国に墜落してしまって、そこでなにかの事件に巻き込ただけで、そのうち早乙女研究所から迎えが来ると思っていた。

多少の取り調べは覚悟していたのだが名前はもちろん、「所属と階級はなんなのか」「乗っていた機械は何なのか?」

と言うことは飽きるほど何度も何度も耳にタコが出来るほどに聞かれそれに答えた。

 流竜馬本人はともかく、ゲッターロボは全世界の軍関係者では老若男女問わず国際社会には有名なはずで、なんで今さらそんなことを聞くことがおかしく

最初はなんの冗談かと思っていたが、どうやら、話を聞く限り本当にゲッターのことも知らないらしく。恐竜帝国や百鬼帝国のことも知らないらしく、妙なものを見る目で見られた。

 だが、目の前の少女はそれまでの人間とはまるで異なり、まるで普通の少女。近所の娘みたいに感じていた。

 

 

 

 

 基地の格納庫の前は右へ左へと忙しく人が行き交っていた。

 そこに数人の少女が格納庫の扉を開けながら会話していた。

 

「芳佳ちゃん…………」

「おそい!」

「もう~。トゥルーデもリーネもそればっかぁ」

 

 芳佳を心配してのあまりかリネット・ビショップとゲルトハルート・バルクホルンは先程の言葉を何度も言っていて、それを呆れ顔でエーリカ・ハルトマンは何度も見ていた。

 件の芳佳が流竜馬と名乗る男と面会を希望したのは先日の作戦で消息を絶った坂本美緒のことを知りたかったからだ。

報告によると流竜馬は日本なる国から来たとか言っており、実際によくわからないゲッターと呼ばれるものを持っていた。

 そして、今探している坂本美緒は戦艦大和と共に姿を消した、海上、海底の調査も行われたが大和が沈んだ痕跡も粉々に吹き飛んだ様子も全くなく、まるで神隠しにあったかのように消えていた。

 扶桑で言う神隠し――――別世界への移動という噂も出てきてもいる。

もしも、流竜馬が本当に別世界から来ていたならば坂本美緒も同様に別世界に行ったのかもしれない、カギを握るその男に話を聞いてみる価値はあるかもしれないとほんの少し考えていた。

 普通はこのようなことは芳佳の仕事ですることではないのだが、第501統合戦闘航空団は活躍した英雄たちであり、その希望を無下に断るわけにもいかなかった。

 そして、501には他にも希望者がいたが流竜馬が扶桑人らしい特徴から扶桑人である芳佳が501からは彼女が選ばれたのだ。

 その間、芳佳が面会に行っている間に彼女達は流竜馬が持ち込んだゲッターなるものを見に行くことになった。

 

「あっ、姉様」

「ウルスラぁ~。シャーリー達いるの~?」

 

 エーリカと瓜二つの少女ウルスラは双子の妹で優秀な技術者で、このゲッターとよばれるものの解析のために呼ばれた。

 そのウルスラはその解析中のゲッターの方向を指差す。

 

「イェーガー大尉ならすでに」

 

 

 

解析作業中の謎のゲッターロボという機械に向かって早歩きで背中までかかる茶髪の髪と豊満な胸を大きく揺らす少女はシャーロット・E・イェーガー、立派とは言い難いがれっきとしたリベリオン合衆国の軍人である。

 愛称シャーリーとも呼ばれる彼女は部隊でも、真っ先にゲッターロボを見に行った。彼女はメカが好きでゲッターロボという巨大な未知の人型の機械に一番興味を示したからだった。

 だが、この格納庫にあるのは巨人ではなく赤、白、黄の三機の用途不明の乗り物である。

 

「なんだあ、こりゃあ?」

「あの赤い鉄の巨人ですよ」

 

 戸惑っている彼女に声をかけたのはこの機体を解析しているスタッフの一人であろう扶桑人らしい青年であった。

 

「信じられないことにこの三機が合体してあれになるらしいですよ」

「なっ!? でたらめな。……っで、これってどれくらい速いのか? あの時軽く音速を……」

「どこまで信じていいのかはわかりませんが。乗っていたパイロットの話によると音速どころか光に追いつけそうとのことらしいです。」

「本当か!?」

 

 青年の話に彼女の目が輝く。彼女は元々、機械が好きであるがその中でも速いものが好きである。

 そう、シャーリーは自他共に認めるスピード狂である。そのためか、彼女の固有魔法も加速である。

そんな彼女が未知のものとはいえ乗り物のスピードについて何も思わないわけがなかった。

 

「シャーリィー…………」

 

 彼女を愛称で呼ぶ、幼い少女フランチェスカ・ルッキーニ。

彼女は見た目も実年齢も幼いが立派な少尉の軍人で立派な撃墜数を誇るエースである。

 

「なんか…………これ、嫌な感じがする」

「わかったよ…………」

 

 いつもは歳相応以上に明るく活発な彼女がそれの欠片もないような不安そうな少し青い顔でシャーリーを見つめる。

 ルッキーニの天性のものか勘は鋭く、欠陥があった試作品の危険性をいち早く察知し、

そのことに従った結果、シャーリー自身も危機を回避できたという事もあったために小さな親友の言うことを信じる価値は十分あった。

 

「負担を計算したところ普通の戦闘機乗りでは挽肉ですからね」

「魔女でもか?」

 

 魔女は魔力を使うことで、身体能力を人の領域をはるかに超える域に高めることができる。その恩恵により、高々度での戦闘、高速での激しい動きに耐えることができるようになる。

もちろん、それには個人差はあるのだが、それでも戦闘員としては十数キロもある重い銃器を自由に振り回せる腕力、時速数百キロで縦横無尽に飛ぶために慣性に耐えうる頑丈さ、その速度に対応できる反応能力などが充分にないと戦力としては話にならない。

 

「それですが、この機体の近くにいると魔女は違和感があるらしくて」

「どれどれ? ん…………本当だ」

 

 そう言われて、シャーリーは「ものはためし」と舌で口周りを舐め魔力を軽く使ってみる。普段通りに体の周りに青い光がぼんやり発生し使い魔の耳や尻尾が出てきたのだが。

 明らかにささやかな違和感がしていたのだ。

 走ると顔や体にぶつかるささやかな向かい風のような違和感。

 もしかしたら、ルッキーニの言っていたのはこれを無意識に感じ取ったのであろうか。

 

「どうやら、動力の――ゲッター線というものが影響しているらしいのですが…………ゲッター線についての知識が私達にはどうにも」

「ふ~ん」

「パイロットの話によるとゲッター線は猿から人間に進化させた要因らしいですが…………もっとも、本人も与太話程度におもっているらしくてはっきりしません」

「おさるがひとに?」

「そりゃあ、冗談か何かだろう」

 

 三人の乾いた笑いが格納庫辺りに響いたが他の大勢の研究員による作業の音でかき消された。

 

 

 

 

 

「ゲッター、Getter、Gotter…………」

 

 バルクホルンは顎に手を当てて、呟いた?

 

「なんですか?」

「カールスラントの言葉で」

 ヒョコッとエーリカが後ろから顔を挟む

「神様だよ」

「ブリタニア語だと何かを得る感じになりますね」

 リーネも頬に指を当てそれに便乗する。

 

「そういえば扶桑の言葉なら靴の種類らしいなあ……考え過ぎか。それにしても遅い」

 とバルクホルンが呟き、リーネは芳佳がいるであろう棟の方向を見る。

 エーリカはまた呆れた顔で二人を見つめて気づかれない程度の小さなため息をついた。

 

 

 

 

 

三人が考え事を指定たほぼ同時刻、芳佳の面会の時間は期限が迫っていた。

そこで、芳佳はようやく本題を出して切り込むことにした。

最初にそのことを切り出さなかったのはいきなり聞くことの勇気が足りなかったのもあるが、芳佳自身も相手がどのような人物かを知りたいことや、相手の芳佳に対する警戒を減らして。できれば、相手が感情を持つ人間であるならわかりあえたらという芳佳なりの方針があってのことであった。

 ただ、その本題に関しては竜馬も半分うんざりしているのか片方の眉が釣り上がってから答えを返した。

 

「ここに来てから何度も言っているが、気がついたら海上にいて、軍艦とねうろい? が戦闘していたから……」

 竜馬が芳佳の顔が先ほどまでの歳相応の顔から真剣さがにじみだしていたのを見て言葉を詰まらせた。だが、それでも竜馬が変わっていく芳佳の顔を見ながら申し訳無さそうためらった言葉の続きを切り出す。

「思わず加勢しただけで…………悪いがその坂本さんらしき人も戦艦大和は見ていねえ」

「そうですか」

「悪いなあ…………」

 

 芳佳は民間人からスカウトされ軍人としての経歴が短い彼女は尋問などに慣れているわけではないが少なくても竜馬の言っていることに嘘や取引に使おうなどの悪意などは感じなかった。坂本の手掛かりが全くなくなったために落胆でしゅんとしている芳佳とその対応に困って脂汗がにじみ始めている竜馬の二人がいる空間が少しだけ重くなる。

 その重い空間でも見張りは何事もないかのように微動だも動かずに見張っていた。

 

「いえ…………でも、竜馬さんはまるで神隠しあったみたいですね」

「神隠――――か」

 

 神隠しという言葉は竜馬も知っていてたしかにそのとおりだと思った。

「神や妖怪によって別の世界に連れて行かれて行方不明になること」父親と幼い頃から山篭りを何度もしているのでその類の話は何度も聞いていた、そのうちいくつかはただの遭難や自殺などで、その成れの果てを見つけたことも度々あり、神隠しなどはただの胡散臭い噂や迷信にすぎないものだと思っていた。

 そのために、自分がまさか本物のそういう状況になるとなんとも言えないような感覚になっていた。

 

 地面が少しの揺れ、天井から埃が竜馬の顔に降り注ぐ。

 芳佳も揺れを感じたらしく竜馬とともに天井を見上げた。

 

「な、なんだ…………?」

 

 その声と同時に耳をつんざくような警報が室内、いや基地内に響き渡る。

 宮藤の顔に焦り浮かべ辺りを確認するように見る、竜馬はこの世界の事情については未だにの眼込めないことはあるがただならぬ事態が起きたことを悟る。

 

「ネウロイ!? そんな巣を壊したばかりなのに」

 

 

 

 

 

「ネウロイの巣がなくなったから昼寝でもしていたのか!」

 

 ハンガーはいきなりの敵の襲来により出撃の準備に追われていた。

 英雄である501も例に漏れずに出撃の準備を行っており、この場に一番早く駆けつけていた。その中で竜馬の尋問から漏れてゲッターに興味もなく普通の待機をしていたサーニャ・V・リトヴャクとエイラ・イルマタル・ユーティライネンの二人は特に早くストライカーを起動させようとしていた。

 

「…………人間ごとき…………ふざけるな…………滅ぼす?」

 

 サーニャは固有魔法の魔導針を頭に発現させながら呟く。

 傍らにいた親友のエイラはいきなりの言葉に怪訝な表情を作る。

 

「えッ!?…………なんだ?」

「あの波の向こうからそんあ声が聞こえた気がして」

「なんだ、あれは? 津波…………じゃないな?」

 

 

 

 基地からもその大波は見えていた。

 そして、その中を突き進む黒い巨大な影も確認できた。影は潜水艦を遥かの超える速度で海をかき分けながら突き進み海上に現れる。その影の正体は黒色ではないどこか有機的な巨大な怪物、それは明らかにネウロイとは異質な存在。

 怪物が完全に出てきたところで大波は消え、海は何事もなかったかのように静寂を取り戻す。

 通常、ネウロイは海を嫌う――――つまり、この怪物はネウロイではない。もしくは新たなネウロイという事になる。

 だが、正体は何者であったとしても人類へ敵意を持っているのは確実であった。

 敵の体周りから白い煙が立ち上る。どうやら、体全体が高い熱を持っているらしく海水が蒸発しているようだが、その姿が更に怪物の野獣性を強調させていた。そして、怪物は特に白煙を吐き出している地獄の入口のような顎から咆哮とともに光を太い灼熱の光線を基地に向けて吐き出した。

 遅れて、爆発による轟音が辺りを支配した。




ゲッターロボはどうやらサッカー関連から取ってきていて
ゲッターはポイントゲッター
ゲッター1の顔はサッカーボール
帝王ゴールはまんまゴールから
TVアニメ版竜馬はサッカー部
という話を聞いたことがありますねWikipediaにも書いることですが


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三話

「どうして、こうなったのだろう」

 

 少女は呟いた。

 そう思わざるを得なかった。

 燃える森と赤い灼熱の大地、赤黒い炎と黒煙を上げて警報がけたたましく鳴り続ける基地。

 オペレーション・マルスを終えて数日。多くの者が再編成、帰国などでこの基地から離れていった。

それでも、十分の数の戦力がまだこの基地には滞在していた。

彼女達もその中の一つで陸戦戦力であるがもしもの時のためにきていたのだが。

結局はもしもの時のことは起こらずに結局武勲を立てられずにそのまま別の戦場にいくだけの無駄足か、戦わずにすんだ幸運を喜べいいのか、無駄飯ぐらいしてしまった事実に落胆すればいいのか迷っていた最中にいきなりの敵の強襲しかも相手は空を飛べないタイプで何もせずに帰るということをはなさそうであった。

 彼女たちは歩行脚という戦車を模したような陸戦向けのストライカーユニットを使用している。高速で空を舞ように戦う戦闘機を模したような飛行脚は戦場の花型と思われているが、この歩行脚も負けてはいない。

 歩行脚は泥臭い印象があったりして地味に見られる、たしかに飛行脚と比べると遅い。しかし。空を飛ばない分搭載できる装備や魔力に余裕が有るために火力や頑強さでは圧倒的に勝っている。

 そして、彼女は長く戦い続けていて今年で十八になり、戦闘経験もベテランということを否定するものがいないぐらい多く積んでいる。所属している隊の仲間も彼女に負けないほどの人材である。決して、自分たちは空の魔女に引けをとらないと自負し、どんな相手にも負けないという信念もある。

 

 だが、目の前の状況は、この化け物は何だ。

 自分たちの攻撃がまるで風に吹かれた埃が当たった程度。

 後に続いた各国の陸戦魔女の攻撃も砂をかけられた程度。

 更に加えられた戦車の集中砲火も水鉄砲をうたれた程度。

 その他にも高射砲、突撃砲などの火力も集まり山さえも削られてなくなるような砲撃の雨が続く。

 しかし、それさえも気に留めることなく無視して、基地に向かって直接ビームを放つ

 そのビームの内一発が自分たちの近くも舐めるように過ぎ去る

 直撃するどころか数メートル以内のものは蒸発し消滅、それを免れても融解か炭化をおこし原型をとどめていない。地面が気化爆発を起こし戦車すら吹き飛び、裏返っているものさえある。すぐ近くに見える地面が抉られ変色しガラス化さえしている。

 その光景に思わず後退った彼女の背中に硬い何かがぶつかる。それは転倒した戦車だった。

 自分たちはシールドに守られていたから大丈夫だったが彼らは大丈夫だろうか?

 戦車が動かないのはなぜだろう?

 びっくりしているだけだろうか?

 気絶しているだけだろうか?

 もしかして、熱と衝撃で……………………………………

 

 思わず空を見上げると地面と木々と鉄ともはや何が何だか分からない物が焼け焦げる嫌な匂いと煤と煙で空が汚れその前に佇む化け物。

 涙が目元から溢れ、武器を握る手から力が抜けて落としてしまった。

 

 こんなことなら、手柄を欲張らずに「なにか起こらないかな」とか思うのではなかった。

 こんなことなら、久しぶりに再会出来た故郷の幼なじみに思いを伝えておくべきだった。

 こんなことなら、魔女にならなければ、魔力がなければ。

 

 だが、そんな彼女をまるで眼中にないかのように彼女の頭上をまたいでいく。

 まるで、ゴミですらないような扱い。

 それは彼女に冷静さを取戻させと同時に心の中を奮い立たせた。

 

「ああ、畜生」

 

 少しでも、情けないことを考えてしまったことの恥を涙に変えて頭のなかから流し出す。

 それでも、彼女は戦う。

 魔女として、女として、人間として。

 世界のため、尊厳のため、思いのために。

 落とした武器を拾い上げ、自分の魔力を滾らせ、また立ち向かう。

 

 頬を伝わりこぼれ落ちた輝く涙が百熱の戦場の地に一瞬にして人知れず蒸発して消え去ったが彼女は振り向くことなく化け物を睨み戦にまた挑む。

 背後に強烈な突風が吹き、頭上に三つの何かが飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

「今度はなんだよ?」

 

 椅子は壁に叩きつけられ倒れ脚が折れていた、机が横に倒れ、壁には顔を出して外が見ることができるほどの穴が空き底を中心にヒビが走っていた、それらは衝撃の凄まじさを示していた。

 竜馬はその衝撃に襲われた際に咄嗟に芳佳に抱きつくように庇っていた。そのため芳佳はほぼ無傷であり、竜馬の鍛えられた太い腕の下から芳佳は心配そうに竜馬を見ている。

 

「大丈夫ですか?」

「これくらいなら大丈夫」

「あっ!」

 

 芳佳が口と目を大きく開けて指を指す。その先には見張りの兵士が顔色を変えてうずくまっていた。衝撃で吹き飛ばされてしまいそのまま叩きつけられてしまった時に負傷したらしい。

 竜馬と芳佳はその見張りの服を脱がす。服の下の体には生々しく破片が突き刺さってできた傷、特に脚を深く負傷してしまったらしく、この敵襲を受けた緊急事態では放置していれば手遅れになりかねない。

 

「今、待ってください」

 

 芳佳をスカーフで見張りの足の血を拭き取り怪我の様子を見る、腫れ上がった足は

どうやら命にはすぐには別状がないにしてもとてもじゃないがとても歩いて移動ができるようではなかった。

「放っていてはいけない」と判断した芳佳はその腫れ上がったに手をあてていた。

 竜馬はその芳佳の不可解行動に当然疑問を持った。

 

「何やってんだ。早くどこかにそいつを…………なんだ?」

 

 芳佳の体が淡く青く光る、それだけではない芳佳の頭に犬のような耳が臀部にもまた、犬のような尾が現れる。その輝きの中、芳佳の手はひときわ輝いていた。だが、竜馬の目はそれ以上に芳佳が手を当てている見張りの傷の部分に目を奪われていた。重症だったはずの傷がみるみるうちに塞がっていくのが見えたからだ。

 軟禁されていたがここに来てから数日経っているために少ないとはいえある程度の情報は集めることができ。そのため、魔法のことをある程度おおまかにわかっていたが、竜馬は自分の目でそれを見るのは初めてであった。

 

「こ、これが魔法か――――」

「ひゃっ!」

 

 最初の衝撃ほどではないにしても大きく建物全体が揺さぶられる。

 

「またか!」

 

 竜馬は最初の衝撃で出来たと思われる顔を出せる程度の穴から外の様子を見る、建物のすぐ近くの地面が抉られ赤くなってその向こう側の景色が熱気で歪んでいる。

 どうやら、ビームか何かが通って行ったのであろう。竜馬もゲッターで何度か似たような光景を作りだした経験からその判断を下す。

 そして、赤熱化し爛れた地面によって歪み煤にまみれた視界の向こうに巨大な怪物が猛り狂っていた。

 

「なんだ? あれは百鬼帝国か! おいゲッターはどこだ?」

「げた? あの機械なら滑走路の近くの大きいハンガーだったと――――えっ!?」

「わかった。なにか飛び立っているところか。行ってくる」

 

 「ふん」っと気負いとともに壁を後ろ回し蹴りを浴びせる。もともとヒビが入っていた壁が積み木のおもちゃのように崩れて大穴が空く。そして、脱がした見張りの上着を手にそのまま外に向かって走りだした。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 芳佳の制止も耳に留めない入らない、勢いでハンガーへと駆けていく。

 

 

 

「一体、何なんだ!? こいつ」

 

 バルクホルンは戸惑っていた。

 いきなり現れた化け物は高さだけでも六十メートル近い上半身は人、下半身は蛇のような形をして頭に角を生やしまるで神話化何かの化け物を彷彿させる。

 それは問題ではない、彼女は以前にはるかに巨大な空母である赤城と融合したウォーロックと戦った経験がある。形もネウロイは様々な形をしているし、ウィッチを模したものもすでにいるのでいまさら、人間や生物に近い形のものが出ても驚くことではない。問題はこちらの攻撃が全く通じないのだ。ネウロイは魔力に帯びた攻撃に弱いはずである。だが全く通用していない。彼女たちの装備は魔力帯びている以外にも高い殺傷力を持っている。

 バルクホルンが持つ銃器も魔力によって筋力が常人より強化される魔女以外には使うことはおろか、重量によってまともに持つことさえ出来ないような兵器なのだ。もちろん、その破壊力は折り紙つきで幾多のネウロイを倒してきた。

 だが、強力であるはずのバルクホルンの重機関銃も豆鉄砲のように虚しく弾かれるか食い込むだけ。さらに破壊力のあるサーニャのフリーガーハマーもまるで火花にあたった程度。せめて、ジェットストライカーの時の装備さえあればという考えも化け物の足元を見れば甘い考えだと目下の現実に一蹴される。

 空戦魔女よりも強力な火力を持てるはずの陸戦魔女達の攻撃も自分たちの攻撃と同様であった。無論、他の戦闘機も戦車も同様に全く通用しない射撃を繰り返していった。

 これだけやっていても化け物にかすり傷を付いているか怪しい程度。

 もちろん、化け物もただ、攻撃を受けるだけではない。

 

「――――ッ!!」

 

 まるで羽虫を払うかのように腕を振う。ただ、何気ないように振るったそれだけ。

 だが、それだけでも発生した強烈な突風により未熟な魔女が撃墜されていく。

 既になんどか光線を放っていて、基地の一部や兵器、そして人間も少なくない数が蒸発している。

 

「…………宮藤」

 

 バルクホルンは後ろの基地に一瞬だけ見る。

 妹分? みたいに思っている芳佳が心配だ。

 芳佳はまだ、出撃をしていない。

 ならば、まだ基地の中にいるはずである。

 奇襲による混乱のせいで出撃が出来ないのかもしれない。

 さらに悪く考えると最初の光線で負傷したのかもしれない。

 もしかしたら…………………………「無事であってくれ」とバルクホルンはとにかく祈るしかなかった。

 

「あぶない!」

 

 誰かが叫んだ、それは予知能力を持つエイラか、指揮しているミーナか、たまたま近くにいただけの誰かそれは突然のことで分からない。

 ただ、自分の後ろをとてつもない速度で何かが駆け抜けていった。その何かは見覚えが少しだけある赤い戦闘機のように見えたが、見えるやいなや、突風に襲われて彼女はバランスを失った。

 姿勢を立て直そうとする彼女の後ろをまた二つの影が通り抜けていき、そして、また同様に突風に襲われバランスをさらに崩した。

 

「みなさん、退いてください! 理由は後で説明しますから」

 

 遅れて通信機から、聞き覚えのない声がした。

「おそい」バランスを崩されて姿勢を整えながら落ちていくバルクホルンは叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

「改めて見るが、あんなメカで飛ぶなんて魔法って物理法則もあったもんじゃねぇな」

 

 竜馬は一瞬ですれ違って飛んでいた魔女と呼ばれているらしい少女達を振り返り、そして向き直って敵に睨むように睨む。

 

「百鬼の残党がなぜここまで…………」

 

 怪物――百鬼獣はゲッターを見つけると威嚇するように吠えた。

 咆哮は地上の木々や水辺が震え、あたりを照らす炎が猛り、周りを飛ぶ少女たちが数人吹き飛ばされる。口腔からは狂犬のように湯気を出しながら大量の唾液地面に滴り落ちる。唾液が付いた木々が腐り溶ける。

 

「メカザウルスに近い感じがするな」

 

 百鬼獣は自ら口中に手を押しこむと手品のように棒状のものが現れそれを強引に引っ張り上げる。緑色の体液と涎にまみれた棒状のものは取り出し終えた途端に槍へと形を変え、その穂先をゲッターに向ける。

 

「こっちも行くぜ!」

 

 ゲッターの肩から棒状のものが飛び出す。

 これもまた長くゲッターの体長に近い長さでどこに収容していたのかとこの光景を見ていた者は思う。その棒状のものから布状の何かがくるまっており、旗のように広がる。

 ――――――――だが、これは旗ではない。

 

「ゲッタートマホーク!」

 

 もはや、ゲッターの大きさと比べてもハルバードと言ってもいい武器を構えて百鬼獣に向ける。

 それと、同時に百鬼獣は口から濃い緑色の火球を吐き出す。

 

「ゲッターをなめるな!」

 

 トマホークでその火球を斬り裂く同時に火球は破裂し炎と煙にゲッターは包まれる。だが、ゲッターに目立った損傷はなくそれどころか斧を振り下げたまますかさずに進んでいた、今度はトマホークを振り上げるが百鬼獣はすかさず槍を振り上げぶつかり合う。

 巨大な斧と槍から爆発のような火の粉と黒い雨の鉄粉が飛び、衝撃が森や建物を揺らし、周りに飛んでいた物体を吹き飛ばした。

 そして、百鬼獣は反動を利用して距離を開けなおす。

 逃すまいとゲッターは空いている左手を敵に向ける、真ゲッターの腕に集まったエネルギーが煌々と輝く針のようなビームを発射。 それを迎撃戦と敵は火球を連続的に放つ。 火球はビームとぶつかると炸裂し生じた複数の爆発と爆炎でビームを減衰される。

 その轟音を合図に百鬼獣は体液をあたりにまき散らしながら更に距離を開ける。

 だが、百鬼獣は着地と同時にトマホークと打ち合った槍は砕け、その域尾で右肩はちぎれかけ、防ぎきれなかったビームで左わき腹には小さくない風穴が開いており、距離を開けるために支払った代償は大きさを物語っていた。

 

「そろそろ、終わりが近そうだな。それに――――早めに終わらせたほうがいいみたいだな」

 

 後ろを見ると先ほどまでいた基地がある。黒煙が上がっているが、三分の二はまだ無事で、相当な数の人間まだ残されているはずだ。直前まで話していた宮藤芳佳もまだ取り残されているかもしれない。そう考えるとこれ以上被害を出すのはできるだけ避けたいところである。後ろに下がれば、それだけ戦闘に巻き込むことになり、攻撃を避ければまた攻撃をうけるかもしれない。

 

「おっなんだ?」

 

 ゲッターに気を囚われていた敵の目に弾丸と砲弾が当たり爆炎が昇る。

 その射線の元には飛んでいる魔女とは履帯が付いた別の形機械を脚に装備した魔女が数人、小隊規模の地上にいる魔女彼女たちが攻撃したもので、その魔女たちは百鬼獣を睨みまだ攻撃を目へ続ける。

 彼女たちの攻撃は大したダメージがあったわけではないのだが、ほんの少し、だが確実に意識がゲッターから逸れた。竜馬はそれを見逃さずに一気にゲッターを詰め寄せる。真ゲッターはトマホークを構えながら前腕部に付けられている刃物、レザーを展開する。

 

「くらえ!」

 

 ただ、ゲッターは百鬼獣とすれ違っただけ。普通の人間の目にはそう見えるであろう。

 だが、歴戦の強者や魔女の目にはトマホークとレザーによって暴力的な刃の嵐溶かしたゲッターが百鬼獣を切り裂いたのが見えた。体中に切り傷が走り百鬼獣の喉元を切り裂き、百鬼獣は文字通り首の皮一枚つながった状態となり。

 後頭部と背中とくっ付くようにぶら下がっている。

 あちらこちらに破片や部品が弾き飛ばされ木や地面を粉砕し小規模なクレーターを作る。

 周りを飛んでいた少女たちも回避するなり、シールドでその破片を弾いていた。

 だが、百鬼獣はまだ、生きている。崩壊しそうな体で真ゲッターに怨念の力だけでも抱きつく。

 

「道連れにする気か? 甘え」

 

 ゲッターは一回り大きいはずの百鬼獣の太い腕を腕力だけで押しのけ。

 腕を持ったまま腹に右足で押すと、百鬼獣の腕が肉と骨が軋む音を出し、引きちぎれる。

 そのまま、バランスを崩して膝をついた百鬼獣をゲッターは見下ろす。

 

「トドメだ!」

 

 正拳が百鬼獣の胸に舌から突き刺さり、その衝撃により百鬼獣は胸と背中に通じる大穴を開けながら吹っ飛ぶ。その勢いは凄まじく地上から数百、千メートルの高さまで到達してもまだまた勢いがとまらない。

 ゲッターの腹部が割れそこから緑色の放電をバチバチと鳴らしながら、ビーム発振器が露出する。

 

「ゲッタービーム!!」

 

 先ほどまでゲッターのビームの数倍は太いビームが空中の百機獣に照射。

 一瞬で空気が熱されて暴風を生み出し、地面や木々を揺らし、空の黒煙を散らせながらビームは百鬼獣を飲み込む一瞬だけ黒い影が見えるがそれも消え去る。

 それは百鬼獣が瞬時に跡形もなく蒸発し今度こそ完全に倒されたことを証明していた。

 

「こいつらは本当に百鬼帝国の残党なだけなんだろうか?」

 

 竜馬はゲッターの足元で細動している百機獣の残った残骸を踏み抜きつぶやいた。

 

「ん?」

 

 モニターに一人の少女が映っていた、先ほどの百鬼獣にやられたのかは分からないがその少女は少しふらついている。自分の命を守るためもあるがこの基地の人達を助けるためにゲッターで出撃したのからこのまま目の前で墜落されても目覚めが悪い。竜馬は急いでコクピットハッチを開ける。

 

「大丈夫か? …………ん? なにいってんだ? 英語かドイツ語かイタリア語か?」

 

 「逃げ出していたのか?」と半ば世界共通語になっている彼女はブリタニア語、竜馬の世界で言う英語で言っていた。だが、竜馬も学校の教育はもちろん、ゲッターパイロットになった後にも他国と関わるかもしれないからということで英語を学んだことはあるのだがかなりぎこちないしゃべり方しかできず、聞き取るのも同レベルである。

 だから、急に英語で言われたそれは彼女の言葉は竜馬にはわからなかった。

 彼女はその返事と共に竜馬の腕を掴んだ。それは目の前の少女からは、予想もできない怪力が込められていた。竜馬は格闘家として様々な相手と戦い、さらにゲッターロボのパイロットとして怪物と呼ばれるようなものと戦ってきていた。

 その経験から目の前の少女の力の力は明らかに現実離れしていることを悟る。と、その経験は同時に少女の警戒はこちらに対して敵意よりも恐怖などの物が混じっていることに気づかせた。

 

「これも、魔法かよ。安心しろ。何もしねえよ」

 

 ゲッターにトマホークを格納し、方角は基地へと、高度は木々に当たらない程度の地上すれすれを飛行しながらゆっくりと向かっていく。基地が近づくたびに少女の表情に少し安心が見えてくるのが竜馬は感じた。

 

「基地に戻るぞ……って、おい!」

 

 握っていた手から力が失せ、少女が気を失い竜馬にもたれかかった。極度の疲労のためか、どこか体を痛めていたのかは詳しくは判断できないが、命には別状はないことは武道家やこれまでの戦いによる経験によって判断できた。

 

「むっ! これは!!」

 

 竜馬の視線は少女に奪われていた。

 彼女は西洋人である。もちろん、竜馬は西洋人を見たことがないわけではないが見慣れているわけではない。だが、そんな竜馬の目で見ても彼女は間違いなく美少女、もしかしたら年齢は美女と言ったほうがいいのかもしれないが、かなりの美人であることは確かだ。

 そんな美人の下半身が…………………………………………………………

 そういえば、芳佳も少し似たような格好をしていたが、水泳の授業か、もしかしたらパイロットスーツの上になにか着ているだけかと思っていたのだが。この少女の下半身は間違いなく――――

 

「あっ」

 

 鼻血がぽたりと膝元に垂れて正気に戻り、鼻を擦って血を拭う。

 同時に周りにさらに他の誰かが近づいてきているのを感じ取っていた。

 

 

 だが、流竜馬は知らない、遥かな時空でさらなる悪意が牙を剥いていることを――――

 

 

 

 

 

 

 

 何も存在するはずのない、何も存在してはいけないまるで死の世界に唯一浮かんでいる存在があった。

 ――――兵どもが夢の跡、そんな言葉が浮かぶかつて地球侵略の夢に敗れて砕けた百鬼帝国要塞の一部それが、悪の根城だ。悪鬼達は何者のを侵入を拒む時空という壁を超えそこからその手に世界を掴み取ろうとのばそうとしていた。

 

「そうか……やられてしまったか」

 

 そう呟く小柄の老人の目の前には闇を煌々と紅い光で照らしている宝石があった。

 その紅い宝石の前には大柄の男と小柄の車いすの老人が佇んでいた。

 

「ですが、面白いサンプルをいろいろ回収できました」

 

 大柄な男――――マクドナルドは不気味に微笑んだ。その背後には人が二、三人分入るようなコンテナがあり、中で何かが蠢くような音がしていた。

 そして、小柄な老人――グラーもマクドナルドとそのコンテナを見た後で邪悪に微笑む。

 そのほほ笑みは部屋の中央で特殊な処理を施された怪しく赤く輝く宝石に向けられていた。

 

「どうやら、あの世界の人類にもいくらか解析ができているようです」

「ほー。だが、あの世界の技術レベルでは参考にできるのか?」

 

 グラーは顎をさすりながら、宝石を一瞥する。たしかに、あの世界の技術レベルは独自のものがあるが基礎を考えると高くなく、かつて侵略しようとしていた世界のほうが数十年先にあり、グラー達は更にその先に行っている。

 だが、目の前の宝石に関わるある技術においてはグラーたちにはまだ発見したばかりで基礎もほぼない。基礎があることによる独特の発想や基礎から一歩進んだ応用などは一から研究するのには時間がかかることが予想される。数秒目を軽く瞑ってマクドナルドを見つめなおす。

 

「…………まあ、データはデータ。あったほうがいい」

「ちょうどくすぶっている奴らもいるようで…………」

「そういう人間ほどつけ込みやすい…………」

「ええ、一人目は終わりました。そいつから元に…………」

「仕事が速い…………偉大なるあの方もお喜びになっているだろう」

 

 彼らの口元が歪む。鋭利な刃のような牙が露出し、その姿は地獄に住み人間の悲鳴と怨念を好む醜悪な悪鬼という言葉がふさわしい。

 

「百鬼ブゥラァァァァッイ!」

 

 地獄の悪鬼たちの今は亡きかつての君主の名を叫んだ。

 だが、その叫びに応えるものはいない。

 虚しく赤く輝く部屋に響き渡った。

 

 世界はまだ気づいていない、睨む悪鬼な眼差しを――――

 




腕からビームはマイナーですがゲームゲッターロボ大決戦のネタを挟まさせていただきました。
そのゲームでしか使えないのにマップ兵器バンザイなゲーム仕様なため…………


次回からちょっとしばらくは坂本さんとむこうの世界のターン


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四話

 流竜馬は溜息をつく。

 

 あの時、竜馬は見張りの上着を着ていたことや百鬼獣に注意がひかれていたこともあり、ゲッターが置かれていると聞いたハンガーまで誰にも止められることがなく辿り着くことができた。そこで難なくゲットマシンを見つけたがそこにはさすがに人がいた。そこでどうにかゲットマシンにまで近づこうと考えたところで少女と男が竜馬を見つけて近づかれてしまった。技術者は数人ほどなんどかゲッターのことを聞きに来たことがあり、二人の顔も見覚えがあったが声をかけられたことで焦りを感じてそれに脇目を振らずに突破した。

 後ろから「せめてデーターだけでも」、「無線遠隔爆破」などの声が聞こえたが、それを耳に入れる余裕もなく突きって何とか乗ることが出来たのだが、もっと聞いておけばよかったと今になって後悔していた。

 

「この炉心エネルギー原理はなんだ」

「宇宙でも使えるのか?」

「耐圧限界は?」

「魔力がなんで使われていない?」

「魔女じゃないの?」

「他の形態はどう?」

「こんな兵器がいっぱいあるのか」

「ビームの開発者は?」

「この発振器はどこ製?」

「このエンジンはロケット?」

「細な原理は違うけどこのロケットエンジンはどこから?」

「この斧はどうなっている?」

「この金属はどうやって製造法で?」

「この機械はなんだ? 無線機じゃない…………」

「敷島って製造会社のこと?」

 

 

「だから、日本語じゃなかった扶桑語で……一度に言われてもわからないって。…………あっ敷島は早乙女研究所の職員――」

 

 現在、竜馬は半壊している基地の中で質問攻めにあっている。この基地に来た初日や次の日などしばらく同じようなことを聞かれたのだが真ゲッターを戦闘で動かした後だからまた、再燃したのだろう。

 だが、竜馬は残念ながら技術者ではなくパイロットである。簡単な整備はできるものの、詳しい原理や構造は詳細となると全くわかっていないにも等しい。機械などについてはここ数日でここにいる技術者達は解析して竜馬より詳しくなっているであろう。だが、技術者の性で尋ねずに入られないらしい。

 

「お、おれはいちぱいろっとにすぎないからうごかすことなら…………」

 

 竜馬はしどろもどろになりながら技術者の質問に対応しようと、てんやわんやになっていた。

 

 

 その、竜馬の姿を遠くから見ている少女たちがいた。その中にあの日竜馬の近くにいた芳佳とゲッターが間近を通過したのを見たバルクホルンがいた。

 

「宮藤さん、バルクホルン大尉、どう思う?」

 

 リーダーのミーナが竜馬から二人へ眼差しを向けて尋ねた。

 この二人がおそらく自分よりも流竜馬やゲッターについて知っているであろうからだ。

 

「無茶苦茶な人だと思いますが。悪い人でないと思いますよ」

 

 芳佳は負傷した人間を心配していたことと、その直後に話も聞かずに勝手にゲッターに乗り込んだとことを思い出しながら言った。でも、よくよく考えて見れば自分たちも相当無茶なことを何度もやったなとふっと考えた。

 

「直接戦いを見たが確かにすさまじい性能だった。死にかけたが」

 

 バルクホルンはゲッターの戦闘の様子を思い出しながら語り、あの時のゲットマシンなるものに撥ねられかけたことを思い出していた。

 同時にこれの量産できればこれからの戦いは楽になるかもしれないが、竜馬が自分を運んだ時に鼻血を垂らしていたらしいことを考えるともしかしたら、負担が酷いものかもしれないと考えていた。

 

「マロニーみたいなのがいたら、大変だっただろうな…………」

 

 トレヴァー・マロニー元ブリタニア空軍大将

 ウィッチの存在を快く思っていないものは世の中少なからずおり、軍内も例外ではなく。彼はその筆頭みたいな軍人であり、また、世界の軍事の主導権をも自国に握ろそうとも考えていた野心家でもあった。そのため、ネウロイの技術を基にウォーロックという兵器を秘密裏に作りだした。

 そのことで発覚を恐れるあまりに焦りながら邪魔になった501を解散へと追い込み、さらに未完成のウォーロックを運用、ウォーロックは多大な戦果をあげるものの暴走をした事件を引き起こし、失脚した。

 ただ、これらは彼女達、501や一般からの目線の話で、ネウロイへの新しい対抗手段を得るために戦力の統一を更に強くしたかった、年端の行かない女の子が戦場に行くのが見てられなかった義憤などの彼なりに人類のために行った行動という噂も出回っており、彼を擁護するものもいなくはないが、それが真実がただの噂かは本人しか知らないことである。

 だが、事件の結果として彼は失脚で軍を半ば追い出され、それからは多かれ少なかれやましいところがある者や野心を持つと言われているものはおとなしくしているようである。

 

「それが…………ウォーロック開発に関わった数名が先日から行方不明になったっていう知らせが入ったわ」

「えっ!?」

 

 知らせによると、失踪したのはオーペレーションマルスの後らしい。

あれだけの事件を起こした以上は首謀者のマロニーほどでないにしても監視の目もあったはずなのだが。

まるで煙のようにウォーロックの件で失脚した技術者や研究者も同様の失踪をして消えてしまったということらしい。

 マロニーが裏で復権を狙っている、テロリストに回った、集団亡命などの憶測が飛び回っているが。マロニー本人がそのことを聞いて驚いており、その様子を見た心理学者や感知系の魔女も嘘をついていないと判断した。

 結局は真実はわからないままで、マロニーやその一派に恨まれていてもおかしくはない501の代表のミーナにも警戒を忘れないようにその連絡が来たらしい。

 

「こっちは…………美緒のこともあるのに」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 坂本美緒はベッドの上で仰向けになりながら天井の蛍光灯を眺めていた。その片手にはよう見終えた本を握りしめていた。

 

「信じられないがこの世界はやはり違う世界なのか」

 

 

 坂本美緒は神隼人から手渡されたこの世界について資料に驚いていた。

 その資料の幾つかは学校の教科書なども入っており、この世界のこの国の人間であれば美緒ぐらいの年齢ならば誰でも知っているようなことも多い。だが、別の世界から来た彼女からしてみれば、驚かされるような内容であった。

 この世界の西暦が美緒の世界のものに当てはめるていいのかは分からないが当てはめて考えてみると、数十年ほど先の未来にあたる。

 この世界の自分が生きていた時期に戦争が起きていたことは一緒であるが、大きく異なることはネウロイという人外ではなく、同胞であるはずの人間同士で戦っていたこと。いつか、もしもネウロイがいなければ人類同士で戦っていたであろうとは思ったこともある。それは美緒以外にも多くの人が思っていたことでもあるが、理由や経緯などの前提が自分が知っている世界と多く違うかも知れないが、この世界では起こってしまったということなのかもしれない。

 他にもこの世界では神君とも言われている織田信長公が志半ばで討たれたことが大きな違いであろう。

 さらにこの研究所が美緒について、この世界にもそんざいするかなどの可能性を考えて調べているらしいが、おそらく時間をかけてもわからないままだろう。

 美緒自身も知人のことを調べようとして、大戦中などの資料を調べたが似たような名前のパイロットは何人か見つけたものの全くの別人であった。

 歴史以外にも異なるものもあり、この世界と自分の世界の地図を見るとおおまかな大陸の配置は似ているが、形が異なっていた。

 それに加えて国も大きく変わっている。カールスラントはドイツと表記され東西に分かれ、オラーシャがソビエト連邦、ロマーニャがイタリア、ガリアがフランス、ブリタニアがイギリス、スオムスがフィンランド、リベリオンがアメリカ。

 そして、扶桑皇国のあるべきところには日本と書かれていた。

 

 

 だが、「無駄にいろいろ考えても仕方ない」と本を棚に戻してベットから立ち上がる。

 

「ふん」

 

 美緒が淡い光りに包まれてその頭部に使い魔の耳が、臀部にはしっぽが現れる。

 この世界と彼女の世界で大きな違いの一つには魔力という概念があるかないである。彼女の世界では遥かな昔から魔力は常識的なものでそれを操る魔女は歴史に大きく関わってきた。

 だが、この世界では伝承としてあるだけで、まるで実在しないかのような扱いである。

 坂本美緒はこの世界では存在しないはずの魔力を使うことができる者、魔女である。彼女は魔女としてのピークを既に超えていて、もはやほとんど力は残されていないものの、多少はまだ、使うことだけは出来る。彼女と一緒に持ち込まれた装置も通常通りに動作するらしくエーテル、もしくはそれに似たような働きをするものが存在しているらしい。

 そして、この世界に来てから数日で実験などで今のように魔力を使えるか試したことは何度かある。年齢による魔力の減衰で戦い続け、前の作戦による反動のために魔力はもうほぼ使えないとも考えていたが、実際にはこの世界で目が覚めてから二、三日はまともに使えなかった程度で実戦にかつてほど魔女として出られる程にないにせよ今はある程度は回復している。心なしか違和感があるのだが、この世界の影響によるものなのか原因を確かめるすべはない。

 

「っく…………」

 

 美緒は疲労に襲われるとともに使い魔の耳と尾は消える。ベッドの横に備え付けられている鏡に映される息切れしている自分の姿を見て不甲斐なさと無力感を実感しベッドのシーツを握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 世界有数の火山大国である日本。百を超える火山に浅間山という活火山がある。そこに世界有数の砦の早乙女研究所という施設が存在し、そこには多くの職員が在籍している。

 そのため、近くには最低限だが数多くの施設が充実していてその中の一つに野球場もある。恐竜帝国や百鬼帝国との本格的な戦いが終わった現在では最近使われることも多くなっているもののさすがに朝から利用するものはいることは殆ど無い。その空きを狙って弁慶は早乙女博士の息子の元気をキャッチボールに誘っていた。

 弁慶がキャッチボールに誘ったのも最近元気が心なしか落ち込んでいることを心配したからだ。原因は元気とも中の良かった竜馬のことだろう。竜馬が行方不明になったことがやはりショックが大きいのだろう。実の兄や弁慶の前任者の巴武蔵や研究所職員、数多くの人との死別は経験しているが、それは戦いの中でのことで幾らかは覚悟はできていたと思われるが、今回はその戦いも終わり平和になった矢先のことで心の準備が出来なかったりしているのかもしれない。

 

「弁慶さん! あれ!」

 

 久しぶりに元気の大きめの声を聞いたような気がした。 

ただ、その声は驚きが混じっていた。

 

「なんだ、元気? そんなに珍しいものでもみ――――た、た、た、た、た!」

 

 元気が指をさす方向にその珍しいもの存在した。

 先日、保護された女、坂本美緒。朝の鍛錬のためか木刀で素振りをしていた。

弁慶は剣術に明るいわけではないが、その素人目に見ても美緒の素振りの姿は様になっている。同時に今までの戦闘の経験からかなりの手練だというのも感じ取った。

ただ、弁慶と元気が驚いているのは美緒がここにいることや剣術の腕前ではない。

 

「おや?」

 

 どうやら、美緒の方も弁慶達に気付いたらしい。

 当然かのように素振りをやめて、弁慶達の方に近づく。

 それを弁慶達はただ、呆然と見ている

 

「そうだ、あの教本を返したいのだが。ん? どうした?」

「え、あああ!」

 

 弁慶は現実に引き戻されるとすぐにさすがに少年の元気には刺激が強すぎる目の前の光景から彼を守るためにその目を手で隠し返事をした。

 

「もういいのか?」

「ああ、全部目を通させてもらった。ありがとう」

 

 弁慶はこの世界の資料として渡した本。

これらの本はミチルが中高生の時に使っていた日本史、世界史、地理などの教科書や教材である。

弁慶も同様のものに目を通したこともあるが、ただの学校で使われる教材であるが、この坂本美緒はまるで食い入るように真剣に読んでいた。隼人によるとこの美緒は「別の世界から来た」と言っていた。自分のことを「体育会系たから」とごまかした弁慶には細かい理屈まではよくわからないが感覚で明らかにオカシイことにも気づいている。最初に発見された状況も謎の軍艦と一緒の上に格好も水着の上に昔の軍服と靴代わりのおかしな機械。

 

 極めつけはズボンを履かずに外に出て行ったり。

 ズボンを履かずに施設内にいたり。

 ズボンを履かずに部屋から出ていたり。

 今の姿もそれらと同様に水着に上着を軽く羽織ったとにかく刺激が強い格好なのだ。

 

「そういえば、午後からゲッターというものにのせてもらえるらしいが」

「そ、そうだな、そんじょそこらの乗り物の比じゃないから吐かないようにな」

 

 ゲッターに乗せるのは敷島博士の発案で、魔力というものに敷島は興味抱いている。

そのために、ここ数日は美緒の魔力を使用していくつかの実験を行っていて、

美緒が持ち込んだ飛行脚や大和の魔力関係の装置を作動のメカニズムを研究している。

根本的な技術が違うものの着実に解析が進んでいる。ゲッター線と魔力が反応することが判明しているが、その仕組みがいまいちとつかめていない。

この事件はゲッター線によるものだけではないなんらかのものが絡んでいると早乙女博士は考えているようで根を詰めていて、打開することにつながればという試みでもあった。

 

「心配いらんさ。鍛錬は積んでいるつもりだ。そう簡単にへばらん」

「では、昼前に…………」

「ゲヘヘへェェ」

 

 弁慶の手にかすかな振動と生ぬるい感触がした。視線を下に向けると元気が鼻の下を伸ばして、鼻血を垂らしていたのだ。指もよく見ると元気がずらしていて全く目が隠れていずに見えていた

 

「あっ! 鼻血が出ているぞ? ぶつけたか?」

「こら! 見ていたのか」

「弁慶さんもそんな鼻血出しながら入っても説得力ないよ」

 

 はっと弁慶は鼻を触ると何も付いていない。嘘でからかわれたということに気付いた。そもそも真下である程度拘束されていた元気が弁慶の顔を見ること自体が困難なのだ。

 

「こんにゃろ」

「どうした? 大丈夫か?」

 

 じゃれあう二人を見ながら当の美緒は首を傾げていた。本人にとってはいつもの格好であり、故郷の扶桑でも珍しいという格好でもない。だが、今いる世界、日本では珍しい格好でしかも、いささか青少年には刺激が強すぎる姿であった。

 

「そこにいたのか失礼する」

 

 声をかけたのは背の高い神隼人という男と妖怪のような敷島という老人だ。彼らはこの早乙女研究所に所属しているらしい。この早乙女研究所は宇宙開発をしていて、その宇宙開発の研究をしているらしいのだが、彼らにはそのような単なる科学者としての雰囲気はしない、どこか自分と同じ軍人やそれらに携わる者に近い匂いを彼女の嗅覚は捉えていた。確証はないものの油断できないと心に置いていた。

 

「今日も実験に協力してもらう」

「ああ、ただで居候する気もないさ」

 

 ここ最近、魔力に関する実験をこの男たちと行っている。

 基本的には魔法使用の様子を見せたり、魔力についての話をしている。

 他の世界の母国のような国と言えど、機密など問題などがるかもしれないが美緒は自分の世界の一般常識程度のことしか情報を教えていないし、それ以上のことを言われても専門の分野でないことと相手は概念すらない状態のために説明のしようがない。

 その状態のために彼女の世界の最先端技術のの塊とも言える彼女の飛行脚や大和を今、この時にも調べられているのは分かっているが彼らが順調に進んでいるかは分からない。



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五話

「ここは…………」

 

 男は半分覚醒した頭を掻きながら、ぼやけた視界の中で薄暗いあたりを見渡した。年齢も年齢のために近眼や老眼などに全く縁がないわけではないが。

 目の前に映る光景は明らかに異常であった。自分が横になっている簡易なベット、金属的な壁と床はまったく見覚えがないもの。

それはまだいい、問題は――――部屋の窓ガラスの向こう遠くで浮かぶ赤く輝く鉱石。

 ネウロイのコア。 

 見間違えるはずがない、男がかつて研究していたものだ。

 同時に男の思い出したくない過去に関わっているものであった。

 

「アイカキサシアあ――――言葉はこれでいいか? 英語は通じるか? ブリタニア語といった方がいいでしょうか? この言葉をしゃべるのはずいぶん久しぶりです」

 

 男が声がする方を見ると車椅子の老人とその後ろに白衣のお柄な男が薄暗い闇の中から姿があった。

 

「何者だ!?」

「はじめまして。マクドナルドと申します。こちらはグラー博士。あなたはマロニー元空軍大将とともにウォーロック研究をしていたお方であっていますか?」

 

 目の前のマクドナルドと名乗るコーカソイドの大柄の男は白衣を着ながら淡々と尋ねる、そしてそれが尋ねられた男にとってはかえってこの空間の異様さを引き立てていた。

 大柄な男のマクドナルドが小柄な老人のグラーの乗っている車椅子を押していたが立場の力関係はこの老人のほうが上であることが直感で気付く。

 

「なんだここは?」

「何処でしょうね」

「ふざけるな」

 

 マクドナルド首をすくめて手を振って、グラーは手に持った板状の装置を操作すると

 映写機らしきものから光が出て空中に映像が投影された

 マルス作戦、ヤマトのネウロイ化、それを護衛している501の活躍。

 男の胸の奥に沸々となにかが沸々と確実に湧いて来ていた。

 

「ば、バカな!」

「映像と比べれば情報量は少ないですがこれを…………あなたの世界の新聞ですよ?」

 

 マクドナルドが紙の束を投げ渡す。マクドナルドが言うように新聞であった。

 そこに書かれていたのは自分――いや、自分達を破滅に陥れた魔女たちの活躍。

 他人から見たら逆恨みかも知れないが「本来は自分たちがそこにいるべきだったはずだ。そうでなくてはおかしい」っと男はそう思わずにいられなかった。

 新聞を握る腕に力が入り指が新聞を突き破り、そのまま新聞を破りさり、グチャグチャに丸めるて床に叩きつける。

 その様子をマクドナルドとグラーは口角を吊り上げて眺めている。

 

「あなたが望むならば協力しますよ」

 

 白衣の男達はそれぞれ手に見たこともない機械を手に持ちベッドの周りを囲んでいた。得体の知れない薬が入っている注射器、板状の機械はしきりに放電し、工事用にしか思えないような電動ドリル、赤熱化した棒状の機械を持つ男たちの目の奥には明らかに悪意を孕んでいた。

 

「まあ、拒否権はありませんが……でも、悪魔ならぬ鬼に魂を売っても叶えたいことでしょう?」

 

 白衣の男達の中央に立つマクドナルドとグラーの額には悪魔以外の何物でもない禍々しい角が皮膚を突き破りながら生え、獰猛な牙が口から覗いていた。

 

「悪魔……」

「鬼ですよ……近いものですが」

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 現在、早乙女研究所のロボットの格納庫に二体のゲッターロボが立て揃えられている。その二体はかつて日本を守っていた初代ゲッターロボとゲッターロボGである。

 初代ゲッターロボの方は先日までは前線を退き浅間山公園の博物館に展示されていたものだが、先日の恐竜帝国残党の襲撃や謎の敵によって蘇生されたブライの強襲、そして、極めつけに強力な戦力である真ゲッターロボの喪失により、現役復帰を余儀なくされていた。

 

 今日はこの初代ゲッターロボに異邦人が乗ることになっている。

 その初代ゲッターロボの顔を老人、敷島と若い男、神隼人が足元から見上げていた。

 

「敷島博士は魔力とゲッター線をどう見ます?」

「影響し合う性質がある程度しか分からん…………早乙女がいればもっと、楽なんじゃがなあ」

 

 敷島は落胆している顔で格納庫のもう何もない場所を見やる。そこはかつて真ゲッターロボが置かれていたスペースであったのだが、行方不明になった今では空白となっている。

 捜索は続けられているものの、このまま時間がかかるようであれば真ゲッターの試作機だったものを代わりにするという案も出ているのだが、その案に最近引きこもりがちの早乙女博士は承認をしていない。

 真ゲッターの前に作られた試作品であるために完成は一応しているものの本格的に動かせるよ王にするためにはゲッター線の権威である早乙女の力が必要不可欠なのだ。

 敷島はここ数日に間、早乙女博士の顔を見ていないが代わりに電話やコンピューターなどの通信である程度は情報のやりとりをしている。やはりその早乙女博士は忙しく、なかなか手が空かない。

 その間でも魔力を調べるようにと早乙女も言っているのだが。具体的な意見が出ないことを考えると、どんな情報でも欲しいからということで何もわからない手探りの状態だということでもあった。

 スポンサーである国やその他の機関も新たな敵の仕業である可能性も考えているために早乙女の方針に対しては口を出さないでいた。

 もちろん、戦力になる真ゲッターが惜しいのもあるためもあるようだが早乙女博士にとっては好都合でもあった。

 

「なんにしても、それを調べるための実験も兼ねて頼むぞ。ワシはヤマトの改造…………調査に戻る」

 鼻歌まじりのスキップで一二歩程度進んだところで敷島は踵を返す。

「ついでに魔眼についても聞いていてくれ」

 

 魔女という言葉から魔術や魔法という言葉を連想する人も多い。

 そして、魔女である美緒は魔法が使える。その魔法が右眼の「魔眼」と呼ばれる彼女の固有のもので隼人の知っているもので平たく表現すると遠くのものが見える千里眼と呼ばれるようなものである。

 早乙女研究所でも実験をすでに何度かしていて、それの存在を異常な視力などを確認することで認識している。彼女の普段付けている眼帯は見えすぎる目の負荷を押さえるためのものでもある。美緒によって確かに彼女の世界には「魔法」と「魔力」と呼ばれる隼人たちには未知が存在することが証明はされた。

隼人も竜馬のことが気になるが美緒を調べることを知ることも手がかりになると考えてもいた。それは美緒が現れたときに計測された未知のエネルギー、それが魔力なのかそれとも、彼女が言うネウロイによるものなのか、それらと全く関係ないものなのかは今はわからない。

 だが、それすらもわからないからこそ調べる必要がある。

 ただそれだけのことでも今はそれをやるしかなかった。

 

 

 

「この世界の服はやっぱり、違和感があるな」

 

 その声と共に坂本美緒が姿を表した。

 研究所特製の強化服を身につけ専用のヘルメットを脇に抱えていた。

 先日の真ゲッターを起動させた時、乗り慣れた隼人、弁慶でも軽くはない負担を強いられた。そのために少しでも負荷を軽減するための一環としてパイロットスーツの見直しが進められ今までのゲッターのデーターによりこの強化服が作られ、試作のものを美緒は着せられていた。

 サイズは極端な体型でもなければ軽く調節するだけでだれにでも合わせることができ、従来の耐Gスーツとしての機能はもちろん機体から降りることも想定しての高度な防弾防刃機能や防毒、耐火、耐熱、耐寒、他にもさまざまな機能もある。

 だが、そのスーツは体のラインがわかりやすく、美緒もその例外ではなかった。

 

「こっちが落ち着かねえよ」っと弁慶が思わずつぶやき、美緒と視線があい。

「はっはっはっ、気にするな私も気にしないから」と朗らかに笑いながら返す

「だから、こっちの問題もあるんだって」という反論を今度は弁慶が心のなかで押しとどめた。

 

 今回の実験は美緒と大和が出現した地点まで向かうこととであった。

 それは美緒があの地点に行けば気付くことや魔眼から見えるものがあるかないか、他にも増幅器の実験やそれによるゲッター線と魔力の関係、ゲッターロボに耐えられるかなどの多くの実験も兼ねている。

 

「操縦は俺がやる。弁慶もカバーを頼むぞ」

「やばいと思ったらすぐ言えよ」

「大丈夫だ。やわな鍛え方はしていないし。魔女に不可能はない」

 

 美緒はゲッターの頭部へ、隼人はゲッターの腹部へ、弁慶はゲッターの下半身へとそれぞれのコクピットへ座り込み、隼人は各メーターを確認してから、パネルをそうすることで操縦をジャガー号からでもできるように設定した。

 

『発進をしてください』

「行くぞ!」

 

 初代ゲッターは研究所から発進して赤いマントのゲッターウィングをはためかせて空に飛び出す。反重力機能を利用してゲッターは音の早さを超えてもなおさらに加速しながら上昇している。それでも実機は初めての美緒が乗っているために本来の出力と加速を大分抑えている。

 

『大丈夫か?』

「シミュレーターとやらは何度か試していたが」

 美緒は額の汗を腕で拭うが笑みを思わずこぼす。

「驚かされる暴れ馬だが――――十分覚悟のうちだ」

 

 音速の中で「それにしてもシャーリーはこんな世界を見たのだなあ」っと、美緒は遥かな遠くの場所にいる戦友のことを思い出していた。

 だが、シートに美緒の体が沈み込み、額にまた新たな脂汗が浮いていて、ゲッターの過酷差を実感していた。

 ゲッターロボは技術の粋を集めて作られた従来のロボットを超えるスーパーロボットである。だが、遥か上の技術力を持つ敵との戦闘のために性能を求めすぎた結果が完全に性能を引き出すには常人は愚か軍人でも普通では耐えられない負荷が襲いかかるようなものになってしまっていた。

 兵器として考えると使える者が極小数に限定される兵器は欠陥もいいとこなのだが格上の敵と戦うためには仕方なかったのだ。

 今ゲッターロボに乗っている美緒は元々、軍人である。彼女は最前線でエースとして戦った以上は並の軍人以上に日頃から鍛えている。それはここに来ても怠けず忘れずに続けて鍛えているのだが、その美緒の肉体でもゲッターの負荷は耐えられるようなものではなかった。

 だが、彼女本来の体力に加えて魔女としての力を使うことでゲッターの操縦に理論上は耐えることができる。

 美緒は戦闘に出る魔女としての寿命は既に切れていて、魔力はほぼ残っていないが、この世界に来て十分休んだために体の調子が良くなっていて魔法もほんの少しだが使えるようになっていた。それにやはり居妙な感覚を感じていたのだが魔力をすこしでも使えることになったことは喜ばしいことかもしれない。

 その魔力を活かすために彼女の膝から下には金属の筒が付けらている。これは敷島博士がヤマトや共に回収された飛行脚を解析やコピーで生まれたこの世界初めての魔力増幅ユニットである。

 敷島博士が兵器開発の天才であっても、この世界では未知である魔力についての技術ノウハウは深くはないが外部動力としてゲッターから直接供給されるエネルギーも併用するためか増幅器としては悪くない性能はあった。

 こうして美緒はこのユニットによってなんとかゲッターに耐えうる耐久能力を得ることができていた。

 

 

「あれ――魔眼を頼めるか?」

「了解」

 

 美緒は魔眼の制御装置とも言える眼帯に手を伸ばす。

 その眼帯をずらすとその下から紫色に輝く魔眼が覗く。

 彼女がイーグル号のキャノピーから魔眼で遠くを見渡す。

 魔力を使うたびに足の増幅器がゲッターから流れるエネルギーで稼働し美緒の力を増幅する。

 増幅された力は美緒の体を中心に爛々と輝き、カタカタと記録機、計測機が稼働しているコクピットが光に満たされた。

 

「あれは?」

 

 美緒が目にした場所、ゲッターから数百メートル先の地上に妙な盛り上がりを見せていた。

 所々が火事の後のように木が朽ち、爆撃されたように不自然に大地が盛り上がっていた

 

「お前がくる少し前にここが戦場になったところだ」

「いや、なにかおかしい」

 

 美緒が凝視した地点からまるで逃げるかのように大量の野鳥が飛び去っていた。

 そして、さらにゲッターが近づくたびにその地は急激に盛り上がり。

 

 

 何かが飛び出した。 

 

 

「車ッ!――――あれ!」

「っな!? 百鬼獣か! 全滅したはずなのに」

 

 先日のブライの襲来で大量の百鬼獣が浅間山近くで真ゲッターに撃破された。相手は人類の想像を超えた技術と行動をする百鬼帝国、もしかしたら百鬼帝国の残党が残っていてもおかしくはない。だからこそ戦闘後に早乙女研究所や国の軍によって念入りな調査と回収は行われていた。

 出撃したゲッターや研究所からの記録や人工衛星など、その他もろもろの機関の持つデーターを照らしあわせて全滅したことを確認された。たとえ、あったとしても徹底的に破壊されたスクラップになったパーツが幾つか落ちているかもしれない程度だったはずなのだ。

 

「いや、どこかおかしい」

 

 その、何か――百鬼獣はどこか異質であった。

 ところどころインクをこぼしたような黒シミが点々と有り。不格好で人の形に似ていたが両腕の大きさが吊り合っていない、左腕に至っては二の腕が異常に細長く明らかに肘から先と前とでは長さと太さが咬み合っていない。右足はよく見ると腕の形状をしており、左足に至ってはドリルのような衝角が生えていた。

 今までの百鬼獣はどこかに鬼という意匠があり、不気味な形はあれどどこか機械と生物の間な要素があった。

 だが、目の前のものは雰囲気がまるで異なり不気味な無機質な気配を醸し出している。

 腰も胸部と比べると明らかに細く、胸部も大きな裂傷のようなものがありそれを塞ぐように適当なパーツが雑に張り付いていた。まさに百鬼獣を材料にしてつくられたモザイクかブライの怨念の残りカスが宿ったゾンビのようであった。

 

「まさか、残党が寄せ集めで作ったのか」

「おい、聞こえるか? 百鬼獣が出現を確認。そちらへ一旦帰還する。応戦を頼む。ん?」

 

 弁慶が急いで無線によって研究所に救援を求める。初代ゲッターでは百鬼獣の相手は厳しいが、ゲッターGならばどうにかできる。

 自分たちが出撃している以上はゲッターGを操縦するのは新人であるのだろうが、相手一体ならばこんな死にぞこないのようなものに引けを取るということはないはずである。

 ――――というのが弁慶と隼人の考えであった。だが、救援の返事のように耳を劈くノイズ音が無機質にコクピット内にひびく。

 

「おい――――クソッ! 妨害電波かなにかか」

「おちつけ、研究所からはそこまで離れていない。すぐに異常に気付くはずだ」

「だが、目の前のは待ってくれなさそうだ」

 

 ゲッターロボGは初代ゲッターの10倍の戦闘能力があると言われている。戦闘能力は単純に比較できるようなものではないのだが、それだけの比喩ができるほどの大きい性能差がある。

 それと互角に戦い、時にはゲッターGを圧倒した百鬼獣。死にぞこないのような姿といえどその集合体と初代ゲッターはそれと対峙していた。

 そして、百鬼獣の全身をバネのようにして上空のゲッターに向かって飛びかかる。

 その勢いは数百メートル上空のゲッターへ届くばかりの速度をもってくらい喉笛を喰いちぎらんとばかりに百鬼獣は牙を剥いていた。



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六話

 

 天高く跳躍した百鬼獣は左足の衝角を軸に体をドリルのように回転させながらゲッターへ向け飛び蹴りを繰り出す。

 

「うっ……」

 

 ゲッターウィングが風圧で引っ張られながらも間一髪それを回避し、すれ違いざまにゲッターの拳が百鬼獣の腹部へと打ち込まれて、百鬼獣をそのまま地面へたたき落とすことで距離をとり、同時にゲッタートマホークを取り出す。

 百鬼獣は殴られた状態のまま轟音をだし墜落したもののすぐに立ち上がり、空中のゲッターを睨む。

 

「甘くはないか――――Gが出撃するまで耐え切るぞ。いけるか坂本」

「ああ、気にするな。そっちこそ大丈夫か?」

「……なんとか。下手に操縦桿触るなよ。」

 

 現在、ゲッターの操縦は隼人がジャガー号から操作している。隼人は本来はゲッター2の担当であるが、ゲッター1系統の操縦も竜馬ほどではないが訓練によって習得しており、何度も死線をくぐり抜けた経験もあるので、新入りが束になっても負けないほどはある。

 だが、いくら隼人に実力があっても本来初代では絶対に歯が立たない相手である百鬼獣。

 しかも相手は未知数、絶対に油断できない相手である。

 まず、隼人はこの謎の敵に対してゲッターの肩部に収納されているトマホークを二つ取り出して臨戦態勢を取る。

 

「喰らえ!」

 

 ゲッターはトマホークを全力で叩きつけるように敵めがけて投げる。すさまじい勢いの回転で風切音を轟かせながら敵へと一直線へと向かう。

 

 ――――トマホークブーメラン

 

 ブーメランの名のとおりにゲッタートマホークを敵に投擲する単純な技である。それを隼人は二つ手にしているトマホークの一つで繰り出し、もう一つをもしもの時の盾に残した。

 そして、隼人は自分が本来の分野であるゲッター2で戦う選択肢をとらなかった。

 敵は地上にいて、先ほど攻撃を受けそのまま墜落したことを考えると敵は飛翔能力がない、または空戦向きではないとの判断、下手にゲッター2やゲッター3になるよりはそのまま空戦に向いているゲッター1で対向することを選んだ。ゲッター2で地中に逃げるということも考えたが相手は未知数、高度を下ろした瞬間に先ほどの恐るべき運動能力で狙われかねない。

 そもそも、敵の隙もなく、その隙も作れない下手なタイミングで分離すると合体の瞬間を狙われかねない。

 

「な!?」

 

 予想外のことに隼人は衝撃で受け目を剥く。

トマホークは敵の装甲に浅い切れ目を入れた程度で弾かれただが、その衝撃だけで敵百鬼獣の胴体と胸から上が分断されたのだ。

 隼人は百鬼獣を初代ゲッターで相手にするのは無理だと考えていた。これは隼人にかぎらずに弁慶や早乙女研究所の者、全員がそう考えている。ゲッターGならば対抗できるが、初代ゲッターとゲッターGの戦力は絶望的なまで差があり。先日の恐竜帝国残党によるゲッターG強奪事件でだれもがその身を持って実感した。個体差があれ百鬼獣はそのゲッターGに食いついて充分に対抗しうるだけの性能はある。

 だからこそ、あっさり決着が着くこの光景は明らかにおかしい。

 

「なんだ? こいつは」

「隼人よお。元からボロだったんじゃねえのか?」

 

――――だが、その安堵は裏切られた。

 

「だからあの墜落で…………え!?」

 

百鬼獣のレンズが割れている目が赤く不気味に発光し、幽鬼のようにゆっくり、不気味に立ち上がる。分断されたところがビデオを逆回しにするかのようにハニカム上の何かのよって接着されている。そして、嘲笑うかのようにゲッターに向けて暗闇が広がる口腔を晒して咆哮。

 

「隼人!? 様子がおかしいぞ!」

 

 百鬼獣に切断部にあった染みのよう黒い部分がどんどん侵蝕していく。染みの表面は傷口を覆ったものと同様に細かい六角形のものの集合体のように見え、それがドンドン時間とともに広がっていく。

 

「やはり……ネウロイだ! 同じように傷が少しずつ再生している」

「ネウロイ――――」

 隼人はネウロイという言葉を耳にしたことがる。

早乙女研究所での取り調べで坂本美緒からはネウロイというものの情報は聞き出している。坂本美緒達が戦っていた恐竜帝国や百鬼帝国と異なる人類の敵。コアと呼ばれる多角面体の紅い核を覆うように質金属中心に構成されているらしい異形の化け物。伝承になる遠い昔から美緒の世界に現れて人間を蹂躙し世界を侵略しているという。また、ネウロイに侵略された土地は生物に有害な瘴気と呼ばれるものをまき散らされて死の世界と化すという。

 先日の復活したブライとの戦いせいでこの地は荒れているが、原因が不明の枯れている木々があるという報告があった。さらに回収、調査などの作業で体調を崩したものも少なからずいたという報告があった。有毒な科学物質が百鬼獣の残骸からなにかが漏れているかもしれないという懸念もあったが。

 このネウロイとやらの「瘴気」というものの仕業だったのかもしれない。

 ――――だが、他のことを考えるのは後でいい、今は隼人が考えるべくは目の前のネウロイか百鬼獣かあるいは両方共言える化け物の対処であった。

 

 

 

「まさか、私や大和と一緒にこの世界に来ていたのか」

「くそ! 再生し切る前に一気に畳み掛けるぞ」

 

 ゲッターの腹にエネルギーが集中する。

 

――――ゲッタービーム

 

 いま、この距離でゲッターが使用できるものの中で最大の破壊力のある武器だ。

美緒からはネウロイを倒す術も聞いている。

 ネウロイの本体とでも言え、その中にあるコアを破壊することだ。

だが、ネウロイは再生能力があり、並大抵の破損はすぐに再生するという。

 しかも、相手は百鬼獣と同化しており、その装甲を破って内部のコアを破壊できる望みは薄い。せめて、助けが来るまでの時間を作ることができればとゲッタービームに賭ける。

しかし、「そうはやすやすとさせまい」と敵の周りに赤い光が集まっていた。その光は徐々に口に集中していく

 

『!? あれは――やばいアイツも――――――」

 

 ネウロイからビームが照射される。早打ち勝負は間一髪ゲッターが勝っていた。だが、敵のベースは初代ゲッターを超える百鬼獣、出力では初代ゲッターが勝てる相手ではない。

徐々にジリジリと押し切られていく。

 

「くっ!」

 

隼人が歯を食いしばるが敵のビームは間近に迫る。

 

 そして――――――――

 

 空に爆炎が上がる。

 その中からゲッターロボがゆるいきりもみ回転をしながら地面へと叩き落ちる。

 

 

「――――ッ! 生きているか?」

「俺達…………生きているのか?」

「アイツを見ろ。どうやらまだ再生が不完全のようだ」

 

 敵の頭部が醜く融解している。

 どうやら、ネウロイの能力を持っていてもスクラップからの再生であるために不完全だったためかビームが放たれていた周辺が出力に耐え切れずに溶けそれによって、ゲッターに直撃したビームの威力が削がれてしまったのだろう。

 だが、

 

「っ! 操縦が効かない。損傷のせいか? 弁慶そっちはどうだ?」

「こっちもだ。こんなに脆かったか? 坂本はどうだ」

「動く……こっちは大丈夫だ。分離すればいいのか」

「いや、隙を作らないと危険だ……シミュレーターは使ったことあるな?」

 

 美緒はシミュレーターでゲッターを動かしたことがある。

 新人を育てるためのゲッターロボのシミュレーターが研究所には数大配備されている。

 これのお陰で予備のパイロットを数人確保することが出来、美緒もこれを使わせてもらったことは何度かあり。

 レシプロ機とはいえ戦闘機の操縦経験とベテラン魔女としての実戦経験により基本動作と操縦方法の習得を比較的早くこなした。

 しかし、シミュレーターでは衝撃を再現することは出来なく、直に味わったことはない。

 強化服をもらっているとはいえ、その性能は未だ不完全、使っている人が常人ならばたとえパイロットが四回死んでも機体はまだ動ける程度の性能である。

 

「ああ……まさか、こっちでもネウロイと戦闘をするとはな」

「ああ、すまない」

 

 「もってくれよ」と足元の頼みの綱である増幅器を軽くコツンと叩き、なけなしの魔力を注ぎ込む。落下時に供給が途絶え停止していた増幅器が再稼働をし始め美緒の体に使い魔の尻尾と耳が生え、力が湧き上がる。意を決し美緒は眼帯に触れる。

 現在、魔力が絶対的に足りなく、出来る限り魔力を節約したいところであるのだが、目の前のネウロイを相手に出し惜しみをすることは死につながることを美緒は経験から察知していた。

一撃で戦いを決めるために眼帯を取り外して紫色の瞳で敵を睨む。はるか遠くをも見通す魔眼でネウロイのコアの位置を見抜くために。

 

「コアの位置はあそこか」

 

 コアは百鬼獣の胸の中央に宿され、そこを中心に百鬼獣のわずかに残った骸で体を構成していた。落下の衝撃でも放さずに握っていたトマホークを構え直す。

 だが、その僅かな隙にも崩壊した胴体と自らのビームによって溶けた顔部分の修復をほぼ終えたネウロイは。初手と同様にゲッターに向かい跳躍する。

 今度はゲッターは地上、しかも前回と異なり重力による減衰は少なく距離も近い。

 さらにネウロイとの融合が進んで再生が完全に近づいているためか先ほどよりも力を増した段違いの勢いで突き進む。

 

「――――!」

 

 声にならない叫びとともに突進を受け止めたゲッターの左腕が空中に舞った。

 ゲッターは二転三転と転がりながら後方に飛ばされ森林を壊しながら地面を滑り崖にぶつかり埋まりながらも停止する。衝突の凄まじさを物語るように引きちぎれた腕はひしゃげ、血のようなオイルを撒き散らせながら空中で何百もの破片と化す。

 

 だが、彼女たちは幸運であった。

 速度が変わっているとはいえ一度見た攻撃であり、なんとか対応することができ左腕に当たる程度で済んだこと。

そして、その左腕がちぎれて衝突のエネルギーの大部分が逃げたこと。

 それらの他にも要因はあり、ゲッターの戦闘能力はまだ十分に残されている。

 

「お………本、し…………気……も…」

 

 通信機から美緒の耳に何かの声が聞こえてくるが耳に入りはしなかった。

 初めてゲッターロボの戦闘を経験する美緒への負荷は凄まじいものである。幸い強化服と魔力増幅器により、おおきな怪我を負うことはなかった。それでも、所詮それらは試作段階の未完成品、衝撃を防ぎきることができはしなかった。

 それ以前の落下の衝撃と合わさって、蓄積されたダメージは美緒の意識は軽く薄れてしまった。通信機からの弁慶の声もとぎれとぎれに聞こえる。

 敵は情もないネウロイはその隙を見逃さずに赤色に発光している。

 

「死ぬぞ!」

 

 ビームを放とうとしていることに気付いた隼人は声に反応したのか、意識が朦朧とする意識の中で美緒は立ち直ろうとした。

 それは数々の戦いをくぐり抜けた歴戦の者としての経験と本能が体を動かしていた。まず、足に装着している機械に残されたありったけの自分の力を注ぎ込む。送られてくる量に反応して増幅器もゲッター炉心からも少なくないエネルギーを吸い上げていままでの桁違いの稼働を行われ、感覚が飛びかけている現在の状態でも分かるほどに力が漲る。

 

 だが、その美緒の無意識の行動は魔力を駆使して戦う魔女としてのものだ。

 無意識の行動がさせたものは手を前に出すことであった。人は身を守るために反射的に手を前に出すということは多々あることである。魔力を持っている魔女はシールドという一種のエネルギー障壁で身を守る事ができる。美緒はそのようにおぼろげな意識の中で本能的にシールド張ろうとしてしまったのだ。

 その手は見方によっては祈りを捧げるように見えるのかもしれないが化け物相手に祈りが通用するわけがない。

 

「おい! なんだこれは!」

「――――あっ!?」

 

 恐ろしい爆音と共に意識を覚醒させた美緒の魔眼に移ったのは眩い赤い光のビーム。

 そして、美緒の顔を緑色に照らす空中に突如として描かれた巨大な何か、その何かにビームが空中で分散され弾かれ着弾した周りの大地が小規模な気化爆発を起こしていた。

 ネウロイのビームを防いだものは光の壁、緑色に輝く障壁がゲッターの眼の前に出現していた。

 その障壁に美緒は見覚えがあった。

 大きな円の中に幾何学模様と印象的な梵字で形成される魔法陣。

 見忘れるわけがない、見間違えるわけがない、見えないわけがない。

 色こそ違うが、自分が失いつつあった魔女象徴とも言えるもの。

 それを美緒は思わずつぶやいてしまった。

 いや、つぶやかずにいられなかった。

 

「――シールド!?」

 

 今回戦っているネウロイは自分が戦ってきたものの中では強い部類に入るものである。 

 そのかつてないほど敵の攻撃を目の前のシールドは完全に防ぎきっている。

 そして、彼女は気付いた。自分に流れるマグマのようにみなぎる感じたことのない力。

 もしかしたらと、彼女は集中する。自分をゲッターに、ゲッターを自分に見立てる。ゲッターと直接接続している増幅器から、ゲッターの痛みや力が伝わってくるような感覚すらしてきた。

 そして、美緒は右腕に意識を集中させる。それに応じるかのようにゲッターの握るトマホークに緑色の光が浸透する。輝きはどんどん強くなりトマホークが太陽のように輝く。

 そのトマホークを渾身の力を込めて振り下ろす。

 

「烈風斬!」

 

 太刀筋は緑色の光の刃となりネウロイめがけて想像を絶する速度で放たれる。

 抵抗するネウロイは三度目のビームを放つ――――がその刃の前には無意味。ビームを紙切れのように切り裂きながら突き進み、ネウロイは腕を交差し防御姿勢を取る。だが、刃はなにもないかのようにするりとネウロイの後ろを通過し、そのまま地平線の彼方に消え去っていった。

 

「な……んだあれは」

「おおい、坂本」

「心配するな」

 

 美緒の言葉に合わせたかのように短い鳴き声を上げネウロイは刃が通過したところに発光する浅くない傷とヒビが表面に走り、その中から赤い宝石のようなネウロイのコアが飛び出て二つに砕け散る。

 それと同時に抜け殻になった体がガラス細工のように砕け散り、細かい粒子となりながら崩壊、そして、砂塵のように散っていくかのように消え去った。

 

 ――――烈風斬

 

 それは、かつて彼女が使っていた技。ゲッターを通して繰り出された技は途方にもない規模にと増幅され、その技がネウロイの胸を切り裂きコアを完全に消滅させたのだ。

 

 その消え行くネウロイの後方から赤い何かが音速を超えた速度で初代ゲッターに向かっていた。接近してきていたのは異常を感知して飛んできたゲッターロボGであった。

 

「まったく…………今頃遅いぞ」

 

 弁慶のぼやきは今頃、やってきたゲッターGに対してのものであった。だが、百鬼獣に取り付いたネウロイが出現して五分程度しか経ってはいない。だが、それでも危機感からくる緊張で彼らには十数倍にも長く感じられた。

 

「すまん、後は頼めるか」

「坂本?」

 

 味方の到着を見届けによる緊張の糸が切れたと同時に極限まで力を使った美緒から力が抜けきり、強力な眠気にそのまま身を委ね意識を手放した。崩れ落ちた初代ゲッターをゲッターGは支える、そのまま保護しながら一時研究所へと帰投するためにかかえ飛び上がる。隼人や弁慶がゲッターGのパイロットになにか言っていたが、美緒はそれでも抗えないまどろみの中に沈んでいた。



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