ハイスクールD×D 同級生のゴースト (赤土)
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プロローグ
Life0. 俺が悪魔になった理由


今回はプロローグ。
まだ原作主人公のイッセー視点です。


俺、兵藤一誠は私立駒王学園に通う高校二年生。人並みに青春を謳歌している俺にも

ついに待望の彼女ができました! 名前は天野夕麻ちゃん。とってもカワイイ!

今なら断言できる、今が人生で最大級に至福の時だと!

 

そんな彼女とのデートを明日に控え、気が気でもいられないところにこいつらはやって来る。

松田と元浜。俺のダチだ。この二人、相当なスケベだ。俺もなんだけどね。

だが俺は、こいつらとの決定的な違いを持っている。そう、彼女がいることだ!

 

ああ、なんて心が晴れやかなんだろう。この幸せをこいつらにも分けてやりたい!

そう思って、俺は写真を二人に見せてやることにした。

ありえない! そんな顔をしている二人とは裏腹に、ちょっと怖い目つきで見ている奴がいる。

宮本成二。俺はセージと呼んでる。こいつも俺のクラスメート。

元浜がカツアゲされてるのを助けて以来、時折俺達とも話している。

その一件以来「駒王番長」とも呼ばれ、様々な噂が立ち密かに注目株らしい。

マスコット枠の1年の塔城小猫ちゃんやイケメン枠の2年の木場。

そしてなにより学園の二大お姉さまこと3年のリアス・グレモリー先輩や

姫島朱乃先輩ほどじゃあないが。

エロ談話には食いつきが悪いが、俺は知ってる。

コイツはコイツでこっそりエロ本買っているのを!

 

と言うか、男子高校生たるものエロ本を買わずしてなんとする!

 

そういえば、つい勢いで彼女いない軍団に入れちゃったけど、セージは彼女いるんだろうか?

そういう話はセージから聞いてないしなぁ。

 

「兵藤、今朝のニュースじゃ明日は晴れって言ってたが

 明日のデートに雨具とヘルメットは用意しとけよ。

 お前さんに彼女が出来るなんざ、嵐か災害の前触れだからな」

 

コイツは変なところで真面目だ。絶対にこういう場所でエロ談話をしないし

俺のこともいつまでたっても苗字呼びだ。

そして、こんなふうに時々イヤミを言う。ちくしょう、お前だってイケメン枠じゃないくせに!

それと松田と元浜、笑うんじゃねぇ! 元浜は何かセージと話してるみたいだし

俺は松田に狙いを絞ってネックハンギングを仕掛けようとしたところで、SHRの鐘が鳴る。

畜生おまえら、覚えてろよ。

 

――――

 

「兵藤。お前このあと時間があるか? 明日のプランについて、俺なりに穴場を教えてやる。

 こう見えても、この街の人気スポットや穴場には詳しい」

 

珍しいな、セージの方から誘ってくるなんて。確かにコイツは原付持ちだし

色々回ってるから詳しそうなイメージがあるし、なにより松田や元浜には

デートについては何も期待できない。やっぱセージ彼女いるのかな?

二つ返事で返そうとしたところ、どこから聞きつけてきたのか

俺達の話に難なく入り込める唯一の女子、桐生藍華が乗り出してくる。

 

「え? なになに、アンタデートに行くの? ふっふっふ、だったらこの私が――」

「すまない桐生さん。それはまた今度にしてくれ。ま、そのうち別の機会もあるだろ……多分」

 

おいセージ、多分ってなんだよ多分って! それはあれか!

俺が初デートで夕麻ちゃんに振られるの前提で考えてないか!?

だからそういう話振ってきたのか!? だったら悪いが――

 

「あー、そうじゃないんだ。せっかくの初デートで、何より兵藤はデート経験ゼロだろ?

 だったら、下手に女性意見を取り入れるよりは、思い切って男の意見で行ってみたらどうだって

 話をしたいんだ」

 

納得されてる。っつーか、デート経験ゼロってなにげに酷いこと言ってないかセージ。

事実だけどさ。事実だけどさ! あの桐生の食付き具合から考えて

こりゃ今度色々聞かれるだろうな。だったら精一杯惚気けてやるぜ!

 

気合を入れてる俺とは裏腹に、セージはいつもの仏頂面でカブにまたがっている。

ヘルメットを投げよこしてくるって事は俺に乗れって事か。

何でかこいつ家近いくせにバイク通学なんだよな。だから番長とか言われるんじゃないか?

そうして俺達が向かったのは、街の中にある在り来りなハンバーガー屋だった。

 

「セージ、ここがデートスポットか? いや、高校生らしいっちゃらしいけどよ……」

「バカ言え。ここで話すんだよ。明日ここに来る来ないは兵藤の勝手だが

ちゃんと本命は用意してある。俺をなめるな」

 

さっきから思っていたが、やけにセージの口調が荒い。

そういえば、朝夕麻ちゃんの写真見せた時も変な顔してたしな。

……そうか。セージ、俺に嫉妬してるな?

それでいい加減なプランを提案しようとか考えてないだろうな?

だったら、さっさと帰って明日の準備を――

 

「俺に付き合ってくれた礼だ、バーガーセットくらいは奢ってやる。早く来いよ」

 

する前に貴重な意見を聞くのも大事だよな! 何てったって初デート! 失敗は許されない!

さあセージ、お前の屈託のない意見を俺に教えてくれ!

 

「そうだな。まず高校生って自覚を持て。学生デートなんだ、アホみたいに高いところや

 洒落たところに行く必要はない。適当に洋服屋や雑貨屋、安いレストランに行って公園で解散。

 これでいいんじゃないか?」

 

え? それでいいの? それなら遠出もしなくて済むし、そうすれば夕麻ちゃんと過ごせる時間も

その分長くなる!それに俺の財布のことまで考えてるなんて……

セージ、やっぱりお前に相談して正解だったよ!

それにバーガーセットまで奢ってもらえるなんて……セージ、今度から兄貴と呼ばせてくれ!

 

……あ、そっちのケはないけど。

 

セージに礼を言い、解散したあと俺は家に帰り、ひたすら明日のシミュレーションを重ねていた。

程なくして母さんが帰ってくる。聞けば、買い物中にセージに会ったらしい。

やれ若いのに大変ねぇとか、あんたにもこれくらいの甲斐性があれば……

とか言ってるが、大きなお世話だよ。明日のことで頭がいっぱいなのと

セージに奢ってもらったバーガーセットが原因で晩飯の味はよくわからなかった。

最も、母さんはそれを見越して作ってたみたいだけど(これもセージに聞いたらしい)。

 

その夜、俺は興奮して眠れなかった。

だって、明日は俺の記念すべき初デート! 興奮せずにはいられないッ!!

けど、寝坊するのもマズイよなぁ。目覚まし、よし!

俺の手持ちの目覚ましをフル動員して、準備万端よし寝るぞ!

 

 

 

……寝られねぇ。

結局、なかなか寝付けなかった俺は何とか遅刻せずに

寧ろ早く着きすぎてしまうことになってしまった。

そして、この寝られない夜が、俺の人間としての最後の夜だとは――

 

――この時は、俺自身にも想像できなかった。

 

――――

 

次の日の朝。いよいよ待ちに待った夕麻ちゃんとのデート。

興奮しすぎて早く来すぎてしまったが、なぁに些細なことさ。

いやあ、まさか「今来たところだよ」を言える日が来ようとは!

父さん、育ててくれてありがとう! 母さん、産んでくれてありがとう!

俺、兵藤一誠は今日、新たな道に足を踏み入れます!

などとにやけていると、向こうから夕麻ちゃんがやって来た。つ、ついに来た!

 

「ごめんねイッセーくん、待った?」

「いや、今来たところだよ」

 

言えた! 俺、言えたよ! 噛まずに言えたよ!よーし、今日は幸先がいいぞ!

さあ、目指すはセージが教えてくれたショッピングモールだ!

 

駒王町で一番大きいんじゃないかと思うショッピングモール。CMソングでも有名なところだ。

ここには食品や雑貨以外にも、フードコートやブティック、ゲームコーナー

それから映画館といろいろ入っている。

確かにここなら一日潰せそうだ。俺はセージに感謝しつつ、夕麻ちゃんの手をとって

ショッピングモールの中に足を踏み入れた。

 

デートは色々大変だった。お店の物を倒してしまったり、いきなり変なやつに絡まれたり。

けれど、夕麻ちゃんがいる手前かっこ悪いところは見せられない。俺は懸命に事態の収拾に乗り出した。

正直言ってすごく疲れたけど、夕麻ちゃんといられるならそれでもいい。

初めてのデートだ、絶対に成功させたい。おいしそうにデザートのパフェを頬張っている

夕麻ちゃんを見ていると、俺の苦労も吹っ飛ぶもんだ。

 

結局、俺たちは雑貨店やブティックを見ながら、ショッピングモールの中でその日一日を過ごしたのだった。

 

――――

 

夕方の公園。もうじき解散の時間なので、その前に夕麻ちゃんのリクエストでここに来る事になった。

おおっ! これはも、もしかして……ファーストキス!? お、俺、ついにやったよ!

ありがとうセージ! お前のおかげでデートは大成功だ! 明日松田や元浜にも自慢してやる!

 

「ねぇイッセーくん、お願いがあるんだけど……」

 

ああ、俺夕麻ちゃんのお願いなら何でも聞くよ! 何でも言ってよ!

 

――死んでくれる?

 

……え? ごめん、よく聞こえなかったんだけど。死んで……え?

夕麻ちゃん、そういう冗談言う子なんだ。ちょっとびっくりしたよ。

それに背中の羽やその手の光とか、すごい手が込んでる。

これ、あれだろ? ドッキリだよな?

そう言い聞かせる俺の頭は、目の前に飛び込んできたカブで現実に引き戻された。

 

「おい、何してんだてめぇら!!」

「……ちっ。何故邪魔が入ったのよ」

 

カブにのってやって来たのは、昨日俺にデートプランを教えてくれたセージだった。

何でここにセージがいるのか、そんなことを考える余裕なんか今の俺には無かった。

 

「いいから乗れ! 逃げるぞ!」

「ど、どういうことだよセージ、わけわかんねぇよ!」

 

俺はセージに投げよこされたヘルメットを言われるがままにかぶり

半ば強引に後ろに乗せられた。俺が乗ったのを確認すると

セージは公園の中だというのにお構いなしにカブを全速力で走らせる。

その後ろでは何かがはじけた音がする。も、もしかして夕麻ちゃんの仕業かよ!?

ど、どうなってるんだ!? 夕麻ちゃんは一体何をしようとしてるんだよ!?

 

「お、おいセージ、これ一体どういうことだよ!?」

 

セージに聞くが、返答は来ない。俺は、俺たちは一体どうなったって言うんだ!?

しばらくセージのカブは走り続け、また別の公園までやって来た。

俺はセージに水を貰い、呼吸を落ち着ける。セージの方も、冷静そうに見えるが

相当汗をかいているようだ。そりゃそうだ。あんなの、現実にありえるわけが無い。

 

「……一応聞くが、殺されるような覚えなんざあるわけないよな」

「あ、あってたまるかよ……な、なんでだよ……夕麻ちゃん、なんで……」

 

そうだ。何で俺が夕麻ちゃんに殺されなきゃならないんだ。

会って間もないし、今日初めてデートに行っただけなのに。

もしかして、俺のデートで何かまずいことをやったのかな。

 

「兵藤、とにかく今の状況は非常にまずい。あれは何なのか俺にもさっぱりだ。

 しかし向こうがあきらめてない以上、あまり同じ場所にじっとしているのも危険だ」

「だ、だから逃げるってのか……そ、それしかないよな、やっぱ」

 

俺たちは水を飲み終え、再びカブに跨り道をひた走る。目の前の信号が青になり、前進すると

今度は目の前にコートと帽子をかぶった男が車道の真ん中につっ立っている。

セージがクラクションを鳴らすが、微動だにしない。セージが避けようとハンドルを切るが

俺たちはそのまま横転してしまう。叩きつけられた体が痛む。

セージ、セージは大丈夫か!? 俺に付き合って死んだとあっちゃ、俺も死んでも死にきれない!

 

「兵藤、おい兵藤、生きてるか!?」

「ああ、ちょいと身体ぶつけちまったけどな。けど、もしかしてあいつも……」

 

セージは無事だった。だが、俺たちの目線の先にはさっきの怪しい男。

もしかして、こいつも俺たちを殺す気なのか!?

 

「フン、レイナーレの奴め。あれだけ息巻いておいて取り逃がすとはな。

 これは計画を見直さなければならないか?」

「な、何なんだよ、お前たち……!!」

 

計画? 何のことだよ? 俺には何がなんだかさっぱりわからない。

どうして、どうして俺たちが殺されなきゃならないんだ!?

セージも俺も、逃げることを諦めてない。セージがカブに手を伸ばそうとした瞬間

そいつはさっきの夕麻ちゃんみたいな

光の槍をセージのカブめがけて投げつけてきた。

 

「おっと、逃げるなよ」

 

光の槍がセージのカブに突き刺さる。カブはそのまま爆発してしまった。

すまんセージ! 俺のせいで……!!

それにしても、一体あいつらは何者なんだ。何故俺を殺そうとするんだ。何故、何故!?

 

「兵藤、今のうちに逃げるぞ。今しかチャンスが無い!」

「あ、ああ……」

 

俺たちが逃げ込んだのは路地裏。このまま逃げ切れば助かるのかもしれない。

けれど、俺は何故だか逃げ切れる気がしなかった。

そして案の定、俺たちの目の前には彼女が、夕麻ちゃんがいた。

 

「お、お前……!!」

「ひどいわイッセー君。私のお願いも聞かずに行っちゃうなんて。

 それから、そっちの人間。よくもこのレイナーレの邪魔をしてくれたな。

 人間の分際で小賢しい、神器(セイクリッド・ギア)を破壊したら次はお前の番よ」

 

セイクリッド・ギア? それが俺と何の関係があるんだ。

俺はただ、夕麻ちゃんをデートに誘っただけじゃないか!

セージはそれ以上に関係ない! 夕麻ちゃん、きみは一体何者なんだ!?

何で俺を殺そうとするんだ!?

 

「じゃあイッセーくん、今度こそ……死んでちょうだい!!」

 

夕麻ちゃんは俺めがけて光の槍を投げつけてくる。あ、あれはカブも破壊するほどのものだ。

俺なんかが食らったら、ひとたまりも無い。俺、本当に殺されるのかよ!?

――けれど、その光の槍は俺には刺さらなかった。

 

「ぐあああああっ!!」

「せ、セージ!?」

 

セージ。松田や元浜と同じ、俺のクラスメート。俺のダチ。

そのセージが今、俺の目の前で光の槍に貫かれている。

貫かれた場所からは、血が止め処なくあふれている。ま、まずい! すぐに救急車を呼ばないと!

 

「自分から殺されにくるなんて、バカな人間ね。

 まあ私にしてみれば、順番が変わっただけで大事じゃないのだけど。

 さあイッセーくん、今度はあなたの番。私のために、死んでくれないかな?」

「な、何言ってんだよ夕麻ちゃん! セージが、俺のダチが死にそうなんだよ!

 はやく、はやく救急車呼ばないと!」

 

俺は必死に夕麻ちゃんに懇願するが、まるで話を聞いてくれない。どうしちゃったんだよ!?

そうしてる間に、セージはどんどん弱っていく。どうすりゃ、どうすりゃいいんだよ!?

 

「イッ、セー……に、げ、ろ……!」

 

セージの弱弱しい声に呼応するように、夕麻ちゃんは俺めがけて光の槍を投げつけてくる。

それと同時に、背後からも光の槍に貫かれる感触があった。

 

――えっ?

 

そのまま、俺はセージと一緒に地面に崩れ落ちた。あ、俺も助からないのか――。

何で、何でこうなったんだよ……初めての、デー……ト、だった、の……に……。

父さ……ん、母、さ……ん、ごめ――

 

それが俺、兵藤一誠の人間としての最後の一日だった――。




ハーメルンでの投稿は初めてですが以後、よろしくお願いします。
次回からいよいよ本編主人公視点に変更します。


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旧校舎のディアボロス
Soul1. 人間、やめてます。


ここから本編が始まります。よろしくお願いします。


気がつけば、俺は闇の中を漂っていた。

ただ、何もない真っ暗闇の中を。

いや、漂っていたかどうかさえもわからない。前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのか。

登っているのか、落ちているのかさえもわからない。

 

何故ここに居るのかはまるでわからない。何か大切なことがあった気がするのだが

まるでわからない。

ただ、なにも考えるでもなく闇の中に俺は「在った」。

 

ふと、先の方に光が見える。どこまでも続く闇の中に、僅かな光が差している。

もしかしたら、何かあるかもしれない。俺は、光に向かって手を伸ばす。

それが手かどうかはわからないが、とにかく俺は光のある方角を目指した。

 

闇の中は、思ったよりも流れが急だった。

いや、俺が動こうとする意思のとおりに動けないだけかもしれない。

とにかく、自由に動けない。それでも、俺は光のある方角を目指した。

 

何度か何かがひび割れるような音も聞こえた気がしたが、それでも構わなかった。

とにかく、あの光が何か知りたい。あの先に、何があるのか。

俺は、ただこの闇の中の光が気になった。光に手を伸ばそうと俺は足掻き続け

光の目の前に来た。この先には何があるのか、と俺が思った瞬間――

 

――俺は、意識を失った。

 

――――

 

目を覚ましたとき、俺の目の前には、とてつもなく巨大な赤いドラゴンがいた。

初めは驚くも、何故か敵意のようなものは感じられず

思い切って話しかけてみようとした矢先、その俺の考えを見越してか

向こうから話しかけてきたのだ。

 

「その姿で、よくここまで来られたものだな。リアス・グレモリーの駒には

 よほど豪華な特典があると見える。代償も、デカそうだがな……ククッ」

 

何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

いや、言語は理解できるのだが、話の内容が全く見えない。

言語が理解できるのならばと、今度は思い切ってこちらから話しかけてみる。

 

「駒? 特典? よくわからないが、俺も自分がよくわからない。ドラゴン、貴方は何者なのだ?」

 

すると、今度はドラゴンが驚いた表情を見せる。まさか、さっきのは独り言だったのか?

独り言に反応してしまったか。これは少し気まずいな。

 

「……いや、まさか宿主より先に俺に話しかけてくる奴がいるなんて思わなかったからな。

 俺はドライグ。赤龍帝とも呼ばれているが、多分お前の認識であっている」

 

俺の認識? わかるのか? ……試しに少しボケてみるか。

 

「認識? マジでダイメイワクなオッサンドラゴン?」

「……当たらずとも遠からずなのが腹立たしいが、まぁいいだろう。だが略すな」

 

当たってるのか!? マジでダイメイワクなオッサンドラゴン略してマダオが!?

あ、略すなとは釘を刺されたな。一応初対面だし、ボケるのもこのあたりにしよう。

 

「それで、マ……じゃなかったドライグ。ここまで来たが俺は自分のことがよくわからない。

 ドライグは、俺のことを何か知っているのか?」

 

我ながら何て禅問答だとは思ったが、実際今の俺は俺のことが全くわからない。

ただ闇の中を漂い、気づけばこのマダオもといドライグの前にいる。

するとドライグは、おもむろに自分の手をみろ、と言うではないか。

確かに鏡すら無い場所が続いたが、それで……

 

「うわああああっ!? 何じゃこりゃあああ!?」

 

己が手を見たとき、思わず悲鳴を上げてしまった。

何せ、そこにあるのははっきりとした肉体の手ではなく

うっすらとぼやけた気体が辛うじて手のような形をとっている光景なのだ。

つまり、今の自分に肉体があるかどうか――少なくとも両手は存在しないことになる。

 

「それが今のお前さんの正体。世間一般じゃ幽霊と言うな」

 

止めを刺すようにドライグは淡々と事実を述べる。

確かに、こんな手で「人間です!」なんて言っても信じてもらえないだろう。

まだ幽霊の方が説得力がある。という事は、俺は死んでいるのだろうか。なんということだ。

 

「ああ、死んじゃいない。生きてもいないが。限りなく生霊に近い霊魂だな。

 今お前さんは、ある少年に取り憑いて辛うじて自我をつなぎ止めている状態だ。

 その少年てのが、俺の宿主なのだが……」

 

こっちの考えを見透かしたようにドライグが言葉を紡ぐ。

しかし、自分の宿主については口を濁らせている。不都合でもあるのだろうか?

 

「いかんせん、へっぽこ過ぎて俺の声が全然届きやしない。そこで、お前に折行って頼みがある。

 俺の力を少し分け与えるから、俺の宿主の力になってくれ。

 何もせずに宿主が死ぬのは、ちと目覚めが悪い」

 

そういうなりドライグは、おもむろに自分の鱗を俺の右腕に当たる部分に投げつけてきた。

実体のない右手なので、鱗をキャッチすることもできず

そのまま右腕にあたる部分に飲み込まれてしまう。すると、ドライグの鱗はみるみる巨大化し

右の下腕を覆い尽くすような籠手の形になる。

くすんだ朱色と、鈍い輝きを放つ宝玉が特徴の、ドラゴンの腕のような籠手。

 

「それも俺の宿主が目覚めれば、使えるようになるんだが……今はまだ無理みたいだな。

 だが、その力でお前の実体はある程度維持できるようになる。

 が、忘れるなよ。お前は生霊で――」

 

ドライグの次に放たれた言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 

――生霊で、悪魔だ。

 

生霊で悪魔。それなんてオカルト? と思いもしたが、さっきの自分の両手を見る限り

霊魂ってのは信じるより他無さそうだ。だがせめて人間の霊魂であって欲しかった。

と言うか悪魔の霊魂? 略して悪霊? やばいな。確かに実体化したら退散させられそうな響きだ。

神社とか行けないな。どうしよう。

 

「心配するな。悪魔っつってもお前が思ってるような怪物のことじゃない。

 お前が人間というものを正しく認識できるなら、その通りに実体化するだろうよ。

 俺としちゃ、人間の姿での実体を奨めるがな」

 

なるほど。大体わかった。今俺は実体が無いから、イメージした通りに実体化すればいいのか。

いくら俺が何者かわからなくとも、人間がどう言う姿形かはわかる。

……ん? おぼろげながら自分のことを思い出せてきたな。これはドライグのおかげなのだろうか。

だとしたらありがとうドライグ。とりあえずマダオは取り消しておこう。

 

思い浮かんだ姿形のとおりに、実体をイメージする。

その通りになっているかどうかは、鏡がないからわからないが。

 

「ほう。どうやらそれがお前の姿らしいな。少し俺の宿主のイメージが入っちまったようだが

 何、些細なことだ」

「……それは些細なことじゃないんじゃないか?

 とにかく、おかげで自分のことがおぼろげだが見えてきた。ありがとう」

 

礼には及ばん、とばかりの態度を取るドライグ。

うん、初めて見た時から思ったが、結構偉そうだな。

恩義がある以上、そのことについて言及するのも野暮だが。

 

さて、今度は俺が動く番だ。今ドライグは「宿主の力になれ」と言っていたが

具体的には何をすればいいんだ? ドライグのメッセンジャーになれって事か?

 

「今、お前は俺の宿主の中で眠っている状態にある。

 お前の目が覚めれば、今の宿主でもお前の声なら届くだろう。

 そうしたら宿主に伝えろ。俺がいることをな。さて、もうじきお前の目も覚めるだろう。

 次に会うときには、お前ももう少し強くなっていることを願うぞ」

 

ドライグが喋り終えるや否や、体が何かに引っ張られる。何かに引き寄せられる感覚だ。

呼び声も聞こえる。認識はできないが。その向こうにはまた光が見える。

思い切って引き寄せられる方向に向かおうとしたとき、ドライグの言葉が聞こえた。

 

「お前の右手には僅かだが俺の力、左手には俺にも全てはわからないが、とにかく強い力がある。

 お前も戦い続けることで、力を蓄えることになるだろう。その右手は貸してやる。

 いずれお前が強くなったとき、返してもらうぞ」

 

力? 使い方のわからない力なんて、無いも同然じゃないか。

その事をドライグに抗議しようとしたとき――

 

――またしても、俺の意識は途絶えた。

 

――――

 

次に目を覚ましたときは、今度はやけにリアルだった。

悪魔召喚の儀式の会場。そんな感じの場所だ。何だここは? 邪教の館的な施設か?

合体して今後とも宜しく的な展開か? おもむろに、自分の両手を見る。今度はリアルだ。

そして、自分が倒れていることを改めて認識する。痛みはない。寝ていた? こんなところでか?

いや、床に寝そべっていたら普通もう少し痛い。とりあえず立ち上がり辺りを見渡すと

女子学生が3人、男子学生が2人いる。何の集まりだ?

 

男子生徒は2人。イケメンじゃない方が、おもむろに俺の顔を覗き込んでくる。

あれ? こいつ、どこかで見たことがあるような……ダメだ、思い出せない。いや、知らない?

 

「こいつが、俺の中にいた幽霊っすか……なんか、俺のダチに似てますね。

 それも、俺を助けてくれようとした……」

 

訂正しろ。俺は死んでない。だがなんで実体化してるんだ?

この邪教の館的な場所だから実体化できたのか?

俺の中……って事は、こいつがドライグの言ってた宿主か。

なるほど、この様子じゃ確かにドライグの声は届いてなさそうだ。

しかし、俺が霊魂だとして、なんでこいつに取り憑いていたんだ?

……ダメだ。やっぱりまるっきり話が見えない。

 

思考を遮るように、紅い髪の女子生徒が口を開く。どうでもいいが、かなり発育がいいな。

思わず目が行ってしまうが、あまり見るのは失礼だ。色情霊だと思われるのも非常に厄介だし。

自分のことはよくわからないが、それくらいの自我は持ち合わせているつもりだ。

 

「さて、今度こそ全員揃ったわね。兵藤一誠くん。いえ、イッセー。それと……」

 

ひょうどう……イッセー……その名前に引っかかるものを覚えるが、今は結論が出ない。

それに、俺の名前を聞かれている。さて、さっきまでなら俺の名前すらわからない状態だったから

アレクサンドロビッチとか田吾作とか誤魔化したかもしれないが

今は下の名前ならば思い出せている。これだけでも、答えるべきだろうな。

 

「……セージです。苗字は……知りません」

「セージ、か。そのダチと名前まで一緒って、何か凄いな」

 

もとい、訂正。下の名前もうろ覚えだった。読みは思い出したが、字が思い出せない。

いくらなんでも自分の名前を知らないとかありえないだろう。

自分で言って失敗した。だが記憶喪失もわざとらしい。

だからそこの小柄な女子生徒、俺を睨むな。俺も本当に知らないし思い出せないんだ。

で、何故俺の憑依先君は俺の名前を聞いて感慨深げにしてるんだ?

別段珍しい名前じゃないはずだが?

 

「イッセーとセージ、ね。セージ、呼ぶときはセージで構わないかしら?」

 

紅い髪の女子生徒の問いに、ただ頷く。これしか名前が無いのだ。

ほかにどう呼べというのだ? 幽霊か? そこに、黒髪の女子生徒の提案が入る。

これまたどうでもいいが、こちらも発育がいい。ふと、彼女と目が合ってしまう。

しまった。色情霊認定されたか? 慌てて目をそらすが、向こうは悪戯っぽく笑うのみ。

許されたのか、許されてないのか。今深く考えるのはやめよう。

 

「となると、やはりどう言う字か気になるところですわね。

 見たところ、駒王学園の生徒っぽいですけどイッセー君と違って、知らない子ですし……」

 

どこかで見たような、と付け加えながらも黒髪の女子生徒の意見に同意するように周囲が頷く。

うん、俺も気になる。一人イッセーと呼ばれた男子生徒が俺って有名人!? と浮かれていたが

すぐに小柄な女子生徒からのツッコミが入って二つに折れている。

見てる分には楽しいな、こいつ。

 

で、本題の俺の名前だが、紅い髪の女子生徒の鶴の一声であっさりと決まった。

 

「イッセー……兵藤一誠に憑いてた幽霊でセージだから……歩藤誠二でどうかしら?」

 

曰く、兵藤の漢字に合わせ、兵に対し歩、将棋におけるチェスのポーン(兵)だから歩藤。

一誠にあわせてセージだから誠二。それだけで決まった。

 

……安直すぎやしないか? と思いもしたが、満場一致の可決。

なんなんだ。ここはイエスマンの集いか。とは言え、俺自身にいい案があるかと言われると

答えはノーだ。馴染むかどうかと言われると不安だが

これからはこれを俺の名前としてやって行くより他は無いだろう。

 

歩藤誠二、歩藤……誠二ねぇ。

アナグラムすると二歩になって将棋の禁じ手になるんだがそこは突っ込むのは野暮だろうか。

 

「それじゃ改めて……イッセー、セージ。私達オカルト研究部は貴方達を歓迎するわ。

 ――悪魔としてね」

 

悪魔、ねぇ。

ドライグにも言われたのだが、正直言って俺はまだ悪魔としての実感など全くない。

こうして実体まで得てしまうと、霊魂としての実感すら危うい。

あまり長いことここに居ると、アイデンティティに関わるかもしれないな。

隣のイッセーを見るが、やはり疑心暗鬼の表情だ。まぁ無理もないだろう。

とりあえず、出されたお茶を一啜りして、情報収集に努めたほうがよさそうだ。

この流れ、絶対何か知っている。

 

「イッセー、あなたは昨夜、黒い翼の男を見たでしょ?」

「……あれが夢じゃないなら、忘れる訳ありませんよ。

 あいつは、俺を助けようとしてくれた俺のダチを病院送りにした奴の仲間なんですから」

 

怒りを噛み殺したような声でイッセーが淡々と話すが、その話の内容がやけに引っかかる。

黒い翼の男? 俺のダチを病院送りにした奴の仲間……?

はて、どこかで聞いたような。何かの漫画だったっけか?

しかし、この話を聞いてから微妙に頭が痛いわ吐き気はするわ。一体どうしたんだ?

そんな俺の様子を見かねてか、話は一区切り付く。

 

「……セージ、顔色が優れないみたいね。やはりまだ外の環境は辛いのかしら?

 一応、この中は幽霊でも問題なく活動できるような結界は張ってあるのだけれども」

 

やはり、この中だからこそ俺は実体化出来ていたのか。

という事は、この部室の外では実体のない霊魂に逆戻りって事か。

違う意味で頭が痛くなってきたな。

とにかく、お茶を飲んで気を鎮めよう。効くかもしれないし。

 

「……大丈夫です。少し、気分が悪くなっただけですから。

 とりあえず、話の続きをお願いします」

 

それに、俺のせいで話の腰を折るのも悪い。

俺の返事を聞くや否や、紅い髪の女子生徒は話を続ける。

その内容を大まかに要約すると……

 

1つ。昨日イッセーを襲い、以前もイッセーとそのダチを襲ったとされる奴は

   堕天使と言い、悪魔の敵である。

2つ。悪魔も堕天使も人間を使い、冥界――地獄の領土争いをしている。

そして3つ。その二つの勢力を駆逐しようとする天使と言う種族が存在する。

 

……はい。そんな中に放り込まれたとあっちゃ、悪魔を呼び出せるコンピューターとか

自分の中のもうひとりの自分とか呼び出して戦える力が欲しくなるのが人情だと思うのだが。

ん? 力? 力って言えばドライグが何か言っていたが……

 

イッセーは目を丸くしているが、俺は既にドライグを見ているため、今更感が漂っている。

いざ目の当たりにしたものを否定するほど、頭は固くないつもりだ。

しかしそんな丸いイッセーの目も、次の瞬間には鋭くなる。

そして、俺の中には得体の知れない感情が渦巻くことになる。

 

「――あの日、あなたは天野夕麻とデートをしていたわね?」

 

あまの……ゆうま……レ、イ、ナー……レ……この名前、引っかかるどころじゃない。

どこからともなくレイナーレと言う単語が出てきた。それよりなにより、この顔を見ただけで

俺の中にとんでもない憎しみや怒り、恐怖の感情が渦巻いている。

震える手で、お茶を啜ろうとするが迂闊にも飲み干していた。

 

「……すみません。お茶を――いえ、水を下さい。今、精神的にかなりキてます……」

「……そうですね、俺にも水を下さい。その話は、こういう雰囲気でしたくない」

 

イッセーはイッセーで、腹に据えかねる事があったのだろう。

声に、わずかばかりの怒号が含まれている。

俺が憑依していたから、いくらかシンクロしているのかもしれないが……

今、あまり考えるのはよそう。頭が痛い。

俺達が水を飲み終えるのを確認すると、紅い髪の女子生徒は話を続ける。

やめる気はないのだな。ならいい。話に乗ってやろうじゃないか。

 

「彼女は存在していたわ、確かにね……

 ま、念入りに自分であなたの周囲にいた証拠を消したようだけど。例外を除いてね」

 

例外。多分俺の事だろうな。

最も、こっちは顔を見ただけで得体の知れない憎悪を抱く程度なのだから、向こうにしたら

こっちの事など知ったこっちゃないとも考えられるが。それに、俺自身の記憶もあやふやだ。

そもそも、どういう経緯で天野夕麻と出会ったか。それさえわからない。

そして、出された顔写真を見たとき、俺の怒りはどうやら顔に出ていたらしい。

 

「ところでセージ。あなた、いつからイッセーに憑いていたのかしら?

 この写真を見たときのあなた、まるで親の敵を見るような目をしてたわよ?」

 

いつから? そういえば考えたことがないな。

気がつけば、ドライグに会って、それからここに呼び出されたとき

初めてイッセーに憑いてた事を認識したわけだから……いつだ? わからないな。

 

「話を戻すわ。イッセーを殺したこの子は……

 いえ、これは堕天使。昨夜、イッセーを襲った存在と同質の者よ」

 

やはり。この流れでわざわざ天野夕麻の名前を出すという事は、そういうことなのだろう。

デートに誘われて殺されるとは、イッセーも不憫な奴だな……美人局より質が悪いじゃないか。

うん? 殺された? しかし、イッセーは幽霊じゃないはずだ。

と言うか、幽霊にとり憑く生霊など前代未聞だ。案の定、イッセー本人も狼狽している。

一度死んだ人間が生き返る? まぁ、今更なネタだが……

 

「あの日、あなたは彼女とデートをして、その帰り道に殺された」

「……その時に、俺のダチが一人、巻き込まれてます。

 それでそいつは今、生死の境目を彷徨ってるって話です」

 

う、まただ。また気分が悪い。どうやらイッセーが殺されたことと

俺の気分が悪くなるのは何らかの関連があると見ていいな。

だが、今は俺のことよりもこの話の続きだ。

 

そう、何故イッセーは殺されたのか。大まかに分けると以下のとおりだ。

 

1つ。イッセーには神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる不思議な力があるらしい。

2つ。通常、ちょっとした才能程度で済むそれだが、イッセーの場合は危険性が高かったらしい。

そして3つ。それゆえに、危険視した堕天使がイッセーを神器ごと殺害した。

 

うん、まるでイッセーの意見が反映されてない、身勝手な理由だ。

ここまで話を聞いただけでも堕天使ってのが性根の悪い連中の集まりにも思えたが

よく考えてみれば敵対してる悪魔がレクチャーしてるんだよな。

ふむ、これはちとバイアスを取り除かないと判断を誤る危険性があるな……

 

堕天使についてあれこれ考えているうちに、議題は件のイッセーの神器に移っていた。

イッセーが妙なポーズ――あれは「ドラグ・ソボール」の「ドラゴン波」という技らしい。

うん、言われてみれば知ってる気がする。

 

それと同時に俺がヒーローヲタクだって事も思い出した。

違うんだ、今欲しいのはそういう記憶じゃないんだ!

そうこう考えているうちに、イッセーの神器は発現した。しかしその姿に、俺は目を疑った。

 

俺がドライグに借りた奴に似ている……いや、あれが本家本元か。

じゃあ俺のこの右手は「ドラグ・ソボール」で言えば「ビッグバン砲」か?

 

「俺のビッグバン砲に似てるだと!?」

「え、セージ、そのセリフはフルータの……ま、まさか!?」

 

そういえば、さっきから右手が疼く。一言断りを入れ

俺も試しに「ビッグバン砲」のポーズをとってみる。

俺の好みは「面ドライバーBRX」の「リボルビッカー」なんだが

恐らく似たようなパターンでないと発現しないだろう。

 

結論から言うと、無事に発現した。ドライグに借りたとき同様

くすんだ赤い色に鈍い輝きを放つ宝玉。

 

「いや、なんとなく、できるんじゃないかな、と……すっげえパチモン臭くなったけど」

「本当に驚いたわね……まさか神器まで共有してるなんて」

 

この瞬間、俺は理解した。恐らく、今俺が持っている神器はイッセーのものの下位互換であること。

イッセーのものは、ドライグの言葉が正しければとんでもない力と発展性を持っていること。

そして、まだ俺にあるというもうひとつの力については手がかりすらないということ。

 

しかし、この話の中で最後まで俺が何故生霊になったか、いつイッセーに憑いたか。

それは分からずじまいだった。イッセーが生き返ったのは、道端で配っていたチラシで悪魔

――この紅い髪の女子生徒を呼び出し、一命を取り留めた(?)

らしい。イッセーのダチについても、適切な処置をし救急隊に引き渡したそうだ。

 

まぁ、わからないのも無理はない。そもそも俺自身が持っている情報が少なすぎる。

情報交換などできるはずもない。ただ一人、紅い髪の女子生徒は首をかしげていた。

駒がどうのこうのブツブツ言っているようにも聞こえたが、わからない。

よしんば聞こえたとしても、おそらく意味は通じなかっただろう。

イッセーや俺の神器についての講釈(俺のは神器と呼べるかどうか怪しいが)が終わると

おもむろに全員が立ち上がる。全員の背中には、悪魔の、コウモリの翼が生えている。

見ても驚かない。今更感なのか、同質の存在になったからなのか。

 

「イッセー。あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。

 私の下僕の悪魔として。セージ、あなたも歓迎するわ。

 あなたもどういうわけだが、私の眷属として数えられている。

 きっとイッセーに憑いているのが原因ね。でも経緯はどうあれ、あなたもまた、私の眷属よ?」

 

つまり、俺とイッセーは一心同体で、同期で、悪魔ってわけか。

で、目の前にいるのが俺達の上司リアス・グレモリー。

……これは確かに、ドライグの言うとおり力にならないと辛そうだけど……

って、俺の力、必要なのか?

 

そんな心配を知ってか知らずか、他の部員の自己紹介が始まっていた。

 

2年、木場佑斗。イケメン。1年、塔城小猫。小柄。3年、姫島朱乃。副部長。

同じく3年、リアス・グレモリー。部長で、我らの主。公爵令嬢、だそうだ。

そして、俺の隣にいるのが2年、兵藤一誠。エロガキで、俺の憑依先。

 

「……歩藤誠二です。学年はイッセーと同じなら2年です、多分。

 さっきから幽霊幽霊言われてますが、一応生きてます。つまり生霊です。

 霊魂と言ったほうが正しいかもしれませんが。ともかく、よろしくお願いします」

「兵藤一誠だ。同期としてよろしくな、俺の霊魂さんよ」

 

……とりあえず社交辞令として自己紹介は済ませたが

考えてみたら何も解決してないじゃないか。

 

1つ。ドライグが言っていたもうひとつの力のこと。

2つ。まだ堕天使は街に潜伏している可能性が非常に高いこと。

そして3つ。つまり、生殺与奪権はイッセーだけでなくリアス部長にも握られたこと。

 

霊魂とは不自由なものである。今のところ、この部室の中でしか実体になれない。

今試してみたが、部室から手を出すとその部分だけ綺麗さっぱり……

ってほどでもないが、実体を失ってしまう。

試しに全身出してみると、ドライグと話していた時のような状態になってしまっている。

一応、その時よりは輪郭やら何やらハッキリしているらしいのだが

実体がないことには変わりはない。

 

それに、全身の実体化を解いた状態で外に出ていると、やけに疲れる。

仕方なく、イッセーに憑依して過ごすことにする。

こっちのほうが居心地がいいとは、何とも言えぬ話だ。離れているときは離れている時で

壁をすり抜けられたり空を飛べたり行動の制約が無いのは魅力的なのだが。

ただ、空を飛ぶことに関しては悪魔は皆飛べるらしいので

全くアドバンテージにはならないそうだ。

 

そりゃそうだ。背中の羽は飾りか?

最も、イッセーは飛ぶのが嫌いらしく、飛ぼうとはしない。

飛べるとわかったら飛びそうなのに。高所恐怖症でもなかろうに。

まぁ、とりあえずはどうでもいいことなんだが。

 

その夜、イッセーに憑いた状態で目を閉じて眠ろうとしたとき

おもむろにドライグが話しかけてくる。

 

「よう。その様子じゃ、宿主は一応第一歩を踏み出せたようだな」

 

第一歩? ああ、ドラゴン波の事か。こっちもビッグバン砲で実体化してるから

そう結論づけてもおかしくはないか。

しかし、この様子じゃまだイッセーには声は届いてないみたいだ。

そんなにイッセーってやばいのか? そうは見えないが。

 

「悪いがドライグ、俺もイッセーも色々ありすぎて疲れてる。そっちの言伝はまだ伝えてないぞ」

「構わねぇよ。いきなり『お前の左手にドラゴンがいる』なんっつっても

 混乱するだけだろうよ。だが、これから戦いになれば嫌でも俺を認識することになる。

 それだけは忘れんなよ」

 

言いたいことだけ言って俺の目の前からドライグは消えていく。

む。やっぱりこいつマジでダイメイワクなオッサンドラゴン略してマダオかもしれない。

そもそも、戦わないって選択肢はないのか、無いのかよ……

 

この精神世界も殺風景だな、と思いながら俺は目を閉じる。イッセーの方は……

 

……ってお前何やってんだよ。賢者になる修行は今やることじゃないだろうが。

つかよくそんな気力あるなおい。

あー、気が滅入る。何が楽しくて男の賢者修行を見なきゃならないのか……

っておいおいまさか!? こっちにまで影響来てるとかそんな訳ないよな!?

これはマズい、非常にマズい。呼び止めるのが一番かもしれないが今の状態で俺の声届くか!?

つか、要らんトラウマ植え付けるのもマズい! 憑依を解くか!?

いや、イッセーには実体が無くても俺が見えてるらしいから、それはそれでマズい!

よし、こうなったらビッグバン砲で無理やり――

 

「使うなよ?」

 

アッハイ。ドライグに止められてしまった。

精神世界で憑依先であるイッセーに攻撃を加えようとすると

必要以上にダメージが行くらしい。そりゃあ、精神世界といえば内側も内側だ。

その内側から攻撃を加えればあっという間に崩れてしまう。

俺が思っている以上に、ここでの俺の行動はイッセーに影響を及ぼしているのかもしれない。

 

……ごめんなさい。実は部長や姫島先輩の発育の良い部分を思い出してました。

すまない、イッセー。でも少し思い出しただけでこれとは

こりゃ憑依してる時は慎重に動いたほうがよさそうだ。

だからわかったからお願いだからこれ以上修行続けないでくださいお願いします。

続けるなら俺との感覚の共有切ってください。

 

悪戦苦闘しながら俺が感覚の共有とカットをものにした頃には、既に朝日が登ろうとしていた。




現時点ではセージはイッセーの下位互換です。
今の時点では……ね。これから嫌ってほどチートスキル発揮しますので
そういうのがお好きな方はもうしばらくお待ちください。
お嫌いな方は……なるべく面白い能力にしますのでご容赦のほどを。

なおセージの正体は……わかった方もいらっしゃるかとは思いますが
現時点ではご内密に願います。
判明後に「ああやっぱりか、複線張るの下手だなこの作者」
とか思ってくださればいいので。

ビッグバン砲。これはべジータに相当するだろうキャラがいるなら
必殺技もなきゃおかしいと思い勝手に設定。すでに存在していたら訂正いたします。

面ドライバーBRX。これの元ネタは言わずもがなのてつを(RXの方)。
必殺技は同じく東映特撮のスパイダーマン(所謂ダーマ)の
レオパルドンの武器とミックス。相手は死ぬ。


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Soul2. 悪魔で、生霊です。

他の作者様の作品を見ていると、ちょっと自分のは文章が長すぎかなと思ったり。
当面はこの長さでいきますが、ご意見ありましたらよろしくお願いします。



今日も日が昇り、沈む。そんな当たり前の現象だが、俺、歩藤誠二は悪魔だ。

日が沈んでからが本領発揮となる。

 

事の発端は数日前。気がつけば駒王学園の旧校舎・オカルト研究部の部室にいた俺は

わけもわからぬままオカルト研究部に入部することとなり、悪魔としての仕事を言い渡された。

と言うより、ほとんどこれしかやることがない。

 

何せ、俺は悪魔で生霊だ。兵藤一誠ことイッセーと言うエロガキに憑いてないと

日中はまるで動けない。いや、動けるには動けるのだが、誰も俺に気づいてくれない。

オカルト研究部の面々でさえもだ。

辛うじて物は触れるようになったのだが、まだまだ慣れない。

 

仕方なく、イッセーの中で勉強をするフリをしている。そんな日中だ。

一応、イッセーの受けている授業はイッセーを通して俺も聞くことができる。

が、イッセーが寝てたらアウトだ。そんなときはこっそり、バレないようにイッセーから

身体のコントロール権を奪っている。当のイッセーは自分が寝てる間に

ノートが書かれているのを見て「これも悪魔の力か!?」と糠喜びしている。

そんなわけねーだろ。ま、俺も聞く価値のない(と勝手に思った)授業は寝る主義だから

お互い様なのだろうけど。

 

日が沈み、夜の帳が街を覆う頃になると、ようやく俺も外での実体化が可能になる。

オカルト研究部の部室以外では、まだ夜の街位しか実体化出来ない。これがイッセーなら

 

「夜の帝王に、俺はなる!」

 

くらい言うかもしれないが、事はそんな単純じゃない。

一日の半分しか外部で活動できないのは、これはこれで辛い。

 

とにかく、夜になれば悪魔の仕事――ビラ配りだ。

このビラを頼りに、悪魔に願い事をしたい人間がいるらしいんだが、なんとも業の深い話か。

部長直々に渡されたこの妙な機械が光っている場所にビラを配るらしい。

しかし意外と範囲広いな。聞けばイッセーはチャリを漕いで配ってるらしい。

で、俺はというと――

 

――悪い、飛んでる。

 

と言うか、飛んでいる方が向こうからお客さん(幽霊だけど)がやって来るのだ。

結構未練がある人(?)がやはり多く、今日もビラを配りながら

飛び込みでお悩み相談などの仕事をこなしているのだ。

ふふん。やはりちょっとばかし同期のライバル意識はある。

悪いなイッセー、これが俺の、生霊のやり方なのさ!

 

 

――が、そんな濡れ手で粟を掴むような話があるわけも無く

部室に帰った俺を待っていたのは衝撃の事実だった……。

 

「……セージ。非常に言いにくいんだけど言わなきゃいけないことが2つほどあるわ。

 まず1つ。悪魔の仕事は人助けじゃないの。一々迷子を送り届けたりだとか

 不審者を撃退したりだとか、そういうのは別にいいから。それから2つめ。

 幽霊のお客様を取ってきたのはあなたらしいと言えるけど……ダメなのよ、幽霊は。

 人間と違って、幽霊は願いを叶えたら未練がなくなって、成仏しちゃうでしょ?

 そうなると、私達悪魔にとっての利益がほとんど出ないの。

 無駄足とは言わないけど、今度から気をつけなさい」

 

がっくり。ちょっと過剰サービスしすぎたってことか……

むぅ、だが困ってる人を見過ごせないのも事実。幽霊達にだって事情がある。

どうすりゃいいんだ? 独立して何でも屋を立ち上げるわけにもいかないし。

この件がまたしても顔に出てたのか、部長は咳払いを一つすると改めて口を開いた。

 

「……でも、どちらもあなたが良かれと思ってやった事。それはあなたの美点よ。

 それを踏まえたうえで、精進なさい」

 

これは、フォローされてるんだろうか。あー、要らん気を使わせてしまったな。へこむ。

生返事になってしまったが、一応返答だけしてビラ配りに戻る。

今度はイッセーを見習って、チャリで行ってみるか。

そのイッセーは、ダンボール数箱分のビラを配り終えてしたり顔をしていた。ちょっと悔しい。

 

――で、早速チャリでビラ配りを再開する。うん、夜の空気が気持ちいい。

空を飛ぶのとはまた違う感覚がある。地上を走っているからか、幽霊との遭遇率は

低くなったがそれでも見渡すと結構いる。イッセーは見落としていたのか

或いは俺が霊魂だから見えるだけか。部長も幽霊の客取引は俺らしいと言っていたし。

 

……まあ、願い叶えるのは未練を無くすことでもあるし、成仏するのが普通だよな、幽霊は。

とりあえず、機械の指し示した場所にビラを投函し終え、悠々と帰路につく。

 

そもそも俺はイッセーほど、焦る理由が見つからない。

あいつはハーレム王と息巻いていたが、俺は正直自分の正体と実体さえ得られれば

それ以外の目的が思いつかない。だからこうしてのんびりやっている。

ドライグの件にしたって、悪魔になったのにしたって思えば成り行きだ。

 

だが、今の俺には普通の人間には無い力がある。

せっかくだから、普通の人間にはできないことをやりたいものだ。

それがイッセーの場合、ハーレムなんだろうが。

 

まあ、俺もイッセーに対するライバル意識はあるんだが

「負けたんならそれでもいいや」程度のものだ。「絶対に勝つ!」って程じゃあない。

 

――――

 

そうしてのんびり走って通りかかったのは深夜の廃工場帯。

古ぼけた看板を見るに、とある製薬会社の工場だったようだ。

この手の廃工場は、時折立ち退きが不十分で、何か名残が異臭を放っていたりもするらしい。

だが、それにも増して変な匂いがする。と言うか、俺はこの匂いが実は大嫌いだ。

 

――血の匂い。錆びた鉄のような、あの匂いが。思わずチャリを止め、中の様子を調べてみる。

まさか殺人事件か? 最悪、実体化を解いて逃げれば一応俺が指名手配されることはない。

実体化は夜でも自由に解ける。そういえば、イッセー越しに見た新聞で

「殺人事件が相次いでいる」って書いてあったな。まさかそれに出くわしたか?

慎重に廃工場の敷地に潜入し、周囲を探ってみる。

 

血の匂いがどんどん近くなっている。マジで殺人事件?

慎重に足を進めるが、いかんせん明かりのない廃工場だ。街灯も届かない。

悪魔になったお陰か夜目が効くようになり、暗闇もそれほど恐るほどではないが

見通しが悪いのは問題だ。犯人がまだいたりしたらちょっとマズい。

 

ここまで来て、さっき部長に釘を刺されていた事を思い出した。

とりあえず連絡を取ろうと機械を取り出そうとするが――

 

――マズい、落としたッ!!

 

瞬間、殺気のようなものを感じる。

慌ててその場を離れ、チャリを止めてある敷地の外へと走り出す。

……って、落としちゃマズいもの落として回収もしてない! 今の今でそんな状態で戻れるか!

意を決して、おそらく犯人が居たであろう場所に戻り、機械を回収する。

回収と同時に、何か牙のようなものが飛んでくる。

 

その牙は、さっきまで機械があったところに刺さっている。

一歩間違えたら機械がおシャカか、俺の手がおシャカか、どっちかだった。

牙が飛んできた方角を見ると、暗闇の中に3つの光のようなものが見える。

3つ光っているのが何かわからないが、怪物的な何かだろう。悪魔の俺が言うのもなんだが。

 

――オマエ、マルカジリ

 

怪物らしきものがそう言ったかどうかはわからないが、そう聞こえたような気がした。

それと同時に、また牙が飛んでくる。なるほど。殺人事件の犯人かどうかはわからないが

コイツは一枚噛んでるな。もう俺に狙いを済ませている。

こんな状態で、表通りに出るわけには行かない。表通りに出た途端逃げるかもしれないが

こいつがほかの人間を襲わない保証など、どこにもない。

これは、害獣駆除をしろってことか?

 

ここは戦うしかないか、と考えた途端に右手が鈍く輝く。

ドライグの鱗で、今俺が武器にできそうなものだ。ドライグに曰く――

 

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

 

見た目は強そうな籠手だが、これで殴ってダメージを与えるのか。

よくわからないが、ダメージは通るのか?

 

BOOST!!

 

電子音らしき音声とともに、俺の力が増す感覚が来る。音の主は右手か。

そしてこれが、おそらく俺の右手の力。だが、相手の実力がわからないし

相手はまだ暗闇の中だ。迂闊に飛び込んだら、目も当てられない。

思い切って、挑発をかけてみる。

 

「来いよ怪物、こっちの肉はうまいぞ……霊魂だけどな!」

 

気合いを入れる意味合いで、強く握った右拳を左の掌に軽く叩きつける。

眩く光るくらいには気合が入る。

 

……えっ? 光る?

 

BOOT!!

 

右手の鈍い光ではなく、今度は左手の眩い光。自分でも思わず目を閉じてしまう。

目を閉じる前に一瞬見えたが相手は黒い人間サイズで二足歩行の蜘蛛のような怪物。

足元には糸でぐるぐる巻きにされた人間が倒れている。

多分仕留めた獲物だろう。見ないほうがいいかも。

 

光が収まり、目を少しずつ開くと、怪物も光にやられたのか狼狽えている。

心配するな、俺も狼狽えてる。右手とは別の電子音。ブート……キャンプ?

いや違う、起動、って意味か。恐らく、右手の龍帝の義肢(イミテーション・ギア)が起動キーなんだろう。

で、何を使えば……え? え? え?

 

――わかる、この左手の使い方がわかる!

 

開け。そう念じると左手に展開されていた赤茶色の籠手は開き

由緒正しい魔導書を思わせるデザインに展開する。

その裏側、つまりこの魔導書が読めるように左腕を翳すと、そこにはわけのわからない文字は無く

かわりにカードホルダーがセットされていた。カードアルバムなのね、これ。

 

どうやらこのカードで何かするらしい。となれば、俺がやることは一つ。

とりあえずカードを一枚引く。カードリーダーとか無いが、どうすれば……ん?

ああ、そうか。カードをかざせばいいのか。とりあえず、自分に読めるようにカードをかざす。

ちなみに裏面は籠手とほぼ同じデザインだった。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

ライブラリ……図書館? 知りたいことが分かるのか?

とりあえず、この左手の詳しい使い方と、相手の情報か。

すると、目の前に文字が浮かび上がる。うんうん、これは読める。

読めるし、すぐに頭に入ってくる。相手ははぐれ悪魔。名前は……文字化けして読めないな。

名前を調べる機能もあるのか、これ。まあさしずめ蜘蛛男ってところだろうか。

能力は自分の牙を発射しての攻撃と糸による捕縛……ってさっき見たことまんまだな。

 

これ以上のデータ、例えば弱点は? そう思った途端、カードホルダーから

1枚のカードがせり出してくる。ああ、これ使えってことか。

1枚のカードでできるようになると便利なんだろうけど、仕様じゃ仕方ないな。

もう1枚のカードを引き、今度は思い切ってかざす。

 

COMMON-ANALYZE!!

 

アナライズ……分析。なるほどね。これは弱点や攻略法を見つけるためのカードか。

……ん、さっきより情報表示に時間がかかるな。今分析中ってところか。

分析が終わるまで、相手の攻撃を凌げってことか!

 

――キサマ、サキイカ

 

はぐれ悪魔は牙で俺を倒せないと見るや、飛びかかってくる。

これ、人間の身体能力ならやられてる! さすがははぐれ悪魔って事か!

けど、こっちも悪魔なんだ、残念だったな! 同じ土俵の上なら可能性はある!

この分なら、分析が終わるまでは持たせられる!

 

――分析完了。右手の倍加した一撃で倒せる。牙を発射する少し前に、隙ができる。

そこを狙え、か。

 

右手に力を込める。後は相手に牙を撃たせるだけだ。

さっき攻撃を凌いでいた時に、癖は見切っている。頭を軽く振るのが奴が牙を撃ちだす合図だ。

 

「――今だ!!」

 

牙を撃ちだす寸前、相手の頭めがけて右ストレートを叩き込む。

インパクトがかかったのか、はぐれ悪魔はそのまま廃工場の壁まで叩きつけられる。

一瞬痙攣したあと、黒い体が溶けるように消えていく。倒した……のか?

未知の相手なものだから判断がつかない。殺気は感じられない。恐らく、倒したのだろう。

 

そう思った瞬間、思わずへたりこんでしまう。とりあえず運が良かった。相手に捕縛されたら

こううまく行かなかったかもしれない。一応は正当防衛なのだろうか。

右手は龍帝の義肢(イミテーション・ギア)。左手は――

これが、ドライグの言ってたもうひとつの力、か?

とりあえず、俺はビッグバン砲以外にも神器があるという解釈でいいのだろうか?

 

などと色々考えていたら遠くにサイレンの音が聞こえる。

まずい、今警察に来られるとかなり面倒だ。この左手のことは後回しだ。

落し物がないか確認した後急ぐように外に止めてあったチャリに跨り

帰路に戻ることにした。

 

 

――とりあえず、怪物の相手よりも部長の形相の方が怖かった。

と日記には書いておくことにする。

 

「セージ。どうやら言っておかなきゃいけないことは2つじゃ足りなかったようね。

 今回は運良く返り討ちに出来たからいいようなものの、悪魔になりたてのあなたじゃ

 消されるのが関の山よ。あなたが霊魂だとしても、悪魔の攻撃を受け続ければ

 あなたの実体だけじゃなく霊体――すなわちあなたの存在そのものに影響が出るわ。

 あなたは当分の間、イッセーに憑依して活動なさい」

「……わかりました。今回の件は俺に非があります。

 勝手なことをしてご心配をお掛けし、すみませんでした」

 

お説教いただきました。今にして思えば確かに俺も無茶したと思う。

逃げるなら方法はいくらでもあった。しかし、それ以上に俺の力や

俺自身のことを知りたいという欲望が勝ってしまったのだ。

これは間違いなく俺に非がある。すみませんでした。

頭を下げ、部室を後にしようとする俺に、背後から声がかけられる。

あれ? 前にも似たパターンあったな。

 

「あなたのその実体も霊体も、あなた自身だけのものじゃないのよ。もっと大事になさい」

 

……それはイッセーの事か、それともオカ研の面子の事か。

言葉だけ聞くといい言葉なのだが、いかんせん部長は俺の見た限り

イッセーに結構入れ込んでいる。それはつまり、俺に何かあれば憑依先である

イッセーにも影響が出る。そういう意味で言っているとも取れてしまう。

もしそうだとしたら――

 

いや、俺の考えすぎであってほしいのだが。

改めて頭を下げ、俺は部室を後にする。何とも言えない気分になった俺は

霊体の状態で夜の街を漂い、頃合を見計らってイッセーに戻ることにした。

 

どの道、夜の街では街灯が眩しくて実体化できないのだから。




という訳でセージの初実戦でした。
原作通りだとちょっと神器だすタイミングが無いので。
ネタバラシしますと、龍帝の義肢に関してはイッセーの
赤龍帝の籠手みたいなパワーアップはしません。
その代わり……

なお、幽霊相手の悪魔契約に関しては一応可能ということにしてあります。

ただ、人間相手のそれよりもはるかに効率が悪いという
設定にはしてありますが。

※01/13 矛盾点あったため本文修正


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Soul3. 契約、取れました。

お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます。
マイペースな展開ですが、今後ともよろしくお願いします。


数日後。イッセーがとうとう悪魔としての初仕事に赴くらしい。

あの一件以来、俺は基本イッセーに憑依して行動している。

正直言って暇である。一応、この左手――記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の使い方とかは頭に叩き込んだ上で

部長を始めオカ研の全員に知れ渡ることとなる。

その時の評価は微妙なものであったが。

 

何せ、使えるカードが二枚しかない。全部で十枚超あったが、二枚を除いて全て白紙のカード。

かざしても何も起きないときた。

だが、まだ試していない、いや試せなかった機能がある。それは――

 

――おっと。どうやら準備が整ったようだ。魔法陣で契約者のもとへ移動、か。

大まかな流れは知っているとは言えこうして行くのは初めてだな。

イッセーの方は、やはり緊張している。

 

『そう肩肘はるな。悪魔としてそれっぽく振舞っておけば大体なんとかなる。

 と言うか、なんとかなる仕事だから回されたんだろ。

 いざとなりゃ、俺がフォローに入る』

「それもそうだな。これでまた、俺の夢への第一歩がまた刻まれた! 部長、準備OKっす!」

 

転移の魔法陣が発動し、俺達は悪魔を呼び寄せた人間のもとへと向かうのだった。

――の、はずだった。が、結果はどうだ?

 

「……おーい。イッセー、いないのか? ……屋外で召喚ってのは幽霊の事案であるから

 珍しいことじゃないが……遠くに一応駒王学園が見えるから駒王町からはそう離れてはないな。

 でもここどこだ?」

 

どうやら、転移の際にトラブルが起きたのか、分離して俺だけどこかに飛ばされたらしい。

近くに魔法陣が見当たらないところから、契約者の所でないのは間違いない。

マズいな。どうしたもんか。とりあえず、端末を取り出して部長に連絡する。

 

「……実は、転移にトラブルがあって、正常に転移できなかったの。

 お客様の元へはイッセーが自転車で向かってるから心配しないでいいわ。

 セージは、とりあえず部室に戻ってきてちょうだい」

 

くれぐれも勝手に戦わないように、と釘を刺され渋々戻ろうとする。

……が、誰かが呼ぶ声が聞こえる。

部長、やっぱり俺、はぐれ向きかもしれません。

 

俺はとりあえず声のする方角へ足を運ぶと、そこは放置されて結構な時間の経った廃洋館だった。

表札にまだ名前があるところを見ると、あまり考えたくない理由で手放したと考えるべきだろう。

それに、こんな人気のない場所から聞こえる声なんて、十中八九幽霊の声だ。

とりあえず、無駄だと思いつつもインターホンを鳴らす。鳴らない。

仕方ない。霊魂らしく中に入るか。

 

……とはいえ、一応イッセーに憑依するって形で謹慎中の身だ。

話を聞くだけ聞いて引き上げよう。まずは、声の主の顔を拝んでやる。

 

「おーい。俺を呼んだのは誰だー?」

 

すると、ふわふわと4人の幽霊が現れる。

黒を基調としたドレスにバイオリンを抱えた少女。

藤色のドレスにトランペットを持った少女。

赤を基調としたドレスにキーボードを引っさげた少女。ああ、幽霊だからなんでもありか。

そして、彼女らの妹であろう少女が揃ってやってくる。

 

「あら。随分軽いノリの悪魔ね」

「でもでも、ノリがいいのはいい事じゃない、私、嫌いじゃないわよ♪」

「ノリがいいなんて姉さん一言も言ってないじゃない。ところで悪魔さん。

 貴方が私達の呼んだ悪魔さん? イケメン枠じゃあないけど……

 頼りがいのありそうな雰囲気ではあるわね」

 

は? 話が見えない。あの一件以来、幽霊相手の営業は極力抑えている。

と言うかはぐれ悪魔の一件から俺は単独で外に出してもらえてない。

つーか赤ドレスの子、いきなり見た目で値踏みするな。

 

俺がきょとんとしていると、おもむろに黒いドレスの少女が紙を渡してくる。

これ、俺が配ってたビラだ。って事は、マジでお客さんか。

こりゃ話を聞くだけ、ってのは難しそうだな。

部長の話じゃ、破談も結構あるらしいが……俺は、出来ることは可能な限りやりたい主義だ。

こんなんだから、謹慎くらったのかもしれないけどな。

 

ええい現場判断だ、営業モード、スイッチオン!

咳払いを一つして、俺は悪魔の翼を広げ、それっぽく振舞ってみせる。

 

「……俺を呼んだのはお前達か。何を代価に、何を望む? 俺は、お前の望みを叶えてやろう」

 

いつぞや、イッセーとどっちが悪魔っぽく振る舞えるかの勝負をしたことがある。

その時は俺の生霊としてのポテンシャルを存分に活かして勝利をもぎ取った。

イッセーからは「消えたり壁すり抜けたりなんてずるいぞ!

それにそれじゃ悪魔じゃなくて幽霊だろうが!」と文句を言われたが、ああ聞こえない。

悪魔なんて角生えてるかコウモリの羽生えてりゃ大体悪魔って認識してもらえるんだよ。

俺は今回のビラ配りでそれを思い知った。

 

……が、今回は悪魔っぽく振舞う前に素を見せてしまっている。

マズい。これハズしたパターンだ。

一瞬の沈黙が流れたあと、俺を呼んだ幽霊姉妹が腹を抱えて笑っている。

特に藤色の子がえらい勢いだ。

 

「ぶっ、あはっ、あはははははっ!! 今更カッコつけたって無理だよ悪魔のお兄さん!!」

「な、なにこのギャップ、受ける、ちょー受けるんですけど!!

 って言うか魔法陣から出てこないで徒歩でやってくる悪魔ってのもありえないんですけど!!」

「……く、くくっ、あまり笑ったら悪魔さんに失礼よ……くくっ」

「ふ、ふふっ、お腹痛いわ……っ!!」

 

ちょ、ちょっと笑うな! 自分だって恥ずかしいと思ってるんだ! だから笑わないでってば!

あと藤色の子、それ俺の憑依主の前では言わないであげて!

ガチで自転車で行かなきゃいけないような悪魔だから!

こうして、呆気なく営業モードは終わりを告げ、結局素の状態で悪魔稼業に挑むことになった。

……堅苦しい話とか省けたし、結果オーライにしておこうか。

 

「く、くくっ、ご、ごめんなさいね……あ、あまりにも想像と違ったものだから……

 で、では私達の願いを聞いてくれますか?

 悪魔で私達を認識できるのは、貴方が初めてなんです」

 

一番早く立ち直った黒いドレスの子――名を虹川瑠奈(にじかわるな)と言う、が顛末を話し始める。

そうそう。俺はそれが目的で来てるんだから。決して受けを狙おうと思ったわけじゃないぞ!

 

聞けば、この虹川姉妹。元は有名な貿易商の家で、音楽を趣味としていたのだが

不況の煽りで事業が失敗。生活も回らなくなり

心労が祟ってそのまま病床に伏せてしまう悪循環。

せめて最後は美しいままで終わりたいと各々が大切にしていた楽器とともに心中したそうな。

それから、誰も買い手がつかないこの土地に幽霊として住み着き

夜な夜な演奏をしているらしい。幽霊の音なので、生きてる人間には聞こえないそうだが。

――ポルターガイストという例外を除いて。

 

「でも、やっぱりみんなの前で演奏してみたいと思ったわけ。

 この子――(れい)の声は、本当に綺麗なんだから」

 

赤いドレスの子が自慢げに妹と思しき少女を紹介する。

なるほど。結構音楽に対する思いは真剣みたいだ。

生きてたら、さぞ名のある演奏家や歌手になったに違いない。

 

「それじゃ望みを言うよ悪魔のお兄さん! 望みは私達の音楽を聴いてくれること!」

 

テンション高く、藤色の子が演奏の開始を宣言する。

なにこれ。もしかして結構おいしい思い出来てるんじゃないか?

そんなことを考えていると、演奏が始まった。なるほど、確かにいい演奏だ。

落ち着いた弦楽器の音は……黒いドレスの子、長女の瑠奈(るな)か。

それと対比になるような高らかな管楽器の音は……藤色の子。

確か次女で芽留(める)とか言ったかな。それらを赤いドレスの子――三女の里莉(りり)がうまく合わせている。

そこに里莉(りり)が紹介した子、末っ子の(れい)の声が加わる。

太鼓判を押すだけのことはある。身内贔屓ってだけじゃない。

 

まるで音のグラデーションだ……ん。今ちょっと恥ずかしい表現をしてしまった。

 

冷静に考えると、イッセーが聞いたら羨ましがるかな。女の子の合奏を特等席で聞けるってのは。

土産話にしてやるか。可愛い女の子の合奏を聞くだけのお仕事、って。幽霊屋敷でだけどな。

程なくして演奏が終わる。思わず、俺は立ち上がり拍手を送っていた。それだけの価値はある。

そしてそれは、俺の契約が果たされ、彼女らの未練が絶たれた事を意味する。

 

幽霊の未練が無くなれば、成仏するのみ。

今度は空の上で、その演奏を奏でてくれ。大丈夫、君達なら成功する。

 

「……これが望みか。代価は、俺の胸にしかと刻んだ。契約は成立だ。どうか安らかに……」

「ちょっとちょっと! まだ終わってないのに終わらせないでよ!」

 

……えっ? そういえば、一向に成仏する気配を見せないぞこの子ら。どうなってるんだ?

ま、まあ考えられるのはひとつの未練を絶ったら

また新たな未練ができてしまった、って事だろうか。

未練も欲望も、そういう意味ではそう大差ない。だから俺は幽霊相手の営業を目論んだんだが。

 

「お墨付きも頂けたんだし、今度は路上ライブにいくわよ!」

「「「おーっ!」」」

 

……あのーもしもし? 勝手に話し進めないでくださいます?

つか路上ライブって何路上ライブって。

どうやら、俺一人に聴かせるだけではまだ足りないらしい。

 

なるほど。こりゃ確かに業が深いわ。

つい唖然としてしまっていた俺に、里莉(りり)は無邪気な笑みを浮かべながら

契約の更新を要求してくる。

 

「じゃあ悪魔のお兄さん! これでお兄さんは私達虹川楽団のファンクラブ第一号にして

 私達のマネージャーに任命します!」

 

勝手に決めてるしもう……後ろで芽留(める)は得意の管楽器で盛り上げてる。

確かにテンション上がるけどさ。(れい)も拍手をしてくれている。

これもう断れない雰囲気じゃないか……そしてダメ押しとばかりに

瑠奈(るな)が裏面のアンケートへの返答がびっしりと書き込まれたビラを手渡してくれる。

 

「……こんごとも、よろしく」

 

あのそれ俺の台詞……こういうのってアリなのか? 後で部長に確認を取るか……

幸い、魔法陣の方は俺ひとりなら難なく発動し、俺は無事に部室に帰還することができた。

聞けば、魔法陣が正常に作動しなかった理由はイッセーの魔力が低すぎたことが原因らしい。

その為、元々霊的な存在であるせいか魔力が高く不自由しない

俺の方だけ飛ばされてしまい、中途半端な位置に出てしまったとの事だそうだ……

ドライグ。お前の宿主で俺の憑依先は結構前途多難だぞ。

 

尚、虹川姉妹の件については正式に契約と認められたようだ。

今回の件は、イッセー程ではないが珍しいケースとして扱われ

他の地方の悪魔稼業においても議題となるかもしれない。

そう部長は話していた。

 

まあ、瑠奈(るな)も言ってたしな。幽霊を正しく認識できる悪魔は珍しい、と。

 

それよりさっきから妙に静かだと思ったら、イッセーがソファに座ったまま動かない。

チャリでの移動がそんなに堪えたのか。気にするな。俺なんか途中下車の上徒歩だ。

しかもある意味不法侵入だ。

 

だがイッセーの精神的ダメージは、そこではなかったらしい。

 

「おぉぉぉぉぉい!! なんなんだよこの差は!? 俺は転移できなくてチャリで行ってその先には

 得体の知れない魔法少女という名の漢が居て、ぶっ通しで魔法少女アニメ鑑賞会だったのに!?

 お前は転移も無事にできてしかも美少女四姉妹の演奏が聞けて

 マネージャーに任命されただって!? この野郎ぉぉぉぉぉ!! 木場の野郎も大概だが

 お前もやっぱりここでぶちのめしてやるぅぅぅぅぅ!!」

 

……イッセー。それは心中お察しするが痛い。やめろ。コブラツイストをかけるんじゃない。

うぐぐ、実体化が仇になっている。と言うかなぜそこで木場が出るんだ。

言っとくが俺もイケメン枠じゃないぞ。多分。

 

あ、やばい。これかなりやばい状態だ。あの、姫島先輩。見てないで助けてくださいませんか。

それから塔城さん。何事もなかったかのように羊羹むしゃむしゃ食べてるんじゃないよ。

そんでもって木場。なんでここで爽やかスマイルを発揮するんだ。

発揮する場所間違えてるだろ!?

くそっ、落ちる、落ちる落ちる! ロープ、ロープロープ!

 

――あ、憑依すればいいのか。

 

精神世界に逃げ込めば、イッセーとて手出しは出来まい。

怒りをぶつける相手が逃げたことで、イッセーは興奮しているが

部長の一声で、またすぐに落ち着きを取り戻す……と言うか、別の意味で興奮してやがる。

あー痛かった。また何か言われても困るから、五感共有は切っておこう。

 

この場所、今度模様替えすっかな。とか考えている間に、俺はどうやら眠っていたらしい。




以上、セージの悪魔契約編でした。
もうミルたんにインパクトで勝つのは無理なので
ほかの角度から攻めていこうかと。

そんなわけで(?)今回のゲストキャラの元ネタは東方Projectより
プリズムリバー姉妹。申し訳程度の改変ですがそのまんま出すのも
味気ないと思ったので。なお元ネタのレイラに相当する玲がボーカルってのは
この作品の独自設定です。

……みすちー無理やり加えるよりは纏まりがいいかな、と。

8/30 一部改変。


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Soul4. シスター、出会いました。

俺、歩藤誠二は生霊で、悪魔である。嘘みたいだが一応そういうことになっている。らしい。

らしいというのは、俺は俺自身のことがよくわからない。

記憶喪失とかそういうものかどうかは、イマイチわからない。

 

この歩藤誠二という名前すら偽名に近い。セージという呼び方自体はあっているのだが

それ以外はさっぱりだ。その名付け元になったのが俺の霊魂としての憑依先、兵藤一誠。

こいつも色々あって普通の男子高校生のくせに悪魔をやっている。

 

そんな俺達が今何をしているのかというと――公園で黄昏ていた。

まだ日が高いこの時間、俺は外に出ても自分の実体が無い。

霊魂なんだからある意味当然っちゃ当然だが。

その為、俺はイッセーの精神の中から外の様子を見ている。

 

『イッセー。いつまで黄昏てるんだ。話を聞く限りじゃ森沢さんもミルたんもいい人じゃないか。

 それに、お前俺以外の霊魂見えないだろ。だから木場んところのお客さんはともかく

 虹川さんをお前に紹介するのはどう考えても無理だぞ。それともあれか? 妄想で補うか?

 ライブ会場は幽霊屋敷だったりお墓だったりでとてもそんな気になれないと思うがな』

 

と言うか、俺の沽券にも関わるから俺のお得意先に手を出すな、と付け加えておく。

やれやれ。女と見るやすぐこれだ。先日、幽霊四姉妹の所で念願の契約をとってきたのだが

イッセーに逆恨みされている。余程濃い面子に出くわしたんだな……特にミルたん。

正直、俺はその件については素直に感心してるんだが。

俺が行った日には多分ショックで除霊されてるかもしれないぞ?

 

だが濃さでは負けてないつもりだ。あれからそれぞれのパートを聞くことになったんだが

あれは……うん。合奏にしないとダメなタイプだ。纏まらなくなる。

向上を図るなら、ソロライブが当面の目的になるかもしれない。

 

『まー、なんだ。そも俺らは悪魔で、お客さんの希望がなきゃ行けない。

 こっちの都合でお客さん選べないだろ。これは昨日も部長が話してたと思うんだが』

「それはそうだけどよ、けど納得いかねぇんだよ。木場んところは美人のお姉さまで

 お前んところは美少女四姉妹だろ。こちとら男に漢だぜ?」

 

わかった、わかった。何度目だよその話。そんなにミルたんがショックだったのかよ。

あと表歩いてる時に俺と喋るときは気をつけろ、一人で喋ってる怪しい人に思われるぞ?

一応俺の声は外に届くみたいだが、声の主がそもそも視認できない。

新手の腹話術状態、って奴だ。

 

とりあえず、俺はいい加減イッセーに移動するよう促す。マジで暇なんだよ、日中は。

いいからどこか行こうぜ、と声をかけようと思った矢先、後ろで誰かが転んだようだ。

声からして女の子か……イッセー、変な気起こさないでくれよ?

 

あの転び方は顔面から行ったな。顔に傷とか付いてなきゃいいんだが。

とりあえず、俺――と言うかイッセーが転んだ少女に声をかける。

……ん? この服、コスプレじゃなきゃ教会関係者の服だよな? もしかしてシスターさん?

マズいなぁ。俺ら悪魔だしなぁ。いきなり退治とかされるのはご勘弁願いたいんだがなぁ。

そうは見えないけど。

 

そう考えてた矢先、イッセーの様子が少しおかしい。

ちっ、変な気起こすなと思った矢先からこれかよ。

けどまぁ、セクハラかます様子じゃないみたいだし、しばらく様子見でいいか。

……そういや、俺の神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」、名前とかも調べられたな。

ちょっと起動してみるか。

 

BOOT!!

 

イッセーの頭の中にも音声が響いているが問題はない。

何せこの神器、単体では殺傷力ゼロと認定されている。いきなり神器を起動させたって

訝しまれる事は無いって事だ。使ったことはまだ片手で数えられる程度だが

すんなりと俺は展開した神器からカードを引き、かざしてみる。

 

ここで俺はイッセーとの五感共有を切る。

表示データをイッセーにまで開示するのは、ちとマズい。要らん混乱や誤解を招きかねない。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

ふむふむ、なるほど。アーシア・アルジェント。教会内部では聖女と崇められ……

ん、これ以上はプライベートか。流石にロックがかかってるな。

調べりゃ出るのだろうけど、別に他人のプライベートをあれこれ詮索する趣味は無い。

名前と、教会のシスターってことがわかればいいか。

 

――ってちょっと待て!

ここはロックがかかってなかったから読めたが、悪魔さえも治療する能力の部分!

これって神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の賜物って書いてあるぞ!?

これについては……ってこれ以上もロックがかかってるか。

ま、ロックがかかってるんなら詮索するのも野暮だし大体、察しがつく。いや、ついちまう。

 

大方「異端の者を治癒するコイツは悪魔の手先だ!」的なことを言われたのだろう。

神器持ちは因果な奴が多いなぁ。俺然り、イッセー然り。

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を収納し、イッセーとの五感共有を再開する。

言葉の壁については悪魔の能力ですんなり解決している。なんてご都合主義だ。

いざとなればまた記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使うつもりだったが。

あ、これもご都合主義か。

 

『ざっと調べたが、悪人の類じゃない。とりあえずは信用に値すると俺は評価するよ。

 よかったなイッセー。念願の女の子の知り合いだぞ?』

「ばっ、そりゃ確かに嬉しいけどよ、俺はあくまで人助けの一環でだな……!」

 

イッセーによると、アルジェントさんは教会の場所がわからなくて困ってたらしい。

そこを場所を知っているイッセーが案内することになったんだが……

お前、教会行って大丈夫なのか? ちなみに俺はダメだ。

実体化するどころか、冗談抜きで除霊される。

 

が、ここで思わぬ事態が発生したのだった。

 

「あの、誰と話してたんですか?」

「『えっ?』」

 

やべ。さっき俺が忠告したことをすっかりお互い忘れてた。イッセーは

 

「あはは、俺って独り言多くってさ」

 

と誤魔化してる。そんなんで誤魔化せるものか。かなり今普通に話しかけて、応対してただろ。

ところが、アルジェントさんはそれをそのまんますんなりと信じてしまっていた。

よく言えば素直、悪く言えば世間知らず過ぎる。

 

イッセー、アルジェントさんの中でのお前の評価が

「独り言の多い男」になってしまった事は俺の責任だ。だが俺は謝らない。

どの道お前の評価はさらに下降すると危惧してるからだ。

 

そんなこんなで公園を通りかかった際、転んだのか膝をすりむいて泣いている子供がいる。

そんな子を、アルジェントさんは聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で治療してやっている。

なるほど。伊達にシスターさんはやってないってことか。

 

しかし、そんな様子を隣にいた母親は頭を下げつつも

アルジェントさんをまるで化物を見るような目で見ていた。

 

……ちっ。今日は色々な意味でイライラする事の多い日だな。

仮にも母親なら子供の傷が治ったことを喜べよ。礼は確かに言ってたけど

そのあとの態度、それ何なんだよ。親はなくとも子は育つ、どうか健やかに育ってくれ少年よ。

イッセーも同意見らしく、今度あのクソ親に会ったらドラゴン波をぶちかますとまで言っている。

そこまでやらなくてもいいって。俺のビッグバン砲もつけてやるからさ。

 

だが、子供の方はきちんと理解していたらしく、お礼を言っていた。

それをイッセーが翻訳している。

 

俺達は翻訳機いらずだが、アルジェントさんにはそれが無いからな。

そう考えると、やっぱキツいな……そんなキツい中に、あの子供のお礼の言葉は

アルジェントさんにとっての清涼剤となったようだ。よかった。

 

イッセーは件の神器について気になっているようだ。

これは伏せておいて正解だったかどうかまでは――何とも言えんな。

まあ、アホみたいにドライグの左手を見せびらかしてない分、正解だったと思うべきか。

 

MEMORIZE!!

 

――え? 俺の思案を遮るように俺の左手から流れた電子音声。あらら、やっぱり発動したか。

俺の左手のもうひとつの能力――見た力を記録する力。俺の左手。もう少し空気読んでくれ。

イッセーでさえ空気読んでるってのに。ともあれこれで、俺の手札はひとつ増えた。

まあ、状況が状況だから素直に喜べないんだが。

 

それにしても……現地の協力者はいないのか?

普通、こういうのは現地の協力者がいるものだと思うんだが。

さっきからイッセーも言葉少なになっているので、空気を打開しようと

イッセー越しに聞こうとも思ったが、やめた。これで墓穴掘ったらえらいことになるかもしれん。

例えばそう、集合場所を間違えて迷子になってただけとか。

 

しかし結局、イッセーが教会まで送り届けるまで教会側の協力者は一度たりとも現れなかった。

 

教会に近づくに連れ、俺達にはどうも不快感が強くなる。こればかりは仕方ない。

ペンギンが空を飛べないように、悪魔が教会に近寄ればこうなるのは自明の理だ。

俺もイッセーも、さっさとこの場を退散したかった。

イッセーの方は案の定、名残惜しそうにしてるが。

 

お互いに名乗り、再会を願いながら互いの帰路に着く。

俺は……そっか。こういう時、名乗れないな。

最近幽霊相手の仕事が多いから気にしてなかったが、俺は日中「存在しない」んだった。

……ま、今考えることじゃないな。今度は、イッセーにとっていい出会いであるといいんだが。

 

『アーシア・アルジェントさんか。いい子だったな、イッセー』

「ああ。けど、俺達は悪魔で、向こうはシスター……

 なあセージ。悪魔って、人間と同じくらいに辛いよな」

 

……ああ。それにしても今日はよく意見が合うな。

これくらいスケベ根性抑えてくれればお前はいいやつなんだよ。

だがイッセー。そろそろいつものお前に戻ってくれ。調子が狂う。

そんな狂った調子でその夜、俺達は部長の前に立たされ、お説教をくらっていた。

 

それでも、お説教が終わる頃にはいつものイッセーに戻っていた。

本当、お前は部長には甘いな。

 

だが俺は正直、部長――リアス・グレモリーを心の底から信用できない。

眷属なんだから選択肢はゼロなのだが、それでも……得体の知れない不信感を感じるのだ。

まるで、俺のことを付属品か何かとしか見ていないような、そんな――

 

――む。今日の俺はやけにセンチメンタルだな。やはりさっきの件が響いているのかもしれない。

そのせいで、俺は追加のお説教を喰らうことになったのだが。俺、そこまで上の空だったか?

まあとにかく、仕事をしっかりこなしている以上は、イッセーの付属品扱いはさせないつもりだ。

そんなことを考えていた矢先、姫島先輩が後ろから現れる。気配殺してましたよね今?

彼女が現れた理由。それは、はぐれ悪魔の討伐指令だった。




ワイズマンペディアのチート能力の片鱗が見えました。
ラーニングとかそういう能力です。
しかも敵味方問わず見るだけで可能というFF6仕様。
影薄いけどあのじいさんチートだと思うの、青魔的に。

あと、ちょっとセージがリアスに対して辛辣な点について。
この作品は基本セージ視点なので描写し切れていませんが
リアスから見たら「神器の持ち主転生させたら特典ついてきたラッキー」
って感覚が少なからずあると思うんです。

で、ウエイトをイッセーに置くとどうしてもセージが軽くなる。
3巻以降はともかく、1巻時点でも結構イッセーに
ベタベタしてた風に見えましたので。>リアス

セージはモロにそのあおりを受けちゃった感じです。
最も原作じゃイッセーは唯一無二の存在だったが故にベタベタだっただけとも
取れますが。それでも基本原作に倣う形の本作ではセージが割り食ってます。


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Soul5. 実戦、デビューです。

チート能力が徐々に解禁されていきます。
でも中身はイッセーと同レベルです。


はぐれ悪魔、か。先日俺が倒したやつとはまた違うタイプらしい。

だが危険度については変わりなく、悪魔の法に則って

駆逐せねばならない存在であることは間違いない。

 

イッセー含め、オカ研総出で来たということは相手はそれほどの強敵か

或いは俺たちへのレクチャーか。部長の自信たっぷりな態度を見る限りでは、後者だろうが。

 

だが肝心のイッセーはビビリまくっている。

俺の方は緊張していないといえば嘘になるって程度だ。

確かに悪魔になりたての俺らは戦力外通知を受けてはいるが。

それでもこういうのはビビったら負けだ。

 

「セージ。いくらあなたが以前はぐれ悪魔と戦ったと言っても

 今回のはそれより遥かに強い個体よ。今日は後ろで、イッセーと私達の戦いを見てなさい」

 

だろうな。さっきから感じる気配は以前廃工場で感じたものよりは強い。

余程今度のやつは力を蓄えたか、以前倒した奴が本当にザコだったか。

 

だが……ビビる程かと言うと、そうでもない。

緊張しているのは、単に実戦経験の不足によるものだと思う。

最も、こんな経験がそうあってもそれはそれで困る。

一応、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)は稼働状態にしてある。

学ぶというなら、これはかなり便利なシロモノだ。

 

道中、部長は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)やチェスをモチーフにしたレーシングゲーム(・・・・・・・・)についての話を続けていた。

人間を悪魔に転生させて、自分たちの力を競う駒にする――か。ふむ。何か引っかかるな。

その話が事実なら、イッセーや他のオカ研部員は駒として駆り集められたって事になるな。

 

……ん? じゃあ俺はどうなる? 俺もその駒の一つなのか?

イッセーはイッセーで、自分の駒の役割を気にしていたようだが、俺の扱いも気になる。

イッセーと二人で一人の悪魔の駒なのか、それぞれ独立した悪魔の駒なのか。

 

そういえば、さっきからはぐれ悪魔を探しているが、この記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)、分析ができるなら

レーダー機能みたいなのはないのかな? とか思っているとカードホルダーが動いた気がしたが

俺がカードを引くよりも先に、部長がお目当ての場所を見つけたようだ。

それと同時に、俺の左手から電子音声が流れた。

 

SPOIL

 

スポイル……あ、今のカード失効されたのね。残念。使ってみたかったんだが。

その電子音声に続くように、奥から不気味な声が響き渡る。

俺達以外の声の主なんて、答えは一つだ――今回の殲滅対象!

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しに来たわ」

 

暗闇の奥から出てきたのは、全裸の女性の上半身と、巨大な獣のの下半身。

両手には槍を持ち、尾は独立して動いている。

俺が見た名前の読めない蜘蛛男も大概だったが、こいつもまたテンプレートな怪物だ。

 

部長のあからさまな挑発に乗っているあたり、程度もしれてしまう。

イッセーはビビっているようだが……いや、俺がおかしいのか?

 

気を取り直し、俺はカードを一枚引く。相手の情報を調べるカードだ。

今度はフルオープンで、全員に情報が見えるように設定する。

変なところで痒いところに手が届く設計だな、これ。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

――バイサー。はぐれ悪魔。両手に持った巨大な槍と

その巨体から繰り出されるパワーで相手を蹂躙、人間を喰らい尽くす。

かつてはさる名門悪魔の眷属であったが、悪魔としての力に溺れ、現在に至る。

人間を喰らうことで、力を蓄える――か。

 

アルジェントさんの時と違って、個人情報ダダ漏れだな。

まあ、こいつに守るべきプライバシーとか無さそうだが。

さて。弱点を分析するか? 一応部長に確認を取るか。

 

「……部長。奴の弱点を調べましょうか?」

「それには及ばないわ。それよりイッセー、セージ。

 さっきの続きをレクチャーするわ。祐斗!」

 

部長の号令に合わせ、木場が動く。

そういえば、オカ研の面子の悪魔としての顔を見るのは初めてだ。

木場の駒は騎士(ナイト)。速度を活かし戦場を駆け回る。

そして、木場自身の得物は西洋剣。手に持ったロングソードで

バイサーの体に剣撃を浴びせている。高速の剣撃。

 

――なるほど、強そう、というか強い。

バイサーの攻撃がかすりもしなかった。俺も目で追うのがやっとだ。

左手の籠手もさっきからカタカタ動いている。

 

MEMORIZE!!

 

俺の手札が一枚増えた。しかしまだ左手の籠手は動いている。まだあるのか!?

電子音声と同時に、バイサーが狙いを塔城さんに変更する。

木場は倒せないと見えて、別の獲物から倒す算段か?

狼狽えているイッセーとは裏腹に、部長も、塔城さんも顔色ひとつ変えない。

ただ一人、バイサーだけがしたり顔で塔城さんを踏みつけてい――ない。

 

踏みつけようとした足は、地面に接していない!

 

「次は小猫。あの子は『戦車(ルーク)』。特徴はシンプル。

 バカげた力と、屈強なまでの防御力」

 

MEMORIZE!!

 

また俺の手札が増えた。それでもまだまだ籠手は動き続けている。

少し不安になってきたぞ。一方の塔城さんは、踏みつけ攻撃をものともせずに

相手を持ち上げ、放り投げたかと思えばストレートをぶち込んでいる。

確かにあれは、単純だが強い力だ。

 

これでも勝負は決まったようなものだが、これでまだ半分。

向こうに切り札がない限り、これは勝負付いてるな。

いや、初めから決まっていたと見るべきか。

 

「最後に朱乃ね」

「はい部長。あらあら、どうしようかしら」

 

MEMORIZE!!

 

あれ? 姫島先輩何もしてないのに手札が増えたぞ?

恐らく、塔城さんのデータがシンプルで、記録が簡単だったから

ようやく記録の方が追いついた――ってところか。

これで安心して姫島先輩の戦闘データをチェックできる。

 

姫島先輩は女王(クイーン)。全ての駒の力を備えた無敵の副部長。

オカ研ナンバー2は伊達じゃなさそうだ。

姫島先輩が手を翳す度、バイサーに稲妻が落ちる。

それも一発や二発じゃない。何発も。

 

あれは……わかる。何せ俺には見える。

ここは屋内のはずなのに稲妻が落ちている時点でそうなのだが

これは魔法の稲妻だ。魔力の流れが、今までと全く違う。

部長曰く、姫島先輩の魔法は稲妻だけじゃないらしいが、それよりも何よりも……

 

背筋が薄ら寒い。バイサーの方は悲鳴をあげているというのに

対峙してる姫島先輩は楽しそうに笑っている。

これは……あまり逆らうと面倒なタイプかもしれない。

今のところ、そんな事情は全くないから問題は……

 

……ありまくった。今まで散々勝手な判断で行動してた。

イッセーも震えているが、俺も肝が冷えている。

 

おい生霊。お前肝を冷やす側だろうが。

何か見てはいけない裏側を垣間見た気がしないでもないんだがこれは。

 

MEMORIZE!!

 

姫島先輩がご丁寧に何度も何度も稲妻を浴びせてくれたおかげで

いいデータがとれました。

部長や木場は、姫島先輩は味方には優しいと言ってくれているが

この場面で言っても信用できないぞそれ。

 

何せ、あの醜悪だったバイサーの顔や身体が

見るも無残に黒こげてさらに醜悪になっている。

そんな肉塊寸前のバイサーに、部長が歩み寄る。止めだろうな。

 

――殺せ

 

それがはぐれ悪魔、バイサーの辞世の句だった。

部長の魔力を受け、跡形も残らず消滅している。

……これが本物の悪魔の戦いか。あまりの事に、正直まだ事態が飲み込めていない。

判明したのはオカ研は俺とイッセーを除いてとんでもない集まりだって事と

今回ので俺の手札が増えたこと、それと――

 

MEMORIZE!!

 

部長のデータは、俺の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でも記録に成功したが、これ使いこなせるのか?

そんな俺の考えなどお構いなしに、部長は平常運転に戻っている。

いや、もうこれどっちが平常運転だ?

 

「あの部長、聞きそびれた俺らの役割なんですけど」

「ああ、イッセーとセージは――」

 

イッセーの質問に、部長が答えようとした矢先。闇の奥から何かがわらわらと出てくる!

慌てて、俺はさっきスポイルされたカードを探し出す。これって所謂手札事故か!?

たったこれだけの手札で事故るとかどんだけだよ!?

 

COMMON-LADER!!

 

レーダー。なるほど、さっき考えてたレーダー機能、きちんとあるんだ。

そして展開したレーダーを見た瞬間、俺はあっという間に状況を理解した。

否、せざるを得なかった。

 

――囲まれてる。囲んでいる相手は……バイサー!? バカな、さっき部長が消したはずだ!

しかし、身体の大きさや感じられる殺気は小さい。だが数が多い。どれだけいるんだ?

 

「コロサレタ、コロサレタ。ハハガコロサレタ」

「コロシタ、コロシタ。アカイアクマガコロシタ」

「ハハノカタキ、ハハノカタキ」

 

怒号を上げながら子バイサーが襲いかかってくる。

木場はスピードで、塔城さんも張り付いたやつを引っペがしたり

姫島先輩や部長は魔法で一網打尽にしている。

だが数の暴力、おそるべし。俺達にも向かってきた!

 

「イッセー、セージ! とにかく逃げ回りなさい!」

「了解っす! セージ、ここは逃げるぞ!」

 

思いっきりイッセーに引っ張られる形になってしまう。

数は向こうが圧倒的に優位だし、ここは逃げずに戦ったほうが――

――いや、部長の指示を的確に守っているイッセーの方が正しいのは頭じゃ理解できるんだが。

 

だが、子バイサーの数の暴力はそもそも俺達に逃げ場を用意してなどくれなかった。

結局、俺達は腹をくくるしか無いということか。いいよ、やってやる!

 

「ダメだイッセー。ここは腹を決めるぞ。俺たちも戦う。

 自分の身くらい守れずに、悪魔は名乗れないしな。部長、そんなわけですので俺は逆らいます。

 イッセーは従順かもしれませんが、俺はあなたのためには存在しない。

 眷属失格ですが、あなたに従ってばかりじゃ俺の正体は分からずじまいだ!」

「お、おいセージ! くそっ、俺もやるぜ! ハーレム作る前に死んでたまるかってんだ!

 い、行くぜ、セイクリッド・ギアッ!!」

 

ある程度、腹の中に貯めていたものを吐き出した。気合を入れる意味もあるのだが

ここらで言っておかないといつ言うのか、タイミングが俺としては良かったというのもある。

少なくとも、今逆らうことで俺のこの力の正体はある程度、見えるはずだ!

 

RELOAD!!

 

右手に実体化させた籠手の拳を、左手の籠手の掌に押し付ける。

左手の籠手、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)起動の合図だ。

今は既に起動させていたため、リロード――再読み込みを知らせる電子音声が鳴り響く。

そのまま左手の籠手を展開させ、俺はすぐさまカードを一枚引き、かざす。

 

SOLID-SWORD!!

BOOST!!

 

イッセーも左手にはドライグの籠手を装備している。それでも立派な武器だ。

素手で殴るよりかは効果はあると思う。それにあのドライグの言葉が本当なら――

それはとんでもない力を持っているはずだ。行くぜ、イッセー。

 

そして俺の引いたカードはさっき新たに出来たカード。

木場の使っていた剣が、今度は俺の右手に収まっている。

これは俺の見たものを、再現できる力、か? 木場の方も、思わず自分の手を見ていた。

 

「僕の剣……だよね、それ?」

「そうらしい。まだよくわからないが、実際に盗んだわけじゃあないと思うぞ。多分」

 

得物があれば、ある程度はアドバンテージを稼げる!

剣術の心得は多分ないが、多分なんとかなるだろう!

俺の振るった剣が、子バイサーの肉を切り裂く感触を得る。

木場ほどのスピードも、塔城さんほどのパワーも当然ないが

それでもなんとか戦えているのは……考えたくないが、多分相手が弱いからだろう。

子というだけあって、おそらくそれほど力も蓄えていないし、実戦経験も無いのだろう。

 

「イッセー、そっちに行ったぞ……っとととっ、こっちにも来たか!

 だ、ダメだ捌き切れな……うわっ、折れたぁ!?」

「セージ! このっ、ちょこまかしやがって! 木場みたいにはうまくいかないかっ!」

 

だが、それ以上に俺達の力と実戦経験が足りなさすぎた。

俺は剣を折られ、イッセーも左手の力をうまく使えずに

相手に振り回される形になっている。

 

息巻いてこれか。全くなんとも情けない話だ、くそったれが。

木場の剣が折れてないところを見るに多分、実体化させたものの強度は

俺自身の力に左右されるってところなんだろうな。

もちろん、俺自身の剣術的な意味合いもあるんだろうけど。

とにかくこれは情けなくて、マズい。

 

「イッセー! くっ、どきなさい!」

「あらあら。弱いものいじめはよくありませんわよ? セージくんからおどきなさいな」

 

部長と姫島先輩が俺達の周りにいる子バイサーを蹴散らしている。

あいつら、俺達が弱いことを学習してこっちに狙いを定めてきている!

この場を打開するための手札は……姫島先輩のカードなら、纏めて蹴散らせるが……ッ!!

 

ERROR!!

 

ですよねー。表示されているのはコスト不足を示す警告文。この分じゃ部長のもダメだな。

なら、他の手を考えるまでだ! 部長も姫島先輩もダメなら……

頼む、木場や塔城さんのはセーフであってくれ!

 

カードを引こうとあたふたしている俺めがけて、子バイサーの一体が突っ込んできた。

……しまった。注意が散漫になっていたか。反応、しきれるかッ!?

 

「セージ! こっちに来い!」

「イッセー!? そうか、よし!」

 

イッセーのアドバイス、ナイスタイミングだよ本当に。

こうすれば確かに反応云々じゃなく、回避できる!

俺は実体化を解いて、イッセーに憑依する。

転げ込むように精神世界にダイブしたため、少し痛い。

イッセー越しに見えるが、俺めがけて突っ込んでいた子バイサーは

突然獲物が消えたことに戸惑っているようだ。ざまぁ。

 

『サンキュー、イッセー。時にイッセー。速さと強さ、どっちがいい?』

「早い……よりは強い方かな。けどそれがどうしたんだ?」

 

おいイッセー。お前今違うこと考えてただろ。まあいいや、今突っ込んでる場合じゃない。

ここなら、安心してカードを選んで使える。来い、今度はハズレ手札であってくれるなよ?

俺の予想が正しければ、今ここで使うカードの効果は――

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

力。俺が見た塔城小猫の能力。あのシンプルで強い力。それを今宿してるのは――

 

「おおっ!? 何か力がみなぎってくる!! 例えるならそう、朝の俺の○○○のようにッ!!」

「……先輩、例えが下品すぎます」

 

おおーい。なにやらみなぎっているようだけど塔城さんの言うとおり

もっと他にいいたとえはないのか。

だが塔城さんのツッコミ含め、あまり皆動揺していない。

姫島先輩や部長、木場は下ネタに耐性ついてるのか?

塔城さんには、あまりついてなさそうだけど。

肝心の威力のほどは、イッセーに狙いを変えた子バイサーの突進をくらっても

イッセーは吹っ飛びもしなかった。

 

「お? ポフッって当たった程度にしか感じないな。凄いな、これが小猫ちゃんの力か!」

「……歩藤先輩の力だと思います」

『どっちもだよ塔城さん。さて、感心してるところ悪いがイッセー。

 この力は時間制限付き、そいつが最後の一体だ。

 効果が続いてるうちに思いっきりぶん殴ってやれ!』

 

気合一閃。イッセーの叫びとともに放たれたドラゴン波……

もとい、左ストレートは綺麗に子バイサーにめり込み、そのまま消し飛ばしてしまった。

我ながら凄いな。いや、塔城さんがすごいのか。

使う機会が無かったが、恐らくもう一枚の方も木場の力を再現できるのだろう。

 

あれだけいた子バイサーは全て駆逐され、廃屋には静寂が戻っている。

今思い出したが、このあたりはやけに幽霊が多かった。

話を振っても、何も喋らない奴もいたっけか。

今にして思えば、彼らはバイサーの犠牲者だったのかもしれないな……。

 

ともあれ、名も知らない浮遊霊の皆、仇はとったよ。俺は何もしてないけど。

 

「予想外の事態が起きたけど、これで討伐は終了よ。

 みんな、お疲れ様。帰ってお茶にしましょ」

「あのー部長。それで、俺らの役割は……」

 

帰還の魔法陣をセットする前、イッセーが部長に俺達の駒を聞くが……

この流れで答えは読めていると思うんだが。

お前、どう考えても僧侶(ビショップ)って柄じゃないだろ。

この記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)がある俺の方は、ちょっと何とも言えないが。

だが俺も基本イッセーと二人で一人な存在だと考えると、自ずと答えは出てくる。

 

「『兵士(ポーン)』ね。イッセーとセージは兵士(ポーン)

 セージの方は僧侶(ビショップ)にも思えなくはないけど、役割としては二人共兵士(ポーン)よ」

 

ここからでもわかる程度にイッセーが項垂れているのが見える。

まあ、兵士(ポーン)て言えば将棋の歩と同じくらい下っ端の駒だからな。

と言うかお前、これでもかってくらいに兵士(ポーン)なフラグ満載だったじゃないか。

今更何をしょげるんだよ。

 

俺の方は、別に自分が何だろうと興味がない、と言うかテーピングゲーム(・・・・・・・・)自体に

興味がなかったので、どうでもよかった。

 

人に仇なすものに対する抑止力が自分にあることがわかっただけでも

儲け物だということにしておく。だが、もう少し練度をあげる必要はありそうだな。




Q:なんでバイサー増えたの?
A:原作でそれなりの数の人間が犠牲になっており、そこから力を蓄えたことは
  想像に難くないので……魔力で分身を生み出したか、単為生殖か、あるいは
  もっと直接的にR-18的に増やしたか。
  とにかく原作よりほんのちょっと強くなりました。>バイサー
  オカ研も一人増えましたしね。

……はい、「折れたぁ!?」やりたかっただけです。
あとイッセーの実戦デビューを展開上、少し早めたかったのもあります。

セージが作中レーシングだのテーピングだの言ってますが
当然レーティングゲームの事です。
全くどうでもいい話は聞かない(Soul2.参照)ので、覚える気すらありません。
現時点では。

次回はいよいよみんな大好き(?)クソ神父が出ます。
あとはいよいよセージが……?


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Soul6. 神父、来ました。

俺、歩藤誠二は悪魔で、生霊である。俺が何故こうなったのかは今はまだ、わからない。

だから俺はその謎を解き明かすためにオカルト研究部に所属し、悪魔稼業に勤しんでいるのだ。

 

今日もまた、俺達の悪魔稼業が始まる。イッセーは今朝内側から見たときは落ち込んでいたが

今は気を取り直している。

こいつの立ち直りの速さは、俺も素直に感心している。

と言うか基本、俺はイッセーに対して評価が甘いかもしれない。

俺の憑依先だから、というのもあるかもしれないが。

 

今日もイッセーは、悪魔としての依頼を受け、契約者の家に向かっている……自転車で。

情けないかもしれないが、それしか移動手段がないのだ。

一度飛んでいったらどうだと言ったが

 

「なんかやっぱり性に合わないんだよな。それに、この方がトレーニングにもなるし」

 

と返された。うん。至極真っ当な理由で俺びっくりしたよ。

まあ確かに、いつぞやの戦いではお互い嫌ってほど弱さを思い知らされたんだが。

とにかく、そんなイッセーを俺は今日は珍しく見送っている。

俺の方は、まだお呼びがかからない。

 

と言うか、以前行った時契約者である虹川四姉妹に

 

「路上ライブに使えそうな場所を用意して欲しい」

 

と言われたため、よさそうな場所を見繕っている最中だ。

幽霊が集まりやすく、かつ広い場所。

それでもって、周囲に迷惑のかからない場所。この条件が意外と難しい。

 

以前はぐれ悪魔と戦った廃屋が更地になったそうなので

そこを提案してみたがどうもダメだったらしい。

その為、今一から探している真っ最中だ。

 

部長らは使い魔にやらせているというビラ配りを俺は使い魔がいないことと

件の物件探しを兼ねて自力でこなしている。中々難しい案件だな。

だが、なるべく早く見つけてやりたいものだ。

 

そう考えながら夜の街を霊体で漂っていると、目の前に苦悶の表情を浮かべた幽霊がいる。

しかもうっすらとだがうちの部長の、グレモリーの魔法陣が見える。

ただ事ではない、そう感じた俺は即座にその幽霊に話を聞いてみることにした。

 

「おい、俺はグレモリー眷属の生霊だ。そんな顔をしてどうした?」

「キ……ツケ……シンプ……コロ……サレ……」

 

なに? 神父だと? まさか……まずい!

今グレモリーの魔法陣を使い、呼び出された悪魔は――イッセーか!

あいつは魔法陣移動ができないから時間差が生じるが

今回のはそれが吉と出たか凶と出たか?

 

とにかく、少しまずい状態になった。

 

「大丈夫だ……とも言えないか。とにかく、遅くなってすまない。

 神父については、今から応対する。今回のことは申し訳なかった。

 改めて、今度は俺が応対する。今は向かうはずだった仲間の悪魔を助けに行きたい。

 何を願うつもりだったのかは、後日改めて聞かせてもらえないか?」

 

イッセーには悪いが、イッセーが魔法陣移動できていれば彼は死なずに済んだかもしれない。

そう考えると、この幽霊に対し申し訳ない気持ちに苛まれる。幽霊の方は、俺の話を理解したのか

苦悶の表情がいくらか和らぎ、浮遊霊と化した。やはり、まだ成仏はできなさそうだな。

とにかく、部長に知らせてイッセーを助けなければ!

 

「部長。マズいことになりました。今イッセーが向かった先、神父がいます。

 イッセーを呼び出した人間は、既に殺されています。

 俺が幽霊になっているのを確認しました……至急、救援を願います」

 

「なんですって!? 困ったわね……実は私達の方でも

 堕天使が集団で何やら怪しい動きをしているのが見えたの。

 それでその場所に向かったところなのだけど……わかったわ。

 なるべく早く駆けつけるから、絶対に無理をしないように。いいわね!?」

 

――言いたいことはわかりますがね部長。俺はその現場のすぐ近くにいるわけなんですよ。

それより、そんな場所にイッセーを向かわせたんですか。ちょっとザル警備過ぎやしませんかね。

そしてこの状況……もしかして、ハメられたか? で、イッセーが神父と……

マズい、もう対峙してるじゃないか! ここで救援に行かなきゃ嘘でしょうが!

俺は右手に龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を発現させ、左手の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動させる!

 

BOOT!!

 

そしてそのまま、霊体のまま猛スピードでイッセーに近づき、実体を得る。

 

「セージ! お前どこから……ってお前ならどこでも来られるよな、ある意味」

「そういうこった。今部長にも知らせたから、来るまで持ちこたえるぞ」

 

目の前にいたのは神父……とは言い難いものだった。

見た目だけなら、木場に匹敵するイケメンなのだが

その表情や発している言葉等々からイケメンとしての良さを相殺――

いやむしろマイナスにまで下げてしまっている。

これなら、イッセーの方が余程イケメンだ。俺? ノーコメントだ。

 

「お? クソ悪魔の次はクソ幽霊、いや悪魔っぽいからクソ悪霊っすか。

 いいねいいねぇ、今日は入れ喰いで俺ちゃんとしては大歓迎なんですよクソどもが!」

 

あー……見ただけでわかる。これ関わっちゃいけないタイプだ。

イッセーは――とりあえず、怪我はまだしてないな。遺体は……見るんじゃなかった。

もう猟奇殺人の域に達していた。正直、俺が最初に遭遇したはぐれ悪魔の犠牲者の方が

まだ人としての形状をとどめていたレベルだ。あの様子じゃ、これ初犯じゃないな。

じゃあ、この人以外にも犠牲者が!?

 

とにかく、俺は左手から一枚のカードを引く。初めて対峙する相手にはこれが一番だからな。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

フリード・セルゼン。非合法悪魔払い組織「教会」所属の神父。

光剣と祓魔弾を発射する拳銃を所持。悪魔だけでなく、悪魔に関わった人間までも

猟奇的に殺害する快楽殺人鬼、か。

 

――常習犯ってのは確定だな、こりゃ。見りゃわかる情報がつらつら出るだけ、って時もあるのが

このカードの難点だ。だが得物は厄介だな。

 

「おいおい! 何勝手に人の情報喋ってくれてる訳!?プライバシーの侵害を受けたんで

 そこのクソ悪霊マジぶっ殺すけどいいよね? 答えはきいてないけど!」

「セージ!」

 

お前どこの紫ドラゴンだよ。って、早速拳銃ぶっぱなして来た!? が、ガード!

盾が出るカードとか……ない! そもそも俺は盾を見てない!籠手で防ぐしかないか!

 

着弾。情報に出たとおり光の弾丸だからかなり痛い。籠手越しでも相当響いてる。

だが、今のでお前の武器は見た!

 

MEMORIZE!!

 

来た。これでこっちも飛び道具を手に入れた。

祓魔弾だから、相手に効くかどうかはわからないが。

――が。ちょっとマズい事が起きた。右手が痛い。これじゃ実体化させても使えないじゃないか。

いやそれ以前に構造上カードが――引けない。

 

「セージ、大丈夫か!?」

「なんとかな。と言いたいとこだが右手が痺れてる。

 次同じ場所ではガード出来ないだろうな。崩される」

「ほっほー、やっぱ効いてるねぇ、効いちゃってるねぇ。

 そんならもう一発撃って悪霊退散しちゃうぜぇ!!」

 

まずい。完全に向こうのペースだ。弾丸を回避できるほど今の俺に動体視力と反応速度はない。

左手で防ぐにしても、向こうは右手を狙っている。

無理な体勢でのガードは、逆効果以外の何者でもない。

 

「させるか!」

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

え? 相手の弾速が遅い――いや、こっちが速くなっている!

しかし、何故カードが発動したんだ? いや、今はそれより回避だ!

向こうが右を狙っているなら――左か!

 

回避。このカードは木場の能力。機動力を向上させる効果がある。

受けられないなら避ければいい。シンプルだな。

 

で、何故カードが発動したのかというと――

 

「へへっ。こう上手く行くなんてな!」

「なんと。まさか他人がカードを引いても認識されるなんてな。その発想はなかった」

 

そう。イッセーが俺の左手からカードを引いたのだ。しかも効果は俺の方に来るらしい。

さて。このままスピードで相手をかく乱したいところだが

俺の方は右手が使えない。ただでさえ戦闘力が低いのに右手抜きで戦うのは

無策としか言い様がない。

 

「なんなんですかそこのクソ悪霊の左手はァ!?

 先に左手を潰しとくべきでしたねぇああチクショウ!

 だったら今度はそっちのクソ悪魔から片付けてやろうかァ!!」

「悪いね。やらせんよ!」

 

俺を仕留められなかったこのアブない神父は、今度はイッセーに狙いを定めて拳銃を放つ。

だが、今の俺は弾丸より反応速度は上だ!

 

イッセーめがけて放たれた弾丸は、そのまま壁に炸裂する。

俺がイッセーを突き飛ばし、回避させたのだ。

勿論、俺も喰らうわけにはいかないから回避している。

 

「サンキュー、セージ!」

「気にすんな、お前には前も助けられた――ッ!?」

 

礼を言い終える寸前、途端に身体が重くなる。マズい、カードの効果が切れたのか!

向こうはイッセーに狙いを定めてる、今の手は次も使える手じゃないぞ!

 

「……そーかい。そーかい。どこまでも人を舐め腐る悪魔と悪霊には

 一片たりとも慈悲はいらないよねぇ! 最もォ、元から殺すつもりでやってるけどォ!?」

 

しかも、向こうは拳銃を乱射し始めた!

しかしどうも頭に血が上ってるらしく、狙いはデタラメだ。

 

「ぐあっ!?」

「くうっ!?」

 

だが二人いるのが仇になった! 向こうにしてみれば的が二つもあるんだ。

どっちかに当たればいいんだろう。

 

俺は左肩に、イッセーの方は右足にもらった。

どっちも防具がないから、着弾点からは出血している。

俺は状況を打開しようと鈍い右手を何とか動かし、カードを引こうとするがうまく動かない。

痛みをこらえながら、カードに指が触れるが――引けない。引くところまで力が入らない。

くそっ、ただの紙切れ一枚取れないとは!

 

だが、それは相手にしてみても同じだった。弾丸が止んだ。

そう思って顔を上げると、奴は醜い顔をさらに醜く歪め舌打ちしている。

ああわかった。弾切れか! よし、何とかこれをチャンスにできれば……

 

「……やーめた。蜂の巣大作戦と思ったけどォ、やっぱなます切りだよねぇ!!」

 

フリードは拳銃を放り捨て、今度は光剣で突進してくる。

あ、ダメだ。痛みで次の手を考えられなかった。

イッセーの方は――ダメだ、そもそも足をやられている。逃げられない!

ここまでか。俺は何も知ることができずに、終わるのか。

こんな目的と手段を履き違えたクソ神父の手にかかるとは――

 

マジで、悪霊になって化けて出そうだな、俺。いや、もう化けて出てるか。

 

「やめてください!」

 

む? この場所に場違いな女の子の声。

確かこの声の主は――アーシア・アルジェントさんのはずだ。

フリードも、イッセーも声のした方向へと目線を向けている。

 

とにかく、今は生きながらえたみたいだ。

俺は霊魂だが、死んでない。ドライグ曰く生きてもないらしいが。

いや、今そんなことはどうでもいい。何でアルジェントさんがここに? 教会って、まさか……!

 

「おんや。助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。こんなとこで何してんの?

 結界は張り終わったのかな? かな?」

「それは……!? い、いやああああああっ!!」

 

あ、アレを見ちまったか……悪魔でもあれは堪えるのに

そういうのとは無縁のアルジェントさんに、あの死体は堪える。

このクソ神父の相手をする前に、遺体の対処をしておくべきだったか?

いや、無理だったか……。

 

「かわいい悲鳴ありがとうございます! アーシアちゃんはその手の死体は初めてでしたかねぇ?

 ならなら、よーくとくとご覧くださいな! 悪魔に魅入られたダメ人間くんには

 そうやって死んでもらうのですよぉ」

「こ、こんなこと……主がお許しになるはずがありません!」

 

……アルジェントさんの意見はそうなるわな。

だが俺に言わせれば、フリードのクソ神父もある意味、職務に忠実に生きていると言える。

最もこいつの場合、それ以上に快楽殺人鬼なのが大問題だが。

おい教会。殺人狂の神父ってアリなのか。

 

「はァ!? なにナマぶっこいてるワケぇ!?

 主はこうも言ったんだよ、異教徒は殺せってなァ!! だから俺様がこうして

 悪魔を信じるクソ異教徒や、そこにいるクソ悪魔を殺して回ってるんだよォ!!」

 

アルジェントさんが振り向いたその先には――イッセーと、俺がいた。

なんてこった。親切にしてくれた人が実は悪魔でした。などとは。

あまりの事実に驚き、震えているのが見て分かる。

 

なら、ここは一芝居打ってみるか。無駄だと思うが。

 

「イッセー……さん……?」

 

「あはは、バレちゃあ仕方ないな。こんな形で失礼するよ。

 俺は歩藤誠二。悪魔をやってるのさ。それにしても

 こんなクソみたいな神父に見つかるとは。俺もいよいよ年貢の納め時かな。

 ああ、ここにいるのはただの通りすがりのエロガキだ、覚えなくていい」

 

「お、おいセージ!?」

 

俺が悪魔だ。そう名乗れば、イッセーに疑惑が向くことはないだろう。

そして俺とイッセーは無関係だというアフターケア付きだ。

幸い、俺自身はアルジェントさんとは初対面。誤魔化しが効けばいいんだが。

 

だが、アルジェントさんはこのクソ神父の前から動こうとしない。

 

「悪魔だから、殺すんですか……? 異教徒だから、殺すんですか……?

 そんなの、間違ってると思います! 人殺しが主の教えに従っているとは思えません!

 お願いです、この人たちを見逃してあげてください!」

 

「お前、さっき言ったこと聞いてなかったの?

 異教徒は殺せって、我らが主もおっしゃていたでしょうが!

 もういいよ。俺はそこのクソ悪魔くんムッコロさないと、お仕事にならないの。

 邪魔するんなら、いくらかわいいアーシアちゃんでも容赦しないよ?」

 

「やめろ! アーシアに手を出すな!」

 

ぐ……まさかコイツ、自分の仲間を殺してまで俺らを殺すつもりか?

これじゃ、どっちが悪魔だかわかりゃしないな!

快楽殺人鬼に理性を期待する方が間違っているのかもしれんが――状況は好転していない。

今ので痛みが身体に慣れていれば、少しは動けたのかもしれないが――

無理だ。ヘタをすれば気絶する。

 

だが、今打てる手は――

 

「ちょっと待てよ。悪魔は俺だっつってんだろうがクソ神父。

 ここのエロガキと、アンタんとこのシスターは無関係だ。俺を消せば済む話だろ。

 おう表でろや。お前みたいなクソ神父に、俺もただでは消されてやれねぇからな」

「セージ、お前はさっきから何を言ってるんだ!?」

 

……ははは、我ながらど下手くそな芝居だ。アルジェントさんにはともかく

このクソ神父にはイッセーが悪魔だってバレてる。

――それでも、せめてアルジェントさんの前では。

兵藤一誠は普通のバカでスケベな男子高校生であってほしいのさ!

 

「ほほーぅ。自分から消されたいとは、何て殊勝な悪魔くんなんざんしょ。

 それじゃあご要望通りに――死んでもらいまぁぁぁぁぁす!!」

「セージ、避けろ!!」

 

バカ、今避けたらお前に直撃するだろうが! 奴は光剣を構えて飛びかかってくる!

くそっ、両腕が使えないから事実上俺の手札はもがれたも同然!

こうなりゃイチバチでやるしかなさそうだ!

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

そう。両手が使えなければ――口を使えばいい。口でカードを咥え、効果を発動させる。

強靭な防御力と攻撃力! 見てくれは札を咥えた犬みたいで不格好だが

贅沢は言っていられない。

 

俺はそのまま、クソ神父めがけて体当たり――いや、頭突きをぶちかます。

だが両手の使えない状態で頭突きをかましたため、着地の体勢が取れず

地面に転がり込んでしまう。

 

あー……これ、ジリ貧だ。これでもう、この手も使えない。

辛うじて両足が動く分、まだなんとかなるか。さて、今の一撃でどうなることか。

 

「ごぶっ……!?」

「……へっ、どうしたよクソ神父」

 

頭がクラクラするが、向こうにもダメージが入ってるはずだ。

案の定、フリードは倒れ込んでいる。

い、今のうちにイッセーとアルジェントさんを逃がさなきゃ……

 

「い、今だ、二人共、逃げろ……!」

「で、でも……」

「そうだ! セージ、お前はどうするんだよ!?」

 

何をしているイッセー! 今はアルジェントさんを連れて離れることだけ考えろ!

そもそも今の芝居の上では俺とお前は無関係! こっちからコンタクトを取るわけにもいかないし

部長の増援が来たら俺の芝居は全部パァだ。

 

お前は、アルジェントさんの前ではまだ普通の男子高校生なんだぞ!

 

「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇエロガキが……。

 まだ暫くは防御も硬いし、少しすれば援軍も来る。

 今のうちに逃げるんだよ……!」

「援軍……部長か! わ、わかった! セージ、死ぬなよ! アーシア、こっちへ!」

 

へっ。霊魂に向かって死ぬなよ、とはお前も言うじゃないか、イッセー。

アルジェントさんがイッセーの足を治療し、イッセーがアルジェントさんの手を取り、逃げ出す。

ふふふ。どうだクソ神父。ざまぁみろ。俺はお前みたいな考え方が大嫌いなんだ。

 

「うおぉぉぉぉぉっ! くっあああああああっ!!

 ざっけんなあああああああっ!! クソ悪霊ォ!!

 てめぇのせいでクソ悪魔くんやアーシアたんに逃げられちゃったじゃないかァァァァァ!!」

「そーか。よかったな」

 

満面の笑みで答えてやる。俺は目的を果たしたんだ。

後は出来れば増援が来るまで待てればいいんだが。

 

さて、カードの効果の残り時間もそれほど無い。次同じ手は使えない。

と言うか、記憶が正しければ後の手札は分析と回復、あとは武器の実体化だ。

回復して武器が持てればいいが、そこまで俺が持つかどうかだ。

 

冷静さを欠いてるコイツは、俺をメッタ打ちにするだろう。と言うか実際、されている。

今なんともないのは単にカードのおかげだ。

 

だが、いくら強化しても、悪魔で生霊である以上は――光剣には耐えられない!

 

「ぐっ……!」

「その憎たらしい顔を焼き切ってやろうかぁぁぁぁぁ!!」

 

MEMORIZE!!

 

――今更記録しても遅いよ。もうすでにカードの効果はほとんど切れ

光剣が俺の顔を焼いている。このまま横薙にしたら、間違いなく俺の頭が吹っ飛ぶ。

 

だがさっきほどの無念はない。

同期の戦友と、その将来の友人を俺は助けることができたのだ。

お前のようなクソ神父に殺されるのと俺が何者か分からずじまいだったのが

ただただ悔しくてならないな。

 

いよいよ観念したその時、床が光を放つ。これは――ふう。やっと来てくれた――

 

「歩藤くん。助けに来たよ……って、少し遅かったかな?」

「いや、ちょっとはしゃぎすぎただけだ。ちなみにイッセーは無事だ」

 

木場が来た。その爽やかスマイル、今見ると生きてる実感が湧くよ。

 

「あらあら。こんなに酷い状態になってまで……」

「あー……なんとか生きてます。霊魂ですので生きてるって表現が

 適切かどうかわかりませんが」

 

姫島先輩。すみません。やらかしました。でもイッセーは今話したとおり無事です。

 

「……神父」

「ああ塔城さん。あいつはクソ神父だ。相当危険な快楽殺人鬼だから、気をつけて」

 

塔城さん。まだあいつの手の内は全部読めてないかもしれない。戦うなら気をつけて。

 

「ごめんなさいセージ、遅くなったわ。もう大丈夫よ、よく頑張ったわね」

 

俺は黙って部長にサムズアップを返す。

これは納得した行いをした者にのみ許される仕草と言うらしいが

今の俺はそれに該当する……はずだ。イッセーも無事に逃げられたんだ。あとは――

 

「これはこれは! 悪魔の団体様ようこそいらっしゃいました!

 まずはご挨拶がわりに一撃ィ!!」

 

チッ、あのクソ神父! 今土手っ腹に頭突きかましたのにまだあんな動きで戦えるのか!

だが、今いるのは俺なんかより遥かに強い――

 

「悪いね。彼は僕らの仲間でさ。こんなところでやられてもらうわけには行かないんだ!」

 

木場が剣を抜き、フリードの光剣を防ぐ。さすがはうちの騎士様だ。本当に頼りに見える。

俺は――よし、さっきの要領ならこれでいけるはずだが。

 

「――すみません、誰か俺の左手からカード引いてもらえません?

 それでも効果発揮するみたいなんで」

「あらあら。わかりましたわ。うふふ、ここでよかったかしら?」

 

姫島先輩か。先日のことがあったので一瞬身構えてしまったが

そんな心配をよそに手早くカードを引いてくれた。

ありがたい。これでまた立ち上がれる!

 

EFFECT-HEALING!!

 

回復のカード。先日のアルジェントさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を記録したものだ。

思ったとおり、俺の左肩の傷と右手の痺れが消えている!

だが、違和感がまだ残っているあたりは本家には及ばないのだろうか。

本家を受けたことがないから認識が不十分なのかもだが。

 

「セージ。あなたの左手って、本当に何でもアリね」

「――それほどでもない、と言っておきます。

 これはただ、見たものを記録してるだけですから」

 

立ち上がり、埃を払っている俺に部長が話しかけてくる。

ぶっきらぼうな受け答えだが、事実だ。だが、実は今の答えはマズかった。

回復のカードを持っていることは

つまり超自然的な回復を目の当たりにしていること。

 

それは、俺ないしイッセーがアルジェントさんと出くわし

ある程度の親密度を得ていることを遠まわしに言っていたのだ。

いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。こっちは立ち直れた、木場の援護を――

 

SOLID-GUN!!

 

「木場! 伏せろ!」

 

実体化させた奴の銃で射撃。はっきり言って、俺は銃を使ったことなど無いし

ゲームセンターの類も嫌いだったはずだ。覚えは全くないので何とも言えないのだが。

つまり、銃に関してはど素人もいいところである。

それでも初めて手にする銃が何の問題もなく撃てるのは、多分、悪魔の能力のおかげだろうな。

 

「うおっ!? いつの間にクソ悪霊くんが立ち上がってるわけェ!?

 それにそれってば俺の銃じゃんかよ!? 他人の武器勝手にパクるとか

 マジムカつくんでやめてもらえませんかねぇ!?」

「おっと、君の相手は僕のはずだけど?」

 

俺の銃は当たらなかったが、注意をそらすことには成功した。

いいな、これ。俺の能力的に援護とか多そうだから、暇なときに射撃訓練とかやっとこう。

そんな油断したフリードに、木場が一太刀浴びせんと斬りかかる。

それでも奴の身体能力は相当高く、受けられてしまうが

追い詰めているのは目に見えてわかる。よし、いいぞ!

 

「ふへへ、テメェら悪魔のくせに仲間意識強いじゃんか

 お熱いねぇ燃えちゃうねぇ萌えちゃうねぇ。あ、もしかして

 彼が攻めで君が受けとかそういう関係? それとも逆だったり?」

「――下品な口の利き方だ。『はぐれ悪魔祓い』か」

 

あ、そうだった。援護射撃もいいけど弱点のアナライズがまだだった。

ましてみんな今来たところだ。とにかく戦いを制するには情報が大事。

というわけでクソ神父、もう一丁プライバシーを侵害させてもらうぞ!

 

COMMON-ANALYZE!!

 

「またそこのクソ悪霊くんが何か小細工仕掛けてるねぇ。

 はいはいそーですよ俺様ってばはぐれですよ。で? それが何か問題でも?

 俺的に悪魔や異端を気が向いた時にぶっ殺せればそれで全く無問題なんでねぇ!!」

 

フリードが一瞬の隙を突き、木場に蹴りを入れて飛び退く。距離をとったつもりだろうか。

だが、既にそれを見越してか姫島先輩が魔法発動の準備をしていた。

以前の時とはまた違う、真剣な眼差しだ。

 

「悪魔にだって、ルールはあります」

 

フリードが着地しようとしたところを見計らって雷を落としている。わお、ナイスタイミング。

で、肝心の俺はというと――アナライズエラー。と言うか弱点らしきものがまだ発見されない。

所謂あれか、「じゃくてんは とくになし」って奴か。

こうなりゃ力押しで攻めるべきなのかな。だがそれならもう十分に可能みたいだ。

 

「……ふん」

 

塔城さんが追い討ちとばかりにソファをフリードめがけてぶん投げている。

うん、俺が力押し作戦でどうかなって考えた矢先に塔城さんが攻撃って、考え読まれてた?

と言うかそもそも、部長からして正面突破の力押し作戦がお好みのタイプみたいだ。

その証拠に、フリードの脇の後ろにある壁が綺麗さっぱり吹き飛んでいる。部長の仕業だ。

 

「私の下僕達が随分とお世話になったみたいね?

 私は私の下僕を傷つける輩は絶対に許さない主義なの。

 特にあなたのような、下品極まりない者に自分の所有物を傷つけられるのは我慢ならないわ」

 

――所有物か。所有物ねぇ。イッセーは喜んだかもしれないが、俺は別だ。

救援に来てくれたのは素直に嬉しいんですが

俺はまだあなたを主人と認めたわけじゃあないんですがね。

いきなり現れてご主人様面されても、対応に困るんですよ。

 

ま、今その事はどうでもいいだろう。数の上でも、力の上でも圧倒的に優位。

それを見越してか、部長の二撃目の魔力が炸裂しようとしたとき――

 

「ああもう! 今日の仕事パァだよこんちくしょう!

 いいかお前ら、絶対俺がぶっ殺してやるからな! 特にそこのクソ悪霊!

 俺様の腹に頭突きかましてくれやがって! 絶対許さねぇからな! 覚えてろよクズが!!」

 

あまりにも見事なテンプレートの捨て台詞とともに

部長の魔力の爆発を利用し、奴は逃げていった。

神父ってのは、生命力も相当なものなんだな。ともあれ、追い払うのには成功したが。

 

あ、やばい。これ緊張の糸が切れた。目の前が歪む。遠くに何かが倒れたような音が聞こえ――

 

 

――俺は、意識を失った。




Q:セージ気失いすぎじゃない?
A:書いててそう思いました。でもいくら記憶がないって言っても
いきなりこういう環境に放り込まれれば
ぶっ倒れてもおかしくないと思うんです。

1巻のイッセーだって結構ぶっ倒れてた気がしますし。


後、オカ研面子が(セージが粘ったにもかかわらず)
遅れてきたことに関して。

原作でリアスはフリードが来た事を「予想外」って言ってましたが
これ無理あるんじゃね? と。
悪魔との契約はエクソシストに狙われるってリスクを伴うことは
悪魔崇拝者なら知ってそうなものですし。
崇拝者でさえ気づきそうなものを悪魔(しかも地域の元締め)が気づかないとか
ちょっと楽観視が過ぎるなぁ、と。

そんなわけで今回は堕天使軍勢との小競り合いがあって身動きが取れなかった
(原作の堕天使軍勢の援軍との戦いが前倒しになった)形にしてあります。

……アンチ・ヘイトのタグは伊達じゃありませんので
こういう作風で行きたいと思います。

それでもお付き合いくださっている皆様に感謝です。


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Life7. 俺の思いとアーシアの想い

今回はイッセー視点です。
でもって少し短いです。


その日――俺、兵藤一誠は悪魔としての仕事先に向かった。

だがそこに待っていたのは、俺を呼んだであろう召喚者の無残な死体と

はぐれ悪魔祓い、フリード・セルゼン。

いの一番で助けに来てくれた、俺に憑いている生霊――歩藤誠二の助けも借りて

無事、アーシア・アルジェントさんと逃げ出すことができたんだけど――

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……こ、ここまで来れば大丈夫だよな」

 

思わず逃げ込んだ先は以前セージが行ったって言う幽霊屋敷。

何故か空いていたから、ちょっと逃げ込むことにした。

家に逃げれば父さんや母さんを巻き込んじまうから、それはできない。

部室もダメだ。俺が悪魔だってバレる。

 

それにしてもセージの奴、何で別れ際にあんなことを?

そりゃ確かに、俺はアーシアに自分の正体を明かしてないけど。

 

――ま、まさか!? あの野郎、自分はアーシアに顔が割れてないからって無茶しやがって!

そのためにあの神父とタイマンやる羽目になったってのかよ!?

俺と大して強さ変わらないくせに!

 

「イッセーさん、さっきの悪魔の方……」

 

うっ。アーシアが俺を見つめてくる。その綺麗な目が逆に痛いぜ。

セージは確かに俺の同期で戦友だが、その事を喋れば俺が悪魔だって事がアーシアにバレちまう。

でもシラを切り通すのはセージに悪い。ぐぬぬ。俺はどうすればいいんだ。

 

「大丈夫、アーシアは何も心配しないでいい」

 

とにかく、俺はアーシアを落ち着かせることにした。多分、それが一番の選択肢だろう。

 

となると、ここからどうやって逃げるかだな。

まさか、こんなところで一晩明かすわけにも行かないよなぁ。

それに、あんなイカれた奴がいる教会にアーシアを送り届けるなんて、俺にはもうできないぞ!?

 

都合よく、リビングにはソファがあった。

セージが来た時に掃除でもしてたのか、幽霊屋敷の割には綺麗だ。

これなら、アーシアを休ませるにはちょうどいいかもしれない。

何たって、あんなことがあった後だもんな。

 

とりあえず、俺とアーシアはソファに腰掛け、一息つくことにした。

 

――――

 

何かが俺の懐で震えている。あ、俺のスマホか。メールみたいだ。

って言うか俺、いつの間にか寝てたんだな。

 

で、俺が見たメールは部長からだった。

 

 

From リアス部長

To イッセー

Sub 今後について

 

セージから聞いたわ。イッセー、あなたが助けたシスターは、堕天使陣営の子よ。

これ以上関われば、堕天使陣営との戦いは避けられないわ。

あなた一人では、到底敵わない相手よ。

その辺りも踏まえて、今後どうするかはゆっくり考えなさい。

学校と悪魔の仕事は、しばらくお休みでいいわ。

それから、セージはとりあえず無事よ。でも相当霊体にもダメージを負っているみたいで

しばらく動けそうもないわ。

 

後、そのセージから伝言よ。「虹川さんちは、リビングなら自由に使ってもいいらしい」って。

 

 

そっか。俺、相当やばい事に首突っ込んでたんだな。

セージも動けないほどの傷を負わされている。

これ以上動けば、否応なしに部長やオカ研のみんなを巻き込んでしまう。

いや、もう巻き込んでいるのかも。でも、俺はアーシアを助けたい。

あんなクソ神父の下で働くってのは、殺人の片棒を担がせることだ。

そんな事、できるわけがないだろう!? でも、俺は弱い。くそっ、どうすればいいんだ……

 

――結局、俺はそれから一睡も出来ずに朝を迎えた。

アーシアの方は、あれから一度も起きずに今、目を覚ましたようだ。

 

とりあえず、俺はまず強くならないとな。いくらなんでも堕天使全部に喧嘩売るのは無謀だけど

アーシア一人位は守れないと、俺の神器にもセージにも、何より部長にも申し訳が立たない。

よし。とりあえずは――

 

「おはようアーシア。とりあえず、飯食いに行こうぜ?」

 

決めた。俺は俺に出来ることをやるだけだ。セージの奴だってそうしたんだ。

俺は絶対強くなって、アーシアを守る!

 

その為には、まず腹ごしらえだ。俺はアーシアを連れて、街へと繰り出していった。

 

――――

 

アーシアとはその日、一日中色々なことを話した。

ハンバーガーの食べ方から、一緒に写真を撮ったり、ラッチュー君の人形を取ったり。

それら一つ一つに、アーシアは感動していた。

今まで、そういうのとは無縁の生活を送っていたんだろうか。

俺みたいな奴とは、やっぱ住む世界が違ったのかな。

 

日が沈みかける頃、俺たちは偶然にもセージ――宮本の方な。セージと水を飲んだ公園にいた。

うっ、ちょっと嫌なこと思い出しちまったぜ……。

 

「どうしたんですかイッセーさん?」

「あ、いや、何でもないんだ……」

 

うっ。見つめてくる目が痛い。やっぱ顔に出ていたか。

それに、昨日の今日で色々ありすぎて、疲れも顔に出ていたかもしれない。

 

「ごめんなさいイッセーさん、私のせいで……」

「何でアーシアが謝るんだよ。悪いのはどう考えてもあのクソ神父じゃねぇか。

 やっぱ決めた! 俺、絶対アーシアをあんなところに返したりしない!

 だっておかしいだろ! 人殺しを平気でやるような奴のところなんて!」

 

俺の力説に、アーシアはきょとんとした顔をしていたが、すぐに笑顔を見せてくれた。

 

「ありがとうございます、イッセーさん。あの……私の話、聞いてくれますか?」

「ん? いいけど、どうしたんだよ急に?」

 

笑顔を見せていたアーシアは、真剣な面持ちで俺を見つめてくる。

これ、デートだったら告白とかそういうシーンなんだろうけど……ははは、まさかね。

ちょこっとだけ淡い期待もあったが、そんな都合のいい話があるわけがない。

 

アーシアが話したのは、自分の経緯――聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)に関してだった。

幼い頃に手にしたその力で、多くの人を癒してきた。そして聖女と呼ばれるに至ったが

ある日、悪魔を治療したことでその評価は一変、魔女と蔑まれ

追われるように住んでいた場所を後にしたのだという。

 

「なんだよそれ……随分勝手な話じゃないか!」

「でも、私はこの力を誇りに思っています。だって、神様がくださった力ですから。

 けれど……私は……」

 

ふと、アーシアの表情が暗く沈む。

 

「私は、普通の生活がしたかったです。イッセーさん、今日は本当にありがとうございました。

 私、今日のこと絶対忘れませんから」

「おい、何言ってるんだよアーシア。そんなもう二度と会えないみたいなこと言うなって!

 また明日、明日また遊びに――」

「無理よ」

 

俺のその言葉は、何者かに遮られた。その声の主は……忘れもしない、あの子だ!

 

「ゆ、夕麻ちゃん!?」

「久しぶりねイッセーくん。今度はその子と恋人ごっこ? って言うか生きてたんだ」

 

天野夕麻ちゃん。俺を殺して、俺のダチ宮本成二を半殺しにした。でも俺はまだ信じられない。

何で? 何で夕麻ちゃんがそんなことを? 俺のこと、好きって言ってくれたじゃないか!

ふと、アーシアの方を見ると何かに怯えているように震えて俺の服にしがみついている。

 

「来なさいアーシア。あなたがここに来た理由、忘れたわけではないでしょう?」

「そ、それは……」

「待てよ夕麻ちゃん! アーシア、嫌がってるじゃないか!」

 

なんとか夕麻ちゃんを引き下がらせようとするが

夕麻ちゃんは俺の話なんか聞く耳を持ってくれない。

 

「うるさいわねぇ。そんなに連れて行かれたくないなら、私を殴って止めてみれば?」

「そ、そんなこと……出来るわけないじゃないか! 何言ってるんだよ夕麻ちゃん!」

 

正直言って、さっきから夕麻ちゃんが何を言っているのかわからない。

なんで、なんでアーシアを連れて行こうとするんだ!?

アーシアが、なんで夕麻ちゃんと関係があるんだ!?

 

「アーシア。早くしなさい。嫌だというなら、こいつを殺してでも連れて行くわよ」

「……っ! わ、わかりました……」

「ま、待てよアーシア! 教会には、あの神父だっているんだぞ! そんなところに……ぐっ!!」

 

俺はアーシアを引きとめようとするが、夕麻ちゃんに蹴飛ばされていた。

や、やっぱりあれは本当なのか。悪魔の俺が女の子に蹴られただけでここまで痛むなんて。

夕麻ちゃんの背中の羽……部長の話が本当なら、あれは――堕天使!!

 

「やめてくれよ夕麻ちゃん……どうしてもって言うんなら、俺、夕麻ちゃんを……」

「え? 何? 殴るの? 彼女の私を? ひどいわイッセーくん、そんなことするなんて」

 

そういう夕麻ちゃんの口調は、全く悪びれていなかった。

くそっ、何なんだよ! やめてくれよ夕麻ちゃん! 君がアーシアを離してくれれば――!!

 

BOOST!!

 

俺は思わず、左手の神器を発動させていた。

できることなら夕麻ちゃんを殴りたくなんてない。でもアーシアは助けたい。

これで向こうがビビってくれれば、きっとなんとかなる!

 

けれど、事は俺の予想とは正反対だった。

 

「……なーんだ。前に会った時、イッセーくんに凄い神器(セイクリッド・ギア)があると思ってたんだけど

 その程度のちゃちいものだったのね。いいこと教えてあげる。

 それは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』って言って一度だけ能力が二倍になるの。

 でもそれだけ。アーシアの持っている『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』のような

 レアリティも全くない、ありきたりなしょぼい神器(セイクリッド・ギア)よ」

「それでも、アーシアを助けるぐらいは!」

 

もう、無我夢中だった。考えなしに夕麻ちゃんに向かって突っ走った。

もしかしたら、もしかしたらアーシアを助けられる。そう思ってた。

けれど、俺の手は空を掴んだだけだった。

 

「あははははっ! 本当にとろいわねぇ。そもそもあなた悪魔でしょ?

 それなのに、何でシスターのこの子を助けようとするの?」

「えっ……!?」

「そ、それは……」

 

いつか言おうと思ってた。でも、こんなタイミングで言われるなんて。

すまないセージ。お前の協力、全部無駄になっちまった……

そうだよアーシア。俺は、俺は悪魔なんだ……

 

「イッセー、さん……?」

「そうだよ。俺はもう悪魔だよ。でも、それでもアーシアは俺の友達だ!

 友達を助けようとして、何が悪いんだ!」

 

「はぁ? 本当に甘っちょろいわねぇイッセーくんは。この様子だとアーシアにも

 黙っていたんでしょうね。残念だったわねぇアーシア。

 せっかく出来た友達が悪魔だったなんて」

 

そ、そうだよな……悪魔の友達なんて、シスターのアーシアにとっては嬉しくないよな。

俺、俺やっぱバカだ……くそっ、くそっ! 言いようのないやるせなさがこみ上げてきやがる!

 

「わ、私……嬉しかったです! イッセーさんが悪魔でも、関係ありません!

 私と、私と友達になってくれたこと……嬉しかったです!」

「あ、アーシア……!」

 

俺はその言葉に涙ぐみながら手を伸ばそうとするが

目の前に飛んできた光の槍に遮られてしまう。

な、何で! 何で目の前にいるのに手が届かないんだ!!

 

「はい時間切れ。おしゃべりの時間は終わりよ。

 じゃあねイッセーくん。しつこい男は嫌われるわよ。この子のことは忘れなさいな。

 その程度の神器なら、わざわざ殺す価値もなさそうだし、見逃してあげるわ。

 せっかく取り戻した命、大事にしなさい」

「ま、待ってくれ! アーシア! 夕麻ちゃん!」

 

そのまま、夕麻ちゃんはアーシアを抱えて夕暮れの空へと消えていった……




本作のレイナーレは、原作よりも意図的に外道度を上げているつもりです。
偶々見たアニメ版のレイナーレのインパクトが(色々な意味で)
強烈だったもので……。

こんなのレイナーレじゃない! って方は恐れ入りますが
後数話お待ちくださいませ。改善はできかねますが。


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Soul7. 生霊、ぼっちです?

最初に言っておく! これはタイトル詐欺かもしれない!
でもカメタロスが嘘をつくのは、侑斗と友達になりたいと思っているからだ!
だからみんなも侑斗と友達になってほしい!

※注:この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
   仮面ライダー電王は一切関係ありません。

   ……たぶん。

閑話休題。
今回はLife7.とほぼ同一時系列です。ナンバリングがかぶっているのはそのため。
イッセーとアーシアがデートしていたころ、セージは……?


――まだ頭が痛い。

 

俺、歩藤誠二は霊魂で、悪魔。なのだが、今は訳あって動けずにいる。

いや実際には動けるのだが、実体が不安定になっており、うまく維持できない。

考えられる原因は一つ。先日戦ったクソ神父――フリード・セルゼンの銃弾を

モロに喰らったせいだ。

 

そのせいで、俺は霊体・実体共に不安定になってしまっている。

出来れば憑依先であるイッセーこと兵藤一誠に憑きたいのだが、訳あってそれもできない。

 

だからこうして、日中唯一実体化できるオカルト研究部の部室にある

ソファに横たわっているのだが――。

 

「――暇だ」

 

今までは霊体と実体をうまく使い分ける訓練も兼ねて色々やっていたが、それも出来ない。

おそらく今の心境は、骨折等の要因で入院している入院患者のそれだろう。

俺は別に骨は折れていないが。

 

あまりにも暇なので体を起こす。やはりまだ頭とか痛む。置いてある本も、粗方読んでしまった。

このオカ研に来てから、それなりに日数は経っている。

しかし俺は基本霊体なので、どうしてもここが活動場所になってしまう。

 

――どうしたもんか。と言うか、一応オカ研に籍は置いているが

駒王学園には実は俺の学籍はない。

昼間は存在しないことになっているからだ。

保健室通学ならぬ部室通学である。まさに文字通り幽霊部員!

 

――山田くん、座布団全部持って行って頂戴。

 

などと一人大喜利もいい加減飽きた。そういえば、イッセーの奴は無事だろうか。

家に逃げ込むわけにはいかないだろうから、お得意様の虹川さんに

ちょっと協力を要請していたりする。

 

対価を思いっきり要求されたが。騒霊ライブチケットの完売。ちなみにまだ会場は交渉中だ。

犯人は三女、里莉。幽霊のくせに金稼ぎとか、ちゃっかりしている。

これじゃあどっちが対価だかわかりゃしない。

 

――ま、いいや。壁すり抜けて身体出して遊んでるか。

前やった「右腕だけ」の状態が意外としっくりきた。

欠点は「右腕が壁ないしドアから生えてる状態」にしかならないことだが。

ちなみに今は実体化も不安定なので所謂幽霊スタイル、つまり「足がない」状態だ。

あんなもの飾りですと言わんばかりに、これはこれでしっくりきている。

今度首だけ状態に挑戦してみるか。

 

ただあまりやりすぎると、本当は自分死んでるんじゃないか、と錯覚してしまうことだが。

 

イッセーの中に眠っていた赤いドラゴン、ドライグ曰く

「死んではいない、生きてもいないが」らしい。

そんな中途半端な存在、それが俺だ。ただふよふよと漂っているのが性に合ってるんじゃないか。

と思うときはある。それなのに何故俺はオカ研にいるのか。それは――

 

――俺が何者なのかを知りたい。ただそれだけである。気がつけば、目の前にドライグがいた。

その後、俺はこのオカ研の部室でめでたく実体化した、というわけだ。

 

何故俺は、悪魔で生霊なのか。

部長、リアス・グレモリーは俺のことを何か知っている様子だったが――

未だ、何も聞き出せていない。或いは、触れられたくないことなのかもしれないが。

 

ある日、さりげなく話を振ってみたら、完全にはぐらかされたのだ。

それを聞き出すまでは、俺はここを離れるつもりはない。

 

「――信用しきれないんだけどなぁ」

「……誰がですか?」

 

へ? 恐る恐る後ろを振り向いてみると――

駒王学園のマスコット的存在、一年の塔城小猫さんがいた。

彼女もまた悪魔で、末恐ろしい怪力とタフさを備えている。ドゥルジョルザァーン!! ナズェイルンディス!?

 

「え? あ……い、いや……俺そんな事言ったっけ? つか、いつからここに?」

「……先輩が生首ごっこに挑戦しようとしていた時からです」

 

ナズェミデルンディス!? いるならいるって言ってくれ! びっくりしたじゃないか!

と言うかあれ見られてたのか!? それはそれでかなり恥ずかしいんだが!?

ううっ、賢者修行ほど精神的ダメージは負わないが結構来るものがあるなぁ。

こんなところで賢者修行する気は全くないけど。

 

と言うか、言えるわけがないだろうが。

 

「あんたのとこの部長は隠し事してるみたいで信用できません」

なんて。

 

一応俺も眷属らしいし、主を信用できない眷属ってどんだけだよ。

言うだけ言って、塔城さんは冷蔵庫から羊羹を出して食べている。

まだ昼休憩って時間でもないはずだけど。

 

……うん。黙々と食べてらっしゃる。

食事の時間は何というか救われてなければいけないとはよく言ったものだ。

俺のことなどお構いなしに、羊羹を頬張っている。そんなにおいしいのかな、それ。

 

「……ひと切れ、食べます?」

「え? いいの?」

 

こくり、と頷いたのを確認したあと、頂きますと言わんばかりに

俺も羊羹をひと切れ食べようとしたが、右手がすり抜ける。

なに? なにこれ? 新手の先輩いびり? いや厳密には俺先輩じゃあないんだけどさ。

今度は左手を伸ばしてみる。ダメだ。やっぱりすり抜ける。

くそっ、本は持てたのに何で羊羹はダメなんだ!?

 

――答えは簡単だった。俺の実体が未だ不安定であるということ。

遊んでないで休めってことか。むぅ。あのクソ神父の後遺症おそるべし。

同じくアレを喰らったイッセー、大丈夫か? しかしこの羊羹はうまそうなのに、食えないのか。

食べられる食べ物を目の前に出されて食べられないのは、辛いな。

 

「――はぁ。まだ完全復活には程遠いね。塔城さん、羊羹はまた今度にするよ。

 ちょっと眠くなったから俺は寝るよ。おやすみー」

「……おやすみなさい」

 

なんだか傍から見たらふて寝みたいだが、実際ふて寝も含めているから仕方ない。

なお俺がこうして日中外に出ないのは、周知の事実である。

出ても実体化できないのだからしょうがない。

 

ただ何故か皆別段驚くでもなく、「ああまたか」みたいな空気だったのは

俺みたいなのが他にいるのだろうか。そういえば、このオカ研の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のうち

僧侶(ビショップ)だけはまだ見てないなぁ。ま、今はどうでもいいか。

 

――――

 

遠くに聞こえるチャイムの音でふと目が覚める。今は昼休憩の時間か。

腹は……いかん。さっき羊羹を意識したせいで減ってきた。

普段は霊体だからか、食べなくても空腹を感じないが、実体化するとやはり空腹感はある。

明るいところに行くと実体化できなくなるから、食事も一苦労だ。

イッセー越しに食事の感覚は共有できるのだが、やはり食事は自分の好きなものを食べたい。

まだイッセーとは飯を原因にした喧嘩には発展していないから、とりあえずは大丈夫だろうが。

 

しかし困った。普段ならイッセー越しか、ここで待機して誰かに買い出しを頼むとか

方法はあるのだが今日はさっきの通り、実体化が不完全だ。

そのくせ腹は減るんだからタチが悪い。

 

でも今ここで食べると、ぼっち飯になるんだよなぁ。気にする主義じゃないけど。

 

とりあえず誰か来るかと思ってソファに腰掛けていたが、誰も来る気配がないので

再び横になることにした。まあ無理もない。今日休むと言っていたイッセーはいざ知らず

このオカ研の面子は皆異様に人気が高い。この時間は色々囲まれて大変なのだろう。

俺にはわからない苦労だが。

 

――空腹感があり眠れなかったので、本当に横になっているだけだった。

そのせいか、部室の扉が開く音にいち早く反応できた。

入ってきたのは二年の木場祐斗。駒王学園一のイケメンとして有名である。

 

「あれ。歩藤くん、起きて大丈夫なのかい?」

「腹が減っている以外はな。

 ただ残念なことに、まだうまく実体化できないから食事が摂れない」

 

木場の手には弁当箱らしきものが見える……マズった。ここで食べるつもりだったのか。

となると、飯が食えない俺が居ると食べづらいだろう。

 

「――あ、悪い。ここで食べるつもりだったなら、俺はもう一度寝直すが」

「いや、気にしないでいいよ。君の状況を把握してなかった僕にも落ち度はあるし」

 

うん、そう言うとは思った。けどな、色々な意味で耐えられないから俺はやっぱり寝たいんだが。

眠れなくても、横になりたいんだが。

 

ああもう、何でこんな時に限って完全に霊体に戻れないんだよ。

あ、外に出ればいいのか。そう思って俺はおもむろに立ち上がって

壁から外に出ようとした瞬間――

 

「酷いよ歩藤くん。君は僕にぼっち飯を食べさせるつもりかい?」

「なっ、そういう言い方は無いだろう!?

 俺だって何が悲しくて男の食ってるところを見るだけなんて、イッセーが聞いたら

 『それなんて拷問だよ!?』って言いそうなことをしなきゃいけないんだよ!」

 

この木場ってイケメン、中々食えないやつである。

爽やかスマイルの裏に、中々どうして黒いものを持ってらっしゃる。

仕方なく、俺は飯も食えずに昼食を木場と過ごすことになった。

 

とりあえず、家で木場自身が作ったのか、誰かが作った弁当をもらったのかはわからないが

弁当はうまそうだった。

 

……そういえば、仕事内容が家事って時もあったっけ。

木場。お前、ヘルパーとか向いてるんじゃないか?

悪魔の仕事がある意味ヘルパーのそれに近いものがあるのも事実なのだが。

 

そんな事を考えているうちに、木場は飯を食べ終えたようだ。

味が気になったが、食えない以上は仕方ない。

作ってくれ、などとも言えないし。俺は――確か、作れた。はず、だが。

 

「ごちそうさまでした。さてと、歩藤くん。

 怪我が治ったら一度手合わせ願いたいんだけど、いいかな?

 ああ、剣術じゃなくて実戦方式の方だね。君みたいなタイプと手合わせするのは

 いい経験になりそうだし」

 

「――それをマジで言ってるんなら、買いかぶりすぎだ。

 俺は本当にイッセーに毛が生えた程度の経験しかないぞ? はぐれ悪魔との戦いや

 フリードとの戦いのことを言ってるなら、あんなマグレ何度も起きてたまるか」

 

俺がああもうまく立ち回れているのは、右手のドライグの鱗こと龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

この左手の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のおかげである。一度だけ身体の一部機能を倍加させる義肢と

一度見たデータをあらゆる形で網羅できる大図鑑。

この二つがなければ、今頃俺ははぐれ悪魔の餌だろう。

 

だが今こうして横たわっている俺は、この二つがあっても

イッセーといい勝負ができるのが精々だろう。

 

「僕は実戦方式って言ったよ? 兵藤くんの左手みたいに爆発力のあるタイプもなんだけど

 君みたいに様々な武器が使えて、状況に応じて戦闘スタイルを変えられる相手との勝負は

 いい勉強になるんだよ」

 

「スパーリング相手って事か。オッケー、俺も新しいカードの使い方とか知りたいし

 そういう事があったらこっちからお願いするかもしれない。その時は協力してくれると助かる」

 

決まりだね、と木場お得意の爽やかスマイルが帰ってくる。

そういえば人気があるとは聞くけど、浮いた話を全然聞かない。

このオカ研のほかの面子にも言えることなのだが。

 

まぁ、人気があるのと付き合うのはまた別の話だしな。

イッセーの場合は――あれは、それ以前の問題だろう。

 

弁当箱を片付け、午後の授業の始業チャイムが鳴るであろう時間から少し前

木場は部室を後にする。再び俺だけになったオカ研の部室。

 

なんだかんだで木場と話している間はいい暇つぶしになっていた。

その木場が帰ってしまった今、俺はまたしても話し相手を失ったことになる。

 

「――カードの効果をノートにまとめておくか」

 

やっと手先の実体化がうまく安定するようになった。今更遅い。

まぁいいや。とにかく俺はおもむろに以前部長にもらったノートとペンを取り出し

ノートにつらつらと今まで使ったカードの効果や戦った相手の事を書き始める。

実戦ができないなら、座学だ。と言っても、左手の神器(セイクリッド・ギア)を起動させて

記録させたデータを書き写しているだけなのだが。

 

だが、こういう作業は得てして眠くなる。

まだダメージが残っている俺に向いている作業ではなかった。

 

――――

 

ふと、隣に艶やかな長い髪の女性がいた。年の程は――俺より一回り位上、だと思う。

何せ、顔がよく判別できない。そしてイッセーが気になるであろう箇所は――

うん、ホイホイついて行きそうなレベル……って、何見てるんだ俺は。

 

女性はおもむろに俺の右手を取り、俺をどこかへ連れて行こうとする。ん? 何処へ行くんだ?

ただ、抵抗しようという気は起きない。寧ろ、出来れば一緒にいたいと願う。

けれど、そんな時間は長く続かない。女性の手が俺から離れると同時に、話しかけてきた。

……ように思えた。

 

――またいつか、会いましょう。

 

え? それってどう言う意味? と聞こうと思った瞬間、俺の肩が何かに揺すられるのを感じる。

誰だ、今取り込み中だ。肩の手を振り払う。まだ揺する。また振り払う。

揺すり方自体は優しいものだったが、止まったと思い振り向くと

目の前に嫌な笑いを浮かべた部長と姫島先輩がいる。

 

思わず驚き、逃げ出してしまう。後ろから呼び止める声が聞こえるが、聞くな。

止まったら殺される。あれは獲物を見つけた目だ!

雷が落ちてくるのか、跡形も残らず消されるのか。そうだ、左手のカードを……

 

あれ? 何で神器(セイクリッド・ギア)がないんだ!? と言うか何であの二人は俺を殺そうとしてるんだ?

わけがわからないまま、とにかく俺にできたことは

どこだかわからない場所を全力疾走するのみだった。

 

どこかの路地裏に逃げ込む。マズい、どうにかして巻かないと!

逃げる算段を立てていた俺の脇を、トラックがすり抜ける。

路地裏にトラック!? 見ると、塔城さんまでもが俺に狙いを定めているじゃないか!

さっきのトラックは投げたのか!? 何だ、何がどうなっているんだ!?

俺が何をしたって言うんだ!?

 

とにかく、トラックを足場にして路地裏から逃げ出そうとする。

その時、両脇を誰かに抑えられる感覚があった。木場と――イッセーだ。

オカ研総出で、俺を捕まえに来たってのか。何故だ?

いつの間にか、俺は取り押さえられている。全く身に覚えがない。

 

そりゃ確かに、部長には反抗的な態度を取ることも少なくない。

そこに起因してるのは俺の事情と俺の勝手な感情だ。イッセーに比べりゃ、眷属として見れば

俺は出来の悪い眷属悪魔だろうとも思う。だが、殺そうとまでするか?

悪魔の社会では反抗的な眷属悪魔は即死刑なのか? 人間社会も、ある意味ではそうだが。

俺はイッセーと木場に連れられ、部長の前まで連れてこられる。俺は――

 

光の槍で、貫かれていた。

 

――だ、誰だ!? 誰がやったんだ!? オカ研の面子にも、今まで会った奴にも

光の槍を使う奴はいないはずだ! 部長は悪魔だ、光の槍なんて使うはずがない!

抜こうにも、手で持とうとすると手が焼け、持てない。徐々に力が抜けていき、俺は――

 

――また、死んだのか。

 

また? どういうことだ? 普通人間は一度死んだら終わり――

とここまで考え、イッセーのケースを思い出す。

あいつも死んだが、悪魔の駒によって悪魔として復活した。

俺もそうなのか? だから光の槍が持てずに――

 

あれ? こうやって殺されたの、覚えている? そんなバカな。これがまさか――

 

――遠くで誰かが呼んでいる。俺は、そこに行くべきなのだろうか。だが、体は動かない。

もう、ここまでなんだな。誰が呼んでいるかわからないが――俺は、もう――

 

――――

 

「――ジ、セージ、起きなさい」

 

はっ。また俺は寝ていたのか。しかも机に突っ伏して。

幸い、ノートは汚れていない。助かった。

袖と口の周りについていた涎を拭い、辺りを見渡すとそこには――部長がいた。

 

「お疲れのところ悪いのだけど、机を空けてもらえないかしら?」

「う、うわああああああっ!? く、来るなあっ!?」

 

寝ぼけていた俺は、完全に転げ落ちる形でソファから落ち

尻餅をついたまま後ずさりする。傍から見たら相当カッコ悪い状態である。

だが、完全に頭が混乱している。

 

「ちょっ、セージ落ち着きなさい! 一体何があったの!?」

「――はえ?」

 

部長に抱きしめられ、ようやく夢と現実の認識ができるようになる。

我ながらなんと情けない。ま、ほんの少しおいしい思いができたことは

とりあえず触れてはいけないノートとかに埋めておこう。

 

イッセーのやつは、これ以上をやっているとは思うけど。

 

「……し、失礼。どうも夢を見ていたようで。あ、あの、もう大丈夫なので、その……」

「ん? どうかしたのセージ?」

 

落ち着いたのはいい。だが問題は、まだ部長が俺を離してくれないことだ。

これじゃ、違う意味で落ち着かない。頼むから、離してもらえないだろうか。

俺はイッセーじゃないんだから。

 

こういう時は、こっちの意思を伝えないと多分解決しないだろう。だから、思い切って言う。

 

「あの……離して、もらえませんかね」

「――抱きしめたりない気もするけど、仕方ないわね。また悲鳴をあげられるのも傷つくし」

 

ううっ、それは本当にすみませんでした。けど言えない。

 

「部長やオカ研の皆に殺される夢を見た」

なんて。

 

仲間意識の強い部長にそんな事を言ったら、それこそ傷つけてしまいそうだ。

しかし部長。抱きしめたりないって、俺は煎餅布団か何かですか。眷属だけど。

 

「調子はどう? 私は今からお茶を飲もうと思っていたのだけど、セージも飲む?」

「まだ実体化は不完全ですね。寝る前、ようやく手だけ実体化が安定したところですよ。

 なので、お茶は飲めるかどうか怪しいですね」

 

俺はおもむろに立ち上がり、ノートとペンを元の場所に戻す。

どれだけ書いたか確認するのを忘れたが、まあいいや。

ついでにお茶も入れようかとも思い、お茶を入れる用意を始める。

 

「あら。さすが私の眷属ね。気が利くわ」

「立ったからついでにやっただけですよ。それと、リハビリもしたいですし」

 

聞く人が聞けば「ツンデレ乙」とか言われそうだが

別にツンデレとかそういうやつではないはずだ。

実際、俺はイッセーほどこの人――もとい、この悪魔に入れ込んではいないはずだし。

俺がここにいるのだって、憑依先のイッセーがここにいることと、俺の情報を得るためだ。

 

「ふふっ、あなたはイッセーとは違ってツンデレってやつなのかしら?」

「……頭から熱湯かけますよ?」

 

部長。今俺が一瞬思ったことを言わないでもらえますか。

とりあえず冗談を返しながら、俺はお茶を沸かす。えーとコンロコンロ……あった。

姫島先輩は魔法でやってそうだけど。それとお茶っ葉は、と……

 

最近思い出したことだが、俺は家事スキルはそこそこにあるらしい。

ヒーローヲタクで家事スキルそこそこ、か。これ、手がかりになるのかな?

とにかく、俺はお茶と茶菓子を部長に出すことにした。

 

「粗茶ですが、どうぞ」

「――ふぅ。朱乃には劣るけど、悪くないお点前よセージ」

 

一応、比較対象を考えれば褒められたという認識でいいのだろうな。ちょっとうれしい。

それが顔に出てしまっていたのか、部長はさらに俺をつついてくる。

 

「そういえば、あなたの笑ったところってほとんど見なかったわね。意外と可愛いじゃない」

「む。俺、そんなにしかめっ面ばかりしてました?」

 

……してただろうな。暇さえあれば俺は記憶の手がかりを探したり

契約先の情報やら何やら集めたり、戦術立てたり。

いつも何かしら考えていた。考えてどうにかなるものでもないものも多いけど

それでも思いを馳せずにはいられない。

 

特に、俺の記憶については。

 

「本当に好対照ねあなたたち。セージ、あなたはイッセーを見習え……

 とまでは言えない部分もあるけど、もう少し、ゆっくりと探し物をしたらいいんじゃない?」

 

ゆっくりと、ねえ。部長、あなたが話してくれさえすれば

俺の腹の中のモヤモヤはだいぶ取れるんですがね。

 

それにこの態度は……まだ、話す気はないって事か。なら、イッセーの側から調べてみるか。

何か、あいつも知ってそうだし。

 

そんな事を話しつつ、部長がお茶を飲み終える頃に姫島先輩が部室に入ってくる。

 

「おはようございます。セージくん、もうお加減は大丈夫なのかしら?」

「後一歩ってとこですかね。実体化に関しては、俺のカードでもどうにもなりませんし」

 

そう、俺の霊体は魔力とほぼ同質なのだ。魔力をコストに発動するカードでは

実体化に効果があるどころか、逆に実体をすり減らしてしまう。

霊体を実体に変換させる。実は結構、魔力を食っている。

 

俺が昼間や明るいところで実体化できないのはそれが原因。

夜はそもそも俺ら悪魔の力が増すため、実体化しやすい。

今は病み上がりのため、結界の張られた部室内でも実体が不安定なのだ。

 

「朱乃、今日のお茶はセージが淹れてくれたのよ。セージ、私にはおかわりを頂戴」

「あらあら、それは是非私も頂きたいですわ」

 

リクエストが入ったため、俺はお茶を淹れ直すことにした。

俺のお茶は、姫島先輩にも好評だった。しかし後一歩で完全回復というのに

気が休まらないのは何故だ。さっき見た夢のせいだろうか?

 

我ながらバカげた夢を見たものだ。何故俺がオカ研の皆に殺されなければならないのだ?

 

――だが、やけにリアルな夢だったな。初めに出てきた女性といい

光の槍が俺を貫いた感触といい。

 

となると、俺を殺したのは悪魔じゃないってことになるはずだが。この時点で矛盾している。

まあ夢だから、そんなものだろう。

 

とにかく、部長と姫島先輩がガールズトークを始める前に、俺は退散したほうが良さそうだが

今来たばかりの姫島先輩に呼び止められてソファに座っている。それも先輩の隣に。何故だ?

 

「結構なお点前でしたわ。ところでセージくん、セージくんには好きな人とかいるのかしら?」

「それは気になるわね。眷属の好みを知るのも、主の大事な仕事だし。

 ちなみにイッセーは胸の大きい子が好みらしいわ。セージはどう?」

 

はい来ました。しかもいきなりどストレートです。何ですかこれ。新手のパワハラですか?

なお聞いた話だと、異性との交友関係を問いただしただけで

セクハラ認定されるケースもあるらしいですよ奥さん。

 

だが、こんな話を振られてうろたえるほど、肝が小さいつもりではない。と思う。

 

「仲間意識、って意味を除外すればいませんね。と言うより、いつか話したと思いますが

 俺は俺のことがさっぱりわかりません。それなのに好きになってくれ。

 とか都合良すぎやしませんかね? つまり、今そういうことにまで頭回らないんですよ。

 俺のことを知るのに、必死なんですよ。俺の記憶が戻ったら、また改めて言えると思います。

 後イッセーの意見とか知ったこっちゃないんで」

 

「あらあら。随分真面目ですのね。それじゃ、もしかしたら実はその人柄に惹かれた彼女さんとか

 いるのかもしれませんわね、うふふ」

 

何を言ってるんだ姫島先輩は。からかわないで欲しい。いない、いない――はずだ。

もしかして、あの夢の女性がまさか――いや、んなわけない、ない。

ちなみに、イッセーの意見には同意しておく。案外、好みはかぶっているのかもしれない。

 

「セージ。あなたの考えはよくわかったわ。でも、今のあなたは私の眷属。

 記憶があっても無くても、セージはセージ。今の私――いえ、私達にはあなたが必要なの。

 だから、早まった真似だけはしないでちょうだい」

 

部長。それ仲間意識じゃないんですか?

仲間意識除外して答えた俺がバカみたいじゃないですか。

結局、部長も俺のことについてはそれ以上話さず、姫島先輩もいるかどうかすらわからない

俺の彼女のことをあれこれ勝手に語っていた。

 

ガールズ(+ボーイズ1)トークも一段落する頃には塔城さんや木場も来ており

学校をそもそも休んだイッセー以外は集合する時間になっていた。

部長はあれからシャワーを浴びている。

部長、シャワー好きだなぁ。

 

などと考えていたら、イッセーがすごい剣幕で部室に入り込んできた。

おい落ち着け、何があったんだ。

 

ま、まさか――




ネタバレ:
セージの正体は1巻部分終わるまでに判明する。

どーだどーだネタバレしてやったぞはっはっはー。
……まあ、Soul1.時点で気づいてる人は気づいてるでしょうけど。

さて、今回は「学生生活がまともに送れないのに
ハイスクールとかどうなのよ」といわんばかりの
セージの日常がコンセプトです。

劇中で触れてますが「保健室通学」ってことで。
ちょっとデリケートな問題もはらんでますので劇中描写について
もし不愉快に感じられる方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

今回セージの夢に出てきた謎の女性はオリキャラです、念のため。


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Soul8. 友達の友達、助けます!

俺、歩藤誠二は悪魔で、生霊だ。

今日は実体が不安定だったために療養していたが、それもようやく安定してきた。

しかしそんな矢先、俺の同期の悪魔である兵藤一誠が俺達の拠点

オカルト研究部の部室に駆け込んできたのだ。

 

「部長! 俺はアーシアを助けに行きます! 教会に行かせてください!」

「ダメなものはダメよ。教会は奴ら堕天使の領域、無闇に攻め入ったらそれこそ戦争よ!」

 

開口一番、これである。そういえば近頃イッセーと部長はアルジェントさん絡みで揉めていたが

ここに来てそれが表面化したか。しかしイッセーも部長に尻尾振ってるだけの

駄犬と少し思っていたが……言うじゃないか。駄犬は撤回しておこう。

うでなくとも仮にも同期に対しては不適切だ。

 

「アーシアは、アーシアは俺を悪魔だと分かっても受け入れてくれた!

 それにアーシアは友達です! だから……」

 

何? 今なんつった? 悪魔だと分かっても……って、バレたのか!? なんてこった。

遅かれ早かれとは思ってたが、まさか昨日の今日でバレるなんて……恐らくは攫いに来た奴が

イッセーの事をバラしたんだろう。堕天使ってのは悪趣味だな……くそっ。

 

「何度も言わせないで頂戴! 今度行けばあなたは確実に死ぬわ!

 今度は生き返る術もないのよ!」

 

「それでも、俺は行きます! 今日、奴らは儀式でアーシアを殺すかもしれないんです!

 今行かないと、アーシアは死んでしまいます!

 どうしてもダメだというなら、俺を眷属から外してください!」

 

なんと。あれほど部長の眷属になれたことを喜んでいたイッセーがそこまで言うとは。

こりゃ、相当だな。

 

とにかく、当事者が落ち着かないことには状況も把握できん。いいからイッセー、落ち着け。

 

「お、おいイッセー!? お前何言ってるのかわかってるのか!?

 と、とにかく顛末を話してくれ……そうでなければ話がまったく見えん!」

「せ、セージか。実はな……」

 

しかも、アルジェントさんを攫ったのはイッセーを殺した張本人にして

俺にも何らかの因縁があるあの天野夕麻。つまり――

 

――レ、イ、ナー、レ……か。くっ、くくっ、これは……そうか、そういう事かよ。

こうなりゃ、俺も腹を決めるか。こっちも遅かれ早かれだ。

それに、この堕天使の連中。どこまでも他人を愚弄してくれる。

アルジェントさんも結局は道具扱いか。それで駒王町に呼び寄せたんだろう。

全くもって気に入らねぇ……!

 

ドライグ。正直言って今の俺には鱗じゃ足りない。

お前の爪、いや腕の一本分の力を貸してくれ。

 

「イッセー、眷属から外したらあなたははぐれ悪魔になるのよ!?

 そんな事出来るわけないでしょう!? れにあなたの悪魔の駒は――」

 

兵士(ポーン)でしょう、わかってますよ! でもいくら部長の頼みでも、これだけは譲れません!

 止めないでください、俺は行きます! はぐれにでもなんでもしてください!」

 

しかしまぁ、お前も変なところで頑固だな。友達のためにそこまでやるってその心意気。

俺は嫌いじゃない。だがお前のことだ。どうせ後先考えてないだろうが。

 

そこまでやれたら一人前なんだろうが……ま、そりゃハードルが高いか。

そうでなくとも、今俺がとるべき行動は一つしかないよな、やっぱ。

 

「……見上げた根性だよイッセー。いいぜ、俺も付き合おう。

 何てったって俺はお前に憑いた生霊だからな。

 部長。イッセーが眷属から外れるって言うのなら、俺も外れます。

 元々俺はこいつに憑いてた生霊に過ぎませんし」

 

「あらあら、セージくんまで。それより部長」

 

完全に部長は頭を抱えていた。まあそうなるわな。

まさかの新人二名離反、ブラック企業もかくやと言わんばかりだ。

 

――いや、この場合ブラック新人か。

 

「……はぁ。わかったわ。もう止めないわ。でも最後にこれだけは言わせてちょうだい。

 イッセー、セージ。兵士(ポーン)は最弱の駒ではないのよ。

 敵陣最深部まで行けば昇格(プロモーション)して(キング)以外の全ての駒に変化することができるわ。

 けれど、今のあなた達では女王(クイーン)は無理ね。戦車(ルーク)騎士(ナイト)、どちらかを選びなさい。

 そして、神器(セイクリッド・ギア)は思いの力に応じて力を発揮するわ。この二つだけは、忘れないで」

 

……ん? 何でこのタイミングでそれを言うんだ?

どうやら部長は、最後まで俺らをはぐれにするつもりは無いのだろうか。

それならそれで話は変わる。俺らが生きてアルジェントさんを助け出せばいい。それで十分だ。

元々、イッセーはともかく俺は死ぬつもりはなかったし。

 

「それとセージ。あなたはイッセーに憑いて行動なさい。まだ、あなたの実体は不完全。

 つまり、その神器(セイクリッド・ギア)も満足に使える状態じゃないはずよ。

 でも、あなたの力とイッセーの力を合わせれば……後はわかるわね?

 それじゃ、私と朱乃は出かけるわ……死ぬことは許さないわよ、二人とも」

 

「ご忠告痛み入ります。

 ならば我々は二人で一人の立派なグレモリーの兵士(ポーン)として、華々しく戦いましょう」

 

そのまま、部長は姫島先輩を引き連れて部室を後にする。

後に残ったのはやけに気合を入れた俺達兵士組と

一部始終を見ていた木場と塔城さんだけだ。

 

「……いくら君たちでも、教会の戦力全てを相手にすれば、間違いなく殺される。

 そうなればその友達は絶対に助けられない。それでも行くのかい?」

「当たり前だ! 行くぞセージ!」

「ああ。病み上がりだが、それはお互い様だ。お前のアシストくらい立派に努めてみせるさ」

 

俺も目を閉じ、イッセーへの憑依を終えたと同時に、信じられない言葉を耳にする。

 

「だから、僕も行くよ」

「……私も行きます。二人――いえ、三人よりも四人なら確実ですから」

 

木場と塔城さんが同行を申し出る。いいのか?

これ一歩間違えたら主への反逆にならないの?

 

「部長も仰っていたけど、教会は僕たちにとって敵陣最深部の最たる例。

 つまりそこに君が行けば――」

 

そうだ。昇格(プロモーション)が発動する。そうなれば、ただの兵士(ポーン)ではない。

だが、その件に関しては不安が付き纏っていた。

俺は、その状態での能力強化は試していない。どうなる?

 

……出たとこ勝負か。非常に分が悪いが。

 

「それにね。僕は僕で堕天使や神父って気に入らないんだ――殺したいほどにね」

「……仲間がいなくなるのは、嫌です」

 

なんと。あれだけ辛辣なツッコミをイッセーに入れている塔城さんが

イッセーを「仲間」として見ていたとは。それを聞いたイッセーは木場のことなどお構いなしに

感激のあまり塔城さんに抱きついては投げられていた。

 

おいイッセー。今回復持っているの俺なんだが。無駄なダメージ受けてるんじゃないよ。

つーか、憑依して五感共有してるとダメージも共有されるんだから痛いからやめてってば。

 

『イッセー。感動してるところ悪いんだが、さっさと行くべきだと思うんだが。なぁ二人共』

「……真っ当な意見です」

「ごもっともだね。こんなことしてて間に合いませんでしたじゃ

 部長にもその子にも申し訳ないんじゃない?」

 

話は決まった。俺達は教会へ向け、脇目もふらずに駆け出す。

 

――――

 

夜の教会。俺達悪魔にとっては昼間も恐ろしい場所なのだが

夜の教会はそれとは違った恐ろしさを感じる。

 

場所は、ここで間違いないだろう。木場は図面を取り出し

俺もレーダーのカードを使い、敵情を調べている。

しかし、立ち入ることさえ出来ないオーラは全く感じられない。

使われていない教会だからだろうか。

 

『その図面と照らし合わせると、聖堂にあたる位置に多数反応がある。

 ここが本命と見て間違いないな』

 

「やっぱり。今まで聖なる場所として敬ってきた場所で

 背徳的な行為に及ぶことで神を汚し、それに酔いしれる。

 堕天使やはぐれ悪魔祓いがやりそうなことだよ。となると……地下かな。

 どこかに隠し階段とかがあるはずだよ」

 

「でも行くしかねぇ! 行くぜみんな!」

 

塔城さんが扉を蹴破り、思い切って中に入る。

わーお、モロバレ。まあ、まさか向こうも邪魔が入らないとは

思ってないだろうし、これくらいでちょうどいいのかもしれないが。

聖堂の中。レーダーの反応と周囲の気配が全く合わない。これは地下で間違いなさそうだ。

 

だが、こいつだけは地上にいたみたいだ。

――俺達に重傷を負わせたクソ神父、フリード・セルゼン。

 

「いよーぅ。いい再会だねぇ、感動的だねぇ。だが無意味だよクソ悪魔ども」

『昨日ぶりだなクソ神父。腹の調子はどうだい?』

 

相変わらずサイコパス丸出しの張り付いた笑顔だ。

いや、昨日ぶりだから相変わらずもなにもないんだが。

 

「お? クソ悪霊くんがいないと思ったらそこのザコ悪魔くんに憑いてるわけね。

 ええおかげさまでとっても痛くて俺様トイレの神父様になるところだったよこんちきしょう。

 ザコ悪魔くんごとたたっ斬ってやるからそこんとこシクヨロ」

「ザコ悪魔って俺のことかよ!? それよりアーシアはどこだ!?」

 

イッセー。ああいうタイプが素直に白状するわけが――

 

「んー、ここの祭壇の下に祭儀場へ行ける隠し階段がございますぞ。

 でもお前らが行けるわけ無いわけでしてな。俺様悪魔はサーチアンドデストロイ。

 見敵必殺でしたのよ。それが昨日のてめぇらのせいで記録ストップ。

 そんなわけでここで死んでちょうだいクソ悪魔ども!!」

 

喋った。逆の方のパターンだったか。とにかく、今はこいつに構ってる暇はない!

以前は俺とイッセーだけだったが、今は三人だ。

俺が実体化できなくとも、戦い方はいくらでもある!

 

『イッセー、武器は使うか?』

「いや、下手に慣れない武器を使うよりかは、手で殴ったほうが早いさ。

 セイクリッド・ギア!」

 

なるほど。それもまた一つの選択肢。

木場は剣を抜き、塔城さんは右腕をブンブン振り回している。

ならば俺は――ここは様子を見るか。正直、まだ身体が重い。

カードの無駄打ちはしないほうがいいだろう。

 

それに本命は、ここじゃない。

 

「……潰れて」

 

塔城さんが長椅子をぶん投げている。もう何でもアリだな。

当たればでかいが、そうそう当たらないか。

だが、その死角を縫って木場の剣が唸った。なるほど。それもありか。

 

だが、それもフリードに一撃を与えるには至らない。

鍔迫り合いから、フリードは木場から距離を取り、懐から――あれは!

 

『気をつけろみんな、あいつは光剣の他に祓魔銃を持っている。

 当たればただでは済まないぞ!』

「だから、俺様の手の内を晒すんじゃねぇよクソ悪霊!」

 

いや、だって今回俺これくらいしか出番ないし。主にお前のせいで。

フリードは俺のヤジにお構いなしに銃を連射して木場の足を止めている。くっ、何か手は!?

 

だが、フリードの注意が木場に向ききっていたおかげで

塔城さんの次の一手までは読みきれなかったようだ。

塔城さんと木場の同時攻撃、これならば!

 

「……ふん」

「おわっととと。横槍ですかい? けどやっぱり所詮は戦車(ルーク)

 騎士(ナイト)のそっちのクソイケメンとは違ってバレバレなんですよぉぉぉぉぉ!!」

「――僕がどうかしたかい?」

 

二人がかりでもダメか! ええい、俺のカードはイッセーにしか効果がないし

塔城さんや木場を強化することはできない。

 

せめて、実体化さえ出来れば……ッ!

一か八かの実体化を考えたとき、木場もまた切り札を出そうとしていた。

木場の目つきと声色が変わったのだ。何かある!

 

「それじゃ、僕も少し本気を出さないといけないね。時間もかけられないし――喰らえ」

 

木場の剣が黒く輝く。いや、黒いオーラを帯びている。あれは――闇か。

木場の剣の闇は、フリードの光剣の光を霧散させる。

それはフリードにとっても未知の攻撃だったのだろう。奴はうろたえている。

 

光喰剣(ホーリー・イレイザー)。光を喰らう闇の剣さ」

「チッ、てめぇも神器持ちかよ!?」

 

あの剣、ただの剣じゃなかったのか。少し驚いた。今までただの剣だと思っていたものだから

おそらく俺が実体化させる剣に、あの効力は無いだろう。

 

MEMORIZE!!

 

あれ? 記録された? 違う武器として認識されたか、効果が上書きされたか。

確認できないのが痛いところだな。隙を見て調べよう。

 

そして、フリードは武器を失っている。

イッセー、お前も同じこと考えているとは思うが――今だ!

 

BOOST!!

 

イッセーの左手から力を感じる。俺の右手も微かに呼応しているのがわかる。

いいぞ、そのまま突っ込め。

 

しかし、フリードは銃口をこちらに向けている。くっ、まだ弾が残っていたのか!?

 

昇格(プロモーション)戦車(ルーク)!!」

 

なるほど。ここで使うか。戦車(ルーク)の特性は攻撃力と防御力。

それは俺のカードにも含まれている。

フリードの奴は面食らっている。散々ザコ悪魔と罵倒してきたやつに、お前は今から殴られる!

 

――加速もつけてな!

 

『イッセー、今から加速する。行けるな?』

「ああ、このクソ神父は一度ぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「――ッ!?」

 

顔面に炸裂。強大なパワーを、ドライグの籠手の力で倍加させ、それをさらに俺が加速させた。

案の定、クソ神父は壁を突き破って派手に吹っ飛び、もう見えない。

だがまだ生きてそうな気がするのは、気のせいだろうか。

ああいうタイプって、しつこいのが相場だったりするが。

 

MEMORIZE!!

 

昇格(プロモーション)まで記録するのか。また手札が増えたな。

 

さて、ところで何故俺がこのカードを引いたか。

答えは単純、カードマニュアルにあった。「EFFECTカードの効果や特性は重複しない」と。

まあ、戦車の特性と合わさるかどうかまでは博打だったが

2分の1の確率で超強化されるのと、どっちに転んでも効果が変わらないのは……ねぇ?

これは、相当強力なコンボを手に入れたかもしれないぞ、イッセー。

 

「部長は確かに君たち二人の力を合わせれば、って仰ってたけど、まさか文字通りとはね」

「……暴れたりない気もしますが、スカッとしました。次は――」

 

ひとまずの勝利。だが、俺たちの目的はこれじゃないはずだ。

塔城さんが祭壇を放り投げた先には下り階段があった。

 

そうだ。俺達はこの先に用がある。儀式の阻止。アルジェントさんの救出。

この先は間違いなく、総本山だ。となれば、いるのはアルジェントさんと――

 

「――セージ。ここから先は悪いが俺ひとりでやらせてくれ」

『なに? お前、何言っているのかわかっているのか?』

 

イッセーの喋った内容に思わず耳を疑った。

二人がかりであのクソ神父を倒すのがやっとだったじゃないか。

この先にいるのは多分それ以上だぞ? お前一人でどうするんだよ。

 

「いいから聞いてくれ。最初に俺達がオカ研であった時、夕麻ちゃんの写真を見ただろ?

 何ていうか、あの時のお前――異常だったからさ。

 多分、この先にいると思う。そうなったら――」

 

『――大丈夫だ。状況は踏まえているつもりだ。あの時のようにはならないさ。

 俺はアシスト役だ。アシスト役が冷静さを欠いたら、それこそ終いだ。

 それより、お前こそ気をつけろよ……もう、情けは無用だ。

 ただアルジェントさんを助けて、生きて帰ることだけ考えよう』

 

イッセー。お前なぁ……今から戦う相手は元カノだってのに俺の心配か、このバカが。

だが、俺は正直、本物の奴と対峙した時に理性を保てるかどうか、自信はない。

写真を見ただけであれだ。本物を見たとき、俺はどうなるか。

 

いや、今はそんな事より大事なことがある!

 

「……もし何かあったら、私が止めます。力には自信がありますから」

「そうだね。みんなで生きて部室に帰るまでが、お仕事だよ?」

「木場、遠足じゃないんだからよ……」

『全くだ。けど、それくらいの心構えの方が気楽でいいのかもな』

 

木場と塔城さんの暖かい言葉のおかげで、俺はまだ自我を保てている。ありがとう。

俺は心の底からそう思う。正直、まだ部長は信用できないが、ここの面子は信頼できる。

とにかく急ごう。俺達はただ、地下道をひた走る。目指すは――地下祭儀場!

 

目的地までの通路には神父や堕天使は配置されていなかった。

あのクソ神父で足止めは事足りると思ったのだろうか。

だがこちらにとってはありがたい話だ。必要以上に戦闘を強いられずに済む。

そして――いよいよ俺たちが、地下祭儀場の扉の前に来たとき、扉はひとりでに開いた。

まるで俺たちを迎え入れるかのように。

 

「アーシア!!」

 

そこには、多数の神父と、十字架に磔にされたアルジェントさん。その傍らには……

 

――やはり、お前だったか!

 

天野夕麻。レイナーレ。イッセーの元カノにして、イッセーを殺し

アルジェントさんにイッセーが悪魔だとバラし。

そして今、アルジェントさんを利用し何かを企んでいる堕天使。

 

さらに言えば――俺の怒り、憎しみ、恐怖。この3つの感情の大元。

 

「……イッセー、さん?」

「ああ、助けに来たぞ、アーシア!!」

 

弱々しくイッセーの呼びかけに応えるアルジェントさん。儀式とやらは終わったのか?

とにかく、この連中を突破して助け出す、そして撤収。

さて、時間がない。木場と塔城さんもそれを理解してか、

即座に飛び出している。俺もイチバチだが――仕掛ける!

 

『イッセー、左手をかざせ! 木場と塔城さんは散開して!』

「え? あ、ああ!」

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

「へぇ。ナイスアシスト、歩藤くん」

「……敵の動きが鈍ってます。兵藤先輩、急いでください」

 

神父の集団の元に稲妻が落ちる。姫島先輩のよりかは弱い上

全く当たってないが稲光と雷鳴は健在。相手の撹乱には効くはずだ。

 

しかしこのカードは以前使おうとしてコスト不足で失敗したカード。

多分、今のは相当負荷がかかったな。つまり――非常に、だるい。

 

『い、今だイッセー、走れ……っ!』

「お、おう!」

 

俺たちは十字架に向かって走る。途中、稲妻が効かなかった神父が足止めしようと狙ってくる。

そいつらは木場と塔城さんが蹴散らしている。頼りになる露払い。感謝する。

 

「アーシアァァァァァ!!」

「――言わなかったかしら? しつこい男は嫌われるわよ、イッセーくん?」

 

まずい! 進路上にレイナーレが待ち構えている! 光の槍を持っている……投げつけるつもりか!

だが奴の今の言葉、しかと聞いた! まだ間に合う! イッセー、急げ!

くそっ、さっきのクソ神父で加速のカードは使ってしまった! 切り札を切るのが早すぎたか!

 

いや待て、光を防ぐ防具はないが、武器なら――

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

「――これは、さっきの木場の!?」

『そ、それさえあれば光の槍にも対処できる、はず、だ。

 悪い、かなり疲れた……これ以上のアシストは無理、だ――』

 

カードを使うということは、魔力を使うということ。さっきの姫島先輩のが効いたらしい。

左手の神器はさっきからコストオーバーの警告を鳴らしている。

俺ももう精神世界の中だというのに体が動かない。

 

これじゃ、カードをもう一度使おうにも再起動やリロードもできやしない。

遠くに声が聞こえる。イッセーが光の槍を切り払い

アルジェントさんに手を伸ばそうとしているところまではわかる。

 

体は動かないが、まだ五感は生きている。これはこれで歯噛みする思いだな。

しかし、俺の心配をよそにイッセーの手はアルジェントさんの手を掴んだ。

やった! これであとは――

 

「アーシア! 助けに来た、一緒に帰ろう、な!?」

「イッセーさん……」

 

後ろで木場と塔城さんも安堵の表情を浮かべているのが見える。よかったな、イッセー。

俺もここまで疲れた甲斐があるってもんだ。あとはアルジェントさんを連れ出して帰るだけだ。

イッセー、俺たちでもやれるってことを部長に思い知らせてやろうぜ。

 

だが、聞こえてはいけない笑い声が聞こえてしまった。

レイナーレの笑い声。なんだ、何がおかしい?

 

「せっかくのご対面のところ悪いのだけど、時間切れ。

 たった今、その子から神器を摘出する儀式は終わったわ。

 そう、本当にたった今。つまり、この部屋に入った時点でもう間に合わなかったのよ?」

「えっ――」

 

は? なんだって? 神器を摘出? それってどう言う――

 

「あぁ……いやああああああっ!!」

「アーシア!?」

 

突然、アルジェントさんの胸から緑色の光が飛び出してくる。

それをひったくるように奪ったのはレイナーレ。

こ、これは一体……!? 奴はその光を、己の体内に取り込まんとする。

 

あれが、アルジェントさんの神器――つまり、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

本当に、初めからアルジェントさんの神器目当てで駒王町に呼んだのか!

 

「これよ、これ! 私が長年欲していた力! この神器(セイクリッド・ギア)さえあれば私は愛をいただけるの!」

 

光がレイナーレの体の中に吸い込まれていくうちに、祭儀場は眩い光に包まれる。

その光が止んだとき、緑色の光を放つレイナーレがそこにいた。

反対に、アルジェントさんの方はみるみる生気を失っていく。

 

「ふふふ……アハハハハハッ!! ついに手に入れた至高の力!

 これで、これで私をバカにしてきた者たちを見返すことができるわ!

 イッセーくんからも彼女にお礼とお別れを言ってあげて?」

 

レイナーレの方は力の余韻に浸っている。

イッセーはアルジェントさんを抱え上げ、地上へと下ろす。

マズい、どんどん顔色が悪くなっているぞ! はやく病院へ連れて行くんだ、イッセー!

 

「アーシア、アーシアしっかりしろ!」

「――無駄よ。神器を抜かれたものは死ぬしかないわ。その子、死ぬわよ」

 

なに? お前、知っててやったのか? 死ぬってわかっていて、神器を抜き取ったのか!?

 

「――っ、なら神器を返せ!」

「返すわけないじゃない。これのために私は上を騙してまでこの計画を進めたのよ?

 あなたたちも殺して、証拠は残さないわ」

 

……どこまで、どこまで腐ってやがる。

ただ己の欲望を満たすために一人の男子高校生の人生は歪められ

神を信じた敬虔なシスターの少女が今こうして死のうとしている。

堕ちたとは言え天の使いがやることか、これが!?

 

「……くそっ、夕麻ちゃんの姿なのが憎いぜ」

「ふふふ、それなりに楽しかったわよ、あなたとの付き合いは」

「……初めての彼女だったんだ」

「えぇ、見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったもの」

「……大事にしようと思ったんだ」

「うふふ、大事にしてくれたわね。私が困ったことになったら即座にフォローしてくれた。

 でも、あれ全部私がそういうふうにしてたのよ?

 だって、慌てふためくあなたの顔がおかしいんですもの」

「……初デート、ダチと一緒に念入りにプランを考えたよ。

 とってもいいデートにしようと思ったから」

 

『……っ!?』

 

「アハハハハ! そうね! ショッピングモールって言う、とても王道で安いデートだったわ!

 おかげでとてもつまらなかったわ! そのお友達も残念だったわねぇ?

 もしかして、あの時の? いつも無駄死にだったわねぇ、だってあなた結局死んだんですもの。

 ふふふ、やはりバカの友達はバカね!」

 

――ああそうだ。俺も一緒に考えて、そこは俺が提案した……えっ!?

おい、何で俺がイッセーの初デートのプランを!?

俺がイッセーに憑いているのを認識したのはオカ研で、こいつが悪魔になった後だ!

だとしたらこれは俺の――だけど、いや、まさか!? それに、奴が言っていることが本当なら

俺もあいつに殺されたことになる! 何故俺がこうなったかはわからないが、そうだとしたら

少なくとも俺の感情の説明はつく! 俺を殺した相手が、目の前にいるんだから!

 

その時、俺の感情を代弁するかのように、イッセーが怒号を上げた。

 

「そうだよ、夕麻ちゃん……いや、レイナーレェェェェェェ!!」

「アハハハハハッ、腐ったクソガキが私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

『――イッセー。他人のことは言えないが落ち着け。今は、アルジェントさんを……』

 

俺自身、できるならこいつを殴り飛ばしたい――いや、殴り飛ばすでは足りないかもしれない。

だが、そもそも俺たちの目的はそこじゃない。これはついでに手に入れた情報だ。

俺の記憶の断片と言う、俺にとっては吉報も吉報だが

それだけのために俺たちの目的を蔑ろにはできない。

 

「歩藤くんの言うとおりだ。兵藤くん、彼女を庇いながらでは形勢が不利だ。

 ここは僕たちが引き受ける。君たちは一度上に上がってくれ!」

「……早く行ってください」

 

レイナーレの前に、木場と塔城さんが躍り出る。

この二人なら、俺達が逃げる時間稼ぎは絶対にやってくれるはずだ。

寧ろ俺たちの方が、足手纏いになりかねない。

 

『イッセー。時間が惜しい。行くぞ』

「セージ……わかった! 木場、小猫ちゃん! 帰ったら、絶対俺のことはイッセーって呼べよ!

 絶対だぞ! 俺たち、仲間だからな!」

 

イッセーはレイナーレを一睨みし、アルジェントさんを抱えたまま

一目散に上の聖堂へと駆け上がる。だがその道中、見るからにアルジェントさんは衰弱している。

どうすればいい、どうすれば!?

 

俺のカード……はダメだ、イッセーか俺にしか効果がない!

それに、もうカードを使うだけのコストがない!

救急車を呼ぶか!? これもダメだ、応急処置すらできないんじゃ、来るまで間に合わない!

 

聖堂へ飛び出した俺達は、適当な長椅子にアルジェントさんを横たえる。

イッセーも狼狽しているのがわかる。

 

……憑依している俺のせい、かもしれないが。

 

『見るからに衰弱してる。このままじゃ……』

「バカなことを言うなよセージ! アーシアはこれからなんだぜ!?

 やっと、やっとこれから自由になれるんだ! うしたら……

 そうだアーシア、この写真! また撮りに行こうぜ!」

「……イッセーさん、私、少しの間だけでも……友達が出来て……幸せでした……」

 

弱々しくイッセーに語りかけるアルジェントさん。声に覇気がない。これは……

 

ふと見ると、アルジェントさんの霊魂が抜けかかっているのが見える。

漫画とかでは押し戻せば戻るように描かれるがそんな単純なものじゃない。

しかも、霊魂そのものが弱っている。神器を抜くってのは、そういうことなのかよ!?

 

「……もし、生まれ変わったら……また友達になってくれますか……?

 また一緒に、遊んでくれますか……?」

 

「な、何言ってるんだよ……そんなこと言うなよ……

 ほら、カラオケとか、ゲーセンとか、ボウリングとか色々行くところはいっぱいあるんだぜ。

 他にもそうだ、アレだよ、アレ……」

 

――分かってしまった。こういうことを言う時は。

もう、ダメなのだろう。霊魂はどんどん衰弱している。

なまじ霊魂だから見えてしまう、その魂。

アルジェントさんも、イッセーも、泣いていた。そして多分、俺も。

 

「俺ら……俺らずっとダチだよ! 松田や元浜、それからセージにも紹介するよ!

 松田や元浜はバカでスケベだけどいいやつだし、セージは今入院してるけど

 きっとアーシアも気に入ってくれるさ! でワイワイ騒いでさ……! だから……!」

 

「……取り込み中すまない。昨日ぶりだね、アルジェントさん。

 いや敢えてアーシアさんと呼ばせてもらおうか」

 

「あな、たは……あの時の、悪魔、さん……?」

 

自分でも何をしたかわかってなかった。

もう実体化できるかどうか怪しい程度の魔力しかないのに。

けれど、ずっとイッセーの中にいるよりも、こうして面と向かって話をしたかった。

あの時は、一芝居を打っていたからな。

 

「ああ……まず嘘をついていたことを謝りたくてね。

 イッセーが悪魔だと知られたくなかったんだ。君には。

 それと、最期の立会が悪魔二人になってしまって、シスターのあなたには申し訳なく思う。

 けれど、こちらからも礼を言いたい。

 

 彼が悪魔でも、友達になってくれて、ありがとう……!」

 

「……よかった、私のために、泣いて、くれて……

 セージ、さんも……生まれ、変わったら、私の……」

 

それが、その言葉を最期に、アルジェントさん、いやアーシアさんは事切れた。




というわけでオリ主セージの正体ほぼ確定&一巻部分の山場です。

当初からほぼバレバレだったので
あまり引っ張ってもつまらないと思いましたので。


フリードは断末魔すら上げられずにフェードアウトしましたが
たぶん生きてるんじゃないんですかねぇ(棒


一巻部分は残り三話+番外編一話の予定をしております。
投稿開始からほぼ一月が経ちましたが今後ともよろしくお願いします。


※02/06 19:20 タイトルが抜けてました、失礼しました。


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Soul9. 龍、目覚めます!

以前(Life7.)後書きにて触れましたが
本作のレイナーレは外道です。
少なくともオリ主セージにはそう映ってます。


「あ、アーシア……アーシアァァァァァァ!!」

 

その日、敬虔なシスターの少女、アーシア・アルジェントは息絶えた。

俺、悪魔で霊魂の歩藤誠二は憑依先の兵藤一誠と共に彼女の最期を見届けたのだ……

 

「なあ、神様、いるんだろう!? 見てるんだろう!?

 この子を連れて行かないでくれよ、頼むよ!」

「イッセー、教会で言うのもなんだが、神は……」

 

アーシアさんの亡骸を前に、イッセーは慟哭していた。俺も、かける言葉が見つからない。

だが、ただ一つ言えることはある。それは――いや、よそう。仮にもシスターの最期だ。

そういう事を言うのは、些か不躾であろう。

 

それより、俺の中ではさっきから物凄い感情の渦がまいている。

こうなった元凶を、俺達は知っている。

そしてそいつは今、素知らぬ顔で聖堂にやってきたのだ。

 

「あら、悪魔が教会でお祈り? それとも懺悔かしら?」

「てめぇ……!」

「よくものうのうと顔を出せたものだな。レイナーレ!」

 

実体化しているのも忘れ、俺は目の前の外道堕天使に啖呵を切る。

イッセーの方も、相当怒り心頭だ。

 

「ん? どこかで見たこと……まあいいわ。どうせ悪魔の顔なんていちいち覚えてないし。

 それより見て、この傷。ここに来る途中に騎士の子に傷つけられたの」

 

レイナーレが傷口に手を当てると、傷はみるみるふさがっていく。

おい、やめろよ。貴様ごときがアーシアさんの力を使うんじゃねぇよ。

彼女は誰かの笑顔を見るためにその力を使ってたんだ。

 

「見て、素敵でしょう? この神器。悪魔だろうと堕天使だろうと

 どんなに傷ついても治ってしまう素晴らしい神器(セイクリッド・ギア)なのよ?

 この力さえあれば私の地位は約束されたようなもの。

 偉大なるアザゼル様、シェムハザ様のお力になれるの!」

 

アザゼル。確か堕天使の中でも相当凄いってのを何かで見たことがある。つまり、こいつの上か。

で、こいつはその上を騙して、アーシアさんを殺した、と。

騙して手に入れた力でのし上がるとは、コイツ元々が腐ってやがる!

 

「……知るかよ」

「……ああ、右に同じく。地位が欲しいなら、次は何だ?

 のし上がって、アザゼルやシェムハザとやらの寝首を掻いて敵対勢力に売り渡すか

 それともお前がトップにすり変わるのか? 神の使者を殺したお前ならやってのけるだろうよ。

 え? ど外道のレイナーレさんよ」

 

我ながらとんでもない事を言ってる気がする。

だが、それ以上に、目の前にこの事件の張本人がいるというのだ。

ましてこいつは、俺の戻った記憶が確かなら、アーシアさんやイッセーの仇にして――俺の仇。

 

「……舐めた口を聞くな汚らわしい悪魔め! アザゼル様やシェムハザ様の名を口にするな!」

 

レイナーレが投げつけてきた光の槍を回避するために、俺は即座にイッセーに憑依しなおす。

俺自身の手で殴れないのが憎たらしいが、致し方ない。

イッセー、俺の分もこいつを殴ってくれ。許すじゃなくて、頼む。

 

「……この子は普通にただ静かな生活がしたかっただけなんだよ……

 それなのに、お前らが……!」

 

「どっち道出来ないわよ。異質な能力を有したものはどこの世界でも組織でも爪弾き者。

 ほら、人間ってそういうの毛嫌いするでしょ? こんなに素敵な能力なのに!」

 

『……それは同意するよ。だが、お前が言うな』

 

俺の脳裏には、あの公園の親子がよぎった。

そうだ、本人から直接は聞いてないし聞くつもりもないが俺の思っている通りの経験を

アーシアさんはしていたはずだ。素敵な能力には違いないし、彼女はそれを

誇りに思っていた節も見て取れた。それを、コイツは……ッ!!

 

「――なら俺が、アーシアの友達として守る!」

 

「アハハハハッ、無理よ! だってその子死んじゃってるじゃない。あなたは守れなかったの!

 あの時も、そして今も! その子を救えなかったのよ! 本当におかしな子! アハハハハッ!!」

 

『死んだ、か。確かにな。じゃあそれならせめて、アーシアさんの魂だけは救ってやる。

 お前みたいな下衆に、その光は使って欲しくない。そのままお前如きに使われるくらいなら

 ここでお前ごとその神器(セイクリッド・ギア)をぶっ壊してやる』

 

ああそうだ。このままこいつを生かすのはアーシアさんの魂に対する愚弄にほかならない。

アーシアさんが誰かの為に使った力を、コイツはただ己の為にしか使おうとしない!

生かしておけるか、こんな奴を!

 

「魂を? くくっ、アハハハハッ! 揃いも揃って変なことを言うわね!

 死んだ人間に魂なんか存在しないのよ。その子はもう物言わぬ抜け殻に過ぎないの。

 魂が云々なんて、現実から目をそらした言い逃れに過ぎないわ」

 

「……だから、許せないんだ。お前も、そして俺も――」

 

『……ああ。俺は――いや俺達は分不相応な願いを求め、主に逆らった。

 力がないがために、仲間を巻き込んだ。そして、力がないがために――友を救えなかった。

 これだけの罪を犯した、俺も許される気などない。だが、それ以上に――

 いや、それだからこそ……お前の、罪は重い!』

 

――これは、イッセーの左手の反応が今までと違う?

ドライグ。お前の宿主は、今一歩を踏み出したらしい。

そして、俺も――!!

 

「返せよ……アーシアを返せよォォォォォォォ!!」

 

DRAGON BOOSTER!!

 

――――

 

「よう。何時ぶりだ? 霊魂の方の相棒」

「さてな。時間の概念がそちらと同じとは限らないので、答えかねる」

 

イッセーの一吠えと同時に、俺の目の前にはドライグが現れる。

まだイッセーには声は届かないのか?

 

いや、あのイッセーの左手の反応は今までとは違うものだった。

ドライグも、まるでイッセーの叫びに応えたように。

 

「俺の宿主は、新たな一歩を踏み出した。お前の方も、収穫があったようだな」

 

「ああ。感謝ついでに聞きたいんだが、イッセーとのシンクロを強化することは出来るか?」

 

「初めて会ったときは宿主の方が魂が強くてな。

 お前が取り込まれるから、宿主が寝てない限りは出来ない相談だった。

 だが今は違う。シンクロを強化しても、お前の魂は宿主の魂に取り込まれたりはしないだろう」

 

「そうか。それを聞けて安心した」

 

イッセーとのシンクロ強化。それをやれば、俺の力をそのままプラスできるはず。

たとえイッセーと俺が1でも1+1で2、それをドライグが倍加すれば4。

つまり、ハナから4倍ブーストをかけられる。

まるでどこかのプロレス漫画みたいな理論だが。

 

「だが気をつけろ。シンクロを強化するという事は、ダメージも今まで以上に受けることだ。

 どうも宿主は無茶をしたがる性分みたいでな。シンクロを強化したはいいが

 お前の霊魂が消えるなんて、無様な結果はやめてくれよ?」

 

「……一応、頭の隅っこに置いておくよ。じゃあ、ちょっくらあのクソ堕天使をぶん殴ってくる」

 

「待て。お前には言っておく。俺の力は――」

 

ふふふ、そうか。これは勝算が見えたぞ。ドライグとの会話を終え

俺はイッセーとのシンクロを強化すべくイッセーの方に意識を集中する。

 

だが、それはタイミングがマズかった。

ちょうど、イッセーの足に光の槍が突き刺さったタイミングだったのだ。

 

「『ぐああああああああっ!?』」

 

MEMORIZE!!

 

痛みとともにこの光の槍が記録されたようだが、今はそんな事どうでもいい!

 

『……イッセー、シンクロを強化した。反論は受け付けない。

 奴を倒すには、俺たち二人の力を合わせる必要がある!

 俺の計算通りなら、俺の分と合わせた力が倍加されるはずだ。

 俺のダメージは気にするな、いいな!』

 

「ああ、セージ。ちょっくら痛いが我慢してくれよ……ッッッ!!」

 

ぐぅぅぅっ! 光の槍を引き抜くのにもダメージを受ける。

痛くて持つのにも一苦労だ。おまけに魔力もほぼカラだしな。

向こうで奴が笑ってるが、だからどうした!

 

俺は、俺たちは! お前を倒さないとアーシアさんに会わせる顔が無いんだ!

 

「下級悪魔のくせに光の槍を引き抜くなんてやるわね。でも、もうおしまい。

 あなたの体の中には光がどんどん巡って行って、内側から焼き尽くすわ。

 あなたに憑いた悪霊も今頃は苦しんでいるでしょうね。

 それとももう消えてるかしら? 残念ね、仲良く死ねなくて」

 

ああ。だからさっきから気が狂いそうに痛いのか。気が狂い気味なのは前からだけどな。

イッセー。俺は消えてない。わかるな? わかるなら、立て。立って奴をぶん殴れ。

俺も手を貸す。一緒に奴をぶん殴ろう。

 

「神様……いや、神様は何もしなかった。それに俺は悪魔だから魔王様に頼むべきなのかな」

「……は? あなた、何を言っているの? 痛みでとうとう壊れたかしら?」

『ああ、神はいたとしてもここの神はアテにならない。それならお前の左手の龍に頼めよ』

 

それとなく、ドライグの存在をイッセーに匂わせる。

最も、この状態でイッセーが理解するとも思えないが。

だが、今信じられるのは俺たち自身の力と、それを強くしてくれる左手の龍。

たとえ俺達は弱くても、今ここにあるものくらい、信じられずに何とするか。

 

「じゃあ魔王様にドラゴン様。俺にあいつを一発ぶん殴るだけの力をください。

 一発だけでいいんです、一発だけ……!」

『イッセー、それを言うなら「俺達に」じゃないか。

 とにかく目の前のアイツは、他人の心を弄び、あまつさえ信心深いシスターをも

 己の欲望のために食い物にした邪悪な輩です。俺からもお願いします。だから……!』

 

「『俺達に、力をくれ!!』」

 

BOOST!!

 

ドライグの声が聞こえる。これは「2回目」の倍加だと。

感じる。これまでにないほど俺たちの力が増しているのを。

さて、行きますか二人の相棒さん。

 

時は来た。この邪悪な堕天使を討つ、その時が!

ダメージなどもはやどうでもいい。こいつを倒せば全てが解決するのだ。

行くぞイッセー。ゆっくりでいい。そのまま、立ち上がって、歩くんだ。

 

「う、嘘よ!? 動けるはずがないわ! あれだけのダメージを受けたのよ!?」

 

ちょうどいい。奴はご丁寧に殴られるのを待っていてくれている。

そうだイッセー。一歩ずつ、一歩ずつ奴に近づくんだ。

腕が届きさえすれば、もう俺たちの勝ちだ。

 

肩は貸せないが、俺の足をくれてやる。

二人三脚は歩きにくいかもしれないが、ダメージの肩代わりだ。

悪く思わないでくれ。俺も足を前に出す。

 

EXPLOSION!!

 

「アーシア、うるさくてごめんな……すぐ、終わらせるから」

「――死に損ないが、二人まとめて生き返れないようにしてあげるわ!」

 

光の槍が飛んできた――だが、今の俺たちにははっきりと見えるんだよ。

こんなもの、腕のひと振りで払えそうだ。イッセーの左腕が、光の槍を弾く。思ったとおりだ。

俺たちの力を合わせて2だとしても、倍加して4。さらに倍で8。

まして左腕は神器。生身じゃあない。4倍ともなれば、たとえお前の槍だとて!

 

「嘘――ひっ!?」

「逃がすか、バカ」

 

逃げ腰になった瞬間は見逃さない! 今まで貯めていた力は、全てこの時のために!

奴は翼を広げて逃げようとしたが、もう腕を掴んだ! 取ったぞ!

 

『今だイッセー、叩き込むぞ!!』

「触れるな、私は至高の――」

「ああ――吹っ飛べ、クソ天使!!」

 

炸裂。イッセーが左ストレートを繰り出すのと同じタイミングで

俺も左ストレートを繰り出す。

殴った手応えは、俺の方にも伝わっている――気がした。

 

RESET!!

 

「『――ざまぁみろ』」

 

左手から感じられる力が消えたと同時に、俺は無意識に左手を摩っていた。

ありがとう、ドライグ。この私怨に力を貸してくれて。

ありがとう、イッセー。俺の分も殴ってくれて。

 

そして――

 

「……アーシア、守ってやれなくて、ごめんな……」

 

――そうだ。どれだけ復讐を果たそうとも、消えたものは、もう……戻らない。

もし俺がまだ強くなれるのならば、こんなことは二度と起きないようにする。

それもまた、彼女への手向けだろう……。

 

聖堂には物言わぬアーシアさんの亡骸を前に、イッセーのすすり泣く声だけが響いていた――

 

――――

 

「お疲れ。君達だけで堕天使を倒しちゃうなんてね」

 

肩を叩かれた感触とねぎらいの言葉。振り向くと、木場の爽やかスマイルがあった。

イッセーが悪態をついているが、俺は正直反応する気力すらない。

この戦果、ついこの間悪魔になった俺たちなら大金星ものなのかもしれないが――

 

今は、素直に喜べないな。

 

「部長に邪魔するなって言われてたし、一人ならともかく二人ならやれるって信じてたんだ」

「――そう、あなたたちならやれるって信じてたもの。

 よくやったわ二人共。さすがは私の下僕くん」

 

――イッセー。鼻の下、鼻の下。まあ、今日くらいは大目に見ますか。

……って部長? いつまで頭なでてるんです?

 

と言うか、なまじシンクロしてるもんだから俺が頭撫でられてるような錯覚起こすんですが。

むう。少しこそばゆい。こりゃ、話題を変えたほうが良さそうだ。悪いイッセー。

 

『ところで、部長はいつからここに?』

「ついさっき、地下から来たわ。用事も済んだことだし、教会に転移してきたの。

 教会への転移は初めてだから緊張したわ」

「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」

 

あ。完全に周囲の被害とか全く考えずにやってた。

確か教会って敵地だから、勝手に入るだけでも問題なのに

そこでドンパチやった挙句ボロボロにするとか……ど、どうしよう。

 

「ここは廃教会だから、今回は大丈夫よ。とある堕天使が独断で動いて

 私の管轄内で勝手なことをした。この程度のことなら、ほかの場所でも起きているわ。

 気にしてたらキリがないもの」

 

イッセーも納得しているようだ。実は、今回のケースは俺も頭に血が上っていた。

今の姫島先輩や部長の言葉で一気に現実に引き戻された感覚がある。

ちょうど頭も冷えたことだし、ありがたい。

 

「……部長、持ってきました」

 

塔城さんが持ってきたのは……気を失ったレイナーレか。

まるでモノ扱いだな。まあ、どうでもいいけど。そして持ってきたレイナーレを問い質すべく

姫島先輩が水をぶっかける。おー。あれ出来たら便利そうだな。

 

気絶してるところに水をぶっかけられたレイナーレはむせ込み

目を覚ますが周りにいるのは俺たちオカ研。

どう見ても、チェックメイトだと思うんだが。

 

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。

 短い間だけどお見知りおきを、堕天使レイナーレ」

 

「グレモリーの娘か……してやったりと思ってるんでしょうけど、じきに援軍が――」

 

「来ないわよ。あなたのお仲間の堕天使三人なら、ここに来る途中に私が消しておいたわ。

 以前から一部の堕天使がこそこそと動き回っているみたいだったから

 あなたのお仲間に直接話を聞きに行ったわ」

 

「ちょっとご挨拶したら、すんなりとあなたの独断だと吐いてくれましたわ」

 

なんと。あの時出て行ったのはそういう事情?

裏があるとは思っていたけど、まさか敵から直接裏をとってたとは。

 

これは……ん? いや、ちょっと待て。

確かグレモリーってのは、この辺の管轄で、堕天使は商売敵。

んでイッセーや俺は堕天使に殺されて……それから更に結果オーライって言えない事態もある。

あのクソ神父絡みだ。これ、見方を変えれば部長の職務怠慢じゃないか? 或いは監督不行届。

警護の強化を俺は眷属として打診すべきか。

 

それだけならまだいいが、もし今回の件が「わざと泳がせていた」だったら――

いや、ま、まさかな。俺が疑心暗鬼になっているのをよそに、部長は三枚の黒い羽を取り出す。

まるで、倒した証拠だと言わんばかりに。案の定、レイナーレの顔が面白いほどに青ざめる。

 

「その一撃を喰らえばどんなものでも消し飛ばされる、滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。

 部長は若い悪魔の中でも天才と言われるほどの実力の持ち主ですからね」

「別名『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と言われてますのよ?」

 

うわあ。木場と姫島先輩が、部長を称えるように部長の力を紹介する。以前のはぐれ悪魔戦でも

ただものではないと思ってたけど、ただものじゃなかった。

姫島先輩も恐ろしい面があるが、部長も大概じゃないか。

 

……でもそうだよな。普通、眷属ってのは主に従い、称えるものだよな。

俺みたいに主を信用しきってないのは、珍しいんじゃないか?

俺の場合、実感が全然沸かないってのが大きいが。

 

「そ、それでもセルゼン神父が……」

「……その神父なら、遠くまで飛んでいくのを見ました。

 あの様子じゃ、街の外まで飛んでいったかもしれません」

「あらあら。そんな遠くまで飛んでいってしまったの? どうしましょう」

 

下のはぐれ退魔師軍団は木場と塔城さん、それに部長や姫島先輩が来た時点で全滅だろう。

となればもう残りはあのクソ神父だけだが、そいつももう俺とイッセーで吹っ飛ばした。

 

つまり――まあ、皆まで言わない。

ふと、部長の目線がイッセーの左手に向いた気がした。

 

「……赤い龍。この間までそんな紋章は無かった気がしたわ。そう、そういう事ね」

 

『部長。イッセーの左手については俺から話します。

 ご存知と思いますが、これは「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」。俺が何故これを知っているかは

 オカ研で初めて呼び出される前、俺はこの籠手に宿る龍――ドライグと話しました』

 

「え? おいセージ、さっき俺の左手の龍がどうのこうのって、それのことかよ?」

 

『ああ。俺の声が届かない、ってドライグが嘆いていたぞ。

 まあ、じきに聞こえるようになると思うけど』

 

十秒に一回、己の力を倍加させる神器(セイクリッド・ギア)。それがイッセーの神器の本来の姿。

しかしドライグが言うにはまだ発展性を秘めているとか。

極めれば神をも屠れるという謳い文句は、伊達ではないって事らしい。

 

――しかし、俺自身の右手の方は変化を感じない。

あくまでも、俺の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の起動キーとしての役割が主だからか。

それ以前にピーキー過ぎて、俺では使いこなせるかどうか怪しいものだ。

 

「セージが何を龍と話したのかは、追々聞くとするわ。

 それとイッセー。今回は相手が油断してたから勝てたようなものよ。

 実戦で相手が倍加を待ってくれることなんてありえないわ」

 

だな。その点は俺の記録再生大図鑑も似たようなものだ。

十秒に一回なんてピーキーさはないが、俺単体で使うとなるとカードを一々引く手間がある。

そこを狙われたらひとたまりもない。弱点をも理解して、初めて真に使いこなせると言える。

強くなるための道は、まだまだ長そうだな。イッセー。

 

「でも面白いわね。二人とも、さすがは私の下僕くん。

 これからもっともっと可愛がってあげるわ」

 

部長はイッセーの頭を笑顔でなでている。

うん。今俺はイッセーに憑いているわけで、感覚を共有しているわけで。

つまり、イッセーが頭を撫でられるのは、俺が頭を撫でられているわけで。

 

……だーかーら。そういうのくすぐったいからやめてってば部長。

ぐぬぬ、これは違う意味で俺はまだまだだ。

ここはイッセーに交代したい。イッセー、パス――って出来ないか。とほほ。

 

「さて――」

 

と、ここでにこやかな部長の表情は一変し、レイナーレを冷たい目線で睨みつける。

あれは――フリードやバイサーの時と同じだ。一片の容赦もない、敵対するものへの眼差し。

 

「消えてもらうわ。勿論、その神器も回収させてもらうけど」

「じょ、冗談じゃないわ! この癒しの力はアザゼル様とシェムハザ様に……」

 

ここまで敗戦確定なのに、なんと往生際の悪い。こいつ、本当に自分の立場わかっているのか?

それは部長も同じ考えだったらしく、聞く耳持たんと言わんばかりだ。

 

「愛のために生きるのもいいわね。でも、あなたはあまりにも薄汚れている」

 

――そうだな。そもそもその上を騙して手に入れた力じゃないか。

愛が欲しいのに、その愛を与える相手を騙すとは。お前、本当にその辺理解してるのか?

それでも力は手放したくないとばかりに狼狽している……マジで見苦しいぞ。

 

そして、次の瞬間俺は自分の耳を疑った。

その時は、まさかここまでレイナーレがゲスだとは思わなかったからだ。

 

「イッセーくん! 私を助けて!」

 

……は? 今お前、なんて言った? 疲れすぎたか。俺も耳がおかしくなったか?

だが、その認識は現実逃避だと言わんばかりに、目の前のゲスは言葉を紡いでいた。

 

「この悪魔が私のことを殺そうとしているの! 私、あなたの事が大好きよ! 愛してる!

 だから、この悪魔を一緒に倒しましょう! イッセーくん!」

 

何度もイッセーの名前を連呼している。イッセーも、もう心は折れていた。ここから見て取れる。

ど、どこまで……どこまでこいつは!!

 

どこまで他人の心を、愛を、なんだと思っているんだ!!

 

「――部長、もう、限界です……頼みます」

 

イッセーのその悲痛な声は、俺の中の何かを引きちぎった。

 

『すまないイッセー……今から勝手なことをする。許せ。そして寝てろ』

 

――――

 

「……ドライグ」

「何だ、霊魂の方」

 

もはや手段は選ばぬ。俺は、俺自身の手で、奴を消さなければならないみたいだ。

部長の力ならば一瞬で消せるのはわかる。もう一発殴ったのもわかる。だが、それでも。

 

「初めにイッセーにも謝っておいた。悪い。俺も限界だ」

 

「なに? おい、待て貴様! 今の宿主の体じゃそれは無理だ!

 貴様の存在そのものも変質させかねんぞ!!」

 

「問答無用だ!!」

 

俺は、無理やりにでもドライグから力を引き出そうとしていた。

俺の魔力を全部使ってでも、ドライグの力を引っ張り出してでも

目の前の邪悪は消さなければいけない!

こんな腐りきった奴は、徹底的に焼却しなければならない!!

 

当然、こんなものは正義でもなんでもない、ただの復讐だ。

だがそれ以前に俺は、自分の正しい事のために力は使おうと思ったが、正義のために戦おうなどと

大それたことは考えちゃいない! 俺は、ただ奴を、レイナーレを許さない! それだけだ!!

 

――――

 

「消えろ。二度と私のかわいい下僕に言い寄るな――イッセー?」

 

部長の魔法が炸裂する寸前。言いだしっぺがその手を止めたのだ。

部長も混乱するだろうさ。

 

『部長。気が変わりました。やっぱ……俺の始末は、俺自身が付けます』

 

 

それじゃあ始めようか。俺の、俺による、俺のための復讐劇を。




原作乖離が目に見える範囲で徐々に出せたらいいなと思ってます。
次回もレイナーレさんはひどい目に遭います。
ちょっと死体蹴りみたいで不快な描写になるかもしれないとだけ警告しておきます。

一巻部分は残り数話ですがお付き合いのほどよろしくお願いします。



以下余談。
原作で実はこの部分引っかかってました。
レイナーレに対する言いたい事は全部オリ主君に代弁させましたが。
メアリー乙ですね、はい。

いや確かにあの状態のイッセーでは無理かもしんないけど
なんだか自分の不始末を他人がしてるみたいで引っかかったんですよ、ここのくだり。
一発殴ってはい終わり、って相手でもないでしょうに。

もっとひどい事言うとリアスがおいしいとこ全部持ってっちゃった、みたいな。


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Revenger Dragon

今回は演出の都合上三人称視点です。
また、タグにもありますが残酷な描写が出てきますのでご注意ください。

……特にレイナーレは俺の嫁、って方は。


『夕麻ちゃん……そうだな。やっぱ俺、夕麻ちゃんの事が忘れられないんだ』

「な、何を言っているのイッセー!?」

 

突然の下僕の変化に、思わず混乱するリアス・グレモリー。

対する兵藤一誠は、おぼつかない足取りで天野夕麻――レイナーレの元へと歩いていく。

 

(くくっ、本当にバカな子。あれだけやったのに、まだ縋り付いてくるなんて。

 バカで……救いようがないわねぇ)

 

今まで泣き叫んでいたのは演技と言わんばかりの邪悪な笑みを忍ばせながら

レイナーレはイッセーを抱き寄せようとする。

この場合、人質として使うのが妥当だろうか。

 

「ありがとう、イッセーくん。本当に……バカな――」

『バカはてめぇだ。忘れられなかったんだよ――殺したくて殺したくてな!!』

 

突然、イッセーの声色が変化する。それは兵藤一誠というよりは

彼に憑いている生霊、歩藤誠二のそれである。

彼ら二人とも、さっきまで死闘を演じていた。ダメージも大きかったはずである。

それなのに動いているのは、もはや復讐心で動いているにほかならない。

 

イッセーの意識は、もう今しがた心が折れた時点で切れかかっていた。

そこを、怒りが爆発したセージが乗っ取った形だ。

その証拠に、イッセーの左手の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は、右手に転移している。

これはセージが右手に下位互換の神器(セイクリッド・ギア)である龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を装備しているためだ。

イッセー、いやセージは右手でレイナーレの首を掴む。

今までの怒りと憎しみを全て爆発させるように、膝蹴りを何度も何度も食らわせている。

 

「ぐ、お、おのれ……グレモリーならいざ知らず、お前のような下級悪魔風ぜっ、が……はっ!」

 

レイナーレの負け惜しみにも、セージは無言で首を絞める手の力を強めるのみ。

その間も、容赦なく叩き込まれる膝蹴りが止む事はない。

 

BURST!! BURST!! BURST!!

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が悲鳴をあげている。

悲鳴というよりは、倍加の過剰を示す警告音であるが。

それでも、セージは攻撃をやめようとしない。

 

「セージ! やめなさい! それ以上はイッセーもあなたも持たないわ!」

『……ちっ。うるさい。どいつも、こいつも』

 

リアスの制止さえも、今のセージには届かない。

厳密にはセージは死んでいないのだが、肉体がないという点では

ある意味、死んでいると言える。そしてその仇は、友を殺した張本人。

時ここに至りて、復讐心が爆発したのだ。

 

「こ、の……至高、の、堕天使、である……わた、し、を……!」

 

『うるさいと言ったんだ……お前は、黙って俺に殺されろ……!!

 おまえみたいなのは、生きていたらいけないんだ……お前が死ぬべきなんだよ……

 お前が! 今、ここで! 俺が殺してやる、殺してやる……殺してやる!!』

 

WELSH-DRAGON UNCONTROLLABLE-BOOSTER!!

 

突如、セージの、イッセーの体が赤黒いオーラに包まれる。

それはまるで、セージの復讐心を具現化したかのような存在。

 

全身は禍々しい漆黒の鎧に包まれ、鎧の縁に入った赤ラインが

辛うじてそれがドライグ由来のものであると認識させる程度。

それは、後に禁手(バランスブレイカー)と呼ばれる赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に酷似していた。

 

「あれは……禁手(バランスブレイカー)!?

 今のイッセーでは到底耐えられないわ! すぐにそれを解除しなさい!」

『……さっきからうるさい。他人に断りもなく主サマ面しやがって。

 お前も気に入らなかったんだ……後でお前も殺してやる』

 

だが、それは本来の禁手(バランスブレイカー)とはかけ離れた存在。言うなれば、歪な禁手(イリーガル・バランスブレイカー)である。

申し訳程度の赤ラインにしか赤龍帝の名残がないそれは

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)と言えるだろう。

 

しかし、かけ離れたとは言えパワーは本来の禁手(バランスブレイカー)とほぼ同格。

あまり位の高くない堕天使であるレイナーレ相手には、些か過ぎた力だ。

 

だが、今のセージにはそんな事はお構いなしだ。

レイナーレの首を掴んだまま、教会の床に叩きつけ

憎しみをぶつけるかのように拳の殴打を繰り返す。

みるみるうちに、レイナーレの元々は美しい顔も変色していく。

 

それでもセージが殴る手は止まらない。

そのあまりにも残虐な戦い方を見かね、グレモリー眷属の戦車(ルーク)塔城小猫が押さえ込み

同じく騎士(ナイト)の木場祐斗が関節を狙い、動きを止めようとする。

 

「……セージ先輩、やめてください。これ以上は先輩が……」

 

「そうだ、セージくん。僕が言えた義理じゃないが

 これ以上は君もイッセーくんも危ない!」

 

『……邪魔を、するな。あっちに、行け』

 

小猫もその体格に似合わない力を持っているが、いかんせん相手が悪い。

中身はついこの間転生して悪魔になった下級悪魔に過ぎないのだが

今は禁手(バランスブレイカー)と同格かそれ以上の力を持っている。

 

それに振り回されているとも言えるが

その何もかもを顧みない戦い方の前にはそんなものは無意味である。

木場も、いくら男子とは言え力の強い方ではない。

その為関節を狙うことでセージを抑えようとしたが、関節をも

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)はカバーしており、木場の剣が通らない。

 

「……いやです。私、先輩に言いました。何かあったら止める、って」

「悪いけど僕も同意見。せっかく仲間になれたんだし、それにセージくんには約束もあるからね」

『邪魔だと……言った!!』

 

そのまま木場や小猫を弾き飛ばし、空に掲げた左手からでたらめな方角に稲妻を飛ばす。

それはレイナーレに対する攻撃であるとともに、グレモリー眷属に対する牽制も兼ねていた。

先刻セージが使った目くらましの稲妻ではなく、威力だけならば恐らくオリジナルであろう

姫島朱乃のものに匹敵する。狙いなどつけていないため、結局は先刻と同じ効果だが。

 

「あれは、私の……! おそらく、イッセーくんの神器(セイクリッド・ギア)だけではなく

 セージくんの神器(セイクリッド・ギア)も同時に暴走状態になっていると考えられますわね」

「くっ、みんな! セージを、イッセーを止めるわよ!

 この際レイナーレには構ってられないわ!」

 

グレモリーの眷属たちも、暴走したセージを止めようとするが、あるときは雷撃。

またあるときは接近戦を仕掛けた木場や小猫を朱乃やリアスめがけてぶん投げることで反撃。

接近しても禍々しいオーラの剣を実体化させ、それは木場の剣を尽く腐食させていく。

小猫に対しても出力の増大した光剣を振り回し、接近さえさせない。

朱乃やリアスの魔法も同様。歪に変化した拳銃を二丁振り回し、魔法を使う暇すら与えられない。

 

これらは全て、セージが今までに記録した武器や技である。

普段セージが使う際には、負荷軽減のために必要以上の力を出さないように

レベルやコストで制約を設けたり、使用そのものが出来ないようになっている。

セージの神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)そのものの安全装置と言える。

 

だが、今は暴走したことで安全装置が全く作動していない状態である。

例えるならば、バルブが壊れてしまってだだ漏れになっている配管である。

 

『――俺は知ってる。このような光景を。あれは、夢じゃなかった。

 なら――ここにいるお前ら全て、俺の、俺の敵だぁぁぁぁぁぁ!!!』

「!?」

「セージ、くん……」

「て、敵……僕たち、が……!?」

「そんな……セージ、どうして……っ!!」

 

ついにセージはリアスの魔力である滅びの力までも発動。

それは制御が不安定で周囲にクレーターを作るに留まったが

この一撃と、セージの叫びはグレモリー眷属に大きな衝撃を与えていた。

セージの頭によぎるのは、今しがた見たオカ研の部員に追われる夢。

そして、光の槍が自分を貫く夢。

 

今の状況は、あまりにもその光景と似通っている。おまけにセージは錯乱状態。

オカ研部員を敵と誤認するのも、無理からぬ話であった。

 

一方でレイナーレは避難し、回復を済ませていたが

それは悪手だった事を即座に思い知ることになる。

目の前の惨状を受け入れられず、また今や至高の堕天使と言える存在になった自分が

いくら禁手(バランスブレイカー)とはいえたかだか下級悪魔ごときに負けるなどとは思ってもいなかったのだ。

 

当然、その慢心の先にあるものは――言うまでもない。

 

「く、あ、ありえないわ……下級悪魔ごときが禁手(バランスブレイカー)などと! ありえないのよ!!」

『その下級悪魔に震えているのはどこの誰だ?

 それと回復してくれてありがとうよ――まだ殴り足りなかったからな!!』

 

セージめがけて光の槍を投げつけたレイナーレだが、赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)には傷一つつかない。

蚊に刺された程度にも感じない素振りを見せたセージが左手をレイナーレにかざすと

セージの周囲から光の槍が現れる。

 

そしてそれはレーザー砲の集中砲火のように、レイナーレめがけて収束された。

突き刺さった光は弾け飛び、爆発を起こす。

その後には今しがた回復したばかりだと言うのに

既にボロボロになったレイナーレが膝をついていた。

 

「そん、な――あく、まが、なぜ……」

『――悪魔悪魔うるさいよ。誰のせいでイッセーが悪魔になったと思ってるんだ。

 誰のせいで人間やめなきゃならなくなったと思ってるんだ。誰のせいでェェェェェェェ!!』

 

うつ伏せに倒れたレイナーレを、セージはこれでもかとばかりに足蹴にする。

人間をやめなければならなくなった友の無念を叫び、晴らすかのように。

当の本人が人間をやめて悔いているかはまた別問題でもあるが。

 

「……そ、そうだ。イッセーくんを、悪魔にしたのは

 そこの、グレモリーの娘よ! わ、私は関係ない、だから!」

 

仰向けに転がされ、セージを見上げる形になったレイナーレは

声を振り絞りセージの叫びに答える。

 

だがそれは、セージの憎悪の炎に火種を追加する形で終わることになった。

この期に及んでまだ命乞いをするその姿は、憎悪の炎を激しく燃え上がらせ、頭の血を冷まさせる。

 

『……お前。本当にどうしようもないな。この期に及んでもまだ他人を売り飛ばそうとするか。

 それに第一お前がイッセーを殺さなければ、そもそも済んだ話だろうが。

 お前がここに来なければ、そもそも済んだ話だ。お前がいなければ、そもそも済んだ話だ。

 お前がバカにされた? 見返したい? ふざけるなよ。知るかよそんなの。

 この国には因果応報って言葉があってな。そういう態度だからお前はバカにされ続けたんだよ』

 

「お、お前に……お前に私の何がぁぁぁぁぁ!!」

 

そう言って見下すセージの目は、鎧の仮面に包まれて伺い知ることはできない。

セージの言葉は、今度はレイナーレのトラウマスイッチを入れたのか

激昂してセージに殴りかかろうとする。

 

しかし、相手は下級悪魔とは言え今は禁手(バランスブレイカー)。あっさりと手首を掴まれ組み伏せられてしまう。

 

『だから知らないって言っただろうが。これで言ったの三度目だぞ?

 それに、お前は明確な理由で殺されるだけマシだ。

 イッセーや俺みたいに、わけもわからないまま死ぬよりかは、恵まれていると思うがな』

「……!?」

 

一この時、レイナーレはようやく悟った。もはや、命乞いなど無意味な状態であること。

あの時素直に罪を認めていれば、こうならずに済んだかもしれない。

 

「た、助けて……」

『助けて? 誰が? 何を? お前は散々他人を弄び、利用し、喰らい尽くした。

 お前は今まで誰かを助けたのか? 無いだろう? 無いだろうな。それが今のお前の結果だ!!』

 

戦意を失いかけているレイナーレを後ろから蹴り倒し、またも踏みつける。

背中を見せる形になったレイナーレの黒い翼。

堕天使の象徴とも言えるそれを、セージは強引にへし折り、引きちぎる。

翼を片方ずつ引きちぎると、今度は念入りに足をへし折り、蹴飛ばす。

 

しかも質の悪いことに、喋られるように回復まで施している。

これはセージの方の神器の力である。

禁手化(バランスブレイク)したことで他者にも回復の力を使えるようになったようである。

 

ただし、他人を癒すというよりは尋問の為にカツ丼を出すようなものだが。

 

「も、もうやめて! もう二度とイッセーくんの前には現れない!

 神器(セイクリッド・ギア)も返す! だから、だから!!」

『ふんふん……で? 二つともお前が死ねば解決するだろう。

 死に方ぐらいは選ばせてやるよ。どう死にたい?』

 

もはや、獰猛な若い肉食動物が狩りの練習のために獲物を甚振っているような状態である。

レイナーレに救いの手は無い。傍らの長椅子で横たわる

アーシア・アルジェントが救われなかったように。

 

そもそも、堕天使である彼女に神が救いの手を差し伸べるわけがない。

上司である上級堕天使も来ない。ここに来て、上司を欺いて進めてきたことが

完全に裏目に出たことになったのだ。

 

『そうだ。他人から盗んだ神器(セイクリッド・ギア)を抜き取ったら、そいつは死ぬのか?

 それを試すのにはもってこいの実験材料だな、お前』

「ひっ――!?」

 

おもむろにレイナーレの胸に右手を突き刺す。

そのまま、臓器を抉るように神器(セイクリッド・ギア)を探しているのだ。

儀式を見た時と同じことをやっているのだが、見てくれだけである。

儀式のプロセスを一切合切無視しているため

ただ単にレイナーレの身体に傷をつけているだけなのだ。

 

『あれ? ここにあると思ったんだけどなぁ。おかしいなぁ。

 おい、どこにあるんだよ――って、これじゃ喋れないか。仕方ない。ほらよ』

 

もはや致命傷とも言えるダメージを与えておきながら、悪びれることもなく回復させ

また違う場所にあたりをつけて右手を突き刺している。

何度も何度も繰り返しているうちに、あたりを見つけたらしい。

 

『――あ。何か引っかかるものがあったな。これか? ……よっと!』

「ぐ、あああああああっ!!」

 

おもむろにレイナーレの中から何かを抜き取る。セージが血を振り払うと出てきたそれは

かつてアーシア・アルジェントの神器(セイクリッド・ギア)だったもの。

今はレイナーレに奪われたそれは戻るべき主を無くし、ただ淡く光るのみ。

セージはその光を一瞥した後、アーシアの元に放り投げる。

 

「か、かえし……て、それ、は……」

『――アーシアのだろうが。アーシアのだろうがぁぁぁぁぁっ!!

 誰がてめぇなんぞにぃぃぃぃぃっ!!』

 

ここに来ても尚神器の所有権を主張するレイナーレを

セージはただ感情に任せて殴りつけるのみ。

その声色には、若干の涙声も含まれていた。

 

そして散々セージの暴虐的な攻撃にさらされたレイナーレには

もはや逆らう意思すら残されていなかった。無理からぬ話である。

セージは本来治療のための回復を、ただただ拷問のために使っていたのだ。

傷つくたびに回復させられ、また傷つけられ、何度も何度も死ぬ思いをしていた。

 

そのただの暴力でしかなかった蹂躙が一段落着いたあたりで、リアスの制止の声が響く。

それは眷属に対する慈愛に満ちた声色もあれば、敵対するものに向けた声色も含まれている。

 

「――これ以上は見るに堪えないわ。セージ。今すぐその禁手(バランスブレイカー)を解きなさい。

 あなた、これ以上は本物の悪霊になるわよ」

 

『……元々悪霊みたいなものだ。

 知らぬ間に殺され、知らぬ間に取り憑き、知らぬ間に悪魔にされた!

 もううんざりなんだよ! 俺が知らないところで俺が動かされるのは!

 他人を改造しておいてシラを切るな!!』

 

「ならイッセーはどうなるの!?

 今イッセーは、あなたの言う『知らないところで動かされている』状態なのよ!」

 

力なく横たわるレイナーレには目も向けず、次の目標をリアスに定めたセージは

その禁手(バランスブレイカー)の力を躊躇うことなく主に振るう。

セージも一応はリアスの眷属のため、これは完全にはぐれ悪魔の所業である。

 

ただその経緯が、セージの全くあずかり知らないところ

――と、セージは思っている――で行われたこと。

そして、セージは己の経緯を受け入れた上でこうも考えていた。

 

「自分はイッセーの付属品ではないのか」と。

 

それらを引っ括めた上で、セージのリアスに対する信頼度は地の底にまで叩き落とされていた。

 

『さっきからイッセーイッセーうるさいんだよ! 俺はセージだ、俺はセージなんだよ!!

 俺を、俺のことを付属品としか見てないくせに偉そうなことを言うなァァァ!!』

 

「……これでは近づけませんわね。

 リアス、私がなんとか結界で抑え込みますからその間に何か手をお願いするわ」

「……わかったわ」

 

セージがかざした左手からは滅びの魔力が放たれる。

制御など全くされていないそれは、誰を狙うでもなくでたらめな方向に飛んでいき

周囲を穴ボコにしている。

 

それは、ただ怒りのままに放たれた魔力。放置しておけば、いずれは止むだろう。

周囲の被害と、二人の転生悪魔の命と引き換えに。

 

『邪魔するなぁぁぁぁっ!! リアス・グレモリー、お前さえ、お前さえいなければぁぁぁぁ!!

 何故、何故俺を改造したぁぁぁぁぁ!! 何故イッセーを引きずり込んだぁぁぁぁぁ!!!』

 

「せ、セージ……そんなに私を恨んでいたというの……!?」

 

それを阻止せんと、朱乃の結界がセージを覆うが、それは力ずくで引きちぎられる。

セージから発せられる、何のフィルターもかかってない本音。

それはもはや、怨嗟の咆哮であった。

時ここに至りてようやく知った愛する眷属の心の声は、己を憎む怨嗟の声。

その事実を受け止めるには、まだリアス・グレモリーは若かった。

 

リアスの名誉のために言っておくと

グレモリー家は身内や眷属にはとても情愛を注ぐ一族である。

 

実際、はぐれ悪魔の中には悪辣な主の元を逃げ出すために

止むなくはぐれ悪魔になったケースもあるため

グレモリー家はとても福利厚生のしっかりした場所とも言えるのだ。

ただ、そんな事を知らないセージには全くもって無関係かつ気に入らない話に過ぎない。

 

しかし、リアスがあの日、イッセーの死んだ場所に行かなければイッセーも

あるいはセージも今ここにいなかった。

 

セージがそこまで把握しているかどうかは、今の彼の心情から察することはできないが

少なくとも、激しい憎悪だけは唸りを上げている。

行き場を失ったそれが、リアス・グレモリーという明確な存在に向けての恨み、憎しみとして。

 

『お前が、お前がぁぁぁ!! イッセーから、イッセーから人間を奪ったんだぁぁぁぁ!!!

 返せよ、お前に人間の尊厳を奪う権利があるのかよ……

 返せよ、返せよ……返せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

「リアス!」

「部長!」

 

セージの拳は、確かにリアスめがけて放たれていた。

だが、寸前で何かの力で軌道を変えたかのように拳はリアスの左頬をかすめる。

背後にあった木々は拳圧でへし折れ、リアスの左頬からは血が出ている。

 

――――

 

イッセーの精神世界の中。普段はセージがここでイッセーをサポートすべく待機しているのだが

今回はレイナーレのせいでイッセーの心が折れてしまった所を

セージが半ば強引に行動の主導権を握ったため、イッセーがこちらに飛ばされたのだ。

無論ここにいるセージは精神体。イッセーもまた、イッセー自身の精神体である。

 

「何してんだよセージ! 何で部長を殴ろうとしてるんだよ!?

 部長は俺たちを助けてくれたんだぞ!?」

 

『黙れイッセー! 元々リアス・グレモリーには引っかかるものを感じていたんだ。

 ならば言うが、もしお前が「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」を持っていなかったら

 あいつはお前を助けなかったかもしれないんだぞ!!』

 

「俺の見た限りじゃ、部長はそんな人、いや悪魔じゃない!!」

 

『ならばこう言おうか!

 「リアス・グレモリーはわざと堕天使を泳がせお前を殺し

  お前を悪魔に転生させる口実を作った。俺はそのついで」だとな!!

 そもそも俺を一個人として認識してるかどうかさえ怪しいもんだ!

 何度も何度も、俺の話をするときには常にお前がついてまわる!

 奴にとって俺はただのオマケなんだよ!!』

 

「――ッ! セージ、歯食いしばれェ!!」

 

セージが放った一言に、今度はイッセーの側がキレる。

精神世界でも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はあるらしく、イッセーの左拳は

セージの右頬に叩き込まれていた。

 

「俺が死んだのはあいつのせいだ、そのあいつはもうボロボロだ。

 これ以上やってもしょうがない! 俺は、部長まで恨んじゃいない!

 部長に恨みがあるのはお前だろ! 部長への恨みに、俺を巻き込むな!!」

 

『バカを言うな! お前はもう人間じゃないんだぞ! もう人間に戻れるかどうかもわからない!

 お前は、この歳で親不孝をするつもりなのか! 俺は、俺はそんなのはゴメンだ!!

 言えるのか! 松田や元浜に! 言えるのか!! お前の親御さんに!!

 お前が、お前がもう――人間じゃないってことを!!

 皆が皆、アーシアさんみたいに悪魔を受け入れてくれると思うな!!!』

 

「そんなの、みんな信じる訳無いだろうがっ!!」

 

『このっ――バカヤロウが!!!』

 

さっきの仕返しとばかりに、セージの右拳がイッセーに炸裂する。

セージの罵声とともに放たれた右フックは、イッセーの左頬に突き刺さる。

 

『イッセー! これは信じる信じないの問題じゃない! いいか!? お前が悪魔でありながら

 これからも人間の松田や元浜、桐生さんに……そしてなによりお前の親御さん!!

 みんなと一緒にいるつもりなら、嘘を突き通すことになるんだ!!

 アーシアさんの時みたいにあっさりバレるかもしれない!

 その時、お前はどうするんだ! お前の友達や、親御さんはどうするんだよ!!』

 

「……っ!!」

 

『それでも悪魔の方がいいって言うなら、もう俺は何も言わない。

 だがもし人の友を、両親を裏切ってまでその道を歩むならば……

 その時こそ、俺は全力で貴様を消し飛ばす!!!』

 

イッセーの精神世界の中に、セージの悲痛な叫びが木霊する。

悪魔になってしまったことの悲しみや問題から目をそらしている今までのイッセーの態度が

セージには我慢ならなかったのである。

今回、リアスの処遇を巡り対立したこの時、それが表面化し爆発したのだ。

 

「……セージ。お前は、お前はどうするんだよ……」

 

『俺は生霊……いや、もしかするともう怨霊になっちまってるかもしれないけどな。

 今更悪魔だ何だって言われても、むしろそっちの方が自然だ。

 だがもし、もし俺が実体を得られた時には――俺は悪魔より、人間になりたい。

 お前には息苦しい世界かもしれないけれど、俺にはとても魅力的に見えるんだ、人間の世界は。

 悪魔の世界なんかよりよっぽどな。手が届かなくなって、初めて気づいただけかもしれないが』

 

「それじゃあ、部長は……オカ研のみんなはどうするんだよ……」

 

『――そこが今の俺の悩みだ。当分は人間に戻れないだろうから、現状維持でもいいと思っている

 自分が腹立たしい。だが、俺は悪魔だから彼らを受け入れたわけじゃない。

 悪魔だから、彼らと仲良くなろうと思ったわけじゃない。

 それはリアス・グレモリーにも言える。そう言う意味では、今のは八つ当たりだったな。

 ……すまなかったな、イッセー』

 

言いたいことを言って、憑き物が落ちたのかセージの表情には穏やかさが戻りつつある。

まだ語り足りないのか、それでもセージは言葉を紡ぎ続ける。

 

『そうだ。俺はひとつだけ、グレモリーに感謝している。

 俺に、人間に仇なすものに対する力をくれたことだ。後はいらないと言いたいところだが

 そこまで俺も恩知らずじゃない。悪魔の仕事ぐらいは、付き合ってもいいと思っている』

 

「驚いたなぁ。お前、ツンデレだったのかよ。けど男のツンデレなんて気持ち悪いぞ。

 やめとけ、やめと――あだっ!? 何するんだよ!?」

 

『――人が真面目に話しているのに茶化すからだ』

 

容赦ないセージのツッコミが入るなり、イッセーはおもむろに笑い出す。

セージも釣られて、笑っている。

 

悪魔に転生させられ、悪魔の世界でのし上がろうとするもの。

悪魔に転生させられ、失った実体を求めつつも人間のために戦おうとするもの。

 

始まりはほとんど同じ位置であったものの、目指すものはまるっきり異なった二人の兵士。

 

「セージ。俺は悪魔の世界で上級悪魔になる夢を変えるつもりはない。

 部長にも恩義があるからな」

 

『イッセー。俺は相手が誰だろうと人間に害をなすものは全て倒す。

 その上で俺の体を手に入れる』

 

語り終えたイッセーの左腕と、セージの右腕が軽くぶつかり合う。

二人の赤龍帝。目的は違えてしまったが、彼らの間には確かな絆が芽生えようとしていた――。

 

『――最後にこれだけは俺から言わせてくれ。後は、もう俺は今回は口を出さない』

 

EFFECT-HEALING!!

 

そう言って、暴走したことで溢れ出た魔力から回復のカードを使った後、セージの姿は

イッセーの精神から消えていった……。

 

――――

 

『――主サマといえど、言葉は選んでくれ。先刻の言葉、あれでは取りようによっては

 自分たちの職務怠慢でイッセーが死ぬ遠因を作ったともとれる。

 そしてその後の神器(セイクリッド・ギア)だ。

 あれでは、自分の手駒を増やすためにわざとイッセーを死なせたと誤解を招きかねない。

 俺はともかく、イッセーはそうじゃないと信じているんだ。

 もし、その信頼を裏切るようなことになったら、次は……おま、え、を……こ、ろ――』

 

その言葉を最後に、セージは、イッセーは崩れ落ち、地に伏した。

それと同時に歪な禁手(イリーガル・バランスブレイカー)は解け、そこには普段通りのイッセーが横たわっていた。

セージが最後に使ったカードのおかげで、禁手(バランスブレイカー)によるダメージや

レイナーレ戦のダメージはある程度回復されていた。

 

その後程なくして、イッセーは目を覚ました。

しかし、セージは何度呼びかけても答えることはなかった。




不信感を募らせて、それに適切な対処をしないとこうなります。
イッセーとセージの間にはそれなりに信頼関係があったため
イッセーがストッパーになってくれましたが……

これ、セージがイッセーに成り代わる系の話だと
自分で書いててなんですが全滅フラグだと思いました(白目


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Soul10. ひとまず、決着です。

教会へアーシア・アルジェントさんを救出しに行ってからそれなりに日数も過ぎた。

その間、俺こと歩藤誠二は旧校舎の空き教室に簡易ベッドを用意し、そこに寝泊まりしていた。

 

あれから、アーシアさんはリアス・グレモリー部長の僧侶の駒で悪魔に転生。

悪魔シスターがここに誕生したことになる。つまり、俺たちの後輩悪魔ってことになる。

 

……また、人間を辞めなきゃならない人が出てしまったのか。

ただ、彼女の場合悪魔になってようやく友達と会話が出来る、な状態だから

イッセーや俺の場合と違って一概に悪いとも言えないが……。

敬虔なシスターが本当に望んだものが、悪魔になってようやく手に入ったってのは

本当に、これ以上ない皮肉だよ。俺も嫌味で皮肉家な所はあるが

ここまで皮肉をかませる自信も才能もない。大したもんだよグレモリー部長。

 

そして、あのいけ好かないクソカラス。

聞いた話だと相当惨たらしい暴行を受けていたらしいのだが――

 

らしいと言うのは、俺はその時の記憶が半分飛んでいるから認識できていないのだ。

ともかく、その暴行――加えたのは他でもない俺なのだが――によって、傷もさることながら

相当な心神喪失状態で、アーシアさんの悪魔化儀式の後に教会を見渡したときには

既にいなかったらしい。

 

誰かが回収に来たとも思えないし、俺がオカ研の面子相手に暴れていた隙を見計らって

逃げたのではないか、との事だ。

 

逃げたとしても、強引に宿したとは言えその身に宿した神器(セイクリッド・ギア)を失ったことで

生きているのかどうかは疑わしい、との事らしい。

死体ともいえる黒い羽は教会付近から見つからなかったので、生死不明の状態だ。

 

なんとも微妙な結果に終わってしまったが

まああいつは二度とこういう事はやらかさないだろう。

 

……生きていれば、の話だが。

 

それよりも、今回の事がただの独断で行われた以上は

また同じことを考える輩が出るかもしれない。

そのときの事を考えるべきだろう。

 

今回の事件で何人か犠牲になっている。

遺族の方に俺が何かを出来るわけでもないので

悔やむよりは再発を防ぐより他仕方ないのだが。

 

さて。俺はと言うと、最後の最後でやらかした禁手化(バランスブレイク)が原因で

霊体の方にも変異しかねないほどの影響が出ていた。

そのため、この一週間イッセーには憑いていない。

それどころか、悪魔の仕事以外ではこの空き教室から出ていない。

 

誤解の無いように言っておくが、別に謹慎を喰らったわけでも

本当に悪霊になってしまったわけでもない。俺の心の整理の問題だ。

今回は事件そのものがほぼ非公式な案件であるため

歪な禁手(イリーガル・バランスブレイカー)も俺のリアス・グレモリー部長に対する反逆行為も

対外的には無かった事にはなっている。

 

だが、眷属でありながら主に歯向かったのは事実だとして

俺は退部を申し出たのだが――

 

「今回の件は、全て自分に責任があります。

 教会の破壊、仲間への敵対行為、主への反逆行為。

 これら全て、リアス・グレモリーの名を汚す案件に該当すると考え――

 ここに自分、歩藤誠二は駒王学園オカルト研究部の退部と共に

 リアス・グレモリーの眷属からの除籍を願い出るものであります」

 

「却下。前に言わなかったかしら? あなたも私にとって大事な下僕だと」

 

「しかし、他の者への示しもあります。処罰なしは俺の気も収まりません。

 それと、失礼ついでに言わせていただきますが……

 その下僕という呼び方、やめていただけますか。確かにあなたの悪魔の駒は俺にあり

 眷属に違いはありませんが、そういった主の態度が

 はぐれ悪魔を生む遠因になっているのではないか、と自分は思う次第であります」

 

「――そう、ね。一考しておくわ。けれど悪魔社会では風習に近いものがあるの。

 もし出てしまったらごめんなさいね。なるべく直すように努力するわ。

 それと……退部はともかく、除籍は許可できないわ。

 あなたはともかく、私はあなたを大事なげ……眷属と思っている。

 そんな可愛い眷属同士が殺し合う姿なんて、私は見たくないわ」

 

あっさりと却下された。まあ、わかっていたが。

結局、自主的に俺はこの空き教室に閉じこもっている。

言うなれば反省室送りだとか、独房入りだとか。

そもそもともすればはぐれ悪魔扱いされてもおかしくないのだ。

我ながら、冷えた頭で考えると無茶をしたものだ。

いくらリアス・グレモリーが信用できないからって……。

 

しかし、眷属、か。眷属……ねぇ。

欲を言えば、仲間と言って欲しかったが、それには力が及ばないか。

他人を下僕呼ばわりが罷り通るのが悪魔社会か。

やはり俺、悪魔社会には馴染めそうにないな……。

 

ともあれ。姫島先輩に頼み込み除霊用の札を壁や窓やドアに貼ってもらい

俺に用事がある契約者さん――まあ、ほとんどが虹川さんなのだが。

その彼女らからの呼び出しがない限りは、この空き教室にいる。

 

腹が減らないよう、霊体になってまで。

そのために姫島先輩に除霊用の札を貼ってもらったのだ――

 

「――そこをなんとか。お願いします」

 

「あらあら。セージくんにお願いされるのはやぶさかじゃないんですけど、目的がちょっと……

 それに部長も、この間の件だったら不問とおっしゃってませんでした?」

 

「……俺の気持ちの問題です。幸か不幸か、俺には学籍はありませんし

 契約者様に召喚された時に開けられるようにしてもらえればいいので。

 少し、頭を冷やしたいんです。俺は本当に、皆の仲間として相応しいのか。

 リアス・グレモリーの眷属として、相応しいのか」

 

「ふぅ。本当にセージくんは真面目ですわね。もう少しやんちゃでも私としては……うふふ」

 

――とにかく、俺はあの事件以来ずっとここにいる。

以前部室で横たわっていた時は何だかんだで皆が代わる代わる来ていたが

ここは本来空き教室。誰も来ない。

 

だが、気分的な問題で暇を潰そうという気さえ起きない。

本当に、地縛霊の如くこの教室に漂っているのみだ。

 

そういえば、俺がここに引きこもる――と言うと語弊があるが

ここに来る前にこんな事を話したっけかな……

 

――――

 

「……ひどいな、セージくん。僕との約束を忘れたのかい?」

「忘れちゃいないさ。ただ、今はスパーリングするには俺の中に迷いがありすぎる。

 それを俺の中でどうにかしないととてもじゃないが身が入らん。それはお前にも失礼だ」

 

俺が教室に入る話を一応木場にも伝えたが、彼にしても思うところはあったらしく

不服そうな目で見られてしまった。そりゃ、確かに約束はしましたがね。

今はそれどころじゃないんだよ、俺的に。

 

「じゃあ、それまで待つことにするよ――ところでセージくん。特に君には聞きたいんだけど」

 

「何だ? あ、そっちのケはないから。オフレコで頼むが、タイプは――」

 

「それもちょっと気になるけど、そうじゃないよ。君は今でも、部長を憎んでいるのかい?

 そしてあの堕天使も。もしまた見つけたら、恨みを晴らすのかい?」

 

まあ、来るだろうとは思っていた質問。

そうでなくても木場は生粋の騎士。主サマを守るのは当然と言える。

 

……だが、正直なところは分からない。

信用できないだけで、殺したいほど憎いかというとそうじゃない。

真実如何では、殺したいほどの恨みを抱くかもしれないが……そんな事は無いと思いたい。

あまり憎しみで動くのは良くないことを、身をもって思い知らされたのだ。

 

それに、信じられるなら、信じたい。

現状では、その手札があまりにも少なすぎるのが問題なのだが。

 

「……どっちでもいい。正直、恨みを晴らすってのは精神的に疲れた。

 こういうのはあまり気持ちのいい疲れ方じゃない。

 他人には、正直おすすめできない。グレモリー部長は――すまん、ノーコメントだ。

 だから自習室に入るんだが」

 

「なるほど。君の復讐は一応果たされたわけだね。

 僕は――いや、なんでもない。少し喋りすぎたかな。

 それじゃ、僕も悪魔の仕事に行ってくるよ。君が戻って来るのを楽しみにしてるよ」

 

俺「の」? そういや、堕天使や神父には恨みがあるみたいなことを言っていたが……。

ま、まあ俺が反面教師になってくれた……ってのは楽観的思考すぎるか。

 

もしそれがまだ燻ってるなら……近いうち、何とかしないとマズいんじゃないか?

俺みたいな状態になられても困るし、心の問題は解決できるなら解決するに限る。

 

何とか、もう少し本人から聞き出し……って、ちとお節介が過ぎるか?

 

――――

 

結局、あれから木場とは話をしていないし、顔も見ていない。

不思議なもので、たかだか一週間で妙な違和感を覚えてしまう。

 

まあ、俺は生霊とは言え霊魂なのだから、これが普通といえば普通なのだろう。

寧ろ今までが不自然だっただけかもしれない。物は考えようだ。

 

だが最近、妙にオカ研の皆のことが頭をよぎる。今は悪魔の仕事はどうなっているのか、とか

アーシアさんはうまくやれているのか、とかイッセーのスケベ……はありゃ死んでも治らないな。

とにかく、思いの他俺の中でのオカ研のウェイトが大きかったらしい。

 

まあ、気がついたら自分のこともわかりませんでしたの状態で

友好的な態度取られりゃ誰だって……ねぇ。

 

「俺はイッセーのデートプラン考えて、イッセー連れて逃げる途中で殺されて。

 そして気づいたらイッセーに憑いてて、なんだか一杯おまけもついていて

 そんでもって俺の体が無くなっていて……もうわけわからんね」

 

吐き捨てるように、簡易ベッドに横になる。

……と言っても、空腹対策で霊体になっており、霊体時は睡眠も不要なため

あくまでもポーズとして、である。これくらいやらないと生きていることを忘れそうだし。

 

……一週間飯食ってない時点で生きてること忘れそうだが。

生きてる体でこれをやるのはどこかの聖人クラスだよなぁ。

そういや、食べるっていえば……

 

――――

 

木場と話したあと、塔城さんがおもむろにやってきて、俺に一本分の羊羹をよこしてくれた。

 

「……いつぞや話してた分です。それと、この間のお詫び」

 

「詫び? 羊羹の話は覚えてるけど、お詫びされることはないと思うんだけど。

 つか、ひと切れでいいのに」

 

「……止めるって言ったのに、止められませんでした」

 

――多分、歪な禁手の事を言ってるんだろう。いや、あれは寧ろ俺が謝る側だろうが。

塔城さんや木場まで吹っ飛ばした挙句、部長を殺そうとまでしてたんだし。

……今冷静に考えると、寒気のする話だよな、これ。

 

「いや、それを謝るのは筋違い。それなら俺は土下座をするか腹を切るかせにゃならん。

 制止しようとした仲間を弾き飛ばし、あまつさえ主に牙を剥いたのだから。

 だから、この羊羹は――」

 

「……あの、ならどうして部長を殺そうとしたんですか?」

 

まあ、気になるわな。それにこんな話しながら食う羊羹はまずいぞ、間違いなく。

とりあえず俺は既に切られてしまった羊羹をラップで包み、改めて話をすることにした。

あれだけやったんだ。知りたいって人には言ってもいいだろうよ。

 

「こんな事を言うと眷属失格だけど、敢えて言うよ。

 俺にはまだ、グレモリー部長は信用に値する悪魔に見えないんだ。

 まるで、俺の知らない何かを隠しているみたいに。

 この間は、それが悪い形で表に出ただけだよ」

 

「……そうですか。では、私は信じてくれますか?」

 

む。ド直球だな……でも戦い方とか見てるとド直球なのも頷ける自分がいる。

なら、ド直球を返そうかな。

 

「あの教会での戦いを見る限りは。

 それに、律儀に約束を守ろうとしてくれたんだ。そういう相手は、信用するに値するよ」

「……じゃあ、部長も信用できます」

「……考えとく」

 

正直に言うと、一回や二回の約束の履行なんざほぼノーカンなんだが。

まして悪魔の業界だ。約束の履行が信用に直結するかと言うと――

 

そうでもないんじゃない? ってのが俺の感想。

だが、そこまでバカ正直に言うほど俺も空気が読めないわけじゃない。

ふと隣を見ると、いつの間にか塔城さんが隣に座っていた。いつの間に?

 

「セージ先輩は……イッセー先輩よりは信用できます」

「……それは喜ぶべきラインなの?」

 

俺もイッセーの通学中、憑依していたこともあるから知ってるけど

あいつ女子評価最底辺じゃないか。俺が同じ立場だったら引きこもる。マジで引きこもる。

この学校、ほとんど女子だから女子評価=ここの生徒評価に直結するわけで。

それでも懲りずに毎日通学するアイツはめげないのか、ただのバカなのか……

 

後者だな、うん。

 

「……エロ話を抜きにすれば、同じくらい信用できます。セージ先輩も、仲間ですから」

 

む。そういう事を真顔で言われると来るものがあるね。

それならとりあえず――羊羹、食べようか。

 

その後、一本分は俺には多いということで半分に分け

お茶をお互い少しぬるめにして飲みながら羊羹を食べていた――。

 

――――

 

「……本当に。部員は信用できるのに部長は信用できない。

 眷属仲間は信用できるのに主は信用できない。

 はぁ。こんなんで俺やっていけるのかな……イッセーじゃないけど」

 

兵藤一誠。あいつも何だかんだで悩み、転び、傷つきつつも前に進むタイプの奴だ。

普段がそれを完璧に打ち消しているが。それはそれで、ある意味美徳なのかもしれない。

見るからに努力してますオーラを出してる奴よりは好感が持てる。

そういえば、あいつは間違いなく俺の本体の事を何か知っている。

 

あれからイッセーとも話す機会があったので聞いてみたが、すんなりと聞けた。

宮本……成二。それが、多分、俺の――本体。

 

そう、イッセーを庇って重体にに陥ったイッセーの友人。

それが本当なら、やはり俺はまだ生きている。

だが、どこの病院にいるかまでは聞きそびれてしまった。

イッセー自身、ここ最近は色々ありすぎてそこまで気が回らなかった可能性も高いし。

 

まあ、まだ暫くイッセーに憑いていれば俺の情報は手に入りそうだ。

 

とにかく、今俺が成すべきことは決まった。いや、再確認か。

俺の記憶――恐らくは、宮本成二の記憶だが。それを取り戻し、つなげること。

そして、俺の体を取り戻すこと。病院送りということはどこかに入院中。

それを調べるのはおそらく簡単だろう。また改めてイッセーあたりに聞けばいい。

 

しかし、同時に不安も抱えていた。

俺が記憶を取り戻し、宮本成二に戻ったとき――歩藤誠二はどうなる?

右手はドライグに返せばいい。だが左手は?

 

奴らは神器(セイクリッド・ギア)を狙っていた。もういないとは言え

今後また同じことが起きたとき――人間の宮本成二で対応できるのか?

俺はまだ、悪魔で、生霊の歩藤誠二のままでいるべきなのかもしれない……。

 

もしかすると、そのことも踏まえてグレモリー部長は俺の情報を伏せていたのかもしれない。

本体を見つけるのは容易でも、元に戻ったとき俺は歩藤誠二なのか、宮本成二なのか。

 

……それに、もう一つまだ分からないことがある。

俺の中にあると言う悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だ。これを持ったまま宮本成二に戻ることは出来るのか?

これについては、やはりグレモリー部長に聞かねばなるまい。

簡単に教えてくれるとは、到底思えないのだが。

 

――――

 

「あ、セージさん。ここで会うのは初めてですね。

 改めまして、私はアーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

「あ、ああ。悪魔になったのは本当なんだ。

 改めて、歩藤誠二だ。こちらこそよろしく、アーシアさん」

 

久方ぶりに俺が部室に顔を出すと、そこにはアーシアさんがいた。

聞けば、今日はアーシアさんの悪魔としての初仕事らしい。

と言っても、ビラ配りの方だが。

 

「お前もタイミング悪いよな。歓迎会もう三日前に終わっちまったぜ?

 いやあ、部長のケーキうまかったなぁ。お前にも分けてやりたかったよ、ほんと」

 

……は? ケーキ? 歓迎会? おいイッセー。そういう話は初耳なんだが。

 

「よく言うよイッセーくん。僕の分ペラペラだったじゃないか」

「……食べ物の恨みは怖い、です」

 

あ、君らも一応食べたのね。ってことはアーシアさんも食べたのね。

話が中々飲み込めずにいると、グレモリー部長が頭を下げてくる。

 

「本当にごめんなさいセージ。モノがモノだから

 早く食べないとダメになってしまうから……」

 

「い、いや生菓子を三日は冷蔵でもキツいですし、冷凍は味落ちますし。

 これはホント不可抗力ですよ」

 

あ。いや、謝らないでください。確かに信用はしてませんが

そういうので頭下げられるとそれはそれで心苦しいんですが。

ケーキだもんね。早く食べないとダメだよね。うん、仕方ないね。

 

……ケーキ。はぁ。

 

「あらあら。じゃあセージくんには私が何か作ってあげましょうか?

 いくらか日持ちするように、焼菓子なんてどうかしら?」

 

「あ、朱乃さんの焼菓子!? お、俺も欲しいですっ!」

 

「ふむ。実は最近思い出したんですがね、俺もそれなりに料理の心得があるらしいんです。

 思い出すきっかけがあるかもしれませんし、作るなら同伴してもいいですか?」

 

「……お前のはいらねぇよ」

 

オーブンとレシピと材料があれば、俺も作る知識があったのは思い出した。

あとイッセー。別にお前に食わすために作るわけじゃないからな。

記憶の手がかりだから提案しただけなんだが。

 

「もちろんいいですわ。うふふ、セージくんはどんなお料理をするのかしら?」

 

「そういうことなら私も参加しようかしら。アーシアや小猫も来る?」

 

「はい、行きます!」

 

「……味見できるなら」

 

「ええっ!? な、何で皆で!? お、おいセージどういうことだよ!? 羨ましすぎるぞ!!」

 

あれ? あれあれ? 何でこんな大所帯になってんの? たかだか焼菓子作るだけだよね?

それとイッセー、何でお前が血涙流してんだよ。

俺もこの状況知らないよ! 俺は記憶が欲しいだけだよ!?

 

「やっぱあれか! 料理ができるからか!

 くそぉぉぉっ!! てめぇも十分イケメン枠じゃないか!!」

 

「いやだから俺イケメン枠じゃないってば。虹川さんとこでもそう言われたし」

 

「あのーイッセーくん? 僕も料理できるんだけど……」

 

「木場! お前は話をややこしくするな!」

 

なんだこれ。ふふっ、人が一人増えただけでこうも賑やかになるとはね。

こういうのはうるさいが、嫌いかというとそうでもない。

そうだな。とりあえずはリアス・グレモリーに矛を向けるのはやめようか。

証拠が出揃ってからでいい。聞きたいこともあるし。

 

俺が宮本成二に戻るかどうかは別として、記憶も探さないと。

まだ暫くは、ここを拠点にせざるを得ないな。

皆でワイワイ騒いでいると、ふとグレモリー部長が俺に話を振ってくる。

 

「ところでセージ。答えは出たかしら?」

 

「――ええ。今までの非礼をお詫びするとともに

 今はもう一度自分を眷属の末席に加えていただきたく存じ上げます」

 

……すみません。半分嘘ついてます。

非礼は確かに詫びますが、今後一生を貴女の眷属として生きるつもりは毛頭ありません。

 

俺だって、生涯を賭けて共に生きたいと思う人の一人は欲しい。

けれど、それはきっと貴女じゃない。それに、眷属ってそういう意味じゃないでしょう?

 

俺の嘘に気づいていないのか、知ってて知らない振りをしているのかは読み取れないが

グレモリー部長は俺の答えを聞き届けてくれた。

 

「勿論よ。あなたも私の素敵な眷属。そう簡単には手放さないわよ?

 それと――ごめんなさい。今回の件、確かに私の失策もあったわ。

 今後、この街の警備はもう少し厳しくするわ。契約者を守るのも、悪魔のお仕事だものね」

 

とりあえず、分かってもらえたって解釈でいいのだろうか。

それに物は考えようだ。もし万が一にも無能な主サマならば

それを正すのも、眷属の役目ではなかろうか。俺はイッセーほど欲望に正直には生きられないが

それでも、悪魔になった以上は俺の納得することのためにその力を使いたい。

アーシアさんだってそうしてきたんだ。

 

いや、これもある意味欲望か。方向性が違うだけで。

これが悪魔で、生霊の俺、歩藤誠二の新たな第一歩としておこう――。




はい。

と、言うわけでハイスクールD×D 同級生のゴースト
原作第一巻部分はこれにて終了となります。

ただの妄想に付き合ってくださった皆様ありがとうございます。
(実際にはまだおまけがありますが、それ原作第八巻のネタを多分に含んでますし……)

リアスに対する不信感は完全には拭い切れていないものの
とりあえずここがひとまずの落とし所としております。

……なので、原作第二巻部分ではまたリアスないし
イッセーとも険悪になる恐れがあることになります。
何せ、まだ問題は何も解決してませんので。

以前も少し触れましたが、徐々に原作からの乖離を目指しています。
最初のうちはまだただの生霊が紛れ込んだだけだったので
ほとんどストーリーに影響を及ぼしていませんでしたが
禁手の可能性を示唆した上に着実に手札を増やしている以上
及ぼす影響は間違いなく大きくなります。

おまけに原作通りに進行したとしたら二巻で強化イベント発生しますし
そうなれば嫌でも影響を及ぼすことになると思います。

そうして変化していく物語を作れたら、と思っています。
では、次回おまけストーリーでお会いしましょう。

※02/21 ルビ追加
その他矛盾点を見つけたような気がしたけど気のせいだった


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Extra Soul1. 歩藤誠二の多忙な夜

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダー鎧武も関係ありません。

……きっと。



今更ですが「元ネタが分からない」と言う方は
活動報告か感想掲示板までお願いします。


――その男、悪魔で、生霊で、赤龍帝(コピー)。

 

さて、俺こと歩藤誠二はようやく自主謹慎が解け、今日から通常営業である。

聞けば、俺が謹慎している間に色々なことがあったらしい。

 

その中でも、イッセーに新しい顧客が出来たそうだ。

何か全身具足の留学生で、現在全身甲冑の彼氏と交際中だとか。

おいイッセー。お前奇人変人集めてどうしようってんだ。

 

それはさておき。顧客といえば、俺の方の虹川さんもようやくライブの段取りが決定した。

今日がそのライブの開催日だ。場所はこの町にある駒王大学内キャンパス。

キャンパスならそういう学生ライブが行われたりすることも

少なくないから、思い切って夜使ってしまえ、と持ちかけたのだ。

 

義務教育の学校、特に小学校とかと比べると夜遅くまで開いていたりすることも多いが

これでも上々な場所を確保できたのではないかと思う。

 

……小学校は小学校で、結構雰囲気出てそうな気もしたんだが。

まあ、次の開催地として考えておけばいいか。

 

――――

 

「と、いう訳で駒王大学のキャンパスにて本日22時より虹川楽団のライブを決行します。

 曲目は『ファントムコーラス』と『プリズムメモリーズ』。

 初めてだからとりあえずその二曲で行きましょう。会場の使用時間は1時間半。

 これは会場の設営と撤収を含めての時間。アンコールなら1曲くらいはなんとかなるかと。

 21時半に現場入りして、23時までに現場撤収。以上、何か質問は?」

 

「えーっ、セージぃ。ちょっと少ないよー」

 

ああ、俺もそう思う。だが、こっちも無理言って人間よけの結界を手配しているのだ。

その結界の持続時間が1時間半。それ以上は心霊現象としてゴシップ記事に載る。

そうでなくても、最近夜な夜な歩き回る武者の亡霊とか

心霊関係のニュースには過敏になってるんだ。

おかげで俺も動きにくいったらありゃしない。

 

「ダメです。伸ばしてもいいですがその為にはまずソロパートを完璧にしてください。

 申し訳ありませんが、今のままではソロパートは失敗の元かと。

 その為、合奏である先の二曲を選曲したんですよ」

 

「むーっ。私ちゃんと演奏できるよぉー」

 

「……ダメ。セージさんは、多分私達の音の性質のことも考えて言ってる。

 ソロパートは、また今度にしよ?」

 

虹川家長女の瑠奈がふくれる次女の芽留を宥めている。

そう。彼女ら――と言っても長女と次女だけだが――の奏でる音には

どうも特殊な性質があるらしく、それが俺がソロパートを許可できない事情でもあったりする。

 

瑠奈は気分を落ち着かせてくれるがやりすぎて葬式ムードになってしまい。

芽留は気分を高めてくれるがハイになりすぎてえらいことになったり。

里莉は単独ではちょっと個性がなさすぎる。聞いたことのある曲になってたりする。

玲は――アカペラになってしまう。出来ないことはないが、ちょっと物足りなさがある。

 

三女四女はライブとして考えると盛り上がりに欠けてしまう。却下。

長女は盛り上げるべきライブでお通夜ムードとか笑い話にもなりやしない。却下。

次女。実は彼女が一番曲者だ。盛り上がるのはいいんだが、盛り上がりすぎて

観客の幽霊に悪影響が出た時が怖い。その辺の対策が練られれば出来るだけに惜しいけど却下。

 

しっかし、俺音楽プロデューサーとかじゃないんだけどなぁ。

とにかく、俺は機材とかを準備……しようと思ったんだが、ここである重大なことに気づく。

どうやって機材持っていくんだ? でかいものを大量に運ぶとか車みたいなのが必要だけど……

 

「あれ? 機材とかって……」

「いらないわよ? だって私達、実際には手とか使わないで演奏してるもの。

 もう、マネージャーさんなんだからその辺も把握してよ。そもそも、私ら幽霊だよ?」

 

……あ、そうだったのね。楽器持ってたりするのはあくまでもポーズってわけか。

あれ? そういえば、そんなバンドが幽霊じゃなくてマジであったような。

マジで? マジか? マジだ。

さて、これからいよいよ俺のお客様、虹川楽団のショータイムだ。

俺が演奏するわけじゃないんだが、緊張する。

 

――――

 

仕事関係ということで、転移魔法陣は手配してもらえた。

ロケバスみたいなものがあれば雰囲気は出るんだろうが、ちょっと用意できない。

楽屋だけは簡単なテント――体育祭なんかで使うあれ――を借りることができたので

それを使っている。

 

さて、会場のセッティングにリハーサルの立会い、それから会場近辺の警護。

うっわあ、やること多いな。さすがライブ。

 

さて。まずは会場のセッティングだ。しかしよく大学キャンパスなんて用意できたな。

……ん? そういや、例のイッセーの新しい顧客、ここの大学に通ってるって言ってたけど……

 

……ははは。まさか、ね。

 

まあありもしないことを考えていても仕方がない。俺は少し広めに結界を展開する。

姫島先輩に頼んで特殊な結界用の御札を用意してもらったのだ。

本来なら俺の顧客である以上、俺がどうにかするべきなのだが……。

こういう一回限りの使い捨て道具の効果は、記録再生大図鑑では記録できなかったりする。

 

ま、ぼやいても仕方ない。少し広めにとったのは、すし詰めにすると観客が幽霊である以上

変な影響が出ることを危惧してのことだ。昔見た映画でそんなのがあった気がする。

それに、ちょっと広めにスペースを取りたいのは、動員数を考えて、ってのもある。

 

校舎の正門前広場。ここがライブ会場だ。正門前入口に虹川さん達が陣取り、観客は

広場から観るスタイルになる。本当は椅子とか飲み物とか用意したいのだが

まだそこまで予算に入っていない。本当にミニライブって形だ。

 

それでもなんとか開催にこぎつけ、チケットも捌けた。機材は持ち込まなくてもいいなら……

よし、セッティングはこんなもんかな。結界もきちんと張れているみたいだし。

 

「よーし。それじゃセッティング終わりましたんで、リハーサル入りまーす!」

「……わかりました」

「待ってました!」

「よーし、行くわよ!」

「うん!」

 

ステージ前で待機していると、奥から準備を終えたみんながやって来る。

普段とは少し違う、ライブ用の衣装みたいだ。普段より少しフリルが多い気がする。

あれはあれで結構可愛い。そういうのが目当てのお客さんも来るかも。

 

つい見惚れてしまいそうになったが俺は黙って、激励の意味を込めてサムズアップを返す。

次女の芽留がそれに気づいて笑顔で手を振っている。まあ、あの子普段からああだけど。

 

――少女予行演習中...

 

よし。ちょっと四女の玲が緊張してるのが気になるけど、基本的には大丈夫そうだ。

そろそろ開場時間だな、と考えていると思わぬ客がやってきた。

 

――オカ研のメンツだ。

 

「あれ? みんな揃ってどうしたんすか? 今日ここは騒霊ライブの予定ですけど。

 ……まあ、協力してもらった手前、特別席取るくらいはしますけど……演奏者、幽霊ですよ?」

 

「知ってるわよ。セージのお客様がどんな演奏するのか、気になって聞きに来たのよ」

「幽霊の演奏なんて、中々聞けませんもの」

「楽しみにしてるよ、セージくん」

「……飲み物、無いんですね……残念」

「い、イッセーさん……な、何か出そうで怖いです」

「大丈夫だってアーシア。セージのお客さんは害を加えるような奴じゃないって!」

 

ぞろぞろと雁首揃えて悪魔がやってきた。別に帰れと言うつもりもないし言えないが

お客さんがビビって逃げたりしないかな、大丈夫かな、とそれだけ危惧している。

 

一応、適当に挨拶を済ませたあと虹川さんに確認を取りに行く。

そもそも席が無いため、チケットは全て自由席だ。だが、スタッフ関係者ということで

ちょっと特別な席に来てもらっても大丈夫かどうか。念のためだ。

 

「……セージさんの職場の上司の方? 私は、いいけど……」

「私もオッケーだよ! 少しでも多くのお客さんいた方が、ハッピーなライブにできそうだし!」

「私もいいよー。出来たらその人……ってか悪魔か。

 その悪魔さんにも私達のこと、宣伝してもらおうよ」

「き、緊張するけど……私、頑張る」

 

一応、オッケーは貰えた。その旨を伝えるために会場入口へと戻る。

俺の返事を聞いた皆は、先にステージ前に入っていく。

そして俺はその周囲に、おもむろにトラロープを設置する。

 

「お、おい! 何すんだよセージ! これじゃ俺らが……」

「悪い。こっちもお客さんの安全考えて動いてんだ。

 それじゃ聞くけど、皆は幽霊見えるか? あ、俺は実体化してるし幽霊じゃないからな」

 

途端に黙り込んでしまうオカ研部員。一人姫島先輩だけが手を挙げているが。

 

「あらあら。今までセージくんには黙ってましたけど、私も幽霊は見えますのよ?」

「なんと。それじゃ今まで見て見ぬふりしてたんですか」

「うーん、それはちょっと違いますわ。私が見えるのは、既に死んでしまった方の霊。

 セージくんは、生霊でしょう? ちょっと、見え方が違うみたいですの」

 

そういうものなのか? と思いながらも今はそんなことを確認とっている場合じゃない。

俺がこうやってオカ研用座席を用意したのは実に簡単な理由。

 

幽霊との接触事故を防ぐため、である。

幽霊である以上すり抜けたりとかは簡単だが、騒霊ライブとは何が起こるか俺もわからない。

あらゆる可能性に対する配慮は、しておくに越したことはない。

 

「まあ、ライブってのはそういう事故多いらしいからな。仕方ないか」

「理解してもらえて助かる。それじゃ、そろそろ開場時間だから俺はもぎりの仕事に入るよ」

 

俺はオカ研の皆に見送られ、会場入口で待機することになった。

時間になると、結構な数の幽霊がやってきた。その中には、俺が今まで見た幽霊も混じっている。

中には、あのクソ神父に殺されて地縛霊になった幽霊もいた。ここまで来られるのかよ!?

 

そう考える間もなく、幽霊の行列はとどまる所を知らない。

はいはい幽霊だからって押さないでちゃんと並んで並んで。

ふと、周りを見ると怪しげな行動をしている幽霊が。何もないとは思いつつも

記録再生大図鑑を起動、状況を把握する。

 

BOOT!! COMMON-LADER!!

 

……結構便利だなとか思ったのも束の間、その怪しげな幽霊はなんとダフ屋。

おいおい、最近はネット通販の転売ヤーに押されて絶滅危惧種かと思っていたが

ちゃんといたんだな。俺も転売ヤーには泣かされた……のは宮本の方か。

どうもそういう記憶があるみたいだ。

 

とにかく、ダフ屋行為は禁止している。

あまり武力行為には訴えたくないが、こっちは一人で切り盛りしなければならない。

イッセーあたりに場所を変わってもらっても、あいつは幽霊が見えない。

そんな奴にもぎりは任せられない。姫島先輩をこき使うのも気が引ける。

そうした事情からやむなく俺は――

 

SOLID-GUN!!

 

銃を上空に向け発砲、威嚇射撃をした。突然の音に、幽霊もオカ研の皆も振り返る。

 

「はいそこ、ダフ屋は禁止してますよー」

「うわっ、セージの奴結構荒っぽいなぁ」

「セージくん忙しそうだしね……手が離せないんじゃないかな。

 僕やイッセーくんに代わってもらうのもできなさそうだし」

「あらあら。手が離せないなら私に言ってくださればいいのに。

 せっかくのライブなんですもの、あんまり手荒なことをしちゃいけませんわよ?」

 

――すんません。今度から気をつけます。とにかく、ダフ屋の幽霊は慌てて逃げていった。

しばらくすると、何事もなかったかのように入場待ちの行列は前に進んでいった。

 

幽霊の流れが一区切りつき、時計を見ると22時5分前。入場した幽霊の数は……

うん、こんなもんかな。さて、それじゃ今度は虹川さん達のコンディション見に行くか。

俺はもぎりの仕事から、マネージャーの仕事に移行した。

 

――――

 

さっきの空砲の件は、虹川さんにも聞こえていた。

その事については一応頭を下げたとともに、これは今後の課題点として記録しておく。

 

「もぅ、私たちのライブで盛り上げるのに、セージが盛り上げちゃしょうがないじゃない。

 前座なら、ちゃんとステージでやってくれないとー」

 

「……でもセージさん一人に任せるのもちょっと無理があるかもね。

 今度から私たちにもできる事があったらやっていく方向で行きましょう」

 

「じゃあ、誰かやってくれそうな人……ってか幽霊に声かけてみようか。

 特典はファンクラブ会員証ってことで。あ、だからセージはこの間第一号って言ったけど

 会員ナンバーは0だから。そこんとこよろしくね」

 

幻の0番ナンバーですか。まあスポンサー特権ってことにしときますか。

しかし、現実問題誰か一人でも運営スタッフがほしいと思っているのは事実だ。

使い魔的なものがいればそれを活用するって手もあるのだろうが

生憎そんな便利なもの、俺にはない。

ならば、使える手段で回していくより他なかろう。

 

さて、そうこう話しているうちにライブの時間が来た。

俺は彼女らをステージへと送り、ステージ脇からその様子を見る。

 

――騒霊ライブ中...

 

ふむ。結構盛り上がっている。経過は順調だ。

リハで気になった玲だが……特に問題はなさそうだ。

さて、ここで俺はライブ会場の警備に移らないと。

 

レーダーをもう一度確認する。そこには、あまり歓迎したくないものが映し出されていた。

人間の反応が二人に……悪魔の反応? グレモリー眷属は皆会場内にいる。

こんなところに悪魔が? 最悪の事態を考慮し、俺はそっとライブ会場を後にする。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

問題はさくっと片付けるに限る。レーダーが示した場所は会場からそれほど離れていない。

つまり、迷い込んだか元々ここに用があったか、どちらかだ。

その先には怪物の大群と……鎧武者と甲冑がいた。

 

もしかしなくても、例のイッセーの顧客さんかよ。

一目見ただけでわかるのはありがたいんだか何なんだか。囲んでいる相手は……

何だか丸っこい、甲虫をそのまま人型にしたような怪物。

外皮は灰色で、アクセントとして青や赤、緑のカラーがそれぞれ入っている。

 

マズい。イッセーの顧客は見た目は強そうでも中身はただの人間。

ここで騒ぎが起きてライブに影響が出るのもマズい。

囲んでいる怪物ははぐれ悪魔か? 全く、俺が出くわすのは見たことのないタイプが多いな!

 

COMMON-LIBRARY!!

 

――ふむ。やはり連中ははぐれ悪魔。元は繁殖力の強い小動物の妖怪だったものが

悪魔の駒の拒絶反応で怪物と化したもの。

理性は失われ、ただ同属を増やすことのみを念頭において活動する。

爪には毒があり、その毒に感染したものは同属と化してしまう、か。

 

……悪魔の駒の犠牲者か。グレモリー部長以下すばらしいアイテムとして扱ってるけど

拒絶反応が出るって、意外と問題点多いんじゃないか?

とにかく、今はそんなことよりも二人を助けないと。

一度実体化させたものは消さない限り、何度でも取り回しできる。

まあ、モノがモノだから危なっかしいといえば危なっかしいが。

 

俺はさっきダフ屋を驚かすのに使った銃を、今度は怪物めがけて発射する。

 

「そこの二人! 俺がこいつらをひきつけるから早く逃げるんだ!

 あ、くれぐれも校舎に向かって逃げないでくれ! 今ちょっと立て込んでいるから!」

 

今の俺の格好が、駒王学園の制服だった事が幸いした。事情を説明する暇が省けたのだ。

甲冑が鎧武者の手を引き、ガシャガシャと音を立ててのろのろとこの場を逃げ去ろうとする。

 

……それ、脱いでいたほうがよかったんじゃないか?

 

あまりにもシュールな光景に俺も怪物のほうも呆気に取られていたが

すぐに体勢を立て直し、互いに向き合う姿勢となる。向こうは数が多い。

せめて、この間の子バイサー程度の力であってほしいが。

おまけに、向こうの爪には毒がある。それを食らえばアウトだ。

 

――ここは、遠距離戦でいくか!

 

俺はまだ加速のカードの効果が残っているうちに、相手を撹乱し射撃によって倒す作戦に出る。

そのためにも、次はこれだ!

 

COMMON-ANALYZE!!

 

射撃の腕に自信はないが、弱点さえわかればそこを撃ち抜けばいい。

相手の近接攻撃に毒がある以上、接近戦は避けたい。うまく行けばいいが。

 

――出た。あの色によって表情も違う顔らしき部分が弱点か。

逆に、背中の部分はダメだ。見た目どおりに硬い部分らしく

射撃でダメージを与えるのは無理そうだ。となると正面から撃ち合うのか。

向こうに飛び道具がないのが幸いしたが、数で補われると辛いな。

どっちにせよ、早く片付けないと!

 

俺は一呼吸おき、怪物の顔めがけて銃を発射する。

奴らもはぐれ悪魔になったことで、祓魔弾が効いている。

本当にあのクソ神父の武器は使いやすいな、武器は。

一体一体、確実に仕留めていくがそれをやるには数が多い。おまけに向こうは思いの他素早い。

今は加速のカードで補えているが、効果が切れた途端不利になる。さて、どうしたもんか。

 

そんな中、一匹が二人の元に向かってしまう。

しまった! 捌き切れなかったか!

こっちが無防備になるが仕方ない、あっちを先に始末しないと!

 

「ダメだ、二人とも伏せろ!」

 

俺がそう叫んだ直後、はぐれ悪魔はぐったりと地に伏していた。

よく見ると、甲冑の方が槍ではぐれ悪魔の頭をぶち抜いていたのだ。

鎧武者の方も、弓矢で怪物を蹴散らしている。

 

……あのーもしもし? あなた方、人間ですよね?

しかしその意外な戦いぶりたるや、まるで本物の戦国武将や西洋騎士の如く。

この光景を見て、俺の中の何かの血が滾ってきた。

 

そこの二人が戦国武将に西洋騎士ならば、こっちは三国武将で行くべきか、と。

なぜそう思ったのかはわからないが、なんとなくそんな気がした。

と言うか、三国志の時代に銃なんてあったっけか!?

諸葛孔明がはわわと叫んだりやわらかくない人間がいるトンデモ三国志ならともかく!

 

何故か、俺の頭の中には銅鑼の音と、季節ではないのだが

「ブドウ食べたい」と言う思いが去来していた……。

 

――――

 

意外な協力者のおかげで、はぐれ悪魔の討伐には成功した。

俺は二人の協力者を称えるべく、彼らの元に歩み寄るが……

 

「「こ、怖かったぁ~」」

 

おい。その格好でそんな台詞言われても説得力に欠けるっつーの。

とにかく、犠牲者は出てないしライブも……と、思った矢先に

俺は片隅にある札を見て愕然とした。

 

あーっ!! ここ、思いっきりライブ会場じゃないか!!

戦闘でこの二人を庇いながら戦ってたからいつの間にかこっちに来ていたのか!!

やばい……今回の俺の仕事内容はライブの成功。

それなのに、はぐれ悪魔討伐のほうを優先させてしまっていたとは。

 

……な、なんてことだ。すまない、すまないみんな……!!

せっかくの初ライブを、こんなにしてしまって……!!

がっくりと膝を付く俺を尻目に、全身鎧のカップルは二人の世界に入っている。

ああもう、あんたたちが無事ならそれでよかったよ。

だからいちゃつくのは俺の目の届かないところでやってくれ……

 

「素敵な音楽だね、スーザン……」

「素敵な音楽ね、堀井くん……」

 

あーもう。脳内BGMまで流しやがって。人の気も知らないで。

 

「まさか、悪魔さんにまた助けられたと思ったら

 こんな素敵なライブ会場があるなんて思わなかったわ」

「僕も驚いたよ、まさか通っている学校で、夜にこんなライブが行われていたなんて」

 

おまけに鼓笛隊まで完備かよ。こっちはそのライブを大失敗させたって言うのに……ん?

何かがおかしいと思った俺が頭を上げ、恐る恐るステージのほうを見てみると――。

 

――大歓声を上げる幽霊たちと、楽器を手に激しく盛り上がっている虹川楽団がいた。

 

え? え? どゆこと? え?

だが二人に聞くのも憚られた俺は、慌ててステージ袖に戻っていき

こっそり事情を聞くことにした。

 

そして俺の耳に入ったのは、とんでもない言葉だった。

 

「もぅ、セージってばあんなサプライズあるなんて聞いてないよ!

 私たちにまで黙ってたなんて、セージはドッキリ仕掛ける才能があるわね!」

 

「いやぁ、初めて見たときはイケメンじゃないからって侮ってたけど

 まさかあんなPVにそのまま使えそうなアクションできるなんて、すごいじゃない!

 これで私らのPVも演出の幅が広がるわね!」

 

「……あの二人にも、聞こえてたみたいです。きっと、霊感が強いのかと」

 

「何かのヒーローみたいだったよ、セージさん!」

 

……あー、なるほど。大体理解できた。

俺がうっかりはぐれ悪魔との戦闘をライブ客席付近で行ったせいで

演出だと思われたわけだ。まあ、ショーとかで客席から出てくるって演出もあるし。

その方向性だと観客も思ったらしい。

 

結論。ライブは大成功。しかもなんかPV作る話まで出てきてしまってる。

虹川楽団。君らは一体どこへ行こうとしてるんだ。

 

――――

 

とにもかくにも、契約は成立。

報酬として、差し入れとしてもらったオレンジ、バナナ、ブドウ、メロン。

これらフルーツの盛り合わせをもらう事になった。

曰く「私ら幽霊だから現世の食べ物は食べたくても食べられないし。

気持ちだけでおなかいっぱい」だそうだ。

 

これらフルーツはオレンジ以外はほぼ塔城さんが食べていた。俺もブドウを食べている。

どうも彼女、柑橘系はダメらしい。逆にキウイは好きとの事なのだが……猫?

メロンだけは高級品ということでイッセーが目を輝かせていたが。

 

おまけに今回のライブでファンが急増、有志による運営スタッフが結成されることになった。

そのリーダーとしてまたしても俺が任命されたが

サブリーダーにはなんとあのクソ神父に殺された地縛霊が就くことになった。

聞けば、ライブの曲を聴いているうちに恨みとかが無くなり

折角だから彼女らの役に立ちたいとの事。

もう地縛霊じゃなくなったとはいえ、成仏の道からは遠くなってるんだが。いいのかこれ?

 

そんなこんなで案外丸く収まったが、それ以上にグレモリー部長からの追求が酷かった。

 

「セージ。随分と依頼以外の仕事にご執心ね。前にも言わなかったかしら?

 悪魔の仕事は人助けじゃない、と」

「……お言葉を返すようですがグレモリー部長。今回は襲われたのも我々の顧客。

 人助け云々ではなく、今回は以前の事件の再発防止としては上場の成果かと」

 

悪いが、今回は引き下がるつもりはない。こういう商売は顧客第一だ。

それはグレモリー部長も把握している、そう思いたい。

ならば、顧客を守るのは我々の役目ではないのか。顧客に自衛能力があるならいざ知らず。

否、あったとしてもアフターフォローは必要ではなかろうか。

 

「ふむ、まあそれもそうね。

 けれどセージ、必要以上にサービスを提供するのは喜ばしいことではないわ。

 悪魔が何かを齎すには、相応の代価がないといけないの。

 代価もなしに齎すのは、重大な契約違反よ。それもまた、覚えておいてちょうだい」

 

「……一応、頭の片隅に入れておきましょう」

 

気のせいか、グレモリー部長がピリピリしているようにも思えた。

とりあえず、俺はやるべきことをやったんだ。後悔はしていない。

 

そして、俺が、俺たちがそのグレモリー部長がピリピリしている原因を知ることになるのは

この少し後の話である――。




今度こそ、第一章「旧校舎のディアボロス」編終了となります。
お付き合いくださいまして、ありがとうございました。

今回のネタに関してですが……

鎧武者に甲冑(原作8巻より)と来たら、やるしかないでしょう!


  鎧  武  ネ  タ  !  !


と言うわけで今回鎧武ネタをふんだんに使ってます。
セージがミッチポジになってしまったのはご愛嬌。
貴虎ニーサンは「銃は主義じゃない」っておっしゃってましたので……

そして、今回戦ったはぐれ悪魔。
どう見てもインベスです、ありがとうございました。
そして、今回結構今後に絡みそうなネタも含んでいたりします。

お陰で虹川姉妹の影が薄くなってしまいましたが……
彼女らは彼女らでまた再登場の予定があります。たぶん。


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戦闘校舎のフェニックス
Soul11. 朝練、付き合います。


第二章のスタートです。

前回みたいなぶっ飛んだ話の流れにはならないですが
導入部分と言うことでよろしくお願いします。


駒王学園オカルト研究部所属、歩藤誠二は霊魂部員である。

彼を悪魔に転生させたリアス・グレモリーは地上進出を企む悪魔のご令嬢である。

歩藤誠二は己の記憶と人々の自由と平和のために戦うのだ!

 

――と、いう訳で俺こと歩藤誠二は己の体を持たない霊魂だ。

夜は実体を得て活動できるのだが、普段は兵藤一誠に憑依しないとまともに動くこともできない。

とある一件で憑依を自粛していたのだが、最近ようやく解禁され

久々に兵藤家のイッセーの部屋で寝ることになったのだが……

結論から言おう。実は寝てない。

 

『おいイッセー。起きろ。朝練の時間だぞ……

 ったく、何で俺がお前の目覚ましやらなきゃいけないんだ』

 

「ふぁーあ……ま、ちょうどいい目覚ましかな、と。

 お前が女の子なら文句なしに最高なんだけど……何で男の幽霊が憑いてんだよ」

 

『殺すな。幽霊ってのは死人の霊魂だ。俺の本体は俺の予想では生きてる。

 つまり俺を言うなら生霊或いは霊魂だ。後無いものねだりをするな。

 格好だけ女の子で出てやろうか? 霊魂だからその辺は割と自由がきくぞ?』

 

「ミルたんよりはダメージ少ないかもしれないが、それはそれで生々しいからやめてくれ……」

 

ただいまの時刻、午前四時。太陽はまだ顔を出していない。

新聞配達はそろそろ準備を始めるか、あるいは地域によっては

既にバイクが動いている頃かもしれない。

こんな時間に朝練? と思うかもしれないが、悪魔の常識ではそうらしい。

この朝練の発案者はオカルト研究部部長にして

我らが主、リアス・グレモリーさまなのである……巻き込まれる俺の身にもなってくれ。

 

『そろそろグレモリー部長が来るぞ。着替えて準備したほうがいいんじゃないか?

 それじゃ俺は二度寝するから』

 

「あっ、セージてめぇ! この薄情者め! 付き合ったっていいじゃないか!」

 

『……部長と二人きり』

 

「うっ……」

 

最近、俺の方もイッセーの扱い方がわかってきた。それだけこいつが単純なだけかもしれないが。

イッセーが支度を終える頃には、ちょうどグレモリー部長も来ていたようだ。

と、いう訳で俺は寝る――つもりだったのだが。

 

「ちょうどいいわ、セージも付き合いなさい。いつもみたいに狸寝入りは禁止よ」

 

『……イッセーのテンション維持のために、俺はでない方がいいと思うんですが』

 

「ライバルがいる方が、練習も身が入るものよ。そうよねイッセー?」

 

「えっ? いやそれは……そ、そうだぞセージ! 逃げるなんてお前らしくないぞ!」

 

あ、イッセーが心の中で泣いてるのが聞こえる。

無理すんなイッセー。時にはノーと言う勇気も必要だ。

 

だが、イッセーの扱いはグレモリー部長の方が上手らしい。

まあ、向こうはイッセーがゾッコンなの知ってるからなぁ。

……知ってる、よな?

 

「……じゃあこうしようかしら。

 二人のうち、成果が良かった方に私からご褒美をあげるというのは?」

 

「ご、ご褒美!? うおおっ、燃えてきましたよ部長!

 おいセージ! 部長のおっぱいをかけて勝負だ!」

 

――何を考えてるのか覚り妖怪でなくてもわかる。

おそらく、グレモリー部長は俺をダシにするつもりだろう。

と言うかイッセーの中ではグレモリー部長のご褒美=おっぱいなのか。

お前らしいというか何というか。

 

そうじゃないに決まってるが、どっちにしたってそこまで付き合いきれるか。

適当に手抜いて二度寝するぞ、俺は。

 

「……セージは霊体化と憑依禁止ね。勝負は日が昇るまで。

 先にこの先のトラックがある公園についたほうが勝ちよ。

 負けた方はダッシュ十本追加。セージの場合は日が沈んだあとに二十本追加よ」

 

『……は? 悪いイッセー。俺も負けられない理由ができた』

 

くそっ。まさかムチの方でこっちの動きをコントロールするとは。

せっかく夜は行動の自由が広がるのに、ダッシュ二十本なんかこなしてたら

その日一日潰される。

 

やっと俺の記憶の手がかりが増えたのに、そんな事に付き合ってられるか!

止むなく、俺はイッセーから離れ、実体化を終える。

日が昇りかけているからか、実体化しているにもかかわらず

俺の体はうっすらと透けている。

 

「早くしないと日が昇るわよ。それじゃ二人とも……よーい、ドン!」

 

そうして、俺たちのサバイバルレースという名の朝練が、住宅街を舞台に始まったのだ――。

 

――――

 

「ぜーはーぜーはー……」

 

「はっ……はあっ……げほっ!」

 

「ほら、だらしなく走らないの二人とも! それじゃ勝負にならないわよ!」

 

結論。勝負どころじゃなかった。二人して半分あたりに差し掛かったところで既にグロッキー。

憑依も霊体化も、目を盗んでやろうものなら魔法が飛んでくる。

街を壊すのはお互い不本意なため、やっぱり封印している。

 

しかしイッセーも負けず嫌いというか、何というか。

基本霊体だから考えたこともなかったが、運動能力はどうもイッセーのが上らしい。

実は、俺はイッセーの背を追っている形だ。このままではまずい。

 

「い、イッセー……そこ、に……はぁっ、え、エロ本落ちてた、ぞっ……」

 

「んな、わけ……ないっ、だろっ……ぜぇ、ぜぇ」

 

「無駄口叩いてる暇があったらペースを上げる!」

 

引っかからない。だが寧ろこれは引っかかる方がアホすぎる。

自分でもそう思う。それくらい頭が回らないのだ。

そう考えれば、この訓練は結構役に立っているのかもしれない。

 

最も、力を奮う場面なんざはぐれ悪魔討伐くらいだろう。

なんたらゲームは、正直興味がない。

記憶に関わることや人助けならいざ知らず、俺はあまりこの力は奮いたくないんだが。

ましてやってることは領土争いだろうが。悪いが俺には関係ない話だ。

だがイッセーはそうでもないらしい。

 

「ハーレム王に俺はなる……ぜーはー……」

 

あー、そうだったね。頑張ってね。

今にして思うと、イッセーは適応力が高いのか、バカなのか。まあ、後者だろう。

俺も他人のことは言えないが、いきなり「悪魔になりました」ってのもどうよ?

俺なんかそれプラス実体ありません、だ。

人間としての生を奪われるって、相当だと思うんだが。

まあイッセーの場合、他の選択肢が死ぬしかなかったからなぁ。

 

――やっぱ納得できない部分はあるなぁ。と一人考えていると

やはり考えながら走っていたのが祟ったのか、俺は負けた。

 

「よくやったわイッセー。セージは今夜ダッシュ二十本ね」

 

「ぐ、負けは負けですから……仕方ありませんな。では、俺はもう実体保てないのでこれで」

 

既に朝日は射している。もう俺の体はかなり透けている。

実体を維持できる時間は終わったのだ。

それだけ言い残して、俺は足早にイッセーに再憑依。

そのままシンクロを一部切って眠りについた。

 

あー……霊体だからあまり関係ないけど、風呂入りたい……。

 

余談だが、ご褒美は腕立て追加で、ヘロヘロになっていたイッセーの元に

アーシアさんが差し入れを持ってきてくれたらしい。

 

――――

 

あまりにもイッセーの周りが騒々しいので、ふと目を覚ましてしまう。

うう、今日は厄日かもしれない。

安眠は妨害されるわ、イッセーに負けるわ、夜ダッシュ追加されるわ……

 

こういう時は寝るに限るのに、それすらも許されぬとは。

やっぱイッセーに憑いて生活するのは失敗かなぁ……

などと考えていると、思わず耳を疑う話が出てきた。

 

――アーシアさんが兵藤家にホームステイする、と。無論、イッセーの親御さんは猛反対だ。

 

そりゃあ、親御さんのご意見はごもっともだ。俺がアーシアさんの親族ならこんな奴と――

いや、こんな奴で無くても年頃の少女が年頃の少年とひとつ屋根の下って……

兄妹とかならいざ知らず、だ。

 

俺、間違ってないよな? それなのにこのグレモリー部長は

ひたすらアーシアさんをここに住まわせようとする。何故だ。

あまりにも状況が読みきれないため、思わず内側からイッセーに問い質す。

 

場合によってはポルターガイスト起こしてでも

このバカげた計画を止める必要があるかもしれない。しかも流され始めてるよ親御さん!?

 

『おいイッセー。これはどういうことだ? 場合によっちゃポルターガイストなら起こせるが』

 

(それはやめてくれ頼むから。セージ、アーシアが旧校舎の教室を使っていたのは知ってるだろ?

 そこにいつまでもアーシアを住まわせるわけにも行かないだろ)

 

『なら、他にいくらでも候補はあるじゃないか。

 こういうのは本人の希望を百パーセント叶えてどうにかなるものじゃないと思うんだがなぁ……

 親御さんがOK出す以上は俺もとやかく言えないが、よからぬことを企むなよ?』

 

(ぐっ、お前こそアーシアから見えないのをいい事にアーシアの体触ったりとかするなよ?)

 

言葉巧みに誘導するのはさすが悪魔ってところかな。一体全体何を考えているんだ?

関係の進展なんて普通にありえるだろうに。それを狙っているのか?

まあ、眷属同士の婚姻とかはOKなんだろうが。

主サマと下僕に比べりゃ、現実味のある話だよな。

 

その後イッセーはグレモリー部長の様子に気づいたようだが、俺にとってはどうでもいい。

主サマには下僕には分からない悩みがあるんだろうよ。

結局、アーシアさんは兵藤家にホームステイすることになった。

 

俺は話がついた様子なので、今度こそ寝直すことにした。

そうでもしないと、ダッシュ二十本は耐えられん。

 

――――

 

夜。ほとんど意地だけでダッシュ二十本を終え、部室に戻る。

実体化しているときは普通に腹も減るし、眠くなる。

つまり汗もかく。そうなれば、この部室にはなにやらシャワーがあるらしく。

前イッセーも使ったことがあるらしいから、俺が使っても問題は無いだろう。多分。

 

一応、書置きを残しておく。使ったあとの掃除も念入りに、だ。

準備万端整えて、俺は部室のシャワーを使わせてもらうことにする。

 

だが――それが迂闊だったとすぐ思い知ることになる。

 

「――ふーっ。思ったより実体化しての活動はキツいな。

 これはやはり特訓メニューを考案すべきかもしれないな。

 息が上がってる状態でも、思考がまとまる程度にはなってないとマズいよな、いくらなんでも」

 

「あら。思ったより早かったのね。やはり朝のアレは手を抜いていたのかしら?」

 

――は? なんで人の声が? しかもこの声って……

 

「うわあああああっ!? ぶ、ぶぶぶ部長!?」

 

「ここは私の部室よ? そしてこのシャワーも私の。私が使うことに問題があるのかしら?」

 

そうじゃない! そこ以前の問題だ! そこに書置き残しておいたでしょ!?

無防備とかそう言う次元の話じゃない! それともアレか! 俺は異性として判定されてないのか!

それはそれで傷つく! こっちから信用してない分余計に!

 

「お、俺がいること分かってましたよね!?

 それなのに入ってくるってどういうつもりですかグレモリー部長!?」

 

「ええ。でも別にいいじゃない。あなたは私の下僕で、私はあなたの主人。

 たまには下僕の背中を流すのもアリね。

 それと……出来れば苗字呼びはやめてもらえないかしら。リアス部長、なら許すけど」

 

「わ、悪いですけどそれはできない相談で、俺のけじめの問題です! 以上、失礼しました!」

 

もう訳が分からず霊体化してその場を離れた。遠くで何か言ってる気がするけど聞こえない!

俺はイッセーじゃないんだ。かと言って木場みたく変な噂が立つのも不愉快だ。

 

けれどこれはないだろう。こっちにだって心の準備ってものがある。

その辺すっ飛ばされてはたまったものではない。

 

そうだ。俺は知りたいことがあるから仕方なくここに籍を置いているだけだ。

決してそういう事が目当てじゃない。そういうのはイッセーに回してくれ。

俺はそこまで気を回す余裕がない。あいつにあるかどうかも知らないけど。

慌てて逃げ出した際、ふとグレモリー部長はこんな事を漏らしているようにも聞こえた。

 

「はぁ。あの様子じゃセージには頼めそうに無いし、やはりイッセーかしら。

 サイズ的には問題なさそうだったけど……」

 

これ以上何を頼むつもりなんだ!? ……ん? 主の権限を笠に着れば、好き放題できるだろうに。

そういえば、あまりそういう事をしている場面を見てないな……でもでも、今回の件は話が別だ!

俺は好きでもない異性と裸の付き合いをするつもりは……つもりは……

 

……もったいない事をしたかも、と思った途端体が冷える。

 

「ふぁ、ふぁ……っくしょ! ううっ、そういえばさっきまでシャワー浴びてたんだった……

 今実体じゃないのに何で冷えるんだよ……オバケは風邪ひかないんじゃないのか……

 これは新たな発見だ……っくしっ!」

 

あ、やばい。霊体とはいえさっきまでシャワー浴びてたんだった。

これは風邪ひきコースだな、と思いながらすごすごと俺は部室に戻って暖を取り直すことにした。

 

その途中、俺はイッセーとアーシアさんを見かけた。

どうやってやっているのかと思ったら、自転車か。しかも二人乗りか。

おい、道交法的にマズいぞそれは。

 

何やらいい雰囲気になっているが、先をふと見ると警ら中の警官がいる。

あ、こりゃまずいな。雰囲気をぶち壊すのを承知の上で、俺は自転車と並走しながら合図を送る。

霊体ならスピードもある程度自由だ……流石に車に追いつくとかは無理だが。

 

「イッセー、イッセー。警官に捕まりたくなかったら一度自転車を止めろ。先にパトカーがいる。

 そうでなくてもお前の場合軽犯罪法抵触してるからな。

 高校生で悪魔とは言え、いやだからこそ人間の法はきちんと守れ」

 

うん。友を補導――イッセーの場合は覗きもやってるから下手すりゃ留置所行き――から救えた。

警官の世話になんかならないに越したことはないんだ。

いくら悪魔だといってもここは人間の世界。

悪魔のルールに則るなら、人間のルールにも則らにゃなるまいよ。俺間違ってないよな?

 

正しいことがいつも最善とは限らないことは頭じゃ分かってるつもりだったが

その時のイッセーはすごく微妙な顔をして、アーシアさんに至っては涙目で睨まれてしまった。

 

なんでこうなるの? いやそりゃ水はさしたけどさ。

釈然としないものを感じながら、改めて俺は部室に戻ることにした。

 

――――

 

あれから、元気よくイッセーとアーシアさんが帰ってきたところを見ると

警官には捕まらなかったようだ。良かった。

そんな二人を歓迎するオカ研の面子。

 

おや? グレモリー部長の様子がおかしいような……まあ、いいか。

 

「おかえり、夜のデートはどうだった?」

 

「最高に決まってんだろ! ……それとセージ、後でおぼえとけよ」

 

「やなこった。そもそも普通の高校生はこんな時間まで外をうろつかない上に

 自転車の二人乗りときた。職質されても文句言えないんだぞ、人間のルールじゃ。

 そもそもお前はのぞ――」

 

「バカ! アーシアの居る前でいらん事言うな!」

 

「……深夜の不良生徒による不純異性交遊」

 

「あらあら、本当にセージくんは真面目ですわね。二人とも、お茶入ってますわよ」

 

イッセーとアーシア、二人の行動に対して様々な意見が飛び交っている。

木場もイッセーの行動を茶化すような発言をしており、意外とお茶目な面を覗かせている。

塔城さんは俺の言葉尻に乗っかるような形で鋭いツッコミを。

姫島先輩はそんな俺たちのやり取りを見ていつものおっとりした笑顔を浮かべながら

二人にお茶を淹れていた。

 

ちなみに、俺の発言についてはちょっとクソ真面目と思われるかもしれないが

それには一応事情がある。

 

……グレモリー部長絡みだ。この辺一帯を仕切っているらしいが

よもや警察にまで干渉してはいまいな、といつぞや話を振った覚えがある。

 

答えは驚いたことにイエス――つまり、干渉していたのだ。

それから俺はキレにキレた。ここはいち地方都市だが

警察は元を正せば日本国の税金で動いている。

それをたかだかよその世界のいち公爵家の一存で動かすとは何事だ、と。

 

警察に協力こそすれ、人間のルールを曲げかねない行為は看過できない。

以前悪魔にもルールはある旨は聞いた。だがここは一応人間の世界だ。

悪魔の世界、冥界なら悪魔ルールが優先されるべきだが

ここでは人間ルールが優先されるべきだろう。

 

ビラ配りは完全に使い魔の仕事だが、今回のようなパターンだって今後出るかもしれない。

もし職質された場合にもグレモリー家の力を使うのではなく

そもそも職質されないような行いをすべし、と。

 

最も、はぐれ悪魔絡みとか超常的な事件が起きた場合には

四の五の言ってられないだろうから、そこはまあ、別として。

 

なお、この提案はグレモリー部長に大いに喜ばれ

地味に俺の評価が上がったことも付け加えておく。どうでもいいが。

 

ところがその当のグレモリー部長、どうも今日は様子がおかしい。

イッセーの帰還報告にもどこか上の空だ。

 

……ここで、俺の方にも悪戯心が湧き上がる。

さっきのシャワーのアクシデントの仕返しにとばかりに、気づかれないよう霊体になり

グレモリー部長の背後に回る。霊体の時は体温が低い。つまり、手とか色々冷たい。

そして俺は、霊体時にもこちらから物を持ったり、他者に触れたりすることは可能である。

殴ったり等力を加えなければならない動作は実体化してしまうため、できないが。

 

とにかく、俺はそっとグレモリー部長の首筋に手の甲を当てる。

 

「きゃああああっ!?」

 

作戦成功。まさかここまでうまくいくとは思わなかった。

どこまで上の空だったんだ。グレモリー部長の悲鳴に

オカ研の面子の全員がグレモリー部長の方を見る。

 

大声で帰還報告をしていたイッセーも、目の前で悲鳴をあげられて

目を白黒させているようだった。が、すぐに俺の仕業だとバレてしまった。

仕方ない。霊体になってもイッセーにだけは俺の姿が見えるのだから。

 

「ご、ごめんなさい、ご苦労さま。少しボーッとしてたのと

 首筋に急に冷たいものが触れて……」

 

「部長、それセージの仕業っす。おいセージ、どういうつもりだよ?」

 

問い詰められたので、霊体化していても仕方ないと思い俺は実体化する。

今日はなんだか色々忙しい日だな。

 

「俺を何だと思ってるんだ。たまには俺だっていたずらしたくなる時はある。

 それはそうとグレモリー部長。考え事は結構ですがここまで上の空となると些か問題ですな。

 とりあえず問題を解決しないことには、俺たちの活動にも支障をきたしかねません」

 

「そ、そうね。とりあえず、みんな集まったところでミーティングを始めるわ」

 

む。問題を抱えているなら話してくれって釘も刺したつもりだったが

そっちははぐらかされたか。まあいいや。

本人が言いたくないことを無理に聞き出す趣味は無いし、今追求するのはまずいかもしれない。

 

そんなことよりも今日の本題は――アーシアさんが実際に契約者さんのところへ行くらしい。

いよいよ本格デビューだ。姫島先輩がアーシアさんの魔力を調べている。

と言うのも、移動に失敗したケースが発生したからだ。

 

イッセーとかイッセーとかイッセーとか。俺も巻き添えを食ったが

そのおかげで虹川さんという上得意様と巡り合えたから、正直記憶から飛ばしていた。

と言うか相変わらず自転車通勤なのか、イッセー。

 

「部長、大丈夫ですわ。眷属の中では私に次いで

 セージくんに匹敵する魔力の持ち主かもしれません」

 

おや。霊魂が基本の俺に匹敵するとは。

最も俺は自分の強さを客観的に考えたことはほとんどないが

この言い分だと魔力に関しては強い部類なんだろうな。まあ、そんな雰囲気はするし。

 

とりあえず、何の問題もなくアーシアさんは行けるんだな……

 

と思った瞬間、イッセーが喚きだした。どうした。

 

「部長! ダメです! アーシア一人じゃ不安ですぅ! アーシアが!

 アーシアが変な奴にいかがわしい注文をされたら……俺は……俺は我慢できっ!?」

 

最近、俺も本当にイッセーの頭の中が読めるようになってきた。

いいのか悪いのかさっぱりわからん。

 

とにかく、どこぞの薄い本の如きシチュエーションが

今イッセーの頭の中をよぎっているのだろう。そんなことを考えるのは寧ろお前の方だ。

と言わんばかりに俺はイッセーをどつく。

 

なお、何故俺が薄い本を知っているのかというのはノーコメントとさせていただく。

 

「アホか。そりゃお前さんの願望だろうが。

 まあ悪魔に頼みごとするくらいだから強欲なのに違いはないし

 アーシアさんも初めてでちと不安だからアシストを付けるってところは俺も賛成だけど」

 

「セージの言うとおりよ。それにそういう依頼はそれ専門の悪魔がいるから大丈夫よ。

 でも二人の言うことも最もね。アーシア、しばらくは小猫と一緒に行動しなさい」

 

なるほど。確かに塔城さん向けの依頼なら物によっちゃ適任かも。力仕事以外なら、だけど。

ともかく、そんなわけでアーシアさんの初召喚は塔城さんのサポートということになった。

転移する彼女らを見送った後、イッセーは部長に促され帰宅。

 

俺は虹川楽団のチケット売りの依頼が飛んできたので、そっちをこなすことになった。

この後イッセーがとんでもない事になることも知らずに。




教訓1:ライバルがいるほうが健全な競争が行われる。
教訓2:否定的な意見を述べている人を無理やり参加させてはいけない。

さて、第二章、すなわち原作二巻部分と言うことで
ここから焼き鳥ことライザーが出てくるわけですが……

正直、何故彼がこのサイトでは嫌われているのかよく分かりません。
まあ作劇上嫌な奴になるってのはよくある話ですが。
原作2巻部分じゃ確かに嫌な奴部分あるけど
まだ酷い奴はいくらでもいるしなぁ……

私情挟みまくりですがレイナーレのがよっぽど嫌な奴に映りますし。


……もしかして、前提踏まえたネタ、ですかね?


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Soul12. 黒猫、見つけました。

一人称視点小説ですと視点変更するだけで
原作からの乖離がしやすいですよね。


と言うわけで本来ここで出てこないはずの人物に出会ったりもする(かも


さらに夜も更け。

 

チケットの販売も終え、今日は色々あったと思いつつ、イッセーの部屋へと帰還を試みる。

やはり旧校舎の簡易ベッドを片付けるべきではなかったと後悔しながらだ。

簡易ベッドでも場合によっちゃイッセーの部屋よりも寝心地がいい。

そりゃそうだ。邪魔されずに寝られるのだから。

 

……すきま風さえ我慢すれば。

ともかく、イッセーの部屋へと戻ろうとした矢先。

俺は部屋の窓からでも入れるため窓から直接入ろうとした……のだが。

そこに待っていたのは――

 

――イッセーを組み敷いている裸のグレモリー部長。

 

……なにこれ。どういう事なんだ?

俺の見た限りじゃそこまで関係進展しているようには見えなかったんだが。

それともこっちが先ってパターンか? そういうのも結構あるらしいし。

ともかくこれでは俺はどうすればいいんだ。

野宿か、野宿なのか! ……やったことあるけどさ。

 

いや、俺の宿もだがイッセーはどうした!?

 

――案の定、満更でもなさそうな雰囲気だが

それは奴に元々そう言う素養があったためだろう。

 

いや、これがある意味では健康的な男子高校生のあるべき姿……

……なのかもしれないがいやしかし。

 

俺はイッセーからは見えてしまうため、イッセーの死角から状況を観察することにした。

状況が状況だから、ヘタをしなくても出歯亀にしかならないのが頭の痛いところだが。

 

二人が行為に至ろうとしたその刹那、イッセーの部屋に魔法陣が浮かび上がる。

このタイミングで来るってのは……誰だ? オカ研の面子は誰も該当しない。

 

アーシアさんはさっき普通に家に入っていくのが見えた。違う。

一番可能性がありそうな姫島先輩も連絡にこうやってくるタイプ……には見えない。違う。

木場や塔城さん……理由や可能性、どれをとっても要素が見当たらない。違う。

となると……部長の実家の関係者と見るのが自然か。

 

案の定、俺の目に映ったのは見たことのない銀髪の美しいメイドさんだった。

タイプかも。と思いながら、俺は気づかれないように情報を調べる。

 

……ん? 今一瞬こっち振り返ったような?

まさか、ね。今俺は実体化してないんだ。見つかるわけがない。

 

とにかく、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)起動、と。

 

BOOT!! COMMON-LIBRARY!!

 

グレイフィア・ルキフグス。魔王サーゼクス・ルシファーの妻にして

女王(クイーン)」兼グレモリー家のメイド。その実力は――

 

「――盗み聞きとは感心致しかねます。

 いくらお嬢様の眷属といえど、場合によっては容赦いたしません」

 

「えっ!? ま、まさか……」

 

――やっぱり気づいてた!?

くっ、今までイッセー以外の生身には見られなかったからって、油断してた!

これは出なければ不利になるばかりだ。

 

仕方ない、記録再生大図鑑は起動したまま、俺はイッセーの部屋で実体化する。

 

「申し訳ありません。自分はリアス・グレモリーが眷属の兵士(ポーン)、歩藤誠二と申します。

 此度の盗み聞きの案件は、自分の独断によるものであり、主は一切関与しておりません。

 誠に申し訳ありませんでした」

 

「誠二様、ですね。そちらの眷属の方も初めまして。

 グレモリー家に仕える者でグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

 

……どうやら、記録再生大図鑑の事までは今はバレてないみたいだ。

が、今チェックしてる余裕はなさそうだ。出力したデータは後でチェックするか。

 

それにしても、イッセーじゃないが綺麗な人だな。いや、悪魔か。

しかし俺が惚れる人は何故皆……

えっ? いや、まさかそんな……くっ、色々ありすぎて混乱したか。

 

――俺が既婚者に想いを寄せていた、なんて。ははっ、ありえん話だ。

 

気を取り直して、グレモリー家の関係者なら

ここ最近のグレモリー部長の異変の原因を知っているかもしれない。

思い切って、俺はグレイフィアさんに問い質す事にした。

 

「失礼ついでにお伺いしますが、一体何があってこのような?

 自分のお見受けする限りでも、主はこのような行為に出るお方ではありませんでした。

 こちらの眷属についても、好色ではありますが困惑している様子。

 我々は、主から一切の事情を伺っておりません」

 

「セージ、それは……」

 

グレモリー部長が話を遮ろうとするが、俺は聞こえないふりをしつつグレイフィアさんに尋ねる。

あの一件以来、グレモリー部長に対し反抗的とも取れる態度を取る事に一切の抵抗が無い。

自分の心に素直になっている、と言えば聞こえはいいんだが。

 

……俺、本当に眷属だよな? と、疑問を抱きつつも今は目の前の謎を解くため

グレイフィアさんへの質問を継続する。そもそも、俺の話は全部終わってない。

 

「そして事ここに至ってその事情は主のご実家……

 つまりグレモリー家の出来事と何らかの関わりがあると考えましたが

 それが何なのかは自分には分かりかねます。もしよろしければ、お教えいただけませんか?」

 

「……やはり、お嬢様はお話をされていませんでしたか。

 誠二様のおっしゃる通り、今グレモリー家は大事な式典を控えている真っ最中でございます。

 そしてそれはお嬢様にとっても大変重要なことでございます。詳しくは追って連絡を致します。

 あなたがたも眷属であるなら、式典には出席していただく必要がございますので」

 

こっちにとっては好都合だが、肩を竦めながらも意外にあっさりと

グレイフィアさんは俺の疑問に答えてくれた。グレモリー部長がひた隠しにしてきた案件だけに

緘口令が敷かれている危険性もあったが、そっちに関しては杞憂だった。

なるほど、式典か。確かに相当大掛かりなイベントだが……腑に落ちない点が一つある。

 

何故そんな、しかも俺たちに出席の義務があるような大事なことを

グレモリー部長は黙っていたんだ? どう考えても何かあるな。

サプライズパーティーって空気じゃない。何やらまたキナ臭くなってきた。

 

グレイフィアさんから服を受け取り、身なりを整えたグレモリー部長は

観念したような表情でグレイフィアさんに着いて行く。

 

「ごめんなさい、イッセー。さっきのは無かったことにしてちょうだい。

 私も冷静ではなかったわ。セージも心配をかけてしまったわね。

 今日のことはみんな忘れましょう」

 

「……事情は全て把握しておりませんが、御意」

 

あ、何かよくわからんがイッセーが凄い落ち込んでる。ま、まあ心中察するが……。

俺も多分、同じような状況に万が一なったら、お前と同じリアクションすると思うんだ。多分。

そしてグレイフィアさんは、イッセーという名前に反応している。

まあ、実家の関係者なら眷属の事を話していても不思議じゃないが。

 

「イッセー……するとこの方が赤龍帝、龍の帝王に憑かれた者ですか。

 となると、誠二様はさしずめ偽りの……いえ『影の赤龍帝』でしょうか」

 

「そう。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の持ち主、兵藤一誠に『龍帝の義肢(イミテーション・ギア)』と『記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)』の持ち主

 歩藤誠二。二人とも私の『兵士(ポーン)』よ。それじゃグレイフィア、話は私の根城で聞くわ。

 朱乃も同伴でいいわよね?」

 

グレモリー部長の問いかけに、グレイフィアさんが頷き返すと部長はおもむろにイッセーに近づき

その頬にキスをした。

 

――それで手打ちって事か。まー、その、なんだ。泣くな、イッセー。

 

「今夜はこれで許してちょうだい。明日また、部室で会いましょう。セージもね」

 

それだけ言い終えて、グレモリー部長はグレイフィアさんと魔法陣で実家に帰還したようだ。

今はただ、呆然としたイッセーだけが取り残されている。

 

「……ま、まあなんだ。今日は俺は野宿にするよ。邪魔したな」

「あ、ああ。おやすみ」

 

今はイッセーはそっとしておいたほうがいいだろうと思い、俺もイッセーの部屋を後にする。

その後、見計らったかのようにアーシアさんがイッセーの部屋に入ったらしい。

 

――――

 

……今日は故あって野宿だ。イッセーに憑依して夜を過ごそうかと思ったが

何やら取り込んでいたので、諦めて外に出たのだ。

やはり、旧校舎の教室に置いておいた簡易ベッド、片付けるんじゃなかった。

 

とりあえず俺は公園でベンチに腰掛けている。

もう日付も変わるか変わらないかという時間帯なため、いるのは浮浪者かアベック位だ。

これがイッセーやそのダチだったら

 

「リア充爆死しろ!」

 

と言わんばかりに物騒なことをしでかすんだろうが、俺はそういうのには興味がない。

だが――寒いし、暇だ。ベンチで寝るのも何だか惨めな気がしてならない。

が、他に泊まる宛はない。以前、虹川さんがいる屋敷を開放してもらったが

あれは非常事態だからやってもらったに過ぎない。

今はそれほど緊急性がないため、それを言うわけにも行かない。

そもそも、それでは立場が逆だ。

 

さてどうしたもんか。最近は防犯上公園にもゴミ箱というものが無いため

ゴミ箱の中身を観察する暇つぶしもできやしない。

新聞とか入ってたらそれだけで暇つぶせるのに。

 

ふと、芝生の方に目をやると一匹の黒猫がいた。ついさっき霊体の状態で気づかれた上に

今も霊体の状態だが、少し警戒してしまう。まあ、黒猫相手に何ビビってんだって話だが。

 

とりあえず動く素振りを見せないため、刺激しないように近づく。

少しずつ近づくが、黒猫は動かずじっとしている。

 

怪我をしているわけでもなさそうだが、飼い猫って風にも見えない。

そもそも、飼い猫なら基本首輪をしている。だが目の前の黒猫には首輪がない。

片耳がカットされた様子もない。純然たるノラのくせに、人慣れしてるのか?

辺りに空き容器の類が見つからない為、誰かが餌付けしているわけでもなさそうだ。

 

暇なので、俺はこの黒猫を観察することにした。顔つきから見てメスか。

年の程は……子猫じゃあないが、老猫って風にも見えないな。

かなり黒猫に近づいたため、試しに実体化して、人差し指を顔の前に持ってきてみる。

すると黒猫は、おもむろに俺の指の匂いを嗅いでいる。まあ、猫の習性上そうなるわな。

 

……あれ? 俺、なんでこんなに猫に詳しいんだ?

これも俺の……と言うか、宮本の記憶か? 宮本は猫を飼っているのか? イッセーに聞いてみるか。

などと考えていると、黒猫は俺の足元にしっぽを立てて擦り寄ってくる。

 

「……悪ぃが、飯は持ってないぞ。と言うか、いきなり現れたのにビビらないのな」

 

頭を、特に耳の後ろを撫でながら独り言のように黒猫に話しかける。

黒猫は理解しているのかしてないのかただニャアと鳴くだけだ。

一しきり俺の足元を擦り寄った後、黒猫はどこかに行ってしまう。

飯がもらえないのがわかったのかな。

 

……少し癒されたところで、いい寝床はないか考えをまとめていると

ふとフラフラと歩いている浮浪者が見える。

いや、酔っぱらいか? 全く、こんな時間に大声出すんじゃ――

 

違う。その酔っぱらいはあからさまに動きがおかしい。酩酊状態の動きにしては変だ。

おまけに似たようなのが何人もいる。身なりからして浮浪者っぽくも見えるが……

関わり合いにはなりたくないとも思ったが、覚束ない足取りでどこへ行くでもなく

ふらふらと歩く浮浪者に嫌なものを感じた俺は、いつでも飛び出せるように構えていた。

 

これがはぐれ悪魔だった場合、可及的速やかに倒さねばならない。

人間を襲って事件になった後では遅いのだ。確認をとろうにも今は部長も姫島先輩もいない。

 

ならば援軍を呼ぼう。そう思ったがイッセーもあの後で呼ぶのは憚られる。

木場や塔城さん……は連絡先を知らない。

 

ああ、なんてこった。結局俺一人でこの怪しい集団を相手にするのか。

何だかんだで一人で戦うことが多い気がするが……気にしたらダメだろう。多分。

覚悟を決め、俺はそのはぐれ悪魔と思しき酔っ払いの一人に声をかける。

 

「……もし。おっさん、大丈夫か?」

「ううう……ああ……?」

 

振り向いたその酔っぱらいの顔は……血に塗れていた。目も焦点があっていない。

思わず俺は飛び退いたが、それを合図に奥にいた集団が一斉にこちらを向く。

その動きは散漫だが、背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

とにかく、相手のデータをチェックだ。記録再生大図鑑、起動!

 

BOOT!! COMMON-LIBRARY!!

 

ゾンビ。個体名は……やはりどれも読めない。ウィルス性のものではなく、魔術性のものである。

何者かの魔力により心に闇を抱えた者達が生ける屍となった姿。

人間としての理性が無いため、力は通常の人間を遥かに凌駕する。

全ての生物に対し攻撃を行うが、主に視認しやすい人間を狙う。

 

はぐれ悪魔やはぐれ悪魔祓いの猟奇殺人の被害者ってわけじゃ無さそうだが……

これを放置した場合を考えれば、答えは一つ。速やかな排除。

援軍は期待できない。あまりいないとは思うが、通行人に見つかるのも避けたい。

 

弱点は……見るべきかもしれないが、下手に時間をかけて騒ぎになるのはマズい。

ここは……一気に仕掛けよう!

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

クソ神父――フリード・セルゼンが使っていた光剣。それを記録し、ここに再現させた。

これが俺自身の神器、記録再生大図鑑の能力。

ゾンビみたいなの相手ならこの光剣は効くだろう、多分。

 

「おっさんに恨みはないが、成仏してくれ!」

 

やはりと言うかなんと言うか、動きは散漫であった。

少なくとも、クソ神父やクソ堕天使の相手をした後では申し訳ないが

ザコ認定されてもおかしくないレベルである。

 

ただ組み付こうと腕を伸ばしてくるが、その挙動の一つ一つが丸分かり。

光剣で腕を跳ね飛ばし、止めとばかりに頭めがけて光剣を突き刺す。

そのまま光剣はゾンビの頭を吹き飛ばし、頭を失ったゾンビは呆気なく地に伏した。

 

――ォォォォアアアァァァァ……

 

ああ、まだいるんだった。ならば次の手札はこれだ。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

加速。その必要は無い位に相手の動きは鈍いが、早く片付けるに越したことは無い。

騎士(ナイト)」のスピードで光剣を振るう。一体たりとも討ちもらさない。

程なくして、ゾンビの群れを殲滅することには成功した。

呆気ないが、案外そんなものかもしれない。

 

一息つき、光剣をしまおうとしたその矢先、背後に気配を感じる。

振り返るとそこにいたのは――

 

――ゥゥゥァァアアアアァァ……

 

しまった!? 撃ち漏らしがあったのか!?

目の前に突然現れたゾンビに対応しきれず、俺の眼前にはゾンビの血塗れの手が伸びる。

ゾンビの手は、俺を確かに掴もうとしていた。

 

……が、そのままそのゾンビは前のめりに崩れ落ちる。そしてそのまま、他のゾンビと同様

ただの死体へと変貌していた。

 

「……セージ先輩、油断はダメ、です」

「……えっ?」

 

そのゾンビの影から現れたのは――塔城さんだった。

 

「あ、ありがとう。助かったよ」

 

「……しっかりしてください。

 堕天使も倒した先輩が、こんなのに負けたら笑い話にもなりません」

 

ご尤もだ。返す言葉も無い。相手が弱いからと慢心があったのだろうな。

たいして強くも無いくせに慢心とは。よくない傾向だ。反省しないとな……。

 

……って、それはいいとして。それ以前の根源的な疑問がある。

先刻グレイフィアさんに問い質した時よりはいくらか気楽に、俺はその疑問を口にする。

 

「それより、塔城さんは何故ここに?

 いくら悪魔だと言っても、こんな時間に女の子が一人で歩くのは俺としちゃ感心しかねるが」

 

「……黒猫、見ませんでしたか?」

 

黒猫? 塔城さん、猫飼ってるのか? いくら名前が小猫だからって、そんなまんまな事態が――

うん? 黒猫っていやあ、さっきまで……

 

「いたけど、あれ多分ノラじゃないかな。首輪も、避妊手術もしてなかったみたいだし。

 ノラの黒猫なら見たけど、それがどうかしたの?」

 

「……その猫、どこにいますか?」

 

うん? こんな時間に塔城さん、ノラの黒猫と遊ぶつもりだったのか? むぅ、わからない子だな。

しかし、俺もその黒猫がどこに行ったのかはわからない。

 

「いや……さっきまでいたんだけど。

 今このゾンビの相手する前に、どこか行っちゃったみたいだ」

 

「……そうですか。セージ先輩から猫の匂いがしたから、もしかしてと思ったんですけど」

 

え? よくわかるな。俺はそれほど猫とじゃれてないから、そんなに猫臭くないはずなんだが。

しかし、よほどその黒猫が大事と見えるな。よし、また暇なときに探してみるか。

俺はこういう時自由が効くし、猫と遊ぶのは何だかんだ、嫌いじゃない。

 

「わかった。また見かけたら教えるよ。

 ただ、俺もその特徴をはっきり認識してないから猫違いをするかもしれないが」

 

「……ありがとうございます。それじゃ、私はこれで」

 

俺が礼を言い終えると、塔城さんはそそくさと帰ろうとしていた。

ちょっと待て。帰るのはいいんだが、こんな時間に女の子一人で帰らせるのは

俺のプライドに関わる。ここは送っていく以外の選択肢があるのか? いや、ない。

 

「待て待て待て。こんな時間に女の子を一人で帰らせるのは俺の主義に反する。

 家の場所は知らないが、近くまでは送っていくよ」

 

「……送り狼」

 

おい。それは寧ろイッセーのほうだろうが! まあ下心が無いといえば嘘になるが

それはただ単に俺が暇だからだ! 決してやましい目的があるわけじゃない!

まあ、暇つぶしもある意味やましい目的かもしれない。

しかし自分で突っ込んでおいてなんだが、もっとマシな突っ込み方は無かったのかと

後になってから思った。

 

「……冗談です。でも、ありがとうございます。変なのが来ても、撃退できますけど」

 

「そういう問題じゃないでしょ。撃退できても、狙われるというのは

 いい気はしないと思うんだ。まあ、俺はお飾りでも忌避剤にはなると思うよ」

 

そんなわけで、俺は塔城さんを家の近くまで送っていくことにした。

それほど遠くない場所だったので、やはり近所の黒猫と遊ぶつもりだったのだろうか……

……こんな時間に?

 

ただ歩くのも空気が詰まるので、思い切ってさっき仕入れたばかりの情報を振ってみる。

グレモリー部長の実家のキナ臭い動きだ。塔城さんの意見を聞きたい、というのもある。

それ位、あの案件は怪しいのだ。

 

「そういえば、グレモリー部長のご実家の方で何やら動きがあるらしい。

 さっき実家の人が来ていた。塔城さん、何でもいいから知ってることはある?」

 

「……そうですか。私も噂で聞いただけですけど、近々部長は結婚されるそうです」

 

――あ、つながった。式典ってのは結婚式。

それくらい大きなものになれば俺ら眷属にも出席の義務が生じる。

そして今までグレモリー部長の動きが不審だったのはそれに対する悩み。

しかしそれはマリッジブルーによるものではない。

マリッジブルーなら、イッセーを押し倒したりしない。

おそらく部長は、この結婚には異議を唱えているが、それが黙殺された――と、見るべきか。

 

だが……これ、俺らがどうこうできる問題じゃないな。まいったな。

グレモリー部長からまだ聞いてないことは山ほどあったんだが

結婚が成立すればそれも聞けなくなるか。

 

……こうなりゃ、多少無理やりにでも聞き出すべきか。

強硬的な手段を考えていた矢先、塔城さんがさらに言葉を紡ぐ。

言葉少なな彼女にしちゃ珍しい。

 

「……でも、部長がいなくなるのは、嫌です。

 セージ先輩にはあまりいい印象は無いかもしれませんが、私には……」

 

「ストップ。皆まで言わなくていいって。それに婚姻はともかく、学校……いやオカ研から

 グレモリー部長がいなくなるってのはまた話が違うと思うぞ」

 

ふむ。意外と塔城さんは寂しがり屋か?

先日の一件の時も、やたら俺たちがいなくなることを気にしていたし。

まあ、そのことについては今ああだこうだ言うものじゃないな。

などと考えている間に塔城さんの家の近くに着いた。

小奇麗なマンション風の大きな建物……って。

 

ここは、確か駒王学園の女子寮だったはずだ。

……ふと俺は気になったことがあったので、また塔城さんに質問してみることにした。

 

「塔城さん、ここの寮って空き部屋とかってあったっけ?」

 

「ありますけど……女子寮ですよ? まさか、セージ先輩……」

 

ああ、やっぱそっちに考えを持っていくよな。

確かに今俺は宿無しだが、だからって変な噂が立つような真似をするほどバカじゃないつもりだ。

そうでなくとも、イッセーと言う見習うべきではないバカがいるのだ。

同類に思われるのは、俺としても不本意だ。

 

「違う、違う。何を考えているのかは大体分かるけど、俺はイッセーじゃないんだから。

 いや、アーシアさんはどうしたのかな、と」

 

「……アーシア先輩、ですか。初めはここの寮に来る予定だったんですけど

 本人の希望でイッセー先輩の所に……」

 

はぁ、やっぱりか。アーシアさん、物凄い世間知らずだからなぁ。

そう考えればある意味一般家庭なイッセーの家はアリなんだろうが……むぅ。

一応納得できたような、できないような。

 

「……それじゃセージ先輩、ありがとうございます。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

入っていく塔城さんを見送ったあと、俺は――野宿をするため、結局橋の下に潜ることにした。

なお、風邪を引いたのは言うまでもなかった。




……誰もこの黒猫が黒歌姉さんとは言ってない。
黒歌姉さんじゃないとも言ってないけど。

とりあえず小猫ちゃんは寮住まいって事にしてあります。
そう考えるとアーシアさんも寮住まいになるはずですが……
そこはまあ、リアスの口添えやら何やらあったと言うことで。
寮よりは一般家庭に近いイッセーの家にホームステイ……

あれ? 原作と変わらないや。
でも原作のアホみたいな大幅改築はやりすぎてドン引きなのが正直な感想。
真面目に考えても「宝くじ当たった」ってレベルを超過してる気がして。
そうなると「汚い金」って発想も出てきて……後は、ねぇ。

頭が固いとはよく言われます。

セージに何やら妙な二つ名が出来上がっているのは気のせい。


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Soul13. お家騒動、始まります。

今更ですが所々にブラックなジョークが含まれています。
元ネタを茶化すつもりは全くありませんが、何かありましたらご一報のほどを。


翌朝。俺はもう実体が維持できないためくしゃみをしながら霊体に戻り、イッセーを探す。

憑依し直せばイッセーにうつすかもしれないが、風邪薬位は飲めるだろう。

と言うより、早いところ暖を取りたい。結局橋の下で寝ていたので、寒いのだ。

 

そんな矢先、イッセーが松田と元浜にクロスボンバーをくらっているのを目撃する。

この二人はいつから完璧超人に弟子入りしたんだ?

今のご時世なら磁力じゃなくて光通信で皮が剥げそうなクロスボンバーができるのだろうが

やはり人間だからそこまでは出来ないのか。

 

いや、そうじゃなくて。聞けば、「女子を紹介しろ」と言った二人にイッセーが紹介したのは

なんと世紀末覇者ないしキン肉魔法漢女ことミルたん。あー、そりゃこの二人にはキツいわー。

けれど半分はこいつらの自業自得じゃなかろうかとも思ったり。

スケベ根性だけで動くからそうなるんだ。相手がまだイッセーの知り合いでよかったな。

これがもしその筋の人だったら今頃ドラム缶の中身になってるんじゃないか?

 

ともあれ、色々地獄のような体験をした二人だが……霊魂の俺が聞いてもやはり背筋は凍る。

ドラム缶の中身にされるよりはマシかもしれないが……

うん、比較対象おかしいしな、ドラム缶は。

 

よかったな。夏の怪談シリーズはそれで行けるぞ――と、イッセーを通じて言っておいた。

 

その後イッセーは松田からキン肉バスターを、元浜からパロスペシャルを喰らっていた。

でも俺関係ない……っくしっ! さて、どうやって風邪を治そうか。

とりあえず悪いイッセー、風邪うつしちまったかも。あ、バカは風邪ひかないから大丈夫か。

 

――――

 

「……へっくしっ! 風邪ひいたかなぁ」

 

「だ、大丈夫ですかイッセーさん?

 ごめんなさい、私の聖母の微笑じゃ風邪は治せないみたいで……」

 

一日の授業を終え、俺達とアーシアさん、そして木場の四人は部室に向かっている。

その途中、と言うか今日一日中イッセーはくしゃみをし続けている。

その原因はほとんど俺。都合よく保健室にも行けなかったため、結局風邪薬は飲めていない。

 

それによく考えたらイッセー自身は健康……なはずなので

そんな奴に風邪薬を飲ませるわけにも行かない。まあ、暖が取れるだけでもよしとしようか。

 

『あーすまん。風邪ひいてるのは俺だ。昨日シャワー出てから体拭くのも忘れて

 その後色々あった上に野宿だったからな。風邪ひくなっていう方が無理だ……っくしっ!』

 

「ご、ごめんなさいセージさんっ! 私、てっきりイッセーさんの方かと……」

 

「よく分からないけど、何だか災難だったねセージくん」

 

結局、アーシアさんに余計な心配をかける羽目になってしまった。

やはり風邪は引くものじゃないな。不可抗力とは言え。

 

まあ、こうなったのも本をただせばグレモリー部長のせいなのだろうか?

まさか、シャワー浴びているときに乱入してくるとは思わなかったし。

これについては責任追及しても仕方ないな。したくもないし、色々な意味で。

 

などとあれこれ考えている間に、イッセーは木場にグレモリー部長の最近の様子を聞いている。

その件については、俺にはおおよその見当がついている。

だが、それを今言うのは微妙に憚られる。まだ、俺の推測に過ぎないからだ。

繋がってはいるから、多分間違ってはないはずなんだが……

 

「まいったね。僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

 

ふと、部室に入ろうとした木場の足が止まる。む? 何やらただ事ではなさそうだが。

部室の中にはグレモリー部長、姫島先輩、塔城さん。ここまではいい。

 

だが、その他に――グレイフィアさんがいた。昨日の今日とは、また急な話だ。

そのせいか、部屋の空気が何やら詰まっている。これは面倒臭そうな展開になりそうだ。

それより何より、俺の予想が正しければ……

 

「全員……まあセージはイッセーの中にいるでしょうから、全員としておくわ。

 揃ったところで部活を始めるけど、その前に話があるわ。実は私は――」

 

グレモリー部長が言い終える前に、床に魔法陣が現れる。

これは……グレモリーのじゃない、誰だ? そしてここから現れる炎は……

ちっ、ここは木造だぞ、火事になったらどうするんだ!?

 

「――この紋様は、フェニックスの……」

『何っ!? 知っているのか、木場!』

 

フェニックス。鳳凰とも称されるあれか! 不死身で、激しい炎を纏った鳥の!

魔法陣の炎が収まると、その中には歌舞伎町にいそうなチャラい系の男がいた。

 

こいつが、フェニックス――?

 

「よう、愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

――なるほど。これで全部繋がった。この男の態度と

グレモリー部長の辟易とした表情を見ればわかる。こいつが婚約者か。

 

その部長の表情を知ってか知らずか、このチャラい婚約者は馴れ馴れしく部長の隣に座っている。

イッセーが何やら不穏な表情を浮かべているが、まあなんとなく考えていることはわかる。

 

それにしてもこの婚約者、あまり教養があるようには見えないんだが。

他人の家を悪し様に言うのは憚られるが、こんなのと政略結婚しなきゃならないグレモリー家って

相当ヤバいんじゃないのか?

 

大方、互いの親が目先の利益に釣られて無理やり引っ付けたって形だろうな。

結婚は人生の墓場。よく言ったもんだよ……何かこのフレーズも、幾度となく聞いた気がするんだが。

 

……はて。誰の愚痴だ? ま、今はそれよりも……

 

「おい、あんた部長に対して無礼だぞ! つーか、女の子に対してその態度はどうよ?」

『おいイッセー、落ち着け。つーか、お前が言うな……っくしっ』

 

マズい。イッセーがヒートアップし始めてる。こいつ、グレモリー部長や

アーシアさんの事になると見境無くなるからな。やれやれ、おアツイこって。

まあそのおアツイ想いも、婚約がある以上横恋慕になっちまうんだよなぁ。

それに対してフェニックスの方は、物凄い冷めた目でこっちを、イッセーを見ている。

まるで、自分とは格が違うものを見るような目。いつぞやのアイツと近いものを感じる。

 

イッセーはドヤ顔で自己紹介をしているが、向こうは表情ひとつ変えていない。

歯牙にもかけないとはこのことか。まあ、そうだろうな。

向こうは完全にグレモリー部長「だけ」が目当てだ。

 

「つーか、お前誰だよ?」

 

「……あら? リアス、俺のこと下僕に話してないのか?

 つーか、俺を知らない奴がいるのか? 転生者? それにしたってよ」

 

「話す必要がないから話してないだけよ」

 

イッセーの問いかけにフェニックスが一瞬怪訝な顔をするが、グレモリー部長にあっさりと

言い負かされている。あ、これ完全に嫌われてるパターンだ。見ただけでわかる。

やれやれ。よほど強引な手法を使ったらしいな。どっちの親が、かはわからないが。

困惑しているイッセーに、グレイフィアさんがこの男の紹介をはじめる。

 

「兵藤一誠様。それと、一誠様に憑いておられる歩藤誠二様。

 この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり

 古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます」

 

……なにこれ。叩けば叩くほど出てくるこのあからさまないいとこの坊ちゃん臭。

この見た目では、さしずめドラ息子ってところかもしれないが。

 

「そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」

 

「え、えええええええええっ!?」

 

『……やっぱりな』

 

間髪いれずに紡がれたグレイフィアさんの次の言葉に、イッセーは驚愕していた。

やっぱりな。このタイミングで出てくるんならそういうことだろう。

しかし、まぁ、何というか。俺の想像以上にアレだったのは、ちと驚いたが。

いや、これが悪魔のトレンドなのかもしれないが。

 

ふと、奴の目線がイッセー、いや俺を捉えた気がした。

俺が見えているのか、どうかはわからないが。

 

「おい。さっきそいつに『憑いてる』っつったよな? って事は出られるんだろ?

 将来の主人がいるというのに、挨拶に出ないとはな。

 本当、リアスの眷属はろくなのがいないな」

 

「おいセージ、出たほうがいいんじゃないか?」

 

『――ぐしっ。わかったよ。その代わり、俺は言いたいこと言ったら戻るからな。

 正直、この空気は嫌いなんだ。さっきから煙たいし』

 

鼻を啜りながら、俺はイッセーに応えるようにして実体化する。

俺の渋々といった様子に、フェニックスのボンボンは不服そうだが、知ったことか。

 

「……お初にお目にかかります。私は歩藤誠二。

 リアス・グレモリーが眷属にして『兵士(ポーン)』です。以上。以後よしなに」

 

「あっそ。まあなんでもいいけどよ。ほら、気のきかねぇ奴らだな。主の旦那が来たんだ。

 お茶やお茶請け位用意するもんだろ。早くしろよ」

 

……なにこいつ。いつぞやとは違う意味で腹が立ってきたな。あの時ほどではないにせよ、だが。

イッセーが敵愾心をむき出しにしつつあるが、その気持ちもわからんでもない。

 

姫島先輩がそそくさとお茶を淹れに行くが、ちらりと見たその表情は

目が笑ってなかった。昨日、一体何を話したと言うんだ。まあ、なんとなく察しがつくが。

 

姫島先輩が淹れたお茶を飲みながら、フェニックスのボンボンは部長に馴れ馴れしく触ってる。

これ、どう見てもキャバクラで勧誘に来たホストにしか見えないんだが。

イッセーの方は、何やら勝ち誇ったような面構えをしてヨダレを垂らしている。

 

――くそっ。こっちにも頭の痛い奴がいた!

俺が内心頭を抱えていると、グレモリー部長の怒号が響く。

まあ、あれだけ馴れ馴れしくしてりゃあな。

 

「いいかげんにしてちょうだい! ライザー、以前にも言ったはずよ!

 私はあなたとは結婚しないわ!」

 

「ああ、前にも聞いたよ。だがキミのところのお家事情は結構切羽詰っていると思うんだが?」

 

――やっぱりか。でなきゃ、こんな感じの悪い如何にも頭の悪そうなのが

婚約相手にあてがわれる訳が無いものな。いや、悪くはないのかもしれないけど……

グレモリー部長と対比したとき、不釣合いな印象をどうにも受ける。何かが噛み合わないんだ。

 

「余計なお世話だわ! 私が次期当主である以上、婿くらいは自分で決めるつもりだわ!

 皆急ぎすぎなのよ。私が人間界の大学を出るまでは自由にさせるって話だったのに!」

 

「その通りだ。だが、ご両親もサーゼクス(兄君)様もお家断絶を危惧されているのさ。

 先の戦いで多くの純血悪魔が死に絶え、お家断絶した家も少なくない。

 純血の新生児がどれだけ貴重かは、キミもわかっているだろう?」

 

確か、以前言っていたな。悪魔と堕天使と天使の戦いがあったと。

その戦いの爪痕はまだ残っていると。その当事者は、尻拭いを新世代の悪魔にさせているのか?

だとしたら……根は深そうだ。

 

……ってちょっと待て。今ちらりとサーゼクスって名前が出たが。

もしかしてサーゼクス・ルシファーか?

俺は周囲に気づかれないように、グレイフィアさんにそっと耳打ちをする。

 

「グレイフィアさん、少しよろしいですか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

ふと、質問する段階になった途端に思い出した。

こう切り返されたらアウトだ。「何故サーゼクス様と私やお嬢様の関係を知っているのか」と。

 

……仕方ない、もう少し伏せておくつもりだったが

ここで記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の存在を明かしておこう。

種明かしをしておけば、疑われることは無いだろう。

余計なことに引っ張り出される可能性も発生するが。

 

「つかぬ事を伺いますが、あなたにご子息、あるいはご息女はおられますか?

 ……隠しても無駄だと思うので打ち明けますが、私には他者のある程度の情報を調べる能力があります。

 その際、魔王サーゼクス・ルシファー様の名前があなたを調べたとき、表示されたもので――」

 

「ええ。私には息子がおります。しかし、それがお嬢様のご婚約とどのような関係が?」

 

「――いえ。少し気になっただけですので。お答えいただきありがとうございます。

 それと、調べた情報は外部には漏らしていませんので……っくしょん」

 

「当たり前です。それより誠二様。風邪をお召しでしたら、暖を取られたほうが良いかと存じますが」

 

あ、ありがとうございます。それはそうと彼女も純血悪魔。そしてその旦那にして

魔王のサーゼクスも当然、純血悪魔。なんだ。もう純血種いるじゃないか。しかもグレモリー家に。

その上でさらに純血種を望むとは……全く、悪魔らしく強欲だよ。

グレモリー部長のお怒りもごもっともだ。

 

「私は家は潰さないわ。当然、婿養子も迎え入れる」

 

「おお! ならリアス、早速俺と――」

 

「でも、あなたとは結婚しないわ。私は私がいいと思った者と結婚する。

 古い家柄の悪魔にだって、それくらいの権利はあるはずよ」

 

おお。ここまではっきり言い切るとは。余程、腹に据えかねてると見た。

なるほど。グレモリー部長も自分の生涯を他者に決められるのは嫌いらしい。

まあ、誰だってそうだろうけど。

 

「……俺もな、リアス。フェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。

 この看板に泥を塗られるわけには行かない。キミのためにわざわざ人間界まで出向いたが

 正直、俺は人間界が嫌いだ。この世界の炎と風は汚い。炎を司る悪魔として耐え難いんだよ!」

 

ふむ。向こうにも背負ってるものがある、と。ただのチャラ男じゃなさそうだ。

だがこの世界を悪し様に言われていい気はしないな、この世界に住んでるものにしてみれば。

そもそも、一応神話に則るとこの世界の炎も神から賜ったんだがね。

 

――それよりなにより。アホみたいに見せびらかすのがあんたの言う高貴な炎なのか。

ここが木造なのは知らないわけでもなかろうに。燃えるぞ。マジで。

それとも、火事を起こしに来たのか。へぇ、良家のボンボンは放火が趣味でいらっしゃるか。

そのうち電波とか受信しそうだな。外宇宙の這い寄る混沌あたりからの。

 

俺の腹の中の皮肉を読み取ったかのように、フェニックスは語気を荒げ、炎を纏っている。

口に出して言っても良かったのだが、まあ一応眷属だ。

外交的に主の顔に泥を塗る真似は避けたい。

 

「俺はなんとしてもキミを冥界に連れ帰る。キミの下僕全部を燃やし尽くしてでもな!」

 

「やれるものならやってみなさい」

 

うわ。実力行使とな。形振り構わないのか。ちょっと待てよ。

さっき泥を塗るわけには行かないって言ったよな?

言ったそばから実力行使ってどんだけだよ。

 

くそっ、お家騒動で大火事起こすなんて! 他所でやれ、他所で!

チッ、しかも部長までヒートアップしてやがる!

そっちが実力行使をするなら、こっちだって――

 

――水汲んでくるか。

 

俺がシャワーからバケツ一杯分の水を汲み、両者にぶっかけようとしたその矢先

グレイフィアさんの口が開く。

 

「お嬢様、ライザー様。おやめください。これ以上やるのでしたら

 私も黙って見ているわけには行かなくなります。サーゼクス様の名誉のためにも

 私は遠慮などしないつもりです」

 

どうやら、俺が汲んできた水は空振りに終わったらしい。

グレイフィアさんの気迫に負け、二人とも引き下がったのだ。さすが、魔王の奥様。

さらに、グレイフィアさんはこうなることを見通していたかのように続けて言葉を紡ぐ。

 

「こうなることは予想しておりました。話し合いで解決しないのであれば

 『レーティングゲーム』で決着をつけるのはいかがでしょう?」

 

レー……なんだっけ。正直、すっごい興味なかったからここの説明はかなり聞き流していた。

イッセーが木場に確認をとっているのを聞くが、成熟した悪魔同士で行われる

模擬戦のようなもので、悪魔社会においてはこの上ない娯楽にもなっている。

しかも、このゲームの戦績が現在の家の位にも影響する、現代悪魔社会において

切っても切れないもの、だそうだ。

 

あーそうだったそうだった。悪魔社会に興味がなかったから、完全に聞き流してたわ。

おや? だがその理屈で行くとグレモリー部長はゲーム参加経験がないことになるんだが?

と、疑問に思っているとその疑問に答えるかのようにグレイフィアさんが言葉を続ける。

 

「お嬢様もご存知のとおり、公式なレーティングゲームは成熟前の悪魔は参加権がございません。

 しかし、非公式のレーティングゲームならば未成熟の純血同士の悪魔の試合も行われます」

 

「その場合、多くは身内同士かお家同士によるものよね。

 全く、お父様はどこまで私の人生を弄れば気が済むのかしら……」

 

ふむ。どこの世界もお家騒動みたいなスキャンダルはこの上ない娯楽か。

まあ、対岸の火事みたいなもんなんだろうな。

ご立腹の様子の部長を見かねてか、グレイフィアさんが声をかける。

 

「では、お嬢様はゲームを拒否なさると?」

 

「まさか。こんな好機は無いわ。ゲームで勝負をつけましょう、ライザー」

 

……それが悪魔社会の常識と言われれば立つ瀬もないが

そんなホビー漫画みたいなノリでいいのか?

さっきまで悪魔社会の未来をかけた云々かんぬん言ってなかったか?

しかも相手の方はノリノリどころか自信満々だ。待ってましたと言わんばかりか。

 

「へー。受けちゃうのか。俺は構わない。だが、俺は既に成熟しているし

 公式戦の成績も白星の方が多い。それでも受けるのか、リアス?」

 

なんと。これは向こうのペースに乗せられていないか?

レーシング(・・・・・)ゲームには興味がなかったが

オカ研面子は参戦経験が無いというのは話の中でもわかる。

今までの戦闘経験は、精々はぐれ悪魔討伐と先日の教会の一件くらいだろう。

 

この場合、万が一に受けない場合は家の意向を無視したことでペナルティ。

受ければ勝算はほぼゼロだから結婚。結婚か、ペナルティか。

 

なるほど、ほぼゼロの方に賭けたってわけか。

何もせずにってよりは余程立派だろうけれども、ねぇ。

おまけに現時点で完全に向こうのペースだ。戦う前からこれでは……

 

というよりも、何なんだよテーピング(・・・・・)ゲームって。

そんな競技感覚の戦闘なんて御免被るんだが。俺はサバゲーには興味がないんだ。

やりたい奴だけやってくれ。代理戦争みたいなもんだろ。やなこったよ。

 

そもそも俺は基本人助け以外で戦いたくない。

先日の教会の一件はアーシアさんを助けるって名目と

俺やイッセーの仇がいたからだ。今回はどう見繕ってもただのお家騒動。

正直、グレモリー部長が誰と結婚しようが、はっきり言って俺には興味ないんだが。

 

そりゃあ、俺みたいな所謂ショ・ミーンと良家のお嬢様じゃあ

結婚に関する見方も違うんだろうけれど。けれども自分の婚姻が嫌だからって

眷属けしかけてまで首を横に振るのか、そうなのか。

 

……まあ、眷属ってのは主の機嫌一つでどうにでもなるのが悪魔の世界らしいからね。

仕方ないね。

 

つまり俺は何が言いたいのかと言うと――やる気出ねぇ。

 

だがそんな俺の意向など知ったこっちゃないとばかりに

グレモリー部長は啖呵を切ってらっしゃる。

もう勝手にやってくれ。俺は知らん。

 

「やるわ、ライザー! あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「いいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。

 だが俺が勝てば即座にリアスと結婚させてもらうぞ」

 

「承知いたしました。おふたりのご意思は私グレイフィアが確認させていただきました。

 ご両家の立会人として、このゲームの指揮を取らせていただきます。よろしいですね?」

 

あーあ。もうトントン拍子で話進んじゃってるし。もう知らないっと。

俺は今度はイッセーに耳打ちし、半ば強引にとり憑く。

 

「あーあ。もう付き合ってらんねぇ。イッセー、俺興味ないから寝るわ。起こすなよ」

 

「あ、おいセージ!?」

 

あーあー聞こえない。そもそもあいつが来てから煙たいんだ。

くしゃみに加えて咳き込むとかこれ完全に風邪の症状だよ。

咳は誰かさんがアホみたいに火を見せびらかしてるから煙たいのが原因だろうけど。

確かに数刻前まで暖を取りたいとは思っていたが……違う、こうじゃない。

 

そんなことを考えながら模様替えしたイッセーの精神世界で寛いでいる。

オカ研の部室を模している。結構これはこれで、居心地がいい。

当然、イッセーの許可は得ている。オカ研の部室なら、って事で快諾が得られたのだ。

そんな時ふと、その煙たい奴が何か言っているのが聞こえた。

 

「なぁリアス、ここに居るのがキミの眷属なのか……うん? 一人減った気がするが、まぁいいか。

 どうせ一人いてもいなくても変わらんだろう。悪いがこれじゃ話にならないんじゃないか?

 キミの『女王(クイーン)』である『雷の巫女』位しか、俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」

 

フェニックスは勝ち誇ったような態度を取っているが、俺は気にも留めていない。

何だか知らない間に勝負する流れになっているが……もし俺に発言権があるのなら

迷わずNOと言っていただろうな。全く、誰が得をするというのだろうな。

戦いなんて、しないに越したことは無いのに。

 

……うん? 今俺はイッセーに憑いてる、って事は……ふっふっふ。

俺は参加する気はないが、情報収集はお手の物だからな。そういう参加方法もありだろう。

うん。ありだ。俺が決めた。

 

BOOT!! COMMON-LIBRARY!!

 

(セージ、神器であいつを調べるつもりなのか? 今から戦う気満々じゃねぇか!

 あれだけ部長の事嫌いだって言ってるのに、お前は本当によくやるぜ。よっ、このツンデレ野郎!)

 

『バカ言え。何で俺が他人様のお家騒動に首突っ込まにゃならないんだよ。

 俺は戦う気はないが、グレモリー部長はそうでもないだろ? 俺だって一応は眷属だし?

 正面切って戦う義理はないが、情報収集くらいはやってやるってことだよ。

 それとグレモリー部長に対してデレているのはお前であって、俺は無い。覚えとけ』

 

イッセーの茶々に突っ込みを入れつつ、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を立ち上げる。

そう。正面切って戦うのはアホらしくてやってられないが、相手を調べるのは出来る。

実際に刃を交えるのは、やりたい奴がやればいい。

少なくとも、俺はグレモリー部長に対して命の危険を冒すまでの義理や忠誠心はない。

さて、早速情報を読み解こう――。

 

ライザー・フェニックス。フェニックス家の……ああ、これさっき聞いたから省略でいいや!

しまった、ハナからアナライズかければ良かったか。失敗したな。

 

と、頭を抱えているとつらつら流れている情報の中に有力そうな情報を発見した。

 

『既に悪魔の駒を全て使用しており、フルメンバーの眷属を従えている。

 全員が女性で構成されており、各々の戦闘能力にはバラつきがあるものの

 コンビネーションで補うものも少なくない。

 自身の不死の特性とフェニックス家謹製の治療薬「フェニックスの涙」による

 継戦能力は他の悪魔の追随を許さない、か……イッセー?』

 

「ぜ、ぜ、ぜ、全員女の子だとぉぉぉぉぉぉ!?」

 

そう。ライブラリの表示が終わったと同時に現れたフェニックスの眷属は

下は幼い見た目の少女から、上は俺の好みに近いお姉さまタイプまで、幅広く揃った女性。

そう、それはまさにイッセーが夢見たハーレムそのものであった。

 

……悪魔って、こんなんばっかなのか?

まあ、こいつらとも戦うことになるんだろうからこっちも偵察、偵察っと……

うわあ、数が多いから大変だ。一人一人表示させるのは大変だな。

こりゃ時間を食うアナライズなんてした日には日が暮れるかもしれないな。

 

この綺麗な人が「女王(クイーン)」ユーベルーナ。あの強そうな人が「騎士(ナイト)」カーラマイン。

戦車(ルーク)」雪蘭。む、チャイナドレスは惹かれるものが……って違う。そうじゃなくて。

えーっとそれから……「僧侶(ビショップ)」レイヴェル……ってこの子自分の妹かよ!?

な、なんて業の深い……と、とにかく情報収集が先か。えーっと……

 

……で、何をやってますかねこのチャラ男は。

自分の眷属とイチャついてるとは随分な余裕ですな。

仮にも婚約者の前でそういう行為に及べるというのは、ある意味尊敬できるよ。

 

で、今イチャついてるのが「兵士(ポーン)」のイル、ネル……

得物がチェーンソーとか、どこの殺人鬼だよ。

それからそれから……ん? おいイッセー、何をやろうとしてるんだ?

 

「お前じゃこんな事一生できまい下級悪魔くん」

 

「お、俺が思ってることをそのまま言うなぁ!!」

 

イッセー、わかりやすいリアクションどうも。でもうるさいからちょっと黙っててね。

今回、数が多すぎて全体に開示できないんだよ。それだけで時間と魔力食うし。

だからなんとか記録再生大図鑑に記録させたいところだ。

一度記録すれば、後は出力できる――アナログでだけど。

 

よし。なんとかライブラリ分は出力できた。後は――

 

COMMON-ANALYZE!!

 

アナライズだ。どんなに強い奴でも、弱点をうまく突けば倒せる。

ゼロに近い勝算を何倍にもできる。

世の中、小数点以下の確率もバカにできないが、せめて1%は欲しい。

そう考え、アナライズを実行したのだが――やはり、出力が遅いのが難点だ。

 

まあ、普通に考えれば弱点なんて晒さないものだし

それを調べるのは難しいのは当たり前なんだが。

何とか、俺がアナライズする時間が稼げればいいんだが――

 

――ってイッセー、何で赤龍帝の籠手出してるんだよ!?

 

「焼き鳥野郎! てめぇなんか俺のブーステッド・ギアでぶっ倒してやる!」

 

「あーめんどくせぇ。ミラ、やれ」

 

『バカ! 何やってるんだ! まだ相手の力量も読めてないのに、突っ込む奴がいるか!!

 く、くそっ! せめて――!!』

 

SPOIL

EFFECT-STRENGTH!!

 

あーあ。アナライズ失敗だよこんちくしょう。今対峙してるのは「兵士(ポーン)」のミラ。

小柄な体躯ながら、長い棍を使った棒術で戦う、フェニックスの眷属。

戦闘能力は最下位ながらも棍のリーチと小回りで、相手を撹乱する……か。

 

幸いライブラリ出力は終わってるから、そこから対策を練ればいいか。

 

「……っ、直撃したのに。この防御力、ただの『兵士(ポーン)』じゃない……!?」

 

「な、何だ!? 今の一撃、全く見えなかったぞ……!?」

 

せ、セーフか。しかしカードの判断を誤ったかも。確かに攻撃と防御は上げたけど

この様子じゃ向こうに一撃も加えられない。何せイッセーの奴、棒立ち状態だった。

 

『言わんこっちゃない。今お前一撃食らってたぞ。防御を上げてなければ吹っ飛ばされてた。

 この様子じゃ、お前から一撃食らわせるってのは無理そうだぞ』

 

「へっ、今二段階目の倍加が済んだところだ! セージ! シンクロ強化だ!」

 

『待て、今対峙してるのは単なる一兵士。そこに全力出して潰したところで

 向こうにとっちゃ痛くも痒くもない。寧ろ、こっちの程度の低さを知られるだけだぞ』

 

確かに俺とイッセーのシンクロを強化して、俺の力をイッセーに乗せればパワーは増す。

だが今の相手、パワーだけでどうこうできる相手じゃない。

良くて棍をへし折れる位だが、その次に集中攻撃を喰らわないとも限らない。

シンクロを強化すれば、俺に来るダメージも増えてしまう。

我が身可愛さと言えなくもないが、この状態で巻き込まれるのは御免だ。

アレな船頭に付き合う趣味は無い。

 

「ほう。『憑いてる』奴は『兵士(ポーン)』にしちゃ頭は回るようだな。

 そいつの言うとおり、ミラは確かに俺の眷属で、しかも最下位の実力だ。

 仮にお前がミラに勝てたからって、だからどうだって言うんだ。

 俺に勝てなきゃ、意味がないだろうが。

 その前に、俺と戦うことが出来るかどうかすら、危ういけどな!」

 

そこまではっきり言っちゃうと、ちょっとミラって子がかわいそうに見えてしまう。

だが、俺がストレングスのカードで強化してようやくダメージを軽減できた程度には

棒術の心得がある相手だ。イッセーソロじゃ、現時点じゃ勝ち目は無いな。

 

「だったら俺一人でもやってやるよ! 喰らえええええっ!」

 

「動きは見えてます……はっ!」

 

イッセーの左手が、ミラの棍と激突する。

倍加した一撃で、ミラを突き飛ばすことはできた――が。

 

「どうだ!」

 

『……イッセー。言わなかった俺にも非はあるが

 カードの効果時間はきちんと把握しておけ――痛っ』

 

「おいセージ、何を――ぐっ!?」

 

そう。寸前でカードの効果が切れ、パワーを強化した状態ではない

素の状態で殴り合う結果になったのだ。

それでも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のおかげで大事には至らなかったが、ダメージは普通に受けている。

当然、俺の方にもダメージは来ている。だからシンクロ強化は断ると言ったんだ。

これでシンクロ強化してたら骨が折れたかもしれん。

 

「弱いな、お前。ミラを吹っ飛ばしたのは褒めてやるが、所詮そこまでだ。

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)? 笑わせるな。確かにそれは極めれば神や魔王も屠れる伝説の神器(セイクリッド・ギア)だが

 使い手がお前では豚に真珠ってところだな!」

 

「ち、ちくしょう……!」

 

まいった。反論しようにもグウの音も出ない。しかしここまでイッセーが向う見ずだとは。

やれやれ……俺はミーティング(・・・・・・)ゲームは興味ないんだが

こりゃイッセーのセコンドで出る必要があるかもしれないな。

などと考えていると、フェニックスは思いついたように口を開く。

 

「だが、少しでも使いこなせるようになれば面白い戦いができそうだな。

 リアス、ゲームは十日後でどうだ?」

 

「……私にハンデをくれるというの?」

 

フェニックスの提案に、グレモリー部長はあからさまに不服な態度を示している。

まあ、気持ちは分からなくもないが……この状態で、どう戦えと言うんだ?

兵士(ポーン)のイッセーが向う見ずなのは許容範囲としても

(キング)のあんたが向う見ずじゃ、悲惨な結末にしかならないんだけど……。

 

「不服か? 今すぐやっても結果は見えている。

 感情論で勝てるほどレーティングゲームは甘くないぞ。

 下僕の力を引き出す事にこそ(キング)の資質が問われる。

 才能があっても活かせず敗北する者を俺は何度も見てきた」

 

「……わかったわ」

 

……物分りがいいのはいいことだと思うよ、うん。十日あれば、粗方のことは出来るだろう。

それに、それで負ければもう納得もするだろうよ。

それでも納得できないってのは――まあ、往生際が悪いってことだろうな。悪いけど。

そう考えていた矢先、フェニックスの目線がイッセーを捉える。

 

「おいお前。『(キング)』に恥をかかせるなよ。お前の一撃が、リアスの一撃になるんだ。

 十日後だ。リアス、次はゲームで会おう」

 

そう言い残し、フェニックスとその眷属は魔法陣から帰っていった。

部室には、敗戦濃厚の空気が漂っていた。




今日の教訓

風邪でもないのに風邪薬を飲むのは止めましょう。



Q:悪魔の本拠地が火事になるのはおかしい!

A:館モノのエロゲのラストは火事と相場が決まってます。

……という冗談はさておき、悪魔の本拠地で悪魔が火を起こせば
そりゃあ火事になると思うんです。
仮に旧校舎が鉄筋構造だったとしてもフェニックス()
の火なので鉄筋だろうとお構い無しでしょうし。

尚、本作では旧校舎は木造にしてあります。


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Soul14. 対策、練ります。

今回長台詞が多くてgdってます。すみません。


グレモリー家のお家騒動に巻き込まれた俺、歩藤誠二は悪魔である以上

避けては通れないレーシング(・・・・・)ゲームとやらに参加することになるらしい。

イッセーから分離し、今後の対策を練るためのミーティングが行われている。

 

レーシング(・・・・・)ゲーム、ねぇ。亀の甲羅を投げ合ったりバナナの皮を捨てたり

キノコ食ったらブーストかかったりするのか?

 

「グレモリー部長。レーシング(・・・・・)ゲームと言われても、俺は多分免許を持ってません。

 記憶が無くても免許の取得には問題ないらしいですが」

 

「セージ。レーシング(・・・・・)ゲームじゃなくてレーティング(・・・・・・)ゲームよレー・ティ・ン・グ!

 あからさまなハンデを受けたのは屈辱だけど、だからこそ鼻を明かしてやるわ。

 みんな、今日の部活は中止よ。朱乃、ちょっと来てちょうだい。それからセージも」

 

「わかりましたわ」

 

……は? 姫島先輩はわかるが、そこで何で俺なんだ?

むう、俺は出るつもりないんだがなぁ。

出たとしても、イッセーのセコンドのつもりだったんだが。それに確か今日は……

 

「あの、今日は虹川さんと次のライブのリハーサルが……」

 

「そんなものは実行委員に任せておきなさい。この間出来たでしょう?

 貴方は彼女達のマネージャーである前に、私の眷属。

 何度も言うようだけど、覚えておきなさい」

 

……おやおや。大事な顧客との予定をキャンセルまでさせるなんて。

悪魔稼業的に、それっていいのか?

まあ、召喚しても失敗するなんてよくある話だが……

それはあくまでも一見さんの話じゃないのか?

お得意様の依頼を無碍にするって、それちょっと問題だと思うんだが。

 

先刻までのグレモリー部長の様子から説得は困難と判断した俺は、連絡用の魔法陣を展開。

文面は……

 

―― 毎度グレモリー悪魔召喚サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。

大変申し訳ありませんが、上司命令により本日のリハーサルの参加は出来なくなりました。

後日埋め合わせのため連絡をさせていただきたく存じます。

この度は誠に申し訳ありませんでした。

 

                                   歩藤誠二 ――

 

二、三分で仕上げた謝罪文なので変なところはあるかもしれないが致し方ない。

謝罪文のテンプレを用意するべきだろうか。勿論、これは正式な文章じゃない。

なので責任を上司に擦り付けるニュアンスの文を含んでいたりもするのだ。

 

とにかくこれで虹川さんには一応の義理を果たせた、と思いたい。

虹川さんに対し申し訳ないと思いつつも、俺は渋々グレモリー部長の命令に従うことにする。

 

「グレモリー部長。お言葉ですが、俺は他人様のお家事情に首を突っ込む気はありません。

 そのドーピング(・・・・・)ゲームとやらも、俺は全く魅力を感じませんし、何より見世物のために

 俺は自分の力を奮いたくありません」

 

「……あのねセージ。こういう言い方はしたくないんだけど、あなたは私の眷属。

 あなたの意思云々は、この際問われないの。悪いけど、強制参加ってことで諦めてちょうだい」

 

まあ、そうなるとは思ってたよ。ああ、最悪だ。俺の意思が介在する余地がない。

俺、本当に何で悪魔になっちゃったんだろ。早く人間になりたい。

仕方ない、非常に嫌だけど諦めるか……。

 

「……はぁ、わかりました。出ればいいんでしょ、出れば……はぁ」

 

「そんなに嫌がらないでよ……それじゃこうするわ。

 もし勝てたら、私と一晩一緒に寝るというのは?」

 

……何を言ってるんだ。それで喜ぶのはイッセーの方じゃないか。

俺はイッセーじゃないって、何度言えばわかるのだろうか。この悪魔は。

それとも、それ以外に報酬を出すつもりは無いのか?

 

ここで俺は、駄目元で参加に際する条件を提示してみることにする。

イッセーじゃないのだから、胸をつつかせろとかそういうのは無しの方向だ。

それにそれじゃあ、ただの報酬の吊り上げな気がする。

 

「……冗談ならもうちょっとマシな冗談を言ってください。俺はイッセーじゃないんで。

 そうですね……出てもいいですけど条件があります。添い寝以外で」

 

「……その身の程を弁えない物言いも慣れてきたわ。で、何かしら?」

 

「1つ。まず俺は見世物にはなりたくありません。

 よって、仮面等顔を隠せる道具の着用の許可と

 『歩藤誠二』、『宮本成二』以外の名前の使用の許可を。

 2つ。グレモリー部長の知る『宮本成二』という人物についての情報。以上提示します」

 

「あらあら。でもセージくん、いくら身分を偽っても神器(セイクリッド・ギア)でバレてしまいますわよ?」

 

そう。問題はそこだ。いくら俺でも神器抜きであの軍勢と戦えるとは思っちゃいない。

グレモリー眷属で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使う眷属と言えば、俺だということはいずれバレるだろう。

だがそれでも、俺は娯楽だけのために力を奮うのは義としない考えだ。

だが俺のこの提案、グレモリー部長には何か気に入らなかったらしい。

 

「セージ。冗談も大概になさい。いい? レーティングゲームは悪魔にとって大事な祭典なの。

 それを興味が無いで済ますのも論外だというのに、身分を偽るなど冒涜でしかないわ。

 そして私は、このレーティングゲームで栄光を手にすることが夢なの。

 その夢の冒涜は、誰であっても許さないわ。たとえセージ、あなたでもね」

 

はぁ。ちょっと我が儘過ぎるんじゃないかなぁ。政略結婚とは言え、結婚の拒否に飽きたらず

両家を巻き込んだ縁談を取り潰しにして泥を塗ろうとしている上に

そのうえ自分は夢を堂々と語ってそれに対する反論を許さないって……

いやさ、俺もつまらない意地張ってるけどさ。これ、いつぞやの発言を撤回すべきかなぁ。

 

「許さないのならご自由にどうぞ。俺はイッセーと違って、あなたに気に入られたくて

 悪魔やってるわけじゃありませんので。寧ろ、こうなったのは不可抗力ですよ?

 これでも、現実を受け入れている方だと思うんですが。そのうえ何を望むんですか。

 どうしてもというのなら、俺の人格やら何やら消した上で参戦させればいいでしょう。

 ただもしそれをやったら――死んでも恨みますけど。もう死んでるようなものですが」

 

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない! わ、わかったわよ……その条件を飲むわ」

 

言いすぎたかも、と思いながらも約束を取り付けることに成功した。

だがこの我が儘お嬢様、こうでも言わないとダメかもしれない。

イッセーを筆頭に、皆完全に飼い慣らされてるし。

 

「セージくんが言うと、説得力がありますわね。うふふ」

 

「あ、朱乃……笑い事じゃないわよ。悪魔が祟られるなんて、笑い話にもならないわ」

 

――訂正。姫島先輩はそうでもないみたいだ。

とにかく、向こうは条件を飲んでくれた。

ならば、こっちもこれ以上意地を張るのはやめよう。

元々、データは提供するつもりだったし。

 

「礼になるかどうかわかりませんが、今調べたデータを出します。

 残念ながら弱点までは読めずじまいでしたが、試合の役に立てば幸いです」

 

「レーティングゲームの参加悪魔のデータは公表されているけど

 せっかくセージが調べてくれたものだもの。使えるものは活用させてもらうわ」

 

「あらあら、口ではああ言ってもセージくんも心配ですのね。

 可愛らしいですわ、うふふ」

 

――姫島先輩。男に対して可愛いはあまり褒め言葉にならんのですが。

とにかく、俺は今調べた記録再生大図鑑のデータを出力する。

何分、十人以上いるから大掛かりだ。

 

「……やはり、フェニックス兄妹が難関ね。

 それ以外にも『爆弾女王(ボム・クイーン)』ことユーベルーナを筆頭として侮れないメンバーばかり。

 やはり、こっちは一人一人の地力を上げるのが課題になりそうね」

 

「部長、この『フェニックスの涙』も侮れませんわ。

 所持しているのはフェニックス兄妹以外の誰か――

 恐らくは『僧侶(ビショップ)』か『女王(クイーン)』でしょうけど」

 

「そうね。セージ、あなたが『(キング)』でプレイヤーだとしたらどう駒を動かす?」

 

「……は? 俺、チェスは経験ないんですが」

 

どうしても勝たなければならない大一番に、よりにもよって未経験者に意見を募りますか!?

だが、俺のそんな気持ちを他所に部長は意見を述べる。

 

「知っているわ。けれど、あなたはイッセーのセコンドとして

 客観的に戦いを見ることも多いはず。さっきもそうだったでしょう?

 だからあそこでイッセーを強化した。違うかしら? どう動かすか、が難しければ

 『あなたはどう私達を攻略するか』で考えてもいいわよ?」

 

「ふむ。となれば……そうですね。俺ならグレモリー軍をどう動かすか――

 数の利は圧倒的に向こうにあります。この場合、狭い場所に誘い込んで

 一対一の状態を作って各個撃破か、一箇所に集めて纏めて撃破するか、そのどちらかですね。

 ただ、向こうの戦術的には二対一の連携攻撃に長けている者が多いように見えました。

 ならば、俺が『王』なら囮を用意して相手を一箇所に集め、一網打尽にします」

 

「私も同じことを考えていましたわ。私なら、相手の『王』は無理でも相手の眷属ならば

 一撃で倒せる自信はありますわ。レイヴェル・フェニックスは無理ですけど」

 

「囮ねぇ。確かに犠牲(サクリファイス)はレーティングゲームの常嚢手段だけど

 囮に回すだけの戦力がないわよ?」

 

「なにも味方を巻き添えにしなくてもいいんですよ。

 要は一箇所に足止めできればそれでいいので」

 

いつの間にか、ホワイトボードと紙を用いた本格的な作戦会議が始まっている。

どう考えても、本番の対策である。

そして、俺の特性――間近でイッセーの戦いを客観的に見る。

これができるのは、俺だけだ。なるほど。だから俺が呼ばれたのか。

 

「次に俺ならどう攻略するかですが……範囲攻撃持ちの『女王(クイーン)』の姫島先輩をマークしますね。

 逆にノーマークになりがちなのは……『騎士(ナイト)』の木場か、『戦車(ルーク)』の塔城さん。

 そこを逆手にとって機動力に長ける木場を遊撃に、防衛に長ける塔城さんを部長か姫島先輩

 あるいはアーシアさんの護衛につけるのもアリですね。

 アーシアさんや部長は、当たり前なので敢えて触れません」

 

「なるほど。王道の手ってわけね。じゃあ、うちの『兵士(ポーン)』はどうなのかしら?」

 

「イッセーは……特性上速攻で潰しに来るか、地の弱さ故にノーマークになるかどちらかですね。

 俺の方は……これはどう攻略するかは難しいですが、幸いなことに手札は出し切っていません。

 相手の奇を衒うのは、いくらでも可能です。

 つまり、未知数なので攻め倦ねるってのが見解ですかね」

 

「あらあら。あれだけ嫌がっていたのに、セージくんもやる気満々ですわね」

 

楽しげに姫島先輩が話しかけてくるが、正直俺も慣れない作戦立案で頭が一杯だ。

すみません、とてもじゃないですがそっちに気を回してる余裕がありません。

こういう場合、考えられる可能性を全て挙げ

そこから最適解を算出するのがモアベターだと思うんだが。

 

ううっ、シミュレーションゲームは経験あったっけかなぁ……ヒーローヲタクだから

何かしらやってそうな気はするんだけど。そういう題材のシミュレーションゲームあるし。

 

「その他に考えられる相手の動きとしては……こちらの戦力の各個撃破。

 先ほど申し上げたとおり、向こうにはペアでの連携を得意とするタイプの者が多いようです。

 そのペアを二組、或いは他の誰か一人を加えて木場か塔城さんにぶつけるパターンです。

 イッセーや俺、姫島先輩は多分そうはならないでしょう。『兵士』一人に三~四人がかりは

 戦力過多ですし、範囲攻撃を持っている姫島先輩相手に集団で挑むのは逆効果と言えます」

 

「狙ってくれって言っているようなものですものね」

 

「なら朱乃には相手は単騎で強い『女王』を向けてくる可能性も高いってことかしら。

 そうなると、アーシアも狙われやすいわね。あの子、回復持ちだし」

 

「そうです。しかも直接戦闘力は低いので、前に出すのは愚策ですね。

 安全を確保しない限りはアーシアさんを前衛に出すのは無理でしょう。

 ……あ、ちなみに俺の回復は他人は回復できませんので

 アーシアさんと同じ考えで前に出しても意味ありませんよ?」

 

今ふと思ったんだが、これ作戦を練る前に

まず自分の手札をしっかり把握する事のほうが大事じゃないか?

とりあえず現時点で現実的に考えられるプランを全て出す前に、まず地力の底上げが重要かも。

少なくとも、イッセーが俺のアシスト無しで向こうの兵士が倒せる程度じゃないと。

 

「わかったわ。とりあえず、今はセージが出してくれたデータを元に

 もう一度私と朱乃で対策を練り直すわ。それから、明日から特訓合宿に入るわよ。

 勿論、セージも参加よ? これは嫌とは言わせないわ」

 

「……俺はかまいませんが、他の人達は長期無断欠席ですか?」

 

「あらあら、出席日数が足りなくなったらイッセー君と同学年になってしまいますわねぇ」

 

途端に鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見せるグレモリー部長。

俺は知らないが、ここで沈黙が流れると言うことはそのあたりの対策を練っていなかったのか?

イッセーの話だと、凄い優秀なお嬢様らしいが……これ、結構へっぽこじゃね?

いくらなんでも、本人を前にへっぽこ呼ばわりは失礼になるから黙っているが。

 

「も、勿論そんなことがあっていいわけが無いわ!

 今度、そう今度のゴールデンウィークよ! これならいいでしょ!?」

 

「それなら皆大丈夫だと思いますが。幸い、試合はゴールデンウィーク明けみたいですし。

 ところで……合宿先って、俺の実体化、できますかね?」

 

一瞬の沈黙が流れる。あのーもしもし? ちょっと嫌な予感がするんですけど。

まさかあれだけ俺に出ろ出ろ言っておいて、その対策ができない……

なんてオチ、あるわけないですよねぇ?

……いやしかし、さっきのボロの出方を見ると、ありえないがありえるかもしれない……

 

「が、合宿の宿泊先は私の別荘だから大丈夫に決まってるじゃない!」

 

「……別荘の屋内で実戦演習するんですか?」

 

そして、作戦を立てていた俺たちの間に再び沈黙が流れた。

……俺は性質上、実体化できなくてもイッセーのセコンドとして戦える。

だが、夜や特殊な場所――結界の中等――では実体化もできる。つまり、戦術の幅が広がる。

部長に曰く、本番は特殊な空間で行われるため、一応実体化は可能らしいとのこと。

それなのに、俺が実体化しての訓練が満足に行えないと言うのは……

 

「あらあら。そんなことしたら、お掃除が大変ですわねぇ」

 

「……グレモリー部長、ちょっと」

 

「わかった、わかったわよ……セージの特訓メニューについてはまた別個考えておくわよ……

 そういうわけだからセージ、今日はイッセーのところに戻りなさい」

 

こうして、俺は一抹の不安を抱えながらイッセーの元に戻ることにした。

あの様子じゃ、俺は別荘の屋内ではこのオカ研の部室同様、自由に実体化が出来る。

しかしその外じゃ今までどおり夜にしか実体化出来ない、ようだ。

 

昼は座学にシミュレーションにイメトレ、夜に実戦訓練、か。

俺ひとりならそれでもいいが、他の連中はそういうわけにも行かないだろうに。

どうするつもりなんだか。

 

まあとりあえず、当日を待つことにしよう。

そしてこの情報を、イッセーに持ち帰らないと。

 

――尚、非常に気まずいタイミングだったので結局またしても戻るに戻れず

旧校舎にも戻れないので、俺は再び橋の下で寝ることになった。

 

……もう橋の下が住所でいいんじゃないかな。

 

その後何度かイッセーの家の様子を見に行ったが

ある時はイッセーが入浴中のアーシアさんに突撃を試みていたり

またある時はアーシアさんがイッセーを押し倒していたり……

……アーシアさんて、意外と肝は据わっているよなぁ。

 

つまりそんなわけで、橋の下や公園のベンチで寝泊りしていた。

公園のベンチと言えば、あれからあの黒猫は見ていない。

やはりあれ、野良だったのだろうか。

 

――――

 

合宿の日の朝。イッセーの家に向かうと既にイッセーもアーシアさんも出発した後であった。

まずい。出遅れた。場所を知っていれば先回りなど色々できるのだが、俺は場所を知らない。

仕方なく適当に漂っていると、町外れの山道に学生の集団が見えた。あれか。

思ったより近場なんだな。まあ、電車移動とかされたら完全にアウトだったわけだが。

 

しかしここで問題発生。合流できたのはいいが、俺は日中実体化出来ない。

イッセーだけは俺が見えるようだが、そのイッセーはとても俺を発見できる状態じゃない。

声を上げるのも考えたが、声はすれども姿が見えず状態だ。

仕方ない。このまま漂って、目的地が絞れた段階で先回りするか……はぁ。

魔力でカモフラージュされていたようだが、元々霊魂の俺には「見える」ので無意味。

玄関の扉を開けるのは無理だったので、結界の隙間を縫うように中に先回りしたのだ。

 

――数時間後。少し待ちくたびれたところで別荘の玄関の扉が開く。

皆涼しげな顔をしているが、一人イッセーだけがヘトヘトだ。

だから、さっき俺は声をかけるのを躊躇ったのだが。

 

「やあ、お待ちしておりましたよ。駒王学園オカルト研究部の皆様」

 

「え? セージ? あれ? なんであなた――あ」

 

「明け方、イッセーの家に行きましたがイッセーもアーシアさんも既におらず。

 俺はグレモリー家の別荘としか場所を聞いていなかったので、苦労しましたよ」

 

おいおい。マジで俺スルーされたのか……あれだけ出ろ出ろ言っておいて何なんだよこれ。

普通こういうのって、予め集合時間と場所を決めるものじゃないのかよ。

 

「し、仕方ないじゃない! イッセーに憑いているものとばかり思っていたもの!」

 

「――はぁ。あのですね、年頃の男女が同居している場所に何食わぬ顔で漂ってられるほど

 俺はメンタル図太くないんですよ。俺の見た限りじゃこの二人いい感じだから余計ですよ。

 そうなりゃ、俺は旧校舎を使うか野宿するかしかないわけで。馬には蹴られたくないんですよ」

 

「そういえばセージくん、このところ野宿が多いって言ってたね……」

 

「……ホームレス高校生」

 

まさかとは思うが、この辺を見越せずにイッセーとアーシアさんの同居を画策したのか?

だとしたらあまりにもガキすぎるぞ、高校生としては。

結構イヤミを込めているが、後ろでアーシアさんが顔を赤くしていた。

あー、うん。そう言う意味にしか取れないよね。そう言う意味で言ってるけど。

 

「と、とにかく動きやすい格好に着替えるわよ。みんな、準備なさい」

 

「イッセーくん、僕も着替えてくるけど……覗かないでね?」

 

「部長ならともかく、何でお前のを覗かなきゃいけないんだよ!

 あ、そうだセージ、折行って頼みが――」

 

「嫌だ。無理。断る。好きなの選べ」

 

「……ま、まだ何も言ってねぇのに」

 

お前、それで松田や元浜と一緒に何度しばかれたと思ってるんだ?

と言うか、それマジで犯罪だからやめろっての。

さる有名なコメディアンが芸能人生破滅させる程度にはヤバイぞ。

あれはまた別の要因があった気もするが。

 

さて。全く俺の実体化対策とか出来てない状態で、オカ研の特訓が始まるのだった。




ピコーン

※セージのリアスに対する評価が「へっぽこ」になりました。


何で鳴り物入りで登場した1巻と
時系列的にもそれほど経過して無い2巻でこうも落差激しいのだろう>リアス
試しに無能姫でggったら小さいながらも取り上げられていましたね……
某所ではフォローはされてましたけどこの凋落ぶりはいわばヤm……げふんげふん

今は某Gレコの方が有名らしいですね>無能姫


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Soul15. 特訓、始めます!

今回、知る人ぞ知るあの伝説の特訓が行われます。


レーなんたらゲームを控えた俺たち駒王学園オカルト研究部は

部長であるリアス・グレモリーの別荘に来て泊まり込みの特訓を行うことになった。

ついこの間入ったばかりのアーシア・アルジェントさんも同じく、だ。

 

で、俺こと歩藤誠二は生霊であるため、日中は実体化しての活動ができない。

仕方なく、俺は憑依先であるイッセーこと兵藤一誠に憑依し

同時進行で講義を受けることになった。

 

……実戦形式で。

 

 

――Lesson1. 木場との剣術修行

 

 

まずは木場との剣術修行だ。さすがに真剣ではなく、木刀を用いての訓練ではあるが。

さて、結論から言うと――イッセーが力みすぎている。

これでは当たるものも当たらない。俺が口出しすると修行にならないとのことなので

さっきから俺はだんまりである。結構、じれったいものがある。

 

「さて。セージくん、君から見てどうだい?」

 

『悪いが、イッセーにあと十日未満で剣術のイロハを叩き込むのは無理だろうな。

 少なくとも木場の技術を優先した剣術は、こいつには向かない』

 

「そ、そこまで言わなくたってもいいじゃねぇかセージ……」

 

向き不向きの問題だ、とフォローを付け加える。同じ剣術でも、コイツの場合

気迫で押す示現流とか向いてるんじゃないか? 薩摩藩で起きたと言うアレだ。

最も、俺も剣術に関してはど素人なのでなんとも言えんのだが。

 

「なるほど。力押しなら方向性はありだろうけど……それを当てられないと意味がないよ?」

 

『ああ、だからせめて動きについていくのは必修科目になるだろうな。俺のカード抜きで。

 勿論、それは俺にも言えることなんだが……』

 

いつの間にか完全にアドバイザーになっている。俺も特訓しなくていいのか?

俺の場合、情報処理能力を上げて前線指揮を取るってのもアリっちゃアリなんだろうが。

おあつらえ向きとばかりに能力には不自由してない。

アナライズやレーダー、イッセーという防壁。そうしてくれと言わんばかりだ。

 

「それじゃあ、方向性を変えようか。とにかくこの特訓期間中に、僕に一撃でも当てること。

 これを最低ラインとしようか、イッセーくん」

 

『わかってると思うがこれは最低ライン、つまり赤点ギリギリだぞ?

 逆に合格点は木場から一本をとること、だな』

 

「ひ、他人事みたいに言うなセージ……」

 

他人事だよ。少なくとも今はな。

と言うか、お前がその調子だと俺は枕を高くして寝られないんだ。

なんとか頑張ってくれ。なんたらゲームは勝とうが負けようがどうでもいいが

これだけのことをやって成果が出ないのもそれはそれで癪だ。

 

――最も、今日はまだ一本どころか木場の動きを目で追うことすらできない様子だったが。

ちなみに俺は一応目で追えてはいるが、防御など迎撃態勢をまるっきり取らない状態で、だ。

これじゃあちょっと使い物になるとは言い難い。

俺の方も、一応特訓に付き合っているんだがなぁ。

 

 

――Lesson2. 姫島先輩との魔力修行

 

 

続いて、姫島先輩主導のもとで魔力錬成の特訓なんだが……

これは屋内で行われているため、俺もようやく実体化しての参加ができる。

しかし、喜んだのも束の間。これまた結論から言おう――俺これやる必要あるのか?

 

何せ俺の実体化は全て魔力で補っている。先輩に曰く「魔力はイメージ」らしいのだが

俺はそもそもイメージでこの姿形を得たんだが。なので、俺は緑色の魔力の玉を出している

アーシアさんや、一向に変化の見られないイッセーを尻目に魔力玉でお手玉を始めている。

 

「あらあら。セージくんにはこれじゃ物足りなさそうですわね。

 それじゃ、今イッセーくんから面白いアイデアを貰ったんですけど……

 こういうのはどうかしら?」

 

そう言うなり姫島先輩が俺の耳元にそっと話しかけてくる。

あの、息がこそばゆいんですけど。

 

妙にドギマギしてしまう先輩の話しぶりではあったものの、その内容は実に興味深いものだった。

よし、これを会得すれば俺の戦術はさらに幅が広がる。

俺はイッセーほど瞬発力には長けてないし、その他もイッセーとほぼ互角。

差があるとすれば魔力くらいだ。実戦経験なんて言わずもがな。

それを補うならば、手数と作戦考案力だ。

 

「それじゃ、セージくんにはこれをお願いしようかしら。もちろん魔力で」

 

「何すかこれ……木の枝やら石ころやら」

 

おもむろに俺の目の前によこされたのは、外に出ればいくらでも取れるような木の枝や石ころ。

これを一体どうしろと?

 

「さっきもお話しましたけど、魔力はイメージですわ。

 イッセーくんには魔力で野菜の皮むきをお願いしましたけど

 セージくんはこれを、何か別のものに変えていただきたいの。ものは木の枝や石でなくても

 水道のお水でも結構ですわ。『これだ』と思ったものを、念じてみてくださいな。

 セージくんなら出来ますわ。うふふ」

 

イメージ……イメージねぇ。確かに記録再生大図鑑どころか俺自身がイメージの産物だが。

で、この木の枝や石ころ相手にイメージを膨らませる、と。魔力も重ねつつ。

むう、これはさっきの木場の特訓よりもキツいカリキュラムかも。

褒めて難問を吹っかける、姫島先輩の本領発揮といったところだろうか。

 

ま、期待されているならやりますか。とりあえずは木の枝からだ。むむむ……。

 

 

――Lesson3. 塔城さんとの組み手

 

 

魔力修行はちょっと侮っていたかもしれない。

何せ、頭をフル回転させるためブドウ糖が欲しくなる。

最近思ったのだが、どうも俺は甘党らしい。だがこんな場所に菓子がある訳もなく。

やむなく水でごまかしている。ああ、せめてこの水をスポーツドリンクに出来たらいいのに。

 

……ん? 今何かひらめいたような、ひらめかなかったような?

 

さて、それはさておき。続いては塔城さんとの組手。

曰く、打撃は相手の体の中心線を狙って打つ。

なのだが、相手が小さいと狙いにくいんじゃないか?

こういう場合、俺なら質量のある武器を思いっきり叩きつけるか

リーチで優位に立てるのを活用するか。

どっちの案も、相手と互角以上の力がないと作戦としては成り立たないが。

 

――で、イッセーはと言うと……数えるのも嫌になるくらい吹っ飛ばされている。

中にいる俺が酔うくらいだ。今回も木場の時同様、口出しは無用である。

と言うか、さっきから吹っ飛ばされすぎてこっちにもダメージが回ってきた。

あれ? 俺殴られ損じゃね? おいイッセー、少しはガード……は無謀だから避けろ。

おもに俺がやばい。

 

何度かイッセーが木に叩きつけられたあたりで、俺の方にこみ上げてくるものを感じた。

これ、は……っぷ。なんとかイッセーに伝えて、この場を離れないと……うぷ。

 

『わ、悪い、イッセー……俺、かなり……吐きそう』

 

「え? ちょっ、セージ! 俺の中で吐くな! 影響はないかもしれないけど気分的に嫌だ!

 ちょっ、小猫ちゃん! タンマ! タンマ!」

 

「……待ったなしです。次行きます」

 

狼狽えるイッセーに、無情にも塔城さんの掌打が入り。

イッセー諸共吹っ飛んだ俺は、吹っ飛ばされて薄れゆく意識の中。

イッセーの心の中に広がるオカ研の部室の床に――

 

盛大にリバースした。

 

『……うえっ。す、すまん、イッセー……』

 

「ぶ、物理的に汚れてないとは言え……俺の中でゲロ吐かれるとは思わなかったぜ……」

 

マジでごめんイッセー。俺もまさかこうなるとは思わなかったんだ。

ま、まあ実戦でなくて良かったってことに……してもいいよな?

 

と、思った矢先鳩尾に戦車の鉄拳が入り――

二発目のリバースをかました。もう出すものないってのに、だ。

 

 

――Lesson4. グレモリー部長とヒ・ミ・ツの特訓

 

 

リバースの後遺症から戻るやいなや、続いてはいよいよグレモリー部長によるトレーニング。

あれ? これ毎朝やってなかったっけか?

 

「バカだなセージ。ここまで来て同じ内容をやるわけがないだろ。

 きっとグレードアップしてるんだぜ! 今から楽しみだ!」

 

あーはいはいそうですか。あれでさらに上となると……

俺はヘラヘラしているイッセーを尻目に、あらぬ想像が頭をよぎった。

 

ここは山道。しかもさっき吹っ飛ばされている途中で見たが、遠くに採石場が見えた。

しかも、ここはグレモリー部長の私有地らしいじゃないか。

確か私有地で関係者以外立ち入り禁止の場所では運転免許なくても車が運転できる――つまり。

 

あの伝説のスチールボールパンチや、ジープとの激しい戦い(生身)が行われるのではないかと。

往年のヒーローは皆こうして特訓をしたらしいが……い、いや、まさかね。

俺は不安をぬぐい去るように、冗談めかしてイッセーに話を振る。

 

『イッセー。こんな話を知っているか。さる有名なヒーローは、負けたとき特訓と称して

 真冬の滝を斬ろうとしたり、生身の状態で走ってくるジープに向かったりしたそうだ。

 そしてさらに別のヒーローは、重さ数トンのクレーン鉄球をパンチで打ち返す特訓をしたり

 先輩ヒーローがこぞって特訓という名の集団リンチを仕掛けたり……』

 

「そ、そんな時代錯誤な特訓を部長がするわけ……」

 

「あら、いい案ね。セージ、もっと詳しく教えてちょうだい」

 

嘘から出た誠、瓢箪から駒とはまさにこのことか。いや、これはヤブをつついて蛇を出したか。

あー、マジですまんイッセー。これなんたらゲームの前にお前、死ぬかも。

そして意気揚々とジープをどこからともなく引っ張り出してきた部長は当然――運転していた。

それも、俺たちに向かって。

 

「部長! やめてください! 部長ぉぉぉぉ!!」

 

「イッセー! 逃げてはダメ! ちゃんと向かってきなさい!!」

 

向こうは普通にスピードを出している車。

こっちはいくら悪魔とはいえ、相手の殺気が生身とは桁違いだ。

そりゃあ全速力で逃げるってもんだ。

 

イッセーも部長の理不尽な檄に対して、健気に立ち向かおうとするが

相手が悪すぎる。あの獅子座の王子でさえ逃げ腰になった伝説の修行だ。

イッセー、これ逃げていいぞ、マジで。

 

俺はと言うと、これジープじゃなくてトラックだったら撥ねられたら

胡散臭い神様が目の前にいて、わけのわからない力を寄越されて

どっか別の世界に転生させられるんじゃないかとか

巷で有名なあの猫の妖怪は生前は普通の猫であったからして、今俺が撥ねられても

妖怪にはならないだろうなあ、とか現実逃避していた。

 

あ、やばい。イッセー、今バンパー当たったぞ。勿論俺も痛い。

うん、これ絶対撥ねられてるよね。やはり、グレモリー部長の特訓が一番ハードであった。

最も、半分以上俺のせいって気がするが。

 

 

――Half time.

 

 

ジープ特訓のショックの後、晩飯タイムでようやくイッセーは立ち直った。

俺の方も消耗した分を取り戻すのに食事はありがたかった。

作ったのは姫島先輩らしい。俺? 無理言うな。いくら作れるとは言え

そこまでやったら死ぬ。除霊される。成仏できずに消滅する。

 

皆すごい勢いで食べている。特に塔城さん。本当によく食べるなぁ。

どこに入っているのか、とか考えるのはやめておこう。触れてはいけない領域だ。

向こうでイッセーに何か訴えている目をしているのは……アーシアさんか。

 

まあ彼女、今回は魔力修行以外はちと影薄いな。メインはイッセーの地力向上だから

そっちに重みが行くのは仕方ないとは言え。この際、料理修行とかしたらどうだろうか。

……っとそういえば、スープはアーシアさん製だっけ。

 

で、イッセー。あれだけアーシアさんとひとつ屋根の下なのになんの進展も無いのか?

いや、あってもそれはそれでリアクションに困るが、何もないのも不自然だぞ?

まあ、他人のことに首突っ込むのも野暮極まりないので、今は深く追求するのはよそう。

 

……とはいえこれが、後々変なしこりにならなきゃいいんだが。

 

「食事を終えたらお風呂に入る? 露天風呂だから素敵よ。

 本当は温泉にしたかったのだけど、ここ温泉は出ないのよ。残念だけど」

 

グレモリー部長の一言。そりゃそうだ。温泉だって元は地球から掘ってるものだ。

言うなれば石油とある意味近いものがある。掘り当てれば大儲けという点もあわせて。

そもそも、温泉が出ているなら駒王町自体が温泉宿の街になっているはずだ。

それくらい、温泉というのは特殊性のあるものだ。

スーパー銭湯? ありゃまた話が違うと思うが。

 

で、露天風呂と聞いて一人はしゃいでるのが――またお前か。

 

「僕は覗かないよ、イッセーくん」

 

「右に同じく。俺はブタ箱に好き好んでいく趣味は無いからな。

 ブタ箱に行きたきゃお前ひとりで行け、イッセー」

 

「……俺にもねぇよ。つか、それだけの事で大げさすぎるだろ」

 

今のイッセーの不躾な言葉にカチンと来た俺はご丁寧に記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動。

調べる内容は決まっている。それは――

 

曰く、軽犯罪法第一条二十三号。

『正当な理由なく通常衣服を着けずにいるような場所を密かに覗きみた者は

 これを拘留または科料に処す』だそうだ。

 

ここまではっきりと法に触れていると突きつけたので、止めの一言を加えておく。

 

「あ、これ日本の法律で、未成年でも普通に警察の世話になるからな。

 要は、俺らがタバコ吸ったり酒飲んだりするのと同じ。立派な犯罪だ。

 しかも酒やタバコは二十歳で解禁されるが、覗きは仮に覗かれた側が

 訴えないと言っても、罪として成立するからな。

 非親告罪ってのはそういうものだ」

 

「セージ、ちょっと硬すぎるわよ。前にも言ったけど、イッセーを見習えとまでは言わないけど

 もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃない?」

 

「もしよろしければ、マッサージしてあげましょうか? うふふ」

 

……くっ。ここは男も女もエロ猿ばかりか! 姫島先輩、下手したらそれセクハラですよ。

これ、セクハラだってはっきり言うべきなのか? ある意味、イッセーより生々しい。

一瞬イッセーが恨めしそうな目線をこちらに向けてきたので、腹いせもかねて睨み返す。

 

「わかった、わかったって! けど正当な理由ならあるだろうが!」

 

「……どんな理由ですか」

 

ほれ見たことか。塔城さんが冷ややかな目で見てるぞ。

しかしちょっと皆さんこのバカに対する態度が甘くないですかねぇ?

正直、あの剣道部の……誰だっけ。まあいいや。あの子ら程とは言わないにせよ

相応の罰は与えて然るべきだと思うのだけど。俺がおかしいのかな。

でも罪と罰は切っても切れない関係にあると思うんですよ。

 

「ま、そういうわけだから諦めてちょうだい。残念ねイッセー」

 

「夜這いならお待ちしてますわよ?」

 

「そう思うなら、あまりこいつをからかわないでやってくれませんかね。特に姫島先輩。

 ほらこいつ、頭の線が直線だからすぐ本気にするんですよ」

 

「おいセージ! そりゃどういう意味だよ!?」

 

思った通りに俺に食ってかかるイッセー。そうやってキレるのは認めてる証拠だぞ?

適当にあしらおうと考えつつお茶を飲んでいると、グレモリー部長から思わぬ提案が来る。

 

「はいはい怒らないの。セージもちょっと言葉が悪いわよ。

 イッセー、そんなにセージが気に入らないなら、後で模擬戦をしてみるのはどうかしら?」

 

模擬戦か。考えてみれば同期同士なんだし、実力の差はそれほど無い……よな?

俺は異議なしとばかりに二つ返事を返す。イッセーも同意見らしい。

 

「ああ、ちょっと宮本の方のセージにも言おうと思ってた事なんだが

 お前はどうにも嫌味ったらしいからな。ここらで一発殴りたいと思ってたところだ!」

 

「おうよ、やれるもんならやってみろ。俺ひとり倒せないくらいじゃ

 なんたらゲームで勝つことはおろか、この特訓でも生き残れやしないからな」

 

思わずイッセーに対し火花を散らしてしまう。むう、俺も結構頭に血がのぼりやすい。

今はまだ演習だからいいものの、これが実戦だったらマズい。これは俺の改善点か。

落ち着かせるために周りに気を配ると、興味なさげに食後のデザートを頬張っている塔城さん。

先を越されたか、と呟いている木場。いつもどおりの笑顔の姫島先輩。

おや? アーシアさんは……?

 

「ふ、二人ともやめてくださいっ! 喧嘩はダメですっ!」

 

あ。まあ、そう映るか。イッセーの方はともかく、俺は喧嘩ってつもりは全くなかった。

しかしそう言ってるのはアーシアさんだけで、他は皆生暖かく見守っているような様子だ。

 

「いいのよアーシア。イッセーには酷だけど、セージが言ってるのは本当のことよ。

 セージだってそこは分かっていて、敢えてイッセーを焚きつけてるのよ」

 

部長。それは買いかぶりすぎです。焚きつけてるのは半分本当ですが。

とりあえず、イッセーは今日の訓練で相当ボロボロにされている。

恐らくプライドの類もズタズタだろう。

 

最も、今の力量で変なプライドをつけるとそれはそれでマズいが。

 

とにかく。ここでイッセーに己の実力を再確認してもらうのと、俺自身の力を知りたい。

万が一、イッセーが折れてしまったとしたら――

 

――ドライグには悪いが、イッセーはそこまでだ。

一応、そうなった場合のことも考えておくべきか。

 

「それじゃ、休憩の後イッセーとセージは模擬戦。

 ただし、初日から飛ばすわけには行かないわ。イッセーは倍加を3回まで。

 セージはカードを2枚まで。それが条件よ。

 それを破ったらその場で模擬戦は中止。破った方の負けよ。負けた方はお風呂の準備ね」

 

「了解っす! 相手がセージならまだ勝ち目はあるぜ!

 それにお前のカードもたった2枚なら勝てる!」

 

「吠えてろ。ドライグ頼りだけじゃ俺には勝てないってことを教えてやるよ。

 それに、俺は確かにカードは2枚しか使えないが……

 どのカードを使ってくるか、お前に読めるかな?」

 

ルールが決まっているなら、逆に作戦は練りやすい。

イッセーの特訓を全て黒星にしてやるか、あるいは俺が一泡吹かされるか。

どちらにしても面白い。イッセーとは一度やり合ってみたかったってのもある。

 

「イッセーくんもセージくんも、頑張ってくださいね」

 

「それじゃ、今日は僕は君たちの戦いぶりを見学させてもらおうかな」

 

「……セージ先輩、このエロ先輩にきっついお仕置きをお願いします」

 

ギャラリーの応援は微妙に俺が勝ってるみたいだ。

ここは日頃の行い……っつっても、俺日頃の行いってほど、外で活動してなかったや。

まあ、日頃の行いがイッセーより悪いなんてことはありえないと断言できる。

いくら住所不定でも、犯罪には手染めてない……はずだ。多分。恐らく。

 

お茶を飲み終え、ひと呼吸置いたあたりに

グレモリー部長の号令がかかり、俺達は別荘の外に出た。




ようやく(あるいはもう?)イッセーVSセージのカードが組まれました。
一巻部分のラスト? あんなのノーカンですしおすし。


さて、特訓と言えば私的にはこれを入れざるを得ませんでした。




   ジ   ー   プ   !   !




ヒーローヲタクらしく、鉄球クレーンパンチ(仮面ライダーV3)や
先輩ヒーローリンチ(スカイライダー)など特訓シーンについて触れてます。
滝を斬る、はジープと同じくウルトラマンレオが元ネタです。
こうしてみると昭和ヒーロー放映時はスポ根全盛期とは言え
ぶっ飛んだメニュー多いですよね……



……え? バッティングセンターでスピードボールの数字を当てる特訓?
いえ、知らない子ですね(すっとぼけ


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Soul16. 模擬戦、二つの赤龍帝!

前回投稿時点でUA1万オーバーと
お気に入り登録数50オーバーを達成してましたね。
今更ですがありがとうございます。


日が沈み、月が空を照らす頃。駒王町の外れの山奥にある

グレモリー家の別荘前。ここで俺、歩藤誠二と兵藤一誠の模擬戦が始まる。

夜の冷たい空気の中、グレモリー部長のルールを読み上げる声が響き渡る。

 

「もう一度ルールを確認するわ。イッセーは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の倍加を3回まで。

 セージは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のカードを2枚まで。それぞれ使用可能よ。

 それを破った時点で破った方の負け。それ以外はギブアップか、ダウンした方の負けよ」

 

「赤龍帝の籠手の性質上、30、いや20秒経った時点で勝負は大きく動くだろうね。

 セージくんが、どう手札を使うかが全く読めないけれど」

 

向かい合う俺たちと、それを見守るオカ研のメンバー。

ここで、ふと気になったことがあったのでグレモリー部長に確認を取る。

 

「グレモリー部長。万が一、俺の方で新しいカードが記録された場合

 それは使えますか?」

 

「極力実戦に即した形にしたいから、本当はOKを出したいところだけれど

 出しちゃうとイッセーが不利になりすぎるわ。今回は諦めてちょうだい。

 それ以外のルールは、特に問わないわ。なるべく実戦に近いものにしたいもの」

 

「げっ、それって俺の方がハンデもらってるってことじゃないっすか!

 こうなったら、何が何でも勝ってやる! 覚悟しろよセージ!」

 

まあ、勝負の公平性を保つためには仕方ないか。

取りようによってはこの神器、トランプのジョーカーみたいなもんだし。

ジョーカーは1枚だけだからゲームが成り立つんだ。

そんなことを考えていると、グレモリー部長が右手を高く掲げる。合図か。

 

「それじゃ二人とも……はじめっ!!」

 

BOOST!!

BOOST!!

 

怒号とともにグレモリー部長の右手が振り下ろされる。ゴングは鳴った!

案の定、イッセーはこっちに突っ込んできている。奴の左手には赤龍帝の籠手。

俺の右手にも、龍帝の義肢(イミテーション・ギア)が装着されている。しかし単純なパワーでは、恐らく競り負ける。

こっちは言わばドライグの分霊、向こうは本体。その差は大きい。

 

ならば、相手の動きを利用するか。向こうはその性質上、左手による攻撃に頼らざるを得ない。

つまり、右手はおろか両足もヘタをすればがら空きだ。そこを狙う!

そしてこっちは倍加は今の1回のみ、向こうはあと2回残している。そうなれば不利だ。

後20秒、最低でも10秒以内にこっちのペースに持ち込まないと

勝つのは難しいかもしれない。

 

「おりゃあああっ!!」

 

案の定、左ストレートが飛んできた。屈むか?

いや、俺はイッセーより背が高いからその作戦は不利だ。

左に避けるか? いや、左だとストレートがフックに派生するかもしれない。

ならば――

 

俺は右に避けた。こちらなら次の攻撃の派生は精々裏拳。

ダメージは受けたとしても、立て直せる範囲だ。

向こうががら空きになってくれれば、こっちの攻撃がかけやすい。

しかし、事態は思わぬ展開を迎えた。

 

「甘いぜ、そっちか!」

「ぐっ!?」

 

左肘が飛んできたのだ。

しまった。確かにこっちのほうが相手にダメージを与えるには良策か、ぬかった。

すかさずガードしたものの、やはり少し痛い。思ったよりはやるじゃないか、イッセー。

それに、俺もただ殴られっぱなしなのは気に入らない。

意趣返しとばかりに、俺はすかさずイッセーに足払いをかけようとする。

 

「ふんっ!」

「おわっと!」

 

――ダメだ、躱された。

側面をとっているので不意は突きやすかったが横跳びの要領でよけられてしまう。

しかも、イッセーはこっちに向き直している。一発殴られた分こっちが劣勢か。

 

BOOST!!

 

何っ!? もう10秒経ったのか! これで向こうは4倍になっている。

以前レイナーレと戦った時とそう大差ない実力だろうとは思うが、この慢心がマズい。

 

やはり、こっちも出し惜しみは出来ない。そろそろ手札を切るべきか。

そうなれば手札のうち武器と補強、どちらにするか。

武器は一時的には優位に立てるかもしれないが、紛失が怖い。

それに、俺自身の能力は据え置きだ。そもそも、武器を出したところで

今の俺ではその後の攻撃が単調になる恐れがある。そうなるとマズい。

そう、俺が今引くべき手札はもう決まっていたようなものだった。

 

だが問題は――力と速さ、どっちで攻める?

いずれも使えば今日の特訓を見る限りでは圧倒的優位に立てる。

 

木場には追いついていなかった。

塔城さんには競り負けていた。

 

――いや、何を悩むことがあるんだ。今はまだ相手の倍加は4倍状態。

まだ、こっちで応対できるはず!

 

BOOT!! EFFECT-STRENGTH!!

 

「へへっ、ようやくカードを引いたな、セージ!

 けど、お前のカードは制限時間付き、こっちは一度倍加を止めてしまえばほぼ無制限。

 悪いが、短期決戦なんてさせないぜ!」

 

「バカが。誰が短期決戦を仕掛けるって言ったよ……ぬおおおおっ!!」

 

俺はおもむろに大きめの岩を見繕い、イッセーめがけてぶん投げる。

普段の俺なら一苦労な代物だが、今の俺ならばできる。

なにせ引いたのは――力のカード。岩をぶん投げるなど、造作もない。

 

「うおっ!? こ、こけおどしかよ。びっくりさせやがって!」

 

これもイッセーに決定打を与えるつもりで投げたわけではない。

案の定、岩はイッセーの左手にあっさりと砕かれている。

 

――だが、それこそが俺の狙い。

 

RESET!!

 

「えっ!? あ、あれで使っちまったのか!?」

 

「切り札には使いどきってもんがあるんだよ。

 さて……これでこっちが圧倒的優位にたったな。どうする?」

 

もし、イッセーの地力がもう少し強ければ今の作戦は失敗だっただろう。

だが、今のイッセーでは、大岩ひとつ砕くのに

赤龍帝の籠手の4倍モードの力を必要とするようだ。

あとは、悪いがこの状態では競り勝つのは容易。ならば。

 

――ぶっつけ本番だが、この程度の博打なら損はしまい。

  例え鱗一枚分でも、お前とて本物から生まれたものだろう、龍帝の義肢!

 

RELOCATION!!

 

俺の龍帝の義肢。その義肢と言う文字からもしやと思ったが、案の定。

今俺の右手は普通の素手。では龍帝の義肢はどこか。答えは――

 

「セージくんの龍帝の義肢が、右足に移ってる!?」

 

「なるほど。任意に具現化できる場所を変えられるタイプなのね、右手は」

 

思ったとおり、成功だ。構造上、左手には移せないようだが

その他の場所なら粗方移せるようだ。義肢と聞いてパッと思いついたのは義手と義足。

俺の龍帝の義肢は、イメージどおりに動いてくれたことになる。

この手の装備は手か足が一番使いやすい。

 

同時に二箇所以上と言うのはどうも無理みたいだが、これで十分。

悪いなイッセー。今はまだ、お前は俺には勝てないよ!

 

「――はっ!!」

 

右足に力を込め、大地を蹴り土埃をあげる。

蹴られた大地にはクレーターが出来上がっている。

もし俺の力がもっと強ければ、さらにでかいクレーターになっていたかもしれない。

 

「うわっ!? ま、まるで昼間の部長のジープだな!?」

「ちっ、避けられたか。初見で回避成功とは、一応褒めてやるよ」

 

その勢いで俺はイッセーめがけて突撃したが、ギリギリで躱されてしまう。

なんと、こんなところでジープ特訓の成果が出てるとはね。こいつ結構飲み込み早い?

 

BOOST!!

 

右足を地面に擦りつけるようにしてブレーキをかける。火花を散らしながら制動に成功すると

イッセーの方も再度の倍加を始めていた。

 

「私が禁止したのはあくまで4回分以上よ!

 イッセー、まだ制限には引っかかってないわ!」

 

「了解っす! セージ、もう一勝負行こうぜ!」

 

やれやれ。これ以上は勝負を長引かせたくないんだが。

こっちはもう残り1枚しかカード使えないってのに。

今の一撃も、不意をつくならばいいが動きが直線過ぎて躱されやすい。

さて、今こっちの手札は……右足の力倍加中。力のカード使用中。

ならば……今度はこれだ!

 

「そうだな。やるからには勝つ、それが俺の主義だ。

 行くぞイッセー、お次はこれだ!!」

 

俺はおもむろに右足を地面に叩きつける。

傍から見ると地団駄を踏んでいるようで見てくれは悪いが――

 

「こ、これは……」

 

「きゃっ!? な、な、何ですか!?」

 

「じ、地震!? まさか、セージが起こしてるの!?」

 

「あらあら。魔法じゃありませんけど、地震を起こせるなんてセージくんもやりますわね」

 

そう。強力な力で地面を叩きつけ、揺らしている。

悪魔は飛べるからあまり効果はないが、イッセーはあまり飛ばないことを俺は知っている。

正直、この街の人に申し訳ないし、向こうが態勢を崩したらこれは止めよう。

攻撃範囲が広すぎて被害が不用意に大きくなりかねない。

 

「おわっ!? そ、そんなんアリかよっ……ととっ、うわっ!?」

 

BOOST!!

 

よし、体制を崩したな。倍加されたが、イッセーは見事にすっ転んでいる。

あとはこっちがとどめの一撃を――

 

RESET!!

 

あ、しまった。攻めることとカードの残り枚数だけ考えていて

龍帝の義肢そのものの特性を失念していたとは。

元々赤龍帝の籠手の下位互換である以上

倍加した力を使えばカラになるのは当たり前じゃないか……。

チッ、何でこんな事を失念してたんだ、全く!

 

……おまけにカードの効果も切れたみたいだ。これは――マズい。

これでこっちの倍加まで待っていたら、向こうは8倍の状態になる。

もう力のカードは無い。真っ向勝負だけは避けたい。

 

こうなったら攪乱作戦しかないか。ここで武器を出してもあまり効果があるとは思えない。

一応、相打ち覚悟で仕掛けられる武器もあるにはある。が……

 

……オーバーキルはまずいかもしれない。いくらアーシアさんがいるとはいえ。

 

「とととっ、危ないところだったぜ。

 けれど、相手の弱点知ってるのはお前だけじゃないんだぜ!」

 

「む? お、お前、まさか!?」

 

言うや、イッセーは俺の懐に飛び込んでくる。

迎撃のために膝蹴りをかますが、その寸前で――

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

俺のカードを抜かれてしまう。しまった、これが狙いか!

そういや、初めてこの連携を使ったときも、発案はお前だったな!

 

「2枚は2枚ね。セージ、これ以降カードの使用は禁止よ」

 

「いてて……へへっ、この作戦の発案者も俺だからな!」

 

「……ま、仕方ありませんな。

 しかし、まだ負けたわけではない。そこを忘れるなよ?」

 

……なるほど、これで俺はもうカードを使えなくなったな。

だがイッセー。お前肝心なこと忘れてるぞ?

 

それは……記録再生大図鑑は、俺の神器だってことだ!

そして模擬戦の決着を促すかのように、互いの赤龍帝は倍加を告げる。

 

BOOST!!

BOOST!!

 

「今度はイッセーね。そこでストップをかけなさい。それ以上の倍加は禁止よ」

「了解っす!」

 

EXPLOSION!!

 

イッセーは倍加ストップがかかり、俺はもうカードは使えない。

勝手にカードを使われたため、作戦に少々ズレが生じたが。

なに、修正は可能だ。

 

「俺のペースを崩していい気になってるのかもしれないが……

 もう少しハズレ札を引いておけばよかったな」

 

「へっ、言ってろよセージ! それじゃ今度こそ行くぜ! 赤龍帝の籠手!!」

 

そう。作戦の変更はいくらでも可能だったりする。

俺の記録再生大図鑑も、龍帝の義肢も、フレキシブルな運用が可能だ。

本来は倍加+力のカードによるコンボで競り勝つつもりだったが、それができない今。

右足に倍加の能力があり、今は加速のカード。これでも十分コンボになる。

あとは……うまく攪乱さえ出来れば!

 

思ったとおり、倍加は今のところの最大級ではあるものの

今のイッセーにはそれを狙って当てる技術がない。

そもそもお前、昼間木場に一撃も当てられなかったじゃないか。

 

ここは少しスピードで攪乱出来れば、十分逆転できる。

右足の脚力を活用し、反撃を加えながら逆にイッセーを追い詰める!

 

「く、くそっ! 何で当たらないんだよ!」

 

「……アホか。お前がさっき引いたのは加速のカードだろうが。

 着眼点はよかった。俺の戦術の要はこの左手にあるといっても過言じゃない。

 そこを狙うのもいい案だ。だが……俺がこの記録再生大図鑑だけだと思うなよ!!」

 

たとえ2倍しか倍加できなくとも、そこに速度を加えればそれはさらに強力になる。

俺の狙いはそこだ。右足で大地を蹴り、イッセーめがけて猛スピードで突進。

相手がガードするよりも先に、一撃を加え、怯ませる。

 

さらに回り込み二発、三発と叩き込む。一撃は軽いかもしれない。

だが、これはあくまでも怯ませるためのもの。本命じゃない。

そしてそこに――俺の右足を叩き込む!!

 

「……クロックビートキック」

 

クロックビートキック――面ドライバービートってヒーローの必殺技。

面ドライバーBRXの後継シリーズだからか、俺の記憶にもしっかりあった。

そこから引き出したのだ。

 

赤いカブトムシをモチーフにしたヒーローで、高速移動による回し蹴りが得意技だ。

高速移動中に三発ジャブを加えるのも、そこに倣っている。

 

回し蹴り一閃。猛スピードで足を振りかざしたためにパワーも強力だ。

そのままイッセーは地面に突っ伏し、模擬戦は俺の勝利に終わった。

 

RESET!!

RESET!!

 

「そこまで。よくやったわ二人とも。アーシア、イッセーの治療をお願い」

「はいっ!」

 

突っ伏したイッセーの元にアーシアさんが駆け寄り、治療を施している。

俺の方は後半一撃も喰らわなかったため、ダメージは少ないが精神力を摩耗している。

要するに、疲れた。そんなわけなので、俺も座り込んでいる。

 

「どうだったかしら、セージ。イッセーの実力は」

 

「着眼点はいいんですよ。ただ、いかんせん地力が低すぎる。

 こっちの戦術も途中で破られていた可能性も、ちらほらありましたね。

 しかし飲み込みは早いみたいなので、今後次第でしょうか。

 それともう一つ。赤龍帝の籠手以外の戦い方も

 会得したほうがいいかもしれませんな」

 

グレモリー部長の質問に、俺は思ったことをそのまま答える。

まあ、ありきたりな答えになってしまったかもしれないが。

 

「そうね。優秀なセコンドがいてくれれば、かなり補えると思うのだけど」

 

「……俺を見ながら言うのはやめてもらえませんかね」

 

全く。一体グレモリー部長はどこまで俺を歩藤誠二として見てるのだろうか。

ここ最近、兵藤一誠に憑いてる生霊としか見てない節が多い気もする。

その態度が続くようなら……身の振り方も考える必要がありそうだ。

それに、元々俺は俺自身の体を取り戻したいんだ。

今は、相当回り道をしてしまっているが。

 

そんなことを考えていると、イッセーが向こうから歩いてくる。

さすがに治癒力が高いと見るべきか

俺の最大火力には及ばなかったために決定打に欠けたと見るべきか。

 

「イッセー、それじゃあなたにも聞くわ。セージの動きはどうだったかしら?」

 

「えっ!? や、やっぱどのカードを使ってくるか読めないのは戦いづらいっすね。

 けど、それを乗り切ってしまえば後は押せそうな感じもしました」

 

意外とよく見てるじゃないか。そう、今の俺に足りないのは火力。

力だけなら強化できるが、必殺技と言えるほどの爆発力はイッセーに比べると、ない。

多分、同じカードを何回かやれば、どこかで俺はイッセーに負けると思う。

そしてこれは考えたくないことだが、もし赤龍帝の籠手が16倍状態であれば――

カード補強を含めても負けてた。

 

つまり、今俺が戦えているのは戦術と手札の多さによるもの。

地の力は……イッセーとそう変わらない。

これは、なんたらゲーム関係なく、訓練は真面目にやるべきだな。

と、結論づけたところで嫌な現実を思い出してしまった。

 

俺は――日中、実体化できない。

 

「そう。俺自身の力はイッセー、お前とそう変わらない。

 そして残念なことに、俺は日中実体化ができない。これじゃ訓練にならない。

 最悪、本番ではセコンドに専念することになるかもしれないな」

 

「あら。それならセージくん、私や部長の魔法も記録なさったんでしょう?

 それはまだ、使えないのかしら?」

 

姫島先輩の指摘で思い出す。教会に殴り込みをかけた際、ギリギリのコストで

姫島先輩の魔法を弱いとは言え再現できたが、あれから一度も使ってないし

部長のは言わずもがなだ。これが使えれば、確かにソロでも戦えるかもしれないんだが。

 

「試してはないですね。一応、この間の教会で姫島先輩のは使いましたが

 一回使って動けなくなるくらい消耗します。部長のは、多分使えません」

 

「あらあら。それなら、セージくんはそっちの訓練を重点的にやる方向で行きましょうか。

 それから夜に、基礎訓練を重ねる形で」

 

「あ、それとセージ。今思い出したが俺たちのシンクロを強化すれば

 お前の方にも訓練の成果が出るんじゃないか? わからないけどよ」

 

あれ? なんかイッセーのプラン指摘のはずが、俺のプラン強化になってるぞ?

ま、まあ今まで全然まともなプランが出てなかったってのが異常なんだが。

 

そんなこんなで、特訓一日目は終了を迎えた。

なお風呂の準備だが、女湯は主に防犯上の理由から取り下げ、男湯の準備だけを

イッセーにやらせたことを追記しておく。




と、言うわけで原作に無いイベント再び、です。
そして龍帝の義肢のパワーアップイベントだったりします。

性能自体は変わらず、装備箇所を変えられるのを
パワーアップと言ってしまっていいものかどうか、と言うのはありますが。
まあ、赤龍帝の籠手とは進化の方向を変えるつもりでしたので。
(オリジナルがいるのに同じ方向に進化させても……ねぇ?)

今回の模擬戦の結果ですが……
イッセーのくじ運が悪かった、と言うことで。
記録再生大図鑑は、持ち主からは引くカードを任意に決められるという
カードゲーム的に考えると超が付くほどのチートアイテムです。
(寧ろ現実のカードゲームと同じに考えると手札が増えれば増えるほど
 任意のカードが引けなくなって不利になるというガッカリアイテムに……
 それはそれで作劇上いいかもしれませんが)

他者が引いたカードも問題なく発動できます(Soul6. 参照)が
その場合は持ち主がセットしているカードから
ランダムに選ばれる仕掛けになってます。
つまり、引いても使えないカード、意味の無いカードを引き当てていたら
イッセーが勝っていたと思います。

で、作中出てきた面ドライバービート。
こちらは赤いカブトムシ、高速で移動する等々から
言わずもがなの仮面ライダーカブトがモチーフです。と言うかそのまんま。

……あれ? 原作にもカブトモチーフの何かがいたような、いなかったような。


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Soul17. 男の、約束です。

引き続き、セージVS木場のカードです。

前半、ちょっとイッセーがネガ入ってます。


あれから数日、特訓の成果は出ているのか出ていないのか全くわからないが

俺、歩藤誠二と俺が所属する駒王学園オカルト研究部の合宿は続いていた。

 

ある時は座学と称して悪魔の歴史の勉強や

アーシアさんによる悪魔退治のノウハウの勉強。

またある時は実戦形式のスパーリング。

はたまたある時は体の中の魔力を表に出す訓練。

しかして、その成果のほどは。

 

 

……あまり感じない。

二日目以降、俺はイッセーに憑依し、シンクロを強化した状態で

訓練に臨んでいた。

 

最初にシンクロを強化したときと違い、冷静に状況を分析すると

どうにもこの状態、力ばかりに偏りが行き過ぎる気がする。

何せ、イッセー自身が――そもそも神器(セイクリッド・ギア)の能力のせいもあるのだろうが――

パワー型で、シンクロしてもスピードの方は強化された感覚をあまり感じないのだ。

 

訓練だから、回復以外のカードも使用禁止。

これはイッセーの方も神器が使用禁止になっている。

まあ、フル稼働させた場合訓練どころじゃないって理由もあるだろうが。

 

初日の最後に俺とイッセーで模擬戦を行い、一応は俺が勝利を収めたのだが

それ以降、イッセーが思い悩むことが増えた、気がする。

……こいつ。ただのバカだと思ってはいるが、結構繊細な所もある。

何を思い悩んでいるんだ。そもそもお前一人で戦うわけじゃなかろうが。

 

――――

 

夜、俺は初日に姫島先輩に出された課題に取り組むべく

ペットボトルに淹れた水と格闘しているが

なかなか思うイメージには至らない。あと一息なんだが。

 

以前「これがスポーツドリンクだったなら」と思ったことはあるが。

それが何かのきっかけになればと思い、石ではなく水を対象にしている。

 

……だが、それだけで都合よく行くはずも無く

さっきから実質水相手のにらめっこをしているのとほぼ同義だ。

 

程よく頭が疲れたところで、イッセーが二階から降りてくる。

他人のことは言えないが、随分とボロボロだ。表情も心なしか沈んでいる。

あまりにもあまりな状態に見えたのと

自分自身の気晴らしのためにイッセーに声をかけてみる。

 

「どうしたイッセー。夜這いをかけるなら、方向が違うぞ」

 

「……そうじゃねぇよ」

 

む。この手の冗談には乗るほうだと思っていたが……これは案外重症かもしれん。

このまま特訓が終わったら、本気でここで折れかねないぞ、こいつは。

 

「……なあ、セージ。やっぱ、俺って弱いのかな」

 

何を言い出すんだと思えば案の定か。しかし難しい問題でもある。

下手な慰めをかけるよりは、現実を突きつけるべきでもあろうが。

ただ、現実に直面している奴に現実を突きつけても逆効果である。

俺はなるべくイッセーと対等であろうと考えているが……

いや、一応対等だと思う。思いたい。

 

だが、一度でも模擬戦で勝っている上に

魔力訓練では圧倒的な差を見せ付けている。

これのどこが対等なのだろうか。

それならそれで、対等な立場から声をかけるのはやめた方がいいかもしれない。

 

「……すまないが、適切な答えがわからないな。

 『そんなことはない』と慰めてほしいのか『ああそうだ』と貶してほしいのか。

 バカ正直に答えると、俺は両方正解だと思っている」

 

「お前、本当に相変わらずだな。ある意味羨ましいぜ、そういうところ」

 

ふむ。貶されたことに対する怒る気力は無いと見るべきか

弱いと認識していると見るべきか。ただ今のこいつの態度は

罷り間違っても「弱さを受け入れた」それとは全く違う。

弱いことに開き直られても面倒だ。

 

「……お前の中の龍、ドライグは何か言ったのか?」

 

「いいや、何にも。あれから一度夢の途中で割り込んで出てきて以来

 俺の前にはちっとも姿を現さない」

 

……ドライグ、結構放任主義なんだな。

そういう時こそお前の出番だと思うんだが。

それとも、俺に投げやがったか?

クソッ、やっぱあいつ

「マジでダイメイワクなオッサンドラゴン」略してマダオだ!

 

まあ、それならそれでいい。

今のまま実戦を迎えても結果が見えてしまう。それは俺も不本意だ。

 

「……なあセージ。もし、もしだ。俺じゃなくて、お前に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)があったなら

 あのフェニックスを倒せると思うか?」

 

……おい。お前、そこまで思いつめていたのか?

ちょっと訓練がハードすぎたか、あるいは俺の存在そのものが

重圧になってるのかもしれないな、これは……。

 

「お前のバカ発言はスケベ分野だけに留めとけ。今の発言は頂けないな」

 

「バカなりにまじめに聞いてるんだよ。どうなんだよ?」

 

……グレモリー部長。これは貸し1ですよ。

段取りを踏んで強化すべきこいつを、ここまで追い込んだこと。

その原因は言うまでも無くあんたのお家騒動なんですから。

 

「そういうのは、俺じゃなくてグレモリー部長に聞くべきだと思うが、まあいいや。

 特別に答えてやる。答えは……」

 

「……答えは?」

 

 

――ない。

 

 

ない。答えはない。倒せない、って意味じゃなく答えそのものがないのだ。

一瞬、イッセーの顔が豆鉄砲を食らった鳩になっているのを見逃さなかった。

ああそうだよ、お前にはそれ位のアホ面の方がお似合いだよ、くくっ。

 

腹の中でほくそ笑んだ後、俺はイッセーに胸倉を掴まれていた。

うん、元気になったじゃないか。

 

「この野郎! 俺はまじめに聞いてるって言っただろうが!」

 

「……こっちも真面目に答えてるっつーの。

 いいか、そもそも問題の前提がおかしい。

 俺の方に赤龍帝のオリジナルが来るなんて前提自体、ナンセンスだ。

 お前の出した問題は、整数を0で割るようなもの……

 つまり、問題として成立しないんだよ」

 

他人の胸倉掴む気力が出るまでは回復したんだから

まあそこまで重症じゃないのがわかっただけでもよしとしよう。

でも実際問題、ありえない話だ。

俺は俺であって、兵藤一誠でも、赤龍帝でもない。

 

……最も、その「俺」は歩藤誠二なのか

宮本成二なのかは判断しかねるところだが。

 

ところが、この答えはイッセーの癇に障ったのか、イッセーは突如として怒り出し

俺が訓練に使っていたペットボトルをふんだくってしまう。

 

「この野郎! こんな時にまで嫌味か!」

 

「あっ! おい待て、それは……!」

 

それは訓練用に使ってた水で、飲み水じゃない。

トイレで汲んだ水だ。気分的にも衛生的にも飲むものじゃない。

 

そう忠告する前に、イッセーは口をつけようとしていた。

ええい、なぜそこで飲む!? 捨てるならまだわかるが!

 

思わず俺の中で、「ペットボトルの水を飲み水に変える」と念じていた。

せめてあの中身がスポーツドリンクだったなら。飲み水だったなら。

イッセーは腹を下さずに済むだろうに。

 

俺がイッセーの手を止めようと、ペットボトルに手が触れたとき、それは起きた。

ペットボトルが淡い光を放ったのだ。

それを知ってか知らずか口をつけたイッセーは、思わず驚いてむせている。

それはトイレの水――と、忠告する俺の言葉を遮るように

イッセーは驚いた様子で感想を述べている。

 

「げほっ、げほっ! これスポーツドリンクじゃないか! どこで手に入れたんだよ?」

 

「……あ、お、お前のお陰で俺の特訓の課題の一つがクリアできた。あ、ありがとう」

 

あまりに突然の事に、俺も呆気に取られていた。

元々はトイレで汲んだ水だって事は……これは黙っておいた方がよさそうだ。

イッセーは礼を言われたことには反応したものの、すぐにまた表情が沈む。

 

「……やっぱ、お前すごいな。俺、何やってもダメだ。力は小猫ちゃんに及ばないし

 剣術も木場に比べたら全然だ。お前やアーシア、朱乃さんと違って魔力もない。

 本当、俺、何でここにいるんだろうな、ははっ……」

 

バカか、お前は。いや、バカなのは前からだが……

こういう意味でのバカだとは思ってもみなんだ。

木場にせよ、塔城さんにせよ、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の補正込みとは言え

戦闘技術には一日の長があるだろう。まさか、そんな事で張り合っていたのか?

 

だとしたらそれは相手に失礼だ。ついこの間悪魔の喧嘩を始めたばかりの俺らが

木場や塔城さんと肩を並べて戦うと?

……ああ、やっぱこいつアレだ。

 

「言いたいことは山ほどあるが……とりあえず、やはり今の発言は頂けないな。

 俺にも言えることだが、アーシアさん以外、悪魔としての経験は俺らより上。

 つまり、それだけ場数を踏んでいるんだ。それに皆、悪魔の駒の補正だってある。

 そんな彼ら彼女らと、ぽっと出の俺らが地力で並ぶと? バカも休み休み言え。

 さっきのナンセンスな仮説じゃないが、比較対象がそもそも違うんだよ」

 

「……お前は魔力があるから、そういう事が言えるんだよ」

 

今にも折れそうなイッセーの言葉を聞き、俺の中で何かがはじけた。

いつぞやほど酷くはないとは言え、また目の前が真っ白になったのだ。

 

――そう、またイッセーをぶん殴っていた。ただし、今度は左手で。

 

「……結局お前はあれか。自分かわいそうもしくは無能アピールをしたいだけか。

 だったらさっさと荷物纏めて帰れ。気は進まんがグレモリー部長には俺が話しておいてやる。

 お前は魔力が無い代わりに、昼間普通に動けるだろうが。

 木場より遅いが、タフだろうが。塔城さんより脆いが、一発逆転は狙えるだろうが」

 

我ながら偉そうなことをつらつらと述べている気がする。

俺はこいつと違い、神器を二個持っているに等しい。

魔力があるから余裕がある、と言うのも強ち間違いじゃない。

一発殴られて呆然としているイッセーを尻目に、俺はまだ喋る。

内側にたまっているものを吐き出すように。

 

「俺としちゃ、お前がここで折れようがどうしようが関係ないんだけどな。

 荷物纏めて帰るんなら、俺も必然的に帰ることになるし。

 そうなりゃ自由に動けるから、俺としちゃ願ったりだ。

 ただ……グレモリー部長には気の毒な結果になるだろうよ」

 

「おっ、お前俺の代わりに出ないのかよ!?」

 

驚いた様子でイッセーが反論してくる。

お前、自分が弱いからって俺に出ろって遠まわしに言ってたのか?

……やれやれ。これは頭が痛い。

 

「俺が? 何で?」

 

「だ、だってレーティングゲームは悪魔にとって大事な戦い……

 それに今度の試合は負けたらリアス部長があのいけ好かねぇ焼き鳥野郎と……」

 

「言ったぞ。俺は主サマが誰と結婚しようが気にしない。

 あの場じゃ言わなかったがな、あれ見方によっちゃフェニックスの方がまともな事言ってるぞ。

 三男でありながら家の看板を背負い使命のために戦わんとするチャラいボンボン。

 長女でありながら責任を果たそうとせず、自由のみを……すまん。また言い過ぎた。

 とにかく、俺はお前が出るから出るんだ。お前が出ないなら、俺は出ない。

 最近出ずっぱりだから忘れてるかもしれないが、お前の中で引きこもる事だって出来るんだぞ」

 

言葉に起こすとちょっと妙な意味にも取れるが、実際そういう意向だから仕方ない。

少なくとも、俺から積極的に参加するつもりは今のところ無い。

あれ? お前には言ってなかったっけか。まぁいいや。

 

「まあ、つまりそういうわけだ。おまえ自身が戦う気も無いのに、俺は手を貸さない。

 気の乗らない戦いに参加するほど、馬鹿げた事は無いからな。

 で、その馬鹿げた戦いを仕組んだ我らが主サマがそこの部屋に入っていくのを見た。

 会いに行ったらどうだ? ちょっと沈んでる様子だったが。

 元気付けてやったらどうだ? お前、そういうのは得意そうだろ」

 

俺としては最大級の餌でイッセーを元気付けようと試みるが、どうやらそれでも足りないらしく

意気消沈としたままイッセーは二階に戻ろうとしていた。

こうなったら俺のキャラじゃないが……また一芝居打つか。

 

それにしてもアーシアさんの時といい、よく芝居を打つな。

俺の記憶には、宮本成二は演劇部所属って記憶は無いんだがなぁ。

 

「いや……今俺、部長に合わせる顔がないからさ。赤龍帝だ何だって言われても

 このざまじゃ俺はグレモリーのいい恥さらしだ。セージ、お前が行ってこいよ」

 

「それこそ何で? だ。行った所で何を話せと?

 ……いや、何も言葉で話さなくともいいな。たまには肉体言語ってのもアリか。

 そういう意味では……実に語り甲斐のありそうな身体だが」

 

「な!? お、おいセージ!?」

 

ふむ。やはり食いついてくるな。結構言い合っている間に

いつものイッセーに戻りつつあったからな。

ここはもう一押しか。

 

……はぁ。性格がああでなかったら、あの身体は魅力的なんだが。

む。いかん、イッセーのスケベが俺にもうつったか?

 

「いやあすまないなイッセー。そういうのはお前の役目だとばっかり思っていたが。

 たまには俺がご相伴に預かってもよかろうよ。夜に一つ屋根の下で男女が出会ったら……

 ……やることは一つだよな?」

 

「お、お、お、お前!? お前部長の事嫌いだって口では言ってくるくせに!?」

 

「ああ、どっちかって言えばな。今回だってあれがくだらない事言わなきゃ

 俺は今頃宮本成二(本体)の手がかりが手に入っているかもしれないのに。

 その慰謝料として身体で払ってもらうのもたまに悪くないかと」

 

「ふざけんな! 俺だってあの時お預け食らって辛かったんだぞ!

 そんな横から掠め取るような真似されてたまるかよ! 俺が行って来る!!」

 

興奮したような様子でイッセーはグレモリー部長がいるであろう部屋に向かう。

方向性はともかく、多少は前向きに戻れただろう。

あいつが戦う理由を考えると、どうしてもグレモリー部長に帰結する。

結局、女のために戦う男が一番強いのだろう。

そういう意味では、俺は少し斜めに構えすぎかもしれない。

 

そう、我ながらかなりお節介なことをしたとは思う。

だが、あいつが本格的に立ち直るには俺の力じゃなく

グレモリー部長に励ましてもらうことが一番ではなかろうか。少なくとも今は。

何せイッセーの奴は、グレモリー部長に認めてもらいたい一心でここまで来ている。

もしかしたら死ぬかもしれないのに、だ。

 

そのバカに付き合っている俺は、もっとバカなのだろうが。

バカの相手に疲れたバカは、部屋に戻って寝るとするか。

 

――――

 

「……なるほど、イッセーくんがね」

 

「相当へこんでた。今のままじゃ徒に体を酷使させて、無意味に寿命をすり減らしているだけだ。

 そう思ったからこそ、俺は無理やりにでもあいつをグレモリー部長に会わせたが……

 正直、単なる傷の舐めあいにしかなってないかもしれないな」

 

「……相変わらず部長には辛辣だね、セージくん」

 

部屋に戻ると、さっきの騒動で目を覚ましてしまった木場がいた。む、すまない。

別に隠す理由もないので、一部始終を説明し終えると微妙な表情をしている。

俺に言わせればお前らが皆甘いだけだと思うが。

まあ殺される夢を見る程度には信用してるって事だよ。

 

「さて。悪いんだけどセージくん、ちょっと付き合ってくれないかな。

 変な時間に起きたせいで、目が冴えちゃったみたいなんだ」

 

「俺のせいでもあるし、それはかまわないが……どうするんだ?」

 

俺の問いに、木場はただ表に出てほしい、と催促するのみ。

表に? まあ、外に出たほうがいいかもしれないが……。

 

――そうして俺たちがやってきたのは別荘から少し離れた採石場。

例のジープ特訓をやったところだ。

 

「聞いたよ。ここで相当むちゃくちゃな特訓をしたそうじゃないか。

 ……まあ、僕から見ても今の部長はちょっと冷静さを欠いている、かな」

 

「やはり。フェニックスってのは、相当まずい相手らしいからな。

 おそらく、無理やりにでも婚姻を成立させたい親御さんがセッティングしたのだろうよ」

 

正直に言って、俺はこの試合に勝とうが負けようがどっちでもいいのだ。

ただ、やるからにはベストを尽くしたい。それだけに過ぎない。

まして、命を欠ける価値などこれっぽっちも見出していない。

 

「木場、この際だからちょっと聞きたいんだが」

 

「なんだい?」

 

「単刀直入に言うぞ。グレモリー部長は、お前にとって仕えるに値する悪魔か?」

 

一瞬、場の空気が凍りついたのを感じた。話題を振った俺が思うのだから間違いない。

しかし夜のテンションとは恐ろしいものだ。

まさかこんな核心を、こうもずけずけと問い質すとは。

しかも相手は騎士(ナイト)。俺は一体何を聞いているのだろうな。

 

「セージくん、君もなかなか怖いもの知らずだね。もし僕が本当に従順で頭の固い騎士だったら

 君を即刻切り捨てているところだよ?」

 

「物騒なことを爽やかな笑顔で言わないでくれるか?

 ……しかし、参考になった。ありがとう」

 

なるほど。立場上、表立っては言わないだけで木場は木場で腹に何か抱えている。

それも、かなり重そうなものだ。

 

……この分だと姫島先輩や塔城さんにも何かしらあるかもしれないな。

そのあたりのフォローは、やっているのだろうか。

まあ、俺に対する対応を見る限りではやってなさそうだが。

 

そう俺が一人で納得をしていると、おもむろに手袋が飛んできた。

咄嗟の事で反応し切れずに顔に当たった手袋。

よく見ると、木場がこっちに投げつけてきたのだ。

 

「情報料。ここから先は、僕に勝てたら教えてあげるよ」

 

「……ああ。そういや、そんな約束してたな」

 

手袋を相手に投げる。日本ではあまり馴染みがないが、中世貴族の決闘の合図として

このような行為が行われていた。らしい。俺もよく知らない。

確かに俺は木場とスパーリングの約束をしていた。

グレモリー部長の許可は取ってないが……いいのか?

 

「許可なら一応取っているよ。ただ、いつ行うか、までは言わなかったけど」

 

「おいおい、随分アバウトだな。

 まあ、もう残り日数少ないしやれるときにやるのは賛成だ」

 

互いの合意が得られたことで、ルールの確認。

 

一つ。実戦形式のため、互いに神器の使用は無制限。

二つ。どちらかがギブアップ、あるいは戦闘できる状態でなくなった時点で終了。

そして三つ。レフェリーがいないため、判定はサバイバル方式。

誰かに気づかれた場合その時点で終了。

 

三つ目のルール、まるで枕投げみたいだな。

俺……と言うか宮本の方は、安眠妨害を理由にあまり好きではなかったらしいが。

 

「それじゃ、今からトスする石が地面に落ちたら開始だよ……」

 

木場が指で小石を上空に弾く。それが落ちるまでの間、周囲は緊迫感に包まれる。

イッセーを相手にしたときとは違う。今回は、明らかに格上が相手だ。

できるなら、即座に自分のペースを出したいところだが。

 

と、思っている間に小石は地面に落ちる。落ちた音は小さいながらも

その後に駆け出した俺たちの動きは、小石とは比べ物にならない。

 

BOOST!!

 

思ったとおり。木場の動きはイッセーとは桁違いに速く、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の起動すらできない。

今の俺では、発動に時間のかからない龍帝の義肢で木場の剣戟を凌ぐのが手一杯だ。

くっ、よもやこんな形で弱点を突かれるとは。だが、これは大きな課題だ。

問題がはっきりしている分、改善も容易である……できるものなら。

 

「手の内はある程度わかってるんだ。簡単に使わせてくれると思わないほうがいいよ!」

 

「卑怯とは言わないさ。立派な戦術、お見事だよ!」

 

当然、俺だって一方的にやられるつもりはない。

少々危険だが、木場が打ち込んでくる瞬間にカウンターを叩き込めば

記録再生大図鑑の起動時間くらいは稼げるはずだ。

 

「カウンター狙いか。けれど、僕も君みたいに色々な武器を使えるのさ!」

 

そう言って木場が取り出したのは、また別の剣。

くっ、まさかあれ以外にも剣を持っていたのか。

今は都合の悪いことに記録再生大図鑑が動いていない。

武器を記録できないし、あれがどんな武器かは……食らってみないとわからない。

 

「――吹き荒べ」

 

そう呟いた木場が剣を振りかざすと、剣は突風を巻き起こし、俺の体勢を崩しにかかる。

以前のを闇の剣とするならば、これは風の剣か!

まずい、接近戦に構えていたものだから遠距離戦対策が取れていない!

 

相手が風では、遮蔽物が無いのは不利だ。無理に突っ込むのは愚策……ん?

相手は風。吹き上げる力のあるもの。つまり……

 

俺は思い切って、距離を取る作戦に打って出た。

風が強く吹いた瞬間、身を翻し悪魔の翼を広げる。そしてそのままジャンプ。

 

「うおおおっ!?」

「距離をとったのは一応お見事だけど……その体勢じゃ不合格だよ!」

 

そう。一応悪魔は空を飛べるし空中での体勢変更もある程度自在。

だが今俺が飛んでいるのは……否、飛ぶと言うよりは滑空に近い。

距離をとるための滑空。つまりここから自由に動けるかと言うと、動けない。

木場の二撃目はおそらく防げないだろう。このままでは。

 

「……そうだな。だが、これだけ間合いがあれば、これは使えるよな!」

 

「くっ、まさか!」

 

BOOT!! EFFECT-STRENGTH!!

 

作戦第一段階はとりあえず成功。要は記録再生大図鑑さえ起動できればよかったのだ。

そしてこの飛ばされている状態では機動性をあげてもあまり意味がない。

したがって、使うカードは必然的に耐久力を上げるもの。

 

木場の剣戟をまともに食らったが、何とか耐えることはできた。

そして、何もカウンターをかますのに相手の攻撃をかわす必要はない。

 

「うおおおっ!!」

 

倍化させた俺の右手ならば、木場の耐久力を考えるとかなりのダメージを与えられる。

……はずだった。

 

もちろん、木場だってただ俺の一撃を棒立ちで食らうほど間抜けじゃあない。

さっき出した剣で風圧を操り、緩衝材にしてダメージを減らしていたのだ。

一応、衝撃でふっとばしは出来たが。

 

RESET!!

 

「ふふっ、ここからが君の本番だね。僕の方はいつでもいいよ」

 

――実はちょっとまずい。木場のほうは余裕綽々なのに対して

俺のほうは……攻撃を当てられる自信がない。

今のカウンターだってそう何度も出来る業じゃない。

ならば……弾幕を張るか!

 

だが、俺のカードで弾幕を張れるものといえば……銃? 拳銃でどうやって弾幕を張れと?

他は……飛び道具は魔法系しかない。広範囲を攻撃できるものは……あれしかない、か。

本当、イチバチ勝負が多いな、俺も。

 

BOOST!! RELOCATION!!

 

再び倍加した龍帝の義肢を、今度は右足に移す。少しでも移動力を増やすためだ。

地震で体勢を崩させるのもアリだが、飛ばれたら終わりだ。あまり使えない。

とりあえずは……突っ込む!

 

「――っ! イッセーくんとの勝負でも見たけど、その爆発力は大したものだね!」

 

案の定、俺の突撃はひらりとかわされる。だが、それも織り込み済みだ。

木場に接敵する寸前、俺は一枚のカードを発動させる。

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

狙いはでたらめだが、広範囲に稲妻を落とす雷の魔法のカード。

本家の姫島先輩のそれとは似ても似つかぬものになってしまったが……

まあ、深く考えるのは止めよう。

 

どう考えても俺の能力不足です、本当にありがとうございました。

 

だが、このでたらめな狙いと言うものは規則的ではないだけに回避が困難である。

広範囲に稲妻が落ちている中、俺はすかさず次のカードを用意する。

 

SOLID-GUN!!

 

でたらめな狙いの稲妻と、直線的な狙いの弾丸。変化をつけることで命中精度を上げる作戦だ。

ふと気づいたが、思いの他連続でカードを使っているにも関わらず消耗が少ない。

こっちはこっちで、特訓の成果がでているのだろうか。

 

しかしそれでも、木場に決定打を与えるには至らなかった。

木場は地面から無数の剣を出し、それらを避雷針とすることで稲妻を回避。

拳銃の回避に専念しだしたのだ。

 

「訓練なら合格点だね、セージくん。けれど今は決闘。勝負はつけさせてもらうよ!」

 

MEMORISE!!

 

記録したのか、今のを。などと考えている間もなく、木場は思いっきりこっちに肉迫する。

素早い一閃で拳銃を飛ばされ、喉元に剣先を突きつけられてしまう。

 

この状況じゃ、霊体になるよりも先に木場の剣が喉に突き刺さる。

つまり――俺の負けだ。神器を収納し、俺は両手を上に上げる。

 

「――まいった。やはりまだ、俺一人では勝つのは無理みたいだ」

 

「一応、このオカ研じゃ僕のほうが先輩だからね。簡単には負けてあげられないよ」

 

木場のほうも剣を収め、右手を出してくる。俺も右手を返し、握手を交わす。

 

「そういえば、あの剣を大量に生産したあの技、あれが必殺技か何かか?」

 

「ああ、あれが僕の神器『魔剣製造(ソード・バース)』。今まで出していた剣はすべて、この神器によるものだよ」

 

そうだったのか。つまり今までは小出しにこっちも記録していたわけか。

……そういえば、一度記録したものを更新させる、ってのは出来ないのか?

まあ、今はどうでもいいか。

 

「ただセージくん。嫌味でもなんでもないんだけど

 僕は最初、あそこまでやるつもりはなかった。

 あの教会でのときに比べたら、君は間違いなく強くなっている。

 それはイッセーくんにも言えることだと僕は思うけどね」

 

「ああ。だがあいつは、事あるごとに俺やお前、塔城さん、アーシアさん。

 そして姫島先輩と比較している。

 直接言ったんだが、問題点はそこじゃあないんだがなぁ……」

 

夜の採石場で、イケメンと(多分)フツメンが共通の友人の事に関してため息をついていた。

傍から見たら何の光景かと思えそうな、そんな状態だ。

 

なお、俺たち二人が戻ったとき既にイッセーは眠りこけていた。

余程、グレモリー部長と有意義な時間を潰せたのだろうか。

起こすのも野暮なので、そのままにしておくことにした。




と言うわけで初の黒星です。
順当に考えたらこれくらいの戦力バランスかと。

今回はイッセーにアンチしてます。
そして遠まわしなリアスアンチ。

と言うかここの件、主人公が無力感に苛まれるのはいいとしても
比較対象がおかしいんですよね。

リアス、朱乃:論外
木場:騎士でもないのにスピード勝負? おとといきやがれ
小猫:戦車でもないのにパワー勝負? おとt(ry
アーシア:そもそも運用方法が全く違うんですがそれは

匙と比較して云々だったらまだ説得力あるかもしれませんが。

ちょっと今回イッセーが後ろ向きになりすぎたので
「こんなのイッセーじゃないやい!」って人もおられるとは思いますが……

異物が入った影響と考えていただけると幸いです。


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Life18. 俺が得た特訓の成果

久々のイッセー視点です。
セージ視点で説明してない部分を視点変更して説明させる。

……すみません、他に手が浮かばなかったんです。


……セージの奴! 部長をそんな目で見ていたなんて!

あいつが部長の事を嫌いなのは知ってたけど、まさかそんな目で見てたなんて!

今度何かやったら、俺が絶対にボコボコにしてやるからな!!

 

……って意気込んでも、もう一回負けてるし

そもそもセージにはどっちかって言うと世話になってるんだよなぁ、俺。

つい、またセージに乗せられる形で飛び出しちまったけど

俺は俺で部長と何話そうか全然考えてなかったりする。

気まずいなぁ、って考えるヒマも無く部長に見つかってしまい、呼び止められる。

 

「あらイッセー、ちょうどよかったわ。少しお話しましょ。

 セージにも声かけたんだけど、振られちゃったし」

 

セージが言うほど部長は落ち込んでいる様子は無いけど

話があるのは本当だったみたいだ。

 

――ってセージ、部長に会ってたのかよ!

しかも部長のお誘いを断るとか、あいつもしかして……

あーもう! 俺、あいつの事がわからねぇ!!

 

……あれ? そういえば部長って寝るときは裸だけど

今は普通にネグリジェ着てるなぁ。これはこれで刺激的でたまらないけど

部長は部長でやっぱり寝付けなかったのかな。

セージの言ってた事、あながち間違いでもなかったか。

 

「俺が言うのも何ですけど、寝付けないんすか?

 それとセージの奴は特訓が終わるまでに一度ぶっ飛ばします。

 部長のお誘いを断るなんていい度胸だ!」

 

「別にいいわ。真剣に打ち込んでたみたいだし、あまりしつこく誘うのも悪いわ。

 そうね、今度の試合について考えているのもあるけど……

 もう一つ不思議に思う事があるの。聞いてもらえるかしら?」

 

え? 俺が部長の疑問を? お、俺、そこまで信頼されてるんすか。

それは俺にとって嬉しいのと同時に、非常に緊張してしまう内容だった。

 

「そんなに肩肘張らなくてもいいわ。それじゃ話しにくいじゃない。はいココア」

 

「あ、い、いただきます」

 

俺は部長の淹れてくれたココアを飲みながら、部長の話に耳を傾ける。

部長がここまで悩むことで、かつ俺に相談することって……何なんだろ?

 

そんな俺の疑問は、一瞬で吹き飛んだ。

それと同時に、俺はとんでもない現実を知ることになった。

 

「話ってのは他でもない、あなたの悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の事よ。

 前に話したと思うけど、あなたには悪魔の駒を8つ、全て使ったわ」

 

「覚えてます。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が強いから、兵士(ポーン)の駒じゃ

 8つ全部使わないといけなかったんですよね?」

 

俺が相槌を兼ねて返答すると、部長は頷き返してくれる。

そしてそれと同時に、なにやら神妙な顔つきになったのだ。

 

「じゃあ、それを踏まえておさらいよ。セージの悪魔の駒は何かしら?」

 

「何って、俺と同じ兵士……あっ!」

 

そう、部長の言いたいことが分かった。俺に8つ全部使ったって事は

セージの分の悪魔の駒がどこから来たのか、まるで分からない。

 

「俺、悪魔の駒については全然知らないんすけど、増えるもんなんすか?」

 

「いいえ、確かに特殊な性質を持った駒はあるけれど

 駒そのものが増えるってのはありえないわ。

 そんなことをしたら、レーティングゲームが成り立たなくなってしまうもの」

 

確かレーティングゲームってのは、チェスに見立ててルールが決められている。

一つのチームに兵士がたとえ一人でも、その兵士は八人分の力を持っていることになる。

……今の俺にそんな力があるかどうかは分からないけど。

 

けれど、一つのチームに九人も兵士がいるのは、重大なルール違反になってしまうはずだ。

 

「一番可能性があるのは、あなたとセージで悪魔の駒を共有している状態にあること。

 けれどそんなケース、私の知る限りじゃ全く存在しないわ。

 つまり、それが齎す影響は私も全く分からないことになるわ……」

 

そう言う部長の表情は、とても不安そうだった。

そりゃそうだ。どうすればいいのか分からないものを抱えて

しかも強敵フェニックスとの試合を控えているんだ。

そう考えると、俺は何とか部長を励まさずにはいられなかった。

 

「大丈夫っすよ、部長。そりゃ今までに色々ありましたけど

 まだ始まったばかりだと俺は思ってます。

 だから、うまく言えないんすけど、気持ちで負けたらダメだと思うんす。

 ……あはは、今の俺が言えた事じゃないっすけどね」

 

けど俺は、それ以上に自分に何とか自信がほしかった。

部長にえらそうな事言ってるけど、気持ちで負けてるの俺じゃないか。

……ははっ。もうこうなったらヤケだ。部長に全部ゲロっちまおう。

 

 

 

――結局、俺のそのやけっぱちの決断は功を奏し、それから俺はぐっすりと眠れた。

翌朝セージと木場には呆れた表情をされたが、俺何をしたって言うんだよ!?

 

――――

 

特訓も残すところあと僅かってところで、今日の模擬戦。

俺、兵藤一誠はまたしても模擬戦を行うことになった。

今度の相手は木場。今回も俺は赤龍帝の籠手を

部長の許可があるまで使っていいことになっている。

ただし俺をサポートしてくれるセージは抜き。

 

……最も、前回の模擬戦はそのセージを相手に負けちまったんだけどな。

セージは大岩の上に座って、頬杖をついて俺たちの様子を見ている。

相変わらずその姿が見えるのは俺だけみたいで

部長も他の皆もそっちには目もくれていない。

 

できれば、セージにリターンマッチかましたかったんだけど、仕方ないか。

聞けば、セージは木場に負けたそうじゃないか。

その木場に俺が勝てば、それで十分さ!

 

「模擬戦を開始する前にイッセー、赤龍帝の籠手を発動させなさい。

 模擬戦開始はそれから2分後。いいわね?

 それからハンデとして、祐斗は真剣の使用は不可。

 これはあなたとイッセーの実戦経験の差と

 悪魔の駒の特性の差を考慮してのものよ」

 

「はい、わかりました」

 

部長の合図に、俺と木場は頷く。お、今回は初っ端から飛ばしていけるのか?

2分後ってことは……2×2×2×……えーっと、わからん! とにかくすごい!

 

以前俺はどこまで倍加ができるか試したが、途中から体が動かなくなったのだ。

セージに測ってもらったらおよそ2分40秒。3分にも届かなかった。

2分を越えたあたりから、俺の体中がミシミシと痛み出した。

2分40秒って数字も、セージがその時に俺を止めた上での結果だったりする。

 

だから今回の2分って数字、俺としてはかなりギリギリだったりする。

けれどこれ位やらなきゃ、俺はあのフェニックスをぶん殴れねぇ!

 

12回目の倍加を告げる音声。ここで止める!

 

EXPLOSION!!

 

教会のあの時も聞いた、倍加のストップを告げる音声。

こうしないと、赤龍帝の籠手は際限なく倍加を続けてしまう。

そうなったら俺は動けなくなっちまう。

 

そして、それが今回の模擬戦の開始のゴングだ!

 

「おおおおおおっ!!」

「――ふっ!」

 

俺が気合と共に駆け出すと、木場は一瞬で姿を消す。

木場がテレポートできるかと言うと、そういうわけじゃなくただの超高速の移動だ。

騎士の特性、俊敏な機動力。

俺一人じゃ真似できない芸当だから、これに追いつくのは無理だ。

だが――。

 

「このっ!」

 

「くっ!?」

 

確かにすばしっこくて当たらない。姿を消しているのも同然だ。

けれど俺だって、木場自身やセージとの特訓で動体視力や反射神経だって鍛えた。

スピードでは完全に負けているが、一方的な展開にだけはなっていない。

とは言え、木場が4~5発入れてくる間に俺が1発返すのが精一杯だったりするが。

しかしその4~5発だって、俺は1発たりとも直撃は食らってない。

 

そうした打ち合いを何度か繰り返しているうち、木場の動きが若干鈍ってきているように見えた。

心なしか、木場の奴の息が上がっている気がする。

一方の俺は余裕も余裕だ。伊達に部長に鍛えられてないからな!

 

「イッセー! 魔力の一撃を撃ってみなさい!」

 

えっ? 魔力を? 俺、魔力はてんで……いや部長のことだ、きっと何かあるに違いない!

俺は息の上がった木場の一瞬の隙を突き、魔力の一撃を叩き込むことにした、のだが。

 

――な、なんだこれ!? でかい、でかすぎる!!

いつもの俺の魔力が小猫ちゃんのおっぱいだとしたら、今打ち出したのは部長のおっぱいだ!

まさか俺の一撃が、でっかいクレーターを作るほどに強化されてるなんて……

攻撃の余波が凄く、周囲も土埃が舞って見えない。

みんなは、みんなはどうなったんだ!?

 

RESET!!

 

倍加の消失を告げる音声の後暫くすると、土埃が晴れて様子が見えるようになる。

朱乃さんが魔法で風を起こして土埃を払ったんだ。そして、俺の目の前には

ボロボロの木場を治療しているアーシアの姿があった。

 

……俺、勝ったのか? 木場に勝ったのか?

 

「あはは、参ったね……あそこで息が上がってなければ、避けられたんだろうけど。

 スタミナじゃイッセーくんには敵わないな。

 それに、本当は最初の一撃で決めようと思ってたんだ。

 ところがガードされるわ、反撃はしてくるわで、隙を見ているうちに

 こっちの息が上がってきちゃったってわけさ。

 一応聞くけど、セージくん憑いてないよね?」

 

冗談めかして木場が聞いてきたので、俺はセージの方を親指で差す。

そこではセージが石でお手玉をしていたので、木場には石がひとりでに

宙を舞っているように見えている……はずだ。

 

「疑ってごめんねイッセーくん。今回の特訓で、君は驚くほど強くなったと思うよ。

 これなら、ハンデ無しでも良かったんじゃないかな」

 

「聞いてのとおりよ。私も正直言って驚いてるわ。

 ハンデ付きとは言え、まさか祐斗に勝つなんて。

 確かにあなたは素の状態では弱いわ。

 けれど、赤龍帝の籠手を使った状態では話は変わる。

 今の一撃は上級悪魔クラスのそれよ。あなたの神器は基礎の力を倍化させる。

 それはつまり、基礎の力が増せば増すほど強くなると言うことよ」

 

部長の言葉では、これは俺の力で間違いないんだけど、正直言って実感がわかない。

木場に勝ったのもそうなんだが、あまりの出来事に俺自身が付いていけてない。

 

「イッセー、あなたはゲームの要。

 あなたのその攻撃力は、戦況を大きく変える切り札になるわ。

 あなた一人では使いにくいその切り札も、実戦ではフォローする仲間がいるし

 今のあなたには、あなた自身の隙を埋めたり

 何よりあなた自身の力をさらに発展させてくれる半身もいるわ」

 

部長のありがたいお言葉を聴いていると、ふと俺の中に何かが入ってくる感覚があった。

セージ、お前いつの間に俺に憑いたんだよ。

けど部長、そういう言い方するとまたセージのやつ怒らないっすかね?

 

『そうやったほうが勝算は上がるからな。悔しいがそれは事実だ。

 けれど俺は何度でも言うぞ? 俺は宮本成二であり、あるいは歩藤誠二であって

 兵藤一誠の半身になった覚えはない、とな』

 

「あなたがどう思おうが今は気にしないことにしたわ。

 今の私達に大事なのはフェニックスに勝つこと。

 そのためには悪いけど、あなたも利用させてもらうわ」

 

お、おいセージ止めてくれよ。お前が部長に向けて啖呵切ると俺が睨まれるんだよ。

ああもう、何でセージの奴は部長の事をこうも毛嫌いしてるんだよ。

俺だって、知らない間に悪魔になったって事には変わりないのに。

 

ううっ、せっかく特訓は無事終わりそうなのに違うところで問題がありそうだぜこれは。

この問題が片付いたら、一度セージを説得したほうがいいかもしれない。

このままじゃ、またこの間みたいなことになっちまう。

 

……セージ、お前は一体何を考えているんだよ。

俺、本当にお前の事が分からないぜ……

 

――――

 

そんなこんなで合宿は終わり、後一歩だった俺の新しい技も今しがた完成した。

それで緊張の糸が緩んだのか、俺はいつもの事とは言え授業中に舟をこいでしまった。

 

……絶対に舟をこいじゃいけない先生の授業でもあるにもかかわらず、だ。

 

「……ッセー、イッセー、起きろって!」

 

「薮田がさっきからお前の事睨んでるぞ、早く起きろよ!」

 

松田と元浜の声で俺は慌てて飛び起きる。こういう時に頼りになるセージは

さっきからどこかに行ったのか、一切声が聞こえない。

その代わりに俺にかけられる声は、背筋の凍るほど冷たいものだった。

 

「……兵藤君。私は別に貴方が寝ていようと一向に構わないのですが。

 後になってから内申に色をつけてくれ、などと言うふざけた要求をしない限りは、ですが」

 

「は、はいっ! しませんっ!」

 

状況も読めないまま俺は立ち上がり、上ずった声で薮田先生に返答をするしか出来なかった。

アーシア以外から向けられる視線が痛いが

お前らだって黄色い声で授業の邪魔してるじゃないか!

 

今俺を睨んでいる眼鏡イケメンの先生は、世界史の薮田直人(やぶたなおと)先生。

木場を黒髪にしてそのまま成長させたようなこの人は

見てのとおり女子人気絶大で俺らとは住んでる世界が違う人だ。

聞いた話だと、生徒会の顧問もやってるらしい。

 

で、俺はそのイケメン先生の問題に答えなければならない。

女子人気の秘訣の「クールな雰囲気」もただ怖いだけだっつーの。

 

「ならばこれに答えられるはずです。オルレアンを解放し

 シャルル7世を戴冠させた、フランスの女傑は?」

 

えっ? 誰だそれ? や、やべぇ……

下手なことを答えるよりも正直に答えたほうがいいよな……

 

「わ、わかりません……」

 

またしても背筋が凍る思いをしていると、先生が笑いをかみ殺しながら話を続けている。

 

「……ええ、分かっていてわざと答えられない問題を出しました。

 そう、『分かりません』。正直に答えられるのも大切ですよ。

 勿論、正解の『ジャンヌダルク』でも一向に構いませんが」

 

……この先生。嫌味さで言えばセージと意気投合しそうな気がする。

などと思っていると、ちょうど終了のチャイムが鳴る。

 

「時間のようですね。今日の百年戦争は近々行われる中間テストに出ます。

 復習はしっかりやっておくことをお勧めしますよ……特に兵藤君」

 

先生、お願いだから追い討ちはしないでくれ……

号令が終わり、一部の女子が黄色い声を上げながら薮田先生についていく光景を

俺らは「いつもの事」と見送っていると、今まで黙っていたセージから声をかけられる。

 

それも、相当慌てた様子で。

 

『お、俺とあの先生が意気投合……!? じょ、冗談はよしてくれ!

 あ、あの先生……た、只者じゃないんだぞ……!!』

 

俺は、あのリアス部長にも横柄な態度を取れるセージがこれほど震えるのが信じられなかった。

確かに薮田先生は只者じゃないと言う噂は聞くが

それら全て女子が盛った噂だと思っていたからだ。

 

『あ、あの先生な……調べようとしたら神器(セイクリッド・ギア)がエラーを吐いたんだ。

 グレモリー部長やフェニックス、グレイフィアさんにも

 エラーを吐かなかった記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が、だ!

 上級悪魔に対しても効果のある記録再生大図鑑がエラーを吐く存在……俺には、とても……

 い、いいか! 薮田先生には気をつけろ! このままの距離を保て!

 必要以上に関わるな!!』

 

セージの奴、妙なところで神器使ってやがったのか、と突っ込む隙さえ与えず

相当驚いた様子で話を振ってくる。

そりゃ確かに、あの先生に睨まれると背筋が凍るけどよ……

そんなセージの様子が気がかりになっていた俺は、松田と元浜の声で現実に引き戻される。

 

「おいイッセー、誰と話してたんだ?」

 

「い、イッセー……お前アーシアさんというものがありながら二次元の嫁に走るつもりか!

 お前リア充に片足突っ込んでるんだから、二次元の嫁くらい俺らによこせ!」

 

あ。またやっちまった。

セージの奴も言うだけ言ってもう引っ込んじまってるし。

俺は松田と元浜を適当にあしらいつつ、さっきのセージの話を気にかけていた。

 

と同時に、桐生が話に割って入ってきた。

 

「薮田先生? 確かにあの人只者じゃないわよね。私のアレをもってしても測れないもの。

 それに取り巻きの子も凄い量よ。浮いた噂は全然聞かないけど、あれは規格外よ。

 生徒のイケメン代表を木場君とするなら、あの人は教師のイケメン枠ね。

 あの人に勝とうなんて考えないほうがいいわよ。木場君にだって勝てないじゃない」

 

「あ、ああ……俺らじゃ絶対に勝てないよな……」

 

「どうせ俺らなんか……くそっ、イッセー! この裏切り者め!

 ……って桐生、どうして薮田の話になったんだ?」

 

「え? 今薮田先生がどうのこうのって聞こえた気がするんだけど……

 私の空耳かしら。変ねぇ……でも何か宮本の声に似た声で

 薮田先生について話してた声が聞こえた気がするんだけど……。

 宮本はまだ退院してないし、そんなわけ無いわよね」

 

――ぎくっ

 

『……すまんイッセー、迂闊だった』

 

(あ、ああ気にすんなよセージ)

 

微妙に納得しないような表情を浮かべている桐生を尻目に

その事情を知っている俺らは、ただ黙っているしかないのだった……。




これにて2巻部分の特訓パートは終了です。
地味にイッセーが木場に対し完勝してます。
原作をA勝利とするなら今作ではS勝利です。

試合結果だけ見ればセージ>イッセー>木場>セージ
……となりますが、実際どうかは……ねぇ。


そしてねじ込む形で入れた授業パート。
ちゃっかりおまけエピソードにも触れてます。
あのおまけエピソードを踏まえるに

特訓→通常授業期間→ライザー戦

と、ならないとおかしいはずですし。
まあバナナでリハしてた説もあるっちゃありますが。
今作では特訓期間は黄金週間の間だけなので
明けの通常授業だって普通にあります。
しかもすぐ後に中間テストっておまけつきで。
……確かこれくらいの時期だった気がしますし。

特訓で疲れてたから通常授業をサボるなんて甘えは許しません。
若干一名受けられない人がいますが。


地味に新キャラが登場してます。
念のため付け加えますがオリキャラです。


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Soul19. 決戦、始まります。

……と、言いつつも戦闘シーンは次回以降というタイトル詐欺。


ゴールデンウイーク明け。俺達は特訓を終え、通常授業に戻ることになった。

とは言え、俺はまともに授業を受けられないのであまり関係ないのだが。

だがイッセーの奴は寝ている。今回ばかりは代弁する気になれないので

こっそりと黒板のチョークをぶつけてやる。

……昨日イッセーが変な話を振りやがった礼も兼ねて。

 

しかし一体何者なんだ、薮田先生は。

もう二度と試したくない。視界一面に出力される文字化けのウィンドウ。

鳴り止まないビープ音。

一部だけが文字化けしたことはあるが、表示全てが文字化けしたことは無い。

この記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)、やろうと思えば魔王クラスの相手にも効くらしい。

謁見したことが無いので試してないが。

それが効かないとなると、まさか、本物の神……

 

な、わけないよな。唯一絶対の神なんかいない。

そんなものは世界を都合よく動かすための誰かさんのお為ごかしだ。

そんな都合のいいシステムみたいな奴、あってたまるかってんだ。

 

……さて。それはそうとイッセーの奴は起きたかな、と。

 

『おいイッセー。特訓で疲れて今夜本番なのはわかるが、今は授業に集中しろ。

 今度中間テストだろ。特訓にかまけて成績が落ちたなんて、笑い話にもならんぞ』

 

イッセーがなにやら俺に恨めしそうな視線を送っているが、ああ知らん知らん。

どこの世界に「主のお家騒動に巻き込まれて特訓するのに学校休みます」

なんて言い訳が通じる学校があるんだよ。

1限目こっそり他の教室を見てきたが、皆普通に授業受けてたぞ?

 

そんなことをぼやいていると、ふとイッセーの後ろの今は誰も座っていない席に目が行く。

 

――宮元成二の机、か。

 

記憶に間違いがなければ、これは紛れもなく俺の席。

なんとなく、その席についてみることにする。

やはりなんというかこう、落ち着くな。ある意味、イッセーの精神世界よりも。

俺が活動しやすいように若干手を加えたが、そうでもしないとこっちの精神が汚染されそうだ。

まあ、色恋沙汰も嫌いじゃあないが……なぁ。あいつの場合、色が多すぎる。

 

相変わらず日中の実体化なんてできないし、仮に今やったら大騒ぎになるのでどっち道だが

ノートを取れない授業ってのは、なかなかつらいものがあるな……。

 

そんなことを頭の片隅で考えながら、俺はイッセーの外から授業を聞いていた。

 

――――

 

6限目の授業後。帰路に着こうとするイッセーを、松田と元浜が呼び止めている。

しかし案の定、イッセーは首を横に振り、彼らの誘いを断っている。

俺はというと、久々の自分の席の感触の余韻に浸っていた。

別にイッセーに四六時中憑依していなければならないわけでもないので、たまにはいいだろう。

 

などと考えていると、二人が何やら話し始める。

 

「なあ元浜、さいきんイッセーの奴付き合い悪くなってないか?」

 

「同感だ。あいつがオカ研に入ってから、随分人となりが変わった気がするんだが……」

 

む。こいつら、宮本の記憶だと意外とイッセーとの付き合いは長いからな。

その辺の些細な変化にも感づくのは早いか。イッセーが言うように悪い奴じゃないが

いかんせんスケベが度を越している。生活指導、ちゃんと仕事をしろよ。

 

「なあ松田、今度イッセーの奴をカラオケに誘ってみないか?」

 

「ん? ああ、俺はかまわないけど……あいつ来るかな?」

 

イッセー。お前は本当に悪魔であり続けるつもりなのか?

人間の友人と、今までどおりの話はもう出来ていないだろうが。

普通の人間と、そうじゃない奴との差ってのは、存外大きいものだ。

認めたくないが、いつぞやのクソ堕天使が言ってた通りの事態が起きかねない。

人間、そこまで馬鹿じゃないと思いたい。思いたいんだが……。

 

……友人であった者に、迫害される。

そんな未来、誰が望むって言うんだ?

 

「それに、セージの見舞いにも行ってないって話らしいぜ?」

 

「そりゃ確かに、セージはまだ目を覚ましてないけど……何か、変わったよな。イッセー」

 

……あ。そうなるか。実際には毎日顔を突き合わせているんだが

表向きには俺は未だ意識不明なんだよな。まあ、あれを人間の身で受けたんだ。

死ななかったことのほうが奇跡かもしれないが……。

 

むう。となるとそう多くない家族友人知人関係に迷惑をかけていることになるな……。

そう思ってつい聞き込みをしてしまったが、それは非常にまずかった。

 

「おい、セージが入院している病院ってのはどこだ?」

 

「駒王総合病院だけど……って松田、お前知ってるだろ?」

 

「え? 俺、何も言ってないぞ?」

 

 

 

「えっ」

 

「えっ」

 

……あ、やっべ。えーと、こういうときは……

ぽ、ポルターガイストでごまかす!

 

俺は適当に教室の中のものを動かしまくることにしたが……

 

「お、お、お、お化けぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「こ、こ、これがこの学園七不思議の一つ『白昼のポルターガイスト』かぁぁぁぁぁ!?」

 

白昼のポルターガイスト? はて、そんなのこの学校にあったっけ?

と思った瞬間、俺の中で少し嫌な考えが浮かんだが……まあ、今考えるのは止めよう。

 

……ちょっと、この学校をふよふよ漂うのも自粛するべきかもしれないな。

 

しかし駒王総合病院か。この件が片付いたら調べてみる必要がありそうだな。

そうして俺はイッセーと作戦を立てるべく、教室を後に一路イッセーの家へと向かう。

 

……のだが、俺を待っていたのはやはりと言うか、なんと言うかの光景だった。

 

イッセーは、またアーシアさんといちゃついていた。

ま、まあ決戦前だしね。多少はね。まあね……はぁ。

やれやれ、これじゃ俺本当に馬に蹴られそうだな。

実体さえ手に入ればこんな苦労しなくて済むんだが。

 

……だが、イッセーの奴が好きなのはグレモリー部長とアーシアさんとどっちなんだ?

アーシアさんはまだ友達の延長線上、グレモリー部長は憧れに近い感情……

一応、こう割り切れはするか。

 

……これも、そう遠くないうちに決着をつけるべきかもしれんぞ、イッセー。

 

そう考えつつも、俺は直で旧校舎に行って時間を潰すべきだったと少し後悔しつつ

改めて俺は旧校舎に向かうことにした。

 

――――

 

「おはよう、あれだけごねてた割には早かったわねセージ」

 

「……今更言ったって仕方ないでしょう。やるからには勝ちますが

 これで負けたら、そっちこそごねないでくださいよ」

 

「……絶対に勝つわ。負けたときの事など、考えるだけ無駄よ」

 

午後11時。既にオカルト研究部の部室にはイッセーとアーシアさん以外は集合を済ませている。

俺も最終チェックとしてデッキの再構築を始める。

特訓中に、イッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の負荷テストをやったように

俺も記録再生大図鑑の収録カードの枚数を増やせないかとテストを試みていたのだ。

 

「セージくん、随分カードが増えたみたいだね。最初見たときはたったの2枚だったのに」

 

「あの訓練で強くなったのはイッセーだけじゃあないってこった。

 だが、今日は表立って戦うつもりはないけどな」

 

結論は……簡単な効果を発揮するエフェクトカードなら増やせた。

つまり、今までは力の増加も加速も1回使ったら再起動しない限りそれっきりだったのが

2回まで使えることになる。それ以外のカードは出来なかったのと

増やす意味がなかったのでやっていない。

 

だが、これで継戦能力が大幅にアップした。しかし相変わらず使える回数は限られている上に

同時に使用は出来ない。使いどころを良く考える必要は、依然としてある。

再起動すればいいだろうと言う突込みが聞こえてきそうだが、事はそう簡単じゃない。

戦闘中に再起動かけている暇があるかどうか。カード一枚引くタイムロスも馬鹿にならないのに

再起動なんてかけた日にはその間の無防備たるやイッセーの倍加中と同じだ。

 

「うふふ、イッセーくんの力とセージくんの補助が合わされば怖いものなし、ですわね」

 

「こっちのペースに持って行けさえすれば、何とかできる自信はありますよ。

 ……不死身の相手以外は」

 

そして、まだ実戦で一度も使ったことのないカードがある。

グレモリー部長の魔法カードもなのだが、これは能力の察しがつくから問題ない。

 

問題は――昇格(PROMOTION)のカード。

 

おそらく、戦車(ルーク)昇格(プロモーション)するカードなのだろうが、果たしてこれ意味があるのかどうか。

普通に考えれば、俺は兵士(ポーン)であるから条件さえ満たせば昇格できる。

それなのにこのカードがある理由。それは一体……?

 

まあ、今考えていても仕方ない。今回必要なカードはこれとこれと……

後は万が一に備えてこれか。逆にこのカードはいらないな。保留。

手札はすっきりと。自分の意思でカードは引けるが、万が一の可能性の芽は摘んでおくに限る。

手札事故なんてやった日には、目も当てられない。

それに、もし相手に余計なカードを引かれたりしたら。そういう事だ。

 

「……あの鳥に、一泡吹かせてやりましょう」

 

「だな。さてと……コスト、よし。枚数、よし。種類、よし。セットし忘れ、なし。

 俺はいつでも行けますよ、グレモリー部長」

 

塔城さんの檄に、俺はカードデッキを整理しつつ答える。

それと同時に持ってきた袋から一枚の仮面を取り出す。

イッセーのセコンドとして出る以上、俺の顔が割れる心配はまずないのだが念のためだ。

いつぞやの偽名申請は降りなかったが、仮面の着用は認められた。

曰く「覆面レスラーの覆面みたいなもの」なので、なんと言うか、微妙なものだが。

何せ覆面レスラーの正体って、ものにもよるが公然の秘密みたいなものじゃないか。

リバプールの風になったあの人みたいに。

 

さて、そんな仮面のデザインは顔全体を覆うもの。縁日で売ってそうなお面タイプだ。

世界征服を企む悪の秘密結社の戦闘員がつけてそうな覆面じゃあない。

頭頂部とか覆っていないが、別に防具としての性能を求めているわけじゃない。

ファッションだ。

 

そんなお面は、全体に表情としてサメを模した目と口が描かれている。

いわゆるシャークマウスペイントだ。

それをつけた状態で振り向くと、その瞬間にイッセーとアーシアさんが部室に入ってきた。

 

「きゃっ!? せ、セージさんでしたか……」

 

「おいセージ! アーシアがびっくりするだろうが! その変な面はずせよ!」

 

「変とは何だ! いいか、このシャークマウスはな、古くは第二次大戦時から

 戦意高揚を目的として戦闘機の機首に描かれた由緒ある模様なんだよ!

 それを変とか言うな!」

 

思わずシャークマウスについて力説してしまった。

いや、力を使うのはこのタイミングじゃないだろうが。

因みに知識は記録再生大図鑑からだ。俺はそこまで戦争ヲタクじゃない、はずだ。

宮本の方も、多分。

 

「……試合が始まってから着ければいいんじゃないんですか?」

 

「む。それもまた然り。アドバイスありがと、塔城さん」

 

むう。変にテンションが上がってるな。平常心、平常心。

仮面を一旦外し、おもむろに取り出した麦茶を一口飲み終えると床に魔法陣が描かれ

グレイフィアさんが姿を現す。む、いよいよか?

 

「皆様、開始15分前です。準備はお済みですか?

 ……それと誠二様。誠二様の神器についてなのですが

 一度運営でデッキの中身を調べさせていただき

 その上で使用の可否を決めたいと思います。よろしいでしょうか?」

 

「ん? 何でセージのだけなんだ?」

 

グレイフィアさんの突然の指示に何事かと思ったが、その俺の思いを代弁するかのように

イッセーが反射的に聞いている。ふむ。これがチェスを模したゲームであるなら

ゲームはルールがあって初めて成り立つものだよな。となれば……

 

「推測だが、記録再生大図鑑の汎用性が問題なんだろうな。

 ぶっちゃければ、俺は兵士でありながら戦車、騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)

 全ての能力をその気になればいつでも使える。

 要は破格の条件で昇格できるようなものだから、そのために制約が入ったのかもな」

 

「……そういう事です。誠二様、恐れ入りますが左手を。

 念のために申し上げますが、今回のゲームの審判は私です。

 魔王サーゼクス・ルシファー様の名において、この度の審判役を承りました。

 ですので、この検査に不正はないことをここに証明いたします」

 

ん? 何だ今の間。俺の推測が間違っていたのか? いやそれなら訂正が入るだろうに。

不思議に思いながらも、俺は左手を出すことにした。

 

どうでもいいことだが、魔王サーゼクスって思いっきり貴女の旦那じゃないですか。

これ、下手したら身内人事とか天下りって揶揄されかねないんじゃ……。

 

あ、今回は非公式なお家騒動だから別にいい……わけないな。

グレイフィアさんを疑うわけではないが「不正はなかった」っていい加減なジャッジをされたら

勝負の公平性に欠けると思うのだが。

 

おもむろに出した俺の左手を、グレイフィアさんが握っている。

む。感触が結構……っていかんいかん、そうじゃなくて。

面を外してしまったために表情がバレバレのため、照れ隠しに目をそらすと

ふと目が合ったイッセーが何やら羨ましそうな顔をしていた。おい。

 

心の中でイッセーに突っ込みを入れると、検査が終わったらしく俺の左手からグレイフィアさんの

手の温もりが消える。ちょっと名残惜し……いやいやだからそうじゃなくて。

 

「確認が終わりました。現在セットされている全てのカードは問題なく使用可能です。

 しかし、再起動によるカードの補充は禁止とさせていただきます」

 

その程度の制約でいいのね。消耗の都合もあるから元々再起動による補充は

使えないものとして考えていたし。特に問題なく今までどおりに戦えるってわけか。

そんな中、イッセーはイッセーで疑問に思っていたことがあるのか、口を開く。

 

「あの、部長? もう一人の僧侶はどうしたんすか?」

 

「……彼は事情があって来られないのよ。その事については、いずれまた話すわ」

 

おやおや。この期に及んでも出られないとは余程のっぴきならない事情がおありのようだ。

ここまで自分のお家騒動に他人を巻き込んでくれるのに出てこないってのは……

 

案外、封印とかされていたりして。

何だかとてつもない力を持っているものだからとりあえず封印凍結させておけ、ってのは

古今東西フィクションの有無を問わずよくある話だ。

まあ、今いないやつの事をあれこれ話しても仕方ないだろう。

 

「間もなく開始時間です。尚、今回の試合は中継で両家の皆様も観戦されます。

 また、魔王サーゼクス・ルシファー様もこの試合を観客席にいらっしゃいますので

 それをお忘れなきようよろしくお願いします」

 

「……お兄様が直接見にこられるのね」

 

グレモリー部長の兄が魔王だということを知ってイッセーが素っ頓狂な声を上げている。

俺も驚かなかったと言えば嘘になるが、そも自分の家のメイドさんの旦那が魔王って時点で

何かしらあるとは思っていたが、なんとまあ。

 

……ふむ。となると、グレイフィアさんはグレモリー部長の義姉ってことか。

姉……か。む、ここ感慨深くなるところじゃないだろ……ない、よな?

少なくとも宮本成二に姉はいなかったはず、だが。

 

記憶の断片を整理していると、グレイフィアさんから呼び出しがかかった。

さて、いよいよ始まるわけか。この下らないお家騒動の決着が。

俺は仮面を着け、魔法陣の元へと歩みを進めた。

 

――――

 

転移が終わって周りを見れば、全く変わらないオカ研の部室。

はて。転移する感覚はあったが。考えられるのは……模造空間か。

しかし空間一つ作れるとは、余程大掛かりなシステムで管理されているのか。

おまけに、調度品やら何やら寸分違わぬ作りであった。

 

アーシアさんのラッチューくん人形や、俺が書いたノート。

しかも書いた中身まで再現されている。

気分転換に描いた落書きまで再現されている芸の細かさだ。正直、素直に感心した。

そして試しに窓から手を出してみたが、霊体にならない。

ここでは確かに実体がメインになりそうだ。

 

む、となるとイッセーに憑けるのか? まいったな。俺はセコンドでやるつもりだったのに。

 

ふと、チャイムの音と共にグレイフィアさんの声が響く。ルール説明やら何やらの挨拶だ。

最初の挨拶は聞き流していたが、ルールだけは一応聞いておいた。

チェスのルールどおり、昇格するには相手の陣地まで行かなければならないようだが。

 

こっちは旧校舎、向こうは新校舎。距離にすると結構あるな。

姫島先輩からイヤホンマイク型の通信機を受け取る。

まあ、この手のゲームじゃ必須だわな。

 

……ん? となれば、ジャミングとかも出来ればかなり強そうだが……

だが生憎、今の俺にはそれは出来そうもないみたいだ。

記録再生大図鑑の初期能力も相手や周囲を調べる能力のみ。

ジャミングはやはり妨害に属するのか、こればかりは収録されていないみたいだ。

 

グレイフィアさんのアナウンスが終わり、いよいよゲームが始まる。

矢継ぎ早に突撃するのかと思えば、グレモリー部長はじっくりと腰をすえている。

作戦のプランを立てているようだ。まあ、彼我戦力差が16:7ではね。

 

「さて、まずは『兵士』を撃破しないといけないわね。8人全員『女王(クイーン)』になられたら厄介だわ。

 セージ、レーダーの能力は使えるのかしら? 使えるのなら、お願いするわ」

 

「御意」

 

BOOST!!

 

8人全員に昇格を許すって、それ完全に四面楚歌じゃないか。

そうなる前にどうにかするのが当然の流れだよな。

……いくらなんでも、そんなアホな事態にはなるまいが。

 

俺はグレモリー部長からレーダーでの偵察を指示され、言われるがままに作動させる。

 

BOOT!! COMMON-LADER!!

 

「うんうん、見えます、見えます。体育館に『兵士』3と『戦車』1、運動場に……

 『騎士』『戦車』『僧侶』各1、それから『女王』が……ん? な、なんだ!? 反応が……」

 

突然、レーダーが何も映し出さなくなってしまった。何だ、どうなったんだ?

一つ確かなことは、レーダーの表示が完全に乱れてしまい、読めなくなっている。

 

――ああ、ジャミングされたのか。

 

「……すみません、ジャミングされました。残りがどこにいるか、其々が誰になるのかまでは

 解読できませんでした。後、敵の動きについても全く読めません」

 

「一応現時点での敵の配置の一部は読めたわけね。ありがとセージ。

 さて、それを踏まえると……」

 

そして、敵側にどう殴り込みをかけるか。地図の上では向こうは周囲がかなり開けている。

それは守る側にとって不利だが……それはあくまで防御側が

攻撃側と同等あるいは低い位置にいた場合。

防御側が高い場所に陣取っていた場合、崖撃ちされる危険性もある。

確か向こうの兵士軍団に遠距離攻撃を得意とする奴はいなかったと思うが

だからって無策で突っ込むのは、ねぇ。

 

どの駒にせよ、遠距離攻撃が可能な奴がいたら狙撃ないし爆撃されて終わりだ。

 

考え込んでいたが、どうやら体育館を確保して進撃することに纏まったようだ。

体育館を確保。しかる後、運動場に陣取っているであろう敵部隊を殲滅。敵本陣に乗り込む。

これが今回の大まかな流れになる、らしい。

 

姫島先輩はこちらの周囲にジャミング。木場と塔城さんは周囲の森にトラップを設置。

ふむ。結構やることは本格的だな、これ。

 

さて。残りの俺達はというと――

 

「イッセー。ここに横になりなさい。セージはイッセーに憑依して。

 あ、念のため言っておくけど、五感は共有しておいて」

 

あ、できるのね。じゃあ早速……

 

ってちょっと待て。「横になれ」って、そこ太腿じゃないですか。

イッセーは感激してるけど、何で俺まで。

しかも五感共有維持しておけって、どういう意図ですか。

 

「……イッセーだけじゃダメなんですか」

 

「ダメ。あなた達二人にとって重要なことだから。早くなさい」

 

「そうだぞセージ! 部長の膝枕が待ってるんだ! 俺のためにも早くしろ!」

 

……役得と思うべきか、なんと思うべきか。非常に複雑な心境ではあるが

俺は渋々イッセーに憑依することにした。

正直、ここでもたもたするのもどうかと思った、というのもある。

 

あ、向こうでアーシアさんが何やら不服そうな顔をしている。

む、むう。これはどう声をかけていいのかわからん。

とりあえず……イッセー、お前後でアーシアさんに謝っとけ。

あれだけいちゃついてた後で他の女の膝枕ってどうなのさ。

 

……俺も謝るべきなのかどうかは知らないが。

それに、あの一件を見なかったことにしている以上、大きく突っ込めないのもある。

 

で、グレモリー部長の膝枕は感触自体は悪いものではないのだが……

まったく、いちいちスキンシップが過剰なんだよなぁ。

イッセーにしてみりゃいい事尽くしなんだろうが……はぁ。

 

ふと、イッセーの力が増す感覚が俺のほうにも伝わってくる。

どうやらイッセーの悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の封印の一部が解かれた様だ。

力が増す感覚はこっちにもあるのだが……それ以上に……ッ!!

 

『ぐっ、う、ううっ……!?』

 

「えっ? セージ、気分が悪いの?」

 

な、何なんだ。この内側から来る猛烈な不快感は。

まるで、俺の中にあるものが俺じゃないような。

自分でも何を言っているのか分からないが、俺の中に俺じゃないものがある。そんな異物感。

その異物が、今まで主張していなかったのに何故急に主張を始めたんだ!?

 

何故か、俺は以前戦った灰色の甲虫型のはぐれ悪魔の事を思い出した。

奴らは小動物の妖怪が悪魔の駒の拒絶反応で変異してしまった存在。

それ故に眷属となれず、結果はぐれ悪魔となってしまった哀しい犠牲者。

まさか、俺もそうだというのか!?

 

――と、とにかく、これ以上イッセーに憑いているのは危険だ!!

 

俺は慌ててイッセーから飛び出すと同時に、激しい嘔吐感からむせこんでしまう。

幸い、リバースはしなかったが。

イッセーから離れたことで、俺の中の異物感はいくらか治まった。

 

「せ、セージさん、大丈夫ですか!?」

 

「セージ! お前部長の膝枕で吐くとかどういう神経してるんだよ!!」

 

イッセーが思いっきり怒ってやがる。あー、違う、そうじゃないんだ。

俺が吐いたのはそこじゃないんだが。寧ろ膝枕って感触自体は嫌いじゃないんだが。

そんな俺の吐き気の原因は、アーシアさんの治療によっていくらか収まってはいる。

確か前に風邪には効果が無いって言ってたから、そういう異常ではないらしいな。

 

「あ、ありがとうアーシアさん……すみませんグレモリー部長。

 しかし、自分でも分からないうちに物凄い異物感と吐き気がこみ上げてきて……」

 

「セージ、あなたもしかして……い、いえ。それについて調べるには今は時間が足りないわ。

 それより大丈夫? 申し訳ないけど、今はゆっくり静養させてあげることが出来ないわ。

 あなたは嫌かもしれないけれど、暫くはイッセーに憑かずに行動なさい。

 私が指示を出すまでイッセー、アーシア、セージの三人は待機。いいわね?」

 

俺を含め三人ともグレモリー部長の指示に従い首を縦に振る。

正直、今イッセーに憑くのは少し怖いものがある。

悪魔の駒の封印が解かれた直後、俺の異物感が出たのだ。

俺の方にも悪魔の駒はあるらしいが、それが何か原因ではないだろうか。

 

しかし、これではイッセーのセコンドとして戦うのは無理そうだ。

仕方がない。まあ数の上ではこっちが圧倒的に不利だからなぁ。

結局、俺もメインで戦うことになりそうだ。

 

吐き気がおさまるまで、俺は改めてソファで横になりコンディションを整えなおすことになり

作戦の決行は、幸か不幸か俺の吐き気が治まるのとほぼ同じタイミングだった。




Q:イッセーは悪魔の駒の件について知ってるはずなのになんでセージに言わないの?

A:部長の膝枕で浮かれてました。

……結構マジな理由だったりします。
肝心要の場面でもスケベ根性丸出しにするような奴ですし。
なので、的外れな指摘をセージにしています。


……その肝心要のスケベ根性でのパワーアップイベントは……
……変えられたらいいとは思いつつも、変えたらコレジャナイ感でそうだし……
うーむ……


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Soul20. 必殺技、魅せます?

さて、いよいよ始まったレーなんたらゲーム。

うまく作戦通りに敵を倒すことが出来ればこっちの勝ち。

グレモリー部長がやられればこっちの負け。

 

向こうの王――ライザー・フェニックスとやらを倒せば

後どれだけ部下がいようがこっちの勝ちになるが……

相手の戦力を無視して直接攻撃に行くのは、現実的じゃない。

 

こっちの戦力を考えると、総力戦で当たらないと倒せる相手じゃない。

超長距離からスナイピングして仕留められる相手じゃあないし

そもそもそんな攻撃手段を持っていない。

 

となると、なるべく消耗を抑えつつ横槍を入れられないよう部下を無力化。

然る後こちらの全戦力を以って相手の王を倒す、これが一応の俺のプランだ。

 

 

で、俺――歩藤誠二は何をするのかというと。

 

「部室でも思ったが、体育館の再現度も高いな……」

 

「……ここから演壇に上がれるはずです」

 

俺と同行していたのはイッセーと塔城さん。

俺たち三人で体育館の制圧がとりあえずの目的だ。

 

「それよりセージ、気分のほうはどうだ?」

 

「絶好調ってほどじゃないが、普通に戦う分には問題ないさ。

 俺だってこんなふざけた格好してる以上、いの一番に脱落するつもりはない」

 

「……ふざけた格好って自覚あったんですか」

 

おっと。久々に塔城さんの毒のある突込みをもらった気がする。

実際、シャークマウスマスクのやや大柄の男が出てきたら

変態かあらくれか何かだと思われたって仕方ないだろう。それくらい今の自分の格好は

ふざけた物であるという自覚自体はしている。

 

「なら取れよ、それ」

 

「この戦い、非公式とは言え見られてるんだろ。だったら取るわけには行かないな。

 悪魔社会とは、必要以上に関わりあいたくないんだよ。顔を売るなんて以ての外さ」

 

そう。もう契約を交わしてしまった虹川さんら悪魔としての顧客はともかくとして

俺は必要以上に悪魔社会に関わりを持つ気はなかった。

人間じゃない力を持っているし、生活リズムも人間のそれから大きく外れてしまったが

俺は、人間としての生活に未練がある。やりたいことはまだ沢山あったのだ。

それを放り出して悪魔社会でなりあがる気など、俺にはない。

悪魔として栄光を掴むよりも、人間として平凡な生を選びたい。それなのに……

 

……いや、今はよそう。それよりも。

 

「……っ! 悪魔の匂いです。こっちを待ち伏せていると思います」

 

舞台袖から体育館のコートの様子を探っていた塔城さんが、敵の気配に気づく。

本来なら俺もレーダーを展開しているのだが

開始直後にジャミングを受けてしまい、使えない。

いつでも作動できるよう、スタンバイはしているのだが。

 

そしてここ体育館は、最初にレーダー探知をしたときに敵部隊がいると表示された場所。

敵がいたところで何の不思議があるだろうか。

 

「よーし、一気に蹴散らし……っ!?」

 

「待てイッセー。のこのこ演壇から出たらいい的だ。

 幸いここは体育館。相手の気を逸らせそうな物は、何かしらあるはずだ」

 

馬鹿の一つ覚えの如く飛び出そうとしたイッセーを引っ張り、舞台袖に引っ込む。

大まかな作戦は既に出ているとは言え、現地で戦術を立てるのはよくあることだろうが。

 

「それもそうか。気を逸らす……そうだな、照明を落として

 スポットライトに乗じて奇襲をかけるのはどうだ?」

 

「……悪魔は夜目が利きます。暗闇に乗じての奇襲は、あまり効果がないと思います。

 それに、カーテンを閉めないといけませんし」

 

「カーテン閉めてる暇は……無さそうだな」

 

舞台袖で相手に気づかれぬよう、如何にして相手を出し抜くかの作戦を立てる。

一気に突っ込んで蹴散らせれば楽なのだが、それをやるには体力の消費の面で辛い。

なるべく相手の総大将と戦うまで、体力や気力はセーブしておきたい。

 

「……今ふと思ったんだが。俺の記憶では、ここにいたのは『兵士(ポーン)』3と『戦車(ルーク)』1。

 そして向こうのその駒には、遠距離攻撃を行うものはいない。

 だがこっちは、俺が遠距離攻撃が出来る。俺がギャラリーから援護射撃を行うから

 二人で四人を引き付けてもらう事は出来るか?」

 

「……それで行ってみましょう。イッセー先輩の負担が大きくなりそうなので

 セージ先輩はイッセー先輩の援護をお願いします。『戦車』は私が足止めしますので」

 

「三人相手かよ……まぁいいや。セージ、頼んだぜ」

 

話は決まった。本命はこのすぐ後なのだが

そのためにはあいつらをここに釘付けにしないといけない。

それをやるのにしたって、体力の消費は少ないほうがいい。

 

SOLID-GUN!!

 

俺は銃を実体化させ、懐にしまう。イッセー、塔城さん、そして俺。

互いに頷き合い、イッセーと塔城さんは演壇から、俺は舞台裏の階段を上りギャラリーへ。

それぞれ駆け出した。

 

――――

 

ギャラリーのカーテンも完璧に再現されていたため

俺はカーテンの陰に隠れながらコートの様子をチェックしている。

兵士の方は確か棍使いのミラ、チェーンソーをぶん回すイルとネルの双子。

やはり、コンビをぶつけて来たか。

しかし相手を頼んでいるイッセーには悪いが、この位置は狙ってくれって言ってるようなものだ!

 

ここから射撃して、相手の気を逸らさせる。

これがライフル銃とかなら一撃必殺を狙えるのだろうが、拳銃でそこまでやるのは多分無理だ。

いくら弾が祓魔弾だからって。それに肝心の相手の得物はチェーンソー。ならば……

 

COMMON-ANALYZE!!

 

アナライズ。以前やろうとして失敗したが、今回は少なくとも同じ原因による邪魔は入らない。

射撃を行う際にはこれをやった方が安定する。下手な鉄砲とは言うが、当たり所も大事だ。

 

「このすっごくキモい悪魔は」

 

「すぐ解体しないとね!」

 

 

「「バラバラバラバラー!」」

 

 

悪魔である以上、あれが見た目どおりの年齢のわけがないんだが

傍から見たらシャークマウスマスクの俺より危ないようにしか見えない。

どこの世界にチェーンソーぶん回す女の子がいるんだよ。あ、ここか。

 

攻撃を避けているイッセーも、以前よりはいい動きをしている。

しかしこれ以上は、イッセーに余計な負荷がかかりかねない――と危惧した矢先。

 

アナライズ完了。急所に関しては、見てくれどおりに人間と同じらしい。

チェーンソーの方は、弾丸にちょっと魔力を込めて撃てば爆発しそうだ。

刃毀れを狙うよりは、動力部を狙ったほうが確実に武器を封じられるだろう。

 

――ククッ、そのチェーンソーで神はバラバラにできるかもしれないが

俺の相棒はやらせんよ!

 

隙を見て、俺はギャラリーのカーテンから躍り出る。狙いはチェーンソーの動力部!

ついこの間から銃を使い始めた俺にとっては些か難易度の高い的だが

そこはイッセーがうまく動いてくれたお陰で、すんなりと照準内に収めることが出来た。

サイレンサーなんて洒落たものはないので、外したら作戦は失敗になってしまう。

息を呑み、俺はチェーンソーの動力部めがけて引鉄を引く。

 

「きゃあっ!? なんで急に爆発するのよ!?」

 

「お姉ちゃん!?」

 

――着弾。それと同時に双子の片割れのチェーンソーは火を噴き、爆発を起こす。

よし、まずは一つ破壊した! この調子で……

 

「二人とも、上!」

 

「えっ……あっ!」

 

「むーっ! 卑怯よ! ヘンテコ仮面! 降りてきなさーいっ!!」

 

む。気づかれたが、もう遅い!

しかもご丁寧に、まだ生きているチェーンソーをこっちに向けてるじゃないか。

何だこれ。撃っていいのか? 答えは聞いてないが。

俺は二発目の引鉄を、遠慮なくもう一つのチェーンソーめがけて引く。

 

「ああっ! また!!」

 

「こんのぉ……よくも私達の武器を! 降りてきなさいよっ!!」

 

魔力弾は見事着弾し、またも爆発を起こす。これで二人の武器は無力化できた!

思いの他すんなり行って俺もびっくりだよ。

あの様子じゃ、罠とかもとりあえずは無さそうだし。

 

「セージ、やったな!」

 

「ああ。見事な釣り餌っぷりだった、イッセー!」

 

そう。見事にイッセーというエサに食いつき、魚二匹は己の牙を失ったのだ。

牙のないピラニアなど、ただのまずい魚だ。

リリースしたいところだが、場合によっちゃ駆除も必要になるか、これは。

 

「お前、俺はエサかよっ!?」

 

「ははっ、お前は虫じゃなくて海老だと俺は思ってるがな!」

 

そんな馬鹿みたいなやり取りをしているうちに塔城さんが相手の戦車を押さえ

イッセーも以前は俺がアシストしなければまともに戦えなかった兵士と互角以上に渡り合っている。

あの特訓の成果、絶対に無駄じゃないな。特にイッセーは。

 

……これは、何とか「イッセーは」勝たせてやらないとな。

 

「こ、これじゃライザー様に怒られちゃう!」

 

「うーっ、絶対バラバラにしてやるんだからーっ!」

 

「へへっ、鬼さんこちらっと! あ、上にも気をつけろよ?」

 

……うわあ。見た目どおりの精神年齢だ。

武器を失ったことで双子の兵士はその身一つでイッセーを押さえ込もうとするが

そうなれば二階にいる俺に対する注意は散漫になるわけで、そこを撃たれる。

そうしている間に、双子は疲弊しミラの棍はイッセーに叩き折られ

相手の武器はこれで全部無くなった。思いの他早く無力化できたな。

 

作戦を待たずして止めを刺そうかとも思ったが、ここで勇み足を踏むのも

如何な物かと思ったため、牽制射撃に留める。

それにこの銃の弾丸は元々祓魔弾。当たればただではすまない。

こんな下らないゲームで命の危険を冒すのはちと忍びない。

そう考えた結果、俺はお節介にも自分の手の内を晒してしまっていた。

 

「そろそろ降参しな、お三方。この弾は祓魔弾だ、食らったらただじゃすまないぞ?

 次は命中させる……命が惜しければ降参しろ!」

 

「バッカじゃないの? レーティングゲームで死ぬことなんてまずないのに」

 

「それに降参なんてしたら、ライザー様に相手してもらえなくなるもん。絶対イヤ!」

 

……なるほどね。それが答えか。仕方ない。

警告を無視したのはそっちなんだ、悪く思わないでくれよ!

 

一撃で戦闘不能に追い込めるよう、俺は狙いを眉間に定めたが――

その寸前、イッセーが何やら相手に触れていた。

マズい。この状態で撃ったらイッセーに当たる。

まあ、あいつはあいつで何かやる気だ。ここは無駄弾撃つよりはイッセーに任せるか。

さあ、見せてくれ! お前の特訓の成果を!

 

 

……だが、それはある意味悪手だったとすぐに思い知ることになる。

そう、次の瞬間――三人の兵士の服が弾け飛んだのだ。

その光景を見たとき、三人の悲鳴に乗じて俺のほうも変な声がでた。

 

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

「おぅ!? な、何だぁ!?」

 

「見たか! 俺の必殺『洋服破壊(ドレス・ブレイク)』!」

 

おいイッセー。今ちょっとだけ感動した俺の感動を返せ。

やっぱお前どこかで始末しとくべきかもしれないわ。同じ男として見るに堪えん。

案の定、兵士三人ともへたり込んでしまい全く身動きが取れない状態である。

塔城さんも、敵の戦車も、イッセーに冷ややかな目を向けている。言わんこっちゃない。

お前、本当にハーレム作る気あるの?

 

そしてさらにまずいのは、これ中継されているって事だ。

つまり、この子ら三人は公衆の面前に裸をさらしてることになるわけで。

 

……ああもう、ゼッケンじゃちょっと足りないから緞帳切るしかないか!

 

SOLID-SWORD!!

 

今、すっごいコストの無駄遣いをしたと思いつつも、俺は緞帳を適当な大きさに切って

コートでへたり込んでいる三人の元に向かった。

 

――――

 

「お前はアホか! と言うか北風と太陽の話を知らんのか!」

 

「セージ! 俺の煩悩もとい修行の成果にケチつける気か!?」

 

緞帳で作ったマントを手に、俺はイッセーと口論していた。

俺の言い分はこうだ。「服を脱がせたいなら無理やりじゃなく然るべき手順を踏め」と。

と言うか煩悩は心のうちに秘めてこそ煩悩だろうが。

そりゃまあ俺だってそういう妄想を一切したことがないと言うと大嘘になるけど。

けれどここまで下劣じゃない、と思いたい。

公衆の面前、しかも中継されているような場所でひん剥くなんて行為に出るなんて!

 

そもそも、服も合わせていいんであって、その服をひん剥くなんて邪道も邪道。

何にも分かっちゃいない!! 生地の質感、スリットから覗く脚、全体のシルエット……

 

っていかんいかん。クールダウン、クールダウン……。

 

……それにしてもイッセー、覗き魔から強制猥褻犯にクラスチェンジするつもりか?

強制猥褻は結構罪重かった気がするんだが。少なくとも覗きよりかは。

 

イッセーを一頻り叱り付け、俺は緞帳のマントを三人の兵士に手渡そうとするが

ここでふと思いとどまる。別に見惚れたわけではない。

と言うか、彼女ら三人は皆俺のストライクゾーンからは思いっきり外れている。

 

「……あんまり気分のいいやり方じゃないけど、これ欲しかったら降参しろ。

 俺はともかく、こっちのはこのまま放っておくともっとひどいことをされるぞ。

 それに……言いたくないが、この戦い、中継されてるんだろ? つまり……」

 

「わ、わかった! 分かったわよ……」

 

「……ほんっと。リアス様の眷属ってサイテーね」

 

「……何とでも言ってくれ。一応勝負なんだ。勝てば官軍って奴だ」

 

そうだな、俺もこれはサイテーだと思う。

流れでこういう手を使っているだけで、本当は俺だってやりたくない。

まあ、言い訳にしかならないから言わないが。

全く。一人がこういう事をすると他の奴まで同じ目で見られる。ああいやだ。

肝心の主犯は塔城さんに見損なわれたのが堪えた表情をしているが……

自業自得だ。俺は何も言わんぞ。

 

ぼやきながらひん剥かれた相手の兵士三人にマントを羽織らせた上で

ついでに手を後ろに組ませ、縛る。万が一と言うこともあるからな。

だからこそまず武器を封じ、戦力を無力化させた。

それでも刃向かって来る以上は、身体そのものを縛り付ける必要がある。

……結果、ある意味オーバーキルになってしまったが。

 

淡々と作業を終わらせた俺のところに、グレモリー部長からの無線が入る。

曰く、姫島先輩の準備が出来たそうだ。

 

「……一応最後に聞くがお前達、まだ戦う意思があるのか?」

 

「当たり前よ! 武器を壊した程度でいい気になるな!」

 

「そーよ、あんたなんかライザー様のところに行く前に倒されちゃうんだから!」

 

あっそ。それが答えか。降参するんならこれ以上痛めつけるような真似はしないように

一応プラン立ててたんだけどな。まだやるんなら仕方がない。

 

……雷にでも打たれてろ。

 

俺達三人は、敵の兵士や戦車をその場に置き去りにし、体育館を後にする。

体育館に雷が落ちたのは、その直後の事だった。

 

――――

 

気がつけば、レーダーが正常に稼動していた。

姫島先輩の起こした雷が、この周囲のジャミングを払ったようだ。

敵の撃破を示すアナウンスが鳴り響いたと同時に

敵影を示す通知音が俺のレーダーから鳴り響く。

 

――マズい、しかもこれロックオンされてる!?

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

俺は慌ててイッセーに憑依し、カードを引く。

そのまま塔城さんを抱え、その場を一目散に離れる。

先刻のあの技のせいで、塔城さんの顔が一瞬強張ったが、今そんな場合じゃない!

 

『みんな、急いでここから離れて伏せるんだ!』

 

「え? おいセージ、どういう……っ!?」

 

イッセーに関しては、俺がシンクロして無理やりやらせた。

塔城さんも俺、と言うかイッセーから飛び退き、俺の指示通りに動いている。

姫島先輩は確認できなかったが、多分位置的に飛び退いていたのだろう。

俺達と違い、彼女は上空にいたのだ。確認ができてないので憶測だが。

 

その確認ができなかった理由。それは、俺達の背後で凄い爆発が起きていたのだ。

 

「……ちっ。運のいい坊や達だこと」

 

「あらあら。不意打ちとは随分ですわね、『爆弾女王(ボム・クイーン)』のユーベルーナさん?

 セージくんが言ってくれなかったら、小猫ちゃんが消し炭になってたかと思うと……

 お仕置きが必要ですわね」

 

ギリギリセーフか。少し背中が熱いが、この程度で済んで幸いだったと言うべきだろう。

あの爆発のど真ん中にいたら、多分吹っ飛んでいる。

 

「……多分、あの4人は最初から私達を狙うための囮」

 

『なるほど、倒して安堵しているところを爆撃する算段だったのか。

 レーダーが回復しなかったら、やられていたな……』

 

「何だって!? ちくしょう、なんて奴だ! そんなけしからんおっぱいには

 俺が洋服破壊でお仕置きしてやる!」

 

イッセーの意見は横に流すとして、塔城さんの読みはおそらく当たっているだろう。

体育館は向こうも重要な拠点としてみている。

そこを俺達が必死になって確保しようとすることも。

そのためにわざわざ戦力を配置。それも囮として。

 

考えてみれば、王がわざわざ「一番弱い」と公言したあのミラって子を配置してた時点で

囮の可能性も考慮に入れておくべきだったかもしれない。

 

……今回は結果オーライだが、次もこううまく行くかどうか。

しかしまあ、一歩間違えれば死ぬかもしれない作戦をあっさりやらせる方も

それに何の疑いも持たない方も、どうかしてやがる。

悪魔と人間じゃ、こうも命に対するものの考え方が違うのか?

悪魔は全体的に命を軽く見ているのではなかろうか。

フェニックスってのがなまじ不死身だから、命の価値が薄くなっているだけかもしれないが。

 

だとしても俺はやはり……いやだ。

始まったものに対してうだうだ言っても仕方ないし、ここで降りる気もないが

こんなことは、もうこれっきりにしたい。

イッセー……いや最悪グレモリー部長と、もう一度話をつける必要があるかもしれない。

 

『イッセー、憑依を解くぞ。お前の代わりに俺がひん剥いておいてやる。お前は木場のところへ』

 

「……いえ、ここは私と朱乃先輩で引き受けます」

 

「あなた達にはやる事があるでしょう? 後から追いつきますから、待っていてくださいね?」

 

……普段は頼りになるこの二人だが、どうも嫌な予感がする。

今言ったこともそうなのだが、向こうはまだ切り札を隠し持っているに違いない。

もし、その切り札をこいつが持っていたら。

 

だが、譲り合いでグダグダするよりは……2対1ならあるいは、という淡い期待も含めて

ここは彼女らに譲ることにした。

 

『む。姫島先輩、塔城さん……死なないでくださいよ。

 同じ釜の飯を食った仲間が、誰かの尻拭いで死ぬなんて非常に夢見が悪い。

 俺が思うに、王を倒すには全員でかからないと倒せない。

 こっちが片付いたら、すぐに援護に来ます。それまで……どうか死なないで』

 

「あらあら、心配性ですわねセージくんは。大丈夫、そこまで危ないことはしませんわ」

 

「……右に同じく、です。早く行って下さい」

 

何だか、いつぞやの教会の時みたいだ。時間があれば、あいつをアナライズして

戦況を優位に進めるくらいは出来たかもしれないが……そんな暇は無さそうだ。

心の中のモヤモヤは取れないまま、俺はイッセーに憑いたまま体育館跡を後にし

木場と合流すべく運動場へと駆け出した。

 

『――こんな戦い、さっさと終わらせてやるぞ。イッセー』

 

「ああ。部長の将来がかかってるんだ。絶対に負けねぇ!」




そういえばライザー眷属の兵士って双子多いなぁ、と。
飛び道具の有無で戦術が大きく変わる好例、のつもりです。

……地味にセージ無双になってる部分がある点については否定しませんが。
作戦立案と武器の無力化と小猫救出と。


……しかし洋服破壊って良くも悪くも頭悪い技だなぁ。
着エロスキーの敵だっての、イッセー(と言うか原作者)は
分かってるのでしょうかねぇ。


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Soul21. 騎士の、心意気です。

時折ちょこちょこタグを弄ってます。
書き進めていると、結構話の雰囲気が
投稿当初から変わっていたりもしますので。


後方で爆発と雷鳴が鳴り響く。

お家騒動の下らないサバゲーも、今のところはこちらが白星を挙げている。

最もこれは、こちらの戦力を過小評価していたが故の結果なのかもしれないが。

 

ともかく、こんな下らない戦いはさっさと終わらせたい。

何が哀しくて、他人のお家騒動に首を突っ込まなければならないのか。

幸い、俺のレーダーを邪魔しているジャミングは晴れた。

犯人はおそらく今姫島先輩や塔城さんが抑えている向こうの女王(クイーン)で間違いない。

 

どうやら、いくら向こうの女王でもジャミングをしながらあの二人と戦うのは無理らしい。

それは、こっちにとっては好都合。遠慮なく索敵させてもらおう。

 

――ふむ。なるほど、なるほどね。

 

一人納得していると、憑依先であるイッセーから突っ込まれた。

 

「おいセージ、一人で納得してないで俺にも教えろよ」

 

『ああすまん。この先の運動場に向こうの兵士(ポーン)が3人固まっている。そこから離れたところに

 戦車(ルーク)騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)がそれぞれ1人ずつ。本陣には残り全部だ。

 何とかこの運動場を制圧して、早いところ先輩らの援護に向かうぞ』

 

力強いイッセーの答えが返ってくる。俺はやるからには勝つって程度のスタンスだが

イッセーはそれ以上に勝利に拘っている。それ位の心意気が必要なのかもしれないが。

 

だが、まだ始まったばかりだ。本命を潰すには――

 

と考えている間に向こうの兵士が倒されたアナウンスが響く。

着実に相手の兵士を削っているが、そもそも向こうはフルメンバーだ。

それに、さっきのケースを踏まえると兵士を捨て駒にしている可能性は低くない。

 

『……状況はどうなんだ、木場』

 

「おっと。セージくんが憑いてたのか。

 その状態のイッセーくんは、まるで後ろにも目があるみたいだね」

 

背後から忍び寄ってきた木場に声をかけ、俺達は敵に気づかれぬよう体育倉庫の中に忍び込んだ。

 

「そっちはどうなったんだい?

 アナウンスが無いってことは、まだみんな無事って事だろうけど」

 

「ああ、向こうの女王を今朱乃さんと小猫ちゃんが抑えてくれている。

 あいつら、初めから体育館にいる自分の眷属ごと俺達を潰そうとしてたみたいだ」

 

イッセーの言葉に、木場はやっぱりか、といった風に肩を竦める。

ふむ。この様子じゃ、やはりさっきの兵士もデコイにした可能性があるって事か。

同じ兵士でも、俺らとは偉い違いだな……。

 

やはり人手が余っていると、使い方も荒くなるものなのか?

俺達の方は完全に少数精鋭の戦い方をせざるを得ない状態だ。

それ故に、脱落者を出すとそれだけ敗戦は濃厚の状態になる。

勝つだけじゃダメだ。こちらから脱落者を出さない戦いをしなければ。

 

『だからなるべく早いうちにここを制圧して、女王と戦っている二人の援護に向かいたい。

 相手の女王を落とせば、後は王を集中砲火で倒せる可能性が無くもない。

 それに、万が一にも彼女らがやられてしまう事態になったら、勝つのは絶望的だ』

 

「確かに。ただでさえ少ない戦力で戦っているんだ。脱落者が出てしまったら

 それだけ不利になるね……けれどセージくん。ここを防衛している奴らは

 どうにも警戒心が強くてね。罠も相手の兵士を3人倒すので精一杯だったよ」

 

ふむ。このまま腹の探りあいをすれば姫島先輩や塔城さんの負担が大きくなってしまうな。

それに、もし万が一女王が「アレ」を持っていたら……。

しかし、どうやってここを制圧するんだ?

ここで引き返しても、挟み撃ちされたら本末転倒だ。

 

「それにしてもセージくん、君は肝が据わってるね。

 僕なんてさっきから手の震えが止まらないよ」

 

「全くだぜ。あ、もしかして俺に憑いてるから他人事とか考えてないだろうな!?」

 

『……半分あたりで半分はずれだ』

 

他人事。全くもってそのとおりだ。事の始まりからして既に他人事だ。

俺には関係ない。お前らで勝手にやってくれ。そういうスタンスだった。

だが、今この場にいる以上は他人事で済ませる気はない。

いくら俺が生霊だと言っても、死の恐怖は当然ある。そうでなくても痛覚があるのは体験済みだ。

それなのに間違いなく痛い思いをするこの場にいるのは、どう考えてもバカだ。

 

「……大した自信だね。とても僕には真似できそうも無いよ。

 それにイッセーくんの言うとおり、メンタル面も相当だね。

 ここまで他人事と言い切れるなんて、そうそう出来ないよ」

 

『そうじゃない。他人事なら五感共有も切って引きこもってるっての。

 俺は「勝つためにはどうするか」を考えているに過ぎないだけだ。

 そのためには多少強がりも言うし、最悪のパターンだって考えたりする。

 士気ってのは、なんてことの無いものから湧き上がるもんだからな。なぁイッセー?』

 

「おい。何で俺に振るんだよ?」

 

先刻のあのとんでもない技を引き合いに出して、俺は軽くイッセーに嫌味を言ってやる。

変にガチガチになられるよりは、さっきみたいに自然体でやってもらった方が楽だ。

それは、イッセーだけの問題じゃあない。

 

『聞いてくれ木場。イッセーの奴、事もあろうに幼い少女の服をびりびりにひん剥いて……。

 俺はやめろと言ったんだ、それなのにこいつは……。

 塔城さんも居たってのに、自分の欲望のままに少女を辱めるその姿たるや……!

 この場で無ければ、即刻叩き潰しているところだった……!!』

 

「なんだって、それは本当かい? い、イッセーくん……君ってやつは……」

 

「おいセージ、お前言い方ってものがあるだろうが! 木場も真に受けるな!

 それにひん剥いたのは認めるが、手は出してないからな!?」

 

木場の緊張を解すために、俺は愚痴もかねてさっきのイッセーのあの技の一部始終を話す。

本当に、こういうムードメーカーの素質はあるんだよな、こいつ。

……やってることは許容できないが。

 

事実、木場も俺の話に対してドン引きしている。

イッセーは俺に文句を言っているが、ああ聞こえない。

っつーか、今回俺は嘘を言ってない。やめろと言った件は嘘かもしれないが

あの技の効果を知っていれば止めていた。完全に犯罪者の所業であるからだ。

成人もしてないうちから性犯罪に手を染めるなど、腐っても友人としてそれは避けねばならない。

 

『ああ……俺の身体を取り戻してからの初仕事が

 まさかイッセーの逮捕を親御さんに伝える仕事だなんて……。

 おい、俺は確かお前の親御さんとも顔見知りなんだ。

 親御さんが悲しむ真似はマジでやめてくれ』

 

「セージくんに完全同意だよ。親御さんを悲しませるような真似は

 僕も友人として認めるわけにはいかないね。

 イッセーくん、君が出所したら部室の窓に黄色いハンカチをかけておくからね」

 

「お前ら、俺を犯罪者にするんじゃねぇよ! あと木場! ネタが古いぞ!」

 

女三人寄ればとも言うが、男三人でもこの有様だ。

イッセーも何だかんだ言ってノリがいい。

グレモリー部長ほどじゃないが、イッセーの扱いには慣れているつもりだ。

こうして与太話をしながら和気藹々となった所で、改めて作戦を立て直す。

 

……今のイッセーの大声で気づかれた、ってのもあるが。

 

『それが分かるイッセーも相当だぞ……さて、与太話も済んだ所で、どうする?』

 

「そうだね。相手が乗ってこないんじゃ、こっちから仕掛けるのも必要かもね」

 

「数の上なら互角だしな……やってみるか?」

 

お、うまくまとまりそうだ。やはり時には愚痴をこぼすのも必要だな。

そこで終わらせるのではなく、うまくつなげる形にして。

そして肝心の作戦はこうだ。前衛にイッセー。俺と木場でイッセーの援護。

イッセーは攻撃一辺倒なため、どうしても前衛にせざるを得ない。

木場は機動力で撹乱ができるし、俺もイッセーに憑依してのアシストが出来る。

数がきついようなら分離して抑える事だって多分可能だ。

 

「セージくん。君にとっては下らない戦いかもしれないけど、僕にとっては初めての試合なんだ。

 これからの全てがここで決まると言っても過言じゃない。だから、僕は全力で勝ちに行くよ」

 

「俺もだ。俺なんて木場より戦闘経験がないんだ。

 けれど、俺はやっぱり部長のために戦いたい。部長に、勝って欲しいんだよ」

 

……決意表明、か。けど、何か勘違いしてない?

俺は確かにこの戦い、下らないと思ってるけどお前らの夢を否定するつもりは毛頭無いんだけど。

あ、イッセーはちょっと微妙かもだが。

 

『……おいおい。二人だけで盛り上がらないでくれ。

 俺だってやるからには勝つし、そもそも他人の夢を否定するほど心が狭いつもりも無い。

 それに伴う、責任や成すべきこと、万が一をしっかり把握してる夢なら

 俺は全力で応援するさ』

 

そう言って、俺はおもむろに右手を出す。その右手の上に木場と、イッセーの右手が重なる。

勝利。ただその点に於いて、俺達の心は一つであった。

勝鬨をあげ、俺達は体育倉庫から飛び出す。

 

――――

 

目前には、相手の騎士と戦車がいた。

騎士はカーラマイン、戦車はイザベラ。いずれもさっき戦った相手よりも数段強い。

だが、どちらも遠距離攻撃は持っていない。そこを突けば勝てる。

……む? さっきレーダーには僧侶の反応もあったのにいない?

 

まずいな、不意打ちとかされたら厄介だ。まずはそっちを警戒すべきか。

俺はイッセーに憑いたまま、レーダーの感度を上げて周囲を探索するが

罠らしきものは見当たらない。マジで真っ向から殴りあうつもりか?

 

となれば、向こうは本当に腕に自信があると見える。

しかし、こっちは無駄な消費を避けたいのだが。む、それが狙いか?

出来れば、無駄な消費は避けたいが……それが通じる相手じゃなさそうだ。

 

「私はライザー様に仕える騎士カーラマイン!

 リアス・グレモリーの騎士よ、いざ尋常に剣を交わそうではないか!」

 

「……ああ名乗られちゃったら挑まないわけにはいかないよね。騎士として。

 イッセーくん、セージくん。彼女は僕が引き受けた」

 

……はぁ。これ、見方を変えちゃ完璧に相手の術中に嵌ってるぞ。

こういうのを騎士道と言うのはまあ、なんとなく分かる。分かるが……

 

今、それにはいそうですかと付き合うつもりは毛頭無いんだよ、俺は。

これは決闘でもあるが、戦争でもある。最後に勝つ。それが戦争の最大目的だ。

今回の場合、如何なる手段を用いてでも相手の王を落とす。それが目的だ。

そのためには、こんなところで無駄な力を使うわけにはいかない。

 

『……言うからには勝ってくれよ。マズいと見たら、俺は遠慮なく手出しするからな。

 それからさっさと倒してくれ。さっき言ったこと、忘れないでくれよ』

 

「分かったよ。さて、それじゃあ騎士同士、尋常じゃない斬り合いを演じたいものだね」

 

二人の騎士による剣戟が響き渡る頃、イッセーは手持ち無沙汰になっていた。

おい、敵はど真ん前にいるんだ。何ぼさっと突っ立っているんだよ!

しかも、相手はまだ二人いる。これは、俺も実体化して戦うべきか?

 

だが、そんな心配を他所に敵の戦車は向こうから仕掛けてきてくれたのだ。

 

「ヒマそうだな。心配せずとも、お前の相手は私が務めよう。

 いや、私一人で十分と言うべきか。あの方はライザー様の妹君。

 今回の戦いは観戦のみだ」

 

「そういう事ですわ。イザベラ、早く片付けてしまいなさいな」

 

あらま。僧侶一人除外すると結構大きいんじゃないか?

……いや、待て。さっき兵士を使い捨てにする戦法を使ってきた相手だ。

あれだけ言っておいて、いきなり撃ってくるって事も考えられる。

 

「あ、あれがセージの言ってた……い、妹をハーレムに入れるなんて……

 う、羨ましすぎるぞ!!」

 

あー、そういや特訓中に一応相手のデータとかも座学に入れてたんだった。

イッセーの奴は戦力面は聞き流していたようだが、こういう所はきちんと聞いていたのか。

全く、力を入れる場所が違うだろうが。

 

……ふむ。となると、嘘偽りは無いかもしれないな。

一応、向こうは貴族の娘。ノブレス・オブリージュ、心得てはいるだろうよ。

それに、もしかすれば……

 

俺はイッセーにのみ聞こえるように、小声で話しかける。ちょっと作戦を立てたい。

 

『……イッセー。恐らくは無いだろうが、不意打ち対策に俺はあの僧侶を抑える。

 妙な真似をしたら眉間に祓魔弾を撃ち込めば少しは黙らせられるだろう。

 すまないが、あの戦車をお前だけで相手取ってはもらえないか?』

 

「またお前そう言ってサボるつもりかよ……お前もちょっとは部長のために……

 っておいセージ! 聞いてるのかよ、おいっ!!」

 

俺はお前を勝たせるためには全力を尽くすが……

何でお家騒動の元凶のために力を振るわなければならないんだ。

俺がグレモリー部長のために戦う? ハッ、ナンセンスだな。

利害が一致しない限り、俺はそういうつもりは無い。

 

今回の一件で思い知らされた。彼女はまだ、人を使うには未熟。

俺には、彼女にあると言うカリスマが一切感じられない。何でだろうな?

まあ、今それは関係ない。

俺はイッセーから分離し、相手の僧侶――レイヴェルの足止めを試みる。

 

「あら。言わなかったかしら? 私はこの戦い、不参加だと。

 それに、私を倒すのに力を奮うくらいならば

 もう一人の兵士に加勢した方がよろしいのではなくて? おかしな仮面の兵士さん?」

 

「まあ、そうでしょうな。しかし、俺がいなくともあいつは勝てますよ。

 本気を出すなら、ここじゃなくてもっと然るべき場所がありますので。

 俺が狙うのは王――つまり、貴女の兄君の首唯一つ。

 それに、戦う意思のない者に刃も銃も向けやしません。本当に、戦う意思のない者には」

 

どこから取り出したのか、レイヴェルはティーセットを出して紅茶を飲んでいる。

ふむ。やはりさまになるな。さすが良家のお嬢様か。

ふと、俺の前にティーカップが差し出される。飲め、って事か。だが。

 

「……折角のお誘いですが、遠慮しておきます。まだ、この場では敵同士ですし。

 異なる機会があれば、その時にでも」

 

「……レディの誘いを無碍にするなんて、随分と肝の据わった方ですわね。

 と言うより、無粋な方かしら? その右手に光っているものを見る限りですと。

 それに、信用が無いのですね。何度も申し上げますが、私に戦う意思などありませんわ」

 

ああ。戦わないとは聞いたが、妨害しないとは聞いていない。この紅茶に毒が入ってないなど

誰が言い切れるのだろうか。そもそも、これ以上敵から施しを受けるのも気が引ける。

と言うかあれだけ散々デコイを使っておいて信用してくれ、なんてのも論外だ。

デコイについて云々はそれこそ無粋だが、そもそも敵を全面的に信用するほどお人好しでもないつもりだ。

 

それに、俺が銃を隠し持っているのもバレていた。だが、この距離なら危害を加えるのは簡単だ。

最も、そんな安直な手に乗るとは思えないし、ブラフにするにしてもバレては……ダメだな。

いや。ここは敢えて強気に出るか。

 

「……妙な真似をすれば、撃ちますよ。ああ、弾は祓魔弾ですので。

 いくら不死身と言えど、ダメージは免れないかと」

 

「脅しのつもりかしら? ふふっ、結構ですわ。

 元々私は戦う気なんてこれっぽっちもありませんでしたし。

 ……それにしても、お兄様にも困りましたわ。そもそも、私だって……」

 

……む。これは違う意味でマズい。この話の流れは……愚痴る流れだ。

俺は気づかれないようにカンペ代わりに記録再生大図鑑を立ち上げる。

確か、レイヴェル・フェニックスは――

 

――――

 

――予感的中。話好きだと言う記述があったんだった。

これは死闘を演じるよりきついかもしれない。何せ延々と愚痴を聞かされるのだ。

イッセーや木場の戦いが一段落つきそうなころ、こっちの愚痴もようやく終わりそうであった。

あー疲れた。しかしまあ、よく喋ること喋ること……

 

……あ、あれ? これってもしかして、俺も相手の術中に嵌ったって事か!?

結果として相手の僧侶は足止めできたが、そもそも相手が動かない以上は足止めの必要が無い。

にもかかわらず、俺がわざわざ出張った理由は……

 

く、くそっ。まんまと一杯食わされた! これじゃ骨折り損のくたびれもうけだ!

俺はレイヴェルに気づかれないように歯噛みしていた。この面を見せるのは些か、不服だ。

 

……仮面をしてるから顔は見られない、って事もすっかり忘れて。

 

戦況を確認すると、木場はまた別の剣を持っている。

しまった。意識を愚痴の聞き流しに回していたので

木場の剣の記録が出来なかった! 本当、便利なんだか不便なんだか分からんな、これ。

まあ、得てしてそんなもんかもしれないが。

 

イッセーの方は……あっと。思わず目を逸らしてしまった。

あの野郎。またアレ使いやがったのか。ああ、本当に頭が痛い。

木場も謝ってはいるが、これは俺も謝るべきか。

 

「……話には聞いてましたけど、酷い技ですわね」

 

「はい、本当に……すんませんでした」

 

全く。勝利とは尊きものであるべきなのに、これじゃあんまり勝っても嬉しくないぞ。

相手の弱みに付け込んで勝ったみたいで。悪役レスラーでもこんな真似……したっけ?

俺は覆面レスラーで、あいつは悪役レスラーとして売り出すつもりなのか?

 

ともあれ、イッセーは相手の戦車を倒したみたいだ。勝ちは勝ち、なんだがなぁ。

 

「まあ、聞けばつい一月ほど前に悪魔になったばかりと聞きますわ。

 それでうちのイザベラを倒せたと言うのは……素直にほめて差し上げますわ」

 

「それはもったいなきお言葉。俺は何もしてませんが」

 

完全にギャラリーと化しているレイヴェルの言葉を適当に聞き流していると

遠くで爆発音が響き渡る。

 

それと同時に、とても聞き流せない内容の言葉を伝えられる。

それは、俺の作戦を根底から覆し、勝算を全くかなぐり捨てるには充分過ぎる内容だった。




木場:( ゚∀゚)o彡゜決闘! 決闘!
イッセー:( ゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!
セージ:('A`)ハヤクオワラセテ、カエリタイ。マンドクセ

オカ研男子の状態を表すとこんな感じです。
セージはもうちょっとテンション高いかもですが。
それはそうと、皆結構自分の欲望に正直ですよね。
木場も戦術通りに動いていたはずなのに、しょうも無い挑発に乗って私闘演じてるし
イッセーは言わずもがな。セージも同様。

「どれだけ優秀な戦いをするのか」ではなく
「さっさと勝負をつけたい」で動いてますので。
サーゼクスさまが見てる? 知ったこっちゃありません。
顔割れ防止のためにお面つけて参戦するような奴ですし。

……の、割にはかなりしょうも無いポカをやらかしてます。
策士策に……ではなく、ただ単に石橋を叩きすぎただけです。
ただ原作のこの場面で、仮にリアス組が圧勝していたら
レイヴェルは普通に参戦してた可能性も高いですが。


前話に引き続き洋服破壊をボロクソに叩いてますが……

……いや、これ自分がおかしいんですかね?
普通に考えて暴行罪(強制わいせつ罪)適用されると思うんですけど。
フィクションだからよし、って言ってしまえばそれまでなんですが
これを妄想の代名詞として語られるのは、何か違うと思うんですよ。
原作でもこの後にさらに頭悪い(褒め言葉です)技が出ますけど
こっちも多分、本作では扱い悪くなると思います……


そして、一体どれだけの人がこの元ネタに気付くのか。
部室に黄色いハンカチ~の件は往年の映画からです。

このサイトの読者年齢層ガン無視ですね。今更ですが。


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Soul22. 試合? 死合? 殺試合?

先週から少し遅れてしまいました、すみません。


今回、また血飛沫描写があります。
苦手な方はブラウザバックしてください。


その言葉の内容を聞いたとき、おそらく俺の顔は愕然としていたであろう。

幸いにして仮面のお陰で誰にもその表情を知られることは無かったが。

 

俺達の戦力の集結を阻むかのように校舎から増援が現れる。

そう、俺が愕然としたその言葉はその増援から齎されたものだったのだ。

 

――グレモリー部長とライザーが一騎打ちをする、と。

 

はぁ!? なんだよそりゃ!? 向こうの言い分では大将の気分が高揚したがための行為らしいが

これは完全に相手の術中に嵌っているぞ! 相手の強さは俺達全員で掛かって

倒せるか倒せないかの瀬戸際なのに、何一人で戦おうとしているんだ!

バラバラに戦って勝てる相手じゃない。それだから特訓してたんじゃないのか……!!

 

だというのに、あのアホ部長はスタンドプレイを始める始末。

俺達全員、勝つために戦っているのに、だ!

そんなに……そんなに俺が、いや俺達が信用できんと言うのか。

 

そうか……そう、か。俺はともかく、イッセーはお前のために戦っていたのに。

それなのにお前はその相手を信頼することも無くスタンドプレイに走るのか。

力を合わせれば勝てる、そう言ったのは他でもない、お前だろうが。

どいつもこいつも、言ってることとやってることが違いすぎる。

 

……ははっ。これ、どうやって勝てばいいんだ?

これでアーシアさんまでやられたら、もう降参したほうがいいレベルだろう。

深呼吸し、気を取り直して俺はイッセーに憑依し直し、二人に次の作戦を伝える。

実体化した状態からの憑依なので、一部始終は見られているが……何、気にすることじゃない。

どの道後で飛び出すつもりだ。その際の撹乱を行う上では、憑依していたほうが都合がいい。

 

『……イッセー、木場。率直に言うぞ。この戦い、完全にひっくり返された。

 いや、初めから向こうのペースだったと言うべきか。

 今あそこでタイマン張ってる二人の実力が同等と仮定すると、この戦いは完全に負ける。

 相手の特性を考慮すれば、ジリ貧になって負けるのがオチだ』

 

「お、おいセージ!? 敗北宣言にはまだ早いだろ!?」

 

「僕も同意見。部長が健在の限りは、敗北とはいえないからね」

 

むう。これは俺の悪い癖かもしれないが、話は最後まで聞いて欲しい。

俺だってここで無駄死にも誰かさんの先走りによる敗北も御免なんだが。

咳払いをして、改めてイッセーと木場に作戦を伝える。

 

『いいから最後まで聞けよ。何とか一箇所にあいつらを固めて

 広範囲を攻撃できる威力の高い攻撃を繰り出す。それでこの場を切り抜ける。

 その後は女王(クイーン)を倒した後部長と合流。全力を以って敵大将を殲滅。以上だ』

 

「……相変わらず他人事だと思って簡単に言ってくれるなぁ」

 

『そうでもないぞ。今の敵の狙いは俺達全員の足止めだろうな。だからさっさと片付ける。

 向こうが飛び掛ってきたと同時に俺は憑依を解く。俺は左に、お前は右に跳べ。いいな?

 その後散開して可能ならば各個撃破。恐らく難しいだろうから何とかして一網打尽だ』

 

本当ならば、アナライズでもして弱点を突いて確実に倒すべきなのだろうが。

残念ながらそんなヒマは無さそうだし、序盤戦よりは強い兵士をぶつけているだろう。

となれば、こっちも撹乱に回らざるを得ない。おまけに運動場のど真ん中。

遮蔽物なんて無いので、体育館で使った手は使えない。

なるべくなら避けたかったが、ガチでやらなきゃならないらしい。

 

その心のボヤキを見透かしてか、レイヴェルが獣耳の兵士(ポーン)に号令をかける。

確か瞬発力に優れたニィとリィの双子。おそらくコンビネーションにも秀でているだろう。

うまく息を乱させればいいが!

 

『来るぞ! イッセー、跳べ!』

 

「おう!」

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

イッセーから分離したと同時に雷の魔法を放つ。稲光と音で一瞬だが相手の動きが鈍った。

 

――と、思いきやなんと雷が直撃していた。直撃した相手はシーリス。相手の騎士(ナイト)

得物が災いしたのか、振り上げた大剣に俺が呼んだ雷が直撃する形になったのだ。

何たる偶然。何たるラッキー。

 

恐らくは俺が雷撃の魔法を使えると思っていなかったから成功した

いわば初見殺し的なクリーンヒット。一撃必殺とはいかないまでも

相手を痺れさせる位は出来るだろう。

 

おまけにイッセーに仕掛けてきた獣耳の……ニィだっけ? リィだっけ? まぁいいや。

こいつは目の前で標的が分裂したものだから呆気に取られている。

――実際には二人で反対方向に避けただけなんだがな。

 

とにかく、これはまたとないチャンスだ。

今俺達二人はこの獣耳の兵士を挟み撃ちにしている形だ。

 

「イッセー、チャンスだ! 倍加してそいつに仕掛けろ!

 足りない分は俺が補う! 行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

BOOST!!

BOOST!!

 

俺の号令に合わせ、イッセーは突撃してくる。

俺はそれに合わせ、突撃を試みる。

この体勢は、フェニックスが部室にやってきた日の朝にイッセーが悪友二人から食らった技。

さる完璧を標榜する超人のツープラトン技の代名詞ともいえる、必殺技。

しかし、この技は互いの同じ方向の腕を使わなければならないため

神器(セイクリッド・ギア)の位置がずれている俺達では、工夫が必要になる。

 

イッセーには思いっきりぶちかましてもらい、そこを俺が軌道修正。

イッセーと同じく左手でラリアットをぶちかます、と見せかけて寸前で反転。

裏拳の要領でラリアットが突き刺さるように俺は身体を捻る。

 

 

「反転ッ!!」

 

「クロス・ボンバーッ!!」

 

 

イッセーは左手を、俺は右手を、それぞれラリアットに使用する。

お互い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を使っている。

ただのプロレス技とは言え、ツープラトンでそれに神器を用いたのだ。

その俺達の腕は見事相手の首に炸裂。そのまま崩れ落ちる。

 

それにしても、本家よりも難易度が高いはずなのによく出来たな。

ドライグで出力が上がっていたお陰か、あるいは相手の強さは虚仮脅しだったか。

 

――ライザー・フェニックス様の「兵士」、一名リタイア

 

RESET!!

RESET!!

 

「やったぜ!」

 

「ガッツポーズはせめてここを切り抜けるまで取っておけ、木場の援護を頼むぞ!」

 

無情なリタイア通知のアナウンスを聞き流しつつ、次の攻撃に備える。

一人削れたのは大きい、この勢いに乗せたまま俺は残りの足止めを。

イッセーには木場の援護を指示。

木場がこっちを睨んできたが、俺は既に忠告している。知ったことか。

 

「い、いいのかよセージ……決闘に水差して」

 

「言ったぞ、状況が切迫したら遠慮なく手を出すってな。

 決闘がしたけりゃ、この戦闘の後で約束しろ。男ならそれ位の甲斐性を見せてやれ!」

 

「……ふふっ。僕に彼女を口説けってのか、セージ君。言うねぇ」

 

木場、お前顔はいいんだからナンパすれば釣れると思うんだがなぁ。

まあ、あまり興味無さそうな感じもするが。少なくともイッセーよりかは。

木場に冗談めいて檄を飛ばすと、向こうもレイヴェルが指示を出している。

 

なるほど。やはり「戦闘は」しないってパターンか。

……それはそれで奥歯に物が挟まるな。

俺もかなり近い立ち位置だから人のことは言えないが。

 

「くっ、何をしていますのカーラマイン! さっさと片付けてしまいなさいな!

 リィ、シーリス! 美南風! そっちの仮面をつけた赤龍帝を狙いなさい!

 手札が未知数な上に統率力を持っていますわ、敵の統率を崩しなさい!」

 

「御意。先ほどの雷の礼をさせていただく!」

 

「こっちもニィの敵をとってやるニャ!」

 

「その怪しげな術さえ抑えれば、こちらのものです」

 

くくっ、三人がかりか。

……よし、このままひきつけて合流するか。

まとめて崩すにはこっちも二人に協力してもらわないとダメだ。

 

「三対一か。卑怯とは言わないが、貴族のノブレス・オブリージュとは程遠いですな」

 

「黙りなさいな! 貴方如き悪魔になりたての転生悪魔を、純血悪魔の私が

 本気で相手をしてさし上げているのよ、それを誇りに思いなさい!」

 

「それが本音か。凝り固まった権威主義は足元を掬われる……

 人間の歴史じゃ幾度と無く繰り返されたことなんだがな!」

 

さて。俺は挑発しつつ銃で相手の牽制を試みるが、あのシーリスとか言う騎士の大剣、侮れない。

衝撃波を起こされては、飛び道具があまり意味が無い。離れて攻撃できると言うアドバンテージは

既に無いも同然だ。それに、そろそろ残りの弾丸も心もとない。

……いや、付け入る隙はある。それにはあのちょこまかした獣耳や

遠くで睨んでいる十二単をまず何とかしないと。

 

さて、イッセーと木場の方はどうなった?

 

 

……横目でもう一箇所の戦場を見るが、あまり戦況は変化していない。

援護は期待できそうに無い……博打に出るか?

 

手段その1。カードで強化、突撃し力押しで倒す。

確実は確実だが、消耗やこの後を考えると悪手か。

それに、向こうの十二単を考えるとやはり悪手といわざるを得ない。

 

手段その2。龍帝の義肢をフル活用、ピンポイントで狙い倒す。

俺の龍帝の義肢はイッセーの赤龍帝の籠手に比べれば、消耗は少ない。

が、その分力不足でもある。いや、「倒す」じゃなくて「戦意を奪う」ならアリか?

 

……よし、決めた!

 

BOOST!!

RELOCATION!!

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

俺は龍帝の義肢を右足に移し、大剣に対抗し光剣を実体化させる。

腐食作用のある闇の剣は、シーリス相手にはいいが、他の相手にはあまり役に立たない。

 

そして、もう一つ威力の高い武器はあるのだが、今使うにはデメリットもある。

軽い分、取り回しはこれが最上級なのだ。

 

「はっ!」

 

「にゃっ!」

 

今振り回しているのは光剣だ。掠めただけでもダメージは与えられる。

それに、この武器は軽いため力を増したところで持て余してしまう欠点がある。

ならば、脚力と突進力を強化、スピードで戦うのがいいだろう。

 

しかし、残念ながら突進力は強化されるが小回りは据え置きである。

その証拠に……

 

「急に加速した!? でも、これなら!」

 

十二単が何やら呪符を地面に投げつけてくる。

間の悪いことに、それは進行方向にしっかりとセットされている。

踏んだら終わり系のトラップなのは、火を見るよりも明らかだ。

普段なら、そんな見えたトラップに嵌るほど俺も阿呆じゃない。

 

だが、今は思いっきり加速している状態。

止まりたくても止まれないし、回避も出来ない。ならば強引に突破するしかない。

 

「でぇぇぇぇいっ!!」

 

突進中に銃を使えるほど器用でもないので、光剣を地面に突き刺し、ブレーキの代わりにする。

勿論それだけでは足りないので、同時に龍帝の義肢をブレーキに回している。

アクセルとブレーキを同時に回せば壊れるのは自明の理だが、これしか止める方法が無い。

 

――正直に言って、今右足は悲鳴を上げているだろう。

 

そのまま地面のトラップも破砕、砂埃と共に俺の突進は止まってしまった。

猫耳は跳ね飛ばせたが、中途半端な位置で止まってしまったため、慌てて距離を取り直す。

案の定、さっきまで俺が立っていた位置には衝撃波が飛んできている。

 

RESET!!

 

結局、十二単の妨害のお陰で振り出しに戻された。

ここはカウンターを狙うか、相手の騎士に誤爆させるように立ち回るのを狙うか。

この二つが有効打だろう。そのためにはやはり猫耳と十二単を何とかしないといけない。

 

特に十二単。俺も小手先の技を多用するから分かるが

今力押しで倒そうとしてるのに、脇から妨害系の技を出されると辛い。

 

「あれは……リィ、シーリス! 持ち手が素人だからって油断はなりませんわ!

 どういうわけかは分かりませんが、あの仮面の赤龍帝は悪魔祓いの武器を多用しますわ!

 十分に用心してかかりなさい!」

 

「にゃ!? よ、よくもそんなものでニィを!」

 

一瞬の動揺は見逃さない。さっきのチェーンソーの双子のときも思ったが

眷属同士はいざ知らず、姉妹の間における情は持ち合わせているようだ。

 

イッセーのことは言えないな、と思いつつも

俺はそれを活かし、揺さぶりをかけてみることにした。

 

「……そういえば、試合中の事故って、様々な競技においてあると思うのですが。

 中には一命をとりとめても、その後の人生に大きく響くような事故もあったとか。

 このレーティングゲームも、そうした事故防止には取り組んでいるようですが

 事故ってのは誰も思わぬところから起きるものだから事故なのであって……おお、怖い怖い」

 

「ふ、ふざけるニャ!」

 

……どうやら、こっちの挑発に乗ってくれたようだ。

確かレーティングゲームは、死者の出ないつくりになっている……とは聞いている。

 

……だが、俺にはそれがどうしても信じられなかった。

F1レースでさえ死傷者が何人も出ているのに、ここまで露骨に戦闘行為を行う競技において

死傷者ゼロというのは、あまりにも出来すぎている。

それに、プロレスやボクシング等の格闘技でも後遺症から

その後の人生において早死にしたりってのもよく聞く話だ。

 

悪魔の技術とは言うが、これをやるのも悪魔、仕掛けるのも悪魔。

人間の測りで測るべきではないのかもしれないが

条件においては人間のエクストリームスポーツ各種とどこが違うのだ? と疑問を覚える程度。

 

……つまり、死者ゼロと言う謳い文句。これは絶対何かウラがあるに違いない。

そしてレーティングゲームを成立させる悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

これの不備を俺は既に知っている。情報や現象の母数が決定的に足りないが。

これらが導き出すところは……

 

と、俺が推理に嵌っているところにレイヴェルの横槍が飛ぶ。

おっと。ちょっと他事に気をとられすぎたか。

 

「リィ! ニィをやったのはただの力の強い神器ですわ!

 今のは全てそいつのハッタリ、詭弁に惑わされないで!」

 

「その通り。あっちにぶちかましたのはただのツープラトンのラリアットだ。

 俺達じゃ力が弱すぎて、顔の皮を剥ぐことすら出来やしないよ。

 だが……お望みとあらば、今度は光の剣でラリアットをかましてもいいんだが?

 そういう事故があるかどうか、その身で試してみるおつもりで……?」

 

相手を睨みつけ、威嚇するように光の剣の出力を上げる。

向こうが悪魔としての経験が上手なら、悪魔祓いの武器の危険性は重々承知してるはずだ。

抑止力として、この武器は十分に作用してくれる。

これなら、あっちの方は出さなくてもよさそうだ……今はまだ。

 

「な、なめるニャ! お前なんか速攻で倒してやるニャ!」

 

「……いえ、リィ。あなたはカーラマインの援護に向かいなさい。

 向こうの二人は悪魔祓いの武器は使いませんわ。存分にやってしまいなさい。

 但し、あっちの赤龍帝に触れられたら服が吹き飛びますわ」

 

なるほど。新米の転生悪魔に嘗められまいと、猫耳はこっちを威嚇している。

だが、その足が震えている。そこを向こうの司令塔に気づかれたのか

猫耳はイッセーの相手のほうに回されたようだ。

一応、相手の戦意を奪うことには成功しているが……これじゃあまり意味が無いな。

まあいい、イッセー、木場、そっちは任せたぞ!

 

「にゃっ!? こいつは相当にケダモノだニャ、最低だニャ!」

 

「イッセー、相手の動きをよく見るんだ!

 無理に追いかけようとするな、近づいてきた一瞬を狙え!」

 

レイヴェルも自身は戦わないスタンスを貫きながらも、口出しだけはしている。

こちらも負けじとイッセーにアドバイスを送る。

実行できるかどうかは分からないが、スピードで勝てない相手に対して

少しでも勝算のある戦い方、のはずだ。

 

……さて、一人をイッセーと木場に押し付けたとは言え、こっちはまだ二人抱えている。

さあ、どう来るか。

 

「シーリス! 美南風! 引き続き仮面の赤龍帝を押さえなさい!

 奴は祓魔弾も所持してますわ、距離があるからと言って油断してはいけませんわ!」

 

ちっ。やっぱさっき銃を見せたのは失策だったな。

これじゃ銃で不意を突くって作戦は意味が無いだろう。

おまけに銃はしっかり狙わないと、相手をリタイアに追い込むほどの威力は期待できない。

 

まあいい。二対一、しかも片方は体術に覚えは無さそうな見た目。

僧侶(ビショップ)と言う駒の性質を省みても、そういう運用方法は考慮されていないだろう。

ならば答えは一つ! また十二単に呪符を取り出される前に、速攻で畳み掛ける!

 

BOOST!!

 

倍加を行い、再び突進。今度の狙いは十二単。

だが、実際に剣を突き刺すつもりは無い。この爆発的な突進力での狙いは……

 

「うらぁっ!!」

 

「ああっ!!」

 

十二単に見舞うのはドロップキック。蹴っ飛ばし、その勢いで騎士の方に狙いを変える。

史実においては八艘飛びとも言われる技だ。

龍帝の義肢の威力に対して、やはり防御力は低かったのか、そのまま十二単は突っ伏したらしい。

背後に聞こえる十二単のリタイアを告げるアナウンスを聞き流しながら、俺は得物を構えなおす。

 

そのまま突撃と光剣の攻撃を織り交ぜつつ、騎士の方の翻弄を試みる。

向こうの得物は大剣、それを振りかざすことによる衝撃波が武器。

回避しさえすれば隙が生じる。そこを討てばいい。

が、速度強化無しでやるのは些か辛い。幸い、実質一対一なので余計な心配は無用だが。

 

「その身のこなし、体躯の割にはお見事と言っておこうか。

 だが、私の相手にはお前はまだ、非力!」

 

「……力で競り勝とう何ざ思っちゃいない!」

 

衝撃波をかわしながら、斬りかかろうとするが

やはりこちらの俄仕込みの剣術が通じるほど、甘くは無かった。

太刀筋を完全に見切られ、かわされている。完全に突進力でフォローしている状態だ。

 

「素人相手とは……私も嘗められたものだな。

 いや、さっきの美南風の倒し方……完全に力任せだと考えれば納得も出来るか。

 そんな小手先で、私を倒せると思うな!」

 

「強引に前線に送られたんでね、生き残るためには小手先だろうと何だろうと

 使わざるを得ないんだよ!」

 

向こうは完全に俺を素人と見ている。まあ、間違ってない。

そも一週間前後で戦術のイロハを習得する方が無理なのだ。

まして、向こうはこちらとは明らかに年季が違う。

となると、自然に勝つ方法というのは限られてくる。

 

……それがいくら、褒められた方法ではなかったとしても。

そういう意味では、イッセーのアレも有用っちゃ有用か。

 

……なんとなく、同じレベルで語ってほしくない気はするが。

 

「くっ、さっきからちょこまかと!」

 

さっきから速度強化のカードも使っていないのに、何故相手を翻弄できるのか。

勿論、相手がのろいわけではない。倍加した力を小出しにしているのだ。

さっきのブレーキの要領で、直線突進の途中に角度をつけることで

擬似的に高速移動をしているのだ。

 

だが当然これは――疲れる。

そのため、何とか隙をついて倒したいところなのだが。

さっきの十二単よりは強い攻撃を加えないと倒せないだろう。

と言うか、さっきが言うなればクリティカルヒットだったのかもしれないが。

 

高速で動きながら、相手の剣の軌道を見極める。

さっきから衝撃波も剣も記録しないが、おそらくは既にほぼ同性質のものがあると

記録しないのだろうか? まあ、記録したところで試す暇なんか無いだろうが。

 

「……フフフ、さっきから私を翻弄しているつもりだろうが

 動きが単調になってきているぞ? それ以上無駄に疲れることも無いだろう。

 一思いに楽にしてやろう!」

 

「……あらら。疲労で思考が単調になっちまったかな」

 

ここで俺は、相手の剣の軌道を見てある案が閃いた。

それは、俺が特訓で得た新たな力。今試すのはぶっつけ本番だが、試す価値はある。

シーリスが剣を振り下ろし、衝撃波を放った直後がチャンスだ。

 

そしてその瞬間は、思いの他早くやってきた。

正直、ありがたかった。これ以上ちょこまか動くのは疲れる。

疲労で発動失敗、なんて真似も避けたいし。

 

観念したと思わせるため、減速し足を止める。

こっちを狙ってくるように誘導させる。

足を止めた途端、息が切れるが構ってはいられない。

それに少し経てば息も整う。

俺はいかにも観念したかのようにシーリスに視線を向ける。

その先には、思ったとおりに剣を振り上げようと構えている彼女の姿があった。

 

「さあ、とどめだ!!」

 

――今だ!

 

RELOCATION!!

 

すかさず、右足に移していた龍帝の義肢を右手に戻す。

実際のところ、力の安定のためにドライグの力はまだ不可欠だ。

成功率を高めるための手段は、多いに越したことは無い。そして――

 

俺は呼吸と心を落ち着かせ、右掌を地面にたたき付ける。

 

MORFING!!

 

「モーフィング! 奴の周りの『砂場』を『磁石』に変える!!」

 

「なにっ!? くっ、け、剣が……!!」

 

俺の新たな技、モーフィング。触れたものを変質させる。

地面を構築する砂も、磁石も違いはあれど大本は鉱石だ。

 

さて。錬金術においては等価交換の原則があると言うらしい。

俺は錬金術師じゃないし、錬金術は学んでいないが理屈は分かる。

とにかく、今シーリスの周りの砂は全て磁石。

剣にはびっしりと細かな磁石がつき、普段振り回す剣の感触を完全に変化させた。

さらに地面もほとんどが磁石と化している。

砂粒は細かくとも、その足場はもう完全に磁石である。

磁力結界によって、シーリスの動きを完全に封じることが出来た。

 

となれば、とどめを刺すならば……!!

 

RELOCATION!!

BOOST!!

 

「今だ、くらええええええっ!!」

 

光剣を構え、突撃。再度足に龍帝の義肢を移し変えたため、突進力は大幅に増している。

そして、そのまま磁石で無防備になってしまったシーリスの腹部に光剣が喰らい付く。

光の刃はシーリスの身体を貫き、赤い血と火花を散らしている。

 

「どうだああああああっ!!」

 

「ぐ、あ、あああああっ!!」

 

……ぐ。彼女が転生悪魔か純血悪魔かは知らないが、悪魔も血は赤いのか。

なまじ人型をしているせいか、あまり見たくない光景だ。

だが、今ここで戦意を折ったら俺がやられる。

意を決して、さらに深々と剣を突き立てる。

それと同時に返り血がかかり、飛び散る火花も激しさを増している。

 

「うあああああああっ!!」

 

「こ、こ、こんな……しろうと、に……っ!!」

 

叫びながら、光の剣を引き抜く。その勢いで光の剣を振りかざす。

剣が刺さった位置からは火花が血飛沫のように飛び散っている。

思い切って、面ドライバーBRXのリボルビッカーの決めポーズのごとく

大見得を切って相手に背中を向ける。奇しくも同じタイミングでシーリスは地に崩れ

俺の背後では爆発が起きた。

 

ここで能天気に「リボルビッカー!」などと決めポーズを取ったら

受けは狙えるのかもしれないが……どうにもやる気がおきない。

はっきりとした理性がある状態で、人型の相手を刺すというのは……。

などと言うことをオカ研の面子に話したら

「堕天使に暴行を加えたお前が言うな」と返されそうだ。

 

――ライザー・フェニックス様の「騎士」、一名リタイア

 

「……驚きましたわ。まさか『兵士』の貴方が昇格もせずに

 一人で美南風だけでなくシーリスまで倒してしまうなんて。

 さあ、貴方はここでの勝負に勝ちましたわ。リアス様と共に

 お兄様に勝てない戦いを挑んではいかがかしら?」

 

「そうですな。お言葉に甘えてこの場は離れさせてもらいましょうか。

 しかしながら、俺の狙いは……」

 

まだ戦っているイッセーも木場も、もう二対二の状態。

俺が加勢するまでもないだろう。

ならば、俺だけでも姫島先輩と塔城さんの援護に行くべきか。

 

……と思った瞬間、遠くに響いた爆発音と共に

聞いてはいけないアナウンスがそこに流れてしまった。

 

――リアス・グレモリー様の「女王」、リタイア

 

バカな。ここでの戦いに時間をかけすぎたというのか。

これで、こちらの戦力が一人減ってしまった。

もう、大将首を取るのは絶望的かもしれない。

せっかく、ここまで戦ったと言うのになんと言うことだ。

そう愕然としていた俺の意識は、後ろからの罵声で現実に引き戻された。

 

「セージ、何ぼさっとしてやがる! お前だけでも行け!」

 

「ここは僕らで引き受けた、早く!」

 

……そうだった。まだ戦意を失っていない奴らがいたんだった。

それに、今のアナウンスは姫島先輩の脱落のみを示したもの。ならば、塔城さんは!?

アナウンスが無いと言うことはまだ無事なのだろう。だが、状況は芳しくないはずだ。

 

「ああ……だが、部長の援護には行かないぞ」

 

「なんだって!? 早く部長を助けないと……」

 

「……悪いが聞けないな。今一対一で戦っているのはアレが自分で蒔いた種だ。

 負けたところで俺は知らぬ存ぜぬを通すぞ」

 

主をアレ呼ばわりしたことに、木場やイッセーだけでなく

レイヴェルも顔を顰めるが知ったことか。

俺が一番危惧しているのは、ここで勝って総攻撃を仕掛ける段で横槍を入れられることだ。

今横槍を入れられるのとは意味合いが大きく異なる。

もう一つ。今俺が加勢したところで、正直言って戦況をひっくり返せるとは思えない。

戦況をひっくり返せる火力の武器が存在しないのだ。

今行っても戦力になりえない。ならば行くだけ無駄だ。

 

 

……そもそも、今の俺達にはここで無駄話をしている時間は無い。

 

「そういうわけだから後は任せた。死なない程度に頑張りな!」

 

我ながら酷い捨て台詞だと思いながらも、俺は新校舎――ではなく、体育館跡に向け走り出す。

あの女王はここで潰しておかないと、あれの横槍なんて考えたくも無い。

最悪、刺し違えても倒すべきだろう。もし俺がやられてもまだメンバーはいるし

アーシアさんも健在だ。運がよければ、やられる直前で死んだ振りの一つでもして欺き

イッセーに憑いてアシストも出来る。

 

今この時点で俺に出来ることをやる。それが俺のやり方だ。

だが、本音を言うと――

 

 

――一刻も早く、この場を離れたかった。




今回、後書きがあまりにも長くなりすぎたので
今回の話についての解説や余談は活動報告の方に上げています。

ただでさえ本文が長いのでgdgd話すのもどうかと思いましたので。


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Soul23. 昇格、出来ません!?

UA2万突破しました。
ありがとうございます。

未だ手探りな状態も続いてはおりますが
皆様の感想、評価、応援に感謝いたします。


一体、いつまで続くのだろうか。

このクソ下らない戦いは。

一体、これのどこに高貴なる悪魔の心意気とやらがあるのか。

これはただのクソ下らないお家騒動じゃないか。

 

一体……俺達は何をやっていると言うのだ。

 

ただ一人の公爵令嬢の我儘から口火を切られたこの戦い。

競技なんて温い物ではない、血で血を洗う熾烈な殺し合いだ。

聞けば、過去の戦争で落ちた悪魔の力を高めるためのものらしいが

これではただの内乱、潰し合いでは無かろうか。

 

少なくとも、あれだけの一撃を受けておいて致命傷がない、などありえない。

俺は確かに、あの騎士のどてっ腹に光剣を突き刺し、貫いたのだ。

それをただリタイアの一言で済ませるには……少し、軽すぎやしないかと思う。

 

死者が出ないようになっている……と言うのも、都合がよすぎる。

これだけ、いやこれ以上もあるであろう熾烈な戦いで死者が未だかつて出ていない、などと。

これには、絶対に何かのウラがあるように思えて仕方が無い。

 

これを流行らせて得をするのは誰だ?

都合よく自分たちの政策を磐石にしようと企んでるサーゼクスら新魔王の一派か?

あるいは悪魔の共倒れを望む天使か堕天使のどちらかか?

 

……いや、いくらなんでもこれは陰謀論の崇拝者みたいな考え方だ。

しかし、そういう突拍子も無い考えが出る程度には腑に落ちないのも事実だったりする。

そう――

 

木場が言うように、己を高めようなんて綺麗なもんじゃない。

そこにあったのは、鼻を突く嫌な臭いに、不愉快な僅かなぬめり気を帯びた感触。

そしてそれが生きているものから流れ出たことを証明する生暖かさ。

それら全て、ただの我儘から始まっているんだ。早く終わらせたい。

 

それなのに、さっきから手の震えが止まらない。息も上がっている。

走ってはいるのだが、この息の上がり方は走ることによるものではない。

今さっきの俺の行いが原因であることは想像に難くない。

そう。多分、恐らく、初めて……

 

 

 

――他人を、刺殺しようとした。

 

 

 

いや、あそこでやらなければ俺がやられていたのはわかっている。

それに、恐らくは既に治療が行われている。と、思いたい。

最も、得物のお陰で後遺症の一つや二つは出てしまうかもしれないが。

 

そう……分かっているはずなのだが。

右手の甲で顔を拭うと、右手の甲は赤く染まっていた。

さっきの返り血なのは間違いないだろう。

 

いや、今まではぐれ悪魔を何度も倒したし、その中には人型の相手もいた。

堕天使やはぐれ悪魔祓いとだって戦った。

 

人型の相手を倒したと言っても、相手はゾンビだったり

目的を果たすために突き飛ばす程度の交戦しかしていない。

今回みたいに明確な殺意の元、理性を持った相手に力を振るった記憶が……

 

い、いや。あった。あの堕天使だ。

あいつだけは明確に殺そうと思って力を振るった。

けれどあれは頭に血が上った状態、つまり冷静さを欠いていた。

いやつまりそれは……ッ!

 

俺は……一歩間違えば、人を殺そうとしていたことになる。それも何度も。

俺は、俺は殺人を是とするような奴なのか? あ、悪魔になったせいだからか?

少なくとも、殺人を是とする思考は、人間社会においてはきわめて危険だ。

悪魔の歩藤誠二はともかく、人間の宮本成二はそういう奴ではない、ないはずだ。

 

 

――チッ。

 

 

色々なものを吐き捨てるように、舌打ちをする。

今まで龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を酷使したからか、消耗をしたのかもしれないが。

 

 

――ああ、だから後ろ向きな考えになるのか。疲れているから――

 

 

その結論に至った俺は体育館跡に行く前に、水飲み場で水を補給する。

浴びてしまった返り血も、落ちるものは落とす。

服についたのはシミになってしまっているし、血の錆びた鉄の匂いってのは好きになれない。

この制服は飾りだけど、汚れたままってのはあまり気分がよくないな。

それに、何だか傷害事件を起こした後の始末みたいで気分が優れない。

 

と、思いながらも隠し持っていたペットボトルに水を詰め替える。

戦闘前には麦茶が入っていたものだ。既にカラだが、水筒としての機能は十分に果たせる。

全ては、このために。

 

MORFING!!

 

モーフィング。『水道水』を『スポーツドリンク』に変える。

これも結構体力を使うのだが、スポーツドリンクの栄養価で相殺している。はずだ。

とにかく、水分を補給し一息つく。まだ先は残念ながら長いだろう。

糖分の補給も考えたが、生憎食えるものを持っていない。

さすがに石をモーフィングで食料に変えるのはちょっと練度が足りないし疲れる。本末転倒だ。

 

それに。今はいずれも飲み水だからいいようなものの、仮に石を食べ物に変えて

腹の中で変化が解けたとしたら……少し怖い考えになった。

 

「……ぷはっ。さて、まだアナウンスが無いところを見ると

 最悪の事態は免れているようだが……」

 

そう。そう呟いた瞬間、耳に突き刺さる轟音と共に、地面が揺れる。

揺れ方からして地震ではない。恐らくは女王(クイーン)の仕業だろう。

 

衝撃の後、俺が持っていた通信機にアナウンスが入る。アーシアさんだ。

相当慌てている様子だが……

 

『セージさん、セージさん! ああ、よかった……繋がりましたか。

 早く部長さんの救援に来てください! このままじゃ……』

 

「……悪いが、いくらアーシアさんの頼みでも聞けないな。

 大体、一対一で戦って勝てる相手じゃないことをグレモリー部長は知っていたはずだ。

 大方、アーシアさんの神器で同じ土俵の上に立ったつもりなんだろうが……

 意味合いがまるで違う。自分自身が不死身である事と

 回復手段を用意して不死身になるのとでは全く違う。

 それなのに、相手の挑発に乗って戦いを始めてしまった。

 これは紛れも無い、グレモリー部長のミスであり、俺達眷属――

 いや、目的を同じくする仲間を軽んじたとも受け取れる。

 そんな奴のために、俺は加勢するわけにはいかないな」

 

案の定、アーシアさんからの救援要請が来たか。

……声を大にしていいたい。アホか!!

アーシアさんが心配性だから、今戦闘をしていない俺のほうに連絡が来ただけかもしれないが

苦戦しているであろうことは想像に難くない。

しかしなぁ……この結果、読めなかったわけでも無かろうに。

 

俺としては勝とうが負けようがどっちでもいいので

この救援要請は突っぱねることにする。

アーシアさんの依頼を突っぱねるようで少々、心苦しいものはあるのだが。

そのフォローとして、一言添えることにした。

 

「だが悲観するのはまだ早い。もうすぐイッセーと木場が、それに状況次第だが

 塔城さんも援護に向かうはずだ。俺はその間、相手の『女王(クイーン)』を押さえる。

 俺が行くのは、それが終わってからだ」

 

『イッセーさんが!? わ、わかりました! 部長さんに伝えておきます!

 ……ってセージさん、もしかして一人で「女王」を!? む、無茶です!!』

 

ああ、俺もそう思う。だがフェニックスを倒すには

オカ研の連携が必須になるだろう。それだけに姫島先輩が抜けたのは痛いが……。

それともう一つ。「絶対に敵の援軍が来ない」条件を作り出す必要がある。

その二つをクリアするには、「女王」を倒し、かつ俺がイッセーにシンクロする。

塔城さんの方が、他のメンバー――特にグレモリー部長――との連携が図りやすいだろう。

それが、俺が「女王」の足止めに残る理由だ。

 

「……すまない。メンバー配置がこれしか思い浮かばなかったんだ。

 今グレモリー部長に指示を仰いでいる暇は無さそうだし、な。

 一人欠けた状態で相手の『女王』に横槍を入れられるよりは、二人足りない状態だが

 フェニックス一人を総攻撃した方が、勝算はあるんじゃないかと俺は思う」

 

『そ、それは……そうかもしれませんけど……』

 

「そういうわけだ。よって事は急を要する。イッセー達が来るまで、何とか持ちこたえて欲しい。

 以上、通信を切る」

 

『せ、セージさん! 待っ……』

 

半ば強引にアーシアさんの通信を切り、ペットボトルの中身を飲み干す。

さて……ちょっと無駄話が過ぎてしまった。

 

 

――急がないと。

 

 

一目散に体育館跡に向けて走り出す。

まだ、まだ彼女は無事なはずだ。せめて、彼女だけでも守らなければ。

そして、全員を集めるんだ。そうすれば、このクソ下らない戦いを

よい結果で終わらせることが出来る。

 

そう思いながら駆けつけた俺の目に飛び込んだのは、煙の立ち上る体育館跡。

あちこちにクレーターが出来ており、激戦が繰り広げられたことを物語っている。

土煙のお陰で視界はゼロ。こうなれば、これを使うしかない。

 

COMMON-LADER!!

 

レーダーによる索敵。ステルスも展開されていないであろう今

程なくして塔城さんを見つけることは出来た。

幸い、大きな傷も負っていない。

 

「あ、セージ先輩……姫島先輩が……」

 

「聞いてる。それより、イッセーと木場が新校舎の屋上に向かっているはずだ。

 二人と合流して、グレモリー部長の援護に向かって欲しいんだ。俺も後から行く」

 

遠くにフェニックス陣営の眷属が倒れたアナウンスが聞こえる。

どうやら、あの二人がやってくれたらしい。いいぞ。後は……

 

「……それなら、セージ先輩が向かってください。私はここで……」

 

「いや、俺がここで『女王』を食い止める。あいつに横槍を入れられたら

 勝てる戦いも勝てなくなる。力を合わせてフェニックスを倒す。

 それを目的にするなら、今はイッセー達と合流して欲しいんだ」

 

そうだ。フェニックスだけでも大変なのに、女王に横槍を入れられたら終わりだ。

イッセーも木場も、既にフェニックスの下へ向かっている。

 

……倒すのは、今しかない。

 

「……わかりました。でも、絶対来てください。

 あの焼き鳥に勝つには、セージ先輩の力も必要です」

 

「……ああ。じゃあ、また後で!」

 

走り去っていく塔城さんの背中を見送っていると背後に爆風を浴びる。

間違いなくライザー・フェニックスの女王、ユーベルーナだ!

 

「背後からいきなりとはね……眷属にはノブレス・オブリージュは適用されないのか?」

 

「悪魔になって日も浅い転生悪魔に対する礼儀など、端から持ち合わせていませんわ。

 他の眷属達やレイヴェル様が甘いだけ。あなたは私を倒して、ライザー様との戦いを

 磐石にするつもりでしょうけど、無駄なこと。

 たかが転生悪魔の『兵士(ポーン)』一人、ここで消したところで誰も気にはとめませんわ」

 

……まあ、そうだろうよ。それが普通の応対だろうよ。

だから余計に腹立たしいのだけどな。

だが、俺の最低限の目的は……お前の足止めだ!

 

「……じゃあ、足元に喰らい付く有象無象の蔦くらいにはなってやるよ!」

 

爆風の中、俺はユーベルーナめがけて突っ込むが……飛ばれた!

くそっ、このままじゃ足止めどころの話じゃない!

何とか、こっちに引き摺り下ろしてやる!

 

俺はこっちに来る前に回収しておいた縄をユーベルーナめがけ投げつける。

投擲スキルには若干の不安はあったが、無事縄はユーベルーナの足に絡みつく。

 

……しかし、これじゃ足りない。

爆発で縄を千切られたら水の泡だ!

 

「ふん。何故ライザー様の女王である私がこんな薄汚い兵士の相手をせねばならないのかしら?

 相手になどしていられないわ。倉庫から縄を引っ張ってきたのでしょうけど、無駄な……!?」

 

MORFING!!

 

「モーフィング! 『縄』を『鎖』に変える!

 そしてこのまま引き摺り下ろす!!」

 

EFFECT-STRENGTH!!

RELOCATION!!

BOOST!!

 

「な、生意気な……っ!!」

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

龍帝の義肢を左足にセット。足を固定させ、力任せに鎖を引っ張る。

そのためにカードも引く、大盤振る舞いだ。しかしそれだけしなければ「兵士」の俺が

「女王」の相手を倒す……いや、足止めするのさえも難しいだろう。

 

船を停泊させる錨の要領でユーベルーナの足を止め、引き摺り下ろす。

力任せではあるが、運よくそのままユーベルーナを地面に叩きつける事が出来た。

向こうは今地面に突っ伏している。このままマウントを取ってたこ殴りだ!

 

RELOCATION!!

 

そう考え俺は突撃し、拳を振り下ろしたがその拳は地面に突き刺さってしまう。

相手は爆風を利用して、俺の狙いをずらしたのだ。

くっ、やはり女王。一筋縄ではいかないか。

 

「よくもやってくれたわね……転生悪魔の、しかも昇格(プロモーション)さえしていない『兵士』の分際で。

 私の爆撃で挽肉にしてさしあげましょう!」

 

あっという間に鎖は外され、またユーベルーナに空に飛ばれてしまうが

どうやらさっきの一撃でヘイトを稼げたのか、フェニックスの下に合流するよりも

俺への攻撃に集中している。

 

よし、これで足止めという第一目的は達成できた。できたんだが……

 

「最初の勢いはどうしたのかしら? それとも、この爆風に恐れをなしたのかしら?

 この、そちらの『女王』も粉砕した私の爆撃に!」

 

MEMORISE!!

 

爆撃が酷すぎる。これじゃ押すも退くも出来ない。

何とか打開策を見出そうにもこのままじゃカードさえも引けない。

爆撃のカードは記録されたみたいだが。

 

……ん? さっきそういや昇格がうんぬん言ってたな。

幸い、もうフェニックスの眷属で戦う意思があるのはあいつだけ。

ならば……試してみるか。

 

ANALYZE!!

 

「逃げるのかしら? ふふっ、精々逃げ惑うがいいわ!

 この私を一度でも地に這わせたこと、爆撃の中で後悔なさい!」

 

爆撃を掻い潜り、俺は新校舎めがけて走り出す。

その間振り向きながら、小出しではあるもののアナライズも行う。

全てのデータを読めるわけではないだろうが、少しでも使えるデータがあれば、勝算は上がる。

運のいいことに、相手は俺に一撃食らったのが相当悔しいのか俺への爆撃に集中している。

下手に新校舎を爆撃したらライザーにも影響が出るかもしれないってのに、だ。

その方がこっちとしてもアナライズはしやすい。実力差をひっくり返せるかどうかは分からないが

環境はこちらが優位に立ちつつある。

 

そしてもう一つ、これは副産物なのだが……

 

――屋内なら、爆撃はされない。

 

そう、地形の都合上、屋内に逃げ込んでしまえば上空からの爆撃は出来なくなる。

正面からの爆発は防ぎようが無いが、それはもう仕方が無い。

運よく爆撃が止んだところで、俺は昇格を試みる。

遠くにまだ爆発音が聞こえる。早くしなければ!

 

「しまった、こちらの陣地に……まあいいわ。

 ライザー様のところには、絶対にたどり着かせはしないわ。

 その挽肉を手土産に、ライザー様の所へ向かうとしましょう」

 

「……どうやら、こっちを追ってくるみたいか。合流を図られなくてよかったか……ふぅ。

 だったら、こっちも置き土産を残すとするか……!」

 

校舎に入り込み、屋上に向かう途中で俺は早速今しがた記録したカードを使うことにする。

これがこの先の戦況を変える一手になるとは考えにくい以上

いっそのこと、実戦テストとしてわざと使うことにしたのだ。

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

やはりと言うかなんと言うか、すさまじい爆風が立ち込める。

屋内で使ったのがまずかったかもしれない……が。

 

廊下と言う、二方向にしか進行できない場所で片方を爆撃で封鎖。

時間稼ぎにはうってつけの環境を作り上げたのだ。

 

……今時間稼ぎをする意味は、あまり無いかもしれないが。

 

――――

 

一息つくが、実はさっきから、妙に息が上がっている。

いくら赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)より消耗が少ないとは言え、この短時間で

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を何度も使ったこと。

そしてカードもかなり使っている。少々無理をしすぎたかもしれない。

 

だが、音を上げてもいられない。もう既にイッセーも、木場も、塔城さんも

最終決戦の場に向かっているはずなのだ。

後は俺が、「女王」を倒して合流する。そのためには……

 

しかし、俺には嫌な予感が付きまとっていた。

作戦前、俺の中に生じた違和感。あれは、俺にあると言う悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の作用に違いない。

イッセーに憑依し、かつその状態で悪魔の駒の封印を解放したのだ。

 

……やはり、俺とイッセーは何らかの理由で悪魔の駒を共有しており

俺の方は悪魔の駒に対し適応力が劣っているのか、拒絶反応が出ていると考えるのが自然か。

 

そんな状態で、悪魔の駒の能力である昇格(プロモーション)がうまくいくのか?

いや、今は考えるよりも動くべきか。それに、考えたところで解決法が分からない。

悪魔の駒の知識など、そもそも俺にあるわけが無い。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)ならば調べられるだろうが、今そんな事をしているヒマはない。

 

今はとにかく、やるしかない!!

俺は意を決し、昇格を試みる。

 

――昇格、女王!!

 

しかし、事態はそんな俺の考えとは裏腹な方向へと変化していた。

いや、ある意味予定調和の結果なのかもしれないが。

 

「ぐああああああっ!? く、くっ……やはり……!」

 

作戦開始直後、イッセーの悪魔の駒を開放した時と同じ感覚が、俺の内側から湧き上がる。

自分が自分でなくなるような感覚、内側からバラバラになりそうな痛み。

そして得体の知れない不快感と嘔吐。

 

戦闘中だというのに、俺はそのまま校舎の冷たいリノリウムの床に突っ伏してしまう。

 

EFFECT-HEALING!!

 

慌てて俺はカードで回復を試みるが、あまり状況は変化しない。

まあ、傷を負っているわけでもないから当たり前と言えば当たり前なのだが。

しかも苦しさで判断を誤ったのか、大事なカードの無駄打ちどころか

無意味な消耗をする結果になってしまう。

 

こみ上げてくる不快感で視界が歪むのを感じながらも立ち上がると

遠くからヒールの音が聞こえる。

リノリウムの床に響き渡る無粋なヒールの音……学生じゃない。

いや、そもそもヒールを鳴らしてくるような奴なんて一人しかいない。

 

――ライザー・フェニックスの女王、ユーベルーナ!!

 

「瓦礫で道を塞いだつもりなのでしょうけど、無意味よ。

 逆に、これであなたは追い詰められたことになる。

 今度こそ、挽肉にしてさしあげます」

 

「し、しまった……くっ!」

 

まずい! 前にはユーベルーナ。後ろは俺がさっき崩した、通れない!

こ、この状況でしかも昇格も出来ないと来た!

 

……くそっ。大口叩いてこのザマか。

こうなったら、不本意だがこいつを道連れにするしかない……か。

だが、無策の特攻が通じる相手でも無いだろう。さて、何か手は……

 

胸の奥の不快感は収まらないが、俺はとにかくこの状況を打開するために

何でもいいからやってみることにした。

 

「……なぁ、女王陛下。確かに俺は昇格もしてない兵士でありながら

 そっちの眷属を次々と撃破してみせた。

 その功績を称えて、死に方くらいは選ばせてはくれまいか?」

 

「自ら褒賞の催促とは……なかなか面白いですわね。

 いいでしょう。どのような死に方がお望みで?」

 

……よし。まだ油断は出来ないが、乗ってくれた。後は……

 

「ここは俺にとって馴染みのある学び舎。

 魔力によって生み出された偽りの場所とは言え、ここで埋もれて眠りたいのさ。

 どうせ死ぬなら、挽肉にされるよりは埋もれて死にたい。よろしいか?」

 

「……いいでしょう。ではお望みどおり、私の魔法で討たれる事を褒賞に

 この学び舎の瓦礫に沈みなさい!」

 

……ここまでうまく乗ってくれるとは!

よし、後はこのまま突っ込んで道連れにするだけだ!!

ユーベルーナが爆発魔法の準備に入る。発動のタイミングは、さっきアナライズした。

 

……今だ! 後は一気にユーベルーナに突っ込むだけだ!!

 

「ありがたき幸せ。この幸せ、俺一人で噛み締めるには些か多すぎる……

 ……女王陛下! 貴女にも味わっていただく!!」

 

ところが、俺の手は何も無いところを掴むだけだった。

失敗した! そう思う間もなく爆風による埃と瓦礫が視界を塞ぐ。

 

「粗方、私を巻き添えにするつもりだったのでしょうけど……

 その程度の策で私を討つなど、笑止千万。

 望みには答えましたわ。安らかにお眠りなさい、愚かな兵士のボウヤ」

 

――それが、俺が幻の新校舎で聞いた最期の言葉だった。

 

――――

 

……遠くに奴の声が聞こえる。

けれど、俺の手はもう動かない。

普段ならいざ知らず、今の俺にはもう瓦礫をどかす力も無い。

 

……くそっ。大口叩いて俺はここまでか。

 

グレモリー部長、大口叩いてこのザマです。どうか嗤って下さい。

姫島先輩、すみません。仇は討てませんでした。

アーシアさん、すまない。結局俺は嘘をついてしまったようだ。

塔城さん、すまない。俺は足止めさえも出来なかった。

木場、すまない。最後の最後でしくじった。

イッセー、すまない。お前を勝たせてやれそうに無い。

 

もう、皆に力を貸すことは出来そうにない……

 

 

――らしくない。随分弱気だな、霊魂の相棒。

 

 

……!? こ、この声はドライグ!?

バカな、俺は霊体になってイッセーに再憑依したのか!?

いや、その割にはまだ瓦礫の冷たい感触が残っている……ならばこれは!?

 

 

――お前の右腕だ。俺は赤龍帝であって赤龍帝でない。

今までの戦いの中で目覚めた、赤龍帝の分霊とでも言うべき存在だ。

お前は今までに己を高めようと、生きる道を探そうと足掻き続け、様々な力を会得した。

その結果、新たな可能性として俺が目覚めたのだ。

 

 

確かに、以前俺は龍帝の義肢をドライグの分霊と解釈したことはあるが

まさか、本当に俺の方にもドライグが宿ったと言うのか!?

 

 

――真なる赤龍帝はただ一人、赤龍帝の籠手を持つ者ただ一人。

しかし二つに分かれ進化し続けた力は、異なる可能性を生み出した。

無限の叡智が、赤き竜に新たな道を与えたのだ。

 

……立て。霊魂の。いや……宮本成二!!

宮本成二に眠る、今はまだ断片のみが語られる無限の叡智。

赤龍帝より齎されし、新たな可能性を秘めた右腕。

それら二つを胸に抱き、砕けた悪魔の楔に新たな道を示すのだ!

 

 

無限の叡智……? 記録再生大図鑑の事か?

……そういえば、まだ一枚試していないカードがあった。

しかし……いや、今はやってみるしか!!

 

意を決し、俺はゆっくりと左手からカードを抜き取る。

瓦礫に埋もれていても、この程度の動きが取れたのは幸いだった。

 

 

 

PROMOTION-ROOK!!

 

 

 

エラーは吐いていない。起動には成功したようだ。

しかし、何か変化が起こる様子は……?

 

……いや、熱い。身体が熱い。右手が、肩が、両足が熱い。

さっきまで酷くやられたはずの身体の痛みが和らいでいく。

痛みよりも、熱さが勝っている。

 

思い切って、右手を地面につけ、押してみる。

身体が浮き上がる。まさか、瓦礫に埋もれていたはずなのに!?

瓦礫を押しのけつつゆっくり立ち上がると、まだまだ俺の中から力がわき上がってくる。

湧き上がる力に任せ、瓦礫を吹き飛ばしてみる。

 

まだ身体が熱い。おまけにさっきのダメージをほとんど感じない。

少し身体を動かしてみるうちに、両手と両足、肩に違和感を覚える。

違和感の正体は痛みではない。そこには、今までのくすんだ赤色ではない

けれどイッセーの赤龍帝の籠手とも違った赤みを帯びた籠手に

さらには同様の色をした脛当が両足に纏われている。

記録再生大図鑑がある左手は、色のみが籠手や脛当と同様になっている。

両肩は、戦車の駒を模した形……つまり、塔や城の壁のようである。

 

これが……このカードの、いや……

 

龍帝の義肢の、新たな力か!

 

「……使い方は普段の龍帝の義肢とほぼ同じか。

 同時に両手両足、おまけに肩に防具もついた、と。少し重いが、応用で行けるか?」

 

無造作に積みあがった瓦礫を相手にパンチを繰り出してみる。

……一瞬で粉々になった。倍加も何も無い状態でこれか。

 

――言い忘れていたが、今のお前は悪魔の楔が言う所の「戦車(ルーク)」と同じ性質を持っている。

悪魔の楔で力が解き放てない分、俺の力と無限の叡智がお前の力を解き放つ。

……見せてやるんだな。お前の、俺達の力を。

 

頭の中に響く、ドライグの声。

ドライグではないと言っていたが、便宜上ドライグと呼ぶ。

別にいい名前が浮かんだら、そのときに名付け直そう。

 

……とにかく。今は戦車の力を出せると言うことか。ならば!

赤く変色しながらも、基本構造は変わっていない

記録再生大図鑑のスロットから、俺はカードを引き抜く。

 

COMMON-LADER!!

 

む。どうやら同じレーダーでも僅かにインターフェースやプログラムとかが変わるみたいだ。

今の状態ではあまり広範囲の緻密な索敵は出来ない代わりに

レーダー射撃機能とかがあるみたいだ。

……ま、今はそれを使う武器が無いが。

 

さて、俺の狙いはただ一つ。女王ユーベルーナの撃破。あわよくば敵大将の撃破。

俺が瓦礫に埋もれている間に、女王は敵大将に合流されてしまったようだ……くそっ。

だが、今の俺なら天井をぶち抜いて奇襲が仕掛けられるはずだ。

そのためにも、レーダーで敵の位置を探りながら新校舎の中を駆け回る。

 

――――

 

当たりは、意外とあっさりとついた。生徒会室の真上。そこが今の戦場。

生徒会室の扉を蹴破り、位置の微調整に移る。

 

……ふと、生徒会室の備品が目に留まる。

この新校舎も魔力で限りなく本物に近く再現されたものだ。

つまり、ここも本来の生徒会室と同等の設備を持っていることになる。

 

……だとしたら、何故こんなにも悪魔関係の書籍が多いのだ?

時間が許せば、一頻り調べられそうだが……残念だがそれは無理か。

確か顧問はあの薮田直人先生……い、いや、まさかな。

いくら顧問とは言えここまで首を突っ込むのは越権行為もいいところだ。

底の知れない存在だが、そうした越権行為をするような人物には見えない。

 

あの人が違うとすれば生徒会長の支取蒼那か?

いや、彼女も違うだろう。聞いた話では堅物で有名だ。

そんな彼女が私物をこんなに持ち込むとは思えない。

しかしだとすると、こんな一歩間違えれば

オカルト研究部の部室並みの悪魔関係の資料が何故ここに……?

 

……い、いや。今はそんなことよりも!

俺は敵の足元に出られるように場所をとり、思い切って飛び上がる。

 

「うおおおおおっ!!」

 

生徒会室の天井をぶち抜いた先は、真っ白な空に覆われた駒王学園の屋上。

そしてそれは、この下らない戦いの決着の場でもあった。




本来のパワーソース(悪魔の駒)から昇格の力を引き出せないので
他のパワーソース(神器)から昇格の力を引き出しました。
当たり前ですが、第一章ラストの歪な禁手よりもマイルドな性能です。
パワー重視でピーキーな部分はありますが、マイルドです。

レーティングゲームへのディスりっぷりがくどいですが
少なくとも一月前までただの学生だった奴が
簡単に順応できる環境じゃないと思うんです。
そのため、前回のシーリス撃破と今回冒頭のセージは
意図的に描写をくどくしています。


どうでもいいですけど、ここで職員室行けば
テストの回答とか見放題じゃないんですかねぇ。

……そんなベタなネタ、誰もやらないだけでしょうけど。

※5/27 一部修正。屋内から屋根ぶち破るって何さ……


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Soul24. 戦車、発進します!

実は今回の話は難産でした。


勢いよく飛び上がったお陰で、フェニックスやイッセー達を眼下に見下ろす形になった。

突然の乱入に驚いているようだが、こちらは空中。このままじゃいい的になる。

俺は思い切って、銃の残りの弾丸を撃ちつくす意味も込めて

地上――屋上に向けて銃を乱射する。

 

「待たせたな、食らえ!!」

 

「伏兵だと!? リアス、なかなかやってくれるじゃないか!」

 

俺の乱入に驚いている様子の両陣営。

ヒーローは遅れてやってくる、とはよく言ったものだ。

俺はヒーローに憬れこそすれ、なったつもりはないが。

 

ともあれ、相手の撹乱には成功した。

その勢いで俺は女王に対して追撃を敢行する。

 

――本来なら俺が足止めをするはずだったのだ。

フェニックスを倒す前に、なんとしてもこいつを仕留める。

 

「……そのふざけた仮面は。あなた、瓦礫に埋もれたのではなかったのかしら?」

 

「あれっぽっちじゃ足らないからリクエストをしに来たんだが、気が変わった。

 どうにも女王陛下には期待できそうも無い。だから……退陣していただく!」

 

相手が爆撃を試みようとするよりも先に、女王(クイーン)めがけて一撃を加える。

確かに俺自身の動きはやや重く感じるが、これくらいの芸当は可能だし一撃も重い。

重量級に強化されたボディブローを見舞う。

女性の腹を狙うのは顔と同等にアンフェアかもしれないが

四の五の言っていられる状況でもない。

 

「ぐ……っ!? 昇格は……出来ないのでは……!?」

 

「普通の方法じゃあな。だから普通じゃない、俺の方法でやらせてもらった。

 そういうわけだ……そこで寝ていろ!!」

 

この一撃で、何かの結界が解けたように見えたが、今はそれよりも。

追撃でさらに女王の鳩尾に膝蹴りを、崩れ落ちようとする背中に肘打ちを加える。

我ながら随分と淡々とやったものだが、その効果は覿面であった。

リタイアはしていないようだが、一連の攻撃は女王を黙らせるのには有効であったようだ。

 

うつ伏せに崩れ落ちたのを確認した後、俺はイッセー達と合流した。

どうやら限りなくアウトに近いセーフだったことが見て取れる。

幸い、だれも脱落はしてないようだが……。

 

「すまない、遅くなった上に増援を許してしまった。

 言った手前、ここから挽回させてくれ」

 

「セージ、お前なぁ……部長のスタンドプレーを咎めといて

 お前がスタンドプレーに走るなよ。あいつらは何とか倒せたから、いいようなものだけどよ」

 

「そうだね。結果オーライかもしれないけど、押し付けられたほうの身にもなって欲しいかな。

 それと、フェニックスの妹については戦う意思をやはり見せなかったよ。

 相手の言うことを鵜呑みにするのも、どうかと思うけどね」

 

「……戦術的には正しいかもしれませんが。協調性という意味では、ちょっと。

 あと、待ち合わせの遅刻はあまり褒められたものじゃありません。特に女性との約束は」

 

……む。確かにちょっと勇み足が過ぎたかも。

特にイッセーと木場に関して言えば、残敵掃討を押し付けた形になる。

数の上では互角だからとたかをくくっていたが……

さらに追い討ちをかけるように塔城さんの突込みが冴え渡る。

全く、反論しようにもぐうの音も出ない。反論する気はないが。

 

……これでは、他人ばかりをあまり悪し様に言えないな。

現場判断とは言え、もっとしっかり説明するべきだったか。

 

「……その件についてはすまなかった。戦況を打開しようとして勇み足を踏んだようだ。

 既に事が動いてたものだから、説明する暇も惜しかったんだ。

 俺の目的は、フェニックスを攻略する際に相手の眷属の妨害が入るのを防ぐことだったんだ。

 最も、結果はこうして女王が援軍に来られてしまったが」

 

事情を説明していると、粉塵の向こうからアーシアさんが駆け寄ってくる。

後方に待機していたのだろうか? 今は粉塵で煙幕を焚いているようなものだから

前線に出てもいいかもしれないが。

 

「はぁっ、はぁっ……セージさん、みなさん、無事でしたか……」

 

「アーシア!? そうか、セージが女王をぶっ飛ばしたのか!」

 

「確かに鳩尾に二発、背骨の辺りに一発くれてやったが……とどめはさしていない。

 相手の女王が、アーシアさんに何か関係あるのか?」

 

俺の疑問に、木場が答えてくれる。

曰く、どうやら聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を封じようと、女王が結界でアーシアさんの動きを封じていたらしい。

そこに俺が駆けつけ、女王を昏倒させたために結界が解け、アーシアさんは自由になったらしい。

……うーむ、またしてもラッキーストライクか。

ビギナーズラックと言うか、あるいは見方によっちゃご都合主義と言うか?

それ位、今日の俺は随分と運がむいているみたいだ。

 

アーシアさんは、俺が駆けつけるまでの戦いで皆が受けたダメージを治療するために動いている。

このまま体勢を立て直せば、いよいよ攻勢に乗り出せるが……グレモリー部長は?

 

「あとはグレモリー部長だが……戦闘が続いている辺り、やられてはいないだろうが。何処に?

 フェニックス攻略について、意見具申したいのだが」

 

「部長はまだフェニックスの野郎と向き合っているんじゃないか?

 俺達は女王を抑えるのに必死だったから、そっちまでしっかり確認できなかったんだ。

 アーシアは何か知っているか?」

 

「ごめんなさい、私も部長さんと相手の(キング)が戦っているってところまでしか見えなかったんです」

 

「……セージ先輩も来ました。相手の女王も今は沈黙してます。今なら、総攻撃できるかと」

 

塔城さんの言葉で全員の意思が固まると同時に、粉塵は晴れた。

回復した視界の先には、余裕綽々のフェニックスと、満身創痍のグレモリー部長がいた。

 

……ああ、だから言わんこっちゃ無い。

イッセー達が向かった時点で心配はそれほどしてなかったが

全く心臓に悪いプランだよ。これは。

 

「伏兵を用意して戦う意思を見せる姿勢だけは立派だと褒めてやるよリアス。

 けれど、俺を倒すには力が足りなさ過ぎて伏兵の意味が無いぞ?」

 

「……そうね。けれど、セージはやってくれたわ。朱乃は倒されてしまったけれど

 今ここに、我がグレモリーの眷属達を全員そろえることに成功したわ!」

 

……俺がそうするように仕向けたんだけどね、とは言わないでおこう。

 

アーシアさんはグレモリー部長に駆け寄り治療を。俺達はフェニックスを取り囲み

臨戦態勢に入っている。数の上では、圧倒的に優位だ。

今やらねば、いつやると言うのだ?

俺は思い切って、グレモリー部長に意見具申するが……

 

ふと視界の隅に、映ってはいけないものが映った。

相手の女王だ。完全に黙らせるつもりで叩いていたのに。

悪魔の駒で強化されたのか、あるいは元々か。

昏倒程度ではリタイアは奪えないと言うのか。殺すつもりでやれ、と?

まあ、あの様子じゃ昏倒させるにも至らないダメージだったと考えるのが自然か……。

とにかく、あの様子ではまたこちらに不意打ちを仕掛けてくるだろう。

 

やったと思った瞬間が、一番気を抜くタイミング。

今は皆気を抜いてはいないとは思うが、念のためだ。

俺はそっとグレモリー部長に対し、通信機の個別回線で意見具申を行うことにした。

 

「グレモリー部長。女王が動き出しました。

現状、悠長に女王を倒してからフェニックスを倒す……

なんて、やっている暇は無いと思います。女王は宣言どおり俺が倒します。

皆はフェニックスに攻撃を。以上、作戦意見具申いたします」

 

「……イッセーは消耗が激しい、木場や小猫を割けばライザーを討つ為の戦力が……

わかったわ。具申了承するわ。但し、可及的速やかに女王を撃退し

ライザー攻撃に参加しなさい。そのための神器(セイクリッド・ギア)でしょう? いいわね?」

 

「……御意!」

 

動くにしても、一応は断りを入れるべきだろう。

最も、却下されたらされたで無視して動いた可能性も無きにしも非ず、だが。

俺は速やかに決着をつけるべく、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)から一枚のカードを引く。

そしてそれは、グレモリー部長らの総攻撃の合図でもあった。

 

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

 

電子音に心なしかエコーが響いている。おまけに、力が上昇した感覚が無い。

……このタイミングで壊れたか? やはりぶっつけ本番だしなぁ、と思っていると

右手のドライグから解説を受けることになった。

 

『壊れてなどいない。だが、普段の記録再生大図鑑でも知ってのとおり

 同一の強化は重複しないだろう。そのために、カードの効果が変わったのだ』

 

なるほど……ってドライグ、何で記録再生大図鑑の仕様を知ってるんだ?

い、いや……こっちのドライグは俺と一緒に戦ってたんだ。知っててもおかしくないか。

 

とにかく、俺はこの発動した新たな力を振るうことにする。

 

 

「隙を突いて爆撃するつもりだったのだろうが……そうは行くか!」

 

「おのれ……どこまでも私に付きまとう鬱陶しい小僧が!

 やはり瓦礫に埋もれさせず、挽肉……いや肉片にしておくべきだったわ!」

 

 

激昂とともに放たれた爆発の魔法は、見るからにとてつもない威力であった。

その威力たるや、向こうでフェニックスと戦っていたイッセー達にまで

爆発の余波が及んだくらいだ。そのお陰で屋上が一部吹き飛んでおり

向こうのイッセー達だけでなくフェニックスまで驚いていたほどだ。

 

「くっ、ユーベルーナめ……頭に血が上っているな。誰がそこまでやれと……。

 獅子は兎を屠るのにも全力を尽くすとは言うが、これでは火力過多だな。

 リアス、お前の下僕も運が無かったな。あれでは――」

 

「言わなかったかしらライザー? セージを、私の眷属を甘く見ないほうがいいって。

 それにその物言い……眷属をハーレムの構成員、お飾り程度にしか考えていない

あなたらしい物言いね。だから私はあなたとの婚姻は反対なのよ!」

 

随分買ってくれますな、グレモリー部長。

一体、何処にそんな価値があるのやら。自分で言うのも何だが。

ここに俺がいるからって、気を遣うタイプには見えないことを考えると……

素で言ってるか意地張ってるか。まあ、今そんなことはどうでもいいだろう。

 

……で、爆風を正面から浴びる形になった俺はどうなったかと言うと。

結論から言えば、大したことはなかった。

 

いや、実際爆発の威力は凄かったと思うのだが。

 

「……悪いな。俺もお前を倒して合流する、って約束だったんだ。

 半分約束破ってる手前、落とし前はつけさせてもらう!!」

 

「こ、こしゃくな! どんなまやかしで私の爆発を防いだかは知らないが!!」

 

「まやかしじゃない! お前の爆発を凌いだのは事実だ!!」

 

今しがた引いた俺のカードは「力」。

普段は戦車の性質をそのまま乗せる効果だが、今は既に戦車に昇格している。

そのままでは意味の無いこのカードが新たに見出した可能性。それは……

 

――「力」を操作する。

 

おおよそ力には最低でも4つ、様々な種類があるらしい。

俺も理系の人間じゃないので詳しくは知らないが。

そのため、具体的な理論は抜きにして目的だけを考えながら力を揮う。

そのせいか、記録再生大図鑑の方に少々余計な負荷がかかっている気もするが……。

 

今は「爆発による攻撃を無力化したい」と念じながら、右手をかざしていた。

するとどうか。俺の方は見事に爆発のダメージを無効化していた。

これにも原理とか色々あるのだろうが、今考えていると頭が痛くなりそうだ。

結果として、爆発の衝撃や方向は見事に俺を避ける形で発生したのだ。

とにかく、「力」のカードはとんでもない進化を遂げたってことが分かればいいか。

 

「爆発の衝撃を、避けた……いえ、捻じ曲げたとでも!?」

 

「原理は知らないが、そうらしい。さて、お次はこうだ!!」

 

続けて、かざしていた右手を今度は地面に向けて振り下ろす。

それと同時に、巨大な岩に潰されたようにユーベルーナは倒れこむ。

相手の周囲だけ、重力が大幅に上がったようだ。これはなんとなく分かる。

先刻不意打ちを加えたとき同様、地面に突っ伏したユーベルーナを目指し

俺は悠々と歩を進める。

 

ユーベルーナの目の前まで詰め寄った時、背後ではフェニックスの炎と

グレモリー部長の魔力がぶつかる音が響き渡っている。

振り向くと、隙を突いてイッセーや木場、塔城さんが攻撃を加えている。

牽制しているようだ。

 

……しかしあれじゃ……あれじゃ勝てない。

俺が思うにオカ研の皆は弱くはない。

ただ、フェニックスという規格外の再生能力を持った相手に対して

有効な決定打が今は、使うことが出来ない。

唯一使えそうなイッセーも、消耗が激しく後1~2回が精々だろう。無駄打ちはできない。

アーシアさんも回復できるよう待機しているが……彼女も疲労回復とかはできないらしい。

これは、なんとしても速やかに女王を撃退し合流しなければ。

 

そう思った俺の足元には何とか顔を上げてその様子を見ているユーベルーナがいる。が……

 

――行かせねぇよ。

 

相手は地面に突っ伏している。それなりに借りもある相手ではある。

思わず顔を蹴っ飛ばしてやろうかとも思ったが、そこまで非情にはなれなかった。

……ま、それでいいんだろうけど。それに、もう2~3発ほどぶん殴っている。

 

「援護には行かせるものか。だが、送り届けてはやる」

 

「な……に……?」

 

今は、やるべきことをやらなければ。

先刻振り下ろした右手を、今度は掌を天にかざす形に振り上げる。

刹那、ユーベルーナにかかっていた超重力は、今度は無重力となる。

突如身体が宙に浮いた彼女を掴み、カードではなく戦車の力でフェニックスめがけ投げつける。

 

「うらあああああっ!!」

 

「くっ、ライザー様っ!!」

 

「うおっ!? ユーベルーナだと!?」

 

突然の妨害に目を白黒させるフェニックスを尻目に

俺は号令をかける。いよいよ、総攻撃の合図だ!

 

「グレモリー部長。今から吶喊します、いいですね? 答えは聞きませんが!

 イッセー、木場、塔城さん、続いてくれ!

 アーシアさんは引き続き後方待機、部長は援護射撃を!」

 

「セージ、指揮は私が……って言いたいところだけど、私も同じことを考えていたわ。

 今回は細かい指示はセージ、あなたが出しなさい。

 ……ただしやるからには結果を残すこと、いいわね!」

 

今回も、俺はかなり勝手なことを言っている。

ともすれば越権行為かもしれないが、まあ戦術的な視点で見れば

ある程度のお墨付きは貰っている。はずだ。伊達にイッセーに憑いて戦術指揮は執っていない!

 

……最も、数えるほどの経験しかないが。

ともかく、俺が思う最大限の攻撃を繰り出すために、必要な手札は……

 

既にスポイルされた手札もあるが、そこはうまく埋め合わせなければ。

 

「御意。皆、まず俺が仕掛けるから、俺の後に続いてくれ!」

 

「おう! 任せろ!」

 

「分かったよ、セージ君!」

 

「分かりました!」

 

「……ええ、行きます!」

 

俺は合図と共に意を決して、最後の切り札を切る。

あの時、俺を、俺達を散々苦しめたあの武器を。

 

……忌々しい、あの光を。

 

 

SOLID-LIGHT SPEAR!!

 

 

「……セージ、その槍は!!」

 

「堕天使の光の槍……驚いたわね。そんなものまで実体化できるなんて」

 

実体化させたのは光の槍。イッセーや俺を散々貫いたあの光。

イッセーを殺し、悪魔になる切欠を与え。

俺に致命傷を負わせ、肉体を失わせる切欠を与えたであろうあの忌々しい光。

 

正直に言うと、この光を扱うのには若干抵抗がある。

だが、今は個人的な感情で動くときではない。

ただの個人的な好き嫌いの感情は、今はおいておくことにしよう。

対悪魔の戦いにおいて、この光の力は非常に有用だ。

 

――これでまた、人を殺そうとするのか。

 

一瞬、また後ろ向きな考えが頭をよぎるもすぐに打ち消される。

それ以上に、ようやく解決しそうなこの問題を速やかに解決するほうが先だろう。

 

やっていることは、これの本来の持ち主とそう変わらない気も、一瞬過ぎったが。

だが、今は俺の後ろに仲間がいる。彼ら彼女らの期待は裏切るわけには行かない。

俺達の運命を狂わせた忌々しい光の力。だが今は、俺達の道を拓くために使わせてもらう!!

 

光の剣と違い、柄が存在しないために実体化させると手が灼ける様に痛む。

そのため、俺は「力」を作用させて直接触れないように光の槍を携帯する。

これならば、一撃で倒せるとは言わないまでも決定打にはなりうるかもしれない。

受けるダメージは最小限に、与えるダメージは最大限に。

 

「焼き鳥には串がお似合いだ、食らえ!!」

 

俺はフェニックスめがけ槍を投げつける。

フェニックスに積み重ねられたユーベルーナごと、光の槍で貫かんと試みる。

悪く思わないでくれ、これも……これも必要なことなんだ!

 

 

「げほっ……ライザー様を……やらせは……しない……!!」

 

「ユーベルーナ!」

 

 

「ぐ……ならそのまま消えてしまええええっ!!」

 

「力」を込め、光の槍がさらに深々と突き刺さるように右手を掲げ、念じる。

鈍い音と共に、ユーベルーナとフェニックスに槍が突き刺さる。

思わず、先刻の騎士の件がフラッシュバックする。

あの鈍い感触を吹き飛ばすように、一咆えする。

 

「うあああああああっ!!」

 

「がっ……あああああああっ!!」

 

女王の腹から流れ出る血がフェニックスを染め上げる。

とは言え、相手は赤いスーツを着ているためにあまり変化がわからない。

その変化の有無を知ったのは、女王が断末魔と共に脱落し、フェニックスを貫き始めた

その様相が露わになったそのときである。

 

――ライザー・フェニックス様の「女王」、リタイア。

 

「貴様、よくも……くっ、ぐっ……がはっ!?」

 

女王は倒した。おそらく、先刻の騎士の時よりも酷いことになっているかもしれない。

その時ほど、俺自身もショックを受けていない。嫌な言い方をすれば慣れたのだろう。

人殺しに慣れるなんて、あってはならないことだが。

だからこの戦いも、悪魔の習慣も嫌いなんだ。さっさと終わってしまえ!

フェニックスが血反吐を吐いているが、かまうものか!

お前を倒せば、それで終わるんだ!

 

昇格を試みたときとはまた違う吐き気を覚えながらも、それを拭うように

フェニックスを光の槍で串刺し磔にし、俺は改めてオカ研の仲間に号令を出す。

 

「ぐぬぅぅぅぅっ!! て、てめぇは人間の転生悪魔か!? それとも堕天使の転生悪魔か!?

 いずれにしても、グレモリーの眷属はゲテモノばかりだ……げぼっ!?」

 

「……黙ってろ。俺はさっさとこの戦いを終わらせたいんだ!

 今だ皆! 続けて攻撃を!!」

 

「ああ、行くぜ木場!!」

 

「任せてくれ、イッセー君!!」

 

TRANSFER!!

 

聞きなれない音声と共に、木場の魔剣創造が発動する。

そこから現れた剣の山は、以前俺が木場と戦ったときに見たものとは規模が違っていた。

地面から生えた剣の山が、確実にフェニックスを貫いていたのだ。

 

『ほう。どうやらオリジナルの方も新たな力に目覚めたらしいな。

 これは……「禁手」に到る日も遠く無かろうよ』

 

なんと。あの規模が違う剣山はイッセーの仕業か。

他者に力を譲渡できるって意味では、ある意味じゃ俺の強化よりも有用だな。

……それ以前に燃費悪すぎて使えるかどうかは何とも言えんが。

 

「がはっ!? こ、この……だが俺は不死身の……!」

 

「ふん、それがどうしたの? まだまだ攻撃は終わらないわよ!」

 

と、感心しているのも束の間。既にフェニックスは再生を始めようとしている。

しかし再生を始めようとする場所にグレモリー部長の魔力弾が炸裂。

炎が四散してしまい、再生どころではない。

 

「よし、これなら! イッセー、一度後退して休憩。次の攻撃の準備を!

 木場はプールに水を張ってくれ! それと道中で出来たら消火器を!」

 

「おう! ……ってプールに消火器? そりゃ確かに、火を消すには水だけどよ……

 それに消火器なんか、悪魔に効くのかよ?」

 

「確かに機動力なら僕が適任だけど……分かった、セージ君を信じるよ。

 皆、前線は頼んだよ! セージ君、パシリ代はちょっと高いよ?」

 

「セージ。イッセーはともかく、祐斗を前線から下げるってどういうつもりなのかしら?」

 

木場は快く俺の提案を受け入れてくれた。

しかし、案の定グレモリー部長には不服に思われてしまう。

まあ、まだ戦える要員を下げるってのも、我ながら思い切った提案だとは思ったが……。

勿論、考え無しでやっているわけじゃない。

プールに関しては俺の、消火器に関してはイッセーの力が、恐らく必要になるだろう。

イッセーの力のほうは、効果を完全に把握していないので完全な博打だが。

 

「……本来なら、ここに来る前に張っておくべきでしたがね。

 まだ今なら、木場に頼めば間に合うと判断しました。『騎士(ナイト)』の駒の特性を踏まえた上で。

 さて、追撃は……」

 

「……セージ先輩。私に考えがあります」

 

追い討ちの手段を考えていたところ、塔城さんから依頼を受ける。

曰く。今の俺にある「戦車(ルーク)」の力と塔城さんの力。

二つを合わせて、フェニックスに強打を与える手段があるらしい。

 

そしてそれは、俺が塔城さんを打ち出し

塔城さんが二人分の力を集めた飛び蹴りを浴びせること。

 

……まあ、俺を塔城さんが打ち出すよりは現実味にあふれたプランだろうが。

 

「わかった。だが、俺もこの力にはまだ慣れきっていない。

 塔城さん、無理だけはやめてくれ。頼んだよ?」

 

「……セージ先輩。倍加もお願いします。」

 

……は? 今この状態で倍加をすれば、その力はとんでもないものになる。

それで塔城さんを打ち出すとなると……耐えられるのか?

 

「小猫! 無茶はやめなさい!」

 

「……大丈夫です部長。セージ先輩、私を信じてください」

 

俺個人の意見としては、グレモリー部長の意見と被っている。

しかし、訴えてくる塔城さんの目は真剣そのものだ。

そもそも――迷っている暇なんて、あるわけが無い。ならば!

 

「わかった……行くよ!」

 

BOOST!!

 

右拳に力を込め、フェニックスめがけストレートパンチを繰り出す。

それに合わせる形で、塔城さんが俺の右拳をバネに見立て

フェニックスに物凄い勢いで飛び掛る。

俺の右手が、塔城さんを打ち出した格好になったのだ。

 

「……くっ、はあっ!!」

 

「……!!」

 

その一撃は、まるで閃光の一撃だった。

瞬く間も無く、フェニックスに塔城さんのとび蹴りが刺さったのだ。

しかも張り付けた壁部分ごと粉砕した形になっている。

以前、クソ神父――フリー……なんだっけ。名前忘れたが――をぶっ飛ばしたときも

イッセーの「戦車」への昇格にあわせ、俺が加速を加えた。

その結果、奴は街の外にまで吹っ飛び、現在も消息不明。

ここは舞台の決まった場所であるからか、そこまでにはならないだろうが

それくらいの勢いはあった。

 

事実、白い空の彼方に何かが結界に触れたような魔力光と

何かが燃え尽きるような煙が見えた。

 

RESET!!

 

「なんとまあ、随分飛んだな……」

 

「あれは……やったぜ! 部長! 俺達、やりましたよ!!」

 

生死確認はしていないが、あれなら恐らくは倒しただろう。多分、だが。

イッセーの方は能天気にはしゃいでいる。

イッセーにもあの何かが燃え尽きたような光と煙は見えていたはず。

恐らく、俺と同じ結論を出したのだろう。それも、俺よりも猜疑心を持たずに。

後方待機しているアーシアさんもほっと胸をなでおろしている。

木場、すまん。無駄足みたいだ。

 

しかし、妙にグレモリー部長が浮かれていないな。

確かにまだ決着アナウンスが流れていない以上、勝ちを決め付けるのは早計だろうが。

 

「……セージ、小猫に連絡をとって頂戴」

 

「む、確かにそうですな。しばしお待ちを」

 

……そうだ。塔城さんの無事を確認せねば。

咳払い一つした後、俺は塔城さんの通信機に連絡を試みる。

 

『……私なら大丈夫です。今からそっちに戻ります』

 

通信機から流れる塔城さんの声が、彼女の無事を伝えてくれた。

よかった……無事だったか。これで、万事恙無く終わってくれた。

やっと……この下らない戦いが終わってくれた。

 

支払った犠牲は少なくないが、終わってくれたのはありがたいことだ。

なあグレモリー部長、これで満足だろう?

フェニックス家の三男坊と相手の眷属の全滅――特に二人は重症だろうが――

と引き換えに自由を得たんだ。もっと喜んでくれ。イッセーもそれを望んでいるはずだ。

 

それより。何故いまだにアナウンスが流れない?

通常、勝利が確定したらその旨を伝えるアナウンスが流れるはずだが……

これがゲームであるなら、勝利宣言は大事なことだと思うのだが。

 

まさか、王を倒しても相手の眷属を全滅させないといけないルールがある、とかか?

いやそれはない。いくら仕組まれた戦いでも、後からルールを追加すると言うのは

相当なねじ込みが必要になるはずだ。そんなことをすれば、今度はフェニックス家が

白眼視されることになるのは想像に難くない。

 

となれば……あってほしくない事であるがゆえに、意識的に予測から外していたが……

もうこれしか考えられない。

 

……フェニックスは、まだ生きている!

 

『塔城さん! 気をつけて、まだフェニックスは生きて――!!』

 

「何っ!? セージ、それは……」

 

――リアス・グレモリー様の「戦車」、リタイア。

 

俺の叫びは、無情にもアナウンスに遮られる形になってしまった。

な、何てことだ。あれだけやったのに、まだ生きているなんて……!!

 

い、いや。それだからこそフェニックスがフェニックスたる所以なのかもしれないが!

 

「イッセー、セージ! 体勢を立て直すわよ。

 もうじき祐斗も戻ってくるはず、今度こそフェニックスを迎え撃つわよ!」

 

「く……御意!」

 

……そして、俺は思い知らされることになる。

悪魔の、本当の恐ろしさを。

不死身と言うものが、どれ程に惨いものであるのかを。

 

そして……

 

 

 

……やはりこの戦いが、本当に馬鹿げたものである、と言うことを。




原作から大幅に戦力比が変わっているため
話が如何様にでも転がせられます。
それが今回の話が難産になった理由です。

……原作から話を変えたいと前々から言ってはいましたが
いざ大きく変わるとこのザマです、はい。


次回投稿は若干遅くなるかもしれません。
ご了承くださいませ。


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The phoenix was sunk

今回は三人称視点でかつ、グロテスクな描写があります。
ご注意ください。

それでは、フェニックス戦の決着です。


歩藤誠二と塔城小猫による一撃が炸裂し

ライザー・フェニックスは場外ギリギリの結界に激突。

そのまま戦闘不能になった……かと思われた。

 

しかし、それでもなおライザーは戦意を喪わず

帰還しようとする小猫を撃破、再び戦場である新校舎めがけてその歩みを進めていた。

 

それを迎え撃たんとするリアス・グレモリーと兵藤一誠と歩藤誠二の二人の兵士(ポーン)

その傍らに控える僧侶(ビショップ)、アーシア・アルジェント。

 

今ここに、リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの戦いの幕が下りようとしていた。

 

「イッセー、セージ。二人とも休んでいなさい。

 ライザーもダメージを回復させて来るでしょうから、あなた達も体力を回復させなさい」

 

「了解っす……ふぅ」

 

「……御意」

 

リアスの指示に従い、イッセーはアーシアの隣に座り込んでいる。

セージは何かを探すように辺りを見回しているが

目当てのものは見つからないらしく肩を落としている。

 

「セージ、お前も休んでおけよ……って何探してるんだ?」

 

「水道管を探していたんだが……あるいは、水。

 イッセー、持っていないだろ?」

 

「水、ですか。聖水ならありますけど……ダメですよね?」

 

アーシアに差し出された聖水のビンを手にとって、考え込むセージ。

考え込んだ末、セージが取ろうとした行動。それは、聖水をモーフィングで飲み水に変える事。

モノがモノなので失敗を考えれば、硫酸を飲むようなものである。

しかし、疲労を回復させる道具や技が無い以上、疲労回復にはこうせざるを得ない。

 

「モー……」

 

「やめとけセージ。それだって体力消費するだろ?

 俺なら平気だからよ。いつアイツがきてもいいように、備えておけよ」

 

「役に立つかどうかは分かりませんけど、細かい傷を治しておきますね」

 

イッセーの指摘どおり、モーフィングは体力を消費する。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ほどではないにせよ、だ。

しかしセージを心配したイッセーの方が消耗しているのは明らかであり

かつアーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)も疲労、体力までは回復しないため

問題は何一つ解決していないのである。

 

「ありがとうアーシアさん。しかし……あれで潰れなかったとなると。

 さて、次の一撃はどうしたもんか……」

 

「セージ、そう難しく考えるなよ。お前が俺に憑いて、シンクロ強化して

 一発ドラゴンショットお見舞いすれば大丈夫だって!

 俺もお前も昇格(プロモーション)してるんだから、きっと凄い威力だぜ!!」

 

納得はしないながらも、セージはイッセーの作戦に乗ろうと考えている。

しかし、その矢先にセージの側にいるドライグから待ったがかかったのだ。

 

『その作戦なんだが……無理だ。やるのならば、まずお前の昇格を解かなければならん。

 お前が昇格した状態では、兵藤一誠に憑依するのはどうも無理みたいだ。バランスが保てん。

 また、モーフィングも戦車(ルーク)状態では成功率が大幅に下がる。注意しろ』

 

「……まあ、考えようによっちゃバランスが保てないってのは理に適ってるか。

 それとモーフィングの件、前もって言ってくれて助かった。

 本番でやらかすわけには行かないからな」

 

セージは今、聖水を栄養ドリンクに変えようとしていた。

それでイッセーの体力を回復させるつもりだったのだ。

しかし、肝心のモーフィング成功率が低いとなれば話は別。

イッセーに聖水を飲ませるわけには行かない。

 

「げ……悪魔が聖水飲むって相当やばいよな……。

 や、やめといて正解だっただろ、セージ。つか、俺に聖水なんて飲ますな」

 

「え、ええ……。通常、振りまいて魔を祓うものですし……。

 それを直に摂取させるとなれば……」

 

イッセーとアーシアは二人で冷や汗をかいていた。

イッセーは悪魔として。アーシアは元シスターとして、悪魔祓いとして聖水の扱い方を

学んだことがある身分として。

 

そんな矢先であった。セージの依頼でプールに水を張り、消火器を回収してきた

騎士(ナイト)、木場祐斗が屋上に戻ってきたのは。

恙無く合流は果たされたかに見えたが、そこにはもう一人、招かれざる客もいた。

 

「お待たせ。セージ君の依頼の品は持ってきたよ。

 けれど……ごめん。ちょっと余分なものも持ってきちゃったかな」

 

「おうお帰り……って余分なもの? 余分な……あーっ!!」

 

「声が大きいですわよケダモノの方の赤龍帝。私だって勝負の顛末は見たいんですもの。

 退屈な運動場よりも、こちらに来るほうが自然ではなくて?」

 

「あなた……ライザーの妹の!!」

 

そう。木場にくっついてくる形でライザーの妹

レイヴェル・フェニックスがやって来ていたのだ。

本人は戦う意思はないとは言っているものの、既に戦況は予断を許さない状況である。

前言を撤回し、援護に回られるとその時点でリアス陣営の勝利は絶望的となる。

不死の者を二人も倒せるほど、今のリアス陣営に戦力は無い。

 

「こうしてお会いするのは初めてですわねリアス様。私がライザー・フェニックスの妹

 レイヴェル・フェニックスですわ。よろしくお願いしますわね、リアス『お義姉様』」

 

「……あなたに義姉呼ばわりされる覚えは無いわ」

 

とは言え、レイヴェルも戦う意思を見せず、ただリアスを煽るのみである。

そしてレイヴェルの到着に合わせ、その兄であるライザーも間もなく、屋上へとやってきたのだ。

 

「……来るわよ! みんな、構えて!」

 

炎と共にリアスらの前に現れたライザー。

しかし、その姿は最初にオカ研の部室に現れたときよりははるかにみすぼらしく

服もボロボロで、所々に傷を負った状態であった。

 

「……お、お兄様!」

 

「や、やってくれるじゃねぇか……まさか俺も堕天使の槍を持ち出されるとは思わなかった……!

 見ろよリアス。槍がぶち抜いた部分、フェニックスの力でもまだ再生しきれねぇ。

 おまけに場外の結界にぶち当たるなんて無様な姿、将来の義兄上にもあたる

 サーゼクス様の前で見せてしまった……」

 

「……ふん、いい気味ね。これに懲りて、婚約は破棄したら?

 そっちの妹さんも、戦う気はなさそうだし。こっちはまだ眷属が控えているわ。

 戦力差ではまだ私の優位。これ以上無様な姿をさらす前に、降参することを勧めるわ」

 

ライザーは消耗しつつも、その闘志はまだ衰えてはいなかった。

それを知ってか知らずか、挑発するリアス。

それは、文字通り火に油を注いだ形になった。

 

「……ふざけるなぁぁぁっ!! 降参だと!? 俺がか!?

 それはキミの間違いじゃないのかリアス!!

 何故不死身である、フェニックスであるこの俺が降参せねばならないんだ!

 今まで勝ち続けてきた俺が、何故!?

 降参するのは、ずぶの素人であるキミらのほうじゃないか、えぇ!?」

 

その態度は、とても上流貴族の血を引くものの態度ではなかった。

そこにいたのは、フェニックスの力と権威に固執するただのチンピラの如きであった。

 

「……俺は負けるわけにはいかないんだ。

 たとえ相手が訳の分からないものを持ち出したとしても。

 たとえ相手があの赤龍帝だとしても。俺が勝たなきゃ、悪魔の未来は終わっちまうんだ。

 だからリアス! 俺に負けろ! 負けて俺の子を産め!!」

 

「はぁっ!? てめぇ、部長に何てことを言うんだ!!

 部長に種付けするのはてめぇじゃねぇ、この俺だ!!」

 

BOOST!!

 

低次元な言い争いをはじめるライザーとイッセーに、一瞬周囲の空気が固まる。

渦中のリアスは赤面し、己の眷属が言い出したことに戸惑っているかのようである。

 

「……すごい爆弾発言だね、イッセー君」

 

「全くだ。もう少しムードってものを……と言いたいが、今はそんな状況でもないな。

 グレモリー部長は……まだ赤面してるか。よし、イッセー! 応戦しつつ倍加して

 さっき木場と連携した技の準備! 木場は俺とフェニックスの牽制!

 アーシアさんは後方待機! 行くぞ!」

 

ふと我に返った木場とセージが、臨戦態勢に入る。

それに合わせたかのように、イッセーも先陣を切りライザーめがけ突撃する。

 

しかしこれは、セージが思い描いていた作戦パターンとは若干異なる。

一応、応用と言う形で総崩れにこそなってはいないが。

 

(イッセーの奴、フェニックスに中てられたな。冷静さを失ってやがる。

 くっ、これじゃせっかく木場に持って来てもらった消火器が……。

 仕方ない、ここは正攻法で行くか)

 

真っ向から突っ込むイッセー。素早い剣技でライザーを翻弄する木場。

相手の動きを観察し、隙を突き強烈な一撃を叩き込むセージ。

三者三様の戦い方に、ライザーも対処しきれなくなってきたのか

攻撃を受ける回数が増えてきていた。

 

「ぐ、く、くそぉ……何故だ、何故こんな奴ら如きに……っ!!」

 

「今だ! 木場、奴の動きを止めてくれ!

 イッセー、さっき木場と連携したときに使ったあの能力、物対象でも出来るか?

 出来るなら、木場が持ってきてくれた消火器にそれを使ってくれ!」

 

「そうか! 倍加させりゃ悪魔の火でも鎮火できるかもしれないしな!

 へへっ、なら俺が鎮火してやる!」

 

セージの号令に呼応するように、木場がライザーの前に躍り出る。

その間、イッセーは赤龍帝の籠手の新たな力「赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)」の発動の準備に入っている。

目標は不死身の炎の悪魔、フェニックス。

 

フェニックスの特性は不死。しかしそれと同等に炎の属性が強く現れている。

そうなれば、おおよそ炎対策として打てるものはその殆どが通用することになる。

そして、現代において炎に対し有効なもの、かつ学校にも存在するものと言えば――そう。

 

TRANSFER!!

 

「これはイッセー君の……そうか、だからセージ君は僕にあれを持って来させたのか!

 だったら……イッセー君、頼んだよ!」

 

「何かと思えば……人間の玩具如きでこの俺の炎を消す、だと?

 どこまでも俺を虚仮にしてくれるな!!」

 

「任せろ木場! 食らえ、これが赤龍帝の消火器(ブーステッド・ギア・エクスティングシャー)だ!」

 

木場が飛び退いたと同時に、ライザーめがけ赤龍帝の力を持った消火器の薬剤が噴射される。

消火器は鎮火が主目的であるが、場合によっては暴徒鎮圧にも用いられるケースもある。

それくらい、発生する煙幕や噴出する力は強力なのである。

それを赤龍帝の力で強化したとなれば。

 

「がああああっ!? お、俺の……俺の……炎、が……っ!?」

 

「ざまあみろ! これでお前は焼き鳥じゃなくてただの鳥だ!」

 

さっきまでの戦いで受けたダメージを炎で再生しようと、ライザーは炎を纏っていた。

しかし、その纏っていた炎をかき消すように、消火器の薬剤がライザーにまとわりつく。

結果、ライザーは傷口に泥を塗られたような痛みに悶え苦しむことになったのだ。

 

「お、お兄様……火が……火が……ッ!!」

 

レイヴェルは兄であるライザーの惨状に息を呑む。

それもそのはず、セージが光の槍で貫いた箇所と、イッセーが消火器を噴霧した場所は

フェニックスの象徴である炎が燈らず。人間で言うならば傷口がそのまま放置され

壊死したも同然の状態である。

不死を誇るフェニックスとは言え、ここまでのダメージを受けてしまえば

自力での再生は不可能である。

 

「……もう一度聞くわライザー。まだ続けるつもりなのかしら?

 今ここで負けを認めたほうが余程潔いと思うのだけど?」

 

そして突きつけられるリアスからの降伏勧告。

観客席では、レーティングゲーム初参戦のリアス陣営の善戦を称える声と

ライザーの痛々しさに悲鳴を上げる声の二種類が大きく上がっている。

その観客席の声と、妹レイヴェルの声を知ってか知らずか、尚もライザーは戦いを挑もうとする。

不死という優位性は、既に失いつつあるにもかかわらず。

 

ライザーがここまで意地を張った理由。それは――

 

BURST!!

 

「がはっ……!?」

 

「イッセー!?」

 

「イッセー君!?」

 

赤龍帝が、イッセーが限界を超えていた。確かにライザーに決定打を与えることは出来た。

しかしそれ以上、止めを刺すまではイッセーの体力と気力が続かなかったのだ。

赤龍帝の籠手の警告音と同時に、イッセーは膝から崩れ落ちてしまう。

追い討ちをかけるように、ライザーの煽りがイッセーの耳に突き刺さる。

 

「ははははははっ! ここまでよくやったとほめてやるよ赤龍帝。

 けれど、惜しかったな。あと一歩、あと一歩が足りていれば

 お前は俺に勝てたかもしれないぜ?」

 

「く……くそっ。折角ここまでやれたのになぁ……。

 あと一歩であいつを倒せたのに……く、くやしいぜ……

 そ、そうだセージ、お前……俺に憑けよ……それなら……!」

 

イッセーの考えはこうだ。たとえ自分が動けなくなっても、万全に動けるセージが憑依し

イッセーの身体を使い、フェニックスとの戦闘を続行する。

実際、イッセーへの憑依が可能ならば作戦としては成り立つ。

 

しかし、元々動けなくなっているものを無理やり動かすと言うのだ。

その反動たるや、計り知れない。セージも過去に犯した愚行故にそれを知っている。

結局、イッセーの提案にセージが首を縦に振ることはなかった。

 

「……それもアリだが、断る。そうでなくとも一度やらかしているんだ。

 ここで無茶をして、お前の身体が二度と使えなくなったら困るのは俺だ。

 まだ、お前の身体を使わせてもらわなきゃならない事態はあるだろうからな。

 だから、今俺はお前にこう言ってやるのさ……もう十分だ。そこで寝てろ。

 ……なあに心配するな、ここで降りたりしねぇよ。お前の無念は、十分伝わったからな」

 

「……は?」

 

素っ頓狂な声を上げたイッセーに、セージのボディーブローが突き刺さる。

先刻ライザーの女王に仕掛けたものよりは軽めだが

それでも弱ったイッセーを昏倒させるには十分すぎる威力であった。

 

「ごふ……っ!? セー……ジ……っ!?」

 

――リアス・グレモリー様の「兵士」、一名リタイア。

 

「い、イッセーさん!? セージさん、なんで……」

 

「セージ! あなた何を!? 正気なの!?」

 

「……死に体の奴に動き回られても邪魔なんで。

 下手に無茶をされてダメージを増やされるよりは、帰って眠ってもらった方がマシかと。

 それに、イッセーはもう十分すぎるほど戦ったと俺は見ますが」

 

「ある意味納得は出来るけど、セージ君も強引だね……。

 また、イッセー君と喧嘩しないで欲しいものだね」

 

介錯、あるいは雷撃処分。そんな言葉を想起させるような一撃が

影の赤龍帝から主の赤龍帝に叩き込まれたのだ。

この一撃はセージなりの労いのつもりなのだが

その解釈は中々難しいものがあるのも事実ではある。

 

『なあ。もう少し優しく医務室に送ってやったほうがよかったんじゃないか?』

 

(……状況と俺に余裕があれば、そうした。悪いが、今は俺も精神的に一杯一杯だ。

 これから、三人目の殺人をやるんだからな。慣れ始めた自分が恐ろしい。

 だが恐怖に飲まれれば潰れる。たとえカラ元気でも、己を鼓舞して

 奴に止めを刺さねばならない)

 

主の赤龍帝の介錯を済ませた影の赤龍帝が

今度は燃え尽きようとしているフェニックスに向き直す。

その表情は、仮面で窺い知る事ができない。それが逆に、ある種の威圧感を与えていた。

装着者自身は、冥界で顔が割れるのを防ぐ目的で着用していたに過ぎないのだが。

 

「……ぐ、な、なんだお前は……く、来るな!」

 

表情の読めない、敵味方の区別の曖昧な相手。

それは戦場において、一定以上の恐怖を与える存在となりうる。

幸か不幸か、セージは能力という点においても、恐怖の対象となりえたのだ。

悪魔にとっての恐怖の対象、光力を操る存在として。

 

――実は、もうセージに光力を駆使する術は無い。

光剣は騎士との戦いで消失。祓魔銃は既に弾切れ。光の槍もすでに消失している。

リロードをしたり、二個目を実体化させることはできない。

それはリアス陣営は知っていることだが、ライザーには知らされていなかった。

 

「お前は一体何なんだ!? 堕天使の転生悪魔か!? それとも……

 いずれにしても、お前みたいなのが悪魔の未来に口を出すな!

 お、俺を倒せば悪魔の未来は閉ざされるんだぞ! そうなればお前だって……」

 

「……俺が何者か、だと? 通りすがりの仮面悪魔、とでも言ってほしいのか?

 俺は赤龍帝であって赤龍帝じゃない……俺は、お前達悪魔や、堕天使の都合で

 己の肉体を失い、悪魔にされてさまよい続けることを強いられた……人間だ!!

 悪魔の未来も、この婚姻も知ったことか……俺は、俺の身体を取り戻す。それだけだ!!」

 

ライザーにしてみれば、面白くない。

どこの馬の骨とも知れぬものが、己の婚約を台無しにし

尚且つフェニックスの名に泥を塗ろうとしているのだ。

 

セージにしてみれば、下らない。

良家の三男坊であり、婚約相手に不自由しなさそうな輩が、唯一人の悪魔に熱を上げ

その結果が、この死屍累々の惨状であることが。

 

「お……おいリアス! こいつ、キミの眷属なんだろう!?

 眷属の手綱くらい、しっかり握ってろ! こいつ……キミにも逆らう気満々じゃないか!

 こいつは、さっきの赤龍帝や他の眷属と違ってキミのために戦っていない!

 いつか、いつか反乱を起こされるぞ!! だから止めさせるんだ、リアス!!」

 

(……部長のために戦っていない、か。それは僕にも言える事かもしれないね……)

 

「……命乞いは見苦しいわよライザー。セージ、この戦いに決着をつけるわよ!」

 

「御意。その言葉を待ってました」

 

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

 

セージが引いた最後の手札。

それは、己の速度を増す加速のカード。

しかし、力のカードが変化を遂げたのと同様、このカードにも若干の変化が起きていた。

 

『……今のお前には、ちと負荷がでかいかもしれないが。

 速度を強化するのは知ってのとおりだな?

 この状態では、その速度は己を撃ち出す戦車砲になる。

 本来ならば、己自身の強固な装甲で相手に特攻する攻撃技だが……

 精々、自壊しないでくれよ?』

 

(特攻技か。さすがに力のカードほど大きく変化はしてないな。

 下らない戦いの幕引きには、ある意味適しているのかもな)

 

仮面に描かれた無機質な瞳の奥。全てを終わらせる決意を込めた瞳。

その瞳が、ライザーを見据える。

見据えたと同時に、セージの身体はライザーに突っ込んで行った。

そのまま、二人は新校舎の屋上から真っ逆さまに転落していったのだ。

 

「き、気でも狂ったか貴様ぁぁぁぁぁっ!?」

 

「気なんて最初から狂ってるさ……お前の騎士を殺った時点でな!!」

 

自由落下のさなか、ライザーは喰らいついたセージを引き剥がそうとするが

セージの側も物凄い力で押さえつけており、離れない。

そうでなくとも、衰弱した今のライザーにセージを離す力は無かった。

 

「……ふ、ふふっ、ふはははははっ!! 俺を水に叩き落すつもりだろうが無駄だ!

 あの程度の水など、俺のフェニックスの炎で跡形も無く蒸発させられる!

 残念だったな、仮面の赤龍帝! お前の策は詰めが甘いんだよ!!」

 

「高尚な不死鳥を、わざわざただの水に突き落とすとでも思ってるのか?

 ……そろそろか。時にライザー・フェニックス。お前は泳げるか? 泳げないか?

 ……まあ、どっちでもいいが。硫酸のプールじゃあ、泳げようがカナヅチだろうが

 浸かったら結果は同じだ。悪魔にとっての硫酸……わかるよな?」

 

DEMOTION!!

 

落下しながらも、勝ち誇ったように高笑いするライザーだが

セージは声色一つ変えない。その無機質さと、今まさに突き落とされようとしている物の宣告は

ライザーに更なる恐怖を与えていた。

 

セージの宣告と同時に昇格は解かれ、ライザーを拘束する力は弱まった。

だが、今から脱出してもプールへの着水は免れない。

 

「硫酸……? ま、まさか! やめろ! そんなことをすればお前もただではすまない!

 やめろ! リアスにちょっかいを出した俺が悪かった! だからやめろ! やめてくれ!!」

 

「悪いが、俺にももう止められない。それに、俺もこんなくだらない事はもうたくさんだ。

 ライザー・フェニックス。お前にとって大事な眷族を殺そうとし

 今まさにお前を殺そうとして悪いとは思っている。だが……

 

 今後こんな下らぬ戦いが起きないための見せしめとして、不死鳥には沈んでもらう!」

 

 

MORFING!!

 

 

制止の懇願も虚しく、ライザーは頭から着水。それと同時に、セージの龍帝の義肢も着水。

水飛沫を上げながら、プールの水面は輝きを放つ。

 

飛び込み用のプールではないこともあり、ライザーは頭をプールの底に叩きつけられ。

セージもまた、実体のままプールから上がってくることはなかった。

 

――――

 

校舎の屋上からの墜落。これで決着がついたとしたら、フェニックスの名を冠する者にとっては

あまりにも呆気ない幕切れであるといわざるを得ないだろう。

たとえ、その再生能力の大半を喪失していたとしても。

 

屋上にまで響き渡る、何かが水没したような音。

屋上に残っていたリアス、木場、アーシア、そしてレイヴェル。

彼女らが音のした方角――プールサイドに駆けつけたときに映ったその光景は

筆舌しがたいほどに酷いものであった。

 

 

「お……お兄様!? お兄様ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「……アーシアさん、見ないほうがいい」

 

「……せ、セージ? セージはどこに行ったの!?」

 

 

プールの端に打ち上げられていたのは、体中に火傷のような傷跡があり

皮膚は爛れ、所々骨が見えているライザー。

普段、傷を治そうと再生する炎も、プールの水に触れあっという間に煙を上げて消えてしまう。

 

ライザーの惨状を見たリアスが、ふとあることに気付く。

いくらなんでも、プールの水如きでフェニックスの炎を消せるのか、と。

 

その答えは、木場に案内されライザーと反対側に渡ったアーシアによって齎された。

 

「こ……このプールの水……全部、聖水です!!」

 

「そ……そんな! いくらフェニックスと言えども

 こんなプール一杯の聖水に漬けられたら……。

 それに、ライザーは相当負傷していたわ。これでは、再生しないのも無理はないわ……」

 

「そ、そうか……セージ君、彼は相当えげつない作戦を立てていたようだね……。

 まず、僕が持ってきた消火器。これをイッセー君の力で倍加させ、鎮火を試みた。

 それでも倒すには至らなかっから、僕が水を張ったプールにフェニックスを突き落とした。

 けれどただの水で倒せるとは、セージ君も思ってはいなかっただろう。だから……」

 

――プールの水を、モーフィングで聖水にした。

硫酸でも良かったんだが、確実性を考えて、な。

 

響き渡るセージの声。しかし、彼は既に実体化を維持できないほどにまで消耗しており

リアス達の前に姿を現すことはない。

 

「せ、セージ……」

 

――フェニックスを撃退するには、これ位はやらなければならないと判断しました。

中途半端なやり方で勝ったとて、また第二、第三と同様の婚礼騒動が起きるでしょう。

そうならないためにも、一度完膚なきまでに叩きのめし

今後下らぬ気を起こす輩が出ないようにすること。

これが本作戦の完全勝利案件であると判断、実行に移した次第です。

 

セージは霊体化しており、霊体のセージを見ることの出来る幽霊やイッセーはこの場にいない。

文字通り、淡々と報告を行うセージの表情は窺い知る事ができない。

 

「お、おふざけにならないで! こんな、こんなことが許されるはずが……」

 

――ライザー・フェニックス様の戦闘不能を確認。

よってこの試合の勝利者は、リアス・グレモリー様となります。

 

レイヴェルの感情的な訴えも虚しく、白い空の下に響き渡るリアスの勝利を告げるアナウンス。

それと同時に、見るも無残な姿になったライザーの身体は転送が行われ

冥界の大病院に運ばれることとなり。

 

この宣言を以って、グレモリー家とフェニックス家の

レーティングゲームにおける戦いは幕を閉じた。

 

――おめでとうございますグレモリー部長。目的は達成されました。

……では、自分は気分が優れませんのでこれにて。

 

淡々と祝辞を述べたセージは、どこかへと行ったのか次の言葉を紡ぐ事はなかった。

その代わりに、リアスの叫び声が木霊していた。

 

「ふ……ふざけないでセージ! これのどこが勝利よ!?

 決着をつけるとは言ったわ! けれど誰が……誰がライザーをここまでしろと言ったの!?

 それにイッセーや祐斗を騙して、殺害未遂の片棒を担がせて……」

 

「……リアス様。では全て、あの眷属に責任を擦り付けるおつもりですか?

 お兄様がああなったのも、全て彼の責任であると。そうおっしゃるつもりですか!?

 お世辞にも褒められた兄ではありませんでした……けれど、けれど……っ!!

 眷属に責任を押し付けて、自分は素知らぬ顔をするなんて……

 とても主の、次期グレモリー当主の態度とは思えませんわ!!」

 

兄であるライザーが意識不明の重体になるほどの致命傷を負い。

「ありえないこと」であったが故に混乱し、リアスを問い詰めるレイヴェル。

その目からは涙が流れていた。それは回復剤としての涙ではなく

フェニックス家を代表して、家族を傷つけられたことに対する心が流した血そのものであった。

 

グレモリー家ほどではないとは言え、フェニックス家にも家族に対する情は人並みにはある。

そのことを考えれば、家族の一人が重体になり病院に運ばれたと言う事実は

戸惑いや悲しみを生み出すには十分すぎる案件であった。

 

「……部長。確かにセージ君はやりすぎかもしれませんが

 実際あそこからフェニックスに勝つには……」

 

「祐斗。確かに私はこの戦い、負けるわけには行かないと思っていたわ。

 けれど、ライザーを殺せとは私は命じていないわ!

 私が命じたのは、ライザーと堂々と戦って、勝利すること。

 こんな……こんな殺し合いなんて!!」

 

「部長さん……」

 

こうして、戦いは終わった。

しかしそれは、ただ犠牲だけを生み出し

多くの者に深い傷を負わせるだけの結末に終わってしまったのだった。




と、いうわけで。
原作と違いサーゼクスの裏手引きも赤龍帝の鎧も(似たようなのは出しましたが)
無しでフェニックスを倒してしまいました。
……殺そうとした、って言った方が正しいぐらいですけど。

一応、イッセーの爆弾発言や聖水の利用など原作の決着時を
申し訳程度ですがなぞっています。
あんなヒロイックなものではないですけど。

……グリフォンに乗ってラブロマンス? ねぇよんなもん。

オリ主の「通りすがりの仮面悪魔」発言の元ネタは言うまでも無くアレです。
神器的には結構ちかいものはあったりしますが。

それ以上に作者的にやりたかったのは
・フェニックス(火)に対し消火器で攻撃
・プールいっぱいの聖水に浸す

これだけやればいくらフェニックスでもダメージでかいと思うんです。
特に後者は原作では倍加してビン一本分使ってましたが
もう一つのアプローチとしてこれを選びました。

消火器を選んだのは……人間の底意地を見せたかったが故に
人間の作った道具である消火器をなんとしても出したかったのがあります。
火が力の源なら、その火消しちゃえばいいじゃん、って単純な発想です。

……ええ、人間の知恵と力で人外の脅威に立ち向かう、っての大好きです。
G3システムとかイクサとかウルトラマンの防衛隊とかガンバスターとか。
勿論、敵組織と同質の力を応用する、ってシチュエーションも大好きですけど。

プールいっぱいの聖水は……仮面ライダーV3でヨロイ元帥が
ライダーマンこと結城丈二を硫酸のプールに浸ける……
ってシチュエーションから発想を得ています。
あちらは腕一本でしたが、こちらは着水時に飲んだこともあって
実は内臓にも聖水が染み渡ってます。当然、傷口からも。

書いておいてなんですが、結構酷い勝ち方なので
グレモリー家とフェニックス家の関係が原作から変化したり
リアスの立ち位置が若干変わったりしますが、それはまた次回。

……また投稿遅くなりそうですけど。

※若干修正。


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Defeat processing

またしても難産でした。
今回のコンセプトは「一人の我儘が齎した結果」です。


レーティングゲームにおける負傷者を治療するための医務室。

悪魔の戦いは、人間のそれよりも苛烈であるために、ここが暇になることはまずない。

しかし、今回は少し違った意味で暇ができてしまっている。

 

――シーリスとユーベルーナ、ライザーの二人の眷属。

彼女らは、この医務室に運ばれてきたときには既に光力が体を蝕んでいたのだ。

そのため、より医療設備の充実した冥界の大病院に即座に搬送する必要があった。

よって、二人分重病人はいないことになる。

 

これは彼女らが特例の事案であって、その他の怪我人は少なくない。

しかしそうした怪我人も、既に動ける程度には回復している。

これは医療スタッフの実力もあるのだろうが、レーティングゲームの術式、ルール等を考案した

アジュカ・ベルゼブブが規格外の天才であったところが大きいのだ。

戦闘フィールド以外のおおよその場所に、肖像画や胸像が飾られているのがそれを物語っている。

 

リアスとライザーのレーティングゲームも終了間際の頃

広間では既に脱落した互いの眷属が放送を通じて試合の様子を見守っていた。

 

……試合の流れの都合上、そこにいたのは殆どがライザー眷属であったが。

主の無残な姿に、眷属達は言葉を失っていた。

 

そんな空気を他所に、さっきまで戦場にいたイッセーが広間に入ってくる。

ライザーの眷属達はイッセーの姿に気付いていない。

と言うよりは、画面の衝撃的な映像で言葉を失い

折角回復したと言うのにまた倒れた者も出ており、意気消沈している形である。

 

 

ライザー眷属に混じる形で、唯一リアス眷属で広間から観戦していたのは

試合の際、惜しくもいの一番に脱落してしまった姫島朱乃。

彼女は息を呑みながらも、然程のショックは受けておらず

広間に来たイッセーにいち早く気付く形になった。

 

「あらあらイッセー君、お疲れ様。怪我はもういいのかしら?」

 

「朱乃さん! 俺なら大丈夫っす!

 ……けど、結局セージにいいとこ譲る形になっちまったな。

 今度はあいつよりも先に脱落しないようにしないとな。

 っつーか、まず一発ぶん殴る! あのやり方は無いだろ、あれは!」

 

彼女もすでに回復し、後から医務室に送られたイッセーと談話できる程度に回復している。

 

……と言うか、つい今しがた運び込まれたイッセーが既に動き回って話せる辺りは

イッセーの回復力が半端ではないのだ。ダメージの差もあるだろうが、先に離脱した小猫の方は

まだベッドからは動けない。

 

「あらあら、喧嘩は程々になさってくださいね?

 それよりイッセー君、一つ聞きたいのだけど、いいかしら?」

 

「俺に? 何すか?」

 

そうイッセーに問いかける朱乃には、普段のおっとりとした、かつ妖艶な雰囲気の奥に

何か底知れぬ闇があるようであった。憎い者を目の当たりにしたような。

 

「……セージ君、いつからあの槍を使うようになったのかしら?

 堕天使の光の槍……。あなた達にしてみれば、自分の命を奪った忌むべき武器。

 よくあんなもの、素面で使う気になれますわね。あんな忌々しい……」

 

「あいつなら使えてもおかしくないかなー、とは思ってましたけど。

 で、でも、俺も実際に使うのを見たのはさっきが初めてっすよ……?

 ……だ、だから朱乃さん、その……」

 

実際、朱乃の声のトーンはどちらかと言えば怒りに任せて吐き捨てる部分も含まれていた。

イッセーは朱乃を怒らせてはいけない相手だと認識していたため

震えながらも朱乃を諌めようとする。

 

その怒りの対象は、セージ自身と言うよりはセージが実体化させた光の槍の方なのだが。

 

「え……? あ……。あらあら、ごめんなさいねイッセー君。怖がらせてしまったかしら?

 ただ、自分の命を奪った原因の物をああもあっさりと使うものだし

 前回の事もあるから、ちょっと心配になっちゃいましたわ」

 

「あ、あの件っすか。多分、大丈夫だと思いますよ。

 俺もあいつじゃないからはっきりとは言えないんすけどね。

 前回と今回じゃ、事情が違うってのは大きいと思いますけど」

 

話題は、前回セージが暴走したときの事に遡る。

イッセーの言うとおり、あの時とは戦いの理由が全く異なる上

セージ自身が乗り気かどうかも全く違っていた。

前回は「殺したい相手」であり、今回は「勝つべき相手」。全く違う。

レイナーレと同様にライザーを痛めつける理由が、セージには全く無い。

 

「……その割には、戦い方の残虐さはまるであの時みたいでしたわね。

 相手の弱点や隙を突くのは王道ですけど……容赦の無さも凄いですわね。

 うふふ、セージ君はアシスト向きかと思ってましたけど、アタッカーもこなせそうですわね」

 

「朱乃さんが言うと、何か洒落にならないっすよ……」

 

しかし、朱乃にはセージの苦悩は伝わっていなかったようである。

それはセージの心の壁の厚さが成せた業か、朱乃にそうした機敏を読み取る力に欠けていたか。

あるいは、普段と変わらぬイッセーに気を遣ったのか。

 

「……さて、それじゃ小猫ちゃんの様子を見てから、部長や他の皆を迎えに行きましょ?」

 

「そうっすね。セージも一発ぶん殴らないといけないし!」

 

この広場に、他にいるのはライザーの眷属ばかりである。

試合も終了し、中継が終わったこともあり

イッセーと朱乃は広場を後にし、リアスら無事なメンバーの迎えに向かうのだった。

 

――――

 

イッセーと朱乃がリアスらを迎えにいったのと時を同じくして。

レーティングゲームが終わった直後、セージは脇目も振らずにある場所へと向かった。

それは――

 

「うっ……げほっ! うげええっ……うえっ、うぼっ! げぼっ! うぶぇぇぇぇ……」

 

とある男子トイレ。その個室の一室で、セージは嘔吐していた。

酔いによる物ではない。ストレスによるものである。

 

通常、セージは霊体であれば食事の摂取や排泄などはある程度無視ができる。

肉体の活動に拠らずに行動できるためだ。

しかし、今は霊体になっているにも拘らず嘔吐している。

それほどまでに、セージの精神に与えたダメージは大きかった。

 

いくら転生悪魔になったとは言え、メンタルは殆どあの事件――堕天使の襲撃――

の前と殆ど変わっていない。つまり、多少毛が生えたか生えないか程度の普通の男子学生。

そんな彼が、短い間に二回も大々的な命のやり取りをしていたのだ。

 

彼にとって許せないのは、一回目はアーシア・アルジェントの救出という大義があったというのに。

そして、明確に殺意を持ちつつ相手をしたのも

殺人鬼であるフリード・セルゼンと、友と己の仇、レイナーレ。

――敵討ちはともかく、殺人鬼だから殺していい、と言うのはまた話がややこしくなるのだが。

 

しかし今日のこの二回目には、全く彼にとって納得の出来る大義が無かったことだ。

それなのに殺し合いをし、殺意を持って敵を討ったこと。

 

そして、彼には一つ疑問があった。

――何故、イッセーはこの件に関して何も思わないのか?

 

自分が考えすぎなのか? そう彼は考えていた。

前線に出ていないアーシア・アルジェントはともかく。

他のオカルト研究部員は、イッセーやセージよりも悪魔経験が長い。

リアス・グレモリーはそもそも悪魔だ。

価値観が大きく違うのは当たり前と言えば当たり前である。

殺人を是としたところで、なんらおかしくは無い。

 

自分がおかしいのか? 戦いのあと、あれこれ考えた結果が

こうしてトイレの個室を占領している有様である。

 

「うっ……はぁっ、はぁっ……目的のためとは言え……これは……

 こんな……こんな殺し合い、これから何度も何度もやることになるって言うのか……!!

 リアス・グレモリーの言う事のみに従って、転生悪魔として兵藤一誠のナビとして

 新たな生を満喫すれば、この苦しみから逃れられるとでも……?

 眷属なんだからそれが当たり前なんだろうが……だが、だが俺は……!!

 

 もうイヤだ! 何で俺が殺し合いに参加しなきゃならないんだ!

 俺は歩藤誠二……いや宮本成二! 駒王学園二年の普通の学生だって言うのに!!

 普通の学生に殺し合いをさせるのが、悪魔の正義だって言うのかよ!!

 俺は……俺は……普通の生活がしたいんだよ……っ!!」

 

トイレに響き渡る叫び声。

万が一にも聞かれていれば、謀反の意思ありとして

冥界の然る場所に連行されかねないことを口走っていた。

幸いにして、誰も通りかかることは無かったが。

 

宮本成二の慟哭が、歩藤誠二のストレスを和らげたとは言え。

根本的なことは何一つ解決していない。

 

ここでリアスに対し反乱を起こせば自由は手に入るのかもしれないが

それを実際に実行するほど短絡的でもなければ、実行できない理由もある。

友人を裏切ってまで果たすべき目的か否か。

反乱を起こした後、元通りの生活に戻れるのか。リアスが報復をしに来るのではないか。

そうなった場合、事は自分一人の問題では片付かない。

 

この二律背反が、徒に彼のストレスを増大させていた。

 

――――

 

セージがトイレで苦悩を嘔吐物と共に吐露している頃

グレモリー家とフェニックス家の会談も行われていた。

しかしそれは、レーティングゲームが始まる前の、いくらか平和的なムードではなく

一触即発の険悪なムードであった。

 

「魔王の妹だからと言う理由で、婚約破棄を正当化されたのではたまったものではありませんな。

 しかも、赤龍帝や堕天使の力まで用いて。グレモリー卿。うちのライザーの容態を省みても

 落とし前はつけていただきたいものですな」

 

「ぐむむ……この婚約は、全く以って互いのためになりませんでしたな……!」

 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約は勝負の結果によるものと

フェニックス家側からの申し出――リアスの眷属に過激な思想の持ち主がいること――と

グレモリー家側からの申し出――既に純血悪魔がいること、ライザーの素行の問題――から

婚約は破談。

 

「では後日、裁判所より通知が来ると思いますので。以後は法廷で話し合いましょう。

 我々は、これからライザーの見舞いに行かねばなりませんので。失礼」

 

また、それに伴いフェニックス側からグレモリー側に婚約不履行と傷害を理由に

告訴が行われ、冥界裁判所にて公判が行われることになった。

実際、ライザーの症状は、傷害事件の被害としてみれば確実に勝訴を取れるほどの重体である。

婚約不履行の訴訟は、その序と言わんばかりである。

 

「……私が欲に駆られたばかりに……すまん、すまん……!

 本当にすまなかった……リアスの結婚については、もう私達がとやかく言うことではない……。

 リアスには、この件は伏せておこう。要らぬ心配をかけたくない……。

 私が蒔いた種なのだ。これ以上、私が蒔いた種で娘を苦しめたくは無い……」

 

「いえ……ミリキャスという孫がいたというのに、蔑ろにするようなことをしてしまった。

 まず彼を立派な悪魔に育てねばならないと言うのに、次の純血悪魔を望んでしまった。

 その罰ですわ、これは……。

 

 ……グレイフィア。ここに今後の予定を記したメモがあります。これをリアスに渡しなさい。

 確かに私達は今後必要以上にリアスに干渉しません。

 しかし、今回の件については本人にも責任を取ってもらう必要があるでしょう」

 

「……かしこまりました。それと、畏れ多い事ですがミリキャスの母として

 これだけは言わせていただきます。

 

 ……ご心配には及びません、お義母様」

 

そう返すグレイフィアの心の内には、己の息子を今回のような騒動に巻き込んでなるものか。

と言う、親心も多分に含まれていた。

 

リアスは我儘で政略結婚から降りた。両親も、これを黙認せざるを得なくなった。

その皺寄せが、ミリキャスに及ばないと言う保障は無い。

グレイフィアは表情一つ変えなかったが、内心には焦りがあった。

 

――もし、我が子ミリキャスが政略結婚に巻き込まれでもしたら。

 

父親が魔王である以上、ある意味リアスよりも事は大きい。

父親が魔王である以上、避けては通れない道なのかもしれない。

 

――その時、私はグレモリー家のメイドとして、ミリキャスの母としてどうすればいいのだろう。

 

今回の騒動は、見えないところにも影を落とす結果となった。

 

――――

 

冥界の首都、ルシファード。ここに存在する冥界最大の総合病院。

この一室で、先の戦いで重傷を負ったライザーやシーリス、ユーベルーナは治療を受けていた。

フェニックス卿とその夫人に先駆けて、レイヴェルが眷族を、家族を代表し

彼らの診断の結果を医師から聴いていた――。

 

「眷属のお二人は、入院は必要ですが命に別状はありません。

 今は、身体を休めることが重要です」

 

「あ、ありがとうございます! お医者様、それでお兄様は……」

 

ライザー眷属のうち、シーリス、ユーベルーナは身体に光力による毒素が回り

全治三ヶ月の入院生活を余儀なくされた。

不幸中の幸いにして、命の別状と身体機能への異常はなく

退院後はライザーの眷属ハーレムに復帰することを望んでいる。

しかし、この戦いから戦いへの恐怖心を植えつけられてしまい

レーティングゲームへの参戦復帰はさらに先のことになるだろう――

と、医師の診断で語られた。

 

「ライザー君については……命に別状は無い、とは言ってもそれはフェニックスだからです。

 通常の悪魔ならば、聖水のプールに浸けられた時点で即死ですよ。

 それ以外にも、傷口から光力が全身に行き渡っている上に、人間が作った消火の為の薬剤が

 フェニックスの治癒能力を阻害しています。こういう言い方は不適切ですが……

 フェニックスであるがゆえに苦しんでいる、とも取れる状態ですね」

 

そしてライザー・フェニックス本人も、全身に聖水による重度の火傷、光力による毒素

ならびに消火器の薬剤にさらされたことが原因で、身体に大きな障碍を負うこととなった。

こちらは全治半年以上の期間が必要となり、後遺症も少なくないとの診断が下された。

 

「そ、そんな……なんとかならないんですか!?

 そ、そうだ! フェニックスの涙なら……」

 

「手は尽くしますよ。私とて医者なんですからね。

 しかし……もし治ったとしても、後遺症が出ることは、覚悟なさったほうがいいでしょう。

 あと、フェニックスの涙については……現在入手が困難でしてね。

 いくら製造元のフェニックス家から直接とは言っても、それをやれば今度は我も我もと

 フェニックスの涙を求める他の患者さんが押し寄せてくる。

 それくらいの奇跡の薬なんですよ、フェニックスの涙は。

 だから、前例を認めるわけにはいかんのです。

 何とか、ライザー君にも回せるように手配はしますよ」

 

医師による非情な宣告。奇跡の薬であるが故に、その取り扱いには慎重にならざるを得ない。

それは、患者への副作用に拠るものだけに留まらない。

純血悪魔と転生悪魔の差はあれど、医療ににおいては平等性も重要になる。

フェニックスの涙を欲している重病人は、ライザーだけではないのだ。

その治療を心待ちにしている重病人は、少なくない。

そんな中、いくら製造元の一族とは言え特例を認めてしまえば暴動が起きかねない。

病人を救うべき病院で暴動が起きるなど、愚の骨頂である。

 

レイヴェルもこの日以来眷属として――否、妹として兄を気遣い

毎日のようにライザーの見舞いに来ている。

その後レイヴェルはフェニックスの涙の増産を家族に具申したが、品質の維持を理由に断られ。

結局、通常の治療をしつつフェニックスの涙の供給が安定するまで待つこととなった。

 

が、フェニックス家もグレモリー家との裁判のため、調剤に割く時間的余力も残っておらず。

レイヴェルは、ただ兄のベッドの前で歯噛みする日々を過ごしていた……。

 

――――

 

フェニックスにここまでの深手を負わせたと言う事件は、非公式の試合ながらも

瞬く間に冥界中の話題となり、あるものはその戦いぶりに震え上がり。

またあるものは番狂わせに色めき立った。

 

特にセージについては、顔が割れていないながらも

その残虐性と実績から、血筋による悪魔族の繁栄を望む旧来派と

来歴を問わない繁栄を望む新鋭派の両者から、本人の望みとは裏腹にマークされることになった。

 

 

旧来派の言い分はこうだ。

 

――転生悪魔の無秩序な力は、悪魔の血筋を脅かしかねない。

リアス嬢は早急にこの眷属を管理するか、或いは悪魔社会を守るために処分すべきである――と。

 

 

新鋭派の言い分はこうだ。

 

――悪魔の駒の力で、また今までに無い悪魔が誕生した。

不死を謳ったライザーをも打ち倒した、この新しい転生悪魔を大いに歓迎、祝福すべし――と。

 

 

そこには、本人が望んだものは全く反映されていなかった。

当たり前である。冥界の者達にとって歩藤誠二とは、一介の転生悪魔に過ぎないのだから。

 

そして、セージへの評価とは裏腹に主であるリアスへの。

ひいてはグレモリー家に対する世間のバッシングは大きくなった。

 

 

「フェニックス家の三男が、レーティングゲームにおいて重体となる」

事が大きく取り沙汰されたのだ。そこに付随する形で

 

「『赤髪の滅殺姫』が己の我儘のためにレーティングゲームで婚姻拒否を表明」した事が

 

「『赤髪の滅殺姫』が己の我儘のためにフェニックス家三男を重体に追いやった」

と解釈、報道されたのだ。

 

これらは冥界の新聞、ニュース、週刊誌あらゆるメディアで流布され

冥界において知らないものはいない、と言うほどにまで広まったのだ。

 

――――

 

結果、グレモリー邸には日夜冥界のマスコミが押しかける事態となってしまう。

家族会議を開こうにも、あまりの煩わしさにリアスを冥界に呼び戻すことも出来ず

やむなく、部活動終了後にオカ研の部室を貸し切って行われることになった。

 

「……私だって、好きでライザーを再起不能にしたわけじゃないのよ」

 

当然、こういう扱い方をされてはリアスも面白くない。

しかし、冥界の世論においてリアスを肯定するものは

家族と眷属、そして一部の物好きを除いて殆どいないのも事実だった。

 

「それは私も試合を見ていたから知っている。

 しかし、なってしまったものを変える事は出来ない。もう一度聞くがリアス。

 あの眷属……歩藤君と言ったか。彼は普段からああなのか?」

 

「……私に反抗的な態度を取る事が多いのは事実よ。

 初めは、そのうち言うことを聞くようになる……って思っていたわ。でも……」

 

家族会議の議題は当然、ライザーとのレーティングゲーム。

及び、そのライザーに重傷を負わせたリアスの眷属、歩藤誠二についてである。

 

「……我が娘を蔑ろにするとは許せんな。今、その彼を連れて来なさい。

 私からじっくりとハナシアイをさせてもらいた……いたいいたい、やめてくれないか母さん。

 私はある程度本気で話しているのだが」

 

「だから、よ。あなたとそういう意味でのハナシアイなんて、娘の眷属の処刑と同義じゃない。

 けれどリアス。場合によっては……覚悟を決めなさい。

 眷族の不始末は主であるあなたが取るの。

 

 ……幸か不幸か、グレモリー家からそんな眷属は過去一人として出ていない。

 だから、そうなったときの心意気を説く事は私達には……」

 

リアスの母が言い終える前に、リアスは激昂していた。

既に話の途中から怒りを募らせてはいたが、眷属の処刑と言う話題になったときに

噴出したようである。

 

「いい加減にしてお母様! 眷属を処刑するって、それは本気で言っているのかしら!?

 それに、過去そんな眷属が一人もいないのに、何故セージだけが処刑されなければならないの!?

 それとも、私は反乱を起こすような眷族を抱えてる無能な主だとでも言いたいの!?」

 

「お、落ち着いてくれリアス! 私はそんなことは一言も……」

 

「……そうね、ごめんなさいリアス。言い過ぎたわ。けれど、これだけは覚えておきなさい。

 私達悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使う者は、使った相手の全てを一度は奪っていると言うことを。

 それを踏まえて、主として恥ずかしくない行いをしなさい。

 これはあなたの母として言わせて貰うわ」

 

「……知っているわ! 朱乃の時も、小猫の時も、祐斗の時も! ギャスパーの時も!

 それからイッセーや、アーシアの時も……それに……」

 

子供じみた反発を母に返すリアスであったが、途中でふと違和感に気付く。

一人ひとり眷属の名前を挙げていったリアスだが

一人、どうしても腑に落ちない存在がいることに気付いてしまった。

 

「……わ、私……セージに……悪魔転生の儀式をした覚えが……

 イッセーには、確かに悪魔の駒を使って儀式をしたけど……セージには……」

 

そう。リアスはセージに対し、正式に契約を結び

彼を転生悪魔として使役していたわけではないのだ。

イッセーに対して悪魔の駒を用いた際

セージの魂がそれに巻き込まれる形になっていただけなのだ。

 

結果として、セージは霊魂だけの状態で、イッセーの悪魔の駒を共有し

一人の転生悪魔として顕現することができていたのだ。

 

「そ、それじゃ……彼がいつも言ってる身体を取り返すって……

 確かにあの時、もう一人はまだ息があったから、救急車で運ばせたけど……」

 

「……リアス。その言い方だと、まるで事故があったみたいね?」

 

リアスが初めてイッセーを悪魔にした際の出来事を思い返していると、母からの指摘が入る。

指摘どおり、これは本来の悪魔転生の儀式であれば事故に値する事例である。

なにせ、本来悪魔にしようとした者ではなく、無関係な者まで悪魔にしているのだから。

おまけに、身体を奪った上で。

 

「何故もっと早くサーゼクスに言わなかったの!

 サーゼクスに言えば、解決法もすぐに見つかったでしょうに!」

 

「わ、私だってたった今気付いたのよ! セージがそんな方法で悪魔になっていたなんて!

 セージはうっすら気付いていたんだわ。だからあの時、堕天使だけでなく私をも殺そうとした。

 自分を悪魔にしてしまった、私を殺しに!」

 

「何っ!? リアスを殺そうと!? よし、今すぐその彼をここに連れて来なさい!

 私が……ってだから痛いよ母さん」

 

リアスは自らのミスで起きてしまった取り返しのつかない事態に狼狽し。

リアスの父はまたしてもセージ抹殺計画を立ててはリアスの母に窘められ。

リアスの母は何とか、現実的な解決法を模索してはいるものの――

 

「落ち着きなさい。彼ももう既に悪魔になっている以上は

 身体を取り戻せば解決、なんて甘いものじゃないわ。

 彼の悪魔の駒を摘出できれば簡単なのだけど、彼一人のものではないでしょう?」

 

「……ふぅむ。あの時のレーティングゲームにおける彼の異常は、そこに起因していたのか」

 

そう。セージに存在する悪魔の駒は、彼一人のものではない。

寧ろ、イッセーの悪魔の駒を借り受けているといったほうが正しい。

そのため、セージの悪魔の駒を摘出しようものならば、イッセーにも影響が出ることになる。

まして、イッセーは「兵士(ポーン)」の悪魔の駒を全て使い、ようやく転生できたのだ。

全て揃ってバランスが取れているものを摘出すれば、異常が起きるのは当たり前である。

 

「ええ。間違いなくセージに適用されている悪魔の駒はイッセーのものよ。

 セージから悪魔の駒を摘出するのは、イッセーから摘出するのに等しい行為。

 イッセーは8つ全部使って転生できたのよ。

 そこを取り除けば、イッセーにも影響が出るのは避けられないわ」

 

そもそも、悪魔の駒の摘出と言う行為自体、相応の施設で行わなければならない

リスクの高い行いなのだ。言うなれば、人間の臓器を摘出するのと殆ど変わらない。

 

「……どちらに転ぶにせよ、苦渋の決断をせねばならんと言うことか。

 ああ、なんと言うことだ。私の可愛いリーアにこのような仕打ちを……おのれ神め!」

 

「あなたは黙ってて。リアス、さっきも言ったけれど、決断を下すことは必要よ。

 その決断を下すのは他でもない、あなた自身。その責任は、下した後もきちんと持ちなさい。

 けれど、あなたの母としてこれだけは言わせて貰います。

 

 ……どんな決断を下そうとも、私達はあなたの味方であり続けます」

 

――結局、その日の家族会議は具体的な結論を提示することなく。

ただ、リアスとその両親の意思表示を行ったに過ぎないものであった。

 

ライザー・フェニックスとのレーティングゲームは確かにリアス・グレモリーの勝利で終わった。

しかし、それはリアスにとっても、グレモリー家にとっても

苦難の道の始まりとなる勝利であった。




今回のタイトルを和訳すると「敗残処理」です。

・原作では負けてる戦い
・戦力は原作より充実しているとは言え、無理やり得た勝利
・とどのつまり我儘のごり押し

というわけで、ライザーと眷属の皆さんはここで出番終了……と思います。
特にライザーはある意味原作より重症ですし。
ドラゴン恐怖症こそ発症してませんが、水場恐怖症になってます。

次回は時系列的にサト……じゃない、ザトゥージ回ですが
活動報告にもあるとおり私事で次回投稿は未定となります。
ご了承くださいませ。


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Extra Life2. めざせ使い魔マスター!? 前編

ご無沙汰しております。
何とか投稿にこぎつける事が出来ました。

……とか言っておきながら前後編構成だったりしますが。


番外編ですので前回までとがらりと雰囲気が変わります。


ライザー・フェニックスとの戦いから暫く経ち。

俺――兵藤一誠や仲間のオカルト研究部の皆も

中間試験を終えて普段どおりの学生生活を送っていた。

 

気になることと言えば、勝った割には部長がだんまりを決め込むことが多くなったり

セージがよく部長に呼び出されたりしているみたいだ。

その都度、セージは嫌な顔をしていたみたいだが、俺にしてみりゃ羨ましい事この上ない。

 

セージと言えば、あれから結局俺は一発ぶん殴ることに成功したが

あいつは受身を取るでもなくすんなりとぶん殴られ、あっさりと吹っ飛んだ。

「一発は一発だから」とは言ってたが、吹っ飛ぶとは思わなかった。

まるで俺が悪者みたいになってしまったことについては、セージもフォローしてくれたが。

 

そして今日は、珍しくセージが俺に憑いていない。風邪ってわけでもないらしい。

学校のある日は「授業に穴を開けると後で困る」と、俺に憑いてでも授業を受けていたあいつが

今日に限っては、何故か俺に憑いていない。

その辺のクソ真面目さにも頭が下がる思いだっただけに

何かあったのかと聞いたが「自分の身体の手がかりが見つかった」としか返してくれなかった。

 

……って重大なことじゃないか! 何で俺や部長を呼ばないんだよ!?

真面目だし、能力も大した奴なんだが……水臭いわ嫌味だわ。

ちょっと、今度コミュニケーションのイロハを教えたほうがいいような気がする。ダチとして。

 

まあ、それはおいておこう。

セージがいない、と言うことは久々にアレが出来るって事だ。そう――

 

 

NOZOKI!!

 

 

うんうん、今までセージが憑いてたおかげで邪魔されたりしてたからなぁ。

そういう所はもっと柔軟になって欲しいものだぜ。なーにが「軽犯罪法違反」だよ。

俺たちが何故覗きをするのか? それはそこに女子の裸があるからなのだ!

松田、元浜、準備は良いな? いざ参らん、我らの楽園へ!

 

気合十分、ロッカーに忍び込んで後輩の着替えシーンを堪能した俺達だったが

今日は標的を完全に誤った。嗅覚に優れた小猫ちゃんがいたのだ。

松田と元浜は逃亡。俺はあえなく小猫ちゃんに捕まり、制裁を受けることになった……。

 

ざんねん! おれの あくませいかつは これで おわって しまった!

 

……ってな事になるわけでもなく。

一命を取り留めた俺は、何とか部活動に顔を出すことができた。

 

――――

 

ボコボコにされた顔をさすりながら入ると、部室には既に全員揃っていた。セージもだ。

駒王番長・宮本成二の雰囲気と言うよりは、オカ研の歩藤誠二って雰囲気だ。

手がかりがあるって言ってたけど、取り戻したわけじゃないのか。

しかし俺のそんな考えを他所に、開口一番奴はとんでもない事を言ってのけてくれた。

 

「……事情は塔城さんから聞いた。お前、俺がいないからって……はぁ。

 大体、合宿のときに言っただろうが。覗きは立派な犯罪だと。

 お前、自分の脳みそに『赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』したほうがいいんじゃないのか?」

 

「なんだと!? お前! この間の中間試験の結果は去年より良かったんだぞ!

 お前こそ、テストも受けられないくせにえらそうな事言うなよな!」

 

「そうなの? やるじゃないイッセー。これは、後でごほうびをあげなきゃいけないわね。

 それとセージ。イッセーのやった事は確かに褒められたことじゃないけど

 そういう風に他人を言うものではないわよ?」

 

「む……それもそうですな。すまんイッセー、ちと言葉が悪すぎた」

 

案の定、セージの暴言は部長に窘められている。反対に俺は部長にご褒美がもらえるみたいだ。

……ま、まさか宿題十倍とかそういうオチはないですよね?

いつぞやのトレーニング以来、部長のご褒美ってのが今ひとつ信用できない俺がいたりする。

 

「心配しないでも、宿題を増やすとかそんなのしないわよ。

 聞けば、セージが憑いてから授業も真面目に受けてるみたいだし、それが効いたのかしらね。

 じゃあイッセー。ごほうび、楽しみにしてなさい」

 

えっ!? じゃ、じゃあ本当に!? お、おお……

ついに夢にまで見た部長の……っ!!

これは、これはセージの嫌味に耐えて授業受けた甲斐があるってもんだ!

 

「確かに俺はここの学籍はありませんがね。しかしイッセーに憑依出来る以上

 イッセーごと授業を聞くって結論が出たんですよ。

 こいつにしてみても、学力の向上が望めますし、ね。どっちにとっても得ってわけです。

 ……というわけだ。イッセー、ノート……と思ったが、お前途中から抜けてたんだよな。

 じゃあアーシアさんか木場、後でいいからノートを見せてもらえると助かる」

 

……うっ。そりゃ確かに途中から抜けたけど、そりゃ怪我して不可抗力で……

でもその怪我をしたのは小猫ちゃんのせいで……

じゃあなんで小猫ちゃんが俺を殴ったのかって言うと

覗きがばれて……はっ。

 

……結局俺のせいかよ。

などと考えていると、アーシアはアーシアでまたとんでもない提案をしてくれる。

 

「わかりました、じゃあ部活の後、イッセーさんの家で見せるのはどうでしょう?」

 

「方法はお好きにどうぞ……というわけだイッセー。

 また憑かなきゃならないから、アーシアさんとの約束、忘れるなよ」

 

忘れるも何も、アーシアは一応、俺の家族みたいなもんなんだし。

一つ屋根の下にいりゃ、顔を突き合わせるのは当たり前じゃないか。

そうなりゃ、否応なしに思い出すって。

 

「忘れねぇよ。そういや、お前自身の用事は片付いたのか?」

 

「……片付いたと言えるし、片付いてないとも言える。

 ま、今は深追いしてもどうにもならないって所だな」

 

まーたこいつは。意味深なことばかりいいやがる。

気持ち悪いから1から10までちゃんと説明しろってんだ。

まあ、そう言うこいつ自身もちょっと参ってるのか、ため息をついてるみたいだが。

 

「……じゃあセージ、今日はこの後用事は無いのね?」

 

「ええ。虹川さん絡みも昨日までに話つけておきましたので。

 他のところのアシストは大丈夫ですか? ミルたんとか、スーザンさんとか」

 

「大丈夫だって。その辺も何とか終えたよ。

 ……ふう、あの時は本当にきつかったぜ。レーティングゲームが終わったってのに

 休む間もなかったんだからな」

 

そう。合宿に行っている間、並びにレーティングゲームの日に入った依頼は全て

レーティングゲーム直後に片付けることになったのだ。

こっちを蔑ろにするのも、悪魔としての信頼を失うことになる。それはまずい。

だから、レーティングゲーム直後は俺達はキリキリ舞いだったってわけ。

 

「本当にみんなお疲れ様。お疲れのところ悪いのだけれど

 イッセー、アーシア、セージ。あなた達には使い魔をゲットしてもらうわ。

 ああ、使い魔ってのは――」

 

そう言うや、部長は赤い蝙蝠を何も無いところから呼び出す。

へぇ、あれが使い魔なのか。何か悪魔っぽいな。悪魔だけど。

 

「その使い魔っての、朱乃さん達ももってるんですか?」

 

「そうですわね。私のはこの子達」

 

「……おいで、シロ」

 

朱乃さんが呼び出したのは小さな鬼の集団。結構多いな。

一方、小猫ちゃんも白猫を呼び出していた。

後ろでセージが何やらうずうずしているようだが……どうしたんだ?

 

「……ちょっとなら、撫でても良いですよ? でも抱っこはダメです」

 

「えっ!? あ、いや……俺、そういう顔してたか?」

 

小猫ちゃんに見透かされたようにセージがうろたえている。

……そういえば噂程度だが、宮本成二が夕方の公園で

猫と戯れているって聞いたことがあるような、ないような。

って事は、こっちのセージも猫好きになるわけだ。

 

セージ、いいもの見せてくれてありがとうよ。

 

 

「ああ、すっごくしてたぜ」

 

「いい物を見せてもらったよ、セージ君」

 

「セージさん、猫が好きなんですね! 私も猫は好きです!」

 

「ぐっ……へ、変な目で見るな……悪いか。い、言うなれば……そ、そう!

 イッセーが女性の胸を目の当たりにしたのと同じようなものだ、そう!」

 

「……それはそれで、すっごく変態な気がします」

 

 

俺と木場もニヤニヤと笑いが止まらなかった。

俺自身、男を見てニヤニヤ笑うのも珍しいと思う。

しかもセージの奴は焦っていたのか、俺を引き合いに出したはいいが

盛大に自爆して、小猫ちゃんに白い眼で見られていた。ざまあみろ。

 

「そうじゃなくて塔城さん! 俺は人間なんだから人間にしか欲情しないというか

 つまりだ、えーと……」

 

「あらあら、悪魔は対象外なのね。悪魔の私としてはちょっと寂しいですわね……。

 じゃあ、悪魔も大丈夫なように今度特訓しましょうか。うふふ」

 

「あ、朱乃さんっ! その特訓、俺にも是非……」

 

「イッセーさん、その特訓なら、私が……」

 

「……セージ先輩は悪魔は対象外ですか。私としても、複雑な心境です」

 

「セージ君、あまり女性を泣かせるような真似は控えた方が良いよ?」

 

「どうしてお前らはそういうことを言うかなあ!?」

 

しかもセージの言い訳はあちこちに飛び火して手がつけられなくなっている。

朱乃さんや木場まで悪乗りを始めており、ちらりと見た部長の顔に

若干、青筋が浮かんでいるのが見えた。

 

「……話を戻すわよ。イッセー、アーシア、それからセージ。

 今から冥界に行って、使い魔をゲットしに行くわ」

 

ちょっと怒気を含めた部長の声で、空気が一瞬で元に戻る。

それにしても部長、今から冥界って随分急っすね。

まあ、思い立ったが即実行、ってのは部長にしてみればいつもの事なんだけど……

 

案の定、セージは嫌そうな顔をしていた。

 

「……確かに予定はありませんが、物事には準備と言うものがありましてな。

 今後、外出をする際には前もって言っていただけると助かりますな。

 ……行くって分かってりゃ仮面をこさえたってのに……仕方ない、これで何とかするか」

 

「……はいはい。善処しとくわ。他に言うことがなかったら出発するわよ」

 

部長もセージの意見をだいぶ聞き流すようになってきた。

セージもそれについて何を言うでもなく、懐からサングラスを出してつけている。

俺が言うのも何だが……非常にガラが悪いぞ。

 

ガラの悪くなったセージから部長に視線を向けなおすと

いつものとは少し違う魔法陣を展開していた。

 

「……使い魔の森へは直通で行くわ。みんな、魔法陣に入って頂戴」

 

皆が魔法陣の中に入ったのを確認すると、部長は呪文の詠唱を始める。

床が光ったと思った矢先、視界がどんどんと歪んでいくのを感じた――

 

――――

 

俺達の視界の前に現れたのは、鬱蒼とした森。

随分と広く、光もまるで届かない辺りが冥界っぽい。

もしかして、ここが――

 

「着いたわよ、ここが使い魔の森。イッセー、アーシア、セージ。

 あなた達にはここで使い魔をゲットしてもらうわ。そのための講師も呼んでおいたわ」

 

講師つきですか!? 至れりつくせりじゃないですか部長!

俺が使い魔を持つってのは、なんだか実感がわかないものはあるけれど……

 

「ゲットだぜぃ!」

 

そんな俺の心配事は、明後日の方向から聞こえてきた突然の声で一気に吹っ飛んだ。

アーシアは驚いて俺の後ろに隠れ、セージは声のした方向に記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向けている。

 

「驚かなくても良いわよアーシア。彼が今日の講師の――」

 

「名前はザトゥージ。出身はマダラタウン。使い魔マスターを目指し修行に明け暮れるも

 約20年に及ぶ修行の、その成果は一切出ていない。

 また、数年毎に冥界の使い魔地方バトルにおいて好成績を収めるも

 過去優勝したのは一度のみであり、その他は全てベスト8~16止まり。

 その都度同じ轍を踏んで負けていることも少なくないため、一部では

 『リセットのザトゥージ』と言う異名をつけられている――で、いいですな?」

 

「おいおい! 随分恣意的な情報じゃないかそれ! 確かに地方バトルじゃ優勝したことなんて

 一度しかないけど、それ以外の使い魔をめぐった大冒険じゃ大活躍してるんだぜぃ!?

 ……って、随分俺の事詳しいじゃないか、グラサンの兄ちゃん?」

 

あーもう。セージの奴、わざと挑発的な情報を読んでないか?

俺もちょこっとだけセージの出した情報を読んだことがあるけど、すぐに頭が痛くなった。

アレをほいほい扱いこなせるセージは、それだけでも頭が下がる思いだ。

 

……確か宮本の奴、成績は「本気出せばトップ狙える」って程度には良かったっけか。

 

「……セージ。いきなりザトゥージさんを挑発してどうするの。

 彼は今日のあなた達の講師でもあるのよ? 今みたいな態度は、いただけないわね」

 

「こいつは失礼。しかしながら、インチキ講師をつけられてはこちらも困りますのでな。

 もっと言えば、口に出すべきではなかったと?」

 

「腹の中で悪口言われるよりは、はっきり言って貰った方がまだ楽だぜぃ……」

 

ザトゥージさんはため息をつきながら頭を掻いている。

それが気にならないほどラフな格好である。

 

「そんなことよりだ。今日は一体どんな使い魔が欲しいんだ?

 接近戦に優れてる奴か? 炎使いか? それともやっぱドラゴンタイプか?

 俺のおススメとしてはやっぱ速い奴だな。速さは力。速いだけで全部決まる。

 速ければそれだけで相手の先手を打てる。後は先手必勝、必殺の一撃を叩き込む。

 んん、やっぱこれで使い魔バトルの必然的必勝は必定ですな。これぞロジカルな必勝法ですぞ」

 

……なんだろう。凄くうざいしゃべり方だ。

ネットスラングで言ったら、語尾に草とか生えてそうな。

後ろでスピードを生かした戦法を取る木場が苦笑いしてるし

アーシアはザトゥージさんの話についていけずにきょとんとしている。

セージに至っては……大あくびをしていた。話を聞いていないどころか

何かを見つけたらしく、記録再生大図鑑で調べているみたいだ。

それから暫くして、おもむろに立ち上がったと思ったら――

 

「あ、煩いんで静かにしてもらえますか? 今ちょっと調べ物してるんで。」

 

「やっぱあの喋りはだめだぜぃ、すんません……

 っておいグラサンの兄ちゃん! 今俺話してるの!

 俺今日あんた達の講師なの! わかる!? ねぇわかる!?」

 

「だったら主観じゃなくて客観視でどの使い魔がいいかのレクチャーを頼みます。

 別にそちらの意見聞いてませんので。あ、これ俺らの簡単な能力です」

 

セージはザトゥージさんにメモを渡すなり、また向こうに行ってしまった。

あいつ、使い魔捕まえる気あるのか?

 

「ふんふん……ならそっちの冴えない兄ちゃんにはドラゴンタイプの物凄いのがよさそうだな」

 

「赤龍帝のイッセー君には、うってつけの使い魔だね」

 

そう言ってザトゥージさんと木場に見せられたのはゲームのオオトリを飾りそうなドラゴン。

今のご時勢だったらスマホゲームでこの絵だけで激レア、客が寄り付いてきそうなやつ。

 

……ってふざけるなぁぁぁぁぁ!!

 

「バカヤロウ! こんなもん捕まえられるか! セージにまわせ! セージに!

 あいつだってある意味赤龍帝だろうが!」

 

「パス。俺の方は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)って言ったって似ても似つかない模造品だし。

 本物はお前なんだから、本物の意地をここで見せたらいいんじゃないか?

 第一、この程度の見た目のドラゴン、お前も知ってるだろ」

 

セージに振ったはいいが、やはりあっさりと受け流されてしまった。

しかも、ご丁寧にドライグを引き合いにまで出して。

そりゃ確かに、あいつもごついっちゃごついドラゴンだけど。

で、そのセージはまた黙々と何かを調べてる。何してるんだ?

 

「んで、そっちの金髪の美少女さんには……精霊とかどうかな?」

 

「精霊、ですか。じゃあ私、可愛い精霊さんがいいです!」

 

アーシアのその意見に、ザトゥージさんは満面の笑みを返した。

……何なんだ、こいつは。

 

――――

 

そして俺達は精霊がいるという泉にやってきたんだが……

目の前にいたのは筋骨隆々の水属性なのに土属性な見た目の精霊であった。

 

まさか……いや、まさか……ね。

 

「現実から目を逸らそうとしているところ悪いがイッセー。あれはウンディーネで間違いない。

 俺も最初は合体事故でも起きたのかと思ったぞ。

 事故……事故? いや、あるいは、まさか……」

 

認めたくなかった現実は、セージによって無理やり認めさせられた。

そのセージは、自分で言い放った「事故」と言うワードが気になったのか、また調べ物モードだ。

多分俺に憑いていたら、引きこもっていそうな勢いだ。

そうしないのは、ザトゥージさんに対する礼儀としての最低ライン……だと思いたい。

 

ふと、泉が騒がしくなる。またもう一体、水属性なのに土属性な見た目の精霊が現れた。

セージが言ったように、合体事故じゃなくてこれが天然モノなのか!?

その二体の精霊が繰り広げたもの、それは格闘漫画もかくやと言わんばかりの壮絶な死闘だった。

 

狂ってる……冥界は狂ってやがる……!!

俺の絶望感などどこ吹く風とばかりに、セージは珍しく部長に相談をしていた。

 

「グレモリー部長。使い魔同士を合体させることは可能ですか?」

 

「……聞いたことが無いわね。そういう術式も、あるかもしれないけど

 少なくとも私は使えないわよ?」

 

「合体は俺も聞いたことがないが、交配は可能だぜぃ?

 ただ気をつけなきゃいけないのは、互いの能力もそうなんだが、持っている技の――」

 

「あ、そっちは聞いてません。ならば……イッセー! 交配をするって前提の話だが逆に考えろ!

 『わざと事故を起こさせて見た目を真逆にすればいいんだ』と!

 俺が思うに、氷タイプの似たような見た目の使い魔を捕まえて、交配させれば

 相互作用で見た目が変化するかもしれない!」

 

向こうで部長やザトゥージさんと相談していたセージから出たのは、とんでもない提案だった。

事故前提っておかしいだろ。と言うか何なんだよ交配って!?

とは言え俺もそこまでバカじゃない(と思いたい)ので、交配でやること、はすぐに理解できた。

 

……いや、したくなかった。

 

「バカヤロウ!! そんな吹雪の中からボディビルしながら

 歪みない餡かけチャーハン食ってそうな組み合わせ、俺はイヤだからな!」

 

「今お前の考えだけは覗きたくないと思ったぞ。しかしアレもダメこれもダメって……

 と言うかイッセー。精霊のリクエストはアーシアさんから出たのに

 何でお前がああでもないこうでもない言うんだ? お前が使役するわけでも無いだろう?

 時にアーシアさん。彼女(?)らを実際に使役したいと思うかね?」

 

「えっと……よく分かりませんけど、どちらも綺麗な瞳をしていますから

 私は悪い子じゃないと思います。だから、平気ですよ?」

 

俺の意見も聞かずに、セージはアーシアに意見を求めていた。

ダメだアーシア! あんなのが一緒にいたら、キミが穢れてしまう!

綺麗な瞳をしていても、それ以外が見るからに汚らわしいじゃないか!

 

「お、お前なぁ……こんなむさ苦しくて近くにいただけで窒息死してしまいそうな奴を

 アーシアのそばに置けるか? 置けないだろう? 俺は置けない!

 勿論俺のそばにもだ! と言うわけだみんな! 他を探してみよう、他を!」

 

「……あれが雄雌どちらかは俺もわからないが、あれを使い魔にすることへの嫉妬か。

 イッセー……お前ハーレム目指す割には器が小さいな……」

 

今の俺に出来ること。それは一刻も早くこの場を立ち去ることだった。

そのためにも俺は皆を促し、とにかく別の場所へ移ることだけを考えていた。

そのせいで、セージがぼそりと呟いた一言は聞こえなかったが、まあいいや。

 

「おいおい少年。もうじきあの二人の戦いの決着がつくというのに。

 ここで帰るのはもったいないぜぃ?」

 

「知らねぇよ! 勝手にやっててくれ! 部長! 使い魔の森って広いんすよね!?

 俺はもっと色々な使い魔を見たいんです! だからさっさと次行きましょう、次!!」

 

「ず、随分熱心ね……ま、まあわかったわ。そういうことなら次を見てみましょう。

 時間についてはいくらでも都合はつけられるし」

 

部長の許しも得たことだし、さあさっさと行くぞ!

アーシアが何かを言いたそうな目をしていたが、許してくれアーシア。

これ以上ここにいたら、君も俺もおかしくなりそうだ。

 

「……イッセー。もう少しお前の気が長ければ

 俺の予想では相当な美人さんを捕まえられたかもしれないんだがな。これ、予想図な。

 じゃあ行こうかイッセー。男の二言はあまり良いものではないぞ」

 

「うっ……だ、だが予想だろうが。予想が外れたら目も当てられないぞ。

 そう言って微妙な揺さぶりをかけるのはやめてくれ、セージ」

 

セージが予想図として寄越してきたのは蒼髪で巨乳の確かに俺好みの美人さんだ。

それこそ、部長をそのまま髪の毛の色を染めたような。

でも部長は赤い髪だから部長なんであって、やっぱり青い髪の部長ってのは想像できない。

けれどこれがあの筋肉ダルマ二体から出来上がるなんていうほうが

俺にはとても信じられなかった。




少々半端なところで切れましたが。
スラ太郎と触手丸は次回に持越しです。


原作だとザトゥージは結構廃人思考してたので
そこに無理にアニメサトシの要素をぶち込んだら
こんなわけの分からないヤツになってしまいました。
やはり餃子の王将に電話注文した人を立てた方が良かったかもしれません。


今回も元ネタがあっちゃこっちゃ飛び回っています。
原作では殆どポケモンでしたが今回はシャドウゲイトやら艦これEDの某MADやら
前回の番外編よりも足がついてない感じがします。


最後に見せた配合事故の成功(?)予想図は皆様のご想像にお任せします。


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Extra Life3. めざせ使い魔マスター!? 後編

引き続き、使い魔ゲットの番外編です。


湖を離れ、少し歩いた先に今度はやや紫がかった青い龍が見える。

大きさからして、まだ子供だろう。ドラゴンがドラゴンの使い魔を使う、か。

さっきはああ言ったけど、これはこれでありなんじゃないかと思う。

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)。雷を操るドラゴンの一種。成体になれば、龍王クラスの能力を秘めたドラゴン。

 性質は――うわっ、何を!?」

 

「だから、俺の仕事をとるんじゃねぃよグラサンの兄ちゃん!」

 

セージの記録再生大図鑑は、ほぼ完全にザトゥージさんの仕事を奪っていた。

それに腹を立てたザトゥージさんが、セージに殴りかかっていた。

そのお陰で、セージは再生結果を最後まで言い切ることが出来ずにいた。

思わず反撃しようとするセージだったが、そこは部長と朱乃さんに止められていた。

 

「どうどう、二人とも落ち着いて。折角の蒼雷龍が逃げてしまうわ」

 

「確かに希少度は高い個体ですが……っと!」

 

「ふんっ! ゲットするなら今だぜぃ!」

 

二人の制止を振り切り、小競り合いをしながら行われている

セージとザトゥージさんの講釈が続いている中、背後から突然アーシアの悲鳴が聞こえた。

驚いて振り向いてみると、アーシアだけでなく小猫ちゃん、朱乃さんや部長までも

緑色のどろどろした何かを浴びる格好になっていた。

 

「あれは……スライムだね」

 

「ああ……分析完了、こいつは――」

 

セージの講釈が始まる前に、俺は目の前の光景に目を奪われた。

何せ、スライムが触れた部分の服が溶けているのだ!

たちまち、服を脱がされる格好になるオカ研女子部。ありがとうございます!

木場は明後日の方向を向いている。こいつが妙に紳士なのは今に始まったことではないが。

俺は遠慮なく見ているが、今回はセージも顔だけは俺と同じ方角を向いている。

と言うのも、セージはサングラスのお陰で目線が分からない。

くそっ、俺もサングラスをすればよかったか!

 

MEMORISE!!

 

「……微妙なタイミングで記録してしまったな。変な意図は無い。と、思いたいが……」

 

「ふっふっふっ。洋服破壊(ドレスブレイク)なら、俺がきっちりレクチャーできるから心配すんなって!

 おおっ、いつ見ても部長の身体は……」

 

「こ、こら! イッセー! あんまりじろじろ見ないで!」

 

多分セージは微妙そうな顔をしている。声色がそうだった。

だがこれでお前も洋服破壊のすばらしさに目覚めてくれると俺は仲間ができて嬉しい!

それから部長、すみません! そんなすばらしいお身体、むしろ見ないほうが失礼です!

 

「こいつらは女の服を溶かすことしか能の無い、どうしようもないやつだぜぃ」

 

「『しか』? 身体への影響は無いのか? 毒とか」

 

「特に無いぜぃ。聞いた話じゃ、身体を火照らせたりとか精神高揚させる効果を持たせたりとか

 追加効果を持たせようとして研究してる好事家はいるらしいけどな」

 

ザトゥージさんの解説が、今一つ飲み込めなかった俺は思わず声を大にして質問してしまった。

これは何やら、はっきりさせておかなければならない気がしたからだ。

 

「つまり、どういう事だってばよ!?」

 

「……必要以上に興奮させる、まあこの場合『エロくする』んだろうよ」

 

呆れたように質問に答えたのはセージ。お前、あの解説で分かったのかよ!?

なんだかまるで知っているみたいに……ま、まさかお前!?

 

「セージ! 暢気に講釈たれてないで早く何とかしなさい!」

 

「そうは言いますがね部長。モーフィングするにも原料になる布が無いとなんともなりませんし

 そもそもまずそのスライムをどかさないことには同じことの繰り返しになりますな」

 

そんなセージに対して部長の檄が飛ぶ。あ、こいつ物質変化使えたんだっけ。

しかしセージは難色を示している。今このときばかりはセージ、お前の意見に従うぜ!

すみません部長、セージの言ってることの方が理に適っていると思います!

 

「……葉っぱでも良いので、何とかしてください」

 

「……分かった。が、その前にそのスライムを引っ剥がさないことには話にならない。

 女性陣は身動きが取れないし、やるぞイッセー、木場」

 

「そうだね。いつまでも明後日の方向を向いてるわけにも行かないしね」

 

ところが小猫ちゃんの懇願に根負けしたのか

セージはスライムを倒す方向に話を持っていこうとしている。や、やめてくれ!

 

「え? お、俺も!? ちょ、ちょっと待ってくれセージ!

 こいつを倒すのは待ってくれないか!?」

 

当たり前だ。こんな俺の夢がいっぱい詰まった奴をむざむざ殺させるものか。

俺は何とかして、セージの考えを変えさせたかった。

 

……が、そんなこともできるはずが無く。

 

「意見の具申は認めない。やる気が無いならそこで雑草でも毟ってろ。

 木場、彼女らに攻撃を当てないようにスライムを撃退、頼めるか?」

 

「難しい注文だね。でも、やってやれないことは無いかな」

 

「承知した。皆、地面を揺らすぞ!」

 

EFFECT-STRENGTH!!

RELOCATION!!

BOOST!!

 

もうセージと木場は戦闘モードに入っている。

セージに至ってはカードまで使った上に倍加をかけている。ガチだ。

やばい、なんとかしてこいつらを止めないと!

特にセージは加減を知らない! 知らなさ過ぎる!

 

「ここなら周囲の被害を気にしなくても良いから、思いっきり揺らせるな。

 行くぞ、うおおおおおおっ!!」

 

セージが咆えたと思ったら、地震が起きた。

あのカードの組み合わせは確か、俺との模擬戦のときに擬似地震を起こした組み合わせだ。

地震でみんなにへばりついていたスライムが剥がれ落ちる。のだが……

 

おおっ! 朱乃さんと部長のおっぱいが揺れる揺れる!

いやあ眼福眼福。因みにアーシアはほんのり揺れてる、これはこれでまたよし。

小猫ちゃんは……まぁ、うん。

 

「――吹き荒べ」

 

などと俺が揺れるおっぱいを堪能していたら、木場の魔剣が唸っていた。

風でスライムが剥がれ落ち、部長達は本当に一糸纏わぬ姿になっていた。

おおっ、こ、これは……!

 

RELOCATION!!

 

「はいそこまで。モーフィング、枝葉を水着に変える!」

 

MORFING!!

 

肝心なところが見える一歩手前の所で、セージが水着をこさえていた。

くそっ、後一歩だったのに!

いやしかし待てよ? この水着……これはこれで結構なデザインじゃないか。

皆葉っぱモチーフなのには変わりはないが、部長は赤、朱乃さんは黒。

アーシアは白に、小猫ちゃんは水玉模様。さっき見た下着の色と同じだった。

そのドンピシャなデザインに、小猫ちゃんが突っ込みを入れていた。

 

「……セージ先輩。見たんですか?」

 

「想像に一任させて欲しい。それはそうと、モーフィングもそう長くは持たないから

 ここは速やかに一時退散したほうが……」

 

「そ、そうね。家に帰って着替えを取ってくるわけにも行かないし……

 悔しいけど、使い魔を捕まえるのはまた後日ね……」

 

服を完全にダメにされたことで、俺のやる気とは裏腹に女性陣のやる気はだだ下がりみたいだ。

いいじゃないか! セージが折角用意してくれたんだから!

時間制限の前に捕まえれば良いだけだ! 俺はあのスライムを捕まえる! 絶対にだ!

 

「諦めたらダメっす部長! 決めました! 俺はあのスライムを捕まえます!

 スラ太郎、それが俺の使い魔っす!」

 

「い、イッセー……気合十分なのはいいけど、あのスライムなんて服を溶かす以外には

 何の役にも立たないってさっき……」

 

部長が言い終える寸前。またしてもアーシアの悲鳴が響き渡る。

また? 今度は一体何なんだ? そう思って振り向くと、今度は伸びてきた触手につかまり

足を開いた格好で身動き一つ取れない状態になっているアーシアがいた。

 

「い、イッセーさんっ! み、見ないでくださいぃ~……」

 

顔をゆでだこのように真っ赤にしながら、動けない身体で嫌々をしながら

必死に訴えているアーシア。か、かわいい……。

などと思っていると、今度は部長や朱乃さん、小猫ちゃんも触手に絡め取られたのだ。

 

「あー、さっきのスライムが出た時点で気付くべきだったな。

 こいつらはコンビを組んで、よくこの辺りを通る女性悪魔を襲うんだ。

 スライムは衣服、触手は女性の体液――特に分泌物が好物だからよくつるんでいるんだ。

 言うなれば、利害の一致ってやつだぜぃ。

 恐らく、戦友のスライムがやられたから、出てきたんだろう」

 

な、な、な、なにぃぃぃぃぃ!?

こ、この触手も俺と魂で惹かれあうものを感じると思ったら、やはり!

俺はザトゥージさんの説明に思わず興奮し、快哉をあげてしまった。

セージの怒号も同時に響いていたが。

 

「イッセーうるさい。おい、そんな大事なことを何で先に言わない!?」

 

「だって聞かれなかったし、グラサンの兄ちゃんは俺の話まともに聞いてくれないし」

 

あ、やっぱザトゥージさん根に持ってたのか。

セージも頭を抱えながら、触手に記録再生大図鑑を向けている。

急なことなので、反応が鈍いようにも見える。

 

「セージ君、弱点は割り出せるかい!?」

 

「あー、弱点とか特にないしこいつら妙にタフだから。でも満足したらそのうち帰るから

 適当に相手してやれば勝手に帰るぜぃ。害はないけど鬱陶しいなら、一気に焼き払えば良いぜぃ」

 

「……それだけ分かれば十分だ、一応感謝する」

 

SPOIL

 

木場も突然の事態に対処し切れていない様子で、セージを急かしている。

焦っているセージにザトゥージさんは、してやったりといった顔でセージに満足げに語り

セージも納得したのか弱点を読み取ろうとしていた神器(セイクリッド・ギア)を止めたようだ。

 

それよりお前ら、まだ喧嘩してたのか。

最もそれもセージが頭を下げたお陰か、ほとぼりは冷めつつあるようだけど。

そんなグダグダな男三人を尻目に、俺の決心は固まった。

 

「部長! 俺、このスライムと触手を使い魔にします!」

 

「ちょっ、真面目に考えてそれ!?

 イッセー、悪いことは言わないわ、もう一度考え直して頂戴!

 祐斗、セージ! こいつらを――」

 

触手に捕まった部長は相当不快なのか、木場とセージに掃討命令を出そうとしていた。

でもちょっと待ってくれ! こいつら、特別害はないってさっきザトゥージさんも言ってたじゃないか!

そんな奴らをこっちの勝手な都合で駆逐して良いのか? 俺はそうは思わない!

だから俺は、ひとまずセージを説得してみることにした。

 

「待ってくれ二人とも! それも俺が使い魔にすれば、平和的に解決できる!

 害のない奴をこれ以上むやみに殺すことはない! 頼む、俺にやらせてくれ!」

 

「イッセー君、君の使い魔……これで良いのかい?

 君ならもっといい使い魔を捕まえられると思うけど……君が決めたことじゃあね」

 

「……ま、まあ暴力に訴えるのはどちらかと言えば悪手ではあるからな……。

 お前がやりたいなら、やってみればいい。俺がとやかく言うことじゃない」

 

そう。男には、一度決めたら頑として譲っちゃならないときがあるんだ。

今がそのときだ。男二人は消極的ながらも、俺の意見に賛成してくれた。

部長がなんと言おうと、俺はこいつらを使い魔に――使い魔に――

 

 

 

あれ? 使い魔の儀式って、どうやるんだっけ?

 

「い……イッセー?」

 

「すみません。使い魔との契約って、どうやるんでしたっけ?」

 

今、部長が触手で捕まってなかったら盛大にずっこけていただろうなとは思った。

けど、俺だって必死なんだよ! 分からないことを分からないと聞いて、何が悪いんだ!

セージみたいに調べ物のプロがあるわけでもなし!

 

「……へ? おいおい、ここには使い魔ゲットしにきたんじゃないのかよ?」

 

「あ、ああ。そのつもりなんだが……。

 実は俺も方法は聞かされていない。アーシアさんも同じく、だ。

 そう思って、今まで調べていたんだが、俺やアーシアさんはともかく

 あいつでも出来るレベルの契約術ってのが、中々見つからなくて……」

 

「え? あの兄ちゃん、そんなにレベル低いのかよ!?

 確かに自力ゲットした使い魔は、どんだけレベルが低くても言うこと自体は聞くけどよ」

 

俺の発言に、ザトゥージさんが素っ頓狂な声を上げる。

仕様がないだろ! 俺達、使い魔を捕まえるって事しか聞いてないんだから!

そう、仲間になれると思ったのに。それなのにその術式がわからないなんて!

くそっ、どうすればいいんだ! セージ、教えてくれ!

 

「……イッセー、すまないが使い魔契約なんて正直今調べたんだ。

 結構記述が多いし、お前のレベルに合わせたものとなると探すのも難しい。

 第一お前、まだ自力で魔法陣移動できないだろ……」

 

「ぶっ!? それで使い魔をゲットって、前代未聞過ぎるぜぃ!?

 グレモリーさん、ちょっと順番無茶苦茶じゃないか……?」

 

ザトゥージさんは頭を抱えながら部長を一瞬見るが

まだ部長はほぼ全裸で触手丸に捕まっている状態なので

慌てて目線を戻す。部長の裸をじろじろ見ていいのは俺だけだ!

 

それより、痛いところを突かれた。その通りだ。お陰で未だにお得意様のところには自転車移動だ。

免許を持っていないから、宮本のようにバイクで移動も出来ない。

セージに頼んだって、免許を貸してくれるわけもないだろう。

それ以前に、自転車移動は俺の意思でやっていることでもあるんだけど。

 

「い、いやこんな能無しどもにここまでの関心を抱いた奴だ。

 もしかすると相当な大物かもしれないぜぃ……兄ちゃん! 使い魔契約の方法は――」

 

あまり褒められた気はしないのだが、ザトゥージさんが俺の事を一応認めてくれたのだろうか。

ザトゥージさんが俺に契約の方法を教えてくれようとした、そのときだった。

 

 

 

……何故か知らないけど、部長がキレた。

 

「……れが能無しよ」

 

「……えっ?」

 

「誰が能無しの無能姫よ!? 気が変わったわ! イッセー! 祐斗! セージ!

 速やかにこの鬱陶しい触手を全て焼き払いなさい!!」

 

そ、そんなぁ~……

部長、それはあんまりです! ご無体です! 何卒、何卒!!

 

「ぶ、部長! 待ってください! 俺に、俺にチャンスを!!」

 

「問答無用よイッセー! これは私の決断よ、従いなさい!!」

 

(……どうする? セージ君)

 

(気は進まないが、やるしかないだろうな……。

 あれ以上ヒステリーを起こされても非常に面倒だと思う。船頭が阿呆では船酔いもするか……。

 ま、折角やるからにはせめて派手にいくか……お前はどうする?)

 

(こっちも同意見、ってことにしておくよ。勿論、オフレコでね)

 

後ろでひそひそ話していた木場とセージが、改めて触手丸に捕まっている皆に向き直った。

ま、まさか……やめろ! やめてくれ!!

 

「……燃えろ」

 

「イッセーには悪いが、こいつの力にも慣れたいんでな!」

 

PROMOTION-ROOK!!

 

俺の悩みを他所に、木場は炎の剣で触手丸を斬ろうとし

セージは力ずくで触手丸を引きちぎろうとしている。

しかもお前、昇格(プロモーション)までして殺る気満々じゃねぇか!

やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇ!!

 

しかし、触手丸の方もただやられるわけには行かないとばかりに抵抗している。

いいぞ、お前はやれば出来る奴なんだ触手丸!

 

……でも野郎に絡み付いても全然絵的に嬉しくないな。

向こうも同意見なのか、あっさりと抵抗が弱まり、皆は殆ど解放されている。

しかし諦めない強い意志を持った触手が何本か、未だに食らいついている。

触手丸、お前はそんなにガッツがあるのに……なんでみんな認めてくれないんだ!?

 

MEMORISE!!

 

今のは確か、セージの神器が何かを記録した音声。

このタイミングで何を記録したんだ?

状況的に、ある考えを抱いたのか部長がセージに非難の目を向けていた。

しかし、それが部長の不機嫌が伝播していたのか不機嫌なセージを怒らせたようで

セージは部長に対してまたネチネチと嫌味を言うことになった。

 

……お前、本当に眷属だよな?

 

「……前もって言っておきますが、確かに記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)には録画再生機能はあります。

 しかし今ここでそれを使う事へのメリットとリスクくらいは天秤にかけられますが。

 今は取り込み中ですので、どうしてもというのであれば後ほど検査されれば良いかと。

 

 ……それより、貴女主を僭称されるのでしたら己の部下くらい少しは信用したらどうですか。

 それでは、まだ害獣駆除が残ってますのでこの話はこれにて」

 

「わ、わかったわよ……ったく、なんで『(キング)』の私が

 『兵士(ポーン)』に嫌味を言われなきゃならないのよ」

 

「それにスラ太郎も触手丸も害獣じゃない、俺の仲間だ!!」

 

部長への嫌味もさることながら、俺の魂の仲間である触手丸とスラ太郎を

害獣呼ばわりされたのには流石にカチンと来た。

俺は思わず、セージに殴りかかろうとした矢先。

アーシアの叫びで俺の拳は止められたのだ。

 

「イッセーさん、セージさんっ! 喧嘩はだめですっ!!」

 

その叫びが引鉄になったのか。遠くから何かが羽ばたくような音が聞こえる。

それと同時に雷鳴が轟き、アーシアを拘束していた触手丸が焼き払われる。

 

「あ、朱乃さんっ! あんまりですっ!! 俺は……俺はこいつらと……」

 

「あら? 私は何もしてませんわよ? と言うより、できないと言った方が正しいですわね」

 

俺はつい、雷と言うことで朱乃さんがやったのかと思った。

しかし、朱乃さんもまだ触手丸に捕まっている。触手丸の粘液を帯びた身体(?)が

朱乃さんの肌の上を這いずり回っている。いいぞ触手丸!

 

「イッセー君、熱心なのはいいけれどあなたはどっちの味方なのかしら?」

 

「すみません朱乃さん……俺は、俺は全てのおっぱいの味方ですっ!!」

 

そう。今この状況においては、スラ太郎と触手丸こそが正義!

あいつらの邪魔をするものは全て悪だ!

だから、だから俺は……

 

ごめんアーシア! 俺は、俺は自分が正しいと思ったことのために戦う!!

 

BOOST!!

 

「セージぃぃぃぃ!! ならお前だろぉぉぉぉぉ!! これ以上邪魔すんなぁぁぁぁぁ!!」

 

「イッセー君!?」

 

「イッセーさん、やめてください!!」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動させ、セージを抑え込みにかかる。

その状況に皆驚き、俺達はあっという間に注目を集めることになる。

 

「落ち着けイッセー! やったのは奴だ!」

 

そう言ってセージが指し示した先には、己の力を誇示するかのように

ドヤ顔をしている(ように見えた)蒼雷龍がいた。

 

こ、こいつが……こいつがやったのか!?

状況を把握するよりも先に、蒼雷龍は他のみんなに絡んでいる触手も焼き払う。

ああっ、触手丸があああああっ!!

 

「お、おのれ蒼雷龍!! お前のせいで俺の仲間がみんな殺されてしまった!!」

 

きっと、今の俺の背後には物凄いオーラが渦巻いていたと思う。

表現するなら、でかい扇風機でも持ってきたかのような。

怒りに任せ、俺はセージから蒼雷龍へとターゲットを変える。

しかし、奴は俺の一撃を難なくかわし、部長や朱乃さん、小猫ちゃんにまとわりつこうとしている

新しい触手まで焼き切ってしまった。

 

あ、ああ……お、俺の……俺の使い魔(予定)がああああああっ!!

 

「セージ! 俺に憑け! この……この蒼雷龍だけは絶対にゆるさねぇ!!

 俺とお前の力なら、こんな奴は一捻りだ! 早くしろ、セージ!!」

 

「……あの件に関しては俺が悪かったが、それと今のシンクロ要請は

 無関係だと思いたいぞ……わかったよ、やるだけやってみるよ……はぁ」

 

DEMOTION!!

 

セージはすっごく嫌そうにしながらも俺に憑依した。

よし、これからあの力でこの蒼雷龍をぶっ潰す!!

 

行くぜセージ! 赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)だ!!

 

ERROR!!

 

え、エラー!? くそっ、なんでだ!

俺はあいつを、あいつを倒さなきゃいけないのに!!

スラ太郎と、触手丸の敵を取らなきゃいけないのに!!

セージ、何してるんだ! 早く俺にあの力をくれ!!

 

「セージ、聞こえないのか!? 赤龍帝の激情鎧だ! 準備しろ!!」

 

『無茶言わないでくれ。あの時はお前が気絶ないし心神喪失状態だったから出来たに過ぎない。

 そもそも、こうも俺達の心がバラバラじゃアレどころか普通のシンクロすら困難だぞ?

 と言うわけで俺は離れる。これ以上お前に憑いていたら、冗談抜きで吸収されそうだからな』

 

『俺からもお勧めしないぞ。そもそもお前、お前一人じゃ禁手にも至ってないだろうが。

 あんな反則上等な力の出し方、お前が認めても俺は認めんぞ』

 

せ、セージ! この薄情者め! おまけにドライグまで拒否しやがった!

こうなったら……俺だけであの蒼雷龍を叩き潰す! 覚悟しやがれ!!

赤龍帝の激情鎧がダメなら、赤龍帝の籠手は今までどおり使えるってことだよな!?

 

BOOST!!

 

「よし、やれるじゃないか赤龍帝の籠手! さあ蒼雷龍! 赤龍帝の怒りを思い知りやがれ!!」

 

『……俺は別に怒っちゃいないんだが』

 

ドライグのボヤキを聞き流し、そこからは俺と蒼雷龍の追いかけっこが始まった。

きっと周りからはそう見えたのかもしれないが、俺にしてみれば仲間の仇だ。

そんな微笑ましいものじゃない。

 

今なら、俺を乗っ取ったセージの気持ちが少しだけ分かる気がする。

 

BOOST!!

 

二回目の倍加! まだだ……まだこれだけじゃあの蒼雷龍を倒すには足りない!

それにあいつはすばしっこすぎる! このままじゃ追いつけない!

くそっ、セージみたいに足に赤龍帝の籠手を移せたなら!

 

セージ……セージ?

そういや、あいつ速い相手に対する戦い方を言ってた気がするが……

 

BOOST!!

 

確か、あいつが言うには「向こうが突っ込んでくるのを待ち構えろ」って言ってたような……。

けど、あいつは雷を自在に操るんだ! 悠長なことをやってたら負ける!!

とっ捕まえて、この赤龍帝の籠手でボコボコにしてやる!!

 

しかし、結局俺が蒼雷龍に追いつくことは出来ず、ただ徒に体力をすり減らすだけだったのは

周囲にはきっと分かっていたことだろう。それを知らぬは俺ばかり、だ。

 

BOOST!!

 

俺と蒼雷龍の追いかけっこも、段々とコツがつかめてきた。

少しずつではあるが、追い詰めることができてきた気がする。

そうだ、このまま続ければいずれはお前を……お前をッ!!

 

 

スラ太郎、触手丸。見ていてくれ。今、この赤龍帝がお前達の仇を……取るッ!!

 

 

俺の左手が蒼雷龍の尻尾を掴んだと同時に、またしても悲鳴が響き渡る。

思わず振り向くと、今度は俺の洋服破壊を食らったかのように

へたり込んでいるオカ研女子の皆がいた。

 

……あ、セージのモーフィングの時間が切れたのか。

 

「セージっ! 何とかしなさいっ!!」

 

「……人使いの荒いことで。そう来ると思って、アレからちまちま服をこさえてましたよ。

 いやあ調べ物をしながらだからしんどかった。繰り返せば粗方の物は作れますけど……。

 もう俺も疲れたんで、これ以上は出来ませんよ?」

 

そう言ってセージが手渡したのはまたまた葉っぱデザインのキャミソールにショートパンツ。

露出度は相当高い。心なしか、全裸よりもエロく見えるほどだ。

今度はセージも面倒だったのか、皆おそろいのデザインである。

サイズの調整も甘かったのか、小猫ちゃんはやや緩めで

部長や朱乃さんはかなりぱっつんぱっつんだ。

どこが、はあえて言うまでもなかろうよ。

 

そして、それに見とれてしまったのは俺の最大の失態であった。

 

「ガー!」

 

尻尾を捕まれたことで不機嫌になっていた蒼雷龍の雷をモロに浴び

俺はそのまま気絶してしまったのだ……。

 

――――

 

次に俺が目を覚ましたのは、オカ研の部室。

ふと見ると、アーシアの隣にあの蒼雷龍がいるじゃないか。

そっか。アーシアが結局使い魔にしたのか。

 

「……色々騒動はあったけど、何とか使い魔の確保には成功したわね」

 

「あの部長、俺まだ使い魔捕まえてませんけど……」

 

部長が何やら締めようとしていたので、俺は慌ててストップをかけた。

触手丸もスラ太郎も失ってしまったが、それと使い魔を捕まえるのはまた別問題だ。

俺はまだ、使い魔を捕まえてない。

 

「イッセー。悪いのだけど、まだあなたには使い魔は早かったわ。

 その代わり、使い魔が必要な状況になったら私に言いなさい。工面はしてあげるわ」

 

「うーん……チラシ配りも自力でやってますし、まだ俺自身の力が足りないのなら

 まず俺の力を鍛えるまでっすよ。その代わり、また今回のような機会、設けてください」

 

「……ぜ、善処しとくわ」

 

なんてこった。こんなところでも俺の実力不足を思い知らされるなんて。

それならそれで、俺が強くなればいい。

再チャレンジを部長に打診したが、何故か微妙な顔をされた。なんでだよ。

 

俺の実力と言えば、ライザーとの戦いでもおいしいとこはセージが持っていったもんな。

その話をセージにすると、凄い嫌な顔をされたのでもうしていないが。

そんなセージも、使い魔に関しては俺と同じフィールドらしい。つまり……

 

「そうしょげるなイッセー。実は俺も使い魔は捕まえていない」

 

「何っ!? お前もかセージ! 俺達やっぱ仲間だな!!

 ……そうだ! お前スラ太郎や触手丸と遭遇したときに、何か記録してただろ!?

 ぜひ、ぜひ俺にその成果を見せてくれ!!」

 

今思い出した。セージは見たものを再現できる神器の持ち主だ。

ならば、スラ太郎や触手丸も再現できるのではなかろうか。

それに、何やら記録していたような気がする。つまり……またスラ太郎や触手丸に会える!!

それだけで俺は胸がいっぱいになった。

 

「……グレモリー部長。よろしいので?」

 

「イッセーには残酷な結果になるかもしれないけど……仕方ないわ。現実ですもの」

 

セージが部長の許可を得ると、奴は神器を起動させた。

ちょっと距離を置いて、セージはおもむろに左手からカードを引く。

 

……どうでも良いけど、あいつもあいつでカッコつけなところがあるな。カードの引き方とか。

 

EFFECT-MELT!!

 

セージがカードを引いた途端、俺の目の前にあった古本の束があっという間に溶けてなくなった。

……何これ? スラ太郎は? スラ太郎はどうしたんだよ?

 

「おいセージ、スラ太郎はどうしたんだよ?」

 

「……今のがそうだ。どうやら俺の場合『溶かす』イメージだとこうなるらしい。

 危険なんで試してないが、金属相手でも出来ないこともないぞ。多分」

 

おい! マジモンの危険物じゃないか! これのどこがスラ太郎だ!

こんなもんをぶつけたら、服どころか骨まで溶けてなくなっちまうだろ!

スラ太郎はもっとこう、紳士的で……

 

……はっ! 触手丸は!? 俺は嫌な予感がしながらも、恐る恐るセージに聞いてみた。

セージはその返答代わりにと、カードを引く。

 

SOLID-FEELER!!

 

セージの左手から確かに触手は伸びた。スラ太郎のときとは違い、動きは確かに触手丸のそれだ!

セージ、やれば出来るじゃないか!

 

……しかしそれは、俺の早合点であることをすぐに思い知らされることになった。

 

「……で、こいつはいつになったら女の子の分泌液をすするんだ?」

 

「は? そんな機能、あるわけないだろ」

 

俺はわが耳を疑った。アホか! 触手丸のアイデンティティを再現しないなんて

お前は何を考えてるんだ!!

 

意外だった。セージがここまでロマンの分からない奴だったなんて!!

 

「じゃ、じゃあ男の……」

 

「それもない。割と自由に動かせるんで、遠くのものを取ったりするときに凄い便利だぞこれ。

 後は離れた相手の捕縛も出来るし、ワイヤーアクションに電撃だって流せる。

 いやあ、いいカードが手に入った。使い魔が手に入らなくても、十分釣りが来る。

 感謝しますよ、グレモリー部長」

 

「そ、そう。気に入ってもらえて何よりだわ」

 

木場のありえない想像をさらりと流しつつ、セージは講釈をたれていた。

要はセージの意のままに動かせるって事だが……こんな……こんなの、触手丸じゃないやい!!

このあまりにもあまりな現実を前に、俺は思わず叫んでいた。

 

「バカヤロウ! これじゃ触手丸じゃなくて触手が生えたセージだろうが!

 俺が探してるのはそうじゃなくて……」

 

「そう言われてもな……」

 

「イッセー君、諦めは肝心だよ?」

 

「……往生際の悪いスケベ」

 

この突きつけられた現実を前に、俺はただ膝を地に崩れ落ちるしかなかった……

アーシアが慰めてくれるが、その隣にいる蒼雷龍が気になってアーシアの声が耳に入らない。

しかもよく見ると「ざまあ見ろ」っていってるような顔つきだ。

殴りかかろうかとも思ったが、アーシアの使い魔である以上はあまり手荒な真似は出来ないし

正直、そんな気力も沸かなかった。

 

 

結局、今回の使い魔ゲットの旅は俺の一人負けになってしまった。

でもいいんだ。俺はそれ以上に凄いお宝を目の当たりに出来たのだから。

それにセージに服飾のセンスがあるとは思わなかった。

今度はあいつをうまく誘導して、是非もう一度あのお宝を堪能したいもんだ。




ちょっとバランス配分が悪くなりましたが
使い魔ゲット編はあまり原作と変わらずに終了です。

次回からは原作三巻部分に相当すると思います。
既に原作から事態が悪化しているため
かなり原作の原型を留めなくなると思います。


ラッセーは立ち位置的にうる星やつらにおけるテンちゃんポジではなかろうかと
勝手に想像してたりします。あれは火吹いてましたが。
作中蒼雷龍の命名シーンは省かれていますが、原作通りラッセーになってます。

gdgd防止のために一部没にしたネタもありますが
それでもgdgdになってる不具合。


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月光校庭のエクスカリバー
Soul25. 探し物、見つかりました。


新章突入です。
そして今回はちょっぴり最初からクライマックスだったりします。


 

――6月初旬。梅雨を目前に控えた頃。

PM22:30、某ショッピングセンター、駒王店付近。

 

 

俺、歩藤誠二は偶然にも数体のはぐれ悪魔と遭遇。通りがかった一般人を襲おうとしていたため

グレモリー部長らの到着を待たずに神器(セイクリッド・ギア)を起動、戦闘に入る。

改めて言ってはいるが、割といつもの事だったりする。

実際、最近夜の通り魔事件が続発していたりするのだ。

 

……いつぞやグレモリー部長に言った件、三日坊主だったか。

 

BOOST!!

BOOT!!

 

「全速力でここから離れるんだ、早く!」

 

通行人が逃げ去るのを確認した後、俺ははぐれ悪魔に向き直る。

む。この灰色の外殻は……

 

以前、俺が虹川さんのファーストライブのときに戦ったはぐれ悪魔だ。

確か悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の拒絶反応で変異した転生悪魔が主の元を追われ、はぐれになった奴ら

……だったはずだ。別ルートで悪魔の駒による変異を遂げた種なのか

あるいはこいつらが持つ毒によってこの姿になってしまった種なのか判別はつかないが

まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

ショッピングセンターは既に閉店したとは言え、まだ従業員が出てくる可能性がある。

通行人に被害を出すなど、絶対にあってはならない。

そのためにも、速やかにこいつらを殲滅する。

連絡はしたとは言え、いちいちグレモリー部長を待っていられるか!

 

「……実体化してる以上、こんな時間に高校生がうろついている訳ないものな。

 さっさと片付けて、俺もお暇させてもらおうか!」

 

SOLID-FEELER!!

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

短期決戦。そのために俺は右手に光剣、左手に触手を実体化。

左手の触手で相手を引き寄せ、右手の光剣で突き刺す。

光の槍では出来ない。相変わらず、素手どころか龍帝の義肢(イミテーション・ギア)越しでも触れると痛いからだ。

 

「捕らえる!!」

 

左手をはぐれ悪魔めがけてかざす。それを合図に、俺の左手からは数本の触手が伸び

あっという間にはぐれ悪魔をまとめて捕らえる。そのまま触手を巻きつけ、今度は引き寄せる。

思いっきり引っ張られる形で、はぐれ悪魔の集団はこっちに向かって飛んでくる。

 

触手による拘束が解かれても、彼らの意思に反した動きを強要され、引き寄せられている。

つまり、今彼らは身体の自由が利いていない。

そしてそこに、俺が光剣を携えて待ち構えているのだ。

 

……そう、答えは一つ。

 

「ぃやああああああっ!!」

 

気合一閃。光剣の出力を上げ、はぐれ悪魔の腹めがけて光剣を突き刺す。

彼らの弱点は頭だが、この場合は腹を狙った方が命中率に優れるだろうと判断したのだ。

読みどおり、まとめて串刺しになる形ではぐれ悪魔は光剣を突き立てられた。

 

止めとばかりに、俺はさらに光剣の出力を上げる。

体内に流れ込む光力に耐え切れなくなったのか、はぐれ悪魔は軒並み爆発。

相手の残存戦力はゼロ。交戦経験のある相手とは言え

俺一人ではぐれ悪魔の殲滅に成功したのだ。

 

 

普通なら喜ぶべきところだが、今の戦い方で少し、嫌なことを思い出した。

一、二週間前に起きたなんたらゲームでの戦いだ。

俺はあの時も、大筋は異なるがこのようにして敵を撃退した。

今回は人助けの範疇に納まっている(と、思いたい)が、あの時は完全な私闘だった。

私闘で他人――悪魔とは言え――を殺していいものか。俺が思うに答えはノーだ。

 

……いや、いつかはやらなければならない時が来るのかもしれないのだが。

願わくばそんなこと、起きてほしくはないものだ。たとえ相手が誰であろうとも。

 

……その事態が起こりうる、最大の懸念は対リアス・グレモリーなのだが。

俺が俺――宮本成二に戻るには、最悪グレモリー部長や

その眷属と戦わなければならないかもしれない。

 

もしそうなった時、俺は俺に戻れるのだろうか。

それとも彼らとの戦いを避け、俺に戻ることを諦めるのだろうか。

 

……いや、今その事を考えるのはよそう。折角俺の身体の在り処が分かったのだ。

俺の身体を取り戻す。そして、俺は人間に戻る。その達成はもう目前なんだ。

 

 

ふと、俺の左手の神器――記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のレーダーが警告音を発する。

誰かの気配を察知したらしい。新手のはぐれ悪魔かと思い、周囲を見渡すが誰もいない。

 

「……誰だ!?」

 

辺りは静まり返っている。この辺りは裏路地に入っており、遠くには車のヘッドライトや

表通りの街灯の光が夜の闇の中で激しく主張をしている。人間の世界であるという主張を。

それに対し、この辺りは薄暗く、先ほどまでの戦闘と相まって

ここが人ならざるものの世界であるかのような、そんな雰囲気さえ漂わせている。

そんな中に忍ぶ気配。到底、人間のものではあるまい。

 

さっき警告音を発したレーダーも、既に沈黙している。動作不良なのだろうか?

 

「いない……幽霊、って訳でも無さそうだな。そもそも、俺には幽霊は見える」

 

俺自身が幽霊に近い存在であるが故に、幽霊は見える。

それでも姿を現さないのは、余程姿を消すのがうまい幽霊か、或いはそれ以外か。

姿を見せぬ何者かについて思案をめぐらせていると

遠くからサイレンの音がこちらに向かってくる。

 

マズい。さっき逃げた人が警察を呼んだのかもしれない。

これ以上ここにいたら、こっちが職質されてしまう。それは御免だ。

 

 

俺は実体化を解き霊体に戻り、この辺りから逃げるように去っていった。

勿論、このすぐ近くで目を光らせていた存在になど、気付いているはずもなかった。

 

――――

 

――ショッピングモール付近でのはぐれ悪魔騒動の翌日。

PM15:48、駒王総合病院付近。

 

「なぁセージ。寄り道は構わないけどよ、今日は部長が俺んちに来るんだ。

 だからさっさと用事を終わらせちまおうぜ」

 

『……怪しまれないために、親御さんから買出しの依頼を引き受けさせたんだろうが。

 これで、ある程度の時間の都合はついた。後はさっさと行くぞ』

 

授業が終わった後、俺はイッセーを誘導してこの場所に来ていた。

当たり前だが、授業が終わればすぐに部活動だ。

そして今日は何故だかイッセーの家でやるらしい。

 

曰く、旧校舎の大掃除を行うためらしいが、だったら何でイッセーの家なんだ?

全く以ってその意図が読めん。まあ、どうでもいいことをあれこれ詮索するのもつまらないが。

 

そんな状況なので、イッセーをこの場に差し向けるには少々の工夫が必要になった。

それが親御さんに買出しの依頼をさせる、というものだ。

正当な理由があれば、多少遅れても文句はあるまい。

 

ダメもとで話を振らせてみたが、運よく買い忘れがあったり、グレモリー部長らに出す

お茶や茶菓子の確保という名目で買出しの依頼は無事受注できた。

これは口実。カモフラージュとは言え蔑ろにもできないので、その買出しは既に済ませている。

 

 

そこまで突発的ながらも用意周到に策を弄した、その目的はただ一つ。

 

――駒王総合病院にあるらしい、俺の身体を取り戻す。

 

俺は本来、宮本成二という人間なのだが

今は事故で歩藤誠二と言う名の悪魔兼霊魂と化している。

そんな俺だが、俺の人間の身体がようやく見つかりそうなのだ。

 

駒王総合病院。宮本成二の見舞いに行った松田と元浜によれば、そこに俺の身体があるらしい。

考えてみれば、救急車で運ばれたのだから病院にあるのは当たり前なのだが。

どこの病院か、と言うのは最近になってようやく知ることができた。

病院と言っても、大きいのから小さいのまで色々だからだ。

 

と言うわけで、早速駒王総合病院にやって来たのだが――

 

『……やはり悪魔が元締めの町なだけはある。病院に除霊札が貼られているとは。

 となると、入る方法を考えないとな……』

 

しかし随分とピンポイントで準備してくれたものだ。

神社仏閣教会の類は悪魔出禁なのはまあわかる。

しかし、病院も出禁になるものだろうか。

そうなれば、イッセーが俺の見舞いに来ないわけも分かるのだが。

 

……いや、そうじゃない。ここに除霊札があるのは偶然じゃなく

誰かが作為的にやったことだろう。犯人探しをするつもりはないので

ただ邪魔なものがあるとだけ認識しておくことにした。

 

……それ以上に、こんなことが出来る奴を俺はそれほど知らないってのもある。

そしてそれは、願わくば犯人であって欲しくないと思う人物だからだ。

……そこまでして、俺の身体を取り戻す邪魔をしたいのか?

俺の身体を取り戻されると、何か不具合でもあるのか? それとも……?

 

まあ、この件については情報が少なすぎるし、身体を取り戻すことに比べれば些細なことだ。

いらぬ事を考えるのはよそう、うん。

 

 

……さて。以前、イッセーに憑いてあれこれ実験したことがある。

五感については全て共有できるのは幾度となく証明されている。

その主となるのはイッセーの側だ。イッセーは悪魔ではあるが幽霊ではない。

 

……ならば、除霊札をパスできるのではないか?

そう思い、俺はイッセーを半ば強引に俺――宮本成二の見舞いに行かせることにした。

 

「なぁセージ。こうして毎日顔を突き合わせているのに見舞いに行くってやっぱ変じゃないか?」

 

『俺らにしてみればな。だが、松田と元浜はかなり訝しんでいたぞ。

 「イッセーが全然セージの見舞いに行かない」ってな。

 顔だけでも出しておけ。あの二人に、要らん疑いをもたれたくなかったらな』

 

「あ。そ、そっか。あいつらは俺が悪魔だってことや、お前の事も知らないんだもんな」

 

そう。対外的には兵藤一誠は普通の男子高校生だし、宮本成二は未だ重体。

歩藤誠二などと言うものは存在さえしない。それがあるべき姿なのだ。

悪魔だ神器だ赤龍帝だなどと言っている、そっちのほうが不自然……のはずだ。

 

『分かったら頼むぞ。いくら口実は作ったとは言え、あまり遅いとグレモリー部長に怪しまれる。

 そうでなくとも、最近何やらマークされている気がするんだ』

 

「部長がお前を? いくらなんでも考えすぎだろ」

 

イッセーはそう言うが、俺にはいくらかの心当たりがあった。

 

 

一つ。相変わらず公園や橋の下で寝ている俺だが、最近どうも気配を感じる。

お陰で今一つ良質な睡眠が取れないため、霊体でいる時間を増やしている。

こうしてイッセーに憑いている間も、気を抜くと寝そうだ。

 

そしてもう一つ。以前、部活が終わった後オカ研の部室から何やら話し声がしていたのを聞いた。

話の内容は全て把握できなかったが、その日を境に色々不可解な事が起きている。

昨日のはぐれ悪魔戦の後の不可解なレーダーの誤作動も、関連しているかもしれない。

 

 

これは考えすぎかもしれないが、グレモリー家の誰かが俺を監視しているのではなかろうか、と。

何せ、元婚約相手を半殺しにし、グレモリー家に思いっきり泥を塗りたくった、その実行犯だ。

なんらかの報復がきても、おかしくはあるまい。

 

……それを甘んじて受けるほどお人よしでもないし

事の発端は他でもない、グレモリー部長本人だったりするが。

 

あれこれ考えている間に、俺達は駒王総合病院までたどり着いた。

早速、俺がここに単独で入れなかった理由――除霊札の存在について

イッセーに解説しようとするが、気付いたらもう入り口の自動ドアをくぐっていた。

 

……一応、言うだけ言っておくか。

 

『最初に言っておく。ここには除霊の結界が張られている。

 悪魔よけまではないとは思うが、俺が憑いている事でイッセー、お前に悪影響が出たらすまん。

 

 ……と言おうと思ったが、どうやら大丈夫そうだな』

 

「後から言うなよ!? お前のせいで俺まで丸焼きになったらどうするつもりだったんだよ!?」

 

『すまんすまん。結果オーライでよろしく頼む。

 

 ……だが一つ忠告しとくぞ。実戦で今みたいな真似はやめてくれ。

 そうでなくともお前はこの間だって……』

 

「わーった、わーった。お説教は勘弁してくれよ」

 

何はともあれ、作戦は大成功。ここからが本番だ。

イッセーは宮本成二の見舞いに。俺は俺の身体を取り戻す。

病室は松田と元浜から聞き出した。ここはもう病棟。もう目と鼻の先だ。

 

……ついに、ついに戻ってくるんだ! 俺の身体!!

 

『イッセー』

 

「なんだよセージ」

 

『……ありがとう。お前がいなければ、俺の身体は見つからなかった』

 

「なんだよいきなり。っつか、そういう礼ならお前がちゃんとお前の身体に戻ってからにしろよ」

 

『……それもそうだな』

 

つい、こみ上げてしまったか。何せ、待ちに待った俺の身体を取り戻せるのだ。

ここで感極まらなくて、むしろどうすると言うんだ。

 

俺はイッセーをナビゲートしながら、俺の身体があるという病室まで後一歩のところまで来た。

通路を曲がった先で、死角から出てきた人とぶつかってしまう。

いかん、焦ったか!

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!? だ、大丈夫?」

 

目の前にいたのは、俺達よりいくらか年上の女性。

アイボリー色のワンピースに、長い黒髪が映える女性。

イッセーの奴が目線を向けているお陰で見えてしまうのだが、胸も大きめだ。

ふと視線を逸らした先に見えた左手の薬指は、銀色に輝いている。

 

……あれ? この人って……

 

「大丈夫っす。すみません、俺らも急いでて……。そっちこそ大丈夫ですか?」

 

「ごめんなさい、ぼーっとしてたわ。私は平気。

 もし痛くなったら、ここ病院だから言いなさいね?」

 

「は、はあ……」

 

間違いない。あの人は……あの時、夢で見た人。

なんで……なんで今の今まで忘れてたんだよ! こんな大事なことを!!

俺の……俺の……ある一点においては、俺の身体と同じくらい

いやそれ以上に大事なことなのに!!

 

俺は自分の身体をまだ取り戻していないことも忘れて、思わず彼女を追いかけてしまった。

 

――いくら再会を心待ちにしていたとは言え。今の状態はあまりにも迂闊だった。

 

『姉さん! 明日香姉さん! 俺だよ!』

 

「……?」

 

今まで何度同じ失敗をしてきたのか。今の俺は、宮本成二じゃないというのに。

歩藤誠二という名の、実体を持たず、宮本成二の記憶と人格だけを持った霊魂だと言うのに。

普通の人に、見えるわけがないというのに。

 

『ここだよ! 俺はここにいるよ!!』

 

「声が聞こえるけど……変ねぇ?」

 

けれど、俺は叫ばずにはいられなかった。

俺の身体と同じくらい、あるいはある意味それ以上に、再会を待ち望んだ人なのだから。

 

何せ、俺の――

 

 

 

「……病院だし、出るのかしらね?」

 

『待って! 俺はここ、ここにいるんだって!!』

 

 

 

俺の、俺の好きな人なのに――

 

 

『待って! 姉さん、待っ――』

 

 

 

結局、当たり前のことながらも彼女は俺に気付くことなくその場を去ってしまった。

声は届いているのに、俺だと言うことを伝えられないなんて。

 

 

「おいセージ、どうしたんだよ? ここ病院だぜ? もうちょっと落ち着けよ?」

 

『これが落ち着いて……!! い、いや、そうだな……。

 すまない。ちょっと、思わず身体が動いてしまったんだ……。

 理由は……また後で落ち着いたら話す……』

 

結局、病棟は謎の声が聞こえたと一時騒然とし、俺達も面会どころではないと

追い返される形になってしまった……

 

――――

 

俺達は病院にこれ以上いても仕方ないと言うことで帰路についていた。

 

俺の迂闊な行動で、折角のチャンスを不意にしてしまった。

しかし、言い訳がましいがいきなり好きな人に出会ったのだ。

それも、ここ数ヶ月会っていない人に。

 

それについても色々あるし、そもそも姉さんは――

 

「まったく。お前も色々無茶するよな。折角身体を取り返すチャンスだったのに。

 なあ、あの人とお前、どういう関係なんだよ? 姉さんって言ってたけど……。

 あれだけ拘ってた身体をほっぽって、しかも今の状態でうかつに他人に話しかけたら

 騒ぎになることくらい、お前よく知ってるだろ?

 

 それに、宮本成二には姉さんはいないんじゃなかったか?」

 

『……ああ、そのとおりだ。弁明するつもりはないが

 今はまだ、この件については聞かないでくれないか……?』

 

イッセーには悪いが、俺は姉さんのことを他人には言いたくない。

姉さんとの約束事の一つでもある。姉さんとの約束は破りたくない。

 

「……まあ、いいけどよ。それじゃ、そろそろ帰ろうぜ。

 いい加減帰らないと、部長が待ってるし」

 

『……すまないが、今日は不参加にさせてくれないか?

 部長にはお前から言っておいてほしい……頼む』

 

今の気分で、グレモリー部長と顔を合わせたくはない。

俺自身、実のところ頭の整理がついていないのだ。

しかも、今グレモリー部長は結構大変なことになっている。まあそうだろうな。

その皺寄せが、こっちに来ないとも限らないからだ。

 

「あっ、おいセージ!」

 

イッセーの制止にも耳を傾けず、俺はイッセーの精神の中で五感を切り

引きこもる準備を始める。字面に起こすと何だか情けない話だが

実際そうなのだから仕方がない。

 

暫くは一人でいたいのだ。事あるたびに絡んでくるくせに

肝心なことには何一つ触れないグレモリー部長とは、今会ったら余計に辛い。

とりあえず、気持ちを落ち着かせようと思った矢先に、まだ共有を切っていない五感で

周囲をふと見ると、いつぞや出くわした黒猫がいた。

 

「おっ、黒猫だ」

 

『黒猫か……っ!? す、すまないがイッセー、ちょっとその黒猫に近寄ってもらえるか?

 ああ、逃げたら別に追わなくても良いから。確かめたいことがある、頼む』

 

「オッケー。ってこいつ、怪我してるぞ!?」

 

しかし、何やら様子がおかしい。動きが鈍いのだ。よく見ると、怪我をしている。

それを放っておけるほど薄情になったつもりはない。

俺はイッセーに頼み、黒猫の近くまで移動してもらった。

近寄っても、黒猫は逃げる素振りを見せない。

 

『これは……イッセー。アーシアさんを呼び出してもらえるか? それと塔城さんを。

 彼女、どうも黒猫を探していたらしい。それがこの黒猫ではないかと思うが、確証がもてない。

 アーシアさんを呼ぶのは言うまでもない、怪我の治療だ。

 悪魔にだって効くんだ、猫に効かない道理はなかろうよ。イッセー、頼む。

 塔城さんの件については、俺の名前を出せば良いだろう』

 

「ああ、ちょっと待ってろよ……もしもし、アーシアか?

 ああ、ちょっと総合病院近くの公園まで来て欲しいんだ。

 変に思うかもしれないけど、猫が怪我してる。その手当てを頼みたいんだ。

 それとセージからの言伝なんだが、小猫ちゃんにも来て欲しいって伝えて欲しいんだ。

 セージが言ってたってことと、黒猫って単語で承諾はしてもらえると思うんだ。

 部活始まってて悪いけど、頼めるか?」

 

電話越しの声だが、アーシアさんは承諾してくれたみたいだ。

塔城さんについても、一緒にいたらしいので来てくれるそうだ。

忙しいタイミングで、悪いことをしたかもしれないが……

猫の容態を考えると、アーシアさんに頼らざるを得ない。この近くに確か獣医は無いからだ。

それに、下手に動かすのも良くないだろう。

 

「それにしてもセージ。お前結構小猫ちゃんと仲良くないか?

 猫探し、頼まれたんだろ?」

 

『……その質問をあえて穿った見方をさせてもらうと、そういう意図は無い。

 頼み事についても、それは俺らの日頃の行いの賜物だろう、エロ龍帝。

 彼女がどう思っているかは、それは俺の与り知るところじゃないがな。

 それに――いや、なんでもない』

 

『……今の命名に悪意を感じるのは気のせいか? 霊魂の』

 

……ああ、やっぱそういう質問が来るか。

別に俺は塔城さんと特別な関係になるつもりは無いんだがなあ。

 

そもそも、俺には明日香姉さんがいる……もう数ヶ月もまともに会ってないし

姉さんは……だけどな。なので、ドライグのぼやきに耳を塞ぎつつ

イッセーの疑問には適当に返しておくことにした。

 

……イッセーの方に似たような質問を返しておくべきだったか?

 

 

結局、引きこもろうと思ったが黒猫の件がある以上はそれもできず

黒猫の容態を見ながら、アーシアさん達を待つことにした。

 

――――

 

待つこと数分。向こうから駆け寄ってくる金髪の少女が見える。

普段ならよく転ぶのがアーシア・アルジェントという子なのだが

そこは塔城さんが手を引いているのか、転ぶことなくこっちの――公園の方にやって来てくれた。

 

「あっ! おーいアーシア、小猫ちゃーん!」

 

「はぁっ、はぁっ……お、お待たせしましたイッセーさん!」

 

『ああ、来てくれたか。この子だけど……アーシアさん、頼めるかな』

 

「……私からもお願いします」

 

アーシアさんは息が整うのを待たずに聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で黒猫の治療を試みる。

思ったとおり、瞬く間に黒猫の怪我は完治した。

 

……しかし、どこで怪我をしたのだろうか。

怪我の度合いから交通事故じゃないだけ、マシだと思いたいが。

もしどこぞのバカが虐待をやっているようなら、然るべき対応を取るべきかもしれないが。

 

俺は基本、はぐれ悪魔以外に悪魔の力を振るわないが

悪事を働く人間には驚かし程度に力を振るうこともやむをえないと考えている。

動物虐待や弱いものいじめ、犯罪を見てみぬ振りなんか出来ないからな。

 

……誰かさん曰く「悪魔の仕事は人助けじゃない」らしいがな。

あの時は従おうと考えていたが、思えばあの時から面従腹背になってた気がしないでもない。

 

「……ふぅ。これで、猫ちゃんの怪我も治りました!」

 

「そっか! よかったなお前! ちゃんとアーシアにお礼言うんだぞ?」

 

『あっ、おいイッセー!』

 

俺の忠告を聞かずに、イッセーは迂闊にも猫の腹を触ろうとしていた。

それを感じ取った黒猫は、イッセーに爪を立て威嚇の体勢を取っている。

 

……ああ、言わんこっちゃ無い。初対面の、しかも人馴れしてるとは言え野良猫の腹を触るなんて

猫の生態にある程度詳しい奴ならやらないミスだ。

 

「いてっ! お、お前何するんだよっ!」

 

「……イッセー先輩が悪いです。猫のおなかは、触っちゃダメです」

 

『ああ。俺もよく昔はやったなあ。

 猫のおなかを触れるのは、長い間一緒にいた飼い猫くらいだぞ?』

 

そう。ある程度本で勉強したとは言え、当時小学生の俺が悪戯心を起こさないはずも無く。

しょっちゅうちょっかいをかけては、遊びにも近いリアルファイトを繰り広げていたのだ。

 

……勿論、猫相手ということは踏まえてのものだが。

最近――と言っても数ヶ月前だが――はうちのも高齢になったからか、あまり反応を示さない。

さわり心地はいいのだが、それはそれでつまらん。

 

 

イッセーが引っかかれただけならいいのだが、黒猫はそのままどこかに行ってしまった。

ね、猫だし仕方ないが……。これが普通の野良だったらそのままにしてるが、あの子は確か……

 

『あっ……! 塔城さん。この間言ってた猫、あの子でよかったか?

 だとしたらすまない、迂闊だった……』

 

「……間違いないです。でも、無事だって分かればそれで良いです」

 

「えっ!? あの黒猫、小猫ちゃんのだったの!? ご、ごめん! 俺、知らなくて……」

 

後悔先に立たず。起きたものは仕方がない。

猫の行動範囲ってのものはそれほど広くないし、多分また見つかるだろう。

怪我の原因が分からないのが気がかりだが……

猫の喧嘩って、アーシアさんを呼ばなければならないほど

酷いものになるって気がしないのだが。それだけが不安だ。

 

こういう時、使い魔でも飛ばして調べられれば良いんだが……

無いものねだりをしても仕方がない。

こればっかりは触手や溶解スライムではどうにもならないし。

 

「行っちゃいましたね……ってそうだイッセーさん!

 もう部活始まってますよ!」

 

「……こっちの用事は済みました。そっちも済んだのなら、早く戻りましょう」

 

「ああ、用事は済んでるぜ……で、どうするセージ? 参加するのか?」

 

『いや、さっきも言ったように今日はやめとく。少し疲れたから、眠らせてくれ。

 寝るから、五感の共有は切るぞ? それじゃ、おやすみ……』

 

言うだけ言って、俺はイッセーの精神世界――オカ研の部室を模した空間の中――で

机に突っ伏して、眠ることにした。

 

 

目覚めたのは部活が終わってから。途中で黒猫の対応をしていた件も伝わっていたが

グレモリー部長はいい顔をしなかったそうだ。粗方

 

「イッセーのお母様の言伝ならまだ良いわ。けれど野良の黒猫を助けるために

 私の集合の指示を蔑ろにするのは、眷族としてはあまり褒められた行いじゃないわね」

 

とかのたまったんだろう、と言うのは考えすぎだろうか。良いじゃないか、動物救助。

うろ覚えの宮本の記憶だが、川に落ちた犬を助けて遅刻したことが

あったような、なかったような。

元浜をカツアゲから助けたのは、割とはっきり覚えているんだがな。

 

さて、そこから先の顛末をイッセーから聞いたのだが

何やらこっちはこっちで大変なことが起きていたらしい。曰く――

 

 

 

――木場祐斗が、部活中に血相を変えて飛び出し、現在も消息不明である。

と。




第一章途中でチラッと出た人が再登場してます。
セージが熱を上げてますが、左手の薬指の銀色……

セージがグレイフィアさん(人妻)に反応していたのは、そういうことでした。


そのほか、インベスや黒猫など第一章の登場人物が再登場してます。
サブタイ通り、探し物は色々と見つかってます。


原作と違い、この時点で木場が飛び出してます。
普通に幽霊と対話できる人がいるので、原作とは違うアプローチで
木場の過去に迫ることになると思います。


街のパトロールを三日坊主にしたり、木場が飛び出しても対応しなかった誰かさんが
相変わらずアレなのは、ちょっと原作からデフォルメした無能描写……だと思いたいです。


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Soul26. 騎士は語らず。されど死者はこう語った。

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。

仮面ライダー555はおよそ関係ありませんが
過日亡くなられた泉政行氏のご冥福を謹んでお祈りいたします。


閑話休題。
今回少し長いです。
後、匙が少し嫌な奴になってます。ファンの方は先に謝っておきます。
ごめんなさい。


夜。俺は霊体になって町を漂っている。

これ自体は別段珍しいことではないのだが、今回は目的がある。

 

――木場祐斗の捜索。

 

今日、イッセーの家で行われた部活動の最中、何かを見つけたのか

血相を変えて飛び出してしまったらしい。

 

それから、グレモリー部長の呼びかけにも応じずこうして捜索が始まったのだ。

 

 

――らしくない。

 

 

それが、今回の事件に対する俺の感想だ。

俺同様、木場は木場で何かしらを抱えていたのだろう。

だが、ここまでの無茶をするとは思わなかった。

これは、最悪記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のデータロックを解除する必要があるかもしれない。

 

 

そもそも、記録再生大図鑑は相手の情報を筒抜けにすることも出来る神器(セイクリッド・ギア)だ。

それ故に、一部データには予めロックがかけられている。

やろうと思えば、そうしたロックは割と簡単に解除が可能である。

当然、プライバシー保護の観点は真っ向からそれを否定することになるため

今まで俺もやったことがない。

 

もし飛び出した原因がロックされたデータにあるのならば、手がかりは多い方がいい。

手遅れになってしまうよりは、よっぽどマシだろう。

火事の際、扉を蹴破るのにも似ている。

 

とは言え、片っ端からデータロックを解除するのは非効率だし

プライバシーを片っ端から読み漁ると言う行為も如何な物かと思う。

 

 

そう考えながら漂っていると、遠くに光が見える。

ネオンとはまた違う輝き――騒霊ライブの光だ。

 

今日は虹川さんらに会う用事はなかったが、相談したいことはあった。

別に今でなくてもよいので、後回しにするつもりだったが……。

 

近くを通りかかったので、ライブ会場を見てみることにした。

 

――――

 

「どうも。今日の調子はどうかな」

 

「あっ、セージさん。お陰さまで好調です」

 

「セージ! もぅ、来るなら来るって言ってよ!」

 

「もちろん聞いていくんだよね? 今日は特別にタダでいいよ」

 

「もうすぐ始まるよ! だから聞いて行ってよ、今日のライブ!」

 

俺の代わりに運営スタッフをやることになった幽霊達に、プラチナチケットとも言うべき

ゼロ番ナンバーのファンクラブ会員証を見せると、楽屋まで通された。

そこで俺は虹川四姉妹に熱烈な歓迎を受けることになった。

 

……何か差し入れを持ってくるべきだったか。

 

実際のところ、俺も探し物で根詰めていたので

気分転換にライブを聞いていくのはアリではないかと思った。

 

 

……相変わらず、感情の起伏が良くも悪くも激しいライブではあったが。

観客に混じって一頻りライブを堪能した後、俺はもう一度楽屋に行ってみることにした。

木場の手がかりを、彼女らが持っているかどうかを確かめるために。

 

一度、オカ研の面子も彼女らのライブを見に来ている。

姿は見えずとも曲は聞こえる。もう一度来ている可能性もあったからだ。

 

 

「――セージの仕事仲間のイケメンさん? 来てないよ?

 あっ、それよりセージ聞いてよ。

 最近瑠奈姉さんにしつこく言い寄ってくる幽霊がいるんだって!」

 

「……ギターを極めたいからって、私に弟子入りを頼んでくるの。

 セージさんも知ってのとおり、私達の楽器は飾りだから、教えられないって言っても

 なかなか納得してくれなくて……」

 

「その噂の幽霊が来たよ?」

 

そう言って芽留が通したのは、ギターを抱え、デニムジャケットに黒のキャップを被った

一見ちゃらんぽらんな青年の幽霊だった。

 

「サンキュー芽留ちゃん。ちゅーか、いい加減俺にギターを教えてくれたっていいじゃねぇかよ。

 俺様今日まで三日も頼みに来てるんだぜ? なあ頼むよ瑠奈ちゃん」

 

「……だから、私からあなたに教えられることは……」

 

「いーや。あのバイオリンの腕。それどころかギターまで操るその技。

 俺様確信したぜ。虹川瑠奈ちゃん! あんたこそ、俺様が捜し求めた逸材!

 ぜひ、ぜひ! 俺様にギターを教えてくれ!」

 

……なるほど。これは確かにしつこいかもしれない。

しかし困った。実は俺も似たようなことを芽留に頼むつもりでいたのだ。

この案件の後では、ちょっと言い出しづらくなってしまったな……。

 

ま、それはさておき。そろそろマネージャーの仕事をしますか。

……今日はオフのつもりだったんだがね。

 

「あの。彼女も困惑しているようなので、今日のところはお引取り願えますか」

 

「お? ちゅーか誰あんた? 俺様が用あるのは瑠奈ちゃんなんだけど。

 ちゅーか、俺様男に用は……」

 

口で説明するよりもゼロ番ナンバーの会員証と、マネージャーとして活動するに当たって

こさえた名刺を同時に提示することにした。

名刺を受け取った幽霊は、驚いた顔をして畏まる。今更過ぎる態度だ。

 

「こ、これは幻のゼロ番に、マネージャー・歩藤……! し、失礼しました!

 ちゅーか、お、俺は訳があって、ギターを教わりたいんです!!」

 

「訳?」

 

「はい、イザイヤって俺達の仲間を探すために、何か手がかりになるものを……って。

 ちゅーか、俺様生前はギターが得意で、よくそのイザイヤって奴にも聞かせてたんすよ。

 けれど、死んじまって幽霊になったら、生前のようにギターが弾けなくなっちまいまして」

 

「それで、瑠奈姉さんに頼み込んでたんだ」

 

なるほど。仲間探しのために手がかりである楽器演奏をする。

しかし、死んでしまったことでうまく演奏ができない。

それで、彼女らに頼み込みに来たってわけか……。

 

話だけ聞けば、断る理由はない。一点を除いて。

 

「そのイザイヤさんとやらに会って、何をなさるおつもりで?

 ……ただの伝言でしたら、俺が承りますが。

 俺は幽霊相手の伝言サービスみたいなものもやってますので」

 

「伝言サービスか……けどなぁ……」

 

「そういえばセージが初めてうちに来たのも、そんなような感じだったよね。懐かしいなぁ」

 

おいおい里莉。まだ二ヶ月弱じゃないか。毎日顔を突き合わせているわけじゃないが

そんなに懐かしむほどの事か? まあ、別に良いけど。

 

「言いたいことは山ほどあるけどよ、あいつ何だか思い詰めてやがるみてぇだからよ。

 『自分一人だけが生き残っちまった』ってな。ちゅーか、そう思い詰められてたら

 俺も友人として、死んでも死にきれない訳。お前さんも幽霊なら、分かるよな?」

 

「俺は幽霊じゃないですが、言いたいことは理解できます」

 

俺は幽霊じゃないとはっきり否定しながら、言っていることには同意しておいた。

死んでも死に切れない、その気持ちはなんとなくだが分かる。

俺は俺で、明日香姉さんを見かけたのにまだまともに声さえかけられない有様だ。

それに、この状態が続けば母さんにも、うちの猫にも申し訳が立たない。

最近でこそ霊魂の状態でいることに慣れているが、友や家族の事を思えば早急に戻るべきだろう。

 

「ちゅーわけだ。だからマネージャーさんからも頼んでくれ!

 俺様に、俺様にギターを弾けるようにしてくれって!」

 

「うぅ……そう言われると心苦しいですが……」

 

まずい。俺がこの幽霊に流され始めて、瑠奈が心細そうに俺を見てくる。

えーっと……この場合、俺はマネージャーとして丁重に断るべきなんだろうな。

代替策、代替策はないものか……

 

俺はとにかく何とかしようと試みた。

その結果が、ただの話の引き伸ばしに過ぎないものであったとしても。

 

「……一つ確認を取りますが、そのイザイヤさんは、この駒王町にいらっしゃるのですか?」

 

「ああ。向こうは俺に気づかなかったけど、遠目で見た後姿は確かにあいつだったぜ」

 

「ふむ……ではこうしましょう。俺は一応実体がありますから、演奏は都合がつけられます。

 それで、あなたが演奏したい曲の楽譜を俺に見せてください。後は俺が練習しますから」

 

元々、楽器の演奏はするつもりだった。しかしそれは今度行われるらしい球技大会の応援のために

芽留からトランペットを教わるつもりで、ギターは予定に入っていない。

実体の件にしたって、一部は本当だが大体嘘だ。

 

「んー、やっぱダメだ。イザイヤの思い詰めっぷりは半端じゃなかった。

 やっぱ俺様が直接、イザイヤの奴に言ってやらないとダメだ」

 

「そうですか……ではこうしましょう。俺がそのイザイヤって人を探すのを手伝います。

 そこで、俺が直接あなたのメッセージを伝えます。それで、このライブ会場に来てもらいます。

 楽器については……瑠奈、楽譜を見せてもらったら、その演奏は出来る?」

 

「教えるのは無理ですけど、私が代わりに演奏するのは出来ます。けど……」

 

「セージ、折角の提案だけどそれはちょっとハードル高いよ。

 知ってのとおり、瑠奈姉さんは心を静める曲は得意だけど、それ以外はてんでダメでしょ?

 もしアップテンポな曲だったら、瑠奈姉さんにはちょっと難しいかもしれないわ。

 それに、曲ってのは弾き手によって性質が大きく変わることもあるんだから。

 まっ、その点私ならどんな曲も完全に再現できるけどねっ!」

 

三女の里莉がえっへんと胸を張ってアピールしている。俺は彼女の特性を知っているので

恐らく彼にアピールしているのだろうが。

 

「……やっぱそれが現実的だよな。わーった。今日は楽譜を持ってきてねぇから

 明日、またここに来るぜ。ちゅーか、今言った事忘れんなよ!?」

 

そんなこんなで、俺はデニムジャケットの幽霊を見送ることにした。

……む、彼にも木場の事を聞けばよかったかもしれないが、ついぞ忘れてしまった。

仕方ない、明日仕切りなおすか。

 

それじゃ、折角ここに来たんだ。今度は俺の話を振るとするか……。

 

「……問題が一段落した所で申し訳ないんだが、実は俺も似たようなことを頼みたかったんだ。

 ああ、俺の場合は今度球技大会があるから、その応援のためにトランペットを教わりたくてな。

 これも話したかもだが、俺は日中実体化できないし

 そもそも今通っている学園に俺はいないことになっている。

 だから、こっそりと霊体の状態でトランペットで応援することにしたんだ。

 そういうわけで芽留、頼めるかな?」

 

「しょうがない、セージの頼みだ! 芽留姉さんが聞いてあげよう!」

 

自分を「姉さん」と言った次女の芽留に、長女の瑠奈が一瞬苦笑いを浮かべていた。

とは言え、瑠奈の変なテンションは毎度の事なので姉妹も俺も特には気に留めてない。

 

ただ、「姉さん」呼びはちょっと……うん。あの人思い出すから勘弁して欲しいかな……。

 

 

その後、なんと俺はトランペットの実体化の訓練から始めることになった。

曲に関しても、今彼女らが実際に演奏しているものを練習用としてやる事になった。

 

その様たるや、まるで吹奏楽部の練習であった……あれ?

その日の特訓はかなり遅くまで続き、やけにハイテンションな芽留に対して

俺は霊体でありながら既にへとへとであった。

 

 

……だが、俺にはまだやるべきことがあった。

虹川姉妹と解散した後、俺は周りに誰もいないことを見計らい、記録再生大図鑑を起動させる。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

「……よし。検索キーワード『イザイヤ』……っと。

 さてさて、何が出てくるやら……ちっ。殆どロックされてるな。これじゃ話にならないな。

 仕方ない、アクセス制限解除。解除対象は当該者の出生、現在。さて、これでどうなる……?

 

 ……っ! こ、これは……!!」

 

あのデニムジャケットの幽霊とは契約こそ交わしていないが

依頼を受けていることに変わりはない。

そのため、ある程度本腰を入れて調べる必要があった。

検索キーワード「イザイヤ」は、殆どのデータにロックがかかっていたが

やむなく俺は一部データのロックを外す事にしたのだ。

その結果、出た資料に俺は目を疑った。何せ……

 

これは、またこっちのデータも調べなければならないか。

 

「……こっちは今はこんなもんでいいか。残りは本人に直接問いただしてやればいい。

 ならば検索キーワード変更『聖剣計画』……っ!!」

 

これも……結論から言おう。あの幽霊、一体生前何やっていたんだ!?

相当やばい計画の関係者じゃないか! それに、ここで出たデータと

イザイヤのデータの照合が正しければ……

 

 

……あの野郎、とんでもない爆弾抱えていやがったのか。

俺よりもある意味とんでもない爆弾じゃないか。

 

やはり、これは俺の胸のうちに秘めておくべきだ。

下手に言いふらしてあいつを刺激するべきじゃない。

それと、俺がこのことを知っていることも、伏せておくべきだろう。

 

……この件、悪魔契約関係なしに改めて受諾するべきだな。あいつのためにも。

そして、この計画の首謀者がまだ生きてやがるなら……胸糞の悪い話だ。

 

――――

 

翌朝。こっそりとイッセーに憑依し、適度に授業を受けながら仮眠を取っていると

休み時間、遠くに木場を見かけた。

一応、学校には顔を出しているのか。それならそれで良いんだが。

無事なら無事でよかったとばかりに、俺は木場に声をかけたのだが……。

 

 

『おはよう木場。聞いたぞ。昨日、いきなり飛び出したんだってな。何があった?』

 

「……顔も出してない君に、言われたくはないかな」

 

「お、おい木場! セージは部室と夜以外は実体化できないから

 顔出せないのは仕方ないだろ!」

 

すまんイッセー。余計な気を使わせたな。確かにイッセーの家はオカ研の部室と違って

俺の実体化は不可能だ。

だが、そんなことよりも木場がここまで棘のある応対をしたのには驚いた。

腹黒い部分があるとは言え、対外的には爽やか系で通っているのに。

 

『いいんだイッセー。それより木場、俺もあまり他人のことは言えないが

 あまり他人に心配をかけるような真似をするのは如何な物かと思うぞ』

 

「……君には関係ないだろう。君も反乱を企んでいるんなら、尚更黙っていて欲しいな」

 

「木場! いい加減にしろよ、セージだって……」

 

廊下でのがなりあいという事を思い出し、騒ぎになる前に慌ててイッセーを制止する。

昨日の行動でも思ったが、全く以ってらしくない。

いや、俺が木場の何を知っているのかといわれるとそれはそれで答えに詰まってしまうのだが。

 

だが、そんな俺でもはっきりと判ることはあった。

 

――こいつ、まるで余裕がない。何かを焦っている……いや、追い詰められている?

やはり、昨日のあのデータ、粗方合っていると見て間違い無さそうだ。

状況に余裕があれば、もう少しカマをかけてみる手も使えたかもしれないが……

この状況で、それはマズいだろう。

 

「分かったら、僕の事はほっといてくれないか。ああ、それから今日は部活休むから。

 イッセー君、部長には君から伝えてくれ。それとセージ君、余計なことはしないでくれよ?」

 

『……そっちの言いたいことは分かった。好きにすればいい』

 

「おい木場! 球技大会近いだろ! 何考えてるんだよ!

 セージも! 黙ってないで木場を止めろよ!」

 

イッセーの叫びに答えることはなく、木場は自分のクラスの教室に戻ってしまった。

俺たちもまた、チャイムが鳴り響いたために教室に戻らざるを得なくなった。

 

木場よ。お前の言いたいことは分かったとは言ったが……

余計なことはしないとは言ってないぞ? ククッ……

 

そして、俺達も授業を受けることになったのだが……。

 

「なあセージ。お前、ちょっと木場の周りを偵察してくれないか?

 あれは絶対何かがある。お前でなくても、それ位わかるさ。だから……」

 

『それは俺も同意見だが……イッセー。本来授業中に無駄口を叩くのはよくないのだが

 この状況ではお前も勉強に身が入らないだろう。そこで一つ聞きたい。

 

 ……昨日、木場に何かおかしな点は無かったか?』

 

この時間は世界史。薮田先生は伊勢や京都、出雲の方に出張しているらしく

今日は別の先生で、しかも自習ときた。

だが、だからってサボっていい理屈にはならない。やる気は殺がれるが。

イッセーを窘めつつ、俺はイッセーの精神世界からノートを取っている。

教科書はイッセーが読もうとしないため、仕方なく記録再生大図鑑を代わりにしているが。

 

……薮田先生の出張についても、随分急でまた遠いな、とは思った。

伊勢に京都に出雲、か。どれも日本神話やら古代日本史に関わりのある地域だが……

薮田先生、担当は世界史だよな? それとも生徒会関係か?

 

どうにもやる気を殺がれてしまっているので、他事を考えながらの自習となってしまった。

まあ、そんなものかもしれないが。実際、イッセーと授業無関係の対話をしている始末だ。

 

「ああ、そういえば俺の小さい頃の写真を見たときに『これは聖剣だ』とか何とか言ってたな。

 その時、俺と一緒に写ってたやつの事を聞きだすなり、飛び出しちまった」

 

聖剣、か。お前の人間関係もかなり都合よく出来ているな、という突っ込みを抑えつつ

俺は昨日出したデータと照らし合わせていた。ビンゴだ。

 

とりあえず、今回の木場の奇行をまとめよう。

 

 

一つ。イッセーの家で偶然聖剣を見つけるが、それは十年位前の代物だった。

 

二つ。木場にとって聖剣は因縁の代物であり

それはグレモリーに仕えるよりも重要なことである。

 

そして三つ。聖剣計画に携わった人物は既に大半が死亡しており、木場はその生き残りである。

 

 

間違いないな。昨日の俺と同じで、いてもたってもいられなくなったのだろう。

これは、放置するのはあまりよくないだろう。深追いもダメだが。

 

「セージ、何か分かったのか?」

 

『ああ。だが……あまり木場の心情を考慮すると言いふらすべきことじゃない。

 だから、必要最低限の事しか言わないし、木場には黙っていてくれよ?』

 

周囲の生徒の目を盗みながら、俺はイッセーに

自分が調べた聖剣計画に関するデータを伝えることにした。

木場の過去は伝えていない。流石にここまでは、いくら何でも話すべきではないだろう。

 

「そんなことをやってやがったのか……アーシアが聞いたら、悲しむだろうな」

 

『だろうな。まあ、ありもしないものに縋る奴ってのは

 割となんだってやってのけるもんだがな。

 教会の神なんざ、俺に言わせばハリボテもいいところだ。

 そんな都合のいいもの、あるわけがないだろう』

 

そうだ。教会でのあの時、俺がイッセーに言いかけた言葉。

それは「神なんてものは最初からいない」だ。

シスターであったアーシアさんが近くにいたため、その言葉をついぞ口にはしなかったが。

俺の思想は、その頃から何一つ変わっちゃいない。

 

「ありもしないって……お前、アーシアの前でそんなこと言うなよ?

 アーシアは、まだ神様信じてるんだからな?」

 

『百も承知だ。他人を貶めるものでない限り、他人の信仰についてはとやかく言わない主義だ』

 

ただ、俺も日本人だからか八百万の神様って奴は相応に信じている。

家には仏壇もあるので、そういう意味では仏も信仰の対象だとは思うのだが……

仏というよりは、爺ちゃんや婆ちゃん、ご先祖様を祭った意味合いの方が大きいし

宗教のために戦争を起こせるレベルでの信仰心なんて、端っから持ってない。

この辺は良くも悪くも日本人気質だと思っている。

 

『さて、だ。首謀者が何を思ってこんなことをやったのか、までは調べてないが……

 ま、自分の正当性を証明するためには何だってやるクチなんだろうよ。

 ありもしないものばかりに縋り、今ある命を蔑ろにしやがる。胸糞の悪い話だ』

 

「そこまでボロクソに言うのかよ……ある意味悪魔らしいぜ、お前」

 

『気休めのフォローだが、全員がそうだとは思ってない。アーシアさんとかな』

 

結局、この時間俺達は世界史の勉強ではなく宗教観について話し合う結果になってしまった。

松田と元浜は自習と言うことでサボり……どっかで覗きをやっているのかもしれないが。

アーシアさんは桐生さんとノートを取りつつ談話していた。

色々な意味で、アーシアさんを話に入れなくて正解だったと思う。

 

――――

 

今日の授業が終わり。俺達は部活に顔を出すことにしたが、やはり木場はいなかった。

あのデータ通りなら、木場は相当やばいことに首を突っ込んでいることになるんだが……。

何とか、説得して止めたいところだが……俺に止められるのか?

と言うかそもそも、暢気にこんなところにいる場合でもない気がするのだが。

本当なら俺も部活を抜け出し、木場の捜索に当たるべきなんだろうが。

 

さて。今日は木場の代わりに、見慣れない男女がいた。

 

宮本の記憶によると、女性の方は生徒会長の支取蒼那。男の方は……誰だ?

生徒会長と一緒にいるのだから、生徒会の役員だろうが……ダメだ、記憶にない。

 

イッセーから離れていないのが幸いした。このまま記録再生大図鑑でデータを出してやるか。

あまり一般人に向けるものではないが……って、この反応。そうか、そういうことか。

 

あの時の、生徒会室の置物の謎もそういうことだったのか。

こいつは一本取られたな。まさか、ここまで悪魔の手が伸びていたなんて。

 

 

……ふざけやがって。裏世界だけならともかく、表の、それも生徒会に取り入っているなんて。

薮田先生はこのことを知っているのか? いや、或いはあの人が黒幕か?

記録再生大図鑑が効かない相手なんて、俺はまだあの人しか知らない。

普通なら、このようにデータが出るんだ。

 

『匙元士郎。生徒会役員の補充要員であり、支取蒼那……いや、ソーナ・シトリーの「兵士(ポーン)」。

 神器「黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」による吸収能力を持っている

 兵士の駒4個分の実力を持った転生悪魔――か。

 

 ……なるほど、補充要員か。道理で俺の記憶に無いはずだ』

 

「補充ってなんだよ! ……って、今喋ったの兵藤か? にしちゃ、なんだか違うような……」

 

「なるほど。それが噂に聞く『記録再生大図鑑』ですか。ならば、彼が――」

 

「いや、俺じゃないっすよ!?」

 

話がややこしくなりそうだったので、俺は実体化することにした。

既に記録再生大図鑑を起動させるというアクションをとっているし、な。

 

……しかしこんなところにも冥界関係者がいたのか。

これは、ある程度は既に身元どころか顔も割れているかもしれないな。

 

「……俺だ。そっちのデータだけ公表するのもアンフェアだからな。

 俺は歩藤誠二。一応、リアス・グレモリーの『兵士』だ」

 

「一応って何よ。あなたも私の……」

 

「……間違いなくイレギュラーでしょうが。この兵藤一誠が既に『兵士』8個使っているのに

 何で俺がリアス・グレモリーの『兵士』なんですか。数が合わないでしょう?

 イレギュラーなんだから、一応でいいんですよ、一応で」

 

「それを言われると返す言葉がないわね……」

 

俺はイッセーの肩をぺしぺしと叩きながら

俺の存在の異質性をわざと聞こえるように言ってやった。

 

それは自分に言い聞かせるためのものでもあるし

グレモリー部長に自覚してもらうためでもあるし。

このソーナ・シトリーがどれだけ知っているのかは分からないが

一応喋っておくことにしたのだ。

 

「兵藤が8個で、歩藤が……え? え?? 会長、そんなのアリなんすか!?」

 

「落ち着きなさいサジ。彼自身も言っている通り、彼はイレギュラーな存在です。

 これについては私も前例を知りません。

 一つ言えるのは、今の件はあまり公表すべきではないと思います。

 レーティングゲームの、不正を疑われることになりかねませんし。

 

 ただ……もう手遅れかもしれませんが」

 

「まあ、そうでしょうな。この間だって非公式だから不問になっただけかもしれませんし。

 最低でも9個以上、グレモリー部長は『兵士』の駒を所持していると見られかねませんから。

 まして、彼女の出自を考慮に入れれば、尚更公表すべきではありませんな。

 

 ……だとすれば、少々軽率でした。ご容赦を。今話したことは……」

 

そう。現魔王の妹が不正を働いているなんて見られた日には目も当てられない。

そうでなくとも、先日の一件でバッシングが増えているらしいのに。

 

……逆に言えば、仮に俺がクーデターを企てたときは

思いっきりこの件を公表してやれるのだが。

そういうのは、多少でっち上げた方が効果的だって何かで聞いた気がするが……

まあ、いいだろう。

 

今はまだ、それを実行に移す時じゃない。

実行に移さないに越したことはないし。

 

「そうですね。しかし私に対しての気遣いならば不要です。

 私も……一応、ですが……現魔王レヴィアタンの親族ですので。

 不要な混乱を招かないためにも、今の事は私の胸にとどめておきましょう」

 

「……寛大なご処置、感謝いたします」

 

「おおっ!? ま、まさかルシファー様の妹のみならず、レヴィアタン様の親族まで!?

 す、すげぇ……」

 

イッセーは生徒会長がレヴィアタンの親族であったことに感動しているが、俺は少々懐疑的だ。

言っては何だがこんな一私立高校に、魔王の親族が二人もいるなんて、どう考えても異常だ。

何らかの作為的なものを感じずにはいられない。

 

それに、生徒会が悪魔に牛耳られている以上、少なくとも生徒の側のイベントは

悪魔社会に優位なように組まれてもおかしくはない。ここは人間の世界なのに、だ!

一体誰がこんな人選をしたのか。顧問の薮田先生か? 全く分からない。

この件に関しては情報が少なすぎるので、あまり下手に突くのは避けるべきだろうが。

 

しかし一体何故だ。何故、彼女らはこの学校に来たのか。

ただの留学ならば、人間らしく生活することは可能だろう。眷属など増やさずに。

こっちでも悪魔としての生活を崩さないのは

精神的な健康維持のためには致し方ないものはあるかもしれない。

だが、それが原因で人間社会を脅かすような事態になったとき。彼女らはどう責任を取るのか?

 

そんな俺の考えを見透かしたように、匙とやらはえらそうにのたまっていた。

 

「会長と俺達シトリー眷族の者達が日中動き回っているからこそ、平和な学園生活が送れるんだ。

 それだけは覚えておいてもバチは……」

 

「ハッ。最近起きてる生徒会が動くほどのトラブル何ざ殆ど悪魔絡みだろうが。

 そういうのを何ていうか知ってるか? 『自作自演』とか『マッチポンプ』って言うんだ。

 それともアレか? そうでもしなきゃ、生徒会役員としての信頼を得られないのか?」

 

俺の挑発に、匙は面白いように反応してくれた。

こいつ……間違いない。イッセー並、あるいはそれ以上の単細胞だ。

因みにこのトラブルの件、裏は取ってない。つまり完全なハッタリだ。

 

「て、てめぇ! イレギュラーな眷属の癖に言わせておけば!

 この駒王学園が平和な学校であるのは、俺達、ひいては会長のお陰なんだ!

 それを馬鹿にする奴は、この俺が許さねぇ!!」

 

「いや、そうは言ってもな。俺が駒王番長って言われてた頃……まあ、去年だな。

 その頃からこの学校の治安は知ってるが、 別に悪魔関係なく平均水準の治安だったぞ?

 某生徒のカツアゲにしたって、アレは確か有名進学校の皮を被った極悪校……

 金座高校の連中の仕業だ。

 

 ……つまり、お前らは騒ぎを持ち込んで、その騒ぎを鎮めて平和を守る英雄を気取ってる

 痛い連中の集まりにしか見えんわけだ。馬鹿にするなって言う方が無理だな。

 まあ? 俺が知らないだけだったかもしれないが

 それはそれで表沙汰にして威張ることじゃあないよな?」

 

実はこの発言、地味にブーメランだったりする。裏社会での出来事とは言え

グレモリーのやっている事も、はぐれ悪魔討伐に関してはまさしくそれである。

俺の今の発言は、匙の怒りに油を注いだようなもので、完全にぶち切れさせていた。

勿論、わざとだが。

グレモリー部長は「またやってくれたわね」とばかりに頭を抱えている。

 

「こ、このぉぉぉぉ……」

 

「サジ。ムキになっても歩藤君には勝てません。兵藤君にもです。

 あなたと彼らでは、実戦経験の差がありすぎます。

 歩藤君。あなたの仰る事も一理ありますが

 私達もこの学園の平和を望んでいることだけは覚えておいてください」

 

む。今の挑発はシトリー会長にも向けたものだが、割とあっさりスルーされたな。

これは、グレモリー部長よりは冷静な判断ができるみたいだ。

こういうタイプを敵に回すと面倒だ。

 

「その言葉が嘘偽りでないことを願いますよ、シトリー会長。

 失礼ついでに一つ聞きますが……もしこの学園で問題が起きたとして

 どうやって解決するおつもりで?」

 

「そりゃお前、俺達が悪魔の力で……」

 

「サジ。その答えは不合格です。

 ここは悪魔や、魔に近しい者も多く通うとは言え、人間の学校です。

 それ以前にここは人間の世界です。悪魔の法に則って解決をしていいのは

 裏社会――リアス達の側です。学校のトラブルは、人間によるものがメインです。

 サジ。あなたは、人間相手に悪魔の力を使うのですか?

 そんなことをすれば、その場は解決できても要らぬ恐怖を与えることになります。

 

 ……これだけは覚えておいてください。

 人も悪魔も、この学園に通う以上は同じ生徒であると言うことを」

 

おや。これは……シトリー会長は、かなり話の分かる悪魔みたいだ。

逆に匙は……こっちにいてもおかしくないくらいの清清しい脳筋っぷりだ。

諸々の事情がなければ、俺と匙をトレードするのはアリではなかろうか。

 

「……お見事です、シトリー会長。無礼で意地悪な質問と物言いをしたことをお許しください。

 人の世界、悪魔の世界。その境界を明確にしている限りは

 早々トラブルは起きないものと俺は思います。俺もまた、未熟であるが故に

 人のトラブルも悪魔のトラブルも良い解決法は必ずしも出せませんが」

 

「いえ、私もまだ至らぬところがあります。

 問題点を見つけられたら、遠慮なくおっしゃってください。

 それには、あなたの学籍の有無は問いません。

 それに……私も駒王番長の復学を楽しみにお待ちしておりますので」

 

「ちょっ、セージ! なんでソーナにはそんな態度なのよ!?

 私よりソーナの方が優秀な主って言いたいわけ!?」

 

「リアス、何があったか分かりませんが落ち着いてください」

 

シトリー会長は綺麗に纏めてくれた。とりあえず今のところは信用に値するだろう。

……まあ、生徒会を丸ごと悪魔で占めているのはちと擁護しかねるが……。

 

しかし、それよりも何故ここでグレモリー部長が怒るのか?

俺は別に、シトリー会長は誰かさんと違って話の分かる人――というか悪魔――だから

相応の礼を尽くしているだけなんだが。

問題点がないとは言わないが、誰かさんよりは有望だと思うんだが。

 

「……悪かったわねソーナ。ちょっと最近色々あって気が立っていたわ。

 今日はその眷属の紹介でここに来たのかしら?」

 

「そうね。それに、フェニックスを再起不能にしたって噂の仮面の赤龍帝。

 兵藤君か歩藤君のどちらかだとは思うけれど……彼の事も気になりまして」

 

「会長。兵藤も悪魔になって日も浅いし、歩藤なんてイレギュラーじゃないっすか。

 そんなの、どうせマスコミが適当にでっち上げたデタラメっすよ。

 そうでなきゃ、あのフェニックスを再起不能にするなんてありえませんって。

 木場や姫島先輩とリアス先輩が組んでやったってんなら、まだ分かりますけど」

 

……くくっ、なかなか面白いことを言うじゃないか先割れスプーン。

己の価値観に凝り固まってるのは純血悪魔だけかと思っていたが

転生悪魔にもそういうのはいるもんだな。

まぁ、そもそも人間だってそういう奴は五万といるのだからある意味当たり前か。

 

それに、俺にもそういう部分が全く無いとは誰が言えようか。

俺はこの悪魔のやり方に腹立たしさを覚えているが

それだって悪魔の世界じゃ当たり前の事かもしれない。

 

それをこうして非難するのも、ある意味では己の価値観に凝り固まっていることの表れだろう。

それ以上にやっぱり許せない部分はあるけどな! 盗人猛々しいと言うか!

 

「サジ、そのような決め付けは己の首を絞めますよ」

 

「そうは言いますがね会長。兵藤なんて悪魔じゃなかったらただの変態だし

 歩藤なんてそもそもこの学校の生徒かどうかすら怪しいじゃないですか。

 そんな変態や正体不明に、あの不死身のフェニックスを

 どうにかできるなんて考えられませんよ」

 

「……今の何かムカッと来たな。セージ、本当かどうか見せてやろうぜ!」

 

「パス。めんどくさい。あいつがそう思ってるならそれでいいだろう。

 それにな。俺としちゃあまりその件については触れられたくないんだが?」

 

イッセーは先割れスプーンの評価が不服らしいが、俺にしてみればどうでもいい。

そもそも、あの戦いの勝敗そのものがくだらないんだ。

俺も新聞に目を通しただけだが、結局我儘通したお陰で誰かさんは自分の首を絞めているし。

元婚約相手のチンピラ鳥は再起不能になってるし。

俺は悪くない、と言うつもりも無いが……俺を爆弾を落としたパイロットとするなら

グレモリー部長はさしずめそのパイロットを指揮する軍司令だろう。

 

それ位には、その件について責任は感じている。

しかしそれ以上に、もうあんなバカバカしい事に関わりたくないのだ。

 

「へへっ、大方フェニックスにビビッて逃げ出したんだろう?

 だからその件について触れられたくない、違うか?」

 

「てめっ……セージ! ここまで言われて悔しくないのかよ!?」

 

うっわ……こっちの挑発には簡単に乗るくせに、そっちからの挑発は見え見えじゃないか。

イッセーはああ言っているが、この場でそんな見え見えの挑発に乗るメリットが分からん。

こんな挑発に乗るのは、それこそ程度が知れるってものだ。

それに、そんな程度の低い挑発は場を弁えねばそれこそ己の首を絞めることになる。

 

「イッセー。悔しくないと言えば嘘になるが、見え見えの挑発に乗るほど

 俺だって暇人やってるつもりは無いんだぞ?」

 

「サジ。あまり悪し様にリアスの眷属を悪く言うものではありません。

 リアスの性格は知っているでしょう? それに、今のあなたの物言いは

 根拠の無い決め付けによるものです。

 そんな不確かなもので動くような者を、私は眷族にした覚えはありません」

 

「はっ……す、すみませんでしたリアス先輩!」

 

「サジ君。今回はソーナに免じて不問にするわ。

 けれど、私は私の眷属を愚弄するものを許さない。

 それは、頭の隅にでも置いておいて頂戴」

 

「さっすが部長! 心が広い!」

 

グレモリー部長の一声で、先割れスプーンは上げた拳を引っ込めざるを得なくなった。

そう、つまらん挑発に態々乗る必要は無いんだ。覚えとけイッセー。

グレモリー部長も一応は部長の、主の貫禄を見せた形と言うべきか。

最近はどうにも不安定な部分が露呈している気がするからな……。

 

などと思案していると、部室の扉が開きアーシアさんがやってきた。

 

「す、すみません遅くなりました!

 えっと……木場さんを探していたんですけど、見当たらなくて……」

 

「あ、そうだった部長! 木場の奴、またどこかに行っちゃいまして……」

 

「またなの!? ……祐斗にも困ったものね。

 仕方ないわ、今日の練習も祐斗抜きではじめるわよ。

 その前にアーシア、彼女はこの学園の生徒会長・支取蒼那。またの名をソーナ・シトリー。

 シトリー家の次期当主よ。その隣にいるのが眷属の……」

 

「匙です! 匙元士郎です! よろしく、アーシアさん!」

 

俺達に向けての態度とは打って変わった、木場を参考にしているのだろうが

全く足元にも及んでいない爽やかスマイルをアーシアさんに向けている……爽やか?

 

その態度が気に食わなかったのか、イッセーが先割れスプーンの手を強引にとり

力いっぱい握手している……握手?

 

俺ははっきり言ってこの茶番がバカバカしいので、さっさと練習を始めたかった。

 

「リアス。今度の球技大会、楽しみにしているわ」

 

「こちらもよ、ソーナ」

 

……このやり取りだけ見れば、至って健全な青春の一ページ、なんだが……。

 

問題はここが人間の世界にあり、かつ人間も通っている学校なのに

実質悪魔に牛耳られている、って点なんだよなぁ。

 

 

……知りたくなかった事実だよ。やっぱ、早いところ俺の身体を取り戻して

駒王番長に返り咲かないといけないかもしれない。

あまり、悪魔と言うものに付け入る隙を与えるのは良くないだろう。

それ以上に、俺は人間としてこれ以上悪魔にでかい顔をされるのが気に入らないのもあるのだが。

駒王番長は知らない間につけられた通り名で

俺自身が意図的にやってることではないんだがなぁ。

 

だってそうだろう? 西に川に落ちた犬がいれば、飛び込んで助け。

東にカツアゲされたクラスメートがいるなら、駆けつけて退かせ。

北に腹をすかせた猫がいたら、エサをやる……のは条例違反だから

ペットショップで買ったマタタビをこっそりやって。

南にスーパーの特売があれば、すかさず買いに……ってこれは違うか。

 

とにかく、人間の世界は人間が守るべきだと俺は思う。

人間の学び舎で繰り広げられる悪魔の茶番を尻目に、俺はトランペットを出す用意をしていた。




と言うわけでかなり長くなってしまいましたがようやく生徒会登場です。

……いやね、正直生徒会まで悪魔ってのはどうかと思うんですよ。
いくら所有物って言ったって、ここまでえこ贔屓が罷り通るってのも……ねぇ。
きっと凄い裏口とかその辺ガバガバだと思うんです。考えすぎでしょうけど。
とりあえずこの設定でオカ研の特異性はかなり薄れたんじゃないかなー、と。

セージが微かに触れている元浜をカツアゲした犯人が在籍していると言う金座高校。
「無差別大量殺戮者」と言う意味の「カーネイジャー」をもじってます。
原作でも確か不良の溜り場学校はありましたが、ステレオタイプの極悪校ではなく
「対外的には優良校で通っているけどその実極悪校」の存在を仄めかしたかった。
ただそれだけの存在です。ねちっこい悪意の方が怖いんです。

予告どおり再登場した虹川姉妹に新しい幽霊。
口癖やファッションから、仮面ライダー555の海堂直也がモチーフです。
夢のかけらもルナサ……もとい瑠奈も聞いてるとしんみり来る系ですが
微妙に音楽性がずれてます。その辺はまた後ほど。


アーツのオーガが出たときにバンダイのインタビューに
答えるのを楽しみにしてました、泉さん……


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Soul27. 悪魔のバトルドッジボール

このタイトルにピンと来た方は間違いなくほぼ同年代。

……でもないかなぁ。少し前に3が限定とは言え出たし。
ロアはスパロボ(OG世界)に出向しちゃったから
もうあのシリーズには出ないのかなぁ。

閑話休題。
始まります。


駒王学園・オカルト研究部。

部で集まって球技大会の練習をするというのも妙な話だが、何せ部対抗戦があるのだ。

俺は去年は帰宅部所属……と言うかバイトをしていたので

部活動をやっている暇など無かったのだ。

 

よって、これが初めての部対抗戦になる。参加は出来ないが。

一応、生徒会や教職員には色々な意味で顔が利いていたが。

 

皆が一心不乱にボールと格闘しているさなか、俺は実体化もせず

――まあ、屋外なので出来ないのだが――

何をしているのかと言うと。

 

 

――トランペットの練習である。

 

無理も無い。そもそも俺は日中実体化できないし、宮本成二は重体だし

歩藤誠二と言う名前の学生はいないのだ。

一度、グレモリー部長が歩藤誠二を転入させる手続きを取ろうとしたが

それを俺は丁重にお断りした。

 

まず一つ。歩藤誠二は戸籍上に存在しない。よって、人間世界においては立派な文書偽造罪だ。

 

次に、俺の今の状態を省みれば、学籍はあったとしても保健室

……いや部室通学にしかなりえない。

そんな状態で、胸を張って駒王学園の生徒などとは俺は言えない。

 

最後に、そんな事をすれば宮本成二の存在を遠まわしに否定しているような気がしたのだ。

俺は宮本成二に戻るのが最終目標なのに、だ。

そこのところをグレモリー部長は理解しているのだろうか。

 

 

まあ、病院にあった除霊札があの人の仕業ならば、ある程度理解したうえで妨害している……

などと、穿った見方も出来てしまうのだが。

 

 

ともかく。俺は正規の形で球技大会には参加できない。

そこで、応援のトランペットならば吹けるだろうということで、トランペットが得意な

虹川家の次女、芽留に頼み込んでトランペットの練習をしているのだ。

 

……何故か、トランペットの実体化の訓練から始めることになってしまったが。

 

SOLID-TRUMPET!!

 

まさか、武器じゃなく楽器をこれで実体化させることになるとは思いもしなかったが。

 

実体化させた後は、勿論演奏の練習。テンションの上がる曲は、芽留の得意とするところ。

そういう意図もあって、芽留に指導をお願いしたのだ。そして教わったナンバーが……

 

『よーし、そろそろ演奏始めるぞー!

 「音撃鬼管・突撃喇叭」!』

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

テンションの上がる曲、で俺が教わったのはなんと突撃ラッパ。

これは確かにテンションが上がる。思わず、俺が見ていた特撮ヒーローシリーズの一つ

「面ドライバー音撃鬼」の必殺技になぞらえて命名してしまうほどだ。

 

俺自身は、芽留が選んでくれたと言うことと、演奏の難易度から気には入っている。のだが。

 

「セージ! 球技大会に突撃ラッパは無いでしょ! 他のにしなさい!」

 

「で、でも部長! 何かすっげえテンション上がって来たッス!

 うおおおおっ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!!」

 

「あらあら、イッセー君ったらあんなに張り切っちゃって。

 でも、私も凄く身体が熱くなってきましたわ……うふふふふふふ」

 

「わ、私も何だか凄いやる気出てきました!!」

 

「……みんな燃えてる。私も……ふーっ!!」

 

……やっば。これは芽留のソロライブの時とかなり近い状態だ。

テンションが上がりっぱなしで、危険極まりない状態。

やる気を向上させるのは良いんだが、チューニングが難しいな……。

 

チューニングについては里莉に、テンションダウンについては瑠奈に

それぞれ頼んだ方がいいのだろうか。

とはいえ、もう期日も迫っているので

とりあえずチューニングのコツだけ今夜聞きに行くとするか。

 

……あのデニムジャケットの幽霊も、来るって言ってたことだしな。

 

――――

 

夜。虹川家で落ち合うことになっていた俺は、虹川家のソファで寛いでいた。

ここの掃除も、何だか久々にやった気がする。

このところは、虹川楽団の依頼はライブ関係のものが多いからだ。

 

「よーぅ。俺様、参上っと」

 

デニムジャケットの幽霊が、相変わらず軽いノリでやって来る。

その手には生前愛用していたであろうギターと、楽譜が握られている。

 

「幽霊になると、物を持つのも一苦労だな。ちゅーか、瑠奈ちゃんまだ?」

 

「……その前に、まだ名前を聞いていなかった。

 俺は名刺にも書いてあったが歩藤誠二。そちらは?」

 

「……悪ぃ。生前の名前は忘れちまった。今は海道尚巳、で通してる。

 幽霊になると、色々生きてたときの情報が無くなるみたいでよ。勘弁してくれや」

 

悪魔契約をするつもりは今のところは無いが、名前は聞いておくことにする。

しかし、やはり臨死体験をすると記憶に障碍が出るものなのか。

俺も死んでないとは言え、霊体になった直後は記憶が混乱していたしな。

 

「了解した。では海道さん、結論から言うがイザイヤさんは、実は俺も探している人物だ。

 ワケがあって、身柄を確保しなければならないんだ。つまり、俺達の利害は一致している。

 どうだろう? ここは一つ、協力して身柄を確保したいんだが。

 

 ……ああ、勿論身柄を確保してどうこうする訳じゃないから、そこは安心してくれ」

 

「……もしかして、何かやばい事に首突っ込んでいるのか!?」

 

む。勘がいいな、この幽霊。確かにイザイヤがあいつなら、間違いなくあの計画の関係者を

片っ端から当たるつもりだろう。しかし、手がかりとかって大丈夫なのか?

 

「残念ながら、な。そこで『聖剣計画』について、知っていることを教えてくれないか?

 教会主導って事は本部は海の向こうだろうが、ここは知っての通り日本だ。

 その計画は、日本でも進められたのか?」

 

「首謀者――バルパー・ガリレイってクソジジイなんだが、こいつが日本に来たってことは

 俺様の知る限りじゃなかったと思うぜ。ただ、あれから随分たっているから

 日本支部に移って計画を進めている可能性は大いにある。

 あるいは……既にこっちに協力者がいたり、とかな」

 

「日本に厄介ごとを持ち込んでくるなんて……アニメや特撮じゃないんだから……。

 いや、あるいは聖剣計画自体が教会にとっても鼻摘みな代物で、こっちに逃げ込んできたって

 考えることも出来るか……しかし何で国連にも加入してないような小国じゃなくて

 一応国連主要国の日本なんだ? 下手すりゃ日本政府から通報されかねんぞ?」

 

昨日のちゃらんぽらんな雰囲気はどこ吹く風。

海道さんは至極真面目な表情で聖剣計画について語っている。

しかし、何でこういう案件は日本に持ち込まれるのだろう?

隠れ蓑にしやすい国なのだろうか? 色々不便だと思うんだがなぁ。

まして少しでも迂闊なことをすればすぐにtsubuyaittaとかで晒されるご時勢なのに。

 

「……俺様もそれは思ったぜ。政府はアレかもしれないけど、最近日本の警察の方でも

 悪魔やら超常現象への対策を練った管轄ってのが出来たらしいぜ?

 これ、こっち来てから出来た幽霊の友人に聞いたんだけどよ。

 バケモンに襲われて、自分はやられちまったけどツレはその警官が保護したんだとよ」

 

警察が悪魔の相手を、か。それが本当なら、随分と心強い話だ。

そういえば、結局あのフリーメイソン(・・・・・・・)だか言うサイコパス神父が起こした

連続猟奇殺人事件、あれはどういう処理になったのだろうか。

そういうものこそ、警察の本領発揮だと思うんだが。

聖剣計画の首謀者の潜伏先についても、後で調べておくか。

 

「貴重な情報をどうも……っと、瑠奈が来るみたいだ。

 ここから先は、音楽の話にしますか」

 

「そうだな。これでも俺様、生前はギタリストになるのが夢だったんだぜ?

 ま、ちゅーても夢ってのは呪いと同じ。呪いを解くには夢を叶えろ。

 途中で挫折したりしたら一生呪われたまま……って生前言ったけどよ。

 

 ……これ、死んだらどうなるんだろうな。考えたこと無かったぜ」

 

海道さんのギターにかける情熱は本当みたいだ。

となれば、ギターをうまく演奏できない今の状態は心中察するに余りある。

 

……俺はギターの演奏も出来ないし、マネージャーみたいなことをやっているとは言え

そこまで音楽に詳しいわけじゃない。俺自身は……この件について力になれそうも無いな。

これも、それとなく瑠奈に話を振ってみるか。

 

――――

 

「……お待たせ。とりあえず私も演奏してみるけど、あまり期待はしないで。

 そのためにも里莉を待機させてるし、セージさんにもお願いしたいの」

 

今回のキーパーソンである瑠奈を迎え、俺達はそれぞれギターの準備をする。

何故か俺は実体化からだ。それも、トランペットと同じ要領で。

瑠奈も普段のバイオリンから、ギターに楽器を変え演奏を始めた。

 

 

……のだが。

 

「あーっ! 違う、違うって! ちゅーか、俺様の曲そんなに暗いナンバーじゃないって!」

 

「……ご、ごめんなさい。私、こういう曲しか……」

 

「あっちゃー、やっぱダメか。じゃあ、今度は私がやってみるね!」

 

案の定と言うかなんと言うか、瑠奈の演奏は海道さんのイメージには合わなかったらしく

里莉が名乗りを上げている。

実際、里莉は違う曲同士のマッシュアップや他人の曲の真似は得意だ。

今回みたいに、他人の曲を演奏すると言う場面では適任だと思う。

 

 

……のだが。

 

「……違う」

 

「えっ?」

 

「違ぇんだよ。俺様の曲はもっとこう、なんちゅーか……

 やっぱ、俺様が演奏しないとダメだな!」

 

それができないから虹川楽団がいるんだろうが!

……と突っ込みたくなったが黙っておくことにした。

結局、グダグダのままその日は終わり

海道さんの演奏の依頼の話はなあなあになってしまった。

 

俺の方は、楽譜を読むので精一杯だった……。

 

――――

 

そんな、悪魔の仕事の依頼でもない事に俺が躍起になっている中。

とうとう、球技大会当日がやってきた。

不安要素だった木場も、参加自体はするらしい。もっとも、まるでやる気の無い面で

「ただいるだけ」って言葉がこの上なく相応しいって状態なのだが。

果たして、これを参加したと言えるのだろうか?

 

……俺は参加すら出来ないんだがな!

それでも不貞腐れるでもなく、トランペットを携えてスタンばってる俺に俺は褒美をやりたい。

総指揮がアホのグレモリー部長だというのに

ここまでやる気になってる俺も珍しいかもしれない。

 

実は最初、練習の割り当ての際にイッセーに突っ込まれるまで

俺の事には一切触れられなかったのだ。

軽く馬鹿にされているような気分にさえなった。今に始まったことでもないので黙っていたが。

相手が相手なら「いじめだー、いじめだー」と喚いたのだろうが

生憎俺は「いるはずのない」存在であるため、喚くだけ無駄なのだ。喚く気もないが。

 

さて。テニスコートに目を向けると、シトリー会長とグレモリー部長の試合が行われていた。

悪魔の存在を知らない生徒達は黄色い歓声を上げているが

悪魔と言うものを知っているものにしてみれば……

 

 

……なにこの茶番。

そういえばドラグ・ソボールでもこんな展開があったような。

一般人の世界チャンピオンがゼルを倒した(事になった)英雄になった後

実際にゼルを倒した空孫悟と仲間達が武道大会に出たら

ありえないほど次元が違っていて、何もかもが茶番になってしまったような。

 

まあつまり何が言いたいのかというと……

手品の種は余興でもない限り、バラすもんじゃないな、と。

 

「す、すげえ試合だぞセージ! お前も見ろって!」

 

『断る。何が楽しくて茶番を見なくちゃならないんだ。

 凄い試合も何も、悪魔なんだからアレが当たり前だろ。

 全く、棲む世界が違うんだから自重しろってんだ……』

 

イッセーの呼びかけにも応じず、俺は楽譜とにらめっこをしていた。

当然、本番のための代物だ。

俺は音楽の成績は普通だったので、いきなり本格的な楽器の演奏なんて

正直に言うと不安だったりする。だから、ギリギリまで楽譜とにらめっこしたい。

それにどれ程の効果があるのかはわからないが。

 

ところで、俺は冷めているのだろうか。だが、この試合に興味がわかないのも事実だ。

しかも耳を澄ますとうどんのトッピングがなんたら言ってるじゃないか。

勝った方に奢る代物か。庶民的アピールか。おめでてーな。

 

……既に小西屋のトッピングてんこ盛りうどんは去年試したことがある、というのは

彼女らのためにも今後も黙っておくことにするか。

 

で、試合の結果はラケット破損による両者引き分け。なんとも呆気ない幕切れだ。

いや、当たり前か。悪魔なんだから、人間界でムキになればそうなる事くらい分かれよ。

結局、俺が得た収益は「シトリー会長も同じ穴の狢か」と言う事だけだった。

 

――――

 

さて。いよいよ部対抗戦。種目はドッジボール。おいおい、大丈夫なんだろうな?

負傷者どころか死者が出るとか不祥事は御免こうむるぞ?

イッセーは相当に気合十分だが、俺から見れば空回りしないかが不安である。

しかもご丁寧に、おそろいの鉢巻までこさえて来てるじゃないか。

その出来栄えは、部員全員に好評な代物であった。イッセー、いつの間にこんなものを?

 

『へぇ。やるじゃないかイッセー。しかし言ってくれれば力を貸したのに』

 

「悪ぃ悪ぃ。何だかお前、このところ忙しそうだったからさ。ほら、これお前の分」

 

『……おい。俺は着けられないぞ? ここでの実体化が出来ないことぐらい、分かるだろうに』

 

「でもそのトランペットは実体があるだろ? だからよ……これでよし」

 

イッセーはおもむろに、俺が実体化させたトランペットに鉢巻を巻きつけた。なるほど。

これなら外からは鉢巻を巻きつけたトランペットに見えるはずだ。

 

……ほんと、仲間意識は強い奴なんだよなぁ。そこは素直に美点として認めてるんだが。

何でエロスが絡むと非常識極まりなくなるんだ、お前は……。

この点が、兵藤一誠という人物の評価を真っ二つに分ける要因ではなかろうかと思う。

 

さて。ホイッスルと共に試合開始。

俺のトランペットは、スタンドに立てかけて準備万端。

勝手に演奏するトランペットと言うのも、オカルト研究部らしくていいだろう?

まあ、まさか日中の、こんな日常風景で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)をここまでフル活用することになるとは

俺も思いもしなかったがな!

 

『さあ行くぜ……「音撃鬼管、突撃喇叭」!!』

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

カードを引き、トランペットから突撃ラッパのメロディが鳴り渡る。

これだけで実は演奏は成り立つのだが、俺は律儀にトランペットを吹いている。

形だけでも演奏をする。虹川楽団のスタンスは一応、受け継いでいるつもりだ。

今演奏しているのは、テンションを上げることに特化している、次女の芽留の曲。

観客もヒートアップしているのか、声援が派手になっている気がする。

これ以上のヒートアップはダメだ。騒動が起こる。

ここで俺は、里莉との特訓で会得したチューニングを開始する。

芽留の特訓の成果だけでは天井知らずでテンションが上がってしまうからだ。

 

オカ研部員全員のテンションが上がっている。あのアーシアさんでさえ

積極的にボールに向かっている。最も、相手の野球部の狙いは、殆どイッセーだが。

音と言う性質上、これを効いている相手全てにテンションアップの効果が出てしまう。

つまり、野球部員もテンションが上がっている。

 

……そういう意味では、戦術的には無意味だったりするが別に今回は勝ちたいために

態々これを使っているわけではない。これが俺の参加の仕方だからだ。

これで攻撃が激しくなって、イッセーが集中砲火されるなら……やっぱお前の日頃の行いだ。

 

これには一部松田と元浜の噂操作も含まれているが、火の無いところに煙は立たない。

イッセー。恨むなら己の日頃の行いと運命を恨むんだな!

 

 

……あれ? 俺どっちの応援してるんだっけ? まぁいいか。

俺の演奏が2ループ目に突入する辺りで、事態は大きく変わった。

野球部員の一人が、棒立ちの木場を狙ったのだ。

 

「木場! 避けろ!!」

 

「……えっ?」

 

イッセーは恐らく「えっ? じゃねぇよ!」とか思ったんだろうが……

ま、マズい! あの球の軌道はマズい!

 

俺はトランペットから手を離し、思わずコートに駆け寄り……

 

『うらあああっ!!』

 

イッセーの下腹部に直撃せんとしていたボールを蹴飛ばす。

が、俺も咄嗟の事だったので、つい悪魔の力でやってしまった。

その結果、どうなるかは俺も良く知っていたのだが。

 

――ボールは破裂。その大きな音で観客も、野球部員も、オカ研の皆も我に帰る。

一瞬の静寂の後、突如破裂したボールに周囲は騒然とし、そこかしこがざわつきだす。

 

「お、おい……いきなりボールが破裂したぞ……」

 

「何か叫び声も聞こえたし……や、やっぱオカ研だから出たのか?」

 

「い、いや……きっと木場を狙ったもんだから、女子の怨念が形になったんだよ……」

 

「マジかよ女子こえーな!?」

 

「や、やってないわよ! きっとこれはアレよ、『白昼のポルターガイスト』よ!」

 

「それこの間病院でも出たらしいぞ!?

 『姉さん!』って叫び声を聞いた奴が何人もいるらしいぞ!」

 

「なにそれこわい!?」

 

周囲は騒然とし、試合は一時中断となってしまった。

……俺は悪くない。と、思いたい。

あそこで出なければ、イッセーが悲惨なことになっていただろう。

 

「……セージ。ちょっといいかしら」

 

『一つ弁解させていただくなら、あの球の軌道は

 イッセーにとってとても不幸な結末になったと思います』

 

結局、暫くした後に試合は再開の運びとなったが

今の事件が切欠で、対戦相手の士気は軒並み下がっていたのだった……。

 

――――

 

ドッジボールはある意味ではオカルト研究部らしい勝利をもぎ取った。

生徒会との試合だけ、まるでデフォルメされたヒーローが活躍する

某ゲームの如き様相を呈していたが。あのまま闘球王目指しても良かったと思うよ、俺は。

 

さて。気付けば外は雨が降っていた。

雨音の中、部室に乾いた音が響く。木場が叩かれたのだ。誰に? グレモリー部長だ。

 

随分攻撃的だな。もう突撃喇叭の効果はとっくに切れてると思うんだが。

イッセーも内心では怒っているのだろう。本人は抑えているつもりだろうが、顔に出ている。

 

「……今日は調子が悪かったみたいです。申し訳ありませんでした。

 気分が優れないので、今日はこのまま帰らせていただきます」

 

「おい待てよ木場! この間から、お前ちょっと変だぞ?」

 

強引にでもこの場を去ろうとする木場に、とうとうイッセーが喰らいついた。

俺はだんまりを決め込んでいる。木場の事情も知っているし

ここは下手に出ず、イッセーの犬っぷりに任せることにしたのだ。

 

「変? じゃあ聞くけどイッセー君。君は僕の何を知っているんだい?

 今までの僕を見て一方的に決めてるんなら、それは君に人を見る目が無いだけだよ」

 

「祐斗、やめなさい。イッセーはあなたを心配しているのよ」

 

「心配? 悪魔の癖にですか。利己的なのが悪魔の生き方だと僕は思ってましたけど

 違うんですね。セージ君なんか、そういう意味ではとっても悪魔らしいと思いますけど」

 

……思いも拠らぬところから攻撃された気がする。

そりゃまあ、俺の身体に拘るそのサマは、見方によっちゃ利己的だろうよ。

 

「セージは関係ないだろ? この間の戦いの事、忘れたとは言わせねぇぞ。

 俺達は一丸になってやっていかなきゃならないのに、お前がそんな調子じゃ……」

 

「……悪いけど、それはセージ君にもそっくりそのまま言えることだよ。

 彼は自分の身体を取り戻すために戦っている。それと同じように、僕にも戦う理由があるのさ。

 

 ……部長に仕える以外にね」

 

むぅ。図らずも木場が離反する引き合いに出されている気がする。

まあ、実際俺は反抗的だし離反の引き合いに出すにはうってつけだろうよ。

この点については、俺は木場に同意せざるを得ない。

 

「ストップだイッセー。お前の負けだ。それに、アーシアさんを助けるときだって

 事の始まりはお前の利己的な行動だろう。お前に木場の事をとやかく言えはしないぞ。

 今更掌返したようにグレモリー部長に尻尾を振っても、説得力がない」

 

「ぐっ……あ、あれは結局部長も公認だっただろ!

 けれど、今回のは……」

 

「利己的という意味では、君がアーシアさんを助けようとしたのも

 セージ君が自分の身体を取り戻そうとするのも、そう変わらないと思うよ。

 勿論、僕の戦う目的――聖剣の破壊もね」

 

言うだけ言って、木場は振り返ることも無く部室を後にした。

やはり、そこが目的か。しかしその肝心の聖剣の在り処……知っているのか?

 

「……なあ、セージ。部長のために戦うのは、間違っているのか?」

 

「それを俺に聞くな。聞くなら先割れスプーンの方がいいだろう。

 一ついえるのは、悪魔の常識ならそれであっているだろうよ。

 だが、木場にせよ俺にせよ、それよりも大事なことがある。ただそれだけだ」

 

……まあ、俺が反抗的なもう一つの理由として

「グレモリー部長が仕えるに値する悪魔だと思ってない」ってのもあるのだが

それを話すと話がややこしくなりそうなので、黙っておくことにした。

一連の話を聞いていたグレモリー部長は難しい顔をしていた。まあそうだろうよ。

 

「……セージ。どうしても、自分の身体を取り戻すのを諦めないの?」

 

「何をバカな。いいですか? こうしている間にも

 俺の身体はどうなっているのか分からんわけです。

 それに、もう事故に遭って三ヶ月になります。

 母のことを思えば早急に宮本成二に戻りたいんですよ、俺は。

 

 ……まさかとは思いますが、総合病院に除霊札を貼ったの……部長の差し金ですかな?」

 

ついでに除霊札の件について問い詰めることにした。

当たりはつけているのだが、分かっていてあえて聞いている。

あのデザインの札は、そもそも見覚えがあったからだ。

 

「そ、それは……」

 

「……あらあら」

 

「まあ、誰がやったことかはもうどうでもいいです。

 しかし、事故なら事故で落とし前はつけて欲しかった……のは正直なところですね。

 俺にとっては祖父母つきとは言え女手一つで育ててくれた、たった一人の母なんだ。

 この年から親不孝はしたくないんですよ」

 

……やれやれ。何故そこで言いよどむ。そんなの、自分がやったって言わんばかりだろう。

これ以上追求するのも馬鹿らしくなったので

本心を伝えてこの話はひとまず切り上げるつもりだった。

 

もう一言「親の七光りで今まで過ごしてきたあなたには分からないでしょうがね」

と喉元まで出掛かったが、流石にあの一件があった後なのでそれは言わないでおくことにした。

 

「お、おいセージ……言いすぎだろ……」

 

「言いすぎ? 何がだ? 事故の落とし前をつけないのが悪魔のやり方ならそれは諦める。

 だがな、親不孝の件については嘘偽りの無い本心だぞ?

 

 ……マザコンって言われたっていい。今母さんは凄い心配してると思う。

 それなのに、その心配事を解決させられない。俺に問題があるにもかかわらず、だ!

 これを親不孝と言わずして何と言うんだよ!!」

 

思わず、声を荒げてしまった。

松田と元浜の証言では、母はほぼ毎日のように病室にいるらしいのだ。

心配をかけているのは想像に難くない。母に感謝こそすれ、何故こんなことになったのだ!

こんなこと、あってはならないことなんだ!

 

……だが、相当俺も荒れていたらしい。顔に出ていたと言うべきだろうか。

アーシアさんは怯え、塔城さんも小柄な身を低くして警戒しているようにも見えた。

除霊札について言及したときに一瞬顔色を変えた姫島先輩も、表情こそ変わらないが

その腹の底は窺い知る事は出来ない。まあ、それはいつもの事だが。

 

「……失礼。こちらも今の状態でまともに部活はできそうもありませんからな。

 俺も早退させていただきます。それでは」

 

これも口実だ。今の自分が至極冷静だとは思わないが

言うほど冷静さを欠いているとは思っていない。はずだ。

その証拠かどうかはさておき、退室時に俺はイッセーに耳打ちをした。

 

「……木場は俺が見張っておく。心配するな」

 

「お、おいセージ!?」

 

後ろでまたグレモリー部長が何かを言っているような気がしたが

ここで振り向くつもりは全く無かったので、黙って退室。

霊体に戻ると同時に木場を探しに行くことにした。




オリ主マザコン疑惑


……ではなく、家庭環境では割とそうなってもおかしくないと思うのです。
「だったら公立行けよ」とか言われそうですが……。
勿論、バイトもその家庭環境だからこそです。本編始まる前の話ですが。


海堂もとい海道さん。
やはり「夢ってのは~」の件は入れたかったです。
そのせいで少し不自然な話の流れになってしまったかもしれません。


ちょくちょく出ている面ドライバーシリーズ。
今回もどストレートな命名です。HIBIKI!!

効果は敵味方全員を暴走させると言う、危険な効果。
こちらは芽留の元ネタの彼女にあやかってます。
実際もうつ病よりもそう病の方がある意味では怖いですからね……。



ここまで来ておいて今更ですが残念なお知らせがあります。

イッセーが未だ禁手に至っておらず、左手をドライグに差し出していないこともあり
パワー吸収と言う名のエロイベントは発生いたしません。あしからず。


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Soul28. 神父、帰って来ました。

ここ最近の長さと比較すれば、今回はやや短めです。
あと、木場を追ってのお話なのでイッセーは出ません。

と言うか女性キャラが一人も出ていない件について。
まぁ、原作でもこの辺りはそうでしたけど。


雨はまだ降っている。まあ、霊体の俺にはあまり関係ないが。

木場はこんな下らない事に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の特性を使ったのかってくらい、足が速かった。

時間差で出たと言うのもあるかもしれないが、見失ってしまったのだ。

 

やむなく、レーダーを展開しながら木場を探すことにする。

幸い、レーダーを逆探されると言うことは今のところは無い。

いずれはそういう事態もあるかもしれないが、今は無い。

それはつまり、こちらから探し放題なのである。

 

そのお陰ですんなり木場は見つかったが……

 

 

……余計なものもいやがった。

その悪くない顔に張り付いた、サイコパス丸出しの表情。

聞けば、既に国際指名手配されているらしい連続猟奇殺人犯。

名前は確か……

 

フリーパス!?(・・・・・)

 

「誰がタダ券だっ、俺っちはフリード、フリード・セルゼンだっつーのっ!

 

 ……って姿が見えないってことは。おんやあお久しぶりぶりクソ悪霊くん」

 

まさか。木場を探していたらこんな奴がいたとは。

あの時、かなり遠くまで吹っ飛ばしたはずなんだが。

 

「……セージ君か。余計なことはするなって言ったはずなんだけどな」

 

『……知らんな。そっちの事情は分かったが、それと俺の事情は全く関係ない』

 

「おんやあ? 俺ちゃん無視して仲間割れ?

 ……何かシカトされたみたいですっげえムカつくんですけどぉ!!」

 

怒りながら取り出した奴の剣は……見覚えの無いものだ。

以前振るっていた光剣ではない。その剣を見た木場の態度を見るに、アレがまさか……

 

「……まさか君が持っていたとはね。聖剣エクスカリバーをっ!!」

 

なんと。いきなり見つかるとは。

……だがしかし待て。こいつがイッセーの古い知り合いなわけがない。

ま、まあ今はそんな事情背景はどうでもいいだろう。

今するべきことは……ちっ、イッセーがいないから戦えないじゃないか!

大人しく、エクスカリバーについて調べるか……。

 

「セージ君、手出しは無用だよ」

 

『出したくとも出せん。実体化もできなきゃ、イッセーもいない。

 作戦指示くらいはできるが……どうせ今のお前は聞かないだろう?

 なら俺は俺のことをやらせてもらう』

 

「相変わらず人を嘗めたクソ悪霊だねぇ。

 けれどこの聖剣、悪霊だろうとぶった切れるから安心しな!」

 

木場は手出し無用と言うが、相手は相当にヤバイ業物を携えている。

ここは俺に出来る方法で援護するのが得策だろう。

そもそも、木場に何かあったら主に俺が困る。

 

……それにだ。俺自身の実体化が出来なくとも攻撃も一応は可能なはずだ。

無我夢中だった昼間のアレは悪いパターンとしても、もっとうまいやり方はあるはずだ。

木場に注意が向いている間に、落ち着いて考えれば道は開けるはずだ。

 

二人から距離をとり、動きや得物、周囲の状況をしっかりと観察する。

奴が手に持った剣は、確かにそう言う寒気のする代物だった。

幸か不幸か、俺が黙っていれば斬られる心配は然程無い。

いかに悪霊を斬れると言えど、見えないものは斬れないはずだ。

奴はそう言う霊視能力には長けているようには見えない。

 

攻撃を食らえばタダでは済まないが、避けるのはそう苦にはなるまい。ならば――

 

COMMON-ANALYZE!!

 

当然調べる。ターゲットは聖剣。クソ神父は既にこの間調べている。

今更チェックすることではない。聖剣のデータを集めるのも、俺にとっては重要だ。

 

……む? 何で三本分のデータが出るんだ? こいつは……マズい!!

 

『木場、油断するな! 奴が持っている聖剣は三本あるぞ!』

 

「相変わらずネタバレ師だねぇクソ悪霊! けれど、ネタバレしたって

 それに対応できなきゃどうにもならないだろぉ!?」

 

奴の剣戟の速度が上がる。データ照合――天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)――か!

まずい、剣のスピードは木場に肉薄する勢いだ!

木場も凌いではいるが、攻勢に出られないようだ。

ええい、実体化さえできれば……

 

い、いや、俺自身が実体化できなくても!

まずは奴の動きを読むんだ! そこに仕掛ければ……!

 

タイミングを見計らい、設置型の武器を実体化させる。

今俺が持っている設置型の武器。それは――

 

SOLID-SWORD MOUNTAIN!!

 

「何っ!? どっから剣の山がぁっ!?」

 

「これは僕の……いや違う、セージ君か! 余計な……」

 

『俺は直接手出しはしていない。ただ実体化させているだけだ。後は……』

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

動き回りながら、木場の魔剣製造(ソード・バース)――の劣化コピー――と

姫島先輩の雷――の劣化コピー――を立て続けに実体化、発動させる。

 

剣山にクソ神父の服を引っ掛けさせ、雷をそこに落とす。

うまい具合に雨が降っていたため、雷も呼びやすかった。

最も、寸前に服を切り裂き、脱出されてしまったが。

 

その勢いで、クソ神父は聖剣を振り回してくる。

 

「いちいち嘗めた真似すんじゃねぇクソ悪霊がぁぁぁぁ!!」

 

『――っと! 危ない危ない。あと50メートル位ずれていたら真っ二つになっていたか。

 ……つまりおおはずれだバーカ。いくら悪霊が斬れる剣っつったってなぁ?』

 

こういう奴は挑発のし甲斐がある。勝手に頭に血を上らせて自滅してくれるからだ。

改めて思ったが、木場と違って剣術とかそういうのは全く考慮されていない様子だ。

ただ、破壊や殺戮のための剣の振るい方。俺にはそう見える。

そんなものに当たってやれる訳が無い。当たったら冗談抜きでやばいけど。

 

……とは言えこっちも有効打がない。さてどうしたものか。

木場にしたって同じだ。なまじスピードが互角だから、攻めあぐねているようにも見える。

 

戦況は一進一退。膠着状態に陥っていた。何とかして、次の手を打たなければ。

それにしても地面はぬかるんでおり、動きにくそうだ。走れば転びそうだ。

 

……ふと、俺の頭の中に何かが走る。

 

 

――地面の泥濘……スピード……足元……これだ!

クソ神父が攻撃を繰り出そうとした瞬間を狙い、俺は次の一手を繰り出す。

我ながら妙案だとは思うが……うまく行ってくれよ!

 

EFFECT-MELT!!

 

「なっ!? あ、足元が溶けただぁ!?」

 

『そっちが聖剣を持ち出したようにな、こっちだって手数を増やしてるんだ。

 以前と同じ攻略法が通じると思うなよ!』

 

地面が泥濘どころでない程度に溶けたため、バランスを崩したクソ神父に

木場の一撃が炸裂。手に持っていた聖剣を弾き飛ばされ、丸腰に出来た。

これならば、止めを刺すのは簡単……かに見えた。

 

――木場が、一向に止めを刺そうとしない!

 

「つくづく運がなかったね、君も。さあ、次の聖剣を出したらどうだい?」

 

「おんやあ? いいのかい? いいんですかい? 折角お友達が作ってくれたチャンスなのに?

 ……ま、ダメって言ってもやるんだけどな!!」

 

くっ、まさかここまで木場が感情的になっているとは!

まさかとは思うが、全部の聖剣を完封勝ちするとか思ってるんじゃないだろうな?

そんなセンチメンタリズムに、いちいち付き合っていられるか!

 

それより、次に奴が出してくる聖剣は!?

などと思案をめぐらせていると、奴の姿が突然消えた。

データ照合――透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)――か!

 

MEMORISE!!

 

奴の力を記録したみたいだ。恐らくは姿を消せる力か、また大層な物が手に入ったな。

向こうは姿を消したことで優位性を得たのか、笑いが止まらないようだ。

 

……俺も面白い力を得たことで笑いが止まらないのが腹の内だったりするが。

勿論、声に出して笑えば速攻で居場所がばれてしまうために声は出していない。

 

「くけけけけけっ! クソ悪霊君!

 姿を消せるのがチミだけの特権だと思わない方がいいぜぇ!?」

 

『……そうだな。だが隠密戦闘行動に関してはこっちに一日の長があるぞ?』

 

案の定、奴は大威張りでいい気になっているのが声から分かる。

……だが。だがな。これについては「お前はアホか」と言わせていただきたい!

 

COMMON-LADER!!

 

『……読みどおりか。こうサクサク行くと拍子抜けするが……まあいい。

 これなら……木場! 奴は6時方角から10時方角に移動! 距離は近い!』

 

「……ふっ!」

 

そう、姿を消しても無駄だ。こっちにはレーダーがある。

姿を消すのならば、ステルスも併設しておくべきだったな。

今の奴は、かくれんぼでバレバレの隠れ方をしている、あまりにも滑稽な輩である。

 

「うおっ!? 何で俺様の場所が分かっちゃったわけ!?

 ま、まぐれ当たりはそう何度も……」

 

『次! 2時から4時方向! 一旦距離をとって突撃してくる!』

 

「……はっ!」

 

きちんと伝わっているかどうかは心配だったが、木場の方も的確に奴の動きを封じている。

いい調子だ。姿を消せることが必ずしもアドバンテージではないのだ。

 

「な、何でこっちの動きが分かるんだよ!? ま、まさかまたクソ悪霊が何かしやがったのか!」

 

『ああ。こっちの「目」にははっきり見えるもんだからな。

 それで隠れたつもりかと、腹を抱えて笑いたい気分だよ』

 

「セージ君のレーダーもだけど、君は殺気が立ちすぎている。

 おおよそ奇襲には向かなさそうだし、仕方の無いことだと思うよ?」

 

木場からも指摘されている。気配を読んで動くっての、木場は得意そうだしな。

塔城さんもそうだけど、悪魔になると勘が鋭く……

 

……あ、ないな。イッセーやアーシアさんは、悪いがとてもそうには見えないし。

 

「くそおおおおおっ!

 だったらこの『見えない刃』で切り刻んでやるよぉぉぉぉぉっ!!」

 

散々挑発されたクソ神父が姿を現したと思ったら、今度は剣を持っていない。

見えない刃……ちっ、武器を隠しやがったか!

 

――ダメだ、細かすぎて金属反応は探知できないし、生体反応で探知しても

得物が見えないんじゃ対処の仕様がない!

 

『気をつけろ木場! 奴は剣そのものを見えなくしている!

 何とか手を打つから、それまで持ちこたえてくれ!』

 

「君に言われるまでもない!」

 

やられた。これではレーダーが意味を成さない。

レーダーを収納し、俺は何とか奴の攻撃を凌ぐ方法を思案する。

早くしなければ、木場がやられてしまう。

今の俺の目的上、木場がやられるのはなんとしても避けたかった。

 

奴は見えない剣を振り回している。見えない剣とは言え剣は剣だ。

自分で勝手に飛んでいって攻撃するような武器じゃない、はずだ。

……それならば。

 

「ひゃはははははっ!! どうしたよイケメン悪魔君?

 やっぱ見えない剣が相手じゃどうしようもないかぁ!?」

 

「くっ……吹き荒……」

 

木場が風の剣を振るおうとした矢先、見えない刃に木場の剣が飛ばされる。

マズい! やはり見えないからか、間合いがうまく計れないのか!

 

「おーぅ。これには俺様もビックリドッキリ。

 お前、もうちょい頭の切れる奴だと思ってたが、そうでもないのな。

 まあ何がいいたいのかって言うと……大人しく俺に斬られなよっ!!」

 

「くっ、まだだ……まだ僕は!」

 

相手の気を逸らそうにも、今は銃を使えない。

厳密には使えるが、銃だけが実体化している状態ではこっちが的になるだけだ。

実体がないのが、こうもまともに戦えない状態だなんて!

 

このままじゃ、木場がやられる!

何とかして、相手の動きを封じる方法は……封じる……封じる?

 

――この手があった!

俺は意を決し、実体化していない左手をぬかるんだ地面につけ、カードを引く。

そのカードは――

 

SOLID-FEELER!!

 

実体化した触手は、実体のない左手から地面に潜る。

雨で柔らかくなった地面を面白いようにさくさくと掘り進み

クソ神父の足元から一気に地上に飛び出す!

 

「うおっ!? な、何だぁ!?」

 

『今だ!!』

 

足元から飛び出した触手は、一気にクソ神父の両手両足を封じる。

どうだ! これなら如何に見えない剣とは言え、振るえまい!

 

「……また助けられたね、セージ君。

 けれどいい加減、僕の事は……」

 

『おっと、それ以上は言わせないし言うであろう言葉に対する返答は用意していない。

 それにこっちも言わせて貰うけどな。

 俺はイッセーみたいに仲間意識でここにいるわけじゃあない。

 俺は俺で、依頼を受けてるんだよ。あんたの身柄の確保、ってな』

 

俺の言葉を聴いた瞬間、木場の表情が一瞬硬くなった。

まあそうだろうな。身柄を確保、なんて言われれば身構えもするだろうよ。

だが勘違いされるのも面白くないので、一応タネは明かす。

 

『一応言っておくが、グレモリーは無関係だ。

 俺にだって色々繋がりがあるんでね、その伝手であんたの身柄の確保

 ……っつか、護衛の依頼を受けてる。依頼人は、生きてるあんたとの面談を望んでいるんでね。

 ま、とりあえずその前に……っと!』

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

いつの間にやら、俺も力が増しているらしい。以前ならば考えられなかったことだが

今日二枚目の雷のカードだ。今度は拘束したクソ神父めがけて、触手から流す形で電撃を与える。

漫画ならば、さながらレントゲン状態になっているだろう。

 

「あがががががががっ!?」

 

『丁度良いや。お前にも聞きたいことがある。

 ……その聖剣、どこで手に入れた?』

 

勿論、素直に答えないことは了承済みである。それを見計らって俺はさらに電撃を流す。

そんなやり取りが、何回か続いたのだった。

 

 

……しかしそれは、相手に余計な反撃のチャンスを与えることになってしまっていたのだ。

何度も単調な電撃を流し続けたお陰で

奴に電気ショックに対する耐性が出来てしまっていたのだ。

 

しまった。その辺まで考えるのを忘れていた。額に水滴をたらし続ける方にすればよかったか!

或いは黒板を爪で引っかいたり、発泡スチロールをこすったり。

 

おまけに、こっちも拘束のために触手を実体化させ続けなければならない。

思いの他、これが力を消費する。それが、一瞬とはいえ緩みにつながってしまったのだ。

 

こっちの拘束が緩んだところを見計らい、奴は三本目の聖剣で触手を切断。

天閃の聖剣の力で加速、逃げ出してしまった。

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……ちきしょう、どうにもクソ悪霊と絡むと碌な事ねぇな!

 もうてめぇなんぞと付き合ってられるか! 俺はここで逃げるぜ! あばよ!」

 

「あっ……くっ、逃がしたか。こうなったら……」

 

木場がおもむろに魔法陣を展開すると、そこには小鳥がいた。

様子から見て、木場の使い魔のようである。

 

「今の神父を追うんだ」

 

雨の中とは言え、まっすぐに飛んでいく様はさすが使い魔というべきか。

なるほど、これは確かにイッセーのチョイスがおかしいと言う皆の意見も頷ける。

最も、そのチョイスは俺がこうして使っているわけだが。

確かに俺にもレーダーはあるが、索敵範囲外に出られるとどうしようもなくなる。

 

「ところでセージ君。君に僕の護衛を依頼したのは、一体誰なんだい?」

 

『……いずれ話す。公表する許可を得ていないのでな。

 とは言え、これで信じろと言うのも無理だろう。だからこれだけ言っておく。

 

 ……過去との向き合い方は、何も一つだけじゃない。

 それが、俺にお前の護衛を依頼してきた人物の言わんとすることだろうと思う。

 ま、自分のことを棚にあげれば俺も同意見だったりするが』

 

海道さんの事は、諸般の事情で話しても通じるかどうか怪しいものだ。

話の整合性を考えれば、俺は見当違いのことをしているわけではないと思うのだが。

 

「過去……か。君が幽霊と会話できるってことを、すっかり忘れていたよ。

 冷静になって考えれば、彼らが幽霊になってここに迷い込んで来ることもあり得るか」

 

『俺が見当違いの事を言っているかどうかについては、依頼人に会って確かめてくれ』

 

そう。俺が本当のことを言っているのかどうか。

それは、依頼人に直接会ってお前が確かめ……確かめ……ん? んん??

 

 

あーっ!! 肝心なことを失念していた!!

 

……どうやって、海道さんを木場に認識させるんだ!?

俺が見えないのに、海道さんが見えるワケが無いだろう!?

俺がなまじ普通に見えていたものだから、つい忘れていた!!

 

……実体化していないのが幸いしたか。

ここで変な表情をしていることを木場に見られるのはまずかろう。

しかし、ようやく依頼達成かと思ったら……これは少し面倒なことになったかもしれない。

 

いや、忘れている方が悪いんだが。

 

『む、物理的に見るのは無理だよな、すまん。依頼人曰く、ギターが得意らしいから

 それで誰かは分かるだろ、って言っていた。通訳は俺がやるさ』

 

納得したような、していないような表情ではあったが、木場に一応の事情は伝えた。

後は、会合のセッティングだ。海道さんに虹川さん、そして俺に木場。

全てのタイミングを合わせるというのは、中々に難しいものだ。

 

「やれやれ……君の事情は分かったけど、僕は僕で聖剣の在り処を突き止めたい。

 その邪魔をするようなら、悪いけど君と言えども……」

 

『何か勘違いしていないか? この件にグレモリーは無関係だと言ったぞ?

 つまり、今俺は俺の意思で動いている。毎度の事だが誰の命令でもない、俺自身のな。

 ……それにさっきも言ったかもしれんが、万が一があっては困る』

 

この際、木場と行動を共にした方がいいだろう。イッセーにはああ言ったが

あれは方便も兼ねてのものだ。最終的には木場が生きてさえいればいい。

 

『諦めろ木場。幽霊はしつこいものだぞ?』

 

「……幽霊じゃないんじゃなかったのかい?」

 

フッ。突っ込みをさせるために、わざとボケてみたが無事乗ってくれた。

四六時中ついて回るわけではないが、やはりある程度は

ギクシャクしたものは解いておかないと辛い。

 

こういうのはイッセーがいれば、円滑に出来るんだがなぁ。

……無いものねだりをしても仕方ないが。

 

俺の目的の前段階として、木場との共同戦線は不可欠なものだった。

今のあいつには、下手な仲間意識より多少ドライな関係の方が気が休まるだろうと言うのもある。

 

……俺自身、あまり馴れ合うのは好きじゃないのもあるんだが。

部活動に入っていなかったのはそういう側面もある。それ以上にバイト代だったが。

 

そういう意味じゃ、今のオカ研の環境は悪いとは言わないが

それが心苦しいと思うときがないわけでもない。今の木場はそうではないかと勝手に思っている。

俺にしたって、目的達成の前の障壁として立ちはだかられたときの事を考えれば

何とも言えないのだ。

 

今でこそオカ研の皆は仲間かもしれないが、いずれは……

俺が人間に戻ると言うことは、そこから目を逸らしてはならないのだろう。

全くの無関係になるのか、或いは敵になるのか。今までと同様、とは行くまい。

以前も思ったことだが、最近はどうもそういう考えがすぐに頭をもたげる。

 

「セージ君。これは先輩悪魔として忠告しておくけど、ある程度は自重した方がいいと思うよ。

 部長だからこの程度で済んでいるけれど、そうじゃなかったら

 今頃君ははぐれ悪魔として冥界のお尋ね者だ。

 

 ……ま、僕が言えた事じゃないし、君がこの一言で考えを改めるような奴には見えないけどね」

 

『ククッ、良くわかってるじゃないか。そもそも俺は事故で悪魔にされたようなものだ。

 それを棚に上げてお尋ね者などと、正直それが罷り通る冥界の思想がかなり問題だと思うがな。

 ……ま、そういう意味じゃグレモリー部長には感謝すべきなんだろうが……それだけだな。

 それ以上は無い』

 

木場の忠告も、根も葉もないことじゃあない。事実、俺の思想は危険であると言うのは

偶々見かけた冥界の情報誌では散々取り上げられていた。まあ、眷属が何考えてようが

眷属の行いの全ての責任は主にかかるわけだから

そういう意味じゃグレモリー部長に頭を下げるべきなのだろうが。

 

……それ以上に人に断りも無くペット扱いしている現状がそもそも気に入らないがな!

 

木場はどうもワケありで悪魔になったみたいだし、ある程度は合意だろう。

だがイッセーは言いくるめられたかグレモリー部長に釣られた節があるし

アーシアさんは死人に口なしだ。

この二人ほど結果オーライって言葉が合うケースもないだろうよ。

俺が事情を大体でも把握しているだけでもこの体たらくだ。不平を持つなと言う方が無理だね。

 

……俺の身体を取り戻す日ももうすぐ。この問題も、向き合うべき時が来たのだろう。

 

「……君とは試合や訓練以外で刃を交える事が無いことを願うよ」

 

『そうか。なら、この件が片付いたらもう一度模擬戦するか? 俺はいつでもいいぞ』

 

「……覚えておくよ。じゃ、そのためにも一刻も早く聖剣を破壊したいところだね」

 

それから、夜遅くなるまで聖剣の捜索とクソ神父の追撃は続けられたが

その日は、それ以上の収穫を得ることはとうとう出来なかったのだ。




フリード。
一巻時点ではキャラの濃いサイコパス系敵役だと思ってましたが
まさかこの次がああなるなんて……。
因みに本作では……まだ語りません。

……そういえば登場してこの方オリ主に散々良い様にされてますね。
獲物を逃がされたり、町の外まで吹っ飛ばされたり。
後者は実際殴ったのはイッセーですけど。


実はこの辺り、自分の理解不足でしょうがややこしいのがあるんですよね。
一巻でレイナーレが率いていたのも教会。
フリードが聖剣盗んだのも教会。別物ってのは分かるんですけど、ねぇ。
同じようなものに魔力と魔法力。他の作者様もよく混同されているご様子。
原作設定にいちゃもん付けるわけではありませんが
ややこしいとは思います、はい。


今回オリ主がゲットした能力は多分次章活躍予定です。
姿を消す……視界……後は分かりますね?
……霊体化で姿消せる事を考えると微妙能力かもしれませんが。


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Soul29. 聖剣、振り切ります。

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーWは関係ありませんし
仮面ライダーアクセルも関係ありません。


今回、一部演出上なんちゃって英語
(協力:記録再生……もといgoogle先生他翻訳サイト)が出ます。
「何か違う」というご指摘を受けましても、改善は非情に難しいと思われますので
ご了承ください。

また、本編で使われている英語を実際に使用、流用して起こる不具合について
作者は一切関与いたしません。


木場と共同戦線の話を付けたその後、捜索を続行するも手がかりは得られず。

結局、いくらなんでも学業に影響を及ぼすのはまずいと言うことでその場は解散。

駒王学園の生徒ではない俺が聖剣捜索を引き継ぐ形になった。

 

これについて、海道さんに一部始終は話してある。

しかし、聖剣破壊の実行となれば、彼を巻き込むわけには行かない。

今は俺が勝手に木場の我儘に乗っかっている形なのだ。

グレモリー部長の我儘にはあまり共感できなかったが

木場の我儘には何故か共感できる自分がいる。

我ながらとんだダブルスタンダードだとは思うが。

 

海道さんと言えば、気になることを言っていたな。

――警察が、対悪魔のチームを結成している、と。

それが本当なら、俺個人としては望ましい。やはり人間の世界の平和は人間が守るべきだと思う。

と言うか悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の設計思想からして、人間――

ひいては他の種族――をバカにしすぎではないのか。

合意を得ているなら良いだろうと言う考えもあるかもしれないが

俺に言わせば、そうせざるを得ない状況に相手を追い込んで、自分の手駒にする。

これだって合意は合意だ。非常に計算されつくした、後味の悪い、な。

 

……うん? そういえば巷に聞いたアニメがそんなストーリーで話題になったっけか。

 

 

……それはさておき。グレモリー部長の日頃の態度から見ても

面倒事をこっちに持ち込んでいる、と言う風には考えていない様子だった。全く以って不愉快だ。

何故、この町にはぐれ悪魔が徘徊するようになったのか。

この町が悪魔に支配された町と言うのも、どういう経緯でそうなったのか。全く聞いていない。

 

……都合が悪いから言わないのか?

だとしたら、本気で反逆を考えなければならないかもしれない。

日本の妖怪が支配していると言うのなら、土着信仰の一種と言うことでまだ諦めがつく。

だがどう見ても、グレモリーは日本妖怪じゃない。

 

 

そういえば教会――キリストの連中も、土着の神を悪魔に仕立て上げて

己の神を押し付けたって経緯があったな。全く、三大勢力はどいつもこいつも!

 

……もしかして、己こそがって選民思考があるから、壊滅寸前になったんじゃないのか?

だとしたら……もう何もいえないな。戦争で得をする奴なんて、本当に一握りだ。

得られるものよりも、失うものの方が余程多い。だから俺個人としても戦争などクソくらえだ。

……当たり前だが、戦争なんて体験してないし、したいとも思わないが。

 

考えていたら何だか腹が立ってきた。それほどまでにこのところ理不尽な話が続いている。

頭を冷やそうと公園に向かっていたが、なにやら騒々しい。

パトカーが何台か止まっている。何があったんだ?

野次馬根性と言うわけではないが、近くによって様子を見てみることにした。

 

――――

 

「本部より各局へ。○被は駒王学園方向へ逃走した模様。○追願います、どうぞ」

 

「了解。駒王学園周辺に緊配、網を張ります、どうぞ」

 

「よーし、何が何でもホシをしょっぴくぞ!

 この捜査には、警視庁から派遣されたテリー(やなぎ)警視も参加される!

 各員、無礼の無いように捜査に当たるんだぞ!」

 

……警官があわただしく動いている。話の内容はいまいち読めないが

どうやら学校の方に何かが逃げ込んだらしい。時間的には誰もいないだろうが……。

それにしても、随分と騒々しいな。相当大きな事件でも起きたのか?

 

氷上(ひかみ)、ホシは確かに学園の方角に逃げたんだな?」

 

「そのようです。もうこの時間では学園には誰もいないとは思いますが

 立てこもられると危険ですね」

 

赤いレザージャケットと言う、警官にしては結構派手な服装の男と

やや長髪の男性警官が話をしている。話の流れからして、長髪の方が氷上さんらしい。

む、立てこもりか。確かにそれはまずいかも。

 

「よし。俺は学園周辺を当たってみる。

 ホシがあいつである以上、俺達超特捜課(ちょうとくそうか)の出番はあるだろう」

 

「――超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)、ですか。正直、自分は今でも信じられません。

 この町が悪魔に支配されているなんて。

 そして、悪魔や人知の及ばぬ脅威から人々を守るために結成された部署だなんて」

 

「実物を見ただろう氷上。夜な夜な人を襲う悪魔。

 この町を実質牛耳っている僅か18歳相当の赤い髪の少女。

 二ヶ月位前にも、この町のはずれの廃教会で謎の爆発事故があっただろう?

 そういえばその少し前だったな。この町で連続猟奇殺人事件が起きたのも

 凡そ人間の仕業じゃない殺人事件が起きたのも」

 

「それはそうですが……そのときのホシ、フリード・セルゼンがまたこっちに来たんですよね」

 

超常事件特命捜査課……? 聞きなれないけど、今の警察にはそういう部署があるのか?

まあ、後で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べてみるか。

それと、やはり警察でもあのクソ神父は抑えようとしていたみたいだ。結果はああだけど。

 

「ああ……! 連続殺人鬼を野放しになどしておけるか!

 市民の平和を守るためにも、我々が動かなければならん」

 

「そうですね……。自分にも、柳さんみたいに神器(セイクリッド・ギア)があればよかったんですが」

 

「こればかりはどうにもならん。超特捜課自体、結成されて間もない部署だ。

 もう少しこちらでも研究が進めば、警備強化も可能なのだが……それまでは、俺が何とかする」

 

やや悔しそうに語る赤いジャケットの警官――柳さんが右手に持っているのは……

タコメーターつきのストップウォッチ?

話の流れからすると、あんなヘンテコなものの流通って事を踏まえても、あれが神器みたいだが。

 

一頻りの会話を終えた後、柳って人はこれまた赤いバイクにまたがっている。

覆面パトカーならぬ覆面バイク? 結構色々な意味で目立つと思うが……。

 

そういえば、周りで警戒している警察官にはちらほら見知った顔がいたが

この二人――柳さんと氷上さんは見た事が無いな。

新しい部署ができるからって理由で警視庁から派遣されてきたのか?

柳さん――テリー柳って言ったっけか。この人は間違いなく警視庁からの出向みたいだけど。

 

「じゃあ俺は学園に向かう。氷上、後は頼むぞ」

 

「了解しました、柳さんもお気をつけて。超特捜課氷上より本部へ。

 只今超特捜課柳警視が駒王学園方面へ急行中。

 なおホシは超常的戦力を保有している恐れがあり。神器使用の第二種体制を要請」

 

「――超特捜課柳より本部へ。駒王学園方面へ急行中。神器使用の第二種体制を要請する」

 

「本部了解。神器使用の第二種体制についても承認、ホシが超常的戦力を行使した場合

 速やかに第一種体制へ移行、超常的戦力の鎮圧に当たられたし」

 

バイクはひたすらに学園の方角へと向かっていった。

話の内容では、あの柳って人は神器を持っているらしいが……。

話を聞きたいところだけど……ぐむむ、実体がないのが悔やまれる。

最も、下手に実体化して「自分はここを牛耳っている悪魔の眷属です」なんて言っても、なぁ。

 

とりあえず、俺は柳さんの後を追ってみることにした。

 

――――

 

俺が学園に駆けつけたときには、既に状況は動いていた。

服装からして悪魔祓いだろうか、一人の男が鋭利な刃物で斬られて横たわっていた。

確かめてみたが、既に事切れていた。

と言うかこの状況自体、その悪魔祓いの魂から聞き出して把握したものだったりするのだが。

 

やったのはあのクソ神父であると言うこと。

そしてそれを追って警官が一人奥に向かっていったと言うこと。

 

警官は柳さんで間違いないだろう。

俺は静かに悪魔祓いの冥福を……と思ったのだが

生憎キリスト式の正式な死者の見送り方を知らない。

中途半端にやってえらいことになるのもまずいので

普通に別れを告げて柳さんとクソ神父の追撃を再開する。

 

 

そこでは、既に戦いが始まっていた。

方や人殺しを何とも思わず、悪魔相手にも普通に渡り合えるサイコパス神父。

方や神器持ちで、警官としての普通の訓練は受けているであろうが、一般人の警察官。

この勝負、一体どうなるのか。聖剣を持っている分、神父の方が優位なのか?

援軍に加わるべきかとも思ったが、今ここで実体化したら間違いなく話がややこしくなる。

実体化をしない援護は既に実践済みなので、いざとなればそうすればいい。

 

「あーもう! 今日はついてないぜコンチクショー!

 クソ悪霊どもにはいいようにされるし、まさか警察如きが俺様追いかけてくるなんてよ!

 おうポリ公、死にたくなかったらそこどけや!」

 

「断る。フリード・セルゼン、銃刀法違反の現行犯

 及び殺人の容疑で俺と一緒に来てもらおうか?」

 

一触即発なのは言うまでもない。相変わらずフリードの手には聖剣――

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)が握られている。

もうバレバレなのはお構いなしなのか、頭に血が上って冷静な判断が出来てないのか。

あの分だと、遠からずお仲間に処分されそうだぞ?

 

「そーかい、そーかい。

 時に俺ちゃん、そろそろ悪魔もその崇拝者も斬り飽きてきたとこなんだよね。

 この聖剣で普通の人間を斬ったら……どうなるんだろうなぁ? なぁ、どうなると思う?」

 

「……俺に質問をするな」

 

なんと。今までは一応悪魔とその関係者だけに殺害対象を絞っていたと言うのに

ここに来て無関係の人まで殺そうとするとは。

聖剣の力に飲まれたか、或いは元々そういう資質があったか。

まぁ、後者だろうけど……それでいいのか、聖剣を持つ者として。

 

聖剣って言っても、ただ特殊な力を持っただけの剣って言ってしまえばそれまでか。

道具は結局持ち主の意思一つ、って事だろうよ。

 

「ああ、俺も答えは聞いてねぇ。何せ……

 

 ……斬りたいから斬るだけなんだよぉぉぉぉっ!!」

 

まずい! 聖剣の力で一気に突っ込んできやがった!

あれは騎士の木場でようやく対応できる程度の速さだ、柳さんは反応できないはずだ!

何とか……さっきと同じ方法は使えるか!?

 

EFFECT-MELT!!

 

俺はクソ神父の足元を溶かそうとしたが、相手の突進速度の方が速かった。

丁度通り過ぎた後の地面がドロドロに解けている。これじゃ意味が無い。

 

「今のは……っ!!」

 

「こいつぁ……まーたどっかに居やがるのかクソ悪霊。

 今俺様は忙しいんだ、人を斬るのにな。

 こいつ斬ったらお前も切り刻んでやるから、大人しく待ってろよ」

 

奇襲と言うものは、一撃で成功させなければ意味が無い。

外せば、こうして自身の存在を相手にアピールすることになるからだ。

ところが、クソ神父は柳さんに夢中で俺の事は放置するつもりらしい。

まあ、俺を見つけられなければそうせざるを得ないんだろうが……。

 

その肝心の柳さんだが、相手の攻撃が直線的だったのが幸いしたのか回避は成功したようだ。

よかった。

 

「わけのわからんことを。さて、速さなら俺の神器も負けはしない」

 

「神器だぁ? さっすが日本! フジヤマ! ゲイシャ!

 まさかポリ公まで神器を持ってるなんてな! 一般人を斬りたかったがまぁいいや。

 その神器がクソの役にも立たないことを教えてやるよ! どこぞのヘボ悪魔のみたいにな!!」

 

あ、そうか。こいつはまだイッセーの神器が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だってことを知らないのか。

あの時、思いっきり吹っ飛ばしたからな。知らないのも無理は無いか。

そして柳さんの神器はスピードタイプか、ちょっとまずいか?

幸か不幸か、柳さんには俺の存在は認識されていない。このまま様子を見るとしよう。

 

「お前のその剣、データファイルにあったな。

 聖剣エクスカリバーの一種、天閃の聖剣。

 お前がそれを使うと言うことは、俺も遠慮なく神器を使えるということだ」

 

「はぁ?」

 

クソ神父の素っ頓狂な声と同時に、柳さんは無線機を取り出す。

そういえばさっき、体制の移行とかなんとか言っていたが。

 

「超特捜課柳より本部へ。ホシは超常的戦力を保有、行使している模様。

 これより神器使用第一種体制へ移行。承認願う」

 

「本部了解。神器使用第一種体制への移行を承認。

 速やかにホシを確保、被害の拡大防止に努められたし」

 

無線通信が終わったのか、柳さんは不敵な笑みを浮かべてクソ神父を見やっている。

その右手には、タコメーターのついたストップウォッチが握られている。

やはり、あれが柳さんの神器か?

 

居場所を悟られぬように、記録再生大図鑑を起動させて調べてみることにする。

柳さんが神器を使ったのは、それとほぼ同じタイミングであった。

 

「俺の追跡を振り切れるものか。『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』……発――動ッ!!」

 

ストップウォッチのスイッチを押し、時間を刻み始めたストップウォッチを柳さんは放り上げる。

そのまま、クソ神父めがけて特殊警棒を片手に突撃を試みた――ように見えた。

クソ神父の側も、天閃の聖剣で加速しているのだろうが……柳さんは、それよりも速く見えた。

その動きたるや、目で追うのに必死で下手をすれば酔いそうである。

 

「な、なめんじゃねぇ! 俺は……俺は聖剣を持ってるんだ! てめぇなんぞに……!!」

 

天閃の聖剣は、スピード自慢の木場と同等の速度を誇っていた。

それを、こうも速さという土俵で手玉に取れるとは。かくも神器と言うものは恐ろしいものだ。

と、ふと感心した間に天閃の聖剣は飛ばされ、クソ神父は取り押さえられていた。

柳さんは右手に手錠を持ち、左手で放り上げた神器をキャッチすると、ストップボタンを押す。

 

「ど、どうなってやがんだよ……!?」

 

「9.8秒。これがお前を現逮するまでのタイムだ。

 23時32分。フリード・セルゼン、銃刀法違反及び公務執行妨害の現行犯として、逮捕――」

 

おお。とうとうあのクソ神父がお縄にかかるか。

あの精神状態じゃ、精神鑑定にかかって減刑されそうな気もしないでもないが。

ともかく、これでこの町の夜も平和に一歩近づいた、はずだ。

 

……あれ? 確保しちゃったら聖剣はどうなるんだ?

その俺の疑問の答えは、あらぬ形で解決することになる。

 

「Fried... I got you!(見つけたぞ、フリード・セルゼン!)」

 

「――なにっ!?」

 

突然の、あらぬ方向からの攻撃。何かの衝撃波か。

俺は実体化していないので影響を受けないのだが、思わず身構えてしまった。

 

『――づぅっ!?』

 

――余波がそこそこに痛む。これは、光力によるものか?

だとしたら、これは聖剣で振るわれたものか!?

だ、だが聖剣を持っているクソ神父はそこで逮捕されそうに……ん? んん??

 

攻撃の余波は、霊体の俺へのダメージばかりではなく土煙も上げていた。

手錠もつないでいない状態でそんなことをすれば、当然クソ神父の性格上逃げるだろう。

 

「しまった! 奴めどこへ!? 超特捜課柳より本部へ、ホシは逃走、緊配を願う!」

 

「本部了解。駒王警察署より各局へ、ホシは駒王学園より逃走、周辺地域に緊配願います」

 

そう。柳さんの右手の手錠は、虚しく光っていた。

クソ神父がいたであろう場所には青い髪に緑のメッシュを入れた、俺と同じくらいの少女が

黒のボディスーツと言う何ともアレな格好で、剣を持って立ち尽くしていた。

 

「Oops! He ran away...(しまった、逃げられたか……)」

 

言動から、彼女もクソ神父を捕まえようとしていたみたいだが……

どう考えなくても、間が悪かったとした言いようが無い。

当然、柳さんにしてみれば看過できる状態ではなく。

 

「……駒王警察署超常事件特命捜査課の柳だ。殺人事件の重要参考人

 及び公務執行妨害の現行犯で、署まで来てもらおうか。

 

 ……I'm kuou police officer Yanagi. To you it takes suspicion of crime.

 Please come up to me and kuou police station.」

 

「What's this?(何のマネだ?)」

 

柳さんの右手に光っていた、クソ神父を捕まえるはずだった手錠は

青い髪の少女の両手にかけられていた。少女の方も困惑するばかりだ。

 

「Hey! Is attitude towards me it is a messenger of God?

 (これは……貴様、これが神の使いである私に対する態度か!?)」

 

「俺に質問するな! こちらは連続殺人犯、フリード・セルゼンの確保のため

 公務執行中であった! そこにお前が来て、煙幕を焚きその隙に乗じて奴は逃げた!

 わかるか!? お前の迂闊な行動のお陰で、罪の無い人々が

 連続殺人犯の恐怖に怯えなければならんのだ!!」

 

そう。これが俺が割って入らなかった最大の理由である。

警察を敵に回すのは、やはり避けたいのだ。警察と関わるのは

木場と共同戦線を張るのとは全く意味合いが違う。

それと……自分を神の使いとか言っちゃう辺り、あの子もまあ聖剣の関係者だろうな。

さっきの俺のダメージも、それで説明がつく。

 

ふと、周囲のざわつきが大きくなる。緊急配備でやってきた警察官が何人も増えたみたいだ。

その騒ぎに乗じて、手錠をかけられた少女が逃げ出そうと試みるが……。

いや、それ以前にどうも話が通じてないみたいだ。俺は悪魔になった副作用で言葉が分かるが

柳さんらはそうでもない。まぁ、そうなるか。

 

「話が通じないか……。氷上! こいつを連行する。パトカーを一台、それから取り調べに際し

 英語の通訳を一人回してくれ。このままじゃ話もできやしない」

 

「はっ、了解しました。さあ、来るんだ!

 

 ……You must come with me!」

 

「It is tied! I'm Zenovia who received the instruction

 of the holy sword recapture from the church!

 If you work an outrage to me, the Vatican does not forgive!

 (はっ、離せ! 私は教会から聖剣奪還の命を受けたゼノヴィアだぞ!

 私に狼藉を働けばバチカンが黙っていないぞ!)」

 

「言い分は署でゆっくりと聞く! 黙って歩け!」

 

……なんだあれ。まさかの結末に俺も呆気に取られたが、まあそうなるよな。

随分と騒がしい夜になってしまったが、調べ物がまだ大量にあることを思い出し

辟易としながらも俺は退散することにした。

 

――――

 

旧校舎は位置的には近かったが、あの騒ぎの後なので何となく留まりたくなかった俺は

久々にイッセーの家に向かうことにした。尚、特に意味は無い。

元々幽霊みたいなものなので、こっそりと忍び込む必要性は全く無いのだが

何故だかこっそりと忍び込むように行動してしまう。

 

二階のイッセーの部屋から直接壁をすり抜けて忍び込む。

部屋の中にはイッセーはいなかった。おや?

アーシアさんの部屋に向かっているのならば、悪いことをしてしまったか。

霊魂らしく漂いながら、俺は廊下に出てみることにする。

 

その時、俺の側のドライグがおもむろに話しかけてくる。

イッセーに聞いた話だが、本体のドライグもそんな感じらしい。

なんてはた迷惑な。人のことは言えないが。

 

 

――俺の「本体」が起きているみたいだな。「本体」の主となにやら対話しているようだ。

俺は所詮鱗から産まれた紛い物だから、自我などあってないに等しいから却って分かるのだが……

 

「本体」は、どうやら禁手に至れない事がもどかしいようだ――

 

『ふーん。焦る必要は無いんじゃないかと思うがね。

 そういえば、一度「本体」に聞いておかないといけない事があったな。

 

 ……この龍帝の義手(イミテーション・ギア)、いつ返せばいいんだ? 何か追加機能までついてしまったし』

 

ドライグはなにやら現状にもどかしさを感じていたようだが

俺は俺で気になっていた事があった。

 

――この龍帝の義手、いつ返せばいいんだ?

まさか、これを持ったまま自分の身体に戻るわけには行かないだろう。

……あれ? そうすれば、どうやって記録再生大図鑑を起動させるんだ?

むぅ。結構自分の身体に戻ると言うことはあれこれ八方塞になるな。

 

……まぁ、金輪際こんな事件には関わらないようにすれば、全く問題は無いのかもしれないが。

 

 

――「本体」がこっちに気付いたようだ、来るぞ――

 

うん? イッセーの奴、部屋に戻るつもりか。

寝るなら身体を拝借するとするか。俺だっていつもいつも野宿は精神的にイヤだ。

 

「ん? セージ、来てたのか」

 

『ああ、寝付けないからお前の身体を拝借しに来た』

 

「……その言葉だけ聞くと変な意味に聞こえるからやめてくれ」

 

そう考えるお前の方がよっぽど変だろうが、と突っ込みを入れつつ俺はイッセーに憑依する。

有無を言わせなかったが、俺も正直疲れたんだ。休めるところがあるなら休む。

 

……ああ、俺の身体さえあればこんなまどろっこしいことをしなくても良いのに。

 

「なぁ、セージ」

 

『疲れてるんだ、質問は手短に頼む。何だ?』

 

正直に言えば、俺のほうがドライグに聞きたい事があったのだが。

疲れているので先送りにしたいと言う欲求が勝っていたのだが

何故かこうしてイッセーの質問を受け付けている。

 

「木場の様子はどうだった?」

 

『……あー、そんなこと言ったっけな。

 グレモリー部長に逆らいすぎるのは良くないと逆に釘を刺された。

 それ以外はとりあえず無事だ』

 

俺のその言葉を聞いて、イッセーは安堵したらしい。ため息が漏れているぞ。

しかし考えてみれば、今日は球技大会のはずが

何故だかそれ以外の事でひたすら疲れてしまったな。

木場の脱走、クソ神父の再会、超特捜課……色々ありすぎた。

いくら俺でも疲れるってものだ。

 

「お前もアバウトだな……まぁ、木場が無事だって言うならそれに越したことはねぇな。

 そういや、さっきドライグと話してたんだけどよ……」

 

『ああ、俺から言う。疲れてるところ悪いな、霊魂の』

 

『……手短に頼むって言ったはずだが?』

 

ドライグのほうから話しかけてくるとは、余程の事態か?

それともただの暇つぶしか? だとしたらやっぱりお前はマダオだと思う。

 

『まぁそう言うな。こいつにも話したんだが、お前にも一応言っておこうと思ってな。

 

 ――「白いの」は近いうちにやって来るぞ。どうやらお前に寄越した俺の鱗に

 僅かながらにも自我が芽生えたのが原因らしい。

 この所、日増しに「白いの」の気配が強くなっている気がするんだよ』

 

『「白いの」――白龍皇アルビオン、だったっけか?』

 

何故俺がそれを知っているのか。答えは簡単、オフのときは大体記録再生大図鑑とにらめっこだ。

調べれば調べるだけ色々な情報が出てくるから、全く退屈はしないんだが……多すぎる。

大図鑑の名は伊達じゃないのか、今俺の左手は大図書館か

或いは超有能なデータベースのサーバーを持ち歩いているようなものだ。

 

『ああ、知っているなら話は早い。二天龍の片割れだ、戦いは避けては通れない。

 お前の記録再生大図鑑も、色々情報を集めてはいるようだが……まだ奴に勝つには足りんぞ』

 

『……改めて思ったが、そんな途方も無いやつと戦わなければならないってのは

 力の代価にしちゃ随分と高い。本当、マジでダイメイワクなオッサン

 略してマダオだよ、全く……』

 

白龍皇アルビオン。俺も詳しくは調べていないが、赤龍帝ドライグと対を成す存在。

「倍加」のドライグに対し、「半減」の能力を持つ。神器所有者は不明。

ロックされていたので深追いはしなかっただけだが。

 

「げっ、今のセージでも足りねぇってのかよ!? 微妙に認めたくはねぇけど、今の俺より

 間違いなくセージの方が戦績は上だってのに……」

 

『それはお前の力の出し方がなってないだけだ。

 お前は「禁手(バランスブレイカー)」に至れるだけの資質はあるんだ。その切欠がな……。

 あの時のフェニックスとの戦いで、もしかしたら至れていたかもしれないがな』

 

『……あの時フェニックスとの戦いをイッセーに一任すれば至れていたかもしれない、と。

 それはつまり、俺のせいだと言いたいのか?』

 

妙に棘のあるドライグの言い方。俺が考えすぎなだけかもしれないが。

或いはマダオ呼ばわりを根に持ったか?

宿主も大概だが、お前ももしかして……器が小さくないか?

 

『そうは言ってない。だがな、どうにもお前に力を吸われている感じがするんだよ』

 

『おい。その仮説が正しいとなると

 俺がいる以上はイッセーは強くなれないってことになるぞ?』

 

ドライグが語った衝撃の仮説。むぅ、その発想は無かったぞ。

そういう考え方もあるかと、納得できないことも無いのだが。

 

「えっ!? い、いや……俺は全然そんな自覚は……」

 

『気を遣うなイッセー。俺が不要になったら、いつでも叩き出せ。

 元々俺達は何の関係も無い別人だ。俺は身体がないから間借りしているに過ぎないんだ。

 それに、その身体だってもうじき戻る。

 そうなれば、本来の赤龍帝の力を引き出せるかもしれないぞ』

 

売り言葉に買い言葉なのは否めないが、一部は本音である。

まあ、その前に龍帝の義肢を返却しなければならないのだろうが。

 

「そ、そんなこと言うなよ! っつか昼に言っただろ!

 俺達はオカルト研究部として、部長の眷属として力を合わせなきゃならないんだぜ!?」

 

……また始まった。面倒臭い。ついドライグの話に付き合ってしまったが

そもそも俺は眠いんだが。いい加減俺を休ませろ。

仲間思いなのは美点だが、それを他人に押し付けるのはよくないなぁ?

押し付けがましいのは善意だろうと何だろうと、得てして鬱陶しいものだ。

 

『……イッセー』

 

「わかるかセージ? 俺とお前、二人で一人のリアス部長の兵士(ポーン)だ!

 あ、でも部長の処女は俺のだからな、そこんとこは忘れるなよ?」

 

……まぁ、確かに焚きつけるのにそういう意味合いの事を言った覚えはあるが。

ただ、実際フェニックスが言ったようにそういう抱き心地は良いんだろう。

しかしそれ以前に、あの性格ではどうにも盛り上がらない、と思う。

 

その意趣返しを込めて、俺はイッセーに思いっきり五寸釘を打ってやることにした。

 

『さっきからうるさい。アーシアさんが起きるだろうが。

 それとも言ってやろうか? アーシアさんに「部長の処女を奪う」って。

 本当、お前よくアーシアさんと同居してるくせにそういう事思いつくな。褒めてやるよ』

 

「ぐっ……あ、アーシアは家族だからノーカンだ、ノーカン!」

 

『……そういうことにしておいてやるよ。でもうるさいからはよ寝ろ』

 

エロ談義に付き合う気は毛頭無い。それにお前だって学校があるだろうが。早く寝ろ。

俺はそれを言うだけ言って、さっさと五感の共有を切り眠ることにした。




※今回、ちょっと長い後書きです。
お時間の許すタイミングでゆっくりとご覧ください。

今回ライダーが元ネタのオリキャラが結構出張ってますね。
以前の海道尚巳もそうですが、今回のテリー柳警視と氷上巡査。

名前も
照井竜→てるいりゅう→てりいりゅう→てりー柳(りゅう)→てりー柳(やなぎ)→テリー柳
モロ外国名ですが国籍はきちんと日本です。
元ネタの人と役職が同じなため、左遷色が強くなってしまいましたが。
神器の元ネタはトライアルメモリです。
一応純正の警官ですのでエンジンブレードに該当する武器はありません。
過剰装備は国民の不安を煽りますので。

また、氷上巡査の下の名前は涼です。
こちらも名前でお気づきの方もいらっしゃるとは思いますが
芦河ショウイチさんと同じく、仮面ライダーアギトの三人の名前の組み合わせです。
「氷」川誠+津「上」翔一+葦原「涼」


……さて。何故警察をぶち込んだかと言いますと。

人間が弱すぎるお。英雄派? あれは人間の皮被った何かだろjk

でも軍隊出したら速攻世紀末エンドになるお……

だから警察を出すお!

ライダーテイスト的にも警察は切っても切れない代物ですし
身近な人間の正義の味方ってやっぱり警察だと思うんです。
それに、今回ってコカビエル以外の敵(ゼノヴィア・イリナ含む)は
ほぼ全部人間なんですよね。
だったら尚更人間が動かないと変な話になるわけで。
特にフリードなんてあれだけ派手な殺人してれば警察動かない方がおかしいです。
原作の警察は多分リアス以上の無能……はっ!
いや、リアスが無能だから管轄下の警察も無能なんだ、そうに違いない!

で、何故フリードは日本語ぺらぺらなのにゼノヴィアがさっぱりなのか。
とりあえず、フリードは堕天使にナニカサレタって事で一つ。
ゼノヴィアがさっぱりなのは、通訳(イリナ)がいるからということで。

ざっと解説しましたが、まだ解説のいる部分があるかもしれません。
もしまだ質問等ありましたら、活動報告か感想のほうにお願いします。


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Soul30. 残された聖剣と悪意無き迫害

この作品はフィクションです。
実在の人物、地名等は一切関係ありません。

……まさかしがないいち二次創作作品でこの文面を出す日がこようとは。


イリナの性格は結構描写が難しいです。
コレジャナイ感が漂っていても突っ込みは無用でお願いしたい所存です。
……イリナも今後大きな変化がおきますので。

あと、いつもに増してオリ主が毒舌で辛辣で暴言吐いてます。
ご注意くださいませ。


翌朝。俺は昨日しょっ引かれた教会関係者が気になったので

適当な理由をつけ、警察署へ向かってみることにした。

 

……最近、授業のサボりが多くなってる気がしないでもないな。よくないことだが。

今のうちにサボり癖をつけるとよくない。それは分かっているのだが。

 

俺の目的地、駒王警察署。この辺りを管轄する警察組織だ。

昨日目撃した神器を持つ警官、テリー(やなぎ)さんもここに所属している。

そしてここには、その柳さんにしょっ引かれた教会関係者がいるらしいのだが。

 

……まさか、俺も警察に忍び込む日が来るとは思わなかった。

なるべくなら来たくないし、来るにしても真っ当な理由で来たかったのだが。

彼女が聖剣の所持者となるとまた話が変わってしまう。ああめんどくさい。

 

結局、あれこれ迷って時間を費やしつつ面談室にたどり着いたのは

昼の少し前くらいの時間であった。

 

 

……結論から言うと、どうやら入れ違いになったみたいだ。

昨日の警官――柳さんと氷上さんが話しているのを聞いた。

 

「……いつからヴァチカンは犯罪者を日本に派遣するようになったんだ、全く」

 

「しかも特命を受けていたってのは本当みたいですね。

 こうなっては下手に手出しできませんよ。下手に勾留したりしたら

 任務妨害の責を追及されかねませんよ」

 

曰く。司教枢機卿が犯人の身元引き受けを行うにあたり多額の保釈金を積んできた。

現在は同行して来日してきた少女を暫定的な身元引受人として保釈中。

かなりグレーどころかクロに足を突っ込んでいるが

日本政府としても海外に拠点のある司教枢機卿を刺激するわけにも行かないため

このような対応を取らざるを得なくなった――

 

……らしい。ああなんて面倒な。司教枢機卿ってのは確か記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)に曰く

海外に拠点を持ち、全国に渡り影響力のあるいち宗教の最高クラスの存在である。

そこが動いたとなれば、そりゃ国際問題って懸念も出てくるか……。

 

要するにローマ法王が

「俺んとこの部下派遣して日本で起きた事態を収拾させてるから

 お前ら日本の警察は邪魔すんなよ」

って言ってるようなものか。そう考えれば何故だか色々合点が行くな。

実際にローマ法王がそういうことを口走るかは別問題として。

 

「奴らの言う任務ってのは連続殺人犯の逮捕よりも重要なのか……。

 そんなものを罷り通せば、警察と言う組織の存在意義にも関わってくるものを!」

 

薮田(やぶた)博士も言ってましたよ。彼らにとって知られたくない情報の流出が起きているから

 秘密裏に処理したいんでしょう、って。だから我々に動かれると困るんだと思いますよ」

 

……うん? 薮田? 薮田って、あの薮田先生?

はて。何でここで薮田先生の名前が? あの人は記録再生大図鑑でも調べられないから

全く何をしている人物か分からない。超特捜課か、あるいは警察そのものの

オブザーバー的な人なのか。

 

「あ、そうだ。薮田博士と言えば、開発中の装備の試作品が届きました。

 ……しかし、アレ本当に警察の装備ですか?

 マスコミにバレたりしたら、またうるさい代物ですよ?

 そりゃあ、装備が欲しいとは常日頃から言ってますけど」

 

「難しいところだな。しかし悪魔連中には現行の警察の装備では対応できない。

 俺が神器(セイクリッド・ギア)を使ってようやっと、ってところだ。神器の無い

 一般の警察官の身を守るためにも、必要悪の装備かもしれないな」

 

「自分が言ってたのは、長野の事件で開発されたって噂の

 特殊弾丸のつもりだったんですけど……。

 一瞬、自衛隊宛の荷物が誤配されたのかと思いましたよ」

 

うへぇ。そんな物騒な装備が開発されたのか。そりゃ人間の身で悪魔の脅威から

自分たちの生活を守ろうとすれば装備が多少物々しくなるのは仕方ないかもしれないけど……。

せめて悪用されないことを祈るしかないか。

 

って、話しぶりだとまるで薮田先生が開発したみたいな口ぶりじゃないか。

ますます分からん、あの人の事が……。

 

「そんなに物々しい装備なのか……それはさておき、装備のテストは何処で行うつもりなんだ?」

 

「それが……それについてはまだ何も。

 上は今のところこの装備を神器扱いってことにするつもりみたいです」

 

「だろうな。そんな物騒なもの、おいそれと市街地で使用できないだろう。

 とりあえずパトカーに積んでおけ。試作品とはいえ悪魔に対応できる数少ない装備品だ。

 氷上(ひかみ)、緊急時はお前の判断で装備の封印の解除を申請、対処に当たれ」

 

「了解しました。無ければ良いですけどね」

 

そう。事件なんてのは起きないに越したことは無いと俺も思う。

だが、この所は立て続けに起きているような気がしてならない。

そんなだから、超特捜課みたいな部署が出来るし、平和な生活は遠のいているのだと思う。

誰の仕業なのだろうなぁ、グレモリー部長?

 

「それじゃ氷上、俺は引き続きフリードを探しに当たる。

 お前は保釈になったあの連中を張ってろ」

 

「了解しました、柳さんもお気をつけて」

 

どうやら二人とも未成年であることを考慮し、警察から一人――この場合は氷上巡査――が

監視のために暫く行動することになったらしい。柳さんも逃げ出したクソ神父の捜索だ。

やはり警察ってのは忙しいものだ。それはつまりこの町が平和じゃないってことにもなるんだが。

あの二人の話が聞けずに無駄足になるのも癪だったが、既に授業は始まっている時間でもあり

そっちに注力すべきと考え、警察署から学園へと直帰することにした。

 

――――

 

思ったより長時間警察にいたらしく、結局その日の授業を全てサボる結果になってしまった。

まぁ、学籍が無いしそもそもいないはずの俺なので、サボるもへったくれもないのだが。

そんなわけで、またアーシアさんに今日の分のノートを見せてもらうべく

部室に同行することになった。毎度の事だが、啖呵切った後はどうにも顔を出しづらい。

しかし、イッセーのノートよりはアーシアさんのノートの方が信憑性が高いのだ。

 

……まぁ、色々と可愛らし過ぎてこれで勉強するのは少々、色々な意味で疲れるのはあるが……。

見せてもらっている立場な上、文句は言えない。

それに、アーシアさんらしくてまぁ良いのではないだろうか。

グレモリー部長の件は後回しでいいだろう。少なくとも今はそういう気分だ。

アーシアさんのノートを優先したいのは、俺自身気分を変えたいと言う側面が強い。

そんなわけで、何食わぬ顔で普通に部室に入ろうとしたのだが。

 

――まさか、仮釈放されたあの信者がいるとは思わなかった。しかも連れまでいると来たか。

一人は先日逮捕された青髪にメッシュの少女。もう一人は栗色の髪の所謂ツインテール。

こっちが暫定的な身元引受人か。ま、霊体でいる以上やることは一つだな。

 

……記録再生大図鑑、起動っと。

 

既に話が始まっていたため、俺はあえて霊体のまま部室に留まっている。

イッセーは気付いたが、ジェスチャーで「喋るな」とは伝えている。

今俺の存在を公にして、話の腰を折るメリットなんて何一つ無いだろう。

しかしそれ以上に問題なのは……木場だ。何せ相手は現役、しかも聖剣所有者と来た。

この情報は伏せておくつもりだったが、まさか向こうからこっちに来るとは思わなんだ。

 

……グレモリーがここの元締めだから、まぁ当然っちゃ当然か。

しかし今回は既に警察に世話になったやつが相手だ。

場合によっちゃ、警察へのタレコミも使え……

 

いや、ダメか。確か仮釈放に司教枢機卿が動いた相手だ。

今度沙汰を起こせば間違いなく塀の中にぶち込めるが

それは同時に国際問題の火種になりかねない。

ああもう、当人にその自覚は無くても権力をかさに着て好き放題するやつは碌なのがいないな!

なぁ、グレモリー部長?

 

途中参加なので全容は掴めないが、とりあえず纏めると

 

 

一つ、教会に保管されているエクスカリバーが盗まれた。

二つ、犯人は神を見張るもの(グリゴリ)の幹部、堕天使コカビエルとその一味。

そして三つ、この件に対し、教会は不敵にもグレモリーに対し不介入を要求してきた。

 

 

こんなところか。しかし不介入っつてもなぁ……既に関わっているし。少なくとも俺と木場は。

それにしても教会はよほど聖剣強奪の件を知られたくないと見える。

警察にも圧力がかかったみたいだし。そして恐らくクソ神父は

今度はコカビエルとやらに鞍替えしたのだろう。

あのアイツはあの時俺が半殺しにしたからな。

 

……何だかこの所半殺しにしているやつが多い気がするが……気にしないでおくべきなのか。

しかしまぁ、二人だけで聖剣奪回ないし破壊とは……よくやるなぁ。

 

「……死ぬ覚悟で態々来日したと言うの? 呆れてモノも言えないわね」

 

「私達の信仰をバカにしないでちょうだい」

 

「ああ、神のために死ねるのなら、私達に悔いはないさ。

 まぁ死なないに越したことは無いけどね」

 

……あ、これはアレだ。一歩間違えたら宗教型テロリストになるパターンだ。

勇猛果敢と感心した矢先にこれか。これでは洗脳されているのと変わらんな。

しかし確実を期すなら、手数は多いに越したことは無いはずなんだが……。

面子や権威の問題か? それとも悪魔何ざ足手まといってことか?

まぁ、何でも良いんだけどな。こういうことで泣くのは決まって無関係な連中だ。

そういう代物の管理が甘いのは、何処の世界も同じか……。

 

 

話が一段落ついた様子なので、俺は生あくびを噛み締めながらイッセーに憑依しようとするが

その時、二人の目線がアーシアさんに向かった気がした。

 

そういえば、前に聞いた気がするな。悪魔を治療したばかりに掌を返された、って。

 

「君は……元『聖女』のアーシア・アルジェントか。ここにいるということは今は悪魔、か。

 『魔女』の君らしいと言えば君らしいな」

 

「へぇ、これがあの? ああ、心配しないでいいわよ。私達の目的はあくまでも

 エクスカリバーの奪還ないし破壊なんだから。元『聖女』の『魔女』の話を今更、ねぇ」

 

……うっわ。話には聞いていたが生で見るとなると、なぁ。

俺も駒王番長としていじめの現場に都合よく通りかかれたことはあるが……

そういえば、男のそれよりも女のそれの方がねちっこくて嫌な感じだった。

ともかく、アーシアさんは蛇に睨まれた蛙のように萎縮するばかりだった。

 

「……うん? 君はまだ、我らの神を信仰しているのか?」

 

「あははっ、そんなわけ無いでしょゼノヴィア。もしそうだとしたら、主に対する冒涜だわ」

 

うっ……いかん。図星だろう、アーシアさんは黙り込んでいる。

彼女にとっては癖なのだろう。事あるたびにお祈りをしては

頭痛に苛まれているのは俺も知っている。

そしてそれ以上にマズいのは……イッセーだな。さっきから目つきが変わった。

 

ああもう、要らん事言いよったからに!

木場って爆弾があるのに、その上さらに爆弾に火をつけようとするなんて!

俺はイッセーへの憑依を取りやめ、ソファの影に隠れる形で実体化し

グレモリー部長の説得に当たることにした。

 

「グレモリー部長。この展開は些かまずいです。幸い、あのゼノヴィアとか言う方は

 先日逮捕されたのを俺がこの目で見ました。場合によっては、警察への通報が効果的かと」

 

「セージ、あなたいつから……って聞いても、どうせはぐらかすわよね、あなたは。

 それと折角の意見具申だけど、それは聞けないわ。

 警察と言うことは、人間を巻き込むことになる。聞いたかもしれないけど

 聖剣が関わっている以上、一般人を巻き込むわけには行かないわ」

 

やはりダメか。一応、グレモリー部長の意見にも一理ある。

だが、相手は保釈中の身だ。下手に力で解決するよりは

法に裁かせたほうがいいのではなかろうか。いや、国際問題に発展する恐れがあるから

こいつらの確保はできないって旨の事を柳さんが言っていたか。

だがそれも現時点での話、実際に何でも良いから犯罪をやってくれれば……

 

って、何考えてるんだ俺は!

とにかく、正当な理由のある具申案の却下がある以上は、俺もそう強気には出られない。

仕方なく、俺はこのまま様子を見ることにした。

 

「イリナの言うことにも一理あるな。君がもし今も主に対する感謝を忘れないでいるのならば……

 ……今ここで、私に斬られろ。それが主への感謝だ。

 魔女と蔑まれても信仰を忘れないその姿は、私は評価する。

 だがそれは、君が人間でいた頃の話だ。悪魔となってしまったからには

 私達は君を斬らなければならない。それは分かるな?」

 

「あなたは悪魔だろうと分隔てなく助けたんだろうけど

 その悪魔に苦しめられている人もいるの。分かる? あなたが助けた悪魔が

 私達の仲間や罪も無い人々をどれだけ苦しめたか」

 

「そ、それは……き、きっと分かってくれると……」

 

うん? 険悪な雰囲気かと思ったが、一部を除いて一応は正論じゃないか。

確かに分隔てなく救済しようとするその姿勢は正しい。

だがそれは、相手がしっかりと更生をした場合の話だ。

出所した犯罪者が、再び犯罪に手を染める話でさえ枚挙に暇が無い。

言っては何だが、悪魔ともなればそういう事は往々にしてあるのかもしれない。わからないが。

 

「分かる? 悪魔がか? 君は私達の役割を愚弄してるのか?

 私達は人々を苦しめる悪魔を祓うべく、日夜戦っているのだ。

 それを生温い理想論で語られては、私達の立つ瀬が無い」

 

こればかりはゼノヴィアとか言うのが正論か。

映画の題材になるくらいにはその手の話は少なくない。

うん? 確かどこぞのクソ神父も似たようなことを口走っていたような……。

 

「あ、悪魔にだって良い人はいます!」

 

「……論点を摩り替えるな。私が言っているのはごく一部の悪魔の事じゃない。

 君の言うように、ごく一部が仮に善性を持った悪魔だだったしよう。

 だが、それでも悪魔の犠牲になる人間がいなくなるわけじゃない」

 

……おやおや。昨日勢いあまって警察のご厄介になったとは思えないほど

理知的な対応を取ってらっしゃるではないか。

これは言い分としては向こうのが正しいよなぁ……。

 

……まぁ、グレモリー部長以下数名、苦い顔をしていらっしゃるようだが。

 

「話にならないわね。まさかここまで悪魔の思想にどっぷり浸かってたなんて。

 これはもう完全に道を違えてしまったわね、ゼノヴィア?」

 

「そうだな……かつて聖女とまで呼ばれた存在がまさかここまで堕落してるとは……。

 非常に残念だ。聖剣奪還のついでに、やはり処分しておくしかないのか」

 

……む。やはりそういう結論になるか。しかし処分とはまぁ……。

確かに人間、アーシア・アルジェントは既に死んでいるが……。

人間としての生を謳歌できなかった彼女にしてみれば

今のほうが余程良い環境かもしれないのだが。奴らの言ってることは一理ある。

……だが、物事はそれだけで済むものか?

 

要らぬ力を持ったがために振り回され、結局はそれが原因で命を落とすことになり。

悪魔になったのにしたって、全て彼女の意思と言うわけでもあるまい。

自ら望んで悪魔になったんじゃない奴を、一方的に斬り捨てて良いのか?

 

……そう考えれば、やはり答えはこうか。

 

「恐れることは無い。魔女と蔑まれる前までは主のため、人々のためにその力を奮った君だ。

 私が主の元への安らかな旅路に送り出してやろう」

 

「……待てよ。さっきから聞いてれば、お前らはエクスカリバーを取り返しに来たんだろ?

 だったら何で、アーシアを殺そうとするんだよ!? 関係ないだろ!?」

 

案の定、イッセーが動いたか。方や狂ってるとは言え一応は法に則っている。

方やただの感情論。全く、幼稚というかなんと言うか……全く交渉の余地が無いな。

ああもう、話し合いってのはもっと理知的に行うべきだとは思わんかね?

 

「さっきから私を凄い剣幕で睨んでいたが、君はアーシアの何だ?」

 

「あっ、私分かっちゃった! きっとイッセー君が、アーシアを悪魔に引きずり込んだのよ!

 魔女と蔑まれているのを良いことに、アーシアの心の隙間に入り込むようにして!

 さすが悪魔! 私達に出来ない事を平然とやってのける! そこが臭いわ、吐き気を催すわ!」

 

「なっ、何を言い出すんだイリナ!?」

 

……今頃か。データ照合完了、紫藤イリナ。なるほど……なるほどね。

この子がイッセーの昔の知り合いか。じゃあ、ここには聖剣が最低でも二本あるわけか。

しかし……思考が飛んでいると言うか、思い込みが激しいと言うか。

まぁ、見方によっちゃ当たらずも遠からずなのがなんとも、なぁ。

 

この件について俺なりの答えは出したが、あえて静観を決め込むつもりだった。

しかし、アーシアさんの二の句を聞いた途端思わず口が動いてしまっていた。

 

「ち、違います! 悪魔になったのは……わ、私の意思です……」

 

「ほう、やはりな。所詮、魔女は魔女と言うことか。

 一瞬でも甘い評価を下そうと思った私の甘さに反吐が出そうだよ。

 己を受け入れてくれないからと、悪魔に宗旨替えするその軽さ。

 ……やはり今ここで斬り捨ててくれる!」

 

「待て。本当にそう言い切れるのか? あの時、アーシアさんは死んでいただろう?

 死者の意思を確かめるなど、余程の事が無い限りは不可能だ。

 俺は死人……まぁ正確には霊魂だが……の声は聞けるが

 生憎だが君が悪魔になる場面には立ち会っていないんでな。

 それに、生前悪魔になりたがっているようには見えなかった。

 それでも自分の意思と言えるのか?

 

 ……おっと、自己紹介が遅れてすまない。俺は歩藤誠二、出来の悪いイレギュラーな

 リアス・グレモリーの『兵士(ポーン)』だ」

 

……そう。今更だが、そもそも俺はリアス・グレモリーからして信用していない。

周囲の情報から総合的に判断しているに過ぎないのだ。

情報を得たところに主観を多分に織り交ぜはするが。

イッセーと同じように、神器に惹かれてアーシアさんを悪魔にした可能性だって

言ってはなんだが無きにしも非ずだ。

もしそうならば、神以上にえげつないことをやっていることになる。確証は得てないが。

そしてもしそうならば……

 

……アーシアさんの意思を無視して、悪魔にしたことになる。

俺と言う前例があるだけに、そういう考えには陥りやすいのかもしれないが。

 

「その出来の悪いグレモリーの犬が何の用だ?」

 

「犬は取り消せ。俺は願わくば人間に戻りたいと思っている。そんな奴が犬か?

 ……さておき。悪魔を斬るのは、お前達が悪魔祓いでもあるからだろう。

 となれば、魔女として鼻つまみ者扱いをされていたアーシアさんを

 真っ当な理由で斬る口実が出来たに過ぎない、それだけの事だろう?

 いいよなぁ? おおっぴらに人を斬る事が出来て。

 あ、言うまでもないが殺人は犯罪だからな? 『また』警察の世話にならないようにな?

 あんた達の理屈じゃ悪魔を殺しても罪どころか英雄扱いだろうけどな。

 それでも良いならどうぞやってくれ、大量殺戮の英雄さんよ」

 

「クッ……!? き、君は一体私を何だと思っている。忌々しいあの神父と同列に語らないでくれ。

 リアス・グレモリー。下僕の教育がなっていないようだな?」

 

「下僕呼ばわりも彼、怒るわよ? その子は私でも取り扱いに困っているじゃじゃ馬だもの。

 口が悪いのは私も認めるけど、そういう風に言われる方にも問題があるんじゃないかしら?」

 

俺はイッセーみたいにおおっぴらに感情的に反論はしなかった。

だが、内心ではアーシアさんを斬られる事に首を縦に振っているわけじゃない。

そのこともあってか、思わず相当なレベルの嫌味を口走っていたみたいだ。

それに、奴が警察の世話になったことにも触れている。

案の定「何でお前が知ってるんだ!?」な顔を一瞬だがされたが。

ククッ、幽霊は何でも知ってるのさ。幽霊じゃないけど。まだ生きてるけど。

 

それとグレモリー部長。だいぶ俺の事が分かってきたじゃないか。

だからって態度変えるようなマネはしないが。

 

「せ、セージ! お前、アーシアが殺されても良いっていうのか!?」

 

「うるさい、少しは黙ってろ……良いわけないだろうが。

 奴らの言ってることは狂ってるが本人達はそれが正義だ法だと信じて疑わない。

 そういうのが一番手に負えないんだ。ましてこいつらみたいに自分の命さえ粗末にする奴らはな。

 こっちから見たら立派な犯罪でも、そいつらは嬉々としてやりやがる。

 言うなればテロリストさ。世界の平和の怨敵さ。

 ……人間の面こそしてるが、悪魔よりも悪魔らしい、唾棄すべき存在だ」

 

「……言うに事欠いて私達をテロリスト呼ばわりか。本当に口が悪いな、君は」

 

イッセーの野次をあしらいつつ、俺は立て続けに嫌味を口走る。

ああ、やはり俺はこの手合いは嫌いなんだと再認識している。

別にこれは、俺が悪魔になってしまったからではないと思いたいが。

……それはそれで、こいつらに言わせば問題なのだろうが知ったことか。

 

「図星か? 気を悪くしたら悪かったな。

 破壊や殺戮で正義を体現する奴の事をテロリストと呼ぶと思ったんだが。

 さて……今までの話を一応聞いていたが、目的は聖剣の奪還だろう?

 なら、ここで島流しになった元魔女の現悪魔に現を抜かすよりも

 聖剣の手がかりを探した方が建設的だと思うんだが?

 まぁ何が言いたいのかって言うとだな……

 

 ……こんなところで油売ってないでさっさと聖剣取り返して来い。

 そいでもって国帰れ。お前らにも家族や仲間がいるだろ」

 

「何よこいつ、感じ悪いわね。言われるまでもないわよ! ゼノヴィア、行こ!」

 

「あらあら、お茶が入りましたわよ?」

 

「いや、結構だ。邪魔したな、リアス・グレモリー」

 

すごいご立腹な様子で、二人は辟易としたのかさっさと帰ろうとする。

ああ帰れ帰れ。それでも俺の目的は達成されるんだ。無血解決ならそれが良いだろうよ。

お前らだってこんなところで無駄死にはしたくないよなぁ?

俺は場の空気を相当悪くしているにもかかわらず、姫島先輩は驚いたことに平常運転だ。

肝が据わっているのか、空気が読めないのか……まぁ、どちらでもいいか。

 

「おいっ! このまま黙って帰るのかよ! せめてアーシアに謝っ……ごぶっ!?」

 

「あらあら。イッセー君折れちゃってますわよ?」

 

イッセー。折角表面上だけでも丸く収まろうとしてるのに事を荒立てるんじゃない。

それとも何か。お前は大好きなグレモリー部長の大事なこの部室が

血に染まっても良いっていうのか。それは俺としても御免被りたい。

俺は血の匂いとか味とか大嫌いなんだ。俺は基本ここでしか実体化できないんだ。

そこを汚すのは看過できないんだよ。

 

俺はイッセーを黙らせるため、容赦なく鳩尾に叩き込むことにし

前科のついた悪魔払いを見送ることにした。

 

「ああ待て。お前達にとっては忌むべき存在かもしれないが、俺達にとっては

 友であり、家族であるアーシア・アルジェントを見逃してくれた礼として

 面白いことを教えてやる。それは……」

 

「……僕の目的が、聖剣の破壊だってことさ!」

 

俺はあの神父が聖剣のうち三本を持っていることと

警察が張っているであろう場所をリークしようかと思ったんだが。

まぁ、前者は当たりをつけていたみたいだからお役立ち情報ではないだろうけどな。

 

しかし、イッセーにばかり意識が集中していて

後ろで殺気立っていた木場に気付けなかった。

立ち去ろうとした二人に奇襲をかける形で、木場が攻撃を仕掛けたのだ。

 

「くっ!? 闇討ちとは悪魔らしく卑劣な! 何者だ!?」

 

「君達の先輩さ。出来の悪い、失敗作だけどね!」

 

「祐斗! それでもあなたグレモリーの、私の『騎士(ナイト)』なの!? やめなさい!!」

 

「ぐ……な、何やってんだ木場、やめろよ!!」

 

やられた。折角この場を穏便に済ませようと思ったのに。

いや、この二人がこれ見よがしに聖剣を見せびらかせば

聖剣の破壊が目的の木場が動かない訳が無いか。

こっちを立てればこっちが立たず、か。全く面倒な。

しかも既に仕掛けているので向こうに正当防衛の口実が立っている。

形だけでも不干渉を結ぼうとした矢先に闇討ちとか

反感買って然るべきレベルのポカじゃないか!

これ、秘密裏にしようとしている事件だからまだ良いにしても

国同士だったら間違いなく外交問題だぞ!?

 

「くっ……木場、やるにしてもこの場はマズい。相互不干渉を口約束とは言え取り付けた矢先だ!

 そこで俺達がいざこざを起こしてみろ、司教枢機卿からマークされても文句は言えないぞ!」

 

「セージ君。昨日言ったはずだよ! 僕は聖剣を破壊しなければならないんだ!

 手伝えとは言わないが、邪魔はしないでくれ!

 不干渉を認められたら、僕は目的を果たせなくなる!」

 

「セージの言う通りよ。祐斗、この場は剣を収めなさい!」

 

想像しうる限りではよくない結果だ。アーシアさんへのヘイトは逸らす事が出来たが

木場のヘイト管理まで気が回らなかった結果がこれか。

 

……と言うか、何で他人のヘイト管理を俺がやってるんだよ!?

いや、そもそも誰かのヘイト管理をするって時点で色々おかしいんじゃないか?

立場的にグレモリー部長が適任なのかもしれないが……うん、まぁ。

この人に頼むぐらいなら俺がやってやろうか、って気にもなるか……はぁ。

 

ともかく、こうなったら仕方が無い。とことんまでやるしかない。

聖剣は破壊でも構わないってさっき言っていたことだし、この二人には悪いが

聖剣をここで破壊して、残りは木場のフォローで破壊するって体を取ることにしよう。

 

……聖剣破壊という事実さえあれば、誰がやろうと関係ないよな?

さっき自分達は殉教しても良いって旨の事を言ってたんだ。なら望みどおりにしてやろうか。

 

「むぅ、これは……一度やるところまでやらないとどうにもなりませんな。

 仕方ない。姫島先輩、旧校舎裏に結界の用意をお願いしたいのですが」

 

「分かりましたわ。祐斗君、皆さん、決闘場を用意いたしますので表に出ましょうか?」

 

「フッ。セージ君、話が分かるじゃないか。僕は聖剣を破壊しなければならない。

 それは君たちの物だって例外じゃない。大人しく僕に斬られてくれ」

 

「……嘆かわしいな。グレモリー眷属の『騎士』はこんな通り魔まがいの事をするのか。

 これでは、我々教会の戦士の汚点であるフリードと大差が無いな」

 

昨日目撃したから俺は知っていたが、ゼノヴィアの口からクソ神父の名前が出たことに

少なからず驚いている人も多かったようだ。

 

「お前……そいつの事を知ってるのかよ!?」

 

「ああ。決して同レベルでは語られたくない、我々にとっての最大級の汚点だよ。

 そしてそんな奴が、聖剣を振り回していると言うことも。

 

 ……おしゃべりはここまでだ。一応上には黙っておくが

 万が一の事故が起きても私達は責任を取らないぞ?」

 

「僕もあんな奴と同じには語られたくは無いな……!

 聖剣だけへし折るつもりだったけど、気が変わったよ。ここで殉教してもらおうか。

 君達の上層部だって、君達が生きて帰ってくるとは思ってないだろう?

 ならコカビエルと戦って死ぬのも、今ここで僕に斬られるのも大した違いは無いと思うけどね。

 ……ああ、心配しなくても聖剣破壊は僕が引き継ぐから安心してよ」

 

「……それ、悪役の台詞です。と言うよりセージ先輩っぽいです」

 

塔城さんの突っ込みの通り、完全に木場は暴走していると言っても良いだろう。

この状態で戦闘なんかしたら、まず間違いなく事故が起きる。

どちらがやられるにせよ、よくない結果になるのは間違いあるまい。

これは何とかして止めなければ。そう考え、俺は有無を言わせずイッセーに憑依した。

 

……しかし塔城さん。君の中の俺のイメージって何なんだろう。今回ばかりは少し気になった。

悪役の台詞が似合うって……むぅ。ちょっと口の悪さを矯正したほうがいいんだろうか?

 

「おいセージ! 憑くなら憑くって言ってくれよ、びっくりするじゃねぇか!」

 

『すまん。だが今の木場は明らかに異常だ。何とかして押さえに回るぞ』

 

「だったら木場を煽るような真似するなよ! 何なんだよ、決闘場って!?」

 

『ああなったら、言葉で止まらないだろ。こうなった以上、一度戦わせて木場を納得させる。

 そこを俺達でフォローに回る。幸い見た目の頭数では二対二だ。

 ……最悪、俺も出る。かなり反則だがな。

 

 ……忙しいところ引き止めて悪いなお二方。ちょいとこの勝負を受けていただきたい。

 試合形式は二対二のタッグマッチでどうか?』

 

「私は構わない。イリナ、いいか?」

 

「もちろんよ! さっきから私も色々言われて頭に来てたんだから!」

 

反則でも構わない。今はまだ、オカ研の仲間をやらせるわけには行かないんだ。

イッセーの声は渋々と言った感じだが、仲間を守ると言うことと

さっきのアーシアさんの件が効いていたのか

結果的には快諾と言った感じで受けてくれた。

向こうも意外と乗ってくれている。

考えたくは無いが、まさか合法的に悪魔を、人間を斬れるから

力を奮っているんじゃなかろうな? だとしたら……いや、今考えるのはやめておくか。

 

いずれにせよ、俺は、俺達はここで死ぬつもりは毛頭無いのだから。




逮捕された割には普通に出所して来ました、ゼノヴィア。
これについては司教枢機卿がチートと言うことで一つ。
文中で触れている通り、日本政府としてもローマ法王を敵に回すのはまずい
ってことで。超特捜課だって警察の一部署に過ぎませんので
警視庁や日本政府の意向を無視した活動は出来ません。
これが息苦しいからスパロボ自軍組織みたいなのが持て囃されるんでしょうけどね。

ただ日本でゼノヴィアが犯罪を犯したことには変わりはありませんので
この事件が片付いたらまた話は変わると思います。

長野の事件の元ネタは仮面ライダークウガです。
流石にこの世界にクウガはいませんし、グロンギもいませんが
神経断裂弾が必要になった事件はあったってことで一つ。
勿論、現在の警察では過剰戦力と言うことで運用されておりません。

……が、悪魔や堕天使みたいなのを相手にするとなると……。


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Soul31. 聖剣、暴走します!?

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーゴーストは一切関係ありません(挨拶)


今更ながらにネタ元が広範囲すぎて時折カオスの様相を呈していると思ったり
思わなかったり。


避けられた戦いを、何故嬉々としてやらなければならないのか。

流さずに済んだ血を、何故態々流す必要があるのか。

俺は断言しよう。この戦いに、意味など無い。ましてや純粋な願いさえも無い。

 

――ただ、態々死地に赴いた愚かな友の命を守るための、愚かな戦いだ。

 

駒王学園旧校舎の裏。ここに姫島先輩が結界を張り

兵藤一誠――とそれに憑いた俺、歩藤誠二と木場祐斗のタッグ。

聖剣使い、ゼノヴィアと紫藤イリナのタッグ。

この二組の戦いが行われようとしていた。

 

……実は、こっそりと警察に通報する準備もしている。

詳しい話をすると却って怪しまれるだろうが、騒動が起きていると言えば警察は動く。

その際、結界は力技でこじ開けるつもりだ。神器(セイクリッド・ギア)のある柳さんはともかく

氷上さんは結界に邪魔されてしまう恐れもあるからだ。

その上で警察を呼ぶ。そうすれば、ゼノヴィアの保釈は取り消し。

今度は確実に塀の中だろう。まぁ、最後の手段だが。

 

「そういえば、リアス・グレモリーの眷族の力はまだ見ていなかったな。

 『先輩』とやらの力も気になるしな」

 

「そうかい。けれど思い知ったときには、君はその得物を失うことになるよ?」

 

……チッ。まだ木場はのぼせ上がっているのか。

聖剣をぶっ壊すことだけにとらわれて、まるで周囲が見えていない。

だからこうしてイッセーを巻き込んでいるんじゃないか。ちったぁ反省しろってんだ。

……結界の中だから、俺が出ても良かったかもしれないが。

不必要に己の手を晒すのはよくない。

まぁぶっちゃけた話、イッセーと木場で十分だろうとは思うのだ。

 

と、思った俺ではあったが肝心のイッセーは相手の衣装――昨日見た黒のボディスーツ――

に見蕩れていた。二人ともあの格好と言うことは、あれが教会の正装か。

無駄に聖職者の服にセクシーな要素を詰めるのは

フィクションの話だけだと思っていたが、そうでもないのか?

 

「……さっきから気になってたけどイッセー君。目つきがいやらしいわよ。

 まさか再会したら悪魔になっていたってだけでも驚きなのに、それも色魔なんて!

 私が渡英している間に、一体何が起こっていたと言うの!?

 ……そう、これもきっと主の試練なのね! 悪魔になってしまったかつてのお友達を斬ることで

 神の裁きを与え、赦す!

 ああ主よ、イリナはきっとその試練を乗り越えて見せます、アーメン」

 

『ククッ、言うに事欠いて色魔かよ……ククッ。

 あの子、言っている事はよく分からんが面白いことを言うじゃないか』

 

「だっ、セージてめぇ笑うんじゃねぇ!」

 

色魔。これほどイッセーを的確に言い表す言葉もあるまいよ。

ついつい、俺は笑いを堪えきれずに噴出してしまった。

憑依している俺に対してイッセーが怒鳴るが

そんな様子は傍から見れば変なやつにしか見えないわけで。

 

「……い、イッセー君大丈夫? 神の裁きの前に、黄色い救急車呼んであげようか?」

 

『……そこに行くのはお前さんのほうじゃないのかね? それとも、現在進行形か?』

 

とは言え、流石にこの一言には俺のほうがカチンと来た。お前にだけは言われたくない、と。

大体宗教に嵌るやつは心の弱い奴が多い。それは何故か。拠り所を欲しているからだ。

逆に言えば、心の拠り所を持っていたり、自我をしっかりと持っている奴は

下らない宗教に惑わされることも無く、恙無く人生を謳歌できるはずなのだ。

まあ、俺のしがない持論に過ぎないのだが。

 

……つまり、だ。お前の方が余程心の脆い人間じゃないか。

そんなやつに精神のおかしい奴呼ばわりされたくは無いな。

 

「さっきから誰が話しかけてきてるのよ!? ま、まさか頭に直接……」

 

『な、わけないだろ。まぁ、お前達が知る必要は無いと思うがな。

 強いて言うなら……お前達が勝手に断罪してきた同胞の怨念かもしれないなぁ? ククッ……

 

 イッセー。ちょーっと、黙っててくれよ?』

 

「え? あ、ああ」

 

どうやら、奴は俺がイッセーに憑依したことは知らないようだ。

さっきもイッセーに憑依するところは見せてないし、見せる必要も無かったしな。

そこで敢えて、俺は少しデタラメを混ぜて話を振ってみることにした。

イッセーには少し黙っててもらう。

こいつも意外とおしゃべりだから、タネが明かされる恐れがあったのだ。

 

『ぐっ!? ううっ……ぅぅぅぁぁぁぁああ……いたい、イタイ、痛い……苦しい……

 何故、なぜ、ナゼ私達が殺されるぅぅぅぅぅ……』

 

「……っ!?」

 

「な、何だ!?」

 

勿論嘘だ。デタラメだ。俺がそれっぽく振舞っているだけである。

そして憑依を解き、霊体のまま彼女らの後ろに回りこむ。

見えていないのを確認した後、霊体の状態の俺の冷たい手を彼女らの首筋にそっと当てる。

 

『おなジかミをしんジるモのじゃなイか、ごロさナいでぐでぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

「ひぃぃぃぃっ!?」

 

「……たわ言をっ!!」

 

これは全部それっぽく言っているだけだ。まあ、今しがたアーシアさんの顛末の話を聞いて

いいアレンジが出来る話はないかと、それっぽい演出はしているが。

イリナの方は驚いているようだが、ゼノヴィアの方にはあまり効いていない様だ。

なるほど、こいつの方はガチってわけか。ならば。

 

『……いギてイる、にクい、ねタまじぃ……おマえミだいなのガぁぁぁぁぁぁ!!』

 

「さっきからしつこいぞ、怨霊め!」

 

「わ、私は何もやってないわ! だから来ないでよ!?」

 

勿論、今どうこうするつもりは全く無い。ただ驚かすために霊体のまま相手に突っ込む。

相手はイッセーじゃないので、当然すり抜けるがその際に冷たい、生暖かい空気が流れる。

これで戦意を奪おうかとも思ったのだが、この手はそう何度も使えなかった。

 

……ゼノヴィアがこっちに剣を構えていたのだ。そうなれば、霊体ごと斬られて終わりだ。

あまり効果は発揮できず、状況を引っ掻き回しただけに終わってしまった。

 

『……すまん。戦意を奪えるかと思ったんだが。どうもうまく行かないみたいだ』

 

「び、びっくりさせやがって! 本当にお前が悪霊になっちまったのかと思ったじゃないか!」

 

イッセー。何故そう思う。

俺の本体はちゃんと生きてるんだから、悪霊になるわけ無いじゃないか。

……違う意味でなりそうな時は多々あるけどな。

 

「戦意を奪うんなら、俺に任せろ! 必殺『洋服破壊(ドレスブレイク)』を……」

 

「……気をつけてください。イッセー先輩は、相手の、女性の服を粉々にします」

 

なんと。塔城さんから技のネタバレが飛ぶとは思わなかった。

予想外の場所からの敵への援護に、イッセーが憤慨しているが……。

 

これ、どう考えなくてもお前の責任だよなぁ。

これについてはフォローしない。フォローしたら俺も同類に見做されそうだから。

 

そういえばおばあちゃんが言っていたっけ。

「友達が悪い道を歩んだら、全力で止めろ」って。

 

もし俺に過去をやり直す事が出来たなら、全力でこいつのスケベを矯正にかかりたい。

もしかするとそれが、俺がこうなった遠因かもしれないからだ。

……本当にそうだとしたら、死んでも死に切れないのだが。いきてるけど。

 

俺の驚かしでイリナの出鼻は挫けたが、ゼノヴィアには一切効かなかった。

かつて悪魔契約の際に幽霊とも会話したが、中にはああした悪霊に近づいていたものもいた。

その際、彼らから(一方的に)学んだ恨み辛みを込めたつもりだったが……。

それで動じないところを見るにアレには一切の迷いが無い。

迷いの無い剣は確かに強い。だがそれは、同時にとても恐ろしいものだ。

 

――己の行いに疑いを持たない。それが意味するものは!

 

『気をつけろ木場! 奴は命を奪うことに何のためらいも持ってない!

 試合、勝負、その他スポーツ感覚で絶対に戦うな! お前が死ぬぞ!!』

 

「ご忠告どうも。けれどそれはあの神父にも言えることだろ?

 ……だったら、やることは変わらないよ!」

 

そう。奴は方向性がフリードと違うだけで、根元は全く同一なのだ。

少なくとも俺にはそう映る。悪魔にとってはもとより

下手をすれば人間にとっても害悪になりかねない。

ゼノヴィアの相手をしている木場は、二刀流で相手の聖剣を凌いでいるが……。

 

「すげぇな、木場の奴。気迫がすげぇ……っ!?」

 

「イッセー君、ゼノヴィアにばかり気を取られていたら怪我をするわよ!」

 

……くっ。こいつの言うとおりだ。

あのパワーバカの聖剣使いに注意するように木場に警告を出したが

こっちはこっちで油断なら無い。腐っても聖剣使いだ。

ある程度昨日の夜見たゼノヴィアと違って、こっちは今初めて見る手合いだ。

まずはデータ収集!

 

『イッセー、何でも良いからとにかく攻撃を避けろ! 今データ集め中だ!』

 

「そんなアドバイスの方法があるかよ!?」

 

照合完了。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。今は日本刀のような形状をしている。

どう変化させてくるかが読めない分やりづらい。

そして、この手の武器を使う奴は大概柔軟な発想をするものだ。

……ここは敢えて、力でゴリ押すか。

 

『イッセー。こっちの擬態の聖剣なんだが、俺にも攻略法が読めない。

 ここは思い切って、ドラゴンショットぶっぱしてやれ』

 

「お、おう。それでいいのかよ……まいいや。行くぜ!」

 

BOOST!!

 

イッセーの左手が動いた。

俺のほうが力を貸すことで、倍加スピードを速められれば良いのだが……

 

『霊魂の。そう都合よく俺も動けんぞ』

 

ドライグに無理だと言われてしまった。やはりな。

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)も、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)も効果は近いものがある。

 

龍帝の義肢は足に移し変えが出来るが倍加は一度だけ。しかしその分消費は少ない。

赤龍帝の籠手は際限なく倍加できるが左手だけ、しかも消費が半端ない。

 

似たような効果なので、合わせて一度に4倍に出来るかと思ったが

どうやらそれは無理みたいだ。本人に言われては仕方が無い。

イッセーのドラゴンショットは赤龍帝の籠手でイッセーの少ない魔力を倍化させ……うん?

魔力の強化なら、もう一つ方法があるじゃないか!

 

『魔力なら俺のほうが段ちだ。シンクロして少ない倍加で撃てるようにするぞ!』

 

「おう、頼むぜセージ!」

 

BOOST!!

 

二回目の倍加にあわせ、俺はイッセーとのシンクロを強化する。

昨日の夜体感したあの衝撃波ほどのダメージは無いが

やはり剣圧だけでもダメージが僅かだが来る。

これは、一気に決めないとマズいか。

 

『イッセー、相手が突っ込んでくるのにあわせて撃て!』

 

「けどセージ、まだチャージが2段階だ、もういいのか?」

 

『俺が補う、やれ!』

 

俺の宣言にあわせ、イッセーは左手をかざし魔力波を撃つ。

少々早いタイミングだが、まぁいい。そう思っていたが――

 

「――ドラゴンショットッ!!」

 

『……ぐっ!?』

 

イッセーの魔力が少なすぎたのか、或いは他の要因か。

思った以上に、俺の方からパワーを持っていかれた感じだ。

些か想定外であったため、照準を定めるための集中力が途切れてしまった。

イッセーから放たれた魔力波は、確かにイリナを捕らえたが――

 

「や、やるじゃないイッセー君……咄嗟に盾に変えなかったら危なかったわ……」

 

ぬかった。姿を変えられるということは、剣だけじゃなく盾にも出来ると言うことか。

発射のタイミングが早かったのと、照準がずれたのが失敗だろう。

そして今の一撃は、相手の奇を衒い、一撃で倒すつもりの一撃だった。

二発目は無い。と言うか、撃たせてはくれまい。

 

しかしあの擬態の聖剣、結構厄介だな。ここは……昨日手に入れたカードで!

 

ERROR!!

 

何ッ!? 今ので魔力を食ったのか!?

相手が擬態ならこっちは……と思ったが、無理なら仕方が無い。

リロードしている暇は無さそうだし……

 

『すまん、勝負を焦った。気をつけろ、やつは得物を自在に変えてくる。

 何とか体制を立て直す、力やスピードと言った基礎能力ならこっちが上だ。

 そこをうまく使ってくれ! ……で、どっちを強化する?』

 

「力で頼む、俺は木場みたいに素早く動いてもあんまりうまく行かないみたいだからよ」

 

『了解した……頼むぞッ!』

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

イッセーの力が増している。このパワーで押せれば良いが。

残念ながらドラゴンショットはこれでは強化できないみたいだ。

このカードが強化するのはあくまでも物理的な力に留まっている。

スピードは変わっていないが、パワーは完全に押している。

切りかかってきたイリナの剣を持つ手を掴み上げ

もう片方の手であっさりと剣を奪い取ってしまえるほどに。

 

「な、なんてバカ力なの……!!」

 

「イリナ!? くっ、どうやら赤龍帝の力は健在らしいな!」

 

「半分当たりで半分はずれかな。それより、君の相手は僕だよ!」

 

木場とゼノヴィアの方も膠着状態か。こっちは勝負がつきそうだが……うん?

お、おい。イッセー……まさか……

 

「うへへっ、こりゃ丁度良い! この状態ならかわせないだろうし、既に触れている!

 『洋服破壊』、発ど――」

 

チッ! やりやがったこのバカ!

俺は強制的にシンクロを解除、カード効果もスポイル。

そこまで付き合うつもりは毛頭無いんだよ! ダメ押しとばかりに一枚カードを引く。

 

……ちったぁ剥かれる側の気持ちも知りやがれ!

 

SPOIL

EFFECT-MELT!!

 

当然だが、周囲は騒然とした。何せイッセーの服がいきなり溶け出したのだから。

これに関しては、俺の力が弱まっていた事が吉と出たようだ。

まぁパワー調整でこれくらいにとどめることは可能なのだが、あの時は敢えてそうしなかった。

このバカの事だ。俺をそういうことに利用しないとも言い切れなかったからな。

 

「い、イッセー!? あなた、こんなところで何をっ!?」

 

「あら、あらあら。思ったより可愛らしいですわね」

 

「い、い、い、イッセーさんがっ!?」

 

「……早く服を着てください、この変態先輩」

 

悲鳴で現状を把握したイッセーは、思わずへたり込んでしまう。

その様は、ライザー戦で披露した時と全く同じである。

 

「せっ、セージ!? てめぇ、そういう趣味があんのかよ!?」

 

『無い。それより喜べ。念願のスラ太郎との再会だぞ? もっと喜べよ?』

 

本当。何故すぐにそういう方向に考えを持っていくのだろうな。

ちょっと考えれば無いって分かりそうなものなのに。つか姉さんがいる、姉さんが。

寧ろ、そういう風にネタにするのはモノホンの人達に失礼だと思わないのかね?

ともかく、イッセーのスケベには少々業を煮やしていた部分もあるので

俺は精一杯の皮肉も込めてイッセーに冷や水をぶっ掛けてやることにした。

 

「こっ、これが喜んでいられるかよ!?

 何が哀しくて人前で全裸にならなきゃいけないんだよ!?」

 

『あ? お前それ本気で言ってる? これがお前が他人にやろうとしたことなんだが?

 人が嫌がることはやるなって、俺はおばあちゃんから教わったんだがな?

 俺は確かお前の親御さんの顔は知ってるはずだが……ああ、人は見かけによらんのだなぁ。

 あんな善人そうな人から、こんな下衆が生まれるなんて。それとも親の前では猫被ってるか?』

 

「こっ、この悪魔! 人でなし! 似非フェミニスト!」

 

『……お前なぁ。俺「も」悪魔だってことくらい知ってるだろ。

 後俺はフェミニスト気取ったことは一度も無いぞ?

 俺が今まで何をしてきたか、知らないわけでもあるまい?』

 

イッセーはしきりに非難の声を上げるが、はっきり言って迫力が全く無い。

仰向けにして足を思いっきりおっぴろげさせてやろうとも思ったが

まぁ……それをやるのは次の機会で良いだろう。あれば、の話だが。

 

「な、な、何が起きたのよ……!?

 こ、これはもしや窮地に陥った私を救うために主が授けてくださった奇跡!?」

 

相変わらず、イリナは一人で盛り上がっている。こういうのは相手にしないに限るんだが……。

今はそうも言っていられないのが悩ましいところだ。

おまけにイッセーは成り行きとは言え俺が戦闘不能にしてしまった。

その落とし前をつけずに退くのもどうかと思い、俺はおもむろに実体化する。

 

「塔城さん、わるいけどこれ片付けてくれないかな?」

 

「……気は進みませんけど。セージ先輩の報酬のフルーツで引き受けます」

 

前を隠して丸まっているイッセーを指し示し

俺は塔城さんに結界の外にイッセーを放り出すように依頼する。

どうやらこの間のキウイがお気に召したらしい。俺もあれ好きなんだが……まぁいいか。

 

さて、うずくまってるイッセーだが、こうなっては邪魔にしかならないのだ。

俺が羽織っている形になっていた上着をイッセーに被せる。

そこを塔城さんが引っ張り出して行った。いくら変態で通っているとは言え

このまま外に出したら間違いなくこいつが捕まる。

それこそ問題外の事態だ。さて。身軽になった所で、と向き直った矢先

木場とゼノヴィアの勝負にも決着がついたようだ。

 

「がはっ……!?」

 

「『先輩』。己の得物を誤ったな。確かに私の剣は破壊力を重視するものだが

 君のそれはそうじゃないだろう? 見たところ、その分野は君が不得意とするところだ。

 聖剣の破壊? 笑わせてくれる。頭に血が上り、大局も分からない

 一介の転生悪魔にどうこう出来るほど、エクスカリバーはやわではないよ」

 

なんと。木場もやられたか。しかもあの様子じゃ手心加えられてるぞ。

あのゼノヴィアとか言うの、昨日の夜の事を思えば相当な向こう見ずと思ったが

なるほど、この程度はどうこう出来る観察眼は持っているわけか。

……これは油断ならないな。ちょっと、俺のほうもそれ相応の作戦を立てるか。

 

RELOAD!!

 

「……お見事。これで一勝一敗って解釈で良いのかな?」

 

「わっ、私は負けてないわよ!」

 

少々の疲れと引き換えに、カードと使用コストの補充を終える。

そして拍手をしながら上っ面だけでも祝福した俺に、イリナから案の定の反論が飛んでくる。

まぁそう見るのが普通だわな。それについてどうこう言うつもりはないし。

ただ、そうなる前はどう見ても負けていたと思うがね。

 

「不服か。まぁその方が都合が良いさ。何せこれから俺とも戦ってもらおうと思ってね」

 

「へぇ。さっき相当言いたい放題言ってくれたじゃない。容赦しないから覚悟しなさいよ?」

 

「……ビビリに凄まれても怖くないんだがね」

 

ビビリ呼ばわりされたことに、イリナは顔を真っ赤にして否定している。

ふむ。こういう反応が好きって人もいるだろうな。イッセーは裸にしか興味無さそうだったが。

 

「落ち着け、イリナ。

 ……すると何か? 君は私達二人を相手にする、そう言いたいのか?」

 

「ああ。それからもう一つサービスをつけてやる……俺は一切の攻撃をしない。

 当然だろう? タッグマッチを振っておいて、後から増援で一人来たんだから。

 これくらいのハンデは、あってしかるべきだと思うがね」

 

正直に言うと、木場が負けたことよりも脳筋風情がすかした態度を取っていることの方が

気に入らなかったりする。それに、俺だって口先だけじゃないつもりだ。

勝算は、頭に叩き込んでいる。

 

「私達も嘗められたものだな。

 身の程を弁えない愚かな悪魔よ、聖剣の錆になって消えても知らんぞ!」

 

「やっぱムカつくわあなた。ゼノヴィア、連携して仕掛けるわよ!」

 

二人は聖剣を抜き身で携えている。うむ、確かに実体化して対峙すると些か嫌な汗が流れるな。

だが、前言撤回するつもりも二言を弄するつもりも無い!

 

「俺の言った事の意味を教えてやる……!」

 

SOLID-TRUMPET!!

 

俺が実体化させたのは……球技大会の応援でも使ったトランペット。

その様に、対峙している二人はともかく結界の内外のギャラリーも呆気に取られていた。

 

「と、トランペット……?」

 

「演奏でもするのかしら?」

 

「悪魔がトランペットだと……本当にふざけたマネを!」

 

大正解だ。さて、ギャラリーの諸君。俺のトランペットのレパートリー。

オカ研の皆ならば心当たりはあるだろう? 木場は怪しいかもしれないが。

ゼノヴィアは俺がトランペットを持っているのが不服なのか、聖剣で突っ込んでくる。

とは言え、これくらいをかわすのは造作も無い。木場以上、それこそ柳さんクラスの速さなら

回避は困難だったかもしれないが、こいつ程度なら難なくかわせる。

忘れちゃいないか? お前ら、聖剣持ってるって言ったって、その身体は人間だろうが。

 

「ふざけているのはそっちだろう。俺は『攻撃はしない』って言ったんだ。

 楽器の演奏は、攻撃じゃあないよな? 折角だ、最近覚えたこの一曲、ゆっくり聴いてくれ。

 

 ――『音撃鬼管・突撃喇叭』!!」

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

俺が演奏するのは突撃喇叭。実際これしか吹けないんだから仕方ない。

今回は青天井、ギャラリーもそこそこ多いので全力で演奏している。

攻撃しない以上、ここで全力を使っても問題あるまい。

とは言え、音がゼノヴィアとイリナの二人に集中して向かうようにはしているが。

 

「こ、これは……フッ、いいだろう! その曲、我が破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)で幕引きとしゃれ込もう!」

 

「も、盛り上がってきたわ! こんな奴、やってやろうじゃない!」

 

……大成功。きっと虹川さんもこんな反応を見るのが楽しかったんだろう。

勿論、今回の俺はかなり悪趣味な方向でやっているので、彼女らと同列に語るのは失礼に値するが。

良い具合に観客も盛り上がっている。ここからさらにヒートアップさせてやる!

凄まじい勢いの剣戟が飛んでくるが、かわせない程じゃあない。が、念には念を押すとするか。

トランペットを宙に放り上げ、その間に一枚のカードを引く。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

加速を確認した後、落ちてきたトランペットをキャッチ。

俺は再び演奏を始める。まぁ実際のところ、俺が本当に吹く必要性はあまり無いのだが。

虹川さんの演奏にしたって、ただそれっぽく見せてるだけのエアバンドだ。

彼女らは霊的な力で曲を演奏している。そこに教えを請うた俺も、自然とそうなる。

 

演奏をしている間にも、ゼノヴィアとイリナの攻撃は激しさを増している。

最もこれは、俺の作戦の範疇だ。何せ、今吹いている曲の大本は虹川芽留。

彼女は聞くものをハイテンションにする程度の能力で演奏しているのだ。

オリジナルと勝負するつもりは無いが、ハイにさせる程度なら今の俺にも出来る。

で、攻撃を繰り出しながらハイテンションになるということは。

 

「くっ、このっ、すばしっこい奴め! 大人しく私に斬られろッ!!」

 

「このっ、このっ!

 主よ、今あなたの元にこの忌々しい悪魔の首をお届けいたしますっ、アーメン!」

 

だいぶ剣筋が大味になってきたな。土煙を上げながら、無駄に力んだ状態で剣を振り回す。

元が軽いイリナはそれほどでもないが、ゼノヴィアは目に見える形で息が上がり始めている。

フッ、こればかりは無駄に体力付けてくれたグレモリー部長に感謝すべきかねぇ?

もう一押しとばかりに、俺は演奏を続けることにした。

その最中、丁度ゼノヴィアとイリナが向かい合う中央に立つ事が出来た。

……この瞬間を待っていた!

 

二人は既に正気を失いつつある目で俺を捉え、聖剣で俺を斬ろうと突っ込んでくる。

その目には、敵である俺以外は見えていない様子だ。ここまでうまく行くと気持ち良いな。

聖剣が俺めがけて振り下ろされるその瞬間。俺は実体化を解き、その場を退散した。

その結果は――言うまでもないだろう。

 

「ぐあっ!? い、イリナ……貴様、私を斬るつもりか!?」

 

「ぜ、ゼノヴィアこそ……そんな危ない武器を振り回したら、私までやられるじゃない!!」

 

二人のターゲットが変わった。なんと、お互いに斬りあっている。

これはもう腹を抱えて笑うしかない。俺という標的を見失い、敵を求めて暴走していた二人は

お互いを当面の敵と認識、攻撃しあっているのだ。

球技大会のとき、チューニングに必死だったのはこれが原因だ。

際限なくテンションを上げ続ければ、たちまち観客は暴徒となってしまう。

それは俺としても不本意だったので、曲以上にチューニングを必死に学んだのだ。

勿論、今回はチューニングは殆どしていない。際限なくテンションをあげたことで二人は暴走。

まさしく狂信者と呼ぶに相応しい状態になったのだ。

 

「私の前に立ちふさがるものは、それすなわち神の前に立ちふさがる者!

 そこに直れ、我が破壊の聖剣で斬り捨ててくれるわ!!」

 

「主よ、主の教えを解さぬ愚か者に天罰を! アーメンッ!!」

 

最早俺たちなど眼中にないとばかりに、二人で斬りあうその様はまさしく滑稽である。

しかも、二人とも同じ神に祈りをささげているのだ。馬鹿らしくて笑えてくる。

おもわず賭けの対象にしたくなるほど、おかしな戦いだ。

……俺はあまり賭け事は好きではないし

そもそも高校生が賭け事ってのも如何な物かとは思うが。

 

「くくっ、そうだ。斬りあえ。殺しあえ。勝った方が神の寵愛を受けられるぞ?

 くくっ、くくくっ、ははははははっ!!」

 

「せ、セージ……あなた、本物の悪魔よ」

 

「あらあら、これは私達へセージ君が用意してくれた余興かしら?」

 

このある意味地獄の光景に、姫島先輩はなぜかノリノリで観戦しており

グレモリー部長は意外にもドン引きしていた。何故そこでドン引きするんですか。

そもそも、俺を悪魔にしたのは何処の誰なんですかねぇ?

 

「や、やめさせてください! セージさん、これ以上は……」

 

「悪いなアーシアさん。俺はもう演奏を止めているし

 テンションを下げる曲も確かにあるが、それは時間が無かったから今回教わっていない。

 ああなったら、死ぬまで止まらんだろうよ。それにこの際だから言わせて貰うが……

 

 ……あんた、悪魔としての自覚が足りなさ過ぎる。

 それとも俺みたいに人間に戻ることを望むか?

 今回、彼女らに詰められたのもあんたが煮え切らないからだ。

 悪魔になったってことは、人間であることを捨てているってことなんだ。

 俺はそれが我慢ならんから人間に戻りたいんだ。正直な話、俺は人間に戻れないなら

 死んだ方がマシだとも少なからず思っているがね」

 

「そんなことはありません!

 死んだ方がマシだなんて、主もそのような事はお望みになるはずがありません!

 主よ、迷えるセージさんに是非救いの手を……あうっ!」

 

アーシアさん。あんたの言いたい事も理屈としては分かる。

だが、だがね。理屈じゃどうしようもないほど許せないことってあるものでね。

今となっては望むべくも無いことなのかもしれないが……いやだからこそ、かもな。

それから主の救いの手とやらはそれこそ微妙に余計なお世話なんだがね。

……それを一々口に出すほど空気読み人知らずでもないが。

 

俺は、人間として生きて、人間として死ぬつもりだったんだ。

それが今やこうだ。人間として生きることさえ……

いや、それどころか死ぬことさえも俺には許されないと言うのかね?

生前――まぁ、まだ生きているが――の行いは極悪犯罪者に比べれば真っ当な

いち小市民として生きてたつもりだ。それなのにこうなのだから……

 

……やはり、アーシアさんの理屈でも神はいないことになるな。

それより癖なのだろうか。信仰心のなせる業なのだろうか。

その弊害についてだけは難儀だと思うぞ、俺も。

 

「悪いな。これもあんたの身の上を知ったうえでの結論だ。

 もしあんたがこれからもイッセーの傍に居たいがために悪魔であることを続けるなら

 悪魔としての自分を受け入れろ……半端な覚悟で悪魔やってるんじゃねぇよ。

 ま、悪魔やめたがってる俺が言えた義理じゃないけどな。

 それからこれはあくまでも俺の意見だ。

 アーシアさんはアーシアさんの生き方をすれば良いと思うぞ」

 

「うぅ……」

 

「セージ、あなたそこまで悪魔でいるのがイヤなのね……。

 性格は悪魔っぽいし神器も、腕も立つのに本当に惜しいわ」

 

悪魔についてどうこう言えるほど悪魔経験はないけどな、と付け加えはしたものの

ついぞアーシアさんに説教をしてしまった。うーむ、そのつもりは無かったのだが。

思ったことを言うと、どうしても説教臭くなる。

口が悪いのを矯正する方法、本当に無いかなぁ……。

 

などと思っていると、突如視界が光りだす。何事かと思い見渡すと

さっきまで観戦していた姫島先輩が苦しそうにしている。ま、まさか……。

 

「くぅっ……ちょ、ちょっと予想外でしたわ。

 二人の攻撃が激しすぎて、これ以上は結界を維持できませんわ……ッ!!」

 

「何ですって!? 朱乃、私も結界の維持に回るわ、持ちこたえて!」

 

しまった! ハイになって武器を振り回すってことは、威力もそれ相応に上がってるって事か!

確かゾンビ映画何かでも、何故ゾンビの力が強いのかって理由に

「理性が働いていないから力を制御無しで振り回している」ってのもあるくらいだ!

今、彼女らに理性は無い。そんな状態で聖剣を振り回せば……!!

 

しかも間の悪いことに、結界の裂け目にゼノヴィアの振りかざした剣が当たろうとしている!

止むを得ん! 被害が出るよりは余程ましだ!

 

思い切って、ゼノヴィアの前に躍り出た上でカードを引く。

うまく行かなかったら俺もここまでだ。

少々遊びすぎた、そのツケを払えって事か!

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

「くっ!?」

 

「ぐぅっ……!!」

 

「せっ、セージ!!」

 

爆風でゼノヴィアを吹き飛ばすことには成功したが

少々近すぎたのか俺も巻き添えを食ってしまった。しくじったが、結界は無事みたいだ。

こんな状態で結界が解けたら、氷上さんが乗り込んできて全員逮捕だ。流石にそれはまずかろう。

そういえば、さっきアーシアさんに止める方法は無いと言ったがもう一つあったな。

 

……俺がぶっ倒れることだ。演奏者が倒れれば、その効果を維持できなくなる。

 

「けほっ、けほっ……わ、私は一体……?」

 

「あ、あれ? 何で私……あ、あいつぶっ倒れてる!

 よく分からないけど、また主が我らをお救いになったのね!」

 

「むぅ……釈然としないが、そうなのかもしれないな。私にもさっぱりだ。

 だがこれで勝負はついた。リアス・グレモリー、私達の勝ちだな」

 

「ま、待ちなさい! 今のはセージが身体を張って被害を食い止めたのよ!?

 この勝負、こちらの勝ちよ!」

 

向こうでまだ何か言い合っている。どうもグレモリー部長は勝ち負けに拘る性質みたいだ。

これはただの喧嘩みたいなものだからいいが、その姿勢は主としてはどうかと思うがねぇ。

 

「覚えておくと良い。最後に立っている者こそが勝者なのだ。

 では我々は聖剣の捜索に戻る。くれぐれも関わらないでくれよ?」

 

「じゃーね。イッセー君、本格的に裁いてほしくなったらいつでも言ってね?」

 

言うだけ言って、二人は学園を後にした。やれやれ、やっと帰ってくれたか。

グレモリー部長は負けた事がよほど気に入らないのか、歯軋りをしていたが。

面倒なので、俺は寝たフリをしている。しかしいつの間にやら、ふりが本当に寝ていたみたいだ。

疲れていたのだろう、な――。




相変わらずオリ主が地味にゲスい。
でもただ人間でありたいだけなんです。
その願いは未だ叶う事はありませんが。
……そして振り返ってみるとどいつもこいつも傲慢だなぁ、と。

ライダー絡みで人間であることに拘り、人間の味方で在り続けたというと
どうしても草加雅人が出てきますが……一日遅いですね。
9/13ならそれに因んだ何らかのネタ挟んだかもしれませんけど。
作者的親ばかかもしれませんが、オリ主は草加ほどアレな性格ではない……
と、思います。嫌味っぽさとかはもろに草加のそれを意識してますけど。

洋服破壊については、ここで言いたいことは全部言えたと思います。
劇中反射とかされてない(少なくとも私が確認した限りでは)ので
自分がひん剥かれるリスクがまるで分かってない、だから揮える技だと
勝手に解釈してます。撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけなんです。
ちょっと意味違うかもしれませんけど。
イッセーの全裸とか読者視点だと誰得かもしれませんけど、劇中では間違いなく
得する人が最低二人はいるでしょうから。
原作でもここで暴発して味方に被害及ばせてますし。犯人謝ってますけど
謝る位なら最初からやるなって理屈でもあるわけでして。

アニメ基本未見の私にはゼノヴィアの声が
某妙高型で再生される不具合があります。この不具合は多分改善されません。
あとイリナの武器も大概にチートだと思います。
原作ではそれっぽい演出はありませんでしたが
現時点でのチート代表たる記録再生大図鑑対擬態の聖剣。
このカードはまた後日まともな形で出せればと思います。

……つまり、イリナかオリ主に変なフラグが立つってことですよ。ククク……

※7/19一部修正。
時系列的におかしなことになっていたので修正。


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Soul32. 神父、逮捕しちゃうぞ!?

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーゴーストは一切関係ありません(挨拶)

ゴースト先行PVで幕間ネタが一本かけそうでしたが
挟み込む場所が無かったから没になりそうな予感。
この投稿ペースだとこの章の決着はまだ少しかかりそうなので。


毎度の事ですがUA、お気に入り登録ありがとうございます。


聖剣使いとの下らない私闘は下らない結果で終わりを告げた。

だがそれでいい。私闘に崇高もへったくれも無い。

そういうのに喜びを見出す人種はまぁ、いるみたいだが

俺はそういう人種じゃないつもりだ。だから、下らなくて良い。

 

私闘の決着の少し後、時刻は日が傾きだした頃。目を覚ますと、また騒動が起きていた。

俺をソファまで運んでくれたであろう塔城さんに挨拶と礼を簡潔に述べ、状況の把握に努める。

寝起きで少し頭が回っていない気もするが。

 

「んあ……寝てたのか。手間をかけさせてしまったね。

 おはよう塔城さん。なにやら色々慌しいようだけど、何事?」

 

「……おはようございます。実は、かくかくしかじかで」

 

曰く、案の定木場が出て行ったというのだ。その程度の事で何をうろたえているんだか。

特にグレモリー部長のうろたえぶりが半端ではなかったので、俺はつい口を開いてしまった。

この人絡みだとどうしても嫌味っぽくなるってわかっているのに。

 

「やれやれまたか。あのアホ主サマにも困ったものだな」

 

「……あの、セージ先輩。お手柔らかにお願いします。

 何だかんだ言っても、私達はリアス部長の眷属ですから」

 

「……前向きに検討する、とだけ言っておくよ」

 

そうそれ。それが気に入らない。より正しく言えばそれ「も」、か。

悪魔の主従関係ってのは、ごっこ遊びで済ませて良いものなのか?

フェニックスの連中を見ている限りじゃ、そうは思わなかったが。

グレモリー部長の言う主従関係ってのは、中途半端なのだ。

悪魔の主従関係と、部活動の上下関係を一緒くたにして語らないで欲しい。

まして、冥界を背負って立っている魔王の妹が、だ。

部下が甘ちゃんなら主も甘ちゃんか。

甘いものは嫌いじゃないが、そもそも糖分の過剰摂取は本気で身体に悪い。

そう考えた結果が、こうして口を開いているわけだったりもするのだが。

 

「あらセージおはよう、起きていたのね。可愛い寝顔だったわよ?

 それはそうと、あなたは祐斗の行きそうな場所を知らないかしら? と言うのも……」

 

「それはどうもおはようございます。こっちは寝起きで甘ったるい感情論振り回されて

 胃がもたれそうですがね。そもそもあなたは人を何だと思ってるんですか。

 部下ですか。ペットですか。それとも……失礼、今のはただの愚痴です」

 

「……寝起きで愚痴を言われるとは思わなかったわ」

 

シトリー会長と言う例もあるので、主が自分を「部長」と呼ばせているのは

まあ、よくないがよしとする。シトリー会長についてはそれほど詳しくないので

突っ込めないと言う実情もあるが。

 

だが、部活動と言うのは極めて限定的な空間におけるコミュニティだ。

悪魔の主従関係というのは、冥界の社交界においてオープンにしているコミュニティ、のはずだ。

まさか、人間界での学校生活を豊かなものにしたいと言う

リア充願望で眷属集めてやしないだろうな? などと

とんでもなく穿った見方をしてしまうのは、きっと俺の性格が悪いせいだと思う。

 

でも断りも無くペット扱いされたら意地の悪い対応を取りたくもなる。

……まぁ、それも俺だけかもしれないが。イッセーは満更でも無さそうだし。

 

「どうせまた何処かに行ったんでしょう。晩飯は外で食べると?

 猫だって放っておけばそのうち帰ってきますよ……ふぁ~あ」

 

「……私出て行ってませんけど。あと、ご飯は鯖味噌がいいです」

 

「わかりましたわ。それじゃ、今日は鯖味噌にしましょうか」

 

むぅ。俺は公園にいる普通の猫を引き合いに出したのであって

塔城さんを引き合いに出したつもりは全くないんだが。

……今までも、これからも口にすることは決してないが小猫ってのもまた独創的な名前だな。

名付け親の顔が見てみたいものだ。自分のの子供に「小猫」なんて、普通つけない……よな?

俺も自分の子供を持ったことはまだ無いので、その辺はよく分からないが。

どっかの噺家にそんなような名前の人がいた気もするが……また事情が違うだろうし。

 

……子供、か。俺、将来は立派な父親になれるのかな。

俺自身が父親と言う生き物を知らないから、そこは自信ないんだよなぁ。

自分の子供の話をしてた姉さん、凄く楽しそうだったから多分、いいものなんだろうな。

……自信ないけど。色々な意味で。

 

などと物思いに耽っているとグレモリー部長はまた凄い剣幕で囃し立てていた。

だから何がそんなに気に入らないんだろうか。

 

「あ、あなた達ねぇ! 今どういう状況だか分かっているでしょ!?

 聖剣使いだけでなく神を見張るもの(グリゴリ)の幹部も動いているのよ!?

 そんな中で単独行動なんて私は断じて認めないわ! 何かあってからでは遅いのよ!?

 それはあなたも日頃から言っていることじゃない!」

 

あ、俺の言ったこと理解してないわ。俺の言う「事が起きてからでは遅い」ってのは

何も知らない奴が被害に遭う事を指してたつもりなんだが。

木場だってさっきの話のときに同席してたんだから

神を見張るものの幹部が動いていることぐらい知っているだろう。

事情を知っている奴が被害に遭うのと

何も知らない奴が被害に遭うのは全く意味が異なるんだが。

前者はただの自己責任の上で生じたトラブルだが、後者は全く理不尽な蹂躙になるんだが。

 

……と言うかそれ以前に、だ。あんた……常日頃から眷属大好きオーラ出してるくせに……。

こういう肝心なところで、そういう態度取るわけか……ふーん……。

 

「……前に言いませんでしたかな? 主たるもの、己が眷属を信頼しろ、と。

 今回のケースは、何故木場がああも頑なに単独行動を取ってまで聖剣の破壊に拘るか。

 まずは彼のことを理解せねば、話が進まないのではないですかな?

 止めるにせよ、後押しをするにせよ。

 彼の事情を踏まえた上で、あなたは彼を悪魔にしたのでしょう? 違いますかな?

 その割には、対応がどう見ても後手後手にしか見えませんがね?」

 

「……迂闊に祐斗の過去をぺらぺら話すのはよくないと思っただけよ」

 

ふーん。一応、それなりに考えてはいるわけですか。

ま、その結果逃げ出すように単独行動をとられちゃ世話ありませんな。

と言うか、完全に裏目に出てるよな、これ。

まぁ、一応考えてやったみたいではあるけど……。

 

……うん? いや違う。こいつアレだ。問題と向き合おうとしていない!

木場祐斗――イザイヤの出生にも関わる大事な事柄を

臭いものに蓋をするような態度で接してやがる!

そんなだから、木場の奴も独断専行せざるを得なくなったんだろう。

 

思えば今のアイツはかなり思い詰めている。

だから早く見つけ出さなきゃいけない部分には同意はする。

……けど、けどな。こうなった要因の一つが自分にあるってことは思いもしないんだろうよ!

 

「口では何とでも言えるんですよ。だが現にこうして彼は今単独行動を取っている。

 彼にも事情があるのでしょう。それは当然です。裏表の無いやつなんて

 俺はイッセーかアーシアさんくらいしか知りませんからな。

 まさか彼が腹に一物をくわえていた事、見抜けないほど無能ではありますまい?」

 

「だっ、だれが無能よ! その言葉、いくら私の可愛い眷属でも許さないわ!」

 

俺も大人気ないかもしれない。何故無能という言葉を使ったのか。

以前部長がゴシップ誌を読んでいたときに酷く立腹した事があった。

ゴシップ誌の戯言程度、と思ったが何が部長をそこまでいきり立たせたのか。

単純に興味があったので俺もその後読んでみたのだ。

 

そこに踊っていたのは「無能」の二文字。それで俺は何となく察しがついた。

実際に無能かどうかは俺は知らない。そもそもリアス・グレモリーと言う人となり――

いや悪魔となりを、俺はまだ数ヶ月しか観察していない。それなのに無能判定は出来ない。

 

……まぁ、今までの行いを見るにそう言われるのもむべなるかな、と言ったところだが。

 

「……お話になりませんな。では俺は俺の方法で彼と会話を試みます。

 相手は話の通じない生き物じゃないんですよ?

 つまり、いくらでも説得や対話は可能だったはずです。

 にもかかわらず、彼は飛び出してしまった。

 それはつまり、彼との対話を怠った事に他なりません。

 折角あった心を通わせるチャンスを無碍にした。それを無能といわずして何というんです?

 俺が言いたい事は以上です、では失礼。これ以上無能な主に付き合っていられませんので。

 

 ……それからもう一つ。俺の身柄はともかく、俺の心――魂は今も昔も俺のものですので。

 俺をモノにしたければ、それ相応の態度でぶつかってください。こんなやり方で

 人の心をつかめるとお思いでしたら――バカめ、と言っておきましょう」

 

「待てよセージ! もう俺も我慢ならねぇ! 部長に謝れ、今すぐにだ!」

 

後ろでまた怒鳴っているが、俺はもう聞こえないフリをしている。

掴みかかろうとしてきたイッセーも、足払いをかけてスルーしている。

……まぁ、口が悪いのは事実だからそこだけは謝るか。

 

「生意気な口を利いてすみませんでした。だがこれ以上は謝らんぞ。

 悪いが俺は自分の意見を取り下げるつもりはない。

 木場が今ここにいない、それは紛れもない事実なんだからな?

 まぁアレも忠誠心はあるほうだから、俺みたいに露骨に嫌味は言わないだろう。

 そんなやつでさえ、このザマだぞ?

 別にあいつは俺みたいにグレモリー部長が嫌いだから出て行ったってわけじゃないんだ。

 それともアレか? 仲間は四六時中一緒にいないといけないって決まりでもあるのか?

 だとしたら俺はそんなの御免だね。人間やめさせられた上に

 仲良しこよしのお飯事に付き合えって……何の冗談だよ。寧ろ冗談であってほしかったよ」

 

「お飯事って……私、そんなつもりは……」

 

……ああ、結局言い過ぎるパターンか。なんだかこのパターンも多い気はする。

とは言えこれ以上は俺がこうなった理由にも触れることになるので言えないが。

毎度毎度、俺は言いたいことをずけずけと言っている。

本当に俺は眷族なのだろうか? 何か違うんじゃないかと、最近では思っていたりする。

 

「セージ! 待てよ、セージ!」

 

イッセー。お前、グレモリー部長の事になると見境がなくなるのははっきり言って悪癖だぞ?

これ、相手が俺だから良いようなものの他の悪魔や三大勢力関係者だったりしたらどうするんだ?

皆が皆、グレモリー部長に好意的ではないことくらい俺を見れば分かるだろうに。

 

「イッセー。これだけは言っとくぞ。

 ……喧嘩を売るなら相手と場の空気をちゃんと読め。じゃあな」

 

言うだけ言って、俺は木場を探すために部室を後にする。

出た瞬間俺の身体は霊体になるが、もうこれも慣れた。

 

――――

 

さて。木場を追いかけるために霊体になって町に繰り出してみると。

なにやら人だかりが出来ている。少し気になったので遠巻きに様子を見てみると……

 

……氷上(ひかみ)さんと、あの二人がいた。

氷上さんに連れられる形で、二人は路地裏に入っている。

まぁ事情聴取の際、人だかりから離れた場所へ行くのはよくあることではあるか。

 

「――で、路頭に迷って街頭募金を行ったと?」

 

「だから言っただろう! こんなまどろっこしいことをせず、異教徒から……」

 

「ゼノヴィアは黙ってて! そ、そうなんです。軍資……もとい生活費も底を尽きてしまい

 このままでは今日の晩御飯にすら不自由する有様でして……」

 

何でこうなったのかは分からないが、事情聴取を受けているようだ。

保釈中の人間が身元引受人共々事情聴取を受けるって、それかなりヤバイと思うんだが。

さっきまで俺達と私闘を繰り広げていたとは思えない二人組みがそこにいたのだ。

 

「許可はとったんですか?」

 

「……え?」

 

「許可ですよ、許可。街頭募金の。無許可でやったら、アレだって立派な犯罪ですよ?

 よく高校生が駅前でやってますけど、アレだってちゃんと

 許可取るために交渉してるんですからね? よくいるんですよ。

 『恵まれない人たちに愛の手を~』とか言って、集めたお金をちゃっかり

 自分の懐にしまいこむ輩が。酷いときには全額やられますからね。

 これについては捜査二課が広報を出していますから、暇なときにでも読んでみてください」

 

ご尤もだ。無許可の街頭募金なんて、どう考えても良心に付け込んだ詐欺だ。

……まあ、この辺は街頭募金の明るいイメージが強すぎて

無許可のそれは犯罪である、と言う認識を持っている人はもしかすると少ないのかもしれない。

 

……だが、仮にも人の良心を守る立場であろう宗教関係の人間が

人の良心を利用した詐欺を行うのは……許しがたいものがあるな。

とは言え、そういう詐欺を率先して行うのは宗教の連中だ。

やれこの壷を買えば幸せになれるとか、この絵はありがたいご利益があるとか

人の心に付け込んだ商売のうまい連中だとは思っている。是非はともかく。

 

「そ、そんなことはありません!

 私だって、今しがたそこで聖ペトロ様……偉い人の絵を買ったんです!

 聖ペトロ様のご加護を得られるように!」

 

「そうですか。それについても後ほどゆっくりと聞かせてください。

 しかしだからって『他の人を騙す』って理屈が通るわけ無いじゃないですか。

 とても黙って見過ごせるものじゃありませんよ。それに、君たちは確か……」

 

……マジか。まさか自分達がその手の詐欺に引っかかってたなんて。

氷上さんも無茶苦茶怪しい目で見ている。ゼノヴィアでさえ訝しんでいるほどだ。

もしかしてこのイリナっての……騙されやすいタイプ?

こんな少し考えれば怪しいって思うものに、宗教に携わる人間が引っかかるなんて。

所詮、宗教なんてそんなものかもしれないがね。

 

「ち、違います! この絵は本物です!」

 

「よせイリナ。言ってる事は分からないが、今見苦しいことになっているのだけはわかる」

 

「とにかく、ちょっと署でお話を聞かせてもらえますか?

 ……あ、一応言っておきますけど、カツ丼は自費ですからね?」

 

「ええっ!? あ、あれ奢りじゃないんですか!? ああ、主よ……」

 

そういえば聞いた事がある。よく刑事ドラマで出るカツ丼だが、あれはタダではない、と。

まあ、その代金を税金で払っていると考えると当たり前と言えば当たり前か。

そういえば警察って税金で動いてる組織だけど、よく超特捜課(ちょうとくそうか)みたいな部署が出来たなぁ。

 

「イリナ、どうしたんだ?」

 

「これから警察に連行されるみたい。それでもってご飯も出ないって。ああ主よ……」

 

「何ッ!? そんなもの、無視してしまえ!」

 

「出来るわけないでしょ!? ただでさえ今私達が娑婆の空気吸えてるのは

 上も上、かなり上のお陰なのよ!? 次やらかしたら

 今度は私も汚い塀の中にぶち込まれることになるのよ!?」

 

「は、話はよく分かりませんが落ち着いてください……」

 

突然喧嘩を始めた二人。そりゃあ、前に一度ぶち込まれたゼノヴィアはともかく

イリナは帰国してまさか自分が警察の世話になるなんて思っても見なかっただろうよ。

その剣幕に、氷上さんもたじろいでいる様子だ。

 

結局、軽食を氷上さんが奢ると言う形で落ち着き、二人は氷上さんのパトカーに乗せられ

またしても警察に行く羽目になってしまったようだ。

 

――――

 

……事件が起きたのは、その暫く後。

既に日は沈み、俺の実体化にも問題がなくなりつつある時間帯だ。

パトカーが襲撃されると言う事件が起きたのだ。

ニュースで知ったのではなく、爆発のある方向に駆けつけてみたらこれだ。

パトカーは大破しており、辛うじて読めたナンバープレートから

それが氷上さんのパトカーだと言う事が分かる程度だ。

中に乗っていた人の安否は分からない。そして、犯人は――

 

「チッ。俺に恥をかかせてくれたポリ公かと思ったが違うのかよ。

 ったく、バルパーのジジイが言う聖剣使いの死体も見つからねぇし」

 

やっぱりこいつか! 結構おおっぴらに動いてるな、こいつ。

……ん? 待てよ? バルパーって……確か聖剣計画の首謀者だったな。

ならば、こいつをつければこの事件の黒幕にたどり着くかもしれないか。

そう考え、俺は霊体のまま奴を見張ることにした。のだが。

 

「――なぁーんちゃってぇ! そこに隠れてるのは分かってるんだよォ!!」

 

聖剣がパトカーのエンジン部分に突き刺さり、タダでさえ大破していたパトカーは

無残にも爆発炎上してしまう。その衝撃で、三人分の人影が現れる。

ゼノヴィアに、イリナに……氷上さんだ。

二人はともかく、氷上さんはマズい! 神器(セイクリッド・ギア)の無い、正真正銘一般人だ!

 

「よーぅ。教会のワンコちゃん達じゃあーりませんかぁ。

 俺ちゃん用があるのはあんた達の聖剣だけなの。

 あ、そっちの青髪の子は助けてやっても良いぜぇ?

 なんせ、あんたのお陰で俺って逃げ出せたようなもんだし?」

 

「う、うるさい! 今度こそお前をとっ捕まえてやる!」

 

ゼノヴィアは斬りかかるが、スピードではやはり向こうが圧倒的に上であった。

力には技、よく言ったものだが……この状況、はっきり言ってよろしくない。

 

「ゼノヴィア、加勢するわ!」

 

「お? いいのかい? そんなことしてると……

 そこのはぐれ悪魔が、そのポリ公食っちまうぜぇ?」

 

「!?」

 

振りむくと、そこにはあの灰色の甲虫型のはぐれ悪魔がいた。

このタイミングで出てくるとは……まさかアイツ、使役しているのか!?

はぐれ悪魔を使役する……そんな芸当が可能なのか!?

い、いや……あれは確か仲間を増やすことだけを目的に動いてる

位の低い妖怪の成れの果てだった。

そういうタイプだから使役するのは簡単なのかもしれない。

バイサーみたいなデカブツが何体も出てくることを考えれば、よっぽど有情か。

 

それはそうと、いくらアイツはやろうと思えば人間でも相手取れるとは言え

あの時のあれは特殊なケースだっただけかもしれない。

このままでは、いずれにせよ氷上さんが危ない!

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

となれば答えは一つだ。俺はおもむろに飛び出し、氷上さんに飛びかかろうとしていた

はぐれ悪魔の殲滅に入る。

 

「お二方! こっちは引き受ける!」

 

「げぇっ! クソ悪霊!」

 

「貴様は……どの面を下げてきた? 散々我々神の使徒を侮辱しておいて!」

 

「そうよ、あんたの力なんか借り無くったって!」

 

やはり二人は俺に対し相当ご立腹のようだ。まぁ織り込み済みだが。

だが、そんな視野狭窄に陥った態度を取っていても事態は改善しないと思うがね。

本当、これだから狂信者ってのは質が悪い!

 

「……今は所属がどうのこうの言っている場合か? 違うだろう!

 こいつらは放置しておけば仲間を増やす!

 それは即ち何も知らない連中が危害に晒されるんだ!

 そうならないためには、悪魔も教会もあるものか!

 お前たちは何のためにその剣を振るっているんだ!

 どうしてもと言うなら、俺もついでに攻撃すれば良い!

 はぐれ悪魔なら俺がきっちりしとめてやる。お前達に言わせば悪魔らしくないかもしれないが

 俺は理不尽な破壊や死を望まない! それを齎す奴とは、何者であろうと俺は戦う!」

 

「相変わらず言う事がイミフなんですけどクソ悪霊君ぅ~ん、こいつらの聖剣奪ったら

 今度こそてめぇをバラバラにしてやるからよ……。

 俺も散々こけにされてもうぶち切れそうなのよね」

 

「お前みたいなやつに聖剣を渡せるか! あの悪魔も斬るが、まずはお前からだ、フリード!」

 

「あんたみたいなのと組むほど、私たちも落ちぶれてないってことよ!」

 

イリナとゼノヴィアはクソ神父の、俺ははぐれ悪魔の相手をそれぞれすることになった。

二人ともさっきの決闘で俺に言われたことを根に持っているのか、俺との共同戦線は不服らしい。

まぁ、どの道俺ははぐれ悪魔の相手だから結果は同じなんだがね。

 

……そもそも、考えている暇があったらこいつらの殲滅だ!

 

「くっ、超特捜課氷上より本部へ、連続殺人犯フリード・セルゼンと遭遇!

 至急応援を願いたし! また、超常的危険生物も多数確認! 場所は――」

 

氷上さんは無線機で応援を要請している。

その間、俺が氷上さんめがけて飛んでくるはぐれ悪魔を斬り捨てる流れだ。

だが数が多い。一体何処にこれだけ潜ませていたんだ?

光剣ではぐれ悪魔をあしらいつつ、氷上さんの護衛をしていたが

無線連絡を終えた氷上さんも、いつの間にか拳銃を手に応戦していた。

 

「くっ、やはり拳銃じゃ効き目が無いか……君達! ここは自分が引き受けます!

 早く逃げてください!」

 

「それは逆じゃないのか? どう見ても、そちらが逃げるべきだと思うが?」

 

「こんなときに冗談なんて言いませんよ! いいですか、自分は警官なんです!

 そして君達は学生、警官が一般市民を置いて逃げるわけにはいかないでしょう!

 さっきの君、志は立派ですが君はまだ自分よりも若い!

 そんな未来を守るのもまた、警察の使命なんです!」

 

……言い返せない。悪魔だ聖剣使いだと言っても、最後はそこに帰結する。ここは人間の世界だ。

市民を守り、市民の平和な生活を維持するのが警察の役割だ。

それなのに今ここで氷上さんに逃げろと言うのは職務放棄しろと言っているのに等しい。

気迫の上では足手まといでは決して無いのだけど……。

 

……誰かさんなら足手まといって言い切りそうな気がした、なんとなくだが。

 

「……やっぱ俺、警官って奴ぁ嫌いだわ。その良い子ぶりっ子がムカつくんだよ!

 決めた、お前は真っ先に真っ二つにしてやるから覚悟しな!」

 

「待てフリード! お前の相手は私だ!」

 

足止めをしていたゼノヴィアを無視し、クソ神父が氷上さんに斬りかかって来る。

まずい! 咄嗟の事だから身体が反応できない!

頼む、避けてくれ……ッ!!

 

氷上さんに聖剣が突きたてられるかと思ったその瞬間。

赤い影が割り込んできて、フリードの奴を思いっきり吹っ飛ばしていた。

あれは、まさか……

 

(やなぎ)さん!」

 

「間に合ったな。こいつの相手は俺が引き受けた。

 しかしこっちの神器だが、悪いがもうタイムアップだ、使えん。

 だから氷上、朝言っていたあの試作品……アレを使うときだ。

 それとお前らは……いや、今は質問はしないし受け付けない。

 この怪物どもを駆除し、あの連続殺人犯を今度こそ逮捕する!」

 

意気込む柳さんの手には、神器ではなく手錠と特殊警棒が握られていた。

それでもフリードに果敢に挑む。数の面でもこれで優位だ。

だが、柳さんが神器を使えないのはフリードにはご立腹だったらしく。

今奴の手には透過の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)が握られている。

 

「今日はご自慢の神器は無しですかぁ? 俺ちゃん舐めプをするのはいいけどされるのは大嫌いでねぇ。

 つまりご機嫌ちょーななめ45度。だから今日はコイツでいたぶってやるぜぇぇぇぇっ!!」

 

「させないわよ! それっ!」

 

なんと、そこにイリナが擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)で作り出したスコップで泥をかけ、目印にしていた。

これがあれば、透明化など無意味だ。やるなぁ。

 

「あーっ! この野郎……クリーニング代はその首で払ってもらうからなぁ!!」

 

「私野郎じゃないもーん」

 

激昂したフリードがイリナに斬りかかろうとするが、その太刀筋はゼノヴィアに止められ。

距離をとればそこに柳さんが回りこみ。フリードは完全に優位性を失っている。

これなら俺ははぐれ悪魔の対処に専念できそうだな。

 

ふと、氷上さんを見るとパトカーの残骸から出てきた

ジュラルミンケースから何かを取り出そうとしている。

あんな頑丈なものに一体何を……はっ! まさか……

 

「武器を出します! 危ないですから離れてください!」

 

「ご心配なく! 警察に協力するのが市民の役目ですから!

 武器の用意をする間、俺が奴らを食い止めます!」

 

やはり。氷上さんは武器を出そうとしていた。

となれば、俺がやることは一つ。その間氷上さんを守ることだ。

それ位ならば、俺にだって対応できる!

 

「柳さん! 開発部より届いた新装備、今こそ開封します!

 超特捜課氷上より本部へ! 超常戦力への対処のため、神器相当の装備を使用します!」

 

『本部了解。速やかに事態を鎮圧し、被害を最小限に食い止められたし』

 

無線連絡を終えた氷上さんが、ジュラルミンケースを開封。

そこには、かなり大きなナックルのようなものが封入されていた。

 

『――氷上君、聞こえますか? 開発課の薮田(やぶた)です。

 そのIXA-01F――通称プラズマフィストはグリップを握ることで作動する

 ナックル型の装備です。殴る際に電流を流し、相手の動きを封じることの出来る装備です。

 試作品ですので、扱いにはくれぐれも注意してください。ではご武運を』

 

無線越しではっきりとは分からなかったが、やはりあの声は薮田先生だった。

あれ? 薮田先生って出張じゃなかったっけ?

いや、今そんなことを気にしている場合じゃない!

 

俺がはぐれ悪魔に向き直ると、氷上さんに呼び止められた。

 

「君、この装備はまだ未知数です。危ないから、なるべく離れてください!」

 

氷上さんがナックルのグリップを握ると、俺の神器やイッセーの神器みたいな

電子音声が鳴り響く。いかにもって感じの音声だ。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

「……はっ!!」

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

氷上さんが握ったナックルがはぐれ悪魔に接触した瞬間。

まばゆい光と共にスパークが発生。どうやら、高圧電流を相手に流す武器みたいだ。

しかもその威力たるや、曲がりなりにも悪魔である相手を一撃でしとめている。

……何だか凄いものが完成したなぁ。動きを封じるどころか、倒しているじゃないか。

 

MEMORISE!!

 

「柳さん! 薮田博士! 成功です!」

 

「よくやった氷上! そっちは任せる、だが無茶はするなよ!」

 

『エネルギー調整にまだ甘い部分があるかもしれません、くれぐれも気をつけてください』

 

「うおっ!? おいおい、これがひょっとしてクールジャパンって奴かよ!?」

 

驚いていたのはその場にいたほぼ全員だ。まさか人間の開発した装備で

はぐれとは言え悪魔を倒せるとは、思っても見なかったのだろう。

おまけに記録までしたが……今は使うのはやめておこう。

面白そうな武器だが、今実体化させると結構めんどくさそうだ。

 

ともかく、氷上さんの装備のお陰で一気に形勢逆転している。

さらに追い討ちとばかりに、こちらに援軍が来たのだ。

 

――木場だ。一体何処に行ってたんだ?

 

「これは……セージ君、どうなっているんだい?」

 

「クソ神父がはぐれ悪魔を率いてパトカーを襲撃。

 パトカーに乗り合わせていた聖剣使い二人に警官一人と交戦、俺と警官もう一人が加勢。

 警官が新兵器を使って残るは奴一人、今ここだ」

 

「把握。なら、やることは一つだよね!」

 

状況を把握したのか、木場もフリードに向き直っている。

はぐれ悪魔は既に全滅。となれば戦力比は6対1。卑怯ってレベルじゃないな。

 

「おい、おいおいおい!? いくらなんでもこりゃあんまりじゃねぇか!?」

 

「自業自得だ、フリード・セルゼン。今度こそお前を逮捕する」

 

氷上さんはナックルをしまい、手錠を手に一歩前に出る。

フリードの背後を取った柳さんによって、抵抗はできないように関節を決められている。

そんな様子を見た木場が、思わず警官の二人に声をかけていた。

……へ、変な真似はしないでくれよ?

 

「待ってください! 彼は聖剣――特殊な武器を持っています!

 それを、自分に破壊させてくれませんか!?」

 

「相手の無力化というのならばともかく、現時点でそれは出来ない。

 証拠品として押収せねばならない代物だからな。

 態々言うからには事情があるのだろうが……悪く思わないでくれ」

 

「木場、自分の手で復讐を果たせないのは思うところがあるかもしれないが

 ここは警察の言うことに従おう。

 警察を敵に回したら、グレモリー部長にも責が行く。

 そうなれば、問題はお前一人のものじゃなくなる」

 

今しがたゼノヴィアにボコられたのが効いたのか、木場は大人しく剣を収めてくれた。

さっきもそれ位素直だったらややこしくならずに済んだものを……まぁいいけど。

フリードも、圧倒的戦力差に観念したのか反撃の構えを見せていない。

まぁ、反撃しようにも出来ないって言った方が正しそうだが。

そりゃそうだろう。警官二人に剣を携えた悪魔や聖剣使いが計四人。

迂闊に動けば間違いなくアウトって状況だ。おまけに間接決められてる。

そんなわけなのか今度はすんなりと、その無数の血に染まった両手に

鉄の輪がかけられることになった。

 

「19時29分。フリード・セルゼン、殺人の容疑で逮捕。

 お前が持っている聖剣とやらは押収させてもらうぞ。

 

 ……そういう訳だ。お前達、それについては政府を通じて

 そちらに返還される手筈になっている。心配するな」

 

「……くそっ。てめぇら、これで勝ったと思うなよ!?」

 

「もう勝負ついてるから」

 

勝負と言うか、逮捕された時点で終わりだと思うんだがな。

柳さんがクソ神父から聖剣を三本奪い、当のクソ神父も氷上さんに引っ張られる形で

応援でやってきたパトカーに押し込まれる。

 

……ふと、今度は柳さんが俺達に向き直る。

 

「……さて。そこの二人はともかく、男子二人は初めてだな。

 俺はテリー柳。駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)の課長を務めている。

 

 四人とも。今回の件、市民のご協力を感謝……と言いたいが。

 なるべく危険なことに首は突っ込まないでくれ。

 学生の本分は学業、だなどと頭の固い言い方をするつもりは無いが……。

 本来、町の平和を守るのは大人の仕事だ。まだ日本国の制度では成人の定義は20歳以上だ。

 悪魔だ聖剣だなどと言っても、それが現実である以上は大人はそれに合わせて動く。

 子供が平和を守るのは、メルヘンやファンタジーの世界だけだ。

 お前達が生きているのは、紛れも無い現実だと言うことだけは努々忘れないように。

 ……以上だ。なお質問は受け付けん、俺に質問をするな」

 

言いたい事だけ言う形で、柳さんもバイクに跨り、パトカーと共に走り去ってしまった。

何はともあれ、盗まれた聖剣は取り戻す事が出来、殺人犯も逮捕できた。

一件落着……じゃないか。主犯はまだいるか。とは言え、迂闊に手が出せない相手だが。

 

「随分呆気ない終わり方だったわね、ゼノヴィア」

 

「ああ。まあ無事に終わったんならそれでいいさ。コカビエルについては

 改めて上に指示を仰ぐとしよう。

 そういうわけだ、邪魔したなとリアス・グレモリーに伝えてくれ」

 

「……だ、そうだぞ木場」

 

「ちょっとセージ君。何で僕に押し付けるんだい?」

 

強奪された聖剣は日本政府から教会に返還される手筈らしい。

それを聞いて安心したのか、ふっと笑みがこぼれる聖剣使いの二人。

手を振ってその場を後にする背中を、男二人が見送っている。

木場も釈然としない様子だが、相手が警察では分が悪い。

と言うか、まだやるようなら今度は俺が実力で止める。

悪いが、先刻の私闘で脳筋が木場に話した事は大正解だ。

頭に血が上った木場に負ける要素はまあ、ないだろう。

 

……うん? って事は、随分時間が出来たな。ならば。

 

「丁度良い。木場、少し付き合え」

 

「えっ? セージ君、そう言う趣味が……」

 

「わざとか? 俺はそういう冗談はあまり好まないんだが。

 ……前に話した、俺にあんたの警護を依頼した人についてだ。

 都合がつきそうだから、今から会いに行くぞ。

 急で申し訳ないが、どうせ暇だろう?」

 

「いや、けど部長に……」

 

まあ木場の言わんとすることは分かる。

だが、今グレモリー部長のところに戻られてはぐだぐだになる恐れもあった。

つい先日グレモリー部長の強引なプランに異を唱えておきながら自分もこれか。

 

……ははっ、本当に他人のことをとやかく言えないな。

 

「んなもん電話越しでいいだろう。わざわざ部室に戻っても、ああだこうだ面倒だぞ?

 踏ん切りがつかないようなら……もしもし海道(かいどう)さん? ああ、俺です。

 そちらで探していた人、見つかりましたんで……ええ、ええ。

 はい、分かりました。じゃ、今から向かいますので。

 

 ……と、言うわけだ。こっちは依頼人を待たせている。早いところ行くぞ」

 

「……やれやれ。セージ君も相当強引だね。

 じゃ、君に僕の事を依頼した人が誰なのか、教えてもらいに行くとしようか」

 

俺は半ば強引に木場を引きずり、海道さんとの待ち合わせ場所に向かうことにした。

だが、俺もその時はまだ知らなかった。

 

 

既に主犯格は動き出していたことを。

以前のレーダーの誤探知は、とんでもないものを拾っていたことを。

そして――

 

 

――堕天使と、教会の放逐者。そして冥界政府。

彼らの思惑は既に重なり合い、そこに白龍皇などと言う異物が紛れ込もうとしていることを。

人間の世界を、身勝手な思惑で塗り潰そうとしている連中が、跳梁跋扈していることを。




【速報】フリード・セルゼン逮捕【サイコパス神父】

実際の捕物に出くわしたことはありませんが(当然)
フィクションだと凶悪犯一人に対して警官が複数で当たるのなんてざらですから
戦闘にこそならなかったとは言え6対1とかアホみたいな戦力差が出来上がりました。
フリードがはぐれ悪魔を使役していますが、そのお陰でますます初級インベス臭く……。
尚、このはぐれ悪魔共々独自設定ですのであしからず。


悪魔や聖剣がある以上十分メルヘンやファンタジーかもしれませんが
この世界はそれが当たり前にある世界です。そんなものをメルヘンやファンタジーとは
ちょっと呼べないと思いましてこういう扱いになっています。

じゃあこの世界のメルヘンやファンタジーって何でしょう?
これは解説すると長くなりますし頭痛くなりそうですのでまたの機会に。


超特捜課の新兵器、プラズマフィスト。
ちょっと世界観的に大丈夫かなぁと思いつつも、人間の技術の粋と言うことで導入。
冥界なんてもっと凄いもの作ってますし。
元ネタは型番でモロですが仮面ライダーイクサのイクサナックル。
残念ながらこれで変身はできませんが、ナックルとしての性能は
本家にも劣らないトンでも兵器です。
劇中自衛隊宛の荷物と勘違いしたと言われたとおりの性能を描写できればと思います。

……そして同時にあの人の参戦フラグを立ててしまった気がしないでもなく
(本人は出ません、あしからず。出たら間違いなく作品が破綻します)


相変わらず赤髪の子に辛辣なオリ主ですが……
なるべくいちゃもんにならないようにはしてます。
何をもってどう取るかは人それぞれなので
如何ともしがたいのですが。


今回あちこちにオリ主が変なフラグ立ててます。


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Life32. 俺達が出くわした悪魔

この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーゴーストは一切関係ありません(挨拶
また、機動武闘伝Gガンダムも関係ありません。

今回時系列は前話とほぼ同一です。
セージ達がフリードをリンチしていた頃、イッセー達は……なお話です。


最近なんだか勢力問わずアンチ系のHSDD作品が多い気がします。
それらに比べればこの作品なぞ埋没してしまいそうですが
それでも読んで下さる方に感謝します。

その感謝に応えるべく執筆してまいります。
話の流れは全て私好みですがね!(まさに外道)


……まーたセージの奴がやりやがった。

木場が出て言ったってだけでも大事なのに、しかもセージの奴は部長に説教のおまけつきと来た!

だから何でお前はそんなに部長を目の敵にするんだよ!?

 

「俺の身柄はともかく、俺の心――魂は今も昔も俺のものですので。

 俺をモノにしたければ、それ相応の態度でぶつかってください。こんなやり方で

 人の心をつかめるとお思いでしたら――バカめ、と言っておきましょう」

 

「ま、待ちなさいセージ! あなたも私の大事な眷属なのよ!?

 私の許可無く危険な真似をする事は許さないわ!

 わ、私の言う事が聞けないの!? セージ! セージ!!」

 

「……セージ先輩、私の力にはなってくれたのに、何でリアス部長はダメなんですか?」

 

「あらあら。もしかするとセージ君は……?

 そうだとしたら、矯正しないといけないかもしれませんね」

 

……あ、やな事思い出した。あの野郎、いきなり俺をひん剥きやがって!

今度会ったらあいつに「洋服破壊(ドレスブレイク)」……

 

……ダメじゃん。あいつ霊体だからそもそも洋服って概念薄いし

そもそもこの技、男にはまるで効果がないんだった。

あいつが女だったら……な、わけないな。あんなミルたんほどではないにせよ

ガタイのいい女がいてたまるか! 使い魔の森じゃあるまいに!

 

けれど今の俺は、それ以上に我慢ならない部分があった。

部長が木場の事を心配してないはずがないだろうが!

にもかかわらずコイツはそれを馬鹿にした態度を取っている。

俺もいい加減堪忍袋の緒が切れるってもんだ。

 

「待てよセージ! もう俺も我慢ならねぇ! 部長に謝れ、今すぐにだ!」

 

俺はセージを怒鳴りつけ、胸倉を掴もうとしたが

その前に足を引っ掛けられて派手に転んでしまう。

前から思っていたがこいつ、幽霊のくせに足もしっかりあるなんて……

それだけでも十分ずるいって気がするぞ。

 

「イッセーさん! セージさん、どうしてこんなことするんですか?」

 

俺を心配して駆けつけてくれたアーシアの問いかけにも

興味なさげな顔をしている。本当に嫌なやつだなこいつ!

こんなやつが俺と悪魔の駒を共有してるってのも信じられないくらいだ!

俺はアーシアに心配をかけまいと気丈に振舞ってみせる。

 

「大丈夫、気にすんなよアーシア。おいっ、何とか言ったらどうなんだ!」

 

転んだままだが、俺はセージを見やってこの言葉を投げつけた。

どうせコイツの事だから「何とか」とかふざけたことを言うのだろうと思っていたが

案外、真面目に答えたのだ。その内容は納得できないが!

 

「生意気な口を利いてすみませんでした。だがこれ以上は謝らんぞ。

 悪いが俺は自分の意見を取り下げるつもりはない。

 木場が今ここにいない、それは紛れもない事実なんだからな?

 まぁアレも忠誠心はあるほうだから、俺みたいに露骨に嫌味は言わないだろう。

 そんなやつでさえ、このザマだぞ?

 別にあいつは俺みたいにグレモリー部長が嫌いだから出て行ったってわけじゃないんだ。

 それともアレか? 仲間は四六時中一緒にいないといけないって決まりでもあるのか?

 だとしたら俺はそんなの御免だね。人間やめさせられた上に

 仲良しこよしのお飯事に付き合えって……何の冗談だよ。寧ろ冗談であってほしかったよ」

 

「お飯事って……私、そんなつもりは……」

 

こ、こいつ何処まで部長の事を馬鹿にするつもりなんだ!

部長は俺達の事を心配してくれてるんだ、それで十分じゃないか!

それなのに勝手なことをして迷惑かけてるお前らの方がおかしいんだよ!

そろいも揃って勝手なことばっかりしやがって!

下僕なら下僕らしく部長の言うことを聞けってんだ!

しかもセージのやつは言うだけ言って部室から出ようとしている。本当にコイツは!

 

「セージ! 待てよ、セージ!」

 

「イッセー。これだけは言っとくぞ。

 ……喧嘩を売るなら相手と場の空気をちゃんと読め。じゃあな」

 

またコイツは、いつも知った風なことしかいわない。

ここが部室じゃなかったら、殴りかかっているところだ!

俺は何時だって部長のために戦ってる!

いつか、それをお前にも思い知らせてやるからな!

 

――――

 

「セージ、祐斗……どうして……」

 

「大丈夫っす部長! 俺が今度セージにガツンと下僕の心意気を教えてやりますから!」

 

「あらあら。イッセー君は部長に甘いのね。

 でも気をつけないと、アーシアちゃんに睨まれますわよ?」

 

とにかく、俺は今部長のフォローに入っている。

そのせいか、最近部長との距離が少し縮まっている気がする。

そういう意味では感謝するべきかも知れないけどやっぱ違うな、うん。

 

……それと同時に、朱乃さんの言うようにアーシアに

なぜか睨まれてる気がしないでもないんだけど……

ははっ、気のせいだよな……な?

 

「……とにかく、祐斗先輩とセージ先輩を探しましょう」

 

「それもそうね。イッセー、お願いできる?」

 

「勿論です部長! それじゃ、行ってきます!」

 

「ま、待ってください! 私もいきます!」

 

こうして、俺とアーシア、小猫ちゃんで

木場と……ちょっと気は進まないけどセージの捜索を行うことになった。

 

――――

 

「……で、何で俺が一緒に木場とあいつを探すことになってるんだよっ!?」

 

「いやー。こういう時セージの奴なら人海戦術張るかな、って。

 アイツは色々気にいらねぇけど、こういうときの機転は凄ぇんだよ。

 だからアイツがもっと素直に部長に協力してくれりゃ……」

 

そして、途中で偶々出くわした匙も加えて、いざ木場とセージの捜索だ!

小猫ちゃんは鼻が利くから、とても頼りになる。

アーシアもラッセーに頼んで力を貸してもらっている。

 

で、俺と匙は……

 

「……二人とも、サボってないで働いてください」

 

「だーから、何で俺もやらなきゃならないんだっつーの!?

 グレモリーの眷属が出て行ったなんて、モロにグレモリーの問題じゃないか!

 何でシトリー眷属の俺が呼び出されなきゃならないんだよ!?

 つーか、グレモリー眷属だろお前、サボるなって言われてるじゃないか、お前がやれよ!」

 

「俺だってサボってねーよ! いいか? 俺んとこのドライグはな、あいつの龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

 半ば共有しているようなものなんだ、だから反応があればすぐに……あれ?」

 

『俺は犬じゃないんだ。そんな事に力を貸せるか』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が反応しないと思ったらこれかよ!?

ドライグ、お前がサボるから俺までサボりと思われてるじゃないか!

とにかく、街中にではしたものの、まるっきり手がかりが無い。

そんな中、小猫ちゃんの動きが止まる。もしかして、見つけたのか!?

 

「……悪魔のにおいがします。でも、これは……」

 

「ガー! ガー!」

 

ラッセーも何かを見つけたらしく、必死に訴えている。

だがやけに必死すぎないか? セージに気圧されたって訳でもないだろうに。

俺はてっきり、街中にいる悪魔なんて木場かセージくらいしかいないと思っていた。

だが、その思い込みがまずかったのだ。

そもそも、まだ日は沈んでいない。それはつまり、セージは実体化していないって事だ。

となれば残るは木場だが、それにしては小猫ちゃんの反応も、ラッセーの反応もおかしい。

となると……

 

「……どうやら、探し物じゃないものが出てきてしまったようですねぇ。

 これでも人間避けの術を使っていたつもりですが。それでも私が見えるってことは……

 あなた達、『裏』の連中ですね?」

 

そこには、オールバックに丸いサングラスをかけた背の高いスーツの男が立っていた。

その口にくわえているチョコレート菓子が、何ともいえないミスマッチ感を醸し出している。

一体誰なんだ、こいつは!?

 

「ふむ……ここにいると言うことはグレモリーか。

 はたまたシトリー、どちらかに連なるものですね。

 私は探し物をしているんです。失礼させていただきますよ?」

 

俺は思わず男を呼び止めようとするが、小猫ちゃんに制止されてしまう。

何でだよ? 木場やセージの事、知ってるかもしれないだろ?

 

「……ダメです。あの悪魔、物凄い使い手です。きっと、私や祐斗先輩はおろか

 下手をしたら部長よりも。だから、戦っちゃダメです」

 

「戦わないよ小猫ちゃん。ただ、木場やセージの事を聞くだけだって。

 すみません、ちょっと聞きたいんですけど――」

 

俺はスーツの男を呼び止めようと声をかけた瞬間――

 

――仰向けにひっくり返っていた。な、何があったんだ!?

 

「私は探し物をしている、って言ったんです。あなたの事情なんか知ったことじゃありません。

 それにですね……私はグレモリーも、シトリーも大嫌いなんですよ。

 

 ……さっさと私の目の前から消えろって言ってるんだ、ガキ」

 

「て、てめぇ! 会長を侮辱するやつはこの匙元士郎が――」

 

今度は匙が、言い終わる前に綺麗に吹っ飛ばされていた。

な、何だコイツ!? こんなやつが、グレモリーの領土にいたって言うのか!?

い、今まで全く気付かなかったぞ!?

 

「……いけない。スーツに埃がついては、折角のお菓子がおいしく食べられませんね。

 ちょっと羽虫を追い払うのに、埃を立てすぎましたかねぇ。

 ああ、一応言っておきますが私は『はぐれ』ではない、れっきとした悪魔ですので。

 

 ここに来たのだって、冥界の許可は得ているんです、よ!」

 

「ガーッ!?」

 

「ラッセー君!」

 

今度はラッセーの雷を、かざした左手から発せられた紫色のバリアで防いでいる。

反射された雷を食らってしまったラッセーを、小猫ちゃんがキャッチして

アーシアに手渡している。間髪いれずに治療を施したお陰で、ラッセーは無事みたいだ。

ほ、本当に一体何者なんだ、コイツは!?

お、俺達はただ木場やセージを探していただけなのに!

 

「……バフォメット」

 

「は?」

 

「バフォメット、とあなた達の主人に言えば、おおよそ分かるでしょう。

 それより早く退いてもらえませんかね?

 私は早く仕事を終わらせて、チョコレートが食べたいのですがねぇ?」

 

チョコレートだぁ? こいつ、何処まで本気なんだ!?

けれど、今の俺達がこいつに敵うかと言うと……わからない。

綺麗に吹っ飛ばされた俺の目の前の地面が輝くと、そこには見慣れた俺の憬れの人がいた。

 

「……いいえ、答えてもらうわ!

 私の領土で勝手な真似をするものは、誰であっても許さない!」

 

「……おや。グレモリーの無能姫が何の用ですか。私は冥界政府の特命で動いているのですが。

 それさえも認めないとなると、それは即ち治外法権を宣言していることになりますがねぇ?

 冥界は、人間界における治外法権を今は一切認めていないはずですが?」

 

こ、こいつ!? 魔王様の命令でここにいるって言いやがった!?

魔王様てことは、部長のお兄さんであって……な、なんでだよ!?

 

「お兄様が!? そんなはずは……」

 

「確かにサーゼクス陛下の承認は得ていますが、直接私に命を下したのは

 サーゼクス陛下ではないという事です。いいですかリアス嬢?

 いまや冥界も世情は目まぐるしく動いているのです。

 何時までもこの町が己の庭であるかのような認識は、捨て去ることをお勧めしますよ?

 まぁ、それが出来ないから無能姫が無能姫たる所以なんでしょうけどね。くはははははっ!」

 

な、何様なんだこいつは! いきなりやってきて、俺達に喧嘩吹っかけるだけじゃなくて

部長を小馬鹿にした態度をとって……何なんだよ一体!?

 

「くっ……私からお兄様に意見申し伝えるわ。名を名乗りなさい!」

 

「良いでしょう。私はウォルベン。ウォルベン・バフォメット。

 番外の悪魔(エキストラ・デーモン)バフォメットの者ですよ。

 くれぐれも兄上に恥をかかせないようにお願い申し上げますよ?

 では、私は仕事に戻りますので……ふむ、チョコレートが溶けてしまった。

 人間界のチョコレート、その良いものをついでに買っておくとしましょう。

 

 ……やはり食べ物は人間界に限りますねぇ。それも人間が作ったもの。

 悪魔連中は食べ物のイロハを全く理解していないから困ります。

 特にソーナ・シトリーのチョコレートは酷かった……何処をどうしたらあんな暗黒物質が出来上がるんですか。

 チョコレート、いえ全ての甘味に対する侮辱ですよ、全く……」

 

こ、この期に及んでチョコレートかよ!

こいつ、腕は立つかもしれねぇけど、すっげぇ頭に来る奴だ!

何より、部長をここまで馬鹿にされて黙っていられるか!

 

「おいっ! バフォメットだかヘルメットだか知らねぇが!

 ここを守護しているのは部長なんだ! その部長に、いきなり文句を言うって何なんだよ!?」

 

「おーや。私が探しているのは『あなたじゃない赤龍帝』と『白龍皇』なのですが。

 ……それからおまけで、ここで不穏な動きをしていると言う堕天使。

 たとえあなたがオリジナルの赤龍帝であったとしても、お呼びじゃないんですよ」

 

『本家より分家に用があるってことか。この物言いは少々引っかかるものを覚えるな。

 ……理由を挙げるとすれば、霊魂のの神器(セイクリッド・ギア)か』

 

こいつ、セージを探してやがるのか! しかも今までの態度を省みても、まともな理由じゃない!

本当に何なんだこいつは!?

 

「そんなの知ったことか! 赤龍帝のオリジナルはこっちなんだ。

 俺が相手になってやる! 行くぞドライグ!」

 

『……やるなら気をつけろよ。今までの流れで散々分かっているとは思うが

 コイツは相当な使い手だ。それこそフェニックスよりは上手だ。

 それを踏まえて仕掛けろよ?』

 

BOOST!!

 

「待ちなさいイッセー! バフォメットはフェニックスと同等以上の力を持っているわ!

 不死ではないにせよ、正面からぶつかって今のあなたでは勝てないわ!」

 

「やれやれ。私は早く仕事を終わらせてチョコレートを心行くまで食べたいのですが。

 ……仕方ありませんねぇ。いかにオリジナルと言えど、中途半端な育ち方では

 私の足元にも及ばないと言うこと、冥界では凡百以下であると言うこと。

 ……教えてさし上げましょう!」

 

俺が繰り出した赤龍帝の籠手の一撃を、ウォルベンは右手で軽々と抑え込んでいる。

しかも、そこから俺は左手を一切動かせない。それどころか、押されてさえいる。

 

「こ、こいつ! 下手をしたらフェニックスより……!!」

 

『だから言っただろうが。お前、さっき霊魂のが言ってたことをまるで聞いてないな。

 「喧嘩は相手と場を弁えて売れ」ってな。

 それ以前にも「考えなしに突っ込むな」とも言われただろうが。

 客観的に見ても、今のお前は霊魂のに劣っているぞ。

 勝っているのは、自由にできる身体があることだけだ』

 

俺の左手を抑え込んでいる奴の右手は、紫色に輝いている。

輝いていると言う表現はあまり適切じゃないか。輝きと言うよりも

禍々しいオーラがそこに凝縮されているような感じだ。

 

「さっき吹き飛ばしただけでは不満ですか。ならば……ふんっ!」

 

ウォルベンは力を込めたのか、紫色の波動は俺の方に収束されて向けられてきた。

物凄い衝撃に、俺は耐える事が出来ずに吹っ飛ばされてしまった。

 

「イッセー! ウォルベン、よくも私のイッセーを!」

 

「……お分かりですかな? 私のクリーニング代とチョコレート代の請求はしないでおきますよ。

 今グレモリー家は大変なことになっているって小耳に挟みましたのでね。

 むしろ……」

 

ウォルベンは今度はアタッシュケースを部長の足元に投げ寄越して来た。

部長が中身を確認すると、そこには冥界で使われているお金が入っていた。

以前、部長に見せてもらった事がある。

あの中身、日本円にすると宝くじ一等が100枚は当たったような額だ!

ちょ、ちょっと欲しいかも。

 

「これ位あれば、家の建て直しにもそこの彼の治療費にも困らないでしょう?

 ……ま、無理にとは言いませんけどね。

 

 しかし、あれほど恐れられた二天龍の片割れも今や凡百以下とは。

 時代の流れとは本当に恐ろしいものですねぇ。

 白龍皇やもうひとつの赤龍帝がどうなのか、早急に調べてみる必要がありますねぇ」

 

「バカにしないで頂戴! グレモリーの次期当主である私が

 訳の分からない施しをはいそうですかと受けると思っているのかしら!?

 それに、イッセーは私の自慢の下僕よ! それを愚弄する者は……」

 

「ええ、そういうと思ってました。ですから……」

 

「……みなさん、伏せてください! ケースが……!!」

 

小猫ちゃんが叫んだ次の瞬間、アタッシュケースは爆発した。

と言うよりは、アタッシュケースから煙幕が焚かれ、周囲は何も見えなくなってしまう。

煙幕の向こうから、ウォルベンの憎たらしい声だけが聞こえてくる。

 

「だからあなたは無能なんですよ! あなたは、いえグレモリー家はいずれ埋没する運命にある!

 先日のレーティングゲームはいわばその試金石! あのような結末を迎えた時点で

 グレモリー家の運命は決まったも同然! どうせあなた達は終わりなんですよ!」

 

俺達への、グレモリーへの呪詛の言葉を残しながら、ウォルベンの奴は消えていた。

……嫌な奴だぜ、全く! いきなり出てきて部長に喧嘩売るなんて、何考えてやがるんだ!

それに、部長の家が大変なことになってるなんて、デタラメ言いやがって!

 

「部長、気にしたらダメっすよ。どうせ根も葉もないデタラメなんですから!」

 

「そ、そうね……一体何故バフォメットの者が冥界政府の命で動いているのかしら……?

 それじゃ、私はさっきの件についてお兄様に問い合わせるわ。

 祐斗かセージが見つかったら連絡を頂戴。それじゃ、頼んだわよ」

 

煙幕が晴れ、俺と匙はアーシアに怪我の手当てをしてもらっていた。

その間に部長も帰っていった。本当に忙しそうだ、俺に出来ることはあんまり無さそうだけど。

いや、木場とセージをとっ捕まえて、部長の前に連れ戻す!

それが今の俺に出来ることだ!

 

それはそうと。俺はともかく、匙は完璧にとばっちりだな。ちょっと悪い事しちゃったかな。

 

「うおおっ! か、感激だよ! アーシアさんに怪我の手当てをしてもらえるなんて!」

 

「怪我が大した事無くてよかったです!」

 

……前言撤回。もうちょっと痛い目にあってもらってもよかったかもしれない。

しかし結局、木場の手がかりもセージの手がかりも見つからなかった。

さっきから小猫ちゃんが難しい顔をしてるけど、何か見つかったのかな?

 

「……甘いものは好きですけど、チョコはどうも苦手です」

 

……違った。ウォルベンの奴と自分の味覚の差に憤りを感じていただけだったみたいだ。

思いっきり足止めを食った形になったが、気がつけば日が沈んでいた。

セージの奴、もしかしたら実体化してるかも。

改めて探そうと思った矢先、俺は急に匙に呼び止められる。

 

「イッセー、ちょっといいか?」

 

「何だよ?」

 

「怒らないで聞いてくれよ? さっきの奴の言ってることなんだがな。

 あながち全部が全部デタラメじゃないと思う。

 俺のとこは、どうもそっちとは違う形で冥界の情報が入るみたいでな。

 で、ここからが重要だ。今グレモリー家とフェニックス家は……裁判で争っている」

 

は!? あの件はもうこっちの勝ちで決着がついたんじゃないのかよ!?

あそこで勝ったから部長は自由の身、親の決めた結婚の問題は全部解決したんだ!

それなのに、何で裁判になってるんだよ!?

 

「な、何だって!? 何でそんなことになってるんだよ!?

 レーティングゲームで決着つけただろ!? それに、俺部長からは一言も……」

 

「俺に聞くなよ。俺だってレーティングゲームで何があったかは知らないんだからよ。

 ただ一つ言えるのは……グレモリー家がやばいってのは、どうも本当らしい」

 

淡々と述べる匙の態度に、俺は思わずいきり立っていた。

なんだか、部長を愚弄されているような気がしたからだ。

そりゃあ、匙にそんな意図が無いのは知っている。

けれどさっきから部長がボロクソに言われているのを見ているせいか

ついナーバスになってしまったようだ。

 

「お、お前! グレモリー眷属の俺の前で、それを言うか!?」

 

「……嘘だと思うんなら冥界の新聞とか色々読んでみろよ。

 どうしても信じられないようなら、俺が読んでるやつを貸してやろうか?」

 

……言い返しはしたものの、確かに言われてみると部長が難しい顔をする回数は

フェニックスの一件が片付く以前とそう変わっていない。

けれど、俺はそれを部長から全然聞いていない。

部長の事だから、言わないだけかもしれないけど。

 

それに、匙の言う新聞ってのもどうにも怪しい。

俺だって冥界の新聞に目を通したことはある。

けれど、俺が見た中にはそこまで部長を悪し様に言っているものはなかった。

ゴシップ雑誌はそうでもないけど、あれは元々そういうものだし。

 

「それはいいけど、どこの新聞だよ。場合によっちゃ――」

 

「みなさん! ラッセー君が遠くで爆発が起きたのを見たそうです!

 もしかすると、そこに祐斗さんやセージさんがいるかもしれません!」

 

俺が言い終える前に、アーシアが――と言うより、ラッセーが何かを見つけたらしい。

爆発とは穏やかじゃない。そういえばゼノヴィアって聖剣使いの姉ちゃんが

クソ神父の名前を出してた気がするけど……。

 

「よし、分かった! 小猫ちゃん、匙、行くぞ!」

 

「……仕切らないでください」

 

「だから、何で俺まで!?」

 

何故か俺は小猫ちゃんに怒られていた。そりゃ、大して役に立ってなかった気はするけどさ!

けれどじっとしてもいられないだろ。だから行くんだよ!

俺達は匙を半ば強引に引っ張りつつ、爆発のした方角に向かっていった。

 

――――

 

たどり着いたときには、既に何もかもが終わっていた。

爆発したらしきパトカーの残骸の周りには、警察が現場検証で数人残っているだけだ。

まさか警察に木場やセージの事を聞くわけにも行かない。

 

ふと、警官の一人がこっちを見た気がした。

凄く怪訝そうな顔をしてみているが、もう一人の警官は普通に応対してくれた。

 

「こらこら。ここはさっき事故が起きたから、通行止めだよ。

 通りたかったら、あっちの道が使えるからあっちから回りなさい」

 

「あ、いえ、俺達は……」

 

「すみません。人を探しているんですけど、見かけませんでしたか?

 駒王学園の制服を着た、線の細い男子生徒と……えっと、幽霊?」

 

アーシアはそんな微妙な空気も知ってか知らずか警官に木場とセージの行方を聞いている。

木場はともかく、セージはその聞き方じゃダメだろ……。

でも実体化してるかどうかも分からないしなぁ。探すとなると面倒な奴だな、アイツは。

 

「おいおい、ここは事故現場だよお嬢ちゃん。それに幽霊って……。

 そんなの、いるわけ無いだろ。少し前、バラエティの特集で取り上げはしたけどさ。

 具足と甲冑の幽霊、って。ははっ、それはテレビの見すぎだよ」

 

うっ。それ……間違いなくあの時の俺のお客さんだ……。

最近取り上げられなくなったとは言っても、やはり一時テレビを騒がせてたんだな。

はぁ、何で俺のお客さんはミルたんと言い変なのばっかりなんだ……。

木場みたいに美人のお姉様か、セージみたいに美少女バンドのお客さんが欲しいぜ……。

 

って、今はそんなこと気にしてる場合じゃないか。

 

「……じゃあ、いないんですね?」

 

「ああ、見てないよ。それよりそろそろ暗くなってきたから

 気をつけて帰るんだよ?」

 

小猫ちゃんが改めて聞くも、警官は見ていないの一点張り。

ここで何かあったのは間違いないだろうけど、これじゃ教えてもらえそうに無いな。

部長だったら、催眠術とかで聞き出すんだろうけど。でも知らないものは知らないよなぁ?

 

そんなことを考えていると、さっき俺を怪訝な顔で見ていた警官が何かを思い出したように手を叩く。

 

「あ、君達駒王学園の生徒さんだろ? ちょうどよかった。

 駒王学園の覗き事件についてちょっと聞きたいんだけど。

 繰り返し行われていて、先日なんか器物損壊や強制猥褻の事案も上がってるんだ。

 あまりにも悪質で、先日も被害にあった生徒の親御さんから被害届が出たんだ。

 学校の周りで、怪しい人を見かけたとかはあるかい?」

 

「それなら、ここにいるこいつがはん……もごっ!」

 

「い、いやぁ……知らないです。知らないですよ俺達。なぁ小猫ちゃん、アーシア?」

 

「え? わ、私はそんな怪しい人なんか見てませんよ?」

 

「……コイツが犯人です」

 

何かを言いかけた匙の口を慌てて塞ぐが、小猫ちゃんが俺を指差して犯人呼ばわりしてる。

やめろ、やめてくれ小猫ちゃん! なんてことするんだよ!

 

「おいおい、真面目に聞いてるつもりなんだけどな。

 被害に遭った器物損壊ってのが、白昼堂々女子生徒の衣服が粉々に裁断……

 って言っていいのかどうかってくらいに粉微塵になっていたそうなんだ。

 ハサミを使ってもそんな芸当できないだろ? だから、そういう事が出来る犯人がいるって事なんだけど……」

 

ほっ。どうやら洋服破壊については警察に知られてないみたいだ。

これなら、俺が捕まる心配はないな。うん。

 

「……出来る人がいます。それがコイツ。

 洋服を粉微塵にするところを、私は見た事があります」

 

「こ、ここ小猫ちゃん!?」

 

小猫ちゃん、まさか洋服破壊の事を警官に話すつもりなのか!?

な、何てことするんだ! 俺の折角の修行の成果を、まるで犯罪者を訴えるみたいに!

やめろ、やめてくれ!

 

「本当かい? 俄かには信じられないが……うん?

 すまない、ちょっとそこで待っててくれないか?」

 

話の途中でけたたましく鳴り響く無線機に呼ばれる形で、警官がその場を後にする。

……た、助かった、のか?

 

『……牢屋に入れられる持ち主ってのもいたが、ちゃちな犯罪で入れられるやつは前代未聞だぞ?

 ああ、面白いことを教えてやる。牢屋に入ったやつは皆死刑にされたか、獄中死した。

 それくらいの連中もいたって事だ。死ななかったやつも当然、脱獄囚だな。

 それに比べれば、お前の牢屋行きは相当有情だな?』

 

ドライグ。何でそこで歴代の赤龍帝を引き合いに出すんだよ!?

何だか惨めになってきたぞ! けど、俺は俺だ。このスタンスを変えるつもりはない!

 

『やれやれ。俺も霊魂のに倣ってみたが……。

 霊魂のがどれだけ突っ込み役をしていたかがよく分かるってものだな。

 精々、愛想を尽かされないようにしろよ? 俺は一蓮托生だから諦めてる部分はあるがな。

 だが俺の名前が桃龍帝とか乳龍帝になるような真似だけはやめてくれよ?』

 

何でだよ! 知らないのかドライグ? おっぱいは世界を救うんだぜ!

俺が小さい頃に見た紙芝居のおっさんがそう言ってたんだ、間違いない!

お前のドラゴンパワーに俺のおっぱいパワーが合わさればきっとセージにだって勝てる!

 

『……そんなのと戦わされる霊魂のにしてみりゃ良い迷惑だな。

 やれやれ、分霊のあいつがほんの少し羨ましいと思えてきたな。

 そんな頭の悪いパワーアップ、やりたくは無いものだ。白いのに顔向け出来ん』

 

俺の意気込みにドライグが呆れたように返していると

無線機越しに話していた警官の様子が変わったみたいだ。

 

お、おい、何で睨まれてるんだよ!? 俺そんなに悪い事したのかよ!?

と思ったら、話の内容はぜんぜん違っていた。

 

「……君達、速やかに自宅に戻るんだ。パトカーで自宅まで送ろう」

 

「あ、いや、その必要は……」

 

「凶悪犯……いや、危険動物が付近をうろついているとの通報があった。

 巻き込まれてからでは遅い。もしどうしてもと言うのであれば

 危険動物が出没したのとは反対側のあっちから帰宅するんだ。いいね?

 

 ……いや、ここからでは駒王学園の方が近いか。すぐに学校に避難するんだ」

 

そう言って、警官は俺達が来た方角を指し示していた。

凶悪犯、と言うか危険動物が付近を……ってそれかなりやばくないか?

その正体は気になったが、俺達は渋々警官の指示に従い、学校に戻ることにした。

 

 

――そして、学校に戻った俺達を待っていたのはさらに恐ろしい光景だった――




今回の新登場キャラ、ウォルベンさんは
Gガンダムよりウォン・ユンファ+ウルベ・イシカワです。
丸サングラスと甘党なところにウォンの面影があります。
と言うか殆どウォンです。ウルベ分は腕っ節くらいです。

何故バフォメット姓にしたかは……申し訳ありませんが深い意味はありません。
ソロモン72柱以外の悪魔でパッと出てきたのがバフォってだけです。
得物として鎌を持ってますが流石に街中では振り回しません。
森の中で子供を引き連れてもいません。
このネタが分かる方はIris……もといOlrun鯖で私と握手……
はできませんね。失礼しました。

原作では宇宙世紀だけでなくアナザーガンダムからも
名前を引っ張ってきている事例はあったのに
何故かGガンネタだけは捜す事が出来なかったので
今回Gガンからネタを引っ張ってきました。
Gガン好きの私としては由々しき事態だったので……。

とりあえずライダー(全般)・ウルトラ(特訓回)・ガンダム(今回)で
コンパチヒーローシリーズは制覇できたと思います。だからなんだってお話ですが。

話の最後で危険動物出没の報せ。恐らくはアレを指すのでしょうが、さて。
ようやくエクスカリバー編も終わりが見えてきました。

……原作の、ですけどね。


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Encounter

今回は三人称視点です。
そしてまた長いです……区切りどころがわかりませぬ。
多分一話に欲張ってあれこれ詰め込みすぎなんだとは思いますが
区切ると中途半端な長さになってしまうので。

ので、時間と体力にゆとりのあるときにお読みくださいませ。


ここ数日、騒々しい夜を迎えている駒王町ではあるが

今日も今日とて騒動が起きていた。

凶悪犯――フリード・セルゼンを護送中のパトカーが襲撃に遭ったのだ。

 

この一時間ほど前にも、フリードによってパトカーが襲撃されている。

今度はまた別の犯人が、パトカーを襲撃したのだ。

幸いにして、パトカーの無線機は生きており、駒王警察署にこの事件は知れ渡ることになる。

 

無線通達を受け、柳と氷上が大破したパトカーの元に駆けつける。

しかしそこには既にフリードの姿は無く、代わりに初老の男が立っているのみだった。

 

「今の日本の警察は、本当に油断ならんな。

 まさか聖剣使いをも手玉に取るとは思わなんだ。

 いや、フリードが聖剣を使いこなせなかっただけか?」

 

「その顔……ICPOに指名手配されているバルパー・ガリレイだな?

 俺は駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)のテリー(やなぎ)だ。10年前の少年少女連続誘拐事件について

 手配書が上がっている。身柄を拘束させてもらうぞ」

 

「やれるものならやってみるがいい……フリード!」

 

柳は手錠を手にバルパーに駆け寄るが。それを見越していたかのように

バルパーは合図、柳は不意打ちを食らう結果となってしまう。

斬りかかって来たのは柳に散々苦汁を舐めさせられたフリード。

その手には、警官の首が握られていた。

 

「よーぅ。ようやっとてめぇに意趣返しができるぜぇ。

 散々俺様につまらねぇ弱いものいじめをさせやがって。

 今度と言う今度こそは、たたっ斬ってやるから覚悟しな!」

 

「懲りない奴め! フリード・セルゼン!

 公務執行妨害及び殺人の現行犯で逮捕する!!」

 

フリードの聖剣と、柳の特殊警棒がぶつかり合う音が夜の街に響く。

超特捜課(ちょうとくそうか)は人間の一般常識の外に存在するような超常的な存在によって

起こされる犯罪を未然に阻止したり、それらが起こす災害から

市民を守るために結成された部署である。

そのため、装備も互換性こそあるものの他の部署とは大きく異なるものを運用している。

柳のように、神器(セイクリッド・ギア)持ちの警官も所属している。

 

「柳さん、プラズマフィストの起動はしますか?」

 

氷上(ひかみ)が持ち出したプラズマフィストも、超特捜課で開発された警察の新装備だ。

ナックルダスター型のスタンガンで、超高電圧を流す事が出来

その威力は下級悪魔さえも倒す事が出来る。

勿論、そんなものを人間に向けて使えば即死モノである。

 

「待て、いくら聖剣を使うと言っても相手は人間だ。使うにしてもセーフティは絶対に解くな」

 

「了解、プラズマフィスト、セーフモードで起動します!」

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

氷上がプラズマフィストのグリップを握ると、無骨な電子音と共にロックが解除される。

セーフモードとは言え、流れている電圧は極めて高い。

セーフモード時では悪魔に対する殺傷力は期待できないが

人間相手には強力なスタンガンと大差ないものが流れているのだ。

フリードも聖剣使いとは言え、その身は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)での強化など行っていない

全く普通の人間なのだ。当てることさえ出来れば、過ぎた火力と言えよう。

 

「またその玩具かよ、日本は大人も玩具で遊ぶってのは本当らしいな!」

 

「威力を知っているなら話は早い、食らいたくなければ縄につくんだな!」

 

柳の特殊警棒をかわした先には、氷上がプラズマフィストを握って殴りかかろうとしている。

プラズマフィストの先端を聖剣の刃で受け止めた時に発せられたスパークが

プラズマフィストの電圧の高さを物語っている。

 

「氷上! 取り回しには慎重になるんだ! 威力が高すぎて、自滅しかねないぞ!」

 

「りょ、了解しました!」

 

二対一。フリードはよく捌いていると思われがちだが

聖剣使いが人間二人を相手にしているだけである。

柳は神器を持っているものの、使ってはおらず。氷上も特殊武器を持っているものの

今一つ扱いきれずにいる。イッセーらのように悪魔でもなければ、ゼノヴィアらのように

聖剣使いでもない。ただの人間を相手取っているのにしては、苦戦していると言えるだろう。

 

「……何を遊んでいる、フリード。体内の聖なる因子を聖剣の刃に込めるのだ。

 そうすることで聖剣はその力を増す……出来ない、とは言うまい?」

 

「たりめぇだクソジジイ! さて、そろそろ俺様も本気出すとしますかね!」

 

突如としてフリードの剣が輝きを増す。それと同時に力も増したのか

あっという間に二人の警官をなぎ払ってしまった。

 

「連続殺人犯のお前が聖なる力とは……笑わせてくれるな。

 ならばこちらも振り切るぜ。『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』、発……動ッ!!」

 

フリードに吹き飛ばされた柳は立ち上がり

ポケットの中からタコメーターつきのストップウォッチを取り出す。

これこそが柳の神器、「加速への挑戦」である。

極めて短時間だが、悪魔の駒の「騎士(ナイト)」以上のスピードを齎す、まさに「挑戦(トライアル)」の神器である。

 

ELECTRIC!!

 

それに加え、柳は特殊警棒のスイッチを入れる。

プラズマフィストほどではないが、電流を帯び始めたのだ。

電磁警棒と聖剣、傍から見れば聖剣のほうが強そうに見えるが柳はそれを速さと

警官として培われた格闘術で補い戦っている。

しかし、聖剣の因子の力かフリードも以前柳に逮捕されたとき以上にスピードを上げている。

下手をすれば、加速状態の柳に匹敵しかねないほどに。

 

「またそいつかよっ! けどなぁ!!」

 

「くっ、前より早いか! 氷上、こっちは引き受ける! お前はバルパーを確保しろ!」

 

「はいっ!」

 

氷上も援護を試みるが、互いに超高速で動いており迂闊に手が出せない。

柳の指示通り、バルパーの確保に向かったほうが確実なのだ。

プラズマフィストを握り、バルパーめがけて氷上が駆け出す。

 

「バルパー・ガリレイ! お前を逮捕する!」

 

氷上が駆け寄ったとき、バルパーは抵抗するでもなく呆気なく捕まった。

何せ、彼は非人道的な行いを繰り返していたとは言え自身は全く何の力も持っていないのだ。

聖剣ですら持っていない。では何故、そんな彼がここにいるのか――。

 

「息巻くのは結構だが、コイツをどうにかするのが先だと思うがね」

 

バルパーが氷上に手錠をかけられる前、懐にしまいこんでいた装置から何かが飛び出す。

飛び出したそれは、見る間に巨大化し、一戸建ての家屋ぐらいはあろうかと言う巨体になる。

イヌ科の動物にも見えなくは無いそれの首は二つあり

とても通常の生物とは思えないものがそこにいた。

 

「もう満足だろう、フリード。我々は撤収するぞ。

 日本の警察にオルトロスを倒すだけの力があるのかどうか、見物ではあるのだがな。

 これ以上時間を掛けては、遅れてしまう」

 

「俺は俺でアイツの首を取りたかったけど、しゃあねぇな。

 犬は犬らしく犬と遊んでなよ。じゃ、アバヨ!」

 

その怪物――オルトロスを置き去りにし、バルパーとフリードは姿を消す。

柳も氷上も、この怪物の処理をしなければならない状態だ。

家屋一棟分に相当する巨大な怪物。性質が大人しければまだ良かったのかもしれないが

生憎、オルトロスは獰猛な部類に入る。こんなものを放置すれば、被害は免れない。

 

「あれは……! クッ、何てモノを置いて行った!

 氷上、各局に緊急通達だ! 危険生物発生につき応援願う、とな!」

 

氷上が無線で援軍を依頼している最中、柳は特殊警棒でオルトロスとの戦いに臨む。

しかし、サイズ差は如何ともしがたい上に柳は普通の人間。

対するオルトロスはギリシャ神話に伝わる怪物だ。ただの猛獣を相手にするのとは訳が違う。

 

特殊警棒の電撃でオルトロスは痛みを訴える咆哮を上げるが、決定打を与えたとは言い難い。

反射的に振り回されるオルトロスの爪を回避しつつ

柳は何とか被害が広がらぬように立ち回っているが

それが精一杯でもあった。

 

――――

 

周囲は瞬く間に騒がしくなる。突如現れた怪物に対する悲鳴。

それを彩る無機的なパトカーのサイレンの音に、報道をしようとするマスコミのヘリの音。

それらを不快な騒音として前足を振るい、パトカーを叩き潰し、ヘリを叩き落とそうと

オルトロスはさらに激しく暴れまわる。

 

実のところ、オルトロスも己の意思でここにいる訳ではない。

彼は元々ギリシャはオリュンポスの神々が統括する地域にいたのだ。

だが、神器の実験で神を見張る者(グリゴリ)に捕獲――と言うか密猟され

そこから紆余曲折を経て駒王町にバルパーの尖兵として使役されている。

訳も分からぬまま、害獣とみなされているのだ。

 

余談ではあるが、当然この件に対しオリュンポス陣営は神を見張る者を提訴しているが

神を見張る者からの返答は「組織としては関与していない」の一点張り。

つまり、コカビエルの独断で行われたことである。

それについての責任追及も、行われているとは言い難い状態だ。

 

「ご覧ください! 現在、駒王町には正体不明の謎の怪物が出没しており

 警察がその対応に出動している状態です! お住まいの皆様は、決して家から外に出ないよう!

 既に外におられる方は、最寄の避難所へ速やかに避難してください!

 また、この影響で駒王町内の各種交通機関は全線で運行をストップしており

 高速道路も駒王町をまたぐ区間は上下線とも通行止めになっております!」

 

郊外とは言え住宅が近いこともあってか、既にオルトロスの存在はネットに流されていた。

そして、そこにかぎつける形でマスコミが出動。ヘリを使い上空から撮影を行っているのだ。

警察も突然の事で、マスコミに対する報道規制がまだ敷かれていないのが災いした形だ。

 

図らずも、これによってオルトロスとテリー柳は全国、全世界にその姿を知られることとなる。

この状況に眉を顰める者も、決して少なくはない。プラズマフィストの開発を行った

駒王学園の世界史教諭にして生徒会顧問の肩書きも持ちながら

警視庁のオブザーバーとして出向している薮田直人(やぶたなおと)もその一人だ。

 

(これは……オルトロスですか。まずいですね、今の戦力では少々荷が重いかもしれません。

 自衛隊を動かせば、とんでもない騒動になるでしょう。

 それはそれで、私の目的としては問題ありませんが……。

 いや、それよりもこれを囮にされることの方が問題かもしれませんね。

 そうした場合次に来るのは恐らく本命、そちらは間違いなく今の警察では対応できません)

 

警視庁にある薮田の研究室。そこで彼は難しい顔をしながら、モニターを見つめている。

隣のコンソールには、開発中の装備の設計図が浮かび上がっている。

 

さて。彼は自衛隊の出動を危惧していた。実際問題として、ありえない話ではない。

このクラスの危険生物ともなれば、警察で対処しきれないこともありうるのだ。

国民の生活を守る上においては、自衛隊はその活動を行う事が出来る。

だが、自衛隊が動くほどの事態は、極めて重大な案件でもある。

 

薮田は頭を抱えていた。場合によっては撤退も具申しなければならないからだ。

状況を見る限りでは、決して優位とはいえない。こう着状態も、望ましいものではない。

 

(せめてこの強化服が一つでも完成していれば……いえ、今言っても仕方ありませんか。

 しかし何とかしてこの状況を打開せねば、協力を要請した彼女に申し訳が立ちませんね。

 ……ここは止むを得ませんか)

 

机の上の受話器を取り、薮田は何者かと話している。

話の内容からして警視総監クラスの大物であると推測される。

 

「……薮田です。この事件の解決に際し、神経断裂弾の使用を具申いたします。

 ……はい、はい。運用は現場の超特捜課柳警視に一任すると言うことでよろしいですね?

 ……了解しました、では直ちに手配いたします」

 

話を終え、モニターとコンソールの電源を落とし、薮田はおもむろに席を立つ。

そのまま研究室を後にしようとするが、部屋にいた研究員に止められる。

 

「博士! どちらに行かれるおつもりですか!?」

 

「駒王町まで行って来ますよ。やはり私も教師なんでしょうね。

 こういうとき、教え子の安否が気にかかりますよ。

 ……ああ、心配しなくとも今開発中の装備が完成するまで

 私は死にませんし行方不明になるつもりもありませんから」

 

研究員の返事を待たずして、薮田は部屋を後にする。

先ほどの応答とは裏腹に真剣な面持ちで向かうその先は駒王町。

今は、オルトロスが暴れている危険極まりない地域だ。

 

「薮田博士、お待ちしておりました。

 私がヘリにてご案内いたします、どうぞこちらへ」

 

「頼みますよ。可能であれば、私も現着次第現場にて指揮を執ります。

 神経断裂弾については、現場の人間よりは詳しいと思いますので。

 不可能でしたら、ケースは投下、上空にて指揮を執ります。よろしいですね?」

 

「了解しました。着陸が可能なようであれば、着陸を行います」

 

ヘリポート。薮田は待機していたヘリのパイロットに促され、ヘリに乗り込む。

そして、ヘリはそのまま駒王町に向けて飛び立った。

薮田の手には、かつて長野の事件で人類を恐怖に陥れた者に対し猛威を奮った

特殊弾丸の入ったケースが握られている。

 

それは、願わくば二度と封印が解かれてほしくは無かったもの。

しかし、この現状に際し封印を解かねばならぬ以上。

すべては、人々の生活を守ると言う警察の職務を果たすために。

 

――――

 

駒王町。オルトロスによる被害は留まることを知らず

物的被害も人的被害も徐々に大きくなっている。

このクラスの猛獣が一匹野に放たれると言うのは

それだけでも人間にしてみれば大事なのである。

市街地にアフリカの動物をそのまま放ったのとほぼ同義である。

 

「いいか、とにかく住宅街からは遠ざけるんだ! 今はあらゆる武器の使用許可が下りている!」

 

「しかし柳さん、現実問題として奴には超特捜課の装備くらいしかまともに効きません!」

 

(恨み言を言うつもりはないが……この町を仕切っているあの悪魔はどうしたと言うんだ!

 このままでは、我々警察の手には負えんぞ!)

 

そう。オルトロスの皮膚には日本の警察の銃では歯が立たないのだ。

先刻から催涙弾なども投入されているが、目立った効果を挙げられず。

柳の神器もスピードのみの強化であるため、そもそも攻撃が通らないオルトロス相手には

若干不利な組み合わせでもあるのだ。

 

「柳課長! もう我々の手に負えません! 自衛隊に救援を要請しましょう!」

 

「装備は歯が立たず、人的被害も徐々に拡大……。

 このままでは、我々がやられてしまいます!」

 

「くっ……。動けるものは引き続き威嚇射撃を!

 負傷者は後退、武器の使えないものは負傷者の治療に当たれ!

 救急の人間を呼んでもかまわん!

 自衛隊を呼ぶのは、我々が全力を尽くしてからでも遅くはない!

 ……が、いつでも呼べるように本庁に具申だけはしておけ。

 警察の誇りと威信、それと人命。天秤にかけるまでもあるまい」

 

警官の中にも、弱音を吐き出す者が出てくる。警官とて、普通の人間なのだ。

柳みたいに神器持ちの警官もいるのだが、そんなものは少数だ。

柳も内心では心に微かな皹が入り始めている。

警官隊による防衛線が壊滅させられるのは時間の問題になりつつある頃

そんな状況を打開するであろう報せが、氷上より伝えられる。

 

「柳さん! 今本庁から応援で薮田博士がこちらに向かっているとのことです!」

 

「博士が? 他にはなんと?」

 

「はい、神経断裂弾を用意したので、それを使って鎮圧に当たるように、との事です!」

 

神経断裂弾。もう10年、いや下手をすれば15年位も前の事件だ。

長野において、人智を超える怪物たちによって市民の生活が脅かされる事件が起きた。

多数の死傷者を出したこの事件は、当時の警察の技術部が開発した

特殊弾丸、神経断裂弾によって怪物に対する抑止力を得た事で鎮圧に成功。

その後、この弾丸は威力過多と言う理由から厳重に凍結が行われ

現在に至るまで一度もその封印を解かれていない弾丸であった。

 

当時まだ学生であった氷上も柳も、それはニュースでしか知らない事件。

警察学校に入って初めて、教本で学んだ事件。

その事件にまつわる装備を、今度は自分達が使うのだ。

 

「……神経断裂弾、か。そんなものを使わなければならないほどの事件か。

 

 了解した。各員聞こえたな! この事件は、10数年前の長野の惨劇と同規模だ!

 今はまだ、被害は最小限度に留まっている! だがこのまま放置すれば、長野の惨劇の再来となる!

 間もなく神経断裂弾がこちらに届く! くれぐれも注意し、速やかにあの害獣を処理するぞ!」

 

「はっ!!」

 

柳の号令に警察官が応え、辺りは再び銃声の飛び交う壮絶な現場となる。

しかしオルトロスの皮膚は日本の警察官が所持している9ミリの弾丸では貫通できない。

顔部分を狙えばそうでもないのだろうが、一階から家屋の屋上を狙う程度の大きさだ。

やむなく煙幕を焚いたり、嗅覚など神経を狙った威嚇を行っているが効果は薄い。

これが人間の犯罪者ならば、説得と言う手段も使えるが

相手は人語を解さぬ獣である。力を以って鎮圧するより他ないのだ。

 

現時点では勝ち目はほぼ、いや全くといって良いほど無い。

だが、彼ら警察官はその場を退くことはできない。

彼らが退けば、市民が危険に晒されることになるのだ。

それは、勝ち目のない戦い。徐々に追い詰められていく警官隊。

それでも、悪魔に支配されたこの町の人間達を守るため、警官隊は戦う。

 

――――

 

無線連絡から30分も待たずして、新しいヘリローターの音が響き渡る。

神経断裂弾と、薮田博士を乗せた警察のヘリが到着したのだ。

 

「現場で動きがあった模様です! 今、警察のヘリが到着しました!

 警視庁の発表によりますと、以前に長野で起きた事件に使われた装備を導入したとのことです!

 繰り返します! 現在、駒王町において謎の巨大生物が出現、破壊活動を行っております!

 警官隊が対応のために出動しており、付近の皆様は……」

 

警察のヘリは、オルトロスの攻撃を掻い潜りマスコミのヘリをかわしながら

現場の対策本部近くにヘリを下ろし、薮田を降ろす。操縦士の腕は相当なものである。

 

「ありがとうございます、戻る際、くれぐれもお気をつけて」

 

「博士もご武運を!」

 

速やかにヘリは浮上、そのまま警視庁へと戻っていく。

その間、ごく僅かな時間。現着するなり薮田は動ける警官を全員呼び集めるように

柳に依頼していた。

 

「お待たせしました。こちらが神経断裂弾になります。

 本来ならば改良を重ねたものを提供するのでしょうが、今回皆さんにお渡しするものは

 最低限のメンテナンスしか施しておりません。

 ですが、威力は既に10年以上前とは言え実証されています。

 皆さんがお持ちの銃では規格が合いませんので、今回は銃ごとお渡しします」

 

そう言って薮田が取り出した銃はコルトガバメント。現在の警察ではあまり使われていないが

威力と弾丸の口径はやや大きめの銃だ。

神経断裂弾はこの銃での使用を当初は企画されていた。

薮田が取り出した銃に、警官達は驚きの色を隠せないでいた。

 

「静粛に。相手がアレだけの怪物なんですから、これでも足りないくらいですよ。

 しかしこれ以上は自衛隊の管轄になってしまいますからね。

 警官として動ける最大限が、この拳銃と神経断裂弾と言う訳です」

 

「では博士、確かに神経断裂弾を受領いたしました。

 これより、超常生物の鎮圧に取り掛かります」

 

「ええ、くれぐれも気をつけてくださいね」

 

薮田から神経断裂弾を受領した警官隊は、再びオルトロスの下へと駆けつける。

神経断裂弾は高い火力を以って標的を粉砕する弾丸ではない。

体内に撃ち込まれた弾丸が内側から神経を破壊する、そういった弾丸だ。

そのため、結局目鼻や口の中などオルトロスの脆い部分を

攻撃しなければならないことに変わりはないが

そこは柳の神器や氷上のプラズマフィストがうまくフォローする形をとっていた。

 

形勢は逆転。身体の大きさの差は如何ともしがたいが、警官隊がやや優勢になりつつあった。

 

――――

 

モニター越しにオルトロスと警官隊の戦いを見守る薮田の後ろに、人影が現れる。

オールバックに丸サングラスの男。

冥界政府の依頼で人間界にやって来た、ウォルベン・バフォメットだ。

 

「……バフォメット家の者ですか。ここにいると言うことは冥界政府の差し金ですか。

 しかしあなたも随分と底意地が悪いですね。

 人間にオルトロスの対応が困難なことくらい、分かるでしょうに」

 

「これはこれは……シトリーのお目付け役の先生は、人間に随分肩入れなさっているようですな。

 まあそういうわけですので、私如きの力添えなど、必要ないと思ったのですよ」

 

しかし薮田は動じるでもなくウォルベンと相対している。

まるで、昔から知っているような相手であるかのように。

勿論、冥界はバフォメット家のウォルベンと、人間であるはずの薮田との間に

接点など全く無いはずである。

 

「所で……ここにはどういった用件で?

 断っておきますが、私はまだこの役割を降りるつもりはありませんよ。

 それとも、この件を突きつけてグレモリーかシトリーの瓦解を狙うおつもりですか?

 シトリーはともかく、グレモリーはいくら現ルシファーの家系とは言え

 吹けば飛ぶ程度でしょう? 態々あなたが出張る必要など、無いと思いますがね」

 

「私個人としては、それも考えましたがね。それは私の任務に含まれていませんので。

 しかし私に言わせれば、先生も随分と底意地が悪い。先生ならば、オルトロスはおろか

 ケルベロスも、これをけしかけた堕天使も一瞬で消せるものを……」

 

ウォルベンの軽口に、一瞬だが薮田が顔を顰める。

まるで「そのことには触れるな」と言わんばかりに。

ウォルベンの言葉が本当であれば、薮田の持つ力は上級堕天使以上のものとなる。

それはまるで、神クラス。だが、薮田直人は人間として通っている。

この状況で、ウォルベンがはったりを述べるメリットもない。

 

「……何のことだかさっぱり分かりませんね。人を化け物呼ばわりは単純に不愉快ですよ」

 

「失礼。ですが先生、あなたは一体何者なんでしょうな?

 ただの高校教師かと思えば、警察に技術提供を行い

 冥界ゆかりの者として人間界での悪魔の動向の監視も行う。

 私めには、とてもただの人間とは思えませんな」

 

「……今の地位を得るには苦労した、とだけ言っておきますよ」

 

まるで苦労話をするかのように薮田が語り終えたと同時に地響きが鳴り渡る。

警官隊の射撃によってオルトロスは地に伏したのだ。

プラズマフィストで鈍ったところに神経断裂弾を何発も撃ち込まれたのだ。

いかに巨体を誇るオルトロスといえど、内側からの攻撃には弱かったのである。

 

「21時34分、巨大害獣の撲滅を確認!」

 

「よし、引き続き周囲の警戒に当たれ! 害獣は鑑識に回す!」

 

オルトロスを倒しても、警察の仕事は終わらない。

寧ろ、ここからが大変なのだ。市民生活のインフラを、一刻も早く復旧させなければならない。

たかがケルベロス以下の怪物一体とは言え、それが市民に与えた影響は計り知れないのだ。

 

「お見事、と言っておきましょう。しかしどうやら、この間に動きがあったようですな。

 そして私の目的もそこにあるわけでして。では、今度も良い出会いであることを願いますよ。

 薮田博士、いえ――」

 

「――その名は今の私には相応しくありませんね。

 私はこの国で暮らす一介の人間に過ぎませんから。

 しかし……やはり動きましたか、コカビエル」

 

姿を消したウォルベンがいた場所を一瞥し、モニターに目を戻す薮田。

そこには、駒王学園に膨大なエネルギー反応があることを示す数値が出ていた。

 

(当然、この場にも超特捜課を派遣すべきでしょうが……今彼らは消耗している。

 仕方ありませんね。舌の根も乾かないうちですが――)

 

薮田はモニターを切り、展開していた簡易指令施設を収納している。

そのまま、現地の警官に指示を出している。但し彼は命令権を持たないため

意見の具申を行う程度である。

が、それを適切に行うことで実質命令と変わらない効果を発揮しているのだ。

 

「今後ですが、超特捜課も交通課や市民課と協力して

 インフラの復旧に当たる方向はどうでしょう。

 万が一の事もありますし、彼らの警備を行うと言う名目で。

 神経断裂弾はここに置いていきますので」

 

「その方が良いかもしれませんね。よし、氷上! 我々はインフラの復旧に当たる!」

 

「はい!」

 

(その方が良いでしょう。ケルベロス、それに上級堕天使の相手を

 今の超特捜課に依頼するわけには行きません。やはり、私が出る必要がありましたか。

 

 ……必要以上に神を見張る者とは接触したくは無かったのですが)

 

インフラの復旧に当たる警官隊を一瞥し、薮田は駒王学園の方へと足を運ぶ。

そこには今警官隊が苦戦した以上の怪物が複数いる。

今は敷地内から外に出てはいないが、いずれ外に出るだろう。

そうなる前に始末しなければならない。

 

薮田は悠々と歩みを進める。その左手には、普通の人間ではありえない輝きを秘めて。

左手から発せられる光は、まるで辞書のような形を成し。

次の瞬間、薮田の姿は忽然と消えたのであった。

 

――――

 

駒王学園・オカルト研究部の部室。リアス・グレモリーはここで様々な悪魔の執務を行っている。

今も例外ではない。その内容は、先ほど現れた冥界の使者を名乗る悪魔

ウォルベン・バフォメットについて

兄である魔王サーゼクス・ルシファーに問い質すためである。

 

「……確かに、駒王町に冥界政府から使者は派遣した。

 それが誰なのかまでは担当に一任していたから今初めて聞いたけどね。

 それよりリアス、君は私に隠し事をしていないか?」

 

「……魔王陛下にお伝えするほどの事でも無いからですわ」

 

図星である。セージへの応対の事、そして何よりコカビエルの事。

リアスは兄であるサーゼクスに色々と隠し事をしていたのだ。

リアス本人に隠す意図は無かったのかもしれない。

しかし、結果としてサーゼクスの耳に入った以上、それは隠し事足りえてしまうのだ。

 

「朱乃君から聞いたよ。駒王町にコカビエルが潜伏しているそうだね。

 ウォルベンを派遣したのも、そういう経緯があっての事だ。

 彼クラスの堕天使が悪魔領地で動いているとなると、事は思っている以上に重大だ。

 そしてもう一つ。これもある意味ではコカビエルより重大だ。

 ……歩藤誠二。この名前に心当たりが無いはずもないだろう?」

 

以前、この件でリアスは母であるヴェネラナから叱責を受けた。

セージの悪魔契約について、事故で行われたものであるのに

何故サーゼクスに相談しなかったのか、と。

それについてはついぞ知らなかったために相談をしなかったのだが

結局のところサーゼクスの耳にまで届いていた。しかも、関係性まで。

 

「勿論よ、私の大事な眷属だわ」

 

「……の割には、あまり快く思われていないみたいじゃないか。

 日頃の反抗的な態度、度重なる反乱未遂。然るべき場所に突き出せば

 すぐにでもはぐれ悪魔として処分できる。

 『はぐれ悪魔を出すような主』になって欲しくはないが、このままでは私も庇いきれないよ?」

 

セージがはぐれ悪魔認定されていないのは、サーゼクスの庇いたてがあっての部分もあった。

実際、冥界の一部では以前のレーティングゲーム等からリアスに対して

「眷属を使い切れない無能主」と言う評価を下されている部分も上がり始めている。

ここでセージを斬り捨て、何事も無かったかのように振舞うのは簡単であるはずだった。

 

しかしそれをやるには、セージはレーティングゲームで活躍しすぎたのだ。

良くも悪くも目立ったセージをはぐれ悪魔として斬り捨てれば

間違いなくリアス・グレモリーの名に傷がつく。

反抗的な眷族を切り捨てた英断と取られるか。

あるいは前途有望な実力派転生悪魔をはぐれにしたと取られるか。

いずれにせよ、リアスの心にも、名前にも傷を残す結果となるだろう。

 

「お兄様、それは……」

 

「余計なことはするな、とリアスは言いたいかもしれないけどね。

 それに私も母上から事情を聞いて驚いたよ。まさか悪魔の駒にそういう作用があったなんて。

 はぐれにしたくとも、兵藤一誠君の手前それも出来ないって事情もあるとはね」

 

そう。そもそもセージをはぐれ悪魔にするのは物理的に無理なのだ。

セージの悪魔の駒はイッセーと共有がなされている。

片方だけをはぐれ悪魔として追放することは出来ないのだ。

セージと違い従順で、赤龍帝のオリジナルでもあり

セージと同等に前途有望なイッセーを切り捨てる選択肢など

リアスに存在するはずも無かった。

結果として、セージは現状維持で保留とせざるを得ないのがリアスの、冥界の判断であった。

 

「しかしこのままでは彼――歩藤誠二も増長する恐れはあるね。

 既に主である君を蔑ろにする態度を取り続けている。

 このままではいずれ冥界そのものにも牙を剥きかねない。

 そうなってからでは遅い。はぐれ悪魔指定こそされていないけれど

 実質ははぐれ悪魔と見做しても間違いなくなるのは、時間の問題かもしれないね」

 

「!! さ、させないわ! セージをはぐれ悪魔にだなんて!!」

 

「分かっている。だから出来ればもう少し早く私に相談してほしかったかな。

 アジュカにこの件を話せば、解決策もすぐに見つかるとは思うが……。

 しかし、これ以上歩藤誠二をこのままにも出来ない。

 コカビエルの件が片付いたら、追って連絡をするよ。

 それから、今地上に派遣する部隊を編成している。30分もあれば支度は出来ると思うから

 それまで持ちこたえてくれるだけで良い。無理に倒そうなどとは思わないでくれ。

 

 ……それと最後にもう一つだけ言わせて欲しい。もう少し私を、兄を信じてはもらえないか?」

 

「待ってお兄様、それには……」

 

「そうは行かないわ。リアス、事はもう私達の手に負えるスケールじゃない。

 そう思って、前もってサーゼクス様に連絡させてもらったわ」

 

リアスがサーゼクスの部隊派兵に待ったを掛けようとするが、それは朱乃によって阻止される。

リアスが待ったを掛けようとしたのは駒王町を治めるものとしての矜持によるものは少なくない。

しかしそれは、同時に多大な視野狭窄を生み出すことにもなる。

冗談かどうかは定かではないが、サーゼクス自身からも

「信頼して欲しい」と言われてしまっているのだ。

 

「それに、今大変な事が起きているわ。コカビエルがもうここまで入り込んできている。

 すぐに皆を呼び戻しましょう」

 

「それには及ばないっす! 朱乃さん!」

 

朱乃の提案を待っていたかのようなタイミングで、イッセーが部室に入り込んでくる。

そこから遅れる形で小猫、アーシアと入ってくる。

 

「イッセー! それに二人とも、何時戻ってきたの?」

 

「部長、今かなりヤバイことになってます! 街中じゃ危険生物が暴れてるし

 校舎にフリードの奴が入り込んでるし、コカビエルが……」

 

「ええ、こちらでも掴んでいるわ。すぐに撃退するわよ!」

 

リアスの号令と共に、オカ研の部員は外へと飛び出していく。

リアス・グレモリーとコカビエルの駒王町を舞台にした

戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




と言うわけで今回の補足。

神経断裂弾
仮面ライダークウガに登場した弾丸とほぼ同一のものと思っていただいて結構です。
グロンギに通用する=クウガにも通用する=相当クラスの人外に通用する
と言う流れで採用に踏み切りました。警察の特殊装備で
これが真っ先に思いついたってのもありますが。

なお本文中に強化服について触れられてますが
「この世界にクウガはいません」ので、アレは開発の仕様がありませんとだけ。

オルトロス
この後駒王学園にて戦うケルベロスの下位互換として採用しました。
原作では地獄の番犬として扱われていましたが
ケルベロスもギリシャ神話にルーツを持っているため
同じイヌ科のフェンリルがきちんと北欧勢力から出てるのに
ケルベロスがこんな扱いってのも納得できない
(石踏氏に各世界神話勢力を出す構成がこの時点で無かったって考えも出来ますが)
ため、オルトロスとケルベロスはギリシャ勢力からの出典となっております。
入手法? 勿論密猟ですよ? これは一応伏線も兼ねてます。
ヒントは冥府の風評被害著しい神様。

そしてケルベロスの下位互換である彼にも苦戦する超特捜課の前途は多難である。
この辺は現時点では致し方無しとしか申し上げられません。
だって神器含めて「ただの人間」ですもの。

オリ主はやはりサーゼクスに睨まれてました。まぁ当たり前ですけど。
妹に信頼されてないショックで八つ当たりしてるわけではありません。多分。


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Life33. 大決戦、駒王学園!

【悲報】セージ今回も出番なし【オリ主(笑)】

スパロボ(OG以外)だといつもの事どころか
場合に拠っちゃその方が受け入れられるのに
一部地域の二次創作界隈ではそうでもない、不思議!

いやあ、霧は強敵でしたね……。

ちょっとだけ時間軸が前話とずれてますが
前々話のひき~前話最後でイッセーが戻る場面からのスタートです。


毎度の事ですがお気に入り登録、アクセスありがとうございます。


俺達が促される形で駒王学園に戻ってみると、物々しい雰囲気になっていた。

危険生物が出たとかで体育館は避難所として開放されている、そのはずだった。

けれど実際はどうだ。運動場では見知らぬ男が儀式のようなことをやっている。

そこから発せられるエネルギーは、俺達にとっても近寄りがたいものがある。

そして俺はこれを知っている。堕天使の光の力だ!

 

「……イッセー先輩、それにこれは。アーシア先輩、見ちゃダメです」

 

「どうしたんだ小猫ちゃん……うっ!」

 

小猫ちゃんが指差した先、それはこの学校の体育館。

危険生物発生で学校に避難してきた人たちであろうか。

既に原型を成していない肉片が、体育館周辺に散らばっていた。

壁は赤黒く染まり、そこで起きた惨劇を物語っている……。

いつぞや見た、クソ神父に殺されたお客さんの部屋を思い出してしまった。うえっ……。

 

「……くそっ! この学校でこんなことをするなんて!

 見つけ次第ただじゃおかねぇ!」

 

匙の奴もこの惨劇を目の当たりにしてきれている。

けれどこんなことをするなんて、まるで……

 

「サジ、ここにいましたか。それにリアスの眷属の皆も。

 見ての通り、今この学校は大変なことになっています」

 

「会長! すみません、俺が学校にいれば、こんな事には……」

 

俺達の前に、ソーナ会長がやって来る。

匙は申し訳なさそうに頭を下げている。これって俺が連れまわしたせいなのか?

 

「サジ、もうそれを言っても仕方ありません。

 このような結果を招いたのは私の至らなさもあります。

 それより、こうなった経緯を説明しましょう」

 

ソーナ会長の話だとこうだ。危険生物発生の報せは学校の当直の先生にも届いていた。

そのため、避難場所として体育館を開放した。そして避難民の受け入れ態勢を取っていたが

そこにあのフリード・セルゼンが紛れ込んでいた事。

あの惨劇はフリードの仕業で、その間にエクスカリバー強奪犯が盗んだエクスカリバーを使い

この町を破壊しようとしている事。それを阻止するため、ソーナ眷属総出で結界を展開。

被害を最小限に抑えようとしているが

そのためここは避難場所として機能しなくなってしまった事。

 

「魔王様の軍勢が30分ほど後に来られるそうです。

 それまで何とか持ちこたえましょう。サジ、あなたは私達と結界の維持を。

 兵藤君達はリアスの援護を」

 

「了解しました! 不肖匙元士郎、遅れた分は必ず取り戻します!」

 

「魔王様が!? よし、俺達も行こう!」

 

こうして、俺達はひとまず部室に戻ることにした。

木場やセージがまだ見つからないのが気がかりだが、今はそれ以上にこの学校だ!

何としてでも守り抜く、そう思った俺の足は自然と走り出していた。

 

部室の前までやってくると、部長と朱乃さんの話し声が聞こえてきた。

さすが部長に朱乃さん! もう情報を掴んでいるのか!

 

「それに、今大変な事が起きているわ。コカビエルがもうここまで入り込んできている。

 すぐに皆を呼び戻しましょう」

 

「それには及ばないっす! 朱乃さん!」

 

くぅ~、我ながら良いタイミングだぜ!

匙の奴だってソーナ会長にカッコいいとこ見せてるんだ。

俺だって部長にカッコいいとこ見せないとな!

 

「イッセー! それに二人とも、何時戻ってきたの?」

 

「部長、今かなりヤバイことになってます! 街中じゃ危険生物が暴れてるし

 校舎にフリードの奴が入り込んでるし、コカビエルが……」

 

「ええ、こちらでも掴んでいるわ。すぐに撃退するわよ!」

 

「はい!」

 

俺は部長の声に揚々と応え、外に躍り出た。

 

――――

 

学校の校庭。そこでは、三本のエクスカリバーが宙に浮いた状態で静止している。

その三本が均等に並ぶように、地面には魔法陣が展開されている。

 

そこにいるのは、初めて見る連中だ。宙に浮いた椅子に腰掛けた

漆黒のローブを纏った堕天使に、魔法陣の中央に初老の男。

 

「バルパー。後どれくらいでエクスカリバーは統合する?」

 

「5分も要らん、だが本数が少ない。思ったとおりの結果にはならんかもしれないぞ?」

 

「構わんよ。どっちに転んでも俺の目的は達成される」

 

バルパー? こいつがか? って事は、あの堕天使がコカビエルか!

いよいよ、総大将との対決ってわけか!

 

「グレモリーの娘か。初めましてといっておこうか。

 その赤い髪が憎き兄君を思い出させて反吐が出るよ」

 

「ごきげんよう、堕ちた天使の幹部コカビエル。私はリアス・グレモリー、以後お見知りおきを。

 それはそうと……随分と私の領地で好き勝手なことをしてくれたわね?」

 

「私の領地、か。ククク、これだから悪魔どもは何も分かっちゃいない」

 

部長の挨拶にも、その傲慢な態度を崩そうとしない。

本当に堕天使ってのは嫌なやつばかりだな!

 

「……どういう意味かしら?」

 

「それ位自分で考えろ、無能なグレモリーの娘よ」

 

「――っ、まさかあなたにまで無能呼ばわりされるとは思わなかったわ!!」

 

「部長、落ち着いてください」

 

朱乃さんが部長を窘めているけど、俺だって頭に来てる。

反吐が出るのはこっちだっての!

そんな俺の考えを知ってか知らずか、コカビエルは話を続けている。

 

「まあいい。この土地が誰のものだろうと、俺がやることは変わらない。

 標的が魔王か日本の神かの違いだけだ、たいした事じゃない」

 

「日本神話にまでちょっかいを掛けようと言うのかしら?」

 

「ちょっかいどころか、言うべきことも言わずにいるのもどうかと思うがな。

 その様子ではエクスカリバーの事も、俺が来たこともサーゼクスには伝えていないのだろう?

 全く以って詰まらんプライドだ。下らん、実に下らんな」

 

コカビエルはこっちを小馬鹿にしたような態度でさっきから接してくる。

俺達は戦うまでも無い存在だって言いたいのかよ!?

すぐにでも殴りかかりたかったが、奴の威圧感が半端じゃない。

 

「ご生憎さま。サーゼクス様には既に伝えてありますわ。

 そういうわけですので、速やかに撤収することを提案いたしますわ。

 このままでは、また戦争が起きてしまいますもの」

 

「ああ、それなら心配いらんよ。それこそが俺の目的だからな。

 ……で、後どれくらいでサーゼクスは来るんだ?

 ああ、答えなくて良い。早く来ればそれでよし。

 時間がかかるようならその前にお前達を皆殺しにし、その上でこの町を焼き尽くす。

 エクスカリバーも三本だけとは言えその余興には打ってつけだろう?

 それを土産にすれば、いくらか本腰を入れたサーゼクスと戦えるだろう。今から楽しみだ」

 

「そんな真似、させる訳が無いでしょう!?」

 

けれど部長は、負けじと啖呵を切っている。さすがだ!

お、俺も負けてられない! 部長に良いところを見せるんだ!

 

「まあそういうと思ったさ。と言うかそれくらいでなければつまらん。

 そんなお前達に紹介しよう、地獄から連れてきた俺のペット共だ。

 せめてこいつらは倒して見せてくれ。でなければ俺と戦うことなど到底、叶わない」

 

「ふんっ、ペットの躾がなってねぇじゃねぇか! 俺が躾け直してやるぜ!」

 

言ってやったぜ! 俺だってやれば出来るんだ!

だが、そんな俺の意気込みを打ち砕くかのようなモノが、夜の校庭にぬぅっと現れたのだ。

この学校の校庭が狭く思えるほどの巨体。象だとか、そういう次元の代物じゃない。

もっとでかい。そして、それを表現するのに適切な動物は象じゃなくて、犬。

けれど俺の知ってる犬は、首が三本も無い。

 

「言うじゃないかガキ。その左手……ああそうか、赤龍帝か。

 それなら少しは面白いものを見せてくれそうだ。お前の言うとおり、躾け直して見せろよ」

 

しかもコカビエルの奴は、俺の啖呵にも全く動じない。

だったら見せてやる! 吠え面かくんじゃねぇぞ!

 

「ドラゴンが犬っころに負けるかってんだ! 行くぜドライグ!」

 

「……でかければ良いってモノじゃありません」

 

俺と小猫ちゃんが前に出る。すると、部長に呼び止められる。

 

「イッセー、ケルベロスを外に出すわけには行かないわ。

 それには、一撃で決める必要があるわ。頃合を見計らって、私に譲渡を行いなさい。

 それで、譲渡は何回使えるのかしら?」

 

「……三回、ってところっすね。すんません」

 

「そう、わかったわ。みんな、ケルベロスを外に出してはダメよ!

 この校庭の中で撃退しなさい!」

 

俺達は部長の号令にあわせ、意気揚々とケルベロスと対峙する。

こんな奴、外に出したらそれこそ大事だ。

匙やソーナ会長の話じゃ、結界はこの学校しか覆っていないし。

でも、外に出さなきゃ良いだけの話だ!

 

「確かに、外に出れば大事だな。人間どもはひとたまりもあるまい。

 そうすれば、人間達はこの怪物に恐怖するか、或いは憎しみを抱くだろう。

 恐怖や憎しみは、戦争を引き起こすのにうってつけの感情だ」

 

「だからこそ、ここで私達が食い止める! コカビエル、あなたの思い通りにはさせないわ!」

 

おおっ、さすが部長!

けれど、そんな部長の意気込みをまた嘲笑うようにコカビエルはふんぞり返っていやがる。

本当に嫌な奴だな、こいつ!

 

「その心意気は、さすがサーゼクスの妹だと褒めてやろう。

 ……だが、この町を管理する者としての資質には大きく欠けるようだがな。

 まさか、俺がたかだかケルベロスだけを手土産に、この町に来たと思っているのか?」

 

「なっ!? も、もしかして……!!」

 

「ああ。街中にオルトロスを放ってやった。

 一匹だけとはいえ、人間どもに恐怖心を植え付けるには十分だろう。

 おっとお前達も外には出さないぞ? お前達はここでケルベロスのエサになってもらおうか。

 その後で、この町の人間どもをケルベロスのエサにしてやる。

 こいつら、結構大飯食らいなんでな」

 

オルトロス? と首を傾げる俺に朱乃さんが解説してくれる。

ケルベロスと同じく、ギリシャにいる地獄の番犬。ケルベロスとは兄弟関係にあり

大まかに言って、首が一本少ないだけでその他はケルベロスと殆ど同じ、だそうだ。

 

危険生物ってのは、間違いなくそいつだ!

くそっ、なんて事しやがるんだ!!

 

「な、何てことを! この町の人々は関係ないでしょう!?」

 

「……本当に管理者としての資質に欠けるようだな。サーゼクスの妹よ。

 お前の言う管理者は勝手に名乗っているだけの名ばかりの肩書きか?

 それとも、自分の身は自分で守れと言う放任主義か? 惰弱な人間相手に随分と無責任だな、ん?」

 

しかしコカビエルの奴は悪びれる様子も無く部長をバカにしている。

お前がそもそもそんな危険なものを放たなきゃ良いだけの話じゃないか!

 

「グオオオオオオッ!!」

 

「ほうら、何時までも下らぬ論争を繰り広げている暇は無いはずだぞ?

 外にはオルトロスが、ここにはケルベロスが。

 魔王が来るまでお前達も、町も持たせられるかな?」

 

地の底から響き渡るような咆哮をあげながら、ケルベロスが俺達に突っ込んでくる。

小猫ちゃんが巨体を食い止めようとするも、ケルベロスの方が力が強いらしい。

戦車(ルーク)」の力を押すなんて、とんでもないやつだ!

 

「あらあら、一箇所にばかり気を取られていてはいけませんわよ?」

 

朱乃さんが雷を呼ぶが、その前に首の一本が朱乃さんの方角を向いている! まずい!

俺は慌てて朱乃さんに呼びかけるが、離れているのか声が届かない。

部長がフォローのために滅びの魔力を放つが、ケルベロスは難なくかわしてしまう。

くそっ、どうすりゃいいんだ!

 

ケルベロスの首は三本あって、しかも独立して動いてやがる。

相手は一頭だが、これじゃ三頭を相手にしているのと変わらないじゃないか!

しかも間の悪いことに、俺のパワーもまだ貯まらない!

 

「ドライグ、まだかよ!?」

 

『急かすな。瞬時に倍化させるのは現時点での性能を超えている。出来ん。

 自分の無力を嘆いている暇があったら、今自分にある力で何が出来るかを考えろ』

 

い、いきなり言われても! 俺はセージじゃないんだから考えるのは苦手なんだよ!

っつーか、セージは今何してるんだよ! ああもう、こういう時あいつがいればいいのに!

などといもしないセージに愚痴をこぼしていたら、援軍がやって来た。

火を吐こうとしたケルベロスの首の一つに、一撃が加えられたのだ。

 

「今のは……だれが!?」

 

「何を呆けているんだ、赤龍帝。ここはお前達のホームグラウンドじゃないのか?」

 

「やっほ、イッセー君。助けに来たよ?」

 

来たのはなんとゼノヴィアとイリナだった。ケルベロスの頭にはエクスカリバーが刺さっており

もうその頭は使えないといっても良い状態になっていた。

突然の態度の変わりように、部長は難色を示しているが正直な話、すっごいありがたい!

 

「手出し無用と言ったのはあなたたちではなかったかしら?」

 

「事情が事情だ、撤回する。上も一般市民まで巻き添えにする事は望んでいないだろうしな。

 それから、来る途中で町をざっと見回ったが既にオルトロスは何者かに倒されていた」

 

「そういうわけだから、これからよろしくね。イッセー君」

 

おおっ、これは素直に嬉しい! あんな化け物相手だ、戦力は多いに越したことは無いもんな!

しかもエクスカリバーだ、相手が地獄の化け物なら、効果はあるんじゃないか?

 

……けど、オルトロスを倒したのって誰なんだろう。木場とセージかな?

とにかく、これで町の心配は無くなった! こいつらに専念できるぜ!

 

「どうだ! お前が放った犬っころは倒されたみたいだぜ!」

 

「そのようだな。まあケルベロスには劣っている部分があったからな。

 倒されたのなら、人間にも使い手がいたのだろう。それは俺の下調べ不足と素直に認めよう。

 それより、エクスカリバーのほうからやってきてくれるとはありがたいな。

 バルパー。儀式を始めたところすまないが、後で二本追加だ」

 

「ふん、もう少し早くやってきてくれればよかったんだがな……まあいい」

 

しかしそれでも、コカビエルの不敵な態度は揺るがない。でも余裕気取ってるのも今のうちだぜ!

見てろよ、チャージが終わったら目に物見せてやるからな!

ゼノヴィアとイリナが参戦したことで、俺は倍加に専念できる。

限界まで倍加した力を部長に譲渡すれば、いくらコカビエルといえどもただではすまないはずだ。

それにいくらケルベロスと言えども、4対1ではどうにもならなかったらしく

あっという間に地に伏していた。

 

「む。ケルベロスも倒されたか。やはり聖剣使いが相手では分が悪いか。

 エクスカリバーが来たのはありがたいが、余計なものまで来てしまったか」

 

「バルパーはただの人間、フリードはもう聖剣を失った!

 あとはお前だけだな、コカビエル!」

 

ゼノヴィアがエクスカリバーをコカビエルに突きつけている。

おおっ、なんだか良い流れじゃないか。

けれどそれでも、コカビエルはその嫌な態度を崩さなかった。まだ何かあるのかよ!?

 

「せっかちだな聖剣使い。誰が持ち込んだケルベロスは一頭だけと言った?」

 

コカビエルが指を鳴らすと、咆哮と共にケルベロスが現れ……

 

 

……なかった。妙な空気が流れ始める。

 

「……ぬ? どうしたことだ? 何故現れぬ? 残り三頭は用意したはずなんだがな」

 

俺が聞きたいよ。けど、これってチャンスじゃないか?

待てど暮らせど、ケルベロスが現れる様子は無い。思い切って、俺は部長に進言してみた。

 

「部長、今っす!」

 

「そ、そうね。ケルベロスが出ないのは気がかりだけど……行くわよイッセー!」

 

「――させねぇよ!」

 

いざ部長に譲渡をしようと思った矢先。俺は銃で撃たれていた。

撃たれた箇所が激しく痛む。これは覚えがある――フリードの奴だ!

 

「そううまく行くと思ったのかい? それにな、そろそろエクスカリバーが統合されるから

 そこで黙ってみてろって」

 

「くっ、させ……!!」

 

駆けつけようとした部長の目の前に、とんでもない光が落ちる。

コカビエルが投げつけた光だ。な、なんてもん投げつけやがるんだ!

話に聞いていた以上に、スケールが違う相手な気がしてきたぜ……。

 

「リアス・グレモリー。演劇の鑑賞マナーがなっていないな」

 

「三文芝居に持ち合わせるマナーなんて持っていなくてよ」

 

「……三文かどうかの判断は、最後まで見てからでも遅くはあるまい……さあ、完成だ」

 

バルパーの一言で、魔法陣とエクスカリバーが物凄い光を放つ。

まさか……完成しちまったのか!?

激しい光を放つ魔法陣の中央を注視すると、エクスカリバーらしき剣が鎮座している。

 

「フリード、剣を取れ。お前が盗み出し、お前の手にあった聖剣が今、一つになった。

 オリジナルには及ばないだろうが、そこの7分の1の2本を打ち破るくらいは容易いだろう。

 お前も余興に参加するが良い」

 

「それじゃ、お言葉に甘えてご相伴に預かりますかね!」

 

フリードが統合されたエクスカリバーを手に向かってくる!

一本でも恐ろしい聖剣なのに、三本分のパワーとか何なんだよ!?

 

「うろたえるな、赤龍帝! 7本全て統合されたならいざ知らず

 まだ7本のうち2本はこちらにある! 3対2、覆せない戦力差では無いだろう!」

 

「そうそう、イッセー君はそこで私の活躍を見ててよ!」

 

それに対抗するように、ゼノヴィアとイリナがエクスカリバーを手に向かっていく!

ゼノヴィアは力強くエクスカリバーを振り回し、イリナはエクスカリバーを鞭状に変え

フリードの素早さに対応している。

 

そうだ、負けてられない。いくら相手がエクスカリバーを使うからって何なんだ。

こっちにだって聖剣使いはいるし、俺はそもそも赤龍帝じゃないか。

その俺の想いに応えるように、ドライグからのメッセージが届く。

 

『相棒、最大限度まで倍加出来たぞ』

 

「よし! 部長、俺の方は準備できたっす!」

 

「わかったわイッセー。ならば私に譲渡しなさい、一気にコカビエルを叩くわ!」

 

俺は部長の指示通り、赤龍帝の力を部長に譲渡する。

その力で放たれた部長の滅びの魔力は、以前見たそれとは圧倒的に違っていた。

これなら、コカビエルだってひとたまりも無いはずだ!

その俺の確信と共に、部長の魔力は後ろでふんぞり返っていたコカビエルに直撃した。

コカビエルがいた場所は、魔力の直撃によって黒煙が上がっている。

 

「やったわ! さすがイッセー、私が見込んだだけの事はあるわ!」

 

「いやあ、部長の実力が無ければ、こううまく行かなかったですよ」

 

堕天使の幹部だって言っても、俺達が本気を出せばこんなもんだ!

赤龍帝の力と、紅髪の滅殺姫の力を侮るから、こういうことになるんだ!

 

「……やれやれ、黙ってみていれば。お前達こそ三文芝居を繰り広げているではないか」

 

「……っ! 皆さん、伏せて!!」

 

黒煙の向こうから声がしたのと同時に、こちらに向かって無数の光の矢が飛んできた。

いや、矢と言うよりは……槍だ! 一本一本があの時食らったのよりも大きな、光の槍だ!

攻撃を確認した直後、朱乃さんが雷で光の槍を打ち落としていくが、全てを打ち落とすには至らず

いくらかは食らってしまう。すげぇ痛い。俺は良いけど、他のみんなは大丈夫か!?

そんな心配を他所に、離れていたお陰で攻撃には晒されなかったアーシアが俺の元に駆け寄ってくる。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、俺は平気だよ。それより他のみんなが気になる、怪我してたら治さないといけないし」

 

アーシアに治療してもらい、痛みはなくなったがそうなると今度は他のみんなが尚更気になる。

周囲を見渡してみると、直撃を受けた様子は無さそうだ、よかった。

この現状を生み出した張本人は、相も変わらずふんぞり返っているのが気に入らねぇが!

 

「……ほう。あの咄嗟で俺の攻撃を凌ぐか。治癒の使い手と言い

 眷属『は』優秀だな、リアス・グレモリー。そして見事だ、バルディ……いやバラキエルの娘」

 

「……その呼び方で私を呼ぶな!!」

 

バラキエル。その名前を聞いた途端、朱乃さんはまるでこの間までの木場のように激昂して

コカビエルに無造作に雷をぶつけようとしていた。

勿論、そんなデタラメな狙いの雷が当たるはずもない。

一体どうしちゃったんだ、木場といい朱乃さんといい!

 

「ククク、奴も哀れだな。愛するものには先立たれ、己の地位は崩れ、一人娘には……」

 

「こ、この場で言うなぁぁぁぁぁっ!!」

 

「い、いかん! あの体勢じゃ……!!」

 

朱乃さんの激昂が、激しい稲妻を呼び寄せる。それをゼノヴィアが止めようとするが

それは若干遅かったみたいで。コカビエルの鉄拳が朱乃さんの鳩尾に入ってしまった。

 

「なあサーゼクスの妹よ。人間界にはこんな言葉があるそうだな。

 『蛙の子は蛙』。今のバラキエルの娘にぴったりだと思わないか?」

 

「私は朱乃じゃないからコメントは差し控えるし、朱乃はそもそも蛙じゃないわ」

 

あの部長、多分それ意味違うと思います。俺も頭は良い方じゃないので何とも言えないんですが。

 

「イッセー、次の倍加を頼むわ! 朱乃の敵をとるわよ!」

 

「……やはり無能な輩ではこれが限度か。己の力量も分からぬ愚か者の(キング)

 己の感情の制御も出来ん女王(クイーン)。己の力の使い方も知らぬ戦車(ルーク)

 他人を癒すしか能の無い僧侶(ビショップ)

 極めつけは何かの間違いとしか思えぬほど、己の力を使いこなせぬ赤龍帝の兵士(ポーン)か。

 サーゼクスとその眷属どもに比べるのもおこがましいほどに能無しの集まりだな。

 女王に与えた評価は撤回せざるを得んな。だが……」

 

ふと、コカビエルの目線がアーシアに向かった気がした。

ま、まさか! あいつ、アーシアを狙うつもりだ!

コカビエルに睨まれたアーシアは、それだけで腰を抜かしたのかへたり込んでしまう。やばい!

 

「ひ……っ!」

 

「目線をやっただけでこれか。戦場に立つ者の心構えではないな。

 リアス・グレモリー。何故この者を戦場に出した?

 眷属が恐怖に震える様を見るのがお前の趣味か?」

 

「あなたじゃあるまいし、そんなわけは無いでしょう?」

 

当たり前だ! 部長がそんな恐ろしい悪魔なわけ……

 

な、無いだろうが! くそっ、何で今合宿やら特訓の時の部長が思い浮かんじまったんだ!?

朝練はともかく、合宿のあのジープだけは、いくら俺でも納得できかねる部分はあった。

確かにあれくらいの意気込みでやらないと、あの時の俺たちに勝ち目は無かったんだろうけど!

 

恐怖に震える様を見て楽しむ、まるである意味の朱乃さんみたいだけど

部長にもそういう節が全く無いわけじゃない。

あのシゴキにだって意味があるのは分かっているんだけど……。

 

――リアス・グレモリーはわざと堕天使を泳がせお前を殺し

お前を悪魔に転生させる口実を作った――

 

な、何でここでセージの言葉が出てくるんだよ!?

俺は確かに死に際にあの赤い髪の人にもう一度会いたいって思ったけれど!

それが結局部長だったわけだけど……そ、それさえも仕組まれていた? そんなはずは無い!

 

――もしお前が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持っていなかったら

部長はお前を助けなかったかもしれない――

 

ま、まただ! あの時、あの堕天使と戦ったときに口論したセージの言葉が

何で今出てくるんだ!? 今戦っているのも堕天使だからなのか!?

セージの奴、改めて考えたら何てことを言いやがるんだ!

 

『どうした、相棒。さっきから心が揺れているぞ?』

 

「い、いや、大丈夫だ。それより今度こそ成功させないとな!」

 

この俺の動揺は、ドライグの方にはしっかりと伝わっていたらしい。

そ、そうだよな。今はそれどころじゃないよな。コカビエルを倒さないと大変なことになるんだ。

そのためには部長やみんなと協力しないと!

 

「フリードから聞いている。魔女として放逐された聖女、アーシア・アルジェントだったな。

 俺が怖いか。俺はお前が怖い。だが俺は怖いからと言って震えてすすり泣く真似はしない。

 だから……こうするのだ!!」

 

「!!」

 

「アーシア、避けなさい!」

 

まずい! コカビエルの奴はアーシアに狙いを定めやがった!

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」を封じるつもりなんだろうが!

アーシアに狙いを定めたコカビエルは、右手から光を放ち

アーシアを呑み込ませようとしていた。

それを見た瞬間、俺の身体は勝手に動いていて――

 

 

――視界は、真っ白になった。




あからさまな井上大先生的な引きで次回へ。
何だかんだで敏樹脚本は嫌いじゃないわ! なのです。

「蛙の子は蛙」を知らないリアス。
援軍呼ぼうとしたら誰も来なかったコカビー。

やってることはかなりどシリアスなんですが変なネタ入れてしまいました。
だが私は謝らない。
リアスはともかく、コカビーはちゃんと理由があります。


最初に学校に避難した人たちはお気の毒様ですとしか……。
変な儀式目撃した上に連続殺人犯が先回りしてたので避難したら全滅と言う
ゾンビ映画のお約束が発生してしまいました。
たいしたネタバレでもないので言いますが、松田や元浜、イッセー両親等は無事です。
彼らの生死がたいしたネタバレでもないって辺り、扱いの程度が知れるものですが。

……ただそれも、何時まで持つでしょうねぇ。
いきなりスポットライトを当てるのも、古くから伝わる死亡フラグですし。


エクスカリバー。
原作ではイリナの分もあわせて4本分でしたが、本作はイリナが無事なので
フリードが持っていた3本分のパワーしかありません。
エクスカリバー自体はともかくこの時点でイリナが無事と言うことは……?
そしてフリードが使わなかったばかりにセージにもコピられなかった
夢幻の聖剣は泣いていい。

10/12 23:45 矛盾点あったため修正。


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Soul33. 託された夢のかけらは

この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(久々の挨拶

今回、あるキャラが「ちょっとくすぐったい」あるいは
「痛みは一瞬」な目に遭います。


イッセーらが駒王学園に戻る少し前。
木場の古い友人、海道尚巳ととうとう木場を連れて会う事になった
セージのお話から始まります。


虹川(にじかわ)邸。既に生きた人間のいないここは、普通に表記するならば旧虹川邸とするのが

正しいのかもしれないが、俺は知っている。

ここには、まだ虹川の名を持った少女達がいることを。

だから、彼女らがい続ける限りは俺もここを旧虹川邸とは呼ばない。

 

「掃除はしておいた。掛けて待っていてくれ」

 

「そういえば、ここに来るのは初めてだね。

 ……凄く、にぎやかだね」

 

俺は今日、オカ研に所属している木場祐斗をつれてここに来ている。

通常、ここには俺にしか見えない相手しかいないから俺以外の相手を連れてくることは無い。

それがこの家の主にとっても珍しかったのか、さっきから存在を訴えるように

楽器が空を舞っている。風には木場には見えているのだろう。

実際は虹川さんらが楽器を振り回して(!)いるんだが。

 

「セージセージ、これなんのサービス? ねぇねぇ、うちにイケメンが来るなんて!」

 

「折角来てくれたんだから、とっておきのライブ披露しようか!」

 

「うん、私の歌、いっぱい聴いてもらうんだ!」

 

……ま、そりゃそうなるわな。美的感覚は駒王学園の女子生徒とそう大差ない。

そこにイケメンで通っている木場がくれば、虹川姉妹とて盛り上がる。

芽留(める)は正直、普段とあまり変わらない気もしたが。

そうでなくとも、ここに俺以外の客が来ること自体が物珍しい。テンションも上がるのだろう。

 

ただ、もう一人普段と変わらない人がいた。長女の瑠奈(るな)だ。

 

「ダメよ。今日はあの人に会うためにやって来る人がいるんだから」

 

「あー、海道(かいどう)のお兄ちゃんか。あの人面白いよねー」

 

「うんうん、何度も何度も断ってるのにやってくるところとかさ」

 

そう。俺は今日、海道さんとの待ち合わせのためにここを指定したのだ。

一連の事件がおおよそ片付いたため、腰をすえて対話が出来ると思ったからだ。

……違う意味でゆっくり対話できなさそうだが。

 

待っている間の予習にと、俺はおもむろに一冊の冊子を木場の前に出した。

そこには、俺が記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)から調べたデータが記載されている。

そしてもう一枚。それは……

 

「これは?」

 

「例の依頼人についてのデータだ。プロフィールが手書きなのは察してくれ。

 最後の方は、ある曲の楽譜だ。彼が生前得意としていた曲、らしい。

 俺はまだ楽譜を読むのに慣れてなくてね。

 

 瑠奈、完全再現でなくてもいいから、弾いて貰って良いか?」

 

「わかったわ」

 

木場には、バイオリンがギターに変わりひとりでに演奏しているように見えているようだ。

俺にはきちんと瑠奈がギターを弾いている姿が見えるのだが。

やはり、霊体である海道さんの姿は見えないと見て間違い無さそうだ。

そして演奏が始まると、木場が何かを思い出したような顔をしていた。

 

「こ、この曲は……!

 賛美歌が基本だった僕らの音楽の間で、一人ギターを趣味にしている人がいたんだ。

 その彼が、将来はギタリストになりたいって言って、練習していた曲だ……!」

 

やはり。海道さんも、聖剣計画で処分された一人。木場も聖剣計画には大きく携わっている。

俺の推測は間違っていなかった。海道さんと木場には、接点があった。

 

「セージ君、けれどこの曲をどうして?」

 

「……この曲の作曲者が、俺の依頼人って訳だ。

 彼は聖剣計画で己の夢を失い、成仏できずにいたところ偶然お前を見かけた。

 しかし、言葉を伝える術を持たず、幽霊でありながら音楽の演奏が出来る

 虹川姉妹のところにやって来た。後は彼女らのマネージャーもやっている俺と接触。

 ……現在に至るって訳さ」

 

と、説明をし終えたところで突然瑠奈の演奏が止む。どうしたんだ?

 

「……ごめんなさい。実は、この楽譜は完全じゃないの。

 ここで終わってしまっている。残りの楽譜は、彼に聞かないと分からないわ」

 

「そうか……楽譜が無いんじゃ、仕方ないね」

 

木場は残念そうに肩を落としている。懐かしの曲が聴けると思ったら

その曲を演奏するために必要な楽譜が揃っていないのでは。

かく言う俺も、不完全燃焼であると言える。

 

「なんと……しかし、それにしても海道さんも遅いな?

 確かに急に約束を取り付けたとは言え、もう30分以上経っているが……」

 

そう。待てど暮らせど海道さんが来ないのだ。

たしかにちゃらんぽらんな雰囲気は漂わせていたが、今までこういう事はなかった。

幽霊だから、悪魔の類に目視されることは……

 

と、思い返して今嫌なことを思い出した。

一度だけ、霊体の状態の俺が見つかった事がある。

グレイフィアさんだ。魔王の眷属である彼女には、俺が霊体になっていても見えるらしく

あっさりと目の前に現れざるを得ない状況を造られた事があった。

そして、今は堕天使の幹部クラスが動いている。もし、そいつに見つかれば……

 

そんな可能性が頭をもたげる頃、後ろで虹川の三女、里莉(りり)の悲鳴が聞こえる。

何かが入り込んできた音も聞こえた、何事だ!?

木場は剣を抜き、俺も記録再生大図鑑の準備を済ませ身構えている。

 

「何が起きているんだい、セージ君?」

 

「俺にもわからん。おい、芽留! 里莉! (れい)! 大丈夫か!」

 

俺の呼びかけに三人が応える。どうやら無事みたいだ。

瑠奈は俺の近くにいたので、問題は無い。

 

「私達は大丈夫だよ!」

 

「で、でもこの人が……」

 

「この人、あの幽霊のお兄さん……」

 

そこにいたのは、息も絶え絶えに駆け込んできた海道さんだった。

木場に構えを解かない様に伝えた後、俺は海道さんの元に駆け寄る。

 

「海道さん! 一体何が……」

 

「悪ぃ、遅れちまった……っちゅーか、いたんだよ、あいつが!

 バルパーが! 今駒王学園っちゅーところで、エクスカリバーを集めて何かしてやがった!

 他にも、堕天使だと思う……黒い羽根の奴とか、でっかい怪物とか……」

 

「バルパーだって!? それは本当かい!?」

 

バルパー・ガリレイ。あの時はついぞ見つからなかったが、もう動いていたのか。

しかし、もう既に虎の子のエクスカリバーは押収されているはずだが。

 

……ってちょっと待て。エクスカリバーを集めて、ってどういうことだ?

それにでかい怪物って……

事態は、俺が思っているよりもまずいことになっているかもしれない。

 

「木場、まずいことになっているかもしれない。学校に戻ろう。

 幸い、ここには部室に転移できる魔法陣を敷いてある。すぐにいけるはずだ」

 

「……そうだね。今の声も、聞き覚えのあるものだけど……。

 今はそれよりも大事な事がある! バルパーを……バルパーを討つんだ!」

 

……しまった。バルパーの名前が出たことで木場の変なスイッチが入ったか。

だがここで木場を置いていくと言う選択も出来ない。本人が納得しないだろう。

抜かったな、と思っていたらさらにとんでもない提案が来た。

 

「待てよ。バルパーに言いたい事があるのは、お前だけじゃないんだぜ?

 ちゅーか、お前は無理しすぎなんだって。手を引け、とは言わないけどよ」

 

「セージさん。今回は、私達も応援に同席させてください」

 

「……は? すまない、よく聞き取れなかった」

 

……俺の聞き間違いじゃなかったら、虹川さんらも応援に来るって言っているように聞こえたんだが。

いやいやまさかね。これから戦う相手は、多分フェニックスよりもやばい相手なんだと思うが。

戦力計算なんてまだやっていない。データも無いんだ。つまり危険も危険、大危険。

 

「だ・か・ら! 私達も応援に行くって言ってるの!

 セージも知ってるでしょ、私のトランペットの効果!」

 

「そこに私のバイオリンを加えて」

 

「私がチューニングっ!」

 

「そこに、私が応援のエールを乗せるから!」

 

「おおっ! 虹川楽団のサプライズライブか!

 ちゅーか、これは俺としても参加しないわけにはいかないでしょ!」

 

え? あの、もしもし? 事の重大さ、わかってますよね?

それに、戦闘力を持った奴の参加ならいざ知らず彼女ら普通の幽霊の参加なんて

危なっかしくて認められるか! 消滅したらどうするつもりなんだ!

だから、俺は待機命令を出す。持ってて良かった、マネージャー権限。

 

「待て。君達は待機。これはマネージャー権限。今から行く場所は、とても危険だ。

 君達を守って戦う自信なんて、とてもじゃないが無い。万が一が起きてからじゃ遅いんだ。

 ライブが二度と出来ないなんて事態になったら、ファンの皆にも君達にも申し訳が立たない」

 

「……けち」

 

「横暴! 職権乱用!」

 

「朴念仁!」

 

「……だめなんですか?」

 

「散々に言われてるね、セージ君」

 

木場が呆れたような目でこっちを見ている。おい、何でこうなるんだ。

それから里莉。朴念仁ってこういう場面での罵倒の言葉として適切なのか?

そして瑠奈。君、意外と言うね……。

などと思っていたら、なんと魔法陣の上に海道さんが陣取ってしまった。

 

「あー、悪ぃ。ちゅーか、なんかこうしろって空気だったからよ。

 歩藤、お前の負けだわ。俺も音楽家を志した者として彼女らの気持ち、分からんでもないんよ。

 俺はイザイヤに未完成のまま終わっちまったあの曲を、完成させて贈りたいと思ってる。

 彼女らは、多分日頃から世話になってる歩藤に曲をプレゼントしたいんだろ」

 

「……へぇ。セージ君、イッセー君が聞いたら羨ましがりそうだね」

 

木場よ。何故そういう話の流れになる。

まぁ見える俺に言わせて貰えば、確かにこの子らは実際可愛いっちゃ可愛いが……。

俺はそういうつもりで接しているつもりは無いんだがな。

ましてアイドル色も若干だが含んでるガールズバンド。そういうのがご法度なのが分からないほど

俺だってガキのつもりは無いんだがな。

 

「……あのなぁ。ま、それについては後で弁明させてもらうとして……。

 いいのか? 俺ははっきり言って、最近はまともに顔を出してないぞ?

 バンド運営だって、有志にまかせっきりだ。とても君達に貢献してるとは思えないんだが。

 それなのに生曲を受け取るのは、俺には過ぎたプレゼントだと思うんだが」

 

「初めは悪魔の契約だったかもしれない。でも、今はあなたを信頼してる」

 

「それにセージがいなかったら、私達バンド組んでなかったのよ?」

 

「会員ナンバーゼロ番、伊達じゃないんでしょ?」

 

「だから、私達の歌……受け取ってください」

 

もう一度、俺は虹川姉妹の眼を見る。ステージを前にしたときと同じ目つきだ。

これは……もう、ステージを決めたんだな。

だったら、ステージに上げないのはマネージャー失格か。

……そうか、だったら俺も覚悟を決めよう。彼女達の歌に、応えよう。

 

「分かった。だったら俺達と一緒に魔法陣に入ってくれ。

 そこにステージを用意する。ただしそこからは出ないでほしい、本当に危ないから。

 

 ……それと曲なんだけど、ロックテイストでお願いできるかな。こんな感じのを」

 

「……わかったわ」

 

「任せて!」

 

「セージもいいPV、期待してるわよ!」

 

「が、頑張ります!」

 

「……ロックか。歩藤、良い音楽のセンスしてるじゃない。

 じゃ、歌詞は俺が即興でよければ作ってやるよ」

 

徐々に盛り上がっていく虹川邸。海道さんももう元気になったようだ。

ロックと言うのは単純にノリの問題だ。今から戦いに赴くのにアイドルソングも無いだろう。

今からの俺達に必要なのは、きっと戦士の唄。

彼女達に渡したのは、俺が宮本だった頃に聞いていた面ドライバーシリーズの歌。

謳いやすいように女性ボーカルで盛り上がるのをチョイスしたつもりだ。

 

決意を新たに、俺達は魔法陣の中央に立つ。

全員が入ったのを確認した後、俺は魔法陣を作動させ、オカ研の部室に転移した。

 

――――

 

部室に転移したとき、事態は既に動いていた。

校庭では巨大な三つ首の獣が徘徊しており、オカ研の部員が対応している。

 

そこから少し離れた場所で、二人の男がなにやら儀式を行っている。

あれがバルパーと……

 

COMMON-LIBRARY!!

 

コカビエル。神を見張る者の幹部堕天使。先の三大勢力の戦争の結末に納得がいかず

戦争を再び起こさんと試み、様々な暗躍を繰り返してきた。

堕天使の幹部らしく、強大な光の力を行使する――か。

 

逆に言えば、それにさえ注意すれば何とか対応できるかもしれないってことか。

フェニックスみたいに変な特殊能力も無さそうだし。

ただ……戦争経験者とガチでやりあうのは恐ろしく不利な気がするけどな。

 

俺が記録再生大図鑑のデータを確認すると、木場が剣を携え飛び出そうとしている。

それを慌てて制止するが、時間が無いのも分かっているつもりだ。だが迂闊に出るのもマズい。

 

「焦るな。まずは彼女たちとの約束を果たさせてくれ……モーフィングっ!!」

 

瞬く間に、オカ研の部室がライブ会場になる。グレモリー部長がこの場にいたら卒倒しそうだ。

まぁ、知ったこっちゃ無いが。

 

「わぁ……!」

 

「すごいすごい! セージ、本当に何でも出来るのね!」

 

「これなら、私達も気合入れて演奏できるって物よ!」

 

「ありがとう、セージさん!」

 

「これを維持できるのは短い時間だ。後は君達の力で何とかしてくれ。

 騒霊ライブの真価、期待している。

 

 ……戦争を止めるのは、何時だって歌だ!!」

 

俺の号令にあわせ、虹川楽団と海道さんが勝鬨の声を上げる。

海道さんが玲に歌詞カードを渡し、姉三人は音合わせをしている。

そんな中、外の戦いは激しさを増している。

 

「セージ君。そろそろ出ないと……」

 

「言いたいことは分かるが、俺はもう少し待つ。こんな時にと思われるかもしれないが

 今回は虹川さんの歌に乗せて戦いたい。

 それにな、今外を徘徊している奴。あいつはかなりの大物だ。

 有効な得物になりそうなものを見繕いたい。まぁ、目星はつけているんだが」

 

痺れを切らしているであろう木場に、海道さんが話を振る。

そこには、軽いノリの海道さんはいなかった。

喋り方は、そう変わらないみたいだがなんとなく、そう思えた。

 

「なぁイザイヤ。俺達はよ、確かにお前を残して死んじまった。

 けどな、今のお前見てると俺達よりも死人っぽく見えるんだよ」

 

「君は……そこにいるのかい? そうさ。僕の命は、あの時……」

 

「違うんだよ、そうじゃねぇんだよ。

 お前は、今ここにいるだろうが。

 どんな事情があっても、お前はこうして生きてるだろうが!」

 

「そうじゃないんだ、聞いてくれ。人間としてのイザイヤは、確かにもう死んだ。

 今ここにいるのは、リアス・グレモリーの『騎士(ナイト)』木場祐斗。

 しかしそれさえも、今の僕には分からないんだ。

 ……歩藤誠二。彼が、僕の中のリアス・グレモリーという絶対の存在に皹を入れたんだ。

 今までどおり部長の言うことに従うべきなのか、それとも……。

 今の僕は、正直言って何をすべきなのか分からないんだ……」

 

……そう、か。俺にとってはアホで詰めが甘くて主の器に相応しくない

まるでダメなお姉さん略してマダ……いや、いくらなんでも女性にこの略称はアレか。

まぁ、まるでダメな悪魔ではあるが。

 

木場よ、お前にとってグレモリー部長はかけがえの無い存在なんだな。

そのことを思えば少々態度がきつすぎたかも、と思ったのと同時にリアス・グレモリーに対する

どうしようもない遣る瀬無さがこみ上げて来た。

 

何故、彼女は自分を慕い信頼する眷族の気持ちに応えないのだ?

何故、彼女は兵藤一誠ばかりを特別視するのだ?

何故、彼女は自分の理想ばかりを眷属に押し付けるのだ? ……いや、これはある意味では俺もか。

 

そう思えば、木場が不憫に思えてきた。

報われぬ騎士、悲しい響きだな……。

 

俺はこのまま、木場祐斗の中のリアス・グレモリーと言う楔を打ち砕くべきなのか

それとも修繕し、あるべき主と騎士の関係を修復すべきなのか。

存在に皹を入れてしまった以上、責任は取らねばなるまい。

 

具体案は全く浮かばなかったが、その代わりに海道さんの一言が木場に贈られた。

 

「……それでいいんじゃねぇか?」

 

「えっ?」

 

「こういう言葉を聴いた事があるぜ。『夢が無くても、夢を守ることは出来る』ってさ。

 夢を持ってりゃいいってわけでもねぇし。俺様みたいなのもいるし?

 何のために生きてるかなんて、今決めることじゃないだろ。

 ちゅーか、今決まってて凝り固まってたらそれはそれで怖ぇよ。

 俺にはもう将来はねぇ。死んじまったからな。けど、どんな形でもお前には将来がある。

 それを決めるのは誰でもない、お前なんだからな」

 

「僕の……将来……」

 

「そのリアスなんたらってのは俺は知らねぇが、イザイヤの人生はイザイヤのもんだ。

 他の誰のものでもねぇ。人生、っちゅーか命は一つだけのものだから……大事にしろよ」

 

なるほど。確かに海道さんとは悪魔契約を交わしていない。

契約を交わした相手には、一応俺の直属の上司と言える

リアス・グレモリーに関する説明も不可欠だ。

だが、今回海道さんには必要の無い情報と言うことで伝えていない。

これが、こういう形で結実するなんて。

 

しかし、既に死んだ人に人生について語られると重いな……。

言葉尻に乗っかる形ではあるが、俺からも木場にエールを贈る事にした。

絶対の存在に皹を入れた張本人が、と思われるかもしれないが。

 

「木場……いや、それともイザイヤと呼んだ方が良いか?」

 

「イザイヤはもう死んださ。セージ君の好きに呼べば良いよ」

 

「そうか。なら木場……いや祐斗。

 今更だがお前の崇拝するものを汚してしまったこと、申し訳なく思う。

 詫びたところで、お前の迷いが断ち切れるわけでもないが……。

 だが、これだけは言わせてくれ。海道さんの言葉には、俺は全面的に同意する。

 祐斗の道は、祐斗の道だ。それは俺も、イッセーも、グレモリー部長も阻むことは許されない。

 だが、もし道が交わったときは……俺に協力させて欲しい」

 

「もちろんさ。けれど、立ちはだかる者はたとえセージ君でも斬るよ?

 君はどうも部長に対して反抗的過ぎる。僕も内心ひやひやしてるよ。

 それから……やっと名前で呼んでくれたね、セージ君」

 

「……それでいい。俺もそのつもりだから。

 グレモリー部長のつけた名前を呼びつつ、暗に反目を促すのもどうかと思うけどな。

 

 ……って、歩藤誠二もグレモリー部長がつけた名前だったっけか。

 あ、下の名前は違うからな。字はともかく、読みは俺のじいちゃんが着けてくれた」

 

「そうだよ。フフッ、本当にセージ君は怖いもの知らずだね。

 その様子なら、何故だかコカビエルが相手でも恐怖を感じないよ」

 

「己の主たる紅髪の滅殺姫を前に、己の意見をああも貫き通しているんだ。

 堕天使の幹部など、何するものぞと言ったところだな。ククッ」

 

互いに笑い飛ばした後、俺と祐斗の握り拳がぶつかり合い、そのまま握手を交わす。

一連のやり取りは、いつの間にかギャラリーになっていた

虹川姉妹を沸かせるには十分だった。あれ?

 

「それとセージ君。僕は確かに騎士として部長に仕えているけど

 崇拝、ないし恋愛対象として見たことは一度も無いよ?

 騎士として、主を守る役目は果たすけど、それだけさ。

 イッセー君と恋の鞘当をするつもりも無いしね」

 

「そうなのか? じゃあイッセーのアレはただのイケメンへのやっかみか。

 全く、あいつはハーレムを志す割に器が小さい」

 

イッセーよ。ライバルが一人減ったぞ。よかったな。

いや、或いは既に気付いて……るわけないか。アーシアさんの気持ちにも気付いてない阿呆だ。

浮かれるのは結構だが、足元をすくわれないようにしてほしいものだ。

ま、そもそも他人の色恋沙汰なぞどうでも良いのだがな。

 

「それじゃ、そこにいる……セージ君に倣って海道と呼ぶよ」

 

「おう、なんだ?」

 

俺の目には海道さんは見えているんだが、祐斗の目には見えていないのだろう。

だから、少々話しづらいものはあるのかもしれない。けれど、そんなそぶりを全く見せずに

祐斗と海道さんは会話をしていた。

 

「後で、君の曲を聞かせて欲しい。それと、僕の聖剣に対する怨念と、イザイヤの名前。

 この二つは君に持っていってほしいんだ」

 

「イザイヤの名前はともかく、聖剣の怨念なんか俺だって手に余るぜ?

 ちゅーか、そのままポイしちまうけどいいのか?」

 

「ああ。もういなくなったとかつての仲間とこんな形とは言え話すことも出来た。

 僕の勝手な思い込みで、仲間を貶める真似はできないよ」

 

「そっか。実はなイザ……木場か。とにかく、俺はお前に一つ謝らなきゃならねぇ。

 俺な……幽霊になってから、ギター、弾けなくなっちまったんだ。

 さっきの演奏は虹川の嬢ちゃんだ。折角俺様に期待してくれてるってのに、すまねぇな……」

 

そうだった。流れでここまで来てしまったが

まだ海道さんのギターの問題は解決していなかった。

困ったな……けれど、今はコカビエルを止めた方がいいような気がするのも事実だ。

その決断を促すように、里莉から準備完了の報せが届く。

 

「セージ、準備できたわよ!」

 

「ああ! 祐斗、隣から武器を持ってくるからちょっと待っててくれ」

 

「わかったよ……ってセージ君待ってくれ! そっちの部屋は……」

 

「もう行っちゃったよ?」

 

――――

 

部室の隣の部屋。ここは開かずの間になっており、鍵やら封印の術式が厳重に掛けられていたが

術式はともかく、鍵は俺には効果が無い。術式の方も、除霊の術式ではないために

ある程度ちょちょいとやれば解く事が出来る。

いつぞや、グレモリー部長の別荘を炙り出したのと同じ要領だ。

 

実は暇なとき、パズルゲームをやる感覚で術式解きをこっそりやっていたりもする。

出来れば、病院への侵入が出来るように除霊結界の術式解きをマスターしたかったんだが……

……まぁいいか。これは解くのも大変だが、元に戻すのも大変だ。まぁ、そんなもんだが。

ともかく。何故俺がここに来たのか。それは――

 

――ここに何故か鎮座している棺桶。

 

この女の子の部屋と見紛う可愛らしい内装に全く似つかわしくない

厳かな雰囲気の棺桶。ゴシック調と言うべきなのか。

罰当たりかもしれないが、これを質量兵器として扱えないかと思ったのだ。

遠くに見えた標的は巨大な相手。今の手持ちの武器では、些か力不足かもしれない。

そう考え、俺はこの棺桶を使えないかと思ったのだ。

 

いくらオカ研と言えども、まさか本物の死体の入った棺桶を安置するはずが無かろう。

生きた人間は尚更入ってはいまい。これを寝袋にするなど悪趣味が過ぎる。

それにもし本物の死体が入っていたら、死体遺棄でまたまた柳さんか氷上さんの出番だ。

つまり、これはただのレプリカであると俺は判断した。

そして、レプリカならば――

 

俺はモーフィングを発動させようと棺桶に触れるが、何か話し声が聞こえる気がする。

棺桶の中から聞こえる気がするが……気のせいだろう。

モノがモノだから、そういう風に感じ取れるだけだろう。

逆に迂闊に棺桶を開けるほうが危険だ。

 

「モーフィング! 『棺桶』を『ハンマー』にするっ!!」

 

――!?

 

MORFING!!

EFFECT-STRENGTH!!

 

一瞬、中性的な声が聞こえた気がしたが……気のせいだろう。

さっきからやたら幽霊を見る気がするから、彼らの声が混じったのかもしれない。

幽霊が漂っていると言うことは、ここで誰かが死んだと言う証左でもある。

……やはり、まずいことになっている。これ以上のんびりは出来ないな。

 

そうして出来上がったハンマーを片手に、力を増加させながら俺は出撃の準備を整えた。

ライブ会場になった部室に戻ると、なにやら妙な目が俺に向けられている。何故だ?

 

「……セージさん、それは……」

 

「……うん、独特でいいと思うんだけどさー……」

 

「せ、セージさんには……」

 

「ちゅーか、もっとマシなデザインはなかったのかよ?」

 

「無いわー、セージの体格でそのデザインは無いわー」

 

ふと、担いできたハンマーを見ると異様にフリフリなデザインであった。

ハンマーは結構無骨なデザインのものが多いのだが

これはそんなものとは真逆の方向性に位置している。

な、何故だ!? こんな風に意識してモーフィングしたつもりは無いんだが?

それとも、あの部屋の雰囲気に中てられたか?

 

「お、俺が知りたい! 俺だってこんなデザインになるとは……」

 

「セージ君、隣の部屋って今言ったよね……?

 い、いや、まさかね……」

 

祐斗。何なんだその思わせぶりな態度は。

まるで俺はまずい物をモーフィングさせたみたいじゃないか。もしかしてそうなのか?

まあ、いずれにせよこれが見た目どおりの性能なのかそうでないのか。

使ってみないことにはわからん。使い方は頭の中に入ってくるんだが。

 

MEMORISE!!

 

えっ? 何で記録したんだ? モーフィングした装備も記録できるのか?

以前フェニックス戦で使ったときには、そんな機能は無かったと思うが……

確かに今もやろうと思えば校庭の砂を磁石にするのは出来るが

カードでそれをやるのは出来ない。

 

「武器の記録が出来た? ……ギャスパニッシャー、か。

 まぁ名前はともかくとして、何故だ?」

 

『単純な話だ。知っての通り神器(セイクリッド・ギア)は成長する。お前の神器は、殊更に分かりやすいだろう?

 それだけの事だ。強くなることは、今の段階では悪いことではないと思うぞ?』

 

俺の側のドライグからも指摘があるとおり、強化自体は悪いことではないはずだ。

まして、今から規格外の相手と渡り合うのならば。

しかし正直、際限の無い強化は恐ろしくもある。何処に行くのかが分からないから。

その力は、果たして己の身を滅ぼす毒とならないだろうか。

進化の果てに自滅した生物もあると聞く。

ただただ強ければいいってモノじゃない、とも思うが。

 

まぁ、それは今考えることではないよな。

それよりさっきから祐斗が脂汗をかいているような気がするんだが。

武者震いなら分からんでもないが、脂汗とは穏やかじゃないな。どうしたんだ?

 

「……祐斗、気分が優れないのか?」

 

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……

 せ、セージ君……実はだね――」

 

「さぁさ、そろそろゲリラライブ始めるよ!」

 

祐斗の言葉を遮るように、芽留の声が響く。

準備が出来たみたいだ。いよいよ、か。

祐斗、大した話じゃないなら後にしてくれないか? これ以上のんびりは出来ないと思うんだ。

体調が悪い様子でも無さそうだ。それならそれで良いんだが。

 

「……何故かは知らないけど、ここにはいっぱい幽霊がいる。

 セージさん、彼らのためにも演奏していいですか?」

 

「……ああ、勿論だ。最高のライブを期待するよ。

 行くぞ祐斗、その間は俺達でPVの演出と行こうか!」

 

「そ、そうだね。番長と王子の風変わりなセッションだ。悪くないんじゃないかな?」

 

「……義経と弁慶でいいんじゃないのか?」

 

「じゃ、和風ロックテイストだね! 私達にまっかせなさい!」

 

まぁ、俺が弁慶だろう。本家本元の弁慶ほど俺は偉大ではないと思うが。

虹川姉妹の楽器の演奏が始まると共に、俺達はそれぞれ剣とハンマーを手に窓から飛び出す。

目指すは怪物の足元。まずはこいつらを始末しないことには始まらない。

 

「……木場、死ぬんじゃねぇぞ。折角助かった命を無碍に扱うなんざ

 リアスなんたらが許しても、俺様が許しゃしねぇ。ちゅーか俺達の所に来るには早ぇからな?

 これは他の連中も同じこと考えてると思うぜ。歩藤、木場の事頼むわ」

 

「……微力を尽くさせてもらいましょう」

 

「……もちろんさ。もう僕は死ぬつもりなんてないからね。

 君達の分も、この剣に賭けて生きるよ。じゃあセージ君、行こうか」

 

――ああ。皆が安心して眠れる世界。大それたことかもしれないけど、今ここで戦うことで

それを守れるのなら。戦わない選択肢などある訳が無い。生きている者も、死んだ者も。

今このときは、皆の魂のために俺は戦いたい。

だから虹川さん、海道さん、祐斗。力を貸してくれ。

 

今このときは、俺の身体の事は置いておこう。それより大事な事があるんだ。

その大事な事のために、俺の、俺達の力を見せてやろうじゃないか。




セージはギャスパーの存在を知りません。
そのためギャスパニッシャーがどういう性能かは次回のお楽しみと言うことで。
ネーミングモチーフ的にはメイスなんですが、棺桶と言う形状でハンマーです。
ネーミングモチーフも「ファイトオブハンマー」って歌ってるし!

ギャー君は犠牲になったのだ……
ファイナルフォームライド、その犠牲にな……
話の展開的には木場がファイナルフォームライドしそうだったのですが
彼はこの後大事な展開があるのでファイナルフォームライドさせるわけには
行かないですし、今回のファイナルフォームライドは事故みたいなものですので。
セージはギャスパーの存在を知りません(大事な事なので

セージが虹川姉妹にリクエストした楽曲は
仮面ライダーGIRLSの「E-X-A」「時の華」あたりをイメージしてもらえれば。
彼女らの原作楽曲も悪くないんですが、この場面では少々、だったので……。

海道さんの「夢が無くても、夢を守れる」発言はお察しの通り
たっくんの「俺には夢がねぇ。けどな、夢を守ることは出来る」からです。
4号での設定、泉氏の鬼籍等で555が前よりも重く感じるようになったのは
私だけでしょうか。


今に始まったことではありませんが、ハイスクールD×Dネタよりも
ライダーネタの比重の方が大きくなっている気はします。
これは可能な限り修正したいとは思っていますが
いかんせんHSDD原作のエロやらおっぱいをかなり取り除いているため……。
私自身は別にそういうのは嫌いではないのですが
原作みたいに真面目な場面でやられると非常に萎えてしまうので
結果としてこういうちと堅苦しい話になってます。
そしてこの傾向は今後も続きます。
イッセーはともかく、セージにヒロインいませんしね!

いつか機会があればもう少しHSDD原作寄りの二次を書ければとは思ってます
(やるとは言ってない、これ重要)


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Soul34. 嫌疑、かけられました。

この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(挨拶

尚、犬の生態については作者は素人ですので
もしご家庭の犬の健康状態に不安があるようでしたら
早急にお近くの獣医に診察を受けさせてください。


ちなみに作者は猫派です。

>どうでもいい
 そっとしておこう


目の前にいるのは巨大な三つ首の犬の怪物。

記録再生大図鑑を使わずとも名前くらいは知っている。

 

――ケルベロス。様々な創作において取り上げられる、メジャーな怪物だ。

……まぁ、中には三つ首ではないケルベロスもいたりするが。

 

「名前くらいは知っている相手だが、一応調べるか」

 

COMMON-ANALYZE!!

 

――なるほど。体躯は大きいが、その俊敏性は獣のそれである。

力も強く、筋肉も発達しているため神経への攻撃や内部からの攻撃が有効。

或いは、足を狙い転倒させることで動きを封じる事が出来る。

まぁ、あんなのと力比べするつもりも無いしな。

重量があるから、一度倒れたら立ち上がれないのだろうか。

 

「セージ君、なるべくそのハンマーは丁重に扱ってくれないかい……?」

 

「は? いきなり何を言い出すんだ。ハンマー何ざ殴って振り回してなんぼの武器だろ。

 それに……奴はそうさせてもくれないみたいだぞ?」

 

祐斗に見上げるよう促すと、ケルベロスの首の一つがこちらめがけて炎を吐いてくる。

フェニックスのそれに比べると威力は衰えているようだが、直撃は受けられない。

祐斗にとってみれば難なくかわせるものだが、俺はハンマーを抱えていることもあり

回避が遅れてしまう。そうなれば炎を浴びてしまうのは自明の理。熱い。

幸いにして、直撃は免れたが。

 

「セージ君!」

 

「直撃は受けていない、気にするな。それに得物が得物だ、祐斗みたいには行くまい。

 悪いが、攻撃をひきつけてもらえるか?」

 

「分かった、その間に攻撃を頼んだよ? で、出来れば穏便に、ね……」

 

「――前向きに考慮する」

 

祐斗はわざとケルベロスの目の前に出るように躍り出ている。

三つある首のうち、二つは祐斗の方を向いている。

一つは相変わらずこっちを向いているが――

 

「ま、首が三つもありゃそういう動きもするわな……だが!」

 

俺だって、祐斗にばかり働かせるつもりも無い。

ハンマー――ギャスパニッシャーの頭の部分を引きずりながらゆっくりと進む。

引き摺っているギャスパニッシャーと砂利が擦れ、火花を散らす。

火花の光を目安に、ケルベロスは再び炎をこちらに浴びせてようとして来る。

 

「そう何度も食らえるかッ!」

 

炎に対し、俺はギャスパニッシャーを振り回し防壁の代わりにする。

棍のように回転させるのは消費が激しいため、頭の部分を盾にする形だ。

そのまま炎を押し出すような形で、俺は歩みを進める。

 

「ダメだ――凍てつけ!」

 

祐斗の氷の魔剣で炎が止むと同時に、俺はギャスパニッシャーを地面に叩きつける。

ギャスパニッシャーが帯びた炎を散らせる目的もあるが

副産物として強烈な衝撃波も生み出していた。

これが人型の相手ならば転倒を狙えたかもしれないが

相手は四本足でしっかりと踏ん張っている。どうもこの手の攻撃は効きが悪いみたいだ。

やはり、直接殴るしか無さそうだ。あるいは、目や鼻などを狙うのがいいだろう。

 

「祐斗、奴の目鼻――神経を狙うんだ! そこから内側を潰せる!」

 

「わかったよ――蝕め!」

 

祐斗が新たな剣を作る。恐らくは毒を帯びた剣なのだろう。

確かに、毒ならば内側から攻撃できる。ナイスだ祐斗、俺も負けていられないな。

毒を受けたケルベロスに対し、俺はいよいよギャスパニッシャーの射程内にケルベロスを捉えた。

 

まずは足。爪先めがけ、ギャスパニッシャーを振り下ろし叩きつけると共に横薙ぎにする。

ここを叩けば、少なくないダメージを与えられると踏んだのだ。

要は、箪笥の角に小指をぶつけるのに等しい。犬にそのダメージがあるのかどうかは分からないが

ストレスのたまった犬は、しきりに足を噛むらしい。

結果炎症を起こしてよくない事があるらしいが。

いずれにせよ、炎症と言うかダメージを与えられるのではなかろうか。

 

「ギャウン!?」

 

突然の衝撃に、ケルベロスが悲鳴を上げる。

当然、狙った足を振り上げて抵抗しようとしてくるので、俺はそれに対し前足に飛び乗る。

そしてそのままギャスパニッシャーを再び横薙ぎ一閃。

与えたダメージは、前足の力を喪失させるには十分だった。

 

巨大な敵に対し、現実的と思われる戦闘プランはいくつかある。

一つ。毒など内側から蝕む攻撃手段を用い、無力化する。これは寓話にも近い話がある。

一寸法師の鬼退治など、これに近いだろう。一寸法師は毒ではないが。

 

二つ。同じスケールの攻撃手段を用意し、サイズ差の補正を無いものにする。

これも俺が好んで見る番組でよく使われる手法だ。怪獣映画でもよく使われる。

 

そして三つ。ある意味一番難易度が高いが、サイズ差をものともしない武器を用いる。

対戦車ライフルとか、近代軍事兵器でもそういうニュアンスのものはある。

今俺がとっているのは三つ目が一番近いか。

 

ハンマーにはおおよそ似つかわしくないフリルのついたギャスパニッシャーではあるが

それでもハンマーには変わりはなく、その鉄の塊が与える威力は大きい。

実際の材質は知らないが、鉄の塊としておく。

それを、怪物の鼻めがけて振り下ろしたとき

ケルベロスの首の一つが苦悶の表情を浮かべ沈黙する。

その仕返しとばかりに爪の伸びた前足が飛んでくるが

俺は何とかそれをギャスパニッシャーでガードする。

バランスを失いながらもなおパワーはあるのか

俺は多少吹っ飛ばされる結果になってしまった。

 

「セージ君!」

 

「大丈夫だ、問題ない。素敵なバックコーラスが流れているのに、無様は晒せないだろう?

 もう一撃行くぞ、引き続き頼めるか?」

 

「勿論さ!」

 

祐斗が素早い動きで怪物の目を回し。そこに俺が一撃を加える。

今度は下顎めがけてギャスパニッシャーを振り上げる。脳震盪を起こさせるのが狙いだ。

狙い通り、これで三つあるうちの首の二つが沈黙した。

身体の方も何度も祐斗に毒の剣を突き立てられた事で、毒の回りも早くなっているようだ。

狙いをすませていた炎も段々とデタラメな方向を狙いだし、火力も落ちている。

 

「祐斗、とどめを刺すぞ!」

 

「わかった、決めてくれ!」

 

ギャスパニッシャーを垂直に立て、頭に描かれた赤い眼がケルベロスを捉える様な位置に向ける。

柄にセットされたトリガーを引くと、眼の紋様は見開いたように変化し、魔法陣が展開。

その魔法陣はケルベロスを捕らえ、ケルベロスの動きは時が止まったかのように静止する。

 

「ぬおおおおおりゃああああああっ!!」

 

今度はハンマー投げの要領で、ギャスパニッシャーを思いっきり振り回し、投げつける。

動きの止まった相手にぶつけるのは容易い。

 

投げつけたギャスパニッシャーは見事残った頭部に炸裂。

遅れて聞こえてきた、そのフリフリからは似つかわしくない

重厚感あふれる衝撃音が、ダメージを物語る。

怪物は呆気なく地に伏し、そのまま気絶したようだ。元々気絶させるのが目的で頭を狙っていた。

つまり、目的どおりと言える。戦意を奪えればいい。

命を奪うのまではやりすぎな気もしたからだ。

 

……かなり甘い考えだとは思うし、毒が回っていることを考えれば遅かれ早かれだろう。

止めを刺して楽にしてやるのも温情だろうが、それをやれるほどの力も余裕も無いのが実情だ。

だから、こうして強引に黙らせる手を取った。

 

「ナイスアシスト、祐斗」

 

「お疲れ、って言いたいとこだけど実はあのハンマー……」

 

祐斗が何かを言いかけたところで、周囲が凄まじい光に包まれる。

一瞬の事で何が起きたのか分からなかったが、祐斗にはこの現象が理解できたようだ。

 

「まずい! この光はエクスカリバーのものだ。バルパーが何かしたに違いない。

 セージ君、急いだ方がいい!」

 

「そのようだな……っち、今の光で少々力が抜けてきやがった。

 これはここに置いて行くか」

 

俺の基本は霊体であるため、普通の悪魔以上に光には弱い。

自分の力が弱まるのを感じる。これ以上棺桶を変形させたこれを振り回すことは出来ない。

やむを得ず、俺はギャスパニッシャーをここに置いていくことにした。

それに、今までは相手が巨大な怪物であったからハンマーも効果的に使えたが

今度の相手は等身大だ。大振りのハンマーでは隙が大きくなってしまいがちだろう。

そう考えれば、得物を変えるのは一概に損とも言えない。

ギャスパニッシャーを下ろすと、思わず息をついてしまう。思ったより消費してたか。

こりゃ、すぐに行っても足を引っ張るかもしれないな。

そう考え、俺は祐斗だけを先に送り出すことにした。

 

「ああ、これからだね……バルパー!!」

 

祐斗に再び闘志の炎が燃え上がるのが見て取れる。

周囲が見えなくなるのは問題だが、今祐斗を縛る理由は何一つとしてない。

かつての仲間との再会を果たし。己の運命を狂わせた因縁の相手が目の前にいるのだ。

 

「祐斗。もう俺から言う事は何も無い。いや、そもそも初めから無かったのだろう。

 だから、思いっきりやって来い。己の運命のけじめは、己でつけなければならないんだ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

「……あ、ちょっと待て。その前に景気づけだ」

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

俺は祐斗の肩に左手を置き、右手でカードを引く。引いたカードは既に何度も使っている

力を強化するカード。これは俺か俺の憑依したイッセーにしか効果の無いカード……だった。

 

だが、モーフィングした武器を記録できたのならば。

もしかしてと思い、俺は他人を強化できるかと思い試してみたのだ。

 

「ん? セージ君、このカードは自分にしか効かなかったはずじゃ……?

 

 ……でも、無いみたいだね。僕の内側から今までに無い力を感じるよ」

 

「忠告はしておくが、お前の一番の武器はその使い慣れた剣とスピードだ。

 今力を強化したのはそれを補うだけの代物だ。メイン武器じゃない。

 お前の真価は、力押しじゃないところで発揮されるんだ。

 イッセーやグレモリー部長みたいな方向性を、態々お前が求める必要は無いんだ。

 

 ……む、すまん。また説教じみたことを言ってしまった」

 

我ながら偉そうだとは思うが、実際俺が見た祐斗はそうなんだから仕方が無い。

ならば、それに力を加えてやれば死角は塞ぐ事が出来る。

そう思い、俺は力のカードを引いた。実際に祐斗を強化できたのは驚き半分ってところだが。

 

「あはは、それがセージ君なんだから仕方ないよ。

 イッセー君がスケベなように、セージ君は口煩いんだよ」

 

「否定できないのが痛いが、勘弁してくれないか祐斗」

 

やれやれ。ま、こういう多少黒いところがあるのも祐斗が祐斗たる所以なのだろう。

その辺は海道さんには聞いてないが、聞くのも野暮だろう。

それに正直、そういう対応が出てきてくれたお陰で少々肩の余計な力が抜けた。

平常心が戻ったお陰で、逆に思いっきりやれるだろう。

 

「俺は力を回復させてから合流する。

 行け祐斗! お前の新しい道を拓くために!!」

 

「ああ!」

 

――――

 

祐斗を見送り、いつぞやと同様懐から取り出した水を飲んでいると、ふと何かの気配を感じる。

思わず立ち上がり、振り返るとそこにはスーツ姿に丸サングラスの男が立っていた。

こんな近くに来るまで、まるで気がつかなかった! だ、誰なんだこいつは!?

 

「お初にお目にかかります。私は上級悪魔のウォルベン・バフォメットと申します。

 冥界政府の命により、赤龍帝の監視を行っているものでございます」

 

冥界……悪魔か。しかし赤龍帝の監視って、それなら俺じゃなくてイッセーの方じゃないのか?

何故俺の側に来る? 確かに、俺にも赤龍帝はいるが。

 

「赤龍帝? それなら、もっと監視に適した対象が……」

 

「いえいえ。私が監視すべきは『赤龍帝であって赤龍帝でないもの』でして。

 つまり……あなたの事ですよ。歩藤誠二さん?

 いやあ苦労しましたよ。名前は分かったんですが、顔出しNGのようでしたので。

 なるほど……傾向としましてはサイラオーグ坊に近いようですな。

 ああ、あくまでも傾向ですのであまりお気になさらず」

 

しかも、名前まで割れて……い、いや名前は割れているか。

この間のあの戦いで、顔は割れてないが名前は割れている。

何でこのタイミングで面倒なのに絡まれるんだ、と思いたい。

 

「……何の用ですか。今この辺りは大変なことになっているんですがね」

 

「ええ、このまま放置すれば間違いなくグレモリー眷属は全滅。

 この町は廃墟となるでしょうな」

 

「……それを分かっていて、尚も俺を足止めするその理由は何ですか」

 

「サーゼクス陛下におきましては存じ上げませんが

 私どもは駒王町を放棄することにしたのですよ。

 この町ごと、今回の下手人である堕天使コカビエルを抹殺。

 そのための部隊編成が間もなく終了する予定でございます」

 

な、何だって!? この町ごと焼き払うのか!?

しかも魔王陛下に黙ってって……それ、完全な謀反じゃないか!

 

「ええ。しかしながら、妹君も陛下もご存じない。

 此度の下手人の恐ろしさを。町一つで済めば、万々歳と言ったところでしょう。

 この町を焼き払うことを咎められたとて、それは必要な犠牲なのですよ。

 先の大戦においてその名を轟かせた上級堕天使を相手に、被害を出さずにいられますか?

 いかに精鋭を揃えたとて、無理な話です。そう、たとえ魔王陛下が来られようと、ね」

 

俺は先の大戦とやらに明るくないが、このウォルベンと言う悪魔が語ることは

間違いではない気もする。しかし、それで町一つ焼き払う作戦を看過できるかというと

そんなことはあるはずが無い。

この作戦を取らなかった場合は被害はもっと大きくなるのだろうが……クッ。

 

「……何故、それを俺に伝えるので?」

 

「単純に見てみたいのですよ。その極限状態で、赤龍帝はどう動くのかを。

 我々にとって益となるか、害となるか。

 勿論、私個人としましてはこの作戦に賛同していただきたいのですがねぇ。

 ああ、赤龍帝と言っていますがもう片方は私は興味がありませんな。

 魔王陛下からも観察の命は受けておりませんし、ざっと見たところ

 力は強いようですが、本当にそれだけ。行動理念も卑俗。騒がしく喚き立てる餓鬼も同然。

 我々は俗物を相手にするほど暇ではないのですよ」

 

……様々な意味で悪魔だな。この町にいる母さんや姉さんを人質に取られているようなものだが。

どちらに転んでもこの町が助からないのならば……けど。

 

「……俺はそう簡単に割り切れない。意思の疎通は満足に図れないとは言え

 この町には家族もいるんだ。見殺しには出来ないし

 みすみす死ぬってわかってる手も取れない。

 あなたに言わせば、甘ったるい感情論でしょうがね」

 

「ほほう。噂どおりおかしな方だ。死別したも同然の家族を気にかけるとは。

 気質はグレモリーの者に近いのに、何故あなたはああも歯向かうのでしょうなぁ?

 確かに私の見立てでは彼ら彼女らは家族には(・・)情愛がありますからねぇ」

 

……この悪魔、何が言いたいんだ?

今は変な悪魔に構っている暇は無いはずなんだが。

俺は何とかして、この場を切り上げたかった。

 

「……先ほどから仰る事の意図が読みかねますが」

 

「失礼。最初に申し上げたとおり、私の任務はあなたの監視なのですよ。

 しかしながら、こうなってしまってはあなたの監視どころではない。

 事態の打開のために本国に援軍も要請しました。

 引き続き監視させていただくにあたって、その作戦に巻き込まれては

 笑い話にもなりませんからな」

 

む。つまりコカビエルをこの町ごと焼き払う、その上で俺を監視し続けたい。

だから、その部隊が来る前にこの町を出ろ、そういいたいのか?

 

……悪魔らしい、随分勝手な言い草だよ。

待てよ? 俺の監視や情報収集が目的なら、それをエサに援軍に来てもらうのは……

 

「監視、情報提供をご希望ならば協力しますが、条件があります。それは――」

 

「ああ、コカビエル討伐の交換条件でしたらその話は聞かなかったことと致します。

 私も一応は魔王陛下の『監視』と言う命の下、ここに来ておりますので。

 仮にも堕天使陣営最大組織の大幹部と直接表立って事を構えるのは、避けたいのですよ。

 まぁ、降りかかる火の粉位は払いますし、事故が起きたとて知ったことではありませんがね」

 

ぐっ、先手を打たれたか。いやしかし、それはある意味当たり前なのかもしれない。

まつりごとのイロハは俺はよく知らないが、お互いに身分やら何やらあると見ていいだろう。

方や堕天使大幹部、方や魔王の勅命で来た上級悪魔。

さっき言っていた町ごとコカビエルを倒すって話も

恐らくは駒王町を適当な理由をつけて焼き払う。

そこに偶々コカビエルがいた、それがこの作戦のシナリオではなかろうか。

……ちっ。本当に俺を観察対象としか見てなくてここに来たってことか。

 

「そういうわけですので。勿論『私が助けてくれる』などと考えないでもらいたいですな。

 それを踏まえた無茶をされるようでしたら、その通りに私は上に報告するだけですので。

 私のお見受けした限りでは、歩藤さんは聡明な方のようですので。誰かさんと違いましてな。

 精々、興味深い情報提供に協力していただきたいものですな。

 

 ……そうそう。状況次第では、報酬としてあなたにかけられているはぐれ悪魔の嫌疑。

 これを晴らすために、お力添えをさせていただこうかと思っておりますので」

 

――はぐれ悪魔の、嫌疑だって!?

い、いや。何を驚く事がある、俺! 今までの行いを顧みれば

いつそう認定されてもおかしくなかったんだぞ!

そうなれば、俺はいよいよ犯罪者か。ククッ、予想していたとは言えきついな。

 

……なるほど。悪魔らしく、モノで釣る作戦に来たか。

恐らくこれで首を縦に振っても「力添えはする(晴らすとは言ってない)」ってオチだろう。

それはつまり。遅かれ早かれ、俺ははぐれ悪魔にされるのだろう。

はぐれ悪魔にされるって分かっていて、尚も情報提供に協力するメリットは……ま、無いな。

 

「……お断りします。と言っても、今までの話の流れですと勝手に情報を収集するのでしょう?

 ならばどうぞ勝手になさってください。ただし、どのあたりの情報を集めているのか。

 位は教えていただいてもよろしいですか?」

 

「いいでしょう。我々が欲している情報は――」

 

――ぐっ。そうかい。それが悪魔って生き物のやり方かい。

人を陥れ、嘲り、惑わす。そうした連中を慣用句的に悪魔と言うがね。

名実共に悪魔だよ、あんたは。

たったその程度の情報のために、町一つ焼き払うのも厭わないんだからな。

今ここで吐き捨てても状況は決してよくならない。こみ上げてくるものを何とか堪え

力が戻るのを確認した俺は、改めて戦場へと足を向けることにする。

 

背後から、ウォルベンがやって来ているが気にしても仕方が無い。

邪魔をしない分、まだ有情と言うべきだろう。

 

確かに、ウォルベンの言うとおり逃げると言う手もある。

正直、リアス・グレモリーに殉じるのも俺の主義ではない。

この力を使えば、ここから逃げることなど造作も無いだろう。

どうせはぐれ悪魔にされるのだ。逃げ出してはぐれ悪魔になるか、ここで野垂れ死ぬか。

……やれやれ。お先真っ暗の選択肢しかないのか。

 

しかし、俺はどうも腑に落ちなかった。

ウォルベンの言っている事がでは無い。俺自身がここで逃げることに対して、だ。

確かにリアス・グレモリーのために死ねるかと聞かれれば、答えはノーだ。

わざとイッセーを殺し、悪魔にする切欠を与えたマッチポンプ疑惑を晴らしたわけではない。

俺に至っては、その場に居合わせただけだ。それなのにこれだ。

まさか命を救った恩人を気取っているのではなかろうな、とも穿った見方は出来る。

 

命は救えばいい物ではないと思うのだがな。

やり取りが発生している時点で、それは既に狂気の世界だ。

一般人であったはずの俺やイッセーを何の躊躇いも無く巻き込んだ。

あのクソッたれが殺した後、何事も無く元に戻すことだって出来たはずだ。

 

……いや、それをやらなきゃいけない。それがこの町に住む人間を守ると言うことだ。

ここは人間が生活を、命を営む世界だと思っていたのだが、それは俺の思い違いなのか?

人間の常識を超えた力で不幸が起きたのならば

同じ常識を超えた力でそれを防ぐ。或いは取り返す。

力を持つものの責務。それを果たさなければならないと思っている俺は、おかしいのか?

 

……他人はどうだか知らないが、俺はそれを成すべきであると思う。今だってそうだ。

誠に全く以って不本意で得た力ではあるが、今ここにあり、確かに使える力だ。

俺自身の意思で、確かに使える力だ。

 

これはリアス・グレモリーのためじゃない。俺のためだ。

俺が、俺であることを見失わないための戦いだ。

俺が、俺を取り戻すための戦いだ。

その前に立ちはだかっている犬っころやカラスなど、その辺の雑草と同一の代物だ。

ただ、そこから蛇や蜂が出てきて驚かしているようなものだ。

そう考えれば、俺の選択肢はやはりこれしかないな。

 

「では、許可を得られたようですのでじっくりと観察させていただきますよ?」

 

「……ご自由に。それと、魔王陛下にご連絡されるようでしたらお伝えください。

 『はぐれ悪魔大いに結構。俺は、俺であることを絶対に見失わない。見失っても取り戻す。

  今ここにいるのは、リアス・グレモリーの眷属ではなく、不幸な事故で命を落としかけ

  人間に戻ろうともがいている一人の愚かな転生悪魔である』――と」

 

「ククク……ハハハハッ! その言葉をお待ちしておりましたよ歩藤さん!

 決意が固まったならば急いだ方がよろしいですよ!

 もう既に、コカビエルは動いている! 赤龍帝の名に泥を塗るかどうかは

 あなたにかかっていますよ!」

 

ウォルベンの煽りにしか取れない激励――

これを激励と言っていいものか判断しかねるが――を背に

俺は歩みを進める。迷っている場合でもない。結果がどうあれ、やらねばならんのだ。




前回に引き続きファイナルアタックライドが炸裂しました。
くどいようですがセージはギャスパーの事を知りません。

そしてサーゼクスの意向はセージ本人に(多少歪んだ形で)
ついに伝わってしまいました。
はぐれ悪魔として開き直るか、それとも。

冥界の現政権でさえも二心を持った部下を抱えているという現状。
けれど、私としては十分にありうる選択肢だと思うのです。
>駒王町ごとコカビエルを倒すと言う意見

コカビエルを倒して戦争を食い止めることと、たかが人間の集落一つ。
悪魔の価値観ではどちらが優先されるのでしょうね。
原作のリアスがそこまで考えてサーゼクスに打診しなかったかと言うと
それは首を傾げてしまいますが、多少は考えていたかもしれません。
その決断をサーゼクスが下すはずが無い、と思っていたとしても。
いずれにしても、そこに住む人達にすれば「ふざけんな」って案件ですが。

補足ですが、ウォルベンは四大魔王のいずれの眷属でもありません。


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Soul35. 堕ちた天使を引き摺り下ろせ!

この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(挨拶

レベルを上げて物理で殴ればいい?
そんな作戦が通じるのは、ク○ゲーの中だけなんです。
そもそも作戦と言えるかどうかさえ怪しいって言うね。


俺が何とかグレモリー部長らと合流した頃には

既にコカビエルが動き出していた。フリードはエクスカリバーを手に

ゼノヴィアやイリナと切り結んでいる。

祐斗はそっちに加勢したらしく、力も兼ね備えた祐斗の剣はフリードのエクスカリバー相手にも

負けず劣らずの力を発揮していた。

 

俺も戦場に飛び込む寸前、コカビエルが巨大な光で

アーシアさんを包み込もうとしているのが遠目に見えた。

それを庇うようにイッセーも前に出ているが……ダメだ、防ぐ手立てが無い!

一か八かの手ではあるが、俺はカードを引くことにした。

 

SOLID-FEELER!!

 

左手から伸ばした触手で、イッセーとアーシアさんを纏めてこっちに引き寄せる。

光は二人の服を掠める。間一髪、直撃は避けられたか。

しかし、そのお陰でコカビエルに気付かれた。まずい。

 

「た、助かったぜセージ……つか、何処行ってたんだよ?」

 

「その質問に答える前に、現状をしっかり把握したい。

 正直、今の俺にはこの場の打開策が浮かばない」

 

「援軍の到着か。お前達だけでケルベロスを全て屠ったわけではないだろうが

 ケルベロスが来ない理由は合点が行ったな。だが、貴様ら如きが束になろうとも

 何も変わらないことを思い知るがいい」

 

威圧感が半端ではない。さて、どうやってこの場を切り抜けようか。

姫島先輩はやられたのか。顛末を知らんから実力差か慢心かは読めない。

だが、またしても戦力が落ちているのは間違いない。

前回みたいにフリードを叩いて、全員で……なんてやっている暇は無いだろう。

向こうは向こうで、三対一にもかかわらず互角の戦闘だ。いや、互角以上か?

しかし、こっちに加勢できそうかと言うと、そうでも無さそうだ。

フリードの奴が形振り構わなくなっているみたいで

被害がこっちに及ばないように戦っているのだろう。

 

「そうだ、アーシアを下げてくれ! 腰が抜けちまったんだ!」

 

なんと。まぁ、今までやってこられただけでも大したもんか。

おおよそ荒事とは無縁の彼女。ここまで悪意に晒されれば、気を失ってもおかしくは無い。

腰が抜けただけなら、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は使えるって解釈でいいのだろうか?

 

「アーシアさん、気はしっかり持てているか?」

 

「は、はい……ごめんなさい、迷惑をかけてしまって……」

 

気にするな、と返したところで俺は一つ妙案が浮かぶ。

アーシアさんを虹川さんらのところに預けよう。

あそこならば安全だし、部室だから引き上げて体勢を立て直すのにも適している。

問題は……頭の上でいつでも殺せるぞ、と言わんばかりに構えているアイツだ。

 

「逃がすと思うか? 赤龍帝」

 

「くそっ、アーシアは俺が守ってやる!」

 

「……それを言うなら『俺達が』じゃないのか、イッセー」

 

さて。啖呵を切ったところでコカビエルに対する勝算を計算してみよう。

……するまでも無いな、無い。そんなものがあるわけが無い。

では、アーシアさんを無事に逃がせるかどうか。それはやってみないことには分からないが。

 

どちらかが引き受けて、どちらかで全速力でアーシアさんを抱えて逃げるのが王道だろう。

となれば、加速の出来る俺か? いや、加速だけなら俺がイッセーに憑依しても出来る。

だが、その他諸々を考えればやはり俺が引き受けるべきか?

と、ここまで考えたところで、アーシアさんが発した言葉に俺は少々のデジャヴを覚えた。

 

「……い、いえ! セージさん、私も戦います!」

 

「アーシア! けどなぁ……」

 

「よく言ったわアーシア! 後ろで皆が負傷したときに備えていなさい!」

 

……決意を固めた? いや、それ自体はさっきの虹川(にじかわ)さんを見ていたから

ありはありなのだろうが。しかし、虹川さんと決定的に違う部分がある。

 

――確実に命の危険に晒されている、という点だ。

 

バックで演奏している虹川さんと違い、アーシアさんは戦いの真っ只中にいる。

その上で自衛のための戦力を持たないばかりか、満足に動けないときた。

しかも、さっきコカビエルは明らかにイッセーよりアーシアさんを狙っていた。

結果は火を見るより明らかなんだが。

 

「グレモリー部長、お待ちを。眷属の意思を尊重するのは結構ですが

 現時点では命の危険に関わります。ここは後退が得策かと」

 

「セージ! あなたねぇ……ふらっといなくなったと思ったらいきなり現れて

 今度は私の眷属の扱いに口を挟むってどういうつもりなのかしら?

 それに、まだ私達は十分にやれるわ。後退するわけには行かないのよ!」

 

まあ、後には引けないのは分かるさ。ここで引けば、この町は焼け野原だからな。

しかしだからって、無謀な作戦を立てていいものかどうか。

姫島先輩はアウト。祐斗、ゼノヴィア、イリナはフリードの相手。

コカビエルの対応に当たれるのは俺、塔城さん、イッセー、それからグレモリー部長。

戦力は一人でも多くほしいのは分かるがね。

 

「……ならば問いますが。アーシアさんに万が一が起きた時

 あなたは責任を取れるのですか? 死んでも生き返らせればいい。

 そう考えるのは思考の放棄であり、命を蔑ろにした唾棄すべき行いです。

 それとも、アーシアさんがコカビエルの手から己を守る術を持っているとでも?

 たとえあったとしても、満足に動けない現状で激戦区に置くのは

 俺としては賛同いたしかねますがね。ま、意見を無視するならお好きにどうぞ。

 決定権は俺にはありませんので?」

 

一瞬、ラッセーの存在が頭を掠めたがハッキリ言おう。

いくらレアドラゴンでも子竜に堕天使、それも上級の光の槍を

どうにかできるなんてこれっぽっちも思えない。

しかも光と雷とではあまり相性が良くない。水属性の相手や機械ならばともかく。

 

「……非常に棘のある言い方ね」

 

「セージ、こんな時に部長と言い合ってる場合かよ!

 このままじゃ、お前本当にはぐれ悪魔になっちまうぞ!」

 

イッセーよ。それは俺も思っている。言い争っている暇何ざ無いことくらいはな。

だが、このアホ主サマはこの期に及んでも周囲が見えていない。

と言うか、意図的に見ていないのかと勘繰りたくなるほどだ。

これ以上言っても仕方ないかもしれないのだが。

それに、俺は遅かれ早かれはぐれ悪魔になる。政府の勅命を受けた者が言ってたんだ。

それはほぼ、間違いないだろう。何時そうなるのかは俺もわからんが。

 

しかしイッセーの言葉に、異様な反応を示したのは意外にも塔城さんだった。

それは俺にとって些か予想外の反応でもある。

ちょっと予想外すぎて、塔城さんの意見に従わざるを得なかった。

と言うか、判断が出来なかったのだ。

 

「悪い冗談はやめてくださいイッセー先輩! セージ先輩がはぐれ悪魔だなんて……

 もう、私の知っている人が処分されるのは耐えられません!

 セージ先輩も変な意地を張らないでください!

 仮に自分の意見が正しかったとしても、部長の意向には従ってください!」

 

「ぬっ……わ、わかった。今の発言は取り消す。

 ……グレモリー部長、失言をお許しください」

 

不本意ながら、と小声で付け足しはしたが。

しかし塔城さんのあの口ぶりは、過去に誰か知人――それも親しい人――が

はぐれ悪魔認定を受けたような口ぶりだ。祐斗のエクスカリバーみたいに

塔城さんも何か爆弾を抱えているのか?

 

……もしそうだとしたら、メンタルケアの面でかなり杜撰だと言わざるを得ないんだが。

おおよそ荒事に向かなさそうな性格のアーシアさん。

エクスカリバー絡みではまるで周囲が見えなくなった祐斗。

極めつけは少し前まで一般人だった俺やイッセーを

躊躇いも無く悪魔の戦場に駆り出すその姿勢。

そりゃまあ、眷属なんだからある程度は自由にできる権利は有るだろうさ。

けれど、これではまるで……使い潰しか、死ねと命令しているようなものじゃないか。

眷属にだって命は、心はあるんだぞ。

皆が皆、あんたのために死ねるなどという考えは捨ててもらいたいもんだ。

そういう意味じゃグレモリー部長、あんたはフェニックスの事を偉そうに言えないぞ。

 

「……まぁ、小猫に免じて不問にするわ。

 改めて、イッセーは倍加、小猫とセージはコカビエルに取り付いて動きを止めなさい。

 イッセーの倍加を受け取り次第、私も攻撃に参加するわ」

 

まあ、塔城さんとならばうまく連携が出来るかもしれない。

とりあえず、ここで倒さなければまずいことになるのに変わりはない。

引き続き、本気を出すか。

そんなわけで、俺はさっき記録したこのカードを試すことにした。

 

SOLID-GYASPUNISHER!!

SOLID-COLOSSION SWORD!!

 

「塔城さん、この武器は今しがた俺が作ったものだ。

 こういうタイプの武器なら、塔城さんに合うんじゃないかと思って」

 

コカビエルの光攻撃対策として、かつて堕天使と戦った際に猛威を振るった

腐食の剣を生成する。これがコカビエルに通じるかどうかは分からないが。

出力が大きすぎて、パワー負けは避けられないかもしれないが、そこは打ち所だろう。

それに、俺の目的は直接ダメージを与えることじゃない、攻撃を封じることだ。

 

それと同時に塔城さんにギャスパニッシャーを渡す。

祐斗が妙な反応を示していたのが気がかりだったが、力の強い塔城さんなら

この武器を存分に使いこなしてくれることと思う。デザインもどちらかと言えば彼女向きだ。

 

「ギャスパニ……ギャー君? そんなわけ無いか」

 

受け取ったギャスパニッシャーを素振りすること二、三回。

塔城さんはいつものポーカーフェイスながらも、こちらに向けて親指を立ててきた。

名前までつけて、気に入ってもらえたようだ。よかった。

武器を手に、俺たちはコカビエルめがけて突っ込む。

 

「その不可思議な力……そうか、お前がもう一人の赤龍帝か。

 はて。お前と同じような力の持ち主を先の大戦で見た気がするが……まぁいい。

 神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)でもない限りワンオフの代物ではないからな。

 肝心の赤龍帝の能力に至っては、量産品(トゥワイス・クリティカル)と同等。

 それで俺を止めようなどとは笑止千万!」

 

「はっ、量産型なめんな。安定した力を供給できるって意味じゃ、量産型以上に

 優れた代物はそうそう存在しないもんだぜ?

 そしてその量産型だって……極めればワンオフに達するもの(イミテーション・ギア)だ!」

 

「ほざくな、お前のような小童が神器を極めただと?」

 

COMMON-ANALYZE!!

 

一咆えし、アナライズを少しでも進める。

調べるべきは光の攻撃を行う予備動作。あんなものをまともに食らったらひとたまりも無い。

ならば、予備動作で潰すしかない。光の槍を完成させる前に、この腐食の剣で生成を阻害する。

つまり、今回俺はアシスト。攻撃は塔城さんに一任する。

 

「……せいっ!」

 

塔城さんが振り下ろしたギャスパニッシャーは、俺が振り下ろしたときよりも

物凄い風切り音をあげながら、コカビエルの頭上めがけて振り下ろされた。

コカビエルは片手で受け止めるが、その手は震えている。

 

「ぬ……!」

 

「それを止めたとて!」

 

ギャスパニッシャーを受け止めている腕の肘めがけて一撃を加えようとするが

刃は光の障壁に一瞬、阻まれる。まるでこちらの攻撃などお見通しかのように。

確かに、普通の攻撃ならばこれで防がれていたかもしれないが

この武器は腐食の剣。オリジナルは光を喰う剣らしいが、俺のこれは腐食させる剣、らしい。

まぁ、用途が同じなのでそのまま使っているが。

 

「バカめ。その程度の鈍らで俺に刃を通せるものか」

 

「それで防いだつもりか! こんな障壁、喰らい尽くしてやる!」

 

「ぬぅっ……!?」

 

腐食の剣が黒く光り、コカビエルの光の障壁に穴を開け始める。

闇が、光を喰らっているのだ。これならば、コカビエルに刃も届く。

 

……はずだった。

 

光喰剣(ホーリー・イレイザー)の模造か。魔剣創造(ソード・バース)を持たないお前が生み出せるとはな……ふんっ!」

 

「うおっ!?」

 

「……っ!?」

 

コカビエルの発した気で、俺たちはまとめて吹き飛ばされてしまう。

ちっ、やはり作戦自体は良くても、根本的な力が足りないか!

だったらこれだ!

 

体勢を立て直し、俺は塔城さんに手を伸ばしカードを引く。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「……えっ? セージ先輩、これは……」

 

「男子三日会わざれば、って奴だ。もう強化は俺とイッセーだけの特権じゃない。

 速さを加えた戦車(ルーク)の力なら、まだ対抗できるはずだ!

 それから、ここだってタイミングでギャスパニッシャーのトリガーを引くんだ。

 その時、この武器の真価を発揮するはずだ。俺が使ったときはそうだった」

 

「……わかりました」

 

ギャスパニッシャーを手に、塔城さんはさらに速さを増してコカビエルめがけて突っ込む。

コカビエルは速さを増した塔城さんに面食らっている。

この手法はいわば初見殺しだ。スピードに相手の目が慣れたらもう通じない。

出来れば、それまでに戦果を挙げたいが……。

俺の方は、攻撃の出来る手段がなくなってしまった。さてどうする?

 

銃で援護射撃? ダメだ、障壁に阻まれるのがオチだ。

まして、祓魔弾で障壁を突破できるとは到底、思えない。

触手で捕縛? これもダメだ。さっきの反撃、あれを触手で受け止めたら

触手の方がバラバラになる。効果が無い。

姿を消して奇襲? 論外だ。海道(かいどう)さんが見つかった相手は恐らくコカビエル。

過去のケースを考えると、俺が姿を消したところで……消す?

いや、今俺は霊体化する以外に姿を消す方法がある。一か八かで試す価値はあるか!

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

これで姿を消せたはずだ。後はうまくコカビエルの隙を突ければ!

塔城さんも、速さが加わったことで今までよりも強力な一撃を叩き込んでいる。

 

「何だと!? 突如として速さを増したか……赤龍帝としての力以上に

 奴は恐ろしいものを秘めているとでも言うのか!?」

 

「……さっさと潰れて」

 

塔城さんの攻撃は、少しずつだがコカビエルにヒットしている。

それに驚いているのは、他ならぬコカビエル本人のようだ。

勿論、これだけでここまで肉迫出来るとは俺も思ってなかったが。

 

さて。後は障壁を掻い潜って一撃を加える必要があるが……

ギャスパニッシャーは塔城さんに回してしまった。腐食の剣はとどめの一撃には適さない。

ならば……

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

姿を消しながら、プラズマフィストを左手に装備する。

右手には障壁を破るための腐食の剣を持ったままだ。

気付かれぬように、慎重に距離を詰める。

宙に浮いている相手を狙うには、足元から攻める手もある。

いずれにせよ、この手は気付かれたら終わりだ。

姿を消しているとは言え、気付かれない保障は無い。

塔城さんの攻撃に気を取られている、その瞬間がチャンスか。

ふと、イッセーの方角が気になったので目をやってみる。

ドライグ同士、意思の共有は出来るみたいなので状況を聞いてみる。

 

「――ドライグ、そっちはどうなっている?」

 

『――霊魂の方か。リアス・グレモリーにまわす力は、もうじき装填が完了する。

 巻き込まれてくれるなよ? お前に消えられると、俺も困る。

 お前達の息の合わなさは、俺でさえ頭を抱えるレベルなんだからな?』

 

ドライグにまで釘を刺された。このマダオ、痛いところを突いてくれるな。

事実なのだから痛いのは当たり前と言えば、まあ当たり前か。

戦闘中に好き嫌いを言っている場合じゃないのは分かるが

連携がとれるかどうかは全く分からない。

そもそも、俺はグレモリー部長と戦線を張るという意味で一緒に戦った事が無い。

一発勝負をやれる相手ではないだろう。ロマンのために町の人間全員を犠牲には出来ない。

 

ともかく。仕掛けるのは次に塔城さんの攻撃がヒットした瞬間だろう。

そしてその瞬間は、即座にやって来た。

 

「――セージ先輩の話だと、トリガーを……」

 

ギャスパニッシャーの眼が見開き、魔法陣を展開する。

魔法陣はコカビエルを捕らえるが、動きを封じるには至らない。

やはり、ケルベロスとでは力が違いすぎるのか!

 

「何のつもりだ、そんなもので俺が封じられると思ったか!」

 

コカビエルは全く意に介さず、光を手に塔城さんに向かってくる。

このままじゃマズい、何かいい方法は無いのか!

 

……いや待て。ならば、部分的に封じることはどうだ!?

 

「塔城さん、相手の全体じゃなくて部位を狙うんだ、何処でもいい!」

 

「……! やってみます――!」

 

「こそこそと……鬱陶しい連中め!」

 

声を出したことでコカビエルに気付かれた。

いや、さっきのプラズマフィストの起動音で目星は付けられていたかもしれないが。

雨のように降り注ぐ光の槍を避けながら、わざと派手に動き回る。

土煙で位置がばれてしまいかねないため、土煙をうまく払いながら。

非常に難しい動きだが、やってのけなければならない。

こちらから仕掛けるのにも、塔城さんの攻撃にあわせなければ!

 

塔城さんはそんなコカビエルの隙を突き、再びギャスパニッシャーから魔法陣を展開。

今度はコカビエルの右手を封じる。右手だけ、まるで時が止まったようにピクリとも動かない。

 

「『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』だと!?

 ぐっ、こんなやつに俺の動きが封じられるはずが――ま、まさか!

 ……くくく、あの赤龍帝モドキめ、自分に無い神器の力も把握しているとはな!

 アザゼルが知れば、喉から手が出るほど欲しがる人材だろうよ!」

 

それにしてもこいつは一体さっきから何を言っているのだ。俺は「停止世界の邪眼」なんて神器

見たことも聞いたことも無いんだが。そもそもあれば記録してる。

ただ、力不足で全体を止められないのならば身体の一部分ならば

止められるのではないかと思っただけなんだが。

 

そのコカビエルは塔城さんの攻撃を受け止めようと、左手をかざしているが――

当然、満足な受身を取ることはできない。

 

「……セージ先輩は私達の仲間です。堕天使なんかに渡しません」

 

コカビエルはギャスパニッシャーを左手で止めるが、右手が動かないこともあり

徐々に塔城さんに押されている。今だ!

 

「スカウトならお断りだ。人間に戻してくれるって言うんなら話は別だけど……な!」

 

「ぐっ!? そこにいたか、赤龍帝モドキめ!」

 

俺はすぐさま飛び上がり、障壁を腐食の剣で切り裂く。

透明化は切れているが、隙は突けたから全く問題は無い!

そのまま間髪をいれずに、プラズマフィストを装備した左手でストレートを叩き込む。

勿論、プラズマフィストは最大出力だ。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べたが

……その最大威力、5億ボルト。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

「ぐがあっ!? な、なんだこれは……こんな神器、俺は知らんぞ……!?」

 

「神器じゃない! 人間の……人間が生み出した力だ!!」

 

最大出力のプラズマフィストは、思いの他コカビエルにダメージを与えた。

プラズマフィストから流れた電撃は、最大出力なので普通の人間だったらば炭になる威力だろう。

確か自然現象の雷――それも強いやつ――と同等の威力だ。雷を起こす装置の話は聞いているが

まさか小型化に成功してるとは、俺も思わなかった。それに威力も桁外れだ。

姫島先輩の雷が仮に自然現象のそれと同等だとしても、悪魔の力に匹敵するものを

今の人間は得たことになるのか。そう考えると心強いと共に、肝が冷える。

氷上(ひかみ)さんが自衛隊宛の荷物と勘違いしたのも、頷ける物だ。

ともあれ今ので感電したのか、コカビエルはうまく動けないようだ。

 

「がはっ……! く、おのれ……!!」

 

「させるか! 塔城さん!」

 

「……わかってます。イッセー先輩、部長!」

 

RELOCATION!!

BOOST!!

 

援軍を呼ばれる前に、もう一度攻撃を叩き込む。今度は相手が感電しているからかやりやすい。

塔城さんがギャスパニッシャーを構えている先に、コカビエルを蹴り飛ばす。

蹴っ飛ばされたコカビエルは、塔城さんのギャスパニッシャーで見事に殴り飛ばされる。

その様は、まるで野球ボールの如し、である。

 

『――チャンスだ相棒、リアス・グレモリーに力を渡せ!』

 

「応! 部長、今です!」

 

TRANSFER!!

 

「しかと受け取ったわ。コカビエル、赤龍帝の、私の力を思い知るがいい!!」

 

イッセーがグレモリー部長に赤龍帝の力を譲渡する。再び、赤龍帝の力を持った

滅びの魔力がコカビエルに叩きつけられる。バレーボールのアタックのように。

まだ感電していたのか、コカビエルは防御態勢が取れずにいたようだ。

流石は滅びの魔力とでも言うべきか。さっきまで俺達が苦労した障壁も難なく打ち破り

コカビエル本体に大きなダメージを与えている。

止めをさせたかどうかは分からない。だが、間違いなく今の一撃は効いたはずだ。

 

……どうでもいいが、何となく面ドライバーの30分前にやっている番組の必殺技――

レンジャーボールハリケーンを連想してしまった。人数が一人か二人足りないけど。

 

それにしても、まさかここまで先の大戦で名を轟かせた

上級堕天使相手に渡り合えるとは思わなかった。

力を出させなければ良い。しかしまあ、うまく感電してくれたものだ。

 

「やったぜ!」

 

「みんな、ナイスパスよ。全員参加ではなかったけれど、見事な連携だったわ。

 けれどセージ。その武器、何処で見たの?」

 

いかん。流れで実体化させてしまったが、プラズマフィストは超特捜課(ちょうとくそうか)の秘密兵器だったんだ。

本当のことを言うと面倒になりかねない、ここはごまかすかと思った矢先

塔城さんが俺に話を振ってきた。空気読んでくれた?

 

「……セージ先輩。さっき言った事……」

 

「ああ、冗談だ。人間には戻りたいけど、俺は堕天使って奴はこれっぽっちも信用してない。

 まだ悪魔の方が信用できるレベルだ。そもそも、俺は堕天使のせいでこうなったんだぜ?

 ……む、思い出したらなんだか腹立ってきた」

 

少しだけ誇張している。とは言え実際あの阿婆擦れ堕天使の事を思い出すと今でも腹立たしい。

しかし、プラズマフィストへの言及を避けるために俺は態と刺々しい態度を取ってみることにした。

 

……別に今回はグレモリー部長に非が無いので、心苦しい部分は少しあるのだが。

 

「その言い方だと、私は赦してもらえたって解釈でいいのかしらね?」

 

「こっちは腹立ってるんだ、八つ当たりしますよ?」

 

前言撤回。それとこれとは話が全く別なんだが。確かにこうなった原因を作ったのは

あのクソビッチだが、実際に俺を悪魔にした上に

その後の対策を何も練らなかったのはあんたじゃないか。

しかもそれが今や指名手配一歩手前と来た。こんな理不尽な話があるか?

 

……それはさておいて。コカビエルを倒したことで、アーシアさんも落ち着いたのか

立ち上がり、姫島先輩の治療をしている。となると、後は祐斗の方か。

まぁ、実のところ心配はしていないんだが。

その俺の予想を裏付けるように、祐斗達が向こうから駆け寄ってきた。

 

「セージ君、調子は戻ったようだね」

 

「……驚いたな。まさか、コカビエルとああも戦えるとは」

 

「うまく感電してくれたお陰だ。俺だって、上級堕天使と正面切って戦えるとは思ってない。

 相手が強いなら、その強さを発揮できなくすれば何とかなるかとは思ったんだが。

 それより、エクスカリバーはどうしたんだ?」

 

俺たちがコカビエルと戦えた理由。それは相手の動きをうまく封じられたからに他ならない。

そうでなかったら、光の槍の直撃を受けて今頃存在していないだろう。

真っ向から力で戦うと言う方法が、仮にも先の大戦で名を轟かせた

上級堕天使に通じるはずが無い。ましてやこっちはぺーぺーの悪魔だ。

冗談抜きで万に一つの勝ち目も無い。ゼロコンマどころか、ゼロだ。

ゼロはどれだけ倍加(ブースト)してもゼロにしかならない。

ゼロをゼロでなくせば、まぁ或いはって言ったところだった。

 

「ご心配なく。セージ君の援護のお陰で、滞りなくフリードを倒せたよ」

 

祐斗の言うとおり、地面に突っ伏して動かないフリードがそこにいた。

まあ、俺達と違って三対一、しかも祐斗には強化を施していた。

むぅ、ちょっと過剰戦力だっただろうか?

 

ともあれ、これで一件落着。エクスカリバーはこの二人に。

フリードは(やなぎ)さん達に。コカビエルは魔王陛下に。

それぞれ引き渡せばとりあえずはめでたしか。

 

……全くめでたくない気も、しないでもないんだがな。

もうこんな事件、二度と御免被りたいものだ。

と言うか、どっと疲れた。




異常ハメって強いよね。

……という訳でコカビエルはハメ殺しされました。
ハメ技は俺のシマじゃノーカンとか言ってられません。
そのシマがダメになるかどうかの瀬戸際だったんです。

プラズマフィストの5億ボルト設定は元ネタの必殺技に倣ってます。
5億ボルトって数値もさることながら雷発生装置を小型化できるって
凄い技術だと思うんです。
このクラスの雷ならコカビエルにも通るでしょ……(慢心

……もっと凄いのはそれを20世紀に開発してるってことなんですけど。
まだwindowsどころかMS-DOSの時代に!
まぁ第二次大戦時に超人機作ったり巨大ロボット作ったりとか
フィクションの科学技術についてあーだこーだ言うのは無粋ですけど、ね。

実体化させたギャスパニッシャーには当然ギャスパーは入っていません。
よかったねギャー君(棒


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Soul36. 光と闇が両方備わり最強に見える剣

やっと投稿来たのか! 遅い!
時すでに時間切れ。
書き貯めが尽きた俺は隙だらけだった。

と言うわけで始まります。
今回の一部推奨BGM:夢のかけら

追伸
今回イリナがキャラ崩壊します。
ごめんなさい。


「さて、後はエクスカリバーを回収……」

 

「教会の小娘め、そうはさせぬぞ!」

 

ゼノヴィアがフリードのエクスカリバーに手を伸ばそうとした瞬間。

誰かが閃光弾を焚いたのか、一瞬視界が真っ白になる。

聖なる力を感じないため、本当に視界が奪われるだけだったが

その奪われた視界の中、向こうは体勢を立て直していた。

しかし、こっちは既に相手の首領と言えるコカビエルを倒している。

今更バルパー一人に、何が出来るんだ。

 

「バルパー・ガリレイね。観念なさい。

 堕天使コカビエルと結託し、我が領地で狼藉を働いた罪、万死に値するわ。

 たかが人間が、私の領地で好き放題するなど片腹痛いわ」

 

「……グレモリー部長。今は黙っていてもらえますか。

 その物言いだけでも我慢ならんと言うのに。もう奴は終わりですよ。

 ここで手を下さずとも、人間である奴は人間の法が裁きます。

 警察だって、呼べば来ます。ましてや、こうした事情に明るい警官だっているんです」

 

またこのアホ主は。仮にここがあんたの領地だったとしてもだ。

ここは政令指定都市ではないにせよ、日本国の土地じゃないのか。

日本国によって管理運営され、その運営は地方自治体に任される。

そしてその地方自治体を支えるのが、この町に住む人一人ひとり。

 

まああまり考えたくないが、この町の町長がグレモリー部長の契約者だったりしたら

グレモリー部長の言うことも最もだが……それはそれでマズいと思うんだが?

 

「……この様子ではオルトロスも倒されたと見るべきか。

 ククク、まったく警察を甘く見た私の落ち度か。

 だが私はここで終わるわけには行かぬ。

 この手で聖剣を、エクスカリバーをあるべき姿に戻すその日までは……!」

 

初老の男――バルパーが懐から光るものを取り出す。

その様は、俺達にもハッキリと見えていたらしく

祐斗達がそれに反応していた。

 

「……セージ先輩、あの光から何か力を感じます」

 

「聖剣使いの因子だ。お前達失敗作も、こうして私の役に立てたと言うことだ。

 さて聖剣使いの少女――ゼノヴィアとイリナとか言ったか。

 死人の力を得て、聖剣を振るう気分はどうだ?」

 

「それが、か。まさか聖剣使いへの祝福の正体が、そんなものだったとは……」

 

「死人……そうか。やはりあの時、僕達を殺してそれを抜いたのか……。

 そんなもののために、僕達は、海道は――ッ!!」

 

良くは分からないが、あの手にあるものは祐斗の仲間達の残りカスと言うべきものか。

アレを使えば、聖剣を振える、と。

 

……どいつもこいつも。命を何だと思ってやがるんだ。

しかも推し進めたのは人間、被検体にしたのも人間。

人が人を弄ぶなど……そんなんだから、悪魔に付け入る隙を与えるんだ!

 

「そんなもの? 私はね、聖剣を愛して止まないのだよ。

 だが、私自身では最早聖剣を振るうことさえままならなくなった。

 いや、元々振るうことさえ出来なかった。適性が無かったのだからな。

 そこで聖剣の研究と言う役職に落ち着いた。そして完成したのが……」

 

「……その、聖剣使いの因子って事か」

 

バルパーが己の行為をつらつらと語る一方で、イッセーは興味なさげにしている。

まぁお前にはそうなのだろう。だが、俺には何となくだが読めてきた。

今回の事件の一部始終が。祐斗が何故頑なになっていたか。

そして海道さんがここにやって来て、祐斗の捜索を俺に依頼した訳が。

イリナにしても、己が振るっていた力の正体を知って軽くショックを受けているようだ。

 

「そうだ。私が集めた者たちは誰も彼も聖剣を振えるほどの適正は持ち合わせていなかった。

 そこで私はこう考えた。『たとえ僅かな数値でも、集めれば良いのではないか?』とな。

 後は知っての通りだ。しかしな……今私は、非常に歯痒い思いをしている。

 一つはあと少し早くこの研究が完成していれば、私自ら聖剣を振るえたという事。

 そしてもう一つは……さて、何だと思う?」

 

「……どういう事よ?」

 

「ミカエルだ。奴は私の研究を邪法と一方的に断罪し、私から聖剣の研究を奪い取ったのだ。

 奴に言わせれば、被験者を殺した事が気に入らなかったらしいが……クククククク。

 

 ……それからやった事は何だ? 私の研究と同じではないか。

 命を奪わないだけ良心的? 違うな。聖剣使いの因子は、魂と密接な関係にある。

 言うなれば肉体に対する臓器だ。生きたまま臓器を摘出すれば

 最悪死に至るだろう? 奴らがやった事はそれだよ」

 

「……ッ! ミカエル様を愚弄するとは、堕天使と結託しただけの事はあるわね、バルパー!!」

 

ミカエルを愚弄されたことに対してイリナが激昂してバルパーに飛び掛るが

バルパーは因子の力を使い、イリナを退けている。

身体に取り込んで聖剣を使わせる以外にも、そんな使い方があるのか?

 

「本来の使い方では無いが、こういう芸当も出来るのだよ。

 さて、フリード。何時まで寝ている? そろそろ起きて、奴らからも聖剣を奪うのだ。

 さあ使うがいい。新たな聖剣の因子を――」

 

バルパーの言葉に反応してフリードが起き上がる。

そのままフリードはバルパーが差し出した因子を手に取ろうと手を伸ばす。

くそっ、これ以上奴を強化されてたまるか!

 

俺達が身構えたその時、聞き慣れた曲が流れ出す。

それはさっきまで遠くに聞こえていた曲。今その音源は近くにある。

ま、まさか――!!

 

「――させねぇっ! これ以上、俺達の魂を悪用されてたまるか!!」

 

「何だ!? あいつ、いきなり光を取りこぼしたぞ!?」

 

周囲には、バルパーが持っていた因子を不注意で取りこぼしたように映っていたらしい。

だが俺の眼には見えている。これはバルパーの不注意なんかじゃない。

 

――海道(かいどう)さんが、バルパーの手から因子を奪い取ったのだ!

 

「海道さん! それに虹川(にじかわ)さんらも! なんて無茶を……!」

 

「悪ぃ。ちゅーか、バルパー相手とあっちゃ

 やっぱいてもたってもいられなくなってよ。

 みんなに応援歌つけてもらって、隙を突いたってわけよ」

 

「安全も確保できたし、観客が増えてきたからね。悪くは無かったけど

 私らのライブ会場にはちょっと手狭だったかな?」

 

見ると、虹川姉妹の後ろには盛り上がっている幽霊がたくさんいた。

なるほど。こりゃ確かに部室じゃ手狭だわ。俺もこうなるとまでは予想できなんだ。

 

「……ふん、まあいい。まだ聖剣使いの因子はごろごろしているのだ。

 たとえ僅かでも集めれば貴様ら程度の使い手にはなろう。

 そのときまでエクスカリバーは預けておく。今回は私の負けを認めてやろう」

 

「じゃ、そういうわけだ。今度と言う今度こそはそこのヒョロヒョロ悪魔もクソ悪霊も

 俺様がぶっ殺しに来てやるからな? それじゃあまた会うときまで――」

 

――逃がすかよ

 

バルパーとフリードが逃げ去ろうとした瞬間。

バックに流れている曲調ががらりと変わった。

これは――メインは瑠奈か。だが、普段の心静める曲ではない。

静かな怒りを湛えた、物悲しい曲とでも言おうか。

 

――ああ、逃がさない

 

そう。それは聖剣計画によって喪われた命と

そこから命からがら逃げ出した者の心を映しているようだった。

虹川姉妹は何も語らない。ただ楽器のみが心を映す鏡になっている。

その明らかに変わったオーラに、俺と祐斗以外の生身の者は震え上がっている。

唯一人例外がいるとすれば、アーシアさんのお陰で復帰した姫島先輩か。

 

「――あらあら。皆さん随分と怒っていらっしゃいますわね。

 まぁ、そうなるのも仕方なし、と言ったところでしょうけど」

 

「朱乃さん! 無事だったんすね!」

 

「ええ。アーシアちゃんのお陰で。

 それにしても……随分と非業の死を遂げた方がいらっしゃいますわね。

 道理で薄ら寒いはずですわ」

 

やはり、幽霊は見えているのだろうか。

姫島先輩は的確に周囲を漂っている霊達を言い当てている。

首をかしげているイッセーに、翻訳した言葉を流している。

 

――奴らを逃がすな

――これ以上、自分達のような目に遭う者を増やしてはいけない

――負の連鎖は、自分達で終わりにするんだ

 

そこには恨みも少しは含まれていたのかもしれない。だが、そうした負の感情は

虹川姉妹の演奏が和らげていたのだろう。確かに薄ら寒いものはあるのかもしれない。

だが、姫島先輩も知っているかもしれないが。今ここに漂っている霊達の思いは恨みとかじゃない。

敢えて陳腐な言い方をすれば、正義の怒り、とかか?

 

「――木場。こんな奴らに好きに使われるくらいなら、お前が俺達の力を使ってくれ」

 

「――っ! けれど、僕は……」

 

「光が、木場の元に……」

 

違う、海道さんが因子を祐斗に渡そうとしているんだ。

一瞬の躊躇いを見せている祐斗。海道さんの言いたいことは非常に良く分かるのだが。

俺も多分同じ立場になったら似たようなことをするかもしれない。

 

「……僕はもう、悪魔だ。聖剣を振るうには似つかわしくない存在になった。

 だから、君達の思いは、力は――」

 

「バーカ。ちゅーか、俺様だって幽霊なのに、いまさら悪魔だ何だって関係ないだろ。

 それに、それならそれでいいだろ。悪魔のお前が聖剣を振るったとあれば

 バルパーの奴だって腰抜かすぜ。そしたら俺達は腹を抱えて笑えるし

 信用できるやつに俺達の生きた証を残せるんだ。悔いはねぇよ、なぁみんな?」

 

そう言い放つ海道さんの目は輝いている。嘘偽りの無いまっすぐな目であると一目で分かる。

海道さんが話を振った相手――聖剣計画の被害者達の霊――も同様だ。

 

……自分が生きた証を残す、か。俺はどうなのだろうな。

などとついセンチメンタルなことを考えていると、祐斗も意を決したのか因子を手に取る。

その瞬間、再び眩い光が周囲を包む。それと同時に、俺には海道さんの声が聞こえた気がした。

 

――ありがとよ、木場。お前も挑戦したんだ。俺ももう一度、挑戦してみっかな。

 

――――

 

光が収まる少し前から、ギターの音色が聞こえてくる。

瑠奈のものとはまた少し違った風合いの曲だ。

視界が戻ると、そこには海道さんがギターを抱えかき鳴らしていた。

 

「海道さん! 演奏はできないはずじゃ……」

 

「おいおい、俺様を誰だと思ってるわけよ? 木場だって一歩を踏み出したんだ。

 俺がやらないわけにはいかねぇだろ? ちゅーか、俺足ねぇけどな。

 さてみんな! 悪ぃが手伝ってくれねぇか?」

 

「……同じ弦楽器使い。私はいけます」

 

「もちろん! 私に知らない曲なんかないんだから!」

 

海道さんの声に、瑠奈(るな)里莉(りり)が声を上げる。

芽留(める)は曲調が沈み過ぎないようにチューニングをする係。

(れい)は歌詞カードを受け取り、海道さんにハモらせる形でコーラスを乗せている。

 

「聖歌じゃないのね。でも……」

 

「儚げながらも、聖歌のような暖かさを感じます!」

 

「……ああ。これは、海道がよく弾いていた曲だ!」

 

そうか。これが海道さんが弾こうと思っていた曲か。

俺は聖歌は詳しくないが、確かにこれを聖歌と言うには無理がある。

けれど、海道さんにとってはある意味聖歌以上に彼らとの思い出の曲なのだろう。

それは聞くものの胸を打つ。間違いなく名曲であるだろう。

 

……しかしそこに、無粋な横槍を入れてくる奴は何時の時代にもいるもので。

 

「さっきからうるせぇ!! てめぇらだけで盛り上がりやがって、面白くねぇ!!

 エクスカリバーがなんだ、聖剣の因子がなんだ!!

 幽霊が生きた証とか、なめた事抜かしてんじゃねぇぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

不完全なエクスカリバーを手に、フリードが突っ込んできた。

バルパーは……ふむ、どうやらフリードを見限ったみたいだ。興味なさげにしている。

フリードの歪んだ聖剣は、まっすぐに祐斗を狙っている。

しかし、祐斗はまるで動じない。

 

「海道、みんな、使わせてもらうよ……『魔剣創造(ソード・バース)』ッ!!」

 

祐斗が実体化させた剣は、今までの剣に比べ明らかに異質であった。

今までの剣は、いずれも悪魔特有の嫌なオーラを帯びていたが

そこにプラスされているのは聖剣の如きオーラ。

ゼノヴィアもイリナも、その剣の正体を掴みかねているようだ。

俺にもわからぬ。だが、わからぬのならば調べればよい。簡単だ。

分からないものに対してすぐ分からないと返すのもまた、思考の放棄といえるのだから。

 

「魔剣……? いや違う、聖剣? これは……?」

 

「聖剣でも、魔剣でもあり、そのどちらでもないと言うの!?」

 

COMMON-LIBRALY!!

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。『魔剣創造』の禁手(バランスブレイカー)。光と闇を両方備えた剣を作り出す。

 悪魔の祐斗が、聖剣の因子を新たに取り入れれば、まぁそうもなるか……ん?

 いや、しかし……これは……」

 

「なんだか最強に見えそうな剣だな、木場! 思いっきりやってやれ!!」

 

どうでもいいが、記録は出来ないらしい。まぁ記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)による記録の可否については

実はまだよく分からなかったりする。出来なきゃ出来ないで別にいいんだが。

 

だがそれ以上に、俺には引っかかる事があった。

今しがた双覇の聖魔剣についての情報を出したが、それを完成させる条件だ。

通常、反属性のものを組み合わせると言うのは相当な難易度になるはずである。

或いは、そもそも発現さえ出来ない。にもかかわらず、こうも簡単に完成した理由。

それについて記録再生大図鑑は、ある一つの結論を導き出していた。

それは俺にとっては別段驚くことではないのだが、ゼノヴィアやアーシアさんらにとっては……?

これは、なにやら大きな裏がありそうだ。

 

戦場では、フリードと対峙している祐斗に対し声援が飛んでいた。

それに加え、海道さんの演奏も止むことなく続いている。

 

曲を聴いているうちにふと、海道さんがかつて語った言葉が蘇る。

 

――夢は呪いと同じ。叶えられなければ、一生呪われたまま。

 

夢、か。祐斗は夢は分からぬと言っていた。しかし。

 

――夢が無くとも、夢を守ることは出来る。

 

「フリード・セルゼン。君に夢はあるかい?」

 

「何すか藪から棒に! 夢ならあるぜ、お前ら悪魔を片っ端からたたっきる夢がねぇ!」

 

「そうかい。僕には夢は無い。そんな僕に友達はこう言ったのさ。

 『夢を叶えられなくなったものは、一生呪われ続ける』って。

 ……君やバルパーのために、多くの夢が呪いに変わってしまった!

 もうそんな思いは御免だ! だから、僕はこう言うのさ。

 『けれど、夢を守ることは出来る』ってね!!」

 

祐斗にかけた力の強化は既に効力を失っている。しかし、それを意に介さぬように

聖魔剣はフリードの聖剣を打ち破らんとしている。

 

「くそっ、何で、何でてめぇに俺の剣が通用しねぇんだよ!?」

 

「完成したエクスカリバーなら、勝てなかったと思うよ。けれど、その程度で僕の――

 ――僕らの、夢を、魂を超えることは出来ない!」

 

祐斗の一閃は、的確にフリードを、エクスカリバーを打ち抜いた。

フリードが地に伏したと同時に、歓声が沸きあがる。

 

「見事だったぜ。木場」

 

「海道も、いい曲だったよ。実に久しぶりに、君の曲が聞けた」

 

祐斗には見えているかのように、海道さんとの会話は続いている。

幽霊が見える俺や姫島先輩は素直に状況を受け入れているが

見えていないイッセーやグレモリー部長らは少々首をかしげているようだ。

 

「なぁセージ。木場の奴、さっきから誰と話してるんだ?」

 

「〆がまずくなるから、その質問は後でしてほしかったが……まぁいい。

 祐斗にとって、大切な過去だ。そして、未来へ進むための糧。

 祐斗は禁手に至ったと同時に、進むべき道も見据えたのだろうな」

 

「『禁手』か……」

 

イッセーが禁手という単語に反応する。確かにドライグは至れない事がもどかしいと語っていたが

お前もかイッセー。意味も無く力を得ることに、果たして何の意味があるのだろうな。

全ての物事には意味があるとは言え、俺はどうにも引っかかった。

 

引っかかると言えば、バルパーだ。海道さんが言っていたように、愕然としている。

粗方、こちらに聖剣など使えるはずが無いと思っていたのだろう。

しかし実際はこうしてものにしている。海道さん、内心ほくそ笑んでいるのだろうな。

俺もそういう節が無いと言えば、嘘が含まれるが。

 

「聖魔剣だと……バカな、ありえぬ……反する要素が交じり合うなど、ありえないはずなのだ……

 わ、私の研究が間違っていたとでも言うのか……」

 

反発する要素が交じり合う、か。今の言葉にまたしても俺は引っかかりを覚える。

俺とイッセーだ。言っては何だが、俺とイッセーに共通点などどこにも無い。

性格? 真逆だと思う。女性の好み? まぁ、近いは近いかもしれないが、それは関係ないだろう。

赤龍帝? それこそ関係ない。これはイッセーはともかく、俺のは後天的なものだ。

にもかかわらず、俺はイッセーに憑依し

必要とあらばシンクロを強化して能力を高める事が出来る。

まぁ、奴が危惧していることとは全くの別件だろうがな。

 

「こ、こんな混じり物を認めるわけにはいかぬ……!

 聖剣に、忌々しい魔剣の力を封じ込めるなどと!

 美しいキャンバスに、泥を塗りたくる行為など、許してなるものか!」

 

狼狽するバルパーだが、意外にもその意見に同意するものがいた。

 

「……そ、そうよ! エクスカリバーや、聖剣は主より、ミカエル様より賜りし神聖なるもの!

 バルパーのやった事は許せないけど、聖剣を汚していい理由にはならないわ!」

 

「なっ!? い、イリナ! 何を言い出すんだ!?」

 

紫藤イリナ。聞いた話では、必要とあらば悪魔とも結託できる

割と柔軟な思考の持ち主らしいのだが。この期に及んで何を考えている?

まぁある意味、その考えに至るのも正しいと言えば正しいんだが。

 

「ゼノヴィアも言ってやりなさいよ!

 あなただって、デュランダルの正当な持ち主なんでしょ!?

 それなのに、あんなわけの分からないものを手に入れただけで、悪魔が聖剣を振るうだなんて!

 聖剣は、主の加護の賜物なのよ! 曲がりなりにも神父のフリードならいざ知らず

 なんで悪魔なんかに聖剣が使えるのよ!? おかしいわよ!!」

 

「悪魔『なんか』……ね。言いたいことは分からなくもないけど

 少々、私の目の前でそれを言うのは聞き捨てなら無いわね」

 

この現象がイリナにはショックだったのか、現実を受け入れられずにいるのか。

この取り乱し方は、現実を受け入れられないそれに近いものがある。

 

……俺も光剣どころか光の槍を使えるのだが、今は黙っておくことにしよう。

ここで混乱させても、あまりメリットはあるまいて。

 

そう思った瞬間、グレモリー部長がなにやら得意そうにドヤ顔をしている。

……なーんか、嫌な予感がする。

 

「それに、今は悪魔でも光の力を持った武器を運用できるのよ……セージ!」

 

「な、何を馬鹿なことを言っているの!? 自分の眷属が聖なる力を得たからって

 それを正当化するようなデタラメを言わないで!!」

 

予感的中。おい。俺が黙っておこうと思った矢先にそれかよ。

そもそも、俺のは祐斗のそれとはまた話が違うんだが。

ああもう、どうなっても知らないぞ!

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

SOLID-LIGHT SPEAR!!

 

相変わらず光の槍は手で持つと痛いので、実体化させた直後に地面に突き刺している。

そして右手には光の剣を握っている。まぁ……そういうわけなんだ。

その……なんかごめんな?

 

「う……うそよ、嘘よ!! 何で主を愚弄した悪魔が光の力を使えるのよ!?

 コカビエルと敵対している以上、堕天使でもないのに!?

 あ、あなた、あなた一体何者なのよ!? 主の祝福を賜った力を、こんなあっさりと!!」

 

「こ、こいつは驚いたな……私も今まで多くの悪魔と戦ってきたし

 悪魔に堕ちてしまった仲間もいた。

 だが悪魔でありながらこうも光の力を行使する奴は初めてだ……」

 

「ふふっ、どうかしら? これが私の、私の眷属の力なのよ」

 

得意になっているグレモリー部長だが……あー、うん、何と言うか。

「わたしの自慢の眷属」を自慢したいオーラがひしひしと伝わってくるんだけど、うん。

それはまぁ百歩譲っていいとしても、だ。

悪魔社会じゃ強い眷族はそれだけでステータスらしいし?

 

……空気読め。今それ言うべき場面じゃないだろう!?

 

「ちぇっ。俺も部長に『自慢の眷属』ってまた褒められたいぜ。

 だから絶対お前に勝ってやるからな、覚悟しとけよ!?」

 

しかもイッセーはよく分からないライバル心を燃やしてるし。もう勝手にしてくれ。

なんだか訳の分からない空気になってしまったが……

 

「……さない」

 

「ん?」

 

「……許さない。許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない許さない

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……

 

 主を愚弄し、あまつさえ主の祝福を賜った力を己の欲望のために振るうなんて……

 許さない……許せるものですかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ま、待て! イリナ、落ち着け!!」

 

突然の事で、反応が少し遅れてしまった。どうやら祐斗が聖魔剣とは言え聖剣に適合したこと。

俺が光の力を持った武器を操れる事がイリナの逆鱗に触れたのか。

要因としては後者のほうが強いだろうが……。

既にイリナの眼からは正気が失われている。この期に及んで敵が増えたのか!?

ゼノヴィアの制止も振り切り、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を手に俺に向かってくる。まずいかっ!?

しかし俺も、突然の事で身構えるのが遅れてしまった。このままではやられる……ッ!!

 

「……ッ! た、助かった。祐斗」

 

「フッ、セージ君をみすみす斬らせないよ」

 

「ナイスフォローだ、木場!」

 

寸前に聖魔剣を持った祐斗が飛び込んでくれたお陰で、俺は一命をとりとめた。

しかしイリナはまだ攻撃を止める気配が無い。ここで俺は嫌なことを思い出した。

 

――紫藤イリナは、思い込みが激しい――

 

この状態、極めてまずいことになりそうだが……。




原作とは若干聖魔剣に至るまでの流れが変わっています。

・既に聖剣計画の時の同僚に会っている
・幽霊を見る事が出来るのが増えている
・木場自身のメンタル面の変化

能力的に主人公的な意味でなくともセージ無双するには
ここしかないと思いましたので。原作みたく土壇場よりも前に
イザイヤ時代の友人に会っていれば、ここ大きく話が変わると思ったので。

その元ネタの人どおりに夢にまつわる話を少しねじ込みましたが……
少々強引過ぎますね。もう少し丁寧に書ければと思いましたが
今の私には精一杯のようです。
一応元ネタどおりにギタリスト志望で弦楽器使いと交流してセージと接点を持たせて
その辺で地味にクロスさせてますが、そしたら肝心のHSDD成分が薄いと言う。

ま、まぁ原作じゃこの時点じゃただの「木場の聖剣計画時代に殺された人達」
って扱いだったし、そこに個性入れたらこうなったってだけってことで。

そしてイリナに変なフラグが立ちました。
こんな精神状態で次回の爆弾発言を乗り切れるのでしょうか。
これもセージの仕業です。おのれディケイドと言ってあげて下さい。

前書きにもあるとおり、書き溜めがなくなったので
次回投稿はさらに遅くなるかもしれません。

追記。
今回のサブタイの元ネタが分かる奴がブロンティストであることは確定的に明らか
しかし作者は一級廃人どころか貧弱一般ブロンティストである系の話があるらしい
よってこの話はこれでFA以下レスひ必要です

11/10一部修正。
性質的にイリナかなー、と。
再修正。呼び方の変化は誤植しやすいね。


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Soul37. ニーチェは言った。神は死んだ、と。

神は言っている。
この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ない、と。

今回のサブタイはエルシャダイを意識してますが
あの作品テーマを踏まえるにこの内容は……ううむ。

作者はPVしか見てない口ですが設定はかみ合いそうですよね。

それより……
こんな投稿時間で大丈夫か?

>大丈夫だ、問題ない。


「うあああああああっ!!」

 

「……おっと!」

 

聖魔剣と擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の激突。

どうしてこうなったかと言うと、事は数刻前に遡る。

 

聖剣を神聖なものとして捉えていたバルパー・ガリレイや紫藤イリナは

木場祐斗が手にした聖剣使いの因子を合わせて生み出した魔剣――いや、聖魔剣。

双覇の聖魔剣を目の当たりにしたことで錯乱。

バルパーは己の研究に対する自信を失っただけですんだのだが

イリナは悪魔が聖魔剣とは言え聖剣を使う事が許せず。

さらに俺が光の力を駆使した武器を使えることを知り。

激昂し、俺に斬りかかって来たのだ。

 

あまりにも突然の事に俺も対応が間に合わず、こうして祐斗に援護してもらっている状態だ。

 

「体勢は立て直した、助かった」

 

「お安い御用だよ。とりあえず、彼女を落ち着かせないと」

 

「揃いも揃って……汚らわしい悪魔が、主の祝福を、愛を受けた力を振るうなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

SOLID-GUN!!

 

幸か不幸か、今のイリナは以前俺が焚き付けた時と同様我を失っている。

試しに芽留(める)にトランペットを吹いてもらうことも考えたが、周囲に人が多すぎる。

それに、あれは完全に切れている状態だ。あれ以上は上がらないだろう。

となれば、距離をとりつつ攻撃するか。全く、どうしてこうなった!

 

光剣を懐にしまい、祓魔弾の込められた銃をイリナめがけて撃つ。

どうでもいいが、いくら実弾じゃないとは言え人に向けて銃を撃てるようになるとは

俺も嫌な意味で場慣れしてきたな。

 

……だが、祓魔弾の銃というのは、さらにイリナを激昂させるだけであった。

 

「ぐうっ!? 悪魔でありながら悪魔を殺すための武器をまた!!

 そんなに悪魔祓いの武器を使うのなら、それで自分の頭を撃ちなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

やなこった。そもそも、今この身体は俺だけのものじゃないんだ。

鬱陶しい話だが、俺が死ねばイッセーにも悪い影響が出るやも知れぬ。

そう考えれば、俺とてそう簡単には死ねないんだよ。

 

「言ったはずだよ。セージ君は殺させない!」

 

「あんたもよぉぉぉぉぉ!! 悪魔の、悪魔の癖に聖剣を!!

 聖剣は、聖剣は!!」

 

イリナが喋っていることは、段々と支離滅裂になっている。

祐斗が聖魔剣で抑えているが、イリナの武器は擬態の聖剣。

冷静さを欠いているとはいえ、それが却って凶悪な変化を遂げて襲い掛かってきている。

ある時はワニの顎のような形に。またある時はチェーンソー。

はたまたある時は丸鋸。完全に、こちらを殺す気満々だ。

 

しかしその息をつく間もない猛攻を遮るものがいた。ゼノヴィアだ。

イリナの顔面に思いっきり平手を叩きこみ、有無を言わせぬ迫力でイリナを黙らせる。

流石は破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の使い手というべきなのか?

 

「落ち着け、イリナ! 気を確かに持て!

 確かに聖剣を悪魔が振るうのは由々しき問題だが、それは私達が決めることじゃない!

 君だってわかるだろう!? そもそも今はこの悪魔を倒すことよりも

 奪われたエクスカリバーを取り戻すのが先のはずだ!」

 

そう。そもそも彼女らはそれが目的で来日したはずだ。

それから様々な事件が起こり、忘れかけていたが大本はそこだろう。

俺だって、それについては突っ込みを入れたはずだ。

 

「そ、そうね……ごめんなさいゼノヴィア、取り乱したわ」

 

「謝る相手が違うぞイリナ。私も改めて思ったんだが、彼らを祓えば

 今度は私達が冥界から指名手配される。騎士(ナイト)は言うまでもないが

 そこの兵士(ポーン)も反抗的とは言え、リアス・グレモリー……

 サーゼクス・ルシファーの妹の眷属なのだからな」

 

「そうだぞ! ここは部長の領地なんだ、もう少し礼儀をだあだっ!?」

 

またイッセーが調子に乗る。こいつは悪いやつじゃないはずなんだが

どうにもすぐ調子に乗る。どうしたもんだかな。さっきのゼノヴィアではないが

一発殴りつけて話を纏めることにした。

 

「そこまでだイッセー、調子に乗るな。それにこの町はグレモリー領である前に

 多くの一般市民が人間の法に則って平和に暮らしている町だ。皆それを忘れないでくれ。

 さて。俺は怪我など一切していないし、さっさとエクスカリバーの回収……の前に少しいいか?

 

 ……そのバルパー・ガリレイってやつを警察に突き出したい」

 

言うや俺はイッセーからひったくったスマホを使い、警察に連絡しようとしたところで

スマホを取り上げられる。イッセーにではない。では誰だ?

 

「……それには及びませんよ。警察には、私から連絡しておきましょう」

 

「あ、あなたは!?」

 

薮田(やぶた)先生!?」

 

や、薮田先生だって!? ま、まさかこんなところにいるなんて!?

全く、この人は一体何者なんだ!?

俺から取り上げたスマホをイッセーに返すと、何事も無かったかのように

薮田先生は話を進めている。

 

「警察には私の知人がいます。私自身も警察には顔が利きますのでね。

 その男、聞けば指名手配犯のようで。

 何故ここにいるのかまでは知りませんが、私が対処しておきましょう」

 

「ど、どういうことだよ!? 薮田先生は出張のはずじゃ!?

 っつーか、何で学校にいるんだよ!?」

 

「おかしなことを言いますね兵藤君。私はここの教師ですよ?

 教師が学校にいることに、何の不思議があるんですか。

 出張についてなら、今しがた帰ってきたところですよ。

 ……少々、騒ぎはあったようですがね」

 

「それもあるけど今ここには結界を張っている筈よ?

 薮田先生、あなたは何者なのかしら? 場合によっては、理事長に話を……」

 

「結界? 何のことですか? 私に言わせれば、避難騒動があったとは言え

 こんな時間に未成年が出歩いていることの方が問題に見えますがね。

 理事長に話を通す前に、何故あなた方がこんな夜更けに外にいるのか。

 そして、学校の校庭で部外者を交えてオカルト研究部は何をしていたのか。

 その説明をしていただきたいものですね。

 勿論、返答如何では然るべき対応を取らせていただきますよ」

 

ぐっ……正論だ。どう考えてもこっちが分が悪い。

現時点で目撃されている以上、言い逃れなんて効きやしない。

立場が立場だからか、オカ研の面子も心なしか不安そうではある。

 

「……こ、これは……」

 

「あらあら……これは困ってしまいましたわね」

 

「……留年? 停学? どっちにしても困る……」

 

「い、イッセーさん……」

 

一人、自信たっぷりに前に躍り出る。グレモリー部長だ。

この場を言い包める秘策でもあるのか? もしそうならば驚きだが。

だが、今までを顧みるにとてもそうは思えない俺がいた。

 

ふと、グレモリー部長の目が妖しく光った気がした。

それと同時に薮田先生の表情も虚ろになる。

ま、まさか……。

 

「……ふぅ。本当はやるべきではないのだけど、記憶操作をかけたわ。

 これで何とかこの場は凌げるはずよ」

 

「おおっ! さっすが部長!

 いやぁ、あのままだったら俺達どうなっていたことか……」

 

ばっ、バカヤロウだ! アホ主とは思っていたが、ここまでとは!

「これは根本的な解決になってない」って喉元まで出かかったが

俺自身、他に方法があるかと言うと答えに窮する。

勿論、オカ研の面子がなんらかの処分を受けるであろう答えなら出せるのだが。

 

最もそれ以前に、俺は駒王学園の学籍が無いので「関係者以外」の立ち位置になるわけだ。

避難騒動があったお陰で、関係者以外が立ち入っていても問題は無いわけなのだが……

そのお陰で、フリードとか言う変なのが入ってしまったことを考えると、どうにもな。

 

「とにかく、これ以上事態を長引かせるのはよくないわ。

 早いところバルパーを始末して、コカビエルをお兄様に引き渡しましょう」

 

「それと、エクスカリバーの回収も行いたい。早いところフリードから取り上げよう……ん?」

 

ゼノヴィアがフリードの持っていたエクスカリバーを、グレモリー部長が

コカビエルを拘束しようと手を伸ばした瞬間。

さっきまで虚ろだった薮田先生の目の色が元に戻る。

まるで、さっきの記憶操作などまるで効いていないかのように。

ゼノヴィアはその様子に気付いたようだが、グレモリー部長はまだ気付いていない。

 

「……記憶操作、ですか。そうやって都合の悪いことを誤魔化すのが

 あなたのやり方ですか、リアス・グレモリー君。

 私はあなたの担任でもなければ、進路指導の担当でもありませんが……。

 その考え方、いずれは己の首を絞めることになりますよ?」

 

「!?」

 

「……あらあら」

 

「ぶ、部長の魔力が効いて、無い……!?」

 

「こ、これは驚いたよ……」

 

そりゃあ驚くよな。さっきの口ぶりだとグレモリー部長は過去同じようなことをやらかした……

あ、あのときか! アーシアさんが兵藤家に居候する事になった時!

あの時も何かやらかしたのだろう。そう考えれば合点がいく。

そして今回も、同じ要領でやろうとしたんだろうが……

 

多分、相手が悪かったんだろうな。

どういうわけだか分からないが、この人はタダモノじゃない。

何せその気になれば魔王でも赤裸々に出来る、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でも読み取れないのだ。

 

「な、何者なのよあなたは一体……わ、私の領地に、学校にあなたみたいなのがいたなんて……」

 

「大方、傀儡相手ならば自分の意見を簡単に通せると思ったのでしょうが……

 私は自由を奪われることとか、独裁政権とかは嫌いでしてね。

 まぁ、私の機嫌を損ねたからって進路に影響するようなことはありませんが……。

 私の認識や記憶をいい様に弄ぼうとしたその報いは

 いずれ受けてもらうことになりますよ。ククク……それにですね」

 

そう言うや、薮田先生の左手には光る辞書のようなものが展開されていた。

何故だか既視感を覚える存在だが、それが何なのかは俺にも分からない。

そして一瞬、空が、いや空間全てが真っ白になったような錯覚を覚えた。

皆同じような感覚にとらわれたのか、きょろきょろとあたりを見回している。

 

「『何時から』駒王学園はあなたのものになったのですか? リアス・グレモリー君。

 駒王町にしても同じです。未成年である以上、実際に政治を執り行うことはおろか

 選挙権をはじめ参政権はまだ与えられないはずですが?

 そもそも、学園はそこに通う生徒と教師一人ひとりの。町はそこに住む人々一人ひとりの。

 それぞれの物です。誰か一人のものではありませんよ。それともあなたは

 その一人ひとり全ての命さえも自分のものとおっしゃるつもりですか?」

 

「この駒王町は、正規の取り決めで私が管理することになっているわ!

 たとえ先生でも、その決議に異議を唱えることは許さないわ!」

 

薮田先生の言っていることはまぁ、正論である。

しかし、常日頃からこの一帯を、学校を自分の縄張りとまるで犬のように主張している

グレモリー部長には、聞き捨てなら無い言葉だったのだろう。

薮田先生に食って掛かっているが、俺はその取り決めとやらは初耳だ。

まさか俺が思ったとおりに駒王町の町長がグレモリー部長の契約者だったりするのか?

 

「……私はただ疑問に思っただけですがね。まぁ、仮に取り決めがあったとしましょう。

 しかし……いえ、これ以上は話が長くなりますね。

 リアス・グレモリー君。この件については後日、職員室に出頭してください。

 出頭の無い場合は『教師にも秘密にせねばならないこと』を

 生徒が一存でこの学校で行い、駒王学園の生徒としてあるまじき行為をしていたと見なし

 オカルト研究部の廃部を求めるものとしますが、よろしいですね?」

 

「冗談じゃないわ! オカルト研究部の廃部だなんて!」

 

「何を勘違いしているんです? 後ろめたい事が無ければ、今までどおり活動できるんですよ?

 単純に私を、教師陣を納得させるだけの事実があればいいのです。

 ああ、記憶操作だとかウソの活動報告だとかは通じませんよ?

 私にそれが通じないことは、さっき理解いただけたと思いますしね。ククク……」

 

歯噛みしているグレモリー部長を尻目に、薮田先生は電話をかけた後に

バルパーを起こそうとしていた。

 

「さて……バルパー・ガリレイと言いましたね。

 私は警察にも伝手がありましてね。あなたが犯した罪についても、既に知っているのですよ。

 ですので、私にはあなたを警察に突き出す以外の選択肢が存在しないのです」

 

「ぐっ……わ、私に警察に出頭しろと言うのか……」

 

「ククク……今私の携帯から警察をこの場に呼びました。

 間もなく駆けつけることでしょう。それもただの警察ではありません。

 こうした悪魔だの聖剣だのと言った超常事件の専門部署を呼んでいます。

 言い逃れは出来ませんよ? 塀の中で己の行いを見つめなおしてはいかがです?」

 

超常事件の……ああ、超特捜課(ちょうとくそうか)か。確かに超特捜課と薮田先生にはパイプがあった。

そういう意味でも、超特捜課を呼ぶのは理に適っているのだろうか。

 

「わ、私もここまでか……ククク、ハハハハッ……

 聖剣を追い求めた挙句が、卑しき犯罪者とは! どこだ! 何処で私は道を誤ったのだ!?」

 

薮田先生に起こされたバルパーが、突如として笑い出す。

観念したのだろうか、自分のおかれた立場に絶望したのだろうか。

いずれにせよ、祐斗や海道さんの経緯を知っている以上、全く同情の念なんて沸かないが。

 

「そうか、そこの騎士か! 悪魔でありながら聖剣にも適合した、貴様の存在が!

 それを生み出したのは誰だ!? 私か、私なのか!? そう、私だ!」

 

「……て、てめぇっ!」

 

「イッセー君、もういい……彼は終わりだ」

 

狂い始めたバルパーを殴りつけようとイッセーが握り拳を作るが

それを祐斗が制止している。殴りたいのはお前じゃないのかとも思ったが……。

ああなっては、話が変わってくるだろうな。

 

「歪んだ聖剣、聖魔剣を生み出してしまったのも私だ! 私の研究が生み出してしまったのだ!

 そう、私は聖剣を生み出し、私だけの聖剣を作るはずだったのだ!

 だがこの世界の光と闇、聖と魔のバランスが崩れた事で世界は歪んだのだ!

 そう! 私の研究は間違っていなかった! 世界が歪んだことで、私の研究も歪んだのだ!」

 

「世界が!? 主に祝福された世界が歪んでいるなんて、ありえないわ!」

 

光と闇、聖と魔のバランス? 一体何のことを言っているんだ?

イリナは神に祝福されているはずのこの世界が歪んでいるなど、ありえないと断じているが。

しかし、どうも俺にはこれが狂人の戯言には思えない部分があった。

 

「おのれ魔王! おのれ神よ! よくも私の研究を台無しにしてくれた!

 貴様らが先の戦争で滅びさえしなければ、聖と魔のバランスは保たれ

 私は唯一無二の聖剣と、それを使う者を生み出す事が出来たのだ!

 下らぬ戦争で滅びる程度の下らん存在が、よくも私の研究にけちをつけてくれた!!」

 

「な……じ、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 

バルパーの口から放たれた驚きの証言。

 

――神は滅んだ。

 

まぁ、俺には然程衝撃的なことではないのだが

曲がりなりにも聖剣を振るうために集められた祐斗。

現在進行形で神を崇拝しているゼノヴィアやアーシアさん。

そして一応は神と敵対する者であるグレモリー部長。皆に一様の衝撃を与えていた。

 

たとえそれが、狂人の戯言だったとしても。

 

「そうだ……神が滅びたからこんなことになったのだ!

 おのれ……そのことにもっと早く気付いていれば、違った研究を生み出せたものを!!

 私の研究こそが、新たな聖剣を、新たな神を生み出せたものごぼぉっ!!」

 

狂人の幕切れ。それは、あまりにも呆気ないものだった。

突如として現れた刃が、バルパーの心臓を的確に貫いていた。

そして、それをやったのは……

 

「半分正解で半分不正解だ、バルパー」

 

光の槍が、バルパーを貫いている。

俺以外で、それを使えるやつは今この場に一人しかいないはずだ。

それも、さっき倒したはずの奴。

 

「やはり、あの程度では倒せなかったのね……コカビエル!!」

 

「当たり前だ。あの程度で倒せるのは精々中級の堕天使だな。

 まぁ、今の人間が俺の予想を上回っていたことだけは褒めてやるがな。

 神の不在を知ったバルパーにせよ、俺に不意打ちとは言え痛手を負わせた人間の武器にせよ」

 

「はん……ぶん……はず、れ……は……どう、い……!」

 

「言ったとおりだ。魔王も神も、前の戦争で滅んだ。それはあってる。

 だが……いや、死に行くお前が知らずともいいだろう。

 地獄で吹聴されても困るだろう、なぁ?」

 

「……それはひょっとして、私に言っているんですか?」

 

崩れ落ちたバルパーを踏みつけつつ、何故かコカビエルは

薮田先生の方を向いていたような気がした。

わからない。コカビエルと薮田先生に、どういう関連性があるんだ?

だがそれよりも。コカビエルが動いたと言うことは、また戦場になる!

 

「それにしても聖剣使いに聖剣計画の生き残りども。

 お前達は信仰する対象を失っても尚戦い続けるか。実に滑稽だ。

 そのサマを見ていることは、ここでの戦いと同じくらいに面白い見世物だったぞ?

 そして元聖女の魔女。ありもしないものを信仰する……

 いや、紛い物の偶像を信仰する。その気分はどうだ?」

 

「えっ……?」

 

「ば、バカな……」

 

「な、何を言っている!?」

 

……あちゃあ。狂人の戯言を肯定する形でカミングアウトされてしまったか。

士気に関わることだし、言っても平行線になるのが関の山と俺は黙っていたんだが……。

最も、俺は「唯一無二の神を最初から信じていない」のであって、彼らとはまた話が違うのだが。

そもそもこの国ではその辺の草むらや便所にだって神様はおわすんだ。

それがいいのか悪いのか、は俺の知ったことではないが。

 

「滑稽だ、実に滑稽だ! ただ機械的に与えられるものを

 『愛』と信じて憚らぬその盲目的な愚かさ!

 如何様にでも塗り替えられる『正義』を信じ剣を振るうその盲目的な愚かさ!

 貴様らは、ハリボテにプログラミングされたものにしたがって、今まで生きてきた――

 

 ――天使どもの家畜に過ぎなかったというわけだ! ハハハハハハハッ!!」

 

……これは酷い。言っていることには大まかには同意できるものの、そこまで言うか。

そりゃあ俺だって所謂聖書の神――四文字(Y・H・V・H)を信仰何ざこれっぽっちもしてない。

だが、それを糧に生きてきた人たちの人生を愚弄するつもりもなかった。

だがコイツは、それをやってのけている。

事実、愕然とした者は多く、一部は戦意さえ失っているほどだ。

 

「う……嘘よ……神様が……主が……そんな……」

 

「つまらん……一人、脱落した奴がいるな。

 おい、誰でもいいから片付けておけ。その目障りな塵を」

 

「い、いかん! イリナ、しっかりしろ!

 くっ、コカビエル! 根拠のない詭弁はやめてもらおうか!」

 

一際信仰心が強い――思い込みが激しいとも言うが――紫藤イリナが

真っ先にコカビエルの言葉を真に受けてしまったようだ。

その目には生気は宿っておらず、膝をつき崩れ落ちている。

 

「詭弁……か。お前達と違い、俺は先の大戦を実際に戦い生き抜いてきたんだがな?

 いわば、俺は現場にいたわけだ。たとえ俺の証言が嘘だとしても

 お前達にそれを証明する術はあるまい? 悪魔の証明と言うやつだ。

 それより俺は塵を片付けろ、と言ったんだ。気が利かない連中だな。

 お前達がやらないのならば、俺がやってやろう」

 

「くっ、イリナ! 目を覚ませ、イリナ!!」

 

そんなイリナをコカビエルは容赦なく狙っている。

正直、あれを防ぐ手立てはない、どうすればいい!?

ところが、コカビエルの右手に収束するはずのエネルギーは、全く集まらずに霧散している。

それと同時に、薮田先生がイリナの元に駆けつけている。ま、まさか?

 

「……ただ事ではないことは分かります。彼女は私が連れて逃げます。

 私の伝手を通じて、自衛隊をこの場に派兵してもらいます。

 皆さんも、早くここから逃げなさい。いいですね?」

 

「えっ、逃げるって……」

 

ま、まあ逃げるのが当然の選択肢だわな。薮田先生の言っていることは間違ってない。

ただ……何かが引っかかる。

さっきの現象といい、都合よくコカビエルの攻撃が阻害されていることといい。

薮田先生は本当に何者なのだろう。などと考える間もなく、既に薮田先生は逃げ切っている。

教師が我先に……と思いもしたが、既に一人抱えている。

俺たちは自力で動けるが、既に正気が無く自力で動けない

イリナを安全な場所まで運ぶのも必要かもしれない。

 

「……チッ。こんな芸当が出来るのはあいつしかいない。

 まさか言った矢先に不正解の原因に出くわすとは思わなかったがな……

 面倒な結界を張ってくれる。だが、この手足は普通に動くと言うことを

 忘れてもらっては困るな!」

 

コカビエルが徒手空拳で俺達を倒そうと突っ込んでくる最中、突如として空気が重くなる。

それにあわせ、何やら重いムードの曲が流れている。

瑠奈のバイオリンか、まさかコカビエルにも効くとは思わなかったが。

 

「……みなさん、ここは一度逃げましょう」

 

「観客は俺様が逃がしておいたぜ、よくわからねぇがありゃヤバイのだけはよくわかる!」

 

「ちっ……どいつもこいつも。いくら俺が寝起きで調子が悪いとは言え

 こうも不覚をとるとはな……まぁいい」

 

ナイスアシスト、海道さん。

あのウォルベンとか言う悪魔の言ったとおりの事態が起きようとしているのか。

ん……いや、ちょっと待て。今薮田先生は自衛隊を呼ぶって言ってたよな。

そこに冥界の悪魔軍が来たら……やばくない?

 

じょ、冗談じゃない! 本気で戦争になる!

この町を、本気で焼き払うことになる!

どうする、どうすればいいんだ!

俺には、いや多分ここの誰も、そんな戦争状態を止める術を持っている奴なんかいるのか!?

 

「薮田先生も余計なことをしてくれたわね……自衛隊を呼ぶだなんて。

 そんなことをしたら、事態は悪化の一途を辿るばかりだわ。

 自衛隊に、人間にコカビエルを止める術なんて無いわ。

 

 ……皆。私達がここで逃げたら、誰もコカビエルを止めることは出来なくなってしまう。

 私達の学校を守るためにも、ここでコカビエルを倒すわよ!」

 

結局そうなるのか。逃げる算段を立てている自分が情けない、と思わなくも無いのだが……。

だがそれが本当に情けないのは、やれば出来る状態から逃げることに対して、だと思う。

どうにも出来ないことから逃げ出すのは、それは必要なことではないかとも思うのだが。

 

今回の案件は、言うなればはぐれ堕天使と悪魔の些細な――

当事者にしてみれば全く些細ではないのだが――小競り合いでもなければ

無関係な者を多数巻き込んだ人騒がせなお家騒動でもない。

冗談抜きで戦争にもなりかねない、いやもう一歩手前の状態だ。

 

戦争はどちらかと言えば悪ではあるが、国と国との間で必要な

いわば必要悪の交渉手段であると俺は思っている。

それを個人のレベルでどうにかできるなど、俺にはとても思えない。

だから冥界は軍を動かし、その尖兵としてウォルベンがいた。

そしてここは日本だ。日本国の危機ともなれば国を守る自衛隊は動く。

二つの異なる組織に属する軍ないしそれに準ずる組織が動くと言うのは

人命救助でもない限り、戦争のそれと変わらない状態じゃないか。

 

俺が生まれるずっとずっと前に戦争は確かにあった。

けどまさか、俺が生きてる間にこの国で戦争が起きるなんて、夢にも思わなかった。

体験などしたくなかった。ただそこにあったと言う事実だけでよかった。

 

「了解っす部長! 俺は何時だって部長のために戦いますよ!」

 

「そうね。私としても、堕天使は根絶やしにしたいもの。

 それがたとえ、上級堕天使であっても……いえだからこそ、ですわ」

 

妙に戦意の高いイッセーと姫島先輩だが、何やら足に地のついていない感じがする。

神の不在を知らされてショックを受けたアーシアさんに聖剣使いの二人、そして祐斗。

皆とは違う形で、俺は戦意が折れかけていた。

 

――このままじゃ、皆死んでしまう。戦争が、始まってしまう!




原作のコカビエルは戦争起こすために一連の騒動を起こした戦争狂でしたが
本作ではコカビエルがそこにいるだけで勝手に戦争状態に突入しそうです。

サーゼクスの意向に反して駒王町をコカビエルごと焼き払おうとする冥界軍。
日本国の領土である駒王町を守ろうとする自衛隊。
原作では結局冥界からの派兵は行われずに収拾つきましたけどね。
フィクションでは定番・お約束の展開だったと思います。

けれど本作はそうしたことに割と喧嘩売ってるスタンスですので
果たしてどうなることやら。お約束で終わるかもしれませんけど、ね。
サーゼクスが陣頭指揮を執れば最悪の事態は避けられそうですけど
それはそれでコカビエル歓喜で大災害になりそうですし。


薮田先生。
性格造詣的には某重力の魔神を操るメタ・ネクシャリストを意識してます。
ネーミングはまた別のところから持ってきていますが。
今までも造詣元並のチートスキルを発揮していましたが
今回さらに

・コカビエルに動じない
・何故か結界張った上殺人鬼や凶悪怪獣の闊歩していた学校にいた
・記憶操作が通じない(神器らしきものを持っている)

と言うただの人間にはありえないチートスキルを発揮してます。
一体何者なんだ(棒


セージがやたら戦争状態を怖がっているのは
子供の頃に見た某戦争アニメがトラウマになっているとか、いないとか。

……ちょっとトラウマ植えつけるぐらいで丁度いいんですよ、ああいう題材は。

11/17訂正。
「日本では」戦争は起きてませんよね。つまりそういうこと。


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Soul38. 神は、そこにいますか?

やっとPCが復旧しました。
何故か4Gあるはずのメモリが2Gしか認識されていなかった罠。
それでwindows updateなんかやったらとまるわな……

今回は(も?)SEKKYOU要素があります。
苦手な方は即座にブラウザバック。

いまさらですけどね。


どいつもこいつも、何を考えているのだ。

ここ最近、そんなことばかり思っている。

 

己が欲望のために俺のみならず俺のダチまで殺そうとした奴。

ただの虚栄心のために魔王の妹に手を伸ばそうとした奴。

自分の立場に不平を漏らすだけで何も変えようとせず、結果として最悪の事態を招いた奴。

そして今度は、戦争を起こしたいがために態々戦争の起きていない国を狙ってきた奴。

 

最悪だ。どいつもこいつも最悪だ。せめてもの救いは、こいつらが全員人間じゃないってことか?

いや、だからこそ最悪な連中なのかもしれないが。

同情の余地があるのは二番目くらいだ。

それに関してだけは、よその国の仕来りに口出ししてしまったので

いくら命令とはいえ、余計なことをしたとは思っている。

だがそれ以外は全く許せないことばかりだ。一番目は言わずもがな。

三番目は大した事ないように見えるが、傍から見ていると結構イラつかされる。

四番目だって論外だ。何でわざわざ戦争の起きてないこの国なんだ。

よその国だからいいって問題でもないが。

 

「――そうだ、俺が望んだ戦争だ。今度こそ、今度こそ我々堕天使こそ至高の存在であると

 知らしめるときがきたのだ! 腰抜けのアザゼルなどに頼っていられるか!

 悪魔など、人間の欲望がなければ存在すらできぬ脆弱な連中!

 天使など、ありもしない神を崇め尻尾を振るだけの惰弱な犬の集まり!

 神を捨て、堕ちただと? 違うな! 神という下らぬ呪縛から解き放たれた

 我々堕天使こそが、真なる強者! あらゆる世界の頂点に君臨するにふさわしい存在なのだ!」

 

「それを知らしめるために、私達に戦いを挑み、戦争をもう一度起こすというの?

 ……ありえないわ。今度戦争が起きたら、私達悪魔どころか

 三大勢力全ては二度と立ち直れなくなるわ」

 

「負け犬の遠吠えはみっともないぞリアス・グレモリー。確かに戦争はあのまま続けば

 俺達が勝っていた。だがだからこそ、俺に言わせれば引き際を誤ったとしか言えんのだ!

 

 ……レーティングゲーム、だったか? お前ら悪魔の下らぬ児戯として繰り広げられている

 模擬戦という名のお遊戯。それが浸透している世界に住むお前ならわかるだろう。

 後一歩で勝利を収められたところを、水入りにされたその気分は」

 

しかも今回の事件は、全員狂っているというおまけつきか。

快楽殺人鬼に、マッドサイエンティスト。さらには狂信者に戦争狂。

ここまでくると、何が正気で何が違うのか、全くわからないな。

 

「……堕天使風情が、悪魔の由緒正しき祭典を愚弄するな!」

 

「何が由緒正しき、だ。戦争で消耗した悪魔が力を蓄えるためにセッティングした

 ただの演習をそれっぽく言っているだけではないか。

 俺はな、そんな演習ではなくそれができる前からある実戦を勝ち抜いているんだ。

 さっきから言っているとおり、お前たちでは話にならん。サーゼクスを本気にさせるために

 お前たちにはここで死んでもらう、ただそれだけだ」

 

さっきから雄弁を弄するコカビエルに対し、負けじとグレモリー部長が食いつくが

話がかみ合っていないどころか、どう見てもこっちの不利にしか思えない。

はっきり言って、年季が違いすぎる。

皆、特にグレモリー部長の実戦経験がどれほどかは知らない。

だが、どう見積もってもコカビエルと対等はおろか、一矢報いるほどさえの

実戦経験すら無いだろう。通用するのならば、白旗を揚げるべきかもしれない。

 

しかも、こっちは戦意を喪失したのが何人かいる。

祐斗にアーシアさん。それと共同戦線が生きているならばゼノヴィア。

これら三人とも、本来の実力を発揮できる状態ではない。

そもそもの経験が圧倒的に不足している上に、本調子ではない。どうしろと言うのだ。

聞いてもらえるとは思って無いが、俺はグレモリー部長に対し言うだけ言うことにした。

 

「グレモリー部長。いくらなんでも分が悪すぎます。ここは白旗を揚げるなりして

 時間を稼いだほうが賢明ですな。駒王町にせよ、この学校にせよ。

 命あっての物種です。正攻法どころか、策を弄しても勝てるかどうか」

 

「冗談言うなよセージ! やる前から逃げる算段とか、俺は嫌だからな!

 そもそも、あいつには一撃食らわせられたんだ! 今度だってやれる! ですよね部長!」

 

「……イッセー、よく言ったわ。さすがは赤龍帝ってとこかしらね。

 けれど相手は上級堕天使。油断は禁物よ!

 聞いてのとおりよセージ、ここでコカビエルを倒すわよ!

 小猫、セージにもらった武器はまだ使える? 使えるなら、それを使って総攻撃よ!」

 

「くっ……御意。しかしながら後ろの三人も気がかり。

 俺はまず後ろの三人をどうにかしますので、とりあえずそれまではお願いします」

 

「それもそうだな……そっちは頼むぜ、セージ!」

 

……まぁ、そうなるか。俺だけ逃げるのもそれはそれで夢見が悪い。

仕方ない、何とか生存を最大目的とした作戦を立てるしかないか。全く。

あとイッセー。お前結構無責任だな。今に始まったことではないにせよ、だ。

 

それに、もし万が一逃亡してこの町が焼かれるのもそれはそれで、だしな。

そして何より夢見が悪いのは、後ろの三人についてだ。

彼ら彼女らを動かさないことには、俺も気がかりで戦闘に集中できない。

 

「聞いてのとおりだお三方! 俺はグレモリー部長じゃないからお前たちに命令する権利は無い!

 ゼノヴィアに至ってはそもそも命令系統にすらいない!

 だからお前達が戦うか、逃げるかは自由だ! だが選ぶならどちらかにしてくれ!

 ここでうずくまって死ぬのも、逃げ出そうとして死ぬのも、戦って死ぬのも同じかもしれない。

 けれど、それは今の命、自分自身の否定であることも理解してくれ!」

 

「主を信じぬ不信心な君にはわからんだろうさ。今の私の気持ちは……」

 

「セージさん……私は……どうしたら……」

 

うーむ。信じるものが壊れるってのは結構きついものがある、と何かで聞いた気がするが。

俺だって自分の信じているものが実は違ってた――

なんてことをすぐさま受け入れられるかというと、それは自信が無い。

それを今彼ら彼女らは突きつけられているんだ。

 

……まともに戦える状態じゃないよな。けれど、けれど今動かないとお前らは死ぬんだぞ!

 

「ああわからんね。生憎だが俺はガキの頃からその辺の草むらにも

 神様がおわすって宗教観で育ってきたんだ。

 だから俺に言わせば唯一神(Y・H・V・H)も便所の神様もおんなじ神様だ。だがそれ以前に、だ。

 

 俺は神様が死ぬ、なんて教わったことは一度も無い。神様ってのは概念だ。

 そこにいると思えばそこにいる、草むらにも便所にも神様がおわす、って俺に教えてくれた人は

 そういうことを言いたかったんだろうと、今思うがな。

 それとも、あんな詭弁一つで心が揺らぐほど、お前たちにとっての神は軽い存在なのか?

 お前達にとって、神は偉大な存在ではなかったのか?

 何故、そんな簡単に神が死んだと言うことを鵜呑みにできるんだ?

 何故、神はそこに――傍にいると信じることが出来ないんだ?」

 

「そ、そんなことはありません! 神様が、主が私にくださったこの神器(セイクリッド・ギア)は、主が私に

 『汝隣人を愛せ』と下さったもの、私はそう思っています!

 もちろん、そのせいで色々な事がありましたし、ゼノヴィアさんが言うようなことも

 結果としておきたかもしれません。けれど……それでも私は、私の隣人を愛し続けます!」

 

「なるほどな。あの時私が思ったこともやはり半分は間違っていなかったか。

 私とて、私が剣を振るうのは悪しきものに苦しめられている者達を救うためだ。

 私はそれを、主が私に下さった力、使命だと思っている。

 だが……それを主がいないからなどという理由で放棄するなど……やはりできない!」

 

ああ、やはり。アーシアさんはそれなりに知っていたが、ゼノヴィアにしたって

決して軽い気持ちによるものではない、と思っていた。少々向こう見ずな気もするが

まぁ、それは今はどうでもいいだろう。

彼女らは彼女らで、神との向き合い方を盲目な物にするべきではないと思っていたのだろう。

それがわかってるなら、それでいいさ。奴が言うようなことにはなるまいよ。

 

「そうだね、君らの言うとおりだ。それに、僕らは今ここにいる。生きているんだ。

 神様が死んだとかじゃなくて、僕達が生きていることを、無駄にしちゃいけない。

 そうしなければ、海道達に会わせる顔が無いからね」

 

「そういうことだ。戦うにせよ逃げるにせよ、こんなところで無駄死にはよくない。

 それは今まで俺達を生かしてくれた色々な人に申し訳ないんじゃないか?

 ……もちろん、お前たちが言う『神様』にもな。

 

 それとゼノヴィア……さん。いつぞやは不躾な発言をしてすまなかった。

 お国柄か何かは俺にもわからないが、どうにも宗教のために命をかけられる奴、と言うと

 昨今世間を賑わせているテロリストが浮かんでしまうものでね。

 そちらの事情や心も知らずに、迂闊な事を口走った。本当に申し訳ない」

 

「私こそ、熱くなりすぎた。私もどうも昔から頭に血が上りやすい性格らしくてね……」

 

俺の言いたいことはわかってくれたみたいだ。はっきり言って、ゼノヴィアさんあたりには

耳を貸してもらえるかどうかさえ危うかったんだが。

俺ごときの声が耳に入るほど、滅入っていたのかもしれないが。

……もしそうだとすると薮田(やぶた)先生と逃げたイリナの方が気がかりだが

そこは薮田先生に任せるよりほか仕方ないか。

 

……で、だ。俺達はどうする? 戦うか、逃げるか。

 

「皆、立てるな。ここからが本題だ。グレモリー部長らはコカビエルを倒すつもりらしい。

 俺は撤退を具申したんだが、却下された。しばらく後に魔王軍が来る手筈になっているが

 恐らくそれまでの時間はもう無いだろう。

 薮田先生が言うには自衛隊もこっちに来るかもしれない。

 

 そして……これの情報源は訳あって明かせないし

 グレモリー部長にも黙っていて欲しいんだが……。

 魔王軍は、この町ごとコカビエルを焼き払う算段だ。

 そうなれば最悪自衛隊ともぶつかることになる。

 コカビエルにしてみれば笑いが止まらないだろうが

 ここにいる者達にしてみれば地獄絵図だ。これらを踏まえた上で

 コカビエルと戦うか、ここから逃げるか。選んで欲しい」

 

「……戦え、とは言わないんだな?」

 

「言ったぞ。俺は頼みこそすれ命令できる立場にいないし、そもそもそちらは

 俺達とは別の命令系統の存在じゃないか。せっかく助かっている命なんだ。

 無駄に散らすよりは、もっと有意義に使って欲しいと思うのが人情だと思うんだが。

 ……お前悪魔だろ、という突っ込みはなしで頼む」

 

祐斗とアーシアさんは……もし万が一逃げたらグレモリー部長に対する背信行為という事で

ありえないとは思うがはぐれ扱いされてしまうかもしれない。

まぁ、俺のそれよりはマシだと思いたいが。

 

「つまり、魔王軍とコカビエル、自衛隊の三つ巴になる危険性が非常に高いわけか。

 部長は人的被害を出さないために動いているんだろうけど、確かに分が悪いね。

 セージ君。僕らが全力で挑んだとして、倒せる可能性はあるかい?」

 

「意地の悪い質問をするな。コンピュータープログラム相手じゃないから

 あらゆる事象の発生する可能性はゼロではないが……。

 よくて犬死、としか言えないな。少しでも多くの人をこの町から避難させるほうが

 まだ現実的だ。理由付けが難しいけどな。それにそのプランを実行に移した場合

 ここで戦っているグレモリー部長らは確実に倒されるだろうよ。

 避難誘導している間、持ちこたえられるとは到底思えない」

 

不意打ちからの総攻撃で何とか軽いダメージを与えた程度の相手だ。

真っ向から挑んでの勝ち目なんて計算したくも無い。

そんな無謀をやるくらいならば、まだ少しでも多くの人を助けるほうに力を注ぎたいものだ。

 

「少しでも多くの人を助けるためにリアス・グレモリーを見殺しにするか

 あるいはリアス・グレモリーに付き合って犬死するか、か。

 仮にも君は眷属だろう? そんなプランを立てていいのか?」

 

「ああ。グレモリー部長が死ねば俺はある意味自由の身だ。

 そりゃまあ、夢見は悪いけどな。まぁこれは冗談だとしても……。

 この町には俺の家族もいれば、悪魔にとって大事な契約者もいる。

 そして何より、何も知らない人達が平和に暮らしているんだ。

 それを訳のわからない連中に蹂躙されるのは、はっきり言って不愉快だ。

 町はいくらでも復興できるが、人間は……命は一度消えれば終わりだからな」

 

「そ、そうかもしれませんけど……そうだ! 生徒会の人たちに頼めば……」

 

生徒会か。人命救助の名目で動いてくれるだろうか?

話では、この学校に結界を張っているとの事だが。

だが生徒会に話を振るということは、グレモリー部長を無視することになるはずだが。

俺はかまわないが、そうして動いたとしてシトリー会長が動くか?

 

「そのプランでやってみるかい? 僕とゼノヴィアで、部長の援護に入る。

 セージ君はアーシアさんと、生徒会の人たちの協力を仰いでくれないか?」

 

「それは構わないが……祐斗、ありきたりな約束だが死ぬなよ?

 それからゼノヴィアさんも。これ以上被疑者死亡の案件が増えたら、柳さんらが頭を抱える。

 

 ……それに、眷属仲間ほどじゃないにせよ見知った相手が死ぬのは、やはり夢見が悪い」

 

「……君は私を心配しているのか、それともバカにしてるのか?」

 

俺はゼノヴィアさんにジョークを飛ばした後、グレモリー部長に改めて意見具申する。

完全に真っ向から対立している意見だが、誰かが言わねばなるまい。

画一された意見の元に動く組織ってのは、ある意味理想的だろう。

だがそれは、同時に危険な組織でもある。万が一がおきたとき、誰も止める者がいないのだ。

 

過去、イッセーは一度グレモリー部長に逆らった。だがそれは、ただ一人のためだった。

姫島先輩は、グレモリー部長に意見できる数少ない人材だとは思う。

だが今は、どういうわけだかとてもそれを期待できそうも無い。

少なくとも、俺が思うそれとは正反対の方向だ。

となれば、これも思い上がり甚だしいのかもしれないがやるしかない。

 

「グレモリー部長、話はまとまりました。万が一に備え、この町の人たちを避難させます。

 口実はこちらでなんとかします。原因を断つのも必要ですが、人命も大切です。

 よって俺がコカビエルとの戦いの援護に入るのは不可能です。アーシアさんも同様です。

 現時点でアーシアさんを前線に出すのは非常に危険です。

 アーシアさんと、生徒会の人たちの協力を仰いだ上で避難誘導に入ります」

 

「その代わり、私が力を貸してやろう」

 

「セージ君が戻ってくるまで位は、何とか持たせて見せますよ」

 

「……そこまで具体案を出されたらノーと言えないじゃない。

 けれど、なるべく早く戻りなさい。

 イッセーの力は、あなたがいることで真価を発揮するのよ?」

 

……またイッセーか。ふん。俺は俺だと、毎度言っているんだがな。

ただ今回は確かに俺達の力を合わせたほうがいいのに変わりはあるまい。

まぁ最も、それとこれとは話が全くの別なんだがな。

 

「死ぬ相談は済んだか? 俺としてはいくらでも待ってやるぞ?

 なんなら、魔王軍が来るまで待ってやってもいいんだぞ?」

 

「それには及ばないわ! 魔王様が来る前に、あなたを消せば済むことよ!」

 

グレモリー部長はコカビエルに啖呵を切っているが、彼我戦力差を考えると

どうしても滑稽に映ってしまう。イッセーはなにやら感激している様子だが。

まぁ、あれでも一応同じ釜の飯を食ったこともあるし、まぁそれなりに見知った相手だ。

死なれるのはやはり夢見が悪い。なるべく早く済ませて、戻ることにしよう。

 

「セージ! アーシアに手出したらぶっ飛ばすからな!」

 

バカが。今それを気にしていられるような状況か? 本当にこいつは空気を読むのができないな。

ここにアーシアさんを置いておくほうが、よほど危険だろうが。

まさかお前は、自分のそばがアーシアさんにとって一番安全だなどと勘違いしているのか?

それは色々な意味で危険だと思うんだがな。答えるのもバカらしいので適当に会釈を返す。

 

「アーシアさん、今は急ごう」

 

「わかりました、皆さんも気をつけて!」

 

さて。とりあえず俺の目的はほぼ達成したも同然か。適当な理由をつけて

アーシアさんを避難誘導係にすれば危険には晒されまい。

イッセーなら、そうしたと思うんだがなぁ。

ともかく、俺達は結界を展開しているシトリー会長らの元に向かうことにした。

 

――――

 

「……なるほど。それで私達の元に来たと」

 

「はい。魔王軍のみならず自衛隊まで来ては、この町そのものにも被害が及びかねません。

 自衛隊が避難誘導は行うでしょうが、その手伝いを行うべきかと思うのです。

 町一つ分の避難誘導となれば、相当に大掛かりなものになるはずです」

 

「ははーん。さすがフェニックスから逃げた奴は言う事が違うぜ。

 我が身可愛さに主や仲間を見捨てて、それどころかそれっぽい理由までつけるとはね。

 しかもアーシアさんまでダシにするとは、中々阿漕な奴だなぁ? ん?」

 

くっ。やはりこいつ――匙に嫌味を言われたか。まぁ俺も結構言っている方だと思うので

こればかりは因果応報と受け取っておくか。実際、我が身惜しさも無くはないし。

それに、今ここでこんな奴と低次元な争いをしている暇は本当に無いんだ。

魔王軍や自衛隊が本格的に動き出す前に、打てる手は打っておきたい。

 

「違います! セージさんは、この町に住んでいる人たちの事を心配しているんです!

 私だって部長さんやイッセーさんは心配ですけど……この学校の人たちに何かあっても

 私は……私は……っ!!」

 

「なるほど。リアスはあれで直情的ですから、周囲を見渡すタイプの人材は貴重ですね。

 たとえリアスに理解されなくとも、結果としてリアスの益につながる。

 この町の人々がこんな事件に巻き込まれたとあっては

 リアスの統治能力を問われかねませんしね。

 わかりました。副会長の椿姫に、避難活動の支援指揮を取らせます。

 私自ら出向きたいところですが、こちらの結界も破るわけには行きませんし」

 

「な……どうしてこんな奴のいうことをほいほい聞くんです、会長!」

 

「サジ。前にも言いましたよね? 勝手な憶測で物事を語るほど

 視野の狭い眷属を持った覚えは無いと。

 確かにコカビエルはリアス眷属の力を全て結集させても勝つことは難しいでしょう。

 しかし、その前にこの町を、いえ集団を統治するものにとって大事なことは何だと思いますか?

 

 ……治める場所に住まう者達の心、です。

 その皆の意思を蔑ろにしては、それは善い主とは言えません。

 これは私が生徒会長というポストにあって、常に心がけていることでもあります」

 

「ご協力感謝します、シトリー会長。

 アーシアさん、副会長さんについて避難誘導を手伝ってくれないか?

 万が一、怪我人が出たときのためだ。頼めるかな」

 

「わかりました!」

 

これでいい。アーシアさんはこれで後方に下げることができた。もう安心だ。

安心したと同時に、俺はふとあることを思い出した。

 

「そういえばシトリー会長。薮田先生はどうしました?」

 

「え? いくら先生でもここには結界を張っているはず。そもそも、まだ出張中では?」

 

なに? 生徒会長のシトリー会長が、顧問の出張帰省を知らないのか?

と言うか、ここに来たのに会ってない、だと? あんな事件があった後なのにか?

また一つ、薮田先生について腑に落ちないことができてしまった。

全く、あの人はいったい何者なのだ。超特捜課とのつながりは、まぁいいとしてもだ。

そもそも何故、コカビエルが薮田先生にちょっかいをかけるんだ?

 

「いえ……なんでもないです。失礼しました、忘れてください。

 では、俺も一応は戦線に復帰します。

 アーシアさんをお願いしますと、副会長さんに伝えてください」

 

「ご武運を。自衛隊の方が誤ってこちらに来ないよう、結界は強化しておきます。

 サジ。懲りずにリアスの眷属に暴言を吐いた罰として、あなたは全力で結界を維持なさい」

 

「そ、そりゃないっすよ会長……」

 

こいつ……イッセーと同等に学習しないな。

仮にも生徒会役員である以上、あの変態トリオが

変態カルテットになるような事態は免れているのだろうが。

もしそうだとしたら、何も言えないけどな。

ともあれ、生徒会の協力を取り付けることができた。これだけでもだいぶ違うだろう。

シトリー会長に一礼し、俺は渋々ではあるものの戦線に復帰することにした。

 

 

しかし、その途中で見かけたのは魔法陣。

それも、グレモリーのものでも、シトリーのものでもない。

あれは……見たことの無いタイプ。そこからは物凄い数の悪魔の軍勢が現れる。

無数の悪魔を従えるように、マゼンタ色のボブカットが特徴の、黒ローブの女性悪魔がいる。

恐らくは彼女が、この軍勢の指揮官なのだろう。

 

「ふ、ふふふ……来たか。ついに来たか。

 残念だった……いや、よく持たせたなリアス・グレモリー。

 喜べ、援軍だぞ? 彼らの力を借りれば、俺に勝つことも不可能ではないかもしれないぞ?」

 

遠くに聞こえるコカビエルの歓喜の声。

と、とうとう……とうとう悪魔の軍勢が来てしまった……!!

幸か不幸か、自衛隊はまだ到着していない。

どうか……どうかぶつかるような真似だけはしないでくれ!!

 

何ができるのかは全くわからないが

俺はグレモリー部長らが戦っている現場へとさらに足を進めた。




とうとう、魔王軍……と言うか、冥界が派兵した軍がやってきてしまいました。
原作では赤龍帝でどうにかしてヴァーリのかませにされたコカビエルですが
本作では骨のある相手(=冥界軍)が来たので
そうそうかませにはならないでしょう、たぶん。

前回に登場して以来、まだやな奴モードな匙ですが
イッセーと意気投合していないので致し方なしと言うことで。
セージが匙のことを変態カルテットになることを危惧してますが
ソーナ会長に抱いていた感情を考えると、そうなってもおかしくないと思うのは
考えすぎでしょうか。

神について。
神に対する考え方は日本とそれ以外じゃだいぶ違うのはたぶんセージもわかってます。
でも常日頃から神を信じろ、って聞かされているはずなのに
いきなり「神は死んだ」って敵対勢力がのたまっても
それは前回述べたとおり詭弁にとられてもおかしくないと思うんです。
いくらその現場に居合わせていたとしても
都合のいいように話を改竄する位は余裕でしょうし。
原作では実は生きてた、なんてオチもありうるかもしれませんけど。

冥界軍の指揮者らしき悪魔の風貌は
機動戦士Ζガンダムよりハマーン様を意識してます。
冥界軍の動向については次回を待て、ということで。


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School wars

この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(しつこい

週末に映画公開されますね。
ゴースト本編もですが雰囲気がいつもとなんだか違う気がします。


閑話休題。
今回以降しばらく三人称視点が続きます。
コカビエル鎮圧のために軍を派遣した冥界。
否応なしに戦闘に巻き込まれるリアス達。

赤龍帝がなんとかしてくれる?
そんな夢物語、ありゃあしないんですよ。

久々の1万文字越えで少し長めです。


「あ、あれは……!!」

 

「ふ、ふふふ……来たか。ついに来たか。

 残念だった……いや、よく持たせたなリアス・グレモリー。

 喜べ、援軍だぞ? 彼らの力を借りれば、俺に勝つことも不可能ではないかもしれないぞ?」

 

コカビエルとグレモリー眷属の戦いが繰り広げられる駒王学園上空。

そこに、冥界の魔王サーゼクス・ルシファーが差し向けた

冥界の軍勢が満を持して進撃してきたのだ。

夜の闇に紛れてはいるが、その数は一個中隊といったところである。

これは相手が単独であるために、大多数の部隊展開は逆に不利になる、との見解もある。

 

「ハマリア様。人間界への転移、成功しました。全部隊、いつでも展開可能です」

 

「ご苦労。しかし……久々に冥界以外への出撃命令と聞けば

 まさか前大戦の生き残りの掃討とはな。総員、相手は俗物の堕天使が一羽とは言え

 油断をすれば足元を掬われるぞ。気を引き締めてかかれ」

 

冥界軍を指揮するのは番外の悪魔(エキストラ・デーモン)、ハマリア・アガリアレプト。

黒のローブを纏い、マゼンタ色の髪をボブカットに仕上げた女性。

その美しさからは想像もつかないが、先の大戦において陰ながら功績を挙げた

四大魔王直属の特殊部隊「イェッツト・トイフェル」の指揮権を持った女傑である。

現場指揮権は彼女にあるらしく、この場にはサーゼクス・ルシファーの存在は確認されない。

 

「サーゼクスはいないか……まぁいい。久々の戦いだ、俺の血が騒ぐのがよくわかる。

 いいぞ……俺はこのときを待っていたんだ!」

 

「私達では不服と言うの? 舐められたものねっ!!」

 

興奮を抑えきれないコカビエルに対し、展開したばかりの冥界軍は

冷静に状況収集に努めていた。

その温度差は激しい。興奮冷めやらぬコカビエルと、歯牙にもかけられず逆上するリアス。

激昂と共に放たれた滅びの魔力は、そもそもコカビエルにかすりもしない。

当たれば確かに大きな一撃になるはずのそれは、夜空の雲に穴を開けるだけに終わった。

 

「『スローすぎて欠伸が出る』、ってところだな。

 そんな様子では、いくら赤龍帝で強化したところで何も変わらん。

 そう……『当たらなければどうと言うことはない』!」

 

仕返しに放たれたコカビエルの光の槍――否、柱はリアスを牽制するように地表に直撃。

格の違いをこれでもかと見せ付ける形になっていた。

 

「やはり貴様では話にならん。少しだけ待ってやる。そこの軍隊と協力して俺に挑むか

 あるいは尻尾を巻いて逃げ出すか。どちらを選んでも、俺は一向に構わん」

 

吐き捨てるように言い放ち、コカビエルは完全にリアスから目線をはずしている。

それは、リアス達に対しては「お前達など相手にならん」と言う意思表示。

冥界軍に対しては「いつでもかかって来い」と言う意思表示。

既にコカビエルの興味は、完全に冥界軍――イェッツト・トイフェルに移っていた。

そんな様子を傍目で見ながら、冥界軍は冷静に情報収集に努めていた。

 

「ハマリア様、尖兵からの報告が入っております!」

 

「読み上げろ」

 

「はっ! 『敵性体は一、敵は全面戦争を目論んでおり

 放置は冥界にとって多大な害悪となりうる。よって、全力を以ってこの敵性体を殲滅

 冥界の平和を守るべきである。なお、作戦区域には赤龍帝が二、白龍皇が一。

 さらにEXコードYが一、それぞれ確認せし』との事です!」

 

「二天龍が揃い踏みか……しかし赤龍帝が分裂していると言う話、事実だったのだな。

 今代は中々面白い展開になりそうだ。それに……EXコードY、その話は事実なのだな?」

 

配下の報告に、ハマリアは興味深そうに耳を傾けている。

面白いものを見つけたと言う感情と、厄介なものを見つけてしまったと言う感情の二つが

織り交ざった声で、部下に解説を求めている。

 

「はっ。先行の者の報告では、間違いないとの事です。

 そして、白龍皇は不明ですが、赤龍帝は現時点では

 いずれも完全な覚醒には至っていない、とも報告が入っております!」

 

「先行の……ウォルベンの奴か。今回は先走らなかっただけマシとしておくか。

 いや、既にやらかしているな。赤龍帝の覚醒の有無を調べるために行動を起こしたか。

 まぁいい。我々の目的は赤龍帝ではなく、堕天使の殲滅だ。各部隊、攻撃用意せよ!

 焼夷魔法を用いても構わん! ここであの俗物を始末するのだ!」

 

焼夷魔法。現実世界において用いられた焼夷弾とほぼ同等のもの。

魔王直属とは言え、悪魔の軍勢。悪魔である以上、光が弱点と言う性からは決して逃れられない。

それに対抗するには、弱点を突かれる前に攻めるのがセオリーである。

猛攻を以って、コカビエルの足を止めようというのだ。

しかし焼夷弾を用いると言うことは、被害も甚大。状況を確認した部下の一人が

ハマリアに命令の確認を取る。

 

「焼夷魔法ですか? しかし、あの場には未だサーゼクス様の妹君が……」

 

「チッ……あの俗物め。妹だからと甘やかした結果がこれか。

 リアス・グレモリーを呼び出せ! 即座にこの場から退避させろ!

 奴とて彼我戦力差を理解しているはずだ! 私が話をつける!」

 

「はっ! リアス・グレモリー、応答せよ。こちらは魔王様より派兵されし冥界軍。

 応答せよ。こちらは魔王様より派兵されし冥界軍。リアス・グレモリー、応答せよ」

 

ハマリアの命令に、部下の悪魔がリアスに対し通信の魔法陣を展開する。

すぐさま、それに答える形でハマリアの元にリアスからの通信が入る。

 

「リアス・グレモリーよ。魔王様の部隊が、我が領土に何用かしら?」

 

「リアス・グレモリーだな? 私はハマリア・アガリアレプト。

 四大魔王直属部隊を率いているものだ。

 単刀直入に言う。これより我々は敵性体殲滅のための作戦行動に移る。

 焼夷魔法を用いるため、この場から速やかに退去せよ」

 

「四大魔王直属の……それより焼夷魔法って!

 それじゃ、この学校は……!」

 

「繰り返す。これより我々は敵性体殲滅のための作戦行動に移る。

 この場から速やかに退去せよ。退去の無い場合は、魔王陛下に対する

 反逆の意思ありと見做し、我々の攻撃対象に加えるものとする。

 我々は、今回の敵性体殲滅に対しあらゆる権限を魔王陛下より受け賜っている。

 ……この意味がわかるな?」

 

無論、ハマリアはサーゼクスの性質を知った上でリアスに対し警告している。

それほどまでに、コカビエルの行為は今の冥界にとって危険なのである。

そして、とどめにハマリアの言った最後の言葉。

これは、最悪の場合はサーゼクスがリアスを殺すことも厭わないことを意味していた。

 

「……お、お待ちください! 今回の事件は、私の領地で起きた事件!

 領主の私が決着をつけねば、何のためにこの地を任されたのかわかりません!

 私がコカビエルを始末します、だから……」

 

「私は退去しろ、と言ったのだぞ? リアス・グレモリー。

 それに、お前ごときが前大戦で我々悪魔を苦しめたコカビエルを倒すだと?

 

 ……思い上がるな俗物が! 戦争も知らん貴様が

 コカビエルと同じ土俵に立てるとでも言うのか!

 現に貴様は、コカビエルに一撃も加えられていないではないか!

 ……それに、自分の兄に妹殺しの汚名を着せるつもりか? 私はそれでも構わんがな」

 

リアスに浴びせられるハマリアの罵声。しかしこれは、尤もな事である。

事実、リアスは先の大戦を体験していない。対するコカビエルは大戦でその名を轟かせている。

その差は極めて大きい。実力においてリアスがコカビエルに勝っている部分は

良くて才能だけだろう。才能だけでどうにかできるほど、実戦と言うものは甘くは無い。

 

そして、ハマリアは己の行為は魔王の一挙一動であるとも言っている。

その上でハマリアが作戦行動中にリアスを手にかけたとあれば

「サーゼクスがリアスを殺した」と解釈されかねない。

マスコミ次第だが、少なくとも民衆の一部はそう見るだろう。

そもそもハマリアにしてみれば、コカビエル殲滅こそが主目的であり

リアスの保護など二の次、三の次である。

 

そもそも事態収拾のためにハマリアはここに派遣されてきた。

さらにサーゼクスの命により、リアスの保護が形だけでも含まれていることになっている。

コカビエルを即座に殲滅し、悪魔社会に平和をもたらすのが

イェッツト・トイフェル本来の目的であるのに対し

リアスはそんな彼女らの行動を阻害していることになっている。

穿った見方をすればそうとも取れる。

そんなハマリアの言動を快く思わないものがいた。そう、イッセーである。

 

「おいっ! さっきから黙って聞いていれば! いくら魔王様の直属だからって

 部長は今までコカビエルと必死に戦っていたんだ! 後からしゃしゃり出てきて威張るな!

 それにな、俺達は一度コカビエルを――」

 

「や、やめなさいイッセー!」

 

「何だ、この品性の欠片も無い俗物は? まさかこれが、貴様の眷属と言うのではあるまいな?

 ……そのまさかか。しかもその左手、赤龍帝か。

 フッ……赤龍帝も、グレモリーも地に堕ちたな。

 こんな俗物を駆り出さねばならぬほど台所事情は切迫しているのか?

 まぁいい。それよりさっきの私の言葉の意味がわかるか?

 私の一挙一動が、そのまま陛下の一挙一動になるのだ。つまり私が貴様ごと焼き払うと言うのは

 陛下が貴様を焼き払うと言うことだ。ここまで言えばわかるだろう?」

 

ハマリアの辛辣な意見を気にも留めず、イッセーはハマリアに食って掛かっている。

当然、その実力差は言うまでもない。ハマリアもそれを知ってか、イッセーなど歯牙にもかけず

リアスに明確な警告を突きつけている。

 

「魔王様が部長を!? そんなわけねぇだろ! デタラメばっか抜かすな!!」

 

「イッセー、黙りなさい。これは命令よ。相手は魔王様の直属の部隊。

 あなたがどうこう出来る相手ではないわ」

 

「そうしたくなければ、直ちに眷属をつれて退けと言っているのだ。

 陛下の性質は知っていよう? 陛下が自身で下された命令で妹が命を落としたと知れば

 どれほど悲しむと思っているのだ?

 ならば言い方を変えようか。我々は陛下の命令が無ければ

 問答無用で焼夷魔法を使用していた。自分の行いが、悪魔にとって

 不利益をもたらしていることを自覚したらどうだ?

 ……面子や権威などと言うつまらぬものに拘っていては、いつまでたっても大成せんぞ?」

 

「くっ……」

 

畳み掛けるようにハマリアは「サーゼクスの命令で、やむなく攻撃を一時中止している」と語る。

つまり、ハマリアのプランでは「転移後、即座にコカビエルを攻撃する」つもりだったのだ。

しかしこうして、リアスを遠ざけるために時間を割いている。

それはつまり、コカビエルに反撃の余地を与えていることになる。

 

「構わんぞ、ハマリア・アガリアレプト。こいつらでも羽虫の数匹程度にはなる。

 羽虫と戦っても面白くもなんとも無いが、こいつらがどうしてもと言うなら俺は構わん。

 それより早く部隊を展開しろ。俺はさっきから戦いたくて仕方ないんだ。

 攻撃を加えない理由は簡単だ。無抵抗の奴と戦っても面白くもなんとも無いからな。

 俺は無意味な虐殺は行わん。『無意味な』虐殺は、な」

 

「言ってくれるな。ならば『イェッツト・トイフェル』の恐ろしさを思い知らせてやろう。

 悪魔は決して衰退してはいないことをみせしめるいい機会だ。総員、部隊を展開せよ!

 ただし焼夷魔法は使用するな! 妹君を巻き込むからな」

 

コカビエルからの催促に応じる形で、ハマリアは部隊を展開させる。

沈黙を守り、ハマリアの周囲に鎮座していた悪魔の部隊が、黒い翼を広げ展開される。

闇夜をさらに黒く染めるその部隊は、リアスやその眷属の存在などお構いなしに

コカビエルに対し攻撃を開始する。

 

「く……ふふふ……はははははははっ!! これだ、これが俺の求めていたものだ!!

 さあどんどん撃って来い! 俺が、俺が全て蹴散らしてやる!!」

 

魔力弾をものともせず、コカビエルは光の槍を分散させ、無数の矢のようにして撃ち出す。

それはさながら、規模の大きな銃撃戦のようでもあった。

そして、そのコカビエルの変わり様に衝撃を受けていたのはリアスとその眷属達。

さっきまでの、自分達との戦いとはまるで違うコカビエルの動きを見せ付けられているのだ。

 

「あの野郎……今までのは舐めプだって言いたいのかよ!!」

 

「やめなさいイッセー! 今出たら蜂の巣よ!」

 

「部長、このままじゃ両者の戦闘に巻き込まれます。何とかしないと」

 

彼らは結界の中だから、まだ健在でいられるのだ。

外に出れば、コカビエルの光の矢と冥界軍の魔力弾。

その流れ弾に撃たれ命を落とすのが関の山。

さながら、紛争地域に取り残されてしまった状態である。

 

「……ダメ。ギャー君っぽいこの武器でも、もう止められない」

 

「私達はあれと二人で戦おうとしていたのか……コカビエル、なんて力だ……!!」

 

「……結界も長くは持ちませんわ。隙を見てここを離れたいところですけど

 こうも途切れなく砲撃が続いては、難しいですわね」

 

流れ弾は朱乃の結界で防いでいるが、魔力弾はともかくコカビエルの矢は

相性の都合上一撃でも食らえば終わりだ。

そのために結界を強化せざるを得なくなり、そうなれば一歩も動けない。

セージに焚き付けられ戦意を取り戻したゼノヴィアも

コカビエルの圧倒的な力を前に震え上がっている。

同様に、同じく猛攻を目の当たりにして

動けない状態になってしまったものがいる。セージだ。

 

「ダメだ、これじゃ近づけない! くそっ……どうして……どうしてこうなったんだ!!

 どいつもこいつも……ここが自分の世界じゃないからって、勝手に戦争しやがって!!」

 

リアス達とは違い、戦闘には巻き込まれていないがどの道参加できない。

と言うより、規模が違いすぎて参加したところで何も変わらないだろう。

それはセージに限った話ではないのだが。

 

(いや……諦めるな。不意打ちとは言え一撃加えられたんだ。

 向こうの軍勢に気をとられている隙を突けば、あるいは……!

 何も倒すんじゃない、一瞬の隙を作るだけでいいんだ。

 グレモリー部長らは動けまい。今ここで動けるのは……俺だけか……ならば!)

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

コカビエルがイェッツト・トイフェルとの戦いに気を取られている隙を突き

セージはおもむろに飛び上がり、コカビエルの首めがけて

左手のプラズマフィストを当てようと試みる。

 

「とったぞ、コカビエルっ!!」

 

「あれは……セージ!?」

 

セージの狙い。それはいくら堕天使でも人型をしていれば、弱点も人間に倣うだろうという判断。

そうなれば、関節・内臓等、人間と弱点はほぼ等しくなる。

ならば、首と言うあらゆる生物の弱点を狙うことで、大打撃を与えようと試みたのだ。

しかし――

 

「伏兵か。能無しのリアス・グレモリーの眷属にしては頭を使うな。

 だが、そもそもの実力が足りていない! 無駄な足掻きだったな!」

 

如何に自然の雷と同等の威力を持ったショックを加えることが出来ようとも。

やはり当たらなければ意味が無いのである。

セージの左手は、虚しく空を切るだけに終わってしまう。

 

「気をとられたな! 冥界軍、グレモリー部長、今だっ!!」

 

それでも、セージはただでは転ばなかった。

コカビエルの容赦の無い攻撃が止み、その注意が一瞬、セージに向いた。

その一瞬だけでも、イェッツト・トイフェルの攻撃をひきつけるには十分すぎる隙だった。

防御結界を展開し、魔力弾を防がざるを得ない状況にしか持ち込めなかったが

それだけでも、リアス・グレモリーらの退避には十分な時間稼ぎにはなっている。

 

ただし、そこには代償も存在する。

振り向きざまに入ったコカビエルの肘打ちを、セージはまともに浴びる結果になってしまった。

リアス・グレモリーらを退避させることには成功したが

今度は自分が戦場に取り残される結果になってしまう。

 

「セージ!」

 

「ぐっ……構うな! こっちはいくらでも逃げられる! 何のための霊体化だ!」

 

イッセーの呼びかけにも、全く動じずセージは霊体に戻る。

ただし、この状態は無敵と言うわけではない。

コカビエルの一撃が万が一当たれば、当然消滅する。

ただ、目視しにくくなっただけである。おまけに、少なくともコカビエルには見えている。

 

(とは言え、ここの連中相手に霊体化によるかく乱が通じるとは思えないんだよなぁ。

 今までの経緯を考えれば、もう霊体化したところで無意味だよな……だが!)

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

退却のため、加速のカードを引く。結果としてセージは、イェッツト・トイフェルの弾幕と

コカビエルの弾幕の飛び交う中をその身一つで突っ切ることになった。

霊体の一部を焼きながら、セージは前線から下がろうと試みていた。

 

(アーシアさんを下げたのは失敗だったか……?

 いや、ダメージもらってるのが俺だけなら大丈夫だ。

 こんな場所に、アーシアさんを出すわけにはいかない。

 自分の身も自分で守れない人が、こんなところにいちゃいけない!)

 

セージが弾幕を掻い潜るその上空で、冥界軍を相手に無双を繰り広げるコカビエル。

一個中隊の冥界軍は、あっという間にその数を半分以上も減らされていた。

 

「フン……所詮は羽虫の子か。油断していたとは言え

 あんなのに一撃貰うどころか地に伏せられた自分が恨めしいな。

 それと……さっきの言葉は口先だけか、ハマリア・アガリアレプト?」

 

「チッ……貴様もずいぶんと舐めた真似をしてくれるな!

 そこまで言うのならば、私の力を思い知らせてやろう!」

 

ついにはハマリア自ら動き出そうと、黒のローブを脱ぎ捨てようと手にかける。

しかしそれを制止する手がふと差し出される。イェッツト・トイフェルの尖兵――

ウォルベン・バフォメットだ。

 

「それには及びませんよハマリア様。

 私も本気を出せる戦場が欲しいと思っていたところなのです」

 

「よかろう。ならばやって見せよ」

 

ウォルベンは紫色の禍々しいオーラを帯びた鎌――クレセントサイダーを手に

コカビエルに斬りかかる。対するコカビエルは、ウォルベンのクレセントサイダーを

光の槍で受け止める形になっている。

 

「少しは骨のある奴が来たか!」

 

「それはこちらの台詞ですよ。今代の赤龍帝に拍子抜けしていたところですのでね!」

 

クレセントサイダーの斬撃は、コカビエルにダメージを与えるばかりか

駒王学園にも被害をもたらしていた。このクレセントサイダーという武器。

対多数の相手には適しているが、それは同時に攻撃範囲が広いことを意味しており。

市街地など、周囲への被害を省みなければならない場面では

取り回しに適さない武器でもあるのだ。

 

「ううっ! 砲撃が止んだと思ったら今度は斬撃……!

 距離をとっているのに、ここまで被害が及ぶなんて……さすがは魔王様直属の部隊、ですわね」

 

「そうね……それよりセージは?」

 

「……状況に異常なし。ここにいます」

 

EFFECT-HEALING!!

 

魔力弾で焼かれた体を治療しながら、何食わぬ顔でセージはリアスの近くまで戻っていた。

言葉とは裏腹に、多少息は上がっている。生きた心地がしなかったのだろう。

 

「なんて無茶をするの! コカビエルの攻撃を受けたら、間違いなく命を落とすのよ!

 ましてあなたは霊体、普通の悪魔よりも光に弱いのよ! もしあなたに万が一がおきたら……」

 

「イッセーが悲しむんだろ。皆まで言いなさんな。どうせ俺はおまけに過ぎませんよーだ。

 ……ってのは冗談ですが、これでわかったでしょう。もう俺達には手におえませんよ」

 

本当は冗談じゃないけどな、と小声で漏らしながらもセージはリアスに苦言を呈していた。

徹底抗戦を提言していたリアスだったが、ここに来て彼我戦力差を完全に把握する形になった。

把握には遅いタイミングだが、これで撤収の方向で意見がまとまろうとしていた。

 

「待てよセージ! まだ、まだやれるぜ! 俺達にはまだ……赤龍帝の力がある!

 そうだ、木場だって禁手(バランスブレイカー)に至れたんだ、俺が禁手に至れば、あんな奴……!!」

 

「バカを言うな。そんな不確かなもののためにお前は仲間を、この町の人間を犠牲にする気か。

 だとしたらそれをやる前に俺がお前を倒す。その根拠の無い自信はどこから来るんだ、え?」

 

イッセーの反論。それは、赤龍帝ならばコカビエルにも勝てるかもしれないということ。

実際、赤龍帝そのものの力ならば、コカビエルだろうと勝てる見込みはある。

しかし、それを振るうものが素人同然である。それではとても勝ち目が無い。

どちらが主になろうとも、それは変わらない。

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べた。その身体をドライグに売れば、禁手の力を扱えるらしいな。

 だが……そんな力、俺は認めない。これ以上、お前は何になりたいんだ。

 既に人間をやめ、その上悪魔もやめるのか。そんなお前の行き着く先はなんだ?

 お前は兵藤一誠であることさえも、自分から放棄するつもりか?」

 

「だったら……ほかにどうしろって言うんだよ!?」

 

もう一つ、セージにとって許せないことがあった。

それは、イッセーがそんな強化を繰り返すことで

兵藤一誠でさえなくなってしまうことを危惧していたのだ。

既に人間をやめ。その上ドラゴンに身体を、魂を売る。そんなことを続ければ

いずれ兵藤一誠という人格そのものが、この世界から消えてなくなる事を懸念していたのだ。

 

しかしイッセーも、現状の打開のために力を得ようと考えた結果である。

セージの否定にも、全く引き下がる気配を見せない。

 

「今は耐えろ。出来もしないことを無理に挑んで、痛い目を見る必要は無い。

 俺達は俺達の出来ることをやる。今は無理でも、いつかの未来。出来るかもしれないからな」

 

セージの言葉が、イッセーの心の何かを引きちぎったのか。

次の瞬間、イッセーの左手がセージの顔面に突き刺さっていた。

 

「イッセー君!?」

 

「イッセー、何をしているの!?」

 

「はぁっ、はぁっ……そんな悠長なこと言ってられるか!

 今、今大変だってのに、何で先の話してんだよ! いつかっていつなんだよ!

 え!? 答えろよセージ!!」

 

「……久々に効いたな。だが、子供じみた言い訳を聞きたいわけじゃない。

 夢を語るのは結構だが、現実に目を向けろ。

 お前の言うことは、現実との折り合いがついていない」

 

口元を拭いながら、何事も無かったかのようにセージは振舞う。

その態度は、さらにイッセーを逆上させていた。

 

「現実ってなんなんだよ! 俺達がここで全滅することか!

 そんな現実くそくらえだ! それを曲げるためなら、俺はなんだってやってやる!!」

 

「……かつては両親を。今度はグレモリー部長を、アーシアさんを泣かせるのか。

 この際だからはっきり言っておこう。そんな事ではお前にハーレムは未来永劫無理だ。

 お前に万が一が起きて、悲しまない者がいないはずが無いだろう。

 そんな考えも至らないで、女性の心を掌握せねばならないハーレムに君臨するだと?

 笑わせるなこのスケベザルが! 自己犠牲での現状打開なんざ

 どこまで行っても自己満足に過ぎないんだよ!」

 

セージの熱弁ではあるが、これはこれでブーメランである。

今しがたのセージの行いを見れば、ブーメランであることは明白である。

程度が違うかもしれないが、セージにも多かれ少なかれ自己犠牲の精神があるようだ。

それをセージが気づいているのかどうかはわからないが、セージの熱弁は続く。

 

「誰かを助けたければ、まず自分が助かれ! 自分も助けられないような奴に

 誰かを助けるなんてできるわけねぇだろうが!!

 

 ……どこぞの聖女様にも言えることかもしれないけどな」

 

ひとしきり吼えた後、セージは再び記録再生大図鑑を展開。

戦況の把握に努めだしていた。

イッセーも負けじと睨み返しているが、セージは気にも留めない。

 

「……フン。これでは憑依してシンクロなど無理だな。

 やはり、考えの違う二人の人間が融合して力を発揮するなんて、土台無理な話なんだ。

 イッセー。これでもお前はまだ、俺の力を使ってコカビエルと戦おうと考えているのか?

 ……それはつまり、俺を力ずくで吸収するなりして俺の力を行使する。

 そう解釈してもいいのか?」

 

「何でそういう風に言うんだよ!? そもそも、それはお前のお家芸じゃないのかよ!?」

 

「……そいつを言われると痛いが、お前も結構根に持つな。ま、それだけの事をしたんだがな」

 

ため息をつきながらセージは周囲を見渡す。

最前線からは離れたとは言え、まだ戦場にいることに変わりは無い。

自分達がどれだけ策を練ったところで、コカビエルに敵うはずも無い。

それは、この場にいる誰しもが把握しているはずだ。そうセージは考えていた。

しかしイッセーは、コカビエルを倒すつもりでいる。

それが若さゆえの向こう見ずか、赤龍帝と言う免罪符によるものかはわからないが。

 

「俺達が力を合わせれば、できない事なんて無いはずなんだ……!!」

 

「時と場合を考えろ。俺達が力を合わせたところで、この身一つで太陽までは行けないだろう。

 イカロスの翼の話……グレモリー部長ならばご存知でしょう?」

 

「コカビエルを太陽に喩えるのは腹立たしいけど、納得できなくも無いわね。

 私達は、その太陽に挑もうとしているイカロス、って事でいいのかしら?

 けれどセージ、私達は悪魔よ?」

 

リアスも一定はセージの意見に納得していた。

しかしそれは、主として眷属の意見に耳を傾けているだけの事務的な対応である。

イッセーの意見に対する対応とは、まるで言葉のトーンが違う。

 

「……なるほど。悪魔だから、人間じゃないから出来る、と。

 そうおっしゃりたいわけですな。ならばお一人で太陽を目指してください。

 現実から目をそらした夢物語に、一歩間違えば破滅するかもしれない物語に

 他人を巻き込まないでいただきたい。俺が言いたいのはそれだけです。

 そして、話を長くした俺が言うことではありませんが、今は……」

 

「そうだな、あの二人の戦いが激しくなってきた。私たちも巻き添えを食らっては適わんぞ?」

 

ウォルベンとコカビエルの戦いは激しさを増し、リアス達をも巻き添えにしかねないほどだ。

クレセントサイダーが光の柱を切り裂けば、光の柱は光の矢へと変質し。

クレセントサイダーの斬撃は、広範囲を巻き込み。

駒王学園のグラウンドは、既にぼろぼろの状態になっていた。

 

ウォルベンの上官であるハマリアも、それについて咎めるでもなく静観している。

これは自軍兵力が減っており、こうでもしなければ戦線を維持できないと言う判断によるものである。

 

(……チッ。やはりリアス・グレモリーを犠牲にしてでも焼夷魔法を行使すべきだったか。

 今の戦闘で、こちらの兵を予想外に失ってしまったな。

 ここはウォルベンにやってもらうしかないか)

 

「ハマリア様! レーダーに感あり、12時方向! こ、これは……!!」

 

「記録再生大図鑑に反応……? し、しかも大きい……っ!?」

 

ウォルベンとコカビエルの戦闘が続く最中、ハマリアの軍勢のレーダーが反応を示す。

同様に、下にいるセージのレーダーにも反応があった。

とてつもなく強い反応。突如として現れたそれにいち早く反応したのは

ハマリアでも、セージでもなく……ドライグだった。

 

『――来るぞ、相棒』

 

「こんな時になんだよ! 来るって、何がだ!?」

 

――白いのが、来る。

 

前大戦を生き抜いた堕天使幹部と、魔王直属部隊精鋭の一騎打ち。

そこに割り込む形で、二天龍の片割れ・白龍皇アルビオンが姿を現そうとしていた。

 

「データ照合……は、白龍皇アルビオンです!!」

 

「何だと! 二天龍がここに揃うと言うのか! 直ちに陛下に報告しろ!

 場合によっては我々だけでは手に負えん可能性がある! 急げ!!」

 

「はっ!!」

 

白龍皇の参戦。それは魔王直属部隊に衝撃を与え。

 

『相棒。こうなれば俺はやるぞ。確かに今のお前は堕天使幹部に傷一つ負わせられない。

 だが、霊魂のがいれば話は別だ。

 俺が何のために、霊魂のに力を分け与えたと思っているんだ?』

 

「ど、ドライグ……お前、何を言ってるんだよ……!?」

 

沈黙を続けていた赤龍帝が、その本性を少しずつもたげ。

 

『――本体のとシンクロしろ。事態の打開にはそれしかない』

 

(……何でシンクロを要請してきたんだ? しかもドライグの側から。

 タイミングとしては白龍皇を感知した時点で何かあったと見るべきか。

 これは……何かはわからないが何かあるな)

 

戦いは一時中断を余儀なくされ。

 

「白龍皇だと!? はははははっ! 面白い、奴らも戦いを望むか!

 そう、戦いこそがありとあらゆる生き物の本質!

 やはり俺は間違っていない! 間違っているのはアザゼルどもだ!!」

 

(白龍皇……やはり来てしまいましたか。もはや私には、どうでも良いことですがね)

 

神の忌まわしい置き土産は、今ここに集おうとしていた。




今回について。

ハマリア・アガリアレプト
名前は機動戦士Ζガンダムのハマーン・カーンと
機動戦士ガンダムのキシリア・ザビからです。
名前ネタでサーゼクスさんに「ここで終わりにするか、続けるか!?」とか
言いそうな気がしますけど。そうなったらグレイフィアさんとの女の戦い待ったなし。
原作冥界組は結構ガンダムネタが多いのでそこに倣いました。
これはウォルベンも同じく。
風貌はもろハマーン様です。台詞回しに少々キシリア様要素も入ってますが。
アガリアレプトはルシファー配下の悪魔と言う事でチョイス。

イェッツト・トイフェル
独語で「現在の悪魔」とかそんな風な意味。
これはスパロボOGユーザーなら少しピンと来た名前かもしれません。
だからってアインスト・トイフェルなんて「部隊は」存在しませんが。
直属部隊と本文中では触れられてますが
実質的には秘密警察みたいなもんです。
リアスも魔王直属部隊と言う事しか知りません。
一般兵の戦闘力は中級悪魔以上コカビエル以下。

クレセントサイダー
13周年迎えた某MMORPGのロマン武器。
本作のバフォメットがバフォメットたる所以の武器です。
性能もネタ元に同じく。ただし威力はHSDD仕様。
ロードオブヴァーミリオン? いえ、知らない魔法ですね。

EXコードY
誰かをさしている暗号。
キーワードはイニシャル。兵士はともかく、ハマリアはそのコードが意味する事を
知っています。

さて。
結構イッセーとセージの溝が深まってきたところにドライグが何やら企んでいる様子。
普通に考えても何でドライグがセージに力を貸したのか。
その答えがいずれ明かされる……かも。


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Reentry

サブタイは「再突入」とか「再登録(意訳)」とかそんな感じです。
今回も三人称視点です。

でもって長いです。
時間に余裕のあるときにゆっくりお読みいただければ幸いです。


※この作品はフィクションです。
実在の人物、組織とは一切合切何も関係ありません。


駒王学園から離れた場所。駆けつけてきた二人の警官――テリー(やなぎ)氷上涼(ひかみりょう)

彼らと合流する形で、紫藤イリナを抱えてきた薮田直人はこの場まで逃げ出してきた。

 

「柳君、氷上君。来ていただけましたか。まずは彼女を安全な場所まで。

 ショックなことがあったのでしょう、心神喪失状態です」

 

薮田(やぶた)博士、ご無事で……って、彼女は!」

 

「あの公妨の身元引受人の子ですよ! くっ、自分が目を離した隙に!」

 

駒王警察署の巡査、氷上が監視していたはずのイリナ。彼は公務執行妨害で逮捕され

司教枢軸卿の口添えで保釈されたゼノヴィアのみならず

その身元引受人たるイリナの素行を監視していた。

しかし無理も無い。フリードの一件の後にはオルトロスと言う大災害が待ち受けていたのだ。

それの対応に追われる形になり、イリナへの対応が疎かになってしまっていたのだ。

それについては上司である柳も熟知しており、氷上を徒に叱責することは無かった。

 

「氷上、今それを言っても始まらん。俺の方からも上には説明しておく。

 しかし薮田博士、一体この学園で何が起きているんです?」

 

「……最悪、紛争が起きますよ。防衛省には一応今回の件を伝えてはありますが」

 

「防衛省……自衛隊の管轄って事ですか!? お、お言葉ですが薮田博士!

 自分の目には、とてもそんな事態が発生しているようには見えないのですが……」

 

駒王学園には結界が張られており、氷上の目には全く何も、柳の目にもうっすらとしか

駒王学園の様子は映らない。今はソーナ・シトリーらが結界の維持をしている。

そのため、適性を持たない者――覚醒した神器(セイクリッド・ギア)を持たない、普通の人間には

普段と変わらぬ駒王学園が見えるのみなのだ。

 

「……氷上。俺の目には少しだが見える。夜だから今一わかりづらいが

 黒ずくめの軍団と、黒い羽の生えた奴が光を放ちながら戦っているように見える。

 ……薮田博士。あれが悪魔、そして堕天使。間違いありませんね?」

 

赤いレザージャケットの警官――テリー柳の質問に肯き返す薮田。

その面持ちは、真剣そのものである。無理も無い。あの戦いが学園の外に出れば

この町はたちまち火の海である。

 

「間もなく陸自がこちらに到着します。二人は陸自と協力して

 この町に住む人々の避難に当たってください。

 それから、絶対にこの町に人を入れないようにしてください」

 

「博士はどうするつもりですか?」

 

「……まだ学校に生徒がいるかもしれません。彼らをつれて来ますよ。

 なのでこちらには警察も、陸自の派遣も最小限度で結構です。

 先刻の害獣騒動の直後で、住民も気が立っているかもしれません。

 この場で暴動を起こされたら、それこそ最悪のシナリオです。

 そうならないためにも、あなた方には住民の避難誘導をお願いしたいのですよ」

 

イリナをつれた避難をひたすらに促す薮田。いくら超特捜課(ちょうとくそうか)と言えど、現時点での戦力では

駒王学園で繰り広げられている戦いには介入できない。

そもそも、彼らの主目的は戦いに勝つことではない。人命を守ることである。

 

「……テリー柳警視、薮田直人(やぶたなおと)博士の意見具申を認めます。

 薮田博士もどうかお気をつけて」

 

「柳さん!」

 

「俺に質問をするな、氷上! 今は一人でも多くの住民の避難誘導が先だ!」

 

柳の檄に答える形で、氷上はイリナを背負い、さらに駒王学園から距離をとる。

警官隊と合流し、安全な場所まで運ぶ手筈だ。

その段取りをしている所に、二人の少女が駆けつけてくる。

駒王学園生徒会副会長の真羅椿姫と、リアス・グレモリー眷属のアーシア・アルジェントである。

 

「あなた方は……って薮田先生! どうしてこちらに!?」

 

「おや椿姫君、ご無事でしたか。それより、ここは間もなく危険な場所になります。

 速やかに警官あるいは自衛隊の指示に従い、避難してください」

 

「私達、その避難誘導の手伝いに来ました!」

 

二人の思いがけぬ援軍に、柳と氷上は目を白黒させている。

当然、そんな援軍など聞いてもいないし加えるにしてもどうしたものか、と言ったところである。

 

「ふむ。避難誘導を手伝っていただけるのでしたら、彼――

 赤いジャケットの警官の指示に従ってください。彼が現場指揮官です。

 柳君、私からも頼みます。簡単な避難誘導で構いませんので

 彼女らを加えてはもらえませんか?」

 

「……本来なら危険作業に一般市民の関与は認めないところだが。

 今は一人でも多くの手が欲しいのも事実。わかりました、薮田博士の具申を認めます」

 

薮田の進言もあり、柳は渋々とは言え首を縦に振っている。

人手が足りないのは事実なのだ。

 

「駒王学園生徒会副会長、真羅椿姫です。よろしくお願いいたします」

 

「そ、そのお手伝い、アーシア・アルジェントです!」

 

「駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)長、テリー柳警視だ。彼は同じく超常事件特命捜査課所属

 氷上涼巡査だ。こちらこそ、よろしく頼む。いいか、くれぐれも無茶はするなよ。

 氷上、ならばお前はその子を先に避難させてくれ」

 

「氷上涼巡査であります! 市民のご協力、感謝いたします!

 では柳さん、彼女を送り届けた後にそちらに合流します」

 

挨拶も程々に、氷上はイリナを連れて現場を離れ。避難は柳の指揮の下

椿姫とアーシアが誘導することになった。

既に町内には避難誘導の放送が流れており、普段の駒王町とは

比べ物にならないほど物々しい雰囲気を漂わせている。

 

「では、頼みましたよ。支取君達はまだ中にいるのですね?」

 

「え、ええ……先生はどうなさるのですか?」

 

「わかりました。では支取君達は私が避難させます。君達は柳君についてください」

 

椿姫は知らないことだが、薮田直人と言う人物は結界もものともせず

コカビエルとも面識があるように振舞っている人物である。

その事実を知っていれば、椿姫の行動も変わったのかもしれないが

椿姫にとって、薮田直人はただの生徒会顧問である。結界とか、堕天使とか、悪魔とか。

そういうものとは無縁の存在であると思い込んでいたのだ。

 

「頼みましたよ。この町の人達の命を守るために、大事な仕事です」

 

「あっ……薮田先生! 学校には……」

 

椿姫の制止も聞かず、薮田は一直線に駒王学園へと向かう。

椿姫は結界に阻まれることを懸念したが、それは杞憂である。

そもそも、さっきまで薮田は学園の敷地内にいたのだ。

 

(やれやれ。これで事が片付けば、支取君に追及されかねませんね。

 しかし、かと言って無視もできないでしょう。全く、厄介な事は起きる物ですね……ん?)

 

薮田が再び駒王学園の門をくぐろうとした時。

そこには、新たな大きな気配が確かに存在していた。

確かに見える白いオーラ。その正体さえも、薮田は知っていた。

 

(白龍皇ですか。できなかったとは言え……やはりあの時、赤龍帝共々破壊しておくべきでした。

 後世に災いを齎す物は、須らく滅ぼさなければなりません。

 人間も、三大勢力も私に言わせればまだ未熟。力だけが先出するような存在は

 やはり、この今の時代においてはあってはならないものですからね。

 彼らが私に気づくことは無いでしょうが……今はまだ、接触は避けておきますか)

 

まるで過去の二天龍を知り。まるで自分は人間ではないような思いを秘めて。

薮田は学園の敷地内へと再び入っていった。

 

――――

 

一方。紫藤イリナを抱え、避難場所へと急行する氷上涼。

駒王町内には、緊急車両による避難誘導のアナウンスやサイレンが流れ

夜中だと言うのに物々しい雰囲気を醸し出していた。

避難を急ぐ氷上の前に、海外のセレブが愛用するような高級ドレスを纏い

左手には赤と青の結晶があしらわれた腕輪を身につけた眼鏡の女性が現れる。

とても避難を急ぐような風貌には見えない彼女を、氷上は訝しむ。

 

「あの。この町には緊急避難警報が発令されています。自分は見てのとおり警官ですので

 最寄の避難場所まではご案内いたします。自分についてきてください」

 

氷上は自分に着いてくるように女性に促すが、女性は何も反応しない。

氷上の様子を興味なさげに一瞥した後、氷上が抱えているイリナに目を向ける。

 

(人間のほうはただの人間ね。抱えているのは……聖剣使いかしら。

 コカビエルを討つ為に天界がわずかな戦力を派兵したとは聞いてたけど、本当にわずかね。

 ケチったのかしら? まぁ、数を増やせない天使にしてみれば

 使い捨てと言えども貴重だものね。出し渋りもわからなくは無いわね)

 

そんな女性の様子に、氷上は改めて状況を説明する。

氷上自身、何故こうなったのかはいまいち把握していないが

自衛隊が動く事態という事で、緊急性だけは把握していた。

 

「すみません。自分は駒王警察署超常事件特命捜査課の氷上涼巡査です。

 お嬢さん、今この町には緊急避難警報が発令されています。

 最寄の避難場所は自分が把握しておりますので、自分についてきてください」

 

「ああ、私に言っていたのかしら。ごめんなさいね。

 けれど……私は避難する必要は無いわ。なぜなら……」

 

女性に避難を促そうとする氷上に、突如として黒いオーラが襲い掛かる。

それと同時に、女性の目つきは鋭く、背中には黒い羽が現れていた。

それは紛れもない、悪魔の証。

 

「くっ……悪魔!? この町を統括する悪魔か!?」

 

「私をあのようなものと一緒くたにするな人間風情が!

 あなたのようなただの人間には興味はありません!

 そこに抱えている聖剣使いの少女を置いていきなさい。そうすれば、見逃して差し上げます」

 

悪魔の女性――カテレア・レヴィアタンの提言に対し、氷上は職務上の理由から首を横に振る。

カテレアにしてみれば、下に見ている人間に反抗されたことが酷く腹立たしかった。

その腹いせとばかりに、再び魔力を帯びた黒いオーラが氷上を襲う。

 

「うわああああっ!!」

 

「ふん、所詮は人間。悪魔――それも魔王である私に歯向かうからこうなるのです。

 さて……そこの聖剣使いの人間。いつまで寝ているのかしら?」

 

カテレアはイリナを起こそうとしている。何故悪魔であるカテレアが

敵対しているはずのイリナを起こそうとするのか。

三大勢力の世情に疎い氷上も、それは疑問であった。

受けたダメージで意識が朦朧としながらも、状況の把握に努めようとしていた。

 

「う……あ、あなたは……あ、悪魔!?」

 

「ごきげんよう。聖剣使いのお嬢さん。私はカテレア・レヴィアタン。

 レヴィアタンの名を持つ魔王よ」

 

イリナにしてみれば、再び意識を失いかねない話である。

目が覚めたら、目の前に魔王がいるのだ。

最も、カテレア・レヴィアタンは厳密には正式な魔王ではないのだが。

一方で、氷上は柳に対し無線応援を呼びかけようとしていた。

 

「こちら氷上。柳さん、応答願います。正体不明の悪魔と遭遇、交戦状態です!

 場所は――」

 

「……少し静かにしてもらえるかしら? 私は騒がしいのは嫌いなの」

 

氷上の応援要請が通る事は無かった。カテレアによって、無線機が破壊されたのだ。

プラズマフィストで挑もうにも、イリナがそばにいる。巻き込むわけには行かない。

 

「な、何!? 何が起きていると言うの!? コカビエルがおかしなことを言って

 悪魔が聖剣を使って、それから……ああもう、わけわからないわよ!!」

 

一方で、イリナはまだ混乱している。聖剣――正しくは聖魔剣を使う木場祐斗。

光の剣を振るい、祓魔弾を込めた銃を取り回す歩藤誠二(ふどうせいじ)

彼らいずれも悪魔である。そんな天界・堕天使勢力のような悪魔が存在していることに

イリナは混乱をきたしていた。その上にコカビエルの放った――神はいない――発言に

自身の信仰心は大きく揺らいでいた。

 

「あなたもよ聖剣使いのお嬢さん。私は騒がしいのは嫌いなの。

 ……そう、世界は静かであるべきなのよ。静寂な世界……そう。

 静寂なる世界……望まれる世界……そのための……修正を……」

 

一瞬、カテレアの目が赤く染まり上がる。それと同時に左手の腕輪は怪しく輝き

人格が変わったような雰囲気も出していた。まるで何かに操られているかのように。

しかしそれを、今見知ったばかりの氷上もイリナも、気づくはずが無かった。

おまけにそれは一瞬の事で、すぐに元の雰囲気に戻る。

 

「……っ。まぁいいわ。それよりお嬢さん、私はあなたとゆっくりお話がしたいのだけど。

 少し、時間をいただけないかしら?」

 

「あ、悪魔と話す事なんかないわよ!」

 

後ずさりしながらも、イリナは擬態の聖剣を握り、カテレアに向かい合う。

しかし魔王級のオーラに押されているのか、若干腰が引けている。

そのただならぬ様子に、氷上も体勢を立て直し、右手にはプラズマフィストが握られている。

 

「(無線が破壊された以上、現場判断で起動させるしか……!)

 そこまでだ、悪魔! これ以上は公務執行妨害で確保する!」

 

「あら。私はあなたとお話しすることはありませんが。

 ……どうしてもと言うのなら」

 

カテレアが左手をかざすと、氷上の足元に魔法陣が展開され。

そこから黒い触手が伸び、氷上の首を締め上げる。

突然の出来事にイリナは驚愕し悲鳴を上げ、氷上は右手のプラズマフィストを取り落とす。

 

「ぐっ……ううっ……」

 

「私に対する抵抗は無意味です。さてお嬢さん、改めて私とお話をしましょうか?

 ああ、それとその物騒なものはしまってくださらないかしら。

 それで私に敵うとは思えないけれど」

 

「わかったわ……その前に、お巡りさんを放して」

 

触手が氷上を解放すると、氷上はその場にへたり込み、むせ込む。

プラズマフィストはご丁寧に、触手によって飛ばされている。

イリナも隙を突いてカテレアを討つつもりだったのかもしれないが

いくら聖剣とは言え擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)一本では

カテレアを倒す事は出来なかっただろう。

7分の1のエクスカリバーでは、魔王クラスの相手には通用しない。

如何に不意をつく事に優れた武器とは言え、威力が足りなさ過ぎるのだ。

この点は、コカビエルと対峙したセージに近いものがある。

 

「さて、こちらは約束を守りました。今度はそちらが約束を守る番。

 悪魔は約束を大事にするものだと言う事は、あなたも存じているでしょう? さあ、こちらに」

 

「ま、て……ッ!!」

 

不安そうに氷上を見つめるイリナを無視するかのように

カテレアはイリナごと魔法陣で転移する。

その転移の先がどこであるかは、氷上にはわからない。

何故、カテレアがイリナを浚うのかも。

 

「クソッ、またしても……クソッ!!」

 

氷上の握り拳は、無念を込めて地面に叩き付けられていた……。

膝をついた氷上の上空を、避難民を乗せた自衛隊のヘリが飛び交っている。

失意のまま、氷上も付近の避難誘導現場へと足を向けるのだった。

 

――――

 

駒王学園。ここに迫っている巨大な力を前に、この場にいる者の多くが戦々恐々としていた。

その正体は白龍皇アルビオン。赤龍帝ドライグと並び二天龍と称される存在。

その戦力は未知数である。

 

「面白い、面白いぞ! やはり神のいない、偽りの神だからこそ出来上がるこの世界!

 悉く俺の好奇心を刺激してくれる!

 二天龍を滅ぼさなかった事を感謝するぞY・H・V・Y()――いやヤルダバオト(偽神)よ!!」

 

興奮冷めやらぬ形でコカビエルが吼える。

その咆哮に答える形で、既にボロボロになった駒王学園のグラウンドに

止めとばかりの光の柱が降り注ぐ。その光の中から現れたのは、全身を白い鎧に身を包んだ存在。

黒を基調としたコカビエルのアンチテーゼと言わんばかりの白い鎧。

そしてそれは、紛れも無くそれが白龍皇である事を示すもの。

 

「さっきからうるさい。一人で勝手に盛り上がって。

 しかし随分と大掛かりな事をしてくれたな。アザゼルが動きたがらないわけだ」

 

白い鎧の存在は、コカビエルとイェッツト・トイフェルを交互に見やり、ため息をつく。

それは面倒な事に駆り出されたと言うこの事態に対する呆れである証だった。

 

「『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』……いや『白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(スケイルメイル)』か。

 赤龍帝と違い、禁手(バランスブレイカー)に至っているとはな。

 だが、如何に白龍皇と言えどそう簡単に俺を破れるかな?」

 

「いや……お前を倒すのは俺じゃない」

 

なに? と問い返す間もなく、コカビエルの鳩尾に白龍皇の拳がめり込む。

思わず嘔吐するコカビエルだが、それ以上に恐ろしい事が起きようとしていた。

 

DIVIDE!!

 

「が……っ!? ち、力が……」

 

「これで終わりではないぞ? 白龍皇の力、知っているだろう?

 早く俺を倒さねば、白龍皇はお前の力をどんどん奪っていくぞ」

 

DIVIDE!!

 

「ぐっ、おのれ……ッ!!」

 

白龍皇の力。それは、10秒毎に能力を2倍にする赤龍帝に対し

10秒毎に能力を半分にする、恐るべき力である。

コカビエルのように元々の力が強いものが受ければ、効果は覿面である。

 

その一方、白龍皇の参戦により事態を重く見た冥界政府は

イェッツト・トイフェルの一時撤退を命じ。

コカビエルと白龍皇が戦っている最中を見計らい駒王学園の上空から撤退を始めていた。

イェッツト・トイフェルの本体めがけてコカビエルが光の槍を投げつけるが

それは本隊が展開している結界に阻まれてしまう。

無双を繰り広げていたさっきまでならば、考え付かない状態だ。

 

「――ウォルベン。陛下より撤退命令が出た。引き上げるぞ」

 

「御意。では私も帰ってチョコレートを食べるとしますかねぇ。

 力の衰えたコカビエルと戦っても、得るものは無さそうですし。

 何より白龍皇と戦う準備まではしていませんからねぇ」

 

DIVIDE!!

 

「くっ……に、逃げるかぁ!!」

 

「コカビエルに構うな! 監視用のドローンだけ置いていけば良い!

 リアス・グレモリー。貴様らも引き上げるのだな。

 赤龍帝を擁する貴様だからこそ、白龍皇の恐ろしさは知っていよう?

 コカビエルのときのような言い訳は通じんぞ」

 

イェッツト・トイフェルの目的は事態の収拾。必要以上に自分達が出張る必要は無い。

それもあり、白龍皇対策に情報収集用のドローンだけを残し、全軍撤退していた。

二天龍が揃っていると言う事態が、冥界政府にとっても由々しき事態だったのだ。

 

DIVIDE!!

 

「冥界軍は逃げたか。まぁ、俺の目的はあいつらじゃないしな。

 それより、お前は逃げないのか? まぁ、アザゼルの命令もあるから逃がしはしないがな」

 

「い、忌々しいトカゲめぇ……!!」

 

DIVIDE!!

 

「……こんなものか。さて、お膳立てはこのくらいにしてやろう。

 お前の相手は赤龍帝がする。今のお前なら、丁度いい力加減だろう」

 

「貴様ァ……俺を赤龍帝の実力を測るために使うつもりか!!」

 

「悪いか? このまま続けてもお前に勝ち目は無いと思うがな。

 だったらせめて、全力を尽くして戦ったらどうだ? 勝てそうな相手にな。

 こっちにしてみれば、誰がお前を倒そうが関係ないんだ」

 

言うだけ言い残し、白龍皇と名乗る白い鎧は姿を消す。

そこに取り残されたのはグレモリー眷属と

力をおよそ32分の1にまで減衰させられたコカビエル。

歴然としていた実力差は、大きく埋められている。

そうなれば、数で勝っているグレモリー眷属が優位だ。

 

「白龍皇が私達を助けてくれたというのかしら……まぁいいわ。

 またとないチャンスよ、皆一気に畳み掛けるわよ!」

 

BOOST!!

 

「了解っす! セージ、これなら文句はねぇよな!?」

 

BOOST!!

 

「……まさか本当に想定の範囲外の事態が発生するとはな。

 ここまで来たら、確かに殲滅したほうが被害は抑えられるかもしれないか。

 だがシンクロは断る。少し頭を冷やしたほうがいいだろう、お互いにな」

 

しかしこの期に及んでも二人の赤龍帝――特にセージはシンクロを拒み。

各々の力でコカビエルと対峙しようとしていた。

それが適うほど、今のコカビエルは減衰しているのだ。

 

(確かにシンクロして強化すれば、決められはするだろうが……ドライグの言い草が気になる。

 俺達をシンクロ……いや寧ろ、俺をイッセーに憑依させるのを待ち構えているようだった。

 あまりにも突拍子過ぎる。戦力強化以外の目的があるな、間違いなく)

 

BOOST!!

 

「だったらぼさっとすんなセージ!」

 

RELOCATION!!

 

「……フン、言ってくれるな!」

 

イッセーの左手の正拳と、セージの右足の回し蹴りがコカビエルを捕らえる。

しかし如何に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ないし龍帝の義肢(イミテーション・ギア)で強化された一撃とは言え

上級堕天使のコカビエルに有効打を与えるには程遠かった。

いや、32分の1にまで減衰させて、ようやくまともに攻撃が当たる状態になったと言うのが

現時点での真理だろうか。

 

「な、なめるな……禁手にも至っておらぬ、弱小の赤トカゲごときがぁ!!」

 

イッセーもセージも、その攻撃の性質上、どうしても接近戦を挑まなければならない。

そうなれば、反撃を食らうのは自明の理。それを見逃さないコカビエルでもなかったが

反撃のために収束させている光は天からの雷によって霧散させられる。

上空には、黒い髪をなびかせて朱乃が雷を撃つべく待機していた。

 

「素直でかわいらしいイッセー君も。

 生意気な所が逆にかわいらしいセージ君もやらせませんわよ?」

 

「お、おのれぇぇぇぇ、虚空の旧き者共に乗っ取られ

 堕天した塵屑のような奴から生まれた奴が、なまいきなぁぁぁぁ!!」

 

先刻、朱乃を挑発したのとは全く逆の立場になっている。

力の減衰は確実にコカビエルを追い詰めていたのだ。

しかし、今の言葉は確実に朱乃の逆鱗に触れていた。落ちる雷が激しさを増している。

 

「あ、朱乃さんっ! お、俺たちまで巻き込まれてるっす!!」

 

「くっ……イッセー、伏せろ。避雷針になるっ!」

 

セージが左手を高く掲げ、既に実体化させていたプラズマフィストに朱乃の雷を吸収させる。

実際のところ、プラズマフィストにそんな機能は無いが雷に対し雷をぶつける事で

強引にコントロールを試みているのだ。

そうして集めた雷を、コカビエルめがけて発射させる。

電撃は見事コカビエルに命中するが、それでもまだコカビエルは倒れない。

 

「ぐぐっ……お、恐ろしきは白龍皇か……

 貴様らごとき塵屑に、ここまでいいようにされるとは……っ!」

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……ひ、姫島先輩……

 こんなときばかり都合のいいことを言うのも……何ですがっ……

 か、加減は……して、いただきたい……っ」

 

「あらあら、ごめんなさいね。でもお見事ですわよセージ君、うふふ」

 

セージもまた、雷の強引なコントロールで感電したのか、消耗していた。

プラズマフィストにしても、オーバーロードを起こしてしまい使用不能になっている。

地面に放り捨てられたそれは、放電しながら実体化できなくなり消失する。

 

「押せているわね。小猫、祐斗、ゼノヴィア! さらに畳み掛けるわよ!

 イッセーはチャージ、今度ははずさないわ!」

 

「……はい」

 

「了解!」

 

「……いいだろう!」

 

「了解っす!」

 

リアスの号令にあわせ、小猫が再びギャスパニッシャーの目をコカビエルに向ける。

その目に映ったものの時間を停止させ、動きを封じる力があるのである。

それを作り上げたセージは知らない事だが

このあたりはモデルになった存在を忠実に再現している。

先刻はまるで効かなかったが、32分の1に減衰したコカビエルには

わずかながらにも効果を発揮する。一度成功したときと同様

コカビエルの身体の一部の動きを完全に停止させる事に成功している。

その隙は、攻撃のチャンスを作るには十分すぎるほどだ。

 

そしてゼノヴィアは祝詞を唱えながら、右手を天に掲げる。

その右手に現れたのは、エクスカリバーとも異なる新たな剣――デュランダル。

 

「……ククク、この期に及んでさらにデュランダルか。

 バルパーが知った時の顔はもはや見られぬのが残念だが……まぁいい。

 精々、俺を失望させてくれるなよ!」

 

「力を殺がれておいて、口はいまだ達者なようだな!」

 

MEMORISE!!

 

「セージ君、まさか……」

 

「ああ。どこぞの誰かにはまた恨まれるかもしれんがな。

 だがさらに度肝を抜いてやる……これが、俺の力……俺なんだからな!!」

 

デュランダルと破壊の聖剣の二刀流でコカビエルを追い詰めるゼノヴィアの脇で

セージは新たなカードを獲得。それは――聖剣デュランダルを実体化させるカード。

 

SOLID-DURANDAL!!

 

地面に突き刺さる形でゼノヴィアの振り回しているものと寸分違わぬ大剣が現れる。

おもむろにセージが柄に手を伸ばすが、一瞬表情が曇る。

それを悟られまいと、セージは木場に攻撃を促す。

 

「祐斗、俺も後から仕掛ける。お前も行ってくれ!」

 

「ああ、わかったよ!」

 

しかしそれは、セージの強がりであった。

セージが作り出したデュランダル。セージは当然それを使おうと試みるのだが。

 

(ぐ……っ。槍と違って痛みは無いが……う、動かせない……っ!

 こ、これじゃまるで使い物にならない……!)

 

セージから冷や汗が流れる。傍から見れば隙だらけである。

一方、コカビエルの減衰した力も、少しずつ戻り始めていた。

32分の1が16分の1になるだけでも、体感2倍の強さになる。

コカビエルにしてみれば全盛期には遠く及ばないが

現時点で優位に進めていたグレモリー側にしてみれば、苦戦するに足りる要素である。

その証拠に、隙だらけのセージにコカビエルが気づく。そうなれば、やる事は一つ。

 

「赤龍帝の片割れ……あのおかしな力を持つほうか。

 あっちは特に厄介だからな……ここで消してやる!」

 

「コカビエル! 君の相手は僕達のはずだ!」

 

「まずい……避けろ、直撃するぞ!」

 

ゼノヴィアの攻撃をしのぎながら蓄えていた光力で作り上げた光の柱を

セージめがけて投げつける。その光の柱は、射線上にいた木場やゼノヴィアも巻き込む形で

セージを狙っている。

 

二人はデュランダルや聖魔剣を巧みに操り、攻撃を回避するがセージにそれは出来ない。

思わず、セージはデュランダルの影に隠れる体勢をとる事にした。

身体の大きさが災いして、ある程度掠める形にはなったが直撃だけは辛うじて免れた。

 

「ほう。デュランダルを盾にしたか。振り回せなくとも、避難シェルターにはできるか。

 だが、それでは上空からの攻撃は防げまい! 直上爆撃、受けてみろ!」

 

「盾……? そうか、やってみる価値はある!

 ありがとうよコカビエル! お前のおかげで、使い道が見えた!」

 

木場とゼノヴィア、小猫を弾き飛ばしセージの上空から光の槍を投げつけるコカビエル。

立ち位置の都合上、デュランダルを盾にして攻撃を防ぐ事はできない。

持ち上がらないデュランダル手に、セージは直上からの攻撃に備えるべく博打を打った。

 

BOOST!!

RELOCATION!!

MORFING!!

 

「モーフィング! 『剣』を『盾』にするッ!!」

 

セージの右手――龍帝の義肢に握られたデュランダルが、徐々に形を変えていく。

剣を思わせるスタイルはそのままに、さらに幅広になった刀身。

鏡を思わせるほどに磨かれたような刀身。

そして何より、握り手の部分が大きく変化している。

剣のそれではなく、例えるならばジャマダハル。腕に通して使う刀剣系の武器ではあるが

それはその刀身次第では、盾を髣髴とさせるデザインになる。

 

今セージの右手には、右下腕を覆うほどの大きさの

幅広のジャマダハルが装備された形になっている。

軽く腕を振ってみる。――少し重いものの、動く!

 

セージはデュランダルだったものが使える事を確認した後

そのまま右手を天に掲げ光の槍を迎え撃つ。

 

MEMORISE!!

 

「『ディフェンダー』か……間に合えっ!!」

 

「紛い物の聖剣で、我が一撃を凌げるものか!」

 

コカビエルの光の槍が、セージに降り注ぐ。直撃ならば、セージは消滅している。

その光が収まらぬうちに、光の中心からは音声が発せられる。

その音声は――記録再生大図鑑のものだ。

 

PROMOTION-ROOK!!

 

「ば、バカな!? 俺の……俺の攻撃が通らないだと!?

 奴は悪魔なのだぞ、悪魔に、光の一撃が通らないはずが……」

 

「ふむ。やはりこの状態のほうが安定するか。こいつ、何だかんだ言っても重い。

 さすがはゼノヴィアさんと言っておくか、こんな重いものをほいほい振り回せるのだから。

 そして白龍皇にも感謝せねばならないか。本来のパワーだったら、これでも防げたかどうか」

 

ディフェンダーを装備した右腕を払いながら、セージは呟く。

対するコカビエルは、悪魔であるセージに光の槍が通らなかった事に愕然とし。

今ここに、手札は出尽くした。後は、決着をつけるのみである。




今回は非常に解説も長くなります。

カテレア。

先行登場組。何故彼女がイリナを浚ったのか。
ヒントはイリナの立ち位置。三大勢力の話にある程度免疫があり
イッセーに近すぎず遠すぎずの彼女ならではです。
ネタバラシですが同様の目的を松田や元浜、桐生にも出来なくはないですが
彼ら彼女らは別な出番がありますので今回は見送り……ろくな出番じゃありませんが。
三大勢力の話にも免疫ありませんし。

そして原作には無い腕輪。これ結構曲者です。
今まで他作品ネタを散々使ってましたが、これはモロです。
元ネタのそれそのものと言っても過言ではありません。
(平行世界移動もその気になれば可能な元ネタだからいいよね……?)
知っている方はカテレアの台詞でピンと来たかもしれません。

白龍皇。

まだ使用者の名前は出てません。ここは原作どおりヴァーなんとかさんです。
コカビエルを彼のかませにしないために強引に一時撤退させましたが
はっきり言って弱い敵と戦って楽しい……
ってタイプのキャラには見えませんでしたので、こんな形にしてます。
そう解釈すると弱体化ありきの白龍皇の光翼は難儀な神器ですね。

セージの新武装(またかよ)。

デザインモチーフは武装チェイサー・スパイダー。
あるいは闘士ダブルゼータガンダムの左腕の武器。
武器にも転用できる盾にはロマンを感じたりします。逆かもですけど。
デュランダルから変化させているので光耐性ついてます。
殴る事で光属性攻撃も出来ます。またかよ。
なお変化前のデュランダルが使えなかった理由は単純に適性の有無。
原作みたいにほいほい譲渡が可能なほうがちょっとおかしい気がしましたので。
変化させた際に適性等の条件まで書き換えてます、赤龍帝マジチート。
新武装関係ないですが、プラズマフィストで見せた雷操作と言う芸当は
グレートマジンガーのサンダーブレークを意識してます。
そこに科学的見解は全くありませんのでご了承ください。


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Settle an incident. and...

サブタイ訳:事態解決。そして……

今回も三人称視点です。
色々な事態が原作通りに行かなくなりましたが
今回もその例に漏れません。





海の彼方で盗まれた聖剣エクスカリバーが日本国・駒王町に持ち込まれ。

それを追って警察、果ては自衛隊にまで話が及んだ一連の事件。

首謀者である堕天使幹部コカビエルは、その戦力の大半を喪失し。

今まさに、駒王町を牛耳るリアス・グレモリーによって首謀者は討たれようとしていた。

 

「セージ!? お前、その武器は……」

 

「デュランダル……いや、ディフェンダーだ。

 デュランダルの刀身にあるであろう聖なる力を、そのまま防具として使っている。

 剣として使うか、盾として使うかの違いだ。

 力は刀身に流れているから、武器に転用できない事もない」

 

「驚いたな……君は一目見ただけで模倣するどころか応用させてしまうとは。

 力の程度はわからないが、本家本元を操るものとしては負けられないな」

 

両手両足に赤い装甲を、右下腕に盾ともジャマダハル状の剣とも取れる装備を身に着け。

コカビエルとの全面対決を渋っていたセージではあったが、彼我戦力差が埋められた事で

全力を以って殲滅する、と言う方向へと考えがシフトしていた。

 

「あれだけ戦うのを嫌がってたくせに、今更かよ……都合いいな、お前」

 

「何とでも言え。今俺達がやってるのは不特定多数の命のやり取りなんだ。

 限られた条件下でのスリリングなやり取りを楽しむゲームじゃない。

 だから確実性が高く、かつ有益な結果をもたらす策をとるのは自然じゃないか?

 それより、無駄口叩いてないでグレモリー部長に回す力のチャージをさっさと進めたらどうだ。

 俺がこれを使って奴に取り付いて動きを封じる。そうすれば当てられるだろう」

 

イッセーの難癖にも応じず、セージは淡々とコカビエルを倒すプランを頭の中で練っている。

接近できる自分が近づき、コカビエルの動きを封じたところに総攻撃を当てる考えらしい。

 

「グレモリー部長。幸い奴の攻撃を封じる術があります。これを活用して

 奴の懐に飛び込み、動きを封じます。そこを総攻撃してください」

 

「……総攻撃に参加する、って捉えていいのね? わかったわ」

 

セージのプラン。それは、自身が盾を構え突撃し、その影から近接戦闘を得意とする

木場や小猫、ゼノヴィアが攻撃、コカビエルの動きを封じる。

そこに赤龍帝からの譲渡を受けたリアスが一撃を加える。

朱乃は一連の流れをサポート。この流れで戦おうと言うものだ。

 

BOOST!!

BOOST!!

 

「だったらさっさとやろうぜ、セージ!」

 

「――言われるまでもない、安らかな夜を取り戻す。

 あんな奴に、安眠を妨げられるのは甚だ不愉快だからな!

 皆、続いてくれ!」

 

「正面から突っ込んでくるか……俺を舐めるなぁぁぁぁぁ!!」

 

イッセーは力を蓄え、セージはディフェンダーを構え突撃。

その影に小猫、木場、ゼノヴィアが続く形になっている。

本来、実力の大きく離れた相手が真っ向から挑んでくると言う事態に

コカビエルは大きく激昂、無数の光の矢をセージめがけて放つ。

 

――しかし、光の矢はディフェンダーに全て弾かれ、セージには傷一つ負わせられない。

コカビエルの猛攻をものともせずに、セージはコカビエルとの距離を詰めていく。

ディフェンダーの防御力に加え、戦車(ルーク)形態のパワーと突進力で

コカビエルの攻撃をものともしない構えだ。

それは、後ろに控えている三人との距離も詰められている事を意味していた。

 

「デュランダルの力を防御に使っていると言うのか、なるほどな。

 デュランダルを複製するばかりか、悪魔が振るう事に思うところはあるがな。

 今は非常時だから黙っているが、私とてイリナの気持ちは理解しているのだぞ?」

 

「……力比べは遠慮させて欲しい。古代中国の由緒正しい言い伝えに

 『強い矛と盾は交えるな』と言う旨もあることだし。

 それから文句は俺に神器(セイクリッド・ギア)を寄越した奴に言ってくれ。

 アーシアさんと同じで、そういう『仕様』なんだから」

 

「けれど、あのコカビエルを倒すには有効な方法だ。

 小猫ちゃん、もう一度コカビエルの動きを止められるかい?」

 

「……攻撃が止んだら、仕掛けてみます」

 

「貴様らごとき蛆虫どもが、ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

先刻までイェッツト・トイフェルを相手に余裕綽綽であった姿は見る影も無く

ただ激情のままに光の柱を投げつけてくるコカビエルの姿がそこにはあった。

まるで子供が癇癪をおこしたかのような、堕天使幹部としての矜持など

かなぐり捨てたかのような暴れっぷりだ。

それを示すかのように、一際大きな光の柱が、セージを飲み込もうと迫ってくる。

 

「セージ君!」

 

「……セージ先輩!」

 

「――来る、あまり動かないでくれ!」

 

真っ向からセージ達を飲み込もうとする光に対し、セージはディフェンダーを構える。

ディフェンダーの刀身に流れる聖なる力は、攻撃を受け流すためのバリアとなり。

その様は、まるで開いた雨傘に降り注ぐバケツの水であった。

 

強力な撥水加工を施されている雨傘が水を弾くように、光の柱はディフェンダーを貫通できず

複数の条の光となって、セージ達の後ろへと散っていった。

威力だけはあったらしく、光に押される形でセージが踏ん張った跡が地面に残されている。

 

「バカな、俺の力が通らないだと!?」

 

「――防げた! 今のうちに!」

 

「……はい!」

 

セージの影から飛び出す形で、小猫がギャスパニッシャーを構えている。

ギャスパニッシャーの眼は、コカビエルの四肢をしっかりと見据えていた。

白龍皇によって力が減衰させられた事で、ギャスパニッシャーによる

時間停止の効果も通りやすくなっていた。

 

しかしコカビエルも一度食らっているためか、視線に入らないように動き回る。

それを見越してか、その移動先に回りこむように朱乃の雷が遮りに入る。

 

「あらあら、逃がしませんわよ?」

 

朱乃の雷に追い立てられ、コカビエルもついにはギャスパニッシャーの視線上に入ってしまう。

それは即ち、自身の身体の自由を奪われる事を意味していた。

今度は四肢の自由が効かない。防御も、回避も、反撃もままならないのだ。

 

「ぐっ、また『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』か! ええい、どこまでも、どこまでも!!」

 

「終わりだ、コカビエルッ!!」

 

「これで終わりにさせてもらうよ!!」

 

自由を奪われたところに、聖魔剣を構えた木場。デュランダルを構えたゼノヴィアが斬りかかる。

障壁を張る隙さえ与えずに、二つの刃はコカビエルを確実に切り裂いた。

黒い羽が、闇夜に舞い散る。

 

「……セージ先輩、同時に」

 

「――了解したっ!」

 

黒い羽が舞う中、今度は小猫のギャスパニッシャーと、セージのディフェンダーによる打撃が

コカビエルを挟み込むように突き刺さる。小猫の一撃が、コカビエルの身体を突き動かし

セージのディフェンダーの刃に深々と食い込ませる。

そこから流れる血は、人間と同じように赤かった。

 

EXPLOSION!!

 

「部長、決めてください!!」

 

TRANSFER!!

 

「待っていたわ、イッセー。コカビエル、これで終わりよ!!」

 

イッセーから譲渡された力を手に、リアスが滅びの魔力を放つ。

今のコカビエルに、それを回避する術も、防御する術も無い。

ただ無抵抗のまま、リアスの一撃を食らう形になった。

 

「ぐ、が、があああああああああっ!!」

 

赤龍帝によって強化された滅びの魔力が、コカビエルを飲み込んでいく。

戦いが始まる前、それどころか数刻前でさえ遅れは取らないと豪語していたコカビエルが

こうも簡単にリアス・グレモリーの手玉に取られている。

そうなったのは白龍皇の力添えによるものだが

どうあれコカビエルを討ち取った事に変わりは無い。

 

魔力波が消えた跡には、複数の対になっていたコカビエルの黒い羽は

たったの一対のみになっており、その身体は見るも無残にズタボロになっていた。

白龍皇に減衰させられた力をかき集め、滅びの魔力に対するバリアにしたのだが

それを以ってしても、攻撃を防ぎきる事は出来なかったのだ。

 

もはや、コカビエルに戦意は残されていなかった。

リアス・グレモリーと言う、自分よりも格下であるはずの相手に敗れた事が

心身ともに決定打を与えたのだ。

 

「ば、か、な……っ」

 

「コカビエル。今までの狼藉は許し難いものがあるわ。

 犯罪人として、お兄様の、魔王様の下へと連行させてもらうわ」

 

コカビエルを捕縛しようとリアスが近づく。

しかしその目の前に、突如として白い鎧が現れる。

白龍皇アルビオン。コカビエルを弱体化させた張本人である。

 

「待った。悪いがコカビエルの身柄は堕天使総督であるアザゼルが預からせてもらう。

 俺はアザゼルの使いとしてここに来た。自分達の不始末ぐらい、自分達でつけたい。

 そうアザゼルは言っていた。ここはその言葉に免じて、手を引いてはもらえないか。

 もしそうでない場合は……」

 

「実力行使、ね。わかったわ。こちらとしてもこれ以上堕天使陣営と事を構えるつもりは無いわ。

 けれど、追って魔王様からそちらに連絡が行くかも知れない事は伝えておいて頂戴」

 

アルビオン――正確にはアルビオンを宿した者の言葉に、リアスは二つ返事を返す。

いや、返さざるを得ないとも取れる。多少なりとも消耗している現時点で

白龍皇を相手に戦う。それはあまりにもハイリスクだ。

それはその場にいる誰もが理解していた事。そのはずだった。

 

「領主の協力に感謝する」

 

白龍皇は魔法陣を展開させ、そこに突き飛ばすようにコカビエルを放り込む。

恐らく行き先は堕天使総督アザゼルのもと。

連れ帰るのではなく、コカビエルだけを先に送り飛ばした。

その行動の意味するところは、すぐに判明する事になる。

 

『無視か、白いの』

 

『そう言うな。こっちにだって都合があるんだ、赤いの』

 

イッセーの神器から、ドライグの声が。

白い鎧からは、今までとは違う声がそれぞれ響く。声の主は二天龍。

明確な意思の元に、先の戦いにおいて猛威を振るった存在がまた、邂逅していた。

 

『中々面白い事になっているじゃないか、赤いの』

 

『ああ、今度の持ち主が面白い事になっているからな』

 

『その割には、「禁手(バランスブレイカー)」にも至れていないようだが?』

 

『ぬかせ。それに匹敵する、いや或いはそれ以上の力がある』

 

二天龍のやり取りは、古くからの知己に出会った事を喜ぶものとも

目的を果たせた事を喜ぶものともとれるが

いずれにせよ、互いに喜びの感情が強いことだけは確かであった。

そして、彼らにとっての喜び。それは――

 

――戦い。あるいはそれに必要な強さ。それだけであった。

 

『試すか?』

 

『もちろんだ。こっちも仕事は、義理立ては終わった』

 

イッセーの左手の宝玉の輝きが増し。

白い鎧は再び臨戦態勢をとり。

その場の空気が再び張り詰めたとき、更なる異変が起きた。

 

「ぐ……なんだ? 右手が……っ!?」

 

「セージ!? ……っ!? な、何だこれ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が……!?」

 

赤龍帝の片割れ、龍帝の義肢(イミテーション・ギア)――セージ。

彼の右手は、異常な光を放ち、まるでその部分だけ別の存在のようであった。

 

「うああああっ!? う、腕が、腕がちぎれ……ぐああああああっ!?」

 

「おいっ、どうしたんだよ、セージ!?」

 

『相棒。来るべき時が来た。腹をくくれ』

 

セージの右腕に発生した明らかな異常。

右腕の異常な痛みにセージは思わず右腕を押さえるが、痛みは当然引かない。

それに対しイッセーは狼狽するが、ドライグは淡々と

まるでその時を待っていたかと言わんばかりの言葉を投げかけていた。

 

『霊魂の。今までご苦労だったな。約束通り、俺の鱗を返してもらうぞ』

 

「な……いきなり……何だって言うんだ……ま、まさか……!?」

 

セージは何かを察した。それは、ドライグが何故俺に力を貸してくれたのか。

その答えにも連なる事。可能性の一つとして、セージの頭にはよぎっていた。

 

――自分を、何かの保険にしていた事。

 

――あるいは、自分をドライグないしイッセーに力を集めるための貯蔵庫にしていた事。

 

「や、やって……くれた……な!

 俺に……選択肢が……なかった……事を……いい事、に……!!」

 

「ど、どういうことだよセージ!? ドライグ!?」

 

『喜べ相棒。霊魂のとの諍いも、お前に足りない力も、今全て、お前の思うがままだ。

 お前は悪魔になったんだろう? それなのに、思うが侭に力を得られなかった。

 その原因は確かに霊魂のだ。霊魂の。お前が自分の力と思っていたものは

 ほぼ全て、相棒が得るはずだった力だ。性質は大きく異なったがな。

 

 霊魂の。お前は良くやってくれた。

 あれだけのわずかな欠片から、ここまで力を蓄えたのだから。

 そしてそれを今、収穫する時だ。相棒、霊魂のを取り込め。そうすればお前は強くなる!』

 

それは、ドラゴンでありながらもまるで悪魔のような誘い。

しかし、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のことを考えればそれは自然ともいえる。

今まで共有のお陰で憑依していない状態では半々にしか力を発揮できなかったのだ。

それを統合すれば、8個分本来の力を発揮できる。しかし、統合と言う事は当然――

 

――イッセーかセージ、どちらかの人格は消滅する。この場合、消えかかっているのはセージだ。

 

「ふ、ふざけ……んな……俺、は……っ!!」

 

『さあ相棒。霊魂のを取り込め。お前達の悪魔の駒は共有されているのだろう?

 それならば容易い事だ。霊魂のに植えつけたのは俺の鱗。俺の一部。

 分け与えた俺の一部を、今再び俺の元に取り込む。そうすれば、お前はもっと強くなるぞ?

 

 ……やらぬのならば、俺がやる!』

 

「ど、ドライグ!?」

 

「……く、ふふっ、ははは……っ。俺もこれまでか……

 思えば当然……か。訳もわから……ぬ……力、に……

 手を、出した……ん……だから……な……っ!

 気を……つけろ……イッ、セー……ドラ、イグ……は……」

 

イッセーの左手と、セージの右手が一際激しく、赤く光る。

それと同時に、セージは実体化を強制的に解除され

右手だった箇所の赤い光だけがそこに存在する証となっており

その赤い光もイッセーに取り込まれるように消えていく。

 

『こんな……ところ……で、俺の……から……だ……も、とり……戻せず……に……』

 

「お、おいドライグ! やめろ!」

 

『俺は腹をくくれって言ったんだ、相棒!』

 

WERSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

『……いつか……いつ……か……俺、の……』

 

「せ、セージ!?」

 

セージの声は途切れ、イッセーの身体を赤い鎧が覆う。

それは白龍皇の鎧と酷似した姿。赤龍帝の籠手の禁手――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

赤龍帝の力はあるべき姿に戻り、本来の持ち主がその力を

遺憾なく発揮できるようになった証左でもある。

しかしそれは、確かに存在していた赤龍帝の片割れ、分霊を取り込む形で生まれたもの。

分霊を宿していた霊魂は、そこに存在を確認できない。

 

「こ、これが……」

 

『サービスで霊魂のの力も使えるようにしておいたぞ。

 本来持っている能力からさらに多くの力を得ている。白いのの鼻を明かすにはうってつけだ』

 

『言うじゃないか赤いの。まさか二つに分けて力を蓄えていたとはな。

 宿主が二人存在したからこそできた芸当だな?』

 

『ああ。リアス・グレモリーには感謝している。この力、新たな力を

 俺はものにできたのだからな……試してみるか?』

 

『聞くまでもなかろうよ』

 

白い鎧と赤い鎧が、激しくぶつかり合う。しかしドライグの言葉に反して

動きは白い鎧のほうが圧倒的に鋭かった。

事実白い鎧の方は、イッセーとは比べ物にならないほどの

修羅場を潜り抜けているような動きではある。

しかしそれを差し引いても、今のイッセーの動きが鈍いのは明白であった。

その理由はただ一つ――迷い。

 

『どうした相棒! 気合が入っていないぞ!』

 

「入るわけ無いだろ! 事情が、事情が全く読めてないんだぞ!

 そんな状態で、まともに戦えるわけが無いだろうが!」

 

『ならばこう言おう。奴こそ白龍皇。俺と戦う運命にある存在だ。

 強者に君臨する――即ちハーレムを作りたければ、奴との戦いは避けられん。

 そして、今俺達には奴と互角以上に戦える力がある!』

 

「……! よし、俄然燃えてきた!!」

 

ハーレムと言う言葉に反応し、イッセーの闘志に火がつく。

赤い鎧も動きの鋭さを増し、白い鎧と激しくぶつかり合う。

先ほどの迷いは一体なんだったのか。

しかし、これもまた兵藤一誠という人となりであるのだから致し方の無いところなのだろう。

それについてドライグは異を唱えない。彼は戦えれば何だっていい部分もあるのだ。

そんな彼にとって、兵藤一誠という人間は度し難く、御し易い存在であった。

 

そこにかつて存在していたはずのもう一つの赤龍帝の意思は、介在していなかった。

ストッパーでもあったその存在――歩藤誠二が何も語らない、語れない事は

ドライグにとっても、イッセーにとっても

己が欲望のままにアクセルを噴かすことができることを意味する。

最も、ドライグはともかくイッセーは元来自分の身体である。

己が欲望の赴くままにアクセルを噴かすこと自体は、間違いではないのだろう。

ただ、その方向性に多大な問題点があるだけで。

 

そして今や、ストッパーであったはずのセージの力はアクセルの補助となっている。

赤い鎧の左手から、白い鎧を絡めとるように触手が伸びる。

白い鎧に食らいついた触手からは電撃が流れ、さらに右手には赤い銃が握られ

容赦の無い射撃が行われていた。

 

「ぬっ……これは、俺の聞いた赤龍帝の力ではないぞ……!?」

 

『なるほど。確かに面白い事になっているな……だが!』

 

DIVIDE!!

 

白い鎧を縛り上げていた触手は白龍皇の力で弱まり、手刀でバラバラにされてしまう。

その勢いで白い鎧は赤い鎧に殴りかかるが、その拳は赤い鎧の右手のディフェンダーに阻まれ

カウンターを受ける事になる。カウンターがヒットした部分は、微かに溶け出していた。

 

「……朱乃、気付いたかしら?」

 

「ええ……あれは確かに赤龍帝の籠手の禁手でしょうけど

 発揮している力はセージ君のですわ」

 

「すると、前にセージ君が暴走したときみたいに……」

 

一方。突然始まった激戦に唖然としていたリアスと眷属達。

赤龍帝の力の暴走だけならば、一度だけとは言え身を以って知っている。

しかし今回のそれは、暴走と言うものではない。

だが、イレギュラーな部分を秘めている事に変わりは無い。

 

「いいえ。あそこにあるのはイッセーの意思で間違いないわ。ただ……」

 

「寧ろ逆に、セージ君の意思が感じられませんわね……」

 

状況は赤龍帝が優位であった。悪魔の駒の力を8個全て引き出せ、セージが今までに蓄積した

戦闘データや武装、能力もその全てが使用可能。その上に赤龍帝の鎧。

禁手の性能自体は白龍皇のそれと互角。宿主で言えば、イッセーは遥かに弱い部類ではある。

しかしそれにもかかわらず、戦いは五分と五分であった。

 

「ぐっ……!? 姿まで消せるだと!?」

 

『その調子だ相棒、白いのとの初めての戦いにしてはいい調子じゃないか!』

 

『や、やってくれるじゃないか赤いの……これは俺も負けられないな!』

 

ありえない強化を施されている赤龍帝の鎧を用いたとしても

戦闘は決してワンサイドゲームにはならなかった。

盛り上がる白龍皇とその宿主、そして赤龍帝に対して、赤龍帝の宿主であるイッセーは

未だ腑に落ちないものを感じていた。戦闘自体は、自身の夢のためにも乗り気であったのだが。

 

(セージの奴はどうしたっていうんだ? まるで声が聞こえねぇ……うるさくなくていいけど。

 けれど……俺はセージじゃねぇから、能力がこれだけあっても使いきれねぇ!)

 

その証拠に、姿を消す事でアドバンテージを得たはずの赤龍帝は

その動きを白龍皇に読まれ始めていた。白龍皇の攻撃が、ヒットするようになっていったのだ。

 

『どうした相棒、また動きが鈍っているぞ!』

 

『赤いの、その様子じゃ宿主には恵まれなかったみたいだな。

 能力は立派でも、動きが素人だぞ?』

 

「――どうした! そんな調子じゃ、白龍皇どころか俺にも勝てないぞ!

 俺を失望させてくれるな、赤龍帝を宿すものよ!」

 

「さ、さっきからみんなしてすき放題言ってくれるじゃねぇか……!」

 

ドライグからも、アルビオンからも、そして白龍皇を擁する者からも

総攻撃を受ける形になっているイッセー。

イッセーにしてみれば、赤龍帝と白龍皇の因縁に無理やり巻き込まれる形になっている。

にもかかわらず、彼らはそれを当たり前のように受け入れているため、イッセーのみが

理不尽を感じている状態だ。この場にセージがいれば、状況は変わったのかもしれないが。

彼もまた、理不尽を、無益な戦いを嫌う人種であったのだから。

 

(……これでいい。相棒には気の毒だが、霊魂のはあのままにしておけば

 俺達の戦いに茶々を入れてきただろう。

 ただの人間の魂風情に、俺達の戦いを邪魔されてたまるか。

 あの時だって、あんな偽者の神に俺達の戦いは邪魔されたんだ。

 今度と言う今度こそ、誰にも邪魔されない戦いが楽しめるんだ)

 

一つの戦いは幕を下ろし。

そして新たな戦いの火蓋が切って落とされ。

 

『面白い手土産じゃないか、赤いの!』

 

『こっちは宿主がへっぽこなんでな、それを埋めようと思ったらこうなっただけだ!』

 

戦いのための戦い。それは何も生まない。

同じく何も生まないもの。それは破壊のための破壊。殺戮のための殺戮。

破壊も、殺戮も明日を生きるために肯定される事が自然の中では往々にして存在する。

しかし、それらは全て生存と言う目的のための、破壊あるいは殺戮と言う手段である。

手段は、目的ではない。破壊も、殺戮もそれ自身を目的にすれば

そこには何も残らなくなってしまう。

 

ただ、欲望を無意味に貪り尽すだけの不毛な戦いが、ここに繰り広げられていた。




さて。

セージ消滅。
本来の赤龍帝でも無いのに、赤龍帝の力を駆使し続けた結果がこれです。
しかし、セージにしても実体を伴って活動するには
赤龍帝に頼らざるを得なかったわけで。
そんなセージの弱みに付け込み、ドライグは自身の力を蓄えていました。
オリ主は絶対無敵? 逆境なんて無い?
そんな不文律、どこにもありませんよ?

赤龍帝の鎧。
原作ではイッセーが左腕を差し出し、リアスや朱乃にご奉仕してもらう
イベントの切欠になりましたが(あれをリスクとは言いません! 断じて!)
拙作ではイッセーに支払い能力なしとドライグに見做され
セージが連帯保証人として肩代わりさせられる羽目になりました。
実際、今までの時点ではセージの方がイッセーより若干強かったので
ドライグはセージから代償を集りました。
実際ドライグにとってはセージはそういう存在でした。

なお、能力は一巻部分ラストで披露した赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)に近いものがあります
(セージの記録した能力を使えると言う点において)。
ただし扱う人間が違うので、完全に力を発揮できるかと言うと、はてさて。

赤龍帝VS白龍皇、他。
原作では会談中のイベントですが、拙作では赤龍帝増殖などの経緯もあるため
初戦が前倒しになってます。ヴァーリがコカビエルを倒さなかったのは
こうなった赤龍帝の力を測るためにわざと仕向けてました。
32分の1の力のコカビエルも倒せないようではお眼鏡に適わないと言うわけですね。
32分の1にまで弱体化させたのはコカビエルの名誉のためです。
何度も言うようですが、この時点で相手にするには
コカビエルはかなり強い部類に入ると思いますので。


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Life39. 消えた俺の友人

ブーストでゴーストですが
この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません。

MOVIE大戦の絡み具合は良かったなぁ。
アレ位がっつり絡んでくれると見応えがあると思うんです。

ホイコーローはTV本編でかなり優遇されてましたし
今回のロリショージョの扱いはその反動だと思うことにしてます。


それはさておき、やはり主人公消滅は反響大きいなぁ。
あ、ゴーストの話ですよ?

……って、この作品もゴーストの名を冠してましたっけ。


正直言って、もう何がなんだかわからねぇ。

ただわかるのは、目の前の奴が白龍皇で、ドライグの生涯のライバルだって事。

赤龍帝の籠手を持った俺はその戦いに巻き込まれている事。

 

……そして、セージがいなくなってしまった、って事だ。

 

そりゃあ、あいつは事あるごとに俺を殴るし、嫌味を言うし

部長に反抗的だし……って悪い事ばかり出てくるけれど。

けれど、何だかんだ言ってもあいつはあいつで俺や部長の事を気にかけてくれている。

 

特訓の時だって、球技大会の時だって、悪態こそついていたけど協力はしてくれていた。

部長に逆らいつつも、木場の様子を見てくれていたりもした。

アーシアを助けに行くときも、ほかの理由もあったかもしれないが

いの一番に賛同してくれたのはあいつだ。

 

だから俺は、あいつがどう思おうともセージの事を仲間だと思っていた。

だからこそ、俺はあいつが部長に反抗的な態度をとるのが許せなかった。

あいつの身体が元に戻りそうなときには、俺も素直にうれしかった。

……それなのに。

 

――いつか……いつ……か……俺、の……

 

……いなくなってしまった。あいつがいなくなったのと引き換えに、俺には。

いや、ドライグには新しい力が宿った。禁手にも至れた。

 

けれど、それは俺が思っていた至り方とはまるっきり違う。

 

『相棒。いつまでそうしているつもりだ。本腰を入れろ。

 そうしなければ、お前は白いのにやられるぞ』

 

「ドライグの言うとおりだぞ、赤龍帝の所有者!

 他事を考えたまま戦うとは、俺も嘗められた物だな!」

 

どいつもこいつも、俺の質問には答えてくれない。

俺はわけもわからないまま、こいつと戦っている。

今俺が戦う理由はたった一つ。自分を守るため。

 

「聞いていたとおりね。やはり白龍皇は、赤龍帝との戦いのみを望んでいた。

 コカビエルを倒すのに手を貸したのも、赤龍帝との戦いに邪魔だったから。

 ……そして、今の赤龍帝がどれほどのものかを見極めるためだった。

 

 みんな、もう一分張り行くわよ! イッセーを助けに入るわ!

 今のイッセーに、白龍皇と戦って無事で済むとは思えないわ!」

 

「……部長。相手はあの白龍皇。こちらも相応の被害を考慮しなければなりませんわ。

 せめて、魔王様の軍隊がまだ残っていてくれれば……」

 

後ろで部長が作戦を立てている。助けに来てくれるのはありがたいけど

ドライグがそれを許すかどうか。たぶん、横槍を入れられるのを嫌いそうな気がする。

それに、相手はあのコカビエルを手玉に取っていた。

気持ちで負けちゃダメだってのはわかるんだけど、その事実だけで負けた気になってしまう。

 

『何をやっている。このままではリアス・グレモリーも、お前自身もやられるぞ。

 死にたくないなら、死力を尽くして戦え。俺としても、ここでお前に死なれちゃ困るんだよ』

 

「……んな事、お前に言われなくてもわかってるんだよッ!!」

 

さっきから勝手な事ばかり言うドライグへの怒りを、白龍皇にむけてぶつける。

八つ当たりは八つ当たりだが、言ってしまえばこいつのせいでもある。

こいつを倒せば、後は邪魔者はいなくなる。そうなれば、俺の念願のハーレムが待ってるんだ!!

 

「白龍皇とか言ったな! 俺のハーレムのために、お前には倒れてもらうぞ!!」

 

「ハッ。くだらんな。そんなくだらん物のために倒されてやるわけにはいかないが……。

 それがお前の戦う原動力だと言うのならいいだろう。もう少しだけ付き合ってやる」

 

こいつ……セージとは違う意味で頭に来る奴だ!

その大口、すぐに利けなくしてやるぜ!

速攻で勝負をかけるべく、俺は一気に奴の懐まで潜り込もうとした、丁度その時だった。

 

――どこかから、突如砲撃を受けたのだ。

 

「ぐ……っ!? どこから撃ってきた?」

 

『二天龍の戦いに水をさすとは、無粋な輩もいたものだな、赤いの』

 

『全くだ、白いの』

 

「けほっ、けほっ……何が起こったと言うの!?」

 

「……耳が、きーんとします」

 

砲撃自体は、奴も、部長達も思ってもみなかった事らしく咳き込みながら呆気にとられていた。

俺の知っている奴に、こんな砲撃をする奴はいない。強いて言うならフェニックスの眷属に

そんな姉ちゃんがいた気がするが、今この場にいるはずが無い。

 

「……そこまでにしていただきましょう。

 これ以上、彼女の愛した大地を汚すような真似は看過できませんので」

 

「な……そ、その声は……や、薮田(やぶた)先生!?」

 

薮田先生だって!? じゃ、じゃあ今の砲撃は先生がやったのか!?

もしかして先生、神器持ちなのか!?

 

「全くいつまでこんな下らない戦いを続けるつもりですか。

 同じく下らない戦いを繰り返す人類でさえ、少しずつではありますが進化しているというのに。

 ドラゴンと言う種族は、その点において人間に劣ってますね。

 やはり世代交代が無いのが大きいのでしょうかね」

 

『誰だか知らんが、我ら二天龍を愚弄するとはいい度胸だ!』

 

「……ほう。私を知らない、と。まぁそれならそれでいいでしょう。

 私の正体など、どうでもいいことです。既に人は神の手を離れるべきなのですから。

 そして……『私』ではない『私』の不始末は、きちんとつけねばなりませんからね。

 

 ……リアス・グレモリー君。ならびにその周囲にいる皆さん。直ちに引き下がりなさい。

 近くにいれば、巻き込まれますよ」

 

「巻き込まれるって……一体、何を……」

 

俺には薮田先生の言っていることが全然わからなかった。

しかし、これだけははっきりとした。

薮田先生は、白龍皇も、俺――いや、赤龍帝も、恐れていない!

それどころか、倒すつもりでいる!

 

「ぶ、部長! 逃げたほうがいいッス! なんだか、すごいいやな予感が……」

 

「少し、大人しくして貰いますよ」

 

AKASHIC RE-WRITER SET UP!!

 

薮田先生が左手を翳し指を鳴らすと、俺と白龍皇の鎧が一瞬で吹き飛んだ。

い、一体どうなってるんだ!?

白龍皇の方は、暗い銀髪に碧い眼の男……有体に言えば、イケメンだ。つまり、俺の敵だ。

くそっ! こんな事ならもっと徹底的にやっておくべきだった!

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)がはがれてしまったが、向こうも鎧がはがれている。

条件は同じとばかりに、俺はイケメンに殴りかかろうとしたが。

 

――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が発動しない。

 

『言い忘れていたが、いくら霊魂のの力で安定させていたとは言え

 一度禁手(バランスブレイカー)を使うと、しばらく神器(セイクリッド・ギア)は使えないぞ。

 ……しかし今回の件、それだけではないな? 白いの』

 

『ああ。そっちよりは使いこなせているこっちでさえ、力をうまく引き出せん。

 さっき、あの人間モドキが何か細工をしたのかもしれん』

 

「兵藤君。あなたは何をしようとしたのですか?

 私は大人しくして貰う、そう言ったのですよ? にも拘らず、まだ戦いを続けると?」

 

闇夜の中から姿を現した薮田先生の顔は、全く笑っていなかった。

いや、この先生が笑うところは俺も見た事がないんだけど。

これで一つわかったのは、薮田先生は赤龍帝のみならず

白龍皇も無力化できる能力を持っているってことだ。

 

「……不本意な終わり方だが、水入りか」

 

「白龍皇……いえ、ヴァーリとお呼びしましょうか。

 私は薮田直人(やぶたなおと)。この人の世に住まうものとして、これだけは言っておきます。

 

 ……あなたの望む戦いは、この人の世において引き起こされるべきではない。

 それでも戦いを望むのならば然るべき世界に。

 この世界に留まるのならば人の世に相応しい平和な生き方を。

 選ぶのはあなたです。私はその選択に口を出しませんが

 この人の世で争いを起こすと言うのであれば

 私は全力であなたを阻止しにかかります。例えそれが、白龍皇であったとしてもです」

 

「薮田……わかった。

 そっちの希望に添えるかどうかはわからないが、この場は退かせてもらおう」

 

ヴァーリと呼ばれたその男は、渋々ながらも身を翻し、この場を後にする。

それに対してドライグは不満そうだが、神器が動かないと言う事で黙っている形だ。

 

「物分りが良くて助かりますよ。

 私はただ、この人の世を徒に脅かすものが許せないだけですので」

 

「……フッ、俺達のような存在は、何処に行っても鼻つまみ者だな。

 ではな赤龍帝。次会うときまでには、もう少し強くなってくれよ?」

 

……そう言うヴァーリの口調は、何処と無く寂しそうにも思えた。

が、それ以上にあいつがイケメンということが気に入らない!

俺の、俺の怒りは何処にぶつければいいんだ!?

すっかりと晴れ渡り、星もちらほらと見える夜空に俺の叫びだけが木霊した。

 

「さて。もう2~3時間もすれば避難警報も解除されるでしょう。

 しかしその前に……赤龍帝。あなた、異物を取り込みましたね?

 悪い事は言いません。直ちにその取り込んだ異物を吐き出すべきです」

 

ヴァーリに対する態度とは打って変わって

薮田先生はまるでにらみつけるようにこっちを、ドライグを見ている。

異物……ってことはセージか? けど何で、薮田先生はそれがわかるんだよ?

 

『だったらどうだと言うのだ。俺はただ、貸していた鱗を取り戻したに過ぎん』

 

「不当な取立てもまた、処罰対象ですよ?

 私が危惧しているのは、取り込んだ異物があなたの宿主に影響を及ぼさないかと言う点です。

 あなたは取り込んだものを消化できるでしょうが

 兵藤君にその異物を取り込み消去できるとは思えません。

 それは、あなたもよく分かっている事ではありませんか?」

 

『……また口煩く言われるのは敵わんが、まぁもう霊魂のに力はあるまい。

 この中で消滅しようが、どこかで野垂れ死のうが俺には関係ない。いいだろう』

 

ドライグと薮田先生の会話が終わると

俺の中からセージがはじき出されるように飛び出してくる。

俺の中からまさか人間が飛び出してくるなんて、全く妙な話もあったもんだぜ……。

最もセージは格好こそ人間のそれだけど、魂の状態だったからか痛みとかはまるで無かった。

あってたまるかって話でもあるけど。

 

「う……」

 

「セージ!」

 

「セージ先輩!」

 

「セージ君!」

 

無事が確認できたセージに、俺達は駆け寄る。

何だかんだ言っても、こいつもオカ研の一員なんだ。そうなんだよ。

ヴァーリって奴の事は気になるけど、セージも戻ったし、俺も禁手に至れたし

コカビエルも倒せたし。これで一件落着だよな!

 

「セージ君、無事だったんだね。イッセー君に取り込まれたときは、どうなる事かと……」

 

「……セージ先輩がいなくなるのは、やっぱりダメです」

 

「よくわからないが、心配をかけてしまったみたいだ。すまない。

 っと。いつまでも座ってるのもなんだな。よ……っととと!?」

 

……けれど、俺はその考えが甘かった事にすぐに気付く事になった。

何気なく右手をついて立ち上がろうとしたセージが、ありえないくらいによろめいたのだ。

さっきまで眠っていたような状態だから、ってのもあったかもしれないのだけど。

 

真っ先に、部長がセージの異変に気付く形になった。

 

 

「せ……セージ!? その……その右手は……」

 

「右手……?」

 

 

周囲の目が、セージの右手に向かう。

そこには、俺達と同じ右手があるはずなんだ。

あるいは、俺と同じ籠手型の神器、龍帝の義肢(イミテーション・ギア)が。

それが、セージがいつも使っていた武器。その力に、俺も何度も助けられた。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)と並び、セージが使いこなせていたはずの力。それが……

 

 

――無いのだ。

 

 

「な……!?」

 

「……右手だけ実体化させていない、なんて状態では……なさそう、ですわね」

 

今セージは実体化している。俺以外のみんなにも見えていることから、それは間違いない。

それなのに、そこにあるはずの右手を認識できてないと言う事は。

これには流石にセージもあせったのか、一瞬驚きの表情を見せたが

すぐに冷静さを取り戻したのか、俺に質問をしてくる。

もしかすると、そういう風に装っているだけかもしれないけど。

 

「……イッセー。一つ聞きたい。ドライグの声は聞こえるか?

 或いは、ドライグと対話は可能か? 俺のほうは、うんともすんとも言わない。

 見れば分かるだろうが」

 

え? 何だよ藪から棒に。今はただ単に神器として赤龍帝の力を行使できないだけで

ドライグとの対話は可能なはずだけど。

そう思い、俺はドライグに話を振ってみる事にした。

 

「なぁドライグ。セージの右腕が無くなっちまったんだけど」

 

『…………』

 

ところが、ドライグは答えを返さない。聞こえていないのか?

今まではそんな事はなかったはずなのに。逆はともかく。

もう一度、俺からドライグに問い質そうとするが、その役目はセージにとられてしまった。

 

「やはり答えないか。まぁそうだろうな。

 最初に俺に鱗を寄越したとき、それは俺の右手に宿った。

 そして今、ドライグはその鱗から力を取り戻した。俺の右手ごとな。

 俺は赤龍帝の籠手の本来の持ち主じゃないから

 力を振るうには支払うべき代償が要ったわけか。

 ならば聞かせてくれドライグ。お前が取立てを焦った理由……白龍皇だな?」

 

『霊魂の。気付いているとは思うが、お前は力を蓄えるためのプラントに過ぎなかった。

 その力を収穫した今、もうお前は用済みだ。赤龍帝でもなんでもない、ただの幽霊だ』

 

な……!? ど、ドライグ!?

まさかとは思ったけど、お前はそんな事のためにセージを利用してたのか!?

俺でまかないきれない分を、セージに肩代わりさせてたのか!?

 

「俺は死んでないぞ、ドライグ。それより、右手が無いのも存外不便なもんでな。

 右手だけでも、返してはくれないか?」

 

『出来ない相談だな霊魂の。あの時、お前の魂に俺の力を定着させるために右手を代償にさせた。

 鱗と言う媒体を介して、お前は俺の力をふるい限定的とは言え実体を維持でき

 俺はお前を介して力を取り戻した。いわば赤龍帝の籠手の体験版だった、って事だ。

 色々本来持ってない力に目覚めたようだがな。ともあれ、体験版の利用期間は終わりって事だ』

 

ど、ドライグ! 何言ってるんだ!?

それじゃ、今までセージはお前のいいように動いていただけだって言うのかよ!?

お前だけが一人勝ちして、セージは右手を失くしちまって……!

またいつぞやの俺みたいに、神器を持ってるからって理由で襲われたらどうするんだよ!?

 

『それからな。兵藤一誠、お前にも言えることなんだがな……

 

 ……いい気になるな、小僧ども!!

 俺は赤龍帝だ。この俺が貴様らのような小僧どもに

 良いようにされるだけでも腹立たしいというのに!

 白龍皇は既に目覚め、お前よりもはるかに強い! このまま戦えば俺はお前ごと負ける!

 生き残りたければ、今後はもっと俺の力を使いこなせるようにするんだな!』

 

「……フン。そのためには他の何がどうなっても構わないというのか。

 もはやお前はマダオどころの騒ぎではないな。

 ある意味、コカビエルよりも危険な存在というわけか。

 ……そうだと知っていれば、あの時首を縦には振らなかった。

 お前の話に乗った俺が恨めしくてならんよ」

 

右手を取られたこともあってか、セージがドライグに対して辛辣な態度をとっている。

そっか。あいつの右手に龍帝の義肢はあったわけだから

右手が無い今もうドライグとの関係は切れたわけか。

……ん? 右手が無いって、確かあいつ、右手にはもう一つの機能が……

 

「お、おいセージ。お前……右手が無いってことは……」

 

「……お前にしちゃ勘がいいなイッセー。ああそうだ。記録再生大図鑑も使えない。

 龍帝の義肢は、あれの起動キーの役割も果たしていたんだ。

 

 ……全くお笑いだな。さっきまで猛威を振るえていた俺が、今やこのざまだ。

 今まで記録していた分については、推測だがお前が禁手の力を発動させれば使えるはずだ。

 ……それを使いこなせるかどうかは、完璧にお前次第だけどな」

 

「う……簡単なのならともかく、お前が記録した奴全部は使えそうにねぇな……。

 コカビエルを倒した後でよかったな、ほんと」

 

俺の意見に、セージは全くだ、と肯定で返してくれた。

遠まわしにバカにされた気もしないでもないが事実なので言い返せない。

それに、言っちゃ悪いが今のセージが戦力になるとは思えない。

そう考えると、やはりすぐにでも右手を元に戻さないといけないんだけど……

 

……どうすりゃいいんだよ。

 

 

結局、この一連の騒動は何とか解決はしたものの、新たな課題を多く残す結果に終わった。

俺達の戦いは、決して間違ってないはずだ。

けれど、どんどん事態は大きく、俺達には手に負えなくなりそうな

規模の大きなものになっている事は、俺も何となくだけど感じざるを得なかった。

 

……ああ、何でこんな事になったんだろう。

俺はただ単に、部長のおっぱいを吸える、俺だけのハーレムが作りたいだけなのに。

それに頭を抱えていたのは、俺だけじゃなくて部長もだった。

 

「それから……リアス・グレモリー君。先ほどお話した件、忘れないでくださいよ。

 時間はいつでも空けておきますので、あなたの都合の良いときに来ていただければ結構です。

 ただ……近々授業参観もありますので、その前の方がお互い都合が良いと思いますがね」

 

「……わかったわ先生」

 

「ではそろそろ解散にしましょう。私はまだやる事がありますが……

 あなた方、一人で帰れますか?」

 

「それについては問題ないわ。ここから寮もそう遠くないし、イッセーも大丈夫よね?」

 

「え? はい、問題ないっすけど」

 

こうして、俺達は散り散りに解散して行った。アーシアは薮田先生が送ってくれるとの事らしい。

聞けば、警察の手伝いでけが人の治療とかをしていたそうだ。アーシアらしいっちゃ、らしいな。

 

……あれ? けれど、それが原因で色々変な目で見られてたそうだけど……大丈夫なのか?

ま、深く考えなくても良いか。アーシアの力が誰かに役に立ってるんなら、それは喜ぶべき事だから。

 

こうして、俺達の長い夜はようやく終わりを迎えたのだった。

薮田先生だけでなく、木場もこの後色々あったそうだ。本当に色々と忙しい一日だったぜ……。

 

――――

 

翌朝。薮田先生が言うように、あの後避難警報は解除され

いくらかの慌しさは残るものの、普段どおりの朝を迎えている。

父さんも母さんも、アーシアも無事に俺の家に戻っていた。

正直、家が倒壊してなかったことにほっとしている。

 

……俺の宝物の保管的な意味で。

 

セージは……いない。あいつが朝俺の部屋にいない事は多々あるので普段は気にも留めないが

今回ばかりは昨日の件もあるので、気がかりだ。

木場の件が解決したと思ったら、今度はセージかよ。本当、忙しい限りだ。

 

朝食を食べているリビングに流れるニュースは、昨日の事件で持ちきりだ。

父さんが読んでいる新聞にも、一面にでかでかと載っている。

 

――謎の巨大生物、駒王町を襲撃する!

 

――実験動物の逃走か、突然変異か、前触れも無く現れた脅威に迫る!

 

俺が言うのもなんだけど、結構無責任に煽ってくれていると思う。

けれど、本当のことを言っても信じてくれるかどうか。

まさか、堕天使の幹部がギリシャにいる怪物をつれてきました、なんて。

悪魔のことだって、はっきり言って半信半疑だろう。

その悪魔は、父さんや母さんの目の前にいるんだけどな。二人も。

 

だから、俺はセージが心配するような事にはならないと思う。

あいつが心配しすぎなんだ。人間は悪魔とうまくやっていける。

現にそうじゃないか。森沢さんだって、スーザンだって、ミルたんだって。

ま、まぁミルたんは人間にカテゴライズするにはちょっと怪しい部分があるけれど……

こんなにうまくやれるケースがあるんだ。俺は大丈夫だって信じてる。

 

「イッセー、そろそろ支度しないと遅刻するわよー」

 

おっとっと。昨日のアレがあっても学校はあるんだよなぁ。

まぁいいや。部長やみんなの様子も気になるし。

 

「行きましょうイッセーさん。それじゃお父様、お母様行ってまいります」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

だから俺は、今日も学校へ行く。

松田や元浜、それにオカ研のみんなと過ごせる時間が、間違っているなんてはずが無い。

セージの身体だって、きっとすぐに元に戻るはずだ。




戻ってくるだけならば、セージはあっさりと戻ってきました。
しかし、元来持っている神器も、赤龍帝の力も失っています。
神器の方は、鍵をなくしてしまいロックを解除できない、って状態ですが。
右手は霊体すらない状態です。
イッセーが言うとおり、完全に戦力外になってますが、さて。

今回の解説。


創世の目録(アカシック・リライター)

薮田直人が所有する神器。因果律、アカシックレコードにアクセスして
万物の事象を自在に書き換えられる神器。他の神器の効能を変化ないし無力化したり
無から有を創り出したり、ほぼ何でもできる。これを神器と言っていいものかどうか。
この神器について一言で言えば

うちゅうの ほうそくが みだれる!

しかし、使用時には副作用も同時に発生するため
この神器を用いた干渉は必要最低限にしなければならない制約も存在する上
持ち主の性格上、これを用いられる事は今回のように
誰の手にも負えない事態や解決法を用いなければならないときのみに限られる。

ちーとおつと いいたくば いえ

……そんな装備&存在です。

参考までに、今回使用して発生した事柄とその副作用をば。

・砲撃のための砲台を展開し、発射した

宇宙を漂うデブリで砲台と弾を生成、発射時の余剰エネルギーは次元の狭間に流した。
これは宇宙に流すと隕石を地球に落としかねないため。

・赤龍帝と白龍皇の神器を無力化した

二天龍の禁手のプログラムを書き換えた。その際蓄えられていたエネルギーは
既に存在しているブラックホールに流した。

・そして一瞬、空が、いや空間全てが真っ白になったような錯覚を覚えた。(Soul37. より)

これは直後にコカビエルの攻撃を無力化した結界。
レーティングゲームで使う術式の応用。一時的にレーティングゲームの空間と
同じ状態になってました。尚この間、次元の狭間が地上と同じ環境になってます。

このように副作用もあるため、おいそれとは使えない代物だったりします。
それでもチートですが。


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A sequel to the event. Side Human.

あけましておめでとうございます。
おかげさまで本作も一周年を迎えられそうです。

今年も満足いただける作品になるかどうかは分かりませんが
よろしくお願いいたします。


……クセガ アルモノネ セッテイ トカニ


新年早々前後編構成です。


白龍皇との戦いの後、散り散りに解散するオカルト研究部の部員達。

彼らとは別に、残る者もちらほらといた。

後始末と称して残った薮田直人(やぶたなおと)。そもそもオカ研とは何の関係も無いゼノヴィア。

そして、木場祐斗と歩藤誠二。

彼らは皆、成すべきことがあったのだ。

 

まずゼノヴィアはフリードの身柄を拘束し、エクスカリバーを回収する。

その後ろでは、薮田が超特捜課(ちょうとくそうか)に連絡を入れている。

 

「エクスカリバー、返してもらったぞ。イリナがいれば、なお良かったんだが」

 

「いかにエクスカリバーと言えど、使い手がこれではこんなものって訳か。

 ……聖魔剣を持つ者、デュランダルを持つ者としてお互い気をつけたいね」

 

フリードに対し辛辣な評価を下す二人だが、その評価は的確であった。

如何に優れた剣といえど、所詮は道具なのだ。

道具は、使い手次第でその顔を大きく変える。剣に携わる彼らも、その事はよく理解している。

そして、超特捜課との通話を終えた薮田は、神妙な面持ちでゼノヴィアに向き合う。

 

「……ゼノヴィア、でしたね。あなたに残念な通知をせねばなりません。

 紫藤イリナが本日未明より消息不明。目下警察は捜索中。

 それに伴い、あなたの身元引受人が失踪した事によりあなたは再び駒王警察署に

 勾留される事になります。今、警官がこちらに向かっています」

 

「何っ、イリナが行方不明だと!? こんなところでじっとしていられるか!

 すぐに探しに行かないと!」

 

「落ち着きなさい。あなたは一度警察に勾留された身。

 そんなあなたが警察の意向を無視して動けば、今度は勾留ではすみませんよ。

 それに、あなたの身元引受人ということで警察も捜索しています。今は様子を見ましょう」

 

納得はしないような表情ではあったが、ゼノヴィアは渋々薮田の意見に従っている。

程なくして、赤いジャケットの警官――テリー(やなぎ)がフリードとゼノヴィアの護送に現れる。

二人とも公務執行妨害で確保された前歴の持ち主だが

ゼノヴィアが人死にを出していないのに対し、フリードは警官殺しも行っている。

柳としては、フリードの監視に就きたかった。

それには、ゼノヴィアにおとなしく警察まで来てもらう必要があるのだが。

 

経緯を説明した後、ゼノヴィアはパトカーに乗り込む。

曰く、イリナの捜索を行う事、社会的にはともかく警察署と言う建物の中に入る事はできるので

風雨は凌ぐ事ができ、屋内で夜も明かせる事。

諸々の条件を提案し、いくらか平和的にゼノヴィアを駒王警察署まで護送する事はできた。

無論フリードは、十重二十重の厳重な警戒の上

神器(セイクリッド・ギア)持ちの柳が同乗すると言う形を取っている。

 

薮田を含め警察関係者が去った後、そこには木場とセージ、そしていつの間にか現れた

海道尚巳(かいどうなおみ)虹川(にじかわ)姉妹といった幽霊組が残るのみとなった。

 

「なーんか、大変な事になっちまってるけどな。

 ……さて。この空を守ったのは、間違いなくお前らだ。なぁ? 木場」

 

「……ああ。色々あったけれど、君はこれから……」

 

「これからっちゅーてもな、俺様幽霊よ? 幽霊。もう特別思い残す事もねぇしなぁ。

 なるようにしかならないんじゃね?

 なんとなく、俺様の来世は蛇になりそうな気がするけどよ」

 

けらけらと笑いながら、海道は木場の言葉に答えている。

生き残った木場と違い、彼は既に命を落としている。

セージと違い、正真正銘の幽霊である。現世に留まるままと言うわけにも行かない。

それは、もう片方の幽霊達にも言えることだった。

 

「……途中から、コンサートどころじゃなくなっちゃったね」

 

「そうねぇ。私としては不完全燃焼かな?」

 

コンサートを始めたはいいが、途中からコカビエルと言う脅威に晒される事となり

満足のいくまで演奏ができなかった虹川姉妹。

まだまだ、満足のいく音楽会は開けていないらしい。

 

「……この分だと、君らの成仏はずっと先になりそうだな」

 

「あったりまえじゃん。寧ろ幽霊になってからが本番?」

 

「成仏はできないけど、それはそれで。お姉ちゃん達ともいられるし」

 

成仏しそうにない虹川姉妹を前に、セージは頭を抱えている。

一応は悪魔としての顧客なのだが、最近では悪魔契約関係なしに接している事も少なくは無い。

霊魂のみの存在となり、まともに他者との対話が出来ないセージには

数少ない普通に対話のできる存在、と言うのは大きい。

 

……最も、その情緒には大きく問題点があるが。特に次女。

 

「そういうわけだから、セージもこれからよろしくね!」

 

「……あ、ああ。そうだな」

 

無くなった右手をうまく隠しながら、生返事気味になってしまってはいるものの

セージは自分がプロデュースしたわけでもないガールズバンドの応援を引き受けていた。

 

(セージ君。右手や身体の事は話さないのかい?)

 

(言っても仕方ないだろう。そもそも俺は彼女達がここに来るのを当初は反対してたんだ。

 できれば、彼女達には音楽に専念してもらいたい。

 俺の身体や右手の事など、彼女達には関係ないからな)

 

木場の耳打ちに、虹川姉妹に聞こえない程度の声で返すセージ。

セージの言うとおり、彼の右手や身体の問題は彼女達には何の関係も無い。

セージは悪魔契約を行ったとは言え、彼女達からの報酬は形式上のものしか受け取っていない。

或いは、彼女達が摂取できない現世の食べ物か。

悪魔契約は魂を奪うと言うが、セージはそれを良しとしなかったのだ。

 

(ま、お陰で往くは茨の道なんだがね)

 

今自分が置かれている立場に辟易としながらも、セージは今後について考えていた。

失った右手もなのだが、今は自分の身体の手がかりがある。

以前は自分の失態で失敗したが、今度こそは。

そう考えていた矢先、海道がいよいよとばかりに動き始めようとしていた。

 

「それじゃ、そろそろ俺はお暇するわ。

 暫くは俺もギターやってみて、頃合を見計らって成仏するわ。

 それからな木場。最後に言っておくが……もしかしたら、まだ生き残りがいるかもしれねぇ。

 ちゅーても、俺も直接確かめたわけじゃないんだけどな。

 あれから俺達の霊魂も散り散りになっちまったし

 中には怨念になっちまった奴だってそりゃあいる。

 ま、噂程度だ。俺様も保障するわけじゃないから、見つからなくても知らねぇぞ?」

 

「わかった。貴重な情報をありがとう。それじゃ……また来世、でいいのかな?」

 

「……だな。歩藤にゃ見えても、お前にゃ見えないんだもんな。

 ま、来世は蛇になってるかもしれねぇけどよ。あ、蛇じゃギター弾けねぇな。

 やっぱ蛇なしだ、なし。ギタリストか、画家か、或いは侍なんてのもいいな……ハハ」

 

「こらー! せっかくのムードに、しんみりした話するなー!」

 

成仏に対し感傷的になってしまった海道に、虹川家の次女、芽留(める)から叱責が飛ぶ。

慌てて宥めようと長女の瑠奈(るな)が抑えにかかっている。

そんな二人を横目に、三女の里莉(りり)と末っ子の(れい)が、海道に一つの提案を出している。

 

――うちで、音楽活動をやってみないか。

 

「……マジ? ちゅーか、ガールズバンドに野郎入れたらバランス悪くならね?」

 

「うん、だから悪いけどライブには出られない形かな。

 海道さんには、作詞とかやってもらおうかなって。

 ……あっ、でもでも、コラボって事でギター曲出すのもいいかも!」

 

実際、海道が即興で仕上げた詞はボーカルの玲に好評だった。

それもあり、里莉がこうして海道をスカウトしている。

セージのマネージャー任命と言い、人材確保の才能もあるのだろうか。

 

「……そっか。そっかー! はっはっは、騒霊バンドのパイオニアに言われちゃ

 俺様も断れねぇなー! っちゅーわけだ、木場。成仏は当分とりやめ!

 これからは、俺様作詞の方でちょっと気合入れてこうかと思うわけよ!」

 

「そ、そうか。活躍はセージ君から聞くことにするよ」

 

すっかり態度を変え、海道は虹川楽団のお抱え作詞家として

第二の幽霊ライフをすごす事になりそうである。

 

「そうと決まれば次の曲、作るわよ!」

 

「「「おー!」」」

 

「おー」

 

一人テンションの低い瑠奈だが、これは平常運転である。

対照的にやたらテンションの高い芽留。計算高い里莉。引っ込み思案の玲。

そこにお調子者の海道、外部交渉担当のセージ。

最も、セージの仕事は有志に一任しており、専らセージは戦闘の動きを利用した

PV担当になりつつあるのだが。

これでまた、虹川楽団は一つ大きくなった。

 

(……紅白でも出るつもりなのだろうか。

 幽霊の音楽界に紅白なんて概念があるかどうか知らないが

 あ、でもあの世に逝った歌手とかいっぱいいるしなぁ。

 いやいや既に成仏してるはずだしな……)

 

とりとめの無いことを考えつつも、セージはふと思う。

悲しみの繰り返しを断ち切って、俺達は何処へ行くのだろう。

彼女らの明るさに対し、セージの人間として生きたい思いと

悪魔、いや霊魂として培った絆。その狭間で心は揺れていた。

宮本成二には霊感は無い。つまり彼女らとは、セージが悪魔に

霊魂にならなければ出会うはずの無かった縁なのだ。

そこにも、紛れもなく終わらないジレンマは存在していた。

 

(日常を願う心と、日常を脅かす者と戦うための力。

 全く、ジレンマはキリがないな……。

 ジレンマ……ジレンマ、か)

 

悪魔になどならなければよかった、身体を失ってから悲惨な目にばかりあっている。

そう一概にはセージも言い切れない。しかし、人間に、日常に戻りたいと言う願いも本物だ。

答えは出ている。迷いなど無いはずである。

しかし、身体を失ってからのことを全て捨て去れるかと言うと、セージは首を縦に振れなかった。

 

「なぁ祐斗。ちょいとばかり、頼まれて欲しいんだが……」

 

「内容にもよるけど、なんだい?」

 

それと同時に、セージは妙な胸騒ぎを覚えていた。

身体を離れてから、もう暫く経つ。その間、全く身体は無事だったのだろうか。

自分で確認しに行く事は出来ない。相変わらず、病院の入り口には除霊札がある。

実体のあるイッセーや木場には何の問題も無いが、霊体のセージには死活問題だ。

だからこそ、病院に自由に出入りできる他のメンバーに頼むより他無かったのだ。

 

「……なるほど。しかし、別に僕じゃなくても良いんじゃないかい?」

 

「……そうか。まぁ、無理にとは言わない。

 あれから俺も一度も確認していないから気になっただけだ」

 

気乗りのしなさそうな木場の返答を受け、セージは珍しく気落ちしたような表情をしている。

そもそもこの依頼は、セージの容態を確認するだけというただの使いっぱしりだ。

別に木場で無ければならないという事情など、無い。

頼めない相手というのは存在するかもしれないが

その人で無ければならないという依頼でもないのだ。

 

「受けないとは言ってないよ。ただ……部長にも報告はするよ?」

 

「構わない。俺のせいで立場が悪くなられても困るし。

 グレモリー部長に動かれる以上に、手遅れになってないかを知りたいんだ」

 

セージの肉体の容態の確認は、リアスの立会いの下で行われる事になるだろう。

セージにとって、肉体を取り戻す事は大事だが

それは既に手遅れになっているという危険性も

そろそろ考慮すべきという段階にきているとも危惧していた。

ここで言う手遅れ。それはつまり――

 

「……手遅れ。肉体のほうが死んでる、ってことですか」

 

「塔城さん!? いつからそこに?」

 

立ち聞きをしていたのか、小猫が話に入ってくる。

小猫の指摘するとおり、セージは意識不明の重体で病院に運び込まれたのだ。

堕天使の光の槍で貫かれたのだが、表向きには高熱を帯びた鋭利な刃物による損傷となっている。

いずれにせよ、命に関わる容態である事に変わりは無い。

同じ手口で襲撃されたイッセーは、それで命を落としているのだ。

 

「……私にも、協力させてください」

 

「それはありがたいが……礼は何も出来ないぞ? 黒猫だってあれから……」

 

セージの言葉に、小猫は首を横に振る。

そこには、仲間を失いたくないという意思が現れていた。

と、それだけ見れば美談で済むのだが、敢えてセージは意地悪な返答をしたのだ。

 

「……いいのか? 俺の目的は自分の身体を取り戻す事だ。

 自分の身体が戻った途端、オカ研を抜けるかもしれないぞ?

 というか抜ける。学費だけじゃなくて入院費も払わなきゃならないからな」

 

「……先輩の身体が死ぬよりマシ、です」

 

「部長はダメって言うだろうけど、部活じゃなくても顔を合わせる機会はあるんだ。

 身体が戻れば、昼間も実体があるんだよね? なら十分さ。

 同じ学校に通っている以上、接点はいくらでも作れるさ」

 

「……だからってウ=ス異本の題材にされるのは御免被るがな。

 ともかく……ありがとう。以前イッセーと組んだときには俺のせいで失敗したが

 今度はそうならないように気をつける」

 

リアスがセージの退部を拒否するのはセージ自身も織り込み済みだった。

しかしそれでも、木場や小猫がセージの提案に乗るというのは

セージにとっては少々想定外だったのだ。

 

目下の問題が片付いた今、セージにとって最大の課題である

「自身の身体を取り戻す」事は、ここに新たな協力者を得て

佳境へと突き進もうとしていた。

 

……その先にあるのが、とんでもない事実だとしても。

 

――――

 

コカビエルが討ち取られてから数日後。

騒動の渦中にいた駒王町は、すっかり以前の姿を取り戻している。

街中にはまだ微かにオルトロスが暴れた痕こそ残っているが

駒王学園については、ここで堕天使幹部との激闘や二天龍の戦いが繰り広げられたのが

嘘のような復旧を遂げている。

 

「やっぱすげぇな。次の日にはもう学校も元通りなんだからな」

 

「なんでも、ご実家から人材を派遣したそうだよ?」

 

「さ、さすが部長さんですね!」

 

部長――リアス・グレモリーの実家、すなわちグレモリー家が駒王学園の復旧に

総力を挙げた結果である。多忙とは言え、この程度の余力はあったと言う事なのだろう。

 

「……でも部長、忙しそうでした」

 

「ええ。今部長は薮田先生のところに行ってます。

 先に活動を始めても良いと言ってましたので、始めちゃいましょうか。

 ……ってあら? セージ君がいませんわね? 霊体のままなら出てきてくださいな?」

 

「あの野郎……今日も朝から見てないんすよ」

 

「あらあら……仕方ありませんわね」

 

木場がオカ研の活動を再開したというのに

今度はセージが顔を出さなくなった。口先だけは困った様子の朱乃ではあったが

結局、その日も何事も無かったかのように部活動は始まったのだ。

 

そして同じ頃、リアスは薮田直人の下へと出向いていた。

 

――初夏、某日午後。

駒王学園・職員室。

 

「……つまり、部活動の一環で夜の運動場にいた、と。支取君の証言もありますし

 それに……書類も一応出揃っていますね。今回は伝達ミスと言う事にしておきましょう。

 疑うような真似をして、すみませんでしたね」

 

「ありがとうございます、先生」

 

「ただし。今後は支取君だけではなく私か他の教師にも伝えるように。

 あなた方には不服かもしれませんが、我々は親御さんより

 あなた方の御身を御預かりしている身ですので。

 万が一が起これば悲しむのは我々だけではなく、親御さんもであると言う事は

 努々忘れないよう、お願いしますよ」

 

リアスにかけられていた薮田の嫌疑は

生徒会長ソーナ・シトリーの口添えもあって不問となった。

これによって、オカルト研究部は表向きにも今までどおりの活動が可能になった。

 

……のだが。

 

「……それより薮田先生。今度は私から質問させていただきたいのですが」

 

「何を聞きたいのかは察してますが、何でしょう?

 そういえば、駒王警察には『俺に質問をするな』と言う口癖の警視が……」

 

「はぐらかさないでください。先生こそ何故、あそこにいたのですか?

 それに、あのときの砲撃に、二天龍の……」

 

薮田の態度を気にも留めず、リアスはなおも食いつく。

話している内容が内容だけに、周囲にいる他の教師には

奇妙なものを見る眼で見られそうな質問の内容だったが

それを周囲の教師が気に留めることはなかった。リアスの認識阻害の魔法の賜物である。

 

「……また認識阻害の魔法を使いましたね。

 あまり人の世においてそういう真似は好ましくないのですがね。

 それについてですが、あの時ヴァーリ――白龍皇に言ったとおりですよ。

 人の世に仇なすものを、私は決して許しません。人が人として生きられる世界。

 それが私の望みです。それ以上でも、それ以下でもありませんよ。

 

 では期末試験の準備がありますのでこれで……そうそう、あなたのテストですがね。

 世界史はまぁいいでしょう。ですが、日本史をもう少し頑張った方が良い。

 と、担当の先生がおっしゃってましたよ。一度相談されてはいかがです?」

 

「先生、まだ私の話は……っ!」

 

しかしそこまでしても、リアスの納得のいく答えは返っては来なかった。

薮田にとっては、ここで世界史の教師を勤められる事。人の世で人として生きていける事。

それだけが、重大な要素を占めているのだ。それを脅かすものとは何者であれ戦う。

それは暗に、薮田がただの人間ではない事の証左であるが

その正体まではリアスも掴めていない。神器持ちの人間なのか、或いは人外の存在なのか。

前者ならば、堕天使が放置するはずも無いのだが。

 

そしていずれにせよ、自身の領地であるはずの駒王町、それも精力的に活動しているはずの

ここ駒王学園に、薮田のような正体不明の実力者が存在していた事。

その存在は、リアスにとってあまり喜ばしい事ではなかったのだ。

 

「薮田先生、一体何者なのかしら。絶対に尻尾を掴んで見せるわ。

 この私の領地において、正体不明の存在が居るというのはいい気がしないわ……」

 

(……リアス・グレモリーにも困ったものですね。

 隠し事をしているのは事実ですが、別に危害を加えるつもりは無いのですがね。

 ……人の、人としての尊厳を守り続ける限りは、ですけど)

 

――――

 

――同時刻、駒王警察署。

 

「……っくしっ。夏風邪か? この忙しいときに厄介だな」

 

この日の駒王警察署は、まるで師走時のような忙しさであった。

先日の事件に対する始末書等々の対応に、超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)の活動報告。

そして、先日未明に確保された連続殺人鬼フリード・セルゼンの護送に関する手続き。

街中に出て、パトロールをするだけが警察の仕事ではない。

公的機関である以上、発生した事件のあらましを報告する先は国――国会も対象に含まれる。

そこに先日のオルトロス騒動に、陸上自衛隊が出動するほどの広域避難警報騒動である。

一連の騒動に対し、下は駒王町在住の住民から、上は国会議員。

両者からの質問に忙殺されている。警視庁も、今回の件に対し会見を行う事になっている。

 

超常事件特命捜査課のテリー柳警視もまた、忙殺されている職員の一人。

まして彼は、組織図の上でも超常事件特命捜査課の課長を任命されている立場である。

説明義務も、当然のことながらに発生する。その報告書の作成は、並の事件のそれとはまた違う。

 

……あまりにも突拍子の無い出来事を、如何に報告するか。

ありのままを報告するのが本来の主旨なのだが、如何せん出来事が奇想天外すぎる。

かと言って、虚偽の報告も行えない。それでは対応が後手後手に回ってしまうからだ。

そんな癖のある報告書の作成に柳が頭を抱えていたころ

超特捜課の巡査、氷上涼(ひかみりょう)が駆け込んでくる。

 

「柳さん、ただいま戻りました」

 

「氷上か。彼女は見つかったか?」

 

柳の質問に、氷上は首を横に振る。

彼女と言うのは、先日未明に悪魔によって拉致された紫藤イリナ。

誘拐事件という、本来ならば捜査本部を立ち上げるほどの事件ではあるのだが

捜索届も出ておらず、駒王警察署自体がこの有様である事から

現場に居合わせた氷上と数名の警察官によっての捜索が行われているのみである。

 

「自分の失態です。悪魔による犯罪を阻止する課でありながら……」

 

「氷上。何度も言うようだが、この課自体発足して間もない。

 おまけに昨日は戦力の整っていない状態だった。お前が無事なだけでも良しとしておけ。

 とは言え……身元引受人がまさか行方不明になるとはな」

 

そう。紫藤イリナは、以前警察に身柄を確保された

ゼノヴィア・クァルタの身元引受人でもあった。

彼女の口添え――と言うよりはヴァチカンの司教枢軸卿――の働きにより

ゼノヴィアは保釈されていた。そして今、イリナが行方不明である事に加え――

 

「おまけに、司教枢軸卿がゼノヴィアの保釈を取り下げてきた。

 エクスカリバーが戻った途端これだ。言っても詮無き事だが、奴らも随分勝手だな」

 

「……全くですね。今回は以前と違って、すんなりとこちらの指示に従ってはくれましたが……」

 

司教枢軸卿が、ゼノヴィアの保釈を取り下げたのだ。

それはつまり、再び彼女が勾留される事を意味している。

そのために現在ゼノヴィアは駒王警察署にて身柄を預かっている形になっている。

 

「だが、もう聖剣絡みの事件は解決している。今回の公妨だって、その事件絡みで起きた事だ。

 正直、これ以上彼女をこちらで勾留する必要があるのかどうか。

 調べたところ前科も無いし、俺個人としては早いところ帰国させたいんだが……」

 

ため息をつきながら、柳が言葉を続ける。

 

「……ヴァチカンがな。彼女の身元引き受けを拒否したんだ」

 

「なんですって!? しかし、彼女はヴァチカンから……」

 

「ああ。勿論先方に問い質したさ。そしたら返って来たのは『彼女は破門』の一言だけだ」

 

吐き捨てるように柳が現在のゼノヴィアの扱いについて氷上に話す。

そのぞんざいな扱いに対し、柳も内心では怒り心頭であることが見て取れる。

 

「こういう事を言うと超特捜課の人間としてはどうかと思うんだがな。

 俺は正直、あまり宗教と言うのに詳しくは無い。だが調べてみると

 どうやらゼノヴィアは彼女の崇拝する宗教の禁忌に触れてしまった、と言う事らしいな」

 

「我々日本人にはよく分かりませんが、それだけの理由で破門どころか

 国に帰る事すら許されないんですか……」

 

重苦しい空気に包まれている超特捜課の事務室。一人の少女の理不尽な処遇は

彼女をやむなく勾留した彼らにとっても、とても歓迎できるものではなかった。

そんな空気を振り切るように、柳はさらに別の話を続ける。

 

「……で、だ。俺も何とかコネのある検事に話をつけてな。

 条件付で彼女を釈放できる事になった」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ。まだ手続きに少しかかるがな。蒼穹会(そうきゅうかい)ってNPO法人が名乗り出てくれた。

 なんでも、少年犯罪を犯した青少年の社会復帰も支援しているそうだが

 実質は、俺達のように――つまり、悪魔だの堕天使だの

 人外による事件に対抗すべく組織されたNPO法人だ。

 勿論、事件の解決と言うよりは、事件の被害者を保護する、って趣だけどな。

 身元引き受けの担当が面会に来るはずなんだが……」

 

今までの暗い話を吹き飛ばすかのように、ゼノヴィアの釈放と言う話が柳の口から出る。

NPO法人による支援の下、日本国での活動が制限つきとは言え認められるらしい。

来日したはいいが、事件の解決と共に帰るべき国を失ったのは不幸としか言いようが無い。

己の役割に忠実に従った少女が異郷の地で野垂れ死になど

柳にとっても気分のいいものではなかった。

 

柳の話が終わると共に、扉がノックされる。

柳の合図と共に扉が開くと、そこには黒いスーツに身を固めた、堅物そうな青年が立っていた。

 

「本日、身元引き受けの面会の件で来た蒼穹会の伊草慧介(いくさけいすけ)です」

 

「駒王警察署超常事件特命捜査課のテリー柳だ、よろしく頼む」

 

「同じく、氷上涼であります」

 

そこに入ってきた堅物そうな青年を見て、驚いたのは氷上である。

その話の内容たるや、ある意味ではゼノヴィアの件以上に信じられない事であった。

 

「伊草……慧介……ああっ! 自分が香川から本庁に出向した時、公妨で確保した!」

 

「なに……?」

 

「今その話をするのは止めなさい。それに、今勾留されているのは私ではない!」

 

冗談のような話である。なにせ公務執行妨害で勾留されている人間を保護するのが

同じく公務執行妨害で確保された経験のある人間なのだ。

当然のようにその事に対しては本人はいやな顔をしていたが。

 

「まあ、もう1年位前の話ですからね。それに、その時も今回のようにすぐ保釈されましたし」

 

「その時保釈金を出してくださったのが、蒼穹会の会長だ。

 ……と言うかだ。そもそも俺の話はいい、勾留されている人に会わせなさい」

 

「ああ。氷上、すまないが案内してやってくれないか?」

 

氷上に連れられる形で、伊草慧介という青年は超特捜課を後にする。

事前に送られてきた伊草慧介という人物に関する書類に目を通し、柳はまたため息をつく。

 

「……伊草慧介。元教会所属の戦士。教会を脱退した経緯は諸説あり。現在は賞金稼ぎ。

 元教会所属と言う事で彼が任命されたのだろうが……まさか彼も前科持ちだったとはな。

 やれやれ……これでは絶望が俺のゴールになりそうだな。いや、既になっているか」

 

柳は再び、自分の机の上に山のように積まれた書類との戦いに赴くのであった……。




次回は今週中に投稿できればと思ってます。

では今回の解説。

>この空を守ったのは~
強引でも、〆にこの台詞を使いたかったので。
場面に合わせて一応改変は入れてますが
この場で言わせてしまったが故の改変です。
他の生き残りについて触れてますが、たぶん出ません。たぶん。

>リアス・グレモリーの日本史の成績が悪いのは何故か
これについてはまた反感食いそうな設定ですが
「間違った日本観」を植えつけられている部分があるということは
「正しい日本観」つまり日本史がまともに入っていない、と解釈しましたので
こういうことになってます。
世界史については、そこまで悪くする理由はあまり無かったので
普通に優秀とお考えください。

……成績と実際の行動は必ずしも一致しませんがね。

>伊草慧介
名前でお察しの通り753がモチーフです。
公務執行妨害でしょっ引かれているところとか。
つまり、753がゼノヴィアを弟子にすると思っていただければ。
……あ、また少し後の話で触れますがイメージとしては
キバ本編終了後の753をイメージしてますので。
つまり、そういうことです。
合わせて、蒼穹会は「素晴らしき青空の会」がモチーフです。

>絶望が俺のゴールだ
まぁ……立場的に書類仕事もやらなきゃいけないから、ね?
W本編の照井がせっせこ書類にハン押してるイメージは中々沸きませんが
どこぞの宇宙警察の署長は年末にせっせこハン押してましたし。


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A sequel to the event. Side Demon.

おかげさまで本作も一周年を迎える事ができました。
ありがとうございます。


前後編の後編。
前回が人間世界の後日談であったのに対し
今回は冥界の後日談です。

いやな予感がした方、あなたは正しい。きっと。


……一周年でこんな話を投下するとか何考えてるんだろ、自分。


――冥界・グレモリー邸。

 

地上での騒動の余波はこちらにも及んでおり、この日もフェニックス家との裁判のため

出廷していたグレモリー卿の帰宅を待っていたかのように

地上――駒王町で起きた事件が知らされる。

 

「な……なんと! 駒王町ではそんなことが……!!」

 

「堕天使の幹部のみならず、二天龍の戦いの場にもなってしまうとは……」

 

今回の件は、愛娘が管轄する地域で起きた突拍子も無い事件に対し

ただでさえ過保護気味であるグレモリー卿に大きなショックを与える事になる。

しかし、それを伝えないわけにもいかなかった。

何故ならば、既に魔王であり、グレモリーの長男でもあるサーゼクスにも話が届いているのだ。

 

「申し訳ありません。私が出向いて、事態の鎮圧を行うべきだったのかもしれませんが……」

 

「いえ……よく伝えてくれましたグレイフィア。もう下がって結構です」

 

「は……旦那様、奥様。どうか御身体だけはお気をつけくださいませ……」

 

グレイフィアの指摘通り、グレモリー卿の顔色はあまり優れない。

連日のリアスに対する興味本位の報道が収縮傾向にあるとは言え、フェニックス家との裁判は

未だ和解を迎えていない。またリアスに対し、満足な支援を行えない事が重圧になっていたのだ。

しかもそのフェニックス家との裁判は、敗訴が濃厚であるのだ。

 

「……ああ、待てグレイフィア。今回の件でリアスの通う学校に被害は出ていないか?

 もし出ているようなら、復旧要員を派遣するのだ」

 

「……かしこまりました」

 

確かに駒王学園は激戦の舞台となり、その余波をまともに受ける形となっている。

ソーナ・シトリーらが結界を張ったとはいっても、それは外部からの干渉を防ぐだけのもの。

内部で暴れられては、結界の意味が無い。

結果、駒王学園は損害を被る形になってしまっていた。

 

しかしそれさえも一晩で復旧させると言う。

おおよそ人智を超えた能力を揮うのが悪魔ではあるが

その方向性は決して世のため人のためではない。

 

「リアスの通う学校だ、無様なままにはできまいて」

 

「……それはおっしゃるとおりですが。グレイフィア、町のほうの被害状況は?」

 

「オルトロスが暴れたらしく、いくらかの損害が出ているようです。

 復旧要員には、修繕魔法だけではなく認識阻害の魔法の使える者を派遣したほうが良いかと」

 

グレイフィアの提案に、グレモリー卿は肯き返す。

取り様によっては「臭い物に蓋」な手法ではあるが、彼らの都合に人間を巻き込んではならない。

そうグレモリー卿は考えていた。最も、それは現状を省みれば極めて偽善的な思考なのだが。

 

人間を自分達の都合で悪魔にし、それをステータスとして見せびらかす。

たとえその人間が異質な力を持っており、人の世からはみ出かねない存在であったとしても。

彼らの全てが人の世を憂い、世捨て人になっているわけではないのだ。そんな人間を悪魔にする。

この時点で既に人間を大いに巻き込んでいる。今更自分達に纏わる騒動に人間を巻き込むな。

どう考慮してもダブルスタンダード、矛盾だらけの思想である。

 

……人間にも、偽善的な者はごまんといる以上彼らのみを悪し様には糾弾できないのだが。

そして、ある意味では悪魔よりも悪辣な人間も決して少なくは無いのだが

それを言い出してはキリが無い。

 

「しかしフェニックスも随分と阿漕な真似をしてくれる……。

 まさかあのような弁護士を抱えていたとは」

 

「聞けば、永遠の命を求めて悪魔になった元人間の弁護士。

 不死を司るフェニックスにつかないはずがありませんわね。

 人間だった頃から、スーパー弁護士と呼ばれるほどの手腕を発揮していたとか。

 クロでさえシロにするところから、評判は必ずしも良いものではなかったそうですが」

 

ため息をつきながらソファに腰を下ろすグレモリー卿に、ふとリアスが残したであろう

学校のプリントが目に入る。そこには近々駒王学園で行われる授業参観の日程が記されていた。

 

「授業参観か。もうそんな季節になったのだな」

 

「……羽目をはずしすぎないでくださいよ?

 去年だって、それが原因でリアスに怒られたのはどなたですか?」

 

重い空気を払拭しようと、思い出話に花を咲かせようとするヴェネラナではあったが

その心遣いは、徒労に終わってしまうことをすぐに思い知らされるのであった。

 

「……そうしたくとも、出来んよ。見ろ、日程を。

 完全に、次回公判と被ってしまっている。

 出廷せねば、完全にフェニックスの良い様にされてしまうだろう……。

 ああ、今年はリーアたんの活躍を目におさめることさえも出来ないと言うのか……」

 

愚痴を零すグレモリー卿からは、一月ほど前の覇気がかなり失われていた。

この一ヶ月。フェニックス家との裁判で大きな心労を抱えてしまい

そこに加えマスコミによる興味本位のグレモリー家、リアスへの取材。

これらが重なり、老け込んだ印象さえも与えるほどだ。

 

「今年はサーゼクスも出ると言ってましたわ。

 一応、サーゼクスにも羽目をはずし過ぎないようにと伝えておきましたが」

 

「おお、そうか。サーゼクスならきっとうまくやってくれるだろう……うっ、ごほっ」

 

「あ、あなた!」

 

咳き込んだグレモリー卿を心配し、駆け寄るヴェネラナを

心配ないとばかりに制止するグレモリー卿。

見る者が見れば、無理をしているとも取れる様子ではあったが

グレモリー卿もグレモリー家を代表するものとして、威厳ある行動に出ねばならないと

心労をおして言葉を紡ぐ。

 

「……ああ、心配はいらんよ。少し疲れたのかもな。

 さて……リアスの心配事の種を、少しでも取り除いてやらんとな……。

 まずは手始めに、あの反乱疑惑のあるリアスの眷属はどうなったのだ?

 ……そうだ。一人、リアスの眷属に幽閉されているものがいたな。

 その者と入れ替わりで、幽閉させてしまえ。そうすれば、反乱は起こされまいて。

 もし起こされたとしても、今度はそれを口実に処罰も出来る。

 事が起きてからでは遅いからな……」

 

「手続きはどうなさるおつもりなのですか?

 私には、リアスがまだ彼の力をうまく扱えるとは……」

 

「ううむ……ここは、リアスを信じるしかあるまい。

 神器(セイクリッド・ギア)の研究さえ進んでおれば、何も問題はなくなるのだがな……。

 ああ、何故リアスの元には厄介事ばかりが流れ込んでくるのだ……。

 ……面倒だ。いっそはぐれ悪魔に……」

 

ふと、グレモリー卿が漏らした言葉に、ヴェネラナが表情を一変させる。

その言葉を発した本人も、しまったとばかりに苦虫を噛み潰した顔をしており

良くない顔色がいっそう悪くなっていた。

 

「……あなた」

 

「……すまん。失言だ。その件も合わせて、サーゼクスに伝えておく事にしよう。

 ……許しておくれリーアたん。これも全て、君のためなんだ……」

 

娘のためを思っての父の行動は、吉と出るのか凶と出るのか。

かたや、従順ながらも力の暴走の危険を孕んだ眷属。

かたや、力は安定しながら――今現在は何の力も無いのだが――も

悪魔社会に迎合しようとする意思の全く見られない、性格に多大な難を含んだ眷属。

 

悪魔社会において、眷属と主の意見のぶつかり合いは受け入れられるものではないのだろうか。

或いは、現状が正しく伝わっていればこのような事にはならなかったのだろうか。

右腕を、力を失った反抗的な眷属の未来もまた、決して明るいものとはいえなかった……。

 

――――

 

――同じく冥界。イェッツト・トイフェル本部。

 

こちらでも、先の出撃に関する報告がまとめられようとしていた。

上級堕天使コカビエルを殲滅するための出撃。

そしてその先で遭遇した白龍皇アルビオンに関するデータ。

 

……それに加え、二つに分かれた赤龍帝の記録と、その顛末。

魔王直属の彼らがまとめたデータの提出先は、当然四大魔王である。

特に、軍事を担っているファルビウム・アスモデウスは彼らの報告を注意深く聞いていた。

 

……その態度は、やる気の無いものであったが。

 

「……以上が、現時点における赤龍帝、ならびに白龍皇に関する我々の調査結果です」

 

「ご苦労様。白龍皇の方はともかく

 赤龍帝はサーゼクスやアジュカも呼んでおいたほうがよかったかな?」

 

赤龍帝は、極めて複雑な経緯を有しているのだ。サーゼクスの妹であるリアスの眷属であり

冥界の発明の最高傑作とも言われる悪魔の駒(イーヴィル・ピース)。そのイレギュラーによって生じた二人の眷属。

彼らは悪魔の駒を共有し、同時に赤龍帝の力を揮える存在となっていたのだ。

白龍皇に関するデータを集めていたドローンは、奇しくも二人の赤龍帝の顛末も記録していた。

 

「で、ハマリア。このデータについて君はどう思う?」

 

「はっ。現時点において赤龍帝も、白龍皇も脅威足りえません。

 しかし、二天龍と称された彼らがこのままで終わるはずも無いのもまた事実。

 赤龍帝の手綱は、リアス……いえサーゼクス様に握っていただくとして

 白龍皇は、これ以上成長しないうちに我々の手で始末するのが最善策であるかと」

 

「……赤龍帝は持ち主がこちらにいるから対処は楽、そう言いたい訳だね?」

 

「仰るとおりで」

 

「……しかしなハマリア。『獅子身中の虫』と言う言葉もある。油断はするなよ」

 

ハマリアの言葉に付け加えるように、ハマリアの背後から軍靴の音を立てつつ

入室してきた軍服の男。高貴な身なりとは裏腹に

身の丈は屈強で、目つきも決してよくは無い男。

彼こそ、イェッツト・トイフェル最高司令官。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)サタナキアを背負って立つ

ギレーズマ・サタナキアである。

 

「ギレーズマ。すると何かい?

 赤龍帝が、内側からこの冥界を瓦解させかねない何かがある、と。

 そう言いたい訳かい?」

 

「現時点では何とも申し上げられませんな。しかし手綱を放せば

 赤龍帝の力は何時我々に向けられてもおかしくは無い。

 そうならないための対策は、採るべきでしょうな」

 

「……僕に言わせば、どっちが獅子身中の虫だか」

 

「相変わらず手厳しいですな、ファルビウム様。

 我々はただ、成すべきことを成しているだけですがね」

 

ギレーズマとファルビウム。彼らの関係はあまりよいものではない事が見て取れる。

いかに魔王直属の軍とは言え、個人的な思想のレベルでは

ファルビウムとギレーズマは相容れない部分があることを匂わせるものが、そこにはあった。

 

「そういうことにしておくよ。けど、あまり問題を大きくしないでよ?

 君達はいちいちやることが大げさすぎるきらいがあるからね……ああめんどくさ。

 じゃ、とりあえず赤龍帝についてはサーゼクスとアジュカにも伝えておくよ。

 ……それが、僕達に赤龍帝をコントロールできる唯一の方法っぽいからね」

 

報告書を受け取り、ファルビウムはめんどくさいと漏らしつつ部屋を後にする。

それを見計らったかのように、盗聴防止の結界を展開しギレーズマが再び口を開く。

 

「……やはり青いな、新魔王は。いや、アレはまだマシな部類か。

 ハマリア。奴らの動きは掴んでいるか?」

 

「はっ。近々、三大勢力のトップが会見を人間界で行う様子です。

 そこに合わせて、襲撃計画も立ち上がっているという情報を掴んでおります。

 ……始末しますか?」

 

ハマリアの提案。話の流れからして、不穏な空気を多大に孕んでいる提案。

三大勢力のトップ。冥界代表・魔王サーゼクス・ルシファー。堕天使代表・堕天使総督アザゼル。

天界代表・大天使長ミカエル。彼らが一箇所に集まり会談を行う。

そこに、何者かによる襲撃計画が立ち上がっている。

 

組織のトップともなれば、思いも寄らぬ場所に反感を抱かせているものである。

その反感を抱くものらによる襲撃計画なのであろうが。

……その混乱にあわせ、始末をするという。それが意味するものは――

 

「まだ早いよ。今アレに潰れられると、それはそれで奴らの思うつぼとなる。

 古い悪魔に舵を取らせるよりは、まだ御し易い青臭い悪魔のほうがマシという物だ。

 今回我々は静観でいいだろう。しかしハマリア、仏の連中も痺れを切らしているそうだな?」

 

「その通りです。大日如来――マハヴィローシャナが三大勢力のトップ宛に

 先日のコカビエルの一件に関する説明要求の文章を送ったと言う情報を掴んでおります。

 裏はすでに取ってあります。その情報源が、我々悪魔だと言うのが頭の痛いところですが」

 

「……情報の大切さを知らんと見える。或いは、わざと我々に情報を流したか、だな。

 青いとは言え、サーゼクスもアレで切れる男だ。でなければ、魔王と言う椅子には就けんよ。

 それよりハマリア。貴公、ファルビウムに話さなかった事があるな?」

 

「ええ。EXコードY――ヤルダバオト。人間界でウォルベンが確認、遭遇したとの事です。

 事が事ですので、私自身で直接確認したわけではないその事柄を

 今のあの場では報告を行いませんでしたが……」

 

ヤルダバオト。一説には、聖書の神の偽者とされる者。

それをイェッツト・トイフェルは人間界で確認したと言う。

聖書の神は死んだ。それは三大勢力のトップクラスの共通認識であった。

しかし実際には、偽者とは言え神は存在している。

掴んだ情報が正しければ、そういうことになってしまう。

 

「それでよい。他言は無用だが、私も今の魔王が冥界を導くに値するとは考えてはいない。

 必要以上に他種族に迎合している彼らの軟弱な姿勢は、冥界の国民のためにはならんのだよ。

 偽の神の情報は、ひとまずは我々で預かる。ヤルダバオトも、所詮はY・H・V・Hの偽者だ。

 ……ま、近々知れ渡る事になるだろうがな」

 

「神器周りのシステムは生きているようです。

 ヤルダバオトがシステムを運営しているのか、別の誰かによる手なのかまでは

 現在調査中ですが。そもそも、何故ヤルダバオトが人間界にいるのか。

 また、人間界で何をしているのかについても、不明瞭なままです。

 いかんせん、相手が相手ですので力が及ばず……」

 

「よい。アガリアレプトの名折れと言いたいのかも知れんが

 相手が偽者とは言えY・H・V・Hと同格であれば、話も変わってこよう」

 

偽者の神、ヤルダバオトは人間界で何をしているのか。

彼は、聖書の神としての役割を果たしているのだろうか。

それは、イェッツト・トイフェルにも不明瞭のままであった。

 

特に、ハマリアの属するアガリアレプトは、あらゆる謎を解き明かす悪魔である。

しかし、そんな彼女でもやはりY・H・V・Hと同格の相手には太刀打ちできなかったのか

ヤルダバオトに関するデータはその集まりが極めて悪かったのだ。

その面目躍如とばかりに、ハマリアはもう一つの情報をギレーズマへと報告する。

ファルビウムへの報告義務も当然あるのだろうが、指揮系統で言えば

魔王直属部隊(イェッツト・トイフェル)を統括するギレーズマの下に、ハマリアがいる形になっている。

ハマリアは、直属の上司であるギレーズマへの報告義務は怠ってはいない。

寧ろこの場合、報告を黙殺したギレーズマに二心ありということになる。

それが、先刻のファルビウムとの確執の一因である事は、想像に難くない。

 

「もう一つ、別な理由でファルビウムに伝えていない事があります。

 先日、人間界でウォルベンが面白いものを見つけたようです。

 人間界にまで入り込んだ冥界のマスコミを締め上げた結果ですが……」

 

おもむろに、ギレーズマの前に一枚の画像データが表示される。

そこには、駒王町のゲームセンターでゲームに高じる兵藤一誠と一人の男性が写っていた。

 

「これが当代の赤龍帝か。報告には聞いていたが、まさかこんなものとはな。

 これが我々悪魔の運命を握ると、サーゼクスは本気で考えているのか?

 いかに赤龍帝と言えども、一人の俗物にできる事などたかが知れておるよ」

 

「そもそも、俗物に未来は作れませぬ。それより、その隣をご覧ください」

 

ハマリアが指し示した、イッセーの隣にいる黒髪の男性。

その背には人間界ではコスプレの一言で片付けられかねない6対の黒い翼がある。

画像である以上、それが本物かどうかを見定める手段は乏しい。

しかしそれは、あくまでも人間界での常識。あるいは、この男の素性を知らなければの話。

ハマリアも、ギレーズマも、この男の素性は知っていた。

 

「なんと……!」

 

「ええ。アザゼルです。現在赤龍帝は我々悪魔勢力の庇護下にいるのは間違いありません。

 しかしながら、彼奴はこうして接触を試みました。

 サーゼクスが掴んでいるかどうかはまだ分かりませんが……問題なのはこの先です。

 ――既にこの画像を収めた者は、マスコミにこの画像をリークしたようです」

 

「ほう。メディアに政府が圧力をかけるか、マスコミがどう騒ぎ立てるか、見物だな。

 しかしグレモリーは気の毒だな。フェニックス家との下らぬ争いが下火になったかと思えば

 今度はアザゼル絡みでマスコミに痛くも無い腹を探られるのか。

 ……いや、或いは本当に痛い腹かもしれんな。制御の難しい赤龍帝を

 神器研究の第一人者であるアザゼルに引き渡す。

 そしてそれは、赤龍帝の力が堕天使陣営に流れる事を意味する。

 兵器の情報流出は、過去あらゆる戦争においてその戦局を大きく変化させているからな。

 たとえリアス・グレモリーにその意図が無くとも

 アザゼルに赤龍帝のデータが渡った時点でクロなのだよ。

 しかも悪い事に、アザゼルは神が生み出すものであるはずの神器を

 己の力で作れるそうじゃないか。そんな奴に赤龍帝の力が渡れば……」

 

「聞けば、赤龍帝を初めて発見したのも堕天使。

 その堕天使が動いたお陰で、我々悪魔は赤龍帝の力を得る事ができました。

 ですが……閣下の仰るとおり、アザゼルの目論見どおりと思われてもおかしくありませんな」

 

アザゼルと赤龍帝の接触。それは、何も知らぬものからすればあらぬ疑いを持たれる。

赤龍帝という力が悪魔陣営にあることは先のレーティングゲームなどで知られている。

それが、堕天使陣営のトップであるアザゼルと接触しているのだ。

リアスの人となりから疑惑は持ち上がらないだろうが

スパイ疑惑さえも持ち上がりかねないのだ。

……否。赤龍帝が目覚める切欠となった事件が明るみに出れば

堕天使との内通疑惑がもたれてもおかしくない。

リアス・グレモリーは、そこまで堕天使と密接な位置に立ってしまったのだ。

 

そして、アザゼルはアザゼルで、人工的に神器を作る力を持っている。

そこに赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のデータが渡れば、どんな事になるか。

爆弾を製造できる技術を持った科学者に、核分裂の理論を持ち込ませるようなものだ。

 

「疑惑を持たせないようにするためかどうかはわかりませんが

 サーゼクスは堕天使、ひいては天使とも和平を結ぶつもりのようですが」

 

「戦争が起きていないだけの状態を平和とは言わんよ。そこには同意するがな。

 だが和平を結ぶには、土台が緩過ぎる。泥舟に国民を乗せるわけにはいかんのだよ。

 それに……彼奴らが黙ってはおるまい? 時代遅れの化石どもが。

 どんなお題目を飾ろうとも、結局は今の青臭い連中と変わらん。

 戦って滅びるか、腐って滅びるか。彼奴らの相違はその程度に過ぎんよ」

 

時代遅れの化石。それは、シャルバ・ベルゼブブやカテレア・レヴィアタンなど

旧魔王と呼ばれる者達。現魔王に敗れ去った事で政権からは遠ざかっているが

今尚その手に冥界の政権を取り戻さんとしているのだ。

しかし、ギレーズマが言うようにその思想は古く凝り固まったもの。

現政権を握る新魔王派とは決して相容れないものだ。

 

「動くつもりは無いが、タイミングずれの和平工作が何になる」

 

「……では、いずれ討つのもやむなし、と?」

 

「今はまだ動かんよ。今は、な……」

 

ハマリアの入手した画像データを前に、ギレーズマは不敵な笑みを浮かべている。

それが意味するものは。サーゼクスら現政府への反逆か。

あるいは、堕天使の闇討ちか。

イェッツト・トイフェルの総司令は、その腹の内にどす黒い思惑を秘めていた。




ある意味本作に相応しい、不穏な空気の一周年記念でした。
え? 主役がいない? し、知りませんね(震え声
今回の解説。

>ギレーズマ・サタナキア
イェッツト・トイフェルの最高司令官。命令系統は四大魔王の下に彼がおり
その下にハマリア、以下構成員となっております。

名前は機動戦士ガンダムよりギレン・ザビ、ドズル・ザビ、ガルマ・ザビ。
そして新機動戦記ガンダムWよりトレーズ・クシュリナーダ。
9割ギレンですので、エレガントでもなければ坊ちゃんでもないです。
サーゼクス(シャア+ゼクス)に対するカウンターキャラの側面もあるので
こんな名前になりました。

サタナキアはグリモワールに曰くルシファー配下の悪魔。
ハマリア・アガリアレプトのアガリアレプトもほぼ同一の出典です。
設定はwikiを参考にしているので、詳しくはそちらにて。
……書いてる本人がサタナエルと混同したのは内緒。ちなみに全くの別悪魔。


>スーパー弁護士
ネタ元はオルガ……じゃない、北岡秀一。
あの人の性格なら悪魔になっても(いい意味で)通用しそうですし。
名前は完全に伏せているので、この世界の本人か超特捜課みたいに他人の空似かは
想像にお任せします。
え? 変身? いや、だってほら鏡の中のシスコンが動いてませんし。


>仏の連中
仏教勢力です。これは私自身の日本という国の宗教観が強いのですが
無宗教だの多宗教だの言われているこの国ですが
強いて勢力の強い宗教をあげるとすればやはり神道と仏教だと思います。
そこにキリスト教も加えたハイブリッドですからね、冠婚葬祭を見るに。
そんな仏教から大日如来ことマハヴィローシャナを抜粋。

……ちょっと、いやかなりメガテン要素入っているので
原典の大日如来、ヴィローシャナとは違うかもしれませんがあしからず。
そもそも仏教とヴィローシャナの関連する密教も厳密なイコールじゃないですし。
サタナキアもそうなんですが、この辺wikiとかの聞きかじり知識です。
ここで書いてあったからって知ったかぶると痛い目にあいますよ。


>イッセーとアザゼルの邂逅
ほんのわずかにですが前倒しになってます。
一応、現時点での時系列は3巻終了~4巻開始の中間くらいです。
で、いきなり悪魔とは言え民間のマスコミにパパラッチされてる
アザゼルさんェ……
この辺は仮面ライダーOOOでカザリがネットに晒し上げられていたシーンを
多少イメージしてます。

ちなみにここでギレーズマが突っ込んでいるのは割りと真面目な話です。
推測でしかモノを語ってませんが。


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Extra Saint4. 聖剣少女、新天地にて。前編

またしても前後編編成です。
今回はゼノヴィアが逮捕されてから。

753の反響が案の定でかかったのでちょっと長くなってしまった
ゼノヴィア編かもしれないエピソード。

なので、初のゼノヴィア視点です。


――あの戦いの後、私ゼノヴィアは投獄された。

何を言っているのか自分でも分からないが、私は主の、神のために

奪われた聖剣を取り戻し、神に背く堕天使を打ち破る事ができた。

その時に悪魔の力を借りたのがいけなかったのだろうか。

そのせいで、私はこうして両手に鉄の輪をかけられ

鉄の格子に入れられているのだろうか。

 

……イリナ。君は今、どこにいるんだ。

コカビエルが言っていた「神はいない」というのも

ある意味、今なら頷けるな……。

 

牢の壁をデュランダルで破壊する事は簡単だ。

薮田(やぶた)という男が言うには「デュランダルの拘束は必要ない」との事らしいが

そもそも日本の警察はそんな事までできるのか。

正直、私が逮捕された件と同様見縊っていた。

エクスカリバーについては、本部から要請があったしそもそも預かり物なので

警察を通して本部に返還する事になったが、まぁいいだろう。

私自身、エクスカリバーは返すつもりでいたのだから。

 

ともかく、薮田という男は私を信用しているらしい。

ならばデュランダルで壁を破壊したが最後。

私はあの忌々しいフリードと同じ次元にまで堕ちてしまうかもしれない。

主の祝福を賜れないからとは言え、そこで自棄を起こしてそんな真似をする事自体が

そもそも忌むべき行いなのだ。

 

だから私は、堕天使というのは好きになれない。

結局は、神に愛されずに不貞腐れているのを正当化しているだけだろう、と。

そんな根性の曲がった連中が大それた事をしようとするから

今回のような事になってしまうのではないのか。

 

とまあ、そんな風に色々考えるのだが。正直そうでもしないと退屈だ。

取調べで何度か牢の外に出る以外に、外の情報を仕入れる術はない。

精々、外の明るさと食事のタイミングで

今が朝か、昼か、夜かが何となく分かるくらいか。

何回か外が明るくなったり暗くなったりを繰り返した辺りで

私を取り巻いている環境に変化が訪れた。

 

「ゼノヴィア、面会だ」

 

面会? イリナが来たのか!?

それとも、本部から誰かが……

そんな私の希望は、いとも簡単に崩されたのだが。

 

――――

 

面会に来ていたのは、見たことも無いスーツの男。

年の程は私よりも一回りは上に見える。

聞けば、昔は教会に所属していたらしいが、今は日本で普通の生活を送っているらしい。

そんな男が、私に何の用だ?

 

「俺は伊草慧介(いくさけいすけ)。単刀直入に言おう。俺の弟子になりなさい」

 

通訳を通して聴いた言葉に、私は耳を疑った。

……は? 何を言っているのだこいつは。

そもそも、私とて独学で剣を学んだわけではない。

つまり、既に別の者に師事を受けている身なのだが。

それ以前に、何故このような者が? 全く話が見えない。

思わず私は声を荒げてしまった。

 

「私をバカにしているのか!? いきなりやって来て弟子になれとは何を考えている!?

 そもそも、何故教会は、司教枢軸卿は何も連絡を寄越してこないのだ!?

 イリナはまだ見つかっていないんだろう!?」

 

やってしまった。弟子云々はともかく、司教枢軸卿は彼には関係ないというのに。

長い事――のはずだが――牢屋に入れられていたせいで、気が立っていたのだろうか。

ともかく、これは自分でもまずいと思った。

 

「静粛に! ゼノヴィア、拘留中であることを忘れるな!

 ……すみません伊草さん、失礼な真似を」

 

「気にすることはない。彼女も気が立っているのだろう。

 すまないが、俺は教会や司教枢軸卿のことは一切聞かされていない。

 ただ一つ言えるのは、俺が君の身柄を預かることになった、という事だけだ」

 

……またしても、私は耳を疑った。

私の身柄を預かる? 一体この男は何を言っているのだ?

ここは日本だろう、私は国に帰るつもりをしていたんだが。

疑問に思っていると、あの時私を逮捕した警官がやって来る。

赤いジャケットの方だ。日本の警官はあんなものも着るのか?

私が言うのもなんだが、かなり目立つ部類の格好だと思うんだが。

 

「久し……いや数日振りだな、ゼノヴィア。

 俺も忙しいからな、要件だけ言う。まず、お前は釈放される事になった。

 ただし、保護観察つきだがな。その観察を行うのがそこにいる伊草慧介だ。

 次に……お前が知りたい情報二つだが……聞く覚悟はあるか?」

 

「ああ。私は何時だって覚悟は出来ている」

 

なにやら神妙な面持ちで赤いジャケットの警官が語りかけてくる。

そんなにまずい状態なのか? まさか、イリナが死……いや、そんなはずはない!

 

「まず、お前の身元保証人『だった』紫藤イリナだが……未だ行方は掴めていない。

 これは警察の怠慢といわれても返す言葉が無い。申し訳ない。

 詫びた所で彼女が帰ってくるはずも無いんだが、な。

 捜索は可能な限り引き続き行わせてもらう。

 次に……非常に言いにくいんだが、司教枢軸卿の発表でな……

 

 ……『お前と紫藤イリナは破門』だ、そうだ。

 あの時お前からエクスカリバーを預かり返還したのは、実はそういうわけだ」

 

その言葉を聴いたとき、私は目の前が真っ暗になるのを感じた。

破門。この私が、か。神に背いた行い……恐らくは、悪魔と一時的にとは言え手を結んだ事か。

やはり私は、それだけの事をしてしまったのか。

 

……私は、どうすればいいんだ。

その時、遠くで何か叫んでいるのが聞こえたが、私には何を言っているのかが

まるで分からなかった……

 

――――

 

目を覚ますと、牢屋で使っていたのとは違うベッドの上だった。

そこには通訳の人と、私を弟子にするといったスーツの男――伊草慧介がいた。

 

「目が覚めたか。無理も無い。聞けば、君は敬虔な信徒だったそうじゃないか。

 それがいきなり破門などとは、昔から全く現場の事を何も考えていない。

 それがあの組織の限界……すまない。君に話す事ではなかったな」

 

「いや……心配をかけてしまったようだ……すまない……うっ」

 

身体を起こそうとするが、まだ酷くくらくらする。

物理的な痛みはないのだが、身体が起きる事を拒否しているかのようだった。

 

「君に今必要なのは休息だ。休みなさい。

 落ち着いたら、君の新しい寝泊り先を紹介する。

 何時までも牢屋というのも、いい気はしないだろう?」

 

それには同意するよ。けれど、君は一体何者なんだ?

何故私に好意的に接する?

 

「ああ、そういえば正しく俺の身元を明かしていなかったな。

 俺は伊草慧介、NPO法人『蒼穹会(そうきゅうかい)』に所属している。

 言ってしまえば、事情があって生活に窮するようになってしまった

 青少年の保護・支援を行う組織だ。

 それに加え、さっきも言ったとおり俺は元教会の人間だ。

 君の身の上は、ある程度は理解できるつもりだ」

 

理解できたような出来ないような。

しかし、彼の言うとおり何時までも牢屋暮らしも出来ない。

社会的にも問題があるだろうし、何より気が滅入る。

この男の提案を受けるのが、私にとって最良の選択なのかもしれない。

……と言うか、今の私の状態を考えればそれしかないのだろう。

 

次に目を覚ましたとき、私は彼の提案を受ける事を伝え。

それからはとんとん拍子で話が進んでいった。

まるでそうなるように仕向けられていたみたいで少々引っかかりは覚えたが

それならそれで私にもやるべきことができた。

 

――司教枢軸卿へと戻り、事の真意を問い質す。

そして、イリナを見つけ出す。

 

思い上がりではないが、悪魔と手を組んだ以外に破門されるような覚えが無いのだ。

仕事柄、悪魔に堕ちた同僚は多く見たが、私も知らぬ間にそうなったのならば致し方ない。

だが、私は彼らのように悪魔の駒(イーヴィル・ピース)による変異は受け付けていない。

アレを使えば破門もやむなしだが、そうではないのだ。

その時点で既に納得がいかない。なんとしても、確かめなければ。

そしてもう一つ、神が死んだと言うことについても。

ただのコカビエルの狂言ならばそれでいい。そうあって欲しいものだが。

 

こうして、新しい目的を胸に秘め

私は警官に見送られる形で警察署を後にする事になった。

 

――――

 

――蒼穹会・伊草家。

何の変哲も無い普通の家。イリナに聞いていた日本の家とはまた少し違う気もするが。

勝手知ったる場所ではないので、やはり緊張する。

戦いに赴くわけでもないと言うのに、我ながら随分と臆病な話だ。

当たり前だが、私の身元引き受けを買って出た慧介という男は

さも自然に家の扉を開けて中へと入っていく。

 

「ただいま。めぐ、帰ったぞ」

 

「おかえり慧介……って誰よ。その子。慧介、まさか……」

 

そんな慧介を出迎えたのは、また見たこともない女性。

雰囲気からして、彼の奥さんだろうか。

しかもその背中には生後間もない子供が寝息を立てている。

ふと、私は一瞬睨まれた気がしたが……なぜだ?

 

「違う! 以前話した教会から追放された子だ!」

 

「分かってるわよ慧介。それより怒鳴らないの。百合音(ゆりね)が起きちゃうでしょ。

 それよりあなた、名前は? え、えっと……

 それとも英語で話したほうがいいのかしら?」

 

不意に私に話を振られる。な、何を言っているのかまるで分からない!

くっ、こんな事ならイリナにもう少し日本語を教わっておくべきだった!

だ、だが私がここで寝食を過ごすと言う事は、ここで挨拶をせねばならないだろう。

思い切って、日本語で名乗ってみる事にした。自信は無いが。

 

「……ぜ、ゼのヴィあ……deス……」

 

「ゼノヴィア君、彼女は俺の妻、愛。その背中にいるのが娘の百合音だ。

 さあ、中に入りなさい。今日からは君もここを自分の家だと思って、自由にくつろぎなさい」

 

……だから何を言っているんだ。まるで分からない。え、ええと……

首をかしげていると、慧介は私に家の中を指し示す。入れ、って事か?

ならばと私は家の中に足を踏み入れたのだが、その時にちょっとした騒動が起きてしまった。

 

「靴は脱ぎなさい! それが日本家屋の約束事だ!」

 

「あっ、だから慧介怒鳴らないでよ、百合音が……

 あーよしよし百合音、心の狭いパパでちゅねー」

 

「めぐ、馬鹿なことを言うのは止めなさい! 俺の心はスーパーアリーナよりも広い!」

 

赤ん坊の泣き声と、それをあやす声。そしてなにやら叫び声。

わ、わからん。何が起きているのだ。とりあえず、靴を指し示されたので

これをどうしろと……あ。そういえばイリナが言っていたか。

「日本の家では靴を脱ぐ」って。しまった……。

 

「……どうやら、はじめにやる事が決まったようだな。

 ゼノヴィア君。君はまず日本語と、日本のルールを勉強しなさい」

 

「それはいいけど慧介、あなた英語しゃべれるの?

 日本語だけ出来ても、ゼノヴィアちゃんに教えるとなると難しいわよ?」

 

「それについては適任者を呼んでいる。入ってきなさい」

 

入ってきたのはシスターの服を身に着けた金髪の少女――アーシア・アルジェント。

何故、リアス・グレモリーの眷属である彼女がここにいるのか。

と言うか、何故私の日本語の教師の話を!?

私は思わず、彼女には現時点でも話が通じると言う事もあって問い詰めてしまった。

 

「アーシア!? リアス・グレモリーはいいのか!?

 それより、君は何故ここに!?」

 

「部長さんには話はしてあります。これは私が申し出た事なんです。

 今の私なら、通訳も出来ます。事情を知っていて、通訳も出来る私なら

 あなたのお勉強のお手伝いが出来るかと……」

 

「しかし、私は君に酷い事を……」

 

「それなら気にしないでください。過去にどうしたかよりも、私はあなたと仲良くしたいんです。

 それとも……悪魔が友達では、ダメですか……?」

 

悪魔が友達。そうか……私の友達は悪魔、か……。

教会を破門された私には、ある意味お似合いかもしれないな。

私も、かつて同胞を脅かした背教者といつの間にか同類になっていたとは。

 

その事実を突きつけられて、私の中で何かが壊れた。

 

「……神もいない。帰るべき場所もない。今更悪魔が友達でも構う事はないか。

 わかった、アーシア。君の申し出を受けよう……よろしく頼む」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

こうして、私達は硬く握手を交わす。

かたや悪魔に身をやつした聖女。

かたや神の不在を知り、かつていた場所から追い出された聖剣使い。

私達にとって異国の地であるここに、新たな縁がその芽を開かせた。

 

「……こほん。アーシア君、本題に入ってもらって良いだろうか」

 

「あ!? す、すみません!」

 

蒼穹会・伊草家。何の変哲も無い、ただ強いて言うならば

かつて教会に身を置いた戦士が暮らす普通の家庭。

教会の戦士からは堕ちてしまったが、私にはまだやる事、やりたい事がある。

ここは、そんな私にとって新しい拠点足りうるだろう。

一度開き直ってしまえば、割と気は楽なものだ。

それで気が緩んだのか、私はアーシアにある疑問を投げかけていた。

 

「ところでアーシア。君はどういう経緯でここを?」

 

「あ、それはですね……」

 

「ふぅ、百合音も落ち着いたし。じゃ慧介、私モデルの仕事行って来るから。

 アーシアちゃんもいるって言っても、百合音の面倒。ちゃんとお願いね?」

 

「俺を誰だと思っているんだ。伊草慧介、君の旦那だ。任せなさい」

 

もでる? なんだそれは?

首をかしげていると、アーシアがおもむろに雑誌を見せてくれる。

その表紙には、さっきの女性が写っている。

 

「めぐさん、ファッションモデルをやってるんです。

 昔は教会の戦士だったんらしいんですけど、慧介さんと結婚されたのを機に戦士を辞めて

 モデルに専念する事にしたんだそうです。最近まで出産とかで休んでいたんですけど

 また、モデルを再開したそうなんですよ?」

 

ふむ。しかもこの雑誌は女性向け雑誌のようだ。

一部の者は読んでいたそうだが、私は正直興味を引かなかった。

だが、今となってはそうも言ってられないのだろうか。

そしてもう一つ、私は新たに気になることができた。それは――

 

「それよりアーシア、何故君はここの事情に関して詳しい?

 その様子だと、私の日本語の教師を受け持つ以前から

 ここの人達と関わりを持っていたみたいだが」

 

「ベビーシッターのアルバイトしてたんですよ。悪魔の契約じゃ、ありませんけどね」

 

「そうか……赤ん坊、か」

 

剣を振るい、悪魔を駆逐する事に情熱を燃やしてきた私だが

赤子に対する興味もまた、それ相応に抱いている。

最も、実際にこうして対面する事は早々無かったが。

 

……いずれ私も子を持つのだろうか。彼女のように。

 

「百合音が目を覚ましたら、抱いてみなさい」

 

「え……? いやしかし、私は赤子は抱いた事は……」

 

アーシアの通訳を交えながら、慧介は私に赤子を抱く事を提案する。

曰く、守ろうとしていたものを知るのも大切である、と。

言いたいことはわかる。だが、剣を振るうのとは全く意味合いが違うんだぞ!?

そんな簡単に抱けと言われてもだな……

 

「心配は要らない。百合音は俺とめぐの子だ。それに、命を抱える事に戸惑い、怖れを抱くのは

 正常な思考の証だ。怖れは確かに戦士には望ましくない感情かもしれない。

 しかし、怖れも知らず生きていくというのは、ただの蛮勇だ。

 真の戦士は、怖れも知って乗り越えられる戦士だ。君は怖れを知っている。自信を持ちなさい」

 

「大丈夫ですよゼノヴィアさん。優しく抱けば、きっと大丈夫です。

 それに私は……」

 

「むぅ……そ、そうか……そうだな」

 

肯定の言葉を返した後、小声でアーシアが私に話を振ってくる。

曰く「私は悪魔だから、また違うと思うんです。百合音ちゃんにとって」だそうだ。

 

……そうだった。アーシアは悪魔で、私はまだ人間。

そしてこの赤ん坊は人間の子供。悪魔が赤ん坊を抱くのと

人間が赤ん坊を抱くのとでは、また意味が大きく違う。

それは、悪魔祓いとして過ごしてきた経験上も言える事だ。

 

だったら、やはり私が抱くべきなのか。自信は無いが。

 

「……わかりました。お願いします」

 

「それがいい。さて。百合音は俺が見ているから、勉強を始めなさい」

 

「はい。それじゃ、よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

ここ駒王町は、はぐれ悪魔や堕天使による事件が後を絶たないらしい。

そんな彼らの魔手から人々を守る。それは、グレモリーの眷属のみではない。

人間もまた、自分たちの力で生きようと日夜戦っているのだ。

私もその一人として、がんばらないとな。




今回の解説

めぐ、百合音
以前後書きで触れたとおり、伊草慧介は
キバ本編終了後の名護さんをモチーフにしています。
なので、結婚もしていれば子供もいたりします。
子供の名前はプロトイクサ装着者の麻生ゆりと紅音也から。
嫁さんはキバ本編同様、麻生恵から。

だからゼノヴィアとのフラグは立ちませんよ?(一応)


今回の話のコンセプト

「ゼノヴィアが名護さんちにホームステイするようです」

身も蓋もない言い方するとこうなりますが
本編ではなあなあでリアス眷属入りしていたゼノヴィアだったので
(後にもっと酷い経緯で眷属入りする人出てきますけど……)
今回は処遇はそのままに、リアス眷属入りだけキャンセルかけたら
どうなるか、を目指している方向です。
(名護さんのキャラが強すぎてそれどころじゃない気もしますが)
眷属入りしてからも喜びの見出し方がイッセーにとって都合のいい方向にしか
働いていないように見えたので。その辺を補うためのホームステイです。
アーシアもだけど、彼女も普通の家にホームステイさせたほうがいいと思うんです。
……伊草家(名護さんち)が普通の家かどうかはさておいて。

アーシアは悪魔の駒の作用で日本語ぺらぺら、授業も真面目に受けてるので
日常会話を人に教えるくらいは可能だろうと言う事で。
ゼノヴィアの経緯を知っており、かつ似たような身の上と言う事で
アーシアにゼノヴィアの日本語教師役を任命しました。

……ここで注意点。
ゼノヴィアは、実は前回のことについて「酷いことを言った」とは認めましたが
「アーシアの行いが悪魔祓いを愚弄している」事については撤回してません。
魔女アーシアとしてではなく、悪魔アーシアとして
見ることができるようになっただけです。その上で友人として認めている。
そんな、複雑な人間関係です。

イリナ。
「神の不在を知ったが故に破門された」と言う事は
原作ではその場にいなかったイリナは破門されませんでしたが
本作ではその場に居合わせたため、イリナもゼノヴィア同様破門されています。
さて、彼女は一体カテレアに連れられて何処に行ってしまったのやら。

※1/12修正
没案の名前混じってた。


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Extra Saint5. 聖剣少女、新天地にて。後編

あ……ありのまま 昨日 起こった事を話すぜ!
「俺は 仮面ライダーゴーストを見ていると
 思ったら いつの間にか仮面ライダーフォーゼを見ていた」
な……何を言っているのか わからねーと思うが
俺も 何が起きたのか わからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
ネットムービーだとか春映画だとか
そんなもんじゃ 断じてねぇ
もっと恐ろしい毛利脚本の片鱗を 味わったぜ……


閑話休題。

今回もゼノヴィア編です。

え? セージが出ていない?
仕方ないじゃないですか、昼間のセージは
ゼノヴィアからは見えないんですから。


私が伊草(いくさ)家で過ごすようになって数日が経ち。

アーシアの教え方がうまかったのか、日常生活には支障をきたさない程度には

日本語も出来るようになった。まだ箸の使い方とかその辺は自信が無いが。

しかし、意思の疎通が容易になっただけでも気分が随分違う。

 

そんなある日曜日、私は慧介(けいすけ)に呼び出された。

 

「さて。そろそろ戦士としての修行も再開したいところだな。

 まずはこれを着なさい」

 

そう言って差し出されたのは、胸に「193」と書かれたTシャツ。

何故193なのだ? キリの悪い数字だ。

 

「いいところに気がついた。この数字は『()()()』。

 つまり、私の名前を胸に刻み、鍛錬を行いなさい」

 

意味が分からず戸惑いながらも部屋に戻り着替えを済ませる。

戻ってくるなり、後ろからめぐが出てきて突っ込みを入れている。

正直、助け舟を出してもらえた気分だ。

 

「まーたそれやってるの? ああゼノヴィアちゃん、適当に流しといて良いから。

 慧介、適当な事言ってゼノヴィアちゃんに変な事吹き込まない」

 

「何を言う。戦士は一日にして成らずだ。

 ちょうどいい、百合音(ゆりね)も寝静まっているなら君もやりなさい」

 

そういうと、慧介は庭に出て間合いを取るように言うと、何処から出したのか

ラジカセから音楽を流し始める。なんだこれは?

 

「まずは軽く……イクササ~イズ!」

 

そう言って始まったのは……曲に合わせて身体を動かすタイプの体操だった。

こ、これをやれというのか!?

身体を動かす事自体は吝かではないが、初見ともなると中々難しい。

腕を振ったり、前屈姿勢で拳を床に叩きつけたり、その場で駆け足をしたり。

というより……中々ハードだ。慧介はこれを毎日やっているのか!?

 

「……その命、神に返しなさい」

 

謎の決めポーズと共に、曲が終わる。これでワンセットなのか……。

しかし私には気になる事があった。

 

……歌詞にあった変身ベルトって、なんだ?

その事を慧介に問い質したら「俺に質問をするのはやめなさい」と返された。

何か理不尽なものを覚えたが、めぐにも止められたのでこのことに関する追求はやめようと思う。

 

――――

 

「ゼノヴィア君。食事の後、近くの神社に行く。

 食べ終わってからで良いから、支度をしておきなさい」

 

鍛錬の後のシャワーを済ませ、昼食を摂っていると突如として慧介から提案が出される。

神社? 待ってくれ、私はクリスチャンを辞めたつもりは無いんだぞ。

それなのに、異教の施設に行くというのはどうにも気が進まない。

 

「ああ、その事なら心配要らないわよ。日本の神様って、結構寛大だから」

 

「いや、日本の神がよくても、私が信仰する神は……」

 

「神はいつもそこにいる。君が信じる限りはそこにいる。

 だから俺は、悪しき者の命を一度神に返納させ、生まれ変わらせようとしているのだ」

 

……このニュアンスの言葉には、聞き覚えがあった。

あの幽霊悪魔だ。あの時はコカビエルという共通の敵がいたこともあって

上っ面だけの肯定もあったのだが、慧介も同じような事を言っているとは。

これが日本人の宗教観というやつなのか? 私には少し理解しがたいものがある。

信じようと信じまいと、神はそこにおわす。だから神を信じぬものには裁きが下される。

その裁きを下していたのが私なのだが。

 

「君の言いたい事は分かる。だが、少しの間だけでも日本で過ごす以上

 神の使いを名乗るのであれば、日本の神についても知ってもらいたい、それだけだ。

 当たり前だが、別に君に信仰を強制するつもりは全く無い」

 

そういえばイリナが言っていたか。

この国では真面目に神を信仰するものはほとんどいない、と。

嘆かわしいと思っているし、その認識を改めるつもりは無いのだが、何故なのだろうか。

そこは不思議と気になった。

 

「慧介。どうして日本人は主に、神に執着しないんだ?」

 

「古くは仏教と神道との絡みで色々と、近代では宗教の祭りを

 日本風にアレンジして色々と取り入れたことが切欠じゃないかと俺は思う。

 俺も詳しい事は知らないから、昔からそうだったとしか言えないな」

 

「ま、ハロウィンやバレンタインなんてその最たるものだしね。

 江戸……昔の東京だけど、特にお祭り好きだし。私もだけどね」

 

これもイリナが言っていた。

日本のハロウィンやバレンタインを、本国のそれと同列に考えるな、と。

私に言わせれば頭の痛い話だが、これからそうも言っていられなくなるのか?

 

「色々話したが、結局は君の自由だ。

 誰かに迷惑をかけるのでなければ、好きにしなさい」

 

今までの話で何となくだが分かった事がある。

それは、日本の神というのは放任主義ではないかという事だ。

結局、私達はこの後家の近くにあるという神社に行ってみることにした。

 

――――

 

神社に着いた私達は、ひとしきりの参拝を終え――私は見ていただけだが――

おみくじとやらを引くことになった。言うなれば「神託」らしいのだが。

 

「やった! また『小吉』! うんうん、これは百合音の将来も安泰ね!」

 

めぐにはいい神託が出たのか、喜んでいる。

心なしか、背負われている百合音もうれしそうに見える。

 

「ゼノヴィアちゃん、引いてみたら?」

 

「え? いや、私は……」

 

半ば強引に、私もおみくじとやらを引くことになった。

この箱を振って、中から出た番号を言えば良いらしいが。

番号は……75番だった。

そして中から渡された紙を見る。が、話すのはともかくまだ私は日本語の読み書きは

不得手であったことを思い出し、めぐに代読してもらう事にした。

 

「ふーん。『末吉』ね。ま、いいんじゃないかしら」

 

「そうなのか?」

 

「これから運が良くなりますよ、って意味だから。

 他にも色々書いてあるわよ。探し物がみつかるかとか

 旅行をする方角は何処がいいかとか……」

 

探し物。その単語に思わず私は食いついてしまった。

イリナがいなくなった件がある以上、食いつかずにもいられない。

 

「探し物!? す、すまないめぐ、それがどういう風になっているか教えてくれないか!?」

 

「え? い、いいけど……どれどれ? 遺物(うせもの)は……

 『出し。然れども望む形にはならざり』って。

 ……地味ーに、気になる〆方ね」

 

「い、イリナに何かよくない事がおきるのか!?」

 

「で、でもこれって『絶対そうなる』って類のものじゃないからね?」

 

つまり、私の探しているもの――イリナが見つかるということか!

そう解釈してしまった私は、浮かれてしまったのか

半分以上めぐの言葉が耳に入っていなかった。

ただ一つ気になった「望む形にはならない」

……って、どういうことなのだ?

 

おまけに、慧介の状況まで一切気付かなかった。

後で聞いた話だが「小吉を寄越しなさい、末吉でもだ!」と叫んで

めぐに窘められていたらしい。めぐが言うには、結婚する前もこうしておみくじを引いて

慧介が凶――即ち一番悪い奴を引いたがために

めぐが引いた小吉を奪おうとした経緯があったらしい。

 

……神託って、なんだったっけ。そう思わずにはいられなかった。

 

――――

 

神社へ行った後、私達はそのまま町で食事を済ませた。

その帰り道、なにやら表通りが騒がしくなっているのに遭遇した。

遠くにパトカーのサイレンも聞こえる。事件が起きたのだろうか。

白昼堂々とは、この町の治安もあまりよくないな。

ふと遠くを見ると、正面から物凄い勢いで突っ込んでくる車があった。

その車を見るや、慧介がおもむろに道に飛び出す。

な、何をするつもりだ!? 悪魔ならともかく

生身の人間が車とぶつかったらただじゃすまないぞ!?

そんな私の心配をよそに、慧介はなんと走ってくる車を足で止めたのだ。

慧介、君は本当に人間なのか!?

 

「善良な一般市民が汗水を流し稼いだお金を奪うとは、許し難い行い……

 めぐ、百合音を連れて離れなさい」

 

「わかったわ、慧介も無茶しないでね」

 

「な、なんだてめぇ!」

 

「俺達を『曲津組(まがつぐみ)』と知っての事か!」

 

そのまま、慧介は車に乗っていた連中と殴り合いを始める。

相手が強盗犯ならいいのだが、誤認だったら大事じゃないか!?

そんな心配事が現実味を帯びるように、慧介は車に乗っていた連中を一方的に殴りつけていた。

 

「『曲津組』……確か全国規模に活動している指定暴力団だったな。

 一般市民を脅かす悪の側からこちらに来るとは都合がいい。その命、神に返しなさい!」

 

「なにをぅ! ……ぐわっ!?」

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「つ、つええっ!?」

 

私が言うのもなんだが、これはひどい。

慧介が強すぎるのか、彼らが弱すぎるのか。

だが待てよ? 何故慧介一人に一方的に押される程度なのに

強盗なんてやったんだ?

もしかして、裏に誰かいるのか?

案の定、私はよく知っている気配を感じた。

悪魔祓いをやっている時、常に感じていた気配――悪魔のものだ!

 

「くそう、こうなったら……せ、先生! お願いします!」

 

「慧介! 悪魔が近くにいる! 気をつけろ!」

 

車の上には、慧介を殺そうと黒い翼の男が立っていた。

見るからに悪魔と分かるそれは、魔力を隠す事も無く狙いを澄ませている。

それは、私にとっては勝手知ったる相手。

見る限りでは下級から中級程度の悪魔。私の敵ではない。

デュランダルを出そうとしたが、その行動は慧介に制止されてしまう。

 

「やめなさい。君は俺の戦いを見ているだけでいい。

 魑魅魍魎跋扈するこの駒王町……伊草慧介はここにいる!

 神器(セイクリッド・ギア)、爆現!!」

 

「なにっ、神器だと!?」

 

慧介が右拳を握り、力強く翳すと右手には十字架のような剣が現れた。

剣型の神器とは、十字架のような形も相まってまるで聖剣みたいだ。

 

「これが『未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)』。さあ、人の世に仇成す者よ。

 天魔覆滅――その命、神に返しなさい!」

 

「……!!」

 

どうやら、悪魔のほうも慧介がただの人間だと思っていたらしく

慧介の神器になす術も無く両断され、あっけなく地に伏した。

私に言わせれば、走っている車を足で止める時点でただの人間ではないと思うのだが。

悪魔を呼び寄せた連中も、悪魔がやられるとは思っていなかったらしく

逃げ腰になっているのが見て取れる。が、時既に遅く。

パトカーのサイレンの音が近づいてくると同時に私と慧介で連中を取り押さえ

警察に引き渡す事にした。これで警察への借りも少しは返せただろうか。

……たぶん、返せてないな。やったのは殆ど慧介だ。

 

「くそっ! こんなことになるなんて……聞いてねぇぞ!」

 

「なんなんだてめぇら! 先生……悪魔もものともしねぇなんて……!」

 

パトカーと共にやってきたのは、二人の警官。

一人は見知った顔だが、もう一人は見たことの無い警察官だった。

右手に赤・緑・黄の三色のグラデーションをした鳥の翼を模した腕輪をしており

はねた前髪が特徴の金髪の目つきが悪い警察官だった。

この間の赤いジャケットの警察官といい、日本の警察はこんなのばっかりなのか?

 

「……ちっ。強盗犯始末してくれるのはありがたいんだがなぁ。

 それが神器じゃなかったらとっくに銃刀法違反だ、警察の目の前でよくもやってくれるなぁ?」

 

安玖(あんく)巡査、その辺にしておいて下さいよ。

 ゼノヴィアもお久しぶりです。日本語、上手になったようで」

 

私に呼びかけてくるのは……たしか氷上とか言う警察官だ。

彼も私を逮捕したときに一緒にいた警察官だ。それはあまり思い出したくないが。

安玖と呼ばれた警察官は、確かに見るからに人相が悪く

良くこれで警察官が務まるな、というレベルのものだった。

口調もそれに合わせて悪く、そういう意味では期待を裏切らない。

案の定氷上に注意されているが、あれは改善されそうにないな。

 

「氷上君。彼が今度超特捜課(ちょうとくそうか)に入った警官か?

 私が言う事ではないが、もう少し人選は考慮しなさい」

 

「あぁ? 聞こえてるぞおっさん。

 それにな、俺には安玖信吾(あんくしんご)っつー立派な名前があるんだ、おっさん」

 

「私はまだ20代後半だ。おっさんと呼ぶのはやめなさい。不愉快だ。

 それに私にも伊草慧介という名前がある」

 

どんどん険悪になる空気を見かねて、私は話題を変えてみることにした。

このまま放っておけば、なんだか取り返しがつかないことになりそうだったのもあるが。

 

「そ、それよりもだな。

 彼らが強盗犯で、悪魔と契約していた。それは事実じゃないのか?」

 

「そうですね。暴力団がらみの事件と言う事ですので、引き続き調査を行わせていただきます。

 もしまた何か起きたら、すぐに我々に連絡をお願いします。

 では我々は犯人を護送しますので。ご協力、ありがとうございました!」

 

氷上が私たちに敬礼をし、車に乗っていた連中と

彼らに協力していた悪魔をパトカーに押し込み

警察署に戻ろうというのに、まだ慧介と安玖は睨みあっていた。

 

「安玖巡査、戻りますよ! 署に戻ったらアイスありますから!」

 

「慧介も意地を張らないの! すみません、うちの慧介が……」

 

氷上とめぐの制止によって、ようやくほとぼりは冷めた。

走り去っていくパトカーに、遠くなっていくサイレンの音。

これでようやく平和が戻ったと安心できるものだ。

……しかしそれは、私の思い過ごしであったことをすぐに思い知らされる事になったのだが。

 

「……しまった! ボタンを取るのを忘れていた!

 戻って来い、俺のボタン、ボタンンンンンンンンン!!」

 

「ボタン?」

 

「あー……結婚する前からの趣味なのよ。犯罪者のボタンを集めるの。

 撃墜マークみたいなもんでしょ。この話は慧介には振らないほうが良いわ。

 語りだすととまらないから、この話題。久々だから、スイッチ入ったのかもね。

 ほら慧介、百合音もぐずるといけないから、そろそろ帰るわよ!」

 

どうやら、伊草慧介という男は私が思っている以上に癖の強い人間のようだ。

イリナ、色々な意味で君に会いたい。私一人では、突っ込みが追いつきそうも無い。

正直言って、この人の弟子がちゃんと務まるか心配だ。

 

……それはそうと、ここはリアス・グレモリーの管轄のはずだ。

今の悪魔は、どう見てもグレモリー眷属ではなかった。

ならば一体誰だというのだ。

 

コカビエルの件といい、この駒王町と言う町に巣食う闇は

私たちが思っている以上に根深いのかもしれないな……。

 

――――

 

さらに帰り道、私達は高校生の集団と出くわした。

その中には、私の見知った顔も何人かいた。

それもそのはず、その集団の半数はリアス・グレモリーの眷属だったのだ。

 

中には私の知らない者もいたが、彼らも眷属だろうか?

……いや、そうでもないみたいだ。悪魔特有の気配を感じないし

かと言って私の同業者でもないようだ。

強いて言うならば契約者だろうか。フリードの奴は契約者だろうとお構いなしに斬り捨てるが

私は……いくらなんでも、人間である契約者にまで刃を向けるのは気が進まない。

勿論、何もせずに返すつもりもない。ただ、人間まで討つのは違う気がするだけだ。

最も、今の私は正規の悪魔祓いではないのだが。

 

「あ! ゼノヴィアさん! 慧介さんたちも!」

 

アーシアが気付いたのか、私達に声をかけてくる。

私の事を知らない者は、突然現れた私たちに首をかしげている。

アーシア以外の悪魔達も、首をかしげている。

恐らくは、慧介絡みだろうが。

 

「君達は高校生か。こんな時間に何をしている。

 早く家に帰り、勉強をしなさい」

 

「はいはい、しょうもない事言わないの。

 君達、その様子だとアーシアちゃんのお友達? この方角だとあそこのカラオケかな」

 

「え? そうですけど……」

 

慧介の至極真っ当な意見を流しつつ、めぐは友好的な態度で木場に話しかけていた。

そんな中、眼鏡の女子生徒がめぐの顔を見た瞬間素っ頓狂な声を上げた。

 

「ああっ!? ファッションモデルの伊草めぐさんじゃない!

 わ、私ファンなんです! サインお願いします! な、名前は桐生藍華で!

 ……元浜、めぐさんにアレやったら明日から晒しあげるからね?」

 

「やんねぇよ、そもそも俺の守備はん……や、なんでもないです」

 

「? まぁいいわ。はい、サインね……藍華ちゃんへ、っと。

 これでよし、応援ありがとうね」

 

手慣れた手つきでめぐはサインを書いている。

アーシアの言うファッションモデルというのも、中々大変そうだ。

人目に晒されると言うのも、結構なプレッシャーなはずだが。

 

「うん? ゼノヴィアちゃん、モデルやってみる?」

 

「なっ、ななな何故そこで私が!?」

 

「えっ、違うの? めぐさんと一緒にいるから、私てっきりモデル仲間かと……」

 

しかも桐生とか言う女子生徒は、私の事をモデルだと思ったらしい。

断じて違うのだが。だからアーシア、そんな目を輝かせて私を見ないでくれ。

そして木場以外の男共。目つきがいやらしいぞ。

 

「上から87・58・88か。なるほどモデルにゃ向いてるんじゃね?」

 

「元浜ァ! あんた初対面にそれをかますか!」

 

「ぐっ……胸だけ負けたわ。やるわねゼノヴィアちゃん。

 けれど私の目に狂いは無かったわね。モデルやりなさいよ、モデル」

 

眼鏡の男子生徒が数字を述べていくが、私には何のことだか……!!

こ、こいつ! めぐの反応とかで気付いたが、どうやら私のスリーサイズを言い当てたらしい。

無性に恥ずかしくなったが、一体こいつはどうやって見抜いたと言うのだ。

ま、まさか神器持ちで、こんな事のために神器を使っているのでは!?

 

だとしたら神の力を何だと思っているんだ!

思わず怒りがこみ上げてきたが、そんな私の心を代弁するかのように慧介が沈黙を破った。

 

「いい加減にしなさい! 君達は不健全すぎる!

 学生の本分を忘れ、不埒な会合に耽るばかりか、白昼堂々猥談まで繰り広げる始末!

 そんな事ではこの国の将来を背負って立つ事等出来ん!

 こんな下らない会合を開いている暇があったら、もっと世界に目を向けなさい!

 そして、世界に数多といる理不尽な暴力や仕打ちに苦しめられている人々に

 自分が何を出来るか、それをじっくり考え、行動に移しなさい」

 

熱弁をふるう慧介に対し、めぐは先ほどまでのノリを満更ではなく感じていたのか

頭を抱えてしまっている。確かに、両極端だとは思うが。

 

「あー……これダメなスイッチ入っちゃったわ。

 ほら慧介、帰るわよ。じゃあみんな、またね」

 

「離せ! まだ話は終わってない!」

 

半ば強引に、百合音を負ぶっためぐに連れられる形で慧介はこの場を後にする事になった。

私も仕方なく、慧介たちについて行く事にした。

まだ話したい事はあったが、悪魔で無い者もいる場所で話すべき事でもないだろう。

 

「離せ! 俺は伊草慧介だぞ!!」

 

慧介が落ち着くまで、小一時間ほどの時間を要したのは、また別の話である。

 

――――

 

その夜。普通に食事を済ませた私の元に慧介とめぐがやって来る。

百合音は既に寝ているような時間ではあるのだが、どうしたと言うのだろう。

 

「ゼノヴィア君。昼間は取り乱してすまなかった。

 だが、俺が言った事はそのまま君にも言えることだ。

 勿論、不埒な会合の件以外――世界に目を向けるべきとか、そういう所だ」

 

「それと、モデルを勧めたのも半分本気なのよ?

 ほら、今までが今までだったじゃない。だから、思い切って新しい事に挑戦するのとか

 ありなんじゃないかな、って私も思ったのよ。モデルの仕事なら、私も顔利くし」

 

言われてみればそうだ。今の私は、聖剣こそ持っているが

正規の悪魔祓いではない。はぐれ悪魔祓いとでも言えばいいのか。

しかし、それでもフリードと同類になるのだけは死んでもお断りだ。

ならば、彼らの言うとおり新しい生き方を見つけるべきなのだろうか。

 

「君は君の生き方をゆっくり探しなさい。昼間の連中と戦うのは、俺の仕事だ」

 

昼間の……曲津組とか言ってた連中か。

ならず者に見えたが、まさか悪魔とつるんでいたとは。

しかも、悪魔にとっては既にリアス・グレモリーが縄張りを主張しているここで、だ。

悪魔の中でも、内輪もめでも起きているというのだろうか。

まぁ、今の私には関係のないことか。

 

コカビエルとの戦いは終わったのだ。

これからは、私のやりたい事をやるべきだろう。それは――

 

――何よりまず、イリナを探そう。

 

すまない、慧介、めぐ。まだ私には、やり残した事がある。

イリナを探し出したら、もう一度私の生き方に向き合おう。




ゼノヴィア回の皮をかぶった753の最高なダイジェストでした。
後半の753はそれほどボタンに固執してなかった気がしますが
逆にボタンをむしらない753は何か違うな、ということで。

ゼノヴィアの当面の目的はイリナの捜索になります。
ペア組んでやってきたのに自分だけ寝床がある状態ですからね。
おみくじの中身が気になるところですが、さて。

解説。

宗教観。
これはちょっと主観がっちがちで書いてます。
日本人にとってはこの程度の認識だろうなぁ、と。
他にもカルト云々も書こうかと思いましたが流石に自粛。
ただ、日本人の宗教アレルギーの一因は担ってると思います>カルト

また、伊草家のモチーフでもある仮面ライダーイクサも
聖職者モチーフですが宗教色は撤廃する方向でデザインされたと言う説もあるとかで。
S.I.C.? 知らない子ですね。

……実はそれがゼノヴィアと名護さんモチーフのキャラを
クロスさせる切欠になったり。

曲津組。
本作における人間勢力の味方サイドが超特捜課であるなら
彼らは敵サイド。警察に対する暴力団、わかりやすいですね。
実際の暴力団はここまで直接的に動かないらしいですが。
そして、名前でお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが
曲津(まがつ)」……「(まが)」の名を冠していると言う事は……。

慧介に斬られた悪魔は遥か昔に転生悪魔になったモブ転生悪魔。
はぐれ悪魔じゃないから討伐依頼も来ない、厄介な存在かもしれません。
表向きは人間の犯罪者として連行されてますが
一応悪魔なので取調べとかは超特捜課がやってます。
一歩間違えば国際問題。おお、こわいこわい。

超特捜課新人巡査。
モチーフは仮面ライダーOOOよりアンク/泉信吾。
OOOで警官と言うと後藤さんもですが、装備などの兼ね合いからアンクに。
少しだけネタバレしますと、右腕の腕輪は神器です。

……そういえばアンクのイメージカラーは赤ですが
何気に黄色や緑も入っていたり、タトバコンボを彷彿とさせますね。
始祖鳥も結構鮮やかな色の個体もいたそうですが。


どうでもいい与太話。
麻生恵とゼノヴィアは、バストが3cm違うだけである(ゼノヴィアの方が大きい)。
本作のゼノヴィアは悪魔にならず、駒王学園転入の話も(現時点では)ありませんので
彼ら駒王学園の生徒との人間関係も本作では大きく異なります。


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Soul40. 俺、開眼?

今回、久々の長文です。
そして、第三章最終話にしてセージの決着編。

肉体を取り戻す事に固執していたセージへの答えは
今ここに下されます。

お時間のあるときにお読みくださいませ。
ではこの言葉を以って前書きを締めさせていただきます。


「この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
 仮面ライダーゴーストは一切関係ありません」


――某日日曜日。昼過ぎ。

 

イッセー、祐斗、塔城さん、アーシアさん。

そして桐生さんに、元浜、幹事の癖に遅刻して

イッセー、元浜、桐生さんの悪友トリオにボコられた松田。

兼ねてから松田と元浜が計画していた、カラオケ大会に参加したメンバーである。

町中にあるカラオケボックス。ここで彼ら7人によるカラオケ大会が行われていた。

 

その前哨戦としてボウリング大会も行われたが

俺は悪魔組がインチキをしないかとひやひやしながら眺めていた。

……その辺は杞憂に終わってくれたが。特にイッセーは松田をボコっていたときも

俺に言わせれば気が気でなかった。イッセーが彼らにボコられる分には然程気にしてないが

逆となれば話が変わってくる。人外の存在と戦う俺らの力では

一般人を軽く小突くのさえ、致命傷になりかねないのだ。

動物園のライオンが飼育員にじゃれて殺してしまうのに近い感覚だろうか。

事実、桐生さんや元浜はともかく、イッセーに小突かれた時には

松田も本気で痛そうにしている風にも見えたが……気のせいだと思いたい。

 

……で。

その俺こと、歩藤誠二はさっきから何をしているのかと言うと――

 

「めっちゃつかもうぜ~ドラグ・ソボールを~」

 

「よっ! ドラグ・ソボールバカ!」

 

「畜生めぇ! アーシアちゃんとデュエットでもしやがればぁーか!」

 

イッセーの歌に、松田と元浜がノリノリで合いの手を入れている。

なんだかんだでアーシアさんも楽しそうではある。

歌も歌わず、さっきから食べ物を注文しては黙々と食べている塔城さん。

真剣に選曲をしている桐生さん。

祐斗は……コーヒーを飲んでそんな様子を眺めているな。

ああ、気持ちは分からんでもないが、その態度をその顔でするのは

ある一部からは総スカンを食らうぞ、祐斗よ。

 

――そう。

俺は実体化ができないので、そんな様子をずーっと眺めているのである。ずーっと。

そりゃまぁ、俺だってボウリングやりたいとも思ったし

面ドライバーの曲だって歌いたいって時もある。

 

何故こんな生殺しもいいところな状態に首を突っ込んでいるのかと言うと

祐斗や塔城さんの提案だ。曰く――

 

今度みんなで集まるから、その時にセージ君のお見舞いもコースに入れる。

その時に、隙を見て身体に戻ってはどうだろうか。入り口の除霊札は、僕らで何とかする――

 

だそうだ。と言うのも、右手を失った一件以降、イッセーにうまく憑けないのだ。

一度憑いたら、中々分離できないのだ。まるでイッセーの――いやドライグに取られた

俺の右手が錨になってしまったかのように、イッセーの、ドライグの存在に俺が引っ張られる。

そんな錯覚を覚えてならないのだ。

そんなわけなので、イッセーに憑依して除霊札をやり過ごす方法が使えない。

そこで、除霊札を何とかしてくれると言う祐斗と塔城さんのプランに乗る事にしたのだ。

 

しかしこの方法には問題がある。

肝心の協力者たる祐斗や塔城さんからは俺が見えないし

俺が見えるイッセーにも一応事情は話してあるとは言え

参加も出来ない俺がうろついては目障りだろう。

 

……つまり、祐斗よりさらに一歩引いた状態で俺はさっきから行動しているのだ。

まぁ、霊体なのでその辺は問題ないんだが。

どうにも……な気分をさっきから味わっているのもまた、事実だ。

 

『はぁ。しかしこうして眺めている分にもそれなりに面白いからいいか……うん?』

 

思わず俺がぼやいていると、見覚えのある集団が何処からかやって来た。

虹川(にじかわ)楽団、そして祐斗の古い友人であり今は虹川姉妹専属の作詞家、海道尚巳(かいどうなおみ)

最も彼らは幽霊であるため、この場にいる全員にその姿は見えない。

俺みたいに事情があってイッセーにだけは見えるって存在と違い、正真正銘の幽霊だ。

と言うかそもそも、俺は死んでないから幽霊じゃない。

 

『おうおう、盛り上がってやがるねぇ。

 にしても木場の奴、こんな時くらい羽目はずしても良いだろうに』

 

『ほんとほんと。折角の宴会だもの、盛り上がらにゃ損だよ、損!』

 

海道さんと芽留(める)は、この場のノリが気に入ったのか自分達も参加しかねない勢いである。

最も、物理的に不可能なのは俺と同じなんだが。

と言うか、この場で乱入されたら騒ぎが起こるんでやめてくださいマジで。

 

『それより、あの隅っこ。セージさん、いるよ?』

 

『あ、ほんとだ……うっわ。セージも見えないからあそこにいるんだろうけど

 私らに言わせると結構アレな絵面よね、これ……』

 

『鬱いわね……』

 

……あ。俺が幽霊を普通に見えるのと同じように、幽霊からも俺は普通に見えるんだった。

それと同時に俺は、里莉(りり)瑠奈(るな)が言わんとしている事を察してしまった。

ちょっ、ぼ、ぼっちとかじゃないから! イッセーに見つかると面倒だから

こうして隅っこで隠れてるだけだから!

 

『……アレとか言うな。そんな事よりも、何故ここに?』

 

『何か楽しそうな雰囲気があったからねー。

 セージこそ、私らが夜しか動かないと思って油断した?』

 

……そうだった。幽霊にはあまり睡眠という概念が無い。霊魂だけの俺でさえ基本そうなのだ。

そもそも生きていないため、おおよそ生きるための三大欲求とは無縁なものなのだ。

とは言え、色情霊なんて単語もあるし、さる伝記には食欲旺盛な幽霊なんてのもいるらしいが。

そんな俺をよそに、幽霊組は話をどんどん進めていく。おいちょっと待て。

 

『ドッキリ第一弾大成功ー! じゃ、続いて第二弾、いっくよー!』

 

相変わらずのハイテンションで、さらに何かしでかしてくれそうな芽留。

しかも今回は、後ろで海道さんがギター構えてるじゃないか。

ま、まさか……まさか、ね?

 

「!? お、おい、いきなり電源落ちたぞ!?」

 

「ま、まさか『白昼のポルターガイスト』!?」

 

「こ、こんなところでか!?」

 

「き、機械の故障じゃね?」

 

結論から言おう。俺の予感は的中した。

曲を入れるタイミングを見計らい、カラオケの機械の電源を落としたと同時に

海道さんのギターの演奏が始まってしまったのだ。

……あーあ。俺、知らないっと。だけど、一応言っておこう。

 

――俺は何もしてないからな。「俺は」。

 

当然、誰も曲を入れていないのに突如として機械が落ちた上に曲が流れれば、皆驚きもする。

一部の者――あの時コカビエルとの戦いの場にいた皆はこの曲を聴いたことがあるが

桐生さん、松田、元浜はこの曲は聴いたことがあるはずがない。

木場も思わず飲んでいたコーヒーを噴出し、むせ込んでしまっている。

木場が飲むカラオケボックスのコーヒーは苦くないのに、だ。

 

「木場、お前汚ぇな!」

 

「ごめんイッセー君、でもこの曲……」

 

「あの時の……」

 

人間三人組とは違う理由で、イッセーらも驚きの表情を浮かべている。

そりゃあ、あんな非日常で聴いた曲が、日常たるこの場面で流れれば驚くわ。

俺だって現に衝撃を受けている。

祐斗は別個で思うところがあるのか、感慨深げにもしているようだ。

 

そう、この曲は祐斗の古い友人である海道さんが作曲したもの。

生前、完成した曲を弾く場面には恵まれなかったそうだが

今は虹川姉妹の協力を得てこうして演奏ができるらしい。

 

『ほら、セージも演奏に参加しなよ』

 

芽留はしきりに俺にも演奏を勧めてくる。

実際、俺も彼女に指南を受けたのでトランペットが出来たりするんだが……

それは、五体満足なときの話だ。右手の無い状態での演奏の訓練など、俺は受けてない。

やりたくても出来ないんだが、右手をなくした経緯を説明するのも気が引ける。

もっと言えば、右手がなくとも、最悪管楽器なのに口がつかえなくても演奏は出来る。

それが虹川流の演奏方法なのだが、俺がそれをマスターしたのは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の賜物であって。

それが使えない今は、どっちにしたって演奏できないんだが……むぅ。

 

『いや、俺は今日は気分じゃないと言うか……』

 

『答えは聞いてないっ! セージも参加、参加!』

 

俺は押し切られる形で演奏に参加させられる羽目になった。

こうなったら自棄だ。振りだけでもやってやる。

 

――結局、カラオケ大会の〆は幽霊の乱入によって幕を閉じる事になった。

呆然としていた皆をよそに、海道さんは満足げに去っていく。

案外君らはた迷惑だなおい。

 

しかし、去り際に海道さんがふと漏らした言葉。

それは一概にもはた迷惑と言い切れないものだった事は胸に刻んでおく。

 

――達者でな、木場。

 

そう。今世において、彼らは二度と出会うことは叶わないのだ。

祐斗に霊感があれば、また話は変わったのかもしれないが、そういう意味でもないだろう。

海道さんにしても、祐斗にしても、聖剣計画とは既に過去なのだ。

もはや互いに進む道は違えている。方や幽霊、方や悪魔。

いずれも人ならざる道なのだが、俺の見た限り、人としての心まではなくしていない。はずだ。

ならば、俺がとやかく言うことはないだろう。

 

一風変わった縁だったが、またどこかで道が交わったときには

語らうのも悪くは無い。俺はそう思う。

 

『……で、さっきから何物思いに耽ってるの、セージ?』

 

『うん? いや別に? おっと、俺もそろそろ移動するから、またな。

 ……それと。もし、もしもだ。俺がいなくなったときは

 俺の権限は今の有志に受け継ぐ形にはしてある。君らはただ、音楽の道を邁進して欲しい』

 

『……なんだか、いなくなっちゃいそうな言い方ね』

 

む。やはりそう取られるか。言い方がまずかったかな。

瑠奈の指摘も最もだ。今の俺はPV担当のお飾りマネージャーとは言え

突然いなくなる事態は避けたいとは思ったんだが。

何分、この間のような事態が起きた以上は何が起きてもおかしくないのだ。

 

……それに、俺が実体を取り戻した時、彼女らと今までどおりに接する事ができるのかどうか。

俺は小さい頃から見えないものが見えるとか、そういうのは特に無かった……はずだ。

つまり、幽霊が見えるのは俺が霊魂だけになり、彼女らと近しい存在になっているからに過ぎない。

 

『えっ!? セージ、マネージャー辞めちゃうの!?』

 

『いや、万が一の話だ、万が一の。少なくとも今は辞めるつもりは無い』

 

里莉がオーバーリアクション気味に驚いた様子を見せるが、俺はそれをはっきりと否定する。

あくどい事を言えば、悪魔としての面子を保つための上得意先でもあるのだ。

最近ではそういう悪魔契約に関してはイッセーに水を空けられている気もするが。

まぁ、あまり人間相手にそういうことをしたくないってのは心のどこかで思っているのかもしれない。

……本当、俺は性格こそ悪魔に近いが悪魔失格だと思う。

だが、だからこそ早く俺は身体を取り戻し、人間に……うん?

 

その考え自体は揺るぎ無いものなのだが、俺は何か引っかかるものを感じた。

それが何なのかまでは確証がつかめないが、それでも何かがひっかかる。何だ?

……いや、今は迷っている場合じゃない。そもそもこの間だって、俺が迷ったお陰で失敗したんだ。

もはや迷いは許されない。やるしか、ないんだ。

 

そんな事を考えながら、大層な事をしでかしてくれた虹川姉妹と別れ

カラオケボックスを後にした一同についていくことにした。

 

――――

 

「ちぇっ。もうちょいドラグ・ソボールの歌を歌いたかったぜ」

 

「仕方ないよ。明日から普通に学校だし」

 

零すイッセーを木場が宥めている。その様を桐生さんが眺めニヤニヤしている。

何を考えているのかは……深く考えるのはやめよう。女性の闇というのは、結構深いものだ。

イッセーにせよ、松田にせよ元浜にせよ、それを知らなさ過ぎる。

祐斗は……知ってそうだな。表に出さないだけで。

そう、だからあっけらかんと桐生さんに突っ込んでいるが……

あまり、調子に乗らないほうがいいと思うのは俺だけだろうか。

波長が合うとは言っても、桐生さんも根っこは女性だと思うんだがね。

 

一方、平和なのはアーシアさんと塔城さん。

きょとんとするアーシアさんに、塔城さんは「無視していい」と言わんばかりの対応を取っている。

アーシアさんがそういう世俗に疎いのは知っているが、塔城さんは知っているのか?

……これも深く考えるのはやめておくか。

 

「……さて、それじゃセージ君の見舞いに行こうか?」

 

「おっ、さすがイケメン。こんな時でも友達思いだな。

 けど、俺だって土産話いっぱい仕入れておいたんだぜ?」

 

「一回しか見舞いに行ってない誰かさんと違ってな」

 

「なにぃ!? 俺だってちゃんと行ったぞ!

 ……うやむやになったけどな」

 

祐斗の言葉を皮切りに、俺の見舞いに行く話になる。

さて、いよいよか。しかし……俺はここにこうしているし、夜や部室とかなら

祐斗やアーシアさん、塔城さんにも見えるわけだから見舞いというのも変な話だよな。

それに、イッセーが一回しか見舞いに来てないって話だが

他の面子――祐斗やアーシアさん、塔城さんが俺の見舞いに来たという話は聞いてない。

別にどっちでもいいから黙っているが。まぁ、これも深く考えても仕方ないか。

それに、このややこしい事態ももうすぐ解決するんだ。

 

特に反対意見も出ず、祐斗の目論見どおり、次の目的地は駒王総合病院へとなる。

祐斗が合図を送ってくれているようだが……俺、そっちじゃないぞ。

まぁ、事の成り行きはみていたから知っているけど。

 

そうして病院を目指す俺達の前に、見覚えのある人物の混じった一団が見える。

見覚えがあるといっても、敵対的な意味ではない……はずだが。

アーシアさんは特に見知っているらしく、いの一番に一団に声をかけた。

 

「あ! ゼノヴィアさん! 慧介(けいすけ)さんたちも!」

 

「アーシア、知り合いなのか?」

 

「ええ、最近家事手伝いのアルバイト始めたんです。そのアルバイト先のお家の夫婦なんです。

 赤ちゃんもいますよ?」

 

アーシアさんがアルバイト、か。社会勉強という意味では実に有意義だ。

幸か不幸か、言語についても堪能だし、積極的にやるべきだと俺は思う。

しかしまぁ、あの束縛したがりのグレモリー部長がよく許可出したな、とは思うが。

それはイッセーも思ったのか、小声でアーシアさんに問いかけていた。

 

「アルバイト? んなことしなくったって、悪魔の契約で……」

 

「ええ、でももっとよく普通の生活ってものを知りたかったので。

 イッセーさんのお家ではよくしてもらってますけど、他のお家の事も知りたかったんです。

 それに、元教会の所属って事で悪魔の契約では入れなかったんですよ」

 

ああ、それなら確かに悪魔契約って体では入れない家庭だわ。

教会を抜けたといっても、だからって悪魔と契約するって風には考えなかったんだろう。

悪魔になってしまった俺が言うのもなんだが、いいことだと思う。

 

「……やあ、お揃いだな」

 

「ゼノヴィア!? お前、国に帰ったんじゃ……それに、イリナの奴は……?」

 

イッセーの言葉に、一瞬ゼノヴィアさんの表情が曇ったように見えた。

む。イッセーの奴め、地雷踏んだか?

 

「……あれからはぐれてしまってな。今はイリナが見つかるまで彼らの家に世話になっている」

 

「イリナが!? だったら、俺らも探すのを……」

 

「……申し出はありがたいが、結構だ。もうコカビエルの脅威も無い。

 私と君らが手を組む理由など、もはや無い。イリナを探すくらいはわけないさ。

 アーシアには個人的に世話になっているが、だからと言って君らとまで手を組めるほど

 私は割り切りのいい方じゃないんでな……」

 

「……手厳しいですね」

 

む。こりゃ間違いなく何かあったな。しかも結構ややこしそうな事態が。

しかも、本人がああ言っている以上下手に踏み込めんぞ。

この件については……仕方ない、放っておくしかなさそうだ。

俺達は、何でも解決できるわけじゃないし、不用意に他人の領域に踏み込むべきじゃない。

塔城さんに祐斗は言わんとした事を察したのか、少し寂しそうながらも納得しているのに対し

イッセーは納得していないような顔をしている。が、こればかりは諦めろ。

 

「あ、紹介しますね! こちらゼノヴィアさんに

 私がベビーシッターのアルバイトでお邪魔してる伊草慧介(いくさけいすけ)さんに、めぐさん。

 それと……百合音(ゆりね)ちゃん、今日はいるんですか?」

 

「いるわよ? 今はおねむだけどね」

 

妙な空気になってしまった場の空気を変えようと、アーシアさんが皆にゼノヴィアさんと

彼女が世話になっているという二人を紹介している。ナイスだ、アーシアさん。

 

「伊草めぐよ、よろしくね」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 

松田にせよ、元浜にせよその目つきに何か如何わしいものを感じた。

無論、イッセーにもだ。しかし今のアーシアさんの話しぶりとこの様子だと

彼女、子持ちじゃなかろうか。お前ら女性ならなんでもいいのか。

 

……最も、子持ちの女性に好意を抱くという点においては

俺は決して他人のことを言えた義理ではなかったりするんだが……。

 

そしてそれを知ってか知らずか、慧介と呼ばれた男性は不機嫌そうに……

いやそう見えるだけか? とにかく、むっつりとした表情で語り始める。

 

「君達は高校生か。こんな時間に何をしている。

 早く家に帰り、勉強をしなさい」

 

あ……これはあれだ。めんどくさいタイプだ。

そして、俺があまり得意とはしないタイプの人間だ。

正直言って、分かりきった事、当たり前の事をしたり顔で偉そうに講釈垂れる奴は

あまり好きではない。そしてまたその手合いの教師は駒王学園にも少なくなかった。

……決まってそんな教師の授業は必要最低限だけ聞いて寝ていたが。

それは悪ガキどもも同じ考えなのか、めぐさんとの態度とは打って変わった

「帰れ」オーラがにじみ出ている。恐らく違う理由もあるかもしれないが。

そして、そんな俺達の考えを見透かしたかのようにめぐさんからも突っ込みが入るのだった。

 

「はいはい、しょうもない事言わないの。

 君達、その様子だとアーシアちゃんのお友達? この方角だとあそこのカラオケかな」

 

「え? そうですけど……」

 

一方、めぐさんは友好的な態度でこちらに接してくれるみたいだ。

なんというか、分かりやすい構図だ。気苦労が絶えなさそうとも思えるが。

皆はカラオケに行った話、ボウリングをした話をめぐさんにしている。

慧介さんは……不機嫌そうだ。俺も正直少しだけ同意しているんだが……。

 

「ああっ!? ファッションモデルの伊草めぐさんじゃない!

 わ、私ファンなんです! サインお願いします! な、名前は桐生藍華で!

 ……元浜、めぐさんにアレやったら明日から晒しあげるからね?」

 

「やんねぇよ、そもそも俺の守備はん……や、なんでもないです」

 

ふと、桐生さんが素っ頓狂な声を上げる。なるほど、めぐさんはファッションモデルなのか。

確かに見た目は俺の記憶している元浜のストライクゾーンからは外れている。

俺は……許容範囲かな。変態談義に参加している桐生さんだが

ファッション雑誌を読むくらいには女子力あるんだな……ってのは失礼か。言わないでおこう。

 

「? まぁいいわ。はい、サインね……藍華ちゃんへ、っと。

 これでよし、応援ありがとうね」

 

「はいっ! あ、隣の方もモデルさんですか?」

 

「わっ、私かっ!?」

 

手慣れた手つきで書かれたサインを貰い、桐生さんは満足そうだ。

どこにサイン色紙を持っていたのか、は気にしたら負けだろうな。

桐生さんはゼノヴィアさんもモデルかと思っているみたいだが……

いやまあ、彼女見た目はともかく、モデルじゃないんだよなぁ。

 

しかしふと思ったが、オカ研の面子やフェニックスの眷属、そして彼女ら聖剣使い。

皆美目麗しい女性が大半なのは何でだろうな。オカ研面子とフェニックス眷属はともかく

聖剣使いと俺らに接点なんか全然無いはずなのに。

あ、フェニックス眷属は確か趣味だったか。

ともかく、何かしらの意図的なものを感じるのは……いや、考えるのはやめておくか。

ゼノヴィアさんのルックスについてはめぐさんも思っていたらしく

なんとゼノヴィアさんをモデルにスカウトしていた。

 

「うん? ゼノヴィアちゃん、モデルやってみる?」

 

「なっ、ななな何故そこで私が!?」

 

「えっ、違うの? めぐさんと一緒にいるから、私てっきりモデル仲間かと……」

 

桐生さんは当てが外れてちょっとつまらなさそうな顔をしている。

ゼノヴィアさんは当惑しているし。まぁ、アーシアさん以上に世俗には疎そうだから仕方ないか。

そんな中、さっきまでめぐさんに向けられていた変態三人組の目線は

今度はゼノヴィアさんに向いている。こいつら、やっぱどこかで処理しておくべきだろうか。

元浜を金座(かねざ)高校の女子生徒から助けたのは間違いじゃなかったと思いたいが

こうも他人様に迷惑ばかりかけるのははっきり言わなくてもいただけないな。

 

「上から87・58・88か。なるほどモデルにゃ向いてるんじゃね?」

 

「元浜ァ! あんた初対面にそれをかますか!」

 

「おおっ! でかしたぞ元浜!」

 

……あーあ。やりやがったよこいつ。

俺は黙ってみているつもりだったが、実行に移されちゃ話は別だ。

イッセーにばれないように元浜の後ろに回りこみ、そっと首筋に手を当てる。

霊体の時は体温とか色々低いので、冷たい手を首筋に当てられれば……わかるよな?

 

「――――――っ!?」

 

「ど、どうしたんだよ元は……むひゃいっ!?」

 

ついでに松田にもかましておく。実体が戻ればこの手は使えなくなるが

それはそれ、これはこれだ。実体のあることのメリットのほうが遥かに大きい。

桐生さんの言うとおり、初対面に向かってセクハラをかますのはいただけないな。

実体があれば、今頃コブラツイストの一撃でも飛んでいたかもしれない事を考えると

この一撃はかなり有情だと思うのは、俺の気のせいだろうか。

 

これら一連の流れは慧介さんにはふざけている様に見えたらしく

さっきからむっつりしている表情がさらに険しくなっている。

……否定しきれないのが痛いな。

 

「いい加減にしなさい! 君達は不健全すぎる!

 学生の本分を忘れ、不埒な会合に耽るばかりか、白昼堂々猥談まで繰り広げる始末!

 そんな事ではこの国の将来を背負って立つ事等出来ん!

 こんな下らない会合を開いている暇があったら、もっと世界に目を向けなさい!

 そして、世界に数多といる理不尽な暴力や仕打ちに苦しめられている人々に

 自分が何を出来るか、それをじっくり考え、行動に移しなさい」

 

言ってる事は間違ってないんだがなぁ。

如何せん、説教臭すぎる。俺が言うな、と誰かには言われそうだが。

けれどバカやってる暇があったら、ちょっとだけそう考えるのも悪い事じゃないと

俺は思っていたりもする。もっと良いのは行動に移す事だが、それは意外とハードルが高い。

だからこそ、俺は気をつけていたつもりではあったのだが。

 

「……ちっ、うっせーおっさんだな」

 

「い、イッセー君……聞こえるよ?」

 

悪態をついているイッセーを、祐斗が苦笑しながらも宥めている。

とは言え塔城さんも口には出してないだけで同意しているような様子だし

松田と元浜は言わずもがな。アーシアさんだけは言葉に感銘を受けたのか

まっすぐな瞳で慧介さんを見つめているようだが。

 

「や……やっぱり慧介さんは最高です! 弟子になりたいぐらいです!」

 

「アーシア君。聞こえないな、もっと大きな声で言いなさい」

 

「あー……これダメなスイッチ入っちゃったわ。

 ほら慧介、馬鹿なこと言ってないで帰るわよ。じゃあみんな、またね」

 

「離せ! まだ話は終わってない!」

 

「あ……じゃ、じゃあそういうことだ。またなアーシア」

 

半ば強引に、慧介さんはめぐさんに引っ張られる形で俺達の前から去っていった。

それを追う形でゼノヴィアさんもついて行ったようだが。

 

「離せ! 俺は伊草慧介だぞ!!」

 

興奮した様子で叫ぶ慧介さんらを、アーシアさんだけは無邪気に手を振って見送っていたが

他の面子の大半はやや引いた様子で眺めていた。

 

「じゃ……じゃあ僕達も行こうか」

 

「……だな」

 

「……賛成です」

 

――――

 

そして、ようやく目的地である駒王総合病院が見えてきた。

何だかんだ言っても感慨深い。ようやく、ようやく俺の悲願は果たせられるのだ。

 

「お、見えてきたな。しかし何時見てもでかい病院だなぁ」

 

「あれ? でも宮本、家そんなに裕福じゃなかったはずじゃ?

 宮本自身、部活じゃなくてバイトに行ってる派だし」

 

……それなんだよなぁ。入院費、いくらになるんだろ。

祐斗にも塔城さんにも言った事だが、やはり実体が戻ればまずバイトだ。

それも悪魔の仕事じゃない、今までどおりショッピングモールのバイト……

 

……って、まだ首つながってるかなぁ。

長期休んでいたから、首切られてる可能性もあるよなぁ。

もし首切られていたら、バイト探しもせにゃならんのか。

こりゃ冗談抜きで、オカ研に顔出してる暇なんかなさそうだな。

 

(……セージ君、セージ君。準備、できてるよ)

 

(おっとすまん、考え事をしていた。それじゃ祐斗、手筈どおりに頼む)

 

そんな先のことで思い悩んでいたら、祐斗の合図に反応が遅れそうになった。

傍から見たら何もないところに手を振っているため、危ない人に思われかねない。

そうしないためにも、俺がしっかりしなければならんのだ。

俺がゴーサインを出すと、祐斗は小刀サイズの風の剣を生み出し

一時的に突風を吹かせたのだ。

 

(――吹け)

 

「え……風が……っきゃあああああっ!?」

 

「お、おおおおおおっ!?」

 

思わずスカートを抑える女性陣に、イッセー・松田・元浜の変態三人組の目が釘付けになる。

 

事の顛末はこうだ。祐斗が気付かれぬように作り出した風の剣で突風を起こす。

その前に、塔城さんがこっそりと除霊札に細工。

風が吹けば剥がれる程度に半はがしの状態にしておく。

除霊札に触れる分には、悪魔の塔城さんでも問題は無い。そもそも張ったのだって姫島先輩(悪魔)だ。

そこに祐斗が起こした風が吹き、除霊札が剥がれる。

 

(セージ君、除霊札ははがれたよ)

 

『ありがとう祐斗、塔城さん……塔城さん?』

 

「……見たものを忘れろ」

 

「小猫ちゃん、これは不可抗……ぐえぅ」

 

「ぎ、ギブ! ギブギブ!」

 

……こっちについては考えが至らなかった。ごめん女性陣。

しかし結果オーライとはこの事か。唯一俺が見えるイッセーも今は塔城さんに絞められてる。

チャンスとばかりに、俺は二人に礼を言いつつ病院に駆け込んだ。

 

(セージ君、彼女におごるときには気をつけたほうがいいよ?)

 

『……心得とく』

 

わき目も振らず、俺は俺の身体がある病室に向かっていく。

だから、俺は気付かなかった。

 

その場に、いるはずの無い者が近づいてきた事に。

その場に、来て欲しく無い者が近づいていた事に。

 

――――

 

駒王総合病院、その一室。

病室の前にかけられた札には、宮本と記されている。

扉は閉まっているが、今の俺には関係ない。

扉をすり抜けると、そこには生命維持装置につながれた俺の身体が確かにあった。

その顔色は、長い入院生活であまりよくは無いものの。

 

『いた……見つけた!! 俺の……俺の身体!!』

 

他には誰もいない。恐らくは偶々だろうが、都合はその方がいい。

感極まった俺は、思わず声を上げてしまった。

 

 

人間ではなくなったと聞かされながらも。

 

人の命を理不尽に弄ぶ悪意を目の当たりにしながらも。

 

ゲーム感覚で命のやり取りを強要されながらも。

 

何処までも続く理不尽に翻弄されながらも。

 

……己の魂を、腕を食いちぎられながらも。

 

 

或いは、この程度の理不尽は人生においてこれからあるのかもしれないが。

それでも俺は人間でありたいと願いながらも、人ならざる力で戦い続けた。

それは全て、この日のため。己の身体を、己のものとするため。

 

『母さん、姉さん、今、今帰るから……!』

 

深呼吸をし、イッセーに憑依する要領で横たわっている身体に憑依しようとする。

憑依と言う表現が適切かどうかはわからない。けれどようやく戻るその身体。

目を閉じ、憑依を試みる。そうして目を開けば、次に映るのは病室の天井だ。

 

 

……そのはずだった。

 

 

『ぐあああああっ!?』

 

代わりに走ったのは、全身を引き裂くような激痛。

まるで、これは自分の身体ではないとばかりに拒絶されたのだ。

何が起きたのか、まるで理解できない。

そうなれば、やる事は一つ――もう一度。

 

 

しかし、結果は変わらなかった。

 

 

『ああああああっ!?』

 

二度の失敗。何か、何かが足りないのか。

腕か、そうか。腕が無いのが原因か。

だがそれだけで、全身が拒絶されるような痛みが走るものか。

まさかもう身体の機能は死んでいるのではあるまいか。それは否。

生命維持装置を確認したが、今のところきちんと動いている。

ならば何故、俺は俺に戻れないのだ。

 

記録再生大図鑑の駆使に費やしていた思考回路を、今回の原因の追究にひたすら費やす。

しかし、どれだけ思考を巡らせても納得のいく結論は出ない。

それからは、もうやけだ。無駄と分かりつつも、幾度と無く身体への帰還を試みる。

当然結果は変わらない。激痛と共に、拒絶されるのみだ。

 

何故、何故ここまで来て俺は俺に戻れない!?

何が足りない、何が!?

 

わけが分からない。俺はここにいるのに、何故俺は俺に戻れない。

俺は、俺は確かにここにいる。それなのに何故戻れない、何故だ!?

 

それから何度繰り返したのか。度重なるトライアンドエラー。

霊体でありながらも息を切らし、心理的にも追い詰められた状態。

俺の身体はさっきからピクリとも反応しない。

どうしてだ、どうして!?

 

俺は……俺はここにいる……いるんだ……

 

 

悲しみ、混乱、無念、悔しさ。とにかく様々な感情がせめぎあい

霊体にも拘らず涙があふれてくる。

涙目を擦りふと病室の入り口を見ると、入り込んでくる赤い髪の人影があった。

 

「……セージ、そこにいるのね……。

 驚かないで聞いて頂戴。今のあなたは……」

 

視界はぼやけてよく見えないが、恐らくはあの人……いやアイツだろう。

ある意味では俺をこうした張本人。

ある意味では俺の命の恩人。

そんなアイツの呪縛から、俺はようやく逃れられると思って。

ただそれだけに望みを託し、今まで戦ってきたと言うのに。

 

 

――身体を取り戻せもしなければ、人間にも戻れないわ。

 

――あなたの魂は悪魔。その身体は人間。無理なのよ……。

 

 

消え入りそうな声で放たれた、非情な宣告。

……それはなんだよ。お前の勝利宣言か?

ふざけるな……ふざけるなよ。なら、俺の今まではなんだったんだ。

俺は今まで、何も無いところを目指して進んでいたって言いたいのかよ。

 

その言葉を振り切るように、俺はさらに身体への復帰を試みる。

しかし結果は変わらず、俺には何もできなかった。

 

その絶望感を引き立てるように、けたたましく生命維持装置の警報がなる。

……本体の方も、衰弱が激しく危篤状態に陥っていたのか……。

 

 

……俺は、このまま終わるのか……?




第三章「月光校庭のエクスカリバー」編、終了です。
原作ではリアスと朱乃は水着を物色していたシーンですが
またしてもイッセー得なエロイベントはキャンセル。
その代わりパンチライベントなら起きてます。制裁のおまけつきで。
変態三人組はもっと「自分がどう思われてるのか」を考えたほうがいいと思うんです。

空耳とかむせたりとか相変わらずさりげないネタはぶっこんでますが
それ以外の解説とか。

アーシア
渡フラグが立った? いえいえそんなことありませんよ?
悪魔契約以外の面からの社会勉強を試みたりとか、前回の避難誘導といい
戦闘では空気気味ですが社会貢献にはかなりアクティブです。
原作ゼノヴィアみたく生徒会に入りそうな雰囲気が漂っていたりいなかったり。
描写はしてませんがこの時の服は原作同様です。

ゼノヴィア
某めぐみんよりバストが3cm大きい方。
アーシアとは友達になってますが、だからってイッセーらとも友達になれるほど
親しいイメージも無かったので。アーシアと違って因縁も無かったですし。
描写はしてませんが流石に193(753)Tシャツは着用してません。

セージ
右腕はなくす。神器は使用不能。イッセー憑依も困難。その上身体は戻らない。
まさに踏んだり蹴ったりの状態です。
でも別にオリ主ヘイトって訳じゃないですからね?
……ただ、ネタバレですがもう一つだけよくない事が起きます。
次章、復活なるか!?


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停止世界のクーデター
Soul41. 知りたくも無かった衝撃の事実


新章突入。

……そして、いよいよ章タイトルさえも原作から離れ始めました。

尚、今回からさるやんごとなき組織も登場しますが
この作品はフィクションです、実在の人物・組織とは一切関係ありません。

※今回の後書きは解説が多いため長いです。
 本文も同様に長いので、お時間に余裕のあるときにお読みください。


……ああ、そうか。これは悪い夢なんだ。

 

俺が悪魔になって、人間じゃなくなって。

遠くで母さんが泣いていて。

姉さんは俺の事に気付きもしないで……いや、これはこれで致し方の無い事かもだけど。

姉さんには子供がいるんだから。

俺は明日香姉さんが好きだけど、それは多分マズいだろうから。

 

……とにかく。俺の右腕はやっぱり無くて。

 

 

……何もかも、何もかもが俺から消えていく。

 

 

俺、何処で何を間違えたんだろうな。

やっぱ、リアス・グレモリーに逆らったのが間違いだったのかな。

 

いや、そもそもリアス・グレモリーに関わったのが間違いなのかな。

或いは兵藤一誠か? ……まぁ、どっちでもいいか。

 

 

……ああ、俺、どうなるんだろうな……。

 

 

実体も戻らず、力も失い。何をすべきか、何が出来るのか。

……いや、今の俺にできる事は……無いか。

 

俺の……

 

…………

 

――――

 

何が現実で、何が夢なのか。

気がつくと、俺はオカ研の部室にいた。

 

右手は……ないか。これは否応なしに俺の右手が失われたことを痛感させられる。

夢だと思いたいが、どこまで行っても俺の右手は何処を探しても無い。

 

左手を使い、身体を起こすと周囲にはグレモリー眷属がいる。

いや……もう一人、グレイフィアさんもいる。何故?

 

まだ夢の続きで、またあのフェニックスと戦う事になるのか?

はっきり言って、今の俺に戦えるとは思えない。それでもグレモリー部長は戦うつもりなのか?

 

「セージ。気はしっかり持っている? 今日が何日だか分かる?

 自分の名前はきちんと名乗れる?」

 

首を横に振る。数は数えられるが、今が何月何日なのか。そんな事はきれいさっぱり消えていた。

名前は……そう。少なくともこの場にいる全員の名前は認識しているが、俺は……

 

「……俺は宮本成二。今日は……いつですか?」

 

俺の言葉を聴くと、グレモリー部長の顔色が少し、悪くなった気がする。

なんだよ。俺何か変な事言ったのかよ。

 

「今日は7月1日。あなたの名前は……それであってるけれど。

 もう一つ、歩藤誠二って名前もあるのよ……」

 

歩藤……誠二。そうだ、この名前で俺は……。

 

「お嬢様。今の誠二様の状態で、顛末をお伝えするのは危険かと」

 

「でも……もう判明してしまっているわ。ここのメンバー全員、あの場に居合わせたわ。

 だから……伝えなければならない。セージ、あなたの顛末を」

 

グレイフィアさんの言葉に、グレモリー部長は首を横に振る。

顛末。一体何がある、いやあったと言うんだ。ここまで来たら、俺も聞かざるを得ないだろう。

意を決し、俺の側からグレモリー部長に問い質す事にした。

 

「分かりました。お聞かせください。俺に何があったのか」

 

「分かったわ……グレイフィア、いつでもお茶を出せるようにしておいて」

 

「かしこまりました」

 

お茶の用意を始めたグレイフィアさんをよそに、グレモリー部長の話が始まる。

今のところ、俺は食って掛かろうと言う気は全く起きない。

まぁ、そんな力も無いけど。

周囲も、椅子やソファにかけながらも静かに話を聴く姿勢を崩さない。

 

「まずセージ。何故あなたが自分の身体に戻れないかというと……

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』のせいなのよ。

 『悪魔の駒』が、あなたの魂に結びつきあなたを転生悪魔にした。

 確かにあなたには転生の儀式は行っていないわ。

 けれど、イッセーに対して行った転生の儀式にあなたの魂がくっついてしまっていた。

 そのときに、あなたの魂だけが悪魔に転生してしまったの」

 

……は? 何だって?

俺の魂が、悪魔に……?

 

「けれど、あなたの身体は人間のまま。身体の方は何とか峠は越えたそうだけど

 相変わらずいい状態とはいえない。予断は許さないわね。

 そして何より人間のあなたの身体は、悪魔になったあなたの魂を拒んだのよ」

 

グレモリー部長から語られた事実は、周囲に衝撃を与えるには十分すぎた。

姫島先輩はある程度聞かされていたのか、あまり表情が変わってないが

よく考えたら、この人いつもそうだった。

 

「ぶ、部長! それじゃ、セージはもう一生このままなんすか!?」

 

「方法は無いわけではないわ。一つは、悪魔の駒の摘出手術をする方法。

 もう一つは、セージの肉体に対して転生の儀式を行う事。

 でも……結論から言うわ。どっちも不可能よ」

 

「な、何でですか部長さん! 私を生き返らせたときのように、セージさんも……」

 

「……摘出手術だけど、それを行うのはセージじゃなくて、イッセーの方。

 セージは実体がない所に悪魔の駒を抱えているようなものなの。摘出なんて出来ないわ。

 それに、悪魔の駒の摘出なんて過去誰もやった事がないわ。やる必要が無かったもの。

 それに……もし悪魔の駒を摘出できたとしても、その場合イッセー……

 あなた、死ぬわよ」

 

冷酷に伝えられる現状。そういえば、イッセーは一度死んだところを悪魔の駒で復活している。

それは俺も知っている。ならば、その悪魔の駒を取り除いてしまえば

それで生きながらえているイッセーが死ぬのも道理は道理か。

しかし、悪魔の駒を摘出したケースが過去存在しなかったとは。

そんなに人間や、他の種族を辞めてまで悪魔になりたかったのかな。

俺はそうは思わないけれど。

 

「もう一つ、セージの肉体を悪魔転生させる方法だけど……。

 これは単純に物理的に出来ないわ。知っての通り、もう私は『兵士(ポーン)』の駒を1個も持ってない。

 他の駒での代用も出来ないわ。悪魔の駒を作成されたアジュカ様に確認したら出来ないそうよ。

 悪魔の駒以外で悪魔にする方法があるのなら、話は変わるかもしれないわね。

 生憎、私はその方法を知らないけれど」

 

「そんな……それじゃ、どうしようもないって事じゃないっすか!」

 

もう一つの方法。まぁこれは、可能だったとしても俺の方から却下を出していたかも。

……いや、どうなのだろう。生きているのか死んでいるのか分からない現状よりも

たとえ悪魔になっても、生きていたほうがいいのだろうか。

最近、俺はその辺が分からない。周囲にそんな事を聞ける相手もいないしな。

確かにイッセー……もだが、祐斗も友人は友人だが

彼らは皆悪魔に近すぎる。公平な意見が聞けるとはちと考えにくい。

 

「そうね……ごめんなさいセージ。これが今まであなたに伏せていた真実よ。

 私も事態が発覚してから何とかできないかとお兄様に聞いたりはしてみたわ。

 けれど……分かったのは今話した事だけ。あなたが納得するとは思えなかったし

 あんなに必死になっているあなたを見ていると、言い出せなかったのよ。

 だから私は朱乃に頼んで、病院の入り口に除霊札を貼らせたわ」

 

「セージ君のフットワーク自体は、ある意味では私たちの誰よりも軽いですわ。

 だから、ふとした拍子に身体の位置が知られてしまうかもしれない。

 その時に、身体に戻れないと言う事実を知られないよう

 セージ君が病院に入れないようにしましたの。

 ……もっともこうして抜け道があったことを考えると

 無粋な小細工だったかもしれませんわね」

 

涙ながらに語るグレモリー部長を前に、俺はもう何も言えなかった。

グレモリー部長を信じる信じないじゃなく、手の打ちようがないという現実に。

事実、俺は自分の身体を目の前にしながらも俺の身体に戻れなかった。

それは、紛れもない事実だ。あるべき右腕が無い。それはつまり、事態は好転していない。

ドライグに吸収されたときから紡がれている現実。物語るには十分だ。

 

だが、そうならば。そうなってしまったならば。

俺は、これを受け入れたわけではない。だが、今すべき事は何だ。

今できることは何だ。なく事か。いや、それじゃないはずだ。

それに、俺は最後に一つだけ確認したかった。

 

「……ならば最後にお聞かせください。

 俺に身体の位置を伏せていた理由。除霊札を何故病院の入り口に貼ったのか。

 それは、俺がショックを受けないように敢えて伏せていたのですか?

 それとも、俺に宮本成二に戻って欲しくないが故の行動ですか?」

 

「セージ! それじゃお前、部長がわざとお前の身体を

 遠ざけようとしていたって言いたいのかよ!?」

 

「……僕もそれは気になるところですね。部長、彼は僕のときと違い

 新たな人生を歩む前に、今まで歩んでいた人生に不平不満があったわけじゃない。

 イッセー君やアーシアさんみたいに、死んだわけじゃない。

 事故と言うのは分かりましたが、その後の対応は、ちょっと……」

 

俺の質問にイッセーが食って掛かるが、祐斗は逆に違和感を覚えていたのか

俺と似たような事をグレモリー部長に問い質していた。

俺とは違い、一応忠義のある祐斗にまでそれを言われると言う事は

疑惑をもたれていると言う事じゃないか。それは大丈夫なのか?

 

「祐斗に言われるのも最もね。けれど私は、悪魔になってしまったからには

 一日でも早く、セージにも悪魔としての生活に慣れて欲しかったのよ。

 だから、イッセーともども悪魔としての生活には便宜を図ったつもりよ。

 ……当の本人には断られたけどね」

 

なるほど。そういう理由で俺に情報を伏せていた、と。

 

……ふざけんな。全部そっちの都合じゃないか。

事故で悪魔になりました、戻せません。

だからめいっぱい協力するから悪魔を楽しんでね、ってか。

 

それで納得しろと? 冗談も大概にしろ。

そもそもデメリットがでかすぎるだろうが。

それに協力っつったって、俺の身体が無い件は全く便宜図ってないじゃないか。

イッセーの身体を乗っ取れって話なのか?

そういう問題じゃないだろ。やっぱり何も理解してやがらない。

俺は宮本成二であって、兵藤一誠じゃないってことを。

 

「……当然だ。そちらが提供するものと、俺が求めるもの。

 供給と需要が全くかみ合っていない。そして現時点でもそれなんだ。

 交渉の余地は無い。いや、そもそも最初から交渉ですらなかった。

 交渉ってのは、対等な立場に立って初めて成立するものだ。

 上司と部下って関係ならいざ知らず、主と眷属なんて関係で

 円滑な交渉が望めるとは、俺には到底思えない」

 

「それは私も思うわ。だからこそ……」

 

「……で、努力はしました。でも出来ませんでした、許してね。てへぺろ。

 ……とでも言いたいんですか。冗談じゃありませんよ。

 確かに努力は認められて然るべきものです。結果が出ないことも、俺自身経験してます。

 しかし、努力したからいいだろってのは、およそ人の上に立つ者として

 認められる姿勢とは言えませんな。そう、あなたには責任感が無さ過ぎる。

 もはや話になりません。兄君……いえ魔王陛下にお目通し願いたい。

 『此度の案件の、責任を取っていただきたい』と」

 

俺の提案に、また部室はどよめく。そりゃそうだろう。

曲がりなりにも直属の上司であるグレモリー部長に対する不信どころか

悪魔と言う種族の頂点に立つ魔王の召喚を要求しているのだから。

ま、俺だってこんな無茶な要求が通るとは思ってないが。

 

「せ、セージ君それは言いすぎ……」

 

「い、いきなり魔王様って、お前正気かよ!?」

 

「む、無茶を言うわね……分かったわ。お兄様……いえ魔王様に謁見できるよう

 私から話を……」

 

「いえ、それには及びません、お嬢様。

 誠二様、本日私がこちらに出向いたのは、その魔王様より

 誠二様への言伝を預かっているからなのです」

 

……何? まるでこちらの言う事を見抜いていたかのようなタイミングだな。

いや、このタイミングで向こうから接触を試みるって事は……

 

考えたくは無いが、あまりいい内容じゃないだろうな。

それに、俺絡みで上層部が動くと言うのは、恐らくは……

 

――あなたにかけられているはぐれ悪魔の嫌疑――

 

それは、先日コカビエルとの戦いの時に遭遇したイェッツト・トイフェルの

ウォルベン・バフォメットと言う悪魔の言葉。

あの時は正直事態が切迫していたので話半分でもあったが、ありえなくは無いと思っていた。

恐らく、言伝と言うのはその件に関してだろう。

と言うか、それ以外の理由で態々一介の転生悪魔である俺に言伝までする必要があるとは

全く思えないのだ。

 

「リアス・グレモリー眷属の『僧侶(ビショップ)』、ギャスパー・ヴラディの幽閉を解く。

 それと同時に、リアス・グレモリー眷属の『兵士』、歩藤誠二を幽閉処分とする。

 以上、魔王様……サーゼクス・ルシファーの発表をお伝えします。

 後日、授業参観にはサーゼクス様がお見えになります。

 その際、本件は改めて正式に伝えられますと共に、ギャスパー様の幽閉の解除

 および誠二様の幽閉の執行が執り行われます」

 

「な……!?」

 

「せ、セージさんが……幽閉!?」

 

「う、嘘だろ……」

 

その発表を聞いたとき、当然のことながら色めき立った。

オカ研のメンバーは10人にも満たないと言うのに、相当騒がしくなった風に思える。

まぁ、俺が閉じ込められるよりも、俺の知らない僧侶の封印が解かれる事の方が

重大なニュースだろうよ。今の俺は……って、さっきからどうもいかんな。

俺はここまで根性曲がっていたか? ……性格は悪いかも知れんけどな。

 

しかし幽閉か。穿った見方をすれば、俺を閉じ込めておいて肉体を衰弱死させる。

そうする事でも、ある意味俺の目的は頓挫する。そうなりゃ、俺の要求は意味を成さない。

ただもしそうなったら、俺は正気を保てるかどうか。

少なくとも、悪魔を恨みはするだろうよ。だとしたら、ある意味ドライグには感謝だな。

 

……また暴走して、要らぬ被害を出したくは無い。

 

「お兄様が!? またお父様の入れ知恵なのね! ギャスパーの封印を解くのはいいわ。

 けれどセージを封印ってどういうことよ! ライザーの一件で、まだ懲りてないと言うの!?

 そもそも、今のセージは……」

 

「……おやめくださいお嬢様。旦那様も、お嬢様を思っての今回の決定です。

 どうか、今のお言葉は撤回願います。それに、曲がりなりにも魔王様の決定。

 それに異を唱えると言う事は……」

 

グレモリー部長の反応を見るに、また部長は無視されたと見るべきか。

まぁ、俺みたいなのがいればそういう風に考えたくもなるか。

今までが今までだからな。今がこうだから、なんてのは免罪符になりゃしない。

俺はそれについては仕方ないと思っている。だからこそ、俺の要求が通るとは思っていない。

なので、俺の問題は俺が解決するべきなのだろう……見込みは無いが。

 

「……結構だ、グレモリー部長。悪魔社会では、俺みたいなのは淘汰されるべきなのだろう。

 それに気付くのが、俺は少し遅かった。それだけの事だ。

 で、グレイフィアさん。俺は何処に幽閉されるので?

 その間の衣食住……はまぁどうにでもなるか。

 俺は生きてもいないが、死んでもいない。かつてドライグは俺にそう言ったしな」

 

吐き捨てるように俺が零すと、グレイフィアさんは淡々と俺の今後について説明してくれる。

曰く、旧校舎に封印を施してある部屋がある。今はその僧侶が封印されているが

その彼と入れ替わりで俺が封印される事になる、らしい。

 

……ん? そういや、その部屋って……

 

地図を出してもらい、俺の記憶とすり合わせる。

……あ。この間俺が勝手に入って、中の棺桶を変形させてぶん回したんだったっけ。

これは……このことは黙っておくか。まさかあの中にその僧侶が入っているなんて……

 

……ないよな、うん。無い。そう思いたい。

正直、俺も生き物のモーフィングなんてした事がないし、発想が無かった。

い、いや、俺がそこに至る考えが無かっただけで、もしかしたら可能なのかも。

いやいやしかし……生物を変形させるってありなのか?

アメーバとかスライムみたいなのならともかく。

 

「……ジ君。セージ君。聞いてるかい?」

 

「うぇ!? あ、ああ、すまない。考え事をだな……」

 

祐斗の言葉で、俺は現実に引き戻される。

もしやらかしていたとしても、今更なんだと言う話もあるし。

 

「何を考えているのかは察しが着いたけど、その通りだよ。

 だから僕はあの時丁寧に扱ってくれって言ったんだ……」

 

「すまん。って、祐斗に謝っても仕方ないな。部屋の引継ぎがあるだろう。

 その時に俺からもその僧侶に謝らせて貰うさ」

 

「? なんでセージがギャスパーに謝るのかしら?

 まぁいいわ。セージ、なるべく早くあなたが自由になるように私も働きかけるわ」

 

「ゆっくりで構わない。自由になったところで、俺には戻る場所など……

 いやすまない部長。今のは聞かなかったことにして欲しい」

 

全く、俺も疲れているな。

まぁ、色々あったから仕方の無い事かもしれないが。

思った以上に、ショックも大きいし。

態度の節々に出ている以上、今の俺が正常じゃないのは分かりきっている。

 

……骨休めには、丁度いいのかもな。

ため息をつくと、今度はイッセーがなにやら神妙な顔をしていた。

珍しい。こいつが神妙な顔をするとは。

 

とは言え、こいつは以前松田のお宝と言う至極どうでもいいことで神妙な顔をしたことがある。

内容は思い出すのもばかばかしいと言うか既に忘れたが。

今回もそれくらいの事かと思ったが……

 

「そうだ部長。俺からも言わなきゃいけない事があったんです。

 昨日、契約の仕事でゲーセンに行ったんですが、その相手が……」

 

「……知ってるわ。みんな、これを見て」

 

イッセーの言葉をさえぎり、グレモリー部長は冥界のゴシップ雑誌を出してくる。

確か以前部長を堂々とこき下ろしていた雑誌だ。よくそんなものを買う気になるな。

それはそうとして、開かれたページをみてみると

そこにはイッセーと、堕天使らしき人物が映っている。

しかも、羽の枚数からかなり上位の堕天使のようだ。

 

「この堕天使はアザゼル。冥界で言う魔王にあたるポジションにいるわ。

 セージの事もだけど、今日はイッセーにこの事についても聞きたかったの。

 あなた……何もされてないわよね!?」

 

「え? ええ、一緒にゲームやったくらいっすよ?」

 

「そう、それならいいわ。どうせゴシップ誌の言う事だし

 私は信じていなかったけど。いずれにせよ、信じるならイッセーね」

 

その一言にイッセーは感激しているが、俺はそんな猿芝居をよそに

もう少しじっくりと雑誌を読んでみる事にした。

 

そこには、こう記されている。

 

――赤龍帝と堕天使総督の密談!?

 

――悪魔に対する裏切りか!? 堕天使総督との契約!?

 

――リアス・グレモリー、まさかのスパイ疑惑!?

 

何処の業界もゴシップ雑誌ってのは不必要に煽るな。

そうしないと売れないとでも言いたいかのように。

こんな勝手な事を書かれれば、そりゃあグレモリー部長の性質上怒るだろう。

 

「全く……何処の誰よ、こんな根も葉もない事をでっち上げたのは!」

 

「けど部長、この写真だけは合成じゃないっす……。

 実際、俺とこのアザゼルって堕天使、このゲーセンで会いましたから」

 

「……チッ。やはり堕天使は屑の集まりですわね。

 イッセー君を利用して、悪魔を、部長を貶めようとするなんて」

 

いつもの口調から一変、舌打ちまで交えながら姫島先輩が毒づいている。

しかし姫島先輩よ。確かにアザゼルとやらにそういう意図があったとしても、だ。

それを雑誌にして出しているのは悪魔じゃないか。

俺には寧ろ、これを利用して悪魔と堕天使の全面戦争を引き起こそうと言う思惑が見て取れるが。

 

……最も、それを企んだコカビエルが討たれた今、誰が得をするんだって話だが。

 

「私もそれは確認しました。既に魔王様の手で、出版社に規制はかけられましたが……」

 

「ところが、下手に規制をかけたためにそれが事実だといっているようなものである、と。

 そう思われてしまったから、余計に収集がつかなくなってしまっているようですな」

 

「……仰るとおりです、誠二様。現在冥界では目立った混乱は発生しておりませんが

 一部の悪魔から魔王様や旦那様に責任追及が及んでいる状態ではあります」

 

なるほど。それがさっきのグレモリー部長への発言を取り消せにつながるわけか。

俺と同じくらいにはグレモリー家ってのも踏んだり蹴ったりみたいだしな。

……俺のせい、と取れなくも無いだろうが。

 

……しかし、おきてしまったものは仕方が無いが

この手のスキャンダルは放置しておけば自然と鎮火するものではないのか?

下手に動いたがために、余計に延焼してしまう。

今回の件は、どうもそう思えてならない。

 

……これでは、俺の事も後回しにされそうだな。

本当、騒動には事欠かないな。

 

――――

 

数日後。今日は授業参観が行われている。授業参観、か。

母さんは仕事があるから、仮に俺が宮本成二に戻っていたとしても来なかっただろうな。

まだ幽閉処分を下されていないので、俺は霊体のまま教室を漂っている。

 

イッセーの親御さんは……アーシアさんのほうばかり見ている。それでいいのか。

授業の方は……英語のはずなのに何故か粘土細工を作る話になっている。だから何故だ。

……そういえば、ここは教師も結構癖の強い人間が多かった気がする。

 

暇なので出来栄えを見てみると、イッセーはグレモリー部長の裸体像を作り上げていた。

こいつの手先が意外と器用なのは知っていたが……問題は、そのディテールだ。

俺の知らないところでこいつがグレモリー部長を

そういう風に観察した時があったのかもしれないが

俺の知る限り、そこまで親密ではなかった気がする。アーシアさんならともかく。

まあ仮にアーシアさんの裸体像だったら、俺が「うっかり」壊していたかもしれないが。

いくらなんでも、クラスメートの裸体像はまずいだろう。

グレモリー部長だからいいってのも、ちょっとおかしな話な気もするが。

 

俺も以前一度シャワーで出くわしたときや

使い魔を捕獲しに行った時位しか確認していないしする気も無いが

もしイッセーが妄想だけでこれだけの代物を作り出せるのだとしたらば。

 

……これが悪魔になってから開花した才能なのかどうなのかは俺も知らない。

だが、間違いなく将来食うのには困るまい。死後評価されるパターンかもしれないが。

 

そんなわけの分からない授業が終わった後、家庭科室でなにやら人だかりが出来ている。

野次馬を乗り越える形で天井から様子を見てみると

作務衣を着たくせっ毛の美青年が炊き出しをしている。

 

……あれ? あの人、確か俳優の天道寛(てんどうひろ)じゃなかったか?

俳優で料理評論家、但し自筆の本は鳴かず飛ばずだった天道寛。

本を書く才能がなかっただけで、料理の腕は超一流。

そんな彼が炊き出しとは、そりゃあ人だかりも出来るわ。

 

「お釈迦様は言っていた……『食事はあらゆるものに感謝し、祝福を賜るもの』ってな。

 押さず、駆けず、喋らず。順番を守って並ぶんだ。焦らずとも、用意はしてある」

 

この人だかりは、ちょっとやそっとでは消えそうもない。

これ以上ここにいても仕方ないので、俺はこの場を離れる事にした。

炊き出しの豚汁は気になったが、これを並んでいたら日が暮れそうだ。

そもそも、実体化できないので食えないんだが。くそっ。

 

……でも何で、天道寛がここにいるんだ?

家族がここの生徒、って噂は聞かないし、そもそも俺は芸能関係にはあまり強くない……。

面ドライバーシリーズの俳優なら、何となく分かるんだけど。

天道寛だって、面ドライバービートの主役やった経験ある俳優だし。

 

少し移動すると、今度は場違いな衣装を着た女性がいた。

さっきの天道寛と言い、ここはいつから撮影現場になったんだ?

場違いな衣装を着た女性。その衣装とは魔法少女のコスプレ……

 

 

 

……ではなく、高そうな着物を着たポニーテールの女性。

しかも、番傘のおまけつき。もう何処から突っ込んでいいのか分からない。

その隣には、旧日本海軍の軍服と思わしき制服を着た黒髪の男性がいるし。

 

流石にその格好を見かねたのか、生徒会が動いているようだ。

先割れスプーン、もとい匙がこの男女に苦言を呈している。

 

「困りますよ。いくら父兄の方でも、ここは学校ですよ?

 相応しい格好をしていただかないと」

 

「困ってしまいましたね。これでも相応しい格好だと思ったんですが。

 ()()の方が良かったでしょうか?」

 

「冗談でも止めてください。建物が倒壊してしまいます。

 着るならせめて()()のほうにしてください。

 確かに、あなたの言うとおり普段着でも良かったかもしれませんが

 私、仮にも宮内庁の人間ですので制服で来た方が良いかと……」

 

くっ、くくくくくく宮内庁!?

俺が動転するのとシンクロするかのように、匙も動転している。

なっ、ななななななな何で宮内庁の人間がここにいるんですか!?

俺達が動転していると、後ろからシトリー会長がやって来る。

それにも拘らず、匙は動転したままだ。まぁ無理もあるまい。

 

「サジ、どうしました? 物事は簡潔に解決しろと……」

 

「会長! それどころではありませんよ! 人間が宮内庁の和服を正装で……」

 

「落ち着きなさい。宮内庁の方ですか。

 サジ、我々では手に余ります。薮田(やぶた)先生に来ていただきましょう。

 呼んできてください……廊下は走らないように!」

 

早歩きで薮田先生を呼びに行った匙を見送り、俺は様子を見ることにした。

シトリー会長は相変わらず落ち着いているが、俺には何故宮内庁の人間がいるのかが分からない。

何かの隠れ蓑か? グレモリー家に対するオカルト研究部、シトリー家に対する生徒会みたいに。

しかし宮内庁までも悪魔の根城になっているなんて、流石にそれは考えたくない。

 

程なくして、匙に連れられる形で薮田先生がやって来る。

ここは私が受け持つ、と彼らに伝え匙とシトリー会長はまた別の現場に向かったようだ。

ここに人ならざる者も多いとはシトリー会長も言っていたが、それにしたって。

 

「宮内庁……まさかあなた方が直々にお越しになるとは。

 しかし……いつから宮内庁は日本神話とは言え宗教をお認めになったのですか?

 私の知る限りでは、宮内庁は宗教活動は一切認めていないはずですが」

 

「宮内庁は便宜上の立場ですよ。あなたもご存知でしょう?

 今度、ここで三大勢力による会談が行われる事を。そこに彼女も参加しますので

 会場の下見という事で、今日は『日本の高校生の学習風景』の抜き打ち視察も兼ねています。

 大日如来さんも、別口で来ているそうですよ」

 

「私も当代の皇室とは異なり、世俗には疎いのですが……。

 今日見させていただいた限りでは、個性的過ぎてあまり参考になりませんでした……」

 

「……職員会議に議題として提出させていただきます。

 それと、大日如来さんについては把握しております。

 先日、学校に『今日、家庭科室を貸して欲しい』と申し出がありましたので」

 

和服の女性の少し困ったような顔に、薮田先生も少々頭を抱えているように見えた。

思い当たる節があるんだろうな。まぁ、英語の授業で美術の授業をやったりするくらいだし。

しかし日本神話や大日如来がうんたらかんたらって、どういうことなのだろうか。

気にはなったが、流石に薮田先生がいる場で立ち聞きをする勇気は俺にはなかった。

薮田先生のみならず、和服の女性にも見られている気がしたと言うのもあるし。

俺は今実体化はしてないはずだ。シトリー会長も霊体の俺は見つけられないし。

 

……うん? そういえば大日如来様が家庭科室の使用申請って……

今家庭科室にいるのは天道寛。

 

……まさか、まさか……ね。

気にはなるが、相手が相手だ。好奇心は猫を殺す。

薮田先生には俺は普通に見えるし、思い返してみると

天道寛も俺に気付いていたような気がしないでもない。

立ち聞きをやめ、俺は部室に移動する事にした。

 

――――

 

部室に向かう途中、冗談抜きで撮影会場になっている場所があったが

そこについてはあまり触れないでおきたい。頭が痛いからだ。

俺の耳がおかしくなっていなければ、レヴィアタンがどうとか聞こえた気がする。

まさか、カメラを向けられてへらへらしてたあれが、か?

 

……笑えない冗談だ。いや何時もがっちりしていろと言うつもりも無い。

だが、アレは酷い。完全に相手を、世間を舐めている。もしアレが本当にレヴィアタン陛下なら

俺はとっくに見つかっているのだろうが、目も合わせたくなかったのが本音だ。

と言うか今冥界は、あんたの同僚の家族はえらい事になってるだろうが。

何処吹く風とでも言いたいのか。それでいいのか。

しかも、記憶が確かなら外交担当だったような気がするんだが。

 

……もう俺は突っ込まない。まさか乗せられた船が泥舟だったなんて。

いや見てくれだけは豪勢だからタイタニックと言うべきか?

あんなのの同僚に、俺は俺の運命を託さなければならないのか。

やっぱ早いところ俺の身体取り戻したい、と思わずにはいられなかった。

……現時点では、それは絶望的かもしれないが。




悪魔の駒マジ外道。
これを作ったアジュカはきっと「全部俺のせいだ! サーゼクス、全部俺のせい!」
とか言ってるに違いありません。
原作ではロケットでとんずらせずに一応責任取ってますけど……

セージは人間に戻りたい

そのためには悪魔の駒の除去ないし悪魔契約の解除が必要

セージに適用されてる悪魔の駒は共有物、契約も共有

共有先のイッセーからは除去・解約不可

……これはひどい(棒
王の駒と転生悪魔の弊害は語られてますが
一度転生悪魔になった者が主を(トレードだけど)変えるって話はともかく
元の種族に戻れるって話は私は知りません。
見落としているかもしれませんが、大々的に取り上げられてもいないはずですし。
本作では悪魔の駒除去手術は技術も前例もありません。
それこそ、需要が無かったんです。

そしてアザゼルがいらんことしたお陰で現在悪魔勢力に不穏な空気が。
一般市民は赤龍帝やリアスに対して「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」とか
考えていたり、いなかったり。
……いや、アザゼルじゃなくてこれをパパラッチしたマスコミが、か?

そして新章と同時にぞろぞろ来た新キャラ解説

>天道寛
これはそのまんま「仮面ライダーカブト」より天道総司と中の人水嶋ヒロ。
正体バレですが大日如来――太陽モチーフの仏様なので
太陽にちなむキャラから抜粋したかったのです。
……あ、そこてつをとか言わないように。
あの人出てきたら速攻で話が終わってしまいますので。カブトも大概ですが。
大日如来様が「家庭科室を貸してくれ」ってのもシュールですが
断りもせずに勝手に振舞う印象の強い原作を見ていると
これだけでも有情に見えてしまうのは目がおかしいかもしれません。

>さるやんごとなき組織からのお忍びの二人
和服の女性は「艦これ」の大和、もう一人の男性は「ヘタリア」の日本です。
大和はしずま先生の「天照モチーフ」の発言を真に受けての抜粋。
時代が時代ならやんごとなきお方ご本人です。
今回和服を着ているのは、流石に海でも海軍施設でもない場所で
あの格好は色々とまずいと思うんです。本文中でも「艤装はまずい」と言ってますし。
日本はさすがにそんな御方が単独で行くのはまずかろうという事での付き人。
大日如来さん? 超俺様なので……
あとはMMD動画とかで共演の影響。
ただしイメージとしては日本そのものが前回の事件を受けて様子を見に来た……
って感じで書いてます。

今回は「日本勢力(妖怪除く)がアップを始めたようです」ってことで。

02/03修正。
キャラクター造詣に影響を及ぼすほどの致命的なミス……
ご指摘ありがとうございます。

02/06修正。
ニホンゴムズカシイデース。
モチーフの元ネタ的にはかなりきわどいところですが、一応修正。
ご指摘ありがとうございます。


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Soul42. 幽閉、されます。

最近なにやら反響が凄いです。
そんなに人生の難易度上がってるかなぁ……?
一応今回本人にも突っ込ませるつもりですが。

原作がインフレの割にイージー過ぎるってのは言いっこなしで。

何はともあれ、毎度応援ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。

……今回もそれなりに長いので
ゆっくりご覧ください。


部室に戻ると、オカ研の面子全員にグレイフィアさんが既に待機していた。

その隣にいるのが恐らくは魔王陛下――サーゼクス・ルシファーなのだろう。

 

考えてみたら、お互いに面識は無かった。まぁ当然か。

俺の顔はグレモリー部長がデータの横流しをしない限りは伝わっていない。

俺のほうも、情報誌に写真が載っているのを見ただけだ。

それを面識とは言わないだろう。

 

そしてやはりと言うかなんと言うか、グレイフィアさん同様霊体であるはずの

俺の姿ははっきりと見えているみたいだ。

 

「こうして面と向かって話すのは初めてだね。

 私はサーゼクス・ルシファー。知っての通りリアスの兄で、魔王を勤めさせてもらっているよ」

 

「……これはどうも、魔王陛下。自分はリアス・グレモリーが眷属の兵士(ポーン)、歩藤誠二です。

 最も、その肩書きも何時まで通ります事やら」

 

「セージ!」

 

グレモリー部長。俺の位置は微妙に違うぞ。考えてみたら陛下のほかには

グレイフィアさん、イッセーに俺の姿が見えているのだが

それ以外には俺の姿は見えていないことになる。

つまり、今陛下は壁に向かって話しかけているようなものである。

一応ここでは実体化できるのだが、見えているのならばあえてする必要は無いか。

そう思い今に至っている。

 

「……いきなり手厳しいね。リアスが言っていたとおりだ。

 本題に入ろう。確かに君の力は素晴らしい物がある。だがそれ以前に……」

 

「その件だけど、待っていただけないかしらお兄様。

 今セージは、右腕と今まで揮っていた赤龍帝の力のみならず、神器(セイクリッド・ギア)も使えない状態なの。

 だから……」

 

「お嬢様。以前申し上げたとおりです。この決定は魔王様……四大魔王の決定によるもの。

 それに異を唱える事は、魔王様に対して異を唱える事と同義となります。

 そこに、誠二様の現状は関係ありません」

 

まあ、分かってはいた事だが下手人扱いされるのはやはり堪えるな。

そして……まぁ期待はしてなかったが、ウォルベンや、イェッツト・トイフェルからの働きかけは

無かったと見て間違いなさそうだ。あの組織にどれだけの発言力があるかも分からないし。

それに、今ここでその組織の名前を出すと殊更に俺の立場が悪くなりそうな気がした。

 

「言いたい事はわかるよリアス。けれど、主に反抗的な眷属を認めてしまえば

 それははぐれ悪魔をも認めてしまうことになる。それに、こんな事は言いたくないが……」

 

「もういいわ! けれどセージは絶対にはぐれになんかしないわ!

 セージは私のよ、たとえ眷属になった経緯がなんであれ、今は私のよ!」

 

……違う、そうじゃない。もう何処から突っ込んでいいのか。

グレモリー部長には念を押したにも関わらず俺をモノ扱いする始末。

はっきり言って頭が痛い。犬猫でももう少し学習と言うものをする、と言うか

比較しては犬猫に失礼なレベルではなかろうか。

少なくともうちの猫は、あれで頭がよかったはずだ。

 

しかし、それにしてもだ。そもそも、はぐれ悪魔ってなんなんだ?

主に逆らい、悪魔の道に外れた眷属悪魔の事を指すんだったっけか?

ああ、こんなとき記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)があれば明確な答えが出るのだろうが。

 

……いや、今俺が疑問に思ったのはそういうことじゃないな。思想の問題だ。

主に逆らえば皆はぐれ悪魔なのか? ならば主が極悪非道で、それに立ち向かうべく

眷属が動いた場合はどうなる? それもはぐれ悪魔か?

極端な話、命を脅かされた場合とかやむなく主に歯向かうってケースとか、それもか?

最初の説明では人に危害を成す者をはぐれ悪魔と称する、って風に取れたんだが。

実際にはどうも違うみたいだな。まるで人間に対する益獣と害獣の違いみたいだ。

 

結局、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を行使する悪魔にとって有益なものが優秀な眷属。

たとえば……うんまぁ、イッセーのように。

逆に、悪魔の駒を行使する悪魔にとって不利益をもたらす者は

様々な理由をつけて如何様にでも出来る。まるでそう取れる。

 

なんだこれ!? ほぼ詰んでるじゃないか! ふざけるな!

この悪魔の駒を作り出した奴は何を考えているんだ!

悪魔は人間より精神的に優れているから過ちは犯さないとでも言うのか!?

 

……全くふざけた理論だ。もしそうだとしてもその思想自体が思い上がり甚だしいんだが。

そんな思い上がった連中が、過ちを犯さないなんてとても思えない。

まるで旧世紀の奴隷文明だな。歴史において、汚点として今の世では語られる思想。

今尚根付いている国際社会における根絶すべき課題にして、負の遺産の一つ。

そんなものをありがたがっているのか、悪魔ってのは。

ああ、だから悪魔なのか。人間と悪魔で優劣を語るのもナンセンスと思っていたが

文明に関してだけは、そうとも言い切れないのかもしれないな。

 

それが悪魔の常識だから、って言う意味じゃない。

その常識を、人間の世界に持ってきている時点でアウトだ。

そんな俺の中で渦巻いていた疑念は、顔に出ていたらしく陛下は怪訝そうな顔をしていた。

 

「君が今回の決定に不服なのは理解しているつもりだ。

 それでも納得できないと言うのならば、リアスの兄として発言させてもらおうかな。

 

 ……あまり、妹をいじめないでくれ」

 

「……万事不服って訳でも無かったんですがね」

 

ああそうかい。それが本音か。陛下も随分と俗っぽいお方で。

決定自体はそれが悪魔社会の常識だと思い知らされましたがね。

イッセーは悪魔になった事で夢や希望を持った。

アーシアさんは悪魔になった事で新たな人生を謳歌している。

祐斗は悪魔になった事で別の生き方を見出す切欠が生まれた。

 

……なるほど。確かにまぁ、グレモリー眷属の三人に限って言えば

悪魔と言うものが悪し様に語られるばかりではないってのは分からなくもない。

だが、分母――悪魔の総数に対して分子――悪魔になった事で得をした事が少なすぎる。

俺が知らないだけかもしれないが。

そもそもその理屈だと俺は悪魔になった事で家族に会えず

結果として自身の人間としての尊厳を汚された。

とは言え半分はあのビッチのクソカラスの仕業なんだが……。

ん? あいつが余計な事をしなければ、イッセーは悪魔にならずに済んだんじゃないか?

アーシアさんだってとりあえずは無事だったかもしれない。まぁ、今更か。

 

それ以外にも、悪魔の駒に適応できず異形の者になってしまった

元小動物の妖怪と言うはぐれ悪魔を、俺は以前から何度か見ているんだ。

しかもそいつらが人間を襲うところもしっかりと。つまり、実害が出ている。

 

「ただ幽閉といっても、今のギャスパー君と待遇はほぼ同じだ。

 聞けば、君もこの部室以外では夜しか実体が持てないのだろう?

 ならば……」

 

その言葉を聴いた瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。

ギャスパーってのがどんな奴かは知らない。ただ僧侶ってことだけだ。

そんな得体の知れない奴と同じと言われてもピンと来ない。

そもそもだ。俺は人間に戻りたくて、俺の身体を取り戻したくて戦ってたんだ。

それをこのクソ陛下は、そんな事は大事ではないと言う風にのたまって下さる。

 

「……あなたにゃそれで問題ないんでしょうがね。

 俺には問題大有りなんですよ。俺は悪魔になった事に今尚同意はしてません。

 そして、俺のこの魂が悪魔になったお陰で、肉体に戻ることさえ叶わなくなりました。

 悪魔は代償と引き換えに願いを聞き届けるものでしょう?

 ……ならば、俺を今すぐ俺の身体に戻していただきたい。

 俺はただ、家族に挨拶がしたいだけなのですよ」

 

「セージ! 魔王様の前よ、控えなさい!」

 

自棄である。俺がこうなる前だって願い事の二つや三つあった。

けれど、それは全て自身の力でかなえるべきものだと思っていた。

形式程度のお参りや願掛けはしたが、それはただのポーズだ。

こんな風に得体の知れないものに頼ってかなえる願いなど、二束三文の価値も無い。

悪魔に魂を売るとはよく言うが、今の俺は自分の意図しないところでそうなってしまった形か。

神ならいざ知らず、悪魔に願い事など以前の俺が聞けば卒倒モノだろうな。

 

……それくらい、自分が落ちぶれたって解釈も出来るので悲しくなるが。

 

「よ、よせよセージ……今のはまずいって」

 

「……フン。どうせ立場が悪いついでに言わせて貰いますがね。

 結局眷属システムってなんなんですか。ある悪魔の慰み者を四方八方から

 本人の承諾も得ないままにかき集めるシステムですか。

 あるいは、承諾するように色々仕向けて合法的に束縛するシステムですか。

 性質の悪い如何わしいゲームだってもっとマシなことしますよ」

 

「それについてはね、悪魔は出生率が低いんだ。だから他の種族から優秀な……」

 

「悪魔は出生率が低い? そんなの少なくとも俺には関係ありませんよ。

 なら医療とかで純血悪魔の生殖器とかその辺を改善すればいいじゃないですか。

 少なくとも人間は不妊治療とかそういうのをやっとります。

 それに、こうやってよその種族を無理やり悪魔に改造する所業……。

 いうなれば、人間が絶滅しそうだからって霊長類を人間に改造するようなものですよ。

 俺の知ってる限りでは、チンパンジーに知恵は与えても

 人間に改造するって話は聞いたことがありませんな。そういう意味では人間以下ですよ」

 

ここまで言って、俺は頭の中にある組織が思い浮かんだ。

面ドライバーシリーズの、最大最強の怨敵にして面ドライバーという戦士を生み出す切欠になった

悪の組織。面ドライバーが人類の自由と平和のために戦う戦士に対して

その組織は人類の繁栄をお題目に人類や様々な地球の命に改造を施し尖兵とするのが常嚢手段。

やってる事が、まるでその組織を彷彿とさせるのだ。

 

……つまり、フィクションの話にある悪の組織であるそいつらと同じ穴の狢って事か。

そうなれば俺は知らない間に悪の組織の片棒担がされてた、ってわけか。

最悪だ。今のは全て推測だが、もし事実だったら俺はどうしたらいいんだ。

 

「……誠二様。落ち着いてくださいませ」

 

「……魔王である私にここまで意見するとはね。なかなか面白いじゃないか」

 

「も、申し訳ありません! セージ! 今のは言いすぎよ!」

 

あらかた言い終えて周りを見ると、眷属組は真っ青な顔をしていた。

まぁ、そうだろうよ。まさか魔王陛下に面と向かって意見するんだもんな。

言うなれば、さるやんごとなきご身分の方に突然出て行って

面と向かって暴言吐くようなものだ。

度胸とかそういうんじゃなく、もう自殺願望クラスの無謀さだな。

実際、さっきからグレイフィアさんの目線が非常に痛い。

 

……いくら身体に戻れないからって、ちょっと自暴自棄になりすぎだろうか。

まぁ、これで処刑されるならそれはそれだ。無念と悔しさを抱えて死ぬのは御免だが

このしがらみから解放されたい気持ちは、無くはない。

有体に言えば、現状にちょっと疲れた。

 

「ではその度胸に免じて君の意見に答えよう。

 君の意見は、個人的な感情に根ざしている。それが妹に対するものなのか

 悪魔と言う種族に対するものなのか。一ついえるのは、それは私にとっては同一だ。

 そして、私は魔王であり、全ての悪魔を統括する存在だ。

 そんな私が悪魔の未来のために動くのは当然の事だろう?

 そこに、君の個人的な感情を挟む余地は無い。

 また、悪魔の不妊治療だが……既に試したさ。だが、満足の行く結果は出なかった。

 それを改善するための悪魔の駒であり

 また多様な血を取り入れることでの悪魔と言う種族の強化も目的だ。

 不妊治療の例を出してくれたからこう答えるが、濃すぎる血は却って害悪となるだろう?」

 

……まぁ、そうなるよな。腹は立つけど、納得は出来る。

寧ろよく言ってくれたってレベルだ。どっかの誰かさんは目先の事態に眩んで

下すべき決断が下せないとかありそうだし。実際、いつぞやはそうなりかけた。

だから、陛下のこの意見自体は俺は気には留めない。

ただ悔しいのは、俺の問題を解決する手段がどこにも全く無い事だ。

事故でこうなった事に対して、魔王としては謝罪はしない方向か。

まぁ……それもまた一つの政治方針なんだろうけどさ。

悪魔の駒に不備があるって事を、大々的に言うのはまずいってことか。

 

……うん? これは、もしかすると……

 

「……個人的な感情、ね……。

 お答えいただきありがとうございます、陛下」

 

個人的な感情と言えばそう、グレモリー部長だ。

この人こそ、個人的な感情で家の顔に泥を塗った気がしないでもないんだが。

その点については、一体どうなんだろうか。

まぁ、兄君としてはともかく魔王としては一切触れないのが正しい選択だろうけど。

突っ込みたくなったが、泥沼に態々浸かりに行くほど酔狂でもないのでやめておく。

 

「リアスに免じて、この場でのはぐれ悪魔認定は行わないものとする。

 部屋はギャスパー君の部屋をそのまま使いたまえ。

 明日改めて、ギャスパー君の封印の解除と君の幽閉を同時に執り行う」

 

明日、か。

一日だけでも猶予をくれたのはありがたいと思うべきか?

……とりあえず、最後の一日はどうしたもんか。記録再生大図鑑が使えない以上

情報収集もそれほど出来ないしな。

 

――――

 

――さて。歩藤誠二となる前、すなわち宮本成二は誰が呼んだか

「駒王番長」と言う渾名がついていた。

その頃の俺は記録再生大図鑑の事など一切知らなかったので伝聞でしか知らないが

松田や元浜が色をつけて言いふらした事、出素戸炉井の連中と喧嘩して勝った……

 

……まぁ、俺の中学時代の友人がいる大那美(だいなみ)高校との抗争に俺が巻き込まれた形なんだが。

そういえば、あいつらとも話さなくなって久しいな。

大那美の黒い魔神番長、兜甲次郎(かぶとこうじろう)に同じく大那美の七変化スケバン、如月皆美(きさらぎみなみ)

あいつら、元気にやってるかな……ってそうじゃなくて。

 

最近、なにやら妙な噂を聞いた。

また出素戸炉井の連中が悪さをしているらしいのだ。

大那美の仲間達と焼きを入れてやったんだがなぁ。

調べたいところだが、今の俺はそれもできない。

身体が戻らない以上、駒王番長も不在の状態が続いている。

まさかとは思うが、不在をいいことに連中が暴れてやしないだろうな。

 

誰かに引き継ぎたいところだが……誰がいいだろうか。

そもそもこの名を引き継ぐと言う事は、出素戸炉井の連中と喧嘩になる可能性は高い。

そして、俺がいつか戻ったときのために変な噂を立てられるのも困る。

以上の点から、イッセーは不適格だ。品行で言えば祐斗なんだが……。

 

「セージ君、考え事かい?」

 

「……む、何時からそこにいたんだ?」

 

「君が大那美の人と組んで出素戸炉井と喧嘩した、ってところから」

 

口に出てたのか。祐斗に話しかけられて、初めて今の状態を把握した。

人間、精神的に追い詰められると独り言が多くなると言うが

本当なのかもしれない。むぅ。

 

「そこは探られて痛い腹じゃないからな、武勇伝にするつもりも無いが。

 ……で、その出素戸炉井なんだがな。最近、またこの辺りで悪さをしているらしい」

 

「……まさか、僕に戦えって言うんじゃないだろうね?」

 

言われてちょっと考えてみる。祐斗の場合、長ランより白ランを着て

不良と喧嘩するほうが似合いそうな気がするんだが……ってそうじゃなくて。

そういや、大那美の皆に「箔をつけるためだ」って言われて

半ば強引に長ラン風に制服改造させられた事があったっけか。

確か改造制服は駒王学園の校則に記されていなかったはずだからそのままだったが。

イッセーだって着崩してるし。

……あ、だから余計番長なんて渾名がついたのか。ま、それはそれとして。

 

「まさか。いくら相手が不良校の生徒だからって、人間だぞ。

 悪魔の力で戦っていい相手じゃないだろ。ただ、今までおとなしくしてたのが

 ここ最近また暴れだしてるのが気になってな。考えられる一番の理由は

 俺――宮本成二の不在が大きいと思うんだが」

 

「抑止力がいなくなって、また調子に乗り始めているって言うのかい?」

 

「恐らくな。だがどうにも妙なんだよな。出素戸炉井の連中って、素行こそ悪いが

 アレで筋は通った連中が大半なんだ。だから、一度解決した問題をぶり返すような

 今回の行動が、どうにも腑に落ちなくてな」

 

そう。奴らは金座(かねざ)のねちっこい連中と違い、頭は悪いし素行も悪いが

相応に筋は通っている連中のはずだ。それなのに、何故また悪さを働いているのか。

この所、俺も自分の事ばかりでそっちまで情報収集はしていなかった。

 

「……まさかと思うが、僕に調べろと?」

 

「話が早くて助かる。不安なら、大那美高校の兜甲次郎って奴を訪ねてくれ。

 俺の中学時代の友人だ。俺の名前――勿論宮本成二のほうだぞ?

 それを出せば、協力してくれるはずだ」

 

「やれやれ……調子が戻ったら、心行くまで決闘を申し込みたいけどいいかい?」

 

「……お安い御用だ。しかし、俺は明日にも幽閉される身だが?

 話を振っておいてなんだが、見返りを求めたらあまりいい契約内容とは言えないぞ?

 それ以前に、報酬を払えない状態にだって……」

 

「……させません。セージ先輩に依頼した件、まだ解決してませんし」

 

祐斗との交渉が成立しようとする頃、塔城さんが話に割って入る。

む。確かに黒猫の件、俺が外に出られないとなると探しようが無いな。困ったぞ。

 

「……千客万来だな、おい。退屈するよりはいいんだがね。

 しかし、魔王陛下の決定だろ? それを反故にするのは問題だと思うが。

 そりゃまあ、俺だって君らに協力してもらえれば、心強い事はない。

 しかし……この間の一件と違い、今度は本気でグレモリー部長

 ひいては悪魔全体に対する反逆だぞ」

 

「そのことなんですが……セージ先輩、長話、聞いてくれますか?」

 

「……? 構わないが」

 

「僕は席をはずしたほうがいいかい?」

 

「いえ、大丈夫です。

 ……昔、あるところに猫魈――猫の妖怪ですけど――の姉妹がいました。

 母をなくし、姉妹で力を合わせて生きてきた彼女らは、あるとき悪魔の誘いを受けました。

 姉は妹との生活を望み、悪魔との契約を飲みました。妹は猫魈のまま、姉は悪魔に――

 ところが、その悪魔は姉に断りも入れず妹も悪魔にしようとしたのです。

 それを知った姉は怒り悪魔を殺してしまいました。

 それから、姉ははぐれ悪魔として冥界に追われる身となり

 妹は路頭に迷っていたところを別の悪魔に拾われました。

 それから、妹は姉を探し続け――今尚、再会は叶っていません」

 

猫の妖怪か。うちの猫もそこまで……生きないか。

俺が子供の頃にそこそこの年だったんだ。猫又になる頃には俺が死んでる。

俺が人間の寿命なら、だが。

だが、何故このタイミングでこの話なんだ?

しかも、口数の多くない塔城さんにしては非常に珍しい長話だ。

 

「姉は妹が悪魔になる事を拒み、主を殺しました。

 けれど、妹は姉に会いたい一心で悪魔になる道を選びました。

 妹が悪魔になった事を知れば、姉は悲しむかもしれません。

 それでも、妹は姉に会いたいのです。しかし、はぐれ悪魔――犯罪者である姉に

 妹の主は会わせてくれません」

 

「気持ちは痛いほど分かるが……塔城さん、本題に入らせてくれ。

 ……何が言いたい?」

 

はて。この話、どこかで聞いたような話だな。

俺自身、微妙にだが身に覚えがあるような、ないような。

だが少なくとも、感情移入は十分すぎるほどできる話だ。

ある意味今の俺は、この猫の姉妹に似た境遇にいるとも言える。

それだけに、俺はこの話の本題を知りたかった。

 

……しかし、その次の言葉には俺も耳を疑った。

 

「……セージ先輩。私と契約しませんか? 悪魔はセージ先輩も信じられないでしょうから

 セージ先輩もよく知っているであろう猫の妖怪、猫魈と」

 

「すまない。話の展開が読めない。あと俺は確かに猫との付き合いは長いが

 猫の妖怪に知り合いはいないし家族にもいない」

 

いやだってそうだろう!? 悪魔が悪魔と契約するってどういうことだよ!?

……うんまぁ、確かライザー・フェニックスは自分の実の妹に悪魔の駒を使うと言う

ある意味外道な行為を働いていた。

そしてそれは悪魔と悪魔で契約が可能と言う事を意味している。

それは転生悪魔にも適用されるのだろう、恐らくだが。

 

……ええい、こういうとき記録再生大図鑑があれば手っ取り早いんだが。

 

「当たり前ですけど、私は悪魔の駒を持ってません。

 そういう意味でセージ先輩を守るのは無理です。

 ですが、悪魔契約を交わせば何の問題も無く私はセージ先輩と接触できます。

 そうすれば、私たちはセージ先輩に協力する事が容易になります」

 

……んー、つまり外に出られなくなる俺の目や耳の役目を果たしてくれるのか。

それは確かにありがたい。実際に出られなくとも、外の情報が入るか入らないかでは

俺の行動指針は大きく変わってくる。今回の件なんか最たるものだ。

 

「『たち』って事は……塔城さんだけでなく、祐斗に……」

 

「……いえ。当面の協力者は祐斗先輩だけになると思います。

 イッセー先輩は部長に近すぎますし、アーシア先輩はイッセー先輩に近すぎます。

 副部長は言うまでもありません。ギャー君は事情を知らないも同然ですし」

 

おいおい……俺のせいではあるにしても、これじゃ反乱企ててるみたいじゃないか。

それで二人がオカ研にいられなくなると言うのは、俺としちゃかなり心苦しいぞ?

俺が追放される分には、別にどうでもいいんだが。

 

「僕としては、小猫ちゃんの提案を呑んで欲しいかな。

 僕が契約の話を持ちかけてもよかったんだけど

 そういうことに友情を持ち出すのは憚られるからね。

 君だって『君と僕は友達だ、だから悪魔の僕と契約しよう』

 ……なんて言われて首を縦に振るかい?」

 

ああ、なるほど。そりゃノーだ。仮にそんな話を振られたら

俺は遠慮なく友人としての縁をぶった切ったところだ。

しかし、そういう心遣いが出来るとは、流石イケメンと称されるだけの事はある。

悪魔になりながらも、心は人間のままか。俺はそれだけでもうれしかった。

俺の今後にも、微かな光がさした気がしたからだ。

悪魔になってしまっても、人の心を失わずにいられるというのは。

しかしそれを言ったらイッセーの奴は……いや、深く考えるのはやめよう。

 

「祐斗の言いたいことはわかった。けれどもう一つ、分からない事がある。

 塔城さん、あんたを信じないわけじゃないんだが……何か、隠してないか?

 すまないが、俺は一度主を僭称する輩に隠し事されたもんだから

 そういう事に敏感になってしまってな」

 

「……そうですね。ごめんなさい、セージ先輩。私がセージ先輩にこの提案をしたのは

 セージ先輩と、私……そして姉の境遇がよく似ているからなんです。

 私……今まで黙ってましたけど……」

 

今までの話と、塔城さんの様子から俺は大半を察した。

姉妹の猫魈の話、それはもしかしなくても、そういうことなんだろう。

そして、俺に黒猫探しを依頼して、その顛末を気にかけていたのは……

 

……やれやれ。引き受けたのは猫探しのつもりだったんだがな。

まさか、生き別れの姉を探していたとは。しかも妖怪猫って。

事実は小説よりも奇なり、よく言ったもんだ。

 

「……いい。大体分かったから皆まで言いなさんな。

 黙ってたって事は、それ相応の理由があるんだろ。

 忘れてもらっちゃ困るが、俺は幽閉されるんだ。

 そういう立場の奴に、あまり不用意に秘密を話さないほうがいいぞ?」

 

「……僕は何も聞いてないよ。何か聞こえたとしても、それは空耳かな。

 最近、僕も疲れているのか、友達が罪人扱いされたショックからか

 幻聴が聞こえるようになってね。アーシアさんの神器でも幻聴は治せないらしいし」

 

「……ありがとうございます、先輩」

 

話は決まった。俺は塔城さんと契約を交わす事にした。

最も、契約といってもそれは言葉のあやで、実際には幽閉された俺の監視につくと言う事らしい。

勿論、監視と言うのは表向きの理由だ。

実際にはさっき話したとおりに情報の提供を受ける事になる。

対価として要求されたのは、引き続き黒猫――塔城さんのお姉さんを探す事。

祐斗は俺との決闘。勿論、右腕が戻ってからの話だが。

 

……俺たちだけでは、この現状はどうにもならないのかもしれない。

けれど、それでも今の俺には二人の力が、心がとても温かいものに感じられた。

そう、俺はまだ諦めたわけじゃない。俺の身体が生きている限りは。

母さんより先に死ぬなんて事はあっちゃいけない。

 

「ただ……前に塔城さん、グレモリー部長は信頼に値すると言っていたな?

 その件はどうなったんだ? 俺にここまで肩入れすると言う事は

 その信頼する相手を裏切る事に他ならない。それに、今の話しぶりだと……」

 

「……最近、分からないんです。私も、以前姉さんに会いたいと部長に話した事はあります。

 けれど、そのときの応対は『はぐれ悪魔だからダメだ』の一点張りでした。

 それを聞いて、姉さんは遠い存在になったんだと思ったときもありました。

 でも、セージ先輩と部長のやり取りを見ているうちに分からなくなってきて……」

 

……あったな、そんなこと。確かに俺とグレモリー部長は何度か対立している。

しかし、それだけで付き合いがそれなりに長いはずの塔城さんに心変わりを招くか?

ふーむ。信頼とは斯くも重く、深いものだ。

 

「……いや、その先も結構だ塔城さん。重ね重ね言うが、俺に協力するって事は

 グレモリー部長に対する反逆になりかねない。

 もし、立場が危うくなるようならこの話はその場でなかった事だ。それだけは頼む。

 最悪、万が一だが……俺を売ってもらって構わない」

 

「……ごめん、聞こえなかった。僕らは部長に逆らうつもりは無いよ?

 ただ、幽閉された眷属仲間の監視を買って出るだけさ。

 イッセー君が適任なんだろうけど、幸い部屋には結界が張られている。

 セージ君は勝手に出られないし、中での実体化だって出来る」

 

「……見えれば、イッセー先輩でなくとも見張りは出来ます。

 セージ先輩が勝手に消えなければ、ですけど。

 それにぶっちゃけますと、イッセー先輩はちょっと信用できません。

 部長やアーシア先輩はお気に入りのようですけど

 私にはあの下半身と脳髄が直結したようなエロドラゴンの何処がいいのかよく分かりません」

 

……なるほど。そうか。そういうことか……ククッ、はははははははっ!

これは一本取られた。監視役ならば、確かに俺と接触する事は容易だ。

随分と単純な話だが、これならば名目上は反乱にはならない。

最も、単純すぎるがゆえに向こうも気付いている可能性も否定しきれないが。

 

「……じゃあ、改めて。二人とも、俺に力を貸して欲しい」

 

「僕らでよければ」

 

「……セージ先輩がこんな形で終わるなんて、私は嫌ですから」

 

これだけは……これだけは今言わせて欲しい。

 

――ありがとう。ありがとう二人とも。

 

俺は何も報いる事はできないかもしれない。

それでも、それでも力を貸してくれる。

そんな彼らの期待を、裏切りたくは無い。

それだけでも俺は、諦めずに進む事が出来そうだ。




セージの制服、実は長ラン風のものでした……
ブレザーに長ランスタイルて何だろうとお思いでしょうが
これは仮面ライダーウィザードの各スタイルのマント裾をイメージしていただけると
早いかもしれません。

セージが触れた悪の組織ってのは、面ドライバーが仮面ライダーのパロディ作品である以上
あの組織です。イーッ!

本作の改変点

・小猫と黒歌との関係
原作ほどこじれてません。普通に生き別れ状態。
なのでセージに黒猫捜索を依頼したりしてました。
ただ、黒歌指名手配は原作ままなので……
小猫にしてみれば「何故、どうして」を知りたいがための行動。
リアスがいらんことしいなのはこちらでも同様。
木場のときの応対を顧みれば小猫の黒歌との接触も拒否するかなー、と。
本作のリアスは見事に情愛が結果にかみ合ってませんね……

・悪魔の出生率に関して
一応不妊治療とか試みたけれどもうまくいかなかったので
悪魔の駒で悪魔を増やすという短絡的な行動に出た、という設定。
セージや黒歌、インベスもどきのはぐれ悪魔はその被害者といえます。

・ドラゴンパワーによるハーレム形成
そんなものなかった(迫真)

・出須戸炉異高校
昔ながらの不良校、ってイメージです。
悪魔になる前のセージと仲間達が大喧嘩を繰り広げた話が出ましたが
この一件が原作の新生徒会に絞められた件に該当、出須戸炉異の生徒は
駒王と大那美には手出しできません、よかったね。
……なので作中セージが訝しんでます。

また増えたオリキャラ解説
尚、ここに限らない事ですがそのまんまな名前、設定でも赤の他人です。
赤の他人ですけど、能力とかはモチーフ元のキャラを大いに参照しています。

大那美高校
セージの中学時代の友人が多く通う学校。
名前はダイナミックプロから。
偏差値は駒王学園より少し下がる程度。学ランにセーラー服の少し制服が古風な学校。
イッセーが入ったらハレンチ学園になったかもしれない。
下記にあるとおりセージの中学時代の友人はダイナミックプロ作品の主人公の名前と
JAE所属俳優の名前の掛け合わせ。
セージは悪魔になる前後でシャッフルされている変な例。(不動明+高岩成二)
これについてはもう一つのネタがあるので……

兜甲次郎
名前の元ネタは兜甲児+岡元次郎。
異名はマジンガーZと仮面ライダーBLACKより。

如月皆美
名前の元ネタは如月ハニー+佃井皆美。
如月と言っても宇宙は来ないですよ、残念でした。
……3話? 知らない話ですね。


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Soul43. 密室に差す光明

書き貯めがなくなってきました。
なるべく毎月曜の更新には間に合わせるようにはしていますが……

今回、匿名掲示板風の演出があります。
その手のノリが嫌いな方はご注意ください。

ノリ以外の問題点を挙げるとすればAAが見苦しくなってるくらいでしょうか。


祐斗と塔城さんに協力の約束を取り付け。

結局、その日はそれだけで終わりはしたものの、現状の打開の一歩を踏み出せたと思う。

そんな俺の思惑をよそに、今旧校舎の開かずの間の封印が解かれようとしている。

 

……そういえば、何故幽閉が解かれるのか。

ギャスパーとやらの幽閉が解かれた理由。それについての説明は、ついぞ無かったな。

俺が幽閉される理由は言わずもがななだけに、なにやらきな臭いものを感じる。

まぁ、だからグレモリー部長がこの決定に対して反発を覚えたのかもしれないが。

 

聞けば、能力の制御が困難だからギャスパーは幽閉されていた。

まぁ、そこまではいい。

封印しておくのは、往々にして曰くつきなモノばかりだからだ。

では何故、それが急に解かれたのか。

 

「グレモリー部長。ギャスパーとやらは俺みたいに反抗的なんですか?」

 

「反抗的って自覚があるなら直して欲しいのだけれど……まぁいいわ。

 反抗的って訳じゃないけど……ただ、極度の人見知りなのは間違いないわ。

 この部屋から、一度も出たことが無いんですもの。

 一応、旧校舎内であれば自由に動ける風にはなっていたのだけれど……」

 

「でもセージ君はこの部屋からも出られませんわ。残念でしたわね」

 

……そういう事をニコニコ笑顔で言うもんだから、俺は軽く姫島先輩に殺意を覚えた。

殺意は言い過ぎかもしれないが、うざいとは間違いなく思った……。

しかしほぼ同等の扱いとか言っておきながら、結局は俺をここから出すつもりは無いんだな。

よほど、他人を管理下におかないと気がすまないと見える。

まあ、あんなクソッタレな道具で他人を縛るのがトレンドになっているくらいなんだ。

そういう思想が蔓延するのもむべなるかな、か。

 

「そうだぞセージ。いい機会だから反省しとけ」

 

「……お前こそ、俺がいないからって性犯罪に手を染めるなよ。

 そうでなくとも、お前には前科がある。

 お前がやっている事は、犯罪だって言う認識が無さ過ぎる。

 お前は一度、オカ研の部員含めた女性陣にどう思われているのかをもっと見つめなおせ。

 松田や元浜にも言えることなんだがな。

 ……そういう行動に走るから、余計にもてなくなるんだと言うのがまだ分からんのか」

 

イッセーが偉そうに語ってくれたので、俺もつい熨斗をつけたカウンターを見舞ってしまった。

自分のしている事が犯罪だと言う認識が無い。

いや、犯罪だと知ってて行う故意犯もどうかと思うが。

こいつには一度道徳と言うものを一から叩き込むべきだと俺は思う。

罪の意識の無い犯罪者。それって最早サイコパスの領域ではなかろうか。

何も某フリードみたいに殺人鬼ばかりがサイコパスじゃない。

連続放火を働き、市民の生活を脅かし個人の欲求を満たすのと

性犯罪で精神的苦痛を与え、個人の欲求を満たす。どれほどの違いがあるのだと。

 

……やはり、友人は選ぶべきだろうか。

確かにこいつにも美点はあるんだが、それを全て打ち消すほどにマイナス要素が強すぎる。

人間なんてそんなものかもしれないが、ここまで悪名を轟かせていては……。

 

そんなイッセーの態度に頭を抱えていると、件の扉が開く。

それと同時に、金切り声が響いてくる。どいつもこいつもうっせーな。

聞いたことの無い声なので、恐らくこの声の主がギャスパーとやらなんだろう。

……記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が無いのが悔やまれる。アレがあると話が早くなるのに。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! ブンブン振り回されるのいやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「あ……あらあら。一体何があったのかしら」

 

「……セージ君」

 

困惑している様子の姫島先輩だが、事情を察した祐斗は俺の方を睨んでいる。

うっ……お、俺だって知らなかったんだよ。だが……やっちまったのも事実だしなぁ。

意を決して、俺は中に入ろうとした……が。

 

――数歩先にいたはずの相手が、いつの間にか遠くにいる。

移動した様子は全く無い。そういえば、部屋に入った瞬間

周囲のものの色という色が一切合切消えうせた、そんな錯覚を覚えた気はしたが。

 

……何が起きたんだ? ええい、記録再生大図鑑さえ使えれば!

 

「大きい人やだぁぁぁぁぁぁ!! 怖いぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「と、取り付くしまもありませんわね……。

 明らかにセージ君を見て怯えているようですけど……」

 

「セージ、あなたギャスパーに何か……出来るはずもないわね。

 一体どうしたと言うのかしら……」

 

……ここで黙っておくのもまずいと考え

俺はコカビエル戦でギャスパニッシャーを生成した経緯を掻い摘んで説明する事にした。

しかし今考えると、ギャスパニッシャーという名前も

ギャスパー・ヴラディから取られたと考えると凄く合点がいく。

ああ、やはりあの棺桶の中に入っていたのか。

そういえば、棺桶をモーフィングさせる前に何か聞こえた気がしたが……。

 

「――と、言うわけですグレモリー部長。ギャスパー、先日はすまなかった。

 俺もまさか、棺桶の中にお前が入っているなんて知らなかったんだ」

 

「あ、あなたねぇ……なんだか、その能力封印されてよかったって思えてきた気がしたわ。

 まさか生物まで変化させるなんて、規格外もいいところよ」

 

「あらあら……『対象物を変化させる』アイデアは確かに出しましたけど

 まさかギャスパー君まで変化させてしまうなんて……これは私も驚きですわ」

 

……能力会得させたのはあんた達だろうが。特にグレモリー部長。

あんたのゴタゴタが無ければ無かった能力なんですがねこれは。

それにこっちは事故で使えなくなってるんだ。

事故に遭った奴に向かってよかったは無いでしょうよかったは。

 

「……も、もう振り回しませんか?」

 

ああ……多分。

少なくとも今は、やりたくても出来ないがね。

振り回そうにも、俺は塔城さんじゃないんだから片手じゃ無理だろう。

 

「せ、セージお前! こんないたいけな女の子をハンマーにして振り回すとか何考えてるんだ!

 お前、人に散々説教しておいて自分はそれか! お前だって……」

 

「イッセー、熱弁ふるってるところ悪いんだけど……ギャスパー、男の子よ?」

 

――はい?

 

俺とイッセーが、珍しくはもった。

ギャスパニッシャーのデザインと、今のギャスパーの格好やこの部屋のデザインで

少女趣味とは思ったが……女装趣味でもあったとは。

格好がこうなだけで、男なんだろ? まぁ、ちょっと面食らいはしたものの

そういうもんだと思えば、別にどうと言う事はない。

そもそも、悪魔だ妖怪だ幽霊だ、そんな連中の相手をしているものだから

今更俗に言う女装子が出てきたところで、どうってことは無い。

だがイッセーはこの世の終わりのような顔をしている。

いや、それはそれで失礼じゃないか?

 

「こんな……こんな見た目美少女なのに……そんな……」

 

「お前は他人を見た目でしか評価できんのか。

 しかし……ふーむ……なるほどなるほど」

 

「なっ……何なんですか……?」

 

「いや、着こなしがうまいな、と。俺もファッションに関しては素人なんだが

 これは下手な女性よりもよほど上手に服を着ていると思う。

 イッセー、何時までそうしてるんだ。別にどこぞのミルたんみたいに

 こいつは筋肉モリモリマッチョマンの変態じゃないんだから」

 

「筋肉モリモリ……怖いぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

ぬ。ちょっとびびり過ぎじゃないか? 言葉に出しただけでこのざまとは。

想像力豊かと言うか、なんと言うか。しかしこのままでは話が進まない。

軽く錯乱しているようにも取れるが、このままではなぁ。

 

「……ギャスパー。あなたが出たくなくても、今日からこの部屋に一人入るの。

 あなたがその人と一緒にいたいのなら、別に出なくても構わないわ。

 ただ、その人はあなたの言う怖い人よ?」

 

おや。グレモリー部長にしては珍しく、突き放した態度だな。

まぁそれ位やってくれないと、話が進まないのだろうが。

案の定、ギャスパーはさらに錯乱しだしている。

 

「怖い人と一緒にいるのやだぁぁぁぁぁ!! ここに一人でいるのがいいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「……なぁ。お前が男なら俺は別に相部屋でも構わないんだが。

 誰かさんみたく我儘言い続けるのはやめにしないか?

 このままじゃ、話が進まない。今度お前の代わりに幽閉されるのは俺なんだ」

 

……幽閉って環境でないのならば、俺は別に相部屋でも構わなかった。

幽閉って環境だから、出られるならば出してやりたいのもまた人情ってものなんだが。

……あ、でも曰くつきのものだから、下手に出したらまずいのか?

 

「えっ? あ、あの……どうしてですか?」

 

「知りたいか? それはだな……」

 

「セージ! 余計な事は言わないで!」

 

チッ。こうなるに至った一部始終を解説しようと思ったんだが

グレモリー部長に制止されてしまう。こっちからも話をしなきゃ意味が無いだろうに。

何故こうなったか、どうしてなのか。

それは行動を決めるに当たって重要なファクターではないのか?

 

「ぶ、部長がそういうなら、いいです……」

 

「……つまらん。と言うか、話したかったんだがな」

 

ああ、もしやお前もその口か? 上から言われるがままに行動する。

その言われた事の意味を疑問に思わず、ただ言われるがままに動くだけ。

まぁ、それが眷属の正しいあり方らしいけどな。

……全く知的生命体の生き方ではないがな。

 

ともあれ、観念したのかギャスパーは部屋から出ることになった。

部屋の私物は魔法で既に転移させられている。用意周到なことで。

すっかりだだっ広くなった部屋に、今度は俺が入れ替わりで入る事になる。

 

「……なるべく早く出してもらえるようにするわ。それまで大人しくしていて頂戴。

 イッセー、セージの事は――」

 

「――待ってください部長。見張りは、僕と小猫ちゃんに任せてもらえませんか?」

 

「え? けど、霊体のセージが見えるのはオカ研の中じゃ俺だけ……」

 

「……この部屋の中には、結界が張ってあるんですよね?

 なら、私たちにも見えます。だから、私たちにも見張りは出来ます」

 

作戦通り、祐斗と塔城さんが見張りを名乗り出る。

さて、どうなるか。ここで却下されたならばそれならそれだ。

まあ、最悪イッセーに外の様子を聞くことになるがそれでもある程度は問題あるまい。

……駒王番長の件と、俺の身の振り方の件については絶望的だが。

実のところ、イッセーには別件で聞きたいことがあったりする。

 

――ドライグだ。俺の右手を奪って以来、俺の事には一切触れてこないらしい。

まあ、本気で俺を予備電源程度にしか考えていなかったのだろうがな。

俺が消えたところで、奴にとっては痛くも痒くも無かった。

その程度に見られていたと思うと、少し……いや結構腹が立つな。

最も、今はどうしようもできないが。

 

「……まぁ、わかったわ。じゃあイッセー、祐斗、小猫の三人で見張りを交代。

 セージが何かするわけでもないとは思うけれども、一応ね」

 

「……お好きにどうぞ」

 

結局、随分と大掛かりな見張り体制になってしまったが

俺は晴れて……と言うのも何か変なものを感じるが、幽閉生活を始める事になった。

 

――――

 

――幽閉生活を始めて、最初の夜を過ごした。

結局、夜中は寮住まいの祐斗か塔城さんが見張りについているらしい。

高校生なのに夜勤とは、労働基準法も真っ青なシフトだとは思う。

なので、俺も鬼畜生ではないので夜中は彼らに要らぬ心労を与えぬよう大人しくしている。

 

……それに、ここでギャスパーが悪魔契約に使っていたらしいパソコンがあるため

時間つぶしには全く苦労しない。勿論、契約の用途として使ってはいない。

単純に、ネットを介した情報収集だ。

 

こんな便利なものがあるなら、祐斗や塔城さんの協力は要らなかったのでは?

などと思う不届きな輩もいるかもしれないが、俺はそうは思わない。

なにぶん、ネットで得られる情報と言うのは範囲が広すぎて絞りづらいのだ。

まして、俺が彼らに頼んだのはごくローカルな情報だ。

その手の情報を集めるだけならば、裏サイトなるものもあるらしいのだが

俺は未だその実態を掴めてはいない。

……だが裏サイトか。正攻法では調べられない情報も、ありそうな気はする。

最も、裏社会と言うものは既に悪魔の手が伸びているらしく

悪魔である俺らにも、優先的に情報が回ってくると思うんだが……。

 

――気が向いたら調べてみるか。駒王学園の裏サイト、か。

……ククッ、面白い情報がいっぱい埋まっていそうだよ。

 

ともかく。こうしてネット環境があるのは好都合だ。

俺はこれでも、パソコンはあれこれ弄った事がある。

足がついてはまずいと、接続の設定を調べてみたが

普通に近所のwi-fiに接続されているようだ。

最も、そこが悪魔――それも魔王陛下に抑えられていたらおしまいなのだが。

幽閉中に、契約を取るでもなく情報収集を行っていると知られれば……ねぇ。

 

しかしここで二の足も踏んでいられない。

そう考え俺はさっきから左手一本でキーボードを叩きながら

ディスプレイとにらみ合っている。中々しんどいが仕方ない。

 

「情報を得るには、まず餌がいるな……。

 『【悲報】ワイ転生悪魔、悪魔の駒が身体に合わずバケモノになったンゴwwwww』

 ――っと。

 

 ……さあ、どうだ……?」

 

食いつきそうな餌を片っ端から撒いてみる。

俺が知りたいのは、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の除去方法。

これを抑えておけば、後はうまく外に出られたときに実践するのみだ。

出来れば、イッセーに負担のかからない方法が望ましいのだが。

 

勿論、すぐに情報が入るとは思っていない。

だから、俺はグレモリー部長に「ゆっくりでいい」と話した。

……で、どうなったかと言うと。

 

 

【悲報】ワイ転生悪魔、悪魔の駒が身体に合わずバケモノになったンゴwwwww

 

1 : 名無しの悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:TkIWDeviLMaN

 

質問ある?

戻し方知ってたら教えてクレメンス

 

2 : 名無しの悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:JaLienPEDanO

 

|-|・▽・|-|

ヽ|□ □|ノ ガシャーン

 | __| ガシャーン

  ||

 

3getジョーだよ

自動で3getしてくれるすごいやつだよ。

 

3 : 名無しの悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:oUsHImaKAzei

 

2get

 

4 : 名無しの悪魔@俺の趣味だ YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:AmR0KmIrujDO

 

>>1

バ……仕様だから諦めろ

 

>>2

AAずれてんぞ

 

5 : 名無しの悪魔@働いたら負け YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:GFAlconDNDrO

 

>>1

糞スレたてんなめんどくさい

 

>>4

仕様じゃね?

 

6 : 名無しの悪魔@まじ☆かる YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:MGSEira4RuLC

 

>>1

んーとね、サポート対象外なの☆

 

7 : 名無しの悪魔@真っ赤な超越者 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:ChAR6LuCIFEr

 

>>1

悪魔の駒に不備は無いんですが。

バグ呼ばわりされた変異の駒も仕様だって発表あるから。

 

いい加減な事言ってると特殊部隊動くぞ?

 

8 : 名無しの悪魔@現代の悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:ThEZaBISBroS

 

>>7

んな事で特殊部隊動くとかwwwwww

 

9 : 名無しの悪魔@はにゃーん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:HAmaANSAmABz

 

>>7

恥を知れ俗物wwwwww

 

10 : 名無しの悪魔@チョコ愛好家 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:WoNURubEISKw

 

>>7

匿名掲示板の書き込み一つで動く特殊部隊とかwwwww

民度低すぎて草不可避wwwww

っつーかそんな暇じゃねぇしwwwww

 

11 : 名無しの悪魔@恐縮です YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:wPAobAoAQfuU

 

>>1もだけど>>7も叩かれすぎワロタw

でもどんなバケモノか気になるからkwsk>>1

具体的には画像クレメンス

 

 

……見事に人間世界の匿名掲示板のノリそのまんまだった。

これ……本当に冥界のネットなんだよな?

まあ、俺も話半分で餌を撒いていたので、ろくな情報が入るとは思わなかったが……ん?

>>11に、食いついているのがいるな。とりあえず、どうせネタ半分だから

前もって保存をかけておいた画像データを……っと。

 

 

18 : 名無しの悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:TkIWDeviLMaN

 

>>11

ほれ画像

ttp://meikairoda.com/gazo/7538315193.jpg

 

19 : 名無しの悪魔@ドラゴンアップル農家 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:TaNNeenDraGN

 

>>18

横レスすまんやで

こいつドラゴンアップルの害虫にそっくりなんだけど

これ何処で撮ったん?

つか>>1はドラゴンアップル食った事あるのか?

あるなら全力を挙げて潰すが

 

20 : 名無しの悪魔@恐縮です YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:wPAobAoAQfuU

 

>>18

ほんとだ、ドラゴンアップルの害虫にそっくりじゃん

背景は人間の街っぽいけど……>>1は人間界にいるの?

でも人間界にドラゴンアップル成ってないし……???

 

21 : 名無しの悪魔 YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:TkIWDeviLMaN

 

>>19

すまんが俺はそのドラゴンアップルってのを知らないし

食った事もない

だから潰さないでくださいおながいします

 

>>20

人間界の日本って国

こんな格好じゃ冥界にはいられないから、こっちの妖怪領とかでひっそり生きてる

でも通報は勘弁な

 

 

勿論、撒いた餌には虚偽情報も多く含んでいる。

そもそも俺とこのはぐれ悪魔はイコールじゃない。

とりあえずこのはぐれ悪魔がスレッドを立てたって風にしたほうが

第三者の俺名義で情報を集めるよりも効率よく情報を集められると思ったからだ。

それ以前に言ってしまえば、匿名掲示板に蠢いている情報なんざ嘘八百もいいところだ。

そこで情報収集すると言うのも、無謀なもんだが……。

 

とりあえず、現時点ではこのはぐれ悪魔に関する情報だけか。

しかも、これが何でこうなったか、これを元に戻す方法とかは出ないみたいだ。

こいつを手がかりに、何か掴めるかもとは思ったが……そううまくはいかないか。

 

――――

 

あれから掲示板に張り付いてはみたが、結局はあのはぐれ悪魔が

ドラゴンアップルという、ドラゴンの食べる実につく害虫的存在である事と

繁殖力が異常に強く、ドラゴンアップルを生育している地域では積極的に駆除が行われている。

それが分かったくらいである。正直、記録再生大図鑑が生きていれば

自力で調べられたかもしれない情報だ。

俺が知りたいのは、そういうことじゃないんだが……仕方が無いのか。

 

それにこれはこれで興味のある話だ。俺はてっきり、件のはぐれ悪魔は

悪魔の駒で変異した存在だと思っていたし、記録再生大図鑑の記述に虚偽がなければ

そういう経緯であるのだが、ドラゴンアップルという果実につく害虫的存在と言う事は

すなわち、それを食糧にしていると言う事だ。

ドラゴンアップルについても、記録再生大図鑑さえあればすぐに調べられるんだが……。

意地の悪い考え方をすれば、ドラゴンアップルの生育で発生した種ではないか、とも取れるのだ。

ドラゴンアップルの存在が、このはぐれ悪魔をのさばらせている、と。

……まぁ、今この件について深く突っ込んでも俺の欲しい情報は多分得られないだろうが。

 

それに、あまり一つのスレッドに張り付いても仕方ない。

折角沢山のスレッドが立てられているのだ。

そう思い、俺は別のスレッドもついでに調べてみる事にした。

こちらは俺が立てたものではない。ざっと見渡すと、環境だからなのか

現政権に対する不平不満が渦巻いていたり、一方ではちやほやされているはずの

魔王を輩出した家――特にグレモリー家――に対するアンチが強かったり

ここが冥界の住人の心の奥底だと思うとぞっとするものを感じずにはいられない。

さすが悪魔だ、中々腹芸のうまい連中の多い事、多い事。

 

そう思いながらスレッドを眺めているが、別段めぼしい情報はないし

俺が立てたスレッドも分かっちゃいたがあまり情報が書き込まれている痕跡はない。

ふと、突然パソコンにメールが入った通知がポップアップする。

早速チェックしてみる。ウィルスの類は――ついてない。よし。

差出人は……バオクゥ? 知らない名だが……迷惑メールか?

それにしては、文面や件名が簡潔すぎる。

大体あの手のメールは、変に凝っていたり長ったらしかったり

そもそも文字化けして読めなかったり、とよく聞く。

 

 

差出人:バオクゥ

件名:スレッドの件

 

本文:

あれが悪魔の駒から生まれた存在であるなら、スクープになる。

ぜひ、もう少し詳しく聞かせて欲しい。

 

 

情報を集めるために捨てアドを取得していたが、早速食いついてくるとは。

あのはぐれ悪魔については俺が求めている情報ではないが……

これを元手に、情報交換の交渉は出来そうだ。

早速、返答のメールを出す事にした。

 

 

差出人:AKIRA

件名:re:スレッドの件

 

本文:

了解した。

Suikapeを公開しておく。以後はそちらで話したい。

 

 

……AKIRAと言うのは、俺がネットで作業をするときによく使うただのHNだ。

特に理由も無く、ただ頭にふっと浮かんだ名前である。

まぁ強いて言うならば、今は亡きじいちゃんが付けたこの成二と言う名前の他に

アキラ、となる話もあったとかなかったとか、そういう話は聞いたことがあるが。

 

「祐斗、これから俺は喋るが、ボイスチャットをやっているだけだから」

 

「別に心配しなくても、セージ君が壊れただなんて思ってないよ。

 しかし幽閉された直後にボイスチャットとは……ま、別にいいんだけどね」

 

Suikapeを立ち上げ、外で見張っている祐斗にこれからボイスチャットをする旨をつげ

再びPCの前に張り付く事にした。




ここが2ch系の場所だったらAAもずれずにいけたと思うんですが。
まぁ、雰囲気だけ味わっていただければ。ここ2chやしたらばじゃないですし。
ネットスラングが最近だったり古かったり安定しないのは
全部赤土ってやつのせいなんだ。

今回はセージがPCに触れているのでこういう演出にしました。
最も、質問スレがあるのにスレ立てて質問するのは
あまりほめられた行為ではありませんが。

名前欄とID欄で、一部書き込みは誰のものか丸分かりになるようにしてあります。
この辺のノリは某円谷さんの四月馬鹿企画ですね、はい。

なお途中URLを張ってますがデタラメなURLなので入力しても何も出ませんよ、多分。
(元ネタの画像URLを張ろうと思いましたが流石に自粛)

毎回恒例の解説コーナー。
4章終わった時点で一度総集編をやろうと思ってます。
結構オリジナル設定とか増えてきましたし。

>駒王学園の裏サイト
誰も口に出さないだけで存在自体はみんな知ってる……という風にはしてあります。
一昔前少年犯罪の温床として取り沙汰されましたが、今はどうなんでしょうね。
学校裏サイト。原作みたいに明るい作風なら取り沙汰される事は多分無いでしょうが
本作みたいにややドロドロした作風で、取り上げないなんて嘘ですよ。
……さあ、学園の二大お姉さまや優秀な生徒会長様は
ここではどういう扱いを受けているやら……ククク……

……そもそも女性の情念てのはもっとこうd……いえなんでも

>ドラゴンアップル
インベス風のはぐれ悪魔がこれにつく害虫的存在、という事実が新たに発覚。
仮面ライダー鎧武をご覧になった方は
あのクソヤバイ果実を連想されるかもしれません。
本作では実際そのポジション。ドラゴン(キマイラ)の栄養源なのは事実ですし。
そういう意味では某タンニーンさんは原作より立場が悪くなった一人(一頭)。

>Suikape
Skype。そのまんま。機能についてはSkypeを参照。以上。
ちなみに私はMSNメッセンジャーはともかく、Skypeは使った事がありません。

>バオクゥ
名前の由来は「ペルソナ2」よりパオフゥ、「艦これ」より青葉。
そして「アバオアクー」。
青葉区とアバオアクーは語感は似てますが全く関係ありません。
尚このアバオアクーはゼダンの門ではなく、幻獣の方です。

>AKIRA
あの某有名作品とは関係ありません。
前回後書きにて触れたとおり、セージの名前の由来には不動明も入ってますので
そこから。


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Soul44. 冥界の噂を追って

良いニュース
現在E3乙戦力ゲージ攻略中
E0で翔鶴、E1で瑞穂、E2で天津風、谷風、E3で山雲とドロップも良好
なお天城、プリンツ

悪いニュース
ガンバライジング1弾LREXのクウガのカード無くしたっぽい……
見つけた人は大事に使ってね
換金してもいいけど


ここ最近にしては短めですが、話はまたきな臭くなります。
あと、実在の組織とは一切関係ありません。


Suikapeのボイスチャットで待機していると、先ほどメールを寄越してきた

バオクゥと名乗る者がログインしてきた。

聞けば、人間界でさる盗聴バスターに弟子入りし、酷く感銘を受けた事から

あやかって名乗っているそうだ。

 

「どもー、恐縮です。早速ですが一言お願いします!」

 

……なんと! この声……女性、それも俺らとそう大差ない年の声だ。

まぁ、相手が悪魔である以上は年齢はあまりアテにならないが。

割といかつい名前であるから、てっきりどこかの大教授とか

色々と規格外な吸血鬼みたいな声を想像していたが……。

 

「あ、ああ。画像はさっきのスレッドに上げた物を見て貰えたと思うが……。

 すまない、あれは俺自身ではないんだ」

 

「ああ、んな事だろうと思いましたよ。あんな手じゃキーボード打てませんもん。

 ……おや? それよりAKIRAさん……どこかで聞いたことある声ですねぇ?」

 

む。声に関しては俺も公表されているようなものだった。

いつぞやのフェニックス戦の動画がアップされているのをちらほらと見かけた。

流石に顛末やイッセーが剥いだ部分はセーフティがかけられていたらしく

ちょっと年齢制限を無視しないとチェックできないものだったが。

つまり、何が言いたいのかと言うと。

 

「もしやAKIRAさん、あの噂の『もう一人の赤龍帝』ですか?

 もしそうなら、これもまた大スクープ! 私、感激です!」

 

「……期待しているところ悪いが、実演は出来ないぞ?」

 

俺がかの「もう一人の赤龍帝」であると知れたならば

どうせ次はやれ実演しろ、右手を見せろだの言ってくるのは目に見えていた。

だが、今の俺にはいずれも不可能だ。そう思い、俺は予め釘を刺しておくことにする。

 

「うーん残念。証明できれば、独占インタビュー! だったんですけどねぇ。

 それより……」

 

「……ああ、本題だな。そちらが何処まで『もう一人の赤龍帝』について

 知っているのかは分かりかねるが、こちらはこちらで

 件の怪物についての情報を手に入れていた。そしてそれは……」

 

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の不具合によって生まれた、と。

 しかし、政府発表ではそのような事は無いと……」

 

政府発表ではそんな事はない、とね。まぁ、さっきの魔王陛下の対応を見ていれば察しはつく。

悪魔の復興事業の目玉に不備があってはまずいのだろう。

だったら隠蔽せずに直せよって話だが。

バグなんて放置して百害あって一利なしとまでは言わないが

ろくな結果を招かないと思うんだが……。

バグで有名になったゲームも多く存在するが、あれは偶々うまくかみ合った結果だし

そもそも娯楽たるゲームと生涯を左右するプログラムを同一に語るなどありえない。

 

……まさかとは思うが、人の一生をゲーム感覚に見てやしないだろうな?

 

「信じる信じないは自由だが、現に悪魔の駒の不具合の影響を受けている存在がここにいる。

 おかしいとは思わないか? 何故、リアス・グレモリーは8個の『兵士(ポーン)』の駒を利用した兵士を

 一人擁しているにも拘らず、眷属にもう一人『兵士』がいるのか」

 

「おおっ!? それは初耳ですっ! ぜ、ぜひ詳しく!」

 

思った以上に、バオクゥがこの話題に食いついてきた。

シトリー会長はイレギュラーと片付けた、俺とイッセーの悪魔の駒の共有に関する問題だ。

ともすれば、レーティングゲームにおける不正につながりかねない案件だけに

取り扱いには慎重になるべき話題かもしれないが、それで不利益を被るのはグレモリー部長だ。

俺は関係ない。

 

……とは言え、それで行動に制約を設けられるのも面白くないので

不利益になりそうな部分はうまく伏せて顛末を話す事にした。

うまくごまかせているかどうかは、わからないが。

 

「……ふーむ。これは思った以上に悪魔の駒にはきな臭い話題が多いようですねぇ」

 

「む? その話しぶりだと、俺が知っていることのほかにもまだ何かあるのか?」

 

バオクゥが「しまった」と漏らしたのを俺は聞き逃さなかった。

俺が知っていることと、バオクゥが知っていることは恐らく別個だろう。

そして、それを組み合わせると冥界政府に多大なダメージを与えかねない情報になる。

となると……それを組み合わせてしまっていいものかどうか。

下手をすれば、政府直属部隊であるイェッツト・トイフェルに

命を狙われるなんて事態になりかねない。

 

しかし、そんな危険を伴う情報を得たにも拘らずバオクゥはご機嫌のようだ。

よほど、今回提供した情報が特ダネだったらしい。

 

「面白い情報が聞けたお礼に、私の取っておきも教えちゃいます!

 実はですね……人間界にある曲津組(まがつぐみ)って人間の組織なんですが……

 グレモリーを快く思っていない悪魔が所属しているらしいんですよ。

 実際、グレモリーの領地で勝手に契約活動を行ったりとかしてるみたいですし」

 

なんと。これは確かに面白い情報だ。

こんな事があれば、あのグレモリー部長が黙っているはずが無い。

アレだけ他人に勝手をされるのを嫌うんだ。

そんな自分の領地で勝手をされれば、動いてもよさそうなものだが。

そして曲津組。これは確か全国区で活動している指定暴力団の名前だったはずだ。

悪魔は裏社会に精通していると言うが、暴力団とはその最たるもの。

悪魔が所属していたと言う事実に関しては、割とすんなり受け入れられた。

 

「ふむ、それは初耳だ」

 

「ややっ!? 眷属の耳には入れてなかったんでしょうかねぇ?

 悪魔にとって、管轄外の地域や、他人の管轄地域で勝手に契約活動を行うのは

 トラブルの種のはずなんですけど……」

 

考えてみれば当たり前だ。単純に縄張りのようなものである。

そこに住んでいる人たちにしてみれば随分と勝手な話ではあるんだが。

俺もこの町の歴史にはそれほど明るくは無いが

一体悪魔は何時からこの町を自分のものだと思っているんだろう。

 

ところで。バオクゥはまだ俺がグレモリー眷属として登録されていると思っているらしく

話しぶりも眷属に対するそれのように思えた。

そこで、俺は更なる情報を求めるべく、まだ正式なアナウンスがされていない

この情報を流してみる事にする。さっきから自分の情報を切り売りしているが

俺の活動のための先行投資だと思うことにする。

 

「眷属……か。面白い事をもう一つ教えてやるよ。

 実は俺はな、グレモリー家に対し反乱の意図ありと看做されたのか

 今は幽閉処分を受けている。入れ替わりにギャスパー・ヴラディって奴が解放されたらしい」

 

「ふむふむ……これはまた興味深いお話ですねぇ。

 知ってると思いますけど、グレモリー家ってのは身内や眷属には

 やたらと情に篤い家なんですよ。まぁあのレーティングゲームの一件を見る限りでは

 貴方中々癖のあるタイプのようでしたけど。

 けれどそれだけで幽閉処分ってのも考えにくいですねぇ。ギャスパーの幽閉理由が

 幽閉理由なだけに、急に解放されるってのも不自然ですし」

 

そう。バオクゥの指摘通り、今回の件は腑に落ちない点がいくつかあるのだ。

最悪の見方をすれば一応説明は通るんだが、それは少々グレモリー家というものを

悪し様に見過ぎな気がしてしまう。それが化けの皮を剥いだ正体と言われれば、それまでだが。

 

「とにかく、これは面白い情報をありがとうございます。

 また何か面白い情報が入ったら教えてくださいね!」

 

「そっちが俺に情報を寄越してくれるのであれば、こちらも提供させてもらうつもりだ」

 

契約成立。最も、これを悪魔契約と言っていいものかどうかは判断しかねるが。

少なくとも、虹川(にじかわ)姉妹と同列に語れる契約ではないだろう。

Suikapeを落とし、時計を見たら結構話し込んでいた。

別に朝が早いわけではないが、寝たほうがいいだろうと考えその日は眠る事にした。

……情報は、少しずつ得られればいいか。

 

――――

 

次の日。今日の見張りは塔城さんだ。

食事が部屋に入ってくる際の声は、彼女のものだった。

 

「……セージ先輩、ごはんです」

 

「……三食昼寝付き。ものは言いようだな」

 

幽閉された身分の者が食するにはどう見ても豪勢な食事を前にして

俺は一人ごちる。実際、今の待遇は三食昼寝ネット環境付きという

聞くものが聞けば楽園と錯覚しそうなものである。

実際、引きこもり気質のギャスパーが外に出たがらなかったのも

憶測ではあるがそういう側面があるのだろう。

ただ……それが万人にとって楽園とも言える待遇かと言われれば……

 

「一応聞くが、外出許可は出ていないんだな?」

 

「出てません。分かってて聞かないでください、意地悪です」

 

これだ。他の全てが滞りなく手に入っても、そのたった一つ。

どうしても譲れないたった一つのお陰で、全てが無価値ともいえる状態にまで陥る。

最も、今回の待遇に関して言えばそれはある意味当然の処遇なので

俺は別にそれで責めるつもりは無い。ただ、タイミングが致命的に悪いその一点が問題なのだ。

 

「すまない、気を悪くさせてしまったか。

 祐斗やイッセーは変わりないか?」

 

「祐斗先輩は……今日はアーシア先輩とあの聖剣使い……ゼノヴィア、でしたっけ。

 彼女と会うことになっているそうです。

 イッセー先輩は……さっき更衣室で不埒な行為に耽っていたのでしばいておきました」

 

変わりないか。それは結構だ。もう俺はイッセーの更正は半分諦めている。

一度社会的に抹殺されないともう無理だろう。バカは死ななきゃ治らない、ってやつだ。

しかし祐斗はゼノヴィアさんと、か。交友範囲が広がるのは結構だが。

彼女もまた何か問題を抱えているようだが、出来ることはないだろう。

言ってはなんだが、祐斗が勝手に首を突っ込むのは止めないし止められない。

それで痛い目を見るのは本人だし、そもそも祐斗はイッセーじゃないから

そういう無茶はしないだろう。

……しない、よな?

 

ひとしきり会話を終えた後、俺はおもむろに食事のプレートに向き直って飯を口に運ぼうとする。

そんな時、塔城さんから声をかけられたが、俺は丁重にお断りさせていただいた。

……まぁ、気持ちはありがたいんだが。曰く――

 

「一緒に食べてもいいですか?」

 

やめとけ。一応、こっちは幽閉中の身なんだ。その扉だってデザインが違うだけで

鉄格子みたいなもんだし。個室独房で看守と飯を食う囚人なんて聞いたことが無い。

 

「そもそも、迂闊に独房に入るもんじゃない。隙を突いて逃げ出したらどうするんだ。

 祐斗みたいに機動力に優れているんならともかく。

 ……っと、すまない。また説教臭くなってしまったか」

 

やらないけどな。と念を押したし、それについては向こうも承諾済みであることは知っている。

そりゃあ、塔城さんが善意でこの提案をしたのも承知している。

だがそれだけに、その善意を悪用する輩が出ないとも限らないのだ。

俺はそういう真似はしたくないししないであろうと思いたいが。

 

強いて言うならば、今の俺は右手が使えないために

食事介助という形で付き添ってもらうのが真っ当な理由なのだが。

メニューはサンドイッチにミネストローネ。左手だけで食べるのに支障は無いメニューだ。

それもあり、俺は塔城さんの提案を蹴っていた。

案の定、ちょっと扉の窓越しに見える塔城さんの表情が少し沈んでいるように見えた。

 

「……そういう気持ちを味わないためにも、こんな茶番、さっさと終わらせたいものだな。

 だったら俺が今後グレモリー部長や冥界の方針に逆らうな、って話なんだが……

 生憎、それはちょっと出来ない相談だしな……まぁ、最後に俺の身体が戻ればいいんだが」

 

全く。こちらを立てればあちらが立たず。事態は相変わらずややこしい。

飯を食いながらする話でもないな。扉越しに話をする分には問題は無いので

俺も塔城さんもさっきからそうしている。外から何かを食べる音も聞こえるので

塔城さんも何か食べているのだろう。そういう時間だし。

 

「ごちそうさん。すまないが、片付けは頼む。

 トイレは付いているが、トイレの水で洗うわけにも行かないだろう?」

 

「……当たり前です。食器の片付けとかはこっちでやりますので、気を使わないでください」

 

牢屋のそれみたいにオープンではない、ちゃんとした仕切りのあるトイレも完備されている。

これだけ至れり尽くせりなら、引きこもり気質の奴が出たがらないわけだ……。

もしかして、ギャスパーを外に出したかったら

個室のトイレを取っ払うだけで解決した問題じゃないのか?

人道に悖る行いであるのはまぁ……うん、そうなんだが。

 

至れり尽くせりで囲ってしまえば、堕落するのは簡単だ。あとはそれに緩やかに慣れていく。

そうなってしまえば、もうそれなしでは生活すら出来なくなる。

典型的な堕落のパターンだ。人間そうはなりたくないものだ。

 

俺の見る限りでは、それをやらかしてしまっているのがグレモリー家のように見えるんだが……。

かと思えば、イッセーに極端な訓練を強いていたり。やる事が両極端だ。

対人関係は0と1の両極端で運営できるほど生易しいものじゃない、とは思う。

まさか……それで運営できるように合理化するのが眷属システムではあるまいな。

 

……いや、やめよう。今ここで憶測を立てるのは簡単だが

俺一人で妄想に耽っても何も解決しない。ネットでバオクゥに頼ったり

祐斗や塔城さんから情報を少しでも多く集めるほうが

よっぽど合理的だ。情報が多ければ、それだけ手数も多くなる。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を運用していて骨身に染みたことだ。

 

「小猫ちゃん、交代だぜ」

 

「……わかりました。じゃ、後はお願いします」

 

遠くからイッセーの声が聞こえる。む、もう交代の時間か。

俺は塔城さんに引き続き状況をなるべく多くわかるようにしてほしい旨を伝え

入れ替わりでやって来たイッセーに皮肉交じりの挨拶を交わしてやる事にした。

 

「よう。塔城さんにしばかれたのはこれで何度目だったか?

 裏を返せば、それだけお前は性犯罪を犯したことになる。

 いい加減にしとけよ? ごく少数がそういう行いをしてくれるお陰で

 俺や祐斗みたいに無害な奴だって変な目で見られる。

 ましてここは男子の母数が少ないんだ。勘弁してくれとも言いたくなる」

 

「開口一番それかよ。俺に言わせばな、エロに興味の無いお前のほうがよほどおかしいぜ」

 

訂正しろ。興味が無いわけじゃない。TPOを弁えろっていってるんだ。

あの祐斗だって興味があるんだ、それなのにこの差はなんなんだ。

お前はすぐに「イケメンガーカオガー」なんていうけどな。

宮本成二だって決してイケメンの部類じゃないんだぞ。自分で言うなって話だが。

 

「それはそうと……なぁ。お前、やっぱり部長に謝ろうぜ。

 俺も一緒に謝るからさ。そうすれば、自由の身になれるんだぜ?」

 

「……グレモリー部長か、姫島先輩か。どちらかに入れ知恵されたか。

 生憎だが答えはノーだ。上っ面だけ謝る事なら確かにできる。

 だが、心にもない謝罪は却って逆効果じゃないのか?

 上っ面だけの関係を続けるなら、俺は別に構わないが……

 グレモリー部長の気質を踏まえれば、絶対にそれは無いな」

 

俺はこの数ヶ月、リアス・グレモリーという人物像を見てある程度仮説を固めていた。

その殆どはあまりよい評価ではないのだが。

その中の一つとして「腹芸が出来ない」事を挙げようと思う。

良くも悪くも、感情が先走りすぎる。まぁ、イッセーにも言える事なんだが。

だからこの二人はある程度以上に波長が合っているのかもな。

 

そしてそんな奴に、上っ面だけの関係が続けられるかと言われれば……

まぁ、無理だろう。

 

「お前っ……自分が悪いと思ってないのかよ!?」

 

「多少は悪いとは思ってる。例えば、フェニックス家には悪い事をしたとは思ってる。

 だが俺は謝罪できない。謝らない、んじゃない。謝れない、んだ。

 あの件に関してグレモリー部長が謝らない限りは、俺は謝れないんだよ。

 それとも……仮に俺が勝手に謝ったとして、それをグレモリー家の総意と取られてもいいのか?

 その結果、主の家であるグレモリー家に多大な迷惑をかけるとしてもか?

 ……ま、何かの席でライザーないしレイヴェルに

 個人的に謝る程度は出来るかもしれないけどな」

 

ただし、昨日バオクゥに聞いた限りではレイヴェルはともかく

ライザーは未だ回復の兆しを見せていないらしいが。

裁判は、フェニックス家が圧倒的優位に立っているとも聞いたが……

バオクゥ、まさか盗聴で情報を仕入れてなかろうな。

 

「……お前の話は理屈すぎんだよ」

 

「俺に言わせば、お前が暴走しすぎなだけだ」

 

イッセーがぶつくさ言っているが、俺は聞かないことにする。

感情だけで物事が解決できるなら、俺はとっくに身体を取り戻せているよ……。

少し厄介な空気だが、黙っているほうが余計に空気が悪くなると思い

俺は情報収集もかねて、イッセーから話を聞こうと世間話を切り出すことにしたが……

 

「そ、そうだ聞いてくれセージ!

 昨日、朱乃さんに呼ばれたんだけどよ……その時に大天使長に会ったんだよ!!」

 

……は? おい、イッセー……

 

それ、かなりマズいぞ!

既に冥界には、イッセーとアザゼルが密会を行ったと言うスキャンダルが流れている!

その上で、大天使長――すなわち天界陣営とも対面したとなれば……

 

「……な、何か言っていたか?」

 

「俺に、和平の証として『龍殺しの剣(アスカロン)』をくれる予定だったんだけど……

 その『龍殺しの剣』を携えた使者が、昨日から連絡を断っていたらしくってな」

 

……い、いかん。目の前が真っ暗になりそうだ。

現物を貰っていないのも、こうなっては幸か不幸かわからない。

天界は冥界と和平を結ぶつもりらしい。そこまではいいとしよう。

だがその冥界は、堕天使陣営と細いながらもパイプを作っている事が

少なくとも冥界には知れ渡っている。

その情報自体を、天界が知っているかどうかでまた話は大きく変わる。

 

もし知っているなら、堕天使に対する牽制。

冥界と組んで、一気に堕天使陣営を壊滅させる事だって考えられる。

赤龍帝と堕天使が組んで行動を起こす前に、天界からも贈賄をして

冥界の動きをコントロールしようと言う魂胆も見えなくは無い。

 

逆に知らないなら、天界はとんだピエロの集まりになってしまう。

冥界と堕天使が同盟を結びかねない状況下で

冥界のキーパーソンと言える赤龍帝に贈賄をしたのだ。

それを逆に利用され、自分達に牙を剥かれる怖れだって大いにあるのだ。

 

「ま、魔王陛下には伝えたのか……?」

 

「あ、ああ勿論だ。と言うか、その大天使長と会ったのも朱乃さんの神社なんだ。

 既に魔王様に話が行っていると思う」

 

さて。これは政府が先のスキャンダルをもみ消すために新たな起爆剤を用意したとも取れるが。

随分とまぁ、荒療治だことで。思いっきり劇薬じゃないか。

俺はイッセーに見えないようにPCを立ち上げ、バオクゥ宛にメールを送ってみる事にした。

下手をすれば、俺が一連の騒動に火をつけかねないのだが。

 

「……そうか。イッセー。俺は今、凄くやばい考えが過ぎっているんだが」

 

「ん? そりゃ驚きはしたけどよ。天使も堕天使も

 戦争はしないってトップが口を揃えて言ってるんだ。

 魔王様だって、この間の写真週刊誌の記事を馬鹿馬鹿しいって言ってたんだ。

 それってつまり、魔王様も平和には前向きって事だろ?

 俺は悪魔として、赤龍帝として大いに賛同するぜ」

 

何を能天気な……。そう思わずにはいられなかった。

天界は情報が少ないから除外するにしても、堕天使陣営は上位幹部が戦争を企てて

つい先日討たれたばかりじゃないか。

機運に乗ったって考えも出来るが、まだ世情は混乱しているだろう。

冥界だって、いくら魔王陛下が否定したところで

民間には例のスキャンダルが罷り通る位にはまだ堕天使陣営との溝は大きい。

そんな状態で、和平だ? 平和なめんなこの能天気どもが。

戦争をしない状態が平和って言うんなら、確かに今の日本とか平和だよ。

けれど、一体何を以って平和と見做しているのか。そこが問題だ。

実際には、はぐれ悪魔騒動は連日のように起きている。

塔城さんも討伐依頼を受けたといっていたが

既に超特捜課(ちょうとくそうか)に撃退された後だったと言っていたか。

そうした問題をガン無視して、和平とはなんともおめでたい……。

確かに対話や交渉は対等な立場でなければ成立しないと思っていたが

まさかそういう意味だったとは。

 

「……そうか。まぁ、警戒だけはしとけ。

 俺は今、凄く嫌な予感がしてならないんだ」

 

「前から思ってたけどな、お前は心配性なんだよ。

 そりゃあ、身体が戻らなかったから不安になる気持ちはあるだろうけどよ。

 悪魔の駒の不具合だって言うんなら、魔王様が何とかしてくれるって」

 

魔王陛下、ねぇ。俺は正直、あのサーゼクス陛下の対応を見ていま一つ信用ならないのだ。

良くも悪くも、グレモリーの血を引いている。俺にはそう見えた。

全ての悪魔を見ているのなら、あの振る舞いも頷けるが……果たして本当にそうか?

はぐれ悪魔。彼らの存在が、サーゼクス陛下の振る舞いを浮き足立ったものにしている。

堕天使や天界と和平を結ぶのなら、まずはそっちの問題を

どうにかすべきと言う気がしないでもない。

例えば。いざ和平を結んで、はぐれ悪魔による被害が

堕天使や天使に出たら、どうするつもりなのだ。

一度和平を結んだ後の問題は、結ぶ前よりも拗れる。信頼と言うものがなくなるからだ。

信頼は、築き上げるのは大変だが失うのは一瞬とはよく言う。

今まさに、その状態ではなかろうか。




色々やばい方向に話が動いてます。
(アザゼルに意図がなくとも)冥界に疑心暗鬼を生み出している以上
今回のミカエルの行為も(やってる事がそう変わらないと言う意味で)危険なんです。
勿論、パパラッチされていると言う前提ですが。

……だから戦力の一点集中はやめろっていったんだ!(言ってない
本作では実際アスカロンはイッセーの手に渡っていませんが
それはまたいずれ。

ところで……イリナ、何処にいるんでしょうねぇ。
ミカエルはこの事を知っているんでしょうか。

原作ではイッセーのご都合主義パワーアップイベントでしたが
本作では既にスキャンダルが発生しているので一筋縄では行きません。
(パワーアップイベントとも言ってない)

セージが閉じ込められているから地味に話が動かしづらいと思いつつも
今回の解説。

>どこかの大教授
これはバオクゥの元ネタの一人であるパオフゥの声が
中田譲治氏であることに由来。
大教授ビアス(超獣戦隊ライブマンより。演者は中田譲治氏)を指した
所謂中の人ネタでした。

本当はこういうネタを解説するのはご法度かもしれませんが
ネタがネタなので伝わりにくいかと思い……
その後の「規格外な吸血鬼」もまた中田譲治氏のキャラ由来。
バオクゥのデザインイメージの元は「艦これ」の青葉+「ペルソナ2」のパオフゥなので
規格外な吸血鬼のほうがデザイン的にはあっている……のかも。

>だが俺は謝れない
「謝らない」んじゃないんです。「謝れない」んです。
セージの立場上、勝手に謝罪って訳にも行きませんし。
責任感じていても、謝罪すら出来ないってのも辛いもんです。


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Soul45. 三人寄りて……

お待たせしました。
突貫で仕上げたので一部見苦しい点があるかもしれません。


E3乙で無事突破。
アレから結局追加は海風・江風のみ。
陸奥が2回、大淀が1回来ましたけど既におりました故に……
某小池提督はお元気でしょうか。


イッセーとの話が一段落付いた辺りでPCをチェックすると

案の定バオクゥからメールが来ていた。

 

 

差出人:バオクゥ

件名:天界スキャンダル

 

本文:

既に知り合いのジャーナリストが現場の情報を押さえている。

今回は政府が情報を握るのが早かったからか、前回のような騒ぎにはなってないが

既にネットやアングラでは混乱の兆しが見えている。

 

 

やはり、か。またスレッドをチェックしようと思った矢先に、Suikapeが立ち上がる。

バオクゥからボイスチャットの招待が来ている。

俺は迷わず、バオクゥの招待を受ける事にした。

 

――――

 

「いやぁ、昨日の今日でこんな事態が起きるとは思っても見ませんでしたよ」

 

「現場の情報を押さえたといったな? 詳しくは話せるか?」

 

反応が鈍い。まぁ、そりゃあそうか。特ダネも特ダネ、そんな情報を外部である俺に

ホイホイと漏らすと言うのも、彼女の盗聴バスターとして性質上ありえないだろう。

その代わりなのか、添付メールが送られてくる。

添付された画像には、確かにイッセーと天使の姿。それに、姫島先輩の姿も写っている。

 

……これはある意味、前回以上にアウトだ。前回はまだ、イッセー単独であったため

独断専行という言い訳は一応立てられた。

しかし今回は、グレモリー部長の腹心にして女王(クィーン)たる姫島先輩まで写っている。

彼女の独断専行となれば、それは大問題となろう。まずありえないが。

そうでなければ、それはそれでリアス・グレモリーと天界の内通疑惑になる。

つまり、前回と同じ言い訳は出来ない。

 

最も、これについては前回も言い訳はされていないのだが。

それを潔いと言うのか、ただの向こう見ずと言うのかは何とも言えない。

 

イッセーが息をするように嘘をつく性質ではない事は知っていたが

これでイッセーの証言の裏づけも取れた。

もしこれが前回のスキャンダルと同じ規模で出回っていたら

冥界は今頃大混乱に陥っていただろう。それは流石に俺も望むところではない。

 

「……そういうわけなんですよ、今回は私もヤバイと思いましたもん」

 

「これは……確かに公表できないな。しかし、こちらにもグレモリー家に対して

 恫喝が行われたと言う情報は来ていない。まぁ、幽閉中だから知らないだけかもしれないが」

 

真実を追い求めるのがジャーナリストとは言え、これは……。

タイミングがあまりにも悪すぎる。こんなタイミングで情報を公開されれば

徒に不安を煽るだけだ。

 

バオクゥと会話をしつつ、バックでネットの情報を調べてはいるが

案の定、画像は既に出回っていた。情報は政府が握っていたらしく

政府の発表では「歴史的瞬間! 赤龍帝と大天使長の和平交渉!」などと打たれているが

掲示板には「【足軽?】赤龍帝、コウモリだった【いいえ尻軽です】」

などといったスレッドが多くたっている。

 

「だが、これはアングラを突き破って地上に情報が出てくるのは時間の問題じゃないか?」

 

「政府動いちゃってますからねー……

 っと、すみません。私のほうのSuikapeに連絡が入ってるみたいです……

 

 ……はい、はい……ちょっ、そ、それ本当ですか!? い、今ここにいますよ!」

 

バオクゥがなにやら騒がしい。一体何があったのだろう。

まさかとは思うが、何かをしでかして冥界の警察やら軍やらの

ガサいれを食らってやしないだろうか。

そういう不安が過ぎり始めた頃、Suikapeには新たな参加希望者がログインしていた。

 

李覇池(リー・バーチ)? 中国籍の名前っぽいが。外部から攻撃を受けているのか?

とか要らぬ警戒心を持ってしまう。その警戒心を見透かされていたのか

バオクゥから間髪を入れぬフォローが入れられた。

 

「あ、さっき話してたあの情報を掴んだジャーナリストさんですよ。

 そちらのお話をしたところ、是非一度話がしたいって言ってましたんで」

 

……情報源に行き着くのはいいんだが、こうホイホイ情報を使われるのは正直どうかと思う。

まぁ、盗聴バスターなんて代物に頼ってる時点で情報なんてある意味筒抜けなんだが。

バオクゥの薦めもあり、俺はこの李覇池と言う者に参加許可を出す事にした。

 

……正直に言えば、少しだけ後悔した。

 

「よお。お前が噂の向こう見ずな『9個目の兵士(ポーン)』か。俺は李覇池。

 バオクゥから紹介があったと思うが、俺があのスクープを掴んだんだ」

 

バオクゥと違い、いきなり偉そうにのたまってくれたのは男の声。

それも、俺たちよりよほど年上……とは言え、中年ってほどでもなく

それでいて若すぎず、と言った感じの声だ。

 

「他にも、赤龍帝とアザゼルのスキャンダルとかも俺が掴んだんだ。

 最もこいつは、その直後に政府直属部隊(イェッツト・トイフェル)に睨まれちまったがな」

 

……こいつか! 冥界を大混乱に陥れたのは!

俺は人間界ほど冥界に対し愛着があるわけでもないが、かといって冥界で不要な混乱が起きるのは

あまり好ましくないと思っている。それ故に、この男の行為は少々不快感があった。

 

「……自慢げに語るのは結構ですがね。俺も一応はグレモリーの眷属である事をお忘れなきよう」

 

「よく言うぜ。俺の情報網をなめんなよ?

 散々リアス・グレモリーに対して不遜な態度を取っているばかりか

 それが災いして軟禁状態にあるのはどこのどいつだよ。

 そんな奴に今更忠実な下僕面されても説得力の欠片もないっつーの」

 

ご尤もだ。否定も反論もする気は無いが、こうもストレートに言われるのも痛い。

まぁ強いて反論をあげるとするならば、不当にグレモリー家を貶める真似は控えてもらいたい――

位は一応思っていたりもするんだが……それこそ、説得力に欠けるな。

 

「で……そんな事はどうでもいいんだよ。俺に聞きたいことがあるんだろ?

 聞いたぜ。転生悪魔をやめたいんだってな。

 あんなやり方をしてりゃ、お前みたいに反発持つ奴が出てこないほうがおかしいし

 実際、そういう奴らを何度か見てきた……がな」

 

やけにもったいぶった言い方だが、俺はまだこの李覇池と言う人物の人となりを知らないので

憶測で語らざるを得ないが……彼が知っている情報や顛末は、決していいものではないだろう。

どういう方法で情報を集めたかについても

かなりグレーどころかブラックなやり方もあるかもしれない。

聞きたいと言う思いはあるのだが、それを知ることへの恐怖もまた、同時に感じている。

 

「まぁ、今日はお近づきのしるしにただで話してやるよ。

 冥界には今、特A級はぐれ悪魔の黒歌って元猫魈の転生悪魔がいるんだがな。

 そいつもまた悪魔になって後悔したクチさ。妹を守るために悪魔になったはいいが

 その妹は事もあろうに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)推進派の

 グレモリー家長女に引き取られて、めでたく悪魔化だ」

 

……はぁ!?

猫魈っていやあ、塔城さんじゃないか!

姉妹が生き別れになった一因が、まさかグレモリー部長にあったとは!

 

……あ、あいつめ……!! よくもまぁぬけぬけと「私の大事な下僕」だなんて

のたまってくれやがるじゃないか! 悪魔の駒を蔓延させて、それによる不具合には目を瞑り

そうして起きた悲劇などどこ吹く風とばかりに私腹を肥やしていやがったとは!

 

……ふと、バオクゥが慌てて割って入ってくる。

俺の声、そんなに怒っているようだったか?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよリーさん。

 いきなりそっちから話したら、また混乱しちゃいますって!」

 

「へっ、埃まみれでいるほうが悪いんだよ。アレだけスキャンダルの種を抱えていたら

 俺たちフリージャーナリストにしてみれば

 『ネタにしてください』って言ってるようなものだぜ。

 いや……寧ろ逆にありきたりすぎて面白みに欠けもするな。はっはっはっは!」

 

……粗方この男の言う事は肯定できるんだが……どうにもイライラするな。

俺は建前上眷属と言う事になっているが、グレモリー部長に対する不信感こそあれ

忠義はこれっぽっちもない。しかしそんな俺でも、このリーと言う男の意見には

顔を顰めたくなる物がある。向こうに言わせれば「隙を見せるほうが悪い」んだろうが。

 

「リーさん。そんなんじゃまた政府軍に締め上げられますよ?」

 

「……そいつぁ勘弁だな。折角の俺の特ダネを

 あいつらはさも自分の手柄のように持って行きやがった。

 しかし解せねぇな。何で政府軍が政府にとって

 不利益になるような情報の公開の仕方をするんだ?

 確かに俺は出版社に画像を送りはしたがね」

 

そういわれてみればそうだ。あんなさも謀反の意思があるというような公開の仕方ではなく

この行いによって不信を抱くものもいるだろうが、決して冥界にとって不利益にならないよう

監視を強化するものである、といった内容なら一時的にせよ政府の評判も上がるだろうし

世間的に見ても角は立たなかったのではないかと思う。

調べてみたが、あのゴシップ誌で取り上げられて

初めてその他のニュースに流れ始めた感じだった。

 

「ま、俺はただ画像を送ってやっただけだ。そういう風に見たって事は

 冥界の民衆にもそういう風に見えた、或いはそうしたいって事なんだろうよ。

 人間の世界でも言うだろ。『火のないところに煙は立たぬ』ってな」

 

……得られた情報はともかくとして、現時点で分かった事がある。

このリーと言う男、少々癖の強い奴だ。

バオクゥはまだポーズかもしれないが、とっつき易さがあった。

だがこいつからは、刺々しさを感じる。下手に敵に回せば、風評被害は免れないだろう。

フリージャーナリストとは言え、決して善良な部類ではないのではなかろうか。

 

まぁ、取り扱っている話題が話題なだけに

そういう評価をリーもせざるを得ないのかもしれないが。

 

「話がそれちまったが、悪魔の駒に関してだったな。

 悪いが俺も一度悪魔の駒を植えつけられた奴が元の種族に戻ったって話は聞いたことがない。

 無いだけで、可能かどうかは俺も知らないがな。

 研究する価値はあるかもしれないが……生憎、悪魔の駒の研究は政府が独占で行っている。

 

 ……アジュカ・ベルゼブブ。四大魔王の一人にして、悪魔の駒の製作責任者とされている。

 こいつが全ての権限を握っている限りは、悪魔の駒に関するデータは

 トップシークレットって言ってもいい。

 悪魔の将来がかかった一大プロジェクトだからな、躍起にもなるだろうよ」

 

やはり、悪魔の駒に関する情報は一筋縄では手に入りそうも無いか。

今の俺の立場では、正攻法で尋ねたところでまともな返答が来るとは思えない。

……だめもとで試してみる、と言うのもありかもしれないが。

いずれにせよ、サーゼクス陛下ではなく

アジュカ陛下にコンタクトを取らなければならないわけか。

 

「けれど、結構きな臭い噂もあるんですよねー、悪魔の駒。

 さっき自分で言ってたじゃないですか。変異で害虫が生まれたり

 仕様上起こり得ない共有って事態が起きたり。

 聞けば、アジュカ様はバグを意図的に放置する事で有名な方だとか」

 

「中々興味深い状況じゃないか。是非今後とも取材させてくれないか」

 

リーとバオクゥ。冥界にいる二人のマスコミ関係者。

いずれも癖は強いが、今の俺にとっては貴重な情報源だ。

特に、祐斗や塔城さんでは知りえない冥界の裏事情も入手できると言う点は心強い。

付き合い方さえ間違えなければ、強力な味方になってくれるかもしれない。

 

……しかし塔城さんといえば。こんな形であの話の裏づけが取れるなんて。

当たり前と言えば当たり前なんだが、あの黒猫も最後に見たのは

俺が姉さんを見かけた病院の帰りだ。

まぁ、あの黒猫が塔城さんのお姉さんって決まったわけじゃないんだが。

そして、祐斗の時以上に俺はグレモリー部長が信用ならなくなった。

原因が分かっているなら、何故姉に事情を聞こうとせずに一方的に犯罪者扱いするんだ?

 

……最も、好意的解釈をすればグレモリー部長はどうにかしたくとも

政府がそれを認めない――なんて事も、まぁ考えられはするか。

それならそれで、随分と魔王陛下も冷たいことだが。

まぁ、俺に対してでさえこうなんだ。はぐれ認定された奴に対しては、推して知るべしか。

 

とりあえず、仕入れた情報を軽くまとめた後に俺は一眠りする事にした。

 

――――

 

後日。俺は祐斗から珍しい話を聞いた。曰く――

 

――ゼノヴィアさんが、イリナらしき人物を見かけたらしい、と。

 

それが本当ならば喜ぶべき事なんだが。そういえば、イッセーはあれだけゼノヴィアさんや

イリナの事を気にかけていたというのに、その上司に当たる大天使長と会ったんだよな?

その際に、質問はしなかったんだろうか。この間はそれをうっかり聞き忘れてしまった。

 

「で、ゼノヴィアさんはイリナと再会できたのか?」

 

「そこまでは。それよりセージ君。君に頼まれていた大那美(だいなみ)の人達と会ったんだけどさ。

 最近、結構この辺り厄介な連中が幅を利かせているらしいんだ。

 それこそ、君の友達でも手に負えないくらいの、ね。

 ……ああ、皆元気だからその辺は心配しないでいいよ」

 

「それならいいが。しかし、甲次郎(こうじろう)如月(きさらぎ)さんでも手に負えないとなると……

 出素戸炉井の連中が何らかの方法で強化されたか、或いは全く別の……

 それこそ、悪魔とか」

 

そう。如何に俺の旧友である大那美の皆が腕っ節に長けていようと

それはあくまでも人間基準の話だ。悪魔に出てこられれば、話は大きく変わる。

それだけに、今外に出られない現状がもどかしい。

最も、今の俺では普通の人間に毛が生えた程度だが。

 

「悪魔? いやいやまさか。セージ君、ここは部長の領地だよ?

 そんなここで、よその悪魔が勝手に契約とかしたら、部長が黙っていないよ。

 ……うん? だとすると変だね。普通の悪魔は、ここが部長の領地であるって知っている。

 それにも拘らず契約を行おうとするなんて、普通は考えない。

 はぐれ悪魔に契約を行う権限はないし、もっと言えばそういう知恵も失われている事が大半だ」

 

……そういえば。俺たちが今まで出くわしたはぐれ悪魔は皆

理性とかそういうものは一切飛んでいた。

とても作戦立てて行動するようなタイプのものは、今まで見なかった。

すると、塔城さんのお姉さんは大丈夫なのか?

もし再会できたとして、果たしてお姉さんは元のお姉さんなのか?

そもそも、はぐれ悪魔だって元々理性も何もない存在ではなかっただろうに。

これもまた、悪魔の駒の仕様なのか? いずれにせよ、はぐれになった途端

理性を失う仕掛けが施されていると見て間違いなさそうだ。

データが少ないので、憶測だが。

 

そう推論立てたのには理由がある。

一つは、悪魔になるということはそれ相応の力を手に入れること。

その力を、理性あるものに持たせた場合悪用されて手に負えなくなる。

まぁ、理性が無かったら無かったで危険極まりないんだが。

もう一つは、そうすることでためらい無く処理できるようにするためではないか、と。

意思疎通を図れる者を殺害する事と、意思疎通を図れない者を殺害する事。

どちらが良心を咎めないか。言うまでもなかろう。

この二つが主な理由だ。この推論が正しければ……全く。とんだ外道の秘法だよ。

 

「……セージ君。顔が怖いけど……何を考えているのかは何となく察しがつく。

 けれど、早まった真似だけはしないでくれないかい?」

 

「どの道出来んよ。つくづく悪魔と言うのは理不尽な連中だと思っただけさ。

 身勝手な連中が堕天使。この分だと天使は……傲慢?」

 

ため息をつきながら、俺はぼやく。別に祐斗に向かってぼやいているわけではないが。

しかし今述べた三勢力。それらが会談を行うって話らしいが……。

 

「そういえば祐斗。三大勢力が会談を行うらしいんだが……この噂は聞いたことがあるか?」

 

「どこで聞いたのかは聞かないよ。実際その通りさ。

 今回出席するのはサーゼクス様、セラフォルー様。

 それに堕天使からはアザゼル、大天使長のミカエル。

 この四人は決定しているって部長は仰っていたよ。

 場所は……ここ。駒王学園」

 

……他になかったのか。いつもいつも、人間の土地で勝手な事ばかりをする。

迷惑極まりない話だ。例え裏の世界の話でも、事が大きくなれば

それは裏だけではすまないと思うが。

結局、どいつもこいつも同じ穴の狢である。

案外、先祖を同じくするとかおんなじルーツの生き物だったりしてな。

だから思考回路が似通ったり……ちょっとトンデモ理論すぎるか。

 

「そういうわけだから、僕はこれから準備に……っ!?」

 

「うん? どうした祐……斗っ!?」

 

祐斗の異常を察した俺は、外にいる祐斗に呼びかけようとしたが

その視界の端に見えてはいけないものが見えた。

本来、この旧校舎に来る事は決してありえないはずの人物。

けれど、立場上ここにいてもおかしくない人物。

 

――薮田直人(やぶたなおと)先生だ。

 

「全く、誰も彼も勝手な理論ばかり振りかざして厭になりますね。

 ああ木場君。先ほどの話ですが三名追加です。

 日本神話の主神、天照大神。仏教勢力より大日如来。そして、場所提供責任者として私。

 以上三名、追加と言う旨はすでにグレモリー君にも伝えてありますよ。

 これだけの顔ぶれですからね。警備のほうも私の伝手で確保してあります」

 

「え……? あ、あの……先生?」

 

「ああ。この会議の参加資格者は『神の不在を知っている』事ですからね。

 天照様も大日様も、所謂聖書の神の不在は知っておられます。

 私はただ、場所を提供する条件として何が行われているのかを

 校長先生の代理として見届けさせていただくだけですよ」

 

……わ、わからん。この人と話すと、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

この人はそもそも人間なのか? だが、とてもただの人間には思えない。

記録再生大図鑑が効かない事と言い、二天龍も恐れなかったと言う話もあるくらいだ。

 

そんな薮田先生に、祐斗は恐る恐る尋ねる。

それは、俺も知りたいことだった。

 

「薮田先生、あなたは……一体……?」

 

「……『私』の、そして彼らの後始末をせねばならない立場の者。

 とだけ今は言っておきましょう。どの道、会談の席では

 私の素性については話さなければならないでしょうし

 知っているものもいるでしょう……コカビエルのように。

 それから……歩藤君とお呼びすれば? それとも宮本君?」

 

「どちらでも。今の俺には、あまり関係はありませんので」

 

「では宮本君。私からこの言葉を贈らせていただきます。

 『天は自ら助くる者を助く』。それから、正式な発表は会談当日ですが

 天照様と大日様は日本神話と仏教間で『神仏同盟(しんぶつどうめい)』を結成するそうです。

 この日本に住むあなた方を彼ら彼女らは決して見捨てたりはしない。

 そう私は思っていますよ」

 

……規模が大きすぎて、実感が沸かない。

ただ、薮田先生もあの場にいたとは言え俺の事情を知り

その上で言葉をかけてくれた。それは素直にうれしい。

祐斗も、あまりの出来事に唖然としているようだ。俺も唖然としている。

 

「さて、それでは私はこれで。あまり長居すると、グレモリー君に怒られますからね。

 それから、下校時間は過ぎています。部活動に打ち込むのも結構ですが

 高校生らしい生活を送るようにだけは、心がけるようにしてください」

 

下校時間も何も、俺はここに幽閉されている状態なんですが、とは流石にいえなかった。

言うだけ言って、薮田先生は帰っていってしまった。

うーむ。一体何をしに来たんだ?

 

「激励に来たのかな。でも何で薮田先生がセージ君の事を……?」

 

「……それについては考えるのはやめにしないか、祐斗」

 

結局、その日俺は帰っていく祐斗を見送り、入れ替わりで来た塔城さんに顛末を一部話しつつ

ネットで情報を漁る事にした。

 

 

――三大勢力の会談まで、残る日数はごくわずか。




ターニングポイントは近いです。
思わせぶりな事ばかり言ってた薮田先生もいよいよ重い腰を上げるようです。
三大勢力の和平会談は吊るし上げ会場になってしまうのか。

今回の解説。

>リー・バーチ
漢字で書くと李覇池。少々柄の悪いフリージャーナリストですが
こちら元ネタは「ウルトラマンメビウス」より
あの悪名高きヒルカワこと蛭川光彦。
名前もリーチ(蛭)とリバー(川)の合わせで。
バオクゥはアバオアクーという悪魔(幻獣)モチーフが存在していますが
こちらは悪魔系列の名前が一切存在しません。
つまり、転生悪魔って事になります。

……でも元ネタの悪辣ぶりを踏まえると純血悪魔でも違和感がない、ふしぎ!


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Tragedy of juvenile crime

今回はセージ視点から一旦離れます。
三大勢力の和平会談に向かって事態が動いている頃
人間界の生活も影から変化がいよいよ大きく現れ始めます。


……それに伴い、結構えげつない描写があったりします。
また、固有名詞以外ハイスクールD×D要素が全くありませんが
そこは気にしたら負け、で。

和平会談前の駒王町の様子という、原作にない場面でもありますし。


その日、超特捜課(ちょうとくそうか)はある事件のヤマを追っていた。

ここ数日に急増した駒王町内における、少年犯罪だ。

その内容は一昔前の恐喝やひったくりも含まれるが、中でも目を引くのは

ドラッグ――つまり、薬物絡みの犯罪だ。

 

薬物犯罪の低年齢化はここに限った話でもないが、それは見過ごす理由には全くならない。

捜査を進めていくうち、それらは駒王町を拠点とする

二つの学校の生徒が大きく関与している事が分かった。

 

一つは、学生の間でも悪名高い出素戸炉井高校。

そしてもう一つは、幼稚園から大学までの一貫であり優秀な人材を多数輩出している

名門校・金座(かねざ)学園。

この正反対の二つの学園の生徒が、昨今の駒王町の少年犯罪の主翼を担っているのだ。

 

時刻は夕方を間もなく迎えようという頃。駒王町にあるショッピングモールには

学校帰りの学生がたむろしており、先に挙げた二つの学校の生徒も例外ではない。

となれば、警察の目が向くのも至極当然の事。

 

「フン。やっぱアイスは棒に限るな」

 

安玖(あんく)巡査。一応職務中なんですが」

 

警らに当たっているのは駒王警察署超特捜課の氷上(ひかみ)巡査と

フードコートのアイス屋で買ったアイスを頬張りながら歩く同じく超特捜課の安玖巡査。

制服で巡回を行っては目立ってしまうため、私服巡回を行っているのだが――

 

「それにその格好はまずいんじゃないですか。制服も目立ちますが

 その私服だって、悪目立ちしすぎると思いますが」

 

「おい。俺がダメだったら(やなぎ)の奴のジャケットだってアウトだろうが。

 あっちがよくてこっちがいいなんてダブルスタンダードは、ガキどもにも舐められるぞ」

 

安玖の服装は、派手めのシャツに赤系のロングレザーパンツと、おおよそ警官らしからぬ格好だ。

普通の黒系のスーツで固めている氷上とは、浮いてしまうほどに差がありすぎる。

しかし安玖の言うとおり、上司である超特捜課の課長・テリー柳の私服である

赤いレザージャケットもまた、悪目立ちしてしまう服装だ。

氷上の指摘は、彼の不器用な性格同様から回りしてしまう事となってしまった。

 

そもそもそれ以前の問題として、何故彼らがここにいるのか。

勿論、通常業務である町内警らの一環でもあるのだが、昨今の少年犯罪増加の報せを受け

青少年の多く集まる時間帯・場所である今このときに、こうして警らを行っているのだ。

 

では何故、通常の少年犯罪課ではなく彼らなのか。

彼ら超特捜課は、通常の人間による犯罪ではなく、悪魔や堕天使と言った超常的な存在による

犯罪を食い止めるべく結成された部署である。

そんな彼らが動くと言う事は、即ち一連の事件の裏にそうした存在が確認されたと言う事である。

 

「しっかし……何で俺らがガキどもの見張りをしなきゃならないんだ?

 こういうのは少年犯罪課か生活安全課の仕事だろうが」

 

「そうもいきませんよ。曲津組(まがつぐみ)と悪魔、曲津組と学生。これらに繋がりがあるって事が

 今までの調査で判明してるんですから。前回の強盗事件の時のように

 悪魔が出てきてもいいように我々が動いているんですから」

 

数日前、指定暴力団組織である曲津組の組員を自称する者による銀行強盗事件が起きた。

その際、彼らは悪魔を召喚し、自分達のボディガードに当たらせたのだ。

最も、その悪魔は市井の神器(セイクリッド・ギア)持ちの男性によって撃退され

自称組員はお縄につくこととなったが。

 

その事件を受け、曲津組が悪魔を使役する事が明るみに出たこともあって

警視庁はかねてから計画していた、超特捜課への曲津組対策の協力要請を実行に移したのだ。

その一環でやって来たのが、安玖巡査というわけだ。

 

「んなこたぁ知ってるんだよ。そのお陰で俺がこっちに来たんだろうが。

 しっかし……本当にこの町は悪魔が大手を振って歩いてやがるな。

 ほら、あの広場でチラシ配ってる奴。アイツも悪魔だ。

 ……ま、今回の件には関係なさそうだがな。聞き込みしたって無駄だろう」

 

安玖巡査の右腕に装備された腕輪型の神器「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」のお陰か

悪魔とそうで無い者の見分けは容易い。

元々は欲望に対し反応する神器なのだが、人と悪魔とでは欲望の種類が若干、異なる。

その大元は同じなのだが、欲望の発展の仕方が少し異なるのだ。

本人曰く「欲望の色が少し違う」との事らしいのだが。

 

ショッピングモールの広場の一角でチラシ配りをしている女性を指し示し

安玖巡査は彼女が悪魔であると語る。

実際、彼女はリアス・グレモリーの使い魔であり悪魔に連なるものに変わりはなく

また、安玖巡査の指摘通り、彼らが追っている事件とは全くの無関係だ。

 

「生活安全課に言うべきでしょうか?」

 

「やめとけ。相手は悪魔だ、催眠術やら何やらで言い逃れされるのがおちだ。

 俺たちが行けば取り締まれもするだろうが、今それ躍起になることか?」

 

安玖巡査の言い分はこうだ。生活安全課と超特捜課は別段不仲では無いものの

超特捜課が命令もないのに生活安全課の仕事をするべきでもない。

まして、超特捜課は現在組織犯罪対策本部より曲津組摘発の協力要請を受けている。

そちらを優先するのが筋と言うものだろう。

 

「それもそうですね……安玖巡査、あれを!」

 

「あん? ……ああ、ありゃあ間違いないな」

 

二人の刑事が目を向けた先は何の変哲もないCDショップ。

そこの陳列棚の前で、不審な動きをしながら通り過ぎる、駒王学園の制服を着た学生。

直後、陳列棚にあったCDの数枚が、学生の持っているかばんの中に入り込んでいった。

万引きである。その一部始終は完全に二人の刑事に見られていたのだ。

 

「安玖巡査。あれは見逃せないですよね……あのまま外に出ればですが」

 

「たりめぇだ。ったく、せめて裏で曲津組と絡んでて欲しいもんだな」

 

これには安玖巡査も前言を翻さなければならない。

まさか、現行犯を見てみぬ振りも出来ないからだ。

せめて、そのまま彼がレジに向かえばまだよかったのだが。

かばんに入れておいてそんな事をするはずもなく、学生は店の外に出てしまおうとする。

当然、そうなる前に二人の警官が学生の足を止める。

 

「なっ……なんですか」

 

「駒王警察署の氷上涼(ひかみりょう)巡査だ。

 すまないけど、店の人も交えた上できちんとお話がしたい。

 ついて来てもらえるかな」

 

しどろもどろな対応を見せる学生だが、氷上が見せた桜の大紋に事態を飲み込んだのか

観念して二人の刑事に従う事となった。

 

――――

 

店の裏。学生の言い分はこうだ。

自分は、他の学校の生徒に脅されて仕方なくやった。

前々から、その学校の生徒は何かに付けて駒王学園の生徒を目の敵にしている。

その学校がどこかは言えない、言ったら殺される。

 

あまりの出来事に動転している部分もあるのかもしれないが

話の内容としては筋が通っており、納得のできるものだった。

 

「よく話してくれた。確かに、万引き――泥棒は立派な犯罪だけど

 犯罪の幇助も当然、犯罪だ。後は自分達が何とかする。

 店の人も、未然に防げて事もあって今回は君のことを訴えないって言っているから

 今後はこんな事をする前に、学校か自分達に話して欲しい」

 

「学校は……ダメです。今の学校は、何か得体の知れないモノに支配されていて……。

 信じられないかもしれませんけど、駒王学園には幽霊や怪物が出るんです!

 最近では白昼のポルターガイストとか、右手のない幽霊とかまで出るようになって……。

 でも、折角入った学校をやめるなんて事も出来ないですし……」

 

「怪物ねぇ。氷上、俺達にはうってつけの案件じゃねぇのか?

 っつーかな。学校やめたくないんだったら犯罪に手染めんじゃねぇよ」

 

たちの悪い怪談話のような学生の証言だが、氷上も安玖もそれを一笑に付すこともなく

しっかりと耳を傾けていた。それは話した学生自身も驚きの事だったが

そもそも超特捜課は悪魔や幽霊など超常的なものを相手にする部署だ。

今回は偶々万引きの現場に彼らが居合わせたため、警官としての職務を果たしたに過ぎない。

 

……最も、彼の言う怪物はともかく、幽霊はいずれも基本害を為さない存在だが。

今でこそ幽閉されている件の幽霊は、人間の味方であろうと願っている事を

この生徒は知る由もない。

 

「よかったな坊主。俺たちはな、警官は警官でも

 『怪物とだって戦える』警官なんだ。怪物にびびってるんなら、心配はいらねぇ。

 だからさっさと話せ。お前に万引きを指示したやつらが、どこの奴か。

 それとも……やっぱり全部お前が考えてやったのか?」

 

「ち、違います! だ、だったら……お願いがあります!

 その怪物をやっつけてください!

 丁度これから、そいつらと会う手筈になってるんです……

 僕が相手の学校の事を言えないのも、その怪物が後ろにいるからなんです……」

 

学生が言うには、万引きさせたものを受け取るために

これから万引きを指示したグループと落ち合う手筈になっているとの事。

そこに、氷上と安玖が乗り込み全員逮捕、と言うわけである。

 

しかし、学生はこうも言っていた。

グループのバックにはとても怖い奴がいて、下手に逆らおうものなら怖い目に遭う、と。

そのため、彼も中々学校や警察に言えずにいたのだ。

その怖い奴こそ、怪物だと言うのだが――

 

その話を聞いて、氷上も安玖も合点がいった。

――間違いなく、その怖い奴は悪魔ないし超常的な存在であり。

それは、曲津組がバックにいるか、少年犯罪グループが悪魔と契約しているか、のどちらかだ。

 

「念のため、柳さんに報告もしておきました。

 後は、我々が彼に同行してグループを取り締まるだけですね」

 

「向こうもこいつが捕まった事を知ってるかもしれねぇ。

 準備はしておいたほうがいいかもなぁ?」

 

相手がただの学生グループならまだしも、暴力団関係者、果ては悪魔だったりしたら

事はかなり大きくなってしまう。かと言って、何の準備もなしに乗り込んで

悪魔に出てこられたら、いかに超特捜課と言えども返り討ちだ。

匙加減の難しい話だが、それが人間と悪魔の関係でもあり

人間社会に悪魔が入り込む事の意味する事でもある。

 

――――

 

学生に案内され、ショッピングモールの地下駐車場にやって来た氷上と安玖。

人通りは少なく、監視カメラも死角が多いために密会にはうってつけの場所ともいえる。

また、地下特有の鬱屈とした空気が怪異の存在を呼び込みかねない空気を生み出している。

かつて、セージがはぐれ悪魔を単独で撃退したのも

丁度この地下駐車場から出てすぐのところだった。

 

車が何台か止まっているスペースの一角に、学ランとブレザーの一団がいる。

学ランが出素戸炉井、ブレザーが金座高校の生徒だ。

彼らの前に、恐る恐る万引きをさせられた駒王学園の生徒が現れる。

氷上と安玖は、柱の影からその一部始終を見守っている。

 

「よう。約束の品は持ってきたか?」

 

ブレザーの生徒に促され、駒王学園の生徒は恐る恐るCDケースを渡す。

これは店に陳列しているサンプルであり、本物ではない。

事情を聞いた店側が用意したのだ。

 

「……ちっ。こいつはサンプルじゃないか。使えねぇな。

 おい、もう一辺行って来いよ」

 

「ねぇ、まだなのぉ? あたしぃ、早くこの曲聴きたいんだけどぉ」

 

悪びれる様子もなく、ブレザーの女子生徒が早く行けとばかりに

駒王学園の生徒を急かす。

動く事を渋っていると、今度は学ランの生徒に胸倉をつかまれる。

 

「ま……またですか? や、やったら見逃してくれるって言ったじゃないですか……」

 

「あぁ!? いいから早くしろっつってんだよ!」

 

学ランの生徒の蹴りが駒王学園の生徒の尻に入り、倒れこむ。

その様子を眺め爆笑するグループ。

まるで出来の悪いバラエティ番組か何かだと思っているのだろうか。

勿論、やらせでやっているそれとは全く異なるのだが。

 

「おっ、今の蹴りいいじゃ~ん? なぁ、今度こいつがどじったら

 みんなでいっぺんずつ蹴り入れるってのはどうよ?」

 

ブレザーの生徒の提案に、グループ全員の賛同の声が上がる。

再び生徒を万引きに行かせようとしたその時。

サイレンを鳴らさずにパトカーが入り込み、少年グループを包囲。

ヘッドライトでグループを照らしつける。

 

「そこまでだ! 今までの行動は、全て録画録音しておいたぞ!」

 

「揃いもそろってしけた欲望だな。罪状を読み上げてやろうか?

 恐喝・暴行・犯罪幇助。少年だからって言い訳は今はきかねぇぞ?」

 

氷上と安玖が駒王学園の生徒をかばう形で躍り出て

出素戸炉井と金座の生徒に罪状を突きつける。

しかし、彼らの応対は全く物怖じしないものであった。

それは、若さゆえの無鉄砲ではなく、権力を笠にきた薄汚いものだった。

 

「警察!? チョー受けるんですけど!

 こんなところにやってくるなんて、随分暇なんすね刑事さん!」

 

「だってぇ、アタシら金座だしぃ?

 金座ならぁ、警察だろうとなんだろうと怖くないってセンパイ言ってたしぃ」

 

「けっ、そんな事だろうと思ったぜ!

 警察が怖くてやってやれるかってんだ!」

 

「そうよ! 手出しできるもんなら出してみなさいよ!

 警察官に暴行を受けたって訴えてやるわ!」

 

「なぁ刑事さんよ。俺たちはこの町を牛耳る、いや牛耳ってるお方の庇護を受けてるんだ。

 そんな俺らに手出ししちゃっていいのか? お偉いさんが黙ってないと思うぜ?

 それとも……さっきのアレ、真に受けてたりするわけ?

 だとしたらチョー受けるんですけど! あんなん遊びだよア・ソ・ビ!」

 

彼らの言いたいことは歪んでいるものの、要約すればこうだ。

自分達は善良な一般市民、それも少年である。

警察はそんな自分達を不当に取り締まろうとしている。

もしそうなるのであれば、然るべき場所に訴える、と。

 

しかも、さっきの自分達の行いは遊びである。

それを真に受けて、取締りなどされてはたまったものではない、と。

 

「……嘘ならもっとマシな嘘をつくんだな。

 実際に被害届が出てんだよ。このショッピングモールのCDショップ、アクセサリー屋。

 それから他にも色々とな。店員の証言もしっかり出てるんだ。

 防犯カメラの映像を見たっていい。つまり、何が言いたいのかって言うとだな……

 

 ……大人なめんな、ガキ」

 

「舐めてるのはそっちのほうっすよ刑事さん?

 俺たちはねぇ……悪魔。悪魔なんだからよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

安玖の凄みにも物怖じしないどころか、逆に凄み返す始末。

だが、実際に悪魔と戦える実力を持つ安玖を前にしては、まさしく児戯と言えよう。

その凄みは氷上にも向けられていたが、当然こちらにも効果はない。

 

「言いたいことはそれだけか。後は署でゆっくりと聞く。

 さあ、早くパトカーに乗るんだ」

 

「……っ! 氷上、後ろだ!!」

 

彼らの凄みを無視して氷上がグループをパトカーに乗せようとするその時だった。

 

――背後からの奇襲。そこには、駒王学園の生徒がいたはずである。

だが、そこにいたのは灰色の甲虫のようなはぐれ悪魔。

ドラゴンアップルの害虫とも呼ばれるタイプである。

左胸部分についた駒王学園の校章が、それがさっきまで氷上や安玖と会話していた

生徒その人であることを物語っていた。

 

「ゥォォォォォォォン……」

 

「な……っ!? 悪魔化したというのか!?」

 

「え……こ、こいつって一体どうなってんのよ!?」

 

思わず身構える氷上だが、はぐれ悪魔はさっきまで駒王学園の生徒を苛めていたグループに対し

敵意を向けている。まるで、今までの復讐であると言わんばかりに。

次の瞬間、はぐれ悪魔の爪が出素戸炉井の生徒に突き刺さる。

その傷口からは人間界では見慣れない植物が芽吹く。

まるで、傷口から命を吸い尽くすかのように。

 

「ぐああああっ!? な、なんだよこれ……なんだよこれぇぇぇぇぇっ!?」

 

「や、やばいって……」

 

「に、逃げるぞ!」

 

出素戸炉井の生徒を見捨て、金座の生徒は我先にと逃げ出そうと試みるが

はぐれ悪魔は背中から羽を生やし、背後から金座の女子生徒を突き刺す。

傷口からはやはり同じように、植物が芽吹きだしていた。

痛みと非現実的な現象に、混乱をきたしてさえいた。

 

「い、痛い……イタイ……たす……けてぇぇぇ」

 

「ひっ……く、くるな……くるんじゃねぇぇぇ!!

 あ、あっち……あっちいけぇぇぇぇ!!」

 

リーダー格の生徒の言葉を引き金にしたかのように

女子生徒もまた、甲虫型のはぐれ悪魔に変異する。

怒りとも悲しみともつかぬまま、リーダー格の生徒を爪で滅多刺しにして。

 

「ひどイ……カノジョだっテ……いっダのニィィィィィィ!!」

 

そこからは、残ったグループの生徒も我先にと逃亡を試みるが

統率の取れていないその行動が仇となり、却って危険に晒される事となってしまった。

その突然の出来事に反応が遅れてしまったが、氷上と柳も制止のために動き始める。

 

「安玖巡査!」

 

「チッ、神器使うのだってタダじゃねぇんだぞ!」

 

安玖の持つ神器「欲望掴む右手」は持ち主の持つ何らかの財産を糧に発動する。

物的なものに限らず精神的な財産でも発動するが、動作が不安定になるため

専ら物的財産を糧に発動させている。そのせいで安玖は生活に困窮しているとかいないとか。

その分、性能は折り紙つきといえる。

 

昔、冥界の協力を得て人間が欲望を糧に動くホムンクルスを製造しようとした事があった。

この神器は、その製造過程で生まれたものだ。つまり、代償を支払い

ホムンクルスの持っていた力を再現する事ができると言うのである。

それから時は流れ、神器のシステムも不安定となり、メンテナンスをするものもいない。

まして製造年代は気の遠くなるほど昔。

安玖でさえ、その性能を完全に発揮しているわけではない。

火球を放ったり、空を飛べたりするのは十分すぎるほどの高性能だが。

 

……しかし、場所が悪すぎる。

地下駐車場の、限られた一角においては火球発射能力もそうだが

飛行能力などあまり役には立たない。

 

氷上も無線連絡後、神経断裂弾入りの銃やプラズマフィストの準備を進めている。

相手が純粋に怪物であれば、容赦なくこれらの武器を叩き込めたのだろうが

今回は、さっきまで普通に人間だった相手である。

そんな彼らに武器を向けることに、氷上は躊躇うも発砲する。

 

「おい氷上! 狭いがここでなんとかするしかねぇな!」

 

「そうですね、外に出たら大騒ぎだ!」

 

変化してしまったものを救う手立てはない。例えあったとしても、氷上も安玖も知らない。

被害を増やさぬためにも、倒すしかないのだ。

どういう経緯で駒王学園の生徒がはぐれ悪魔になってしまったのか。

それは今は、分からない。分かるのはただ一つ。

目の前にある明確な脅威として既に存在している事。ただそれだけである。

討つ事に抵抗がないわけではない。だが、討たねばならないのだ。

 

「ゥゥゥォォォォォォ……」

 

その悲しげな声を辞世の句に、かつて駒王学園の生徒だったはぐれ悪魔は

神経断裂弾を頭部の顔部分に受け、そのまま地に伏した……。

 

それを皮切りに、次々とはぐれ悪魔は撃退されていく。

被害は最小限で済んだが、悪魔化した少年達が元の姿に戻ることは

終ぞ、なかった……。

 

――――

 

現場検証が行われたのは、その後すぐの事だった。

報告を受けた超特捜課課長、テリー柳と外部協力者の技術顧問、薮田直人(やぶたなおと)も顔を出している。

 

「……事情は分かった。災難だったな氷上、安玖。

 少年犯罪課への報告は俺からやっておく。お前たちは休んでいろ」

 

「そうさせてもらうぜ。さ、帰ってアイス食って寝るか」

 

普段と変わらぬ態度を示す安玖に対し、氷上の表情は優れない。

無理もない。いくら人に害を成すはぐれ悪魔と言えど、さっきまで普通の少年だった者を

銃で射撃したのだから。

 

「……柳さん、薮田さん。俺は、俺は悪魔を生み出す奴が許せません。

 殺してやりたいほど憎いです! 何で、何で普通の少年までも……っ!!

 しかも駒王学園と言えば、この町を統括する悪魔がいるところじゃないですか!!」

 

「……報告は聞いている。俺がお前の立場でも、きっと同じ事を思っただろう。

 だが氷上。今こんな事を言うべきではないかもしれないが……

 

 ……憎しみは確かに人を強くする。だが憎しみで人は守れない。

 俺たちの役目はなんだ? 人を守る事だろう? 誰かを殺める力じゃない……」

 

(……うっせーんだよ氷上。俺だってわかってんだよ。

 悪魔のバカどものせいで、こんな事態が起きてるってことはな……)

 

氷上の悲痛な叫びに、柳も薮田も同調する。後ろで聞いていた安玖も内心ではそう思っていた。

被害にあうのは、いつだって弱いものだ。

彼らばかりが苦しむ現状は、誰しも善しとはしていない。

 

「柳君の言うとおりです。氷上君、被害者が駒王学園の生徒と言う事で

 私からも心中察するに余りありますが、元凶の命を絶つ事は警察官の仕事ではありませんよ。

 私の研究は、守るためのものであり、破壊のためのものではありません。

 そのためにも研究のため遺体の解剖は私が進める……といいたいところですが

 私も多忙を極めておりまして……。

 後任にギルバート・マキ博士が近々来られる予定ですので。

 少々性格に難はありますが、腕のほうは信頼できます。

 今後このような事態が起きないためにも、彼に後任を依頼し

 既に本郷警視総監にも話は通してあります」

 

薮田もまた、氷上の叫びを真摯に受け止め、諭していた。

また、そんな彼の速い仕事っぷりに柳は舌を巻いていた。

なにせ、外部協力者である自分の後任を用意するばかりか

既に警視総監にまで話を進めているというのだ。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のバグの再現実験とも思いましたが

 アジュカがあの程度のバグ取りをするとも考えにくいですね。

 となると、ドラゴンアップルの生育域拡大が目的でしょうか。

 しかし、生育者のタンニーンとて曲がりなりにも龍王の一角。

 邪龍の如き所業に手を染めるとも考えにくいですが……

 赤龍帝と同じ価値観であれば、危ういですね。

 最後の可能性は……悪魔の駒ではなく、既に発生しているあのタイプのはぐれ悪魔から

 採取した毒を何らかの方法で直接投与したか。これが一番可能性としては高そうですね……。

 そうなると、その動機が鍵になってきますが……

 それは柳君達に調べてもらわないといけませんね)

 

一方で、薮田は薮田で原因の究明を試みていた。

薮田にしか知り得ない知識。どこで仕入れたのか全く分からない

謎の知識を総動員し、こうなるに至った原因を突き止めようとしていたのだ。

薮田は、外部協力者であり超特捜課の誰よりも人外組織について明るい。

中には、何故それを知っているのだと言いたくなるものもある。

 

「柳課長! やはりこの一味は、曲津組と接触があったようです。

 この辺りで曲津組が使っている車を見たと言う複数の証言もありました」

 

「曲津組か……一度、徹底的に洗ってみる必要がありそうだな。

 生徒の悪魔化も、ドラッグによるものだと考えればある種、説明がつく。

 人間界に出回っているドラッグに、正気を失わせるものはあっても

 外見も怪物にするものはなかったはずだ。

 

 ――令状を取ってくれ。曲津組の事務所にガサを入れる」

 

柳も聞き込みを行っていた警官から仕入れた情報をまとめていた。

曰く、はぐれ悪魔化した女子生徒に殺されたリーダー格の生徒は

よくない連中――曲津組との接点が間違いなくあったということ。

兼ねてから疑われていた曲津組による少年犯罪への関与は、ここに来て決定的なものとなった。

悪魔との接点も疑われている彼らとの繋がりは、悪魔化にも何らかの関係性があるのではないか。

柳は、そう睨んでいた。




サブタイ訳は「少年犯罪の悲劇」。

今回の話の裏モチーフは「仮面ライダーW」の
バードメモリのエピソード。
あちらは尻……霧彦さんのお陰で事なきを得ましたが
こちらは「仮面ライダー鎧武」よろしく悲惨な結末になってます。
超特捜課は人外に対応できますが、人外化した存在を直せるわけじゃありません。
人間が人間をやめるってのは、つまるところそういうことであると思うんです。
余談ですがセージ人間化ルートはこっちの道でも閉ざされました。

尚今回時系列的には薮田先生がセージの面会に現れる前の話になります。

それでは今回の解説。

>安玖の神器
これの由来はそのまま「仮面ライダーOOO」におけるグリードの出生と
グリード態アンクの能力から。発動条件が凄く現金ですが
こういう神器もありじゃね? と。
結果、オーズというよりバースに近いギミックになってしまいましたが。
ちなみにセイクリッド・ギア・キャンセラーを食らうと財産の減らし損。

>氷上がはぐれ悪魔と正規悪魔の区別がついていない件について
悪魔の側にしてみれば、明確に区別される二種ですが
事情を知らない人間側にすればどっちにしたって同じです。
悪魔の恩恵にあやかれるのは実際に契約をしたもののみ。
それ以外ははぐれ悪魔の餌。
悪魔に対し人間の悪感情が生まれるのも時間の問題ですと言うか
生まれないほうがおかしいでしょう、これ。

>ギルバート・マキ博士
警視庁における薮田先生の後任。
この辺りでも薮田先生が和平会談に向けて準備している事が伺えます。
名前の由来は「人造人間キカイダー」のプロフェッサー・ギルと
「仮面ライダーOOO」の真木清人とギルこと恐竜グリード。
ドクター真木と恐竜グリードはある種、同一人物ですけどね。
ギルバートと言う名前は「キカイダーREBOOT」より。
役者さんはどこぞの理事長ですけど。

>本郷警視総監
元ネタは劇場版「仮面ライダーアギト」の警視総監。
今は敢えて元ネタ以外の説明はしません。
元ネタは上記の通りですが、下の名前は猛ではありませんとだけ。


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お待たせしました。
投稿時間が今後も不安定になりがちですが
こんごともよろしくお願いいたします。


前回に引き続き、超特捜課をはじめ
人間サイドのお話です。
この世界において、何の力も無い、何の変哲も無い人間は生きるに値しないのでしょうか。
異質なものばかりに目を向けていると、ふとそうした彼らの存在が気になります。
人間全てが平等であると甘い考えは持っていませんが
平等であろうとする志まで否定されている、そんな気さえします……(某契約者を見つつ)


駒王町。日本国に所在するいち地方都市であるここは

冥界の貴族、リアス・グレモリーの領地としての顔も併せ持つ。

しかし、その事を知る者は決して多くない。

 

それがただの金持ちのお遊戯程度に、生活に支障をきたさぬ程度に

名前だけ、そう言い張っているだけならば田舎貴族の戯言で済んだかもしれない。

ところが、現実とは斯くも厳しいもので。

人間が普通に生活を営んでいるだけならば決して起こり得ないような事件。

昨今、人間の生活圏において実しやかに囁かれている人ならざるものによる事件。

 

そこに起因するものは、人ならざる者達の不仲だったり、それぞれの権威だったり。

いずれにせよ、自分達の都合によるものである。

それはまるで、人間が自分達の歴史の中で葬ってきた自然とその生物達への行いを

そのまま自分達に返されたかのように。

 

立場は変わり、歴史は繰り返される。

人は、生息地を追われる側に。かつて自分達が数多の生き物の生息地を狭めたように。

今度は、自分達が生息地を追われる時が来てしまったのだろうか。

 

……だとしたら、それは否。

人は、己が犯した過ちを受け入れ、歴史として見つめなおし先に進む。

それが、自然の掟に従い野に植え、栄え、散っていく数多の生物との違いである。

神話的に言うならば、神に背いてまで「知恵」と言うものを得た特権にして、義務。

 

義務なき権利は存在しない。いや、存在してはならないのだ。

過ちから学び、変えていく。それが与えられた知恵を振るう権利に対する義務である。

過ちは繰り返される。だが、そこから一歩ずつ進む事こそに

知恵の持つ価値はあるのではなかろうか。そう――

 

――かつて人が犯した過ちを、人より優れていると吹聴する人ならざる者達が

何故、今また犯そうとしているのか――

 

――――

 

駒王町、某所。

広域指定暴力団・曲津組(まがつぐみ)の事務所が入っている雑居ビル。

元々人気の少ない、中途半端に古びたビルであるためか、よからぬ空気も蔓延している。

実際、暴力団の事務所が入っているのだからその表現も適切ではあるのだが

その暴力団は、人ならざる邪悪なものとも取引があるのだ。

 

人ならざるもの、とりわけ悪魔が好みそうな空気。

それは当然太陽の光り輝く光明に満ちた空気ではなく、光の届かない鬱屈した空気。

雑居ビル全体を、そんな空気が包んでいるかのようだ。

 

そんな雑居ビルを、数台のパトカーが取り囲んでいる。

駒王警察署の超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)と、警視庁の組織犯罪対策課の合同調査。

とりわけ、今回は俗に言うガサ入れである。

悪魔との接触により不当な利益を得、また人間社会に害を成す行為が行われている。

その物証を挙げるため、今回の捜索が行われるのだ。

 

「しかし、よく認可が通ったな。もっとこう上から圧力が来ると思ってたがな」

 

「来たぞ? と言っても、署長の方じゃなくて悪魔のほうだがな。

 自分の町で勝手をするな、と言っていたが……全く話にならん」

 

超特捜課の安玖(あんく)巡査のボヤキに対し、超特捜課課長であるテリー(やなぎ)警視は忌々しげに語る。

確かにガサ入れの許可である令状は取れた。しかし、そこで思わぬ場所からの横槍が入ったのだ。

リアス・グレモリー。この駒王町を取り仕切る悪魔……なのだが。

 

リアスが領主として尽力しているかどうかはさておき、実際に犠牲者が出ている。

しかも少年――それもリアスと同じ学校に通う生徒が犠牲になると言う痛ましい事件だ。

今成すべきは体裁を整える事ではない。事件の解決である。

それが警察の、柳の言い分であった。それに対するリアスの返答はと言うと。

 

――ここは私が管轄する町であり、勝手な真似をするものは私が許さない。

また悪魔が動いていると言うのであれば、私が対処する。

事件の報告は感謝するが、でしゃばった真似はしないで貰いたい――

 

「……領主と言っても、アレでは甘ったるい子供だ。

 犯罪対策が満足に出来るとは俺には思えん。そもそも、でしゃばった真似も何も

 超特捜課は所属は駒王警察署だが本をただせば警視庁――

 つまり国の認可を得て活動しているんだがな。

 それすら認めないとなると、公務執行妨害どころか内乱罪が適用されかねんぞ。

 ……あいつを成人として見做せば、だがな」

 

「警視殿はおてんば娘のお守りはお嫌いのようですな。

 ま、俺も同意見だがな。面倒だから結果を出して黙らせたほうがいいと思うが。

 しっかし内乱罪たぁ……随分と大きく出たなぁ?」

 

柳の回想のリアスは、余程の我儘娘だったのか、心底呆れたように思い出している。

その様子を見た安玖も、同情しているかのようなそぶりを見せている。

それほどまでに関係の危うい存在と柳は警視として、超特捜課の課長として対話を行ったのだ。

リアスの側は人間を一応、庇護するべき存在としてみているのだが

如何せん、ものの見方が一方的過ぎる。まるで人間が捨てられたペットを保護するかのように。

 

そんな視線で対処されたのでは、実際たまったものではない。

野生に戻ることの出来ないペットと違い、人間には自衛の能力もあるのだ。

たとえ悪魔の、人ならざる力を持ち出されているとしても、それに対する力もあるのだ。

その事もあってか、超特捜課にしてみればリアスは目の上のたんこぶとまでは言わないにしても

扱いにくい存在として見做している。権力と力だけはある上に

人間と価値観が大きく異なる。警察の治安維持活動が阻害される怖れもあるのだ。

 

「アレが国家転覆を企んでるとも思えんがな。それより、そろそろ時間だ。

 悪魔の目撃情報は今のところ無いが、神器の準備だけはしておけよ」

 

「ああ。素直に吐いてくれるとも思えんけどな。

 氷上(ひかみ)も来た事だし、そろそろ始めるとするか」

 

警らを行っていた足で直接駆けつけてきた氷上巡査も加え。

今まさに、悪の根城に警官隊が乗り込もうとしていた。

 

――――

 

「駒王警察署超常事件特命捜査課のテリー柳だ。

 指定暴力団組織曲津組に対し捜査令状が出ている。

 今からここを調べさせてもらうぞ、質問は一切受け付けん!

 俺に質問をするな!」

 

「おっと、動くんじゃねぇぞ? 少しでも妙な真似しやがったら即逮捕するからな?」

 

警官隊が次々に曲津組の事務所の入っている部屋になだれ込み、部屋の物色を始める。

応対していた胡散臭そうなスーツの男も、飄々とした態度を崩さない。

警察が大群で押し寄せていると言うのに。

 

「おやおや、これはこれはいつもご苦労様です。

 しかし超常事件特命捜査課とは聞きなれぬ……ああ、最近出来たと噂の。

 全く、天下の桜の大紋もとうとうオカルトに手を出すようになりましたか。

 国民の血税をオカルトのような不確かなものに注がれるのは

 私ら善良な市民にしてみたらたまったもんじゃありませんがねぇ」

 

「俺達だってオカルトで全部の事件を解決できるとは思っていない。

 FBIでどうたらって言うのは、テレビのでっち上げだ。

 そもそも、オカルトな事件自体が表に出るものじゃない。

 ……だが、お前のところの連中が、悪魔と言う

 オカルトじみた奴を呼び出したそうじゃないか?」

 

男の嫌味を、柳が真っ向から切り捨てる。

最も、ある意味オカルトの最たるものと言える八百万の神を祀る神棚こそ

こうした事務所にはつきものの設備だったりもするのだが。

 

しかしここ、曲津組は神棚の代わりとして怪しげな魔術書などが存在し

先ほどから帳簿と一緒にぞろぞろと出てくる始末である。

 

「柳さん! 悪魔契約の儀式場と思しき部屋を発見しました!」

 

「よくやった氷上。

 ……さて、これはどういうことなのか。俺達も一応この町には悪魔がいるってのは知っている。

 だがな、その悪魔を利用して犯罪を行っているとなれば、当たり前だが看過は出来ん。

 何を契約して、何をしようとしていたのか……吐いてもらおうか?」

 

柳の問い詰めに、別の柄の悪い男がしどろもどろになる。

動かぬ証拠を突きつけられ、動転しているのだろう。

帳簿も発見され、これについても既に鑑識に回されている。

中身の情報が明るみに出るのも、時間の問題だ。

 

そして、男には懸念材料もあった。

それは、悪魔契約に関する秘密遵守の原則。

こうして警察と言う外的要素からとは言え、秘密が明るみに出た以上

契約違反と称して悪魔がこの男を狙いかねないのだ。

 

「い、言えるか! こちとら悪魔と契約してるんだ!

 契約内容の守秘義務ってもんがある! 黙秘権だ! 黙秘権を行使させてもらうぞ!」

 

「はっ、そんだけ舌が回りゃ黙秘もへったくれもなさそうだがなぁ?

 じゃあ質問を変えてやる。昨日、お前らとつるんでるガキが悪魔に殺された。

 けしかけたのはお前らか? あぁ!?」

 

安玖が凄みを利かせ、男を睨みつける。

警察としても、既に犠牲者が出ている。しかも少年。

その事実もあってか、安玖の凄みは尋常なものではなかった。

 

「し、しらねぇ! 大体、ガキが殺されたってそんなもん俺たちの知ったことじゃ……」

 

「……ふざけるな! その子供を唆したのはお前たちだろう!

 その結果、その子供は死んだんだぞ! 自分の行いが招いた事に、責任を持て!!」

 

安玖、氷上。この二人はその少年が異形の者へと変化するさまを間近で見ている。

そして、それをやむなく撃退したのも他ならぬこの二人だ。

仮にリアスか、駒王学園の平和を守ると言う名目で人間界にいる悪魔――

ソーナ・シトリーが現場にいたら、このように怒ったのかもしれない。

だがそれは、悪魔と言う目線からの怒りだ。

この二人の怒りは、人間と言う同じ立場からこみ上げてくる怒りだ。

それ位、二人は烈火の如く怒っていた。

氷上は男の胸倉を掴んでいるが、そこは柳に制止される形になった。

 

「よせ氷上、それ以上は服務規程違反だ。

 それより、悪魔に殺されると言ったな? 安心しろ、情報提供さえするのであれば

 重要参考人としてこちらで保護する。お前たちはオカルト課と言うが

 悪魔や超常的な害獣との戦いは既に経験済みだ。そもそも、そのための課だ」

 

一人冷静に――努めているだけかもしれないが――男に提案する柳。

重要参考人として、警察の保護を受けるか。その提案が出ると言う事は

悪魔の情報を漏らさない、と言う選択肢は既に失われているも同然だった。

喋れば悪魔に殺されるかもしれないが、警察の保護を受けられる。

黙秘すれば悪魔から狙われる事はないが、警察から執拗に狙われる。

命を失うか、人間社会での居場所を失うか、どちらかだ。

 

そこで、曲津組の男がとった行動は――

 

「……ふ、ふふ、ははははははっ……

 

 ……っざっけんじゃねぇよ! 人間の分際で、あんな奴らに勝てると本気で思ってるのか!

 この町ははじめからあいつらに支配されてたんだ!

 そこで俺たちが生き残るにはこうするしかないんだよ!」

 

そうして男が取り出したのは得体の知れない文字がびっしりと書き込まれた羊皮紙。

悪魔召喚の用紙だろうか。それを頭上に掲げると、文字が光り輝き

部屋の中が黒い霧に覆われる。

 

「野郎! 何しやがった!」

 

「くっ、外のグループに緊急連絡! 近辺道路を至急封鎖しろ!

 悪魔が外に出る怖れがある!」

 

柳の警告どおり、黒い霧の中から現れた悪魔の何人かが外に飛び出す。

混乱に乗じて、曲津組の組員が脱走する。

家宅捜索現場は、一瞬にして混乱の渦に包まれたのだ。

そんな中に、声が響き渡る。

 

――これはほんの余興。本当の混沌は、間もなく幕を開けるのだ。

忌まわしい戦争で失われた悪魔の栄華を、今こそ取り戻すときが来たのだ――

 

と。

 

――――

 

同時刻。人気の少ない公園で、NPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)伊草慧介(いくさけいすけ)

彼の家に下宿する事となったゼノヴィアが訓練を行っていた。

その光景は、何の変哲も無い剣道の訓練を髣髴とさせるものであった。

ただ一つ、決定的な違いを挙げるとするならば。

 

二人とも、聖剣使いであったりかつて教会の戦士であったり、と。

おおよそ、全くのカタギの人間ではない事。

かと言って、転生悪魔などでもない。純粋な人間である。

ただ、悪魔と戦いうる力を持った人間である。

 

「さあ、ゼノヴィア君。今日も訓練を始めるぞ。

 まずは軽く……」

 

「ま、待ってくれ。またアレをやると言うのか!?

 こ、ここでやると言うのは、そのぉ……」

 

ゼノヴィアは俯き、赤面している。

見るものが見れば、不埒な行いに及ぶのではなかろうかと邪推してしまいかねない場面だ。

最も、実際には全くそんなことは無いのだが。

 

「何を言っているんだ。戦士は一日にして成らず。

 それは君もよく知っているはずだ。イクササイズは、基礎体力を向上させるのに

 最適なメニューを満遍なく取り入れた、大変効率のいい運動だ。

 君もやりなさい……ん?」

 

慧介とゼノヴィアのやり取りは、こうした流れによるものが大半を占めている。

突っ込み役である慧介の妻、めぐがこの場にいないこともあって

慧介の暴走を止めるものがいないのだ。

しかし今日は、外的な要因によってこのやり取りに水が差される事となった。

 

「どうしたんだ、慧介?」

 

「向こうに悪魔の気配がする。いや、悪魔の気配自体はこの町では珍しいものでもないんだが……

 ただ、な。向こうの空がやけに黒いのが気にかかる」

 

慧介が指し示した方向は、警察がガサ入れを行った曲津組の事務所がある場所。

そこで新たな悪魔が召喚されたのだが、二人はそれを知らないし、知る由も無い。

 

ふと、その方角に目を向けていたゼノヴィアが人影を発見する。

一瞬の事であったが、それは自分と同い年くらいの少女。

髪型は所謂ツインテール。この条件に合致する人物は、ゼノヴィアには心当たりがあった。

 

「あれは……イリナ!? 慧介すまない、私は用事が出来た!」

 

「あっ、ゼノヴィア君、待ちなさい!!」

 

紫藤イリナ。以前エクスカリバー強奪事件が起きた際

奪還のためにゼノヴィアとたった二人、敵地とも言える駒王町にやって来た少女。

紆余曲折を経て、伊草家に居候する事となったゼノヴィアとは異なり

強奪事件の主犯であるコカビエルとの決戦の最中、混乱に乗じて現れた

カテレア・レヴィアタンにさらわれる形で姿を消していた。

 

そんな彼女が何故、今ここに現れたのか。

いや、果たしてゼノヴィアが見たのは本当に彼女なのか。

イリナらしき人影を追って、ゼノヴィアが駆け出した先は

事もあろうに、黒雲立ち込める曲津組の事務所がある雑居ビルの方角だった……

 

――――

 

ゼノヴィアが駆け出した先には、悪魔の軍勢と魔法使いがいた。

魔法使いは、人間の身でありながら魔力を行使できる存在である。

悪魔に与するもの、と言う意味ではかつてのゼノヴィアの討伐対象足りえたかもしれない存在。

しかし、今のゼノヴィアは悪魔祓いでもなければ、神の戦士でもない。

ただの聖剣使いの少女である。

 

だが、一度染み付いた戦いの臭いはゼノヴィアを日常に置く事を良しとはしなかった。

それが、現在対峙している魔法使いの存在である。

 

「悪魔に魔法使いだと!? な、何故ここにいるんだ!?」

 

「聖剣使いゼノヴィア!? ま、まさか天界は我々の目論見に気付いたのか!?」

 

「いずれにせよ、我々がここにいることを知られたからには、生かしてはおけぬ!」

 

互いに偶然鉢合わせたようなものにも拘らず、臨戦態勢へと突入する。

それは不可抗力。いずれもゼノヴィアにとって遅れを取る相手ではないものの

心の準備が出来ていない。

ゼノヴィアはデュランダルを、魔法使いと悪魔は魔法を、それぞれ構える。

 

火蓋が切って落とされてからは、まさに電光石火であった。

元来ゼノヴィアはパワーに重きを置くスタイルだが

これだけの数を相手に一々切り結んでもいられない。

そこに魔法の集中砲火を受ければ、終わってしまうからだ。

いくらデュランダルが業物と言っても、データを盗み変質させたセージみたいに

デュランダルを盾に使うと言う発想と技術は、まだゼノヴィアには無かった。

力任せにデュランダルを振り回すゼノヴィアの足元に、魔法陣が展開される。

 

「今だ、『捕縛魔法(バインド)』!」

 

「なにっ!?」

 

魔法陣から伸びてきた鎖に、ゼノヴィアは四肢を束縛される。

これでは、デュランダルも振り回しようが無い。

魔力の鎖であるためか、ゼノヴィアが力を込めても千切れる気配が無い。

 

「いかにデュランダルとは言え、一人だけで何が出来るものか!」

 

「お前は何も見なかった。何も見ぬまま死んで行け!」

 

悪魔の一人が鎌を取り出し、ゼノヴィアの首を刎ねようとする。

振りかざされた鎌の光に、思わずゼノヴィアは目を伏せる。

 

――ここまでか……イリナ!!

 

――しかし、鎌の刃がゼノヴィアの首に触れることは無かった。

 

「……思わずやっちゃったけど、これは一体どういうことだい?

 悪魔だけでも部長はおかんむりなのに、その上魔法使いだなんて……」

 

「ゼノヴィア君、無事か!?

 ……おのれ、俺の弟子に不埒な真似を働こうとするとは!

 貴様らのその命、神に返しなさい!」

 

木場祐斗、そして伊草慧介。二人の剣術使いが救援にやって来たのだ。

木場の魔剣と、慧介の神器(セイクリッド・ギア)・「未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」がゼノヴィアを捕縛していた鎖を斬り捨て

ゼノヴィアに迫っていた鎌を弾き飛ばしたのだ。

最も木場の側は偶然に出くわした形であり、ここでゼノヴィアに会ったのも

悪魔や魔法使いに出くわしたのも、完全に偶然である。

 

「リアス・グレモリーの眷属の騎士(ナイト)か……。

 あの世間知らずも、いよいよ我々に気付いたと言う事か?

 だがもう遅い、後は実行に移すだけだ!

 全ては、我らの望む世界のために!」

 

「くっ、待ちなさい!」

 

捨て台詞を残し、悪魔と魔法使いの集団は姿を消す。

ゼノヴィアが斬り捨てた相手も、姿は無い。

彼らが何者であったのか、聞き出す手がかりは失われていた。

 

「ゼノヴィア君。君が何を見つけたのかは分からない。

 だが、周りを顧みずに突っ走ればこうもなる。今後は気をつけなさい」

 

「すまない……だが、イリナを、紫藤イリナを見つけたんだ。

 私と共にやって来た、もう一人の聖剣使い。彼女を探すために、私は日本に残っていた。

 そのイリナを、今見かけた気がしたんだ……!」

 

「なんだって!? それは本当かい!?」

 

ゼノヴィアの証言に、木場は驚きを隠せない。

紫藤イリナ。彼女は木場の同僚とも言える兵藤一誠の幼馴染でもあるのだ。

行方不明という事になっていた彼女を発見した。それは大きな報せである。

 

「ああ……だが、見失ってしまった。

 追いかけていった先に今の悪魔や魔法使いがいたんだ。

 イリナがいて、彼らがいると言うのも考え方によっては不自然だ。

 だから、もしかすると見間違いだったのかもしれないな……」

 

しかし、見かけた人影がイリナ本人であると言う確証は、残念ながら無かった。

それを確かめようにも、もうどこに行ったのか分からない。

イリナが駆け出した方角にいた、悪魔と魔法使い。

それが何を意味しているのか、情報は全く無かった。

 

「……悪魔もだけど、魔法使いがここにいるってのも大事だね。

 もう少し話を聞きたいところだけど、僕はこの件を部長に報告に戻るよ。

 ……僕が言えた事じゃないけど、あまり思いつめないほうがいいよ?」

 

「……善処しよう」

 

木場祐斗。彼もまた、聖剣計画で命を落としたかつての友のためと自分に言い聞かせ

聖剣の破壊、聖剣を悪用するものの殲滅に躍起になっていた時期がある。

そんな彼にとって、友人とも言うべきイリナに執着する今のゼノヴィアは

かつての自分自身を思わせる部分があるのかもしれない。

ゼノヴィアを気にかけつつも、眷属としての職務を果たすために木場はこの場を後にする。

 

「おや、ゼノヴィア君。丁度よかった、あなたを探していたのですよ」

 

「何者だ?」

 

それを見計らったかのように、一人の男がやって来る。

薮田直人(やぶたなおと)。このリアス・グレモリーの領地においても全くの正体不明。

ただ駒王学園で教鞭を執り、警視庁に技術協力を行う謎の男性。

そんな彼が、ここで一体何をしていると言うのか。

 

「あなたは……蒼穹会の戦士、伊草慧介ですね?

 私は薮田直人。この人の世の行く末を憂う、一人の日本人ですよ」

 

「ただの一人の日本人が、蒼穹会の裏の顔と俺の事を知っているはずが無いだろう。

 本当のことを言いなさい」

 

「失礼、それもそうですね。今日はゼノヴィア君に

 駒王学園への体験入学の案内をしに来たのですよ。

 聞けば、彼女は学校には通っていないそうではありませんか。

 彼女くらいの年ならば、学校に通うのが道理と言うもの。

 そこで、駒王学園に体験入学をしてみてはと思い、今日はやってきたのですよ」

 

今ここにいるのは、駒王学園の教師としての薮田直人なのか。

ゼノヴィアに、しきりに駒王学園への体験入学を勧めている。

正式な入学ではなく、体験入学と言うあたりが彼の良心なのだろうか。

 

「駒王学園に? む……しかし……」

 

「……どうあっても自分の身の上は明かさないか、まあいい。

 しかし、あなたの言うことにも一理ある。

 ゼノヴィア君、確か駒王学園はアーシア君も通っている学校。通う価値はあると思うが」

 

アーシアとゼノヴィアの関係を知っている慧介もまた

ゼノヴィアの体験入学には賛成の立場である。

この場にはいないが、めぐも体験入学には賛成だろう。

ところが、当のゼノヴィア本人は渋っている。

駒王学園――正式にはオカルト研究部でだが――にて騒動を起こした上

一度は敵対し、今尚あまりいい感情を持っていないリアス・グレモリーのお膝元なのだ。

アーシアが通っているとは言え、それだけで体験入学に首を縦には振れなかった。

 

「……まぁ、聖剣使いで元悪魔祓いのあなたが悪魔の学校とも言うべき

 駒王学園に通うのを渋る気持ちは分かります。しかし……そうですね。

 では訂正しましょう。ゼノヴィア君への体験入学の勧めは建前です。本題は別にあります」

 

勿論、学校で勉学に励むのも立派な目的ですが、と前置きした上で

薮田はさらに本題と言う目的を語る。

その内容は驚くべき事。あるいは、忌々しい事。

悪魔に占領されているとは言え人間の世界で、勝手に行われている出来事。

 

「近々、駒王学園にて三大勢力のトップが集い会談を行います。

 そこには、現政権に反対する各勢力の不穏分子も現れるでしょう。

 そうした輩が、学校を巻き込んだ破壊活動を行わないとも限りません。

 そこで、あなた方に学校の警備を依頼したいのです」

 

薮田の提案。それは、ゼノヴィアに会談における警備を行って欲しいと言う依頼であった。

そこには、蒼穹会の会員である慧介も含まれている。

薮田が彼らに依頼するのには、当然ながら理由があった。

 

(超特捜課に頼むのが筋かもしれませんが……

 学校だけでなく、街中において不穏分子が動いた場合

 街中を自由に動ける超特捜課を学校警備に回すのは悪手になりかねません。

 そこで、超特捜課に拠らず、かつ三大勢力と対等に戦える実力を持った存在。

 ……私の知る限りでは、今の駒王町には蒼穹会をおいて他にありません)

 

「相変わらず天界の大天使長は勝手だ。教会を離反したとは言え

 俺のところには一切話が来ていない。もう関係ないとも言えるがな。

 ゼノヴィア君を呼ぶのならば、俺も呼びなさい。今俺は彼女の身元保証人だ」

 

「慧介! ……まあ、いいだろう。三大勢力のトップと言う事は

 ミカエル様もお越しになるのだろう?

 ならば、私は色々とお話したい事、お聞きしたい事がある。

 その話、乗らせてもらおう」

 

かくして、薮田の提案は二人の元教会の戦士に受理される事となった。

三大勢力、特に天界の大天使長ミカエルに対し、ゼノヴィアは質問したい事を山ほど抱えていた。

イリナの事、何故我々二人だけをコカビエルと言う強豪相手にぶつけたのか。

そして……神の不在。エクスカリバー奪還の命を受け日本に来たが

カルチャーショックを含め、様々な衝撃的事実を目の当たりにしてきたのだ。

イリナに至っては、神の不在を知り茫然自失に陥ったくらいだ。

 

そんな大事な事を、何故ミカエルは黙っていたのか。

セージの発破、慧介達との生活を経て、ゼノヴィアには新たな考えが芽生えていた。

 

――神の不在を知ったとて、私の神への信仰は揺らがないと言うのに――

 

それは何時しか、ミカエルへの疑惑と言う新たな一面を覗かせるのだった。

 

三大勢力。日本神話と仏教の神仏同盟。曲津組と彼らに与する悪魔。

そして薮田直人。神の不在、そして一連の駒王町で起きた事件に端を発する三大勢力主催の会議は

様々な人物の様々な思惑を内包しつつ、いよいよ幕が上がろうとしていた。




薮田先生が依頼した護衛の正体は名護さんもとい慧介とゼノヴィアでした。
何気に木場がゼノヴィアに対しフラグらしきものを立てています。

これ言っちゃうとハーレムものの全否定かもですけど
「男あれだけいるのにイッセーだけがもてるのっておかしいよね?」

龍のオーラが無い木場はまだしも、条件同一のはずのヴァーリなんて
もうちょっと女ッ気あってもいいと思うんですが。
そもそも、恋愛なんてわけの分からないもので展開されるんじゃなくて
きちんとした積み重ねがあってこそ映えるものだと思ってます。
何が言いたいのかと言うと……

匙(ソーナ)だけじゃなくて、木場やヴァーリ、サイラオーグあたりにも
ヒロインいたっていいじゃない!
NTRやれとまでは言ってないんだから!

……セージ? アーアー聞こえない聞こえない

あ、だからってゼノヴィアが木場に水着で迫るイベントなんてありませんよ?
その辺は伊草家できちんと教育されてますので。


モノローグでしか出てませんがリアスについて。
私が思うにたとえ領主として真面目にやっていたとしても
老獪な人間一人いれば手玉に取られそうな気がするんです。
何だかんだ言っても、所詮高校生。限界ってもんがあります。
そういう危うさを表現できればいいなとは思うんですが、中々うまくいきませんね。

ぶっちゃけたところで今回の元ネタ解説。
今回1個だけですけど。

>捕縛魔法
元ネタは仮面ライダーウィザードの「バインド」。
エフェクトとしてはかなり説得力あるんですよね、ウィザードの魔法。
っつーかデザインはいいのにどうしてああなった……特にフィギュアーツ


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Life46. 波乱の会議、始まります!

マジ自転車操業状態。
なんだか印刷屋に入稿する同人作家の気分を味わっているような気がします。


……さて。
今回はイッセー目線で会議開始の場面からです。
無事に会議は始まるのでしょうか。


正直言って、最近の俺は色々頭がパンクしそうだ。

期末試験もそうなんだが、幽閉されていたって言う見た目女の子の所謂男の娘の後輩――

ギャスパー・ヴラディが新しく(?)俺の後輩になったってのもだし

アザゼルにミカエル、そして部長のお兄さんにして魔王様

サーゼクス・ルシファー様と、三大勢力のトップと立て続けに会ったり。

特にミカエルは、俺に何かを渡すつもりだったらしい。結局貰ってないけど。

アザゼルにしたって、ミカエルにしたって俺は一応冥界の所属なんだけどなぁ。

当然、そんな俺と彼らが出会ったところを週刊誌なんかにすっぱ抜かれた日には……

 

……実際騒ぎになった。魔王様のお陰で、何とか暴動は起きずに済んだみたいだけど。

さらにさらに、俺のもう一人の相棒とも言うべきセージ――歩藤誠二が

ギャスパーと入れ替わりで幽閉されるじゃないか。

けれどこれは、ある意味じゃ致し方ないと思っている。

何せあいつ、もう俺たちが部長の眷属になって三ヶ月位経とうと言うのに

未だに態度を改めるどころか、ますます不遜になっている気がする。

一体、悪魔の何が気に入らないと言うんだ?

俺は別段、何不自由なく生活できてるんだけどなぁ。

木場にしたって小猫ちゃんにしたって、不自由してる様子はないみたいだし。

ただアーシアだけは、お祈りをする度に頭痛を訴えているので

これは何とか改善して欲しいかな、とは思っていたりするけど。

 

……そして今日。オカ研の部室は緊張感あふれる空気が漂っていた。

その理由は一つ。三大勢力のトップ陣による会談が、ここ駒王学園で行われるからだ。

 

……そういえば。その会談もまた、とんでもないことになっていたりするんだけど。

何せ悪魔・天使・堕天使の三大勢力はまだ分かる。

さらにそこに、日本神話の神と仏教で結成された

神仏同盟(しんぶつどうめい)」ってのが口を挟むそうじゃないか。

な、なんだってこのタイミングで口を挟むんだよ!?

実家が神社の朱乃さんなんか、この話を聞いた途端に顔が真っ青になってたし。

余程ショックがでかかったのか、まだ顔色が優れてないみたいだ。

 

「朱乃。今日大事な会議だけど……大丈夫なの?」

 

「身体的には問題ありませんわ。けれどまさか、日本神話の神が動くなんて……

 絶対に動かないと思ってましたのに……」

 

「その事なら心配は要らないわ。仏教勢力と同盟を結んだとは言っても

 所詮辺境のいち神話体系よ。いきなり如何こうするなんてことは

 まず無いと見ていいわね」

 

そんな朱乃さんに対して部長は普段どおりに堂々とされている。

やっぱり部長は流石です! 胸を張っているお陰で、その大きなものがこれでもかってくらいに

主張なさってます! これだけでも俺悪魔になってよかったって思える!

これのよさが分からないセージじゃないはずなんだけどなぁ。

 

と、俺が部長のおっぱいに圧倒されているとふと部室のドアがノックされる。

外から聞こえてきた声は男の声――この声の主は知ってる。

世界史の薮田(やぶた)だ。

 

あのコカビエルの一件以来、何かに付けて俺たちにちょっかいを出してくるようになった。

神仏同盟の話を持ってきたのも薮田だし、何よりアイツと話していると

何故だかセージと話している気分になる。

俺たちの、部長のやる事にいちゃもんを付ける事も少なくないからだ。

 

「失礼しますよ。開口一番言うのもなんですが、今の言葉はいただけませんね。

 その土地に本来いる神々を蔑ろにした発言とも普通に取れますし

 何より、仮に自分の土地だったとしても自分の土地を田舎呼ばわりするつもりですか?」

 

「聞こえていたのね。それより『仮に』じゃなくて『正式に』よ。

 そこは訂正していただけないかしら、薮田先生」

 

「ならば尚更辺境などと言う言葉は適切ではありませんね。

 まあ、それについては本番で天照様よりご指摘があるでしょうが……

 それより、『停止の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』持ちの彼。

 まさかとは思いますが、ここに一人で置いておくつもりだったのですか?」

 

薮田が指し示したのは、ぴりぴりしていた部室の空気に似つかわしくない

某通販サイトの段ボール箱。あの中にはギャスパーが入っている。

結局、極度の人見知りだけはどうにもならなかったので

ここにいる間もずっとあの中に引きこもっているのだ。

 

「そのつもりだったのだけど……何か問題でもあるのかしら?」

 

「……制御の出来ない戦略兵器級の神器(セイクリッド・ギア)を持った者を

 一人で置いておく事に疑問は抱かなかったのですか?」

 

制御の出来ない戦略兵器って、そんな大げさな……

確かにギャスパーの神器は、誰彼構わず時間を止めてしまう、困った性質だけど。

それを何とかしようと、俺は最近あいつに特訓を施している。

まだ、飛んでくるボールを相手にするくらいしか自発的には出来ないけれど。

……そんな使いにくいものを悪用する奴なんているのか?

悪用しようとしたってそいつだって制御できないじゃんか。

 

「警護に割く人員もいないし、かといって会議に同席させるわけにも行かないわ。

 彼の神器で、会議が混乱でもしたら事ですもの」

 

「……その危機管理能力の欠如度合いには、呆れてものもいえませんね。

 まあ、私が何を言おうと彼を指揮する権限はあなたにあります。

 私の個人的見立てでは、一人位は付けておく事をお勧めしますがね」

 

「ご忠告どうも。けれど心配はいらないわ。

 それに、あなたは今日は会場貸し出しと言うスポンサー特権で

 今日の会議への参加を許される立場ではなかったのかしら?」

 

部長の指摘通りだ。そもそもただの世界史の教師のはずの薮田が

何で三大勢力……とプラスアルファの会議に参加するんだよ?

そりゃあ、いきなり二天龍の神器を黙らせたり

コカビエルが薮田を見て驚いてたりはしてた気がするけど。

 

「……建前上はそうでしたね。それより、いい機会です。

 私が何者であるか、彼らの語ることは本当に真実か。

 今日会場でお話しましょう。よろしいですね?

 ああ、発言権云々の話でしたら無駄な事です。彼らは私の話を聞く……

 いえ、聞かざるを得ない事になるでしょうから」

 

そう語る薮田の目つきは、いつも鋭いのを抜きにしても

とにかく鋭いものだった。な、なんなんだよ……

 

「先生、そのお話とは一体何かしら?」

 

「会議が始まってからのお楽しみですよ、姫島君。

 さて、呼び止めてしまってすみませんね。既に支取君達は会場入りしています。

 皆さんも、会場へ向かったほうがいいでしょう」

 

なんだろう。この先生にお楽しみとか言われても、全然期待できそうにねぇ。

部長や朱乃さんのお楽しみだったら、俺はいくらでも期待できるんだけどな!

そして、時間になったので俺たちは会場へと向かう事にした。

 

――――

 

「おい! 誰かいるなら俺の話を聞いてくれ!

 今日テロ組織が動くんだ! 犯行声明も出ている!

 特にここ、駒王学園が危険だ! 聞こえないのか、おーい!!」

 

「うるせぇぞセージ! 今何時だと思ってやがる! 近所迷惑だろうが!」

 

……道中、珍しくセージが吠えていたが。

この部屋も厳重に封印が施されており、ちょっとやそっとでは出られない仕組みだ。

勿論、内側からなんてもってのほか。

それより、犯行声明が出ているって? 俺は全然聞いてないけど?

 

「部長、セージの言ってる事って……」

 

「確認は取れてないわ。セージ、今朝新聞を見たし

 今もニュースを確認したけど、テロ組織の犯行声明なんか出てないわよ?

 いい加減な事は言わないで頂戴。私もあなたを庇い立て出来なくなるわ」

 

部長の指摘に、セージも黙り込む。いい傾向だ。

ここ最近の幽閉生活で、ようやくセージも自分の立場ってのが分かってきたのかな。

それと同時に、ちょっと心配になった。

そう幽閉生活は長くないはずだけど、気がふれたんじゃないか、と。

 

「セージ、お前まさか……」

 

「……バカにするな。一応まだ正気だ。それよりグレモリー部長の言う事も最もか……

 何らかの事情でニュースとかでは出回ってないんだろう。

 俺はとあるルートから情報を仕入れたが……それを証明する事ができない。

 くそっ、何事も無く終わってくれればいいけどな……」

 

扉にさえぎられてセージの様子は見えないが、声は少々落ち込んだ様子にも聞こえる。

……そうだ。さっき薮田が言ってた「ギャスパーに護衛を付ける」件

セージに頼んだらどうだ?

 

「部長、ギャスパーの護衛の件ですけど、セージを使えば……」

 

「出来るわけないでしょ。セージは幽閉中よ? 解除許可は出てないわ。

 逆にギャスパーとセージを同じ部屋に入れるにしたって、またギャスパーを幽閉するなんて

 何のために幽閉を解いたのか分からないじゃない」

 

……そ、そうっすよね。それにセージと同じ部屋なんて

ギャスパー本人も嫌がるだろうし、仕方ないか。

俺たちはセージのいる部屋を後にし、今度こそ会議の会場へと足を運ぶのだった。

 

……うん? 後ろで木場と小猫ちゃんがセージのいる部屋の前で何かしてるみたいだけど

一体何してるんだ? 早く行かないとまずいだろうに。

 

「おーい小猫ちゃん、木場! 早く行かないとまずいんじゃないのか?」

 

「……今行きます。じゃセージ先輩、行ってきますので。祐斗先輩」

 

「ああ、そうだね……」

 

そういや、あの二人も最近一緒にいることが多いな。

ま、まさか部活内恋愛とかそういう関係じゃ……!?

 

だ、だとしたら許せん!

ただでさえ木場は黙ってりゃ女の子の方から寄ってくるようなイケメンなんだ!

これ以上、木場にいい格好させてたまるものか!

 

「……イッセー、何をいきり立っているの?」

 

「え? あ、や、何でもないっす」

 

止めないでください部長。これは、オカルト研究部の風紀を守るために必要な事なんですから!

部活内恋愛は風紀の乱れに繋がる! 木場、そういうのは俺は許さないからな!

と、俺が密かな闘志を燃やしているうちに目的地である会議場へとたどり着いたのだ。

 

――――

 

会議場は、深夜の職員会議室。既に中には各陣営のトップがいるって話だ。

その周りには、各勢力の精鋭部隊がいるんだと。ご丁寧に結界まで張られている。

木場が言うには、一触即発の状態との事だ。

 

「失礼します」

 

三回ノックをし、会議室に入る部長に続いて、俺達も会議室へと入る。

既に俺は三大陣営のトップとは何らかの形で顔を合わせている。

契約者を装って俺に接触してきたアザゼル。

朱乃さんの神社で俺に接触してきたミカエル。

そして、部長のお兄さんにして俺たちの魔王、サーゼクス様。

まあ、まだ本当に顔を合わせただけって関係なんだけどな。

 

だが、俺がまだ見たことの無い奴もいる。

一人はテレビで見たような顔だけど……

そのテレビで見たような顔の奴が、俺たちに挨拶をしてくる。

 

……ここにいるってことは、どの勢力のおえらいさんなんだ?

 

「この地域を統括していると言うリアス・グレモリーとその眷属か。

 お釈迦様は言っていた……俺は天の道から寛く世界を見渡す者……天道寛(てんどうひろ)だ」

 

「天道寛? テレビの俳優が、何故こんな時間にここにいるのかしら?」

 

イケメンは右手の人差し指を天に掲げ、俺たちに名乗ってくる。聞いてねぇけどな。

それより部長の言葉で思い出した! 色々なドラマに出てるイケメン俳優だ、こいつ!

な、なんでそんな奴がここにいるんだよ! 薮田以上に場違いじゃないか!

 

「何かいいたそうだな。まぁ言いたいことは分かるがな。

 『何故しがない俳優の一人に過ぎない俺が、ここにいるのか』と。

 ここにいて、かつ叩き出されていない時点で察せ。

 俺は受け入れられてここに来たのだと」

 

「……俺は認めちゃいねぇがな」

 

天道寛の言葉に、アザゼルが茶々を入れてくる。

こればかりはアザゼルに同意しておく。何でこんな奴が会議に参加できるんだ!?

 

「……お釈迦様は言っていた。太陽の尊いところは、塵すらも輝かせる事だ、と。

 その光は地を遍く照らす。たとえ地に堕ちたものが相手でもな」

 

「……てめぇ、俺が塵だって言いたいのかよ」

 

「やめなさいアザゼル。彼もまたこの地に大きく関わるもの。

 蔑ろには出来ないでしょう」

 

喧嘩腰のアザゼルを諌めるのは大天使長のミカエル。

改めて思うけど、ここってとんでもない状態になってるよな……。

ふと、周囲を見渡すとさらに旧海軍の軍服のコスプレをしたこれまたイケメンに

白と赤で彩られた着物を着て、菊紋の首飾りをつけ

「非理法権天」と書かれた扇子を手にした女の人がいる。

 

……どうでもいいけど、この人おっぱいに何か詰めてるな。

元浜や桐生じゃないけど、俺だっておっぱいに関してはちょっとしたもんなんだぜ!

けど、そうやってその女の人を見てたのはまずかったようで……

 

「……彼女を妙な目で見るのはやめていただけますか。

 たとえあなたが我が国の民だとしても容赦はしません。

 時代が時代ならば、不敬罪であなたの首が飛んでいます。物理的に」

 

軍服のイケメンが、俺の首に刀を押し付けている。

み、見た目おとなしそうなのにやる事が随分過激なんですけど!?

冷や汗が止まらなかったけど、着物の女の人の声でイケメンは刀を納める。

か、会議が始まる前から会議場を血で染めるとかまずいでしょ!?

 

……あと、凄くどうでもいいけど女の人の声は小猫ちゃんに結構似ていた。

 

「やめてあげてください。好奇心によるものでしょう。

 私自身、好奇の目で見られるのには慣れています。

 それに、会議が始まる前から事を起こすのは私としても不本意です。

 

 ……それより、名乗りのご挨拶が遅れてしまいましたね。

 私は天照大神。この日本において、主神を勤めさせていただいているものです。

 そして先ほどの彼、天道寛はまたの名を大日如来。

 マハヴィローシャナとも呼ばれており、仏教勢力の一つ

 密教において最高位に値する仏様です」

 

な、なんだって!?

な、名前だけは聞いたことがある……そんな日本の神や仏が何でここに……

って、そういや朱乃さんが言っていたっけ……

 

しかし、天道寛がそんな凄い仏だったなんて……

 

「……お、お久しぶりです……天照様……」

 

「本当に久しいですね、姫島の娘、朱乃。

 悪魔になってからと言うもの、終ぞ私の声は届かなくなりましたから……

 こうして声が届くどころか、顔を見るのも本当に久しいです。大きくなりましたね」

 

そういえば、朱乃さんの実家は神社だったっけ。

特別な神社で、俺達が入ってもなんら害は無い、すっごい神社。

そこで俺はミカエルとも会ったんだけど……

やっぱ、悪魔になると神の加護ってのもなくなるもんなんだな。

アーシアだって、相変わらずお祈りで頭痛が止まらないし

話を聞く限りだと、朱乃さんも昔はこの神と関わっていたのかな。

 

「……と、私個人としては積もる話もありますが、今日はそのために来たのではありません」

 

「ええ。ここ最近、この辺りで悪魔や堕天使によってわが国の国民の生活が脅かされている。

 そう言う意見が出ましてね。まだ国会では取り上げられていませんが

 このままではいずれ国会にも取り上げられるでしょう」

 

堕天使はまぁ分かるとしても、悪魔ってなんだよ!?

俺たちは人に迷惑なんかかけてないんだぞ!?

俺は思わず、軍服のイケメンに食って掛かってしまった。

 

「どういう意味だ、そりゃ!? 俺たちは真っ当に悪魔生活を送っているんだ!

 他人様に迷惑かけたことなんか、一度だって無いんだぞ!?」

 

「あなたがたはそうかもしれません。ですが、現に警察は動いているんです。

 この間の事件なんて、警察はおろか防衛省が動くほどの事態になったんですよ?」

 

「コカビエルの野郎……アレほど人間の政治には口を挟むなって言ったんだがな」

 

「……実際コカビエルが国会にちょっかいをかけてきたわけではないがな。

 もしそうだとしたら、こんなところで悠長に会議なんか開いていられない。

 だが、菊紋の――彼の言うとおり先の事件が国会を揺らしたのは事実だ」

 

アザゼルの言うとおり、軍服のイケメンが言っているのはコカビエルの事だろう。

そ、そんな大事になってたんだ、あれ。今ひとつ俺には実感が沸かなかったりする。

天道寛の指摘通り、コカビエルが国会に「戦争を始める!」なんて言ったわけでもないし

もしそう言ってたら、今頃大パニックだ。

 

そして警察と言う単語に、いち早く部長が反応する。

そりゃそうだ、悪魔の仕業って勘違いされちゃたまったもんじゃねぇ!

俺たちは、何も悪い事なんかしてないんだ!

 

「警察……それならはぐれ悪魔の仕業ね。私達は彼らからこの町を守って……」

 

「……お釈迦様は言っていた。地上から見上げる星の区別を付けるのは、人には困難だ……とな。

 事情を知らない者からすれば、悪魔の仕業と言うだけで同じ穴の狢と思われるだろう」

 

「木を見て森を見ず、か。そういう風に考えるのが人間か……」

 

天道寛の呟きに、サーゼクス様も心底残念そうに呟く。

全くその通りだ! 一部の奴らのせいで、俺達が迷惑する羽目になってるんだ!

俺がひとしきり吼えた辺りで、薮田が遅れて会議場に入ってきた。

ほ、本当に出席するんだ……うん?

サーゼクス様や一緒にいたレヴィアタン様、それにアザゼルが一様に慌てふためいている。

ミカエルに至っては、今にも失神しそうだ。付き添いの天使も相当に焦っている。

 

「お待たせしました。警備の段取りを立てていたものでしてね。

 この会議には、万が一でも起きてはいけませんから。

 そう思い、リアス・グレモリー君にも警備強化を打診したんですがね」

 

「う、嘘……だろ……

 コカビエルが言ってやがったことは、事実だったのかよ……」

 

「ちょ、ちょっとサーゼクスちゃん!? 私聞いてない!

 あれが……あいつがいるなんて私聞いてない!

 ソーナちゃんだって、私に全然言ってくれなかったし!」

 

「わ、私も今はじめて知った……さ、さすがといっておくべきか……。

 り、リアス。君が気に病むべきことではない、が……」

 

その取り乱しようは尋常ではない。

あまりの出来事に、部長もソーナ会長も冷静さを失っているように見えた。

な、何が一体どうなってるんだ!?

 

「魔王様、何をそんなに取り乱しているのです!?

 彼は所詮、この学校に勤めるしがないいち教師、それも校長でも理事長でもありません!

 本来ならば、この場にいることさえ……」

 

「……言葉を慎むんだ、リアス。リアスやソーナ君が知らないのも無理は無い。彼は……

 いや、あの者こそが……」

 

サーゼクス様の言葉をさえぎるように、薮田が会議場のテーブルの中央席に着く。

だ、だからなんでお前がそこに座るんだよ!?

 

「結構。名乗りは私自らが行いますので。

 さて……三大勢力の首脳陣、ならびに神仏同盟のお二方は私の事をご存知でしょうが

 立会いの方々の中には私の事を知らない方もお見えになるでしょう。

 改めて自己紹介させていただきますよ」

 

咳払いをした後、薮田は目を閉じ呪文を唱え始める。

すると、薮田の周りのオーラが変わるどころか

この場所の空気すら変わったような錯覚を覚えた。

その雰囲気たるや、前にコカビエルと戦ったときに顔を出してきたときとは比べ物にならない!

 

「アドナイ・エル・エロヒム・エル・シャダイ……

 その名を唱えよ。我が名を称えよ。テトラグラマトン……

 テトラグラマトン……その名を称えよ……

 

 ……我こそは……」

 

直後、会議場は真っ白い空間に包まれる。

何も見えなくなった時間が永遠に続くように錯覚できた。

だが、光だというのに身体を蝕まれるような感覚は無かった。

そんな摩訶不思議な光景が続いた後、俺の意識は会議場に戻ってきた。

そこには、さっきまでと変わらないメンバーと……

 

中央席に着く、白と金で彩られたローブに身を包んだ、薮田の姿があった。

 

「薮田直人。それは私がこの人間の世界で過ごすための名前にして

 無数にある我が仮の名の一つに過ぎません。

 我が名はヤルダバオト。聖書の神と呼ばれしヤハウェの影を務めし者。

 お話しましょう。あの戦争の後、何があったのか。

 ヤハウェは、何を残そうとしたのか。そして……

 

 ……悪魔よ、天使よ、堕天使よ。あなた方の罪を数えるのです。

 知っての通り、この会議場周辺には強固な結界が張られています。

 最早己が罪から逃げる事は叶いませんよ」

 

「罪……だと」

 

「そ、そんな……ばかな……ありえない……

 主は……我らが主は……あの日、確かに……」

 

「い、今更数え切れるかよ! てめぇの言う罪を一々数えてたら

 俺の罪なんざ数え切れるか!」

 

薮田……いやヤルダバオトの言葉に、三大勢力のトップ陣が軒並みうろたえている。

な、なんだよ……一体何だって言うんだよ!?

 

「う、嘘でしょ……そんな……そんな大物が私の領地にいたなんて……」

 

「……大物なんて言葉では片付けられませんよ、リアス……。

 私も冷静でいられるかどうか、疑わしいものです……。

 私にとっても、まさか顧問が聖書の神……の影だったなんて……」

 

「支取君、いえソーナ・シトリー君とお呼びすればいいですか?

 あなた方は人々の平和を守るための一歩として

 この学校の平和を守るべくよくやってくれました。

 ただ一点、あなた方が揃いもそろって悪魔であるという事を除けば、ですが」

 

ソーナ会長や匙達が悪魔である事を知っていたかのように

気に留めることもなくヤルダバオトは話を進めている。

部長も顔が青くなっている。そ、そんなにやばい奴なのか!?

匙なんて卒倒しているし、オカ研のみんなや生徒会の役員も金縛りにあったかのように動かない。

 

……そ、そうだアーシア! アーシアはどうしたんだ!?

こいつが神だなんて嘯いているけど、アーシアはどうしたんだ!?

 

「あ……ああ……主よ……生きていらしたのですね……つっ!」

 

お祈りをささげたのか、アーシアの頭を痛みが襲ったらしい。

そっか。まだアーシアは神を信じていたんだもんな。

こうして嘯いていても目の前に出てくればそういう反応もするか。

だが、次に聴いた言葉に俺は耳を疑った。

 

「……何の用ですか、魔女アーシア。

 あなたがどういう経緯でそうなったのか、私は勿論知っています。

 ですが、だからといって私が手を差し伸べる事はありませんよ」

 

「な……て、てめぇ! 知っててなんでアーシアにそんな酷い仕打ちを!」

 

部長どころか、魔王様も俺を止めようとするけど

知ってて何もしないって態度を取っているこいつに俺はむかっ腹が立った。

神なら、アーシアへの祈りのダメージを消すぐらいやって見せろってんだ!

 

「止めないでください部長! あんた、神だって言ったよな!?

 だったらなんで、アーシアを救ってやらないんだ!?

 アーシアがどんな思いで今まで生きてきたのか、さっきの言い方なら知ってるだろう!?」

 

「ええ知っていますよ? ですが、それが何だと言うんです。

 今ここにこうしているという事は、彼女が自分で選んだ道でしょう?

 自分で選んだ道の文句を私に言うのは、全くもって筋違いですよ。

 そもそも、あなたに彼女の生涯に口を出す権利があると思っているのですか?」

 

馬鹿なことを言うんじゃねぇ! 知った風なことばかり言いやがって!

アーシアが、アーシアが今までどんだけつらい思いをして生きてきたと思ってやがるんだ!

 

「もう一つ言いましょう。私への苦言……まあ暴言とは言わないでおきますが。

 それはアーシア・アルジェントの意思ですか?

 そうでないとしたら、彼女の意思を無視して勝手にしている

 あなたのほうが寧ろどうなのだ、という事になりますがね」

 

「そうだとしてもだ! アーシアがかわいそうだとは思わないのか!」

 

俺の叫びに、ヤルダバオトは一瞬黙り込む。

そうだ、アーシアはずっと苦しい思いをしていたんだ!

そんな彼女に手を差し伸べないほうがおかしいんだ!

 

「かわいそう……ですか。兵藤君。前から思っていましたが……

 あなた、何様のつもりですか? 勝手な思い込みで他人をかわいそうと決めつけ

 勝手な思い込みで手助けと称して他人に口出しをし、手助けをする。

 確かに私は……いえ『(ヤハウェ)』は汝隣人を愛せとは言いましたよ。

 ですが……それは上から下への愛のつもりで言ったわけではありませんがね。

 まあこれは、他の方にも言えることですが」

 

そういうヤルダバオトの目は、明らかに悪魔陣営を見ていた。

な、なんなんだよ! さっきから神だかなんだか知らないけど!

いきなり出てきてテクマクマヤコンだかなんだか唱えたと思ったら

自分は神だって、頭おかしいんじゃないのか!?

いけ好かないとは思ってたけど、まさかこれほどなんて!

 

「何様はこっちの台詞だよ……今日が大事な会議だっての、知ってるだろ!?

 それをいきなり出てきて、こんな風に滅茶苦茶にされたらたまらないんだよ!」

 

「……あなた、本当に元人間の転生悪魔ですか?

 考え方が悪魔よりになりすぎてる気がしますが……ま、それはいいでしょう。

 さて。今あなたは『いきなり出てきて滅茶苦茶にされる』と言いましたね?

 それはここに住む人間にとって、全くその通りなんですよ。

 その件については、私よりお話をするに当たって適任の方がいらっしゃいますからね。

 彼らに交代しますよ」

 

「待て! まだ俺の話は……」

 

「イッセー、気持ちは分かるけどやめなさい」

 

「そうだ、今は押さえるんだ。イッセー君」

 

言いたいことだけ言って、ヤルダバオトは椅子に座ってしまう。

お、俺の怒りはどこにぶつければいいんだ!

部長とサーゼクス様に押さえられ、俺も引っ込まざるを得なくなってしまう。

 

次に立ち上がったのは天道寛に天照の二人。

今度こそ、ちゃんと会議の空気を壊さない事を話してくれるんだよな……?

 

「先ほど聖書の神……の代理から話があった、大日如来と天照大神だ。

 今回我々も参加させてもらったのは他でもない……お前達――特に悪魔と堕天使。

 これらの人間界での行いについてだ。

 俺もヤルダバオト神と同じく、人の姿を借りて人の営みを見てきた。

 それについて言うべきことはいくつかあるが……今回はそれ以前に、だ。

 何故、お前たちはこうまでして人間の生活圏に手を出そうとする?

 三大勢力の争いとは、人間の世界で行われる争いなのか?

 だとするならば……我々神仏同盟は、この国に古くから根差す者として

 然るべき対応をとらざるを得なくなる。

 俺は八百万の神という指標を掲げる天照と違って、そこまで寛大にはなれないからな」

 

「勿論、問題はこの日本だけではない事は重々承知しております。

 でも、だからこそ我々は愛する国で営みを続ける人々を守るために

 あなた方の行いに異を唱えざるを得ないのです。

 現に、この学校に通う生徒が何人も犠牲になっていると聞き及んでいます。

 それは悪魔によって命を奪われたものも含まれますし、何より……

 

 不本意で悪魔にさせられ、家族と引き離されたばかりか

 人間である事への誇りも一方的に奪われて今尚苦しんでいる者がいると言う時点で

 あなた方の行いが、立派な侵略行為であるとも言えるのです。

 魔王サーゼクス様。その件について、あなたのご意見を伺いたく思います。

 また、神器なるものを原因にこれらの行いが正当化されている現在

 それを宿しているからと一方的に命を奪っている堕天使の行いについても

 アザゼル総督。あなたの見解を求めます」

 

天照が言っているのは、多分セージの事だろうか。

そうだとしたら、俺には信じられない。

あいつは本をただせば俺とそう変わらない存在のはずだ。

なのに、何で日本の主神の意見の一例として取り上げられているんだ。

 

彼らの言葉に怒気は含まれていないが、目は至って真剣そのものだった。

と言うより、ヤルダバオトショックで完全に三大勢力の首脳陣は

出鼻をくじかれたと言っていいかもしれない。

ま、まさかセージが言ってたテロって、これのことか!?

 

 

俺たち悪魔にとっての大きな分岐点になるはずだった三大勢力の会議は

最悪の形で幕を開けたのかもしれない。

俺は、そう思えてならなかった……





 お 待 た せ 

既に一部の方にはバレバレだった薮田先生ですが
やはりと言うかなんと言うか、聖書の神(の影武者≒偽者)でした。
今回ヤルダバオト無双になってますが、神化したヤルダバオトは無双できますから
(ゲームが ちがいます)

名前こそヤルダバオトですが、顕現シーンはネオ・グランゾンをイメージしていたり。
実際執筆時の作業用BGMがダークプリズン(Ver.OGDP)だったりで。
三大勢力軒並み涙目って状態にしたいと言う意地悪な理由もありましたので
それを成せるインパクトといえば、聖書の神顕現位しか思いつかなかったので
ここで晴れてヤルダバオト顕現です。

顕現シーンの台詞回しが某仮面ライダーWになってますが
別にこちらをイメージしてはおりません。
魔王少女がどこぞの所長になっていたり
堕天使総督がゾンビ傭兵部隊長になっていたりしても気のせいです。

……ちょっと大日如来と天照大神が尻馬に乗っかる形になっちゃったのは
その……そう見えてしまったらすみません。
イッセーが天照の声について触れている一文がありますが
これは天照のモチーフキャラの声帯の妖精さんに合わせたただの声ネタです。

そしてそんな大事な場面に出られないセージ(とギャスパー)の影が薄いですが
まだ原作通りに一波乱ありますので……

補足解説。

>天照の衣装
以前感想欄で「某大和型艦娘の格好をイメージ」って触れましたが
『あの』セラフォルーでさえまともな格好をしている場面で
大和型の服ってのも……と思い直し、結局着物になりました。
元のカラーリング、菊紋、非理法権天の文字と徹甲弾胸当ては
それぞれ継承していますけど。

>アーシア絡み
聖書の神(本物じゃないけど)にも喧嘩を売るイッセーマジイッセー。
ここは前章のゼノヴィアからの指摘を引き継いでいる部分もあります。
結局、イッセーにとってアーシアってなんなんだろうな、と。
そして実際痛い目に遭っているけれど、この痛みを消してくれ、って
アーシアがイッセーに直接言ったわけでもなかったような。
それなのにイッセーが勝手にお願いするのは、やはりどうかと思うわけで。
原作では+ゼノヴィアがダメージを受けていたので考え方に拠っちゃ妥当ですけど
拙作ではゼノヴィアは人間のままですし。アーシア一人に特例ってのも、ねぇ。
(原作の二人に特例ってのも十分どうかと思うけど)


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Life47. 俺達の会議、大ピンチ!?

753は最高です!<ネタ
本郷猛は俺にとって英雄です!<ガチ

……というわけで見てきました映画。
いや、本当に凄い熱くハードでしたとも。
今までの春と同じ感覚で行くとえらい目に遭いますよ?

藤岡弘、はもう既にそれが一個のジャンルになってしまっている感。
藤岡隊長だったりせがた三四郎だったり冗談抜きで藤岡弘、づくしの映画でした。

……子供さんにゃちーとばかし重すぎたかな、って感も無きにしも非ず。
ちょっとぐずってる声が聞こえてきましたので……(状況は個人差があります)


そんなわけで前回のあらすじ。
聖書の神顕現。以上。


「魔王サーゼクス様、アザゼル総督。

 此度のわが国における騒動について、ご説明願います」

 

俺たち悪魔と、天使、堕天使。

三大勢力の今後の運命を左右する、三大勢力による会談。

それがここ、駒王学園で行われている。

 

堕天使総督のアザゼルも、大天使長のミカエルも

そして俺たちの魔王、サーゼクス様もそれぞれ平和を望んでいた。

対談は、和平締結ですんなりまとまる……

 

……そう、思っていた。

 

 

ところが実際は違っていた。

日本神話の主神・天照大神に仏教の高位の仏・大日如来。

彼らは神仏同盟(しんぶつどうめい)を結成し、三大勢力の和平に待ったをかけたのだ。

彼らは日本を守るべく、とは言っているが

和平の邪魔をするそっちのほうがよほど悪者に見えてしょうがない。

 

そして、三大勢力の和平に待ったをかけたのは彼らだけではない。

世界史の薮田(やぶた)。いや、死んだと思われていた聖書の神――と言っても影武者だけど――

ヤルダバオトもまた、三大勢力のあり方に疑問を呈していたのだ。

 

俺たちは間違っていたのか?

いや、そんなはずは無い。堕天使のした事は確かに擁護できないけど

悪魔は決して人間を悪いようにしてないはずだ。

悪魔契約だって、みんなのためになることばっかりだ。

アーシアの契約なんか、その最たるものだ。

神仏同盟はともかく、ヤルダバオトは知ってるんじゃないのか?

知ってて、何でそういうことを言うんだよ……!

 

「……イッセー。これは魔王様の命令よ。何があっても、決して口答えをしないこと。

 顔に出てるわよ。ふざけるな、って。私もあなたの言いたい事はわかるけれどね」

 

部長や、魔王様が止めてくれなければ俺は今頃口答え……

いや、きっと殴りかかっていたと思う。

俺は難しいことはわからないけど、今日のために部長が苦心していたのは知っているつもりだ。

それを、こんなふうにされたんじゃたまったもんじゃない。

 

「じゃあ俺――堕天使側から説明させてもらおう。

 資料に書いてある通り、先日の騒動は我々神を見張る者の幹部、コカビエルが

 己の欲を優先して独断で行ったものだ。

 そもそも、コカビエルと俺は政治的主張も異にしている。

 そのコカビエルは現在コキュートスで終身刑を言い渡されている……事実上の死刑だな。

 罪名は反逆罪……ってとこだな」

 

「横から失礼。コキュートス……ですか。アレは確か

 ギリシャはオリュンポスの管轄だったはずですよ?

 報告書を読ませていただきましたが、コカビエルは他にもオリュンポスの管轄である

 ケルベロスやオルトロスを戦力として投入しているではありませんか。

 これについて天照様。ギリシャ神話勢から、何か報告は受けていますか?」

 

アザゼルの報告に、ヤルダバオトが待ったをかける。

さっきから文句ばっかり言ってないか? 言ってる事はよく分からないけど。

 

「いえ。オリュンポス十二神はおろか、ティターンの巨人の皆様からも何も聞いておりません。

 なので、この日本にケルベロスが現れたと聞いたときには驚きました。

 その件に関して、どうやら隠蔽工作が行われた痕跡があるみたいですが……

 アザゼル総督。これは自分達の行いが悪い事であると認識した上での行いですか?」

 

「ちょっ、隠蔽工作なんて俺は知らねぇぞ!?

 やったのは大方ケルベロスが暴れた駒王町を管轄にしている悪魔……

 すなわちグレモリーだろ!?」

 

「アザゼル! 我々に責任を押し付けるつもりか!

 天照様。確かに我々は事後処理として対応を行いました。

 それが結果として隠蔽工作のようになってしまったかも知れませんが

 我々は事態を収束すべく、あのような手法を取らせていただきました。

 駒王町の民は、我が妹の民でもありますので」

 

天照の指摘に、アザゼルとサーゼクス様がちょっと険悪な空気になる。

しかしさすがサーゼクス様。毅然とした対応で天照に向かっている。

 

しかしその言葉は天照の気にはいらなかったようだ。

一体何が気に入らないって言うんだよ。

 

「駒王町は日本国の領土です。冥界政府に譲渡した覚えは一切ありません。

 そこは訂正していただきたいのですが」

 

「駒王町もそうなんだが、お前たちは既にギリシャも自分達の領土だと言いたいのか?

 そうでなければ、ギリシャに住む獣をけしかけたり

 ギリシャの地獄に自分達の大罪人を送り込むなど通常考えられん事だ。

 俺のところで例えるならば、お前たちが鬼を使役したり

 奈落の底にコカビエルを勾留するようなものだな」

 

天照も、大日如来もアザゼルやサーゼクス様の報告にいちゃもんを付けている。

俺は堕天使じゃないし堕天使は嫌いだけど、そこまで言う事か?

コカビエルを地獄に落としたんなら、それでいいと思うんだけど。

それに、そりゃ日本はアメリカとかに比べたら狭いけれど

そこまで狭くないだろうに。天照ってのも随分とけち臭いなぁ。

 

「ふむ。では……一度オリュンポスのほうに連絡をつないでみましょう。

 連絡を取りますので、少し失礼させていただきますよ。

 夕方の時間帯ですので、炊事担当でなければ失礼にはならないでしょう」

 

ヤルダバオトは出前を取るかのように簡単に言ってのけているが

そんな簡単に話が通じるのか?

俺の疑念をよそに、ヤルダバオトはなんとスマホ一個で簡単に連絡を取ってのけていた。

腐っても全能の神って事かよ。

 

「……お忙しい中恐れ入ります。私、三大勢力の主神ヤハウェの代理である

 ヤルダバオトと申します。ゼウス様はそちらにおいででしょうか?

 

 ……はい、はい。ええ、ケルベロスの件と、コキュートスの件についてなんですが……

 ……はい、はい。ハーデス様にお繋ぎすればよろしいので?

 はい、かしこまりました。では後ほどかけ直させて……あ、はい、分かりました。

 ではお待ちしております。皆様にもよろしくお伝えくださいませ、では」

 

その光景は、なんだかシュールであった。

聖書の神が、スマホでギリシャの神と連絡を取っている。

まあ、既に似たようなものを見ている気がするんだけどな。

 

だが、それを見ていたアザゼルはヤルダバオトを怒鳴りつけていた。

お付きの堕天使が制止しようとしているが、アザゼルはお構いなしの様子だ。

 

そして何より、怒鳴られているヤルダバオトは全く意に介していない。

聖書の神って嘯くだけの事はあるってか。

 

「何のつもりだ! 無闇に問題を広げやがって!

 俺がどんな思いで問題をでかくしないように苦心したと思ってやがるんだ!」

 

「アザゼル様、落ち着いてください」

 

「おや。その様子ですとオリュンポスには一切報告していないようですね。

 問題を大きくしないように、と言う事は間違いないでしょう。

 アザゼル、黙ってコキュートスにコカビエルを送りつけましたね?

 ……もう一度聞きます、アザゼル。コキュートスはあなた方の領土ですか?

 黙っていれば問題ないとでも思ったのですか? 回答なさい」

 

「……その様子ですと、ここで黙っていては我々の国もそのような扱いをされる恐れは

 十二分にあると言う事ですね、わかりました。

 では日本神話の主神として、此度の件はそのように考えさせていただきます」

 

「右に同じく、だ。四天王とも協議して、我々仏教も

 堕天使陣営との交流は考えて行きたい所存だ」

 

アザゼルは反論しているが、ヤルダバオトはその反論を一切認めていない様子で話を進めている。

自分の領土でもないところに自分達の犯罪人を送りつけたってことか。

……そりゃ、まあ怒るのも無理はないか。

天照も、アザゼルの様子を見て堕天使の行いを納得しているようだ。

 

「……コキュートスは、俺達の領土じゃねぇ。前大戦で、有耶無耶になっていた地獄の一角。

 そこの最下層に、丁度いいってことでコカビエルを閉じ込めたんだ。

 下手な場所だと、コカビエルに脱走される恐れがあったからな」

 

「それで他所の管轄地域に閉じ込めたのですか。

 部下の監督不行き届きだけならば……まあこれも大問題ですが。

 私が言えたことではありませんが、よくあることではあります。残念ながら。

 しかし、何のかかわりもない他者の領域に自分達の問題の元凶を閉じ込める。

 その行いは、如何な理由があろうと許されるものではありません。

 コカビエルを釈放しろとは言いません。ですが、直ちに他の場所に護送しなさい。

 ハーデス様への謝罪は、私も同席いたしましょう。

 認めたくはありませんが、こうなったのも『(ヤハウェ)』の責任ではありますので」

 

「……チッ」

 

話は、堕天使陣営がオリュンポスに謝罪する流れになっている。

確かに、他所の国のものを勝手に持ち出したり

他所の国に勝手に自分達の犯罪者を押し付けたりしたら大問題だよな。

 

……堕天使って、やっぱ碌なのいないのかな。

そう思っていると、まだ天照の追及はあるみたいで

さらに天照から話が進む。

 

「ギリシャは私たちはおろか、人々にとっても友好な国です。

 その国にわが国から迷惑をかけることなど、あってはなりません。

 此度の問題は、我々としましても遺憾の意を表明させていただきます。

 

 ……さて、問題はさらに遡ります。コカビエルによる外患誘致以前にも

 堕天使による人間への殺傷行為。それが幾度と無く行われておりました。

 末端までは考えの及ばないところではあると思いますが

 アザゼル総督。この件について改めてご説明願います。

 わが国に、我が国民の安全を脅かすものを何時までも置いてはおけませんので」

 

「……天照。分かってるとは思うが、この事件をきっかけに引きこもらないでくれ。

 鎖国にしても、天岩戸の事件にしても。

 それらは今の時代の流れとあまりにも逆行しすぎている。

 心配せずとも、俺がついている。そのための同盟だ」

 

「……ありがとうございます、大日如来様」

 

大日如来が天照を気遣っている。んだが、見た目がイケメン俳優・天道寛(てんどうひろ)のせいで

なまじ美人の天照に対してよからぬ事を企んでやしないかと思ってしまう。

くそっ、だからイケメンは嫌いなんだ!

 

けれど、天照の言うことは気になった。

堕天使のせいで、セージも、俺も、何よりアーシアは一度殺されたんだ。

一体何を考えて、こんなことをしやがったんだ。

 

「それも報告書に書いてあるとおりだ。神器(セイクリッド・ギア)を持つ者は、俺達堕天使にとって脅威となる。

 今は小さな芽でも、いずれ俺達に牙を剥かれては敵わんからな。

 そうなる前の予防策だ。それが全部だが、何かあるか?」

 

アザゼルの言っていることは、俺が初めて出会った堕天使――レイナーレの言っていることと

おおよそ似通っていた。自分達にとって危険だから、そうなる前に排除する。

 

……くそっ。やっぱり堕天使は悪魔の、人間の敵じゃないか。

そんな奴に和平って言われても、セージじゃないけど信用できねぇ。

けど、俺は下っ端も下っ端。魔王様に意見なんて出来るはずもない。

セージじゃないんだから。

 

そう思っていた俺の気持ちを汲んだわけでは決してないだろうが

次にヤルダバオトが紡いだ言葉は、完全にアザゼルを糾弾するものだった。

それには俺も、会場の全員も目を丸くしていた。

 

「大有りですよ。あなたは不確定な未来のために、現在を生きる生命を絶っているんですからね。

 それに……前から言わせていただきたかったのですが。

 アザゼル。いえ、それにサーゼクスにミカエル。あなた方……神器の何を見てきたのです?

 『私』は人間があなた方三大勢力の生命といつか肩を並べて生きる日が来る。

 その時のために、人間に神器を託しました。その力は、初めは単純に

 芸術センスに秀でていたり、人より鋭い感覚を持っていたり

 人には見えないものが見えたり、私達の声を聞いたり、その程度のものでした。

 

 しかし、それはいつしか争いに用いられるようになっていきました。

 人間が自らの意思で力をそのように使うのは、私としては不本意ですが

 人間自らが選んだ道である以上、私は何も言いませんでした。

 ……ですが、あなた方はなんですか。力を持った者を導くどころか

 排除しようとしたり、道具にしようとしたり。

 これではあなた方が戦争を煽っているようにしか見えませんよ。

 あなた方はこの世界を、星を滅ぼすつもりなのですか?」

 

そういえば、一番最初に部長が言ってた気がする。

過去名を残した芸術家の中には、神器に目覚めていたものもいた、って。

ヤルダバオトが言ってるのは、そういうことなのか?

けど、確かにアーシアの神器みたいに悪魔だろうと癒せる神器もあるけど

俺や木場みたいに武器としての使い方が主流の神器も少なくない。

そこはどうなんだろう?

 

「戦争に兵器を用いるのは当たり前だろうが。自分で危険物ばら撒いておいてよく言うぜ」

 

「……そこは否定しませんよ。正直、『私』は知りませんが私は神器を世に送り出したことを

 後悔すらしていますからね……こうした悲劇が起きている以上は。

 ですが、さっき話したとおり、神器は初めは生活を豊かにするための一助として

 私が人間に貸与したものです。それを兵器として用いたのは確かに人間ですが

 今、この世で神器が兵器として用いられている例を、私は知りません。

 寧ろ神器を兵器として用いているのは、あなた方のように見受けられるのですが。

 繰り返しますが、神器は元来、兵器ではないのですよ?

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)や、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)のように

 そうせざるを得なかった代物も確かにありますがね」

 

「と、なるとおかしいな。俺の聴いた話では、悪魔は積極的に神器もちの人間を

 自分の眷属に迎え入れている。そこにいる赤龍帝や、魔女と言われた少女もそうだと聞いている。

 今の話を統合すると、兵器として用いているのは寧ろそちら――悪魔側に思えるのだが」

 

ヤルダバオトの言葉に続く形で、大日如来が突っ込みを入れてくる。

へ、変な言いがかりはやめろ! まるで部長が俺たちのことを

道具としてしか見てないようなことを言いやがって!

そんなこと、あるわけないだろうが!

 

「言いがかりはやめていただけないだろうか、マハヴィローシャナ。

 我々悪魔は、確かに神器を持った者を眷属として迎え入れている。

 しかし、そうした者達には厚遇を約束している。道具として扱うなど、言語道断だ」

 

「それは妙ですね。私の耳に届いた話では主に追いやられた『はぐれ悪魔』なるものが

 わが国に一定の被害を齎しております。聞けば、それらは皆主に追いやられた眷属達。

 先ほどの話とは、矛盾が生じるのですが……」

 

サーゼクス様の反論に、今度は天照が待ったをかける。

な、なんなんだよさっきから!

そりゃ、そういう奴はいるかもしれないけど!

けど、悪魔だって部長みたいに……

 

「そんなわけないでしょ! リアスちゃんだって、ソーナちゃんだって

 眷属のみんなのことはとーっても大事にしてるんだから!

 いい加減なことを言って、みんなを困らせないでよ!

 

 大体ねぇ、私個人としてあなたに言いたいことあるんだから!

 あの授業参観のとき、私おめかしして行ったんだよ?

 それなのに、みんなそっちの方向いちゃうんだもん!

 マハヴィーちゃんは食べ物で釣ろうとするし、みんな私の事蔑ろにしすぎだよ!」

 

なんとセラフォルー様が天照や大日如来に強く当たっていた。

なんか、半分以上個人的な八つ当たりに思えるんだけど……

これにはソーナ会長も頭を抱えていた。

マハヴィーちゃんってのは、大日如来のこと……か?

 

「お釈迦様が言っていた……太陽は注目を集めるから太陽なのではない。

 皆を照らすから太陽なのだ……とな。太陽に感謝し崇めるのは生物として当然だ。

 その点、お前は太陽を気取っているただの電灯だ。

 電源を落とせば、その輝きはたちどころに失われる。

 常にそこに存在する太陽と比較すること自体が間違いだ。

 それに、そうやってちやほやされたとて、お前に集っているそれは所詮羽虫だ」

 

大日如来、これ完璧にセラフォルー様に喧嘩売ってるだろ!?

ああ、本当にどうしてこうなっちまったんだ!

案の定、セラフォルー様はぐぬぬ顔を大日如来に向けているし!

 

……あ、ちょっとかわいいかも。

 

「現レヴィアタンについては言いたいことが無いわけでもありませんが……

 あまり言うと内政干渉になってしまいますからね。やめておきましょう。

 さて。私も天照様の言うとおり『はぐれ悪魔』による被害を数多く目の当たりにしています。

 そしてそれの対応に当たっているのは人間です。

 ああ、彼らを責めるのは完全なお門違いですよ。

 彼らは自分達の住処を守ろうとしているだけなのですから。

 

 ……それよりサーゼクス。あなたも自分の不始末を他人に押し付けるつもりですか?」

 

「そんなことはない。現にこの地域のはぐれ悪魔についてはアガレス大公より

 統治をしているリアス・グレモリーに討伐依頼を……」

 

「やはり他人任せではありませんか。私が言っているのはそういうことではありません。

 『はぐれ悪魔を無くすためにはどうすればいいか』を聞いたのです。

 言っておきますが、全てのはぐれ悪魔を根絶やしにする、と言う意見は却下しますよ。

 全ての眷属悪魔がはぐれ悪魔になりうる可能性を秘めている以上、それは矛盾ですからね」

 

まだ言うか、ヤルダバオト!

俺たちのやってることにいちゃもん付けて、楽しいのかよ!

けど、どうすればはぐれ悪魔っていなくなるんだろうな。

セージだってこのままじゃはぐれ悪魔にされちまうかもしれないし……

 

「当然だ。折角迎え入れた者をはぐれとして始末すること自体、心苦しいものなのだ。

 だが、そうしなければ悪魔社会にも、人間社会にも悲劇が生まれてしまう。

 その点は、理解していただけないだろうか」

 

「迎え入れないと言う選択肢は無いのですね。些か暴論ですが、眷属として迎え入れなければ

 はぐれ悪魔を生み出す土壌は必然的になくなります。これが最善ではないとは思いますが

 一つの手として、一考してみてはいかがです?」

 

「そ、そんな事したら悪魔が滅んじゃうわよ! ヤルダバちゃん、本当に暴論だよそれ!」

 

「……え? つまりどういう事っすか?」

 

「悪魔転生をなくすって事。確かにそうすればはぐれ悪魔は生まれないけど

 そもそも、はぐれ悪魔になりうる転生悪魔そのものが生まれなくなるわ。

 つまり……悪魔に滅べって言ってる様なものよ」

 

部長の説明に、俺は度肝を抜かされた。

まさか、面と向かって滅びろって言うなんて!

い、いくら敵対していたとは言ったって、そこまで言うかよ!?

 

「……最善手ではないと言ったでしょう。それに、その程度で影響がでるほど

 やわな種族であるとは思えないのですがね。私の記憶の限りでは、ですが。

 寧ろ逆に、今の悪魔の寿命で人間と同じペースで増えれば

 それは新たな問題を生み出しますよ?」

 

新たな問題? 一体何だって言うんだよ。

悪魔は出生率が低いってのは俺も知ってる。だからハーレムも大いに歓迎されているって話だ。

それはまさに俺にとっては理想……なんだけどな。

けれど、どこに問題があるんだ?

 

「新たな問題? それは一体……」

 

「何故私がそこまで言わなければならないのです。それを考えた上で実行するのが

 魔王であるあなたの役割ではないのですか。

 それに私は何も一人で考えろと言っているわけではないのですよ?」

 

「で、でもわかんないわよ。ヤルダバちゃんの言うことは難しすぎて……」

 

セラフォルー様も、俺と同じ事を思っているみたいだ。

言うのはいいけど、もっと分かりやすく言えってんだ。

俺ははっきり言ってさっきから頭がぐちゃぐちゃだ。

だから難しいことを考えるのはやめにして、部長のおっぱいに集中している。

そんな俺を部長は苦笑しながらも、優しく受け止めてくれる。

ああ、やっぱ俺悪魔になって幸せだよ。

 

「……つまり、あなた方は意見もまともに纏め上げないままこの席を用意したのですか?」

 

「……っ! それは断じて違う! 我々は、元は天使、堕天使の両勢力との和平のために……」

 

「俺達日本に拠点を置く勢力が蔑ろにされているにも関わらず、か。

 先ほどのギリシャの件といい、どうもお前達は世界が自分達だけで成り立っていると

 思い上がっている節がないか? 俺には、さっきからそう見える。

 世界は自分を中心に回っていると考えるのは確かに楽しいが

 楽しいだけで世の中は渡ってはいけないぞ」

 

天照と大日如来は尚も俺達の勢力に突っ込みを入れてくる。

だ、だからなんなんだよ! 部長も、魔王様もこの日のために一生懸命だったんだぞ!

それを知らないで、勝手な事ばっか言いやがって!

 

「そんなことはありません、天照様。我々天界は日本との和平も望んでおります。

 現に姫島の神社にも先日……」

 

「……その話は聞きたくありません。悪魔の手にかかり、あそこに顕現していた神は

 その席を追われ、今やあの神社は『神のいない神社』となってしまいました。

 遠からず、あの神社は滅びるでしょう。それを止める術は、もう私にはありません。

 そして、そこに我が物顔で居座ったのはどなたですか。

 確かに私は、八百万の神として世界の遍く神々も私たちと同じくするもの、そう考えています。

 しかしそれは、決して私の……この大地で好き勝手に振舞ってよい。

 そう言う意味ではありません!

 おまけにあの場で、そこの少年に何を渡そうとしたのですか。

 私達の住処を勝手に占領しただけでなく、兵器のやり取りまで行うとは……

 既に証拠は挙がっているのですよ、大天使長ミカエル様」

 

俺が部長のおっぱいから現実に引き戻されるような衝撃的な証言。

天照が言うには、朱乃さんの神社にはもう神がいないらしい。

だから悪魔が入っても平気だったのか。

それに、アスカロンの一件は天照にも知れ渡っている。ってことは……

 

「ええ、私が会議の資料として冥界の雑誌を一冊拝借いたしました。

 これはヤルダバオトではなく薮田直人(やぶたなおと)としての忠告ですが……

 学校に私物はあまり持ち込まないほうがいいですよ、支取君」

 

「わ、私が情報の漏洩元だなんて……」

 

「そ、ソーナちゃん大丈夫だから! ソーナちゃんは悪くないから!

 悪いのは勝手に持ち出した顧問だから!」

 

そ、そういえば薮田は生徒会顧問でもあったんだ!

生徒会室に冥界の雑誌や新聞があったりしたら、薮田はそれを何食わぬ顔で手に入れられる!

そ、そんなことってありかよ!?

セラフォルー様が必死にソーナ会長をフォローしてるけど

それはヤルダバオトに対する非難でもあるわけで……

 

「確かに勝手に持ち出したのは謝りますが……

 そもそも、学校に必要以上の私物を持ち込むほうがどうかと思いますよ?

 まあ、支取君は生徒会室をシャワー付き個室に改造したりとか

 そういった無茶はしないでくれた分、よほど有情ではありますが」

 

「……なっ、何が言いたいのよ!」

 

「別に。何も言っていないのにそういう反応をするのはやめたほうがいいですよ。

 サーゼクス。あなたに言っても仕方ありませんが、せめて領主として立ち振る舞えるよう

 腹芸くらいは彼女に覚えさせたほうがよかったのではありませんか?」

 

そしたら今度は部長にまで飛び火した!

全く、油断も隙もねぇ! ど、どうしてこんな奴がここにいるんだよ、本当に!

 

「この分では、アザゼルと赤龍帝の密会も、何を企んでいたのか分かったものではないな。

 三大勢力同士では説得できても、我々神仏同盟を動かすには信用が足らない。

 俺、大日如来としては三大勢力の日本国からの即刻退去を願いたいものだが……

 多少なりともお前たちを信仰している人間もいる。そこまでは言わないでおこう……が。

 自分達は客分であると言うことを、少しは認識したらどうだ?」

 

「……言わせて貰うがなマハヴィローシャナ。

 俺は別に赤龍帝とやましいことを話してたわけじゃないぜ。

 ただ、赤龍帝がどういう奴か見たかっただけだ」

 

「アザゼル。あなた自分の立場が分かっているのですか?

 個人の好奇心でおいそれと動ける立場にいないことは、あなた自身よく知っているはずです。

 それなのに、個人的好奇心を満たしたいがために敵対勢力である悪魔に属している赤龍帝と

 個人的なコンタクトを取った。

 これは互いの勢力に疑心暗鬼を生み出すきっかけになりますが……

 それが原因で、冥界は現に混乱しましたからね。その口で和平ですか。

 ……なるほど、あなたにとって和平とは紙くず程度の価値しかないようですね」

 

「……そうだったなアザゼル。それにミカエルも。和平のためであるとは言え

 こちらの、妹の眷属である兵藤君に接触してくるとはどういうつもりだ?

 それも、正式な手続きを経ないで、だ。

 ミカエルは兵藤君にアスカロンを渡すつもりだったそうだが……

 一体、どういうつもりなんだ? 返答次第では、和平調印には私も考えざるを得なくなる」

 

「ちょ、ちょっとサーゼクスちゃん!?」

 

ああっ! サーゼクス様もヤルダバオトに感化されたのか

和平について懐疑的になってしまっている!

こ、このままじゃまた戦争になっちまわないか!?

そうなったら、あのコカビエルの思う壺じゃないか!

 

「アスカロンは我々天界と冥界の和平の証。そのために彼と個人的に親しい聖剣使いである

 紫藤イリナをアスカロンを渡す使者として派遣するつもりだったのですが……」

 

な、なんだって!?

イリナが……アスカロンの使者!?

っつーか、いつイリナ帰ってきたんだよ!?

いや、木場が「ゼノヴィアが見つけた……かもしれない」みたいなことは言ってたけど!

だ、だったら何でイリナはアスカロンを持って来ないんだ!?

 

「紫藤イリナ? はて。私の記憶では彼女は悪魔に誘拐されたと言う警察の証言がありますが。

 そして、保護されたと言う話は私は聞いておりませんが……ミカエル。

 この際だからあなたにも言っておきます。

 あなた……本気で信者をしっかり見つめているのですか?

 信者を抱えたものは、信者を正しく導く義務がある。

 『私』の不在……何故あなたは黙っていたのです?

 黙っていれば分からないであろうと、そう思っていたのではありませんね?」

 

「それは……信者に不安と混乱を与えないためです。主がいないことを知れば

 多くのものは心の支えを失うでしょう。そうならないためにも

 主がいないことは伏せるべきであった。私はそう思っています」

 

「それは思い違いですよ。人は既に神の手を離れ始めています。

 いえ……もう離れていると言ってもいいでしょう。人は自らの足で歩き始めているのです。

 何時までも神が、我々が口出しをすることは人間にとってよい結果をもたらすとは思えません。

 神がいなければ人は成り立たない、そう考えることは最早傲慢ですよ。

 ミカエル。そしてアザゼル、サーゼクス。何故『私』は消えたと思いますか?」

 

「それは、昔の戦争で……」

 

「他の皆さんも同じ答えですか? ならば……不正解です」

 

俺には、ヤルダバオトの言っていることが分からなかった。

昔戦争があって、それで聖書の神は死んだんじゃないのか?

三人とも、俺と同じ意見だけどヤルダバオトは違うって言っている。

ど、どういうことなんだよ?

 

「そもそも、神が死ぬなんてナンセンスですよ。神は信仰によって成り立つものです。

 生物としての生と死、それは我々神にとっては形骸的なものに過ぎません。

 生物の営みは、この地上に、大海に、大空に住む者達に任せればよいのです。

 信仰がある限り、神は不滅です。ですが信仰を多く集めているとは言え『神』は消えました。

 何故だと思います? ……必要がなくなったからですよ」

 

!? か、神が……必要ない!?

俺にはヤルダバオトの言っている事が、まるで分からなかった。




やばい、突っ込みが追いつかなくてここでヤルダバオトのターンを終えるつもりが
まだ続いてしまうなんて!
どんだけ突っ込みどころ多いんだ三大勢力!

前回から反響が大きいです。毎度ありがとうございます。
分からない点等は感想欄か私に直接メッセージをお願いします。
返信は遅いかもですが、可能な限りお答えいたします。

では解説。
かなり独自解釈・設定が多いです。

>コキュートス
三巻のケルベロスでちらっと触れましたが
普通にオリュンポス、すなわちギリシャの領地という設定です。
出自を考えたら堕天使が勝手に使っていい場所じゃないよな、と。

ここでハーデスが三大勢力に対し嫌悪感を抱いている理由付けが出来ました。
自分のところの生物を勝手に持ち出されたり
自分の領地に大罪人送り付けられたりしたらそりゃ、ねぇ。

>神器
記憶違いかもですが、神器にはこうした平和的利用のできるものも
数多く存在していたと思います。
しかし、原作では(ある意味拙作でも)戦闘方面にばかり目が行き過ぎていて
「ああ、結局力はそういう風にしか使われないのか……」と。
いくらガンダムパロが多いからって、ここまでオマージュするとは流石です(錯乱

>姫島神社に悪魔が入れた理由
神がいなくなってました。
前回にて天照の「声が届かなくなった~」は、この件を指しています。
神がいなければ魔を祓う力も無くなる訳で。

>神は信仰によって~
これはメガテンとか東方とかそっちの思想なんですけど。
けれど、神が死ぬってのが今一ピンと来ないってのもありまして。
まして四文字クラスの主神が、ですよ?
なので、「死んだ」ではなく「消えた」と言う事にしてあります。
ヤルダバオトはあくまでも四文字本人ではなく影武者ですので。

3/29訂正。
昔見た何かのアニメの記憶がごっちゃになってたらしく。
一応ゼウスの奥さん設定は生きてます>ヘラ様

……どうでもいいけど、イッセーとか見たらぶちきれそうね、ヘラ様

3/29訂正その2。
アガレスの方でしたっけ。
いやはや、記憶違いが多く申し訳ないです。

今後も不備等ありましたらご連絡くださいませ。


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Extra Soul6. セージ・ドリーマーズ・アゲイン

毎度の応援、評価ありがとうございます。
大変な励みになっております。

最近の高評価で気をよくした作者が送る
エイプリルフール記念番外作品。
突貫製作なので、本編とは絡んでいたり、絡んでいなかったり。

なので、気楽に(?)御読みくださいませ。


「ふっふっふ。聞け彼女ナシの諸君。ついに俺、兵藤一誠にも彼女ができましたっ!

 じゃーん、この子が俺の彼女、天野夕麻ちゃんでぇーす!!」

 

得意げにスマホの写真を松田と元浜に見せびらかすイッセー。

俺は目線がこいつらより少しばかり高いから後ろにつっ立っているだけで見えてしまう。

元々拝んでやるつもりだったが。この世の終りのような表情を浮かべている

松田と元浜を他所に、俺はふと思ったことがある。

 

……が、こいつらほど親しくないとは言え一応クラスメートだ。

そんな奴の彼女を、あまり悪し様に言うのも気が引ける……ん?

 

……おい、ちょっと待て。

 

これは、何時の話だ? と言うか、俺は一体どうしたんだ?

俺は確か、グレモリー部長に逆らった事が原因――かどうかは分からないが――で

幽閉処分を受けていたはずだ。それなのになんで教室にいるんだ?

 

と言うか、そもそも天野夕麻――レイナーレは、俺が完膚なきまでに叩き潰したはずだ。

もしそうだとしても、イッセーよ。お前はまた同じ手に引っかかっているのか?

 

「イッセー。何馬鹿なことを言っている。その天野夕麻――レイナーレに

 お前はどれだけ酷い目に遭わされたと思ってるんだ。

 言っておくが、同じ轍を踏んでおいて助けたりはしないからな?」

 

俺の発言にイッセーだけでなく、松田も元浜も不思議そうな顔をしているのだ。

あ、しまった。俺は霊体だった。自然に話に参加していたので、うっかり忘れていた。

だが、それ以上に不可解な事がおきた。

 

「なあ宮本。お前、頭打ったか?」

 

「つーかお前、この子知ってるの? いや、俺らもお前の交友範囲が広いのは知ってるけどよ。

 ほんとお前、人付き合い苦手なくせに交友範囲だけは広いよな。やっぱバイトの賜物か?」

 

……え?

ど、どういうことだ? イッセーが俺に反応するのはわかる。

けれど、松田と元浜が俺を認識している?

ど、どういうことだ?

 

「セージ、お前自分が彼女いないからってそういう風に言うのやめろよな。

 夕麻ちゃんが悪い人の訳無いじゃないか。俺のこと前から好きだって言ってくれたんだぜ?」

 

お前、そんなんだから引っかかって……ってあれ?

この話の流れ、覚えがあるんだが。

この後で俺は確か……

 

「イッセー。今朝のニュースじゃ明日は晴れって言ってたが

 明日のデートに雨具とヘルメットは用意しとけよ。

 お前に彼女が出来るなんざ、嵐か災害の前触れだからな。

 後俺を勝手に彼女なしにするな。いるとも言ってないが、いないとも言ってないんだぞ?」

 

そう。俺はこう言った。そしてこの後松田と元浜が俺のイヤミに反応して大笑いする。

 

「ぶはっ……! み、宮本……お前それ言いすぎ……!!」

 

「そうそう、いくらリア充爆発っつったってな……!!」

 

そう、こうして呼吸困難に陥るほど笑い転げるんだった。

……間違いない。俺はこの光景を知って……いや「覚えて」いる。

ただ、何故今それを追体験しているのかはまるで分からないが。

おまけに、身体が戻っているじゃないか。アレだけ苦労したのに、なんでまた?

いや……これは過去か? 過去だから、俺が身体を失う前に……

 

ま、まあいざとなれば記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を……

 

……いや待て。ここが仮に過去だとしたら、それはまだ使えないはずだ。

とにかく、過去だと仮定して考えよう。この後俺とイッセーはデートプランの打ち合わせをする。

そして当日、イッセーは殺され、俺も……

 

そう。これこそが全ての始まりだったんだ。

ならば、これを回避すれば事態は大きく変えられるのではないか?

 

……い、いや。それはそれでどうなんだ?

ええい、こればかりは考えていても仕方ない!

とにかく、イッセーにデートをやめるって進言は意味を成すまい。

あの時以上に、デートに張り付いてやる!

そして、今度と言う今度こそは……

 

――――

 

帰り際、やっぱり松田と元浜からDVD鑑賞会に呼ばれたが、丁重に蹴っ飛ばしてやった。

まだ頭の中のモヤモヤが取れない。確か以前はレイナーレの事に関して疑惑があったからなんだが

今は今で現状に疑惑がある。まあ、レイナーレの疑惑は最悪の形で当たってくれたが……。

 

あの時と同じように、バーガーショップでイッセーにハンバーガーをおごりながら

ショッピングモールを回れ、と提案した後俺達は別れてそれぞれ帰路に着いた。

最も、俺はあの時ショッピングモールに立ち寄って晩飯の惣菜の買出しをしていたんだが。

 

改めてみると……ああ、なるほどな。

やたら教会や神社、それも今は使われてないような建築物が目についていたが

それも悪魔や堕天使の仕業だと考えれば、合点がいく。

イッセーと別れてから試してみたが、やはり俺の本体である以上右手は戻ったが

神器(セイクリッド・ギア)も覚醒前に戻ってしまっている。無論、ドライグの鱗もない。

つまり、今はぐれ悪魔とかに出くわしたらアウトだ。

身体能力も人間のそれなので、逃げるにしてもうまくいくかどうか。

やはり、今は悪魔と必要以上に関わるべきじゃないな。

 

街の広場で配っていた変なオカルトじみたチラシ。

これも今となってはよく知っているものだ。今の俺には関係ないが。

こんなのにホイホイすがるほど人間もバカじゃないと思いたかったが

やはりそうでもなかったと言う事か。なにせ、初めから悪魔が幅を利かせていたんだ。

 

……あの時とは思うことも色々違うが、やらなければならないことはやらねばなるまい。

晩飯の惣菜を物色だ。夕方以降の惣菜や生鮮食品は安い。それが狙いだ。

そう、ここで確か俺は……

 

「あら、あなたうちのイッセーと同じクラスの……えーっと」

 

「……宮本です」

 

イッセーの親御さんと出会ったんだ。むぅ、未来を知っているだけに顔を合わせづらい。

しかし言うべきことは言わねば。勿論、悪魔の事ではなく

今さっきバーガーショップにいたことだ。

 

「そうでしたか、うちのイッセーがわざわざすみません。

 いつも浮かれていてご迷惑をかけるかもしれませんが

 どうかよろしくお願いします」

 

「いえ、こちらこそ。兵藤君にはこっちも世話になってますし。

 それじゃ、そろそろ晩飯買って帰らないといけないので。

 そちらも帰りには気をつけて。最近は妙な事件も多いですし……あ、それと!

 

 ……もし、もしですよ? 兵藤君が人間じゃなくなったとしたら……どうしますか?」

 

おもわず聞いてしまった。俺の記憶どおりなら、あいつは明日悪魔になる。

そうなってしまったら、もう今までの生活にはならなくなる。

そして……俺の知る全ての災厄が始まってしまう。

止められるなら、止めるべきかもしれない。

 

けれど、親御さんの言葉はある意味で俺の予想通りの言葉だった。

 

「何かニュースの見すぎ? 最近不可思議な現象が起きてるらしいけど。

 けどそうねぇ……生きて、元気にやってくれているのなら私としては言う事はないわ。

 そうなったときに、可愛い孫の顔が見られれば言う事ないのだけど」

 

「……そうですか。変な事聞いてすみません。じゃ、重ね重ね気をつけて……」

 

まあ、そうだよな。

俺は親じゃないからわからないけど、子供が生きているだけで御の字だよな。

そう思い直し、俺はイッセーの親御さんを見送り、自分の会計を済ませて帰ることにした。

 

――――

 

自宅。何故だかすごく久々に帰ってきた気がする。思わず胸にこみ上げてくるものがあった。

頭の中が真っ白になり、今の時間も忘れ玄関を勢いよく開け大声で叫んでしまった。

今にして思うと、ちと恥ずかしい……

 

「 た だ い ま ァ ー - ! ! 」

 

……勿論、仕事帰りで疲れて寝ていた母に怒られたのは言うまでもない。

寝ていた原因は、母の布団の上で暖を取っていた猫。

こいつが乗ると眠くなるんだよなぁ。この猫をなでるのも久々なので

無意識のうちに、その猫をなでる回数も増えている。

心なしか、猫がうざかっている風にも見えたがそれに気付くのは少し遅かったらしく

若猫もかくやと言う勢いで噛み付かれてしまう。痛い。

 

「明日なんだけど、ちょいと出かけるけどいいか?」

 

「いいわよ。明日は私も休みだから、寝ながら家事しとくから」

 

「……あの、さ」

 

「ん?」

 

「……いや、なんでもない」

 

明日俺が迎えるであろう運命の事は言い出せなかったが

外出許可はすんなりと降りる。これがいつもの我が家だ。

やはり父親はいないし、当然顔も知らない。

祖父母も既に空の上だ。大体どちらかが家に居り、猫はいつも家に居る。

もう猫がこの家の主でいいんじゃないかな。

仕事の話とか、学校の話を適当に交わした後風呂に入り、布団に潜る。

……と見せかけて、スマホで調べものをしたのがあの時。

今は……久々の自分の布団の感触を味わいつつ、やるべきことをやる。

 

万が一が起きたときのために、可能な限りの身辺整理。

そして、牧村明日香(まきむらあすか)姉さんにメールを送る。

子供の頃から、俺と一緒に遊んでくれた近所のお姉さん。

小学校卒業と同時に引越し、最近また帰ってきたらしいのだ。

 

でも、だからって会った訳じゃない。

今は、育児で忙しいらしいのだ。仕方ないよな。

 

……これだけやればいいよな。

結局、床についたのは相当遅い時間だった。

 

――――

 

翌日。母親と朝飯を食った後、母親は二度寝を始める。

マジで疲れてるのか……猫もこの時間は寝ている。

さっさと出るつもりだったが、簡単に家事を片付けて

昼飯もすぐに食える状態にしておき、今日の本命を果たす。

ここまでは、あの時と同じだ。問題はこれから。

 

――イッセーのデートの邪魔……もとい、レイナーレによる凶行の阻止。

 

正直に言うと、俺がこのまま外に出なければ「俺は」平和で過ごせたのかもしれない。

けれど……今日死ぬって分かってる奴がいる以上、黙って見過ごすのも気が引ける。

後ろ髪を引かれる思いで、俺は家を後にする……。

 

――じゃ、行ってくるよ。さよならじゃなくて……行って来ます。

 

カブを走らせ、給油を済ませた後に向かったのはショッピングモール。

俺が提案したデートスポット。

ブティックに雑貨屋、ファミレスまで入ってる結構本格的なやつだ。

……ゾンビ映画で立てこもったらかなり優秀な拠点になりそうなくらいには。

 

などと二人から少し離れた席でムードもへったくれもないことを考えながら

アイスコーヒーを飲んでいる。ケーキセットにしたかったのだが

すぐに動けるほうがいいと思いコーヒーのみだ。

結果を知っていて見ると、見るに堪えない茶番だ。

空回りしているイッセーが不憫で仕方が無い。

だが、ここで俺が出るわけにはいかない。ここで言い出しても聞く耳は持たないだろうし。

 

「ドッキリ!」とか書かれたプラカードが出て来る方が、どれだけマシだったか。

あるいはどっかロケバスか何かで芸能人が様子を逐一見て笑うほうが、どれだけマシだったか。

一応、連絡先を控えている松田と元浜に明日のプランを考えておいてくれ――

そうメールを打とうとした矢先、二人が席を立つ。このタイミングもあの時どおりだ。

 

……あ、そういえばあの時結局ケーキはちゃんと食えなかったんだっけ。

 

――――

 

二人が向かった先は公園。やはり、これもあの時どおりだ。

疑惑はもう確信に変わっている。神器も、悪魔の身体能力も、赤龍帝も無い。

けれど俺は、やらなきゃならない。目の前で、友人が殺されようとしているのならば。

 

……けれど、心のどこかで迷いがある。

 

――過去を変えるのが、根本的な解決になるのか?

 

そもそも、過去は変えられるのか?

その答えは、今から動かなければ出ないだろう。ならば、動くしかない。

例えそれが、奈落への道だったとしても。

これは多分、イッセーのためと自分に言い聞かせているけど、俺のためだろう。

あいつは悪魔になったことを後悔していない。親御さんもある意味容認している。

けれど俺は……俺の場合は……

 

そう思考を巡らせていると、運命の時はいよいよやって来た。

 

「ねぇ、死んでくれる?」

 

その言葉を聴いた瞬間、俺はカブのエンジンをふかし、フルスロットルでレイナーレにぶつかる。

相手は堕天使だ。これでも決定打にはなるまい。だが!

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

「ぐっ……!?」

 

「……え? せ、セージ? お前何しに……」

 

以前もこんな感じで間に割って入った。以前はイッセーを助けるために無我夢中だった。

けれど今は違う。レイナーレを倒す事はできなくとも、ダメージを与え

かつイッセーが殺されるのを防がなければならない。

 

「いいから乗れ! 逃げるぞ! 学校まで吹っ飛ばす! つかまれ!」

 

ここからも無我夢中だ。案の定、レイナーレは追ってくる。

あの時は確か、増援もいたはずだ。そいつに見つかってもアウトだ。

目的地は駒王学園旧校舎、オカルト研究部の部室。

あそこに逃げ込めば、イッセーの身の安全は保障できる。

……その結果、イッセーの悪魔化はあるかもしれないが

その時はその時だ。重要なのは、今ここでイッセーを殺さない事だ。

 

「な、なんでだよ……夕麻ちゃん、なんで……」

 

「黙ってろ! 舌噛みたいのか!」

 

あの時はわけが分からなかったから動転していたが、今は違う。

明確な目的地があり、そこに向かって一直線。

それならば、万に一つでもイッセーは助かるかもしれない!

 

……が、それは慢心。楽観視。俺が作戦を立てる上で最も忌避すべきものとしてきたもの。

焦りが、それを生み出してしまっていたのだ。

 

信号が青になり、前進すると今度は目の前にゴスロリファッションの金髪少女と

ボディコンスーツの女性が車道の真ん中につっ立っている。

この流れ……ま、まさか! こいつらもレイナーレの!!

な、なら一か八かカブで突っ込んで……

 

「特攻とか、今時流行んないっすよぉ」

 

次の瞬間、俺のカブに光の槍が直撃。そうなれば、俺のカブはアワレにも爆発四散。

 

「イッセー! 耳をふさいで伏せるんだ!」

 

「な、なんだ……うわっ!?」

 

サヨナラ、俺のカブ……

だが、爆発が起きたことはチャンスだ。

爆発の中で、イッセーを連れてなんとかこの場を離れようとする。

幸い、この爆発で警察も動いたようだ。サイレンの音が遠くに聞こえる。

警察……そうだ、超特捜課(ちょうとくそうか)

 

……ダメだ! 超特捜課は確かコカビエルの事件の前後で結成されたはず!

この時点じゃ、まだ結成されていないかもしれない!

 

「お、おいセージ、カブ吹っ飛んじまったんじゃ……すまねぇ、俺のせいで……」

 

「もういい、構うな! とにかくここから学校の旧校舎まで全速力でダッシュだ!!」

 

とにかく俺達はひた走る。だが、走れども走れども学校は見えない。

まさか、こいつら結界的なものを張りやがったか!?

くそっ、そうなったら破る術がないぞ!

そうこうしているうちに、レイナーレが追いついてしまう。

 

「ひどいわイッセー君。私のお願いも聞かずに行っちゃうなんて」

 

「ゆ、夕麻ちゃん、俺は……」

 

くそっ、なんて白々しい! 初めから何とも思ってないくせに!

まさかとは思うが……戦って勝つしか、この場を切り抜ける手段は無いのか!

……今更ながらに、グレモリー部長は何でこんなザコどもを放置してたんだよ!

あんたらにとってはザコでも、俺らにとっては命の危機なんだよ!

 

「それから、そっちの人間。よくもこのレイナーレの邪魔をしてくれたな。

 人間の分際で小賢しい、神器を破壊したら次はお前の番よ……いや」

 

だ、ダメだ! この後で……こいつは俺達に光の槍を突き立てる!

くそっ、やはり過去は変えられないのか……!

 

「よくもこの至高の堕天使たるレイナーレに泥を付けてくれたな。

 お前から先に死ねぇ!!」

 

「何っ!?」

 

狙う順番が変わっただけか!

せ、せめてこっちを狙ってる間にイッセーが逃げてくれれば……

 

やはり、悪魔でもない人間の身体では堕天使に勝ち目が無いのか!

おまけに神器も無いと来た。最も俺の神器の場合、あってもまっさらでは勝算薄いが。

こ、こうなったらせめて引き付けて……

だが、そう思っていたのは俺だけだったことをすぐに思い知る事になった。

 

「せ、セー……ジっ……!!」

 

気がつけば、体は勝手に動いていた。俺のではなく、イッセーの。

俺に向け投げられた槍は、イッセーに突き刺さる形になる。

な……何故だ!?

 

「へ、へへ……っ……初めての……デートが……

 まさか……最期の……デート……なん……てな……」

 

「し、しゃべるな!!」

 

「ほんと……は……そう、じゃ……な……い……か……って……さ。

 ここ……まで……とは……おもわ……けど……」

 

まずい、あの時のアーシアさんと同じだ!

このままじゃ、このままじゃイッセーが!

俺は、こんな事をするために過去に来たというのか!?

 

「あー……あの……あか……い……か……み……の……」

 

こ、こいつ! こんな時にまでグレモリー部長かよ!

こんな時からグレモリー部長だったのかよ!?

このバカ野郎が! そいつはな、お前が死んでやっと初めて助けに来るような奴なんだぞ!

 

「お……おいイッセー!? イッセー!!」

 

揺さぶるが、反応は無い。

ま……まさか……そんな……!?

 

これが……過去を変えるって事なのか……!?

なんだよそれ……何も変わってないじゃないか……

ふざけるな……ふざけるなよ……

 

返せ……返せよ……これからどんどん日常が奪われていくんだろ……

何が堕天使だ……何が神器だ……何が赤龍帝だ……

 

「ふざけるなてめぇら!! お前達に何も知らない奴らの

 日常を壊す権利なんかあってたまるかよ!!」

 

「ぷっ……何熱く語っちゃってるんすかぁ? マジうぜぇんすけど」

 

「レイナーレ様、アレも始末しますか」

 

「当然よ。この場に居合わせた上に、私に傷を付けたのよ。生かして返すわけが無いわ」

 

結局、こうなるのか。

今の俺に、堕天使三人を相手に勝てるとは思えない。

だけど、やるしかない。

 

「例え死んでも、お前達を呪い祟ってやる! 生霊……いや怨霊としてな!

 お前達の思うようには、絶対にならない! 絶対にだ!!

 人間の底力、思い知らせてやる!!」

 

俺の声は、やはり届かないのか。

 

俺の声は……

 

声は――

 

 

――――

 

 

「人間の力思い知れ、レイナーレェェェェ!! ……え?」

 

気がつくと、俺は旧校舎の幽閉部屋にいた。

そこは、俺の真新しい記憶となんら変わらない。

右手を見てみる。無い。この一項目で俺は全てを察した。

 

 

……夢、か。

それにしてもリアルな夢だったな。

まるで、本当に過去が変えられたかもしれないみたいに。

 

……ま、そんなこと出来るわけもないか。

過ぎたものは、もう変えようがないんだ。

だから、変えたければこれから修正しなきゃならない。

 

霊体でいたせいか寝汗をかいていないことにある種の利便性を覚えながら

ふと外を見ると、フードを目深に被った集団が通り過ぎるのが見えた。

……はて? あんな連中使い魔にいたっけか?

いや、そもそも今日部室にはギャスパーしかいないはずだが。

 

俺は酷く嫌な予感を感じざるを得なかった。

奴らの狙いはギャスパー、そして現時点でギャスパーを狙うとなると

それが善性のある集団であるとは到底思えなかった。

 

「ギャスパァァァァァッ!! 逃げろぉぉぉぉぉぉっ!! 逃げるんだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

俺のその叫びは、やはり夢と同じように届かない事を、俺はすぐに思い知る事になった……




元ネタは記念すべき第一話、Life0. のセージ視点です。
ただし勿論セージ視点でそのままLife0. の焼き直しをしても
面白くも何ともないですので夢オチ入れました。

最も、セージにとっては悪夢以外の何者でもありませんでしたが。
つかの間の帰宅、つかの間の実体、つかの間の平和。

もしも、セージがイッセーにデートプランを提案しなかったら。
もしも、あの時セージが家をでなかったら。
もしも、あの時セージが神器に目覚めたら。
そしてもしも――

セージが、実体を失わなかったら。

それがいいことなのかどうなのか。
そこには、悪夢としての貌は間違いなく存在していました。

セージが実体を失わなかったら、のifで一からやろうかとも思いましたが
それただのオリ主ものにしかならなさそうなのでとりあえずこんな形で。

番外編ですが解説

牧村明日香
存在はかなり前から示唆されていたセージ憧れの人。
名前の由来はデビルマンより牧村美樹と飛鳥了。
え? 飛鳥了は男だって? 気にしちゃだめ。
というかデビルマンはともかくバイオレンスジャックでは……

セージにとっては姉ともいえる人物ですが
彼女自身は一児の母でもあり、それがセージの心情をややこしくしている要因。
言うまでも無く普通の人間であり、人外とは無縁の存在。
それが故に、セージが人間を守りたいという原動力になっている部分もあります。


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Life48. 会議、わけが分かりません!

本編に戻ります。
やっとヤルダバオト無双にクールタイムがつきそうです。

え? いらない?
……つけさせてくださいお願いします。


尚今回の作品を書くにあたり特にお払いとかはしてませんが……
行ったほうがいいんでしょうかね、やっぱ


「!? か、神が……必要ない!?」

 

ヤルダバオトは、自分が聖書の神の影であるにも関わらず

「神は必要なくなった」

そんな、とんでもないことを言ってのけたのだ。

この発言には、会場にいて意識のある全員が驚いていた。

 

「日本やギリシャのように、現象や技術などに人格を与え

 神格化したものはその限りではありませんがね。

 その点、唯一神である『(ヤハウェ)』は人間の進歩と共にその存在意義を少しずつ失い始めました。

 空を、海を、地の底を……そして現に、宇宙にも。

 人類はその行動範囲を少しずつ広げています。『私』はかつてこう言いました。

 『もう私が、我々が導く時代は終わったのだ』と。

 実際、『私』の手助けなしで人類は様々な力を得ました。

 その善悪は、ここで議論するものでもないので割愛しますが」

 

もう、俺はヤルダバオトの言っていることを理解するのを放棄している。

ただ、ミカエルが衝撃を受け、アザゼルが逆切れしてるのだけは分かる。

 

「ふ、ふざけんな! それらの技術も、元はと言えば俺が人間に齎した……」

 

「ええそうですよ。ですが、そこから発展させていったのは間違いなく人間です。

 最早彼らは我々を崇める存在ではなく、我々と共にあろうとする存在であり

 唯一無二の替えの効かぬ隣人である、そう私は思いますよ。

 そして、そんな存在の彼らを一方的に扱うことは、許されることではないはずです。

 神の役割が終わったからこそ、私は人間として彼らの営みを陰から見守り続けていました。

 そのうちの一つがここ、駒王学園だったと言うわけです。

 ここで私は、色々と衝撃的なものを見させていただきましたがね」

 

「……そ、それで私達の顧問を引き受けてくださっていたのですか……。

 では、私達が悪魔であった事も最初から知っていたと?」

 

ソーナ会長の問いに、ヤルダバオトは頷き返している。

この学校には悪魔やそれに通ずるものが多いってのは知ってたけど

まさか教師にも紛れ込んでいたとは驚いたぜ……しかも聖書の神と来た。

 

「まあ、流石にサーゼクスの目を欺くのには苦労しましたがね。

 おっと、この件に関しては他人のことは言えないはずですよ?

 あなた方だって、悪魔である事をひた隠しにしているではありませんか。

 それと同じ事ですよ」

 

そういえばソーナ会長も部長も、表向きは普通の生徒だった。

悪魔としての顔を知っちゃったから、それをすんなり受け入れているけど。

この分だと俺が知らないだけで、意外な奴が意外な正体を持っていたりするのかな。

 

「人間が隣人……ですか。私が言うのもなんですが、それは理想論では?

 私には、人間は未だ下らぬ争いを続ける未熟な生き物にしか見えませんが」

 

ヤルダバオトの言い方にはちょっと棘があったけど、それ以上にミカエルの物言いにも

ちょっとカチンと来た。俺だって数ヶ月前までは人間だったんだけど。

……そういや、ミカエルは俺のことを終始赤龍帝と呼んでたな。

どっちにしたって、もう人間じゃないんだよなぁ、俺。

別に後悔はしてないけど。

 

「それについては否定しませんよ。ですが、それを悪魔や堕天使と

 未だ下らぬ争いを続けるあなたが言いますか?

 最早戦う理由が無いにも関わらず、ですよ? あなたに人間の事が言えますか?

 私は未熟者としてあなた方を作り出した覚えはありませんよ。

 ……そう、思っていたのですがどうやら思い違いだったようですね。

 ついでに言わせていただきますと、私を戦争の理由にでっち上げるのも御免被りますよ。

 神や魔王がいなくなったから戦争は終わりを告げました。

 実際には私がこの場にいますが、私はヤハウェを襲名するつもりは毛頭ありませんので。

 『私』が消えた理由を考えれば、襲名してまで神を残す事に意味は無いでしょう」

 

「戦う理由が無い、そうあなたは仰いますが

 我々とて領土を守るためにやむなく戦っているのです。

 そこはご理解……」

 

「何度言わせるつもりだ、サーゼクス・ルシファー。

 これ以上ふざけた問答をするつもりは天照はともかくこちらには無い。

 領土と言うものに対する考え方がそちらと我々とで異なる場合、その限りでもないが……

 そうでもないだろう? それに、この温情は天照だからこそだ。

 ここにいるのが将門命……将門公や大自在天だったら

 お前達は話し合いの場にすら立てないぞ」

 

「だ、大日如来様。将門命や大自在天、すなわち天神……道真公はやりすぎではないかと……」

 

ヤルダバオトも、大日如来も三大勢力のトップに対する視線はもう哀れみすら帯びていた。

な、なんかムカつく……

むかっ腹を立てていたのは俺だけじゃなくて、アザゼルもだった。

俺みたいに露骨な態度こそ取ってないけど、明らかに不機嫌そうだ。

まあ、そうだよなぁ。

一方の天照は、大日如来が出した名前に引いていた。俺には聞き覚えの無い名前だけど。

強いて言うなら天神ってどっかで聞いたか?

 

「……だ、大日如来の言う事も最もですわね。

 これが東京だったりしたら、今頃三大勢力は

 将門公の祟りに遭っていてもおかしくありませんわ。

 天神様にしてもそう。学問の神であると同時に、強い力を持った祟り神でもありますし」

 

「朱乃。随分と神仏同盟の肩を持つわね。やはり巫女だからかしら?」

 

「……そうではありませんわ。ただ、日本の神も、この地に根付いた信仰も

 決して弱いものではない。お母様だったらそう言う筈ですわ……」

 

朱乃さんの顔色がやはり悪い。

今大日如来が出した名前の奴って、そんなにとんでもない奴なのか?

そういや俺、悪魔についてはライザーん時の合宿でみっちり叩き込まれたけど

それ以外の天使や神についてはさっぱり何も知らないんだよなぁ。

一応、天使についてはある程度アーシアが教えてくれたけど。

 

「『神がいなくても世界は回る』か。全くよく言ったもんだぜ……クソッタレが。

 じゃあ何か? 俺たちはもうお役御免か? それこそふざけんな、なんだがな」

 

「それはあなた方が決めることですよ。人間に道を示したと言う意味では

 悪魔も、天使も、堕天使もそれぞれ大いに役割を果たしてくれました。

 ですが、それ以降は完全な蛇足です。

 もう一度言います。もうあなた方が人間を好き勝手に使っていい時代ではありません。

 いえ……初めから、人間を道具のように使うこと自体が間違いなのですよ」

 

「いいのか? 俺らで勝手に決めていいってんなら、現状維持が俺の答えだ。

 神器(セイクリッド・ギア)は危険なモノだって認識を改めるつもりはねぇし

 俺には神器が必要なんだ。ま、戦争だけは御免被るがな」

 

「現状維持……それはつまり、殺傷事件を今後も起こすと言う意思表示で構いませんか?」

 

完全にアザゼルとヤルダバオトは険悪な空気になっている。

そんな中、アザゼルの言い放った「現状維持」って言葉に天照や大日如来が反応する。

そこには、俺とゲーセンでゲームに興じたチョイワル親父の姿はどこにも無かった。

 

「それに現状維持で戦争反対と言うのも虫がいいな。

 聞けば三大勢力は未だ一触即発の状態……この席を見ても明白だ。

 大事な事だから何度でも言うが、俺達は自国の民を

 お前達の詰まらん遊戯に巻き込んで欲しくないだけだ」

 

「……確かに。このまま話を続けていても埒があきませんね。

 どうやら、私達は私達だけで問題を解決しようと早急になりすぎていたかもしれません。

 今にして思えば、赤龍帝にアスカロンを渡そうと思ったのも

 和平を急いていたのかもしれませんね。滅びを間近にしているのは

 悪魔も堕天使も同じだと言うのに」

 

今度はミカエルが和平に懐疑的になってしまっている。

え? ええ!? 確かに俺は和平の証としての剣を貰ってないけど

それってアリなのか!? と言うか、どうなっちまうんだよ!?

 

「ミカエル。それは和平は拒否すると言う意思表示でいいのか?」

 

「まさか。ただ、今はまだ早急ではないかと思うだけです。

 信徒の皆さんにも、混乱を与えかねませんし」

 

「ま、それは同意するぜ。昨日まで喧嘩してた奴といきなり

 お手手つないで仲良くしましょうねー、なんて子供でも納得しねぇ。

 ……が、だからって戦争を続けるのが正しいわけじゃねぇ。それはわかるよな?」

 

じゃ、じゃあ一体どうなるんだよ!?

戦争はしない、和平も結ばない、そんなのが通るのか!?

あーもうダメだ! さっきから頭いてぇ!

 

「戦争もダメ、和平も無理。となると……」

 

「相互不干渉、と言う事になるが……」

 

「これはこれで……既に我々は閉塞している部分があるゆえに……」

 

三大勢力のトップは皆、同一の結論に達したようだ。

お、ようやく結論がでるのか?

俺はこの結果が出ないってのがもどかしくて仕方ない。

セージとの問答を思い出す。アイツも肝心な事は話さない事が多いからな。

 

だが次の瞬間、ヤルダバオトの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 

「……ならばいっそ、滅んでしまってはどうです?」

 

「それは……俺達に対する宣戦布告かよ?」

 

「……本物の主の言葉ならば従いましょう。ですがあなたは影武者。偽神。

 そんなあなたの言葉に、そこまで従う謂れは我々にはありません」

 

あ、当たり前だ!

面と向かって死ねと言われて素直に死ぬ奴がいるか!

ま、まあ部長に死ねって言われれば……うーん……

俺も部長が助けてくれなかったら死んでるようなもんだしなぁ……

 

「ミカエル、特にあなたは知っているでしょう。

 ノアの方舟、ソドムとゴモラ、バベルの塔……

 ヤハウェは人間に最低限の秩序を守ってもらうべくこうした啓示を物語として

 あるときは書物に、あるときは天使伝いに、人々に伝えました。

 そのいずれも人が滅ぶ、あるいは滅びかねない内容のものですが……

 

 ……何も人間に限った話とは、私もヤハウェも一言も言ってないのですがね。

 もし記されていたとしたら、歴史のどこかで加筆されたのでしょう。

 それはともかく……この言葉の意味が分かりますか?」

 

「な……」

 

その言葉を聞いたミカエルの顔色が変わった。

確かアーシアが言っていた、いずれも旧約聖書に書かれている話だったはずだ。

……中身まではアーシアには悪いけど、忘れちゃったけど。

 

「人間の代わりに、洪水で流されたり、裁きの雷を受けるのが

 天使や堕天使だとでも言いたげね……」

 

「最も、ソドムとゴモラについては、今の冥界がそのまま適用されるかもしれませんがね。

 何故か……は、冥界に対して夢や希望に満ちた未来を抱いている

 彼女達のいるこの場では言わないでおきましょう。

 サーゼクス、セラフォルー。そんな彼女らのためにも

 あなた方はしっかりと考え行動するべきです。

 それが魔王であるあなた方が全ての悪魔に対して負うべき責任ですよ」

 

「……ご忠告痛み入ります、聖書の偽神よ」

 

「私だってちゃんと責任持って魔王少女やってるわよ!

 ヤルダバちゃんに言われるまでもないわ!

 私はいつだってソーナちゃんのために一生懸命なんだから!」

 

……あれ? ヤルダバオトが思いっきり冷めた目でセラフォルー様を見ているぞ?

ソーナ会長も頭を抱えているし。

ま、まああのノリは中々きっついものがあるよなぁ。

ミルたん辺りとは仲良くなれそうな気はするけど。

 

一方、ミカエルは身体をわなわなと震わせている。

どうしたのかは、俺には窺い知る事はできなかった。

だからこそ、次の言葉に度肝を抜いたわけだけど。

 

「……冗談ではない! 我々は主のために尽くしてきたのだ!

 主の寵愛を受けるべきは本来我々のはずなのだ!

 それを横から出てきた人間などに掻っ攫われるだけでも我慢ならんと言うのに

 事ここに至って我々に対し『大洪水』や『塔の裁き』を下すだと!?

 あんまりだ……それはあんまりではありませぬか!!

 

 私の……我々の何が気に入らず、偽者である貴公がそこまでの発言をする!?

 神の名を騙る不届き者として、天の裁きを下されるのは貴公の方ではないのか!?」

 

「み……ミカエル様……!?」

 

「言うねぇミカエル。お前、そいつが偽者でよかったぞ?

 今のは確実に『堕ちる』発言だろうが」

 

アーシアはミカエルの姿にショックを受け、アザゼルは舌を巻いている。

俺も、あのミカエルがここまで激昂するのは見ていて驚いた。

あの、って言っても朱乃さんの神社で会っただけだけど。

 

「何が気に入らないか? その質問に対する答えは簡単です。

 『システム』ですよ。あれは言うなれば限定的とは言えヤハウェを天使の手で再現した

 それこそ『偽者の神』、それも自身の都合のいいように設定できると言う意味で

 殊更たちの悪い『人造神』という類ではありませんか。

 私が偽者であることは否定しません。ですが、偽者の神の恩恵にあやかっている

 あなた方に、神の名を騙る不届き者呼ばわりされたくはありませんね。

 システムの再現度自体は、私も認めてはいますがね。

 

 ……さてミカエル。ここであなたに質問します。

 何故ヤハウェの意向を無視し、システムなどと言うものを作ったのですか?

 そもそもあなたには、初めからヤハウェの声など聞こえていなかったのではないのですか?

 でなければ『人は神から巣立つべき』と言い残した言葉とシステムの、天使の現在の方針は

 矛盾を孕んでいますからね」

 

ヤルダバオトのその言葉に、天界陣営が大きくどよめく。

大天使長ともあろうものが、自分達の主とも言うべき聖書の神の声が聞こえていなかった。

それが大問題であろうことは、俺にも何となくだけどわかった。

 

「ここまで言っておいてなんですが、私にミカエルを裁く権利などありません。

 ですが、そこにいる側近や他の四大天使はまた話が違うのではないのですか?

 システムのあり方、人との接し方などあなた方にも課題は多くあるのですよ。

 これを機に、いちど方針を見つめなおしてはいかがですか?」

 

ミカエルが歯軋りをしているのがよく分かる。

アザゼルは対岸の火事とばかりにニヤニヤしてやがる。こいつ結構性格悪くないか?

そもそも、堕天使ってことは元は天使だったんだよな?

などと俺が思っていると、アーシアが手を上げ重い口を開く。

 

……す、すげえなアーシア。この空気の中で言葉を発しようとするなんて。

俺の場合は口を開いたら罵声がでそうだから黙ってる部分もあるけど。

 

「……ミカエル様、『システム』とはなんですか……?」

 

「アーシア、あなたが知る必要は……」

 

「構いません。物事に対し疑問を抱き解決を試みようとする姿勢は尊ばれるべきです。

 『システム』とはヤハウェが人々に与えた『神器』の管理運営を行うものです。

 最も、今話したとおり実情はミカエル、あるいはミカエル一派の熾天使(セラフ)達が

 自分達の都合のいいように運営していた可能性もありますがね」

 

「で、でしたらミカエル様はきっと無実です!

 主がご存知の通り、私の『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は悪魔も、堕天使も治療できます。

 神の祝福で行使される奇跡で、そうしたことが起こせると言うことは……」

 

「『聖母の微笑』ですか。それでしたら悪魔も治療できるのはそういう仕様ですよ?

 ヤハウェは人にあらゆる可能性の種を蒔きました。聖母の微笑もその一つです。

 悪魔をも治療できる神の奇跡……まあ、現時点では想像を超えた結果は生んでいませんが」

 

ヤルダバオトが言ってるのは、きっとアーシアの過去のことだろう。

……ってちょっと待て! それじゃアーシアがこうなったのは全部ヤルダバオトのせいなのか!?

アーシアが迫害されたり、殺されたりしたのは全部こいつの!

……まあ、命は部長に助けられたわけだけど。

けど、だったらあの件くらいは!

 

「ちょっと待て。『聖母の微笑』が悪魔も治せるのは仕様だって言ったよな?

 じゃあ、何でアーシアがお祈りするたびにダメージ受けてるんだよ?

 悪魔が神にお祈りしちゃいけないのかよ!?」

 

「イッセー! やめなさいと言ったはずよ!」

 

「あなたに発言を許した覚えはありませんがね。それは『赤龍帝』の意見ですか?

 それとも『兵藤一誠』の意見ですか?

 ……まあ、黙っていてもあなたはさらにわめき散らすでしょうし

 ここで赤龍帝に暴れられても困りますからね。特別にお答えしましょう。

 

 ……『ダブルブッキング』はご存知ですか? 約束を二重に取り付けることです。

 ここは薮田直人(やぶたなおと)として兵藤君に聞きます。松田君や元浜君との約束、宮本君との約束。

 全く別の内容が同じ日同じ時間に違う場所でありました。

 これらを二つとも受けてしまうのが、ダブルブッキングです。

 人付き合い、信頼を築く上では避けたいものですね」

 

いきなり世界史の薮田直人として俺に解説してきた。

けれど、今その話とアーシアの頭痛とどういう関係があるんだよ?

俺には、ちょっとわからなかったが他のメンバーにはピンと来たらしく

木場や小猫ちゃんも納得したような顔をしている。

 

「身体は一つしかないから、同時には約束を達成できないね」

 

「……どちらかは絶対にキャンセルしないといけない」

 

二人の解説で、俺もダブルブッキングって言葉の意味は分かった。

けれど、もっと肝心要のことが全く分からない。

 

「そ、それがアーシアとどういう関係があるんだよ?」

 

「まだ分かりませんか? 今のアーシアは、神と悪魔。

 両方を信仰している状態です。正規の方法で『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を植えつけられて

 主に、魔王に忠誠を誓わない悪魔はいませんからね。

 それでも逆らおうとするのはよほど意志が強いか、イレギュラーかどちらかでしょう。

 ともかく、そんなわけでアーシアは魔王に、リアス・グレモリーに対する忠誠と

 ヤハウェに対する忠誠と、両方を持っている状態です。

 

 ここからは薮田直人としてではなく、ヤルダバオトとしての発言に戻りますが……

 アーシア・アルジェント。こればかりは自分の生まれを呪っていただいて結構ですよ?」

 

「……私のところならば、神への信仰と妖怪信仰を並列して行うことは可能ですが

 聖書の陣営でそれは禁忌である、そうエジプトの皆様や

 バビロニアの皆様によく聞かされました」

 

「……確かに、聖書陣営はそういうのに厳しい事で有名だからな。

 今冥界にいる悪魔の中にも、祖は他神話の神、という悪魔がいると言うのは有名な話だ」

 

天照と大日如来が心当たりがあるように口を揃えている。

ゼノヴィアが俺達と手を組みたがらない理由が少しだけわかった気がする。

神を現役で信仰していたら、とてもじゃないが悪魔と手を組みたいなんて思わないか。

その割には、コカビエルとの戦いでは協力してくれたけど。

 

「そこで、私は『システム』を利用しその弊害をなくそうと……」

 

「ミカエル。今の話をきちんと聞いていましたか?

 信仰のダブルブッキングはまだいいでしょう。

 ですが加護のダブルブッキングは避けるべきです。

 加護までも重複するようになれば、無作為に信仰を集める行為が多発しますよ。

 加護をより多く集めたものが勝ち、と言う不毛な宗教戦争を引き起こしたいのですか?」

 

「私のところでは八百万と言う特性上、一つ一つの加護はあまり大きくありませんので。

 だからこそ、私としては信仰する皆さん自身の自助あればこそ、と思っています」

 

「そもそも、俺達のところでは加護を与えるために信仰を集めているわけじゃない。

 人がそこに至るまでの道案内をしているだけだ。太陽は全ての標だからな」

 

ミカエルの提案は、ヤルダバオトにあっさりと蹴られてしまっている。

この話の流れを察するに、アーシアは今後もお祈りをするたびに

頭痛に悩まされなきゃならないのか!?

そ、そんなのって酷すぎるだろ!?

 

「いい機会ですアーシア・アルジェント。私も最近天照様に感銘を受けましてね。

 『来るものは拒まず』、いい言葉だと思いますよ。

 そしてもう一ついい言葉を聞きました……『去るものは追わず』。

 あなたが今後も悪魔として生きるなら、これを機に私――ヤハウェへの信仰は捨てなさい。

 神器は別に、私への信仰がなくても使えますので。

 それは『聖母の微笑』も例外ではありません。

 ですがもし信仰を捨てたくないと言うのであれば……今ある命を捨てる覚悟が必要です。

 覚悟無き者を加護するほど、神は寛大ではありませんよ」

 

ヤルダバオトは、アーシアに信仰を捨てろと言っている。

そ、それってつまりアーシアの否定じゃないか!

じょ、冗談じゃない! そんなの許してたまるかよ!!

 

「アーシア! あんな奴の言う事なんか聞く必要は……」

 

「あなたには聞いていません。さあ、覚悟は決まりましたか?

 神への信仰を捨て、今後さらに悪魔に忠誠を誓うか。

 悪魔に忠誠を誓いつつも、今までどおり神も信仰しその罰を受けるか。

 アーシア・アルジェント。あなたが選ぶべきはこの二つのうちの一つです」

 

まるで脅迫か圧迫面接じゃないか!

神ってのは本当にどうしようもないな!

あの時アーシアを助けなかったくせに、それを正当化するどころか

さらに罰だって!? ふざけるな!!

 

アーシアはそれに負けじと口を開く。

もうこんな奴、信仰しなくったっていいんだぞ!?

 

「私は……

 

 ……やはり、主への信仰を捨てることは出来ません。

 例えそれで、私が苦痛に苛まれたとしても、です」

 

「あなたの言う神は既にいませんよ? 私はあくまでも名を借りただけの影武者。

 ヤハウェとして顕現するつもりは一切ありません。

 それはつまり、あなたを加護することは今後一切無い、と言うことですよ?」

 

「それでも……私は主を信じます。

 私は、加護が受けたくて主を信じているわけではありません」

 

「では何故です?」

 

「加護が受けられなくとも、主はそこにおわします。

 主が先ほど仰ったとおり、人は既に主に頼ってはならないのでしょう。

 だからこそ、遠い遠い昔から私達の祖先を育ててくださった主と共に歩けるよう

 私は主の事を忘れはしません。頼るのではなく、感謝の気持ちを忘れないために

 私はこれからも主を信じ続けます……ぐ……うっ」

 

「アーシア!?」

 

「……覚悟は見させていただきました、いいでしょう。その痛みこそが私とあなたの絆です。

 苦しいかもしれませんが、その困難を乗り越えることを、私は期待することにしましょう。

 神に縋るのではなく、神を忘れぬための信仰……ですか。

 なるほど、面白いものを見させていただきました。

 神にとって、いえ全ての生命にとっても忘却は死より辛いものですからね」

 

痛みで崩れ落ちたアーシアに、俺は思わず駆け寄ったが……

 

お、俺はアーシアのことが分からない……

な、何でこんな奴のためにそこまで出来るんだ?

痛い思い、苦しい思いなんかしないに越したことはないはずなのに!

 

「……ヤルダバオトよ。あまり趣味のいいものではないぞ?

 僧に苦行を強いているうちが言えたことではないがな」

 

「労せずして得たものに価値など無い……そうでしょう? 大日如来様」

 

ヤルダバオトの言葉は大日如来に向けたもののはずなのに

何故か俺が言われている気がした。

な、なんでだよ!? 俺だって悪魔にされたり知らない間にドラゴンがいたり

俺のダチが乗り移ってたり大変だったのに!

 

ま、悪魔になったのは結果オーライだしドラゴンはそれなりにうまくやれてる……はずだし

セージは……心配だけど、俺がどうにかできる問題じゃないし

とにかく! 俺にやましいことなんか一つもない! はずだ!

 

「……なあ。そっちのゴタゴタが片付いたんならちょっと休憩挟みたいんだが」

 

「本来の議題である三大勢力の和平については行き詰まってしまったからな。

 確かに、お茶でも飲んで気分転換を図ってもいい頃合かもしれない……グレイフィア」

 

「畏まりました。では新しいお茶をご用意いたしますので少々お待ちくださいませ」

 

サーゼクス様の指示でグレイフィアさんがお茶の用意に立ったと思ったら

何か違和感を感じた。

 

この感覚には覚えがある。ギャスパーだ。ギャスパーの神器だ。

けど、ここにギャスパーはいないはず……

そう思う間もなく、俺の意識は停止したのだった。




アーシアが何かに覚醒しました。
戦闘力はからきしだけど、意志は強い子、ってのが拙作アーシアのイメージ。
原作アーシアは入れ知恵とは言え変な方向に覚醒しちゃってるし……
誰も彼も痴女になって、逆に個性ってものががががが

アーシアにも艱難辛苦が降りかかりそうですが
艱難汝を玉にす、って言葉もあるくらいですし。

「労せず得たものに価値は無い」は
あらゆる場面に対してのアンチテーゼでもあります……
何の、とはあえて申しません。

以下恒例の解説

>天ど……大日如来が出した神様二人
日本の祟り神といえばこの二柱が有名どころかと。
大自在天はシヴァでもありますが、それ言い出すとぐちゃぐちゃになるので
そこは原作シヴァとは同姓同名ということで。
原作シヴァがでるかどうかはまだ何ともいえませんが。

とりあえず三大勢力は将門公に目付けられなかったのを幸運に思ってください
いやマジで

>ミカエルがヤハウェの声聞こえない疑惑
……某メガテンの影響受けてるかもしれません。
拙作ではヤルダバオト存命、ヤハウェが「お前ら人間に過干渉するな」と
意思表示しているためミカエルの方針と微妙に食い違いが起きてます。
そこからもう疑惑発生。

なお今回激昂してますが多分これ地。
信仰する大天使長のこんな姿を見たアーシアの胸中や如何に。
あとゼノヴィアここにいなくてよかったね。

>お祈り頭痛のわけ
ダブルブッキングのせいにしました。
悪魔になったから、と言うのも確かにあるんですが
つまり悪魔に忠誠誓ってるのに神を信仰するって何か変だな、と。

そして何気に悪魔の駒に洗脳作用も含まれていることが判明してます。
ここからはぐれ悪魔化するメカニズムについてはまた後日。
とりあえず自分の意思で逆らってる黒歌姉さんマジパネェ
セージ? あれはバグですしおすし


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Chaos Brigate

誤字脱字誤植かましてる自分が言えたことでもないんですが
スペルミスってのも結構萎えるポイントですよね……

ちょっと悪意のある前置きですかね?


――その時、確かに時間は静止していた。

 

「……なるほど。これが俺を呼んだ理由か? ヤルダバオト」

 

「それもありますが、これだけではありませんよ。

 私の言いたいことは、凡そあなた方と一緒でしたので。

 日本のあなた方に言っていただくほうが、説得力も増すでしょうし」

 

周囲の景色は色を奪われ、生きていないかのように動かない。

しかし、三大勢力首脳陣と偽神ヤルダバオト、神仏同盟の二人は変わらず動いている。

周囲は彼らを除き静止しているが、建物はわずかながらに揺れている。

地震は静止した時間の中では起きない。それが意味するものは一つ。

 

――攻撃を受けている。

 

「……『禍の団(カオス・ブリゲート)』、だな。こんな事をするのは」

 

苦虫を噛み潰したような顔でアザゼルが呟く。

曰く、「禍の団」と呼ばれるテロ組織が、今回の会談に合わせ襲撃してきたとの事。

和平に限らず、勢力同士の協調・対立には反対する動きは珍しくない。

いくら国のトップが和平交渉を進めようとも、末端の者まで完全に意見を同一にする事はない。

それが成されるのは、個というものを完全に取り払った社会のみである。

 

「……お前達は何処まで俺達に迷惑をかければ気が済むんだ」

 

「それを言うなら、首を突っ込んできたのはてめぇらだろうが。

 俺達は俺達だけで問題を解決しようとしてたんだがな」

 

「お二人とも、今は喧嘩をなさっているときではありません。

 何とかして、この状況の打開を目指しませんと。狙いは恐らく……」

 

「……私達、だろうね」

 

そして、そうした悪質な組織が狙うのはトップであると相場が決まっている。

魔王サーゼクス・大天使長ミカエル・堕天使総督アザゼル。

そして彼らがここにいるかどうか知っているかは分からないが日本の主神天照大神。

仏教の最高位に座する仏、大日如来。

聖書の勢力を取り纏める唯一神ヤハウェの影武者、ヤルダバオト。

テロリストにしてみれば、一網打尽に出来る千載一遇のチャンスである。

 

……できるものなら、だが。

 

「完全に包囲されていますね。時間を止めている間に集中砲火を浴びせ

 建物ごと私達を葬るつもりでしょう」

 

「かと言って、下手に打って出ればどさくさに紛れて結界を解いて

 外に被害を齎されかねない。

 しかし解せねぇのは、奴らがどうやってこの結界の中に入り込んできたのかって事だ。

 ……ま、うちもコカビエルって内通者を出している手前、偉そうなことは言えねぇけどな」

 

コカビエル。かつてこの駒王町で騒乱を起こした下手人。

アザゼルによる取調べの結果、ギリシャ由来の戦力は禍の団経由で流されたことが判明していた。

その事から、コカビエルは禍の団と内通しており、堕天使陣営の情報が

大なり小なり流れていることは想像に難くは無い。

 

「原因を探るのは後でも出来るでしょう。とりあえずは……」

 

「俺が行こう。この程度の時間静止ならば、俺で十分対応できる。

 『停止の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』とやらの力だろうが、所詮無理矢理引き出した力だ。

 正しく最大限に引き出した俺の力には到底及ばない」

 

大日如来が腰帯の右側面に下げられた数珠を握り、念じると

一瞬にして姿を消す。この静止した時間の中においても、大日如来の時間は

彼自身の時間そのままであった。彼の時間が加速すれば、彼自身もそれに合わせ加速する。

それは、他者の何者も干渉することは出来ない。追いつくことは出来るかもしれないが。

 

「……『時間加速空間(クロックアップ)』ですか。これならば静止した時間をものともせず動けますね」

 

「恐ろしい力だよ。なるべくなら、彼は敵に回したくないな」

 

停止の邪眼によって静止させられた時間を、時間加速空間で上書きする。

力技ともいえるそれは、禍の団にとっては想定外だったらしく

先ほどから続いていた攻撃が一瞬にして止まり

それと時を同じくして、大日如来が再び姿を現す。

 

その間、体感にしてわずか数刻のことであった。

 

「お早いお帰りだな、マハヴィローシャナ」

 

「軍勢はここにいるだけではないだろう。俺がやったことは時間稼ぎにすぎん。

 何とかして、元を断たねばなるまい」

 

「ああ。そして、『停止の邪眼』を用いたと言うことは彼らの拠点は……」

 

「……旧校舎、ですね」

 

旧校舎。オカルト研究部の部室があり、専らリアス・グレモリーの別荘と化している

この空間。ここに停止の邪眼を持つギャスパーを一人でおいてしまったがために

このような事態を招いてしまった部分は否めない。

この結論が出ようとする頃、一部の生徒らも少しずつ時間停止の効果が解け

動けるようになっていた。

 

――――

 

旧校舎の一室。ここはかつてギャスパーが幽閉されていた場所であり

現在はセージがその代わりに幽閉されている場所である。

会議場のある新校舎とは異なり、禍の団の拠点であるこちら側には時間停止の効果は無い。

そのおかげか、セージは自由に動けていた。状況は把握していないが。

 

(外が騒がしい……? まさか、さっきの連中!)

 

先刻転寝から覚醒した際、部屋の前を横切るローブを来た集団が通り過ぎるのを見ていた。

何か起きているとするならば、彼らの仕業だろう。

 

(ここにこのままいるのは得策とは言えないか……だがどうやって出る?

 ……そうだ、さっき渡されたメモに……)

 

今の自分に力がないとは言え、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

しかし出ようにも、幽閉されている以上任意で外に出ることは出来ない。

そこで、セージは会議が始まる前に小猫に渡されたメモを読んでみることにしたのだ。

 

――窓を拭き忘れたので、代わりに拭いておいて

                   木場祐斗

 

「祐斗ぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「むっ、何だ今の声は!?」

 

「はっ、しまっ……」

 

そのまるで空気を読んでいない内容に、セージの叫びが木霊したのは言うまでもない。

思わず出てしまった声に慌てて口を押さえるが時既に遅く。

その声に反応した一人のローブの男がやって来るが、セージには気付かない。

霊体のセージは見えていないようだ。

 

「……ただの空き部屋じゃないか。強固な結界は張られているようだが……

 くそっ、俺の力では開けられないな。だが誰もいないこの部屋から声がしたような……?」

 

(……どうなるかと思ったが、奴らは俺が見えていないのか。

 となれば如何様にでも対処は出来るが……奴らもここを開ける術はないみたいだな。

 やれやれ。無駄に強固な結界を張ってくれちゃってまぁ……)

 

外の様子を伺いながら、セージは今自分がどうすべきかを考えていた。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が使えるならば、すぐにでも打って出られただろう。

だが、今は使えない。実体化こそ出来るものの、読み取りも記録も出来ないのだ。

鍵のかかった分厚い本。それが今の記録再生大図鑑の持つ価値である。

この部屋から出る方法。凡そ普通の方法では出られない。

鍵は持っていない。外の連中に開けさせるのも困難だろう。

となれば、どうするか。

 

(外に出る方法……俺はあの時、壁越しにこの部屋に入ったが

 俺が幽閉されるに当たってそっちにも結界が張られている。この手は使えないな。

 扉。言うまでも無くアウトだ。

 奴らだって態々集団で空き部屋であろう

 ここを開けようとする物好きはいないだろう。

 壁もダメ、扉もダメ、となると……)

 

ふと、思わず投げ捨てたメモがセージの目に入る。

そこには窓を拭いておいて欲しいと、緊張感の欠片もない、まるで空気を読んでいない

木場の依頼があったのだが、これを見てセージはあることに気付く。

 

(そういえば、窓はチェックしていなかったな。どれ……つっ!)

 

窓に触れようとした手に痺れが走る。

こちらにも当然の事だが、結界が張られていた。

だが、その結界の強度は扉や壁に比べると弱かった。

 

(痛みはあるが……無理やり突破できないほどじゃない。

 出るなら……ここを使うしかなさそうだ……だが)

 

窓の外を見てみる。新校舎を取り囲むようにローブの集団がいる。

今外に出れば、彼らに気付かれる怖れもある。

こっちにいる連中はセージに気付かないが、外の連中も同じとは限らないのだ。

 

しかし、そんなセージの懸念を打開する出来事が起きる。

セージは知る由も無いが、大日如来がローブの集団を撃退したのだ。

時間加速空間を展開した大日如来をセージの目が捉えることは無く

セージの目には突然ローブの集団が崩れ落ちたように見えたのだ。

 

(なんだ? 突然あいつらが集団で倒れ……?

 ま、まあとにかく今がチャンスだ! 今のうちに外に出ないと!)

 

意を決し、窓の結界に飛び込むセージ。

窓からは火花が散るが、意に介さずそのまま強引に突破を試みる。

 

「ぐ……ぬ……これ……くらいっ!

 腕……取られた事に……比べりゃあっ!!」

 

気合を入れると同時に、セージの霊体は結界を突き破り、窓から外に飛び出す。

生身の身体ならば落ちたかもしれないが、霊体である以上その心配は無い。

しかし結界を強引に抜けた後遺症はあるらしく、肩で息をしていた。

霊体であるのにこの行動をとるのは、肉体があったときの名残であろう。

 

(ふうっ、ふうっ……よし、何とか外に出られたな。

 後は部室に乗り込めば……)

 

霊体のまま、セージは旧校舎の玄関に回りこみ中に突入する。

道中何人かローブの男女がいたが、彼らは皆一様にセージには気付かない。

それは即ち、彼らの実力は魔王眷属よりも下である事を意味していた。

 

(少なくとも、グレイフィアさんよりは危険度は高くないか。

 だが数が多いし今の俺にまともな戦いができるとは思えない。

 なるべく無駄な戦いは避けるべきだな……)

 

気付かれぬお陰で、一切の妨害を受けることなく部室へとたどり着いたセージ。

その前には、茫然自失としているゼノヴィアの姿があった。

意外な存在に、セージは思わず実体化し駆け寄る。

 

「ゼノヴィアさん!? どうしてここに!?」

 

「君は確か……ははっ。私もよくよく運が無い……

 あれだけ捜し求めていたものが、まさか最悪の形でみつかるなんてな……」

 

ゼノヴィアの言っている事はセージには読み取れなかった。

しかし、彼女が相当なショックを受けていることだけは見て取れる。

その原因まではわからないが、これから騒動が起きるであろう

ここに置いたままでいいものかどうか。

 

「立てるか? 俺はこれから、ローブの連中が入ったであろう部室に乗り込む。

 それより、あいつらは一体何者なんだ? 中に入ったって事は、中にいるギャスパー……

 グレモリー部長の眷属なんだが、彼に用事があるのだろう。

 だが、どう見ても善良そうな連中に見えない。知っていたら教えてくれないか?」

 

「……彼らは『禍の団』。有体に言えばテロリストだ。

 私も詳しくは知らないが、今日ここで三大勢力の和平交渉が行われているらしい。 

 その会談の妨害が主目的だろうとは思うのだが……まさか……な……」

 

説明し終えると同時に、ゼノヴィアは項垂れてしまう。

その沈みように、セージも当惑していた。

 

「困ったな……俺も見ての通り、五体満足じゃない。

 そちらを気にかけながら戦うなんて真似は出来ないぞ」

 

「いや……そこまで気にしなくていいさ。

 私はここで少し気を落ち着かせる。今のまま君についていっても

 恐らく足手まといだろうからな。ここにいる連中くらいなら、私一人でも大丈夫だ」

 

セージは存在しない右手を見せながらゼノヴィアに現状を説明するが

ゼノヴィアも精神面の疲労が大きいのか、動けそうも無い。

やむなくセージはゼノヴィアをここに残したまま、霊体に戻り部室へと忍び込む。

 

部室には、案の定紙袋を被ったギャスパーがローブの女性に捕まり、椅子に縛られていた。

抵抗をした様子は無い。室内がいくらか荒らされてはいるが

それは抵抗によるものではなく、物色の痕跡によるものだとセージは直感した。

 

――物が壊れていなさすぎる。

 

それが、ギャスパーが抵抗もせず敵対勢力の手に落ちたことの証左であった。

 

さて。ローブの女性も外の連中と変わりなくセージには気付いていない。

しかし、人質がある以上下手な真似はできない。

決定打を加えようにも、今のセージにはできる手段が限られている。

 

実体化して大立ち回り……論外。

今のセージの力で、この室内……ざっと5、6人はいるであろう

ローブの集団を相手に出来るとは思えない。

 

隙を見てギャスパーの縄を解く……捕まる。

これが最終目標には違いないのだが、それを今やったところでまた捕まるのが落ちだ。

結局、前述の方法と同じになってしまう。

 

となれば……外で騒ぎを起こし、隙を見てギャスパーの縄を解く。

これが今できる最善手であろう。

外で騒ぎを起こす……霊体のまま、廊下辺りで大きな物音を立てれば反応もあるだろうか。

先ほど大声を上げたときも、彼らは部屋までやって来た。

 

気付かれぬよう、そっと適当なガラクタを持ち、部室を後にする。

そのセージの一連の動きは、ギャスパーでさえも気付かなかった。

 

(さて……後はこれをモーフィングで癇癪玉くらいには変えられるだろう。

 廊下の適当な場所にセットして、奴らがやってくるのを待つか……)

 

周囲に人がいないのを確認した後、実体化し左手でガラクタに魔力を注ぎ込む。

 

「――モーフィング、『ガラクタ』を『癇癪玉』にする――!!」

 

数は少ないが、うまくいった。

今まで龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を用いていたのは、難易度の高いものだったり

まだ慣れていなかったりでサポートとして必要だったのだ。

術式は頭に入っている。それを行使するだけの魔力さえあれば

モーフィングは成功するのだ。

 

(うまくいったか……ふぅ。後はこれを……)

 

大きく振りかぶり、おもむろに廊下に投げ込む。

思惑通り、廊下で炸裂音が発生する。

霊体に戻り、物陰から部室の様子を眺める。

 

「何だ今の音は!?」

 

「侵入者か!?」

 

ぞろぞろと、室内からローブの集団が出てくる。

思う壺とばかりにセージはほくそ笑みながら、霊体のまま彼らとすれ違う。

狙うは一点、部室にとらわれたギャスパーの解放。

それだけを目標に、一目散にセージは部室へと潜り込む。

 

目論見どおり、部室の中でギャスパーを見張っているのはローブの女一人だけだ。

ぞろぞろと繰り出したローブの集団の単細胞っぷりにセージは内心笑いが止まらなかったが

自分達の陣営も然程変わらない事を思い返し、冷静に戻っている。

 

「くっ……時間はこのハーフヴァンパイアの神器(セイクリッド・ギア)で静止させたはず!

 外の見張りもあの聖剣使いが戦意喪失させたのに、まだここに戦力がいたと言うの!?」

 

ただの癇癪玉一発にうろたえる集団と言うのも、見ていてバカらしい。それもテロリストが、だ。

セージがそう思っていたかどうかはわからないが、ローブの女が隙だらけなのは間違いなかった。

これは最早奇襲してくださいと言っているようなものであった。

 

セージはおもむろに彼女の背後に立ち、記録再生大図鑑を実体化させる。

左手部分だけの実体化なので、傍から見ると辞書を持った左手が浮いているようにも見える。

 

「……ふんっ!!」

 

「がはっ……!?」

 

記録再生大図鑑。セージの神器であるそれは、初めて具現化させた際に

ドライグから貸与された鱗が変異した「龍帝の義肢」とリンクする形で具現化した。

そのため、龍帝の義肢は記録再生大図鑑の鍵の役割も果たすこととなり

龍帝の義肢のない今、記録再生大図鑑はそこに記された知識を生かすことも

そこに新たな知識を刻むことも出来ない。

 

しかし、セージはそんな一見使い物にならない神器だろうと使っていた。

……鈍器として。

その証拠に、記録再生大図鑑の角にあたる部分が

ローブの女の後頭部に突き刺さるかのように降り下ろされたのだ。

 

「……電話帳とかの分厚い本はちょっとした凶器にもなる。覚えとけ」

 

「ひぃぃぃぃっ!? ひ、ひとりでに倒れたぁぁぁぁ!?」

 

ギャスパーもセージを認識していなかったとは言え

あからさまに怖がっているその態度にセージは辟易としながらも

ギャスパーの縄を解くことにした。

 

「俺だ。まあ幽霊の仕業だってのに間違いは無いが……

 って俺はまだ死んでない! 幽霊ってのは死人の霊魂だ! 俺は生霊だ!」

 

「な、何も言ってないです……」

 

セージの一連の行動が、ギャスパーの緊張を解くためなのかどうかは分からない。

ギャスパーは怯えながらも突っ込みを入れているが。

 

「……っと、そんなことより。早いところここを抜け出すぞ。

 今外に出たやつらが戻ってきたら、また元の木阿弥だ」

 

セージはギャスパーに逃げ出すよう提案するが、ギャスパーはピクリとも動かない。

腰が抜けているのか? とセージの問いにも首を横に振る。

 

「逃げても……変わりません」

 

「なに?」

 

「だってそうでしょう!? 今来た奴らはとんでもない数の大軍団で

 その中には聖剣使いや旧魔王派だっていたんですよ!?

 僕達が逃げ出したところで、結果なんて……」

 

ギャスパーが俯いたところに、突如として実体化したセージの左手が飛んできて

ギャスパーの胸倉を掴む。そのまま華奢なギャスパーの身体は持ち上げられる。

 

「てめぇで捕まっておいていう事がそれか。ふざけるのも大概にしろよ……?」

 

「や、やめてください。痛いのは嫌いです……」

 

ギャスパーの腑抜けた態度に、セージは内心助けたのを後悔しながらも

これが一番最適解であったと自分に言い聞かせている。

舌打ちと同時に、部室に魔法陣が展開され中からイッセーと木場が飛んでくる。

 

「ギャスパー、助けに来たぜ! ……ってあれ? セージじゃねぇか。

 お前、幽閉されてたはずなのになんでここにいるんだよ!?」

 

「面倒なタイミングで来たな。ギャスパーならご覧の通り、俺が助け出した。

 それより、今中にいた連中を外に誘い出したんだ。少ししたら戻ってくるかもしれない。

 迎撃するなり、逃げるなり手を打たないとまずいんじゃないか?

 ……と言うかだ。お前ら、会議に出席してたんじゃないのか?」

 

「そうなんだけどね……ちょっとまずいことになった。

 テロ組織が、三大勢力の首脳陣を狙っているんだ。

 副部長や小猫ちゃん、アーシアさんは時間を止められてまだ動けない。

 部長はここにある『戦車(ルーク)』の駒を利用して

 キャスリングでここに乗り込んだはずなんだけど……」

 

言われて、セージとイッセーは部室の中を見渡す。しかし、ここにいるのは

男3人に見た目少女の男1人。リアスは何処にもいない。

 

「……いないようだが」

 

「戦車の……ああっ!! た、大変ですぅぅぅぅぅ!!」

 

「うわっ!? いきなり大声を出すなギャー助! どうしたんだよ?」

 

突如として大声を張り上げるギャスパーに、イッセーが面食らう。

ギャスパーは狼狽した様子で、3人に現状を説明し始める。

 

「お、大きい人には言ったんですけど……きゅ、旧魔王派の一人がここに来たんですぅぅぅぅ!!

 そ、その時に何か『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を持ち出したらしくって……」

 

「なんだって!? それは本当かい!?」

 

悪魔の駒が持ち出された。その事実に、今度は木場が狼狽する。

現在、リアス・グレモリーの所有する駒のうち

未使用の駒は騎士(ナイト)と戦車の各1個のみ。

その1個のうち、戦車の駒を用いて、会議場から部室にキャスリングで転移しようと

試みていたのだが。実際にはリアスはここにはいない。

そして持ち出された悪魔の駒。これらが意味するところは――

 

「騎士のほうならまだいいが、戦車だとまずいことになるよ……!!」

 

――――

 

駒王学園、運動場の中央。

 

ローブの集団、聖剣使い、堕天使の集団。

統一性の無い彼らの所属は皆、禍の団。三大勢力の和平を拒むと言う、その一点において

結託し、威力行為を行う所謂テロリスト。

そんな彼らが囲んでいる中央には――

 

キャスリングで部室への移動を試みたはずのリアス・グレモリーがいた。

だが実際には、こうして敵集団に包囲されている。

 

「ようこそおいでくださいました、リアス・グレモリー様」

 

「部室じゃない……しかも囲まれた!?」

 

そう。持ち出された悪魔の駒は、こうしてリアスをおびき出すための餌にされていたのだ。

キャスリングは『(キング)』と『戦車』の位置を交換する技術ではあるのだが

そこにはチェスのルール上、ある程度の制約は存在する。

キャスリングの際戦車と王の間に他の駒が存在してはならない、等がそれにあたる。

しかし悪魔の駒は、チェス駒そのものではない。悪魔の駒特有の性質が存在する。

単純な物質ではない、生物である転生悪魔である以上律儀にチェスのルールは守れないのだ。

 

それが、今回は完全に裏目に出てしまった形である。

 

さて。彼我戦力差だが、リアスの滅びの魔力ならば

彼ら程度の有象無象は一網打尽に出来るだろう。

だが、それを行使する前に光の槍が、聖剣がリアスを貫くであろう。

それ位、完全に包囲されていたのだ。

 

「『悪魔の駒』に意思があればこうは行かなかったでしょうが……残念でした。

 では、あなたには兄上の首を取ってきてもらいましょうか」

 

「ふざけないで! 何で私がお兄様の、魔王様の首を取らなければ……」

 

「別にあなた自身がやる必要は無いんですがね……やれ」

 

囲んでいた堕天使が、リアスの手足を中心に痛めつける。

抵抗されないためだ。執拗に光の槍による攻撃や、普通に殴打を繰り返し

リアスの美しい手足は見るも無残に痣だらけとなり

動かすのにさえ痛みを伴う状態になってしまう。

 

「そのくらいでいいでしょう。これだけやればカテレア様もお喜びになる。

 そして……我らの望む……

 

 ……静寂な……世界……始め……ましょう……」

 

集団の指揮をしていたリーダー格の男の腕にはカテレアが付けていたのと同じ

赤と青の鉱石が埋め込まれた腕輪が輝いている。

鉱石は不思議な光を放ち、男の顔には血のように赤い

フェイスペイントのような模様が浮かび上がり

瞳もまた同様に赤黒く、光を湛えぬ不吉なものとなっている。

 

(禍の団は無限龍(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスが首魁だとお兄様は言っていたわ。

 けれどあれは、私の聞いたオーフィスの力じゃない。

 何か別の、私の……私達の知らない何かが奴らの背後にいると言うの……!?)

 

そんな男の変化を見逃すリアスでもなかったが

その禍々しささえ感じさせる変化には、リアスも内心怖れを抱いていた。

そして不可解な点として、その変化に対し周囲の誰も気にも留めていないこと。

 

「贄を……ささぐ……

 ……静寂なる……世界の……ために……」

 

「静寂なる……世界……」

 

「我らの……望む……」

 

それどころか、堕天使も、聖剣使いも皆一様に似たようなフェイスペイントが浮かび上がり

中には身体に赤い球体の結晶が浮かび上がっているものまで現れる始末。

その異質な光景に、痛めつけられたリアスは息を飲むしか出来なかった……




テロ勃発。
そしてセージ脱走。

普通に考えて自分達の拠点の時間まで止めないよな、と言う事で
旧校舎にいたセージは無事でした(出るのに必死でしたが)

原作ではキャスリング(+転移魔法)でリアスとイッセーがギャスパー助けましたが
拙作では片腕の無いセージが単身乗り込んでます。

癇癪玉で気を逸らされるテロリストって……って思うかもしれませんが
彼らにセージは見えて無かったですし、ゼノヴィアは後日理由を語りますが
動ける状態ではなかったので侵入者を疑うのではないかと。

この辺りから原作のリアスとイッセーの異常なageっぷりが目に付くようになったような?

以下解説

>時間加速空間
ルビの通りです。クロックアップはファイズアクセルやトライアルと違い
空間作用型の高速移動なので
会議場の時間を止めた今回の停止の邪眼を上書きすると言う
とんでもない力技で影響を軽減しています、が。

そもそも原作で止められていた方々にはクロックアップ適性も無かったので
結局変わらないと言う。

>今回のセージ
能力記録・武器実体化等の能力は使えませんよ?
全盛期には大きく劣りますがモーフィングも可能ですし
武器(兼小型盾)の本型デバイスもありますので、全く戦えないわけでもなかったり。
最も、最序盤とほぼ同等の戦闘力しかありませんが。

なお正規の使い方ではないのでよゐこは真似しないでください。
多分玩具メーカーのスポンサーとかついてたらクレームが来るレベルの
邪道な使い方です>記録再生大図鑑で殴る

ちなみに、メモは一応「窓に手がかりがあるよ」と言うメッセージを内包していました。
あからさまなの書いたら謀反になっちゃいますし。

>リアス
……いや、そういう可能性もあるよね、と。
キャスリングを使用して助けに行こうとしたら悪魔の駒が敵の手に落ちていて
あっさり敵に捕まりました。
当然この後は薄い本が厚くなる展開……

ではなく、人質作戦やら何やら立て放題。
だって魔王の実妹ですもの。
ギャスパー助けたのに、もっととんでもないのが人質になっちゃいました。


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Blundering

九州熊本の皆様におかれましては
この度の地震についてお見舞い申し上げます。

以下通常営業

(不注意・精神的混乱などから)(ばかな)失敗をやる、しくじる
                         weblio辞書より

今回イリナファンの方には衝撃的な展開になっております。
タグにて警告しておりますが、改めてキャラ改変が受け付けられない方は
速やかにブラウザバック願います。

……ちょっとここ最近不調気味故に
本文若干短くなっております。
キリのよいところで切った、と言えば聞こえはよいのでしょうが。


「……とりあえず、事情は大体分かった。

 ならば原因であるギャスパーを助け出し、拠点にしていた部室も奪還したのだから

 事態は恐らく動くだろう……どう動くのか、までは分かりかねるが」

 

イッセーと木場から、事情説明を受けセージは頭を回転させていた。

その議題は一つ。

 

――どうすれば、「禍の団(カオス・ブリゲート)」をここから追い出せるか。

 

禍の団の撃退までは、相手の戦力が分からない以上戦術の組み立てようが無い。

いや、そもそも戦術レベルでどうにかなる相手なのか。

ここにいるローブの集団だけが相手の戦力ではない。

 

事実、ギャスパーを捕らえていたローブの女は「聖剣使い」という単語を口にした。

しかし、セージが遭遇した中にはそのような者はいなかった。

そして、ゼノヴィアが茫然自失としていた理由も気にかかる。

 

「セージ君。実は僕はその話を聞いて、凄くいやな予感がするんだ……」

 

「またかよ木場。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の件といい、心配しすぎだろ。

 部長だって、あんなローブの集団なんかイチコロだぜ、イチコロ」

 

「イッセー、相手の戦力が読めない。可能ならばグレモリー部長の救出ないし

 合流を図るべきかもしれないが、どこに部長が転移したのか全く分からん。

 それに、祐斗の言う事は実際気がかりだ。

 現にゼノヴィアさんは、外で虚ろな目をして座り込んでいたんだからな」

 

ギャスパーはもとより、木場もセージも、現状には慎重な態度を取っている。

しかしイッセーは、とにかく攻めるべきだと言わんばかりに

リアスの捜索を提案してくるのだが。

 

「だったら、部長だけでも探そうぜ。黒幕は魔王様達が探してくださるだろうし

 実際黒幕まで俺達にどうにかできるとは思えねぇ。

 だから、ここは部長と合流して、少しでも魔王様の手助けをすべきだと思うんだ」

 

「……言ってる事は間違ってないな。だが奴らが体勢を立て直すのに

 再びギャスパーを狙ってくる可能性も多少はある。

 それに、今の俺がついていっても足手まといなのは重々承知だろう。

 だからここは、二手に分かれて行動したほうがいいと思うんだが」

 

「なら僕はセージ君の側につくよ。セージ君の言う聖剣使いがどうも気になる。

 部長も心配だけど、戦力分散としてはセージ君側についた方がいいと思うし」

 

「……あ、あの、僕は……」

 

「心配すんなギャスパー。俺達がついてるんだ。

 もうお前の力を誰かに利用されるような事はさせねぇよ。

 木場、セージ。ギャスパーは任せたぜ。俺は部長を探してくる!」

 

まとまった話はこうだ。

イッセーは外に出て、リアスの捜索を行い可能ならば合流する。

セージと木場は、ギャスパーを伴い新校舎にある会議場にて安全を確保する。

禍の団とて、敵側の総本山ともいえる会議室に直接乗り込むような真似はしないだろう。

まして、もう時間停止は出来ないのだから。

 

意思を確認し、外に出ようとした四人を呼び止める声が聞こえてくる。

その声は少女のもの。そして、ここにいるはずのない者のそれであった。

 

「……待ってイッセー君。私も行くわ」

 

「……えっ!?」

 

栗色の髪にツーサイドアップ、俗な言い方をすればツインテール。

そして際どさのある黒のボディスーツに身を包んだ少女。

そんな彼女は、行方不明になったと聞かされていたはずの――

 

「い……イリナ!? イリナじゃないか! 今まで何処に行ってたんだよ!?」

 

「ごめんごめん。ゼノヴィアとはぐれちゃって。

 あれからあちこち探し回ったんだけど、結局見つからないままここまで来ちゃって……

 とにかく、今の話は聞いたわ。私はイッセー君と一緒に行動するから、そっちはお願いね」

 

旧友に久しぶりに出会った――実際イッセーとイリナは幼馴染なのだが――ような態度で

イリナはイッセーに接している。そのスキンシップはやや過剰気味ともいえるほどに。

イッセーの片腕に抱きつくような形になっており

腕にはイリナの形のよい胸が押し当てられる形になっている。

案の定、イッセーは鼻の下を伸ばしている。

そんなイッセーを引っ張るように、イリナは部室の外に出てしまう。

あまりにも早い行動に、三人は呆然とするより他無かった。

 

しかし、そんなイリナの登場を不審に思うものがいた。

……セージと木場だ。

 

(……祐斗。お前のいやな予感、当たるかもしれないぞ)

 

(……ああ。さっき君が言っていた、ゼノヴィアが外で茫然自失としていた件も

 それが事実と仮定するならば納得がいってしまう。もしそうなら……

 

 ま、まずい! 彼女は「竜殺しの剣(アスカロン)」を持っているんだ! イッセー君が危ない!!)

 

ギャスパーを伴い、慌てて外に飛び出すセージと祐斗。

そこには、まだイッセーの片腕に抱きついたままのイリナが一緒にいた。

 

「どうしたんだよ? そんな血相変えて」

 

「イッセー、お前には聞いてない。

 ……紫藤イリナとか言ったな。お前、ゼノヴィアさんと本当に

 今まで一度も会ったことが無いのか?」

 

「そうだよ? 日本って言っても広いから。私が知ってるのはよくて駒王町くらいだし。

 駒王町の外に出られでもしたら、私でも探せないわよ」

 

「……それはおかしいね。彼女はある家庭にホームステイしてるはずなんだ。

 この町の外に出たって話は、僕は聞いたことが無い」

 

セージと木場は、イリナに対し疑いの目を向けている。

イッセーは幼馴染としてか、色気で篭絡されたかは分からないがイリナを庇おうとし。

ギャスパーは事情が読めず、うろたえている。

 

そうなれば、面白くないのはイリナだ。

通常、疑いの目を向けられれば誰だって不愉快な思いをする。

そこにあるものが善意だろうと、悪意だろうと。

 

「そうだったんだ。ゼノヴィアったらルームメイトの私に何の相談もしないで……

 まぁいいわ。だったら入れ違いになったのかもね。

 それで? ゼノヴィアが今回の件に何か関係しているの?」

 

「関係と言うかな。俺はさっきそこで座り込んでいるゼノヴィアさんを見たんだ。

 今はいないようだが……タイミング的に考えて、全く出くわさなかったのか?」

 

「それに……彼女のこともだけど君にはもう一つ腑におちない点がある。

 『竜殺しの剣』。君がミカエルから預かったんだろう? イッセー君に渡すために。

 ならば何故、ミカエルとイッセー君が出会ったそのタイミングで渡さなかったんだい?」

 

それは、ともすれば上司であるミカエルに対する反逆行為。

それを敬虔な信徒であるはずのイリナが行うはずも無い。

まして、大天使長自らの贈り物であるアスカロンを預かり

それを渡すべき者に渡さぬまま今の今までここにいる。

 

どう考えても、不自然極まりないだろう。

 

「それは……ミカエル様の居場所がわからなくて、それではぐれて……

 だから、今日イッセー君と出会えたのは、本当にラッキーだったんだから!」

 

「お、おい……だからってそんなくっつくなよ……」

 

さっきから、やたらとイッセーにべったりとくっついているイリナ。

そこにも、セージはある種の違和感を覚えていた。

 

――こんなような手合いを、どこかで見たことがある。

 

それは現実には数ヶ月前。夢の中ならばつい今しがた。

レイナーレ。彼ら二人にとって最も忌むべき堕天使の名前であり

赤龍帝を目覚めさせた、全ての始まりの魔女とも言うべき存在。

 

彼女はイッセーを篭絡し、殺害することで神器(セイクリッド・ギア)を破壊しようとした。

実際にはリアスによってその目論見は見事に外れたわけだが。

とにかく、その一連の流れと若干ながらも共通点が見出せてしまったのだ。

それに、セージは一連のイリナの証言に、不可解なものを感じていた。

 

紫藤イリナは、ミカエルからの連絡をシャットアウトしていたのではなかったのか?

そんなことをしておいて、居場所が分からないとは明らかに矛盾している。

それを怪訝に思ったイッセーが、イリナの色香に負けているために

セージとしても呆れてモノもいえない状態に陥っているのだが。

結局、普段どおりに皮肉が飛び出すだけに終わってしまい

イリナに対する追求は然程成されない。

 

「……いい気なもんだな。友人はお前を探すのに必死になっていたのに

 当のお前はスケコマシといちゃいちゃか。ゼノヴィアさんが見たら悲しむぞ。

 それとイッセー。お前は女と見るやすぐに鼻の下を伸ばす癖をどうにかしろ。

 そのせいで酷い目に遭ったのは何処の誰だよ……」

 

「今ゼノヴィアは関係ないじゃない。それより、早く行かなくていいの?

 私達も早く行かないといけないんだから。さ、イッセー君」

 

「そういうわけだセージ! 心配するなって、イリナと二人なら大丈夫だからよ!」

 

(……彼女の貞操は大丈夫なのかな、って突っ込むのはセージ君っぽすぎるか)

 

怪訝に思いながらも、確実な証拠の無いセージと木場は

二人を見送らざるを得なかった。

 

しかし、そこに待ったをかけた者がいた。ギャスパーだ。

 

「……ま、待ってください! その聖剣使いの人……

 僕を捕まえようとした人と一緒にいました!」

 

 

「……えっ?」

 

ギャスパーの思い切った発言には、その場にいた全員が思わず歩みを止めた。

それが事実ならば、状況は大きく変わってしまうからだ。

何せ、彼を捕まえようとした者――即ち、禍の団と密接な関係にあるからだ。

 

「お、おい……ギャスパー。お前何言って……」

 

「イッセー君。適当な事に耳を貸してる暇なんか無いわ。

 早いところ行かないと。そうでしょ?」

 

「イッセー。ギャスパーの言う事が気がかりだ。

 紫藤イリナと行動を共にするのは待ったほうがいいかも知れん」

 

「僕も同意見。ギャスパー君、よければもう少し詳しく教えてくれないか?」

 

おどおどとしながらも、ギャスパーはゆっくりと語り始める。

自分が禍の団の手に落ち、神器を強制的に発動させられた事を。

そして、その場に紫藤イリナがいたこと。

外にいたはずのゼノヴィアを打ち倒した上でここに来た事を。

 

「……なるほど。つまり、紫藤イリナは部室を見張っていたゼノヴィアさんを倒した上で

 禍の団を部室の中にいれ、ギャスパーを捕らえた、と。

 それなら確かに、ゼノヴィアさんがああなっていた理由は納得がいくが」

 

「……し、信じてくれるんですか? 僕を、僕の言う事を」

 

「信じるも何も、僕らは同じ部長の眷属、仲間だよ?

 僕は信用に値すると思うけどな」

 

「な、何適当な事を言ってるのよ!?

 私は今までゼノヴィアに会ったことさえなかったのよ!?

 寧ろ、ゼノヴィアを探しているのはこっちのほうなんだから!」

 

「……どうだか。そもそも、俺はそのゼノヴィアさんに会ったって言っただろう。

 そしてそのときの様子が尋常じゃなかった。事ここに至って、理由はお前にあると睨んだがな」

 

セージと木場は、ギャスパーの言う事を信用している。

そうなれば、面白くないのはイリナだ。何せ、禍の団と繋がっていると

面と向かって言われているのだ。これから彼らを追い払うために行動するにあたって

彼らと繋がっていると思われるのは、あまりにも不本意であろう。

 

「あんたねぇ……適当なこと言ってると聖剣の錆びにするわよ!?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」

 

「お、おい……イリナ。やめてやれよ。ギャスパーが怖がってるじゃないか。

 ギャスパーも変な事言うのはやめろよ。イリナはミカエルの使いとして

 俺に会うはずだったんだぜ? ……そういえばイリナ、あの時は何で来なかったんだ?

 ミカエルが心配してたんだぜ? 連絡が取れなくなったって」

 

「あ、あっはは……実は寝坊しちゃって……」

 

ようやくセージが指摘した事を、イッセーもイリナに問いかける。

それに対するイリナの一言に、今度はイッセーが少しだけ首をかしげた。

イリナはいい加減なところがあるとは言え、敬虔な信徒である。

それは昔からそうだった。そんな彼女との面識は幼少期だけとは言え

イッセーにしてみれば、イリナがそんな重大な局面で初歩的なミスを冒すとは思えなかったのだ。

 

「おいおい……そういえば、お前会議は知ってるのか?

 その会議は大変なことになってたんだぜ。あんまり詳しい事を話すと

 部長や魔王様に怒られそうだから言えないけどよ。

 お前んとこのミカエルも出てたけど、薮田(やぶた)……ヤルダバオトって奴に相当絞られてたぜ」

 

「イッセー。薮田はあの薮田先生だとわかるとしてもだ。

 ヤルダバオトとは一体なんだ?」

 

「ああ、ヤルダバオトってのはね……」

 

会議に参加していないセージは知らなかった。

世界史の薮田直人が、実は聖書の神の影であり、偽神を名乗るヤルダバオトであったことを。

そんな彼は、今までずっと人間として社会に紛れ込んでいた事を。

 

「……ま、マジで? な、なんと言うか……壮大というか……

 そんなところにカチコミをかける禍の団が

 すっげぇアホの集団に思えてきたというか……

 天照様に大日如来様も、俺の言いたかった事も言ってくださった……

 俺、そんな方々のいる場所に畏れ多くて顔を出せそうも無いぞ……?」

 

「お前、部長や魔王様に不遜な態度を取ってるくせにそこでビビるのかよ。

 部長の眷属の癖に、変な奴だな」

 

「バカを言うな。大日如来様はとんでもなく偉い仏様。

 天照様はこの国のやんごとなきお方のご先祖様でもあらせられるんだぞ。

 日本国民ならばお二方とも敬意を払って当然の方だろうが。

 悪魔になる前に行かなかったのか? 初詣とか受験前の天神様への神頼みとか。

 それに実家は仏壇飾ってんだ。大日如来様とは宗派違うけどな。

 そもそも神社の神様ってのは昔からこの国と密接な関係におられるんだぞ。

 

 ……しかし天道寛(てんどうひろ)が大日如来様って……

 いや確かに面ドライバービートでの役はそれっぽい俺様系だったけどさ……」

 

木場に説明を受けたセージは、色々と混乱しかけていた。

今まで知っていたものが実はとんでもないものだったこと。

自身が信仰している日本の神仏のみならず、信仰どころか存在さえ疑問視していた

全能の神――偽者だが――までもが存在していた事。

セージもまた、とんでもない事実にショックを受けた一人といえよう。

 

しかし、ショックを受けたのは一人だけではなかった。

 

「……そ、そんな……神は……主は死んだのではなかったというの!?

 しかも、それだけならまだしも偽者がのうのうと生きていて神を気取っている!?

 そ、そんな……そんな馬鹿なこと……

 

 ……ふ、ふふふ……」

 

「お、おい……イリナ?」

 

「そうよ……やはりこの世界は間違っているんだわ……

 主の御座さない世界というだけでも間違っているというのに

 主に最も近いものが偽者だなんて……狂ってる……狂ってるわ……」

 

途端にイリナの目は虚ろになり、何かをぶつぶつと呟き始める。

その雰囲気は、さっきまでイッセーに対して向けていた無邪気なそれとは全く違う。

まるで、人格そのものが変わってしまったかのようだった。

そんなイリナの様子には、イッセーも衝撃を受けていた。

 

「……ねぇイッセー君。イッセー君はこの世界が間違ってると思う?

 私は間違ってると思う。イッセー君は間違ってたらどうすればいいと思う?

 私は直せばいいと思う。イッセー君は何が間違っていると思う?

 私は主がいない事だと思う。イッセー君は主を……信じてないか。悪魔だもん。

 私はそれも間違いだと思う。イッセー君が悪魔だなんて。

 私、小さい頃イッセー君のこと好きだったんだよ?

 でもイッセー君はあの胸しかない悪魔が好き。

 そんなのおかしいよね? 私イッセー君の事忘れたこと無かったんだよ?

 でもイッセー君は私の事忘れてた。それってひどいよね?

 

 ……ねぇイッセー君。それって……間違ってるよね。

 間違ってたら……直さないといけないよね」

 

そのイリナの変わりように、周囲の者は危険なものを感じていた。

ギャスパーに至っては、完全に怯えてダンボールを頭から被っている。

木場はいつでも剣を抜けるよう、身構えている。

セージも片腕だけながらも、目線はイリナから外さない。

イッセーは、イリナの豹変ぶりに当惑している。

まさか、自分の幼馴染が――という考えも、無いわけではないだろうが。

 

「だからね……私が直してあげる」

 

「イリナ……お前何言って――」

 

 

「危ないイッセー君!!」

 

イリナとイッセーの間に、聖魔剣を握った木場が割り込む。

イリナの右手には、アスカロンが握られている。

アスカロンの刃は、イッセーの左手を狙っていた。

 

「……どうして邪魔するの? イッセー君は壊れてるんだよ?

 壊れた原因を私が直そうとしてるのに」

 

「僕には、君のほうが壊れているように見えるけど――ねっ!」

 

聖魔剣とアスカロンの鍔迫り合いは、聖魔剣が制する形となった。

しかし、イリナを突き飛ばすには木場は少々非力ではあった。

鍔迫り合いで体勢を崩したイリナに、実体化したセージが左肩でタックルをぶちかます。

今のセージには、これくらいしか攻撃方法が無い。

 

「とんだ地雷を踏み抜いたなイッセー。どうやら自分から化けの皮を脱いでくれたか。

 こんなザマでは、そりゃゼノヴィアさんもああなるか……。

 

 ってこうしちゃいられないんじゃないか? ここもかなり危険だ。

 特にイッセー、お前がこいつに狙われるとマズい」

 

「ああ。だから彼女の相手は僕が引き受ける。

 イッセー君は手筈どおり部長を探してくれ。この分だと部長も危ない!

 セージ君、すまないが君はギャスパー君を会議室まで!」

 

一瞬にして、部室前の廊下は緊張した空気の漂う場所となる。

相手が携えているのは竜殺しの聖剣。一撃でも食らえば悪魔である彼らに取っては致命傷。

ましてイッセーはドラゴンを宿している。下手をすれば即死だろう。

そうなれば、この中で一番戦力になるであろう木場がイリナの相手をするのは

理にかなった戦術といえる。

 

「僕なら心配ない! 必ずオカ研の皆と合流する!」

 

「分かった! 木場、イリナを頼んだぜ!

 セージ、お前もまともに戦えないんだ、無茶するなよ!」

 

「ああ。お前こそへまを踏むなよ。

 ……行くぞギャスパー。こうなったら四の五の言えん。

 お前も男なら、腹をくくれ。俺と一緒に会議室まで急ぐぞ。

 祐斗、油断するなよ」

 

セージが懸念したとおり、事態は動き出した。

それは、イッセーの幼馴染との最悪の決別という幕開けを以って。

 

「ちょうどよかったわ! お前も悪魔の癖に聖剣を使う間違った悪魔!

 この私が正しい主の名の下に過ちを正してやる!」

 

「よく言うよ、その正しい神自ら今までのあり方を否定しているってのに!」

 

聖魔剣と竜殺しの聖剣がぶつかり合う金属音を背に、三人の悪魔は旧校舎を駆け出していく。

いよいよ、駒王町を、人間の世界を一方的に巻き込んだ三大勢力の内乱は

その貌を少しずつ曝け出していくのであった。




イリナェ……
拙作では小さい頃からイッセーの事を気にしていた、と言う風にはなってます>イリナ
その上で再会したらこんなことになってるんですから。
さらに自身のアイデンティティとも言える信仰に亀裂が生じる事態は起きるし。

原作ではミカエルに鞍替えした彼女ですが
拙作ミカエルがかなりアレなのと
彼女の信仰はアーシアのそれと全く違う、と言う面も持たせたかった結果です……

カテレアが要らん事吹き込んだ説もありますがw


まあ三大勢力の和平が絶望的な現状で御使いなんて生まれようが無いんですがね。
結局洗脳して自分達の手駒が欲しいだけとかもうね……

メガテンの天使勢と然程変わらないと思うんです、このあたり。
ヨシオは酷い事されたよね……


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Be taken hostage

禍の団による襲撃。
人質にとられたリアス。
豹変し、アスカロンでイッセーに牙を剥いたイリナ。

偽神のカミングアウトから始まった三大勢力の会談は
ここに来て更なる混乱を生み出す。
カオスの名が指し示すように。



……場面転換目まぐるしくて申し訳ないです。
事件があっちこっちで起きているような状態ですので。


縋るものを失い、信じるものがある世界こそが正しいと

振るう先の無い龍殺しの聖剣(アスカロン)を闇雲に振り回す紫藤イリナと

広大な夢は無くとも、ただ友のために夢を守ろうと聖魔剣を振りかざす

木場祐斗の戦いが旧校舎で繰り広げられていた。

 

「壊れている……壊れテいる……壊れてイル……

 みんナみンな、壊れチャッたのよ!!

 だから、私が……私が、本当にあるべき姿に直すんだから!!」

 

「そのために、君は友を手にかけようとしたのか!?」

 

「ゼノヴィアも壊れちゃったのよ……だからあんな事を言ったのよ……

 でも心配要らないわ。私がこのアスカロンでみんなを直すの。

 本当に、あるべき姿に戻すの。今のこの世界は大きく変わってしまったの。

 主がいない? 主を気取った偽者? これの何処が壊れてないって言うの?

 

 私は、私は今まで何を信じていたって言うのよ!?

 何もない空っぽの器を有難がったり、崇めていたって言うの!?

 そんなの、そんなのおかしいわよ……狂ってるわよ!!

 だから何もかも狂ってるの。壊れちゃったのよ。

 そう……だから私が直すの。邪魔しないでよ」

 

もはや、イリナの目には湛えるべき光は無く。

敬虔な信徒であったころの面影など、もはや何処にも無く。

身に纏った黒のボディスーツも、そのデザインこそ変わらないもののどこか禍々しさを感じさせ。

 

「くっ……これじゃまるでフリードの剣捌きだ……ッ!」

 

「いたわねそんなの。でも、今ならアイツの言いたいことわかるかも。

 でも、アイツも壊れてるから直さないと。

 壊れているって言えばそう、ミカエル様――いやミカエルも壊れてる。

 だってそうでしょ? いもしない神様を崇めているんですもの。

 そっか……直さないといけないの、いっぱいあるんだね。

 だから……邪魔しないで、さっさとどいてよ」

 

イリナは呟きながらアスカロンを出鱈目に振り回している。

その太刀筋ゆえ、木場が聖魔剣で往なす事は不可能ではなかった。

しかし、元来スタミナに優れない木場には、長期戦は不利であった。

 

その一瞬の隙を突き、イリナが懐から出したそれ――擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

木場の目を眩ませる。ゼノヴィアが持っていた破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)

彼女が警察に勾留されていたことで警察から教会へと返還されたが

イリナの持つ擬態の聖剣は、その当時彼女が行方不明だったこともあり

消息不明となっていたのだ。それが実際にはこうして

イリナの手元に残ったままだったのである。

イリナはかつてのゼノヴィアと同じく、エクスカリバーと別なる聖剣の

二振りの聖剣を持っていることになる。

いかに魔剣製造(ソード・バース)禁手(バランスブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)とて

二振りの聖剣を同時に相手にすることは難しい。しかも、手の内が読みにくい擬態の聖剣だ。

 

「……イッセー君は行っちゃったかぁ。まぁいいわ。

 後でゆっくり私が直してあげるからね。

 お前も後で私が直してあげる。全部……全部私が直すから」

 

「く……っ!」

 

木場を置き去りにし、イリナも旧校舎を後にする。

普段ならばともかく、今のイリナが新校舎に向かえば更なる波乱は免れない。

体勢を立て直した木場は、急ぎ新校舎へとその足を進めたのだった。

 

――――

 

その一方、眷属であり能力を禍の団(カオス・ブリゲート)に悪用されているギャスパー・ヴラディを救うべく

リアス・グレモリーと兵藤一誠もまた動き出したが、リアスは禍の団に捕らえられてしまう。

その報せは、即座に新校舎の会議場にいる三大勢力の首脳陣に伝わることとなった。

ギャスパーは救い出され、彼によって止められた時間こそ動き出しはしたが

これによって情勢は一気に禍の団の側に傾くこととなった。

 

会議室には三大勢力と神仏同盟(しんぶつどうめい)、そして偽りの神に向けてメッセージが送られていた。

 

「ごきげんよう、愚かな三大勢力の首脳陣、そして愚かな魔王ルシファーと偽りのレヴィアタン。

 私は正当なるレヴィアタンの後継者、カテレア・レヴィアタンです。

 この度はあなた方に面白い知らせを持ってまいりました」

 

「面白い知らせだと……?」

 

そうしてカテレアが指し示した先には、魔術で作り出された映像が宙に浮かび上がる。

そこには、満身創痍の状態で磔にされたリアス・グレモリーが映し出されていた。

 

「り……リアス!!」

 

「ご覧の通り、リアス・グレモリーは我々の手中にあります。

 返して欲しくば、我々の要求を飲んで頂く事になります」

 

「……碌な要求じゃねぇだろうが、一応聞くぜ。何だ?」

 

カテレアの要求。それは、冥界の政権を旧魔王派に戻すこと。

今回行われた三大勢力の和平交渉を白紙撤回すること。

そして……新魔王4人の首を、一週間以内に旧魔王派に差し出すこと。

 

「……ふざけているのか? 今ならまだ、恩赦の余地はある。

 そうでなくとも、既に冥界の政権は我々の方にあるはずだ。

 貴公らが行っている事は、立派な反逆行為だ。

 それ以前にリアスを返せ。彼女は何も関係が無いはずだ」

 

「関係が無い? ふざけているのはそちらのほうですわ。

 サーゼクス、あなたの妹と言うだけで我々にとっては不倶戴天の敵なのです。

 いずれ我々にとって恐るべき存在となるやも知れません。

 最も、こうして簡単に我々の手に落ちる以上、杞憂かもしれませんが」

 

旧魔王派と新魔王派。彼らは政治方針から何までとことん対立しており

それが冥界の表向きの最たる社会問題になってさえいるほどだ。

こうして交渉が平行線をたどることなど、珍しくも無い。

 

「……新魔王派は現実を直視せず、旧魔王派は過去の栄光に縋り。

 やれやれ……先ほど私は冥界の現状をソドムとゴモラになぞらえましたが

 まさしくその通りですね、カテレア・レヴィアタン。

 よもや、私の顔を見忘れたとは言わせませんよ。

 神の炎(メギド)に焼かれたくなくば、直ちに展開している戦力を全て撤収させなさい」

 

「……か、神ですって!?

 バカな、あの時確かにヤハウェは消えたはず……!!

 い、いえ……あなたは所詮偽神。偽りの神如きが、崇高なる我らの目的を阻むなど!」

 

沈黙を守っていたヤルダバオトが前に躍り出て、カテレアに睨みを利かせるが

カテレアは動じることなく、要求を取り下げようとはしない。

ヤルダバオトが表に出たことでカテレアの優位性に揺らぎが生じたと見たか

アザゼルも得意げに語り始める。

 

「崇高ねぇ。俺にはカビの生えた饅頭程度の価値しか見出せねぇけどな。

 それにな、いくらお前らと言えども白龍皇(バニシング・ドラゴン)を相手にただで済むと思ってるのか?」

 

白龍皇。その名前を出した途端、追い討ちをかけられたかのようにカテレアは黙り込む。

白龍皇アルビオン。赤龍帝ドライグを冥界が擁しているように、堕天使もまた

白龍皇を自分達の戦力として擁している。そうアザゼルは思っていた。

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)である兵藤一誠をリアス・グレモリーが目にかけているように。

白龍皇であるヴァーリ・ルシファーの面倒をアザゼルは見ている。本人はそう自負していた。

当の白龍皇は赤龍帝と違い会議には出席せず、会場警護を担っていた。

これは堕天使陣営の人手不足の問題と、ヴァーリ本人の希望でもあった。

曰く――

 

俺は和平などには興味が無い。求めるのはただ強敵との戦いのみ。白龍皇も同じく、だ。

俺は仲良しゴッコに興じるつもりはない、やりたければお前達だけでやれ。

 

――と。

 

この発言にはアザゼルも肩を竦めたが、ヴァーリの意思を尊重する姿勢をとっていた彼には

これ以上の追求は出来なかった。

最も、参加したところで和平は望むべくも無い現状であり

堕天使陣営の見苦しさをまざまざと見せ付けられる形になるだけで

参加しなくて正解だったかもしれないのだが。

 

「ま、ここには二天龍が揃い踏みしてるんだ。下手な気は起こさないほうがいいと思うがな」

 

二天龍。その存在は三大勢力にとって騒動の抑止力足りうるものである。

アザゼルも彼らに被害を被った手前、こうして自身が持つ

白龍皇をジョーカーとしてちらつかせている。

そうなれば面白くないのは神仏同盟だ。そんな危険なものを揃えて自分達の領土に置いている。

その件に関してサーゼクスからも、アザゼルからも一言の通達も無い。

まるで「制御には成功していますから何も心配は要りません」と言わんばかりである。

 

だが、果たしてかつて世界を震撼させたドラゴンが大人しくしていられるのか。

ヤハウェをもってしても、神器への封印が精々であった二頭の龍を。

それを御することが出来ると思うのは、大層な思い上がりではないだろうか。

何を根拠に、彼らは二天龍を自らの下に置いたと思えるのだろうか。

 

「赤龍帝――兵藤君がお前達の目論見を破りに向かった。

 当代の赤龍帝は、お前達のやり方を否定するらしい。

 カテレア。それでもまだ、お前達は旧い血に固執するのか?

 血に拘っていては、我々悪魔の未来は無いのだぞ?」

 

――尤もらしいことを言っているが、結局は龍の威を借っているだけではないのか?

一連のアザゼルとサーゼクスの態度を見て、大日如来にはそのような考えが過ぎっていた。

何故、自分達で解決しようとしないのだろう、と。

何故、ドラゴンの力に頼っているのだろう、と。

特にサーゼクスなど、本来ならば自分が率先すべきことではないのか?

その大日如来の考えは、天照によって口に出されることとなった。

 

「……サーゼクス様。此度の事案はどう贔屓目に見てもあなた方の政治問題。

 その政治問題を異郷の地であるここに持ち込んだことについては

 後ほど、しっかりと追及させていただきます」

 

「……我々冥界政府は、決して日本神話を陥れようとしてこのような真似をしたわけではない。

 その事だけは、どうかご留意いただきたい」

 

「そうじゃない。『禍の団』とお前のところの前政権が繋がっているのが問題だといっている。

 新政権は、前政権の不平不満を発散させることも出来ない無能の集まりなのか?

 ……釈迦に説法とは言うが、お前達の場合は馬耳東風――馬の耳に念仏、だな。

 我々は降りかかった火の粉を払うべく禍の団に対し断固とした態度を取る。

 言い方は悪いが、人質程度に屈していては、あの手合いは図に乗る一方だぞ」

 

一連の騒動に、神仏同盟もこめかみをひくつかせていた。

サーゼクスの意見も跳ね除け、禍の団に対し断固とした態度を取ると宣言している。

それはつまり、リアスの身の安全は保障しないという事でもある。

 

「……っ、ではリアスはどうなるというのだ!」

 

「待ちなサーゼクス。悪いが、これは神仏同盟のほうが正しいぜ。

 あの嬢ちゃんには悪いが、奴らに付け入る隙を与えたらその時点で俺達の負けだ。

 それにな、俺としてもお前のところのゴタゴタに巻き込まれるのは御免なんだよ」

 

「アザゼル……っ! 貴様とて己の幹部の動向を事が起きてから初めて認識したというに!」

 

アザゼルもまた、神仏同盟の意見に同調しているが

そこはサーゼクスに「お前が言うな」とばかりに糾弾されている。

まるで歩調が合っていない。それが、ヤルダバオトや神仏同盟から見た

三大勢力の現状である。

 

「……天使や堕天使はもとより、悪魔も本を質せば私から生まれた存在。

 それがこのような事態を招いた事、誠に申し訳なく思います……」

 

「……お釈迦様は言っていた。

 『「私は愚かである」と認められる者こそ、賢者である』……とな。

 確かに彼らの愚行は我々にとって害だろう。だが、害と分かれば

 それを正す事もまた、不可能ではないはずだ」

 

「頭を上げてください、ヤルダバオト様。

 今はこうして責任の擦り付け合いをする時ではないと思います。

 結界で守られこそすれ、土地自体は人間の世界のものです。

 この地に住み、平和な暮らしを営む人々のためにも

 この事態を打開する事を考えましょう」

 

神仏同盟への謝罪の言葉と共に頭を下げるヤルダバオト。

偽者とは言え聖書の神、唯一神がこうして頭を下げる姿は

信徒が見たら腰を抜かしかねないだろう。しかし、彼にしてみれば

このように頭を下げざるを得ないほど、彼の直系の子とも言える

三大勢力がしでかした事は大きかったのだ。

そんな彼を、神仏同盟は糾弾しなかった。

あらゆるものを受け入れる神の寛大さ、仏の慈悲の心。

そうしたものを、天照も大日如来も当然持ち合わせている。

その対象は、人に限らない。

それは、先ほどヤルダバオトが三大勢力のトップに向けて言い放った言葉と同質であった。

 

「お二方のお心遣いに感謝いたします……すみません。少し失礼。

 

 ……はい、薮田(やぶた)です。

 ああ、(やなぎ)君ですか……っ!? それは事実なのですね……?

 わかりました。すみませんが、私は今手が放せません。

 ご心配なく、安全は確保しております。

 ええ……ええ。防衛省への連絡など、本郷(ほんごう)警視総監を当たってください。

 曲津組(まがつぐみ)の背後にいる悪魔の出自は私の独自の調査で掴めています。

 資料については私の手元にあります。

 私のほうは問題ありませんので、警察官の職務に専念してください。

 よろしくお願いします。では……」

 

ヤルダバオトが持っていた携帯に着信が入る。

当然、今この場で初めてヤルダバオトとして名乗りをあげたので

かかってくる連絡は人間・薮田直人(やぶたなおと)に対するものである。

 

事実、かかってきた連絡は超特捜課(ちょうとくそうか)の課長、テリー柳からのもの。

薮田直人として対応したその内容は、防衛省の名前が出たり

警視総監クラスが動かざるを得ない事態になっていたりと

ただ事ではない様相を呈していた。

 

「サーゼクス。あなたは冥界でどういう悪魔の管理をしているのですか。

 今しがた、恐らくは契約した悪魔に唆されたのでしょう。

 人間界の反社会的組織……平たく言えば暴力団ですね。

 彼らが一斉に抗争を起こしたと私のところに連絡がありましたよ。

 つまり、今この結界の外は大騒ぎになっています。

 幸い、住民の避難などは警察が行っており、悪魔への対応も超特捜課が動いていますが……」

 

「管理などと……そんな住民をモノとしてみるような方針は、私のやり方に反する!」

 

「今はそんなことを言っている場合か。そのモノではない連中が

 こうして人間界に実害をもたらしているのだ。

 自分達の契約者を唆した上で、な。

 はぐれ悪魔の暴走とも違うのだろう? これはどういう了見か、説明してもらおうか」

 

悪魔とつながりを持っていた暴力団組織と言えば、昨今駒王町で勢力を拡大していた

曲津組が挙げられる。しかし、暴力団は曲津組だけではない。

寧ろ、暴力団同士の抗争こそが暴力団が暴力団足りうる事案になっていることも

決して少なくない。

そして、そこに悪魔が、禍の団が付け入る形となったのだ。

しかも、抗争を起こしたタイミング。どう考えても、この会談に合わせてある。

会議場周辺では魔術師を中心とした部隊が。町内では悪魔と彼らと契約した

暴力団が抗争と言う形で混乱を引き起こし、迂闊に外に出られなくする上に

外部からの干渉を完全に阻止している。物理的な結界と言えよう。

 

「これは契約の法規に明確に反している。今回の契約に携わった者には

 後ほど厳罰を与える。また、今後このようなことが起こらぬよう……」

 

「そうじゃない。今この場でこうして現実に起きている。

 現在起きている事案に対してはどう対処するつもりなんだ。

 まさか……人間に任せるつもりなのか?

 だとしたら……ヤルダバオトの言っている事を完全に履き違えているとしか言いようが無いな」

 

「で、ですが我々から人間への干渉は最小限にすべきと……」

 

「意味が違いますよ。今回の事案は、悪魔によって唆されたのが原因でしょう。

 だとしたら、サーゼクスはもとよりミカエル。

 あなたこそこういう場面に出るべきではないのですか。

 何のための悪魔祓いなんですか。

 

 それに、私はそういう観点からも三大勢力の和平には疑問を抱いていました。

 神と魔、そのバランスが崩れればそれは最早災厄しか生まなくなります。

 そうなってしまえば、世界の、生命のためを思えば駆逐すべき存在は誰か……

 それが分からないとは、言わせませんよ」

 

今回の事案は、悪魔が起こした事件であるにも拘らず

魔王として抑止力としての行動を起こさないサーゼクスや

悪魔を祓う者を取り纏める立場にあるべきミカエルに、鋭い指摘が飛ぶ。

成すべきことを成さなかったツケは、今ここで支払わなければならない事態に陥ったのだ。

 

「……し、仕方ありません。各地の悪魔祓いに通達を。

 『駒王町を中心に活動している悪魔勢力を撃退せよ』と通達なさい。

 我が信徒の安全には変えられません……」

 

「いいのかよミカエル。和平前にそんなことをすれば、またどっちかのマスコミが騒ぎ出すぜ?」

 

「お前は黙っていろアザゼル。セラフォルー、こちらも冥界に連絡だ。

 場合によっては、『彼ら(イェッツト・トイフェル)』をここに派兵する」

 

「その事なんだけど、さっきから呼び出してるのに

 ファルビーもアジュカちゃんも出ないんだよぉ~」

 

セラフォルーの空気を読んでいないくらいに気の抜けた声で告げられたのは

「冥界と音信不通になっている」と言う事態。

それには流石に、サーゼクスも嫌な汗が流れるのを感じ取った。

 

「冥界から応援を呼ぼうとしても無駄な事。ここにあなた方が集いしことを

 後悔しながら苦しみ続けなさい。そして……

 

 ……望まれぬ……世界を……望む者を……破壊……

 我らは……望む……静寂なる……世界と……純粋なる……存在を……」

 

「……っ!? 雰囲気が……違う!」

 

「ちょっ……カテレアちゃん、どうしちゃったの!?」

 

そんなサーゼクスをさらに追い詰めるかのように、カテレアの様子が豹変する。

それは、かつてイリナを捕縛した時と同様。リアスを捕らえた集団と同様のことを呟き

レヴィアタンの魔力とは全く異なる、得体の知れないオーラを纏っている。

褐色の肌も青白く変色していくことからも、それがただ事ではないことが見て取れる。

その証拠に、カテレアの腕に付けられた赤と青の石が埋め込まれた腕輪は

激しい輝きを放っている。

 

「……それがお前の望みだってのか、カテレア。

 無駄に格好だけつけたって、言ってる事が下らなさ過ぎるんだよ」

 

「我らの望む……世界に……お前達は……不要……

 故に……破壊する……望まれぬ……世界を……望む……者達を……」

 

次の瞬間、会議室の内部に突如として黄色い角を生やし、赤い宝玉のような目を持ち

腹部にまた赤い宝玉を備えた白い骨の怪獣のような怪物の軍団が現れる。

それらは、何もないところから出現し会議室にいた全員を包囲していた。

悪魔でも、はぐれ悪魔でも、ましてや堕天使でもない。

まるっきり見たことの無い異形の存在であった。

 

「こいつら、どこから……!?」

 

「……『時間加速空間(クロックアップ)』の類ではないな」

 

「カテレアちゃんの眷属でもない、本当に見たことの無い怪物だよ!

 でも、私の番組の敵役にちょうどいいかも!」

 

セラフォルーの暢気な発言は、その直後の骨の怪物の攻撃に撤回されることとなる。

彼らが持つ左腕の巨大な爪。それは校舎のコンクリート壁を泡を崩すかのように

簡単に切断してしまう。建造物は結界で保護されているにも拘らず、だ。

立て続けに別の個体は肋骨を飛ばしてきたり、角を巨大化させブーメランのように

飛ばしてくるなど、明確に攻撃の意思を見せてきたのだ。

当然、それらの攻撃もコンクリートなどものともしない。

 

「見境なしってわけか……おいサーゼクス。神仏同盟じゃないが

 これは一体どういう事だよ」

 

「……私にも分からん! 一つ言えるのは、この場にいる非戦闘員の参加者を

 直ちに避難させなければならんと言う事だ!」

 

「……無駄。既に……包囲……してある……

 それに……逃げれば……奴が……滅ぶ……」

 

会議室に残っている非戦闘員ないし、戦闘力の低い者――

ソーナ・シトリーの眷属の一部と、天照の付き添いで来た旧海軍軍服の男性。

彼らはこちら側の事情を知っているとは言え、戦闘力に関して言えば

一線級には遠く及ばない。軍服の男性に至っては、その服装に反し完全に非戦闘員である。

そんな彼らだけでも避難させようと試みるが、カテレアはそれを許しはしなかった。

なぜなら、彼女らの下には――

 

「ううっ……!」

 

「リアス!!」

 

「選びなさい……そこで……滅ぶか……この者を……捨てるか……」

 

カテレアの魔力刃が、リアスの首をなぞる。

彼女の髪のように赤いラインが、首に浮かび上がっていく。

このまま力を加えれば、首と身体は離れかねない。

 

(俺の「時間加速空間」を封じる意味合いもかねて、あの怪物を使役したと見ていいな。

 突然現れたことといい、「時間加速空間」が奴らに通じるかどうかが分からん)

 

(このまま手をこまねいていても、事態は進展しないでしょうけどね……

 私としては、リアス・グレモリー君を見捨てて打って出るべきとは思いますが

 これでも人間としては教師でしてね。生徒を見捨てると言う選択肢も出せません。

 そこまで見越してはいないでしょうが……人として生きるのも不便なものですね。

 それを否定するつもりは、ありませんけどね)

 

人質作戦は、単純ながらも功を奏していた。

正しく全能の神たるヤルダバオトも、時間加速空間で人質救出が容易な大日如来も

未知の敵戦力に対し身動きが取れずにいた。

睨み合いが続く中、ようやく事態が動く。

 

「部長ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「い……イッセー!?」

 

「赤龍帝……望まぬ世界を……望む者……故に……排除……」

 

囚われたリアスに向かい、一直線にイッセーが突っ込んでくる。

当然、その動きはカテレアからも丸分かりであり

そこに新たに召喚した骨の怪物を差し向ける。

 

WERSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

「部長に手ぇ出すんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「!?!?!?」

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)。イッセーの迷いの無い心のまま展開されたそれは

骨の怪物をものともせず蹴散らしていく。

そのまま、事態は好転するかに思われた。

 

「……無駄な……こと……」

 

しかし、そんなイッセーの快進撃を嘲笑うかのように骨の怪物は無限に現れる。

サイズも人間の成人男性よりやや大きめの固体から、子供程度のサイズまで様々だ。

その子供程度のサイズのものは、イッセーの四肢にしがみ付き動きを封じようとしている。

 

ふと、カテレアの肌が青白いものから元の褐色へと色を変える。

それに伴い、纏っていたオーラも元来のカテレアのものへと戻っていく。

しかし、骨の怪物はそれとは関係なくイッセーの動きを封じている。

 

「くそっ、離せ! この骨野郎どもぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……っ。また……けれどこれは好機!

 見なさい! これが純粋なるオーフィスの力!

 いえ……最早『無限龍(ウロボロス・ドラゴン)』などと言う呼び方も相応しくありませんわね。

 『純粋なる龍(ライン・ドラッツェ)』、とでも言いましょうか。

 さあ! 今こそ純粋なる無限の力を思い知りなさい!」

 

カテレアの声に応えるように、突如としてイッセーの足元に巨大な腕が現れる。

それは人間のそれではなく、寧ろ龍のそれに近い。

その様は、地上に生え出てきた牙のようでもあった。

そしてそれは、骨の怪物ごとイッセーを握りつぶそうとしている。

 

「イッセー!!」

 

「あははははははっ!! 所詮赤龍帝など旧い時代の伝説にすぎません!

 これからは、我らが新たな歴史を、時代を、世界を――

 

 ――望まれぬ世界を滅ぼし、純粋なる静寂の世界!

 純粋なる生命のルーツ! 正しき形の始まりの地!

 そう……我々こそが……」

 

――過去であり、未来。神も、魔も。全ては私達が生み出そう。

 

カテレア・レヴィアタンは自身の付けた腕輪の力に呑まれた。

そこにいるのは、全く未知の世界から来た、忌むべき来訪者。

或いは、招かれざる異邦人。

 

――否。そもそも悪魔は、この人間の世界に住む者にとっては

正しく忌むべき来訪者であり、招かれざる異邦人なのかもしれない。

そんな彼女らが築き上げようとしているのは、愚か者達の帝国なのか。

 

禍の団は、その貌を大きく変えつつも、成そうとしている事は変わらず。

今ある世界を滅ぼし、新たな世界を作る。

それは、元来カテレア・レヴィアタンが、旧魔王派が抱いていた野望そのものであった。

カテレアの人格は大きく歪められたものの、目的は全く変わっていない。

 

そして、そんな激動の会議室に向かっているセージとギャスパーの二人の元にも

骨の怪物が現れようとしているのだった……。




イリナはぶっ壊れ、そのイリナを浚い
今度はリアスを人質にとったカテレアさんもまたぶっ壊れてます。

>イリナ
普通に擬態の聖剣持ち逃げしてます。
カテレアに浚われた際に色々教わった(吹き込まれた)ので
聖剣返す義理どころか騙し討ちさえ画策してます。
実際アスカロンとか持ち逃げみたいなものですし。

……ヤンデレってこういうのでいいのかなぁ。

>サーゼクス、リアス
要所要所でリアスが人質になったせいで株価を落としているような。
でも実際、テロリストってこれくらいやるのが普通だと思うんです。
これに関しては現実が創作に追いついた、或いは超えてしまった
事案が起きてしまいましたが……
でもここで断固とした態度取らないと付け上がらせるのも事実。
指導者としての資質はこういうときにこそ問われるものだと思います。
いくら平和な世で名君だ名君だ言われてても……ねぇ。

>骨みたいな怪物
カテレアの豹変具合と言いこれである意味答え出てるようなものですけど。
今回は今までみたいにネタとしてではなく
シナリオにも大きく絡んだ形で採用かけているキャラクターですので
一応伏せさせていただいて……

怪物や背後にいる者の正体が分かった方はメッセージでお願いします。
当たっても「やったね、すごいね」って返信と
もしかすると個別のネタバラシがついて来る以外何もありませんけど。
感想掲示板に書いても一応消しはしませんがこの件に関する返答は致しかねる
場合がありますのでご了承ください。

劇中大日如来様がクロックアップが通用するかどうか迷ってましたが
普通に通用します。>怪物
出現方法が出現方法で、かつ全くの未知の相手で人質をとられているという
物凄い不利な状態だったのであの時点では博打になるクロックアップを控えていただけです。

>オーフィス
前述の骨の怪物にも絡む形になりますが
原作に無い能力を普通に使ってます。
カテレアや一部構成員が装備していた赤と青の石のついた腕輪。
これは原作における「蛇」の役割を担っています。
この赤と青の石、ってのも怪物やオーフィスが手を組んだ相手の正体のキーワードです。

>招かれざる異邦人、忌むべき来訪者、愚か者達の帝国
そのまんまスパロボのBGMタイトルより引用。
そして件の怪物とも大きく関わっているタイトルだったり。


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Soul49. 虚空より来たるE / a betrayer~裏切る白~

※本話より本格的にクロスオーバーが始まります。
苦手な方はその点をご留意ください。


今回、途中で視点変更があります(一応、分かりやすくはしているつもりですが)。
それに伴いサブタイもちょっと手を加えてあります。
イメージは仮面ライダーW。
三人称視点話は英文サブタイ縛りを設けてましたがここで緩和。
Wネタのためだけに。


しかしここ最近の流れ、書いている本人が事態の好転をイメージできないと言う罠。
一応、会談終了後の構想も練ってはいるのですが。

本文は今回それほどでもありませんが、後書きが長いです。
ぐだぐだ解説を語っているだけですので
場合によっては読み飛ばしていただいても結構です。


一体全体、何があったと言うのだ。

グレモリー家の意向により幽閉されていた俺、歩藤誠二――正しくは宮本成二――は

幽閉されている最中に起きた暴動のドサクサに紛れ脱出し

暴動を起こしたテロ組織「禍の団(カオス・ブリゲート)」から俺が幽閉される前に幽閉されていた

ギャスパー・ヴラディを救出した。

 

直後、正気を失った紫藤イリナの襲撃を受け

俺は彼女の相手を仲間である祐斗――木場祐斗に任せる形で

ギャスパーを連れ、オカルト研究部のメンバーとギャスパーを合流させるべく

三大勢力の会議が行われているはずの新校舎にたどり着いた。

 

 

……のだが。

 

 

「ほ、骨のお化けぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「何だこいつは。はぐれ悪魔……なのか? いや、そもそも敵意はあるのか……?」

 

俺達の道を塞ぐように、黄色い角を生やし、左腕に巨大な爪を生やした

骨の怪獣のような怪物が立ちはだかっている。

そこからは、今まで俺が対峙してきた連中に大なり小なり見られた

意思と言うものが、まるで感じられなかった。

それが、俺の判断を遅らせてしまった最大の要因でもあった。

 

「ひぃぃぃぃっ!!」

 

「ぐうっ……!!」

 

骨の怪物が飛ばしてきた肋骨を、まともに受ける形になってしまったのだ。

ギャスパーは逃げ腰ながらも回避には成功したようだが。

実体化を解けば、もしかすると避けられたかもしれないが……

そうなれば、ギャスパーに攻撃が集中するのは自明の理だ。

しかもまずい事に、今の攻撃で逃げるタイミングを失った。

うまくすれば、ギャスパー一人なら逃がせるかもしれないが……多分。

 

「……やるしかない! ギャスパー、戦えるか!?」

 

「む、むむむ無理ですぅぅぅぅぅ!!」

 

「……だったらさっさと会議室に行け。

 今の俺に誰かを守りながら戦うなんて芸当はできない」

 

……チッ。まあ期待はしてなかったが。

しかし問題がある。いつぞやみたいに、逃げた先にこいつの仲間がいないとも限らない。

これだけ同形のが揃っていると言う事は、同じタイプの仲間がいないはずが無い。

その時はその時、か。今やれる最大限をやるしか、方法は無いものな。

 

「……モーフィング。『手すり』を『鉄パイプ』に変える」

 

多分、今すっごいガラが悪くなっている気がする。

何せ得物が鉄パイプ、一昔前の不良の必須アイテムだ。

加えて、俺の制服は長ランを意識した改造制服だ。

イッセーと同じ前開きのブレザーだけどな。

そんなことを気にしていられる余裕は……無いだろうな。

何せ、相手の戦力が読めない上に向こうは複数。

こっちは……ギャスパーは戦力外。増援は不確定。

不確定なものを期待するわけには行かない。

普段ならともかく、ここで複数相手は……我ながら無茶がすぎる。

となれば……俺も頃合を見て、逃げる一択だな。

 

「いいか。俺が突っ込むから、お前はその隙に逃げろ。最悪、時間を止めたっていい。

 最も、あいつらに効くかどうかは俺は知らないけどな。

 左手一本でも、神器(セイクリッド・ギア)が使えなくても、お前を逃がす時間くらいは稼いでみせるさ」

 

「……そんな状態で、どうしてそこまでやれるんですか?」

 

「そんなこと俺が知るか。俺は俺の納得することをやっているだけだ。

 逆に言えば、俺は俺の納得しないことは絶対にやらない……いや、やりたくない主義だ。

 お前との付き合いはゼロに等しいし、避けられてるのも知ってるが

 顔見知りに死なれるのも夢見が悪い。ただでさえ、最近夢見が悪いんだ。

 

 ……さて。無駄話をしてる暇はもう無さそうだ。俺が突っ込んだら

 一目散に振り返らずに手薄なところから逃げろ。いいな」

 

強がりだ。俺だって本当は死にたくないし、こんなことからはさっさと逃げ出したい。

そもそも戦いなんてやりたい奴がやっていればいいんだ。

俺は戦地に赴くであろう自衛隊に志願するつもりは全く無かった。

実際に戦争になるかどうかはさておき、俺の目指す将来とは少し、違うと思っていたのは事実だ。

だから進路希望にも、自衛隊なんて書くつもりは毛頭無かった。

 

ところが現実はこれだ。これならまだ人助けになる自衛隊の方が胸を張れる。

わけの分からないまま戦いに駆り出され、たかがお家騒動で命のやり取りまでさせられたんだ。

だから俺は殺される前に相手を殺した。殺すつもりでやった。

憎くてやったわけじゃない。けれど、殺すつもりで力を揮った事実は変えられない。

戦争って、きっとそんな感じだと思う。体験していないし、したくも無いから知らないが。

目の前で誰かに死なれるのも、ってのも結局自己満足に過ぎない。

これから戦う相手はともかく、あの時は向こうにだって事情があったろう。

それにも拘らず殺した、殺そうとしたんだ。

 

……だから悪魔ってのは狂ってると思う。

殺人ゲームなんて、狂人の道楽以上の価値はありはしないんだ。

如何にも命の価値が分からない奴が考え付きそうな事だ。

この考えだけは、絶対に曲げるつもりは無い。

死ななきゃいいってもんじゃない。生まれりゃいいってもんじゃない。

そこにあればいいってもんじゃない。

 

「……俺はこんなところで死なないし、足を止めるつもりも無い!

 勝手な都合でこんなにされたまま、家族や好きな人と再会できないまま死ねるか!!

 うあああああああああっ!!!」

 

鉄パイプを握る左手に力を込め、俺は骨の怪物めがけて突っ込んでいく。

ギャスパーはどうなったのかまでは分からない。そこまで気を配れる余裕が無い。

骨の怪物は余裕綽々なのか、さっきから微動だにしない。

あるいは、機械みたいに感情と言うものが無いタイプなのか?

正体が分からない以上、やりにくいことこの上ない。

だが、やることは変わらない。

 

片腕が無いというだけで、武器を振るうフォームはまるで変わってくる。

これなら片腕だけの戦い方と言うのを

祐斗や塔城さん相手に慣らしておくべきだったかもしれない。

……いずれにせよ、出来なかっただろうが。

 

さっきから鉄パイプを振り回しているが、あまり当たる気がしない。

攻撃は右腕が無いのが幸いしてか、その分当たり判定的なものが無くなっているので

辛うじて避けられてはいるのだが、これで体勢を崩して転んだら目も当てられない。

立ち上がるのも左手一本。体勢を立て直すのも一苦労だ。

 

さっきからまるで当たる気配がしなかったので、思い切って肉迫して

鉄パイプを頭と思しき場所に叩き込んでみようとした……のだが。

 

「曲がったぁっ!?」

 

鉄パイプの一撃は、怪物の腕に止められ、しかも鉄パイプは腕の輪郭の形に

ぐにゃりとひしゃげている。鉄パイプで倒せるとは思ってなかったが、まさかこれほどとは。

そのまま反撃を食らう形で、俺は怪物になぎ払われてしまった。

 

「ぐ……っ!!」

 

霊体化が遅れたため、直撃を受ける形になってしまった。

腕になぎ払われる形で吹っ飛ばされ、俺は壁に叩きつけられる。

一瞬、視界が歪んだ。これはかなりまずい……ッ!

 

……しかしこうなった以上、作戦を練り直さないといけない。

ちょっとやそっとの武器じゃ、こいつには太刀打ちできそうも無い。

塔城さん程度の力があれば話は別かもしれないが、生憎今の俺には無い。

特殊な武器も、今の俺にモーフィングで作れるかどうか。

そもそも、作っている暇があるのか?

 

……特殊な武器、で俺は一つ思い出した。

消火器。学校の廊下だからあるであろうそれは

あの時は相手が火だったから有効打になった。

しかし、今回の相手に通用するかどうかは完璧に博打だ。

もし、視覚に拠らず相手を捕捉するタイプだったら完全に無駄撃ちだ。

 

いずれにせよ、まともに戦って勝ち目は無い。

ならば、俺も会議室に逃げ込むべきだろう。

旧校舎に戻ったら、祐斗を巻き込んでしまう。出来ない。

それ以外のところに逃げるにしても、いい場所が思い浮かばない。

 

それならば。俺は意を決して、左手で立ち上がり

相手の攻撃を避けることに専念する。

そして、何とか消火器までたどり着けた……のはいいんだが。

 

 

……消火器は片手で使えるものじゃなかった事を失念していた。

さっき手すりを鉄パイプに変えたのは

棍は片手で使える武器じゃないことを知っていたからなんだが。

消火器にしても、全く同じことが言えたのだ。

栓を抜く、ホースを持つ、グリップを握る。これらの動作を片手だけでやるのは無理だ。

口を使おうにも、そんな訓練をしていない。普通考え付かないだろうから。

 

そんなわけで、隙だらけになってしまった俺にまた怪物の攻撃が飛んでくる。

……ギリギリ、回避には成功したが全く状況が好転しない。

さっきからの様子を見る限りでは、対話による解決も無理そうだ。

負けそうだから対話に持ち込む、と言うのもある意味凄く情けない話だが。

しかしこれで、手札がまたスポイルされてしまったか。

 

通常攻撃。武器も力も相手の防御を破れない。却下。

魔法攻撃。肝心の神器が使えない。却下。

目晦まし。消火器は使えない。却……ん?

 

いや待て。消火器がダメなら、発炎筒ならどうだ?

消火器を発炎筒にモーフィング……やっぱダメだ。属性が逆のものにモーフィングするって

今の俺にできるとは思えない。やっぱ却下か……。

 

……こうなったら、多少強引にでも突っ切るしかないか。

俺はひしゃげた鉄パイプを投げ捨て、左拳を握り締める。

 

「うおああああああああっ!!」

 

叫びながら、骨の怪物に突っ込む。勝算? ねぇよんなもん。

突っ切れたら御の字の最早博打でもなんでもない、無意味な特攻だ。

……要するに、やけっぱちだ。

 

もう、今の俺にできる手がそれしか思いつかなかった。

言わば「わるあがき」。だが、それでも俺は生き延びたかった。

案の定、骨の怪物は左手の爪を構えている。串刺しにでもする気か。

あれでぶち抜かれたら痛いなんてもんじゃ無さそうだ。

 

……いや、待て。ギリギリで霊体化すれば回避できるかもしれない。

これも確証なんざ何処にもない、やっぱり博打の作戦ともいえない何かだ。

だが、やれそうな事は全部やれ。死ぬのはそれからだ。

 

怪物との距離は徐々に縮まっていく。

相手の間合いに入れば、左手の爪で貫かれるだろう。

その直前に霊体化すれば、俺の読みでは攻撃をかわせる。

と言うか、それが最後の手段だ。

そしていよいよ、手を伸ばせば怪物に届こうと言う辺りで……

 

 

……読みが外れた。

 

まさか、爪を巨大化させてくるとは。

お陰で、届かないと踏んだ距離は優に相手の射程範囲内。

そうなれば、爪の一撃をまともに食らうわけで……

 

次の瞬間、霊体化が遅れた俺の腹に、爪が突き刺さる嫌な感覚が走る。

やられた。そう思ったときにはもう遅い。

俺は生きているのか。それとも死んでいるのか。

ただ一つ分かるのは、無茶苦茶痛い。腹が焼けるように痛む。

次に俺を襲った感覚は、腹に突き立てられた爪が無造作に抜き去られる感覚。

その直後、さらに怪物は爪を突き立てようと左手を構えている。

 

……あ、これダメな奴だ。

以前食らったからわかる。こんな体験何度もするなって話だが。

 

痛みと吐き気、その他諸々の不快感から視界がどんどん歪んでいく。

俺が意識を手放すのに、時間は然程かからなかった。

 

最後に俺が遠くに見えたのは、白猫みたいな何かがこっちに向かってくるのが

うっすらと見えただけだった。

俺の家の猫は、アメショ風のキジトラだったはずだが……

 

迎えに来たって訳じゃ、無いのかもしれないが――

 

――

 

 

◇◆◇

 

 

――

 

セージが骨の怪物と戦っている最中。

ギャスパーはわき目も振らずに走り続け、会議室へとたどり着く。

そこも、決して安全な場所ではないのだが。

 

「た、助けてくださいぃぃぃぃぃ!!」

 

勢いよくドアを開けてギャスパーが飛び込んだ先には

リアスを人質に取られた事によって身動きの取れなかった三大勢力の首脳陣と

神仏同盟(しんぶつどうめい)の二人、そして偽神ヤルダバオト。

 

他の参加者――ソーナ・シトリーや彼女の眷属や朱乃らリアス眷属――も

ギャスパーの神器の効果が解けたことで動けるようにはなっているのだが

彼女らもリアスが人質にいるため、自由を奪われている有様だ。

そんな一団に睨みを利かせるように、ここにも骨の怪物が佇んでいた。

 

「ギャスパー君!?」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!? ここにもぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

逃げ込んだ先にも骨の怪物がいる。その事実はギャスパーをさらに追い詰める。

一方、外でリアスを捕えているカテレアも、この場にギャスパーが現れることまでは

想像していなかったらしく、突然の来訪に面食らっている。

 

そしてそこに生まれた一瞬の隙。その一瞬は、大日如来にとっては十分すぎる時間だった。

天照の声に合わせる形で、大日如来は右腰の数珠を握り締める。

 

「貴様! な、何故ここに!?」

 

「怯んだ! 大日如来様、今です!」

 

「任せろ……『時間加速空間(クロックアップ)』!」

 

それは、ギャスパーがドアを開けて飛び込んできた直後の一瞬の出来事であった。

「時間加速空間」を展開した大日如来は、常人を遥かに超えるスピードで活動することが出来るのだ。

それは、ギャスパーの目には全く捉えられない。

そしてそれは、「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」の対象にならないことも意味していた。

 

一瞬のうちに、室内に佇んでいた骨の怪物が崩れ落ち

室内にいるものの安全はこれで確保された形となる。

残るはリアスの救出。それさえも一瞬の出来事である……はずだった。

 

HALF DIMENSION!!

 

「ほう。どんな形であれ、俺の『時間加速空間』についてくる奴がいるとは。

 いや、さすがと言っておこうか――

 

 ――白龍皇(バニシング・ドラゴン)アルビオン」

 

リアスを救い出そうと伸びるはずだった大日如来の手は、白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)を纏ったヴァーリに止められる。

「時間加速空間」は解除されていない。彼は白龍皇の力で大日如来に追いついたのだ。

 

「一か八かだったがな。うまく行って良かったよ」

 

白龍皇の主な能力の一つに「半減」がある。これはその名の通り、あらゆるものを半減させる。

ヴァーリはこれを、「時間加速空間」に対して使用したのだ。

結果、大日如来は「時間加速空間」から引きずり出される形になってしまう。

大日如来が姿を現したということは、その場にいる全員の前に

大日如来とヴァーリが対峙している場面が映っていることになる。

 

当然、彼を擁していたアザゼルにしてみればとんでもない事態だ。

 

「ヴァーリ、何のつもりだ。確かに俺はお前に『強くなれ』と言ったが

 『世界を滅ぼす要因にはなるな』とも言ったぞ。それなのにこれは何だ?

 今すぐマハヴィローシャナとの戦いをやめるんだ」

 

「断る。世界にはまだ俺の見ぬ強者がいるんだ。ここにいる神仏同盟の二人。

 そして、こいつらに言われたアース神族の連中に、オリュンポスの連中。

 

 ……そして、こいつらの背後にいる虚空の彼方より来た旧き者。

 オーフィスは『アインスト(旧き者)』と呼んでいたな」

 

「『アインスト』……ですか。この世界のものではないとは思っていましたが……。

 私も外世界の存在は管轄外なんですがね……。

 しかしヴァーリ・ルシファー。私は前に忠告しましたよね?

 『人の世に仇なすものに容赦はしない』と。その忠告を無視する、と見てよいのですね?」

 

「そうなるな。俺は所詮、戦いの中でしか生きられない存在だ。

 それに……白龍皇を神器に閉じ込めるのが精々の神……偽神如きが

 俺の、俺達の楽しみに水を差すような真似はやめてもらいたいものだな」

 

白龍皇の寝返り。それは三大勢力に多大な衝撃を与えていた。

禍の団のボス、オーフィスと通じている外世界から来た未知なる存在「アインスト」。

ヤルダバオトでさえ詳細を知らぬ未知の力を携えて禍の団は世界に脅威をもたらす。

白龍皇はその混乱の最中、出てくるであろう各地の強者との戦いを望んでいた。

 

そしてそれは、神仏同盟が抱いていた危惧――二天龍が自分たちに牙を剥く――が

実際のものとして眼前に繰り広げられている。

この状況を前に、大日如来だけでなく

天照もいよいよ戦いの準備を始めようと、着物の帯に手を回していた。

 

「……こうなってはやるしかありませんね。砲雷撃戦、用意!」

 

天照が着物を脱ぎ捨てると、その下には

赤と白のセーラー服を思わせるようなデザインの衣服に

左脚に非理法権天の文字が描かれたサイハイを身に着けていた。

朱色の番傘を携え左腕にはZ旗を思わせるデザインの腕輪に、菊紋の首飾り。

そして背後に現れた、三連装の砲塔がついた戦艦を思わせる艤装。

白龍皇が敵に回ったと言う事態に、いよいよ天照も動き出したのだ。

 

「あ……天照様! ここでそれを撃たれては、学園が……リアスが!」

 

「構わないわ朱乃! こうなったら、私もろとも撃ちなさい!

 イッセーも身動きが取れない今、もう手段は選んでいられないわ!

 私はこうなったけれど、ギャスパーが助かった段階で

 私の目的は果たせたようなものよ!」

 

「馬鹿なことを言うのはやめるんだリアス!

 ここで君が死んだところで、それは犬死にに過ぎない!」

 

「そうですよ部長! 待っててください、今俺がこんな奴ら……

 うおおおおおおっ!!」

 

天照がリアスごとカテレアに砲塔を向けたことで

サーゼクスやリアスの眷属が色めき立つ。イッセーも赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

力任せに骨の怪物――アインストを蹴散らす。

イッセーはリアスを救うため。ドライグは、アルビオンと戦うため。

一応、利害は一致している。

 

『白いの。お前の相手は俺でなくていいのか? 寧ろ俺と戦え』

 

『断る。今のお前に戦うだけの価値は見出せない。

 ……名誉のために付け加えておくが、お前自身ではない。お前の所有者だ。

 俺の所有者に比べて遥かに及ばないどころか、お前さえ御せないではないか。

 そんなお前と戦ってもただ詰まらんだけだ。それに、俺の所有者は神仏同盟という

 新しいターゲットに夢中だ。もし戦うなら、その後だな』

 

アルビオンの指摘に、ドライグは黙り込んでしまう。

以前セージごと取り込んだ力も、結局イッセーは使いこなすには至らなかった。

ただ、禁手(バランスブレイカー)に至れた程度に過ぎなかったのだ。

そんな有様ではアルビオンの、ヴァーリの興味が他に移るのは無理からぬ話だ。

 

「寝言は寝てから言え、赤龍帝。そいつらは『アインストクノッヘン』。

 アインストの中でも、最も弱い個体だ……サイズは小さくなっているがな。

 そいつらに手こずっている様では、俺と戦う資格などありはしない」

 

「偉そうに! ヴァーリ! 俺はてめぇを見損なったぜ!

 部長を人質に取るような奴の仲間になるなんてな!

 そうまでしてやりたいことが戦いって、お前にコカビエルのことが言えるのかよ!」

 

「赤龍帝。俺に意見したければ強くなれ。今のお前の言葉は『弱者の遠吠え』に過ぎん」

 

イッセーの言葉に耳を傾けることも無く、ヴァーリは目的のために動き出す。

彼はカテレアのようにアインストに呑まれたわけではないのだろう。

否。もっと別なものに呑まれていると言えよう。

 

――盲目的なまでの戦いへの、強さへの固執。

それが神仏同盟に、太陽を冠する者に挑む姿勢となって現れている。

太陽への挑戦。それは前人未到の金字塔を打ち立てるのか。

それとも、その翼を焼かれ再び地を這いずる事になるのか。

 

「俺と戦え大日如来、天照! 日本神話の主神、そして太陽に座する仏教の仏!

 お前達こそ、俺が戦うに相応しい相手だ! さあ、撃って来るがいい!!」

 

「お釈迦様は言っていた。

 『戦いにおいて、一人が千人に打ち勝つこともある。

  しかし、自己に打ち勝つ者こそ、最も偉大な勝利者である』……とな。

 お前が戦うべきはまず自分だ。誰彼構わず喧嘩を振るのはよくない。

 天照、こいつは俺が引き受ける。お前は撃つなら奴にしろ」

 

一直線に突っ込んでくるヴァーリに対し、大日如来は懐から金剛杵を取り出し、迎え撃つ。

そんな彼の背後には、ヴァーリの光の翼に対抗してか炎のような日輪が輝いている。

それは、デイウォーカーであるはずのギャスパーにも耐えうるものではなく

その場にいる悪魔に連なるもの全てにダメージを与えるには十分なものであった。

一方、天照もまた太陽を象徴する存在であるだけに、大日如来の光を受け

鉄の主砲が光り輝いていた。

 

「ただ闇雲に戦いだけを望む今のお前は、まるで現世に迷い出た修羅界の住人だな。

 修羅界の戦いを、現世に持ち込むとは……本気か?」

 

「ああ、本気だ! 俺は……俺は強く、強くならねばならんのだ!!」

 

何かに取り憑かれた様に大日如来に挑むヴァーリ。

辟易としながらも、攻撃を受け流す大日如来。

確かに白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの力は確かなものである。

しかし、相手が悪いと言わざるを得ない。

 

「お前の言う強さとは、闇雲に混乱を広げるだけのものか?

 そして今のお前は、まるで斉天大聖の在りし日の様だな。

 

 ……仏の掌の上で粋がり、世界に目を向けようとしない。

 太陽の輝き、大地の力強さ、海の広大さ、空の蒼さ。

 そして、そこから生まれ出でる生命の輝き。

 それらを何一つとして理解しようとしないお前には

 俺は……天の道は越えられない」

 

大日如来の掌打が、ヴァーリの鳩尾に入る。

白龍皇の鎧をものともせずに加えられた一撃は、ヴァーリを大きくのけぞらせた。

そして、そんなヴァーリに止めを刺すべく大日如来は金剛杵を三回振りかざし、頭上に掲げる。

 

「――クロックビートキック」

 

「隙だらけだ、大日如来!!」

 

金剛杵から発せられた光は、大日如来の右足に集まる。

傍から見れば、大日如来は隙だらけである。しかしそれは、素人目の判断だ。

ヴァーリとて、戦闘の心得は多く持っている。

しかし、大日如来の説教を受け頭に血が上っていた。

それは、判断を鈍らせ、単純な突撃を行わせる。

 

……それこそが、大日如来の狙い。

突っ込んできたヴァーリめがけ、大日如来は背を向け――

 

――直後、回し蹴りが綺麗に決まった。

白龍皇の翼は、天の道には惜しくも届かなかった。

爆発を背に、大日如来の指は天を指し示していた。




前半:セージ視点の負けバトル。
なんか幾度と無くセージ死にかけてる気がするんですが。
まあ気のせいでしょう。
相変わらずさりげなく色々なところからライダーネタ持ってきてます。
クウガとか、ストロンガーとか。

>曲がったぁ!?
最序盤で「折れたぁ!?」@龍騎ネタをぶち込みましたが
まさかの再登場。今回鉄パイプなので折れる、より曲がるほうが
「らしい」かと。

この場面、ギャスパーと一緒に戦っていられれば
セージがダメージを受けることは無かったでしょうが
倒せはしなかったと思います。決定打ありませんから。

そして意外と根に持つタイプだったりする(?)セージ。
レイナーレの件もですが、レーティングゲームの件も根に持ってます。

後半:神仏同盟(大日如来)戦闘開始&ヴァーリルラギリ
既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、禍の団に力を与えていたのは
アインスト@スーパーロボット大戦でした。
今回は今までの他作品キャラモチーフのキャラとは異なり
「そっくりさんではなく本人」な扱いです。

情報小出しで申し訳ないのですが、アインストが何故全く関係ない
ハイスクールD×Dの世界に登場したのか、については
今後にご期待ください、と言う事でご勘弁願います。
……一応言っておきますが、アインストのアイドルこと
アルフィミィ「は」出ません。

>ドライグスルー
いや、目の前に未熟な赤龍帝と滅茶苦茶強い(であろう)日本神話の主神や
仏教(密教)の最高位の仏がいればヴァーリ的には後者狙いそうですし。

宿命のライバル()にスルーされたドライグざまぁw
……とでも言っておいてください。

>カブ……大日如来様
当たり前ですが、原典のこの方は武器なんて持ってません。
ライダーの戦闘スタイル的には問題ありませんが……カブトは武器も使いますし。
ですが金剛杵が大日如来の性格も持ち合わせているという記述(wikiより)があったので
どこぞのウェザー・ドーパントじゃありませんが手持ち道具として採用。
この分だと「あの」虫取り棒は錫杖になりそうですね。
戦闘スタイルは極力仮面ライダーカブトを意識してます。
「クロックビートキック」についてはSoul16.でセージが模倣した必殺技。
劇中、天道寛(大日如来)が演じていたと言う設定なのでいわば本家本元。

パワーバランスについては批判覚悟ですが、仮にもいち宗教の最高位の方が
この時点でのヴァーリに負ける、ってのも考えられんだろうということで。
時間操作で被っている「停止世界の邪眼」との対比ですが
この時点で弱点だらけな上、所有者に問題大有りのこちらと
自在に扱える上所有者に問題の無い「時間加速空間」は
比べるべくも無い、と解釈しております。

>やまてらす様
46cm砲をリアスごとぶっぱしようとする天照様マジ女神(荒魂)。
生着替えになってしまいましたが、これで変な想像した人は表に出るように。
大日如来から太陽エネルギー受けているので、出力上がってます。そういう設定。


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Soul50. 状況打開のC / radical operation ~大胆不敵な作戦~

以前作戦海域の戦況報告を逐一行っていたのが昨日のことのような。

今回は休み休み。敵戦力に圧倒されたってのと
どしょっぱなから早霜が着任してくれたので。
Iowaまで頑張れたらいいなぁ(現在E1乙)。

……と、それはさておき。

今回も視点変更(三人称→セージ)があります。
あまり事態は進展してません。


大日如来の回し蹴りがヴァーリに直撃する。

凄まじいエネルギーを帯びて放たれたそれは、大爆発を起こし

ヴァーリはそのまま大爆発に飲まれる形となった。

 

「お前の敗因はただ一つ……俺に、天に唾吐いたことだ」

 

爆炎と煙が晴れた先には、ヴァーリが立ち尽くしていた。

白龍皇(ディバイン・ディバイディング)()(スケイルメイル)は所々破損してはいるものの、致命傷と言うほどでもない。

 

「ほう。俺のクロックビートキックを食らって立っているか」

 

「……ああ。直撃の寸前、お前に触れて『半減(DIVIDE)』の能力を行使した。

 後一歩遅れていればやられていたがな……っ」

 

大日如来の攻撃が直撃する寸前、白龍皇の「半減」で

攻撃の威力を減衰させていたのだ。それにも拘らずこの威力である。

その現状に、ヴァーリは身震いさえ感じていた。

それは恐怖によるものではなく、歓喜・興奮によるものだが。

 

……一方。

 

「あ、天照様! 本気なのですか!?」

 

「こ、こいつがどうなってもいいと言うの!?

 赤龍帝と言い、私の元には人質が、リアス・グレモリーがいるのですよ!?」

 

「サーゼクス様ならまだしも、私には関係ありません。

 彼女はあくまでも冥界の住人であり、我が国の領土の所有権を一方的に主張した

 不法滞在者として見做しております。

 そもそも我ら日本神話は、冥界とは一切の関係を持っておりませんし

 今まで我が国、我が国民に対し冥界が行ってきた行為を顧みて

 現時点で友好的な交流を図ろうと言う意志はありません。

 と、言うわけですので……全主砲、薙ぎ払えっ!!」

 

天照が展開した三連装の砲塔から、砲撃が行われる。

目標はカテレア。彼女はリアスを人質に取っているはずである。

にも拘らず、天照は砲撃を決行した。

ギャスパーが会議室に乱入したことにより隙が生じ

会議室のアインストが倒され、カテレアの優位性に揺らぎが生じたためだ。

 

とは言え、人質を持った相手に武力行為に出るのはともすれば博打ともいえる。

毅然とした態度を取る、と言った以上彼女の行動は嘘ではないのだが。

リアスを無視するかのような態度を取った天照に、サーゼクスは内心不満を抱いている。

 

「な、なんと……!!」

 

「り、リアス!!」

 

元々、カテレアにとって、禍の団(カオス・ブリゲート)にとってギャスパーの捕獲と

彼の神器(セイクリッド・ギア)の強制発動は使い捨て程度の認識であった。

しかし、使いつぶしたはずのそれがこうしてここにいる。

それはつまり、何者かが自分の計画をぶち壊しにかかっていると言う事。

現に赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)が、自分に牙を剥いている。

その対抗策として用意した白龍皇(バニシング・ドラゴン)も、大日如来に足止めを食らっている。

そして今、人質の通用しない天照による砲撃を受けている。

 

神仏同盟(しんぶつどうめい)の参戦。これは禍の団に情報を流したヴァーリでさえ

当初は知りえなかったことである。これが首脳陣クラスや

同じく会議に参加したヤルダバオトならば知っていた事なのだが。

アザゼルが伝えなかったことが、ここに来て功を奏した形となった。

 

そしてそれは、神仏同盟に対する策を一切用意していなかったことにも直結する。

精々、オーフィスから遣わされたアインストが多少仕事をしたくらいだ。

今回の襲撃に参加した魔術師軍団など、神仏同盟どころか大日如来一人で完封されたどころか

右腕を失い神器を封じられ、本来の実力の半分も発揮できないセージに翻弄されていた。

こんな様を魔術師陣営のトップが見たらどう思うのだろうか。

 

こんな禍の団にとっても八方塞がりな状態で、今のカテレアに出来る事は何か。

それはリアスを盾にし、意見を通すことだけだ。

しかしそれさえも、三大勢力――特に冥界、サーゼクス相手ならば効果覿面だったのだが

それ以外の陣営には全く効果が無い。それを証明しただけだった。

 

人質と言うものは、死んでしまえばその場で効力を失う。

精々、心理的揺さぶりをかけられる程度には効果を発揮するかもしれないが

それは人質の活用方法としては下策といわざるを得ない。

まだ現冥界政府が自分らの要求を飲んでいないこの時点で

人質であるリアスを失うのは、カテレアにとっても痛手となる。

そのため、天照の砲撃に対する盾としてリアスを使うことが出来なかったのだ。

 

結果として、天照の砲撃が炸裂。

着弾地点はカテレアともリアスとも離れた場所どころか、結界に直撃する形であったが

その砲の威力はかの戦艦大和と同等以上はあろうかと言う規模。

砲撃の影響で駒王学園のグラウンドは抉れ、会議室も窓側の半分が吹き飛んでしまっている。

それだけの規模。カテレアも、リアスも、イッセーも砲撃の爆風に巻き込まれてしまっている。

近くで戦っていた大日如来とヴァーリも、砲撃の巻き添えは受けていたが

ヴァーリは「半減」を、大日如来は「時間加速空間(クロックアップ)」を使い被害を抑えていた。

 

「なんと言う威力だ……素晴らしい! 素晴らしいぞ!

 この日本にも俺が戦うに相応しい相手がこんなにいたとは!」

 

「何もわかっていないようだな。天はあらゆる者に恵みをもたらす。

 だが一度怒れば、天は荒ぶり分別なく牙を剥く。

 争いにしか目を向けないお前に

 天の道を総て司ったような態度を取られるのは単純に不快だな」

 

砲の威力がこうなったのには理由がある。

天照も大日如来も、太陽を源とする神であり、仏である。

神仏習合では同一視さえもされる間柄だ。

大日如来が白龍皇の相手をするのに蓄え放っていた太陽エネルギーの影響を

天照もまた受けていた形となる。それが、砲撃の強化として現れたのだ。

 

「……天照様」

 

「……あ、ごめんなさい。主砲、ちょっと大きすぎました?」

 

気にするところはそこなのか、とヤルダバオトは呆気に取られていた。

実際、天照が顕現させた艤装の砲塔はかなりのサイズだ。

戦車の主砲よりは、明らかに大きい。しかもそれが三連装である。

そんなもので砲撃するのだから、威力は推して知るべしだ。

現に、リアスやイッセーを巻き込む形にはなってしまったがカテレアは沈黙している。

 

「……非常時ですからね。まぁいいでしょう。カテレアがあれで倒れたとは思えませんし

 グレモリー君にせよ、兵藤君にせよ直撃ならいざ知らず爆風です。

 恐らくは無事でしょう。ところで……ギャスパー君でしたね。

 君はここに一人で来たのですか?」

 

「ち、違います! ここにはあの大きい人……えっと確かセージ? さんと……」

 

体勢の立て直しを図りながら、ヤルダバオトがここに駆けつけたギャスパーに声をかける。

彼の返答を聴いた瞬間、小猫の表情が見る見る変わったと思えば、ギャスパーの胸倉を掴んでいる。

そこから紡がれる天照に似た声色には、明らかにドスが含まれていた。

 

「……ギャー。あんた、大きい人……セージ先輩見捨ててきたの?」

 

「ち、ちち違います……僕じゃ、僕じゃあのアインストとか言う怪物には

 勝てっこないですし……だから……僕だけでもここに……

 そう本人も言ってましたし……」

 

「――っ!! セージ先輩は神器も使えない、片腕しかない状態なのよ。

 それなのにあんた……そんな状態の人をよく見捨てて来れたわね……

 下手なはぐれ悪魔より強いかもしれない、あのアインストってのを相手に……!

 あんた、神器使えるんでしょうが。ヴァンパイアとしての能力もあるんでしょうが」

 

ギャスパーの言葉は、正論ではあるものの詭弁としての側面もあった。

それに対し小猫は珍しく激昂している。

実際、今のセージとギャスパーとではギャスパーのほうが強いかもしれないレベルだ。

ギャスパーの神器でセージを如何こうできるかは

セージを視認出来なければまた話が変わってくるかもしれないが

同一の相手と対峙した際には、ハーフヴァンパイアとしての能力もある

ギャスパーに軍配が上がるのは必定と言えよう。

 

「およしなさいな小猫ちゃん。ギャスパー君もここに来るのに必死だったんですもの。

 ここに来られただけでも……ってセージ君? おかしいですわね。

 彼は幽閉されているはずですのに……」

 

「ああ。彼の幽閉については魔王である私自ら言い渡した。

 それを破り脱走を試みたと言う事は……」

 

「お待ちなさいサーゼクス。今の話を聞く限りでは

 彼は脱走こそしましたが、ギャスパー君を救出しここまで逃がしているのです。

 そして今彼がここにいないと言う事は、敵……最悪アインストでしょう。

 まだ彼らと交戦している可能性が非常に高いと言えます。

 下手をすれば死んでいるかもしれない彼の処罰など、今すべきことですか?」

 

朱乃も、サーゼクスもセージの脱走と言う事案に困惑するが

ギャスパーをここまで誘導したと言う功績は、ギャスパーの証言からは

ゆるぎない物である。そして、それが事実だとして今ここにセージがいない理由。

霊体だとしても、魔王や唯一神である彼らにはセージとてはっきりと映るのだ。

つまり……今尚敵と戦っている。それも、霊体で欺ける魔術師ならばいざ知らず

彼らにとって未知の存在――アンノウンとも言うべきアインストが相手だとすれば。

 

「……確かに。今のセージ君にこの怪物――アインストの相手は荷が重いと思いますわ。

 それに、天照様の一撃でカテレアも沈黙している……となると……

 やれやれ。困った子ですわねぇ、セージ君も」

 

「確かに、動くならば今がチャンスですね。

 シトリー君。君達はこの場にいる非戦闘員の避難活動を。

 こんな事もあろうかと、地下シェルターの鍵は開けておきました。

 カテレアがまた動き出す前に動く必要があります。急いだ方がいいでしょう」

 

実際、動くならばカテレアが動けないであろう今しかない。

人質となっていたリアスや、近くにいたイッセーの安否は気がかりだが

それ以上に、自分の身を守れない者達の安全確保の方が優先順位が高くなるのは必然だ。

それを好機とばかりに、ヤルダバオトは鍵をちらつかせながら薮田直人(やぶたなおと)としての生徒でもある

ソーナ・シトリーに避難誘導を指揮していた。

 

「ちょっとヤルダバちゃん! 勝手にソーナちゃんに命令しないでよ!」

 

「それに地下シェルターの鍵を勝手に開けるなどと……

 ヤルダバオトよ、いくらここに教師として従事しているとは言え

 介入が過ぎると見受けられますが?」

 

「レヴィアタン様は黙っていてください。それと、畏れ多い事ですがサーゼクス様。

 確かに先生の過ぎた介入は問題かもしれませんが、非戦闘員の安全確保という点において

 今の先生のプランは的確であると私は思います。

 ……では先生、私達は避難誘導に従事します。

 

 サジ、何時まで寝ているのです。私に続いてください。他の議員のみなさんも。

 それから、朱乃達には歩藤君の捜索を依頼したいのですが……」

 

「あーっ! カメラ持って来れば良かったよぉ~!

 ソーナちゃんがこんなに活躍してるなんて……

 でもいいもん、私の心のカメラにばっちり収めてやるんだから!」

 

こんな状況になっても自分のペースを崩さないセラフォルーにソーナは頭を抱え

ヤルダバオトは遠まわしな嫌味をセラフォルーに浴びせている。

実際、薮田直人としての視点では支取蒼那は危うさこそあるものの聡明な生徒である。

いち教師としては教え甲斐のある生徒としてみている部分も、多少はある。

顧問だから、と言う部分もあるかもしれないが。

ともあれ、ヤルダバオトはソーナのプランを受諾。

朱乃らにセージの捜索を依頼する形となった。

 

「……シトリーの次期当主が聡明な方で助かりましたよ。

 そのプランで結構です。ではシトリー君、姫島君。頼みましたよ。

 まだ校舎内にはアインストがうろついている危険性があります。

 魔術師もいるかもしれません、そちらにも十分気をつけてください。

 

 ……それからサーゼクス。このような事態を危惧するような要素が無ければ

 態々許可の必要な地下シェルターの鍵など開けませんよ。

 使う必要性があると思ったから開けたまでです。

 何故使う必要が生じたか、は私よりもご自身に問い質したほうがいいのではありませんか?

 まあ、百歩譲っても私が問い質されるべきは勝手に鍵を開けたことくらいでしょうか。

 ですが、今は非常事態ですよ? お役所仕事をしているべきではないと思いますが」

 

実際、ヤルダバオトは会場警護の強化をリアスに打診したり

民間団体である蒼穹会(そうきゅうかい)に個人的に警護を依頼していたり

会談の防備を固めるべく動いていた。

実際にはこうして禍の団どころか、白龍皇が寝返るというとんでもない事態が起きている。

どこまでを彼が可能性として認識していたかは定かではないが、これらを以ってしても

最悪の事態が防ぎきれなかったときのための最後の砦として

駒王学園の地下に建設された地下シェルターの鍵を開けていたのだ。

 

場所が場所だけに、これを開けるのはグレモリー家の許可が必要になるのだが

今は緊急事態である。態々グレモリー家に許可を取りに行くなどという真似はできない。

リアスはあくまでも次期当主であり、この学校ではいち生徒に過ぎない。権限はない。

あったとしても現時点では取り様がない。

サーゼクスは既にルシファーであり、グレモリー家とは表向き何の関係もない。権限はない。

それに解放しなかったとすれば非難が集まるのは目に見えている。

 

「まるでテロが起こることを予知していたような言い分ですな。

 もしやとは思いますが……」

 

「……あらゆる可能性を考慮するのは結構ですが、疑心は暗鬼を生みますよ?

 そもそも、私がここでテロを起こして何の得があると言うんです?

 それより……アザゼルもミカエルも外を見てください。

 まだあのアンノウン……アインストはこちらに転移してきているようです。

 中には禍の団の構成員がアインストに変貌したケースもあるようですね。

 彼らを結界の外に出すわけには行きません。我々も攻勢に転じますよ。

 私は校舎のアインストを受け持ちますので、あなた方は外のを頼みますよ」

 

「ふぅ。内憂外患とはこの事ですね。せめてイリナと連絡が取れればいいんですが。

 あのアインストに、アスカロンが通じるかどうかまでは分かりませんけど」

 

「全く、胃に穴が開きそうだぜ。和平会談が何で怪獣退治になるんだよ」

 

「我々はここの警護を受け持つ。白龍皇の動きを封じるに当たって、私に考えがある。

 そのために、冥界と今コンタクトを取っているところだ」

 

「それに、赤龍帝ちゃんやリアスちゃんも見つけないといけないし」

 

会議室には既にアインストはいなくなっている。

もしいたとしても、会議室には既に三大勢力の首脳陣とヤルダバオト、天照のみ。

アインストとは個々が互角以上に渡り合える者達ばかりだ。

しかし、アインストはその生態が全く分からない。

三大各勢力ともに生け捕りにしたいという思惑は働いているが

それを許すほど甘い相手でもない。ならば、被害を抑えるために動くのが道理と言えよう。

ヤルダバオトはソーナや朱乃らの援護もかねて校舎内のアインストを。

アザゼルとミカエルは反目しながらも校舎周辺のアインストと、禍の団構成員を。

 

それらが駆逐されるのに、然程時間はかからなかった。

そして、セージが救出されるのも――

 

 

――――

 

◇◆◇

 

――――

 

 

「……てください。起きてください。セージ先輩」

 

「アーシアちゃん、まだ治療には時間がかかるのかしら?」

 

「傷は塞ぎました、後は……」

 

話し声が聞こえる。この声には聞き覚えがある。

俺は……俺は確か……

 

「……う」

 

「あっ、気付きました! セージさん、まだ動いちゃダメです!」

 

大丈夫だ、動きたくてもまともに動けない。

目を開けると、アーシアさんが俺に聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で治療を施しているのが見える。

遠くには塔城さんと姫島先輩。他には……いないみたいだ。

いや、俺が気付かないだけかもしれないが。

 

……って、そんなことより怪物は!?

 

「ぐ……あ、あの怪物共は……?」

 

「……私と副部長で倒しました。セージ先輩。お願いですから無茶しないでください」

 

「何故セージ君がここにいるのかは今は聞きませんけど……

 脱獄した上に、皆に心配までかけるなんて。悪い子ですわね。

 あとで……お・し・お・き。させてもらいますわよ」

 

ははっ、言い返せねぇや。お仕置きならお手柔らかに願いたいもんだね。

いくらアーシアさんに治療受けたからって、俺はさっき腹をぶち抜かれたんだが。

しかし聖母の微笑ってのは恐ろしいな。ぶち抜かれた腹まで再生させるなんて。

いや、俺が肉体を伴わない存在だからか?

 

「……そうだ。ギャスパーは?」

 

「……会議室にいます。と言うか、セージ先輩。

 今自分がまともに戦えない事、知ってるでしょうに」

 

「セージ君。今校舎の外は、ある意味以前コカビエルが来たとき以上に激戦区になってますわ。

 アインスト……ああ、あの骨の怪物のことですわ。彼らの軍勢を

 禍の団が従えているみたいですので。それを天照様や大日如来が迎え撃った形ですわ」

 

「……そうか。あの骨の怪物はアインスト、ってのか。

 確かにアレは手強い相手だ……今の俺が弱いだけかもしれないけど。

 塔城さんの言うとおり逃げるべきなのは分かってたんだけど、逃げられなくってさ」

 

俺だって、ギャスパーみたいに逃げ出したってよかったんだ。

実際には逃げるって選択肢は何となく選べなかったし、そんな暇なかったんだけどな。

何となく、で死にそうな目に遭ってりゃ世話無いが。

そして生死の話題になると常々思うことがある。

 

……宮本成二()はまだ、生きてるんだよな?

 

「それより、さすがは塔城さんに姫島先輩だ」

 

「あら。私は殆ど何もしてませんわ。大半が小猫ちゃんがやってくださいましたもの」

 

「……誰かさんが無茶するから、私もやらないといけないと思っただけです。

 悪いと思うなら、もうこんな無茶はやめてください……けほっ、けほっ」

 

ぐ。確かに無茶が過ぎたよな。それはすまなかった……。

……それはそうと、心なしか塔城さんの雰囲気が違うような?

背が伸びたと言うか、なんと言うか。

 

……気のせい、かもしれないが。

 

「む? 塔城さん、大丈夫か? なんか顔色が優れないようにも見えるんだが……」

 

「……大丈夫です。ちょっと、張り切りすぎちゃいましたけど」

 

本気を出した、って事なのかな。俺が実際に見たわけじゃないから何ともいえないけど。

……それで少しくたびれた顔をしてるのか? 塔城さん。

飛ばしすぎただけ、なら別にそう必要以上に心配することじゃないか。

この時の俺の考えは、少々楽観が過ぎていたということを後日、思い知ることになるのだが……。

 

「そうだセージさん、大変だったんです! 部長さんが敵に捕まって

 助けに来たイッセーさんも囲まれて大変だったんですよ!」

 

「……やっぱりな。奴らは部室を押さえたときに『戦車(ルーク)』の駒を持ち出したんだ。

 おそらく、グレモリー部長をおびき寄せるために、だろう。

 そしたら案の定、まんまと誘いに乗ってしまった。

 奴ら、グレモリー部長の性質を完全に読んでやがった。

 ギャスパーが捕まったら、残った『戦車』の駒でキャスリングを使って

 助けに来るだろう、そこを狙われたのさ。

 幸いギャスパーは俺が助け出したんだが、これじゃ元の木阿弥……

 いや人質の価値を考えるともっと酷くなったって事か。

 『僧侶(ビショップ)』と『(キング)』じゃ、価値は比べるまでも無いだろう。

 ……あ、あくまでも駒としての価値な。一応」

 

「セージ先輩がギャーを助けてくれたお陰で、私達は動けるようになりました」

 

「そしたら今度は部長が捕まってしまって……会議室に入ってきたギャスパー君の知らせを受けて

 戸惑ったカテレアに向けて天照様が砲撃。そのままカテレアは沈黙。

 けれどイッセー君と部長は消息不明……それで、セージ君の救出も含めて

 私達は行動を開始。後はご存知の通りの流れですわ」

 

「……その様子じゃ、まだグレモリー部長は安否不明、か?

 今言うべきことじゃないかもしれないが、お陰で助かった。ありがとう」

 

重ね重ね、俺は三人に頭を下げる。横たわったままなので格好がついてないが。

……それはさておき、今度はグレモリー部長とイッセーの救出か。

祐斗はまだイリナを押さえているはず。動けないだろう。

後は……ここのメンバーでやるしかないか。

 

「そうだセージ君。先ほどお話した他にも、もっと大変なことがありましたわ。

 白龍皇が禍の団に寝返り、アインストと共同戦線を張って

 大日如来や天照様らと交戦してますの。

 今は天照様の攻撃で互いに沈黙している状態ですけど」

 

「……部長は解放されましたけど、いつ捕まってもおかしくない状態です。

 イッセー先輩も、砲撃に巻き込まれて行方が分かりませんし。

 禁手(バランスブレイカー)状態だったので、死んでは無いと思いますけど」

 

おい。なんだそれ。最悪の事態は免れたけど

要するにボール……グレモリー部長はまだフリーって事じゃないか。

何とかして、ボールをこっちに確保しなきゃいけないってことか。

イッセーは……ぐぬぬ、グレモリー部長の救出と言う名目ならば

奴も納得はするかもしれんが……

 

「……あまりこういうことは言いたくないが、今回は手詰まりかも知れん」

 

「一応聞きますわ。何故かしら」

 

「一つ。敵の戦力が大きすぎる。これだけの規模を相手に被害を出さずにってのは無理だ。

 被害上等で戦うならともかく、そういうわけにもいかんでしょう。特にこの学校の外。

 

 二つ。白龍皇が寝返ったって話もなんだが

 こっちも天界勢力の紫藤イリナがアスカロンを持ち逃げして

 天界に対し謀反を試みているような言動があった。これも危険だ。

 これは今祐斗が押さえてくれているが……状況はわからん。

 

 そして三つ。アインストの底が見えない。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)さえ使えれば

 或いは何とかなるかもしれないんだが、知ってのとおり無いモノねだりだ」

 

「……セージ君。私達だけならば確かに手詰まりですわ。けれど、今は魔王様に天照様。

 他にも腕に覚えのある方々がいらっしゃいますわ。決して不可能ではないはずですわ」

 

「……そうです。そうでなきゃ、セージ先輩を助けた意味が……けほっ、けほっ」

 

「小猫ちゃん、さっきから咳き込んでますけど大丈夫です?」

 

アーシアさんが気になったのか、塔城さんの身を案じている。

俺もそれは気になる。俺を助けるために何かやらかしてくれたとあっては

非常に申し訳ない。何か、そんな雰囲気がしてならないんだが。

 

「小猫ちゃん。後は私達がやりますから、会議室で安静になさってくださいな。

 セージ君、小猫ちゃんをお願いしてもいいかしら?

 アーシアちゃんも拠点待機。心配しなくとも、私にはこの子達もついてますわ」

 

そう言うや、姫島先輩は使い魔である小鬼の軍団を召喚する。

そういえばそうだったな。最も、彼らが禍の団やアインストに太刀打ちできる図を

俺は今一想像できないんだが……ラッセーならともかく。

 

「分かりました。どの道、今の俺が行っても足手まといでしかありませんからな」

 

「じゃあ、私も……ラッセー君! 副部長さんを助けてあげてください!」

 

アーシアに召喚されたラッセーは一咆えし、姫島先輩の肩にとまる。

うーむ、ネーミングモチーフと同じく異性好きなのか?

いや、確かあの時あの変なおっさん――ザト……()()()()()だかなんだか言ってたっけ――は

「ドラゴンのオスはやたらと異性好きで、別種族とは言え同性には容赦しない」

とか何とか言ってた気がするが……本当か?

アルビオンは何とも言えないが、ドライグはそうでもない気がするんだが……

 

そんなことを考えながら、小鬼とラッセーを引き連れた姫島先輩を見送りながら

俺達は会議室に戻ることが出来た。




天照様マジ荒魂。
デザインモチーフやら何やらは艦これの大和ですが
荒魂(瀬織津姫)は多分深海棲艦的な何かがモチーフ。か?
と、作者のどうでもいい頭の中身は置いておいて。

>天照様の証言
何気に冥界政府に対する日本神話の返答です。
将来はともかく、現時点で同盟や友好関係を結ぶ気は無い、と。
来るもの拒まずの姿勢でいたら好き放題暴れられちゃ
そりゃ荒魂にだってなります。
問題諸々だって自国によるものではなく、持ち込まれたものが殆どですし。
日本側に冥界と組むメリットが無いと言うのもあります。

……そういえば、禍の団(ないし、トライヘキサとか)絡みを抜きにして
三大勢力と緒神話勢力の同盟、友好関係って
何かメリットってあったっけ? 神話勢側に。

あと、リアスにはちょっと可哀想な発言でもあります。
(方向性はともあれ)憧れていた国に見捨てられたも同然の対応されて
(殺すつもりは無かったとは言え)砲塔向けられてますもん。

……え? 自業自得? それを言っちゃあおしめぇよ。

>駒王学園の地下シェルター
イッセーの家をあんな魔改造するくらいですから建造しててもおかしくないかと。
前巻に当たる部分で体育館が避難所として公開されましたが
そこでフリードが暴れるという悲劇が起きましたので……
あと単純に今回体育館に避難しても状況が変わらないかと。そんなわけで。

>ソーナ
拙作のサーゼクスがちょっとポンコツ入ってるってのはありますが
原作以上に肝が据わってるかもしれません。セラフォルーに対しては平常運転でしょうけど。

>小猫
彼女も原作から改変加えてます(既に黒歌との関係で手加えてますけど)。
今回症状が悪そうなのはその影響。セージが寝てる間何したのでしょうか。

今回あまり進んでませんねぇ。
ミカエルが地味に変なフラグ立てた位ですか。

12/21名前ミス修正。
報告ありがとうございます。


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Soul51. 「かつて」の魔王

イベント。あまり進んでません。現在E2乙。
風邪でぶっ倒れてましたので。

一応チェックはしてますが、病み上がりゆえに誤字間違いあったらご連絡ください。


……書いててよかった書き貯め。
そして久々に一万文字越えしてます、お時間に余裕のあるときにどうぞ。


また、今回アンケートをとりたいと思います。
詳しくはここでは話せませんが、活動報告のほうをご参照ください。
(まだ投稿されていない場合は日付が変わる頃までお待ちください)
くれぐれもアンケートは感想欄に回答しないように願います。

5/23追記
アンケートご協力ありがとうございました。
次回投稿は1時間早くなりますのでご了承ください。


アーシアさんに治療を受けた俺は、塔城さんやアーシアさんと共に

会議室へと駆け込むことが出来た、のだが。

 

……そこは、惨さんたる有様であった。

唯一の救いは、中にいる会議の参加者は軒並み無事だったと言う話だが……

今は避難しているらしいが。

 

何より建物が、部屋が原型をとどめていない。

壁は何かで切り裂かれたような痕があり、窓側は何か爆発したような痕がある。

どれだけ凄まじい戦いが起きたんだ?

 

「な、なんだ……これ……

 そ、そう言えば砲撃がうんたらかんたら言ってた気はするが……

 こ、これ全部天照様……の……?」

 

「……そうなります。実はまだちょっと耳がキーンとしてます」

 

そ、それじゃあ、禍の団(カオス・ブリゲート)か三大勢力か分からないけど

天照様に喧嘩売ったってことだよな!?

それってつまり……日本に対して戦争吹っかけてるようなものじゃないか!

な、何てことしてくれたんだ!!

そりゃグレモリー部長やイッセーの安否も気がかりだが、こうなるって事は

それ即ち外交問題じゃないか! もう俺達に如何こうできるレベルを遥かに超えてるよ!

 

……あ、だから会議なんて大それた事やってるんだよな。

天照様や大日如来様まで来られるくらいだし。

 

「……ごめんなさい、少しやりすぎちゃいました。

 おや? そこのあなたは……」

 

ふと、紅白のセーラー服風の衣装を纏った女性が俺のほうを見てくる。

も、もももしかしなくてもこの人、いやこのお方って……!

 

「も、もしや天照大神様!? ははーっ!!」

 

思わず、俺は平伏してしまった。

だってだって日本人なんだもん!

時代が時代なら同じ場所にいることさえ叶わない相手じゃないか!

さるやんごとなきご家族は、今でもこの日本って国の要人だよ!?

崩御とかあったら、全テレビ局が葬式ムードになる位影響力のあるお方だよ!?

 

……俺も流石に昭和から平成の過渡期なんてリアルタイムで見てないけど。

 

「あ、あの……面を上げてください?

 い、今はそこまでしなくてもいい時代ですし……」

 

「……はっ。天照様におかれましてはこのような場所にご足労いただき……ぐうっ!?」

 

言われるがままに面を上げるが、それと同時に頭痛が襲ってくる。

ぐ……この痛みは、もしかしなくてもアーシアさんがしょっちゅう襲われていると言うアレか。

ふ、不愉快極まりない……こんな思いに耐えながら祈りを欠かさないアーシアさんには

頭が下がる思いだが。全く、悪魔ってのは不便な生き物だよ。信仰の自由さえないんだから。

人間の頃にはあまり感じなかった信仰の自由と言うもののありがたみを

まさか今知ることになるとはね……。

 

「セージさん、もしかして……」

 

「あ、ああ。多分アーシアさんと同じだと思う。

 日本て国はやれ信仰がいい加減とか言われるけど、裏を返せば信仰が自由なんだ。

 仏様だろうがどこの神様だろうが、はたまた悪魔様だろうが何を信じるのも自由なのさ。

 それを、他人に押し付けたり勝手な解釈で皆に迷惑をかけない限りはね。

 まあ何が言いたいのかって言うと……遠まわしに信仰を制約するのは

 日本人の肌には合わないな、と」

 

「脱走したくせに感じ悪いぞー?」

 

「……君は。幽閉処分は解いていないはずだが?

 何故君がこの場にいて、リアスや兵藤君が消息不明なのだ。

 白龍皇(バニシング・ドラゴン)が我らに牙を剥いた今、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の力は不可欠だと言うのに……」

 

……俺で悪かったな。そう言いたくなる態度を魔王陛下は取っていらっしゃる。

流石にそれを口には出さなかったが、明らかに「お呼びでない」といった雰囲気だ。

いくら可愛い妹君の眷属でも、俺みたいな役立たずは要らないって訳か。

こっちも好きでなってるわけじゃないんですがね。

それともアレか? 天照様には土下座までしたのに、陛下に対しては不遜な態度だから、か?

それならそれでなんとケツの穴の小さい話か。土着の神を崇めるのは自然なことでしょうが。

……あ。その土着の神を悉く否定した連中の仲間だったわ。この人ら。

土着神の否定はある意味天照様らにも通じる部分があるけれど……

どこぞの連中よりはうまくやってると思うのは身内びいきなだけか?

 

「……サーゼクス様。貴方にとって思うところはあるかもしれませんが

 本を質せばこの少年は我が国民です。法律上成人を迎えてはいませんが

 彼なりに国民としての義務を果たそうとしているのです。

 そんな彼を悪し様に言われるのは心外です」

 

「しかし今は我が妹の眷属でもあると言う事をお忘れなく、天照様。

 それより、ギャスパー君を救い出してくれたのは感謝しよう。証拠は本人の証言以外無いがね。

 そしてここは今から戦場になる。この地下に避難所を設けてあるから

 君は直ちにそこに行きたまえ」

 

……やばい。今ちょっと感激してた。

天照様が俺のことを認めてくださった。

そうだ、そうなんだよ!

俺は悪魔とか言うわけの分からない生物じゃない!

日本国某地方の駒王町に住む普通の男子高校生、宮本成二なんだよ!

 

ありがとうございます……ありがとうございます、天照様!!

……いたた。今はアーシアさんの苦労が骨身に染みて分かるや。

 

しかし魔王陛下の言う事もご尤も。今俺がここにいても仕方あるまい。

俺にできることが何もないというのは結構悔しいものがあるが

それこそ仕方が無いと言うものだ。

魔王陛下の命令に首を縦に振ろうとした矢先、外から薮田(やぶた)先生が姫島先輩と戻ってきた。

 

「確かにここにいる事は、危険極まりませんね。

 さて宮本君。力の無い身でありながら、ここまで来られた事は賞賛に値しますよ。

 まして、あのアインストを掻い潜ってきたのですからね。

 私達レベルでは気付きにくいかもしれませんが……彼ら、外にいた魔術師より

 遥かに強いですよ?」

 

……一度負けたけど、とは言うべきなのだろうか。

薮田先生……いやヤルダバオトか? とにかく、神に賞賛されるというのは

なにやらこそばゆい。だが、悪魔になった影響か妙に吐き気が襲ってくる気もした。

褒められて吐き気がするってなんなんだよ、本当に。

その方がよっぽど問題だと思うんだが。

 

「ひとまずはイッセー君達を探しましょう。今私の使い魔達が探しに出てますわ。

 アーシアちゃん、ラッセー君もありがとうございました。

 校舎の魔術師は粗方倒しましたが、アインストについては倒しても倒しても

 次が出てくるのでどこか切れ目を探らないといけない状態でした……」

 

「朱乃君、よくやってくれた。さすがは我が妹の『女王(クイーン)』だ。

 しかし次から次に出てくる、か……となると、大本を叩く必要があるかもしれないが……」

 

「カテレアちゃん……は違うよねぇ。あれのボスなんて、何処にいるのかしら?」

 

方やラッセーは一咆えし、姫島先輩からアーシアさんに乗り移る。

労いの言葉をアーシアさんから受けて、ラッセーの奴は満足そうにしている。

……いちいち言う事でもないから黙ってるが、多分あまり活躍して無さそうだぞ。

魔術師はともかく、あのアインストとか言うのに子龍の攻撃が効くかどうか。

姫島先輩と属性が一緒だから、それで攻撃力は上がっていたかもしれないけど。

それにアインストってそんなやばい奴なのか。さっきは運よく切れ目に遭遇できただけか。

 

一方、さっきからひっきりなしに頭を下げているのがいる。ギャスパーだ。

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ! ぼ、僕……僕……あなたを見捨てて……」

 

許すつもりだったんだが、必死の謝罪が逆に鬱陶しかったので敢えて意地悪を言ってみた。

何か、俺こいつに対してはこういう態度ばっかりな気がする。

ファーストコンタクト――と言っていいのかどうか分からないが――がぶん回しだしなぁ。

 

「……腹ぶち抜かれた。めっちゃ痛かった。霊魂なのに死ぬかと思った」

 

「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!! やっぱり僕が死ぬべきだったんですぅぅぅぅぅ!!」

 

「……ギャー。歯食いしばらずに力抜け」

 

ギャスパーの必死の言葉を聴いた塔城さんが、正面にたってとんでもないことを言っている。

言葉自体はなんてことは無いんだが……

それ、握りこぶし作りながら言うことじゃないでしょうに。

そして俺の嫌な予感は案の定、的中した。つまり――

 

――戦車(ルーク)の力で、グーで殴られて、食いしばってないから綺麗に吹っ飛んだ。

思わず瞬間目を背けてしまったが、彼もハーフヴァンパイアなのか耐久力はあるらしい。

それに一応、吹っ飛んだ先にアーシアさんがいる辺りフォローはあるようだけど。

 

「……セージ先輩の覚悟を無駄にする気? あんたが死んでも何も変わらない」

 

「で、でも、僕なんか……あいつらに利用されて、みんなに迷惑かけたし……」

 

……あ。塔城さん、キレてるな。これは迂闊に近寄らないほうがいいかも。

そ、そこまでムキにならなくても……って気も、しないでもないんだけどな。

鬱陶しくて腹立った……ってのは、流石に言いすぎか。

 

「でも、あそこで入ってきてくれたお陰で状況が動きました。

 あのままだったら、部長さんも私達も、きっと……」

 

治療しながらのアーシアさんのフォロー。そっか。ギャスパーがここに入ってくれたお陰で

状況は大きく動いてくれたんだ。なら、俺が助かったのもある意味こいつのお陰か。

 

「……ま、それなら俺を助けてくれたのはお前ってことになるな。

 ぶち抜かれた腹を治してくれたのはアーシアさんだし

 そのアーシアさんが俺のところに来られたのも、お前のお陰って事だ。

 何故お前は自分をそう卑下する。謙虚は美徳だが、度の過ぎた謙虚は嫌味だぞ。

 お前は今満足に戦えなくて歯痒い思いをしている俺に嫌味を言っているのか?

 そりゃ戦うのは好きじゃないが、それは強要される戦いだ。

 戦う必要がある時は、俺は遠慮なく戦う。そして今は、戦う必要がある時だ」

 

「ち、違います! 僕は……この神器(セイクリッド・ギア)もだし、生まれもだし。

 誰からも忌み嫌われて……だから……

 直そうとだってしました! けれど、うまく行かなくて……

 だから、こんなダメな僕なんか……」

 

ふーん。大体分かった。こいつにもこいつなりの苦労があるって事は。

まあ、それくらいは予想の範囲内だったけどな。

 

「知ってた。と言うか、それ位察しがつく」

 

「え!? セージ君、いつから神器が使えるように……」

 

「バカにせんで貰いたいですな姫島先輩。人間誰しも大なり小なり悩みを抱えてるもんです。

 イッセーみたいにどうでもいい事で悩んでいる奴もいれば、こいつみたいに切実な奴もいる。

 大小に貴賎は……多分、無いと思いますが今までのこいつの態度を見ていれば

 何かしらあった事くらい、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が無くったって分かります。

 

 ……で、だ。厳しいことだし俺が言うなって話かもしれないが……敢えて言うぞ」

 

姫島先輩の頓珍漢な対応に突っ込みをいれ、俺は腰を下ろしギャスパーと目線を合わせる。

ギャスパーが目線をそらすが、知ったことか。神器が暴走する?

いざとなれば霊体化する。こいつに霊体の俺は見えないらしいからな。

そんなことを考えつつ、俺は一呼吸置き息を吸い込む。

 

「痛い目に遭ってるのはお前だけじゃない!!

 俺の知ってる限りじゃ、アーシアさんは信じていた者に一度裏切られている!

 祐斗は多くの友と死別した! 塔城さんも、詳しくは言えないが悩みを抱えている!

 それに、俺だってな……好きでこんな身体になったわけじゃないんだぞ……!

 お前だけが……お前だけが辛い思いをしてるわけじゃないんだぞ……」

 

自分で言って少し悲しくなった。

イッセーを助けたと思ったらお互い人間をやめさせられて。

挙句イッセーはそれをさも当然と受け入れている。まるで怪しい宗教にはまったかのように。

あんなでも一応ダチだ。それが怪しい宗教にはまる様を見るのは心苦しい。

それに俺の身体は未だ意識不明の重体で。

やりたくも無い戦いに付き合わされて、何度と無く死ぬ思いをしたか。

実際、戦いの中で俺は霊体にも関わらず右手と力を失った。

それも全て、自分の身体を取り戻すためだったのに、それすらも許されなかった上に

そんな俺に対して冥界の出した答えは幽閉処分。

不幸自慢も虚しいだけだが、俺は多分こいつとためを張れる困難を抱えていると思う。

だからなんだって話だし、それを言うつもりも無いが。

 

……あ、やば。今少し目頭が熱い。この顔は見られたくないので

無意識のうちに顔を伏せ、左手が目元に伸びていた。

幸いと言うかなんと言うか、気付かれはしてないようだが。

 

「確かに部長も、家の事で大変なことになってますものね……あと誰とは言いませんけど」

 

「……誰のことでしょうな? 姫島先輩?」

 

「セージさん、どうどう。落ち着いてください。

 えっと……確かに私は一度裏切られ、それで悪魔になる切欠が生まれました。

 それについてはいいことも悪いこともありましたけど……私は後悔してません。

 こうなったからこそ、見られたものもあります。

 ギャスパー君は、そうしたものはありますか?」

 

「……わかりません」

 

全く、アーシアさんはなんと言うか。

後悔塗れの俺が小さく思えてしまうよ。曲げないけど。

恐らく強さってのは、こういうことを言うのだろうな。

ドラゴンの腕っ節だけの代物では到底及ばない、こういうものを。

人間がこの境地に至れるのはそうそう無いと思う。残念ながら。

万が一、アーシアさんが「(キング)」ならば俺もつまらない意地は張りはしないんだが。

どこぞのおっぱいお化けよりは余程「王」としての覚悟を持てると思うんだがなぁ。

……発想が突飛過ぎるか。

 

そして姫島先輩。ぶれないなぁ。グレモリー部長に一番近い立場な以上、反抗的な俺に対しては

そういう態度もさもありなん、とは思うけどさ。

俺は笑顔でいることが少ないとは松田や元浜、イッセーにもよく言われているがたぶん今もそうだ。

一方姫島先輩は笑顔を絶やさない。が、腹の内の感情はお互い一緒じゃなかろうか。

 

「自殺は『(ヤハウェ)』も固く禁じていましたからね……。勿論私としても断固として認めませんけど。

 ではギャスパー君。あなたに改めて問いますよ。

 あなたは自分が何者であるか、名乗ることが出来ますか?

 ああ、勿論知っていますが……問われて名乗る事は出来ますか?」

 

「ぼ……僕ですか? 僕はギャスパー……ギャスパー・ヴラディです」

 

……で、薮田先生は一体何をギャスパーに聞いてるんだ?

自分の名前? ギャスパーはいつぞやの俺と違って、別に正気を失っては無いはずだが。

 

「……結構。どうやら、第一段階は合格ですね。

 自分が何者であるかを確りとさせる事。それが、あらゆる困難に立ち向かう基礎中の基礎です。

 あなたの旅は、そこから始まるのです」

 

そんなギャスパーにさらに光を差すように

外で戦っていたであろう……あれは天道寛(てんどうひろ)! つまり、大日如来様か!

大日如来様の言葉が投げかけられる。

祐斗から話は聞いていたが、いざ実際に日本二大宗教の神と仏を間近で拝むことになるとは!

それだけでもご利益ありそうだ! ありがたや……うっ、またか……

 

「お釈迦様は言っていた。

 『全てはうつろう。こだわりと言う幻を捨てれば、生きる苦しみは消える』……とな。

 在り方はお前次第だ。お前がうちの信徒であろうが

 そうでなかろうがお釈迦様の言葉は変わらない。

 太陽が、常に天に在り続けるようにな」

 

「大日如来! 俺と戦っている最中に他人への説教か!」

 

「白龍皇。俺の一撃をお前の力で抑えたのはよくやった、と言えるだろう。

 だがそれまでだ。お前は強者であろうとすることに囚われ続けている。

 そんな様では、お前は決して強者足り得ない。俺と戦う資格はないという事だ」

 

大日如来様はヴァーリと向き合っているものの、既に構えを解いている。

大日如来様は、白龍皇をも歯牙にもかけないと言うのか……

しかしそれは、白龍皇にとって面白くなかったようで。

 

「……っ、ならば天照! 俺と戦え!」

 

「お断りします。この力は本来我が国を、我が民を護るための物。

 私利私欲のために揮うべき物ではありません。

 これは子々孫々代々に語り継いだ教えでもあります。祖たる私が破るわけには参りません。

 それ以前に、あなたと戦う理由が、私には一切合切全くありません。

 もしそのために我が国に危害を成すと言うのであれば……

 私はあなたと『戦う』のではなく、『排除』という姿勢をとらせていただきます」

 

……なんだこれ。ドラゴンの神器持ちってのは、皆子供なのか?

大人に相手にされないから駄々をこねている子供にしか見えないんだが。

こんなのに絡まれるってことを思えば、やっぱ赤龍帝の力なんていらねぇわ。

 

そんな駄々っ子を諌めるように、これまた外で戦っていたであろう

堕天使の男――確かアザゼルか。アザゼルが白龍皇に話しかけている。

話し方から察するに、保護者的立ち位置のようだが……

 

……だったら、もっとまともに子育てをしろと言いたい。声を大にしていいたい。

子育ての経験が無いとか言う言い訳なんていわせない。

第一子は皆未経験から始めるんだ。だから経験が無いからグレたなんて

言い訳にさえなってない。と言うか、そんな言い訳をする奴はすぐに親を辞めるべきだ。

もっと言えば、子を成した時点で失敗なんだ。

 

「だから言っただろうが。今すぐこんなバカな真似はやめろって。

 今なら気の迷いってことでお前の罪状は『うちでは』不問にしてやるからよ」

 

「バカはお前だアザゼル。不完全とは言え赤龍帝も目覚めている。

 そしてここに白龍皇がいる。やることは一つだろう。

 戦いを望んでいるのは俺だけじゃない、白龍皇もだ。

 それが時代の流れと言うものではないのか?」

 

……これで一体全体何度目だろう。

シリアルキラー、全てを始めたあのクソカラス、欲の皮の突っ張った鳥貴族。

そして宗教テロリストに情勢の読めない戦争狂、目の前にいる戦争狂パート2。

誰も彼も、自分の勝手な理想が一番と思い込んでいる。

それに巻き込まれるほうは、たまったもんじゃないってのにだ。

 

ふと、外の瓦礫の一部が動くのが見えた。姫島先輩の小鬼が、瓦礫を必死にどかそうとしている。

少しして、瓦礫を押しのけた下から赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に着けた

イッセーが出てきた。この状況でよく無事だったな。

無事を確認した小鬼は一目散に散開している。今度はグレモリー部長を探しているのか?

そのグレモリー部長だが、姿は見えない。まさか……いや、流石にそれは無いか。

 

「無事だったか赤龍帝。いや、これくらいでくたばってもらっちゃ困るがな」

 

「ほざいてろ。俺は部長を助けるんだ! お前なんかと遊んでる暇は無いんだよ!」

 

言うじゃないかイッセー。方向性はともかく、一本気なところは

俺もそれなりに評価してはいる。方向性に問題がありすぎるだけで。

だからさっさとアーシアさんとグレモリー部長のどっちにするか決めるべきだと思うんだがな。

そうすれば、課題の一つはクリアできそうな気がするんだがなぁ……

などと悠長な事を考えていると、また別の場所の瓦礫が動く。

そこに向かってた小鬼たちは……消し飛ばされた!?

 

「……その部長ってのは、これかしら?」

 

「あ、あいつは――!!

 

 

 ――誰だ、あれ?」

 

俺の発言に、会議室跡地にいた全員がずっこけた気がした。

お、おい!? 俺そんなに変な事言ったのか!?

し、知らないものを知らないって言って何が悪いんだよ!?

空気か!? 空気が悪いのか!?

 

今度出てきたのは……えっと、誰だかわからないが褐色の女性。

服は所々ボロボロだし、かけていたであろう眼鏡はひびが入っている。

おおよそ格好を付けられる状態では無いにも拘らず、したり顔で誰かの――

 

――あれはグレモリー部長か! グレモリー部長の手首を掴んで持ち上げている。

 

「部長! てめぇ、部長を離しやがれ!」

 

「口の利き方がなってませんね赤龍帝。我こそは真なるレヴィアタン。

 カテレア・レヴィアタン……冥界の天下を真なる魔王の元に戻さんがため。

 

 ……冥界を静寂に包まんがため。新たな始まりの地にせんがため。

 かの地へ戻るための足掛りにせんがため……お前たちを……排除します」

 

「レヴィアタン? ああ、現職がアレな……」

 

「貴方の立場でアレって言い方はいかがなものか、とは思いますがそれであってますよ、宮本君。

 彼女はカテレア・レヴィアタン。白龍皇ヴァーリ・ルシファーの手引きを受け

 虚空より飛来した未確認生命体アインストの力を使い『禍の団』を率いて

 この混乱に乗じて冥界の乗っ取り……クーデターですね。

 それを企てた、ある意味現職のレヴィアタン以上に『アレ』な方ですよ」

 

「ヤルダバオトよ……お前もここぞとばかりに毒を吐いてないか?

 俺が見ても、その認識で合っているとは思うが」

 

さすが現職の教師。薮田先生の説明で、俺は余すところなく状況を理解した。

記録再生大図鑑に頼りっぱなしだった自分を少々恥じる。

一方、アレ……もとい現職のレヴィアタン陛下はサーゼクス陛下に泣きついていた。

 

「サーゼクスちゃん~、ヤルダバちゃんどころかリアスちゃんの『兵士(ポーン)』にまで

 『アレ』とか言われたぁ~……しかも出来の悪い方にぃ~」

 

「……歩藤君」

 

「……申し訳ありません、失言でした。撤回します」

 

ここは素直に謝ろう。とは言え、そうなる前に言わせるような環境を作るな、って話だが!

後出来が悪いって要するにそれがお偉いさんの見解かよ!

……立場ってモノが無ければ、力ってモノがあればよからぬ事を考え実行しかねないぞ?

俺が迂闊にもそう口走ってしまったのは天照様や大日如来様と違って

そういう『オーラ』をあまり感じなかったからってのもあるんだが……

 

「――妙だな。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の共有が原因で支配力が弱いのか?

 そうでなければ、ああも本人を前にして……」

 

「――サーゼクス様? 何か仰いましたか?」

 

「――っ!? ……いや、なんでもない」

 

今、はっきり聞こえた。サーゼクス陛下も何かよからぬ考えを持っていることを。

よからぬ、と言うか「俺にとって」よからぬ考え、な気はするが。

姫島先輩に問い質され、何事もない素振りを見せているが……

 

今聞こえたキーワードは「悪魔の駒」、か。

……やはりこいつが曲者か。これについて調べるには……

情報屋のバオクゥやリーに聞くのが一番だが、俺自身も冥界に出向く必要があるかもしれない。

……最もその前に、目の前の問題だが。

 

しかし、あのカテレアって奴。随分と毛色が違わないか?

後任がアレってのを差し置いても。気配と言うか、なんと言うか……

感じられるものが、さっきのアインストと被って感じられた。

俺の頭の中では、まだアインストと魔王陛下が繋がらない。

さっき薮田先生が言ったように、アインストってのは未知の脅威ってのが俺の認識だ。

 

……今目の前にイッセーがいる。憑依すれば、多分だが神器は使えるだろう。

ただし、それは最悪俺がイッセー、もしくはドライグに消化させられる事を意味する。

宮本成二の魂、そして歩藤誠二という存在はその時に完全に消えるだろう、多分。

 

「天照と違い、貴方は利口ですね赤龍帝。

 そう、おとなしくしていればリアスに危害は加えません。

 

 ……その、つもりでしたが……」

 

「ぐ……ううっ……うあっ……うっ……くっ……」

 

「部長ぉ!! カテレア、てめぇ!!」

 

カテレアが握る力を強めたのか、グレモリー部長が苦悶の表情を浮かべている。

いや……どうもそういう感じじゃ無さそうだ……

うっすらとだが、魔力が流れているのが見える。グレモリー部長から、カテレアの方に。

 

「『赤髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』……冥界の政権……

 そんなものは……もう、いりません……

 そろそろ……ごちゃごちゃと……騒がしくなってきたと……思ったところです……

 一度……静寂に……帰さねば……なりませんね……」

 

「まずいですね。カテレアは恐らくグレモリー君の滅びの魔力を取り込もうとしてます。

 無論、そのまま取り込もうとすれば滅びの魔力の影響でカテレアの側が滅びてしまうでしょう。

 しかし、今のカテレアは間違いなくアインストの影響下に置かれている。

 それが、グレモリー君の滅びの魔力を吸収する補助を担っているのかもしれませんね。

 ……或いは推測ですが、アインストが滅びの魔力と同様の性質を持っているのかもしれません」

 

「それはつまり……リアスの力をカテレアが奪おうとしているのか!」

 

……む、まずいかもしれないな、それ。要は強いやつが強い武器を使うってことだろう。

そして、あまり発現している所を見た記憶が無いがグレモリー部長の力は結構な代物だったはず。

それを、目の前の元魔王の力で扱われるってのは……

 

「滅びは……我が元に……全ては……世界を静寂で包まんがため……

 望まぬ世界を……望む者……全て、排除します……」

 

次の瞬間、カテレアから黒いオーラが噴き出す。褐色の肌にスタイルのいい身体からは

赤と青の鉱石が現れ、腰から下はまるで紫がかった群青の蛇のような形状になる。

左手は緑色の触腕となり、上半身も肌は白く変色し、目は真紅に染まっている。

イッセーが裸になった上半身に反応しているが……

ここで反応するとか、もうある意味賞賛に値するわ。色々な意味で。

 

そしてさらに、その上半身を覆うように黒ずんだパーカーを羽織っている。

前開きになっているので、胸の部分は隠せていないが。

だからイッセー、そこは反応するところか?

 

それより、問題はサイズだ。上半身の部分は然程変わらないが、蛇の部分がアホみたいにでかい。

駒王学園の校舎より、下手したら大きいかもしれない。

ケルベロスとは、比較対象が間違ってるってくらい桁が違う。

それだけの巨体故、敷地内に張られた結界が悲鳴を上げているのが視認できてしまう。

よく見ると、蛇に部分の尾にあたる部分にも牙を生やした口らしきものが見える。

その部分には、天照様のように砲塔がついているようにも見えた。

もうこれ完璧にバケモノだな。

 

「私が……私こそが……純粋なる……レヴィアタン……

 全ての生命は……世界は……私が……私の元に……

 私の……望む……静寂なる……世界をヲヲヲヲヲヲヲッ!!」

 

「これは……まずいですね。相手の底が知れないのが、ここまで悪いパターンで出てしまうとは。

 とにかく結界の維持を最優先にしますよ。こんなものが外に出たら

 間違いなくこの地域一帯は全滅します」

 

「か、カテレアちゃん……嘘でしょ……?

 こ、こんな……こんなのがレヴィアタンなんて……嘘でしょ……おかしいよ……

 

 おかしいよ、カテレアちゃん!!」




実は旧魔王派にとってアインストと組むってのは
アインスト(独:かつて、過去etc.)の魔王、って事で
相性がいいと思わせて本人らには縁起でもないネーミングなんですよね。

>セージ
今回割りとボケ担当。
幽閉されていたためにカテレアについては全然知らなかったので。
名前くらいは移動中に聞いていたかもしれませんが
目の前の褐色肌ボロボロ服のオバ……お姉さんがそうだ、なんてセージは知らないわけで。
虎の子の記録再生大図鑑も使えませんし。

何気にアーシアと同じ痛みを共有したりしてます。
忘れがちですが原作一巻でイッセーも同じ目に遭ってるんですけどね。

>ギャスパー
原作では「やさしく受け止める(甘やかすとも言う)」形で改善を試みてましたが……
拙作では「叱咤激励する」形で改善を試みてます。
こうなった理由は「ギャスパーだけが特別じゃない」ってのもありますが
セージがこんなザマですので……ここでギャスパーを甘やかしたら
セージの立つ瀬がさらに無くなりそうですので。え? もう無い?

一方アーシアさんはその超合金メンタルを遺憾なく発揮してましたとさ。
ヤルダバオトの質問の元ネタは女神異聞録ペルソナより。
別にフィレモン(肩幅)がヤハウェに連なるものとは、全然思ってませんけどね。

>アレ
某ゲームでは台所を中心に発生する生理的嫌悪感MAXの生物を指す名詞。
別の某ゲームでは排泄物を模した形状の頭部防具。
はたまた宇宙忍者が捜し求めていたモノとか、色々。
拙作ではレヴィアタンの代名詞。いやあ、行いって大事ですよね。
こんなんで語り継がれたら誰もレヴィアタンの名前を
継ぎたくなくなってしまいそうな。
……意外と現4大魔王も永劫に魔王の椅子に居座るつもりだったりして
(いや、違うのは分かるんですけどそういう風に見える節もあるな、と)。

>カテレア
最後変身した際のイメージはアインストレジセイア+リヴァイアサン。
そして電波を受信して急遽取り入れた戦艦レ級@艦これ。
無限のフロンティアのアインストレジセイアはダンジョンクラスの大きさでしたが
流石にそこまでは大きくないです。
上半身はほぼカテレアのまま、某ベーオウルフさんみたいにはなってません。
ビジュアル的にはギリシャ神話の方のラミアが近いかと。
レ級入れたのは大和入ってる天照様へのアンチテーゼと
リヴァイアサンの名を冠する戦艦(仮想戦記出典だけど)が
レ級のモチーフ説が僅かながらにあることから。
パーカーって便利アイテムよね。眼魔も意識できるアイテムだし(違
アインストレジセイア+リヴァイアサン+レ級+眼魔とかなにこのカオス。


セラフォルーの台詞は言わせたかっただけ。


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Soul52. しかし、未来は変わらなかった……

アンケートご協力ありがとうございました。
結果に則った形での投稿をさせていただきます。
具体的には只今より30分おきの投稿になります。

そして、この場を借りて水谷優子氏のご冥福をお祈りいたします。


以下平常運転


……え? イベント?
……いうな! Iowaはもう改でいいやとか思ってる!
だからせめて……神風とPolaを……うちのZaraをPolaに会わせてあげないと……


「セラフォルー! もう一度冥界のアジュカかファルビウムを呼び出してくれ!

 奴が滅びの魔力を自分の力に変える以上、私は打って出られない!」

 

「わ、わかったわ! アジュカちゃん、ファルビー、聞こえる!?

 こっちが大ピンチなの! カテレアちゃんが、手つけられなくなってるの!

 

 ……あ、聞こえた!? アジュカちゃん、ちょうどよかった!

 サーゼクスちゃん達がピンチなのよ~!」

 

魔王陛下も、まさか自分達のところから

こんなバケモノが出るとは思ってもいなかったんだろうな。

さっきからまるでやり取りに余裕が見られない。

大日如来様も、手に金剛杵……だっけ。あれを持って挑んではおられるものの

サイズが違いすぎて、決定打になっていない。

 

「……これでは『時間加速空間(クロックアップ)』で挑んでも同じことか。

 巨象に挑む蟻の一撃とはこの事か……だが!」

 

奴はそんな大日如来様をも見逃すまいと、尾の砲塔から弾……じゃない!

あれはビームだ! しかもとんでもなくでかい奴!

イッセーのドラゴンショットだってあんな規模じゃないぞ!

 

「ぐくっ……アザゼル……この期に及んで手札の出し惜しみですか……?

 何故さっきから黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)の力を使わないのです……?」

 

「何の話だミカエル……っ! 無駄口利いてないでもっと力入れやがれ……っ!」

 

あれは……ミカエルとアザゼルか。二人でバリアを作って

ビームを防いではいるものの、それで手一杯みたいだ。

仮にも大天使長に堕天使総督の二人掛かりで防ぐのが手一杯って

一体全体どんなバケモノを今相手にしてるんだよ……!

こんな事なら、話を無視してさっさと逃げるべきだったか?

いや、それもなぁ……

 

そして、その隙を突いて轟音と共に天照様が砲撃をされる。

これには相手も怯んだのか、蛇の部分の胴体がのけぞっているのが分かる。

 

「効いた! 大日如来様! 私の砲撃ならば、奴に有効打を与えられます!」

 

「……無駄なこと。太陽も、鋼鉄の護りも……

 静寂なる世界の底に……」

 

……え? マジ?

フェニックス並かどうかまでは分からないが、再生能力まで持っているのか!?

天照様の砲撃が直撃したはずの部分の損傷が、見る見るうちに修復されてやがるのか!?

 

「天照様! 連続攻撃を! 一撃では修復の隙を与えてしまいます!」

 

「くっ……まだ第二射は……! あ、危ない!」

 

「呑まれ……静寂なる世界の……底へ……」

 

奴が校舎中の貯水タンクから集めたのか、上空に水の塊が浮いている。

それは見る見る規模を増し、まるで津波のようにこちらを飲み込もうと迫ってくる。

さっきから攻撃の規模が桁違いすぎる! これじゃ避けきれない!

 

AKASHIC RE-WRITER SET UP!!

 

「『創世の目録(アカシック・リライター)』、起動開始。

 ――波よ裂け。水よあるべき流れに戻れ」

 

薮田先生が翳した左手から光が放たれた瞬間

俺たちを飲み込もうとした波は割れ、一瞬で消え去った。

うーむ。まさか本当に全能の神とやらがいるとは。この目で見た以上は信じざるを得んか。

見た目もまさにモーセの十戒。あの中身は敬えないけどな。

 

「無駄ですよ。その程度の攻撃ならば私の力を以ってすれば無力化など造作もありません。

 しかし……結界も守る必要がありますからね。今の手法もそう何度も使えません。

 アザゼル、ミカエル。あなた方は攻撃を。

 最も、今の彼女に光力が通じるかどうかは分かりませんがね。

 私がカテレア……いえ、アインスト。アインストレヴィアタンとでも言いましょうか。

 彼女の攻撃を無力化させます。天照様も砲撃、大日如来様は天照様のフォローを。

 結界の維持は……悪魔の皆さんにお願いしましょう。初めに展開したのは、あなた方ですし。

 では頼みましたよ。くれぐれも油断しないでくださいよ。

 アレはもう、カテレア・レヴィアタンではありませんので」

 

「お、俺はどうすりゃ……」

 

「結界の維持に回りなさい。如何に赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)と言えども、あなたは戦闘経験が無さ過ぎます。

 そんなあなたを前線に出せば、寧ろ足を引っ張るだけです。

 或いは、攻撃を行う方々に『譲渡』を行いなさい」

 

『何をバカな! 俺の、赤龍帝の力を使わずして何とする!

 偽神よ、何故俺に戦わせないのだ!』

 

……これは一体全体どうすればいいんだ。

薮田先生の言っている事はまぁ、正論だろうな。イッセーにアレをどうこうするなんて

とてもじゃないが出来ないだろう。赤龍帝があろうが無かろうが、もう向こう岸の話だ。

大体、数ヶ月前まで普通の学生だった俺らがこんな怪物と戦うって事自体がおかしいんだよ。

赤龍帝のドーピングでも、そればかりはどうにもなるまい。

ここの神々みたいにン百、ン千、ン万年も訓練や戦いに明け暮れて至ってんならともかくな。

あと考えられるのは、まだイッセーより場数を踏んでいそうな白龍皇(バニシング・ドラゴン)の力を使うことだが……

それはアザゼルも同じ考えだったらしく、ヴァーリの説得を試みてはいるようだが。

 

「ヴァーリ! こういうときこそお前の、白龍皇の出番だろう!」

 

「これは……フフフ、面白い。これこそ俺が戦うに相応しい相手!」

 

……なーんか、かみ合ってない気がする。

あれは……あのまま力を持たせていたら厄介な事になるタイプだ。

と言うか、力を持っちゃいけないタイプだろ、あれ。

今は非常事態ゆえにそれについては突っ込まないが……

ドラゴンと言うのは、害悪しかもたらさないのか?

いや……悪魔が、堕天使がそうなのか?

イリナってケースを見れば、天使も大概だけど。

 

「……何も理解せぬ愚か者……戦乱だけを広める……

 やはり、二天龍は望まれぬ存在……

 『半減』の力とて……今の私の前には無力……

 『無限』は……不変であるからこそ『無限』……

 『無限』の力……この力で……

 我らは……かの地を……望まれぬ……世界を……かの地へ……」

 

カテレア……いや、あれはもうアインストか。

アインストの攻撃は、一向に止む事がない。

ある時は左腕の触腕によるなぎ払い。またあるときは尾の叩きつけ。

はたまたある時は尾先の砲塔からのビーム。それらは薮田先生のバリアで防がれているが

その度に結界が悲鳴を上げている。こりゃ、正面から突っ込むのは無謀だ。

 

「あ、あの野郎! 滅びの力だけじゃなくてオーフィスの『無限』まで持ってやがるのか!?」

 

「いえ、恐らくは限定的なものでしょう。白龍皇に対するカウンター的なものでしょうね。

 『無限』は『半減』できませんからね」

 

「カテレアはそこまで考えてヴァーリをスカウトしたと言う事でしょうか……

 今の彼女に、そこまでの理性があるかどうかは疑わしいですが」

 

白龍皇が突っ込んでいくが……あ、ありゃダメだ。

規模が違いすぎて、勝負になってない。

能力……確か「半減」だったか。それを使っているみたいだが

まるで影響が見られない。バラバラに戦ってもダメってことか。

ならば力を合わせる……あわせる……

 

……ふぅ。やっぱもう、これしか方法無いのか。

グレモリー部長の言いなりってのが悔しいが、現状思いつくのがこれだもんなぁ。

いや、言ってることは間違ってなかったさ。ただ、俺を俺として見てくれていなかった。

それがただ、悔しくて悔しくて仕方が無い。

逃げなかったのが、まさかこんな形で功を奏すことになるとはね。

 

……全部目論みどおり、だったりしたらとんでもなく腹立たしい限りだが。

 

「ギャスパー。いきなりぶん回したり、偉そうなことを言ったりしてすまなかったな。

 だがやはり逃げる事ばかりでなく立ち向かう事も覚えるべきだ」

 

「……ふぇ?」

 

――ギャスパー。

 

「塔城さん。俺のために色々やってくれてありがとう。

 黒猫――お姉さんを連れてこられなくてすまない。

 もしよかったら、うちの猫とも仲良くしてやってくれ。あと祐斗によろしく伝えてくれ。

 やっぱ俺、無茶したがる性質みたいだ。舌の根も乾かないうちで悪いけど、さ」

 

「……えっ?」

 

――祐斗、塔城さん。

 

「姫島先輩。俺の契約先の虹川さん。彼女ら幽霊ですんで、便宜図ってもらえると助かります。

 部室にある俺のノートに、ライブ会場とかメモってありますんで」

 

「あらあら。こんなときに一体何かしら?」

 

――姫島先輩。

 

「アーシアさん。さっきも思ったんだけど、ちょっと顔つき変わったな。良くなった。

 もしイッセーがダメでも、アーシアさんなら大丈夫だ。

 友が正しい道を進めているというのは、やはり誇らしいものだ。

 それだけでも、俺の選択は間違ってなかったって思える。ありがとう」

 

「へ? え? あの……セージ……さん?」

 

――アーシアさん。

 

「聞こえてないかもしれないけどグレモリー部長。

 数々の非礼、許してもらおうなどとは思ってません。

 しかし、俺が消えたとてあなたの為すべきことは変わりません。

 仲間が、眷属が消えたことにたじろぐ王ではなく。

 犠牲に怯まず、屍を乗り越えて進める王になっていただきたい。

 全ては俺の高望みでありました。後、俺は宮本成二であり、歩藤誠二です。

 決して兵藤一誠の強化パーツではありません。

 ……その事だけは、俺が消えてもどうかお忘れなきよう!」

 

「お、おいセージ? さっきから何口走って……」

 

――イッセー。それと一応グレモリー部長。

本当にお前らには頭を抱えさせられたよ。

イッセー。お前はグレモリー部長とアーシアさん、どっちにするかはっきりしろ。

どうせお前にゃ二人同時に愛してやれる器量なんて無いんだから。俺にも無いけど。

 

……さ。今この場にいない祐斗はともかく、俺の言いたいことは大体言った!

 

「イッセー! それとドライグ! 今から俺はお前に憑依する!

 そして白龍皇! お前に取引を申し込む!」

 

「取引……だと?」

 

「ああ! 報酬は今出せる最大限の本気の赤龍帝との戦い!

 これはいつぞやのものとは違うと自負している!

 要求はこの場で共同戦線を張ること! 願わくば禍の団(カオス・ブリゲート)から足を洗っても欲しいが

 そこは状況次第だ! この話、悪い話ではないはずだ!」

 

我ながら思い切った提案である。

白龍皇との取引。既にテロリストに引き抜かれた奴を、またさらに引き抜くと言うのだ。

だがこれ位せねば、現状の打開は出来ないだろう。

そしてそのために……俺を餌とせねばならないとしてもだ。

ここで俺が黙っていても、あのアインストが暴れればこの場は終わりだ。

ならば、少しでもよい方向に転ぶ方向に動きたい。

 

……さて、どう出る? 白龍皇。

ダメならば、最悪白龍皇との停戦だけでも申し込みたい。

ここでアインストと白龍皇の同時に相手など、考えたくも無い。

たとえ俺の力が戻ろうと、たとえ赤龍帝の力があろうと、勝機など見えない。

寧ろそれは正気ではないだろう。

 

「……いいだろう。ではまず、本気の赤龍帝とやらをこの場に出して見せろ。

 共同戦線を張るにあたっても、相方が弱くては話にならんのでな」

 

「……わかった」

 

……やったか。これで最悪の事態だけは免れた。

そして当然の如く要求される赤龍帝の本気。

それはつまり、俺がイッセーに憑依して、かつ最大限にシンクロをすることなんだが。

今の状態でそんなことをすれば、間違いなく俺は消滅する。

 

……しかし、ここでやらねば反故にしたと見做されるだろう。

それだけは避けたい。ならば仕方が無い事だ。

白龍皇に促されるまま、俺は静かに目を閉じる。

俺の魂は、一直線に瓦礫から這い出てきたイッセーに吸い込まれる。

 

目を開けると、久しいイッセーの心の中に広がるオカ研の部室。

そして、右手が戻った感覚――はいいんだが。

 

その右手は、龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を纏っただけでなく手首に赤い鎖が繋がれ。

その鎖はどこかから伸びているようだ。まるで、俺を虜囚として扱うかのように。

動かす事自体に問題は無いが、こんなものがついていると言う時点で気が滅入る。

 

『どうあっても俺の右手は返さないんだな、ドライグ』

 

『それは今兵藤一誠が力を発揮するために必要だからお前に預けただけだ』

 

バカを言うな。元々俺のだ。何で名高いドラゴンがそんじょそこらの学生の右手を

後生大事に抱えているどころか交渉道具に使ってるんだよ。

 

『――ちっ』

 

「け、喧嘩はやめてくれよ……それよりセージ、こうして戦うのも久しぶりだな!」

 

ああそうだな。こんな鎖が無ければよかったんだがな。

もっと言えば悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なんてものが……いや、それは今は言うまいよ。

さて。いずれにせよリハビリがしたいものだな。何せ暫く起動させてないんだ。

 

『浮かれてる場合じゃないぞ。コカビエルが来たのが大体一月位前だから

 それ位俺は神器(セイクリッド・ギア)を使っていない。悪いがリハビリさせてくれ』

 

BOOT!!

COMMON-LIBRARY!!

 

――アインストレヴィアタン。能力は……なんだこれ?

表示がバグってるのか? 時空の門……旧き魔王……静寂なる世界……

純粋なる生命のルーツ……監視するもの……百邪……

嫉妬の悪魔……アインスト……無限の開拓地……

ダメだ、無茶苦茶な単語の羅列ばかりでまるで読めない!

 

『イッセー。見て何となく察せるとは思うが、アレをスキャンするのは無理だ。

 今データを出したが、表示が出鱈目でまるで読めなかった』

 

「心配いらねぇよ! だったら『倍加』してぶっ飛ばすだけだ!

 セージ! シンクロ強化して一気に決めるぜ!」

 

……だーかーら、それをやるのに白龍皇と協力しようって話なんだってば!

俺達がばらばらで戦いを挑んで勝てる相手じゃないだろ、これ。

それに……今シンクロを強化するって事は……最悪……

 

――っ!?

 

足元に何かが絡みつく。

ふと足元を見ると、赤い触手が俺の足を強く縛り上げていた。

まさか……俺をこのまま飲み込むつもりか?

だとしたらヤキが回ってないかドライグ? 今の俺を吸収したところで、大した影響は……

 

……いや、ある。悪魔の駒の安定化だ。

俺とイッセーは悪魔の駒を共有しているがために、様々な不安定な動作が起きていた。

最も、主に俺のほうに不具合が多く起きていたようだが。

今俺が持っているのは悪魔の駒と記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の本体。

鍵である右手は既にドライグが押さえている。

まあ、イッセーに記録再生大図鑑の真価を発揮できるかどうかは疑わしいが

能力コピーは前線で戦う赤龍帝や『兵士』には喉から手が出るほど欲しい代物だろうよ。

とにかく、俺を吸収するメリットはあるって訳だ。

 

『……気が早くないか、ドライグ』

 

『宿主に死なれちゃ困るんだよ。悪魔じゃ命は等価値じゃないそうだな。

 俺もそれは同意している。何かあれば俺にも影響が出る兵藤一誠と

 使えもしない力をただ腐らせているだけのお前。どっちを取るかは明白だろう。

 それに白いのは本気の俺を所望してるんだ。本気出せよ』

 

……そこを突かれると痛い。ならば仕方ない、何とか取り込まれない程度に

シンクロを強化するしかないか……

イッセーとのシンクロを強化しようと憑依の強度を上げようとすると

今度は下半身まで赤い触手に飲み込まれる形になった。

これがイッセーならば、あらぬ妄想をかき立てたやも知れんが……対象が俺ではな。

それに、今イッセーからは俺がどうなっているかは見えてない。はずだ。

 

『……どうだ、イッセー。力は…………たか?』

 

「え? おいセージ、声が小さいぞ。聞こえないって」

 

む? まさか……俺がドライグに、イッセーの魂に吸収され始めているってことか?

俺の存在が……希薄になりかけていると言う事か?

ふと、俺の両手を見てみる。右手。確かに存在している。忌々しい赤い鎖もあるが。

左手。その存在がぼやけ始めている。まるで、今となってははっきりと覚えていないが

初めてドライグと対峙したときのように。

 

……そうか、そういうことか。

初めてドライグと対面したときも、俺の魂は一度ドライグに取り込まれていたということか!

そしてそのドライグが宿っているイッセーが悪魔転生を受けたものだから

俺もその影響を受けた! やはり、グレモリー部長は俺の存在に初めから気付いていなかったんだ!

神器にしか目が行っていなかった、その中身まで知ろうとしなかったと言う事か!

 

――やられた。完璧にやられたよ!

万時が万時、俺の行く手を阻むかのごとく成り立っていやがる!

保険として俺を確保していたドライグ! 俺のことを知ろうともしなかったグレモリー部長!

そしてイッセーは、そんな二人に踊らされているサルか!

……ならば、尚更思い通りには動いてやれないな!

こうなったら、とことんまで抗ってやる!

 

『力は…………かと…………いる。俺も…………以上…………は…………せない』

 

「ほう。確かに今の赤龍帝からはまた別の力を感じるな。

 大日如来や天照程かと言うと疑わしいが……いいだろう。

 取引には応じよう。ただし、奴を倒すまでだ。

 奴を倒したら、次はお前だ。赤龍帝の力を見せてもらうぞ」

 

「二天龍……静寂を……乱すもの……

 沈めましょう……静寂なる……世界の……底へ……」

 

やった。イッセーには声は届かなくなりつつあるが

白龍皇の方は取引に応じてくれるみたいだ。

これなら……あとは何とか……

うまい具合に、こっちに気が向いているみたいだし!

俺たちは足並みをそろえるべく、白龍皇と並び立つ。

さあ行くぞ、こいつさえ倒せば――

 

「今だ! アジュカ、レーティングゲーム用のフィールドを用意してくれ!」

 

――えっ?

次の瞬間、俺たちと白龍皇の足元に魔法陣が展開。

これは確か……あのフェニックスとの戦いの時にあった……!

 

「サーゼクス! これはどういう事だ!?

 今からあいつを倒そうって時に、戦力になりえたかもしれない

 二天龍を飛ばすなんざ何考えてやがる!」

 

「私もアザゼルと同意見ですね。こうなっては二天龍の力が必要な場面ですよ。

 にもかかわらずあなたは彼らを無力化した。ま、まさかあなた……!」

 

「ミカエル。最早旧魔王派は冥界政府とは無関係だ。変な勘繰りはやめてもらいたいな。

 ああなった上に二天龍に暴れられたら人間界がただでは済まないのではないか?

 結界も、そこまで耐えうるとは思えん。

 ならば、一度赤龍帝と白龍皇で戦ってもらい、その上で力を統合させる。

 戦って勝ち残った方にあの怪物との戦いに加勢して貰えばいいのではないか。

 私はそう思ったわけだが……」

 

な、なんてことを……

まさか魔王陛下が、俺と完全に逆の事を考えていたなんて……!

も、もう転移魔法を打ち消すなんてことは出来ない!

しかも、かなり強力な奴だ。初めから俺たちを飛ばすつもりで術式を作っていやがったな!

 

……つまりこの後、何処だか知らない場所で俺たちはこいつと戦う羽目になるのか……

この目の前の怪物に対して何も出来ないまま!

 

「ははははははっ! 感謝するぞサーゼクス! まさかルシファーの名前を持つ者に

 俺の真意を汲んでもらえるとは思わなかったぞ!」

 

……ま、こいつがそういうのは折込済みだったよ。

今の取引だって、結局はその場しのぎのものだった。その場を乗り切るための一時的な共闘。

目的が果たせれば、それでよかったんだ。

けれど、こうなってしまっては俺の目的――白龍皇との共闘は果たせない。

一方、白龍皇の目的――戦いは、相手が誰だろうといいようだ。

 

「ドライグ、セージ! これってつまり俺達は

 ヴァーリとレーティングゲームで戦うってことかよ!?」

 

『レーティングゲームではないだろうが、白いのと戦うのだけは確実だな。

 二人とも、気を引き締めろよ?』

 

 

――終わった。

 

俺の目論みは、ここに来て完全に潰えた。

 

白龍皇との共闘という案件自体、既に分の悪い賭けだったのだ。

 

このまま俺は、目的も果たせずにドライグに、イッセーに取り込まれるのだろう。

 

下らない戦いの道具にされるわけだ。

 

俺の心は、魂は、ここで消されるのか。

 

もう、情けない話だが打つ手が無い。

 

ははっ、そうか……やっぱ……

 

あの時ドライグに飲まれた時点で決まってたのかもしれないな……

 

色々……手を尽くしてきたつもりなんだけどなぁ……

 

 

「――ージ! 聞い…………のか!? 答え…………セー――」

 

 

あー……いかん。力が抜けていくのが分かる。

 

イッセーの声も、遠くなっていく。

 

俺は今まで、様々な事を成してきたつもりだった。

 

全ては、俺が元の生活に戻るために。

 

俺が、俺に戻るために。否。俺が、俺であり続けるために。

 

 

 

 

だけど、「俺が消える」って運命は、変えられなかった――

 

 

 

――――

 

 

――

 

 

 

...

 

 

 

 

..

 

 

 

 

 

 

.




サブタイの元ネタはクロノ・トリガーのバッドエンド(ラヴォスエンド)より。
but... the future refused to change、これの和訳です。
初めて見たときには唖然としましたね……

アンケート結果は既に出ていますが、この状態で引っ張るとか
ディケイドの冬映画バリの引っ張り具合になってたと思います。

ちなみにここでセージが完全に吸収された場合
イッセーの能力は原作完全準拠+セージが今までに記録した力
さらに能力コピーも限定的ながらも今後使えるようになる、といった具合でしょうか。

>記録再生大図鑑のバグ
相手が別世界の存在だから、ってのもあります。
全能神クラスの相手には通じませんので、これ。
尚、単語の羅列はほとんどがアインスト絡みの単語。
中にちょこっとだけレヴィアタンに関する単語も混じってます。

>サーゼクス
いや、結界維持考えたら二天龍も同時に暴れだす事を考慮に入れると
方法としてはあり、だと思うんです。焼け石に水ですけど。
結果としてセージの事実上の決死の覚悟に水を差してしまってます。
全部タイミングってやつが悪いんです。

30分のインターバルを挟んで、次話投稿させていただきます。


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Soul53. 極めて近く、限りなく遠い場所

どんどん投稿しますよー
また30分のインターバルを挟んで次話いきますよー

今回のサブタイはスーパーロボット大戦Aより。
かなりいいセンスの言い回しだと思うんです。
……でも森住氏は独語使いすぎだと思うんです。
寺田Pじゃないけど和独辞典引くのめんどくさいとです。
でも響きは日本人的にはいいんですよねえ。

アインストを皮切りにスパロボ設定がどんどん出てきてます。
けれどこの作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です

……たぶん。


 

 

 

――っざけるな……

 

 

 

 

 

 

 

……ふざけるな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ふざけるな!!

 

まだ、まだ俺は終わっちゃいない!!

 

たとえこの魂がひとかけらだけになったとしてもだ!!

 

どんな形でも俺は生き延びてやる!!

 

そう、ドライグが俺を利用したのなら――

 

 

 

 

 

 

――俺が、ドライグを利用する!!

 

 

 

 

――――

 

 

俺の意識は、既に飛んである程度の時間が経っていた。

感覚がまだ生きているのは、皮肉なことにドライグの支配下に置かれた右手部分だけだ。

白龍皇とぶつかり合っている感触は、なんとなくだが分かる。

やはり、そういうことになっていたか。よくもまあ何も生み出さない戦いに躍起になれるよ。

こんな、こんな下らない戦いのために……

 

……一体どれだけの涙が、悲しみが生まれたと思っているんだ!

 

こんな奴らのために、これ以上誰かが苦しむのは見たくない!

 

――とは、子供の頃に見たある番組の台詞だったか。

大概の大人は子供騙しと一笑に付すこういう台詞だけど。

それでも、当の子供の心にはかけがえのないものを刻み込んでいるわけで。

だからこそ、今も昔もそういう番組は、英雄譚は無くならないわけで。

 

……ふと、外から声が聞こえた気がした。

 

――楽しいなあ、白いの!

 

――まだまだ不足気味だが、まあまあってところだな、赤いの!

 

――どうした赤龍帝。もっと俺を笑顔にしてくれよ?

 

イッセーは……苦戦しているか。だがそれよりも、やはり俺には

こいつらを認めることは出来なかった。

笑顔だと? ふざけるな。どれだけの大地を血に染めて、どれだけの悲しみを啜っておきながら

笑顔なんてよく同じ声で、同じ口で言えたものだな!

こいつは……あいつと同じだ! 生かしておくわけにはいかない!!

 

だから……動け! もう一度だけでいい……俺の思うがままに動いてくれ!

 

 

俺の――右手!!

 

 

ただ、それだけを念じた。

次の瞬間、生暖かい感触が右手に伝わる。

 

――へ、へへっ……俺だってセージの力を使えばこれ位! 取ったぜ、ヴァーリ!

 

――白龍皇(ディバイン・ディバイディング)()(スケイルメイル)をも溶かすとは……ぐほっ!?

 

決定打が刺さったのか。やるじゃないかイッセー。

だとするとこの生暖かい感触は奴の血、か?

赤いかそうでないかはこの際、置いておく。

 

ふと、右手に今度は何か凄い力が触れる。

この感触は……あまり思い出したくは無いが……

以前レイナーレをぶち抜いた時に、神器(セイクリッド・ギア)を強引に摘出しようとしたときの感触に近い。

もしかして……これは……!

 

俺は意を決し、そこにある力を手に入れようとする。

勿論、反発たるやとんでもない。既に溶けてなくなろうとしている俺が

イッセーから、ドライグから引き剥がされそうなくらいだ。

だが、たとえ引き剥がされるにしてもこの白龍皇の力だけはいただいていく!

 

こんなテロリストに、強大な力を与えるわけにはいかない!

こんなものは、未来永劫眠りについているべきなんだ!

だから今、こいつから取り上げる!!

 

白龍皇の力を引き抜こうとしたその時。

何かは分からないが途轍もない力の奔流に、俺自身が飲み込まれる感覚を覚える。

右手は赤い鎖で繋がれた龍帝の義肢(イミテーション・ギア)、その手の内には白龍皇の力。

その中心核を成しているのは俺の魂。

鎖で繋がれているにもかかわらず、俺の魂はどこかに飛ばされようとしている。

 

――な、に、を……するつもりだぁぁぁぁぁぁ!?

 

――お、俺が知るかよ! 俺の右手が、勝手に……ま、まさか!!

  セージだ! セージの奴、ついにキレて……

 

――ば、バカな!? 相棒、そんなバカな話があるものか!!

  霊魂のは、もう既に俺達に溶け込んだはずだぞ! お前も感じただろう、今までに無い力を!

 

――赤いの! すぐに力を抑えるんだ! このままじゃ、この次元の狭間に穴が開くぞ!!

 

いやあ、悪かったなドライグ。往生際が悪くて。

イッセー。また悪いことをしたかも知れんが、俺も今回は他に方法が思い浮かばん。

じゃ、そういうわけでお前らの力は貰っていく……ぜ!

 

最後に、龍帝の義肢を付けた俺の右手が白い光と共に黒い渦に飲まれていく光景が見えた。

……それだけじゃない。いや、そうじゃない。

龍帝の義肢からは、赤い鎖が千切れていた。それが意味するところは……

 

その結論を出す前に、俺は渦に飲まれる形になった。

 

――――

 

次に目を覚ましたとき、俺は闇の中にいた。

いや、闇の中というべきか? 分からない。宇宙とも言えるかもしれないし

無、とも言えるかもしれない。表現の仕様がないのだ。

俺の知り得ない世界である事に違いは無いのだが。

 

ふと、周囲をまばゆい光が照らす。闇の中にいる以上、目を開けているのか

いないのかが分からないが思わず目を瞑る。

それでも、光は俺に降り注ぐかのように周囲を包む。

 

今度は、まるであたり一面が光の世界になったかのように眩い。

少しずつ眼を開けると、さっきまで真っ黒だった周囲は今度は真っ白になっている。

異次元。それが、俺の出した結論だった。

 

……そうか。異次元への追放。白龍皇の力を奪って、その先がこれか。

結局、俺の生涯とはなんだったのか。

せめて、きちんとした形で母さんやうちの猫、それから姉さんに別れを言いたかった。

これでは……死んでも死に切れんよ……

 

そんな俺の目の前に、白金色の巨大な龍が現れる。

鱗にあたる部分は全て白金色、異様に長い三対の翼の膜は碧色をしている。

その巨大な全身からは眩いオーラを出しており、その姿を視認できるのが奇跡みたいなものだ。

と言うか、目を開けてられない。

もしかして、さっきの光の正体って……

 

――この姿では、目を開けていられないか?

 

……ああ、できれば違う姿が望みだ。

そもそも、ドラゴンって生き物自体にいい思い出が無い。後悪魔と堕天使も。

そこまでは贅沢か、と思っていると光は収まり、目の前には俺よりも少し上くらいの

人間のような姿かたちの存在がいた。

 

人間のような、と言うのは明らかに人間ではないと感じられたからだ。

薄緑色の髪に蒼色の眼、そしてやや尖り気味の耳。

どう見ても、普通の人間じゃない。着ている服も、俺たちの知るものとも全く違う。

ファンタジーな意匠をちりばめた軍服に近いものだ。

かと言って、冥界の住人に近いかと言うとそんなことは無い。

感じられるオーラが、悪魔のそれとは全く違う。

 

「この次元の狭間に漂う魂の欠片を集めたら、悪魔とも人間とも龍ともつかぬものが出来た。

 勝手なことをしたとは思うが、できれば聞かせて欲しい。

 お前は何者だ? 何故、次元の狭間を漂っていた?」

 

……え? 俺、バラバラになっていたのか!?

ま、まああの状態ではバラバラになっていてもおかしくは無いが……

 

「俺は歩藤……いや宮本成二と言います。悪魔とか、龍とかと因縁はありますが

 俺自身の心は人間であるつもりです。ここは、次元の狭間と言うのですか?」

 

「成二……セージか。お前が名乗ったのなら俺も名乗るべきなのだろうが

 生憎と、俺は名乗るべき名を失ってしまってな。最後に俺を観測した者は

 『白金龍(プラチナム・ドラゴン)』と俺を名づけたらしいが。だから、白金龍でいい」

 

名乗る名を失った? 忘れた、なら分かるが失ったって?

あと、最後に俺を観測したって一体全体何を言ってるんだ?

 

「……すまない。話が飛びすぎていたな。

 お前がそうなのかまでは知らないが、俺は次元の迷子みたいなものだ。

 あるべき世界を失い、役割も知らぬ。それでいて死んでいないのだから

 まこと理不尽なものよな。いや、或いは俺が知らないだけで既に死んでいるのかもな」

 

……確かに俺は幽霊と対話した事はあるが、目の前の白金龍を名乗る存在は

決して幽霊のそれとは性質が同じではない。寧ろ、生きているものの性質に近い。

 

「次元の迷子……?」

 

「戻るべき世界を無くし、数多の次元世界を渡り歩いている者達を指している。

 これを一から説明すると長くなるので省くが、世界は無数にある。

 その中には俺みたいに自分の世界に戻りたくても戻れない奴もいる。

 理由はどうあれ、そうなってしまった者を次元の迷子と呼んでいる」

 

白金龍の説明はさらに続いた。

次元の迷子を生み出す経緯は多数にある。

自分のように自分の属する世界を失って迷子になった者。

次元の、世界の境界線を幾度と無く越えた者。

ただし後者は、自らの意思で越えられる者は次元の迷子、ではなく

「次元の旅人」と呼ぶこともあるらしい、と。

 

……うん、はっきり言って話が飛んでいるどころの騒ぎじゃない。

夢じゃないか、って思うくらいだ。

 

「お前がいた世界は……『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのいる世界か。

 俺が言うのもなんだが……難儀な世界の出身だな。

 案外、『夢幻』を司ると言うらしい奴の見ている夢かもしれないな。俺もお前も」

 

……本当に難儀です。いきなり人間やめなきゃならない程度には難儀です。

その結果がこれです。もう俺ゴールしていいですか?

おまけにさっきから話が全然分かりません。

俺は誰かの見ている夢? 確か荘子だかにそういう話があったとか無かったとか。

 

「……で、だ。お前が何者なのかは大体分かった……っと、いかん。

 前にここに来た通りすがりの口癖が移ってしまったようだ。

 ともかくだ。お前はこれからどうするんだ?

 元いた世界に戻るもよし、これを機に別の世界に行くもよし。

 ……俺は、戻ることを奨めるがな」

 

白金龍はさらに続ける。意外とおしゃべりなのかな?

ここ、人の気配が無いからついおしゃべりになるだけかもしれないが。

 

……それはともかく、白金龍が俺に帰ることを奨めたのはこうだ。

一度別の世界に行けば、最悪自分が自分で無くなる。

よくて記憶の抹消。それくらいのペナルティを課せられる事になる。

そもそも、俺には世界を超える力は無いらしい。

だから白金龍も不思議に思い俺の魂を集めたらしいが。

そういえば、レーティングゲームの会場は次元の狭間的な空間だと

前に聞いたような、聞かなかったような。

だから近いここに飛ばされたのか。

 

……そして、一度そうやって世界を超えると「呪われし放浪者」として

永遠に消えないであろう烙印を押されるらしい。

そのペナルティがどういうものなのか、は白金龍も詳しくは知らないらしいが……

 

「死ねなくなる」、のは確実らしい。それは寿命的な意味だそうだ。

むぅ、それは状況次第では遠慮願いたいな……

 

「……ん? ちょっと待て! おい、いつからお前の世界には『ゲート』が開いたんだ!?

 ……あ、ああ。『ゲート』ってのは……」

 

こういうとき、認識にずれがあるのは不便だ。

それは多分お互いに思っているかもしれない。

とにかく、白金龍はゲートについてこう語っていた。

 

異なる世界と世界を繋ぐ門のようなもの。

それが繋ぐのは異なる世界、時間、空間、次元。

そしてそれは須らく可能性と災いをもたらす。そうして付けられた名が「ゲート」。

 

その説明に、俺は心当たりがあった。

悪魔も、天使も、堕天使もそうなのだが……

禍の団(カオス・ブリゲート)、とりわけアインスト。

それらは、ゲートをくぐってやってくるに相応しい存在ではないのか、と。

 

「……ゲートが開いているのにグレートレッドは関与せず、か。

 本当に俗世には興味を持たぬ奴なのだな……」

 

「ゲートを閉じる方法とかは無いのですか?」

 

「……ゲートを閉じる方法はあるが、それを聞いてどうするんだ?」

 

俺は思わず白金龍に問い質した。当然だ、そんな危険なものをそのままには出来ない!

あれからアインストが出てくると言う仮定が本当だとしたら

カテレアどころか禍の団を倒したところでアインストは止まらない事になる!

あんなのが蔓延る世界なんて、いいものであるはずが無い!

 

「……アインスト。今俺の世界にはそう呼ばれる怪物がいます。

 そして、魔王の一人がアインストの力を使い、世界を滅ぼそうとしています。

 俺はそれを止めたい。それは俺の役目ではないかもしれませんが

 知ったからには、どうにかして止めたいと思っています」

 

アインスト。その単語を聞いた途端白金龍の目の色が変わった。

曰く、アインストはかつてある世界を抹消しようとした存在。

また別なる世界でも似たような事をしようとしたらしい。

その活動範囲は多世界、多次元に渡るためこの次元の狭間でもどうしても観測できるとの事だ。

 

「実際に俺が戦った事はない……はずだが危険性は聞いたことがある。

 アインストか……放置すれば、お前の世界は遠からぬうちにアインストに支配されるだろう。

 大方、どこかの世界にいる『大元』がグレートレッドの属する世界への

 ゲートを開けてしまったのだろう。

 ああ、大本への干渉はやめておけ。それこそ『呪われし放浪者』になるぞ」

 

「なんだって!? それじゃ、最低でもゲートをどうにかしないと

 アインストは無限に沸く……!?

 く……こうしちゃいられない! すぐに戻らないと……」

 

やはりそういうことか! 魔術師連中とは毛色が違いすぎると思った!

禍の団め、アインストを強いバケモノ程度にしか考えていないのか!?

こうなったら、この事を天照様や大日如来様、あと薮田先生辺りに伝えないと……

俺一人じゃ、いやオカ研でさえも如何にか出来るレベルを超えている!

 

「……待て。その腕でどうするつもりだ。

 まさかとは思うが、アインストと戦うつもりじゃないだろうな。

 ならばやめておけ。そもそも、アインストはお前たちの世界のものじゃない。

 不用意に関与するのは、望ましいことではないぞ」

 

「だとしても! 自分達の世界がアインストに侵食されるのを黙ってみているわけには!

 そうだ! 最低でも、今聞いた話だけでも持ち帰りたい!

 俺に力が無くとも、俺の聞いた情報は別の力を動かす切欠になってくれる……!」

 

白金龍に言われて、俺は自分の状態を思い出す。

右腕を失い、満足に力を揮えない状態だった。

そんな状態で、俺はどうやって戦おうと言うのだろう。

一番弱いとされるアインストさえ、倒せなかったというのに。

 

だから、俺は今得た情報を持ち帰りたい。そして伝えなければならない。

話して分かってくれそうなのは、希望的観測だが天照様と大日如来様か。あと薮田先生。

あの方々ならば、俺の話を聞いてくれそうだ。

それから……あんまり言いたくないと言うか関わりたくないが、三大勢力。

嬉々としてアインスト討伐に乗り出して、手柄を自分のものにしそうな嫌な予感もするけど。

……するけど、相手がヤバイのならば、力は多いほうがいい。アインストを止める間だけでも、だ。

 

まあ規模が規模だけに、グレモリー部長やシトリー会長の出る幕ではないだろう。

それこそ、イェッツト・トイフェルの出番になるだろう。

……冥界にアインストが出れば、どのみちあいつらも動くことになるだろうけど。

 

「……理由」

 

「え?」

 

「理由だよ。理由。お前がアインストと戦おうとする理由。

 お前は別に世界を守る義務とか持っていないだろう?

 一般市民を守る軍隊や警備組織の所属でも無さそうだし

 かといって世界を救う伝説の勇者とか言う胡散臭い代物でもない。

 と言うか、そんな風には全く見えない」

 

……白金龍は意外と俺のことを確り観察していたようだ。

確かに俺は軍属でも公僕でもなければ、伝説の勇者とか

そういうフィクションめいた役職の存在でもない。悪魔にされはしたが。

 

つまり、白金龍はこう言いたいのか。

「戦う理由の無いお前が、力も無いくせに出しゃばった真似をするもんじゃない」と。

 

……正直、言い返せない。大半はその通りだからだ。

ただ、一つだけ戦う理由があるとするならば。

アインストが手を貸しているのはテロリスト。

彼らはこれから平和に生きている人々を脅かすだろう。

それだけは、どうしても俺には許せない。

 

……まあ、それを成すのが禍の団でもアインストでも三大勢力でも

成した時点で俺からすれば即ち敵、なんだけどな。

 

「……はぁ。お前、戦いに足突っ込んだな。その目は、戦いってのを知ってる目だ。

 何故……かは聞かないでおくが、一度それを知ると後戻りが出来ないぞ。

 お前は……永遠に戦い続けるのと、争いの無い安らかな平和のどちらを望む?」

 

後者。断然後者だ。争いの無い世界以上に幸せな世界なんてありはしない――

とは、誰の言葉だったか。とにかく、俺は如何なる理由であれ人間の、地球の、生命の営みを

捻じ曲げる行為は好きになれない。

それを成そうとするものがあれば、俺に出来るならば止めたい。

 

「……そうか。まあ、俺も多分同じことを考えている。

 昔の俺ならばこうしただろうと言う行いを、な。

 さて。だったら右腕を出すんだ」

 

「え? いや、俺の右腕は……」

 

「いいから出せ。お前の右腕が無いのは見れば分かる。

 この間来た通りすがりの置き土産、お前が持つに相応しいかもしれない。

 お前の魂を見させてもらったが、その通りすがりの持つ力と

 お前の持つ力には、奇妙な親和性が見られたんだ。

 異なる世界同士、たまにはこういうこともあるものさ……ん?

 これは……あの世界のドラゴンの力か。丁度いい、これも混ぜておこう。

 

 ……結論から言うぞ。お前の右腕を元に戻してやる。熨斗をつけてな」

 

……え? それって一体どういう……?

俺が疑問に思う間もなく、白金龍は俺の右腕のあるであろう場所を掴み何かを流し込んでくる。

物凄い衝撃が走るが、嫌悪感と言うものではない。

むしろ、整体マッサージを受けているものに近い。

 

……実は受けたことがあるんだけどね。整体マッサージ。

無茶苦茶痛かったが、効果は覿面だった。腕に受けたわけじゃないけど。

そして衝撃と同時に、物凄い光が周囲を包む。再び目を瞑るも、それでも光はかわせない。

けれどその光は、嫌悪感のあるものではなかった。

白金龍の光は、天使とかの光とはまた違うのだろうか?

 

「ここは時間と言うものが概念を成さない世界ではあるがな。

 お前の魂は随分と消失しかけていたみたいだから少し急ピッチで作業させてもらった。

 ……お前に何があったのか、それを俺は知らない。お前の記憶までは見ていないからな。

 

 ああ……言え、って言っている訳じゃない。

 だが、今までがそうならば……これからはもっと途轍もない事になるぞ。

 『ゲート』、そして『極めて近く、限りなく遠い世界』の存在を知り

 『呪われし放浪者』に片足を突っ込みかけているのだからな、お前は。

 その旅路には少し心許無い餞別だが……許せ。今の俺もこれ以上は用意できない」

 

白金龍は右手を目やっている。俺がつられて右手を見ると

そこには、確かな俺の右手が戻っていた。

拳を握り、開く。その感触は、紛うことなく俺のものだ。

それだけで、俺の胸にはこみ上げてくるものがあった。

 

……そして、龍帝の義肢に似た装飾が俺の右手についている。

赤と白の色合いの籠手に、翠と碧の勾玉が太極を描くように埋め込まれている。

これって、もしかして……

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)白龍皇(バニシング・ドラゴン)……だったか。この二つの力も使えるようにしてある。

 だが、元々が小さかったからか……最低限しか再現できなかった。

 どの程度のものかは……実際に使ってみてくれ。ぶっつけ本番で悪いが、な。

 

 ……それと左手の鍵だが、はずしておいたぞ。

 と言うか、お前の意思で開けられるようにしてある。

 アインストと戦うにはそれくらいの準備は必要と言う事だ」

 

「……ありがとうございます、白金龍」

 

力のこともだが、俺の右手が戻り、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の封印が解けたことが嬉しい。

記録再生大図鑑は、開錠にドライグの力を要したが元来俺の力だ。

それが俺の意思で使えるというのは地味にありがたい。

今までは、己の力も己の意思で扱えないと言う状態だったのだから。

 

「そして、お前の力になるであろう龍……紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)だ。

 これこそ、さっき話した通りすがりの置き土産だ。

 その右手の物だが、それはあくまでドラゴンの力を模した器に過ぎない。

 そこに、魂――ドラゴンを入れる。そうすることで、その右手の物は完成する。

 右手――あの世界に倣ってこう呼ぼうか。

 

 『紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)』がな」

 

白金龍の背後に、ピンク――いやマゼンタ色か? のドラゴンが姿を現す。

黒い角や鰭が、まるでバーコードのようにも見えるが……

そんな、独特なデザインのドラゴン。一体どこの通りすがりがこんなものを?

 

「大体分かった。俺はこいつに力を貸せばいいんだな」

 

「ああ。その後のことはお前が決めてくれ」

 

紫紅帝龍はそのまま太極の宝玉に吸い込まれ、器に宿ったようだ。

それはまるで、神器。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に近いものを感じる。

紫紅帝の龍魂。宝玉をはさんだ赤と白の対象のラインに加え、マゼンタも入っている。

少し、派手目なデザインなのが気になるが……

それだけに新たに加わった黒が全体を締めている形だ。

 

『そこの白金龍は名無しでいいって言ってたが、俺は呼びにくいだろう。

 俺は……そうだな。「フリッケン」とでも名乗ろうか。

 ああ、基本俺は通りすがりだ。覚えなくていい』

 

「『フリッケン』……か。俺はセージ。宮本成二。悪魔は俺を歩藤誠二と呼ぶ。

 何時までになるか分からないが……よろしく頼む」

 

俺の中に、また別の力がわきあがるのを感じる。

今まで力が無かった分を差し引いても、このわきあがる力は凄まじいものだ。

これならば、少なくともイッセーに遅れは取るまい。

今なら、元の世界に戻っても足は引っ張らない自信がある。

フリッケンの力、紫紅帝の龍魂の力、記録再生大図鑑の力、そして俺自身の魂。

 

「……決意を固めたところ悪いが、お前の世界に直接飛ばすことは出来ない。

 お前の魂を拾った場所の近く……そこにちょっとした空間がある。

 そこに一度立ち寄ってから、俺が改めてお前の世界までの入り口を作る。

 ……心配せずとも、そこは次元の狭間だから『呪われし放浪者』には抵触しないさ」

 

……ん? そこってもしかして……

イッセーと白龍皇が戦っている場所か?

そういえば、あの戦いはどうなったんだ?

それが気になった俺は、すぐさま白金龍にその場に飛ばしてもらうように頼んだ。

 

……まずはイッセーか。まだ戦っているようならイッセーは連れ出そう。

白龍皇は……どうしたもんか。まあ、なるようにするか。

とにかく、光は掴んだ。後は……もう一度立ち上がる!

 

「……俺はもう、自分の世界もなければ守るべきものも成すべきこともないからな。

 せめて、こうして巡り合えた迷子が俺と同じ目に遭わないことを祈る。

 お前は、俺のように属する世界を無くしてくれるなよ?

 

 ……さて。準備はいいか? 今からお前がさっきまでいた場所まで飛ばすぞ」

 

そういう白金龍の右手には、黄金に輝く十字剣が握られている。

あ、そうだ。試しに記録再生大図鑑を……

 

ERROR!!

 

……あ、あれ? 読み取れないぞ? まさか、薮田先生の時と同じで……

ま、まあ最近色々と規格外のものに遭遇してるから俺も感覚鈍ってきたか……?

 

「読めない……これじゃちゃんと動作するのかどうか分からないな」

 

「ん……ああ、これを読み取ろうとしたのか。多分無理だぞ。

 そもそも俺自身が、既に記録に存在しない存在だ。

 でなければ、俺は自分の名前を失ったりしていない。

 そのくせ、これの使い方とかだけは確りと覚えている。一体俺は……

 ……いや、今はよそう。今から俺の力で擬似的なゲートを作る……行くぞ」

 

白金龍が黄金の十字剣で空間を×字に切り裂くと、空間に亀裂が走った。

その向こう側では、イッセーと……白龍皇か! まだ戦っていたのかよ!

……って、これが向こうの景色ならばこうしちゃいられない!

 

「重ね重ねありがとうございます、白金龍!」

 

「……この先もまだ次元の狭間だ。そこまでは俺も行こう」

 

俺と白金龍は、亀裂の中に飛び込んでいく。

確かに俺は白龍皇の力の全てを奪ったわけではない。

だが、それでも戦いをやめないあの二頭には呆れるばかりだ。

イッセーの声は聞こえなかったが、あまりいい感情は抱いていないだろう。

この点に関しては、イッセーとは意見は同一である。

 

……あの二頭がイッセーを変に煽ったりしない限りは、だが。




セージ異次元へ行く。

>極めて近く、限りなく遠い世界
平たく言えば「パラレルワールド」、つまり「もしもの世界」です。
よく知った性質を持ちながらも、決して生半可では干渉できない。
いや、そもそも干渉すること自体がおかしな存在。だから極めて近く、限りなく遠い。
セージにとってはハイスクールD×D原作こそが「極めて近く、限りなく遠い世界」でしょう。
当然のことながら、セージはその世界にいませんので。

……そしてわざわざこんな単語が出たということは、いずれ原作イッセーが……?

>ゲート
元ネタはスーパーロボット大戦シリーズの「クロスゲート」。
元ネタというか、それそのものと言ってもいいでしょう。

クロスオーバー作品のパイオニアだけあって
こういう設定の秀逸さには頭が下がる思いです。
力技、という言い方もそりゃあ出来るでしょうけど。

……仮面ライダー鎧武の「クラック」も近い性質があるかもしれません。
仮面ライダーディケイドの「灰色のオーロラ」とか八雲紫の「スキマ」とか。

>呪われし放浪者
こちらはスーパーロボット大戦Zシリーズより。
まだOGに出てない単語ですがフライングで。出るのほぼ確定みたいな設定ですし。

>白金龍
どこか遠い世界の、真なる赤龍神帝と同等の格を持った存在。
けれどそれがどこの世界か、彼はいったいどうして次元のはざまにいるのか。
それを知る術は、もはやどこにも残されていない。彼自身の記憶にさえも。

……一応キャラクターデザインは、作者が学生時代に考えたオリキャラ。
背景が存在しないというのは、作者が封印した(したがっている)黒歴史という
メタファー。

>白金龍の語った通りすがり
おのれディケイド!
彼のみならず、次元移動ができる人は軒並みここを通れるという裏設定。
某光の巨人とか、隙間妖怪とか、その辺いろいろ。

>紫紅帝龍
赤+白=ピンク

ピンクじゃない、マゼンタだ! という電波受信

マゼンタ=紅紫色

アナグラム+始皇帝(赤龍「帝」+白龍「皇」)。三犬? 知らない子ですね。

 完 成

デザインモチーフや人格は言うまでもなく仮面ライダーディケイド。
門矢士はあくまでも通りすがりの仮面ライダーなので、置き土産として
紫紅帝龍が残され、セージに託された形になります。


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Soul54. 甦るD / a returnee ~生還、そして~

三話連続と言ったな。
……あれは嘘だ。



いやほんとすみません勘弁してください。
まさかここまで長くなるとは思わなかったので……

そんなわけでまだまだ続きます。
今回は少々短めです。

途中、一人称→三人称への視点変更があります。


能動的に次元を超えるって、何か変な気分だ。

乗り物酔いに近い感覚と言うか、俺は正直そういうのには弱いので

そう何度もは経験したくない。

……が、最低でもあと一回はやらなきゃならないんだが。

 

その不快感を腹いせの如くぶつけるつもりはそこまで無かったのだが

次元を超えた目の前に白龍皇がいたので、つい反射的に蹴り飛ばしてしまった。

面ドライバーキック。綺麗に入ってしまった。

 

と言うか、ふっとんだ。

アインストに苦戦した今の俺が、白龍皇を蹴り飛ばした? しかも綺麗に。

そこまで力を奪った感じは無いんだが……

 

「せ……セージ! お前、無事だったんだな! よ、よかった……!

 しかも右手も戻ったんだな! やったじゃないか!」

 

『れ……霊魂のだと!? 霊魂の……貴様、その力は……右手は何処で手に入れた!?』

 

……あー、言われると思ったよ。紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)――紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)について。

はっきり言って、ドライグに諸々解説する義理は無い。

今試す気にはならないが、恐らく今イッセーに憑依しても

もう俺の右手が持っていかれることは無いだろう。その前に憑依出来るかどうかが疑わしいが。

 

「右手は元に戻った。俺は力を取り戻した。事態は切迫している。以上。

 あとはどこぞの警視さんじゃないが俺に質問するな」

 

「いや、端折り過ぎだってセージ……」

 

いや、これ以上余計な情報を流すと白龍皇まで釣っちゃうからやりたくないんだが……

しかしイッセーは、俺の説明にあまり納得していないみたいだ。

そりゃまぁ、さっきまで右手が無かった奴に右手が生えていれば気にはなるだろうけど。

 

……つか、当たり前だけど元々右手はあったっつーの!

お前だってそれは知っているだろうが!

 

「空間を開けるぞ、そこの赤龍帝を連れて行くなら急ぐんだ」

 

「あん? 誰だあのイケメン? イケメンってだけで……」

 

「彼は白金龍(プラチナム・ドラゴン)。俺の恩人みたいなものだ。彼が元の世界に飛ばしてくれる。

 ……ここでつまらない喧嘩をしたくないのだったら急いだほうがいい。

 俺たちの敵は誰だ? こんなチンピラ紛いの白トカゲか?

 それとも未来を奪わんとするバケモノか?」

 

ああ、やっぱりか。だから何でお前はイケメンってだけで目の敵にするんだよ。

イケメン=人類の敵なんて不文律は俺の辞書にも記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)にも無いんだが。

 

『霊魂の! 「赤」と「白」の戦いに口を挟むとはお前も随分と偉くなったものだな!』

 

『全くだ。言うに事欠いて「白トカゲ」だの「チンピラ」だの言われるのは不愉快だな』

 

当たり前と言えば当たり前だが、ドライグと白龍皇が口を挟んできた。

しかし白龍皇よ。さっきまでの態度を見ていればお前の宿主がチンピラにしか見えないのは

俺の世界が狭いからか? 誰彼構わず喧嘩を吹っかけるスタイルはチンピラのそれなんだが。

ヤのつく自営業の人たちも今日日……と言うか元来そういうことはしないぞ。

 

『おいセージ。誰だこいつら』

 

『……っ!?』

 

『ど、ドラゴン……だと……!?』

 

「フリッケンか。一応アレが俺にあると言う力の大本になった二頭だ」

 

あ、そうか。通りすがりのフリッケンはドライグも白龍皇も知らないんだっけか。

ただ、俺のほうにある力でしかその存在を知らない。

 

『じゃあ俺の先輩方ってわけか。よろしくな、ロートルさんがたよ』

 

『ろ、ロートルだとぉ……』

 

『「二天龍」に向かって随分と舐めた口だ! 新入りのドラゴンは礼儀を知らんと見えるな!』

 

ふ、フリッケン……

俺も他人のことは言えないが、こいつも相当口が悪いな。

傍から見ている分には爽快だが、フリッケンは俺に宿っている。

この先余計なトラブルを作ってくれないことを祈るばかりだ。

 

「ん? ちょっと待てよセージ。ドライグは分かるけどよ、白龍皇の方もお前に……?」

 

「あ? ああ。俺ははっきり覚えてないが、最後に奴の腹をぶち抜いただろ。

 そのときに白龍皇の神器(セイクリッド・ギア)の一部を奪ったらしい。それを取り込んだって訳さ」

 

『で、その結果がこの右手だ……っと。どうやら白金龍の準備が済んだようだぞ。

 急いだほうがいいんじゃないか?』

 

話し込んでいる間に白金龍が俺たちの世界に戻るゲートを開けたらしい。

向こう側に、巨大な蛇の怪物が見える。恐らく、まだ天照様らが戦っているのだろう。

そこに俺たちが行って、力になれるのかって話だが。

 

「出るなら急いでくれ! この空間、どうやら何か強い力で維持されているみたいだ!

 あまり長時間、ゲートを開けていられない!」

 

「わかった! 何から何まで感謝します、白金龍!

 さあイッセー、聞いての通りだ。出るぞ!」

 

俺は有無を言わせず、イッセーを引きずってゲートに駆け込もうとする。

勿論、その目の前には白龍皇が飛び出してくるが……

 

「何処へ行くつもりだ赤龍帝! 俺と戦え!」

 

「嫌だね! 俺は部長のところに戻るんだ! こんな部長どころかおっぱいも吸えない世界で

 野垂れ死ねるかってんだ!」

 

「イッセーの言うことは置いておいて……悪いが白龍皇、こうなっては取引はチャラだ。

 俺はあのアインストを倒すまでの期間、最低限の停戦を申し込んだ。

 それを破棄して攻撃してきたのはそっちだ。つまり、だ……

 

 ――今更お前の要求など飲めるか!」

 

DIVIDE!!

 

「逃がさん! こうなったらお前をダシにしてでも赤龍帝には俺と戦ってもらうぞ!」

 

白龍皇が俺の左手を掴み、「半減」の力を行使してくるが……

悪いな。今それ俺にも使えるんだ。

殴りかかろうとしてきた白龍皇の腕を掴み返す。

力が落ちている分、押さえるので精一杯だが……

 

「右手」は奴の腕を確かに掴んでいる。条件は揃っているんだ。

 

「……誰がダシだ。俺たちはただ、こんなお前しか得をしない戦いに

 付き合ってられないだけだ!」

 

DIVIDE!!

 

「な、なんだと!?」

 

『さっき言ったのはハッタリではなかったということか!』

 

『セージ。今はっきり分かったが、今の力は重ねがけが効かない。

 だが、その状態でももう一つの力は使えるぞ。そっちも重ねがけは効かないだろうがな』

 

「フリッケン。そいつを聞けて安心した」

 

BOOST!!

 

白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)」には確か

「相手の力を半減し、その力を自分の物にする」と言う効果があった。

それに「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」の「自分の力を倍加する」を加える。

……するとどうなるか。

 

「ぐ、が、があああああああっ!?」

 

こちらの力が1、相手の力が4であったとしても。

最初の一手で(2or3)対2となり。

さらに次の手で4~6対2となる。

 

この一手で優位性を確信した俺は、白龍皇の手首を掴みなおし

そのまま捻り上げた。

しかし、こいつ腹をぶち抜かれたのによくそんな力が残っていたな。

回復アイテム的なものでも隠し持っていたのか?

 

「せ、赤龍帝と白龍皇の力を同時に……!?」

 

『ど、どういう事だ赤いの……!?』

 

『ば、バカな……相反する二つの力を……はっ!?』

 

「……あ、ああ。ありえるかも知れねぇ。木場だ。木場の奴も聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を完成させた。

 対立する二つの力の融合、それが出来るってのは前例があるじゃないか。

 もしかしたら、とは思ったけどよ……まさかこれほどの物になるなんてな……

 

 ……ははっ。やっぱすげぇじゃねーか。セージ」

 

『当然だ。俺も、俺の宿主もこの程度で終わる奴じゃない』

 

フリッケンはさも当然と言わんかのごとく鼻を鳴らしている。

口が悪く自信過剰なタイプか。また頭が痛くなりそうな……

 

……けれど今は、それが非常に心強く、頼もしい。

そんなフリッケンの鼓舞に答えるように、白龍皇の腕をそのまま捻り上げ、背中を向けさせる形にし

思いっきり蹴りを入れる。遊んでなどいられない。俺達は帰る。帰って成すべきことをする。

 

「白龍皇! そこで寝ていろ! 行くぞ、イッセー」

 

「お、おう!」

 

イッセーの手を引き、俺達は白金龍が作り出したゲートに飛び込む。

やはり知覚している状態で次元の壁を破ると言うのは気分のいいものじゃないが……

魔法陣による移動と違って、強引に突破しているからだろうか。

 

――もう、迷子になるなよ?

 

ゲートをくぐる瞬間、白金龍がそう語りかけてきたのが聞こえた気がした。

 

 

――――

 

 

◇◆◇

 

 

――――

 

 

二天龍の消失。それはカテレア――いや、アインストレヴィアタンとの戦いに臨もうとしていた

神仏同盟や三大勢力に衝撃を与えた。

その中でも、その決断を下したサーゼクスには様々な意見がぶつけられた。

 

曰く――戦力をそぐとは何事か、と。

 

曰く――結界を守るためには致し方ない、と。

 

そのいずれも正しい。それほどまでにアインストレヴィアタンは強大であった。

大日如来の「時間加速空間(クロックアップ)」。アザゼルとミカエルの光の槍。

天照大神の砲。ヤルダバオトの「創世の目録(アカシック・リライター)」。それらを集めても一進一退と言う有様だ。

滅びの力は相手に力を与えるだけと言う理由から、サーゼクスは前線に出られない。

しかもアインストレヴィアタンは次々と下位のアインストを繰り出している。

朱乃と合流を果たした木場が下位のアインストの相手に回っているが

下手に前に出ればアインストレヴィアタンの戦いに巻き込まれるため

露払いすら出来ない状態だ。

 

「排除……消去……

 今ここに……望まれぬ……世界は……」

 

「御託はいいっつたぞ、カテレアぁ!!」

 

一瞬の隙を突き、アザゼルがアインストレヴィアタンの背後に回る。

肉迫しており、尾の砲も使える距離ではない。

アインストとなっても、悪魔の因子が多少は残っているのか光力による攻撃は有効だった。

それが、三大勢力にとって幸いだったかもしれない。

 

「この距離じゃゲロビ砲は使えねぇよなぁ?」

 

「浅慮……無知……蒙昧……

 望まれぬ者に……相応しい……最期を……」

 

そう。アザゼルは確かにアインストレヴィアタンの背後を取った。

そこは尾の主砲も発射できない位置。振り回しても当たらない位置。

いわば安全地帯。

 

――そう、アザゼルは思っていた。

だから、守りを考えず攻撃に出ようとしていた。

墮天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)。アザゼルの持つ人工神器(セイクリッド・ギア)

神器と言うものの成り立ちを考えれば、ヤルダバオトどころか

真なる聖書の神たるヤハウェの怒りをも買いかねない代物。

実際、アザゼルはこの場において有効な力足りうると考えていたのだが……

墮天龍の閃光槍が、アインストレヴィアタンに刺さることは無かった。

 

「ぐああああああああああっ!?」

 

その前に、アインストレヴィアタンの尾が、アザゼルの腕をまるごと噛み砕いたのだ。

そう。アザゼルが回りこんだ位置。それはアインストレヴィアタンの尾――

もう一つの「口」がある、その位置に。

 

人間のような歯を生やした、巨大な口。

それが容赦なく、アザゼルの腕を噛み砕いたのだ。

骨付き肉を骨ごと噛み砕くと言う、通常ありえない食べ方。

それが、アインストレヴィアタンの異様性をこれでもかと物語っていた。

アインストレヴィアタンの尾の口からは、血が滴っている。

 

「あ、アザゼル!」

 

「ひ……っ!」

 

目の前で起きたあまりにも残虐な行為に

治療のために待機していたアーシアの顔から一気に血の気が引く。

主を守ろうと果敢にアーシアの前に立つラッセーだが、あまりにも規模の違う戦いの前に

小さな身体は震え上がっており、アーシアに抱きかかえられる形となってしまっている。

 

「あ……頭からじゃなくて……よかったと……言うべきかよ……っ!」

 

右手を喰われ、ふらふらと飛びながら距離をとろうとするアザゼルだが

その瞬間を見逃すアインストレヴィアタンでもなかった。

追撃と言わんばかりに、今度は足を喰おうと「口」が迫るが

その攻撃はミカエルによって阻止される。

 

しかし、次の手……かつてカテレアであった上半身から繰り出された触腕の攻撃までは

今のアザゼルに回避することはできなかった。

触腕になぎ払われる形で、アザゼルは地面に叩きつけられる。

 

この一連の流れにより、接近戦も危険であることが証明されてしまった。

実際、今まで挑んだ接近戦は大日如来が加速して挑んだ攻撃くらいである。

尾の砲から発射されるビームと、尾そのもののなぎ払い。

これにより、最早駒王学園は原型を留めていない。こうなっては、地下も無事かどうか。

 

右腕を失うと言う重傷を負ったアザゼルもそうだが、サーゼクス、セラフォルー以外のメンバーも

少なくは無いダメージを受けている。大日如来の法衣は所々に穴が開き

天照の艤装も黒煙を上げている。

服も若干だが破け、胸の徹甲弾風の胸当てが露出してしまっている。

ミカエルは肩で息をしており、ヤルダバオトも平静を装ってはいるが内心では思考の堂々巡りだ。

 

「ぐ……何故私はこんな大事な場面で何も出来んのだ……っ!!」

 

「サーゼクスちゃん……こうなったら逃げよ? リアスちゃん達連れて、私達だけでも逃げよ?

 逃げて冥界から応援呼んでくるの。アジュカちゃんに、ファルビー。

 それからギレちゃんにハマリアちゃん。……」

 

この絶望感からか、セラフォルーはサーゼクスに撤退を具申している。

是非はともあれ、サーゼクスは立場上冥界のシンボルであると言える。

既に組織としての体を成しているかどうかが危うい堕天使と違い

悪魔は明確に組織が存在している。

そんな中、組織のトップが失われると言うのはそれだけでも危機的状態を意味する。

 

「それは出来ない。私に出来ることは何もないかもしれない。だが、ここで逃げては

 アザゼルにもミカエルにも、そしてここで戦っている皆に申し訳が立たない。

 だからセラフォルー。君がリアス達を連れて逃げるんだ。

 ……アインスト。確かドイツの人間の言葉で似たような言葉があったな。

 意味は確か……『過去』『かつて』……ふふっ、旧魔王派に相応しい相手と言うべきか……」

 

「そんなのダメ! サーゼクスちゃんも逃げるの! 今サーゼクスちゃんがいなくなったら……!」

 

「サーゼクス……セラフォルー……

 不思議な……ものですね……

 あれほどの……憎悪も……今はもう……ただ……」

 

そんな中、次にアインストレヴィアタンが狙いを定めたのは二人の魔王。

彼らを前に、カテレアだったものは静かに右手を天に掲げる。

そこに、力の奔流を集めながら。

 

「ぐ……空間が!?」

 

「サーゼクスちゃん! 逃げて!」

 

「もう……遅い……あなた方も……静寂なる……世界に……」

 

カテレアだったものの右手は、ゆっくりと握り締められようとしている。

その右手の中には、サーゼクスとセラフォルーが映っている。

それに呼応するかのように、サーゼクスとセラフォルーの周囲の空間も圧縮され――

 

――そのまま、握りつぶされた。

 

「魔王様!」

 

「サーゼクス! セラフォルー!」

 

これで堕天使と悪魔のトップがやられたことになる。

残るは天使のトップ、そして神仏同盟に偽りの神。

魔王がやられたことに、朱乃や木場が参戦しようとするがそれはヤルダバオトに止められる。

 

「あなた方の力であれは倒せませんよ。こうなった以上仕方ありません。

 ここを中心に強力な封印の術式を展開します。

 そうなれば、ここは悪魔も天使も堕天使もない土地になります。無論、神もです。

 神器はその力を失い、ここにいる者は何一つの例外も無く外に出ることは出来なくなります。

 こうなっては、それこそがこのアインストを止められるであろう唯一の方法ですからね」

 

「……私は異議を申し立てません。残念ですが、姫島を中心にここはもう

 我々天津神も、国津神も声を届けることの出来ない土地ですから……」

 

「それ以外の方法がないというのであれば、仕方が無いな。俺も同意しよう。

 こんなばかげた生命体のために、この国の、いやこの世界の命をつき合わせる必要は無い」

 

「悪魔も天使も堕天使も……それどころか神も無い……そんな世界を作ろうと言うのですか!?

 偽りとは言え、神であるあなたが!?」

 

現時点での賛成は2、反対は1。見事に神仏同盟と三大勢力のうち一つが分かれている形だ。

こうなることはヤルダバオトも予測していたのか、何も言おうとはしなかった。

 

「やっぱヤルダバオト……てめぇこれが目的で

 アインストをけしかけたんじゃねぇだろうな……?」

 

「右手を失いながらその物言いは感服いたしますよアザゼル。

 ではあなたにはあれを止める方法があると言うのですか?

 二天龍は失われ、三大勢力どころか神仏同盟のお二方にも協力いただいてこの体たらく。

 方法があれば、教えていただきたいものですが。

 後、私はアインストを知ったのは今日が初めてですよ?

 如何に私が全能の神の影を勤めていたとは言え

 外の世界にまで目は向けていませんでしたからね。

 

 ……最も、そのお陰で対応が後手に回ってしまいましたが」

 

そう。偽りとは言え全能の神までもが匙を投げ。

世界の理を知るものが悉く打ち破られると言う「ありえない」状態。

 

ある経典にはこう記されている。「目には目を、歯には歯を」と。

この記録に則るならば、この場合適切なのは外の世界の力を使うこと。

しかしそれは、間違いなく新たな災いをもたらすことに繋がる。

そうでなくとも、場当たり的な対処法と揶揄されても返す言葉が無い。

――それでも。

 

最後の切り札が用意できないのならば、作ればいい。

なんと強引で、横暴で、無茶な対策法なのだろうか。

それが出来る唯一の者が、今ここに返り咲こうとしていた。

 

それは神でさえ知りえなかったこと。

それは天使の常識を超えていたこと。

それは悪魔の誇りを粉微塵に砕くこと。

 

それは龍の歴史に、加筆される瞬間。




キリのいいところで今回はここにて。
まだまだ続きますよ。

解説は前回の続きから。

>紫紅帝龍の名の由来
ジェネシス(創世)+ジェノサイド(殺戮)

創造と破壊

全てを破壊し、全てを繋げ!

そう言えば某呪われし放浪者の必殺武器にもほぼ同様の由来の武器がありましたね。
あっちはあからさまに意識してる元(?)機体の最終兵器の名前由来かもですが。
それからこの組み合わせでゴッドマーズを連想しちゃった人は正直に名乗り出てください。
きっと私も同じこと考えてますから。
最近の騎士ガンダム推しは一体何だろう。いいけど。

>フリッケンの名の由来
ドイツ語(またか!)で「継ぎ接ぎ」の意。
赤龍帝と白龍皇の組み合わせ、セージの能力の性質等から。

>アインストレヴィアタンの尾
そういえば深海棲艦の艤装の歯って、あれ凄く痛そうですよね。
目がなく、やたら歯並びのいい怪物って得体のしれない不気味さがありますよね。
エイリアンとか。
……韮澤クリーチャーにもそれに類する怪物がいますよね。
韮澤デザインの深海棲艦、見たかったかも……
いや、姫級とかすっごい浮くのはわかってますけど!

今回、仮に頭から行っていたら俗にいう「マミられた」状態になってました>アザゼル
原作では左手ですが、拙作では右手を失ってます。

……原作でイッセーに言った「悪魔になってよかったな」発言の
意趣返し……かもしれません。もしセージがそんな事言われた日には
確実にブチ切れますので。


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Launch a counterattack

今回の連続投稿にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
これにて連続投稿の締め、反撃編です。

いよいよセージの新たな力がベールを脱ぎますよ。
皆様のご期待に沿えるかどうかはわかりませんが
今まで苦汁をなめさせられていたセージが、いよいよ本格的な反撃に出ます。


アインストレヴィアタンの上空に、次元の裂け目が走る。

空はガラス窓を割るように破裂し、その中から紫の光と赤い光が飛び出す。

赤い光はサーゼクスを抱え、紫の光はセラフォルーを放り投げ荒廃しきった駒王学園に降り立つ。

 

「あ……あ……!!」

 

「う……い、イッセー……セージ……?」

 

「部長さん! 見てますか!? イッセーさんに……セージさんが……!!」

 

降り立った光に呼応するかのようにアーシアに看病されていたリアスが目覚め。

光の正体に、ある者は驚愕し。ある者は感極まり。

 

『ここが…………の世界か』

 

「よく聞こえなかったが、多分違う」

 

『そうか、大体分かった』

 

ここに、次元の狭間に送られた赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)が蘇り。

次元の狭間で産声を上げた紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)が降臨したのだ。

 

「赤龍帝……何度来ようと……同じ事……」

 

「同じなものかよ! よくも部長を痛めつけてくれたな!

 それに今度は宿命のライバルじゃない……俺のダチが手を貸してくれるんだ!

 部長のためにも、セージのためにも俺は負けねぇぞ、ドライグ!」

 

『白いのが気がかりは気がかりだが……いいだろう。

 あの新入りドラゴンの力は、戦いの中で見させてもらおう!』

 

「フリッケン。事実上の初陣だが、やれるか?」

 

『当然だ。俺を誰だと思ってる。

 手始めにセージ。さっきの力の応用で、カードが二枚引けるぞ』

 

紫紅帝龍――フリッケンの声に従い、セージの記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が光を放つ。

僅かながらに形状の変化したそれは、今までのカードスロットの部分が増設されていた。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

「アインストレヴィアタン。あれ? そういえばこいつさっき……

 

 い、いや違う! 読める! 読めるぞ!

 弱点は赤い球体の結晶。アインストに属するもの共通の弱点。

 『エアヴァルトゥング』――砲は再チャージに時間がかかり

 その間を『シュワンツアハウエン』――尾のなぎ払いに

 『エレガントアルム』――上半身の触腕で埋める攻撃法。

 止めとして右手で握り潰す『ウアタイルスクラフト』を用いる……。

 また、水や氷を操る事もある、か。

 長時間身体を形成する『ミルトカイル石』の影響を受けたものは

 アインストに精神を支配され、アインストになってしまう――」

 

セージの基本的な能力である対象物のデータの読み取り。

それが、紫紅帝龍の力なのか、あるいはセージ自身が進化させたものか。

ここに来て、大幅な強化を遂げていたのだ。

 

「……!? 私の……知らぬ……力が……?

 あなたは……何者です……?」

 

『「通りすがりのドラゴンで……人間だ! 覚えておけ!」』

 

セージの身体――魂には未だ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が植え付けられている。

されど、セージの心は初めから人間のままである。

それが、白金龍(プラチナム・ドラゴン)に対しリアス・グレモリーがつけた名前――

歩藤誠二ではなく、人間としての名前――宮本成二を名乗った理由でもある。

 

たとえその身は悪魔であれど、心は決して悪魔には渡さない。

その心意気こそが、セージをセージ足らしめている最大の力であった。

 

COMMON-SCANNING!!

 

「骨の方はアインストクノッヘン。触手を生やした方はアインストグリート。

 どちらも弱点はさっき言ったとおり。触手のほうは顔に当たる部分から

 『ハイストレーネ』ってビームを撃つ。気をつけろ。

 勿論、『エレガントアルム』――触手にも気をつけろよ。

 イッセー。分かってるとは思うが……」

 

「……いや、あんなわけの分からない生物に俺のロマン理解してもらえるとは思ってないぜ……。

 あれは触手丸とは違う。違うんだ……」

 

セージの突っ込みに落胆した様子でイッセーは新たに召喚された

触手の束で形成されたアインスト――アインストグリートの討伐に向かう。

木場や朱乃、小猫といったリアスの眷属らが戦ってはいたものの

一向にその数を減らすことは無かった。そこに、イッセーが駆けつけたのだ。

これにより、ある程度の挽回は可能になったかのように見える。

 

「次を試してみるか――!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

GUN-EXPLOSION!!

 

SOLID-SHOTGUN!!

 

次にセージが実験したのは「爆発」の魔法と「銃」の実体化。

これにより、爆発――つまり散弾を発射する銃が完成したのだ。

実際、この時点でこの銃は力不足である。悪魔相手ならいざ知らず

アインストに光力は然程効果が無いことは証明されている。

カテレアだったアインストレヴィアタンに向けても

こうも格が違えば威力は期待できないだろう。

 

「あらあら。まるで新しいおもちゃを貰った子供みたいですわよ?」

 

「遊んでるつもりはありませんがね。ただどれ位のことが出来るのか、は早く知りたいですね」

 

笑いながら茶々を入れてくる朱乃の背後に立ったアインストめがけ

セージが実体化させたショットガンが火を噴く。

威力自体は爆発魔法を銃で撃っているような感じであった。

それは、力不足と言うほどでもないが大将首を刈り取るには不足感がある。

完全に、雑魚散らし用だろう。或いは接射すれば話は変わるかもしれないが。

 

「お次は――!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-SWORD!!

 

SOLID-SWING-EDGE!!

 

セージの左手から触手が伸びる。

以前イッセーにせがまれ披露したら、何故かバッシングを受けた。

しかしそれでもセージにしてみれば使い勝手は優秀であるため、事あるたびに使っている。

以前は一本だけだった触手も、複数本に増えている。

アインストグリートみたいに、全身が触手の相手と比べると見劣りするが。

今回実体化させた触手は、先端や茎の部分に刃が仕込まれている。

それを振り回すものだから……当然、広範囲に攻撃が届く。

 

しかしこの触手、欠点もあった。

一つは、刃が仕込まれているため味方への被害も考慮せねばならないし

緊急時に対象を触手で捕まえて逃がすと言う方法が使えない。

また、今回のように触手などしなる長物を振り回す相手だと――

 

「あ。絡まった」

 

「セージ君。試すのはいいけどさ、相手をよく見たほうがいいんじゃないかい?」

 

「ご尤もだ。助かったよ、祐斗」

 

木場の援護を受けながら、そして力を試すようにアインストの軍勢の数を減らしていく。

その姿は、神仏同盟や三大勢力に再び闘志を与えていた。

 

「赤龍帝が……兵藤君が生き残った形か。しかし、あの謎のドラゴンは一体……」

 

「ひどいよ~、なんでサーゼクスちゃんがちゃんと抱えられてて

 私はぞんざいにぶん投げられてるのよ~、普通逆じゃない!?」

 

アインストレヴィアタンの攻撃から辛くも生き残った形の二人の魔王。

あの時次元の狭間に飛ばされた彼らだったが、その先に偶々イッセーとセージがいたのだ。

通り道だから、と言う理由でイッセーは真面目に、セージは渋々救助していた形となる。

ともあれ、これで冥界にとって最悪の事態は免れたことになる。

……苦しみが伸びただけ、とも取れるかもしれないが。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

HIGHSPEED-STRENGTH!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

「塔城さん! 使って!」

 

「……やっぱりこの武器、しっくり来ます」

 

一方、セージはギャスパニッシャーを実体化させ、小猫に渡していた。

そして能力の強化も、速度・パワーの両方を強化できるようになっている。

強化された戦車の力で。物凄いスピードで質量武器を振り回すのだから

その威力は折り紙つきだ。

 

「……ギャー。後はあんたがやりなさい」

 

「ええっ!? ぼ、僕ですかぁ!?」

 

小猫からの提言で、ギャスパニッシャーの装置ではなくギャスパー本人の力で

アインストの動きを止めよう、と言う話になっている。

今まで震え上がっていたギャスパーだったが、一歩ずつ前には進もうとしていた。

ただ、その環境があまりにも恵まれていなかった。

なまじ至れり尽くせりで、外に出ようという気概を悉く打ち消していた幽閉時代。

強引に連れ出されるも、あまりにも強大な敵が立ちふさがった今。

しかし、ここに来てイッセーと本領を取り戻したセージと言う二人の味方が来たのだ。

いや、ギャスパーが目をそらしていただけで初めから味方はいたのだろう。

 

「……セージ先輩だって新しい力を手に入れた。陳腐な言い方だけど

 きっとセージ先輩は諦めなかったんだと思う。だからやるだけやってみて」

 

「そうだぞギャー助! 万が一があっても俺たちでフォローする!

 俺とセージは飛ばされても生きて帰ってきたんだ! 俺たちを信じてくれ!

 だから、俺もお前と一緒に戦わせてくれ!」

 

「わ……分かりましたぁ!!」

 

ギャスパーの目が怪しく光り、視線に入ったアインストが軒並み動きを止める。

そこに、ギャスパニッシャーが振り下ろされアインストは粉々に砕かれる。

ギャスパーの神器は、確かに正しく使えたのだ。

 

「や……やった! 出来た! 出来ました!」

 

「……やれば出来るじゃない、ギャー君」

 

「いいぞギャスパー! その調子だ!」

 

ギャスパーの活躍。それに沸き立つリアス眷属。

消耗し、立ち上がることの出来ないリアスだがその様子を見て感涙している様子ではある。

 

「ギャスパー……あんなに笑って……

 それにセージも……私、セージには何もしてあげられなかったから……」

 

「部長さん……」

 

宥めるようにリアスを抱きしめながら、アーシアはただ戦う者達の無事を祈る。

神でも、悪魔でもなく。ただ、彼らが無事であることを。

 

そして、いよいよ取り巻きのアインストクノッヘンに

アインストグリートはその数を大きく減らした。

残すはアインストレヴィアタン。かつてカテレア・レヴィアタンだったもの。

その強大な力は数多の神にも匹敵しかねない。

しかし、だからと言って倒さないわけにも行かない。倒さねば、この世界の未来は無いのだ。

 

「何故……拒むのです……静寂なる……世界を……」

 

「世界のあり方を決めるのは誰か一人であるべきではないと私は思います。

 まして、あなた方は他世界の存在でしょう。

 干渉しようと言うこと自体が既におこがましいのですよ」

 

「理解……不能……」

 

ヤルダバオトの指摘に逆切れするかのように、アインストレヴィアタンの攻撃は激しさを増す。

しかし攻撃のタネは、今までの戦闘やセージのスキャニングで読まれている。

威力は凄まじいが、完全に防げない攻撃でもなくなっているのだ。

 

『セージ。こいつは今までの小手先は通じない。

 こうなったら……ちょっとくすぐったいかもしれないが、俺の真価を見せてやろう。

 自分に「半減」と「倍加」をかけるんだ。順番を間違えるなよ?』

 

「――? わかった。こうか――?」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

言われるがままに、セージは「半減」と「倍加」の力を行使する。

すると――

 

「うぇ!? せ、セージが増えたぁ!?」

 

「あらあら。二人もセージ君がいたら困ってしまいますわね」

 

「高速移動の分身、って訳じゃ無さそうだね」

 

そう。紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)が光ったと同時にセージが二人になったのだ。

「半減」を使うことでセージ自身が半減――つまり二人に分かれる。

2分の1であるそれぞれのセージが「倍加」を使うことでそれぞれは1と1――

つまり、同一の能力を持つ分身が現れたことになるのだ。

 

「「これは……面白い能力だ」」

 

『まだまだ増やせるぞ。試してみろ』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

「「「「なるほど」」」」

 

「「「「これは戦術の幅が」」」」

 

「「「「広がりそうだ」」」」

 

都合32人ほどにまでなったセージの大群。

しかも1人1人がオリジナルと全く同一の能力を有している。

赤龍帝は10秒毎に際限なく自身の力を倍化させるというが

赤龍帝の力と白龍皇(バニシング・ドラゴン)の力を限定的とは言え行使できる紫紅帝龍の力は

半減と倍加。それぞれを組み合わせることでこうした拡張性の高い力を生み出しているのだ。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)では出来ないこと、それは――

 

「前衛! 接近戦用の装備で突撃スタンバイ!

 中衛! 前衛のアシスト、ならびに援護射撃!

 後衛! ラッパ演奏! これをローテーションだ!」

 

なんと、セージがセージに指揮を出しているのだ。

自分相手の指揮だから、コンビネーションもあわせやすい。

しかも、セージの能力は今までに培ったものだけでも多岐にわたる。

それらを最大限に活用すれば、禁手に匹敵しかねない、あるいはそれを超える力を発揮するのだ。

 

SOLID-TRUMPET!!

SOLID-SHOTGUN!!

SOLID-DEFENDER!!

SOLID-PLASMA FIST!!

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

PROMOTION-ROOK!!

 

大盤振る舞い。先ほどからカードコストを一切度外視している。

久々に揮える力でセージが有頂天になっている部分があるかもしれないが

実際問題、アインストはこれ位やらないと倒せない部分があるだろう。

フル装備、能力強化済みのセージの軍勢がアインストレヴィアタンめがけて突撃していく。

 

「何故……抗うのです……?」

 

「お前の言う世界が、正しいとは思えないからだ!」

 

陣形を組み、ディフェンダーでアインストレヴィアタンの攻撃を防ぎ

その影から魔法や砲撃で援護射撃が行われる。

それらの攻撃は蚊に刺された程度の威力しか発揮しないが

本命は、接近しての一撃だ。

 

プラズマフィスト、ディフェンダー、ギャスパニッシャー。

今までセージが記録した様々な武器が、戦車(ルーク)の力で振り回される。

さらにセージが変化した戦車の持つ力は――

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

重力の操作、衝撃の方向変化など。「力」とつくものを自在に操れるのだ。

これによりアインストレヴィアタンの攻撃を無力化し

セージの攻撃は逆に次々と突き刺さっていく。

一人ならばできない作戦だが、セージは自分が増えることで能力の使い手を分担。

これらの能力を無駄なく発揮している。

多岐にわたる能力を余すところ無く発揮するためにたどり着いた、一つの結論であった。

 

「……もう全部セージ一人でいいんじゃないかな」

 

「ぼさっとすんなイッセー! お前も戦いに参加しろ!」

 

後ろで様子を見ていたイッセーに、セージの一人の野次が飛ぶ。

そう。セージがどれだけ増えようと、一人一人の力は

アインストレヴィアタンの足元にも及ばないのだ。

そこには、自身の力を極限まで強化できる赤龍帝の力は不可欠だ。

 

「俺が動きを押さえるから、一撃でかいのを頼む」

 

「分かった、行くぜドライグ!」

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

EXPLOSION!!

 

赤龍帝の倍加。禁手(バランスブレイカー)である現時点では、瞬時に最大限まで倍化させることが出来る。

セージには、その芸当は不可能である。そのため、イッセーに依頼するしかなかったのだ。

そしてさらに、その強大な一撃を繰り出す事ができる者は、まだ存在している。

 

「その強大な一撃、私も参加させてください」

 

「天照様!? ね、願っても無い事です!

 力をお貸しいただけるのであれば、これほどありがたい事は……うぐっ」

 

損傷こそあるものの、天照は顕現させていた艤装の46cm砲をアインストレヴィアタンに向ける。

その後ろでは、大日如来が日輪で照らし天照の力を高めている。

彼女の申し出に、セージは深々と頭を下げる。頭痛を伴いながら。

 

「少年。天照の電探と同調は出来るか? 命中精度を上げれば、より確実に倒せる」

 

「分かりました、やってみます」

 

交代要員として待機していたセージの一人が、天照との通信要員に立候補する。

その間も天照の砲撃は続いている。そのセージの役割は、着弾位置の観測。

適宜報告する事で、着弾位置の修正を担っているのだ。

当然、アインストレヴィアタンも棒立ちでこれらの行動を好きにさせているわけが無い。

イッセーには倍化させた力を消耗させようと。天照には大日如来の援護と

セージの着弾観測を妨害しようと。再びアインストの軍勢を呼び出したり

巨大な尾で薙ぎ払いを仕掛けてきたりしている。のだが――

 

「ふんっ……!」

 

「「「「ここは俺たちで押さえる!」」」」

 

飛んできた巨大な尾は小猫と戦車に昇格(プロモーション)したセージの軍団が押さえに回り。

 

「本当に次から次へとキリがありませんわねぇ」

 

「けれどさっきから同じことを繰り返していると言う事は

 相手もタネが切れたってことですよ副部長」

 

「「「「だからこいつらを押さえて、でかい一撃を入れてもらえば倒せるかもしれない!」」」」

 

アインストの軍団は朱乃の魔法に木場のスピード、そしてセージの軍団が各個撃破。

 

「言ったはずですよ。その程度の攻撃ならば防ぐのは造作もありません、と」

 

「アザゼルとサーゼクスの分は私が引き受けましょう。偽神と組むのに思うところはありますが

 今はあの攻撃を防ぐことが大事ですからね」

 

ヤルダバオトとミカエルがバリアを張り、尾のビーム――エアヴァルトゥングを防いでいる。

こんな事態になってようやく三大勢力の足並みが揃い始めてきたのだ。

共通の敵がいれば、それを倒すために協力することはよくあることではあるが。

ともあれ、こうしてアインストレヴィアタンは三大勢力と神仏同盟に押される形となっている。

 

「何故……どうして……望まれる……静寂なる……世界を……」

 

「言ったはずですよ。それを決めるのはあなたではありません」

 

尾を掴まれたアインストレヴィアタンは動きを止め、着弾観測も同時に完了する。

今まさに、太陽の神と赤龍帝の最大の一撃が繰り出されようとしていた。

 

「天照様、今です!」

 

「わかりました。第一、第二主砲――斉射、始め!」

 

セージも着弾観測など初めての行いであったが、無事に天照の砲撃は

アインストレヴィアタンに突き刺さる形となった。

徹甲弾の直撃を受け、その巨体を大きくのけぞらせる。

再生の隙を与えることなく、次は赤龍帝の攻撃が繰り出される。

 

『準備は出来ているぞ、相棒!』

 

「ああ――ドラゴンショットぉぉぉぉっ!!」

 

イッセーの左手から放たれたエネルギーは、確実に天照の砲撃が狙った場所を貫いている。

この一撃で、さらにアインストレヴィアタンはその体勢を大きく崩す。

そしてさらに――

 

「「「「俺達も仕掛けるぞ! たとえ一撃が弱くとも……」」」」

 

「「「「再生の暇を与えなければ!!」」」」

 

続く形で、セージが思い思いの最大威力の攻撃を繰り出している。

ギャスパニッシャー、ディフェンダー、プラズマフィスト。

そして見よう見まねの面ドライバーキック。一撃の威力はないものの

これを複数で休み無く繰り出しているのだ。

 

「僕も参加させてもらうよ!」

 

「それじゃ、私もお邪魔させてもらおうかしら」

 

「……行きます!」

 

「ぼ、僕だって!」

 

セージに感化される形で、リアス眷属も攻撃に参加する。

一人ひとりは、アインストになる前のカテレアにさえ及ばない。

だが、こうして集まることでその威力は途轍もないものになっているのだ。

 

朱乃の雷は、プラズマフィストの電圧をさらに強化し。

木場の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)は、デュランダルが変異したディフェンダーとの連携で

カテレアの弱点であった光力を叩き込み。

小猫の力は、セージによってさらに増幅され、同時攻撃を叩き込まれ。

これらを補うように、アインストレヴィアタンの周囲にはギャスパーが変化した蝙蝠と

消耗の関係で攻撃に参加していないセージが撹乱に回っている。

 

リアス眷属、神仏同盟、三大勢力。一斉攻撃の前に

ついにアインストレヴィアタンは崩れ落ちようとしていた。

その証拠に、弱点である赤い球体が露出してしまっている。

 

「何故……私は……新たな……世界を……」

 

「弱点が露出した! ここを叩けば!」

 

「もういっちょ行くぜ! ドラゴンショット!!」

 

「続けて撃ちます! 全主砲、斉射!!」

 

天照の砲と、イッセーのドラゴンショット。

再びこの二つの攻撃を受け、今度こそアインストレヴィアタンは沈黙した――

 

「理解……不能……」

 

それと同時に、その身体は崩れ落ち、転移しようとしていたアインストの軍勢も消失。

轟音と共にアインストレヴィアタンの巨体は崩壊、塵すら残らず消え去った。

 

――アインストの触手は、断ち切られたのだ。

 

「終わった……みたいだね」

 

「や、やっと倒せたのかよ……とんでもないバケモノだったぜ……」

 

「これで事態は収束するでしょう……

 ともあれ、今は休むべきでしょうね。一人、酷く疲れた様子の方がいますし」

 

周囲の視線が、セージに向く。

実際、30人以上の分身を作りコストを要求されるカードを大盤振る舞いで濫用したのだ。

消耗をするなと言うほうが無理である。

今まで力を満足に揮えなかった反動もなくは無いのだろうが。

 

「大丈夫……って言いたいところだけど、ちょいとね。

 すまないが、一度眠らせてもらっていいか――」

 

言い終える前に、そのままセージは突っ伏して眠ってしまった。

今しがた眠り始めたと言うのに、もう深い寝息を立てている。

これでは、今のすぐに起きるのは無理だろう。

 

 

 

……しかしこの時、セージの魂にも異変が起きていた。

ただ疲れただけが原因の眠気ではないのかもしれない。

帰還する前、白金龍(プラチナム・ドラゴン)の言っていた忠告。

既に魂が離れて数ヶ月が過ぎたセージ本来の肉体。

そしてこの場での魂への多大な負荷。

 

確かに、セージの右手は戻り、力は増す形でセージの元に戻った。

しかしそれは、また新たな問題の始まりを意味していたのかもしれない――




ガータガタガタキリバッ ガタキリバッ

……これにて連続投稿、終了となります。
ありがとうございました。
以下解説

>イッセーとセージの登場方法
ウルトラマンAより。
超獣出現シーンを再現した……つもりです。
異次元から登場するといえば、これになりましたので。
白金龍はゲートを開けるとは言ってますが、クロスゲートに干渉するとまでは
言ってませんので。というか出来ません。

魔王を助けられたと張り切ってるイッセーと対照的に
この時のセージはすっごくいやそうな顔をしてます。

>セージが新たに得た能力
・今まで獲得した能力を組み合わせて別の能力を作る
昨今力不足になっていた最序盤の木場の剣やフリードの銃。
これも組み合わせ次第であら不思議! 一線級の武器に返り咲いちゃいます!
組み合わせは無限大! 手札を生かすも殺すも自分次第!
……とまあ、実にセージらしい強化を果たしてます。
尚、ラーニング能力は継続中です。

・フルスペックの分身生成
倍加と半減を組み合わせた結果。
自分に半減で2分の1になり、そこに倍加することで1に戻る……

のはいいんですが、半減の際に半分になったのが2つに増えてまして。
そこで倍加をかければ1が2つになる……って寸法。
それぞれ1回しか使えないはずですが、こうして1に戻ったことで
使用フラグがリセットされるため、さらに使用可能となります。
そのため、イッセーみたいに倍加をどんどん繰り返すのは不可能ですが
実質戦力は禁手イッセーとほぼ同等に強化可能だったりします。
……さらに言うとこれ、禁手じゃないんだぜ……?

尚元ネタは仮面ライダーオーズのガタキリバコンボ。
こちら金の動かない二次創作だから使い放題。やったね、すごいね。
でも体力的な消耗や弱点(ダメージの共有)とかは元ネタに倣ってます。
数はオーズTV本編を、使い方は劇場版オーズを参考にしてます。

>イリナは何処へ?
……さあて、ね。
そもそもこの会談自体がアインスト倒してよかったね、で
終わる性質のものではありませんので。

>ヴァーリは(ry
アジュカが無事送り返しました。次話には出てくると思います。
……原作では一大勝負だったはずなのに、因縁がまるっきりないセージがメインでは
こんなもんです。とりあえずセージからコカビエルと同類扱いされているのを
何とかしないことには……

>会談の結果
ある程度三大勢力の足並みは揃いましたが
それぞれが地雷を抱えている上に神仏同盟からは不信感MAX。
さらにヤルダバオトも教師やってる場合じゃない状態ですので……
不幸中の幸いはアインストという共通の敵がいることでしょうか。

ですが……何故コカビエルはアインストを知っていたんでしょうかねぇ。
ヴァーリがアインストを知っていたのは、オーフィスに直接聞いたからですが。
コカビエルがオーフィスとコンタクトを取ったとは考えにくいのに。
堕天使にもアインストに支配された方がいるかもしれませんよ、ククク……

さて。
今回初の試みでしたが、アンケートご協力いただきありがとうございました。
4巻部分は残すは事後処理と禍の団とアインストが襲ってきたその時の
超特捜課、並びにゼノヴィアらの様子を描くことになると思います。

5/23追記・変更。
ちょっとややこしかったかもしれませんが、まだセージの身体は病院ですよ?
誤解を招いたかもしれない部分を一部修正。


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Soul55. 戦いすんで朝が来る

燃え尽き症候群かしら。それとも五月病?
筆の進みが若干遅くなっております。

お待たせしました。
会談・結論編の開始です。


気が付くと、東の空が既に明るくなりかけていた。

既に戦いは終わり、天使や悪魔、堕天使に……

法衣を着た人達や、和装の人にセーラー服っぽいけど、何かが少し違う女の子達もいる。

恰好からして、前者は間違いなく三大勢力の関係者、後者は神仏同盟(しんぶつどうめい)の関係者だろう。

 

でもって俺の記憶の中では、確かアインストレヴィアタンを倒して……

それから……ああ、寝てたのか。

よくわからないが、記憶していた最後の場所と若干だが現在地が違う気がする。

何せ、目印がほとんど吹っ飛んでいてわからない。

 

しかし我ながらよくもまあこんなところで寝たものだ。

一応誰かが敷いたであろう、ビニールシートというお粗末な敷物はあったが。

おかげで口の中が少しじゃりじゃりするし、体も痛い。

これはあれか。今まで散々野宿してたから慣れたのか。そうなのか。

 

……この件に関して深く考えると何だかみじめだからやめよう、うん。

 

「……にしても、ひでぇな……」

 

改めて周りを見渡して思う。

ここ、間違いなく駒王学園だよな?

学園を学園足らしめているもの――すなわち、校舎が跡形もなく吹き飛んでしまっている。

それは戦闘の激しさを物語るには十分すぎるんだが……

 

これ、授業どうするんだよ。

 

「お、起きたかセージ。おはよう」

 

「ああ、おはようイッセー。お前はさっきまで起きていたのか?」

 

まだ復興作業やら何やらで慌ただしそうな周囲の中で

イッセーは言っては何だが暇そうにしていたので

俺は寝ている間に何が起きたのかをイッセーに聞いてみることにした。

曰く――

 

かろうじて勝利は収めたものの、三大勢力は軒並み被害が甚大。

特に右腕を失ったアザゼルのダメージは酷く、しかも滅びの力に浸食されたおかげで

アーシアさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)でも止血や傷口の腐敗防止がようやくだったというくらいだ。

魔王陛下も二人とも冥界と連絡を取っているらしい。

 

なんでも、冥界にもアインストが出たそうな。それでこっちに残りの魔王や

政府直属部隊(イェッツト・トイフェル)がやってこなかったのか。納得。

シトリー会長ら地下に逃げた人達も無事が確認された。

地下シェルターは相当頑丈に作られていたらしい。が、相当揺れたとは

シトリー会長の新入りの兵士(ポーン)……名前忘れたが。の言らしい。

イッセーが直接聞いたそうだが。いつの間に仲良くなったんだ?

 

そして、これは俺も聞いて驚いた。寝ていて幸運だったというべきか。

……何と紫藤イリナが、アスカロンでミカエルを刺したそうなのだ。

 

イッセーが言うには、うわ言のように「ウソツキ……ウソツキ……」と呟きながら

アスカロンをミカエルの背後からブスリ。さらに狂ったように笑いながら滅多刺し。

止めに入った天使にもミカエルの血で染まったアスカロンを向けるものだから

その様子たるやまるでフリード・セルゼンのようだった……とはイッセーの弁だ。

話を聞くだけで背筋がゾッとする。

いやまあ、あの時の彼女の様子は確かにただ事ではなかったが。

 

「……迫真の演技ありがとうイッセー」

 

「俺もアレにはマジでビビった……イリナ、どうしちまったんだよ……」

 

イッセーもイリナの豹変ぶりに困惑しているが、敬虔な信者が

自分の崇拝するものが偽物だった、などと聞かされた場合には

その後の変化のパターンの一つとして、狂化するってのもあるんじゃないかとは思う。

ある意味、フリードだってそうなのかもしれない。

まあだからって、大量殺人を肯定するつもりはさらさらないが。

 

とまあ、それによりミカエルも重体で天界に救急搬送。

現在天界陣営の指揮は残りの熾天使が交代で執っているらしい。

アスカロンも、この行為により竜だけでなく天使も殺す聖魔剣へと変質してしまったそうだ。

そりゃあ、天使の――それも大天使長の生き血を吸った曰くつきの剣ともなればなぁ。

しかし、あれだけ忌み嫌っていた聖魔剣を、まさか自分が持つことになるとはね。

何とも皮肉な話だよ。

 

そんなわけでイリナはそのまま逃走、外にいた……これも驚きだが

刑務所から脱獄したらしいフリードに連れられて消息不明。

聞けばフリードは、今度は剣ではなく紫色の大蛇と銀色の犀

それから朱色のエイを引き連れていたらしいが。

一体全体、どこでそんな怪物を確保するのだろう。

と言うか、あいつもいい加減しつこいな……物の喩えに出した矢先にこれかよ。

警察が無能だとは思いたくないが、こう何度も同じ相手に逃げられては……

 

ふと、次元の狭間に置いて来る形になってしまった白龍皇(バニシング・ドラゴン)の事を思い出した。

あの時は構っていられなかったから放置してたが、あいつとも一度話すべきだろうか。

と言うか、いくら何でもあんなところに放置はまずかっただろうか……?

 

……テロリスト相手に何を話すんだ、って気はするが。

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)とただならぬ因縁があるというらしいが、はっきり言って俺には関係ない。

少し前の、ドライグの分霊を宿していたころの俺ならともかく

紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)は白龍皇の力の一部から生まれたようなものとはいえ、因縁はまるでない。

 

「イッセー。白龍皇だが……」

 

「ああ、はっきり言って変な因縁つけられて俺も迷惑してたからな。

 内心、俺はお前を応援してたんだぜ。『よくぶっ飛ばしてくれた』ってな。

 ……って言うとドライグに変な顔されそうだけどよ。

 

 その当の本人は……アジュカ様がこっちに運んできてくれたけど

 その矢先にフリードが来てな。『約束は守れ』とか何とか言って連れて行っちまった。

 必死にアザゼルが呼び止めようとしていたけど、全然聞く耳持ってなかったな。ありゃ」

 

約束……あれが交わした約束で思い当たるのなんて、テロリスト絡みしか出てこないが。

となると、フリードもテロリストの一員になったのだろうか。

アインストは例外中の例外だから除外するとしても、一体全体どれだけの規模の組織なんだろう。

せっかく戻ったんだ、後で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を引いてみよう。

 

『……そうか。「赤」と「白」の戦いも、お前達にはその程度の価値しかないということか。

 時代の流れとは、何とも無情なものだな。

 相棒。お前の強さの方向性は、白いのとの戦いに

 新しい可能性を見出せると思ったんだが……残念だ』

 

ドライグがやけにしんみりした様子でぼやいている。

戦いを強要しない分、有情というべきだろうか?

……と言うかだ。さっきから聞いていればドライグの奴も結構勝手だ。

そもそもイッセーの人生はイッセーが決めることだろうが。

その方向について俺から言いたいことが無いわけでもないが

イッセーの人生を俺が強制する権利など、ありはしないんだ。

だからドライグ。お前にもそんな権利あるわけないだろうが。

……さらに言えば、グレモリー部長にもありはしないんだがな。

 

ともかくこれで、リーダーが重傷を負い執務にも支障が出る状態になった天使と堕天使。

本土にも襲撃を受けた上に、今回の事件の発端となる首謀者を出してしまった悪魔。

これで三大勢力は痛み分け……って事になったのか?

……聞いた話では、確か今回の会議は和平を執り行うという名目だったそうだが……

素人の見た目だが、とてもそんなこと言っていられる状態には思えないんだが。

 

「イッセー。今回は和平交渉が主な目的だったらしいが、その和平交渉はどうなったんだ?」

 

「それどころじゃなくなったってさ。アザゼルもミカエルもしばらく復帰は出来そうにないし

 冥界にはアインストが出たらしいし。そっちの対応で

 とても他の勢力になんか構ってられないんだってさ。

 天界は他の熾天使が、堕天使はシェムハザって奴が代役を務めるらしいけど」

 

しかし、何故冥界にアインストが出たんだ?

こっちのアインストはカテレアが呼び出したと考えれば

凄く納得がいくんだが、冥界本土のアインストはどうしてもわからない。

……まさか、他にもアインストと繋がっている奴はいるってことか?

それに……白金龍(プラチナム・ドラゴン)の話を踏まえても

カテレアが呼び出したアインストが全部じゃないだろう。

ここに出たアインストはカテレアの撃破と同時に消滅したらしいが

まだアインストの大本はいるらしいし。

白金龍は「大本には手を出すな」とは言ってたけれど……

 

等と思っていると、向こうから薮田先生が歩いてくる。

この人も大変だよなぁ……実は偽物の聖書の神とか、そういうのを抜きにしても

学校がこんな状態なんだ。関係各所への説明とかどうするんだろ。

それに確か、この人超特捜課(ちょうとくそうか)ともつながっていたはず……

 

そういえば、超特捜課がここに来た様子はないけど……

ま、来たら来たでアインストの相手は悪魔以上にしんどい気がするのだけど。

 

「お目覚めのようですね宮本君。そう言えば、あなた方二人は異次元に飛ばされたそうですね。

 宮本君の右腕の事と言い、おそらく異次元で何者かと接触したのでしょう。

 もしそこで得たものがあったのであれば、それは今後にとって

 聞いておく価値のある話と私は思います」

 

「そういえばそうだ。なぁセージ、向こうで何があったのか俺にも教えてくれよ!」

 

するどい。いや、普通に考えれば当たり前か。

右手を失った状態で飛ばされて、帰ってきたら右手が元通りプラスアルファなんだもの。

向こうで何かがあったって考えるのが妥当だろう。

別に太陽の光に照らされて知らない間にパワーアップとかそういうのじゃないんだし。

……その時不思議なことが起こった、のに違いはないのだけど。

 

「先生。構いませんが話長くなるかもしれませんよ。

 俺は授業に出られないので別にいいんですが、先生やイッセー達の授業とか……」

 

「ああ、授業ならご心配なく。学校がこの有様ではとても出来ませんよ。

 ……敷地地下に埋まっていた不発弾が爆発した、と外部には説明してありますが

 このお陰で夏休みが早まったのはあなた方には幸運というべきなんでしょうかねぇ?

 宿題も用意していたものが全滅ですからね。新しく用意しないといけませんよ」

 

「……私には全然嬉しくもなんともないわよ。宿題はともかく」

 

少々の嫌味交じりで薮田先生が俺に話しかけてくる。

この惨状は埋まっていた不発弾の爆発が原因、か。

ちょっと無理があるかもしれないと思うのは俺だけか?

この地方が空襲を受けたって話は確かなかったはずなんだが。

原発のない地域に原子力発電所の事故が原因で地図から消えた――

って理由をつける以上に無理がありそうだが。

一方、何やら不機嫌そうなのはグレモリー部長。一体どうしたんだ?

 

「セージ、とにかくまずは無事で何よりだわ。

 その力のこともよく聞かせてほしいのだけど……

 それより、本来私は夏休みに冥界に帰省しなければならないの。

 それが、今回の事件で夏休みが事実上繰り上げになっちゃって……

 家は私に今すぐにでも帰れってうるさいのよ」

 

「アインストがいる冥界に帰れってのも……な話もありますが

 親御さんは部長が心配なんでしょうな。

 一応部長は元気そうなので、その顔を見せるだけなら早く済ませるべきだと思いますが」

 

「相変わらず他人事ねセージ。でもあなたも行くのよ。

 無論イッセーも……つまり、眷属全員私に同伴よ」

 

はぁ。まあそういうだろうとは思ってましたがね。イッセーはまた冥界に行けることが

楽しみで仕方のない様子だが。今回は使い魔ゲットのリベンジじゃないだろ?

誰かの眷属に、道具にされるってことはこういう時に自由が効かないってことだ。

だから俺はこの制度が気に入らないんだがなぁ……

俺にも俺の予定がある。事情がある。

その辺無視して話し進められたんじゃたまったもんじゃないんですよ。

……これ、前にも言った気がするんだけどな。

 

ただ今回の冥界行きは俺にとっても全くの無駄で、無価値で、無意味なことでもなかったりする。

そろそろ、こっち側だけで調べられる情報に限りが見えてきたのだ。

俺の現状の癌は、間違いなく悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だ。

それを解決するために情報を集めるとなれば、こっちより冥界なのは明白だ。

 

問題はそううまく行くかどうか、って事だ。

向こうでの行動の自由なんて、どうせ保証されていないだろう。

 

ダメなら最悪、ちょーっと……実力行使に出る必要もあるかもしれないな。

 

『セージ。俺とお前の力なら、たとえ奴が相手でも遅れは取らんぞ』

 

フリッケン。そう言ってもらえるのはありがたいが、オフレコで頼む。割とマジで。

禁手のイッセーならともかく、他は……まぁ、勝算が無いわけでもないし。

いや寧ろ、イッセーが一番御しやすいか。地の力は今となっては紫紅帝龍の力も併せて

互角以上には持ち込めるはずだ。そもそもそういう性能の代物だ。

 

「はぁそうですか。それより薮田先生。今話していた事ですがね。

 俺もそれを言わなきゃならないと思っていたんです。

 知っての通り、禍の団(カオス・ブリゲート)はともかくアインストは相当に危険な連中ですので。

 ……ただ、それに加えて俺はどうしても言いたいことが……」

 

「いいですよ。本当に伝えるべき方々は皆帰ってしまいましたが……

 まだ魔王の二人が残っています。彼らにだけでも……

 いえ寧ろ彼らにこそ伝えるべきかもしれませんね。

 あ、ちなみに大日如来様と天照様は宮本君の身の上は粗方ご存じのはずですよ。

 おっと。噂をすればなんとやら……ですか。天照様がお見えになりましたよ」

 

「あ、お目覚めになりましたね。歩藤……いえ、宮本成二さんですね。

 神社から、あなたのお母様からお話は聞いております。

 この後、改めて会議を行うそうなので是非あなたにも出席していただきたいのです。

 これは正式な会議参加者である私からの要望として

 三大勢力の皆様に伝えさせていただきます。

 それまでは少しお休みになってください。大日如来様が炊き出しをなさっていますので」

 

天照様は黄緑色のバケツを抱えて、セーラー服っぽい恰好から着物に着替えておられる。

俺のことを知っていた……母さんが神社で俺のことをお祈り……話したのか。

それを天照様は、神様は聞いてくださったのだ。ありがたい……本当にありがた痛い話だ。

軽く会話を交わし炊き出しに向かう天照様を見送る。

 

……戻ってきた際に何やらバケツにすっぽりと収まるサイズのおにぎりと

ラーメンどんぶり――それも超特大盛の大きさのお椀に

なみなみと注がれた味噌汁が見えた気がするが、俺は何も見なかったことにしようと思う。

塔城さんもかくや、と言わんばかりか。

声が似てるとは思ったが、まさかこんな共通点もあったとは。

 

「あ、それと――お小言かもしれませんが、一つだけ言わせてください。

 

 ――どうか、その若い命を早急に散らすような真似だけはおやめください。

 お母様も、あなたの大切な方も……私も、それは望んでいません。

 もう、平和のために命を捨てる時代はとうの昔に終わっております……」

 

その言葉を聞いて、俺は……咽び泣く事しか出来なかった。

見た目こそ俺たちより少し上くらいの女性だが

日本神話の神様なのだから、ン千では足りない時代を見守っていたお方なのだ。

 

最も身近……というか、直近の時代で言えば70年位前か。

あの時も、きっと天照様は見守っておられたのだろう。

そう考えれば、今の言葉の意味がまた変わってくると同時に、胸に突き刺さる。

中学のころ、ばあちゃんと広島に行ったっけ。

何故だか、急にその話を思い出してしまった。

 

感傷に浸っていると、不意にグレモリー部長から話しかけられる。

いきなりの事で驚いたが、一応平静は保てている……はずだ。

それより、たぶん今俺泣いていたが……顔、見られてないよな?

 

ガチ泣きしてるところは、あまり見られたくないぞ。特にグレモリー部長には。

 

「セージ、何を泣いているの?」

 

「……いえ、目にゴミが。それか、寝起きで目が沁みたんでしょうかね。

 グレモリー部長は炊き出しには行かれないので? 俺は行きますが」

 

「あなたには悪いと思ったけど、先にイッセーやみんなと済ませたわ。

 ライスバーガーにミソスープなんて、洒落た食事よね」

 

……たぶん何か勘違いしてると思うけど、面倒なのでいちいち突っ込まないでおく。

それに、俺の知識も意外といい加減な部分があるし。

記録再生大図鑑を、こんなくだらない事のカンペには使いたくない。

適当に相槌を打っておき、目をさもかゆいから拭っているように拭いながら

俺も炊き出しの場所へと向かうことにした。

 

そして大日如来様は……朝食こそが一日の基本、そこに種族は関係ない――と

天照様が仰っていたように炊き出しを始めておられる。

三大勢力と神仏同盟に凄い温度差を感じたが

大日如来様は三大勢力にも味噌汁とおにぎりを振る舞っておられる。

思わず呆気にとられていたが、俺のところにも味噌汁とおにぎりが来る。

俺は霊体だが、今は一応実体化している。

あの消耗具合は実体が保てなくなってもおかしくはなかったんだが……

まぁ、いいか。

 

「食べるといい。少年、お前は今回の戦いの功労者だからな。もっと胸を張るといい。

 これが少年の分だ。食物への感謝を忘れるなよ」

 

「あ……い、いただきます」

 

まさか仏様にごちになるとは思わなかった。ふと思ったが、神やら仏やらに祈りをささげると

頭痛を伴うのは俺もアーシアさんもよく知っていることだが……

こういう、食べ物に感謝して祈りをささげる、ってのはどうなんだろう。

 

……案の定、頭が痛くなった。

本当に害悪しかないな! 悪魔ってやつは!

今回の件は、俺としては本気で腹が立つ案件だ。

食べ物への感謝は人間という種族が雑食である以上

決して忘れてはならない感情である、と俺は思っているだけにその感謝さえも許さない

この現象は……冗談じゃない。まあ、そんなことを思いながら食べる飯はまずいので

気を取り直して味噌汁を啜りながらおにぎりをかじることにした。

中身は定番の梅干しだった。

 

天道寛(てんどうひろ)は料理評論家もしているとのことなので、腕も確かだ。

舌鼓を打っているうちに、空は明るさをさらに増していた。

 

「お前のおばあちゃんから話は聞いている。

 ここで我が物顔でのさばる奴らにお灸を据えねばならないと思っていたところでもあるしな。

 お前を利用するような形になって申し訳ないとは思うがな」

 

「と、とんでもございません!

 そ、それで……祖母は、祖母はなんと……?」

 

ばあちゃんは、そっちに行ったんだ。仏教勢力の死後の世界に。

三大勢力の管轄じゃなくて本気で安心した。あいつらの所だと成仏とかしなさそうだし。

……ってのは、偏見か。

 

「お前のおばあちゃんは言っていた――

 

 ――健やかに生きてほしい、とな。少年、しっかり守れよ」

 

ただ一言。けれど、その一言は俺にはとても大きく感じられた。

またしても、俺の目から涙が溢れてきた。

……ばあちゃんが死んだとき、病院で無茶苦茶泣いたっけ。

それはばあちゃんと広島に行った、次の年だった。

 

大日如来様が天を指さし、空の明るみが増す中

俺はただ咽び泣きながら返事をするので一杯一杯だった。

 

そんな中、夜明けと共に俺の実体も同時に消えかかるが

結界が展開されたことで実体の消失は免れた。

まあ、肝心要の首脳陣には霊体でも俺が見えるわけだからどっちでもよかった気はするけど。

 

――――

 

瓦礫の撤去も満足に終わらない中、穴ぼこだらけの駒王学園だった場所に設けられた仮設テント。

ここが三大勢力と神仏同盟の会議場だ。カッコカリというのもおこがましいお粗末なつくりだが

今用意できる手一杯はこれだけらしい。

おまけに面子も当初から変わってしまっているそうだ。

まあ、天使と堕天使はリーダーが負傷退場してるしなぁ。

 

悪魔陣営。サーゼクス・ルシファー陛下、セラフォルー・レヴィアタン陛下。

堕天使陣営。シェムハザ総督代理。

天使陣営。天使長代理ガブリエル。

神仏同盟。大日如来様、天照大神様。

議長。ヤルダバオト。

 

立ち合いとして、結界維持要員として俺以外のグレモリー部長以下眷属が就いている形だ。

俺は……重要参考人として会議のテーブルから少し離れた場所に設けられた席に待機だ。

 

「おい! なんでセージがそっちの席なんだよ! 部長ならともかく!」

 

「……俺に聞かないでくれ。この待遇を要求したのは神仏同盟のお二方なんだ。

 それを俺が蹴るわけにはいかないだろ。んなことしたらお二方だけでなく

 グレモリー部長の顔にも泥塗る事になるぞ。

 ただイッセー。あの時俺は異次元に飛ばされただろ? その時に白金龍と会って……

 

 アインストの生態やら、今この世界に起きている出来事やら、その辺りのことを聞いたんだ。

 そしてそれは、この場で話さなければならないことだと思う」

 

ああ。それは間違いなく今俺が知っている最大の情報。

そして、それを伝えないと大変なことになる。

俺がその情報を知っていることを聞いた三大勢力の首脳陣は、案の定どよめいている。

天使と堕天使は、話に若干ついていけてない部分があるみたいだが。

先陣を切り、シェムハザ……だっけ。堕天使の人が手をあげ、発言を始める。

 

「……今回の件ですが、報告書を読ませていただき、現場の映像を確認いたしました。

 その上での決定ですが……我々堕天使陣営、主に神を見張る者(グリゴリ)は……

 

 ……悪魔陣営との相互不干渉をここに宣言するものとします」




物議をかもした(?)ヤルダバオト無双に始まった三大勢力の和平会談。
戦いを挟んで再開、メンバーを若干変えながらのスタートです。

>堕天使
アザゼルが右手を失う重傷ですので。
原作では左手を義手にして即復帰してますが
今回右手を食ったアインストレヴィアタンは滅びの力も有していましたので。
腕一本取る、は原作同様なのですが……

そして代理として急遽やって来たシェムハザ。
まぁ彼が順当でしょう、と。
いきなりリーダーが右手無くす重傷を負い、正体不明の怪物が現れたとか
それを因縁のある三大勢力の和平会談で起きた事件と聞かされた
彼の心境やいかに。

>天使
まさかの(?)ミカエル負傷退場。
ここは別目線で書きたかった部分ですが、時間の都合でカット。
イリナは完全に禍の団に所属しているようなものです。
アスカロンは魔の力に汚染されるし、リーダーは追及がなされる前に負傷退場するし
相変わらず擬態の聖剣は持ち逃げされたままだし
偽ヤハウェの存在が発覚するしで
何気に受けているダメージが大きい陣営だったりします。
こちら急遽任命された代理はガブリエル。
彼女が代理になることでどうなることやら。

>悪魔
旧魔王派のカテレアとアインストが繋がっていたと言うことは
旧魔王派とアインストが繋がっているということで
旧魔王派も冥界が拠点だから、アインストが冥界に出てもおかしくないわけで。
しかも拙作では会談の音頭を執ったのは悪魔陣営と言うことですので
この会談で二人も要人に危害が及んでいるという大失態。
株価暴落待ったなし。既にストップ安とか言っちゃダメです。

>フリード
まただよ(苦笑)
なお引き連れている怪物の元ネタは仮面ライダー王蛇。
脱獄囚つながりです。さらに、原作ではキメラにされたのに対し
拙作ではキメラを使役する側に回っている……かも。
原作と諸々逆になってますね。


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Soul56. 駒王協定締結

タイトルにウソ偽りはありません。
タイトルには、ね……

サブタイを原作意識から遠ざけてかなり経ってますが
一応理由があります。

1:ネタ切れ
2:意外と様にならない
3:既に原作から乖離していることの示唆
さあどれだ。

※正解しても何も出ません


「……今回の件ですが、報告書を読ませていただき、現場の映像を確認いたしました。

 その上での決定ですが……我々堕天使陣営、主に神を見張る者(グリゴリ)は……

 

 ……悪魔陣営との相互不干渉をここに宣言するものとします」

 

……相互不干渉。戦争しない、けれど関わらない。

え、ええと確か相互不干渉とは主にモンロー主義と呼ばれる

独立して少し経ったアメリカとヨーロッパの間に交わされた確約がそんなだったような……

 

目の前に世界史の教師がいるのにこれはちょっとマズいかもしれない。

などと俺が思っていると、やはりというか、なんと言うか魔王陛下が狼狽えている。

 

「ちょ、ちょっと待ってよシェムハザちゃん! た、確かにアザゼルちゃんは……

 それに、シェムハザちゃんの奥さんは悪魔でしょ!? それなのに……」

 

「セラフォルー様。問題をすり替えないでいただきたい。

 今我々は種族の話をしているのです。私個人の家族の話をしているのではありません。

 この場に家族のことを持ち出すこと自体がこの会議の趣旨に反しているのでありませんか?

 それに今の発言は『身内に悪魔がいるから便宜を図ってくれ』と取れなくもないのですよ?」

 

「わ、私、そんなつもりじゃ……!!」

 

「無論、私自身はそうではないと信じていますがね。

 さて、話を戻しますが……アザゼル総督は今回の会談で

 右腕を失う大怪我を負っているのですよ。

 こんな言い方をするべきではないでしょうが……

 『総督の右腕一本で済んで安上がりだった』と。

 

 あの場面において、総督がもし頭部から捕食されていれば今頃私が総督になっていますよ。

 それくらい、あなた方が生み出した怪物は危険極まりないものだったということです。

 そして、そんな場にまともな警備を敷かずにいた場所提供者のあなた方の態度も……」

 

うわあ。このシェムハザって人、容赦ないなぁ。

ただ、堕天使もあまり大きな口は叩けないと俺は思うんだよねぇ……

白龍皇(バニシング・ドラゴン)と言い、あのクソカラスと言い。

そもそもあいつが余計なことをしなければ

俺もイッセーもアーシアさんも人間のままでいられたんだ。

そう考えるとなぁ。言いたいけど、言いたいけど今は黙っておこう。

ただ、後でこれは絶対に言ってやる。と言うか、アインストの情報の対価だ。

俺が持っているものなんだから、対価を要求してもいいと思うんだ。

この人は関係ないかもしれないが、堕天使と言う集団のボスなら、きちんと責任を取るべきだ。

 

「……コホン。これは我々ももっとまともな護衛を総督につけるべきでしたね。

 白龍皇の裏切り……これについては、総督に代わり私が謝罪申し上げます。

 また、白龍皇――ヴァーリ・ルシファーについてですが……総督の意向もありますので

 発見後即処刑とまではいきませんが、全世界指名手配とさせていただきました」

 

『ま、当然だろうな。テロリストに所属するって大見得切った相手だ。

 それを輩出したところとしては、黙ってるわけにはいかないだろうさ』

 

フリッケンの至極当然の突っ込みが入る。

全世界ってことは、ここも対象になるのか。と言うか、案外まだこの辺にいたりして?

……それは勘弁してもらいたいかもな。

だがフリッケン。これだけは言える。お前はお前で白龍皇とも赤龍帝とも何の関係もない。

と言うか、お前みたいなのがそうそういてたまるか。

 

「待ってくれシェムハザ総督代理! 白龍皇に関しては了解したが

 アザゼルの負傷の件に関しては少し待ってほしい!

 カテレアは確かに我々の落ち度かもしれないが

 アインストに関しては我々も関与していない!」

 

「サーゼクス様。確かに私もアインストについては資料でしか知らず

 その資料もどう見ても不完全なもの……まあ、それらについては

 後程そこの少年――紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)がお話してくださると議長が仰っていますので

 そちらを合わせてということになりますが……映像を見る限りでは

 カテレア……ないし禍の団(カオス・ブリゲート)と繋がっていることは明白。現冥界に直接関連がなくとも

 旧魔王に関連があれば、それだけで冥界との関連性はあると言える……そう思います。

 それと、総督からの言伝です――『暫く会えそうに無いわ、悪い』――だそうです」

 

「……そうか。感謝するシェムハザ『総督』。

 もし伝えられたらアザゼルによろしく伝えてくれ……」

 

……うん? 今「総督」って……

まさか……いや、まさかね。もし仮にそうだとしても、無血開城だと思いたい。

コカビエルに続いて、アザゼルもあのザマ。堕天使も踏んだり蹴ったりだよな……

シェムハザの発言が終わったところで、薮田先生からの質問が入る。

 

「堕天使陣営の言い分はわかりました。そこで質問なのですが、神を見張る者については

 その行いがこの国、並びに世界中の神器(セイクリッド・ギア)を持った人間を脅かしているという

 神仏同盟(しんぶつどうめい)のお二方からの指摘もありますが

 その件についてはどうお考えですか?」

 

「トップであるアザゼル総督が病床に臥せっておられるため

 現時点では神を見張る者としての活動はほぼ不可能に近い、ということになります。

 また、人間への行いについてですが……

 これについてはすべての堕天使の意識改善は難しく……」

 

「……では、今後も神器を理由とした人間への被害が出るということですか?」

 

「無論、減らす方向で努力はさせていただきたく思います。

 また、そうした行いに出た堕天使については我々ではなく現地の法に則り

 処罰を与える方向に考えたい所存ではあります」

 

……そこだ。肝心要の話だ。堕天使による神器所有者の無差別誘拐殺人事件。

悪魔も一枚かんでいるんだが、こと堕天使に関しては俺や、俺の友人も被害に遭っている。

そしてそれは世界各地で起きているという話だ。

何より、これこそが天照様が腰を上げた事案の一つでもある。

シェムハザ総督代理の話によれば、今まで治外法権的な対応だったそれは

今後現地の法で裁かれるようにしていく方向である、との事らしい。

 

……俺達には願ってもない事なんだが、現場の堕天使は納得するんだろうか。

こういうのは現場が納得しないと意味がないと思う。

今までの習慣を変えろ、って言うのに等しいだろうな。

 

「方向性としては理解した。それだけに、今後またさらに同じようなことが起これば

 我々もまた考えを改めることはあるだろう。

 仏の顔も三度撫でれば腹立てる、だ」

 

「今までに多くの人々があなた方の勝手な理屈に巻き込まれ命を落としたり

 人生を狂わされていたりします。今紫紅帝龍……そこの少年にも参加いただいたのは

 彼もまた、そうした事件の被害者であるからです。

 あなた方にもあなた方の理由はおありでしょう。ですが、その理由で踏みにじられた

 彼の心の声に、皆様は耳を傾けるべきであると言うのが、我々神仏同盟の意見です」

 

うおっ。いきなり天照様に話を振られて驚いてしまった。

い、いやまあ確かに俺は特に悪魔や堕天使には言いたいことがごまんとある。

種族全体と言うと大げさかもしれないが、少なくともグレモリーやレイナーレ……

いや神を見張る者には俺は声を大にして言うべきなのだろう。

被害者と言う意味ではイッセーやアーシアさんも同じだろうか。

 

ここで俺が語ることがいい事なのかどうかはわからないが、でも俺は言うべきなのだと思う。

今までの話だと、俺みたいな目に遭ったやつはいっぱいいるだろうし。

神器についてもだが、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)については塔城さんのお姉さんが確か……

などと思っていると、天界側が発言を開始していた。

……さっきから凄い緊張するんだけど。

 

「では続いて、我々天界からなのですが、その前に……

 ヤルダバオト様、今までの数々のご無礼をお許しください。

 主の影武者を、代理をなさっておられたことを、我々は全く存じ上げず……」

 

「気にすることはありませんよ。ヤハウェの影としての仕事など、大してやってませんし。

 『システム』等というものが大手を振ってのさばれる程度にしかしていませんしね。

 それがある以上、もはやヤハウェも、私も必要ないのではないのですか?

 それに、私も影武者と言えば聞こえはいいですが、要は偽者ですからね。

 『偽者風情が……』とか、色々思い当たる節はあるのではないのですか?」

 

……うわ。薮田先生が性格あまりよくないのは知っていたけど

ここまでねちねち言うかね……

俺も天界の事情なんざ知ったこっちゃないけど、あのガブリエルって人が気の毒だ。

 

「け、決して我々はそのような!

 あの大戦の後、主の力が及ばなくなることを危惧した我々天使への

 自衛策として用意したものであります!

 決して主を蔑ろに扱い、主を不要なものとするために

 作り上げたものではありません!」

 

「まあ、口では何とでも言えますがね。道具が、装置が生きているものを使役するなど

 私に言わせれば何ともおぞましい話です。あなた方のしたことは、つまりそういうことですよ」

 

「ヤルダバオト様。もうその位でいいのではないでしょうか。

 そろそろ話を進めませんと、ただでさえ妨害が入っていますし……」

 

「天照に同じく、だ。『時間加速空間(クロックアップ)』で会議を進めるわけにもいかんだろう」

 

薮田先生のイビリは神仏同盟のお二方によってひとまず止められた。

正直、内心ほっとしている。誰がこれ止めるんだよ、とは思っていたし。

この後ずっと天使いびりって誰が得するんだよ。

 

「……まあ、それもそうですね。失礼しました。つい色々思い当たる節があったものでして。

 私情を持ち込んでしまったことはお詫び申し上げます。

 では改めましてガブリエル、そちらの――天界の意向をお聞かせ願いますか?」

 

「か、かしこまりました!

 私ども天界陣営も、当面は信徒に対し害をなす悪魔への対応のみを行うものとし

 『システム』については大幅な見直しを他の熾天使(セラフ)と協議を行うものとしまして……

 

 つきましては、今回の和平については我々としましても今は十分に協議できませんので

 今回は見送らせていただきたく思います」

 

「まぁ、妥当な判断でしょうな。我々堕天使も個人主義の集まりとはいえ

 今回は各陣営あまりにも意見がまとまっていなさすぎます。

 恥の上塗りですが、コカビエルにしたって白龍皇にしたってああですし。

 特にコカビエルなど幹部でさえあのザマですからね。

 末端の堕天使に至っては言うに及ばず、です。

 

 そこで、和平に向け足並みをそろえるのはまだまだハードルが高いと見受けられました。

 これはこの会談の前に、個人的にとはいえアザゼルに打診したことではありますが……。

 改めて申し上げますが、我々堕天使も今回の和平交渉は

 『なかったもの』として扱わせてもらいたい。

 和平を結びたい、そういう気持ちが無いわけではありませんが急いては事を仕損じますからね」

 

「う、嘘よ嘘よ! どうしてみんな和平を結ぶのを避けようとするの!?

 もう戦争はダメだって、みんな知ってるでしょ!?

 これじゃ、このままじゃみんな……みんな滅ぶしかないじゃない!!」

 

「……く、確かにカテレアの事も考えれば我々だけが和平だなんだと言ったところで

 それが容易く実現できるものではないということくらい、すぐにわかっただろうに……

 我々は、結論を急ぎすぎたというのか……?」

 

相手が影とはいえ自分達の上司だからか、さっきのシェムハザ総督代理に比べると

委縮した対応に見える。そう考えるとさっきのって部下いびりだよなぁ……

俺が口を挟める問題じゃないけど。

そしてシェムハザ総督代理が改めて和平交渉を保留にする意見を出したおかげで

セラフォルー陛下は完全に動転している。

まあ、そこは議長でもある薮田先生に一喝され黙り込んでしまったが。

 

「静粛に。ところでガブリエル、ミカエルの容態はどうなのです?」

 

「急所を的確に突かれていたので、未だ予断を許さない状態です。

 また、今回の件を見直した結果紫藤イリナに対する処罰を追放から

 聖剣強奪と反逆の罪で発見次第即処刑とさせていただくことになりました。

 また、ミカエル本人につきましても主への反逆疑惑が上がっているため……」

 

まあ、いち勢力の首魁に重傷を負わせた上に

その首魁から預かった代物を持ち逃げした上に傷物にしてるんだ。

その対価が発見次第即処刑、か。白龍皇に比べるとなんともはや。

ある意味、天使って連中の器が知れているともとれるな。

そして探し求めていた友人がこうなってしまったゼノヴィアさんの心中察するに余りある。

 

そんな中ガブリエル天使長代理が言葉をつづけようとした矢先、イッセーが割り込んでくる。

おい、ちょっと待て。このタイミングは――

 

「ま、待ってくれ! これにはきっとワケがあるんだ!

 イリナを……イリナを処刑なんて、ちょっと待ってくれ!」

 

「兵藤君。前も言いましたよね? 発言を許可した覚えはない、と。

 天照様のご厚意でこちらの席に着いている宮本君でさえ今は静かにしているのですよ?

 そうでなくとも、今はガブリエルの発言の最中です。

 これは授業のディスカッションではない、れっきとした社会の政治なのですよ?

 日本国の法律ならば、本来あなた方はこの席に立つことすら許されないのです。

 あなた方が政治の席に立ち、一人前に物を言うには

 力が、知識が、何よりも社会と接した経験が足りません。

 あなた方は各勢力のご厚意でこの場に立てているということを、努々忘れぬように」

 

……そうだった。

参政権は高校生である俺らには当然、無いんだった。

選挙権が18歳からになるとかならないとか国会で言っていた気がするが

それにしたってまだ俺達はアウトだろう。

3年組が辛うじて……だろうけれど。

 

あれ? そういえばグレモリー部長やシトリー会長に選挙権って発生するのか?

外国人参政権ならぬ悪魔参政権?

……ちょっと怖い考えになった。やめておこう。

ただでさえ外国人参政権は色々言われている曰くつきの話題なんだ。

その上悪魔だなんて……

 

「な……なんでだよ……アーシアにしたって、イリナにしたって!

 どうしてそういうことを平気で出来るんだよ……!

 元はと言えば、お前たちが……」

 

イッセー。どう考えてもイリナのやったことは国家反逆罪だろ。

この対応はかなり自然なものだと思うぞ。

アーシアさんにしたって、ゼノヴィアさんの言い分もある以上は

一方的に上が無罪放免なんて言うわけにもいかないってことくらい

ちょっと考えればわからないか?

 

それともゼノヴィアさんの言い分は全部が全部間違ってるっていうつもりか?

それも俺はどうかと思うがね。

と言うか本気でそろそろ控えたほうがいいぞ。

薮田先生の目がマジだ。どうなっても知らんぞ、俺は。

 

「聞こえませんでしたか兵藤君。黙りなさい、と。リアス・グレモリー君。

 次彼が余計なことを言えば、彼の管理者であるあなた諸共退席を命じますよ」

 

「わ……わかりました。イッセー。気持ちはわかるけど黙りなさい。

 ここで彼らの不興を買うのは、私たちにとっても、悪魔にとってもよくない結果になるわ」

 

「けれど部長!」

 

「……お願いよ、イッセー。お願いだから……」

 

グレモリー部長の泣き落としでようやくイッセーが黙った。

この期に及んで使う手が泣き落とし、か……

結果オーライとは言え、次期当主である良家のお嬢様が使う手段として

それはどうなのかと思ったりする。せめて一睨みきかせるとか

そういう面も見せておかないと、嘗められたりしないか?

この場にそういう風に陥れる輩はいないとは思うが、これが悪魔同士とかだったら

そういう些細な点を突いて陥れるとかありそうで怖いんだが。

人間同士だってそういうのがまかり通るご時世なんだ。

 

「……コホン、よろしいでしょうか?」

 

「ええどうぞ、続けてください」

 

「はい、では……ミカエルについてですが

 議席での証言により主への、人間への反社会的な発言が見受けられたため

 症状回復を待って取り調べ、彼が先導して開発したシステムについても

 改竄を行われた痕跡がないかどうかの調査を行うことが決定しましたので

 ここにご報告させていただきます。

 

 また、その影響でシステムを調査のために一時停止するものとします。

 これについては、調査時期及び再開時期は追ってご連絡いたします。

 以上、我々天界勢力の決定事項を申し上げます」

 

「……私も資料を見て驚きました。まさかあのミカエルがあんなことを口走るとは。

 こう言っては不謹慎かもしれませんが

 我々堕天使陣営ではいつでも受け入れ態勢は整えております」

 

シェムハザ総督代理のちょっと嫌味な物言いに、ガブリエル天使長代理は苦笑しながら答えている。

その様子を見て俺はふと思う。別に無理に和平結ばなくてもいいじゃないか、と。

無理に和平を締結して、それで各勢力の不興や反感を買うようなら、そんな和平は長続きしない。

そして一度破られた和平は、最悪二度と元には戻るまい。

信頼は、壊すのは簡単だけど得るのは大変なんだ。壊した信頼を今一度得るなど……

 

「ふむ。これで天使・堕天使陣営の証言は出そろいましたね。

 多数決を採るのならば今回の和平締結はなかったものとして扱うのが筋でしょうが……

 一応聞きましょう。両魔王陛下。今回の件について、何かご意見はありますか?」

 

「大ありよ! なんで二人ともそういうこと言うわけ!?

 戦争しないんだよ!? 戦争しない以上に幸せな世界なんてあるわけないじゃない!

 それに、アインストなんて怪物が出た以上、私たちがいがみ合ってる理由なんて……」

 

「お待ちを。我々は別に戦争状態を持続させようなどとは申しておりません。

 アインスト絡みとなれば、我々も対策は練る必要があると考えております。

 しかし、そのために悪魔や天使と組むというのは……

 私はともかく、他の――特にコカビエル派の堕天使が納得しないでしょう」

 

「私もシェムハザ総督代理と同意見です。情けない話ですが、今の天界は内政が極めて不安定。

 そんな状態で和平を、同盟を結んだところで皆さまの足を引っ張りかねません。

 と言うよりも、よそ様とのことまで気が回らないと言ったほうが正しいでしょうか。

 もちろん、こちらの世情が落ち着いた時には和平については前向きに考えさせていただき……」

 

セラフォルー陛下の意見に、シェムハザ総督代理とガブリエル天使長代理が待ったをかける。

ここに来て名前が出る程度には、コカビエルの影響は小さくなかったって事らしい。

まあ、いち組織の幹部なんだし派閥作っていてもおかしくはないか。

そして、ガブリエル天使長代理の「自分たちの事で手いっぱいだから落ち着くまで待って」

と言う意見をさえぎるように、再びセラフォルー陛下がまくし立ててきた。

 

「いつかっていつよ!? 私たちはみんな明日をも知れない状態だってことわかってるでしょ!?

 悠長なこと言ってないで、ここは私達で力を合わせて禍の団やアインストをやっつけたり

 私達が滅びたりしないようにするのが先じゃないの!?」

 

「で、ですが急に、無理に和平を成立させては……

 それに、アインストの戦力だって未知数。紫紅帝龍の少年のお話次第ですが

 我々が手を結び、禍の団とアインストとの全面戦争になってしまえば

 結局戦争が起きるという結末は変わらないのでは……?

 もちろん、彼らから人々を、我々自身を守ることは必須ですが」

 

「私もガブリエル様に賛成です。さっき申し上げた通り、まだ我々には

 コカビエル派の堕天使も多く存在しています。彼らの意向を無視すれば

 今度は我々同士の戦争ではなく、内戦で勢力が瓦解しかねません。

 内戦の恐ろしさは、あなた方もよく理解しているのではないのですか?」

 

……え? つまり、自分たちの意見もまともに纏めないまま和平締結しようとしてたのか?

そりゃ統一まで待っていたらいつまでたっても、って話かもしれないけれど。

それでも、何故悪魔はそんなに急いでいるのだろう。

俺には、どうしても悪魔が何かにおびえて、焦っているようにしか見えなかった。

 

「セラフォルー、落ち着くんだ。内戦の事を出されては、我々には何も言えない」

 

「うぐっ……そ、そうね……カテレアちゃん、どうしてあんなバケモノの力を使ってまで……」

 

セラフォルー陛下が落ち着きを取り戻したころを見計らって、薮田先生は

神仏同盟のお二方にもお話を伺っていた。

俺が思うに、これって三大勢力の和平だからあまり関係ない気もするけど……

まあ、巡り巡って関係してくるのかもしれない。

社会ってのは、世情ってのはそういうもんだろう。

 

「……意見は出そろいましたね。神仏同盟のお二方は何かございますか?」

 

「我々の国に、社会に危害を加えるのでなければ特に何も。

 他の神話勢の皆様も、ある程度は同じことをお考えかと思います。

 どうか勝手に我々の国に、あなた方の問題をさも世界の常識のように

 持ち込まないでほしいのです」

 

「世界に目を向けろ、と言うのはそういう意味ではないと俺は解釈している。

 お前達の問題はお前達の問題だ。世界の問題じゃない。

 今回の件は、実演を兼ねた国際テロリストの存在の示唆と

 危険性の訴えとして見ることにする。天照はともかく、俺は他の国にも顔が利くからな。

 他所の国で被害が出た場合には俺は赴くつもりだ」

 

お二方の意見をまとめると、要するに

「そっちの問題には関与しない。でもアインストや禍の団が我々に危害を及ぼすのであれば戦う」

って事らしい。まあ、普通だよな。その普通こそが大事なんだけど。

 

結局、和平は悪魔陣営が一人で盛り上がっているだけか。

何だか遊びに誘っているのに相手にされないで拗ねているようにも見えるんだが。

しかも、その理由は家の都合だったりスケジュール的なものだったり。

しかもその遊びに誘う側も問題を抱えているという。

これで天使や堕天使に難癖つけたら、それかなり問題じゃないか?

 

「しかしこれだけは言っておきましょう。アザゼル総督は和平には前向きであった、と。

 そしてそのアザゼル総督は、今は病床に伏せておられます。

 総督の意向に反することは私にはできませんし、こちらが落ち着き次第

 改めて和平については対話させていただきたく思います。

 今回はそれでご容赦願えないでしょうか。

 ただし、それまでの間は不要な干渉はお互いのために避けるべきでしょうが」

 

「我々天界陣営も同じく、です。我々の場合、音頭を取っていたミカエルに

 反逆疑惑があるので堕天使陣営のようにすんなりとはいかないかもしれませんが……

 和平については、前向きに対処したく他の熾天使と協議させていただきます。

 我々も、内政に専念させていただきたいので

 暫くは不必要な交渉はお控えくださいますと幸いです」

 

「セラフォルー。別に彼らとて和平に反対しているわけではないのだ。

 和平への希望はあるとして、今回は彼らの言い分を飲もう……」

 

渋々と言った様子でセラフォルー陛下も首を縦に振っている。

そして、用意された羊皮紙にサーゼクス陛下、シェムハザ総督代理、ガブリエル天使長代理が

それぞれ調印を行っている。

 

一時的な相互不干渉。それが三大勢力の出した結論だった。

始終、セラフォルー陛下は不服そうな顔だったがその心のうちまでは俺にはわからなかった。

 

……いくら子供っぽいからって、自分の意見が通らなかったいらだちではあるまいな?

もしそうだとしたら、ちょっとそれは外交担当として致命的すぎる。

俺が選挙権を持った国民だったら、絶対に投票しない。

それ以前に、冥界って選挙制度があるのかどうか知らないけど。

……そもそも民主主義か? なんか違う気がするが。

 

「さて。今後の指針が決まったところで……宮本君。

 先ほど現れたアインストについて、あなたの知っていることをお聞かせ願いますか?

 ああ、こういう場での発言は初めてでしょうから、楽になさって結構ですよ。

 では宮本君、前へ」

 

「は、はい!」

 

いよいよだ。こんな間に合わせの会議場とも言えない場所ではあるが

場の何とも言えない空気に、俺は少し押され気味ではある。

薮田先生の言うように、こんな会談での発言なんて初めてだ。

さっき先生が言ったように、これは授業のなんちゃってディスカッションじゃないんだ。

俺の発言一つで国が動きかねない、それだけ大事なものなんだ。

 

今さっきアインストと戦っておきながらそれはないだろう、と言われそうだが

それとこれとは全く違う。震える足を抑えながらも、俺は前に出る。




協定は締結されましたよ?(和平が結ばれたとは言ってない)

今回(も)かなりハードな内容ですので
そろそろ口直しが欲しいころかもしれませんね……
まあ、原作ではかなりなあなあで済まされた政治関連の話題ですし
もう少々だけお付き合いくださいませ。

……パワーアップイベントの後でこれとか、やはり配分おかしいかも。
一応、またセージの反則技披露の機会はありますけど。原作にはない形で。

>セラフォルー
原作ではなんだかゆるい=有能みたいな描かれ方してますが
本当にそうなのかな……って思った結果がこれ。
和平って言葉に酔ってる、そんな風にも見えましたので。原作が。
これはセラフォルーに限ったことではありませんが
拙作ではアザゼルもミカエルも退場して
サーゼクスはブレーキを否応なしに担当しなければならなくなったので
いわば彼女はスケープゴート。でも外交担当だからしょうがないね。

上に立つものは人気者になるかもしれないけど
同時にバッシングの対象としても立たなければならない。
そう私は思います。

……で、原作の四大魔王って劇中で叩かれてましたっけ?
敵対勢力以外から

>イリナ
もうこれで~かえれ~な~い~
禍の団(カオブリ)に~入る~だ~け~@今日もどこかでデビルマン

今だから言いますが、実はバルパー殺害も彼女がやる予定でした。
でもさすがに人殺しはマズいだろうと思いとどまったけど
結局これ。ゼノヴィアは泣いていい。マジで。

>シェムハザ
いきなりの大抜粋。アザゼルがほぼ再起不能なので実質総督。
こう書いてもなんだかアザゼルがほくそ笑んでるようにしか思えない、不思議!
とりあえず悪魔の嫁さんの事を出されても「それはそれ、これはこれ」で返す
有能さん、として書いたつもりです。
そのせいで悪魔が無能になった? ……それはー……

>ガブリエル
まさかのいびられ役。おまけにセラフォルーからちょっとだけ強く当たられてます。
それでも気にも留めず職務を遂行したガブリエル様マジ天使。
なお、彼女自身は普通に人間に対して好感情を持っています。
おかげでおっとり美人の原作から一転、苦労人属性が付きそうな……


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Soul57. 証言開始、譲れない一点

少々ぐだり気味ですが、いよいよセージが証言台に立つ時が来ました。
一小市民に過ぎない彼を証言台に立たせる(しかも悪魔にしてみれば反逆者)と言う
天照様も相当無茶をなさってます。

……岩戸の事を考えれば結構思い切ったことをなさる方とは思いますが。


駒王学園、グラウンド跡。

クレーターだらけのここに設置された仮設テント。

信じられないかもしれないが、ここが三大勢力と神仏同盟を交えた会談の会場である。

 

時は初夏。日が高くなり始めたこの時間帯。少々の日差しの強さが地面をじりじりと焼き

それが暑さとなって、空気を暑くしている。

 

そんな中、俺――歩藤、いや宮本成二はふとしたことから知りえた重要な話を

各勢力のトップ陣に話すという重役を任されてしまう。

数か月前まで、ただの高校生だった俺が、だ。

自慢じゃないが、俺は生徒会役員との面識が全くないわけではないが

それは生徒会としての役職に従事していたからではない。

いや、たとえ生徒会としての仕事をしていたとしても。

 

――こんな政治、ある意味国際問題にも発展しうる

こんな場所で発言したことなんてあるわけがない!

よく俺は度胸が据わっていると言われるが、こんな場所でも仏頂面していられるほど

度胸は据わっていない。はずだ。

たぶん、今の俺はみっともない顔になっているかもしれない。

鏡がないからわからないが。いや、わかりたくもないが。

 

「……さ、さきほどご紹介いただきました……

 ふ……いえ、み、宮本……」

 

人間名で名乗ろうとした途端、魔王陛下が何やら凄い睨みを利かせてきた。気がした。

思わず、委縮してしまう。場所が場所だからか、余計にプレッシャーを感じてしまう。

ぐ、これじゃまともにしゃべれない……

 

「冥界陣営。今は確かに歩藤誠二かもしれませんが、宮本成二と言う名は

 彼の人間としての名前……すなわち、彼の家族がつけた名前です。

 それを名乗る権利位、持ち合わせているでしょう?

 それとも、彼の本来の家族さえも認めないほど、悪魔は器の小さな種族なのですか?」

 

「――それは妙だな。俺が受け取った資料には、悪魔……特に彼の主である

 グレモリーは、こと情愛に篤い家系とあるが……これは一体?

 そしてそれは、現魔王サーゼクスもまた然り、ともあるが……

 資料が間違っているのか? 今の様子を見る限りでは、とてもそうは見えないが」

 

「彼本来の名前を名乗るくらい、大目に見るべきではないかと思うのですが?」

 

た、助かった……のか?

薮田先生や神仏同盟が助け舟を出してくださった。

できれば、この話は歩藤誠二としてではなく、宮本成二として話したい。

歩藤誠二と言う名前そのものに恨みがあるわけではないが

それは同時に悪魔としての名前でもあるのだ。人間としてこの場で話すのならば

人間・宮本成二の名を名乗るのが筋ではなかろうか。

 

「私も話程度にしか聞いていませんでしたが……

 聞くと見るとでは大違いですね。と言うより寧ろ耳が痛いですね。

 神を見張る者(グリゴリ)も、神器(セイクリッド・ギア)の持ち主の意向を無視した行いを繰り返していますし」

 

「親に与えられる名前には、大きな意味があります。

 それは私達も主に教わったことであります。

 それを別の名前で上書きする……

 恥ずかしながら、心当たりがないわけではありませんが……」

 

今度は天使・堕天使からもダメ出しが出る。

これ以上は悪魔陣営がかわいそうに見えてしまうが……

い、いや! ここはあえて心を鬼に……

 

「宮本君。あなたの名乗りたいように名乗って構いませんよ。

 これは、本来我々だけで解決すべき問題です。

 そこに、無理言ってあなたにこの席に座っていただいたのです。

 ですので、我々があなたに指示ないし命令を下すのは間違いだと思いますよ」

 

「少しお待ちを。それを決めたのは天照様が勝手に決めたことでしょう。

 それに彼は、主――リアス・グレモリーに対する反逆疑惑で幽閉されていたのです。

 それを今回の騒動に乗じて脱獄しているのです。

 我々にとっては、脱獄囚を証言台に立たせるようなものなのです」

 

あー、そうだった。

俺は冥界ではいらない子扱いと言うか厄介者扱いされているんだった。

そりゃあ、サーゼクス陛下の言い分にも一理あるわな。

……納得はしてないが。

 

「ふむ。では冥界陣営は彼の持つ情報は必要ないとおっしゃるのですか?

 先ほどの戦いにおいて、彼は赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)白龍皇(バニシング・ドラゴン)ともども異次元に飛ばされ

 その先でさらに彼のみが何者かと接触したのは状況証拠から見て間違いないのですが。

 そう……彼の右手を御覧なさい」

 

『……なんだ? 俺に何か用か?』

 

薮田先生に促されるまま、俺は右手の紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)をかざす。

それに合わせ、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)フリッケンが答える。

中央に飾られた翠と碧の勾玉は静かに輝いている。

 

「そのドラゴンの神器どころか、彼は右手さえも異次元に飛ばされるまで

 存在していなかったはずですよ。それがここに戻って来た時には存在している。

 それだけでも、向こうで何かがあったとするには十分すぎる証拠でしょう。

 兵藤君。今度はあなたに聞きます。向こうで彼に何がありました?」

 

「えっ!? そ、それは……」

 

今度はイッセーに話が振られる。今までがああだったからか、イッセーも狼狽えている。

いや、そこは聞かれたら答えろよ。いきなり振られて狼狽えるのはわかるが。

そして、それに水を差すかのように魔王陛下が睨んでおられる。おお、怖い怖い。

グレモリー部長も……何とも言えない表情をしてるな。

 

「構いません。この会議の議長は私です。発言をするべき時にはしっかりと

 嘘偽りのないように発言をする。それが会議のルールです。

 あなたが何を言おうと、それによる不利益は齎されないことは保証いたします。

 

 ……まあ、反社会的なことに関しては保証しかねますが」

 

イッセー。この期に及んで変な欲をかくなよ?

この場でそれをやったら、お前マジで破滅するぞ?

それは俺の証言云々じゃなく、お前自身のためだ。

 

「……こいつだけ、また別の次元に飛ばされました。

 その後のことは、こうなったってことしか俺はわかりません。

 あと、白龍皇をあっという間にのした位っすかね……」

 

俺の考えは杞憂だったというべきか。こいつのアレな部分は外部からのものも少なくはない。

いつだったか、自慢げに小学校の頃に出会った紙芝居屋の話をしていたが……

それがその最たる例だろうとは思う。

 

最も、俺はその話は今でも嘘だと思っているが。

 

「ヴァーリを……!? た、確かにこちらにある資料を考慮に入れれば

 理論上は可能かもしれませんが……しかし……」

 

「ここに彼がいること、今までの彼の実績、戦闘記録。

 そのどれもが、彼の語る言葉が真実であることの証拠となるでしょう。

 そういえば私はこんな噂を聞きましたよ。

 

 ――冥界は、起きた事件に対し満足な調査を行わず、自分たちにとって都合が良いように

 犯人を仕立て上げる――と」

 

「!! そ、それって……!!」

 

塔城さんが今の言葉に反応する。間違いない。今のは塔城さんのお姉さんの事件の話か。

その話を聞いた魔王陛下も、一瞬顔色が変わったのを俺は運よく見逃さなかった。

ふと、その事件と今の俺の境遇がどこか被って思えた。

 

――満足な調査を行わず

 

――都合の良いように事態を持って行き

 

――存在されては困る者を犯人に仕立て上げ

 

――さも合法的に始末しようとする

 

……そうか、そう……か。俺に始まったことでは無かったということか。

そういうことならば、俺は塔城さんのお姉さんを探すことに

さらに本腰を入れねばならないかもしれない。

別に俺の仲間が欲しいとか、そういう意味じゃない。寧ろいるべきじゃない。

ただ、俺みたいな目に遭っているのならば。

 

……できれば、助けたい。

勿論、俺の身体も大事だが。

 

「あくまでも噂ですがね。まあ、仮に事実だとするならば……

 シェムハザ、ガブリエル。悪魔と和平を組まなくてよかったですね。

 遠くない将来、厄介事に巻き込まれたかもしれませんよ。

 教師としての顔を持つ私が言うべきではないかもしれませんが……

 『友は選べ』と言ったところでしょうか」

 

「……聞き捨てならないな。我々はそんな杜撰な調査など行いはしない!」

 

「そうよ! そんな事件、そもそもあるわけないじゃない!

 あったら私達が待ったをかけているわよ!」

 

その魔王陛下の言葉に、塔城さんが顔を伏せてしまう。

やはり、塔城さんは心のどこかで冥界政府を疑っている……?

そしてセラフォルー陛下……それ、自分の無知を公言してない?

現に塔城さんのお姉さんは……

 

……俺の立場はもう冥界では最悪に近い。今更言っても変わるまい。

俺は意を決して、薮田先生の言葉尻に乗ることにした。

 

「……その噂、俺も聞きました。情報源は明かせませんが……

 ある転生悪魔が、止むに止まれぬ事情から主を殺害し

 それが原因ではぐれ悪魔――犯罪者に仕立て上げられて……

 けれど、それはその転生悪魔の家族を守るためだと……」

 

「せ、セージ先輩……!?」

 

案の定、周囲はざわめく。ごめん塔城さん。けれど、言うにはこのタイミングしかないと思った。

最悪、情報源はバオクゥかリーに押し付ける。あの二人ならば

そう遠くないうちにこのスキャンダルにぶち当たるかもしれない。

あるいは、もう情報をつかんでいるかもしれないし。

 

「……やはり君には反乱の意志あり、か。

 そんな噂に踊らされ、主殺しに正当性を持たせようとするなどとは。

 いいかい? 君は我が妹――リアス・グレモリーの眷属だ。

 そして眷属にとって、主殺しは大罪だ。如何なる理由があれども、だ。

 ならば魔王サーゼクス・ルシファーの名において――」

 

「お待ちを。サーゼクス・ルシファー。あなたは何を言おうとしていたのです?

 まさかとは思いますが、この場で彼をはぐれ悪魔認定しようとしていたのではありませんよね?

 ここは冥界ではないのですよ? そうでなくとも、彼は天照様のご厚意、ご依頼によって

 この席に着いている、いわば客人です。そんな彼に対しての無礼は

 天照様に対する無礼と同等と捉えることも可能ですが、その点は如何お考えですか?」

 

「……サーゼクス様。もしあなたが彼をはぐれ悪魔にし、冥界から追放するというのであれば

 我々日本神話が彼の身柄を保護いたします。彼は元来この国の国民です。

 そんな彼を、我々が保護するのは当然の事であると思います。

 それによって冥界政府との関係が険悪なものとなっても

 私――天照大神はその点についても辞さない覚悟であります!」

 

え……え?

ちょ、ちょっと天照様? いや、犯罪者の俺を保護したら間違いなく冥界と関係が悪くなって

最悪戦争になると思うんですが……それはさすがにマズいかと……

あ、あと月読命様とか須佐之男命様とかその辺りの方々にもきちんと相談されたほうが……

 

「天照。少年に肩入れするのはいいが、せめて俺にも一言言ってほしいものだったな。

 ……ま、俺も答えは一緒だが。もし日本神話と冥界の関係が悪くなるようならば

 日本に籍を置く仏教勢力も、冥界との付き合い方を考えねばなるまいな」

 

「サーゼクス様。これはお節介かもしれませんが

 今の発言は撤回したほうが良いのではないですか?

 妹君の眷属が反抗的であるからと言う言い分はわからなくもないですが

 その為に日本神話のみならず仏教までも敵に回すというのは……」

 

「……その様子では、私達も和平について考え直さなければなりませんね。

 我々はかの少年がどのような人物であるかを知りませんが、資料と実績と

 あなた方の証言が食い違っているように見えてならないのです」

 

……うわあ。

一気に空気が悪くなった。冗談抜きで助けが欲しい。

姿を消すわけにもいかないし、増えるわけにもいかない。

そんな事やっても仕方ないし。

もう嫌だ、こんなことは早く終わらせたい。

 

……けれど、俺の知っていることで、誰かが救えるのなら……

嫌だけど、怖いけれど、このままいるべきなんだろう。

 

「……コホン。会議に参加されている皆様におかれましては静粛に願います。

 私個人としても、彼に対する処遇には思うところはありますが

 今は彼に証言をお願いしているのです。

 宮本君、喋りにくい環境にしてしまい申し訳ありませんが

 あなたが異次元で得た情報を、我々にお聞かせ願いますか?」

 

「わ、わかりました……

 で、ですが……その前に、三大勢力の方々には

 飲んでいただきたい……じょ、条件があります……っ!」

 

……来た。

喉が渇く。声が震える。足もさっきからガクガクだ。

多分、今凄いみっともない状態なのだろう。

だが、今は体裁をどうのこうの言っているときじゃない。

俺のやるべきこと、それは――

 

「冥界政府の方々には、以下をお願いします。

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に関する情報の公開』

 ――これは機能ではなく、内部データなどを含めたものです。

 いわば、ブラックボックスの中身を公開してほしいのです。

 

 堕天使陣営に対しては、以下をお願いします。

 『神器を理由とした人間の拉致及び殺害の一切を禁止する』。

 

 天界陣営に対しては、以下をお願いします。

 『真実をありのままに伝え、信徒を自分たちの都合のいいように使い捨てない事』。

 

 ……また、三大勢力全てに共通することとして――

 『人間への過度な干渉は今後その一切を控えていただきたい。

  また、過去行われた干渉について、事件性のあるものは調査してほしい』。

 い、以上自分が異次元で得た情報を公開する、条件とさせていただきたく思います」

 

……い、言った。

言ってやった。

まだ震えが止まらない。これで俺は完全に冥界政府を敵に回しているようなものだ。

如何に天照様の後ろ盾があるとはいえ、それを頼りにもできない。

これで俺は、どうなるのだろう。

 

……悪魔の駒。俺の得た情報から推測した考察が正しければ

これはとんでもない呪縛だ。

 

確かに、悪魔となって得られる力は大きいだろう。

だが、それ以上に主従関係の強要に始まり

思想の塗り替えといった洗脳行為。

そしてそこから外れようものならば……

これは、俺も確証を得てはいない、完全な憶測だが……

 

はぐれ悪魔は、もとからあんな怪物だったわけじゃない。

『悪魔の駒のせいで怪物にさせられた存在』だ。

転生悪魔が反逆行為を行えば、理性を奪われ、姿形も怪物にさせられる。

 

バイサー……いや、その前の蜘蛛男型はぐれ悪魔か。

それに始まった俺が見続けたはぐれ悪魔。彼らはいずれも元は普通の転生悪魔。

それを主の、政府の都合で怪物に追いやられてしまった連中。

ドラゴンアップルの害虫と言われるはぐれ悪魔の情報を得たときに

俺の仮説は信ぴょう性を増したと言える。

それが本当の事ならば、悪魔の駒の情報を公表することは

政府にとってはダメージだろう。だが、被害を食い止めるには必要だ。

 

……それに、塔城さんのお姉さんも、最悪怪物になってしまう恐れがある。

これはさすがに、塔城さんには言ってないが。

 

「……いいだろう。我が友アジュカの設計した悪魔の駒に不備などない。

 その程度の事でよければ、いくらでも公表しよう。

 それより、要求と言うからには他にはよかったのかい?

 例えばそう……『反逆者扱いの撤回』とか、『君を人間に戻す』とか」

 

「……お言葉ですが魔王陛下。その言葉にも大いに魅力を感じます。

 ですが……自分にはそれが実行できるとは、到底思えないのです。

 自分を人間に戻す……それは我が主であるリアス・グレモリーが既に試みた事。

 にもかかわらず、自分はこうして人間に戻れずにいる。

 反逆者扱いの撤回にしてもそうですが……できもしないことをこの場で提案されても

 それはご自身の首を絞めることになると思うのですが」

 

く……さっきからプレッシャーが半端ない……っ!

こうして反論するだけでも心臓がおろし金にかけられた気分だ……!

だ、だが……ここで俺が折れたら……!

俺だけじゃない……塔城さんのお姉さんや、他にもいるかもしれない

悪魔になったことに納得していない転生悪魔……

そんな人達のためにも、力を、情報を持っている俺が屈するわけには……!

 

「なるほど、リアスが……か。彼女も曲がりなりにもグレモリーの次期当主。

 眷属を思い動くことに、何ら不自然はないな。

 そんな彼女が手を尽くした結果が『悪魔であることを受け入れろ』ならば

 君はそれに答えてもよかったのではないか? 兵藤君のように。

 君はリアスの思いやりを、優しさを踏みにじっている。そう考えたことはないのか?」

 

……そいつは痛い。俺とて全くグレモリー部長に感謝していないわけではないのだ。

それ以上に疑念を抱いたり、俺が俺でなくなりかけたことに対する忌避感の方が強いのだが。

しかし……ここで身内であるグレモリー部長を出してくるとは。

この人それでもいち種族をまとめ上げる存在か?

俺も出したが、俺にとってグレモリー部長はあくまでも(勝手にポストに就いた)上司であって

俺の家族でもなければ、イッセーと違って親しい仲でもない。

これも面と向かっていった日にはグレモリー部長が泣きそうな気がするので黙っているが。

どうでもいい相手だが、泣かれるのは気分がよくない。

 

「……それは出来ません。なぜならば、悪魔になるということは

 自分の家族と、友達と同じ時間を過ごせなくなるからです。

 兵藤一誠も確かに友人ですが、ここで言う友人とは

 自分が人間であった頃に得たかけがえのない友人……

 この駒王学園においても松田、元浜。クラスメートの桐生さん。

 そして、中学の頃からの友人である大那美(だいなみ)高校の兜甲次郎(かぶとこうじろう)如月皆美(きさらぎみなみ)

 彼らは皆どこにでもいる普通の人間です。自分は彼らとこそ同じ時間を共有したい。

 

 それに、悪魔になるということは、人間である自分はその時点で死を意味する。

 そう自分は考えております。ならば、子が親よりも先に死ぬというのは最大の親不孝。

 その親不孝を成してしまった自分は、一刻も早く人間に戻り

 この『ありえない親不孝』を取り消したいと思っているのです」

 

「……ほう。悪魔になるということは、君にとっては汚点であると言いたいわけか。

 悪魔の頂点に立つこの魔王を前にして、その物言いは感服するよ」

 

自分でもそう思う。余裕がないんだ。

人間としての平穏。それが今の俺の望み。

ただ、色々なことを知ってしまったから、それに対する責任は負わなければならないけれど。

それを成すのに悪魔の力が必要なのは痛いところ、か。

そんな俺の考えを見透かしたのか、紫紅帝龍・フリッケンが突如俺に耳打ちをしてくる。

 

『セージ。俺の力は別にお前が悪魔でなければ使えないというものじゃない。

 記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)も然りだ。そもそもアレは、お前が元来持っていた神器。

 神器に目をつけて悪魔にする……お前はよく知っている話だろ?』

 

――ああ。イッセーにしたって、アーシアさんにしたって。

今にして思えば、あるいは祐斗だってそうだったかもしれない。

天界と冥界のパイプさえあれば、そういう風な取引だって可能なんだから。

神器に限らず言えば、塔城さんだってそうかもしれない。

結局よその力が羨ましいから、自分のものにしたいがために強引に自分のものにする。

そんな、そんな勝手な話って――

 

「……陛下がどう仰ろうと、自分の意見を曲げるつもりはありません。

 自分は、自分が自分以外の何者かに変えられてしまう。

 それが、ただただ恐ろしくてならないのです。

 もし、もしもどうあっても自分が変えられてしまうのであれば

 可能な限り、自分は自分のまま生きていく所存です」

 

「……やれやれ。これではまるで私が悪者だな。

 このまま話していても埒があかないか。

 わかった、この件についてはアジュカとも相談しておこう。責任者は彼だからな。

 では歩藤君。君が得たという情報を話してくれないか?」

 

……はぐらかされたか?

いや、だが俺の意見は、立場はこれで明確にしたつもりだ。

その結果、俺がはぐれ悪魔にでもされたら……

 

それこそ、人間に戻るためにも悪魔の駒を本気で除去しなければならないだろう。

そしてそれは、きっと塔城さんのお姉さんを救う手立てにもなるはずだ。

 

「では宮本君。お願いします」

 

「わかりました。まず俺達は――」

 

一呼吸置き、俺はさっき起きたことを包み隠さず話すことにした。

 

 

突如としてレーティングゲームの空間らしき場所に飛ばされたこと。

 

飛ばされた先で、無我夢中で白龍皇の力を奪おうとして異次元に飛ばされたこと。

 

飛ばされた先で、白金龍(プラチナム・ドラゴン)と出会い他の次元世界の存在を知ったこと。

 

アインストは、その次元世界の一つから「ゲート」と呼ばれる通路を通ってやってきていること。

 

白金龍の手引きで、赤龍帝と白龍皇の力から紫紅帝龍の力を得、俺の右手が復元したこと。

 

その力で白龍皇を退け、白金龍の手引きで異次元から帰還したこと。

 

 

俺の話したことに、周囲はざわつく。

二天龍をも下せる龍の存在。

そしてさらに黙示録にも語られる龍と同格ともいえる龍の存在。

不文律、暗黙の了解、ローカルルール。先の大戦で大暴れしたという二天龍に端を発した

龍の神話は、ここに来てその姿を大きく変える時が来たのだろうか。

 

そして、もう一つ大きな反響を呼んだ話題があった。

「別なる次元世界」。こことは全く違う、あるいは似ているけれど全然違う世界。

そしてそれを繋ぐ「ゲート」の存在。

それらがアインストや俺の力に説得力を与えているのだが。

……まさかとは思うが、別なる次元世界の力を得ようとか思ってないだろうな?

そうなった場合、白金龍が止めに入るのだろうか?

あるいは、これも俺がやらねばならないことなのか?

……いや、それはないか。そもそも彼らに「ゲート」をどうこうするのは不可能だ。

白金龍だって完全にゲートを開閉できるわけじゃない。

 

……って、ちょっと待て。

だったら、アインストはどうするんだ?

まさか場当たり的に湧いて出たのを叩くわけにもいかない。

ゲートを能動的に閉じられない以上、アインストの影響は計り知れないんだが。

 

その疑念は、俺以外の皆も思っていたらしい。

この会議も佳境だが、ここが一番の山場かもしれない。

俺にはそんな予感がした――




はぐれ悪魔に関するセージの抱いている疑惑

・バイサーなど、人としての姿を成していない、理性もない怪物などは
 悪魔の駒による改造の結果ではなかろうか。

・今はこうした姿を保てているが、はぐれ認定された時点で
 (処理しやすいように)ああなってしまうのではないか?

・つまり、はぐれ認定された塔城姉(黒歌)もいずれ……
 そうなる前になんとかしないと!

・もちろん、自分がそうなる危険性もある。

※これは拙作独自設定です。
 また、セージの勘違いの可能性も現時点ではあるとだけ言っておきます。

こんなことを公言したら「妄想乙」で片付けられそうですし。
証拠さえあれば……ですけど。
証拠と言えば、「アジュカに悪魔の駒のデータを出させる」とか言ってますが……
そのデータの信憑性はどうなることやら。

セージなりに考えた結果、色々な事件が全てリアスの都合のいいように
進んでいたため、これが疑惑を抱く切っ掛けになったとも言えます。
実はアーシア誘拐はもとより、セージがこうなるきっかけにもなった
レイナーレ放置の件も、まだ公式発表出てないんですよね……

神を見張る者のトップが変わったため、ここで調査がなされるかどうか……
これは極めて個人的なことなので、今回セージの出した条件には
名指しでは入ってませんが、事件性のあるものの調査依頼は出しているので……


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Soul58. 終結する会議と下された決断

毎度のことながら、感想・応援ありがとうございます。
中にはネタとして拾っちゃうものもあるかもしれませんので
ご了承下さいませ。

それでは会議終結です、どうぞ。


俺の証言に、会議場はざわめく。

俺が異次元で得た力についてもそうなのだが、それ以上にアインストだ。

何せ、どこから――まぁ、「ゲート」からなのだが――そのゲートが

何処にあるのか、皆目見当がつかないのだ。

 

ついさっきは、カテレアに答えるようにおそらくは異次元、アインストがいるであろう

世界から転移してきたのだろうが、今度からはゲートから直接来る可能性がある。

そうなれば、こっちからゲートに行動を起こさねばならない。

そこで一つ問題になるのが……

 

――どうやって、ゲートを開閉するのか、と言うことだ。

ゲートを通ってくるのならば、そのゲートを閉じてしまえば話は早い。

だが、その方法がわからない。

 

「歩藤君。その……『白金龍(プラチナム・ドラゴン)』だったか? 彼に頼むというのは?」

 

「無理でしょうね。コンタクトを取ろうにもまた白金龍がいる次元に行ける保証はありませんし

 彼自身、ゲートの操作は限定的にしかできないと言っていました」

 

「あ! だったら、アジュカちゃんに頼んで……」

 

『そういう問題じゃない。俺達が白金龍と出会ったのは外の世界……

 すなわち、この世界と、この世界が形成するレーティングゲーム会場、だったか。

 それの外に限りなく近い場所だ。外の世界には、どんな理由があれ

 おいそれと干渉するべきじゃないんだよ。

 そうじゃないと……こいつや俺が「呪われし放浪者」として枷をつけられることになる。

 もう既に「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」なんて枷をつけられているのに

 これ以上枷をつけろって言うのか?』

 

アジュカ……アジュカ・ベルゼブブ陛下か。

確かレーティングゲームの祖にして、悪魔の駒の開発者。

当面の目的は、彼から悪魔の駒の除去方法を入手することだが……

 

……ん? ここでその名前が出たって事は、俺達が飛ばされたのもアジュカ陛下のせいなのか?

まあ、そのお陰で右腕は戻ったしフリッケンとも出会えたので

これについてはとやかく言わないが……

 

紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)、だったか。君も我らが悪魔の駒を枷呼ばわりするのか?

 これは力を持たない人間に、気軽に悪魔の力を付与する素晴らしい道具だと思うのだが。

 我々は滅亡の危機を脱し、人間は力を得られる。互いに得だと思うのだが」

 

……それのどこが気軽だよ。

少なくとも俺に直接交渉が来たら、絶対に首を縦に振らなかった。

引き換えに捨てるものが多すぎる。話にならん。

自分自身の自由や、大切なものを捨ててまで得るほどの価値は、全く見いだせない。

 

「……今はそんなことを話している場合ではないでしょう。

 アインストをどうやって食い止めるか、それこそが重要だと思うのですが」

 

「やはり、誰かが監視を行うのが手っ取り早いのでしょうが……

 先ほどの通り、我々天使も堕天使も、この駒王町には現時点では干渉出来ませんので。

 冥界領地でさえ無くなれば、我々も見張りを派遣するくらいの事は出来ますが」

 

「……馬鹿にしているのか? この駒王町は、我が妹の、リアスの大事な領地だ。

 リアスだけではない、先代のクレーリア・べリアルよりこの町は

 悪魔と人間との大事な絆を培ってきた場所なのだ。それを易々と……」

 

……馬鹿はどっちだよ。

そりゃそういう絆も大事かもしれないけど、今来るかもしれない脅威への対策を

疎かにしていい理屈にはなってないだろうに。

 

「……シェムハザ総督代理、ガブリエル天使長代理。

 要はここが冥界領でなければよいのですね?」

 

「それならば我々もアインスト対策に乗り出せるが……」

 

「しかし、どうすればいいのです? 天照様」

 

「簡単なことです。我々は常日頃より駒王町は我々の領土であると主張しているのです。

 我々としましても、このままでは現地に人員――眷属や分霊を派遣できないのです。

 事実、姫島をはじめとした数多の神社仏閣は、ここが冥界の手に落ちてから

 その一切が効力を失ってしまった、あるいは歪められてしまいましたので」

 

な、なんだって! そんなことがあったのか……

言われてみれば、確かに廃墟になった神社や教会は多かった気がする。

あの時近寄れなかったのは、まだ一応機能していた教会だったのかもしれないが。

それも今は、機能はしていまい。俺らが機能を停止させたようなもんだが。

結局、現時点では悪魔の一人勝ちじゃないか。

 

「だから、我々としても冥界に駒王町からは手を引いてほしいのだ。

 このままでは、アインスト対策もままならん。

 かといって、冥界一か所にアインスト対策を押し付けるわけにもいくまい。

 現に、旧魔王派なる連中がああも影響力を持って出てきているのだからな。

 サーゼクス。冥界の事案の応対をしながら、アインストによる被害を

 『完璧に』押さえられるという確信はあるのだろうな?

 それができるならば、少なくとも俺から言うことは何もない……が。

 

 ……それだけの力を持った集団が、同盟だ和平だなどと言うのは

 如何にも胡散臭さを覚えるがな」

 

「だから、私達で和平を結んでアインストや禍の団(カオス・ブリゲート)に対抗しようって話をしたんじゃない!

 協力すればこんな問題……」

 

「……セラフォルー様。あなたにとって和平とはそんな束の間のものなんですか?

 確かに我々三大勢力ははるか昔よりいがみ合い

 数多の神話勢力を巻き込む大戦争をも起こしました。

 しかし、そのままではよくない……とはミカエルもアザゼル総督も仰っていたことです。

 それほどまでに、我々の結ぶ和平とは意味があり

 とても大きなものだと私は思っているのです。

 それを、このような一過性……であると私は信じていますが……の災害のためだけに

 我々の民草の意見も、他神話勢の意見も聞かずに一方的に結んでよいものなのですか?」

 

「和平を結び、アインストや禍の団を倒した後も問題です。

 そうなれば、今まで触れられなかった問題が堰を切ったように溢れ出すでしょう。

 それはきっと、今日ここで触れたであろう事以上の量であると懸念しています。

 我々がアザゼルや天使長ミカエルと違い、和平には一歩引いた見方をしているのは

 単にそういった事情があるからなのです。

 我々が思っている以上に、社会を形成する天使や悪魔、堕天使達に根付いた感情は

 とても黒く渦巻いていると思うのです」

 

ガブリエル天使長代理の話は、一般的に言う天使のそれにかなり近いものだった。

祐斗はその天使(を崇拝する奴ら)に痛い目にあわされたんだが

見方を変えればやったのは結局人間、か。まあ、人間だものな。

シェムハザ総督代理も、所謂一般市民をよく見ようとしているみたいだ。

実際見ているのかどうかなんて、俺は堕天使の政治事情には明るくないのでわからないが。

 

つまり、相互不干渉を結んだにもかかわらずアインストや禍の団を理由に和平を結ぼうとする

悪魔と、先の事も見据えて慎重になるべきとする天使や堕天使。

そして、彼らも駒王町に派兵できるように駒王町が冥界領であるという主張を取り下げようとする

神仏同盟。なるほどなるほど……

それじゃあ、少なくともアインストが出てくるとされるゲートさえ見つかれば

こっちの優位になるかもしれないな……

 

……やってみるか。

 

「薮田先生。一つ、試してみたいことがあるのですが」

 

「何ですか? 言ってみてください」

 

「はい。今の俺の力なら、この駒王町にゲートがあるかどうか。

 それを確かめることができるかもしれません。失礼します……」

 

右手の紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)と左手の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)

同時に起動させる。先の戦いでも披露した、二枚のカードの力を合わせて

新たな力を生み出す、ダブルドロー発現のためだ。

俺の推測が正しければ、この二枚を組み合わせて使えば……

 

BOOT!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

RADAR-ANALYZE!!

 

COMMON-SEARCHING!!

 

……っ!

思ったより、負荷が大きいな。まあ、駒王町全域を偵察かけているんだから当たり前か。

こう、上空偵察のできる使い魔的なものがあれば楽なんだが……

それも、アインストに見つかっても大丈夫なタイプ。

戦闘なり、離脱なりが簡単にできるやつ。そう都合のいいものはないか。

 

……と、俺の左手に天照様の右手が添えられた。

一体全体どうしたというのだろう?

天照様の外見の事もあり、突然の事にドキッとしたが

それはいくら何でも不敬罪だ不敬罪。誰かさんじゃあるまいし。

 

「それなら、私もお手伝いさせてください。限定的に艤装を展開し、偵察を行います」

 

「そういうことなら、俺も手を貸そう。今こそ、これを使う時だ」

 

左手の記録再生大図鑑から、小さな飛行機……推測するに旧日本軍の観測機かな。

紫色の光を背負ったように、何機か空に飛んで行った。

大日如来様も、右手に握った数珠の珠一つ一つが、小さな赤いカブトムシになって

これまた空に飛んで行った。これだけあれば偵察も楽そうだ。

 

……つまり、天照様が出した飛行機に俺のレーダーを積んで広範囲索敵を行い

大日如来様の無数のカブトムシが数に物を言わせた強行偵察。

ありがたい、本当にありがた……うぐっ。痛い。

し、しかしこの痛みはアーシアさんも耐えているんだ。俺も耐えねば。

 

「……ふむ。これでこの町にゲートがあるかどうか、それを確かめるわけですね。

 無ければ無いでよし、あれば……」

 

「はい。駒王町で、天使や堕天使、神仏同盟が動くのに不具合がないようにすればいいんです」

 

グレモリー部長は自信ありと言った様子だ。どこからその自信は湧くんだろう。

今は領地にこだわってる時じゃないってのに。

どうしても領地にこだわりたいなら、勝手にやってくれ。

それを、関係ないやつを巻き込むな。そして今回のケースは、どう頑張ったって巻き込む。

だから、俺はこうして偵察を出してるんじゃないか。

 

沈黙が流れる。ただ、左手の記録再生大図鑑からレーダー音が規則正しく鳴るだけだ。

ゲートがあるのかどうか。あるということは、そこからアインストが出てくる可能性がある。

そうなれば、今までのようにはいかないだろう。

 

だが、俺は何かを忘れている気がした。

ゲートの特性について。だったと思うが……何か、何か肝心なことを忘れている気がする。

必死に思い出そうとしている矢先、俺の展開しているレーダーに何かが引っ掛かった。

 

「反応あり! 映像は……」

 

空間に、駒王町の一角らしき場所が映る。

そこには、十字状に針のようなものがあしらわれた巨大な輪状の建造物があった。

それも、現代日本で建造されたものではない。

どこか未来、あるいは異世界で作られたものだ。

 

『ビンゴだ、セージ。あれが……「ゲート」だ』

 

「周囲にアインストは……見当たらないな。しかし、こうしてあるということは……」

 

「ええ。いずれ現れる可能性は大いにあります。

 さて、サーゼクス。これでわかったでしょう。

 天使、堕天使がこちらに見張りを派遣できるようにするためにも

 私からも、冥界陣営による駒王町の支配を停止していただきたく要求しますよ」

 

「……ゲートがある以上、仕方がないか……」

 

「お、お兄様!? 私はいやよ! どうしてこの町を手放さなければならないのよ!」

 

「そうですよ魔王様! やい! お前らどうしてそうやって

 寄ってたかって俺達悪魔を虐めるんだよ!

 俺たちが何をしたっていうんだよ!」

 

……この馬鹿! 今ここでそういう物言いはマズいだろ!

俺はイッセーが心身共に悪魔になってしまったのかと言うどうしようもないやるせなさと

悲しみに襲われる。何故、何故こいつはこうも……

 

人間を捨てて、平気でいられるんだ……?

まさか、今のままでも今まで通りに暮らせると本気で思ってるのか……?

そんなわけ……そんなわけ無いだろうが……

 

「……リアス。今我々が駒王町に拘るということは

 少なくとも駒王町のアインストの相手は我々だけでやらなければならないということだ。

 そして、アジュカやファルビウム……冥界本国の話では、冥界にもアインストは出没している。

 こちらは旧魔王派の誰かが召喚している可能性も否定はできないが。

 戦力の整っている本国でさえ苦戦している相手だ。君たちだけで勝てると思っているのか?」

 

「そ、それは……」

 

「そして兵藤君。君がそう言ってくれるのは魔王としては嬉しいが

 一人の戦士として言わせてもらうと、そんなことでは早死にするぞ。

 いくら君が赤龍帝といえども、相手は未知の世界からやって来たんだ。

 あのカテレアの豹変ぶりを見ただろう」

 

事ここに至ってと言うべきか。魔王陛下が仕事をしているように見える。

と言うか、これが当たり前であるべきなんだけど……

 

「サーゼクスちゃん! 駒王町はリアスちゃんにとって大事なところだってわかってるでしょ!?

 それなのになんで……」

 

「その大事なところを守るためだ……!

 セラフォルー。君も魔王ならば、切り捨てねばならん時は切り捨てなければならん……

 たとえ、相手が何であろうともだ……」

 

「……っ! わ、私は……」

 

む? 今一瞬、セラフォルー陛下の顔色が変わったぞ?

まさか……いや、いくらなんでも考えすぎか?

もしそうだとしたら……覚悟も何もないのに、魔王になったって事になってしまう。

そんな……そんなふざけた理由で誰かの上に立つなんてこと、あっちゃいけない。

そんなのは、人間の政治家だけで十分だ。これも大概だけど。

 

「では、話はついたようですね」

 

「待って先生! お兄様! 私は……」

 

「リアス・グレモリー。現時点をもって君を駒王町の管理者の任から解く。

 今後については追って伝える。これは魔王、サーゼクス・ルシファーとしての命だ。

 

 ……失礼した。これで駒王町には『各勢力』見張りを派遣することができるはずだ」

 

……ん?

これはまさか……管理者としての任は解いたけど、おそらくは

「アインスト監視」を名目にまだグレモリー部長を駒王町に居座らせるつもりだろうな。

まあ、悪魔で一番駒王町に詳しそうなのはそのクレーリアとやら以外じゃ

グレモリー部長だろうよ。なるほど、なるほどねぇ……

 

「わかりました。では、話もまとまったところで……」

 

「ええ。駒王町の監視を行うための準備もありますし……」

 

「最後に我々から一つだけ。アインスト、禍の団以外に問題を起こした場合には

 直ちにあなた方に責任追及を行うものとします。

 今まで我々は確かに動くのが遅すぎました。それが結果として多くの犠牲者を生んでいます。

 しかし、今や我々も動かないわけにはいかないのです」

 

「初めは静観のつもりだったが、いつまでたっても戦争気分が抜けていないようだったからな。

 戦争を語り継ぐならいざ知らず、現在進行形で起こされてはかなわんからな。

 アインストや禍の団の見張りにあたる際には、その事も忘れないでもらいたい」

 

最後の最後に、神仏同盟のお二方から釘が刺される。

結局、ゲートは神仏同盟が周囲を結界で封鎖。天使、堕天使、悪魔が持ち回りで

ゲート近辺の監視を行う、と言う流れで決まったようだ。

 

和平交渉は禍の団と、アインストのお陰で纏まりかけるも

元々の信頼関係がなかったことに加え、アインストと化した禍の団・旧魔王派の

カテレア――アインストレヴィアタンによる襲撃でアザゼルとミカエルが負傷。

その為、和平は頓挫。しかし戦争を行うわけにはいかないという共通認識もあったために

相互不干渉として三大勢力の関係は纏まることとなった。

 

駒王町。長らく冥界の領地として存在していたが、ここに来て他二大勢力との兼ね合いや

神仏同盟の訴求、アインスト及び彼らが出没するであろうゲートが確認されたために

冥界は駒王町の管理から手を引かざるを得ない状況になった。

よって、リアス・グレモリー部長は管理者としてのポストから退くこととなる。

これにより、駒王町は実質五大勢力による共同監視下に置かれることとなる。

 

……テロ組織である禍の団は言うに及ばず、アインストも間違いなく人間にとっては

有害な生命体(?)だ。結局、人間にとっての脅威がはぐれ悪魔に加えて

テロ組織にアインストと、増えただけになってしまったのだろうか。

 

俺はそうは思いたくない。古くからの神様や仏様が腰をあげられたのだ。

これだけでも、今までとは取り巻く状況が大きく異なる。

また、グレモリー部長が管理者のポストから退いたことも

あるいは影響を及ぼすかもしれない。どう転ぶのかまでは、わからないが。

 

太陽が頂点に昇るあたり。

今後に対する不安を多く残したまま、三大勢力と神仏同盟を交えた会談は

ここに終結する運びとなった……。

 

――――

 

時は流れ。

校舎倒壊による影響のため、少し早い夏休みを迎えた駒王学園。

異世界からの招かれざる来訪者が現れると共に

俺達の進路は、大きく変わろうとしていた。

 

プレハブの簡易校舎で行われた少し早い終業式。

結局、宮本成二は一学期には間に合わなかった。

このままでは留年の恐れもある。なんとかせねば。

 

最近はイッセーに憑依していない。どうにも気が引けるのと

霊体でいることに慣れてしまったのだろうか。

そんなわけで、霊体のまま終業式の様子を眺めていた。

 

案の定、イッセーは松田と元浜から夏休みにナンパ大会に誘われているが……

ん? いや、何か違うな……週刊誌?

センテンスなんたらとかいう、最近はやりの週刊誌か。

俺もゴミ箱に捨ててあるのを読むときがあるが。

 

「おい、これ見ろよ。『グラビアアイドル、謎の失踪』だってよ」

 

「これは……桃園モモ! 桃園モモちゃんじゃないか!! し、失踪ってどういうことだよ!?」

 

「ぐえぅ……俺に聞くなよイッセー……っちょ……ぐ……が……かはっ……!?」

 

「ちょっ……イッセーやめなさい!! 元浜マジで死んじゃうわよ!?」

 

あのバカ。悪魔の力で元浜締め上げやがったな。

元浜の首には痣が出来上がっている。桐生さんが止めなかったらと思うと……

俺はもう再三警告したんだ。もう知らん。

 

……元浜が死ぬのはちょっとマズいかもしれんが。

今、間違いなく白目をむいていた。

イッセー。それが人間と悪魔の越えられない壁ってやつだよ……。

 

「い……イッセー……お前……」

 

「え? ……あ……わ、悪ぃ……」

 

「イッセー……お前、最近おかしいぞ? アホみたいな力は出すし

 スポーツテストじゃドーピング疑惑持たれたんだろ? 結果は白だったけど」

 

「それだけじゃないわ。英語は……まぁ、アーシアちゃんに教わったって解釈もできるだろうけど

 オカルト研究部のみんなとばかり付き合ってるじゃない。

 はっきり言って……変わったわよ、あんた。良くも悪くも」

 

む。これはもしや桐生さんも気づき始めているか?

それがいい事なのかどうかはわからないが……

だが、変に首を突っ込むのはやめてほしい。

本当に、今こいつがいる場所は遊びじゃすまないんだ。

 

いつものバカ連中に流れる空気が、若干不穏なものになりつつあることに一抹の不安を覚えるが

これは俺にもどうしようもない。もっと言えば、イッセーの問題だ。

なあなあにし続けてきたツケが回ったって事だろうよ、俺は知らん。

 

「あ、そうだ元浜。俺、この間駅前でこんなチラシもらったんだぜ。

 『あなたの望み、叶えます』って。これでハーレム願ったら俺も……」

 

「お、いいなそれ……って実は俺もそれもらったんだよ。

 なあ松田、今度試してみね?」

 

「「いいねいいねぇ」」

 

……へっ?

おい、そのチラシって……

 

お、おい。なんで管理から退いたはずのグレモリー部長がまだこの町で勧誘やってるんだよ!?

イッセーもそれにはさすがに反応したみたいだが、二人からの対応は少し冷たいものを感じた。

 

「馬鹿言うなよイッセー。お前アーシアさんのみならず

 学園の二大お姉さまにもかわいがってもらってるんだろ?

 つ・ま・り、そんなのに頼らなくても十分じゃねぇか、何言ってやがる」

 

「そうでなくとも、お前は俺達をはめやがったからな。そういうときのお前の言うことは

 もう信用しないことにしたんだ。こっちは俺らだけで楽しむからな!」

 

「そ、そうじゃねぇ! う、うまく言えないけど……な、なんでなんだよ!?

 部長やみんなはもう勧誘してないのに、なんで悪魔のチラシがバラまかれてるんだよ!?」

 

なに? となると……別口の悪魔か?

しかしイッセーもあの件で信用無くしたなぁ。

最も、悪魔のチラシなんて「何言ってんだ?」なんて言われるのが当たり前と言えば当たり前か。

……くっ。実体さえあればこいつらを止められたのかもしれないが……

 

……そうだ、実体と言えば。

札は既にはがされた病院に向かった際、嫌な話を聞いてしまった。

 

――衰弱が激しく、夏の終わりごろが峠である、と。

 

……もう、形振りは構えないか。

俺が死ぬ前に、俺は俺に戻らなければならない。

 

覚悟はできていた。あとはいつ決行するかだけだった。

だが、夏の終わりとなればもってあと2か月だろう。

悠長なことはもう言えない。グレモリー部長には泣きっ面に蜂かもしれないが。

 

祐斗。少々手荒な真似になるが、決闘の約束はもうすぐ果たせそうだぞ。

どうやら、少し早い夏休みは、俺にとってとても長い夏休みに

なりそうな予感がしてならなかった。

 

歩藤誠二としての最初で最後の夏休みになるのか。

あるいは、宮本成二として二度と始業式を迎えられなくなるのか。

 

その決着を付けねばならない時は、もう目の前まで来ていたのだった。




まさかのリアス失脚。
でも悪魔だけにゲートの見張りとアインストの監視や対応させるわけにはいかないもんね。
仕方ないね。

アインスト関係は神仏同盟や三大勢力が睨みあいながらも見張りに着くことで
当面はクリアしましたが……
変態コンビに何やら変なフラグが立ったり
桐生さんに退場フラグが立ったり
イッセーイチオシのグラビアアイドルが失踪してたり
人間組が悲惨なことになりそうな予感。
セージの身体もほぼ明確なタイムリミット発表されちゃいましたし。
(※肉体のタイムリミットです、魂じゃありません。某天空寺さんじゃないんですから)

>セージの偵察に協力したお二方の装備
天照様は艦これで大和が持参してくる観測機こと零式水上観測機。
大日如来様はカブト本編では仕事をしてないことに定評のあるゼクトマイザー。

絵面は大日如来様の方は数珠から飛び出すゼクトマイザー。
零観はパイロットの妖精さんの後ろに同サイズのセージ(妖精さん風デフォルメ)
が乗ってるイメージ。実際の零観も二人まで乗れるし。

※次回から番外編に移行する予定です。
番外編終了時に人物設定等も投稿予定です。


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The riot

番外(超特捜課の戦い)編です。

よくよく考えてみたら久しぶりかも。
会議場の外の話なので会議参加者(とセージ)は出ません。


駒王学園の終業式から遡ること数日。

時は、三大勢力と神仏同盟(しんぶつどうめい)による会議が開かれ

駒王学園教師・薮田直人(やぶたなおと)がその正体を明かした日。

 

――そして、悪意が牙を剥いた日でもある。

 

その日、駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)――通称、超特捜課(ちょうとくそうか)においても

ただならぬ空気が漂っていたのだ。

何せ、超特捜課の協力者であり警視庁の装備開発も兼任している

薮田直人から「この日には気を付けろ」と言う連絡が来たのだ。

 

実際、ここ数日間は悪魔などの超常的な存在による事件と同じくらいの確率で

人間の反社会的組織――すなわち、暴力団による事件が起きているのだ。

特に目立った動きをしているのが指定暴力団、曲津組(まがつぐみ)

この組は、悪魔のバックアップを受けているところまで既に調査のメスが入っている。

勿論グレモリーではない、どこの家かまではわからないが高名な悪魔である。

 

悪魔には大別して72以上の家系があるが、超特捜課にとってはさほど重要な情報ではない。

悪魔がこの人間世界で犯罪を犯すのならば、それを取り締まる。

確保が困難な場合、悪質な場合であれば排除も行う。人間の犯罪者を取り締まるのと同じだ。

何故ならば、彼らは警察官なのだから。

 

警察官にとって、悪魔の相手は荷が重いという考えを持つものも少なくないだろう。

だが、超特捜課には神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる超常的な力を持った警官が所属していたり

薮田直人によって開発された新装備が、警察官を、ひいては市民を守っている。

そんな装備や、神器と言う超常的な力を用いて警察官としての職務に当たり

悪魔や、人間に害をなす者から人々を守る部署こそ、超常事件特命捜査課――超特捜課である。

 

この日、三大勢力と神仏同盟、そして聖書の神の影・ヤルダバオトが駒王学園にて

会談を行っている最中。

人間の時間の刻み方ならば、日付が変わった直後。

既に粗方の人々は眠りについたであろう時間。

 

……事件は、起きた。

 

時同じくして、駒王学園には禍の団による襲撃が行われ。

各勢力のトップがその対応に追われているころ。

駒王町でもまた、町内各地で暴動が起きたのだ。

夜勤と言うことで静まり返っていた駒王警察署内も、途端に騒がしくなる。

 

「大変です! 町内各地で指定暴力団によるものと思われる暴動が多数発生!

 組織犯罪対策課、および機動捜査隊に出動要請、また、暴徒の中には悪魔と思しき存在も確認!

 超特捜課にも出動要請が出ています!」

 

たちまち、駒王町の町中にはサイレンの音がけたたましく鳴り響く。

とある住民はこう述懐する。

 

――その日は、やけにサイレンの音や怒号が凄かった。前々から治安の悪い町とは思っていたが

  まさかこれほどとは。町長は心配ないの一点張りだが、信用できない。

  夏休みにでも田舎に引っ越すよ。これ以上、こんなところに住んでいられないからな。

  子供も学校で虐めにあっているらしいし。

 

この騒動よりも前から、連続猟奇殺人事件や、失踪事件に始まり

駅前での怪しい勧誘、有数の私立学校では性犯罪が絶えないことから

既に日本の中でも住みたくない町のワーストレベルに達しつつある。

とある匿名掲示板では「ここ本当に日本か?」「関西の某地区より酷い」とまで言われる始末だ。

 

その主な原因の一つであるのは、人ならざる者達。

ある者は言葉巧みに人間社会に入り込み、欲望に付け込んで人間社会をじわじわと侵食していく。

浸食自体は彼らにとっては副次的なものかもしれない。

けれど、そこに住む人間にとってはそれこそが主な作用なのである。

またある者は、直接危害を加える。

拉致、殺傷。超常的な存在であるが故、その方法もおおよそ常識では測れない。

それが、警察の動きを鈍くしている一因でもあったのだ。

 

そんな怪事件に対抗すべく、学会より薮田直人と名乗る人物が警視庁に接触してきたのは半年ほど前。

博士号を持つ彼の研究成果と、彼の助言による捜査の進展は間違いのないものであり

学校の教師との二足の草鞋で警視庁のVIPとなり、彼の発表した

「天使・悪魔・堕天使と人々、神々の在り方」と言う論文は世間に公表こそされなかったが

この論文こそが、超特捜課発足の一因となったと言ってもいい。

最も、その薮田直人こそが聖書の神の影であることは、警視庁のだれも知らないことであるが。

 

――――

 

暴動は駒王町の全域で起きていたが、駒王学園だけは避けるような形で起きていた。

その事に警察は不可解な点を感じながらも、暴動の鎮圧にあたっている。

駒王町ショッピングモール付近。日中ならば住人であふれかえるこの地も

今は何処からかやってきた指定暴力団達の抗争の戦場である。

 

「警察だ! 速やかに武器を捨てて両手をあげ、その場にとまれ!

 繰り返す、速やかに武器を捨てて両手をあげ、その場にとまれ!」

 

拡声器による呼びかけにも、暴力団員は応じる気配を見せない。

それどころか、まるで何かに操られているかのように争いを続けている。

 

「まるでこちらの言うことなど聞こえていないかのようだな……。

 やむを得ん。威力行為を用いてでも彼らを止めるぞ。但し傷害は最低限にだ、いいな」

 

「了解っ!!」

 

隊長の指示に、機動隊員が戦場にガス弾を投入。暴力団員の無力化を図ろうとする

……が。

 

煙幕の中、特殊ゴーグル越しに見た光景は、今なお戦い続けている暴力団員の姿だった。

 

「隊長! 催涙弾が効いてません!」

 

「なんだと!? 相手は普通の人間……ま、まさか!!

 超特捜課に応援を要請しろ! その間我々は周囲に被害が出ないように相手の無力化を行う!

 対人用の麻酔銃を使っても構わん! 催涙弾の効かない相手だ、注意しろ!」

 

「了解!!」

 

暴力団同士の抗争だからと、組織犯罪対策課に頼った構成が仇となった。

暴力団は暴力団でも、その中の曲津組は「悪魔と契約を行った」暴力団なのだ。

反社会的な組織が、非合法な存在と手を組み利益を得ようとするなど、至極当然の事である。

だが、この結果を見る限りでは曲津組も

悪魔に利用されただけであったかもしれない可能性も高いが。

 

無意味な抗争を続ける曲津組と他の組の暴力団員。

それを食い止めようとする機動隊員。

そんな様子を、後ろからほくそ笑みながら眺めている、黒い翼を生やした存在がいた。

 

「……くっくくく。ボロい。ボロすぎる!

 人間をちょちょいと煽ってやって、騒ぎの一つでも起こしてやれば

 あの能無しの魔王どもに一泡吹かせてやれるんだからな!

 カビの生えた古臭い自称魔王なんかどうでもいいけど、こんな面白いアソビがあるなんてよ!」

 

「全くッスよ兄貴。しかもここはあの乳悪魔で有名なリアス・グレモリーの領地じゃないッスか。

 ここに俺らの臭いを擦りつけられるって考えただけでもう……うっ!」

 

チンピラ風の悪魔に、小太りの下卑た悪魔が暴力団員と機動隊員のやり取りを見て嘲笑っている。

盛り上がる小太りの悪魔に、チンピラ風の悪魔は若干引いた様子も見せているが。

 

「おま……本物相手ならともかくよぉ。本物どころか領地、それもその場所じゃ

 人間が小競り合いしてるんだぜ? よくそんな気になるな……」

 

「ふひひ、ジョーダンッス。でもあの乳悪魔はいつかめちゃくちゃにしてやりたいッスねぇ」

 

小太りの悪魔と、チンピラ風の悪魔はにやつきながら談笑している。

そんな背後に、制裁を与えるものの存在に気づかないまま。

 

「……チッ。あんまりしけた欲望をだだ流しにするな。鼻が腐る」

 

「ああン!? なんだてめぇ!?」

 

二人の背後に立っていたのは、右手に赤・緑・黄の三色のグラデーションをした

鳥の翼を模した腕輪をつけた、はねた前髪が特徴の金髪の目つきが悪い警察官――安玖信吾(あんくしんご)

 

「特にそっちのデブ。お前らが悪魔だってことを抜きにしても臭ぇんだよ。

 お前ら、本当に碌な欲望持ってないな。吐き気がするぜ」

 

「てめぇ! 兄貴、こいつ人間のくせに生意気ッス!」

 

「待て。お前のその右手、『欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)』だろ。昔見たぜ。

 つまり、神器持ちってわけか。なぁ、モノは相談なんだが、俺と――」

 

チンピラ風の悪魔が喋り終えるのを待たずに

安玖巡査の「欲望掴む王の右手」が填められた拳が入る。

既に発動してるのか、その手には炎を纏っていた。

 

「お前らは悪魔だから一応発動手当は出るんだがな。

 これ使うのだってタダじゃねぇんだ……よ!!」

 

返す手で今度は小太りの悪魔を吹き飛ばす。

きれいに吹っ飛び、街路樹に激突して伸びてしまっている。

神器の性能のお陰か、それとも彼らが大したことなかったのか。

二人の悪魔が沈黙すると同時に、ショッピングモール前でも動きがあった。

 

――暴力団員がこぞって正気に戻ったのだ。

 

その後、わけもわからず確保される暴力団員と

機動隊員の間でちょっとしたトラブルは起きたものの

この地域でのトラブルは解消することができたとみていいだろう。

 

「……チッ。また余計な税金払わされたぜ。確かに手当ては出るけどな。

 結局税金で払ってるから何の解決にもなってねぇんだよ。

 

 ……こちら安玖。事件関係者と思しき悪魔二名を確保。連行のための応援を求む」

 

『こちら本部霧島(きりしま)。直ちに人員を向かわせます、どうぞ』

 

無線連絡を終えた後、安玖は別の現場へと向かう。

まだ、他の場所でも暴動は起きているのだ。

 

――――

 

駒王町・住宅街。

寝静まっているはずのそこは、またしてもただならぬ雰囲気の中

住民は平和の象徴であるはずの家屋の中で震え上がっている。

つい先月、巨大な怪物――オルトロスによる襲撃があったばかりだというのに。

 

その事件そのものは住民の記憶操作のため、覚えているものはごくわずかだが

ネットには謎の怪生物として時折アングラサイトに

オルトロスが暴れた様子の動画が投稿されていたりする。

 

今回の事件は、そんな怪生物によるものではない、ただの人間の暴動である。

ただありえない点を挙げるとすれば。

 

こんな真夜中に。

日本を股にかけるような指定暴力団同士の抗争が。

人目も憚らず行われているということである。

 

そのあまりにも不自然な現象に、暴動鎮圧にあたった超特捜課の巡査

氷上涼(ひかみりょう)も不可思議に思っていた。

 

――これは絶対にただの抗争なんかじゃない。

何か人ならぬもの――そう、悪魔か何かが糸を引いているに違いない、と。

 

事実、他の現場に向かった署員からは軒並みそういった人間業では説明できないような

事象が報告されているのだ。

 

『こちら本部霧島。氷上巡査、応答願います』

 

「こちら氷上、霧島さん、どうしました?」

 

無線の相手は安玖とほぼ同時期に警視庁から超特捜課に配属された霧島詩子(きりしまうたこ)巡査。

神器を持たないため、今はこうして内勤担当ではあるが

警視庁で完成した試作品と共に超特捜課の応援要員として派遣された人物である。

 

『安玖巡査より、事件関係者と思しき悪魔を二名確保したとの報告がありました。

 他の現場にも悪魔が潜伏している可能性は高いと思われます、お気を付けください』

 

「氷上了解、引き続き周囲の警邏にあたります……っ!!」

 

通信を切ろうとした氷上の目に映ったのは、死屍累々の惨状。

通報では、指定暴力団同士の抗争があったはずなのに、ここにあるのは複数の惨殺死体のみ。

いくら暴力団同士の抗争でも、ここまでの事態には早々ならない。

ただならぬ雰囲気に、氷上に緊張が走る。

 

『氷上巡査、どうしました?』

 

「霧島さん、こちら学園前住宅街地区。

 暴徒と思しき暴力団構成員は……全滅しています。

 

 ……繰り返します。学園前住宅街地区、暴力団構成員は全滅している模様」

 

『ぜん……ほ、本部了解! 氷上巡査は引き続き周辺の捜査を行ってください!』

 

氷上は通信を切り上げ、駆けつけてきた鑑識課と協力して検視を行い

このただならぬ雰囲気の原因の究明に努めている。

鑑識の見解ではこうだ。

 

――人為的なものではなく、毒によるもの、また人間には出しえない強い力での圧死。

 

ならば答えは一つだ。悪魔、それも以前戦ったオルトロスのような怪物。

氷上には未だその正体は掴めていない。だが、それを知るであろう者はそこにいた。

 

「……そこかぁ!!」

 

威嚇射撃。電柱の影に隠れていたそれ――悪魔は、あっさりと氷上の前に姿を現す。

しかし、そこに戦意は見られない。まるで、何かから逃げていたかのように。

 

「駒王警察署超特捜課の氷上だ。これはお前がやったのか?」

 

「な、ななな何しやがるんだ! にににに日本の警察は

 いきなりじゅじゅじゅ銃を撃ってくるのかよよ!?」

 

そこにいたのは、その黒い翼以外に悪魔としての要素など何一つない、気弱そうな男だった。

氷上もこれには面を喰らい、銃をホルスターにしまい悪魔に質問を投げかける。

 

「それはすまない。何分非常時だからな。それより、ここに転がっている変死体。

 やったのはお前か? 人間業では、こんなことは到底できない」

 

「お、おおお俺だってしらねぇよ! 俺はただ今日ここでこの人間たちの

 望みをかなえてやれば大儲けができるっていうから、それに乗っかっただけだよ!

 だ、だだだだから俺は関係ねぇ! 関係ねぇったら!!」

 

そのあまりにも無責任な言葉に、氷上は静かに拳を握った。

まるで、自らが招いたことの重大さを理解していない。

まるで、人間は悪魔にとってただの餌か無尽蔵の資源としてしか見ていないような物言い。

まるで、ここは彼ら悪魔の遊び場であるかのような。

 

「……確かにこいつらは人間社会にとってはあまりいいやつじゃなかったかもしれない。

 だが、それでも! お前らの勝手な理屈で好き勝手に弄っていい理屈は何処にもないんだ!!」

 

狼狽える悪魔に、氷上の怒号が飛ぶ。氷上は神器を持たない。

あるのはただ、警視庁で開発された装備だけ。

超常的な力を持たない彼が、超常的な存在である悪魔に怒りを向ける。

平凡なる人間は日々を懸命に生き、非凡なる悪魔は日々を刹那的に生きる。

その思想の相違は、平行線をたどったまま決して埋まることのない溝として確立していたのだ。

 

「ば、馬鹿じゃねぇのか? に、にに人間ったって、しょうもない理由で俺達の力に縋ったり

 しょうもない理由で自分たち同士で争ったり、しょうもない理由で他の生物を滅ぼす。

 お、おおお俺達悪魔が導いてやらないと、ほ、ほほ滅びるのは目に見えてるだろうが」

 

「ああそうさ! だからそういう過ちを正すために俺達警察官がいる!

 誤った道を進ませないために学校がある! 知恵を、力を合わせて乗り越えられるのが

 俺が思う……人間だ!

 

 そうさ……俺達は……ただの、ただの人間だ!!」

 

「た、ただの人間が偉そうに言うんじゃねぇよ!!」

 

向かってくる悪魔に、氷上は右手のプラズマフィストを向ける。

既に充電完了しているそれは、悪魔にとっても決定打となりうる装備だ。

だがそんなことは、悪魔にはあまり知られていないことである。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

真正面からプラズマフィストに突っ込む形になった悪魔。

当然、今回は確保が目的であるため出力はセーブされているとはいえ

最大では自然の雷――五億ボルトにも匹敵する出力を誇る装備。

そんなものをまともに受ければ、ただでは済まない。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

プラズマフィストの放電部分が、悪魔に接触。そこから超高圧電流を流される形となり

瞬く間に悪魔は沈黙してしまう。

現時点において、接近戦では超特捜課最強クラスの装備ともいえよう。

 

「――人間を、なめるな!」

 

……しかし、それだけでは終わらない。

当然、この後は取り調べも控えているのだ。

ついさっき超高圧電流を受けた悪魔をひっぱたく形で、氷上は事情聴取を試みる。

悪魔にとっては災難だが、自業自得でもある。

 

「気が付いたか。気が付いたところで質問に答えてもらうぞ。

 ここにいる人間の死体。やったのはお前か?」

 

その答えは、思いのほか早く返ってくることとなる。

しかしそれは、あまり歓迎のされる答えではなかったが。

 

「……そ、それは本当なのか!?

 霧島さん! こちら氷上、霧島さん!」

 

『こちら霧島。どうしました、氷上さん?』

 

「直ちに本庁に確認を! 確認の内容は――」

 

『――っ!? わ、わかりました!!

 確認が取れ次第、現場に向かっているすべての署員にも通達します!!』

 

ただならぬ雰囲気は、駒王学園の敷地内だけでなく

駒王町全域をも覆うとしていたのだった。

 

――――

 

駒王駅前。ここには超特捜課の課長、テリー(やなぎ)が向かっていた。

しかし、ここは他の場所に比べて静かである。

氷上が向かった場所のように、すでに何者かが暴れた跡もない。

だが、確かに破壊の跡はある。

 

「一体どういう……っ!?」

 

柳に向けられた殺気。それは、通常あり得ない場所からの殺気だった。

窓。噴水の水面。ブティックの姿見。鏡の中から悪魔が出てくるというケースは

オカルト的な本には無数にある。しかし、これはきっとそんな生易しいものではない。

柳の直感はそう告げていた。

事実、そこから現れたのは――

 

「紫の大蛇……だと!?」

 

柳めがけ尾を叩きつけながら、口からは硫酸を吐きかけてくる。

どう見ても交渉に応じられそうもない怪物。直感で測るしかないが

強さはオルトロスと互角以上かもしれない。

 

「くっ、止むを得んか! 『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』、発……動っ!!」

 

タコメーター付きのストップウォッチ――テリー柳の神器「加速への挑戦」が発動する。

これは10秒間だけ己の速さを極限まで高めるものである。

この力を使い、一気に畳みかける。それが柳の作戦だった……のだが。

 

大蛇の尾の死角に入ったと思った瞬間、今度はまた別の方向から

銀色の二足歩行の犀が突っ込んできたのだ。

速度のお陰で直撃は避けられたが、完全に攻撃のタイミングを失う形になってしまった。

 

「伏兵!? こいつら、一体どこから……」

 

二匹の獣に囲まれる形となった柳は、それならばと思い切って空からの攻撃を試みる。

蛇も、犀も空を飛ぶことには長けていない。

そこから頭を狙う。神器の残り時間で考えれば一度きりのチャンスだ。

 

「まだまだ……振り切るぜ!!」

 

駅ビルの壁を駆け上がり、二匹の獣の頭上を取った――かに見えた。

しかし、柳の一撃は駅ビルの窓から現れた朱色のエイに阻まれる形になってしまう。

 

「しまっ……まだいたのか!!」

 

着地の体制をとるが、神器の持続時間は終わってしまう。

再度使えるようになるにも時間がかかる。このままでは危険である。

ただでさえ三対一。贔屓目に見ても追い詰められているといえよう。

想定外の連携に、追い詰められていく柳。

大蛇に飲まれようとする寸前、その場に笑い声が響く。

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃっ!! ざまぁねぇな、ポリ公!!」

 

「その声……フリード!?」

 

朱色のエイの背に乗る形で、フリードが腕組みをして柳を見下していた。

その手には既に聖剣どころか、剣の一本も持っていない。

服装も、彼が刑務所からそのまま出てきたことを物語っている囚人服だ。

 

「あー。この恰好か? てめぇらのせいだろうが。俺様にこんなダサい恰好させやがって。

 ま、こいつら使ってその辺からちょろまかせるんだけどな。

 あ、紹介するぜ。こいつら俺の新しい相棒。『菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)』に

 『鈍色の鋼皮角(アイゼン・シュラオペ)』、『朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)』だ。

 どーだ? いかすだろ? やらねぇけどな、きゃははははははっ!!」

 

既に柳への止めなどどうでもいいという風に、フリードは一人悦に浸っている。

それほどまでにこの三体の怪物が気に入ったのだろうか。

あるいは、娑婆に出られたことでテンションが上がっているのか。

 

「俺よぉ……すっげえイライラしてたんだよ。

 俺は悪い悪魔を潰して、潰して、潰しまくって!

 そんな悪魔に餌をやる人間も悪党だから俺がしばいてやったってのに!

 それなのにあいつらは俺を犯罪者扱いだ! やってられるか!?

 ……そんな時だよ。コカビエルが俺に声をかけてくれたのは。くたばっちまったけどな。

 それから手に入れたのは……こいつらだ」

 

フリードの言葉に、柳は言い返そうとにらみ返すが

「菫の猛毒蛇」の尾にたたきつけられてしまう。

それでも目線はフリードから外さない辺りは、彼とて凄腕の警官であることの証左か。

 

「言っとくがてめぇの綺麗事なんざ聞かねぇぜ。見返してやろうとか

 そういうつまらねぇ理由で俺だって戦ってねぇ。

 ただな……俺がイライラする奴が許せねぇ、そんだけの話だ。

 こいつらはそんな俺に巡ってきたチャンスだ。こいつをよこした奴が何を企んでいるのか。

 俺にとっちゃそんなのこそどうだっていい。ただ俺は……

 俺の許さねぇ奴を潰す。徹底的につぶす。それだけだ。

 それだけのためにこいつらに餌を食わす」

 

「餌……まさか!!」

 

目を見開いた柳に、フリードは指を振り否定の意思を示す。

その眼には、少々の呆れも含まれている。

 

「まぁ人間も食わせるけどよ。効率悪いんだよ、人間。

 だから俺は悪魔や天使、それから堕天使も食わせる。

 こいつらうまい具合になんでも食うからな。

 ま、神やドラゴンはまだ試してねぇけどな。

 で、こいつらは食えば食うだけ強くなる。それで俺のイライラする奴を潰すんだよ。

 そいつぁきっとスッキリするぜ……

 

 ……だからてめぇなんぞに邪魔されたくねぇんだ、わかったか!?」

 

フリードが一吠えした後、追い打ちをかけるかのように柳の腹に

「菫の猛毒蛇」の尾が叩きつけられる。

そのまま一人と三匹は、どこかへと姿をくらましてしまう。

その場に、フリードの声だけを残して。

 

――今のてめぇなんか潰したって、イライラは消えねぇからな!

  当面は俺にこいつをくれた奴の手助けでもするさ! そのほうがスッキリしそうだからな!!

  ひゃははははっ、ひゃーっははははははははははっ!!

 

結局、フリードを逃がす形になってしまった柳。

ふらふらになりながらも、無線機に手を伸ばそうとするが

その手は応援に駆け付けた氷上に止められる。

 

「柳さん! 一体何があったっていうんですか!?

 ま、まさか……!!」

 

「氷上か……そのまさかだ。くそっ、超特捜課を名乗っていながらこのざまとは……!!」

 

七月某日未明。この日、駒王学園で行われた会議においても

禍の団が決起し。

人間社会においても、悪魔の干渉が看過できないレベルで行われ。

 

人外の脅威に、超特捜課が敗北を喫した夜であった……。




会議の最中、街中ではこんなことになってました。
もう疎開不可避ですね。

今回どうなったかと言いますと

・かねてから欲望を持っていた人間を
・悪魔が契約などで欲望をたきつけて
・その契約に旧魔王派が乗っかって、会議に合わせて暴動が起きるように仕向けた

と、見事に和平派以外からはwin-winの関係になってます。
こういう契約なんて裏があって何ぼだと思うんです。
ここはグレモリーの領地だろ、ってツッコミも
「グレモリーなんか怖くもなんともない、寧ろあいつら嫌いだし」な連中には
全く何にも抑止力になってないんですよね、いくらグレモリー領だからって。

>フリード
以前少し触れた通り脱獄してます。
脱獄囚のまんまの格好なので恰好ついてませんが、何気に悪魔払いとしては
(かなり過激だけど)そこまで間違ったこと言ってないという。
彼もまたイリナとは方向性が違うだけで歪められた存在なのかもしれません。
以前触れた通り、引き連れている魔獣(あえてこう表現)の元ネタは仮面ライダー王蛇。
魔獣、という表現をここで使ったのである人物(神器)との接点も……?

>霧島詩子
ここに来て新キャラ。貴重な婦警枠。
モチーフは艦これの霧島……と思わせて仮面ライダードライブの詩島霧子。
残念ながら追跡撲滅マッハな弟とか生きとし生けるもののために戦う恩人とか
脳細胞トップギアな旦那は現時点ではまだ予定ありませぬ……すみませぬ……
女性でなければどうにもならない(ケア的な意味で)が起きる前触れ……かも。


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Extra Justice7. 神に返すべきもの

突然ですが、オーフィスとの絡みのためにアインストを出すにあたり
その舞台装置としてクロスゲートを出したことについて。
実は少し、いやかなり後悔してる部分があります。

……チャラ男賞金稼ぎとか毒舌シンデレラとか来たら凄いカオス化しそう。
イッセーがライザーと同じ理由でハーケンに喧嘩売ってアシェンの毒舌で
凹まされるところまではまざまざと見えるんですがこれは。

それにOGMDであんな奴らが出てくるなんて思わなかったんだもん!!
アインストどころの騒ぎじゃねーよコレ!!
(尚ネタバレにつきこの件については感想掲示板等では触れないでください。
 私はネタバレについてはバッチコイ派なので無問題ですが
 不特定多数の目が触れる場所ではどうかご自愛のほどを)


……こほん、取り乱しました。
今回はまさかの名護さん……もとい伊草慧介視点。
そして、まだ少し描写不足な点もあるかもですが
実質上の第四章「停止世界のクーデター」最終話です。


――そこで、あなた方に学校の警備をお願いしたいのです。

 

そう言って、俺――伊草慧介(いくさけいすけ)とその弟子、ゼノヴィア君に提案をしてきたのは

自身を日本の未来を憂ういち日本人と名乗る、如何にも胡散臭い男、薮田直人(やぶたなおと)

聞けば、近々その学校――駒王学園において天使・堕天使・悪魔らによる

会談が行われ、その警護として人外の存在とも戦える俺達に

会場の警護に当たってほしいとの事なのだが。

 

確かに、俺達が所属しているNPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)はそうした人外の勢力から

市民を守ることも役割の一つとしてある。

そう考えれば、俺にお鉢が回ってくることも別に不思議ではない……が。

 

「相変わらず天界の大天使長は勝手だ。教会を離反したとは言え

 俺のところには一切話が来ていない。もう関係ないとも言えるがな。

 ゼノヴィア君を呼ぶのならば、俺も呼びなさい。今俺は彼女の身元保証人だ」

 

俺には身元保証人としてゼノヴィア君を守る義務がある。

そもそも、彼女は保釈された身の上だ。俺はその保護観察を担っていると言えよう。

この件に関して、俺は間違っていない!

 

さておき。ゼノヴィア君は確かに聖剣使いとして名を馳せたらしいが

俺に言わせば、まだ彼女には戦士としての自覚に危うい部分がある。

そんな彼女を、今回の警護に回すには少々不安だ。

その証拠が、先刻の事態だ。目先のことに囚われて、大局を見失い

窮地に陥っていた。そう何度も俺や仲間が助けに来られる保証などない。

 

そもそも、それ以前にだ。悪魔が絡むということは会議は夜、それも深夜じゃないのか?

22時を回るような案件に、未成年のゼノヴィア君を派遣することなどできはしない!

薮田直人! 君も日本人なら、労働基準法と言うものを勉強しなさい!

 

……ってゼノヴィア君もゼノヴィア君だ! 何受けているんだ!

やめなさい、そんな胡散臭い依頼は今すぐ受けるのをやめなさい!

ああもう、ここにめぐがいれば止めにかかったかもしれないのに!

 

「やめなさいゼノヴィア君! 君は未成年だろう!?

 未成年の22時以降の就労は法律で禁止されている!

 薮田直人、その事を知らないわけでもあるまい!」

 

「おっと。そういえばそうでしたね。私としたことが失念しておりましたよ。

 ……ではこうしましょう。就労の報酬はあなたに一括で渡す形で。

 勿論、ゼノヴィア君の分も含めての特別報酬と言う形ですからね。

 きちんとゼノヴィア君に渡してくださいよ?」

 

「そういう問題じゃない! 未成年をそんな時間に就労させることが問題だと言っているんだ!」

 

そうだ、俺は間違っていない! 俺が間違うことはない!

間違っているのはそこの胡散臭い男だ!

しかし二人とも、俺の言葉に耳を貸そうともしない。俺の言うことを聞きなさーいっ!!

 

「説明が足りませんでしたね。こうすることで私とゼノヴィア君との間に

 労働契約は発生しないことになるんですよ。金銭の授受が行われれば

 確かに労働契約になってしまい、22時以降彼女を拘束することは出来ません。

 ですが金銭の授受を慧介、あなた一人に絞れば私とゼノヴィア君の間には

 何の接点も無くなるわけです。なので、その時間ゼノヴィア君が

 どこで何をしていようが、私は一切関与いたしませんので」

 

「なるほど。それならば時間を気にせず私も警護に当たれるな」

 

「納得するんじゃない! 薮田直人、君も教師なら未成年の深夜徘徊について

 何か言うことはないのか!?」

 

「……それを言われると痛いですねぇ。しかし、私としてもあなた方に頼るより他ないのですよ。

 超特捜課(ちょうとくそうか)は町の警備に当たってほしいですし、会場警備は手薄なことこの上ありません。

 強化を具申したのですが、却下されてしまいましてね……。

 そこで、あなた方に白羽の矢が立ったのですよ」

 

解せない。それほど重大な会議に、何故警備を多く割かないのだ?

それでは反社会的勢力に襲撃してくれ、と言っているようなものではないか。

なるほど、薮田直人の言い分はわかった。だが。

 

「なるほど。そういうことならば俺は引き受けよう。

 だがゼノヴィア君、君はダメだ。未成年の君を、そんな時間に外に出すわけにはいかない」

 

「ま、待ってくれ慧介! 三大勢力のトップと言うことは

 ミカエル様が来られるということだろう?

 ならば私は、ミカエル様にどうしても聞きたいことがあるんだ!」

 

「……ふむ。ですが、必ずしも聞けるとは限りませんし

 その答えはあなたの望むものではきっと無いでしょう。それでもですか?」

 

……む?

この物言い、まるで自分が天界の関係者であるかのような物言いだな?

如何にも胡散臭いとは思っていたが……これは気を付けたほうがいいかもしれないな。

ゼノヴィア君、この話――

 

「ああ、私はどうしてもミカエル様に確かめたいことがある。

 イリナの事にせよ、主の不在の事にせよ。そして私はこう言いたいんだ。

 『主が不在であれ、私の主を敬う気持ちに嘘偽りはない』――と」

 

「……わかりました、いいでしょう。では改めて、伊草慧介。ゼノヴィア君。

 お二方に駒王学園で行われる三大……いえ五大勢力による会議の会場警備をお願いします。

 あ、こちら私の連絡先です。何かあったらこちらまでお願いしますよ。

 それから……ゼノヴィア君が会場にいることは

 『私は関与しない』方針を貫きますので。この件について警察に問いただされても

 私は一切の責任を負いませんので、そのおつもりで」

 

むう。結局受ける方向で話が決まってしまった。

ゼノヴィア君が深夜にその場所にいることについては

自己責任、と言うか俺の責任にするつもりか。

まあ、俺の答えも決まってはいるのだがな。めぐへの説明だけが面倒だな。

 

「それでは、私は準備がありますのでこの辺りで。

 当日、駒王学園でお待ちしておりますよ」

 

言うだけ言って、薮田直人は立ち去ってしまった。

困った話だ。俺だけならばともかく、ゼノヴィア君も一緒となるとな。

何事も起こらなければいいが、態々蒼穹会の裏の顔を知っている者が

俺に依頼を寄越してくるんだ、まず事態は起きるだろう。

 

「ゼノヴィア君。これだけは言っておく。

 今回の警備、もしかすると『相手は悪魔とは関係ない人間も混じっている』かもしれないぞ。

 そんな奴を斬るということになれば、下手をすれば傷害罪。もう一度塀の中だ。

 そして今度は、俺も君を助けられない。それでも今回の警備を受けるのか?」

 

「それは慧介にも言えることだろう?

 めぐから聞いたぞ、昔警察の世話になったことがあるとな。

 そんな慧介に、私の事は言えないんじゃないか?」

 

ぬうっ! 痛いところを突くな、ゼノヴィア君。

だが今それとこれとは関係ない! 俺は常に正しい、俺が間違うことはない!

 

「……とまあ、そういうわけだ。私が同行してもいいだろう?

 それに、ミカエル様が来られるということはもしかするとイリナも……」

 

「君が探していたという子か。

 ……全く仕方がない。その様子では来るなと言っても来るだろう。

 だが、何かあったら俺を頼りなさい。決して一人で解決しようとするな。

 誰かを頼るというのは、決して恥ずべきことでは無いのだからな」

 

結局、渋々ながらもゼノヴィア君と共に深夜の学校の警備を受け持つことになってしまった。

それにしても、人類に害をなす人外集団との戦いにも長けている

蒼穹会の俺達に警護を依頼するとは、一体何をやらかそうというのだ。

結局、お題目は恵まれない人々の為と謳いながらも、自分たちのエゴで

その恵まれない人々を増やしていては世話がない。だから俺は教会を抜け蒼穹会に入ったのだ。

天界は、そのころから全く何も変わっていない。

 

噂だが、孤児を集めて非人道的な行いを働いたこともあるそうじゃないか。

それが事実だとすれば、教会に籍を置いていたことは俺のミスであり、罪だ。

罪は許されない。元締めである天界は、この罪を償わなければならない。

ゼノヴィア君はミカエル大天使長に言いたいことがあると言うが

どうやら俺にもあるみたいだ。

 

――その命、神に返しなさい、と。

 

――――

 

三大……いや五大勢力による会議の当日。

何故五大勢力かと言うと、天使・悪魔・堕天使の三大勢力に加え

日本神話と日本に籍を置く仏教勢力が手を組んだ「神仏同盟(しんぶつどうめい)」が

この会議への参加を名乗り出たため五大勢力の会議と相成ったわけだ。

日本の神も、ようやく重い腰を上げたようだ。

俺の言葉が通じたのだろう。うん、今日は何故だか気分がいい!

 

「お二人とも、お待ちしておりましたよ」

 

校門で出迎えてくれたのは薮田直人……ん? いや、ちょっと待て。

何故こいつが出迎えを? そもそもこいつは何者なのだ?

蒼穹会の裏の顔を知っているのはまだいい。警察関係者でも

超特捜課など、知っている人間もいるからだ。

今からここはただの人間の立ち入れる領域ではなくなるというのに

ここで一体何をしているというのだ。

しかし、そんな俺に疑問符を投げかける暇さえ与えずに

目の前の男は割り振りを始めてしまったのだ。

 

「ゼノヴィア君はオカルト研究部の部室前を中心に。

 慧介は旧校舎の入り口を中心に警護をお願いしますよ。

 新校舎の方は、三大勢力の皆さんが警護についてくださるそうなので。

 ですから、あまり近寄らないほうがいいですよ。トラブルの元になりますから」

 

「確かにな。悪魔や堕天使もそうだが今の私は

 天使ともあまり顔を合わせないほうがいいだろうな」

 

「……ん? 待ちなさい。

 と言うことは、旧校舎は我々だけで警護を受け持つというのか?」

 

俺の疑問に、目の前の男は黙って首を縦に振る。なんということだ!

会場は確かに新校舎、そっちに警戒を強めるのは当然の話かもしれないが

旧校舎を足掛かりにでもされたらどうするというんだ!

……なるほど、それで俺達が呼ばれたということか。

 

「それについては私も具申したんですがね。ここの領主が必要ないとの一点張りで。

 神仏同盟のお二方に……とも思ったのですが、ご足労いただいている上に

 トップの天照様や大日如来様の身辺警備に加え、その上会場警備にまで

 人員を割くというのも気が引ける話ですし……。

 そもそも、お二方がこの会議への参加を表明されたのも、ここは日本国であり

 自分たちにとっても縁のある場所、それなのに無視されたと見做されたうえでの

 お話ですから……」

 

「領主……ああ、あいつか……」

 

領主の話を聞いたゼノヴィア君が軽くこめかみを押さえる。

その態度を見て、俺はその領主があまり良い人物ではないということを直感する。

 

「聞きたいか? 慧介」

 

「……察しはついた。本来多すぎるに越したことはない警護を疎かにする時点で

 物事に対する考え方の程度は知れる。そしてそれを部外者たる俺が知れてしまう時点で

 後はもうお察しだ。わざわざ言う必要はない」

 

「散々に言われてますねぇ。担任ではないにせよ、一応私の教え子なんですがね。

 ああ、その点について気を使わなくとも結構ですよ。

 時には痛い目を見るのも勉学には必要ですし。失敗・挫折……

 今の彼女、リアス・グレモリーにはそれこそが成長のための糧だと思いますから。

 肥料や水は、与えすぎては根腐れの元になりますからね」

 

最も、ただ一人の成長のためにこの町の、世界の人々を巻き込むのは

本末転倒甚だしいですがね、と薮田は締めている。

二人して散々な評価だが、そんな輩がこの町を取り仕切っているのか。

この町が悪魔に取り仕切られているというのは、俺も聞いている。

だがなんだこの散々な評価は。一度鍛えなおさねばならないのではないか?

それとも、人間の町の管理など三下で十分だとでも言いたいのか。

全く腹立たしい話だ。そもそも悪魔が人間の町を管理するなど烏滸がましいにもほどがある。

やはり悪魔の命は神に返さねばならん。

教会の戦士の名は返上したが、悪魔を倒していないわけではないのだからな。

 

「聞けば聞くほど呆れ返るばかりだな……。

 一度そいつの命、神に返したほうがよさそうだ」

 

「いりませんよそんなの……ごほんっ、失礼。今のは忘れてください。

 さて、そろそろ私も行かなければなりませんので。

 万が一、手に負えないような事態が起きましたらいつでも構いませんので

 私にご連絡を。いいですね。事が起きてからでは遅いのですから」

 

慌ただしく場を後にする薮田を、俺達は見送るしかできなかった。

ゼノヴィア君が旧校舎のオカルト研究部部室前、俺が旧校舎の入り口付近。

聞けば、ここには警備を配備していないそうだ。

だから俺達がこうして来ることになったのだが……。

 

「ここで呆けていても仕方ないな。手筈通り君は部室前に行きなさい。

 何かあったら、薮田や俺に言いなさい」

 

「わかった。何事もなければいいのだがな」

 

ゼノヴィア君のその発言は、何かが起きるということを確約しているとしか思えなかった。

 

――――

 

俺達が警備についてからしばらくして、何か違和感があった。

その違和感の正体まではわからなかったが、俺には何か胸騒ぎがしてならなかった。

その証拠に、さっきまでいなかったはずのローブの集団がいる。

以前にも交戦した魔法使いの連中か。だが、今の俺は機嫌が悪い!

 

「悪しき魔法使い……その命、神に返しなさい!」

 

魔法が飛んでくるが、ある時は身を屈め、またある時は身を反らし回避する。

敵の攻撃をよける。イクササイズの基本動作だ。

そして攻撃直後の隙を見極め、懐に潜り込みワンツーパンチ。

悪いやつらを叩く。これもイクササイズの基本だ。

返す刀で、今度は回し蹴りを魔法使いの横っ腹に叩き込む。

叩きなさい。蹴りなさい。悪いやつらを倒しなさい。

イクササイズの創始者はこの俺だ。後れを取るはずがない!

一しきり蹴散らしたところで奴らのボタンを毟り取り、休む。

パワーチャージだ。これも必要なことだ。

 

……そして走る! 未来に、俺の弟子の元に向かって走る!

今の違和感の正体、そしてこの魔法使いの集団。

間違いなく、何かよからぬことが起きた!

それも、俺達が気づかぬ間にだ!

全く、これで警備などとは俺としたことが!

 

オカルト研究部の部室前。ここにゼノヴィア君はいるはずだが……

そこにたどり着く前に、階段の踊り場でうずくまっている彼女を見つけてしまう。

見たところ、怪我はないようだが。

 

「ゼノヴィア君、俺だ! 伊草だ! しっかりしろ、ゼノヴィア君!」

 

「あ……けい……すけ……」

 

しかし、俺の声に答えた彼女の瞳からは、光が消えていた。

一体、何があったというんだ!

 

「ゼノヴィア君、何があったんだ! 答えなさい!」

 

「イリナ……イリナが……ううっ……うわああああああああっ!!」

 

そのまま彼女は泣きじゃくってしまった。

イリナ。ゼノヴィア君が探していたという子だが、一体何があったというのだ。

ともあれ、このままでは危険だ。今のゼノヴィア君は、戦意を喪失している。

とてもこの場においておける状態じゃない。

俺はゼノヴィア君を背負い、薮田に連絡して今後の指示を仰ごうとしたその矢先。

 

――剣圧。

 

明らかに、俺達を狙っている一撃だ。それも、素人のものではない。

ゼノヴィア君をおろし、攻撃が飛んできた方向へと向き直る。

 

「おじさん、邪魔しないでよ。せっかく私がゼノヴィアを直そうと思ったのに」

 

「おじさんはやめなさい。俺はまだ20代だ。それより君は何者だ。答えなさい」

 

「十分おじさんじゃない。ゼノヴィアから聞いてない? 紫藤イリナ。

 『元』教会の聖剣使いよ」

 

なるほど、彼女がゼノヴィア君の言っていた子か。

しかし礼儀がなっていない。俺をおじさん呼ばわりとは。

 

……いや、そんなことよりもだ。

彼女の持っている剣に、俺は己が目を疑った。

 

――アスカロン(龍殺しの聖剣)

 

龍殺しとも言われる聖剣を、何故彼女が持っているのだ。

今の態度を見るに、正式に選ばれたのだとしたらアスカロンに見る目がなさすぎる。

あるいは、噂に聞く聖剣計画のように無理矢理に使っているのか。

 

「これ? ミカエル様――いえミカエルが下さったの。

 私の幼馴染がね、悪魔になっちゃったの。だからね、これで直してあげるの。

 でもね……私気づいちゃったんだ。その子だけじゃなくて、世界も、ミカエルも……

 何もかも壊れちゃってるって……だからね、私ね……」

 

これはまずい! 俺の直感が告げている。俺は咄嗟に「未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」を具現化。

結果としてアスカロンと切り結ぶことになってしまった。

いくら「未知への迎撃者」が優れた神器(セイクリッド・ギア)とは言え、聖剣を相手にどこまでやれるか!?

 

「じゃましないでって言ったよね、おじさん」

 

「おじさんはやめろとも言ったぞ」

 

「言ってもわからないおじさんは壊れてるのよ。壊れたものは直すの。

 これで、さくっと。さくさくっと。さくさくさくさくさくさくさく……」

 

光のない、どこを見据えているのかまるで分らない目で

目の前の少女は狂気の刃と化した聖剣を振り回している。

これは切り結ぶのは愚策と考え、俺はゼノヴィア君を連れて逃げることを選択した。

と言うより、ゼノヴィア君を守りながら相手にできるとは思えない。

 

「……あれれ? おじさんいなくなっちゃった。

 まぁいいか。じゃ、イッセー君を直さないと。イッセー君を直したら、次はゼノヴィアで……

 それからそれから……うふふふふふふふふ」

 

――――

 

息を潜め、旧校舎の教室に隠れたおかげで見つからずには済んだ。

結局、警備の仕事になっていない気もするが、命あっての物種だ。

これは戦略的撤退。そう思わねばやってられん。

だが問題はゼノヴィア君だ。

 

「イリナ……イリナぁ……どうして……どうして……」

 

「……すまない、ゼノヴィア君。

 俺には事情が分からないから、どう声をかけていいのかわからない。

 だがこれだけは言える。今は生きろ。俺の見た限りでも、あの少女は正気ではなかった。

 彼女の正気を取り戻したいのならば、なおの事君は生きなければならない。

 生きなさいゼノヴィア!!」

 

ゼノヴィア君に喝を入れるも、とても戦士の目をしていない。

このままでは言っては何だが足手まといだ。

しかも、今外を見たら悪魔とも違う、骨のような怪物が徘徊している。

うかつに動けば、奴らに見つかるだろうという矢先。

俺の携帯が震える。これがマナーモードでなかったら、音で見つかったかもしれない。

外出時には携帯はマナーモードにしなさい。これはゼノヴィア君にも今度言っておこう。

 

「……はい、伊草です」

 

『ヤルダ……いえ薮田です。慧介。大変なことになりました。

 今外で駒王学園の生徒会の皆さんが避難誘導をしています。直ちに彼らの指示に従い

 地下シェルターに避難してください』

 

「避難? 警備の仕事はいいのか?」

 

『それどころではありません。今外にいる怪物は悪魔以上に危険な存在です。

 そして、間もなくこの一帯は激戦区になります。

 蒼穹会……いえ、それどころか超特捜課でも対応できないでしょう。

 ですから、直ちにゼノヴィア君を連れて避難してください。いいですね?』

 

「ゼノヴィア君ならここにいるが……わかった。だが、何があったかは

 今度会った時に説明しなさい」

 

『……心得ておきましょう。では』

 

ただならぬ様子で避難指示が出された。

人に会場警備を依頼したと思えば避難指示とは、ずいぶん勝手な話とは思う。

だが、今のゼノヴィア君の事を思えば、好都合かもしれない。

俺は心神喪失気味のゼノヴィア君を背負い、旧校舎を後にし避難指示に従うことにした。

その後の事は、ただひたすらに避難所が揺れた事と

時代錯誤な旧海軍の軍服を着た青年が場違い感をこれでもかと言うほどに

醸し出していたことくらいしか覚えていない。

結局、俺達が避難所の外に出られたのは夜明けになろうかと言う時間だった。

 

――――

 

そして、何とか無事に朝を迎えることができた。

炊き出しのおにぎりとみそ汁は大変に美味だった。ゼノヴィア君、この味は覚えなさい。

ただ、その炊き出しをやっているのがかの大日如来だということに俺は驚いたが。

後日めぐに映像を見せたら「これ天道寛(てんどうひろ)じゃん!? 慧介、あんたいつ会ったのよ!?

っつーか、なんで私を呼ばなかったのよ!?」と怒られてしまった。理不尽だ!

俺が会ったのは大日如来であって、天道寛じゃない!

そもそも俺は天道寛などと言う人間は知らん!

 

……話を戻そう。俺は昨夜何が起きたのかを薮田に問い詰めることにしたが

それ以上に大変なことが起きたらしい。

 

「な……なんだって……!? イリナが……イリナがミカエル様を……!?」

 

「……申し訳ありません。完全に私のミスでした。

 激戦の後の、一段落着いたところを狙われました」

 

なんと、あの大天使長ミカエルがイリナと言う少女に重傷を負わされたというのだ。

確かに只事ではなかったが、だとしたら彼女はあの激戦の間一体どこにいたというのだ?

避難所にいた俺達でさえ、その衝撃を肌で感じ取っているというのに。

言っては何だが、いくら精神面でのタガが外れていたとは言っても

総合面ではゼノヴィア君とどっこいのように思えた。

そんな者が、ミカエルに闇討ちを加えることができるとは考えにくい。

もし出来るとするならば、よほど気配を断つ事に長けていたのか

ミカエルが相当に油断をしていたかのどちらかとしか思えない。

 

……おそらく、後者だろう。

アスカロンをどんな形であれ手にしていたということは

ミカエルから相応の信頼を得ているということだ。

凶器も、考えたくはないがアスカロンだろう。

アスカロンほどの業物ならば、大天使長と言えどもただではすむまい。

……俺も、まさかそんな事態が本当に起きるとは思いもしなかったが。

 

「そ……それで! イリナは!? ミカエル様は!?」

 

「落ち着いてください……と言っても難しいかもしれませんが。

 まずミカエル。彼は凶器……アスカロンですね。

 明らかに事故ではなく故意で凶器を突き立てられました。

 その為、ミカエルは重傷を負い天界の医療施設に先ほど運び込まれました。

 イリナは……白龍皇(バニシング・ドラゴン)、ヴァーリ・ルシファーと共に

 フリード・セルゼンに連れられその後の消息は分かりません。

 禍の団(カオス・ブリゲート)に所属したヴァーリと行動を共にしているということは

 イリナも必然的に禍の団に入っていると推測することは可能ですが……。

 また、アスカロンも今回の事件の影響で聖魔剣へと変質してしまっています」

 

薮田の淡々とした説明は、ゼノヴィア君には衝撃が強すぎたのか

後ろで聞いていた俺からも彼女の全身の力が抜け落ちるのが見て取れた。

地面に倒れないように慌てて支え、彼女を用意した簡易ベッドに横たえることにした。

無理もない。同じ教会に所属していた戦友が、まさか信仰する天使長に逆らうばかりか

逆賊と言えるフリードと行動を共にしているというのだ。

ショックが強かったのだろう、失神してしまっている。

結局、俺はそのまま体調を崩したゼノヴィア君を連れ帰る形で、家に戻ることになった。

 

今後は、俺にとってはもとよりゼノヴィア君にとっては辛い話になるだろうな。

とりあえず、起きた時にどうなるか。

友と刃を交えなければならない現実。それに立ち向かうのか、それとも目をそらすのか。

ゼノヴィア君。辛いだろうが、ここからが戦士としての本質を問われるだろう。

俺には、師匠として彼女が自分に屈することのないように導く義務がある。

しかしそれでも、彼女が戦士としての自分を否定するような言動をとるようならば……

俺は、どうすればいいのだろう。

 

……いや! 何を迷うことがある! 俺は伊草慧介! 伊草慧介なんだ!

俺が迷っていては、ゼノヴィア君も迷ってしまうのは必定ではないか!

俺こそが、平常心を保たなければならない!

全てはゼノヴィア君が再び起きた時に始まるだろう。

彼女の進むべき道。それを決めるのは俺じゃない、彼女だ。

だが俺には、彼女が迷い屈するような事にならないようにする義務がある。

やらねばなるまい。彼女が正しい道を歩めるように。




このキャラクターは「伊草慧介」であり「名護啓介」ではありません(重要

ゼノヴィアに渡フラグが立っちゃいそうな予感。
以前めぐからモデル推薦されてますが、今のゼノヴィアの精神状態で
モデルが務まるかと言うと……
キバ原作でも豆腐メンタルっぷりが際立った渡ですが
ゼノヴィアも大概豆腐メンタルだと思うんです。
拙作アーシアが鋼鉄メンタルなだけかもしれませんが。

とりあえず今回の補足。

>この世界の労基法
一応現実世界のそれに準じてます。
なので、オカ研の連中どころか上層部含めて神仏同盟以外みんな労基法違反。
「悪魔に刑法は適用出来るのか……?」@甘党猫好き猫アレルギーの某刑事

>アインストの事は超特捜課や蒼穹会には伝えていないの?
はぐれ悪魔以上に危険な存在なので、五大勢力で話が止まってます。
アインストの話をするとなると、必然的にゲートの話もしないといけませんし。
それも政府上層部で止めるクラスのトップシークレット情報ですが
アインストはリアス・ソーナ共に目撃・交戦したことや
セージに至ってはゲートの情報まで会得してしまったため
特例としてオカ研がこのレベルの話題に首を突っ込んでいます。
決して魔王の妹だから贔屓されているわけではありません。

>ゼノヴィアは薮田の正体知らないの?
知りません。カミングアウトの時現場にいませんでしたので。
慧介が精々「実は天界関係者では?」と疑っている程度です。

>で、ちょうどこの時パクられた悪魔の駒は?
これについては近々触れたいと思います。

>OK、デーモンボーイアンドガール。俺達の出番はあるのかい?
 コードDTDでボクの身体がウズウズしちゃうんだけど~
今は新西暦の世界かエンドレス・フロンティアにお帰り下さい。


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終業式のインタビュー
Extra Soul8. 突撃! 隣のオカルト研究部!


キャラ紹介編の前フリです。
それだけ。


終業式を終えた後。

俺は早速幽閉されていた部屋に戻ることにした。

幸いにして、旧校舎の方はアインストとの戦いの被害も少なく

復旧も容易だったのだ。

……で、何故態々部室ではなく幽閉されていた部屋かと言うと。

 

一つは、未だに俺に対する幽閉処分が解かれていないこと。

まあ冥界本国にもアインストが出たらしいから、その対応に追われて

俺の扱いがぞんざいになっているのだろう。言っては何だが慣れつつある。

 

そしてもう一つ。今回の事をバオクゥやリーに横流しをするのに、そのほうが好都合なのだ。

幽閉されているのをいいことに、情報の横流しとは我ながら相当のワルだ。

まあ、そこに監視をつけないほうが悪いとは思うが。あるいは、泳がされているかもしれない。

ある程度情報を纏めたところで、イェッツト・トイフェル辺りを使って

一気に抹殺……最悪、そういうことも起こりうるかもしれないが。

その点を踏まえて、今後は情報のやり取りをせねばなるまいよ。

 

俺の前にこの部屋の主だったギャスパーは、既に別の部屋を割り当てられている……

と言っても、グレモリー部長のご実家の一室らしいが。

部屋から出る回数は未だ多くないものの、ある程度社交性が生まれているらしいとは

イッセーの弁だ。最も、その目的が「可愛い服を買いに行きたい」って辺りが

なんともはや……筋金入りと言わざるを得ないだろうよ。

 

そこで俺は一つ疑問に思った。

……何故俺をグレモリー邸に監禁しないのだろうな。

幽閉なのだから、その方が手っ取り早いだろうに。

一応の外出許可のあったギャスパーと違い、俺は外出許可すらなかったのだから。

力を封じて、地下室(あれば)とかに適当に閉じ込めておけば解決しそうなものを。

今ふと495年間屋敷の地下室に閉じ込められていた吸血鬼の話を思い出したが

どう考えても今関係ないな。その気になればそれくらい閉じ込めそうな気もしそうだが。

この点は今のところは好都合だが……これは本格的に泳がされているって事も

警戒しておいた方がいいかもしれないな……

 

色々考えながらではあったが、一応ネット接続の準備とライブ配信の準備も整った。

俺は外にいる祐斗と塔城さんに見張りを頼み、ギャスパーが使っていたノートPCを立ち上げる。

しかし、この辺の機材が無事だったのは奇跡としか言いようがないな。

あれだけの災害に遭っているというのに。

新校舎は全滅だったそうだが、それはご愁傷さまとしか言いようがない。

グレモリー部長も調度品の被害が少ない事に胸をなでおろしていたが……

あんたの場合、他に心配することがあるんじゃないのかよ……。

 

suikapeを立ち上げ、バオクゥにコンタクトを試みる。

冥界との時差は把握していないが、それほどなかったと記憶している。

あれだけの事件があった後だから、なかなか繋がらないかと思ったが

思いのほか早くバオクゥからの返答が来た。

 

『おおっ、セージさん! お久しぶりですねぇ……おや? 雰囲気変わりました?』

 

「色々あったんだよ。そっちも色々あったそうだけど……ここで物凄い特ダネを用意している。

 特に今回は見返りを求めない。但し今から送る情報の中には

 もしかすると国家機密レベルのものも含まれるかもしれない。

 だから、取り扱いには慎重になってほしいんだ」

 

『そ……その言葉を聞いただけで震えが止まらないです。

 でもっ! 私聞いちゃいますよ! 「権力が怖くて盗聴バスターが出来るか」って

 人間界で世話になった師匠も言ってましたし!』

 

ああ、やっぱノリノリで食いついてきたか。

少し対話をした程度だが、バオクゥってのはこういうタイプだった。

これはこっちから提供する情報をコントロールしないとマズそうだ。

特に薮田先生の正体なんて国家機密なんてレベルじゃないだろう。

逆に、アインストについては対策法を話すべきかもしれないが……

政府公表がない限り、都市伝説とかそういう類に留まるのが関の山かもしれないな。

 

祐斗や塔城さんに確認を取ったが、会議には各勢力のマスコミは入っていなかったそうだ。

となると、会議の内容――俺は襲撃前の内容はほとんど知らないが――はぼかしておこう。

こういうのは正規の報道機関に伝えるよりも、盗聴バスターとかアングラに伝えたほうが

信ぴょう性を増すって考え方もできるが……まぁ、その時はその時だ。

 

『ふむふむ、なるほどなるほどぉ……ええっ!?

 こ、これには流石の私も驚きを隠しきれません!!

 そ、そうだセージさんっ! 以前お話していたインタビュー。

 いい機会だからやっちゃいましょうよ!!

 そうだそれがいい、セージさん、私あなたにすっごい興味津々です!!』

 

取り方によってはえらい意味に取れそうなことを口走りながら

バオクゥは俺をまくしたてている。

……これ、付き合わないと話が終わりそうにないな。

多分、俺の事を話したら芋づる式に他の人の事を話さなきゃならないだろう。

……俺、そこまで口が堅いほうだったっけ……?




キャラ紹介は一応「セージがインタビューに答えているようです」
って体を取るための話。
それ以上でもそれ以下でもありません。
詳しくは活動報告をば。


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キャラ紹介・セージ(その1)

キャラ紹介に1万文字以上って……
そんでもってこれ、前半部分なんだぜ?


つまりセージは実はかなりおしゃべり


宮本 成二(みやもと せいじ) / 悪魔名:歩藤 誠二(ふどう せいじ)※1

 

身長:179cm(実体化時。霊体時はある程度自由に変更可能)

 

体重:0(霊体時)~71kg(実体化時)

 

誕生日:12月21日

 

髪色:墨色(霊体時は素鼠色)

 

髪質:やや癖のあるショート

 

種族:人間→霊魂兼転生悪魔※2

 

ランク:「兵士(ポーン)」※3

 

駒王学園2年所属の生徒だったが、クラスメートである兵藤一誠の初デートに

不審なものを感じ、追跡したところを堕天使レイナーレ一派の襲撃を受け

イッセーを庇い、瀕死の重傷を負う。

その際、肉体は事後に現場に駆け付けたリアス・グレモリーによって駒王総合病院へと運ばれたが

魂はレイナーレに殺害されたイッセーのものに引き寄せられ、リアスによる

悪魔転生の巻き添えを受ける形となる。またその際、イッセーが所持していた

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」に宿る「赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)」ドライグと対面し

赤龍帝の鱗を貸与されることで霊魂の実体化能力を得る。

またその際、貸与された赤龍帝の鱗は「龍帝の義肢(イミテーション・ギア)」として変化し

右手(後に両足にも移植可能となる)に宿す形となった。

彼自身も神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」を有しているが

こちらは発現が「龍帝の義肢」より遅れる形となったため

当初は「龍帝の義肢」を起動キーとする必要があった。

イッセーが「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の兵士8個を使用したため、彼もその影響を受けている。

普段は霊体であるため、結界の張られている旧校舎やレーティングゲーム会場などと言った

特殊な場所以外では行動を大きく制限されるため

通常(特に日中)はイッセーの身体に憑依することが多い。憑依中はイッセーの精神世界の中で

オカルト研究部の部室を模した空間を形成し、そこで過ごしている。

ある程度の五感をイッセーと共有することも可能であり

これは互いに任意でカットすることもできる。

 

肉体を失い霊魂となったことで、霊魂の特性

(ある程度の物体をすり抜けることができる、浮遊して移動できる等)を活用できるが

悪魔の特性に加え霊魂の特性もあるために通常の悪魔以上に光に弱く

さらに除霊用の道具にも弱くなってしまっている。

上述の特殊な場所では実体を得て行動することもできるが

その場合は普通に肉体を持っているのと同じ性質を有してしまうため

生理的な制約(食事、睡眠、排泄など)がかかってしまう欠点もある。

また、霊体状態でいる時には基本的には視認されないが

同じ霊的な存在(幽霊など)やある程度以上の実力者(少なくとも、グレイフィア以上)には

しっかりと視認されてしまう。

 

当初は記憶の混乱もあり、ドライグの声が届かないイッセーへの

メッセンジャー的役割も担っていたが、レイナーレとの戦いを経て記憶が回復し

ドライグの声がイッセーに届くようになると、ドライグと共同で

イッセーのサポートに回るようになるが、イッセーとは主にリアスを巡って

そりが合わないことが多く、霊体状態での単独行動も多い。

 

そんな中、「白龍皇(バニシング・ドラゴン)」アルビオンが動き出したことを切欠にドライグが「龍帝の義肢」と

セージが得た力の回収を試み、その影響で「龍帝の義肢」と魂の右手部分を失ってしまう上に

悪魔の駒の影響で肉体への帰還が叶わない事、主であるリアスに対する態度等で

反抗的と見做されギャスパー・ヴラディと入れ替わりで

幽閉処分を受けるという災難に見舞われる。

 

その直後に起きた「禍の団(カオス・ブリゲート)」と「アインスト」の襲撃の最中に脱獄するも

「龍帝の義肢」を失ったことによる無力化で禍の団相手には善戦するも

アインストには歯が立たず※4、アインストと化したカテレア・レヴィアタンとの戦いの中で

消滅の危険を冒してイッセーに憑依。決死の覚悟で戦いに挑むが

直後に魔王によってヴァーリ・ルシファー共々転移させられてしまい

失意のまま消滅……したかに見えたが、転移先での二天龍の戦いの最中、最後の力を振り絞り

赤龍帝の一部分である「龍帝の義肢」と「白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)」の一部を奪い異次元へと飛ばされ

その際の衝撃で魂もバラバラになってしまう。

 

異次元で「白金龍(プラチナム・ドラゴン)」の手により魂を再構築され、赤龍帝と白龍皇の一部から作られた

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」と「紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)」フリッケンの力を授かり

アインストの脅威を聞かされつつ帰還。記録再生大図鑑の制約を取り払い

新たな力で白龍皇を一蹴、イッセーを引き連れ帰還に成功。※5

 

脅威を拭い去った後、白金龍から得たアインストと「ゲート」の情報を提供するために

日本神話と日本の仏教勢力からなる「神仏同盟(しんぶつどうめい)」のバックアップを受け

「三大勢力」のトップ陣との対談に参加することになるが

現時点(会談終了時点)において、未だ冥界政府の彼に対する処遇は変化していない。※6

 

 

趣味・嗜好

多芸・多趣味で、雑学にも秀でている(「記録再生大図鑑」の影響もあるかもしれないが)。

特に特撮番組「面ドライバー」シリーズの大ファン※7で

事あるたびに意識した言動をとることがある。※8

他にも多彩なアニメやゲームを嗜んでいるのか、引き合いに出すことが多い。

 

イッセーや松田・元浜には及ばないものの異性に対する興味も高く

年齢詐称してエロ本を買う※9程度には興味を持っているが

それを公の場で声を大にすることには抵抗感が強く、しばしば彼らのブレーキ役を務めている。

そのため「変態三人組」のブレーキ役として学園の女生徒からは

評価されている(木場ほどではないがファンもいる)ものの

本人はあまりその評価は素直に喜べないと評している。

 

家庭環境からか家事能力も最低限ながらも維持している他

自身で食べて美味いと感じた料理のレシピを知りたがるため、食に対する好奇心も強い様子。

猫を飼っている関係上か、猫に対する知識も豊富で野良猫相手に遊ぶこともしばしばある。※10

 

 

性格

洞察力に優れ、直感にも長けている。これは記録再生大図鑑の運用や

直情的なパワータイプに偏重したグレモリー眷属のブレーンとしても重宝する要素である。

また生真面目であり、どちらかと言えば堅物と評される。それは変態三人組はもとより

主であるリアスに対しても遠慮なく向けられるが

全て「後で痛い目に遭うぞ」と言うお節介に起因している。

と言うより基本的に世話焼きな部分が強く、変態三人組と知り合ったのも

金座高校の生徒にカツアゲされている元浜を助けた事に端を発し

肉体を失う切欠になったのも「イッセーがうまくデートできるか心配」と言うお節介からである。

 

その世話焼きぶりたるや(先述の雑学による知識も併せて)

とても男子高校生らしからぬ様相を見せるが、その一方で年相応の照れ臭さからか

偽悪的に振る舞うことも少なくない。

出奔すると見せかけて暴走する木場の様子を見に行ったり

次期領主として、駒王町の領主として下すべき判断を下せるよう

敢えてリアスに苦言を呈したりと、自分なりのやり方で仲間の世話を焼いていた。

 

また、一度受けた約束は何があろうと守ろうとし

(自身が出来なくなりそうならば、後任者を用意する徹底ぶり)※11

利害が一致しているならば、相手の利を優先した行動に出るなど献身的に動くが

逆に利害が不一致の場合、我関せずとばかりに非協力的になる(例えリアスの命令でも)が

上辺はどんな形であれ取り繕う辺り、眷属としての空気は読める模様。※12

 

幼少期に見た戦争アニメや祖母と出かけた原爆ドームの展示品を見たトラウマからか

戦争のような殺し合い、それも無益な戦いは何よりも嫌う。

しかし巻き込まれた場合にはどんな手を用いてでも早急に終わらせようとし

必要とあらば二度と同じようなことが起きないよう

相手を徹底的に叩きのめす残虐性も発揮する。※13

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

同じくリアスの「兵士」であり、人間だったころからのクラスメートにして

悪魔の駒の共有先であり、肉体の間借り相手。

変態的な性癖に辟易としながらもある程度の共通点はあるため

「空気さえ読めれば……」と低いながらも一定の評価はしている。

一方、矯正については「このバカは死んでも治らなかった」事から諦めている。

思想的な面では反発することが多いものの、セージ自身はかつてのクラスメートであり

友人であった「駒王学園2年・兵藤一誠」として見ようとしている節がある。

 

リアス・グレモリー

肉体を助けた恩人にして、魂を悪魔にした張本人。

上級生としてではなく自身(イッセー)の主、駒王町の領主として見ているため

我儘や全体的な思想の甘さに苦言を呈することも少なくない。

歩藤誠二(宮本成二)個人として扱うことを内心希望しているが

リアスの側は「イッセーの付属品」として見做している部分があるため

反発を招いている。※14

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶(ビショップ)」にして、イッセーに憑依していたころに関連が生まれた友人。

人間に戻ることに拘る彼とは対照的に、悪魔であることに後悔を抱かない姿には

ある意味見習うべきものがあると思っている。

 

姫島朱乃

リアスの「女王(クイーン)」。「モーフィング」を会得させるきっかけを作ったが

リアス以上に「イッセーの付属品」として見做している部分があるため

関係はあまり良好ではない。

 

木場祐斗

リアスの「騎士(ナイト)」。レーティングゲームにおけるスポーツ感覚の戦いに苦言を呈すが

エクスカリバー強奪事件における出奔を切っ掛けに親しくなり

イッセーに代わり霊体でうまく動けない彼の代行を担うことも少なくない。

セージとの決闘に興味を示しており、現在も約束を交わしている。

争いを好まないセージだが、コミュニケーション程度の戦いにはある程度の理解は示している。

 

塔城小猫

リアスの「戦車(ルーク)」。黒猫(実は実姉)の捜索依頼を引き受けたことで交流関係が生まれる。

健啖、猫好き(彼女は猫の妖怪だが)等話題の共通点も多く、比較的フレンドリー。

セージが幽閉された際には木場と共に協力を申し出る。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。エクスカリバー強奪事件の折、そこにいたことを知らないセージによって

眠っていた棺桶ごと「ギャスパニッシャー」と言うハンマーに変異させられたことにより

セージに対し苦手意識を持っている。

 

 

生徒会

ソーナ・シトリー

駒王学園生徒会長。ライザー戦の顛末をある程度認識しており

また、人間時代の「駒王番長」としての活躍も知っているため、比較的好意的。

最も、セージ本人は「生徒会まで悪魔かよ……」と辟易としているが。

 

匙元士郎

ソーナの「兵士」。生徒会としても新入りであるためか互いに素性を知らず

匙からは「得体のしれない奴」「臆病者」と散々に評価されている。

 

薮田直人(やぶたなおと)

生徒会顧問教師。人間時代の担当教師でもなかったことから接点は殆どないが

教師として接することもある。記録再生大図鑑が効かなかったことから

イッセーに「必要以上に関わるな」と警告したことも。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。態度や人間蔑視はともかくとして

言っていることにはある一定の評価を下していた。

リアスの命令通り(本人の弁)、消火器を吹き付けたり聖水のプールに叩き落して

完膚なきまでに叩きのめし再起不能にし、グレモリー家とフェニックス家による

裁判を起こす一因を作ってしまう。

 

レイヴェル・フェニックス

フェニックス家長女にしてライザーの「僧侶」。

特性などを警戒したが、証言通り戦意を見せず戦いもしなかったため

完全に骨折り損になった。ある意味、セージの裏をかいた人物。

 

ユーベルーナ

ライザーの「女王」。

ライザーを確実に倒す土壌を作るために囮となり、一騎打ちに持ち込むも一時敗退。

その後「昇格(プロモーション)」のカードで強化、撃退したが

その際に光の槍でライザーごと貫通したため、彼女に後遺症を残す結果となってしまった。

 

シーリス

ライザーの「騎士」。

剣圧による衝撃波攻略のため、「物質変化(モーフィング)」を初めて使用した相手。

こちらも光剣で腹部を貫通したため、後遺症を残してしまう。

 

 

魔王

サーゼクス・ルシファー

現魔王にしてリアスの兄。「反抗的な眷属」として処罰を下した相手として

処罰に対し理解はしているが反感も抱いている。

 

セラフォルー・レヴィアタン

現魔王にしてソーナの姉。「反抗的で出来の悪い眷属」と言われており

その評価通り(?)にアインストレヴィアタンによって異次元に放逐された際には

ぞんざいにぶん投げる形で救助している。

 

 

その他冥界

グレイフィア・ルキフグス

サーゼクスの「女王」にして妻。

霊体のセージを初めて見破った存在。「子持ちの女性」と言うキーワードに

記憶が不完全なセージが一瞬反応している。

 

ウォルベン・バフォメット

「イェッツト・トイフェル」突撃隊長。

本来の赤龍帝(イッセー)以上に危険な存在と見做され、監視対象とされている。

 

バオクゥ

幽閉時、ネットを介して知り合った盗聴バスター。

情報を提供する代わりに、悪魔の駒に関する情報を得ようと交渉を持ちかける。

 

リー・バーチ(李覇池)

バオクゥの紹介でネット上で知り合ったフリージャーナリスト。

取材対象となる代わりに、情報を得ようと交渉を持ちかけた。

 

ザトゥージ

リアスの紹介で使い魔ゲットの講師として来るものの

セージは全く興味を示すことはなく、話半分程度にも聞いていなかった。

 

 

堕天使

レイナーレ

全ての元凶にして友の、自分自身の敵。

イッセーやドライグを巻き込み暴走し蹂躙の限りを尽くすが……

 

ドーナシーク

レイナーレに追われるイッセーを連れて逃げる時に現れたレイナーレの部下。

原作同様リアスと朱乃に倒されたため、報復はならなかった。

 

カラワーナ、ミッテルト

夢の中において上記の事件を追体験しているときに現れたレイナーレの部下。

やった事はドーナシークと同じ。

出会ったのは夢の出来事であるため、正史においては全く面識がない。

それなのに夢に現れた理由は不明である。

 

コカビエル

エクスカリバー強奪事件を利用し、戦乱を企てた「神を見張る者(グリゴリ)」の幹部。

戦争嫌いのセージとは全くもって相容れない存在であり

(ヴァーリの助力を受けたとはいえ)オカ研+ゼノヴィアの総攻撃で撃退する。

 

 

ドラゴン

「赤龍帝」ドライグ

レイナーレに瀕死の重傷を負わされた直後に遭遇した存在にして

「龍帝の義肢」を貸与した張本人。

後にその目的が「イッセーのバックアップ」であることを知り

リアスや朱乃以上に「『宮本成二』として見ていない」事が発覚し逆上。

アインストとの戦いの最中決死の覚悟でイッセーに憑依。

力の一部を奪うことに成功、以後紫紅帝龍がセージに宿ったため袂を分かつ。

 

「白龍皇」アルビオン

ドライグとのいざこざに巻き込まれ、また持ち主である

ヴァーリの戦闘狂ぶりを快く思わなかったため

ドライグと同様に力の一部を奪うことに。

 

「白金龍」

正式名称不明。異次元に飛ばされたセージの魂を復元し、「紫紅帝の龍魂」を授けた存在。

 

「紫紅帝龍」フリッケン

「紫紅帝の龍魂」の制御のため、異次元を通りすがったとある通りすがりの魂の一部が

ドラゴンとなった存在。イッセーにとってのドライグのようなもの。

二天龍を「ロートル」呼ばわりする彼には歓喜半分恐れ半分といったところ。

 

 

神仏同盟

天照大神

日本神話の主神。セージの母の声を聴き、困窮を極めているセージの後ろ盾にならんとする。

 

大日如来

日本に籍を置く仏教勢力の高位の仏。厳密には密教の存在。

人間界では料理評論家兼俳優の天道寛(てんどうひろ)として活躍、そこで培った腕で発揮された料理を

五大勢力の会議の際に振る舞っており、セージに対しても

既に他界し仏教勢力のあの世にいる祖母のメッセージを伝えている。

 

 

禍の団

カテレア・レヴィアタン

旧魔王派の一人。当時幽閉されていたセージは事情を知らなかったとはいえ

「ボロボロの服を着た誰かさん」程度にしか認識していなかった。

後にアインスト化し、それが原因でセージは魂を削る決意をすることに。

 

フリード・セルゼン

アーシア誘拐、エクスカリバー強奪と様々な事件に関わっている元教会の戦士。

当初こそ霊体のセージに致命傷を負わせるも、次第に地の利やセージの特殊能力の前に

敗退を喫することが増えていくようになる。

 

紫藤イリナ

エクスカリバー強奪事件の際にゼノヴィアと行動を共にしていた際には

思い込みの激しい不安定な人物と見做されていたが、その懸念は

禍の団とアインストの襲撃の際に現実のものとなってしまう。

 

ヴァーリ・ルシファー

現「白龍皇」。ただ強い者と戦いたいという一心でテロ組織にまで加担するある意味純粋な思いは

戦争嫌いのセージには戦争狂のコカビエルと同等にしか映らなかった。

 

 

人間

テリー(やなぎ)

駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)(超特捜課(ちょうとくそうか))課長。

エクスカリバー強奪時に駒王町に現れたフリードやはぐれ悪魔と戦う際に共闘。

志はある程度認めているものの、警察官として「学生が命のやり取りに首を突っ込むな」と

釘を刺されてしまう。

 

氷上涼(ひかみりょう)

超特捜課巡査。柳同様、志は立派と褒めるが「戦いは警察の仕事」と注意されてしまう。

 

伊草慧介(いくさけいすけ)

NPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)会員にして元教会の戦士。

説教臭い性格で、イッセーに憑依して様子を見ていたセージをして辟易とさせていた。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士にして、デュランダル使い。

エクスカリバー強奪事件の際に行われた木場との決闘に乱入したセージに翻弄されることとなるが

最終的には協力しコカビエルと戦うこととなる。

その後は「自分たちの出る幕ではない」と遠巻きに進展を見守っている。

 

松田、元浜

人間時代のクラスメート。元浜が金座(かねざ)高校の生徒にカツアゲされているのを助けて以来

交友が生まれるようになる。が、イッセー並の性癖には頭を抱えているが

イッセーが悪魔になったことで関係が拗れないかと心配もしている。

 

桐生藍華

人間時代のクラスメート。セージは彼女曰く「中の上」らしい。

松田や元浜らと同じ理由で頭を抱えることも少なくはないが

相手が女性と言うこともあってかいくらか応対はソフト。

 

兜甲次郎(かぶとこうじろう)如月皆美(きさらぎみなみ)

中学時代の友人。大那美(だいなみ)高校と呼ばれる駒王学園よりも若干偏差値が下の高校に通っている。

今も時折連絡を取っており、セージの制服を改造した張本人。

本人らも「大那美の黒い魔神番長」とか「大那美の七変化スケバン」とか呼ばれている。

 

セージの母

介護施設に勤めているセージの母親。突然の事故で重体となった息子のために

お百度参りをしている。

 

牧村明日香(まきむらあすか)

幼い頃からのセージの憧れの人にして、姉のような存在。

小学校卒業と同時に音信不通になるがアルバイト先で偶然にも再会。

その際既に子持ちであることを告げられるも、抱いている好意に揺らぎはなかった。※15

 

 

その他

蜘蛛男型のはぐれ悪魔

駒王町の廃工場で遭遇したはぐれ悪魔。

彼との戦いで「記録再生大図鑑」が初起動し「龍帝の義肢」を用いた戦闘の初陣となる。

メタに言えばチュートリアルキャラその1。

 

バイサー

駒王町に巣食っていたはぐれ悪魔。原作と異なりかなりの力を蓄えていたらしく

倒された後も小型の分身を多数生み出し、これがイッセーの初陣となり

セージもこの戦いで多数の能力を会得した、メタに言えばチュートリアルキャラその2。

 

スーザン

イッセーの悪魔稼業の契約者。

虹川(にじかわ)姉妹のライブに乱入しようとしたはぐれ悪魔を撃退中

彼女に遭遇、彼氏共々護衛することに。

 

虹川姉妹

長女・瑠奈(るな)、次女・芽留(める)、三女・里莉(りり)、四女・(れい)の幽霊の姉妹。

悪魔契約のお得意先として交流を始めるが、次第に悪魔契約と関係なく

ライブ活動「虹川楽団(にじかわがくだん)」を支援していくことになる。

 

海道尚巳(かいどうなおみ)

虹川楽団の活動の最中に出会った幽霊。正体は木場の聖剣計画時代の友人であり

彼の依頼もあって出奔した木場を追跡することになる。

 

セージの祖母

既に他界しているが、大日如来を通してセージを激励した。

生前の彼女に育てられており、最期の思い出として広島に旅行に行ったこともある。

 

 

周囲からの印象・評価

中学時代の友人に改造された長い丈のブレザーと

通学・移動の際に原付を乗り回すその姿や体格から

学園内外問わず「駒王番長」と言う通称を得ている。

しかし、人間時代の彼は別段喧嘩が強かったわけではなく

(元浜を助けたのもネットを利用した脅し返し)

噂が一人歩きしている部分も少なくないが、上述の通り世話焼きな性格もあって

あながち間違いでもないという評価に落ち着いている。

霊体になって以降は、霊体と言う性質を十二分に発揮した悪魔稼業を執り行うも

「実入りが少ない」事を理由にリアスからはあまり評価されていない。

 

戦闘においても、その性質上「もう一つの赤龍帝」「影の赤龍帝」との異名の通り

イッセーのサポート役として見られる事が殆どだが

その実実体化しての単独行動でも、グレモリー眷属には非常に珍しいテクニックタイプの戦い方で

イッセーの存在を脅かしかねないほどの戦闘力を発揮している。

 

しかし悪魔に対する悪感情もあってか、冥界上層部からの評価はイッセーとは反対に著しく悪く

調査が不十分な状態での幽閉処分が罷り通ってしまうほど。

一方、アングラ雑誌などではライザー戦での功績などから

「仮面の赤龍帝」「仮面の賢者」などと呼ばれ

ちょっとしたヒーロー的存在になりつつある。※16

 

 

学力・特技

駒王学園に入学したのはイッセーと違い「家が近いから」と言う理由であり

イッセーほどの猛勉強をしていないため、地の学力がイッセー以上であるか

あるいは単純な天才肌であるかだが、興味のない、あるいは担当教師が気に入らない教科は

授業は寝ていたりして赤点を取ることがあるため

「必要なこと以外には力を発揮しない」タイプであるともいえる。※17

家庭の都合からか、家事も最低限以上にこなすことが出来

お茶淹れや菓子作りも朱乃には及ばないものの

リアスをして(お世辞もあったかもしれないが)唸らせるほどの腕前はある様子。

 

 

能力・使用技※18

基本的に実体を持たない霊体であるため、そのフットワークを生かした戦い方が得意である。

ただし霊体状態ではうまく対象に触れられない(殴ったりなど力を加えることが出来ない)ため

直接攻撃するのではなく攪乱などに主に用いられる。

また、霊体であるために高い※19魔力を活用した

「モーフィング」により、武器や防具の生成を行うことが出来る。

これはセージがイッセーの「洋服破壊(ドレスブレイク)」の理念と

正反対の性癖を持っていたため、それに対抗する形で生まれた部分もある。※20

イッセーの非常識かつ女性限定の特技とは違い、場所を限定せずどんな場面も

自分に有利なフィールドに変えてしまうことが出来る。

しかし地形変化や聖剣クラスの装備の変化にはやはり

「龍帝の義肢」(「紫紅帝の龍魂」)の補助が必要なため

事前準備が必要になる場面も少なくはない。

 

弱点はイッセーに比べると単純なパワーや身体能力で劣る点だが

「紫紅帝の龍魂」で強引にカバー可能になったため

実質弱点はある程度克服されているようなものである。

 

 

悪魔稼業において

当初は流されるままに行い、自分の状態もよくわからないまま引き受け、こなしていたが

虹川姉妹との交流の後、自身の置かれている状況を再確認した後は

上辺だけの仕事しかとっていない。

 

リアスには「実入りが少ない」と言われたが、霊体であることを活用した

「幽霊お悩み相談室」※21的なものを定期的にやっており

虹川姉妹のライブのお客を増やしたり、情報収集に活用したり

悪魔稼業としての稼ぎではなく完全に「自分のため」※22に行っている。

 

 

※1:オカ研で初めて目覚めた当初「セージ」と言う名前しか

   記憶していなかったため、リアスにつけられた名前。

   元ネタは「『宮本』明@真・女神転生if」「高岩『成二』@JAE」

   及び「『不動』明@デビルマン」「兵藤一『誠』」

※2:実体化時の特性は転生悪魔に準ずる。

※3:正式な悪魔転生の儀式は行っていない。

※4:戦った相手は最弱の「アインストクノッヘン」(人間サイズ)。

   実体化が仇となり腹をぶち抜かれる重傷を負う。

※5:起動キーなしでも記録再生大図鑑が使用できるようになった。

※6:冥界本土にもアインストが出現した影響だろうと本人は推測している。

※7:但し、幼少期は怪人が怖くて見れなかった様子。

※8:「龍帝の義肢」発現時には空気を読んでドラグ・ソボールに合わせたが

   本来は変身ベルトを作りたかった様子。

※9:私服だと大学生以上に見えるため。

※10:但し、様々な二次災害を考慮してエサやりはしていない。

※11:現在、虹川楽団の活動は有志の幽霊で運営されている。

※12:言っていることは完全に非協力的な態度だが、ポーズだけは眷属のそれである。

※13:対レイナーレ及びライザー戦参照。

    特にライザー戦後は霊体にも拘らず嘔吐した辺り、本気で嫌がっていた事が伺える。

※14:「自分を『宮本成二』としてきちんと見ていない」事を感じ取っている様子。

※15:一応告白そのものはしているが、彼女の子供の父親は

    自分ではないことに負い目を感じている。

    彼にとっては、彼女の大切なものである以上は自分にとっても大切なものなのだが。

    また、この一件から「子供を産み、育てる」と言うことには

    神経質とも言えるほど真剣である。

※16:同じく「兵士」であるイッセーの存在から「9個目の『兵士』」と言う呼ばれ方もある。

※17:勿論、追試では真面目にやる。

※18:ここでは「記録再生大図鑑」や「龍帝の義肢」(及び後継ともいえる「紫紅帝の龍魂」)

    以外の能力について触れる。

※19:当時(ライザー戦前)のアーシアに近い量の魔力であったとか。

    但し、霊魂と言う性質上霊力と言う見方も可能。

※20:但し、初めて成功したのは「トイレの水」を「スポーツドリンク」に変えるという内容。

    異性を「ひん剥く」のではなく「着飾る」方面に力を伸ばした結果なのだが。

※21:要するにイタコ。

※22:そもそも悪魔と言うものに対して不信感を抱いている現状

    悪魔の利になる行動をとるはずがないのだが。




次回、神器編。
実は龍帝の義肢と紫紅帝の龍魂は厳密には神器ではないのだけど
便宜上神器として取り扱います。

※7/10追記
そういえばスーザンとも出会ってたわ、セージ。
原作の悪魔稼業の契約者さんはミルたん以外影が薄いから困る。


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キャラ紹介・セージ(その2)

某日、駒王学園旧校舎の一室


――――


――セージさん、この牧村明日香(まきむらあすか)さんって人についてもっと詳しく!

「……ノーコメントだ(言うんじゃなかった……何で言ったんだろう)」


記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)

左手に発現する神器(セイクリッド・ギア)。辞書型の形をとるため、緊急時にはちょっとした盾や

角を利用した鈍器としても使用できる。

本を開くように展開し、内部にはカードスロットが一基(後に二基に増設)あり

ここからカードを引くことで記録された能力を発現することが出来る。

相手に向けたり、攻撃を受けるなど「事象を体験、確認」等することで

「MEMORISE」の音声と共に記録でき、それを再現することが出来る。

 

また、これ以外にも任意のキーワードを入れることによる「検索調査」や

建物の構造や周囲の情報、対象物の探知などの「電探調査」と言った

情報収集能力を持ち、情報戦において比類なき強さを発揮する神器である。

但しこれら調査では情報が開示されるのみで、先述のように記録、再現は出来ない。

ただし、持ち主の理解の範疇を超えたものや神格クラスの能力は記録することが出来ず

情報を開示することもできない。

 

記録された能力の発現にはコスト(魔力的なもの、魔力だけとは限らない)を要求されるため

記録は出来ても地の力が足りずに使えない、と言う事もある。

能力はカードに記録されるが、基本的にカードは使い捨てのため

一度使ったカードは神器を再起動させるなどしない限りは使えない(勿論、再起動にも力が必要)が

カードの複製は可能なため、一度の起動につき能力は

カードの枚数分しか使えないということになる。

 

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)」が「紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」になり

白龍皇(バニシング・ドラゴン)の力も併せて使えるようになったことで

カードを2枚引く「ダブルドロー」が使えるようになる。

2枚のカードの特性を合わせた能力を発現できるようになるため、戦術の幅が広がるが

その分カードの減りやコストの消費も激しくなる他

「紫紅帝の龍魂」の使用そのものの消費も合わさるため、消耗しやすくなる欠点もある。

デザインモチーフはライドブッカー。

 

 

今までに使用した、あるいは記録したカード

COMMON

固有能力を再現するためのカード。使用に際しコストを払わずに使えるため

情報収集などは基本的に起動さえできればいつでもできる。

 

「LIBRARY」

相手の概要を調べる。能力がわかるが、それに対応できなければ全くの無意味。

その為、大まかな情報収集に使うことが多い。

 

「ANALYZE」

相手の弱点や技の特性等、より詳しく能力を調べる。それだけに要求される時間は長い。

弱点を的確に突く事が出来るようになるため、使い方次第では力が弱くとも優位に戦える。

他の能力にも言えることだが、「柔よく剛を制す」を体現した能力と言えるだろう。

 

「RADER」

相手の位置や数をかなり正確に把握できる。普通の電探とほぼ同じ原理を利用しているため

何らかの力でジャミングをかけられるとうまく作動しない欠点もある。

また、電探であることに変わりはないので逆探知される危険性もある。

因みに後述の「戦車(ルーク)」状態ではレーダー射撃が可能になる。

……発動時点ではそれを成せるほどの長射程の射撃武器を持っていなかったが。

 

「SCANNING」

「LIBRARY」+「ANALYZE」のダブルドロー。

COMMON同士のダブルドローで、消費は比較的少ない。

2枚を同時に使うようなものだが、必要と思った情報をより効率よく引き出すことが出来る。

 

「SEARCHING」

「RADER」+「ANALYZE」のダブルドロー。

COMMON同士のダブルドローなので、消費は比較的少ないが

広範囲の探知を行うため、補助がないと神経を大きくすり減らす。

駒王町全域はカバー可能(補助を受けはしたが)。

 

 

EFFECT

主に魔術的な現象を再現するためのカード。性質上、ここに分類されるカードが最も多い。

再現するものは魔術的なものに限らない。

また、能力強化などもこれ。その効果次第でコストの消費量が大きく異なるカードが多い。

一部カードは「昇格(プロモーション)」することでその効果を変えることがある。

ダブルドロー時には属性を付与したり、全く異なる効果を生み出したり

その変貌ぶりは多岐に渡る。

 

「STRENGTH」

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の「戦車」の特性「単純なパワー」を再現するためのカード。

比較的低コストで強化することが出来るが、スピードはまるで強化されないため

相手は選ぶ必要がある。当初は本人(か憑依対象)のみにしか働かなかったが

後に他者に対しても強化を施すことが出来るようになった。

 

「戦車」時には重力や引力など、あらゆる力を操作できるようになる。

相手を引き寄せたり、離れた位置から押しつぶすなど出来るが

術者が原理を理解していないと余分なコストを消費してしまう。

 

「HIGHSPEED」

「悪魔の駒」の「騎士(ナイト)」の特性「高い機動力」を再現するためのカード。

足を速くするためだけでなく、攻撃の勢いを増す目的で使うこともある。

効果対象は「STRENGTH」に準ずる。

 

「戦車」時には自身を弾丸とする超高速の突撃を行う。

 

「CHARGEUP」

「STRENGTH」+「HIGHSPEED」のダブルドロー。

魔術的な要素以外の能力を大幅に強化するが、身体にかかる負担も大きくなる。

コストもそれなりにかかるため、濫用は出来ない。

シングルドロー時同様、他者にも使用可能だが、「戦車」時には使えない。

 

「THUNDER MAGIC」

朱乃の雷魔法を再現するためのカード。

大きくコストを消費する上、当初は再現が不十分で稲光による目くらまし程度にしか

役に立たなかったが、次第に再現度を上げてきている。

が、命中率はお察しなためやはり目くらましが主な使用法。

 

「RUIN MAGIC」

リアスの滅びの力を再現するためのカード。

コスト不足で使えず、今まで使用されたのは暴走時にコストリミッターが解除されたときのみ。

その後はコストの高さと使いにくさを理由に使われていない。

会得した能力の中でもトップクラスに不遇の能力、こんなところでも冷遇しなくても……

(とはいえ、訓練しようにも危険な性質のため迂闊に使えないのだが)

 

「HEALING」

アーシアの「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」を再現するためのカード。

本家本元を受けずに記録されたため、本家ほどの治癒力はないが

継戦能力を高めるのには一役買っている。こちらは他者に使用することは不可能。

後に本家本元を受ける機会が巡ってくるが、特に効果が変更された様子はない。

 

「EXPLOSION」

ライザーの「女王(クイーン)」、ユーベルーナの爆発魔法を再現するためのカード。

爆発による攻撃もだが、爆風による衝撃緩和や視界封鎖などにも使える。

 

「MELT」

使い魔の森で遭遇したスライムの特性を再現するためのカード。

……なのだが、オリジナルは服を溶かすだけだったのに対しこちらは金属をも溶かす。

進化次第では、自身の身体を液状化することもできる……かもしれない。

 

「TOTUGEKIRAPPA」

虹川姉妹(にじかわしまい)の次女、芽留(める)の演奏を再現するためのカード。

彼女の「聞く者をハイテンションにする程度の能力」を遺憾なく発揮している。

普通に使えるEFFECTカードの中では何気に珍しい、寸分違わず再現したカード。

 

「INVISIBLE」

透過の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)」の効果を再現するためのカード。

セージは霊体化で不可視の状態になれるが、こちらは状態を問わず不可視の状態になるカード。

このカードで不可視になった場合、普通に殴ることもできる。

 

 

SOLID

主に装備や道具を実体化させるためのカード。

一度実体化させた後は破損などしない限り取り回し続けることが可能なため

長い目で見るとコストパフォーマンスは良い。

但し、弾数制限のある銃はその限りではないが。

EFFECTカードとのダブルドローで特性を大きく変えることも可能。

また、EFFECTカードにも言えることだが持ち主が強くなればなるほど

実体化させた装備の強度も上がる。

 

「SWORD」

木場の剣を実体化させるためのカード。

何の変哲もない剣だが、それだけに使用コストは極めて低い。

最初期に使った際には一瞬で折られてしまった。折れたぁ!?

 

「GUN」

フリードの銃を実体化させるためのカード。

装填されている弾は祓魔弾のため、対悪魔特攻武器としても有用。

フリード本人が漫画版で言っていたように、実弾ではないので

警察のチェックもすり抜けられる優れもの。

 

「SHOTGUN」

「GUN」+「EXPLOSION」のダブルドロー。

グレネードランチャーかと思いきやショットガンである。

散弾のため、散らばった相手には有効だが硬い相手を仕留めるには接射する必要がある。

祓魔弾の散弾を利用しているため、相変わらず悪魔特攻武器。

 

「LIGHT SWORD」

フリードの光剣を実体化させるためのカード。

セージ的には面ドライバーBRXの必殺武器リボルビッカーを彷彿とさせるためか

何気に使用率の高い武器。

そうでなくとも光属性のため悪魔特攻を持ち、有効に使える場面は多い。

 

「COROSSION SWORD」

木場の光喰剣(ホーリー・イレイザー)を実体化させるためのカード……なのだが、「腐食」させていたと

勘違いしたため相手の装備を腐食させる武器になっている。

腐食対象に光も含まれるため、あながち間違いでもないのだが

結果として本家より優秀な武器になっている。

 

「LIGHT SPEAR」

レイナーレの光の槍を実体化させるためのカード。

実際に喰らったものを再現させているため、現在はオリジナルよりも威力が向上している。

(観測者の主観によって性能が変化することがあるため)

光剣と違い、柄が存在しないため死なば諸共の諸刃の刃としてか、射程のない射出武器

あるいは「戦車」状態に「STRENGTH」と併用して使うことが多い。

 

「SWORD MOUNTAIN」

木場の魔剣創造(ソード・バース)で作り出した複数の剣の山を実体化させるためのカード。

原作ではイッセーの「譲渡(TRANSFER)」と合わせて複数の敵を蹴散らすために使ったが

地上での接近戦に対するカウンターとしての用途が主。

 

「FEELER」

使い魔の森で遭遇した触手を実体化させるためのカード。

当初は一本のみの実体化だったが、後に複数本の実体化が可能になる。

近~中距離に対応し、敵の捕縛や味方の回避補助など多岐に渡る用途のため

使用率も高いカード。オリジナルのような用途(女性に対する辱めなど)には一切使えず

イッセーが血涙を流すこととなった。

また、モーフィングや後に会得する「半減(DIVIDE)」の発動条件に「触れたもの」が含まれるが

それはこの触手で触れたものも範疇に入るため、その点でも使用率の向上が見込まれる。

能力モチーフは仮面ライダーWルナジョーカーや仮面ライダーオーズのウナギメダル。

 

「SWING-EDGE」

「SWORD」+「FEELER」のダブルドロー。

先端や幹の部分に刃が仕込まれた触手を振り回すため

かなり広範囲を攻撃することが出来る。

反面、味方の救助など安全に対象を運ぶと言ったテクニックを要求されることは

不可能となっている。

デザイン、能力のモチーフはモビルアーマー・ラフレシアのテンタクラーロッド。

 

「TRUMPET」

トランペットを実体化させるためのカード。

球技大会の応援の際、虹川芽留仕込みの演奏をするにあたって

スピーカー代わりに実体化させた(虹川姉妹の演奏は、実際に楽器を使っているわけではない)。

当たり前だが、ただの楽器なのでモーフィングさせない限り戦闘能力はない。

因みに余談ではあるが、他のSOLIDカードで実体化させたものにも言えることだが

永久的に実体化させることはできないため、これを質に入れるなどして

金子(きんす)を稼ぐことはできない。これはモーフィングも同様。

 

「PLASMA FIST」

警視庁で開発され、超特捜課(ちょうとくそうか)の新装備として実装された

「プラズマフィスト」を実体化させるためのカード。

放電による攻撃(近接してスタンガン的使用、遠距離での荷電粒子砲的使用)が出来るが

再チャージの方法に乏しいため、実質使い捨て※1。

デザイン、能力のモチーフはイクサナックル。

 

「GYASPUNISHER」

ギャスパー(の入っていた棺桶)をモーフィングさせて出来た武器

「ギャスパニッシャー」を実体化させるためのカード。

見た目はフリルの付いた大型の鎚であり、打撃部分の根元にあるトリガーを引くことで

打撃部分にあしらわれた目の紋様から相手の動きを封じる魔術的な磁場を発生させる。

この能力の元になっているのは「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」だが

セージは変形させた当初この神器はおろかギャスパーそのものの存在を知らなかったため

「セージの影響を受けていない、正真正銘ギャスパーの能力」であると言える。

また、このカードが記録されたことで「モーフィングで作った武器も記録できる」事が判明した。

デザイン、能力のモチーフはドッガハンマー。

 

「DURANDAL」

ゼノヴィアのデュランダルを実体化させるためのカード。

実体化そのものは寸分違わずできたが、セージはデュランダルの因子を持たなかったため

地面に突き立てた状態で小型のシールドとしてしか使えなかった。

 

「DEFENDER」

デュランダルを変化させた「ディフェンダー」を実体化させるためのカード。

元が大型の剣のため、シールド部分の縁や先端には刃がついており

その部分を用いた攻撃にも転用可能。

全体を光力でコーティングされているため、光属性の攻撃に対しても高い防御力を誇る。

その場合、防御に用いられた光力は攻撃に転用される。

デザインモチーフは武装チェイサー・スパイダー。

 

 

PROMOTION

「昇格」を行うためのカード。

セージは(不本意ながらも)「兵士(ポーン)」の駒を持っているため

固有能力である「昇格」を使える……はずだったのだが

共有による異常の為か、イッセーと同じように通常の方法での昇格が出来ない。

その欠点を克服するためのカード。記録自体はイッセーの昇格に合わせて行われていたため

悪魔の駒がなくなった場合、別のカードに変化する可能性もある。

「DEMOTION」の音声と共に元の形態に戻ることも可能。

 

「ROOK」

「戦車」に昇格するためのカード。

この形態では本家同様に力の強化が行われ、両肩に城壁を模した(チェスのルークの駒のような)

アーマーが装着される。また、上述の通り一部EFFECTカードの効果の変化、強化がなされるが

それ以外のカードは殆ど使用不可能となる。また、力に特化した形態であるためか

技術力を要求される「モーフィング」の成功率は著しく下がる。

 

「QUEEN」

イッセーが「女王」に昇格しているため持っているであろうカード。

セージ的にはコストの割に旨味が少ないと判断されているのか

現時点では一度も使用していない。

 

 

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

厳密にはセージ固有の神器ではないのだが、ここに記載する。

霊体になり、イッセーに憑依したセージがドライグと初対面した際に

ドライグからイッセーへの言伝を頼まれたと同時に貸与された鱗が変質したもの。

形状は色のくすんだ「龍の手(トゥワイス・クリティカル)」。

その形状通り、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の能力である「倍加(BOOST)」は一度しか使えない。

しかしその後、セージの機転で両足いずれかへの移植「RELOCATION」が可能になる。

これを手にしてセージが戦ううちに、こちら側にもドライグの分霊とも言うべき存在が現れ

セージ(ないし、イッセーや本体のドライグ)との対話も可能になる。

PROMOTIONカードの影響で形状が変化するなど、内外問わず影響を受けやすい。

 

 

赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)

これも厳密にはセージの神器ではないのだが、便宜上ここに記載。

レイナーレの振る舞いに逆上したセージがイッセーを乗っ取り、ドライグの力を

無理矢理引き出した、いわば「セージによる『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』」。

完全にイッセーと一体化しており、「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」の倍加制限や

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」のコスト制限などリミッターを全部取り払っており

レイナーレを一方的に痛めつけるどころか、リアスでさえ止められない状態となった。

その分消耗も桁違いで、特にセージに至っては霊魂の性質さえも変質させかねないほどだった。

最終的には肉体と精神が限界を迎えたことで機能を停止し元に戻る。

この際の出来事は互いの記憶にあったらしく、時にはイッセーが

この形態を引き合いに出すことがあった※2。

デザインモチーフは仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム

及び仮面ライダーディケイド激情態。

 

 

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)

セージ固有でない、外付けの道具で神器ですらないが、便宜上ここに記載。

異次元に飛ばされたセージに、白金龍が託した装備。

セージに取り込まれていた「赤龍帝の鱗」とセージが奪った「白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)」の一部分

そこに「紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)」フリッケンの魂を融合させて作った装備。

マゼンタカラーに赤と白のラインが入ったデザインで

翠と碧の勾玉が太極を描くように埋め込まれている。

普段はセージの右腕に腕輪として装備されているが

展開時には両足と右手部分を覆う形で展開される。

「倍加」「半減」をそれぞれ一回ずつ使用可能で

それによって「記録再生大図鑑」に新たな能力を授けたり

自身の分身を生成することが可能になっている。

 

分身はそれぞれがオリジナルと同じ能力を有しており※3、体力の続く限り生成可能。

現時点では32体まで生成したが、さらに可能ではないかと思われる。

ただしダメージが共有されるため、1体が戦闘不能に陥るダメージを受けると

他の分身も戦闘不能となってしまうが、カードコストなどは個別に設定されるため

ある分身が受けたダメージを別の分身が回復させる、と言った戦法も可能※4。

また、一体の分身が記録したデータを即座に別の分身が使用するなど

情報についても共有がなされている模様※5。人格はすべてオリジナルのため

緊急時の思考や戦法などについては完全に息が合った動きを取ることが出来る。

 

デザインモチーフは仮面ライダーディケイド。

分身の元ネタは仮面ライダーオーズ・ガタキリバコンボ。

 

 

※1:朱乃の雷を受けたが、充電は出来なかった。

※2:ラッセーに逆上して。再現しようとするが結果は失敗に終わった。

※3:しかも分身からもさらに一回ずつ「倍加」「半減」が使える他

   分身生成と同時に使用フラグがリセットされる。

   分身の半永久生成メカニズムの元はこれ。

※4:つまりMAPW……所謂「マップ兵器」的な広範囲攻撃にはあまり強くない。

※5:「ODEシステムだ……」@壁際のいぶし銀




――こういうの、私聞いたことがあります! 「チート乙」って言うんですよね!?

「いや、そうなのかな……よくわからないけど。
 まぁ、それはさておき俺についてはこれ位かな。
 あとはとりあえずオカ研の皆についてなんだけど……」

――あ、それでしたら事前に私が調べた情報もありますので
  それと照らし合わせる形で行きましょう!


――――


と言うわけで次回はオカ研メンバー編。
原作との相違点について触れていく形となります。


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キャラ紹介・オカ研(イッセー、リアス)

主に対人関係について触れてます。
原作同様の部分については割愛。各自wiki等ご参照ください。

――――

「あまり他人の情報をこうやって開示するのは気が引けるんだが……」

COMMON-LIBRARY!!

――じゃ、私の方も用意しますね!


兵藤 一誠(ひょうどう いっせい)

原作相違点

原作よりもパワーアップの程度が低い(セージに持っていかれている部分がある)。

特にライザー戦以降が顕著ではあるものの、それでも原作からの大幅な弱体化は受けていない。

しかし、対人(特に女性)関係に大きく変化が生じており

自宅の大幅改修も受けておらず、同居人も両親の他にはアーシアのみ。

原作よりも悪魔であることを強く受け入れており

そういう意味では「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の力を最大限に引き出しているのだが

それが人間時代のクラスメートとの間に溝を生み出してしまっている。

 

 

対人関係

オカルト研究部

宮本成二(みやもとせいじ)(歩藤誠二(ふどうせいじ))

クラスメートにして「兵士(ポーン)」の駒の共有先。同好の士(おっぱい的な意味で)としても見ているが

リアスによって悪魔転生させられてからは関係が一変。

当初こそ協力関係にあるも、次第にリアスの処遇を巡り対立していくようになる。

また、直情的なイッセーに対し冷徹(悪く言えば非情)なセージは

時折冷たい人物に映ることがある。

能力は認めているため、共に眷属として尽力しようと持ち掛けるが却下されている。

 

リアス・グレモリー

主君。原作以上に忠誠心が強く、依存の域にまで達しかねないほどである。

セージとは彼女の処遇を巡り対立することが多い。

ライザー戦ではセージに〆を持っていかれてしまったため

まだファーストキスはもらっておらず、同居もしていない。

そのような境遇の為か、却って強く求めるような状態になってしまっている様子。

しかし、当の本人はセージ(の能力)に強い興味を示している。

 

アーシア・アルジェント

悪魔転生後に出会った友人にしてリアスの「僧侶(ビショップ)」。

原作よりもフリードの追跡から逃げるなど、密な時間を過ごしている。

その後は原作同様、実家での同居生活もするが

彼女が悪魔稼業の他にベビーシッターのアルバイトを始めたり

苦痛をものともせず見捨てた張本人である神への祈りを欠かさない姿を理解できず

やや距離感を感じ始めるようになる。

 

木場祐斗

リアスの「騎士(ナイト)」。エクスカリバー強奪事件の際の接触役をセージに持っていかれたため

原作よりも接点が薄い。やはりイケメンと言うことで目の敵にしている。

 

塔城小猫

リアスの「戦車(ルーク)」。原作に比べセージと言うブレーキ強化がついたため

セクハラに対するお仕置きが原作よりも強くなっている。

完全に変態として見做しており、原作より仲間意識はやや希薄。

 

姫島朱乃

リアスの「女王(クイーン)」。原作とほぼ大差なし。

色々溜まりがちなイッセーに対して逆セクハラを働く頻度は原作よりも多い様子。

(セージに働くと高い確率で逃走されるため)

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。原作同様、彼の対人恐怖症の克服訓練を受け持つ。

セージに苦手意識がある関係か、イッセーには原作と同等以上に懐いている様子。

 

 

生徒会

匙元士郎

ソーナの「兵士」。原作同様、セージの与り知らぬところで交流を深めている。

 

薮田直人

生徒会顧問教師。イケメンと言うこともあり毛嫌いしている。

後に彼の正体を知った際には、アーシアとの兼ね合いで激昂するが

軽くあしらわれてしまっている。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。原作同様に喧嘩を吹っ掛けるも返り討ちに遭う。

ゲームにおいてもセージの作戦もあり善戦するが、一歩及ばずセージに介錯される結果になった。

 

レイヴェル・フェニックス

フェニックス家長女にしてライザーの「僧侶」。

原作ではイッセーがライザーを下した事もありそこから関係が生まれるが

ライザーの前に敗れる結果に終わっているため

「変態の方の赤龍帝」と評価されてしまっている。

 

イザベラ

ライザーの「戦車」。

原作同様、「洋服破壊(ドレス・ブレイク)」で撃退している。

しかし原作であったフェニックス家との和解が真逆の結果を迎えているため

ライザーの眷属として、グレモリー家やイッセーには嫌悪感を抱いている。

 

ミラ

ライザーの「兵士」。

部室での戦闘時、セージのアシストを受ける形ではあるものの

善戦までこぎつけている。実戦でも同様にアシストを受け、圧勝。

 

 

魔王・冥界

サーゼクス・ルシファー

現魔王にしてリアスの兄。赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)として多大な期待と評価をしており

アインストレヴィアタンに異次元へと放逐された際には

(ほとんど白金龍(プラチナム・ドラゴン)の力ではあるものの)救出に成功している。

 

ウォルベン・バフォメット

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」突撃隊長。

リアスやソーナに突っかかる嫌味な悪魔として嫌悪している。

とはいえ、実力はウォルベンの方がはるかに上だが。

 

 

堕天使

レイナーレ(天野夕麻)

基本的に始終原作同様。

リアスが止めを刺さんとするときに相方のセージが暴走してしまい

その際にセージに肉体のコントロール権を奪われる。

その暴走を目の当たりにしたショックからか、彼女によるトラウマの程度は原作よりも軽度。

(それなのにスケベなイベントに恵まれていないというね……)

 

ドーナシーク

原作同様。セージの与り知らぬところで襲撃されているのも同様。

(当時、セージはまだ覚醒していないorドライグと対話中だった)

 

アザゼル

原作同様、ゲームセンターで初コンタクトをしている。

しかしその場面をマスコミに撮られてしまい、冥界が混乱しかけることに。

 

 

禍の団(カオス・ブリゲート)

カテレア・レヴィアタン

旧魔王派の一人。スタイルに見惚れるが、敵と言うことで交戦。

後にアインスト化し、苦戦を強いられるが新たな力を得たセージと

会議に参加した首脳陣の力も借りて撃退に成功する。

 

フリード・セルゼン

アーシア誘拐、エクスカリバー強奪と様々な事件に関わっている元教会の戦士。

セージのアシストにより全戦全勝している

(初戦はアーシアを連れた逃走、つまり戦略的撤退だが)。

 

紫藤イリナ

幼馴染。好意を抱かれていたがイッセーはそれに気づくこともなく

またイッセーが悪魔になってしまったことや神の不在で自暴自棄になり

イッセーに歪んだ愛を向けるようになる。

 

ヴァーリ・ルシファー

現「白龍皇(バニシング・ドラゴン)」。赤と白の戦いは憑依していたセージによって水を差されてしまう。

イッセー自身もこの戦いには気乗りしていない。

しかも原作と異なり、コカビエル戦直後に戦う羽目になったので猶更。

 

 

人間

松田、元浜

クラスメート。基本的には原作同様だが、オカ研の入部を切っ掛けに距離が出来た事や

悪魔の力を制御しきれずに危害を加えそうになったり、徐々に溝が出来始めている。

また、(イッセーにとっては悪戯のつもりだったのだが)

ミルたんの同好会に参加させてしまったことで

イッセーの提案(女性絡み)には不信感しか持っていない。

 

桐生藍華

クラスメート。原作同様だが、英語の成績の急激な上昇(悪魔の駒の影響・アーシアのお陰)や

身体能力の劇的な変化などでイッセーに何かが起きていることを感づいている。

 

両親

基本的には原作同様。セージの夢の中での出来事ではあるが

「悪魔になっても我が子は我が子」といった旨の事を語っている。

しかしリアスを同居人として迎えていないこともあり、家をリフォームはしていない。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士にして、デュランダル使い。

アーシアの処遇を巡りタッグパートナーのイリナ共々戦うことになるが

最終的には協力しコカビエルと戦うこととなる。

その後彼女がイリナを探していることを知り協力を申し出るが、拒否される。

 

牧村明日香(まきむらあすか)

セージの面会時に偶然出会った女性。

イッセーの意識かセージの意識かは不明だが、豊満な胸に目を奪われていた。

 

 

その他

バイサー

原作では他のリアス眷属の戦いを見ていただけだが、今回は力をより蓄えていたこともあってか

倒した後に生み出された小型の分身と戦う羽目になる。

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)」ドライグ

原作と違いセージと言うメッセンジャーがいたため、早期に彼の存在に気付いているが

対話が出来たのは原作よりも少し早い程度。

禁手(バランスブレイカー)のコントロールも、アザゼルの指輪を使った原作と違い

セージを取り込むことでコントロールに成功しているため

原作より早期に禁手のコントロールは可能になっており

武器の生成や身体能力のブースト補助など

原作にない能力(セージ由来)も持てるようになっている。

 

天照大神

日本神話の主神。彼女に対しても卑猥な視線を向けるが付き人に制止されている。

会議においては悪魔にとって不利益となる彼女の言動に反発を覚えている。

 

 

 

――――

 

 

 

リアス・グレモリー

原作相違点

「兵士」を余分に抱えることになり、それによる強化に胸を躍らせたのは最初だけ。

レイナーレへの止めに乱入されたのを皮切りにライザー戦における不本意な勝利を迎え

家庭事情が圧迫。過度の干渉は受けなくなるが、同時に支援の大半を打ち切られ

イッセーの家に転がり込むという我儘も通らなくなり、精神的余裕を失ってしまう。

また、どんな形であれ「敗北」「完敗」と言うものを味わっていないため

(「戦略的撤退」はコカビエル戦にて余儀なくされている)

本当の意味での挫折を知らず、そういう意味でも原作ほど成長していない。

 

「悪魔の駒」で他種族を悪魔に転生させることに対しては抵抗がないどころか賛成派であり

そのために「眷属が主を殺した」黒歌の事件は小猫に伝えておらず、接触も固く禁じているが

それが皮肉にもセージの態度も見てきた小猫にリアスへの不信感を抱かせる切欠になってしまう。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

「兵士」。原作よりも強い忠誠心(下心含む)を向けられている。

ライザー戦では惜しくも途中敗退した辺りは原作同様だが、その後セージが

ライザーを再起不能に叩き込んでしまったため結婚式そのものが発生せず

未だファーストキスは彼に捧げていない。つまり今のリアスはキスもしてない生娘。

 

宮本成二(歩藤誠二)

「兵士」。イッセーに憑依していた事が原因で彼もまた「兵士」であるが

その経緯のために原作同様駒を8個使用したイッセーの付属品として見ている部分が強い。

記憶が混乱している彼に名前を付けるが、リアス自身の(結果的に)杜撰な管理や

度重なる事件との因果関係から彼からの信頼は得られていない。

彼の持つ力には非常に強い関心を抱いているが、肝心の彼自身からの評価は高くない。

 

アーシア・アルジェント

「僧侶」。基本的に原作同様だが、悪魔稼業以外の場所で

ベビーシッターをしているのは知っており、当初は反対したが

それ以上に悪魔稼業も真剣にやっていたため、強く言えなかった。

 

木場祐斗

「騎士」。基本的に原作同様だが、エクスカリバー事件の際には

セージと言う反逆の先駆者がいたため、彼からも出奔については強く押し切られてしまう。

その経緯から、繋がりのある彼からのセージ監視役の申し出を受けるが……

 

塔城小猫

「戦車」。黒歌の経緯については先述の通り。

彼女と黒歌の関係は原作ほど拗れていないのもあり、そのために彼女のリアスに対する

信頼にヒビが入ってしまう結果となっている。

少々疑問に思いながらも、彼女のセージ監視役の申し出を受けることに。

 

姫島朱乃

「女王」。霊体であるセージの動きをコントロールするために彼女の協力を仰ぐが……

 

ギャスパー・ヴラディ

「僧侶」。基本的には原作同様だが、入れ替わりでセージが幽閉されることとなったため

それもあって半ば強引に外に出すこととなる。

イッセーの家がリフォームされていないこともあり、現在は実家の一室に住まわせている。

 

 

魔王・グレモリー家

サーゼクス・ルシファー

現魔王にして実兄。フェニックス家との裁判については

魔王としての立場上口を挟めないが、セージから彼女を庇うような発言もしている。

後に駒王協定(原作と異なり、相互不干渉協定)の影響で駒王町の管理権を剥奪されるが

同時に駒王町のゲート・アインスト監視役にソーナ共々任命している。

 

ジオティクス・グレモリー

実父。過保護で親馬鹿な面が強く、反抗的なセージの処刑を大っぴらに発言したり

フェニックス家との裁判を原因に授業参観に出られないことを深く悲しんだ。

その後セージの処刑とまでは叶わなかったが、ギャスパーとの交換と言うことで

セージの幽閉に成功している。その際ギャスパーの解放はかなり強引な方法を使った様子。

 

ヴェネラナ・グレモリー

実母。父に比べると現実的な態度をしているが

フェニックス家との裁判に悩まされていることには変わりはない。

決断と責任の重要性をリアスに説きつつ「どんな決断を下そうとも、私達はあなたの味方」と

セージの状態に衝撃を受けたリアスに激励をしている。

 

グレイフィア・ルキフグス

サーゼクスの「女王」にして妻、リアスにとっては義姉。

魔王である兄はもとより、裁判で多忙になった両親に代わり

グレモリー家の状況をリアスに伝えるメッセンジャー的役割を果たしている。

余談だが、セージが最初に調べた際の彼女のキーワード「姉」に多大な反応を示していた。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。婚約するもリアスに反発される辺りは原作同様。

しかし原作に存在しない歩藤誠二(宮本成二)によって初戦にてライザーに対し勝利。

彼による敗北を味わうことなく現在に至っている。

また、そのため結婚式が発生しておらず、イッセーに対しファーストキスも捧げていなければ

原作ほどイッセーに対して依存していない。

 

レイヴェル・フェニックス

フェニックス家長女にしてライザーの「僧侶」。

冗談で「お義姉様」と呼ぶほどの余裕を見せていたが、戦闘後の様子が

「眷属に全てを押し付けようとしている」と解釈されてしまう。

 

 

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」

ウォルベン・バフォメット

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」突撃隊長にして

番外の悪魔(エキストラ・デーモン)バフォメット家の悪魔。

エクスカリバー事件の際、人間界に調査に来ていた彼と遭遇。

嫌味交じりの彼の提案を蹴るが

「どうせグレモリーは終わりだ」と呪詛の言葉を贈られてしまう。

 

ハマリア・アガリアレプト

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」指揮官にして

番外の悪魔アガリアレプト家の悪魔。

エクスカリバー事件の際にサーゼクスが派兵した部隊の指揮を執っていた。

サーゼクスからは「リアスには被害を出すな」と命令されていたが

「駒王町の状態」については命令されていなかったため、リアスを一喝し

戦線から下げようとした(失敗に終わったが)。

 

 

堕天使

レイナーレ

基本的に原作同様。

止めを刺そうとする寸前にセージの割り込みを許してしまい、それが彼の暴走につながる。

また、セージからは「イッセーを眷属にするためにわざと彼女を泳がせていたのではないか」と

疑われる結果となる。

 

コカビエル

神を見張る者(グリゴリ)幹部。彼女の拠点である駒王町を中心に

破壊活動を行おうとし、直接対決になるも

精神的にも戦力的にも始終彼女を圧倒していた。

しかし、途中で現れた白龍皇・ヴァーリの乱入を許し

最期は彼女の手で倒されてしまう。

 

アザゼル

当初は原作同様。しかしアインストレヴィアタンとの戦闘で右腕を喪失し

冥界領への帰還を余儀なくされたため、オカ研顧問には就いていない

(そもそも駒王協定のために就けないが)。

 

 

禍の団

カテレア・レヴィアタン

旧魔王派の一人。ギャスパーを人質に取り、余っていた「戦車」の駒を使い

リアスをおびき寄せることに成功する。

その後リアスの滅びの魔力を使い、アインストレヴィアタンへと変貌する。

 

無限龍(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィス

兄サーゼクスから話を聞いている程度。

しかし現に「禍の団」が用いた力(「アインスト」)はその聞いた力と異なっていたため

疑問を抱いている。

 

人間

テリー(やなぎ)

駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)(超特捜課(ちょうとくそうか))課長。

駒王町で起きている事件の調査の際に度々顔を合わせているが

リアスは「人間が悪魔の問題に関わらないでほしい」と、柳は「防犯の強化をしてほしい」と

平行線になってしまう事がが多々ある。

 

駒王町町長

リアスの契約者。彼を利用することでオカ研(リアスの)治外法権的性格を

ある程度認可してもらっている。

この事を知っているのは他にリアスと朱乃、グレモリー家のみ。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士にして、デュランダル使い。

ほぼ原作同様の経緯をたどり、コカビエルとの戦いにおいても共闘するが

その後は顔を合わせていないため、眷属に迎え入れていない。

 

イッセー両親

アーシア同居の件までは原作同様だが、その後先述の通りグレモリー家が多忙になったため

同居することが出来ていない。アルバムを見せてもらったのは原作同様。




「なぁバオクゥ。この『原作』って……なんだ?」

――セージさん。世の中には知らないほうがいい事もあります。
  ジャーナリストや、盗聴バスターと付き合う上では大事ですよ?

「……わ、わかった。そっちがどうやって情報を仕入れたのかも聞かないでおく。
 あと明日香姉さんの胸に目が行ったのは偶然かイッセーの仕業であって
 俺は何にも関与していないことを付け加えておく。それから俺はシスコンじゃない」

――わざわざ言う辺り怪しすぎますよセージさん……
  逆に突っ込む気が失せますって……

※7/11追記
コカビー追記。
仮にも章ボス省くとかどんだけ寝ぼけてたんだ……


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キャラ紹介・オカ研(木場、小猫)

アーシアかと思った? 残念、この二人でした!

本編ではっちゃけにくい分、ここではっちゃけてる部分は無きにしも非ず。

――――

「なぁ、これいつまで続けるんだ?」

――始まったばかりじゃないですか、何言ってるんですか。
  ささっ、どんどんいっちゃいますよ~!


木場 祐斗(きば ゆうと)

原作相違点

聖剣計画の生き残りでリアスに保護されたところは変わらないが

聖剣計画の犠牲者の霊魂と直接コンタクトできる存在(セージ)がいたため

エクスカリバー事件の折には出奔こそしているものの

行動自体は比較的冷静だった。

そのセージとも同事件を切っ掛けに友好的な関係になるが

セージの立場の悪化に伴いリアスとの板挟みに苦悩するようになるが

現在は監視役になることで落ち着いている。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士(ポーン)」。概ね原作通りだが若干接点が薄く

原作ほど入れ込んではいない。

イッセーの側からはイケメンを理由にやや目の敵にされているが。

 

宮本成二(みやもとせいじ)(歩藤誠二(ふどうせいじ))

イッセーと共有する形での「兵士」。

上記の通り、聖剣計画の犠牲者の霊魂とコンタクトが取れる存在。

彼を通してかつての同胞の声を聴き、聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を発現させる。

この事件を通し友好的な関係になるが、それより前に交わされた

決闘の約束は現時点では未だ果たされていない。

原作でイッセーに見せた一部女子(男子も?)が熱狂しそうな視線をセージに向けている場面は

「おそらく」無い。

 

因みに決闘は、ステージさえ問わなければその日はそう遠くないとはセージの見立て。

 

塔城小猫

リアスの「戦車(ルーク)」。アーシア誘拐事件と言い組んで活動することも少なくない。

セージと共に彼女の秘密を共有したため、その関係もあって原作よりは親密で

イッセーがあらぬ疑いをかけたが、そこまでの進展はない。

セージ監視仲間。

 

姫島朱乃

リアスの「女王(クイーン)」。概ね原作と同様で、部活の先輩後輩ないし

「女王」と「騎士(ナイト)」と言う関係以上の何者でもない。

 

リアス・グレモリー

主。原作同様聖剣計画から生き延びたところを保護される。

その後はあくまでも「騎士」として関係を築いていたが、結局はそこ止まりで

踏み込んだ関係を築き上げるには至っていない。

その為か、セージが聖剣計画の犠牲者の霊魂とコンタクトを取った際には

セージの意見に同調してしまい、彼女への忠義に揺らぎが生じている。

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶(ビショップ)」。彼女の救出のためにイッセーやセージに付き合うが

その後はただの眷属仲間としてのみの交流であり、特に踏み込んだ関係は築いていない。

しかしライザー戦である種グロ画像な状態になったライザーを前に

彼女の視界に入らないようにする気配りなどはしっかりできている様子。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。彼が自主的に閉じこもっていることを知っていたため

セージが知らずに彼の部屋に入った際には肝を冷やしていた※1。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。リアスの命に従い、戦いを挑むことに。

しかし直接は戦わず、セージの依頼でプールに水を張る、消火器を持ってくるなど

裏方に徹していた。決着後の彼の惨状に目を覆い、アーシアに見せまいとしていた。

 

レイヴェル・フェニックス

フェニックス家長女にしてライザーの「僧侶」。

裏方作業に徹している際につけられてしまうが、特に争った様子はない。

 

カーラマイン

ライザーの「騎士」。

原作同様「尋常じゃないやり合い」を演じるが

セージの差し金(事前警告済み)に邪魔されてしまう。

その後は彼から「やりたければ後で口説いてからやれ」と言われるが

その後の顛末を顧みるに、口説いてはいない様子。

 

 

禍の団(カオス・ブリゲート)

フリード・セルゼン

アーシア誘拐、エクスカリバー強奪と様々な事件に関わっている元教会の戦士。

エクスカリバー事件での初戦は冷静さを欠いた状態だったが

実体化できないセージのアシストで事なきを得、決戦時には

発現させた聖魔剣で統合させた三本のエクスカリバーを難なく打ち破っている。

 

紫藤イリナ

エクスカリバー事件を追ってきた元教会の戦士。

これ見よがしにエクスカリバーを見せびらかす彼女に逆上し、戦いを挑むが

相方のゼノヴィアに倒されてしまう。

その後コカビエル戦での共闘を経て、本格的に相対するのは禍の団襲撃時だが

その頃には既に彼女の心は壊れており、アスカロンと聖魔剣で切り結ぶことになる。

 

 

人間

テリー(やなぎ)

駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)(超特捜課(ちょうとくそうか))課長。

町中で暴れるフリードとの戦いの際に遭遇、逮捕に協力。

フリードが奪ったエクスカリバーの破壊を申し出るが、証拠品と言うことで許可されず。

また、セージ共々「学生が命のやり取りをするな」と説教されることに。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士にして、デュランダル使い。

ほぼ原作同様の経緯をたどり、コカビエルとの戦いにおいても共闘。

その後謎の悪魔と魔法使いの集団に襲われているところに駆け付け、救助している。

目的に向かって焦る彼女に、何かしらを感じている様子。

 

伊草慧介(いくさけいすけ)

元教会の戦士にして、NPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)の会員。

彼と共に謎の悪魔と魔法使いの集団に襲われたゼノヴィアを救出する。

 

兜甲次郎(かぶとこうじろう)

セージの中学時代の友人。セージの依頼により、出素戸炉井(ですとろい)高校や

金座(かねざ)高校の生徒の悪事の秘密を暴くために彼にコンタクトを試みる。

 

 

幽霊

海道尚巳(かいどうなおみ)

聖剣計画時代の友人。ギターを趣味にしていたが、幽霊になったことで弾けなくなる。

虹川(にじかわ)姉妹に頼っていたところをセージと出会いそのまま木場と再会する※2。

その後は思い出の曲を完成、演奏して成仏……したかと思いきや

虹川姉妹と共に活動、カラオケボックスで遊ぶ彼らにドッキリを仕掛けた。

 

虹川姉妹

セージの悪魔契約先の幽霊姉妹。

虹川楽団(にじかわがくだん)」のライブ活動中に旧友の海道と出会い

その流れで根城にしている生前の住処に招く※3。

木場がイケメンであるからか、彼女らにも好評。

 

 

 

――――

 

 

 

塔城 小猫(とうじょう こねこ)

原作相違点

実姉、黒歌との関係が大きく異なっている。

心を閉ざしていた原作と異なり、セージに依頼してまで探し求める積極性を見せる。

こうなったのは「姉がなぜこうなったのか」を純粋に知りたいがための行動であり

別段「リアスの元を抜け出したい」とは考えていなかったのだが

リアスは頑なに黒歌との接触を認めず(当たり前なのだが)

そこにセージの反抗的な態度も重なってリアスに対する信頼にヒビが生じてしまっている。

また、それに伴い仙術の使用に対する抵抗感はなく、その気になれば使えるのだが

体質※4のため他ならぬ黒歌からも

また小猫の素性を知っているリアスからも固く禁じられている。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士」。概ね原作通りで、変態行為を働く彼に制裁を加える役。

またセージと言うブレーキ役が付いたことで、彼女も安心して(?)制裁を加えている様子。

しかしその反面、原作ほどに仲間意識は強くない。

 

宮本成二(歩藤誠二)

イッセーと共有する形での「兵士」。

上記の通り、姉の黒歌の捜索を依頼している※5。

その他「戦車」時の連携や夜間送迎、小柄な彼女に対し大柄なセージなど

眷属内ではかなり良好な関係を築いており、現時点では彼に自分の正体を

(明言こそしていないものの)打ち明けている。

後に彼が幽閉された際には、監視役を買って出た。

 

木場祐斗

リアスの「騎士」。アーシア誘拐事件と言い組んで活動することも少なくない。

セージに秘密を打ち明けた際に同席しており、秘密を共有することに。

後にセージが幽閉された際には共同で監視役を買って出る。

 

姫島朱乃

リアスの「女王」。概ね原作と同様で、部活の先輩後輩ないし

「女王」と「戦車」と言う関係以上の何者でもない。

胸の大きさには思うところがあるようだが。

 

リアス・グレモリー

主。原作同様黒歌による主殺害の騒乱から生き延びたところを保護される。

グレモリー家で正体や体質について調べられたことで「戦車」の駒を与えられ

姉同様仙術の使用を固く禁じられ現在に至っている。

その経緯からか、ある程度の信頼関係はあったのだが

頑なに黒歌との接触を禁止する態度と、セージの態度を見ているうちに

信頼関係に疑問を抱き始める。

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶」。彼女の救出のためにイッセーやセージに付き合う。

悪魔転生後は悪魔の先輩として悪魔稼業を共同で行ったり色々と面倒を見ている。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。原作同様だが、彼の解放当時セージは満足に戦えない状態だったため

それにもかかわらず逃げ出した※6彼に対し感情的になるほど怒りを露わにした。

同級生と言うこともあり、元来眷属の中では仲は良好な方。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。「戦車」状態のセージと協力し強力な一撃を浴びせ

ノックダウンさせたかに見えたが、不死の特性までは破ることが出来ず

反撃を受け脱落してしまう。

 

ユーベルーナ

ライザーの「女王」。

初撃の爆発を凌ぐことが出来たため、朱乃と共に戦うが一歩及ばず

後詰めでやってきたセージと交代する形となった。

 

 

その他

黒歌

実姉。現時点では猫の姿でしか登場していないが

時折彼女やセージの前に現れている。セージが己の身体を取り戻すように

彼女との邂逅こそが小猫の、白音の目的である。

 

ウォルベン・バフォメット

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」突撃隊長。

木場・セージ捜索中に彼と遭遇。一目で彼の危険性を見破るが

同行していたイッセーが戦いを挑んでしまう。

結局見逃されるような形で事なきを得たが、彼女曰く「チョコは嫌い」と

チョコ愛好家の彼と真逆の事を言い残していた※7。

 

天照大神

日本神話の主神。直接的な接点はないが、声や健啖家な点に

共通点がみられる。プロポーションはその限りでもないが。

 

アインストクノッヘン

出典:スーパーロボット大戦OGシリーズ

異世界から来たと思しき生命体。集団でセージを襲っているところに駆け付け

朱乃と共に撃退、この際仙術を使用したと思しき様子がある。

因みに大きさで言えば巨大ロボットに匹敵するクノッヘンではなく

エンドレス・フロンティアに出没する「アインストシェーデル」が近いのだが

性質はクノッヘンのそれと全く同じため、クノッヘンと呼称している。

 

 

※1:案の定、彼の入っている棺桶はモーフィングさせられてしまった。

※2:木場からは見えないが。

※3:やはり木場からは見えないが。ただしセージの証言

   (「可愛いっちゃ可愛い」)には反応していた。

※4:髪など色白はアルビノによるもの。そのため瞳は赤く

   怪力や耐久力などは完全に後天性(悪魔の駒)によるもの。

   しかしその影響で元来の身体があまり強くなく

   そのために仙術に身体が耐えられないことから

   黒歌やリアスから仙術の使用を禁止されている。なお一度この禁止は破っている(上述)。

   ちなみに何故そんな彼女に「戦車」の駒を使用したかと言うと

   「少しでも体を丈夫にしたいため」と言うリアスの思いがある。

※5:黒猫探しと言う名目だが。後に自分の正体を明かした際に

   黒猫が自分の姉だとはバレている。

※6:実際にはセージがギャスパーを逃がしたのだが。

※7:現実の猫にも甘いもの(チョコとか)は厳禁です!!




――若き勇者、サイラオーグ……ねぇ。ま、俺が書いたんだけどな。

スポーツ紙を丸めながら、冥界の澱んだ空を眺めながら煙草を吹かすリー。
アインストによる冥界への攻撃の際、迎撃に出た政府軍や各領地の悪魔の中に
彼はいた。

滅びの魔力を持たず、己が腕一本で戦い抜くという
悪魔の中では異端児ともいえる存在。
そんな彼をあえて持ち上げる。それだけで興味本位で民衆は食いつく。
後はうまく扇動するだけだ。

――こいつがあの幻の忌まわしき勇者「アモン」に匹敵する逸材になるか。
  それとも……「アモン」の末路も悲惨だったけどな。
  ま、その前にあいつと戦わせても面白そうだが……

煙草をふかしながら彼が思い浮かべるのは、かつてネットで情報を得た
「9個目の『兵士』」。盗聴バスターの話じゃ、新しい力を得たらしい。
その「兵士」を抱える主は才能だけの凡人だが
赤龍帝と言い、聖魔剣と言い眷属はキワモノぞろいだ。
血は争えないって奴なのだろう。

――なんにせよ、しばらく冥界はスクープに困らなさそうだぜ。

――――

※7/14一部修正。
表記が原作と比べておかしなことになっていたので。


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キャラ紹介・オカ研(アーシア・朱乃・ギャスパー)

ゼノヴィアはいないのでオカ研編はこれでおしまいです。

――――

冥界・堕天使領のとある病院

「……仕方ありませんね。ハーデス様には私から伝えておきましょう」

「申し訳ありません。あなた様の手を煩わせる形となってしまって……。
 では、此度は私めが代わりに……」

病院の待合室では、会議の時と同じ格好をした薮田直人――ヤルダバオトが
シェムハザと話をしていた。
内容は――堕天使勢のギリシャ勢への謝罪に関する事だ。
謝罪に出向く筈だったアザゼルが受けた傷の影響は
想定以上に滅びの力による浸食が酷く、未だ完治の目処が立たないのだ。
そのため、予定されていたハーデスへの謝罪に出席できないでいる。

「いえ。今回は私一人で赴きますよ。
 それに、会議への襲撃自体は予測の範囲内でしたが
 この負傷は私も想定できませんでした。いわば私の不手際です。
 ミカエルの件と言い、やはり偽者は所詮偽者にすぎませんね。
 ……とまあ、愚痴をこぼすのはこれ位にしておきましょう。
 ではシェムハザ、アザゼルを頼みましたよ」

「――はっ」

彼ら堕天使にしてみれば、かつて自分たちを追放した存在――の影。
二心を抱いていないと言えば嘘になるが、今それをしても意味はない。
しかし何故、彼は「一人で行く」と言い出したのだろうか。
代理である自分が赴くのが筋ではなかろうか?
そんな疑問を、シェムハザは抱かずにはいられなかった。
そもそも、今日の面会だって本当にハーデスへの謝罪に関する打ち合わせだけが
目的だったのだろうか?
いくら彼が聖書の神の影であり、相互不干渉の協定外の存在だからとはいえ。

堕天使と言う種を守るためには、「彼」の動向にも注意せねばならないかもしれない。

――――


アーシア・アルジェント

原作相違点

当初セージはイッセーにほぼ四六時中憑依していたため、必然的に彼女とも接点が生じている。

最期をイッセーだけでなくセージにも看取られており

それがセージ暴走の一因にもなっている※1。

その後は原作同様悪魔となり、経緯もほぼ同様だが

使い魔ラッセーを使役した戦い方が若干増えている。

また、聖書の神の不在を知りその後現れた聖書の神の影・ヤルダバオトに対しても

臆することなく「神に愛されるのではなく、神を忘れないために信仰を続ける」と持論を展開。

彼を唸らせ「その祈りの痛みが私とあなたを繋ぐ絆」と彼女に試練を与えている※2。

また、悪魔稼業の他に元教会の戦士の家庭・伊草家でベビーシッターのアルバイトを兼任。

同家に居候しているゼノヴィアと偶然の再会を果たし、彼女の日本語教師も受け持つ。

戦いにおいては消極的ながらも、人助けの分野においては多岐にわたる活躍をしている。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士(ポーン)」であり、初めてできた友人と言う点や同居人であることは原作同様。

友人として確かに世話になっているが、なかなかそれ以上の感情が湧かないことや

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」による転生を受けたにもかかわらず神への感謝を忘れない姿勢などから

若干考え方に食い違いが起きてしまっている。

 

宮本成二(歩藤誠二)

イッセーと共有する形での「兵士」。

悪魔として最期を看取るが、その後彼自身が悪魔であることに懐疑的になり

悪魔でありながらもある意味自身を見失っていないアーシアとは

ある一点において対照的。

戦闘能力の低いアーシアを下げることが多く、その際の人命救助活動や

私生活でのベビーシッターのアルバイトなど、社会貢献に関しては

非常に好意的な見方をしている。

 

リアス・グレモリー

主。尊敬の念を持っているのは原作同様で、崇拝するよう

悪魔の駒に植え付けられているが、それでも「普通の生活の一環」として

悪魔稼業以外でのベビーシッターのアルバイトを申し出るなど

原作に比べイッセーの絡まないところでも活動的。

 

姫島朱乃

リアスの「女王(クイーン)」。原作同様アーシアの魔力を見初め

魔力の強化プランを提案する。

 

木場祐斗

リアスの「騎士(ナイト)」。誘拐時の救助の際に乗り込んできた一人。

ライザー戦の結末ではライザーの惨状を目撃しないように目を覆われた。

 

塔城小猫

リアスの「戦車(ルーク)」。誘拐時の救助の際に乗り込んできた一人。

その後悪魔になった後は原作同様、彼女と組んで悪魔稼業に乗り出すことも多い。

同居しているせいか、イッセーに近い存在だと思われている節がある。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶(ビショップ)」。自信を喪失している彼を諭す場面もあった。

 

 

生徒会

森羅椿姫

ソーナの「女王」。コカビエル戦で駒王町全域に避難勧告が出た際には

彼女と共に警察の避難活動を支援した。

 

匙元士郎

ソーナの「兵士」。原作同様、彼が鼻の下を伸ばしイッセーが嫉妬する一幕も。

ウォルベンに一蹴された彼を治療している。

 

薮田直人(やぶたなおと)

生徒会顧問教師。彼の正体を知り驚愕することに。

 

 

フェニックス家

ライザー・フェニックス

フェニックス家三男。彼の敗因がプール一杯の聖水に漬けられたことを

聖職者としての経験から見抜く。

 

ユーベルーナ

ライザーの「女王」。

原作同様決戦の折に彼女に動きを封じられるが、後から来たセージによって救助される。

 

 

冥界

ウォルベン・バフォメット

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」突撃隊長。

木場・セージ捜索中に遭遇し、迎撃のためにラッセーを使役するが

全く歯が立たず、歯牙にもかけられなかった。

 

ザトゥージ

リアスの紹介で来た使い魔マスター。

原作同様、彼の手引きでラッセーを使い魔に迎え入れる。

 

 

堕天使

レイナーレ

原作同様、神器(セイクリッド・ギア)のために虚偽の連絡で来日させられ、神器を抜き取られる。

その神器はかなり物理的な方法で奪還されたことを彼女は知らない。

 

コカビエル

エクスカリバー強奪事件を利用し、戦乱を企てた「神を見張る者(グリゴリ)」の幹部。

神器の能力を警戒し、いの一番に始末しようとするが阻止される。

 

アザゼル

堕天使総督。アインストレヴィアタンに食いちぎられた右腕を治療しようとしたが

滅びの力の浸食もあり、彼女の神器でも完全治療とはいかなかった。

 

 

禍の団(カオス・ブリゲート)

フリード・セルゼン

原作同様、当初は彼のアシスタントをやらされていた。

その後は彼自身にとってもどうでもいい存在だったらしく、エクスカリバー事件の折には

殆ど言及されていない。

 

紫藤イリナ

元教会の戦士。原作同様エクスカリバー事件の際、部室に来た彼女とゼノヴィアに愚弄される。

その後、禍の団とアインストの襲撃後に彼女がミカエルを襲撃する様を目撃。

その行いを糾弾するが「壊れたミカエルを助けようとするなんて、やはり魔女は魔女」と

一蹴されてしまう。

 

 

天界

ミカエル

四大熾天使の一人である大天使長。五大勢力の会談に参加した際彼女に

「システム」について聞かれるが回答を拒否している。

その後イリナに襲われ、「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」でも治療しきれないほどの重傷を負ってしまう。

 

ヤルダバオト

聖書の神の影。立場上アーシアを表立って支援することはせず

突き放した態度を取っているが、彼女の見せた覚悟には感服している。

 

 

人間

テリー(やなぎ)

駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)(超特捜課(ちょうとくそうか))課長。

コカビエルとの決戦の際、駒王町全域に出された避難勧告による避難誘導の手伝いを

最初は渋るものの、アーシアと椿姫に協力を願う。

 

氷上涼(ひかみりょう)

超特捜課所属の巡査。

アーシアと椿姫の協力に感謝し、イリナを安全な場所まで避難させようとするが……

 

伊草慧介(いくさけいすけ)

NPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)会員にして元教会の戦士。

彼の家庭にベビーシッターのアルバイトをしに行っている。

 

伊草めぐ

慧介の妻で、元教会の戦士。

現役ファッションモデルで、仕事との兼ね合いの都合上一人娘の子守を

アーシアに(身の上を知った上で)依頼している張本人。

 

伊草百合音(ゆりね)

慧介とめぐの娘。

まだ赤子で、アーシアは彼女の面倒を時折見ている。

が、この時ばかりは「悪魔になった」事を若干後悔しているそぶりを見せている※3。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士にして、デュランダル使い。

エクスカリバー強奪事件の際にはイリナ共々愚弄するが

後に(悪魔を救うという行いはともかく)和解。

諸般の事情で日本に滞在せざるを得なくなった彼女の日本語教師役も務める。

 

松田、元浜

クラスメート。原作同様、アイドル的扱いをされている。

しかしイッセーとの関係については若干認識に齟齬がある模様。

 

桐生藍華

クラスメート。原作同様、同性の友人の一人。

桐生自身が過去にセージに説教を受けたのか

あるいはイッセーとアーシアの関係が今一つ進展していないのかは不明だが

原作ほどぶっ飛んだアドバイスは送っていない。

ただしイッセーの英語力の急激な向上は彼女が原因だと思っている節がある。

 

 

その他

虹川(にじかわ)姉妹

セージの悪魔契約のお得意先。彼女らの根城「虹川邸」を

フリードから逃亡するイッセーとアーシアにセージを通し一時的に貸与したことがある。

 

ラッセー

原作同様、使い魔の蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)

命名経緯も原作同様で、前述のウォルベン戦や、禍の団とアインストの襲撃の際には

イッセーやリアスの捜索に出たり、アインストの迎撃を行ったり

原作よりも若干活躍の場面は増えている。

 

 

 

――――

 

 

 

姫島 朱乃(ひめじま あけの)

原作相違点

立ち回りは原作とほぼ同じだが、出自のためにリアス眷属の中でもひときわ霊力が高く

セージの行動コントロールに一役買っている※4。

彼女自身ではなく、彼女の父であるバラキエル周りが原作と若干異なっている。

また、原作よりも少々空気の読めていない部分がある。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士」。スケベもやんちゃと見做して可愛がっている辺りは原作同様。

原作ではリアスの側も積極的にイッセーに迫っていたが、今回そのような点はあまりないため

逆に彼との距離感を測りあぐねている。また、好意を抱く切っ掛けになったライザー戦も

セージと活躍度合いがトントンのため、そういう意味でも原作より距離がある。

 

宮本成二(歩藤誠二)

イッセーと共有する形での「兵士」。

反抗的と言う点を「調教のし甲斐がある」と見做している。

イッセーに「洋服破壊(ドレスブレイク)」の切っ掛けを与えたのと同様

彼には「モーフィング」の切っ掛けを与える。

一方でリアスと共に彼の肉体がある駒王総合病院に除霊札を張る※5など

彼の反抗的態度が一線を超えると見做される場合にはきつめの対応がとられる。

 

リアス・グレモリー

主。基本的には原作とほぼ変わらないが、グレモリー家が多忙を極めているため

部活動ではなくその関連での補助に回ることも少なくない。

 

木場祐斗

リアスの「騎士」。原作とほぼ同様。

セージとの関連については薄々感づいている。

 

塔城小猫

リアスの「戦車」。原作とほぼ同様。

ライザー戦では彼女と組んで「女王」と戦うことに。

セージとの関連については(彼女の感情も含めて)薄々感づいている。

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶」。悪魔になった彼女の魔力を見初めるなど

原作とほぼ同様。ベビーシッターのアルバイトについては

「リアスが許可を出したのならば」と、言及していない。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。原作とほぼ同様だが

原作に比べありえない怖がり方(セージ絡み)に当惑する様子も見せる。

 

 

魔王・冥界

サーゼクス・ルシファー

現魔王にしてリアスの兄。主君の兄として、魔王として忠誠を誓っている。

彼がふと漏らした一言に反応するが……。

 

ユーベルーナ

フェニックス家三男、ライザー・フェニックスの「女王」。

原作と異なり、小猫も交えて戦うが最終的には彼女に倒されてしまい

結果、リアス側最初の脱落者となってしまう※6。

 

 

堕天使

レイナーレ

基本的に原作同様。

しかしリアスが止めを刺すかと思った矢先にセージが暴走、彼を止めることに。

 

コカビエル

エクスカリバー強奪事件を利用し、戦乱を企てた「神を見張る者」の幹部。

ふと漏らしたバラキエル(バルディエル)の名前を聞き、暴走気味に雷を乱射する。

最後は冷静さを取り戻し、他の仲間と協力して撃退に成功する。

 

アザゼル

堕天使総督。五大勢力の会談の後に朱乃にバラキエルの事について話そうとしていたが

その前に襲撃を受け帰還を余儀なくされたため、今なお伝えられていない。

 

バラキエル

実父。過去に起きた次元震反応への調査に向かった際行方不明となり

ある事件を経て後述のバルディエルへと改名される。

現在は書類上MIA扱い。

 

バルディエル

コカビエルが漏らしかけた名前。かつて姫島神社の襲撃事件の際に現れ

全てを終わらせた。その際「静寂なる世界」と言う単語を口走っていたことから

現在で言うアインストの影響下にあったと推測される※7。

その後の調査でバラキエル本人だと判明するが、既にバラキエルとしての人格がほぼ失われており

「バラキエルはMIAになった、今確認されているのは

 外見が酷似した『バルディエル』と言う別個体。

 襲撃事件の際にいたのもそちらの個体」と制定。

但し朱乃自身はその件に関して「嘘をついている」と見破っており

それもあって朱乃の堕天使と言う種族への嫌悪感は殊更に強い。

この事件に関して真実を知っているのは次元震調査に同伴したコカビエルとアザゼルのみ※8。

 

 

その他

虹川姉妹

セージの悪魔契約のお得意先。

彼女達自身のみならず、ライブの観客(幽霊)もしっかり見えるようだ。

 

 

 

――――

 

 

 

ギャスパー・ヴラディ

原作相違点

現在はイッセーの家がリフォームされていないことに伴い、グレモリー邸の一室に住んでいる。

神器の性質については原作同様。しかし「そもそも見えないもの」は対象にならないため

幽霊や霊体と言った不可視の存在の時間を停止することはできない。

彼自身も下級の幽霊ならば見えるのだが、虹川姉妹クラスの幽霊は見えない。

よって、霊体化したセージも見えない。それが意味するところは……

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士」。原作同様、対人恐怖症の克服訓練を彼と共に行っている。

比較的彼には懐いているが、男であることを理由に邪険にされることが稀にある。

 

宮本成二(歩藤誠二)

イッセーと共有する形での「兵士」。

自身が入っている棺桶ごとハンマーにモーフィングされ、ぶん回された経緯で

相当な苦手意識を抱いている。その事はセージも知っているが

アインストとの戦いの際には身を挺して逃がされたため、わだかまりは多少消えている※9。

尚入れ替わりで幽閉された際、パソコン類はそのままセージに譲渡し

自身は新しいものを購入した模様。

 

リアス・グレモリー

主。基本的には原作とほぼ変わらず。

イッセーの家がリフォームされていないため、幽閉の解かれた彼を

自身の実家の一室に住まわせる。

 

姫島朱乃

リアスの「女王」。セージに対し尋常ならざるおびえ方をする彼に当惑する。

 

木場祐斗

リアスの「騎士」。セージに自身の事を話さなかったことについては多少後悔している様子。

 

塔城小猫

リアスの「戦車」。満足に戦える状態でないセージを置いて逃げた※10

彼に激昂、口調が変わるほどの怒りを見せる。

とは言え、基本的には同学年と言うのもあり仲は悪くない。

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶」。敵前逃亡し自信を喪失した彼を励ます。

 

 

その他

ジオティクス・グレモリー

リアスの父。原作ほどリアスが多大な戦果を挙げていない※11ため

ギャスパーの幽閉を解く理由が無いにも関わらず

セージ幽閉の交換としてギャスパーの幽閉を解く。

この際神器の危険性を「幽閉の要無し、経過観察」と制定

代わりにセージの神器を「幽閉の要あり」と制定させることで

彼を解放した、見方によっては恩人※12。

 

カテレア・レヴィアタン

禍の団、旧魔王派の一員。彼女の作戦とヴァーリの入れ知恵で

旧校舎に一人※13残された彼を人質にリアスをおびき出す。

 

ゼノヴィア

元教会の戦士で、デュランダル使い。

原作ではリアスの「騎士」となり彼の対人恐怖症の特訓(と言う名のイビリ?)を行っていたが

今回彼女は悪魔転生は行っていないため、当然面識もない。

 

 

※1:レイナーレに対する執拗な攻撃の中には「神器を抜き取ろうとする」も含まれていた。

   しかし当然そのプロセスをセージは知らないので

   「物理的に、強引に」抜き取ろうとしていたわけだが。

※2:痛み自体はヤハウェ消滅後に制定された「システム」によるもので

   「悪魔も治療できる」聖母の微笑とはコンセプトに矛盾が生じているため

   それも踏まえての「試練」と思われる。

※3:「人間の赤子を悪魔の手で抱く」事に抵抗がある様子。負ぶう事にはさほど抵抗はないが。

※4:但し、セージ本人は生霊のためかおぼろげにしか見えない様子。

※5:この除霊札、不完全らしくイッセーに憑依するなどでスルーできる模様。

   後に病院にセージの肉体があることが本人に知られて以降はもう除霊札は張られていない。

※6:その後小猫とイッセーが立て続けに脱落。

   彼らの脱落が決着間際(イッセーに至ってはセージの手による脱落)であることを考えると

   実質ただ一人の脱落者ともいえる。

※7:当時、アインストは観測さえされていなかった。

   そもそもアインストが初めて確認されたのは五大勢力会議の最中である。

※8:アインストの襲撃については、アザゼルが次元震事件を喋る前に

   負傷退場してしまう形となり、そのまま相互不干渉協定が結ばれてしまう。

   相互不干渉が悪い方向に働いてしまった例かもしれない。

※9:但し、セージ自身割と大柄なためにそういう点でも苦手意識はある模様。

※10:実際にはセージが身を挺して逃がした。戦意喪失していたのも事実だが。

※11:それ以前の問題としてフェニックス家との裁判など

    グレモリー家自体が大変なことになっている。

※12:勿論、本人は外に出ることをほとんど望んでいなかったが。

※13:実際にはセージやゼノヴィア、慧介がいたが。

    結果としてギャスパーはセージに救出されるが

    代わりにリアスが人質に取られてしまう事に。




――――

「……今気づいた。何故姫島先輩が俺を見た時に背筋に寒気が走るのか」

――何々? 何の話ですかぁ?

「そこは聞かなくていいって。さて、じゃあ……」

――次は人間界の様子を教えてもらっていいですか?
  私が師匠の所にいた時には、超特捜課なんて無かったですし
  そもそも一般の警察が悪魔の事件に立ち向かうってかなり稀なケースですよ!

  ……師匠の知り合いの刑事さんも「悪魔と戦ったり、会話したことある」って
  言ってましたけど。

――――

と言うわけで次回以降、超特捜課+α編。


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キャラ紹介・超特捜課他警察関係者

※今更ですが、このコーナーはネタバレも多分にぶっこんでます。
 目安としてはテレビ情報誌(特撮的に言えばフィギュア王とかてれびくんとかその辺)や
 発売前ゲームに対するファミ通程度かな、と。

――――

「そういえばバオクゥ、さりげなく聖書の神の件について触れちゃってるんだけど……
 ……知ってたのか?」

――あ、あははははは。実はですねぇ、会場に盗聴器とか仕掛けちゃったりとか
  しちゃったりなんかしちゃったりして……あはははは……

祐斗はマスコミは入ってないって言っていたが、確かにマスコミは入ってない。
だがモロに盗聴されてるってどうなんだよ!? 警備ザルすぎるだろ!?

「……よく仕掛けられたな」

――実はですねぇ、兵藤さん? 赤龍帝の。あの人にちょーっと、ボディタッチして
  あとはそのまんま、です。
  いやぁ、よく戦闘で壊れなかったと我ながら感心しますよ。

お前かよ、イッセー……つーかある意味あのクソカラスと同じような手じゃないか。
バオクゥが同じ手合いだとは思っちゃいないが
引っ掛かる方も引っ掛かる方だぞ……

「それに今までざっと見返しただけでも俺の知らない情報がぞろぞろと……
 そりゃあ、ある程度はコレ使えば読めるけど」

――情報源はいくらセージさんでも教えませんよ?


超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)

概要

日本において古くから起きている不可解な現象による事件※1に対し

警察は長らく手をこまねいており、そのいずれもが迷宮入りしていた。

しかし昨今、そうした事件の増加に伴い警視庁から各地方の神社、仏閣等の神官や僧侶

そして五大宗家に代表される退魔の一族に協力を仰ぎ事件解決を試みた。

ところが、彼らは魔を払うことには長けていても組織的な活動力が皆無に等しく

事件検挙率は一向に上がることが無かった。

そんな中、薮田直人(やぶたなおと)と名乗る人物が警視庁に提出した

「天使・悪魔・堕天使と人々、神々の在り方」

と言う論文を受け、本郷警視総監の指示により警察組織として結成。

論文を出した本人である薮田直人をオブザーバーとし、超常事件の検挙経験のある

テリー(やなぎ)警視をトップに据え、超常事件が集中的に発生している

駒王町の警察――駒王警察署に設立される。

皮肉にも、設立時には五大宗家は後継者不足で力を失っており

駒王町に存在する神社仏閣もその力を失っていたために

この超常事件特命捜査課――超特捜課こそが

人類の超常的な事件に対する唯一の対抗手段となってしまった。

また、特別な課でこそあるが上は警視庁、すなわち国であるため

民や国益に反する行動をとることはできない※2。

 

 

関連人物

テリー 柳(てりー やなぎ)

概要

某地方都市警察署から異動してきた、駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)

(通称、超特捜課(ちょうとくそうか))の課長。

階級は警視。茶髪に赤のレザージャケットにレザーパンツと言うスタイルが特徴。

タコメーター付きのストップウォッチのような形をした神器(セイクリッド・ギア)加速への挑戦(トライアル・アクセラ―)」を持つ。

表面上はクールながらも※3その実は熱血系で正義感が強く、それ故に(契約の都合上)対応の遅い

町長に不満を募らせたり、(若さゆえに)見通しの楽観的なリアスとはそりが合わない部分がある。

20代後半と言う若さの警視と異様なスピード出世だが

これは異動前に携わったある事件に関係している※4。

ハーフのような名前で実際ハーフだが、日本に帰化しており出自については気にしていない。

駄菓子好きで、酢こんぶを懐に忍ばせているというお茶目な一面もある。

 

神器「加速への挑戦」

ストップウォッチのスイッチを入れることで、10秒間常人をはるかに超える※5

スピードを発揮することが出来る。

これによる犯人検挙のケースは枚挙に暇がなく、実戦でも有効打足りうるが

パワーは強化されておらず、力は人間のそれである柳には荷が重い相手も確かに存在する。

その為、そのパワー不足を補う装備の開発が待たれるところ※6。

 

名前の元ネタ

照井竜(仮面ライダーW)→てるい竜→てりい竜→てりい柳→てりいやなぎ

 

氷上 涼(ひかみ りょう)

概要

駒王警察署巡査。数年前までは香川県警の所属だった。

テリー柳警視の異動、超特捜課設立に伴い同課に異動。超特捜課の初期メンバー。

柳と違い神器を持たないながらも、今までの※7捜査で培った

何事にもひるまない根性で事件に挑み、はぐれ悪魔の撃退や人類に対し害をなした

悪魔や堕天使を検挙している。

柳とは異なり、一般の刑事らしく暗色系の背広を着用することが多い。

その服装通り、まじめで堅物な印象を与えるが、実際まじめで堅物。

他のメンバーに比べると、少々融通がきかない部分があるのが欠点。

好物はうどんと焼肉。

 

名前の元ネタ

『氷』川誠+津『上』翔一+葦原『涼』(全て仮面ライダーアギト)

 

安玖 信吾(あんく しんご)

概要

超特捜課の補強のため、本庁から応援でやってきた警察官。階級は巡査。

警察官らしからぬはねた金髪に、赤のジーンズなどラフな格好をすることが多い。

右手には腕輪型の神器「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」を装着している。

見た目通りに口も悪く、どう見ても警察官には見えない※8が

それ故に裏世界にも長けている様子で、特に神器のせいか欲望には敏感※9。

アイス、特に棒アイスが好物で勤務中にも食べていることも。

 

神器「欲望掴む王の右手」

鳥の翼を模した外見に、赤・黄・緑の三色が

グラデーションになったカラーリングの腕輪型神器。

大昔、人外の存在の力を用いて人類がホムンクルスを作ろうとしていた頃の名残の神器で

神器の中でも後発、性質的には人工神器に近い。そのせいかメンテナンスが不十分で

元来使用できるホムンクルスの力の一部、飛行能力と火球発射能力しか引き出せていない。

しかも発動に際し所有者の財産を消費するというとんでもない欠陥※10があるため

安玖本人はこの神器の使用を相当ためらっている。

とは言え超特捜課では極めて貴重な飛行能力持ちなので

使わざるを得ない場面も多々あるのだが。

また、発動させなくとも欲望に敏感になるという作用があり

それは五感のいずれかに訴えてくる形で発現する。

 

名前の元ネタ

アンク+泉『信吾』(全て仮面ライダーOOO)

 

霧島 詩子(きりしま うたこ)

概要

超特捜課の補強のため、安玖と共に応援でやってきた警察官。階級は巡査。

氷上同様、神器を持っていないため現在は内勤でオペレーター的役割についている。

しかし格闘技(特に足技)には定評があり、演習で氷上を打ち負かした事もある。

氷上同様まじめな性格だが、少々脳筋だったり、表情が硬いという欠点がある。

現時点で超特捜課唯一の婦人警官※11。

元同僚の警察官の影響か、ミルクキャンディをなめることも。

その時ばかりは柔和な表情になるらしいが、それを見た人間はその同僚の警察官位である。

 

名前の元ネタ

詩島霧子(仮面ライダードライブ)のアナグラム+霧島(艦これ)

 

薮田 直人(やぶた なおと)

概要

超特捜課設立の一因になった人物。現在は警視庁で超特捜課向けの装備開発も行っている。

他にも駒王学園で世界史の教師をしていたり、生徒会の顧問を務めていたり

その経歴には様々な謎が存在する。

戸籍や取得した教員免許、博士号については疑いようのない書類ではあるのだが……

 

名前の元ネタ

ヤルダバオート(ヤルダバオト)のもじり

 

ギルバート・マキ

概要

薮田の後任の警視庁の超特捜課装備開発部門に来た博士。

諸般の事情で空席にせざるを得なくなった薮田に代わり、装備開発やメンテナンスを行っていた。

また、彼自身の開発力も高く自ら考案した装備の設計図を

薮田の帰還と同時に渡し、自身の研究所へと帰って行った。

……ただし、その方向性は少々過激すぎるきらいもあるが。

嫌いな食べ物はおでん。

 

名前の元ネタ

プロフェッサー・ギル(人造人間キカイダー)、『真木』清人/ギル(仮面ライダーOOO)

及び『ギルバート』・神崎(キカイダーREBOOT)

 

本郷警視総監(ほんごうけいしそうかん)

概要

現職の警視総監。正義感に篤い人物で、警察と言う組織を

「日本の、世界の人々の自由を、平和を守ることが出来る組織」足らんとするため

防衛省と協力して、それを自ら率先して行っている人物。

完全な生身の人間であるが、空手・柔道・剣道・合気道など様々な武芸に長けており

御年70を目前にしながらも並の悪魔や堕天使では相手にならないとも言われている。

武道の他にも茶道や書道、俳句を嗜むなど伝統芸能を愛する一面もあり※12

正しい意味での「愛国者」と言える好人物。

薮田の論文を他の警視長が一笑に付す中、唯一まともに取り合い

鶴の一声で超特捜課設立を決定、人外の存在による超常犯罪の検挙率を結果として上げている。

その経緯故か、嘘か誠か天照大神と対話したこともあるという噂もある。

 

名前の元ネタ

『本郷』猛(仮面ライダー)、及び警視総監(劇場版仮面ライダーアギト)

 

 

装備

神経断裂弾(しんけいだんれつだん)

出典:仮面ライダークウガ

概要

長野で起きた大量殺人事件の犯人が人ならざる存在、それも害獣などではないことが判明。

それに対抗する手段として開発された特殊弾丸。体内から体組織を破壊するため

表皮さえ貫通すれば自然治癒を無力化し致命傷を与えられる、極めて強力な銃弾。

民間では噂レベルではあるものの、警察学校の教本にはこの事件の事が載っていたり

実際に開発され、未使用に終わった神経断裂弾が厳重に保管されていることが

長野の事件が実際に起きた事であることを物語っている。

エクスカリバー事件の折、巨大な未確認生物(オルトロス)が駒王町に発生したことを受け

警視庁が使用を認可。駒王警察署によって運用される運びとなった。

その後はこれを使用するほどの敵性体が確認できていない※13ため、再封印される。

 

プラズマフィスト

概要

薮田直人が開発した、超常的存在に対抗するための装備第一号。

ナックルダスターの取り回しやすさと、スタンガンの確実性

そして荷電粒子砲の威力の3つの長所を合わせるコンセプトで開発された。

しかしながら、実際に使用する際に全てを成立させることは不可能であることが

戦闘データから判明し、それを受けて現在新装備が開発中である。

形状はナックルダスター型で、拳にはめて使用する。

標的との接触部分からは最大5億ボルトの電流を流すことが可能で、これは下級悪魔ならば

一瞬で撃退できる出力を誇る。

また、命中精度に難が残るが、上述の通り小型の荷電粒子砲としての運用も可能。

欠点は電力チャージに時間がかかるうえ、一度の攻撃に膨大な電力を消費する点※14。

また、この装備による攻撃のパワーソースは電力であるため、電気を通さない相手には

そもそも通用しない。

 

元ネタ

仮面ライダーイクサのイクサナックル。

 

特殊強化スーツ(仮)

概要

薮田直人が開発中の、人体保護と筋力増強を目的としたスーツ。

耐熱・耐冷性に優れ動きやすいインナースーツと、防刃・防弾を部位で分けることで

防御の効率を増したプロテクターで形成されている。

教会の戦士に支給されているボディスーツを参考に再設計しているが

開発が遅れ、まだテストタイプが一着完成したのみである※15。

 

元ネタ

これと言ってないが、しいて言うならばG3システムと仮面ライダーイクサ。

 

ドローンドロイド

概要

ギルバート・マキ博士が残した設計図に記されていた支援メカ。

遠隔操作・AI搭載による自律活動が可能で、高い拡張性を持つ。

量産を前提に設計されており、現在は偵察や監視、物資輸送用だが

将来的には戦闘補助も可能になる見込み。

設計はギルバート・マキ博士だが、開発は薮田博士。

ギルバート・マキ博士の設計図案の中で、唯一ロールアウトまでこぎつけられたのは

その高い生産性によるものだろう。

 

元ネタ

平成二期ライダーの各種ガジェット、特に仮面ライダーOOOのカンドロイド。

 

クレーバスター(仮)

概要

ギルバート・マキ博士が残した設計図に記されていた武装。

散弾と収束弾の切り替えが可能なエネルギー弾を発射する中型の銃。

威力は神経断裂弾装填の銃よりも高いと推測され

()()()()()装備として次期主力を担うに相応しいカタログスペックを持つが

エネルギー源の問題がクリアできないため、現時点では開発不可能。

 

元ネタ

仮面ライダーバースのバースバスター。

 

七四式外装装着型小型戦車(クローズスコーピオン・パワード)

概要

ギルバート・マキ博士が残した設計図に記されていたマシン。

人間でも扱えるサイズのウインチ、飛行ユニット、ドリル、万力を

外部ユニットとして装着・運用できる遠隔操作・自律活動型小型戦車。

受け取った薮田をして「自衛隊向けの設計図と間違えましたか?」と疑うほどの本格的な武装。

現在、薮田が災害救助を主眼に置いた重機として設計図を引き直している。

これは薮田の意向※16によるもので、一応ギルバート・マキ博士の許可は取っている。

そのため、ロールアウトは当分先になる見込み。

 

元ネタ

仮面ライダーバースのバースCLAWSと仮面ライダーイクサのパワードイクサー。

七四式と言う呼称は旧日本軍の皇紀表記に倣っている。

 

 

 

※1:人間の常識では説明不可能な失踪・殺人事件など。

   有名なもので10年ほど前に長野で起きた大量殺人事件があり

   その当時は長野県警が今で言う超特捜課の様相を呈していた。

※2:劇中ではエクスカリバー事件の際にヴァチカンから派遣されたイリナとゼノヴィア

   (特に銃刀法違反で逮捕されたゼノヴィア)に対し、ヴァチカン(司教枢機卿)との兼ね合いで

   満足な捜査を行うことが出来なかった。

※3:勿論、立場上冷静に努めなければならないという点も大きく関係している。

※4:既に解決している。一説には悪魔か堕天使の研究成果が悪用された事件と言う噂がある。

   このスピード解決も彼を警視足らしめている要因の一つともいえる。

※5:セージの見立てでは「騎士(ナイト)」の木場に勝るとも劣らないスピード、らしい。

※6:プラズマフィストはエネルギー管理の都合上連撃との相性が悪い。

   その為武器を使用する際には機動隊にも支給されている電磁警棒を使用している。

   また、他のメンバー(安玖以外)にも言えることだが空が飛べないため

   普通に飛べる相手との相性は決していいものではない。

※7:と言っても数年程度。柳にも言えることだが長野の事件も未体験。

※8:ゼノヴィアが困惑し、慧介が激怒するほどに警察官らしからぬ言動である。

※9:ただし、あまりにも低俗な欲望は本人曰く「鼻が曲がるほど臭い」らしい。

※10:本人曰く欠陥だが、実際には仕様。欲望の代価としてわかりやすく

    財産(金銭)を消費する形になっている。その消えたお金がどこに行っているのかは不明。

    なお悪魔など人外相手、超特捜課の職務による使用ならば手当は降りるのだが

    公務員と言う性格上、その金の出本は税金であるため

    結局普通に税金を支払っている安玖曰く

    「堂々巡りしてるだけじゃねぇか」と不服の様子。

※11:駒王協定制定直後(7月中旬)。あくまでも超特捜課内の話であり

    駒王警察署と言う単位で見れば婦人警官は当然多数在籍している。

※12:特撮やゲームなどのサブカルチャーにも明るい。

※13:アインストは駒王学園の敷地から外には出ておらず、会談以降ゲートは沈静状態。

    しかし実際にアインストが出現した際、表皮や装甲の問題で

    従来の神経断裂弾が通用するかどうかは疑わしい。

※14:特に荷電粒子砲として使用した際には、その欠点が顕著に表れる。

※15:男女共用であるが、様々なデータを集めたいという意向から

    被験者は氷上と霧島になる模様。と言うか、神器を持たない彼らに向けて

    開発された装備でもある。

※16:人間の手に余る力は持つべきではないと考えている。

    また、警察はあくまでも人々を守るのが仕事であり

    過剰な武装は必要ないという観点から。

    そのため「災害救助」と言う名目での運用が出来るよう

    戦車としてではなく重機として設計図を引き直すこととなった。




【悲報】ガイアメモリ事件の裏にも三大勢力の影が!?【またお前らか】
【ハイDの】衝撃! グリード誕生の裏に冥界勢力が!?【財団X】
【ゲゲルゾ】長野の事件、実は悪魔の集団だった!?【ザジレタ】

以上、今回の紹介からのネタ。
実際にそういうことが起きたかどうかは想像にお任せしますが
そう解釈できちゃうよね、と言う部分が多々ありました。
(真ん中だけはほぼガチですが)

はい、超特捜課絡みの紹介でした。
もうこれハイスクール関係ないよね。
でも世界観の拡張と言うことでご容赦のほどを。
今回触れてませんが、ちゃんと駒王警察署にも生活安全課とか交通課とかありますので。

超特捜課発足前に一応人間も五大宗家とか人間の力で
人間に害をなす連中と戦ってましたよー。
そんな話も付け加えてます。でも組織的行動が出来ないのは
社会を営む動物である人間にとっては致命的。そこで超特捜課が発足されましたが
いざ出来たら駒王町の神社仏閣は機能停止、五大宗家は後継者が悪魔になったり
潰し合いで弱体化とかもうね。
次回はその他の人間勢力の皆さん。みんな大好き名護さん(だから違う)も
このカテゴリ。

Q:なんで警視庁の管轄じゃないの?>超特捜課
A:フットワークの問題です。なので京都に舞台が移行する前に何か動きがあるかも。
  京都府警も指くわえてみてるわけじゃないでしょうし。
  あと駒王町にそういう事件が集中しすぎ。
  リアス無能説こんなところで出さなくても。

Q:クウガいないのに神経断裂弾作ったの? つかよく人類戦えたな
A:クウガがいないからこそ作る必要性に迫られました。敵性体の強さは
  アギトの世界のグロンギくらいじゃないですかね。
  この世界にはアギトもいませんが。とは言えアギトに準ずる存在はいるかも?
  神いますし。

Q:原作ならどれもアザゼルが一晩もせずに開発しそうだよね
A:人間がやるからこそ意味があるんです。開発者の薮田(ヤルダバオト)も
  人間の科学力を超えたものはそもそも設計図を引きませんし開発もしません。


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キャラ紹介・一般市民(人間)

いやね、書くのは楽しいんです、設定。
書いた後でヴァァー……ってなるところまでセットなんでしょうけどね。

今回は今まで登場した人間(一部例外あり)の紹介です。

――――

「……え、えーっと……今回のテーマ、あまりコレ使いたくないって言うか……
 そもそも効かない神格の方々とかもそうなんだけど……」

――ダメです。妥協はダメです。って言うか今更過ぎます。
  さぁさぁ、観念しちゃってください~!


蒼穹会(そうきゅうかい)

概要

全国区で活動しているNPO法人。表向きは諸般の事情で生活困難に陥った

青少年の保護育成を支援する組織だが、その裏ではその原因足りうる人外の存在による犯罪を

未然に防ぐ※1べく組織された集団であり、元々教会の戦士だったり

魔を祓う者が所属していることが多い。

 

名前の元ネタ

素晴らしき青空の会(仮面ライダーキバ)

 

 

関連人物

伊草 慧介(いくさ けいすけ)

概要

蒼穹会に籍を置く、元教会の戦士。

神器「未知への迎撃者」を持ち、類まれなる戦闘センスを持つ……のだが

相当性格に癖のある人物で、教会を脱退したのも

「上層部(天界)の言うことはエゴに満ちている」のだが

彼自身も相当なエゴイストであり、自身こそが絶対の正義と信じて疑っていない。

しかしそれ故に、周囲の人間に与える影響は良くも悪くも大きく、距離さえ間違えなければ

元来の面倒見の良さもあって好人物であり、実際結婚し一子を設けている。

賞金稼ぎを職業としているが、性質上収入は不安定で主な収入源は

嫁・めぐのファッションモデル稼業。

しかし彼も賞金稼ぎ以外の仕事をしていないわけではなく、「伊草道場」なる道場を開き

後述の「イクササイズ」をはじめとする武術・体術の師範を務めるが

それでも嫁の収入には遠く及ばないどころか、道場経営費の方が嵩む有様。

結局警察から仕事の斡旋を受けるなどして稼いでいる他、娘・百合音の世話をするなど

主夫的な立ち振る舞いが多い。

また、その絶対の正義感を裏付けるようにとにかく真面目で堅物な性格で

自身の正義に向かって突き進むことを厭わないが、それ故にどこかで空回りすると

とんでもないトラブルメーカーとなってしまう。

類まれなる戦闘センスを如何に日常で活かせるかと嫁・めぐに言われ

考案した運動メニュー「イクササイズ」※2は、開祖たる彼の手にかかれば

禍の団の魔法使いの集団さえ倒すことが可能なエクササイズ運動である。

また変わった癖として、倒した相手のボタンを毟り取り

撃墜マークの代わりに収集する癖がある。

これは過去のトラウマなどではなく、本当にただの趣味。

 

神器(セイクリッド・ギア)未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)

慧介が所持している十字架型の神器。その形状のまま、剣へと変化させることが出来る。

極めて軽量で取り回しやすく、強度も下手な聖剣より強い。

また、柄の部分が拳銃になっており、そこから光弾を発射することもできる。

性格に難こそあれかなり腕が立ち、かつ使いこなせている彼だからこそ

禁手化(バランスブレイク)もありうるのではないかと思われるが……

 

名前の元ネタ

言わずもがな、名護啓介(仮面ライダーキバ)。

神器はイクサカリバーより。

 

伊草 めぐ(いくさ めぐ)

概要

慧介の妻。ファッションモデルと言う夢のために教会を抜け、以後二足の草鞋で魔を祓い

慧介とはそんな中で知り合った仲。専ら抑え役に回っている。

紆余曲折を経て結婚した際には蒼穹会の他の構成員をして「男女の仲とは摩訶不思議」と

唸らせた伝説を持っている。

結婚を機に生活の安定化のために軌道に乗っていたファッションモデル業に専念。

後に一子を設けるも、そのスタイル※3には全く変化が見られない辺りから

彼女の生来の努力家気質な部分が伺える。

一方で家事については少々疎く、人並み程度にはこなせる程度のため

慧介に任せているか、アーシアに依頼するなどしてやりくりしている。

特に娘・百合音の面倒に関しては特に気がかりにしており、それがアーシアに

ベビーシッターのアルバイトを依頼する一因にもなっている。

戦いからは身を引いたため、戦闘能力については

自分の身を護る程度に出来るほどの力しかない。

が、それでも一般人よりは腕が立つ模様。

 

名前の元ネタ

麻生恵(仮面ライダーキバ)。

 

伊草 百合音(いくさ ゆりね)

概要

慧介とめぐの娘。まだ赤子であり、そんな彼女を育てるために慧介とめぐは

日々働き、戦っている。慧介をサポートする(と言う名目)で

アーシアが彼女のベビーシッターを務めることも少なくない。

これは悪魔稼業ではなく、伊草家とアーシアの個人的な関わりに由来する※4。

神器持ちの慧介の娘だが、神器については確認されていない※5。

 

名前の元ネタ

1986年のイクサ装着者、麻生『ゆり』と紅『音』也(共に仮面ライダーキバ)。

 

ゼノヴィア・イクサ※6

原作との相違点

エクスカリバー事件の最中、超特捜課(ちょうとくそうか)に逮捕されたことで事件後に拘留されたことが原因で

事件後にリアスと接触せず、悪魔転生を行っていない。

そのため現在は保護観察付きの釈放として伊草家に居候する形を取っており

身分証明のために伊草の姓を名乗っている。

その流れで半ば強引に慧介の弟子となり、アーシアから日本語を、慧介とめぐから

日本の常識や文化などを教わっている。

行動を共にしてきたイリナとはコカビエル戦でのコカビエルの告発でイリナが心神喪失し

戦線を離脱して以来離れ離れになってしまい、再会できたのは五大勢力の会談時。

それも、彼女は精神に失調をきたした状態で禍の団(カオス・ブリゲート)に所属した状態で。

そのためゼノヴィアも錯乱し戦闘不能に陥り、慧介と共に撤退している。

 

 

対人関係

オカルト研究部

兵藤一誠

リアスの「兵士(ポーン)」。原作と異なりリアスの眷属になっていないので

必然的に彼との絡みもほとんどなくなっている。

イリナ関係で協力を申し出た彼の提案を

「これ以上悪魔となれ合うつもりは無い」と一蹴している。

 

宮本成二(みやもとせいじ)(歩藤誠二(ふどうせいじ))

もう一人のリアスの「兵士」。部室に来た際の発言をある程度は認められながらも

流れで戦う羽目になり、結果彼の能力に翻弄されることになってしまう。

始終遠巻きに見ている節があり、イリナ捜索に関しても「君達(悪魔)の手は借りない」と言う

彼女のスタンスに結果的に同意している形となっている。

また、神の見方に関して彼女に切った啖呵は伊草家への居候の遠因となっている部分もある※7。

 

リアス・グレモリー

駒王町の領主。原作同様、エクスカリバー事件の際にこの町で活動するという意思表示を示すが

その後の態度から見て、あまり良好な関係は築けなかった模様。

ゼノヴィア自身が逮捕されたことに伴い、事件後に彼女と出くわす前に伊草家の居候になったため

彼女の眷属にはなっていない。

 

アーシア・アルジェント

リアスの「僧侶(ビショップ)」。彼女の信仰の篤さを一度は評価するものの、悪魔になり下がった点も踏まえ

原作同様断罪と言う名の刃を振り下ろそうとし、一悶着が起きることとなる。

事件後は伊草家でアルバイトをしている彼女と悪魔に対する処遇の違いこそあれども和解。

日本語を教わることとなる。その関係で、悪魔ではあるものの友人関係となり

彼女の悪魔に対する見方を変える一因にもなっている。

 

木場祐斗

リアスの「騎士(ナイト)」。原作同様、部室で激昂した彼から勝負を受けるが一蹴。

その後は紆余曲折を経て共同戦線を張り、五大勢力会議前には一度彼に助けられている。

同じ剣使いとして、思うところはある模様。

 

ギャスパー・ヴラディ

リアスの「僧侶」。原作と違い、リアスの眷属になっていないため

彼の対人恐怖症克服の特訓は課していない。

 

 

禍の団

フリード・セルゼン

エクスカリバー強奪の際に一度は追い詰めた、つまり原作よりも捜査は進んでいたのだが

現地の警官――超特捜課との足並みがそろわず、それどころか超特捜課に逮捕されたことで

一度は取り逃がしてしまう。

再戦時には木場が聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を会得していたこともあり、圧勝で幕を下ろしている。

 

紫藤イリナ

エクスカリバー強奪事件解決のために共にやってきた戦士。

しかしながら、コカビエルの言うことを真に受けてしまい戦意喪失。

その後カテレアに連れ去られたり、幼馴染の悪魔化などショッキングな出来事が続いた結果

精神を壊してしまい、エクスカリバーを持ち逃げ

ゼノヴィアにも刃を向けるようになってしまう。

 

 

超特捜課(ちょうとくそうか)・伊草家

テリー柳

駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)(超特捜課)課長。

フリードを追いつめているときに運悪く鉢合わせ※8、逆に逮捕されてしまう。

その後は上層部の工作で釈放されるが後に破門となった際には釈放が失効

再び拘留されることとなり、不憫に思った彼によって

蒼穹会に身柄を預ける手続きが取られた。

 

氷上涼

超特捜課巡査。

逮捕された際に居合わせた警官であり、その後もちょくちょく顔を合わせている。

仮釈放になった彼女を見張りもしていた。

 

安玖信吾

超特捜課巡査。

警察官らしからぬ彼の言動と恰好には海外出身のゼノヴィアをして唖然とさせた。

 

伊草慧介

NPO法人・蒼穹会会員にして元教会の戦士。

拘留の際、彼による保護観察付きの釈放と言うことで現在は活動している。

そのため、半ば強引に弟子入りさせられたり

独善的かつ強引な彼に振り回されることも少なくないが

何だかんだで信頼関係は築いている模様。

 

伊草めぐ

慧介の妻で、元教会の戦士。

現役ファッションモデルとして、ゼノヴィアのスタイルを見込んで

退役してモデル稼業もどうかと奨めたこともある。

 

伊草百合音

慧介とめぐの娘。

まだ赤子で、彼女の存在が「生命を守る」と言う信念の再確認になっている部分もある。

ゼノヴィア本人は赤子を抱くことに慣れておらず、子守にはアーシアと違い四苦八苦している。

 

 

その他人間

元浜

アーシアのクラスメート。彼の特殊能力でスリーサイズを言い当てられてしまう。

当初ゼノヴィアはそれを神器の力と勘違いしており、それが原因で掴みかかろうとするが

その前に慧介が説教を始めたため有耶無耶になった。

 

桐生藍華

アーシアのクラスメート。ファッションモデル・伊草めぐのファンであり

行動を共にしていたゼノヴィアをモデル仲間と勘違いした。

 

 

 

―――

 

 

 

宮本家

セージの母親

概要

現在(猫を除けば)セージ唯一の家族と言える人物。

セージの父親に当たる人物とはセージが赤子の頃に離婚しており

その後セージの世話は両親(セージの祖父母)に任せる形で働きに出ていた。

中学入学時に祖父が、高校入学時に祖母がそれぞれ他界しており

その後はセージ自身も家事を本格的にこなすようになっていく。

 

セージの猫※9

概要

アメショ風のキジトラ柄の雑種。雌。里子に出ていたのをもらった形。

後述の牧村明日香と合わせてセージの情操教育に一役買っている。

好物は赤身の刺身とチーズクリーム。

庶民派嗜好なのか、あまりにも高級なキャットフードは食べないという変な嗜好を持っている。

15歳と言う猫にしては高齢のため、近頃は家の中で寝ていることが以前よりも多くなっている。

余談だが、セージの家は一戸建てで、時折近所の野良猫が現れることもあり

(窓一枚隔てた形とは言え)猫の集会が開かれることが稀にある。

 

セージの祖父

概要

故人。セージの中学入学と共に逝去。父親のいないセージにとっては

父親代わりだったが、晩年は認知症も患っていたため

セージとの接点は祖母に比べると薄い点は否めない。

 

セージの祖母

概要

故人。セージの高校入学と共に逝去。セージに家事の基礎を教えたり

色々と面倒を見てくれた人。セージ自身、ある意味では母以上に慕っており

晩年に行った広島への家族旅行は彼のかけがえのない思い出であると言える。

死後、仏教勢力の死後の世界に行ったらしく大日如来を通してセージを激励している。

 

 

 

―――

 

 

 

その他人間

元浜※10

原作との相違点

有名進学校、金座高校の生徒にカツアゲされるが、その現場を偶々通りかかったセージに救われ

以後松田やイッセーを交えて親交を築くが、そのスケベぶりは原作同様で

そのためセージからも制裁を受ける※11こともしばしばある。

イッセーがオカ研に入ったことで、溝が出来始めてしまった事を感じており

カラオケ大会に誘う際も松田と共に来るかどうか心配している部分もあった。

そして懸念は後に現実のものとなり、悪ふざけでイッセーに掴みかかられた際

危うく命を落としかけてしまう。

 

桐生 藍華(きりゅう あいか)

原作との相違点

イッセーの初デートの際にアドバイスを持ちかけようとするが

そのデートそのものに疑念を抱いていたセージにやんわりと断られてしまう。

猥談は原作に比べるとなりを潜めており、アーシアにぶっ飛んだアドバイスをしていないどころか

自身もファッションモデルである伊草めぐのファンであるなど

比較的(?)普通の女子高生らしくなっている。

また、イッセーの変化について疑念を抱いている。

 

牧村 明日香(まきむら あすか)

 

身長:164cm

 

体重:51kg

 

誕生日:6月29日

 

髪色:艶やかな黒

 

髪の長さ:ロング。髪型は気分次第。

 

種族:人間

 

スリーサイズ:96・60・88

 

年齢:26歳

 

概要

セージの近所に住んでいた女性。そのためか、幼少期からセージと付き合いがあり

セージにとっては「姉」であり「初めて出会った家族以外の異性」である※12。

しかしセージの小学校卒業と同時に引っ越してしまい、以後音信不通。

セージが高校に入り、ショッピングモールのバイトを始めた際に現地で偶然再会。

ところがその時点で既に子持ち※13となっていた。

それを踏まえたうえで一度セージは無謀にも彼女に告白をしている※14。

その後メールでのやり取りだけは続いている辺り、セージが嫌われているという事も

忘れられているということもないのだが。

悪魔の、人外勢力の存在を一切知らずに駒王町で生活しており

セージはどうあっても彼女(とその子供、及び自分の家族)だけは

三大勢力、及び人外の存在による事件には巻き込むまいと心に固く誓っている※15。

 

 

※1:そのため警察(超特捜課)との連携も少なくないどころか、斡旋されることも。

※2:動作・歌詞は実在する同名の運動と同じ。「変身ベルト」が存在しない今作で

   それについて突っ込むのは開祖たる彼をして「禁句」とされている。

※3:上から84・58・88。ゼノヴィアとはバスト3cm違うのみである

   (ゼノヴィアの方が大きい)。

※4:町中に慧介とめぐが張り出した張り紙を見てアーシアが応募した形。

※5:それについて精密検査を行う機関があるわけでもなく、慧介が返り討ちにした堕天使を

   利用して吐き出させた情報に過ぎない。

※6:生活のため形だけ伊草家と養子縁組を組んだ上での便宜上の名前。

※7:他、少なからずアーシアにも影響を与えており

   偶々居合わせなかったイリナの顛末を考えると……

※8:超特捜課がフリードを逮捕しようとしていた矢先にゼノヴィアが飛び出した形だが。

※9:名前は一昔前はやっていた動物王国から「むつ」「むー」と呼ばれている。

※10:松田もカツアゲの件以外はほぼ同様。

※11:そのお陰で相対的にセージの評価が上がっているのだが、その件については本人は

    「(こういう評価のされ方は)あまり嬉しくない」と述べている。

※12:幼少期のセージが「大きくなったら(明日香と)結婚する」

    と言ったとか言わなかったとか。

※13:現時点で既に2歳。入籍の有無と父親の安否は不明。

※14:告白に対し邪険な応対はしてないが、正確な返答も聞いていない。

    最も状況を顧みるに……

    ちなみに、彼女の子供の父親に当たる人物とセージの面識はないし

    子供の年齢を考えても父親がセージと言うこともない。

※15:その誓い虚しく、セージ自身はレイナーレの手で意識不明の重体に陥り

    残り2か月程度の寿命となってしまったが。




キャラ紹介はおそらくあと1~2回程度で終了の見込みです。

――――

冥界・某所地下倉庫

ここには、来る三大勢力――特に堕天使との和解に備え
友好の品として進呈されるはずだったものが鎮座している。
その姿は見るものを圧倒する――ロボット。
全高は3メートルほどの大きさだが、その両肩の大きさと
右腕の杭打機、左腕の機関砲は、兵器と見紛うものだ。
勿論、和平の、友好の証として造られたそれは
ただの飾りであり、人のように動くとは言ってもポーズのみだ。

その傍には、設計者と思しき人物が佇んでいた。
名をシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主。

「和平は……いえ、きっといつか実現するはずです!」

大々的に報道された「三大勢力の相互不干渉協定」。
それはこの友好の証として造られたロボットがともすれば
お蔵入りすることを意味していた。
それは、このロボット――アルトアイゼンを作った彼女にしてみれば
とても悲しい事であった。なぜならば。

「堕天使の皆さんが作っているとおっしゃっていたあなたの兄弟機――
 ヴァイスリッターと、あなたが手を取り合う。
 私は、あなたにその夢を託したのですから」

託した夢は、今はまだ叶わず。
けれどその夢に思いを馳せ、若き悪魔は手塩にかけたロボットに
ワックスをかけている。

――――

そしてさりげなく変なフラグを入れていくスタイル。
ガンプラマニアが本物(ガンダムじゃないけど)作ってるとか
そういうツッコミはなしで願います。

……ヒュッケバインの方がよかったっていう意見は絶対に聞きません。


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キャラ紹介・禍の団、その他冥界組、神々

紹介が長くなった件については深くお詫び申し上げます。
キャラ紹介編は今回で終了です。

ただし後書き(と言う名の幕間劇)がかなり長いです。

――――

――あ、はい。バオクゥです。え? リーさん?
  ……ええっ!? それ今日でしたっけ!? しまったぁ~……
  はい、はい! 準備出来次第すぐ行きますんで! はい、それじゃ!

  ……ってなわけでセージさん、申し訳ないんですけど
  残りは巻きでお願いしたいですけど、いいですか?

「せ、せわしないな……わかった。じゃあ残りは……」

――あ、すぐに出せるメモがこれなんで、このジャンルでお願いします!

「はいよ……ってこれ後半俺情報殆どないぞ!? いいのか!?」

――いいんです! じゃあ時間おしてるんで3……2……1……どうぞ!


禍の団(カオス・ブリゲート)

無限龍(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィス

原作相違点

異世界より飛来した「アインスト」の影響を受けており※1

原作のような傀儡政権ではなく、能動的に組織を動かしている様子が伺える。

(会談襲撃は旧魔王派の提案だが)

また、それに伴い構成員に与えるものも「蛇」の他に

「ミルトカイル石(出典:無限のフロンティア)」も「石」と銘打たれて与えている。

これを与えられたものは「蛇」よりもパワーアップするが

同時にアインストと化してしまうデメリットも存在する。

 

ヴァーリ・ルシファー

原作相違点

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)が増殖(当時)していたため、様子見のためにコカビエルとの戦いに参戦。

条件※2付きだが戦うにふさわしいと判断し危うく二天龍の戦いに発展しかけるが

ヤルダバオトの水入りにより中断。五大勢力会議に戦いの場を移すが

そこでも紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)の横槍が入り、二天龍の戦いは未だ正式な形では成されていない※3。

オーフィスと接触したことでアインストの情報は得ているが

彼自身は蛇やミルトカイル石を「不要」と突っぱねている。

 

フリード・セルゼン

原作相違点

原作ではヴァーリによって確保され、その後禍の団に拾われてキメラ化させられたが

今作においては超特捜課に逮捕されたため、改造手術を受けるまでに至っていない。

しかしその後、禍の団の手ほどきによって脱獄※4し

神器(セイクリッド・ギア)(神滅具(ロンギヌス))「魔獣製造(アナイアレイション・メーカー)」で作られたと思しき

菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)」「鈍色の鋼皮角(アイゼン・シュラオペ)

朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)」の3匹の魔獣を従え禍の団に合流。

テロ活動に消極的なヴァーリの監視役を務めている。

 

紫藤 イリナ(しどう いりな)

原作相違点

エクスカリバー事件を追ってゼノヴィアと帰国したところまでは同じだが

コカビエルの襲撃を無傷でやり過ごせた結果決戦の場に参加。

そのためコカビエルの「神は死んだ」発言を間近で聞くこととなり、精神錯乱状態に陥る。

その後安全な場所に避難するよう指示されるが、その最中にカテレアに拉致され

禍の団に半ば強引に入れられる形となる。

しかしそこで話を聞くうちに考えが変わったのか

元々イッセーの悪魔化を受け入れられずにいたのかは

定かではないが、現在の天界や世界の在り方が「壊れている」と判断。

解放された後ミカエルに恭順し※5和平の使者としてアスカロンを預かるがその後失踪。

禍の団に正式に合流、「壊れている」イッセーやゼノヴィア、ミカエルらに刃を向ける。

そして何より、彼女はイッセーの家の場所を知っている……

 

カテレア・レヴィアタン

原作相違点

旧魔王派所属、現政権への不満※6など基本的な部分は変わらないが

「蛇」の代わりに「石」を取り込んだため、アインスト※7に変異。

強大な力で駒王学園を更地に変え、アザゼルの右腕をほぼ再起不能にする強さを見せたが

紫紅帝龍や天照大神、赤龍帝らの攻撃を受け完全に倒される。

 

黒歌(くろか)

原作相違点

ヴァーリとの接点は薄く、はぐれ悪魔として冥界や人間界をさまよっているうちに

紆余曲折を経て禍の団にスカウトされるも、所属には至っていない。

そのため彼女も「蛇」や「石」は得ていない。

これは「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の件で外部ブースター的アイテムにトラウマが生まれたと思われる。

「はぐれ悪魔はいずれ狂暴化し身も心も怪物に変異する」仮説が正しければ

彼女もそう遠くないうちに怪物化する恐れがある。彼女がその仮説を知っているかどうかは不明。

ヴァーリ同様、テロ活動には消極的だが悪魔の駒に対する恨みは強く

そこを禍の団に付け入られたと思われる※8。

が、妹・白音との件を理由に組織所属は蹴った模様。

 

フューラー・アドルフ

概要

禍の団の英雄派とよばれる派閥に所属する中年の男性。

神器らしきものは持っていないが、私設軍隊を所持している。

彼の部下には神滅具「黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)」のコピーを持った部隊がいるらしく

本人もとある理由から本物の「黄昏の聖槍」を求めている。

かの世界大戦で悪名を轟かせたある人物に酷似しているが……

 

 

 

―――

 

 

 

その他冥界

ライザー・フェニックス

原作相違点

セージの捨て身の攻撃を受け、再起不能に。

ドラゴン恐怖症こそ発症していないが、水恐怖症になった他

多臓器不全や皮膚の壊死などを併発させてしまい

現在も入院中。同じく後遺症こそあれ比較的軽度で済んだ

女王(クイーン)」ユーベルーナと妹・レイヴェルの介護で

辛うじて生活可能なレベルまでには回復しているが

今後表舞台に立つことは出来ないだろうと診断を受けている。

 

レイヴェル・フェニックス

原作相違点

兄・ライザーの遺志を継ぎライザーの眷属を一部引き取る形に。

年齢的な問題で正式参戦権は獲得していないが、来るべき日に向けて

ライザーのハーレム要員に過ぎなかった眷属を鍛えなおしている。

また、財力やマスメディアに強い家の力をフル活用し

レーティングゲームのみならず政治・経済の面においても慧眼を発揮。

若手四天王(ルーキーズ・フォー)」の有力株とさえ一部では囁かれている。

 

ギレーズマ・サタナキア

概要

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」司令にして番外の悪魔(エキストラ・デーモン)サタナキア家縁者。

命令系統はファルビウムの下にあるが、独自の判断で軍を動かす権限も

ある程度ではあるものの有している。

冥界にとって害となるものを排除する事に心血を注いでおり

場合によっては相手が政府であろうと牙を剥きかねない。

現在は冥界に突如出現したアインストや

旧魔王派の反乱の鎮圧に軍を動かしている。

 

名前の元ネタ

ギレン・ザビ+ドズル・ザビ+ガルマ・ザビ(いずれも機動戦士ガンダム)

+トレーズ・クシュリナーダ(新機動戦記ガンダムW)

悪魔サタナキア(グリモアに曰く、ルシファーの配下悪魔)

 

ハマリア・アガリアレプト

概要

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」指揮官にして番外の悪魔アガリアレプト家縁者。

サーゼクスの命により、コカビエルの出現した駒王学園に部隊を派兵した

その部隊の指揮官。命令に忠実で、あらゆる非情な命令も

顔色一つ変えずにこなすことが出来る。

冥界にアインストが出現した際には、迎撃に向かっている。

 

名前の元ネタ

キシリア・ザビ(機動戦士ガンダム)+ハマーン・カーン(機動戦士Ζガンダム)

悪魔アガリアレプト(グリモアに曰く、ルシファーの配下悪魔)

 

ウォルベン・バフォメット

概要

政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」突撃隊長にして番外の悪魔バフォメット家縁者。

特命を受け駒王町の監視をしていた他、コカビエル出現の際には

一騎打ちも演じ、互角の戦いを見せた。

大鎌「クレセントサイダー」はオーラを纏っており見た目以上に広範囲を薙ぎ払うことが出来る。

冥界にアインストが出現した際には、ハマリアの命でアインストや旧魔王派を駆逐していた。

 

名前の元ネタ

ウォン・ユンファ+ウルベ・イシカワ(共に機動武闘伝Gガンダム)

悪魔バフォメット(主にラグナロクオンライン)

 

バオクゥ

概要

冥界にアジトを構える盗聴バスター。

主にネットを介した情報収集力に長けており、様々な情報を持っている。

幽閉されたセージがネットで情報収集を行っていた際にドラゴンアップルの害虫と呼ばれる

甲虫型はぐれ悪魔の情報のやり取りから交流が生まれ、情報交換を行っている。

かつて人間界でとある盗聴バスターと知り合い、師事していた経歴を持つ。

バオクゥの名はその師匠にあやかって名乗っているものであり、本名は不明。

 

名前の元ネタ

青葉(艦これ)+パオフゥ(ペルソナ2)+アバオアクー(機動戦士ガンダム及び元ネタの幻獣)

 

リー・バーチ(李覇池)

概要

フリージャーナリストの転生悪魔。

主は既に死亡したため、主に縛られることなく悪魔生活を送っている。

バオクゥと異なり、ネットだけでなく自分の足でも情報収集に駆け回る。

それ故に多くの情報を持っているが、俗に言うマスゴミ的思想も若干だが持っており

「どれだけ民衆が盛り上がるか」「どれだけこの情報に価値があるか」で

収集した情報を選別している節があるため、バオクゥからもその点は警戒されている。

実際、イェッツト・トイフェルによる制裁を受けたこともある。

 

名前の元ネタ

蛭川光彦(ウルトラマンメビウス)

 

 

 

―――

 

 

 

神仏同盟・その他神

天照大神(あまてらすおおみかみ)

概要

日本神話の主神であり、現天皇家の先祖に当たる。

過去日本の様々な営みを見守り続けており、この国に住むもの全てを守ろうとしている。

普段は白を基調とした着物を紅の帯を付け着用しており、首元には菊の首飾りをつけ

非理法権天と書かれた扇子を持っている。

有事(主に人外勢力の日本国民に対する攻撃行為)の際には

戦艦大和をモチーフとした主砲や艤装などを展開※9し、防衛活動を行う。

その際には動きやすい服装(白と紅を基調としたセーラー服風のスタイル)に変わっている。

付き人として旧海軍の軍服を着た黒髪の青年を侍らせている※10。

 

モチーフ

大和(艦これ)

 

大日如来(だいにちにょらい)

概要

天照と同じく太陽を司る、仏教の高位の仏。

日本のみを活動の場としている天照と異なり、インドや東南アジアにも顔が利く。

普段は灰色の作務衣を纏った青年の姿をしており、そのほか俳優兼料理評論家の

「天道 寛(てんどう ひろ)」としての顔も併せ持つ。

正式な場では法衣を纏う他、有事の際には体術や仏具を交えた神通力を発揮する※11。

 

モチーフ

『天道』総司(仮面ライダーカブト)+水嶋『ヒロ』

 

ヤルダバオト

概要

五大勢力会議において、その姿を現した聖書の神の影。

プラチナブロンドの髪に、白と金を基調としたローブの背には日輪のような装飾を背負っている。

恰好だけ見れば神そのものだが、自身はあくまでも偽者、影であり

聖書の神を受け継ぐつもりは無いと語っている。

今なお争いの続く三大勢力を見かね、姿を現したということになっているが

和平を頓挫させるようなことを平然と話したり、三大勢力にとって不利益になることも

遠慮なく持ち出している。特に人間に対しては思うところがあるらしく

人間蔑視の姿勢を取っている三大勢力に不平があるのかもしれない。

 

モチーフ

シュウ・シラカワ(スーパーロボット大戦)

日輪はネオ・グランゾン(同上)のアレ。

 

ハーデス

原作相違点

ギリシャの冥府を治めているが、自身の領地と言えるコキュートスに犯罪人は勝手に押し付けられるわ

自身の所有する戦力(生物)を勝手に持ち出されるわ※12、その件について犯人(堕天使)から

何の連絡もないわと虚仮にされてきたため、現時点で既に三大勢力(特に堕天使)に対し

相当立腹している。また、それ以前にサマエルも堕天使に押し付けられた形であるため

堕天使はもとより、天使と悪魔に関しても「祖を同じくする者」として嫌っている部分がある。

 

 

※1:「静寂な世界」と言うキーワードがアインストの琴線に触れたと思われる。

※2:当時の赤龍帝はイッセーとセージの二つに分かれていた。

   その分かれた二つを一つに、すなわちセージを吸収することで戦うに値するラインに到達した。

※3:しかし、協力の代価――すなわち、テロ活動への参加は強要されている。

   オーフィスが能動的に組織を運営しているため、勝手な行動は許されないのだ。

※4:これでゼノヴィア初登場も合わせて3回も警察に逃げられている。

   これを受けて、現在は超凶悪犯として敵対悪魔と同等の性質を持ち、射殺許可も下りている。

※5:フリだったとも、恭順したら余計に天界の悪い部分が見えたともいわれている。

※6:いうまでもない事だが、特に現レヴィアタンに対する不満は殊更大きい。

※7:その際の見た目は尾の部分に砲塔と歯の生えた口の付いた巨大なラミアに近い。

   また、レジセイアと呼ばれる上位種の特性も得ていたらしく、下位のアインストを召喚していた。

※8:政治的対立からか、旧魔王派は悪魔の駒断絶を訴えている。またヴァーリと違い

   冥界でのテロ活動については割と積極的に参加しているが、禍の団とは無関係。

※9:勿論原寸大ではないが、最大威力は原寸のものにも劣らない。

※10:表向きには宮内庁の人間「菊田 本紋(きくた もとあき)」と名乗っている。

※11:その最たるものが常人をはるかに超える速さで動く「時間加速空間(クロックアップ)」であり

    これは騎士の駒をもってしても破れない、時間操作の領域にまで加速できる力である。

※12:しかも持ち出された先で害獣として駆除されている。当然、その件に関して補填は一切ない。




と言うわけで尻切れトンボ気味で巻きで終わらせちゃいました。
忙しない形になってしまい、申し訳ありません。
次回から本編に戻ります。
書き切れなかった分や補足などについては活動報告に上げたいと思います。

――――

オカルト研究部・部室

「……と言うわけで、リアス・グレモリーの所持する残りの『悪魔の駒』は
 今後許可が出るまで凍結処分とさせてもらう」

「……はい」

モニター越しで話しているのはアジュカ・ベルゼブブ。
悪魔の駒の開発責任者であり、レーティングゲームの祖ともいえる魔王だ。
現在リアスが彼に叱責されているのは、禍の団襲撃の際に起きた不手際――

――「戦車(ルーク)」の駒で人質を救出に向かったはずが
  その駒を盗まれていたために、逆に人質に捕らえられてしまった――

と言う件に関してである。幸いにして、その後の冥界における追撃戦で
旧魔王派と交戦状態に入ったイェッツト・トイフェルの活躍で
リアスのもの「だった」戦車の駒は奪還に成功したが
これは結果論である。もしこの作戦が失敗していたら
禍の団に悪魔の駒の情報が今以上に筒抜けになったであろう。
そうなれば、最悪転生悪魔に対する洗脳電波などが開発され
前線の戦力を転生悪魔に頼りがちな冥界の貴族は
禍の団に太刀打ちできなくなってしまう。
悪魔の駒は、それだけ機密の塊であると言えるのだ。

「俺は君がサーゼクスの妹だからって特別視するつもりは無い。
 だから、罰則についても他の悪魔と同じものを課すつもりだ。
 それが……」

――「悪魔の駒」の凍結処分。

要は、リアス・グレモリーは今後冥界政府の許可なく
眷属を迎え入れることが出来ないのだ。彼女はまだ「騎士」の駒を所持していたが
それも奪還した「戦車」の駒と併せ、凍結処分となる。

「凍結解除には、サーゼクスも掛け合っている。なるべく早く元に戻せるよう
 努めるから、それまでは辛抱してくれ。
 それと、サーゼクスから聞いたと思うが……」

「は、はい! ゲート、アインスト共に異常ありませんでした!」

「ああ、ありがとう。これは俺の管轄じゃないんだが、ファルビウムが
 『アジュカ、用があるんなら代わりに聞いておいてよ』って投げるもんだから……
 ……ああすまない、今のはただの愚痴だ」

現在、リアス・グレモリーは駒王町の領主ではない。
では何故駒王町に、駒王学園に居座ったままなのか。
その答えが、ゲート・アインストの監視である。
五大勢力会議において、駒王学園に出現したアインスト。
そして、駒王町に存在が確認された、アインストが出現するというゲート。
その監視を、ソーナ・シトリーと共同で行っているのだ。
そのため、引き続き駒王町に滞在している。学園を引き続き使っているのも
「面倒が無くていい」と言うファルビウムの意見だ。

「では……ああ、もうすぐ帰省の時期か。その間は交代要員を派遣するから
 帰省に関しては気兼ねなく行ってもらって構わない。
 実家で少しでも羽を休められるといいな」

労いの言葉と共に、モニターは何も映さなくなる。
うっすらと、リアスの顔が反射して映るだけだ。

「……はぁ。新しい眷属の話は当分なし、か。
 あのゼノヴィアって子、迎え入れられたら素晴らしい戦力になったと思うのに」

「……無いものねだりをしても仕方ありませんわ」

朱乃の用意したお茶を飲みながら、リアスは独りごちる。
新たな眷属が加わらない。それはつまり、戦力強化において
大きな痛手となる事を意味している。
それを補うには、今いる眷属の強化しか方法が無い。

「イッセーはいいとして……祐斗も聖魔剣をそつなく使えている。
 ギャスパーもいい傾向がみられているし、アーシアも
 最近はラッセーとのコンビネーションを編み出しているそうよ」

「あらあら。雷使いとしては負けられませんわね」

そのたった一つの方法に、リアスは思案を巡らせる。
思いつく限り、眷属は皆着実に強くなっているのだ。

「ただ……小猫がやはり少し頭打ち気味ね。そろそろ苦しいのかしら。
 セージも……いう事さえ聞いてくれれば心強いのだけど……」

眷属の中で、リアスが懸念しているのは二人。
一人は確かに強いのだが、単純に言うことを聞かない。
もう一人は、力は確かに強いのだが、息切れ感が否めなくなっている。
それが、この間のアインストとの戦いだ。
補助を受けた形で戦っていたが、もしそれが無かったら。
そう考えると、リアスの頭にはある一つの単語が浮かぶ。
それは眷属をたとえ建前上でも愛している彼女にとっては、あまり嬉しくない言葉。

――戦力外通知

全く違う理由で、二人の眷属にその言葉を突きつけるべきか否か。
リアスはティーカップに口をつけながら、思考を巡らせていた。

――――

10/12追記・修正
黒歌の状態が完全に矛盾してました、申し訳ありません。
元浜と違い軌道修正が困難なのでこちらの記述を修正させていただいてます。

黒歌は

「禍の団には所属していません」

のが拙作の設定です。
白音との再会時にテロリストじゃ恰好つきませんからね。


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夏期追試のリベリオン
Soul59. 決死の覚悟、必至の戦い


雰囲気的には新章突入なんでしょうかね。
実際原作もここから新章でしたけど。

なお、本章・夏期追試のリベリオンは全編にわたって
原作にはないほぼ完全オリジナルストーリーが展開されます。
(一応、原作5巻冒頭部分にあたる時系列ですけど……)


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

身体を取り戻すために様々な事件に巻き込まれたが

ある日、その身体が維持できる時間が残り少ない事を耳にしてしまう。

 

――残された時間は、あと2か月――

 

――――

 

慌ただしくインタビューを終えたバオクゥが退室したことで

suikapeを立ち上げている理由も無くなった俺はパソコンの電源を落とすが

それと同時にこちらにも呼び出しが来る。まぁ、ある意味ちょうどいいタイミングだ。

 

「セージ君。部長が呼んでるってさ」

 

「わかった。今出るから少し待ってくれ」

 

恰好はライブカメラ越しのインタビューを受けていたこともあり

別段整える必要も無かったのだが、長い間座っていたせいか体が痛く

軽く伸びをしてから部屋を出ようとする。

その寸前で鍵の開く音がしたことで「自分は幽閉されている」と言うことを

改めて思い出すことになったが。

 

――――

 

部室に呼び出された俺を待っていたのは、オカ研メンバー全員だ。

やれやれ、こんな大所帯で一体何をしようと言うのだ。圧迫面接か?

一人……いや二人か。威圧感とはかけ離れた奴がいるが。

 

「セージ。前にも言ったと思うけど、私は冥界に帰るわ。と言うわけで長期旅行になるから

 みんなも準備をよろしく頼むわよ」

 

旅行ねぇ……嫌いではないのだが状況が状況だ。

そもそも今の俺は霊体であることを考慮すれば着替えとかが必要ない。

……ちょっと今惨めな考えがよぎったが、まあよそう。

とりあえず体が戻ったらまず風呂だな……できれば温泉がいい。スーパー銭湯のでいいから。

 

「セージ。あなたの事だから何か言うかと思ったのだけれど……」

 

おや珍しい。向こうから俺に話を振ってくるなんて。

てっきり「実家に帰るわ! 下僕も同伴! 勿論あなたもよセージ!」とか

平然とのたまってくれるかと思ったんだがね。

 

「言いたいことが無いわけじゃありませんがね。今の自分の置かれてる状況を考えたら

 言ったところで無駄だと思っただけですよ」

 

「うんうん、ようやくお前も自分の立場がわかったか! よし、これから俺と一緒に

 部長のために頑張ろうぜ!」

 

イッセー。お前ちょっと黙ってろ。言いたいことが無いわけじゃないって前もって言ったぞ。

それにな、今俺が言おうと思ったことは……もしかしなくとも……

 

「……いいわ。そこまで言うなら聞くだけは聞いてあげる。

 それをかなえることは残念だけどできないと思うけど」

 

「おや。季節柄いつ台風が来てもおかしくはありませんが……まぁそれはいいとして。

 言ってもいいのならば言いますよ? ……コホン。

 

 では今回の帰省、俺も喜んで参加しましょう」

 

俺の言葉に、周囲がざわつく。おい。一体俺を何だと思ってやがったんだお前ら。

まあ、今までが今までだったから、その事について別段腹を立てたりはしてないけど。

グレモリー部長でさえ、ハトが豆鉄砲を喰らった顔をしている。

……普段俺の事をどう思っているのかが何となくわかった。特にわかりたくもなかったが。

 

「ま……マジで!? お、おいセージ……こんなこと言うのもなんだけどよ……

 夏風邪ひいてるんじゃないか?」

 

「ええっ!? セージさん、夏風邪は拗らせたら大変だって慧介(けいすけ)さんが言ってました!

 部長さん、セージさんの帰省は待った方が……」

 

いやいやいやいや。俺風邪ひいてないから。霊魂でも風邪ひくのは体験済みだけど

今は風邪ひいてないから。すこぶる元気ってわけでもないけど。有体に言えば、普通。

 

「風邪ひいてる風に見えるか二人とも。心配してくれるのはありがたいが

 そういうのは要らん心配だぞ……こほん。話の腰が折れてしまいましたが

 確かに、『冥界への』帰省に俺は参加します」

 

「その言い方ですと、何か裏がある風にみえますわねぇ」

 

ああそうだとも姫島先輩。俺は「冥界への」帰省には参加する。

いい加減、こっちで得られる情報も少なくなってきたからな。

俺の目的を果たすためには、これ以上こっちにいても仕方がないってのと

これが多分……最後の賭けだ。俺が俺に戻るための。

分の悪い賭けは主義じゃないし、そもそも賭け事は好きじゃない。

けれど、ここまで来たらもう分の悪い賭けでもせざるを得ない状態だ。

残り二か月。それまでに、俺とイッセーの悪魔の駒の共有を切り

俺の身体に戻る条件をそろえなければならない。

その情報を、手掛かりを得るために俺は冥界に行くんだ。

決してグレモリー部長のご実家にゴマすりに行くわけじゃない。

 

そもそも、なんで俺を幽閉した奴の所にゴマをすらなきゃいけないんだ。

下手をすれば暗殺されかねないってのに。

バオクゥの情報を信じるならば、俺の幽閉にはグレモリー部長の親父さんが大きく関与している。

それなのにのこのこグレモリー邸に行こうものならば、よくて幽閉、最悪生きて出られない。

表面だけ従うフリも、恐らくは通じないだろう。だからこそ、俺はこの結論に至った。

そう――

 

「……ですが、グレモリー部長のご実家には行けません。

 繰り返します。冥界には行きます。ですが、グレモリー部長のご実家には行けません」

 

再び、部室が大きくざわつく。まぁそうだろうよ。

今の俺がグレモリー部長の実家にのこのこ出向くってのは、殺してくれってのとほぼ同義だ。

そんな真似が出来るかってんだ。

 

「セージ! そんな勝手が通ると……」

 

「ええ思ってません。ですが、今回は俺も口先だけじゃないって事を証明します。

 こっちだって、もう手段を選んでいられるほど余裕があるわけじゃないんだ。

 残りわずかな時間で、俺は俺の目的を果たさなきゃならない。

 その時間を過ぎたら、俺はもう俺でいられなくなるどころか……最悪、消えるでしょうから。

 だから……」

 

グレモリー部長の反論を押し切り、俺はその勢いに任せてまくし立てる。

ここまで来たらもうそれしかない。それがたとえ……

 

……彼らと、本気で戦うことになろうとも。

 

「……俺と戦ってもらいます。ルールはレーティングゲームに即したもので。

 俺が勝てば、今話した俺の条件を飲んでいただく。

 グレモリー部長が勝てば、この要求は取り下げ。

 そして以後二か月間、俺はあなたに絶対服従します」

 

「ば、馬鹿なことを言わないでちょうだいセージ!

 そもそもレーティングゲームに即した形って言ったって

 あなたは『兵士(ポーン)』よ、『(キング)』じゃない!

 そんなものレーティングゲームとさえ言えないわ!

 そんな条件、飲めるわけないじゃない!」

 

「……これが俺にできる現実的かつ最大限の譲歩でしたが……仕方ありません。

 この提案を飲んでいただけないのであれば……残念ですが……」

 

――フリッケン。少し早いが、出番かもしれんぞ。

 

『本当に早いな。と言うことは、交渉はやっぱ決裂したか?』

 

――そうなる。俺もこんなことはしたくなかったが……やはり最後は自分の命、らしい。

 

右手の紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)に宿るフリッケンと話を合わせ、俺は紫紅帝の龍魂を起動させる。

一気に分身を生成し、混乱に乗じて冥界に逃げ込む。

確かまだ使い魔の森へ行く用の魔法陣は生きているはずだ。

分身の一人が魔法陣をくぐってしまえば、こっちのものだ。

狭い部室の中なので、際限なく分身を生み出してしまえば混戦は免れない。

俺の目的は冥界に行くことだ。戦うのはその手段であり、目的じゃない。

 

「あらあら。ここでヤり合うつもりなのかしら?」

 

「お望みとあらば。俺としても、ここにはそれなりに思い出があるので

 心苦しいものはありますが……もう、そうも言ってられませんので」

 

――行くぞ、フリッケン。

 

『ああ、ちょっとくすぐった――待てセージ! 何か来るぞ!』

 

フリッケンの言葉に俺は紫紅帝の龍魂の稼働を一時止め、周囲を見渡す。

するとそこには、グレモリー家の魔法陣が展開されていた。

まさか、向こうから出向いてきたのか!?

そうなるとちょっとこの作戦が通るかどうか怪しいぞ……

 

いくら紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)の力を得たからって、グレイフィアさんとガチでやり合える自信はない。

いや、物量作戦に持ち込めば何とかなるかもしれないが。

それをやるにはそもそもを一対一にしなければならない。

他オカ研メンバー入れて相手は最悪8人。八対一。分身前提の総力戦だ。

そこに魔王眷属クラスが来られたら、俺一人ではどう考えても無理だ。

そして来るのがグレイフィアさん以外だったら、もっと無理だろう。

さっきのインタビューの際、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)

ついでにグレモリー部長の両親を調べたが、別段グレモリー部長の両親も力が衰えているとか

そういった情報はない。そんなのが本気で来たら……2か月を待たずして、俺は終わるだろう。

 

だが、その俺の考えは杞憂に終わった。

 

「お待ちください誠二様。先ほどの条件、私と、サーゼクス様立会いの下で承認いたします」

 

「グレイフィア!? けれど、セージは『王』じゃ……」

 

「ああ、確かに彼は『王』じゃない。けれど、非公式な試合ならばそう言ったルールは

 形骸的なものだよ。それに、彼は自律行動のできる分身を生み出せることは

 この間の戦いで証明されている。特別ルールを設ければ、ゲームとして成り立たせることは

 十分に可能であると、私は思うけどね」

 

グレイフィアさんと、まさかのサーゼクス陛下。わざわざこの二人がやってくるとはね。

まあ、こっちの条件を飲んでくれるってのはありがたい話だが……

 

「では魔王様、セージ君の条件を飲んで、部長チームとセージ君のチームで戦うということで

 よろしいのでしょうか?」

 

「そうだね。勝者と敗者の褒章やペナルティも明確にされている。

 セージ君には足りない分を分身で埋めてもらうということになるが、いいかい?」

 

「もとよりそのつもりでした」

 

どんな形であれ、比較的角が立たずに解決できるならばそれがいい。

だが……ここでサーゼクス陛下が横槍を入れてくるとは……妹可愛さだけじゃないだろう。

妹可愛さならば、俺を縛ってでも実家帰省に連行させるだろう。

それをしないということは……

 

『魔王の奴め。俺達の力を測る腹積もりだな』

 

――やはり。レーティングゲームと言う体を取る以上、必要以上に傷つくことはないと

  踏んでいるのだろうが……フェニックス戦の事もあるんだぞ。

  まさか、実の妹をダシに紫紅帝龍の力を測りに来るとは思わなかった。

  その点に関しては、グレモリー部長が少し不憫に思えた。

 

「セージ君。これだけは言っておくよ。確かに私はそのドラゴンの力を知りたい。

 だがそのために、リアスをダシにしているつもりも無い。

 何故なら、リアスが負けることはないと思っているからね」

 

言うじゃないか、魔王陛下。こっちには負けられない理由があるんだ。

そのどこからくるのかわからない自信を鼻っ柱ごとへし折ってやろうじゃないか。

 

「まさかこんなことになるなんてな……魔王様が見てる前だ!

 無様に負けるつもりはねぇから、覚悟しろよセージ!」

 

イッセー。まずお前は状況に疑問を抱け。

何故魔王陛下が自分の妹を犠牲にするような真似までしてフリッケンの力を測ろうとしてるのか。

そしてフェニックス戦で俺が何をやらかしたのか、知らないわけじゃないだろうが。

一応お前には軽くだが話したはずだぞ。

今度は俺がグレモリー部長を同じ目に遭わせる可能性があるって事なんだぞ、これ。

……多分、やらないと思うけど。

 

「セージ君……確かに僕は君との決闘を望んだけど……こんな形とはね」

 

……そういやそういう約束してたな。うん、すまん。

今自分がそれどころじゃなくなってるから、そこまであまり気が回ってなかった。

一応、分身の仕様を考慮に入れれば決闘に近い事は出来なくはないが……

などと考えていたら、そっと塔城さんが俺に耳打ちをしてくる。

 

「……セージ先輩。そっちについちゃ、ダメですか?」

 

「やめとけ。裏切者扱いされて、最悪……っと、これ以上は言うまいよ。

 そもそも前に言ったぞ。そっちでの立場が悪くなるようなら

 協力関係は即破棄だ、って。たとえお芝居でも、俺と戦うポーズはつけておかないと」

 

塔城さんは俺と戦うことには消極的みたいだ。

まぁ、俺も戦うのは最後の手段にしたい部分があったから、ここまでその手は使わなかったが……

俺ももう、形振り構ってられない。2か月。長いようで短い。

まして、手掛かりは殆どないに等しい。

そんな状況での残り2か月。俺はもう、そこまで追い詰められていると言うのだろう。

 

「セージさん、どうして味方同士で戦うなんてマネを……

 そこまでしないといけない事って、何なんですか……?」

 

「……知りたければ、俺に勝ってくれ。そうすれば話す。

 ただ一つ言えるのは、今の俺は相当に追い詰められている。

 こんな手を使わざるを得ないほどにね」

 

アーシアさん。そういえば今の俺の顛末はアーシアさんには話してなかったっけ。

言う必要も無いから黙ってたけど。ま、事情を知らなきゃその疑問も尤もだわな。

でも悪いね、これ以上関係ない人は巻き込みたくないんでね。

なんていうと、アーシアさんに怒られそうな気もするが。

 

「では、細かなルールの制定に入らせていただきます。

 お嬢様、誠二様、こちらへ」

 

グレイフィアさんに促され、俺はグレモリー部長と向き合う形でテーブルにつく。

そこで取り決められたルールはこうだ。

 

・試合時間は30分。

 

・グレモリー部長はギャスパーも含めたフルメンバー。

 俺の側は分身6体。これ以上の分身生成は不可。

 つまり七対六。なお、俺の分身は体力――ダメージを共有しているため

 実質一人倒されたら俺の負けだ。

 

・俺の側の勝利条件は、終了時間まで倒されずに生き残ることか

 「王」であるグレモリー部長の撃破。

 

・試合準備時間として会場移動後、5分のインターバルがある。その間敵本陣への移動は不可。

 

・ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)使用制限は無し。

 俺の方も分身1体につき1回までカードリロード可能。

 

・試合開始は今から1時間後。フィールドは前回と同じ駒王学園……風の異空間。

 

・フィールドの破壊は可能。但し、フィールドへのモーフィングや霊体化による行動は禁止。

 

……若干だが、こちらが不利かもしれない。

だが、下剋上的な性質を兼ね備えている以上、多少の不利は甘んじて受けねばなるまい。

 

「……わかったわ。レーティングゲームとしての体裁が整っている以上

 私としても負けるわけにはいかないわ。覚悟なさい、セージ」

 

「死ぬ覚悟、消える覚悟は既にしていますが……負ける覚悟はしてませんよ。

 こっちもジョーカーを出してるんだ、簡単には負けてやれませんよ」

 

そうだった。グレモリー部長はレーティングゲームと言う者に対して

並々ならぬ情熱を注いでいる人げ……いや悪魔だった。

それもあって、レーティングゲームと言う土俵を提案した。

観客が増えたとはいえ、目論見はうまく行ったというべきか。

明確なルールのある勝負事の上での決め事ならば、禍根は残るまい。

 

……そ、そうだよな? 今ふと「もしもあの時フェニックスに俺達が負けていたら」って

考えがよぎったんだが……まさか負けておいて実質無効試合だなどといちゃもんをつける展開に

なったりしないよな? もしそうなったら……

 

……それは最悪、本気でグレモリーってのを見限る事案だが。

 

「ふふっ、それが味方ならとても頼もしい言葉ね。それだけが残念だわ。

 けれどセージ。ロイヤルストレートフラッシュを組むのに

 ジョーカー……ワイルドカードは使えないわよ?」

 

「ご心配なく。俺が狙ってるのはエースのファイブオブアカインドですので。

 おっと、どちらが上の役かってのは不毛になりそうなんで無しで願います」

 

「随分な大穴狙いだね。これは試合が楽しみだ。

 ならリーア、スペードのロイヤルストレートフラッシュを出すくらいの気迫でなければ

 彼には勝てないかもしれないよ?」

 

そう。手札は切られた。勝負はもう降りられない。

負けた時の事を考えていないわけじゃない。けれど、負けられない。

否、負けるわけにはいかない。ここで負けたら、俺が俺に戻るのは――絶望的だろう。

 

「みんな、急な話だけど今から試合よ。相手はここにいるセージとその分身合わせて6人。

 開始は今から一時間後。それまでは自由時間とするわ。

 開始十分前にここに集まってちょうだい」

 

「誠二様の監視には私が付きますので、祐斗様と小猫様はお嬢様の元にお願いします」

 

まあそうだろう。今から戦う相手の所に監視につくなんてあり得ない。

スパイ行為を疑われても仕方ないのだから。

しかしグレイフィアさんがこれから一時間見張りか。どうなることやら。

 

「ぼ、僕もです……か……?」

 

「そうね。ギャスパーはこれが初めてのゲームかしら。

 ……ギャスパー。セージは『兵士』だけど

 あなたの知っている『兵士』と同じに思わないほうがいいわ」

 

「う、うぅぅ……」

 

脅かしてやろうかとも思ったが、試合前にそれは少々アンフェアな気もしたのでやめておく。

奴はどうだか知らないが、俺の側は奴の神器に対する対抗手段を持っている。

と言うか、グレモリー眷属の大半に対するメタ編成は出来るはずだ。

紫紅帝の龍魂も、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)もそういう意味でもとことん強い。

と言うかメタ編成をするために生まれた様な神器と言っても過言ではなかろう。

 

「心配すんなよギャスパー! 俺やみんながついてるんだ!

 セージが分身したって所詮一人、みんなの力を合わせれば負けるわけがないぜ!」

 

言ってくれるなイッセー。だがその発言、裏を返せば一人一人は大したことが無いとも取れるぞ。

まぁ、その限りでもないことはよく知っているが。

まさか俺が、分身もできるのに集団に囲まれるような戦い方をすると思ってるのか?

と言うか、こっちは一人でもやられたら終わりなんだ。そんな展開に持っていくわけないだろう。

 

「それではこれより、リアス・グレモリー様と歩藤誠二様による

 非公式試合を行うための準備時間に入らせていただきます。

 お嬢様のチームは部室にて、誠二様は幽閉の際の部屋にて

 それぞれ準備をお願いいたします」

 

……わかってはいたけど、やっぱ部屋そこなのね。

まぁトイレとかでなければどこでもいいんだけどな。

俺はグレイフィアさんに促されるまま、部室を後にする。

 

 

……来るべき時が来てしまった。

いつか、彼らと刃を交える時が来るかもしれないとは思っていた。

けれど、心のどこかでそんな時は来てほしくないとも思っていた。

下手を打てば、後生の別れになるかもしれない。

 

後悔が無いと言えば、嘘になる。

だが、もうこれしか手が無い。

他の手を選んでいる余裕など、俺にはないのだ。

だから――

 

 

――リアス・グレモリーを、その眷属を。

  全力で、完膚なきまでに叩き潰す。

 

 

それが、きっと今の俺に尽くせる最大限の礼儀だろう。




来るべき時が来てしまいました。
セージVSオカ研。
1巻ラスト部分で暴走とは言えやってますが
その時とは事情も能力も全然違います。

オカ研部員はどうセージの多彩な能力を攻略するのか?(そっち!?)

冒頭は仮面ライダーゴースト風。
某天空寺さんバリのカウントダウンが始まりましたので。
FF風に言えば死の宣告。

Q:ここでリアスがセージの提案を飲んでいなかったら?
A:セージ強引に冥界に行ってました。
  おそらくそのタイミングではぐれにされたかもしれません
  (イッセーの駒との兼ね合いはありますが)。

  因みに、拙作で採用されている「はぐれ化した悪魔は怪物化する」が
  セージに適用された場合、ロードバロン(仮面ライダー鎧武)風の
  見た目になったと思います。


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Council of war and...?

何とか間に合いましたね……


ちょっと最近不調気味なのは内緒ですぞ。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

グレモリー部長の帰省に強制連行されることを知った俺は

思わず、抵抗のためにグレモリー部長にレーティングゲームを挑むことになってしまう。

そんな中、魔王サーゼクス夫妻が現れる。

 

――残された時間は、あと2か月――

 

――――

 

予期せずして始まったレーティングゲーム。

その予備時間は互いに一時間と言う、とても短いものである。

そんな時間では、簡単な作戦会議さえできるかどうか危うい。

 

事の発端はこうだ。

実家帰省への随伴を命じたリアスに対し、セージが反発。

しかしただ反発するではなく、そこに条件を付けたのだ。

それがレーティングゲームと言う条件である。

 

無論、リアスも当初はその案を蹴るが、そこにやってきた

サーゼクスとグレイフィアの鶴の一声により、ゲームが成立してしまったのだ。

 

「全くお兄様もグレイフィアにも困ったものだわ……

 なんで眷属とゲームをやらなくてはならないのかしら」

 

「部長、こうは考えられませんか?

 『この試合は演習である』と。

 ……勿論、彼にそんな気概で挑んだら負けるでしょうが」

 

魔王の取り決めにも拘らず気乗りしないリアスを木場が説得している格好だ。

尤も彼の場合、「セージとの決闘」と言うかねてからの約束があったので

これ幸いとばかりに話に乗っている部分もあるのだろうが。

 

「祐斗。それは私がセージに劣っていると言いたいのかしら」

 

「別にそうとは。ただ、彼がなぜこんな真似までして意見を通そうとしているのか。

 彼は後がないと言っていました。ならば、追い詰められている以上本気で来ることは

 想像に難くないでしょう。そして、今の本気の彼の力はご存じのはずです」

 

先の禍の団(カオス・ブリゲート)、アインストの襲撃の際に見せた、セージの新たな力。

それは現在のオカ研の面子から見ても、脅威足らしめるものだ。

制限があるとはいえ白龍皇(バニシング・ドラゴン)赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の力を同時に扱えるうえに

記録している手札を組み合わせるため、今まで以上に手札が読めないのだ。

 

「木場、俺もお前も禁手(バランスブレイカー)に至ってるんだ。その力で押せば大丈夫だって。

 要は反撃されなきゃいいんだろ。やられる前にやれ、って奴さ」

 

(まぁ、イッセー君らしいけど……果たして生半可な力が今のセージ君に通じるか……

 いや、その前にそもそもこちらに本気を出させてくれるか?)

 

「イッセーの言う事にも一理あるわね。向こうは6人で来るそうよ。

 そして、そのうちの1人でも倒せたら私達の勝ちになるって言ってたわ。

 だから、6人全員相手にする必要は無いわ。ただ……

 

 セージの性格を考えても、そういうシチュエーションに持ち込ませてはくれないでしょうね」

 

セージの分身はダメージを共有する。そのため、1人が戦闘不能になれば

自動的に残りも戦闘不能となる。しかしそんな弱点は

分身を生成する本人が一番よく分かっている。

その弱点は、対策されてしかるべきだろう。よって、突くのは難しい。

 

「では逆に考えれば、セージ君がこちらをよってたかって攻めてくる……って事は

 まずないと思ってよさそうですわね」

 

「もしそう攻められたら朱乃、あなたでも危ないわね。

 ただ向こうも実質1人で戦っている以上、戦力の集中なんてマネは多分しないと思うけれど」

 

逆もまた然り。1人1人を確実につぶすほど兵数に余裕があるわけではない。

寧ろ、少ない兵数をどう運用するかに頭を悩ませていることだろう。

それくらいの事は、週刊誌に脳筋と揶揄されたリアスでも頭が働く。

まして、相手は自身で抱えている眷属なのだ。

ここで出し抜かれては、主としての沽券にかかわる。

 

「……とりあえず、私とアーシアは拠点――前回ライザーと戦った時と一緒、つまりここ、部室。

 ここに構えるわ。相手は少ないしセージの事だから罠はまず効かないと思っていいわね。

 朱乃、まず体育館は吹き飛ばしてしまって構わないわ。

 ただし吹き飛ばす際には跡形も残してはダメ。いいわね」

 

「あら? どうしてですか?」

 

「『フィールドへのモーフィング』は禁止されているけど

 『フィールドの破壊』や『瓦礫へのモーフィング』は禁止されていないの。

 そこにセージがやって来たら、瓦礫から武器を無数に作られて

 最悪手に負えなくなる危険性があるわ」

 

その様子を想像したイッセーの顔が青くなる。体育館の位置的に、下手をすれば

旧校舎を直接攻撃できる武器を作るかもしれない。

セージはやるときは徹底的にやるタイプだと言う事をイッセーとて知っている。

核兵器などは自重するだろうが、核を積んでいないミサイル程度は作るかもしれない。

イッセーもセージのモーフィング限度を知らないためそういう発想に至っているが

現実問題、瓦礫を兵器に変えて反撃してくるというのは大いにありうる事態だ。

 

「それと『跡形もなく吹き飛ばす』にはもう一つ理由があるわ。

 ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)、使用許可が下りているの。

 使うにあたって、遮蔽物は少ないほうがいいでしょう? セージの霊体化は禁止されているし」

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」。

それは持ち主の視界に入ったものの時間を停止させてしまう神器だ。

その性質上、視界に入らないものには効果が無い。そのため、遮蔽物は少ないほうがいいのだ。

 

だがこの時、リアスはセージの手札のうち、一枚を完全に失念していたことを

後で思い知ることとなる。と言うより、本人でもない限り手札の完全把握など難しいだろう。

 

「霊体化禁止かぁ。なら奇襲はないって事だな!

 ま、俺には霊体化してても見えてたんだけど」

 

「そうね、でも油断は禁物よイッセー。あなたは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。祐斗は剣術と速さ。

 小猫は体術と力。ギャスパーは停止能力と蝙蝠変化。朱乃は魔力、アーシアは回復。

 そして私は滅びの力――とこんな具合にそれぞれ能力は明確になっているじゃない。

 

 ……けれどセージには明確なものが無い。能力コピーが明確と言えば明確だけど

 それはただ一つの一面に過ぎない。何を仕掛けてくるかわからない。

 そういう意味では、私達のようなパワータイプの苦手とするテクニックタイプ。

 それよりもはるかに厄介な性質を持っていると言えるわ。

 だからって負けるつもりは無いけどね」

 

リアスの言葉に、イッセーが鬨の声を上げる。

リアスを、チームを勝利に導くための精神注入ともいえるそれは、小猫のツッコミによって

折れてしまう事となった。

 

「……イッセー先輩、うるさい」

 

「そ、そりゃないぜ小猫ちゃん……」

 

「コホン……と、方向性がまとまったところでチーム分けね。

 朱乃は体育館周辺。イッセーとギャスパーは運動場、木場と小猫は新校舎。

 セージは自身の拠点である校門周辺から来ると思うわ。

 イッセー、まず校門へ行って昇格(プロモーション)なさい」

 

リアスの思惑はこうだ。長距離攻撃で援護もできる朱乃を後衛に置き、最後の要ともする。

木場と小猫は互いに能力をフォローし合える。広範囲攻撃手段を然程持たない2人だからこそ

屋内での戦闘にも耐えうるという判断だ。

続いてイッセーとギャスパー。イッセーは突撃力に加え

セージの拠点――校門周辺に陣取れば昇格できる。

さらにギャスパーは運動場と言う遮蔽物の少ない場所ならば、神器をフルに活用できる。

セージの側も、霊体化が出来ない以上はどう頑張っても

運動場を切り抜けない事には話にならない。

そこに戦力の要ともいえるイッセーを配置。一気に勝負に出るつもりなのだ。

しかし、肝心のギャスパーの神器。敵味方の識別が不可能であると言う事を

リアスはこの時失念していた。

 

「了解っす! 『女王(クイーン)』の力であっという間に終わらせて見せますよ!」

 

話し合いがまとまるころ、部室に来客が訪れる。

――魔王、サーゼクス・ルシファーだ。

 

「皆、気合は十分みたいだね。今回の試合は仲間が相手と言う事でやりにくいかもしれない。

 けれど、仲間だからこそ全力でぶつかってほしいと私は思っている。

 あの時の戦いで見たかもしれないけれど、彼の力は強大だ。決して油断をしてはいけないよ」

 

「重々承知しております、魔王様」

 

「リーア、そんなに畏まらないでくれ。今ここにいるのは魔王としての私ではなく

 君の兄としての私なのだから。そして、だからこそ言うけれど……

 

 ……是が非でも彼を、我が家に招待してくれ。歓迎したいんだ、盛大に」

 

魔王直々の声援。リアスにとっては少々鬱陶しいながらも兄からの声援。

それを受けて、特にイッセーの気合は既に振り切れているほどだ。

木場も、形はどうあれ待ち焦がれたセージとの決闘の時を迎えられた。

そういう意味では、気合は入っている。

 

逆に乗り気ではないのは、ギャスパー、小猫、アーシアだ。

 

「……私にはわかりません。どうして仲間同士で戦わなければならないのか。

 ゼノヴィアさんとだってわかり合えたのに、どうしてセージさんとはこんな……」

 

「アーシア君。何も彼を殺すわけじゃないんだ。これは互いを強くするための演習。

 そう考えれば、別段問題はないと思うよ。最も、だからって手を抜いてはいけないけど」

 

戦いに疑問を抱くアーシアに対し、サーゼクスは諭すように語り掛ける。

腑に落ちないものを感じながらも、アーシアはその言葉に従っている。

ギャスパーはただ単に初めての戦いが同じ眷属であることに迷いを抱いているというだけ。

これは運が無かったというより他仕方がない。

となれば、問題は小猫だ。

 

(セージ先輩に身体を取り戻してもらうには、ここで勝ってもらわないといけない。

 けれど、私はその力になれない……私は一体、どうしたら……)

 

「私も一応男だからかな。全力を出した末の結論ならば

 それがどんなものでも納得できたりするものさ。

 勿論、今は立場上そうも言えない場面もあるけれどね。

 だから、彼を納得させる意味でも彼に全力を出させ、その上で勝ってもらいたい。

 難しい注文だけれども、皆には頑張ってほしいんだ」

 

「はいっ! 魔王様の期待に添えられるよう、頑張ります!!」

 

イッセーの小気味よい返答を受けながら、サーゼクスはリアスにそっと耳打ちする。

周囲の眷属には聞こえないように。

 

「……ここに勝つための秘策として秘密兵器を用意した。もし負けそうになったら使うと良い……

 と言うより、それを使ってでも勝利してほしい。理由は……わかるね?」

 

「ええ、けれどそれは余計なお世話よお兄様。確かにセージはその手の内が読めない。

 けれど、だからって私達が無様に負けるつもりはないわ」

 

「……その意気だ。私としても、それは出来れば使ってほしくないからね。

 アジュカから預かったものだが……どうにも、嫌な予感がする。

 別に彼を信用していないわけではないんだが……」

 

そんなものを私に寄越すつもりだったのか、とリアスは思いながらも

サーゼクスが用意した秘密兵器を受け取る。その形に見覚えがあると思いながらも

ちょっと大きめのカプセルにも見えるそれを受け取ることに、リアスは疑問を抱かなかった。

 

「おっと。もうすぐ時間だね。それじゃあ私は観客席に行くから……

 と言っても、今回の試合は私とグレイフィアしか観客はいないのだけどね」

 

にこやかに手を振りながら、サーゼクスは部室を後にする。

しかし、部屋を出た途端その表情は見る見るうちに曇っていく。

 

(私は……いくら冥界の未来のためとはいえ……実の妹をモルモットにするなどと……

 父上……母上……不出来な息子をお許しください……

 そしてミリキャス……このような大人にだけはなってくれるなよ……)

 

――――

 

一方、セージが幽閉されていた部屋。

セージは壁とにらめっこしたまま、デッキ構築を考えている。

同じ部屋にいるグレイフィアに目をくれることもなく。

 

「…………」

 

「…………」

 

そこはただ、沈黙のみが支配する空間。

アインストの目指す「静寂なる世界」とは、また意味合いが異なるだろうが。

セージのその姿は、完全に趣味に没頭している人間のそれである。

 

「…………」

 

「…………」

 

そんなセージの後姿を、じっとグレイフィアは見つめている。

体躯的には、サーゼクスとさほど大差ない。無論、髪の色など全然違うのだが。

背中の大きさに限って言えば、それほど変わらない、とグレイフィアは感想を抱いていた。

セージが何も言わないうえ、そもそもここは幽閉処分を受けたものを入れる部屋。

別段面白いものも無ければ、セージが情報収集に使っていたパソコンも今はしまっているし

セージの監視を行わなければならない現状、パソコンをいじるわけにもいかない。

有体に言えば、グレイフィアは暇なのだ。そのため、先ほどの感想を抱くに至ったのだ。

 

「……誠二様、勝算は?」

 

「……今考え事をしているので、静粛に願います」

 

何度か会話を試みようとしたこともあった。

だが、そのすべてはこうやって潰されたのだ。

かつてセージはグレイフィアに微かに心を動かしたこともあった。

だが今はそんなことをしている場合ではない。自分の命がかかっている。

ここで負ければ、間違いなく彼は――

 

「…………」

 

「…………はぁ」

 

しんと静まり返った空間に、グレイフィアのため息だけが響き渡る。

さっきから頭をフル回転させているセージはともかく

黙って監視しているだけのグレイフィアは暇そのものである。

しかしこれも仕事なのだ。投げ出すわけにもいかない。

ところが、彼女にはもう一つの役割もあった。

それはセージをグレモリー家に、リアスの眷属として正式に引き抜く事。

だがその前に、解決せねばならない問題がある。

 

――何故セージがグレモリー家に牙を剥くような真似をするのか。

 

セージの能力は、味方につければこの上なく心強いものである。

しかしそれは、敵に回ったときとても恐ろしいものとなることも意味している。

困窮している今のグレモリー家にとって、敵は少ないほうがいいに決まっている。

そして、味方に引き入れられるならば、彼はとてつもなく有用な人材である。

悪魔の駒を共有と言う形とは言え得ており、リアスと契約こそ交わしていないが

極めて近い位置にいるというのに――

 

――彼の位置は、とてつもなく遠い場所にあるように思えてならない。

 

だからこそ、グレイフィアはグレモリーのメイドとしてセージの引き抜き役に

抜粋されたのであろう。なまじ、リアスに対し彼が心を閉ざしている部分も

あるのかもしれないが。

 

「……誠二様。女性が悩んでいたら、声をかけるのも紳士の嗜みですよ」

 

「……構ってちゃんなら相手が違うでしょう。それに俺は取り込み中だと言いました。

 それとも、そうやって俺の作戦タイムを邪魔するのがやり口ですか」

 

少々怒ったような口ぶりで返されてしまう。ハニートラップも失敗だ。

そもそもセージはイッセーに比べれば(比較対象が悪い気がするが)そういう物に対する

耐性は持ち合わせているのだ。中途半端なハニートラップは

却って怒りを買うだけの結果に終わってしまった。

不平を漏らすグレイフィアに目もくれず、セージは今度はイメージトレーニングを始めている。

こうなればさらにグレイフィアを完全無視する方向になるだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

めげずに声をかけようとするグレイフィアだが、既にセージは瞑想の域にまで達していた。

これは声をかけても無駄だと思い、肩を叩こうとした手共々すごすごと引き下がる。

実際のところ、セージは仏門で修業をしていた経験などない。

ただ、祖父母の仏壇に線香とお経をあげた位だ。つまり、今彼は完全に自分の世界に入っている。

妄想癖と言えば言葉は悪いが、それに近いものはある。

 

「…………」

 

「…………っ!」

 

壁に向かって目を閉じていたセージの額から汗が流れ落ちる。

イメージの中で苦戦しているのだろうか。その一瞬の変化を見逃すほど

グレイフィアも衰えてはいない。すかさず、セージの額の汗を拭いに来たのだ。

その感触にイメージの世界から引き離され、閉じていた双眸を少しずつ見開く。

 

「……どうも」

 

「戦況は芳しくありませんか?」

 

部屋に入って30分ほどが経過。既に予定の時間を半分も過ぎている。

この時点でようやくまともな言葉が交わされた。

息の詰まる思いだったグレイフィアから、安堵の息が漏れていた。

だが、セージにしてみれば「別にどうも」と言う考えであり

態々グレイフィアがすっ飛んできてまで額の汗を拭った行動が今一把握できていない。

 

「彼らを甘くは見ていませんからね。そこに実質一人で挑むようなものなんだ。

 苦戦しない方がおかしい」

 

「然様でございますか……では誠二様。野暮な質問ではありますが

 何故お嬢様に、グレモリー家に楯突くような真似を?」

 

「……それは答えなければならない質問ですか?」

 

グレイフィアの質問に、再び部屋の空気が冷たく張り詰める。

セージに言わせれば「こいつは何を言ってるんだ」と言わんばかりである。

 

――俺の身体を病院に運んだのはいいとしても、その後は何だ!

  自分たちの都合に他人を巻き込みやがって!

  今回のレーティングゲームだって俺は本当はやりたくない!

  あの時のアレがまだフラッシュバックするんだ!

  けれど話し合いにはそうも言っていられない! だから持ち込んだ提案なんだ!

  そもそも、悪魔に改造するのだってお前たちの勝手な都合だろうが!

  その勝手な改造で、俺は俺に戻れなくなったんだ!

  そして今や、俺に戻れないまま死を迎えようとしている!

  今度は助からない! 肉体が死ねば、俺は永遠に幽霊だ!

  イッセーの背後霊になるか、成仏するか、悪霊……どれも俺の望みではない!

  俺の未来を勝手に決める権利は、俺以外には無い! 少なくとも俺はそう思う!

 

セージの腹の中には憤怒、怨嗟、憎悪と負の思念体の原料となりうる感情が

これでもかと渦巻いている。勿論、そんなものをここで吐き出しても仕方ないし

ここにいるグレイフィアは諸悪の根源どころかただの使用人だ。

そんな相手にがなったところで、それは如何なものか。

その空気を読んだのか、グレイフィアも質問を取り下げる。

 

「……いえ。なんでもありません。ですがこれだけは言わせてください。

 誠二様を取り巻く事情は……もし勝利したとしても……」

 

「……わかってる。そんなことはわかってる。

 けれど、何もしないより、少しでも可能性がある方に俺は進みたい。

 そして、その可能性を……俺はグレモリー家以外の場所に見出した。

 ……って、グレモリーの使用人であるあなたに言うべきではありませんがね」

 

そう。この試合、勝ってもセージの状況が改善されるわけではないのだ。

ただ、新たな道が拓けるというだけの事。その先にセージの求めるものがある保証もない。

 

……しかし、グレモリー家にセージの求めるものが無いのも、また事実なのだ。

まして、グレモリー家に行ったが最後。二度と手に入らなくなると言う懸念もある。

今までに仕入れた情報の中にも、ちらほらとそういうものがあった。

今セージがグレモリー邸に行くのは、飛んで火にいるなんとやら、だ。

だからこそ、セージは勝たなければならない。勝利し、自由を手にしなければならない。

 

眷属悪魔が主に反旗を翻し、自由を手にした事例はある。

しかし、それは指名手配と言う代償の付いたものだ。

その反省点を顧みた結果が、このセージからの挑戦状だ。

負けることは許されないが、指名手配までされることはあるまい。

何故なら、取り決めのある勝負の上での決まり事だ。

かつてライザー・フェニックスと行ったゲームと、本質的には何ら変わらない。

だからこそ、セージはこの選択肢を選び、全てをここに託すことにしたのだ。

 

「誠二様。間もなくお時間です。部室の方にお願いします」

 

「……もうそんな時間か。わかりました」

 

傍から見ればただの模擬戦にしか見えないリアス眷属同士のレーティングゲーム。

しかしそこには、レーティングゲームでは片づけられないほど大きな思惑が動いている。

 

セージの突然の反乱に戸惑いながらもレーティングゲームには負けられないとし迎え撃つリアス。

実質1人で7人を相手にせねばならない状況に追い込まれたものの、未来を掴むために

反旗を翻し立ち上がったセージ。

 

部室に既に展開されていた魔法陣に、オカ研の面子が次々と入っていく。

ライザー戦に続くレーティングゲームもまた、波乱を予感させるものであった……




サーゼクスも妹を被検体にすることには思うところがあるようです
と言うかアジュカがガチでゲスになりつつある予感。

なおグレイフィアさんのハニートラップはもっと積極的なのにする予定もありましたが
何となくグダグダになりそうだったので却下。
サーゼクスがそこまで許しそうな気がしなかったものなので。


……よくイッセー手出せるよなぁ


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Soul60. 開始の合図は、姿無く

いよいよオカ研VSセージの戦いの始まりです。
手前味噌ですが紫紅帝龍セージはこの時点でのオカ研が相手にするには
少々荷が重い相手かもしれません。ゼノヴィアいない分単純に戦力が落ちてるし。

それ故に霊体化禁止・フィールドモーフィング禁止(但し石ころなどは除外)
分身最大数制限(しかもダメージ共有)など制約を設けていますが
果たしてそれがどこまで機能するやら。


そういえば若手組はまだレーティングゲームの正式参戦権得てないけど
何処で強敵足りうる風に戦闘経験積んでるんだろう。
(一部例外はいるにしても)

……なんだか平和を謳うくせに百戦錬磨の暴徒鎮圧部隊がいる
どこぞの惑星みたいな空気がするぞ……?


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

レーティングゲームまでの1時間。

俺はデッキ構築とイメージトレーニングに励んでいた。

グレイフィアさんの言葉を右から左に流しつつ。

 

……そして、いよいよ試合が始まる……

 

――残された時間は、あと2か月――

 

――これより、リアス・グレモリー様と歩藤誠二様によるレーティングゲームを

  開始させていただきます。

  今回の試合は30分の超短期決戦方式、時間内に勝負の付かない場合は誠二様の

  勝利となりますが、誠二様はチームのうち1人が倒された時点で敗北となります。

  また、フェニックスの涙についてはフェニックス家との裁判がまだ終わっていない関係上

  今回の試合において使用することは出来ません。

 

  では開始のカウントを始めます……3……2……1……はじめ!

 

グレイフィアさんのアナウンスと同時に、予め出しておいた分身に指示を出す。

5人が進軍、1人が偵察などの情報収集に専念。

いくらこちらが数的に不利だとは言え、全員を進軍させてもじり貧だ。

そうならないためにも、情報収集担当を1人作る。

少なくとも1人いれば、状況を覆せるかもしれない。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

RADAR-ANALYZE!!

 

COMMON-SEARCHING!!

 

学校の敷地内だけ探知すればいいのだから、この間より楽だ。

……ふむ。

 

旧校舎にはグレモリー部長とアーシアさん。前回と同じ布陣か。

体育館上空には姫島先輩。これも前回と同じ布陣。

新校舎の1階には祐斗、2階には塔城さん。

そして運動場を突っ切ってこっちに向かっているのがイッセーとギャスパー。

罠の類はない。完全に攻撃一辺倒だな。新校舎の2人はともかく。

昇格が出来なくなるが、この2人はこっちで迎撃したほうがいいかもしれない。

姿を消して一気に距離を詰めるのも考えたが

姿を消すカードの持続時間が今ひとつわからない。

移動中に効果が切れて集中砲火を受ける、なんて考えたくもないからな。

ならば姿を消すカードの有効活用法の一つは……

 

「よし、情報は大体集まった。後は威力偵察なり牽制射撃になるな……

 ステルス爆撃を仕掛けてみるか……

 モーフィング! 野球ボールを爆弾に変える!」

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

情報収集を行っていた俺が、姿を消す。うん、自分と同じ顔がぞろぞろいるのを見るのは

まだ慣れないな……そうも言っていられないが。

姿を消した俺は、予め野球部の部室からパクってきて爆弾に変えた

野球ボールを抱えてそのまま上空に飛び上がり

一定以上の高度を保ちながら校門から旧校舎の直線距離を移動している。

その途中、進軍してくるイッセーとギャスパーを見るなり、爆弾を落とし――

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

爆弾を落とすと同時に、爆発魔法を仕掛ける。

いくら何でも、この爆撃で倒せるとは思っていない。

これは相手をかく乱させるのと足止めが目的だ。

この2人の足が止まっているうちに、他の俺が新校舎や体育館めがけて進軍する。

ここでINVISIBLEは無駄打ちしたくない。ならば自分が姿を消すのではなく

相手の目をくらませるのが、この作戦において肝要であると判断したのだ。

 

「うわっ!? な、なんだ!? セージの奴、地雷でも仕掛けてやがったのか!?」

 

「ち、違うみたいです! これは上空からの爆撃です!」

 

案の定、2人は上空を見上げるが、俺は見えていない。

爆弾を追加で落とし、足が止まったのを確認して俺は体育館に向かう。

因みに地雷も考えたが、相手もそれほどの大軍団じゃないことを考慮して却下した。

地雷の本領は威力ではなく、相手の戦意喪失だからだ。

足手まといを複数作ることが地雷の主目的。だから少数精鋭のグレモリー眷属に

地雷は意外と効果が薄いとみている。まぁ、見当違いかもしれないけど。

あと、捨て駒上等のフェニックスにも地雷作戦はあまり効果はないだろうな。

とは言えあちらは頭数を減らせた程度には有効だったみたいだが。

 

「上……ギャー助、何もいねぇぞ?」

 

「あれ? 確かに今上から……ってうわあああああっ!?」

 

――見たか。これがステルス爆撃、姿なき幽霊爆撃……って俺は幽霊じゃなくて霊魂だが。

  そこで精々足掻いてな! 俺はお前達だけに構ってられないんだ!

 

「く、くそっ! 見えない相手じゃどうしようもないぞ!

 ギャー助、一旦運動場の端まで逃げるぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

――そうだ、逃げろ。精々逃げろ。お前たちの相手は後で別の俺がしてやる。

  これ以上遊んで爆弾の数を減らすのも問題だし、砂埃を巻き上げて俺が見えてしまうなんて

  へまを踏むのも避けたい。このくらいでいいだろう。

 

――――

 

次に来たのは体育館上空。姫島先輩は上空で待機しているため、爆弾は当てにくい。

ならば体育館そのものを爆撃して、近くに俺がいると思わせた方がいいだろう。

それをやるには、こっちに来る手筈の俺との連携が不可欠だ。

上空の俺が爆撃し、姫島先輩の気が逸れた隙に地上の俺が姫島先輩に仕掛ける。

爆弾の容量的に、新校舎まで爆撃している余裕はなかった。

が、ここは運動場に面している上に、中にいるのはあの2人。

口裏を合わせたわけではないが、小細工無しで乗り込んだ方がいいだろうと踏んだ。

少々危なっかしいが、下手な爆撃も効果が薄い。ならば効果を見込める場所に

爆弾を叩き込んだ方がいいだろう。

そして、姿を消した状態での爆撃のもう一つの効果。それは――

 

「きゃあっ!」

 

「セージっ!? どこから攻撃してきているの!?」

 

旧校舎への爆撃。当たり前だがこれで倒せるとは思っていない。

だが「いつでも闇討ちできるんだぞ」と言うプレッシャーはこれで与えられたはずだ。

 

――グレモリー部長、いやリアス・グレモリー!

  戦いである以上、絶対安全な場所などないと言う事をこれで思い知ったか!

  こちらの主目的を果たすためならば

  今この場で集中砲火を浴びせて終わらせることも可能なんだ!

  だが今回は、そちらの「戦いごっこ」に付き合ってやる!

  忘れるな! これは「ごっこ」とは言え「戦い」なんだ!

  ルールなんてない……戦争なんだ!!

 

姿を消したまま俺は叫ぶ。脳裏には、あの時聖水のプールに突き落としたフェニックス。

光の剣で腹を貫いた奴の「騎士(ナイト)」に光の槍で内臓を抉った「女王(クイーン)」。

彼らの姿が、断末魔の叫びが過る。同じ目に遭わせるつもりは無いが

これが戦争としての特性を持っている以上、ありえない話じゃない。

俺は一度やらかしているんだ。あの時も俺は見せしめのためにフェニックスをああした。

それを、それを分かれ! 分かれよ! でなければ……俺は……俺はっ!

……何のために、フェニックスを滅ぼしたのかがわからなくなってしまう……

 

しかし、帰ってきた返答はある意味で予想通りだった。

 

「言いたいことがあるならまず姿を見せなさい。姿も見せない卑怯者の言う事など聞かないわ。

 そして、そんな卑怯者を眷属に持った覚えはない。

 私に言いたいことがあるのならば、まず闇討ちなどではなく正々堂々と戦い、勝利なさい!」

 

認識の差異なのか。勝利こそ至上とする国の戦争の在り方と

誇りこそ至上とする貴族の決闘の在り方。

いずれも市民を背負っていることに変わりはないはずなのに、どうしてこうも違うのだろう。

今、それについて考えている暇はなさそうだが。

 

気を取り直して、ある程度の爆弾を落とし、再び体育館上空へと戻る。

都合よく、陸路で来た俺が既にタイミングをうかがっている状況だ。

そして、姫島先輩は旧校舎が爆撃を受けたことでそちらに向かおうとしている。

当然、そうなれば爆撃も狙いやすくなるわけで……

 

爆撃に合わせ、陸上から俺が仕掛けに行く。

その隙を見計らい、上空の俺は引き上げる。爆弾が切れたのだ。

後の俺の役割は戦場の状況把握だ。拠点まで引き上げ、レーダーを常時展開する。

 

――――

 

体育館。運動場での爆発のどさくさに紛れて、ここまで一気に進軍したのだ。

ここにいる相手は姫島先輩。正攻法では少々荷が重い? いやそんなことはない?

いずれにせよ、攻めるなら慎重にいかなければならない。こっちは1人でもやられたら終わりだ。

そう考え、物陰に潜み様子を見ていると、旧校舎から煙が上がっている。

爆撃はかなり広範囲に行われたみたいだ。姫島先輩の注意はそっちに向かっている。

そしてそれは、爆撃してくれって言っているようなもので――

 

「くうっ!? どこから……」

 

SOLID-FEELER!!

 

今だ! 姿の見えない爆撃担当と入れ替わるように、俺は粉塵の中から触手を伸ばす。

触手は見事に足首を掴み、後は引き寄せるだけだ。

強化は施していないが、触手で引っ張って引き寄せる力と

俺が思いっきり頭を振りかぶってためた力。その二つが激突する。

姫島先輩の足首の拘束が解かれると同時に、俺の咆哮と共に額が姫島先輩の額に直撃していた。

ロマンスなんてこれっぽっちも無い、ただの頭突き。

思わず後ずさる姫島先輩に、俺は額の痛みを押さえつつ追撃をかける。

 

EFFECT-STRENTGH!!

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

頭突きよりも痛いであろう、強化した状態でのギャスパニッシャーの一撃。

さらに一撃、もう一撃。反撃の隙など一切与えない。

一振り一振りは確かに祐斗に比べて全然遅いのだが、初撃で怯んだ姫島先輩に

この連撃をかわせはしまい。しかもさらに一撃一撃は初撃よりも重い。

かつて、夢中になっていたゲームにこんな法則があった。

 

――力には技。技には魔法。魔法には力。

 

これもゲームだというのならば、と試してみたところ……これだ。

力押しではあるが、完全にこちらのペースだ。

だが仮にもグレモリー部長の「女王」。これで終わるはずもあるまい!

ふらついているところに、ダメ押しでギャスパニッシャーの「断罪判決の魔眼(フローズン・グローバルパニッシャー)

(本家の神器(セイクリッド・ギア)停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」にあやかって名付けた)を発動。

見開いた目に見据えられた姫島先輩の動きが止まる……

 

……えっ?

確か俺の調べでは、この神器自分より強い相手には効果が無いはず。

そして、図らずもそれをコピーしたこれもその特性に準ずるのはいつぞやの戦いを見ても

明白だったのに……効いてる?

 

い、いや、油断するな。おそらく連撃で耐性が弱まっただけだろう。

ここで止めを刺さないと……!

 

俺はギャスパニッシャーを両手で握り、思いっきり上空へと飛び上がる。

そのまま姫島先輩の頭上に差し掛かり、ギャスパニッシャーをこれでもかと振りかぶる。

そして、自由落下の勢いと振り下ろす勢いを合わせ――

 

姫島先輩の頭上に、棺桶を模した鎚が振り下ろされた。

ぐしゃり、という嫌な音が聞こえた気がしたが……聞こえなかったことにする。

そのままギャスパニッシャーを叩きつけられた姫島先輩は、体育館へと落ちていく。

屋根を突き破り、床にたたきつけられたであろう音がかすかに聞こえる。

突き破った屋根からは、煙が立ち込めている。

さて――これで仕留めることに成功したか?

もしそうでない場合は……と、そこまで頭を回転させていたところ

突如として雷が飛んでくる。思わずギャスパニッシャーを投げ返す形で回避するが……

 

「クアーッ!!」

 

なにっ!? 今のはラッセーの鳴き声か!

って事は、今のは姫島先輩のじゃなく、ラッセーの……

なんてこった、まさかラッセーを囮に使うとは……よくアーシアさんが許可を出したな。

アーシアさんの判断ならば感心するが、強要ならグレモリー部長を見損なう。

ぶん投げたギャスパニッシャーが直撃したんだ、いくら蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)ったって子供。

召喚が切れて戻ったと思いたいが。

そして、今の攻撃がラッセーに命中したって事は……

 

まだ、姫島先輩は倒せていない事になる。

仕留め損ねたのは痛いかもしれない。ラッセーの妨害ももう無いだろうが

姫島先輩本人が雷撃を放ってくる危険性もあるかもしれない。

いるとすれば体育館の中だろうが……中に入るしかなさそうだな。

入った途端集中砲火でやられる、なんてのは無しで願いたいが……

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

HIGHSPEED-GUN!!

 

SOLID-ASSALT RIFLE!!

 

別の武器を用意し、体育館の内部へと侵入する。

中に入った途端、集中砲火を受ける危険性もあるが。

考えられるのは、ここの戦いの様子を見ていたアーシアさんが駆けつけて治療を施した。

あるいは、今まで狙っていたのはダミーだったか。

もしダミーだったとすると、少々マズい事になる。

いくら1回リロードが出来るとはいえ、手札を結構使っている。

おまけに一気に片を付けるつもりだったので、二度目があるわけがない。

治療を受けた状態と、ダミーでやり過ごしていたのとでは状況が大きく異なる。

 

COMMON-RADER!!

 

体育館内部でレーダーを展開する。反応は確かにある――が、1つだ。

ラッセーを召喚し、治療を施したであろうアーシアさんは既に撤退したと見える。

恐らくはグレモリー部長の指示だろうが、まぁ王道の作戦だわな。

前線で戦うのに向かないヒーラーをいつまでも前線に出すのは愚策だ。

おまけに、今の俺の一撃で唯一の攻撃手段であるラッセーを失っている。

まぁ、治療すればまた使役できるのかもしれないが……しばらくは来ないだろう。

警戒するに越したことはないが。

 

さて。このレーダーの反応は、先ほど叩き落した姫島先輩と見て間違いあるまい。

仕留め損ねている以上、ここで倒しておかないとまた横槍を入れられても困る。

これは前回の時も思ったことだが、フェニックスと同等と考えると

グレモリー部長は不死ではない分フェニックスより相当やりやすい相手だろう。

ただ、滅びの力にさえ注意すれば。

寧ろ今回は、こちら側に課せられた条件が厳しい。

実質1人で7人を相手にしなければならない事は、なかなか辛い。

 

……それにしても。見失ったのは痛い。

レーダーで探知しているとはいえ、変なところから攻撃されては叶わない。

こっちも飛び道具は持っているし、思い切ってそこめがけて撃ってやろうか。

レーダーの示す位置は10時の方角。ちょうど壇上の舞台袖、下手側か。

フェニックス戦で、俺達が隠れた場所……と、思っている間に緞帳が下りる。

む、緞帳を下ろして逃げるつもりだろうか。まあ、妥当な判断だろうよ。

……俺がレーダーを持っていなければ、の話だけど。

 

案の定、緞帳が下りたと同時にレーダーの反応が下手から上手に動く。

逃げるつもりなのだろうが……

ここは上手に先回りして、銃口を突き付けてやることにした。

 

「……俺にレーダーがあること、お忘れでしたかな」

 

「……あらあら。これは……困ってしまいましたわ……ね」

 

銃口を向けられてもなお笑顔を浮かべている姫島先輩だが

その額には脂汗が出ているのは明白だし

治療は受けたのだろうが、出血の痕は痛々しく残っている。

推測だが、治療を施したとはいえどこかの骨は折れたのだろう。

だが、それがどうした。寧ろ中途半端に痛みを引きずる位ならば

今ここで引導を渡してやるのが情けではないのか。あるのだろう? 治療設備。

 

「……では最後に言い残した事は?」

 

「そうねぇ……セージ君は意外と肌が敏感だっていうのは本当かしら。

 ってのは気になるところですわね」

 

……は? この期に及んで何を言っているのだろう。

まあ言いたいことを言ったんだ。遠慮なくアサルトライフルの引鉄を……

 

引こうとした瞬間、足首に激痛が走る。

よく見ると、足首を姫島先輩に掴まれていた。

ぐ……くそっ! 距離を測り損ねたか!

思わずのけぞり、尻餅をついてしまった。

 

「うふふ、いまのは軽く電気を流しただけですのに……

 やはり、敏感なのは本当ですのね。イッセー君の言った通りでしたわ」

 

……あの野郎か。まあ、そういう情報が洩れていてもおかしくはないが。

しかしこれはまずい。足をやられたと言う事は、こっちも身動きが取れない。

ならば……くっ、あのカードはもう使った以上、ここが使い時か!

 

EFFECT-HEALING!!

 

RELOAD!!

 

足の痛みを回復させ、カードを補填する。もう粗方のカードは使っている。

補填をするにしても、ここいらが使い時だろう。

しかし、距離を取りたいところだがその方角に雷が落ちるため、距離の取りようがない。

こうなったらこっちから攻めて強引に引きはがすしかなさそうだ。

そう考え、アサルトライフルの狙いをつけるが、電撃が俺の手首に走り

アサルトライフルを取り落してしまう。くっ、これじゃ手持ち武器は使えないか!

 

「なかなかいい表情ですわよセージ君。この頃ずーっとおいたが過ぎてましたものね。

 これからすこーし厳しいお・し・お・き……いたしますわよ?」

 

はいそうですか、なんていうわけがない。何とかこの状況を切り抜ける方法を考えろ!

手持ち武器は電撃に邪魔されて持てない! カードを引く暇位はありそうだが……

触手も相手を掴む以上、受けた電撃を相手に返すという相打ちには持ち込めるかもしれないが

他の場所で戦っている俺の事を考えれば、ここで相打ちに持ち込むのは愚策だ。

触手に刃をつけても、それを振り回す以上は手を使わなければならない。

その手に電撃を受ければ、攻撃はキャンセルされる。

それに、電撃をバリアにされたら攻撃はそもそも届かない。ダメだ。

 

ならば同じ電撃……はパワー負けするから駄目だ。

それなら爆撃……はこの位置じゃ自分も巻き込む。

剣山を召喚……電撃でえらい事になりそうだ、却下。

 

ど、どうすればいい!? そう考えている間にも電撃は容赦なく襲ってくる。

俺は転がりながら避けるので精いっぱいだ。ふと姫島先輩の表情を見ると

何かやばい表情をしているように見える。興奮してらっしゃるな。

それを楽しんでいるのか、若干電撃のかけ方に斑が見える。

じわじわ追い詰めるつもりだろうか。完璧に遊んでやがる。

 

「うふふ、さすがはセージ君ってところかしら。これはじっくり楽しめそうですわね。

 さっき足首に電撃を流した時の声、もう一度聞かせてほしいものですわ」

 

「……楽しむのは結構ですが、30分で俺を倒さないと負けますよ?」

 

……なんか無性に腹が立ってきた。

好きでもない相手にこういうことをされるのは嬉しくない。

姉さん相手ならまだしも……ってそうじゃなくて。

それに姉さん相手でも痛いのは……ってだから違う。

 

よし、そう言う事なら少し余裕が出てきた。

今のすぐにやられるのでなければ、もう少しこのまま様子を見よう。

そして隙を見て反撃としゃれこむか。

 

さて。反撃の手段は限られている。

一つ。両手を使わない事。向こうの雷撃の方が先に来るため

武器をしっかりと確保できないのだ。

二つ。パワー負けしない事。魔法での勝負は明らかに分が悪い。

こんな分の悪い勝負をしたって意味がないだろう。

そして三つ。確実にダメージを与えられる手段を取る事。これ以上の博打は危険だ。

この条件を満たす攻撃手段……あるのか?

等と考えている間にも、雷は徐々に俺を追いつめていく。

途中舞台から落ちたり壁際に追い込まれたりもしたが

何とか逃げ回れている。それしかできないのが何とも言えんが。

幸い、向こうは足を中心に狙っているので回避の読みはたやすいが。

 

「息が荒くなってますわよ、セージ君」

 

「なら鬼ごっこもそろそろ終わりにしませんかね? 疲れてきたし、何より飽きてきました」

 

「そうですわね……じゃあ次は、どう楽しませてくれるのかしら?」

 

おやおや、余裕でいらっしゃる。こっちはまだ反撃の糸口がつかめないってのに!

手を使わずに、自分の意思で……触手……射撃……

考えが纏まろうかと言うタイミングで雷が飛んでくる。

まともに喰らえばダメージは避けられない。

これをどうにかして避けつつ、俺は何とか反撃の糸口を掴むための切り札を思案する。

今ある手札で使えるものは……無数にある。

いっそごり押すか? とも考えたが、他の俺へのダメージを考えると得策とは言えない。

言っちゃなんだが、ここでダメージを受けて他の俺の戦いに支障が出てはマズい。

つまり「姫島先輩ごときにダメージ前提の戦いは出来ない」のだ。

残り1人、グレモリー部長への総攻撃ならある程度ダメージ前提の攻撃も出来るだろうが。

勝負が始まったばかりの現時点で、ダメージ前提の戦いは愚策だ。

 

「いいこと思いつきました。これで捕まえたら

 私がセージ君を好きにできるってのはどうかしら?」

 

「……嫌な予感しかしませんが」

 

捕まえる……触手……距離を取る……飛び道具……

試してはないが、こうなったらやってみるか!

悪い結果にはなるまい!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-GUN!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)から複数の触手が伸びる。

はて。エラーを吐いたわけでもなく、きちんと認識はされたみたいだが

出たのは普通に触手を出したのと同じ? いや、とにかく使ってみるか……

 

「この期に及んでそれですか? じゃあ、今度は私がセージ君を縛ってみるのはどうかしら?」

 

「……丁重にお断りさせていただきます」

 

その言葉を合図にしたわけではないが、現出した触手は姫島先輩めがけ伸び――

 

目の前で分散し、ビームの十字砲火を浴びせた。

これには俺も、姫島先輩も面喰っている。

 

「くうっ!? あぐっ……」

 

「これは……ふむふむ、なるほど、なるほどね……

 よし……もういっちょ、仕掛けてみるか!」

 

EFFECT-MELT!!

 

地面をドロドロに溶かし、触手が地面に潜りやすくする。

そうすることで、触手がどこから来るかを分からなくする目的もある。

後は触手が絡まないように操る。これはこれで結構神経を使う。

尤も、射撃については触手が自動的に行ってくれるようなので助かるが。

後は、下手に動かして自分が撃たれないようにさえ注意すればいい。

 

――この触手砲で、関節を狙えば……!

 

この触手砲(仮)、かなりフレキシブルな動きが可能なため精密射撃にも向く。

となれば、関節などを狙った攻撃は有効だろう。

しかも素材になった銃のカードは、元々祓魔弾を撃つ代物。

それがビームになったと言う事は、このビームには対魔特攻があると考えるのが妥当か。

 

「くっ……往生際が悪いですわよ、セージ君!」

 

「そう思うならどうぞ攻撃を続けてください。

 しかし姫島先輩。俺はこういう事を聞いたことがありましてね。

 

 ――サディストは一度受けに回ると弱い、と!」

 

姫島先輩の雷撃に合わせ、地面から首をもたげた触手の先端からビームが放たれる。

しかも、的確に雷をチャージしていた右手を狙っており、攻撃のタイミングを潰している。

そう、俺の狙いはこれだ。触手を操るのにまだ集中は必要だが

相手の攻撃を的確に潰す。手持ち武器を使うタイミングは潰されるが

両手だけを見ればいい手持ち武器ではなく、周囲を囲んだ触手のどれかが

攻撃を仕掛けるのだ。そう簡単に攻撃などさせない。チャージなどさせるものか、ってやつだ。

そしてこの攻略法。グレモリー部長にも応用がきく筈だ。ここで呼吸をマスターしたい。

 

相手の攻撃の出を潰すための精密射撃。そしてダメージを与えるための十字砲火。

こちらは二種類の攻撃を同時に繰り出せる。

距離を取ろうとしても無駄だ。既に触手で包囲している。

触手で包囲する。イッセーに言葉だけ伝えると喜びそうなシチュエーションかもしれないが

俺はそんなつもりは全くない。と言うか、戦いの最中にやることでは無いというか。

 

……そういえば、この人には結構セクハラかまされてたんだよなぁ。

ちょーっと、その辺の恨みも込めて止めの一撃を刺すとしますか。

 

――触手で縛り上げて、頭を狙い撃つ!

 

「くっ……!? ま、まさかセージ君……あ、あなたまさか……!!」

 

触手で四肢を拘束し、まず両手をビームで砲撃、攻撃を封じる。

そして拘束している一本の触手で、姫島先輩の頭めがけて――

 

「実は俺がサディストなのか、あんたが似非サディストなのか。

 そんなのは非常にどうでもいいんだ。ただ一つだけ言えるのは――

 

 ――あんたは、これでもう終わりだ」

 

ビームが放たれる。

うん。女性の顔狙うのはどうかと思ったよ? けれどこれは戦い。言うなれば戦争。

これは演習? 聞こえない。何か言ったの? 俺のログには何もないね。

そういう戦いに綺麗も汚いも無いだろう。そもそも俺は3人後遺症持たせてるんだよ?

それに、俺は始まる前から決めていたんだ。

一切の手加減をせず、完膚なきまでに叩き潰す、と。

 

「文句は戦いが終わった後で聞く。だがこれは戦いだ。

 中途半端な甘ったるい文句ならそれは絶対に聞かない。

 戦場で出会った以上先輩も後輩も無い、ただの敵同士だ。

 ……姫島先輩。いや姫島さん。あんたにゃその覚悟が少しばかり、足りなかった」

 

――リアス・グレモリー様の「女王」、脱落。

 

姫島先輩の返答を聞くまでもなく、アナウンスが流れ彼女は医務室送りにされる。

……顔を狙ったのはちょっとマズかったかな、と思う俺は甘いのだろうか。

でもこれは戦い。そして俺にとっては絶対に負けられない戦い。

甘い事は言っていられない。

……まあ、出力はある程度抑えていたはずなので後遺症は出ていない……

と、思いたいが……

 

とりあえず、体育館はこれで制圧できた。

後は情報収集をしながら少し休むか。

他の場所の戦いは、他の俺に任せればいい。




いきなり新技・新兵器のオンパレード。
この間紹介したばっかりなのにまた増えてるという……
そして速攻で女王を潰すという大金星。主人公補正効かせ過ぎたかな……

いやしかしここの段階で朱乃一人に苦戦してるようじゃ
冥界でのソロ活動なんてとてもとてもな状態だし
妥当だよね、うん。そう言う事にしよう。

>ステルス爆撃
現実でもステルス爆撃機は強いからね、仕方ないね。
霊体化じゃないのでルールには抵触してません。
あと、フィールドへのモーフィングも敢行してないので
これもルールに抵触してません。
WW2な装備が主体の艦これでやったらオーバーキルものだろうなぁ、ステルス爆撃。

>ライザー戦のフラッシュバック
落ち着いたら一度カウンセリングを受けたほうが……
感想欄にもありましたが、普通の高校生がいきなり殺し合いとかPTSDものです。
拙作ではこれも悪魔の駒の作用の一環として防護されてますが
セージはご存知の通りその効果が薄いのでもろに受ける形に……
「人殺しちまった!?」って発端のPTSDは作者的には魔装機神LOE序盤の
イベントの印象が強いですが、マサキはあそこから成長してああなりましたが
セージはなんとなくいきなりアサキムルートに突っ込みそうな悪寒が……

>力には技、技には魔法、魔法には力
SDガンダム外伝より。ニューさん来るの遅すぎます(BX並感
HSDDに当てはめても、割と説得力があるのではないかと思い採用。

>断罪判決の魔眼
ルビは仮面ライダードライブのグローバルフリーズを意識してます。
(動きを止める的な意味で)
後は停止世界の邪眼のパチモンっぽく。

>ラッセー
犠牲になったのだ……ギャスパニッシャーのハンマー投げ、その犠牲にな……
彼がいた=アーシアが近くにいた、と言う事です。
囮作戦の立案は……誰がやったんでしょうねぇ。
あ、安心してください。退場したけど生きてますよ。

>アサルトライフル
ショットガンと同じ要領で生成するも、使用の機会に恵まれなかった不遇武装。
そんな武器もこれから増えるんだろうなぁ。

>触手砲(仮)
リモートガン、つまり遠隔操作砲。モチーフは有線式ビーム砲。
ジオングとかドーベンウルフ、ラフレシアとかのあれ。
触手の長さ+ビームの射程なので、今セージが使える武器の中では断トツの射程距離。
コントロールが難しいのはネタ元同様ですが、ある程度自立して砲撃してくれる
いわばお利口さんビーム(光属性)。

>朱乃さんの顔が狙われた! この人でなし!
医療機関優秀だから治るでしょ(鼻ほじ
ただ実はこの時頭狙ってるので脳機能への障害が出てないかだけは少し心配。

どうでもいいけど、朱乃さんがSだってのは周知の事実だけど
「究極の」を枕詞に付けるほどかっていうと、そうでもないような……
と言うか本物のサディストはマゾヒストの気持ちのわかる人物を指すそうですぞ。

……自称する機会(あるのか!?)があったら頭の片隅にでもどうぞ。


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Soul61. 警告:白猫暴走まっしぐら

ギャグみたいなタイトルですが本編は通常運転です。

……ええ、通常運転ですよ。


余談。
いつぞやガンバライジング1弾のクウガを無くしましたが
先日キャンペーンのクウガを自引き。
やはりアルティはいい……勿論ライアルも。
(活躍度合いは……確かにアルティもちょっとしか出番無いけど
そういう意味じゃねーんだよ米村)

そしてこの猛暑の中皆様如何お過ごしでしょうか。
私は絶賛熱中症気味と戦いつつ夏の風物詩である怪談や戦争ドラマに
肝を冷やし目頭を熱くする日々を過ごしております。
皆様におかれましても暑さにはくれぐれもお気を付けください。

――学生諸氏は宿題も未完成の方は
  そろそろ頭の片隅に入れておくことをお勧めしますよ。
  間際になってからでは遅いですからね。ククク……
                             駒王学園世界史教諭

ここまで余談。


そしてお気に入り登録500突破しました。
お気に入り登録してくださった方、評価してくださった方
並びに感想を書いていただいた方に
読んでいただいている皆様に感謝です。

結構セージの強化案とかヒロイン候補とか提案いただいてますが
「特に募集は行っておりません」のでご了承ください。
(採用しないとは言ってません、ただしヒロインの方は……)
「特に募集は行っておりません」が、貴重なご意見として
ありがたく拝見させていただいております(大事なことなので

――望む結末にはならないかもしれない。けれど、応援はありがたく思う。
  これからも、出来れば見届けてもらえると嬉しい。
                             通りすがりの霊魂



俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

いよいよグレモリー部長との変則的レーティングゲームが始まる。

ステルス爆撃で出鼻を挫き、手始めに姫島先輩を落とすことが出来た。

 

これで、分身も含めた戦力比でも互角になったはずだ。

 

――ゲーム終了まで、あと25分――

 

――リアス・グレモリー様の「女王(クイーン)」、脱落。

 

いきなり姫島先輩を落としたか。幸先がいい。

身体の感じも、少々しびれはあるが然程大きなダメージは受けていない。

これで相手の状況に変化が起きるだろうが……

レーダー担当の俺、どう見える?

 

――――

 

運動場。俺の空爆から逃げたイッセーとギャスパーだが

このアナウンスを聞くなり、唖然としていた。

 

「う、嘘だろ……いきなり朱乃さんを潰しにかかるとか……」

 

「ど、どどどどどうしましょうイッセーさん、ぼ、僕は……」

 

案の定、ギャスパーは完全に狼狽えている。

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」の弱点も完全に把握しているし

吸血鬼の弱点はモーフィングで簡単に作れる。

油断するつもりは無いが、ギャスパーははっきり言って敵じゃない。

実戦経験も皆無に等しいし、もうさっさと片づけていいんじゃないかな。

 

「許さねぇ! セージの奴には朱乃さんの

 あのおっぱいのありがたみが全然わからないのか!

 朱乃さんに代わって、俺がてめぇをぶっ潰してやる!」

 

おお、怖い怖い。気合を入れるのはいいけど、当の俺がいないところで息巻いても

ある意味情けないぞ? そもそも、お前俺の爆撃から尻尾巻いて逃げてただろうが。

そういうセリフは俺の攻撃を破ってから言ってもらいたいものだがね。

とはいえ気合が入っているのに違いはないから

これも早めに潰しておいた方がいいかもしれないな……

 

しかしその気合の入れ方はどうなのさ。

言っちゃなんだが、そんな気合の入れ方で俺を倒すつもりなら――

 

――彼女を、俺をなめるな。

 

たかが小僧一人の煩悩でどうこう出来るほど、世の中甘くない。

まあ俺に人の事が言えるのかと言われると、答えに窮するのだが。

だがだからこそ、俺は直面した事態に対しては全力を尽くしているつもりだ。

彼奴とて全力は全力なんだろう。そこは何となくだが分かる。

 

だが……何よりも彼奴の煩悩一つで俺の行く末を押し止められたくはない。

俺の運命は、未来はそんな安っぽいものじゃないと自負している。

そう、だから俺は――

 

――兵藤一誠。お前を潰す。

 

そのための機会を、俺は物陰からそっと窺うことにした。

 

――――

 

新校舎。ここは爆撃を免れ祐斗と塔城さんと言う二人が待ち構えている場所だ。

しかしこの面子、俺の脱獄(?)に協力している面子なんだが……

まあ、だからって手は抜けない。手抜きしようものなら疑惑の目を向けられるだろうし

特に決闘の約束をしている祐斗にそれは失礼に値するというものだ。

 

「副部長が倒されたか……」

 

「どうした? 仕掛けてこないのか?」

 

だが、目の前の「騎士(ナイト)」は全く動こうとしない。一体どういうつもりなのだ。

 

「いや。セージ君の側が一段落着いた辺りを見計らってからやろうかな、と。

 僕が勝てば、部長への義理は果たせるわけだし」

 

「……勝利を求める上ではどう考えても非効率的だぞ。と言うか、俺が勝つ前提なのか」

 

「ああ。君ならイッセー君にも勝てると信じているからね。

 それに、前の話だけど実際勝っただろう?」

 

祐斗の言い分はこうだ。俺が本気を出して潰すであろう相手――グレモリー部長以外の

姫島先輩、イッセー、それからおまけでギャスパー。

彼らを潰した後に自分が挑もうという腹積もりらしい。

俺の分身はダメージを共有する形になっているので

それは攻めるタイミングとしては完全に外している。

尚姫島先輩とイッセーの攻略に関しては、わざとタイミングをずらすように仕向けているが。

いくら何でも、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)と雷の巫女を同時に相手にするのは面倒だ。

そういう意味では、祐斗の提案はありがたいと言えばありがたい。

 

「あまり買いかぶるな。奴とて禁手(バランスブレイカー)に至っている。

 前と同じようには行かないだろう。やることは変わらんが」

 

「君ならそう言うと思ったよ。だから僕は可能な限り全力の君と戦いたいのさ。

 それにもし君が負けた場合は、別に日を改めればいいだけさ」

 

「難しい相談だな。俺はこの後グレモリー部長っていう大物を控えてるんだぞ。

 しかし……そんな『もし』は俺としてはご免被りたいな」

 

そう。祐斗に全力を尽くして、グレモリー部長に負けたとあってはシャレにならない。

俺はこの戦い、どうあっても勝たねばならないのだ。

そのためには、戦力配分も重要なファクターだ。

それに日を改めるったってなぁ……あてが無くはないが。

 

「……ああ。僕は知っての通りリアス・グレモリーの『騎士』だよ?

 主に歯向かうものはそれを排除する。それがたとえセージ君、君であってもね」

 

フッ、いい面構えじゃないか。それなら、俺がはぐれになっても大丈夫だろう。

自分のなすべき事がきちんとわかっている。だから俺はお前を信用している。

やらねばならぬ時には事を成せる覚悟を持っている。

だからこそ、お前の望みに応えよう!

 

――――

 

「……副部長がやられましたか」

 

「ああ。それより……いつまでそうしてるつもりだ?」

 

新校舎2階。ここにいたのは塔城さん……なんだが

彼女はさっきからどこから持ち込んだのか、お菓子をバリバリと食べている。

戦闘前にそんなに食べて大丈夫なのか? リバースしないか?

 

「……セージ先輩と戦うつもりはありませんので」

 

「……おい。それじゃ俺と同じ反逆者扱いされてしまうぞ」

 

戦うつもりは無いって……何考えてるんだよ。

そりゃさっきから消極的な態度は見えていたけど……

このままじゃ、お姉さんだけじゃなくてあんたまではぐれにされちまうだろうが。

俺はもうどうしようもないところまで片足を突っ込んでいる気がするが

彼女はまだ引き返せる位置だ。はぐれに、怪物になどなってほしくはない。

 

「……構いません。どうせ姉様もはぐれですし」

 

おいおい。俺が正面切って反逆の意を示したからへそ曲げたか?

しかしこれは困った。このままじゃ彼女がはぐれ悪魔にされてしまう恐れがある。

俺はともかく、彼女をはぐれ悪魔にしてしまうのは本意ではない。

こうなったら……

 

「そうか。では残念だが契約は破棄だな。

 最初に言ったぞ。そちらのリアス・グレモリーの眷属としての立場が危うくなるようならば

 俺との契約は打ち切る、と。そして今俺と戦わないのは

 どう考えてもグレモリー部長に対する反逆行為。よってここに――」

 

契約の破棄。俺は塔城さんと約束を取り付ける際に

決して彼女自身の立場が悪くならないことを条件に取り付けたのだ。

スパイの真似事をしているのに、ムシのいい話だとは思うが

俺の我儘に、どうして彼女を付き合わせねばならないのだ。

だから、このままでははぐれ扱いされかねない状況の塔城さんを見かね

俺は契約の破棄をちらつかせることにする。

 

……あんまり、やりたくない方法ではあるが仕方がない。

 

「……そうですか、わかりました。じゃあ、非常に不本意ですが

 セージ先輩と戦い……けほっ!?」

 

そう返す塔城さんの表情は曇っている、と言うか渋々と言った感じだ。

まあ、そりゃ俺と戦うことに何の意味があるのかと言う疑問は尤もだ。

祐斗と違って、塔城さんとは決闘の約束なんか取り付けていないし。

そういう意味では塔城さんはまともな応対をしているのかもしれない。

どっかのバカに比べれば、よほど。

 

……だがよく見ると塔城さんの顔色が悪い。

俺は慌てて塔城さんに駆け寄る。もし騙し討ちならそれでもいい。

だが、彼女はそんな搦め手を使うタイプでもないし、この顔色は明らかに異常だ。

とても騙し討ちなんか企めるような状況じゃない。

額に手を当ててみると、妙に熱い。風邪をひいている風には見えなかったが!?

 

「おいっ!? 塔城さん、しっかりしろ!」

 

「けほっ、けほっ、げほっ……!」

 

背中をさするが、一向に様子が良くならない。これは……チッ!

何とかして、塔城さんをこの場から下げなければ!

然るべき措置を取らないと、症状が悪化しかねないぞ!

 

「おい! 運営! 聞こえているか! リアス・グレモリー陣営の『戦車(ルーク)』が

 明らかに体調の異常を訴えている! 直ちに棄権措置を取らせるべきだ!」

 

――棄権は陣営の「(キング)」……すなわち、リアス・グレモリー様の許可なくしては出来ません。

 

……ああそうかい。んな事だろうと思ったよ!

仮にも情愛を掲げる悪魔なら、ここは塔城さんを下げるべきだろう!

病人を戦わせるとか、正気の沙汰じゃない!

これは俺が優位に立ちたいとかそういう問題じゃない!

彼女の体調の問題だ、ゲーム……いや戦いどころじゃないだろうに!

 

「グレモリー部長! 聞こえているか! 塔城さんの様子がおかしい!

 彼女を棄権させるべきだ! このままでは……」

 

『聞こえているわ。確かに小猫の様子は異常ね……わかったわ。

 そう言う事なら……』

 

――彼女の棄権は認めない。これは魔王命令だ。

 

『!?』

 

そのアナウンスが流れた途端、周囲の空気が明らかに変わった。

どういう意味だ、それは!?

サーゼクス! 貴様とてグレモリーなら、病気の眷属を戦わせるという振る舞いに

疑問を抱かないのか!?

 

――歩藤君。君はレーティングゲームは戦争だと言ったね。

  ならば、あらゆる不測の事態が起きてもおかしくはない。

  その中には、敵の兵士が病気にかかっている、なんてこともあるかもしれないね。

  本当に調子が悪いのか、あるいは病原菌をまき散らす爆弾かは知らないけど。

 

……くっ! 確かに俺はそういう意味の事を口走ったことはあるが……

まるで特攻兵器、しかもBC兵器の特性を備えた外道兵器を用いるとか……

先の戦争とやら、まさかそれで勝ったんじゃあるまいな!?

 

……いや、今はそんなことよりも塔城さんだ!

体調が悪いなら、それなら逆に、一度彼女を脱落させて医務室送りにしてしまえば!

 

『セージ! 今そっちにアーシアを……』

 

「いや、それには及ばない。そちらには悪いが、塔城さんを医務室送りにする!

 こうなったら、設備の整ったところで見てもらった方がいい!

 塔城さん、ちょっと辛いかもしれないけど……我慢してくれ!」

 

「……わかりました。お願いします……けほっ、げほっ、ごほっ!」

 

『――なるほどな、大体わかった。セージ、俺の力を使え』

 

かなり辛そうだ。こういう勝負の付け方はどうかと思うが、状況が状況だ。

仕留めてしまえば、医務室送りになることに変わりはない。

ならば早いところ仕留めたほうがいいだろう。

何ら不正の無い、正規の方法で治療を受けられるのだから。

一気に間合いを詰め、紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)を起動させ――

 

BOOST!!

 

右拳を鳩尾に叩き込み、それで終わらせようと思ったんだが……

その一撃は、何故か外れてしまった。

どういうことだ? 確実に狙える位置だったはずだが……?

 

「す、すまない! 手元が……」

 

「……セージ先輩のせいじゃないです。身体が……勝手に……っ!

 くっ……うあっ……ああっ!?」

 

『何っ!? 気を付けろセージ、瞬発力が普通の「戦車」の比じゃないぞ!』

 

言うや否や、突如として塔城さんは俺に殴りかかってきた。

くっ、「戦車」の力でそれをやられると結構辛いものがあるんだがな!

しかし……さっきまで体調が悪そうにしていて

実際顔色も悪かったのに……どういうことだ?

おまけにフリッケンの言う通り、スピードも俺の記憶の塔城さんと一致しない。

まるで何か外から暴走させられているみたいに加速している感じだ。

こうなったら、何が起きているのか調べてみる必要がある!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

――塔城小猫。本名・白音。

  ……ってそういう情報じゃなくて!

 

やはりこういう欠点だけは改善されないみたいだ。

情報が開示されるまで、彼女の猛攻に耐える必要がありそうだ。

 

「ごほっ、げほっ……セージ先輩……避けて……ください……!!」

 

「――っ!!」

 

情報収集に気を取られて、重い一撃をまともに喰らってしまった。

ぐぐっ、想定外のダメージだ、これは……

それに、少しだけど足のしびれが残っている。

姫島先輩を担当した俺が受けたダメージが、まだ少し残っていたのか。

これなら、ディフェンダーを展開してからやるべきだった。抜かった……!

 

『セージ君! 何が起きているんだい!?』

 

「心配は無用! ただ戦うべき戦いをやっているに過ぎない!

 これは戦いで、俺とお前達は敵同士! 過度な馴れ合いは不要!

 ……心配は不要だ、こんなバカげたことに、塔城さんを付き合わせるつもりは無い!」

 

祐斗の声に、俺は気合いを入れて答える。

尤も、強がりも多分に含んでいるが。

だが、今ここにいて塔城さんを救えるであろうのは俺だけだ。

俺がやらずして、なんとするか!

 

BOOST!!

 

カードが実質使えないので、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)の力を使いながら塔城さんの状態を調べる。

プライベートな部分も含まれているだろうが、今はそんな事言っていられない!

とにかく、今どうなっているか、どうすれば元に戻せるかを調べなければ!

攻撃に耐えながら、「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」の情報解析は順調に進み――

 

「――来たっ!」

 

――姉・黒歌と同じく、彼女にも仙術の心得があるものの

生まれついての体質のため身体が弱く、仙術の使用は固く禁じられていた。

そう言った仙術使いが無理に仙術を使用すると、身体に大きな負担をかける上

気の発散がうまく行かず、体内に充満することがある。

その場合、感冒症に近い症状の他に体内に蓄えられた気によって

身体の制御が効かなくなり、暴走する症例が確認されている。

 

ビンゴだ! しかも無理に仙術をって……ま、まさか!

あの時のアインストを撃退した時の……

お、俺のせいか……俺のせいで彼女は……

ならば尚の事、俺が始末をつけねばなるまいよ!

で、症状を治療する方法は……

 

――体内に充満している気を発散させ、気の流れのコントロールを正常に戻すことで

症状は一時的に解決するが、仙術の使用によって体にかかった負荷が原因のため

再び仙術を使うようなことがあれば、症状は再発し

何度も繰り返し症状が発症した場合、最悪命にかかわる危険性がある。

 

気を発散させる……どうやれば……

 

『こういう時こそ俺の出番だろう、セージ』

 

――フリッケン? ……そうか、白龍皇(バニシング・ドラゴン)の力で気を半減させ続ければ!

 

『だが白龍皇の力は重ねがけがきかない。ここは一度半減させたところを

 戦闘を続けることで気を発散させ、コントロールを正常に戻すぞ!』

 

暴走している気を半減させるだけでも大きいだろう。

俺はわざと塔城さんの攻撃を受ける……ふりをして、右手を塔城さんに触れる。

 

DIVIDE!!

 

「くっ……うあっ……うくっ……!!」

 

うまく行ったか!? 半減させた余剰エネルギーが紫紅帝の龍魂から噴出する。

おそらく、うまく行ったのだろう。だが……

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

マズい! どうやら体力まで半減させてしまったみたいだ!

くっ、この力も制御が難しいな! だが、何とかしないと……

 

『いや。このままへばるまでやらせろ』

 

――は!? 何を言ってるんだフリッケン! 向こうは病人だぞ!?

  病人にへばるまでやらせたら、最悪……

 

『忘れたのか? あいつの症状は気の暴走によるものだ。

 つまり、本当に風邪をひいてるわけじゃない。これで大体わかったか?』

 

わかったっちゃわかったが……それでいいのか?

まあ、一旦気絶するまで暴れさせるって点では理に適ってるが……ならば!

 

SOLID-DEFENDER!!

 

ディフェンダーを実体化、光力を最小限に抑えて攻撃を凌ぐ盾にする。

本調子ではないとはいえ、戦車であることに変わりはない。

その威力はディフェンダー越しにも伝わってくる。

だが、これを何とかして耐えなければならない。

 

そして、事態はそれだけでは終わらなかった。

 

「がはっ!?」

 

殴られていないのにダメージ!? イッセーと戦っている俺のダメージか!

チッ、同時にイッセーの相手をしているようなものだからな、今は!

あの野郎、まさか「なんだっていい! セージを倒すチャンスだ!」とか考えてないだろうな。

実際そうだから困ったもんだが……くっ、このダメージだけはこっちから防ぎようがない。

とにかく、塔城さんの攻撃を凌ぐことに専念しよう。

 

「ぐあっ!?」

 

等と思っている矢先に、ディフェンダーを装備している右腕に激痛が走る。

やったのは多分イッセーだろう。思わず防御を解いてしまったが、それが意味するのは――

 

「……セージ先輩、避けて……!!」

 

――あ。これ直撃コースだ。このまま喰らえば――

 

しかしその時、不思議なことが起こった。

いや実際には不思議な事でも何でもないんだけど。こう表現するのが一番的確かと思った。

 

何せ、俺が俺を助けに来たんだから。

まあ分身を複数出している以上、そういう場面も往々にしてあり得るんだが。

ここに来た俺は、恐らく姫島先輩と戦っていた俺だろう。

 

「……えっ? セージ先輩……?」

 

「話は理解しているぞ、俺! ここでお前がやられたら、俺もやられるからな!」

 

塔城さんを取り押さえるべく、駆けつけてきた俺は(どうでもいいが、ややこしい)

背後から塔城さんを羽交い絞めにして身動きを封じる。

しかし、彼女の力も半減させたとは言えすさまじく、取り押さえるのがやっとだ。

せめて……せめてもう一人分の力があれば……!!

 

と思えば、やはり不思議なことは起こるもので。

次に来たのは……

 

「あと一押し……俺を呼んだか、俺!」

 

「何っ? と言う事は……祐斗はいいのか?」

 

「ここで彼女を失うわけにはいかないというわけで、限定的だがな。

 よし、一気に仕掛けるぞ!」

 

祐斗と対峙していた俺も駆けつけてきた。ややこしいが頼りになる。

羽交い絞めを解こうと暴れている塔城さんの足を引っかけ、転ばせる。

その隙をついて、参戦した二人の俺は紫紅帝の龍魂を発動させた。

 

DIVIDE!!

 

DIVIDE!!

 

そう。紫紅帝の龍魂の白龍皇の力は、1人が同一対象に重ねがけすることは出来ない。

しかし、分身で生まれた別個体による重ねがけは、それぞれが1回のみ可能だ。

これで3回分の半減、つまり暴走した気は8分の1になった。

それが効いたのか、塔城さんもかなりぐったりとした様子だ。

 

「うう……」

 

気と同時に体力も奪われたらしく、そのままうつ伏せに突っ伏してしまった。

どうやら、暴走は止まったようだが……

前例のない事なので、しばらく様子を見る。

 

そして、突如としてふらりと立ち上がったかと思ったら

物凄い勢いで突っ込んできた。ちらりと見えたその表情には

既に生気は無く、赤い目も虚ろだ。まさか、身体だけが暴走して動いているのか!?

 

突然のことに反応が遅れ、掴みかかられ押し倒される形になる。

しまった、マウントを取られたか!

これが1対1ならば絶望的だが、今の俺は――

 

「このっ、いい加減落ち着けっ!」

 

「意識はないはずなのに、なんて力だ……っ!!」

 

塔城さんはまるで気の立った猫のような唸り声をあげながら

引きはがそうとする俺に抵抗している。

これって、まさか……

 

ふと思い立った俺は、ある作戦を実行に移す。

 

「一旦離れろ! 一撃を入れさせる!」

 

「……なるほどな、よし、きちんと避けろよ!」

 

『おいセージ! そんな事をしたら……』

 

引きはがそうとしていた俺が離れたことで、一瞬塔城さんがバランスを崩すが

すぐにマウントを取り直し、俺の顔めがけて拳を振り下ろしてくる。

 

正直言って、かなり心臓に悪い。

こんなものが直撃したら、ただでは済まない。最悪、一撃で終わってしまう。

別段耐久力に優れているわけでもないし、今はマウントを取られている。

普通に考えれば、圧倒的不利だ。

何せリノリウムの床が粉々になる鉄拳だ。魔力で肉体がある程度強化されている

……はずの俺の身体でも、無事で済むかどうか。そもそも俺は霊体が実体化した姿。

その強化が適用されるのかどうかも疑わしい。

 

しかしそれらの懸念は、攻撃を受けた場合のものだ。

当たらなければどうと言う事はない。

そして、俺の狙いはこうして瓦礫を作ることで……

 

「よし、床が砕けた! 今だ!」

 

「応! モーフィング、『床石をマタタビに変える』!!」

 

猫をおとなしくさせるのには古今東西津々浦々、マタタビだ。

そりゃあ、効能には個体差はあれども全く効かない猫ってのも珍しい。

ただ、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で悪魔にされている以上

いくら塔城さんと言えどマタタビが効くかどうかってのは博打だ。

 

しかしその博打、どうやら勝てたようだ。

虚ろになっていた塔城さんの表情が、見る見るうちに変わっていく。

虚ろは虚ろだが、俺ではなくモーフィングで変化させたマタタビに興味が行っている。しめた。

 

BOOST!!

 

ある程度マタタビを堪能させた後、塔城さんの首に手刀を当て、今度こそ気絶させる。

少しばかりの時間が経過した辺りで、塔城さんの身体が光る。

何か変化を起こす……わけではなく、これは確か転送魔術の……

 

――リアス・グレモリー様の「戦車」、脱落。

 

……ほっ。これで塔城さんに関しては心配いらないだろう。

3人分の力を合わせれば、何とか解決できたか。

俺に付き合わせて、命の危険にさらすなんてことはあってはならない。

安堵して、3人そろってモーフィングが切れてボロボロになった床にへたり込む。

 

「……うまく行ったな」

 

「ああ。だが……」

 

――突如走る激痛。そう、まだイッセーやギャスパーとの戦いは終わっていない。

ここで戦力を遊ばせておくよりは、加勢に加わった方がいいかもしれない。

そう考え、新校舎を出ようとするが――

 

「おっと。悪いけど1人しか通せないね。サボりだと思われたくはないからね」

 

「それもそうか。ならば……」

 

ここは塔城さんと戦った俺が行こう。

姫島先輩と戦った俺はカードの残数で全力を出せない。

祐斗と戦う予定の俺は論外だ。総合的に見れば、戦力を削ることになるかもしれないが……

下手に戦力を小出しにして負けるよりはいいだろう。

仮にも赤龍帝が相手だ、下手な戦い方は出来ない。

 

「こんなことを言うのも変だけど、健闘を祈るよ」

 

「俺もお前との決闘は気がかりだったからな。

 ここで出来ることならつけたいものだ。だから……負けるつもりは無い」

 

こちらも消耗こそしているものの、着実に相手の戦力を削っている。

このまま押し切れるか、それとも。

だがいずれにしても、俺は負けるつもりも無ければ、負けるわけにもいかない。

俺の敗北は、俺の未来を閉ざすことになりかねない。

 

――リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」、1名脱落。

 

1人の俺が祐斗の脇を通り抜けたと同時に、アナウンスが流れる。

アーシアさん? いや、恐らくはギャスパーの方だろう。

7対6……実際にはほぼ7対1に近いが、それでも着実に戦力差は埋まりつつある。

いまや4対6。まあ実際には4対1だが。

 

「だろ? だから……そんな強くなった君と戦うのが楽しみだ」

 

「……フッ、ならば精々退屈だけはさせないようにしないとな……っ!」

 

俺は祐斗に不敵な笑みを向けるが、実はやせ我慢をしている。

……さっき、物凄い一撃を受けたのだ。

この状況に逆上したイッセーが、何かやらかしたのかもしれない。

祐斗も警戒すべきだが、今警戒すべきはイッセーか。

 

……やはり、リアス・グレモリーを除けば最大の壁となるのはあいつか。

思えば妙な因縁がある。クラスメートであり、元浜を通じて知り合った友人であり。

そして身体を失った俺の憑依先であったり、同じ神器や駒を共有したり。

 

しかし、目指す方向はまるで違っていた。

そんな二人三脚が、まともに走れるはずがない。

二人三脚の紐を切るのはルール違反だろうか。

だが、俺の目的はいわばそれだ。

イッセー。お前の足にある二人三脚の紐。お前はどうしたいんだ?

お前が目指す方向は知っている。だが、今のままでは永遠にたどり着けんぞ。

 

兵藤一誠。お前は友であると同時に、俺にとって最大の壁となるやもしれん――

いや、既に壁たりうるか。ならば、悪いが――

 

――今は、壁を打ち砕き進むのみ!




もうちょっと暴走してる感を出したかったけれども……

Q:小猫の眼って琥珀(金)色じゃなかったっけ? 暴走の影響?
A:設定改変の影響で拙作では赤眼になってます。つまり元々赤。
 色白もアルビノ由来でそのために身体が弱いので……って事になってますので赤目。

Q:で、結局どうしてマタタビが効いたの?
A:悪魔の駒の影響力が強いと猫魈としての性質よりも
 悪魔としての性質の方が強く出ますが、今回は暴走で猫魈としての性質が
 強く出ていた形となり、マタタビが効きました。
 いきなりマウント取ってますが発情期じゃありません。

 え? 原作じゃ普通に動物系妖怪特有の発情期来てる?
 ……ドラゴンパワーに中てられたんでしょ(鼻ほじ
 マウント取ったのはフルボッコにするためであって(返り討ちに遭ったけど)
 発情期は関係ありません(大事なことなので

サブタイがディケイドカブトの世界だったり
思いっきりてつを発動させていたり
負けても一応話が進むようにプランは立ててますが
原作イッセーばりの主人公補正発揮してます、今回のセージ。
ふと思ったのですがドラゴンパワーで異性が寄ってくるって
ある意味とんでもないドラゴンへの風評被害ですよね。
当人にその意図が無くともスケコマシ扱いされるわけですから。

なおフリッケンは「二天龍の力の制御のためにドラゴンの姿を借りている」
だけなのでそういった効能は一切ない模様。セージェ……
……まあそれ以前に拙作の龍のオーラに
そんなフェロモン的要素は一切ないんですがね。イッセーェ……

当初の予定ではリーチの差を利用した小猫のぐるぐるパンチ(なお当たらない模様)が
炸裂する予定だったのですが気づけば馬乗りに……

裏でギャスパーがやられた現状、もうまじめに仕事してる眷属が
イッセーしかいないという有様。リアスの明日はどっちだ。

なお次回はこの少し前の時系列から始まります。


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Soul62. その邪眼に彼は映らず

前回イベントは涙をのみましたが今回こそは。
……でも最近の深海組の平和満喫感はなんなのだろう。
いや敵意むき出しもそれはそれで……だけど
牛丼の時のほっぽとか戦えるわけないだろアレ。

……てっきり某邪神さんみたく負念系の存在だと思ってたけど
あれを見た後じゃ……

で。
ちょっとだけ遡ってギャスパー・イッセー戦です。

今ふと思ったのですがこれ実は圧倒的にセージが優位ではなかろうかと。
なにせ一人情報収集に専念しているのが潜んでいて
その情報を共有しているのだから、戦場の流れを掌握しているも同然なんですよね。

オリ主無双が好きではない方には申し訳ないのですが
気がついたらこういう流れになってしまったので……

まあ分身禁止とかやられてたら超がつく無理ゲーになっていたかもしれないので
分身を許可したサーゼクスの落ち度もあるかもしれませんがそれにしたって。


間もなく100話。
記念に何かやろうとは思ってますが案が浮かびません。
何かリクエストございましたら活動報告コメントレスかメッセージにて。
コメントする箇所はどの記事でも構いません。
感想掲示板には「リクエストは」書かないでください。
感想はいつも通りお待ちしております。

(特に期限は設けてませんが出来る事と出来ない事があるのだけは
ご留意くださいませ。要はリクエスト書いたからってやるとは決まってない。
そう言う事です。なるべく形にはしますが)

※追記。
活動記録に具体例載せておきました。
興味のある方はご覧くださいませ。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

レーティングゲームの最中、塔城さんが突如として暴走を始めてしまう。

他の場所で行われている戦闘の影響を受けながらも

何とか彼女を鎮めることに成功した。

 

今から語るのは、その少し前の話――

 

――ゲーム終了まで、あと25分――

 

ステルス爆撃から幕を開けたこの戦いは、今のところ順調に進んでいる。

運動場から一気にこちらの拠点を目指していたイッセーとギャスパーも、爆撃を前に

進路を変えざるを得ない状態に追い込まれていた。

 

「あの野郎、一体どこから……きちんと正々堂々戦えってんだ」

 

今に始まったことでは無いがこいつ――兵藤一誠はバカだ。戦争に綺麗も汚いも無い。

いやむしろ戦争ってのは汚いものだ。狡猾なものこそが生き残り

誇り高き武人はその屍を無残にさらす。そうして腐った世の中が完成する。

 

……だから戦争は嫌いなんだよ。こんな戦争紛いのゲームも好きじゃない。

これはただ、交渉手段として一番的確だから選んだに過ぎない。

勝負結果はともかく、精神としては接待のそれだ。

口では和平を掲げながらも、精神はまだ戦争の時代を引きずっているんじゃないか。

市井の悪魔はともかく、政治にかかわっている悪魔は俺にはそう見える。

それなのに和平などと、どの口が言うというのだ。

 

だから、こんなくだらない戦いはさっさと終わらせたい。

そして、俺に打ち付けられた楔を解き放つ手掛かりを、一刻も早く見つけ出したい。

そのためには――

 

「何処へ行くつもりだ。兵藤一誠、ギャスパー・ヴラディ」

 

「なっ……セージ!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」

 

運動場の隅。木の植えられたそこは、確かに爆撃から逃げるには適しているのだろう。

だが、だからこそこちらにはその動きは筒抜けだった。

先回りすることなど、造作もないのだ。

 

『相棒! あのドラゴンの力、あの時のが全てじゃないだろう。油断するなよ!』

 

「分かってるよドライグ。やいセージ! 今日と言う今日こそは許さねぇからな!

 てめぇは一体何回部長を泣かせば気が済むんだ!!」

 

「今までに食った米粒の数位どうでもいい回数だな。パンの枚数でも構わないが。

 まあ、リアス・グレモリーに同情こそすれ恩義は救急車位しか感じてないな。

 それにその救急車だって、言っちゃなんだが一般市民として当たり前の行いだろうが。

 逆に聞くが、お前は血を流して倒れている行き倒れを見て素知らぬふりをするのか?」

 

そしてバカここに極まれり。こんな単純な挑発にもホイホイ乗っかってくれるのだ。

逆上して殴りかかってくるが、動きは丸見えだわ連れているギャスパーとの連携は取れてないわ

こっちの手札をきちんと調べずに突っ込んでくるわ……

迎え撃つ俺の方が頭が痛いって、どういうことだよ。

忘れたのか? 俺はこういう芝居がかった言い回しをすることがあるって。

フリードからアーシアさんを逃がした時にもやったつもりなんだがな。

 

……通じていなかったのかもしれないが、それはそれで。

頭痛の種を取り除くべく、俺はまず一撃を加える。

 

「げぼっ!?」

 

「い、イッセー先輩!?」

 

「難儀だなドライグ。だがお前にも借りがあるからな……ちょうどいい。

 いつぞやの腕やら何やらの借り……今日ここできっちり返させてもらう!

 フリッケン! 分身は出せないが思いっきり行くぞ!」

 

『ああ、大体わかった。そこのロートルに俺の力を見せてやるんだろ』

 

『相棒も大概だが貴様も不遜だな、霊魂の!

 この赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の力、知らぬわけではあるまい!』

 

完全にイッセーも、ギャスパーも蚊帳の外だ。

いや、イッセーは巻き込まれていると言っていいだろう。フリッケンの挑発に

ドライグが乗る形になり、半ば強制的に禁手(バランスブレイカー)が発動しているのだ。

 

WELSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

7乗の力か。赤龍帝の力は倍加なのだが、放置しておくと3倍、4倍どころか

累乗で力が増していくため、気がついたら天文学的数値になっているなんてことがあり得る。

まぁ、イッセーの側が持たないだろうからそんな事はまず無いだろうが。

そして、通常は10秒ごとに累乗されるのだが禁手では一瞬で増強される。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DOUBLE-DRAW!!

 

RUIN MAGIC-DEFENDER!!

 

SOLID-COUNTER SHIELD!!

 

だが、イッセーの攻撃方法はドラゴンショットを除けば基本徒手空拳か

俺から盗んだディフェンダーだ。

俺が女性だったらば、「洋服崩壊(ドレスブレイク)」だのセクハラじみた手を使ってくるんだろうが……

世の中はそう都合よく自分のために回らない。イッセー。お前はそれをよく覚えておくべきだ。

 

そして、俺が今実体化させたのはその徒手空拳に対するカウンターだ。

今まで使いどころが全然わからなかった滅びの力。

いっそ、ディフェンダーの光力の代わりに纏わせてはどうかと判断したのだ。

光力は光力で悪魔特攻が効いているんだが……

イッセーは、特に赤龍帝の力を発現させているときはドラゴンとしての性質も強く出るらしく

光力の効きが悪くなる。だから、いっそ光力でのカウンターは取りやめることにしたのだ。

そして光力の代わりとして白羽の矢が立ったのは滅びの力。

雷撃を纏わせて痺れさせる、ってのもあったが……それはプラズマフィストと変わらない。

相手の攻撃を受けると同時に、滅びの力に触れさせる。

少なくともグレモリー部長の滅びの魔力は、命中率がてんでダメダメだ。

今の俺ならば、加速抜きでも避けられそうなくらいだ。

 

で、そんな攻撃を当てるにはどうするか。

相手の動きを封じるか、相手の攻撃に合わせて避けられないタイミングで叩き込むか、だ。

防御と同時に叩き込めば、避けられまい。少なくとも奴は左手を主な攻撃の手段にしている。

禁手化した今はその限りでもないが、左手が別の部位に変わるだけだ。

攻撃を仕掛ければ、その部位を滅びの魔力が浸食する。そうなればこちらのものだ。

 

「また妙なものを……ならこっちもだ!」

 

DEFENDER!!

 

このディフェンダー、主な用途は盾なのだが、剣を変形させたものなので縁には刃がついているし

下部には攻撃に転用できる程度の長さの刃がついている。

恐らく、それを使うつもりなんだろうが……

勿論、今俺が展開しているディフェンダーは、相手が何であれ浸食、滅ぼせる力が備わっている。

と言うか……こっちはある意味兵装付きとはいえ盾展開しているのに

なんで打突にも転用できるとはいえ盾出してるんだ、こいつは。

盾で盾を攻略する……フリッケン。そういう攻略ってありなのか?

 

『俺に聞くな。防御に対して防御を選ぶって下手しなくても千日手だろ』

 

……サシの勝負なら、千日手で時間経過で俺の勝ちと言うアホみたいな結末になるんだが。

今アイツの背後にはギャスパーがいるはずだ。だが、そっちにも俺が向かっている。

2対2、これが今の状態だ。

 

――――

 

睨みあっている俺とイッセーの物陰から、ギャスパーが様子を見ている。

恐らく、隙を見て俺の時間を止めるつもりだろう。

止めたところに最大出力のドラゴンショットを叩き込むとか、そういう戦法なのだろうな。

 

……バレバレなんですけど。長所を生かすと言う事は、それだけ手を読まれやすいと言う事だ。

で、睨みあってないほうの俺は何をしているのかと言うと。

 

右手にはさっき実体化させたスナイパーライフル。

RADARとGUNのダブルドローで実体化できた。これをうまく使い、一撃必殺を試みる。

込めている弾丸はただの祓魔弾ではなく、銀だ。

実体化させた銃の弾をすべて銀でコーティングした。

後はこいつで頭を狙う。目でもいい。まぁ、目は相手の自滅を狙う意味では

あまり狙うのは適切じゃないかもしれないが。

とにかく、こんなものを使っている手前のこのこ前衛に出るわけにはいかない。

ギャスパーを狙撃できる位置に陣取って身を潜めているのだ。

 

――今のところバレてないぞ。だが、向こうも動いていない。

 

情報収集をしている俺からの通信。やれやれ、とんだ一人芝居だ。

自分で選んだ道とは言え……心なしか、心に隙間風を感じる。

祐斗や塔城さんの心遣いはありがたいし、リーはともかくバオクゥは信頼に値する。

それに、俺の帰りを待っている人もいるんだ。一人じゃない。のはわかってるんだが……

 

「ギャスパー、タイミングを見てセージに神器(セイクリッド・ギア)を使うんだ。

 これだけ倍加すれば、俺の方は引っ掛からないはずだ。俺が視界に入っても気にするな。

 大丈夫だ、俺とお前は仲間なんだ、仲間は信じるもんだぜ」

 

「……はい!」

 

これ見よがしに向こうは向こうで三文芝居か。

今このタイミングで狙撃しようかと一瞬だけ思った。

とは言え危険度ではイッセーが段ちだ。能力こそ厄介だが、それ以外の要素を見ると

はっきり言ってギャスパーは雑魚だ。下手すればアインストにも劣りかねない。

いや、この間アインストから逃がしたのはそういうわけではないのだが。

仲間……仲間ねぇ。俺は最近、その言葉の意味についてちょっと色々考えたくなってきたよ。

まかり間違っても「自分の思い通りに動く存在」では無かろう。

そういう意味では、まだ俺にとってオカ研は仲間なのだろうな。皮肉なもんだけど。

 

……では、俺にとってオカ研が仲間でなくなるのはいつなんだ?

俺がはぐれ悪魔にされたその瞬間か? それとも、俺がオカ研を抜ける……

すなわち、身体を取り戻す――最終的には人間に戻れた時か?

もしそうならば、俺はオカ研の仲間から抜け出したくて足掻いていることになる……。

俺自身にそんなつもりは無いのだが、グレモリー部長やイッセーはそう思っているのか?

もしそうならば……本当に、これら一連の行動は一体何のために……

 

……いや、今は戦いの最中だぞ、俺!

恐れるな、迷うな、躊躇うな!

俺が討つべきはギャスパー・ヴラディ!

兵藤一誠は、今向こうで対峙している俺が受け持つのだろう。

緊迫した空気が流れ、互いに一歩も動かない。

その手には互いにディフェンダーが装備されている。

イッセーのは光力を備えた元来の

(という言い方も成り立ちを考慮するとおかしいのだが)ディフェンダー。

俺のは光力ではない、黒いオーラを漂わせたどこか禍々しさを感じさせるディフェンダー。

 

いつまでも続く睨みあい、それは何の前触れも無く終わる。

突如として、イッセーが俺めがけて突っ込んできたのだ。

 

――――

 

「うおおおおおっ!!」

 

「ぐああああああっ!!」

 

ディフェンダーでガードしたものの、7乗の力を受けてはいくら何でも耐えられない。

実際、ディフェンダーにはヒビが入ってしまい、今後使い物になるかどうかは怪しい。

……あるいは、別の問題か。なまじ滅びの力なんぞ纏わせたものだから

耐久力が落ちていた可能性もある。

ものすごい勢いで吹っ飛ばされるが、何とか校門を蹴り返して反撃に転じることは出来た。

だが、校門は既にひしゃげている。

もう同じ手は使えない、と言うか使う場面に持ち込ませたらいけない。

 

「――だああああああっ!!」

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

突撃の最中にプラズマフィストを実体化。

ギリギリ殴る寸前に実体化と発動が間に合った、が。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

プラズマフィストを乗せたパンチはディフェンダーに阻まれ、決定打にはならなかった。

唯一、放電が有効打になったくらいか。

しかもそれも、一撃で保有電力の全部を使い切ってしまったため

結局、一撃ぽっきりの反撃に終わってしまった。

 

「――チッ。一気に決めたかったが」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ……くぅー、痺れる……けどまだ終わりじゃないぜ」

 

今の一撃で倍加が切れたのだろう、威力や瞬発力が目に見えて落ちている。

が、だからって油断のできるレベルではない。それにそっちが使えなくとも……っ!?

 

突如、俺の身体に謎の痛みが走る。

くっ、どこかで……おそらくは塔城さんか。彼女との戦いのダメージか!

 

――大変なことになった! 塔城さんが暴走を始めた!

  今は現場近くの俺が何とか抑えているが、かなり激しい戦闘になっている!

  影響は免れん、気を付けろ!

 

気を付けろって言ったってな、俺よ……

目の前の相手は本気でこっちを潰すつもりみたいだ。

全く、仲間がえらい事になってるっていうのに。

 

「……っ、イッセー。信じる信じないは勝手だが、今塔城さんがえらい事になっている。

 知っての通り、俺は1人でお前達全員を相手にしている。

 塔城さんの現状は、命にかかわる状態らしい。ここは一つ……」

 

「はっ、不利になったからってそんな口から出任せを信じられるものかよ!

 なんだっていい、お前を倒すチャンスなんだからな!」

 

ああそうかい! 仲間意識はある奴だと思っていたが

まさかここで俺を倒すことを優先するとはね!

それもある意味では立派な戦術さ。けれど……それはむしろ俺の考えそうなことだろうが!

お前は仲間思いな所が美徳だと思っていたんだがな!

目の前のことに囚われて、大局が見えないって欠点も、そういえば持っていたな!

だったらこっちも……!

 

BOOST!!

 

「忘れたかイッセー、ドライグ! 俺にだって赤龍帝の力はあるのだと言う事を!

 こっちは塔城さんの救助もやりつつお前の相手か、忙しい事この上ないな!」

 

「ぐあっ!? く、くそってめぇ……!!

 一人芝居に小猫ちゃんを巻き込んでるんじゃねぇよ!!」

 

仕返しとばかりに、俺は一気に距離を詰め、アッパーで打ち上げた後に

イッセーの背中めがけて踵落としを叩き込む。そしてそのまま地面に落ちたイッセーめがけて

ニードロップ。こいつも命中したが、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に阻まれてあまりいい感触はない。

その証拠に、憎まれ口をたたく気力がまだ残っていやがる。

うるさい。一人芝居は気にしてるんだ。嫌味は俺の専売特許だろうが、お前が言い出したら

本当にお前の長所が無くなるぞ。

 

『フン、霊魂の。何が赤龍帝だ! その赤龍帝、本物はここにあり!

 たった一度しかかからぬ倍加など、偽者の証ではないか!』

 

「……かつての『龍帝の義肢(イミテーション・ギア)』ならばその指摘もむべなるかな、ってところだったろうが。

 今の俺にあるのは『紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)』だ! 偽者呼ばわりされる覚えはない!!」

 

ドライグの言葉に、俺は今までの仕返しの意味も込めて啖呵を切り返す。

そもそも、俺は赤龍帝の力などほしくはない。

原子力でさえ平和利用にデリケートになっているというのに

こんな戦いのためだけの力など、一体何の役に立つっていうんだ!

要らないんだよ、人殺しのためだけの力なんて!!

だから俺は、フリッケンを人殺しの道具にするつもりは無い。

それはイッセーも同じなのだろうと信じたいが、奴にその覚悟があるかどうかと言うと……だ。

これは、俺も人の事は言えないかもしれないけどな。

 

『セージ。俺は昔「悪魔」だの「世界の破壊者」だの言われたことがある。

 今更人殺し呼ばわりされても気にするものか。お前の思うが儘に俺の力を使え。

 ……白金龍(プラチナム・ドラゴン)との約束はそうなっているし、それが俺のこの世界での役目だと思っている』

 

「……ありがとう。そう言う事なら、これからも遠慮なく使わせてもらう」

 

『ああ。ならまず手始めに、あのロートルにもう一発ぶち込んで、黙らせてやれ!』

 

応!

……って、なんかこれじゃ俺が使役されてる側のような気がしないでもない。

まぁ、深く考えるのはよそう。しかし……もう一発ぶち込むと言ってもだ。

ディフェンダーは壊れたし、プラズマフィストは使ってしまった。効率のいい攻撃が

相手の攻撃を誘うカウンターと言うのがもどかしいが……一番強いのがそれだから仕方がないか。

 

『まだ言うか若造が! 相棒、あの悪趣味なドラゴンを完膚なきまでに消し飛ばしてやるぞ!!』

 

「ああ! セージにも自分の立場って奴を分からせてやる!

 俺は……俺は部長の剣なんだ、あの焼き鳥野郎が言ってたことを肯定するのは癪だけど

 セージのせいで部長が泣いてた、セージを潰すにはそれだけで十分すぎる理由になる!!」

 

BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!! BOOST!!

 

「フン、ならば平行線だな。お前は延々と続く線路の上を歩いてろ。青春っぽくていいじゃないか。

 だが俺は帰らせてもらう! 友が、家族が、想い人が待っている世界に俺は帰る!

 その為にここまで来たんだ、たとえ誰であってもその邪魔はさせない!!」

 

さっきから勝手なことを……って、10乗とは大きく出たな……

1024倍の倍加に耐え得るとは、腐っても神滅具(ロンギヌス)か。

……いや、待てよ? もしかすると倍加に回したエネルギーのうち

幾らかは自壊防止に回している可能性がある。

そう考えれば約1000倍と仮定して……それでも1000倍か。

だが、これはチャンスかもしれない。

相手が倍加を強くすればするほど、こっちには反撃のチャンスが生まれる。

それこそが……

 

……ああ、そうだとも。失敗は許されない。

敗北は、俺の未来が永遠に失われることと同意義だ。

イッセーは自分と同じ立場になる程度にしか考えていないのかもしれない。

だが、祐斗や塔城さんのためにも負けられない。

これは俺のためだが、彼らの期待に応えるためでもあるのだ。そのためにも……

 

――気を付けろ! 次にあいつが動くぞ!

  力の流れから見て、あの神器を使う可能性が高い!

 

情報収集の俺の声に耳を傾けながら、イッセーに身体を向けなおす。

ちょうど、奴を睨みつけるような形に。

 

『セージ! これはチャンスだ、あのロートルの力を奪うぞ!』

 

「ああ、これは失敗は効かないからな……!」

 

そう、ここで攻撃が来ると踏んで身構えていたのだが、来たのは――

 

「ギャスパー、今だ!!」

 

上空に飛んだイッセーの合図で、俺の目線のまっすぐ前に女装癖のハーフヴァンパイアがいた。

……っ、やはり突っ込むべきだったか。だが!!

 

――「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)

 

視界に入ったものの時間を止めてしまう神器。これの制御がうまく行かなかったが故に

彼は幽閉されていた。そこを反逆的な俺を幽閉するために強引に外に出したそうだが。

最近は力の制御がうまく行っているらしい。それ自体は悪いことでは無い。

イッセーの功績なのだそうだ。よかったな、イッセー。

 

……そして悪かったな二人とも。その努力を全て水泡に帰す真似をするようで。

お前たちの日頃の努力を無に帰すようで非常に心苦しいんだが……

と、そんな殊勝なことを思っている割には今鏡で自分の顔を見たとしたら

すっごくいい笑顔をしているんじゃなかろうか。

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

ギャスパーの姿を確認したと同時に俺は姿を消した。

間一髪、俺が姿を消す方が早くて助かった。

イッセーは普通に動いている。恐らく倍加のお陰で停止しきれないのだろう。

いずれにせよ、奴の神器は不発に終わっている。

 

「え、ええええええっ!? せ、セージさんがきえてるぅぅぅぅぅ!?」

 

「……しまった! ギャスパーの神器は『見えるもの』の時間を止めるから……

 セージの奴、霊体化以外でも姿を消せたのかよ!?」

 

ああ、そういえばこのカード記録した時お前いなかったっけ。

まあそういうわけだから……次はこちらから行こうか。

 

――リアス・グレモリー様の「戦車(ルーク)」、脱落。

 

おあつらえ向きに塔城さんを沈黙させたアナウンスも流れる。

ゴングにはちょうどいい! さあて、反撃開始だ!

手始めにギャスパーから始末してやる、覚悟しろ!

 

――とは言え、やるのは「俺」だけどな。

 

――――

 

狼狽えるギャスパー。神器を切るのも忘れてあちこち見まわしているものだから

周囲のものが無差別に時間が止まっている。

とは言え、小動物やら何やらがいるわけでも無いので

吹いている風で揺れる木が止まったりとか、その程度だが。

 

MEMORIZE!!

 

うん? 記録したって事は……つまり……

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

視界に入る前に、俺もカードで姿を消し、先ほど記録したカードを確認する。

やはり。「TIME」、恐らくは時間を止める効力があるのだろう。

どこまで再現できるかわからないが。

しかしさっきからあいつはうるさい。

今は姿を消しているから影響は無いが、早いところ神器を止める方がいいだろう。

まあ、リタイアさせてしまえば楽か。

 

「お、おい! ギャスパー、落ち着け!」

 

「お、落ち着いてなんていられませんよぉぉぉぉぉ!! どこから来るのかわから――」

 

試し撃ちもかねて、俺は早速カードを使ってみる。

安全に相手を撃ち抜くのにも、もしかしたら使えるかもしれない。

もしダメだとしても……まぁ、悪いようにはならないだろう。多分。

 

EFFECT-TIME!!

 

周囲が光に包まれ、若干ホワイトアウトしたような光景になる。

いつぞや時間を止められたときの、色を失う光景とはまた違う。

その証拠に、ごくごく僅かだが二人は動いている。

物凄いスローモーションだが。

 

これは……そうか、そう言う事か。

完全な静止は出来なかったが、今俺は相対的に超スピードで動ける、ってわけか。

それならば。

 

早速俺はライフルを構え、レーザーサイトでギャスパーの瞼を照らし、引鉄を引く。

その直後、銀の銃弾がゆっくりと銃口から飛び出し、空中をゆっくりと進んでいく。

そしてもう一発、もう片方の瞼にも同様に銃を向ける。

 

その直後、周囲の光景が元に戻り、動く速さも同様に元に戻る。

即ち、銀の銃弾は真っ直ぐギャスパーに向かっている。

だが、突然の攻撃に反応できるほど彼らも反射神経に優れているわけでも無い。

まして、いくら時間が止められるとは言えその身体能力は普通の(?)ハーフヴァンパイアなのだ。

さっきまで時間を静止させるのではなく、させられていては猶更だ。

 

「あ、あああああああっ!! 目が、目があああああああああっ!!」

 

銀の銃弾が、ギャスパーの目を撃ち抜く。瞳ではなく瞼を狙ったのはせめてもの情けだ。

両目共に撃ち抜き、もう彼は目を開けていられない。

 

「ギャスパー!? くっ、セージ! いつの間に!? 卑怯だぞ!!」

 

何とでも言えよ。これは戦争なんだろ? 戦争は卑怯こそ華じゃないのか。

それに、俺が被害の拡大を抑えたつもりなんだが。恩着せがましくするつもりも無いが

非難するのはお門違い甚だしくないか?

そもそも、敵を無力化するのは戦いにおいて当たり前のことだと思うんだが。

そして自分の身を護るのも。つまり、今俺はかなり合理的なことをしているに過ぎない。

何故誹りを受けねばならんのだ? 全くこいつの言う事はわからない。

 

さて。放置しておくのも気が引けるので、今度は引導を渡すべく引鉄を引く。

赤い光がギャスパーの額を照らし、放たれた3発目の銃弾がギャスパーの額を撃ち抜く。

彼の顔に3本の赤いラインが彩られたとき、光と共に彼の姿は掻き消える。

 

――リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」、1名リタイア。

 

止まった時間は動き出し、INVISIBLEのカードも効果を失う。

やはりそう長時間使えるカードじゃないみたいだ。

爆撃の時も、そういえばかなりギリギリだった。

しかしそれは、今回はあまりよくないタイミングだったことを、すぐに思い知ることになる。




破竹の勢い、と言っていいものかどうか。
見方を変えれば無双なんだろうけれど、全くそう見えない。
やっぱ分身無かったら無理ゲーですわ、これ。

>停止世界の邪眼
時間操作系への対抗策はロマン。
違う能力で封殺するのはもう脳汁出まくります。
クロックアップをペガサスフォームや全方位エレクトロファイヤーで反撃するとか。
昔見たとある動画だと
時間停止→フラッシュで目つぶし→時間停止してるので視界ホワイトアウトしたまま
と言うカウンターもあって目からうろこが落ちましたね。

今回は割と正攻法。正攻法にして4巻部分で諸事情で回収できなかった
3巻部分で入手したINVISIBLEカードのフラグをようやく回収。
「視界に映った相手」が対象なのだから「見えない相手」は
通常時では対象外と読めましたので、拙作ではこういう形になりました。
暴走したら所かまわず死角の相手も止めてたけど……
で、後は目つぶしで完封。思いっきり目や頭狙ってるけど治るんじゃないんですかね。
またギャスパーのセージに対する好感度が下がりましたが
まあ、イッセーいるから大丈夫でしょ(適当
寧ろセージがギャスパーに恨みでもあるんじゃないかってレベルなので(無いけど)
ちょっと……かもしれません。彼別に悪い事してない……はずなのに。

>セージ
いよいよ時間静止能力を会得しました。
まあギャスパー登場した時点で会得条件満たしたようなもんですけど。
クロックアップ、アクセルフォーム、重加速等々。
既に透明化もあるのでディケイド激情態の「クロックアップ+インビジブル」って
凶悪コンボが既に可能だったり、と言うかやってます。
組み合わせ次第でハイパークロックアップは……どうなんでしょう。
レーティングゲームでの禁止令出そうですが。

>イッセー
今回とうとう仲間思いって点までスポイルされかかるという悲劇が。
ギャスパーに対しても持ってますし、小猫にも当然仲間意識があるのですが
セージの警告にまるで耳を貸さない有様。小猫がどうなっていたのかは前話参照。
この件は「日頃の行いが行いだから信用されなくても仕方ない」と思うのと同時に
「仲間の危機を警告しているのに俺への攻撃を優先とはらしくない」
と思ってます。>セージ
発想がだんだん悪魔じみてきてると言うか、セージ憑依の影響か
セージみたいな発想を時折するようになったことの証左。>イッセー
それでいて本質は変わらないからイッセーマジ女の敵。


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Soul63. 「赤」と「紅」、そして「紅紫」

えー。

この度100話を迎えさせていただきました。
本当にありがとうございます。

進行が遅いというのもあるかもしれませんが(現在原作5巻冒頭の時系列)
これからもよろしくお願いいたします。


それから……

 番 外 編 も ヨ ロ シ ク !

……って、これはマズかったかなぁ……

以下余談

前回の事と前情報と平坦レベリングから乙で進めてますが……

あまりにもドロップがしょぼい。

秋津洲、伊26いずれもE1堀してますが影も形もございませぬ。
やっぱ甲で……いやいや期間的に甲は辛いし
もう乙突破しちゃったからどうしようもない。

……Sは余裕なんですけどねぇ。
あ、因みに今E3丙です。今度はいけるかなぁ……無理かなぁ……

以上余談


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

戦いは着実にこちらのペースで進んでいる。

既に姫島先輩、塔城さん、ギャスパーの3人を下した。

 

残るは4人、頭数の上では俺が勝っているが、果たしてどうなる?

 

――ゲーム終了まで、あと20分――

 

――リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」、1名リタイア。

 

そのアナウンスと同時に、俺の身体は宙に舞った。

逆上したイッセーが、猛攻を仕掛けてきたのだ。

反応しきれなかったので、受け身も取れなければ吸収半減も出来ていない。

 

最悪だ。直撃を喰らった。

 

しかも止めとばかりにドラゴンショットの狙いをつけているではないか。

よもやこれまでか?

いや、そんなことがあるはずが無かろう。あってたまるか。

 

EFFECT-HEALING!!

 

すぐさま受けたダメージを回復し、回避態勢をとる。

痛みで気を失いそうだったが、ここで気絶したら何もかもが終わりだ。

それだけは何としても避けなければならない。

 

「ドラゴン……ショットォォォォォォォォッ!!」

 

案の定、ドラゴンショットが飛んできた。

回復していなければ、回避し損ねていただろう。

と言うか、回避態勢を取ったのに掠めている。

掠めただけで肌が焼ける感触を受ける。直撃なんか喰らったら……想像したくない。

 

だが、ここで大技が来たと言う事は、だ。

 

「あ、あんにゃろう……アーシアのありがたみさえも……ぜぇっ、ぜぇっ……」

 

やはり。息が上がっている。畳みかけるなら今だが……

ドライグの入れ知恵か。余剰エネルギーをバリア代わりにしてやがるな。

肩で息をしているイッセーの周囲に、赤いオーラが弾けている。

下手に攻撃を仕掛ければ、オーラによる反撃を受けるだろう。

 

ではどう仕掛ける? 答えは……

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-GUN!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

さっき姫島先輩との戦いで会得したカードだ。

これを使い、遠距離から攻撃を仕掛ける。

INVISIBLEは既に撃ったため、もう札切れだ。

こいつで牽制しながら、後は……

 

――ああ。「ギャスパーを仕留めた俺」に援護射撃をさせて

  「今こっちに向かっている俺」と連携して攻撃する。

 

流石は俺、と虚しい自画自賛をする。

ギャスパーを倒した俺に、弾を再モーフィングしてもらい狙撃してもらう。

銀玉はヴァンパイアの性質を持ったギャスパーには有効でも

イッセーにはまるで効果が無い。龍の牙みたいなものがあればいいんだが

いくら俺でも、未知の物質にモーフィングさせるのは難しい。

ならば、劣化ウラン弾……はさすがにやめておこう。後遺症レベルの話じゃない。

徹甲弾あたりなら、何とかモーフィング出来るかもしれない。

特効材質も調べれば作れる……か? わからないが。

 

――よし、ならば材質検索は俺と狙撃担当で引き受けた。

  お前たち2人でイッセーを牽制してくれ。

 

その言葉を合図に、俺は触手砲を展開、長距離からのイッセーへの射撃を試みる。

攻撃自体はオーラに阻まれているせいか、あまり効果が無い。ならば……

 

「ぐあっ!? くっ、こいつら……このむかつく攻め方はセージらしいな!」

 

『気を付けろ相棒、この触手ども、こっちの関節や鎧の隙間を狙っているぞ!』

 

距離を取っている分、狙いをつけるのに集中するのは容易い。

相手を引き付けるには、攻撃に脅威性が無ければだめだ。

無駄な攻撃を繰り返しても、それは相手に反撃のチャンスを与えてしまう。

この触手砲、威力がべらぼうに高いわけではない。寧ろ低い部類……と言うか普通だ。

イッセーやグレモリー部長の火力がアホみたいに高いので相対的に低く見えるだけ……

だと、思いたい。どうでもいいけど。

 

で、そんな武器でどう攻撃するか。答えは簡単。急所を狙い撃つ。

射撃デバイスの遠隔操作を行っているため、急所を狙い撃つのは簡単だ。

操作にさえ集中できれば。

そして、この射撃デバイス――触手砲のもう一つの利点がある。それは――

 

『相棒! こいつらをいちいち相手にしても仕方がないぞ!』

 

「わーってるよ! けどよ、こうもねちねち攻められたら……」

 

目に見える攻撃対象と言う事で、完全に気を引くことに成功している。

勿論、ここに至るまでに数本潰されてはいるのだが。

幸いなことに、生成は元来のFEELERと同じ――すなわち、複数出せる。

なのである程度は潰されても替えが効くのだ。しかも小出しにしても

攻撃は360度どの方位からも可能なので、寧ろ大量に出す必要が無い。

 

向こうが本体の俺を攻撃しようにも、距離がありすぎる。

ドラゴンショットも、さっき使ったおかげで再チャージにはしばらくかかりそうだ。

 

「くそっ、こうなったら!」

 

GUN!!

 

おっと。などとたかをくくっていたら攻撃が届かないと見て

本体の俺を飛び道具で狙ってきたか。

だがイッセー。お前、射撃は得意だったか?

俺の記憶では苦手だったはずだが、四の五の言っていられなくなったか?

まあ、そうにしてもだ。

 

――攻撃なんかする暇があるのか?

 

「ぐああああっ!」

 

『相棒! ちっ、このままじゃまずいな……』

 

攻撃のために狙いを済ませたのが仇となり、こっちの攻撃に対して

イッセーは無防備な姿をさらけ出していたのだ。

例え赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を纏っていようとも、鎧の隙間や関節部分は弱いものだ。

俺はさっきからそういう部分を重点的に狙っていた。

このまま攻め続ければ、連携を取る前に終わらせられるのではないか、と思えるくらいだ。

しかし……どうも引っ掛かる。

 

――あの赤龍帝が、兵藤一誠がこの程度で終わるか?

 

その俺の懸念は、突如として入ってきたレーダー担当の俺の通信によって

思いもよらぬ形で当たることとなった。

 

――気を付けろ! 相手の「(キング)」――グレモリー部長が動いたぞ!

  真っ直ぐそっちに向かっている! 警戒が必要だ!

 

動いたのはそっちか! 俺は急いで新校舎から来た俺と合流し

各個撃破されないような態勢を整える。

イッセーの牽制には苦労しないが、相手が2人となれば話が大きく変わる。

しかも赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)に紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)のタッグだ。

イッセーのボルテージの上がり具合も半端では無かろう。

 

……つまり、こっちにとっては最悪の取り合わせだ。

 

『部長、お待ち下さい! セージ君は僕が倒します! 部長自ら前線に出るのは……』

 

『祐斗。私はもうこれ以上私の下僕が倒されるのを見ていられないわ。

 朱乃、小猫、ギャスパー、そしてイッセー。皆セージ1人に倒されようとしている。

 祐斗、すぐにこっちに来なさい。総攻撃をかけるわ』

 

まあ、それが妥当な判断……なのか?

こっちは1人倒されたら終わり。向こうもグレモリー部長が倒されたら終わり。

のこのこ前線に来ると言うのは、そう言う事だ。

それに配下が倒された程度で感情的になる王って……どうなんだ。

指揮を執る立場としては、危なっかしい事この上ない。

ここは一つ、やってみるか……。

 

「おやおや、戦況が不利になったと見るや捨て鉢ですか。

 そんなのでよく『王』を、為政者をやってられますな」

 

「出合頭に随分な挨拶ね、セージ。

 今回の試合で、私はあなたの力に感心したし、あなたの人格に失望もしたわ。

 ……これ以上、私を失望させないで。せっかくの力も、はぐれになっては台無しよ」

 

「よく仰る。あなたが欲しいのは俺の『力』だけでしょうに。

 そんな輩に俺の力を、フリッケンの力をくれてやるわけにはいきませんな」

 

失望するほど俺を見ていないくせに。

力にしか、興味を示していないくせに。

力を捨てる代わりに、人間に戻ることが出来肉体も元に戻る、と言う取引があったとしよう。

霊体になり、事情を把握した直後の俺ならその提案を飲んだかもしれない。

 

……でも今はその提案も飲めない。俺の力も、俺だけのものではなくなったのだ。

もしこんな奴に俺の力が渡り、それをどう扱われるか。

それがわからない以上、力を渡すわけにはいかない。

それは力を持つ者の責任だ。大いなる力には、大いなる責任が伴う。

それは誰の言葉だったか忘れたが、全くもってその通りだとは思う。

赤龍帝にせよ、滅びの力にせよ。その責任を、お前たちは持っているのか?

その責任すら持っていないとするのならば。

否、持っていたとしてもだ。俺の、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)の力を渡すわけにはいかない。

お前たちに、この力は相応しくない。

 

俺が果たすべき責務、お前らが肩代わりできるとでもいうのか!

俺はまだ、この力を白金龍から与えられた意味を聞かされていないんだぞ!

身体を取り戻し、人間に戻るのも大事だが。

それ以上に、俺にはとんでもない借金が出来てしまったんだ。

白金龍への返済は、俺がやらなければならない! お前達は下がっていろ!

 

「セージ! さっきからわけのわからねぇ御託を!

 俺達は部長の『兵士(ポーン)』なんだ! それだけで理由としては十分だろうが!」

 

「イッセー、知っているか。『王』の死因には『自国の兵士に殺害される』も多くあるそうだ。

 そもそも俺はお前と違って『兵士』になることを許諾したわけじゃない。

 成り行きでこんな力は手にしたが、それとこれとは別問題だ。

 

 ……お前にも分かりやすく言ってやると

 『俺の体――すなわち、力だけを目当てにするんじゃない。この阿婆擦れ』の一言に尽きるな」

 

「なっ……わ、私がそんなふしだらな女だと言いたいの!?」

 

……イッセーから聞いているぞ。裸で布団に潜り込んだそうだな。

寝るときにそういう癖があるんならそれはまあ置いておくにしてもだ。

俺がシャワーを浴びているときにわかっていて乗り込んできたのも居たよな。どこの誰だ?

さる貴族の三男坊との結婚が嫌で、知り合い程度の男と関係を持とうとしたよな。どこの誰だ?

多分、俺は今「言いたい」って顔をしていると思う。

イッセーも、俺とは違う意味で肯定しているような複雑な顔をしていた。

 

「そ、そうだぞセージ! てめぇ、まるで部長が変態みたいな言い方しやがって!

 そりゃあいきなり人が寝てる横に全裸で来たり、シャワー浴びてるところに入って来たり

 そういう嬉しいハプニングはあったりするけどさ! それだけじゃねぇか!」

 

「……イッセー。それフォローになってないわ……そんな気がするの」

 

お前が言うな、変態三人組筆頭格。

と、ここで俺も少し悪い考えが頭をもたげてきた。

「学園の二大お姉様」の片割れとして有名なグレモリー部長。

その部長が実は……変態三人衆と双璧を成すほどの変態だった、と。

こういう話は、リー辺りが食いつきそうだ。

流石に揚げ足取りや脚色が酷いので、言いふらす気は今のところはないが。今のところは。

グレモリー部長も頭を抱えているようだし、これを言いふらすのはやめておこう。良心が咎める。

 

「……とまあ、そんなわけだ。『俺』は『俺』でありたい。

 その『俺』は決して『リアス・グレモリーの操り人形』でも無ければ

 『兵藤一誠に憑いた背後霊』でも無い。その結果、人でなくなったとしても

 『俺』は『宮本成二』と言う個の存在だ!」

 

そりゃあ、願わくば人間に戻りたい。

だが今世間を取り巻いている状況は、俺を「ただの人間」にはしてくれないと思う。

「ただの人間」に戻るのはまだかなり先の話になりそうだが。

それでも、その前にこの楔だけは解き放ちたい。

だからこそ、俺は兵藤一誠と、リアス・グレモリーと戦う。

 

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』をその身に宿して、そんな真似が出来るわけがないわ。

 セージ、お願いよ。今までの発言を取り消して、イッセーと共に私の『兵士』として……」

 

「……くどいぞ、リアス・グレモリー!!」

 

触手砲の一部を、グレモリー部長……いやリアス・グレモリーに向ける。

当然滅びの魔力で相殺されるが、そんなのは織り込み済みだ。

今の一撃は、俺の意思表示だ。

 

「『王』がのこのこ前線にやってくるとは、よほど命知らずと見える。

 フェニックス戦での反省点がまるで生きてないな。

 そんなのでよくレーティングゲームを制するなどと大口を叩けたものだ。

 自身が倒れれば、全てが終わると言う事の意味をきちんと理解しているのか?」

 

「そうさせねぇために、俺がいるんだっ!!」

 

イッセーが叫びながら飛び掛かってくる、がこれも予測の範囲内。

触手砲で頭を、眼を狙い撃ち攻撃を怯ませる。

どんなに強力な鎧だろうと、五感を直接攻撃すれば脆いものだ。

 

「俺が……なんだって?」

 

「て、てめぇ……ちったあ真面目に……」

 

イッセーの言わんとしたことを理解した俺は、怒りに任せて

イッセーをリアス・グレモリーの元に蹴り飛ばす。

真面目にやれ、だ? これのどこが真面目にやってないように見えるんだ。

俺はかなり真剣だ。少なくとも、今出せる本気は出しているつもりだ。

真面目に遊べ、っていうならそりゃあ悪かった。だがそんな気はないので謝らない。

そして、恐らく言いたかったであろう「真面目に戦え」。それはつまり――

 

――俺がこの状況を、遊び半分のおふざけで招いているのだ、と。

 

「……兵藤一誠。それは俺に対する侮辱か。

 今までは元浜の顔を立てていたし、お前にもいいところはあると思っていた。

 だが……今その言葉は、俺に対して言っちゃならなかった。

 その言葉の意味するところは、俺がオカルト研究部に

 そしてお前たちにとって不要な存在だと言う意味合いも込めている。

 ……そう、俺に解釈させてしまうには十分すぎる失言だ!!」

 

触手砲の触手の部分でイッセーを巻き取り、リアス・グレモリーに向けて叩きつける。

要は、イッセーをハンマーにして攻撃している。

これならば、向こうも迂闊に滅びの力は使えない。

厄介な力は、使わせないに限るからな。

 

ふざけるな。俺だって何が悲しくて

一時は仲間と認めようと思った相手に刃を向けなければならないのだ!

何が嬉しくて、一時は信頼した相手を地に伏せるような真似をしなければならないのだ!

ならばやるな、と言うわけにもいかないのだ!

 

もう、俺も後には引けない。残り2か月。

それが過ぎれば、俺の身体は死ぬ。そうなれば、俺はただの幽霊となり

最悪、消えるだろう。その前に、そうなる前に何とか方法を探すんだ!

そしてそれは、お前達とこの夏を共に過ごす以上に重要な問題だ!

 

……俺は、最初からお前達と同じ時間を生きていないのかもしれない。

  言うなれば、俺は人間でも、悪魔でもない。そんな存在かもしれない。

  俺は……俺はっ!!

 

「ちがっ……俺はそういう意味で言ったつもりは……!!」

 

「取り繕うな。薄々感づいてはいたんだ。リアス・グレモリーが見ているのは俺ではない事を。

 俺がそこにいるのは、あくまでもイレギュラーであると言う事を。

 そして、俺がいるべき場所はそこではないと言う事を!」

 

そうだ。元来の宮本成二の人生において、リアス・グレモリーなど別の世界の存在だったのだ。

噂には聞いているが、広い駒王学園にそういう輩がいること自体はおかしいことでは無い。

……故に「どうでもいい」存在だったのだ。

 

ところが今は何だ。その「どうでもいい」がここまで干渉してくるとは。

俺からしたら、鬱陶しい事この上ない。その上手違いで改造手術まで施されている。

その直接の原因はまた別の奴だが、それを引き起こしたのは……

 

「リアス・グレモリー。そういえばあんたにも借りがあった。

 言っておくが、いつぞやと違って俺は正気だ。

 いい機会だから、ここでその借りを返させてもらうとするぞ!」

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

「くっ……! やめなさい、セージ!!」

 

爆風で視界を塞ぎ、その隙に一撃を叩き込もうと突撃を試みる。

土煙の中で混乱に乗じて仕留めてやるつもりだったが

その攻撃は「兵士」に妨害されてしまう。

 

「ぶ、部長を……部長をやらせるものかよ、セージ!!」

 

「しつこいぞ、イッセー! まずはお前から叩き潰してやる!!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

STRENGTH-HIGHSPEED!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

「そうかい、だったら! 『昇格(プロモーション)』、『女王(クイーン)』!!」

 

イッセーは昇格を、俺は能力の底上げをそれぞれ行い

殴り合いに発展する。と言うか、ここまでくると小細工の一切が意味を成さない。

 

『相棒、下手に倍加すれば奴に吸い取られるぞ!

 何せ、白いのの力まで使いやがるからな!』

 

「ああ、だからこうして素でなぐってるんじゃねぇか!」

 

『今レーダーのお前から連絡があった、リアス・グレモリーは増援のお前が

 足止めをかけている。お前はそいつに集中しろ!』

 

「お前風に言えば大体わかった! 主義じゃないが、力でねじ伏せる!」

 

実質、今の強化は「女王」への昇格とほぼ同義だ。

勿論、ここは敵陣ではなく自陣なので昇格の条件を満たしていない。

よって、PROMOTIONのカードは使えない。となれば強化方法は限られる。

相手は当然のように「女王」に昇格、その力を遺憾なく発揮している――はずなのだが。

 

――この状態でドラゴンショットを撃たれるのだけは避けたいな。

 

こっちは魔力面の強化を一切していない、出来ないのに対し

向こうは「僧侶(ビショップ)」の性質も加わっていることになるのだ。

そこに魔力の塊であるドラゴンショットが加われば……

 

……吸収半減したとしても、余剰でこっちがやられる。

 

展開していた触手砲も、昇格の際に全滅させられている。

そろそろ使えるカードが少なくなってきたな……

雷撃も、今のイッセー相手に通じるかどうか怪しい。

 

「イッセー! 避けなさい!!」

 

ふと、横を見るとグレモリー部長が滅びの魔力を展開している。

コカビエルを屠ったときと規模にして大体同じくらい。

半減吸収倍加のコンボを決めるにしても、相手が悪い。

それにしても形振り構わないってわけか、イッセーごと狙い撃ってるようなもんだぞ、これは!

 

「いや、それなら!」

 

「なっ、しまっ……!!」

 

隙を突かれた。イッセーに動きを封じられたのだ。

このままじゃ、滅びの魔力をまともに浴びてしまう。

く、くそっ……このままじゃ……!!

 

「何をしているのイッセー! そこにいたら巻き込まれるわよ!」

 

「部長、今です! 俺なら赤龍帝の鎧があるから大丈夫っす!

 ここでセージに、このバカ野郎にでっかいお灸を据えてやってください!!」

 

……ま、やっぱ狙いはそれだわな。

こうなったら……あえて狙いに乗ってやるか。

 

まあ、しいて言うなら……悪い、祐斗。また約束破りそうだ。

こんなところでおちおち決闘なんかしてられない、ってのもあるんだろうけどな。

 

「セージ君! 部長!」

 

噂をすれば、か。俺は見ての通りのざまだ。

さて、この状況どう切り抜けたものか。

 

「来たわね、祐斗。けれどもうすぐ決着がつくわ。私達の勝ちと言う結果でね!」

 

勝利宣言と共に滅びの魔力がこちらに向けて放たれる。

おいおい、まだ俺は生きているし、分身も当たり前だが健在だぞ。

それで勝利宣言とは、言ってくれるじゃないか!

 

……こうなったら、ぶっつけ本番だがこの技を試してみるか!

 

RELOAD!!

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

「ぐわっ!?」

 

「イッセー!?」

 

――――

 

――俺よ、いくら切り抜けるためとはいえぶっつけ本番は無いだろう。

 

以前のように龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を用いなければリロードできなかった旧バージョンの

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)ならばともかく、白金龍(プラチナム・ドラゴン)にバージョンアップしてもらった現行版は

単独でのリロードが可能となっている。そこで俺はカードをリロードし

隙をついて爆発のカードを引き、発動させる。俺を起点として。

 

つまり、自爆だ。当然そのまま使えば死ぬほど痛い。

そこで、俺は分身を1体犠牲にすることでダメージを回避することにした。

そう……「爆発と同時に分身を消去した」のだ。

 

それと同時に、各地の分身も吹っ飛んだふりをしながら物陰に隠れる。

まあ、祐斗以外誰も見てないだろうけれど。念のためだ。

 

分身は任意に消去できるし、ルール上6体以上の分身は生成できない。

要は6体を超さなければいいのだ。

今爆発に乗じて1体一時消去しているので5体。もう一度生成すれば振り出しだ。

 

『なかなか思い切った真似をしたな。よし、ちょっとくすぐったいぞ』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

今までに受けたダメージこそ蓄積しているものの、今の爆発のダメージは無効化している。

爆発で生じた煙に乗じて、何食わぬ顔で元のフィールドに戻っていった。

 

――――

 

「ぐ……っ、セージの奴まさか自爆するなんて……」

 

「そこまで私の手にかかるのが嫌だったのかしら。イッセー、怪我はない?」

 

「赤龍帝の鎧のお陰で何とか。けれど、思ったより強力だったせいか

 思うように倍加がかけられないっす」

 

物陰から様子を見ている。どうやら、アナウンスが無いにもかかわらず

勝ったつもりでいるようだ。あれ? なんだかデジャヴを感じるな……まあいいが。

祐斗もそれは気になっていたのか、口に出しているようだ

 

「部長。勝利アナウンスが流れないっすね」

 

「本当ね……他の分身も居なくなっている、つまり自爆でセージは倒れたっていうのに」

 

「……本当にそうなんだろうか。確かにセージ君は後がないと言っていたけれど

 こんな自暴自棄な行動に出るようなタイプには、僕には思えないんだけど……」

 

息を潜めて見ていると、イッセーとグレモリー部長がもう勝った気でいるのに対し

祐斗は現状に疑問を抱いている。まあ、祐斗相手にならバレても痛くもかゆくもないが。

別に祐斗を欺くつもりなんか無いわけだし。

 

「祐斗。私にこうしてゲームともいえない戦いを挑んできている時点で

 十分セージは自暴自棄起こしているわよ。けれどこうして私が勝ったわけだし

 もうセージにも文句は言わせないわ」

 

「ああ! この夏休みで俺が眷属の、下僕としての心得をみっちり叩き込んでやる!

 部長に仕えるって事は、俺にとっちゃご褒美なんだ!

 俺はただ、セージにもこのありがたみを分からせてやろうと思ってだな……」

 

「……イッセー君らしいね。けれど、もしセージ君が聞いていたら怒らないかな。

 彼、まだ人間に戻りたがっているみたいだし」

 

妙なやり取りを始めた2人を、祐斗も呆れながら見ている。

やはり、祐斗は俺が生きていると思っているな。実際生きているけど。

それにしても、いい加減勝利判定が出ていない、つまりまだ勝負がついていないことに気づけよ。

このまま時間まで待ってやろうかとも思ったが、流石にそれは祐斗との兼ね合いでバレそうだし

祐斗との約束を反故にするのもよくない。あの二人は……ぶっちゃけ、今ので底が少し見えた。

 

さて、始終俺のペースだった気がするが……

ここからも、俺のステージでやらせてもらうとするか。

 

――勝利の美酒に酔っているところ悪いが、まだ戦いは終わっていないぞ。

 

――そもそも、何故あれだけで俺が終わったと思えるのか、それがわからない。

 

――祐斗。こんな形で悪いが、ここからバトルロイヤル形式で始めようか。

 

息を潜めていた3人の俺が、こぞって姿を現す。

これで3対3。実質は3対1とは言え、この戦いはこれで分からなくなった。

 

「セージ!? 分身の生成はルール違反じゃ……」

 

――7体以上は確認されておりません。よって、ルール適用内となります。

 

「そう言う事だ。あの爆発の瞬間、俺は一時的に分身を消去した。

 ちょっと考えればわかるだろう。生成が出来るのなら、消去もできる、と。

 そうでなかったら、今頃無尽蔵に分身が溢れかえっているぞ」

 

「そ、そんなんありかよ!? それじゃ、自爆し放題ってことじゃないか!」

 

「やろうと思えばできる。やってほしいならリクエストにこたえるが……

 ま、それは今度にさせてくれ。こう見えて余裕がないんだ」

 

はったりが無いと言えば嘘になるが、グレイフィアさんのアナウンスの尻馬に乗る形で

健在っぷりをアピールしている。紫紅帝の龍魂の使用に伴うエネルギーはしっかり減っている。

これ以上はあまり勝負を長引かせたくない。バトルロイヤル方式もそこからだ。

混戦ならば、グレモリー部長は滅びの魔力を使いづらくなるし、イッセーだって

ドラゴンショットなんて広範囲攻撃は出来なくなる。祐斗対策は何も考えて無かったが

こっちは元々ガチンコ勝負するつもりだったから、まあいい。

バトルロイヤルで集中できなくなるって弊害程度か。

 

「こ、こうなったらアーシアを呼んで総力戦で……」

 

「部長。バトルロイヤルにアーシアさんは圧倒的に不利です。

 それに下手をすれば、セージ君の分身全員がここに集まりかねません。

 今の内に、勝負を決めたほうがいいかもしれません」

 

「木場の言うとおりだな、これから激しいバトルになるのにアーシアは呼べねぇよ。

 セージ。てめぇの残りの分身が来ないうちに一気に片付けてやるぜ」

 

「いいだろう。俺の目的のために、お前達にはここで斃れてもらう。

 残り時間も半分を切ったんだ。早いところ俺を倒した方がいいぞ。

 勿論……倒せれば、の話だがな!!」

 

敢えて挑発する態度は崩さない。

祐斗はともかく、他の二人――特にグレモリー部長さえ倒せば俺は勝つ。

勿論、祐斗には少々悪い結果になるかもしれないが。

それに、3対3とはいってもこっちはダメージを共有している。

長引かせるのは不利だ。一気に決めたい。

 

最後の戦いを前にして、俺の闘志はクライマックスを迎えている。

尤も、最初からクライマックスっちゃクライマックスだったんだが。

しかし、それでも気づけなかった。

 

――グレモリー部長の懐にある、カプセルが怪しいオーラを発していたことに。




いや、そりゃ3人も眷属やられたら黙ってるわけないよね。
おかげで原作最強タッグと相対する羽目になってしまい
書いてる途中ではイッセーに羽交い絞めにされた時点で大ピンチでした。
セージも負けじと今までの中でも最大級の毒舌を発揮。
ヒル……リー、すなわちマスゴミに売れる程度のネタを持ち出してますから。

しかしぶっつけ本番とは言えとんでもない技を披露してます。

自爆。

死ぬほど痛いのは自爆の共通認識で問題ないと思います。
セージは分身消去で自爆のダメージを抑えています。
世の中にはウルトラ心臓とか言う自爆の影響を無くす(なおエネルギーは消費する模様)
特殊な心臓もあるそうですし。

そして「6体は6体」と言うルールの隙間を突いた攻略法により
無傷生還と言う本当にウルトラ心臓みたいな特性を発揮。
ここまでくると「本物はどれだ?」って疑問を持たれそうですが……

A:全部本物です。
 6体同時に倒さないといけないとかいうルールはない分有情ですが。
 奇跡アトミックバズーカ? 知らない子ですね。

祐斗。
彼もまたセージとの接触でリアスに対する不信感が生まれてしまった1人。
拙作のリアスとイッセーがアレ過ぎるだけかもしれませんが。
物事を冷静になって見つめなおしてみたら、実は……ってオチを目指しているのですが。
禁手が成長してリアスの実力を超えられれば、もしかすると……



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Soul64. 禁じられた「王」

この内ゲバ……もとい戦いも佳境に入りつつあります。
ただ木場がせっかく禁手に至ったのにそれっぽい見せ場が現時点でないのだけ
作者的には歯がゆい思いをしてますが……

この環境ではちょっと……としか。

あと、今更ですが今回特にイッセー酷い目に遭います。


恒例の余談

E4丙突破完了。
お疲れ様でした。
英国生まれで英国艦を迎えに行くと言う快挙。

伊26に朝雲と雲龍も来たので作戦は成功、かな。
アクィラ? ルイーナでモチーフが一人だけ浮いてる奴なんか知りませんよ(違

余談終了

余談パート2

原作5巻44ページ10行目。
……そんなにあるのに、なんで人間の世界にちょっかいかけるんだよ!?
そんなに他人の物が欲しいのかよ!? あんたたちは!

余談パート2終了


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

イッセーの猛攻撃を掻い潜り、接戦を続ける最中

ついにグレモリー部長が動き出した。

 

祐斗も交え、バトルロイヤルと言う混戦状態の中で

戦いは次のステージへと進む……

 

――ゲーム終了まで、あと15分――

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DOUBLE-DRAW!!

 

EXPLOSION-GUN!!

 

SOLID-SHOTGUN!!

 

「――っ!!」

 

「こ、この……!!」

 

「……やるじゃないかセージ君。僕達3人を相手にして一歩も退かないなんて」

 

祐斗よ。買いかぶってくれるな。退かないんじゃない、退けないんだ。

1対1に持ち込めない状況なので、いっそ触手砲とショットガンで

纏めてダメージを与える戦法に転換している。

触手砲はある程度自律しているので巻き添えを食う心配は少ないし

ショットガンも万が一巻き込んでも最悪回復は自力で出来る。

 

「予め言っておくが、他にも俺はいるんだぞ」

 

俺のその発言が合図となり、物陰からレーザーサイトの光がイッセーを照らす。

だが、その狙いはイッセー本体ではなく、「赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)」の宝玉部分。

鎧部分はレーザーサイトがわかりにくいと言うのもあるのだが。

 

「あがっ!?」

 

「イッセー!?」

 

そう。「俺」は囮であり、スナイプを当てるための大立ち回りを演じていたに過ぎない。

そして、今イッセーを狙った弾は普通の弾じゃない。

超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)」――通称、「超特捜課(ちょうとくそうか)」で運用されており

超特捜課結成よりも前の昔、長野で大量殺人事件が起きた際に導入されたという

神経断裂弾(しんけいだんれつだん)」。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」の中に、記述が見つかったのだ。

弾は使い捨ての道具と認識されているらしく、モーフィング生成は出来ても

記録は出来なかったが。

赤龍帝の鎧相手にも一歩も退かないどころか、とんでもない威力を発揮してくれている。

確か記録では弾頭を爆発させ相手の内部に侵入、然る後神経を破壊する銃弾、とあった。

これは恐らくイッセーよりも、鎧を展開しているドライグのダメージの方がでかいだろう。

うまくすれば、禁手(バランスブレイカー)を解ける。暴走される恐れもあるが。

 

……そんなものを戦場とは言え友人に向けたという自分の行いに、背筋をゾッとするものが走る。

いくらなんでも慣れ過ぎだろう。

まあ、今のイッセーを友人と言っていいものかどうかと言うのはここ最近の悩みだが。

俺が離れたのか、奴が離れたのかは見方の違いだから何とも言えないが。

 

「があっ……うっ、ぐああっ……!?」

 

「イッセー!? セージ、あなた何を撃ちこんだの!?」

 

「俺も製作者じゃないんで詳しい事は言えませんが……

 人間の作った、悪魔も、魔獣も、そしてドラゴンをも

 打ち破る可能性を秘めた銃弾。らしいです。

 これではどちらが悪魔かなんてわからない、なんて陳腐な台詞は言わせませんよ。

 先に人間の世界にちょっかいかけてきたのはあんた達……俺はそう思っている。

 まあ、アーシアさんなら治療は可能でしょうけど……させると思いますか?」

 

うん……ちょっと今自分でも後悔してる。

量産の効く銃弾じゃなくて、モーフィングである分しか作れない神経断裂弾。

それを中途半端にしか撃ち込めないものだから、止めを刺したくても刺せない。

そうなればイッセー(とドライグ)の痛みたるや想像……出来ない。

そもそも俺は神経断裂弾を喰らったことが無いし、喰らいたいとも思わない。

そんなものを使うなと言われれば、返す言葉もないが。

 

「セー……ジっ、てめ……ぇ……っ!!」

 

思った通り、禁手が解けかかっている。

ドライグの方にダメージが多く入っているみたいだ。

それはそれで好都合。イッセーはともかく

ドライグには1発じゃ足りない位殴りたいと思っていたんだ。

そんなドライグの宿る宝玉部分に神経断裂弾を撃ち込んだ。

内部から神経組織を破壊するその銃弾を受けては

鎧の維持はできまいよ!

 

直後、目論み(?)通り砕け散るような音と共に禁手が解かれる。

ダメージで強制的に解除させたため、イッセーは神器(セイクリッド・ギア)を使えない。

つまり、ただの転生悪魔……ちょっと前の俺とほぼ同じだ。

 

「イッセー、退け。今のお前じゃ戦力外だ。力を失うと言う事、経験者だからわかる。

 ドライグも今のダメージでは当分動けまい。そうなった以上今のお前に何が出来る。

 もう一度言うぞ、退け。黙って退けば悪いようにはしない」

 

「……っざけん……な……っ!

 ここまでいいようにされて、黙って……うぐぐうぅっ……!」

 

まあ、無理矢理禁手を解いた上に神経で繋がっていたであろう「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」由来の鎧を

神経断裂と言う手段で攻撃したんだ。立っているだけでもきついはずだ。

それなのにここまで言ってのけるって事は、恐らくはグレモリー部長のために

気合だけで立っている状態だろう。女のために命を張る男は確かに凄いと思うよ。

俺も出来ればそうありたいと思っている。

それに値する女性を、俺は親以外では1人しか知らないが。

しかし、しかしだ。そんな素晴らしい心構えだが

お前の場合どうしても邪な心が見え隠れしてならない。

友に銃を向けた奴が言うなと言う話だが、これ以上悪魔に魂を売り渡した友の姿は見るに堪えん。

ハーレム作るのは、この国じゃ妄想の中か

いかがわしい店でのごっこだけにしておけばよかったんだ!

 

「セージ! あなたこれ以上何を!?」

 

BOOST!!

 

「決まってるでしょう。おっと動かないでくださいよ。祐斗も。

 動けば今度はこの神経断裂弾、そちらに撃ち込みますので。

 特に祐斗。この位置なら先手を打てるとか思わないほうがいい。

 『騎士(ナイト)』ならば足も大事にすべきだ」

 

「……狙うのは別に頭だけじゃないって事か。それにこの位置じゃいくら僕が素早くても……

 ってところだね。なかなかやってくれるよ」

 

その証拠に、レーザーサイトがグレモリー部長と祐斗を狙っている。

特に祐斗は、頭でなくとも足を撃てば、それだけで騎士の長所を殺せる。

スピードの無い騎士なんて、昇格できない兵士程度の価値しかない、と思っている。

 

……ん? じゃあ俺は? まぁ深く考えるのはよそう。

 

もう片方の俺も、ちゃっかり用意している。弾は都度モーフィングで込めなければならないが

威力は折り紙付きと言う事が証明されている。抑止力には十分すぎるだろう。

 

「ぐ……セー……」

 

「――ふんっ!!」

 

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」で倍加した力で、思いっきりイッセーの頭に回し蹴りを叩き込む。

これくらいやらないと脱落に追い込めないと判断したのだ。

あいつの辞書にもやりすぎって言葉はない、特に性的な意味に関しては。

これは言うまでもなくそれ以外の事例だが、中途半端に痛めつけるよりは

もうこうして止めを刺した方がマシだと思ったのだ。

 

……医療設備でドライグの断裂した神経を元に戻せるかどうか、までは知らないが。

 

――リアス・グレモリー様の「兵士(ポーン)」、脱落。

 

「イッセー!? そ、そんな……」

 

……恐るべし、神経断裂弾。

カード記録できなくて正解かもしれない。こいつは下手したら

劣化ウラン弾並に危険な装備かもしれない。と言うか、こんな内ゲバで使っていい装備じゃない。

出来れば遠慮願いたいが、またこんなことがあった時には出来得る限り自重するか。

……あるいは、それを使わせるほど皆が成長したら話は変わってくるかもしれないが。

それにしても、これを使わざるを得なかった長野の事件って、どれだけ悲惨だったんだよ……。

 

さて、これで残るは……

祐斗に向き直った俺には、グレモリー部長の様子が変わったことを感じ取ることは出来なかった。

一応、他の俺には何かを感じ取れたようだが。

 

「……お見事、と言っておくよ。だけど僕相手に同じ手が通じると思わないほうがいい。

 たとえ足でも、そうそう狙いをつけさせるわけにはいかないよ」

 

「ああ。祐斗みたいなタイプに狙撃は相性が悪いなんてもんじゃない。

 だから――」

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

距離を詰めようとしてきた祐斗に対し、雷撃でカウンターを試みる。

奴の得物は剣、上段に振りかぶればそれだけで雷を呼びやすくなる。

まあ、今の雷撃は左腕から出したもので、足元を狙ったものだが。

 

「くっ、あの時よりコントロールが増しているね!

 そして避けた隙をついて狙撃しようとしても無駄だよ!」

 

「――チッ! やはり速さには定評があるな、この作戦はダメか!」

 

雷撃で足を止めたところに、慌てて通常弾に詰め直したライフルで狙撃を試みるが

それさえも祐斗は避けてのけたのだ。なんてフットワークだ。

狙撃はこいつ相手には使えそうにない、狙撃担当の俺は煙幕を焚いて一時撤退する。

スナイパーが接近されてはシャレにならない。

 

「流石、用意周到だね。ライザー・フェニックスの時に僕をこき使っただけの事はある!」

 

おいおい。確かにそのお陰で勝てた様なものだが、今それを持ち出されるのは悪意を感じるぞ。

まあ、事実なので言い返せないんだがな!

そう言いつつ距離を詰めてくる祐斗に対し、俺はカードをリロードしディフェンダーを展開。

祐斗も、聖魔剣でディフェンダーを破ろうと試みている。

 

RELOAD!!

SOLID-DEFENDER!!

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』!!」

 

単純な力比べ。光と闇の両方を併せ持った聖魔剣に対し、光力特化の防御しかないディフェンダーは

若干相性が悪い。だが、使い手の力ならば負けていないはずだ!

そうでなくとも、まだ強化は有効なはずだ!

 

「ぐっ……くっ、パワーじゃ僕が不利か……ッ!!」

 

「得物は変わっても、本質が変わらないならば攻略のしようはある!」

 

強化が無くとも、俺と祐斗では若干だが俺の方が力が強い。

そもそも祐斗はスタミナに難のあるタイプだ。それはイッセーとの戦いで証明されている。

贔屓目で見て、聖魔剣を振るうスタミナは確保できているが

結局、そっちに体力を消費しているようなので、実際のところは変わっていないみたいだ。

となれば……

 

BOOST!!

 

「くっ!!」

 

「ぬぬっ……はあああっ!!」

 

俺の一吠えが、鍔迫り合いを制する形となった。

祐斗は思わずのけぞり、尻餅をついてしまっている。

だが、ここで追撃しようとしても油断は出来ない。何故なら……

 

「……そう、気を取られている相手の背後を取る……王道だが、読み易い!」

 

祐斗に追撃をかけようとした俺の背後から仕掛けてきたグレモリー部長の魔力弾を回避しながら

仕舞っていたショットガンを取り出し、撃ち返す。

弾込めの難易度が拳銃より高いので、隙ができやすいのが困ったものだが……

こっちは普通の祓魔弾、散弾式。単発は弱いが、纏めて当たれば通常の祓魔弾よりも強い。

まあ、滅びの魔力で防がれたのでダメージは入っていないようだが。

 

「セージ!! 今すぐ医務室に戻り、イッセーへの非礼を詫びなさい!!

 私への言動は不問にするわ、けれどイッセーにあんな手傷を負わせたことは許さない!!

 祐斗! 2人がかりで仕掛けるわよ!」

 

……は? こいつは何を言っているんだ、そんな顔をしているのかもしれない、俺は。

兵士が戦いで傷つき倒れるのは当たり前だろうが。

そんなに傷つくのが嫌なら戦わせるな。それとも一方的な蹂躙がお好みか。

フェニックスみたいな「犠牲(サクリファイス)戦法」の使い方にも思うところはあるが

今回のはそれとは違うと俺は思っているんだが……あんたには同じって事か。

 

まあ、1人で勝てない相手に2人がかりってのは正攻法だよ。

素人の俺が思いつくくらいには、な!

 

「部長、そうしたいのはやまやまなんですが……っ!」

 

「はっ、俺がまだいることを忘れてもらっちゃ困るな。

 スタミナ的には選手交代してないが、まだまだ続けるぞ!」

 

「……っ、本当に厄介な分身ね。けれど同時に頼もしい。

 セージ、あなたが私の言う事を聞いてくれないことが本当に残念でならないわ」

 

渋々――と言う風に見えたが――俺の背後から攻撃しようとする祐斗に対し

先手を打つかのように俺が飛び出す。ややこしいが、こっちは最大6人でやってるんだ。

これはルールで取り決めた事、とやかく言われる筋合いはない!

 

……それにしても、まるで成長していないとはこの事か。

いや、そもそも悪魔って奴は成長するのか? ちょっと疑問なんだが。

子供が生まれるって事は成長するんだろうけれど……確か寿命がえらい長かったよな。

寿命の長さに比例して成長にも時間がかかるとか、そういうのはあったりしないよな、まさか。

 

「グレモリー部長。俺は前に言いましたな。

 『他者を従えるに相応しい王たれ』と。ところがこれは何ですか。

 己が我儘のために私兵を使い、私闘を演じさせ、配下を危険に晒す。

 俺にはまだ、あなたが『王』として相応しいとは到底思えません。

 ここで質問を変えますが……あなたにとって『王』とは、『眷属』とは何なのだ!!

 

 ……俺が消滅するに値する存在なのか!? 俺と言う存在を否定するだけの価値があるのか!?

 俺の過去を、未来を、それぞれ否定するだけの『現在』であると言いたいのか!?

 お答えいただきたい! そして、その返答如何では……っ!!」

 

「ええそうよ! 朱乃も、ギャスパーも、小猫も、祐斗も、アーシアも、そしてイッセーも

 全部私のものよ! 私には皆を守り愛でる役目がある!

 皆に危害を成す者はセージ、あなたであっても許さない!!」

 

ショットガンの銃口を向けながら言う事でもない気はするが、自然と言葉が出た。

一度出てしまえば、あとは堰を切るのみ。

そう、そうなのだ。俺は別に悪魔社会が何をやっていようが

人間に迷惑をかけるのでなければ「そういうもの」として無視することだってできた。

 

しかし、事ここに至り俺の存在は、過去は、ひいては未来さえも否定、強制されようとしている。

そんなものが許されていいはずがない。生きると言う事は、誰かに強制されることでは無い。

それはまだ20年も生きていない俺でも何となく、いや本当におぼろげだが分かる。

自ら死を選ぶのも論外だが、生き方を強要させるなんてあってはならない事だ。

そうして生かされた生は、死と何が違うと言うんだ。

 

忠誠の強要、自由の否定、価値観の上書き。そのどれも、俺にとっては

不信に値し、唾棄すべき行いだ。

まして、愛情の強要など最悪の部類だ。双方の心が噛み合わぬ愛に価値など……

 

――明日香姉さん――

 

……っ!? い、いや……そんなことは……ない、と思いたいが……

って、今はそんなことを考えている場合じゃない!

振り切るように、俺は咆える!!

 

「今すぐこの『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の共有を解けとまでは言わない!

 だが、俺が何を望んでいるのかぐらいは王を僭称するのならば理解してほしかった!

 だからこそ、俺は今ここであなたに戦いを挑んでいる!

 己の未来を掴むのは、他の誰の手でもない……いつだって俺自身の手だ!!」

 

「それなら無駄な事よセージ。悪魔の駒で転生した悪魔が元の種族に戻る術は確立されていない。

 私は悪魔として、悪魔としてのあなたを受け入れる。けれどその前にイッセーに謝りなさい!」

 

確立されていない? 種族を、生きざまを変えて元に戻す方法がか?

はっ。やっぱり最低最悪の発明品だよ。VXガス位しかそんな発明を知らないけど

それと肩を並べるくらいには最低の発明だよ。あんたらにとっては救世主かもしれないけれど

それ以外にとっては、生涯を捻じ曲げられ、未来を決め付けられ、過去を否定される。

そんな発明品、この世にあっていいわけがないだろう!!

 

もし俺が悪魔になってしまったとしても、俺の心は人間のままだ!

魂を悪魔に捻じ曲げられてしまったとしても、俺と言う存在は人間であり続ける!

だからリアス・グレモリー! あんたの寵愛は今の俺には不要なんだ!!

そして俺は探し続ける! 俺の道を! 俺が消える前に!

 

「どうあっても逆らうのね、セージ。ならば仕方ないわ……

 私自ら、あなたの立場と言うものを……」

 

ふと、グレモリー部長の懐から黒い光が溢れた様な気がした。

あれは……何の光だ? 何かすごく不吉な予感がするが……

 

――き、気を付けろ! 滅びの力かどうかはわからないが、とてつもない力を感じる!

  警戒しろ! 詳細は調査している!

 

「くっ……これは……お兄様が私に渡した……!?」

 

……今の言葉が聞こえた時、一瞬穿った考えが過ったが

別に穿ってもなんともないと言う意見もまたあった。

フェニックスとの戦いのときのように、初めから勝たせるつもりのない試合。

それと同じだと思えば、サーゼクス陛下が裏で糸を引いても別段おかしくない。

だが、それにしたって……

 

「だ……ダメっ! 力が……祐斗……避けっ……!!」

 

「!? セージ君、避けろ!!」

 

次の瞬間、俺は我が目を疑った。

何せ、グレモリー部長から発せられた黒い光の帯は徐々に紅く染まっていき

祐斗を貫いていたのだ。と言うよりは、祐斗ごと俺を狙っていたようにも見えた。

 

いくらなんでも、あのグレモリー部長がそんな事をするはずがない!

犠牲戦法に難色を示しておいて、こんな真似をするはずがない!

これではまるで、制御が効いていない風にも見える。

 

「が……はっ……!? ぶ、無事かい……?」

 

「祐斗!? な、何をしているんだ!? 正気か!?」

 

しかしこれではどう見ても、グレモリー部長が祐斗を倒したという風にしか見えない。

くそっ、一体何がどうなっているんだ!

慌てて祐斗に駆け付けようとするが、制止されてしまう。

 

「ダメ……だ、セー……ジ……君……

 おそ……らく、部長……は……なに……かに……かはっ……!!

 こう……なったら……せめ……て……生き……のび……」

 

――リアス・グレモリー様の「騎士」、脱落。

 

その状況とは似つかわしくないほどの冷淡なアナウンスが流れ、祐斗も消失する。

残されたのは俺と、俺の分身と、グレモリー部長だけだ。

今の攻撃の正体が掴めない以上は、迂闊に出られない。

 

「わ、私……なんてことを……お兄様! これは一体……!?

 う、うああああっ!?」

 

返答がない? まさか、これはサーゼクス陛下が仕込んだことなのか!?

なんて考える間もなく、紅い光の触手がグレモリー部長から無数に伸び

こちらを貫こうと狙ってきている。

 

――攻撃範囲が広すぎる、このまま分身を増やしているのは的を増やすだけだ!

 

そう考え、俺は一度近場の分身を全部消去させる。

広範囲攻撃に弱いのがこの分身の欠点だ。アレを何とかしない事には

攻撃に転じるのも難しそうだ。

幸いにして神経断裂弾でなくとも特効があるから……

って、こうも激しく触手を振り回されてはこっちから近づけないし攻撃も出来ない!

わが身を抓ってなんとやら、か!

だが手をこまねいているわけにもいかない。さてどうしたもんか。

 

狙撃。狙いをつけている暇がない。アウト。

接近。あれを掻い潜る機動力が確保できない。アウト。

寧ろこっちに引っ張る。触手が絡まるか切断されてアウト。

 

……ん? 引っ張る?

いや、しかしこの方法は一度敵陣に乗り込まないと出来ない。

そこまで追いかけっこになるが……やってみるか!

 

決まれば話は早い。可能な限り全速力で、俺は旧校舎めがけて走り出す。

当然向こうも紅い光鞭(堕天使でもないのにこんなのを使うのも変な話だが)で矢鱈めったらに

周囲を薙ぎ払いながら追いかけてくる。おいおい、ここが異世界でよかったな。

 

「ま、待ちなさいセージ! あなたこの上アーシアまで巻き込もうと言うの!?

 本当に見下げ果てた男ね、あなたは!!」

 

「力の制御も出来ない方に言われたくはありませんな! 祐斗をやったことは棚上げですか!」

 

何とでも言え。アーシアさんを置いてきたのはそっちだろうが。

それに、こっちは部室まで殴り込みに行くつもりは無いんだ。

あのカードさえ使えれば、まだ勝機は見いだせる。それだけだ。

 

だが、とにかく逃げるので必死だ。

何せあの光鞭、掠めただけでもかなり痛い。

俺の調べによると、滅びの力が何らかの要因で変質したものらしいが。

その何らかの要因まではロックされていて調べられなかったようだが……怪しすぎるだろ。

 

まあ、今までの動向から推測するに……なんて推測立ててる暇がない!

こうして旧校舎めがけて走っている最中にも、向こうはどんどん攻撃してきている。

一体どこからどこまでが自分の意思かわからないが。

とにかく今は、「昇格(PROMOTION)」のカードが使える場所まで移動することが先決だ!

 

――――

 

俺とグレモリー部長の鬼ごっこは、体感ではかなりの時間続いたように感じた。

何せカードを引く暇もないのだから、時間操作してその隙に逃げると言う手が使えない。

おまけに分身を強制消去したものだから、手札が混線している。

……つまり、今どのカードがどれだけ使えるかが把握しきれていない。

それだけでも俺にとっては死活問題だ。早急に何とかしたいのだが……

 

「セージ! 隠れても無駄よ!」

 

どうやら、時間と共に使い方に慣れてきたのか、あの力が的確に俺を狙ってくるようになった。

それはつまり、こっちにとってはどんどん状況が悪くなるばかりの有様である。

今は何とか、新校舎の教室の一室に逃げ込むことに成功したので息を潜めている。

 

「どうあっても出てこないつもりね……なら強引にでもイッセーの前に引きずり出すわ!」

 

……今、俺の脳裏を凄く嫌な予感が過る。

この場で強引に仕掛ける、しかもそのパワーソースは滅びの力。

ルール上、建造物の破壊は不問。これらが導き出す答えは。

 

――新校舎ごと俺を叩き潰すつもりか。

 

規模から考えても、フェニックス戦でやられたアレの比にはなるまい。

前回は昇格で切り抜けられたが、ここは敵陣ではないのでそれは使えない。

つまり、今それをやられると完全にアウト。

 

ではどうやって状況を切り抜けるか。

教室――理科室の中を見渡すと、おあつらえ向きのものがぞろぞろと置いてあった。

小道具へのモーフィングもルール上は不問。ならば……これしかない!

 

そう考え、俺は隣の準備室からビーカーを1個取り出し、モーフィングで空き缶に変える。

この中の薬剤も色々使えそうだったが、今は逃げるのに専念しよう。

そしてもう1つ。こっちが本命だ。

 

「モーフィング! 『人体模型』を『歩藤誠二のマネキン』に変える!」

 

ここで歩藤誠二としたのは、向こうは何処まで行っても俺を「歩藤誠二」として見ているからだ。

となれば、俺=歩藤誠二と言う方程式が向こうの脳内に完成されているとみて間違いない。

分身も補充したかったが、まだ逃げている途中で分身を補充するのは危険だ。

分身を囮にする方法も、自爆と違いダメージ計算が難しい。避けた方が無難だろう。

そんなわけで、俺のマネキンと空き缶を用意する。さて、用意は出来た!

 

マネキンを1階の適当な廊下にセット。あとは空き缶をグレモリー部長を誘導するように投げながら

相手の出方を窺う。食いついたらこっちのものだ。

1階を選んだのは、下からの攻撃を受けないようにするためだ。地下室があるそうだが

鍵がかかっているのを逃げ込んだ時に確認した。壊す手間も惜しいので地下には入っていない。

性格を考えても、入っていないところで待ち伏せるって事も無いだろう。多分。

 

ともかく、これで後はグレモリー部長がこっちに向かってくれれば……

空き缶を適当に投げていると、近くでグレモリー部長の声がする。食いついた!

一際大きな音がするように空き缶を投げ、大声で叫ぶ。

 

「グレモリー部長! 俺はここだ!」

 

「観念したのねセージ、今行くわ。一瞬で終わらせてあげるから、そこは心配無用よ」

 

勿論、そこで棒立ちで待ち構えている義理なんかあるわけがない。

予め窓を開けておいた近くの教室から、そっと抜け出して一目散だ。

そういえば、マネキンにも1個細工をしておいた。

準備室の薬剤の1つを、煙幕にモーフィングさせてマネキンの中に入れたのだ。

そして、そんなマネキンをあの光鞭で貫通すれば……

 

刹那、背後から衝撃が伝わる。

……あれ? 俺、間違えて爆薬仕込んだか? それならそれでいいんだが……多分違う。

こんな爆発が起こる位、相手の攻撃が半端じゃないって事だ。

とにかくこれで距離を稼いだ。体育館を通り過ぎ、何とか旧校舎までたどり着くことが出来た。

 

さて。ここからが問題だ。

数か月前の俺からは色々な意味で考えられない事態だ。

迎え撃つなら旧校舎に入った時点で色々罠を敷いて昇格すれば済む話だが……

 

間違いなく、アーシアさんは巻き込まれる。

もう既に要らん犠牲を出し過ぎている。これ以上犠牲者を出すのもどうかと思いながらも

相手に追い付かれるのを覚悟の上で部室まで駆け込むことにした。

こうなったら、事情を話してアーシアさんは逃がす。

ダメなら昏倒させてリタイアを狙うが……

 

最後の最後、敵はやはり強大だ。

これを何とかして乗り越えなければ、俺に未来はあるまい。

いや、乗り越えたとしても……

 

……それでも、今やれることをやろう。

仮に死ぬのだとしても、笑って死ねるように。




神経断裂弾が民間で使用される事案発生。
オリジナルよりも強化しすぎか、あるいはこんなものか。
やろうと思えばドラゴンの鱗破れると思うんです。
全盛期二天龍とか無限と夢幻はさすがにアレでしょうけど。
まして神経断裂弾は「身体にめり込ませる」だけでいいので
「貫通させる」必要が無いですからね。目玉とか狙うでもOKではなかろうかと。

Q:で、なんで神経断裂弾が赤龍帝の鎧に効いたの?
A:無機物の赤龍帝の籠手由来の赤龍帝の鎧に神経なんかないじゃないかと
 お思いかもしれませんが、ドライグの意思が宿っている=疑似的に神経が通っている
 と判断。イッセー本体ではなくドライグの側を狙ってます。なのでなお更。
 鎧ほど宝玉部分は頑丈にできてなさそうですし、要は急所狙いですね。
 いずれにせよ、「神経の通った生物」である以上
 神経断裂弾は特効になると言う事例ですね。オルトロスの時と同様。
 逆に言えば、人形みたいに中身が空っぽの奴には神経断裂弾は効きません。
 まぁ、内部から破壊するから炸裂弾としては使えるかもしれませんが……

 ネタバラシしますとアインストゲミュート(鎧の奴)みたいに
 完璧に空っぽだと効きません。
 意外なところではアインストレジセイアにも効果はあります。
 ただ規模が違い過ぎて蚊に刺された程度でしょうけど。

ともあれこれでイッセーが脱落、ドライグに相当なダメージが入っているので
向こう1か月神器使用不可状態です、イッセー。
……あ、あれ? これ夏休み合宿フラグと
冥界のソーナ戦フラグへし折っちゃった!?(今頃
セージマジ疫病神。素直に自由行動権を与えていれば……

リアス。
紅い光の鞭を振り回してますが、イメージは第4使徒(新劇では第五の使徒でしたっけ)
シャムシェルをイメージしていただければ。
悪魔なのに。悪魔なのに。
木場をやったのは、単純に制御不能だったから。
今回のラスボスポジ(一応)ですのでやばい感を出すのに結局暴走と言う
ある意味会談時のカテレアと同じような状態に。
ワンパターンは改善できるよう努力します……

でもやばさは前章のカテレアよりもマイルド。
戦力比的に仕方ないね。

Q:で、どうしてこうなった?
A:アジュカからサーゼクス経由で寄越された道具のせいです。
 「王」の駒のドーピングは原作では強力過ぎて危険な代物でしたが
 拙作でもそこは変わっていません。リミッターはつけられていますが。
 そしてそのドーピングにあやかれたのは原作ではごく一部の悪魔だけですが
 拙作では「王」の駒自体は悪魔の駒を所有する悪魔全員に
 行き渡っているとしてあります(勿論、転生には使えませんが)。
 ドーピング効果だけがそのごく一部の悪魔の対象となっています。
 勿論、リアスに寄越された駒はドーピング効果のないリミッターガチガチのもの。
 (その事をアジュカは把握しており、本来のリミッターの目的通り、リミッターによって
 プレイヤー間の能力の均整化を図るために作った
 いわばリミッターの上書き装置とも言えるのが件の道具ですが
 結果として「特異な能力」である滅びの力が暴走。つまり完璧な失敗作)

実は「己が我儘のために私闘を演じる~」の件はブーメランになってます。
セージとて完璧超人ではありませんので
こういうブーメランを投げることも稀によくあります。


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Soul65. 紫紅の「戦車」、至高への進路

今回、実はちょっと苦しい矛盾点があったりします。
原作アンチを謳っておきながらこのザマとは……

と、嗤ってくださいませ。


そして、早いかもしれませんが本話でいよいよ決着です。
まあ、元々原作にはないただの内ゲバでしたので。

そして、今回あの「悪魔」が顔見せします。
裏切り者の名を受け、愛する者のために全てを捨てて戦った世界もあれば。
身体は悪魔になりつつも、心は人間であり続けた世界もあった。
その「悪魔」が。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

イッセーを下した俺だったが、直後グレモリー部長が暴走してしまう。

滅びの力の奔流は留まるところを知らず、祐斗をも巻き込み

俺もダミー人形を作って逃げるのが精いっぱいだった。

 

最後のチャンスとして、俺は敵陣にて昇格(PROMOTION)

迎え撃つ作戦に打って出るが……

 

――ゲーム終了まで、あと10分――

 

駒王学園旧校舎、オカルト研究部部室。

この戦いでは相手の本陣ともいえる場所に俺はたどり着いた。

そこにいたのは、自身の戦闘力が全くないがために前線に出られないヒーラーのシスターだけだ。

 

「ひっ……せ、セージさん……!?」

 

「……あからさまに怯えられると多少傷つくんだけど。

 まあ、それはさておいて……悪い事は言わない。

 早くここから逃げ出した方がいい。俺がここにいるって事から察しが付くと思うが

 もうすぐこの辺りは戦場になるから」

 

あー、うん。まあ、そりゃ怯えるよね……

さっきから立て続けに脱落のアナウンスが流れているんだもの。

で、こっちは性質上仕方ないとはいえ無傷――まぁ、実際には無傷ってわけでも無いんだけど――

怯えるなり、警戒するなりして当然だよなぁ。

 

「も、もう残っているのは私と部長さんだけなんですよね……だ、だったら!」

 

「……眷属としてその行動は一応納得するけどそりゃ勇気じゃない、蛮勇だ。

 ラッセーもいない今、どうやって俺を倒すんだ。

 言っておくけど……」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

これ見よがしにディフェンダーを展開する。これは盾の表面に光力を帯びているために

聖なる力に対して耐性を持っているのだ。よって、十字架や聖水はこの盾がある限り、効かない。

 

「このディフェンダーで、聖なる力による攻撃は防ぐぞ」

 

「…………っ」

 

やはり聖水を投げつけるつもりだったのか。観念して、アーシアさんも両手を下ろす。

ラッセーもいない今、彼女がどうやって俺を倒すんだ?

これは慢心ではなく、純粋に疑問だ。

 

「で、でも、みんな負けてしまった今、私まで負けてしまったら……

 部長さんが、一人になってしまいます……」

 

「……そうだな」

 

「それは……可哀想だと思うんです」

 

「……そうか」

 

「だから、私はここを離れません。確かに私は主への祈りを欠かしませんが

 それと同時に部長さんにも感謝しているんです。新しい人生を謳歌するきっかけをくれた

 リアスお姉さまに……」

 

「……ま、あんたがそう言うならそれはそれでいいよ。

 俺個人としては、いかなる理由であれ死は捻じ曲げちゃいけない概念だと思うがね。

 生きているから死がある。最後は死ぬから精一杯生きる。俺はずっとそう教わってきた。

 ……事情は人それぞれ、ってのもわかってはいるつもりだがね。

 あ、念のため言っておくけど俺はまだ死んでないから。

 死なないためにこういうことをしてでも生き延びようとしているだけだから。

 

 ……本当に死ねば、俺は……消えるよ。跡形もなくね」

 

アーシアさんは確かに友人だが、「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の影響か

発想が(変態的な意味を除けば)イッセーに近くなっている。

それは神に仕えるシスターとしてどうなのさ、って気もしないでもないが。

聞いた話だが、薮田(やぶた)先生――聖書の神の影、ヤルダバオトとも話したんだろ?

 

「で、ここを離れないと言う事はグレモリー部長の支援にあたるつもりか?

 ……なら悪い事は言わない、やめておけ。

 普段ならともかく、今のグレモリー部長は暴走している。

 滅びの力の制御が出来てないんだ。理由はわからんがね」

 

「じゃ、じゃあ止める方法は……」

 

「それを敵である俺に聞くかね、普通。

 そんなもん俺の立場からすればこう答えるに決まっているだろう。

 『動かなくなるまで徹底的に叩きのめす』ってな」

 

自分で言ってて呆れるほど脳筋な対処法だ。他人の事を言えやしない。

しかし他の方法を知らないのも事実だ。結局こうなるのか。

肩を竦めながらふとアーシアさんの方を見ると、何やら真剣な面持ちだ。

 

「……セージさんは、敵じゃありません」

 

「は? ……いや、言わんとすることは読めたが今は敵同士だろ。

 この戦いは俺とグレモリー部長との戦いだ。

 その上で俺にあと10分程度逃げ回れってのか? それもしんどいし何より被害がでかすぎる。

 その過程でアーシアさん、あんたが巻き込まれても文句は言えんぞ。

 

 ……あ、言っておくが『自分がどうなっても構わない』って陳腐な自己犠牲精神は要らんぞ。

 結果として制限時間オーバーはあるかもしれないが、やるならきっちり止めを刺したい。

 でなければ、グレモリー部長は納得しないだろう。

 だからさっさとここを出たほうがいい」

 

「うっ……」

 

やれやれ。まあ、生粋のシスターだからなぁ。そういう発想もさもありなん、か。

だが今回の戦いは、グレモリー部長にこれ以上口を挟まれたくないが故のものだ。

そのために勝負を持ち掛け、負ければ消えるまで言う事を聞くと言う餌も提示した。

その上で――まぁ、魔王陛下の横槍と言う形だが――グレモリー部長と戦っているのだ。

俺が勝てば、俺はこの忌々しい悪魔の駒の除去ないし共有の解除の方法を探す旅に出る。

そのためにも、これ以上グレモリー部長に束縛されたくはないのだ。

 

「な、ならせめて――」

 

「――しっ! 隠れるんだ! グレモリー部長が来た!

 『俺が怖くて逃げだした』とか適当に言っておけばいい!」

 

アーシアさんが何か言いかけたが、窓の外にグレモリー部長が見えた。

アーシアさんを巻き込まないように逃げるよう促し、俺は急いで外に出る。

昇格(PROMOTION)のカードを引きながら、校舎の外に飛び出した。

 

PROMOTION-ROOK!!

 

マゼンタカラーの「戦車(ルーク)」の駒を模した肩アーマーに

赤地に白のX字ラインが入った胸アーマー。

マゼンタ地に赤と白のラインが入ったグリーブにガントレット。

インナーにあたる制服が暗色系の色もあって、ちょっとしたヒーローアーマーである……

と言うのが、改めて見た「紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」の、「戦車」形態の感想だ。

それぞれの装甲部分には、アクセントとして翠と碧の宝玉がちりばめられている。

 

そして、それだけではない。龍の頭部を模し、バーコードのような黒いラインの入った

マゼンタのフルフェイスのヘルメットが展開され、頭部を覆うように装着。

俺の表情は、翠色の双眼型シールドグラスに反射してグレモリー部長からは見えていないだろう。

窓に映った俺の姿は、そんな感じのものだった。

 

「追い付いたわ、セージ……って、その姿は……

 まるで『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ね。

 けれど見様見真似の代物で、私を倒せると思わないほうがいいわ!

 私自身の力でないことは癪だけど、もうあなたを止めるには形振り構えないわ。

 このままはぐれになる位なら、いっそ……!」

 

「……どこまでもイッセーと比較ですか。比較するなと言う方が無理かもしれませんがね。

 そしてそれは要らん世話だ。俺は生きる道を探し続ける!

 はぐれの烙印を押されても、俺が俺であり続ける、生きるために! 俺は……戦う!」

 

媒体が変わっても、やることは変わらない。

戦車形態では、「力」を操作することが出来る。この――

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

「――はっ!」

 

寸前で飛んできた光鞭を手で掴みながら、グレモリー部長の周囲の重力を操作。

その周囲だけ超重力と化し、圧殺されかねない重力がかかっている。

そのまま力任せに光鞭を引きちぎる。そういう実体のあるものだったのかと思いながら。

再度光鞭を展開させようとしているようだが、超重力でそれも覚束ないようだ。

とは言え、掴んでいる部分が徐々に消え始めている。一気に決めないとやばそうだ。

 

「く……ううっ……!!」

 

『止めだセージ、ちょっとくすぐったいぞ!』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

4体に分身し、それぞれが超重力を展開する。

今までは出来なかった、4人がかりでの「力」の操作。

そのために、新たな力が生まれる。

強すぎた重力は、ある現象を発生させたのだ。そう――

 

――グレモリー部長を中心に、ブラックホールが形成された。

 

「このままいけば飲み込まれるぞ! 投了するか、事象の地平に消えるか、選べ!!」

 

「ぐ……う……」

 

何をしているんだ! 早く投了しろ!

このまま、このままブラックホールに飲まれて消えるのがお望みなのか!

俺には必要ないあんただが、あんたを必要としている奴はいるんだぞ!

それなのに、ここで消えていいわけがないだろう!

 

「……チッ!!」

 

グレモリー部長が飲み込まれる寸前で、思わず重力操作をカット。

ブラックホールを消してしまった。

 

……ところが、この俺の行動がレーティングゲーム空間に影響を与えていたらしく……

ブラックホールが消えたと同時に、外にいるはずの

サーゼクス陛下とグレイフィアさんが見えたのだ。

 

「……これは驚いた。まさかレーティングゲームステージの

 次元の壁すら破ってしまうとは」

 

「……前例のない事ですので、今回はレギュレーション違反とはいたしません。

 ですが、今後は自重いただきますよう、お願い申し上げます」

 

「それはどうも……じゃない! 聞こえたんだぞ陛下!

 あんた、自分の妹に何渡したんだ!?」

 

俺にとっても予想外だったが、これはこれで好都合。

目の前に突如現れた魔王陛下に、俺は事の真相を問い質すことにした。

魔王ってのは、自分の妹さえも実験動物にするのか?

そこまでしてやろうとしているのは、一体何なんだ?

不特定多数の人生を歪めるだけでは、飽き足らないと言うのか?

 

「ああ、あれか。あれはアジュカから預かったものだ。

 私とて、あれがああいう結果をもたらすと知っていれば破棄するよう進言していた。

 何せアジュカは、私にさえ肝心なことを言わずにそれを寄越したのだからね。

 ただ『リーアの助けになる』としか聞いていなかったのだよ」

 

呆れた……なんて危機意識のないやつだ。そんなのがよく魔王なんて務まるな。

そんなだから旧魔王派なんてバケモノを生み出す土壌が出来るんじゃないのか?

いやむしろ、俺には旧魔王派の方がまともにさえ思えるぞ。

 

……人間を巻き込まない、って前提があればこそ、だが。

 

「それより、こうして目の前に出てきたんだ。妹さんに謝ったらどうなんです」

 

「おいおい歩藤君。今は試合中だろう? それなのに部外者の私が口を挟むわけにはいかないよ」

 

何が部外者だ。あんたが寄越した得体のしれないもののお陰で戦況は混乱しただろうが。

全く、ああ言えばこう言う。日本の政治家にもそういうのはごまんといるが

まさか……それを参考にしてないだろうな? だとしたら悪い見本なんだから

今すぐ訂正してほしいんだが。

 

「……フン。それより、その妹さんは戦意喪失しているようだが」

 

「……そのようですね。リアス様。続けますか? それとも投了なさいますか?」

 

クレーターの中心でうつ伏せになっているグレモリー部長を確認した後

グレイフィアさんが声をかけるも、グレモリー部長は反応が無い。

この壁を破ったことといい、これは少々やり過ぎたか?

 

「反応が無いようですので、カウントを取らさせていただきます。10……9……」

 

カウント中暇なので、魔王陛下の様子を見る。やけにそわそわしているな。

やはり、自分の妹が負けたのは堪えたか。だが俺は謝らない。

次の瞬間、思わず驚きはしたものの。

 

「リーアぁぁぁぁぁ!! 立て、立つんだぁぁぁぁぁぁっ!!

 まだまだ君は頑張れるはずだリーアたんっ!!」

 

……多分、今の俺はハトが豆鉄砲を喰らった顔をしているどころの騒ぎじゃない顔をしている。

外からはフルフェイスのヘルメットで見えないのだが。

しかしこの魔王、自分の妹がこんなことになって気でも触れたか?

なにが「自分は部外者」だ。この依怙贔屓が。

 

「ファイト! ファイト! ファイトだリーアた……ぐはっ!?」

 

「……サーゼクス様。実況は公平にお願いいたします……6……」

 

そんな状況を見かねたグレイフィアさんのツッコミが魔王陛下に入った。

どう見ても身内の恥としか思えなかったんだろうな。

 

しかし、少々偏屈な見方をすれば俺は真剣にやっているのに

この人(人じゃないが)らにはただのお遊びなんだな、と。

お遊びだからこそ、こんなことをやっていられる余裕がある。

心に余裕を持てとは言うが、それはこういう事だっけか?

 

真剣にやっている俺が馬鹿らしい。

と言うか、あんたらにとって俺の命運はその程度――

 

――つまり、片手間の遊び半分程度の価値なわけ?

それはそれで、物凄いショックなんだが。

 

「……お二方。何ですか今の茶番は」

 

「……5……誠二様。スルー推奨でお願いします……4……」

 

いや、スルー出来ないから聞いてるんだけど。

あの……曲がりなりにも魔王陛下なんですよね?

で、これはオフでしたっけ? オフなら俺もとやかく言うほど野暮ではないが。

てっきり魔王としてあの席にいるのかと思ったが……

 

なんだ、グレモリー部長の兄としてあの席にいるのか。

グレモリー部長の兄ならば、顔を立てる必要はあるのかもしれない。

魔王陛下としてそこにいるのであれば、顔を立てる必要などどこにもないだろう。

 

だが、俺がやることは決まっているんだ。

何故、ここまで来て顔色を窺うような真似をしなければならないのだ。

 

そこで黙って見ていろ。己が一族のしでかした不始末の結果を。

これが戦争ならば、日常茶飯事だ。

そしてこれが勝負ならば、水を差したお前の自業自得だ!

 

「……3……! 誠二様、何を……!!」

 

「もうカウントは結構。このまま終わらせますので

 

仕舞っていたディフェンダーを右手に装着し

打突部分をグレモリー部長めがけて振り下ろそうと構える。

この光景には、流石にグレイフィアさんも、「サーゼクス・グレモリー」も

面喰ったみたいだ。

 

「ま、待つんだ歩藤君! リーアは動けない、止めを刺す必要なんか……」

 

「はて。これは戦争もかくやと言う戦いではございませんでしたか?

 攻撃は念入りに。それで傷つくのが嫌なら……最初から、戦いに出るな!!

 

 そして……己がしでかした不始末、その眼でしかと見届けろ!!」

 

「や、やめろ! やめるんだ!!」

 

「……誠二様!!」

 

俺は何のためらいもなく、打突部分をグレモリー部長の頭めがけて振り下ろす。

そして――

 

 

 

――――

 

 

 

――結論から言うと、ディフェンダーは宙を切った。

光力を帯びた打突部分が突き刺さる寸前で、カウントゼロによるグレモリー部長の敗北となったのだ。

……明らかにカウントの速さに不正があったような気がしたが、まあ黙っておくことにする。

結果が全てだ。そう――

 

――俺は勝った。勝ったのだ。

 

だが、心のどこかに引っかかるものは感じている。

全く、どうしてこう俺は甘いのだ。あのブラックホールだってあのまま展開させていれば

問答無用で俺の勝ちになっただろう。それなのに、それが出来なかった。

おまけに、最後のディフェンダーだって突き刺さらなくてよかったとさえ思ってる始末だ。

 

……フェニックス戦の事が堪えているのか、それとも。

これではイッセーの事を言えないではないか。クソッ。

 

ともかく、これで冥界に移動した後俺の行動の制約はなくなった。

グレモリー家に行く必要は無くなったのだ。

あいさつ回りなど、行きたい奴が行けばいい。

俺はそもそも悪魔になりたくてなったわけじゃない。

それなのに現状維持をさせようとするなど、俺の意向を完全に無視している。

そんな奴に情けをかける必要は無い……のかもしれないが。

 

――そうして殺したら、まず間違いなくイッセーは俺を殺しに来るだろう。

  そしたら俺は生きるためにイッセーを返り討ちにする。

  そうしたら今度は……

 

よそう。この手の考えは考え出すと嵌る。今はとにかく、悲願が果たせたことを喜び――

 

――祐斗に、一応謝るべきかもしれないな。

 

とは言え、今の今すぐ行くのはいくら何でも気まずい。

さっきまで戦っていた相手、しかも俺には二心あり、だ。

仮に向こうが良かったとしても、俺が良くない。

こんなだから、俺ははぐれなのかもしれないが。

 

ため息をつきながら、ふと俺が開けた次元の穴を見ると……

 

蝙蝠の翼のような頭をした悪魔らしき男が、宙に浮いたまま微動だにしない姿が見える。

その姿はまごう事無き悪魔。グレモリー部長や、サーゼクス陛下みたいに中途半端に

人間の皮を被っていない、どこからどう見ても悪魔。

そういうものを、彼らははぐれ悪魔と呼ぶらしいが……

 

COMMON-LIBRARY!!

 

「……アモ……ン……?」

 

アモン。遠くに見えるその悪魔が妙に気になった俺は、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べてみた。

しかしその情報はやけに頑丈にロックされており、名前しか読めない。

 

アモン。確かいつぞや聞いた悪魔の講習でそんな名前の家があった気がするが。

何か関係があるのか? こうなったら……

 

「……さっきのブラックホールで、異次元と繋がってしまったのかもしれないな。

 だから、異次元にあるものが見えてしまっている、と」

 

「……!!」

 

そこにいたのは、緑色の髪の悪魔。

グレモリー部長よりも、寧ろサーゼクス陛下に近い威圧感を受ける。

 

「ああ、そんな無粋な『神器(セイクリッド・ギア)』を使わなくとも良い。俺はアジュカ・ベルゼブブ。

 知っての通り、四大魔王の一人だ」

 

「アジュカ! いつこっちに……と言うか、あのアレは一体何なんだ!

 アレのせいでリーアたんが酷い目に……」

 

あまりの来客に、俺が呆然としていた矢先にサーゼクス陛下が横から割って入る。

ああ、やはりこの二人がつるんで何か企んでいたとみるべきか。

 

しかし、一体なぜここに?

 

「それはすまなかったなサーゼクス。アレもまだまだ改良の余地はごまんとあるか。

 さて、そんな事よりもだ。君が開けてくれたブラックホール。

 アレはレーティングゲームの根幹をも捻じ曲げかねない、危険なものだと言う事が分かった」

 

うん、それは俺も思う。何せ次元の壁破っちゃったからね。

ちょっとしたゲートみたいな状態になっちゃったと思う。

しかしグレモリー部長の件を「そんな事」で済ますとは……

この魔王陛下もいい性格をしてらっしゃるよ。

 

「俺は基本レーティングゲームには『面白ければ何でもいい』

 スタンスを貫いてほしいと思っているが

 君のそれはちょっと頂けないな。と言うわけで、調査を兼ねて直々に注意に来たんだ。

 ……面白いものも見られたしね」

 

面白いもの……アモンの事か?

けれど、アモンってまだ健在している悪魔の家系のはず。

そんなものが面白いとは、とても思えないんだが。

 

「私にも見えた。よもや、こんな形であの裏切り者の勇者を見ることになるとは思わなかったが」

 

裏切り者? 勇者? アモン……一体何者なのだろう。

そんな事を思いながら、俺は魔王陛下に無視されたために改めてアモンの方を眺めてみる。

すると――

 

「――っ!?」

 

――アモンの目が開いて、こちらを見た気がした。

 

一体何なんだ、あの悪魔は。魔王陛下は知っているようだが。

記録再生大図鑑でも読み取れない、読み取るのに手間のかかりそうな対象だ。

こういう場合は知っている奴に直接聞く方が早い。

 

「魔王陛下。あの悪魔は一体?」

 

「ああ、私達悪魔にとって偉大な勇者であるとともに、憎むべき裏切り者でもある。

 悪いが、私達もこれ以上のことは話せない。彼がアモンと言う名前で

 勇者であり、裏切者。今は異次元に眠っている――これだけ知っていれば十分さ」

 

「そんなアモンを、また見る機会が来るとは思わなかったがね。

 さて、それじゃあ面白いものも見られたし俺は帰って研究の続きをするとしようかな」

 

言いたいことだけ言って、帰ろうとするアジュカ陛下。

自分の興味のあること以外には何も関心が無いとでも言いたげだ。

だが、そっちに用が無くともこっちにあるんだ!

アモンとやらの話だけで終わらせるつもりは無い!

 

「お待ちを、陛下。陛下を『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』開発者と見込んでお聞きした……」

 

「アモンで忘れるところだったがアジュカ! それよりもリーアたんに謝ってくれ!

 あの試作品さえなければリーアたんは勝っていたかもしれないんだ!

 だから選手控室まで……」

 

「すまないがサーゼクス。俺はこれからさっきのデータを基に改良設計にかかりたいんだ。

 今の試合で、方向性がある程度見えてきたんだ。そういうわけだからリアス君には

 君から伝えてくれないか? じゃ、俺は帰るから」

 

言いたいことだけ言って、さっさと魔法陣で帰ってしまった。

アモンも、異次元との境界が元通りになったためかもう見えない。

ここから見えるのは、ただの普段通りの景色だ。

 

……完全に聞きそびれた。まあ、ここにいるとは思っていなかったから

聞けるとは思っていなかったし、初めからその予定だった。

 

改めて調べに出る必要はありそうだが……やはり魔王は魔王か。一筋縄ではいきそうにない。

あれから情報を引き出すのは骨が折れそうだ。

バオクゥやリーでも、少々荷が重そうな感じがする。

まあ、曲がりなりにも現政府に対し喧嘩を売るに等しい行いをしようとするんだ。

それくらいの困難はあって然るべき、か。

 

「全くアジュカの奴め……うちのリーアたんを何だと思っているんだ……

 ……あ、なんだ。まだいたのか。とりあえずおめでとうと言っておくよ。

 それじゃ、私はリーアたんの所に行ってくるから……」

 

とりあえず、その前にこいつ殴っていいかな。

そう俺の顔に出ていたかどうか知らないが

多分向こうは向こうで色々考えているんだろうな。

 

「そいつはどうも。じゃあ俺も旅支度がありますのでこれにて」

 

「……ああ、今回の件だがね。うちの実家に顔を出す必要は無いが

 若手悪魔の会合が行われるんだ。そこには顔を出してもらいたいんだ」

 

「……グレモリー部長の顔を立てるため、ですか」

 

「相変わらず手厳しいな。ぶっちゃけてしまえばそんなところだよ。

 まあ、その前に君がはぐれになってしまえばその必要は無いが……

 それは私としても不本意だし、何よりリアスがそれを望まないだろうからね」

 

兄バカここに極まれり、か?

こいつもこいつで俺の事を何だと思っていやがるんだ。

いや、そもそも悪魔にとって他の種族ってなんなんだ。

 

……自分たちのステータス、飾り物でしかないと言う事か。

本当に、本当にふざけた話もあったものだ。

 

「それならば、なお更俺が出てはマズいのでは?

 こんな出来の悪い眷属、しかも通常あり得ない『9個目の「兵士(ポーン)」』。

 そんなのを表沙汰にしたら、グレモリーの名前に下手すれば泥を塗りますよ」

 

「そうだね。だから父上は君をころ……っと」

 

言ったな。今「殺そうと」って言いかけたよな。

そして今の言い方から察するにサーゼクス陛下も俺を殺すことには前向きだな。

よもやとは思っていたが、まさか本人から目の前で言質取れるとは思わなかった。

 

「何があったのかわかりませんが、面倒ごとはさっさと片づけるに限りますからね」

 

「ん? ああ。そうだね……」

 

素知らぬ顔をして世間話を振ってみる。

ふむ。流石に現役で魔王の筆頭格だ。どこぞの部長よりも腹芸が出来ている。

しかしここで腹芸をすると言う事は、痛い腹を探られまいとしていることだ。

それが意味するものはつまり……

 

「……まあ、会合には顔を出させていただきます。

 念のため付け加えますが、俺はイレギュラーでこうなった存在です。

 グレモリー部長共々、フォローをお願いしますよ。魔王陛下」

 

「……ああ。アジュカともよく相談してフォローさせてもらうよ」

 

……さて。

そのフォローがフォロー(暗殺)でないことを祈りたいばかりだ。

 

 

 

――こうして、俺とオカルト研究部との戦いは幕を閉じた。

俺の目的はとりあえず果たせたが、そこには思惑が蠢いているのも見て取れた。

聞いた話ではサーゼクス陛下は若手を大事にするスタンスらしいが

アジュカ陛下にもそのスタンスが正しく伝わっているのかどうか、はとても疑わしい。

グレモリー部長にあんなものを寄越している時点で。

 

……彼はきっと、自分の研究以外には興味のないタイプだろう。

ある意味、政務に付けちゃいけない人材だ。どこぞの自称外務担当も大概だが。

 

そんな奴らと、これから渡り合わなければならないのか。

これはもう、立派な反逆だな……って今更か。

 

俺が俺に戻るのに越える必要のある壁。

そして、その壁は異様に高くそそり立っている。

飛び越える、壊して進む、避けて通る。

どれを選ぶにしても、俺に残された時間は少ない。

 

 

俺は旅支度のために、静かにその場を立ち去ることにした。




色々凄い事になってしまいました。

>アーシア
ラッセーは朱乃戦のダメージもあり戦闘不参加。
どうやってセージを倒せと言うんだ。
これにはセージも苦笑い、逃げろと言われる始末。

温存した結果使いどころが無くなってしまった最悪のパターン。
実質フェニックスの涙封印されているんだからもっとバンバン使うべきだったのに。

いい勉強に……なったと思いたい。

>セージの「戦車」
龍帝の義肢(イミテーション・ギア)」時代にも似た様な展開をしましたが
今回は純粋に上位互換。頭部保護も万全。神器じゃないのに連動して変形する
紫紅帝の龍魂マジ空気読めるチート装備。

……前回この変異を起こさなかったのはリミッターがかかっていたため。
変形に回す力を30体以上の分身維持に使っていました。
今回はその必要が無いのでしっかり変形。うん、我ながら苦しい設定。

デザインはメットが追加された以外は前回とほぼ同様。
ところどころディケイドモチーフになっていたり。
胸の×はディケイドの胸アーマーとペルソナ2罰の周防達哉のイメージ。

>ブラックホール生成
4人がかりで重力操作したことでブラックホールが出来てしまいました。
今回は寸前で仏心が出たのか打ち消しましたが
実際にリアスが飲み込まれていたら……

その辺はスパロボマジック的な何かでダメージだけ受けて
リタイアしてたとお考えください。或いはどこか別の世界に弾き飛ばされたか。

>アモン
で、そんなブラックホールを生成したことで異次元の様子が見えてしまったため
そこに封じ込められている、との話の伝説の悪魔がついに登場。
モチーフは言うまでもなくデビルマン。と言うかほぼ本人。
どちらかと言えばアニメ版の性質に近いかもしれません。

……そして、セージの今後のカギを握っている存在でもあります。

>アジュカ
維持している空間がたった1人に破られたので慌てて出てきた奴。
(前回も白金龍(プラチナム・ドラゴン)に空間破られているけど)
拙作では自分の研究以外には興味が無い、悪い意味で典型的なパターン。
ちょっとアザゼルと被り気味かもしれない。

……果たしてこんなのが素直に悪魔の駒の除去方法教えてくれるのか?


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冥界送還のブラックリンクス
Life66. 里帰り、付き添います!


久しぶり、イッセー視点。
なのでゴースト風導入はこちらにて。


――――

俺は宮本成二。
クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は
後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。
目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ
霊体になっていることを知ることになる。

暴走したグレモリー部長を制し、勝利した俺は
ふとしたことから異次元に存在する悪魔「アモン」の存在を知る。

勇者、裏切者と魔王陛下に呼ばれるその悪魔が、俺はどうにも気になって……

――残された時間は、あと53日――



――俺達は、負けた。

それもたった1人の「兵士(ポーン)」に。

 

俺、兵藤一誠とアイツ、歩藤誠二――宮本成二、一体何が違うっていうんだ。

何も違わない、同じ兵士だって言うのに。

 

アイツは何も躊躇う事も無く、仲間に刃を、銃を向け

そして……倒していった。

 

いや、レーティングゲームがそういうゲームだってのは俺も知ってる。

けれど、あいつのやり方はゲームのそれじゃない。明らかに、殺そうとしているものもあった。

それが仲間に、同じ部の仲間に向ける態度か!?

 

考えてみたら、初めて元浜に紹介されて会った時から得体のしれない部分はあった。

アイツはアイツで俺と同じ趣向の持ち主だと思っていたが。

おっぱいが好きな奴に悪いやつはいない、その認識はちょっと改める必要がありそうだ。

小学校のころからの俺の座右の銘だっただけに、ちょっとどころでないショックだ。

 

ドライグも酷いダメージを受けたのか、あれから何も言わない。

部長も相当なショックを受けたらしく、ギャスパーほどではないにせよ

引きこもりがちになっている。

 

部長が大変だっていうのに、俺は何もしてやれない。

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)だなんだって言っても、負けたらおしまいなんだ。

 

「……セージ。もうアイツはダチでもなんでもねぇ。

 部長の敵だ。みんなの敵だ。今度会ったら絶対にぶっ殺してやる」

 

部長をこんなにした張本人も、あれから一度も会っていない。

そんな困惑した心のままに、俺達はあれから1週間が過ぎた今日、冥界へ行く。

 

……部長の里帰りだ。

 

その移動のために、皆部室に集まっている。

だが、やはり空気が重い。負けたのが堪えているのだろう。

 

「さ、さーて! 今日は部長のご実家に挨拶だ!

 あー楽しみだ楽しみだー! はっはっはー! ……」

 

「イッセー君、気持ちはわかるけど……カラ元気だってまるわかりじゃ逆効果だよ……」

 

「で、でも僕も大したことなかったって……神器(セイクリッド・ギア)も使えますし。

 本当はまだ無茶しちゃいけないんですけど……」

 

うるせー木場。俺だって堪えてないって言うと嘘になるんだ。

絶対に負けねぇ、負けるはずがねぇって思ってたのに、完膚なきまでにやられたんだ。

ドライグも未だにうんともすんとも言わねぇ。本当にアイツは疫病神だ。

アイツは悪魔じゃなくて疫病神だぜ、ったく……。

まぁ、ギャスパーの目がちゃんと見えるってのは不幸中の幸いか。

あの野郎、目狙うとか本当に何考えてやがるんだ。

 

「うふふ、イッセー君は無邪気で本当にかわいらしいですわね。

 ついつい食べたくなってしまいますわ」

 

そう言うや否や、朱乃さんが身体を摺り寄せて耳たぶを噛んでくる。

ちょっ、う、嬉しいけど心の準備ってものが……

戸惑いながらも俺はここぞとばかりに朱乃さんのおっぱいの感触を楽しんでいる。

これは本当に部長のものと甲乙つけがたい。ぜいたくな悩みだと我ながら思う。

そんな朱乃さんも、セージに頭を撃ち抜かれたらしいが一命はとりとめたそうだ。

だからこうして感触を味わえる。ありがたい話だ。

 

「……朱乃。暑苦しいからイッセーから離れなさい」

 

しかし、そんな俺の至福の時はほかならぬ部長のどすの効いた声で終わりを告げる。

ふと見ると、部長は物凄い怖い顔をしている。な、なんだってそんな……

 

そんなにセージに負けたのがショックだったんすか……

 

「……ふぅ。1人欠けたのは残念だけど、予定通りに今日から皆冥界よ。

 今回は魔法陣ではなく、駒王駅から移動するわ。ついてらっしゃい」

 

「あ、あの……部長さん……本当にセージさんを置いていくんですか……?」

 

アーシア! な、なんて優しいんだ!

あんな目に遭ったっていうのに、セージの事をまだ気にかけているなんて……!

 

「……彼ならもう冥界に行ったわ。今どこにいるかは私もわからないの。

 一応、若手悪魔の会合には合流するってお兄様から聞いているけど……」

 

「もういいっすよあんな奴! それより早いところ行きましょうよ部長!

 あいつがもういないってんなら、別に待つ必要も無いですし!」

 

「ふふっ、慌てなくても冥界は逃げないわよ、イッセー」

 

あっ、ちょっと部長が笑ってくれた。

やっぱ部長は笑ってる方がいい。改めてそう思った。

よーし、それじゃ早速駅まで行こう!

 

……って、なんで駅なんだ?

 

――――

 

それから俺は驚きっぱなしだった。

駅に備え付けられた秘密のエレベーター。

地下にある巨大な空間。

そしてそこを走る列車。

とにかく色々あり過ぎて、理解が追い付いていない。

 

とりあえず理解できたのは

「何故駅に行こうって部長が言い出したのか」って点だけだ。

なるほど、こんな移動手段ならそりゃ駅だよなぁ……って。

 

なんで冥界と直結している列車が走ってるんだろ。

もういいや、考えるのやめた! とにかく冥界凄い! 部長凄い!

それで納得することにする!

 

途中、不安がったアーシアが手を握ってくるなどの出来事はあったけれど

概ね平和に移動出来ていた。車掌のレイナルドさんもいい人(?)だし

考え方を変えてみたら、ちょっと豪華な旅行気分だ。

うーん、快適快適。

 

「その様子だと満足してもらえたようね、イッセー。

 まだ着くまでに時間はあるから、もう少しゆっくりしていてもいいわよ」

 

「そういえば部長さん、セージさんはもう冥界に行ったって話でしたけど

 どうやって行ったんです? 交通手段は部長さんの許可が無いと使えないみたいですし」

 

「以前使い魔の森に行ったでしょ? その時の魔法陣が1つ無くなっていたのよ。

 魔法陣なんて書き直せばいいし、普通の人間には使える物じゃないから放置してたんだけど……

 どうやらセージが使ったらしいのよ。ただ……」

 

アーシアはまだセージの事を気にしている。

なんて優しいんだ、あんなやつのことまで心配するなんて!

やっぱりアーシアは魔女なんかじゃない、立派な聖女じゃないか!

全く、なんでこんな優しい子を魔女だなんて言うんだ、教会の連中は!

 

……っと。部長が何か気になることを言ってるな、なんだろ?

それにしても使い魔の森か。懐かしいなぁ。

結局使い魔はゲットできなかったけど、いいもの見られたし。

あ、思い出したらまたムラムラしてきた……どうしよう。

 

……はっ! い、いかん! 部長は真面目な話をしているんだ!

こっちも真面目に聞かないと失礼じゃないか!

 

「ただ……なんすか?」

 

「一度使った魔法陣はメンテナンスが必要なの。私もこのところ忙しかったから

 ついメンテナンスが後回しになってしまっていたのよ。

 契約の際移動に使う魔法陣や、新型は軒並みオートメンテナンス機能付きだけど

 使い魔の森へ行くやつはそれの無い旧式だったのよ……。

 で、セージが使ったのは多分そのメンテナンスが済んでない魔法陣。

 メンテナンスの済んでない魔法陣は、意図したところとは違う場所に飛ばされることもあるわ」

 

「はっ、いい気味だ。自分一人で勝手な行動を取ろうとするからそういう目に遭うんだ!」

 

それじゃ、今セージの奴はもしかするとどこだか知らないところにいるかもしれないって事か。

冥界って確か広かったよな。それなのにどこだか知らない場所に飛ばされる……ってのは

遭難しそうじゃないか。いい気味だ。部長に逆らうからそんな目に遭うんだ。

 

「あらあら、そういう風に言うのは良くありませんわよ」

 

「イッセーの言う事も尤もだけど……

 問題は現地でセージが問題を起こしてないかどうなのか、ね。

 グレモリー領ならまだしも、それ以外の領地に飛ばされたら最悪不法侵入と見做されて

 処罰されることもあり得るわ……使い魔の森なら公共の土地だから問題なかったのだけど」

 

「って事は、現地でセージが何かやらかしたら部長に迷惑が……

 くそっ、どこまではた迷惑な奴なんだ!」

 

「どうどう、せっかくの帰省なんだから怒らないの」

 

興奮する俺をあやすように抱きしめて宥めてくださる部長。

ううっ、感激っす! なんでセージにはこの部長のやさしさがわからないんだろう。

でもそんな疑問も部長のおっぱいと匂いで吹っ飛んでしまう。

それほどまでに、部長のおっぱいは俺に力を与えてくれるのだ。

 

「あらあら、せっかくですから私もイッセー君に……」

 

「朱乃。暑苦しいと言ったはずよ」

 

「あらあら部長。砂漠では人肌の方が温度が低いのですから、寧ろこうして……」

 

朱乃さん、ここ砂漠じゃない……って突っ込む間もなく

その部長に勝るとも劣らないものを押し付けてくださる。

ふぉぉぉぉぉぉぉっ!? な、なに!? なんなんだこのパラダイス!

最高だ! 最高すぎる! 最高にハイってやつだ!!

 

「……むー」

 

「アーシア先輩、放っておきましょう。あんなバカ先輩は」

 

「あはは……本当にいつも変わらないね……」

 

外野が何か言っているが、俺にとってはこれこそが現実なんだ!

もう少しこの至福の感触を味わせてくれてもいいじゃないか!

 

ところが、その至福の時は無情にも終わりを告げることになったのだ。

 

――――

 

「ぶ、部長ぉぉぉぉぉぉっ!! た、たたた大変ですぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「……どうしたのギャスパー。一応この列車は貸し切りだけど、出来れば静かになさい」

 

「ま、ままま窓の外に……」

 

「窓……?」

 

遠くにギャスパーの声が聞こえる。騒ぐなギャー助。

もっとこうしてどっしりと構えてだな……

 

と、次の瞬間。

 

物凄い衝撃で揺れが襲ってくる。地震か!?

思わず部長と朱乃さんからいわゆる乳びんたをされる格好になったが

これはこれで……

 

「ご、ごめんなさいイッセー! 痛くなかった?」

 

「む、寧ろご褒美っす……それより今のは?」

 

体勢を立て直し、窓の外を見てみると……

 

そこには、緑色の触手が窓を埋め尽くすように生えており

その隙間からは、蝙蝠のような翼を生やした骨の怪物が飛んでいる。

どっちも、何だか見覚えがある。

 

「どう見てもグレモリー領の悪魔じゃないわね……」

 

「姫、申し訳ありません。この列車に賊がとりついた模様です。

 排除しますので、今しばらくお待ちを」

 

「いえ、それには及ばないわレイナルド。

 みんな! 列車にとりついたのはおそらくアインストよ!

 奴らは赤い宝石さえ破壊すれば消滅する! こいつら位倒せないでセージには勝てないわ!

 リハビリもかねて奴らと戦うわ! いいわね!?

 祐斗と小猫はフォワード! ギャスパーは車内から神器で奴らの動きを止めてちょうだい!

 私と朱乃とアーシアは窓の触手がなくなり次第魔法で攻撃!

 アーシアはラッセーを使いなさい!」

 

「は、はいっ! ラッセー君、お願い!」

 

「あ、アインスト……あの時は逃げたけど……ぼ、ぼ、僕だって!

 今度はみんなだっているんだ! 逃げたりしない!」

 

やっぱり! あの骨の怪物は、あの時俺を抑えつけた奴にそっくりだ!

けれどアイツ、空飛べたっけ? 空飛ぶ個体ってことか?

それにこの無粋な触手もそうだ! あの時戦った奴と同じだ!

 

「……いきます」

 

「早いところ片付けないとね」

 

「あの、部長。俺は……?」

 

「イッセーはそこで応援しててちょうだい。

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使えないあなたを出すわけにはいかないわ」

 

く……くそっ! こんなにも早く神器が使えない影響が出るなんて!

くそーっ! みんな、負けるんじゃないぞー!!

 

外に出た木場と小猫ちゃんが触手を切り倒しながら進んでいくのが見える。

これが触手丸なら小猫ちゃんに絡む姿を見られるんだけど、アインストじゃあなぁ。

あ、木場には攻撃が当たりますように。

 

「『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』……い、いきますっ!」

 

俺の隣にいるギャスパーが、木場や小猫ちゃんとは別方向にいるアインストの動きを止める。

あ、こいつらにも一応効くんだ。それによって優位に立てたのか

あっという間に窓を覆っていた触手は消え去った。2人が本体のアインストを倒したんだ。

 

「今よ朱乃、アーシア! 私達も打って出るわ!」

 

「うふふ、あの飛んでいるのとか落とし甲斐がありそうですわねぇ」

 

「ラッセー君! 皆さんの援護をお願い!」

 

今度は部長の滅びの魔力に、朱乃さんとついでにラッセーの雷が

空を飛んでいるアインストを次々と落としていく。

 

俺が出るまでもなく、アインストは撃退できたようだ。

あのカテレアが化けた奴が極端に強くて

それ以外はもしかしたら大したこと無いのかもしれない。

何にせよ、これで平和な旅が再開できるってもんだ。

……ちょっと出番のなさに言いたいことが無いわけでも無いが。

 

「ふふっ、どうかしらイッセー」

 

「あら、私の雷の魔力も負けてませんわよ」

 

それにしても今日はやけにこの二人が絡んでくる。いや、嬉しいんだけどさ。

一体何があったんだろうな。

 

「…………えっ!?」

 

ん? 外に出た小猫ちゃんが凄い驚いた顔をしているけど……

ま、まさか倒した奴が復活したとかそんな……

 

「どうしたんだい?」

 

「……いえ。何でもありませんから戻りましょう」

 

木場の奴。だからそのイケメンオーラを出すのをやめろ。

そのオーラ、見ているこっちは鳥肌が立つんだよ!

 

「そ、そうだ。そういえばさっき黒猫も見たんですけど……」

 

「黒猫……でございますか。今しがた車内点検を実施しましたが

 そのようなものはおりませんでしたぞ。

 さて姫、並びに眷属の皆様方。流石でございました。

 斥候を念のため派遣いたしましたが、賊は見当たらぬ模様。

 これより列車設備に問題が無いか確認した後、運転を再開させていただきます」

 

「頼むわね、レイナルド。ギャスパー、知っての通りここには特殊な方法でしか来られないから

 猫の子一匹たりとて迷い込んだりはしないわ。きっと見間違いよ。気にしてはダメよ」

 

「で、ですよね……僕の見間違いですよね……」

 

ギャー助。こんな時に暢気すぎるぞ。

そもそもここに来たのだって部長が言うように特殊なエレベーターで来たんだ。

猫が迷い込んでくることなんてあるわけないだろうに。何考えてるんだか。

 

その後しばらくして、列車は運転を再開した。

後で分かった事なのだが、さっきのアインストは人間界と冥界との間にある

次元の壁に張り付いていたらしい。そこで何をしていたのか、まではわからなかったが。

と言うかそもそも、あいつらって話通じるのか?

骨や触手は喋らないし、アインストになったカテレアだって

「静寂な世界」だの「生命のルーツ」だの言っていることが意味不明すぎる。

こうして襲ってくる以上、ある意味はぐれ悪魔よりも危険じゃないか。

まあ、俺があれこれ考えていても仕方ないけれど。

 

――――

 

途中トラブルに見舞われこそしたものの、列車の旅は終わりを告げ

俺達はグレモリー邸にやってきた……んだけど。

 

高そうな調度品の中にはところどころ「抵当」と書かれた紙が貼られている。

外から見た感じはそんなイメージ無かったのに。

等と思っていると、奥からメイドさん……確かグレイフィアさんだ。

グレイフィアさんが俺達の出迎えにやってきてくれた。

 

「……グレイフィア。片づけられなかったの? この辺りの調度品」

 

「お嬢様。抵当に入れられている以上、こちらで勝手に動かすのはご法度です」

 

なんかいろいろ大変そうだな……俺が口を挟める問題じゃなさそうだけど。

 

「それはそうと……皆さま、ようこそお越しくださいました。

 しかし見ての通り、我がグレモリー家は今財政的に困窮しております。

 本日の列車も、皆様のお帰りの便が最後の運行になります。

 よって、大したおもてなしは出来かねますが、どうぞごゆるりとお過ごしください」

 

「……酷いとは聞いていたけど、そこまでとは思わなかったわ……

 お父様とお母様は?」

 

「本日は弁護士事務所へ示談金の支払いにお出かけになられております」

 

え? 弁護士? 示談金? どういう事?

部長のお父さんとお母さん、何かあったのか?

 

「示談……まさか、ライザーとの一件!?」

 

「然様でございます。あの後、結局示談と言う事で話はつきましたが

 その示談金は我がグレモリーの財政を圧迫するほどの金額でございました。

 おそらく、彼らはこの示談金を元手にフェニックスの涙の増産を図るつもりでしょう。

 聞けば、昨今のアインスト騒動で病院も手いっぱいとなり治療薬であるフェニックスの涙は

 それだけで需要が跳ね上がりますからね」

 

「ちょっ……あの件なら俺達が勝ったんだ!

 それなのに裁判なんて、おかしいじゃないか!」

 

おかしいだろ!? 俺達は勝ったんだ!

勝ったんだから、あの焼き鳥野郎と部長が結婚する必要なんか、どこにもないはずだ!

それなのに、なんでこんなことになってるんだよ!?

 

「一誠様。お忘れかもしれませんのでもう一度お話いたしますが

 当初お嬢様とライザー様のご結婚は

 両家の当主の正式な話し合いの元に交わされた約束事です。

 それをお嬢様が反故にし、レーティングゲームと言う場を設けました」

 

「そう、そのレーティングゲームで俺達が勝ったんだ!

 なんでこっちが、グレモリー家が金払う話になってるんだよ!?」

 

「……お嬢様。当主のお二方と、お嬢様。どちらの意見が優先されるか。

 お嬢様ならばお分かりかと思いますが」

 

「……っ。けれど、私はライザーみたいな奴との結婚なんて死んでも……」

 

「それはお嬢様の個人の意見にすぎません。ライザー様を一方的に毛嫌いするだけで

 碌な話し合いもせず、挙句レーティングゲームで再起不能に追い込んだ。

 その事がフェニックス卿の怒りにふれ、財力で劣る我がグレモリー家は

 裁判と言うセカンドステージでの戦いを余儀なくされたのです。

 その結果、旦那様はフェニックス家に多額の示談金を支払う事となり

 現在のグレモリー領の有様につながっているのです」

 

そんな……それじゃ、全部悪いのは部長だって言いたいのかよ!?

そんな、そんな話があってたまるかよ!

部長はあの焼き鳥野郎との結婚は嫌だって言ってたんだ!

嫌な奴と結婚させられて、それが当たり前で通るなんておかしいだろ!?

 

「あ、当たり前よ! あんな女性を己の性欲のはけ口としてしか見ないような男なんて……!」

 

ぐさっ。

う、い、今流れ弾が俺にあたったような気がする……

 

「……自業自得」

 

「イッセー君。傷は浅いよ」

 

うるせー黙ってろ、特に木場。おめーみたいなイケメンに心配されると惨めになるからやめろ。

けれど、なんでグレイフィアさんはさっきから焼き鳥野郎の肩を持ってやがるんだ。

 

「はて。私も職業柄、ライザー様の事については調べさせていただいておりましたが……

 それはあくまでも、ライザー様の放蕩的な一面にすぎません。

 それにそうした性的な行為も、囲っている眷属との合意の下で行われている行為。

 合意あっての行為でさえも、お嬢様は否定なされるのですか?

 それに私の調べによりますと、ライザー様は三男として生まれながらも

 フェニックス家のために様々な努力を惜しまず、また家族や眷属に対する愛情も

 グレモリーの家の者に勝るとも劣らないとありますが」

 

「……グレイフィア。今更ライザーの擁護なんかして何のつもりかしら」

 

「そうだ! それに、あの焼き鳥野郎は自分の眷属を犠牲にすることを

 何とも思わない奴じゃないか!」

 

「『犠牲(サクリファイス)』の事でしたら立派な戦術です。

 それについてとやかく言うのは筋違いです、一誠様。

 それに私はライザー様の擁護をしているつもりはございません。

 ただお嬢様のライザー様に対する評価があまりにも一点からの視点によるものでありすぎるので

 こういう一面もあるのだ、と言う解説をさせていただいているだけでございます」

 

まるで他人事のように淡々と話を続けているグレイフィアさん。

仮にも仕えている家が大変な目に遭っているのに、どうして相手の肩を持つことを言うんだ?

そういえばセージの奴も「奴は言っていること自体はそれほど間違ってない」とか言ってたっけ。

だとすると、あいつの言う事なんか認めたくないけど……そんな、そんなことって!

 

「さて。この話はこれ位にしておきまして……

 皆さま。家具の品質は少々劣りますものの、皆様の分のお部屋は用意させていただいて……

 おや? 一人足りないようですが」

 

「キャンセルよ。食事代が一人分浮いたと思ってもらっていいわ」

 

1人……ああ、セージか。

ここでの豪華な……豪華、だよな? な食事が食えないなんて、あいつも可哀想になぁ。

けれど今回は同情なんかしてやらないぜ。自業自得だからな!

 

「畏まりました。では改めまして、滞在中はこちらの屋敷のお部屋を

 ご自由に使っていただいて構いません。どうぞごゆるりとお寛ぎください」

 

「あ……その事なんですけど、部長。当初の予定ではこっちに来て特訓を行うと……」

 

「その事なら、アインスト騒動で冥界の交通機関が軒並み正常に機能していないの。

 政府……つまりお兄様方も対応に追われていて

 眷属総出でアインストや禍の団(カオス・ブリゲート)と戦っている有様。

 祐斗の特訓プランは、全面的な見直しが必要になったの……ごめんなさい、連絡が遅れて」

 

「いえ。部長が謝ることではありませんが……」

 

しかしこいつも真面目だなぁ。こっちに来て気にすることがそれか。

俺はもう観光気分なんだけどな。ま、初めて来たからってのもあるけど。

まあ、この部長の家の有様じゃ心の底から観光気分ってわけでも無いけど。

 

けれど、ふと木場が小声でこんなことを漏らした風に聞こえた。

 

――こんな事なら、セージ君に付き合えばよかったかな――

 

何かの間違いだと思いたい。部長を平然と裏切るような奴に、なんで木場がついていくんだ?

それってつまり、自分も裏切るって言ってるような事じゃないか!

木場の奴、エクスカリバーの事件から全然懲りてないのか!?

あの時と違って、セージ(見張り役)もいないってのに!

 

「そんなわけで、特訓については自主練とするわ。

 私もお父様やお母様が帰って来たらまた忙しくなりそうだし。

 グレモリー領の中ならば、自由に行動してもらって構わないわ」

 

自由に行動……ったって、とても謳歌できるような雰囲気じゃないっすよ、部長。

この抵当の紙が貼られた家具の山を見たら心配になりますって!

でも、俺には何もできないし……

 

「そうだ! 部長、アルバイトって募集してないんすか?」

 

「え? イッセー、お小遣いが欲しいの? それなら私が……」

 

「お嬢様。今のこの状況で、よくそんなことが言えますね。

 そんな事は『義姉』として認めません。一誠様。このグレモリー邸は

 言わばグレモリー領の経済状況の写し鏡ともいえる存在であります。

 その写し鏡がこの有様では、グレモリー領ではアルバイトは募集していないでしょう。

 寧ろ、失業者が増加傾向にあると聞き及んでおります。その中でアルバイトを探すのは

 人間界で例えるならば、三流高校で中くらいの成績の者が

 一流大学へ入学することと同じくらい困難かと……」

 

「そ、それに俺お小遣いじゃなくて……この財政難の手助けになれば……」

 

「い……イッセー!! 私は幸せだわ!

 あなたのような下僕を迎え入れられたことは、この上ない幸せだわ!

 イッセーのその気持ちだけで、私はもう十分すぎるわ!」

 

突然、部長に抱きつかれて頭を撫でられる。

そんなに喜んでもらえると、俺もうれしいっす!

特におっぱいの感触が!

 

「お二方とも。感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、いち下級悪魔――

 それも転生悪魔で稼げる額などたかが知れております。

 財政難を立て直すには、雀の涙ほどの価値もありません。

 財政難については、私が手を打ちます。経済を司る悪魔――ルキフグスの出として

 現在のグレモリー家の状況は見るに堪えますので。

 そんなわけですので、私はこれから少しミリキャスを連れて出稼ぎに行ってまいります。

 皆様のお世話に関しては他のメイドに一任しておりますので、ご心配なく」

 

「そ……そう。気を付けていってらっしゃい」

 

「あの部長。ミリキャス? って誰っすか?」

 

「あ……そういえばあなたやアーシアには紹介してなかったわね。

 ミリキャスってのはお兄様とグレイフィアの子供。私にとっては甥っ子にあたるわ。

 ……そっか。まぁ、ミリキャスを1人にも出来ないし、仕方ないわね……」

 

甥っ子かぁ。部長にそんなのがいるなんて、初めて知ったぜ。

けれど、今はご両親も居なければ魔王様(お兄さん)も、義姉さんも甥っ子もいない……

ちょっとだけ、部長が寂しそうに見えた。

 

「そうだ部長。俺、冥界の事全然わからないんで、案内してもらってもいいっすか?」

 

「あ、私もお願いします。こっちの事も詳しく知りたいですし……」

 

「いいわよイッセー、アーシア。それじゃみんな、夕飯までには帰ってらっしゃい。

 それまでは各自自由とするわ」

 

――――

 

それから、俺達は部長の案内で冥界――と言ってもグレモリー領だけだけど――を案内してもらい

冥界が殆ど人間界と変わらない場所だと言う事を思い知った。

聞けば、色々人間の生活を参考にしているようで、人間界にあるものは

大体疑似的に再現されているらしい。やっぱすげーな、冥界。

 

……ただ、アーシアが少しだけ首をかしげているのが気になったけど。

 

「どうしたんだよ、アーシア」

 

「あ……いえ。部長さんの言う事――人間界を参考にしているってのは大体わかるんですけど……

 その割には、参考にしている部分が限定的すぎると言うか、何と言うか……

 私の故郷の雰囲気は一部の建造物にしか見られませんし

 それ以外はあまりにも現代的過ぎて……

 冥界って言うよりも、なんだか人間界っぽくて逆に違和感を感じてしまって……」

 

「それだけ悪魔が人間社会に敬意を持ってるって証拠じゃないか?」

 

「そう……なんですか? うーん……」

 

「難しい事を考えるのはやめになさいアーシア。

 そろそろ疲れたでしょう、そこの自販機でジュース買ってくるわ」

 

グレモリー領の公園。ここで俺達は部長が買ってくれたジュースを飲みながら休憩していた。

言われてみると、確かにグレイフィアさんが言っていたように活気に欠けている気がする。

少なくとも、ここに来る途中に見た旧都ルシファードよりは……。

 

「……イッセー。言いたいことはわかるわ。

 だから私は、レーティングゲームでトップに立ちたいの。

 今の冥界で、自分の実力を示すのはそれが一番有効な手段よ。

 私にもグレモリーの次期当主としての誇りがあるわ。だからこそ、ここをもっと活気づけたい。

 その為にも……イッセー。あなたの力を私に貸してちょうだい」

 

「勿論です部長! なんたって俺は部長の『兵士(ポーン)』なんですから!」

 

「ふふっ、その言葉だけでも嬉しいわ。アーシア、戦いが嫌いなのはわかるけど

 あなたにも力を貸してもらうことがあるかもしれないわ。その時はよろしく頼むわね」

 

「……はい」

 

ん? なんだろう今のアーシアの間は。

けれど、部長は俺を頼りにしてくれている。

だったら、俺はその期待に応えるだけだ!

そう意気込んで一気に飲み干したジュースは……メロンソーダだった。喉が痛い。




普段のイッセーは大体こんな感じ。
リアスと朱乃からセクハラ受けて鼻の下を伸ばし
アーシアが複雑な面持ちで見守り
小猫が冷たい視線を送り(時には折る)、木場が苦笑し
ギャスパーはイッセーの舎弟的存在。

……あれ、セージ居場所ないじゃん。
まぁオリ主なんてそんなもんなんですけどね。

そんなセージですが現在消息不明。
冥界に移動したまでは判明しているのですが。

>アインスト
飛んでいる奴はOGクロニクルに登場した飛行タイプ。
擬態タイプはセージと能力が被るので不参加……
っつーかアインストセージなんて出された日には
戦力比がえらい事に……(4人に増えた某乳牛姫から目を反らしつつ

>黒猫
この章のサブタイからお察しの方もいらっしゃるかと思いますが
いよいよ「彼女」が登場します。
原作では完璧に顔見世程度の出番でしたが、拙作では悪魔の駒周りの改変のお陰で
メインになると思われます。

>焼き鳥
こういうやり方は両論別れるとは思いますが……
「ああ、いい奴だったよ」と言う事で。
人間蔑視はありますが、悪魔社会としては好漢「でした」。
セージ的に許せなかったのはその人間蔑視の奴が
人間の町を管理している悪魔(リアス)と結婚することで
その管理に口出しされることを懸念しての事でした。

>冥界の街中の様子
人間社会をベースにした、とのことですが……
人間社会ったって、ピンキリすぎますからね。
先進国と発展途上国だったら先進国を手本にするのはまぁわかりますが
その先進国の中でもさらにピンキリですからね。
自動販売機だってシステムがまるっきり違うとかあり得る話ですし
交通機関だってダイヤガン無視の国もあれば
定刻通りに只今到着な国もありますし。どの人間社会を手本にしたのやら。
一体全体人間の何を見ているのやら。
この作品全体について思うのですが
「上っ面だけ」模造しているのではないかと邪推してしまいます。

拙作では(グレモリー領は特に)日本をベースにしていると設定。
そのためアーシアが違和感を抱いています。

……あ。伊草家のベビーシッター(とゼノヴィアの日本語教師)が
夏の間取られてる……

そういえば、この間悪魔稼業ってどうなってるんでしょうかね。
この世界におけるその答えは次回。


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A New beginning.

社会人にも一応夏休みはあるんですけどね。
学生ほど大きく取沙汰されないだけで。
そんな超特捜課のエピソード。
それなのに夏休みではないと言うインチキ。

時系列的にはちょうどオカ研内ゲバが決着ついた後から。
既にセージは冥界に向かっていますし、リアスらも帰省列車に乗った後で
今頃家具の大半が抵当に入れられたグレモリー邸にいる頃です。

あと、今回後書きの解説が長いです。


愛と死と、憎悪が渦巻くデーモンタウン・駒王町。

 

超常事件捜査に挑む、心優しき(?)戦士たち。

 

彼ら、超特捜課(ちょうとくそうか)

 

――――

 

駒王警察署・超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)

 

学生達は夏休みに入るが、超特捜課に夏休みはない。

発生する事件こそ、曲津組の暴動以来沈静化しているものの

それでも謎の事件に関連する相談は後を絶たない。

 

「……あっつ。こう暑いとアイスが手放せないぜ……」

 

安玖(あんく)巡査。それでもう3本目です。そろそろ控えたほうがいいと思われますが」

 

税収減による維持費のカットにより節電が行われている超特捜課のオフィスでは

安玖信吾(あんくしんご)巡査がアイスをかじりながら書類作業に追われ

窓口では硬い表情の霧島詩子(きりしまうたこ)巡査が相談者の対応を行っている。

 

「うるせぇ霧島。てめぇだって飴ちゃん舐めてたろうが」

 

「あれは……! 集中力を高めるために必要なものです!」

 

時期は夏。暑さでストレスもたまると言うモノ。

いつしか安玖と霧島は言い合いを始めてしまい

成さねばならない仕事への対応が遅れてしまう結果となってしまう。

その結果……

 

「……コホン。霧島君。安玖君。内線が入っているんだがね」

 

「はっ! す、すみませんでした!」

 

隣の部署の人間にまで指摘されてしまう始末。

これだけならば、まだ表向き平和な町であると言えるのだが。

 

……内線の内容は、その平和とは裏腹なものであると言わざるを得なかった。

 

「はい、こちら超特捜課……えっ? 警視庁……装備開発課の……

 はい、はい。ギルバート博士ですね。その節はお世話になりました。

 えっ? 試験……ですか? はい、はい。わかりました。

 では(やなぎ)に相談の上……えっ?

 

 い、今すぐにですか!?」

 

内線相手は超特捜課の装備も開発している警視庁の装備開発課。

ギルバート・マキ博士の指導のもと、新装備が完成したのでテストを行いたいと言う

内容の連絡であった。それも、課長であるテリー柳の許可は得ているとの事。

 

「えっと……その条件ですと氷上(ひかみ)巡査か私と言う事になりますが

 氷上巡査は現在警邏に出ておりまして……えっ!?

 

 わ、私がですか!?」

 

思わず霧島は我が耳を疑った。

何せ、自分が新装備のテスターをやることになるとは思わなかったのだ。

警視庁の捜査一課にいた経験こそあれど、こうした超常事件の前では

その経験もどこまで生きるか疑わしい。あの氷上巡査でさえ、当初は疑い半分だったのだ。

それもあってか、霧島の配属は内勤オペレーターだった。

 

それなのに、まさか自分に新装備のテストをやれとは。

一体全体、ギルバート博士は何を考えているのだ。

そう、霧島は思わずにはいられなかった。

 

「あん? ああ、マキのおっさんか。薮田(やぶた)と言いうちの装備開発部門は変な奴が多いな。

 留守番は俺がしとくから、ちゃちゃっと行って来いよ」

 

手をプラプラさせながら、とてもまじめに見送ろうとしている態度には見えないが

安玖は霧島を送り出そうとしていた。

 

霧島も渋々と言う形ではあるが、上からの命令とあらば行かないわけにもいかない。

何せこの試験、既に警視であり超特捜課課長でもあるテリー柳の許可が出ていると言うのだ。

となれば、取るべき行動は一つだ。

 

「それでは行ってきますが……くれぐれもアイス食べ過ぎておなか壊さないでくださいよ」

 

「やるかバカ。ガキじゃあるめぇし」

 

荷物を纏め、警視庁まで急な出張が入ることになった多忙な霧島を横目に見ながら

安玖は再び書類に向き合う。

しかし、ここで何かに気づく。

 

――いくらなんでも急すぎる、と。

 

送り出す前に気づけと言う話かもしれないが、安玖は柳に報せを入れることにした。

 

「柳に一応連絡入れておくか……忙しいところ悪いな柳。俺だ、安玖だ。

 実は確認取りたいんだが、マキのおっさん、お前に許可取って

 新装備の開発をしたって聞いたが……」

 

『何? もう出来たのか、流石はマキ博士だ。

 ……しかし参ったな。氷上は確か今日は警邏じゃなかったか?』

 

「ああ、それなんだが向こうは霧島を寄越せって言ってきたんだ。

 俺も新装備のスペックだけは送られてきたのを見たが

 確かに霧島でも使えるはずの代物だが……」

 

『ああ、だが霧島はまだ人外勢力との戦いを経験していないぞ。

 そういう意味も込めて、今回のテストには氷上を推すつもりだったんだが……』

 

「ま、なっちまったもんは仕方ねぇやな。それよりどうだ、そっちの様子は」

 

『流石に怪異事件に携わっていた蔵王丸(ざおうまる)警部の口添えもあってか

 奈良県警や隣の京都府警は足が速い。この分なら、駒王町以外の場所で起きている

 超常事件に対しても人間が手をこまねいているって事態も、そうそう起きずに済みそうだ。

 長野県警はもはや、言わずもがなだがな』

 

柳は現在、駒王町の外で起きている超常事件に関する調査報告会議に出席している。

10年前に起きた事件の爪痕が今なお痛々しい長野や

超常事件が日常的に起き、妖怪の住家とも言われる京都や隣の奈良を中心に

「我が県警、府警にも超特捜課ないしそれに準ずる組織が欲しい」といった

意見が上がっているのだ。現在は試験的に超特捜課の装備の一部がそれらの県警、府警に配属され

一般事件の延長線上にある超常事件――すなわち、犯人が人ならざるものである事件に

一般の警察が立ち向かうと言う、少々歪な体制が明るみに出てしまっている。

幸いにして長野県警には事件のノウハウがあり、京都府警や奈良県警には妖怪退治を生業とする

NPO法人が拠点を構えているため、市民との協力で事件解決が出来ているパターンが多い。

 

しかし国家権力として、そう何度も国民に頼れないのも事実。

その埋め合わせを図る目的として、超特捜課課長である柳が呼び出された形だ。

 

『まぁ、こうして俺が腰を落ち着けて話すことが出来るってのはいいことかもしれんな。

 それじゃ、また何かあったら連絡を頼むぞ』

 

安玖と柳の会話は終わりを告げ、受話器の置かれる音だけが響き

再び書類の山となった机に向き直る安玖。

 

その後ほどなくして、安玖の悲鳴が所内に響き渡った。

 

「ちくしょぉぉぉぉっ! 長話しすぎてアイスが溶けやがったぁぁぁぁぁ!」

 

―――――

 

警視庁・装備開発課。

 

ここでは日本の市民を守る警官のための装備を開発・運用すべく

研究員が昼夜を問わず働いている。

とは言え専らここで開発されているのは超特捜課向けの装備が過半数を占めており

いかに超常事件が特殊なものであるかの証左ともいえる。

 

そんな装備開発課にて、今日もまた新たな装備が開発され

テストが行われようとしていた。

 

「お待たせしました。駒王警察署超常事件特命捜査課の霧島詩子、只今到着しました。

 あ、あの……」

 

「こうしてお会いするのは初めてでしょうか。私がギルバート・マキです。

 ……ああ、内装については趣味ですのでお気になさらず」

 

マキ博士の言う「趣味」。それは自分の机の上をはじめとして

オフィスに点在しているドールやドールハウスの事である。

彼は趣味として人形収集やドール衣装・ドールハウス製作を行っているのだ。

その光景に、霧島は呆気にとられていた。

それも下手の横好きではなく、どれもが精巧な作りであり

まるで生きているかのようである。勿論、そんなことはないとマキ博士に言われてしまったが。

 

「モノ作りが高じただけですよ。部屋のこれも、今の役職も。

 さて、話を進めましょう。今回テストしていただく装備は

 ズバリ、強化服です。これは薮田博士とも共同で開発していたものなのですが

 彼も多忙なようで、今はギリシャに出張だそうですよ。

 その為に私が再び代理として、試作品ではありますが完成させることが出来ました。

 霧島君。あなたに行ってもらいたいのはその装備のテストです」

 

「あ、あの……私、まだ超特捜課での現場経験は……

 確かに以前は捜査一課にいましたが……」

 

「心配は無用です。実戦投入の予定はありませんよ。

 今回行っていただくのは着用時における使用者の状態観察と

 強化服が正しく機能するかどうかのテストですので」

 

武器と違い、身に着けるものである以上装着者の安全を考慮するのは至極当然であると言えよう。

しかし、霧島は「それならば私でなくとも警視庁の者でもよかったのではないか」と言う

疑問も抱いていた。

 

「ああ、先ほど実戦投入はないと言いましたが

 ゆくゆくは実戦投入するものですよ? つまり、あなたがこれの完成品を使う可能性は

 極めて高いのです。今の内から体験しておくことは有意義だと思いますがね」

 

マキ博士の言い分は尤もな事であり、そもそも自分は指示を受けてここにやって来たことを

考えれば、この場は二つ返事以外の選択肢は無かっただろう。

用意されたロッカーでインナースーツに着替え、女性職員の手によって

増加装甲が取り付けられる。見た目的には頑丈そうだが

重さはそれほどではなさそうであり、実際軽量である。

インナースーツ部分は動きやすさを重視したためか薄手であり、ボディラインが出てしまうのが

ある意味では霧島の悩みの種ではある。が、それは副次的なものである。

実際の着心地は、今のところ悪くない。寧ろ良好ともいえる。

 

「今回制作した強化服は、教会の悪魔祓いが着用している儀礼用の服に

 手を加え、全面的な改修を行ったものです。従いまして、重量に関しては

 特に気を配った部分でもあります。

 他にも特殊繊維により常時快適な装着性をもたらすと同時に

 防御面も……」

 

「あ、長くなりそうなら後でカタログでお願いします」

 

「……そうですか。では早速ですがテストを開始します。

 まずは――」

 

長くなりそうなマキ博士の言葉を遮るようにして、霧島はテスト開始を訴える。

促されるように、早速新装備――特殊強化服のテストが行われることとなった。

 

主なテスト項目は以下の通りだった。

 

・装着時における体温、心拍の変化

 

・装着時における運動機能の変化

 

・装着時におけるメンタル面への影響

 

勿論これ以外にも細かな項目が雑多にあるのだが

そのすべてを霧島が理解しているわけではない。

彼女はただこの特殊強化服を着用して簡単なスポーツテストに始まり

マキ博士謹製の無人機・ドローンドロイドを相手にした戦闘テスト――

と言っても射撃訓練みたいなものだが――を行っていただけだ。

 

「――はっ!」

 

射撃戦闘テストの他にも、接近戦を想定した戦闘テストも行われ。

霧島が得意とする足技の威力も、遺憾なく発揮され次々と無人機を叩き落していく。

その様はマキ博士に新装備のアイデアを与えるには十分すぎる成果であったと言えよう。

 

「……ふむ。これは脚部装着型の装備も需要がありそうですね。

 霧島君。貴重なデータをありがとうございます」

 

しかし、時間だけは大幅に食うのがこういったテストの常。

昼過ぎに到着した霧島が特殊強化服から着替えたのは

もう既に日が沈み切った後の事であった。

 

――――

 

「お疲れ様でした。宿の方は手配してありますし

 柳君や駒王署の署長には私から一報入れてあります。

 なので、今晩はこちらに泊まり、明日駒王町に戻るとよいでしょう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

マキ博士に促され、その日はシティホテルで休むこととなった霧島。

残念ながら(?)土産を買う暇などはなさそうだ。そもそもこちらへの出張も、急な話である。

しかし、一体なぜこんなタイミングでだろうか。

疑問に思いながらも、シティホテルに向かうべく警視庁を後にしようとした

霧島の前に、一人の黒髪の初老の男が現れる。

 

「け、警視総監!?」

 

警視総監。薮田直人(やぶたなおと)の論文にただ一人向き合い、超特捜課を立ち上げる鶴の一声を発した

警視庁と言う組織の頂点に位置する存在。そんな人物を目の当たりにし

霧島も思わず畏まり敬礼の姿勢のまま固まってしまっている。

一方の警視総監は、そんな霧島に苦笑しながら敬礼を崩させるように肩を叩く。

 

「君はもうあがりだろう。ならばそう硬くならなくともよい。

 マキ君から聞いたぞ。忙しい中よく来てくれたな。礼を言おう」

 

「はっ……と、ところで警視総監は何故こちらに?」

 

「ん、俺か? 俺も今しがた今日の事をマキ君から聞いてきたところだ。

 霧島君……だったな。君は超特捜課に配属になった時、どう思った?」

 

警視総監の質問は、霧島にとって要領を得ないものだった。

遡る事1か月になるかならないかの時期。その時に華の捜査一課から

地方都市のへんてこな部署に異動になったのだ。

傍から見れば体の良い左遷だし、当初は霧島自身も左遷と思っていた。

 

――駒王町で、実際に悪魔にまつわる事件と遭遇するまでは。

 

「どう……とは?」

 

「言葉通りだ。今の世の中、神や悪魔と言った存在は忘却の彼方に行って久しい。

 だが、こんなことを話せば笑われるかもしれないが、俺は神様にお会いしたことがある。

 最も、学生時代の話だからもう50年以上も前になるがな……

 ……おっとすまん。年寄りの長話になるところだった。

 

 ともかく、神様がいるのであれば悪魔もいる。そしてそれに準ずる者もいるだろう。

 日本で言えば妖怪がその最たるものだろう。

 果たして彼らは皆人間に対して友好的なのかどうか。

 そう考えたところにある論文と出会った。それが……」

 

「薮田博士の論文、ですか?」

 

霧島も話程度には聞いたことがあった。超特捜課の生い立ち。

それは、警視総監がある論文に感銘を受け、試験的に対策を導入したら

思わぬ成果を上げた事。それが超特捜課の始まりとなった事。

こうして関係者が目の前におり、かつそれを肯定するような言い回しをしていることから

その聞いた話は間違いではないと言う事だろう。

 

「そうだ。そして結果は残念ながら……君たちが活躍している通りの事態だ。

 俺はもちろん、人間として人間の自由と平和を守りたい。その思いは今も変わらない」

 

「私も同じです。生きとし、生ける者達の自由と平和を守りたい。そう思っています。

 それは、超特捜課でも変わらない私の思いです」

 

「その志は買おう。だが、その道は果てしなく険しいぞ。

 まして、人間の犯罪者以上に常識の通じない相手なのだからな」

 

真剣なまなざしで、霧島を見る警視総監。

しかし霧島も、その言葉に負けじと真剣なまなざしであった。

 

「今の言葉は、私の命の恩人の言葉でもあります。

 小さいころ、私を助けてくれたある警察官の。

 だから私も、警察官としての道を選びました。そこに、後悔や迷いはありません」

 

「そうか……ならば、応援しているぞ。

 俺もまだまだ若いものに負けるつもりは無いが、若者も俺に負けてほしくない。

 俺はそう思っている。だから自分自身に打ち勝つんだ、霧島君」

 

「は……はい!」

 

労いの言葉と共に、警視総監は通り過ぎていく。

本郷警視総監。彼は学生時代に神に出会ったと言っている。

それが本当かどうかは確かめるすべのない事だが、神の存在自体は

超特捜課にいる霧島ならば素直に受け入れられる事だろう。

霧島もまた、シティホテルに向かうべく足を進めるのだった。

 

 

ところが、事件は翌朝急に起きた。

駒王町へと向かう列車が軒並み運休。

情報も混乱しており、状況がわからない。

霧島は、東京にて足止めを喰らう形となってしまったのだ。

 

ネット上には、こんな情報も散見されている。

 

――駒王町にて同時多発テロ!?

 

――謎の怪生物が現れたとの情報!?

 

――日本の魔境、いよいよその化けの皮が剥がれ落ちる!?

 

こんな時のマスコミが一体どこまであてになるのかはわからない。

けれど、駒王町の様子はテレビのニュースでは少し取り上げられた程度だ。

それも、事故による駒王町内全線通行止め、と言う形で。

 

これは奇しくも、オルトロスが駒王町に放たれた時と同様の状態でもある。

その時は陸路はすべて封鎖されていたため、空路にて強引に駒王町に向かった。

しかし、今回はまだ情報が足りず、ヘリを手配することが出来ない。

仕方なく、霧島は警視庁に向かう事になった……

 

 

―――

 

 

その日の朝から、駒王町はまたしても物々しい雰囲気に包まれていた。

町中を謎の怪物が闊歩したり、建物には爆弾が仕掛けられたりと

治安が全く機能していない状態になってしまっているのだ。

 

迎え撃つべく警察も出動するが、テロはもとより怪物には超特捜課でなければ太刀打ちできない。

騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた蒼穹会(そうきゅうかい)伊草慧介(いくさけいすけ)と下宿人、ゼノヴィア・伊草の協力を得て

辛うじて被害を最小限にとどめていられると言う状態なのだ。

 

「ゼノヴィア君。この状態で君を戦いに駆り出すのは心苦しいのだが……」

 

「構わない。今私が戦わなければ、アーシアに笑われてしまうし

 めぐや百合音(ゆりね)も安心できないだろう。めぐの分まで、私が戦う。私には……まだ力がある」

 

戦友・紫藤イリナが禍の団(カオス・ブリゲート)に入ってしまったショックから

完全に立ち直ったわけではないようだが、この町の惨状を見かね

ゼノヴィアも聖剣(デュランダル)を取り戦う決意を固めている。

その強さに感心するとともに、自称とは言え師匠の慧介は

ゼノヴィアが足元をすくわれないかと心配でもあった。

 

「その力には……絶対に呑まれてはいけない。それは力を揮う者の守るべきルールだ。

 肝に銘じなさい」

 

「わかった。しかし……この大事な時にリアス・グレモリーは何処に行ったと言うんだ」

 

ゼノヴィアは知らなかった。最早リアスは、駒王町の管理者などではないと言う事を。

ゼノヴィアは知らなかった。友人アーシアを引き連れて、今は冥界にいると言う事を。

 

だからゼノヴィアは奮い立った。ならば、私達がやらねば誰がやるのだと。

迷いを振り切るように振りかざされたデュランダルは

怪物――アインストを一太刀の元に切り捨てる。

元々パワーファイターであるゼノヴィアには、アインストクノッヘンの硬い骨格も敵ではない。

一方の慧介も、未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)から光弾を発射し

触手のアインスト――アインストグリートを撃退していく。

 

「しかし慧介、こいつら聖剣の効きが悪い! 悪魔じゃないぞ!」

 

「何であれ、人に仇成すのであれば倒すのみ。その命、神に返しなさい!」

 

そう。デュランダルは聖剣であり、悪魔に対しては特効ともいうべき威力を発揮するはずなのだ。

それなのに、このアインストには通常の剣と同じ程度の威力しか発揮されていない。

何故ならば。アインストは、悪魔とは似て非なるものであるから。

 

「これだけの数だと言うのに、教会は何をしているんだ……!

 まさか、悪魔じゃないと言う理由で教会は援軍を派遣していないわけではないだろうな!」

 

「あり得る話だが、今それを議論するべき時ではない! 敵に集中しなさい!」

 

慧介とゼノヴィアは必死になって数を減らそうと戦い続けるが

ついにアインストの大群に囲まれてしまう。

 

「くっ……」

 

「囲まれたか!」

 

万事休すと思われたその時、上空から放たれた火球がアインストの一団を焼き払った。

上を見上げると、欲望掴む右手(メダル・オブ・グリード)の力で空を飛びながら

アインストに対し爆撃をかけている安玖の姿があった。

 

「市民が体張ってるのに、俺らが何もしないわけにいかないだろうが。オッサン!」

 

「お前は! いつぞやの口の悪い警察官! オッサンはやめなさいと言ったはずだ!」

 

安玖の攻撃に連携が乱れたアインストめがけて、今度は氷上が神経断裂弾での射撃を試みる。

アインストと言えど生物なのか、神経断裂弾を受けたアインストは次々と動きを止め

内側から砕かれるように赤い宝玉が割れ、消失していく。

 

「こいつらには効くみたいですね。実は先ほど、神経断裂弾の通用しない

 鎧のような怪物と遭遇しましたので。そちらは『神仏同盟(しんぶつどうめい)』を

 名乗る方々が退治してくださいましたが」

 

「神仏同盟と言う事は、日本の神や仏が動いていると言う事か」

 

「内なる神は、こうした危機に駆け付ける。だから、神への信心を忘れてはいけない。

 ゼノヴィア君、君なら俺の言いたいことが分かるはずだ」

 

周囲のアインストを撃退し、一息つく超特捜課と蒼穹会の戦士たち。

しかし、一体なぜこんなことになってしまったのか。

今や駒王町のあちこちからは火の手が上がっており、緊急車両がひっきりなしに走り回っている。

超特捜課と蒼穹会だけでは守り切れない。

だが、今や駒王町は悪魔の支配する街ではない。故に、神仏同盟が駆けつけてきたのだ。

日本の大地を穢す者を、日本の神が、仏が調伏する。

考えてみれば当たり前の出来事ではあるのだが。

 

ふと、氷上の無線に通信が入る。昨日の夜に帰ってきたために

事件に応対することが出来るようになったテリー柳課長からである。

 

『氷上、聞こえるか。一旦警察署まで戻れ。態勢を立て直す』

 

「柳さん! 蒼穹会の人たちと合流しましたので、一緒に向かいます!」

 

『了解した、詳しい事は署で話す。無事に戻って来いよ』

 

柳からの指令。それは実質、撤退命令である。そんな指示を出さねばならないほどに

前線は疲弊しきっており、禍の団の、そしてアインストの攻撃が激しかったことを意味していた。

 

――――

 

同時刻、兵藤家。

 

「……ふふ、ふふふ、ふふふふふ。

 イッセー君、どこへ行ってしまったと言うの?

 やっと昔みたいにお家で遊べると思ってたのに……。

 ここに来る途中にちょっと汚れちゃったけど、ちゃんとお風呂も入って来たのに。

 イッセーくぅーん、あーそびーましょー? ……うふふふ、うふふふふ」

 

所々崩れ落ちている家の前で、刃の紅く染まった擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

龍殺しの聖剣(アスカロン)を携えた紫藤イリナが虚ろな目で笑っている。

一体、彼女の眼には何が映っていると言うのだろうか。

 

そんな彼女を、背後から眺めている青年がいた。白龍皇(バニシング・ドラゴン)、ヴァーリ・ルシファーである。

 

(俺は一体何をしているのだ。赤龍帝とも、あの謎のドラゴンとも戦えないまま

 ただこうしてむやみに一般人に危害を加えている。

 俺がアザゼルを裏切ってまでやりたかったことはこんな事じゃない!

 俺はただ、強い奴と戦いたいだけだったのに……一体、どうしてこうなったんだ……)

 

その胸に去来する後悔の念。しかし、彼もまた後には引けないのだ。

無限龍(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスに協力を誓い、こうして禍の団の一員としている以上

禍の団の活動には参加しなければならないのだ。

 

「おうおう、派手にやってるねぇ。しかしここの夫婦も可哀想になぁ。

 息子が悪魔になんぞならなければ、この町なんぞにいなけりゃ

 平和に暮らせてたかもしれねぇってのに」

 

紫色の巨大な毒蛇を引き連れて、真っ黒な牧師服を纏った青年――フリード・セルゼンは

やって来るなり惨状を嘲笑いつつも同情するような口ぶりで語っている。

 

「で、白龍皇。おめぇなんだがよ……言わせてもらうぜ。

 

  サ ボ ん な ?

 

 おめぇの力があれば、この町の悪魔の臭いを消すくらいわけないだろうが。

 サボりっつーことで、オーフィスの旦那にチクるけど構わねぇよな?」

 

「……好きにしろ。俺の目的は赤龍帝か、あの謎のドラゴンだけだ。それ以外の強者もいない

 こんな街に興味など初めから無い」

 

「そうかい。じゃ、俺も好きにさせてもらうぜ。ほれ、行くぞイリナ。

 兵藤一誠を探しに行くんだろうが」

 

「……命令しないでよクソ神父。じゃあイッセー君、また来るからね?

 こんどはちゃあんと、お顔よく見せてね? 直してあげるから。

 うふ、うふふ、うふふふふふ……」

 

三人と一匹がその場を後にしたと同時に、そこにあった家屋は音を立てて崩れ去った……




あちこちにネタ挟み過ぎたかもしれません。
出だしは往年の名作ドラマ、特撮最前線もとい特捜最前線より。
午前中再放送やってたお陰でこびりついちゃいまして。
……さすがに中身まではそれほどでもありませんが。

>霧島の舐めていた飴
デネブ……じゃなくてひとやすみるくの方です。
拙作には現時点では相方いないので一部兼任している形。

>蔵王丸警部
奈良県警所属のベテラン刑事。元ネタは仮面ライダー響鬼より斬鬼さん。
フルネームは蔵王丸漸貴(ざおうまるざんき)
奈良県警在籍なのは猛士総本部が吉野(奈良県)に所在することに因み。
NPO法人についても触れられてますがそちらは猛士ではなく
名護さんもとい伊草慧介の所属している蒼穹会の近畿支部。
蒼穹会が猛士の役割を兼任している部分もありますので。

>マキ博士の趣味
ある意味ではモチーフ元のキャラより拗らせているともいえます。
因みに飾ってある人形にはきちんとウィッグありますので
某キヨちゃんみたいなことにはなってない。はず。

>試作型特殊強化服
あの教会スーツをモチーフにしているだけあって
動きやすさを重視しつつ急所を的確に防護すべく
ピンポイントで増加装甲を装着してあります。

なお今回の装着者は霧島さんですが彼女のモチーフ元(の演者さん)の事を考慮すると
教会スーツの正規着用者であるゼノヴィアやイリナに比べて
非常に残念なことになる部分が……メディックならよかったのにげふんげふん
え? 霧子はそっちじゃなくて黒スト? それはご尤もで。

>警視総監との対話
劇場版仮面ライダーアギトを意識してます。
警視総監はアレよりもあの人っぽくしたつもり。
藤岡弘、オーラの再現がたりないかも……
何気にチェイサーっぽい人についても触れられていたり。

>駒王町
リアスも(もう管理者じゃないけど)ソーナも(町全体は管轄外だけど)
いない時に襲撃されました。
普通に考えたらそんな好機を敵対組織が黙ってるわけないと思うんです。
しかも出て来たのはアインスト。超特捜課にとっては初の相手。
今回アインストと神仏同盟が戦っていると氷上の口から語られましたが
ただ単に担当だっただけと言う事。三大勢力は逃げたわけではありません。
うん、多分、きっと。

>ゼノヴィアの名字
以前クァルタ姓を名乗っていたのはパスポートの都合上便宜的に名乗ったもの。
まさかパスも無しに入国できるほどザルじゃないでしょう。
現在は下宿と言う事で暫定的に伊草姓を名乗っている形。

>アインスト
中身空っぽの鎧型ことアインストゲミュート登場。
今回は裏で神仏同盟と戦っている形ですが。
神経断裂弾が物理的に効かない相手なのでこうなりました。
三大勢力に端を発した怪物ではありませんが、三大勢力の不始末から
出没している怪物ですので責任追及は一応可能。そんなことしてる場合じゃないけど。

>兵藤家
場所知ってるイリナがいれば、この時点で襲撃がかかってもおかしくないです。
と言うか襲撃を早めさせるためにイリナをこうした部分があったり。
テロ組織の癖に本拠地攻撃がマジで遅すぎると思うんです、原作。
イッセー両親については現時点では安否不明と言う事で。
イリナは絶賛ぶっ壊れ中、フリードは魔獣とうまくやっているのに対して
ヴァーリは自分のチームももらえてないばかりか自分の行いに後悔している有様。
これには理由がありまして

赤龍帝か紫紅帝龍がいる! と意気揚々と殴り込み

いないどころか一般人ばかり(場所とタイミングが悪かった)

何で俺はこんなことを?

拙作では美猴も早々に禍の団から手を引いてます。
理由はアインストとは手を組みたくないから、との事。
中国系の妖怪の間では百邪と言う異世界からの怪物の伝承があり
それとアインストがそっくり……と言うか元ネタですね、はい。

――ヴァーリの旦那にゃ悪いが、俺っちにもプライドってもんがあるんだぜぃ。
  百邪……アインスト、だっけか。奴らとなんか手を組むのは
  そのプライドに反するし、ご先祖様にも申し訳が立たないんだぜぃ。
  っつーわけで、俺っち降りるから。悪ぃな、旦那。

ちなみにセージ実家が襲われていないのは場所が割れていないから。


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Soul67. 因果応報の四面楚歌

タイトルは初代ポケモンの格闘道場より。
しかしこれを今回のタイトルにしてしまっていいものかどうか。
そんなお話。

……ところで、どっちがサワムラーでどっちがエビワラーでしたっけ。
そしてかくとうタイプのこいつらをエスパージムのあるヤマブキシティに置いておく
ゲーフリの意地の悪さよ。
最初のヒトカゲと言い罠を仕掛けるのがお上手で。

……私? ヒトカゲでしたとも。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

いよいよ、俺は冥界へと向かう。

全ては、俺の身体を取り戻すために。

 

この忌まわしい楔を、抜き取り砕くために。

 

――残された時間は、あと53日――

 

――――

 

「……はぁ」

 

唐突だが、前途多難にもほどがあると思う。

確かにほぼ無断使用とは言え、まさか全然違う場所に飛ばされるとは。

イッセーとは違う意味で俺は魔法陣との相性が悪いみたいだ。

辛うじていつぞやゲートを見つけた要領でこの近辺を偵察することは出来たが……

 

……ここが使い魔の森ではないと言うことくらいしかわからん!

 

考えてみれば、俺は冥界の土地勘などまるっきり持っていなかった。

これは少々勇み足が過ぎたやも知れぬ。

とりあえず、市街地らしき場所は探知できたので、その方角に向かってみることにする。

市街地で連絡端末を借りて、バオクゥに来てもらおう。

 

ここで頼れるのは、バオクゥ位しかいない。

祐斗や塔城さんも、今頃はグレモリー部長と一緒だろう。

呼ぶのは憚られる。っつーか、グレモリー部長に啖呵切って出て来たも同然なのに

グレモリー部長の人材を呼べるわけがない。

 

「……はぁ」

 

ついため息が出てしまった。別に独りでいることに慣れていないわけではない。はずだ。

しかし心細いのもまた事実。やれやれ、やはりそれが人間の限度……

と言うか、そういう感情が俺の心はまだ人間であると再認識させてくれる。

まあ、悪魔も孤独を恐れる生き物であるのならばこの認識は全く意味を成さないが。

 

それにしても、悪魔と人間。何が違うのだろうな。

書籍全般にあるような悪魔とは全然違う。市街地に出ればまた何かわかるかもしれないが

知っている範囲ではまるで人間と変わらない。それなのに何故だ?

 

何故、悪魔と人間とに分かれてしまっているんだ?

天使にしても詳しくは知らないが、多分同じかもしれない。

猿と人間位の違いなのか? 疑問は尽きないが、今はそんなことを考えている場合でも無かろう。

 

「……はぁ」

 

こんな調子で本当に俺は元に戻れるのだろうか。

残り53日。これを長いと見るか短いと見るかは人それぞれだが

俺の場合は抱えている問題が多すぎる。まず「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の共有現象に関する調査。

それを行った後、悪魔の駒の共有の解除の方法。

そして……これはイッセーを殺すことにもなりかねないので最後の手段だが……

 

……悪魔の駒の破壊ないし機能停止方法。

 

そう。共有があるため、事態はとてもややこしい事になっているのだ。

イッセーを生かし、その上で俺の目的も達成する。それが最善策だ。

まあ、えてしてとても難しいものが最善策ではあるのだが……輪をかけて難しいだろう、これは。

 

色々考えながら歩いているうちに、建物が見えてくる。

造りはやはり違うみたいだが、遠目で見た設備は人間のそれを模しているみたいだ。

模造か? さっき人間との違いを猿と人間の違いに喩えたが

まさか猿真似なんてものを見るとは思わなかった。

文明がこうも似通るって事、あり得るのか?

 

……おっと。一応仮面を用意しておくか。

 

「モーフィング。葉っぱを仮面にする」

 

落ちていたひときわ大きな葉を一枚拝借し、仮面へと変える。

顔全体を覆う大きさは確保できなかったが、顔をカモフラージュするにはちょうどいい大きさだ。

ここは通過点、色々絡まれるのは好きじゃない。

こうして変人を装えば向こうから離れてくれるし顔が割れていないから面倒もない。

いつぞやは用意が間に合わなかったためにサングラスだったが。

 

……だが、それがこの地では思わぬ弊害を生むことになるとはその時の俺は思いもしなかった。

 

――――

 

「か、仮面の赤龍帝だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「え、うそ、どこにいるんだよ!?」

 

……おかしい。

俺の情報はここまで筒抜けだったか? しかも、声色からして好奇の感情よりも

恐怖の感情が勝っているようにも思える。一体全体……あ、あの件か。

まさかまだ尾を引いていたなんて……抜かった。

 

「下等な転生悪魔ごときが! よくもライザー様をあんな目に!」

 

「そうよそうよ! ここから出ていけ!」

 

……っ!?

事は俺が思った以上に大きかった。抜かった、まさかここはフェニックス領だったなんて!

せっかく見つけた市街地がフェニックスのお膝元では、情報収集どころじゃないぞ!

しかも野次に紛れて石や生卵が飛んでくる。

く、くそっ! まさか本当に石をぶつけられる日が来るなんて!

俺の小さい頃でもここまでの事はやられなかったぞ!

こりゃどう考えてもこれ以上ここにいるのは良くない。

早々に退散しないとマズい!

 

「あっ! 逃げるぞ!」

 

「逃がすな! ライザー様の敵だ!」

 

「追え! 殺せ! どうせ下級の転生悪魔だ! やっちまえ!」

 

チッ、どいつもこいつも好き放題言ってくれる。

反撃も考えたが、ここで事をこれ以上荒立てるのも良くない。

それにうっかり入り込んでしまったのは俺の方だ。

早々に黙って退散する以外の道はあるまい。

 

……それにしても。

やはり冥界は腐っているな。さっきから俺の事を下級の転生悪魔と呼ぶ野次の多い事多い事。

それはつまり、歪んだ形での貴族主義が罷り通っているって事だ。

残念ながら現在の人間社会でも成立してしまっている、立場による差別意識。

それが一皮むけた状態で露呈しているか、水面下で渦を巻いているかの違いだけだ。

全く。悪魔も人間の事を偉そうに言えないだろ。これは。

 

あまりにも追撃が面倒なので、霊体化してまくことにした。

霊体化で見失う辺り、やはり能力は大したことはないって事か。つまり一般市民。

それなのに無責任に殺せだの言ってくるあたりは……まぁ、人間とあまり変わらないな。

 

そのまま俺は霊体の状態で市街地を後にする。

……恐れていた事その2。フェニックス領に飛び出してしまう。こう早く実現するとは。

やれやれ、俺には何か憑いているのかねぇ。俺が憑く側なのに。

とにかくだ。どっちに出ればフェニックス領から出られるんだ?

何をするにしても、このフェニックス領から出ない事には話にならない。

またあんな風に野次だけならまだしも、石や生卵をぶつけられるのは御免だ。

 

霊体のまま浮上すると、ひときわ大きな建物が見える。

恐らくあれがフェニックス邸だろう。

で、あれから遠ざかるように移動すればそのうちフェニックス領からは出られるのではないかって判断だ。

市街地もこうなった以上避けた方がいいかもしれない。

見つかってしまっては元も子もないし、またフェニックス領の町だったりしたら目も当てられない。

 

後は体力の消費を抑えるために地上を移動する。

霊体でいると、万が一見つかった時は終わりを意味する。

何故ならば、霊体の俺が見つかると言う事は見つけた相手は魔王眷属クラスだ。

そんな奴の相手なんかしていられない。そうなる位ならば遮蔽物の多い地上を進んだ方がいい。

そのため、俺は地上に戻り実体化する。実体化した方がカムフラージュになるってのも変な話だが。

幸いにして、俺を追いかけていた悪魔連中は既に散り散りになっていた。

 

……が。

目の前の金髪のツーサイドロールの少女を見た途端、俺の嫌な予感はまた当たってしまった。

なんなのだ、今日は。厄日か。厄日なのか。それとも呪いか何かか。

 

「……はぁ」

 

「……出合頭にため息とはさすがグレモリー眷属。礼儀のれの字もありませんわね」

 

「おっと失礼。先ほどから頭を抱える事態が立て続けに起きていたもので。レイヴェル様」

 

ここにいるのは彼女一人ではなさそうだ。フェニックス眷属の何人か、か?

ぐるりと周囲を見渡すと、確かに見知った顔が何人かいる。

 

「領地で騒ぎが起きたと言うので、見回りに来たのですが……まさかあなたとは。

 せっかく示談の決まった、グレモリー家とフェニックス家の関係。

 知らないわけではないでしょう? それをむやみに刺激するのは……」

 

「ええ。それについては申し開きがあるのでお聞きいただきたいのですが……」

 

一難去ってまた一難。以前出会った時よりも――ある意味当たり前だが――

敵対心を持った目を向けてくるレイヴェルに対し、俺はこれまでの顛末を説明することにした。

幸いにして、問答無用と言う事は無くこちらにも申し開きの機会が与えられたことは

素直にありがたいと思えることだが。

 

「その巡り会わせの悪さには少々の同情も覚えますが

 私にとってあなたは我が兄をあんな風にした不倶戴天の敵。

 このまま黙って見逃しては、私の沽券にも関わります。

 よって、レーティングゲームとまでは言いませんが……それに、今の私は正直に言いますと

 『あなた等に構っている暇はない』のです。ですが、こうして巡り会ってしまった。

 そこで、形式だけでもいいので一戦交えていただきたいのです。

 どうです? 互いにとって悪い話ではないでしょう?」

 

「……断れば?」

 

「その場合は残念ながら、我がフェニックスの領地に無断で立ち入った賊……

 それも政敵グレモリーの長女の眷属と言う事で、処罰させていただきますわ」

 

……恐れていた事その3。レイヴェル・フェニックスが敵討ちにやって来る。

いや、冥界に来ればその可能性は極めて高くなるとは思ってたよ。

しかしまさかこうも早く起きるとは……最悪だ。出だしからして最悪すぎる。

 

「……はぁ。結局選択肢は無しって事ですか。まぁ、自業自得と諦めちゃいますが。

 じゃ、さっさと始めましょう。場所はここでよろしいので?」

 

「ええ。新顔には森の戦いは少々辛いものがあるとは思いますが……

 これも修行と思っていただきますわ。

 

 ……ああ、そうそう。今は私、お兄様より悪魔の駒をお預かりし、暫定的に

 『ライザー・フェニックスの代理』として眷属を抱えておりますの。

 それに伴って、私は『僧侶(ビショップ)』から『(キング)』に昇格しておりますわ。

 まだ、お兄様と違って正規のプレイヤーではありませんが

 お兄様があのような状態ですので、一度眷属の再編成をさせていただきましたの。

 

 ……皆、挨拶を」

 

そう言われるや、数人の悪魔が奥からぞろぞろと出てくる。

 

何人かは覚えがある。

 

――「騎士(ナイト)」カーラマイン。

 

  「戦車(ルーク)」雪蘭、イザベラ。

 

  「兵士(ポーン)」ニィ、リィ、ミラ。

 

「この辺りのメンバーは以前顔合わせをしたからご存知ですわね。

 ここにいないメンバーはユーベルーナは事実上の引退、お兄様の世話をしているわ。

 シーリスに美南風と他の『兵士』は己の力不足を理由に私の呼び掛けには応じませんでした。

 

 ……そして、私が新たに迎えた新顔が……」

 

奥瀬秀一(おくせしゅういち)だ。お前さん、見た感じ高校生か大学生っぽいから知らねぇかもしれないが

 こう見えて『スーパー弁護士』って呼ばれてるんだ。

 今はフェニックス家のお抱え弁護士だけどな」

 

「そして、今や私の新たな『僧侶』ですわ。

 優秀な人材だからこそ、彼にこうして眷属になっていただきました。

 ここにいないお兄様の眷属だった者達も

 今は別の形で我がフェニックス家に身を置いておりますので、どうぞご心配なく」

 

「……また、甘言で人を惑わして人生を狂わせて……」

 

「おいおい、何勘違いしてるんだ坊主。俺は自分の意思で契約してるんだ。

 言ったろ、俺はスーパー弁護士だって。

 そのスーパー弁護士が詐欺位見破れなくてどうするんだって話。

 それに俺は……っと、これ以上のおしゃべりは無し。以上、俺の話終わり」

 

そう言うや否や、奥瀬って男はこちらに緑色の銃を向けてくる。

思わず記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を盾にする形でガードの態勢を取ってしまう。

まさかいきなり仕掛けてくるなんて! しかもまだ読み取っていないから情報が無い!

ここに来て新顔の相手とは……本当に今日はなんて日だ!

 

「先生、ここは一応私達の領地でもありますので

 あまり広範囲の攻撃はご遠慮くださいませね」

 

「こういうごちゃごちゃした場所での戦いは好きじゃないんだけどな……」

 

そんなこちらの思惑など知った事かとばかりに、相手は攻撃を仕掛けてくる。

ああもう! こうなったらもう一度霊体化して……

 

「先ほど美南風は前線を退いたと言いましたが、彼女の力だけはここにありますのよ?」

 

「む……? ぐぅっ!?」

 

霊体化しようとした途端、レイヴェルの手にある護符が光り出す。

霊体であるはずの俺の身体に激痛が走り、思わず実体化すると痛みが引く。

……そう言う事か! あの護符で俺の霊体化を防いでいるっていうのか!

厄介な手を封じる、そりゃ普通に考えてそう出るよな!

 

「簡単に逃げられるとは思わないほうがよろしいですわよ」

 

「……そのようで。やれやれ、本当に今日はついてない」

 

こうなったら、逃げるとなると強引に逃げるしかなさそうだ。

兵士のいる場所が強いて言うなれば手薄か。

そこから強引に突っ切るしかなさそうだ。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「それでも当然俺は逃げさせてもらいますがね!」

 

「それもお見通しですわ――ミラ!」

 

ミラ。確か棒術の使い手だったはず。

小柄な体格で長物を振り回すため、見た目以上にリーチがある。

だが、威力に関してまではそれほどでもない。

少なくとも、今の俺ならば押し切れる!

 

SOLID-DEFENDER!!

 

「盾!? けれど、私も!」

 

俺の計算では、ディフェンダーで棒を打ち払ってなぎ倒す作戦だった。

ところが、ミラが持っているのは――槍。

長物には違いないが、先端に刃がついているだけで作戦は変わってくる。

無理に突進すれば、ディフェンダーを破られる恐れもある。

……光力を帯びているとはいえ、油断はできないのだ。

一点集中などされたら、相手の方に分がある。

 

攻撃スタイルは前に戦った時と大差はない。

だが、得物が変わったことで攻撃が打突から刺突に変わっている。

押し出す力こそ弱まっているが、攻撃力は大幅に上がっている。

それがディフェンダーを破られる懸念でもあった。

 

「ミラはかつてお兄様に『一番弱い』と言われましたけれど

 あれから私と共に猛特訓いたしましたの。

 以前と同じとは思わないほうがよろしいですわよ!」

 

「「それは私達も同じだニャ!」」

 

しまった! ミラの攻撃に気を取られている隙に

もう片方の兵士――ニィとリィがやってきてしまう。

イッセーがいないからあの時のような連携は出来ない。

 

……けれどもな。パワーアップしてるのはそっちだけじゃないんだ!

 

「――フリッケン!」

 

『ああ。ちょっとくすぐったいぞ』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

ディフェンダーを展開したまま、分裂する。

これで数の上ではそう大差はなくなったはずだ。

 

「増えるとか気色悪すぎるニャ!」

 

「同じ顔が並んでて気色悪いニャ! 髪の毛の色位変えろニャ!」

 

おい双子。お前らの所にもいるだろうが、似た様なのが。

尤もこっちは双子でも何でもない、同一存在だから言いたいことがわからんでもないが。

で、お前らは種族:猫なら……猫とは長い付き合いなんだ、相手が悪かったな!

おもむろに、俺は落ちている枝を拾い上げモーフィングを試みる。勿論――

 

「モーフィング! 枝をマタタビに変える!」

 

「「ニャっ!?」」

 

ふふん、どうだ! 対猫のリーサルウェポン、マタタビ!

効能に個体差があるとはいえ、これが全然効かない猫を俺は知らない!

大なり小なり影響が出るってものだ!

実際、塔城さんを救出する際にもこれで気を反らしている。

ただ唯一気がかりなのは、これがきちんと作用するかどうか、だ。

あの時の塔城さんは、限りなく猫の妖怪としての性質が強い状態だった。

今のこいつらは、そういうわけでもなさそうだ。

悪魔の駒の方が強く出ていれば、種族:悪魔となり猫の特性が薄れてしまう。

そうなれば、マタタビは効きが悪くなるかもしれない。

 

……結局、博打かもしれないが!

 

「ニィ! リィ! そんな安っぽいマタタビなんかに構わないでくださいまし!」

 

「「……はっ! しまったニャ!」」

 

どうやら、博打には勝てたようだ。

ここぞと言う時の運には見放されていない、運任せもどうかと思うが

こうして一瞬でも気を反らすことが出来ただけでも、こっちとしては成功だ。

 

今の内に、少しでも逃げ出そうと距離を取ろうとするが

再び俺の目の前に相手の眷属が現れる。

 

「君とは初手合わせだな! 改めて、私はカーラマイン!

 かつてはライザー様の、今はレイヴェル様の『騎士』だ!

 君の同僚の騎士とはいい試合が出来た! 是非君とも……」

 

「悪いが俺は祐斗と違ってそういう精神は持ち合わせていない!

 だからこういう卑怯な真似も平気でやるから……

 

 ……試合がしたけりゃ他所を当たれ!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-GUN!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

「それが君のやり方か! 面白い、ならば私はこれを潜り抜けて見せる!」

 

「精々遊んでろ! 俺は忙しいんだ!」

 

斬りかかってきたカーラマインに向けて、触手砲を差し向ける。

触手砲にカーラマインの相手をさせているうちに、槍で俺の進路を妨害しているミラをどかすべく

2人がかりでの攻撃を試みる。

 

まぁ、単純に攻撃を防ぐ俺と、その俺の物陰から隙をついて攻撃する俺の

2段構えの攻撃なんだが。

しかしそれさえも読まれて……いや、単純に物量が足りていなかったか。

ミラをどかすはずだった俺は、イザベラと雪蘭の2人がかりに押さえつけられている。

「戦車」2人がかりはちょっときつい。

カードを引こうにも、押さえつけられて身動きが取れない状態にされている。これはマズい。

 

……だが、俺だって何もせずにやられるつもりは無い!

タイミングを見計らい、2人が押さえつけている分身を消滅させる。

まさか標的がいきなり消えるとは思っていなかったのか、つんのめりになって

そのまま突っ伏してしまう。俺は霊体化しなくても姿は消せるんだよ。

 

「そんな!? 霊体化は封じているはずですのに!?」

 

「こっちのパワーアップは計算外でしたかな? 男子三日会わざればとも言いますよ。

 そしてさらに……」

 

SOLID-SWORD MOUNTAIN!!

 

「うあっ!?」

 

「こ、これでは身動きが……」

 

剣山を召喚し、イザベラと雪蘭を動けないようにする。

剣山が、ちょうど二人にとっての檻になる形となったのだ。

下手に出ようとすれば、スパッと斬れてしまう。

囮に全力で引っかかった、お前たちの負けだ!

 

そう……なまじ俺の霊体化を封じているせいか、奇を衒う効果は覿面だったようだ。

勿論、種を明かすほど俺もお人よしじゃない。態々対策を立てさせたりするものかよ。

これで改めて、ミラをどかしにかかれる。

……よく考えたら、こいつは……

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DOUBLE-DRAW!!

 

STRENGTH-HIGHSPEED!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

「……そらぁっ!!」

 

「きゃっ!? しまっ……」

 

力も早さも強化した状態ならば、昇格もしていない兵士が俺を止められるものか。

地の力がどこまで上がっているのかが読めないならば、こっちも地の力を上げる。

脳筋戦法だが、強行突破にはもってこい、か。

 

「ミラ! 『昇格(プロモーション)』をなさいな!」

 

「はい! 逃がしません……『昇格』、『騎士』!」

 

MEMORIZE!!

 

おっと? 基が素早いからか、能力を強化している俺にも追い付いてきている。

今記録したカードはおそらく「騎士」に変化するカードだが……

今試すには博打が過ぎるな。やめておこう。

「戦車」でさえあんなに劇的に変化してるんだ。「騎士」もどうなることか。

 

……しかし困った。振り切ろうにも振り切れない。

おまけに、奥瀬って男は今度は長射程の銃でも構えているのか、さっきからまた撃ってきている。

この辺りの犠牲戦法は、兄譲りなのか? ミラを巻き込むだろうに。

こうなったら、これを利用させてもらおうか!

 

俺は足を止め、わざとミラが捕まえられるようにする。

奥瀬が撃ってきている銃弾は、辛うじてディフェンダーで防ぎ切れている。

着弾と同時に土煙が上がり、視界が悪くなる。

その隙に、俺はミラを俺がいた場所にはたき落とし、急いでその場を離れる。

 

EFFECT-MELT!!

 

勿論、足場を悪くすることも忘れずに、だ。

そうなれば当然、ミラは俺を追ってこれないし、奥瀬の射撃も俺ではなくミラに誤爆してしまう。

 

……よし、これで全員振り切ったはずだ!

そう思った俺の眼に、見知った少女が手招きをしている。

 

「セージさん、こっち! こっちです!」

 

なんと。バオクゥだ。バオクゥがどういうわけだか来てくれていたのだ。

こいつはありがたい。元々彼女に会うつもりだったので

ここで会えたのは今までの不運を帳消しにするには十分だ。

 

「聞きたいことはあるでしょうけど、今はそこに隠れてください!」

 

「わ、わかった!」

 

藪の中に身を潜めると、遠くで話声が聞こえる。

話し声はしばらく続いたが、何を話しているのかまでは聞き取れなかった。

話がしばらく続いたのち、俺の頭の上からバオクゥがのぞき込んでくる。

 

「いやぁ、色々フェニックス家も大変みたいですねぇ。

 長女のレイヴェルさんがおしゃべりなのは相変わらずみたいですけど。

 で、セージさん……来るなら来るって言ってくださいよぉ。

 私がここにいなかったら、どうしたつもりなんですか」

 

「すまん。けれど助かったよ。俺もまさかフェニックス領に飛ばされるとは思わなかったんだ。

 しかし散々な目に遭った……とにかく助かった、ありがとう」

 

「あ。話が長くなりそうなら、一先ず私のヤサに行きませんか?

 近くに構えているんです。この辺りで情報収集するのに必要なものは揃ってますから

 セージさんの目的も果たせると思いますよ」

 

ヤサ……ああ、確か家とかアジトとかそういう意味だったっけか。

 

……ってちょっと待て! 俺はそういうつもりは無いが

見た目ほぼ同年代の女の子の家に転がり込むのって、それってどうなんだ!?

 

……なんて、言える状況でもないことを思い出し俺はバオクゥの提案に乗ることにした。




イッセーが一応原作に倣う形で冥界のすばらしさ()を学んでる最中
セージは……案の定だよ!

よくよく考えると四面楚歌はともかく
因果応報は受けるべき奴がこの場にいない罠。

>奥瀬秀一
元ネタは仮面ライダー龍騎より仮面ライダーゾルダこと北岡秀一先生。
奥瀬はドイツ語(だからさぁ……)で雄牛の意、そこに漢字を当てて。
かなり前にフェニックス家がスーパー弁護士を雇った旨の事を触れてましたが
彼の事でした。
やっぱりゾルダじゃねーか! いい加減にしろ!
……と言われても反論できません。すみません。

因みに某イライラするフリードさんとの因縁は全くありません。全く。
(逮捕されたフリードの担当弁護士になるにしても、時系列的に矛盾が起きるため)

現在はレイヴェルの「僧侶」。
何気にセージと相対した中では貴重な(?)完全に自分の意思で悪魔になった人間。
イッセーとアーシアは死人に口なしだし、木場は意見が揺らいでいるし
小猫はまた別のカテゴリに入っちゃうし
朱乃やライザー眷属は事情を知るほど親しくないし。
彼が悪魔になった理由は龍騎本編の北岡先生を見ていただければ。
これがフェニックス家じゃなかったら彼も悪魔になっていないかもしれません。
あと、ゴローちゃんに相当するキャラがいないと言うのも大きいかも。
ゴローちゃんを捨てるような真似をするとも考えにくいですし。

>レイヴェル・元ライザー眷属達
ライザーから眷属を譲り受ける形での大出世。一応届出は済んでます。
(ライザーも犠牲戦法とかのごり押しプレイはするけど
眷属を不当に扱う真似はしていないらしいので、レイヴェルへの移籍もすんなりと)
つまり、不死鳥は燃え尽きた。されど新たな不死鳥がここに爆誕、と。
特に最弱認定されて不憫に思えたミラを重点的に強化。
棒→槍の武器変化は仮面ライダークウガのドラゴンフォームを意識。
あれもライジングで槍になってますし。
ニィとリィは相手が悪かった。セージにとって猫は幼年期からの付き合いなので。
カーラマインも相手が木場じゃなくてセージなので
撃ち合い(誤字にあらず)になるのが関の山ですし。
今回一番活躍したかもしれないのは護符を渡して引退した美南風ではなかろうか。
彼女もセージ対策の修行をあれから行っていましたが
現在は総合力不足でレイヴェルの誘いを保留にしています。今回はその成果。

その他兵士は事実上の引退。
け、決してキャラ被りとかを懸念したわけでは……
レーティングゲームから引退こそしましたが違う形でフェニックス家に仕えてます。
捨てられていないのはライザーのノブレスオブリージュ故に、と言う事で。

シーリスとユーベルーナも引退。特にユーベルーナはライザーにつきっきりで介護。
シーリスは修行のやり直し中。引退と言うより美南風に近い状態かも。


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Soul68. 邂逅する流れ者

書いてたときは微妙にスランプ。
筆のノリがいまいちよくありませんでした。
あくまでも主観ではありますが。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

冥界に向かった俺は、フェニックス家の領地に迷い込んでしまう。

レイヴェル・フェニックスの追撃を辛くもかわした俺は

追撃回避に協力してくれた、盗聴バスターバオクゥのヤサに

一緒に向かう事にした。

 

――残された時間は、あと52日――

 

――――

 

バオクゥのヤサ――アジトは、何やらあちこちに機械が設置されていて

とても少女の部屋とは思えない雰囲気である。まぁ、見た目少女ってだけだから

悪魔を外見で判断するのは良くないのだろう。

 

「あ、適当に寛いでてください。何にも出せないのでお茶とかは適当に飲んでいいですよ。

 でも機械にはあんまり触らないでくださいね」

 

「調べりゃ使い方位はわかるかもしれないけど、邪魔はしないよ。

 助けてもらった恩もあるからね」

 

言われるままに、適当に座り込みバオクゥの様子を眺めている。

何かのログを読んでいるらしく、何かスキャンダルを追っていることは間違いないだろう。

 

「……セージさん。とりあえず、あれから情報の更新がされてないんで

 まず情報交換といきませんか?

 セージさんが何故あそこにいたのかも、それで分かると思いますし」

 

「賛成だ。最後に話したのはインタビューの時だったな。あれからな……」

 

それから、俺はつい話し込んでしまった。内ゲバとしか言いようがない

あの戦いのことを触れるのは、何やら気恥ずかしいものもあったが言わないわけにもいかない。

それと、異次元にいたアモンと言う悪魔の事も。

 

「あ、アモンですって!?

 こ、これには流石の私もビックリですよ! 私も名前でしか聞いたことがありませんが

 政府の握っている裏情報の代表格として、私ら噂屋の間では

 有名な存在なんですよ、アモンって!」

 

「らしいな……俺も魔王陛下の驚きようを見て何事かと思ったよ」

 

本当に何者なのだろう、アモン。

勇者とも、裏切者とも言われるその悪魔の事は、流石にバオクゥでも詳しく知らないみたいだ。

あの陛下の驚きようから察するに、緘口令を敷いていると見て間違いなさそうだが。

 

……それにしても、インタビューの時となるとそれほど前でもないにもかかわらず。

こうも話すことが多いと言うのは一体何なのだ。

それだけ、俺にとって実質訣別にも等しいリアス・グレモリーとの戦いは

大きな出来事だったのだろう。あれだけの事をしておいて、はぐれ悪魔認定されていないのは

やはり俺とイッセーの悪魔の駒が共有状態にあることの証拠だろう。

俺がはぐれになれば、イッセーもはぐれにせざるを得なくなるだろうからな。

イッセーを中心に考えれば、いくら俺が目の上のたん瘤でも迂闊なことは出来ない、って事か。

……結局イッセーイッセーで、俺は何なのだと考えてしまうのは、悪い癖なのかもしれないが。

 

「……それにしてもどんだけ無茶してるんですかセージさん。

 私は純血悪魔ですが、そんなもの貰ってないんでその辺の事情は残念ながら疎いんですけど

 よく悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の支配を跳ね除けて平気でいられますね」

 

「そういうモノなのか? とりあえず俺はまずこの悪魔の駒ってものについて

 もっと詳しく知りたいんだ。こいつをどうにかしない事には、俺の目的は果たせない」

 

俺の言葉に答えるように、バオクゥはさっきからキーボードをたたいている。

暫くして、モニターにでかでかと何かのサイトが表示される。

何々……「リリス冥界大図書館」?

 

「首都リリスに存在する、冥界で一番おっきい図書館です。

 ここなら、多分セージさんの探してる情報も集まるんじゃないんですかね?

 ただ……」

 

「……察しはついた。悪魔の駒の情報ともなれば、国家機密もいいところだ。

 それがそう簡単に筒抜けになるようなところにあるわけがない、だろう?」

 

「そうなんですよ。師匠譲りのハッキングで図書館のサーバーにアクセスしてみたんですが

 やっぱりそういうモノの本はあっても、持出禁止だったりそもそも閲覧禁止だったりで……

 ってセージさん、どこ行くんですか? ま、まさか……!」

 

次の目的地が決まった。リリス冥界大図書館。

ここに、俺の探す手がかりがあるのだろう。そう願いたい。

挨拶もそこそこに、俺はバオクゥのアジトを後にしようとするが――

 

「だったら私も行きますよ。そもそも、セージさんリリスの場所わかります?

 餅は餅屋。こういう時こそ、私みたいな情報屋の出番だと思いますけど?

 案内位はただで引き受けますよ、セージさんに付いていれば十分元とれそうですし。

 それに……アモンの情報も手に入りそうですし!」

 

「いいのか? 言っちゃなんだが俺はかなりデリケートな存在だぞ?

 下手に俺とつるんでると、要らぬ風評被害を受けることになりかねない」

 

「ま、そこは色々な意味でリーさんを見習うって事で。

 師匠も荒事には色々首突っ込んでたみたいですし?

 その師匠――パオフゥに肖ってこの名前名乗ってるんですから、荒事の心得位はありますよ。

 最も、指弾が得意だった師匠と違って、私は――」

 

そう言って、バオクゥの背中から取り出したのは――砲台。まごう事無き、砲台。

天照様のよりははるかに小さいが、それでもそれなりの大きさはある。

両手でないと支えられなさそうな、少々大きめの砲台。武器、持ってるんだ。

 

「この20.3cm砲が文字通り火を噴いちゃいますよ!

 ……あ。明らかに20.3cmも口径ないだろってツッコミは一切聞きませんので悪しからず」

 

「何も言ってない」

 

「ありゃ。結局突っ込まれちゃいましたか。あはは、一本取られちゃいましたねぇ。

 とにかくそんなわけですから、私もご一緒させていただきますよ!」

 

正直、バオクゥが同行してくれるのは非常にうれしい。

今の自分が置かれている立場を考えると、二つ返事をしづらい事情はあるのだが

それにもかかわらずこうして同行してくれると言うのだ。

そこにたとえ下心があろうとも、今はそれを甘んじて受けるのが最善だろう。

それならそれでwin-win――互いに気兼ねなく本懐を遂げられる。

 

その後、日を改める形でバオクゥのアジトに一晩泊まり

翌朝、改めて出発することとなった。

目指すは、首都リリス。

 

――――

 

翌朝。

準備も万端に済ませ、出発した俺達の最終目的地は冥界の首都、リリス。

そこにあると言うリリス冥界大図書館。

そこの蔵書の中に、俺が目指すべきもの――悪魔の駒の除去方法があるのではないか。

その情報をバオクゥから得た俺は、フェニックス領近くにあったバオクゥのアジトから

リリスに向けて移動を開始した。

 

バオクゥも付いている。と言うか、彼女の案内が無ければ俺はまた道に迷っていた事だろう。

それくらい、俺には冥界の土地勘が無いのだ。

辛うじて――

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

RADAR-ANALYZE!!

 

COMMON-SEARCHING!!

 

――こうして、周囲に何があるかの探索を行うことが出来るくらいだ。

 

「セージさん、それって確か濫用すると疲れるやつじゃなかったでしたっけ。

 私の方が土地勘ありますから、それはいざって時まで取っておいた方がいいですよ」

 

「……いや、なるべくなら早くたどり着きたい。情報量もわからないんだ。

 処理しきれずに時間切れ、なんてオチは避けたいのがある。

 だから、少しでも早く目的地に……っ」

 

バオクゥの指摘通りだ。これは範囲を広げれば広げるだけ、俺にかかる負担が増す。

だが、こうでもして一刻も早く首都リリスへの道を探さなければならない。

そう思って、さっきからレーダーを広範囲に展開しているのだが……

 

「ほら言わんこっちゃない! 顔色悪いですよ!」

 

「……参った。どうやら悪魔の駒の共有の影響か、俺は転生悪魔の癖に

 この冥界の環境が肌に合わないみたいだ。その癖悪魔祓いの影響は普通に受けるんだから

 困ったもんだ……」

 

「さ、それ仕舞ってください。そこの木陰で休みますよ。

 全く、色々無茶しすぎなんですよセージさんは……」

 

返す言葉もない。これでは逆に遅くなってしまうだろう。

事実、アジトを出てからもう一泊しているのだ。

俺は町中では記録再生大図鑑と紫紅帝の龍魂を隠して顔を布で覆っている。

ジャーナリストとそのアシスタント、という触れ込みらしいが

これでよくバレないものだ。顔は火傷のせいとしてあるが。

余談だが「メイクをしてそれっぽくしようか?」と提案はしたものの

即刻却下された。何故だ。まぁ手間は手間だから別にいいのだが。

 

「そうだ。一応リーさんにも連絡入れておきましたから。

 リリスに向かう途中に、中立区域になっている街がありますので

 そこで落ち合う事になってます。一休みしたら、そこが目的地ですよ。

 現在地さえわかれば、あとは私が案内しますから……無茶しちゃダメですからね」

 

「うっ……わ、わかった」

 

と言うわけで、リリスに向かう途中にあると言う中立区域。

そこをまず目指している。しかも最近冥界にはテロ組織がうろついていたり

挙句の果てにはアインストが動いていると言うではないか。

そういう意味での足止めも喰らっている。と言うか、そっちで力を使ったりしなければ

レーダー展開でここまで消耗するはずがない……と思っているのだが。

 

まさかとは思うが、俺が想定している以上に早く身体が消耗してないよな……?

そうなると残り時間は俺の想定よりも短い計算になる。

軽く見積もっても1か月半ってところだが、それより短いとなると……

いや、深く考えるのはよそう。焦りは禁物だ。

 

「――ええ、そういうわけですので、ええ、ええ。

 大丈夫です、セージさんの身柄は私が責任をもって保護しますから。

 今のところ大丈夫ですって――」

 

俺が一息ついていると、バオクゥはリーと連絡を取っているみたいだ。

……なーんか、俺はこのままドナドナよろしく売られるのではないか、って感じの

話の内容にも聞こえたが……それこそ悪い方向に考えすぎだ。と、思う。思いたい。

……やれやれ。ちょっと疑心暗鬼が過ぎる。いくら相手が悪魔だからって。

常に最悪のケースは想定しろと言うが、こういう意味でもないだろう、とは思うが。

 

「――ふぅ。リーさんもなんてのを抱え込んだんですか……っととと。

 その様子ですと少しは休めたみたいですね、セージさん」

 

「ああ、おかげさまで。それじゃ出発しよう。まだリリスやその合流地点は遠いのか?」

 

「リリスはともかく、合流地点はもうすぐですよ。

 ただセージさん。リーさんと合流しても驚かないでくださいよ?

 下手な騒ぎになると、ちょっとどころでない問題が起きちゃいますから」

 

バオクゥの言わんとしていることがいまいちわからないが

合流はもうすぐ果たせそうなのだろう。それならば問題はない。

早いところ合流して、リリスに向かう。

俺の目的ははっきり言ってしまえば今はそれだけだ。

立ち上がり、俺達はリーがいると言う中立区域の町を目指して移動することとなった。

 

――そこで、そのとんでもないものとやらに出会う事になるのだが……

 

――――

 

「よう。その後ろの顔面ミイラがあいつか」

 

「あ。セージさんセージさん、それ取っていいですから。

 ここはフェニックス領とかグレモリーに対して悪感情を抱いている

 悪魔の管轄区域じゃないですから。素顔晒しても大丈夫ですよ」

 

「いや、二人には割れていても、冥界では表向き俺の顔は割れていない。

 あまり冥界で俺の顔を割りたくないんだ。だからこのままで」

 

有名無実になっている感はあるが、俺にだって色々考えはある。

仮面付きで売れているのなら、それで別に構わない。

元々悪魔社会と素顔で付き合うつもりは無かったのだ。

……最も、お偉いさんには顔割れちまってるが。

そんな俺の考えなどお構いなしに、リーはまくし立てるように話を進めていく。

 

「まぁ、仮面付きの方が有名ってケースも無い事は無いからな。

 俺はどっちでも構わないさ、売れりゃあな。

 ……さて、そんなことよりも、だ。バオクゥ、俺だってとんでもない特ダネ捕まえたんだぜ?

 見て驚くなよ?」

 

そういって、リーが連れてきたのは矢鱈と肉感的で……その、目のやり場に困る花魁衣装のような

着物を……着崩した? と言うべきなのか? な女性。

猫の尻尾と猫耳が見える辺り、そういう種族なのだろう。しかし……

 

(……フェニックスのところのとは比べ物にならないし、塔城さんとも……うん?

 そういや、猫耳と尻尾が黒いな。それに尻尾……二本無いか? ま、まさか……)

 

「そっちのミイラのお兄さんの視線、なんだかいやらしいにゃん」

 

「……っ!」

 

思わず目を背けてしまった。うん、そういう風に言われたら目をそらしてしまう。

反射的な行動であって、俺は別に悪くないしそういう風に見ていたつもりも無い。

言ったところで言い訳になりそうだが。

 

「おっと。いくらここが中立区域だっつったって、通報とかされたら

 俺らだってタダじゃすまないんだ。何せ連れているのが連れているのだからな」

 

「んもー。そんなに褒めたら恥ずかしいにゃん」

 

……俺にはその格好の方が恥ずかしいと思うんだが。

いやまあ、どこぞの魔王陛下よりは余程マシだと思うし、正直に言えば似合っている。

けれど、一体全体……

 

気になったので、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を出してみることにした。

 

BOOT!!

COMMON-LIBRARY!!

 

「……えっ」

 

記録再生大図鑑で呼び出された彼女のデータ。

そこには、俺が感嘆の声を漏らし、反応せざるを得ない回答が導き出されたのだ。

薮田先生みたく、文字化けしたわけじゃない。寧ろデータはきちんと出た。

出たんだが……

 

――黒歌。猫魈(ねこしょう)と呼ばれる妖怪であったが、ある悪魔と契約を交わし転生悪魔となる。

しかし、妹の白音を護るために主の悪魔を殺害。SSランクのはぐれ悪魔として

冥界全土に指名手配中。仙術や妖力を用いた戦い方を得意とする。

 

「黒歌……ってことは、塔城さんのお姉さん!?」

 

「んにゃ? 塔城って知り合いはいないにゃん。私の妹は白音って名前よ?」

 

――なお、語尾に「にゃ」「にゃん」とつけているのは完璧なるキャラ付けである。

 

記録再生大図鑑よ。そんな情報は要らない。

って事は……とうとう見つけたわけか。まさかこんな形で遭遇するなんて。

 

「……っとと。俺は歩藤――いや、宮本成二。

 塔城……いや、白音さんに頼まれて、あなたを探していたんだ。

 最も、今こうして出会えたのは完璧に偶然なんですがね」

 

「んにゃ? 白音が? ……ふーん……どうやらそっちのミイラのお兄さんとは

 ゆっくりお話ししないといけないみたいにゃん」

 

そう言う黒歌さんからは、ただならぬオーラを感じる。

……む? これはまさかマズい方向に解釈してないか?

もしそうだとしたら、非常に面倒なことになる。

と言うか、この事を塔城さんに連絡したいんだが……

 

「チッ、勘弁してくれ二人とも。ここは中立区域だっつっただろうが。

 諍いや面倒ごとはご免被るぜ。ここならこいつ連れてもある程度は

 ごまかしが効くからってんで連れてきてるんだ。

 厄介事起こすってんなら、速攻政府に突き出すぞ、てめぇら」

 

「いやん、リーちんそれはやめてほしいにゃん」

 

「そうですよ! ここでセージさんが政府に連れていかれたら面倒なことになりますって!」

 

俺もそう思う。ここはリーの言う事に従おう。

しかしまさか、俺の身体を取り戻す手がかりを掴むための旅路で

塔城さんの依頼の手掛かり本人にぶち当たるとは思わなかった。

 

……って!

 

今思い出した! 黒歌さんははぐれ悪魔……!

って事は、あのバイサーやドラゴンアップルの害虫らと同じように

今に破壊衝動のままに暴れまわる怪物になる危険性があるんじゃないか!?

その事を思い出し、俺は慌ててリーに耳打ちをする。

 

(リーさん。彼女を同行させるのは構いませんが、はぐれ悪魔と言う事は……)

 

(あん? いつ俺がこいつを連れていくって言ったよ。

 そもそもお前らリリスに行くんだろうが。首都にお尋ね者を入れるなんて

 逮捕してくれって言ってるようなものだぜ。こいつはとっておきのネタを掴んだって言う

 俺の自慢みたいなもんだ、自慢)

 

……あー、はいはいそうですか自慢ですか。

全く、このリーって奴も信用ならない部分がある。

けれど逆に考えれば、身柄を確保していると言う事は

塔城さんにはリーを捕まえさせれば必然的に黒歌さんにぶち当たるわけになる。

とにかく、なるべく早く塔城さんに伝えたいところだが。

 

「……男同士でなに内緒話してるにゃん。気色悪い」

 

「仕事の話だ、仕事の。黒歌。てめぇもそうだがこの兄ちゃんも

 俺にとっちゃ特ダネなんだ。仮面の赤龍帝……知ってるだろ?」

 

「話程度には聞いてるにゃん。確かどこぞのどーでもいいお家騒動に巻き込まれた

 可哀想な当代の赤龍帝、その片割れだって」

 

「……その認識で合ってるが」

 

「ふっふっふ。リーさん、今はその情報古いですよ?

 どうやら、この件に関しては私の勝ちみたいですね!」

 

そう。バオクゥには話したが、リーにはまだ伝わっていなかったみたいだ。

もう、俺に赤龍帝はいないと言う事を。

赤龍帝の力は一部だけ残っているが、赤龍帝そのものは既にいない。

今いるのは――

 

「てめっ、バオクゥ! 俺に黙ってやがったな!」

 

「ふふん、長話になりそうなんで、まず宿に行きましょうよ。ささっ」

 

「私もちょっと喉が渇いたにゃん」

 

――言うタイミングを逃した。まぁいいか。

こうして、俺は思いもよらない形で塔城さんの依頼の手掛かりどころか

本人との面識を得たのだった。

 

――――

 

「……けっ。しけた宿だにゃん」

 

「文句言うんなら飯抜きで放り出すぞ駄猫」

 

「まぁまぁ。とりあえずお茶でも飲みながら情報交換といきましょうよ」

 

罵り合いにしか見えないやり取りを交わしながら、俺達はこの中立都市にある

安宿に来ている。口には出さなかったが、しけた宿と言うのは

黒歌さんに同意している。まぁ、ないよりましってところだろう。

そして、ここで俺達は情報の交換を行っているのだ。

で、情報の交換を行うと言う事は――

 

「……おいおい。この駄猫が霞むスクープじゃねぇか、それ!

 アモンっていやあ、政府でさえ口に出すのも憚られるほどの大物だぞ!」

 

「私も初めて聞いた時耳を疑いましたよ……

 まさかセージさん、名前しか語り継がれない伝説の悪魔を

 肉眼で確認してるなんて……やっぱりセージさんについて良かったです!」

 

「リーちん、さっきから駄猫駄猫うるさいにゃん。

 けれどミイラのお兄さん、アモンって……そんなに有名な悪魔なのかにゃん?」

 

「……俺も詳しくは知らない。けれど、前の大戦で勇者とも言われる活躍をしたとも

 裏切り者として異次元に閉じ込められているとも言われている。

 そんな曰くつきの悪魔……らしいんだ」

 

そう。俺がこの間偶然見つけたアモンについても触れることとなる。

別に俺は政府関係者じゃないので、情報を伏せる理由が無い。

そもそも、何故アモンの情報を伏せる必要があるのかがわからない。

裏切り者、と言われているものの背景がわからないのではさっぱりだ。

まして俺は政府に対して不信感を抱いている。そんな奴が素直に言う事を聞くわけがない。

 

そんなわけで、俺はおまけとしてサーゼクス陛下やアジュカ陛下の顛末も語ることにしたが――

 

「……やっぱり、悪魔の力なんてロクなものじゃないわね。

 誘惑に乗った昔の私をぶん殴ってやりたいぐらいだわ。おかげでこんな……

 

 ……にゃん、今聞こえたのは空耳にゃん」

 

「何も言ってないし、俺の目的は悪魔の駒の除去なんだ。

 そういう意味では、あなたとは目的を同じくしている」

 

「うん? それはナンパかにゃん? 目の付け所は良いけど、私はそこまで軽い女じゃないにゃん」

 

……だったらその吉原にいそうな恰好をやめてくれと言いたい。

説得力がまるでないじゃないか。

話が一段落着いたところで、俺はもう一度リーにさっきの話を振ることにした。

 

――はぐれ悪魔の危険性、についての憶測だ。

 

「……なるほどな。憶測にしちゃ、よく出来てる。

 まぁ、ぶっちゃけるとこいつとはここでおさらばなんだよ。だから俺の身は安全ってわけだ。

 こいつが暴れたら、それはそれでネタになるしな」

 

……っ!

やはりこの男、信用ならない部分がある!

少しでもこの男の安否を気遣った俺がバカみたいじゃないか!

 

「……冗談だ。包帯面で睨まれると流石にちょっとしたホラーだぞ?

 

 気を悪くしたんなら詫びの代わりに俺の持ってる情報をくれてやるよ。

 さっきバオクゥにも言ったんだが、リリスの大図書館には確かに悪魔の駒に関する情報はある。

 だが仮に手に入ったとして、それを実行するのは難しいかもしれないぜ?」

 

……やっぱりな。しかし詫びと言いつつバオクゥからも手に入る情報を寄越すって

本気で詫びるつもりあるんだろうか、このジャーナリストは。

しかしここでおさらばって事は……どうやって塔城さんと合流させようか。

俺もそこまで気が回せるかと言うと、できる……ワケが無い。

やれやれ、問題ばかりが迷い込んでくるな。

 

こっちの問題も、出来ればどうにかしたいものだが……

 

「で、ミイラのお兄さん。白音なんだけど、グレモリー領にいるって事で間違いないのかにゃん?

 実は私も途中までついて行ったんだけど、途中で百邪――

 ああ、地方じゃアインストの事をそう呼んでいるのにゃん。奴らに出くわして

 騒ぎに乗じて逃げたはいいのだけど、私ってば指名手配中にゃん。

 だからそのままグレモリー領にいるわけにもいかなくって……」

 

「……難儀なもんですな。妹さんがグレモリー領にいるのは間違いありませんが。

 確か二十日後、若手悪魔の会合パーティーが

 どういうわけだかグレモリー領で行われるそうです。

 木を隠すには森の中……ってわけで、その時に潜り込んでみるのはどうでしょう。

 俺もその時にはグレモリー領に戻らないといけませんので」

 

提案。バオクゥに聞いた話だともっと早期にやるはずだったのだが

アインストやら禍の団(カオス・ブリゲート)やらで対応に追われ

時間が確保できたのが夏休みも終わりに差し掛かろうと言う時期である。

ともあれ、その時に若手悪魔の会合パーティーを、何故か僻地であるはずのグレモリー領で行う。

これも恐らくはテロ対策なのだろうか。主要都市はテロの標的になりやすいし。

そこに紛れ込む形で、俺と黒歌さんが入り込む作戦だ。

俺は一応正規の参加者だが、黒歌さんはそうではない。さてどうしたもんか。

 

「じゃあ、それまでリーちんの所に厄介になるにゃん」

 

「はぁ!? ふざけんな、なんで俺が指名手配犯を匿わなきゃいけないんだ!

 これ以上政府と揉め事起こすのは御免なんだよ! バオクゥ、お前が面倒みろ!

 女同士ちょうどいいだろうが!」

 

「いやぁー……私もセージさんの用事に付き合うって約束しちゃいまして。

 ほら、私も一応悪魔じゃないですか。みなさんと違って正真正銘の。

 だから、『約束』ってのには敏感なんですよねぇ……いやぁ困っちゃいましたねぇ」

 

「当然俺はやることがありますので。

 と言うか、これをやらないと何のためにここまで来たのかわかりませんので」

 

結局、黒歌さんは向こう二十日間はリーと行動を共にすることになったみたいだ。

仕方がない。俺達だって遊びに来ているわけじゃないんだ。

それにしても……指名手配犯と内通とか、ますますやっていることがはぐれじみてきているな。

今更だと思いつつ、この日は安宿で休息をとり

改めて俺とバオクゥはリリスに向かう事にした。




名前が出ちゃいましたCV.ジョージな盗聴バスター。寧ろ元ネタ。
某日本の主神と装備が被ってしまっているのはもう片方の元ネタのせいであり
幻獣アバオアクーと天照大神に関連性は一切ありません。
アバオアクーを悪魔と言い切るのはかなり無茶がありますが。

そういえば青葉の艤装、劇場版PVで確認した限りだと衣笠ともまた違いましたね。
改二ポーズのせいでサイコ○ンな衣笠と違って
なんだかバズーカみたいな取り回し方に見えました>青葉

現時点では「火力がちょこっと足りない」なんて言わせる予定はありません。

>会合
テロやらなんやらで相当遅れています。
原作では着いた直後にありましたが、テロだのアインストだの
やってる最中に若手軽視の連中が多い政府高官が
会合を優先するとは思えなかったもので。
サーゼクス? アインスト退治に体よく使われてますが何か。
政府高官にしてみれば四大魔王も「豚もおだてりゃ木に登る」んでしょう。
そんな傀儡政権に見えなくもないんですよ、原作。

……とまぁそれっぽい理由を並べましたが
原作の時系列を失念していたと言うメタな理由がががが

>黒歌
いたと思ったらマスゴミと行動を共にしているパターン。
このタイプは利害が一致すれば普通に付き合えるから
その辺ドライな印象がある黒歌にはちょうどいいのかも>リー

とりあえずセージが危惧している「爆弾」については今のところは気配なし。
セージもこれに関しては憶測で物を語っているので
確証を持っているわけではありません。


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Two weeks.

今回はセージとイッセー、それぞれの二週間を第三者視点で追う形です。
(とは言え、主にセージ)

セージはともかく、イッセーはライザー戦前よりも恵まれてない状況。
ギリギリ原作の若手同士の試合には間に合いそうですが。
そして今度と言う今度こそは「9個目」の問題はスルー出来ないでしょう。

1:片方が出る(一番無難)
2:試合中のみセージ永久憑依状態で出る
  (能力的に考えると実質9個分どころか16個分の恐れもあり)
3:権力で有耶無耶にする(一番ありそう)

第三者視点ですので恒例のアレはこちらにて。
また、今回の後書きは解説の都合上異様に長いです。ご了承ください。

――――

俺は宮本成二。
クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は
後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。
目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ
霊体になっていることを知ることになる。

盗聴バスター・バオクゥの協力を得た俺は
中立都市で今度はフリージャーナリスト、リー・バーチと出会う。
彼が連れていたのは、何と塔城さんのお姉さんこと黒歌さんだったのだ。

――残された時間は、あと50日――




この夏の間、思い思いの過ごし方をする……はずであった。

しかしそれは、限られた者の特権。

そしてその特権を得ても、望んだ結果が得られるとは限らない。

物事とは、すんなり進む方が稀なのである。

 

例えば高速道路は運転手が眠くならないように様々な仕掛けが施されているが

それは高速道路が程度の差こそあれ、障害物が無いからだ。

そう。障害物のない道は眠くなる……即ち、単調であるからだ。

 

だからこそ、生涯と言う物は単調にならぬよう

壁は立ちはだかり障害物は行く手に鎮座している。

 

……その程度を超えたものも、確かに存在するのだが。

 

――――

 

リリス冥界大図書館。

中立都市にてリーや黒歌と別れ、ここに噂収集と称してバオクゥとセージはやってきていた。

ところが――

 

「……やっぱダメですねぇ。ここに書いてあることは、全部政府が公表している情報ですよ」

 

「……やられたか。 確かに俺は会議の席で

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に関する情報を公表してほしい』と言ったが

 律儀に約束を守る必要なんかないと考えていれば、偽のデータを出すことだって

 できたはず。それをしなかっただけ良心的と言うべきかよ、これは……クッ」

 

そこに書いてあったのは、悪魔の駒のすばらしさを謳う政府広報と殆ど大差のない情報。

そんなものはバオクゥも耳が痛いほど聞いているし、セージにしてみれば反吐が出る内容だ。

一般閲覧の可能な範囲では、これが限度と言う事らしい。

 

「こうなったら、やっぱり多少強引な手を使いましょう。セージさん、こっちです」

 

バオクゥに促され、やって来たのは図書館の書庫の入り口。

当然、ここは関係者以外立ち入り禁止区域のはずである。

どうやってバオクゥはここに入る手段を得たと言うのであろうか。

 

「ハイテク化が裏目に出ることもあるんですよねぇ」

 

白々しく語るバオクゥを見て、セージはバオクゥがやった事を確信した。

 

――身分証の偽造。

 

昨今の冥界のハイテク化は著しいものであり、人間界を参考にしていると言うが

それは猿真似の域を出ていない。そして人間界の裏世界では名の知れ渡った

盗聴バスター・パオフゥに弟子入りし、ハッキング技術も叩き込まれたバオクゥにとってみれば

図書館のデータサーバーに侵入することなど造作もなかったのである。

 

「この時間、ここを通過しても問題のない人のIDを偽造してます。

 これを使って、中に入っちゃいましょう。セージさん、私がカギを開けますので

 しばらくの間見張りと周囲の探知をお願いします」

 

「分かった」

 

BOOT!!

COMMON-RADAR!!

 

セージがレーダーを展開すると、周囲には特に気配は見当たらない。

警備にステルスを使用していると言う情報は、バオクゥにも入っていないのだ。

そもそも、ステルス付きの警備などそこに立っていることで

プレッシャーを与える警備を見えなくすると言う点において

若干ではあるが矛盾が生じてしまっている。

 

「今のところ、周囲にいるのは利用者だけだ。それも肉眼で確認できる位置にはいない。

 ここも防犯カメラからは死角になっているみたいだ」

 

「セージさん一人なら、姿を消して行動できるんですけどねぇ……っと。

 認証が通りましたよ。うまく行ったみたいですねぇ」

 

霊体は監視カメラに映らないし、INVISIBLEのカードを使えば尚更だ。

だがどちらも今回の作戦には適さない。バオクゥの言う通り、セージにしか

透明化の恩恵は無いのだ。それではバオクゥが目立って仕方がない。

今回の作戦は、バオクゥ抜きで出来るほど甘くない。

そのバオクゥがあけた扉に、二人はそっと入り込む。

 

「……初めからこうするつもりだっただろ。手際が良すぎるぞ」

 

「何のことですかぁ? これ位できなきゃ師匠に合わせる顔が無いだけですよぉ?

 それはそうと、目当てのものについての目星ですが……」

 

セージの疑問をはぐらかしながら、バオクゥはここにある本の中で

どの本が目的に適した本かの目星をつけていた。

このだだっ広い書庫の中、それを探すだけでも大変な労力なのだ。

 

書庫の中には表に出ている本の予備や、汚損が酷く貸与に適さない本。

また、持出禁止の本の他に資料として保管している一般者閲覧禁止の書籍も存在している。

今回のお目当ては、悪魔の駒の真実を記した書籍。

これについては何の因果か、既にテロリストと化した旧魔王派の筆頭格

シャルバ・ベルゼブブが執筆した、「悪魔の駒の真実」と言う名前の書籍もある。

これはその内容から禁書として封印処分が施された曰くつきの代物である。

そしてその行動こそが、旧魔王派が現政権に対し

不満を抱いている要素の一因足りうるのは間違いのない事なのであるが。

 

また、ここには政府直属部隊「イェッツト・トイフェル」の司令ギレーズマ・サタナキアが寄稿した

「チェスの敗者」と言う同人誌も同様に保管されている。

これにも、悪魔の駒の除去に関するデータが記載されているらしい。

それ故に、一般閲覧可能な表の区画に出すのではなく

こうして内部において厳重に保管されているのである……

 

と言うのが、バオクゥの調べた情報である。

 

「……とまあ、私の調べではこの二冊が有用な情報の基になると睨んでます」

 

「よく焚書されなかったな。俺はてっきりそんなもの焚書処分されているのだと思っていたが。

 しかし……」

 

ところが、問題はまだ山積みである。如何せん、この書庫は広いのだ。

この中からお目当ての本を探すと言うのは、かなりの手間である。

二人だけではいつまでたっても終わらないだろう。ならば。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

「この中から探すのは一苦労だ。人海戦術で片っ端から本棚を調べてみよう」

 

「セージさん、また無茶を……って言いたいとこですけど、これは仕方ないですよね。

 こんなところから普通に探していたら、3か月は余裕でかかっちゃいますよ。

 あ、でもくれぐれも監視カメラには気を付けてくださいね。監視カメラはここと、ここと――」

 

3か月。そんなに経てばセージは消滅する。そうならないためにも、セージは全力で事態に挑んでいる。

冥界が誇る大図書館に対し、一人の噂屋と一人のはぐれを目前に控えた転生悪魔が挑もうとしていた。

 

――――

 

グレモリー領のとある山。

赤龍帝を宿す少年、兵藤一誠はここで自主練に明け暮れていた。

たった一人の「兵士(ポーン)」に完膚なきまでに全滅させられた。

その事実が、彼をここまで突き動かしていたのだ。

 

「――ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……!」

 

ところが、一人だけの訓練はそううまく行かないもので。

 

「な、なんでだ! なんで俺は『禁手(バランスブレイカー)』にも至れるのに、アイツには歯が立たないんだ!

 くそっ、教えてくれよドライグ! 俺とアイツ、一体何が違うっていうんだ!」

 

叫びは虚しく山の中にこだまし、答えは返ってこない。

ドライグはまだ、セージとの戦いで受けたダメージの影響で眠りについたままである。

イッセー自身は、アーシアの治療で事なきを得たが、ドライグまでには

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の影響が及ばなかったのだ。

 

ただ我武者羅に特訓に打ち込む姿は、見るものが見れば痛ましい光景にしか映らない。

そもそも、イッセーには師匠と言うべき存在がいない。

ドライグがいれば、また話は変わったのかもしれないが。

 

当初の予定では、魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンの協力の元

特訓を行う予定だったのだが、彼はドラゴンアップルと言うドラゴンの主食の栽培を行っている

農家としての顔も併せ持っている。そして、そのドラゴンアップルが今年は大凶作。

ファスナー状の次元の狭間から生じた灰色の甲虫のような存在が食い荒らしたのだ。

一説には下等の動物妖怪が悪魔の駒で突然変異を起こしこの甲虫のような存在になったとも言われている。

政府やタンニーンは、彼らを「ドラゴンアップルの害虫」と呼び駆除に力を入れているが

その矢先に禍の団(カオス・ブリゲート)のテロやアインストによる災害が発生。

ドラゴンアップルの問題はタンニーン一人で対応せざるを得ない状況に追い込まれてしまっているのだ。

リアスはこの件に対し協力を申し出たが、「ヒヨッコの面倒まで見切れない」と断られてしまっている。

 

最近では、ドラゴンアップルを食した甲虫の一部が変異を起こし新たな怪物になっていると言う情報もある。

この件に対しタンニーンは一刻も早い対応をと政府に打診しているが

事もあろうに政府は「現状維持」と害虫駆除に消極的な姿勢を見せ始めたのだ。

その原因は、ドラゴンアップルの害虫のいるところには、必ずドラゴンアップルが生育すると言う関連が

政府の調査で判明したためである。それにより、下手に駆除をするよりも

彼らを利用して大凶作に手を打つべきと言う意見が政府の中では多数を占めてしまったのだ。

 

これに対しタンニーンは激怒、人間界までも巻き込んでいる現状を見かね

一人ドラゴンアップルの害虫の駆除を政府の意向に逆らい行っているのだ。

そのために、イッセーに特訓をつけることが出来ない。

 

仲間であるはずの木場や小猫も心ここにあらずと言ったことが多い。

ギャスパーも、以前よりは回復しているとはいえまた引きこもり生活に逆戻りしている。

朱乃、アーシアは戦闘スタイルがイッセーと違い過ぎて、訓練にならない。

肝心のリアスも、グレモリー家の次期当主としての仕事に忙殺されている有様である。

結局、こうして自主練に打ち込んでいる日々である。

 

(こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのに……!!)

 

尤も、彼とて成長した部分が無いわけではない。貴族社会のルールだ。

これに関してはフェニックス家との諍いを反省点とし、リアスの母であるヴェネラナ・グレモリー主導の元

徹底的に叩きこまれることとなったのだ。

勿論、生粋の一般市民であるイッセーにとってそれは当初反発を覚える内容であった。

しかしそこは「リアスに近づくため」と言う餌をつりさげられる形で

半ば洗脳に近い形で刷り込みが行われたのだ。

 

結果として、貴族主義に染まる事こそなかったものの、貴族の掟と一般市民の感性が混在した

ある種、とても歪な価値観が生まれることとなったのだ。

 

この間、およそ14日。

ヴェネラナによって貴族社会のルールを叩き込まれる合間にも、イッセーは一人特訓を行っていた。

その結果、ある一つの結論を見出すに至った。それは……

 

 

――奴の考えていることさえわかれば――

 

 

――――

 

イッセーがグレモリー邸で14日の猛勉強を受けている最中。

セージの側も、進展しているとは言い難い状況であった。

日を追うごとに禍の団・アインストの襲撃が激しさを増し、検索どころではなくなることがあるのに加え

侵入の足がつかないようにするための工作――IDの偽造――を毎回毎回変えているのだ。

そのために情報収集は遅々として進まず、肝心の資料さえもほとんど集まっていない状況だ。

 

しかし、思わぬ収穫もあった。リアス・グレモリーとは従兄弟にあたる

サイラオーグ・バアルと接触すると言うとんでもない事態が起きてしまったのだ。

アインストの襲撃からリリスの街を守っている最中の出来事である。

自分の事も満足にできずに一体自分は何をしているのか、と自嘲気味に呟きながらも

無碍にするわけにもいかず、相手をすることになってしまった。

勿論、バオクゥを同伴させて。

 

……そして、セージは言ってやった。悪魔の駒の弊害の真実を。

与太話と取るならそれでもいい。だが、聞けば将来を背負って立つ若手四天王(ルーキーズ・フォー)の筆頭格らしいではないか。

ならば、未来のためにも話しておこうと思っての事だ。

 

「……た、確かに。この所互いに忙しくリアスと連絡はとれていなかったが

 リアスの『兵士』の数が合わない。週刊誌の与太だと思っていたが、まさか事実とは……」

 

「小説よりも奇なり、とでも言うべきでしょうかな。それを正すべく

 俺は悪魔の駒の共有の解除ないし除去方法を探しているところなのですよ。

 このままでは、主がレーティングゲームで不正を働いていると見做されかねませんし」

 

「……レーティングゲーム、か。確かにリアスはそれに並々ならぬ情熱を注いでいるが……

 正直に言おう。そのレーティングゲーム、俺は少し疑問に思っていることがある」

 

そのサイラオーグの疑問に、バオクゥが食いつく。バオクゥも、まさかここで

サイラオーグに接触するとは思ってもみなかったのだろう。慌てながらもしっかりとメモを取っている。

 

サイラオーグの言い分はこうだ。

――レーティングゲームの上位ランカーの顔ぶれが、あまりにも画一的すぎる――と。

それはバオクゥも思っていた事らしく、以前リーに不正のにおいがすると聞いた事案でもある。

まさか自分が目星をつけていた事案が、サイラオーグも同じことを考えていたとは思いもしなかったが。

 

「それに、今はレーティングゲームどころではないと思うのだ。

 禍の団のテロ活動に、ドラゴンアップルの大凶作、アインストと言う謎の怪物。

 さらに、大凶作の原因とも噂されているドラゴンアップルの害虫は悪魔にも害を成すそうじゃないか。

 こんな状況下で、暢気にゲームなどしている場合ではないと思うのだ。

 そもそもだ。レーティングゲームはこういう時に戦力となる悪魔を鍛え上げるために

 行っている模擬戦としての側面も持っているはずなのに

 ランカーが彼らとの戦いにでいていると言う話は聞いていない。噂屋、何か聞いているか?」

 

「いえ。そういう話はぜーんぜん、聞いてないですねぇ。殆どの悪魔は自分の領地が襲われたときに

 自衛のために戦うか、魔王眷属やイェッツト・トイフェルが動いて終わらせている形ですねぇ。

 セージさんはすぐに引っ込んでいたから見ていなかったかもしれませんが、今までの襲撃時も

 来ていたのはサイラオーグさん以外だとサイラオーグさんの眷属の方々か

 イェッツト・トイフェル位ですよ?」

 

政府軍(イェッツト・トイフェル)か……考え方によっちゃ彼らが動くのは当たり前だけど

 そうなるとレーティングゲームのランキングって、何のためのランキングなんだ?

 ゲームで実力を自慢したからって、それが実戦に即さないでは本当にただの道楽。

 これで上位になることが、悪魔社会での発言力を向上させることとはどうしても繋がりません」

 

セージにとっては忌むべきレーティングゲームだが、この疑問は単純に気になったのだ。

模擬戦としての側面があるとは、今さっきサイラオーグが語った。

そして、そこで好成績を収めると言う事は戦術、ともすれば戦略レベルにおいても優秀であるはず。

そんな人材が、何故国防に力を貸さないのか?

国防とレーティングゲームには、そもそも何の関連もないのではないのか?

セージには、そんな疑問が浮かび上がっていた。それは奇しくも、サイラオーグと同じ疑問でもあった。

 

「フッ、聞きしに勝る語りぶりだな。リアスの『9個目の兵士』。

 俺も同じことを思っていた故騒ぎにはしないが、今度行われる会合では気を付けたほうがいいぞ。

 

 それはそうと……政府高官の言う『レーティングゲームが模擬戦の体を成したゲーム』

 と言うのは方便で、何か別の目的があってレーティングゲームを行っているのかもしれないな。

 俺にはそれが何かまでは見当がつかない……いや、考えたくないだけかもしれないが。

 すまないが、これはただの俺の憶測だ。噂屋も交えている以上、俺からはこれ以上は語れない。

 身も蓋もない言い方だが、俺にもバアルの看板と言う立場があるのでな」

 

「いえいえ。ここでサイラオーグさんに会えただけでも収穫ですから」

 

バオクゥに合わせる形でセージもサイラオーグに会釈を交わし

場を立ち去ろうとするが、その前にサイラオーグに呼び止められる。

そして彼の口から語られたのは、セージにとっては願ってもない……悪魔の駒についてだ。

 

「待て。俺に付き合ってもらった礼に最後に話しておこう。

 悪魔の駒についてだが……残念だが、俺も完全な除去方法は知らない。

 しかし、物理的に取り除くことは出来たはずだ。だが……魂と密接な関係にある関係からか

 物理的に存在している場所は心臓部分に近い。

 それに物理的に除去したところで、契約破棄となるかどうかもわからない。

 だが……受ける影響は、小さくなるとは思うがな。良くも悪くも。

 では来週、今度はリアスの眷属として会う事になるのだろうな」

 

「……!! あ、ありがとうございます!」

 

サイラオーグからのアドバイスを受け、再度大図書館の資料捜索に取り組むこととなった。

サイラオーグが何故このような情報を持っていたのか、までは今のセージにとっては重要なことでは無かった。

だが、魂と密接な関係にあるものを物理的に取り除くと言う事は。

 

即ち、電源の入ったままのパソコンから周辺機器を無理矢理引っこ抜くのに近いのではなかろうか。

そんな事をすれば、当然壊れる。せっかく見つかった手掛かりではあったものの

それを実行に移すリスクもまた、大きなものであった。

しかし、それでも一筋の光が差したこともまた、事実と言えた。

 

――――

 

「……!! あ、あった! ありましたよセージさん! これじゃないですかね!?」

 

「あ、ありがとうバオクゥ! よし、あとは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)にコピーさせて……

 アナログな方法だが、これならば……」

 

若手悪魔の会合も目前に控える中、ようやく目当ての本を見つけ出すことが出来た。

記録再生大図鑑側からの検索ではロックをかけられていた本だが、現物を目の当たりにすれば

そのロックは効果を失う。そこで、記録再生大図鑑に本の中身をコピーさせ

後でじっくりと調べる作戦だ。目当ての物さえ見つかれば、ここに長居する理由などない。

 

ところが、突如警報が鳴り響く。侵入者を発見したと言う報せのものだ。

鳴り響くアナウンスと同時に、防衛用のドローンが次々と押し寄せてきたのだ。

 

「しまった! どこかで見つかっちゃったみたいです!」

 

「見りゃわかる! くそっ、まだコピーが済んでないってのに!」

 

記録再生大図鑑に情報のコピーをさせたのが仇になったのかもしれない。

今取る事の出来る行動は二つ。

 

一つは、コピーが済むまでバオクゥにこの場を何とかしてもらう。

 

もう一つは、ここから本そのものを盗み出し安全な場所でコピーを続行する。

 

だが、バオクゥの調べでは書庫の本にはGPSのようなものが取り付けられており

下手に持ち出せばそこから足がついてしまう。結局、取れる手段は一つだけだ。

 

「こうなったら、私がやっちゃいます! セージさんは本棚の影に!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

「記録再生大図鑑は使えないが、今度は五体満足だ! ドローン相手なら!」

 

「分身の援軍……なるほど、恐縮です!」

 

分身のカードコストは共有されない。しかし、現在は重要な情報のコピーを行っている。

そこに影響が出ては良くないとばかりに、記録再生大図鑑は封印する形で

セージは分身を生成、バオクゥの援護にあたらせる。

相手は警備用のドローン。迎え撃つだけならば簡単だが。

 

「……っ! ダメだバオクゥ! 派手に壊せば今度は有人警備がやって来る! 騒ぎが大きくなるぞ!」

 

「そ、それじゃ私の砲台は使えないですね……い、いや機銃の方なら!」

 

機銃――と言っても艦船についているそれをそのまんまダウンサイジングしたようなそれは

あたかも豆鉄砲のような見た目で、威力もドローンを怯ませる程度しかなかった。

精々、当たり所さえ良ければ爆発させずに墜落させることが出来ると言った風合いだ。

 

セージもまた、一機ずつではあるがドローンを捕まえてはメインコンピューターを破壊。

そのまま落とすと言う単純な方法でドローンを撃退している。

 

これらの方法について、問題点は多岐に渡っていた。

まず単純に、バオクゥの残弾の問題。無限に生成できるわけでも無いのだ。

セージにモーフィングさせるにも、無から有は作れない。

ドローンを材料にするにしても、かなり難易度の高いモーフィングだ。

 

そして、一機一機落としているために数で勝るドローン相手には圧倒的に不利なのだ。

こちらがうまく二機落とせたとしても、向こうが四機やって来るとかざらである。

ドローンに搭載されている兵装は捕縛用のスタンショックガン程度だが

特にセージはこれを喰らうわけにはいかない。コピーをしている側にも影響が出るからだ。

 

 

「……よし、二冊コピーできた!」

 

「やりましたね! よーし、あとはここから……」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

「記録再生大図鑑が使えれば、こんなドローンなぞガラクタも同然!

 バオクゥ、退路の確保を頼む。主砲を撃っても構わない!」

 

「了解ですっ!」

 

SOLID-PLASMA FIST!!

 

次々とやって来るドローンのデータから、セージはプラズマフィストを実体化。

電撃による攻撃が効果的と判断したのだ。

後はもう逃げるのみ。多少派手にやってもいいだろう、という判断の元

セージはプラズマフィストから盛大に放電をドローンめがけてぶちかました。

 

バオクゥもまた、艤装を構え20.3cm(実際にはそこまで大きくないが)砲を発射。

セージたちを取り囲んでいたドローンは軒並み機能不全を起こしたり、破壊されていく。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「撤収だ!」

 

スピードを上げ、逃げるように――実際に逃げ出しているのだが――書庫から裏路地へと飛び出す

セージとバオクゥ。所々煙が上がっているリリス冥界大図書館を背に、一目散に距離を取る。

ドローンは出てこない。敷地外まで追撃するようなプログラムは組まれていなかったようだ。

 

「直接ヤサに戻ったら足が付いちゃうかもしれません!

 ここは一旦別れて、2時間後にヤサで落ち合いましょう!」

 

「わかった! ヘマだけは踏んでくれるなよ?」

 

「セージさんこそ!」

 

これ幸いとばかりに、それぞれ別行動を取り追っ手を撒く作戦に出る。

セージにとってはようやく情報が手に入ったのだ。ここでつかまっては元も子もない。

 

 

――――

 

 

「……逃げられてしまいましたか」

 

言葉とは裏腹に、それほど残念そうな口調ではなさそうにチョコレート菓子を頬張りながら

イェッツト・トイフェルの突撃隊長、ウォルベン・バフォメットが呟く。

 

「最近の彼を追ってみれば、ずいぶんと面白い事になっているじゃありませんか。

 赤龍帝でなくなったばかりか、まさかグレモリーに喧嘩を売るような真似までするとは。

 これでグレモリーが潰れてくれれば私個人としては胸のすく思いなんですがねぇ……」

 

彼も政府軍である以上、政府に害を成す者は駆除せねばならないはずである。

しかし、こうして現魔王を輩出したはずのグレモリーに対し悪感情を抱いていることは

既に冥界政府自体がガタガタになりつつある証拠ともいえよう。

 

「二言目には情愛だ眷属との繋がりだ……それを悪魔の駒を率先して使う輩が言う事ですか。

 そもそも悪魔の駒自体、相手の尊厳を奪う屈辱的な道具に他ならないと言うのに。

 ……ま、今の私が言えた事じゃありませんがね。

 さて、政府への義理は果たしましたし。私は私でまた勝手にやらせてもらいましょうかねぇ。

 

 ……まずは『彼女』にちょっとお話を聞かねばなりませんねぇ」

 

そうしてウォルベンが見据えた先には、ヤサに向かって歩いているバオクゥの姿があった――




まさかのサイラオーグとの接触。アインスト迎撃に出たところ
偶然出くわした形です。彼がアインスト退治をやっているのは
半ばボランティア活動みたいなものです。バアル領ではなく
首都リリスでアインストと戦闘しているのですから。
と言うか徒手空拳で撃退している辺り、素の能力はもしかすると
原作以上の事になっているかもしれません。

拙作では多少脳筋ながらも政府の現状に疑問を持っています。
特にレーティングゲームの現状には思うところがあるらしく
何かあるのではないか、と訝しんでいます。
そしてそれに食いついたバオクゥ。
ウォルベンに目をつけられたことといい、死亡フラグにならなきゃいいんですが。

レイヴェル、サイラオーグと(バオクゥも)何故か純血悪魔との遭遇も多いセージ。
本人は悪魔社会と関わりたくないと思っているのに、うまく行かないものです。
けれど人生ってそんなもん。

イッセーも地味にパイリンガル会得フラグ立ててます。
でもセージに効くかどうかは別の話。
そもそも原作仕様じゃ絶対効きませんし。

……なので、原作にないとんでもない技を会得するかもしれません。
それにはイッセーがある属性に目覚める必要があるんですけどね……

>ドラゴンアップルとそれにまつわる諸々について
今更感漂ってますが、ドラゴンアップル=ヘルヘイムの果実、です。
なので、ドラゴンアップルの害虫≒インベスと捉えてもらって構いません。
小動物の妖怪が悪魔の駒の拒絶反応で変化したって設定も生きてますが。
=ではなく≒なのは後述。

つまり、クラックを通ってやって来た純正インベスと
悪魔の駒で変異した冥界産インベスの二種類がいることになります。
能力の上では冥界産インベスの方が上ですが増殖力やら何やらは
純正インベスに軍配が上がります。
また、冥界産インベスは出生の都合上聖水や光力などの悪魔メタが効きますが
純正インベスには当然悪魔メタは効きません。
最大の違いは純正インベスはドラゴンアップル(ヘルヘイムの果実)を食すことで
鎧武原作通り上級インベスに進化します。

実はここがミソで、初級インベス状態の純正インベスと
ドラゴンアップルの害虫こと冥界産インベスの見分け方がありません。
実際に実を食わせば見分けは簡単ですが。冥界産は進化しませんので。
また、作中触れているドラゴンアップルの生育能力も純正インベス由来の物です。
冥界産インベスは文字通りの害虫です。この見分けがついていないため
政府は判断ミスを犯してしまってます。
結果タンニーン一人でインベス駆除をやっている状態。

実際のところは、インベスモドキはインベスモドキのまま
話を進めようと思ったのですが小説鎧武に彼が通りすがったから……
ってのは言い訳ですが、ドラゴンアップルの危険度を上げるためにちょっと軌道修正。

こんな危険なもの栽培してたのかよタンニーン! とか言われそうですが
ドラゴンが食す分には無害な食物ですので。
(ウィザードラゴンとほぼ同じ性質のビーストキマイラががつがつ食ってますし)
そのため、余談ではありますが腕をドライグに寄越した原作イッセーが食べても
無害です。拙作イッセーはアウトですが。

なお、オリジナルのヘルヘイムの果実にあった吸引力ですが
こちらでは弱体化してます。でないと冥界がヘルヘイム化待ったなしになりますので。
冥界産のヘルヘイムの果実(ややこしいな)と言う事で一つ。
また、摂取によってインベス化する点は同様ですが、その際食べたのが
悪魔(純血、転生問わず)であるならば冥界産インベスに
それ以外ならばヘルヘイム産インベスに変異します。
中級~上級悪魔が食えば上級インベスになりますが
これによってしか冥界産の上級インベスは生まれません。


しかしOG版宇宙怪獣(或いはデビルガンダム)ともいえるアインストに加え
平成ライダーでもトップクラスに危険な生物のインベスまで来るとか
この世界呪われてね? 実験室のフラスコであることは否定いたしませんが。


……え? アインストがヘルヘイムの果実を食べたら?
さ、さあ……?


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Soul69. 百鬼夜行、紅魔に集いて(前編)

 ― お知らせ ―

黒歌の設定で最初に載せた設定と
現在の設定に食い違いがありました。

現在の設定(禍の団には所属していない)の方が
正しいものとなりますのでご了承くださいませ。
なお、原作同様はぐれ悪魔であることは変わりありません。

読者の皆様には混乱を招いてしまったことをお詫び申し上げます。



 ― 閑話休題 ―

紅魔、はグレモリー家の事であって
どこぞの厨二拗らせた一族だったり
カリスマ吸血鬼とは一切関係ありません。
ありませんったらありません。

ちょっと長くなったので前後編編成にしてあります。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

バオクゥと共にリリス冥界大図書館への侵入には成功を果たすが

そこから情報を得るのには多大な苦労を要することとなってしまった。

しかし、それ以外にもサイラオーグ・バアルさんと出会う事で

俺は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の物理的な除去方法があることを知った。

 

――残された時間は、あと30日――

 

――――

 

……来るべき時が来てしまった。

これは実質、俺に対する出頭命令に近いものがある。

これを無視するのは、必要以上に俺の冥界での立場を悪くすることになるだろう。

尤も、もうかなり悪いところまで来てはいるのだが。

 

それでも、まだこうして協力者もいる以上彼らの顔に泥は塗れない。

だからこそ、俺はこの出頭命令にあえて乗る形を取る事にした。

 

――若手悪魔の会合パーティー

 

それが、この出頭命令の概要である。

 

 

しかし、現時点では俺の出頭以上に重要なこともある。それが――

 

「じゃあミイラのお兄さん、よろしくお願いするにゃん」

 

黒歌さんを、塔城さんに会わせると言う目的だ。

これは塔城さんに随分と前から依頼されていることだ。

黒猫、との事だったがそれが彼女にとっての姉であり

それがこの黒歌さんである以上、彼女との再会が塔城さんの依頼だ。

 

それがある以上、俺も会場であるグレモリー領に行かないわけにはいかない。

……フェニックス領みたいなことにならなければいいんだが。

 

「ふぅ、ようやくこいつのお守りから抜け出せるぜ。

 おっと。俺もそのパーティーに張ってみるつもりさ。

 ネタには不自由しなさそうだしな。これ、取材許可証」

 

「リーさん、よく取材許可おりましたねぇ……

 私はおりてないんで、セージさん伝手で情報だけ仕入れますよ。

 ……それに、この間騒ぎ起こしちゃったんで」

 

「って言いながらそいつに盗聴器つけてるのはどこのどいつだよ。

 バレたらまた大事にならねぇか?」

 

そう。

リリス冥界大図書館で、俺達は無事目的を果たせたのは良いのだが

そのために書庫で中規模ながらも戦闘を繰り広げ

そこから抜け出す際に結構大変な目に遭ったのだ。

 

そういえば、あの後バオクゥはかなり遅れて合流したが……

まぁ、無事に来たみたいだから特に気にすることも無かったのだが。

 

「構わない。他の奴らは知らないが、俺にとっては痛くもない腹だ。

 どうせ悪魔の駒の共有を解除したら、俺にとってこの世界は無関係だ。

 平穏であることこそ望むが、それ以上は望まないし関与は俺の望むところじゃない。

 だから俺はこんな中途半端なミイラのコスプレしてたんだ」

 

「……そうかい。けどな、お偉いさん方はそうは思ってないだろうぜ。

 隙あらば神器(セイクリッド・ギア)持ちやら何やらの人間を捕まえて悪魔にする。

 それが今の政府の方針なんだからな。俺も捕まって悪魔になった口だが……

 

 ……っと。俺の過去なんざどうでもいいんだよ」

 

そうなのだ。この悪魔の駒なんて道具がある以上

俺みたいな目に遭う奴は今後増える一方だろう。

そのすべてを俺が防ぐなどと言う事は、到底できることでは無い。

俺一人で出来る範囲を優に超えている。

こっちで政府に働きかけでもしない限りはどうにもならん。

……が、リーの言う通り今の政府の方針を考えればそれは土台無理な話だろう。

 

結局、自分一人が助かる道にしかなってない。

せめてイッセーの奴に与える影響を少ないものにしようと

除去ではなく共有の解除方法を探しているのだが……

このパーティーが終わったら、手に入れた情報を洗い直そう。

足りなければ、また探しに行く。とりあえず今は、グレモリー領に行かなければ。

 

「じゃあな、現地でもしかしたら会うかもな」

 

旅は道連れ、とは言うもののその道連れが指名手配だったり

(ある意味)お尋ね者だったりするのは嫌なのだろう。

挨拶だけしてリーはさっさと自分だけでグレモリー領に向かってしまった。

 

「セージさん、あの……詳しくは言えないんですが……

 現地で何が起きても、驚かないでくださいね。

 あ、あと昨日は遅れちゃってすみませんでした。途中で知り合いに捕まっちゃいまして」

 

「無事ならそれでいい。俺のせいで何かあっても困るから。

 それじゃ、また何かあったらよろしく頼む……さて」

 

バオクゥに見送られ、黒猫に化けた黒歌さんを抱きかかえながら

俺もグレモリー領に向かうことにした。

 

――ところで。

何故黒歌さんをこうしているのかと言うと。

実は当初、猫用の籠を用意していたのだが、本人が

 

「猫扱いはやめてほしいにゃん!」

 

などと言ったため、仕方なく籠はやめて抱える形で移動しているのだ。

お前は一体何なんだと小一時間問い詰めたくなったのは俺だけではないと思いたい。

猫状態じゃないと騒ぎになるだろうが、と言う満場一致の説得で

猫状態での移動は同意してもらえたのだが

籠の使用は頑なに首を縦に振らなかったのだ。おかげで腕がしんどい。

俺が猫の扱いに慣れていなかったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「ミイラのお兄さん、抱き方上手にゃん」

 

「猫の扱いには慣れてる、それだけだ。尻尾の数なんて些細な問題さ」

 

グレモリー領の方角も問題ない。出発前にバオクゥに地図をもらっているし

いざとなればレーダー探知も出来る。疲れるからあまりやりたくはないのだが。

それより問題は、いくら黒歌さんを連れて行くと言ってもパーティー会場まで

黒猫を抱えたまま、というわけにはいかないだろうと言う事だ。

どこかで放して別行動、としたいところなのだが。

 

「『あっち』の抱き方についてはどうなのかにゃん?」

 

「!?」

 

猫の格好と言う事で油断していたが、黒歌さんの正体は猫の妖怪であり

人の姿形を取る事も容易であり、その様を一度はまざまざと見せつけられている。

黒歌さんの言わんとしていることの意味を不用意に察してしまい、俺の頭に変な考えが過る。

今の状態で人の姿になられたら……うん、完璧に……

 

……色々な意味で、姉さんには見せられない状態になる。ここにいるわけがないけど。

いや、姉さんどころか知り合い全員に見られたくないぞ。特にイッセーあたりには。

その事を考え、思わず黒歌さんを落としてしまいそうになる。

 

「にゃんっ!? あ、危ないにゃん! もっとしっかり抱えてほしいにゃん!」

 

「……だったら変なことを言うのはやめてくれ。これでも驚いたんだぞ。

 と言うか、猫だったらこれくらいの高さから落ちても平気だろ……」

 

「まぁ、それもそうだにゃん」

 

ともあれ、こんなやり取りを繰り広げながらも真っ直ぐにグレモリー領へと向かうのだった。

 

――――

 

――情愛の悪魔・グレモリー領

 

その妙に薄汚れた看板が、この領地の現状を物語っているのではあるまいな、と思いながらも

俺達はグレモリー領にたどり着くことが出来た。

パーティー会場はグレモリー邸。敷地だけは無駄に広いものだから

一応飛んで様子を見てみることにする。

黒歌さんも、嗅覚で場所を探っているようだ。

 

「くんくん……あっちの方角から白音の匂いがするにゃん」

 

「わかった。ただ、近くで一旦別れよう。でないとどこで黒猫を捕まえてきたんだって

 それはそれで騒ぎになる。黒歌さん一人で入る分には、黒猫が迷い込んだって事で

 それほど気に留めることはないだろうと思うが……」

 

「ま、冥界の黒猫……ってちょっと有名になり過ぎちゃったにゃん。

 けれど、あの時はああでもしないと白音を護れなかったのよ……

 

 ……ふふっ、その白音が風の噂じゃ悪魔の眷属だなんて。本当に、バカみたいね……」

 

そう語る黒歌さんは、猫の姿ながらも物悲しそうであった。

俺は望まずに悪魔にさせられた身の上ではあるが、塔城さんはどうなのだろう。

黒歌さんは、塔城さんが悪魔になることをよしとはしていない。

それが今やグレモリー部長の眷属だ。黒歌さんの事を考えれば、あまりにもあまりな話だ。

 

「……お兄さん、ちょっと痛いにゃん」

 

「あっ……すまない。ちょっと思うところがあって」

 

つい、黒歌さんを抱える腕に力が入ってしまったみたいだ。

悪魔の駒、か。結局こうして姉妹の絆にヒビを入れている事案も起きている辺り

悪魔しか得をしない制度なのだろうか。

中には、自分から悪魔になった奴もいるみたいだが……

 

悪魔の駒そのものの機能を全停止させれば、もうこんなことは起きずに済むのだろうか。

いや、そうすれば悪魔の駒のお陰で生きながらえている奴は全員死ぬことになる、か。

 

イッセー、アーシアさんは少なくとも駒を仮に破壊、機能停止に追い込めば

彼らはまず間違いなく死ぬことになるだろう。悪魔の駒で命を得ているのだから。

まあそれ以前に、悪魔の駒のシステムを全統括している代物があるのかどうかって話だが。

神器はそういうものがあるという話をどこかで聞いたが。

 

「……難しい話だな」

 

「何が?」

 

思わず口に出してしまっていたか。

慌てて取り繕うとともに、それっぽい建物が見えてくる。リリスの建物を先に見たせいか

少々薄汚れた印象を受けるが、多分比較対象がおかしいのだろう。

この辺りで一番大きい建物。アレが多分グレモリー邸だ。

 

――そして、俺にとっては……

 

「……こっちの話だ、忘れてくれ。それより、そろそろグレモリー邸みたいだ。

 俺も実はここに来るのは初めてなんだ。そっちが賞金首にされているように

 俺もどうやらグレモリー家の悪魔には嫌われているらしくてね。

 

 ……さて、短い間だったがうちの『むー』を抱いていた気分に浸れたよ。ありがとう。

 塔――白音さんには俺が話をつけておく。それじゃ、機会があったらまた会おう」

 

「『むー』……どっかで聞いた名前だにゃん。

 それじゃお兄さん、今度は『あっち』の姿で抱いてみるかにゃん?」

 

「……だからそういう冗談はやめてくれ」

 

黒歌さんを地上におろすと、あいさつ代わりに「にゃーん」と一鳴きして

どこかへと走り去っていく。

その姿を見送り、俺も包帯を外しあらかじめ用意しておいた仮面に付け替えて

グレモリー邸の門を叩くことにした。

 

――――

 

「歩藤誠二様ですね。お待ちしておりました。サーゼクス様よりお話は伺っております。

 ですが、そのお召し物では……特に、そのお顔の物は……」

 

あ、やっぱり?

しかし困ったな、服はモーフィングで如何様にでもできるが

マスクは出来ればつけたままでいたい。顔割れると面倒なのがあるし。

 

俺は服にモーフィングを施し、即席にフォーマルスーツをこしらえる。

これならブレザー風で、この年でつけていても問題はない。

うっかりタキシードにしようものなら、マスクと相まって変態仮面の仲間入りしそうになったので

寸前でフォーマルスーツにしたのは黙っておこう。

 

「すみません。顔は少々傷が酷いので、こうしている状態です。

 包帯を外すと膿も出て悪臭の原因となりますのでこうしている状態です。

 どうかご容赦願えないでしょうか」

 

「……そう言う事でしたら、替えの包帯もご用意しておきますので

 いつでもお声かけ下さいませ」

 

「いえ、替えは十分にありますので。ありがとうございます」

 

口からでまかせではあるものの、何とかマスクを着けたままドレスコードを突破することに成功。

メイドさんに通される形で、俺はグレモリー邸へと足を踏み入れる。

中は外の少々薄汚れた雰囲気とは異なり、今日のパーティーの参加者でごった返していた。

調度品も高級なもので、料理も見るからに高級なものに見える。

……それが却って、手を付ける気分にさせてくれないが。

 

っと、料理と言えば。塔城さんを探さないと。

探し回っている最中、俺は一人の悪魔に呼び止められた。

振り返ると、そこに立っていたのは――

 

今、一番会いたくない悪魔――サーゼクス・ルシファー陛下だった。

 

「待っていたよ、歩藤君。今ちょうどリアス達も会合に呼ばれているんだ。

 若手悪魔の会合。冥界の、悪魔社会の今後を担う彼らの意思表明と

 その実力を確かめるためのレーティングゲームを企画している。

 君を呼んだのは、この会合に眷属として参加してほしいからだ」

 

「陛下。何度も申し上げますが俺は『9個目の「兵士(ポーン)」』です。

 それは即ち悪魔の駒の不具合を公表するようなもの。現政府の方針とは

 大きく外れてしまいますが、よろしいのですか?」

 

そう。俺の存在そのものが悪魔の駒の不具合である事に他ならない。

本来ならば8個、8人までしか存在できないはずの「兵士」。

イッセーに8個使っており、それ以上リアス・グレモリーに「兵士」は存在しない。

出来ないはずなのだ。それなのに、俺と言う存在がある。大きな矛盾だ。

その矛盾に対する答えを、陛下は用意しているのか?

 

「勿論だ。その辺に関しては安心してくれたまえ。さあ、こっちだ」

 

今一つ信用できないが、俺は渋々陛下と共に大きな扉の前にやって来た。

既に中には何人か入っているみたいだ、話し声が聞こえる。

しかしそれは逆に、まだ会合とやらが始まっていないことを意味していた。

何せ、聞こえてくるのは雑談。会合特有の堅苦しい話じゃないからだ。

 

深呼吸をし、そっとドアを開ける。

その中には、見知った顔。見知らぬ顔。様々な悪魔が所狭しと並んでいた。

ひときわ目立っているのはグレモリー部長に、シトリー会長。

そして……サイラオーグさんに……レイヴェルさん? 彼女もここに来ていたのか。

後は……見たことが無いな。ざっと調べる形で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を走らせる。

これを使い始めてはや数か月。いい加減使い方にも慣れてきたな。

特に、調べものに関しては。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

ふむ……ふむふむ。

シーグヴァイラ・アガレス。アガレス家の次期当主。

人間界のロボットアニメ好きが高じて、機械工学を勉強している。

その腕は有志を集め本物を製作するほどである――か。

要するにお台場のアレ的なハリボテか? それともマジモンか?

マジモンなら尊敬に値するが。

 

それから……ディオドラ・アスタロト。魔王を輩出したアスタロト家の次期当主。

魔王をねぇ……果たして当人はグレモリー部長みたいなタイプか

それともシトリー会長みたいなタイプか。

表示されているデータを流し読みしていると、後ろから誰かに話しかけられた。

何か気になることが書いてあった気がするが

振り向かないわけにもいかないので答えてみると――

 

「やあ。リリスで会ったぶりだな。だがまずはリアスに挨拶をした方がいい。

 君の事情は知っているつもりだが、眷属であることに変わりはないのだからな」

 

「あ……っと。失礼しました、サイラオーグさ……様。ご忠告痛み入ります。

 では俺はさっそくグレモリー『様』の所に向かってまいりますので。

 それと、マスクは……」

 

「いや、皆まで言わなくていい。君にも都合があっての事だろう。

 俺には社交辞令しか言えないが、大事にしてくれ」

 

俺はサイラオーグさんに頭を下げ、グレモリー部長の下に向かう。

サイラオーグさんの器の大きさに驚きつつも、何とか受け答えが出来たとは思いたい。

そして一応でも俺は、グレモリー部長の眷属なのだ。

殆どはぐれみたいなもんだから、つい忘れそうになることが多いが。

 

……で、そのグレモリー部長に遅ればせながらの挨拶を交わす。

 

「セージ! 無事だったのね! 本当にあなたはどうして……」

 

「おかげさまでこっちは得るものがありました。

 寛大な配慮をしていただきありがとうございます」

 

表情や口ぶりは心配してたんだぞオーラが出ているが……口では何とでも言える。

そういう考えが過る程度には、俺はグレモリー部長の事を信用しているつもりだ。

なので、俺は意気揚々と成果を上げた旨を伝える。これで成果が出れば

あんたともお別れなんだ。まぁ、学校で顔を合わせるくらいは

もしかしたらあるかもしれないが……

 

……あんたそもそも、その学校じゃ雲の上の存在だろうが。

俺は自慢じゃないが一般生徒その1程度だと思っている。変なあだ名こそついているけどな。

そして、そんな不遜な態度を取る俺に、早速食いついてきた奴がいる。

 

「てめぇ……よくもぬけぬけと出てこられたな! 忘れたとは言わさねぇぞ!

 こっちに来る前、てめぇが俺達にしたことを!」

 

「イッセー、やめなさい! パーティーの席よ!」

 

案の定。イッセーが俺の胸倉をつかんで睨みつけてくる。

あのなぁ。俺はこっちにも来る予定はなかったんだぞ。文句は魔王陛下に言ってくれ。

つーか、これから大事な会合じゃないのか。それなのにこんな事してていいのか?

 

「……『神経断裂弾(しんけいだんれつだん)』はさすがに悪かったと思ってる。

 ありゃ内ゲバや模擬戦で使うものじゃない。

 だが俺は悪魔らしく『約束』を遵守しているに過ぎないんだ。そこは忘れてくれるなよ。

 悪魔ってのは『約束』を大事にするものだと思っているんだが……それは俺の思い違いか?

 

 ……レイヴェル様。『古傷』を抉るようで申し訳ありませんが

 その件についてどう思われますか?」

 

「悪魔にとって契約は何よりも大事なもの。故に『約束』もまた然り。

 少なくとも、私はそう考えておりますわ。

 あと『古傷』の件についてでしたらお気になさらず。

 貴方は眷属としての使命を立派に果たしただけですわ。

 ただ、それが不幸な結果になってしまっただけ。

 幸い、ユーベルーナの看護の甲斐もあってかお兄様は快方に向かっているとの事ですわ」

 

俺はあえて、レイヴェルさんに話を振ったのだ。

古傷を抉るような真似で申し訳ないとは思ったが、彼女の口から語られる「約束」は

他の者が語る「約束」よりも言葉の重みが違うと判断してのことだ。

案の定、イッセーもグレモリー部長も黙り込んでしまっている。

忘れたとは言わさない、そっくりそのまま返させてもらおうか。

 

「れ、レイヴェル……ライザーの事は、その……」

 

「何のことでしょう? もうその件については裁判も示談と言う形で終えてますし

 『先生』からもグレモリー家の者とは不用意に関わるなとも言われてますので。

 この会合だって、大事な会合だからやむなくここに来ただけですわ。

 もう私は、あなたとは語る言葉を持ち合わせておりませんの。

 御免遊ばせ、リアス・グレモリー様」

 

先生……ああ、いつぞやの「僧侶(ビショップ)」、奥瀬秀一(おくせしゅういち)弁護士の事だろう。

レイヴェルさんの歯に衣着せぬ物言いに内心グレモリー部長に憐憫の念を向けるが

イッセーは顔を真っ赤にしてレイヴェルさんを睨んでいる。

食って掛からないのは、正直意外だったが。

 

「訂正。一つだけありましたわ。先ほど私は不幸な結果を招きながらも

 眷属としての使命を果たしたあなたの立派な眷属を讃えたばかりですのに

 そこの眼付きの悪いのは一体何かしら?

 ……まさか、あれもあなたの眷属と言うのではありませんわね?

 だとしたら、教育が全くなされていないとしか言えませんわ」

 

「……ぐっ!」

 

こっちまで二人の歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。

俺としても針の筵なので正直、これ以上は勘弁してほしい。

勿論、言える立場にないので黙っているが。

 

しかしレイヴェルさんは容赦なく、睨みつけていたイッセーを指して

遠回しにグレモリー部長を詰っている。

俺でもこういう席は堪えるものがあるのに、こいつには土台無理だったんじゃないか?

俺だってそうなのに、一般人に過ぎない俺達に社交界とか何の拷問だか。

グレモリー部長よ。きちんとここまで考えてイッセーらを眷属にしたんでしょうな?

ざっと見た感じではギャスパーが挙動不審な程度でそれ以外は問題なさげではあるが。

 

イッセーの件で思ったが、ごまかしとは言えよくドレスコード通ったよな、俺。

ミイラマスクは相変わらずつけているというのに、だ。

……案外、そこは緩いのかもしれない。はっきり言ってイッセーの正装も

「馬子にも衣裳」って言葉が相応しい。普段のアイツを知っていれば

着こなしているとは到底言えない。俺も他人の事は言えないがね。

 

「静粛に! 魔王様がお見えになる!」

 

険悪な雰囲気の中、場内に響き渡った声に俺達は静まり返り

居住まいを正したのだった。

 

――――

 

そこからは魔王陛下の演説に、若手悪魔の意思表明など様々なイベントが行われたが……

はっきり言おう。状況は見ていたが、内容は大半聞き流していた。

立ったまま寝るスキルは有していないためにできなかったが

それが結果として「恰好だけは」従順な眷属を演じることが出来たと思っている。

 

意思表明。まぁ要は若手らしく夢について語ったのだが、内容を掻い摘むと――

 

サイラオーグさんのケース。魔王になる。これには恐らくは驚愕の意味だろう。

場内からどよめきが起こった。しかし、彼は胆力にも優れているのだろう。

 

――自分が魔王になる必要があると世論が認めれば、就任する。

 

と言った旨の事まで言ってのけたのだ……うーむ、これは結構大物かもしれない。

俺にしてみれば人間界に余計なちょっかいをかけてくれさえしなければ

どんな暗君が魔王に就任してようが気にも留めないが……いや、そもそも暗君が就任したら

人間界にちょっかいを出してくるのは火を見るより明らかか。誰の事とは言わないが。

 

レイヴェルさんのケース。冥界にフェニックス家あり、と言わしめられるような

立派な当主、あるいは当主補佐となる。

これにも政府のお偉いさんからは

「既にフェニックス家はそれ相応の地位を持っているではないか」とツッコミを入れられていたが

それに対しても「あらゆる冥界の家系に対し模範となりたい」と返していた。

この中では一番の若手であるというのに、堂々とした受け答えは

 

――兄君……つまりライザー君の件は誠に残念であった。

  我々は優秀な若手悪魔を失ってしまったからな。

 

とか

 

――だが、こうして君がフェニックス家を、冥界を背負って立つ気位を見せているとは

  きっと兄君も喜んでいるだろう。その気持ちを忘れないでほしい。

 

と、お偉いさんの心証は先ほどのサイラオーグさんのそれよりもいいんじゃないか?

と思わせるくらいだ。そういえば以前フェニックス領で遭遇した時も

以前戦った時とはオーラが全く違って見えた。

半分は「僧侶」から「(キング)」になった影響だと思っていたが、内面から成長したのだろうか。

だとしたら、フェニックスってのは不死だけじゃなく成長も著しいのか?

……特殊なケースだと思いたいが。

なお、ライザーの話をするたびにグレモリー部長が白眼視されていたのも

きっと気のせいではないだろう。

 

シーグヴァイラ・アガレスさんのケース。

冥界に住まいを同じくする堕天使との関係改善を図りたい。

これについてはお偉いさん方も苦い顔をしていた。思うところがあるのだろう。

まぁ、それ以上にぶっ飛んだのはその平和の証として

4メートルくらいのロボットを作っていた事なんだが。

 

……それと和平がどう結びつくんだよ。見た感じ戦闘ロボットにも見えたけど

それを平和の象徴とするなんてどうなのさ。

俺から見てもカッコいいと思える洗練されたデザインだったが

それは和平に関係ない気がしてならない。

それに、俺の考えが緩いのかもしれないが武力の誇示を

和平に結び付けるのってどうなんだろう。

その武力を以て自分の所に侵略してこないか、とか疑心暗鬼になったりしないか?

そのロボットがどれほどのものか、俺は知らないから何とも言えないが。

 

お偉いさんの「工学技士としての活躍にも期待したい」と言った旨の発言が、妙に印象深かった。

まぁ、そういう程度には完成度の高い代物なのだろう。

外交面じゃなくてそっちで活躍しろ、って暗に言っているようにも聞こえたが。

 

ここでディオドラ・アスタロトの番になっていたらしいのだが

どうやらすっぽかしたらしい。なんだよ、すっぽかしありなんじゃないか。

その事で少しお偉いさんの方で動きがあったみたいだが、読唇術とか持ってないので

何を言っているのかまでは読めなかった。記録再生大図鑑も今は下手に使えないし。

そういや、何か書いてあったな。全部読めなかったが……後で読んでみるか。

 

あれこれ考えているうちに、順番はグレモリー部長に回って来た。

果たして、一体何を言ってくれるのやら。期待はしてないが。




バオクゥは何事もなく帰ってきました……が。
セージに何か取り付けた模様。何やら不穏な空気漂ってます。

そしてマスコミも普通に入る若手悪魔の会合パーティー。
取材許可証とか無くても入りそうなんですが(元ネタ的な意味で)

SS級はぐれ悪魔を領地に放すというとんでもない外患誘致をかましてくれているセージ。
これもう自分もはぐれ悪魔化ほぼ確定しているようなものですね。今更ですけど。


そしてディオドラが既に不穏な動きを見せている件。
ネタバラシですが立ち位置は原作と同じ。
そしてその所属組織は魔改造施されてますので……
もっと酷い事になると思います。
アインストアスタロトとか待ったなしかもしれません。

シーグヴァイラさんが作ったロボットはいつぞや触れたアルトのこと。
拙作では和平締結がされていないので、彼女の立ち位置がこうなりました。
堕天使にヴァイスを作らせるフラグ立てでもありますが。

尤もその弊害で現外交担当クラスのアレっぷりになってしまいましたが
まだ軌道修正は可能と言う事で一つ。どうか一つ。
現役魔王でもないし。

で、原作にいないレイヴェル。
ライザーの一件が彼女を急成長させました。
グレモリー家に恨み骨髄な彼女が冥界内での発言力を高めると言う事は……

若手悪魔の有望株で、ライザーの件があって
僧侶から王になった拙作の彼女ならばチャンスありと言う事で今回は
サイラオーグらと席を同じくしております。

え? ゼファードル? 知らない子ですね、割とマジで。
原作でもサイラオーグの嚙ませになるだけでしたので、もういっそ退場。
イッセーもこじらせたらああなっていた可能性大だったんですけどね。
ただ、騒ぎの火種を持ち込む辺りは同類かもしれませんが。
ヴェネラナの特訓とはいったい何だったのか。

退場原因はアインストの襲撃。舐めプかまして一族郎党全滅。
なのでグラシャラボラス家は実質断絶。ファルビウムが魔王返上すれば復興ワンチャン。
禍の団に跡取り殺されたらしいですのである意味原作再現。
旧グラシャラボラス領はアインストのはびこる魔境になったため
イェッツト・トイフェルの手で焼却処分されました。合掌。

現在は土地所有権をめぐって近隣悪魔でもめ事が起きていたり。
そりゃ曰くつきの土地なんか誰も欲しくないですし。焼却処分したお陰で荒地同然ですし。

悪魔社会の勢力図がどんどん塗り替わってます。
趣味と実益を両立させられるほど、優しい世界ではありませんよ……ククク……


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Soul70. 百鬼夜行、紅魔に集いて(後編)

後編です。
なので昨今恒例のゴースト風導入は無しで。

今回、匙アンチが相当なものになっておりますので悪しからず。


Q:誰に対してアンチなんですか?

A:作品見て主観で(ここ大事)「いやお前おかしいだろ」が大原則。
  敵も味方もあるものかぁ! の精神です、今更ですが。
  ……それが三大勢力(主に悪魔)に偏っているからタグにある通りになってるんですけどね。

  あと、改変加えちゃってるケースもあります。黒歌とか。

  生き別れの妹キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
  ↓
  妹「ついていかない!」
  ↓
  じゃあ死んで

もうね、アホかと(ry
この件もはぐれの暴走装置だったりするんでしょうかね……まさか。


冥界・グレモリー領。

今日はここで冥界の、悪魔社会の未来を背負って立つ若手の上級悪魔の会合が行われるそうな。

俺にとってはどうでもいいし、早いところこの問題を解決したいのだが

一応顔を出すという約束は交わしている。無碍にも出来ない。

そんなわけでやって来たのだが、そこには俺の見知った者やそうでない者

本当に様々な悪魔がやって来ている。よくもまあこんなにいたもんだ。

……勿論、大半はその眷属なのだろうが。

 

サイラオーグさんやレイヴェルさんと再会の挨拶を交わしたり

イッセーに絡まれたりしているうちに、いよいよ会合が行われる。

若手の上級悪魔による意思表明……すなわち、夢を語る場であると言う事らしいが。

それにしては、やけに大人が出張ってる気がしてならないが。まぁ、そんなもんなのだろう。

サイラオーグさん、シーグヴァイラさん、レイヴェルさん。

順当に向上を述べていき、いよいよグレモリー部長の番が回って来る。

 

で、案の定。レーティングゲームでトッププレイヤーになると意気込んではいるものの。

俺は一部のお偉いさんが苦笑いをしているのを見逃さなかった。

その苦笑いの意味がどうにも気になる。それは至難の道であると言う事なのだろうが

果たしてそれだけか? 実力だけでどうにかなる世界じゃない。

そう暗に言っているようにも思えた。

 

……そして。

 

「時に、リアス・グレモリー君。

 君には『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の不正利用の疑惑がかけられているのだが。

 それなのに、先ほどの夢を語ったというのかね?」

 

「け、決してそのようなことはございません!

 これは『悪魔の駒』を用いた際に起きたハプニング!

 レーティングゲームのルールは、当然遵守する所存でございます!」

 

……あっそ。俺はハプニングでこんな風にされてアフターフォローもおざなりなわけか。

内心毒づきながら、結局それが本音かと思っていたりする。

けっ。何が情愛の悪魔だ。自分に従順な下僕が欲しいだけじゃないか。

それにそういうのが欲しかったら、やることが違うだろうが!

 

「当然だ。レーティングゲームは我ら悪魔にとって大事な儀式のようなものだ。

 それを汚す様な真似は、何人たりとも赦すわけにはいかない。それが陛下の妹君であってもな」

 

「……その私から、妹の擁護をさせてもらってもいいだろうか。

 確かに彼女はそこにいる赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を眷属に迎え入れる際、ハプニングでその隣にいる

 紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)――当時はもう一つの赤龍帝だったのだが――も迎え入れてしまったのだ。

 ここでこそ実体化しているが、紫紅帝龍は魂のみの存在。リアスが悪魔転生の儀式を行った際に

 その儀式に巻き込まれ、結果として9個目の『兵士(ポーン)』が生まれることになってしまったのだ」

 

グレモリー部長を詰るお偉いさんに、サーゼクス陛下が横槍を入れてくる。

まさか、フォローってこれの事じゃないだろうな?

だとしたら、全然フォローになってないんだが。

 

「このような事態は狙ってできることでは無い。また、開発者のアジュカもこの件については

 黙認の姿勢を取っている。いかがだろうか。レーティングゲームにのみ制約を設ける形で

 それ以外は現状維持という方向では? 紫紅帝龍の力は、我々悪魔にとって非常に有益だ。

 赤龍帝に勝るとも劣らぬ力を持っていることは、私が保証する」

 

……な、なん……だと……!?

 

あの赤タヌキ! フォローどころか外堀埋めやがった!

いや、確かにフォローはフォローだ。けれど、そのフォローは俺に対するものじゃない。

そもそもだ。サーゼクス陛下に俺をフォローする理由なんざない!

悪魔社会と、妹の面子さえ守れたら、あとはどうなってもいいってわけか。

 

神器(セイクリッド・ギア)由来でないからこそ起きた事だと俺は思っている。

 魂を封じ込めた神器――例えば『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持ったものを悪魔転生させても

 神器に影響は及ぼさないからな。そこの赤龍帝のように」

 

そういえばそうだ。イッセーは悪魔にされたが、ドライグはドラゴンのままだ。

悪魔の駒が影響を与えるのは当人の魂のみで、神器の魂には影響を及ぼさない、って事らしい。

 

となると、俺は何だ? イッセーの魂と融合しかけていたのか?

てっきり、イッセーに憑依していたがために巻き込まれたと思っていたのだが。

……もし前者だとすると、悪魔の駒の共有の解除は極めて困難かもしれない。

 

 

などと俺が考えていると、シトリー会長の出番が回って来た。

だが結論から言おう。この人も結構向こう見ずと言うか、世間知らずと言うか。

――下級悪魔や転生悪魔向けにもレーティングゲームの学校を作る、と言ってはいるものの。

 

俺だって軽くだが今の冥界、悪魔社会の情勢については調べているんだ。

だからこそ、関わり合いになりたくないって結論を出したんだが。

 

今の悪魔社会は、純血至上主義。それはあのライザー・フェニックスとの一悶着でも

証明されている。だがそれならそれでいいのだ。悪魔の問題なのだから、俺があれこれ言うのは

内政干渉だ。悪魔の在り方を人間が決めるというのも、おかしな話でもあるし。

 

……むしろ、人間の在り方を悪魔が決めているとも取れる現時点がおかしい。

悪魔の駒の不具合についてはすべて黙殺され、闇に葬られている。

そもそも純血悪魔を護ることと、転生悪魔を増やすことは競合している。両立しない。

 

人によっちゃこれを同化政策などと言うのかもしれないが

それは互いの同意があって初めて政策として成り立つ。

ここに、あるいはほかにも探せば同意どころか半ば強制的に悪魔にさせられた奴は少なくない。

俺は言わずもがな、アーシアさん、それにイッセーだって強制的にされた様なものだ。

そして、黒歌さんみたく悪魔になったことを後悔している人だっているんだ。

黒歌さんは人じゃないけど。

 

……で、何故俺がこれを引き合いに出しているかと言うと。

シトリー会長は、下級の悪魔や転生悪魔でもレーティングゲームを学べる学校を作る。

そう言っているのだが……

 

……待て。

そもそもレーティングゲームって、そこまで言うほど神聖視されるものか?

やっていることは殺し合いなんだぞ? それを下級悪魔はまだしも、つい昨日まで一般人だった

転生悪魔にも殺し合いを学ばせるというのか? まるで戦時下の日本じゃないか……!

 

……じょっ、冗談じゃない!!

俺はシトリー会長はまともだと思っていたが、どうやらその見解は改める必要がありそうだ!

そんな俺と思惑は違うのだろうが、お偉いさん方は失笑を通り越して大爆笑。

パッパラパ―……もといセラフォルー陛下がそれに対して怒っていたが

それはそれで呆れ返る。上に立つものがこうも公私混同されては不安になるんだが。

サーゼクス陛下も大概だったが、あれは内ゲバでの事だしまだ擁護の余地はある。

しかし今回のこれ完璧にアウトだろ。そういえば、ここ取材許可おりていたはずだが?

リーが取材許可証持ってたって話なんだが……これ、支持率に障るんじゃないか?

 

――魔王陛下は身内贔屓を平然と行う、って。

 

そうなれば俺もリーにあの情報を提供するまでだが。あの内ゲバの時の様子を。

そしてさらに……えっと、確か匙……だっけ。シトリー会長の兵士が

大爆笑したお偉いさんに食って掛かる有様。グレモリー部長も大概だと思っていたが

シトリー会長も眷属に恵まれていないのか?

何とかこの場だけでもシトリー会長をフォローするために

俺は匙の背面に回り込み、手刀を叩き込んで黙らせる。

 

「……しっ、静かに。差し出がましいようだがここは俺に任せてくれないか?

 どうせ俺ははぐれ一歩手前だ。汚れ役ならいくらでも押し付けてもらって構わない。

 

 ただ……後でシトリー様と話をさせてくれ。

 今シトリー様が仰った件、言いたいことが俺にもある」

 

EFFECT-TIME!!

 

……で、真羅副会長に断りを入れて匙を建物の裏に連れ出したってわけだ。

 

――――

 

「う……はっ!? 何処なんだよ、ここは!?」

 

「会場の建物のちょうど裏側だ。騒ぎを大きくしないためにちょっとご足労願った」

 

会場裏まで連れ出したところで昏倒させた匙が起きてしまった。

面倒な。今起きられたら俺に矛先が向かうじゃないか。

……事実だけど。

 

「てめぇ! いつぞやの臆病者! こんなところに連れ出して何のつもりだ!

 イッセーから聞いたぜ、お前先輩に対して反乱を企てているそうだな!

 それじゃてめぇははぐれ悪魔って事か! だったら俺がこの場で……」

 

「……類は友を呼ぶ、か。お前があの場であれ以上暴れて見ろ。

 シトリー会長の株価はどうなったと思う?

 セラフォルー陛下の後ろ盾があるからいいとでも思ったか?

 正直、あの夢に対して俺が言いたいこともなくはないが、今はどうでもいいから置いておく。

 お前は誰に対して喧嘩を売ろうとしてたんだ。冥界政府か?

 イッセーにも言ったが、喧嘩を売る相手はよく見てからにしろ」

 

「セラフォルー様は関係ないだろ! 俺は会長の夢をバカにした奴が許せないんだよ!!

 それとてめぇもだ! とてもイッセーと同じ『兵士』とは思えねぇな!」

 

言わんこっちゃいない。俺に向かって怒りをぶつけているように見えた。

勿論、無理やり連れだした俺にも多少なりとも非があるのはわかっている。

だが開口一番これか。ダメだ。完全に頭に血が上っている。

何とかしてコイツを黙らせたいところだ。

俺の言い方もまずかったのかもしれないが、完全に宣戦布告と見做したのか

ご丁寧に神器まで展開させている。はぁ、やっぱこうなるのか。

 

「反乱……か。まぁ、否定はしないさ。はぐれ扱いもある意味、な。

 ただ俺は俺のやりたい事があって行動を起こしているんだ。誰かみたいに考えなしじゃない。

 それとだ。そう思っているのはお前だけだ。シトリー会長の動きは、セラフォルー陛下に。

 お前の動きはシトリー会長に、それぞれ繋がっていくんだ。

 関係ないものなど何一つとしてない」

 

「偉そうにしやがって! それよりてめぇ!

 先輩に、魔王様に逆らってまでやりたい事って何なんだよ!?」

 

「……悪いが、お前にまでペラペラ話す義理はない。

 知りたきゃ悪魔らしいやり方で聞き出してみるんだな。

 俺も悪魔らしいやり方で抵抗させてもらうが」

 

俺の言葉を合図に、匙が身構える。警告の仕方を間違えたか。

これ以上ことを大きくするのは不本意だが……これはお灸を据えるべきか?

打って出る前に、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を匙に向ける。

 

匙元士郎。駒王学園生徒会書記。ソーナ・シトリーの「兵士」で、駒4個を使い転生を果たす。

神器「黒い龍脈(アブソーブション・ライン)」を持ち、接続した対象の力などを吸収、譲渡することが出来る。

 

――つまり、白龍皇やイッセーの「譲渡(TRANSFER)」の亜種みたいなものか。

 

十分対応できると考えたその矢先、ふとプライベートな記述だが目に入ってしまった。

忘れようともしたが、そこに書かれていることに俺は目を疑った。

 

――ソーナ・シトリーに想いを抱き――

 

そこまではいい。そこからだ。俺にとって……

 

……一番、唾棄すべき感情は!

 

 

――できちゃった婚、即ちソーナ・シトリーとの間に子を成そうとしている。

 

 

……やはり、類は友を呼ぶか。ここにも分かっていないバカがいた!

相手がどういう存在だかまるで分っていない! いや、そもそもそれ以前に……だ!

 

命を、命を何だと思っていやがる!!

 

奪うだけが命を粗末にする行いじゃないんだぞ! 無意味に命を生み出すのもまた

命に対する冒涜だ! コイツにはお灸じゃあ足らない! 一度徹底的に叩きのめす!

シトリー会長には悪いが、このバカには現実と言う物を見せねばならん!

 

「……そいつがお得意の神器か。俺の事を調べて対処するつもりだろうが――」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

HIGHSPEED-STRENGTH!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

匙が言い終える前に、俺は速攻で突っ込み、顔面に思いっきり鉄拳を喰らわせた。

後悔? んなものをできるほど、今の俺は冷静じゃないと思っている。

夢に、未来にだけ目が向いて、その過程が全部すっ飛んでいやがる!

何が出来ちゃった婚だ! そうして生まれた子供に責任が持てるのか!

無責任に子供を成すというその行為、あこがれだけとはいえ絶対に許せるものか!!

婚約していたり、大人で責任を持てるというのならばまだいい!

だが……だが! お前はそうじゃないだろうが!!

 

「あ……が……っ……!?」

 

「悪い。余計なものまで見てしまったが、それは俺にとって看過できないモノだった。

 恨むなら、主に邪な感情を抱いた己の浅はかさを恨め」

 

俺の言葉に察したのだろうか、匙の眼に一瞬闘志が燃えるのが見えた。

だが、だからって俺がそれをはいそうですかと待っているわけがないだろう。

匙が体勢を立て直す前に、俺は匙の身体を蹴り飛ばし

踏みつけるようにキックの殴打を浴びせる。

 

「ぐ、て……めぇっ……!」

 

攻撃の隙をついて、匙が「ライン」を飛ばしてきたが……

俺はそれを掴むや否や、力任せに引き千切る。

強化しているとはいえ、「戦車(ルーク)」状態でもないのにこれか。

恐らくは実戦経験の差かもしれないが……だが、そんなことはどうでもいい。

俺はこいつを、こいつを……ッ!!

 

引き千切った「ライン」を乱暴に投げ捨てると、何もなかったかのように霧散する。

愕然とする匙に、俺はさらに近づき胸倉を掴みあげる。

 

「……最期に一つ聞く。お前にとって『命』は何だ? カウントは10だ。0迄に答えろ。

 10……9……8……」

 

「なっ!? 何だいきな……ぐううっ!!

 い、命……は……そんな……の……」

 

……フン。やはり何も考えていないのか。もうカウントはやめだ。

胸倉を掴む力を、さらに増す。いつしか強化は切れているが、そんなものは関係ない。

胸倉を掴んだまま、無造作に匙を地面に叩きつける。

 

「てめ……っ……はな……しが……」

 

「お前らみたいに命のありがたみが全然わかってない奴が俺は何よりも嫌いでな。

 一応タネは明かしてやる。お前の思っている夢をうっかり覗いてしまったんだ。

 だがそれは、俺にとっては深淵を覗いたに等しい行いだった。

 勝手に他人の夢を覗き見て勝手にキレるなって思って構わない。

 けどな……これだけは言わせろ。

 

 ……命は、勲章でも無ければ玩具でもないんだぞ!!」

 

その咆哮と共に、俺の匙を掴む力は無意識にどんどん増していく。

匙からはいつしかうめき声すら聞こえなくなってきているが、俺はそれに気づかない。

 

――その時だった。内側から俺の力ががくんと抜け落ちる感覚があったのは。

 

『ストップだセージ。それ以上はそのガキ、本当に死ぬぞ。

 言いたいことはわからんでもないが、手間かけさせるな』

 

「う……? ……はっ! お、俺は……」

 

フリッケンが、俺の力を強制的に抜くことでストッパーになったようだ。

我に返ると、へたり込みせき込む匙の姿があった。

以前も怒りで我を忘れたが、またしてもやらかした、のか?

 

ふと、遠くが騒がしくなってきた。

これ以上コイツを拘束するのもよくないな。

それにしても、やり過ぎた。シトリー会長への言い訳を考えながら

俺は匙を引きずって会場に戻ることにした。

 

――――

 

「よう。派手にやったらしいじゃねぇか。ま、記事にはしないでおいてやるよ。

 俺は何も見てないし知らねぇ。いいな?」

 

いの一番に出くわしたのは、取材でやって来ていたリーだった。

確かにグレモリー眷属きっての問題児がシトリー眷属に暴行を加えたとか

冷静になって考えてみたら大事だ。

全く、本当にグレモリー部長やイッセーの事をとやかく言えない。

俺も結構、根っこの部分はアイツらと一緒なのかも。

 

「それにしても、いいものを見させてもらったぜ。

 あの後セラフォルーは政府陣に啖呵を切るし魔王達の公私混同っぷりに

 笑いをこらえるのが大変だったぜ……っと。あまりべらべらしゃべると

 またイェッツト・トイフェルに睨まれても困るからな。

 ……ま、来週の週刊誌を楽しみにしとけって事だな」

 

そういえば、イッセーとアザゼルの密会をリークしたのもコイツだったっけ。

そう考えると、楽しみどころか少し嫌な予感もする。

その嫌な予感は、誰の物かはわからないが。

 

リーとの会話もそこそこに、シトリー会長に匙を差し出す。

一応、事の顛末は話しておく。真羅副会長に話したとはいえ

ここまでやらかした以上、俺からの説明が必要だろう。

 

……尤も、あの夢の事については伏せておくが。

 

――――

 

「――と、言うわけです。出過ぎた真似をして眷属に多大な危害を加えてしまい

 申し訳ありませんでした」

 

「……あの場でサジを諫める役割は、私がするべきでした。

 いえ、もっと言えばあの場でサジがあのような行動に出ないよう

 常日頃から言い聞かせておくべきでしたし、そういう意味では

 サジの気質をしっかり把握していなかった私にも落ち度はあります」

 

傷については、アーシアさんに事情を説明し頭を下げることで癒してもらっている。

この事はイッセーには伏せている。あとでバレるとはいえ、今バレると面倒だからだ。

 

「あの……本当にイッセーさんには内緒にするんですか? 後できっとバレますよ?」

 

「ああ。どうも奴はこいつと仲がいいらしいからな。後でバレるのは俺も織り込み済みだ。

 けれど、今バレたらまたアイツと殴り合いを演じなきゃならなくなる。

 今やるのはマズいだろ? だからアイツには

 『さっきの件で制裁を受けた』って事にしてほしいんだ」

 

アイツの事だ。真実を知ったら

 

――てめぇは俺達だけじゃなくて他所にまで、学校の仲間にまで手を出すのかよ!?

 

とか何とか言って俺に殴りかかって来るだろう。血気にはやるのはいいんだが

ここでやるなよ、って話だ。だから俺だって態々外に運び出したんだし。

喧嘩をするなとは言えないし言わない。だが喧嘩にだってルールやマナーってものはある。

俺はそう思っているし、これは大那美(だいなみ)の仲間たちの受け売りでもあるんだが。

 

さて。匙の件はこれでおいておくとして……

 

「それから失礼ついでに言わせていただきますがシトリー様。

 俺も先ほどの話、障りだけ聞いていました。

 その上で結論から言いましょう。

 

 ……なめてんのか?」

 

その俺の言葉を聞いた瞬間、シトリー会長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「夢を語るは大いに結構。だがあなたのやろうとしていることは

 人殺しのやり方を子供に教えるがごとき所業。とても看過できません。

 個人的意見になりますが、俺は悪魔である事に納得は未だしていませんし

 戻れるものならばすぐにでも戻りたいです。そして、そう考えているものは少なくないことを

 これまでの調査で把握しております。

 あなたの夢は、そうした者たちの意見を無視していることにもなりかねません」

 

「……別に、義務教育として取り入れろと言っているわけではありませんが」

 

「変わりませんよ。下級悪魔や転生悪魔にも学問の門戸を広げるというのは

 義務教育としてレーティングゲームを取り入れるというのとほぼ同義。

 そして、これは俺の主観ではありますがレーティングゲームとは殺し合いの競技。

 とても清く正しいスポーツとは、俺には到底思えません。

 そんなものを、義務教育の一環として取り入れるのならば

 堕天使や天使、そして他の神々、ないし人間との付き合い方を学ばせた方が

 余程未来のためになると俺は思いますがね。悪魔の駒の正しい使い方のためにも」

 

「……考えておきます。殺し合いの競技、ですか。

 レーティングゲームは死者が出ない仕組みにはなっているはずですが……」

 

俺の意見に対し、シトリー会長は驚きながらも冷静に努めているように見えた。

表面だけでも冷静を保てるというのは、余裕の表れと言う奴なのだろうか。

まあ、俺はお偉いさんではないがそれでも真っ向から夢を否定するようなことを言ってるんだ。

腹の内では、それなりに思うところはあるのだろうが。

俺が二の句を継ごうとしたとき、後ろから少女の声が聞こえてきた。

 

「横から失礼いたしますわ、ソーナ・シトリー様。

 改めまして、フェニックス家の長女レイヴェル・フェニックスです。

 先ほど『レーティングゲームは死者が出ない』と仰いましたが、少し訂正が必要ですわ。

 確かに死者は出ません。ですが、『死ぬよりも苦しい後遺症』はしっかりと出ています。

 それは私がこの目で目の当たりにしたことでございます」

 

そう。

横から来たレイヴェルさんに指摘された通り、レーティングゲームは「死者が出ない」

ただそれだけなのだ。医療設備もあると言えばあるのだが、後遺症までは防げなかった。

そして競技において恐ろしいのは試合中の事故であり、後遺症である。

スポーツ選手、特にエクストリームスポーツともなれば競技中の死亡事故もあり得る。

そしてレーティングゲームは性質上、エクストリームスポーツと言っても差し障りない。

これはあの時から認識を改めていない。

……イッセーの件も入れれば、俺は何人病院送り規模の怪我を負わせたのだろうな。

 

「内ゲバを引き合いに出すようでなんですが、俺も危うく相手の選手を殺しかけました。

 生命に関するルール規定がない以上、そういう事故も起きると言う事です。

 勿論、そうした事故を起こさないために教育が必要と言う考え方もあるでしょうが

 正直に言います、シトリー様。

 

 ……そこまで、お考えでしたか?」

 

レイヴェルさんの尻馬に乗るような形ではあるものの

俺もイッセーに神経断裂弾を向けたことを引き合いに出し、シトリー会長を問い質す。

まさか、シトリー会長も命を軽んじているなどとは、俺も思いたくないからだ。

 

「……貴重なご意見、ありがとうございます。

 この件については改めて、より良い方向に昇華できるよう尽力させていただきます……」

 

「まあ、うちも特産品をレーティングゲームに提供している以上は

 スポンサーとして、貴女の言うレーティングゲームの改革を楽しみにさせていただきますわ。

 私が思うに、まずレーティングゲームの在り方や政府、上級悪魔の皆様の意識を改革せねば

 貴女の夢はスタートラインにすら立てない、と私は考えてますわ。

 まあ、あの時の皆様の態度を見ればお分かりかと思いますけど」

 

「……そうですね、レイヴェル様、歩藤君。

 貴重なご意見、重ね重ねありがとうございます」

 

シトリー会長は匙を連れて控室の方向に向かっていったようだ。

それを治療のためにアーシアさんがついていく。

そのため、レイヴェルさんと取り残される形になってしまう。気まずい。

 

「……あなたが噂屋やフリーライターとつるんでいるという情報もあるので

 これはオフレコでお願いしたいのですけど。

 

 ……私自身としては、レーティングゲームなんてもう懲り懲りですわ。

 けれど、今の社会ではレーティングゲームの成績が物を言う時代。

 そういう意味では、リアス様とはライバルと言う事になるのかしら。

 全くもって、不本意な話ではありますけど」

 

「俺は何も聞いていませんし、聞くつもりもありませんが……少々お耳に。

 情報源は伏せますが、今のレーティングゲームには

 何か善からぬものがあるという噂もあります。

 それに、ドラゴンアップルの害虫やアインスト、禍の団(カオス・ブリゲート)のはびこる現状

 娯楽であるレーティングゲームがどんな形であれ普通に執り行われるというのは

 ある種、異常さを感じると思うのですよ」

 

「それは魔王様曰く

 『レーティングゲームで市井の悪魔達に希望を与えたい』との事らしいですわ」

 

……うわあ。虚飾の希望とかなんという……

ま、まあ悪魔らしいと言えば悪魔らしいのだろうけれどもさ。

俺には、どうしても豪勢なエサで釣って目の前の危機から目をそらさせようとする

逃避の行いに見えて仕方がなかった。

 

「では私はこの辺で。御機嫌よう、忌々しい紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)の望まれない眷属さん」

 

迎えに来たと思しき、遠くに見えた奥瀬秀一(おくせしゅういち)弁護士と共に

レイヴェルさんは会場を後にする。本当にここには長居したくないんだな。

しかし、望まれない眷属……ね。ま、俺の方はその認識なんだが。

向こうが素直に手放そうとするかねぇ。

 

……手放すと言えば。

黒歌さんと塔城さん、再会したらどうなるんだろう。

まさか黒歌さんがこっちに来るなんてことはどう考えてもあり得ないし

そもそも黒歌さんがはぐれに至った経緯とかも俺はあまり詳しくは知らない。

精々、塔城さんを護るためにやむなくという情報だけだ。

……それなのにはぐれ扱いとは、本当に悪魔社会ってのは……

 

……ふと外を見ると、噂をすればなんとやら。

黒猫が見えたので、俺はそっちの方角に向かうことにした。

 

 

――そして、俺は目の当たりにすることになった。

俺の立てた仮説の、その正否を。




>サーゼクス
やらかしました、フォロー(但しセージに対してとは言ってない)
原作よりもアレな部分が強くなったのは魔王としての役職の責任感と
元来のグレモリー家の気質が混ざり合った結果です。

リアスとか見てると魔王(と言うか上司)には絶対向いてない家系だと思うんですけどねぇ……
優しければいいってものじゃないのよ、上司ってやつは。

なおタヌキは緑だろ、赤はキツネだろってツッコミは却下。

>匙
犠牲になったのだ……セージの生命倫理観、その犠牲にな……
命を粗末にするな、ってSEKKYOUですが、よく命をもてあそぶ奴に言いますが
こういう後先考えずに命を生み出す奴も該当すると思うんです。
生まれてはいおしまい、なんて命は悲劇でしかありませんよ……
後、ここはセージが抱えている悩みもあったり。
大したネタバラシでもないのですが公開しますと

想いを遂げるためには父親にならなければならない。
けれど父親と言う存在をよく知らない事へのコンプレックス。

故に、父親であろうとすることが抜け落ちている(風に見えた)
匙のこの件に関してはレイナーレの時に近い勢いでブチ切れてました。

神器についてですが、吸収・譲渡など白龍皇の光翼の相互互換みたいな感じなんですよね。
それなのに四分の一とかわけわからない。
しかも完全体にするためにやった事って別の場所でも見たんですが
レイナーレがやらかしたことと同じ。レイナーレは泣いていい。許さないけど。
巻を進めるたびに本当にダブルスタンダードが酷くなってる気がします。

>フリッケン
外部接続の存在ながらも内側からセージに対して「半減」かけてました。
文字通りのブレーキ。こういう仕事も必要だと思うんです。
出来なきゃただの増幅装置。意思なんざいらねぇんだよ!
誰の事とは言わないけど。

>ソーナ
セージにも突っ込まれてますがレーティングゲームのスポンサーの家系でもある
レイヴェルに突っ込まれるのはセージのそれとはまた違った意味が。
他所様の作品でも散々突っ込まれているレーティングゲーム学校創立の夢。
……それだけレーティングゲームってシステムがおかしいのか
社会そのものがおかしいのか。
「夢に向かって邁進する若者VS夢を笑う愚かな大人」って構図にしたいんでしょうけど
そうは問屋が下りない。だって大前提がそもそも首をかしげたくなるんだもの。

……感想でも頂きましたが、レーティングゲーム抜きにすれば丸く収まったのではないか。
私もそう思ったり。そこはソーナの世渡り下手な部分かもしれません。
頭がいい≠世渡り上手ではない証左ですね……

と言うか原作味方サイドに世渡り上手ってあまり思い浮かばないんですけどね。


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Soul71. 再会を祝う光と影

今回の話は非常に難産でした。
活動報告にもある通り一度吹っ飛ばしてますし
某作品とコンセプトが似通ってしまってどうしたものかと悩んだり。

(ぶっちゃけかなり影響受けてます。パクリとか問題あるなら修正かけます)


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

黒歌さんを引き連れ、俺達はグレモリー領へとたどり着くことが出来た。

黒歌さんは妹、白音――塔城さんに会うために。

俺は、魔王陛下との一応の約束を守るために。

 

それが、あんな事態を生み出すとはその時の俺は知る由もなかった。

 

――残された時間は、あと29日――

 

――――

 

グレモリー領で行われていた若手悪魔の会合。

お偉いさんを前にして行われていた意思表明も先刻終わりを告げ

改めてパーティー会場が賑やかになっている。

 

……一部、既に帰った者もいるが。

レイヴェルさんと、ディオドラ・アスタロトだ。

前者はよほどグレモリー領に居たくないのかやることを終え早々に切り上げ

後者はそもそも意思表明すらブッチしていた。一体何者なのだ。

そして、その途中匙と一悶着こそあったものの

今は何とか平和的に――と思いたいが――パーティーの時間を過ごせている、はずだ。

 

その矢先である。表を黒猫が横切ったのが見えたのは。

よく「黒猫は不吉の兆し」などと言うがそんなものは迷信もいいところだと思っている。

起源をたどれば悪魔の、魔女の使いだとかうんたら言うらしいがそんなことはどうでもいい。

猫は猫だ。それでいい。

しかし、この猫が横切るという出来事において、看過できないことがあった。

 

一つ。俺は良く知っている黒猫がいる。

 

二つ。その猫も、今見た猫も、尻尾は二股であった。

 

そして三つ。その猫に会わせてほしいという依頼を、俺は受けていた。

 

俺は塔城さんの現在地を確認した後、慌てて外に飛び出して

黒猫――黒歌さんととコンタクトを取る事にした。

 

「あ、ミイラのお兄さん。ようやく会えたにゃん。白音はどこにゃん?」

 

「今こっちに連れてくる。それより、あまり迂闊に動かないで……

 って、言わなくてもわかるか」

 

「当たり前だにゃん。でもついにこの時が来たのね……

 さ、ミイラのお兄さん。私はここで待ってるから、早く白音を連れてきてほしいにゃん」

 

黒歌さんに促されるまま、俺は塔城さんを呼びに会場に戻る。

彼女が健啖家なのが幸いしてか、居場所の目星はすぐに付けられた。

 

「……あ、セージ先輩。食べますか?」

 

「いや、今は実体化してるけど腹は減ってないしいいや。

 それより、君に会わせたい人がいる……依頼の件で、だ」

 

その話を聞くや否や、塔城さんは皿の上の料理を一気に平らげ

「さあ行きましょう」と言わんばかりの顔でこっちを見てくる。いや、よく噛んで食べようよ……。

ともかく、俺は塔城さんを黒歌さんのもとに案内すべく建物の裏へと足を進める。

 

「ところで塔城さん。依頼はこれでほぼ果たせたも同然なんだが、この後君はどうするんだ?」

 

「……この後、ですか?」

 

「ああ。黒歌さんに付いていくとなれば、今まで通りにはいかなくなる。

 グレモリー部長の眷属を辞める必要性も出てくるかもしれないって事だ。

 そうなれば、当然学校なんて通えないだろう。今後の身の振り方、考えているのか?」

 

俺の質問に対し、塔城さんは押し黙ってしまう。それが答えか。

つまり……何も考えていなかった、と。

再会する事ばかりに考えが行っていて、その後のことがおざなりになってしまう。

まあ、俺も同じ立場だったら似たような状態になることは想像に難くないので

この件で塔城さんを責めることは出来ないんだが。

それに、俺の予想とは裏腹に彼女は黙ってこそいたものの

目は泳いでいない、しっかりと赤い目で前を見据えている。

 

「それ以前に、黒歌さんに付いていくっていうのならグレモリー部長のもとを離れなきゃだな。

 今まで通りでかつ黒歌さんともやっていくってのは無理だと思うぞ。

 黒歌さんははぐれ悪魔だと聞いている。それもSSランクの。

 となれば、グレモリー部長の立場上……」

 

「……わかってます。姉様の事で部長に迷惑はかけられません。

 ですから、私は……」

 

塔城さんが言い切る前に俺達は建物の外へと出てしまい、目の前には黒猫がいた。

黒猫――黒歌さんは塔城さんを見るや否や、猫魈(ねこしょう)としての姿――人型を取り

塔城さんへと駆け寄ってくる。

 

「白音……白音! 会いたかった! 白音!」

 

「ね……姉様!」

 

塔城――いや、白音さんを抱きしめる黒歌さん。そんな黒歌さんに黙って寄り添う塔城さん。

傍から見れば、感動の再会なんだが……

 

……何故だろう。何かすごく引っかかるし、嫌な予感がする。

このまま大団円で終わりそうにない、そんな嫌な予感。

 

その俺の嫌な予感を裏付けるかのように、俺達を追ってグレモリー部長とイッセーがやって来た。

くそっ、なんてタイミングだ!

 

「セージ、小猫。ここにいたのね。レーティングゲームの組み合わせ表が出来たわ……

 って、あなたははぐれ悪魔の黒歌! どうしてここにいるの!?

 いえ、それよりもすぐに小猫から離れなさい!」

 

「はぐれ悪魔だって!? おいセージ! お前がいながらなんてザマなんだよ!

 はぐれ悪魔にみすみす小猫ちゃんが捕まるなんて!」

 

あー……そういう解釈したわけか。俺と塔城さんで出くわしたが、俺が力及ばず

塔城さんが黒歌さんに捕まってしまったと。そういう解釈を。

それならそれでいい。まさかバカ正直に「こいつは俺がここまで連れてきた」なんて

いうわけにもいかないし。

だから、俺はイッセーの問いかけに無言で返す。

無言は肯定、そう取ってもらって構わないし、下手にしゃべるわけにもいかない。

嘘をつくつかない以前に、俺は何も言ってないからだ。

 

「嫌にゃん。白音はようやく見つけた私の妹だにゃん。

 誰がお前みたいな奴に渡したりするものかにゃん」

 

「ふざけるな! 今更のこのこ出てきて家族面するな!

 小猫ちゃんは俺達の大事な仲間だ! 誰がお前なんかに!」

 

また始まった。イッセーの後先を考えない感情論による説得とは到底言えない暴論。

ライザー・フェニックスの時も、ゼノヴィアさんの時も。

コイツは一体何が言いたいんだ。俺にはさっぱりわからない。

そもそも仲間ったって、事の発端はお前が一方的に決めつけただけだろうが。祐斗にしたって。

 

で、今回は家族と言い張る黒歌さんを頭ごなしに否定しているように見えるんだが。

と言うかお前、仲間とか言っておいて仲間らしいこと何かやったか?

俺の記憶には、お前がセクハラ――もう犯罪レベルのそれをやっておいて

塔城さんにしばかれている記憶しかないんだが、これは一体どうしたことだろうな。

 

「イッセーの言う通りよ。小猫は私の大事な眷属。

 あなたのようなはぐれ悪魔風情にみすみす渡したりなどしないわ」

 

「……コイツは呆れたにゃん。まさかグレモリーの次期当主まで

 私がこうなった本当の理由を知らないなんて思わなかったにゃん。

 いや、それとも知っててそういうことを言っているのかにゃん?」

 

……うん? 話の流れが変わったぞ?

そういえば俺も詳しくは調べていなかったが。今記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べるのも

それはそれで不審に思われる。やめておいた方がいいだろう。

 

「自分の意見が通らないからって言い逃れか!

 はぐれならはぐれらしく大人しくお縄につきやがれ!」

 

「……待てイッセー。話が見えない。俺にも分からんことくらいある。

 グレモリー部長も『そっちの黒猫さん』も一度刃を収め、話をすべきと俺は思う。

 そもそも、当人――塔城さん、そちらの黒猫さんが言うには白音さんだが。

 彼女の意思が一切介在していない現状、俺達だけで勝手に話を進めるのは如何なものか」

 

さりげなく「俺は黒歌さんとは無関係」を装いつつ、対話による解決法を提案する。

勿論、平行線をたどるであろうことは織り込み済みだ。

と言うか、グレモリー部長の性質上言い出したことは曲げまい。

あのフェニックスの一件からも安易に想像がつく。

そうなった場合は、俺はグレモリー部長を止めるべきだろうな。

既に一度グレモリー部長に弓を引いた身だ。いまさら何を恐れようか。

 

と言うか、俺個人としてはこの話、黒歌さんの方に理があるのではないかとみている。

塔城さんが何故眷属になったのかは知らない。だが、黒歌さんが塔城さんを探していた。

これは紛れもない事実だろうし、塔城さんの側は間違いなく黒歌さんを探していた。

それは俺もよく知っている。そこから統合すれば、話は……

 

「セージ! お前はどっちの味方なんだよ!? やっぱりお前は……」

 

「……イッセー。そういう敵とか味方とかで物事を見るのはあまりよくないと思うぞ。

 現に俺みたいな奴がいる。まあ、俺も敵だというんならそれなりの考えはあるが。

 いずれにせよ、今は俺達が争っている場合じゃない。違うか?」

 

「やめなさいイッセー。セージの言う事も尤もだわ。

 本来ならはぐれ悪魔なんかと語る舌など持ち合わせないのだけれど

 可愛い眷属の事がかかっている以上、そうも言ってられないわ。

 黒歌。私は小猫が路頭に迷っているところを保護して、我がグレモリー家で手厚く歓迎したの。

 今まではぐれ悪魔としてぶらぶらしておいて、今更姉面をされても困るわ」

 

ふむ。それがグレモリー部長の言い分か。まあそんなところだろうと思ったが……うん?

なんだ? 何かが引っ掛かる。まるでデジャヴを感じるような……

 

……そうだ、祐斗だ。木場祐斗。同じくグレモリー部長の眷属にして、「騎士(ナイト)」。

彼もある事件から生き残り、路頭に迷っているところをグレモリー部長に保護され、眷属となった。

だがその後メンタル面でのケアはロクに行われず、それがあるとき爆発した。

まあそれがきっかけで親しくなる理由は出来たんだが。

 

しかしまあ「路頭に迷っているところを保護」って、そればかりじゃないか。

この分だと他の姫島先輩やギャスパーもその可能性が高いな。

アーシアさんやイッセーは死人に口なしだし、俺は論外だ。

……うん? こうして考えると眷属となる側がまともな思考をできない状態で眷属にしている

――つまり、無理矢理眷属にしているという解釈も可能っちゃ可能だな。

 

「……それについては否定はしないわ。けれど私はああしなければ白音を護れなかった。

 自分の意思で悪魔になった私はまだいいわ。けれど奴は白音まで悪魔にしようとした!

 だから私は主を殺した。そうしなければ白音は悪魔にされていたから。

 ……それなのに、何勝手に白音を悪魔にしているわけ!?

 私達猫魈は、あんた達悪魔の玩具じゃないのよ!」

 

個人的感情で語るならば、俺は黒歌さんに付きたい。と言うか今の黒歌さん……マジだ。

語尾の「にゃん」が抜けている。と言う事ははぐれになることは苦渋の選択であり

白音さん――あえてこう呼ぶが――を守るためにやむなく、ってのは

どうやら本気と見て間違いなさそうだ。

 

悪魔の玩具じゃない、か。まぁ、それはすべての転生悪魔に言えることかもしれないな。

聞けば、何か特殊な力を持った奴ほど手厚く歓迎されるとか。

それって結局、斜陽の種族である悪魔が生きながらえるために他の種族を犠牲にしている。

やはりな。人間だってサルを人間に改造したりはしない。

その一線を越えたからこそ、悪魔が悪魔足りうる所以なのかもしれないが。

もしそうだとしたら……俺はこんな悪魔なんて身分、くそくらえだ。

 

「何言ってるんだ! 昔はそうだったかもしれねぇけど、今は小猫ちゃんは俺達の仲間だ!

 それを連れて行こうっていうんなら、俺が容赦……むぐっ!?」

 

今にもイッセーが食って掛かりそうだったので、俺はイッセーの口を抑えつける。

今はまだ話し合いで済んでいるんだ、今はまだ。

それなのにお前がしゃしゃり出て話をややこしくするんじゃない。

 

……って、さっきから俺が取り仕切っているが……まぁいい。

誰かが取り仕切らないとダメだろ、この場合。

一応はグレモリー部長の眷属である俺がやっていいものか、って問題もあるが……

渦中の人物以外で黒歌さんとの接点もある以上、俺がやるしかないんだよなぁ。

 

「刃は収めろと言ったぞイッセー。さて、流れで俺が取り仕切ってしまっているが

 反対意見も出ていないようなのでこのまま続けさせていただく。答えは聞かないが。

 そこの二人の意見が粗方出たが……当事者。君の意見がまだ出ていない。

 塔城さん……いや、白音さんと言うべきなのか? 君はどうしたいんだ?」

 

「セージ? その呼び方をすると言う事はあなた……」

 

グレモリー部長が何かに気づいたようだが、俺は素知らぬ顔をする。

と言っても、さっきからいい加減苦しくなってきたミイラマスクを着けたままだ。

外したいところだが、誰が見ているのかわからない場所で外したくはない。

さて。俺個人としては塔城さん――いや、白音さんには黒歌さんを選んでほしいが

俺がとやかく言う事じゃない。

俺が似たような立場なら、間違いなく黒歌さんを選ぶ、と言うだけの話だし。

 

「……私の意見は、決まってます」

 

そう呟く白音さんに、周囲がどよめく。

そりゃそうだ。二人の意見が出て、悩みに悩むであろう話題だというのに

こうもあっさり結論が出てしまうというのだから。

まあ、俺は彼女が次に紡ぐ言葉が何となくだが見えているんだが。

 

「やっぱり! さすが小猫ちゃんだぜ! さあ、俺達と一緒に……」

 

「……放してください、変態。私は、黒歌姉様のもとに行きます」

 

白音さんの手を掴んだイッセーを払いのけ、そのまま冷たく言い放つ。

あ……いや、白音さん? そこまで無碍にしないでもいいんでない?

 

「小猫。それがどういう意味だか解っているの?」

 

「……はい。部長、今までお世話になりました。

 でも、部長もいけないんですよ。私、今までずっとどうして姉様がはぐれ悪魔になったのか。

 どうして姉様は来ないのか、姉様は何処に行ったのか。

 ずっと気になっていたんです。でも部長は何もしてくれなかった。

 まともに、納得のいく説明はしてくれなかった。姉様は力に溺れて主を殺してはぐれになった。

 あんな説明で納得すると思ってたんですか? 私、おぼろげながらも覚えてたんですよ?

 私を逃がすために、姉様はあの場に残った。私を助けるために。

 そんな姉様が、力に溺れてはぐれになったなんて、どうして信じられるんですか?」

 

「し、白音……」

 

「そ、それは……」

 

「……祐斗先輩の時もそう。セージ先輩が動かなかったら本当にはぐれ悪魔になっていたかもしれない。

 それにそのセージ先輩は現に部長を裏切っている。

 私だけ、いい子でいるつもりなんてありませんから」

 

あの口数の少ない白音さんがここまでまくし立てるとは。

それだけ腹にため込んでいたのだろうか。イッセーに対する対応を見る限りじゃ

そういうタイプには見えなかったんだが……むぅ、俺の観察不足か。

 

「セージ!? ま、まさかてめぇ……」

 

「何を勘違いしている。確かに黒猫探しの依頼は受けた。それはお前も知ってるだろ。

 あの病院での帰り道、アーシアさんに治してもらった黒猫。

 ……あなたですよね?」

 

「その通りだにゃん。あのシスターの子にも世話になったって言っておいてほしいにゃん。

 ……あ、あとそっちの茶髪のガキ。気安く触らないでほしいにゃん」

 

イッセーの追及をさらりとかわすと、黒歌さんがわざとらしくお礼を俺に向けて言う。

同時にイッセーに恨み言を言っているが、多分お腹を触られたことだろう。

根に持ってるなぁ……

 

さて。黒歌さんが俺――と言うかアーシアさんにお礼を言ったのと同時に

グレモリー部長の俺を見る目が変わる。あの時何が起きたのかを察したのだろう。

睨んでいるつもりなのだろうが……一度勝ってしまうとどういうことなのだろうか。

 

……全然怖くねぇ。だから俺は、負けじと俺の思っていることを言い返す。

 

「……あの時の!? セージ、これは一体どういう事かしら」

 

「別に何も。俺はただ依頼を受けただけですよ。『黒猫を探してほしい』と。

 で、その矢先にけがをした黒猫を見つけた。それが依頼の黒猫かどうかは俺もわからない。

 だから、白音――塔城さんに手伝ってもらうためにあの時呼んだだけですよ。

 おっと。あなたも悪魔ならば、依頼主の秘密の厳守は原則。お分かりですよね?」

 

「……ふぅ、分かったわ。小猫の事は諦めるわ。ただし……

 

 

 ……はぐれ悪魔黒歌! その前にあなたはここで始末させてもらうわ!!」

 

……そう言う事か! 相手がはぐれ悪魔ならば、大義名分はどう見繕ってもグレモリー部長にある!

だから、そのはぐれ悪魔を消すことで事実を有耶無耶にしようとする……

 

なるほど、悪魔らしく露骨にいやらしい手口だ!

 

「!! 姉様、逃げてください! 部長の滅びの力は、いくら姉様でも……」

 

「やっぱり初めからそれが目的だったのね。本当になんで私は悪魔になったのかしらね。

 白音、私を選んでくれてありがとう。またどこかで……そうね、故郷で……

 今更戻るのもアレだけど……故郷で、会いましょう」

 

まるで今際の際の言葉のように、白音さんに語り掛けた黒歌さんから……

どす黒い、何か得体のしれぬ嫌なオーラが漂い始める。

これには俺も記録再生大図鑑を向けざるを得ない。

噂に聞く仙術のそれとは、どうしても違うように見えたからだ。

 

……結論から言えば、俺のその推測は的中した。

それどころか、先日バオクゥと探した本の中の記述に、ちょうど合致するものがあった。

つまり、悪魔の駒(イーヴィルピース)由来のオーラ、力と見て間違いない。

 

……と言う事は、だ。

今の彼女ははぐれ悪魔。そしてはぐれ悪魔になったからって悪魔の駒は摘出されない。

今もなお彼女の体の中に残っている。記録再生大図鑑の調べによれば彼女の駒は「僧侶(ビショップ)」。

なるほど、仙術を期待して魔力を高める僧侶の駒を選んだわけか。どうでもいいが。

 

そして今その駒が……暴走している?

この力の流れ方は、暴走のそれにかなり近いものを感じる。

俺はかつて、ある仮説を立てた。

 

――はぐれ悪魔となったものは、理性を失い破壊衝動のままに暴れまわる。

 

この仮説ならば、ちょうどグレモリー部長が白音さんに説明したとされる

黒歌さんの顛末と合致する。と言う事は、だ。

 

「ダメだ白音さん! 黒歌さんから離れるんだ!! と言うか全員ここから離れろ!!」

 

「く……ううっ……逃げて……白音……」

 

「姉様!? 姉様!!」

 

黒歌さんの身体が肥大化し、まるで巨大な黒いネコ科の動物のような姿に変貌する。

猫と言うにはあまりにも巨大で、他のネコ科の動物と言うにも、あまりにも禍々しすぎる。

俺達はかつて、こんなような存在を見た。その名は――

 

――はぐれ悪魔、バイサー。

 

咆哮と共に、口から息を吐きだす。それを吸い込んだグレモリー部長やイッセーの顔色が悪くなる。

これは……毒か! ミイラマスクとは言え多少の防毒効果があったのか、俺の方には効きが悪いようだが

それでも多少は受けている、気分が悪い。記録はしているようだが。

 

MEMORIZE!!

 

「姉様、やめてください! 黒歌姉様!」

 

白音さんの声にも耳を傾けず、ただひたすらに吠えて暴れる。

このままじゃ騒ぎが大きくなって本当に始末されてしまう!

せっかく再会したのに、こんな結末があってたまるか!

何か、何か方法があるはずだ!

 

……そのためにも、まずはここから遠ざける必要があるか。

だが、あれだけの大きさ――最も、アインストレヴィアタンよりかは小さいが――の相手を

どうやって誘導しようというのだ。追い付かれて喰われるのがオチだぞ。

 

足を速くする……いやダメだ、途中で効果が切れたら終わる。

モーフィングで乗り物を……出来そうなものが近くに無い。

それに原付じゃ追い付かれる。あの時みたいに。

 

――ならば、ダメもとであのカードを試してみるか!

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

レイヴェルさんに追われているときに記録した「騎士」のカードを引く。

 

騎士らしく鎧に身を包むのかと思いきや、右肩に騎士の駒……即ち、馬を象ったアーマー。

左肩は馬の尾を象ったマフラー。

胸部装甲は「戦車(ルーク)」の時と同様の×字状の意匠の入った装甲が展開され

両手はライダーグローブを思わせる装甲、両足は脛当てだけと意外に軽量だ。

頭部にフルフェイスのヘルメットが顕現し、顔が隠れたことで

ついでにヘルメットの隙間からミイラマスクも外す。

 

『相変わらずのぶっつけ本番っぷりだな。これが俺とお前の「騎士」の力だ』

 

「なるほど、確かに『戦車』に比べて体が軽い。だが、これだけじゃ……」

 

『セージ! 「騎士」とは「騎乗する者」! 俺を使え!』

 

フリッケンが叫ぶとともに、「紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)」フリッケンが顕現したかと思えば……

フリッケンの姿は、見る間にバイクへと変形した。

なるほど、だから装甲が覆う部分が「戦車」に比べて少なかったのか?

 

『コントロールは俺もアシストする。免許の心配はいらんぞ』

 

「……それを聞けて安心した」

 

まあ、冥界に日本の道交法が適用されるなんざこれっぽっちも思ってないが

原付以外の自動二輪を運転したことが無いのも事実。だからフリッケンのサポートは素直にありがたい。

コントロールパネル、アクセル、ブレーキ等々とてもフリッケンから変形したとは思えない

本格的なものである。寧ろフリッケンってロボットだったんじゃね? とさえ思えるほどだ。

 

『まずは奴の気を引くぞ! 砲撃だ!』

 

「っ! いきなり言われたって……これか!」

 

フリッケンが変形したバイク――マシンキャバリアーには

バイクには似つかわしくないものも搭載されていた。

その一つが座席よりも後ろに設置された二連装の砲台だ。天照様のものよりは小さく

バオクゥが持っていたものよりは大きい。そんな砲台。

その砲撃で、黒歌さんの気を引く。傷つけるのは忍びないが、今はそうも言っていられない。

 

「フギャアアアアアアッ!!」

 

着弾。幸か不幸か、大したダメージは与えられていないが気を引くことには成功した。後は……

 

『よし、奴はこっちを狙っている! このままここから離れるぞ!』

 

「なるほど! それなら別の場所で戦える! フリッケン、飛ばすぞ!」

 

「げほっ、げほっ……ま、まてセージ! 置いていくな!!」

 

イッセーの叫びは、俺の耳にはマシンキャバリアーのエンジン音や

黒歌さんの咆哮でかき消され、届かなかった。

 

変貌してしまった黒歌さんを何とかして助けたい。

そのための力だと、俺はそう信じている。だからこその「騎士」か。

あるべき姿に戻すべく、俺達は荒野を走る。




一応出す前フリはしてましたが、こんなタイミングでセージの新フォーム。
姉妹猫の再会、黒歌暴走、セージ新フォームに専用マシンの登場と
難産の割にイベント詰めすぎちゃいました。

>セージ新フォーム
チェスピースの意匠はどこかに入れたいと思っているのですが
困るのが「騎士」。何せ馬。頭に載せたら馬フェノクどころか
馬マスクと言うカッコつかない状態になりますし
胸だと胸の顔は飾りってなことになってしまいますし(悪いわけではないのだけど)
結局某超人みたいなデザインにしました。
左肩に馬の尾に見立てたマフラーを持ってきたいのもありましたが。

今回触れていませんが何気に「剣術・槍術の腕が上がる」と言う設定もあったり。
けれどこのフォームの真価は後述。

>マシンキャバリアー
キャバリアーは「騎士」って意味なの。
勉強になるでしょ?CV:故・水谷優子氏

……はさておき、元ネタは勿論仮面ライダー龍騎のドラグランザー。ディケイドなのに。
フリッケンの意思によるサポート付きなので免許が無くても安心。
但しドライビングテクニックはある程度必要。

スペック:
最高速度 600km/h
武装 後部座席部二連装砲×2
   前輪部分ミサイル発射管×4
   ヘッドライト部分機銃×2
オプション サイドカー
定員 1名~3名(サイドカー含む)

欠点:道交法上の問題で冥界でないと使えない。
   セージが「騎士」あるいは「女王」状態でないと使えない。

武装を積んでいるのはドラグランザーの火球と
ディケイド(激情態)のギガントのイメージ。
ライダーリスペクトしてる以上どこかで出したかった専用マシン。
これでディケイドOPのディエンドみたいな事態は避けられそうです。
(なお派生フォームになる必要がある模様)
サイドカーがオプションになっていたり、武装積載量が多かったりしているのは
キャリアー(運搬者)とのダブルミーニング。

>黒歌の顛末
拙作では小猫は本当のことをおぼろげながら知っていました。
けれどリアスは(結果的にとは言え)嘘はついていない。全部話してもいないけど。
何故ならはぐれ悪魔は暴走するという(拙作の独自設定ではありますが)情報もありますし。
それが潜在的なリアスに対する不信になり、洗脳効果を上回った挙句
セージや木場と言う明確に反旗を翻した(後者はほぼ未遂)ケースも重なって
黒歌を選ぶことと相成りました。原作より黒歌が汚れてないってのもありますが。
(禍の団に入っていたらさすがに黒歌選ぶのも問題行動ですし)
駒はイメージにてチョイス。

しかしこれで小猫もはぐれ悪魔になる可能性が……


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Soul72. 黒き楔を解き放て!

前回。

……うーん、ちょっとやり過ぎたかと思いつつも。
このまま通させていただきます。
(危惧したことに言及されていないことに安堵したのも私だ)


さておき。
お気に入り登録が600を超えました。
毎度のことながらありがとうございます。
クオリティが不安定な時もありますが
完結の目途はボチボチ立てているのでよろしくお願いします。

(何処をもって完結とするのか、って問題はありますが)


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

ついに、黒歌さんと塔城さん――白音さんが再会を果たすことが出来た。

しかし、白音さんにはグレモリー部長の眷属であるという事実が。

黒歌さんにははぐれ悪魔と言う事実が重くのしかかっている。

 

そんな中、俺の恐れていた事態――はぐれ悪魔の暴走――が

ついに、黒歌さんにも適用されてしまうのだった。

 

――残された時間は、あと29日――

 

――――

 

「こっちだ! 来いっ!」

 

騎士(ナイト)」に昇格して召喚したバイク・マシンキャバリアーの砲撃を浴びせながら

俺達は変貌してしまった黒歌さんをグレモリー領の郊外へとおびき出そうとしている。

俺にだって、人口密度の高い屋敷でドンパチを繰り広げるわけにはいかないという

配慮位できる。

 

そんな俺の思惑通り、黒歌さんは砲撃を浴びせた俺を付け狙うように

さっきから迫ってきている。これで相手がバイクならば

ちょっとしたマシンチェイスなのだが、生憎と相手は巨大なネコ科の動物らしき怪物だ。

相手と乗っているマシンこそ違うが、このシチュエーションは

俺達が堕天使に殺されたときによく似ている。

あの時と違い、対処法の種類はかなり豊富だし、何より戦える自信がある。

 

……今度は逆に、殺すわけにもいかないというジレンマが発生しているが。

 

 

――確かにはぐれ悪魔である以上、処理するのは悪魔社会における常識だ。

だが、相手は塔城さん――白音さんのお姉さんだ。

それを、簡単に殺してしまっていいものか。

だから俺は、ある一つの賭けに出ようと思っている。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)さえ除去できれば、もしかしたら止まるかもしれないが……!)

 

俺はサイラオーグさんに、悪魔の駒の物理的な除去方法を聞いている。

だが、それは生死にかかわる問題でもあるし、そこまでの専門知識はない。

専門知識がないのはサイラオーグさんも同様で、手っ取り早く言えば

「無免許でがん細胞の摘出手術をする」ようなものである。

 

……どこのブラックジャックだ。けれど、少しでも可能性があるならば

それに賭けたいという思いもあるが……

とにかく、今は大人しくさせない事には始まらない。

 

勢いをつけて飛び掛かって来る黒歌さんを躱しながら

隣にグレモリー領の入り口を示す看板を確認する。

猫状態の黒歌さんを抱えて、入ってきた場所だ。

あの時は、まさかこんなことになるとは思いもしなかったが。

 

『こんなもんだな。そろそろ本格的に迎え撃つぞ、セージ!』

 

「ああ!」

 

マシンキャバリア―から飛び上がると、マシンキャバリア―は

元のフリッケンの姿に戻り、太極を模した碧と翠の宝玉へと消えていく。

それと同時に、纏っているアーマーのマゼンタカラーの濃度が増していく。

なるほど、フリッケンの力はこうやって移していたのか。

 

黒歌さんの方に向き直ると同時に、黒歌さんの前足がものすごい勢いで突っ込んでくる。

「騎士」の速さならば躱すのは簡単だが、逆に言えば喰らえばダメージは大きいだろう。

体格差にスピード。単純に威力は大きいとみて間違いない。

かといって「戦車(ルーク)」に昇格し直せば今度はスピードで負ける。

ここは「騎士」のまま戦った方がいいかもしれない。

 

SOLID-FEELER!!

 

「くっ……ぐぬぬぬっ!!」

 

触手で両前足を縛り上げるが、やはりダメだ。パワー負けしている。

転倒させるのが狙いだったが、これではとてもじゃないが狙えそうにない。

……だが、これならどうだ!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

黒歌さんの力を吸収半減させ、さらにこっちのものにした上で倍加させる。

これならば、どれだけパワー負けしていてもこっちの有利に働く筈だ。

全く、呆れるほど負け知らずな能力だな、これは。

 

現に、黒歌さんの前足がへたり込みこのままなぎ倒すことで転倒を狙えるまでになった。

この機会を逃すわけにはいかない。

 

「でぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

「騎士」らしからぬ力業ではあるが、黒歌さんを転倒させることに成功した。

四本足の獣は、一度転倒させれば復帰が難しい。

馬とかは、それだけで生命の喪失に至れるほどだが、今回の相手は怪物だ。

同じに思わない方がいいだろう。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

「後は『悪魔の駒』を引っこ抜けば……ん?」

 

黒歌さんの身体をサーチしている最中、遠くから何かがやって来た。

――祐斗だ。む、このタイミングは些かまずいかもしれん。

 

「セージ君。君の事だから考えなしにやっているとは思えないが……

 部長の命令でね。そこのはぐれ悪魔の身柄を引き渡しては貰えないかい?」

 

「……悪いが断る。こっちも依頼を受けているんだ。

 そしてそれは、まだ完遂されていない」

 

暫し、祐斗との間に緊張した空気が流れる。

クッ、今はこんなことに時間を取られている場合じゃないんだがな。

この場で祐斗の相手をしながら黒歌さんの足止めをするとか無理だぞ。

分身したって無理だ。断言できる。

 

ところが、祐斗は腰の剣に伸ばしていた手を引っ込めるなり

こちらに歩み寄って来た。一体どういうことだ?

 

「……そういうと思ったよ。聞いたよ、こいつ……いや、彼女は

 塔城さんのお姉さんなんだよね? それは、あの時話していた話とも合致する。

 セージ君。まさかとは思うが、助ける方法があるっていうのかい?」

 

「確証はない。やってみない事には何とも。

 できればグレモリー部長を説得してもらいたいが……

 いや、それよりも方法を取るにあたって白音さん――塔城さんの許可が欲しい。

 下手をすれば殺してしまう事になる。そんな方法を親族に無許可では出来ない。

 ……悠長なことを言っている場合でもないが、俺だって自信がないんだ」

 

つい弱音を吐いてしまうが、本音だ。

そもそもサイラオーグさんに教わった方法だって確実じゃない。

だが、それでもその方法を取る理由。それは――

 

――はぐれ悪魔として狙われているのならば、はぐれ悪魔で無くせばいい――

 

と言う、単純な発想だ。そして、極めて原始的な方法でそれを成そうとしている。

政府に直談判なりなんなりして、黒歌さんのはぐれ悪魔認定を

取り消す方法だってあるかもしれない。

だが、今までの俺の見てきた範囲でそれは期待できそうもない。

ならば、手っ取り早く原始的な方法を取る事を選んだのだ。

それが「悪魔の駒の物理的な除去」である。

勿論、リスクたるや半端ではない。サイラオーグさん曰く「生命にかかわる」のだ。

そんな方法を、親族である白音さんに黙って取るわけにはいかない。

 

「祐斗、メッセンジャーに使って悪いが塔城さんに伝えてくれ。

 『黒歌さんが助かるかもしれない方法はある。だがそれは、命にも関わる方法だ。

  そして、今黒歌さんを助けるにはこの方法しか俺は知らない。

  だからその方法を取る』と」

 

「分かった……と言いたいとこだけど、その必要はなさそうだよ?」

 

祐斗が親指で指示した方向を見ると、白音さんが息を切らしてそこにいた。

「騎士」の祐斗に若干遅れる程度のスピードでここまで来たのか。

その根性に感服すると同時に、俺は声を張り上げて白音さんに問い質そうとするが――

 

「はぁっ、はぁっ……か、構いません……!

 ね、姉様を……助けられるなら……はぁっ、はぁっ……

 けれど……セージ先輩……一つお願いが……はぁっ……あります……!

 

 ……姉様をもし殺すにしても、『はぐれ悪魔』としてではなく……

 『猫魈(ねこしょう)』として……黒歌姉様を眠らせて……ください……!!」

 

息を切らせながら、白音さんは俺に頼み込んでくる。

最も、その願いは俺ももとよりそのつもりだった。

力に溺れた犯罪者としての彼女ではなく、妹を護るためその身をやつした

猫魈・黒歌としての彼女を救うつもりだったのだ。

そもそも、前者は初めから存在していない。存在しないものを救うのは

俺でも、きっとフリッケンでもできないだろう。

俺は黙って頷き返し、改めて黒歌さんのサーチを始める。

悪魔の駒の場所さえわかれば……

 

ところが。塔城さんが来たと言う事は。

他の誰かがやってくる可能性もあったというわけで。

 

『セージ! 滅びの魔力が飛んでくる!』

 

「――っ!?」

 

SPOIL

 

SOLID-DEFENDER!!

 

止む無くサーチを打ち切り、ディフェンダーで滅びの魔力を弾き返す。

ディフェンダーの力が増していることに驚きながらも、こんなことをするのは

数人しか俺は知らない。そう――

 

「……どういうつもりかしら、セージ」

 

「グレモリー部長! あんた、妹の目の前で姉を殺す気ですか!?

 とても正気の沙汰とは思えませんな!」

 

「正気の沙汰じゃないのはお前の方だろセージ!

 そいつははぐれ悪魔なんだろ、はぐれ悪魔が小猫ちゃんを攫いに来た!

 俺にはさっきの話、そう聞こえたぜ!」

 

……ま、まあ見様によってはそう見える……のか?

とにかく、俺はグレモリー部長の滅びの魔力を弾きながら抗議する。

こんな形で妨害が入るとは思わなかった。

 

「小猫は下がりなさい。黒歌はセージが足止めしてくれたわ。

 けれどセージ、あなたには聞きたいことが山ほどあるわ。

 ……イッセー、祐斗」

 

敵対者を見るような目で、グレモリー部長は俺を睨んでくる。

祐斗よりよほど厄介なのが、ここにいたか……

これこそ、本当に分身しても無理な話だ。

どうやって、この状況を切り抜けようか。

 

……ところが。思わぬ出来事が起きた。

何と黒歌さんとの間に、白音さんが割って入ったのだ。

まるで、黒歌さんを庇うように。

 

「……やめてください。姉様はセージ先輩が助けてくれると言いました。

 それに、姉様ははぐれ悪魔じゃありません。

 もしはぐれ悪魔になった理由が私にあるなら……

 

 ……私も、はぐれ悪魔になります」

 

「小猫!? あなた自分が何言ってるかわかっているの!?

 自分から犯罪者になるって言っているようなものなのよ!?

 ……いえそれどころか、あんな怪物に自分からなりたいというの!?」

 

「……っ!!

 姉様は、姉様は怪物なんかじゃありません!!」

 

次の瞬間、白音さんの平手打ちがグレモリー部長に炸裂した。

これには、その場にいた全員が呆気にとられていた。

仲間の事となると盲目的に口やかましいイッセーでさえ、言葉を失っている。

無論、俺と祐斗もだ。

 

「小猫、あなた……」

 

「……わからずやはどっちですか、部長。

 私は路頭に迷っていた私を助けてくれた部長の事も、信じようとしてました。

 でも今の部長は信じられません。

 部長は、自分と、イッセー先輩の事しか見てないように見えます。

 だからセージ先輩にあんな真似をされたんだと、私は思ってます。

 自分の事はともかく、あんな変態のどこがいいんですか。

 赤龍帝だからですか? それなら、イッセー先輩に対しても失礼だと思います。

 同情はしませんけど。

 

 ……セージ先輩、今の内です。姉様を……黒歌姉様を助けてください。

 もしダメなら……セージ先輩に、介錯をお願いします。部長ではなく、セージ先輩に」

 

まくし立てる白音さんに、グレモリー部長は言葉を失っていた。

後ろでイッセーが巻き添えを喰らっているが、白音さんの言う通り同情はしない、出来ない。

足止め役を買って出てくれた白音さんに応えるべく、俺は黒歌さんの悪魔の駒を探し直す。

場所さえわかれば……

 

「……部長。悪いですけど今回ばかりは僕も塔城さんに同意見です。

 それに、言ってしまえばセージ君は『はぐれ悪魔への対処』を引き受けている立場です。

 はぐれ悪魔への対処は誰がやろうか、どうやろうかに差異はないと思ってます。

 ちょっと、ずるい考えですけどね。

 何より、親族である塔城さんが直々にセージ君を指名したんです。

 僕には家族ってのがいませんけど、それだからこそ家族を思う塔城さんの気持ちは

 尊重すべきなんじゃないかって思ってます」

 

「木場! 俺達が家族みたいなもんじゃ……」

 

「……イッセー君。君はこの件に関しては部長以上に無関係じゃないかい?

 塔城さんの主である部長ならいざ知らず、指名もされていない君が

 塔城さんのプライベートに関わるのは感心しないよ?

 現に副部長は会場で部長の代理を務めている途中だしね」

 

「くそっ! やっぱてめぇみたいなイケメンは……」

 

「……前々から言いたかったんだ、イッセー君。

 君は以前僕の事を仲間だと言ったよね?

 けれどその割には扱いがぞんざいじゃないかい?

 それに君は僕の事をイケメンだイケメンだって言うけど

 僕だって好きでこの顔で生まれたわけじゃないんだからね……?」

 

今度はイッセーと祐斗で言い合いが始まっている。

どうやら祐斗もイッセーに言いたいことがあったらしく。

まあ、あまり他人の身体的特徴をとやかく言うのはよろしくないんじゃないかと思う。

それがプラスの方向でも、イッセーのそれは悪意を持っての部分が含まれているのは

言っちゃなんだが容易に察せる。

やっかみを受け続ければ、そりゃあ何か一言言いたくもなるか。

 

さて。そんなわけで黒歌さんのサーチを再開するが

そうこうしているうちに黒歌さんの力が回復してしまったらしい。

転倒した体を起こし、触手を引きちぎって再び暴れ出してしまう。

 

「オアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

頭がひび割れそうな咆哮と共に、我武者羅に辺りにあるものを薙ぎ払う。

これには流石に回避が間に合わず、ディフェンダーで辛うじて防御するが

他のメンバー共々吹っ飛ばされてしまう。

何とかして足を止めないと、悪魔の駒の除去どころの話じゃない!

しかし相手の動きは素早く、もう一度転倒を狙うにしてもうまく行くかどうか。

 

「やってくれたな! こうなったら……『禁手化(バランスブレイク)』ッ!!」

 

WERSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

イッセーの奴、禁手(バランスブレイカー)を使いやがったか!

確かにあのパワーならば、黒歌さんの動きを封じるにはもってこいだが。

実際、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に身を包んだイッセーは

黒歌さんの尻尾の片割れを掴んで振り回そうとしているが――

 

「がはっ!?」

 

猫又系の妖怪には、尻尾が二本以上あるのは常識だろうに。

そう。もう片方の尻尾に弾かれてしまったのだ。

それもあって、俺は背後に回っていなかったのだ。

 

「イッセー君! くっ、少し痛いけど我慢してくれ! 『聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』!!」

 

祐斗が黒歌さんの背に飛び移り、聖魔剣を突き立てようとするが

黒歌さんは激しく体をゆすって抵抗している。

そのためか、祐斗も力を入れられず聖魔剣が突き刺さらない。

 

「イッセー! 祐斗! こうなったら……」

 

今度はグレモリー部長がチャージを始めるが、そんなものがスピードの速い黒歌さん相手に

まともに通るはずがなく。あっという間に攻撃に晒されてしまう。

盾になり得るイッセーも祐斗も動けないとあっては、俺が動くしかないのか!?

 

……と考えた矢先に、白音さんが動いていた。

 

「こ、小猫……」

 

「……さっさとどいてください、部長。

 姉様、大人しくしててください。今から、私たちが助けますから……!」

 

白音さんの身体から白いオーラが溢れ出す。

それと同時に、身体が全体的に大人びた雰囲気へと変わり

服装も黒歌さんほど扇情的ではないにせよ艶のある雰囲気の和装へと変わり

猫耳も二股の尻尾もその存在を主張している。

その姿を見るや、黒歌さんの動きが一瞬鈍る。

白音さんも、心なしか苦しそうではある。

 

「……っ。け、けれど姉様の苦しみに比べたらこんなもの……!

 セージ先輩、今の内です、姉様を……姉様を解放してください……!!」

 

「あ、ああ! 少し手荒な方法で行く!」

 

DEMOTION

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

昇格(プロモーション)」を解き、可能な限りの分身を生み出し黒歌さんを取り押さえようと食らいつく。

白音さんの変化は気になるが、今はそっちよりも重要なことがある。

黒歌さんを、黒歌さんを止めるんだ。

白音さんとの約束。今こそ果たすためにも!

 

数に物を言わせ、強引に黒歌さんを抑え込む。

傍から見ればまるでガリバー旅行記だが、そんな生易しいものじゃない。

何せガリバーは暴れている。放っておけばガリバーは死ぬ。

その治療を行うのだが、とんでもない荒療治である。

 

(悪魔の駒……悪魔の駒の場所さえわかれば!!)

 

だが、その肝心要の患部――悪魔の駒の場所がわからない。

それを抜き取れさえすれば、この事態は収束するのではないかと踏んでいるのだが。

そんな時、白音さんのオーラがある一点に集中しているのが見えた。

その部分だけ、黒いオーラを発している。その黒いオーラを包み込むように

白いオーラが流れ込んでいるのだ。ま、まさか……

 

『……なるほどな、大体わかった。

 セージ、あのオーラが集まっているところだ! あそこを狙え!』

 

「今回は大体じゃ困るぞフリッケン! だが、如何にもって感じではあるよな……

 白音さん! あのオーラの場所を突く!」

 

「……わかりました。きっと、そこが姉様を助けるカギになるかもしれません」

 

黒歌さんを転倒させ、抑え込む最低限の分身だけを残し俺は分身を消去させる。

攻撃の精度を上げるためだ。

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

光剣を手に、白と黒のオーラが交わる場所に狙いを定める。

ところが、さっきの祐斗と同じように俺も振り落とされそうになってしまう。

何せそこは、猫の腹部分。最も触られるのを嫌がる場所だ。

そしてそこに刃を立てるというのだ。そりゃあ嫌がるだろう。

 

「……祐斗先輩、イッセー先輩。手を貸してください」

 

「分かった! 動きを止めればいいんだね?」

 

「……小猫ちゃん! 後でちゃんと説明してもらうからな!」

 

祐斗とイッセーも加勢し、黒歌さんの動きを封じる。

祐斗は「魔剣創造(ソード・バース)」で周囲に猫避けの如く剣を出し。

イッセーは鎧の籠手部分から触手を出して縛り付けている。

 

……その能力を欲望のままに使わないのは褒めてやるよ。いや本当に。

今使おうものなら先に始末してるところだったが。

 

BOOST!!

 

さて。こうして協力もあるんだ。俺もやれることはやる!

倒れ込んだ黒歌さんの腹部分に光剣を突き立てる。

そして、そのまま今度は……

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

光剣を抜き去った直後、右手を傷口にぶち込む。

これについては、過去にレイナーレやヴァーリにぶちかましたアレの要領だ。

抜き出すものが神器(セイクリッド・ギア)から悪魔の駒に変わったが、多分理屈は同じだろう。

 

「フギャアアアアアアッ!!」

 

またしても頭の割れそうな黒歌さんの咆哮が響き渡る。そりゃそうだろう。

やってるこっちも想像するだけで痛い。だが、やらねばどうにもならない。

黒歌さんへのダメージ、抑えつけている人員の力、両方を考えても時間はかけられない。

手探りで黒歌さんの体内を抉る。そんな中、肉の感触の他に固い感触があった。

 

――これかっ!!

 

「ギニャアアアアアアアアアッ!!」

 

躊躇わず、俺はその固いものを握りしめ取り出した。

血しぶきを上げ、黒歌さんの体内から俺の腕が出てくる。

赤く染まったその手の内にあったのは――悪魔の駒、「僧侶(ビショップ)」の駒だった。

 

「や、やった……」

 

『まだだセージ! そいつをそのまま破壊してしまえ!!』

 

「そ、そうだった……これでどうだ!」

 

EFFECT-RUIN MAGIC!!

 

俺は悪魔の駒を空中に放り上げ、グレモリー部長の滅びの魔力をぶつける。

制御が難しいこのカードだが、跡形もなく消し去る分には問題ない。

いつの間にか、コストも賄えるようになっているし。

滅びの魔力を受けた悪魔の駒が消滅するとともに

黒歌さんの身体も見る見るうちに元に戻っていく。

 

――悪魔の駒の影響から、逃れられたと言う事なのだろうか。

だが、その胸からは血がとめどなく溢れている。一難去ってまた一難。

今度は、この怪我の治療をせねばならない。となれば答えは一つだ。

 

RELOAD!!

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

すかさず「騎士」に昇格し直し、マシンキャバリアーのサイドカー部分に黒歌さんを乗せる。

武装を取り払った後部には元の姿に戻った白音さんが飛び乗っている。

白音さんもあの力を使った影響か、調子が優れなさそうだが……

 

「セージ先輩、アーシア先輩なら……けほっ」

 

「ああ、もとよりそのつもりだった! けれど乗るならなるべくしっかり捕まってくれ。

 それか、ここに残って……」

 

「……嫌です。連れて行ってください。私なら大丈夫ですから……」

 

俺がマシンキャバリアーを発進させようとすると、グレモリー部長から待ったがかかる。

何の用だ、急いでくれ。こっちは怪我人抱えてるんだ。

 

「ま、待ちなさいセージ! はぐれ悪魔の治療なんて――」

 

「……何のことですかな? 彼女にはもう悪魔の駒はない。

 そうなれば、はぐれ悪魔どころか転生悪魔ですらない。

 今ここにいるのは、ただの怪我人です。怪我人は救う。それは当たり前の事でしょうが。

 さて、用がないならこれにて失礼、怪我人の搬送は一刻を争うんで」

 

「……一本取られましたね部長。なるほど、セージ君はこれが狙いだったのか。

 これなら、彼女ははぐれ悪魔黒歌ではなく……塔城さんの姉、猫魈黒歌。

 僕達悪魔に、彼女を裁く法はないと思いますよ」

 

祐斗の言葉を背に、俺はマシンキャバリアーのアクセルを全開でふかし

グレモリー邸へと全速力で向かうのだった。




やっと1個フラグを回収しました。
当初悪魔の駒は戦車の力で砕く予定でしたが
思うところがあって滅びの魔力で跡形もなく消去させました。
これで対外的にはリアスが黒歌を討伐したことになるし(多分)
黒歌は悪魔の駒が無くなったことで転生悪魔ですらなくなったわけで。

今回の件は今までの戦闘データと情報がどれか一つでも無ければ
成功しなかったと思います。特にサイラオーグさんはGJ。

>セージ
「どんだけ術式レベルの高い~」と言った地の文を入れようかと思いましたが
そんなタドルクエストやってる余裕なんかあるわけがないというわけで却下。
でもやっていることは無免許かつ麻酔無しの除去手術と言うね。
やる方が痛いんじゃないかってレベルの荒業でした。
そして早速マシンキャバリアーのもう一つの形態、キャリアーモードを活用していたり。

>小猫
白音モード解禁。実際にはもっと前に一度使ってますが。
ここで気の流れで悪魔の駒の場所を探り当てるのは某尻彦さんの最期の活躍こと
バードメモリブレイクの流れを参考にしてます。
あちらはドライバーを利用したシンクロでしたが、こちらは姉妹による気の性質を利用したものと
考えていただければ。
ヒロイン度が上がってる気がしますが気のせいです、気のせい。

>木場
よくイッセーにイケメンガーイケメンガーと揶揄される彼ですが
ふと思ったんです。「これって身体的特徴を詰られている」のとどう違うんだ? って。
そりゃ見た目的にはハゲとかよりはいいかもしれませんが……
方向性が違うだけで、あまり他人の身体的特徴を詰るのは良くないと思うんですよ。
そんなわけで、リアスにはまだ忠義がありますがイッセーには不信感が芽生えているという
これもまた何かの種になりそうなものが……

>イッセー
今回はセージが乗り物使ったおかげで追いつくのに時間がかかり、影は薄め。
何気に珍しく「真面目に能力を行使している」場面もあったり。
……ええ、それくらい原作の彼は「真面目に能力を行使している」イメージが薄いんですよ、私の中では。
あと、原作ではこの時期で胸突いて禁手、でしたが
拙作ではこの前に既に自由に禁手に至れるようになってます。
……それだけですけど。

>リアス
小猫に叩かれました。イッセーにも言えることですが(寧ろイッセーにこそ言えることですが)
なんで原作には「叩いてでも諫める」ポジのキャラがいないんでしょうね。
まぁ、ハーレムにそんな奴は要らないんでしょうけど
テロ組織相手にしてたり外交やっててそれは絶対にやっちゃいけないパターンなんですがね。

>黒歌
暴走時のモチーフはバイサーとペルソナ2罰の黒猫(?)。あれを猫と言っていいものかどうかはわかりませんが。
ドット絵の都合とかあるんでしょうけどそれにしたって……
悪魔の駒が無くなったことで転生悪魔ではなくなりました。
よって、はぐれ悪魔以前に転生悪魔でないのだからはぐれ認定ってどうなるの?
そんな状態です。その答えは次回。セージは「無効だろ」との見解を示してますが。
これも原作で「転生悪魔になったらそれっきり」ばっかりだったので
セージの今後も合わせ、転生悪魔の悪魔の駒を何らかの方法で除去したらどうなるか。
の拙作での解釈となります。


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Soul73. 災難は古より

ちょっと急展開かもしれないです。
今回は主にアインストが大暴れしてます。


余談

girlsfeed.net/article-BgDFJ0UL
性犯罪者死すべし、慈悲はない


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

暴走を始めてしまった黒歌さんを救うべく

俺はサイラオーグさんから得た情報を基に

白音さんと共に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の除去を敢行。

これを成功させた。

 

後は、傷の手当さえすれば一先ずは安心なんだが……

 

――残された時間は、あと29日――

 

――――

 

全速力でマシンキャバリアーを走らせている最中

何度か禍の団(カオス・ブリゲート)やアインストの攻撃を受けたが

何とかグレモリー邸までたどり着くことが出来た。

それにしても、こんな時にまで襲撃とは

政府は一体何をしているのだろうか。

襲われたのが俺だったからいいようなものの、これが市民とかだったら

瞬く間に問題になっていると思うのだが。

 

さて。グレモリー邸に着いたら今度はアーシアさんを探さないと。

今度は冗談抜きで急ぐ必要がある。

言い逃れのプランは立てているものの、まさか黒歌さんを連れて

中に入るのは憚られたため、黒歌さんを白音さんに任せて

俺は単身アーシアさんを探しに中に入っていくことにした。

 

宴も酣と言うべきか、参加者の中には既に帰路についた者や

色々出来上がってしまっている者もいる。

そんな奴らには目もくれず、俺はただアーシアさんを探す。

何せ命にかかわるようなケガをした重病人がいるのだ。

まるでアーシアさんを薬箱か何かだと思っているんじゃないか。

そう誰かに詰られそうだが、そう思ってくれても構わない位

今の俺は動転しているかもしれない。

 

――さて。

俺も一応治療(HEALING)のカードは持っているのだが

これは俺以外――イッセーに憑依すればイッセーも対象に出来るが――には使えない。

使えるのなら、あの場で使っているしそもそもこんなに焦っていない。

それもあってか、貴族のパーティー会場だというのについ声を張り上げてしまう。

 

「アーシアさん! アーシアさんはどちらにいらっしゃいますか!?」

 

「あらあら、そんなに声を張り上げて。ただ事ではなさそうだけど……

 

 ……あなたのただ事ではないって、あまりいい予感はしませんわね。

 その姿は初めて見ますけれど、声で分かりますわよ、セージ君」

 

……声を張り上げれば注目を集めるのは自明の理ではあるが

何でよりにもよってあんたが来るんですか、姫島先輩。

まあ、立場上仕方がないと言えば仕方がないのでしょうが。

俺はうまく黒歌さんの事を伏せつつ、アーシアさんを探している理由を告げる。

バカ正直に黒歌さんの事を喋る必要性を感じないどころか

喋ったら騒ぎになるのも目に見えていたからだ。

 

「重傷を負った怪我人がいるんですよ。だからアーシアさんの手を借りたいんです。

 姫島先輩、アーシアさんは何処にいますか?」

 

「アーシアちゃんなら、さっきディオドラ様の眷属の方が来て

 話があるからって、あちらの中庭の方に……

 

 ……せ、セージ君?」

 

「あっちですね? どうも!」

 

話を切り上げ、俺は半ば姫島先輩を置き去りにするような形で

アーシアさんがいるという方角に向かっていった。

 

……ところが、中庭にいたのは思いもよらない奴だった。

俺が中庭にたどり着いたと同時に、アーシアさんの悲鳴が響き渡る。

 

「きゃああああああっ!?」

 

アーシアさんを捕まえようとしている、正体不明の怪物だった。

所々の赤い石等から、アインストらしき存在のようにも見えるが……

緑色の触手がアーシアさんを絡め捕ろうとしてきたため

俺は思わず割り込んでしまった。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

ディフェンダーの打突部分で触手を切り裂き、丁度アインストらしき怪物と

アーシアさんの間に割って入ることが出来た。

 

「あ、ありがとうございます……えっと」

 

「俺だ、セージだ。恰好については気にするな。

 それよりもここは引き受ける。入り口に塔城さんがいるから

 彼女と合流してほしい、怪我人もいるんだ。助けてほしい」

 

「わ、わかりました!」

 

身をひるがえし、屋敷の入り口の方へと駆け出していくアーシアさんを捕えようと

再びアインストらしき怪物が触手を伸ばすが、それは俺が弾き返す。

アーシアさんを捕まえようとしているのは明白だが、目的が見えない。何のために?

とにかく相手を調べなければ。いつものように、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を相手に向けて

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)の力を借りつつカードを引く。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

名前は……文字化けして読めない? これも久々に見るな。

ディオドラ・アスタロトの眷属の一人が、ミルトカイル石を植え付けられたことで

アインストと化した姿。能力はアインストに準じ、その行動理念は

ディオドラの命令とアインストの生態の両方が基となっている。

 

……うん? 何でディオドラ・アスタロトとアインストが繋がってるんだ?

とにかく、こいつは倒すより他仕方がない。

過剰防衛にはなってしまうかもしれないが、倒さないと被害が広がる。

触手を主に使う事から、アインストグリートに酷似していると見て間違いなさそうだ。

アレよりも人型のシルエットをしているようだが。

 

となると、触手(FEELER)のカードは使わない方がよさそうだ。使うつもりも無いが。

宴も酣とさっき表現したが、まさか宴会の締めがアインストとは!

ディフェンダーを構え、ディオドラ・アスタロトの眷属と言うアインストに突撃を敢行する。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 

触手を束ね、ビーム――ハイストレーネを発射してくるが

それをディフェンダーで弾きながら、一気に距離を詰める。

素顔を隠すためとはいえ、「騎士(ナイト)」のままここに来たのは正解だったかもしれない。

 

睨んだ通り、一気に間合いを詰めたことで相手は攻撃手段を失っている。

触手――エレガントアルムも間合いの近い相手には逆に使いづらい。これは鞭全般に言えるが。

 

これが骨型――アインストクノッヘンだったら爪で攻撃された恐れもあるが

どうやらそれは出来なさそうだ。ビーム攻撃が止んだのを見計らい

ディフェンダーを横なぎに振りかざし、触手を切り裂く。

 

「――――!!」

 

すぐに新しい触手が生えてきて傷をふさいでしまうが、一瞬中身らしきものが見えた。

その中身は間違いなく――人間のものだった。

人間の女性の腹部らしき部分に、アインストのコアともいえる赤い球体が生えているのが見えた。

そしてその上あたりには、砕けた十字架のようなものも見えた。

はて? 眷属と言う事は転生悪魔のはずなのに、なぜそんなものを?

だが、攻撃を受けたことで凶暴さを増したのか懐部分からも触手が伸びてきて

俺は殴られる形になってしまった。

鞭として使う分には間合いを詰めるのは正解だが、殴打する武器として触手を使われては

間合いを詰めるのは逆効果だが、こればかりは防ぎようがない。

 

……そして、これ以上相手の事を調べている暇とかは無さそうだ。

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

眷属悪魔ならともかく、アインストに光の力は特効と言うわけでも無い。

だが、取り回しの便利さから俺はディフェンダーに加え、光剣を出すことにした。

ディフェンダーで攻撃を凌ぎつつ、光剣でコアめがけて攻撃を敢行する。

盾を構えつつ、片手剣で攻撃を敢行する。昔のゲームではありがちな騎士のスタイルだ。

実際、剣の扱いが普段に比べて軽く、扱いやすい気はする。

 

だが、このアインストは再生能力に秀でているのか切っても切ってもまた触手が生えてくる。

これは得物を間違えたかもしれないと思い、触手を切り捨てながら

俺は新しく剣を取り出すことにした。

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

木場が魔剣創造(ソード・バース)で製造した光喰剣(ホーリー・イレイザー)のコピー。

――のはずが何故か斬ったものを腐食させる効果を持つようになった

俺流の剣。これならば再生能力にも対応できるはずだ。

目論み通り、この剣で斬られた触手は今までに比べて生えてくる速度が遅い。

ゼロにはできないが、これなら相手を倒せるかもしれない。

再びコアとなる赤い球を露出させるまで触手を斬り捨てた時点で

突如、フリッケンから警告を受ける形となった。

くっ、あとはこのコアさえ破壊すればアインストは倒せるはずなんだが!

 

『セージ! 囲まれているぞ!』

 

「――っ! あと一歩ってところを……!?」

 

フリッケンに言われるまま周囲を見渡すと、確かにアインストの集団がいた。

クノッヘンにグリートは見たことがあるが……鎧の奴は見たことが無い。

新手のタイプだろう。どう仕掛けてくるかわからないが

迂闊に仕掛けるよりは……ん?

 

――望まれぬ……世界……修正……

 

何処からか声が聞こえる。

声の聞こえた方向がまるで分らない。

寧ろ、頭の中に直接話しかけてきているような感じでさえある。

 

――かの地へ……帰還……

  我……悲願……

 

状況から考えて、この声の主はアインストであると考えられるが……

アインストレヴィアタンのように、声こそ発すれども意思疎通は不可能と言うパターンか。

勝手な事ばかり一方的にまくし立てる……誰も彼もそんなんばかりだな。

ある意味では俺も、だが。

 

――我……

 

突如、薄暗い空が真っ黒になったかと思ったらそこには

恐ろしく長い蛇のようなものが現れる。

アインストレヴィアタンの比ではない。遠くてよくわからないが

人型の上半身を備えており、その両肩には鬼の面のようなものが見えるのがわかる程度だ。

思わず、俺は上空のそれに記録再生大図鑑を向ける。

 

COMMON-SCANNING!!

 

ウンエントリヒ・レジセイア――かつてオーフィスと呼ばれた存在が

異世界のアインストレジセイアの意思を受け、変異した存在。

禍の団に与するアインストの首魁にして女王蜂。

かつてドラゴンの部分であった「ウンエントリヒ・レジセイア」と

意思疎通を担う「ウンエントリヒ・リヒカイト」から構成される。

その力の片鱗は――

 

――測定不能。

 

お、おいおい……まさか敵の大首領自らお出ましとか……

こんな非常事態に魔王陛下は何をなさっておられるのやら。

俺も状況が状況だけに、下手に動けない……と言うより、情けない話だが竦み上がっている。

 

『驚いたな……俺も色々な世界を渡ってきたつもりだったが、まさかあんなのがいるとはな』

 

「それより、なんでここに禍の団の大首領がいるんだよ!?

 力量の読めない奴と戦うのはリスクが大きすぎる、アーシアさんも逃げた事だし

 俺達も隙を見て撤退するぞ!」

 

『同感だ。それよりどうやってこの包囲網を……ん?』

 

俺とフリッケンの意見が一致した瞬間、包囲網の一角が突如爆発を起こす。

それを気に留める様子もなくじりじりとこちらに迫って来るアインストには

ある種の恐怖さえ感じるが、その爆発で包囲網が緩くなったのも事実。

突破するならあそこか!

 

DEMOTION

 

PROMOTION-ROOK!!

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

強行突破。それならば「戦車(ルーク)」に再昇格し、加速(HIGHSPEED)のカードで突撃をかけるのが効果的と判断。

ディフェンダーを構えたまま、おもむろに弱くなった包囲網の一角に突進する。

いつぞやは歯も立たなかったアインストだが、ここまで装備が充実していれば

負ける要素はない。油断さえしなければ。

その証拠に、あっという間に包囲網を切り抜けることに成功したのだ。

 

『抜けたぞ!』

 

「ああ、あとは……うん?」

 

包囲網の外に、爆発を起こさせた張本人がいることに気づく。

それは俺も見知った顔の――ウォルベン・バフォメット。

イェッツト・トイフェルの一員だ。

 

「フフフ、こうしてお会いするのはいつぶりでしたかねぇ。

 ああ、別に今回の事を恩着せがましく言うつもりはありませんよ。

 それ以上のものを、既にいただいていますからね。

 なので今回はそのお礼を言いに来たのですよ」

 

鎌でアインストの一角を蹴散らしながら、飄々とした態度で俺達に話しかけてくるのは

相変わらずのようだ。確かに相手の言う通り、過去に会ったのは

まだフリッケンが俺に力を貸す前だった気がするが。

 

「そして、『魔王直属部隊』の仕事を果たすためでもあります。

 聞こえますか、禍の団の首領。この地は既に我ら『イェッツト・トイフェル』によって

 包囲されています。この場での全面対決をするつもりではないのなら

 速やかに撤退することをお勧めしますよ」

 

――今……時期尚早……

  されど……我……必ずや……かの地へ……

  そして……この地……静寂に……満たす……

 

ウォルベンの脅しが本当に効いたのかどうかはわからないが

アインストの軍団は撤退。ディオドラの眷属だったアインストも、既にこの場にはいない。

何とか乗り切れたと見て間違いなさそうだ。

 

「さてと……ふむ。それが『紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)』ですか。

 こうして見るのは初めてですが……なるほど、これは確かに二天龍の神話を覆すだけの

 力を秘めていると見て間違いなさそうですね。素晴らしいですよ」

 

「……そいつはどうも」

 

ウォルベンにしてみれば単純な賞賛なんだろうが、何故だか俺にはそう聞こえない。

それはフリッケンも思ったのか、小声で俺に問いかけてくる。

 

『セージ。こいつは誰だ? いや、ある程度は大体わかってるが』

 

「ウォルベン・バフォメット。お前が俺に力を貸してくれる前にも

 一度遭遇している。その時に目をつけられたらしくてな……」

 

『……やれやれ。本当にお前は変な奴に目をつけられやすいな。

 ま、俺も人の事は言えない気がするが』

 

サングラスを直しながら、ウォルベンは無線で連絡を取っている。

恐らくは展開していたという本隊の司令部だろうか。

しかし、パーティー会場で軍事行動とか、どれだけグレモリー家は軽く見られているのだろう。

知ったこっちゃないが。

 

「はい……こちらは既に作戦行動を完了し……

 ふむ…………ですか。そしてその…………私に…………ですね。

 了解しました。では。

 

 ――さてと。積もる話もありますが、私も本体と合流しなければならないのですよ。

 たった今大変な情報が入ってしまいましてね……

 おっと、今のは内密に願いますよ」

 

「……内密も何も、聞こえなかったんだが」

 

「おやおや。それならそれでいいのですが、お礼ついでに言っておきましょう。

 『妹がこうならば、兄もさもありなん』……と言ったところでしょうか。

 では、またいずれ」

 

言いたい事だけ言ってウォルベンは飛び去ってしまった。

あの様子だと本当にグレモリー家を毛嫌いしている様子だが……

しかし、口ぶりからしてサーゼクス陛下周りで何かが起きたのか?

……ダメだ、皆目見当もつかん。ま、どうでもいいか。

 

それに、今俺にはやるべきことがあるじゃないか。

 

――――

 

ウォルベンの言葉の意味を考えていても仕方がなかったので、会場に戻ると

先ほどのウォルベンの話していたことが事実であったかのように

会場は騒然としていた。

騒動の間に戻ってきていたグレモリー部長から、俺は騒動の顛末を聞かされることになった。

 

「セージ、どこに行っていたの!? 怪我はない?

 それより、大変なことになったわ。お兄様の……いえ、サーゼクス様の眷属の一人

 ベオウルフが、禍の団……いえ正しくはアインストと繋がっていたって情報が入ったの。

 今、魔王様方はその対応に追われているわ。そのためにレーティングゲームも延期。

 各自自治領にて待機せよ、との事よ」

 

「……最初に聞いた時には驚きましたわ。そういえばセージ君。

 アーシアちゃんが助けたっていう怪我人は今どこに?

 小猫ちゃんも見当たりませんし……」

 

……ぬかった。黒歌さんのはぐれ悪魔追及対策にばかり気を取られていて

こっちの抜け穴を作るのを忘れていた。

怪我人――黒歌さんは、今は間違いなく白音さんと一緒にいるだろう。

そして、せっかくの姉妹の再会に水を差すような真似はしたくない。

しかしその件については、アーシアさんから助け舟が出されることとなった。

 

「怪我人の治療なら、無事に終わりましたよ。小猫ちゃんについては

 怪我人の付き添いをお願いしてます、いくら私の神器(セイクリッド・ギア)でも

 経過観察とかは必要ですし……

 一応、魔法陣を渡してますから何かあったらすぐ行けるようにはしてますけど」

 

「そう、そう言う事なら仕方ないわね。それよりアーシア。

 ベオウルフの件もなんだけど、黒歌ってはぐれ悪魔が

 まだこの領地に潜伏している可能性があるわ。

 もし外出するときには気をつけなさい、いいわね。他のみんなもよ」

 

やはりグレモリー部長の中ではまだ黒歌さんははぐれ悪魔扱いらしい。

物理的に違うんだがなぁ……と思っていると、アーシアさんが見えないように

「嘘ついちゃいました、てへっ」とばかりに舌をぺろりと出している。

……しかし珍しいな、アーシアさんが嘘をつくなんて。最も、そのお陰で助かったが。

 

ふと、向こうから駆けつけてくる人影が見える。あのシトリー会長にも

ある種似た雰囲気を持っているのは確か……シーグヴァイラ・アガレスさんだ。

アガレスっていうと確かはぐれ悪魔討伐指令を出している大公家の家系……

それが駆けつけてくるって事は、まさか……俺の工作がバレたか?

 

「今の話ちょっと待ってください。これは政府にも実家にも確認を取った事なんですが

 黒歌は既に討伐されたことになっています。

 滅びの魔力を受けたことまでは間違いないのですが、遺体が確認出来てません。

 リアス、貴女は何か知りませんか? 滅びの魔力となれば貴女かもしくは……」

 

「ど、どういうことなのシーグヴァイラ!? 私は何も知らないわ!

 ま、まさか……セージ!

 私は滅びの魔力を黒歌に当ててないわ、お兄様もお母様もあの場には居合わせていない。

 説明してちょうだい! これは命令よ!」

 

おっと。流石にグレモリー部長も気づいたのかもしれない。

俺は素知らぬ顔をする。さて、どこまでしらを切り通せるか。

とりあえず、俺の工作は未だばれてなさそうだが。

 

「はい、何でしょう?」

 

「とぼけないで! 私に祐斗、イッセーが黒歌から何かを抜き取るあなたを見ているのよ!

 そしてそれを滅びの魔力で消滅させるのも! あなた一体何をしたというの!?

 そして、何を知っているというの!? そもそも遺体確認不能って言ったって

 黒歌を連れ去るあなたを、私は見ているのよ!?」

 

「俺はただ、狂暴化している原因を取り除いただけですよ。

 あのまま暴れられでもしたら、グレモリー領が大変なことになってしまいますからね。

 滅びの魔力を使ったのは、跡形もなく消すには一番うってつけだと思っただけです。

 跡形もなく消せば、消息どころか遺体も残らないじゃないですか。

 その上で討伐されたと言うのならば、そうなんでしょうよ」

 

「あなたねぇ、連れ去るのを私はこの目でみてるのよ?」

 

「……だとしても、連れ去ったところでその先でどうなるかまでは俺だってなんとも。

 事情を知らない誰かが治療を施したかもしれないし、野垂れ死んだかもしれないし

 そもそも、もう冥界とは関わり合いになりたくないとばかりに逃げだしたかもしれない。

 可能であれば、彼女の身体調査でもすればいいでしょう。

 もう彼女は悪魔でもなんでもない。そんなことをすれば外交問題だと思いますが。

 いいじゃないですか、討伐されたならされたで。

 俺にだって分からないことくらいありますよ」

 

そうきたかー……。

俺は「滅びの魔力を使うグレモリー部長が、黒歌さんを『形式上』退治した」

つもりでシナリオを練っていたんだが。

実際には「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だけ破壊し、黒歌さんを呪縛から解き放ち

死亡扱いとすることで自由の身にした」つもりで悪魔の駒を滅びの魔力で破壊したんだが……

あと、跡形もなく消しておかないと、また元に戻られても困るってのもあったが。

 

「狂暴化の原因……まさかそれが悪魔の駒だと言いたいのね?

 そして、それをどういうわけか抜き取って破壊した今

 黒歌は転生悪魔ではなくなり、それは即ち

 はぐれ悪魔とも呼べない……そう言う事ね?」

 

「……っ!! 悪魔の駒を抜き取って破壊だなんて! そんなことが出来るなんて……

 じゃ、じゃあ黒歌はまだ……!!」

 

「この件はご内密に、シーグヴァイラ様。この事が世間に出回れば混乱は必至。

 滅びの魔力ではぐれ悪魔・黒歌は撃退された。それでいいじゃないですか。

 ……これなら、グレモリー部長か魔王陛下が自ら撃退を行ったと示しも付きましょう?

 そして再犯の危険性を恐れておられるのならば

 まずは黒歌がはぐれ認定されるに至った事件について

 もう一度洗い直した方がいいと思いますよ。当事者の証言と、公表されていることに

 食い違いがあり過ぎる。まるで何か不都合を隠しているように……ね」

 

……俺としては、別にバレようがリー辺りが言いふらそうがどっちでもいい。

寧ろばらして言いふらしてほしいとさえ思っているが、一応内密にすべきだろう、立場上。

滅びの魔力を使ったのだって、執行人をグレモリー部長か

その家族に仕立て上げるつもりだったのだ。

それでも難色を示すグレモリー部長に、俺はシーグヴァイラさんに聞こえないよう耳打ちする。

 

「セージ、私はこんなやり方で武勲を上げるのは……

 それに、大公家の決定に異議を唱えるような……」

 

「グレモリー部長。今回は利害の一致と言うのもあります。

 俺は黒歌さんを殺すわけにはいかなかった。けれど、彼女は立場上討たれなければならない。

 こうすれば、彼女は悪魔社会では死んだことになります。

 実際には、生きていますけれどもね」

 

「生かす理由……小猫ね」

 

「ええ。俺は白音さんと約束しましたので。最も、最初に聞いた時はまさかこうなるとは

 思ってもみませんでしたがね」

 

ため息をつきながら、シーグヴァイラさんにグレモリー部長が向き直る。

 

「ありがとう、シーグヴァイラ。後はこっちの眷属の問題だから大丈夫よ。

 ただ、さっきうちの眷属が話したように……」

 

「分かってます。今回の事は、聞かなかったことにしておきますので……っと失礼。

 はい、私です……ええっ!? そんな……あ、アルトが……

 ……わ、わかりました……すぐ、そちらに向かいますので……

 

 ……す、すみません。私も急用が出来たもので……

 重ねて言いますが、黒歌はもう討伐されたと言う事ですので……」

 

連絡が来たかと思えば、ひどく落胆した様子で館を後にしていった。

何やら、色々と慌ただしいな。

そしてその慌ただしさは、当然のように俺達にも降ってかかるのだった。

 

――――

 

翌日。

 

適当な理由をつけてバオクゥのヤサ――黒歌さんもここに運び込んでいたのだ――

に引き返し、そこで一夜を過ごすことにしていたのだ。

あの強引な手術で疲れたのか、俺は白音さん曰く泥のように寝ていたらしい。

そのお陰か、今は好調なんだが。

 

さて、バオクゥに寄越されたスポーツ新聞を読んでいると

紙面を賑わせているのはサーゼクス陛下の眷属・ベオウルフの離反の一件に加えて

それに伴う公私混同甚だしい現魔王への不信任案、退陣要求の提出に――

 

――悪魔の駒の除去が可能ではないか、と言う一文だった。

 

……どこで情報が漏れたんだ?

内密にしていたはずの情報が、どういうわけだか漏れている。

この事は、リーにも話していないはずだ。バオクゥには話したが

そこから漏れたのだろうか?

 

とは言え、これでバオクゥを疑うには証拠がない。

記事を読み直すと、ゴシップ新聞らしい突拍子もない内容だったため

俺がすぐどうこうなると言う事は無さそうだが……

 

俺の懸念していた事態は、もう既に起きているのかもしれない。




首領の顔見せ、ディオドラの暗躍など6巻部分のイベントが前倒しになりました。
そしてかねてから懸念されていたゲームについてはなんと延期。
折角ドライグが早期に復活したというのに……

でもテロの危険があるところに他所様の要人を招待するとか
不用心にもほどがあるんですよね、原作。
ホイホイ乗る方も乗る方だけどな。てめーだよおでん。

>ディオドラの眷属だったアインスト
紛らわしい説明ですが、別に黒歌みたくはぐれ扱いされているわけではありません。
砕けた十字架は……「彼女」が人間だったころの名残です。
今回はグリートタイプでしたが、他のアインストを模した眷属もいるかもしれません。

セージはまだ訝しんでますが、原作既読の方には
拙作のディオドラとアインストの接点は
お判りでしょうからあえて取り上げません。

>ウンエントリヒ・レジセイア
名前こそ変わっていますがオーフィスです。
ウンエントリヒ・レジセイアを無限龍としてのオーフィス。
ウンエントリヒ・リヒカイトを巷で大人気のオーフィスとして意識しています。
某ヴァールシャインさんも似た様な経緯で生まれた存在ですし。

ウンエントリヒ:ドイツ語で「無限」

つまり無限の監察官とか無限の意思とか。
某開拓地がアップを始めそうな名前ですがはてさて。

行動理念は実は原作オーフィスとさほど変わってません(一点大きく変わってますが)。
グレートレッド絡みだけちょっと改変がかかってますが
これはアインストの影響によるものです。

>ベオウルフ離反
まさかのこっちで。
ベオウルフ……アインスト……この二つの単語で嫌な予感がしたあなたはきっと正しい。
そして旧来の貴族たちの現魔王派に対する株価大暴落。
もう底値割れ起こしてるんじゃないんですかね。
余談ですが、これが原因でリーのスクープが余計際立ってしまう事に。

>黒歌
前回の答え:討伐されたことになった、でした。
現在白音が看病中。マスコミが黒歌死亡と謳えば世論はそう動きますし
セージが指摘した通り「滅びの魔力ならば証拠や遺体が残らない」。
バイサー? あれはリアスがきちんと報告したんでしょうけど、今回は有耶無耶にしてますし。
悪魔の駒から足が付くことを恐れたため、今回セージは滅びの魔力で跡形もなく消しました。
(破壊方法まではしっかり調査が済んでいなかったので確実に破壊できる方法が
これしかなかったって事情もありますが)


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Einst

引き続き、アインスト無双のターンです。
首領もアインスト化しているため、禍の団と言うよりは
アインスト軍団と言った方がもう正しいかもしれません。

魔法使い軍団もアインストの影響を受けつつあるため
原作通りと言えるのは英雄派位でしょうか。

……でもその英雄派にも、混沌が這い寄りつつあるんですよね。


どうでもいいけどクロスゲートの存在を知ったら
リゼヴィムじーちゃんは歓喜に震えそうですよね(制御できるかどうかは別問題
と言うかもうアインストで別世界の存在を把握しているのは間違いないでしょう。


冥界で行われていた若手悪魔の会合と、それに伴うパーティーは

とんでもない終わり方をした。

会合の最中も魔王による身内びいきや眷属による些細な騒動が起こり

終わり際にははぐれ悪魔・黒歌の発見と討伐の報告がなされたと思えば

サーゼクス眷属のベオウルフが離反、他の眷属に多大な被害を被らせたというのだ。

それもあって、グレモリー家は後片付け以上に慌ただしい事になっている。

 

「……そうですか。私も総司から話を聞いただけですが

 まさかベオウルフが反旗を翻すとは思ってもみませんでした」

 

「それでグレイフィア、総司はなんと?」

 

ミリキャスを連れ、出稼ぎに出ていたグレイフィアの耳にもその報せは入り

リアスらと情報の交換が行われていた。

ミリキャスは既に自室に戻っており、引きこもり気質のギャスパーが話し相手になっている。

昨今の情勢からか、ミリキャスも若干だが引きこもりの傾向がみられているのだ。

それで波長が合ったためなのかどうかはわからないが

ギャスパーはそんな彼の相手に良くも悪くもうってつけだと言える。

 

「アインスト出現の報せを受け、討伐のために数名の眷属が向かったそうです。

 その中にはベオウルフも当然含まれていましたが、迎撃した場所……

 確か、アガレス家の工廠だったと思います。そこにあった式典用のロボット――

 アルトアイゼン、でしたか。それとアインストが接触した際に

 突然、ベオウルフが変調をきたした――総司はそう話しています」

 

「グレイフィアさん、お師匠様は無事なのですか?」

 

総司――沖田総司の弟子でもある木場が、グレイフィアに総司の安否を問う。

本来ならば、彼は師匠の下修行のやり直しをするはずだったのだが

禍の団やアインストとの戦いが激化しつつある中、それは叶わぬこととなっていた。

そんな矢先、アインストとの交戦中にこの事件が起きたのだ。

 

「とりあえず、一命はとりとめました。ですがこの事件を受けて

 ベオウルフはSSS級はぐれ悪魔認定をせざるを得なくなり

 総司含めサーゼクス様の眷属も、私以外は大半が傷を負った状態です。

 なにせ、ベオウルフの離反と同時に――

 

 ――オーフィスが、現れたのですから」

 

「な、なんですって!?」

 

オーフィス。今はウンエントリヒ・レジセイアと呼ばれる禍の団(カオス・ブリゲート)の首領。

アインストと呼ばれる生命体を率いて、この世界を静寂に満たそうとする

三大勢力の、いや全生命の敵ともいえる存在。

その力はかつて「無限龍(ウロボロス・ドラゴン)」と呼ばれていた頃と遜色なく、如何に魔王眷属と言えども

無事では済まない相手なのだ。まして、離反者が出たことで混乱をきたしていた彼らに

まともな戦いが出来ていたかどうかというのは、極めて疑わしい。

 

「総司についても、他の皆についてもよく無事だったとしか言いようがない状態です。

 その後オーフィスはパーティー会場近辺に現れたそうですが……

 その時は素直に引き下がってますね。きっと、ベオウルフを迎えに来たのか

 ただの顔見せだったのか。

 いずれにせよ、今私達が相手取っているアインストと言う存在、ただものではありません」

 

そう。彼らはアインストについての情報が乏しい。

情報を集めることに長けているセージだって、アインストの全てを知っているわけではない。

今分かっているのは、彼らが静寂な世界を作るために今の世界に敵対行動をとっていること。

それが禍の団と利害の一致が生じているのか、あるいは禍の団がアインストを利用しているのか

その逆なのかは定かではないが、協調の姿勢を取っていることだ。

 

「それにしても、ベオウルフが何故……

 セージと違って、そんな素振りは見せていなかったと聞いているのだけど」

 

「それなのですが、音声記録がこちらに」

 

グレイフィアが懐から取り出したレコーダーを再生にかける。

微かなノイズが入っているが、明らかに戦闘中らしき音声と

若干の混乱が聞き取れる内容だった。

 

――そうだ……憎み合う……世界を……広げる者達……

  俺は創らなければならない……世界を……静寂でなければならない……

  それが……俺の……成すべきこと……

  その……ためには……

 

――ど、どうしたというのだ!? ベオウルフ!

 

――……様子がおかしい、ベオウルフ、気を確かに!

 

――お前達は……望まれぬ世界を……創る……だから……滅ぼす……のみだ。

  お前達悪魔も……純粋な生命体にはなり得ん……

  俺が……そう!! 俺、こそがぁっ!!

 

――な、なにを言っているんだ、ベオウルフ!

 

――創造する……望まぬ世界を、破壊……ククク……フフ、フフフフ……

  創造は破壊、破壊と創造……創造と破壊、破壊の創造……

 

――こ、これは一体……!? あ、あれは……!! まずい、みんなここは……!!

 

 

 

――……嚙み砕け……!!

 

 

 

ベオウルフの声で再生されたその言葉が、レコーダーに残された最後の音声だった。

 

「これは……カテレアの時と同じ……いえ、それ以上に……!

 じゃ、じゃあベオウルフは禍の団に……!?」

 

「いえ、それが無いのは眷属すべて、そして何よりサーゼクス様自身が証明しています。

 考えられるのは、現場でアインストと共鳴してしまう何かがあった、としか……

 それと、式典用のアルトアイゼンですが、変異してアインストとなってますね」

 

「それであの時シーグヴァイラが憔悴しきっていたのね……」

 

生命のみならず、無機物をも変異させてしまうアインスト。

その悍ましき生命に、リアス達は戦慄を覚えるのだった。

 

 

……だが、見るものが見ればこう語るだろう。

無機物はともかく、生命体を自分達と同じ種に変異させてしまう。

それはまさしく悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の所業であり、アインストのミルトカイル石と

何ら変わりがないと言う事を。

自らの所業を棚に上げ、アインストを悍ましき生命とは片腹痛い、と。

 

もしそれが純粋な生命であるというのならば

他者を改造する必要のある純粋な生命とは、何と皮肉な話であろうか。

 

「そして、それに伴いまして私を含めたサーゼクス様の眷属全てに

 監視がつけられることとなりました。ベオウルフのようになられては困るでしょうから

 当たり前と言えば、当たり前ですね」

 

グレイフィアが指し示した方角には、悪魔の兵士が佇んでいる。

リアスらの位置からは視認できなかったが、イェッツト・トイフェルの紋章をつけている。

魔王直属部隊が、魔王眷属の監視を行うとはこれまた何とも皮肉な話である。

 

「日常生活を送る分には支障はありませんが……

 ミリキャスの情操教育には、全くよろしくありませんね。

 かといって、他に預けるところもありませんし……」

 

グレイフィアの目下の心配事は、己が腹を痛めて産み落とした子、ミリキャスの事である。

実家であるグレモリー家は財政難で治安も悪化。

現政権の敵対勢力でもあったルキフグス家にも今更帰れない。

グレイフィア自身はルキフグスの姓を名乗っているが、当のルキフグス家が一部を除いて

「グレイフィアは最早ルキフグスとは何の関係もない」と公言しているためだ。

これには現魔王が政権を勝ち取るに至った戦乱が大きく影響しており

その中でサーゼクスとグレイフィアは結婚をするに至ったのだが

当然周囲の反発は大きく、水面下では現在でも禍根が残っている有様だ。

そのため、ミリキャスを連れてルキフグスに帰るという手が取れないのだ。

 

サーゼクスも魔王としての職務に追われ面倒を見ている暇などない。

母である自身も今回の騒動で監視をつけられてしまい、行動は大きく制限されている。

施設に預けるにも、身分的な問題で逆にそういう手も取れない。

正に八方塞がりであり、幾分マシな「自身で面倒を見る」手を取らざるを得ない状態なのだ。

 

「……それもそうね。その件について、お兄様はなんと?」

 

「……労りの言葉は頂きましたが、それ以外は何も。

 魔王として、一人の悪魔を贔屓するわけにはいかないのでしょう。

 眷属としては納得できますが……正直、妻としては……

 

 ……コホン。今の言葉は忘れてください」

 

リアスの何気ない質問に対してのグレイフィアの答えもまた

憔悴しきっている素が零れ落ちていたのだった。

 

――――

 

冥界某所・バオクゥのアジト。

 

スポーツ新聞に踊る「サーゼクス眷属の離反」の文字。

そこに記されているのはグレイフィアが語っていた事と異なった、様々な推測、憶測、デマが

所狭しと踊っている。読む側も話半分なのがスポーツ新聞の醍醐味なのだが

今回は「魔王眷属の離反」と言うとんでもない事態。それに対し政府が動かない辺り

政府も混乱していると推測できる。

 

この記事を書いたのはセージも知っているジャーナリスト、リー・バーチではないが

そのリーが書いた記事も関連記事として大きく取り上げられている。曰く――

 

――現魔王は、身内贔屓を平然と公共の場で行い、悪魔社会を混乱に叩き落そうとしている――と。

 

これはサーゼクスの事ではなくセラフォルーの事だが

四大魔王がいずれも政務を執り行うにあたって問題を抱えていることはアングラ雑誌などでは

度々指摘されていた事だ。

身内贔屓、職務怠慢、利己主義。いずれも政務者としては問題のある傾向と言える。

 

アングラ雑誌でしか言われなかったことが、スポーツ紙とは言え表沙汰に出たのには

今回のベオウルフ離反が大きく影響しているのは間違いない。

それに伴い現魔王に対する不平不満がそこかしこで爆発している形となっている。

その爆発の一端が、この紙面に踊っているのだ。

中には現魔王の退陣要求の意見が出ているほか、酷いものには

禍の団に加担していると公言している旧魔王派に政権を譲るべきだという

意見まで飛び出しているのだ。

 

「……何が一体どうなってるんだ」

 

「……わ、私にもさっぱり。リーさんもあれから連絡が付きませんし……」

 

様々な理由で現魔王にあまり良い感情を持っていなかったセージでさえ

この状況には目を白黒させるより他ないと言った状態である。

バオクゥも頭の整理が追い付いていないのか、いつもの切れを発揮しているとは

言い難い状態だった。

 

「リーさんが勢いで記事書くのは今に始まった事じゃありませんけど……

 今回のこれはちょっとやり過ぎじゃないですかねぇ……」

 

「……あー、それなんだがな。身内贔屓ってのは事実っぽいんだ。少なくとも俺が見た限りじゃ。

 そのことを踏まえると、どうしてもリーの記事に説得力が生まれてしまう。

 だからここまで騒ぎが大きくなっているんだと思う。

 焚き火のつもりが山火事になった、ってところだろうか」

 

「うにゃ。それよりも、ここ。『はぐれ悪魔・黒歌討伐される』って……どういう事だにゃん?

 私はこうして生きてるにゃん。お兄さんのお陰でね」

 

一方、セージにからかい半分なのかセージにしな垂れかかりながら記事の別の位置を指さす黒歌。

そこには黒歌が討伐されたという旨の事が記されていた。

セージの隣に、その当人がくっついているにも拘らず、だ。

 

「……それについては推測だが、『悪魔の駒』で追跡とかを行っていたんだろうと思う。

 ところがその悪魔の駒は、俺が破壊した。そして悪魔の駒を摘出した前後も

 その一部始終を見ていたのはグレモリー部長らだけ。証拠が乏しいのさ。

 で、駒が破壊された=死亡と結論付けたんじゃないかな。多分、だが」

 

「いやあ、まさか本当に駒の摘出をやるとは思いませんでしたよ」

 

黒歌をあしらいながら、セージは自論を展開する。

かなり叩けば埃のでそうな推測ではあるものの、何分悪魔の駒の摘出と言う事自体前例がない。

それもあっての事だろうと、セージは睨んでいた。

その後ろでは、前代未聞の解決方法を実行に移したセージの剛胆っぷりに

バオクゥが感嘆している。

 

「……でもそのお陰で、姉様は助かりました。セージ先輩、ありがとうございます」

 

「礼には及ばないよ。これでようやく依頼は果たせたんだ……

 

 ……ああーっ!! そ、それより白音さん! 今度は君がどうするんだよ!?

 はぐれになるって啖呵切ったのはいいにしても、また同じことをやるとなると……」

 

「今度は私が仙術でフォローするにゃん。可愛い妹のためならなんだってできるにゃん」

 

「……黒歌さんが言うと説得力がありますねぇ」

 

バオクゥの言う通り、黒歌は妹・白音を護るためにはぐれ悪魔になったのだ。

悪魔社会全てを敵に回してまで妹を護ろうとしたその心意気。

何だってできるというその言葉には全く嘘偽りはないだろう。

だが、セージは気が気ではない。まさか白音までもはぐれ悪魔になってしまう事になるとは

思ってもみなかったのだ。そして、そうならないようにするにはまたあの手術をせねばならない。

 

「ヒーラーも代わりをここに用意してあるにゃん。だからいつでも手術できるにゃん」

 

そう言って黒歌の豊満な胸の谷間から扇情的にちらつかせたのは

グレモリー家では二度と手に入らないであろう霊薬・フェニックスの涙。

黒歌がどういうルートでそれを手に入れたのかは定かではないが

これならばアーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)に匹敵する治癒力を持つ。

切開の後の縫合の代用としては申し分ない。

 

余談ではあるが、黒歌がこうしてフェニックスの涙を取り出す際

セージは慌ててそっぽを向き、白音とバオクゥは

揃って複雑な顔をしていた事をここに記しておく。

当然というべきか、バオクゥの方が成熟はしている。

と言うより、白音が未成熟すぎるだけである。

重ねて記すが、全くの余談ではある。

 

「……いや、施術はちょっと待ってほしい。善は急げともいうが

 急いては事を仕損じるともいう。いや、自信のあるなしも無いわけじゃないんだが……

 

 グレモリー部長の様子が気がかりなんだ。既に俺が反旗を表立って翻している。

 この上で白音さんにも反旗を翻されたとあっては、どんな影響が出るか……」

 

「お兄さんは甘いにゃん。嫌いじゃないけど、そういう甘さは

 時として自分の首を絞めることになるわよ」

 

「……部長の事なら、覚悟はできてます。姉様と再会できた時点で、もう覚悟は出来ました」

 

当事者と、その親族はセージによる悪魔の駒除去手術――

手術と言うのも烏滸がましい原始的な方法だが――には

前向きな姿勢を取っている。ただ一人、セージ本人が二の足を踏んでいる形だ。

バオクゥは、この件には関わろうとはしない。そもそもが無関係であり

家族の問題である以上、如何に噂屋と言えど立ち入っていいものでもないと思っている。

そのためか、さっきからパソコンの前に座り、キーボードをたたいている。

 

「……参考にさせてもらう。ただ、反旗を翻すって意味では祐斗やアーシアさんも

 あるいは……って考えてるんだ。俺の個人的な見立てなんだが、どうにもあの二人も

 グレモリー部長との反りが合ってない気がしてならないんだ。アーシアさんは……

 もしかすると、違う理由もあるかもしれないけれど」

 

「ふむふむ、なんとなくわかったにゃん。そのアーシアって子はあの変態の赤龍帝にホの字

 なのかにゃん? だとしたら趣味が悪いにゃん。お兄さんの方がよっぽどいい男なのに」

 

「……俺が黒歌さんを助けたように、アーシアさんはイッセーに助けられてるんだよ。

 実際に蘇生させたのはグレモリー部長だけどな」

 

セージも現時点での白音への施術には難色を示しているが

いずれはやらねばならない事と、自分に言い聞かせているような態度を取っていた。

そんな折の雑談の最中、悪魔の駒で蘇生させられたアーシアについて

黒歌がはっきりと難色を示す。

 

「……やっぱ悪魔って最低だわ。死んだらそうやって生き返らせればいい。

 そういう魂胆が反吐が出るほど気に入らないわ。レーティングゲームだってそう。

 死なないように設定されてるって事はつまり

 相手を痛めつけるのはいいけど、自分が死ぬのは嫌。

 そういう甘ったれた考えが滲み出てるようで気に入らなかったのよ。

 だからお兄さんがあのフェニックスを再起不能にしたのにはちょっと清々したわ」

 

「……そいつはどうも。あと、ここは一応悪魔のアジトだからあまり……」

 

セージにとってはあまり思い出したくないフェニックス戦を褒められたことで

複雑な心境になりながらも、ここは純血悪魔であるバオクゥのアジトであるから

あまり悪魔を大っぴらに否定するのは如何なものか、と黒歌を諫めようとするも

当のバオクゥ自身から待ったがかけられた。

 

「あ、気にしなくていいですよセージさん。私も悪魔の駒ってあまり好きになれない代物ですし

 そもそもアレ寄越されるのって一部の悪魔だけなんですよね。

 変なところで貴族主義がまだ生きてるっていうか、なんていうか。

 あ、これとっておきなんですけど言っちゃいますね。実は悪魔の駒の『(キング)』には

 重要な秘密が隠されているみたいでして……

 

 ……っとと。ニュースサイトに更新があったみたいですよ?」

 

バオクゥが表示させたページに、四人が食い入るように閲覧に入る。

そこに記されていたのは――

 

 

 

――堕天使領が、アインストの襲撃を受けた速報だった。

 

 

 

――――

 

冥界・堕天使領。

 

式典用に悪魔――シーグヴァイラ・アガレスと共同開発したロボット、ヴァイスリッターの

ロールアウトを控えたその時、事件は起きた。

悪魔領を中心に襲撃していたアインストが、堕天使領にも襲撃してきたのだ。

 

怪獣の骨のような個体・アインストクノッヘン。

植物の蔦と青い外殻を持つ個体・アインストグリート。

そして紫色の鎧のみで構成された個体・アインストゲミュート。

 

何処からともなく現れたそれは、一斉に堕天使達を襲い始めたのだ。

 

「こいつら! 会談の時に現れたという『禍の団』の!」

 

「狙いはまさかヴァイスリッターか!?」

 

あるものは光の槍、またあるものはアザゼル謹製の人工神器で応戦するも

アインストの数の暴力の前に、一進一退の状況に陥ってしまう。

クノッヘンの角、グリートの触手とビーム、ゲミュートは鎧を巨大化させることによる

格闘や嚙みつき(!!)で堕天使を黒い羽根へと変えていく。

そうして進んでいくアインストは、赤い霧を発生させ

一部の堕天使をアインストに変異させてしまう。

 

「赤い霧を吸うな! 奴らに同化させられてしまうぞ!」

 

元からいる個体が再生能力と増殖でどんどん数を増やしていく上に

赤い霧によってアインストに変異させられた堕天使も当然アインストの支配下に置かれる。

こうなれば、不利になって行くことは明白だ。

まして、上級堕天使はこぞって席を空けており今ここにいるのは下級~中級の堕天使だ。

 

果たしてその中に、先の戦争を生き抜いた猛者はどれほどいたのだろうか。

或いは、コカビエルと双璧を成すほどに腕の立つ者はいたのだろうか。

目先の甘言に惑わされ、コカビエルを異端として排斥してきたツケが、今ここに回ってきたのだ。

 

そんな中、一体のアインストがヴァイスリッターを確保する。

その直後に現れたのは、ヴァイスリッターを模したと思しきアインスト。

だがその姿は、白銀の堕天使ともいえるヴァイスリッターとは程遠く

蝙蝠のような翼に、灰色がかった体色をした禍々しい姿。

言うなれば、アインストリッターと言うべき存在だ。

そうして生み出されたアインストリッターは、得物――シュペーアカノーネから

ビームや実弾を発射し、正気を保っている堕天使を次々と物言わぬ黒い羽根に変えてしまう。

 

「ば……バカな!」

 

「奴らは無機物を模造できるというのか!?」

 

「……こ、ここは放棄する! 退却し、シェムハザ様の指示を仰ぐぞ!」

 

堕天使に限った話ではないが、種として存続の危機を迎えている以上

他種族へと変貌させ種の存続にかかわる問題をもたらすアインストは

堕天使にとって、警戒すべき存在であると言える。

 

その打開案の一つとして、悪魔との協調路線も一部ではあった。

その壁として先の大戦での禍根が根強くあったのだが

それを水に流そうと会談が行われたり、共同で式典用ロボットを作ろうとしたり

働きかけは行われていた。

 

最も、結果は会談の方は相互不干渉と言う立場を取らざるを得なくなり

共同開発に影響を及ぼすばかりか、その共同開発のロボットさえも

謎の怪物に奪われるという有様。

 

堕天使も、アインストがどこからきているのかは一部のトップクラスしか知らない。

この事件がきっかけで、悪魔陣営に対する不信感が強まったのは、また別の話ではあるが

語られる日は、そう遠くはないだろう。




サーゼクス眷属が動けない理由が設定されました。

・アインストによる襲撃
・ベオウルフの反乱により、嫌疑がかけられている
・出稼ぎ(グレイフィア)

お陰でイェッツト・トイフェルの仕事が増えました。
なお書いてる本人はまさかアインストVSイェッツト(組織名ですが)なんて事態が起きるとは
思わなかった模様。OG外伝ではある意味……ですけど

>ベオウルフ
……はい。マジで「ベーオウルフ」化してます。
この時にウンエントリヒ・レジセイア(オーフィス)も出てきたため
彼はもう既にアインストになってます。魔王眷属と言う事もありSSS級認定されました。
そのため、彼の裏切りはアインストの手引きによるものなので
今回に限って言えばサーゼクスは被害者と言えます。今回に限れば。

>悪魔の駒とミルトカイル石
実は似てるんじゃね? とか思ってます。
与えることで支配下に置くことといい自分達と同じ種族にすることといい。
あ、だからって悪魔の駒がミルトカイル石でできている、って事は無いです。
そうなると冥界がアインストが来る前からミルトカイル石の産地になってしまいますし。

余談ですが、ミルトカイル石は無限のフロンティア側でしか出ていない用語です。
スパロボOG側では出ていませんが、まず間違いないと言う事で拙作では
アインストのコア=ミルトカイル石 という設定を採用しています。

>アインストリッター
アインストアイゼンのヴァイスリッター版。
ライン・ヴァイスリッターにしてもよかったんですけど
エクセ姉様のいないライン・ヴァイスリッターってのも……と思い。
アインストアイゼンだって中身(パイロット)空っぽだしね!
デザインはライン・ヴァイスリッターよりもバケモノじみた感じです。
余談ですがほぼ同時期に複製されたアインストアイゼンとの
合体攻撃は実装されてます。詳しくは後述。
こんな形で悪魔と堕天使が手を取り合う形になるとは思わなかったでしょうねぇ。

以下搭載武装
ドライハイス
3連ビームキャノンに相当。
ドライシュトラールだと某妖装機になっちまいますので。
ドイツ語で「3」「熱」

シュペーアカノーネ
オクスタンランチャーに相当。
これもランツェ・カノーネだと某トロンべになっちまいますので。
本家同様、ビームのBモードと実弾のEモードの切り替えに加え
こちらは高出力のXモードを搭載。この辺りはライン・ヴァイスリッターや
ヴァイスリッター・アーベントに近いかも。
ドイツ語で「槍」「大砲」

ランページ・ネクロム
単体武装ではなくアインストアイゼンとの合体攻撃。
息の合ったコンビ―ネーションで展開されたランページ・ゴースト、スペクターと違い
こちらは同型機の数に物を言わせた集団リンチ。
命名由来は仮面ライダーゴースト(本家)、スペクター(ムゲフロ)と来てからのネクロム。
味方になりようがないので劇場版ゴーストの量産型ネクロムがモチーフでしょうか。


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そういえば前回ゴースト風導入載せてない気が……まぁいいか。
今回は冥界各地の様子をお届けします。

イベント。
E1は甲余裕でした……E1は。
E2のヲ改でトラウマセンサーが発動してビビりモードつまり丙提督。
山雲……じゃない、山風は来てくれましたけど。

アメトーーク
すんませんいつも裏(DASH)でした舐めてましたごめんなさい
仮面ライダーGと言い本気出すときはパネェですねテレ朝
・やっぱりネタにされたドクターXとブレイブ
・仮面ライダー白い巨塔の絵面
・名前からしてフラグを立てていたヒトデンジャー(そしてフラグ回収する戦闘員)
・ベリアル陛下(宮迫)に助けを求める大杉先生(田中)
・さりげなくアイス食わせてる戦闘員
・キック後の爆発に巻き込まれるとかどこの科学戦隊
・次回(日曜版)が家電芸人(ヒビキさん!)
・早速Twitterでネタにされてるハブられたマコト兄ちゃん

――――

俺は宮本成二。
クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は
後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。
目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ
霊体になっていることを知ることになる。

黒歌さんの傷の手当てをすべく、アーシアさんを探していた俺の前に
突如アインストが現れた。

駆けつけたウォルベンと共に退けることには成功したが
その中には禍の団の首領・オーフィスの変わり果てた姿もあった。

その直後には、サーゼクス陛下の眷属の一人が離反したという情報も入り
俺の周囲だけでなく、冥界全体が目まぐるしく動いている……

――残された時間は、あと28日――


日増しに激化していく禍の団(カオス・ブリゲート)、とりわけアインストによる冥界への進攻。

それはまるで、自分たちの領地を拡大していくかのようであった。

同時期に地上でも駒王町を中心にテロ行為が起きていることを考えると

これらはすべて一つの意思の下に起きていると推測するのは容易であろう。

 

広大な冥界の領土をかけて争う悪魔と堕天使を嘲笑うかのように

二勢力に対し同時進攻を展開し、同族を増やしていくアインスト。

この危機を前に、頓挫していた和平交渉が再開する――かに思われたが。

 

 

――――

 

 

悪魔領土・首都リリス

 

「申し上げます! 堕天使側から式典用ロボット・ヴァイスリッター強奪の件に関して

 我が政府に対し説明要求が来ております!」

 

「……あのさ。僕は軍事担当。外交はセラフォルーに回してよ。全く……」

 

息を切らし駆け付けた伝令を冷たくあしらうのは四大魔王の一人、ファルビウム・アスモデウス。

軍事顧問の席に着いており、四人の中でも特に洞察力に優れているのだが……

 

……如何せん、やる気がない。職務はすべて眷属に投げ出しているといわれるほどで

それで回っていた頃はまだいいのだが、現在はそうもいかない。

何せ各地でテロ活動が起き、三大勢力間の関係も良好とは言い難い状況。

何が起きてもおかしくないのだ。

 

「そ、そのセラフォルー様は取り込み中とのことで、今手が空いておられる魔王様は

 ファルビウム様しかおられません! なにとぞ、なにとぞご対応のほどを!」

 

「えー……」

 

どうせ妹絡みか自分が出演している番組関係だろ、と悪態をつきながら

ファルビウムは渋々伝令のメッセージに耳を傾ける。

耳を傾けるだけで、実際に動くのは眷属なのだが。

 

――曰く、共同開発で友好の証として製造していたヴァイスリッターがアインストに奪われた。

この件は天界にも情報を伝えておらず、知っているのは同じく冥界を拠点とする悪魔政府のみだ。

故に、このような事態が起きた説明を求められたし――と。

 

これは悪魔政府にとっても寝耳に水の案件である。

なにせ、悪魔政府もアインストの襲撃でアルトアイゼンを失い、それどころか

サーゼクスの眷属が一人、ベオウルフがアインストと化し離反しているのだ。

そのため、悪魔政府の足取りは極端に悪くなっている。

四大魔王を中心とする魔王派と、旧来の貴族を中心とする貴族派に分裂してしまっている。

奇しくもこれは現四大魔王を擁する新魔王派と、禍の団に合流した旧魔王派の対立に

極めて近い図式となってしまっている。

貴族派はちょうど新魔王派と旧魔王派の中間に位置する存在と言えよう。

 

「……なんでこうめんどくさい事ばっか起きるかなぁ。

 わかった、後はこっちで何とかしておくよ……だから下がっていいよ」

 

「はっ!」

 

伝令が下がると同時に、ファルビウムの背後から屈強な身丈の強面な男性が現れる。

イェッツト・トイフェルの司令・ギレーズマ・サタナキアである。

 

「随分と暢気ですな。あの様子では堕天使陣営にも

 何らかの動きがあったとみて間違いないでしょうな」

 

「……そんなことはわかってるよ。だからめんどくさいんじゃないか。

 こっちだってアルトはともかく、サーゼクスに監視つける羽目になってるんだから」

 

監視を行っているイェッツト・トイフェルの司令ギレーズマを睨みつけるように

ファルビウムが毒づくが、当のギレーズマは全く意に介していない。

 

「我々とて心苦しいのですよファルビウム様。

 敬愛する陛下の眷属を疑うような真似をしなければならないとは。

 ですが、現に陛下の眷属から離反者が出ている以上、我々とて相応の行動をせねばならない。

 ……そこはお分かりですな?」

 

「だったら、こんな足の引っ張り合いみたいなマネはやめろって言いたいね。めんどくさいし」

 

「それでは国民に示しがつきませんよ。片やはぐれ悪魔は積極的に駆逐せよ。

 片や魔王眷属だから何かわけがあるはずだ、そんなものは通りますまい。

 ましてや、サーゼクス様ご本人がベオウルフを

 SSS級はぐれ悪魔認定なさっているのですから。

 我々ははぐれ悪魔を駆逐するだけではなく、それを生み出す土壌にも問題があるのではないか。

 そう睨んでおりますのでね。

 あの駆逐されたというSS級はぐれ悪魔の……名前は忘れましたが。

 あれも国民の間では『政府は重大なことを隠しているのではないか』と噂されておりますしね」

 

仮にも政府直属部隊の司令であるギレーズマでさえも

黒歌の件は引っ掛かっているようであった。

つまるところ、その位に現在の政府は腐敗していると言っても差し障りないのである。

そして、その現政府の顔ともいえる四大魔王を前にして、ずけずけと物を言える辺りは

余程の信頼関係か、険悪な関係かのどちらかであるが……この場合は後者だろう。

 

「……何が言いたいんだい?」

 

「別に。ですが今のままでは遠からず悪魔は滅びるでしょうな。

 勿論、そうならないために我々がいるのですが。

 その為にも、魔王様方にも示しはつけていただきたいのですよ」

 

特にセラフォルー陛下に、と付け加えてギレーズマはこの場を後にする。

ギレーズマの指摘を悲観視と取るか警告と取るか。

ファルビウムは後者として受け取ったが、確かに楽観視が過ぎる傾向は

四大魔王に対する共通認識として存在している。その最たる例が先日の和平交渉だ。

それに並行する形で行われた式典用ロボット制作も、こうして真逆の事に使われている。

楽観が過ぎた結果がこれか、とファルビウムは一人頭を抱えるのだった。

 

 

その一方で、ギレーズマは側近であるハマリア・アガリアレプトを呼び出している。

上司ともいえるファルビウムに聞かれてはマズい事なのか、細心の注意を払いながら。

 

「……で、ウォルベンの報告は事実なのだな?」

 

「はっ。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の摘出に成功したという情報が入っております。

 そして、まだ黒歌は生きていると言う情報も……討伐隊を派遣なさいますか?」

 

「捨て置け。経過観察は必要だがな。それに死んだと政府の発表したものを

 わざわざ我々が穿り返す必要もあるまい。牙を剥いてきた場合は、その限りでもないがな。

 

 ……そうか。駒の摘出に成功か……ククク、先日の件と言い現政権も長くはないな。

 ハマリア。引き続き情報の収集を行うのだ。特に悪魔の駒の摘出と破壊についてだ。

 生きたまま駒を摘出する技術……これは現悪魔社会の今後を大きく左右する技術だ。

 そして破壊についても、我々にそれが可能かどうか、重点的に調べるのだ」

 

「……畏まりました」

 

ハマリアが去り、ギレーズマは一人思案を巡らせる。

転生悪魔が死ねば死亡したという情報と共に悪魔の駒は排出される。

そこに、生きたまま駒を摘出する技術の存在が発覚すれば、転生悪魔を増やすことで

生き長らえようとしている現悪魔政権の政策は頓挫してしまう。

それは即ち、現政権の転覆を意味していた。

 

(そうだ。悪魔の血を自ら穢している現魔王は悪魔社会にとって相応しくないのだ。

 我ら悪魔は、他の種族を利用してまで生き長らえなければならないほど弱い種族ではない。

 優良種とまでは言わぬにせよ、彼らの行いが

 我ら悪魔の価値を貶めているのは間違いのない事だ。

 この技術が公表された暁にこそ、悪魔と言う種族は真なる日の出を迎えるだろう……!!)

 

ギレーズマの脳裏に浮かび上がるのは、反逆の狼煙。

政府直属部隊は、真に現代の悪魔(イェッツト・トイフェル)となるべく暗躍を続けているのだった。

 

 

――――

 

 

冥界・堕天使領。

その某所に存在する医療センター。

そこに、右腕を食いちぎられたアザゼルは入院していた。

 

食いちぎられた右腕は結局見つからず、隻腕の状態でアザゼルは過ごしていた。

そのため、実質総督の立場からは退いており

後任をシェムハザに一任している形となっている。

そのシェムハザの第一の仕事が、ギリシャ神話勢が管理するコキュートスに追いやった

サマエルとコカビエルの件に関する謝罪と言う点においては

シェムハザに同情の念を禁じ得ないが。

 

そして、その謝罪を終えたシェムハザが今日帰って来たのである。

結局、同伴したヤルダバオトの謝罪に見聞を広めるためという名目で最後まで付き合っていたのだ。

 

「……只今戻りました」

 

「おう、悪いなシェムハザ。大変な責務を押し付けちまってよ。

 そうだ、土産に頼んだウーゾはどうしたよ?」

 

「そう思うのでしたら、ハーデス様に一筆添えるくらいの事はしてもいいでしょうに。

 それに、病人が酒飲んでいいわけがないでしょうが」

 

「ウーゾの件は冗談だよ。しかし一筆って、それが腕のない俺に言う事かよ」

 

代筆者を頼めばいいでしょう、とシェムハザは不機嫌そうに語っている。

無理もない。本来ならばアザゼルがヤルダバオトと向かうはずだった案件であり

彼はその尻拭いをさせられた形なのである。

因みにウーゾとはギリシャに伝わるお酒で、神の酒とも言われている。

それを堕天使である彼らが飲むのは不思議なものでもあるが。

 

そんな悪態をついていたシェムハザだが、ふと真顔に戻る。

戻ってくる途中に見聞きした、アインスト襲撃の件についてだ。

既にシェムハザが戻ってきたころにはアインストは撤退しており

残されたのは物言わぬ黒い羽根と、荒れ果てた工廠だけであるが。

 

「……まさかとは思いますが、『彼』の仕業ではないでしょうね」

 

「俺が寝込んでる間にんな事があったのかよ……

 ヴァイスの完成は、俺も楽しみにしてたんだがな……」

 

落胆した様子でアザゼルが語るが、シェムハザの言う「彼」については

頑なに否定していた。

 

「だが『奴』の仕業ではないのは間違いないだろうよ。

 『奴』なら俺が気づかねぇはずがない。ああなっちまっても

 堕天使は堕天使のはずだしよ……」

 

「……しかし、何故和平交渉の時に言わなかったのですか。

 『我々はこれよりずっと前から「ゲート」や「アインスト」の存在を知っている』と。

 最も、名前までは最近知った事ですが」

 

「言えるわけねぇだろ。言っちまったら堕天使が疑われるし、あの場には

 『奴』の忘れ形見だっていたんだぜ……姫島の娘がな」

 

「まさか、コカビエルをコキュートスに追いやったのも……!」

 

「それは結果的にそうなったっつー結果論だ。

 確かにあいつもあの時アインストと出くわしている。

 そうだ、アレは確か……」

 

 

今よりも昔の時代。

冥界は堕天使領に、突如として謎の円状の建造物――クロスゲートが出現。

アザゼル、シェムハザ、コカビエルそしてバラキエルの4人が主要メンバーとなって

クロスゲートの調査に乗り出すこととなった。

 

堕天使と言う種族の中核を担うメンバーばかりであったが、こうなったのには理由がある。

クロスゲートからは謎の生命体――アインストが出現しており

敵対行動を取られることを懸念して戦力に秀でたメンバーを集めた結果

このメンバーとなった背景がある。

そして仮にアインストが対話に応じる種族――実際にはそんなことは全くないのだが――

であったとしても、総督(アザゼル)自らが出向くことで情報の混乱を防ぐことが出来る。

 

そして、クロスゲートの調査の最中アインストが動き出す。

そのアインストとの戦いの最中、バラキエルがアインストの影響を受けてしまい

その直後クロスゲートは消失。結果、クロスゲートの調査は中断せざるを得なくなり

堕天使陣営はバラキエルを失う事となってしまう。

その後バラキエルは今より10年ほど前、姫島神社に現れたのを最後に姿を見せなくなる。

 

 

「……ま、もうバラキエルはいねぇ。今いるのはバルディエルっつーそっくりさんだ。

 そしてそのバルディエルはアインストになった。言うなればアインストバルディエル、だ。

 バラキエルはな……もう、死んじまったよ。朱乃の母親を殺したのも、バルディエルだ」

 

「……それで彼女が納得するとは思えませんが、父親が得体のしれない怪物になったというよりは

 職務中に殉職したとした方が聞こえはいいでしょうね」

 

そう。姫島朱乃の父バラキエルは、過去のアインストとの遭遇でアインストと化したが

堕天使陣営はこの事実を秘匿。バラキエルをMIA扱いとし、バラキエルに酷似した

アインストバルディエルなる存在が現れた、と公式発表している。

これにはアザゼルの発表を疑う声も少なからずあったが、次第にその声は少数となって行く。

その背景には、アインストの存在そのものが疑問視されているのがあったのだ。

アザゼルとシェムハザは揃ってアインストの存在を秘匿。

シェムハザは消極的ではあったものの、アザゼルに押される形で秘匿に同意。

最後まで秘匿に反対だったコカビエルは政治方針の対立から神を見張る者(グリゴリ)を実質脱退。

その後バルパー・ガリレイやフリード・セルゼンと出会い

エクスカリバー強奪事件を起こすこととなった。

 

ともあれ、そんな形でアインストの存在は堕天使陣営の中でも知る人ぞ知る存在となり

下級~中級の堕天使はもとより、上級の堕天使でも一部しか知らない存在となったのだ。

それが、結果としてヴァイスリッター強奪事件のような悲劇を生んでしまったのだが。

 

「……もう戦争は御免だ。そんな矢先に得体のしれない怪物が出て見ろ。パニック起こすだろうが。

 そう思って、俺はアインストの存在を秘匿していたんだがな……

 チッ、コカビエルの方が正しかっただなんて、思いたくはねぇがよ」

 

「……そうも言っていられません。三大勢力のつぶし合いをするのならばともかく

 相手は得体のしれない怪物です。アザゼル、あなたの言う通り和平交渉を再開……

 

 と思ったのですが、一足違いでした。さっき先走った一部の堕天使が

 悪魔政府に詰め寄ったそうです。『今回の件は我々を騙し討ちする口実ではないか』と。

 完全にアインストの存在を秘匿したのが裏目に出ましたね、アザゼル。

 彼らはアインストが悪魔の仲間ではないかと疑っているのです。

 これでは和平交渉どころか、泥沼の戦争、最悪悪魔・堕天使・アインストに加え

 天使が漁夫の利を狙うという大混戦になってしまう恐れがあります」

 

「……で、それを裏付けるように世論は和平反対に傾きつつある、ってか。

 それどころかコカビエルの釈放を求める声まで上がってやがる。

 ……ハハッ、マジで堕天使ももう終わりかもな。

 シェムハザ、度々悪ぃがミカエル……じゃなかった、ガブリエルんとこ行って来てくれねぇか?

 堕天した連中を奴らが受け入れてくれるかどうかはわからんが、悪魔が頼れない以上それしかねぇ。

 アインストと戦うにせよ、俺ら堕天使だけじゃきつい。

 せめて天界に、停戦……まぁもうドンパチやってねぇんだがな……

 その申し立てをしたい。頼まれてくれるか?」

 

元々三大勢力の争いは冥界の縄張りを争う悪魔と堕天使の間に天使が介入するという形であった。

今はそこに禍の団、アインストが加わっている。アインストは三大勢力共通の敵であり

これをどうにかするまでは三大勢力で争っている場合ではない。

アザゼルもシェムハザもその認識は共通していたが

それはアインストの正体を正しく知っているからこそたどり着ける結論である。

知らないものは、悪魔と言う敵対組織の一部ではないか。

そう疑ってかかってしまうだろう。その結果が先走っての悪魔政府に対する非難行動である。

 

「それならば、天界よりは神仏同盟(しんぶつどうめい)辺りを頼るのは……」

 

尤もそれ以前にシェムハザにしてみれば、さっきまでガブリエルとヤルダバオトによる

ウェールズの勢力に対する謝罪に同席していたため、その上でガブリエルとコンタクトとなると

二度手間であるという考えも過っていたのだが。

 

「コネがねぇよ。一応の昔馴染みでもある天界が一番手っ取り早いのさ。

 あいつらに頼るのに、思うところがないわけでもねぇがな」

 

アザゼルも堕天する前の同僚ともいえる天界勢力を頼るのには思うところがあるようだ。

彼にとって天界は捨てた古巣であり、今更どの面を下げてと言う事なのだろう。

そんな彼が、その捨てた古巣に縋らねばならぬほど今回の事態は急を要するのである。

勿論、神仏同盟とは単純に接点が弱い事、ギリシャ勢はむしろ借りを作っているため

これ以上借りを作るわけにはいかない。そうした消去法的な考えもあって

アザゼルは天界との対話を考えていたのであった。

 

 

――――

 

 

冥界・グレモリー邸。

 

自治領待機が命じられて数日が経ち、アインストによる騒動も沈静化しつつあった。

それでも連日現魔王に対するバッシングはワイドショーで騒がれており

グレモリー邸にもマスコミが押しかけてきている有様である。

フェニックスとの一連の事件が沈静化した矢先にこれである。

 

「……もういやっ! やってられないわこんなの! みんな、駒王町に帰るわよ!」

 

感情任せに出たリアスの案だが、実際そろそろ戻らないと夏休みが終わる。

そういう意味でも、駒王町に戻るというのはあながち悪い案でもない……のだが。

 

「それなんですけど部長、残してきた使い魔たちからの連絡が一切ありませんの」

 

「それに、塔城さんやセージ君もまだ戻って来てません」

 

木場の指摘する小猫やセージの未帰還はともかく、朱乃の指摘する

使い魔からの連絡の断絶はリアスも気にかけていたところであった。

攻撃手段としても使うため、連れてきているアーシアや

そもそも使い魔を持たないイッセーには何の事だかさっぱりだったが

それはつまり、地上に残した使い魔に何かがあったことを意味している。

 

「小猫やセージも気がかりだけど、朱乃の言う事も尤もね……

 なら、それを確かめるためにもやはり駒王町に戻るべきだわ」

 

駒王町に戻ると言う事に、この場にいる中で難色を示す眷属はいなかった。

ただ一人、ギャスパーだけがしどろもどろになっているがいつもの事である。

結果、満場一致で駒王町への帰還が決定づけられようとしていたが

ここで待ったがかかる。グレモリー領主、ジオティクス・グレモリー自ら

娘の提案に待ったをかけたのだ。

 

「待ってくれリーアたん。そう急ぐこともあるまい。

 ここはもう少しこちらに滞在して欲しいのだよ。学校には私の方から……」

 

「何を暢気なことを言っているのお父様!

 使い魔からの連絡がないとなれば、駒王町で何かが起きたはず、そしてそれは……」

 

「……待ちなさいリアス。もう駒王町はあなたの領土ではないのよ。

 そんなところに首を突っ込んで、怪我でもしてみなさい。

 いえ、怪我では済まないかもしれないわ。

 あのアインストと言う怪物、そういう危険性を持っていると聞きます。

 自分の領土を守るために負傷したのならば、まだ名誉の負傷と言えましょう。

 けれど、自分の領土でもない場所で負傷すれば、それはただの不注意。

 怪我をしなければいいという問題でも無いのですよ」

 

「お、お母様、それは……」

 

リアスの母ヴェネラナの言う通り、既にリアスは駒王町の領主ではない。

そこに住むものにしてみれば、あるべき姿になったというべきなのだろうが

リアスにしてみれば、安住の地を追われた形となる。

リアスにとって、駒王町は今なお大事な場所なのだ。

 

「ま、待ってください! 俺には部長の気持ちが何となくですけどわかります!

 俺は、俺は駒王町で生まれ育ってますし、駒王町には両親がいます!

 だからこそ、この目で駒王町の様子を確かめたいんです!

 

 ……部長なら、俺が守りますから!」

 

「……ふむ。些か不安は残るが、赤龍帝でもある君に頭を下げられてはな。

 それに、君の両親ともなれば我々にとっても家族も同然。

 その安否を気遣うのは当然と言えば当然か……」

 

「……いいでしょう。ではレイナルドに最終列車の手配をさせます。

 今後は魔法陣を使っての移動となるので、最後の列車の旅を存分に楽しみなさい。

 それと。向こうについたら必ず連絡をすること。

 赤龍帝の彼――兵藤君がご両親を心配しているように、私達もリアス。

 あなた達を心配しているのですから」

 

「あ、ありがとうお父様、お母様!

 さて、それじゃみんな帰り支度をするわよ!

 ……小猫とセージは魔法陣を置いて、書置きを残しておくわ。

 セージはともかく小猫は夏休みが終わる前までには戻るはずよ」

 

以前、リアスはこの二人について戦力外通知と言う単語を過らせたことがある。

奇しくも今回、戦力と言う形ではなくこの二人が揃ってリアスの下にいないという

事態になっており、リアスの懸念はある意味当たってしまったと言えよう。

 

そして、ここにもう一人リアスの知らない間に

リアス・グレモリーの眷属としての自分に疑惑を抱いているものもいた――

 

(……今回の件、イッセー君が言わなかったらどうするつもりだったんだろう。

 どうやらイッセー君に必要以上に拘っているのは部長だけじゃないみたいだ。

 誰もイッセー君を、兵藤一誠を赤龍帝としてしか見ていない。部長でさえもだ。

 

 ……そんなんじゃ、眷属を蔑ろにするという他の悪魔と同じじゃないか!)

 

 

――――

 

 

冥界某所・バオクゥのアジト。

 

リアスらが地上への帰り支度を始めている頃、セージは悪魔の駒の除去について

調査を進めていた。そして、その結果わかったことは……

 

「……ふぅ。これ以上は俺達ではどうにもならないな。

 白音さんの駒も、下手にいじると本体にかかる負担が大きいし。

 手術のショックで死なれたら、本末転倒甚だしい」

 

「ごめんにゃ白音、お姉ちゃんちょっと浮かれすぎてたにゃん……」

 

「……いえ。除去が可能であることが分かっただけでも私やセージ先輩にとっては

 朗報ですから」

 

現時点では、白音もセージも駒の除去は不可能であること。

駒そのものは、悪魔と弱点を同じくするために太陽の光や聖なる力を照射すれば

破壊することが出来ると言うこと。物理的な除去は、外科手術で出来ると言うこと。

そして、それが可能でこの情報を伝える価値のある相手。それをセージは知っていた。

 

「……地上に戻ろう。そして、神仏同盟のお二方にこの事を伝えたい。

 場合によっては、二人の身柄の保護もお願いできるかもしれないし」

 

「神仏同盟?」

 

「日本の神様と、日本の拠点を置く仏様とで構成された勢力です、姉様。

 つまり、私達猫魈(ねこしょう)にとってもある意味縁のある勢力です」

 

(最も、白音さんはそれで可能だけど……

 俺の駒はアイツをどうにかしないとどうにもならないんだよな……

 結局、共有の解除方法までは載ってなかったし)

 

「どうしたのにゃん、お兄さん?」

 

「……や、なんでもない」

 

セージが思案を巡らせていると、背後からバオクゥに肩を叩かれる。

やけに強く叩かれたのか、思わずセージも大声を上げてしまっていた。

 

「うわっ!? い、いきなり何するんだ!?」

 

「あーすみません。ちょっと蚊が止まってたみたいで。

 仕留めましたんで安心してください」

 

複雑な面持ちでバオクゥを睨み返すセージだったが

悪気は無さそうなのですぐに気を落ち着かせ、再び思案を巡らせる。

その背後では、バオクゥが胸ポケットに何かをしまい込んでいた。

 

(……ごめんなさいセージさん。私、嘘ついちゃってます。

 師匠がいたらきっと怒られるでしょうねぇ……

 

 ……セージさんの情報、イェッツト・トイフェルに流す手助けをしているなんて

 とてもじゃないですが言えないですよぉ……)

 

そう。

何故イェッツト・トイフェルが黒歌の顛末を知っていたか。

それはウォルベンとバオクゥが接触した、リリス冥界大図書館での帰路まで遡る――

 

 

――――

 

 

「……冥界では知る人ぞ知る、盗聴バスター・バオクゥとはあなたですね?」

 

「そ、そうですけど……」

 

帰路を急ぐバオクゥの前に現れたのは、オールバックに丸サングラスを付けた男

――ウォルベン・バフォメット。

サングラスで視線は読み取れず、声色からも何を目的としているのかは探れない。

得体の知れなさに、思わずバオクゥは身構える。

 

「私は政府直属部隊のウォルベン・バフォメットと言います。

 実は先ほど、リリス冥界大図書館から通報を頂きましてね。

 

 ……何者かが侵入したのではないかと」

 

「……それが私と何の関係があるんですか?」

 

実際にセージと一緒に潜り込んでいるためか、バオクゥの背筋からは冷や汗が流れ出る。

バオクゥもイェッツト・トイフェルの情報は仕入れている。

同業者とも言えるジャーナリスト、リー・バーチが彼らから口封じをされたこともあり

次はいつ自分に回って来るか、と警戒していた矢先でもある。

 

「単刀直入に言いましょう。あなたが出入りするところを見たって通報があるんですよ。

 もし侵入が事実ならば然るべき対応を、そうでないならそれを証明していただきたいだけです。

 ただ……物的証拠がある以上、証明は難しいかもしれませんがねぇ」

 

そういって、ウォルベンは砲弾を取り出す。

それはバオクゥの艤装にもある機銃の弾丸の薬莢でもあり、彼女がそこにいた痕跡としては

十分すぎる証拠であった。

 

「それは……」

 

「……本来なら実力行使も辞さないのですが、あなたには一つ協力していただきたいのですよ。

 その協力次第では、私は何も見なかったことにいたします。

 どうでしょう? 協力していただけますか?」

 

ウォルベンの言葉に、バオクゥはただ黙って頷き返す事しか出来なかった。

そして、次にウォルベンが取り出したのは小型の盗聴器兼発信機。

 

「これを歩藤誠二と言う少年に付けていただきたいのですよ。

 私は彼に顔が割れてしまっていますからねぇ。

 警戒されないためにも、あなたからやっていただきたいのです。

 これから得た情報は、あなたもある程度までなら自由に使っていただいて構いません。

 どうです? 破格の協力条件でしょう?」

 

「何のためにそれを……って言っても、答えてくれませんよね」

 

「申し訳ありません。これも任務ですので。

 で、私に協力しますか? それとも……」

 

次の瞬間、バオクゥは黙ってウォルベンの手から盗聴器を受け取るのだった……

 

その後、バオクゥはセージと合流し、彼の知らぬ間に盗聴器を仕掛けることに成功。

その盗聴器を通してウォルベンは黒歌の顛末を知り、アインストに囲まれたセージの下に

駆けつけてきたのだった。

 

 

――――

 

 

「うん? 情報屋さん、何をしてるにゃん?」

 

「うひゃあ!? わ、わた、私は大丈夫ですっ! 何も見てませんっ!」

 

今度は逆にバオクゥが黒歌に急に話しかけられる形となり、狼狽してしまう。

その狼狽っぷりはセージのそれを大きく上回っていた。何故なら――

 

(な、なんてタイミングですかぁ……今盗聴器を取り換えたところだってのに……)

 

バオクゥとイェッツト・トイフェルとの関係はまだ生きていた。

地上に戻ることを決心したセージ達の動向は、イェッツト・トイフェルに知れ渡っている。

だからと言って、セージのやることに変化が起きるわけでも無いが。

 

「そうだお兄さん、地上に戻るなら私が使ってるルートがあるにゃん。

 それを使えば、グレモリーに頭下げずに地上に行けるにゃん」

 

「そ、そうなのか? それはある意味有り難いが……

 それじゃ、明日にでも地上に戻ろう。白音さん、荷物とかはいいのか?」

 

「……大した私物は持って来てませんので」

 

黒歌の提案で、リアスらとは別ルートで地上に、駒王町に戻ることとなったセージ、白音、黒歌。

少しずつではあるが、セージの目的達成にも光明は見え始めている。

そんなセージを、バオクゥは複雑な心境で見つめていた。

 

(ご、ごめんなさいセージさん……

 この先、政府直属部隊にちょっかいかけられるようなことになったら……それは……

 

 ううっ、こんな時師匠ならどうするんでしょう……)

 

冥界が激震する中、少年らは駒王町へと戻る決心を固める。

しかしそこもまた、激震の最中であることを

今はまだ、誰も知らないのだった。




>冥界
ある意味平常運転。クーデター一歩手前だったりはしますけど。
伝令も外交がセラフォルーの担当だって事は知ってます。
けれどセラフォルーが平常運転だったためにこんなことに。
ファルビウムも平常運転です、一応。

……こんな時にまで平常運転ってどうなのさって意見もあるかと思いますが
(実際、四大魔王とてやるときにはやるタイプみたいですし)
それがタイミング間違うとこうなるってパターンと言う事で。

>堕天使
……アインストの存在を秘匿していたため、ある意味では元凶の一端。
ここに来て和平に前向きになりだしますが、時すでに遅し。
アインストを悪魔と誤解した一部勢力が蜂起していますし
和平反対のコカビエルに対する再評価の機運が高まっているため
これまた足並みがそろわなくなってしまってます。

>クロスゲート・アインスト
一度だけ堕天使領に出現後消滅しています。
それが原因でコカビエルがアインストを知っていたり。
一瞬の出来事なので、悪魔社会で言うアモン(拙作版)にすら知名度で劣っています。
アザゼルが伏せていたのもあるのですが。

>バラキエル
まさかのアインスト化、そして朱乃母の仇(本物)と言う原作以上に救われない状態。
バラキエルとバルディエルは同一存在と聞いたので
これを拙作で採用しようと思ったらこうなりました。
バラキエルをMIA扱いにして、敵性体の一種と見做すという扱いは
EVA3号機(バルディエル)の扱いのそれに準じています。

>バオクゥ
助かった代わりに二重スパイみたいな状態にされてしまいました。
武器の特性を考えたら足付きやすいんですよね、機銃とか砲弾とかって。
そう考えると師匠(指弾)は理にかなってるなぁ。

>小猫
少彦名様出番です! ……と言う結論に達した模様。
死んでも駒だけ排出される(再利用可能?)んだから、本当にこいつは質の悪い……
セージのプランとしては

・術式レベル1開始(外科手術で駒を摘出)
 ↓
・術式レベル2開始(太陽エネルギーや聖なる力を駒に照射)
 ↓
・破壊

そこで医療の神である少彦名様にご指名がかかりそうな予感。
ギリシャ行けばアスクレピオスとかいますがセージのコネ的に。

なおこの方法は「安全に駒を除去・破壊できる手段」なので
セージのケースには適用されない模様。
イッセーが駒の除去に賛成するはずがありませんので。
(駒の除去=死亡がほぼ確定なイッセーにしてみれば「死ね」って言ってるようなものですし)


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Soul74. 帰路につくS / 駒王町、帰ります!

久方ぶりの視点変更ギミック搭載。
今回はセージとイッセーで交代。

イベント。
まさかの春風着任。
現在E4、これはE5は無理かもわからんね……
やるだけやりますが。

艦これ映画。
ネタばれ防止のため多くは語りませんが。
某所で鶏が先か卵が先かって意見は見ましたが……
まさかの鶏と卵が同時にできた説、と解釈。
あと冬ディケイドほど嘘予告じゃないだろこれ。

ちょっと私生活がバタつき気味なのでやや短めです。
こっちの猫は救出成功したけどリアル飼い猫の様子がおかしいので。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)除去の研究を進める俺達だが

俺はともかく白音さんの駒も取り除けないことが判明。

 

しかし、駒の破壊方法はわかったので

それを可能とする組織――神仏同盟(しんぶつどうめい)との

コンタクトを試み、俺達は人間界へと帰ることにする――

 

――残された時間は、あと24日――

 

――――

 

「……別のルートって、姉様、これは……」

 

「魔法陣とかは足がつくにゃん。だからこういうアナログな方法を使うのがいいにゃん」

 

俺達は黒歌さんの言う隠しルートを伝って地上に戻ることを試みた。

だが、その隠しルートと言うのが問題だった。

なにせ……

 

「……黒歌さん」

 

「何にゃ?」

 

「俺にはずーっと続いてる線路しか見えないんですが。

 ここでスタンド・バイ・ミーごっこするわけでも無いでしょう。

 ここを走っている列車に飛び乗るとかそういうアクロバティックな方法ですか?」

 

そう。そこにあったのは果てしなく続いている線路。

これを歩いていくとなれば、確かに列車に乗るのに必要な

パスとかそう言う物はスルー出来るが……

これを延々と歩いていくのは、一体どれくらいの時間がかかるのだろう。

 

「バイクで線路の上を走るわけにも行かないですからね。これは……

 いや待てよ? 箱みたいなものがあればトロッコ位は作れるかもしれない。

 この近くに何か適当なコンテナは……」

 

『列車をバイクで操縦するシステムなら、俺に心当たりがあるぞ。

 そしておあつらえ向きに、さっきそこで放置されている車両を見つけた。

 そいつを「騎士(ナイト)」に昇格した上でモーフィングしてみろ。

 まずは列車の操縦室に行くぞ』

 

……なんだそりゃ。俺にはさっぱりわからなかったが

このどこまで続いているのかわからない線路を歩くよりは

乗り物があった方がいいだろう。そう思い、俺はフリッケンの言う事の真意はわからぬままに

言われた通りにやってみることにした。

 

「ま、物は試し……『昇格(プロモーション)』!」

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

右肩に馬を模したアーマー、左肩には馬の尾を模したマフラー。

全体は軽装の鎧に身を包み、頭部はフルフェイスのヘルメットで覆われた

「騎士」形態。この形態はスピードもさることながら

バイクなど騎乗するものの召喚・操縦をすることに秀でている。

 

……だが、俺もバイクで列車を操縦するなんてのは初耳なんだが。

 

「で、フリッケン。どうするんだ」

 

『そのまま操縦桿を握ってバイクの操縦をイメージすればいい。後は俺がやる』

 

俺は言われるがままに操縦桿を握ってみる。すると操縦桿はすっと消えてしまう。

一瞬の出来事に俺が困惑していると、今度は操縦席の座椅子がバイクに早変わりする。

バイクそのものは単純なつくりだが、ハンドル回りなどは

俺がこの間操縦したマシンキャバリアーそっくりだった。

 

『うまく行ったぞ。あの二人をこの列車に乗せろ。

 操縦はバイクと同じ感覚で行けるはずだ』

 

……なーんか、面ドライバーにこういう乗り物があったような気がすると思いながらも

俺は外で待機していた二人に声をかける。

 

「黒歌さん、白音さん。動かせそうです」

 

「うにゃ? これは思わぬ収穫だにゃん。楽が出来るにゃん」

 

「……姉様。もしかして本当に歩いていくつもりだったんですか?

 それにこの線路、何だか見覚えがあるんですが」

 

「さ、流石にそんなことは無いにゃん。トロッコ持ってくるつもりだったにゃん」

 

……トロッコが列車にアップグレードしたって事か。

まあ俺もトロッコを用意する算段だったんだが。

何にせよ、一刻も早く天照様か大日如来様にあの件を伝えたい。

そのための足は、速いほうがいい。

俺は二人が列車に乗り込むのを確認すると、操縦席からドアを閉めバイクに跨る。

 

……バイクそのものは固定されているため、まるで教習所かゲームセンターのような気分だ。

 

『セージ。この列車の情報を共有する。「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」を起動させろ』

 

フリッケンの言葉に俺は頷き、記録再生大図鑑を起動させる。

 

BOOT!!

 

まあ、こうしないと運行情報やらなにやらわからないって事か。

まるでこの列車をハッキングしているみたいだと思いながらも一連の作業を進めていく。

 

『……あんの黒猫。なにが「グレモリーとは関係ないルート」だ。

 この列車、元々はグレモリー家で使われていた列車で

 財政難の煽りで差し押さえを喰らっていた奴らしい。

 そしてこの線路も、直接グレモリー領に行くわけじゃないが

 途中でグレモリー領行きの線路と合流する可能性はある。

 ……ま、十分気を付けることだな』

 

黒歌さん……まさかキセル乗車のスケールがでかい版をやろうとしてたのか?

トロッコがどうのこうの言っていたが……

しかし、グレモリー部長と鉢合わせする危険性もあるって事か。

そうならないことを願いたいものだな……

 

……と考えると、何故だかそうなってしまう気がするからあまり考えないようにしよう。

気を取り直して、俺はバイクのアクセルをふかす。勿論自分は動かないので変な気分だが

窓から見える外の景色はゆっくりと動き始める。

 

徐行運転をしながら、色々と列車の情報を確認していく。

二両編成で、二人とも一両目の座席に座っている。二両目は誰も乗っていない、カラだ。

俺は思わず、アナウンスを二人に聞こえるように行ってしまった。

 

「本日はご乗車ありがとうございますー。この列車は地上・人間界へと途中停車なしでの

 運行予定となっておりますー」

 

『……セージ。言いたいことはわかるがあまり遊ぶな』

 

「……すまない、何となく言ってみたかっただけなんだ」

 

うっ……たまにはこういう事も言いたかったが、操縦するのは俺なんだ。

あまりふざけてもいられないな。気持ちを切り替え、スピードを徐々に上げていく。

窓から流れる景色も、その流れる速さが増していく。

 

『セージ。レーダーを起動させろ。青のボタンだ』

 

「うん? わかった」

 

RADAR!!

 

記録再生大図鑑と接続しているからか、粗方の機能をこのまま発揮できるようだ。

今使ったのはレーダー。線路をそれなりのスピードで走っている以上

事故には気を付けないといけない。そうなれば、レーダーの存在は有意義と言える。

今のところは、レーダーにも異常は感知されていない。

 

それにしても、色々と大変な事の起きる今回の冥界移動だった。

フェニックス家への転移に始まり、黒歌さんとの遭遇と一連の騒動。

そして……悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に纏わる情報の収集と、除去の成功。

最も、除去に関しては諸手を上げて喜べる内容ではないが。

 

だが、こうして土産を用意できたという意味では成功したと言えるか。

残された時間はもう4週間を切っている。情報は粗方得た。

後は……実行に移すだけだ。

 

 

――――

 

 

◇◆◇

 

 

――――

 

 

(クソッ、一体全体どうしてこうなったんだよ!)

 

俺達は部長の実家帰省に付き合ったのには

多分に修練の合宿的な意味も含まれていた……はずだった。

ところが、木場の修練は中止になるし俺も予定そのものはあったんだが

結局部長のお母さんから貴族社会のマナーと言う物を叩き込まれただけだった。

役に立たなかったわけじゃないけど、どうにも俺にはなじめなかった。

 

……そういう意味でも、俺はやはり部長とは住む世界が違うんだなと

再認識させられてしまう形となった。

やっぱ、松田や元浜とエロ談話してる方が俺の性に合っているのかもしれない。

 

……うげっ。松田と元浜で嫌な奴を思い出しちまった。セージだ。

あの後匙の奴から話を聞いたが、アイツ匙もボコボコにしたらしい。

俺はあの時、ソーナ会長や匙の意見に同調していたしセラフォルー様が頼もしく思えたのに

アイツはあのいけすかないお偉いさんの肩を持ったって事か?

だとしたら、とんでもないやつだ。やはり一度、殴ってでも……

 

『意気込んでいるところ悪いがな。お前の新しい技……と言えるかどうかも怪しいが。

 倍加しまくれば通じないことは無いだろう。だが……あれを使ってどうするんだ?

 まさかとは思うが……あのふざけた技を、通用するようにするつもりなのか?』

 

「ああ。これは聞いた話なんだが、あいつの紫紅帝龍は神器じゃない。

 つまり『洋服崩壊(ドレスブレイク)』で取り外し可能だと思うんだ。それを喰らわせるには

 まずアイツを女にしなきゃいけない。まぁ、中身がアイツだから変な気は起きねぇよ」

 

『起こされても困るがな……にしても、ここまで変な方向の進化をするのは歴代でも類を見ないぞ』

 

「あんまり褒めるなよ」

 

『……全く褒めては無いんだがな』

 

ドライグからも変扱いされてしまう。うるさい! そうでもしないとアイツに勝つ方法がないんだよ!

幸いにして、俺の洋服崩壊は相手が異性なら触れさえすれば必中。

そしてその対象は服には限らないと言う事が証明されたんだ。

 

この特訓に協力してくれた部長や朱乃さん、アーシアとついでに肉体が男だったら通用しないって事を

再確認させてくれたギャスパーには感謝してもしきれない。

そう言えば、結局小猫ちゃんは戻ってきていないし、ギャスパーも後ろの車両に引きこもったままだ。

俺は小猫ちゃんの事も仲間だと思っていたのに、違うのかな……?

俺、何か嫌われるようなことをしたっけか?

 

『……本気でそう思っているんなら失笑を禁じ得ないな。覗き魔』

 

「なんだよ。覗きは男のロマンだろうが。お前も男ならその辺分かれよ!」

 

『分かりたくもないな』

 

木場と言いセージと言い、なんでこうロマンのわからない奴らばっかりなんだ。

木場も様子がおかしかったし、一体全体どうなっちまうんだよ……

そう俺が思った矢先、列車が次元の壁を通り抜けるみたいだ。

行きは確かここでアインストの襲撃を受けたんだっけ。

それで、あの時はまだドライグが回復していないお陰で俺は戦力外。

けれど、今の俺なら……と、意気込むが何事も起こらずに列車は次元の壁を素通り。

いや、起きないに越したことは無いんだけど……

 

「部長、何も来なかったっすね」

 

「それならそれでいいじゃない。それよりもイッセー……」

 

ふと、部長が俺の顔を両手で包み込み、そのまま引き寄せて……

って部長! そこは、目の前は!

 

「ごめんなさい。本当はもっとあなたに色々としてあげたかったのだけど

 今の私にはこれが精一杯。こうしてあなたを癒すことしか出来ないわ」

 

部長は部長で、無念さを感じているようだ。

俺は部長のおっぱいに包まれながら、そういう事を考えたが

すぐにおっぱいの方に意識を集中させた。そうしないとおっぱいに失礼だからだ。

そう思っていると、今度は背中にまた柔らかい感触が押し付けられる。

 

「うふふ、イッセー君にはこれ位しないと物足りないのじゃないのかしら?」

 

「……朱乃。どういうつもりなのかしら」

 

うひゃー! これは見事なおっぱいサンドイッチ!

二人が険悪な様子になっているけれど、やめてください二人とも!

俺のために争わないでください! 俺はどんなおっぱいも同時に愛しますから!

 

『……ふん。精々寝首を掻かれん様にすることだな』

 

「……行きましょう、木場さん」

 

「うん? いいのかいアーシアさん」

 

「いいんです、くだらない争いに巻き込まれて怪我したくないですから」

 

4つのおっぱいの感触に包まれていた俺には、後ろの声は全然聞こえなかった……

 

 

――――

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

……その少し前。

 

 

――――

 

 

冥界と人間界を隔てる次元の壁。

俺達の列車がそこに差し掛かるころ、突如として襲撃を受ける。

――アインストか!?

 

レーダーのお陰で襲撃をいち早く察知していたからか、即座に停車させ

迎撃態勢を取ることが出来るようになった……のだが。

 

「白音さん、黒歌さん! アインストだ!

 アレをどかさないとこの先には進めない、何とかしないと……」

 

『セージ。二両目を変形させるぞ』

 

「変形って……うわっ!?」

 

突然、列車が揺れたと同時にサブモニターに映る列車のステータスが大きく変わる。

まるで装甲列車か列車砲かって位の変形を果たしているのだ。

おいおい、俺はモーフィングさせてないんだが。

 

『攻撃はバイクの時と同じ要領だ、だが火力がでかい。あの二人を巻き込むなよ』

 

「わ、わかった! すまない二人とも、こちらからも攻撃するが

 巻き込まれないように気を付けてくれ!」

 

『わかったにゃん! 行くにゃ、白音!

 実戦形式で気の使い方のレクチャーをするにゃん!』

 

『……はい、姉様。あと、まじめな時くらい語尾のにゃんは外してください』

 

漫才をしながら飛び出す二人を見送りつつ、俺は外を飛び交っている

アインストクノッヘンに狙いを定め、砲撃を開始する。

その砲撃を皮切りに、二人も線路の上でアインストと交戦を開始する。

 

……それにしても、一体どこからこいつらは湧いてくるのか。

やはり、オーフィス――ウンエントリヒ・レジセイアを倒さないと無限に湧くとか

そう言う代物なのだろうか。だとしたら……厄介すぎる。

アインスト絡みでも神仏同盟に協力を仰ぐ必要があるだろう。

駒王町に出たと言う事は、人間を襲う可能性がある。

そうなれば、悪魔や堕天使、ある意味では天使と同等か

あるいはそれ以上の脅威が現れたことになるのだから。

 

戦いは一進一退であった。確かに二人の攻撃で確実に数は減らせているのだが

それに匹敵する勢いでアインストが出てきているため

結果として一向に数が減ってないのだ。

こっちの砲撃も二人を巻き込めないため、後方に向けて撃たなければならない。

おまけに――

 

『まずいな、列車にとりつくつもりだ』

 

「チッ! フリッケン、砲撃は頼めるか!?」

 

『ああ、任せろ』

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

操縦をフリッケンに任せ、俺は列車にとりつこうとするアインストの迎撃に出る。

腐食の剣を実体化させ、車体に絡みついたアインストグリートの触手を切り裂く。

ご自慢の再生能力も、腐食させれば効き目は弱まるって寸法だ。

 

「うにゃ? なるほど、そういう戦い方もあるのかにゃん。

 

 ……白音、口と鼻のあたりに気を集中させるのよ!

 絶対に息を吸ったらだめよ!」

 

「……? わ、わかりました」

 

前線では、黒歌さんが何やら気を操って戦っている様子。

ふと、黒歌さんの周りの空気がおかしくなっている風に見えた。

と言うのも、周囲を囲んでいたアインストが次々とその動きを鈍らせていたからだ。

黒歌さん、毒も操れるのか?

 

「……お兄さんからアインストの特徴を聞いておいてよかったにゃん。

 けれど、やっぱ効きが良くないわね。致死量の毒のはずなのに」

 

「……姉様、アインスト相手の毒なら私が息をふさぐ必要は無かったのでは?」

 

「致死量の毒だから万が一のための保険だにゃん。

 あんまり効きは良くないみたいだけどね……あら?」

 

取り囲んでいたアインストクノッヘンの外骨格にヒビが入り始める。

毒を受けたことで、構成組織の類が弱体化したのだろうか。

同じく取り囲んでいたグリートの触手は枯れ始め

グリートもその頑丈そうな鎧が崩れ始める。

 

「……姉様、チャンスです」

 

「そうみたいね、一気に押し切るにゃん!

 でも白音、あまり息を吸ってはダメよ!」

 

MEMORIZE!!

 

あの様子なら、前線への援護は必要なさそうだ。

そう思い、こっちも列車にとりついたアインストを次々と斬り捨てていく。

祐斗みたくばっさりとはいかないが。

 

ともかく、これでアインストを撃退することに成功した。

 

『セージ、悪いがすぐに移動するぞ。こっちに列車が向かってきている。

 恐らくはグレモリーの列車だろう。事故を起こす前にこのトンネルを抜けるぞ』

 

「そりゃ厄介だ。二人とも、お疲れのところ悪いけれどすぐに移動する!

 グレモリー部長の列車と事故は起こしたくないんでね!」

 

俺の声に応える形で二人は列車にかけ乗り、俺も乗車を確認後列車を発進させる。

 

……こうして、俺達の冥界での戦いは一旦の幕引きを迎えた。

少なくとも、俺の存在はオカルト研究部にも大きな影響を与えていることだろう。

それに対して思うところがないわけではないが、俺とて生き延びたいのだ。

人間として生きたいのだ。

 

押し付けられた悪魔のルール。

気が付けば悪魔にされていた。俺は人間だというのに、だ。

人間として生きるために、俺はグレモリー部長の手を拒絶したのだ。

その責任は、果たさねばならないのだろう。

その責任の果たし方が人間として生き抜くというのは……

 

……違うかもしれないが、違わないと思いたい。

 

――――

 

――駒王駅地下。

 

アインストを撃退してからは平和そのものな列車の旅であった。

だが、それもここにつくまでの話。

 

「……こ、これは一体……!?」

 

まずここについた塔城さんが、現場の悲惨さに衝撃を受ける。

俺も正直訝しんではいたのだが。何せ――

 

――所々天井が落下しており、まるで爆撃か何かがあったかのように壊れているのだから。

 

「白音さん。俺は別ルートで冥界に行ったから知らないんだが……

 ここ、駒王駅の地下で間違いないんだよね?」

 

「……そ、そうです。けれど、私が部長達と来た時には

 こんな事にはなってなかった……」

 

「……禍の団(カオス・ブリゲート)

 

呟いた黒歌さんに、俺達はつい「えっ?」と返す。

その単語自体は聞きなれたものであるが、まさかこれが禍の団の仕業だというのだろうか。

 

「……彼らならやりかねないわ。

 自分たちの目的のためには、他の誰もどうなったっていい。

 テロリストって、そういうものでしょ。だから私は誘いを蹴ったにゃん。

 悪魔を攻撃できるってのは魅力的だったけど、白音の事を考えたらテロリストなんて

 やってられないにゃん」

 

「まぁ、それはそうですが。

 とにかく、地上に出てみましょう……

 

 って、今は昼なのか、夜なのか?」

 

俺のつぶやきに、今度は黒歌さんが「えっ?」と返す。

これには白音さんがフォローを入れてくれた。

 

「セージ先輩は実体のない存在なんです。

 冥界や、夜中なら実体化できるんですけど、昼間や明るい所では……」

 

「昼間だと俺は何もできなくなる。

 まぁ、カード引いたりだとか喋ったりだとかはできるが……

 となると、ここは部室と同じように結界が張られていたって事か。

 ま、悪魔の施設ってことだからだろうな。

 

 ……それじゃ、仮に俺が霊体化したら白音さんはグレモリー部長に合流。

 黒歌さんは黒猫の姿で俺についてきてほしい」

 

「わかったにゃん」

 

俺の提案に黒歌さんは同意してくれたが、白音さんはどうも不服そうである。

……ま、まあ今更あっちに行くってのも……ってところだろうけれど。

猫に化けられるんなら、その方がいいかもしれないが。

 

等と思っていると、白音さんの姿が消え、代わりに白猫がそこにいた。

 

「……これなら文句ないでしょう」

 

「まぁ、人型で動き回るより猫の姿の方がごまかしが効くってのはあると思って。

 俺が実体化していたら猫の姿だと逆に不自然になるだろうけれど

 そうでない場合は傍から見たら猫が二匹いるだけだ。

 そこを利用して、超特捜課(ちょうとくそうか)――警察なり神仏同盟(しんぶつどうめい)の手掛かりを探すなりするさ」

 

『話し込んでいるところ悪いが、そろそろ移動するぞ。

 さっきグレモリーの列車が来るって話をしたろ。

 そろそろ来る頃合いだ、撤収するぞ』

 

エレベーターが止まっていたため非常用の魔法陣で地上に出たが

案の定昼間であったらしく、俺の身体は霊体に戻ってしまう。

しかしそれ以上に、俺達は信じられない光景を目の当たりにしたのだ。

 

 

――瓦礫の山となっている、駒王駅とその周辺の様子を。




電車ジャックさせるわけにはいかなかったので
電車泥棒になっちゃいました。
抵当に入っているからって勝手に持ち出したりしたらいけませんので
真似はしないでください。

操縦方法は仮面ライダー電王方式。
これなら列車操縦のシミュレーションをやったことが無くても大丈夫……多分。

今回没案として
セージ操縦のデンライナーモドキな列車と
アインストの列車バトルってのもありましたが
諸般の事情で没。二両目が変形して砲撃しているのはその名残。

>イッセー
何と相手を強制的に女性化させるそれなんてミッドナイトブリスな技を習得。
元ネタ的にはギャスパーだろってツッコミも来そうですが
ギャスパーが異性に貪欲ってのもあまり想像つかないですし(ベクトルが違う)。
木場の協力が得られなかったので被検体はギャスパーでした。
分かりにくい対象ですが、そこは触って確かめた(洋服崩壊の実験もかねて)って事で。

……これ位やらないとセージを正攻法で倒せる気がしなくなってきてしまったので。
原作イッセーなら正攻法で余裕なんでしょうけれど……リアス(の乳首)さえあれば。

後アーシアからの好感度が地味に下がってますが
おっぱいにばかりかまけてたらそうもなるよね……と言う判断です。

アーシアも木場や小猫同様不信感を抱き始めていますが
彼女に関してはセージは何もアプローチしてないです。
自分で考えて自分で判断する、信仰においての鋼メンタルを
こっちで発揮したらそうなるよね……と思いまして。


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新学期のテロリズム
Soul75. 突きつけられたT / late returnees. ~遅れてきた帰還者~


冬場は身体を崩しやすいですね……
猫は無事どころかしぶといですが私自身がぶっ倒れ。

イベント。
E4の壁は厚かったよ……
ヲ改×2とか何の嫌がらせですか
ここか次のフラルで大破がどうしても出るために断念。
轟沈には代えられない。

パックマン。
昨日見てくるはずでしたがぶっ倒れたためまだ見てません。
マリオメーカー3DS版が出たからキャラマリオでエグゼイドが出てくれることを
心のどこかで期待してるけど多分無理だろうなぁ。
某将軍様みたく夏映画でマリオが出てきたら吹くけど。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

人間界へと帰還するため、俺達は廃棄された列車に乗り込み

途中アインストの攻撃を受けるも、これを退けて人間界に戻ることが出来た。

 

……しかし、そこにあったのは見るも無残な姿となった駒王町であった……

 

――残された時間は、あと23日――

 

地上に出た時、俺は我が目を疑った。

それなりに活気のあった駒王駅前の光景は、見るも無残なものだったからだ。

駅ビルの代わりに積み上がった瓦礫が、何があったのかを物語っている。

 

「冥界に行っていた間に、一体何があったんだ……」

 

「あれ? 白音。お兄さん見えるにゃん」

 

「……えっ?」

 

光景に唖然としている俺の後ろから、また突拍子もない事を聞かされる。

黒歌さんは、霊体の俺が見えるらしい。

 

「これは推測だけど、気の流れで見えるんだと思うにゃん。

 その証拠に冥界にいる時より少し見え方がぼやけてるにゃん……でも」

 

ふと、黒猫の姿から人型になった黒歌さんが

おもむろに俺に抱きつこうとして来るが、俺は霊体であるために……

 

「……やっぱりすり抜けちゃうにゃん」

 

「何しようとしてたんですか」

 

俺をすり抜けて背後に回る形になった黒歌さんのぼやきに

俺はいたって平静に返す。いや、霊体だってわかってるけど

いきなり抱きつかれそうになれば多少は身構える。

まあ、黒歌さんが霊体だったら普通に触れられるのだけど。

 

「けど、これでお兄さんとはぐれなくて済みそうだにゃん」

 

「……でも、セージ先輩と話すときには気を付けたほうがいいですよ、姉様。

 傍から見たら怪しい人にしか見えません」

 

「分かってるにゃん。でも、白音も見えないのは不便じゃない?

 気の扱いさえうまくなれば霊的なものも見えるようになるにゃん。

 機会があったらお姉ちゃんが特訓するにゃん」

 

黒歌さんの言う通りだ。見えない相手と行動を共にしていたら

どう考えたってどこかではぐれる。そう考えると我ながら無謀な策であった。

こちらからモノを触ることは一応可能なので、それを応用すれば

目印は作れたかもだろうが、そんな手間のかかることをするよりも

普通に行動している方がいいに決まっている。

その一方で、黒歌さんは白音さんに特訓の約束をしている。

姉妹水入らずに水を差すほど野暮じゃないつもりだが、今はそれどころじゃない。

 

「……コホン。二人とも、そろそろ移動したいのですが」

 

「……それもそうですね。行きますよ姉様。

 で、セージ先輩。まずは何処に?」

 

「駒王警察署に行く。学校や俺の家の事も気がかりっちゃ気がかりだけど

 今行くべき場所じゃない。まず何がどうなったのか、情報が欲しい」

 

「それなら猫の姿より人型の方がいいにゃん」

 

「……姉様。恰好は自重してください。仮にも警察に行くんですから」

 

白音さんのツッコミに、慌てて花魁風の和装からごくありふれた和服に着替える黒歌さん。

妖力的なものなのだろうか、早着替えと言うかあっという間に服装が変わった気がする。

応用によってはアイツの「洋服崩壊(ドレスブレイク)」にカウンターできるんじゃないかと思えるほどの

一瞬の出来事である。と言うか俺の目の前でやらないでほしい。

白音さんも見慣れた制服姿の人型になり、準備は整った。

 

「……ん? お兄さん、何してるにゃん?」

 

「祐斗にメモを残しておく。グレモリー部長らに見つかったらその時だ。

 なるべくなら、こっちで事を構えたくはないがね」

 

「だったらメモなんて残さなきゃいいにゃん」

 

「……まあ、万が一だ。他の連中はともかく、祐斗とは連携を図りたい。

 せめて情報だけでも、どうにかして共有したいものだ」

 

状況が状況だ。もし相手が禍の団(カオス・ブリゲート)であるのならば、俺達だけでは太刀打ちできない。

戦力的な意味ではなく、規模的な意味で人員が不足しすぎている。

被害を食い止め、復興に尽力するというのであれば俺は協力を惜しまないつもりだ。

そう思い、俺はメモを瓦礫の一部に貼り付けることにした。

これが読まれるか、風で飛ばされるか、無視されるか。

どうなるかは俺にも分からないが、やるだけの事はやろう。

 

メモを残し、俺達は警察署に向けて移動することにした。

 

――――

 

その道中も、いつものそれなりに活気のある町中とは全く違うものであった。

いや、俺やあるいは黒歌さんにも見えているのかもしれないが……

 

……幽霊が多い、と言う意味では活気があるのだろうが

それでは文字通りのゴーストタウンだ。

ショッピングモールのせいでシャッター街になってしまっていた商店街も

新築が最近増えてきた気がする住宅街も区別なく廃墟となってしまっている。

うろついている幽霊も、案の定というかいい表情は浮かべていない。

中にはこっちに因縁をつけてくる奴までいる始末だ。

幽霊が視認できない白音さんは、ある意味幸せかもしれない。

 

「……こういう時、ちょっと不便にゃん」

 

「言いたいことはわかります。ロクな死に方しなかった……って言い方はアレですが

 よほど無念を抱えた幽霊……ここまで来ると怨念ですね。

 相当な被害があったのは、見ればわかりますが……」

 

こうまざまざと見せつけられると、否応なしに実家や姉さんの周囲の安否が気がかりだ。

すぐにでも飛び出したい。そして無事を確認したいが……

自分でも驚くほどに冷静だ。あるいは、まだ現実だと認識が追い付いていないのかもしれないが。

そんな中、見知った幽霊と出くわす。見知った顔と言っても生前の見知った顔ではない。

寧ろ死後見知った顔だ。

 

「あれ? セージじゃん。いつも来るの唐突だよね」

 

「聞いてよ聞いてよセージさん。ここ最近でこっちもお客さんがいっぱい来て

 賑やかになったのはいいんだけど、私らの家も潰れちゃったのよ!」

 

「……ローブを被った集団とか、剣を持った集団とかがやって来たの。

 隠れてやり過ごしたんだけど、その後見たこともない怪物がやって来て

 家が潰れちゃったのよ……」

 

「サイや蛇みたいな怪物だったわ。私たちは見えなかったみたいだけど

 その分家が滅茶苦茶にされちゃって……」

 

虹川(にじかわ)姉妹。悪魔としての俺のお得意先だが、最近は悪魔稼業もすっぽかしているため

それ以外の方法でアシストしている……と言うか有志に丸投げだ。

最後にあったのはエクスカリバー強奪事件の際、祐斗の旧友探しを手伝ってもらった時だ。

その旧友とライブに出たものだと思っていたが、戻ってきていたのか。

しかし瑠奈(るな)(れい)の言う怪物は、聞いたこともない怪物だ。

アインストの中に該当する奴はいない。じゃあ、アインスト以外の怪物だっていうのか。

全く面倒な。

 

「ちゅーか、偶々戻って来たらこの騒ぎで客が来るのはいいんだけど

 おかげで俺らも身動き取れないわけ。幽霊だから宿が無くても何とかなるけどよ。

 俺様はいいけど、この子らは流石にな……。

 それはそうとイザイヤ……じゃねぇ、木場の奴は元気にやってるか?」

 

「ええ。故あって別行動ですが」

 

祐斗の旧友、海道(かいどう)さんもいた。まあ、彼女らがいるって事はいるわな、そりゃ。

この場に祐斗がいないのは正解だったのか、それとも。

 

……そしてまた別の方向で何やらもめている様子だが……

 

「うにゃ? このお子様たちは誰にゃん?」

 

「お子様とは失礼しちゃうわね! 私たちは騒霊ガールズバンド、虹川楽団(にじかわがくだん)

 私はその三女、莉理(りり)よ! あんたこそ何者なのよ?」

 

「ガールズ……要するにチンドン屋ね。私は黒歌。猫魈(ねこしょう)にゃん」

 

「ぷぷっ……いい年して語尾に『にゃん』とかありえないんですけど!

 しかも猫だから『にゃん』って……センスなさすぎて……ぷくくくっ!」

 

「妖怪だから年は関係ないにゃん! あんたこそ中途半端な大きさのモノぶら下げて

 私の方が大きさでも張り艶でも勝ってるにゃん!

 チンドン屋ごときに言われたくないにゃん!」

 

お子様扱いされた莉理も、ハイテンションで喧嘩に乗っかる形になっている

次女の芽留(める)も、黒歌さんと煽り合いの喧嘩を始めている。

それもかなり低次元なものだ。今そんなことしてる場合じゃないんだけどな。

 

「チンドン……私たちはれっきとしたバンドよ、バンド!

 ちゃんとファンクラブだってあるんだから!

 そこにいるセージさんがナンバー0なんだから!」

 

……げっ。こっちに飛び火しそうだ。

こりゃ拗れる前に強引に話を元に戻そう。

 

「……それはそうと、こうなったのは一体いつ頃の話で?

 俺達はついさっきこっちに戻って来たばかりで分からないんだ」

 

「……1~2週間くらい前の話よ。ちょうど隣町やら何やらでライブをした帰りに

 家に戻ったのだけど、その時に外がやけに騒がしいなって思って。

 最初は芽留が騒いでいるのかと思ったのだけど、見たら町が燃えていて……」

 

「俺様も見た時には驚いたね。幽霊だってのも忘れて慌てて家の中に避難したんだが……

 その後の顛末は、さっき瑠奈が言った通りだぜ」

 

聞いた話を、俺は虹川姉妹や海道さんが見えない白音さんにも確認させる意味で復唱する。

しかし改めて確かめてみると、とんでもない事態に巻き込まれていたみたいだ。

禍の団の構成員は、俺は旧魔王派とアインストしか知らない。

旧魔王派が主体になってやったとするならば、これはとんだとばっちりじゃないか。

まぁ、テロなんて得てしてそんなものだが。

 

「……今生きてる人はショッピングモールや警察署辺りに避難しているわ」

 

「警察署か……今から行こうと思っていたところなんだ、ありがとう」

 

「ライブ……と思ったけどセージ忙しそうだもんね。

 この間も聞いたかもしれないけれど

 何だか最近セージが遠くに行っちゃうような気がして……

 って、しんみりするのはお姉ちゃんの特権よね、私がしんみりしてどうすんのって話」

 

莉理がライブを聞いていくように誘おうとしたが、俺達の様子を見て取り下げてしまう。

……実際、あまり暇ではないが何だか悪い気がするな。

 

と言うより、俺が幽霊が見えるのは俺自身が霊体だからであって

霊体じゃなくなる、つまり肉体を取り戻した暁には

やはり彼女らは見えなくなってしまうのだろうか。

 

……って、前もこの事を気にしたな。だからこそ俺は有志にライブ支援を一任し

一歩引く姿勢を取っているわけだが……

ああもう、考えたら嵌る。今は警察署に行くことを考えよう。

 

「気持ちだけ貰っておくよ、それじゃライブ活動、頑張ってくれ」

 

「……わかりました」

 

「じゃーね、セージさん」

 

「木場によろしく頼むぜ?」

 

虹川姉妹と海道さんに見送られる形で、俺達は警察署に向かう事にした。

結局、最後まで莉理と黒歌さんは喧嘩しっぱなしで

呆れた白音さんに突っ込まれる形で喧嘩は幕を閉じたのだった。

まだ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は抜き取っていないから、力は半端ないはずなんだが。

 

――――

 

「うぅ……白音に叩かれたところがまだ痛いにゃん」

 

「……だったら傍から見たらひとり相撲にしか見えない喧嘩なんかしないでください」

 

尤もだ、と思いながら俺達は警察署にたどり着く。

日が沈みかけているとはいえ、この時期ではまだ明るい。

俺の実体化までには、まだ時間がかかりそうだ。

 

「けれど白音、そんな力任せの戦い方じゃいつか限界がくるわよ。

 大方悪魔の駒の性質に頼ってるんでしょうけど、あなたの体格じゃ無理があるわ。

 さっきも話した気のコントロールの話は、そこも踏まえての話よ」

 

「……やはり、そうでしたか。実は私もそこが気がかりだったんです。

 小回りが利いても、リーチが足りない。セージ先輩を見れば一目瞭然ですけど」

 

「いや、流石にその比較対象はどうかと思うにゃん」

 

さっきまでふざけていたと思ったら、急に真面目な話を始める黒歌さん。

うーむ、この人振れ幅が大きいなぁ。相手が肉親だからかな。

等と思いつつ警察署の敷地内に入る。

 

「話には聞いていたけど、これは……」

 

「まるで空襲の後みたいね……」

 

敷地内の駐車場には所狭しとテントが並んでおり

誰かを探しているであろう喧騒が絶えない。

なるほど、確かに俺が小さい頃に見た戦争アニメのワンシーンさながらだ。

……ちょっと、気分が悪い。

 

掲示板。安否報告や、避難所間の情報共有を目的として設置されたそれを

俺は霊体として人混みを掻い潜りながら眺めてみる。

 

……次の瞬間、俺は我が目を疑った。

 

死亡者リストの中に森沢さんの名前が載っていた。

あのイッセーの初めての契約者だという、森沢さん。

俺が直接会ったわけではないが、話を聞く限りでは悪人ではない、はずだ。

まあ、悪魔に頼る時点で……って話もあるのだが。

 

次に行方不明者リスト。

海外からの留学生であるスーザン、そしてその交際相手である藤井。

この二人は俺も面識が若干だがある。虹川姉妹のライブの最中

ドラゴンアップルの害虫に襲われていたのを助けたことがある。

そしてミルたん。こればかりは何故だか単に消息不明ってだけではなかろうかと。

と言うかこういう場面でもミルたんで通るのかよ。

松田、元浜、桐生さんの名前は見つからない。

次に宮本……これもない。それから兜、如月など大那美(だいなみ)の連中の名前も見たが無かった。

そして……牧村。

 

……ない。

死亡者リストも合わせてみたが、名前は載っていなかった。

尤も、まだ安心はできないのだが。

 

しかし……見たくなかったものを見つけてしまった。

 

 

 兵 藤 夫 妻 の 名 前 で あ っ た

 

 

「……ば、馬鹿な!? これは……これはイッセーに何と言えばいいんだ!」

 

「……セージ先輩……」

 

「多分赤龍帝だからかしらね。禍の団は何らかの形で赤龍帝の実家を知っていた。

 だから、重点的に攻撃が行われ、この町ごと対象になったって見るべきかしら」

 

「何らかの……はっ!」

 

黒歌さんの発言に、俺は一つ心当たりがあった。

紫藤イリナ。イッセーの幼馴染であったが、今は禍の団に身をやつしているという。

彼女がいるのならば、確かに考え得る結果だ。

 

……何故、何故そんな簡単なことを見落としていたんだ!

 

 

――――

 

 

◇◆◇

 

 

――――

 

 

――駒王駅地下。

セージらの後から続く形でやって来たイッセーらもまた

この地下ホームの惨状を目の当たりにすることとなる。

 

……その前にセージらが乗り捨てた列車と事故を起こしているのだが。

 

「最後の列車の旅が事故で締めと言い、この所運が向いてないわね……」

 

「部長、それもなんですがこの有様はあまりにも異常です。

 何かの爆撃を受けたとしか思えませんわ」

 

「朱乃さん! それじゃ、駒王町が襲われたって事ですか!?」

 

朱乃の意見にイッセーが食いつく。

確かに出発する時と現在とでは風景がまるっきり違っているのだ。

爆撃があったかもしれないとする朱乃の意見は尤もである。

 

「まだわからないわ……とりあえず、外に出てみましょう……あら?」

 

「どうしたんすか? 部長」

 

「この魔法陣……使用された痕跡があるわね」

 

エレベーターが破壊されているため魔法陣で地上に戻ろうとした

リアスらだったが、ふとリアスが異変に気付く。

実際、この魔法陣は先刻セージらが移動のために使っているので、間違いではないのだが。

 

「誰か……まではわかりませんよね」

 

「追跡するには残留した魔力が少なすぎるわね。ここをこんなにした犯人か

 あるいは別の誰かか……ここで考えていても仕方がないわ。地上に出ましょう」

 

そして地上に出たリアスらを待っていたのは、やはり廃墟となった駒王町であった。

 

「な……なんてこと……!!」

 

「ひどい……」

 

「こ、こうしちゃいられねぇ! 松田ぁ! 元浜ぁ!! 桐生ぅ!!

 みんな、無事かぁ!?」

 

居てもたってもいられなくなったイッセーが叫ぶが、周囲からは何も聞こえない。

風切り音だけが虚しく響き渡るだけだ。

そんな中、木場が瓦礫に貼り付けられたメモを見つけたと同時に

一人の優男風の青年が、リアスの――と言うよりはアーシアの前にやって来る。

 

「よかった……やっと見つけたよ、アーシア・アルジェント。

 ここにいるって聞いた時、町がこのザマでもうダメかとも思っていたんだけど……」

 

「え……あ、あの……」

 

突然目の前に現れた男に、アーシアは困惑する。

その困惑は、次の男の行動によってさらに加速する。

男はアーシアの手を取り、甲に口づけをしたのだ。

 

「お、おい!? てめぇアーシアの一体何なんだよ!?」

 

「僕を忘れてしまったのかい? 僕はディオドラ・アスタロト。

 あの時、君の神器に命を救われた悪魔さ。

 それと……リアス・グレモリーだね? ここがこうなってしまった経緯について

 僕はある程度だけれども知っている。だからアーシアの安否も気がかりで慌ててこっちに来たんだ。

 結果として、会合をすっぽかす形になってしまったけれどね」

 

「そう言う事だったのね。それじゃあ、詳しく聞かせてくれないかしら。色々と」

 

「勿論だよ。僕はそのためと……アーシア。君を妻に迎えるために来たんだ」

 

その言葉に、その場にいる全員が衝撃を受けたのだった。

しかし、木場だけはディオドラに疑惑の目を向けていた。

何せ……

 

 

……彼の左手首には、カテレアがつけていたものと同じ、ミルトカイル石の腕輪があったのだから。




警察署のワンシーンは、シルバーブルーメの回を意識しています。
あれほど悲惨ではありませんがついに犠牲者が出てしまいました。
しかも、イッセーの関係者に。まあ、ミルたん以外一発キャラにしか見えないので
人員整理に引っかかってしまったという身も蓋もない実情。

兵藤夫妻については内閣総辞職ビーム受けたわけでも無いので
現時点ではまだ。遺体が見つからないだけって状態とも言えますが。

>黒歌がセージ見えるわけ
気の流れを操るというのならば、見えても不思議じゃないですよね。
魂だけの存在とは言え一部条件下では実体化できるわけですし。
白音が見えないのはただの修行不足。気のコントロールなんて
リアス眷属時代にやっていたとは到底思えませんし。

>虹川姉妹+α
三章部分で出番ラストにするつもりだったんですが
状況が状況なので急遽登場。霊体セージが普通に話せる数少ない相手ですし。
やってる事は慰霊ライブも兼ねているので現在大忙し。

>ディオドラ
……まあ、そう言う事です。
尤もこれ以前にアインスト化した眷属と遭遇しているので
彼自身がアインスト化するのは時間の問題。
聖女を悪魔におとしてさらにアインスト化させるという原作よりもある意味
ゲス度は増してます。


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Speculation and Trap

この位の長さの方がいいのかなと最近思っていたり。
舞台は駒王町に移りましたが、原作と異なりボロボロの駒王町。
今更ですが、もう原作は原型をとどめておりません。

パックマン。
公言通り見てきました。
……うん、これパックマンみたいなキャラだから出来た内容かも。
そしてこれはナムカプかプクゾーにエグゼイドが参戦する可能性が……(ないない
キャラ絵の問題とかで無理なのはわかってますが、某チャリ走のポッピーに
じわじわ来た身としては非常に複雑です。

因みに拙作に森羅が出てくる可能性は……何とも言えないです。
彼らもイレギュラー的とはいえアインストとは関わりがありますが。


「アーシア。君を妻に迎えるために来たんだ」

 

瓦礫の山と化した駒王駅の入り口にて、優男風の悪魔――ディオドラ・アスタロトは

突如としてアーシア・アルジェントにプロポーズをしたのだった。

ところが。

 

「ちょっと待てよ! あの会合でアーシアは

 お前のとこの眷属に襲われたんだぞ!?

 そうでなくったっててめぇみたいなイケメンにうちのアーシアをやるわけがないだろうが!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えないよ。

 どうして僕が妻に迎え入れるべき人を襲わなければならないんだい?」

 

食って掛かるイッセーだが、ディオドラは素知らぬ顔で追及をかわしている。

普段ならばいい加減な理由で一方的な言いがかりとなりがちなイッセーの追及だが

今回ばかりは事情が異なっていた。

 

「で、でも私、実際に襲われました……」

 

「……それに、根拠としては弱いかもしれないけれど。

 その左手の腕輪。それ、あのカテレア・レヴィアタンが着けていたものと同じに見えます。

 彼女の顛末、アスタロト家の次期当主でもあるあなたならばご存知でしょう?

 まさかとは思いますが……」

 

アーシアは実際にディオドラの眷属に襲われており。

木場はディオドラの左手に輝くミルトカイル石の腕輪を見逃しておらず。

それらも重なって、リアスらのディオドラに対する信用は決して高いものではなかった。

 

「……これは困ったね。どうやったら信じてもらえるのかな。

 僕はアーシア、君の身を案じてやって来たというのに……

 

 ……そうだ。僕も把握できていなくて申し訳ないのだけど

 あの時はきっと悪魔の駒の暴走による事故だったんだ。そうとしか考えられない。

 リアス。そもそも君のところだって『兵士(ポーン)』を満足に御せていないそうじゃないか」

 

言わずもがな、セージの事である。

しかし、自らの意思で反旗を翻しているセージと異なり、ディオドラの眷属は既に

アインストと化しており、事情が全く異なっているという差異はあるが。

 

「うっ……」

 

「……それを言われると痛いわね」

 

「……仰りたいことはわかりましたわ、ディオドラ様。

 それで、どうして大事な会合をすっぽかしてまでこちらに?

 あの時アーシアちゃんは会合の会場にいましたのに。

 そもそも、あの時アーシアちゃんは……」

 

今度は朱乃から追及が入る。

アーシアを心配しての行動ならば、時間軸上に矛盾が生じる。

そしてさらに、会合の時にアーシアはディオドラの眷属に襲われているのだ。

その事を知っている朱乃から詳しく追及が入りそうになるが

ディオドラはそれを遮るように話し始める。

 

「その事か。それはね、アーシアが世話になっているという家が心配で

 様子を見に来たのさ。尤も、僕が来た時には既に手遅れだったけどね……」

 

「世話になった家……ま、まさか!!

 お、おい! その家、表札に『兵藤』って書いてなかったか!?」

 

「わからないよ。それすらわからないほどにボロボロになっていたんだから。

 ただ、あの様子だと留守にでもしていない限り中にいた人は絶望的かもね……」

 

愕然とした様子でイッセーがうなだれる。

アーシアも大きなショックを受けており、へたり込んでしまっている。

 

「そ、そんな……!!」

 

「う、うそだ……嘘だろ……!?」

 

「ディオドラ! あなた、そんな事を喋ったらショックを受けるのは当たり前でしょう!?

 それにそこの彼、兵藤一誠はその家の住人なのよ!?」

 

「けれどリアス、この様子じゃ遅かれ早かれ判明してしまう。

 だったら今の内に前情報としてでも仕入れておくべきだと僕は思ったんだ。

 僕だって、アーシアが世話になったって家がこんなことになったのは誠に残念だよ」

 

遺憾の意を表するディオドラだが、その態度には妙な胡散臭さが見え隠れしていた。

 

「それより、会談で取り決められた『ゲート』の悪魔陣営の見張り役は今は僕らでね。

 その引継ぎを行いたいから、皆僕についてきてくれるかい?

 

 ……さっきの事があって、信用できないのはわかるけれど、仕事は仕事さ」

 

そう言って、ディオドラはリアス達を明後日の方向に連れて行こうとする。

会談の時、セージが指し示したゲートの位置とは方角が違う。

 

「ちょっと待ってディオドラ、方角が違うわ」

 

「あれ? 伝わってなかったっけ。『ゲートは自律移動が可能』だって。

 このところ慌ただしかったからね、無理もないか。

 それに合わせて、拠点も移動させたんだ。それに、町がこの有様じゃあ……」

 

「自律移動が可能って……それじゃ日本どころか

 世界中にアインストが出てきてもおかしくないって事じゃないか!」

 

ディオドラのとんでもない発言に、イッセーは怒りを露わにする。

しかしその怒りの矛先はどう考えても筋違いであり、これにはディオドラも当惑していた。

 

「僕に怒らないでくれないかな。文句を言うんならアインストや

 クロスゲートに文句を言ってくれよ。こっちだって相手が自律移動ができるって知ったのは

 つい最近、ギリシャのアポロン神からの情報を得てからなんだから」

 

「アポロンって……オリュンポスの!?

 神仏同盟(しんぶつどうめい)と言い、オリュンポスと言い、お節介が多いわね」

 

神仏同盟やオリュンポスの行動をお節介と評するリアスだが

これは全くの見当違い甚だしい意見であった。

そもそも日本に籍を置く神仏同盟にしてみれば、日本で事件が起きている以上

動くのが当たり前のことであるし、オリュンポス――ギリシャにしても

クロスゲートが自律移動可能である以上、ギリシャにクロスゲートが移転しないという

保証はどこにもないのだ。先手を打って行動するのは当然の事である。

なお、何故アポロンがクロスゲートについて詳しいのかは

オリュンポスの神々でさえもわからない事なのであるが。

 

そう話している間に、ディオドラの案内の元目的とする場所まで

リアスらはたどり着くことが出来た……のだが。

 

 

ディオドラに連れられてやってきたのは、プレハブ小屋。

入り口の横に掛けられた木札に筆で「曲津組(まがつぐみ)」と書かれている。

そう、超特捜課(ちょうとくそうか)とも全面的に対立している

日本全国を股に掛ける指定暴力団、曲津組である。

 

「こ、これって……ディオドラ、あなたまさか!?」

 

「ちょっと。勘違いしないでよ。僕らが人間界で活動するには

 契約者となる人間の力を借りるのが得策だってことくらい知っているだろう?

 それが偶々彼らだったってだけさ。

 それとも何かい? 君の所は正当な手続きを踏んで僕らを召喚した

 契約者を差別するっていうのかい? 僕の所では考えられないな、そんなことは。

 払うものさえ払ってくれれば、見合った見返りは返す。

 それが悪魔のルールだと、僕は思うんだけどね」

 

「それは……そうかもしれないけど……

 け、けれど! 元々はここは私の……」

 

「彼らの拠点はここだけじゃないんだ。君の管轄外の地域で契約して

 勢力を拡大している間にこんなことになったんだ。その件に関して僕に何か言うのは

 筋違いだよ。それに、今僕らで縄張り争いしている場合じゃないだろう。

 さ、まずは中に……」

 

曲津組が暴力団であることを知っているリアスはいい顔をしないが

ディオドラは悪魔のルールを盾にリアスらを曲津組の事務所の中に入れようとする。

そんな中、それに待ったをかけた者がいる。イッセーとギャスパー、そして……木場だ。

 

「部長! こんな奴の言う事なんか聞く必要ありませんよ!

 暴力団のアジトなんて入ったら何されるか! いくら人間のったって、暴力団は暴力団っすよ!

 こんなところに、アーシアも朱乃さんも、部長だって入れられませんよ!」

 

「ぼ、僕も嫌ですぅぅぅぅぅ!! 怖い人ばかりの場所なんて嫌ですぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「……今回ばかりは僕も彼らに賛成かな。まず警察署に行きましょう。

 そこに……」

 

「……警察はダメだよ。人間を巻き込んではいけないのは良く知っているだろう?

 それに、あそこには神仏同盟が結界を張ってしまっている。僕達悪魔は入れない」

 

木場の発言を遮るようにディオドラがまくし立ててくる。

人間を巻き込んではいけない、三大勢力の間に交わされた暗黙の了解……らしいのだが

当然、そんなものが律儀に守られているはずもないどころか

むしろ逆に、人間を搾取するのが三大勢力のやり方であると疑えるほどだ。

その行いに対し、神仏同盟は遺憾の意を表明しているのは過日行われた会議でも証明されている。

 

……そして、ここでディオドラは嘘をついた。

警察署に結界が張られていると言う事だ。

現にセージらが警察署にたどり着いているが、その事はまだ木場以外誰も知らない。

伝える前に、ディオドラにここまで連れてこられてしまったからだ。

 

「……わかったわ。けれど、私達ももう少し町の様子を知りたいの。

 あなたと行動を共にするにしても、そうでないにしても町中をもう少し回らせてちょうだい。

 

 ……それに、彼らが『禍の団(カオス・ブリゲート)』と通じていないって保証もないわ。

 現に会談の時に、彼らはこの町で暴動を起こしているのよ。そういう意味もあって

 私たちはこの曲津組ってのを信用できないのよ」

 

「……わかったよ。けれどこの組織は規模が大きいから、末端まで気にかけることが出来ないんだ。

 それでそうした事件が起きてしまったかもしれないね……

 それと、アーシアについてだけどとりあえずは君に預けるよ。信用されてないみたいだしね。

 ただ、外には禍の団の構成員やアインストがうろついている。

 出歩くんならくれぐれも気を付けてくれよ? ここで君らを失いたくはないからね」

 

どこか胡散臭さを残しながらも、ディオドラはすんなりと引き下がった。

曲津組と関係していることが却ってリアスらの不興を買ってしまったため

強引に押し切るよりは一先ず引く事を選んだようである。

 

その胡散臭さは、警戒心を抱かせるには十分であった。

 

(結界が張られている? まぁ確かに、アインストや禍の団を防ぐならば

 それくらいはやらなければならないだろう。けれど、だとすればセージ君らは

 無事にたどり着けたのか? 調べようにも使い魔は失ってしまったからね……)

 

尤も、警察署へ行くのもディオドラが嘘をついていると言う事を証明しなければならない

文字通りの悪魔の証明なのであるが。

その証拠に、街に繰り出すリアスらを見送るディオドラの口元からは

不敵な笑みが零れ落ちていた――

 

――――

 

日が沈み、セージが実体を得たと同時に彼らの活動は本格化する。

とは言ってもその大半は情報収集である。

時勢は混乱しているが、だからこそより多くの情報を集める必要があるのだ。

 

曰く、テロリストグループが声明を発表した。

曰く、日本政府はこの事態に対し非常事態宣言を発表。

 

……曰く、架空の存在であったはずの悪魔や天使、堕天使の存在が明るみに出てしまった……

 

……など、枚挙に暇がない。

 

「……セージ先輩。事態は思ったよりも深刻ですよ、これ」

 

「それなんだがな白音さん。この辺りはまだ警察のお膝元だからか

 秩序とかが保たれているだけの話らしい。暴力団がこの騒ぎに乗じて

 勢力を拡大して、一部地域をさも自分の統治下のように振る舞っているそうだ」

 

「新世紀になってから10年ちょっとしかたってないのにもう世紀末じみてるにゃん」

 

そして、彼らの情報収集の行動は、警察に身を寄せている

神仏同盟の目にもとまることとなるのだった。

 

「ん? お前は確か、会談の時の……」

 

天道寛(てんどうひろ)……じゃなくて大日如来様!

 ちょうどよかった、あなたと天照様にお話ししたいことがあるんです!」

 

「お前が話したいと言う事は、三大勢力――悪魔絡みだな。

 ちょっと待て。今天照もこっちに呼ぶ。

 それまでは向こうのテントで休んでおけ。俺も今しがた炊き出しが終わったところだ。

 カレーだが……お前はともかく、後ろのお前達……猫魈(ねこしょう)だな?

 玉ねぎを使っているが、大丈夫か?」

 

「……大丈夫です。生はちょっと……ですけど調理してあるものなら平気です」

 

「同じくにゃん。それに、私くらいの妖力なら食べ物の消化くらいわけないにゃん」

 

料理評論家でもある天道寛は、料理の腕にも自信があった。

そんな彼が拵えたカレー。それを前に健啖で通っている白音も

テンションが心なしか上がっていた。欲望に忠実な性分の黒歌も

御馳走を前にテンションが高い。

 

「何があったかは後で聞く。今はカレーでも食べて、英気を養っておけ」

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

――――

 

食事を前にいただきます、と言ったとたんセージと白音が頭痛に襲われたが

いつもの事、と諦めてカレーを口に運んでいく。それはとても美味であったが

猫舌の姉妹には少々熱かったようでもある。

 

「……はふっ。部長のカレーよりもおいしいです」

 

「男で料理がうまいとかとんでもない優良物件だにゃん!

 やっぱり男は強いだけじゃダメにゃん。その強さが子供に向いたりするようだったら

 子孫を残す意味なんて全くなくなってしまうにゃん。

 ある程度の優しさも必要だにゃん……お兄さんはその点ちょっと甘いにゃん。

 このカレー位辛くても問題ないにゃん」

 

「……アドバイスどうも。何のアドバイスかわかりませんが」

 

セージも実体を維持している以上、食欲は普通に発生する。

霊体であるならば食べ物を食べる必要は無いが、それを続けていれば自分が本当に死んだと

錯覚しかねないためにこうして時折食事をとっている。

 

「飯の不味くなる話題ですまないが、病院はどうなっているんだろうな……」

 

「……一応、無事らしいです。奇跡的に被害はほとんどなく

 まるで神様に守られていたんじゃないかって位だそうです」

 

「案外、本当に神様が守ってたかもしれないにゃん。

 現に私らは今仏様の料理を食べているわけだにゃん」

 

白音が仕入れた情報によれば、駒王総合病院はテロの被害が最小限で済み

元が病院であるためか現在は避難所としても機能しているそうだ。

今後を考えれば、物資の輸送を滞りなく行えるようにし

一刻も早い復旧が必要になる……そうセージは話を聞いて考えていた。

 

「とりあえず、これを食べたら天照様と大日如来様に

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の顛末についてと、君らの身柄についてを相談したい。

 幸い日本古来の妖怪種族だから、悪いようには扱われないとは思うけど……」

 

「……セージ先輩、身体の方は……」

 

「まずイッセーとの共有を解除するなりしないと、どうにもならない。

 今は病院が無事だってわかっただけでも御の字だよ」

 

姉妹の問題は解決の糸口が見えてきているが、セージの問題はまだ最大の壁があった。

……兵藤一誠の存在である。彼の悪魔の駒を摘出しない限りは

セージが悪魔から人間に戻ることが出来ず、人間であるセージの身体に戻ることが出来ないのだ。

水を飲みながら、セージはこれから自分がなすべきことを考えていた。

 

それは自分の身体を取り戻す事でもあるのだが、その方法として

神仏同盟を頼ることを本格的に決意した瞬間でもあった。

 

「ここに来る前にグレモリー部長らと事を構えたくないと言ったが

 俺の目的の都合上、イッセーとは事を構えなければならないかもしれない。

 そしてそれは、多分……

 

 ……イッセーを、殺すことになるだろうな」

 

「……!!」

 

「それがお兄さんの結論ね。後悔は無いわけね?」

 

黒歌の問いかけに、セージは黙って頷く。

白音も、セージの発した言葉に衝撃を受けている。

そんなに長い間ではない付き合いで、かつ険悪になりつつあったとは言え

同じ部の仲間でもあったイッセーを殺すというセージの発言は

それだけの衝撃だったのだ。

 

「だが、これは最後の手段だ。町がこうなっている以上

 俺は家族の不安の種だけでも取り除きたい。

 その為の最後の手段として……決断しなきゃならない時が来たってだけだろうな」

 

「……私は協力するわ。これでお兄さんとは貸し借り無し。

 猫は三年の恩を三日で忘れるとか言うけど、別にそういうんじゃないから。

 貸し借り作るのが面倒なだけよ」

 

「……私も協力します。バカは死んでも治らない……

 二人のうちどっちを取るというのなら、セージ先輩を取ります」

 

「ありがとう。だけど、くどいようだけど最後の手段だから。

 俺だって、好き好んで殺人を手段として用いたくはない。

 ……ほかに方法があるなら、それを使うさ。

 

 さて。そろそろ大日如来様の所に行こうか」

 

予め指示されていた場所――警察署の一室に入ると

そこには大日如来と同盟を結んだ天照大神、そして赤い仮面に赤いスーツを纏った男に

超特捜課(ちょうとくそうか)のテリー(やなぎ)警視が既に着席して待機していた。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「いや、我々も今来たところだ。それと、そこの仮面の男はギリシャ・オリュンポスの

 太陽の神、アポロンだ。今は彼らとも共同でゲートの情報収集を行っている」

 

「アポロンだ、よろしく頼む」

 

「宮本成二です、こちらこそよろしくお願いします」

 

少々ぶっきらぼうな態度ながらもアポロンとセージは握手を交わし

ここに新たな協力者を迎え、変わり果てた駒王町で人々の自由と平和を守るために

神仏の対話に人類を招き、今後の対策を練るための会議が行われようとしていた。




ディオドラは一体何を企んでいるというんだ(棒
小猫が仕入れた情報については番外編DX5. に詳しいです(露骨な宣伝

>曲津組
これだけ町が混乱していたらそれに乗じて色々やる奴いるよね……
そんなわけで駒王町の一部地域は実質彼らが支配して
その曲津組と契約した悪魔がディオドラと繋がっていれば
必然的に……ってなわけでした。

傍から見たらリアスとディオドラの縄張り争いにしか見えませんが
尖兵にされているのは人間。たまったもんじゃありませんよね。
彼らに関しては自業自得の部分もありますが。
こうして悪魔の力に頼る輩も存在しているというわけで。

>セージ
いよいよイッセー殺害も視野に入れるようになりましたが……さて。
と言うかこの春まで普通の(?)高校生だったのに
今やこんな決断を迫られる状況にまで追い詰められるなんて。

>アポロン
赤い仮面の男。ちょっとライザーと被り気味な赤スーツ。
けれどあんなチンピラホストではないです。

・迷惑な男なのだ
・某特異点のペルソナ
・予知能力を持った長命種の超人

この辺色々造詣に混じってます。


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Soul76. 超特捜課の辞令

おお きりやよ!
しんでしまうとは なさけない!
そなたにもういちど きかいを(ry

いやマジでくださいお願いします何でもしまうた

……でも公式が煽るなよ……ファンが言うならまだしもさぁ。
とりあえずクリスマスにレーザー関係のおもちゃをもらった子供たちに合掌。
サソードとかでも通った道なんですけどね。

うち? 甥っ子にガルマザクのプラモをプレゼントしましたよ。
喜んでくれるといいなぁ。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

荒れ果てた駒王町で、俺達は虹川(にじかわ)姉妹や海道(かいどう)さんらと再会し

こうなった経緯を聞いた。そしてその後警察署に向かい

数多くの死者、行方不明者がいることを知ることとなる。

 

そして、警察署には大日如来様もお見えになった。

俺達は、冥界で知りえたことを話す決心を固めた――

 

――残された時間は、あと23日――

 

――――

 

駒王警察署の一室。

敷地内で大日如来様を見かけた俺は、伝えなければならないことを伝えようとしたら

ここに来るように言われ、今こうしてやって来たのだ。

 

この部屋にいるのは大日如来様の他に同じく神仏同盟(しんぶつどうめい)の天照様。

そして超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)――超特捜課(ちょうとくそうか)のテリー(やなぎ)課長。

さらにはなんと、ギリシャはオリュンポスのアポロン様まで来られていたのだ。

 

こうして見ると、やはり三大勢力――悪魔に対して思うところがあるのは

決して少なくないのだろうか。あるいは、ただ単にゲートやアインスト対策で

集まっているだけかもしれないけれど。

 

俺はアポロン様と握手を交わした後、用意された席に着席する。

その隣には白音さんと黒歌さんもいる。

彼女たちの身請けに関して、天照様に相談したいのだ。

 

「会談の時以来ですね、ご健勝のようで何よりです」

 

「いえ……しかし、その前に一つ確認したいことがあります。

 三大勢力が……天使、悪魔、堕天使の存在が公になったというのは本当ですか?」

 

俺の質問に対し、柳さんが答えてくれる。

てっきり「俺に質問するな」とか言われるかと思ったがそんなことは無かった。

 

……はて。なんでそんなことを思ったんだろう。

 

「事実だ。幸いにして超特捜課と言う部署が存在していたおかげで

 駒王町に関して言えばそれによる混乱はそれほど大きくはなかった。

 だが、他の都道府県ともなれば話は別だ。政府は今その対応に追われている。

 

 ……冗談のような話かもしれないが、対三大勢力法案と言う物まで立案されているらしい」

 

「もう少し冥界に残っていれば、悪魔側の状況を掴むことは出来たかもしれませんが……

 生憎と、こちらも急いでこっちに向かっていたもので」

 

「タイミングの悪い話だにゃん」

 

対三大勢力法案……まぁ、この国がやりそうなことだ。

俺にはまだ選挙権は無いが、それなりに政治の情報は得ているつもりだ。

と言うか時事問題は普通にテストに出るし。最近は最近で捨てられた新聞を漁るという

変な趣味が出来てしまったおかげで色々そういう情報を仕入れるようになってしまったが。

 

「あの時アザゼル総督は『人間の政治には関与しない』と言っていましたが……

 彼らが関与しなくとも、こうして暴露されてしまっては同じことですね……

 アポロン様、そちらでも今回の事件で混乱が起きているかと思いますが……」

 

「あのフューラーと言う男、どこかで……いや、何でもない。

 確かに我々ギリシャも、人々に混乱が生じているようだ。

 特に日本と違って近隣では彼らを崇めている人々は少なくない。

 与える影響も無視できるものでは無い……と言うわけで、今は主要神三柱――

 ゼウス、ポセイドン、ハーデスが総出で混乱を解消しようとしているが……

 

 恥ずかしい話だが、兄弟仲がすこぶる悪くてな。あまり効果を発揮していない。

 アフロディーテやペルセポネーらの尽力で、メンタル面からのケアで

 どうにか成果を上げてはいるが……我々の所でもこうなのだ。

 アメリカ辺りはとんでもないことになっている恐れがあるな」

 

「実際、アメリカでとんでもない混乱が起きて世界恐慌の恐れが生じている。

 先ほど俺は駒王町に関しては混乱は大きくないとは言ったが

 恐慌の影響による混乱は大なり小なり起きている……それに」

 

「実際に起きたテロ、ですか」

 

うわあ……こうなるであろう事を考えれば、秘密裏に行動していた

グレモリー部長らの行動はある意味正しかったのかもしれない。

だがそれは、絶対にバレないことが前提だ。現にこうしてバレている。

バレてしまえば、後は大混乱間違いなしだ。そしてそのタイミングでテロ……

いや、テロが起きた後にバラしたのか?

いずれにせよ、今や大混乱の渦中に全世界がいることになったわけだ。

それを引き起こしたのは三大勢力の存在を明るみにした奴だが

そうなるに至ったのは三大勢力の日頃の行いが悪いせいだろうと思う。

 

「彼らの標的は三大勢力と言ってはいるが、テロと言う行為に移した時点で

 こうして標的以外にも被害が及んでいる。このお陰で今駒王町には自衛隊が駐屯している。

 まさか自衛隊も、神仏と共同作戦を行うことになるとは思ってもみなかっただろうな」

 

「……結局、彼ら――三大勢力の思惑通りにはいかなかったと言う事だ」

 

大日如来様が肩を竦めて呆れたようにつぶやく。

和平だなんだと言っても、結局こういう自分たちの敵から身を護るための方便に過ぎなかった。

そうおっしゃりたいのだろうか。いずれにせよ、巻き込まれる側はたまったものじゃない。

 

「それで少年。俺達に話があるんだったな?」

 

「そうです。テロ対策に追われているときに言う事でもないかもしれませんが……

 

 ……悪魔の駒(イーヴィルピース)の摘出方法、及び破壊方法が分かったんです」

 

その言葉に、神仏同盟のお二方が驚きの表情を示す。

アポロン様も仮面で表情は見えないが、感嘆の声を漏らしていた。

唯一、悪魔と言う存在にそこまで明るくない柳警視だけが

話についていけていないようだったので、解説もかねて俺は一連の事を話すことにした。

 

 

悪魔の駒が人間や妖怪、その他種族に及ぼす影響。

 

それによって齎される悪魔転生システムと言う、あらゆる事柄の元凶ともいえるシステム。

 

それによって運命を狂わされた俺と、黒歌さん、白音さんの姉妹。

 

そんな悪魔以外にとっては負の遺産ともいえる悪魔の駒を破壊する方法を見つけ出した事。

 

 

それらの事を、俺達はこの場で打ち明けたのだ。

転生悪魔を数多く輩出しているこの日本に籍を置く神仏同盟のトップがいるこの場で。

 

 

「……驚いたな。まさかそんな方法があったとは」

 

「これで妖怪勢力の皆様にも吉報をお届けできます!

 不本意で転生させられた方々につきましては、我々が身柄を保護できるよう

 全力でサポートさせていただきます。摘出についても

 大国主命や少彦名命を当たらせましょう。流石にそちらの黒猫の方の方法を

 何度もやるわけにはまいりませんからね」

 

「宜しくお願いします。そのお二方にお力添えを頂けるのであれば心強いです」

 

大国主様だって!? それって大黒様じゃないか!

俺はただ、重い腰を上げた神仏同盟の凄さに腰を抜かしそうだった。

それと同時に、ここにいる皆がとても頼もしく思えた。

同じ人間、神器(セイクリッド・ギア)持ちであり悪魔や堕天使をことごとく返り討ちにし

超特捜課を率いて三大勢力の悪事と戦うテリー柳警視。

三大勢力と同じ超常の存在ながらもこの日本とそこに住む人々を護るために

信仰を失いつつも尽力されている神仏同盟の方々。

俺は……感激で心が震えていた。

 

「では、こちらからは薬師如来を」

 

「我々ギリシャではアスクレピオスを。悪魔の駒による転生は、他人事ではないのでな」

 

そして、海を越えてギリシャからも協力者が来てくれた。

まるで反三大勢力同盟みたいなことになっているが

三大勢力が横暴を繰り返すからこんなことになっているのだろうと思う。

神仏同盟のお二方とアポロン様はがっちりと握手を交わしている。

太陽に由来する者同士、波長が合っているのだろうか。

 

……これだけの力が揃えば、俺の事もどうにかできるんじゃないかって

錯覚できてしまいそうだ。物理的に不可能なのはわかっているのに。

まず兵藤をどうにかしない事にはどうにもならんと言うのに。

 

「盛り上がっているところすまないが、俺からいいか?

 明日にも支援物資がこちらに来るのだが、曲津組(まがつぐみ)の連中がそれを狙っているらしくてな。

 情けない話で申し訳ないのだが……」

 

「お釈迦様は言っていた……善を成すのを急げ、とな。

 衣食住足りて礼節を知るという言葉もある。その支援物資が正しく行き渡るように

 俺達で援護すればいいのだな」

 

「そう言う事なら、俺にも手伝わせてください。

 こういう時こそ、誰かの役に立ちたい……いや、立つべきだと思うんです。

 助け合ってこその人間だと思うんです」

 

少々アレンジを加えているが、これは面ドライバーシリーズの受け売りだ。

「面ドライバーは助け合いでしょ」と言う名言があった。

それが言いたいがためにカッコつけているわけでもないつもりだが

俺は嘘はついていない……つもりだ。

 

「……少し前なら、首を縦には振らなかったが今は蒼穹会(そうきゅうかい)にも

 お前と同じくらいの年の奴がいるからな……年齢を理由に断れはしないし

 人手不足に神器持ちともなれば迎え入れない理由が無い。

 

 ……宮本成二。今日付けで駒王警察署超常事件特命捜査課改め

 警視庁超常事件特命捜査課課長権限で、お前を超特捜課特別協力者として歓迎する。

 この辞令、受けてもらえるか?」

 

「えっ……ほ、本当ですか!?」

 

「氷上からの口添えもあってな。駒王番長がまさかこうして半分幽霊になっているとは

 氷上も思わなかったらしいがな。それと、特別協力者と言う事で

 警察の指示系統には完全には属さない形となる、つまり自由に動けるが

 それだけ与えられる情報にも制限が加わる事だけは理解してくれ」

 

驚いた。まさか超特捜課に迎えられることになるとは思わなかった。

しかし半分幽霊とはまた言いえて妙な表現を。

グレモリー部長の下は去るつもりでいたのだから、このオファーを受けない道理はない。

 

「……セージ先輩」

 

「白音さん。俺はやはり人間だ。悪魔にはなれそうもない。

 今更かもしれないが、俺はグレモリー部長の下にいるよりも

 人間社会にいる方が性に合っているのだと思う。

 俺は兵藤と違ってそれほどハーレムに興味はないからな。

 悪魔になった事の魅力など、俺にはこれっぽっちも感じられないのだから」

 

「それほどって事は……少しはあるのかにゃん?」

 

「ノーコメントだ、黒歌さん。

 ……柳課長。宮本成二、謹んでその辞令をお受けいたします」

 

……その日、俺はオカルト研究部の歩藤誠二から

警視庁超特捜課の特別協力者宮本成二になったのだった。

 

――――

 

その後も夜が更けるまで色々な情報の交換を行った。

中でもアインストの情報やドラゴンアップルの害虫についての情報は

神仏同盟や超特捜課にとってとても有益なものであった。

 

……なぜか、アポロン様はアインストを知っていたが。

 

「冥界ではそんな危険なものを栽培していたのか。

 ドラゴンの餌ともなればそう言うものかもしれないが

 それでこちらに危害を加えているとなれば、一体何を考えているんだという話になるな」

 

「……その怪物の事は俺にも見えなかった。いや、アインストとクロスゲートの方に

 目が行ってしまっていたというべきか。彼らもまた、アインスト同様に

 別の世界からの侵略者……インベス、とでも呼ぶべきか」

 

『インベス……か。どこかで聞いた気がするが……多分思い違いだろう』

 

インベスと言う単語にフリッケンが反応するが

それにしてもアポロン様は底が知れない。やはり神と言うべきか。

そんな神様に喧嘩売ってるんだから、ある意味三大勢力ってすごいと思う。

全然感心できないけど。

 

「ドラゴンアップルの害虫、ってのも言いにくいですからね。

 ただ俺の調べによりますと、小動物の妖怪のはぐれ悪魔から変異した存在もいるんですが

 彼らもインベスのカテゴリに入ってしまうんですか?」

 

「難しい所だな。乱暴に一つのカテゴリにはめてしまっていいのかどうかはわからないが

 行動パターンが同一のものになっている以上、同じカテゴリに入ってしまうだろう。

 ドラゴンアップルを食し、人や他生物に危害を加える存在になっていると言う

 行動パターンが完全に似通っている。偶然かどうかまでは俺もわからないが」

 

「一ついいか? そのドラゴンアップルなんだが、本当に冥界でしか生えないものなのか?

 2~3か月前から、この駒王町で謎の植物が繁殖しているという情報がある。

 これがその植物なんだが……」

 

「……これ、ドラゴンアップルにゃん!」

 

柳課長が出した資料――何かの植物に寄生された人間――を見た黒歌さんが驚いている。

情報には聞いていたが、確かに何やら奇妙な果実のような代物だ。

そして、それ以上にこれって人間に寄生したりするのか!?

 

……よ、よくこんなものを生育しようって気になれたな!

 

「これは基本的にはドラゴンの餌にゃんだけど、他の生物が食べることもできるにゃん。

 ……クソ不味いらしいけど。でも、食べたらとても恐ろしい事が起こると聞いたにゃん」

 

黒歌さんは神妙な表情で、ドラゴンアップルについて語り始める。

その表情は、普段のどこかおちゃらけた部分のある彼女とは違い

真剣な時の黒歌さんの表情だ。

 

……いくら普段が作ってるとは言え、まるで多重人格だ。

 

「……姉様、食べたのですか?」

 

「まさか。食べにゃいわよ、あんなの。それに食べたら……

 

 ……ドラゴンアップルの害虫――インベス、だっけ。それになるわよ。

 白音。あんたが大食いだってのは知ってるけど、これだけは絶対に食べちゃダメだからね?」

 

『ドラゴンはそのインベスになる成分を消化できるから食糧として機能させられる――

 そう見たほうがよさそうだな。俺も食べたいとは思わないが』

 

さりげなく、黒歌さんがとんでもない事を言ってのけた。

ドラゴンアップルを食べたドラゴン以外の生物は、インベスに変異する。

じゃあ、もしかして小動物の妖怪のはぐれ悪魔って……ドラゴンアップルを食ったのか?

そこまではわからないが……

 

それもあってか、健啖家の白音さんに黒歌さんが念を押している。

まぁ、傍から見たらまずそうなんだけど、それでも誤飲の事例があるって事は

興味本位で喰った奴がいるのか、それとも受粉みたいに自分を食わせるような何かが

ドラゴンアップルの実から発せられているのか?

 

「アインストに加えて、ドラゴンアップルの害虫――インベス、ですか。

 本当にこの日本はどうなってしまうのでしょう……」

 

「アインストはクロスゲートを伝ってやって来ているのは俺の調べで分かっているんだが

 インベスがどうやって冥界からドラゴンアップルを持ち込んだのかは俺にも分からない」

 

天照様の言う通りだ。

禍の団(カオス・ブリゲート)、アインスト、インベス。そして三大勢力。

これだけの脅威にさらされている現状を顧みると、確かに超特捜課が立ち上げられたり

神仏同盟が立ち上がったりするのもうなずける。

ここに存在する脅威に対し、改めて立ち向かう事を決意するのだった。

 

……そしてここで新たな問題が発生する。と言うより俺にとってはこれこそが大事だ。

俺の身体だ。やはり兵藤から悪魔の駒を抜き取るより他仕方ないのか。

それをやれば恐らく奴は死ぬが……チッ。松田や元浜、桐生さんに何と言えばいいのか。

 

人間・兵藤一誠は既に死んでいるからある意味ではあるべき姿に戻すだけなんだがな。

それに……兵藤の親御さんはもう……

そういう意味では、兵藤は生かすべきなのか、それとも……

いや、今その事はやめよう。

なるようにしかならないんだ。俺の身体に関しては。

 

そう思っていると、署員の人が慌てて駆け込んできた。

 

「どうした?」

 

「警視! 避難所で騒動が……!」

 

――――

 

夜だというのが幸いした。俺と白音さん、柳課長は署員の人に連れられて

騒動が起きているという避難所の一角にたどり着いた。

話によると、騒動の中心には駒王学園の生徒らしき人物がいると言う事なので

万が一を考え、黒歌さんは天照様らと共に会議場に待機してもらっている。

こっちにまではぐれ悪魔だなんだと言う騒動は持ち込みたくない。

 

「どういうことだよ!? みんな……みんな死んじまってるなんて!?

 おい、誰か説明しろよ、おいっ!!」

 

「何の騒ぎだ! 時間を考えろ!」

 

声の主は……やはり兵藤だった。

もしかしてと思ったが、本当にもしかしやがったか。

しかしこのタイミングか……まずいな。

 

「うるせぇ! それよりどういう事なんだよ、父さんに母さんが死んだって……

 ちゃんと調べたのかよ!?」

 

「俺に質問するなぁ! それ以前に自分の名前を名乗れ!

 いきなり父だ母だと言われても誰の事かわからんぞ!」

 

柳課長の尤もな指摘が入る。ヒートアップしているのを見かねてか

署員の一人が柳課長に耳打ちをしている。

 

「警視。彼は駒王学園でも有名な札付きのワル……兵藤一誠です。

 まぁ、ワルって言っても喧嘩とかではなく覗きやセクハラと言った

 そういった方面でのワルなんですがね……」

 

「そうか……おい兵藤。こっちも情勢が落ち着いた頃合いを見計らって

 町の調査に乗り出しているが……その時にお前の家が完全に崩壊しているのが見つかった。

 そして、そこから死体は発見されていない」

 

「だったら! まだ生きてるかもしれねぇだろ!!」

 

「大黒柱の一本も残っていない状態の瓦礫の山だぞ!?

 とにかく今自衛隊が町全体で捜索活動を行っている。だが変な期待は持つな」

 

食って掛かる兵藤を、柳課長はそつなくあしらっている。

まあ、兵藤家だけでなく色々な場所でこうなっていることを考えれば

兵藤の錯乱する気持ちもそれなりに理解はできる。

俺だって、自分の家族や姉さんが同じ状況だったらって考えると……

 

……決して、兵藤の事は言えない。

 

「小猫! あなた今までどこに行っていたの!?

 それにセージも! 私は冥界への帰省に同行しないことは許可したけれど

 帰省後に別行動を取る事まで許可した覚えはないわ!」

 

「そこは成り行きでしてな。それにこっちだって、あと3週間とちょっとなんだ。

 それに、町がこんな状態ではなお更早く戻りたい。

 まあ、町がこんな状態だって知ったのはこっちに戻ってすぐですがね」

 

案の定、グレモリー部長に詰め寄られる。

実際、グレモリー部長の言う事には一応の理はある。

向こうでの出来事は確かに約束したが、こっちに戻ってからの事は

一切触れていなかったからだ。しまったな。

 

「……揉め事がしたいなら他所へ行け。ここは避難所でもあるんだ。

 ここに逃げ込んだ人々は不安な日々を過ごしている。

 その不安をあおるようなら、お前たちには出ていって貰おうか」

 

「ふざけんな! だったら行こうぜ小猫ちゃん!

 俺達だけでもこの町を……」

 

「嫌です」

 

兵藤の勧誘に、白音さんが即答で返した。

そのあまりの即答っぷりに俺も何も言えなかった。

 

「……え?」

 

「嫌です、って言ったんです。変態。

 祐斗先輩やアーシア先輩はともかく、今の部長達よりはセージ先輩の方が

 よっぽど信用できます」

 

「……セージ。あなた小猫に何か吹き込んだわね?」

 

「何も。と言うより、へんてこなものを使って

 洗脳紛いの事をしているのはそっちでしょうが」

 

白音さんの発言に対し、苛立ちをぶつけるように

グレモリー部長が俺に話を振って来る。だがその煽り方たるや稚拙で

呆れてものも言えない。なんで俺が白音さんに何かを吹き込まなきゃいけないんだ。

洗脳しているのはそっちだろうが。

 

「な……わ、私は……」

 

「おっと自由意思での契約だなどとは言わせませんよ?

 俺や兵藤、アーシアさんはもとより心身喪失状態だったと推測される

 祐斗や白音さんだって、心が弱ったところに付け込めばこういう結果にもなる。

 ギャスパーや姫島先輩は知りませんがね」

 

「ゆ、祐斗や小猫には新しい生命を謳歌してもらおうと思って……」

 

「その結果、祐斗はともかく白音さんは唯一の肉親と引き離されたわけですが何か?」

 

「く、黒歌ははぐれ悪魔よ! 主を殺した危険な存在を……」

 

「嘘つき。やはり部長は、私に嘘をついていたんですね」

 

俺達の証言に、グレモリー部長は徐々に追い詰められるように冷や汗をかき始めている。

だが今は、そんなことをしている場合でもない気がする。

 

「……帰るわよ、みんな。セージ、小猫を頼むわね……」

 

「部長! けれど……!」

 

「……人間もだけど、セージや小猫と事を構えるのは得策じゃないわ。

 ましてこんなところで戦うなんて、禍の団の思うつぼだわ」

 

「くっ……セージ、てめぇ……!」

 

「さっき柳課長が言ったろ。ここは避難所だ、喧嘩をする場所じゃない、と。

 それとグレモリー部長。俺は今日から超特捜課の所属になりましたので。

 よって今後、俺はあなたの命令ではなく警察の指示に従って善良な一市民として

 社会模範に恥じない振る舞いをしていきたい所存ですので、そこのところをよろしく」

 

「……そう。わかったわ。けれどあなたはイッセーと……」

 

その言葉を聞いた次の瞬間、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)……ではなく

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)の方をグレモリー部長に向けていた。

 

「その態度が続くようだから、俺はあなたを見限ったと言う事をお忘れなく。

 赤龍帝神話など、もう飾りでしかないと言う事がまだわかりませんか。

 ……兵藤。場合によってはお前も人間に戻すからな」

 

『……お前を殺して、悪魔の駒を抜き取る算段なのだろうな。相棒』

 

『そう言う事だ。そして俺にはお前を屠るだけの力がある。それを忘れるな』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)越しに、ドライグとフリッケンも睨みあっている。

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)。以前は俺の勝ちだが、今度も俺が勝たせてもらうつもりだ。

 

すごすごと引き下がるグレモリー部長らの背中を見送る最中

祐斗とアーシアさんが俺に話しかけてきた。

祐斗はともかく、アーシアさんは意外だったが。

 

「セージ君。実は困ったことになっている。

 僕たちはディオドラ・アスタロトに嵌められたかもしれない。

 彼の狙いはアーシアさんだ。何とか彼女を守りたいが……」

 

「……チッ。世話の焼ける話だ。わかった、スパイの真似事をさせるようで悪いが

 何かあったら俺に教えてくれ」

 

「それとセージさん、ゼノヴィアさんや慧介(けいすけ)さん達は……」

 

「その質問には俺が答える。蒼穹会の伊草(いくさ)家の人たちは無事だ。

 寧ろ、彼らにも助けられている。心配する必要は無い」

 

「そうですか! ああ、よかった……」

 

一通りの情報交換を終える頃に、遠くから兵藤の声が聞こえる。

特にアーシアさんはこっちで保護したいところだが、それは却ってマズいと

祐斗にも言われたため、この場は二人を見送ることにした。




セージ、超特捜課入りを果たすの巻でした。

>インベス
まさかのアポロン様命名。
知らない(本人談)だけど絶対知ってるだろ!? とか言われても
知らない存じないと返されそうなのだ。全く迷惑な男なのだ。
ドラゴンアップル=ヘルヘイムの果実、ですからね。この世界では。

>ドラゴンアップル
番外編でもちらりとその存在が人間界にも来ていることが示唆されてましたが
ここに来てそのものだと判明。そして何故か味を知っている黒歌。
勿論食べてないので噂レベルの話ですが>まずい

>リアス
やってる事は立派なんだろうよ、けれど……ねぇ。
この世界では残念なことになってます、今更ですが。
特に黒歌の件を疑いもせずに真実を小猫に伝えてない時点でもうダメダメ。
小猫に限らず真面目に真実を明かそうとも積極的にトラウマ解消しようとしない時点で
所謂「話を聞かない教師」と同じレッテルを張られると思うんです。
つまり役立たず。

>イッセー
感想でも触れられましたが、もう何も言えねぇ。
負の面を見ればこうもなりましょうというか
警察にも知れ渡っている(寧ろ知れ渡らない方がおかしい)
札付きのワル認定されちゃってます。もう逮捕しろよ。
のこのこ警察にやって来たことだし。

……でも両親の件だけは同情……やっぱできんわ。
恐らく改築が原作通りに行われていたとしても襲撃は起きたでしょう。


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Prelude of "knight of holy lance"

あけまして……と言いたいところですが
敢えて寒中見舞いと申し上げます。
理由? 活動報告をご参照ください。一応……ですが。

ペットロスも意外と後を引かず(2017/01/01現在)
こうして新年早々投稿が出来ました。

間もなく二周年。
今年も宜しくお願い申し上げます。


「その命、神に返しなさい!」

 

崩壊した駒王町の一角で、小競り合いが行われていた。

外部から届けられた支援物資を狙って曲津組の送り込んだ悪魔と

蒼穹会(そうきゅうかい)伊草慧介(いくさけいすけ)とその弟子、ゼノヴィアが切り結んでいたのだ。

 

「神だぁ? なんで悪魔の俺が神に命を返さなきゃならねぇんだよ?」

 

「天魔覆滅。悪しき者の魂は、神の下で生まれ変わるべきなのだ」

 

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「おっと、私を忘れてもらっては困るな!」

 

曲津組の悪魔は慧介に挑発的な言動を繰り返すが、その隙をついて

ゼノヴィアがデュランダルで斬りかかって来る。

悪魔が相手ともなれば、ゼノヴィアにためらう理由などどこにもない。

教会の悪魔祓いを追放された者と自主的に去った者との違いこそあれ

彼らは悪魔祓いを生業としており、ゼノヴィアには「斬り姫」と言う渾名があり

慧介も素行こそ問題があるものの凄腕のバウンティハンターである。

悪魔相手に後れを取る要素など、どこにもない。

 

「く、くそっ! 人間の分際でぇぇぇぇ!!」

 

「あっ、待て!」

 

慧介の挑発に乗った悪魔が、無謀にも突撃を敢行する。

しかし、冷静さを欠いた攻撃で倒せるほど彼らも脆い戦士ではない。

慧介の神器(セイクリッド・ギア)未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」の刃が悪魔の身体を貫通。

光と共に悪魔の身体は消滅していく。

 

「くそっ、よくも!」

 

「おっと、君の相手は私だ!」

 

ゼノヴィアもデュランダルで、もう一人の悪魔を斬り捨てる。

パワーに秀でた聖剣であり、悪魔に対する威力は絶大である。

それで斬られたとあっては、ただでは済まない。

ここに、小競り合いは幕を下ろした。

 

――――

 

駒王町。ついこの間まで悪魔が支配していたこの町は

先日、国際的テロリストグループ「禍の団(カオス・ブリゲート)」による未曽有のテロ攻撃を受け

町としての機能が完全にストップしてしまっている。

それに対し日本政府は駒王町に対する支援を行うことを発表。

自衛隊による支援活動が行われている……のだが。

 

テロに合わせる形で禍の団所属のフューラー・アドルフによって

三大勢力――天使・悪魔・堕天使の存在が公にされてしまう。

その影響で、三大勢力の小競り合いが絶えず行われていた駒王町は

テロの影響もあって危険地域指定されてしまったのだ。

 

その混乱に乗じて、指定暴力団組織「曲津組(まがつぐみ)」が駒王町一帯を支配しようと台頭。

物資を占有しようと、契約した悪魔――ディオドラ・アスタロトの一派を使役しているのだ。

それに対し、「駒王警察署(くおうけいさつしょ)超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)」は駒王町の機能喪失に伴い本拠を警視庁に移設。

「警視庁超常事件特命捜査課」として、こうした悪魔の活動と暴力団の台頭に対し

事件解決や治安維持などの警備活動を行っているのだ。超特捜課の協力組織である

NPO法人「蒼穹会」と協力、事件の鎮圧にあたっている。

 

そんな警察の行動を支援するように、陸海空の自衛隊や

日本神話の神々や日本に籍を置く仏らで組織された「神仏同盟(しんぶつどうめい)」も活動している。

駒王町は、そんな混沌の真っただ中にいるのだ。

 

「ゼノヴィア君、まあまあよくやった。65点と言ったところだな」

 

「そんな事より慧介。このところ悪魔の活動が活性化している気がするんだが……」

 

「そうだな。今まではアインストと言う怪物だったり暴力団が相手だったりしていたが

 ここに来て急に悪魔が活動を始めるようになったな……

 何を企んでいるのかまでは、俺にも分からん。

 それよりゼノヴィア君。禍の団が相手と言う事は、紫藤イリナと戦う事になるが……」

 

慧介の指摘に、ゼノヴィアは一瞬だけ顔を曇らせる。

紫藤イリナ。ゼノヴィアと共に行動していた教会の戦士――だったのだが

神の消失を知り、自暴自棄となったところを禍の団のカテレア・レヴィアタンに迎え入れられ

そのまま禍の団に所属し、既に天使長ミカエルに重傷を負わせ

聖剣アスカロンを聖魔剣に変異させた挙句擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と共に持ち逃げしている。

そんな彼女だが、ゼノヴィアにとっては戦友でもあるのだ。

 

「……覚悟はできている。とは正直、言い切れない部分がある。

 だがイリナがこの町をこんなにした張本人である以上、私はイリナと戦わなければならないだろう。

 私は人を護るために剣を取ったんだ。それは何処にいても変わらない。

 

 ……まだ日本人の信心については慣れないがな」

 

「信心についてはともかく、迷いは剣を曇らせる。

 最低限、自分の命だけは自分で守りなさい。それが戦士の最低条件だ」

 

「……ああ、わかっている」

 

支援物資を守り抜き、慧介とゼノヴィアは拠点としている駒王警察署へと戻っていくのだった。

 

――――

 

「――なにぃ!? また物資が届かないってのか!?」

 

「へ、へい……何分最近人間どもばかりじゃなく悪魔まで邪魔をしてきやがりまして……」

 

ボロボロになった駒王町の一角に建てられたプレハブ小屋。

みすぼらしいが、悪魔召喚儀式などで使われる設備などは一式揃っている。

指定暴力団組織曲津組。彼らは悪魔――ディオドラ・アスタロトと契約し

勢力拡大を図っていたのだ。

普通の人間にとって悪魔の力は脅威足り得るが、警視庁もそれに対し

超特捜課を発足させるなどとして対抗、思惑を跳ね除けていた。

 

ところが、ここに来てテロ組織でもある禍の団と足並みを揃え

駒王町に混乱をきたす様になっていたのだ。町がこれほどの被害を受け

警察でさえ駒王警察署ではなく警視庁が直接指揮を執っている現状において

曲津組の被害が殆どなかったのは単に彼らが禍の団とグルだったからである。

つまり、彼らは初めからテロ行為の対象外だったのだ。

 

「どういうわけですかい、ディオドラの旦那」

 

「うるさいなぁ。悪魔だって一枚岩じゃないんだ。

 君たちは黙って僕の言う通りにしてればいいんだよ。

 そうすればあのやって来た女悪魔のうち、紅い髪と黒い髪は好きにしていいから。

 金髪にさえ手を出さないでくれれば、悪いようにはしないよ」

 

「ほ、ほんとですかい!?」

 

「じゃあ、アタシはイケメン坊やが欲しいかなぁ。女はどうでもいいし。

 あっちのツンツン頭はアタシの事変な目で見てきたから要らないけど」

 

「そっちもどうでもいいよ、好きにすれば?

 ただ、ツンツン頭は出来れば左手だけ切除してもらえると助かるかな。

 アレの左手は、悪魔――僕達にとって非常に有益だから」

 

彼らの行動理念は実に欲望に忠実である。

金・異性・権力。それらを得るためにこうして悪魔の協力を仰いでいるのだ。

ディオドラのちらつかせた餌に、分不相応と言う言葉などどこ吹く風とばかりに

テンションを上げる辺り、彼らは堅気のヤクザではなく

チンピラ上がりのヤクザである事を証明してしまっている。

 

「金髪……ロングとセミロングの二人がいますがどっちっすか?」

 

「バカ。セミロングはありゃ男だ。全然そうは見えねぇけどな」

 

「マジで!? じゃ、じゃあ私はセミロングの子貰っちまおうかね……ふふっ」

 

そんな彼らは、ディオドラにとっては体の良い捨て駒である。

雑兵はいくらいても困らない、そう考えた彼は彼らの欲望を煽り

禍の団と歩調を合わせさせることでまんまと私兵として登用しているのだ。

実際、彼らの支配下に置かれた地域には欲望のはけ口とされた人々が大勢いる。

いずれも、テロで心が弱っているところを付け込まれた形だ。

テロの惨禍は、こうした人間同士の関係においても大きな爪痕を残しているのだ。

 

「あははははっ、僕はなんでもいいけどね。君達が働いてさえくれれば。

 でも悪魔って事は日中は出てこないんだろ? だったら日中を攻めればいいじゃないか」

 

「それが……サツも最近は物騒なものを振り回すようになっちまいまして……」

 

「……チッ。使えないなぁ、君たちは。

 あんまり使いたくはなかったけど、僕の眷属を貸すから

 それでその邪魔な悪魔や人間を始末してよ」

 

吐き捨てるようにディオドラが魔法陣を展開すると

その中から骨のような鎧に身を包んだ少女が現れる。

しかし、その姿を見た曲津組の構成員達は皆一様に戦慄する。

 

……何せ、彼女の腹には巨大な赤い球体がついており

その腕は巨大な爪となっており、骨の隙間から見える丸みを帯びたボディが

辛うじて元人間の少女であると認識できる程度なのだ。

……それも、元聖職者であることを示すかのように砕けたロザリオを首から下げている。

 

「……静寂を乱す者がいる。始末するんだ……」

 

ディオドラの左腕の腕輪から怪しい光が放たれるとともに

ディオドラは骨鎧の少女に命令する。少女は黙って頷き、魔法陣で転移する。

それだけ見れば悪魔なのだが、彼女は悪魔であるとともに――

 

異世界の怪物、アインストでもあるのだ。

 

「……じゃ、僕もやる事があるから。好きにすればいいけど

 あまりに騒がしいようだと……消すよ。僕は騒がしいのが嫌いなんだ」

 

曲津組の構成員を睨みつけながら、ディオドラも姿を消す。

その眼は赤く染まっており、彼もまた普通の悪魔ではない雰囲気を漂わせていた。

それに、曲津組の構成員が気づくことは無かったが。

 

――――

 

プレハブ小屋近くの小屋。

リアスらの拠点になるよう、ディオドラが曲津組を利用して用意させた場所だ。

しかし小屋とは名ばかりで、内部は高級コテージクラスの設備が整えられている。

勿論、周囲の避難民からは非難轟々であったがそれは黙らせている。

こうした一部のみに富が行き渡る方針も、曲津組支配下の地域における特徴である。

そう、みかじめ料の存在だ。曲津組に取り入った富裕層がこうした設備をいち早く利用し

それ以外の者は質素なテント住まいを余儀なくされ

結界など当然張られていないため、アインストやインベス、はぐれ悪魔などによって

明日には殺害されているかもしれないという世紀末じみた生活なのだ。

 

さらに質の悪い事に、ディオドラはリアスにその事を一切伝えていない。

伝える必要など、どこにもないからだ。

そのため、リアスの危機管理能力は一向に成長の兆しを見せない。

その証拠に、曲津組の組員が向けている下卑た視線にまるで気づいていない。

知っていて使っている人間の方が、ある意味質が悪いかもしれないが。

 

「あるところにはあるものなのね、部室並の設備は整っているわね」

 

「でも何だか悪い気がします……この外では夜も眠れない人が大勢いるっていうのに」

 

「アーシアは優しいのね。そうね、だったら私達で場所を確保して

 その人たちのために小屋を……」

 

「けれどリアス。その予算は何処から出すんですの?

 ご実家はどう考えても不可能ですし、もうこの町も支配下にないから

 どの道ご実家や魔王様の支援は期待できそうにありませんけど」

 

「……それを言われると痛いわね、朱乃。

 学校がない今、こうしてディオドラに拠点を提供してもらえたのはありがたいのだけど

 いつまでも甘えてばかりもいられないのも事実ね……ソーナはどうしているのかしら」

 

「うぅぅぅ……あの場所お気に入りだったのに……」

 

そう。拠点としていたオカ研の部室はもう無いのだ。

アインストと化したカテレアの暴走により、駒王学園は旧校舎含め校舎そのものが倒壊している。

当然、オカ研の部室や生徒会室と言った施設は諸共に崩壊している。

そして、先日のテロの影響もあり復旧も済んでいない状態だ。

 

「ちきしょう……禍の団の奴らめ……学校だけじゃなくて俺んちまで……

 絶対許さねぇからな……」

 

『白いのも禍の団に入っている事を考えれば、近々また戦うことになるだろうな』

 

「そんなのはどうでもいいんだよドライグ。ちきしょう……どうしてこうなったんだ……」

 

そんな中、ショックでうなだれている者がいた。イッセーだ。

自宅の倒壊に両親の実質死亡ともいえる消息不明報告を立て続けに聞かされ

相応にストレスを抱えていたのだ。

 

「イッセーさん……まだ、お父様もお母様もご遺体が見つかったわけではないですし……」

 

「そうだね。聞けば自衛隊の人達が瓦礫の除去作業を進めているそうじゃないか。

 それを待ってからでも……」

 

「それはわかってるけどよ! 自衛隊じゃ悪魔やアインストにどう立ち向かうっていうんだよ!?」

 

それもあってか、つい木場の言葉に反応してイッセーは声を荒げてしまう。

アーシアに当たらなかったのは彼の性質によるものなのか、ただ単に木場が好青年だから

妬んでいるだけなのか。

 

「イッセー君。今は警察だって悪魔と戦えるし、何よりセージ君達は向こうにいるんだ。

 その辺で心配することは無いよ」

 

「ふん、やけにセージの肩を持つじゃないか」

 

「別に。ただ事実を述べただけさ。実際僕らはセージ君に負けているからね。

 彼にだって相応の力があるのは間違いないはずさ」

 

……後者であろう。事実、ある意味悪魔よりも性質の悪いアインストに対し

超特捜課や蒼穹会だけでなくセージや白音、黒歌の姉妹が加わったことは

彼らの戦力の底上げにつながっている。

 

「てめぇっ! 俺達だって何もしてないわけじゃねぇだろ!

 少なくとも俺はあいつをぶっ倒すために冥界で特訓してたんだ!

 いつか絶対あいつをぶん殴って部長の下に引きずり出してやるからな!」

 

「……イッセー君。熱く語っているところ悪いけれど、僕らの敵は誰だい?

 セージ君じゃないだろ。禍の団にアインストだと、僕は思うけどな」

 

「てめぇっ、木場!」

 

「……やめてください! イッセーさんも祐斗さんも喧嘩してる場合じゃないですよ!」

 

アーシアの悲痛な叫びに、爆発寸前だった空気は一変する。

イッセーにしてみれば、眷属でありながらリアスに逆らい

勝手な行動を今なお繰り返すどころか眷属仲間である小猫――白音まで引き抜いた

セージの行動は、許し難いものである。

対して木場は、セージは決して駒王町に害を成していない。

戦うべきは、駒王町に害を成す禍の団にアインストである、と主張を曲げない。

地上での本来の拠点を失ったことは、見えない形でストレスを残していたのだった。

 

「イッセー。あなたの気持ちは嬉しいけれど

 今はセージよりも禍の団をこの町から追い出して、駒王町を復興させるわ。

 確かに私はもう統治者でもなんでもないけど、だからって見過ごすわけにはいかないわ。

 その為にイッセー、あなたの力を貸してちょうだい」

 

「勿論です部長!」

 

「朱乃、祐斗、アーシア、ギャスパー。あなたたちにも協力してもらうことになるわ。

 その時はよろしく頼むわね」

 

多少強引ではあるものの、リアスが場を収めたことで最悪の事態だけは免れることが出来た。

しかし、彼らの足元はとても緩く、不安定だ。

 

……彼らに拠点を提供している者こそ、彼らが討たんとしている禍の団なのだから。

 

――――

 

「……それは本当ですか!? ゲートが、クロスゲートが作動したって……!」

 

ある日の夜。神仏同盟とアポロン、超特捜課を交えた作戦会議中に

ゲート偵察の報告が入り、とんでもない事実が伝えられた。

 

――クロスゲートの作動。

 

今までアインストはここから現れるとされていたが、クロスゲートが作動している現場には

未だ遭遇していない。ゲートは小康状態ともいえる状態にあったのだ。

しかしここに来て、ゲートに動作の予兆がみられるようになってきた。

そんな中、セージはある事を思い出す。

 

「……あ、ああっ! どうしてこんなことを忘れていたんだ……こんな大事なことを!!」

 

「どうしました?」

 

「……申し訳ありません、伝えるのが遅くなりました。

 これは白金龍(プラチナム・ドラゴン)から聞いた話なのですが……

 

 ……クロスゲートは、自律移動が可能だと言う事でした……」

 

セージの発言に、その場にいた天照、大日如来、テリー柳、白音と黒歌の姉妹は

動揺を隠せなかったが、一人アポロンだけは冷静であった。

 

「……やはりな。俺が『視た』クロスゲートと特徴が一致している。

 確証が持てなかったから俺も今まで黙っていたが、グレートレッドに匹敵するというらしい

 白金龍もそういうのであれば、それは間違いないだろう。

 状況を考えて、白金龍がそこの彼に嘘をつくとも思えないからな」

 

「自律移動が可能な次元転移装置か……また厄介なものが出てきてくれたものだな。

 アポロンよ、破壊する、あるいは制御する方法はあるのか?」

 

「それが……無いのだ。と言うより、俺にもわからんのだ。

 制御方法もはっきりしたことはわからん、ただ異なる次元、異なる世界、異なる時間を繋げる

 門のようなもの、と言う事しか俺にもわからんのだ。故に俺は『クロスゲート』と名付けたが……」

 

「確かに、あのような異形の者はこの世界にはおりませんものね」

 

クロスゲートを制御する方法、破壊する方法は……現時点では存在しなかった。

それはつまり、クロスゲートから現れるアインストに対しては

場当たり的な対応しか取れないことを意味する。

人的被害を多くもたらす者に対しその対応しか取れないという点において

アインストは禍の団よりも厄介であると言えよう。

 

「警視! 並びに神様、仏様、失礼いたします!

 たった今、禍の団のフューラー・アドルフより声明が発表されました!

 

 ……これより駒王町に対し攻撃を仕掛けるとの事です!」

 

「場所の指定はあったのか!?」

 

「現時点では何も入っておりません!」

 

一人の警察官からもたらされた報告。それは、禍の団による攻撃が

駒王町に対し行われると言う物であった。

しかし、それに対しディオドラは何ら関与していない。

フューラーの独断である。この事から、フューラーは禍の団の行動については

完全に独自の路線を貫いていると言える。

 

「聞いての通りだ、町内の警戒態勢を厳とし、避難住民や

 一般市民に対しては外に出ないよう呼び掛けてくれ」

 

「分かりました。神仏同盟、推して参ります!」

 

「では俺は防護結界の維持に努めよう。天照、マハヴィローシャナ。後は任せたぞ」

 

駒王町に土地勘のないアポロンは警察署にて待機、結界を展開する。

緊急出動の入った神仏同盟、超特捜課、蒼穹会のメンバーは

それぞれ駒王町へと駆り出していく。

 

その上空に点在している鍵十字の描かれた輸送船からは

旧ドイツの軍服と軍帽に身を包み、右手に槍を握った仮面をつけた女性の軍団が

パラシュートで駒王町めがけ降下してくるのだった……




次回、アインストに加えて聖槍騎士団が乱入?

今回は年明けと言う事で総集編程度を意識したつもりです。
それぞれが現在置かれている状況。
そこに重点を置いたつもりです。

>曲津組
堅気のヤクザじゃなくてチンピラ上がりのヤクザになっちまいました。
世紀末じみてるとこういうヒャッハー系を書きたくなる罠。
オカ研メンバーが全員性的な意味で狙われてます。イッセー以外。
イッセーを性的な意味で狙うって原作と変わらないので。

>クロスゲート
出典元では破壊の可能性が示唆されましたが
こっちでは破壊する方法はまだありません。アレないですし。
異なる世界、次元、時間を繋げるためアインスト以外も
このゲートから出てくる可能性があります。
出典元同様、碌なものじゃないって見解を示してます。
神仏同盟、超特捜課、オリュンポスあたりは。

……全く、誰がこんなものを駒王町に設置したんだか。

>上空の輸送機
愚か者、ここは戦場だ!(CV:遠藤綾)
と言うわけで今回キャラ造詣はどこぞのドイツ戦艦。
つまりMG34がSKC34に……
ま、まあ似たような存在でシースパローぶっぱした輩もいるわけですし。
プラス電撃ハメと異能封じ。洋服崩壊だって封じます。


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Soul77. 襲来、聖槍騎士団

最近字数が少ない……長く書けなくなってきた病?
と言うよりもうかなり原作が行方不明になってますねぇ(他人事

ま、まぁ章タイトルからはそれほど外れてないはずなので……

そして気づけば二周年。応援ありがとうございます。
……二周年記念ネタ、まだ何も手ついてないんですけどね。

MOVIE大戦風に何か書ければとは思ってますが。


俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

俺は超特捜課の辞令を受け、超特捜課の外部協力者となった。

これで、俺には超特捜課(ちょうとくそうか)神仏同盟(しんぶつどうめい)と言うバックがついた。

 

だが、三大勢力の存在が公になるという事態も発生し

クロスゲートの作動、フューラー・アドルフによる攻撃声明など

事態はとんでもない方向に進もうとしているのだった。

 

――残された時間は、あと16日――

 

俺としたことが、うっかりしていた。

まさかゲート――クロスゲートの特徴の一つを言い忘れていたなんて。

なんでそんな大事なことをもっと早くに言えなかったんだ。

 

クロスゲートは、自律移動が可能である。

それはつまり、監視していても突如として移動ないし転移してしまう事を意味している。

俺はその場に居合わせたことは無いが、そこから出てくるものの危険性を考えると

とても看過できるものじゃない。そして今クロスゲートが作動しているとなると

すぐさま監視体制を強化しないといけないはずだ。

 

……それなのに。

 

「警視! 並びに神様、仏様、失礼いたします!

 たった今、禍の団(カオス・ブリゲート)のフューラー・アドルフより声明が発表されました!

 

 ……これより駒王町に対し攻撃を仕掛けるとの事です!」

 

何というタイミングだ。ここに来て禍の団が攻撃を仕掛けてくるなんて。

予告する分有情かもしれないが、そもそもそういう問題じゃない。

フューラー・アドルフ。確か聞いた話では旧ナチスドイツ風の軍隊を率いている

禍の団の「英雄派」と呼ばれる組織に属しているそうだ。

声明の映像を見たが、確かにあの総統によく似ている。本人のはずがないが。

 

……それにしても。あの総統が英雄とは、何という皮肉な話だ。

 

「聞いての通りだ、町内の警戒態勢を厳とし、避難住民や

 一般市民に対しては外に出ないよう呼び掛けてくれ」

 

「分かりました。神仏同盟、推して参ります!」

 

「では俺は防護結界の維持に努めよう。天照、マハヴィローシャナ。後は任せたぞ」

 

(やなぎ)課長の指示に、天照様、大日如来様、アポロン様が答える。

俺達も行くべきだろう。

 

「セージ。お前達は駒王学園跡を中心に捜査してくれ。

 戦闘になっても、決して無理はするな。相手の戦力が今一つわからん。

 警察署の守りは氷上(ひかみ)霧島(きりしま)。お前達で頼む。今しがた特殊強化服が二着届いた。

 両名とも戦闘に備え、装着するように」

 

「わかりました」

 

特殊強化服。聞いた話では超特捜課が教会の戦闘服――ゼノヴィアさんが着ていたアレ――を参考に

最新技術を集めて完成させた、特殊な装備らしい。

警察の装備としては過剰戦力かもしれないが、相手が相手だ。必要なものなのだろう。

何せ自衛隊にも神経断裂弾が行き渡っている現状だ。どれほどひどい状態なのだか。

 

「俺は安玖(あんく)と合流し、安玖からの報告にあった輸送機からのパラシュート部隊を追ってみる。

 落下予測地点は郊外の山、町役場、駒王学園跡の付近になる。

 よって万が一に備え蒼穹会(そうきゅうかい)はセージらと共に行動してくれ。以上だ」

 

「ああ、任せなさい」

 

「……まさかまた悪魔と共同戦線を張ることになるとは思わなかったよ。

 ああ、警戒しないでいい。私とて敵が誰だかは心得てるつもりだ。

 ともかく、よろしく頼むよ」

 

ゼノヴィアさんから差し出された右手を、俺は握り返す。

確かに、あの時は共通の敵がいるからと言う認識での共同戦線だったが

今回は微妙に違うと思う。そう思っているのは俺だけかもしれないが。

 

――――

 

「……見れば見るほど酷い有様だな……」

 

「ああ、私達もアインストやテロリストの攻撃をかわすので精一杯だった。

 おかげで今は警察署暮らしさ。いつぞやと意味は違うけどな」

 

警察署の建物も避難場所として公開されている。その事を言っているのだろう。

いつぞやと言うのは、ゼノヴィアさんは公務執行妨害で逮捕された経歴がある。

自分で言える辺り、それなりに吹っ切れた証拠なのだろうか。

 

「テロリストの声明によれば、ここに悪魔がいるから駆逐のためだと言っていたが

 ここに住んでいるものからすればやり過ぎだ。

 おかげで悪魔に対する悪感情は日増しに高まっている。悪いことにならなければいいが」

 

「私はもう悪魔の駒が無いからただの猫魈(ねこしょう)だけど、白音は気を付けたほうがいいにゃん」

 

「……そうですね。まさか姉様の治療がこんなところで功を奏すとは思いませんでした」

 

黒歌さんの治療。それははぐれ悪魔となり、暴走して怪物化した際に

体の中にある悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を強引に抜き取って元に戻した事だ。

悪魔の駒を抜き取るという行為自体は成功したが、その手段が強引すぎたために

もう使えないと釘を刺されてしまったが。その代わり、適切な外科手術によって

悪魔の駒を摘出できるようにする活動が今神仏同盟を中心に行われている。

いい事だ。聞けば強引な悪魔転生も少なくないらしいので

デメリットなく元に戻れる方法を確保できるというのは、重要な事だろう。

 

「……俺も悪魔で生霊だからな。ヘイトの対象にはなり得るって事か」

 

そうだ。俺もまだ悪魔の駒が取れていない。問題の根源である兵藤をどうにかしないと

解決の見通しが立ちそうにないが……もう時間がない。

 

「……セージ先輩。焦らないでください。私達も、力になりますから」

 

「猫の恩返し、って奴だにゃん」

 

「ありがとう、白音さん、黒歌さん。心配せずとも早まった真似はしないさ」

 

……ま、早まった真似と言うか……あいつをどうにかしないと俺はどうにもならないが。

そしてその方法は……うん?

 

今、レーダーに何か反応があったような……

場所は……駒王学園跡?

 

「ちょっと待った皆。レーダーに反応があった。

 駒王学園跡だ。何かいるかもしれない、気を付けろ」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

RADAR-ANALYZE!!

 

COMMON-SEARCHING!!

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で先行偵察をかける。駒王学園跡にいるものの正体を突き止めなければ。

しかし、色々とごちゃごちゃしすぎてわかりにくいな。ふと上空を見ると

天照様が飛ばしたであろう零式観測機が空を飛んでいる。

以前ゲートを探した時は、あの手助けもあったからうまく行ったが

今回は……いや、場所さえ絞ればなんとかなるはずだ。

 

駒王学園跡。その近くに……逃げ遅れた人か?

ヴェールで顔を覆ったシスターらしき人影が見えるが……

これは本部に連絡して保護してもらった方がいいかもしれない。

今の駒王町を一人で歩くのはとても危険だ。

 

そして駒王学園跡。ボロボロで見る影もない。

やはりここに悪魔がいるという情報が……禍の団だったら間違いなく知っているな。

それもあって優先的な攻撃対象にされたのかもしれない。

松田や元浜、桐生さんは無事だろうか。全く連絡が取れないが……

 

……!! やはり何かいる!

旧ドイツ軍の軍服に軍帽を被った仮面の女性……?

その彼女は天照様みたいな艤装を纏っており

右手には槍が握られている。戦っている……? 誰と?

 

「――っ!?」

 

相手を調べようとしたところ、強いジャミングを受けた。

そこで映っていた視界が突然シャットアウトされたのだ。

誰の手によるジャミングかまではわからないが、これだけでも注意すべき案件だろう。

 

「駒王学園跡で戦闘の様子がある。片方はドイツ軍風の女性らしき人影だが

 もう片方まではジャミングの影響で見えなかった。

 目的地で戦闘が起きている、しばらく様子を見るか?

 慧介さん、ここはどうします?」

 

「相手の正体がわからない以上、むやみに攻め入るのも危険だが

 ドイツ軍風と言うのが気がかりだ。もしやフューラーの手のものかもしれん。

 ジャミングと言うのも気がかりだ、全員注意しなさい」

 

細心の注意を払い、俺達は駒王学園跡に向けて動き出した。

 

――――

 

――爆発音。

それが駒王学園跡にたどり着いた俺達を出迎えたものだった。

その傍らには、墜落した自衛隊のヘリが存在していた。

あの様子では、乗組員は絶望的だろう……

 

……と言うか、だ。

フューラーの身なりを考えたらドイツや近隣諸国が黙ってないだろうし

ましてナチスの恰好で日本で軍事行動とか……また世界大戦でもおっぱじめる気か?

マジで勘弁してくれ。もう戦争みたいなものだけど。

 

そして、俺の目の前で衝撃的な光景が映ったのだ。

俺が確認した仮面の女性……それに瓜二つな女性がもう一人、いや二人いたのだ。

彼女らはナチス式の挨拶を交わし、情報交換を行っているようだ。

ここからではよく聞こえないが。

やはりのこのこ出向いて総攻撃を受けるのはマズいので、瓦礫に身を潜めている。

 

「……奴ら、何かを探しているみたいにゃん。聖槍? ってのを探してる感じにゃん」

 

「聖槍……聞いたことがあるな。黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)と言う神滅具(ロンギヌス)の存在を。

 それを今誰が持っているかまでは俺もわからないが、それの事か?」

 

「……それにしても、そっくりなのが三人か……気味が悪いな」

 

耳の良い黒歌さんが奴らの話している声に聞き耳を立てていた。

黄昏の聖槍……少し嫌な響きだな。何か不吉なものを感じる。

慧介さんも元教会の戦士だから、そういう知識には明るい分、信憑性がある。

 

そしてゼノヴィアさんが言うように、似た様なのが複数いる。

仮面の下の顔は違うのだろうけれど、こうも同じだと確かに気味が悪い。

まるで人間じゃないみたいだ。人間じゃないだろうけど。あんな艤装を背負ってる時点で。

俺はふと彼女らの様子を見る。すると何かに気づいたようだ。まさか……

 

「ネズミ……いえネコがが紛れ込んだみたいね、集音マイクに反応があったわ」

 

神器(セイクリッド・ギア)センサーにも反応よ。」

 

「丁度いいわ、雑魚狩りにも飽きたところよ。

 この国の神器使いの力、見せてもらおうかしら。

 続きなさい、姉妹達!」

 

……ま、マズい!

砲塔がこっちを向いている!

俺は慧介さんとアイコンタクトをし、散開を呼びかける。

 

「ゼノヴィア君、避けなさい!」

 

「白音さん、黒歌さん! 飛びのいて!」

 

砲撃の威力は天照様ほどではないものの、すさまじい威力である。

もう一歩遅ければ、粉々になっていたかもしれない。

そして、そんな砲塔を持っているものが……三人も相手だ。

 

「あら……? どうやら悪魔や妖怪も混じっていたようね。

 まぁいいわ。私達に狩られるのには変わりないのだから!」

 

「猫魈なめたら痛い目に遭うにゃん。白音、行くわよ!」

 

「囲まれた! 二人で一人を受け持つ……残りは俺に任せなさい!」

 

「いや、俺がサシでやります! 慧介さんはゼノヴィアさんを!」

 

それぞれに散開、慧介さんとゼノヴィアさんが一人。

白音さんと黒歌さんが一人。

そして俺が一人。

蛮勇かもしれないが、戦力比を考えればこれが一番だろう。

俺だって一人じゃないんだ!

 

「ふふっ、甘く見られたものね。一人で私と戦うつもりなんて。

 その蛮勇だけは褒めてあげてもいいのよ?」

 

『生憎だったな。俺がついているんだ。一人じゃないぜ?』

 

「へぇ、ドラゴン……? かしら。少しは面白そうだけど……神器の異能を封じるこの聖槍。

 コピーとは言え、伊達ではないわよ」

 

『もう一つ生憎だったな、俺が宿っているのは神器じゃない。

 ヤハウェは俺の誕生に一切嚙んでないからな』

 

「揚げ足取りとはおちょくられたものね! これが封じるのは神器だけではないのよ!」

 

『……チッ、気を付けろセージ。あの槍、聖槍って嘯くだけあってただものじゃなさそうだ』

 

フリッケンの言う通り、あの槍から発せられるオーラは確かに痛い。

だが、それだけでダメージを受けるほどではなさそうだ。

と言う事は、それ以上に何かあるのだろう。

異能封じ。以前俺は神器が使えなくなったことがあるが

その時の不自由さたるやとても辛かった。

またあれを味わうことになるのか、確かに厄介だ。が……

 

Feuer(斉射)!」

 

砲塔の射撃。あれをどうにかしないとマズい。

封じようとして接近戦を挑もうにも件の聖槍がある。なんて奴だ!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

LIBRARY-ANALYZE!!

 

COMMON-SCANNING!!

 

すかさず俺は記録再生大図鑑で相手を調べる。

 

――ロンギヌス13。形式番号か何かか?

Bismarck級の砲塔、SKC34 38cm砲を搭載。形は小さいが威力は同等級。

その他魚雷に加え、特筆すべきは所持しているコピーの聖槍。

これの殺傷力は皆無だが、受けた相手の異能を悉く封じる力を持つ。

また、槍から「ガイスティブブリッツ」と呼ばれる電撃を放つ。

 

……って、魚雷? ここ陸だぞ?

そんな俺の疑問は、すぐに打ち消されることになった。

なんと、相手が魚雷を地面に放り投げると、その魚雷が地中を進んでいるのだ!

そして魚雷は、俺の足元で爆発。衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐあああっ!」

 

『地中を進む魚雷か、理不尽なものを出してきやがるな』

 

今いう事ではないが、フリッケンの能力もだいぶ理不尽だと思う。

相手の力を半減させ、その半分を自分のモノにした挙句それを倍加させる。

おまけにオリジナルスペックの分身を生成可能ときたもんだ。

うん、理不尽だ。そして吹っ飛ばされた今考えることじゃない。

 

「聖槍を使うまでもないかしら」

 

「……そいつはどうかな?」

 

SOLID-FEELER!!

 

相手の身体に触手を巻き付け、一気に距離を詰める。

そして、おもむろに仮面めがけて鉄拳をぶちかます。

勿論、倍加させた上でだ。

 

BOOST!!

 

俺の拳は確かに硬いものに触れる感触があった。

攻撃の衝撃で、相手の仮面が吹き飛ぶが、ダメージには至らなかった。

怯んでもいない。これは狙った場所が悪かったか……ん?

 

次の瞬間、俺は愕然とした。

何せ、仮面の下にあるはずの顔が……無いのだ。

不細工でも美人でもなく、無いのだ。

のっぺらぼうとも違う「無」がそこに広がっているのだ。

 

「な……な!?」

 

「……見たわね。見たものを生かして返すわけにはいかないわ……

 ガイスティブブリッツ!!」

 

天高く掲げられた槍から電撃が放たれる。

回避が間に合わず、俺は直撃を受けてしまう。

そして近くにいるのだから喰らっているはずの相手は何も影響がない。

 

……ぐっ! おまけに今ので身体が痺れて、思うように動けない。

そしてこの距離。この距離ならあれだけの威力の砲は使えないはずだし

魚雷だって自分がまきこまれるから使えない。なのだが――

 

「この距離、貰ったわよ……Gute Nacht(眠るがいいわ).」

 

――つまり、聖槍が来る。

確かにやられてもダメージはないが……

 

『しまった! くっ、セー……』

 

フリッケンの声が聞こえなくなり、記録再生大図鑑もその機能を停止してしまった。

構えても動作しないし、一切の反応がない。消失してしまったため

いつぞやみたいに鈍器としても使えない……と言うか。

 

身体から力が抜ける感覚がする。まさかとは思うが、悪魔の駒も封じるのか?

負けじと俺は相手を睨み返す。相手は仮面をつけ直している、余程みられるのが嫌みたいだ。

 

「ふぅん。所詮霊体のあなたがここまで来られたのは、悪魔の力のお陰もあるみたいね。

 聖槍でその力を封じられた途端、そこまで弱ってしまうなんて」

 

「何を――ぐっ……!?」

 

事実だった。悪魔の駒から供給される魔力で、俺は実体を維持しているのだ。

だから悪魔の力が強くなる夜中や一部の結界の中でしか実体化できない。

そして、その悪魔の力が封じられたとなれば……

 

……最悪、消える。

 

「もう一発喰らいなさい。ガイスティブブリッツ!!」

 

聖槍が天高く掲げられ、そこから電撃が走る。

くっ、避けようにも身体がうまく動かない! どうすればいい、どうすれば――!!




流石にヌッフッヒ~なんて笑いをBismarkにさせるわけにはいきませんでした(白目

>英雄派
え? 原作の英雄派ってチンピラばっかなアレな集団じゃないの?
とお思いの方もいると思います。
と言うかヒトラー(フューラー)が英雄って……これはモノの見方によって英雄の定義なんて
大きく変わるという、ある種の皮肉です。

>聖槍騎士団
原典(ペルソナ2)と同じ名前ですが装備や外見はまるっきり違います。
姿は槍を持って仮面をつけたBismark(艦これ)。
その仮面の下の顔は……ありません。
まさに「無貌の仮面」……おや?

そして電撃ハメからの聖槍を喰らったセージ。
以前も神器使用不可と言う状態に陥りましたが……

>聖槍
HSDDの聖槍と違いますが、仕様です。
と言うか、拙作での聖槍はこっちの仕様です。
(単にHSDDの黄昏の聖槍の能力を把握しきれないだけ。年と言いたくば言え)
アレ全部再現させるよりは、異能封じに特化させた方がいいかと思い。
リゼヴィムの立つ瀬が無くなりそうですが、まあそこはまたいずれ。

なお、神器でないフリッケンも影響を受けている辺り
デュランダルをはじめとする聖剣や悪魔の駒も異能と見做されて封じられます。
つまり今のセージはただの生霊。でもこの異能封じ、時間制限あるので
今の内に身体に戻ってもじきに拒絶反応が出ます。世の中そんなに甘くない。
ちなみに黒歌は元々持っている力なので異能でもなんでもないので例外。
……あ、さらにリゼヴィムの立つ瀬がないや。

>ヴェールで顔を覆ったシスターらしき人
作者・SINSOU様のご厚意によりアーリィさんに出演していただきました。
「ハイスクールD×D 和平って何ですか?」もよろしく!
……って、これはマズかったかな……byアポロン

私信:取り合えず本格的な活躍は本編以外の場所でと考えてます。
   これでMOVIE大戦風のフリは出来たと思いますので。


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Soul78. 始まらない二学期

ここで皆様にお知らせがあります。

ハイスクールD×D 同級生のゴースト 番外編にて

ハイスクールS×S 留学生の地獄門(クロスゲート)

掲載決定です。


SINSOU様作「ハイスクールD×D 和平って何ですか?」より
アーリィ・カデンツァさんを迎えての特別篇となっております。

何卒よろしくお願いします。

(※あのアーリィ節がどこまで再現できるかはわかりませんが……)


「ガイスティブブリッツ!!」

 

ロンギヌス13が掲げた複製品の聖槍(ロンギヌスコピー)から、電撃が放たれる。

今しがた聖槍の一撃と電撃を受けたことで、まともな身動きの取れない俺は

どうすることも出来なかった。

 

もうダメか……と思ったその時、何かに運ばれた。

 

恐る恐る目を開くと、目の前には黒歌さんがいた。

いた……んだが、警察の外と言う事もあってかあの花魁風の着崩した着物姿である。

丁度位置的に胸元が俺の目の前にあるので……慌てて目を背けた。

 

「間一髪だったにゃん、あいつの聖槍、私には何の効果もないにゃん。

 白音! 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の力に頼っちゃダメ! あなた自身の力を使いなさい!

 大丈夫、お姉ちゃんがフォローするにゃん!」

 

「ネコ風情が生意気ね! 聖槍が通じなくとも、この主砲と魚雷。

 伊達ではないのよ!」

 

「気を付けろ二人とも、奴の魚雷は地中を進む!

 足元には特に気を付けるんだ!」

 

悪魔の駒を封じられ、今の俺に出来るのはアドバイス位だ。

あるいは、霊体化した体で攻撃をかわす位は出来るかもしれないが

さっきの雷撃――ガイスティブブリッツ――を喰らえば意味がない。

あれのダメージで俺が消滅することもあり得るかもしれない。

 

……よし、黒歌さんに助けてもらったおかげで身体が少しずつ動くようになってきた。

あの主砲だって連射は出来ないみたいだし、弾切れを狙えば何とかなるはずだ。

魚雷だってまさか無限にあるわけではないだろう。

 

「ありがとう黒歌さん、後はこっちで何とかする」

 

「にゃっ!? お兄さん、あの槍くらったんじゃないの!?

 それなのに……」

 

「物理的な攻撃なら、この状態ならかえってかわしやすい。

 雷にさえ気を付ければ、なんとか立ち回れる!」

 

自分に言い聞かせるように、俺は体勢を立て直し

浮遊状態を取る。

 

Feuer(斉射)!!」

 

ロンギヌス13の主砲が俺を狙うが、俺は霊体化しているため

物理的な攻撃はすり抜けてしまう。そのまま明後日の方向に砲弾は飛んでいき

倒壊したビルを崩す結果となった。

 

「霊体ってのも、案外便利でな!」

 

「くっ……小癪な! でも爆風はどうかしら?

 魚雷の次発装填はもう済んでいるのよ?」

 

言うや否や、また魚雷が地中を進んでくる。

相変わらず理不尽な魚雷だ。

俺は宙に浮いてかわそうとしたが、足元で爆発することには変わりはなかったので

爆風による衝撃は、もろに受けてしまう事になった。

 

「ぐあっ!?」

 

……油断した。霊体なら物理的な攻撃はほぼ意味をなさないが

こうした衝撃波は普通に喰らってしまう。幸い、足元直下で爆発されるより

空中にいたため威力はある程度殺がれた形になってくれたが。

 

……しかし次発装填って事は。どうやら攻撃にはそれぞれチャージが必要みたいだ。

一番注意しなければならないガイスティブブリッツも、例外ではないみたいだ。

勿論、こっちから攻撃が出来ないので避けるのに専念するだけだが。

千日手とはよく言ったものだ。

理想は相手の攻撃で同士討ちが狙えないかと思ったのだが

離れていても連携は取れているらしく、そんな都合の良い話は無かった。

 

――――

 

「ゼノヴィア君、二人同時に得物を封じられるのは避けたい。

 散開して攻撃するぞ!」

 

「わかった、慧介(けいすけ)!」

 

慧介さんとゼノヴィアさんは、いずれも武器が異能と見做されるのか

黒歌さんと違って聖槍を喰らったらひとたまりもないようだ。

そのため、同時に受けないよう散開して戦っている。

 

「考えたわね、やるじゃない。けれど聖槍を封じただけで

 私に勝てると思わない方がいいわよ――ガイスティブブリッツ!!」

 

散開していても、雷は広範囲に飛んでくる。

挟み撃ちの体制を取れていても、こうした反撃を喰らってしまうようだ。

 

「くっ……身体が……!!」

 

「ゼノヴィア君!」

 

「二対一で十分と思ったあなた達の罪よ。Gute Nacht(眠るがいいわ).」

 

動きを封じられてしまったゼノヴィアさんを、聖槍が貫く。

傷は見当たらないが、持っていたデュランダルが霧散してしまう。

封じられてしまったようだ。

 

「さて、まずは一人ね――っ!?」

 

「俺を忘れてもらっては困るな。その命、神に返しなさい!」

 

慧介さんの神器(セイクリッド・ギア)未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」から放たれた光弾が敵を捉える。

魚雷を放ろうとしていたのか、ダメージで気を取られて魚雷を取り落してしまう。

幸運にも、その魚雷が相手の足元で爆発しダメージを与えることとなった。

 

「……油断したというわけね。いいわ、今度はあなたの番よ!」

 

なるほど、魚雷を放ろうとするのはチャンスか。

 

「黒歌さん、白音さん! 相手が魚雷を放ろうとしたときはチャンスだ!

 相手の足元で爆発させられれば、ダメージになる!」

 

「……私を放っておくなんて随分とえらくなったものね!

 そろそろ終わらせてあげてもいいのよ!?」

 

アドバイスを送っていた俺に、主砲の一撃が飛んでくる。

軽く避けそこない、爆風のダメージを受けてしまったが……直撃よりはマシだ!

気を取り直して、さっきまで対峙していたロンギヌス13に向き直る。

 

―――ー

 

『――ジ。セージ、聞こえるか!?』

 

ふと、フリッケンの声が聞こえる。

力が戻ったのだろうか、試しに実体化してみる。

 

――戻った。攻撃が来ないタイミングで実体化を図り

そのまま反撃に転じる。

勿論、相手は聖槍を構えている。だが――

 

EFFECT-INVISIBLE!!

 

力を取り戻した記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を使い、姿を消す。

これなら、聖槍をかわすことが容易になるはずだ。

どんなものでも当たらなければどうと言う事は無い。

そして今度は……

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

姿を消したまま、腐食の剣で艤装を攻撃する。

思惑通り、艤装には亀裂が入り機能を喪失し始めている。

そのまま、聖槍を持つ右手を攻撃し聖槍を取り落させようとしたが

そこまではうまく行かなかった。

 

「艤装にダメージを与えた事だけは褒めてあげる。

 けれど……まだこれからよ! ガイスティブブリッツ!!」

 

――まただ。また聖槍から雷を放ってくる。しかも今度は狙いをすませていない

でたらめな撃ち方だ。これでは下手をすると当たってしまう。

霊体化と違って、今は透明になっただけで俗にいう当たり判定はそのままなのだ。

 

しかも、主砲にダメージは与えたがなんと副砲を撃ってきているじゃないか。

考えてみれば当たり前の事なんだが、まだ艤装は生きているみたいだ。

もう一撃位与えないと、艤装の機能を止めることは出来ないかもしれない。

そのためには、隙を作らなければならない。

 

EFFECT-MELT!!

 

「……何のつもりかしら? 陸も海も、私にとっては同じようなもの。

 多少荒れた程度で、私の足を取れると思わない事ね」

 

『ダメだセージ! 奴は水上スキーのように宙に浮いている!

 地面をぬかるませたり、足を取ろうなどと考えたりするな!』

 

地面を溶かし、ぬかるませることで隙を作ろうとした……のだが

はっきり言ってこれは悪手だった。

なにせ、相手はまるで水上スキーのように地面を走っているのだから。

俺としたことが、判断を誤った。気を取り直し、俺は二枚のカードを引く。

 

「だったらこれだ!」

 

PROMOTION-ROOK!!

SOLID-GYASPUNISHER!!

 

戦車(ルーク)」に昇格し、ギャスパニッシャーを実体化。

正直、これで止められるかどうかはわからないが

やらないよりはやってみたほうがいいだろう。

俺はロンギヌス13に向けて、ギャスパニッシャーの鎚を向ける。

 

断罪判決の魔眼(フローズン・グローバルパニッシャー)」。

 

ギャスパーの神器「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」を模した、ギャスパニッシャーの特殊能力だ。

柄のトリガーを引くと、鎚に目が描かれ、魔法陣が展開する。

その魔法陣は、ロンギヌス13の動きを封じ……

 

……なかった。聖槍で魔法陣を切り払い、断罪判決の魔眼を無力化したのだ。

 

「言わなかったかしら? この聖槍は、あらゆる異能を封じるって」

 

「そんなのありかよ……こうなったら!」

 

聖槍に注意を払いながら、俺はギャスパニッシャーを振り回す。

はっきり言って、そのお陰で決定打にはなりにくいが

それでも戦車の力で鈍器を振り回しているのだから、質量では負けていないはずだ。

 

「重量級にシフトしたのかしら? それなら……Feuer!!」

 

ハンマーと槍の殴り合いの最中、相手のSKC34がこちらに狙いを定める。

砲弾が火を噴く瞬間を狙い、俺は再度断罪判決の魔眼を発動させる。

 

「……そいつを待ってた! でぇぇぇぇいっ!!」

 

BOOST!!

 

そして、断罪判決の魔眼で動きを止めた弾丸めがけて

倍加させたうえで鎚を叩きつける。

ロンギヌス13に打ち返すように。

断罪判決の魔眼の効果が解けると同時に、俺に向かうはずだった弾丸は

そのまま跳ね返される形となったのだ。当然――

 

「――っ!!」

 

――着弾。威力は相殺されてしまったが、反撃でダメージを与えられただけでも儲けものだ。

今度の一撃は効いたらしく、相手のドイツ軍服はかなりボロボロになっている。

艤装も所々から火花が散っており、あの様子では主砲は使えまい。

使えたとしても、威力は殺がれているだろう。

 

「やるわね……!」

 

「まだ終わりじゃない、止めだ!!」

 

『ああ、ちょっとくすぐったいぞ!』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

ギャスパニッシャーを持った状態での分身を作り出し

4人の俺でそれぞれタイミングを合わせて叩きつける。

反撃の隙など与えない。このまま一気に押し切る。

時には交互に打ち合い、時には同時に叩きつけ。

 

そして締めは――

 

BOOST!!

 

BOOST!!

 

BOOST!!

 

BOOST!!

 

「「「「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」」」」

 

それぞれが「紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」で倍加を行い

相手の頭上から思いっきりギャスパニッシャーを振り下ろす。

既に艤装はボロボロであり、仮面も割れている。

その下からは例の何もない空間が見えているだけだが。

 

「うあああああああっ!!

 ……くっ、ふふっ……何も……知らずに……!!」

 

直後、艤装諸共ロンギヌス13は爆発を起こし、消え去った。

……勝ったのだ。コピーとは言え異能封じの聖槍を、破ることが出来たのだ。

 

 

「……どうだ! これが俺の遊び心だ!」

 

「慧介、それは遊び心と言うのか……?

 しかし厄介な相手だった……聖剣まで封じてくるとは……

 なるべくなら、もう戦いたくない相手だな」

 

「その調子にゃん白音。気の力の使い方さえコントロールすれば

 体にかかる負担も減らすどころか、身体能力以上の力を発揮できるにゃん」

 

「……はい、姉様」

 

――俺が決着をつけたのと同時に、慧介さん・ゼノヴィアさんコンビも

黒歌さん・白音さんの姉妹もそれぞれの受け持ちを倒していたみたいだ。

 

……だが、最期の言葉が気になる。

一体なんだというんだ。それっぽい事を言っているだけなのか?

 

「……セージ先輩、無事ですか?」

 

「ああ、なんとかな。しかし奴が最後に言い残した言葉……

 一体何が言いたかっただろう……」

 

酷く引っかかるものを覚えながら、俺達は周囲の捜索に戻ることにした。

 

――――

 

駒王学園跡。学校がこの有様では、とても新学期だなどと言ってはいられない。

本来ならば、二学期はとうに始まっているはずなのに。

一体全体、どうしてこんなことになったのだろうか。

 

「……よほど酷い攻撃を受けたみたいだにゃん。

 これじゃ、生きてる人は絶望的だにゃん」

 

「……そういうことを言うのはやめなさい。

 ゼノヴィア君も残念な結果になってしまったな……」

 

慧介さんの発言の意味が理解できなかった俺は、つい問い質してしまった。

 

「ああ。ゼノヴィア君は二学期からここに来るはずだったんだ。

 だが、この有様に加え、いつぞやの会議があったろう?

 あの騒動でな……」

 

「まあ、アーシアと同じクラスになれるかどうかもわからなかったんだがな。

 学校には通った方がいいと、慧介やめぐにも強く言われてな……」

 

耳が痛い。俺も学校に行かなくなって随分になる、と言うか一学期はまるまる出席してない。

ある程度は兵藤に憑依して聞いていたが、それでも授業の遅れは気になるところだ。

それ以前にどうやって体を取り戻すか、なんだが。

 

それにしても黒歌さんの言う通り、酷い有様だ。

俺も口に出さなかっただけで、まさか生きている人はいないだろう。

 

ふと、瓦礫が動くような気配がした。

俺は慌てて、声を張り上げてみる。

 

「おいっ! 誰かいるのか!? 居たら返事をしろ!」

 

声の下あたりの瓦礫を、俺達は思い切ってどかしてみる。

すると中から血まみれの状態の匙が出て来たのだ。

 

「お、お前は……匙!?」

 

「へ、へへっ……なんだよてめぇ……

 そ、それより会長は、みんなはどうしてる……?」

 

「それはわからない。それよりも傷の治療をしなさい。

 今こっちに応援を呼ぶ、それまで……」

 

「――いえ、それには及びません」

 

声のした方向を振り向くと、シトリー会長がいた。

彼女もまたボロボロの状態で、左腕を抑えつつ、足を引きずりながら歩いてきたのだ。

 

「君は……」

 

「支取……いえ、ソーナ・シトリー……悪魔、です……」

 

シトリー会長の名乗りに、慧介さんが血相を変える。

俺は慌てて、慧介さんを抑えにかかる。

 

「なにっ!?」

 

「ま、待ってください慧介さん! ここまで傷だらけになっている以上

 何かがあったと思うんです、話だけでも……」

 

「……そうだな。すまなかった。なぜこうなったのか、わけを話しなさい」

 

俺達はシトリー会長の言葉に耳を傾けた。

冥界からグレモリー部長らと同様帰省したが

案の定、駒王町はこの有様であったこと。

生徒会室の魔法陣が辛うじて生きていたため、学園跡に転移してきたこと。

そしてここを拠点に今まで活動していたが、周囲の住民との間には亀裂が入っており

今までのようにはいかなかったこと。

そして……つい先刻、聖槍騎士団の攻撃を受け

生徒会役員――シトリー会長とその眷属は軒並み壊滅的な打撃を受けた事。

 

「はぁっ、はぁっ……これが……私の知っている……以上です……」

 

「安心しなさい。聖槍騎士団は今しがた我々で撃退した」

 

「はっ……嘘つくなよ……神器もちとは言え人間風情が

 俺達や会長でも敵わなかった奴を、お前達だけでどうやって……

 

 あだっ、あだだっ、あだだだだだだ!!」

 

憎まれ口をたたく匙に、黒歌さんが思いっきりかみついた。

ネコの嚙みつきって、結構痛いんだよな……

 

「こんだけ憎まれ口叩けるなら大丈夫にゃん。こんな奴ほっといても大丈夫にゃん」

 

「……シトリー会長、これからどうするので?

 病院なら、俺も場所を知ってますが」

 

内心ちょっとだけ黒歌さんに同意しつつ、俺はシトリー会長に今後について振ってみる。

三大勢力が公になっている以上、悪魔だと言う事がバレた会長がここに居たら

ちょっと面倒なことになるかもしれないと思ったからだ。

 

「急ぎ冥界に戻り、この現状を伝えます……

 それに、姉にも心配はかけたくないですし。

 

 ……あんなどうしようもない姉ですけど、私にとってはかけがえのない姉ですし。

 場合によっては、支援要請を……」

 

「……いや、それはやめた方がいい。

 さっき君自身が言ったろう。周囲の住民とうまく行かなかったって。

 そこに悪魔の軍勢が押しかけてみろ、混乱が加速するばかりだぞ」

 

冥界からの援軍を呼ぼうとしていたシトリー会長を、ゼノヴィアさんが制止する。

確かに、悪魔に対する悪感情が高まっている中で悪魔の軍勢に来られたら

とんでもないことになりそうだ。

 

「……そう、ですね……

 では私達は冥界に戻り、傷の手当てに専念します……」

 

「か……会長!」

 

「サジ。お願いですから私の言う事に従ってください。

 あの異能封じの槍は、悪魔の駒さえ封じるものです。

 ……そうでなくとも、あなたが一番深手を負っているのですよ?

 他の皆は、もうリリスの病院で治療を受けている頃です」

 

「……ち、ちきしょう……!」

 

一瞬、匙の目に涙が見えた気がした。

……見なかったことにしておいたが。

 

俺達に一礼すると、シトリー会長は魔法陣でその場を後にした。

……この分だと、グレモリー部長もどうなっていることやら。

グレモリー部長はともかく、祐斗やアーシアさんの身の安全は気がかりだ。

暴動とかに巻き込まれてなきゃいいんだが。

 

「……っと、すまない。電話だ。

 ……伊草だ。ふむ……何? ゼノヴィア君に会いたい人がいる?

 誰だ? ……アーリィ・カデンツァ? ……いや、俺は聞いたことが無い。

 ともかく、一度戻る……

 

 ……と言うわけだ。俺達は一旦戻る。君たちはどうする?」

 

「俺も戻ります。ちょっと今の戦いで消耗しちゃいましたし」

 

「同感にゃん。白音にもあんまり無理はさせたくないし」

 

「……すみません、足を引っ張るみたいな感じで」

 

満場一致で、俺達は警察署に戻ることにした。

警察署に戻った俺達を、さらなる騒動が迎える形になるのだが

それはまた、別の話である。

 

「ゼノヴィア君。アーリィと言う女性に心当たりはあるか?」

 

「……いや、聞いたことが無い。慧介に話が振られると言う事は

 蒼穹会の人間か?」

 

「……いや、教会の所属らしい。俺が抜けた後に教会に入った人物かと思ってな」

 

「そうか……教会と言っても規模が大きいからな。

 私が知らないだけかもしれないが……いや、気のせいだな。

 ……ああ、聞いたことが無いはずなんだが

 知っているという不思議な感覚にとらわれただけだ」

 

その時の俺には、ゼノヴィアさんの言葉の意味がまるっきり理解できなかった――




ここでお知らせです。

本編の更新は、一旦ここで不定期とさせていただきます。予定ですが。
(まぁ、さすがに特別篇と同時執筆はハードル高いと言う事でご了承ください)
また、MOVIE大戦風と言いましたが
実際には電王夏映画風ですね。結構本編の事件にも絡んでくる形になって来ると思います
>アーリィさん

>シトリー眷属
セージ達が来る前に聖槍騎士団と戦っていた形です。
……とは言え、異能封じで眷属が軒並み無力化され
実質ソーナ一人で戦わなければならない状態にされたため
敢え無く……と言ったところです。

匙が一度セージにコテンパンに熨されているのを忘れているのは仕様です。
今回は黒歌に嚙みつかれましたが。

ネコの嚙みつきは痛いです、本当に。

1/18一部訂正。
ご指摘ありがとうございます。


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Late returnees. Case. Jaldabaoth

前回、特別篇のご案内をさせていただきましたが

「その特別篇を本編と番外編どっちで投稿するか」
のアンケートを取らさせていただきたいと思います。

当初は本編には多少絡む程度の予定だったのですが
予想以上に本編に絡んでしまいそうなので
急遽アンケートを取らせていただくことになりました。

番外編に投稿すると本編が間違いなく飛ぶことになるので。


それは、イギリス・カーナーヴォン城にて天界勢力と現地の異能者による

対談が終了した矢先の出来事であった。

フューラー・アドルフを名乗る男が、三大勢力の存在を公にしたのだ。

 

勿論、初めは誰もが与太や映画のプロモーションと思った。

しかし、それを裏付ける証拠が次々と上がってしまったのだ。

 

ヴァチカンの司教枢機卿。

駒王学園をはじめとする悪魔の拠点。

そして、どこで見つけたのかは定かではないが、神を見張る者(グリゴリ)のアジト。

挙句の果てには、悪魔による悪魔転生や拉致ともいえる強引な勧誘に加え

堕天使による神器所有者の殺害、人体実験。

天界による洗脳、そして過去バルパー・ガリレイが行った少年少女への虐待と

神の不在さえも、フューラーは平然と公表したのだ。

それはかつて、アドルフ・ヒトラーが絶滅させんとしたユダヤの民が信仰する

宗教への、弾圧ともいえる内容の公表であった。

 

その身なりと、語り口、話す内容からフューラーは文字通り「総統閣下」と呼ばれ

「ヒトラーの再来」とさえも噂されるようになったのだ。

当然、そうなれば国連が黙っていない。神の不在を知ったキリスト教国は

ヴァチカンに対し説明の要求を行い、キリスト教国の一つであるアメリカが混乱したために

世界経済は恐慌状態に陥ってしまっていたのだった。

 

神の不在の公表による影響の少なかった日本だが、これには大慌て。

駒王町への支援も、立ち行かなくなる状況にまで追いやられてしまうのだった。

 

「……これは、少々マズい事になりましたね……」

 

「こ、ここまで信徒に混乱や疑心が生じては、システムが……

 いえ、天界やこの世界そのものが立ち行かなくなる恐れがあります」

 

神の不在を埋め合わせる形で天界が……いや、熾天使が作り上げた「システム」。

神の加護や、神器(セイクリッド・ギア)の管理を行っている人工的な装置だ。

それが機能しなくなることを危惧したガブリエルだが、目の前にその神の影武者たる

ヤルダバオトがいることと、彼自身がシステムに難色を示しているため

慌てて言葉を取り繕っている。

 

「構いませんよ。その程度のシステムで如何こう出来る程度の仕事しか

 していませんでしたからね、私も『(ヤハウェ)』も。

 ……それより、こうなった以上私も『薮田直人(やぶたなおと)』から

 『ヤルダバオト』になる必要があるようですね。

 

 ……あるいはそれこそが、あのフューラーと言う者の目的かもしれませんが」

 

薮田――ヤルダバオトの言葉に首をかしげるガブリエル。

彼が言うには、まるで聖書の神を無理矢理引きずり出そうとしている風に見えるのだ。

いもしないものを引きずり出すという、矛盾した行動。

無理矢理にでも聖書の神を立たせることに、何か意味があるのだろうか。

ヤルダバオトの胸には、その不安が去来していた――

 

―――ー

 

「ではガブリエル。直ちにヴァチカンに向かいますよ。

 最悪の事態だけは、なんとしてでも避けねばなりません。

 

 ……最も、もう手遅れかもしれませんがね」

 

「手遅れ……と言いますと?」

 

さらりと恐ろしい事を言うヤルダバオトに、ガブリエルは質問を投げかける。

 

「人々の間に芽生えてしまった疑心を可能な限り取り除きます。

 疑心は暗鬼を生ず……日本の言い伝えです。恐らく、フューラーの演説で

 隣にいるものが悪鬼の類であると疑惑の念を抱いてしまっているでしょう。

 そしてその疑惑の念を実際に向ければ……どうなりますか?」

 

「それは……ま、まさか……人々はそんな……!!」

 

「そのまさかですよ。あなた方の……いえ、我々の存在は確かに人々を導きました。

 しかし、それは我々の潔白があって初めて意味を成します。

 ガブリエル。改めて問います。あなた方……いえ、我々は潔白ですか?」

 

それは、聖書の神の影武者から問われた、とんでもない質問。

自分たちは潔白であるかどうか。ガブリエルは

その質問に対する答えを持ち合わせることが出来ない。

何せ、自ら神の消滅を知りながらそれを隠蔽していたのだ。

その時点で黒である。下手をすれば、自分たちが神に成り替わる事だってできるのだ。

それはつまり、天使による神への冒涜に他ならない。

それを成そうとした天使がいるとさえ噂されているほどだ。

そんな者達が、どうして潔白などと言えようか。

 

「……あの会談の件を併せて考えれば、とても首を縦には振れないでしょう。

 もし縦に振れるのでしたら、あなたもある意味傲慢な天使の一人と言う事でしょうね」

 

「わ、私は決してそのような……!」

 

「承知していますよ。ですから、今からヴァチカンに向かうのです」

 

「は、はい!」

 

(私もいよいよ、『薮田直人』の名を返上せねばならないのかもしれませんね……

 まだ、この名前でやらなければならないことは多数あるのですが……)

 

そしてヴァチカンにたどり着いた二人だが

そこでは恐れていたことが現実になっていたのだ。

司教枢機卿は暴動でその機能の大半を喪失し

信徒たちは真っ二つに分かれてしまっている。

ある者は、信仰のためにフューラーの言葉を否定し、盲信ともいえる信仰心を見せ。

またある者はフューラーの言葉に踊らされ、かつて信じたものを疑い始め。

そしてまたある者は、そんな信徒達の暴動に心を痛め。

 

――信徒同士による血で血を洗う争い。

かつて寝食を共にした敬虔なる信徒たちが繰り広げる地獄絵図が、そこにあったのだ。

 

(これは……してやられましたか。このような状態になってしまっては

 我々がここに立ち入れば混乱を激化させかねませんね。

 まして、私がヤハウェの影だなどと名乗ったところで、誰も耳を傾けないでしょう)

 

ヤルダバオトとガブリエルの存在に目もくれず、争いを続ける信徒。

これこそがフューラーの狙いだったのだろうか。

もしそうだとするならば、こうもあっさりと内乱を始めてしまうのは

人のなせる業なのだろうか。

 

「……ガブリエル。こうなった以上あなたは天界に戻りなさい。

 今の状態で天使……それも熾天使(セラフ)が降臨したとなれば

 どんな形であれ混乱は加速します。我々は、打つ手が遅かったのかもしれません。

 私はなんとか『人間』としてこの事態の収束を図りますが……

 期待はしないでください」

 

「……やはり、あなたに主として顕現していただくのが一番……」

 

「こうなった以上無駄ですよ。今更主だなんだと言っても

 精々カルト紛いの新興宗教止まりの影響力しか無いでしょうし

 そんな影響で、この事態が収束するとは思えません。

 フューラーを『人間』と言い切っていいものかどうかはわかりませんが

 この邪悪さはまごう事無き人間です。人間の業は、人間が払うべきです。

 前に言ったはずですよ。ヤハウェの、神の、我々の出る幕はもうない、と」

 

ヤハウェの影武者自ら、神を否定する。

そのスタンスに、ガブリエルは心が張り裂けそうになっていた。

だがそれも、ヤハウェの最期に残したとされる言葉

 

――人はもう、我々から巣立つ時なのだ。

 

という言葉に集約されるのかもしれない。

そう。神は人を愛し、そして自分達も人を愛していたはずである。

それなのに、今目の前の人々は自分達を否定し

争いのダシにする始末である。

ただ巣立つだけならば、寂しさもあるが成長を喜ぶべきであると

ガブリエルは考えていた。しかし、こうなっては話が違ってくる。

自分たちの存在が、争いを招いている。

その事が、ガブリエルにとってはとても悲しい事実だったのだ。

 

「……わかり、ました」

 

「……私も、あなた方に謝らなければなりませんね。

 人類代表などと烏滸がましい事を言うつもりはありませんし

 私が人類代表などと言うべきではありませんが……

 人間・薮田直人としてあなた方には謝るべきなのでしょう」

 

「……あえて、厳しい事を言います。

 そう思うのでしたら、その思いを一人でも多くの人に伝えてください……」

 

「……肝に銘じましょう。では、頼みましたよ」

 

「ヤルダバオト様も、どうかお気をつけて」

 

ガブリエルが転移したと同時に、ヤルダバオトも転移を始めようとする。

 

……その矢先、どこからともなく魔力弾が飛来してくる。

すんでのところでかわすことも出来たが、ここで避けては

魔力弾が信徒に命中してしまう。やむなくヤルダバオトは創世の目録(アカシック・リライター)

魔力弾を相殺した。

 

「ん~、やっぱこうして出てきても驚かれねぇな。

 あのフューラーとか言う人間、言ってる事はあってるが余計なことしてくれたよ」

 

「……何の真似ですか。リゼヴィム」

 

そこにいたのは、魔王の装束に身を包み、6対の翼を持った悪魔。

しかしサーゼクスとは異なり、その髪は銀色で、ヴァーリを思わせる。

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。それがその悪魔の名前であった。

 

「何の真似? そりゃ決まってるだろ。てめぇに生きていられると困るんだよ。

 

 ……そう電波が言ってるんだよ。電波だよ。電波。

 本物の神はもういない、偽者の神を潰せば悪魔は真に悪魔足れるってな。

 そう電波が言ってるんだよ。電波がなぁ!!」

 

咆哮と共に、魔力弾をヤルダバオトめがけて放つリゼヴィム。

彼の能力「神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)」はあらゆる神器を無効化する。

しかしその対象は神器のみであり、それ以外の異能には適用されない。

だがヤルダバオトの持つものも神器であり、そういう意味では相性が悪い。

 

「……くっ!」

 

「ああそうだ。お前人間のふりしてるんだったよなぁ?

 その時に作ったもの使ったらどうだ? そうすれば万が一にも勝てるかもしれないぞ?」

 

実際、ヤルダバオトは数々の装備を薮田直人名義で開発していた。

しかしそれらはすべて、人間の科学力で再現可能な範囲にとどめており

超常的な存在にどこまで対応できるのか、は定かではない。

しかし神器ではないので、万が一ではあるもののリゼヴィムに対し一矢報いることは

出来るかもしれないのだ。

 

「……私は兵器を作ったつもりは無いんですがね」

 

「てめぇはそうでも、人間どもはそう思ってねぇかもしれねぇぞ?」

 

「……かもしれませんね。ですが、人が作りしものは、全て使い方次第ですよ。

 リゼヴィム、お望み通り使わせていただきますよ」

 

一か八かではあるものの、ヤルダバオトは完成したばかりのドローンドロイドを

リゼヴィムに向けて放つ。鳥や虫など、様々な形状をしたドローンが

リゼヴィムの周囲を取り囲む。数に物を言わせる作戦だ。

 

「ひゃはははははっ!! 本当にやる奴がいるかよ!!

 こんなガラクタ、あっという間に消し炭にしてやるからなぁ!!」

 

リゼヴィムの宣言通り、ドローンドロイドは一瞬で消し炭にされてしまった。

しかし、爆発の際に起きた煙幕の中に魔よけの香が含まれており

それをもろに吸い込んだリゼヴィムは、しばらく動けなくなってしまった。

 

「げほっ、げほっ……て、てめぇ……! よくも……!!

 

 ……い、いない!? くそぉぉぉぉぉっ!! ヤルダバオトぉぉぉぉぉ!!

 どこ行きやがったぁぁぁぁぁぁ!? おい、教えろよ電波!!

 電波電波電波電波電波ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

煙幕を利用し、その場を後にしたヤルダバオト。

その後腹いせに周囲が爆撃されたが、その前に「悪魔の襲撃がある」と

リゼヴィムを指してヤルダバオトが避難勧告を呼びかけたため

奇跡的に被害は最小限で済んだ。

 

……もっとも、避難場所で争いの続きが行われることになったが。

さすがにそこまでヤルダバオトも関知せず、日本に戻るべく行動を再開するのだった。

 

――――

 

「陸路も海路もほぼ封鎖状態……仕方ありませんね」

 

空港もテロの影響で閉鎖されており、反則技だとは思いつつも

転移によって日本へと移動することにした。

このテロのお陰で、日本は意図せずして鎖国状態に陥ってしまっている。

それも、駒王町の復興を妨げている一因であるのだ。

何せ資源の大半を輸入に頼っている国であるのに、その輸入が立ち行かないのだ。

 

(なんとかして駒王町に戻らないと、大変なことになっているでしょうね……)

 

しかし、この時全能の神の影武者たる彼でも予想だにしない影響があったのだ。

駒王町に存在する、クロスゲートである。

それが起動していたことにより、ヤルダバオトの転移タイミングにずれが生じてしまったのだ。

結果、ヤルダバオトが駒王町にやって来たのは9月頃。

既に二学期が始まっているはずの時期であり、リアスらも駒王町に戻っていた頃だったのだ。

リゼヴィムから離れたことで使用可能になった創世の目録で、現在の日時を調べ上げたことで

ヤルダバオトは一つの結論に思い至った。

 

(これは……予想よりも遥かに酷い状態ですね……

 いえ、転移の際に時間のずれが生じたと見るべきでしょうか。

 原因として考えられるのは恐らくゲート……とにかく、私も情報を集めない事には動けませんね。

 創世の目録を使うよりは、現地の人々から聞いた方が早いでしょう)

 

幸いにして、ヤルダバオトが転移したのは駒王警察署の近く。

彼は薮田直人として超特捜課の兵器開発の協力も行っていたのだ。

つまり、警察にも顔が利く。不幸中の幸いと言えよう。

 

しかし、ヤルダバオトは知らなかった。

クロスゲートが呼び寄せたのは、転移タイミングのずれだけではないと言う事を。

そこには、この世界にいないはずの存在が、クロスゲートを通ってやって来ていたのだ。




>リゼヴィム
原作の彼が狂っているのもきっと電波だろうと言う事で
須藤竜也(ペルソナ2)な事になってます。電波っぱー!
須藤が狂った理由を考えると、リゼヴィムも同じ理由で狂ったことになるわけですが
そうなると間違いなく彼はラスボス候補から外れます。

……まぁ、ラスボスって器でも無いと思いますし。
それ以前にタイトル詐欺になるから
セージの身体戻った時点で第一部完になる可能性大ですけどね。
そしてそれはそう遠い話でも無かったり。

>司教枢機卿
暴動で機能停止しました。
警察が無能になるのはフィクションではよくある事ですが
拙作ではなんだか逆になってる気がします。
けれどフューラーの演説一つでここまで混乱するあたり
ヤルダバ先生の目論見は外れていたことになるんですよね……実際外れましたが。

>クロスゲート
……ヤルダバ先生の転移タイミングと事件の時間が合わないことに関する
ご都合主義的な面は否めませんがこれ出典元からしてこういう機能があるとしか……
実際駒王町のクロスゲートは起動していたため、アーリィさん登場よりも後で
ヤルダバ先生が駒王町に帰還したことになってます。


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Life78. 聖槍騎士、戦います!

さて。
アンケートはこの投稿をもって締め切らせていただきます。
結果発表はまた活動報告にて。

今回はセージ達が聖槍騎士団と戦ってる最中のイッセーらの場面。
最初に謝っておきます。
桐生が酷い目に遭ってます。描写は避けてますが。

……次回からあの人が本格的に登場しますが、場面描写の都合上今回出番はありません。


俺達を待っていたのは、荒れ果てた駒王町だった。

その情景はとても信じられないものだったけど、あちこちから上がっている煙も

何かが燃えるような焦げ臭い臭いも

何もかもが、それを現実だと言ってくるのだ。

 

その直後にやって来たディオドラっていけ好かねぇ悪魔に

俺達は案内され、仮の拠点として建物を提供された。

そこは、外の町の様子が嘘みたいに豪華な設備が整っていた。

部長は「部室程度には整っているわね」と言っていたけど

これだけでも俺にとっては十分だった。

 

そんな場所を拠点にして、俺達は町の様子を調べに出て来たのだ。

父さんや母さん、松田に元浜、桐生の奴らも行方が知れていない。

もしかして……って思えてしまうが、そんなわけがない。あってたまるか。

 

「イッセーさん……」

 

「大丈夫だって。きっと父さんや母さんも無事だって」

 

根拠はないけど、俺はアーシアにそう言わざるを得なかった。

それにしても、禍の団(カオス・ブリゲート)の奴らは許せねぇ。

俺達が住む町を、こんなにしやがって。

絶対にこの手でぶっ飛ばしてやる!

 

『……意気込むのは良いがな、相手の戦力だけは読み違えてくれるなよ?

 俺としちゃお前が死んだら、次にいつ白いのと戦えるのかがわからんからな』

 

ドライグ。そこにしか興味が無いのかよ。お前らしいっちゃらしいけどよ。

そんな風に話しながら町を歩いていると、山の中へと入って来た。

この辺りは破壊活動も行われていないみたいで、あちこちにテントが見える。

 

けれどなんだ? 何だか俺達を睨んできてるような……?

ま、まさかアーシアを狙ってるんじゃないだろうな!?

 

「ん……? イッセー、イッセーじゃないか!」

 

「お、お前は……松田! それに元浜も!

 無事だったのか! 良かった……!」

 

「ああ、なんとかな。しかしこんな時にアーシアちゃんとデートだと!?

 て、てめぇって奴は……!」

 

いきなり変な言いがかりをしてくる松田に、何とアーシアが否定の言葉を投げかけてきた。

 

「違います。イッセーさんとは一緒に歩いていただけで、そういうのじゃないです」

 

ぐさり。な、何故だかわからないが酷いダメージを受けた気がする。

アーシア、いつの間にか強くなった気がする……いろんな意味で。

 

「え? それじゃ俺達にもワンチャン……」

 

「ねぇよ。てめぇらみたいなエロガキ――」

 

「イッセーさんも人のこと言えないと思いますよ。

 部長さんや朱乃さんに鼻の下伸ばしてますから」

 

ぐさりぐさり。アーシア、そこまで言わなくてもいいじゃないか……

小猫ちゃんみたいになってきてるぞ……

 

小猫ちゃんっていえばセージの奴は何処に行ったんだ。

アイツも一度ぶん殴らないと気が済まない。

誰のせいで部長が辛い思いをしていると思ってるんだ!

 

「ほら、また部長さんの事を考えてた」

 

「えっ!? 違っ、これは――」

 

「……なぁ。痴話げんかは他所でやってくれないか?

 俺達も、避難生活で結構カツカツなんだ。

 いや、物資寄越せって言ってるわけじゃないんだ。ただ、な……」

 

「あっ……ご、ごめんなさい! 私、そういうつもりじゃ……」

 

おいてめぇら! 何でアーシアを責めてるんだよ!

アーシアが一体何をしたっていうんだ!

やっぱりこいつらをアーシアに近づけるのは良くない、そんな気がする。

 

「いや、アーシアちゃんは悪くないよ、悪いのはこいつ」

 

「そうそう。人の気も知らないでよ。ところで二人とも、どこに避難してるんだ?」

 

って俺かよ!?

思わず突っ込み返してしまったが、質問が飛んできたので答えることにする。

 

「ああ、この先の――」

 

方角を指示した途端、二人の血相がまた変わった。

相変わらず忙しい奴らだな。

 

「何っ!? て、てめぇアーシアちゃんをあんな所に連れ込んでやがるのか!?

 あんなヤクザの支配してる地域に!」

 

「お前の親父さんやお袋さんに関しては悪い事件があったと思うけどよ。

 だからってヤクザの地域に匿ってもらう事は無いじゃないか!

 知ってるのか!? あそこで何が起きているのかを!」

 

……は? 話が見えない。

確かにヤクザが絡んでいるってのは知ってるけど、そこまで言うほどのモノか?

実際今まで部長も朱乃さんも変な目に遭ってないみたいだってのに。

 

「……何言ってるんだよ。俺達はな……」

 

「……そ、そうですね。ごめんなさい、私たちが思い至りませんでした。

 皆さん苦しい生活をなさっているのに……」

 

「いや、だからアーシアちゃんが謝ることは無いんだって。

 それよりアーシアちゃん、何かひどい事されてないか? 特にこいつに」

 

二人を問い詰めようとした矢先、アーシアがまた頭を下げる。

何でこいつらに頭を下げる必要があるんだよ?

アーシアは何も悪いことしてないだろうが。

 

「そういうのは大丈夫ですけど……私達、部長さんの実家への帰省に付き合っていたので

 こっちに帰って来たのもつい最近なんです。それで、事情がよくわからないで……」

 

「……えっ? アーシアちゃん、どうやって帰って来たんだ?

 リアス部長って、海外の出身だろ? 空路も海路も封鎖されている現状で

 どうやって帰って来たんだよ? 知ってると思うけど、ここ島国だぜ?」

 

……げっ。そんな状況になってたのかよ!?

こ、こりゃマズい。部長が悪魔だってバレちまう。

そうなると色々面倒だ、部長がいないところで部長が悪魔だって言えるわけないし。

 

ふと、上空を何かが飛ぶ音が聞こえる。

飛行機……にしてはやけにでかい……って、あの翼に書いてあるのって……

 

……なんだあれ?

ふと同じく上を見たアーシアを見ると、何故だか震えていた。

 

「……は、ハーケンクロイツ……な、なんでそんなものが今の時代に……!?」

 

「「ハーケンクロイツ?」」

 

「ちったぁ勉強しろよお前ら……薮田に怒られるぞ。

 第二次大戦の時、ナチスドイツが使っていた徽章だ。

 当然、今は使われることの無い代物のはずなんだけど……

 

 ってアーシアちゃん、目いいな。あんな高高度の飛行機の模様が見えるなんて」

 

俺と松田の疑問に、元浜がインテリぶって答えている。

それでもアーシアとの関連性はよくわからないけどな。

それより、元浜はアーシアの目の良さに驚いている。

それも悪魔になったおかげなんだけど……これも言うとややこしくなりそうだしな。

 

そして、今度はその飛行機からパラシュートが開く。

支援物資……じゃない! 人だ! 人が下りてくる!

 

「パラシュート? 支援物資かな?」

 

「ハーケンクロイツつけた飛行機がか?」

 

「そうじゃねぇよお前ら! あれから降りてくるのは人だ!」

 

だからなんで見えるんだって二人のツッコミをよそに、パラシュートで降りてきた人は

何と俺達の目の前にやって来たのだ。

 

見た目は……うひょぉ! 仮面で顔は見えないけれど、かなりの美人だし

おっぱいも良好! 元浜、今こそあれを使う時だ!

 

「お前らよく見えるな……っと俺にも見えてきたぞ……

 上から……あ、あれ? おかしいな……よく見えないぞ……?

 と、とにかくボン! きゅっ! ボン! ……なのは間違いない」

 

「その詳しいデータを知りたいんだけど……ってまぁいいや。

 けれど何で仮面なんてしてるんだ?

 それに、何だかコスプレっぽい雰囲気してるし。つーかコスプレだよなあれ」

 

……え? 元浜のアレでも見えないって……そんなのは初めてだ。

空から降り立った美人に俺達が沸き立つ中、アーシアはまだ震えていた。

 

「……あ、あなたは……一体……?」

 

「…………」

 

沈黙を破るように、目の前の美人から巨大な砲台やら何やらが現れる。

まるで天照の装備みたいなそれは、突然どこからともなく出て来たのだ。

天照の眷属か何かか? いや、けれど元浜の言ったことが本当なら

何でドイツに天照の眷属がいるんだって事になる、一体誰なんだ?

 

「その眼鏡は……神器(セイクリッド・ギア)ではないわね。神器持ちは……

 そこの小娘と、子ザルその1。まぁいいわ。相手をしてあげる。

 けれどその前に……一つ聞くわ。聖槍……って聞いたことが無いかしら?

 そしてそれは、どこにあるのかしら?」

 

聖槍、と言う単語にまたアーシアだけが反応する。

聖剣の仲間みたいなものだろうか、松田も元浜も付いていけていない様子だ。

しかし、聖剣の仲間だというだけにしてはアーシアの震えっぷりは尋常じゃない。

 

「し、知りません……」

 

「ふぅん。その様子だと知ってそうだけど……まぁいいわ。

 じゃあ、そっちの子ザル。あなたは知っているのかしら?」

 

「さっきから子ザル子ザルうるせぇな! 俺には兵藤一誠って立派な名前があるんだよ!」

 

俺が名乗った途端、目の前の美人の右手には突如として槍が現れた。

そしてその槍は、俺を貫いた……のだが。

 

「……なんだよ。全然痛くないじゃねぇか。つーかいきなり何するんだよ!」

 

「これは聖槍のコピー。あらゆる異能を封じる聖槍の模造品よ。

 それにしても……一言いいかしら。

 

 ……愚か者! ここは戦場よ!

 さっきから鼻の下を伸ばしておいて、私の動きに全然ついてこれてない!

 こんな奴が赤龍帝だなんて、冗談も大概にしてほしいわよ!」

 

「……!! 松田さん、元浜さん、逃げてください!!」

 

事態を飲み込んだアーシアが、慌てて松田と元浜を逃がす。

二人とも困惑しながらも血相を変えたアーシアにただ事ではない様子を感じたのか

言われるがままに距離を取っていた。

 

「大層な度胸ね、Fraulein.(お嬢さん)

 そこの子ザルとは大違いだわ。先にあなたを封じておくべきだったかしら?」

 

「ラッセー君、部長さんたちに連絡をお願い!」

 

アーシアに呼び出されたラッセーが、空に向けて飛んでいく。

向かっていく方角は俺達の拠点。応援を呼んだんだ。

じゃあ、応援が来る前に片づけてやるぜ! 行くぜドライグ!!

 

――…………

 

しかし、ドライグは何も言わない。

 

「おい、どうしたんだよドライグ! いつもみたいに『Boost!!』って

 言うべき状態だろ、これは!」

 

「言わなかったかしら? これはあらゆる異能を封じる聖槍。

 その模造品、コピーだって。コピーにないのは殺傷力だけ。

 異能封じの力は、本家に勝るとも劣らないのよ?

 そして……封じる異能は、なにも神器だけじゃないのよ」

 

その言葉の意味を、俺はすぐに思い知る事となった。

何せ、体に力が入らなくなっている。

どんどん力が抜けていく。

立っていられない。思わず、横たわってしまう。

 

「何を……っ!?」

 

「やはり。死して転生悪魔になった者は、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を封じられれば

 死体に逆戻り、と言う事かしら。本当につまらないガラクタを作ったものね」

 

「い、イッセーさん!」

 

アーシアが俺に駆け寄り、「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」で治療を試みるのだが

おかしい。全然何も感じない。それどころか、アーシアの顔が良く見えない。

まさか俺、本当に死んじまうのか?

 

「無駄よ。聖母の微笑と言えども、死人をよみがえらせることは出来ないでしょう?

 一つ残念なのは、この効果は時間制限付き。

 だから、精々あなたは仮死状態止まりにしかなれない事。

 だから私は聖槍を探していたのよ。総統閣下がお求めの物でもあるけれど

 それ以上に、人間としての生を捻じ曲げられた哀れな人間を

 こうして救済するためにも、聖槍の力を求めたのよ」

 

言い返そうとしたが、何も喋れない。

そのまま、俺は目を閉じ――――

 

 

――――

 

 

気が付くと、さっきの女と木場が戦っていた。

アーシアは……後ろでラッセーと一緒に木場の援護をしている。

 

『油断するからだ。あの槍も、装備も一筋縄ではいかないぞ』

 

「わーってるよ……けれど、相手は女。だったら……!」

 

俺には切り札があった。洋服崩壊(ドレスブレイク)

相手が異能を封じるのなら、こっちはその異能を封じる槍をひん剥いてやろうって寸法だ。

幸い、木場に気を取られているらしくこっちには気づいていない。

 

俺はそっと、相手の背後に回り込み、その形のいい尻を撫でまわした。

うーん、役得役得。

 

……あれ? 何で反応しないんだ?

普通ここで悲鳴を上げたりするのが定石なんだが、一切何も言われないのはなんでだ?

 

そればかりか、俺の行動を見ていた木場やアーシアの目線が痛い気がする。

 

『……まぁ、あの二人の目線が普通の感性だろうよ』

 

「ぜ、前提条件は満たせたんだからいいじゃねぇか!

 やい、さっきは良くもやってくれたな! 今度はこっちの番だ、喰らえ!

 『洋服崩壊』!!」

 

右手を天高く掲げ、指を鳴らす。

それと同時に、相手の衣服は吹っ飛ぶ……

 

 

……筈だった。

 

「……何がしたいのかしら? まぁいいわ。今度はあなたが聖槍を受けなさい!」

 

「ぐ……っ!? か、身体が重い……」

 

まるで俺を無視するかのように、木場に聖槍が突き立てられる。

血は出てないが、いつものスピードが見る影もない。

悪魔の駒を封じるってのは、本当みたいだ。

 

……じゃ、じゃあ俺が動けなくなったのもそのせいって事か!

悪魔の駒を封じる武器があるなんて、どんだけインチキなんだよ!

洋服崩壊も効かない謎の敵を相手に、俺は木場のフォローをするべく躍り出る。

 

Welsh Dragon Balance Breaker!!

 

相手が何なのかわからねぇが、禁手の力なら押せるはずだ!

俺は「赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)」を身にまとい、目の前の女に殴りかかる。

……と言うか、女だよな? 洋服崩壊が効かなかったことといい、何か引っかかるけど。

 

「ふん、パワーだけは一人前ね。けれどパワーだけで勝てるほど

 戦場と言うのは甘くないのよ!」

 

俺はこの女と組みあう形になった。槍で狙われないのは良かったけれど

装備している砲台がこっちを狙っている、マズい!

 

Feuer(斉射)!!」

 

至近距離で撃たれたため、自分にもダメージが行ってるはずなのだが

それ以上にこっちのダメージが酷い……くそっ。

鎧が無かったらきっとバラバラになっていただろう。

 

『ぐ……病み上がりには堪える一撃だな……!』

 

そうだった。この間のはぐれ悪魔騒動の時も普通に使っていたから忘れかけていたが

ドライグの奴は一度セージにコテンパンにされたことがあったのだ。

それさえなければ競り勝っていたかもしれないと思うと、何だか悔しい。

 

『無理だな。パワーだけで勝てる相手じゃない。

 そうでなくとも、お前は俺の力を持て余し気味だ。

 これなら霊魂のの方が俺の力をうまく扱えたかもしれんな』

 

「無茶いうな、俺はアイツじゃねぇんだ! パワーを倍にして

 ぶん殴る、それが俺のやり方だ!!」

 

『……やれやれ』

 

Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!

 

思いっきり倍加をかけて、目の前の女を突き飛ばそうとする。

加速力にも倍加をかけているんだ、これは避けられねぇだろ!

実際、鉄のぶつかるような音と共に相手がよろめくのを確認した。

洋服崩壊が通用しないなら、強引にひん剥いてやる!

そう思い、まずはボディスーツ……の前に鬱陶しい仮面から引っぺがすことにした。

洋服崩壊が使えないのがもどかしいぜ。

 

だが、その仮面の下には顔が無かった。のっぺらぼう、ではなく無いのだ。

 

「な……な……なんなんだよ!?」

 

『! 距離を取れ、でかいのが来るぞ!』

 

「見たわね……ガイスティブブリッツ!!」

 

突如、雷に打たれ全身が痺れて動けなくなる。

朱乃さんの雷もこれくらい痛いのだろうか。本気のを喰らったことが無いのでわからないが。

しかしそれにしても、これじゃ体が動かせない、どうすりゃいいんだよ!?

 

「イッセー、みんな、無事!?」

 

などと思っていると、遠くから部長の声が聞こえる。

やった、これで形勢逆転だ!

 

「……くっ。少しばかり長居しすぎたようね。

 まぁいいわ。悪魔もだけれど、お前のような半端ものはこれから苦しみ続けるがいいわ。

 フフッ、後悔……残したわよ」

 

そう言い残し、装備を変形させてものすごいスピードで地表すれすれを走るように滑っていき

俺達の前から姿を消した。後悔? どういうことだ? 何で俺が後悔なんかするんだよ?

俺の頭に疑念が残る形になったが、部長が来たお陰ですべて吹っ飛んだ。

同時に、身体のしびれも取れていた。

 

「イッセー大丈夫? 祐斗もよく頑張ってくれたわね。

 それにしても相手は見たこともない奴だったわね……」

 

「部長、相手の持つ槍は聖槍……コピー品ですが。

 異能を封じる力を持っています。対策を練っておかなければ

 悪魔の駒さえも封じられては……」

 

「……それについては、戻ってゆっくり考えましょう。

 とにかく、ここは一旦戻るわよ」

 

そう言って、部長の魔法陣で転移しようとした……矢先の事だった。

 

「い、イッセー……お前ら……」

 

「ゆ、夢じゃ……ない……んだよな……?」

 

そこには、あいつが引き上げたことで出て来た松田と元浜がいたのだ。

部長は慌てて展開しかけた魔法陣を元に戻すが、時すでに遅かった。

 

「あ、あなた達……いつからそこに……」

 

「さっきからっすよ、リアス先輩……

 まさか、あんた達が……信じたくねぇけど……」

 

「……イッセー。黙ってたけどな……桐生は……桐生はな!!

 

 ……悪魔に、悪魔に暴行されたんだぞ!!」

 

元浜の言葉に、その場にいる全員が硬直した。

桐生が暴行されたって!? そ、そんなバカな!?

 

「そりゃ俺達も最初は悪魔に頼ってでもモテようとか考えてたさ!

 けれど、けれど町がこんなになったのも悪魔のせいだろ!

 それを聞いて慌てて俺達は貰ったチラシを破り捨てたさ!

 

 ……けれど、けれど桐生は、桐生はそれと同じタイミングで

 俺達みたいなことを考えた奴の、悪魔の毒牙にかかってな……!!」

 

「いくら俺達が変態トリオだなんだって言われても

 最後の一線だけは越えなかったさ!

 けれどてめぇはなんだイッセー! 悪魔の仲間入りして

 自分達さえ良ければどうでもいいって言わんばかりに

 ヤクザの膝元でぬくぬくしやがって!!」

 

「ち、違っ……」

 

物凄い剣幕でまくし立てる松田と元浜に、俺達は返す言葉が出てこない。

力では俺達の方が圧倒的なはずなのに、なぜか何も言えないのだ。

その悪魔だって、俺達じゃない、別の悪魔だってのに。

 

「違うものかよ! セージだってこのテロの中入院中なんだ!

 しかももう生命維持装置も限界に来ている!

 てめぇら……そろいもそろって何なんだよ……ふざけんなよ……!!」

 

「あなた達聞いてちょうだい。私達は関係ないの、それは別の……」

 

「同じっすよ! 悪魔って何なんすか!? 俺達の町を土足で荒らしまわるヤクザっすか!?

 ……イッセー、悪いけどお前らとはこれ以上一緒にいられない。

 カラオケやボウリングは楽しかったけどよ、今のお前らと一緒にいたら

 町のみんなに迷惑がかかっちまう。今は町のみんなで協力しなきゃいけない時なんだ。

 そんなところに悪魔が来てみろ。一気にパニックだ!

 ……行くぞ元浜。今日の収穫は……言いたくねぇな」

 

有無を言わせぬ勢いで、松田と元浜は俺達の前から去ってしまった。

その後、何事もなかったかのように魔法陣で転移した俺達だったが

俺とアーシア、木場、それからギャスパーは

松田と元浜の言葉に少なからずショックを受けていた様子だった。

 

「……なんだよ……なんだよあいつら……!

 クソッ、敵を追い払えたのに全然勝てた気がしねぇ!!」

 

「……その敵も、何だか見逃されたみたいな感じだったしね。

 あれは多分様子を見ながら戦っていたよ。

 本気を出していたら、まずアーシアさんが聖槍でやられて

 僕らが一人ずつ撃たれていた。部長達が来たお陰で、引き上げたみたいだけど」

 

「……ご、ごめんなさい。僕が、僕がもっと早く来ていれば……」

 

さっきからギャスパーは謝ってばかりだ。

それがいつものギャスパーっちゃそうなんだが、何だか今は無性に腹が立つ。

 

「うるせぇ! ギャー助、てめぇが来たらアイツには勝てたかもしれねぇけど

 松田と元浜はどうすんだよ!?」

 

「……ひっ!? そ、それは……」

 

ギャスパーを怒鳴りつけた次の瞬間、俺は木場にぶん殴られていた。

……だよな。クソッ、本当に腹が立つ!

何に対してかわからないけど、異様に腹が立つぜ!

 

「……イッセー君。ギャスパー君に当たっても仕方ないだろう。

 彼らには、どのみちどこかでバレていたと僕は思うよ。

 ただ……最悪のタイミングだってのは、僕も否定しないけどね。

 きっとそれこそが、相手の狙いだったのかもしれない。

 

 ……僕たちの心を揺さぶるっていう、ね」

 

「なんだよそれ……結局俺達は負けたって事かよ!?

 ……そんな、そんな事って……!!」

 

俺にとって、あいつらはまだ友達のつもりだった。

けれど、あいつらは悪魔と言うだけで俺達を拒絶した。

 

……どっちが正しいのか、俺にはさっぱりわからない。

ただ一つだけ言えるのは、俺はその日初めて

悪魔になったことを後悔した、って事だ。




拙作でエロ描写をしようとするとR-15タグじゃ済まなくなりそうなので。

>松田と元浜
この状況下で改心したというか、桐生の惨状を聞かされた上に
彼らもテロの被害に遭って生活が崩壊したために
考えを変えざるを得ない状況に追い込まれてます。

一般人には変わりありませんが、だからこそ原作で生じなかった「壁」を
可視化したらこうなるだろうなぁ、という面を意識してます。
超特捜課の人達は「戦える人間」、彼らは「戦えない人間」として
描写してるつもりです。

>桐生
犠牲になったのだ……エログロの本当の恐ろしさ、その犠牲にな。

……いや、彼女もイッセーにとって都合の良い女の一人だと思いましたので。
直接関係してなくてもアーシアを焚きつけたり「こいつ共犯だろ」と
思える部分は幾らかありましたので、ちょっとキツイお灸をば。

因みに、実行犯は触れられてませんが禍の団の一派の悪魔です。
現在霧島をはじめとした婦警組が時折カウンセリング兼警備を行っている状態。
今回の事がショックであの能力は失われました。どうでもいいですが。

松田と元浜は現場に居合わせたけれど、悪魔にかなうはずがなく……
こいつら(含イッセー)が最後の一線を越えてないのは、一応事実ですからね。
ところが一線を越えた現場を目の当たりにしたことで……

>聖槍騎士
今回は一人だけ。そのためリアスらが来た段階で多勢に無勢と撤退したけれど
松田と元浜にイッセーらの正体をばらさせたのは作戦の一つ。
やはり某邪神様の眷属だった!


……さて皆様お待たせしました。
次回より特別篇へと移行いたします。

※1/30修正
いきなり矛盾とかどういうことなの……


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特別篇 ハイスクールS×S 留学生の地獄門(クロスゲート)
Special1. 迷い込んだシスター


お待たせしました。
二周年記念が一か月延期と言う形になりましたが
今回より特別篇に突入します。


「……隣人を食す隣人なんて、こちらからご免被ります。

 あなた方の言う、和平ってなんですか?」

 

 

そのシスターは、かつて悪魔に全てを奪われた。

 

 

「……それでも悪魔でいろってんなら、俺は俺の信じるもののためだけにその力を使う!

 お前のためになど戦ってやるものか、俺は俺のために戦う!」

 

 

その少年は、悪魔によって在り方を歪められている。

 

 

――地獄の門は、そんな出会うはずのない二人を引き合わせる。

 

 

ハイスクールD×D 同級生のゴースト 特別篇

 

ハイスクールS×S 留学生の地獄門(クロスゲート)

 

 

時は201X年、8月。

日本国の某所にある駒王町は、禍の団を名乗る組織による大規模なテロと

謎の怪物軍団による襲撃で、その都市機能の一切を喪失していた。

 

そして時を同じくして、禍の団(カオス・ブリゲート)・英雄派を率いるフューラー・アドルフによって

それまで架空の存在とされてきた天使・悪魔・堕天使の存在は公のものとされた。

 

それにより世界は混乱、国連は日本に対する支援と

ヴァチカンやドイツに対する非難を沈静化させることに追われていた。

ヴァチカンには司教枢機卿に対する説明要求を。

ドイツにはヒトラーの再来としか思えないフューラー・アドルフなる人物に関する説明要求を。

今まで信仰してきたものを、かつての自分たちの過ちが生み出したある種の英雄が

否定しにかかっているのだ。混乱が生じない方がおかしい。

 

そんな世界情勢が困惑する中、実際にテロの被害に遭った駒王町は

さらに深刻な事態を迎えていたのだった……

 

――――

 

「……わ、わしは何も知らん! 悪魔の存在など、あのナチスかぶれが言ったでたらめだ!」

 

駒王町役場、町長室。

町長らしき小太りの初老の男が、派手な色のスーツを着込んだガラの悪い男に囲まれている。

――曲津組(まがつぐみ)。それが彼らの所属する組織の名前である。

指定暴力団として日本全国にその名を馳せており、今はこの駒王町を中心に活動している。

 

「いやね? 別に悪魔がいようがいまいがどっちでもいいんですよ。

 ただ……あんたさん、それを言う資格ないと思うんですよ。

 

 ……調べついてんですよ。あんたさんが悪魔と蜜月な関係だって。

 って言いますか、そうでもしないと説明がつかないんですよねぇ……金の動きとか」

 

曲津組のリーダー格らしき男の一言に、町長は顔を蒼白にする。

事実なのだ。彼は悪魔であるリアス・グレモリー……いや、クレーリア・ベリアルと契約し

駒王町の実権を握っていた。そしてそれはクレーリアが死亡し、契約がリアスに引き継がれた

現在もなお、続いているのだった。

 

「ど、どこでそれを!?」

 

「ありゃ。適当言っただけなのに本当なんですかそれ……ではこれをマスコミに垂れ流しなさい。

 『駒王町町長、悪魔と契約し実権を握っていた』って。今なら高く売れますよ」

 

「へい」

 

「ま、待ってくれ! 金か!? 金ならやる! だからその事は……」

 

マスコミに連絡しようとする下っ端のヤクザを止めようとする町長の

その狼狽ぶりは、見るに堪えないものだった。

何せ彼は自身の欲望――町長となり、権力を得る――ために悪魔と契約していたのだ。

最も、実際に支配していたのは悪魔であるクレーリアやリアスだというのは皮肉なものだが。

その事実をヤクザに突きつけられては、狼狽するのも無理はない。自業自得だが。

 

「……いらねぇんですよ、金なんざ。あっしらが欲しいのは……

 

 ……この町の支配権。ああ全部とは言いませんよ。ただ、今日を限りにこの町のインフラは

 あっしらが支配させてもらいますんでね。勿論警察なんて廃止。

 超特捜課(ちょうとくそうか)なんてわけのわからない……とも言えなくなっちまいましたがね。

 そんな組織に動かれちゃ、あっしらも迷惑なんですわ。

 

 けれどこれ、あんたさんにとっても有益な話なんですよ?

 悪魔とか専門に動いてる超特捜課を封じるってのは、あんたさんの悪魔絡みの不正を

 暴かれずに闇に葬れる、って事なんですから。

 まだ全部の警察が悪魔対策で動いてるわけないじゃないですか」

 

主導権は、完全に曲津組に握られていた。

この日、駒王町のインフラはその一切を機能停止したのだ。

表向きにはテロによる被害となっているが、テロ以外にも人間同士のこうした争いが

被害の拡大に拍車をかけていることは、事実でこそあったがそれは闇に葬られていったのだ。

 

 

――時は進み、201X年9月。

 

 

「……あっはははははは! 結局誰が支配しても変わらないじゃないか!」

 

「ま、そうは言いますがねディオドラの旦那。俺らはこの町を復興させようとしてるんですよ?

 今まで甘い汁吸ってただけの豚町長とは違って、俺らは実際に行動する。

 人間の世界じゃ、これだけでだいぶ違うんでさぁ」

 

若い男の笑い声がこだまするのは、駒王町にある曲津組の事務所。

そこには町役場から連絡を受けたガラの悪いヤクザと……悪魔がいた。

ディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主にして、彼もまた曲津組と契約し

利益供与を行っている関係なのだ。

先ほどの情報は、全て彼から伝わったものだ。

 

「……ま、僕は黙って見ているよ。人間の世界を誰が支配するかなんて、興味ないし」

 

「へへっ、そいつぁどうも。旦那にもじきに献上品を差し出しますんで……」

 

結局、ディオドラの言う通り誰が支配しても変わらない。

駒王町は、悪魔の住む町なのだ。

そして、そうして甘い汁を吸うものがいると言う事は、吸われるものもいると言う事。

 

そんな時、水晶玉を転がしているディオドラに

水晶玉が映し出す人影が彼の目に飛び込んだ。

ヴェールで顔を覆った、シスターらしき人影。

 

「……うん? へぇ……この町にもシスターって人種がまだいたんだ。

 アーシアの前菜にはちょうどいいかな……おい」

 

「へい、何でしょう?」

 

ディオドラは近くにいた組員を呼び寄せると、魔力で作り出したモンタージュ写真を投げ寄越す。

それを受け取った組員は、きょとんとした顔を浮かべるばかりだ。

 

「そいつを僕の所に連れてこい。それで当分の代価はチャラにしてやるよ」

 

「……って、顔がヴェールで覆われてるじゃないっすか。いくら何でも……」

 

「……ごちゃごちゃ言わずにやるんだ。僕は口答えとかうるさいのは嫌いなんだ」

 

組員にすごむディオドラの左手首の腕輪が怪しく光っている。

その剣幕に、組員も渋々了解するしかなかったのだ。

そうでなくとも、悪魔と人間とでは地力が違いすぎる。

 

(……まただ。オーフィスからこの腕輪をもらってから、僕が僕でなくなる感覚がする……

 そんなバカな話があるか。カテレアがああなったのはアイツが老害だからだ。

 次世代を担う存在である僕が、あんなバケモノになるはずがない。

 けれど僕の眷属も、僕の知らない間に……クッ、そんなはずがあるものか)

 

ディオドラは腕輪をいじりながら、物思いにふけっていた。

 

――――

 

テロと謎の怪物の攻撃により廃墟と化した町、駒王町。

そこに、そんな廃墟に似つかわしくない恰好をした女性がいる。

修道服に身を包み、顔を黒いヴェールで覆った長身の女性。

 

口ぶりから海外の出身に思えるが、それにしても日本は平和な国として有名である。

それが来てみたらどうだ。廃墟に加え、死体も転がっている有様である。

修道服と言う身なりの通りに、彼女は物言わぬ骸と化した人々を弔っている。

 

「……こんなにボロボロになった町が日本にあったなんて。それに死体まで……

 日本と言う国は多神教、その中でも仏教と神道が主らしいですけど

 私の流儀で弔っちゃっても大丈夫だったんでしょうか?」

 

顔をヴェールで覆ったシスターが、町の崩壊に巻き込まれたであろう人々を弔っている。

救助活動が間に合わず、残念な結果になってしまった人々だ。

しかし、彼女は犠牲者を弔いに来たのではない。

 

「……それにしても……

 

 

 ……ここは一体どこなんですかぁ~!?」

 

シスターの悲痛な叫びが木霊する。

その叫び声におびき寄せられてか、灰色の甲虫のような怪物が現れる。

ドラゴンアップルの害虫――インベスである。

彼らには二通りの種類があり、小動物の妖怪が悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の力に耐えきれずに変異し

そのまま主に捨てられ、結果としてはぐれ悪魔となったもの。

あるいは、悪魔の駒に関係なく、初めからドラゴンアップルと呼ばれる果実を主食とし

異なる次元から独自の方法で侵入してきたもの。

いずれも、ドラゴンアップルを食し、人間に害を成す存在であることに変わりはない。

 

「……あらら。何だか見たこともない……悪魔? でしょうか?」

 

シスターが様子を見ていると、インベスはドラゴンアップルをシスターに植え付けるべく

毒を持った爪で切り裂こうとして来る。彼らは毒を持ち、その毒によって

ドラゴンアップルをあらゆる生物に寄生させることが出来るのだ。

そうして、彼らは栄養を蓄え増殖を繰り返している。

 

あわやと言うところで、シスターは身を躱し爪は空を切る事となった。

 

「な、何するんですかー!?

 ……あら? この気配……悪魔ですか、悪魔ですね。

 

 ……じゃあ話は別です。さっきの様子だと、このままだとあなた達

 他の人も襲いかねませんからね。ここで死んじゃってください。

 そこの斃れていた人たちがあなた達のせいなのかどうかまでは知りませんが

 いずれにしても、危害を加える隣人なんて要りませんから」

 

幸か不幸か、このインベスは元妖怪のはぐれ悪魔だった。

そうなれば、シスターの持つ道具で対応は十二分に可能である。

と言うよりむしろ、狙ってくれと言っているようなものなのだ。

 

「死んでくれ」と言うシスターにあるまじき言葉に

インベスは逆上したのか、再びシスターめがけて爪を振りかざす。

しかしすでに避けられた攻撃が、簡単にあたるはずもなくまたしても躱される。

それどころか、縫い付けられるように銀の針を体中に刺され

銀のナイフで爪を切り落とされてしまう。

 

「ちゃんと爪の手入れはしないとダメですよ? 私が切ってあげますね。

 それからこの聖水できれいにしておきませんと」

 

爪を指ごと切り落とし、さらにそこに聖水をかけられたことによる痛みでショック死したのか

銀が効果を発揮したのかは定かではないが、インベスはそのままピクリとも動かない。

 

「あらあら、他にもいっぱいいるんですね。

 大丈夫です、時間には余裕を持たせているつもりですので」

 

それから、シスターによる銀のナイフと聖水による爪切りが幾度となく行われた。

一しきり終わる前に、一部のインベスは動物的な本能で逃げ出してしまっている。

それを追いかけるほど、シスターも暇ではなかったようだ。

 

「……ふぅ、これで全部でしょうか。でもあんな悪魔は初めて見ましたねぇ。

 場所、ここで合っているのか心配になってきちゃいました」

 

辺りをきょろきょろと見まわしながら、シスターは再び瓦礫の山となった町の中へと消えていった。

 

――――

 

瓦礫の山と化した駒王町。かつての住宅街も、今は見る影もない。

その瓦礫の山の中でも、救助活動は行われていた。

……敵性体との戦いも兼ねて、ではあるが。

 

「A班よりB班へ! アンノウン発見! これより神経断裂弾を使用して迎撃にかかる!」

 

「B班了解! 至急援護に向かう!」

 

救助活動を行う自衛隊の前に現れたのは、感染力の強い毒を持つドラゴンアップルの害虫――

彼らはまだ知らない事だが、通称「インベス」と呼ばれる怪物である。

その外見は白い甲虫のような姿をしており、三種類のタイプがおり

それぞれ顔や前面の表皮の色が違う。ドラゴンアップルと呼ばれるドラゴンフルーツに

錠前の意匠を加えた様な不思議な形状の果実を主食としている。

本来ドラゴンアップルはその名の通りドラゴンの主食だが、彼らもそれを食すため

ドラゴンアップルを栽培している魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)タンニーンに曰く

「ドラゴンアップルの害虫」と呼ばれているのだ。

 

だが、インベスの持つ毒はそのドラゴンアップルを育成させる効果もあるため

本来ドラゴンアップルが生育しないはずである人間界にもドラゴンアップルが生育を始めている。

事実、駒王町の一角にはドラゴンアップルが成っているのだ。

ただしその方法は、人間をはじめとする生物を媒介とする生育であるため

タンニーンはこれをよしとせず、駆除に乗り出しているが

冥界に発生したインベスのみで手いっぱいなのが現状である。

そしてインベスは、独自の方法で次元移動が可能であり

そこから冥界や人間界に飛来してきた、まさに外来の侵略者と言える存在であった。

これが、妖怪のはぐれ悪魔を由来としないインベス元来の性質である。

偶然にも、妖怪のはぐれ悪魔としての性質を持つインベスもこの次元移動能力を備えてしまい

それが人間界への侵攻を早める結果となってしまっている。

 

しかし、生物は生物。人間が開発した神経断裂弾は体内で銃弾が炸裂することにより

相手の体組織を破壊し、致命傷を与える装備である。

それは人間であろうと、悪魔であろうと、ドラゴンであろうと変わらない。

自衛隊は、この銃弾を込めたアサルトライフルでインベスを迎撃に入ったのだ。

 

――ほどなくして、インベスの群れは一掃された。

飛び道具の有無が勝敗を決した形である。もしインベスの爪で引き裂かれていたら

自衛隊の側が負けていたであろう。インベスの持つ毒は、それほど感染力が強いのだ。

 

「A班よりB班へ、アンノウン駆除完了。引き続き行方不明者の捜索に入る」

 

「B班了解。こちらも捜索活動を続行する」

 

無線連絡を取った直後、自衛隊員の前を人影が横切った。

女性にしては長身で、顔はヴェールで覆われていた。

そして何より、今この駒王町を一人で歩いていること自体がおかしい。

戒厳令が出ているのもそうなのだが、先ほどのインベスをはじめとした怪物や

テロ活動のお陰で、生き残った住人は避難生活を余儀なくされているのだ。

 

そんな中、修道服姿でこの瓦礫だらけの町を歩いている人物がいるのだ。

それだけで十分不審人物である。

なんにせよ、自衛隊員が声をかけるには十分すぎる理由であった。

 

「あっ! 君、待ちなさい!

 ……A班よりB班へ、生き残りと思われる修道服姿の女性を発見。

 これより接触する」

 

「B班了解。修道服姿? ……まぁいい、こちらは本部に連絡する。

 A班はその女性を保護してくれ」

 

「A班了解……君、待ちなさい! 我々は救護活動を行っているものだ!

 ケガはないか? これより君を安全な場所まで誘導する」

 

幸いにも、女性は自衛隊員の呼びかけに応じた。

だが、開口一番語られた言葉に、自衛隊員は呆気にとられることとなった……

 

「や、やっとまともな人に会えました……ケガはないです……

 それよりもすみません、ここは一体どこなんですかぁ~!?」

 

その質問の答えは、彼ら自衛隊が拠点として活用している警察署で聞かされることとなった……

 

――――

 

駒王警察署。既に元来の機能は喪失しているが

その建物の構造上、住民の避難場所として再利用されている。

そして、警視庁に移設した超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)――超特捜課の本部が設置されている。

そのため、最低限ながらも警察としての機能は維持できている。

また、自衛隊との協力で行方不明者の捜索なども行われており

情報交換の掲示板の前には毎日多数の人が詰めかけている。

 

自衛隊員に連れられて、先ほどのシスターはここにやって来たのだ。

超特捜課の一員であり、拠点防衛のために残っていた氷上涼(ひかみりょう)

この日は別件から外れ、氷上と共に拠点防衛についている霧島詩子(きりしまうたこ)

シスター――アーリィ・カデンツァから事情聴取を行っていた。

 

「……アーリィ・カデンツァさん。職業はシスター。

 同行していたメンバーとはぐれたら、ここに来ていた……と」

 

「はい……しかし、この有様は一体、そしてここは一体どこなんですか?」

 

「ここは駒王町。過日大規模なテロが発生して、実質無期限の戒厳令が敷かれています。

 そんな中、外を歩いていたあなたを自衛隊員が発見した形でして。

 一体、あなたは何処からここに来たんですか?」

 

だが、その事情聴取は難航を極めていた。

何せ、彼女自身は駒王町にいたというのだ。

だが、その駒王町はテロにより壊滅状態である。とても辻褄が合わない。

そのため、氷上も霧島も虚偽申告の可能性があると疑ってかからざるを得ない状態だった。

 

「我々としましてもあなたが嘘をついているとは考えたくない。

 しかし、どう考えても辻褄が合わないのです。

 駒王町にいたのならば、テロの事を知らないはずがありませんし」

 

そう。

テロの騒動を知らないというのは、それまで別の世界にいたとしか考えられないのだ。

一応、それに該当するものが若干名いるが、それらはほぼすべて悪魔である。

冥界に行っており、偶々テロに遭遇しなかっただけの事である。

 

「わ、私も混乱しちゃってます」

 

「困りましたね……そうですね、教会の所属と言うのであれば

 ゼノヴィアか慧介さんに聞いてみるのはどうでしょう?」

 

「ゼノヴィア……ゼノヴィアさんがここにいるの!?」

 

ゼノヴィアと言う名前に、アーリィが反応する。

彼女にとって、ゼノヴィアは戦友ともいえる間柄なのだ。

そのゼノヴィアと一緒に行動していたはずが、この荒廃した駒王町にいつの間にかいたわけである。

 

「い、いるにはいますが……今慧介さんと一緒に見回りに出ている最中なんです。

 タイミングが悪かったかな……」

 

「ケイ……スケ……?」

 

どこかで「俺を知らないのか!? 俺は伊草慧介(いくさけいすけ)だぞ!!」という声が聞こえてきそうだが

アーリィにとって、その名前は全く聞いたことの無い名前であった。

慧介も、アーリィも教会に所属しているはずなのに。慧介は「元」だが。

 

「そのケイスケさんって人と、ゼノヴィアさんは一緒にいるんですね!?

 わかりました、会って確かめてきます!」

 

「あ、待ってください! 外には怪物が……悪魔とも違う、怪物がいるんですよ!?」

 

「それに、戒厳令が出ているんです! 許可のない外出は、認められません!」

 

氷上と霧島の必死の説得に、アーリィも渋々従わざるを得なかった。

いくら何でも、この国の警察と問題を起こすつもりはアーリィも無いのである。

しかし今度は、アーリィの側に疑問が生じたのだ。

 

「……え? どういう事なんですか?

 なんでお二人は、悪魔の事を知っているんです?」

 

「……本当にあなたどこから来たんですか。それについても禍の団の

 フューラー・アドルフが公表したじゃないですか。悪魔や天使、堕天使は

 現実に存在する生物だって。

 そのお陰で全国的に大変な騒動になってるんですよ?

 日本はこの駒王町以外はまだ平和な方ですけど」

 

それはアーリィについては寝耳に水の出来事だった。

三大勢力は、その存在を秘匿されているようなものであったはずなのに。

何故、警察と言う組織にまで悪魔の存在が知れ渡っているのか。

禍の団の存在は、アーリィも知っていたがフューラー・アドルフと言う存在は聞いたこともない。

最も、彼女の出身を考えれば蛇蝎の如く嫌われる存在であることは容易に想像できるが。

 

「こんなボロボロになったのが駒王町で、三大勢力はその存在が公になって……

 わ、私、夢でも見てるんでしょうか……?」

 

その矢先であった。ゼノヴィアと慧介が戻ってきたのは。

おろおろしているアーリィだったが、ゼノヴィアの姿を見るなり

落ち着きをある程度取戻し、思わず駆け寄る。

 

しかし、ゼノヴィアからしたら知らない長身のシスターがいきなり駆けつけてきたのだ。

今度はゼノヴィアが戸惑ってしまっている。

 

「ゼノヴィアさん! 無事だったんですね!

 って事はあなたがケイスケさんですね? 私、アーリィ・カデンツァと申します。

 ゼノヴィアさんとは……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。私は君の事を知らないし、会ったこともない。

 誰かと間違えていないか?」

 

「……慧介さん、これは一体どういう事なんですか?」

 

「俺に質問するのはやめなさい」

 

誰も彼も話の内容が噛み合っていない。

収拾がつかなくなりそうなとき、壁際から声がかけられた。

 

「クロスゲートの影響だ」

 

壁際にいたのは、ギリシャの太陽神、アポロン。

彼は独自にゲート――クロスゲートについて調べ、その情報を共有すべく

はるばるギリシャから来日し、日本神話勢と日本に在籍する仏教勢力からなる神仏同盟(しんぶつどうめい)と合流。

そのまま行動を共にしていたのだ。

 

そして、アーリィにとっては全く聞いたことの無い単語。

クロスゲート。彼女の知る世界の中には、そんなものは存在しない。

 

「クロス……ゲート……?」

 

謎の怪物に、公表された三大勢力に……クロスゲート。

アーリィの頭の中は、これまでにない位に混乱していた。




インベス相手でも容赦なく振るわれたアーリィ流祓魔術。
はぐれ悪魔由来のインベスだから通じました。
因みに本家インベスとの外見的違いは……ありません。
効くか効かないかは実際に一戦交えないとわからない不親切設計。

>町長
クレーリア時代から悪魔とつるんでました。
そうでもしないと色々辻褄が合わないと思い。
そして今回そこをヤクザに突かれて権力の座を追われることに。
ここで駒王町の警察機能がマヒさせられたことで、超特捜課が警視庁管轄に移ってます。
逆に言えば、警視庁が介入するほどの世紀末っぷり。自衛隊が活動している時点で相当ですが。

>ディオドラ
着実に変なフラグを立ててます。
性癖でアーリィを狙ってますが……色々な意味で一筋縄ではいかなさそう。


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Special2. 交錯する地獄門

特別篇、第二話です。

(やはり他人様のキャラを動かすのはなかなかのプレッシャー……
 うん? でも二次だって他人様のキャラ使ってるわけだしな……
 深く考えるのはやめよう)

イベント。
最近手付かずなのでどうしたものかと考え中。
E1は話聞く限りではオリョクル回しまくっていたら隙は無かった状態っぽいんですが。



「クロスゲートの影響だ」

 

「クロス……ゲート……?」

 

壁際にいたギリシャの太陽神、アポロンから告げられた言葉、クロスゲート。

アーリィにとっては全く聞いたことの無い単語。どんなものなのか、皆目見当もつかない。

アポロンは独自にゲート――クロスゲートについて調べ、その情報を共有すべく

はるばるギリシャから来日し、日本神話と日本に在籍する仏から組織された神仏同盟(しんぶつどうめい)と合流。

そのまま行動を共にしていたのだ。

 

そもそも、彼女の知る世界の中には、クロスゲートは存在しない。

存在しない……はずなのだ。

 

「異なる世界、異なる時間、異なる次元を繋げる門のようなものだ。

 恐らく君は、知らない間にクロスゲートに入ってしまったのだろう。

 君がどこから来たのか俺は知らないが、推測するに恐らくこちら側と

 そっくりな世界から転移してきたのだろうな」

 

「……そう言う事ですか。それなら納得がいきますね。

 私が帰国したタイミングが若干ずれているのも

 クロスゲートによる影響と考えれば、説明がつきます」

 

言いながら部屋に入って来たのは、ヴァチカンから帰国したヤルダバオトこと

薮田直人(やぶたなおと)。駒王学園の世界史教諭であり、警視庁超特捜課(ちょうとくそうか)の装備開発課所属でもあり

……そして、アーリィ達の信仰する聖書の神(ヤハウェ)の影武者でもある。

 

(最も……私が使ったのは通常の転移で、クロスゲートによる転移ではありませんがね)

 

「あの……あなたは?」

 

「……失礼。私は薮田直人。警視庁超特捜課装備開発課にて署員の装備を製作しているものです。

 今回はヴァチカンに教会の祓魔師のスーツを参考にした装備を作りましたので

 その報告に向かっていたのですが、現地でテロに遭遇しましてね……」

 

「そうだったんですか、それは大変でしたね……あ、私はアーリィ・カデンツァと言います。

 ナオトさんですね、よろしくお願いします」

 

薮田と握手を交わすアーリィだが、その瞬間彼女は違和感を覚えた。

彼女の勘が、彼――薮田は普通の人間ではないと言う事を告げているのだ。

実際そうなのだが、それ以上に何かを告げているのだ。

 

……自身も決して本当にただの人間ではないと思ってはいるものの

薮田はそれ以上にただの人間ではない。ゼノヴィアともまた違う、とても異質な存在。

例えるならば、存在する次元そのものが違う。何せ神であるから。

 

しかしそんなアーリィの疑念を払うように、事情を知らない氷上(ひかみ)が薮田に問いかける。

 

「薮田博士、いつこちらに?

 と言うより、空路も海路も封鎖されているはずですが……」

 

「独自のルートがある、とでも言っておきますよ。非公開のね。

 それより氷上君、霧島(きりしま)君。特殊スーツを使うような事態は起きましたか?」

 

「今のところは……失礼、通信が……

 はい、霧島です……はい、近隣地域にアンノウンを確認!?

 わかりました、直ちに向かいます!」

 

狙いすませたかのようなタイミングで、霧島の端末にアンノウン発生の通報が入る。

現在アンノウンと言えばミルトカイル石で生物・無生物の見境なく支配下に置くアインストか

ドラゴンアップルの害虫と呼ばれ、感染力の強い特殊な毒を持つインベスのどちらかだ。

はぐれ悪魔による被害はほとんど無い、と言うよりは既に駆逐された可能性さえある。

小動物の妖怪から変異したインベス以外は。

 

「アンノウン? 悪魔は公表されているのでは……はっ! まさかはぐれ……」

 

「……悪魔の類ではないだろうな。アインストかインベス、どちらにせよ厄介な相手だ」

 

アーリィの懸念は、アポロンによって覆される。

インベス。彼女は知らない事だが、つい今しがた戦った相手がそれである。

彼女はてっきり、インベスをはぐれ悪魔の一種と勘違いしているのだ。間違いとも言い切れないが。

 

しかし、アインストは話が別だ。こちらはアーリィも聞いたことが無い存在である。

そもそもアインストはクロスゲートからやって来ているため

クロスゲートと言う物の存在を知らないアーリィが知らないのも無理からぬことである。

 

「アンノウン……ゼノヴィア、アーリィさんを頼みます。

 薮田博士、我々超特捜課で出動します! 霧島さん、現場でサポートをお願いします!

 慧介(けいすけ)さんは我々がいない間の警備をお願いします!」

 

「噂をすればなんとやら、ですか。わかりました」

 

「わかった。任せなさい」

 

緊急通信を受け、氷上は特殊強化スーツを装備し、霧島はその氷上をサポートすべく現場へ。

慧介は彼らが抜けた穴を埋めるべく避難所の警備へ。

それぞれ向かっていくのだった。

 

悪魔ではない人類に害を成す存在に、アーリィは首をかしげていた。

そんなものは、精々堕天使か質の悪い天使位なものだと思っていたのに。

この点においても、アーリィはここが自分の世界ではないと言う事を

思い知らされることになったのだ。

 

「あの……アインスト、ってなんですか?」

 

「……色々説明すべきことが山ほどありそうですね、これは。

 カデンツァさん、こちらへどうぞ。ゼノヴィア君も」

 

「クロスゲートについての説明なら、俺もいたほうがいいだろう」

 

薮田に促されるまま、ゼノヴィアとアーリィ、そしてアポロンが

応接室へと入っていく。機能を喪失した警察署だが、建物としての機能は

まだ辛うじて維持できているのだ。

簡単に補修された応接室であるが、対話を行うには十分すぎるスペースであった。

 

そして、ここでアーリィは様々な事実を知らされることとなるのだった……

 

――――

 

「……ええっ!? あ、悪魔になってないんですか!?」

 

「……当たり前だ。いくら主が存在しないと言ったって

 それでなんで私が悪魔にならなきゃいけないんだ。

 私は悪魔から人を護るために剣を振るっているんだぞ?

 最も今は、悪魔以外の人に害を成す存在とも戦っているがな」

 

「それは……よく知ってますけど……」

 

氷上と霧島が出動した後、アーリィは薮田やアポロンを交えた形で

ゼノヴィアと対話していた。

彼女の知っているゼノヴィアは、自身の戦友であり、ある事件をきっかけに

神の不在を知り自暴自棄になって悪魔に宗旨替えしている。

しかしこのゼノヴィアは悪魔ではなく、人間だ。

この点においても、決定的な相違点になっている。

神の不在を知っていることは、共通点ではあるが。

 

「そうですね、彼女は今教会には所属していませんが

 代わりに蒼穹会(そうきゅうかい)と言う組織に所属しています。そこの伊草慧介……先ほどの彼ですね。

 彼の下で、色々修業を積んでいる形になりますね」

 

「そうなんですか……ともあれ、ゼノヴィアさんが元気そうで何よりです。

 細かい所は違っても、ゼノヴィアさんはゼノヴィアさんみたいですし」

 

戦友ともいえるゼノヴィアが、道を踏み外すことなく健在であることに

アーリィは嬉しさを感じていた。たとえ、彼女の戦友であるゼノヴィアでなくとも。

しかし、この相違はアポロンの仮説をより確かなものにする証拠としても成立してしまっていた。

 

「……間違いないな。彼女はクロスゲートからこちらの世界に転移してしまっている。

 このままではよくない影響が起こるだろう。

 アーリィと言ったな。この辺りに来てから、身体の異常とかは無いか?」

 

「特にありませんけど……あの、さっきも話したと思うんですが

 クロスゲートって、一体何ですか? それと私と、どういう関係があるんですか?」

 

(……疑問に思うのは当然か)

 

今度はアーリィから質問が投げかけられる。

クロスゲート。さっきからちょくちょく出ている耳慣れない単語。

気にするなと言う方が難しい話である。

 

「概要についてはさっき話した通り、異なる世界、異なる次元、異なる時間同士を

 結ぶ門だと言う事しかわかっていない。そしてこれがいつここに現れたのかも

 俺にはさっぱりわからんのだ。あと、これは俺の推測に過ぎないが

 君がクロスゲートによってこちらに転移したのは全くの偶然と言っていいだろう。

 どう見ても、君はアインストではなさそうだからな」

 

「そして、状況から推測するにあなたは何らかの形でクロスゲートに引き込まれてしまった。

 そして、こちら側の駒王町にやって来てしまったようですね。

 

 ……あなたの知る駒王町と、我々の知る駒王町には随分と大きな隔たりがあるようですが

 同じ駒王町に転移したと言う事は、引き合いやすい要因でもあるのかもしれませんね」

 

そう。

アーリィの知る駒王町では、ここまで大がかりなテロは起きていない。

はぐれ悪魔による人間の殺害などは起きているが、街の景観を著しく壊すほどの

破壊活動までは行われていないのだ。

 

ところが、こちらの駒王町ではご覧の有様である。

同じ場所、同じ名前だというのに全く違う。

それは目の前の自分の知る限り戦友であった少女をしても同じである。

 

「カデンツァさん。パラレルワールド……はご存知でしょうか?」

 

「うーん……大体は。

 選ばなかったもしもの世界、と私は理解してますけど。

 あ、それとナオトさん、私の事はアーリィでいいですよ」

 

「そうですか、ではアーリィさん。

 パラレルワールドについてここで詳しく説明するつもりもありませんので

 その解釈で結構ですよ。

 

 あなたの言うゼノヴィア君とここにいるゼノヴィア君。

 彼女がきっといい例だと思いますよ」

 

「そうか……私が悪魔になった世界もあると言う事か……

 まるで考え付かないがな。たとえ主の不在を知ろうとも

 そこでどうして悪魔に魂を売らなければならないんだ。

 もしそんな私がいたら、即刻斬り捨てているかもしれないな。私のプライドが許さない。

 最も……アーシアは既に悪魔になってしまっているがな」

 

そんなゼノヴィアの言葉に、アーリィは頼もしさを覚えると同時に

苦笑も交えていた。何せ、彼女の知っているゼノヴィアは悪魔なのだから。

そして、ゼノヴィアの口からアーシアの名前が出たと同時に

アーリィは再び驚きを禁じ得なかった。

 

「ああ、こちらにもアーシアが!?

 ゼノヴィアさん、アーシアは無事なんですか!?」

 

「お、落ち着いてくれないかアーリィ……

 彼女はどうやらリアス・グレモリーと言う悪魔の眷属になってしまったらしく

 今どこにいるのかはわからないんだ。先日この警察署に来たらしいんだが

 その後の足取りはさっぱりわからない。私も顔を合わせてはいないんだ……」

 

物凄い剣幕で詰め寄るアーリィに、ゼノヴィアは思わずたじろいでしまう。

アーリィのいた世界では、アーシアは妹分。心配にならないはずがない。

しかしこの世界はアーリィの知る世界とは違う。

それでも、アーシアが存在していることを知ったアーリィは思わず取り乱してしまっていたのだ。

 

「とりあえず落ち着いて欲しい。そのアーシアと言うシスターについてだが

 目の前のゼノヴィアがそうである以上、きっと君の知るアーシアとは別人だろう。

 酷なことを言うようだが、この世界は君の知る世界とは違う、別の世界なのだ」

 

「それでも……それでもアーシアがいると言う事がわかっただけでも大きな収穫です!

 主よ、この巡り会わせに感謝いたします……」

 

思わず祈りをささげてしまうアーリィを、薮田――ヤルダバオトは苦笑しながら眺めていた。

何せ目の前に主――影武者だが――がいるのだから。

 

「……お祈りの最中すみませんが、アーシア君を探しに行くのはお勧めできませんよ。

 さっき話した通り、悪魔の眷属になっているのもさることながら

 アインストやインベスと言う怪物が、この駒王町に出没していますので。

 どちらも、人間はおろか悪魔でさえも手こずる存在です」

 

「ああ……私もアインストと戦ったことはあるが

 悪魔で無いから、デュランダルの効き目が悪い。強引に押し切れないこともないが……」

 

「確かに、それは厄介な相手ですね……私なんて、悪魔以外は専門外みたいなものですし。

 弱点とかあれば、話は変わってきますけど……

 そうなると、私はサポートに徹したほうが良さそうですね」

 

アーリィにも退魔の心得はある。と言うか、人間に害を成す悪魔を悉く駆逐してきたのだ。

しかし、逆に言えばそれは悪魔限定で揮われる力である。

それ以外の怪物――アインストや純正のインベスには、その力は正しく発揮されない。

加護こそあれど、悪魔相手と同じようにはいかないであろう。

そうなってしまうと、彼女はちょっと鍛えた程度のただの人間になってしまう。

 

「ちょっと待ってくれ。教会出身と言う事は心得があると思っているが

 まさか君はアインストとも戦うつもりなのか?」

 

「大丈夫です、自分の身を守る手段は持ってますから。

 それに、そのアインストとやらがアーシアを狙うようなら私だって戦います。

 勿論、ゼノヴィアさんが危機に陥らないようにもしますけど」

 

表情は読み取れないものの、アーリィは大丈夫と断言している。

悪魔ではない未知の存在が相手ではあるものの、それでも怯まぬ心を持っていた。

 

「その志は立派ですがアーリィさん。アインストはミルトカイル石と言う鉱石による精神支配。

 インベスはドラゴンアップルと呼ばれる果実を強引に他生物に植え付ける毒を持つなど

 今現在駒王町はテロ以外にもこうした被害が出ている状況ですね。

 半端な気持ちで……などと説教臭い事を言うつもりはありませんが、くれぐれも気を付けてください」

 

薮田の解説に、ゼノヴィアが何かを思い出したように口を開く。

今しがた戦った、聖槍騎士団についてだ。

異能を封じる聖槍のコピーを所持しており、ゼノヴィアも苦戦を強いられた。

慧介と組んで、ようやく倒せた相手だ。

 

「そうだ。さっき慧介達と戦ってきた相手なんだが

 奴らは聖槍を持っていた。異能封じ……神器はおろか、私のデュランダルや

 悪魔の駒でさえも封じてしまう、恐ろしい武器だ。殺傷力は皆無だがな」

 

ゼノヴィアの発した聖槍と言うキーワードに、薮田とアーリィが目を見開く。

かつて神の子イエスを処刑したと言われる槍。紆余曲折を経て、神滅具(ロンギヌス)の一種となり

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)とも呼ばれている業物だ。

 

「聖槍……!! ゼノヴィア君、殺傷力が無いと言う事はおそらくコピーでしょうが

 もし本物の聖槍を見かけたら、絶対に刺されないでください。

 ……聖槍で刺された者からは、死ぬまで血がとめどなく溢れ出すと言いますから」

 

「……イエス様の処刑の言い伝えですね……

 あの、ナオトさんはキリスト教徒で?」

 

「……いえ、ただの警視庁協力者兼世界史教諭ですよ。それと予め言っておきますが

 私は特定の宗教を信仰するのは避けるようにしているのです。

 知識や思想が偏るのは、子供を導く者としては喜ばしい事ではありませんからね」

 

含みのある薮田の物言いだったが、アーリィはそれを真に受けている。

寧ろ、それもさもありなんと言った風に受け入れている。

それが彼女の強さでもあるのだが。

 

「立派な志をお持ちなのですね、ナオトさんは。

 それに、私も別に勧誘とかしに来たわけじゃありませんから大丈夫ですよ」

 

そんな彼女を前にしても、ヤルダバオトは自身の身の上を明かさない。

既にアーシアには知れていることなのだが、それでもアーリィには言わない。

それはこの場にゼノヴィアもいることが関係しているのだが

それ以前の問題として、彼は自身が聖書の神の影武者であると言う事を

言いふらすことをよしとしていない。

 

「……しかし聖槍のコピーですか……また厄介なものを持ち出されましたね。

 しかしそれが封じるのは異能のみ。自身に由来する力や、単純な技術で作られた道具の力は

 封じることは出来ないはずです。聖剣は引っ掛かってしまったようですがね」

 

「道具……そうだ、超特捜課の武器を私に回してもらえないだろうか?

 デュランダルが使えない時の、つなぎとして……」

 

ゼノヴィアが超特捜課の武器を使えないかと提案を持ち掛けるが

その提案は、あっさりと返されてしまった。

 

「却下です。剣に類する装備は開発していませんし、銃を持たせるのは

 いくら超法規的措置が取られているとはいえ、そういう問題ではありません。

 そもそもゼノヴィア君、あなたは銃を使えますか?」

 

「いや……銃は……」

 

「でしたらこの話は無かったことですね。

 ……ですが、異能に当たらない、人間の力のみで作り上げた

 剣を作ることは可能かもしれません。それならば封じられることは無いでしょう」

 

かつてフリードが嬉々として実弾のこもっていない銃を撃ちまわし

セージも実体化させた銃を超法規的措置の元取りまわしていたが

面と向かって武器をくれと言われても彼の立場上、なかなか首を縦に振れない。

これが超特捜課の署員や慧介ら大人ならばまだしも、まだゼノヴィアは未成年なのだ。

未成年が武器を取りまわすことを、本来ならばよしとはされまい。

 

「ですがゼノヴィア君。これはいち教師として言わせていただきますが

 そもそも成人してようが、こんな状況でも無ければ

 銃器や刀剣の取り扱いは法令で禁止されています。

 日本には銃刀法と言う法律があるんですから。法を破るのは感心しませんよ」

 

改めて釘を刺される形となり、ゼノヴィアは黙り込んでしまう。

かつて銃刀法違反――より正しくは公務執行妨害だが――で逮捕された

経歴がある故、そこまで大きく出られなかったのだ。

 

「ぐっ……嫌なことを思い出させてくれるな」

 

「……あの、何かあったんですか?」

 

「まぁ、ちょっとした事件です。気にすることじゃありませんよ。

 それに、私も他人から聞いた程度ですからね。

 聞きかじりを知ったかぶって言うのは、どうかと思いますし」

 

アーリィの疑問は、薮田によってあっさりと返されてしまう。

ゼノヴィア自身にとっても、出来るなら語りたくはない事であろう。

こっちの世界のゼノヴィアは、悪魔にこそならなかったが逮捕歴があるのだ。

そしてその逮捕歴が故に悪魔にならなかった可能性や、慧介らと出会えたことを考えると

一概に悪いものとは言えないのだが、やはり恥ずべきものとして考えているようだ。

 

「……そうだ、今思ったんですけど一ついいですか?

 私がこっちに来たと言う事は、元の世界では

 今私がいなくなっている状態って考えるべきでしょうか?」

 

「そうなるだろうな。だから、さっき俺は『よくないことが起こる』と言ったんだ。

 君がいた世界では、君はおそらく行方不明扱いになっているだろう。

 

 ……こうなってくると、バミューダ・トライアングルも

 ある意味クロスゲートの一種かもしれないな」

 

アーリィの疑問に、アポロンが返す。

異なる時間・次元・世界を繋ぐと言う事は、そこに迷い込んだものは

元いた世界ではいなくなっている可能性が高い。

魔の三角海峡と呼ばれ、不可解な現象の多発するバミューダ海峡のそれも

クロスゲートの一種ではないか、とアポロンは冗談交じりに語っている。

 

「或いは、『こちら側』の君が君の世界に入れ替わりで転移した可能性もあるが……

 いずれにせよ、俺の推測の域を出ない。クロスゲートとは、それだけ謎の多い建造物なのだ」

 

「……話半分程度に聞いてください。もしかすると、こちらの世界では

 あなたは教会に所属せず、シスターとしての道を歩んでいない……とか。

 ゼノヴィア君が、あなたの世界で悪魔になったように、こちら側では

 あなたはシスターでなかった可能性も否定しきれません。それに……

 

 ……いえ、やめておきましょう。これ以上話しても『もしも』に過ぎませんからね」

 

薮田の推測も、もしもの域を出ない。異なる世界、異なる可能性の過去を語るのは

それだけナンセンスな事なのだ。

しかし今こうして、異なる世界の住人が来てしまっている。

クロスゲートが稼働していると言う事は、こうしたナンセンスを現実に変えてしまうのだ。

 

「こちらの世界のアーシアも心配ですけど……やはり早めに元の世界に帰った方が良さそうですね。

 元の世界に帰る方法なんですけど……」

 

「クロスゲートを使うくらいだろうが、我々にクロスゲートを制御する技術が無いのだ。

 なので最悪、またさらに違う世界に飛ばされてしまう恐れがある。

 何とかして、制御する方法を見つけ出したいのだが……」

 

「私の神器(セイクリッド・ギア)、『創世の目録(アカシック・リライター)』でも、クロスゲートには干渉できませんでしたからね。

 干渉が出来るなら、既に行ってますし。アインストの流入を食い止めるという方法に使いますよ」

 

クロスゲートを監視していると言っても、その実情は

そこから出てくるアインストを監視しているに過ぎない状態なのだ。

アインストに紛れ込んで、アーリィがクロスゲートからこちらに迷い込んでしまったと

薮田やアポロンは睨んでいる。実際その通りだが。

 

帰還の方法。それが目下の課題となってしまった。

そして、その課題の解決はまだまだ先になりそうである……




>クロスゲート
……出口はあれど入り口が……って事に今更気づく。
まぁそれに類するものがあったとかそんな感じでしょうね。
今まで(OG、ムゲフロ、魔装F)いずれも入り口と出口両方にクロスゲートが
存在していたので、今回は向こう側の存在をぼかしています。

……単純に「クロスゲートがあった世界のアーリィさん」
と言う可能性が非常に大きくなっただけとも言えますが。

今回「クロスゲートだから」で全部説明しちゃってる感が半端ないですが
恐ろしい事にこれ原作仕様なので……

ただ、誰かが細工した可能性はきっとあるかもしれません。

???「それも私だ」


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Special3. 邂逅する二人

特別篇、第三話です。
そして何気に久々のセージ登場。あとはアイツが出ます。

イベント。
E1はやはり余裕でした。E2? 丙提督ゥ! で余裕でしたが何か?(電探ェ……)

(古参とは言え平坦レベリング提督だからトップエースがいない、いても演習番長。
彩雲も諦めムード。完走だけできればいいかなーと。
それすらも若干怪しいというね)


一方その頃。

セージ達は運悪く、フリード・セルゼンと遭遇してしまった。

今しがた聖槍騎士団と戦っていた彼らに、フリードの率いる魔獣を相手にするのは困難だ。

 

「おんやまぁ。また会ったなクソ悪霊。とっくに成仏したかと思ってたぜ」

 

「脱獄囚が何の用だ、俺達は疲れてるんだ、お前はとっとと塀の中に帰れ」

 

「お疲れ? へぇ、そこの姉ちゃんはともかく、そういう趣味があったんだてめぇ。

 いい趣味してるぜ、くけけけけけっ!」

 

セージの言葉を下種な意味に捉え、これまた下種な煽りをしてくるフリードに

セージの後ろにいた白音が飛び出し、鉄拳を浴びせようとするが

直線すぎたせいか、あっさりと回避されてしまう。

 

「白音、そんな挑発に乗っちゃダメにゃん。

 ……お兄さん、見る目はあるけどヤな匂いがするにゃん。だから却下にゃん」

 

「おお怖っ。相変わらずちっこい癖にバカ力だなてめぇ。

 ……ん? てめぇ、いつから『はぐれ』になったんだよ?

 そこの黒猫の姉ちゃんは有名なはぐれ悪魔だし、クソ悪霊ははぐれみてぇなもんだ。

 けれど、てめぇはあのリアス・グレモリーの眷属だったろうが。

 

 ……くひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! こりゃ傑作だ!!

 『また』眷属に愛想尽かされてやんの!!」

 

「……また?」

 

フリードの言う「また」という言葉に、一同は首をかしげる。

心当たりが無いわけでも無いが、この状況で実行に移すわけが無いと判断していたからだ。

 

「てめぇらも知ってるだろ、あのイケメンのクソ悪魔だよ。

 さっき出くわしたけどな。ま、軽く捻ってやったぜ?」

 

「……捻られたの間違いじゃないか? 或いは逃がしたか?」

 

「……やっぱてめぇムカつくわクソ悪霊!!」

 

フリードの怒号とともに、「菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)」がセージめがけて飛び掛かって来る。

しかし、セージは攻撃を貰う寸前で霊体化することで菫の猛毒蛇の攻撃はすり抜け

そのまま地面に激突する結果となった。

しかし、巨大な菫色の毒蛇はそのまま負けじと瓦礫を押しのけながら地面に潜っていった。

 

「チッ……避けたはいいが次の攻撃がどこから来るかわからないな」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃっ!! エクスカリバーが無くったってなぁ!

 こっちにゃこういう力があるんだよ!!」

 

厳密にはエクスカリバーも菫の猛毒蛇もフリード自身によるものでは無い、借りものだが

さも自分の力のように威張り散らしている。

そんなフリードに静かに怒りを燃やしている者がいた。黒歌だ。

 

「……ざけんじゃないわよ。他人に貰った力で偉そうに振る舞ってんじゃないわよ。

 聞いたことがあるわ。『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』って神器(セイクリッド・ギア)

 大方、それで作ったのを貰ったんでしょ」

 

「ほーん? で、その他人に貰った力はどうしたんざんすか?

 ……『はぐれ悪魔』の黒歌さん?」

 

「残念だったわね。もう私は悪魔じゃないの。そこのお兄さんに悪魔の駒を取ってもらったのよ」

 

フリードの挑発にも動じず、煽りを一笑に付す黒歌。

そんな黒歌の発言には、流石のフリードも驚きを隠せなかった。

教会での教えでも、悪魔になったが最後

元には戻れないというのが通説であったからだ。

 

「つまり、あんたは悪魔じゃない奴を狩ろうとしてる悪魔狩りってわけ。

 そこんところ、ちゃんとわかってるのかにゃん?」

 

「んーにゃ全然。それに、俺ちゃん悪魔に味方する奴もみんなぶっ殺しターゲットだから。

 はぐれだろうが何だろうが知ったこっちゃねぇ、悪魔ってだけで罪なんだよ。

 

 ……悪魔の存在そのものがなぁ、俺をイライラさせるんだよ!!」

 

「!! 白音、危ない!!」

 

再びフリードの怒号に合わせる形で菫の猛毒蛇が地中から飛び出してくる。

白音を狙いすませたかのように、彼女の足元から飛び出し、毒を持った牙で

喰らいつこうとする。が――

 

SOLID-FEELER!!

 

すんでのところでセージの現出させた触手に阻まれる。

セージの伸ばした触手が、菫の猛毒蛇の頭部に巻き付き、嚙みつきを阻んでいるのだ。

 

「……ぎっ、ギリギリセーフか……」

 

「ところがぎっちょん!」

 

しかし、フリードの従えている魔獣は菫色の毒蛇だけではない。

フリードの合図とともに現れた、二体目の魔獣、「鈍色の鋼皮角(アイゼン・シュラオペ)」。

灰色の二足歩行をする犀型の魔獣が、無防備なセージの脇腹に突撃をかましてきたのだ。

 

「ぐわっ!?」

 

触手で菫の猛毒蛇を抑え込んでいたため、鈍色の鋼皮角にまで対応できなかったのだ。

その結果、霊体化も間に合わず直撃を受ける結果となってしまった。

 

「……セージ先輩!?」

 

「このっ、サイが二足歩行するんじゃないわよ!」

 

黒歌が鈍色の鋼皮角に組みかかろうとするが、その外皮は

猫魈(ねこしょう)の力では傷一つつかないほど、頑丈であった。

 

「姉様、ここは私が!」

 

白音は「戦車(ルーク)」の力で鈍色の鋼皮角に対抗しようとするが

今度は体の大きさによるリーチが不利に働いてしまう。

全体的に鈍色の鋼皮角の方が大きいため、踏み込む前に鈍色の鋼皮角の

攻撃の範囲に入ってしまうのだ。

さらに悪い事に、フリードが祓魔弾を込めた銃で白音を狙っている。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の影響で、祓魔弾は白音に致命傷となり得るのだ。

 

「白音、やめなさい! 相手は悪魔祓いよ、悪魔の駒を抜いていないあなたじゃ

 致命傷を受けかねないわ、ここは退きなさい!」

 

「ぐっ……確かにな、黒歌さんの言う通りだ。

 この怪物どもに頼ってばかりってわけでもなさそうだし

 隙を見て撤退したいところだが……」

 

「ひゃーっはっはっは!! どうよ? 俺様の力は!

 やっぱ悪魔に一泡吹かせられるのはいいな、イライラがスカッとするぜ!!

 

 ……じゃ、そろそろ死ねや」

 

フリードと、フリードが率いる魔獣に囲まれてしまいセージ達は撤退の隙が作れない。

そして、フリードにしてみれば格好のチャンス。

狂ったように笑ったかと思えば、冷淡な顔を浮かべ冷たい銃口をセージの額に向ける。

 

ここまでか、と誰が思ったかは定かではないが

この隙は「彼」には十分すぎるほどのタイミングだった。

 

――セージ君はやらせないよ。皆が逃げる隙、僕が作ろう。

 

突如、どこからともなく聞こえてくる声。

辺りを見渡すが、声の主は見当たらない――直後。

 

「あだっ!?」

 

突如、どこからかフリードが攻撃を受けたことで二体の魔獣のコントロールが乱れる。

コントロールの乱れた隙を突き、黒歌がセージを抱き起こす。

白音も、二体の魔獣から距離を取っている。

 

「お兄さん、大丈夫? 少しなら気を送る事で痛みを和らげられるにゃん」

 

「……ありがとう。とりあえず今の内に……しかし……いや、この声は!」

 

「話はあとだセージ君……吹き荒べ!」

 

声の主――木場が風の魔剣を使い、土煙を起こす。

それに乗じて、セージ達は逃走を図る。

うまく撒けたらしく、フリードは獲物を見失っていた。

 

「くそっ、くそっ、くそっ!!

 やっぱり悪魔って奴ぁイライラさせやがる!!

 今度出くわしたら徹底的にぶっ潰してやるからな!!

 そこが俺とてめぇらの祭りの場所だ、覚えておけよ!!」

 

二体の魔獣を収め、三体目の魔獣「朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)」を呼び出し、その背に乗るフリード。

そしてそのまま、いずこへと飛び去ってしまう。

 

その様子を瓦礫の影から見守っていたセージ達は、フリードが見えなくなったのを確認して

外に出て来たのだった。

 

「助かったよ、祐斗」

 

「お互い様だよ。君に死なれると困るからね。

 とりあえず、警察署に行かないか? 情報の交換をしたい」

 

「そのつもりだ。二人とも、構わないね?」

 

セージの問いかけに、黒歌と白音の姉妹は首肯する。

元々、聖槍騎士団を倒した段階で帰還する手筈だったのだ。

フリードと遭遇したのは、完全な事故である。

 

木場の協力を得て、ようやく駒王警察署へと帰還することが出来たのだ。

 

――――

 

「……なんだって!? それは本当かい!?」

 

「それはこっちの台詞だ祐斗。松田と元浜が……そうか。

 それに……桐生さんは……くっ!」

 

「……最低です」

 

「悪魔と契約してでもモテようとするなんて、方法からして間違ってるにゃん。

 そもそも、悪魔との契約なんてロクなもんじゃないし……」

 

木場の証言に、冷めた様子の白音と自分の事を思い出し憤る黒歌。

セージも、やり場のない怒りをぶつけるかの様に右手を握りしめている。

 

松田と元浜にはオカ研の正体が知られ、桐生は悪魔に暴行を受けた。

それが、今の狂った駒王町を現すかのように重くのしかかる現実だ。

 

「ただ、セージ君がこうなっているってところまでは知らないみたいだ。

 不幸中の幸いと言うか、なんというかだけどね……」

 

「……知らなくていい。俺とてなりたくてなったわけじゃないんだからな。

 そもそも、こんな状況を彼らが知る必要は無かったんだ。

 

 ……桐生さんは、くっ……!!」

 

悪魔とは何の関係もない一般の市民である松田、元浜、桐生。

彼ら皆、悪魔と言う存在によって程度の差こそあれ人生を狂わされている。

特に桐生は如実に影響が出てしまっている。

 

 

木場の方も、セージの証言――ソーナ・シトリーらの出くわした状況――から

今自分達が立たされている状況が決して芳しくないことを思い知らされる。

何せ、数多の人々の血涙の上にふんぞり返っているも同然の状態なのだ。

松田と元浜の証言だけではない、それが駒王町住民の総意同然の状態であると

否応なしに思い知らされたのだった。

 

「……部長は何とか説得してみるよ。正直、僕もあのディオドラと言う悪魔は

 決して信用できないと思うんだ。カテレアと同じ腕輪をしているし

 何よりアーシアさんを襲った眷属の主だろう?」

 

「ああ。そこを考えたら、絶対行動を共にしないはずなんだがな……」

 

アーシアの名前が出た途端、そこには見慣れない修道服の女性がいた。

顔を黒いヴェールで覆った、長身の女性。

 

「あの、今のお話……詳しく聞かせてもらえませんか?」

 

「えっと……どこから話せば? と言うかあなたは……?」

 

見慣れぬ女性に、一同は戸惑いを隠せない。

まして、ヴェールで顔を覆った修道服姿なのだ。

教会の関係者だろうか、と木場は睨んでいた。

 

「……あら? あなた方はリアス・グレモリーさんの所の……」

 

「えっ? 何で部長……リアス先輩を知ってるんですか?」

 

修道女――アーリィが出した名前は、間違いなくリアス・グレモリーのもの。

ここでも、世界が違う事による食い違いが発生してしまっているのだ。

 

アーリィは、アーシアを迎えに来た際にアーシアの主となったリアスと対面し

その際にオカルト研究部の面々とも顔を合わせている。

そして、実力行使も辞さない状況に陥った経緯があり

それもあってか、特に木場と白音に対しては若干警戒した様子を見せている。

 

しかし、こちらの世界では白音はもとより、木場もリアスに対し

不信感を抱いている。もしアーリィがアーシアを迎えに来ていたとしても

実力を行使するような状況には陥らなかったであろう。

 

それよりも、アーリィにとって見慣れない顔が二人いる。

一人は白音の姉、黒歌。彼女はそもそもリアスの眷属ですらない。

アーシアの件に関しても、全く無関係だ。

 

そしてもう一人は……セージ。

彼こそがある意味、この世界の特異点ともいうべき存在かもしれない。

アーリィの知るリアス率いるオカルト研究部に、彼の存在は無い。

そもそも、彼はアーリィの世界に存在していなかったかもしれない。

 

そんなセージもアーリィの存在は気になるところなのか、気づかれぬように

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」を起動させ、情報の収集に努めているが……

……エラーを返すばかりだ。以前薮田直人を調べようとした際も

失敗に終わっているが、それは彼の正体に起因する事であった。

もしかすると、目の前の修道女も同じなのではないか?

そうセージは警戒していた。

 

「あっ、申し遅れました。私、アーリィ・カデンツァと言います。

 アーシアは私にとって妹みたいなものでして、それで名前が出たのでつい……

 ……あ、念のため確認しますけどアーシアって

 アーシア・アルジェントの事ですよね?」

 

アーリィの問いに、一同は首肯する。

しかし、次のアーリィの問いには、木場は言葉に詰まってしまう。

そんな木場を見て、セージも過去に起きた事件を言うべきか言わざるべきか判断に迷っていた。

 

「良かった……人違いだったらどうしようかと思いました。

 それで……アーシアは無事なんですか?」

 

「無事……は無事ですね。ただ……」

 

口に出しかけて、木場は言いよどむ。

何せ、目の前の人物は教会の関係者と思しき人物だ。

そんな彼女に「アーシアは悪魔になりました」とは木場の口からは言い出せなかった。

最も、彼女――アーリィはその事を既に知っているのだが。

 

「わかりました。それで、アーシアは今どこに?」

 

「……それは……」

 

さらに答えに窮する木場であった。

アーシアの居場所を話すと言う事は、悪魔の本拠地に案内することと変わらない。

そこに教会の人物を勝手に招き入れていいものかどうか。

いくらリアスに対し不信があると言っても、そこまでやっていいものかどうか。

いや、不信があるからこそアーリィを案内できないのかもしれない。

 

――リアスが、アーシアを取られまいと適当な理由をつけてアーリィを処分しないかと。

 

「言えないと言う事は、やはり何かあったんですね!?」

 

「あ、いや、その……そうではなくて……」

 

問い詰めるアーリィに、思わずしどろもどろになってしまう木場。

そこに、セージからの耳打ちが入る。

 

(ここは素直に話した方がいいかもしれん。

 下手に黙っていると、俺達が疑われるぞ)

 

「(そうだね……要らない諍いは僕としても避けたい)

 ……あの、驚かないで聞いてください。アーシアさんは

 とある事情でその身に宿した神器を奪われ、一度命を落としたんです。

 そこを、僕の主――リアス・グレモリーに救われ、神器とともに一命をとりとめました。

 ただし、『悪魔の駒』と呼ばれる道具を使っての事なので

 結果、アーシアさんは悪魔に……」

 

「……やはりゼノヴィアさんから聞いた通り、こっちでもそうだったんですね。

 お話しいただいて、ありがとうございます。

 そうなると、私からリアスさんに挨拶しなければなりませんね。

 『アーシアを助けていただいて、ありがとうございます』……と」

 

(……「こっちでも」? どういうことだ?

 ゼノヴィアさん絡みと言う事は……やはり教会関係者?

 だが……それだとこっちでも、って言葉の説明が出来ない。どういうことだ?)

 

木場が懸念していた事態は起きそうにないような、アーリィの発言。

しかし、それとはまた別の場所で別の懸念が起きていた。

 

……セージだ。アーリィに関する情報が得られないばかりか

気がかりなことを口走る彼女に、また違った意味の疑念が生まれてしまっている。

しかし、それも無理からぬことである。

彼にとってクロスゲートとはアインストがやって来る門のようなものであり

それ以外の者がやって来るとは考えもつかない事なのだ。

たとえ、目の前にそれを体現した存在がいたとしても。

 

そんな難しい顔をしているセージに、黒歌がちょっかいをかけてくる。

 

「お兄さん、そろそろ疲れたにゃん。おいしいもの食べてゆっくりしたいにゃん」

 

「む……それもそうですね。祐斗、場所を変えるが構わないか?」

 

「ああ、こっちは自由行動中だからね。構わないよ」

 

移動しようとするセージ達を呼び止めようとする声がする。

さっきまで話していた、アーリィだ。

 

「あ、待ってください。私もご一緒してよろしいでしょうか?

 まだ、この辺りになれてなくて……」

 

アーリィの提案に、一同は首肯する。

断る理由が、特になかったからだ。

アーリィを加え、一同は警察署の建物の中へと入る。

 

警察署の食堂。ここには料理評論家の天道寛――またの名を大日如来――が

腕によりをかけて作った料理――と言ってもそんなに豪勢なものではないが――が

振る舞われることもあり、近隣に避難している住民や署員からは好評である。

 

「……薮田やアポロンから話は聞いている。アーリィだな。

 俺は天道寛、ここで炊き出しをやらせてもらっている者だ」

 

「ヒロさんですね、よろしくお願いします」

 

天道とも握手を交わすアーリィだが、再び彼女の勘が彼もまた普通の人間ではないことを告げる。

神仏同盟の中核をなす存在であるため、その認識は間違っていないのだが。

 

「そんな事よりも、丁度食事が出来たところだ。鯖味噌だ。

 本来なら鯖を取り寄せて作りたいところだが、そうも言っていられんからな。

 缶詰だが、我慢してくれ。その代わり、味噌汁は俺のお手製だ。

 お前達全員分あるから、食べていくといい」

 

天道に促されるまま、一同は食卓を囲むこととなった。




関係ないけど浅倉出たね。鯖を生で鱗も取らず(たぶんあの様子じゃ……)に喰うとか
ムール貝の殻をまるかじりした奴は格が違った。鯖じゃねぇってそれ違う人。
何故ビーストがあっちにいるんだって言われてますが
あれはキマイラが作れそうなライダーだと睨んでます。
(ライオン・トラ・コウモリ・サソリ・ヘビ)
トラとライオンで若干被ってる気がしないでも無いですが。
ライオン怪人はともかくライオンライダーは意外と少ない(オーズは一フォームに過ぎない)
からのキャスティング……とか睨んでますがさて。

>フリード
そう言えばイリナやヴァーリは何処に行ったんだ?
その答えは追々。

あの人と遭遇しなかったのは幸か不幸か。

>アーリィ
やはりと言うか何と言うか、リアスらとは既に「向こうの世界で」対面済みでした。
こっちの木場や小猫は話が通じるからよかったね。
そしていよいよセージと対面。記録再生大図鑑がエラーを吐いた理由、それは……

>大日如来
まぁ、一応俳優だし。芸能活動休止して駒王町にやって来るという
傍から見たら気がくるってるとしか思えない行動。
理由は言わずもがなですが、これはこれでスポーツ紙を騒がせそうなお話。
方向性はどこぞの誰かとは全然違いますけどね。


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Special4. 銀と赤、銃と杭

特別篇第四話です。

イベント。
……はい、諦めました。
最後に完全攻略できたのは礼号作戦位ですね。
硬いわ資材がFXで溶け出るようなそんな感覚に陥るわで……

これもみんな強化が足りないおかげなんだ。
(資源ケチって12.7cm砲しか強化していない模様)

そんな私ですがフィギュアーツでスナイプLv50が出たら
AGPの艦娘の隣に並べてやるという野望が芽生えました。
……限定でもいいから出してくれ財団B。

艦これかと思ったらマルチロックオンで某自由が頭をよぎりましたけどね。
スナイプLv50。

閑話休題。
さてアインストに対してアーリィさんはどうするかと巷で囁かれていましたが
それに対する答えが今回。


「そんな事よりも、丁度食事が出来たところだ。

 本来なら鯖を取り寄せて作りたいところだが、そうも言っていられんからな。

 缶詰だが、我慢してくれ。その代わり、味噌汁は俺のお手製だ。

 お前達全員分あるから、食べていくといい」

 

天道に促されるまま、一同は食卓を囲むこととなった。

セージと白音、黒歌の姉妹。途中で合流した木場に

警察署に戻って来た時、ひょんなことから見知ったアーリィと言う修道女。

天道の用意した鯖味噌――缶詰だが――が用意され、一同の前に配膳される。

 

――――

 

「……こ、これは感激です! 日本の食事はレベルが高いと聞いていましたし

 実際食べもしたんですが、その中でもトップクラスです!」

 

「……確かに、これは相当にうまい……」

 

「当然だ。俺が腕によりをかけて作ったんだからな」

 

天道の料理にアーリィが舌鼓を打ち、警察署に張られた結界のお陰で実体化できている

セージも、久々の天道の料理に感激している。

白音は量的に物足りない表情を一瞬浮かべるも、物資不足であることを思い出し

思いとどまっている。

事実、セージらが食事している後ろには、配給待ちの避難民が列を作っているのだ。

 

表向きには安全面から警察署で支援活動を芸能活動を休んでまで行っているという天道寛。

勿論その真の理由は神仏同盟絡みであるが。

しかし、それでも料理人としてのこだわりは生きている。

 

「それで、アーシアの事なんですが……悪魔になったって、具体的には……」

 

「……お釈迦様が言っていた。『食事はあらゆるものに感謝し、祝福を賜るもの』とな。

 血生臭い話なら、食事が終わってからにしてもらおうか」

 

「……そ、それもそうですね。折角主にお祈りをささげたというのに

 それを覆すようなことをしてはいけませんね。これは失敬しました」

 

「その通りだにゃん。今は食事に集中するにゃん」

 

アーリィが食事前に祈りをささげた時に木場、白音、セージが軒並みダメージを受け

セージも「頂きます」をいつもの癖で言ってしまいダメージを受けていたのは少し前の話。

 

黒歌だけは素知らぬ顔で鯖味噌をおかずにご飯を平らげ、味噌汁に舌鼓を打っているが。

 

(……悪魔と言うのも、本当に不便なものだな)

 

(……やはり、「こっち」でも皆さん悪魔なんですね。

 あの背の高い人は見覚えが無いですが、彼もそうなんでしょうね)

 

天道の素朴ながらも高級な食事は、各々の喉を通りはしたものの

その思惑までは、洗い流すことが出来なかった。

 

アーリィは既に、彼女がいた世界で木場らリアスの眷属と出会っている。

今ここにいる中で彼女が知っているのは木場と小猫――白音だけだが

この二人は例外なく悪魔のままである。

 

そしてセージもイッセーと悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を共有している関係上

悪魔としての扱いに準じてしまっている。それこそが彼にとっての悩みの種でもあるのだが

そんな事はアーリィも知る由が無い。

 

だからこそ、アーリィの行いにダメージを受ける結果となり

天道をして「難儀な種族」と思わしめていた。

 

――――

 

食事を終え、配給も一段落した辺りで各々食器を片付け終える頃には

食堂も静まり返っていた。

改めて、アーリィからアーシアについての質問が投げかけられる。

 

「……それで。アーシアは一体どうなっているんでしょうか?」

 

「話すと長くなるが、それは……」

 

アーリィの質問に対し、セージが答える。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のデータを持ち出しながら。

当初は人間としてやって来ていた彼女だが、さる堕天使――レイナーレの思惑で

殺害されてしまい、やむなく悪魔として息を吹き返した経緯がある。

 

アーシアの側はどう思っているか知らないが、セージにとっては

アーシアはまだ友人と言える存在である。イッセーと違って。

それ故に、レイナーレの行為に激怒し暴走したことも

余計な事と思いつつも包み隠さず話している。

 

その後は兵藤家に世話になっていること、その兵藤家も

テロの影響で家が崩壊、兵藤夫妻も安否不明――実質死亡ともいえる状態に陥った事。

そして……

 

「……な、何ですって!? アーシアが……狙われている!?」

 

「ぐっ……は、離してもらえると……」

 

セージの口から出た言葉。「アーシアは狙われている」

それを聞いた途端、アーリィはセージに掴みかかってしまった。

悪魔になったというのも大事なのに、さらに狙われている。

そうなれば、アーシアを妹のように思っているアーリィが取り乱さないわけがない。

そこを把握できなかったのは、セージのミスである。

とは言え、初対面でかつ記録再生大図鑑も通じない相手にそこまで察せと言うのも

なかなか難しい話でもあるのだが。

 

「あっ……す、すみません。つい……」

 

「……けほっ、けほっ。まさかこんなところで生命の危機を覚えるとは思わなかった。

 まあそれはさておき、俺が最後に確認したのは

 ディオドラ・アスタロトと言う悪魔の眷属がアーシアさんを狙っていた事だけです」

 

「やはり、か。アーリィさん。勘違いしないで聞いてほしいんですが

 実は僕たちはそのディオドラの支配下にいるんです。

 

 ……ああ、勿論彼の言いなりになるつもりはありません。少なくとも

 僕とアーシアさんは。ただ、彼は契約者のヤクザ――まぁ、マフィアって言った方がいいですか。

 それを使って、この辺りを支配しようとしているのは間違いないみたいです」

 

ヤクザ。アーリィにも分かりやすく言えばマフィア。

利権争いのために派閥同士で抗争を繰り広げ、その争いに市民が巻き込まれることも珍しくない。

アーリィにとっては、映画の世界の話だと思っていたのだが

この混乱極まる駒王町においては、ヤクザ――曲津組(まがつぐみ)

両手を振りのさばっている地域もあるのだ。

 

「……あるいは、ヤクザが悪魔を利用してこの辺りを支配しようとしているのか、ですが。

 そのディオドラが、アーシアを何らかの理由で狙っているのは間違いありません。

 事実、俺はディオドラの息がかかった悪魔と交戦しました。

 

 ……最も、そいつはアインストになっていましたが。

 ああ、アインストってのはさっき話した通り……」

 

「あ、大丈夫です。皆さんに会う前にアインストについては説明を受けましたので。

 それにしてもまたアインストですか……悪魔と同じように、弱点さえわかれば

 攻略もしやすいと思うんですが」

 

アインストの弱点。一応ミルトカイル石と言う石がコアになっているため

それを破壊すれば機能を停止し、文字通り崩れ落ちることが確認されている。

しかしそのミルトカイル石を破壊することが容易ではない。

分析さえできていれば、何とかなるのかもしれないが。

アーリィの言う通り、弱点さえわかればアインストの脅威もぐっと下がるものだが。

 

「簡単に言ってくれるにゃん……ん? いや、けれど中国妖怪の間じゃ

 百邪って別名がある位には言い伝えられてる存在だにゃん。

 もしかしたら、対抗策はあるかもしれないにゃん。

 って言うか、あいつらとガチでやり合うなんてご遠慮願い所だにゃん」

 

「……そんなこともあろうかと、対策の装備は作っておきましたよ」

 

黒歌のぼやきに呼応するように、外からトランクを持った薮田が入って来る。

セージらにしてみれば久方ぶり、アーリィにしてみればついさっき出会ったばかり。

そんな彼らの心境などお構いなしに、づかづかと入って来ては

テーブルの上にトランクを乗せ、中身を全員に見せる。

 

「薮田先生!? どうしてこんなところに!?」

 

「木場君に塔城君……いや、白音君と呼ぶべきでしょうか?

 それと……宮本君。久しぶりですね」

 

「白音、誰にゃんこの胡散臭そうなオッサンは」

 

薮田直人(やぶたなおと)……私たちの世界史の教師で、実は……」

 

白音が言いかけた薮田の正体を遮るように、薮田が話を進める。

ここには、まだ正体が割れていないアーリィや黒歌がいるのだ。

 

「そんな事よりも、ミルトカイル石を破壊する物質の開発に成功しました。

 既に戻って来た柳課長からもゴーサインは出ていますが……

 ……結論から言いましょう。この『アルギュロス』に『アントラクス』。

 これはミルトカイル石を破壊する物質です」

 

銀から生成された「アルギュロス」に、ルビーから生成された「アントラクス」。

神経断裂弾の要領で、ミルトカイル石の成分を破砕し機能停止させる物質である。

銃弾である神経断裂弾。それをアインストの弱点であるミルトカイル石に

特化させて運用させた、アルギュロスにアントラクス。

一同の前に姿を見せたそれは、一般の銃の弾丸とはまた違って見える。

神経断裂弾の要領で使えそうには無さそうだが、その答えはすぐに出ることとなった。

 

「ミルトカイル石を……って事は……」

 

「ええ。ですがアインストの表皮部分には通用しないと思ってくださって構いません。

 アントラクスの方ならば強度がありますので、ある程度は通用するかもしれませんが

 元々ミルトカイル石を破砕するための装備ですし、そもそも大量生産に向きません。

 なので、扱いには慎重になってください。

 

 さて。何故私がこれを持ってきたかと言いますと……

 アーリィさん。あなたにもこの二つを託します。

 アーシア君を迎えに行く手助けになればよいのですが。

 そして……聖職者たるあなたにこれを託すのもどうかと思うのですが

 『試作型ナイトファウル』……『アルギュロス』と『アントラクス』を運用するための

 専用武器……と言いますか兵装ですね。既に三丁完成したうちの一丁です」

 

「……な、何か凄い代物ですね……」

 

薮田の見せたものは「アルギュロス」と「アントラクス」だけではない。

「試作型ナイトファウル」と呼ばれたそれは、大型のライフル銃程度の大きさの杭打機。

それに、銀製の剣が取り付けられた、兵装と呼ぶには些か大げさな見た目の装備である。

 

「ああ、勿論事が済んだら返してもらいますよ。

 それも超特捜課の技術の粋を集めたものですから。

 とは言え、設計図はクロスゲートの近くに落ちていたものを拾っただけですがね」

 

アーリィが「向こう側」からやって来た存在であることをうまく伏せながら

薮田は試作型ナイトファウルとアルギュロス、アントラクスの入ったトランクを

アーリィに手渡す。見た目から相当重そうに見えるが

思いの他、重量は無いようであった。

 

「聞いた話ですが、杭打機を悪魔祓いに使うケースもあるそうですし

 そう間違った運用ではないと思いますよ。

 それに……アルギュロスも、アントラクスも神経断裂弾を参考に開発しましたが

 このナイトファウルとの相性がいいみたいでして。

 そしてこのナイトファウルの杭部分と剣部分ですが、銀をコーティングしてありますので

 アインストのみならず、悪魔にも効果的です」

 

その言葉を聞いた途端、アーリィのヴェールで覆われた顔に笑みがこぼれた……様な気がした。

人に害を成す悪魔に対しては、残虐ともいえるほどに彼女は容赦が無いのだ。

アーリィのそんな側面を、こちら側の木場や白音は知る由もないが。

 

(最も、設計図には銃としての側面もありましたが、そこは再現させてませんがね。

 そこまで再現させては、少々過剰戦力になる恐れがあります。

 自衛隊の兵装ならいざ知らず、そうでも無いものにそこまでする必要はありませんからね。

 今はともかく、この脅威が去った後の事を考えれば下手な軍備強化は逆効果になりかねません)

 

アインストに対抗できる武装が完成した。

これは間違いなく人類にとっては吉報であり、文字通りの天啓であるといえよう。

 

「ありがとうございます、ナオトさん。

 この装備、大事に使わせていただきますね。

 ところで、さっき出動された方々にはこれはお渡しにならなくてよかったのですか?」

 

「無論、既にお渡ししてありますよ。これは先ほどお話しした通り、三丁完成したうちの一丁ですから。

 インベスはともかく、アインスト相手にはアルギュロスやアントラクスの方が

 有効そうですし、それに……」

 

薮田が次の言葉を紡ぎかける前に、部屋の扉がノックされ、開かれる。

そこから入って来たのは赤い革ジャンに同じく赤のレザーパンツと言う

おおよそ警察らしからぬ格好の、超特捜課(ちょうとくそうか)課長テリー(やなぎ)

 

「おや、柳課長。もう怪我の方はよろしいので?」

 

「いつまでも寝ていられるか。それに怪我と言っても神器を封じられただけだ。

 君がアーリィ・カデンツァか。俺はテリー柳。

 警視庁超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)――超特捜課の課長を拝命している者だ。

 それにセージ達もよく戻って来た。恐らくあのナチスかぶれと戦ったのだろう?」

 

柳の質問に、セージ達は首肯する。

セージ達はナチスかぶれ――聖槍騎士団の撃退に成功し

木場は目の前でとんでもない事実を暴露される結果となったが

こうして生還には成功している。

 

「生身の人間が戦艦の主砲を撃ちまくるようなものだ。まともにやり合うのは不利……

 かといって神器(セイクリッド・ギア)に頼れば、聖槍で封じられる。

 ……アインストやインベスで手一杯だというのに、とんでもない相手が現れたものだ。

 アインストに関しては、打開策が見えてきたがそれでも油断はできないからな」

 

「……本当にこの駒王町は大変なことになっているんですね。

 そう言えば、応援は来ないのですか? こういう時のための教会だと思うのですが」

 

「してやられている。悪魔の存在を公表されたと同時に、天使や堕天使の存在ばかりか

 神の不在さえもな。フューラー・アドルフ……あの本人であるはずがないが

 偉人を相手にすると言う事はこうも恐ろしい事なのだな。

 奴を偉人と言うのも、ある意味おかしな話だがな」

 

「そう。彼――フューラーが神の不在を口外してしまったために

 教会に対する求心力どころか不信が芽生えてしまいましてね。

 司教枢機卿は全世界のキリスト教系国家に説明のために出向いているため

 応援を出せない状態なのですよ。まして日本はキリスト教の影響が薄いですからね。

 後回しにされるのも、むべなるかなと言ったところでしょう」

 

フューラーの行動は、確実に教会の動きを牽制していた。

そんな教会の対怪異討伐の代わりを果たしているのが、超特捜課であり自衛隊である。

薮田の言う通り、日本はキリスト教の影響が諸外国に比べ少ない。

遥か古代から培われた土着信仰の賜物でもあるが、古代の人々も

まさか未来でこんなことが起こることを見越しているわけでも無いだろう。

 

「これは天照も言っていた事だが、俺達の目の黒いうちはこの国を好きにはさせない。

 ……これはサーゼクスやミカエル、アザゼルに言うべき台詞でもあるかもしれんがな」

 

神仏同盟(しんぶつどうめい)として日本を守護している天道――大日如来が口を開く。

この場にいない日本古来の神、天照の思いを代弁するかのように語られた言葉は力強く

異なる神を信仰するアーリィや、聖書の神の影である薮田さえも唸らせている。

 

そんな中、アンノウン討伐に出ていた氷上から連絡が入る。

 

『こちら氷上。アンノウン……アインストの撃破に成功しました。

 薮田博士、新型弾丸の成果は上々です。これならば、神経断裂弾の効かない相手にも

 有効打が与えられそうです』

 

「そうですか。しかし油断は禁物ですよ氷上君。アインストの恐ろしい部分は

 戦闘力以外の部分にあるのですから。いえ、往々にして恐ろしいのは

 戦闘力以外の部分ですよ。君達が精神支配の影響を受けたら、笑い話にもなりませんよ」

 

『はい、それもそうですね。では我々は直ちに帰還いたします』

 

氷上からの通信。それはアルギュロスやアントラクスは完成したという報告でもあった。

これらを装填した銃やナイトファウルで、アインストのコアを打ち抜けば

アインストは効率よく倒せる。超特捜課の装備は、充実の一途をたどっていた。

 

(完成はいいのですが、これ以上私が口をはさむのはまずいかもしれませんね。

 しばらくはマキ博士主導で、私はその様子を見ることに専念したほうがいいかもしれません。

 

 ……神が必要以上に人類に肩入れを行うのは、よい事ではありませんからね)

 

暫し薮田は考え込み、言葉を紡ぐ。

その思想こそが神の傲慢さに基づくものなのかどうかは誰にも分からないが

アインストにも、辛うじてインベスにも対抗策のある現状、これ以上口をはさむのはどうなのだろうか。

そう薮田は考えていたのだ。

 

「では私はクロスゲートについて調べてみようと思います。

 教師と言う立場でもある以上、駒王学園の様子も気がかりですが

 今はこちらの方が重要そうですからね。これをどうにかしないと、無限にアインストが沸いてくる……

 なんてことも、最悪起こりうるかもしれませんし」

 

「それは考えたくないな……わかった。では駒王学園については……」

 

「いけない、忘れるところだった。薮田先生。

 俺達が駒王学園に向かった時、シトリー会長らを見かけました。

 一応、無事は無事ですが……」

 

セージの言い方に、無事だが何か問題があると見込んだ薮田は

セージに質問を投げかける。

その答えもまた、薮田の想定内のものではあったが。

 

「無事は無事……と言いますと、何か問題がありそうですね、宮本君」

 

「はい。シトリー会長らは既に冥界に帰還。事のあらましは今頃冥界政府に知れ渡っているでしょう。

 そうなると……」

 

「……やれやれ。またあの魔王が出しゃばらなければよいのですが。

 今冥界軍に動かれたら、地上は大混乱になりますよ」

 

「……起こり得るのが怖い所です。引き金になるであろうシトリー会長にダメージが及んでますからね。

 あの魔王陛下の性格を考えれば、こっちの被害なんか顧みずに軍を動かしかねません」

 

セージもまた薮田に同調し、誰の事かが分かった木場と白音も苦笑を浮かべている。

アーリィは初めきょとんとした表情をヴェールの下に浮かべていたが

話題に出ているのがセラフォルー・レヴィアタンであることに気づくと「ああ」と言った表情になり

ポンと手を打っている。

 

「正気の沙汰じゃありませんよそれ。混乱しているところに戦力を派遣するなんて

 もう法治国家のやる事じゃなくて野盗のやる事ですよ。

 でも、そうなったら私の出番ですね。この町やアーシアに危害を加えるような悪魔は

 私が一人残らず撃退しちゃいますから」

 

「……程々に頼みますよ?」

 

アーリィの一面が垣間見えた薮田だったが、ナイトファウルを取り上げるところまではしていない。

ナイトファウルを取り上げてしまえば、アインストに対して無力化してしまうからだ。

今や悪魔と同等以上に脅威となったアインストに対し、その対応は失策と言わざるを得ない。

 

「それじゃ、今すぐにでもアーシアを探しに行きたいところですけど…

 私、お恥ずかしながら地理には疎くて……まして町がこの状態ですし。

 それで、皆さんの都合がつく時までここに滞在させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、それなら明日にでも行きましょう。俺も早いところこんなことは終わらせたいんだ。

 それに、アーシアさんがいるグレモリー部長の所には俺達も用事がある」

 

「……そうだね。あのディオドラとか言う悪魔の動きが気になる」

 

行動の方針が纏まりかかったところで、柳から提案が入る。

その提案は、アーリィにとって非常にありがたいものであった。

 

「ここは避難所でもあるんだ。一人くらい受け入れる余裕はある。

 部屋は……すまない、女性署員の宿舎に使っているところがあるから

 そこで構わないだろうか」

 

「はい、大丈夫です。お心遣いありがとうございます」

 

避難所とは言え、元が警察署とその近隣地域なので最低限の設備は整っている。

こうして、アーリィの宿の心配もクリアされたのだった。

 

「となると僕だけど……ちょっと待っててくれ。部長に話をつける。

 

 ……木場です。出先でアインストの襲撃を受けてしまい、今警察に保護されています。

 明日には戻れると思いますので、よろしくお願いします。

 出迎えには及びませんので、そちらで待機していてください……っと。こんなものかな」

 

魔法陣を利用した通話で一方的ながらもリアスに話を付けた木場は

何買わぬ顔で嘘をつき通していた。

 

「……嘘を真実と思わせるには半分は本当のことを交えたほうが信憑性が増すというが……

 祐斗、お前もずる賢くなったな」

 

「反面教師には事欠かないからね。言いたくはないけど」

 

さらに質の悪い事に、木場はセージや猫姉妹、そしてアーリィの存在を喋っていない。

誰も彼も喋れば面倒なことになる事は避けられない。そう考えれば、黙っているのも一つの手だ。

 

その日の夜は、警察署周りでは平和な一日であった。

 

――――

 

一方、その夜の出来事。曲津組が支配する地域と警察の管轄区域の境目付近。

悪魔の力を借りた曲津組の組員に、自衛隊員が捕まってしまっていた。

 

「おう、とっとと吐けよ。この写真の女、見たことあるだろ?」

 

「……知るか」

 

「あっそ。じゃあ……」

 

組員によるアーリィ捜索は、避難民捜索活動を行っている自衛隊員を締め上げて聞き取りを行うという

外道じみた手法がとられていた。勿論、ただのヤクザに自衛隊員が後れを取るはずがない。

質の悪い事に、アインストとの戦いで消耗したところを一斉に取り押さえにかかったのだ。

これでは、誰が悪魔だかわかりやしない。

 

「なあ。お前、この辺に家族はいるのか? いるんだったら……」

 

「!!」

 

組員の次の言葉に、捕まった自衛隊員の顔色が変わる。

彼の家族は、運悪く曲津組の支配下の地域に避難していたのだ。

つまり、人質に取られているようなものである。

 

家族と言う存在を盾に取られては、従わざるを得なかった。

 

「そうそう、最初から素直に吐いてくれりゃいいんだよ。

 じゃ、もうお前に用は無いから……」

 

自衛隊員の頭に銃口が突きつけられたとき、その銃口を突きつけた側が突如として崩れ落ちる。

自衛隊員が見上げると、銀髪碧眼の青年が立っていた。

 

「……逃げろ。こんなやり方は、俺の主義じゃない。

 俺は道を誤った。だが、今更俺はどうすればいいのかがわからない。

 だから今はただ、こいつらを――禍の団(カオス・ブリゲート)

 それに通ずるものを叩きのめす事だけを考えている」

 

青年――ヴァーリの手ほどきで自衛隊員は脱出に成功。

騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた曲津組の組員とアインストと化した組員がやって来る。

 

「今の俺には、何も目標らしい目標が無い。だが……力を貸してくれるか? アルビオン」

 

『赤いのに比べれば俺はマシと言ったところか……今代は二天龍の我らには優しくない時代だな。

 ま、それが普通なのだろうがな……で、質問の答えだが……

 

 言うまでも無かろうよ!!』

 

ヴァーリの神器、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の力で

能力を半減させられたアインストは、ヴァーリの敵ではなかった。

 

しかしその行いは、すぐさまアインストの長ともいえるオーフィスに筒抜けになる事となった。

白龍皇もまた、運命を狂わされた存在。アインストによる破壊は

彼が望んでいたものでは無かった。赤と白のぶつかり合い。それが望みだったはずなのに

そこからは大きく外れていった彼の運命。幼き日を考えれば、どこまで狂って行くのだろうか。

 

次第に、ヴァーリを付け狙うアインストの数が増えてくる。

オーフィスが直接ヴァーリを標的に攻撃指令を出しているのだ。

その中には、平和の象徴から変貌したアインストアイゼンやアインストリッターの姿もある。

 

人知れず、アインストの大群を相手に白龍皇の戦いが始まっているのだった……




ナイトファウル来た、これで勝つる!

……いや、某同人ゲーのパスt……カレー先輩の得物から着想を得たんですけどね。
杭打機で悪魔狩り、あると思うんです(元ネタは吸血鬼だけど)

設計図はクロスゲート経由で流れ着いた模様。
それを超特捜課(薮田)が拾い上げ、急ピッチで制作。
そんな急造品をいきなり実戦投入とか無茶が過ぎます。
アルギュロス、アントラクスは神経断裂弾の要領で開発。
対アインスト用の神経断裂弾と思っていただければ。
材質上、アルギュロスは悪魔(+吸血鬼)用神経断裂弾としても流用可能ですけど。

とりあえず「アーリィが超特捜課製の武器を使う」フラグはこれにて回収。
これでディオドラも怖くない! ……はず。

なお、ゲシュペンスト・ハーケンの設計図は見つかりませんでしたとだけ。

>薮田博士
こういうポジの人がいきなり新兵器を持ってくるのは創作ものの
あるあると言う事で一つ。
ゴジラやゼットンはその犠牲になったのだ……

さて、ここでアインスト特化武器まで完成した以上
インベスの毒に対する抗体完成まで超特捜課に居座るかと思ったら
ここで脱退フラグ。まぁ正体考えれば……

それに、アーリィさんの帰還手段も確立させないといけませんし
ここでアポロンとクロスゲート研究に専念と言う形で。

>不死身属性のある柳課長
倒しこそできませんでしたが、聖槍騎士団と一戦交えて撃退に成功してます。
安玖巡査も無事です。出てきてないだけで。
戦果としてはイッセーらとどっこいです。
彼らは「試合に勝って勝負に負けた」状態ですが。

>ヴァーリ
久々の登場。
過去にやられたことを顧みてなお「知った事か」とかのたまうようだったら
速攻排除対象ですが、今回はまだ第三勢力ながらも
禍の団――と言うかアインストとは袂を分かつつもりでいます。
人のふり見て何とやら、そんな感じです。


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Special5. 魂抉る刃、暗躍する毒牙

ヴァーリが更生しそう?


……ククク、そう簡単にはいきませんよ


「今の俺には、何も目標らしい目標が無い。だが……力を貸してくれるか? アルビオン」

 

『赤いのに比べれば俺はマシと言ったところか……今代は二天龍の我らには優しくない時代だな。

 ま、それが普通なのだろうがな……で、質問の答えだが……

 

 言うまでも無かろうよ!!』

 

ヴァーリ・ルシファー。旧ルシファーの血を継ぐ者。

彼の望みは、白龍皇として赤龍帝と雌雄を決し、より強い者と戦う事……

 

……だった。

 

そんな彼の望みは、禍の団(カオス・ブリゲート)に加わる事で叶えられるかと思われたが

そこで行われていたのは、弱者を虐げるだけの一方的な虐殺ばかりであった。

それはヴァーリの望むところではないどころか、彼が忌み嫌うものであった。

 

(俺の戦いは、戦うべき相手は何処にいるというのだ!?

 禍の団も、オーフィスも俺にそれを与えてはくれなかった。

 元より与えてもらうつもりなどなかったが、それでも手に掴むことは出来たはずだ!

 それなのにこれは何だ!? 一方的な虐殺ばかりではないか!

 こうなれば……北欧の神々よりも、赤龍帝よりも先にオーフィス!

 お前を相手にしてやる!)

 

禍の団の長、オーフィスに対し明確に立ち向かう事を決意したヴァーリだったが

その前にはアインスト軍団がいる。

しかし、ヴァーリの神器(セイクリッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の力で

能力を半減させられたアインストは、その一体一体はヴァーリの敵ではなかった。

 

だが当然その行いは、すぐさまアインストの長ともいえるオーフィスに筒抜けになる事となった。

白龍皇もまた、運命を狂わされた存在。アインストによる破壊は

彼が望んでいたものでは無かった。赤と白のぶつかり合い。それが望みだったはずなのに

そこからは大きく外れていった彼の運命。幼き日を考えれば、どこまで狂って行くのだろうか。

 

次第に、ヴァーリを付け狙うアインストの数が増えてくる。

オーフィスが直接ヴァーリを標的に攻撃指令を出しているのだ。

その中には、平和の象徴から変貌したアインストアイゼンやアインストリッターの姿もある。

 

『相棒。どうやらオーフィスは我々を明確に敵と認識したようだ。

 特にあの赤い奴と白い奴……我らを思わせるようで反吐が出るがな。

 我々が負ける要素はないが、注意してかかれ』

 

「分かっているさアルビオン。こんな奴らに負けたとあっては、白龍皇の名折れだ。

 それに、これからの戦いも生き残れない!」

 

人知れず、アインストの大群を相手に白龍皇の孤独な戦いが始まっているのだった……

 

――――

 

朝。

セージの実体化こそ解けているが、それ以外は何ら問題なく行動を開始できる……

はずだった。

 

朝食を食べ終えた一同に知らされたのは、昨夜起きた指定暴力団組織

曲津組(まがつぐみ)領域内で起きた大規模な戦闘行為。

そのため、警察や自衛隊は総出で救助活動に向かっているのだ。

勿論、超特捜課(ちょうとくそうか)も例外ではない。協力者として超特捜課に名を連ねているセージだが

霊体のため、日中の活動は出来ない。結果として、白音と黒歌の姉妹が

セージの分も行動することとなっていたのだ。

 

「……何だかすまないな、二人とも」

 

「……仕方ありません。どうにかして身体を取り戻す方法を見つけ出しませんと」

 

「昨日話した通り、病院も影響を受けているらしくて

 セージ君の身体もいつまでもつかわからない状態なんだ。

 セージ君が思っている以上に、限界は早いかもしれない……」

 

後ろ向きな意見を述べるのは、昨日イッセー経由で松田と元浜から事情を聴いた木場。

彼もまた、曲津組の領地にいるリアスらと合流するために

曲津組の領地へと向かっていたのだ。

 

「そう言えば、あの背の高い人は何処に行ったんですか?」

 

「実は……」

 

一方、アーリィはセージをさっきから探していた。

そう。セージからアーシアの事情を聴きはしたが、セージ自身の事情は碌に聞いていない。

本人が話さなかったからに過ぎないが。

そのため、昼間のセージがある特定の人物以外に見えない事まではアーリィは知らなかったのだ。

 

「そうでしたか……」

 

「他意はないですが、同情とかそういうのは要りません。

 自分の身体を取り戻すためにやるべきことは……

 ……多分、奴を……

 

 ……いや、そんな事よりもそろそろ例の場所につく頃じゃないか?」

 

声だけするという状態のセージに促され、一同が前を見てみると

そこは殊更に荒れ果てた町ともいえない場所があった。

それが、ここで起きた戦いの激しさを物語っている。

 

「こりゃ酷いにゃん。あちこちから辛うじて生きてる人の気配はするけどにゃん」

 

黒歌が気の流れを探って生存者がいるかどうかを探っているが

町の有様にしては犠牲者は少ないほうではあるようだ。ゼロともいえないが。

近寄ってみると、超特捜課の装備に身を固めた自衛隊員や

特殊強化スーツに身を包んだ氷上と霧島もいた。

彼らの主な任務は、瓦礫の撤去である。

今の彼らの装備は破壊力が大きいため、瓦礫の除去には長けている。

人に危害を加えないよう最大限に注意しながら瓦礫の撤去を行い、救助活動を行っている。

 

その一方で、曲津組の組員はその姿をほとんど見かけない。

この区域を放棄し、別の区域へ移動したのだろうか。

そんな中、一人の組員が警官に尋問を受けている。

 

「だから、俺は白いドラゴンと銀髪のガキが怪物と戦うところしか見てねぇんだよ!」

 

「その怪物はお前がけしかけたんじゃないのか?」

 

「んな事するかよ! ここは俺らのシマだったはずなんだ!

 俺だってなんで自分のシマを滅茶苦茶にしなきゃいけないのかわけわかんねぇんだよ!

 兄貴に聞いても何も答えてくれねぇし、そもそも兄貴も最近人が変わったみてぇに……」

 

その一部始終を聞いたセージ達に、ある疑惑が去来する。

 

――アインストによる支配を受けた事。

 

曲津組は、ディオドラ・アスタロトと繋がっている。

ディオドラは、アインストと繋がっている。

そうなれば、曲津組がアインストの影響を受けてもおかしくない。

 

そして彼の言う銀髪のガキとは……

 

「憶測を出ないが、あの男が言っているのは白龍皇――ヴァーリだろうな」

 

(白龍皇……「こっち」でも二天龍の伝説は健在なんですね。

 私の知る赤龍帝は……でしたけど、白龍皇の方はどうなんでしょう?)

 

アーリィもまた、「向こう側」で赤龍帝――兵藤一誠を知っていた。

ただその人となりは、奇しくも「こちら側」とそう大差のないものであったが。

だが、アーリィは白龍皇との面識はない。それは向こう側でも、こちら側でも。

しかしその疑問を、アーリィはおくびに出すことは無かった。

 

逆に、疑問が生じたのはセージ達だ。

ヴァーリは己が欲望――強者との戦い――のために禍の団に所属した経緯がある。

もしバケモノがインベスではなくアインストを指しているのなら

禍の団と繋がっているとされるアインストと戦う、それは裏切り行為ではないか。

ヴァーリは禍の団を裏切ったのか? そんな疑問が去来する。

 

そんな思考を遮るように、遠くで爆発音が響く。

爆発音を皮切りに、アインストと何処からかやって来たインベスが姿を現す。

混乱に乗じて、曲津組の組員には逃げられてしまうが

今成すべきことはアインストやインベスによる被害を食い止めること。

その結論に至ったセージ達や警官、自衛隊員達は武器を手に

アインストやインベスと戦うべく、立ち向かっていった。

 

――――

 

一方、アインストの群れに囲まれているヴァーリ。

アインストアイゼンの右手に光るホルツシュラオペを難なく食い止めるも

その隙を上空のアインストリッターの得物である

シュペーアカノーネから放たれたビームが突く。

 

「ぐ……っ!」

 

反射的に防御態勢を取ったが、そのためにアインストアイゼンに対する警戒が薄れてしまう。

それを好機とばかりに、アインストアイゼンとアインストリッターはヴァーリに同時攻撃を仕掛ける。

 

――ランページ・ネクロム。

 

何処からかやって来た他のアインストアイゼンやアインストリッターも攻撃に参加し

その様は集団リンチのそれと言い切れる有様であった。

ヴァーリ……と言うか白龍皇の力は「対象の力を半減・吸収する」と言う物であるが

これは相手が複数いるとなると赤龍帝の「自身の力を倍加する」に比べ不利になる代物である。

今まさに、白龍皇を宿したヴァーリはその苦手な集団戦を強いられているのだ。

身を護るために禁手(バランスブレイカー)である白龍皇(ディバイン・ディバイディング)()(スケイルメイル)に身を包むが

ランページ――暴れる――の名の通り数の暴力と言える

アインストアイゼンとアインストリッターの猛攻の前に

じわじわと押されているのが実情であった。

 

その上空から、鬼面を身に纏った老人が顔をのぞかせている。

オーフィス――ウンエントリヒ・リヒカイト。

 

「ヴァーリ……最後通告。

 我、従い……グレートレッド……殲滅しろ。

 そして……静寂な世界……もたらす」

 

「ぐ……っ、グレートレッドと戦えるのは魅力的だが……

 お前たちのやっている戦いは、俺の望む戦いではない!

 それに戦いの無い静寂な世界も、俺の望みとは違う!

 オーフィス、俺は俺の好きにやらせてもらうと言ったはずだ!」

 

「……不許可。我、従わぬ者……

 それ即ち……静寂……乱す者。

 よって……ヴァーリ……排除し……

 我らの……静寂なる……世界を……この手に……」

 

圧倒的劣勢ながらも、ヴァーリはウンエントリヒ・リヒカイトの最後通告を蹴る。

ヴァーリの明確な拒絶の声を皮切りに、押し寄せてくるアインストの数が増えてくる。

その中には仲間を巻き込んで攻撃しているアインストも出てくるが

そんな事はお構いなしにアインストの猛攻はやむことが無い。

 

『相棒よ。このままではまずいぞ。一々半減をかけていてもキリがない。

 そしてこの後ろにはオーフィスが控えている。奴は高みの見物のつもりだろうが……』

 

「……グレートレッドの前に、オーフィスと戦うのも悪くないな。

 いやアルビオン、この状況を打開する手札があるぞ。

 ハーフディメンションだ、それを使えば……」

 

「……無駄な事。我が静寂な世界……その礎となれ……」

 

ウンエントリヒ・リヒカイトの手に巨大な日本刀が現れる。

それと同時に、鬼面から広範囲にビームが放たれ、アインスト諸共ヴァーリを攻撃する。

それは、ヴァーリがハーフディメンションを仕掛けるよりも速い動きだった。

自分の仲間は攻撃しない、その甘い見通しがヴァーリの判断を鈍らせてしまったのだ。

 

「貴様……自分の部下までも……!?」

 

「部下? 同じもの……同じ体……異なる変化……フフ、フフフフ……

 創造する……また再び……いつも……創ればいい……!」

 

そこには、無限龍(ウロボロス・ドラゴン)としてのオーフィスは既にいない。

外の世界からやって来た、異形の怪物(アインスト)

いつから、そうなったのだろうか。そんなことをヴァーリが知る由は無い。

 

ビームで蹴散らされたアインストの代わりに、放たれた鬼面から生えた腕が

ヴァーリを拘束する。いつの間にかそのヴァーリの目前には、日本刀を持った

ウンエントリヒ・リヒカイトがいる。

 

「ぐ……っ! オーフィス! 俺はまだ負けてないぞ!」

 

「勝利……敗北……そこに意味、無い。

 破壊されるか……創りだされるか。

 そして……お前……死ぬ!」

 

ウンエントリヒ・リヒカイトの怒号とともに、ヴァーリの腹部を日本刀が貫通する。

白龍皇の鎧をものともせずに、ヴァーリを貫通していた。

 

「『が……はっ……!?』」

 

ヴァーリを貫いた日本刀は、そのまま体を抉り取るように上下に動かされる。

何度も上下に揺り動かされた後、大きく弧を描くようにヴァーリの身体から刀が抜き取られ

周囲を鮮血で染め上げていた。

 

「これで……終わり。まだ立ち向かうなら……何度でも……破壊する」

 

言い残し、ウンエントリヒ・リヒカイトは上空に小型のクロスゲートを展開させ

アインストの生き残りとともにその中へと消えていく。

そこには、血まみれのヴァーリだけが残されていた。

 

鮮血で覆われた大地を洗い流す様に、暗雲の立ち込める雲からは大雨が降り注いだ。

セージ達が駆けつけたのは、その少しあとの出来事である。

 

――――

 

ヴァーリがアインストの大群と戦っているその一方では

警察や自衛隊とインベスによる一進一退の攻防戦が繰り広げられていた。

アインストと違い、経緯はどうあれ純正な生物なので神経断裂弾による攻撃は有効である。

そのため、銃による攻撃が主体の警察や自衛隊による足止めが辛うじて可能なのであった。

逆に言えば、接近されたら極めて危険なのである。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

接近したインベスに対しては、プラズマフィストや早速投入されたナイトファウルが

猛威を振るっている。そもそも毒を持った生物相手に接近戦は危険なのだが。

 

「数が多すぎる! 霧島さん、何とかしてここを死守しないと!」

 

「そうですね、住宅街に入り込まれたら、大変なことになります!」

 

彼らの言う住宅街とは、曲津組の搾取対象たる住民が暮らしている

いわばスラム街ともいうべき場所の事である。

かねてから調査が行われており、今回の事件をきっかけに調査の名目で

警察や自衛隊が保護にやって来たのが本来の筋書きである。

 

ところが、そこにアインストやインベスが現れた。

こうなった以上、これらを迎撃せねばならない。

インベスはともかく、アインストは曲津組――より正しくはディオドラ――が

けしかけた可能性が高い。アインストの大半はヴァーリの下に向かったが

残りはこうして警察や自衛隊と戦っているのだ。

 

その戦場の様子を、遠くから眺めている者達がいた。

リアス・グレモリーとその眷属達だ。

 

「部長、ここは打って出るべきですよ! 俺達もアインストやあの怪物と戦わないと!」

 

「ここは戦力の温存どころではありませんけれど……部長?」

 

「ええ、イッセーや朱乃の言う通りだと思うわ。けれど……

 

 ……引っかかるのよ。なんで行く先々にアインストが出てくるのか。

 なんでディオドラはアインストが出てもああも落ち着いていられるのか。

 アインストって、もしかしたら……」

 

「……それは無いと思いますわ。そもそもアインストって、話し合いに応じる気配が

 まるっきり無かったですわ。だからここは……」

 

朱乃の一押しもあり、リアス達もアインストと戦う決意を固めようとした矢先――

 

「ちょっといいかな。知っての通りアインストがこの辺りにも現れた。

 今僕達も迎撃に向かっているけれど、彼らの戦力は未知数だ。

 だから、君達にはこの辺りの防御を頼みたい。

 下手に打って出たら、総攻撃を受けそうだからね。

 それとリアス、僕はアインストに対して思うところが無いわけじゃないんだよ?

 実際、僕の契約者がいる土地を狙われているんだ。

 今対策を考えているところだよ」

 

ディオドラが入って来るなり、リアス達に防衛を依頼してきたのだ。

勿論、前線では警察や自衛隊がアインストやインベスと戦い

ヴァーリも一人でアインストの大群と戦っている最中だ。

 

『……おい。このディオドラと言う悪魔、嘘をついているぞ。

 今白いのがアインストの大群と戦っている。

 助けに行く行かないは、お前次第だがな』

 

「ヴァーリが? ……部長やアーシアならともかくなぁ……

 あいつだったら助けは要らなさそうな気がするしなぁ……

 けれど、アインストを倒すってのは同意だな」

 

「相手が攻めてきているからこそ、私達も打って出るべきではないかしら?」

 

「リアス、君は本当にグレモリー家を背負って立つ悪魔なのかい?

 こういう時、真の貴族は狼狽えないものだよ。

 戦いは部下に任せて、君はここにいたほうがいい。

 ……ああ、アーシアもあんな血生臭い所に行くべきじゃないね。

 僕がアーシアを護るから、君たちは……」

 

「へっ、そう言ってアーシアにいかがわしい事をする気なんだろ?

 俺にはわかるんだぜ、さっさとその手を離せよ。

 アーシアは俺が守るんだ、わかったか」

 

(……チッ。下級の転生悪魔の癖に生意気な。

 まぁいい、赤龍帝が打って出ないのならこっちはこっちで動きやすい。

 今頃裏切り者の白龍皇もオーフィス自ら処刑している頃だしね。

 二天龍の片割れさえいなくなれば、何も怖いものは無い。

 こいつを消すのは、その後でもいいか……)

 

イッセーに気づかれぬように、ディオドラは舌打ちをしていた。

結局、イッセーが出撃を拒否したために朱乃、ギャスパーだけと言う

極めてバランスの悪いメンバーを出さなければならなくなってしまうため

それならば、とリアスは渋々防衛に回る事となってしまう。

 

「……わかったわ。こっちにアインストが来ないとも限らないものね。

 朱乃、ギャスパー。警戒を厳となさい」

 

「……命令ならば、承知いたしましたわ」

 

「わ、わかりましたっ」

 

(……馬鹿め。こっちにアインストは来るわけがない。

 何せけしかけているのは僕なんだからな。

 あのドラゴンアップルの害虫までは知らないけど、あいつも

 アインストが片づけてくれるだろう。

 こうなったら……そろそろ実行に移すか……。

 まずはリアスの眷属達だ)

 

防衛に出る朱乃とギャスパーを見送り、部屋にはリアス、アーシア、イッセー

そしてディオドラだけとなった。

魔法陣で通話を行っているディオドラを訝しんだリアスは、思わず問い詰める。

 

「ディオドラ、何をしているの?」

 

「ああ、僕の眷属達に話をしているんだ。

 この町にいる人たちを守ってくれ、ってね。

 僕だって本当は自分から打って出たい。けれどそれで僕に万が一のことがあったら困るだろう?

 我が身可愛さじゃない、その後の事を考えてね。

 僕に万が一があれば眷属が路頭に迷うし、アスタロト家の跡取り問題も発生してしまう。

 そう考えたら、心苦しいけれど我が身を護るのも貴族として大事な事なんだよ」

 

貴族としての矜持を出されては、リアスも否定はできない。

イッセーも何かを言いたそうにしているが、リアスに睨まれているためそれも出来ない。

ここでディオドラに何かあれば、ディオドラに世話になっている自分達も危ういのだ。

 

(ククク……精々足掻いてろ。お前みたいなのは何もできずに這いずり回ってればいいんだよ。

 さあ、今から楽しみだ。アーシアも、あのヴェールで顔を覆った修道女もね!)

 

人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる裏で、ディオドラはその下卑た欲望を渦巻かせていた。

その欲望を示すかのように、空には暗雲が立ち込めていた……




>白龍皇の能力
自身に対するバフではなく、相手に対するデバフだと
複数同時に掛けられるハーフディメンションが有効なんだけど
その前にオーフィスにヨミジ(ハーデス・ライン?)喰らってしまい
技の出を潰された形です。
他者を相手にするバフ(デバフ)は対象が複数だと
やり辛いよな……と考えこの結果に。
それとうっかりハーフディメンションの存在を忘れていたのが
アインスト軍団による集団リンチに繋がってます。
あとランページ・ネクロムのお披露目。

>日本刀で身体を貫通して抉り~
マブイエグリを字面で再現すると本当に残酷な描写だと思いました。
今回登場したオーフィスは以前紹介した通り
アインスト部分のうち、人格を司る「ウンエントリヒ・リヒカイト」です。
なので武装もそれに倣って鬼面だのヨミジだのマブイエグリだの。
ゴスロリ少女じゃないのはイッセーとの接点が皆無なため。
あと「見た目可愛いから助けたんだろ」的なツッコミの回避のため。
元ネタ考えたら少女化してても問題は無いんですがね。

……現実問題オーフィスのレジセイア(外殻)を
現戦力で叩けるかと言われると叩けないし
こっちが多分……

>ディオドラ
きたないなさすが貴族きたない
これでますます貴族の事が嫌いになったなあもりにも卑怯すぐるでしょう

けれど貴族として言ってる事は正論。
裏で敵と内通してるけど。


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Special6. 白龍皇との邂逅

ちょっとヴァーリが今までとは違う意味で情けない事になります。
だが私は謝らない。


駒王町の一角を支配している、指定暴力団組織曲津組(まがつぐみ)領にある、一軒の空き家。

元は誰かの所有物件だったらしく、鍵もあけたままになっている。

誰かが暮らしていたような痕跡があったが、そこの寝室にヴァーリは運び込まれていた。

 

アインストやインベスとの戦いを潜り抜け、傷だらけで倒れているところを

セージ達に発見された形だ。

腹部には包帯が巻かれ、簡単に止血処置が行われている。

アーシアがいないため、治療は黒歌の仙術によるもので簡易的に行われていた。

 

「……う……ぐっ……?」

 

「気が付いたかにゃん? ヴァーリ、あんた無茶しすぎにゃん。

 そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないにゃん」

 

ヴァーリが目を覚ますと、目の前には黒歌がいた。

彼女の仙術で一命をとりとめたヴァーリだが、そんなことは知る由もない。

黒歌自身は、おどけた様子でヴァーリの相手をしている。

 

「貴様は確か……はぐれ悪魔が何の用だ?」

 

「もう悪魔じゃないにゃん。そこのお兄さんに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を取ってもらったからにゃん」

 

黒歌の説明に、ヴァーリは目を丸くする。

彼もまた、悪魔の駒は一生ものの契約だと思っていたのだ。

ところが、目の前にその呪縛から解き放たれた存在がいる。しかも解き放ったのは……

 

「目が覚めたか。とりあえず黒歌さんには礼言っといたほうがいいと思うぞ」

 

「貴様! ここで会ったが……ぐっ」

 

「言わんこっちゃない。今のお前と戦うほど俺も酔狂じゃないぞ。

 俺達がお前を助けたのは、アインストの情報を知りたいからだ。

 禍の団(カオス・ブリゲート)にいた以上、知っているんだろう?」

 

「…………」

 

セージの質問に、ヴァーリは沈黙を返す。

ヴァーリにとってセージは不倶戴天の敵と言うわけでも無いが

協力する理由のある相手でもない。寧ろ戦うべき相手として見ている節があった。

そのためか、中々素直に情報を話そうとはしなかった。

 

そんなヴァーリに、黒歌がそっと手を添える。

すると、突如ヴァーリが痛みを訴えだした。

 

「ぐがっ……!? き、貴様なにを……!?」

 

「気の流れをちょっと変えてやったにゃん。

 あんた一人無茶するんならいいんだけどさ、今はそうも言ってられない状況なの。

 この辺に巣食っているバケモノ退治するのに、あんたの情報が必要なのよ。

 

 ……言わないなら、こうにゃん」

 

脂汗を浮かべるヴァーリに対し悪戯っぽい笑みを浮かべながら

黒歌がヴァーリから無理やりにでも情報を引き出そうとしていた。

その様子を見ていたアーリィも、何かを思い立ったのか挙手をして名乗り出ていた。

 

「あ、それなら私もお手伝いします。私も言う事を聞かない悪魔に対して

 言う事を聞かせるのはよくやってますから。

 ヴァーリさん、あなた……悪魔ですよね? 悪魔ですよね?」

 

そう問い質すアーリィの右手には、大きなカバンが握られていた。

 

――――

 

結局、その後ヴァーリから情報を得ることには成功した。

黒歌の仙術と、アーリィの退魔術が功を奏したのか、殊の外すんなりと聞き出すことが出来た。

 

ただし、その場に居合わせた者からは

 

「病人に対する態度じゃない」

 

とまで言われており、黒歌は白音が、アーリィもナイトファウルが飛び出した時点で

セージと木場がストップをかけることとなり事なきを得た。

 

「……クッ、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)。事が済んだら俺と戦ってもらうからな」

 

「何がお前をそこまで駆り立てるんだか……」

 

ただし、ヴァーリの要求である「紫紅帝龍――セージと戦う」だけは

二人をもってしても曲げることが出来なかった。

この状況にセージは辟易としているが、それでもアインストの情報ないし

禍の団の情報は貴重なものなのであった。

 

「まあいい。俺も禍の団には愛想が尽きていたところだ。

 俺の望むことと、奴らのやり方は全く筋が違っているからな。

 

 ただ、フューラー・アドルフ。奴の事は俺もよく知らんぞ」

 

しかし、ヴァーリもオーフィスの事はともかく

インベスやフューラー・アドルフの事までは詳しく知らなかった。

かの孟徳の子孫であると自称する曹操が率いる英雄派に所属しているという表向きだが

実際には独自の軍を持ち、オーフィスとも歩調が取れていないようである。

フューラー・アドルフがどこから来て、何者なのかは

ヴァーリにも分からない事であった。

同様に、インベスに関してもはぐれ悪魔の亜種程度の認識しかもっていなかった。

 

逆に、オーフィスに関しては流暢に語り始める。

次元の狭間に巣食うグレートレッドと言う龍神を追い払うために

禍の団を結成、様々な組織や人外に声掛けを行った……のだが。

ある時を境に、オーフィスの様子が少しずつ変調していったという。

 

それこそがオーフィスの求める「静寂なる世界」と言う単語に同調して現れた存在。

アインスト。クロスゲートから次元の狭間に現れたそれは、オーフィスと瞬く間に意気投合。

現在オーフィスは、この世界を静寂なる世界――アインスト空間に変えようとしているのだ。

 

勿論、そんなことを知っているのはごく一部のみ。

ヴァーリもそれを知ったのは禍の団に入った後の事である。

旧魔王派も、英雄派も知ってはいるものの

 

――オーフィスと言う「力」さえあれば後はどうなってもいい。まして人間の世界など。

 

など

 

――相手が強大であればあるほど、それを退けた「英雄」としての箔が付く。

 

などと言った理由で大して取り上げられもせず。

セラフォルーへの反感――魔女への風評被害――から協力していた「魔女の夜(ヘクセン・ナハト)」は

幹部のヴァルブルガが早々にアインストに鞍替えしてしまい

部下であるはぐれ魔法使いまでもその尖兵にしている始末である。

 

そして、そうなるようにオーフィスを仕向けた者こそアインストの長、レジセイア。

彼の影響を強く受けたオーフィスは、もはや静寂を求める無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)ではない。

静寂なる世界と称し、世界に破壊をもたらさんとする害悪そのものであった。

龍神としての力で辛うじて残った人格も、静寂なる世界への渇望から

アインストと大差ない存在となっており、結果としてウンエントリヒ・リヒカイトと言う存在を

生み出してしまった。

 

「……つまり、今の禍の団はアインストが運営している組織と言っても過言じゃない。

 俺が考えていたものとも、アザゼルが考えているものともまるで違う。

 

 ……フッ、これでは俺もアザゼルの事を笑えんな。

 俺が知っているのは、これだけだ」

 

「じゃあ一つ聞きたい。ディオドラ・アスタロトは禍の団に所属しているのかい?」

 

木場の質問に、ヴァーリは首肯する。

それを見て、木場は自分の憶測が間違っていなかったことを確信するとともに

一刻も早くリアスらをディオドラから引きはがさなければならないと考えた。

このままディオドラと行動を共にしていても、百害あって一利なしと判断したのだ。

 

「やはりか……こうなったら、ディオドラから部長や皆を引きはがさないと話にならない。

 このままじゃ、いいように使われて最悪禍の団にいつの間にか組み込まれてしまいかねない」

 

「なんて手間のかかる奴だにゃん、放っておきたいところだけど……

 そうもいかない。って顔してるわね、白音」

 

「……ええ。でも、これで部長の眷属としての仕事は最後にしたいと思います。

 滅びの力も、赤龍帝も禍の団に渡ったら面倒なことになりそうですし」

 

「私もそのディオドラと言う悪魔には気を付けたほうがいいと思うんです。

 ちょっと、いやな予感がするもので」

 

アーリィもシスターの勘という体であるものの、ディオドラからリアスらを引きはがすという

提案には乗り気である。

しかしその実態は――

 

(ディオドラ・アスタロト……そう言えば、シスター失踪事件の際には

 必ずと言っていいほどその悪魔が関わっているという情報がありましたね。

 もし、こちらの世界でも同じことをしているとするならば……

 

 ……アーシアが危ない!)

 

――と言う、向こう側の情報に基づくものであり、アーシアを心配するが故の

行動でもあるのだが、利害は一致している。

 

一方、一部始終を黙って聞いていたセージが、話が終わるのを見計らい口を開く。

その表情は、決して笑っていない真剣そのものであった。

 

「祐斗の意見には一応賛成だが……ヴァーリ。お前に一つ聞きたいことがある」

 

「なんだ、紫紅帝龍」

 

「お前も、この世界がどうなってもいいって思っている口か?」

 

セージの質問に、ヴァーリは肯定も否定もしなかった。

ヴァーリの戦う目的はただ強い相手との戦闘欲求のみなので

世界の行く末など些細な事であった。それは五大勢力会談においても証明されている。

 

だが、それはアインストの存在が公表される前の事。

アインストの存在が知れ渡るばかりか、三大勢力の存在どころか

神の不在さえも公にされた今もなお、ヴァーリは同じ感覚でいるのだろうか。

 

「俺は自分の身体を取り戻すために戦っている。だがそれとこの世界を天秤にかけた時

 俺はこの世界を取ると思う。お前にそうしろって言ってるわけじゃない。

 だが……世界の、そこに住む人々の自由と平和も守らなきゃならないって気はしている。

 それは俺が悪魔になった時に何となくだけど思ったことだ。

 

 こう見えて俺は強欲な方でな。世界の平穏も、俺の身体も。

 両方をものにしなければ気が済まない性質なんだ」

 

「……俺にどうしろと言いたいのだ」

 

「そうだな、はっきり言おうか。

 

 ……喧嘩売る相手を間違えるな。どう考えても今喧嘩売るべき相手は

 アインストやインベス、禍の団にフューラー・アドルフだろう。

 それをお前は赤だの白だのマゼンタだの小さい事に拘りおったからに」

 

『な……赤と白の戦いが小さい事だと!?

 白龍皇と赤龍帝の戦いはいわば宿命、必然!

 それを小さい事などと……』

 

セージの発言に声を荒げたのは、白龍皇アルビオン。

白龍皇として、赤龍帝との戦いは宿命づけられたものであり

それこそが彼の存在意義なのである。それを小さい事と言われては

彼の存在意義そのものを否定されることにつながる。

それ故、アルビオンは声を荒げた。だが。

 

『だからお前はロートルなんだよ。宿命だなんだって言ったって

 それしかやることが無いからだろう。

 やる事なんざちょっと目線を変えれば無限にあるってのに。

 お前の下らない宿命、必然とやらに若者二人を巻き込んで楽しいか?』

 

『……それは我らを神器に封印したヤハウェに言え。

 それにだな。神はおろか貴様ら人間ごときがドラゴンたる我らの戦いに口を挟むな。

 紫紅帝龍、貴様もドラゴンなら俺の言いたいことがわかるだろう』

 

『はっ、その上責任転嫁か。随分小さな話だな。

 もうこの世界にヤハウェはいないんだろ。いない奴に文句を言ったって仕方ないだろ。

 ……だから、お前らが行動で示せって話なんだよ。

 

 そもそも、俺はこんな形だがドラゴンじゃない。だったらドラゴンってなんだ?

 そんなに偉い代物だったら、猶更行動で示せ。

 今の俺には、お前はえらそうにふんぞり返っている

 メキシコサラマンダー(アホロートル)にしか見えないぞ』

 

セージに同調する形で、紫紅帝龍フリッケンが語り始める。

アルビオンを煽るような形ではあるものの

彼なりに、アルビオンに対し現状を変えろと促している物言いであった。

 

さらに追い打ちをかけるように、両者の脇から声が発せられる。

二人がその方角を見ると、アーリィが挙手をして二人を見据えていた。

 

「あの……私は赤龍帝にも出会ったことがあります。

 もっとも、ひどく欲望……それも色欲に忠実な方でありましたが。

 そういう意味では、欲望の方向性が違うだけで同じであると思います。

 今のお言葉を、そっくりそのまま赤龍帝にもお伝えしたほうがいいかもしれません。

 私から見てもヴァーリさん、あなた方の物言いには酷く違和感を覚えます。

 ドラゴンの世界ならいざ知らず、人間の世界でドラゴンの戦いを繰り広げると言う事に

 あなたは疑問を抱かないのですか?」

 

何気なく発したアーリィの問題発言。

ヴァーリとイッセーの共通項だけでなく

リアスのみならず、イッセーとも面識があるという発言。

 

「無い。と言いたいところだが……わからん、と言うのが正直だな。

 俺は強者との戦いを求めて禍の団に入ったが、奴らのやっていることは見ての通りだ。

 これに付き合わされているうちに、俺もいい加減嫌気がさしてきてな。

 だから、俺はオーフィスに戦いを挑んだんだが……」

 

「やる事が極端すぎるにゃん!」

 

黒歌の至極当然なツッコミを受けつつ、ヴァーリは自論を展開する。

アルビオンはともかく、ヴァーリは禍の団に入ったことで

彼らを反面教師とし、考え方が変わっている風に僅かながらにも見て取れた。

 

(まただ……この人は一体何者なんだ?

 グレモリー部長に面識があると言う事は、兵藤の奴とも面識があってもおかしくはないが。

 一体どこで見知ったというんだ? この人が冥界にいるわけがないし……)

 

その一方、アーリィの発言に対し疑問を抱いているものがいた。セージだ。

アーリィがクロスゲートからやって来たという情報が抜け落ちてしまっているため

セージにはどうしてもアーリィの発言に疑問点が生じてしまう。

そんなセージの思惑が表情に出ていたのか、とうとうアーリィからその事に関して

説明が行われることとなった。

 

「あ、そう言えば言いそびれていたんですけど……

 

 私、この世界の人間じゃないんです。クロスゲート? からやって来たみたいで……

 だから、帰るためにもクロスゲート、から出てきている……

 アインスト、でしたっけ。それを退治しないといけないんです。

 勿論、この世界のアーシアも気がかりですけど。

 何だか、今の話を聞いていたら言っておかなきゃいけないような気がしたもので。

 

 それに、今私がディオドラと言う悪魔に注意しなきゃいけない、って言ったのも

 向こう側でそういう話を聞いたからなんですよ。

 彼、シスター失踪事件と関わりのある悪魔らしいんですよ」

 

その突拍子もない爆弾発言に、セージ達はおろかヴァーリも目を丸くしていた。

一方、アルビオンとフリッケンは大して驚いていないようだ。

そもそも、フリッケンは別の世界からやって来ているし

セージも別の世界の存在は認識しているはずなのだが。

 

『何を驚く必要があるんだ、セージ。そもそも俺が違う世界からやって来たって言ったし

 お前だって違う世界の存在は認識してるだろうが』

 

『オーフィスがいたという次元の狭間は、あらゆる別次元と繋がっているとも言われている。

 クロスゲートとやらがその一種と考えれば

 あの女の言っていることはあながち間違いでもないだろう』

 

「それはそうだが……クロスゲートから人が来るなんて事例が……

 アインストならともかく」

 

「これは……薮田(やぶた)先生辺りに聞いておいた方が良かったかもしれないね。

 けれど、違う世界で部長や僕たちに会っていたなら今までの発言や

 アーシアさんに対する態度も納得がいくよ。

 荒唐無稽って点は、否定しきれないけど」

 

アーリィのいた世界の木場はどうだかはアーリィ以外にはわからないが

この世界の木場は冷静にアーリィの情報をまとめ上げていた。

セージもまた、フリッケンに突っ込まれて考えを改めている。

しかし一方で、アーリィの付け加えたディオドラの関わっているという

シスター失踪事件について、セージはある仮説を立てていた。

 

(シスター失踪……アインストにぶら下がっていた砕けたロザリオ……

 ディオドラの眷属……ま、まさか……!

 この仮説が本当なら、悪魔の駒を与えた後にさらにミルトカイル石を与えたって事か!

 なんて……なんてことをしやがるんだ!!)

 

それは、ディオドラはシスターを攫い、悪魔にして囲った後に

ミルトカイル石でアインストへと変貌させたのではないか、と言う仮説。

まだ仮説の域を出ないが、自然とセージの右手には力が込められていた。

 

「うーん。私は難しい事は投げるタイプだけど

 今やらなきゃいけないのはアインストを倒すことと、この町の解放と

 お兄さんの身体を取り戻すことと、他にも……って多すぎにゃん!」

 

「……だから、順序を決める必要がありそうです」

 

一方で黒歌の言う通り、今セージ達がやるべきことは非常に多い。

アインスト、インベスと言った怪物や禍の団から駒王町を解放し

平和を取り戻す事。セージの肉体の奪還。

そしてアーリィの帰還に、リアス眷属における問題の解決と

先行き不透明なものばかりだ。だからこそ、白音が言う通りに順番が大事だ。

 

「あ、けどお兄さん。これだけは言っておくにゃん。

 ……自分の身体は後回しでいい、なんて悠長な事言ってられないはずにゃん。

 だったら、何が何でもそこは優先してほしいにゃん」

 

「……そこは姉様に同意見です、セージ先輩。

 私達でフォローしますし、セージ先輩はまず自分の身体を取り戻すことを考えてください」

 

「アーリィさんも、クロスゲートから来たって事を考えればクロスゲートから帰ることが出来る。

 そう考えるのが自然だよね。だったら、答えは一つだ」

 

「すみません……でもなんだか不思議なものですね。

 実は、私の世界ではあなた方……木場さんと塔城……ああ、白音さんでしたっけ。

 あなた方とは刃を交えたことがあるんですよ。それなのに、こっちでは協力していただける。

 嬉しいというか、なんと言うか不思議なものです」

 

アーリィの不思議な縁に、一同は改めて世界が違う事を認識させられる。

リアス・グレモリーの尖兵として刃を交えた木場と小猫が、こちらの世界では

リアスから半ば独立した形でアーリィに協力しようとしているのだから。

 

そして、一連の流れを聞いていたヴァーリがその二人に質問を投げかける。

 

「うん……? お前達、リアス・グレモリーはいいのか?

 眷属が主から離れては、はぐれ悪魔にされてしまうはずだが?」

 

「……私は、姉様と一緒に歩むことを決めましたから」

 

「僕は部長を説得してみるさ。聞く耳を持ってくれるかは、何とも言えないけどね」

 

ヴァーリの問いかけに対しても、二人の意思は固い。

既に、リアス・グレモリー以外の心の拠り所を、信念を見つけたがために

リアス・グレモリーは最早絶対の存在ではなくなっているのだ。

 

「はぐれ悪魔……私の世界では、人に害を成す無法者の集まり……って印象でしたが

 こちら側では違うのですか?」

 

「ああ、それについては……」

 

アーリィの疑問に対して、セージがかつて遭遇したはぐれ悪魔などを引き合いに出し

説明をしている。悪魔の駒と言う外部要因があって初めて起こり得る現象であると

睨んだセージは、それによってかつて黒歌を呪縛から解き放った。

そして今、神仏同盟らの手によって悪魔の駒の摘出手術と言う

はぐれ悪魔を生み出す土壌を根本から覆す様な技術が発見されそうな状態にいるのだ。

 

「そ、それは素晴らしい発見です! それがあれば歪んだ忠誠も

 コレクション感覚で強引に悪魔にされてしまった方々も元に戻せるという事ですよね!?」

 

「ぐ……っ、アーリィさん……前にも言ったかもですが……く、くる……」

 

屋内と言う事もあり実体化していたセージに、つい感情を爆発させて掴みかかってしまうアーリィ。

彼女もまた、悪魔によって家族を奪われた経緯があるため

その悪魔を象徴するかのような悪魔の駒を摘出できるという情報は吉報であることこの上なかったのだ。

 

「あっ、すみません! つい……」

 

「……本当に悪魔の駒って最低にゃん」

 

アーリィの過去を察した黒歌が、一言毒づく。

彼女自身、悪魔の甘言に乗ってしまった経緯があるためその言葉の重みはまるで異なる。

 

そうこうしているうちに、ヴァーリの傷の痛みも治まるが

それと同時に外の戦闘音が再び激しさを増す。

外を見ると、イリナがイッセーを探していた。

 

(あいつは……! クッ、フリードがいる時点でこの可能性を考慮するべきだった!)

 

「あれは……イリナ! イリナなら私達に対して悪いようにはしないはずですけど……

 ま、まさか……」

 

アーリィは教会の出身と言う事もあり、向こう側でもイリナと知己であったが

こちら側のイリナは神の不在のショックから禍の団に所属している。

その差を思い出し、アーリィはかけようとした声を飲み込む。

 

「ああ。イリナも禍の団に所属している。フリードや俺と行動を共にしていたが……

 やたら赤龍帝にご執心のようだ。俺が言えたことじゃないがな」

 

「ああ……あの子はちょっと思い込みが激しい所があるから

 危なっかしい部分があるとは思ってましたが

 こっちではまさかこんな事になっているなんて……!」

 

ヴァーリの発言に、アーリィは頭を痛める。

木場や白音とは逆に、害のない自分の知己が周囲の迷惑を顧みない行動を取っているのだ。

頭が痛くならないわけがない。

 

「では、あの子にちょっとお話を……」

 

「いや、それはちょっと待った。エクスカリバーの一本をまだ持っているはずだし

 そもそも、龍殺しの聖魔剣(アスカロン)を持っているんだ。しかも、それでミカエルを刺したらしい。

 今近づくのは、肉食動物の檻に自分から飛び込むようなものだ。

 アーリィさん。確認しますが、こっちのゼノヴィアさんはあなたの事を知ってたんですか?」

 

「いえ、全く知らないみたいでした」

 

「だったら尚更まずい。多分イリナもあなたの事を知らない。

 そんな状況で飛び出しても、敵が出て来たと見做されかねません……」

 

セージの制止に、またアーリィは頭を痛める。

何せ、自分たちにとっては信仰すべき対象である天使、それも熾天使に刃を向けたのだから。

おまけに、ゼノヴィア同様イリナもアーリィの事を知らない可能性があるのだ。

そうなっては、説得どころではない。

 

「……セージ君。今ちょっとずるい事を思いついたんだけど……乗るかい?」

 

「なんだ、祐斗」

 

「僕らは部長の所に向かっている。そこにはイッセー君もいるはずさ。

 そして、そこにイリナを連れて行く。多分ディオドラもそこにいるはずだけど……」

 

「それじゃ、敵が増えちゃうにゃん」

 

木場のとんでもない提案に、黒歌が怪訝な表情を浮かべる。

ディオドラとイリナの二人を相手にするには、少々戦力が心許ない。

そもそもディオドラの戦力は未知数だ。

 

「そうじゃない。イリナは禍の団にいるんだろ? そこにディオドラを鉢合わせれば

 何か動きがあるはずさ。後は部長らともうまく協力して

 一網打尽に出来るのが理想だけど……」

 

「そのためには、俺も動いた方が良さそうと言うわけか。

 ……いいだろう。ただしこれで貸し借りは無しだ。紫紅帝龍。

 この件が片付いたら赤龍帝かお前のどちらかとは決着をつけるからな」

 

しかし、この作戦の肝はディオドラの尻尾を掴むことだ。

木場の意図を察したヴァーリは、渋々ではあるもののセージ達に同行することを宣言。

ただし、傷の手当は不完全なものであるため戦力とはならないが。

 

ディオドラの不正を暴くために、一同はイリナの下へと飛び出したのだった。




とりあえず現時点ではスポット参戦的扱いですね>ヴァーリ

今回はご覧の通りに説明回。
でもヴァーリの言った事って結局攻略法とかは喋ってないので
セージがその気になれば調べられる事だったり……

そこ、微妙に役立たずとか言わないであげてください。

アーリィさんの身の上バラシも唐突感は否めませんが
これ引っ張ってもしょうがないと思いまして。
木場の言う通り薮田先生がいた前回でばらすべきだったかも。

一方でオーフィスを変貌させたアインストについてはまだ引っ張ったり。
これもバラそうかと思いましたが、そこまでヴァーリが知っているのも
違和感があったので先送り。

結局禍の団って、クリフォト以外(下手すりゃこいつらも)
オーフィスが別の同質の存在になってもお構いなしじゃなかろうかと思い
アインストになってようが原作同様って事で。

貰ってるものは蛇より性質悪いですし、英雄派もフューラー一派除けば
アインストの影響を受けそうな連中がいそうな気がしてならんです。
扱いに困ったのは魔女の夜。幹部はアインストの力に屈して寝返ったとか
理由はいくらでも作れそうだけど、末端は……

ここでも名もなき一般兵ポジの方々が犠牲になったよ!

イリナ。
こいつもフリード同様色々な意味でぶれない。
木場はヴァーリとイリナをディオドラの下に連れていくことで
動きがあると睨んでますが……

って木場が結構騎士から外れた思考をし出した件について。
セージの悪影響(?)がこんなところにも。

そして芽生えた二天龍ウーパールーパー説。
アルビオンは白いから余計にウーパールーパーっぽいような、そうでないような。


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Special7. 暴かれた悪魔の秘密

今後の予定について活動報告に載せてあります。
実際筆のノリがいまいちよくない状態が続いていますので
クオリティやモチベーションが下がり気味、ちょっと様子を見つつ投稿してますが……

あと、某所でも執筆活動を行います故に。
(こちら外部公開はしておりません、悪しからず)


「イッセーくぅん……? 何処にいるのかしらぁ……?」

 

光の宿っていない目で、紫藤イリナは兵藤一誠を探し続けている。

こんなところに黒いボディスーツ姿の女子高生がいると言う事自体が異常だが

それ以上に刀剣を隠しもせずに持っていることから不審に思った警官隊が

職務質問を試みたところ、返り討ちに遭ってしまっている。

それに危機感を覚えた警官隊が、自衛隊員を呼ぶも

こちらも「擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)」の効果で返り討ちにされてしまっている。

 

心ここにあらずと言った様子で剣を振り回すイリナの姿は明らかに異常であった。

 

「何で、みぃーんな邪魔するのかしら?

 そんな事するからこうなるって、わからないのかしら?

 

 ……ああ、この人たちも壊れてるんだ。じゃあ、私が直さないといけないわね」

 

無機的に剣を振りかざすイリナ。その件の切っ先は地に伏した自衛隊員や

警官隊に向けられていた。無慈悲に輝く切っ先が赤く染まる前に

木場の叫び声がかけられた。

 

「待ってくれ! イッセー君の居場所は話す。

 だからその人達にこれ以上危害を加えるのはやめてくれ!」

 

「あら……? あなたは確か……

 ふぅーん。どういう風の吹きまわしかしら? それにヴァーリまで一緒にいるなんて。

 とち狂って禍の団(カオス・ブリゲート)に入りにでも来たっていうの!?」

 

木場とヴァーリの存在を確認すると、突如として激昂しだすイリナ。

完全に情緒不安定のそれである。

前情報を得ていたとはいえ、これには「向こう側」でイリナの知己であった

アーリィも、頭を抱えてしまっていた。

 

(は、話に聞いた以上ですね……けれど神の不在と言うだけで

 ここまでイリナが変貌するとは思えません。

 きっと何か、他の原因があるのでしょう。それを掴むまでは

 私は大人しくしておくべきですね……)

 

アーリィがイリナと知己であったとはいえ

向こう側でのイリナのイッセーに対する想いまで

知りえていたかと言うと、答えは否である。

男女の仲に関して知らぬアーリィではないが、それ以前の問題として

イリナとイッセーの関係を知りえなかったのだ。

両者ともに面識はあるが、二人が幼馴染でありイリナはイッセーに傾倒している

面があるところまでは、アーリィも知らなかったのだ。

 

ただ、イリナの思い込みの激しさだけは知っていたが。

それにしても、まさかこれほどまでとは――と言うのが、現在のアーリィの考えだ。

 

一方で、イリナと悪い意味で面識のあるセージも霊体化し

イリナの目線に入らないようにしている。

今回の作戦はディオドラとイリナを鉢合わせさせ

ディオドラの尻尾を掴む作戦だ。互いに禍の団に入っているのは間違いない。

 

しかし、この作戦は無茶が過ぎた。そもそもディオドラの尻尾を掴むだけなら

禍の団に所属しながらも愛想の尽きていたヴァーリだけを連れて行けばいいだけの話だ。

それに、イリナのこの精神状態ではディオドラと出くわしたところで

会話が成立するとは限らない。ただ、イリナをやり過ごすには

イッセーをダシにするのが一番消耗が少ないと木場は判断したのである。

 

(イッセー君には悪いけど、彼女の気持ちを汲めない君にも責任はあるからね。

 ……まぁ、イッセー君も悪魔になったのは不可抗力だけど)

 

「……こいつらは俺が拿捕した。

 話によると、今こいつらの主はディオドラと一緒にいるらしい。

 ……ディオドラに引き渡しに行くぞ」

 

「悪魔の言う事なんか信じられないけど……イッセー君もそこにいるのかしら?

 それなら私も付いていくけど」

 

イリナの問いかけに、木場は黙って頷く。

黒歌と白音の姉妹は、猫に化けて距離を取っている。

そうなると……ごまかしが効かないのがアーリィだ。

 

「……で、そこのシスターは?」

 

「ディオドラのご所望だそうだ……行くぞ。時間が惜しい」

 

ディオドラがシスターを狙っている、と言うのはセージの入れ知恵だ。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)や、今までの経験から立てた推測に過ぎないが。

それを語るには、時間を少し遡る必要がある。

 

――――

 

話は一同がイリナの前に飛び出す少し前の事。

わざとヴァーリに捕まったふりをして、イリナやヴァーリ共々リアスの――

ディオドラの下へと戻ろうとした木場だったが

それをやるには人数が多すぎたのだ。

 

霊体になれば大体の相手からは視認されなくなるセージ。

猫に化ければごまかしが効く黒歌と白音の姉妹。

この三人はいいとしても、木場とアーリィだけはどうにもならなかったのだ。

特にアーリィは、何故ここにいるんだというレベルで不審者である。

 

「道に迷って……ってのは、ダメですかね?」

 

「説得力が無さすぎます。たとえ事実だとしても」

 

セージから即答でダメだしを喰らってしまう始末だ。

とは言え、アーリィも嘘はついてない。事実が理屈に追い付いていないのだ。

 

「それはそうと……アーリィさん。

 あなたの世界で、ディオドラ・アスタロトと言う悪魔はいましたか?」

 

「え? 話には聞いたことがありますが……。

 

 ただ、いい話じゃありませんよ? シスター失踪事件と言うのが私の世界ではありまして……

 皆敬虔な信徒だったんですが、ある時を境に突如として姿をくらましてしまうんです。

 教会は人攫いの仕業と見ていますが、私の掴んだ情報では傷ついた悪魔が

 その失踪したシスターと接触しているという話があるんです」

 

「それが、ディオドラ・アスタロト……と言うわけですか」

 

セージの質問に対し、アーリィは淡々と答えるが

その内側には怒りが渦巻いているようにも見て取れる。

それは悪魔の誘惑に屈した同胞に対するものでは無く、その悪魔に対するものであることは

否定のしようがないが。

 

「……どう考えても、それ無茶苦茶怪しいにゃん」

 

「その通り、無茶苦茶怪しいです。そのシスター失踪事件。

 今から調べようと思ったんですが、もしかしてと思い確認を取りました。

 で、これがこっちの世界でも同じような経緯で起きているとなれば……」

 

その内容に黒歌がツッコミを入れているが、それにはセージだけでなく

アーリィも同意見であるらしく、黒歌の一言に大きくうなずいていた。

 

「結局、失踪したシスターは見つからずじまいでした。

 そればかりか、その傷ついた悪魔に関わった――つまり失踪したシスターを

 異端呼ばわりする始末でして。そう言えば、あの子も……

 

 ……って、こっちでも似た様な事件が起きているのですか?」

 

アーリィの言葉にセージ、木場、白音は一人のシスターが頭をよぎった。

アーシア・アルジェント。彼女もまた、悪魔を癒したばかりに異端呼ばわりされ

追放されるという憂き目にあっていたのだ。

 

「……ええ。アーシアさんは悪魔を癒したことで教会を破門され、

 ここに左遷され、ある堕天使の毒牙にかかり死亡。

 そこを悪魔にさせられた経緯があります……もしや同じことが?」

 

「……ええ。ゼノヴィアさんからも聞きましたけど。

 あの子は優しすぎますからね……もう少し、私としては強くあってもいいと

 思うのですけど……そもそもあの子は……」

 

BOOT!!

COMMON-LIBRARY!!

 

「あ、すみません。検索するんで話は後回しでいいですか?

 ――『記録再生大図鑑』起動、検索開始。

 キーワードは……シスター失踪事件……悪魔……

 そして……

 

 ……ディオドラ・アスタロト……

 

 

 ……ふむ、ふむふむ……やはり。ビンゴだ。

 祐斗。ディオドラは黒、真っ黒だ。

 シスター失踪事件、そのすべては奴が仕込んだことだ。

 つまり、アーシアさんが悪魔になるに至った遠因もコイツにあるといっていい。

 全部、ディオドラ・アスタロトの仕業だ」

 

「なんだって!? それは本当かい!?」

 

セージが検索をかけた情報に、木場をはじめとする一同が驚く。

疑惑通り、ディオドラはシスター失踪事件の主犯であったのだ。

情報収集を終えたセージが、重い口を開く。

 

「以前、ディオドラの眷属と戦ったって話はしたよな?

 その時、俺は悪魔の癖になんで砕けたとはいえ

 ロザリオをぶら下げているのか不思議に思ってな。

 人間だったころの遺品だと思えば、納得がいく」

 

「……っ!!」

 

アーリィがヴェールの奥で歯ぎしりをしている。

彼女の妹は、無理矢理悪魔の眷属にされた経歴を持っているのだ。

その妹と、ディオドラによって眷属にされたであろうシスターが重なって見えたのだろう。

 

「……本当に最低の話にゃん」

 

「ちょっと待ったセージ君。その眷属はアインストだったって言わなかったかい?

 ……ま、まさか……!!」

 

木場が何かを察したかのように口を開く。

それを察してセージも苦い顔をしながら語り始める。

 

「……そのまさかだ、祐斗。彼女たちは人間から悪魔にされ

 そこからさらに、アインストに変貌させられた可能性が高い。

 ……どこまでも、人の一生を歪めるのが好きな奴だ」

 

「……お話しいただいてありがとうございます、セージさん。

 私、どうやらやる事が出来たようです。そして、薮田さんが

 私にこれを下さったこと、今こそ感謝できそうです」

 

アーリィが鞄にしまわれたナイトファウルを指し示し

感謝の言葉を口にする。傍から見ていると、ちょっと危険ともいえるが

その眼はディオドラを祓うという意志に満ちていた。

 

「あ、いや……これは俺らの世界の問題であるからして……」

 

「世界が変わっても、私はそういう悪魔が許せないんです。

 私は、家族を悪魔に奪われました。父も、母も、妹も。

 

 あの日以来、私は人に仇成す悪魔を祓おうって決めたんです」

 

「……私もある意味、似た様なものね。

 白音を悪魔にしたくない一心ではぐれ悪魔になったのに

 その白音は別の悪魔によって悪魔にさせられた。

 

 ……白音。これだけははっきり言っておくわ。

 私はリアス・グレモリーを許さない。何があってもよ。

 今まで白音を守っていたといえば、聞こえはいいかもしれないけれど」

 

「姉様……私は……」

 

アーリィの発言に、黒歌が同調する。

互いに、悪魔に家族を奪われた者同士である。

二人の間に、不思議な縁が芽生えていたのは確かであった。

 

「何も言わなくていいわ、白音。

 あなたはまだリアス・グレモリーの眷属。

 下手なことをすれば、私みたいになる。

 悪魔の駒の切除手術の技術が確立するまで位、私は待てるわよ」

 

「切除手術……その技術があったなら、妹も救い出せたかもしれませんが……

 いえ、もうあの子は帰ってこないんです。これから救える命が、運命があるなら

 私はそれを救いましょう。それがきっと主の意思です」

 

だからこれ――ナイトファウルを私に託したのかもしれませんね、と

アーリィは納得している。アーリィもこれを渡した薮田直人(やぶたなおと)

まさか聖書の神の影であるとは思ってもいないのだが。

その一方で、さっきからずっと話を聞いていたヴァーリもしびれを切らしたのか

セージに話の続きを催促しだしていた。

 

「……紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)。話の続きを頼む」

 

「あ、ああ。だから、ディオドラは……凄く個人的な理由で

 シスターを攫っては自分の眷属にしている。

 そして、ここ――奴らの支配下に俺たちがいると言う事は……アーリィさん。

 あなたの存在も恐らく筒抜けでしょう。

 そこで……」

 

「私が囮になればいいんですね? 大丈夫です、荒事の心得はありますから」

 

「フォローはなるべくします。

 

 ……じゃあ作戦だ。俺は霊体化、黒歌さんと白音さんは猫に化ける。

 そうすれば後は祐斗とアーリィさんの二人だけだ。

 ヴァーリ、お前は祐斗を捕まえた体にして、アーリィさんは

 ディオドラへの……献上品と言うか……あ、勿論フリですけど」

 

「わかったよ」

 

「……了解です」

 

「わかったにゃん」

 

木場、黒歌、白音が肯定し

 

「わかりました」

 

「……いいだろう」

 

続く形で、アーリィとヴァーリもセージの作戦に乗る形となった。

木場が立て、セージが形にしたディオドラの尻尾を掴む作戦。

後は、イリナをやり過ごすだけだ。

 

ところが、これ以上籠っていては警官隊に被害が出てしまう。

それは避けたいと考え、セージは作戦の決行を早めることとした。

 

 

こうして、木場の案内のもとイリナを含めた一同はリアスの――ディオドラの下へと

辿り着いたのだった。

 

――――

 

「祐斗、よく戻って……あ、あなた達は!?」

 

「……部長、すみません。不覚を取りました」

 

拠点で木場を出迎えたリアスだったが、その他にいた客人に驚きを隠せない。

何せ禍の団にいるイリナやヴァーリが揃ってついてきたのだ。

これには、一瞬だがディオドラも表情を変える。

 

「おい、どういうつもりだよ木場……ぐっ!?」

 

「あははははっ、やっと見つけたわよイッセー君!

 さあ、大人しくしててね。すぐに私がもとのイッセー君に戻してあげるから……」

 

龍殺しの聖魔剣を片手ににじり寄って来るイリナに、イッセーの表情が恐怖に染まる。

レイナーレの一件以来、イッセーはスケベではあるものの

心のどこかに女性に対する恐怖心が芽生えてしまっていたのだ。

まして、イリナの表情は歪なものである。恐怖心が無かろうと

見るものに恐怖を与えるには十分なものであった。

 

「く、来るな! 来るなよイリナ!」

 

「えー、どうして逃げるのよイッセー君?

 イッセー君は壊れてるんだよ? だから私が直してあげるんだから……

 そこ、動いちゃダメだからね?」

 

イリナに追われ逃げ惑うイッセーを尻目に、リアスが木場に問い質す。

まさか、立て続けに眷属に裏切られるなどとはリアス自身信じたくはない事だからだ。

 

「イッセー! 祐斗、どうして禍の団の一員をここに!?」

 

「イリナはともかく、ヴァーリはもう禍の団に愛想が尽きたそうです。

 それより、部長の方こそなんでその悪魔と一緒にいるんですか?

 ヴァーリが言ってましたよ。彼――ディオドラは禍の団の構成員だって」

 

「ああ。遠目だがお前の顔は見覚えがある。

 ディオドラ・アスタロト。禍の団、旧魔王派の一員だな?」

 

ヴァーリが右拳をディオドラに突き付け、ディオドラに問い質す。

しかし、白龍皇を前にしてもディオドラは動じない。

 

「……ふーん。僕が禍の団に所属しているという証拠はあるのか?

 証拠も無しにいい加減なことを言わないでほしいな」

 

「随分と抜けた言い逃れだな、ディオドラ。

 その腕輪、オーフィスからもらった奴だろう。それが何よりの証拠だ」

 

カテレアも付けていた、ミルトカイル石の腕輪。

ヴァーリもその存在は知っていた。それを積極的に受け取ったのは

力だけを追い求めた旧魔王派ぐらいなものであるが。

 

「ディオドラ……あなた、どういうつもりなの!?」

 

ヴァーリの証言に、事ここに至ってようやくリアスが気付く。

遅すぎるともいえるが、リアスはディオドラの腕輪が

カテレアの付けていたものと同じと言う事は知っていても

それがオーフィスからもらった事までは考えが及ばなかったのだ。

 

「……チッ。全く、お前は赤龍帝と潰し合っていればよかったものを。

 ああそうさ。僕は禍の団に籍を置いている。

 

 だけどそれがどうした? 強い者が全てを支配するのは当たり前じゃないか。

 そして僕は支配するべき立場のものだ。

 力のあるものに与して何がおかしいというんだ?」

 

「だからって、テロリストに協力していいはずがないわ!

 ディオドラ、あなたのやっていることは冥界の面汚しよ!」

 

リアスがディオドラの意見に対して食って掛かる。

リアスの正義と、ディオドラの正義は全く交わる事は無い。

それどころか、ディオドラは口では自身は強い者だといっているにも拘らず

その行動はまるで弱者のものである。

 

「……語るに落ちたな、ディオドラ・アスタロト。

 強い者に取り入るその行動は、まるで弱者のそれだぞ」

 

「うるさい、だまれ、黙れよ!

 僕は、僕は欲しいものはみんな手に入れてきたんだ!

 敬虔なシスターを欲望に塗り固めるのも、誰にも負けない強い力も、みんな!!

 

 ……そうさ、だから僕は手に入れるんだ。アーシアも……

 オーフィスの力もなぁ!!」

 

いつの間にかアーシアを抱えていたディオドラの、アーシアを抱える腕に力が入る。

悲鳴を上げるアーシアに、イッセーが近寄ろうとするが……

 

「てめぇっ、やはりアーシアが目当てだったのか! アーシアから離れろ!!」

 

「イッセーくぅん? 私がいるのに、他の女の子に気を取られるって酷くない?

 そんな壊れたイッセー君は、私がすぐに直してあげるからね?」

 

イッセーの進路に、イリナが立ちはだかる。彼女も禍の団に入っているとはいえ

その行動方針はイッセーを振り向かせる一心によるものであった。

そこに、善だの悪だのそう言った概念は存在していない。

あるとするならば、イッセーを振り向かせることが善、それを邪魔するものすべてが悪。

ただそれだけの単純だが、極めてやり辛い相手である。

 

「い、イッセーさん!? は、離してください!!」

 

「アーシア。君はあの時僕を助けてくれたのに、どうして今度は拒絶するんだい?

 さあ、僕と一緒に来てくれ。そうすれば、君が望むものを全て与えよう。

 あの赤龍帝も、望みとあらば僕が与えても構わないんだよ?」

 

ディオドラの誘いに、アーシアは頑なに首を横に振っていた。

赤龍帝――イッセーを引き合いに出されても、その答えが変わる事は無かった。

 

「嫌です! 何をどうされても、私の答えは変わりません!

 あなたのように人を苦しめて何とも思わないような悪魔を癒したことは

 私にとって、最大級の後悔です!」

 

「そうか……じゃあ、あいつらをここに」

 

ディオドラが指を鳴らすと、アインストグリートの触手が部屋を覆いつくす。

その端部分には、二人の人物が縛り上げられていた。

その人物は――

 

「い、イッセー……」

 

「そ、そんな……!!」

 

「う、嘘だろ……!?」

 

行方不明になっていた、兵藤夫妻――

イッセーの、両親であった……




明かされたディオドラの本性。
そして見つかった兵藤夫妻。
イリナに追われるイッセー、人質を取られたオカルト研究部とセージチーム。

いよいよ、運命の時は近づいて来た……

と言うわけで今回の解説。

>イリナ
ある意味フリードよりも暴走しちゃってる感の強い人。
やったねイッセー、モテ期が来たよ!(なおヤンデレ

>リアス
それっぽい事を言ってるけど腕輪で結論に達せなかったのはポンコツ過ぎると思いました。
書いた自分が言うのもなんですがね。

>アーシア
実は赤龍帝もくれてやるの件で「あ、それはいりません」って言わせようかと思ったけど
白音ほど好感度だだ下がりしたわけでも無いので没に。
下がってるのは事実ですけどね。

>ディオドラ
口では自分が強者だといってるけれど
ヴァーリの指摘通り、これ弱者の発想だと思います。
こういう思想の集まりが旧魔王派な気がしたもので。
(自分達の力じゃなく、外部に頼ってる時点で……ね)

>セージ
久々に某フィリップみたいな記録再生大図鑑の使い方をしてます。
もっと早くにそれ使え? ごもっともで。

>アーリィ
身の上を改めて書いたら某振り切る人みたいになっちゃった件について……
き、気のせいだな。きっと。


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Special8. 再会

大変長らくお待たせいたしました。
その割にはクオリティが今ひとつかもしれませんが
現時点での出来得る限りは出来たと思っています。

なお、引き続き次回更新予定は未定とさせていただきます。


前回までのあらすじ

 

冥界への里帰りを終えたリアスらオカルト研究部を待っていたのは

禍の団(カオス・ブリゲート)による攻撃を受け荒廃した駒王町だった。

時を同じくして同様に駒王町に戻ったセージ、白音、黒歌もまた

荒廃した駒王町を目の当たりにする。

 

禍の団の英雄派に所属するフューラー・アドルフの手によって

天使や悪魔、堕天使と言った三大勢力の存在や

神の不在までも暴露され、悪魔の支配下に置かれていたと言ってもいい駒王町には

疑心暗鬼の空気が漂い、それが復興の妨げとなっていたのだ。

 

悪魔契約の恩恵が一切失われた駒王町を舞台に、イッセーをはじめとするオカ研の面々が苦悩する中

新たに超特捜課(ちょうとくそうか)の一員となったセージ達はクロスゲートを介して異世界から来たシスター――

アーリィ・カデンツァと合流。フリード・セルゼンとの戦いを交えながらも

木場やヴァーリとも合流し、着々と戦力を充実させていくのだった。

 

そして、荒廃した駒王町を舞台にした戦いは心の支えを失い力に溺れるかのように

龍殺しの聖魔剣(アスカロン)を振り回す紫藤イリナの参戦や

人間社会に巣食う人間と言う名の悪魔――指定暴力団組織・曲津組(まがつぐみ)と契約している

ディオドラ・アスタロトの本性が暴かれるのを皮切りに

重大な局面を迎えようとしていた――

 

――――

 

「い、イッセー……」

 

「そ、そんな……!!」

 

「う、嘘だろ……!?」

 

ディオドラの合図で呼び出されたのは、アインストグリートの触手で縛られた

行方不明になっていたはずの兵藤夫妻――

 

すなわち、イッセーの両親であった。

 

「どうだ赤龍帝! 嬉しいか? 嬉しいだろう?

 ほら、もっと僕に感謝するんだ!」

 

「っざけんなぁ!! 今すぐ父さんと母さんを離せ!!」

 

二人の命運は自分が握っていると言いたげなディオドラに対し、イッセーが吼える。

一時は死亡したとも思われていた兵藤夫妻だったが、今こうしてここにいる。

ところが、二人はディオドラの手に落ち、こんな形での再会を強要されていたのだ。

 

「ど……どうしてイッセーがこんなところにいるんだ……

 それにイリナちゃんまで……こ、これは一体……?」

 

「知りたいか? 知りたいよねぇ? けれどそれを知っても

 君たちはそいつの両親でいられるか?

 ククク……それでもいいなら、言っちゃうけどさぁ……?」

 

ディオドラの言っていることは、イッセーの身の上をばらす事である。

今までリアスの手によって隠蔽されていたが

イリナと言う情報源を得たことで隠蔽はもはや意味をなさなくなっていた。

 

「や、やめろぉ!!」

 

イッセーにとって、両親に自分が悪魔だと知られるのは避けたいところだった。

この二人こそ、彼が人間であった証左となる数少ない存在なのだ。

既に松田と元浜、桐生の三人はイッセーと袂をわかってしまった。

特に桐生は、女性としての尊厳を穢される形で悪魔の餌食となってしまい

直接イッセーと関わってはいないものの、イッセーが悪魔だとバレた現時点では

とても友好的な交友は望めないだろう。

 

そんな環境で、その上さらに両親にまで悪魔であることがバレようものなら

イッセーの人間としてのつながりは完全に断たれてしまう。

オカ研の面々は、全て悪魔としての繋がりなのだ。

 

ただ唯一の人間としてのつながりを持つセージでさえ

彼自身の目的のために、最悪イッセーを亡き者にしようとしているのだから。

 

「へぇ。今更何人間に拘っているんだか。

 悪魔としての力、赤龍帝としての力。その恩恵に存分にあやかって来たじゃないか。

 もう人間なんて捨てればいいじゃないか」

 

「出来るかよ! そこにいるのは俺の父さんに母さんなんだぞ!!」

 

イッセーが両親を助けようと、ディオドラに飛び掛かろうとするが

その寸前で兵藤夫妻を締め上げる触手の力が増す。

それに普通の人間である兵藤夫妻が耐えられるはずもなく、悲鳴を上げる。

その悲鳴を聞き、イッセーは飛び掛かろうとした足を止めざるを得なくなった。

 

「ディオドラ! あなたそれでも貴族なの!? 一般市民に危害を加えるなんて……!!」

 

「貴族だからさ! 一般市民など、貴族に尽くすだけの存在だろうが!

 リアス、君も知らないとは言わせないぞ!

 君が得ている寝食が誰のおかげで成り立っているのかを!

 一般市民など、所詮その程度の存在! 僕らに尽くすためだけの存在だ!」

 

「だからこそよ! ディオドラ、あなたのしていることはそれを蔑ろにしていることよ!」

 

リアスもまた、貴族としてディオドラの在り方を糾弾する。

実情はどうあれ、情愛を掲げるリアスないしグレモリー家として

ディオドラの行いは到底許せるものでは無かったのだ。

 

「ふーん……そんなにこの人間が大事なのか。

 じゃあ解放してやらないことも無いけど……

 態度ってものがあるよねぇ? さあ、今からやる通りにするんだ。何簡単な事だよ。

 

 ……両膝と両手、額を地面につけるんだ。どうしたんだ、早くしろよ」

 

「…………っ!」

 

ディオドラが指し示しているのは、即ち土下座である。

彼は人質解放のために、リアスに土下座を要求しているのだ。

貴族でもあるリアスにとって、同格の相手に土下座をするというのは

矜持に関わる事でもある。

 

「それとも、僕がいつも眷属に対してやっているようにして欲しいか?

 そっちの方がもっと酷いと思うけどなぁ?

 僕は優しいから、そっちは提示しないでおいてあげたんだよ。

 いいんだよ別に? やりたくないんならやらないでも。ただこいつらは返さないけどね。

 

 ……それとも、僕がいつも眷属に対してやっているようなことを、君はしたいのかい?」

 

ディオドラが眷属――篭絡したシスターに対して行う事。

それはつまり、女性としての権限を踏みにじるような形での行為の要求である。

その意図を少なからず察したリアスは、顔を紅くしながら奥歯を噛みしめる。

そんなリアスへの挑発が絶えず続く中、おもむろにイッセーがディオドラの前に立つ。

すると、ディオドラの目の前で土下座を始めたのだ。

 

「その二人は俺の両親なんだ! 頼む、助けてくれ!」

 

「い、イッセー……」

 

土下座をしてまですがるイッセーだったが

そんなイッセーをディオドラは興味なさげに一瞥するだけだ。

 

「……はぁ? 虫けらの土下座なんか見てもしょうがないんだけど。

 お前が赤龍帝だってことを置いておくにしたって

 お前みたいな奴は地べた這い蹲ってるのがお似合いなんだよ。

 魔力も碌に持たない下級の転生悪魔君」

 

吐き捨てるようにイッセーに罵詈雑言を浴びせたかと思うと

ディオドラはおもむろにイッセーの頭を足蹴にする。

完全に図に乗っているディオドラに対し、兵藤夫妻と言う人質の存在から

イッセーはおろか、リアスも強気には出られない。

 

「……わかるかいリアス? 本当の貴族ってのは戦う前から勝負を決めるものなんだ。

 さあアーシア。この二人を助けたかったら……わかるね?」

 

「…………」

 

アーシアが沈黙したまま、首を縦に振ろうとしたとき

扉を蹴破って、人影がなだれ込んでくる――アーリィだ。

 

「アーシアっ!!」

 

「!?」

 

当然、扉を蹴破ったものだから注目は一気に集まる。

しかし、そんなことはお構いなしにアーリィはナイトファウルを片手に

ディオドラを睨みつけている。

しかし、ディオドラは物怖じせずに逆にアーリィを一喝する。

 

「動くな! 動けばこいつらの命は無いぞ!」

 

「――っ!」

 

ディオドラの一喝で、兵藤夫妻を締め上げるアインストグリートの触手の力が強まる。

この状況を打破しない限りディオドラの優位は変わらない。

 

「お前……そうか、そうだったのか……はっはっは!

 これは愉快だ! 僕が目を付けていたシスターが、自分からやってくるなんて!

 ああ、今日はなんて清々しい日なんだ! 念願のアーシアが手に入るばかりでなく

 さらに熨斗までついてくるなんて! しかもいけ好かないリアスも手玉に取れた!

 いいぞ、すこぶる気分がいい! くくくっ、はははははははははっ!!」

 

狂ったように笑うディオドラだったが、その笑いに水を差すかのように

蹴破った扉の向こうから音声が鳴り響いた。

 

HALF DIMENSION

 

「なっ……こ、これは!?」

 

ヴァーリが外で禁手(バランスブレイカー)を発動させ、アインストの触手を半分にしたのだ。

その結果、兵藤夫妻はアインストの呪縛から解き放たれることになったのだ。

その隙を突いて、新たな人影が室内に駆け込んでくる。

 

「無事ですか!?」

 

「う……君は……」

 

崩れ落ちそうになった兵藤夫妻を抱えるように、木場と実体化したセージが入り込む。

そのまま部屋の隅へと誘導させ、晴れて人質は解放されたのだ。

 

「チッ! まぁいいや、人質が無くったって

 僕が君らに負ける道理なんかあるわけが無いんだ!

 僕にはオーフィスに貰ったこの力があるんだからねぇぇぇぇぇ!!」

 

ディオドラの激昂とともに、室内にいた曲津組の組員がアインストへと変貌する。

部屋を覆っていたアインストの触手は、そのままアインストグリートへと変貌を果たす。

狭い室内で、オカ研+セージが連れてきたメンバーと

ディオドラ率いるアインスト軍団や、イリナの入り乱れた戦いが始まろうとしていた。

 

――――

 

「いい加減目を覚ませ、イリナ!」

 

「私は正気よイッセー君、イッセー君の方が壊れてるんじゃない。

 私の知ってるイッセー君は、悪魔なんかじゃ無かったわ」

 

龍殺しの聖魔剣を躱しながら、イッセーは必死にイリナを説得しようと試みている。

しかし、既に悪魔となってしまったイッセーの声は、イリナに届きはしない。

イリナにとって、悪魔は祓うべきもの。想いを寄せていた相手がそんな存在になった事や

信じていたものが紛い物であった事を思い知らされた事で心の拠り所を失い

自暴自棄になったところを禍の団に拾われ、現在に至っている。

 

アインストの力こそ得ていないものの、龍殺しの聖魔剣は赤龍帝でもある

イッセーにとって、脅威足らしめるものだ。

 

「それは……そうでもしないとイッセーは死んでしまっていたのよ!」

 

「悪魔は黙ってなさい! みんなみんなそう!

 私が信じたものは、みんな壊れてしまう!

 ミカエルだって主が健在だって嘘をついていた!

 みんなみんな私に嘘をつく! なら私は何を信じればいいの!?」

 

イリナの叫びに、イッセーもリアスも返す言葉が無い。

特にイッセーは、信じているものに裏切られたのに近い経験をしているものだから

イリナの叫びを否定することが出来ないのだ。

 

天野夕麻――レイナーレの遺した置き土産は、イッセーの心に深い傷を負わせていたのだ。

 

「何も信じられないなら、この世界はおかしいって事じゃない!

 だったら、禍の団の方がよほどまともなことを言っているわ!

 そうよ、だから直すの! この世界を壊して直すの!」

 

感情の昂ぶりに身を任せ、龍殺しの聖魔剣を振り回すイリナ。

赤龍帝であるイッセーのみならず白龍皇であるヴァーリもまた

イリナのこの行動には脅威を感じていた。

最早、彼女の目に映るものは全て敵だと言わんばかりの勢いである。

 

「この場にゼノヴィアさんがいなくてよかったと言うべきか、なんと言うべきかだね。

 いずれにしても、このままじゃイリナ一人に全滅させられかねないよ」

 

現出させた聖魔剣でイリナの龍殺しの聖魔剣を防ぎつつ、木場が一人ごちる。

単純なパワーではイリナよりも優れているものは少なくない。

禁手に至ったヴァーリなど、その最たる例なのだが得物の相性が悪すぎる。

心の内を聞いてしまったイッセーはイリナに対しての戦意を喪失しており

さっきからアインストを相手に戦っているが、身が入っていない。

 

『どうした相棒! そんな事ではやられるぞ!』

 

「そうは言うけどよ! イリナの言ってる事だってわかるんだ! 俺だって……」

 

迷いながら戦っているイッセーに、突如として檄が飛ぶ。

その声の主は――リアスであった。

 

「イッセー! 迷ってはダメ! あなたには信じることが出来るものがあるじゃない!

 それとも、私は信じられないとでもいうの!?」

 

「そ、そんなことは……俺はもう、部長についていくって決めて――」

 

イリナとイッセーの決定的な違い。

それはどんな形であれ、信じることが出来るものの存在であった。

そう、どんな形であれ、だ。

 

「……そっか。やはりイッセー君はもう悪魔なんだ。

 ちょっとでも元に戻るって思った私が甘かったんだ。

 だったらもう遠慮なんかいらない……死んじゃえ」

 

リアスとのやり取りの隙を突いて、イッセーの背後からイリナが龍殺しの聖魔剣を突き立てる。

血飛沫とともに、周囲が赤く染まる。

 

イッセーにとって信じることの出来たものは、イリナにとっては忌むべきものだったのだ。

その決定的な違いが、この結果を生み出してしまった。

それほどまでに、イッセーとイリナの間に生じた溝は深く、大きいものだったのだ。

 

「……えっ」

 

それは、あまりにも一瞬の出来事であった。

混戦状態であったことも相まって、咄嗟の事態に対応できなかった部分があるにしても。

イリナの凶刃が、イッセーを貫いたのだ。

 

影響は、イッセーだけにとどまらなかった。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を共有しているセージにも、身体の異変が現れていたのだ。

 

「……っ!?」

 

「セージ君!? クッ、これは思った以上にまずい展開だ……!」

 

セージも実体を維持できなくなり、その場にへたり込んでしまったのだ。

咄嗟に木場がフォローに入るが、セージは身体に力が入らないのか、倒れ込んでしまう。

その状況をほくそ笑んでいるものもいる。ディオドラだ。

 

「これは面白い事になって来たねぇ。やるじゃないかイリナ。

 たかが人間の分際で、ミカエルを騙し討ちしたのは伊達じゃないって事かい?」

 

「騙していたのはミカエルの方よ。それにあんたみたいな悪魔には関係ない。

 馴れ馴れしく私の名前を呼ばないで」

 

「嫌われたもんだねぇ。ま、僕としてもシスターでもない君なんかどうでもいいんだけど。

 ただ……アーシアに手を出したらタダじゃ済まないかもね」

 

肩を竦めながら、ディオドラが吐き捨てる。

彼にとって目下の目的であるアーシアとアーリィは手に入れたも同然の状態。

イリナと言う対龍のリーサルウェポンが仕事をしており

その他もアインストの軍勢に囲まれて思うように動けない現状。

 

そんな中、イッセーに止めを刺さんと容赦なく振り下ろされようとしていた

イリナの龍殺しの聖魔剣を弾く刃が、どこからともなく飛んできた。

 

「やめるんだイリナ! これ以上、罪を重ねるな!」

 

「ディオドラ・アスタロト! その命、神に返しなさい!」

 

ゼノヴィアと、伊草慧介(いくさけいすけ)

オカ研と、新たな超特捜課の戦士達の窮地に

二人の元教会の戦士が救援に駆け付けたのだ。




ディオドラとの決戦のはずがイリナの横槍でとんでもないことになってます。
原作だと同じ話でシャルバがボッコボコにされるはずなんですが
影も形も出ておりません。彼もアインストの影響受けてる筈なんですが。

>ヴァーリ
やっぱり禁手はインチキだと思いました。
今回は人質救出に使ってますが、原作ではフリ(?)とは言え殺す発言をした相手を
助けるとは、まったく書いてる自分でもよくわからないものです。

>イリナ
ゼノヴィアとは宗派が違うとはいえ、やってる事は悪魔祓いで
アーシアに対しても否定的なニュアンスを取っていた(当時)だから
悪魔絶対殺すウーマンでもおかしくないわけで。
それが幼馴染が悪魔になってた&信じてた相手(ミカエル)が嘘をついていた

これが拙作イリナが壊れた原因です。今更ですが。
ゼノヴィアみたく更生しようにも、やらかしたことが大きすぎて……
彼女の明日はどっちだ、割とマジで。


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Special9. 暴走する覇龍

ボチボチとですが書けています。
待ってくださっている皆様には本当に感謝です。

さて今回。いよいよアレが登場します。
この世界において、抑止力は存在しません。

……力で強引に止めたりすることは出来なくもありませんが。


この二人の加勢によっても、事態は大きくは変わらない。

イッセーは負傷し、それにつられる形でセージも動きを封じられる。

アインストは絶えず出現している。

兵藤夫妻と言う人質のアドバンテージは失われたが

戦況は、未だディオドラの側に傾いている。

 

「誰かと思えばただの人間が二匹か……

 僕もそんなのに構っていられるほど暇じゃないんだけどな。

 人間は人間同士戦うのが相応しいだろ? ……イリナ」

 

「命令しないでよ。それよりゼノヴィア、なんでそいつらの肩を持つの?

 そいつら悪魔だって、わかってるよね?」

 

イリナのの発した言葉は、言葉だけならある意味まともである。

祓魔師が悪魔を庇うなど、前代未聞どころか自分で自分の存在意義を歪める行いだからだ。

アーシアが悪魔を庇ったのとはわけが違う。

 

「肩は持っていない。だがイリナ、だからってテロリストに協力するのが正しい事か?

 私にはそうは思えない、たとえミカエル様が我々を騙していたとしても

 その怒りをぶつけるべきはミカエル様であって、彼らではないはずだ」

 

「うん。だからミカエルはこれで直したの。イッセー君も壊れてるから今直したの。

 ゼノヴィア、あなたも壊れているの?」

 

だからこそ、ゼノヴィアはイッセーらの肩を持つのではなく

イリナが禍の団(カオス・ブリゲート)に所属しているという事実に疑問を呈したのだ。

信じるものに裏切られたからと言って、テロリストに加担して

何の関係もない人たちに危害を加えるのが正しい事だとは、今のゼノヴィアには考えられなかったのだ。

 

「壊れたかどうかはわからないが、私は変わったという自覚はある。

 私だって、主の消滅を知って冷静でなどいられなかったさ。

 だが、ある人物が私に言った。

 『神は信仰によって成り立つ。死んだという戯言を鵜呑みにすると言う事は

  お前の信仰はその程度のものだったのか?』……とな。

 これは私は日本に来て何度も言われたよ。最初はその言葉こそ戯言だと思ったが

 慧介達と過ごしているうちにそういう考え方もあるんだな、と思えるようになってきてな……」

 

「……何が言いたいの」

 

「そうだな。言葉を弄するのは私の性に合わないか。

 ならばイリナ、こう言おう。

 

 ――慧介の家族のためにも、私は禍の団やアインストの行いを認めるわけにはいかない!」

 

ゼノヴィアの啖呵と同時にデュランダルとアスカロンが火花を散らす。

守るものを得た刃と、己のためだけに振るわれる刃の衝突。

かつては寝食を共にし、共にエクスカリバー奪還のために行動していた二人。

だが今はこうして刃を交え死合いを繰り広げている。

 

「結局ゼノヴィアも私を否定するのね! ミカエルと同じように!」

 

「ミカエル様は確かに嘘をついていた! だが、それと今のイリナの行いは結び付かない!

 何の関係もない人にまで危害を加えるのは、私達が敵視していた悪魔の行為そのものだぞ!」

 

互いに一歩も退かない聖剣(デュランダル)聖魔剣(アスカロン)のぶつかり合い。

一歩でも間違えば、確実にどちらかの命は奪われてしまうだろう。

そんな、かつての友同士の戦いを笑って眺めている者がいた。ディオドラだ。

 

「くくくっ、あははははははっ!!

 本当に最高だよ人間って奴は! だから人間は大好きだろ、リアス?」

 

「……本当に悪魔の面汚しよ、あなた。こんな悪趣味な真似まで……」

 

「何か勘違いしてないか? 僕はあの二人には何にも関わってないよ?

 あの人間が勝手に争いを始めたんだ。僕らが何もしなくても放っておけば争いを始める。

 最高で、面白くて……愚かな連中だよ、人間はねぇ! あははははははっ!!」

 

狂ったように笑いながら、ディオドラは状況を眺めている。

彼にとっては何もかもが思い通りで面白くて仕方が無いのだろう。

しかしそれ故に。慢心が生じていたのも事実であった。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「あはははは……はっ!?」

 

気を抜いていたディオドラの顔面を、イッセーの左拳が殴りつける。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」の宝玉が明滅し、籠手本体もスパークしているが

先刻イリナに貫かれた傷は完治している。アーシアの「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」の賜物だ。

 

アスカロンによる刺突の傷は治癒できたが、龍殺しの力によるドライグへの影響までは

完全には払拭できなかったのだ。そのため、今の赤龍帝の籠手は不完全な状態である。

 

「さっきからうるせぇよ、性悪悪魔!

 部長をてめぇなんかと一緒にするんじゃねぇ!!

 てめぇなんかにゃアーシアは絶対渡さねぇからな!!」

 

口元を抑えるディオドラの掌には、赤い雫がたれ落ちていた。

イッセーの一撃が、ディオドラに確かなダメージを与えたのだ。

 

「これは……血? 僕が……こんな下級の……転生悪魔なんかに?

 ……そうか……そうか……ふふっ、くくくくくくっ……」

 

「な、なにがおかしいんだよ?」

 

「最高だよ。僕にも貴族としてのプライドがあるからね。

 人質はもうどうでもいいと思っていたけれど……そういう無礼を働くんだ。

 だったら……その無礼を贖ってもらわないとねぇ?」

 

ディオドラのミルトカイル石の腕輪が怪しく光るとともに

ディオドラの左腕が変異。触腕と化した腕は、離れた場所にいたはずの

兵藤夫妻を締め上げようとする。

 

「ダメだ、させない!」

 

「……やらせません」

 

「あの赤龍帝はどうでもいいけど、家族を盾にするような奴は見過ごせないのよ!」

 

「……まだうるさいのがいたか、やれ!」

 

それを阻止せんと未だ身動きの取れないセージに代わって

木場や白音、黒歌らが立ちはだかろうとするが

ディオドラの号令を受けたアインストの軍団に阻まれ、身動きが取れなくなっている。

そうでなくとも、この狭い室内では乱戦状態となっており

思うが儘に動けない状態が続いている。

イリナとゼノヴィアの戦いにしたってそうだ。

 

「ゼノヴィア君、ここは一度外に連れ出しなさい! この中での戦いは不利だ!」

 

慧介の神器(セイクリッド・ギア)未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」が銃へとその姿を変え

イリナに対し威嚇射撃を敢行する。

イリナも負けじと擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を盾に変え、威嚇射撃を凌ぐが

慧介に気を取られた隙を突いたゼノヴィアの攻撃を受け、一歩押される形となる。

 

「イリナぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ、ゼノヴィア……っ!!」

 

「イリナ! ゼノヴィアさん!」

 

アーシアをアインストから庇いながら、アーリィが二人を気遣うが

どちらにも加勢するということは出来ない。

アインストをナイトファウルで蹴散らしながら、アインストの親玉である

ディオドラに向けて、ヴェールの下では鋭い目を向けていた。

 

「くくくっ、さて赤龍帝。これで振り出しに戻ったね。けれどまだ終わりじゃないよ?

 ……言ったろ。罪を贖え、って。お前が贖う気が無いのなら……こうするまでさ!」

 

兵藤夫妻を締め上げたディオドラの触腕から、赤い霧が発生する。

身動きが取れないながらも、「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」でその赤い霧の正体を探ったセージは

木場達にその場を退くように叫ぶ。

 

「ダメだ、その霧を吸うな! 下がるんだ!」

 

黒歌の仙術で薄い膜を展開し、兵藤夫妻を助けに出ようとしたメンバーは

霧を吸い込むことは無かった。

しかし、締め上げられていた兵藤夫妻は赤い霧をもろに吸い込む結果となってしまう。

 

その赤い霧の正体、それは――

 

「父さん、母さん!?」

 

「い、イッセー……!!」

 

「に、逃げなさい……わた、私達……は……!!」

 

突如、二体のアインストが出現する。それも、兵藤夫妻がいた場所に。

……否。この二体のアインスト。これこそが……

 

「て、てめぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「言ったろ! 罪を贖えって! さあどうする赤龍帝!?

 そのアインストを潰すか? 言っとくが、アインスト化した人間を助ける術はないんだ!

 悪魔だって一度アインストになったら終わりだ!

 僕を殴ったように、そのアインストも殴って見せろよ! さあ、さあ!!」

 

アインストに変貌した兵藤夫妻を前に、イッセーの慟哭が木霊する。

拘束を解かれながらも、攻撃に対して消極的なのは彼らの意識がなせる業なのか。

それはその場にいる誰にもわからない事だった。

それ幸いとばかりに、イッセーはその怒りをディオドラにぶつけるべく

不完全な赤龍帝の籠手でただひたすらに殴りつけようとする。

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「あがっ!? がはっ!? ぐぼっ……!?」

 

マウントを取ったイッセーは、我武者羅にディオドラの顔を殴りつけている。

最早、誰の声も耳に届いてはいないかのようである。

それ以前に、ディオドラの卑劣な行いに対して「自業自得」と言う印象が強い事と

イッセーの気迫がすさまじい事で止めるに止められない状態でもあったのだが。

 

しかし、冷静さを欠いているのも事実であった。

不意に飛んできた攻撃にいち早く気づけたのは、派手に登場しながらも冷静に努めていたアーリィと

身動きが取れないがために状況把握に専念していたセージ位なものであった。

 

「あれは……聖槍!?」

 

「まずい、イッセー避けろ!」

 

飛んできたのは、散々イッセーやセージ達を苦しめた聖槍のコピー。

能力封じを行うそれが、イッセーめがけて飛んできたのだ。

アドバイスのお陰で、寸前で打ち払われたが

それはこの場に聖槍騎士団がやって来ていることを意味していた。

 

Guten tag.(御機嫌よう) 英雄派として、一応仕事をしに来たわ。

 それと赤髪の滅殺姫(ルインプリンセス)様、少しいいかしら。

 

 ……私達を止めるなら、神器持ちを出すのはやめておいた方がいいわね。聖槍のいいカモよ。

 それとこの黒髪の女。私達を相手に本気を出さないとは舐められたものね。

 知らないようなら何度でも言ってあげるわ……愚か者、ここは戦場だ!」

 

そう言って、後ろのドイツ軍人風の軍団が気絶した朱乃やギャスパーを放り捨てるように

リアスに寄越してくる。内部はイッセーと自分、アーシアで構え

彼女達は外敵に備え外で待機させていたのが仇になったのだ。

 

「クッ……私としたことが迂闊だったわ。彼女達も禍の団の一員であることを考えれば

 ここに増援でやって来ることは十分考えられたのに……!」

 

「英雄派……フューラーの差し金かい? 別に要らないのに」

 

「口だけは達者ね。私達もあなたの手助けに来たわけじゃないわ。

 ただ、こうすればもっと面白い、と言うのをそこの赤龍帝に渡すよう

 総統閣下に言われてきただけよ」

 

そう言って、聖槍騎士団が聖槍の次に投げ寄越したのはドラゴンアップルの果実。

ドラゴンにとっては貴重な栄養源、力の源であるが

ドラゴンでないものが食せば、その身はたちまち怪物へと変貌してしまう、恐ろしい果実だ。

 

「あれは……どうしてそれを!」

 

「総統閣下からの言伝を伝えるわ。『強くなりたければ食べなさい』とね。

 それは間違いなくあなたにさらなる力を与えるわ、赤龍帝」

 

「な……敵に塩を送るというのか!?」

 

一連の行いに、リアスは衝撃を受けディオドラは激昂する。

今まで自分を散々殴って来た相手に、まさかパワーアップアイテムを送るなどと

想像がつかなかったからだ。それも禍の団に一応は属しているはずのものが。

 

「あら。あなただってアインストのドーピングで強くなったクチじゃない。

 赤龍帝にもドーピングをさせても罰は当たらないと思うのだけど?

 少なくとも、総統閣下はそう考えていらっしゃるわ」

 

「……これは」

 

「どう考えなくても罠だにゃん! そんな怪しいもの、食ったらダメにゃん!」

 

「二人の言う通りだ、イッセー君! それは……」

 

『あいつらの言う通りだ相棒、それはドラゴンアップル!

 俺ならともかく、俺に身体を寄越していない貴様が直に食えば

 その身がどうなるか、俺にも保証できんぞ!』

 

一方、ヴァーリは事態を静観している。

赤龍帝が強くなるならそれでよし、そうでなければ標的をセージに変える。

この期に及んで、ヴァーリの悪い虫が蠢いていたのだ。

片割れの異常性を察したアルビオンが、思わずヴァーリに問いかける。

 

『止めないのか?』

 

「義理は果たした。後はあいつらがどうなろうが俺の知ったことでは無い。

 紫紅帝龍は世界を引き合いに出したが、最後は勝てばいい。

 ……要はそう言う事だ」

 

木場、白音、黒歌が必死に制止するが「力を与える」と言うワードに心を動かされたイッセーは

躊躇うことなくドラゴンアップルの果実を口に運ぶ。

その直後、赤龍帝の籠手が復活し赤いオーラがイッセーの身体を包む。

 

「う……うおおおおおおおおおおっ!!」

 

イッセーの復活に合わせ、セージも立ち上がるがこちらは普通に元に戻ったという印象だ。

赤いオーラに弾き飛ばされる形になったディオドラは、イッセーの豹変ぶりに戦慄を隠せない。

その一方、聖槍騎士団は満足げにイッセーの豹変ぶりを眺めていた。

 

「な……一体何だって言うんだ、赤龍帝の力がなせる業なのか!?」

 

「……食べたわね。赤龍帝、後は好きにすればいいわ。

 総統閣下の命令は果たした事だし、私はここで引き揚げさせてもらうわ。

 

 ……巻き込まれてもかなわないし、ね。Auf Wiedersehen.(さようなら)

 会う事があれば、また会いましょう」

 

「巻き込まれ……一体どういうことなの!?」

 

リアスが聖槍騎士団に疑問を投げかけようとするところで、彼女達は既に引き上げてしまっていた。

ディオドラも、援軍が来たと思いきや敵を強化させるだけで撤退してしまった

聖槍騎士団に腹を立てていた。

 

「利敵行為だと!? おのれフューラー! 一体どういう……!?」

 

激昂し続けるディオドラであったが、次の瞬間目を疑った。

イッセーの身体を、赤いオーラが包んでいた。そのオーラは途切れることなくイッセーを包み

まるでこの世のものでは無い存在感を発していたのだ。

 

『これは……あのフューラーと言う奴、一体何をしてくれたのだ!?

 アスカロンにやられた我が傷が癒えるどころか、この力は……「覇龍」ではないか!!

 いかん相棒、この力を振るうな! 貴様の身をも滅ぼすぞ!!』

 

「部長、アーシア、みんな……今すぐこの場から離れてくれ……

 おい……ディオドラ……アスタロトとか言ったよな……?」

 

辛うじて低いトーンで淡々と語るイッセーだが、その眼には既に正気は無い。

その事を察せなかったディオドラは、強がりを言うがそれさえも今のイッセーには通じなかった。

 

「そ、それがどうした! 下級悪魔ごときが、馴れ馴れしく呼ぶな!」

 

「お前は……『選択を間違えた』んだよ」

 

次の瞬間、ディオドラの腹からイッセーの腕が生えていた。

否、ディオドラの腹をイッセーの腕が貫通していたのだ。無論、イッセーにそんな力があるはずがない。

その異変の正体を探る前に、イッセーの口から呪文が紡がれる。

しかしその声色は、イッセーのものでは無かった。

 

「我、目覚めるは――」

 

――始まったよ。

 

――始まってしまうね。

 

「覇の理を神より奪いし二天龍なり――」

 

――いつだって、そうでした。

 

――そうじゃな、いつだってそうだった。

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う――」

 

――世界が求めるのは――

 

――世界が否定するのは――

 

「我、赤き龍の覇王となりて――」

 

――いつだって、力でした。

 

――いつだって、愛だった。

 

 

――何度でもお前達は滅びを選択するのだな!!

 

 

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――』

 

 

Juggernaut Drive!!

 

 

「ぐぎゃあああああああああっ!!」

 

 

次の瞬間、此の世のものとは思えないほどの雄叫びを上げたイッセーの身体が

瞬く間に赤いドラゴンのそれへと変貌していく。

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)とは違い、生物的なフォルムは禍々しささえも感じられる。

 

「げぼっ……!?」

 

イッセーの変貌は留まるところを知らず、力が馴染んて来たのか次第に赤い龍人の姿へと

変貌していく。その身体の所々には赤龍帝の籠手同様、緑色の宝玉が輝いている。

だがそこから発せられるのは、ドライグの声ではなく何者かの怨嗟の声ばかりであった。

それは歴代の赤龍帝の籠手の所持者であったのだが、アルビオン以外の誰も

その事を知る由もなかった。

 

そう、過去の怨念にとり憑かれた赤いドラゴンが一匹、そこにいるだけであった。

 

次の瞬間、ディオドラから腕を引き抜いたイッセーは見境なく暴れ始める。

敵味方お構いなく、建物の倒壊も全く意に介していない。

 

SOLID-DEFENDER!!

 

「……ふんっ!」

 

落ちてくる瓦礫を実体化を果たしたセージのディフェンダーと白音の怪力で排除しつつ

脱出口をふさぐアインストを木場と黒歌が蹴散らす。

 

「部長、ここは一度撤退しましょう!」

 

「けれどイッセーが……! イッセー! 目を覚ましなさい!」

 

「そんな事言っている場合か! ここにいたら建物の倒壊に巻き込まれる!

 いくら悪魔だと言っても、ただでは済まないぞ!」

 

木場とセージの呼びかけもあり、リアス達はディオドラのアジトであった

曲津組の建物からの脱出を試みる。

瓦解する建物に、多くの組員とアインストが巻き込まれていく――。

 

「ゼノヴィア君、イリナを連れて逃げなさい!」

 

「そのつもりだ、だが……」

 

ゼノヴィアの声に耳を傾けず、何も見えていないかのようにアスカロンを振り回すイリナ。

でたらめな剣捌きを躱すのは簡単であるが、これを暴れていると解釈した場合

暴れている相手を宥めてこの場から連れ出すというのは困難だ。

まして、今いる場所は崩壊を始めているのだ。

 

「うああああああっ!! あああああああっ!!」

 

「もういい、やめろ、やめてくれイリナ!」

 

説得もままならぬうちに建物の崩壊はどんどんひどくなっている。

イリナが暴れているのと同様に、ディオドラ相手にイッセーが暴れているのだ。

それも、赤龍帝の力を遺憾なく発揮した上で。

 

「これは……くっ、ゼノヴィア君! 脱出しなさい!」

 

「しかし慧介! イリナを……」

 

「君まで瓦礫に埋もれては元も子もない! ここは逃げなさい!」

 

慧介の叫びに合わせ、アーリィが聖書を開くと聖書のページが宙を舞う。

 

「早く! 私が皆さんを外に連れ出します!」

 

「アーリィ! イリナも……」

 

アーリィ、アーシア、慧介やゼノヴィア、そしてイリナの周囲を聖書のページが舞う。

光り輝くページは、一瞬にして五人を建物の外へと運び出したのだ。

 

――――

 

倒壊を始める曲津組(まがつぐみ)の建物。

陰で糸を引き、栄華の一端を担っていたディオドラが今赤龍帝によって駆逐されようとしている。

その様は、因果応報と言うべきか。災害に遭い、弱った人々から甘露を吸い続けた。

その行いの報いが、今下されているのだ。

 

しかし、それは娯楽的なものでは無い。

終わりのない憎しみの連鎖を現しているかのような、破壊活動であった。

 

瓦礫の下から現れたのは、赤い龍。

その脇には、ボロボロになった青年が抱えられている。

その青年には蝙蝠の翼が生えており、人間ではないことを如実に示している。

 

赤い龍は、筆舌しがたい咆哮を上げ大地を揺るがしている。

その発するオーラには、建物から脱出してきた者達も手が出せずにいたのだ。

 

「……アルビオン」

 

『分かっている。まさかこんな形で、二天龍の戦いをすることになるとはな。

 だが気を付けろ、あれは覇龍だ。正面から挑んではタダでは済まないぞ』

 

変貌を遂げた赤い龍――兵藤一誠を止めるべく

白龍皇アルビオン――ヴァーリ・ルシファーが戦いを挑む。

二天龍の戦いが、人間の世界で行われようとしているのだ。

 

「部長、結界の展開を! このままでは戦いの余波でこの辺りが……」

 

「わ、わかったわ! 朱乃、ギャスパー!

 起きてすぐのところ悪いのだけど、結界の維持に協力してちょうだい!」

 

「リアス・グレモリーに協力するのは癪だけど、そんなこと言ってられる状況じゃないわね。

 私も結界維持に協力するわ。白音、あなたは結界の穴をふさぐ程度でいいわよ。

 まだあなたの身体じゃ、あの戦いの余波を受けられるだけの力はないわ」

 

「……わかりました。姉様も無理はしないで……」

 

アーシアを除いたオカ研のメンバーと、黒歌、白音の姉妹が揃って結界を展開する。

何人もの協力があっても、二天龍の戦いの余波を押さえられるかどうかは定かではない。

 

このまま二天龍の戦いが始まれば、この世界は壊滅的な被害を被る事だろう。

それに対抗できるのは――赤龍帝と白龍皇の力を併せ持った紫紅帝龍

すなわちセージだけなのだろうか。

 

「結局……結局こうなるのか!

 立っているところの事も考えずに、ただ徒に力に振り回され、溺れていく!

 だから俺は赤龍帝の力なんて要らなかったんだ!

 俺達に……俺達が持つべき力じゃなかったんだ!」

 

一しきり吠えた後、セージも紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)と記録再生大図鑑を展開し

覇龍へと至った赤龍帝へと向かっていく。

 

「セージ君!」

 

「お兄さん、そればかりは無理よ!」

 

「奴が悪魔であるなら、ドラゴンであるなら対処法はある!

 弱点さえ突ければ、どんな奴でも倒せるはずだ!

 その為のメタならここにある――フリッケン、記録再生大図鑑、力を貸してくれ!」

 

『セージ、お前……ああ、大体わかった。世界の破壊者は俺一人で十分だからな』

 

今ここに、三つの龍が激突するのだった――




覇龍登場。
そしてまさかのイッセー両親退場フラグ。
助かってたと思ったらこれだよ! この世界に救いは無い!

イッセーがこうなったと言う事はセージも……

そしてアーシア絶対守るウーマンが参戦している以上
原作とは違う形で覇龍発動させる切欠が欲しかったので……
(別にアーリィさんが来たからこうなったってわけじゃないですよ、念のため)

曲津組も壊滅寸前。
後ろ盾のディオドラが居なくなれば遅かれ早かれ壊滅する運命でしたし。
因みに現在柳警視と安玖巡査は別区域に当たってます。
超特捜課と決着付けさせたいですが、こう言う力での解決ってのも
ちょっと違う気がしますし。

原作と違い、ここにヴァーリがいるために二天龍のぶつかり合いがまたしても発生。
紫紅帝龍は抑止力足りうるのでしょうか。
やっぱり大迷惑な存在なのだとしか言いようがない二天龍。
セージの一言ですべてを物語ってしまってます。
原作メタと完全否定に塗れてしまっていますが……

「可能性を生み出した時点でアウト」

だと思うんです。どこぞの終焉の魔神さんじゃないですが。


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Special10. 繋がりゆく事象

前回の引きの割に、今回はイッセーの出番は少なめです。
その代わり教会組の出番が多めですが。

いよいよセージの事情がある人に伝わる事となります。
それが果たしてどう作用するのか。



曲津組が拠点としていたアジトの跡地。

ここは最早、爆撃でも受けたかのように周辺にクレーターが出来上がっていた。

リアスら悪魔の魔力による結界と、アーリィの聖典による結界を合わせてもこのザマなのだ。

その間に慧介とゼノヴィアが周辺住民の避難を呼びかけたが、間に合わなかった人もいる。

 

人間の世界は、超常の力に耐え得るほど頑丈には出来ていないのだ。

否、これを齎したのは二天龍の片割れ、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の力。

冥界や天界と言えども、無事では済まないだろう。

悪魔の結界や、天界由来の力による結界でさえも気休め程度にしか

効果を発揮していないのだから。

 

アジトのあった地点では、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)――最早ただの破壊の怪物と化した赤龍帝が

見境もなくその力を揮い、それを白龍皇(バニシング・ドラゴン)紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)が抑え込んでいる。

 

「兵藤! 人をやめ、悪魔もやめてなりたかったものがこれか!

 どれだけ親不孝すれば気が済むんだ、お前と言う奴は!!」

 

「お前の事情なんざ俺にとってはどうでもいいんだ。だが……だがこれが!

 こんなものが! 俺が求めた戦いであっていいものか!

 赤龍帝! まずは正気に戻ってもらうぞ!」

 

思う所は違えども、紫紅帝龍――フリッケンと手を組んだセージと

白龍皇――アルビオンを宿したヴァーリは

赤龍帝――ドライグの力に振り回されるイッセーを止めようとしている。

しかし、力で抑えつけるしか手段が無いためか

その余波は周囲に飛び火しているのだった。

 

「く……っ! これがイッセーの、赤龍帝の力だって言うの……!?」

 

「リアス、これは私たちだけでは抑えきれませんわ! 魔王様を……」

 

朱乃の提言に、リアスは首を横に振る。それはかつてのプライドだけではなく

冥界の、兄の現状を顧みての答えであった。

尤もそれは、既に手遅れであるのかもしれないが。

 

「無理よ……お兄様には監視がつけられているし

 他の魔王様も今呼べば人間界との関係は間違いなく拗れるわ……」

 

「じゃ、じゃあどうすればいいんですかぁ……」

 

まるでリアスの弱音に呼応するかのようにギャスパーが弱音を吐く。

その弱音は結界にも影響を及ぼしているのか、地表への被害が大きくなりだしたのだ。

 

「ぐうっ……サボってないで結界の維持に集中しなさいよ!

 その胸に蓄えてるの使えばちったぁ絞れるでしょ!?」

 

「姉様……部長のアレは多分魔力タンクじゃないです」

 

弱音を吐くリアスに黒歌が檄を飛ばすが、その額には冷や汗が流れており

彼女も相当必死のようだ。ツッコミを入れている白音も、以前セージを救う際などに見せた

白い着物に普段の彼女よりも成長した姿をしており、彼女なりの本気である事が伺える。

この場にいる全員の力をもってしても、三つの龍――フリッケンは厳密には龍ではないが――の

戦いの余波を防ぎきることは出来なかったのだ。

 

――――

 

にも拘らず、現実を受け入れられず茫然としている者もいた。

紫藤イリナ。信じていた神の不在を知り、その組織の元締めともいえる天使に裏切られた

――少なくとも、イリナはそう感じている――彼女にとっては

この世界の全てが最早どうでもいい事だったのだ。

 

そう、想いを寄せていた少年やその両親は悪魔どころか得体のしれない怪物へと変貌し

もう彼女の知っているものは何処にもいなくなってしまったのだ。

 

「もう……なによこれ……わけわかんない……

 そうよ……もう何もかも壊れちゃえばいいんだ……

 イッセー君もあんなになっちゃったし、おじさんおばさんも……

 私、どうしたらいいのよ……誰か何とか言ってよ……」

 

イッセーを刺した事さえ忘却の彼方に行ってしまうほど、彼女の思考は混乱していたのだ。

しかし、そんな彼女を元に戻そうとこんな状況でも必死に呼びかけるものはいた。ゼノヴィアだ。

 

「イリナ! 目を覚ましてくれ! 今はこれ以上の被害を出さないことが大事だ!

 もう戦いたくないなら、剣を捨てて逃げるんだ! けれどもし、もし戦うなら……」

 

「……?」

 

焦点のあってない目で、イリナはゼノヴィアを見つめる。

その瞳には何も映っていない、かつて教会の戦士として、天使の教えの下悪魔を祓ってきた

彼女の姿はそこにはなかった。

もし彼女の瞳に何かが映っていたとしたならば、それは崩れ落ちた世界なのかもしれない。

 

「もう……神もいない。天使は私達を欺いた。

 悪魔と堕天使は憎むべき敵。人間は信用できない。ドラゴンはこの世界を破壊する。

 だったら……みんな……」

 

へたり込んでいたイリナが、アスカロンを手にゆらりと立ち上がる。

まるでゾンビのように生気は感じられない。

しかし次の瞬間、ゼノヴィア目掛けて一直線に飛び掛かって来たのだ。

 

「まずはお前から死ねばいいんだっ!!」

 

「!?」

 

突如の事に、ゼノヴィアも反応できなかった。

デュランダルならば、アスカロンに対抗できたかもしれないが

ゼノヴィアの反応速度よりも速くイリナは突っ込んできたのだ。

 

しかし、結論から言えばゼノヴィアは無事であった。

あわや、と言うところでイリナの加速の勢いを殺すものがあったからだ。

未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)。銃にもなるそれが火を噴いたのか

アスカロンを弾き飛ばしイリナの攻撃は失敗に終わったのだ。

 

「俺の弟子は、家族はやらせない。紫藤イリナ。その命、神に返しなさい」

 

未知への迎撃者を構え、イリナと対峙するのは伊草慧介(いくさけいすけ)

彼にとって今やゼノヴィアは家族も同然。

その家族を守るために、力を揮うのは当然の事であった。

 

「ま、待ってくれ慧介! イリナは……イリナは……!」

 

「ああ、わかっている……俺に任せなさい」

 

ゼノヴィアの制止に対し、力強く答える慧介。

その一方でイリナはアスカロンを弾き飛ばされた現実を把握したのか

標的をゼノヴィアから慧介に変え、アスカロンを再び手に

慧介目掛けて突っ込んだのだ。

 

一介の神器(セイクリッド・ギア)に過ぎない未知への迎撃者では、聖魔剣へと変貌したとはいえ

曰くつきの聖剣でもあるアスカロンを相手取るには少々分が悪かった。

未知への迎撃者を剣へと戻し、アスカロンと鍔迫り合うが、徐々に慧介が押され始める。

 

「くっ……だがこれなら!」

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

慧介は左手にプラズマフィストを握り直し、イリナに電撃を浴びせる。

加護を受けた防具を纏っていたならば、話は違ったかもしれない。

それに匹敵する科学力で生み出された防具でも、防げたかもしれない。

それらのない、悪魔でも、天使でもないただの人間のイリナに直に浴びせるには

プラズマフィストの電撃の威力は絶大だったのだ。

 

「イリナ!?」

 

「電気ショックで仮死状態にした。電圧は抑えているが、早く治療を施した方がいいだろう。

 駒王総合病院へ連れて行く。あそこはまだ病院としての機能が生きているはずだ」

 

病院へと運ぶ。この工程さえあればイリナは再び目を覚ますだろう。

奇しくも、そこはセージの肉体が眠っている病院でもあった。

しかし、そこに行く手段が無い。と言うところで慧介に呼びかける人物がいた。

 

「あの……地図はありますか?」

 

「あるが……君は誰だ? さっきも助けてもらったが」

 

「あっ、アーリィ・カデンツァと言います。アーシアやゼノヴィアさんとは……

 ちょっとした知り合い、でして……私なら、場所さえわかれば

 病院へ皆さんを送る事が出来るかと思います」

 

ちょっとした知り合い、と言った瞬間にアーリィの表情が少し寂しそうになったが

実際、こちらの世界ではアーリィとアーシア、ゼノヴィアの接点はない。

しかし、目の前の男性は二人が世話になっている人物。

ある意味では、この世界におけるアーリィの役割を担っているのかもしれない。

関係性は、大きく異なっているが。

 

「その恰好、君は教会の関係者か。ならちょっとした知り合いと言うのも頷けるか。

 そして、さっき俺達を外に出したその力。嘘偽りはないな。

 

 ……いいだろう、君を信じよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「病院なら、私が場所を知ってます。私も連れて行ってください」

 

そして、アーシアの申し出。セージとの面会は叶わなかったものの

セージが肉体を取り戻そうと行動した際に病院に行ったことがあるため

アーシアは病院の場所を知っている。そうなれば、アーリィの聖書移動も精度が増すと言う物。

アーリィにとっても、アーシアを守る手間が省けるため願ったり叶ったりであった。

ただ一つ、結界の維持が弱くなるという問題はあったが……

 

「だがアーリィ、我々がこぞってここを離れては結界が……」

 

「それには心配及びません。微力ながら、ここは私達が協力いたします。

 いえ……協力させてください」

 

魔法陣で現れたのは、ソーナ・シトリーと眷属達。

まだ所々痛々しい部分を残しながらも、負傷をおしてこの場に駆け付けたのだ。

目的はただ一つ、駒王町の防衛。

 

「生徒会の皆さん! 怪我は大丈夫なんですか!?

 待っててください、今治療を……」

 

「君達は……なるほど。今の結界を維持している主力は悪魔。

 同じ悪魔同士でやれば、力が相殺されることも無いというわけか。しかし……」

 

「見るからに本調子ではなさそうだな。大丈夫なのか?」

 

その様子は、慧介とゼノヴィアをして本調子では無いと見抜かれていた。

実際、ソーナ達は聖槍騎士団との戦いで負ったダメージが完治したわけではない。

ここに来たのだって、姉であり四大魔王の一人である

セラフォルーの意向を完全に無視している形だ。

 

怪我の問題はアーシアのお陰でクリアできていたが、セラフォルーに無断で来たことが

後で大きな問題になりはしないかと言う懸念はあった。

もっとも、公言して来たところでそれはそれで大きな問題を招きかねない事は

リアスが懸念していた「人間界と悪魔の関係の悪化」と言う結果を招きかねないのだが

現時点よりさらに悪くなるとなれば、とても想像がつかない。

 

「私達は、駒王町と言う町の人々にとって、いえ人間の世界にとって

 許されないことをしたかもしれません。

 その罪滅ぼしと言うわけではありませんが、どうかこの町を守ることに協力させてください」

 

「…………」

 

ソーナの言葉に、アーリィは沈黙を守り続ける。

そもそも、悪魔とはアーリィにとっては存在そのものが許されないものであるのだ。

暫し一考し、アーリィは一つの決断を下し、ヴェールに覆われた口を開く。

 

「……当たり前です。この町を守るだけでその罪が贖われるだなんて

 思い上がりもいいところです。本気で罪を贖うつもりがあるのでしたら

 この町だけでなく人間の世界に対して責任を果たしてください。

 責任も果たさずに自分の世界に引きこもろうなんて虫のいい話、あると思わないでください」

 

アーリィの一言に、ソーナの後ろに控えていた匙が食って掛かろうとしたが

ソーナによって制止される。実際、アーリィはいつでも聖書を出せる準備をしていたし

これがナイトファウルだったりした日には

折角治療を終えた匙が再び病院送りにされてしまう事だろう。

 

「……肝に銘じておきます」

 

「結構です。ではここの守護は頼みましたよ」

 

ソーナとの話も一段落し、イリナを運ぼうとアーリィが聖書のページを開こうとしたとき

アーシアに緑色の触手が絡みつく。

半身が既にアインストと化しているディオドラの仕業であった。

 

「そうはさせない……アーシアは僕のものだ……

 僕の許可なく勝手な場所に行くことは許されない……

 それは僕らの静寂なる世界を乱す事だ……お前も僕のものになれ……!

 静寂なる……世界の……ために……!」

 

「アーシア! くっ、アーシアから離れろ!」

 

ディオドラの巻きつけた触手を斬り捨てようとゼノヴィアと慧介が挑みかかるが

それを妨害するかのようにアインストが現出する。

しかも、そのアインストはかつてイッセーの両親だったものだ。

 

「…………」

 

元に戻す術はない。そう分かっていても、相手が元人間である限り

攻撃の手は無意識に緩められてしまう。

その隙を突いて、本命のアインスト軍団が押し寄せてきたのだ。

アインストアイゼンに、アインストリッター。

ヴァーリでさえも苦戦した一対のアインスト軍団。

 

彼らの知らないさる世界においては、二体のアインストの基になったロボットによる

連携は数多の戦場を駆け抜け、人類に勝利をもたらしていたのだ。

それがこの世界では、人類に対して牙を剥く凶器となり果てているのは何の因果だろうか。

 

「ククッ……言ったはずだ……アーシアは……渡さない……

 静寂なる……世界……アーシア……」

 

アインストの思惑と、ディオドラ本人の思惑が混じり合った不安定な状態になりながらも

ディオドラはアーシアを離そうとはしない。

その一方では、アインスト軍団と人間達による大混戦が繰り広げられていた。

 

「皆さん!」

 

「あなた達は結界の維持をしてください! イリナの事もあります、早く蹴りを付けないと!」

 

「ああ、だがこの数は……ッ!!」

 

ヴァーリをも苦しめたアインストアイゼンとアインストリッターの連携技。

 

――ランページ・ネクロム。

 

その標的にならないように立ち回っているお陰か、ゼノヴィア達はディオドラに対し

中々攻勢に出られずにいた。

唯一、アインストに対し特効のある武器――ナイトファウルを持っているアーリィだけが

アインストと互角以上に渡り合えているが、数の問題は如何ともし難かった。

 

「くっ……そこをどきなさい!」

 

「慧介!」

 

状況を打開しようと、慧介が未知への迎撃者とプラズマフィストを握りしめ

アインスト軍団の一角に切り込む。

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

プラズマフィストの放電を受け、アインストの動きが鈍る。

その瞬間に、未知への迎撃者の一閃が決まり、一瞬の隙が出来たのだ。

その隙を突き、デュランダルがアーシアを捕らえていた触手を切り裂く。

 

「今だ! 行きなさい!」

 

「しかし、慧介……」

 

「俺を誰だと思っている、俺は伊草慧介だぞ! 俺が負けることは無い!」

 

ゼノヴィア達にイリナを連れ病院へ行くよう促す慧介。

その意図をくんだのか、アーリィは聖書を開き始め、ワープの準備に入った。

 

「ま、待ってくれアーリィ! 慧介が……!」

 

「……ごめんなさい、ゼノヴィアさん。今ここで彼まで転送させると

 病院にアインストを運んでしまう事になりかねません。それだけは避けたいのです。

 それはきっと彼も同じ考えでしょう。

 

 ……アーシア、目的地をイメージして。そうすれば病院に飛べるわ」

 

「慧介さん……絶対帰ってきますから、待っててください!」

 

アーシアの力強い言葉とともに、気を失ったイリナを伴いアーリィの転移が開始される。

逃すまいと触手を伸ばすディオドラだったが、その触手は慧介によって斬り落とされる。

 

「ああ……任せなさい。ゼノヴィア君、彼女の説得は君がやりなさい」

 

「……わ、わかった! だから慧介、慧介も無事でいてくれ!」

 

転移が終わる寸前、慧介はゼノヴィア達に向けて笑いかけた。

それは慧介が持つ絶対の自信。生き延びるという強い意志が、そこにはあった。

 

しかし、それはディオドラにとっては忌々しいものでもあった。

たかが人間ごときが、自分に逆らっている。自分の邪魔をしている。

そもそもディオドラにシスターでもなんでもない慧介を生かす理由などない。

男は殺し、女は犯し。そんな貴族にあるまじき下卑た思考の持ち主でもあった彼にとって

慧介はただの狩猟対象。その狩猟対象が、牙を剥いて歯向かっているのだ。

 

「……どこまでも僕の邪魔をしてくれるんだ。そんな貴様は

 徹底的に痛めつけて殺してやらないと気が済まないなぁ……

 騒々しい……人間がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「騒々しいのはお前の方だ。

 ディオドラ・アスタロト……その命、神に返しなさい!」

 

未知への迎撃者と、ディオドラの触手がぶつかり合う。

周囲を取り囲むアインストアイゼンやアインストリッターの攻撃を利用しつつ

慧介はうまく立ち回っている。

彼の教会の戦士としての実力は本物である。ただ、性格に難があっただけで。

そしてその身体能力も並の人間とは一線を画している。

そんな彼だからこそ、こんな芸当が出来ているのだ。

 

結界の維持のために、戦いを見ていることしか出来ないソーナ達は歯痒い思いをしていた。

特に悪魔に転生したことで無意識に人間蔑視の感情が芽生えていた匙は

目の前のただの人間である慧介の戦いっぷりに目を丸くしていた。

 

「あれが人間かよ……信じられないぜ……」

 

「サジ、無駄口を叩いている暇はありませんよ。結界の維持は、彼の援護にもなるんですから」

 

しかし、そんな余裕があるはずがない。

少しでも気を抜けば、遠くで行われている赤龍帝と白龍皇、そして紫紅帝龍の戦いの余波は

すぐに飛んでくるのだ。その影響を及ぼさないために自分達はここに来ているのだ。

ソーナの叱咤を受け、結界の維持に意識を集中し直す。

これもまた、町を守るための戦いではあるのだが……

 

(クソッ、俺にもっと力があれば……!!

 イッセーを止めて、あのアインストを倒せるだけの力があれば……!!

 そうすれば俺は会長に相応しい男になれるはずなんだ……!!)

 

匙の中には、イッセーが抱えていたのに近い雑念が渦巻いているのだった……

 

――――

 

――駒王総合病院前。

 

転移に成功したアーリィ達は、すぐさま院内へと入って行った。

院内はテロの影響で負傷した人々でごった返していたが、機能そのものは失われていなかった。

まるで、何者かに守られていたかのように。

しかし、人手が足りないのは変わらないようで、即座にアーシアが片っ端から治療を施している。

 

「アーシア、無闇に神器を使っては……」

 

「そんな事言ってる場合じゃありません! 怪我の酷い人から優先的に治療します!

 目の前で苦しんでいる人が居るのに、助けないわけにはいきません!

 ……ゼノヴィアさん、イリナさんはお願いします」

 

「分かったわアーシア。あなたの決めた事なら、私は何も言わないわ。

 ……この辺りは私の知っているアーシアと変わりないようね。

 ゼノヴィアさん、私達はイリナを運びましょう」

 

治療のために残ったアーシアと別れ、アーリィとゼノヴィアはイリナを連れて

集中治療室のある方角へと向かった。

その間、アーシアは怪我人の治療を行っていたが、神器を使うという性質上

かのフューラーの演説の影響もあって、訝しむ人も少なくはなかった。

 

「おい……あの子のやってる事って……」

 

「あの恰好からすると、天使の仲間かもしれないぞ……」

 

「人間を人間とも思わない連中の仲間だって事だよな……?」

 

「天使と悪魔って、対立してるイメージだったのに

 それって出来レースだったのよね……じゃあ……」

 

治療に励むアーシアをよそに、ひそひそと誹謗を行う声が聞こえ始める。

実際アーシアは悪魔なのだが、それでもなお人間のために尽力している。

コカビエルの騒動の時には避難誘導も行うほど、人間に親身になっている方なのだが

そんな事はアーシアを訝しむ人々にとっては知る由もなかった。

だが、次第に大きくなっていく声は、アーシアの耳にも届いてしまう。

 

(……やはり、私は……)

 

「あっ! あの時助けてくれたお姉ちゃんだ!」

 

声をかけてきたのは、かつてアーシアが悪魔になる前、公園で助けた男の子。

その子が、アーシアに声をかけてきたのだ。

母親の側はアーシアを遠巻きに見るばかりだが、男の子はアーシアにお礼を言っているのだ。

 

「あの時はありがとう! お姉ちゃんも病院に来てたんだね!」

 

「えっ……う、うん……」

 

あの時との違いは、男の子の言葉がはっきりとわかる事位だが

それだけでもアーシアにとっては大きかった。

その点だけは、悪魔になった事を感謝していた。

ふと、その男の子の頭を撫でる学ラン姿の少年がいた。

 

「今は天使だの悪魔だの言ってる場合じゃないだろ!

 この子の言う通り、彼女には怪我を治す力がある!

 そこでぶつくさ言ってる暇があったら、彼女の手伝いでもしろってんだ!」

 

アーシアが少年の方を見ると、仲間と思しき同じ学ランやセーラー服の少年少女達が

怪我人の誘導を行っていた。そんな彼らに毒気を抜かれたのか

陰口をたたいていた人々は散り散りになって行く。

 

「あの、あなたは……?」

 

「俺か? 俺は兜甲次郎(かぶとこうじろう)ってんだ。ダチの見舞いに来たんだけど、この有様だろ?

 だから、俺は俺のやる事をやるだけだってな。俺は神でも悪魔でも無いからよ。

 そういう力に憧れはするが、そりゃ漫画の話だ。俺は人間として、人間の平和を守りたい。

 

 ……って、俺のダチの受け売りだけどよ。それじゃ『兜甲次郎とゆかいな……」

 

「その名前はボツだって言っただろ? あ、あたしは如月皆美。大那美(だいなみ)高校のもんさ。

 今は1人でも多く協力することが大事だと思うんだ。

 そういうわけだからあたしらはあんたに協力する。

 あんたは1人でも多くの人のけがを治してやってくれよ」

 

アーシアは知る由もなかったことだが、彼らこそセージの中学時代の友人たちであり

大那美高校の番長軍団として平和を守るために活動している人々であった。

彼らの協力もあり、アーシアの治療行為は捗っていたと言えよう。

 

「…………あん?」

 

「どうしたんだい、甲次郎?」

 

「いや、何でもねぇ。セージの病室に、何か感じた気がしたんだがよ……気のせいだろ」

 

――――

 

一方、イリナの治療のために集中治療室へと向かっていったアーリィとゼノヴィア。

……しかし、そこには先客がいた。

 

「……は、成二は無事なんですか!?」

 

「手は尽くしましたが、これ以上は……」

 

そこには、医師らしき人物が佇み、恰幅のいい中年女性が泣き崩れていた。

二人が知る由もないが、彼女こそ歩藤――いや宮本誠二の母親である。

 

「あの……どうかなさいましたか? 私も神に仕える身、お悩み事などあれば……」

 

「アーリィ、そっちも大事だが私達も……」

 

しかし、成二の母にしてみれば目の前にやって来たのは

ヴェールで顔を覆ったシスターらしき人物に、白いローブを纏った

自分の息子と同い年位の少女。一体どういう取り合わせなのだと疑問に思う事だろう。

それすら思わないほどに、気が動転している状態でもあったが。

 

「……君たちのお連れさんも大変な状態のようだね、治療を施すから少し待っていなさい」

 

「あ……私は付き添っていいか? その、彼女はこうなる前気が動転している状態だったんだ。

 目が覚めた時に何か起きるといけない、そのためにも……」

 

「ふむ、そう言う事なら付き添いを認めよう。さあ、こっちに運んで」

 

ゼノヴィアはイリナを担架に寝かせ、成二とは別の病室へと向かっていった。

残されたのは、アーリィと成二の母の二人のみ。

 

「……ここには、私の息子がいるんです。今年の春、進級してすぐに事故に遭ってしまって……

 たった一人の息子なんです、もしもの事があれば私……!!」

 

「落ち着いてください、お母様。私には治療は出来ませんが

 息子さんの無事をお祈りすることは出来ます。

 あの、息子さんのお名前は……?」

 

「成二……宮本誠二です」

 

ここに来て、アーリィの中で一つの疑問が繋がってしまった。

自分に協力してくれた、自分の知らない少年。

身体を持たないというその少年の身体は、ここにあるのだと。

目と鼻の先にありながらも取りに来ないというのは、そうできない事情があるのだと言う事も。

 

そして、今の医者の言葉や母親の様子では、もう長くないと言う事も。

そしてそれはつまり、かの少年が長くない命を以て、激戦に身を投じていると言う事。

その事実に、アーリィは衝撃を受けたのだった。

 

成二の母も、まさか自分の息子が悪魔にさせられて、超常的な力を身に着け

超常的な存在と関わり、戦っているなどと夢にも思っていなかった。

 

 

 

そんな彼女たちの思いをよそに、セージの枕元には一人の悪魔が佇んでいた。

その悪魔こそ、蝙蝠の翼のような頭を持ち、青白い肌をした悪魔。

 

――アモン。

 

アーリィと同様、彼もまた囚われている次元の狭間から

クロスゲートを通じてやって来ていたのだ。

魂を失ったセージの枕元に立つ彼の思惑は、一体何なのであろうか。

 

自らを封印した現魔王に対する復讐なのか。あるいは……

地獄の門は、ここにも新たな騒動の種を蒔いていたのだ――




名護……伊草さんは最高です!
最近では某ゲームマスターのインパクトが強すぎますが。

そしてアーリィさん、セージの事情を知るの巻でした。
今まで(殆ど霊体だけど)普通に振る舞っていたセージですが
母親視点で見ると全然そんな事無いわけで……

バカの相手なんかしてる場合じゃない、割とマジで。

>悪魔組
力でおさえる選択肢しかないため、もう結界で被害を食い止めるしか
出来ることがありません。原作ではレーティングゲーム会場だったのに
拙作では人間界で覇龍やってるものですから猶更。
身動き取れなくて当然かと。

>イリナ
プラズマフィストで失神。防御の脆さが響いた結果です。
人外の攻撃力に何の防備もなく晒されればこうもなりましょう。
一応教会スーツにそれなりの防御力はあると見ていますが
肉体はその限りじゃないでしょうと、そこに最大5億ボルト流せる
放電装置喰らわせてるわけですから……
やはり伊草さんは最高です(白目

……果たしてゼノヴィアの説得に耳を傾けてくれるのかどうか。

>大那美高校組
名前だけ出ていたセージの旧友がここで登場。
彼らも今回の騒動の被害に遭ってますからね。
それにしても人間にスポットを当てると本当に……
ずっと甲次郎の台詞を書いているときに赤羽根氏でなく石丸氏の声が
頭の中で響いていたのは内緒。
マジンガーなネタは色々入れられるけどキューティーハニーネタは
残念ながら入れられなかったどうでもいい裏話。
甲次郎がアモンに反応したのもそう言うわけ。

>アモン
まさにダイナミック脱獄。
クロスゲートが幽閉されている次元の狭間で開いたので
これ幸いにとばかりに脱獄。

現魔王に裏切り者呼ばわりされている彼ですが
その真意は一体如何なるものか。


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Special11. 裏切り者の名を受けて

絶賛夏バテ中です。
皆さんも体調管理には気を付けて。

でないとこうなります。


……さて今回、いよいよアモン行動開始です。


――俺を呼んだのは、お前か――?

 

セージの肉体の眠る病室に、呟きが木霊する。

セージの枕元には、蝙蝠の翼のような頭を持ち、青白い肌をした悪魔が佇んでいた。

しかしその身体はうっすらと透けており、彼もまた魂のみの存在であるかのようであった。

 

彼の名は、アモン。ソロモン72柱の第7位の侯爵の名前。

尤も、今やその位はレーティングゲームのお陰で有名無実化しているのだが。

 

……しかし、彼は違っていた。

レーティングゲームと言うシステムが生まれる前から悪魔として戦い抜き

冥界では勇者とも呼ばれていた。ある時までは。

 

それがいつの時代かは最早知るものの方が少ないが、現代において彼、アモンは

その名を失い、次元の狭間に幽閉された「裏切り者」なのであった。

彼がアモンと呼ばれているのは便宜上に過ぎず、現在存在しているアモン家とは

その関連は無いと言っていい。

ともすれば、血縁関係すら無いのではないかとさえ噂されるほどだ。

 

そんな彼が、何故特殊な神器を持っているとはいえ

その存在の特殊性以外は何の変哲もない少年に目を付けたのか。

 

……アモンもまた、神としての貌を持つ悪魔だからなのであろうか。

神でもあり、悪魔でもある。そんな存在は枚挙に暇がない。

寧ろ純正な悪魔こそ、希少価値が高いのではないかとさえ一部では囁かれている。

 

アモンのみならず、冥界の主流たる72柱の有名所であるバアルもまた

とある神話勢力の籍を置く神が姿を変えたとも、神そのものであるとも言われているのだ。

 

そして今、アモンはセージの頭に手をかざしている。

それは悪魔の呪いか、神の祝福か。

その答えは、まだだれにも分からない――

 

――――

 

曲津組・本拠地跡。

 

リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、そして彼女らの眷属によって展開された結界によって

奇跡的に周囲への被害は食い止められていた。しかし、その動きは完全に封じられてしまい

覇龍と化したイッセーを食い止めるための戦いに参加できないどころか

周囲に絶えず現れるアインストへの応対さえできない状況に陥っていたのだ。

 

「こうなったら……白音、無茶しない程度に任せたわ!

 人間のみんなが病院から帰って来るまでの間

 私もアインストとの戦いに加勢するにゃん!」

 

「……姉様、気を付けて……!」

 

黒歌の参戦により、多勢に無勢だった伊草慧介(いくさけいすけ)も体勢を立て直すことに成功する。

しかしそれでも、たった二人でアインストの軍団を相手にしなければならない事に変わりはない。

二人だけで相手をするには、アインストは強敵である。

 

「ヴァーリ、悪いがちょっと負担増やさせてもらっていいか?」

 

『なるほどな、大体わかった。だったらセージ、ちょっとくすぐったいぞ』

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

 

分身を活用し、セージは覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の相手とアインストの相手を同時に行うことにしたのだ。

ヴァーリの答えを聞くまでもなく、セージ――と言うかフリッケン――が

分身の生成を実行に移したのだ。

 

分身の参戦により、対アインストの戦力比は五分にまで持ち直すことが出来た。

そしてさらに――

 

SOLID-NIGHT FAIL!!

 

「モーフィング! 小石を『アントラクス』に変化させる!」

 

ナイトファウルの実体化、専用弾の変化等アインスト対策のための準備を始めている。

アインストのコアであるミルトカイル石を破砕できる特殊弾「アントラクス」。

武器を使った戦いや立ち回りのうまさではセージより慧介の方に分があるため

造られたナイトファウルは慧介の手に渡されることとなった。

 

「慧介さん、それを!」

 

「ああ、任せなさい!」

 

その一方では、モーフィングに専念しているセージが居たり

レーダーでアインストの動きを逐一伝えているセージが居たり

勿論、遠距離から直接攻撃を敢行しているセージも居る。

分身それぞれに役割を与えることで、多角的な戦術を展開することに成功していたのだ。

 

「があああああああああああっ!!」

 

その甲斐あってか、劣勢だった戦況は徐々に好転しつつあった。

 

しかし、そんなセージにも弱点はあった。

一人一人の力は決して強くない――否、強化が追い付かないのだ。

だが勿論これは、真っ向から戦えばの話である。

そこでセージは分身を活用し、ある作戦に出たのだ。

それはかつて、ある白猫を助けたあの作戦。

 

DIVIDE!!

 

DIVIDE!!

 

DIVIDE!!

 

DIVIDE!!

 

「……ほう、一斉に半減をかけることで

 『1回しか半減できない』って弱点を無効化したのか。面白い」

 

「白音さんを助ける時に使った技の応用だ。

 だが半減してもまた倍加させちまう、こいつはキリが無い!

 ヴァーリ、お前からも頼む!」

 

しかし、セージの言葉を無視するかのようにヴァーリは覇龍のイッセーに殴りかかっていく。

弱体化した状態ではなく、なるべく強い状態の相手と戦いたいという悪い虫が

ここに来て騒ぎ出したのだろうか。ともあれ、足並みがそろっていない。

アインストは勝ち目が見えてきたというのに、一向に覇龍は止まる気配を見せない。

 

「遊んでる場合か! 俺は本気で止めるぞ! モーフィング、『神経断裂弾』を生成!」

 

かつてイッセーと戦った時に「やり過ぎた」と評した神経断裂弾を

何のためらいもなく生成し、使用しようとしている。

そこは既に認識の差異であると言えよう。ヴァーリは今の覇龍を好敵手として見ており

セージは巨大災害として見ている、その違いだ。

 

しかし、ここに来て相手の強大さが如実に表れることになる。

そしてそれは、受け入れなければならない人類の限界なのかもしれない。

 

確かにセージは、実体化させた銃の弾を神経断裂弾に変え、急所めがけて撃ちこもうとした。

ところが、神経断裂弾は相手の肉体の内部に抉り込み

内側から破砕することでダメージを与える銃弾。

つまり、霊的な存在に効かないのは勿論なのだが、そもそもの問題として

 

――銃弾が相手の身体に抉り込まない限り、神経断裂弾はその効果を発揮しないのだ。

 

そして、覇龍の表皮は……セージの実体化させた拳銃では歯が立たなかったのだ。

宝玉部分も狙ったが、見事に弾かれてしまった。目や口の中を狙える状況ではない。

 

「くっ、ならこれだ!」

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

腐食の剣を突き刺すことで、相手の表皮を腐食させ、そこに神経断裂弾を撃ち込むという

とても相手が元兵藤一誠だと思えない戦術を立て、実行に移している。

 

「ぐがあああああああああっ!!」

 

しかし、咆哮と共に振り下ろされた一撃で腐食の剣はへし折られ

セージも一撃を受けてしまい、展開している分身が軒並み崩れ落ちてしまう。

 

「「「「ぐわっ!?」」」」

 

EFFECT-HEALING!!

 

ダメージを受けた分身のうちの一体が、すかさず回復を実行に移したために

分身が全滅するという事態は避けられたが、ここに来てパワー不足が仇となったのだ。

幾らパワーを減らしても、すぐに元に戻ってしまう。

奪ったパワーを使おうにも、際限なく供給されるであろうパワーなど

自壊の恐れがある危険物でしかない。

そう考え、セージは奪った力をすぐさま放出して影響を最小限に食い止めていたのだ。

ヴァーリもその弱点はとっくに把握しており、そのために白龍皇の光翼の力は

最小限度にしか使っていない。と言うより、能力半減と言うデバフにも程がある白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)

ヴァーリが望む、本気の殴り合いにはとても向かない能力だ。

 

「く……っ! さすがは俺と対を成すドラゴンと言うだけの事はあるか!」

 

見境のない覇龍の攻撃の前に、ヴァーリも徐々にではあるが押され始め

 

(単純にパワーが追い付かない……奴を止めるには……どうすればいいんだ……

 

 ……ッ!? な、なんだ……体が……消えて……!?)

 

数で攻めていたセージも、その単体の力が弱いという弱点を突かれ

いとも簡単に蹴散らされてしまう。

アインストとの戦いには光明が差しつつあるというのに、もう片方の脅威は

今なお駒王町を、人間の世界を覆っているのだった。

 

そして、突如として薄くなりだしたセージの身体。

 

『セージ! ま、まさかお前……!』

 

その答えは、病室にある彼の身体が物語っているのだった。

 

――――

 

――駒王総合病院、セージの病室前。

 

この扉の向こうには、春から目を覚まさない一人の少年が眠り続けていた。

過去形なのは、今しがた急変があったため、集中治療室に搬送されたためだ。

集中治療室前に駆け出して行ったセージの母親を見送り、アーリィは病室に微かに残る

悪魔の気配を感じ取っていたのだ。

 

(これは……この魔力の痕跡は彼のものとは違いますね。

 だとすると別の悪魔が? 一体なぜ……?

 聞けば、グレモリー家や四大魔王からは睨まれているらしいですけど

 そもそも、そういう呪術的な殺し方を実行するのであれば

 私の『これ』に反応があって然るべきです。何か違う、別の要因があるのでは……)

 

聖書を開きながら、サイコメトリングをするかのように病室の様子を探るアーリィ。

すると、ぼんやりと魔力の痕が魔法陣を描くように浮かび上がる。

しかしそれは、グレモリーの魔法陣ではなかった。

 

(これは……見たことがあります。アモン、それもアーキタイプの魔法陣。

 ここにいたのは……アモン? 私の知るアモンとこの世界のアモンが同一とは限りませんが

 一体なぜ……?)

 

考え込むアーリィだったが、その考えを中断させざるを得ない出来事が起きた。

病院内が騒がしいのだ。事態がおかしい事に気付いたアーリィは、思案を中断して

病室の外に飛び出したのだった。

 

 

――そこにあったのは、さらなる騒動。

病院に運び込まれた曲津組の組員が、アインストへと変貌して暴れていたのだ。

阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌を遂げかねない事件を前に

果敢にもゼノヴィアとアーシア――厳密にはラッセーだが――がアインストを撃退していたのだ。

 

「ラッセー君、お願いします!」

 

「組員がこんな形で暴れ出しているとはな……だがここは人々の最後の砦みたいなところだ!

 何が何でも私達の手で守るぞ!」

 

「アーシア、ゼノヴィアさん、お待たせしました、加勢します!」

 

ナイトファウルを手に、アインストへと変貌した元組員を撃退していく三人。

そんな中、一人の幼い子供がアインストの餌食になろうとする。

三人からは届かないが、駆けつけた一人――兜甲次郎(かぶとこうじろう)の活躍で事なきを得るのだった。

 

「なんだよこのバケモノは!? これも悪魔の一種なのかよ!?」

 

「違います! けれど人間にとって害のある存在には変わりありません!

 私達が押さえますから、皆さんは逃げてください!」

 

「女の子に任せて逃げるのは癪だけど、俺達にバケモノ退治は出来ねぇからな……

 頼んだぜアーシアちゃん! その代わり、無事に帰って来いよ!」

 

アーシアに促される形で、甲次郎は渋々子供を連れてその場を離れるのだった。

その先には、如月皆美(きさらぎみなみ)をはじめとした大那美(だいなみ)の仲間たちが避難誘導を行っていたのだ。

 

「甲次郎! 無事だったのかい?」

 

「たりめぇだ! それより、この子の親を知らないか?

 さっきあのバケモノに襲われそうなところを助けたんだけどよ……」

 

見ると、子供は親を求めて泣きじゃくっているようにも見えた。

この混乱ではぐれたのだろうか、甲次郎も皆美も、他の仲間達も親を探すが

一向に見つかる気配はなかったのだった。

 

 

そんな中、覚束ない足取りでイリナがやって来る。

相変わらず目は焦点が合っておらず

ともすればアインストに操られているのではないかとさえ思える始末だ。

 

「イリナ! 気が付いたのか! だが今は危険だ、下がって……」

 

「答えてゼノヴィア。なんであなたは戦えるの?」

 

イリナは焦点のあってない目でゼノヴィアを見つめ、質問を投げかける。

戦いながら、ゼノヴィアはイリナの質問に答える。

 

「守るべきものが出来た! それは誰かに強要されたものじゃない!

 私が守りたいと思ったから今私はここにいる!

 私は人間を守りたいから剣を取ったんだ! それは昔も今も変わらない!

 勿論、ここにいる人達もだ!」

 

それはゼノヴィアの戦う理由。だが、今戦っているアインストも元は人間。

そう言う意味では、ゼノヴィアの発言は矛盾している。

人間を守るために人間と戦う。致命的な矛盾だ。

 

「……勿論、今私が剣を交えている相手が元人間だって事も知っている。

 だが、私は誰かの命を脅かすような輩が相手ならば相手が人間だろうと戦うと決めた!

 そこにある家族を、そこから生まれる未来を守るために……私は、戦う!」

 

デュランダルを握り直し、アインストの触手を斬り捨てるゼノヴィア。

これは短い間だったが慧介と過ごしたことで生まれた、ゼノヴィアの新たな戦う理由。

神のためではなく、人のために剣を振るう。

 

それはかつてアーシアが、神の加護を受けるためではなく神を忘れないために悪魔になりながらも

神への信仰を絶やさない、と語ったのと同様、敬虔な信者でありながらも

神の不在に絶望することなく、新たな道を歩み始めた二人だ。

 

その言葉に感銘を受けたものがいる。アーリィだ。

この世界ではアーリィとゼノヴィアの面識はないどころか

そもそもアーリィ・カデンツァと言う人物が存在しているのかさえ疑わしい。

仮にいたとしても、故郷の欧州某国で家族でケーキ屋を営んでいるのかもしれない。

 

しかし今ここにいるアーリィは、そんな平和な家庭どころか

家族を悪魔によって滅茶苦茶にされたのだ。

それ以来歪な心を持ちながらも、教会の祓魔師として彼女の知るゼノヴィアと共に戦い

彼女の知るアーシアとは姉妹のような関係だったのだ。

 

良く見知った存在ながらも赤の他人と言う現状は

アーリィにとっては一抹の哀しさを物語っていたが

彼女の知る存在よりもある意味では逞しくなった二人の存在は

アーリィに力を与えていたのだ。

 

「いいお師匠さんに恵まれましたね、ゼノヴィアさん、アーシア」

 

「ああ。本人曰く『俺は常に正しい、俺が間違う事は無い!』だそうだがな」

 

「えっ? 違うんですか?」

 

ホームステイと言う形で寝食を共にしているゼノヴィアにとっては

伊草慧介と言う人物の人となりがだいぶ見えて来たらしく

彼の言う事を全て鵜呑みにはしていない。

一方アーシアはまだ伊草慧介と言う人物が良く分かっていないらしく

自称である最高な人発言を鵜呑みにしてしまっている。

アーリィも、もしかしたらそう言う傾向があるかもしれないが

彼女はそれほど慧介との接点がないのが幸か不幸か。

 

人を守るための剣。それは、神の戦士として過ごしてきたイリナにとっては

考えもつかない事になってしまっていたのかもしれない。何故なら、彼女の剣は神の剣。

人を守るためではなく、神の敵を討つための剣だったのだ。

そしてその神の不在を知り、存在意義を見失ったところにカテレアら禍の団(カオス・ブリゲート)に入れ知恵をされ

ただの心なき暴力になり果ててしまっていたのだ。

 

「わかんない……わかんないわよそんなの!

 ゼノヴィア、あなたよく神が居なくても平気でいられるわね!?

 神ってのは、私達にとっては生きてる意味そのものだったってのに!

 だから、だから私は……私は……っ!」

 

「そうですけど……違いますよ、イリナさん」

 

泣き叫ぶイリナをあやすように、アーシアが語り掛ける。

しかし、イリナはそのアーシアの声を拒絶し、さらに感情を爆発させる。

そこには、かつてアーシアを魔女と蔑んだ一件も影響しているのかもしれない。

 

「魔女が知った風なことを言わないでよ! 結局そうだ、みんな私から離れていく!

 だから、だから私は……っ!

 これじゃ、私は何のために……何のために……っ!!」

 

泣き叫び、地面に突っ伏すイリナに、アインストの鉤爪が襲い掛かる。

アインストにとって、イリナの事情など知ったことでは無いのだ。

しかし、その鉤爪はゼノヴィアのデュランダルによって弾かれる。

そう。ゼノヴィアがイリナを守ったのだ。

 

「……少なくとも、私はイリナから離れたつもりは無い。

 イリナ、環境は変わっても、私達は友達じゃないのか? それとも、これは私の思い違いなのか?」

 

「ゼノヴィア……そんな……でも……」

 

周囲のアインストは、アーリィがナイトファウルで片づけていた。

安全を確認すると、ゼノヴィアがイリナの手を取ろうと近づこうとする。

 

……しかし、その手は槍によって阻まれたのだ。

槍の飛んできた方向を見ると、ドイツ軍服らしき服装を纏った仮面の女性が佇んでいる。

聖槍騎士団、その一人だ。

 

「そうはいかないわ。彼女は既にこちら側の住人。

 そうでなくとも、禍の団である私が同志を迎えに来ることに何の不思議があるのかしら?」

 

「くっ、貴様……!」

 

「一度闇に魅入られた者が、闇の呪縛から抜け出すのは容易い事ではないわ。

 そしてどんな形であれ、紫藤イリナは自ら闇にその身を投げ出した。

 それに紫藤イリナ。忘れているかもしれないけれど……

 あなた、ただの人間をその手に掛けようとしたのよ?」

 

「そ、それは……」

 

聖槍騎士団の言うただの人間をその手に掛けようとした事実。

それは、兵藤家襲撃の事を指している。イッセーを狙ったはずのその襲撃は

結局はディオドラの差し金によって誰一人として犠牲者を出すことなく終わったのだが

それは結果論に過ぎない。イリナやフリードによって

兵藤夫妻が殺されていた結果に終わっていたとしても不思議ではなかったのだ。

 

「テロに加担したことは確かに許されない事だ!

 だが、それでもイリナは罪を償って、立ち直ってくれると私は信じて……」

 

「甘いわね。罪には相応しい罰が与えられて然るべきものなのよ。

 罰も受けずにのうのうと生きていけるほど、この世界は甘くはないわよ」

 

リノリウムの床に突き刺さった聖槍のコピーを握り直し、切先をゼノヴィアに向ける聖槍騎士団。

今ここでゼノヴィアの武器が封じられることは、アインストに対して無力となってしまう事を意味している。

そうなれば、この病院の被害が拡大することは間違いない。

 

「くっ……」

 

「ふふっ、そう心配せずとも良いわ。今日は紫藤イリナを迎えに来ただけ。

 けれど……置き土産くらいは置いていかせてもらうわ。

 あなたが人として戦うと言うのなら、この世界が人にやさしくないと言う事を思い知りなさい!」

 

そう言い残し、弱ったアインストクノッヘンとアインストグリートの一団に

ドラゴンアップルの果実を投げ寄越す聖槍騎士団。

それに気を取られた隙に、彼女はイリナを連れて転移してしまう。

 

「しまった! イリナ!」

 

「ゼノヴィアさん、イリナも気がかりだけど、今は……」

 

アーリィの言葉に冷静さを保ちながらアインストを見やると

アインストがドラゴンアップルの果実を捕食していた。

すると、体色が灰色へと変色し、クノッヘンの角は肥大化、グリートの触手は毒々しい紫色へと変貌し

ドラゴンアップルの害虫――インベスの特徴を取り込んでいるようにも見える。

 

インベスの特徴を取り込んだと言う事は、その身に毒を宿した事でもある。

対象を己と同質の存在に変えることはアインストにもできた事だが

インベスはそれを攻撃と同時に行えるのだ。

 

「これは……! だが変貌したところでそのコアさえ破壊すれば!」

 

ゼノヴィアの言う通り、変貌したアインストもまたコアを露出させていた。

そこさえ破壊すれば、アインストは塵芥となり消滅する。

そして、そのコアを破壊するのに効率的な武器を持っている人物もいる。

 

「ゼノヴィアさん、コアの周辺が……!」

 

しかし、それを察したのかコアの周辺に外殻を張り巡らせ攻撃が届かないようにしてしまっている。

弱点を保護するために、進化したともいえる。しかし、その進化の速さが異常なのだ。

 

「くっ、だがここでやらなければ、病院に被害が出る!

 私が先行する! アーリィ、後ろは任せるぞ!」

 

「わかりました、アーシアは下がってなさい。あの変貌、ただ事ではないわ」

 

セージの急変、イリナの拉致、アインストの変貌と

様々な事件が立て続けに起こる駒王総合病院での戦いも

いよいよ佳境に入ろうとしていた――

 

そんな中、思いもよらない来客がやって来たのだ。

その姿は人間と変わりのないものであるが、内面はまごう事無き悪魔。

アーリィにとっては、忌むべき存在でもある。

だがそれは、今まで行動を少しだけでも共にしてきた少年の姿に酷似していた。

と言うより、これこそがその少年の元来の姿と言える。

 

「き、君は……!?」

 

「そ、そんな!? な、何故……!?」

 

アーリィ達に加勢する形で放たれた魔力の超音波は、変異したアインストを粉砕。

アインストも彼を敵と判断したのか、攻撃を仕掛けようとするも

その攻撃は透視能力や地獄耳で感知され、チョップのパンチ力で往なされていく。

そのお返しとばかりに、繰り出されたキックの破壊力はアインストさえも怯ませ

指先から放たれた魔力のカッターで、岩のようなアインストの外皮も砕かれていった。

 

「……フン。しばらく見ない間に人間界ってのもバケモノがうようよするようになったもんだな。

 こいつらは『喋ろうともしない』奴らだったが、お前らは違うだろ?

 

 ……教えろ。三大勢力は相変わらず人間にちょっかいを出していやがるのか?」

 

少年の姿を借りて語るのは、明らかにその少年とは何の関係もない人外の存在であった。

その少年の経緯をある程度聞いていた彼女たちにとって、現状は何とも言い難いものであった。

何せ、本来の身体の持ち主は霊体のまま命を懸けて戦っているというのに

その身体はこうして人外の――まだそれが悪魔かそうでないかは知る由もないのだが――勢力によって

勝手に動かされているのだ。

ただ一人、アーリィだけはその正体に察しがついているようだが。

 

「……アモンともあろう悪魔が、随分とせこい事をしているんですね」

 

「ほぅ。俺の事を知っているのか。なら話は早いな、言え。

 サーゼクス・グレモリーやリゼヴィム・ルシファーはまだくだらない戦争をやっているのか?」

 

アモンと呼ばれた少年の言葉に、三人は妙な引っ掛かりを感じていた。

何せ、現在サーゼクスはルシファー姓を名乗っておりグレモリー姓は名乗っていない。

それなのに、目の前の少年は過去の呼び方である「サーゼクス・グレモリー」と呼んでいるのだ。

 

「あの……サーゼクスって部長さんのお兄さんの事ですよね?

 それなら、今は『サーゼクス・ルシファー』って名乗ってますけど……」

 

「はっ! コイツは何の冗談だ? あのサーゼクスがルシファーになっただと?

 俺を次元の狭間に追放しておいて、よくもまぁ魔王なんぞになれたもんだ。

 ……いや、魔王になるからこそ、俺を次元の狭間に追放したのか?

 まぁ、どっちでもいいけどよ。

 

 それにしてもシスターの悪魔か……って事はアジュカ・アスタロトの奴め。

 存在改変の禁忌に手を触れやがったな。俺を次元の狭間に追放したのも

 自分の研究を邪魔されたくないがためか。姑息な真似をしてくれたな……」

 

一人で納得しているアモンだが、その身体はセージのものである。

どれほど彼が自分の身体を取り戻そうと苦心しているのかを知っているアーシアは

アモンに対し、セージの身の上を語ろうとするが――

 

「あの! ……その身体、私の友人のものなんです。

 もしあなたが悪魔で、その身体を勝手に乗っ取っているんでしたら……

 

 ……返してください。それはセージさんの身体です」

 

「何かと思えばそんな事か。知ってる。

 だが、俺を呼んだのはほかでもない、こいつだぞ。

 俺にも、何故こいつが俺を呼んだのかまではさっぱりわからんが。

 それに、次元の狭間に追いやられた際に俺の身体はサーゼクスが滅ぼしてしまったからな。

 だから俺は『冥界の公には存在しない悪魔』なんだよ」

 

目の前の悪魔もまた、身体を失った犠牲者であったのだ。

セージの枕元に立っていたのは、魂的なものだったのであろう。

口調から、アモンの目的は冥界の現政権に対する復讐が大きなウェイトを占めていると思われるが

それはセージが望む「平和な日常」とは程遠い。そもそも彼は悪魔とは縁を切りたいと思っていたのだ。

そんなセージが、アモンの復讐に力を貸すとは思えない。

そう考え、アーシアはアモンを祓おうとするのだった。

アーリィもまた、そのアーシアの考えを酌んでいるようである。

 

「助けてくれたことには感謝いたします。ですが、その身体はアーシアの友人のもの。

 それを私利私欲のために使うというのであれば……」

 

「勘違いするな。俺だってこの身体をタダで使わせてもらうつもりは無い。

 悪魔のやる事には需要と供給、ギブ&テイク、win&winの法則が第一だ。

 だから交渉は俺がやる。だがその前に……」

 

アモンが振り向くと、その先には女性を襲おうとしているアインストの生き残りがいた。

掌をかざし、熱光線を放つとアインストはあっという間に塵と化す。

過去の冥界において、勇者と称えられたアモンの力は、伊達ではなかったと言う事だ。

 

しかし、ここで問題が発生する。

その襲われていた女性と言うのは牧村明日香(まきむらあすか)。セージが姉と呼び慕う存在であったのだが

アモンはその事を知らない。そこで、セージの姿をしたアモンが異能を使い異形の怪物から

その身を守ったのだが……

 

「セー……ちゃん……?」

 

当然、アモンは眉一つ動かさず応えない。

これだけでも、彼女の知る宮本成二に起きた異変を物語っていると言えるのだが

彼女もまた、フューラー・アドルフの演説を耳にした一人。

天使に対する懐疑心があり、悪魔や堕天使に対する敵愾心も少なからず存在する。

 

何も言わず、明日香に背を向けてその場を立ち去ろうとするアモン。

呼び止める声にも応えず、ただ茫然と見送るしかなかった。

そこに駆け付けたセージの母親もまた、一部始終は見ておりアモンを呼び止めようとするが

その声にも、アモンは耳を傾けることは無かった。

 

「行くぞ。この身体の持ち主と話がしたい。場所を知ってるなら案内しろ」

 

「ちょ、ちょっと待て! あの二人はどうするんだ!?」

 

ゼノヴィアの指摘に対しても、アモンは何も返さない。

まるで、今回の事件に対しては関わるなと言わんばかりである。

実際、アモンがやろうとしていることは

一般人である彼女達が関わるべきではない事ではあるのだが。

 

「……何の真似だ」

 

しかし、アモンの態度に異を唱え、立ちはだかるものがいた。アーリィだ。

彼女は悪魔によって家族をバラバラにされるという悲劇を、その身をもって体験している。

その思いを、セージにも味あわせたくない一心から、アモンに向けてナイトファウルを構えている。

 

「せめて、あの二人には事情を話してください。あの人には怒られるかもしれませんけれど。

 けれど、私は悪魔の所業で家族の思いが打ち砕かれる様を見るのだけは、我慢ならないんです。

 私の勝手な我儘ではありますが、それを聞いてくだされば身体の持ち主のもとに送ります。

 ……今、激戦区ですけどね」

 

「アーリィ!」

 

「ごめんなさい、けれどどこかで言わないと絶対に後悔すると思うんです。

 出来ることなら、彼の口から直接言って欲しいのですがそれは近々行われると信じています。

 だから、今はせめて肉体だけでも彼のものである

 あなたの口から事情を説明してほしいのです」

 

ゼノヴィアもアーシアも、家族と言う物を別な形ではあるが得ている。

それだけに家族を失ったアーリィの言葉には強く出られない。

この状況に対しては、説得力があり過ぎるのだ。

 

しかし、アーリィのそんな願いも虚しくアモンの口から出た言葉は

 

――行ってくる

 

――そのうち帰る

 

ただこれだけだったのだ。

これにはアーリィも面喰ってしまったが、アモンは「約束は約束」と譲らない。

仕方なく、別個の提案で「持ち主に話をして、もう一度彼女達に話を付けること」と

折衷案が提案されることとなった。

 

松田や元浜と言ったクラスメートや、甲次郎ら古い友人と違って

アーシアは確かにクラスメートだが、セージが事故に遭った後に転入してきているため

明日香やセージの母親にとってはセージとの面識はない存在である。

ゼノヴィアやアーリィに至っては、言わずもがなである。

その為、ここにいるメンバーでフォローをしようにもできないのだ。

それが、折衷案が出された理由ともいえる。

 

次元の狭間に追放された裏切り者の勇者、アモン。

彼は悪魔の眷属にされながらも自分を曲げることなく戦い続けた少年の肉体を得て

復讐を果たそうとしていた。

 

いよいよ、結果として悪魔を裏切った霊体と

戦いの結果悪魔に裏切られた肉体の摩訶不思議な邂逅がなされようとしていた――




漫画版よりアニメ版を意識しているアモン。
これで少しは救いが見えた……?
それにしても劇場版意識しているとはいえ結構長くなってるような……

>慧介
鬼に金棒な事態が起きてしまいました。
遊び心も会得している今の彼ならば、あのトンデモ兵装も扱いこなせるでしょう。

>ヴァーリ
天は二物を与えずというか、何で戦闘狂にデバフ与えてるんでしょうね。
自己バフならまだわからなくはないんですが。
中々足並みがそろいません。

>セージ
アモンの行動に合わせて、いよいよ霊体消滅の危機。
カウントダウンをしなくなったのは収拾がつかなくなったからではなく
「セージの予想よりも魂の消耗が激しかった」からです。
言い訳ですね、はい。

>イリナ
更生……と思いきや這い寄る混沌直々のお誘い。
テロに加担している時点で平和な暮らしができると思ってるのか? 馬鹿め!
……ってノリですので。この辺原作オーフィスにも言えることですが。

>アインスト
アインストが物を食べるのか? と言われると返す言葉が無いのですが
(アルフィミィならいざ知らず)いつぞや話していたイェッツト化フラグの回収。
ラズムナニウムなんてものが無いこの世界ではドラゴンアップルの果実が
ラズムナニウムの代わりを果たしてます。でもアモンのかませになりましたが。

>アモン
技は全てアニメ版の歌詞から想像してください。
現政権の黒い部分を知っているがために口封じされたありがち展開。
原作イッセーにドライグとハーレムがあるように
セージに与えられたのはディケイドとデビルマン。あれ? どっちも悪魔だ。
次回、いよいよ邂逅を果たします。


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Special12. 悲願

昨今の平常運転状態ですが、今回いよいよ一大イベントが発生します。



駒王総合病院で起きた事は、あまりにも壮絶だった。

駆けつけた天照――の分霊にアーリィやゼノヴィアが一部始終を話すが

大まかに掻い摘んだだけでも

 

・病院にアインストが現れた

 

・宮本成二の身体をアモンと言う悪魔が乗っ取った

 

・紫藤イリナが聖槍騎士団に攫われた

 

・アインストがドラゴンアップルの果実で変異した

 

と、四つもあったのだ。

神仏同盟もここ最近のテロ活動の対応に追われており

アーリィに料理を振る舞った天道寛こと大日如来も忙しい中をぬってきた形だ。

天照ら日本神話の神々は分霊を生み出すことでその力を全国に及ぼしている。

特に主神である天照ともなればその分霊の数は多く

その証拠に日本各地に天照を祀る神社がある。

ここ駒王町も例外ではなかったのだが、それは三大勢力の影響で機能を失っており

ここに来た分霊も、本来ならば別の地域担当の分霊なのだ。

 

「ではっ、今度は私がここを護ります!」

 

力強く宣言した天照の分霊に病院を任せ、アーリィ、アーシア、ゼノヴィアは

アーリィの広げた聖書で元いた場所へと帰還するのだった。

その気配を追って、アモンが自前の魔法陣を展開、転移を開始する。

アーシアも悪魔であるのだが、アモンはそれ以上に悪魔としての影響が強いために

アーシアと同じようにはいかなかったが故の処置であった。

 

ふと、天照の分霊は空を見上げる。

空の向こうは赤く染まっており、そこに向かって無数のヘリや

飛行機が飛んでいくさまが見える。

 

「あれは……我が国の……

 ……あの戦いが終わって以来、こんな事は起きなかったというのに……

 

 ……もう一度、三大勢力に対して話をすべきでしょうか……?」

 

複雑な面持ちで空の彼方を見遣る分霊。

病院はアーリィ達やアモンの活躍、そして甲次郎らのお陰で落ち着きを取り戻しつつあった。

こうなれば、分霊のやる事は外敵が来ないように守護することである。

結界により病院は保護されたが、ひとたび起きた混乱までは鎮まるのに時間を要していた。

 

特に混乱が起きていたのはセージの関係者周りであった。

何せ危篤状態にあったものが突如として起き上がり、超常的な力を揮い

人が変わったような立ち振る舞いをし、それに伴う説明は何一つない。

戸惑うなと言う方が難しい。セージを幼い頃から知っている牧村明日香でさえ

こんな豹変は目の当たりにしたことが無い。母親に至っては言わずもがなだ。

 

もし、フューラーの演説が無ければまた違った形にはなっていたかもしれない。

しかし、人類の敵として設定された三大勢力が公表された現在

セージの豹変もそれに絡んでいるのではないかと言う疑心が生じてしまう。

そんな疑心を、本来の身体の持ち主であるセージは全く知らない……

 

――――

 

「――砲撃を許可する! アレは自国民ではない、自国を脅かす怪物だ!」

 

曲津組アジト跡でもまた、騒動は広がっていた。

ついに自衛隊が本格的に出動、陸上自衛隊と航空自衛隊による攻撃が

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)となったイッセーに対し行われていたのだ。

これに失敗すれば、米軍が駒王町に対し攻撃を行うと声明を発表していたのだ。

 

つまり、ヴァーリとセージは覇龍となったイッセーの阻止に失敗。

結界もアインストの妨害により穴をあけられ、そこから駒王町の外まで被害が及び出したのだ。

 

アインストと戦っていた慧介も、数の暴力やアインストアスタロト――

ディオドラと言う存在に押され

劣勢に立たされる結果になってしまっていたのだ。

 

覇龍に対し戦車や戦闘ヘリが攻撃を加えるさまは、まるで怪獣映画の如く、である。

しかし、その結果もまるで怪獣映画さながらであった。

 

次々と反撃で撃退される戦車や戦闘ヘリ。

一瞬のうちに、駒王町は文字通りの地獄となったのだ。

 

「……イッセー、どうして……」

 

「リアス。もう私達ではどうしようもありませんわ。

 遺憾ですが駒王町を放棄。自衛隊の人達を逃がした後、私達も退避。

 後の事は魔王様に託すより他……」

 

変わり果てた自分の眷属を前に愕然とするリアスに対し

努めて冷静にあろうとする朱乃。しかしその発想は

既に姫島の巫女としてではなく、一人の悪魔としての発想であった。

 

「私達の力では……人間の街一つ守れないというの……」

 

ソーナもまた、駒王町を放棄せざるを得ないという判断に歯嚙みしていた。

無力感に打ちひしがれるリアスやソーナ達を尻目に

覇龍となったイッセーは破壊の限りを尽くしている。

その時だった。所用を済ませたアーリィ達が戻ってきたのは。

 

「これは……何処なんですか……!?」

 

「アーリィ。呆けている場合じゃないぞ。この様子だと……

 はっ! 慧介! 慧介は大丈夫なのか!?」

 

「……これは……み、皆さん大丈夫ですか!?」

 

アーリィ、ゼノヴィア、アーシアの三人は、ここを発ったとき以上の惨状に愕然としており

軽くパニックを起こすほどであった。

幸いにして、すぐに落ち着きを取り戻すことは出来たが

今度はアーシアを出迎えたリアスがさらにショックを受けることとなった。

 

何せ、来るはずが無いと思っていたものが来たのだから。

 

「アーシア! 無事だったのね……っ!? こ、この魔法陣は……アモン!?」

 

そこに佇んでいたのはセージの身体を借りたアモン。

リアスにしてみれば、セージはそこでさっきまで戦っていたはず。

それなのに、その肉体がここに来ること自体があり得ないのだ。

 

「セージ……じゃないわね? アモン家の者とお見受けしたけれど……

 こんな時に何の用かしら?」

 

「あ? 誰だお前? その紅い髪と目つきはサーゼクス・グレモリーに似てるが……

 それより、俺は忙しいんだ。関係ない奴はすっこんでろ」

 

サーゼクス・グレモリー。その名前を聞いた途端、リアスは目を見開いた。

何せ、自分の兄を旧姓である自身の家の名で呼ぶ悪魔など

今の冥界にはほとんどいないと思っていたから。

そしてそれは、現アモン家においても同様である。

 

「ま、待ちなさい! その身体は……私に説明なさ……」

 

「すっこんでろっつったぞ!」

 

アモンの怒号と共に、セージの指先から超音波の矢が放たれる。

リアスが得意とする滅びの力に比べてそれは小さく、細かなものであるが

その威力はリアスを吹き飛ばすには十分すぎるほどであった。

 

「超音波の矢……悪魔の能力の中でも初歩の初歩……

 それがこんな威力を持っているなんて……

 あなた、アモン家の悪魔で間違いないのよね……?」

 

「俺の言葉が聞こえなかったようだな? 俺はすっこんでろ、って言ったんだ。

 それとも、俺の用事を聞いてくれるのか?」

 

「……わかったわ、ただその身体は……」

 

言葉を紡ごうとするリアスを遮り、アモンは語り始める。

 

曰く、この身体は俺が間借りしている。

 

曰く、その話をつけるために俺はここに来た。

 

曰く、そうでなくともこの身体は限界だ。一度持ち主の魂を返さないとならない。

 

その話を聞き、事ここに至ってようやくリアスは自分のしていた事に気付いたのだ。

自分は、セージを殺そうとしていたと言う事に。

肉体にあるべき魂を失った状態が、長く続く筈がない。

イッセーに続き、セージまでも彼女は見殺しにしようとしていたのだ。

 

「セージ……私は……

 そ、そうね。セージよね。セージならあそこに……っ!?」

 

リアスが指し示した先には、すでに消えかけているセージがいた。

仰向けに横たわり、今にも消滅しそうであった。

 

「まずい! 今すぐ何とかしないと……うおっ!?」

 

しかし、タイミングの悪い事に覇龍がアモンを見つけてしまったのだ。

狙いすませたように腹部から赤い光線――ロンギヌススマッシャー――を放ってきたのだ。

その一撃は、アモンを捉えることは無かったものの、避けた先の結界は完全に破れ

上空の雲を霧散させるほどの威力があったのだ。

 

しかし、何故ロンギヌススマッシャーが上空に向けて放たれたのか。

答えは、覇龍にしがみついている存在にあった。

 

「ぐっ……まだ勝負はついてないぞ、赤龍帝!」

 

ヴァーリである。ヴァーリが、すんでのところで射角をずらし、被害を最小限に食い止めたのだ。

しかし、今までの戦いの中で消耗していたヴァーリにこれ以上の戦線維持は出来なかった。

振り落とされるように、ヴァーリは弾き飛ばされてしまう。

 

「あの白い奴……あれが白龍皇か。とにかくチャンスだ、今の内に……!」

 

その隙に、アモンは漸くセージと接触することが出来たのだ。

 

――――

 

「……いよいよ幻覚が見えてきたか、俺が目の前にいるなんてな……」

 

戦いのダメージは逐一カードで回復させていたはずなのだが

それでも仰向けに転がってしまっているセージ。

そんなセージを覗き込むように、アモンが立っている。

 

「漸く会えたな。お前は知らないかもしれないが

 俺を呼んでいた声はずっと聞こえていたんだぜ?

 俺はアモン。名前くらいはサーゼクスやアジュカから聞いたことが無いか?」

 

アモン。その名前にセージはハッとする。

冥界で語り継がれる勇者にして、裏切者。

次元の狭間に幽閉されているアモンと目があった事を思い出す。

だが、セージの知っているアモンは蝙蝠のような頭に青い肌をしていたはずだ。

それが、何故自分の身体を使って話しかけているのか。

 

「俺もお前と似た様な身の上なんだよ。だから波長があったのかもしれんが……

 早速だが、用件を言うぞ。お前の魂を取り戻しに来た。

 いや、お前に言わせば身体を取り戻しに来た、と言った方が早いか?」

 

あまりにも突拍子もない事を言う目の前の自分に、セージは目を丸くする。

それは、かつて自分が試みたが悉く失敗に終わっていたのだ。

そのケースを出し、セージが反論しようとするが――

 

「知ってる。だが騙されたと思ってやってみろ。お前の知ってる悪魔はどうか知らんが

 悪魔は契約の上で嘘は吐かん。少なくとも、俺はな。

 やるなら早くしろ。お前は長らく身体から離れていたんだろ?

 悪魔はともかく、人間がそれをやったら死ぬ。俺としてもお前に死なれると困るんだ。

 宮本成二。お前はお前の身体を取り戻したくないのか?」

 

最早限界であったのは、セージにとっても事実だった。

思わぬ形で差し伸べられた救いの手を、セージは掴む。

 

かつては拒絶された己の身体。

しかし、己の身体に触れても拒絶反応は出ない。

そのまま思い切って、かつてイッセーに乗り移ったように自分の体への憑依を試みる。

 

 

 

…………

 

 

 

………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

..

 

 

 

.

 

 

 

 

 

『どうだ? 久々の肉体は?』

 

「……し、信じられない。しかし、一体なぜ……?」

 

一体、どれだけの間この時を待ちわびただろう。

一体、どれだけの間この日が来るのを夢見ていたであろう。

その目に映る両手は、間違いなく自分のものである。

触れてみた感触も、記憶を頼りに実体化させた自分の霊体と大差ない。

即ち、本来の肉体である。

 

だが、セージには一つ腑に落ちないことがあった。

今まで散々試したにもかかわらず、悉く失敗に終わっていた肉体の奪取。

それが、こうもあっさり行くことがどうしても信じられなかったのだ。

 

『恐らくだが、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が功を奏したんだろう』

 

不意に口を開くフリッケン。

左手の「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」のみならず

右手の「紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)」も肉体に戻っても健在であった。

フリッケンが言うには

 

悪魔の駒で悪魔化した魂と、アモンが乗り移った事で悪魔化した自分の肉体の波長が揃ったため

晴れて自分の体に戻ることが出来たと言う事らしい。

 

『ケガの功名って奴だな……うん? 誰だお前?』

 

『先客で、通りすがりだ。覚えなくていい』

 

『通りすがりの割には居座ってるイメージがあるけどな……まぁいい。これからよろしく頼むぜ』

 

「……挨拶してるところ悪いが、状況を立て直したい。あとに……うっ!?」

 

突如、足元がふらついたかのように崩れ落ちるセージ。

立ち上がろうにも、身体に力が入らない様子だ。

 

『肝心なことを忘れているだろ? お前は長い間寝たきりだったんだ。

 そんな奴がいきなり走り回ったりできるか? 身体のコントロールは俺に任せておけ。

 おい通りすがり。俺にもその力は使えるか?』

 

アモンが指摘した、至極当然の事態。

セージの肉体は数か月も寝たきりだったのだ。そんな肉体を酷使は出来ない。

それもあって、肉体コントロールはアモンのまま

フリッケンの力が使えないかと提案しているが――

 

『ダメだな。俺とお前とではうまくシンクロしない。神器(セイクリッド・ギア)にしたって同じだ。

 悪魔の力を遺憾なく発揮できるお前か、神器の力を発揮できる俺らかを

 適宜使い分けないといけないみたいだ。

 今は、選択の余地は無さそうだけどな』

 

そう。悪魔であるアモンに神器である記録再生大図鑑は使えない。

転生悪魔ならば話は変わったかもしれないが、アモン自身は純正悪魔。

フリッケンの力も、セージが受け取ったものであり、セージ仕様になっているため

アモンではうまく使うことが出来ない。結局、アモンはセージの身体を使って

悪魔の力を揮う事しか現時点では出来ないのであった。

 

『だったら見ておけ、本物の悪魔の戦い方って奴をな!』

 

不安要素を多大に抱えつつも、肉体を取り戻したセージの新たな戦いが幕を開ける。

その相手は、肉体を失った切っ掛けともいえる

兵藤一誠の成れの果てと言うのは何の因果であろうか。

 

――――

 

肉体を取り戻したセージがアモンの力で覇龍に挑む一方

もう一つの戦いにも決着がつけられようとしていた。

 

アインストアスタロトに押されていた慧介だったが

ゼノヴィアとアーリィが来たことで形勢は逆転。

逆に取り囲まれることとなった。

 

「形勢逆転、ですね」

 

「な、何故だ!? 何故お前達は貴族たる僕に逆らうんだ!?

 大人しく僕のものになっていればいいものを!」

 

「……言いたい事は、それだけですか?」

 

激昂するディオドラの前に姿を現したのは、かつて自身を助けた……

いや助けるように仕向けたアーシア。

しかしその眼は冷ややかで、とてもその時と同じ感情で動いているようには見えない。

 

「あ、アーシア! お願いだ! 僕を助けてくれ!

 あの時と同じように! 僕を助けてくれたらなんでもする! だから……」

 

「……えて」

 

「……えっ?」

 

「消えてください、って言ったんです。あなたを治療したのは私の一生涯の汚点です。

 そんな汚点は私自身の手で拭い去りたいところですが、私にそんな力はありません。

 私は悪魔にも良い悪魔と悪い悪魔がいると思ってます。あなたは……」

 

アーシアが言葉を紡いでいる中、言わんとすることを察したアーリィとゼノヴィアによって

ディオドラに杭とデュランダルが突き付けられる。

 

「どうやら、私の知っている以上に悪党だったみたいですね、ディオドラ・アスタロト。

 ああ、私の言葉の意味なんかどうでもいいんです。ただ一つ言えるのは……

 

 私は、アーシア程甘くはありませんよ?」

 

アーリィの突き立てたナイトファウルで、アントラクスが炸裂する。

アインストにとってその材質は毒であった。悍ましい悲鳴に一瞬アーシアが耳をふさぐが

すぐに表情を元の冷たいものに戻し、ディオドラを睨みつける。

 

それでも構わずにアーシアに縋ろうとするディオドラだが

その泣き崩れた顔面の左頬に平手打ちが炸裂する。

 

「イッセーさんに、町の人達に謝ってください」

 

紡がれた言葉に抑揚は無く、刃のように冷たくディオドラに突きつけられている。

何より、アーシアに叩かれたという事実を受け入れられずにいた。

アーリィ共々、自分のものにしたつもりでいたのに、揃いも揃って歯向かっている。

その現実を、ディオドラは受け入れられずにいた。

 

「な、なにを……」

 

乾いた音が響き渡る。二発目。冷たい目でディオドラを睨み続けているアーシアの平手打ち。

今度は往復ビンタになる形でその裏拳がディオドラの右頬に炸裂したのだ。

 

「右の頬をぶたれたら左の頬を出せ、とかつてイエス様は仰いました。

 けれどそれは重要な事じゃありませんし、あなたには関係ありません。

 イッセーさんに、町の人達に謝ってください。そして二度とこの人間界に現れないでください。

 勿論、私達の前にも。それ以外の言葉を、私は交わすことは出来ません」

 

「二度も……! パパにも、アジュカにもぶたれたことが無いのに!」

 

「アーシアは殴ってくれるだけまだ優しい方ですよ? 殴って何が悪いんです?

 言ったはずですよ? 私はアーシア程甘くはない、って」

 

アーリィの言葉の意味するところを察したゼノヴィアは、口を挟まずにいた。

アーシアはぶってでも更生に期待している節がある。

けれどアーリィは更生など期待していない。人に害を成した時点で、殺すつもりなのだと。

どちらもある意味正しいと考えているゼノヴィアや慧介は

ディオドラの処遇に関しては何も言わずにいたのだ。

その証拠に、ディオドラの頭にアーリィのナイトファウルが突きつけられていたのだ。

 

「けれど今はアーシアの意見を尊重します。

 私の知るアーシア以上にある意味逞しく育ってくれた。

 それに対する姉としての答えです。ディオドラ・アスタロト。アーシアの言う通り、罪を――」

 

「罪!? 人を愛することが罪だとでも!? アーシアも、お前も、僕の言う通りにしていれ――」

 

断末魔を上げることなく、アインストアスタロトは呆気なく地に伏した。

アーリィが、その頭部とコアを立て続けに撃ち抜いたのだ。

そのあまりにも呆気なさすぎる最期に、ゼノヴィアは言葉を失っていた。

 

「……天魔伏滅。この地に巣食っていた悪魔はこれで滅びたわけか。

 悪党に相応しい、あっけない最期だったな」

 

慧介も、神妙な面持ちで崩れ落ちたディオドラだったものを見遣っていた。

それと同時に、頭を失ったアインストの軍団は活動を停止する。

アインストの脅威は去った。残るは――覇龍のみ。

 

悪魔によって齎された駒王町の大災害は、間もなく終わりを迎えようとしている――




祝・セージの肉体復活!(限定的ですが)
その一方あっさり倒されたディオドラ。

アーシアに徹底的に拒絶させ、アーリィの手で始末したいと考えた結果こうなりました。
散々嬲り者にしてきた聖女に殺されるってある意味本望かもしれませんが
それでも(補強があるとはいえ)アーリィにディオドラを倒させたかったってのがあります。

(向こうの結末を見ていた分余計に。余分なことかもしれませんが)

>アモン
神器が使えないのはまぁ、そうなるなって事で。
技のフリッケン、力のアモンと言う事でセージの肉体には二つの別人格が住んでる事に。
なのにイッセーに憑依していた時より有情に思えるのは何故なんでしょう。

>天照分霊
実際うちの近所にも天照様縁の神社ありますし。
原作では「悪魔フリーパス」みたいな方法で神社を通過してましたが
それって見方を変えたら「土足厳禁の場所に土足で入る」ようなもんじゃね? と思い
拙作では「駒王町は神の住まない町」になってる設定があります。
(この辺「停止世界のクーデター」辺りに触れてます)
その為他所の担当の分霊がやって来ているってお話。お疲れ様です。
悪魔の支配が無くなってもすぐに担当を常駐させることは出来なかったのです。
何せきちんとした社が……

本文中では触れてませんがダウングレード版と言う事で
艦これの矢矧……ではなく吹雪チックなキャラをイメージ。
史実じゃ全然接点無いですけどね(大和自体が……)

最近艦これやってないなぁ……

>聖女組
ディオドラとの決着がついた時点で彼女達を出した目的の一部は果たせたと思ってます。
別世界ではありますが「ディオドラを倒せる可能性」を示唆させました。
これから先はセージとの絡みになって行くと思います(寧ろこっちが主題になるべきですが)。


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Special13. 家族って何ですか?

筆が進んだので投稿しちゃいます。
次回はまた未定に戻りますが……


周辺のアインストの長であったディオドラが斃れたことにより、アインストの戦力は瓦解。

これにより事態は急激に好転。人間に対し危害を加える存在は

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)となったイッセーのみとなった。

 

しかし、アインストが瓦解したと言う事は、もう一つの悲惨な結末を意味していた。

アインストにさせられたディオドラの眷属や、兵藤夫妻もその運命からは逃れられなかったのだ。

 

まずディオドラの眷属だった元聖女たちだが――

 

 

――元々、壊れていたのだ。否、ディオドラに壊されていたというべきか。

ミルトカイル石も、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)も、彼女達を縛るものは何もなくなったというのに。

 

「ディおドらさま……? デぃオどラさまはどこ……?」

 

「わた……わたし……たち、に……じひ……じひをぉぉぉ……」

 

「あは……あはは……アたラしイ……ナかマぁ……」

 

「ワタシ……タチ……セイジャク……」

 

アーシアやアーリィを見て、仲間であると錯覚している。

自分達の置かれている状況が、わかっていないのだろう。

 

その様子に、アーシアは動揺し、ゼノヴィアは目を背けている。

かつては自分達と志を同じくしたであろう同輩の、変わり果てた姿に。

 

心身共にボロボロに朽ち果てた彼女達に、一同はかける言葉を持ち合わせていなかった。

殊更にアーリィは悪魔にされてしまった彼女の実の妹の末路が。

ゼノヴィアも聖槍騎士団によって連れ去られたイリナが被って見えていた。

 

(このままでは……イリナもこんなになってしまうのか!?)

 

(……もう、彼女達は限界だ。休ませてあげなければ。だが、その方法は……)

 

慧介が言葉を紡ごうとするが、その言葉はとても重いものであった。

何せ、人間である彼女達をともすれば殺さなければならないという発言にも取れかねないからだ。

病院に連れて行くにしても、ここまで壊れてしまってはもう手遅れだろう。

それに、悪魔化はともかくアインスト化の後遺症など前例がない。

黒歌のケースは奇跡的過ぎたのだ。

 

そんな一同の苦悩は、思わぬ形で決着を迎えることとなる。

一瞬にして、ディオドラの眷属だった元聖女達が三匹の怪物に喰われたのだ。

 

「……文句言うなよ。こんな残りカスでも、何も喰わねぇよりマシだろうが」

 

「貴様……フリード!?」

 

怪物とは、フリードの使役していた三匹の魔獣。

彼らによって、元聖女達はあっさりと始末されてしまったのだ。

 

「よぉ。見ねぇ顔も居るけどまぁいいや。

 俺もオーフィスの旦那に言われて掃除に来ただけだから。

 

 ……睨むなよ。どうせあいつら長く生きられないわ心も体もズタボロだわで

 どうしようもないだろ? だから俺様が介錯してやったんだ。今回ばかりは礼を言われこそすれ

 恨まれる筋合いはねぇと思うんだけどよ?」

 

「き、貴様! それがかつての……」

 

「面識ねぇのに一々気にしてられるかっての。面識あってもやる事は変わんねぇけどよ。

 それにしてもありゃ酷いと思わねぇか? あの赤龍帝のクソヤロウ。

 あんなになっちまったら、もう御終いだな。あっちは俺らにゃ怖くて手が出せねぇから……

 

 今日はこの辺で勘弁してやらぁ!

 てめぇらは精々仲良くあのイカレた赤いドラゴンに食い殺されちまえ!」

 

微妙に情けないが、核心を突いた捨て台詞を残しフリードは去って行ってしまう。

結局、ディオドラと言う禍の団(カオス・ブリゲート)にとっての汚点の存在を証明するもの――

眷属だった元聖女をこの世から抹消する事。

それが今回のフリードの目的だったのかもしれない。

目的を果たした今、フリードに覇龍を仲良く倒す義理など何処にもない。

寧ろ、潰し合ってくれれば好都合とさえ考えているのだろう。

口ぶりから、少なくともオーフィス――ウンエントリヒレジセイアはそう考えているのだろう。

 

「フリード! ……くっ、逃げ足の速い……」

 

「イッセーさん……あっ! イッセーさんのお父さんとお母さんも助けないと……!」

 

幸いにして、兵藤夫妻はフリードが見逃してくれたのか手出しはされていなかった。

そして、アインスト化が解けて人間としての姿に戻った兵藤夫妻だったが――

 

「わ、私達は……」

 

「しっかりしなさい。アーシア君、治療を」

 

最早悪魔の事も、自分の息子の事も割れている。

隠し立てしても仕方ないと考えたアーシアも

何のためらいもなく聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を兵藤夫妻に使用する。

 

……しかし、精神的なショックまでは治療することは出来なかった。

 

「ありがとうアーシアちゃん、幾らか楽になったけど……」

 

「あれが……あのバケモノがイッセー……なのね……」

 

沈痛な面持ちで首肯する一同。

兵藤一誠とは、兵藤夫妻がようやく授かった第一子である。

そして一番誠実な子になるように、との願いを込めて名付けられた経緯がある――のだが。

 

その結果がこれである。

小さなものは同じ学び舎の女子には直接的に、男子には間接的に心労を与え。

大きなものは今こうして駒王町を炎の海に包まんとしている。

 

その一部始終をアーシアから説明された兵藤夫妻は、悲しみのあまり泣き崩れてしまった。

待ちに待った自分達の子供が、こんな事になってしまったことに。

 

「なんとか……止める方法は無いんですか?」

 

今暴れている覇龍に、兵藤一誠の意思は無いに等しい。

実力行使で白龍皇のヴァーリと、アモンと融合したセージが止めようとしているが

それでも苦戦している有様だ。

 

「なんとか……なんとかイッセーさんにお二人の無事を伝えられればいいんですけど……」

 

――――

 

一方、覇龍を止める方法は無いかで悩んでいたのはセージも同様だった。

白龍皇も返り討ちに遭い、アモンの力をもってしても不利なことに変わりはない。

自分が表に出られない以上、頭を使う事で何とか状況を打開しようとしていたのだ。

 

(……考えろ! 幾らバケモノだって言っても中身は兵藤のままなんだ!

 何か……何か弱点があるはずだ!)

 

『リハビリ相手にはちときつい相手だな!

 だがな、俺も借りものの身体を無くすわけにはいかないんだよ!』

 

アモンの超音波の矢はイッセーが放った魔力弾にかき消されてしまう。

イッセーには魔力は殆どないはずなのだが、常時倍加されているのだろうか。

リアスさえ怯ませた超音波の矢に競り勝っているのだ。

このまま撃ち合っていては、事態は好転しない。

だからこそ、セージは起死回生の一手を繰り出すべくさっきから思案を巡らせているのだった。

 

そんな中、周囲のアインストが消滅していることにセージが気付く。

それは、アインストの生態を知るセージにしてみれば

「頭が倒された」事を知る切欠になったのだ。

 

「アモン、情報を確認したい! 一旦こいつの相手をヴァーリに任せる形にして距離を置く!」

 

「俺は構わんが、手短に済ませてくれよ紫紅帝龍。

 泣き言は俺の主義じゃないが、この相手を長時間はきつい」

 

ヴァーリの許可も得、セージに促される形でアモンはアーシア達と合流する。

その目的はただ一つ。アインストが消滅した確固たる証拠を得るためだ。

飛びのいて来たセージ――アモンを治療すべく、アーシアが駆け寄る。

 

「ありがとう、それに他の皆も……って兵藤の親御さん!?

 アインストになったはずじゃ……

 それとも、なって間もなかったから影響が少なかったのか……?」

 

「宮本君!? 君まで……君もまさか……」

 

この場にいるというその事実だけで、兵藤夫妻もセージの身の上を知る事となってしまう。

ただし、肉体を取り戻した後であるために

一番肝心な肉体を失っていた時期の事まで考えが及ばなかったのは

セージにとっては幸か不幸か、とても悩ましい所ではあったのだが。

 

「有体に言えば。しかし他所の悪魔はどうだか知りませんが

 俺はこの町をどうこうするつもりはありません。

 寧ろ、この状況を何とか打開できないかと考えてます。しかしその手段が……」

 

「こんな時に言うのもおかしな話ですけど、身体の奪還おめでとうございます、セージさん!

 アモンさんも、話の分かる悪魔みたいでよかったです」

 

アーシアからの祝辞を受け取り、礼を返すセージ。

一方、話が見えていない兵藤夫妻には「長くなるので後で話す」としか答えられない。

そうでなくとも「身体が無かったのでお宅の息子さんの身体を間借りしてました」

 

……などとはとても言えないが。

ともあれ、セージにしてみれば身体が戻ったという喜ばしい事実を受け入れる前に

目の前で暴れている兵藤一誠だったものを何とかすることが先になってしまった。

 

(ナイトファウル……あれはアインストじゃないから

 アントラクスもアルギュロスも効き目が薄い。

 神経断裂弾もさっき跳ね返された。経口で撃ち込めば効くかもしれないが……

 ……果たして、親の見ている前で子供を殺していいものか?)

 

アーリィの持つナイトファウルを見ながら、セージは猶も考えを巡らせていた。

さっきまではアインスト化していたから気にも留めなかったが、元に戻ったならば話は別だ。

兵藤一誠を、生きたまま元に戻す必要が出て来た。一難去ってまた一難、である。

その為には、まず無力化させる必要があるがそれもまた難しい。

真っ向から挑んでも、力で勝てる要素が見当たらないのだ。

 

(くっ……何か、何か手は……そう言えば、俺の身体が戻った理由。

 戻ってしまえば悪魔の駒の共有なんて……共有……共有……

 

 ……この手は、使えるか?)

 

悩んでいる最中、セージはふとある事に気付く。

今こうして体を取り戻せたのは、悪魔の駒で悪魔化した魂と

アモンが乗り移った事で悪魔化した体とで波長が合ったことによるもの。

ならばこの悪魔化の原因をリアス・グレモリーによるものでは無く

アモンによるものと解釈することで、悪魔の駒の共有を解除することは出来ないだろうか?

 

セージの判断はこうだ。

 

・本来、リアス・グレモリーの兵士の駒は兵藤一誠を相手に行ったものである。

 

・宮本成二はその魂が兵藤一誠に乗り移っていたためか

 その悪魔の駒の契約に巻き込まれてしまった形である。

 

・つまり、元々宮本成二とリアス・グレモリーの間に正規の契約関係はない。

 

・その一方、アモンは半ば強引ではあるが宮本成二相手に契約を行っている。

 

・兵藤一誠の悪魔化はリアスの、宮本成二の悪魔化はアモンの

 それぞれの原因だとすれば共有は無効になるはず。

 

『おい。悪いと思ったがちょっと記憶を覗かせてもらった上で言うが。

 ……「あの方法」ならやめとけ。幾ら外道の法って言っても

 解き方には正規の手順を踏んだ方がいいだろ。

 そんなものがあれば、の話だが』

 

セージが考えていた方法。それはかつて黒歌を呪縛から解き放つ時に使った

「悪魔の駒を強引に摘出する方法」だったのだが、今回は相手が悪すぎる。

 

まず単純に相手が黒歌の時とは比べ物にならないほど強い。

次に白音と言うサポートのお陰で的確に場所を絞れた前回と違い、場所を絞る方法がない。

そして何より、致死率のある方法かつ無免許の手術を親族の前でやるのは憚られる。

 

そしてアモンが言う正規の方法。それは――

 

「……話は聞かせてもらったわ。アモン、私にイッセーを手放せ……そう言いたいのね。

 けれど、あの子は悪魔の駒で生き長らえている状態よ。契約を解除したら……」

 

『その上で再契約すればいいだろ。そうすれば今度はこいつを巻き込まない』

 

「そして兵藤は悪魔として蘇る……か。

 それが正しいかどうかはさておき、一応生き長らえはするって訳か」

 

アモンの提案。それは今ある悪魔の駒を一度排除した上で

もう一度兵藤一誠を転生悪魔として蘇らせる方法。

しかし、それには問題があった。

 

……当時ならばいざ知らず、今の兵藤一誠を

リアス・グレモリーが転生させられるかどうか、という問題。

 

「悪魔の駒のメカニズムは俺も色々あったから知ってる。

 その上でやるってんなら俺は止めない。だが……

 

 親御さんの許可はしっかり取れ。今度は催眠術なんてちゃちなもんで誤魔化すな。

 兵藤一誠として確りと生きていくか、ここで災害として討たれるかの瀬戸際なんだ。

 そうでなくとも、大事な子供を訳の分からない存在にさせられるってのは

 当人には大事な問題だろうが。俺が今まで何を言ってきたか、忘れたとは言わさんぞ」

 

「……わかったわ」

 

セージから、兵藤夫妻に向き直るリアス。

その目的は、兵藤一誠を救うために悪魔にすると言うもの。

その一連の行動は、アーリィにとっては複雑な心境であった。

何故なら彼女は両親を悪魔に殺され、妹を強引に悪魔にされている。

そうした背景があってか、家族のいるものを悪魔に変えるという行為には

悍ましさを覚えていたのだ。

 

セージも、止めはしないと言ったものの内心では反対している。

しかし、悪魔の駒を用いた再契約に反対することは兵藤一誠を殺すこととイコールである。

そんな事を、両親である兵藤夫妻の前で表立っていうわけにはいかない。

 

改めて、セージとアーリィは悪魔の、この世の理不尽さにやるせないものを覚えていた。

人間を悪魔に変える外道の法などなくとも

人は自然に悪魔になってしまうものかもしれない。

そうだとしても、こうして生物的に悪魔に変えてしまう

洗脳してしまう道具が幅を利かせている事にアーリィは改めて悪魔と言う物に怒りを覚え

セージとアモンは複雑な心境になっていたのだ。

そして、肝心の兵藤夫妻の答えはと言うと……

 

「……息子を助けてくれたことには感謝いたします。ですが」

 

「人様に迷惑をかけてまで、わたしたちも息子を助けたいとは考えていません……」

 

「えっ……」

 

顔を伏せたまま答える兵藤夫妻に、リアスは驚きの表情を浮かべる。

 

「私達も怪物になってしまった事、朧気ながら覚えています。だからこそ、出した答えです」

 

「あのフューラーの演説も、全て正しい事と思っているわけでもありません。

 ですが、これ以上うちの息子のせいで悲しい思いをする人が居るのならば……」

 

「ですから! 私がイッセーを……」

 

声を荒げ「自分がイッセーを正気に戻す」と言わんとしたリアスの言葉を

兵藤夫妻の言葉が遮る。その眼は、真剣そのものであった。

 

「リアスさん、でしたね」

 

「ええ」

 

「正直に言いますリアスさん。私達はあなたを信用できません。

 何故なら、息子の事をもっと早くに教えて欲しかった。

 言いにくい事はあったでしょう。私達も、自分の息子が悪魔になりましたと言われて

 いきなりそれを信じられるかと言われれば怪しいものがあります。

 ですが、それでももっと早くに私たちに教えて欲しかった。

 今頃になって、怪物になろうとしている正にその時に教えられても

 私達ではもうどうしようもないんです。事実そうです。

 

 ……私達は、そんなに信用できませんか?

 私達から、親としての役割を奪って楽しいですか?」

 

「そ、それは……」

 

「……失礼。もうあの子も高校生、親離れ、子離れすべき時かもしれません。

 ですが、それは何事も平穏に過ぎてこそ初めて言えること。このような事態にあっては

 親離れ子離れ以前に、子の心配をしない親などおりません」

 

かつて、リアスは自分の親からも似た様な事を言われていた。

その為、兵藤夫妻の言葉に返す言葉がない。

リアスとて、駒王町の管理をしているとはいえまだ高校生。

少なくとも日本の法律では、まだ成人すらしていないし

そこまでの人生経験があるかと言われれば、否だ。

こうして事が起きてからでは、何もかもが遅いのだ。

 

何もかもが遅い、を体現したものはなにも兵藤一誠に限った話ではない。

ここにいる宮本成二もまた、奇しくもリアスによって――

より正しくはさらに別の存在によってだが――

運命を狂わされた存在であった。

 

「……グレモリー部長。いやリアス・グレモリー。

 俺は今でもあんたの事を信じてない。

 いや、むしろもう『俺には』関わるなとさえ思っている。

 だがあえて言う。兵藤一誠を止めるには

 今あんたが動かなきゃどうにもならない。

 

 ……赤龍帝の事、知っててやったにせよ知らずにやったにせよ

 今あんたはあいつに対して責任を取らなきゃいけない立場のはずだ。

 やるべき事はやれ。俺もやるべき事はやる……それだけだ。

 

 アモン、交代だ! 俺に考えがある!」

 

『おい、大丈夫なんだろうな? お前の身体はまだ完全じゃないんだぞ?』

 

表に出ていたアモンが下がり、セージの意識が表に出る。

それと同時に、右手に紫紅帝の龍魂が顕現する。

 

「モツ抜きはやらんが……似たようなことは出来るはずだ。

 だがそのためには……リアス・グレモリー。あんたが動け。

 えらそうなことを言って結局他人任せって所に思う所はいくらでもある。

 けれど、こうでもしなきゃ現状は打開できないんだ。

 

 ……だが、兵藤一誠を『殺して』事態を収束させる方法ならある。

 ああ脅しと思って貰っていいさ。けれど、俺の実力じゃそれが限界なんだ」

 

「殺して……まさかセージ、あなたイッセーの悪魔の駒を破壊するつもり!?」

 

「ああ」

 

セージの出した結論。これはさっきから変わっていない。

ただ兵藤夫妻を前にして言わなかっただけで。

しかし、兵藤夫妻もそれ相応の覚悟を持っていると判断した今、躊躇わずに答えた。

 

――兵藤一誠の殺害による、事態の収束と言う手段を。

 

『大体わかった。あの時は救助目的だったが、破壊だったら難易度はぐっと下がるからな。

 急所を狙えば、そこに近い悪魔の駒を序に破壊できるかもしれない。

 悪魔の駒を破壊さえすれば、悪魔の駒で生き長らえているあいつは止まるって寸法か』

 

フリッケンが納得したように答える。

それはつまり、フリッケンとアモンの力をうまく使えば

セージには実行可能と言う事を示していた。

 

(もう一つの方法は、ドライグをあいつから分離させる方法だが……

 ヴァーリの時も、一部しか奪えなかったからな。一部じゃ意味がない。

 あのクソビッチの実験、こういう時には使えそうなんだがな……!)

 

「宮本君……」

 

「すみません、おじさん、おばさん。

 俺には、これ以外の事態の収拾方法が思いつきませんでした。

 ですがこのまま放っておけば、ここのみならず

 世界中も焼け野原になってしまうかもしれません。

 俺は俺の家族を、大切な人を守りたい。

 そのためにはどんなこともする所存です」

 

「君にも、家族はいるんだものな……

 私達も、息子にこれ以上あんなことをさせることは出来ない!

 宮本君、出来るなら君に……」

 

「やめて! お願いだからイッセーを殺さないで! 私からイッセーを取らないで!」

 

事ここに及んでも、リアスは迷っていた。

イッセーを取るか、世界の平和を取るか。両方と言う選択肢もあったかもしれないが

ここまで来てしまった以上、それは至難の業だ。

セージは平和を、リアスはイッセーを、それぞれ取ろうとしていた。

 

しかしそのリアスの言葉に、兵藤夫妻よりも早く反応したものがいた。

家庭の事情を孕んでいる事柄だった故にだんまりを決め込んでいた、アーリィだ。

その言葉に対し、幾らかの怒気を孕んだ声でリアスに語り掛ける。

 

「ふざけないでください。いつからあの少年があなたのものになったんですか。

 家庭の事情に踏み込むほど、私も野暮じゃありませんが

 優先されるべきは家族の言葉じゃないんですか?」

 

「わ、私だってイッセーとは家族のような……それにあなたは部外者――」

 

「私が部外者だからなんだって言うんですか。

 部外者だからわかる、部外者でもわかる事はあるんですよ。

 そもそもあなたの言う家族だって、事後承諾で強引に家族にしただけの事でしょう?

 悪魔の駒がそう言う道具だって事は私だって知ってるんです。

 私も妹が毒牙にかかりましたから。

 このお二人が子供を授かるのにどんな道を歩んできたのか私は聞いておりませんが

 リアスさん、少なくともあなたの言う家族とはここ数か月程度のものでしょう?

 

 そんなあなたが、十何年も一緒に過ごしてきたお二人の決断に

 水を差すような真似をするのはおかしいと思うんです。

 私、おかしなこと言ってますか?」

 

開き直りとも取れるアーリィの剣幕に、リアスはたじろいでいた。

そこには、紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)とも呼ばれた彼女の権威は無かった。

いや、そもそもそんなものは初めから無かったのかもしれない。

ちやほやされ、周りから担ぎ上げられていただけなのかもしれない。

担ぎ手が居なくなれば、御輿は上がらない。

今のリアスは、担ぎ手のいない御輿なのかもしれない。

 

「さて。これ以上問答をしている時間はないみたいです。

 私は悪魔祓いで竜殺しじゃないですが、それでも出来ることをやるだけです。

 ここは私の知っている駒王町じゃありませんが

 それでも破壊されるのを黙って見ているのはやはりできません。

 だから、私も協力させてもらいますよ」

 

「無論、私もだ。どんな形であれ、この状況を止めないことにはな。

 今こそ、人々を守るために剣を振るう時だ!」

 

「ゼノヴィア君、アーリィ君。親不孝は罪だ。罪は……許されない。

 だがそれ以上に、無駄死にも許されない。俺も参加させなさい」

 

「私も、イッセーさんを止めるために私のできることをやります!

 皆さん、思いっきりやっちゃってください! ご両親は私が守ります!」

 

アーリィ、ゼノヴィア、慧介、そしてアーシアが名乗りを上げる。

特にアーシアの言葉は、兵藤夫妻を震わせているほどだった。

 

「全く……アーシアちゃんはこんなに逞しくなったというのに

 あのバカ息子と来たら……!」

 

「皆さん、どんな形でも構いません。バカ息子の事をお願いします!」

 

そしてさらに、名乗りを上げるものがいた。

 

「話は全て聞かせてもらったにゃん! 私達もあのバカに一撃入れるにゃん!」

 

「……まずはセージ先輩、おめでとうございます。でもそれは後ですね。

 あの変態をとっちめるいい機会です」

 

黒歌、白音の姉妹も家族と言う物の在り方については思うところがあるのか

戦線に参加すると名乗り出たのだ。

総がかりで覇龍を止めるという、物量戦の構えになった。

物量戦に呼応するように、セージが分身を生成する。

一人よりも二人、二人よりも三人。その構えでどんどん広がっていく。

アインストも居なくなった今、結界の維持にはソーナ達と朱乃、ギャスパー、木場が構えている。

 

「セージ君! 僕達も持ちこたえて見せる! だからイッセー君を止めてくれ!」

 

「ぼ、僕も頑張ります!」

 

「リアス。殺さずにイッセー君を止める方法はあなたにかかっていますのよ?

 私達の主だというのなら、こんな時くらいしっかりして見せてくださいな」

 

逆に言えば、これ位しなければ暴走した赤龍帝は止められないと言う事である。

いよいよ、肉体を取り戻したセージにとっては最初の。

イッセーにとっては最後になるかもしれない。

 

戦いの火蓋は、覇龍の咆哮と共に切って落とされるのだった――




あれこれ悩んだ結果、兵藤夫妻は「ひとまず」元に戻りました。
ムゲフロでは操られてた人はアッサリ元に戻りましたが
あれバケモノ化してないって区別はありますけれど……

>兵藤夫妻
原作では20巻位でやってそうな事を今やってます。
これ位前倒ししてるから、もう原作なんてあってないようなものですね(遠い目
今後どうなるかは、ちょっと私にも……

因みに、二人の言葉には「もしも自分が二人と同じ立場で、かつ事後報告されたら」
って意見をふんだんに取り込んでいます。
でもアーリィさんじゃないけど言わせてください。

「誠実って何ですか?」

>ディオドラの眷属
R-18タグ付きだったらもっと酷い事になってました。桐生と同じくらいか、もっと酷い事に。
フリードにお掃除されて退場。原作ではお掃除されたフリードが拙作ではお掃除する側に。
皮肉なもんですね(白目
因みに三匹の魔獣は元ネタ通り人間食ったりもしますが
眷属達はもう生命エネルギー的なものが残りカスみたいな状態だったので
本人ら曰く「クソ不味い」だったそうな。やられた(であろう)事をかんがえればそりゃあ。

>対覇龍
あのバカげた唄は抜きにして、リアス主導で動くかと思いきや
リアスが駄々こねたので結局総力戦。
改悪と思っていただいても構いません。ただライザーの時とか考えると
(成長していないという別の問題がありますが)こうなってもおかしくないかな、と。
人選は完全に趣味。木場入れても良かったけれど今回は「聖魔剣の応用」で結界張る役に。
一応リアスが契約解除→悪魔の駒再利用して再契約って流れのはずだったんですが。

実はセージをモツ抜きさせて悪魔の駒を破壊→イッセーの駒も消滅させようとも思ったんですが
これ微妙に矛盾するので没になった経緯ががが。


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Special14. カーテンコール、そしてオンステージ

正直、イッセーの処遇については凄い悩みました。
お陰でgdgdになったかもしれませんが……


「待たせたな、ヴァーリ!」

 

「遅いぞ……ってなんだその大所帯は。大技で巻き込まれるのがオチだぞ?」

 

セージが抜けた間、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と向き合っていたヴァーリにセージ達が合流する。

しかし、その軍勢はヴァーリの目を疑わせるには十分だった。

 

「そうならないように、散開して戦うにゃん。幸いにして個々のチームに分かれても

 戦力は維持できると胸を張って言えるにゃん。敵うかどうかはさておき」

 

「で、フォローのために俺がつく。正直、総力戦で挑まなければどうにもならん相手だろ」

 

黒歌の提案に、セージが乗っかるようにして語る。

黒歌の言う通り、チーム分けして戦えばあのロンギヌススマッシャーで

纏めて消し飛ぶことも無いだろう。

チーム分けは単純だ。元教会組、猫姉妹、その他。リアスはその他に組み込まれている。

セージはそれぞれのチームに分身してつき、各々のバックアップに回る形だ。

 

「けれどお兄さん、この作戦の肝はお兄さんとそこの駄乳悪魔にかかってるんだから

 無茶したらダメにゃん」

 

「だっ、誰が駄乳悪魔よ! この元はぐれ悪魔!」

 

「……喧嘩は他所でやりなさい」

 

言い争いを始める黒歌とリアスを、慧介が呆れた様子で諫める。

こんな事をしている場合ではない。

 

そして、今回の最終目標は兵藤一誠を契約解除し覇龍を内側から瓦解させることにあるのだ。

その為には主であるリアス・グレモリーの力が不可欠である。

 

「けれど、そんなことをしたらセージも……」

 

「身体を取り戻した時点でその辺の心配は要らないはずだ。

 その件に関しては悪いがアモンの方を信用させてもらう。

 グレモリー部長は気にせず兵藤の契約解除だけ考えてろ」

 

「……契約解除、ね。許してちょうだいイッセー。

 もうこれしかあなたを止める方法が無いの……」

 

沈痛な面持ちで一人ごちるリアスをよそに、覇龍となったイッセーは暴れまわり

今なおその周辺を荒地に変えている。

それを止めるべく、この場には数多くの戦士たちが集まっているのだ。

 

このまま放っておけばいずれ自滅して静止するだろう。

しかし、その前に地上が持たない。駒王町を地図から消すわけにはいかないのだ。

いや、下手をすれば日本の東の一部が地図からごっそり消えることになるかもしれない。

そんな危険なものを、放置はできない。

 

故に、敵わぬ戦いとわかっていても戦いを挑むのだ。

ヴァーリは一人嬉々として挑むが、他の面々はその限りでもない。

たった一人の愚かな選択の後始末。これに尽きるのだ。

 

「ゼノヴィア君、よく見てなさい。あれが力に溺れると言う事だ」

 

「ああ、よくわかる。あれは野放しにはできないと言う事も併せてな」

 

慧介の見立てに、ゼノヴィアが首肯する。

実際慧介の言う通り、今のイッセーは力に振り回されているとしか言いようがない。

そんなものを野放しにすればどうなるか、それのわからないゼノヴィアではない。

それぞれ未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)、デュランダルを手に突っ込む慧介とゼノヴィア。

それを迎撃しようと瓦礫が飛んでくるが

その瓦礫はアーリィのナイトファウルによって砕かれる。

 

「あれにも悪魔の要素があるのなら、倒せない事は無いですね。

 話も通じなさそうですし、倒してしまいましょう。この町のためにも」

 

「……一応、部長が止めるって言ってますので止めまでは勘弁してもらえますか?」

 

アーリィの過激な一言に対しツッコミを入れる白音。

彼女もまた、アーリィと共に瓦礫の破砕を行っていたのだ。

悪魔の力も使いよう。彼女は確かに悪魔の力を町を守るために振るっていたのだ。

 

その一方で、背後から気を流し込み覇龍の動きを鈍らせているものがいた。黒歌だ。

 

「さて、そろそろ大人しくしてもらうわよ。これ以上暴れられたら手に負えないものね!」

 

気の流れを変えられたことで苦痛を感じているのか、咆哮が響き渡る。

それと同時に暴れ出すイッセーの攻撃を、セージがディフェンダーで弾く。

集団で、一匹の巨大な竜に挑む様はまるで狩猟ゲームのごとき光景だが

これはゲームではない。現実の戦いだ。

 

覇龍と言えども脆い部分は存在するのだ。

数で翻弄することで、ようやくその脆い部分を突くことが出来る。

神経断裂弾。体内から組織を破砕することで如何なる相手にも致命傷を与える武器。

 

「いい加減にしろ! 君は自分の住む町を破壊したいのか!」

 

人々を守るために剣を振るうゼノヴィアにとって、今のイッセーは相容れない存在だ。

デュランダルが覇龍の鱗を切り裂こうとするが、ここに来てイッセーが力になじんできたのか

セージの持っていたディフェンダーの要領で鱗を硬化、デュランダルの攻撃をはじいてしまう。

 

「なにっ!?」

 

「下がりなさい!」

 

ゼノヴィアが下がる隙を作ろうと、慧介が未知への迎撃者で銃撃しイッセーの目を狙う。

その瞬間、確かに隙は出来た。だが、今度は背中から無数の触手を生やし

我武者羅に触手で周囲を薙ぎ払い始める。

 

それは最後の悪あがきだろうか。何のために振るわれる力なのだろうか。

例えば、ゼノヴィアや慧介は人々を守るために剣を振るう。

アーリィは人に害成す悪魔を祓うために力を揮う。

アーシアは傷ついた人々を癒すために力を揮う。

黒歌と白音はセージへの恩返しのために。

ヴァーリはより強いものと戦うために。それでも無差別な破壊はよしとしていない。

そしてセージは自分の身体を取り戻すために戦っていた。

身体が戻った今、家族を守るためだろうか。

 

それぞれに、戦う、力を揮う理由はあるのだ。

ところが、イッセーにはそれが無い。理由なき力は、危険なものである。

 

「イッセー! いい加減にしなさい!

 人様に迷惑をかけるような子に、育てた覚えはありません!」

 

「母さんの言う通りだ! 今すぐ暴れるのをやめるんだ!」

 

触手の薙ぎ払いに怯んだ一同をよそに、兵藤夫妻の檄が飛ぶ。

その声に反応するかのように、イッセーの動きが一瞬だが、止まる。

 

「ぐ……あ……ががっ……?」

 

SOLID-FEELER!!

 

その隙を突いて、分身したセージが触手を使いイッセーの身体を地面に括り付ける。

仰向けに、大の字に寝かされる形になったイッセー。

その姿はまるで、手術台に寝かされたクランケだ。

 

「グレモリー部長、今だ!」

 

セージの言葉に、リアスは躊躇いながらもイッセーに歩み寄る。

その表情は悲痛なものであったが、ここで何とかしなければ駒王町は、日本は終わる。

 

躊躇いながら、リアスは呪文を唱え始める。

しかし、その工程はもたついており

徐々にイッセーを縛り付けている触手が引き剥がされ始める。

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

総がかりでイッセーを抑えつけようとする一同。

それでも、一向にイッセーから悪魔の駒が抜き出てくる様子はない。

 

「……ダメ! 私にはできない! イッセーを、イッセーを殺す事なんて……!!」

 

「……チッ! ヴァーリ、ここは頼む!」

 

「お、おい!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、分身したセージのうちの一人が、リアスをぶん殴った。

それに合わせ、覇龍の咆哮が響き、触手が引き剥がされようとするが

なんとか捕縛状態は維持されていた。

 

「この期に及んでなんてザマだ! いいか!? 兵藤はな、お前に惚れていたんだ!

 そこには下心は多分にあっただろう、あいつの事だ!」

 

「それは……だからこそよ! 私の手でイッセーを手にかけるなんて、そんな真似……」

 

「お前はレイナーレと同じなのか!? だったらここでまずお前からぶっ潰してやる!

 あいつは兵藤を騙して殺し、結果としてお前のもとに転がり込む原因を作った!

 お前が同じ穴の狢だというなら、兵藤の前にお前から潰してやる!

 そうじゃなくてお前が兵藤を愛しているって言うんなら、ちゃんとけじめをつけろ!

 お前の手で、兵藤を止めるんだ!」

 

リアスの胸倉を掴みながら、セージは叫ぶ。

一しきり叫んだあと、突き放すようにして吐き捨てる。

 

「……ま、愛してないならそれはそれでいいんだが。

 だが、常日頃から眷属だなんだ言ってるんだ、どのみち責任はとれ。

 そしてこれ以上のお膳立ては無理だ。これ以上を要求するなら、それ相応のやり方をする」

 

「それ相応のって……まさかセージ、あなた……!」

 

今更な事ではあるが、既にセージはイッセーを殺す事も念頭に置いて行動している。

それはリアスの思想とは真逆に位置していることも当然ながら、知っている。

しかし、そうでもしなければこの状況は打開できないと考えての事だ。

 

「最後にこれだけ言っておく! 逃げるな!!」

 

拘束を解こうともがく覇龍を抑えつけるために、リアスの元から下がるセージ。

覇龍の力はすさまじく、抑えつけているのも限界である。

もしこの拘束が解けてしまえば、もう同じ手は通用しないだろう。

そうならないためにも、殺すなりなんなりの手段が必要なのだ。

 

「…………イッセー…………」

 

リアスは涙を浮かべるも、誰も彼女を慰めはしない。そんな余裕が無いのだ。

勿論、そうしたいのは山々だと考えている者もいるだろう。アーシアとか。

しかし、それさえままならないほどに事態は切迫しているのだ。

 

リアスの中にも、様々な感情が渦巻いていた。

矜持、愛情、確執等々。それが判断を鈍らせていることは言うまでもない。

そんな余裕はない。今は、決断すべき時なのだ。

 

左手で涙をぬぐい、意を決してイッセーに向き直るリアス。

 

「イッセー、今楽にしてあげるから……!」

 

「早くしろ……これ以上は……持たない……っ!!」

 

リアスが呪文を唱えると同時に、イッセーを拘束していた触手が千切れそうになる。

抑えつけているメンバーも、既に必死である。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の契約解除と拘束の解除のどちらが先になるか、の勝負となっていた。

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

SOLID-FEELER!!

 

力を増したり、巻きつける触手を増やしたりしても、焼け石に水である。

それでも、ここでイッセーは止めなければならない。

リアスの決意を無駄にしないためにも。

この町を守るためにも。

そして、イッセー自身にこれ以上罪を重ねさせないためにも。

 

触手が引き千切れそうになる瞬間、リアスの呪文の詠唱が終わる。

その直後、イッセーから悪魔の駒が抜け出てくる。

それと同時に、糸が切れたようにイッセーは倒れ込み、覇龍も解ける。

戻ったその顔に、生気は無い。

 

「!! イッセー!!」

 

抑え込んでいた一同が崩れ込む最中、リアスはイッセーに駆け寄るが

悪魔の駒で生き長らえていたイッセーから悪魔の駒を抜き取ったのだ。

いわば生命維持装置を抜き取ったようなもの、生きているはずがない。

 

その一方、セージには何の影響もなかった。

アモンによる力添えがあったとはいえ、本来あるべき肉体と魂が揃っているのだ。

この時点で、共有は解除されたと言ってよかったのかもしれない。

 

だが、今のセージはいわば「悪魔憑き」。完全に元に戻ったとは言い難い状態だ。

そもそも、元々セージは瀕死の重傷を負っただけで死に至ったわけではない。

そこを肉体と魂の分離と言うトラブルが発生していたため、消滅の危機に瀕していただけなのだ。

 

自分に何の影響もない事を確認した後、イッセーの方を見遣るセージ。

そこには、必死に悪魔転生の儀式を行おうとするリアスが居た。

しかし……

 

「なんで、なんで悪魔の駒が反応してくれないの!?

 イッセー、お願いだから目を覚まして! イッセー!!」

 

悪魔の駒による転生は、神格を得た者には通用しない他

自身よりも能力の高いものには通用しないという特性がある。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だけならまだ可能性はあっただろう。

しかし過去にイッセーは――と言うよりドライグが、だが

セージから記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で具現化した力の一部を奪ってしまっていたのだ。

その部分がネックとなり、リアスの悪魔の駒は反応しなかったのだ。

そして、イッセーが命を落とした今、ドライグが――

赤龍帝の籠手が逆説的にイッセーから抜け出ようとする。

神器(セイクリッド・ギア)を抜き取られた人間は死ぬ。それは即ち、死んだ人間には神器は宿らない

と言う事を意味していたのだ。

 

しかし、それに待ったをかけるかのように突如として猛吹雪がイッセーを包んだのだ。

 

「じゃーん☆ 魔王少女レヴィアタン、ここに参上だよっ☆」

 

そこにいたのは、セラフォルー・レヴィアタン。

まるで空気の読めていないその様には、そこにいた全員が凍り付いてしまった。

イッセーだけは、物理的に凍り付いているが。

 

「リアスちゃん、この子はサーゼクスちゃんが預かるって。

 今のあなたじゃ、この子を蘇生させるのは無理。

 でも、この子を復活させる方法はいくらでもある。例えば……」

 

「……まさか、変異の駒(ミューテーション・ピース)!?」

 

「うーん、それ以上は言っちゃダメだって☆

 とにかくそういうわけだから、この子の事については安心してちょうだい、じゃーね☆」

 

言うや否や、氷漬けのイッセーを連れてセラフォルーは冥界へと帰って行った。

この一連の事態には、兵藤夫妻も開いた口が塞がらないでいた。

 

ともあれ、駒王町は壊滅の危機を一先ず脱出する運びとなった。

その為に払った犠牲は、決して少なくは無いが。

ここに、想像を絶する戦いは幕を閉じたのだ。

 

「攻撃部隊より本部へ。対象は沈黙。繰り返す、対象は沈黙」

 

『本部より攻撃部隊へ。対象の沈黙を確認。

 現時刻をもって未確認巨大生物対策作戦の終了を宣言する』

 

遠巻きに眺めていた自衛隊の部隊。彼らも壊滅状態になりながらも

駒王町を、日本を守るために戦っていた。その事だけは間違いがない。

そして今、日本がアメリカ軍の攻撃に晒されるという事態も免れることが出来たのだ。

 

――――

 

翌日。

 

超特捜課は一連の事件の後始末に追われていた。

曲津組の支配していた地域は事実上の壊滅。

避難が間に合わず、死傷者も多数出た模様。

その日も、行方不明者を張り出してある掲示板の前には人だかりができていた。

 

その中には、松田や元浜の姿もあった。

人員整理をしているセージの目にも、二人の姿は飛び込んできたのだ。

 

「……よう、二人とも」

 

「せ、セージ! セージじゃないか!」

 

「お前、もう退院していいのかよ!?」

 

セージの姿を確認するなり、二人は駆け寄ってくる。

事情を知っているセージは、多少気まずそうな顔をしながら二人の質問に答えていた。

 

「あー……電気ショック浴びせられた的な?

 それで元に戻ったみたいで、今病院もベッド一杯だし?

 それで、外に出てリハビリしつつの、今警察の厄介に……変な意味じゃないぞ?

 それと、イッセーについてなんだが……」

 

「……悪ぃ。もうあいつのことを話すのはやめようぜって二人で話してたところなんだ。

 この事を話すと、色々あるけどよ……」

 

「あ……すまん。色々あったと言う事で察しておく。だから無理に言わなくてもいい」

 

釈然としないものを感じながらも、松田と元浜はセージの復活を喜んでいた。

事情を知っているセージは、アモンの存在を隠さざるを得なかったのだ。

イッセーの存在についてだが、悪魔になったばかりか怪物になり

その上、氷漬けにされて悪魔に攫われているのだ。

顛末についてはこの二人は知らないにしても、セージは嫌と言うほど知っている。

もう、人間としての兵藤一誠は何処にもいないと言う事だろう。

 

「それより聞いたか? 学校、もうじき再開するんだとよ」

 

「早いな」

 

「ああ……けどよ、俺達暫くはこっちで復興作業の手伝いしようと思うんだ。

 色々あったしよ、学校も行けたら行くけどよ。

 その前に、町が安心して暮らせるような状態じゃないとどうにもならないと思うんだよ」

 

松田と元浜の意見に、セージは大きく頷く。

これが今までイッセーとつるんで素行不良に及んでいた連中の言う事かと思えるくらいに

言っていることはまともだった。

 

「お前も来るんだろ? 学校」

 

「……え? あ、それは……」

 

最初はそのつもりだった。だが、今は手放しで首を縦に振れない。

超特捜課に就いたことは話せば通学に関しては工面してくれるだろう。

そもそも本来セージがなすべきことは学業だ。

バイトも言わずもがな。それ以前の問題として

バイト先がまだ存在しているかという問題はあるが。

それ以上の問題、それはアモンの存在だ。

アモンを身体に宿したまま学校に行っていいものかどうか。

俺も、ある意味では兵藤と同じになってしまったのではないか。

 

そう、セージは考えていたのだ。

 

「っと、そろそろ行かないと。じゃあなセージ、待ってるからな!」

 

それだけ言って、松田と元浜はセージの前から走り去ってしまった。

図らずも、セージには新たな問題が生じる形となってしまった。

アモンの存在は、確かにセージに身体を取り戻させるきっかけになったのかもしれない。

しかし、それと同時に新たな問題を生み出すきっかけにもなってしまっていたのだ。

 

「あ、セージさん。ここにいましたか」

 

「あなたは……アーリィさん? 何故ここに?」

 

思わず考え込んでしまったセージの前に現れたのは、アーリィ。

彼女もまた、アモンの存在についてはよく知っている人物であった。

そして、アモンが齎したセージの家族や大切な人との因縁についても。

 

「いえ……アモンさんをお連れする前に、ご家族の方とお会いしたもので」

 

「それはどうも……え?」

 

アーリィの言わんとすることを、察してしまったセージ。

それはつまり、アモンがセージの家族と遭遇してしまったことを意味していた。

セージの本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。




リアスの決断。そして魔王の横槍。
冷凍保存されたイッセー。これらが意味するところは……

一方、身体が戻った今アモンとの確執に向き合う事になったセージ。
彼が歩む道はイッセーと同じものになってしまうのか、それとも……


ここでお知らせです。
この特別編終了後、数話程度交えた後
「ハイスクールD×D 同級生のゴースト」は完結となります。
セージがゴーストでなくなった今、タイトル詐欺になりますし。
特別編? ……そっちはまぁ、追々考える形で。

そして未定ではありますが
「ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン(仮)」を掲載する予定です。
まだフューラーやオーフィスレジセイアとの決着ついてませんし。

……これらは本当にセージが相手にすべき存在なのかどうか、って疑問はありますが。
逆に言えば拙作ではリアスやイッセーとか除けばこれ位しかボスがいないという。


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Special15. 思惑

特別編なのにアーリィさんの出番が少ない! 詐欺だ!

……とセルフツッコミをしつつ今回は恒例の事後処理編。
筆が乗った+今までサボってた分の埋め合わせをすべく突発投稿です。


――駒王警察署、会議室。

 

「……それでは、あの日からイッセーは……」

 

「……ええ。俺も助けようとはしたんですが、力及ばず……」

 

兵藤夫妻に、セージが今までの顛末を話していた。

何故イッセーが悪魔になったのか。

いつイッセーが悪魔になったのか。

そして、アーシアが兵藤家にやって来るようになった本当の理由。

 

「アーシアちゃんも悪魔だなんて、俄かには信じられないわね」

 

「今まで黙っていて、ごめんなさい。

 私が悪魔だと知られたら、受け入れてもらえないと思ったもので……」

 

「そんなわけないじゃない。アーシアちゃんはアーシアちゃんよ。

 イッセーもそのつもりなんだけど、あれはそれ以前の問題ね……」

 

「全くだ。もう少し厳しく接するべきだったと、今更ながらに後悔しているよ……」

 

アーシアが悪魔だと言う事も、既に知られている。

というより、アーシア自身が話したのだ。

そして、最近になって付き合いの増えたイッセーの周囲の人物の

その大半が悪魔だと言う事も。

イッセーについても、アーシアと同じスタンスで接するつもりだったのだろうが

それ以上にやらかしたことが大きすぎて

両親でさえどうすればいいのか悩み込むほどであった。

 

それから、イッセーを攫ったのが冥界――悪魔の住む場所の魔王であると言う事も。

 

「それより一体、あれはイッセーを攫って何をしようとしているんだ……」

 

「そこまでは。ただ、さっき話した通り兵藤君の神器(セイクリッド・ギア)に原因があるというのが

 俺の見立てです。あくまでも主観ですが」

 

「そんなに凄いものを持っているんですか?」

 

イッセーの母の問いかけに、セージは首を横に振る。

確かに、三大勢力にとって赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は喉から手が出るほど欲しいものかもしれない。

しかし、日々を平和に過ごす人々にとっては全く無用の、それどころか

邪魔にしかならない代物なのだ。こうして騒動を引き起こしている時点で。

 

「少なくとも、人類にとっては害悪以外の何物でも無いと俺は考えてます。

 それに、あの怪物になり果てたのもその神器が……神器に宿るドラゴンが原因です」

 

「そうか……」

 

俯き、考え込んでしまうイッセーの父。

一頻り考え込んだ後、答えを出したように言葉を紡ぎ出す。

 

「母さん。悪いが私はやはりテレビの言う事が正しいと思えるよ」

 

「あなた!?」

 

「いや、勿論宮本君やアーシアちゃんが悪い奴だなんていうつもりはこれっぽっちもない。

 しかし、話を総合すると堕天使の都合でイッセーは殺され

 イッセーを助けたのだってその神器とやらがあったから、と取れなくもない。

 そういう所が悪魔らしいと言えばらしいのかもしれないが

 普通に暮らしている私達にしてみたら、たまったものでは無いよ」

 

「それは……そうですけど……」

 

「それに、神器とやらにしたってそうだ。

 生まれた時からすべてが決まっているかのような存在は気に入らない。

 まるでイッセーが怪物になる事を宿命づけられたようなものじゃないか。

 私には、到底受け入れられるものでは無いよ」

 

「アーシアちゃんは人を癒す力だというのに、どうしてイッセーは人を傷つける力を……

 そう考えれば、確かにあなたの言うとおりね……」

 

ふと、扉をノックする音が響く。

声とともに入って来たのは作務衣姿で味噌汁を携えてきた大日如来に

和服姿の天照だった。

突然入って来たテレビの俳優に、兵藤夫妻は目を丸くする。

 

「あ、あの……」

 

「大日如来様、天照様!?」

 

セージが思わず立ち上がるが、天照が席に着くように促す。

 

「まずは一息入れてはどうだ? それとお二人は初めて目にかかるな。

 既に知っているような雰囲気でもあるが、改めて名乗らせてもらえば――

 

 俺は天の道から寛く世界を見渡す者……天道寛(てんどうひろ)だ」

 

「私は天照大神。この日本において、主神を勤めさせていただいているものです。

 そしてこちらの天道寛。またの名を大日如来。仏教でも最高位に位置する仏です」

 

その挨拶には、兵藤夫妻も慌てふためいていた。

何せ、自分達の国で一番偉いともいえる神様が目の前にいるのだから。

 

「まず、あなた方に謝らなければなりません。確かにあなた方の願いは聞き届け

 子供は授けましたが、その後の事については……」

 

兵藤夫妻は神頼みもしてイッセーを授かったのだ。

しかしそのイッセーは、二人の願いとは真逆の方向へと成長してしまった。

その件について、天照は頭を下げていた。

 

「そ、そんな! どうか頭を上げてください、神様!」

 

「そ、そうです! それはむしろ私達親の責任です!」

 

人間である兵藤夫妻には、神を敬ったところでペナルティが課せられるわけでも無い。

その事もあり、さっきから平伏していたのだが

天照が頭を下げたことに狼狽してしまっていたのだ。

 

「皆落ち着け。まずはこの味噌汁でも飲んで落ち着くんだ。

 冷めないうちに飲んでくれ」

 

事態を収拾しようと、大日如来から手製の味噌汁の差し入れが入る。

尤も、それはそれで「天道寛から味噌汁を頂いた」として

兵藤夫妻の驚きを招くことになったのだが、それは別の話。

 

味噌汁を飲み終えた後、彼らが何故やって来たのかという本題が切り出された。

それは「赤龍帝の関係者でもある兵藤夫妻の保護」を神仏同盟が申し出てきたのだ。

赤龍帝の関係者と言う事で、禍の団や三大勢力に狙われる可能性は非常に高い。

それ故に、身辺保護が必要になっているのだ。

 

「勿論、この町、ひいては日本に住むすべての人は保護の対象です。

 その中の一組として、あなた方の身柄を我々で保護させていただきたいのです」

 

「勿論、決めるのはそちらだ。先程の味噌汁は深く考えなくていいぞ。

 あれは話を円滑に進めるために俺が振る舞ったものだ」

 

「どうします? あなた?」

 

「イッセーには悪いが、この方々の申し出を受けよう。私には悪魔は信用できない。

 天道さん、いえ大日如来様、天照様。お申し出を受けさせていただきます」

 

その言葉を聞き、天照の顔が明るくなる。

こうして、兵藤夫妻の身柄の安全は約束された。だが――

 

「……それと並行して、今我々は未知の怪物への対策を行っている」

 

「アインストの事ですか」

 

「ええ、それで申し訳ないのですが、お二人には検査を受けていただきたいのです。

 アインストに変貌してしまった事がある以上

 その影響がどれほどあるかどうかも確認したいですし……」

 

神妙な面持ちで語る天照に、兵藤夫妻は一も二もなく首肯する。

 

「それ位でしたら。私達もいつまたああなるか、実のところ不安でしたし……」

 

「これ以上、アーシアちゃんや宮本君に迷惑はかけられません。

 こちらこそよろしくお願いします」

 

兵藤夫妻もまた、被害者であったのだ。

アインストの脅威は一先ず去ったものの、まだウンエントリヒ・レジセイアは残っている。

彼が消えない限り、アインストの脅威は完全に払拭されたとは言えない。この世界では。

天照に促され、退室する兵藤夫妻を見送るセージとアーシア。

 

「さて……それで少年。お前も自分と向き合う時が来たようだな」

 

「…………」

 

大日如来が指し示す事。

それは、アーリィが伝えた「アモンがセージの家族、並びに憧れの人である牧村明日香と

遭遇してしまっている」事態に対する、セージからの説明の必要性であった。

 

――――

 

――冥界・堕天使領。

 

「……サーゼクスのバカが。あれじゃ神仏同盟に喧嘩売ってるようなもんだぞ」

 

「ひいては日本に住む人間達に、ですけどね。

 しかし困りましたね、とばっちりが来なければいいんですが」

 

アザゼルの入院している病院。

アザゼルにも、今回の顛末は伝えられていたのだ。

いいニュースとしてはアインストは女王蜂とも言うべき頭を叩けば

無力化できることが判明したこと、人間が対アインスト用の武器を開発したことが挙げられるが

それを帳消しにするくらいの悪いニュースが入って来ていたのだ。

 

まず駒王町の6~7割が被害を被った事。

魔王によって赤龍帝・兵藤一誠が連れ去られた事。

そして今回の事件のそもそもの原因は悪魔勢力に集約される事、が挙げられる。

ここに来て、アザゼルは悪魔との和平や同盟を結ばなかったことを安堵していた。

今回の悪魔の失態のとばっちりが来かねないからだ。

 

「相互不干渉で話がついてるからそこは突っぱねればいいだろ。

 こっちだけでも大変だってのに……ああ、それとヴァイスリッターだったか?

 あれも完全にアインストの戦力にされたそうじゃないか。

 報告じゃ、悪魔側のアルトアイゼンとつるんでヴァーリにも痛手を負わせたとか」

 

「ええ。この件についても頭が痛い所ですね」

 

「……ったく、何でこんな事になっちまったんだろうな……」

 

「少なくとも、現悪魔政権みたく『面白おかしく』で世の中は回りません。

 あなたとてそれは理解しているでしょう? そもそも我々堕天使は……」

 

「あーはいはい。まだ義手が馴染んでない病人なんだから説教は勘弁してくれよシェムハザ」

 

気怠そうに文句を言うアザゼルを無視して、シェムハザの小言は続く。

末端の堕天使はこういうだろう。「悪魔と関わったのが運の尽き」だと。

しかし三大勢力はそれぞれの均衡があって初めて成り立っているほど不安定なものである。

先の会談で相互不干渉が提言されたというのに

悪魔勢力はそれを不平と言わんばかりに不穏な動きを見せている。

 

「……そもそも、あなたの義手だって当初の予定では『何その兵器』な代物だったでしょう。

 三大勢力の情勢が不安定な中で何やってるんですか。

 神器の件みたく、戦争を企てていると思われても文句は言えませんよ」

 

「趣味にまで文句言われるとか……ホント最悪だ」

 

シェムハザの小言は、小一時間ほど続いた。

少なくとも、現堕天使上層部は駒王町の件に関しては一切関与しない構えだ。

今行っていることといえば、クロスゲートの監視とアインストに対する自衛行動のみ。

それ以外は、バルディエル――元バラキエルの捜索や

禍の団(カオス・ブリゲート)に内通している堕天使がいないかどうかの調査ばかりだ。

 

「とまあ、小言はこの位にしておきましょう。それはそうと。

 

 ……レイナーレと言う堕天使をご存知ですか?」

 

「あー……どっかで聞いたな……えーっと……」

 

「先日拘束した禍の団の内通者を尋問したところ、その名前が出たもので。

 彼女、赤龍帝を目覚めさせるきっかけを与えた存在だそうですが……」

 

レイナーレ。その名前がシェムハザの口から出た時

アザゼルは露ほどにも気に留めなかったが

赤龍帝を目覚めさせるきっかけを与えた存在と言えば話は別だ。

寝ぼけた様な表情をしていたアザゼルが、打って変わって真剣な面持ちになる。

 

「……あん? そりゃマジかよ。赤龍帝が目覚めた時期っていやあ

 人間の時間で言えば今年の4月……そういや、サーゼクスの報告書にもあったな……」

 

「報告書にはきちんと目を通してください」

 

「そう言うの嫌いなんだよ。えーっと確か……」

 

左手で頭を掻きむしりながら、アザゼルが何かを思い出そうとしていた。

見かねたシェムハザが懐からタブレットを取り出し、資料を出力する。

 

「『赤龍帝に接近し、神器『赤龍帝の籠手』の排除を試みようとするも

  神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』をめぐる事件において駒王町内で独断専行が見られた。

  下級堕天使3名とはぐれ悪魔祓い数名を私兵として投入するも

  リアス・グレモリーの眷属らによって全滅させられ

  本人も赤龍帝によって重傷を負わされ、以後消息不明となる』――

 

 あん? そんな奴の名前がどうして禍の団の奴の口から出るんだよ?」

 

「そこまでは調査中ですが……おそらく、計画の失敗で自棄を起こし

 禍の団に転がり込んだと考えるのが妥当かと」

 

「……うちにも問題は山積みって訳かよ。捕まえ次第落とし前つけさせないとな、そいつには」

 

左手で頭を抱えながら、アザゼルは不貞寝の姿勢に入ってしまう。

 

「言ってるそばから不貞寝ですか」

 

「そうでもしなきゃやってられねーんだよ」

 

そのまま不貞腐れてしまったアザゼルを前に、シェムハザは肩を竦めるしかなかった。

 

――――

 

――冥界、悪魔領。

 

「……サーゼクス。これは一体どういうことだい?」

 

いつもの事ながらも、非常に面倒臭そうな顔をしながらファルビウムがサーゼクスに詰め寄る。

先日連れ帰った、氷漬けになったイッセーの件に関してだ。

 

「ディオドラがやらかしてくれた件で神仏同盟から事情説明の要求が

 『な・ぜ・か』僕のところに来たんだけど。めんどくさいから帰ってもらったけど」

 

「……赤龍帝を失うわけにはいかない。それだけだ」

 

「俺が言えたことじゃないが、今はあまり私情を挟まない方がいいぞ。

 尤も、こうして連れ帰って来てくれたことに関しては『よくやった』と褒めてやるが」

 

セラフォルーに依頼し、イッセーを連れ帰ってきたことに関して

ファルビウムとアジュカに詰め寄られている。

サーゼクスが何を思ってイッセーを連れ帰ったかははぐらかされたものの

アジュカは「赤龍帝」という研究材料を見つけたことで内心嬉々としていた。

 

「それでサーゼクスちゃん、どうやってその子を生き返らせるの?」

 

「それについては、リアスが帰って来てからやってもらうよ。

 なんだかんだ言っても、彼はリアスの眷属だ。

 どこぞの裏切り者とは違う、正真正銘のな」

 

「その事なんだけどさ……そのいけ好かない方の彼?

 

 ……憑いてるみたいだよ? 『アイツ』が」

 

「……マジで? ねぇサーゼクス、僕魔王から降りていいかい?

 正直ここまでめんどくさい事になるとか想定外なんだけど。

 インベスやアインスト、クロスゲートだって想定外なのに

 その上アモンに脱走されたらこれ以上ない面倒になりそうなんだけど」

 

アモン脱走の報せを聞き、ファルビウムはさらに面倒臭そうに

サーゼクスに対して魔王からの辞退を提言するのだが

サーゼクスは聞く耳を持っていなかった。

 

「アモン……フフッ、ハハハハハハハッ!

 ちょうどいい、リアスの眷属でありながらリアスに牙を剥いた愚か者には

 相応しい罰が与えられそうだよ。アモンが憑いているとなれば好都合。

 禍の団にベオウルフと問題は山積みだけど

 アモンには借りを返さなければならないからね」

 

「ファルビーちゃん。ここまで来たら一蓮托生、だよっ☆」

 

「……やっぱそうなるよね。あーめんどくさ……」

 

セラフォルーの言葉に諦観したかのように、ファルビウムは欠伸を噛み殺しながら

自分の仕事場へと戻っていく。そこではイェッツト・トイフェル司令のギレーズマが

小言を言いに待ち構えていることを知っている。

ただ友人と面白おかしくやれればそれでよかったはずなのに

魔王になってから真逆の事ばかりが起きる。

ファルビウムは、この状況に嫌気がさしていた。

 

彼らは気づいていなかった。

リーダー格である男が、かつて自分達が武力をもって打ち破り

魔王の座を奪い取った存在と同質の存在になろうとしていることに。

 

彼らは確かに主義主張は旧魔王派と異にしている。

しかし、感情のままに動くその様は旧魔王派と然程変わらない。

その方向性が、ただ違うだけなのだ。

 

――――

 

その一方、そのファルビウムに小言を言いに待ち構えていたイェッツト・トイフェル司令

ギレーズマ・サタナキアも人間界で起きた出来事に驚きを隠せないでいた。

 

「……これは流石に予想外だな。アインストの対処法が練られそうなのは吉報だが」

 

「人間がアインスト対策の武器を開発するとは思いませんでしたが。

 しかし、その人間界でディオドラが大きくやらかしてくれた以上

 我々にその武器を譲渡してもらえることは万が一にも無いでしょうな」

 

ディオドラの行いに嘆息しながら側近のハマリア・アガリアレプトが言葉を紡ぐ。

どういう経緯で彼らが人間界の情報を得ていたのか。

それはセージの実体化させた身体に取り付けていた発信機によるものである。

今となっては本物の身体を手に入れた際に外れてしまっているが

そこに至るまでの経緯――アインストとの戦いやディオドラの大まかな顛末――までは

イェッツト・トイフェルも情報を掴んでいたのだ。

 

「……そして、アモンか。また面倒なものが出て来てくれたものだな」

 

「……はっ。現魔王政権の敵に違いはありませんが、我々にも牙を剥く事も考えられます」

 

そもそも、アモンは何を思ってサーゼクスらを裏切ったのか。

それとも、サーゼクスがアモンを裏切ったのか。その真意は当事者のみぞ知るところであり

アモンの情報までは掴んでいなかったイェッツト・トイフェルはその辺りは出遅れた形となった。

 

「だな。ではハマリア。貴公はアモンについての情報を集めたまえ」

 

「承知いたしました。

 それと、ウォルベンからの『セラフォルーが赤龍帝を連れ去った』との情報ですが……」

 

ハマリアに届いた人間界で密偵を行っているウォルベンからの情報。

それは、イッセーを連れ去ったセラフォルーに関する事であった。

 

「最後の通信記録では、暴走は契約解除と言う形で収まったそうだな。

 それを連れ去ったと言う事は……

 

 ……サーゼクスめ。赤龍帝を抑止力にでもするつもりか?

 自身の存在の方がよほど抑止力だと言うに」

 

「或いは、外交のカードにするつもりかもしれませんな。

 セラフォルーにそこまでの知恵があるかどうかはわかりかねますが。

 

 ……では司令。手筈通りに私はアモンの情報を収集してまいります」

 

「うむ。頼むぞ」

 

ハマリアと入れ替わりに、げんなりした顔でファルビウムが入って来る。

これから起こるであろうことを、全て見越しているかのように。

 

――――

 

――駒王警察署、会議室。

 

「……そうだアモン。何でそれを早くに言わなかった?」

 

『聞かれなかったってのもあるが、それをいちいち言えた状況だったか?』

 

「ぐっ……!」

 

セージは、思わずアモンに詰め寄っていた。

何故なら、アモンはセージの身体に憑依した直後に

セージの母親や、セージの憧れの人である牧村明日香に出会っていたのだ。

 

「アーリィさん。それじゃ、母さんや姉さんは俺にアモンが憑いているって……」

 

「そこまではわかりませんけど、アモンさんがあなたのお母さんやその『姉さん』に

 お会いしたのは間違いのない事実です」

 

その事を聞いたセージは、事情を打ち明けようと思わず警察署を飛び出そうとしていた。

フューラーの演説の事は知っている。それでも、真実を打ち明けなければならないと思ったのだ。

そうしなければ、後悔することになる。そうセージは考えたのだ。

 

「セージさん! 一人では……」

 

「気持ちはありがたいですが、これは俺の家族の問題。アーリィさんは……」

 

「いえ、私もあなたのお母さんとお話をさせていただいたことがあります。

 多少なりとも、お手伝いができるかもしれません。

 それに、私はこれでもシスター……」

 

「あ、うち仏教なんで」

 

「あうう……」

 

シスターと言う己の身分でセージの母親の説得に参加しようとしたアーリィだったが

セージの一言に思わず肩透かしを食らってしまっていた。

 

「……なら、仏教の出身である俺からアドバイスだ。

 アーリィと一緒に、家族のところに帰るんだ」

 

そこに口をはさんだのは、天道寛。

大日如来である彼にそう言われては、セージも従わざるを得ない。

意地を張っていてもどうにかなる問題ではない。

その事を見越してか、大日如来はアーリィの同行をセージに勧めたのだ。

 

「……わかりました」

 

「ありがとうございます、ヒロさん」

 

あの戦いの後、アインストもインベスもその姿を見せなくなった事もあり

セージとアーリィは揃ってセージの実家へと向かう事になった――

 

――のだが。

 

「ちょっと待つにゃん。お兄さんに実家に行くなら私も行くにゃん」

 

「……姉様だけだと話がややこしくなる気がします。私も行きます」

 

警察署を出発しようとしていた二人のもとに、黒歌と白音が来たのだ。

その雰囲気は、やや押しかけ女房のそれに近いものがあった。特に黒歌。

 

「黒歌さんはともかく、白音さん。グレモリー部長はいいのか?」

 

「……今は待機と言う名の自由行動中です。

 少なからずイッセー先輩の件が影響しているのは間違いないですが

 私には、言っちゃなんですが関係ないですので」

 

連れて行かないとまた面倒になるとセージが判断したことと

家にいる猫の相手をさせようというセージの目論見の元

二人もセージについていくこととなった。

 

「それじゃ、アーシアさんちょっと行ってくる」

 

「はい、どうかイッセーさんのご両親みたいなことにならないようにお祈りし……いたっ!」

 

祈りをささげるなり、頭痛に苛まれるアーシア。

苦笑いを浮かべながら、セージは三人と共に実家へと向かうのだった。




天界はこの件に関しては静観です。
来たとしてもそれはそれで騒動の種になりそうですが。

>冥界
赤龍帝のネームバリューを当てにしてます。
ギレーズマが言う通り、サーゼクスの方がよほど抑止力ですが
赤龍帝に抑止力としての要素を求めています。

正直、魔王達が原作で隔離結界行きしたのって
「スペック的に扱いきれないから体よく退場させた」
風に感じられる気もするんですよね。
狂言回しとしても機能するアジュカだけ残して。
……そう思うのは私だけ?
因みに拙作でのベオウルフのアインスト化はこの「スペック的に~」の部分も含めてます。
いやだって普通に危険因子ですやん。
強すぎる力は己をも滅ぼす、って事で。

>堕天使
コントやってますが言ってる事は割と真面目。
アザゼルの義手は当然普通の義手。原作仕様になどさせませんよ。
そして懐かしい名前が。アニメではトラウマ()刺激に復活(?)してましたが
拙作でも意外な形で再登場する……かも?
あ、アインスト化はしないです。そんななんとかの一つ覚えみたいな。

アインスト化は他のところで使いたいですし(ぇ

>兵藤夫妻
神仏同盟の保護下に入りました。
あとアインスト化の後遺症が無いかの検査も兼ねて。
本当にイッセーは親不孝だと思うんです。
もの(豪邸やら何やら)で釣るって愛情としては割とアレな部類に入ると思うんですけどね……
少なくとも、情愛()を謳う悪魔の眷属がやる事か? って気はしないでも。


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Special16. 帰郷と告白と愛別離苦

突貫で仕上げたのでちょっと中身が薄いかもしれません。


アモンが蒔いた種のために、セージは自身の母と憧れの人への説明のために

実家に向かう事になった。

そこには、病院でセージの母と言葉を交わしたアーリィ。

それに、セージによって助けられた黒歌と白音が事情説明のために同行することになった。

 

前もって無事と合流の旨を電話で伝えようと

災害用ダイヤルで言伝を残したうえで、行動を開始することにした。

 

「……ごめんなさい。セージ先輩の実家の場所がわかれば、シロにお願いできたんですけど……」

 

「シロって確か使い魔だったよな? 今から『悪魔になりました』って話をしに行くのに

 使い魔を使うのもな……だから気にしなくていいよ」

 

「実家に行って、いなかったじゃ徒労も良い所にゃん。

 お兄さん、本当に実家にお母さんはいるのかにゃん?」

 

「……痛い所をついてくれるな、黒歌さん。俺もそれは思ったんだ。

 まず実家に行って、それでもいなかったら近場の避難所を当たってみる。

 それでもだめなら病院だな」

 

黒歌の言う通り、町がこの有様で悠々と自宅にいるとは考えにくい事だ。

セージもそれは把握しているのだが、人探しをするのにぞろぞろ歩くのは効率が悪い。

しかし、セージと共通の知り合いならまだしも、そうでないメンバーばかりなので

手分けして探すというのも難しい事態なのだ。

 

「いきなり知らない人が来て『息子さんが探しています』なんて言っても

 俄かには信じられないですもんね。仕方ないでしょう」

 

そうした事情を踏まえた上でセージの実家に向かう途中。

 

セージは霊体になった直後、記憶の混乱が起きていたが

それも沈静化した今、場所は大まかに記憶している。

そこに至るまでの目印が軒並み倒壊していたりだのはあったが。

 

「そう言えばセージさん、お父さんは?」

 

「……親父は物心ついた時にはいなかった。じいちゃんとばあちゃんがいたからいいんだけどな。

 そのじいちゃんとばあちゃんも、高校入る頃には旅立っちまったけどな」

 

「ご、ごめんなさい! 私、失礼なことを……」

 

「いや、アーリィさんが謝る事じゃないって。

 それより……どうやって説明すればいいんだろうな、この面子。

 何とか話は合わせてみるが……」

 

実家に帰るだけでも話がややこしいというのにそこに加え

顔をヴェールで覆ったシスター――一応セージの母とは顔見知りだが――に加え

白猫と黒猫は説明のしようが難しい。

猫の姿のままならば「ついて来た」である程度初見は誤魔化せるだろうと思い

セージは一先ず二人には猫の姿のままついてきてもらう事にしていた。

 

セージにしてみれば、頭の痛い話である。

一体どうやって事の顛末を話せばいいのか。

どうやって意識不明の重体の者が、こうして歩けるように回復しているのか。

なお、現在もフリッケンの力を使って足りない分を補っている形だ。

アモンの力を使えば、アモンに意識を持っていかれる。

これから説明をしようと言うのに、それでは意味がない。

 

そんなセージの頭痛の種を知ってか知らずか、足元には黒猫が頭を摺り寄せてきている。

正体を知っているがために、無碍に出来ない。

知らなくても無碍に出来ないのがセージと言う人物なのだが。

案の定、黒猫は白猫に叩かれているのだが、傍から見ている限りでは

じゃれているようにしか見えない。

そんな風景になごみつつも、いよいよセージの実家が見えてきた。

 

「……この辺りもある程度被害受けてるみたいだな。

 ま、被害が無いほうを探すというのが難しい話か。それじゃ、入るぞ――」

 

インターホンを鳴らし、玄関を開けようとするが、鍵がかかっている。

一つ、鍵を開けた後二つ目の鍵を開けようとするが二つ目の鍵は開いていた。

 

「――!!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「……母さんの癖なんだ。家にいる時は一つだけ鍵をかける。

 今鍵は一つしかかかっていなかった。これはつまり……」

 

「家にいるって事かにゃん?」

 

「分からない。開けるぞ――」

 

玄関を開け、恐る恐る家に入る。

以前夢の中で大声を上げ家に帰った事はあるが、今回は事情が違う。

驚かさないためにもセージは恐る恐る玄関で靴を脱ぎ、家の中に入る。

そんなセージをすり抜けるかのように、黒歌は家の中に入り込んでいき

白音もそれを追う形で家の中に入る。

 

リビング。お世辞にも片付いているとは言えない辺りが生活感を醸し出しているが

それは、今のセージにとっては喜ばしい事であった。

 

「この辺りは、被害が少なかったみたいだな。氷上さんの言った通りだった」

 

警察署を出る前、事情を話して出発したセージだったが

その際に氷上から情報を受け取っていたのだ。

それによれば、セージの実家の付近も被害こそあったものの

最低限で済んでいたようだ。少なくとも、フリードに狙われるような事態にはなっていない。

 

――今までは俺がノーマークみたいなものだったからよかったものの

  これからはそうはいかないだろうな……

  兵藤の親御さんみたいに、神仏同盟か超特捜課に保護をお願いしないと……

 

しかし、一階にセージの母の姿は無かった。

いるとすれば、二階の自室だろうか。そう考えたセージは二階に上る。

 

「せ……セージ!? あなた、いつ退院……それ以前に、身体は大丈夫なの!?」

 

質問攻めにあう事はわかりきっていた事なのだが、いざやられると辟易とするのか

多少げんなりしながらも、実体のまま家族と再会できたことに喜びを隠せないでいた。

 

「それについて話があるんだ。ちょっと長くなるし、姉さん――明日香さんにも話したい」

 

「それはいいけど、大変なのよ! 昨日からむーが、むーが……!」

 

むー。正式名称「むつ」。セージが幼少の頃から一緒に育ってきた猫である。

セージとそう変わらない年齢であるため、猫としては少々、高齢である。

そこに加え、セージの重体による長期入院やここ最近のテロなどが重なり

ストレスがたまっていたのかもしれない。

 

「むー……もしかして私がこの辺根城にしてた時にお世話になったあのおばちゃん!?」

 

「へっ?」

 

セージの母がセージの後ろに目をやると、そこには思わず人間の姿になっていた黒歌がいた。

黒歌もこの辺りにいた時、野良猫に混じっていたがその時に偶々外に出ていた

セージの飼い猫・むーの世話になったというのだ。

それを何の前情報も無しに言うものだから、当然周囲の空気が凍り付く。

 

「ね、姉様……!」

 

しまった、という顔をしてももう手遅れである。

怪訝な顔をしてセージと黒歌、白音そしてアーリィを交互に見遣る。

 

「お、お邪魔してます……病院でお会いして以来ですね……」

 

「……せ、セージ先輩には学校でお世話……じゃなくて、姉が……でもなくて……ええっと……」

 

平静を取り繕うアーリィに対し、白音は完璧に狼狽していた。

言おうと思っていた事は全て無理がある。

一年である白音は春先に入院したセージとの接点があるはずがない。

黒歌を引き合いに出すのは論外だ。自分達が猫の妖怪であると言っているようなものである。

言わなければならないのかもしれないが。

 

「って、むーが!? ちょっと、今むー何処にいるんだよ!?」

 

白音と同様に慌てふためいているものがいた。セージである。

彼も飼い猫に何かが起きたという母親の話を聞き

状況を確認すべくむーの居場所を母親に問い質していた。

そんなセージの問いかけに、黙って母親はセージのベッドの上を指し示す。

そこには、段ボールの中に敷き詰められたタオルの上で、丸くなっている猫がいた。

しかし、そこに生気は無かった。

 

「む、むー!?」

 

セージが手を伸ばすと、か細い声で短く鳴く。

その弱弱しい声に、セージの中の不安は加速していく。

 

「……お兄さん、通訳……いる?」

 

「……普段なら『無粋なもの』だろうから要らないと言いたいところですが

 今は少しでも意思の疎通を図りたい、頼みます」

 

セージの異変を感じ取った黒歌が、同じ猫であるむーの言葉を通訳しようと名乗り出る。

その弱り具合は、同じ猫である白音や黒歌にはよくわかるほどであった。

涙を堪える様な声を絞り出しながらセージは黒歌にむーの通訳を依頼する。

 

「……こんな時、私に『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』があれば……と思うのは、聖職者失格でしょうか。

 ですが主よ、これは……これは些か残酷です……!」

 

「……アーリィさん。むーは多分寿命もあると思うから……気持ちだけ貰っておきます……」

 

「始めるわよ……『お帰り、セージお兄ちゃん。しばらく見ない間に大きくなった気がするよ……』」

 

黒歌の通訳が始まると、その場にいた全員が押し黙ってしまう。

 

「『私、ちょっと疲れちゃったかな……この頃色々あったし……ちょっと、休んでも……いい?』」

 

通訳の声に答えるように、セージは黙って首を縦に振る。

その眼には、涙が浮かんでいた。

 

「『お母さん……何があっても、セージお兄ちゃんはセージお兄ちゃんだから……

  最後に……ちょっと、耳の後ろ撫でてもらってもいい……?』」

 

「ああ、それ位なら……だから……やっと、やっと会えたんだ……

 でも……疲れるよな、そうだよな……」

 

セージはむーの耳の後ろを撫でつつ、ベッドに腰掛け抱きかかえ、膝の上にむーを乗せる。

そのまま、静かに耳の後ろや背中を撫で続けていた。

 

「『やっぱ……寝心地……いいな……』」

 

「……ああ、だからゆっくり……休んで……ううっ……!」

 

――その日、宮本家で一つの小さな命が幕を閉じた。

  まるで、セージが帰って来るのを待っていたかのように。

 

宮本むつ。享年15歳。家族に看取られながら、その生涯に幕を下ろしたのだった……

 

――――

 

むーの死亡と言うショッキングな出来事に始まった、セージの里帰り。

しかし、本題はまだ片付いていない。

お茶を飲み、気を落ち着かせつつセージが多少強引に本題に切り出そうとしたとき

黒歌が話を遮って割り込んできた。

 

「……その事なんだけど、まず私たちの事から話すわ。

 さっき、通訳もして見せちゃったしね……」

 

そう言って、黒歌はセージの母の前で人の姿から猫の姿に変わる。

しかし、セージの母はさほど驚いた様子を見せない。

 

「やっぱり。通訳が出来るって時点でもしかして――って思ってたけど。

 セージ、あんた本当に猫に好かれるわね。覚えてる? 小学生の頃――」

 

「母さん、脱線してる」

 

「……それで、私は妹の白音と言います。今通訳をしたのは姉の黒歌。

 猫魈(ねこしょう)って猫の妖怪です。だから、さっきのむーちゃんの言葉を姉様が翻訳できたんです」

 

黒歌に続く形で、白音も自己紹介をする。

白音も猫の姿になり、自身の正体を明かした後に再び姉妹揃って人間の姿に戻る。

 

「私は、ある悪魔の眷属になったの。けれど、その悪魔が妹の白音を強引に眷属にしようとして

 私はそれを守るためにその悪魔を倒し、はぐれ悪魔に――指名手配されたのよ。

 それから色々あったところを、お兄さんに助けてもらったってところ」

 

「……私も、現在進行形である悪魔の眷属なんですが、セージ先輩には

 姉様に会わせてくれただけでなく、姉様を元の猫魈に戻してくれた恩もあります。

 ですから、私達姉妹はセージ先輩に恩返しをしたいと思って

 セージ先輩についていくことにしたんです」

 

「セージ。あんた明日香さんはいいの?」

 

「……だから脱線してる。それにそう言うのじゃないから。

 で、俺の事なんだけど――」

 

母親のボケをさらりとかわしつつ、セージはいよいよ自身の身の上を明かす事となった。

母親相手に身の上話をするのも変なものだと思いつつも

話さないわけにはいかない。

 

それから、短いようで長い、長いようで短い約五か月の間に起きたことを話した。

 

友人を守り、堕天使に殺されかけた事。

その際に友人に巻き込まれる形で悪魔にさせられ、肉体と離れ離れになってしまった事。

悪魔・堕天使・天使の三大勢力のいざこざに巻き込まれてしまった事。

新たな友人を得た代わりに、かつての友人と袂を分かった事。

そして今、身体を取り戻した代わりに新たな悪魔をその身に宿してしまった事を――

 

「……掻い摘んで言えば、そんなところかな」

 

「……改めまして、病院でお会いして以来ですね。私、アーリィ・カデンツァと申します。

 あの時お会いした息子さんは、その悪魔が表に出ていた状態だったんです。 

 私の仕事ならば、本来は祓うべきだったのでしょうが

 彼に事情がおありだったようで、そこに至れませんでした。

 職務怠慢でご心配をおかけし、申し訳ありませんでした」

 

「いえ、とんでもない! アーリィさんでしたね?

 私、シスターさんの前でこんな事を言うと怒られるかもしれませんけれど

 そのセージに宿った悪魔には感謝……ってのも変な話ですけど。

 だってそうでしょう? その悪魔のお陰でセージがこうして元気になってくれたんですから」

 

「……あのな母さん? アモンはタダで俺を生き返してくれたわけじゃないんだぞ?

 知ってるだろ? フューラーの演説。それと禍の団(カオス・ブリゲート)ってテロリスト。

 俺さ、その戦いに巻き込まれる形になるんだぞ?

 いや、怖いとかそういうんじゃ……まぁ、そりゃ怖いは怖いけど」

 

セージの指摘にも、母は眉を動かさない。

 

「それは確かに問題ね。けれど、あなたには新しいお友達が出来たんでしょ?

 それに、昨日の夜夢でおばあちゃんが言ってたのよ。

 『これからはセージの好きにさせなさい』ってね。

 

 ……でも、これだけは約束。『絶対に生きて帰ってきなさい』。

 その約束を守れないようじゃ、母としてあなたを外に出すわけにはいきません」

 

『心配するな。この俺がついているんだ。人間一人くらい、俺が守ってやる。

 それに、こいつに死なれちゃ俺も困るんでな』

 

「アモン!? 誰が勝手に……」

 

セージの雰囲気が変わり、アモンが表に出る。

しかしそれでも、セージの母は微動だにしなかった。

 

「そう、なら改めて言わせてちょうだい。『私の息子を助けてくれてありがとう』。

 でも、セージは私のただ一人の息子で最後の家族。

 悪魔って、約束を守るものだって何かで聞いたわ。

 ……セージの事、よろしく頼むわね」

 

『任せておけ』

 

「それと白音さんに黒歌さん、アーリィさんだったかしら。

 あなた達も色々とありがとう。問題が片付いたら、またいつでもうちに来てちょうだい。

 ご飯くらいは御馳走するわよ」

 

満面の笑みで、セージの母はやって来ていた一同を迎え入れる発言をした。

拗れることなく、話が進んだことに一同は胸をなでおろしていた。

 

「お兄さん、物分かりのいいお母さんで助かったにゃん」

 

「ああ、うち昔から妖怪とかオカルト系に造詣があってね……

 信仰しているのは仏様だけど、それ以外のにもそこそこ免疫があるんだよ。

 ま、本物と対話するのは初めてだからそこは心配だったけどな」

 

こうして、セージの母親の許可を取り付けたのだが

もう一人、事情を説明しなければならない人が居る。

牧村明日香。セージの憧れの人だ。

 

「じゃ、姉さんのところには俺一人で行ってくるよ。

 その……訳は聞かないでくれると有難いけど」

 

「…………」

 

むくれっ面をしながら、セージを睨んでいる黒歌。

そんな黒歌にツッコミを入れつつ、白音はセージを見送る姿勢を取っている。

 

「……何言ってるんですか姉様。セージ先輩、留守は私達が守りますので」

 

「私と同じ思いはさせませんから、安心してください」

 

一同に見送られながら、セージは一人家の近くにある牧村明日香の家に向かっていた。

 

牧村家前。

インターホンを鳴らすも、反応はない。

 

それでもしびれを切らさずに待っているセージ。

傍から見ればストーカーと疑われかねないほどである。

 

そんなセージを見かねてか、近所の人が声をかけてきた。

 

「そこの人なら、息子さん連れてどこか行っちまったよ」

 

「……えっ?」

 

「で、あんた宮本成二さんかい? 手紙を預かっているんだけど」

 

手紙を受け取り、目を通すセージ。

そこには、セージにとっては衝撃的な事が記されていた。

 

――セーちゃんへ。

 

まずは退院おめでとう。

けれど、私達はこの駒王町を出ることにします。

私の子供の教育上も良くないし、やはり私はあなたの声には応えられません。

 

病院で会ったセーちゃんがどこか違うのはわかってたつもりです。

テレビで言ってたことを全部鵜呑みにするつもりもありませんが

それだけが原因じゃありません。

と言っても、言い訳がましいわね。

 

色々言うと、恨み言が混じってしまいそうなのでこれだけ言わせてください。

 

「今までありがとう」

 

――牧村明日香

 

「…………手紙、ありがとうございました」

 

そこに記されていることを察したセージは、手紙を寄越してくれた人に礼を言いながら

そのままどこかへと歩いて行ってしまった。

 

――――

 

――二時間ほど後

 

「お兄さん、遅いにゃん」

 

「きっと積もる話があったのよ。何年来の知り合いだもの、明日香さんは」

 

セージの帰りが遅い事に不満を持つ黒歌だが

セージと明日香の関係を知っている母は何も言わず

それに倣う形で白音とアーリィも特に何も言わない。

 

そんな中、家のインターホンが鳴らされる。

防犯のため、アーリィが出ると、そこには超特捜課のテリー柳警視が居た。

 

「アーリィさん? ああ、そう言えばついていくと言っていたか。

 俺もセージの親御さんに用があって来たんだが、セージはいないのか?」

 

「え、ええ……」

 

「これはセージの事に関してでもあるから、出来れば本人が居て欲しかったがまぁいい。

 お邪魔させてもらうぞ」

 

「あらあら、今日は千客万来ね」

 

その日、セージの母はさらに衝撃的なことを聞かされるのだった。

 

「宮本成二君のお母様ですね? 自分は警視庁超常事件特命捜査課のテリー柳警視です。

 宮本君には、本人の希望もあって我々超特捜課の特別課員として働いてもらっています。

 失礼ながら、宮本君が身体を失っていた話は御存じで?」

 

「ええ、先ほど本人から」

 

「でしたら話は早いですね。ちょうどその時に、学校にいけないと言う事もあり

 特別課員として身柄を預からせてもらっていたのです。

 こちらとしては、引き続き捜査に協力していただきたいのですが

 やはり学生の本分は学業ですし、まだ彼も未成年。

 なので今日はこうしてお母様の許可を頂きにこうして伺った次第であります」

 

何せ、自分の息子が警察の特殊部隊の特別課員になっているとは誰が思おうか。

しかし、セージの母が二つ返事を返そうとした矢先に外で爆発音が響き渡る。

 

「何事だ!?」

 

『柳さん! 宮本君の実家の付近に正体不明の悪魔が現れたという報告が入りました!』

 

「まさか、ここを狙ってきたのか!?」

 

「だとしたら許せないわね! 白音、お母さんをお願い!」

 

「……わかりました」

 

――ついに標的になったセージの母。

  兵藤夫妻と同じ轍を踏ませないためにも、その場にいた戦士たちは立ち上がる――




どちらもあり得る結末として描いたつもりです。

>セージ母
かなり肝座ってますね。
アモンが来ようが猫が来ようが変わらぬ応対。
流石に警察にはちょっとびっくりしたようですが。

>飼い猫
黒歌が駒王町でうろうろしていた時にちょっと面識が出来ていたって設定。
室内飼いだけど、セージ入院のストレスで一時的に家出していた設定。
その時に黒歌に出会って家に帰されたとか、そういう話があったり無かったり。
猫の15歳は老猫なので十分にあり得ることかと。
因みにうちのは18歳でした……

>牧村明日香
ここだけ見るとちょっと嫌な奴になっちゃったかも……
けれど一児の母としては間違ってない選択だと思いたい。
子育てにも向かない環境だし、セージはぶっちゃけ横恋慕だし。
ヒロイン枠に猫姉妹が来るかって? 猫姉妹は「猫枠」だからノーカン。


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Special17. 向き合う時

……もう少しじっくり寝かせたほうがいいのでしょうか。
最近、少し勢い任せになっているかもしれません。
或いは焦り?

ともかく、今回は「アイツ」が登場します。

そんなわけで(どういうわけだ)、今までの埋め合わせ分の投稿です。どうぞ。


アーリィ、黒歌、柳が外に出た時

そこにいたのは魔王の装束の身を包み、六対の悪魔の翼を広げた悪魔がそこにいた。

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。旧ルシファー自ら、セージの家を襲撃に来たのである。

 

「さっきからうるさいんだよ電波がよぉ~。

 『この家とここにいるやつを焼き払え』ってなぁ!

 電波電波電波電波ァ!! 僕に指図する奴は全部焼き払ってやる!」

 

「な、なんだこいつは……!」

 

「き、聞いたことがあるにゃん。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 旧ルシファーでありながら、禍の団の旧魔王派とは一線を画した存在。

 『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』を持っているから、神器持ちとは相性が悪すぎるにゃん!」

 

黒歌のアドバイスだが、この場にいる人物にそれは殆ど当てはまっていなかった。

アーリィは神器(セイクリッド・ギア)を持っていない。黒歌も同じく。

唯一神器持ちのテリー柳にしても

以前聖槍騎士団と言う異能を無効化する相手と戦ったことがある。

倒すには至らなかったにせよ、追い払っている実績がある以上

神器無効化は何の意味もなさなかったのだ。

 

「それがどうした! 以前に戦った相手と同等だろう!

 その程度の異能で、俺を振り切れると思うな!」

 

「けっ。僕ちゃんをあんな空っぽのガラクタと一緒にするなよ!?

 てめぇも電波で焼き切ってやるってんだよぉぉぉ!!」

 

「『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』――発……動ッ!!」

 

「ひゃっはははははぁ! 無駄なんだよぉ!

 その神器についても知ってるぞぉ? 電波は何でも教えてくれるんだからなぁ!

 どれだけ加速しようが無意味なんだよぉ!!」

 

「加速への挑戦」はテリー柳の神器である。

10秒間、常人をはるかに上回る加速を齎す神器であるが

パワーまでは補強されず、テクニックが全ての神器である。

 

10秒の加速も、リゼヴィムに接近するなり減速してしまう。が――

 

「かかったな!」

 

「なっ!? 止まっただと!?」

 

加速を無意味にする、柳の「停止」という行動を取った事に

リゼヴィムは面くらい、隙が生じてしまった。

そこに柳はナイトファウルの杭から神経断裂弾を撃ち込み

リゼヴィムにダメージを与えようとするが。

 

「ぎゃあああっ!? いでぇぇぇっ!!」

 

(――手ごたえが鈍い!? 奴め、ただの狂人ってわけじゃなさそうだ!)

 

痛がるだけで、決定打にはなっていない。

痛がる隙を突いて柳は距離を置くが、神経断裂弾の効きが悪いと言う事は

少なからず衝撃を与えていた。

 

「相手が人に害を成す悪魔であれば、たとえ旧き魔王であれ祓います」

 

その一方で、ナイトファウルの杭に聖水をたんまりとふりかけ

アーリィがリゼヴィムに肉薄する。

それと同時に、黒歌が仙術を用いてアーリィのサポートをしていた。

これによって、気の流れのコンディションを最高潮にすることが出来る。

そのお陰で、魔王であるリゼヴィムに対しても引けを取らない動きを発揮して見せたのだ。

 

黒歌も、リゼヴィムの周りをぐるぐると回りその注意をひいている。

リゼヴィムの攻撃が黒歌を狙った矢先

アーリィのナイトファウルの杭がリゼヴィムに突き刺さる。

そして柳と同じように、今度は銀弾アルギュロスを炸裂させるが――

 

「ぎゃあああっ!? いでぇぇぇっ!!」

 

(……さすがは魔王、ですか。聖水に銀弾を用いた攻撃にも耐え得るとは。

 ですが、ここで私達が引き下がるわけにも行きません。

 アーシア、お姉ちゃんは必ず帰りますからね!)

 

三人はルシファーを相手に善戦さえしてみせた。

しかし、そこに感じられた手ごたえのなさに黒歌は引っ掛かりを感じていた。

 

(幾ら魔王だって言っても、手ごたえが無さすぎる。

 もしかして、こいつ偽者なんじゃ……気の流れも、なんだかおかしいし……

 けれど、放置したらお母さんが狙われちゃう……!!)

 

魔王の手から人類の自由と平和――は言い過ぎにしても

少なくともこの家とここに住む人を守るために三人の戦士は戦い続けていた。

そこに、何か釈然としないものを感じながらも――

 

――――

 

一方、セージ。

いつの間にかやって来ていたのは、駒王町を流れる川の川辺であった。

相当歩いていたらしく、所々に瓦礫が点在しており

自分の家から離れた場所であることを物語っている。

しかし、セージ自身はそれを気に留めるでもなく無心に歩き続けていた。

 

『セージ。帰らなくていいのか?』

 

「……今は話しかけないでくれないか」

 

『へっ、フラれた程度でそんなしょげてるようじゃ、先が思いやられるぜ。

 俺達はな、魔王と戦う事になるかもしれないんだぞ。

 そんな弱い心のままじゃ、付け込まれるぞ……奴らにそんな知恵があればの話だが』

 

『アモン。少し静かにしろ。

 それにな、セージはまだ魔王と戦う事に首肯したわけじゃないはずだぞ』

 

セージの中で、フリッケンとアモンが言い合いを始める。

塞ぎ込みつつあったセージにしてみれば、鬱陶しい事この上ない。

 

『うるせーよピンク色。俺の要求を呑んだって事は

 俺にも協力してもらうのが筋ってものだろうが、違うか?』

 

『変な呼び方をするな、これはピンクじゃなくてマゼンタ、CMYKのMだ』

 

『どっちだっていいだろそんなの。で、俺の言ってる事は間違ってるか?』

 

「……二人とも静かにしてくれ。というか放っておいてくれないか。

 俺だって色々思うところがあるんだ、ちょっと気持ちの整理をだな……」

 

『……おい、セージ。さっきからつけられてたぞ』

 

「俺の話聞いてたかアモン? ちょっと気持ちの整理をつけた……い……!?」

 

半ばアモンやフリッケンに当たるような形でつっけんどんな対応を取るセージ。

それほどまでに手紙の件がショックだったらしい。

しかし、そんなセージの言葉を無視するかのように現れたのは――

 

――なんと、牧村明日香本人だったのだ。

 

「ね、姉さん!? 駒王町を出たんじゃ……!?」

 

「出るわ。でも駒王町だけじゃなく……

 

 ……あなたの元からもね!」

 

そう言うや否や、砲撃が飛んでくる。

明日香の後ろには、聖槍騎士団が二人、聖槍を構えて佇んでいたのだ。

 

「こ、これは一体……どういう事なんだよ!? 姉さん!!」

 

『……いや、あいつは人間じゃない。「人間の皮を被った何か」だ』

 

「アモン! 言うに事欠いて姉さんをバケモノ呼ばわりするのか!?

 悪魔憑きになった俺じゃなく、姉さんを!!」

 

『落ち着け、セージ!!』

 

アモンの見立てでは、目の前にいる明日香は偽者だという。

しかし、セージはそんなアモンの話に耳を傾けることが出来ない。

そんなセージを見かね、フリッケンが力を奪う形でセージの冷静さを取り戻させる。

 

『ナイスアシスト、ピンク色』

 

『だからピンク言うな、マゼンタだ……ってそれはさておき。

 セージ、よく見ろ。お前の姉は瞳が金色だったか?

 あんなに人相が悪かったか? 落ち着いてよく見ろ』

 

「……え? そりゃあ、少々ネガ入るとうざい所はあるけれど……」

 

フリッケンの指摘通り、目の前の明日香は雰囲気がセージの知っているそれと違う。

まるで、人類の悪意を体現しているかのような邪悪な笑みを浮かべている。

 

「フフッ、どうやら『憑いてる』お二人には私の事がわかっているみたいね。

 けれど、それは些末な事。私が用があるのは憑いている二人じゃなくて

 ……あなた自身よ。『セーちゃん』」

 

「…………」

 

フリッケンのお陰で頭の冷えたセージは、地面に手をつきながら立ち上がる。

そして、真っ直ぐに明日香の目を見据える。

改めて見直すことで、目の前の明日香がセージの知っている牧村明日香とは

別人ではないか、というアモンやフリッケンの意見も尤もであると思えてきたのだ。

 

「……その顔で、その声で、その呼び方で俺を呼ばないで貰えるか?」

 

「あら、不服? なら……」

 

突如、明日香が黒い靄に包まれたかと思うと、その姿は次の瞬間には

赤髪の少女、リアス・グレモリーのものになっていたのだ。

しかし、その瞳は碧眼ではなく先程と同じく、金色に輝いている。

 

「こっちの方が良かったかしら?」

 

その姿も、声色もリアスのものとまるで遜色がない。

まるで、リアス自身がここにいるかのように。

ただ、その表情はこれでもかと言えるくらいに悪意に満ち溢れている。

 

「……ふざけているのか」

 

ここに来てセージも何かがおかしいと思い、「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」を相手に向ける。

しかし、帰ってくるのは文字化けやエラーばかりである。

それは即ち、目の前の存在が薮田直人と同じく「実は神」であるか

アーリィと同じく「別の世界からやって来たか」のいずれかであることを意味している。

 

「そんなガラクタで、誰かの事を知った気になるなんてそれは傲慢と言う物よ、セージ」

 

「……なら質問を変える。何をしに来た。俺に何の用だ」

 

記録再生大図鑑のエラーにも動じることなく、質問を変えたセージに対し

リアスらしき存在は迷うことなく口を開く。

しかしその言葉は、セージの怒りを買うには十分すぎる内容であった。

 

「あなた、もう一度私のものになるつもりは無い?」

 

「……ふざけるな。一度たりともお前のものになった覚えはない。

 兵藤ならともかく、俺を騙せると思うな」

 

「……けれどあなた。棄てられたのよね?」

 

「――!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、セージの身体中から血の気が一瞬にして引いていき

膝から地面に崩れ落ちてしまう。

その言葉に危険なものを感じたアモンとフリッケンは、そろってセージに警告を発する。

 

『セージ!』

 

『奴の言葉を鵜呑みにするな!』

 

「私なら棄てないわ。何故なら私は情愛の悪魔。大切なものは全霊をかけて愛するわ。

 だからもう一度私のもとに下りなさい。悪いようにはしないから。だから……」

 

張り付いた笑みのまま、セージに手を差し伸べるリアスらしき存在。

だが、セージの手はその手を――

 

 

――握ることなく、そのままリアスらしき存在の顔面目掛けて殴りつけた。

 

「あなた……女の顔を……!!」

 

「お前が誰だか知らないが、やる事が小さいんだよ。

 ああ確かに俺は棄てられたかもしれないさ! だが直接聞いてないし

 今はそれどころじゃないって事で納得も出来る!

 

 けどな、それで自棄を起こすほうが……姉さんに合わせる顔が無いんだよ!!」

 

殴った勢いで立ち上がり、リアスらしき存在に啖呵を切るセージ。

その勢いで、言葉は次々と紡がれていく。

 

「それにな、俺はようやく身体を取り戻したところなんだ!

 まだこれからやりたい事はごまんとある!

 お前如きの言いなりになってちゃ、それもかなわないからな!

 

 ……アモン、それからフリッケンも覚えておけ!

 俺は俺だ! 俺の身体は俺のものだ!

 それを邪魔するのなら、相手が誰だろうと容赦しない!」

 

『百も承知だ。契約違反だなんて言うつもりは無いさ。

 悪魔の契約を跳ね除けた人間なんて、昔は珍しくなかったからな。

 そうした奴こそ、「デビルマン」って呼ばれる存在になる。

 ……って冥界の昔話にはあるそうだぜ』

 

『俺は前に言った。お前の道は、今は俺の道でもある。

 俺は通りすがりだが、道が重なっている以上俺はお前に協力するってな』

 

口元を拭いながら、リアスらしき存在はセージから距離を置く。

口惜しそうなそぶりを見せるが、その素性はまだ計り知れない。

 

「フフッ。けれどまだこれからよ。

 私の知る人間は可能性を見出した。けれどこの世界の人間はどうかしらね。

 どういう決断を下すのか、まずはあなたの決断と意志の力を見定めさせてもらうわ」

 

その言葉と共に、聖槍騎士団が聖槍を構えて突撃してくる。

かつてのセージならば、聖槍を一撃でも喰らえばアウトだった。しかし――

 

『セージ! 俺に任せろ! 俺の力なら奴の聖槍など恐るるに足りん!』

 

「分かったアモン! だが聖なる力には気を付けろ! 紛い物とは言え聖槍だ!」

 

聖槍の力は異能を封じる。

しかし、アモンの力は異能でもなんでもない、生まれ持った力。

それはたとえセージに憑いていても、変わる事は無い。

 

アモンが表に出るなり、その背中から斧のような一対の赤い翼を展開させる。

それはリアス達の悪魔の翼とも一線を画しており、それ自体が武器にもなり得るほどだ。

そのまま空へと舞いあがり、空から超音波の矢や熱光線で聖槍騎士団と交戦する。

 

『へっ。俺なら飛べない魔神と戦艦は空から攻めるね』

 

「くっ……なめるな!!」

 

ロンギヌスシリーズの弱点。それは空からの攻撃。

リアスらとの戦いにおいてはそこを突かれなかったことが幸いし

ロンギヌスシリーズにとって優位な戦いを運べたが

百戦錬磨のアモンはその弱点を容赦なく突く。

 

主砲の仰角を上げて対抗しようとするが、狙いはつけにくい上に

空を飛ばれては自慢の魚雷も届かない。地上や水上ではその力は強大だが

こうなってしまってはワンサイドゲームである。

まるで、大艦巨砲主義の閉幕を告げるかのように一方的な戦いが繰り広げられていた。

 

さらに、高高度からの滑空を利用して適宜セージに交代し

記録再生大図鑑の武器を用いたりして

攻め方がワンパターンにならないように動いている。

その戦い方故に、以前は苦戦したロンギヌスシリーズを二体同時に相手取ったとはいえ

難なく撃破できたのだ。

 

「なにも……知らずに……!」

 

「それも……紛い物の……力……!」

 

言い残し、聖槍騎士団は無へと轟沈していったのだった。

アモンも着地するなり、今度はお前だと言わんばかりにリアスらしき存在に向けて拳を向ける。

しかし、その拳を退けてリアスらしき存在は賞賛の言葉を贈って来たのだった。

 

「今私はあなたと拳を交えるつもりは無いわ。

 けれどその力……惜しいわね。それが故にサーゼクスお兄様に疎まれて……可哀想なアモン」

 

『抜かせ。俺はお前なんかと喋る舌は持ってねぇんだ』

 

「まぁいいわ。ここで一つあなたにプレゼント……あの地獄門、もうじき安定するわよ。

 あのシスターのお嬢さんを帰すのも、虚空の破壊者を封印するのも好きにすればいいわ。

 信じる信じないは、あなたの自由だけれどもね……フフッ」

 

地獄門。クロスゲートの別名。それを何故目の前の存在が知っているのか。

そして、何故それが安定すると言い切れるのか。

数多くの謎を残し、リアスらしき存在は黒い靄に包まれていく。

 

その最後に見せた姿は、やはり牧村明日香のものであった――

 

「また会いましょう、『セーちゃん』」

 

「……その姿と声と呼び方はやめろと言った!」

 

「いやよ。これ気に入ったんだもの。どの姿になろうと、私の勝手でしょ。

 それに、あなたも心のどこかではそれを望んでいるんじゃない?」

 

「――っ!」

 

穿った見方でこそあるが、事実であった。セージは明日香との再会を望んでいる。

それは目の前の偽物ではなく、本物との再会なのだが。

それを知ってか知らずか、セージの神経を逆撫でするかのように

目の前の存在は明日香の姿を取り続けていた。

 

最後にセージにゆさぶりをかけるのが目的だったのか。

そこまでは定かではないが、目の前の存在は黒い靄に包まれ、その姿を消した。

 

『セージ……』

 

「……戻ろう。アーリィさんに吉報だ。あれの言う事を信じれば、の話だが」

 

来た道を、今度は決意を新たに走り出すセージであった……。

 

――――

 

――その頃、宮本家前。

 

「……電波が止みやがった。つまんねぇ!

 僕ちゃんが会いたかった奴は結局出てこないし、痛い思いばっかするし

 何なんだよ! これも全部電波の仕業だ! おのれ電波ァ!!

 電波電波電波電波電波ァ!!」

 

「な、なにを言ってるんだこいつは……!」

 

「……きっと、何かが原因で狂ってしまったんでしょう。

 それを知り、解決に導くつもりは毛頭ありませんけど」

 

「同感。こんな奴の相手は疲れるにゃん……」

 

リゼヴィムと戦っていた三人だったが、突然リゼヴィムが動きを止める。

それは、まるで今までリゼヴィムは手加減をしていたかと言う位に突然の出来事であった。

 

「……新しい電波が来やがった! ……帰れ、だぁ?

 なんだよ、結局そうなんじゃないかよ! 僕ちゃん何のためにここに来たんだよ!

 おい、教えてくれよ電波ァ!!

 

 ……そうか、そう言う事か! ひゃーっはっはっはっはっはぁ!!

 電波が言ってるんだよ……もうじき全世界の神話体系を巻き込んだ戦争が起こるってなぁ!

 人間! 電波はお前らがどう動くか楽しみにしてるらしいぜぇ……?

 じゃあな、精々僕や電波を楽しませてくれよ! ひゃーっはっはっはっはははははは!!」

 

それは突然の事であった。

まるで理解できない一人芝居にも見えるそれを見せつけられた挙句

リゼヴィムは魔法陣で転移してしまったのだから。

 

唖然とするアーリィ達のもとに、セージが帰って来たのはその少し後の話であった。




今回現れた明日香姉さんの正体については、敢えて伏せます。
気付いた方はお気づきになられたでしょうけれど。

ちなみに「ぶん殴」ったのはそう言う事です。
本物のリアスに対しても「ぶん殴る」って選択肢を選びそうですけど、セージ。

>アモン
何気に今回ネタ枠。
「俺ならマジンガーZを空から攻めるね」は名言だと思うんです。
この原作に即した場合「俺なら赤龍帝を空から攻めるね」になるのでしょうか
(イッセーが全然飛ばない的な意味で)
フリッケンとはうまくやれ……てるのか? これ?

>フリッケン
今回もナイスアシストをしたけれどネタ枠その2。
正直、未だにピンクとマゼンタの違いがよくわかりません。
目が悪いだけかもしれませんが。

>聖槍騎士団
Bismarckは艦これで実装されてる戦艦の中でも対空が低いから……(遠い目
因みに原作(P2)では空を飛んでいた聖槍騎士団ですが
拙作ではバ火力とホバー移動能力を得た代わりに空が飛べなくなってます。
空飛んでも「最高にイカしてたぜ」なんて言えないですし。厄介度が上がるだけですし。

>リゼヴィム
電波さん。原作の面影は(多分)無いです。
もうじきゴースト編が終わるというのに意味深なことを言ってます。
これはセージの物語はあくまでもセージの物語。
神話体系の戦争は、セージの物語では(現時点では)無いと言う事です。

>クロスゲート
偽リアス曰く「もうじき安定する」そうな。
・アインストを追放するのに使う
・アーリィを帰すのに使う
・リゼヴィムがちょっかい出す
いずれも起こり得る出来事だと思います。

10/4修正
ぎゃあ電波が電波が痛い
まさか目の色間違えるとかあり得ないわ
「金色」ですよ「金色」、危うくシャドウを否定=間接的にリアス殺害させるところだった……


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Special18. 無限に進化する知識と想い

コラボ編もいよいよラストが近づいてまいりました。


「……ただいま」

 

「セージ! あなた一体どこに行ってたのよ? 警察の人が来てるわよ?」

 

警察の人――テリー柳の姿を見てセージは挨拶を交わす。

今となっては、上司にもあたる人物だからだ。

 

「セージ。その様子だとお前も出先で何かあったらしいな」

 

「……ええ。実は……」

 

家に戻り、セージは事の顛末を話した。

とは言え、俄かには信じられない出来事やセージにとって話したくない出来事の方が多く

その説明は、要領を得ない部分が多かった。

 

「クロスゲートが安定するだと? 出所のわからない情報を鵜呑みにはできないな。

 それについては戻って薮田博士やアポロン神とも相談しよう。

 やってみてダメでした、じゃ済まされないからな」

 

柳がアーリィの方を見ながら言う。アーリィはクロスゲートから迷い込んできたと思しき迷子。

元の世界に帰る必要があり、その鍵はクロスゲートが握っている。

しかしそのクロスゲートは不安定であり、どの世界に繋がっているかがまるで分らないのだ。

迂闊に飛び込んでさらに迷子になっては笑い話にもならない。

 

「す、すみません……私が方向音痴なばかりに……」

 

「や、クロスゲートは方向音痴でどうにかなるもんじゃないと思いますが……」

 

「兎に角だ。お前の親御さんの保護は我々や神仏同盟が引き受けることになった。

 セージ。あまり親を悲しませるような事をするなよ」

 

「勿論です。それじゃ母さん、行ってくるから」

 

セージも多くのものを失ったが、それはセージの母も同様であった。

ペットロスに続いて、息子の実情を知らされたのだ。

気丈に振る舞ってこそいるが、その心情は察するに余りある。

 

「セージ!!」

 

次の瞬間、セージは母親に抱きしめられていた。

突然の事に驚くセージだったが、母親が泣いているのを見て何もできなくなってしまう。

 

「セージさん、あなたも親不孝はいけないと思いますよ。

 『親孝行、したいときに親は無く』……でしたっけ。

 そうなってからでは、取り返しがつきませんから」

 

「そうだな。これは課長命令だ。セージ……お前は今日は休め。

 クロスゲートとアーリィについては、こちらで何とかする」

 

「じゃあ、私はお兄さんと一緒に残るにゃん」

 

「……私も残ります。姉様を一人にはできませんから」

 

猫に化けた白音と黒歌が、宮本親子に寄り添うように丸くなる。

ペットロスを和らげるためだろうか、何も言わずに寄り添っていた。

 

兵藤家とは違う形で、宮本家もこの戦いの影響を受けていたのだ。

 

――――

 

全ては、どこから始まったのだろう。

禍の団(カオス・ブリゲート)のテロ活動だろうか。

或いは、兵藤一誠が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を狙われてからだろうか。

それとも、三大勢力の戦争にまで遡るのだろうか。

或いはもっと前――

 

今となっては、それに対する答えは意味をなさない。

歴史に「もしも」は禁句と言うが、それはこういう事かもしれない。

 

避難所に戻った柳とアーリィのもとに、薮田とアポロンから話が持ちかけられる。

曰く――

 

クロスゲートに関する情報がある程度掴めた。

 

――と。

 

「……情報によれば、クロスゲートは意志の力によってある程度の制御が可能となるようです。

 強い意志と……あと一つ、何かがあれば制御も可能なのですが……

 そこまでは、生憎資料不足で掴むことが出来ませんでした」

 

「そこで俺は、神の力、例えば『神器(セイクリッド・ギア)』なんかでクロスゲートを制御できないかと仮定を立てた。

 神器も意志の、想いの力に応じて発動するらしいからな。

 それを応用すれば、クロスゲートを使用することが可能となるかもしれん」

 

クロスゲートはこの世界のものでは無い。

それにもかかわらずここまでの情報を獲得できたことを称賛するべきなのだろう。

その言葉を聞いた柳は、神器の力を使う事に不安要素を覚えていた。

 

「神器を……しかし待ってください。神器を持つものは皆バラバラの存在。

 意思を一つにまとめるなど、とても出来たものでは無いかと……」

 

「ええ。無理でしょうね。出来たとしても、それは災いを招く結果になるでしょう。

 ですから、結局クロスゲートの制御は出来ないという結論に至ってしまうわけですよ」

 

神器を用いたクロスゲートの制御に、柳が待ったをかける。

意志を一つにまとめるのはとても大変なことであるし

しかも神器と言う厄介なものを抱えている上での行いだ。

とてもじゃないが、まともに意思を纏められるとは思えない。

残念な話ではあるが、神器を持つ人間とはそういう生き物なのである。

 

「博士、他に方法はないのか?」

 

「情報が少なすぎるんですよ。ナイトファウルの設計図の落ちていた場所の近くに

 クロスゲートに関する資料も落ちてないかと調べてもらいましたが

 さっき話した通りの事しか見つかりませんでしたからね。

 アーリィさんを元の世界に返さなければならないのは、山々なんですが」

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

頭を下げるアーリィに対し、柳と薮田は「気にすることでは無い」と宥める。

しかし、アーリィの帰還についても考えなければならないのは

目下の課題であった。

 

「……そう言えば。宮本君はどうしました?」

 

「今は実家にいるが、彼が何か?」

 

「彼と言いますか、彼の神器なら或いはクロスゲートを調べられるかもしれません。

 勿論、そのままでは無理でしょうから『禁手(バランスブレイカー)』に至っていただかないといけませんが……

 

 やれやれ。これではアザゼルの事を悪し様に言えませんね……」

 

セージの「記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)」の禁手ならばクロスゲートを調べられるのではないかと

仮説を立てる薮田。他ならぬ聖書の神――の影が言うのだから

信憑性はそこそこにあるのだろうが、セージは禁手には至っていない。

尤も、薮田が聖書の神の影だと言う事はこの場にいる限りでは

アポロン以外誰も知らない事なのだが。

 

「八方塞がり、か……」

 

ため息を吐く柳と薮田、アポロンであったが

肝心のアーリィは給湯室でお茶を淹れていた。

 

「そう言う時こそ、落ち着いたほうが良いと思うんです。

 あ、皆さん悪魔じゃないですから大丈夫ですよね? ミントティーですけど」

 

悪魔にミントティーを振る舞ったことがあるのだろうか。

というツッコミを抑えつつ、薮田をはじめ一同はお茶を口に付ける。

 

「あ、お口に合いましたか?」

 

「ええ、美味ですよ」

 

「良かった。私小さい頃はケーキ屋になるのが夢だったんです。

 今はこうして悪魔祓いをやっていますけれども、後悔はしていません。

 アーシアに、ゼノヴィアさんもいますから。

 

 ……ですから、一刻も早く帰りたいという気持ちはありますけれど

 出来ることを精一杯やれればそれでいいかな、とも思うんです。

 こっちはこっちで、アーシアやゼノヴィアさんの可能性を見られましたし」

 

「……だからこそ、俺はやれることをやりたいんだ。

 短い間だけど、アーリィさんには世話になったからな」

 

ティータイムに入っている一同に割り込むような形で

突如としてやって来る人影があった。

実家にいるはずのセージである。

 

「セージ!? 待機命令を出したはずだぞ!」

 

「すみません。ですが『記録再生大図鑑』でじっくりとクロスゲートを調べた事は

 そう言えばなかったと言う事を思い出しまして。

 出来るかどうかはわかりませんが、やってみるだけやってみようかと」

 

「だが、それは今でなくとも……」

 

「――いえ。宮本君のご決断に感謝します。

 柳君。今はクロスゲート周辺にアインストも居ません。

 徹底的な調査をするならば、今がチャンスです」

 

実家から抜け出してくるような形になったセージの提案に

待ってましたとばかりに薮田が乗る。

柳は家族の心情やセージ自身の心の整理の事も考えストップをかけようとするが

セージ自身が調査には乗り気だったのだ。

 

「薮田先生の言う通りです、警視。

 俺の力で誰かの役に立てるのなら、俺はその力を使いたい。

 自分の為じゃなく、自分が信じた誰かのために俺は力を使いたいんです。

 そしてそれは、今だと俺は思うんです」

 

「……分かった。今日のところはお前にクロスゲート調査隊への参加を任命する」

 

「勿論、我々も行きますよ」

 

セージ自身の言葉が決め手となり、クロスゲート調査隊が急遽組まれることとなった。

調査隊にはアポロンと薮田、セージと護衛として柳が参加することとなり。

 

「あのっ! 私も付いて行っても構いませんか?」

 

「あなたが? 構いませんが、事故に遭う可能性は否定しきれませんよ?

 これは宮本君にも言えることですが」

 

クロスゲートのみならず、未知の建造物の調査には危険がつきものだ。

アインストと言う目に見えた危険は今のところ無いとはいえ

クロスゲートが安定しているという情報も、出所不明の怪情報に過ぎないのだ。

それでも、アーリィは自分がやって来た原因と言う

クロスゲートについて知りたいと思ったのだった。

 

こうして、クロスゲート調査隊が組まれることとなり

早速クロスゲートの調査に乗り出したのだった。

 

――――

 

覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)の暴走による影響からか、三大勢力も足並みが乱れており

監視につくべき担当はそこにはいなかった。

神仏同盟もクロスゲート監視を行ってはいたのだが、こちらは駒王町や

そこに住む人々に被害が出ないよう立ち回っていたために

クロスゲートの監視は後回しとなっていたのだ。

 

結果として、物静かだったクロスゲート近辺は今では物々しい機械類が設置され

クロスゲートの調査が多角的な視点で行われていた。

 

「……3Dスキャンは無効ですか。本当に訳の分からない建造物ですね」

 

「私、本当にこれを通って来たんでしょうか。今更ながらに不安になってきました」

 

アーリィも、初めて目の当たりにしたであろうクロスゲートの存在に

ただならぬ不安を覚えていた。ゲートに直接入る以外にも

ゲートの近くにあったものが転移に巻き込まれる事例があるらしい。

アーリィがやって来たのも、そうした事例によるものだった。

 

「……ところでセージ。神器の方はどうだ?」

 

3Dスキャンもかけられない、奇妙な建造物。

これが異なる世界を繋ぐ門だと言うのが未だに信じられないアーリィ。

アポロンもセージにデータ収集の進捗を聞くが、その答えは――

 

「……思った通り駄目でした。そもそも俺の記録再生大図鑑は

 神性を持った相手や異世界のものにはうまく働かないみたいで。

 

 ……けれど、ここで諦めるわけにはいかない。

 何とか試してみます」

 

「頼みますよ。神器の力は『意志』の力。そして『意志』はクロスゲートを動かす鍵。

 プレッシャーをかけるわけではありませんが、期待していますよ」

 

薮田の言葉に、セージは精神を集中させる。

しかし、ここ最近で起きた出来事はセージの心を乱すには十分すぎるほどであった。

どうしても、セージの心に雑念が混じってしまうのだ。

 

(姉さん……母さん……むー……俺は……俺は……)

 

セージのその雑念に誘われるように、クロスゲートから

また新たな来訪者が現れようとしていたのだ。

 

「ゲートに反応だと? しかし、これは……!」

 

クロスゲートから現れたのは、苦悶の表情を浮かべた人の貌のようなものが付いた紫色の怪物。

その悍ましい姿に、その場にいた全員が思わず息を呑む。

 

「博士! 奴は一体……!?」

 

「詳細は不明ですが、宮本君がクロスゲートの前に立った事に応じて現れました。ですが……」

 

紫色の怪物の動きは散漫で、何もしないように漂っているようにも見える。

しかし、クロスゲートから現れた――風に見えるそれは

看過できる存在ではない事もまた事実だった。

 

戸惑いを覚えながらも、セージは紫色の怪物に向けて「記録再生大図鑑」を向ける。

 

「……負念体……? ラ……マリ……ス……? だめだ、これ以上は読めな……っ!?」

 

セージから発する思念を読み取ったのか、紫色の怪物はセージに向かって襲い掛かってくる。

記録再生大図鑑で調査を行っていたためか、防衛行動に遅れが生じてしまい

怪物の鉤爪による攻撃をもろに受けることになってしまう。

 

「セージ!」

 

「ぐ……っ! 油断した、なんか力が抜ける……?」

 

怪物には力を吸収する能力があるとでも言うのだろうか。

怪物の攻撃を受けたセージは、ふらついてその場に倒れ込んでしまった。

神器を使うため、アモンの力を借りられなかったことがダメージの増大に拍車をかけていたのだ。

 

「くっ! 『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』発――動ッ!!」

 

敵対行動を取った怪物に対し反撃を試みようと、柳が神器を発動させる。

しかし怪物には手ごたえがないどころか、特殊警棒による打撃も効き目が弱いらしく

有効打にはなっていなかった。

 

「見た目は悪魔的ですけれども……えいっ!」

 

アーリィも隙を見て聖水の瓶を投擲するが

聖水の瓶は怪物の身体をすり抜け、地面に落ちてしまう。

聖水が地面に浸み込むが、怪物は柳やアーリィに目を向けることなく

セージに対し攻撃を加えようと再び鉤爪を展開させる。

 

それに対し、セージを守るように薮田が「創世の目録(アカシック・リライター)」を使い

バリアを展開させていた。

 

「宮本君。あれはおそらくあなたの思念によって生み出された存在です。

 あなたがやらなければ、恐らくは消えないでしょう。

 私にできるのは、こうして攻撃を受け止めるくらいです。

 もう一度言いますよ。神器も、クロスゲートも意志の力で動きます。

 あの怪物がクロスゲートから現れたのならば、意志の力で撃退できるかもしれません。

 ……憶測ですがね」

 

『となると、俺が表に出ても意味はないって事か。おいセージ。

 何をするにせよ、この怪物をどうにかできるのはお前なんだ』

 

アモンの叱咤激励に、セージは応えようとする。

しかし、その内側にはわずかな恐怖心が芽生え始めていたのだった。

 

――漸く身体が戻っても、戦いは終わってない……

  むーも姉さんも、俺の元から去ってしまった……

 

  それなのに、俺はこれからも戦い続けなければならないって言うのか!?

  俺は、一体何のために身体を取り戻したって言うんだ!?

 

直後、セージは光剣を実体化させ闇雲に怪物目掛けて走り出した。

そこには、普段のセージのキレは全くなかった。

それはアモンの影響の有無は関係ない、錯乱した状態のそれだった。

それは怪物に有効打を与えるどころか、戦闘メンバーの足を引っ張りかねない状況だった。

 

「だから言わんこっちゃないセージ! 今のお前のコンディションで戦えるものか!

 博士! 他にあの怪物を撃退する方法は!?」

 

「あれば試していますよ。こんな事ならば、七四式外装装着型小型戦車

 ――クローズスコーピオン・パワードをこちらに回すべきだったかもしれませんね。

 あれは被害に遭った地域に回してしまいましたから」

 

「止むを得ん、俺も加勢するぞ!」

 

薮田の新兵器にも期待はできない状況の中アポロンも加勢し、太陽の光が怪物を照らす。

それによって、怪物の姿ははっきりと見えるようになったが

ダメージを与えるには至っていなかった。

 

それどころか、時間をかけたことが災いしたのか

紫色の怪物が少しずつではあるが増え始めていたのだ。

 

「!! 怪物が増えています!!」

 

「チッ、一体でも厄介だというのに複数来られては……

 セージ! こうなったら逃げろ! ここは俺達で何とかする!

 お前だけでも逃げるんだ!」

 

まともに戦えない状態のセージを下げようと、柳は撤退指示を出す。

その言葉に、セージはどうしていいのか迷っているようでもあった。

普段なら逃げないというのに、それほどまでにセージの心は弱っていたと見て取れた。

 

『何を迷っているんだセージ! 戦え!

 おいフリッケン! お前からも何か言ってやれ!』

 

『アモン、少し黙ってろ。これはセージの問題だ。

 俺達が口を挟むことじゃない。

 

 旅を続けるか、降りるか。セージ……本当に向き合うのはこれからだぞ……!』

 

「く、う、うああああ……っ!?」

 

セージの迷いに引き寄せられるように、怪物は次々とセージを狙ってくる。

その都度、創世の目録で作られたバリアが悲鳴を上げている。

 

薮田直人はヤルダバオト、即ち聖書の神の偽物――綺麗な言い方をすれば影武者である。

その力をフルに発揮すればこの事態を収拾できるかもしれない。

しかし、それは彼自身の目的に反している。

 

――人類は、神から巣立つ時が来た。

 

それが聖書の神がかつて言ったとされる事であり、ヤルダバオトも賛同している事だ。

それなのにクロスゲートへの干渉など必要以上に手を差し伸べては

その考えを反故にしてしまう事になる。

だからこそ、薮田もまたセージを信じることにしたのだ。

 

もう一度、立ち上がる事を。

そしてそれは、薮田に限ったことでは無かった。

 

「セージさんっ! あなたは、何がしたいんですか!?」

 

「!? ……俺の、したい事……?」

 

逃げ惑うセージに対し、アーリィが大声で語り掛けてきたのだ。

 

「詳しい話はまだ聞いてませんから、見当違いなことを言ってるかもしれません!

 でも、やっと体が戻ったじゃないですか! 念願だったと私は聞いてます!

 体が戻った今、あなたのやりたい事は何なんですか!?」

 

(姉さんとデート……むーと遊ぶ……違う、それもあってるけど違う。

 もっと……もっと単純な事……

 

 俺の……俺のしたい事……それは……)

 

アーリィの言葉にハッとし、セージは逃げ惑う足の動きを止める。

そして、向かってくる怪物に対し向き直るなり、叫びながら拳を突き出した。

 

……そしてその拳は、確実に怪物を捉えたのだ。

 

「俺のしたい事……笑わないでくださいよアーリィさん。それは……

 

 

 ……温泉に行きたい。まずはそれですね。スーパー銭湯でいいからゆっくりしたい」

 

スーパー銭湯で妥協するあたりに、セージの家庭の事情が見え隠れしているが

それが、セージの何一つ迷いのないやりたい事なのだろう。

 

「勿論、そこでうまいものを食べたいというのもあるし

 自分の布団でじっくりと寝たい。今まで霊魂の状態じゃそれも叶わなかったから。

 そして、そのためにも……」

 

さっきまでとは違う、何か憑き物の落ちたセージの表情。

そこには、さっきまで逃げまどっていた表情は微塵もなかった。

 

「落ち着いてそれらが出来るように、平和を乱す輩は絶対に許しちゃ置けない!

 俺は宮本成二だ! 悪魔でも、通りすがりでもない一人の人間だ!

 俺に力があるってんなら、それは俺を含めた人類の自由と平和のために使いたい!

 これは俺の夢でもある! そして俺にその力があるってんなら……

 

 

 ……応えろ! 『記録再生大図鑑』!!」

 

啖呵と共に、左手の記録再生大図鑑がこれまでにない光を放つ。

今ここに、セージの神器は禁手に至ったのだ。

禁手――「無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)」へと。




今回もまた異世界から要らんものが来ました。

>ラマリス
OGMDより。拙作のクロスゲートは割とOG仕様です。
負念と言うから、今のセージではある意味呼び寄せやすい状態では無かっただろうかと。
EN吸収や分身を標準装備したザコ。
次回撃退なるか?

因みに、大きさは独自設定でムゲフロサイズに准えています。
でないと最小サイズでさえバカでかい相手になってしまいますから。

>クロスゲート
ラマリスが出て来たことで負念体渦巻いてる説が濃厚になってしまった危険物。
別にこれを通ったからってヴェール被った不審者が
赤頭巾になってジェノサイドするようには……ならない……はず。

余談ですが、ご要望があればセージ(か他の誰か)を派遣することも可能です。
だってそう言う装置だもの。

>セージ
舌の根も乾かないうちに無理してクロスゲート調査に参加してピンチを招いたと思ったら
ヒロイン(?)の説得で禁手に至るという
イッセーの事あまり悪し様に言えないんじゃね? 的な展開。
流石におっぱいで至るほどあれじゃありませんが。

今回タイトルや禁手の名前と言い「仮面ライダーゴースト」を久々に意識してます。
なお執筆当初はドライブ放映中だったのでゴーストとの関連は後付けです、ハイ。


次回、コラボ編完結。
(月曜20時更新予定……予定は未定)


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Special Final. 縁は巡り巡って

長く続いたコラボ編も、今回をもって完結です。
この場を借りてSINSOU氏には厚く御礼申し上げます。

……やはり他人様のキャラは動かすのが難しい。
二次、三次創作の出来る人は素直に感心できます。
私はまあ置いておいて


「俺は宮本成二だ! 悪魔でも、通りすがりでもない一人の人間だ!

 俺に力があるってんなら、それは俺を含めた人類の自由と平和のために使いたい!

 これは俺の夢でもある! そして俺にその力があるってんなら……

 

 

 ……応えろ! 『記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)』!!」

 

啖呵と共に、左手の記録再生大図鑑がこれまでにない光を放つ。

今ここに、セージの神器(セイクリッド・ギア)は禁手に至ったのだ。

禁手(バランスブレイカー)――「無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)」へと。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

「ラマリス。クロスゲートに存在する負念から生じた負念体。

 負念に寄せられ負念から産まれ、人間を捕食する。

 ……人に害を成す存在なら、駆逐するに限るな」

 

「ですね。私も悪魔以外の怪物と戦うという珍しい経験が出来ました」

 

記録再生大図鑑では読み取れなかった紫色の怪物――ラマリスの情報を的確に読み取っている。

以前記録再生大図鑑が進化した時も精度の向上が行われたが

今回さらにアップグレードが行われた形となる。

 

「そう言えばアーリィさん。ゼノヴィアさんと組んで戦っていたんでしたっけ」

 

「え? ええ、そうですけど……」

 

「なら、これだ!」

 

MOTION!!

 

モーション。新しいカードを引いたと同時に

デュランダルを構えたゼノヴィアのシルエットがセージの身体に吸い込まれる。

すると、その右手には装備できないはずのデュランダルが握られていた。

 

「デュランダル!? ゼノヴィアさんの得物のはずじゃ……」

 

「何処まで再現できるかはわからないけれど、今の俺はゼノヴィアさんの動きを再現できます。

 アーリィさん、後はそれに合わせて動いてください」

 

「えっと……ゼノヴィアさんと一緒に戦うのは慣れてますから、任せてください!」

 

デュランダルを力強く振り回し、ラマリスを切りつけるセージ。

その隙を埋めるようにアーリィがナイトファウルを持ち立ち回る。

その動きは、実際にゼノヴィアとアーリィが組んで戦っているようなものであった。

さっきまでとは違うその動きに、ラマリスも翻弄されている。

 

「アーリィさん、アレンジを加えても構いませんか?」

 

「どんどんやっちゃってください!」

 

MOTION!!

 

もう一枚「モーション」のカードを引くと

今度は木場のシルエットがセージの身体に吸い込まれる。

破壊力のあるデュランダルを、木場の剣技で振りかざすという合わせ技を演じてみせたのだ。

 

「これは……」

 

「祐斗。剣を持っていたグレモリー部長の眷属の動きを一部分モーションさせてもらってる」

 

セージの判断は功を奏したのか、ラマリスも残り一体を残すのみとなった。

止めとばかりに、セージのデュランダルとアーリィのナイトファウルが同時に刺さる。

直後、不気味なうめき声を上げながらラマリスは消滅したのだった。

 

――――

 

「……ご迷惑をおかけしました」

 

「無事で何よりだ。だが、命令違反はいただけないな」

 

「柳君、言い分もわかりますが今回は結果が全てですよ。

 宮本君、お見事でした。しかし柳君の言う事も一理ありますので

 今回の件が片付いたら、まずは学校まで来てもらいますよ。

 来週にも再開の目途が立っていますから」

 

ラマリスを撃退し、クロスゲートの調査に入る前に

柳と薮田から先刻の件について早速絞られたセージ。

セージもこれは仕方ないとばかりに甘んじて受けていた。

 

「早速で悪いが、その禁手に至った神器でクロスゲートを調査してみてくれないか?

 あの怪物――ラマリスの事も調べられたとなると

 クロスゲートについて調べられるかもしれん」

 

アポロンに促され、セージは記録再生大図鑑――

改め、無限大百科事典をクロスゲートに向け情報を読み取ろうとした。

 

……しかし、得られたのは今まで得た情報と遜色のない情報ばかりであった。

 

「……すみません、真新しい情報はないみたいですね……ん?

 

 これは……アーシアさんに、ゼノヴィアさん? 二人とも、何かを探してるような……

 うっすらとですが、クロスゲートの向こう側が見えます……」

 

「!!」

 

セージのその言葉に、驚きを隠せないアーリィ。

元の世界では、やはり二人がアーリィを探していたのだ。

そして、クロスゲートの向こう側に見えると言う事は

今はその世界と繋がっている可能性が高いと言う事。

 

試しに、セージは小石をクロスゲートに向けて投げ込んでみることにした。

すると、時間差はあったものの向こう側に小石が転がり込んで行ったのだ。

それが意味することは一つ。

 

「……できれば、こっち側のアーシアやゼノヴィアさんと

 もう一度お話したかったんですけど……次、いつ安定するかわかんないですもんね。

 

 セージさん、皆さん、本当にありがとうございました」

 

「ま、待ってください!」

 

クロスゲートに入ろうとするアーリィを呼び止める声がした方向を一同が向くと

そこには慧介の車で駆けつけてきたアーシアとゼノヴィアが居たのだ。

 

「アーシア! それにゼノヴィアさんも……!」

 

「何故だかわからないが、どうしてもここに来なければならない気がしたんだ」

 

「私もです。突然やって来て、最初は驚きもしましたけれど

 でも、心のどこかで知ってるかもしれない、そんな気がずっとしてて……」

 

アーリィはそんな二人に駆け寄り、纏めて抱きしめる。

二人のぬくもりを感じた後、一歩下がりお祈りを始めるアーリィ。

その様にアーシアは痛みを覚えるが、その痛みにも耐えてみせていた。

 

「主――こちらの世界におわすのは主の影武者さんですけれど。

 その方と約束を交わしたのです。

 

 『私は神への感謝の気持ちを忘れないために、悪魔に身を窶した今も神を信仰する』と」

 

「アーシア……立派になってお姉ちゃんは嬉しいです!

 ……あ、あなたは私の知ってるアーシアでは無いんでしたっけ……

 

 いけませんね、つい……」

 

「いえ、きっと『向こう側』の私もきっと同じような結論を出してくれると信じてます。

 その為にも、『私』をよろしくお願いします。アーリィ『お姉様』」

 

「……っ!!」

 

「私も同意見だ。私も『向こう側』の私のことをよく知らないが

 『私達』で進む道に間違いはないだろう。私はそう信じることにするよ」

 

「ありがとう……二人とも、ありがとう……!!」

 

言葉を交わした時間は短かったが、アーリィにとっては何かしら得るものがあったのではないか。

セージは様子を見ながらそう考えていた。

 

「……盛り上がっているところ悪いのですが。ナイトファウルの返却をお願いできますか?

 これはクロスゲートの近くで偶然拾い上げた設計図から作ったものですが

 無闇に他の世界に持ち出すのはやはり憚られますし、一応貴重品ですので……」

 

「あ、すみません……ナオトさん、今までいろいろとお世話になりました。

 ヒロさんにもよろしくお伝えください。では、ナオトさんにも神のご加護がありますように……」

 

薮田直人の正体を知ってか知らずか、アーリィはまたも神に祈りをささげていた。

ナイトファウルをアーリィから受け取ると

薮田はアーリィにばれないように苦笑いを浮かべていた。

 

「それでは……」

 

「アーリィさん。俺からもひとこと言わせてください。

 

 ……変な話ですが、この世界に来てくれて、ありがとうございました」

 

セージの言葉に、アーリィは手を振って返す。

ゲートに入る瞬間、吹いた風によって顔のヴェールがめくれ上がったが

その顔を見た者がいたかどうかは、定かでは無かった。

 

――――

 

アーリィがクロスゲートを通り、帰路についてから数日が経った。

学校の開始を明日に控えたセージは、超特捜課の会議室にいた。

そこには、薮田やアポロンと言ったクロスゲート調査の責任者もいる。

 

「私達に用があると言う事は、クロスゲート絡みですね?」

 

「はい。あの後クロスゲートの向こう側の様子は見えなくなりましたが

 アーリィさんは無事に向こうに着いたと信じています。

 

 ……それもなんですが、クロスゲートについて分かった事がもう少しあるんです」

 

「なに、本当か?」

 

セージの発言に反応する薮田とアポロン。禁手に至った記録再生大図鑑――

無限大百科事典によって、クロスゲートについての調査は少しずつではあるが進んでいるのだった。

その調査状況について、報告のためにセージは二人の元を訪ねたのだった。

 

「とは言っても、専門用語らしきことだらけでちんぷんかんぷんなんですが。

 なんでも、制御には……サイコドライバー? とか

 念動力? とか言うのが要になっているみたいで……

 意志の力、と何か関係があるのかもしれませんが、俺には何のことだかさっぱりで……」

 

「聞いたことの無い単語ですね。恐らくクロスゲートが作られた世界にある概念なんでしょう。

 どうやら、宮本君の神器でも専門用語についてはわからないみたいですね」

 

「禁手に至れるほどの人間を集めればクロスゲートの制御も出来るかもしれないが……

 現実的とは言えんな」

 

アポロンも自分で出した意見ではあるが、禁手に至った人間がどれだけいるかもわからないのに

それを集めてクロスゲートの制御という大仕事を行うという時点で

全くもって現実的とは言えない案であった。

 

「もう一つ、意志の力を集めればクロスゲートを破壊することもできるみたいです。

 物凄い巨大なドラゴン? ロボット? そんなような姿がちらっと見えただけですが。

 他にも、気になった単語があれこれ出て来たんですが……

 こっちに関係ある事で言えば、アインストは間違いなくあれから出て来て

 クロスゲートからエネルギーを得ているのは間違いないみたいです」

 

「そこは確定事項として見て間違いなさそうですね。

 わかったところで、どうする事も出来ませんが……そこはもう暫く調査を続けましょう」

 

「それが賢明だな。さて、そろそろ時間だ。明日は学校だろう?

 そろそろ帰って準備をしたほうが良いんじゃないか?」

 

「そうですね。では宮本君、明日学校でお待ちしてますよ」

 

クロスゲートについての情報は着々と集まってはいるものの

それをもとに実行に移せるプランはまだ出来上がっていない。

結果として、クロスゲートについては今まで通りの対応となっていたのだ。

 

――――

 

――セージ実家。

 

ひょんなことから住み着いた白猫と黒猫の姉妹と遊びながら

母親が出迎えてくれる。これだけでもセージにとってはありがたい事であった。

 

「ただいま」

 

「お帰り、ご飯とお風呂どっち先にする?」

 

風呂で、とセージが答えると黒猫――黒歌がセージにちょっかいを出そうとするが

そこを白猫――白音に阻まれ、大人しくなってしまう。

 

(退くにゃん、白音!)

 

(……退きません。この家にお世話になってる以上、迷惑はかけられませんから。

 というか自重してください姉様。猫の姿のまま入ればある意味怪しまれますし

 人の姿では論外です。わかったら大人しくしてろこの万年発情猫)

 

(しっ、白音がグレたにゃん!?)

 

ともかく、新しい宮本家の日常は少々騒々しくなったものの

今は束の間の平和を満喫しているのだった。

 

そんなこんなで、セージも風呂から上がり夕食も済ませた後

セージの部屋には白音と黒歌も入り込んでいた。

 

「……で、白音さんには今まで通り学校に……でいいのか?

 俺も明日は色々やらなきゃならないことがあるんだけどな。オカ研への退部届出したりとか」

 

「……やっぱり、退部するんですね……」

 

退部、という言葉に白音が俯く。

最早セージにオカ研に所属している理由は無い。

それどころか、今のセージは超特捜課に所属している身分。

部活動よりも、そちらを優先したいと思うセージの気持ちもあったのだ。

 

「白音さんも今まで通りには……っと大事な事思い出した。

 悪魔の駒の摘出のめどが付きそうだ。天照様から聞いた。

 心の準備が出来次第、いつでも手術を行えるってさ」

 

「よかったにゃん! 白音、これであなたも元に戻れるにゃん!」

 

「…………」

 

「黒歌さん、こればっかりは本人の心の準備ってもんが……」

 

「そ、それもそうにゃん。お姉ちゃんあまりにも嬉しかったもんだから

 ついはしゃいじゃったにゃん」

 

悪魔の駒の切除。それは悪魔と言う呪縛から解き放たれるとともに

今までの自分との決別を意味するものでもあった。

悪魔としての存在に後悔しかなかった黒歌やセージと違い

白音はある程度は恩恵を受けていたのだ。

それ故に、悪魔の駒の切除については悩んでいるのであった。

 

「それについては明日グレモリーに話を付けに行くか。俺も同伴する。

 俺は俺でグレモリーには用事があるしな。

 

 ……あ、別に宣戦布告はしないぞ? もう勝負はついているし」

 

いよいよ明日。新たな道を歩むためにオカ研との、リアス・グレモリーとの決別の時は

すぐそこまで迫ってきているのだった。

 

「さて、そろそろ明日もあるし寝る……って重い! 二人とも乗るな! 重い!」

 

「お兄さん、教わらなかったかにゃん? レディに重いは禁句だにゃん」

 

「姉様に同感です。罰として今晩一晩中上に乗せてください」

 

失言から猫二匹を体の上に乗せる形となり、セージは一晩を過ごしたのだった。

あまりの寝苦しさに寝返りを打っては都度白音と黒歌はセージの上に登り直す――

の繰り返しになった事は言うまでもないことだが。

 

――――

 

翌朝、駒王学園跡。

 

やはりというか何と言うか、幾度となく激戦区になった駒王学園。

その復旧が追い付いているはずもなく、青空教室での授業となったのだった。

つまり、今日の授業は授業とは名ばかりの「生存確認」の意味合いが強いものとなっていた。

 

「おはよう、セージ……ってお前も小猫ちゃん連れて通学かよ!?」

 

「ああ、おはよう。家と彼女の避難所が近い、ただそれだけだ」

 

元浜に早速白音との通学を突っ込まれるセージだったが

流石に「同居している」等とは言えないため

こうして誤魔化している。なお黒歌はこの時間セージの母と一緒に仕事に出ている。

対外的には「セージの母のアシスタント」として通っている。

老人の相手は慣れたものなのか、すぐに年寄りとは打ち解けることが出来た。

 

……セクハラをかましてくる老人にノリノリで応対してはセージの母にどやされているようだが。

 

「……おはよう、やっぱ桐生が居ないと寂しいものを感じるよな……」

 

「……ああ」

 

松田も今は療養中の友人に思いを馳せながら通学していた。

松田は終ぞ知る事は無かったが、桐生はかつて松田に気がある素振りを見せていたのだ。

今となっては、恐怖心が勝ってしまう状態になってしまっているが……。

 

「……あ、祐斗先輩」

 

「来たね、セージ君、小猫ちゃん。こっちも大変だったけど……

 それは後で話す事にするよ」

 

心なしか、やつれた感じのする木場。

セージ達が去った後、リアス眷属の間で何が起きたかを察するにはあまりある様子であった。

 

また、セージはそこで不自然なものを感じていた。

リアス・グレモリーや姫島朱乃の周りに以前ほど人だかりが出来ていないのだ。

また、兵藤一誠が居ないから騒動が起きていない事は言うまでもないことだが。

 

「元浜、グレモリー先輩や姫島先輩の周り、静かになったな」

 

「そりゃそうだろ。だって悪魔なんだし。町をこんなにした根源のところに

 誰が好き好んでいくかよ。みんな遠巻きだぜ。

 それと今度の生徒会選挙、大荒れになると思うぜ……

 なんせ前期役員が全員悪魔だってことがバレちまってるからな」

 

「…………」

 

元浜の言葉に、白音と木場は黙り込んでしまう。

駒王町のために悪魔がしたことはあったかもしれないが、それ以上にしでかしたことが大きい。

特にソーナ・シトリーとその眷属達はいい迷惑であったのかもしれない。

彼女らはまだ懸命に仕事をしていた方だって言うのに。

セージも自身が悪魔憑きである手前、下手なことは言えずにいた。

 

 

一頻りあいさつを交わした後、遅くなった新学期はボロボロの校舎で幕を開けた。

まだ授業を行える状態では無いため、校長の挨拶や教師からの挨拶がメインであったが

生徒たちは久々に出会えたクラスメートや先輩、後輩との語らいに夢中になっていた。

 

そんな中、担任がやって来てHR開始の合図が始まる。

 

「はい、みんな席に……っつってもパイプ椅子だけどな。席付け。

 今日から……っつっても、またしばらく休校になるが。

 帰ってきた生徒と、新しく入って来た生徒の紹介をするぞ。宮本!」

 

「……待たせたな、みんな。宮本成二、何とか復活できた。

 色々迷惑をかけるかもしれないが、またよろしく頼む」

 

担任に呼ばれ、セージは教壇らしき場所からクラスメートに向けて挨拶をする。

セージの挨拶が終わると、今度は転入生の紹介を行おうとしていた。

担任の合図で、二人の女生徒がやって来る。

一人は青髪に緑のメッシュが入った女生徒、もう一人は黒髪のロングストレートヘア。

セージにはどちらも面識があったのか驚いていた。

 

「たった今紹介に預かったゼノヴィア・伊草だ。様々なことを学べたらと思う。

 よろしく頼む」

 

ゼノヴィアの紹介を今更ながらと思いつつも耳を傾けていると

次の女生徒の名乗りに、セージは驚きを隠せなかった。

 

「は、初めまして……天野、天野夕麻です……」

 

歴史は繰り返されるのだろうか。

目の前にいたのは、かつてイッセーを亡き者にせんとし、セージもまた毒牙に掛けられた

堕天使のそれであった。偽名もそのまま。

学習能力がないのかとさえ疑えるそれに、セージは驚きを隠せないのだった……




>無限大百科事典
今までの記録再生大図鑑+モーショントレース機能を搭載しています。
死に設定になりつつあるカードコストも無視できますが、それはもうどうでもいいような……
モーショントレースは仮面ライダーディケイド・コンプリートフォームの最強フォーム呼び出しの
モーションから着想を得ています。
しかもモーショントレースは組み合わせ可能とか我ながらすんごいチート。
今に始まった事じゃないけど。

勿論、分身してモーショントレースをすることも可能です。

>クロスゲート回り
OGMDのネタバレ要素を孕んでいますが……
ぶっ壊せるヴィジョンが見えただけで、この世界で実行に移せるかどうかというと別の話。
○○○○。○○・○○○○○○もカド。ム・○○○○○もいないので。
後者はアインストが既に現れているので因子が……

>アーリィ
重ね重ね。SINSOU様、本当にこの度はありがとうございました。
この世界のアーシアやゼノヴィアにも御礼を言わせたかったので
帰還に(強引に)間に合わせました。
結果としてアーリィ節はなりを潜めてしまった感が強いですが
今回は良い経験が出来たと思います。
多分やってきた世界はあの世界とは「極めて近く、限りなく遠い」世界でしょうけれど
今後に幸あれと言う事で、改めてこの場を借りてお祈りさせていただきます。

>天野夕麻
始まりを告げた堕天使(のそっくりさん)が現れた段階で
「ハイスクールD×D 同級生のゴースト」は最終幕を迎えます……


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復学のヒューマンソウル
Soul79. 繰り返された邂逅


新章にして最終章。
「復学のヒューマンソウル」開始します。


活動報告でも述べましたが、「Special17. 向き合う時」で設定に関わる重大なミスがありました。
瞳の色は赤ではなく金色です。
お詫びして訂正いたします。


「は、初めまして……天野、天野夕麻です……」

 

「……!?」

 

その名前を聞いて、俺は驚愕した。天野夕麻。またの名をレイナーレ。

忘れもしない、兵藤一誠を殺害し、俺――宮本成二にも瀕死の重傷を負わせ

俺達が悪魔になるきっかけを作った堕天使だ。

 

最期はアーシアさんの神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」を自分のものにしようと

アーシアさんをも殺害し、俺や兵藤にコテンパンに熨された……筈だったんだが。

 

――!!

そう言えば、生死は不明と言っていた気がする。

色々あり過ぎて気にも留めなくなったが、まさか生きていたとは……ッ!!

 

「天野はこの間まで駒王総合病院に入院していたんだ。

 だからというわけじゃないが、皆フォローをよろしく頼むぞ。

 伊草も海外からやって来てこっちにホームステイしているから

 まだ慣れていない部分もあるかもしれん、そこのところもよろしくな」

 

先生の話に、俺は腑に落ちないものを感じた。

ゼノヴィアさんの事じゃない。天野――レイナーレの事だ。

奴が駒王総合病院に入院? 一体どういうことだ?

堕天使が人間の病院で治療を受けるとでもいうのか?

俺のその沸き上がる疑問は、どうやら顔に出ていたらしく

松田と元浜に総がかりで突っ込まれることになった。

 

「おい、セージどうしたんだよ天野ちゃんの方をじろじろ見て」

 

「しかも顔怖いぞ、一体どうしたって言うんだよ? 悪い事するような子には見えないぞ?

 ちなみに具体的なサイズは……」

 

「うっ、顔に出てたか。すまないな……あと元浜、そんな情報は要らない」

 

元浜がご自慢のアレを披露しようとしたため、俺はすかさず口撃を加えて制止させる。

状況が状況だから、ほんの少しだけ変わらない事に安堵もしたが

ほんの少しだけだ。褒められた行いじゃない事に変わりはない。

ともあれ、紹介も済み席に着いたところで引き続きHRの時間になったのだが

俺はと言うと、天野夕麻の事が気がかりで半分くらい頭に入っていなかった。

 

ふと、アーシアさんの方を見たがやはり驚いている様子だった。

祐斗や白音さんも、不思議そうな顔をして天野を見ているようだ。

これは、後で話をつけなければならないな……!

 

――――

 

「……おい。来て早々で悪いが話がある。ついて来い」

 

HR終了後。俺は早速天野夕麻を呼び出す事にした。

周囲は「デートか!?」と持て囃したがそんなんじゃない。

持て囃した奴に睨みをきかせて黙らせると

 

――どうでもいいが、こういう時この異名(駒王番長)は便利だと思う――

 

俺は天野夕麻を連れて、人気の少ない建物の裏へと来たのだった。

 

「な、何でしょうか……?」

 

「とぼけるな堕天使レイナーレ。よくもまぁ俺の前にその面を出せたものだな。

 しかもまた懲りずに記憶操作で潜り込んでやがったとはな。

 その学習能力のなさには呆れすら出てくるぜ。

 さあ、その小汚い黒い羽根を出してみろ。今度は毟り取るだけじゃ済まさないけどな」

 

しらを切る天野に対して、俺はつい胸倉を掴んでいた。

その次の瞬間、俺の内部から待ったがかけられた。フリッケンだ。

 

「ひぃっ! や、やめてください……!!」

 

『待てセージ。記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を向けてからでもいいんじゃないか?

 この怯えようは尋常じゃないぞ』

 

記録再生大図鑑を? 今更こいつを調べたってどうなるって言うんだ?

こいつは性懲りもなく俺の前に現れた。あれだけやったにも関わらず、だ。

それに、こいつとは以前に戦ったことがある。こうして前の名前を使って

のこのこやって来てる時点で新しい作戦を立てていたりはしないだろう。

もし立てていたとしても力づくで捻りつぶしてやる。

そうだ、俺はこいつに――

 

『そこまでにしろ。いいから俺の言う通りにやれ、気になるんだよ』

 

力が抜ける感覚に襲われつつも俺はフリッケンのアドバイスに従い

渋々ながら天野の胸倉から手を放し記録再生大図鑑を向けることにした。すると――

 

――天野夕麻。

  5か月ほど前、堕天使レイナーレによって体をコピーする形で奪われる。

  その後赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)との戦闘の余波で重傷を負い

  駒王総合病院へと運ばれ治療を受けていた。

 

……な、なんという事だ!

俺が、他ならぬ俺の手でまさか同じ目に遭わせている人が居ただなんて!

俺は、俺はなんてことをしてしまったんだ!!

 

「……す、すまない! 人違いだった上に君の怪我の原因は俺にあるみたいだ!

 なんと詫びていいのかわからない! 本当に申し訳ない!」

 

思わず、俺は土下座する勢いで天野――いや天野さんに謝った。

正直、あの時の俺はレイナーレを倒す、いや殺せれば他の事はどうだってよかった。

けれど、こうなってくると話が違う。

まさか堕天使が人間の体コピーするなんて事例があるだなんて……!

そんな事例、俺は一言も聞いてなかったぞ!

俺は、一体彼女になんと詫びればいいんだ!

 

「堕天使……そう言えばずっと前、黒い翼の天使様が私の夢に出て来たことが……

 その時、私の夢を叶えてくれる代わりに力を貸してほしいって言われたことが……」

 

『……ん? おいセージ。この小娘からもう少し詳しく話を聞きだせ』

 

天野さんが身の上を語り始めたところで、今度はアモンの横槍が入る。

なんか、俺の身体って結構騒がしくなってる気がするんだが……

 

……それはさておき。

俺も天野さんの言う事は気になったので、話を詳しく聞きたいと思ったんだが……

 

(そうしたいのは山々だが、薮田先生に出頭するよう言われている。

 そっちを済ませたいから、天野さんへの聞き取りは後日だな)

 

『チッ、面倒臭ぇ話だな』

 

「あ、あの……帰ってもいいでしょうか……?」

 

「あ、ああ。人違いで怖い思いをさせてしまって、本当にすまなかった……」

 

俺は天野さんに狼藉を働いたことを詫び、薮田先生のもとへと向かう事にした。

そこには祐斗と白音さんが既に来ていた。

序にグレモリーに会って退部届を叩きつけてやりたかったが……

そもそも薮田先生はオカ研の顧問じゃないから、いるわけが無いか。

 

「来ましたね、宮本君。きちんと学校に出てくるその姿勢は立派なものですよ」

 

「薮田先生、それを言いたいがためだけに俺を呼んだんですか?」

 

「まさか。今はちょうどグレモリー君の様子を彼から聞いていたところですよ」

 

パイプ椅子や瓦礫に腰掛けながら、薮田先生や白音さんが

祐斗の話に耳を傾けている。確かに俺としても現状のグレモリー家や

冥界の状況は気になるところ……って。

 

……何だか、俺身体を取り戻したってのにやってる事が変わらない気がするぞ?

 

「掻い摘んで薮田先生や小猫ちゃんには話したけど、セージ君も聞くかい?

 ……話してて疲れる内容だけどね」

 

「……悪い、頼む」

 

ため息を交えながら、祐斗が今のグレモリー家の状況や冥界の状況について話してくれた。

曰く――

 

一つ。氷漬けにされた兵藤は今は魔王城にて厳重に保管されているらしい。

 

二つ。グレモリーはその兵藤を復活させるべく修行に励んでいるらしい。

 

そして三つ。アモン復活の情報が冥界全土に知れ渡り、ちょっとした騒ぎになっているらしい。

 

「兵藤とグレモリーの事はまぁそうだろうなぁと思ったが……アモンの事もか」

 

「冥界の勇者にして裏切り者。セージ君にまさかそんな悪魔が憑いているなんてね」

 

「アモンのお陰で俺は身体を取り戻せたようなものだからな。

 そして今は悪魔の駒の共有も外れて、自由の身ってわけだ」

 

『そう思うんなら、もう少し俺に協力してくれたっていいよな?』

 

『アモン、少し黙ってろ』

 

アモンの茶々をフリッケンと躱しつつ、俺は祐斗との情報交換を行っていた。

やっぱり、俺のやっていることは身体を取り戻す前と変わってない気がする。

まぁ、町がこんなではすぐ元の生活ってのも無理があるだろうけれどな。

 

「また冥界で一波乱起きそうな気がしてなりませんね。

 シトリー君も家の都合で早退しましたし」

 

「他人事じゃないからね。僕も何だか投げかけられる視線が妙に痛かったし」

 

「……私もです」

 

この辺りにいる悪魔の存在は、大半がばれてしまっている。

或いは、ばらされてしまったのかは定かではないが

今の駒王学園は、出須斗炉伊(ですとろい)はおろか金座(かねざ)よりも治安の悪い学校になろうとしていた。

 

「一応、ここにいる悪魔は危害を加えないと私からもお墨付きを出したいところなんですが

 生憎そうもいかないものでしてね……。

 君達やシトリー君達が人に無闇に危害を加える悪魔でない事は知っています。

 しかしながら、兵藤君はその素行のお陰で私が庇い立てすることが出来ないんですよ。

 しかも都合の悪い事に、グレモリー君がこの町の管理をしていた事も知れ渡っています。

 そしてこの町の現状です。庇い立てできますか?」

 

「それは……」

 

「……変態は自業自得、部長も……」

 

薮田先生の言う事は尤もであった。まさか教師ともあろう者が

問題行動ばかり起こしている輩を庇い立てするわけにも行くまい。

そして、グレモリーにしたってそうだ。ここに来てツケを払わされた形になっているようだ。

人間を蔑ろにしていたわけではなかったとしても、結果として蔑ろにしていたのが

この現状だ。そんな状況で庇い立てなどしようものなら暴動が起きる。間違いない。

 

「悪魔……いえ、三大勢力排斥論が立ち上がって、そしてそれが主流になりつつあるのも

 時間の問題と言えるでしょうね。まあ、私にはある意味では関係のない話ですが。

 スタンスは五大勢力会議の時から変えてませんからね。

 

 ……さて。宮本君の素行の問題もクリアできたことですし

 私は教師としての仕事に戻りますよ。

 避難所生活も苦しいかとは思いますが、もう暫くの辛抱と言う事で我慢してください」

 

俺の素行って……いや、祐斗や白音さんに比べたら高校生らしくないって気はするけど!

そう突っ込みたくなるのを堪えつつ、俺達は薮田先生を見送ることにした。

 

「……で、セージ君。彼女……天野さんの事だけど」

 

「結論から言おう、別人だ。だが、ただの赤の他人ってわけでも無い。

 俺は怖がられてしまったから……祐斗、白音さん。二人に協力してほしいんだが……」

 

「やれやれ。あの時みたいに暴走でもしたのかい?」

 

「……仕方ありませんね」

 

心なしか、二人の俺を見る目が痛い気がする。

ああそうだよ、図星だよ! 仕方ないだろう、兵藤ほどじゃないが

あいつにゃ俺も因縁があるんだから!

それにしても、今学校に兵藤が居なくてよかったと言うべきか、なんと言うべきか。

アイツの事だから殴りかかり……はしないにしても

何かしら問題は起こしてくれそうな気がしてならん。

それ位にはあいつのことを理解しているつもりだ。

約束を取り付け、その日は解散することにした――

 

――――

 

翌日。学校は休みなので、近くの避難所に俺と白音さんは来ていた。

天野さんがどこの避難所にいるのか、俺は聞いていない。

仕方なく、掲示板を活用するなりして虱潰しに探す事になった。

 

「……いた?」

 

「……いえ、見てません。それにしても、堕天使も身体を奪う事があるんですね

 奪うというか、真似たというか……ですけど」

 

『何か言いたそうだな、白猫。俺達は一応契約の上で身体を共有しているんだ。

 セージ、わかってると思うが今度は俺の目的のために……』

 

「はいはい、わかってるってアモン。だが今はそれより天野さんだ。

 そもそもお前が言い出したんだろうが、『彼女から情報を聞きだせ』って。

 それと白音さん、どうやらレイナーレは何かの目的のために

 天野さんの身体をコピーしたらしい。目的までは知らないけど」

 

アモンを交えつつ、俺達は天野さんの行方を追いながら

ここに来て生じたレイナーレの謎についても調査することになった。

何を思ってあいつが天野さんの身体をコピーし、兵藤に接近したのか。

いや、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の破壊とアーシアさんの神器の確保が目的なのは知っている。

問題は、何故天野さんの身体なのか、って事だ。

 

堕天使については、俺達ははっきり言って門外漢だ。

そこで俺は、記録再生大図鑑の情報に頼ることにした。

一体どれだけの情報が出力できるかはわからないが。

 

BOOT!!

 

「キーワードは……堕天使、人間、身体……

 

 ……ふむ、要領は得ないが……ふむ、ふむ……

 

 なるほど……なるほど……

 

 

 ……ってふざけんな!!」

 

「!?」

 

記録再生大図鑑が出した情報に、俺は思わず大声で突っ込んでしまった。

それを聞いていた白音さんが驚いてしまう。あー……ごめん。

けれど、これは突っ込まずにはいられなかった。何せ――

 

 

――堕天使もまた、人間と契約を交わしその見返りを求める。

  それによって力を得ており、言うなれば悪魔が人間とかわす契約と然程変わらない。

 

確かに、堕天使も見方によっては悪魔の一種と言える。

天使だってある意味悪魔みたいなものかもしれないし、見解の相違って奴だろう。

つまり、レイナーレは不敵にも当時グレモリーの管轄だったここで天野さんと契約を交わし

その身体をコピー、兵藤に接触したって訳か。

 

そう言えば、グレモリーが言っていたな。悪魔と堕天使は勢力争いと言う名の

縄張り争いが絶えず、そこを天使が漁夫の利を狙っているとか何とか。

相変わらずふざけた話だ。今はそれどころではないのか、そんな話はあまり聞かないが。

ま、それ以前に相互不干渉条約が設けられたんだっけか。

そのまま人間に関わらないでくれと切に願うよ。

 

そう考えていると、向こうで松田と元浜が桃色の髪の女性から何かを貰っている。

どこかで見たな……誰だっけ?

 

「お、セージ! いい所に来たな! 聞いて驚け、なんと桃園モモさんがここに来てるんだよ!」

 

「俺は正直好みじゃないんだけど、松田がどうしてもって言うから……」

 

桃園モモ? なんだそれ? 俺は桃は桃缶派だ。

……とここで俺は以前読んだ新聞を思い出す。

 

――グラビアアイドル、謎の失踪――

 

そのグラビアアイドルが、確か桃缶モモとかそんな名前だった気がする。

桃缶か。病院に入院してたら喰えてたんだろうか。

 

「セージ、桃缶じゃなくて桃園だ、も・も・ぞ・の!」

 

「どっちだっていいだろ。で、何でこんな危険地域にやって来たんだ?

 天道寛みたく料理でも振舞いに来たのか?」

 

「違うって、慰問だよ。俺らにしてみれば天道の飯もアリだけど

 グラビアアイドルの慰問も励みになるからさ!」

 

盛り上がる松田を、白音さんが白い目で見ている。どうどう。

そりゃ男性陣には受けはいいだろうけど、ちょっとこういう場所だとその需要はニッチじゃないか?

隙間産業は隙間産業だから機能するんであって

公におっぴろげてやられると違う気がするんだが……

それはそうと、グラビアアイドルがよくこんな危険地域の慰問にやってこれたもんだな。

天道寛はその正体を知っているから「ああ……」ってなるが。

 

……ん?

 

い、いやまさかもしかして……

 

『セージ。あの女に記録再生大図鑑を向けろ』

 

俺も気になったが、プライバシーに関する事は読まないぞ、アモン。

俺だってそう言う意味での記録再生大図鑑の使い方は祐斗の一件くらいしかやってない。

薮田先生に使って自爆したことはあるが。

 

『そんなのは俺も興味がない。いいから向けろ』

 

アモンのアドバイスに従い、俺は桃園モモを記録再生大図鑑で調べてみることにした。

するとそこには、とんでもない情報が出力されたのだった。

 

――桃レ園イモナモーレ

 

……あん? 何で記録再生大図鑑がただのグラビアアイドル相手にバグるんだ?

彼女ももしかして、天道寛みたく「裏側の顔も持っている」人間なのか?

だとしたら、こんなところにやってきた理由もわかるが……

 

とりあえず、俺はバグを取り除くために「無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)」に

記録再生大図鑑を進化させようとしたが……

 

『セージ。いくらフューラー演説があったからって、知己がいる前で禁手(バランスブレイカー)はマズいだろう』

 

やはりそう思うか、フリッケン。

俺も松田や元浜がいる前で神器の禁手化(バランスブレイク)はマズいと考え

この場は大人しくしていることにした。

 

そんな中、ふと俺と桃園モモの目が合う。

その瞬間、彼女が何かに怯える顔をしたのを、俺は見逃さなかった。

 

……だが、俺の何に怯えたって言うんだ……?




肉体を得てもセージのやっていることはあんまり変わってません。
イッセー憑依時代と比べたら心労度は大きく下がってる……筈なんですけど。

>天野夕麻
まさかのロイミュード方式。
某なでしこや072番みたくきれいな形では終わらないのはどういう事なんだろう。
今回セージが珍しく見境無くなってます。色々参ってるんです、彼も。

……と言うか(アニメ版はさておき)イッセーが気にしなさすぎなんだよ!
なお堕天使がロイミュード方式で身体をコピーするってのは拙作独自設定ですし
他の堕天使(アザゼルとか)はそう言う事はしてません(一応)。

>桃園モモ
原作ではちょい役がまさかの大抜擢。
実は記録再生大図鑑で正体モロバレしてるんですが
おわかり……ですよね?
原作ではイッセーが彼女のファンだったけど、元浜は性癖的に無しだろうと考え
ちょっと遠巻きに、松田はノリノリで彼女の慰問を受け入れています。

けれど正体を考えると慰問にも何か裏があるように思えるのは気のせい?


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Soul80. 堕天使の思惑

お気に入り登録が700突破しました。
ありがとうございます。

原作が冗談抜きで行方不明な拙作ではありますが
最後までどうぞよろしくお願いします。


グラビアアイドル、桃園モモ。

彼女はこの被災地ともいえる駒王町に慰問にやって来ていた。

天道寛ほどの成果は上げていないにせよ、松田のようにノリノリで歓迎する者もいる。

そこはグラビアアイドルと言う職種のなせる業なのだろう。

しかしこの桃園モモと言う輩。何かが引っ掛かる。

俺は思い切って、ずかずかと詰め寄ってみることにした。

 

「お、おい何してるんだよセージ!?」

 

「……っ、な、何です? サインなら……」

 

バレないように記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でチェックを試みるが

どうにも反応がおかしい。バグ、というわけでも無いが

返ってくる情報が滅茶苦茶なのだ。

 

「……いや、そういうわけじゃない。すまない、人違いだったみたいだ。

 だから、あまり怯えないでくれないか?」

 

「セージにモモちゃんが? 何で怯える必要が……

 ってかセージ、入院前に比べて結構人相悪くなった気がするからな。そのせいじゃないか?」

 

俺の人相が悪くなった? いや、そりゃまあ前から人相の良い方では無かったが

――それでよくショッピングモールでバイトできたと思うが――

とにかく、そんな松田のツッコミを躱しつつ俺は桃園モモに詰め寄ってみたが

これ以上は却って怪しまれる。記録再生大図鑑の件は引っ掛かるが

ここでそれを公表するわけにも行かない。さてどうしたもんか。

 

「あ、それじゃあそろそろ次の避難所に行かないといけないから……

 これからも応援よろしくお願いします!」

 

お決まりの文句を言って、桃園モモはこの場から去って行った。

後をつけてみたい気にもなったが、証拠不十分でそれをやったら

ただのストーカーだ、しかも相手は芸能関係者。分が悪すぎる。

とりあえず、この情報は一度持ち帰ってみることにしよう。

 

「……イッセーの奴、こう言うのを見る目はあったのに

 なんで悪魔なんかになっちまったんだろうな……

 悪魔のせいで桐生は……桐生は……っ!!」

 

「悪魔がどうこうってよりも、ヤクザとつるんでる方が悪いんだよ。

 イッセーに『もし俺が悪魔でも友達でいてくれるか?』って言われても

 そんな事やってる奴はこっちからお断りだぜ。

 ヤクザと関わり合いにはなりたくないからな」

 

松田と元浜が、口をそろえてこの場にいない兵藤の事を語っている。

何だかんだ言っても、友達でいた事実は変わらない。

そして松田の悪魔に対する悪感情はちょっとマズいかもしれない。

このまま置いておけば、何か突っ走ってしまうのではないか。

考えすぎかもしれないが、俺の脳裏にそんな予感が過ったのだ。

 

「……兵藤の事はあまり考えすぎるな。

 フューラー演説と言い、このテロ活動と言い色々あってその上でだ。

 それと、これは一応忠告だが間違っても悪魔に復讐しようなんて考えるなよ?

 特に松田。返り討ちに遭うのがオチだ」

 

「分かってるよそんなことは……っ!」

 

「なぁセージ。俺達にも『神器(セイクリッド・ギア)』……だっけ? それがあれば

 悪魔と戦えたり出来たのかな……?

 桐生や他の皆を守れたり出来たのかな……?」

 

松田も元浜もかなり参ってるみたいだな。

どっちも結構危ない事を考えてやがる。

そんな考えでいたら速攻悪魔の餌だ。

俺はその辺を踏まえ、二人を窘めることにする。

 

「……神器、か。それがありゃいいってもんじゃないし

 フューラー演説でも触れていたかもしれないが

 神器があるからこそ悪魔や堕天使に狙われる、ってケースもあるんだぞ。

 兵藤だって本を質せば神器のせいでああなったようなもんだ。

 本当、人間を何だと思ってやがるんだかな……」

 

「イッセーもか……おっと。俺達もこれ以上油売ってられないや。

 避難所の手伝いがまだ残ってたんだった。行くぞ松田!」

 

「ああ、じゃあセージ、またな!」

 

走り去っていく松田と元浜を見送り、俺はさっきから

「変態とは関わりたくない」とばかりに

遠巻きに見ていた白音さんと合流する。

 

「……大きければいいってもんじゃありません。

 それにさっきの人、人間の臭いがしませんでした。

 寧ろ堕天使の臭いに近かったような……」

 

「やっぱりか。どこの馬の骨だかまだ分からないが、桃園モモってのが

 ただものじゃないってのはこれで事実みたいなものになったな。

 俺の記録再生大図鑑も、変な返し方をしたし」

 

変な返し方。バグとも文字化けとも違う、何か文字がでたらめに並んだ……

でたらめに並んだ?

 

俺はもう一度記録再生大図鑑を出力させ、さっき返って来た桃園モモ

……らしき存在のデータを見返してみることにする。

名前の部分。

 

――桃レ園イモナモーレ

 

桃園モモ、を取り除くと……

 

――レイナーレ

 

……やはりか! しかしそうなると、何のためにここに来たんだって事になる。

あそこまでやられてまだ懲りて無いとしたら、相当なバカとしか言いようがないが。

誰かみたいに。

 

それはともかく、アインストも沈黙しクロスゲートも安定化した今だからこそ

こういう連中が動き出しているのかもしれない、と考えるとある程度合点は行く。

俺にしてみればそう言う時だからこそ動くなよ、って気がしてならないんだが。

兎に角、俺は一度芸能関係者と言う事で天道寛――大日如来様に当たってみることにした。

 

「今の天野さんはレイナーレと無関係だって事がわかった。

 それだけでも収穫としては大きい、俺は今度は芸能関係者から

 桃園モモについて当たってみるつもりだ、白音さんはどうする?」

 

「……天道さんの料理が食べられるならそっちに行きます」

 

飯かよ。と俺が突っ込む間もなく白音さんは俺について来る気満々であった。

そんなわけで、俺は白音さんと共に天道寛の元へと向かう事にしたのだ。

 

――――

 

――駒王警察署。

 

大日如来様としての顔も持ち合わせている天道寛は普段はここにいる。

ここで作られた料理が警察や自衛隊の手によって各避難所に配られているそうだ。

勿論毎日って訳では無いのだが、それでも多くの人の励みになっているのは事実であるようだ。

……今、信仰集めと言う薄汚い考えが過ったがそれはまあ置いておくことにしよう。

 

「来たか、少年少女。配給なら並んで……」

 

「じゃ、セージ先輩。私は並んできますので」

 

「あっ……まぁ、白音さんは今はいいとして。

 天道寛としてのあなたに聞きたい事があります。

 ……桃園モモ、ってご存知ですか?」

 

思い切って、俺は本題を切り出してみることにする。

しかし天道寛は料理評論家にして俳優、片や桃園モモはグラビアアイドル。

畑違いもいい所だ。情報は得られないだろう、そうも考えていたところ――

 

「知っている。面ドライバービート対花弁ライダーピンキーとかいう

 ふざけた企画のオファーが俺のところに来てな。深夜特撮と日曜朝の特撮……

 毛色が違うし子供の情操教育に全くよろしくないという理由で蹴ってやったけどな。

 桃園モモってのは確かその相手側の主演女優だったな。彼女がどうかしたのか?」

 

「はい、彼女もこの駒王町に慰問に来ているみたいなんですが……

 どうやら、堕天使が彼女の姿を借りているみたいなんです。

 何故か、まではわかりませんが」

 

「アインストやクロスゲート回りが大人しくなったと思ったら今度はそっちか。

 全く、この町は騒動に事欠かないな。で、それで俺にどうしろと?」

 

「いえ、本物の桃園モモと面識があったのならばそこを突いて

 正体を暴いて企みを阻止しようと考えたんですが……」

 

俺の発言に、天道寛は目を閉じて考え込むような仕草をした後

静かに口を開いた。その内容は、ある意味俺の想定通りだった。

 

「確かに堕天使も色々しでかしているし、今の『神を見張るもの(グリゴリ)』に

 堕天使をまとめ上げる力があるとは俺も思ってない。

 だが、こういう事を言っては手遅れになるかもしれないが

 『事はまだ起きていない』。今は人々の生活を救済する方が先決だ。

 

 ……逆に聞くが少年。確か堕天使に瀕死の重傷を負わされたそうだったな。

 まさかとは思うが、それが原因で俺に話を持ち掛けたのではあるまいな?

 そう、意趣返しのために」

 

図星だった。正体がレイナーレだってわかった以上、碌なことを考えていないに違いない。

そう考え、俺は先手を打って奴の動きを封じようとしていただけだったのかもしれない。

 

「お釈迦様は言っていた……

 『過去は追ってはならない、未来は待ってはならない。

  ただ現在の一瞬だけを、強く生きねばならない』……ってな。

 過去に囚われると、己の身を滅ぼすぞ」

 

人差し指を天に差し、いつものポーズで説法を述べる大日如来様。

確かに、レイナーレの一件は過ぎた事だ。その過ぎた事に直接は無関係である

大日如来様を巻き込むのは、確かにマズかったかもしれない。

そう考え、俺は部屋を後にすることにした。

 

「待て。今回の件で天照が三大勢力――特に悪魔にだが、話があると言っていた。

 その打ち合わせのために、今からアザゼルに話を付けようと思っていたところだ。

 お前も参加するか?」

 

これは……またとないチャンスかもしれない。アザゼルに直談判できるチャンス。

この間は負傷退場と言う形で終わってしまっていたから結局代理にしか話が行ってない。

まぁ……下級堕天使の事なんか知ったこっちゃない、で終わりそうな気もするが。

 

「是非!」

 

そうして、俺達は警察署の通信室でアザゼルと対話することとなったのだ。

 

『……病人に何の用だ、マハヴィローシャナ』

 

「もうじき退院できそうなくせに病人ぶるな。俺からは第二回五大勢力会談の提案だが

 もう一人……紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)と言えばわかるか?」

 

『何っ!? アイツがここに来ているのか!?』

 

「当たり前だろ。ここは駒王町、そして彼は駒王町在住だ。居ることに何の不思議がある。

 彼がお前に話があるそうだ。代わるぞ」

 

天道寛から通信機を受け取り、俺は通信機の向こうのアザゼルと対話することにした。

そう言えば、面と向かって――ってわけでも無いが、こうして話すのは初めてか。

 

「シェムハザ総督代理より話は聞いておられるかと思いますが、俺が紫紅帝龍こと

 宮本成二です。今回はあなたにお聞きしたい事が……」

 

『そう硬くなるなよ。フランクに行けよフランクに。ったく、これなら赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の方がよほど話しやすいぜ……

 ってサーゼクスから聞いたぜ。不幸な事故だったな、赤龍帝は……』

 

「ええ。ですがある意味自業自得でもあります。そして彼が齎した災害によって

 多くの人々が被災しました。この尻拭いもせず暴れるだけ暴れて今は……」

 

『おいおい、死体蹴りは勘弁してやれよ。堕天使の俺でもゾッとするぜ。

 ……で、それを言いに来たんじゃないんだろ? 何の用だ?』

 

「ええ、実は……」

 

俺はレイナーレの事を包み隠さず話した。

一部はシェムハザ総督代理に話した事と被るが、それでもあえてそのまま話した。

 

『……悪いが、俺は赤龍帝――兵藤一誠殺害に関しては反省する気は全く無いぜ。

 とは言え、その結果としてお前さんが巻き込まれてしまったのは多少は悪いとは思ってる。

 だがよ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が暴走してみろ。人間の世界なんかあっという間だぜ?

 事実、そういう事件が起きただろうが』

 

「当事者を前に多少とはよく言ったものですね……というのはさておくにしても。

 確かに暴走の件を言われると返す言葉がありません。

 結果オーライで片づけるつもりはありませんが、これについては……」

 

『お前さんの愚痴なら聞いてやるが、赤龍帝の被害の賠償をうちに求めるのは

 悪いがお門違いって奴だと思うぜ。それを求めるならサーゼクス……悪魔のところにするんだな』

 

アザゼルの言葉に、俺は怒りというより呆れが生じていた。

だがある意味では正しいとも取れる彼の意見に、とりあえずこの場は従う事にした。

愚痴を聞いてもらうつもりは毛頭ないが。

 

「愚痴を言う気はありませんが。それより……その兵藤一誠を殺した相手――

 レイナーレなんですがね、彼女にまだ何かやらせるつもりなんですか?

 この荒廃しきった駒王町で、何をやらせるつもりなんですか」

 

『あん? 居ねぇと思ったらそんなとこに居やがったのか……

 おい、レイナーレについてはこっちも探してる最中なんだ。

 悪い事は言わん、こっちに身柄を渡しちゃくれねぇか?』

 

どういうことだ? 下級堕天使のレイナーレをアザゼル総督が探している?

俺にはその発言の意図は掴みかねたが、身柄を引き渡すだけなら

別に問題ないだろう、そう考え二つ返事を返す事にした。

 

……条件を付けて。

 

「構いません。彼女は今桃園モモと言う人間に化けています。

 以前は天野夕麻という人間に化けていたみたいですが……」

 

『人間に化ける? そりゃ本当か? だとしたら厄介だな……。

 下級堕天使だと思っていたが、まさかそんな能力をもってやがったとは……。

 それにそもそもこっちも軍勢は動かせねぇしな……。

 悪ぃ、レイナーレの身柄の確保はそっちでやってもらっていいか?』

 

……??? 堕天使が皆人間に化けられるって訳では無いみたいだ。

レイナーレの固有能力って事か? まぁ、記憶操作とか出来るくらいなんだから

人間に化けるくらいはどうってことないんだろうが……

兎に角、アザゼルの提案を俺は飲むことにした。

 

「わかりました、の前に質問なんですが」

 

『なんだ?』

 

「何で下級堕天使を態々探しているんです?」

 

『……うちの禍の団(カオス・ブリゲート)の内通者を締め上げたら、レイナーレの名前が出たんだよ。 

 そこから考えれば、レイナーレが禍の団に所属しているか、何らかの関係がある事は明白だろ。

 何を思ってんな事やってるのかはわからんから、こっちもこっちで情報が欲しいのさ』

 

なるほど、要は裏切り者を捕まえたいわけか。

アモンが何か言いたそうにしていたが、ここでアモンに出てこられると

話がややこしくなりそうなのでお帰り願った。

アモンの件は堕天使陣営には関係ない。ここで話しては余計な混乱を生むだけだろう。

何せ魔王陛下がひた隠しにするほどのトップシークレットだ。外部のトップに話せばえらい事だ。

 

「……わかりました。ではレイナーレは俺が確保します。

 では大日如来様に代わります」

 

『頼んだぜ』

 

その後、大日如来様とアザゼルは何か色々話していたみたいだが

それと前後して俺に出動命令が下ったのでその話を最後まで聞くことは無かった。

 

――――

 

Sieg Reich(帝国に勝利を)!!」

 

Heil Führer(総統万歳)!!」

 

俺に下った出動命令。それはあのナチス兵の撃退だった。

 

「氷上さん、ちょっと刃物振り回しますんで!」

 

「分かった、君も無茶するなよ!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-SWORD!!

 

SOLID-SWING-EDGE!!

 

刃付きの触手を実体化させ、一緒に来た氷上さんに当たらないようナチス兵を撃退していく。

しかしこいつら、一体全体どこからやって来たのだろう?

禍の団の一員だってことはフューラー演説で分かってるんだが。

こいつらは聖槍こそ持っていないが、銃撃や魔法使いの一団が所属しているのか

魔法による攻撃も行ってくる。かのヒトラーのラストバタリオンには

本当にそんな奴がいたのか? 荒唐無稽すぎて嘘くさいとさえ思えるが

今対峙している相手は本物である。

 

リハビリも兼ねて、なるべくアモンの力を使わないようにはしているが

正直、やはりというか何と言うか霊体に比べて疲れる。

 

息が上がり始めたところで、氷上さんが銃で援護射撃をしてくれる。

流石に神経断裂弾ではないようだ。いくらナチスかぶれとは言っても

まさか生身の人間に神経断裂弾を撃つわけにも行くまい。

こいつらが本当に生身の人間かどうかは、正直疑わしくもあるが。

とは言え。なんとか息が続いている間に、一頻りを片付けることが出来た。

 

「ありがとうございます、氷上さん」

 

「宮本君もだいぶ調子が戻って来たんじゃないか?」

 

「……まだまだですよ。霊体の頃の方が調子がいいって、どういうことなんだか」

 

俺は現状を笑い飛ばしながら、氷上さんと帰還しようとしたその時。

俺の視界に、あいつが映り込んだのだ。

 

「――氷上さん。先に戻っててください。俺もすぐに戻りますから」

 

「? 分かった、あまり遅れるんじゃないぞ?」

 

氷上さんには先に帰ってもらい、俺はあいつ目掛けて触手を伸ばす。

触手は空を切ったが、そこには黒い羽根が舞っていた。

 

「あ、あなたはさっきの……一体何なんですか!?」

 

「とぼけるな。さっきどうやって避けたんだよ。

 咄嗟の事では、やはり素が出るみたいだな……

 

 ……レイナーレ!!」

 

そこにいたあいつ――桃園モモは、にやりと笑うと黒い翼を展開させる。

しかし、その翼は一対ではなく三対……コカビエルと同等だった。

 

「……なにっ!? お前、どうやって翼を……!?」

 

「そ、それをあなたに話す必要は無いわ……

 お、お、思い知るといいわ! お前も、私が味わった恐怖を!!」

 

レイナーレは怯えながらも光の槍――というかコカビエルと同等クラスの

光の柱を投げつけてくるが。

 

SOILD-DEFENDER!!

 

俺はそれを難なくディフェンダーを実体化させ、防ぐ。

いくら俺一人の力じゃなかったとはいえ、コカビエルを下した俺に

その攻撃は恐るるに足らず、だ。しかも今は悪魔じゃないから悪魔特攻でさえない。

単純に物理的に痛い気はするけど。

 

……と、強がってはみたが内心冷や汗ものだった。

何せあの時と違ってこっちはリハビリ中だ。

あの時と同じように防げるかどうかまではわからなかったのだ。

結果はうまく行ってくれたが。

 

……となれば結果が全てだ。

俺は勢いに任せ、さらに強がってみせる。

 

「!?」

 

「情報収集はもっと真面目にやっておくんだったな。

 今の火力、コカビエルと同等程度はあったかもしれない。

 だが、そのコカビエルに勝った俺相手にそれでは足りんと言う物だ。

 大方、俺一人ならそれでも勝てると踏んだのかもしれんけどな!」

 

ディフェンダーを構えたまま、俺はレイナーレに肉薄し取り押さえようとする。

ここで堕天使に引き渡すようアザゼルに言われているが

俺はそれ以上に気になった事があったので直接問い質してみることにした。

 

「お前! 何を血迷って俺の前にもう一度出て来たんだ!?」

 

「別にあなたに会うのが目的じゃないし、あなたはむしろ邪魔な存在よ!

 わ、私は目的を果たさなければならないの! あの少女の目的を……」

 

「あの少女? まさか、天野さん……」

 

その一瞬だった。俺自身がある程度消耗していたこともあり

レイナーレに考え込んだその隙を突かれてしまい、逃げ出されてしまう。

 

「私は今も昔もアザゼル様に認めてもらうために堕天使としての職務を全うしているだけよ!

 だから、私はこの手で殺さなければならないの! 赤龍帝を!!」

 

「え? お、おい!?」

 

言うだけ言って、レイナーレは飛び去ってしまった。

まさかアイツ、知らないのか?

 

――赤龍帝、兵藤一誠が既に死んでいるって事を――




レイナーレが固有能力を持っている理由?
一応一巻ラスボスって事で贔屓させてみました。
情報収集の詰めの甘さは一巻のへっぽこっぷりを見れば一目瞭然かと。

コカビエルに匹敵する程度に強くなってますが
防御面で対堕天使メタも備えているセージには一歩及ばず。
強くなった理由をネタバラシしますと結構あくどい事やってます。
禍の団に所属した時点でそう言うフラグは立ってますからね。

そして穿った見方をすればここでイッセー復活フラグが見え隠れしていたり。

>白音
今回は出番殆どなし。本当にご飯貰いに来ただけでした。
まぁ猫だから仕方ないね。

>アザゼル
何気にセージとは初めて言葉を交わしている……はず。
(会談の時は腕喰われて強制送還喰らってましたから)
原作ではイッセーとは馬が合った様子ですが
そうなるとセージとは逆に馬が合いにくいんじゃないかと思い
ちょっとよそよそしい感じです。

まぁ、一応組織のトップ相手と言う事でそれ相応の態度を取っていただけかもしれませんが。
お偉いさん相手に礼節もへったくれも無くスルスルと馴染める原作がアレ……げふん。
まぁ、一応魔法使いとの契約の時に突っ込まれてはいるみたいですが。


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Soul81. 暴かれていく因縁

クロスオーバーを謳ってる以上、舞台設定もそうなるわけでして。


レイナーレが言い残した言葉……

 

――私はこの手で赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を殺さなければならない――

 

俺はその言葉が引っ掛かっていた。

 

『だから言ったろう。あの天野とかいう小娘から情報を聞きだせって』

 

「今言っても仕方ないだろ、とりあえず彼女が何らかの鍵を握っているのは

 間違いないって事か。仕方ないな、これは」

 

アモンからのダメ出しを喰らいながら、俺は警察署に戻って情報を纏め直す事にした。

 

――――

 

――駒王警察署。

 

食事の時間も終わっており、人もまばらになりつつある時間。

この所のインベスやアインストの沈静化もあって、一部の人々には帰宅許可も下りたようだ。

だが中には、家を壊されたとかで帰宅できない人もいるわけで

結局仮設住宅に住み込んでいる人も決して少なくない。

兵藤の親御さんもそうした人達の一例と言えよう。

 

「あ、宮本君。天道さんからの差し入れ、君の分も貰っておいたよ」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

俺は兵藤の親御さんから味噌汁を受け取り、温め直して飲むことにした。

いくら天道寛の作とは言っても、冷めた味噌汁を飲む気は無い。

 

「今日もお勤めご苦労様だねぇ。超特捜課……だっけ。

 そこに協力しているんでしょう?」

 

「ええ。俺に力がある以上、その力を使わないわけにはいきませんから。

 こういう世界なら尚更です」

 

「無理だけはしないでね、イッセーみたいな事だけはもう御免だから……」

 

兵藤の名前が出ると、どうしても暗くなってしまう。

無理もない、自分の息子がバケモノになった挙句冷凍保存されて

魔王に連れ去られているのだ。

 

俺には、何の思惑で魔王陛下が兵藤を連れ去ったのかまではわからない。

だが、どうにも嫌な予感だけはしてならないのだ。

勿論、それをここでいうつもりは無いが。

だが、その前に俺は無駄だと分かっていても聞いてみることにした。

 

――天野さんの事について。

 

兵藤の彼女としての天野さん……いやレイナーレの存在は

親御さんも知っているはずがない事はわかっている。

だから、レイナーレではない天野さん本人について

何か知っていることは無いか、俺は親御さんに聞いてみることにした。

 

「そうだ。お二人にお聞きしたいんですが、天野夕麻という子について

 何か知っていることはありませんか?」

 

「いや……何も知らないな。なぁ母さん?」

 

「天野……夕麻……やはり聞いたこと無いわね。ごめんなさいね宮本君」

 

やはり。ここで得られる情報は無いみたいだ。

ただ、おかしな間があったのは気になったが……

もしかしたら言いにくい事なのかもしれない。それについて根掘り葉掘り聞くのは

マスゴミだ。リー・バーチだ。俺はそういうやり方は好きになれないので

天野さんについて聞くのはここで切り上げることにした。

 

「いえ。こちらこそお答えいただきありがとうございます」

 

答えてもらったことに俺が二人に礼を言うと

そのタイミングで天照様の使いがやって来た。曰く

 

――アインストの影響が及んでないかの検査

 

だそうで、俺も邪魔になってはいけないと思い

同じタイミングで仮設住宅を後にすることにした。

そう言えば、アインストに変異させられていたんだ。

今のところ、俺が見た限りでは影響はなさそうに見えるがやはり検査は必要だろう。

 

一体全体、この町はどうなってしまうのだろうな。平和に過ごしていたはずの人でさえ

何の前触れもなく怪物にさせられてしまう。そんなところが平和であるはずがない。

やはり、俺は戦わなければならないみたいだ……

 

――――

 

「……で、そうして黄昏れてるわけかい?」

 

「調査が行き詰ったんだよ」

 

外に出てぼんやり考え事の続きをしていると、祐斗に話しかけられる。

冗談めかして言っているが、本当の事である。

 

「で、祐斗は何か収穫あったのか?」

 

「あはは……こっちも全然だよ。僕も黄昏れようかな」

 

祐斗も俺の冗談に呼応するように冗談めかして言っている。

俺とは違う線で当たっていたはずなのに、それでも手掛かりなしとは

天野さん、一体どういう経緯で兵藤の事を……?

 

「……二人してサボらないでください」

 

「……サボってねぇ」

 

容赦ない白音さんのツッコミを浴びつつ、俺達は白音さんも交えて

天野さんの情報についての交換を行う事にした。

……と言っても、俺達が全然収穫ゼロなので白音さん次第なのだが。

 

「……あの変態、一体いつからあのザマなんですか。

 まさか中学時代まで遡るとは思いませんでした」

 

中学時代? 確かあいつのあのスケベは小学生の頃からだと聞いていたが……

まさか中学時代に何かあったのか?

気になった俺は、白音さんに聞いてみることにした。

 

「……ええ。一誠先輩、一度だけ珠閒瑠(すまる)市ってところに住んでいたことがあったみたいなんです。

 それがちょうど中学の時で、向こうでも……」

 

「……やらかしたのか」

 

「……はい。で、向こうの教師にこっぴどく怒られて半ば追い出される形で

 こっちの駒王町に出戻りしてきたみたいなんです。

 後はセージ先輩や皆さんのご存知の通りです」

 

ふむ。その珠閒瑠市はこっちより治安がいいのか?

兵藤の行いに正しく制裁が加えられたみたいだし。

だけど、それと天野さんがどういう関係があるんだ?

また疑問が出て来た俺は、再度白音さんに尋ねてみることにした。

 

「兵藤がやらかしたのはわかった。だけどそれと天野さんがどういう関係が?」

 

「……いたみたいなんです。天野さん……の友達が珠閒瑠市に、その中学に」

 

「読めたぞ。彼女はその仕返しをイッセー君にしようとしているんじゃないかな。

 その為に堕天使の力を使って。そしてレイナーレはそこに付け込んだ、と」

 

祐斗の考えは、俺とほぼ同じだった。

赤龍帝――兵藤一誠を殺さなければならない理由。それは神器(セイクリッド・ギア)の危険性もさることながら

個人的な理由もあるのではないかと考えられるからだ。

レイナーレ個人としては、危険性から殺害しようと試みていたようだが

それに加え、天野さんの悪感情が混じった形となればブレーキをかける理由がどこにも無くなる。

それに、ただ殺すだけなら闇討ちとかいくらでも方法がある。

それなのに、態々恋人を装って殺す位なのだから

余程残酷に殺したい相手だったのだろう、兵藤は。

 

『やっぱりな。あの小娘の抱えてる闇、相当でかかったぞ。

 あの小僧に相当な恨みがあると見たね、俺は』

 

アモンが祐斗や白音さんの意見から見解を述べる。

やはり悪魔だからか、人の抱えている闇とかそう言った面には聡いのだろうか。

しかし、天野さんもとんでもない事をしてくれたものだ。

復讐のために堕天使の力に頼るとは……

 

……あれ? あれれ?

そうなると、俺がああなったのはやっぱり兵藤のせいって事か?

なにせ珠閒瑠であいつがやらかして、それを根に持った天野さんがレイナーレに依頼して

あんな方法で兵藤を殺しにかかって、俺はそれに巻き込まれ……

 

……なにこれ。

俺、無駄死に――死んでないが――じゃないか!

全く、どこまであいつは自分の尻拭いを他人にさせれば気が済むんだ。

そうなると本当に酷いな。珠閒瑠の事件だって俺は初めて聞いたが

これを親御さんに聞く気にはならない。向こうだって触れられたくない事だろう。

本当に兵藤の奴は親不孝者だな……!

 

とりあえず、今やるべきことはレイナーレに真実を話し

アザゼルの元に出頭してもらう事だ。今ここで堕天使にうろつかれるのは色々マズい。

まさかアイツ、フューラー演説の事も知らないなんてオチは無いだろう……と思いたいが。

仮にも禍の団(カオス・ブリゲート)に所属しているフューラーの演説を、禍の団との関連を疑われている

レイナーレが知らないなんて、お粗末にも程がある。

 

「とりあえず、天野さんとレイナーレの関係については憶測だけど読めてきたな。

 これは何としても、レイナーレを確保してこのバカげた騒動を終わらせたいところだな」

 

「天野さんの説得も大事じゃないかな。堕天使に頼ってまでイッセー君を殺そうとしたんだ。

 余程深い恨みがあるって事だろうね……何となく、僕にはわかるよ」

 

祐斗も聖剣絡みで暴走したことがあったな……と思いつつ

俺はレイナーレを止める側、祐斗と白音さんは天野さんの説得と

二手に分かれることにした。

 

――――

 

祐斗の暴走と言えば。俺は身体を取り戻してから気になっていたことがあった。

あの時世話になった海道さんや、虹川姉妹。

あれから見ていないが、今の俺でも見えるのだろうか。

今の俺は、霊体ではない。幽霊との対話はもうできないのだろうか。

尤も、出来たら出来たでこの現状ではノイローゼになりそうな気がするが。

何となく、非業の死を遂げた悪霊で溢れていそうな気がするからだ。

 

……それもあるし、今それについて考えるのはよそう。

俺は気を取り直し、レイナーレの捜索に取り組むことにした。

 

COMMON-RADER!!

 

レーダーを使い、レイナーレがいないかどうかのチェックを行う。

しかし、どうもレーダーの調子が悪い。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の不調……とは考えにくい。

この手ごたえはフェニックスと戦った時と同じ、ジャミングだ。

しかし、一体誰がジャミングをしているのだろう?

 

……いや。逆に考えろ。さっきの記録再生大図鑑のエラーと言い

レイナーレだって記録再生大図鑑持ちの俺と戦った経験があるんだ。

何らかのメタを打っていてもおかしくない。

このジャミングも「ジャミングのせいでレイナーレが探せない」じゃなくて

「ジャミングのある所にレイナーレがいる」って考えてみたらどうだ?

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

試しに、俺は高速移動を交える形でレーダーの起点位置を調整してみることにした。

レーダーが示す場所では無く、ジャミングが発生する場所を元に

レイナーレの居場所を突き止めることにしたのだ。

ものは考えよう、俺は地道に「あたり」を付けながら

レイナーレが居るであろう場所を探し続けるのだった。

 

レーダーの範囲を絞りながら、俺はあたりを付けていく。

徐々にではあるが、居るであろう場所がわかり始めてきたところだ。

だが、ここで思わぬ展開が待ち受けていたのだ。

 

「お? 誰かと思えばクソ悪霊じゃねぇか!

 丁度良かった、俺様暇で暇でイライラして来たところなんだよ。

 お前とっとと俺に殺されちゃくれねぇか?」

 

「フリード!? そう言えばお前には言って無かったな。悪霊は廃業だ!

 そして今俺は忙しい、邪魔をするな!」

 

「忙しい? 邪魔するな? ハッそいつは好都合!

 だったら俺様ちゃんはとことんまでてめぇの邪魔をしてやるんだぜ!

 やれよ菫の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)鈍色の鋼角皮(アイゼン・シュラオペ)朱の空泳魚(ロッソ・スティングレイ)!」

 

ちょっ……いきなり三体同時召喚とか大盤振舞だな!

レーダーを絞っていたのが仇になったのか、フリードに気付けなかった!

俺は魔獣の攻撃を躱しながら、反撃の体制を整える。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

GUN-EXPLOSION!!

 

SOLID-SHOTGUN!!

 

「へっ! 散弾じゃあなぁ!!」

 

俺の武器選択を嘲笑うかのようにフリードは魔獣に攻撃指令を出している。

確かにショットガンで倒せるほどこの魔獣は簡単な相手ではない。

特に鈍色の二足歩行の犀。こっちの攻撃に全く怯む様子を見せない。

 

SOLID-GYASPUNISHER!!

EFFECT-STRENGTH!!

 

散弾の通りが悪いなら、打撃で勝負だ。

正直、ギャスパニッシャーは重いので力を強化しないととてもじゃないが振り回せない。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の恩恵がない今は尚更だ。別に惜しいなどとはこれっぽっちも思ってないが。

 

「お? そう言う趣味なわけ? 人は見かけによらないなぁ?」

 

「ほざけ、お前に趣味についてとやかく言われたくはないな!」

 

フリードにギャスパニッシャーの見た目についてとやかく言われるが、俺もそれは知っている。

俺だってこの見た目には言いたいことが無いわけじゃないが、こうなったものは仕方ないんだよ。

迫りくる魔獣の攻撃をギャスパニッシャーで弾きつつ

俺は半ば必死にフリードや魔獣を遠ざけようとギャスパニッシャーを振り回す。

 

蛇の尻尾を叩き潰したり、犀の表皮に叩きつけたり

エイの動きに合わせてカウンターを喰らわせたり。

それにしても、フリードも中々芸達者な奴だ。

はじめて会った時は祓魔弾を込めた拳銃や光剣を使いこなしていたかと思ったら

今度はエクスカリバーの因子を受け取ってエクスカリバーを振り回していたり

そうかと思えば魔獣の召喚だ。こいつは一体何なんだ。付き合ってられないぞ。

 

「やっぱ戦ってるのは楽しいなぁ! イライラがスカッとするぜ!」

 

「俺はちっとも楽しくないな! いい加減疲れてきたからさっさと帰れよ!」

 

『セージ、俺に代わるか? 俺はあいつと同意見だ、戦いたい』

 

やめてくれアモン。俺があいつと同類だなんて考えただけでゾッとする。

それに、下手にお前に代わったら今度は悪魔メタを張られるかもしれない。

そう言う意味でも、こいつは厄介な相手なんだ。

 

『そうかい。ま、お前さんの意見を尊重するぜ』

 

ありがとよアモン。今はお前の力を借りる場面じゃない、そんな気がしたんだ。

しかし、こう消耗していては無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)も使えるかどうか怪しい。

あれ以来、一度も使ってないんだけど。

使えたからって劇的に状況が変わりそうにも思えないが。

またフリッケンの力を使えば、魔獣とフリード同時に対応するのも容易いかもしれない。

が、リハビリ中の今戦闘行為で無闇に分身すると

各個撃破と言う最悪のオチが待ち受けているかもしれない。

その危険性も考え、俺は分身も封印している。

 

だが、そう言えば気になったことがある。

俺は息を整えつつ、フリードに聞いてみることにした。無駄な気もするが。

 

「ここに来たって事は、レイナーレ絡みか!?」

 

「およ? アイツまだ生きてたの? 俺ちゃんそれ初めて知ったんだけど。

 あんな堕天使のクズ、今更何してようがアウトオブ眼中なわけ。

 俺がてめぇに会ったのは、本当に偶然なんだよ。

 ヴァーリは裏切る、イリナはどっか行く……俺だってこのままのこのこ帰ったら

 オーフィスの旦那に何言われるかわからねぇからな!

 っつーわけで……その首よこせや」

 

通り魔かよ。こいつらしいって言えば、らしいけどな!

だがそれならそれで尚更負けるわけにはいかなくなった。

通り魔にやられたとあっては、何のために身体を取り戻したのかわからなくなるからな。

元々、こんな奴にいいようにさせるつもりは毛頭なかったわけだが!

 

「寄越すわけないだろうが! さて、動機も聞けたところで

 そろそろお前にはご退場願う!『断罪判決の魔眼(フローズン・グローバルパニッシャー)』発動!」

 

ギャスパニッシャーのトリガーを引き、描かれた眼が見開く。

その眼に囚われた魔獣は、その動きを止める。

その勢いで、俺はギャスパニッシャーを振り回し魔獣に叩きつける。

鈍い音と共に、フリード目掛けて吹っ飛ばされる魔獣。

魔獣をよけながら、フリード自身も反撃を試みようとして来るが

俺はその隙を与えず、振り回したギャスパニッシャーを今度は

フリード目掛けて投げつけた。

 

「ごぶっ!? また……」

 

「ああ、『また』吹っ飛ばされるんだよ!!」

 

PROMOTION-ROOK!!

EFFECT-CHARGEUP!!

BOOST!!

 

俺は可能な限りのブーストをかけ、投げつけたギャスパニッシャーを再度取り

再びフリードをかっ飛ばす勢いで叩きつける。

仮にも生身の人間相手にこれをかますというのは

下手すりゃミンチになるんじゃないかって気もしたが

こいつもテロリストだ。かつてコカビエルの騒動の時に学校に避難した人がこいつに殺された。

その事を考えれば「殺されたから殺す」って無限ループに陥る危険性も考えたが

徹底的に吹っ飛ばす必要があると考えたのだ。

 

全身全霊を込めたギャスパニッシャーの一撃。

その一撃を喰らい、フリードは遥か彼方へと吹っ飛ばされる。あの時と同じだ。

フリードが吹っ飛ばされたことで、召喚された魔獣も同時に消え去った。

これ、そう言うメカニズムになっていたのか?

 

DEMOTION

 

こうして、俺はフリードの撃退に成功した。

肩で息をしながら、昇格(プロモーション)を解く。

 

……ってか、悪魔の駒が無いのにまだこれ使えたんだ。

新しい発見に俺は疲れながらも胸を躍らせつつ、その場に座り込んで息を整えることにした。

 

結局、フリードの横槍のせいでレイナーレは取り逃がしてしまった。

レーダーで絞り込んでみたが、ジャミングの反応が無くなってしまったのだ。

勿論、レイナーレ自体の反応も無い。

仕方なく、俺は一旦警察署に戻ることにした。

 

……あ。あいつ(フリード)の身柄確保すべきだった。

俺はしまったと思いつつ、少々重い足取りで警察署へと向かうのだった……

 

――――

 

――駒王警察署。

まず俺がすべきことは、氷上さんや柳課長にフリードとの遭遇戦について報告を行うことだ。

結果として逃がした形になるので、少々気が重いが言わないわけにも行かない。

 

「――と言うわけで、フリードに遭遇したんですが……」

 

「逃がしてしまったのは小さくないが、お前が無事で何よりだ。

 心配せずとも、フリードは既に国際指名手配だしこの国内にも包囲網は張られている。

 出雲、京都、奈良、三重をはじめとした神仏同盟の勢力下に

 長野や珠閒瑠と言った過去怪異事件の起きた地域でも人間が立ち上がっている。

 人間は、決して庇護されるだけの存在では無いと言う事だ」

 

「長野は大量殺人事件でしたけど、珠閒瑠は何かありましたっけ?」

 

柳課長の言葉に、氷上さんが疑問を投げかける。

俺も気になったので、柳課長に聞いてみようとしたが……

 

「俺に質問するな」

 

の一言が返ってくるだけだった。

仕方がないので、通りかかった霧島さんに珠閒瑠の事件について聞いてみることにしたが

 

「珠閒瑠の事件は、不確かなことが多いとしか聞いてないんです。

 長野の事件よりも昔に御影町と言う所で起きた起きた『セベク・スキャンダル』って事件が

 少なからず関係しているとしか私もわからないんです」

 

「霧島の言う通りだ。珠閒瑠の事件は警察でもトップシークレット扱いになっている。

 というかそもそもだ。珠閒瑠の事件は今調べることじゃないだろう。

 向こうでも天変地異クラスの災害が起きたらしい事は事実だけどな。

 とにかくセージ、フリードの事は心配するな、じきに逮捕される……

 いや、逮捕するさ」

 

柳課長の言葉を受け、俺は建物を後にすることにした。

フリードの件はどうにもならないにしても、レイナーレや天野さんはどうしたものか。

間違いなく、俺達を避けているようだが。特にレイナーレ。

 

「やあセージ君。警察の人から聞いたよ。フリードに会ったんだって?」

 

「ああ、何とか追い払えたけどな。そっちはどうだった?」

 

ここで俺は合流した祐斗達から新たな情報を得る。

しかし、そこで聞いたのは向こうは向こうで大変だと言う事位だった。

 

「セージ君、どうやらこの問題は思ったより闇が深そうだよ。

 天野さんと話は出来たんだけど……相当深いところまで彼女は知っているみたいだ。

 レイナーレが話したのかどうかまでは、わからなかったけどね」

 

「深いところまで……まさか、お前達が悪魔だってバレたのか!?」

 

「……そこまではバレてません。まぁ、学校で噂を聞いていたらその限りでも無いと思いますが。

 詳しい話は彼女の友人の名誉のために伏せますが、あの変態がやらかしてくれた事の

 始末を彼女はレイナーレに依頼したみたいです……本当にあの変態は」

 

やはり兵藤絡みか。その復讐のために堕天使――あるいは悪魔の力を欲して

それが偶々レイナーレだった……と。

レイナーレにしてみれば危険な神器を破壊できる、天野さんにしてみれば復讐が果たせる。

見事に利害は一致しているな。偶然の一致かもしれないが。

 

「それで、一応イッセー君が死んだ……って言うか、魔王様に連れていかれたわけだけどね。

 一応対外的には死んだって事になってるし、そう天野さんに伝えたんだけど……」

 

「……信じてはもらえませんでした。と言うか、聞く耳を持たないって感じでしたね。あれは」

 

「何処まで恨み買ってるんだよ……」

 

二人の話を聞いているうちに、何だか気が滅入って来た。

死体蹴りをしかねない勢いに聞こえたのだ。

アザゼル総督でさえ死体蹴りは勘弁って言っていたのにもかかわらず、だ。

 

「とりあえず、僕たちは可能な限り天野さんを説得してみるよ」

 

「ああ、それなら俺はレイナーレだな。正直俺もあいつの事はどうでもよくなってきたが

 アザゼル総督直々に身柄確保の依頼を受けちまったんだ。無碍にも出来ないし

 頭を抱えたいところだな、これは」

 

「アザゼル総督から? セージ君、それは流石に部長……いや、今部長は帰省してるから

 副部長か。副部長に報告したほうが良くないかい?」

 

「……聞く耳持つと思うか? あの堕天使皆殺しにしかねない姫島先輩が」

 

「……あはは……」

 

俺の意見に、祐斗は苦笑いを浮かべていた。いや、姫島先輩の今までを顧みるに

物凄く堕天使に対するヘイトを抱えているみたいだぞ? そこにアザゼル総督から

依頼を受けたなんて言ってみろ。ただでさえ色々な問題でヘイト集まってる俺なんだ。

これ幸いとばかりに排除にかかってくるかもしれないぞ。俺は今敵を増やしたくないんだが。

 

……ってちょっと待て。もしレイナーレの事が姫島先輩にばれたらそれはそれでマズいな。

 

「……なんとか天野さんとレイナーレは無関係だと言う事で副部長には話してます。

 天野さんはセージ先輩の事を知らないみたいでしたし、レイナーレが無関係ってのは

 そういう意味では嘘じゃないですから」

 

「そう言うわけだから、なんとか情報操作は出来ているよ……利敵行為? 何をいまさら」

 

「……毎度すまないな、二人とも」

 

本当に二人には頭が上がらない。

遠くないうちにオカ研が真っ二つに割れそうな気がするが、それは俺のせい……

やっぱ俺のせいだよな。絶対。

 

とにかく、二人に助けられつつ俺達はレイナーレや

天野さんに関する情報を再び集めることにした。

それにしても、グレモリー先輩が帰省、か。まぁ十中八九兵藤絡みだろうが……

 

……心なしか、物凄く嫌な予感を覚えてならなかった。




はい出てきました珠閒瑠市。
この世界は一応ペルソナ2的には「罰」設定です(と言うかそうしないと駒王町が崩壊してる事に……)
沢芽市(鎧武)とどっちにしようか悩みましたが、警察のフットワークが軽そう(免疫的な意味で)な珠閒瑠市に。
沢芽市も一応存在していますが、インベス騒動は起きていません。
インベスゲームなんて流行ってないんや!
(起きたら色々ややこしい事になりますので……ただ、あの企業は存在してます)

勿論、イッセー一家が珠閒瑠にいたなんてのは拙作独自設定ですので。
そして駒王なら突っ込まれなかったことも珠閒瑠では突っ込まれると言う事でオチが付いてます。
そのオチのお陰で因果が紡がれたセージェ……

>フリード
今回で「同級生のゴースト」におけるフリード戦はラストです。
ラストと言う事で序盤同様吹っ飛んでもらいました。但し今回はソロで。
と言うわけでフリード・セルゼンさんオールアップです(w


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Sheol's expectation.

今回は所変わって冥界のターン。
Sheolはヘブライ語で冥界、だそうです。


――冥界首都・リリス。

 

ここに存在する魔王城の一室に、兵藤一誠の遺体は安置されている。

その部屋の前で、言い争う声が響いていた――

 

「……何度も言わせるな、サーゼクス。

 今の君の妹に、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を転生させることは不可能だ」

 

「ならば私がイッセー君を転生させ、リーアたんとトレードを行えば……」

 

「それこそ愚策だ。王の能力を超えた転生悪魔を強引に眷属にすれば

 言う事を聞かなくなるケースが散見されている。

 赤龍帝はそう言う反旗を翻す風には見えないが、そんなケースも実際あったろう?」

 

サーゼクスとアジュカ。二人の魔王が、兵藤一誠の遺体を前に言い争っていた。

内容は、兵藤一誠の処遇についてである。

既に死んでいるイッセーであるが、彼らにしてみれば復活を前提として話を進めているため

生きていようが、死んでいようがどちらでもよかったのだ。

 

「あれこそイレギュラーだ。しかもアモンまで味方に付く始末。

 場合によっては、アインストや禍の団(カオス・ブリゲート)よりも先に

 始末しなければならないかもしれない相手だぞ」

 

「……確かにな。アモンの復活と言う情報が流れた際には

 『また戦争が起きるのか』とか『勇者アモンって架空の存在じゃなかったのか』と言った意見が

 世間を圧巻してちょっとした騒ぎになったからな」

 

「で、その情報をばらまいたのがリー・バーチ……またこいつか」

 

「バオクゥと言う悪魔もこの件には関わっているみたいだ。

 これは手を打たねばならないかもしれないな」

 

アモンの情報については意見を同じくするサーゼクスとアジュカ。

しかし、一変して赤龍帝の扱いになるとその意見は分かれてしまっていた。

 

「そのためにも赤龍帝の力を我々で制御し、危険因子たるアモンを再び……」

 

「いや、赤龍帝はリーアたんのものだ! 本人もそう言っている!

 だから、なんとしてもリーアたんに転生を行ってもらう!」

 

傍から見れば低次元な言い争いだが、本質は危険なものであった。

ここには兵藤一誠どころかリアス・グレモリーの意思でさえ一切介在せず

この二人だけで話が進められている点において。

 

「……ならば、いつぞや使った『アレ』を使えば手っ取り早いと思うが」

 

「あの失敗作はダメだ。またリーアたんが暴走してしまう。

 大体、『(キング)の駒』はお前自身が危険だと封印したんじゃなかったのか?」

 

「そうだ。だから、暴走の危険のないお飾りの『王の駒』を作ろうとしたが

 さすがは君の妹、ポテンシャルだけは高いから結果として……」

 

「だけとはどういう意味だ! あの時も言ったがリーアたんに謝れ!」

 

アジュカは半ば呆れながらも、サーゼクスのヒステリーに暫し付き合っていた。

 

(だが、何とかして赤龍帝の復活をさせなければならないのは事実だな。

 要は彼女が強くなればいいわけだが……さて、どんな方法を使えば

 目の前のシスコン魔王は納得してくれるかな……)

 

――――

 

――グレモリー家。

 

かつては栄華を誇っていたかもしれない豪邸だったかもしれないが

いまはしんと静まり返った幽霊屋敷のような佇まいを残している。

多くいた使用人たちも、今ではそんな使用人を取り仕切っていたグレイフィアただ一人。

後はジオティクス・グレモリーとヴェネラナ・グレモリー夫妻に長女のリアス・グレモリーに

甥っ子のミリキャス・グレモリー。

そして幽閉が解かれたリアスの眷属のギャスパー・ヴラディがここに住むのみだ。

明らかに、屋敷の大きさには不釣り合いな人の数である。

 

そんな屋敷の一室で、リアスは物思いに耽っていた。

 

(今の私では、イッセーを蘇らせることが出来ないなんて……

 イッセーがと言うより、セージの力を取り込んでしまった事がきっと原因ね。

 けれど、何とかしてイッセーを蘇らせないと……何のためにイッセーを冥界に運んだのか

 わからなくなってしまうわ……)

 

リアスが物思いに耽っていると、ノックの後外からグレイフィアの声が聞こえてくる。

 

「お嬢様。そろそろ食事の時間です」

 

「分かったわ。ところでグレイフィア」

 

「……何でしょう?」

 

「お兄様は、何を思ってイッセーを氷漬けにして連れてきたのかしら」

 

イッセーを再転生させることが出来なかった悲しみからか、リアスはグレイフィアに

ふとそんなことを漏らしたのだ。

 

「再び一誠様をお嬢様の眷属にさせるつもりでしょう。

 サーゼクス様の意向に応えるためにも

 なんとしても悪魔転生の儀式を成功させなければならない……

 

 ……と、言うのはサーゼクス様の『女王』としての意見ですが」

 

「? と言う事はあなた個人としては何かあるのかしら?」

 

「……アモン、紫紅帝龍と言ったイレギュラーが生じた今

 二天龍のみに拘るのは足元をすくわれると思うのです。

 紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)はともかく、アモンは生かしておけば現政権にとって危険な存在になる。

 そうサーゼクス様はお考えですが、本を質せばアモンだけが一概に悪いわけではない。

 私には、そんな気がしてならないのです」

 

「……! グレイフィア、それ以上言ったら……」

 

「ご心配なく。今更ルキフグスに戻るつもりなどありませんし、戻れません」

 

まるで主人を非難するかのような物言いを始めたグレイフィアに、リアスが待ったをかける。

ただでさえアインストと化したベオウルフと言う前例があるのだ。

その上でグレイフィアがサーゼクスから離反すれば

サーゼクス・ルシファーと言う存在そのものへの求心力にも関わる。

 

「……そうね、じゃあ質問を変えるわ。お兄様はイッセーをどうするつもりなのかしら?」

 

「一誠様は御存じの通り赤龍帝。覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)となったあの力はすさまじいものがありました。

 サーゼクス様やアジュカ様はあの力を制御し

 冥界の平和のために役立てようと考えておられるのでしょう」

 

「あの力を? けれど、そんなことが……」

 

推測ではあるが、大体当たっているグレイフィアの言葉にリアスは一瞬戸惑う。

駒王町を壊滅状態に追いやったあの力を本当に制御できるのか?

下手をすれば、駒王町と同じように冥界を廃墟にしてしまうのではないか。

リアスにはそんな恐怖心が芽生えていたのだった。

 

「お嬢様。今のお嬢様には、一誠様に対して恐怖心があるように見受けられます。

 そんな状態では、成功するものもしないでしょう。

 まずは、一誠様に対する恐怖を拭い去ることが先決だと思われます」

 

「私がイッセーを恐れている? バカなことを言わないでちょうだいグレイフィア。

 何故私がイッセーを恐れなければならないの?

 

 ……まぁいいわ。この話は置いておいて、食事だったわよね? 先にそっちにしましょう」

 

リアスの振る舞いに少々勝手なものを覚えつつも、グレイフィアとリアスは

食卓へとその足を向けるのだった。

 

――――

 

翌日。リアスはその日もイッセーの二度目の悪魔転生を試みるべく

遺体が安置されている場所へと足を運んでいた。

しかし、その結果は変わらず、イッセーが蘇る事は無かった。

 

「……くっ! どうしてイッセーは応えてくれないの!?」

 

「諦めるなリーアたん! 私がついている!」

 

真剣に悩んでいるリアスにしてみれば

サーゼクスのエールでさえむしろ邪魔なものであった。

リアスには、昨日グレイフィアに言われた言葉が去来していた。曰く

 

――自分はイッセーを恐れている

 

と。

 

「お嬢様、今のまま続けても意味はありません。ここは一先ず……」

 

「グレイフィア。あなた私に言ったわよね? 『私がイッセーを恐れている』って。

 それはどういう意味なのかしら? あり得ないわ。私が可愛い眷属を恐れるだなんて」

 

感情的になりながらも、リアスはグレイフィアに先日の言葉の意味を問い質す。

リアスにしてみれば、信じられないのだ。可愛がるならまだしも、眷属を恐れるなど

リアスの、グレモリーの者としてはあり得ない事のはずだからだ。

 

「言葉通りの意味です。最初は誠二様の事かと私も思いましたが

 あの覇龍の力を目の当たりにしている以上、そちらではないかと思う次第です。

 あの力を、自分は使いこなせるか? ……そうお考えではありませんか?」

 

「うっ……」

 

グレイフィアの言葉は図星であった。滅びの力を扱うリアスではあったが

赤龍帝と言うビッグネームの力を何の制御も無く揮われた先の戦い。

そして何より、彼女が思っていたイッセーの姿が跡形もなく崩れたショック。

それが恐怖心となり、イッセーの転生を妨げていたのだ。

 

「……ふむ。なるほどね。グレイフィアの言う事も一理あるな。

 リー……いやリアス。君だって何もしていなかったわけじゃないんだろう?

 今までの戦いで強くなったのは、君の眷属だけじゃないはずだ」

 

サーゼクスもグレイフィアの言葉尻に乗る形でアドバイスを贈る。

しかし、活躍していたのは精々コカビエルとの戦いの時くらいまでで

和平会談の時は足を引っ張ってしまったり、セージの反逆の際には

結果として敗北を喫している。それ以降は目立った活躍をしていない。

そのため、サーゼクスのアドバイスは逆効果となってしまっていたのだ。

 

「…………」

 

「和平会談の時の事を言っているなら、あれはいい勉強になった事と思う。

 いつぞやのゲームの事についてなら、あれは事故だ。

 リアス。君は紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)とも呼ばれているんだ。

 その名に恥じぬよう振る舞え、などと私は言うつもりは無い。

 だが、何故そう呼ばれるようになったか、は考えてみてもいいんじゃないか?」

 

兄として、リアスを励ますサーゼクス。

そこには魔王としての風格よりも

兄サーゼクス・グレモリーとしての貌の方が強く出ていた。

その姿に、グレイフィアは内心複雑なものを浮かべていた。

 

(兄としてサーゼクス様がお嬢様を気遣うのは当然の事……

 しかし、あまりにも身内贔屓が過ぎているのではないか?

 赤龍帝の力は冥界を、いや全世界のパワーバランスに影響を及ぼしかねない。

 そんな神滅具を、あたかも玩具を与えるかのようにお嬢様に与えようとしている。

 アモンやあの噂の紫紅帝龍でさえ、真の力を得た赤龍帝を止められるかは疑わしい……

 

 サーゼクス様、あなたは一体何をなさろうとしているのですか……?)

 

グレイフィアの思惑をよそに、サーゼクスの言葉にリアスも自信を得たのか

再度転生の儀式に取り組もうとしていた。

イッセーが復活するのも、時間の問題かもしれない。

 

その様子を、サーゼクスは満足そうに眺めていた。

 

(頑張ってくれリアス。君が一誠君を眷属にしてくれれば、全てはうまく行く。

 冥界を導くのは、我々の、ひいては若い世代の役目だ。

 そのためには悪魔に協力的な赤龍帝の、一誠君の力が必要だ。

 冥界を滅ぼそうとしかねない旧魔王派、そしてアモンに紫紅帝龍。

 彼らを打ち破るためには、我々には赤龍帝の力が必要なんだ。

 私が力で抑えつけては、同じことの繰り返しになってしまうからな……)

 

――――

 

――冥界・首都リリス。

 

魔王直属部隊イェッツト・トイフェルの拠点にて、監視の定時報告が行われていた。

 

「サーゼクス眷属監視班より報告いたします。

 サーゼクス眷属に目立った動きは見受けられません」

 

「人間界クロスゲート監視班より報告。

 人間のシスターがクロスゲートをくぐって以来、対象に動きや変化は見受けられません」

 

「ご苦労。引き続き目標の監視を厳にせよ」

 

副官ハマリア・アガリアレプトが報告を受けているが、定時報告と言う事もあり

その内容は「変化無し」の一点張りであった。

 

「さてウォルベン。貴様の当てが一つ外れてしまったようだな」

 

「ククッ、ご心配には及びませんよハマリア様。

 悪魔であるアモンが彼に憑いたのはこちらとしても好都合。

 アモンの気配を追えば、必然的に動向がわかると言う物。

 最早手の込んだ監視など必要ありますまい」

 

待機していたウォルベン・バフォメットはハマリアの指摘に対し不敵に答える。

その内容は、紫紅帝龍およびアモンの監視。

紫紅帝龍、と言うよりはセージの監視と言っても差し障りのないものであり

紫紅帝龍が宿る前からウォルベンはセージに目を付けていたのだ。

赤龍帝に拘る四大魔王とは逆に、当時赤龍帝の残りカスみたいな存在であった

セージに目を向けたのは、イェッツト・トイフェルの先見の明とも言えるものであった。

 

「覇龍をも下す力を秘めた紫紅帝龍、しかも禁手(バランスブレイカー)に至り

 その上アモンも力を貸している……赤龍帝に拘るのがばかばかしく思えるほど

 潜在能力を秘めているみたいだな。この事を具申したところで跳ね返されるだろうが」

 

「解せませぬな。魔王陛下は一体何を思って赤龍帝に拘っておられるのか。

 しかも聞くところによれば、サーゼクス様とセラフォルー様主導で

 死に至った赤龍帝を復活させる動きがあるそうではありませぬか。

 どうせこの程度で死んだ存在、使うにしても次代の赤龍帝の方が良いと思うのですがね」

 

かつてイッセーと邂逅したウォルベンから下される容赦のない評価。

ハマリアもそれには肯定しており、静かに頷いていた。

 

「俗物の考えていることなぞ、私にはわからぬよ。

 それよりウォルベン。アモンが蘇り、紫紅帝龍が禁手に至った今

 そろそろ私は例の計画を実行に移すべきだと思うのだが、貴様はどう見る?」

 

「私の敵は、冥界に仇成す者です。それがたとえ現魔王であろうと

 冥界を脅かす存在であれば戦うのみですよ。そのためには……

 

 ……私も、彼に協力いただいた方がいいと思いますね。

 幸いにして、彼自身は今の冥界に対して不信感を抱いている様子。

 こちらに引き込むことは容易いかと」

 

「過信は足元をすくわれるぞ、ウォルベン。だがその前に指令が下った。

 ……俗物からの指令で、やる気は出ないかもしれんがな」

 

ハマリアとウォルベンは、セージに――紫紅帝龍とアモンに目を付けていた。

それが何を意味するのか、知るのはイェッツト・トイフェルの者達のみであった。

 

そして下されたウォルベンへの指令。それこそが――

 

――――

 

――冥界・バオクゥのアジト。

 

「……で、申し開きはあるか?」

 

リー・バーチに詰られているのは、このアジトの主であるバオクゥ。

彼女はセージ――の実体化した霊体に発信機を取り付け

その情報をイェッツト・トイフェルに流していたのだ。

尤も、そうしなければ生き延びることが出来なかったが故の仕方のない行動だったのだが。

 

「セージさんに言われるならともかく、どうしてあなたに詰め寄られなきゃならないんですか。

 そりゃあ、流さなくていい情報をイェッツト・トイフェルに流したのは私ですけど

 あなただってアモンの情報とか公表しちゃったじゃないですか!」

 

「俺のは金になるからいいんだよ。アモンが本当に居るのかどうかなんて

 民衆にしてみりゃどっちでもいい事なのさ。それで盛り上がれば俺は良いのさ」

 

無責任なリーの事を強く言えないバオクゥ。

彼女も結果的にセージの個人情報を外部に漏洩しているため

リーの行いについて突っ込むことはブーメランになりかねなかったのだ。

 

「……で、その肝心のセージはどうしたんだよ?

 赤龍帝が運び込まれたって話なら聞いてるがよ」

 

当然の事ながら、盗聴バスターであるバオクゥやジャーナリストであるリーにも

イッセーが冥界に運び込まれた情報は入っていたのだ。

尤も、こんな情報は既に政府から発表されている事なので

アングラなジャーナリストが態々公表する事でも無いと言う事で、スルーしている形だ。

 

「……言いません。あなたに話したら悪用されそうな気がしますから」

 

「俺も信用されたもんだな。ま、そう言う事なら俺は人間界に取材に行ってみるわ。

 あいつの拠点は今も人間界なんだろ? だったら――」

 

「イェッツト・トイフェルには気を付けてくださいよ?

 あなたの情報もそれなりにあてにしてるんですから。

 私は政府の動きについてちょっと調べてみますけど。

 

 ……赤龍帝が運び込まれたって事件、何か裏がある気がするんですよねぇ……」

 

悪態をつきながら、リーはバオクゥのアジトを後にする。

転生悪魔であるにもかかわらず、かなり自由気ままに動いている。

政府に睨まれたことも一度や二度ではない、軍に追われた事さえある。

その点も踏まえ、バオクゥは気休めながらもリーを気遣ってみせたのだ。

 

そして、バオクゥがやろうとしていることは――盗聴。

師匠であるパオフゥから譲り受けた盗聴の腕は冥界政府を相手にしても

立ち回れるほどのものであったのだ。

 

(……少しでもセージさんに情報を提供しないといけませんからね。

 ふむ、ふむふむ……こ、これは……私、聞いちゃいました!

 

 ……まさか、赤龍帝の力を軍事利用するつもりだなんて!

 これは……大ニュースですよ!)

 

バオクゥが盗聴に成功したのはなんとサーゼクスとアジュカのやり取り。

バオクゥには、一連の話がそう聞こえたのだ。

事実、アジュカは赤龍帝を研究できないかと虎視眈々と狙っており

サーゼクスもリアスを利用して復活させられないかと考えている。

二つの意見が重なれば、軍事利用と言う結論を導き出してもおかしくはない。

 

早速リーにコンタクトを取ろうとするバオクゥ。しかしここで不可思議なことが起こる。

繋がるはずの無線が繋がらないのだ。考えられる理由はいくつかあるが

その中でも外れて欲しいと思っていたものがある。外部からのジャミングである。

政府の闇を暴かんとしているバオクゥを邪魔に思った政府が

部隊を派遣すること位は、バオクゥにも予測が出来た事である。

万が一を考え、データと一部の艤装を携えバオクゥはアジトの裏手から外に飛び出していたのだ。

 

……アジトがイェッツト・トイフェルの襲撃に遭ったのは、その直後の事であった。

 

――――

 

――冥界・フェニックス邸。

 

ライザーの跡を継いで王に昇格したレイヴェルは

新聞を読みながら今後の活動方針を考えていた。

相談役として、人間界では弁護士を務めていた元人間の僧侶(ビショップ)、奥瀬秀一が控えている。

 

「『赤龍帝、氷漬けになって搬送される』……ね。大方職権乱用でしょうけれど

 表立って今の魔王様に逆らうほど私も愚かでは無いわ」

 

「お嬢、そんなに今の政権が気に入らないんなら……」

 

「先生、勘違いしないでくださいまし。私が気に入らないのは

 あくまでも私欲のために動いている輩。それが偶々魔王様になってしまったって事ですわ。

 それに、今の魔王様は有体に言ってしまえば傀儡。

 実権を握っているのは旧来の悪魔ですわよ。

 でなければあんな無能……こほん、今のは忘れてくださいまし」

 

ため息をつきながら、レイヴェルが奥瀬に冥界の政治事情について軽く解説している。

弁護士でもあった奥瀬はその点において飲み込みが早く、レイヴェルの言わんとすることを

すぐさま察知したのだった。

 

「たまに自発的に動いたと思えばこんな一部しか得をしないような事。

 赤龍帝を氷漬けの状態で冥界に招き入れて、博物館にでも飾るつもりなのかしら」

 

いや、それは無いだろうと奥瀬がツッコミを入れつつ

レイヴェルも「冗談ですわよ」と返しながら奥瀬と少々難しい会話を交わしていた。

セージがフェニックス領に迷い込んだトラブルの以降も

レイヴェルはライザーの名誉回復のために日々鍛錬を欠かさずにいた。

それは武力のみならず、奥瀬の弁護士としての知識も活用した勉強会を開いたり

「これからは剣とペンの時代」としてフェニックス領内ではあるが

講演会を開いたりと、とても未成年の、若輩の悪魔とは思えぬ活躍をしていた。

 

こうした活動――特に講演会は風当たりも強かったが

レイヴェルが王になった経緯もあり、概ね好意的に受け入れられていた。

そんなレイヴェルを応援しているものもいた。フェニックス領の領民やレイヴェルの家族。

そして何より――

 

「レイヴェル様、ライザー様よりお手紙が届いております」

 

ライザーに仕えていた頃からの兵士(ポーン)であるミラが持ってきたのは

入院中のライザーからの手紙。同じくセージによって深い傷を負わされた

元ライザー女王(クィーン)のユーベルーナと二人三脚でリハビリに取り組んでおり

その合間にこうしてレイヴェル宛に手紙が来るのだ。

 

その中には、ライザーの近況報告やレイヴェルに対するエールなどが綴られている。

その手紙をレイヴェルは内心楽しみにしていた。

王となり忙しくなって以来、ライザーの見舞いに行く機会が減ってしまったが

こうして繋がりは保たれている。それがレイヴェルには喜ばしい事だったのだ。

手紙を読み終えると、レイヴェルは眷属を呼び集め今日の分の訓練にとりかかろうと

決意を新たにするのだった。

 

(お兄様のためにも、私はフェニックス家を冥界で最大の名家にしてみせますわ。

 その為には……バアル家やベリアル家にも勝たなくては。

 レーティングゲームだけですべてが決まる今の冥界に思うところが無いわけでもありませんが

 まずはレーティングゲームで勝ち、その上で異を唱えなければ

 本当に冥界を改革するなど夢のまた夢、ですものね)

 

 

 

冥界に住む様々なものの思惑が交わる中

氷漬けになったイッセーは、冷たい光を放っているのだった……




何か忘れてると思ったらセラフォルーとソーナ組が描写できなかった件について。
本当に拙作では影薄いなこの方々……
一人悪目立ちしてるのがいるけど。

セージの物語は間もなく一区切りですが
冥界の情勢はそんな事お構いなしに動いてます。


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Soul82. 吐露される情念

拙作のリアスはしょっちゅうヒスってる気がします。
けれどこれだけ追い詰められればヒスりもするかと。

誰も彼も追い詰められてる気がするなぁ。


あれから数日が経ち、時折学校も開いており

ちょくちょく顔を出すようになった連中も少なくない。

どうあっても来ないことが分かっている、桐生さんと兵藤については

一応席は用意してあるが、当然空席のままである。

 

そして今日はグレモリー先輩も学校に顔を出していたらしい。

らしいと言うのは、あれ以来時折人が変わったかのように

おどおどしたりすることが散見されるそうなのだと、俺は人伝で聞いている。

気の毒な部分もちょっとはあるかもしれないが、これはいい薬だと思ってもらうより他あるまい。

 

……さすがに度の過ぎた嫌がらせについては駒王番長が出動しているが。

例えば……

 

――――

 

某日、再建中の駒王学園校舎での出来事だ。

その裏に、グレモリー先輩が連れ込まれていた。

 

「あ、あなた達! こんな事をしてタダで済むと……」

 

「五月蠅いわね悪魔の癖に! 私達は悪魔に家を滅茶苦茶にされたのよ!?

 あんたに尻尾振ってた昔の自分をぶん殴ってやりたいわ!」

 

「あたしも同意見ね。大体あなたあの変態を猫かわいがりしてたみたいじゃない。

 あたし達はあいつにどんな目に遭わされたのか知っててそんなことをしてたわけ?

 本当に悪魔って奴は人の痛みがわからない奴ばかりね。だから……」

 

後を付けた俺は、そこで少々過激な展開を目の当たりにする。

グレモリー先輩を詰っていた女子生徒の一人――三年だから一応先輩にあたるんだが――が

カッターでグレモリー先輩の制服を切り裂く暴挙に出たのだ。

この場に兵藤が居なくてよかったと言うべきか、なんと言うべきか。

辱めるような形で制服の前部分が切り裂かれ、胸が自己主張をしている。

 

……いくら何でも、これ以上はマズいだろ。

ちょっと気まずいタイミングになってしまったが、俺は飛び出す事にした。

 

「おい、何やってるんだ!?」

 

「……あんた確か二年の宮本だったわよね?

 駒王学園の二大お姉さまって呼ばれて天狗になってた奴の鼻をへし折ってるだけよ。

 知ってる? こいつ悪魔だったのよ。しかも何食わぬ顔で好き勝手やってたそうじゃない。

 だからちょっと痛い目に遭ってもらうの……よっ!」

 

あれは……聖水じゃないか! 何処で手に入れたんだ!?

って突っ込みたくなったが、あんなものを頭からかぶったらいくらグレモリー先輩でもマズい!

俺は慌てて、グレモリー先輩を突き飛ばし代わりに聖水を浴びる事になった。

 

「宮本!? あんた何やってんの!?」

 

「ペッペッ……そりゃこっちの台詞だ。悪魔だってわかってて聖水ぶっかけるって何考えてんだ。

 確かにグレモリー先輩は目に余る事をしてたさ……多分。

 けれどこんな硫酸ぶっかけるような真似は、いくら何でもやり過ぎだろ?」

 

今の俺の身体には、アモンが憑いているが表に出ていない限りは人間として扱われるのか

聖水が効果を果たしていない。ただの冷水を浴びる形になったのだ。

尤も、ただの冷水を浴びせるのもそれはそれでマズいんだが。

 

「あんた、駒王番長だからって悪魔庇うわけ!?」

 

「そうじゃない、俺だってこいつにゃ言いたい事はごまんとあるさ。

 けどな、こんな陰湿なやり方でやったら悪魔と同じになっちまうぞ」

 

「うっ……」

 

「分かったらここは収めてくれないか? 先輩方。

 俺は先輩方にそう言う陰湿なやり方で悪魔退治してほしくないんだ」

 

本当は悪魔退治そのものをやってほしくないけどな。

幾らなんでも一般人が悪魔と戦えるかって言われたら、答えはノーだ。

超特捜課だってそれ用の装備や訓練をしてるから戦えるんだし

神器(セイクリッド・ギア)持ちだってそれ相応の訓練をやってなきゃ話にならない。

 

俺の話が通じてくれたのか、リアスを一瞥しながら先輩方は帰ってくれた。

話の通じる人達で助かったと言うべきか。さて……

 

「……これで分かったろ、グレモリー先輩。今まで何の上に突っ立っていたのかが。

 さて、モーフィング……は俺悪魔やめたから使えないんだよな。

 仕方ない、アモン!」

 

『おいおい、やり方は聞いてるがまさか俺をこんな事のために使うたぁな。

 ま、練習台と思ってやってやるか。こいつは面白い能力だしな』

 

アモンに交代し、グレモリー先輩の破れた制服を何の変哲もない服に変える。

某ファッションセンターに売ってそうなコーデになったが、それは俺のせいじゃない

……と思いたい。

勿論、そのままでは疑われるので繰り返して制服に戻したが。

 

そう。今まで魔力で補っていたモーフィングは俺の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が無くなったと同時に

今まで通りには使えなくなったのだ。そこで俺は魔力を生まれつき持っている

アモンにモーフィングのやり方を教え、言い方は悪いが

グレモリー先輩にアモンのモーフィングの試金石になってもらったのだ。

結果的に、だが。

 

「……ありがとう、セージ」

 

「礼を言われるような事は何も。あと勘違いはしないでくれ。

 さっきも言ったように、俺があんたに言いたい事があるってのは嘘じゃないから。

 じゃ、さっきの連中の気が変わらないうちに縄張りに行ったほうが良いんじゃないか?」

 

半ば追いやるような形で、俺はグレモリー先輩を旧校舎跡へと追いやる。

その後、俺は念のため周囲を見回った後グレモリー先輩のところへ行こうと思ったのだが

その日は超特捜課の指令が入ってしまったため、その話はまた流れてしまったのだが――

 

――――

 

そんな事がありながらも、それとこれとは話が別だと言わんばかりに

俺は自身の退部届と、白音さんの眷属脱退の話を付けに

こうして旧校舎跡にやって来たわけだが……

 

「……ちょっと、気の毒な気もします」

 

「そうは言うがな白音さん。責任は取ってもらわんことにはこっちも困る。

 確かに白音さんの件はあれかもしれんが、俺はけじめをつけたいんだ。

 そもそも、俺はもうグレモリー先輩の眷属ですらないしな。

 

 ……と言うわけでグレモリー先輩。今までお世話になりました」

 

「そ、そう……私ももうこれ以上あなたを引き留めることは出来ないし……」

 

うん? やけにしおらしいな。ま、以前似たような事で打ち負かしているから

それの件もあるのかもしれないがそれにしたって。

いつぞやの時と言い、あの高慢ちきなグレモリー先輩は何処に行ったのやら。

ま、これくらいがちょうどいいのかもしれないが。

 

「俺の事はそれでいいとして……白音さん。彼女の事についても……」

 

「…………もういい加減にしてちょうだい! みんな私から離れていく!

 小猫も、あなたも、この学校も、駒王町も、そしてイッセーも!

 私が一体何をしたって言うの!? 答えなさいセージ!!」

 

うわっ!? いきなり癇癪を起されてはたまったもんじゃない!

いきなりグレモリー先輩に掴みかかられ、俺は思わず動転してしまう。

 

しかし、ここでアモンが表に出ることでグレモリー先輩による拘束は

あっさりと解かれることとなる。正直、人間の力では苦しいからな……

 

『おい。随分と恩知らずな真似をしてくれるじゃないか。グレモリーの嬢ちゃんよ。

 あんたが言ってたこと、一つずつ答えてやろうか?

 俺だって一応アモン――過去の知識を漁ることくらいは朝飯前なんだぞ?』

 

「分かっているわよ! 私が無能で名前だけの存在だって事は!

 兄が魔王で、生まれついて持った滅びの力!

 そして類まれなる能力を持った眷属……どれも全部自分の力で得たものじゃないわ!!」

 

「……えっ!?」

 

「朱乃も、ギャスパーも、祐斗も、小猫だってそう!

 全部相手が弱っているところに付け込んで眷属にした形よ!

 祐斗、小猫、心当たりはあるでしょう!?

 イッセーやアーシアに至っては、言うまでも無いわ!!

 そうよ……全部、全部どこかではわかってたことなのよ!!」

 

「これは……」

 

開き直ったか。俺にはそうとしか思えなかった。

確かにこの所ストレスのかかる出来事ばかり続いていたからな……俺もだが。

そのストレスでおかしくなったと言うべきなのだろうか。

ともかく、このままじゃまともに話が出来ないな。

 

「……部長、落ち着いて……」

 

「どの口が落ち着けって言うの!?

 あなたは良いわよね、生き別れた姉と再会できたのだから!

 けれど私にとってそれは――」

 

「部長、失礼――!」

 

事もあろうに白音さんを詰るグレモリー先輩に、ついに俺も怒りをこらえきれなくなった。

思わず手をあげようと構えるが、その前に祐斗が割って入り

グレモリー先輩に手を上げたのだ。あの祐斗がだ。

俺に情報を流していたり、命令無視とも取れる行いをしているが

忠義だけは持っていたあの祐斗がだ。

それほどまでに今のグレモリー先輩は憔悴しきっているって事か……

 

「ゆ、祐斗……!?」

 

「頭が冷えましたか。今のあなたは、お疲れのようです。

 自分が『騎士』として忠誠を誓ったあなたは、そんな自己中心的な方ではありません。

 もっとグレモリーの名に恥じぬ、慈愛に満ちた方です。

 なればこそ、先ほどの言葉を取り消していただきたく存じます。

 慈愛の心を持つのであれば、眷属の、家族の幸せを願うが道理のはず。

 にもかかわらず、あなたは先ほどからご自身の事しか見えていない。

 部長、どうか先程の言葉を取り消していただきたく――」

 

「……そうね。私もどうかしていたわ。ありがとう祐斗。

 それとセージ、小猫。みっともないところ見せたわね。

 小猫……いえ白音の事については、もう少し待ってちょうだい。

 あなた達も知っているかとは思うけど、今イッセーの再契約を試みようとしているの。

 けれど、なかなかうまく行かなくて……

 それが終わるまで、白音の件については待ってもらえないかしら?

 終わったら、白音の眷属契約解除の儀式を行うわ。

 イッセーと違って、白音は生きているときに駒を使ったから

 抜き取っても死ぬことは無いはずよ。

 もし待ちきれないようなら、先に手術でもなんでもすればいいわ」

 

その言い方に引っかかるものは覚えたが、言質は取れたので

これでいつでも白音さんを猫魈に戻せると言う事だ。

神仏同盟が悪魔の駒除去の技術を確立している今

悪魔の駒を抜き取る方法は一つでは無いと言う事だ。

悪魔の存続にかかわる? 知ったことじゃ無いな。

 

……それはそれとして。冥界はまだ兵藤を使って何かするつもりなのだろうか。

正直、うまく行かないで欲しいと思っているがここで茶々を入れるのも

それはそれでよろしくない。俺はため息をつきながらも、黙って聞き流す事にした。

 

「祐斗の言う通り、私も疲れているみたいね……

 ごめんなさい。朱乃、悪いけど後の事は任せたわよ」

 

「承知いたしました。さてそれはそうとセージ君?

 あなた……私に隠し事をしていないかしら?」

 

入れ替わるように入って来た姫島先輩。さていきなりド直球に問い詰めてきたな。

堕天使関連の話を姫島先輩に話すのは気が引ける。

しかも生け捕りにしろってアザゼル総督に言われているのに

その堕天使を殺しかねない姫島先輩に言うとなると、問題になる。のだが……

 

「部長から聞きましたわよ。アザゼルから依頼を受けているって」

 

祐斗を見ると、ジェスチャーで謝っていた。

やはり、グレモリー先輩には隠し通せなかったか。

はぁ……ま、バレた以上は仕方が無いか。

 

「……ええそれが何か。俺は今あなた方とは無関係なんですがね。

 従って俺がアザゼル総督から依頼を受けていようと、何も関係ないと思うのですが」

 

「アザゼルと言う事は堕天使絡みの依頼。私にも聞かせてもらえないかしら?」

 

やはり食いついて来たか。だが俺の答えは決まっている。

一も二もなく俺は否定の言葉を返す。

実力行使……なんて馬鹿な真似はやってこないだろう。一度完膚なきまでに叩き潰してるし。

 

……などと思っていたら身体を擦りつけてきた。

力がダメならそっちの方面で聞き出すつもりなのか。それでいいのか嫁入り前。

何となくアモンに変わってもめんどくさい事になりそうな気がするので

俺は仕方なく自力で姫島先輩を引きはがす事にした。

 

……何気に、今の俺にはハニートラップの類ってダメージでかいんだよ。色々な意味で……

 

「それは残念。返答次第ではセージ君にご褒美を用意してましたのに」

 

「……不謹慎です。朱乃先輩」

 

白音さんが助け舟を出してくれたおかげで、俺は事なきを得た。

しかし前々から思っていたが、どうしてこう姫島先輩って堕天使を目の敵にしてるんだろうな。

そう言えば、その辺の事は何も聞いていなかった。

まさか堕天使に親を殺されたとかそんなわけでも……無いよな?

あり得そうなのがこのご時世の怖い所だが。

いずれにしても、今その情報は必要なさそうなので深く追及するのはやめにすることにした。

 

――――

 

それからまた数日が経ち。俺は超特捜課に呼び出され指令を受けることとなった。

なんでも、町の外で堕天使が不穏な動きをしているらしいとの事だ。

その堕天使は、グラビアアイドルの桃園モモそっくりな外見をしているらしい。

つまり、レイナーレだ。

 

「……こういう時に限って、応援要請がひっきりなしに来ているんだ。

 セージ、本来なら我々が堕天使への対応をすべきなのだろうが

 お前も場数を踏んでいる。ここはお前に任せてもいいか?」

 

柳課長から直接レイナーレへの対応を依頼される。

もとよりそのつもりだったし、俺がやらなきゃいけないと思っていた。

俺は二つ返事で快諾し、レイナーレのいる場所へと向かう事にした。

 

程なくして、俺はレイナーレのいる場所を突き止める。

こいつには事情を話して、アザゼル総督の元に向かって貰いたい。

もう兵藤を追いかける必要は無いんだ。奴はもう死んだ。

それを復活させようという動きはあるが……

それは置いておいて、まずレイナーレと話をしなければならない。

 

……にしても不思議なものだ。少し前まで殺したいほど毛嫌いしていた相手だと言うのに

今はこうして生かして捕まえることに躍起になっている。

いや、生きていようが死んでいようがどっちでもいいのかもしれない。

アザゼル総督絡みの話が無ければ、興味さえ失せかけていたのかもしれない。

これが俗にいう時間薬と言う奴なのだろうか?

 

そんな事を考えながら、俺は情報に遭った場所へとたどり着いた。

そこには、アインストやインベスを召喚しているレイナーレが居た。

禍の団に通じているって事は、アインストはおかしくないが

何故インベスを……ってそう言えばフリードがインベスを召喚したことがあったっけか。

話をつけるつもりだったが、こいつらを呼び出された以上は戦わざるを得ない。

アインストもインベスも、二次災害の酷さはある意味三大勢力以上なのだから。

 

「レイナーレ! こいつらが何なのか、わかってて召喚しているのか!?」

 

「私にはどうだっていい事よ! こいつらの情報を元手にアザゼル様の元へと帰るの!

 そして赤龍帝の首もね!」

 

「その赤龍帝は死んだ。天野さんは納得しないかもしれないけど

 死者を殺すなんて不可能だ、諦めろ」

 

「そうはいかないわ。悪魔だって契約で力を得ているでしょう?

 知っていると思うけど、私達堕天使は神に見放された存在。

 そんな私達が栄華を極めるには、悪魔と同じ方法を取るのが手っ取り早いのよ。

 そこで私が目を付けたのは契約システム。契約の儀式を交わすことで

 人間の欲望を満たし、私達は力を得る。悪魔がいつもやっていることを私もやるの。

 これもアザゼル様がお喜びになるに違いないわ!

 そう、だから私はこいつらを使って赤龍帝をもう一度殺すの!

 こいつらと、私の新しい力ならもうリアス・グレモリーにも邪魔はさせない!

 そして……あなたにもね!!」

 

『……無能な働き者、ここに極まれりって感じだな。セージ』

 

もう一度ぶっ飛ばして言う事を聞かせるしかないのか。

そう考え、俺は記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動させる。

 

SOLID-NIGHT FAUL!!

 

ナイトファウルを実体化させつつ、アモンに交代して瓦礫をアルギュロスにモーフィング。

そして生成したアルギュロスをナイトファウルに装填……と

霊体時代よりも一手間増えてしまっているが

こうしないとアインスト――と言うかミルトカイル石への特効が成り立たない。

アインストのコアに杭を打ちたてつつ、さらにカードを引き

 

「はあっ!!」

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

爆発を起こし、インベスを吹き飛ばす。さらに追撃として――

 

「まだまだ、次はこれだ!」

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-GUN!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)の力を使いながらカードを引き、触手砲を生成。

触手砲による遠隔攻撃を行い、接近戦でアインストを相手にしつつ

さらにインベスを遠距離攻撃で倒す。

正直疲れるが、一人で相手取るにはこれ位やらないといけない。

応援を呼ぶことも考えたが、誰を呼べばいいのか迷ってる暇も惜しい。

 

「……な、な、何なのよコレは……!?」

 

「前に言ったつもりなんだけどな。

 お前がピンク髪になってる間に、こっちだってパワーアップしているんだ。

 それ位、気づかなかったわけじゃないだろ?」

 

「そうだとしても程度があるわよ! 私が呼び寄せた軍勢をこうも簡単に……!!」

 

狼狽え始めたレイナーレに、俺はチャンスとばかりに掴みかかる。

取り押さえて、アザゼル総督の元に突き出す。

やっていることは警察みたいだが、規模がまるで違う。

 

「逃げるな! アザゼル総督の元にお前を突き出す!」

 

「くっ……離せ、離しなさい!!」

 

触手を使い、レイナーレを捕縛することに成功する。

しかし、ここで思わぬ来客があったのだった。

 

「そうはいかな……あ、天野さん!?」

 

「て、天使様……!?」

 

天野さんが、どういうわけだかここに来たのだ。

レイナーレが呼んだのか?

いや、だとすると予めアインストやインベスを呼んでいた理由がわからない。

インベスはともかく、アインストの制御がこいつに出来るとは考えにくい。

もしかして、天野さんは自分の意思でここに来たのか?

 

「……天使様を解放して」

 

「それは出来ない。お前が言う天使様ってのは人殺しを何とも思わない輩だ。

 それにこいつは天使じゃなくて、堕天使だ。フューラー演説で……」

 

俺はなんとか天野さんを思い留めようとするが、彼女の決意は固いみたいだった。

 

「知ってるわよ、そんな事。けれど私にとって彼女は天使様なの。

 あのクソッたれに裁きを下してくれる、私の天使様なの!」

 

あのクソッたれ……は言わずもがなあいつの事だろう。だがあいつは……

 

「待ってくれ天野さん! 兵藤の事ならあいつはもう死んだ!」

 

「嘘よ! 天使様も一度は殺してくれたのに、のうのうと生きているって聞いた時は

 私はどうかなりそうだったわ! 最近知ったのだけど

 それもリアス・グレモリーの仕業だそうじゃない! 一体何なのよ!!

 あんな奴、死んだ方がいいに決まってるのに!!

 あいつは私の友達の人生を滅茶苦茶にしたのよ! だから私は天使様に……」

 

ぐっ……否定できない……

しかもそのグレモリー先輩がまた兵藤を生き返らせようとしているってんだから

余計に始末が悪い。だが、堕天使に殺人を依頼していると言う事は

超特捜課的には……逮捕事案だ。そして俺は超特捜課の特別課員。

やるべきことは……

 

「……天野さん、いや天野夕麻。兵藤一誠に対する殺人未遂事件に関して

 ここにいる堕天使レイナーレ共々、超特捜課権限で署まで来てもらおうか」

 

俺はスマホを取り出し、急遽柳さんに連絡を取る。

 

「柳さんですか? 俺です、宮本です。兵藤一誠殺害の犯人……

 ああいえ、結果的に生き返っているから未遂になるのかもしれませんが……

 それについて、重要参考人を確保したので至急応援をお願いしたいのですが……」

 

『要領を得んが、要は殺人罪に関与した輩がそこにいると言う事だな?

 よし、そこを動くな。場所はわかっている。暫くそこにいろ』

 

これが正しい事かどうかはわからない。ただ、俺は超特捜課として

警察にその身を置いている人間として正しい事をしていると思いたい。

 

「あなた、警察の……!?」

 

「騙す形になって悪いな。だが自分がしたことは立派な犯罪だって事は――」

 

「裁く相手が違うわよ! あいつは精々軽犯罪法でしょ!?

 なのに私は殺人の重要参考人ってどういう事よ!? こんなのおかしいわよ!

 だから私は天使様に殺しをお願いしたのに、それさえも犯罪になるって言うの!?

 天使様を人間の法律で裁くなんて、そんなのおかしいわよ!!」

 

「……おかしいのはどっちだ。悪魔も天使もコイツみたいな堕天使も

 人間の世界でのうのうとしてやがる。人間の力では太刀打ちできない。

 だから超特捜課がある。人間の世界でのルールを、法律を叩き込むために。

 俺はそう思っているからこそ、超特捜課に力を……」

 

言いかけたところで、グレモリーの魔法陣が展開されるのが見えた。

一体全体なんでこんなところに? 俺に用があるのか? だとすると……まさか!

しかし、そんな俺の思惑とは裏腹に、出て来たのは――

 

「あ……あいつは! やはり、やはり生きていたじゃない!!

 天使様、あいつです! あいつを殺して!!

 友達のためにも、あいつを、兵藤一誠を殺してください!!」

 

「な……レイナーレ!? あなたやはり生きていたのね!

 それにあなたは……セージ! これは一体どういうことか、説明なさい!」

 

「……な、何がどうなってやがんだよ!? モモちゃんがいて、なんでレイナーレまで

 ここに居やがるんだよ……!?」

 

魔法陣から出て来たのはグレモリー先輩と兵藤か!

これは……ややこしい事になりやがったぞ!




天野さんは日本国の法律に当て嵌めると殺人教唆って立派な犯罪ですが
セージにそこまで法律に関してがあるとは考えにくいので
殺人の重要参考人呼ばわりになってます。
唆す、って言うとちょっと違う気もしますが。
……え? 記録再生大図鑑? ま、まぁ次回以降と言う事で。

そして復活したイッセー。
間もなくこの物語も一段落を迎えます。そうは見えないかもしれませんが。

>リアス
トップアイドルが一転、いじめられっ子になるってよくある事だと思うんです。
要は「おめぇの席ねぇから!」に近い状態ですね。
別に実行犯がリアスの取り巻きだったとかそんなことは無く
本文中にもある通り「悪魔のせいで家が無くなった」だの
「この騒動でひどい目に遭った」だのそういう人たちです。

よくイッセーの悪行がクローズアップされますが
そのイッセーを生き返したリアスもこうなってもおかしくない、って訳で……

ちなみにセージが助けたのはタダの義侠心です。
その一面がアモンの心の琴線に触れたのかもしれません。
故に後にリアスがヒス起こした時にはキレてます>アモン

そして弱い部分を受け入れるどころかただの開き直りなので
このままではかの邪神の餌食待ったなしです。

>朱乃
この期に及んでも堕天使絶対許さねぇウーマン。
原作と違って和平結んでないからそれでも多少は良いのかもしれませんが。
そして目的のためには結構破廉恥な事もすると言う。
イッセーには神(堕天使)の賜物かもしれませんが(少なくとも今の)セージには地獄の宴。

>天野さん
もう復讐で周りが見えなくなってしまっている様子。
ちょっと嫌なフラグを立てつつ、次回に。


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Soul83. 無念晴らせよ法の番人

タイトルが意味するところはすぐに分かると思います。
いよいよイッセーとの因縁に決着がつく……かもしれません。


レイナーレと話を付けようと俺がやって来た先で出くわしたのは

レイナーレに兵藤の殺害を依頼した天野さん。

 

彼女は兵藤の行いによって心に深い傷を負った友人の復讐のために

レイナーレに兵藤の殺害を依頼し、それが果たされる形となった。

そんな事を知らない俺は兵藤を助けようと瀕死の重傷を負ったが

今となってはどうでもいい。もう過ぎた事だ。

 

しかし兵藤は既に死んでいる――実際には氷漬けにされて拉致されたのだが。

そう言う事情があるため、俺は天野さんやレイナーレに

兵藤殺害をやめるよう言ったのだが、二人とも聞く耳を持たなかった。

 

……無理も無いか。

天野さんは友人の復讐。レイナーレは任務。二人ともそれ相応に目的を持っている。

その目的を果たさずして、後ろには引き下がれないと言った感じだ。

しかもなまじ一度は成功しているのだ。

それを外的要素によって台無しにされてしまっている。

皮肉にも、俺の存在もそれを助長してしまっているのだが。

 

とにかく、二人には何とか振り上げた拳を下ろしてもらいたい。

その下ろし所を考えているところに、ややこしい奴がやって来たのだ。

リアス・グレモリー。何もこんな時に出てこなくてもいいだろうに!

 

「な……レイナーレ!? あなたやはり生きていたのね!

 それにあなたは……セージ! これは一体どういうことか、説明なさい!」

 

さらに事態を悪化させるように、グレモリー先輩の後ろには

一番この場に出て来てほしくない奴がいた。そう……兵藤一誠だ。

 

「あ……あいつは! やはり、やはり生きていたじゃない!!

 天使様、あいつです! あいつを殺して!!

 友達のためにも、あいつを、兵藤一誠を殺してください!!」

 

血相を変えて天野さんが叫ぶ。

俺も残念ながら天野さんの心情を伺い知ることは出来ない。

そして兵藤の直接の被害者である天野さんの友人の心情なんて、なおの事だ。

 

「……な、何がどうなってやがんだよ!? モモちゃんがいて、なんでレイナーレまで

 ここに居やがるんだよ……!?」

 

一方、その殺意を向けられている兵藤は何食わぬ顔で佇んでいる。

流石に、この場にいる面子に面くらいはしているようだが。

 

だが次の瞬間、兵藤は思いもよらぬ行動に出たのだ。

 

「血迷って俺を嘲笑いに来やがったのか、レイナーレェェェェッ!!」

 

「……っ!?」

 

物凄い剣幕で兵藤の怒号が上がる。が、その相手は天野さんだ。

……あ、こいつ天野さんとレイナーレがイコールだと思ってやがるな。

だったらそれはそれで、この場に桃園モモが居ることに疑問を抱けよ。

それすらできないほど、お前にとってレイナーレの存在が

トラウマになってるのかもしれんけどな。

 

「…………してやる」

 

「え? イッセー、今なんて……」

 

「殺してやる! 二度と泣いたり笑ったり、俺の前にその面を見せられないように

 今度は魂ごとお前の存在を跡形もなく消し去ってやる!!

 部長! 今の俺にはそれだけの力があるんすよね? 何せ魔王様直々に俺を――」

 

どうやらグレモリー先輩も、イッセーの行動は読めなかったらしい。

……ま、まさかこいつ!!

悪魔の力を、人間に向けるつもりじゃなかろうな!?

そんな事をすれば、天野さんはひとたまりもない!

それに以前復活させられなかったのは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の数が足りなかったか

或いはもっと単純にグレモリー先輩の力不足。どっちも理屈は同じか。

それだけ兵藤は強化されているってのに、それが復活しているとなると。

グレモリー先輩が強化された、と見るべきか。魔王陛下の存在を仄めかしたと言う事は

またあの怪しげなアイテムを使ったのかもしれない。そこまでして兵藤を生き返したい理由は……

 

いや、いまはそんな事よりも。魔王陛下が動いてまで生き返した存在の力。

そんな力を、人間に向けるとなれば。

 

「逃げろ天野さん! 奴はあんたを殺すつも――」

 

俺の叫びも虚しく、兵藤の左腕――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から放たれた魔力弾が

天野さんの腹を貫いたのだ。

 

……遅かった! 何もかもが遅かった!

俺の警告、俺の行動、どれをとっても間に合わなかった!

そして兵藤! お前は……お前は本当に人間であることを捨てたのか!!

人が人を殺すなど、一番やっちゃいけない事だろうが!!

 

「い、イッセー……あなた……!?」

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……よ、よくもその面で俺の前に出てこられたな……!

 セージじゃねぇが、今度はその面をぶん殴って……」

 

「て、天使……様……」

 

血反吐を吐きながら、天野さんが崩れ落ちる。

天野さんに向かって手を伸ばすが、その手は届くことは無く。

俺は慌てて、兵藤を突き飛ばしながら天野さんに駆け寄る。

 

「天野さんっ!」

 

「あ……なた……あい……つの……」

 

「もういい、喋るな! 病院まで大至急運ぶ! 殺人教唆は犯罪だし

 俺もレイナーレを許すつもりは無いが、だからってあんたが死ぬ理由は何処にもないだろ!

 あんたは生きるべき人だ、だから……」

 

俺は天野さんを抱え起こそうとするが、次の瞬間兵藤に殴られる。

そっちに気が向いていなかったので、勿論ノーガードだ。はっきり言って痛い。

 

「がっ……!?」

 

「何の真似だセージ。こいつは俺達を滅茶苦茶にした堕天使だろ。

 部長が居なかったら、俺達今頃死んでるんだ。

 お前にとっちゃ大したことない事でも、俺にとっちゃ重大な事なんだよ。

 俺の純情をもてあそんだ挙句、殺そうとまでしやがって。

 だから俺はこいつを許さねぇ。何があってもだ」

 

「……その台詞、そっくりそのまま返すぞ兵藤。

 お前は忘れたかもしれないが、珠閒瑠(すまる)の中学で天野さんの友人は

 お前の浅薄な行いのお陰でその人生をふいにする羽目になったんだ。

 お前にとっちゃロマンだ夢だそんな陳腐な言葉で済まされることかもしれないが

 受けた側にとっちゃ想像も絶する苦しみだったんだろうさ。桐生さんだってそうだ。

 俺達には、中々味わうことが出来ないからつい忘れてしまいそうになる――

 けれど、絶対に無碍にしちゃいけない痛みを、お前は他人に味わわせたんだぞ!!」

 

吠える兵藤に、負けじと言い返す。

天野さんが言いたい事は、こういう事なんだと思いながら。

俺に何がわかるのか、って話だけどな。何もわかってないから勝手なことを言っているが。

 

「そう……よ……だ……から……

 しん……でも……おま……えを……

 ……のろ……て……や……る……」

 

「!! や、やめなさい! そうだ、アーシア!

 リアス・グレモリー! アーシア・アルジェントをここに呼びなさい!

 さもないと、この子が死んでしまうわ!」

 

血相を変えて、レイナーレが天野さんを生き長らえさせようと

グレモリー先輩に頼み込んでいる。態度こそ、頼み込むって態度とは全然違っているが

必死さは俺にも伝わってくる。

 

……俺の回復のカード、自分にしか使えないのが恨めしいと思ったのは

この時だけでは無いが、今回は殊更に恨めしいな。

堕天使に自分から関わっているとはいえ、何の力もない人間が

こうして目の前で死んでいくのをただ黙って見ている事しか出来ないとは。

 

……だが、この期に及んでも兵藤はすっとぼけた様子であった。

いや、事情を知らないんだから無理からぬことではあるんだが……

 

「は? え? モモちゃん……? 何を言って……?

 何でモモちゃんが部長やアーシアの事を知ってるんだ?」

 

「あなた……この気配……そ、そう言う事ね……

 私としたことが迂闊だったわ……アーシアね、少し待ってなさい」

 

事情を悟ったグレモリー先輩がアーシアさんを呼ぼうと魔法陣を展開するが……

 

「部長さん、どうしたんですか……って、あれは……!」

 

……アーシアさんがここにたどり着いたと同時に、天野さんは事切れた。

ようやく……ようやく学校にも来られるようになったってのに

こんな終わり方なんて、いいわけないだろうが!

俺の中に、どうしようもないやるせなさがこみ上げてくる。

 

魔法陣を展開し、やってきたアーシアさんに向かって

俺は天野さんを抱えながら首を横に振る。

最期の言葉が呪詛だなんて……そんな……それでいいのかよ……

あんたの人生……こんな奴を恨むだけでよかったのかよ……!!

 

「な、な、何を言ってるんだよみんな……

 俺はレイナーレを倒したんだぜ? アーシアを自分のものにしようとする

 極悪非道な堕天使を倒したんだぜ? もっと……」

 

「……敢えて口で言ってやる、兵藤。お前が殺したのは天野夕麻。人間だ。

 レイナーレはそこにいる桃園モモだ。最初お前に接触したレイナーレは

 天野夕麻の姿と名前を借りていただけだ。それが今は桃園モモの姿を借りている。

 つまり、だ。お前は……人を、人間を殺したんだよ。

 そして俺は超特捜課特別課員って警察関係者。現行犯だ。言い逃れは出来んぞ」

 

「そ、そんな……イッセーさんが……人を……殺しただなんて……!!」

 

「な、な……そ、そんな目で見るな、アーシア!!」

 

アーシアに怯えた感情を含んだ目で見られるのは堪えるのか、狼狽する兵藤。

その感情を、なぜもっと早く持てなかったんだ。

そんな兵藤に対する非難はまだまだ続く。

俺が応援で呼んだ柳課長が、警察手帳を見せながらこのタイミングでやって来たのだ。

 

「警視庁超特捜課のテリー柳だ……って、どうしたんだ宮本?」

 

「柳課長。実は……」

 

勿論、俺は兵藤の非難もお構いなしに真実を包み隠さず話す。

警察と言う人間社会での抑止力がこうして動いている以上

兵藤ももう年貢の納め時だろう。

親御さんには悪いが、やはり死んだと言う事にしたほうが良いのかもしれん。

折角帰って来た息子が、まさか今度は殺人犯になろうとは。

と言うか、どれだけこいつは経歴に泥を塗れば気が済むんだ?

 

「……まさかそんなことになってようとはな。

 兵藤一誠、天野夕麻殺害の現行犯で逮捕する!」

 

「ふ、ふざけるな! 俺は折角部長や魔王様に生き返らせてもらったのに

 警察なんかに捕まってたまるかよ!!」

 

な、こ、こいつは……罪の意識がまるでない!?

ここまで「自分は悪くない」を地で行けるやつだとは思わなかった!

こいつを庇おうとした昔の自分を殴ってやりたいくらいだ!

 

「逃がすか。『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』、発……動ッ!!」

 

柳課長の神器(セイクリッド・ギア)、加速への挑戦で動きを高速化し兵藤を捕らえようとする。

しかし、負けじと兵藤も禁手(バランスブレイカー)を発動させ抵抗しようとする。

 

WELSH-DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

……ドライグ。いつまでそんな奴に力を貸しているつもりだ。

お前にも赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)としての誇りがあると言うのなら

こんな三下みたいな思想の輩に使われているのが、悔しくはないのか?

 

俺は一連の動きを見守っていたが、さすがに禁手の相手は柳課長には苦しいらしく

柳課長の息が上がり始めている。そもそも確か加速への挑戦は

長時間使用には耐えられなかったような。

ならば、と言うわけでも無いが俺も禁手で挑ませてもらうべきか。

 

「フリッケン! アモン! 『無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)』を使わせてもらうぞ!

 あのバカを逮捕するには、これしかない!」

 

INFINITY-ARCHIVES DISCLOSURE!!

 

無限大百科事典。俺の禁手だが、まだこれの力を全て引き出しているわけでも無い。

モーショントレースが出来るのは体験済みだが、これだけってわけでも無いと思うが……

 

「あ、あいつも禁手に至っていたというの……!?

 あの神器も危険ね……けれど今は!

 

 ……あ、あなた! 私に力を貸しなさい! ……いえ、違うわね。

 私に力を貸してちょうだい! こっちは契約者を失った。

 その報いを受けさせるためにも、一撃加えなければ気が済まないわ!」

 

「う、うるさいぞレイナーレ! ! よくも俺を騙しやがって!

 モモちゃんの姿を借りて俺を騙すつもりだったんだろうけど

 二度も同じ手に乗らないからな!!」

 

俺は正直、どっちにも手を貸すつもりは無い。

だがレイナーレとは共通の敵がいるってだけだ。

レイナーレと手を組むなんて、やはり俺にも許せない部分がある。

手を組むまでは承諾しかねるが、邪魔はしないでおいてやるか。面倒だが。

 

そして兵藤。お前、言われなければ騙されていただろ。

ところがお前が天野さんを手にかけた事でそれが通じなくなった。

結果的にそうなっただけかもしれないが、お前のやった事は……!!

 

「兵藤! いつまでお前は物事を他人のせいにし続けるんだ!!

 お前との勝負はもうついているが、勝負とか関係なしに俺は動く!!

 兵藤一誠、天野夕麻の殺人と公務執行妨害で現行犯逮捕……現逮だ!!」

 

現逮。どうでもいいが警察用語で現行犯逮捕の略語らしい。以前見た刑事ドラマで

この言葉が使われているのを聞いて以来、言葉の響きがいいので気に入ってたフレーズだ。

……まさか、こうして使う日が来ることになるとは思わなかったが。

 

「捕まってたまるかよ! レイナーレとつるんで俺を殺そうとした奴なんだぜ!?

 碌な奴じゃないに決まってる! そう、敵だ! 敵を殺して何が悪いんだよ!!」

 

そうか。そういう考えが根底にあるのか。敵だから何をしてもいい、と。

やはりこいつはもっと大事なことを考える癖がついてない!

いや、そもそも考えると言う事を放棄していやがる!

敵だから殺していい、そんな考えでいいわけがないだろうが!!

 

「俺もレイナーレには恨みがあるさ。けれどな兵藤。

 今のお前はレイナーレ以上に危険な存在だ!

 ドライグの存在、そして生き返った理由!

 そこを考えれば不用意に力を揮っていいわけがないってことくらい分かるだろ!?

 俺はバカだからなんて言い訳、通ると思うなよ!!」

 

俺も大して親しくもない相手だが、目の前で人が殺されたことで激昂しているかもしれない。

兎に角兵藤をぶちのめして、ブタ箱に叩き込んでやりたい一心が何よりも勝っていた。

ここで俺が兵藤を殺せば、俺とて同じ穴の狢になる。それは嫌だ。

この力は人を殺すためのものじゃない、以前フリッケンにも教えられたしな。

 

PROMOTION-ROOK!!

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

STRENGTH-HIGHSPEED!!

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

戦車(ルーク)」に昇格(プロモーション)し、その上で能力の底上げを図る。

こうしてスピードを上げておかなければ、兵藤の捕獲は叶わないだろう。

捕獲に当たっては、勿論これも忘れない。

 

DIVIDE!!

BOOST!!

DOUBLE-DRAW!!

 

FEELER-GUN!!

 

SOLID-REMOTE GUN!!

 

触手砲で兵藤の動きを制限しながら、その上で触手で縛り上げる。

これ位やらないと禁手の兵藤の動きは止められないだろう。

だが、ここで終わらないのが「無限大百科事典」だ。

 

MOTION!!

 

カードを引いたと同時に、柳課長のシルエットが俺に吸い込まれていく。

捕り物なら警察関係者の腕前の方が優れている。そう考えた俺は

柳課長の動きを真似ることにしたのだ。そしてモーショントレースの真価はここから発揮される!

 

「神器を二つ以上!? あ、あり得ないわ!!」

 

「しかもあれは俺の神器! 宮本、これは一体どういう……」

 

俺の右手には「加速への挑戦」が握られている。しかも、効果を発揮した状態で。

レイナーレや柳課長から疑問が投げかけられるが、それこそ「俺に質問するな」だ。

そう言う能力なんだとしか、俺には答えようが無い。

モーショントレースした相手の異能も、コピーできる。

勿論、このコピー能力の発現は任意だが、今回は遠慮なく使う。

その為にモーショントレースを試みたのだから。

俺は「加速への挑戦」のスイッチを入れ、空に放り投げる。

 

「戦車」の力で「加速への挑戦」の力を使うと言う事は――

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

一撃一撃が軽いのが柳課長の「加速への挑戦」の欠点。

それを戦車の力で加えているのだから、ダメージは半端ない。

柳課長ならもっとうまく使えるのかもしれないが、そこは仕方がない。

モーショントレースをしつつ、怒涛の蹴りを赤龍帝の鎧に叩きつける。

 

「加速への挑戦」のカウントが10になる寸前、9.8を示したところで

俺は「加速への挑戦」を止める。最後の蹴りが決まると同時に、爆発と共に兵藤は吹っ飛んだ。

その衝撃で、赤龍帝の鎧も解除されている。

 

「柳課長、手錠を!」

 

俺は手錠を持っていないため、柳課長に兵藤の逮捕を依頼する。

吹っ飛ばされた兵藤の右手に、冷たい光を放つ鉄の輪がかけられる。

 

「16時24分。兵藤一誠、天野夕麻殺害と公務執行妨害の現行犯で逮捕する!」

 

「い、イッセー……」

 

「イッセーさんが……人を殺して……逮捕されて……

 こ、これは一体……」

 

衝撃を受けていたのは、グレモリー先輩とアーシアさんだ。

何せ、兵藤が逮捕されるなどと夢にも思っていなかったのだろう。

特にグレモリー先輩。折角生き返らせたところ悪いが、これがルールって奴だ。

人の嫌がる事をするなって教わっていなかったのだろうか。

 

とにかく、これで一連の騒動には決着がついた。

払った犠牲は、決して少なくは無かったが……

 

――――

 

パトカーでは護送中に暴れられる危険性があるため

俺はなんと聖槍騎士団のモーショントレースを行い、聖槍のコピーを兵藤に突き立てた。

散々苦しめられた――アモンにかかれば赤子同然だったみたいだが

聖槍騎士団の力を使う事になるとは、俺も思いもよらなかった。

そうこうして兵藤の護送が行われた後、俺はレイナーレに話を付けることにした。

 

「人間の世界では、後は法が裁く。その法を犯してまでやるべきことじゃない。

 それに、お前をアザゼル総督が呼んでいた。絞られるのは覚悟した方がいいぞ」

 

天野さんの姿に戻ったレイナーレは、俺の話に耳を傾けていた。

天野さんの姿に戻った理由については

「彼女が生きていた証を出来る限り残したい」との事らしいが

お前、そんな殊勝な奴だったっけか? 契約者相手にはそうなるものなのかもしれんが。

 

「天野さんの事は……残念だったな。短い間だったが、同じクラスだった。

 よしみがあるとはいえ、お前を許したわけじゃない。今度はお前を潰すかもしれん。

 俺の気が変わらないうちに、アザゼル総督の元に急ぐんだな」

 

追い払うように、レイナーレをアザゼル総督の元へ送ろうとする。

すると、レイナーレは素直に転移の術を使い冥界へと移動しようとしていた。

 

「こっちこそ、もうあんたみたいなのにかかわるのは御免だわ。

 赤龍帝の抑止力として申し分ないものも見させてもらったから

 今後はそれを利用させてもらう事にするわ。

 

 さようなら。もう二度と会う事は無いでしょうけど」

 

そう言い残し、レイナーレはアザゼル総督の元に向かったみたいだ。

俺としても、二度とあいつとは関わり合いになりたくないと思っている。

あいつのせいなのか、グレモリー先輩のせいなのか、今となってはよくわからないが。

いずれにせよ、俺から平穏を奪ったのは間違いない……のだが。

 

……この力は、果たして正しい事のために揮われているのだろうか……?

平穏を代償にするほど、価値のあるものなのだろうか……?

 

晴れて霊体から肉体を取り戻した俺だが、この疑問の答えは未だに出ていないのだった。




【速報】イッセー逮捕

【悲報】天野夕麻、殺害される

そして天野さんは完全に死亡しました。
そう言えば原作では人死にがあまり出てませんね。
明確に死んだのってバルパーやフリード、ディオドラとか
ぶっちゃけ「かませにすらなってない小悪党」ばっかな気が……

バルパー以外は拙作では相当なてこ入れ施してますが
(なお生存しているのはフリードのみの模様、そのフリードも原作だとリブートキャラ?が
出てくる始末だし……)

拙作では「さっきまで命だったものが辺り一面に転がる」位の気概でやりたいところですが。
え? もうなってる?

こんな形ではありますが、間もなくセージの物語は一区切りを迎えようとしています。


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Soul84. 既に違えた道、そして……

まず遅れてしまって申し訳ありません。

そして前回の話に対して多数の感想ありがとうございます。
やはり皆さん兵藤一誠と言う存在に対しては思うところがあるんですね……

私赤土の言いたい事は、作中と感想欄ですべて物語っています(はず)ので
多くは語りません。

今回も某魔王陛下がゲスい事になってますが……
ある意味、正論を述べているんです。彼も。


兵藤が逮捕された。

だが、今までの行いでついに御用になった……と言うわけでも無い。

 

奴は人を、天野さんを殺したのだ。

殺しだけはやらないような奴だと思っていたのだが

その認識は奴が悪魔になった時点で棄てるべきだったのかもしれない。

 

しかしまさか、こんな形で奴に引導を渡すとは思わなかった。

松田や元浜はここまでの事態には陥らなかったが、奴らとてこうなっていた可能性はある。

勿論、警察の御用になると言う意味でだが。

 

俺としても、正直なところ知己が殺人、しかも一般人を殺したなんて

心のどこかでは信じられない部分がある。

だが、今までの戦いでは相手を殺す勢いで戦っていたのも事実だ。俺も含め。

 

……いや。何を迷うことがあるんだ、俺。

奴らは皆自らが戦い、その結果として死傷と言う結果が齎された。

そう言う意味では天野さんはどうなるのだろうか。

 

彼女も確かに殺人を堕天使に依頼した。

その結果、返り討ちに遭って殺されることになった。

 

……いや、彼女自身は一般人だ。一般人は法で裁かれるべきだ。

そうでなくとも、ここは日本だ。日本で犯罪を犯したのならば

日本の法で裁かれるべきではないのか。

 

などと、さっきから思考が堂々巡りに陥っているのだった。

とは言え、ショックを受けているのは俺だけじゃないんだが。

 

「イッセーが……イッセーが逮捕されるなんて……

 せっかく生き返らせたのに、これじゃ何のために生き返らせたのかわからないじゃない……」

 

「イッセーさんが人を殺しただなんて……それも普通の人を……」

 

その場に居合わせたグレモリー先輩とアーシアさんは、兵藤の凶行にショックを隠せずにいる。

そりゃそうだろう。俺にとってはもうどうでもいい奴だが

この二人にとっては信頼している相手が、まさか悪事に手を染めたなどと。

お陰で、俺もかける言葉がでてこないのだ。

 

そして何より、この事を兵藤の親御さんに何と言えばいいのか。

説明自体は柳課長が行ってくれると言っていたが

心情は察するに余りある。俺も親と言う生き物ではないが

「親の心子知らず」とはよく言ったもの……ではないかと思う。

 

何はともあれ、俺のやるべきこと――レイナーレをアザゼル総督の元に連れて行く、は

彼女が自ら出頭すると言う形で決着を見た。そうなれば、俺がここにいる理由はない。

グレモリー先輩とアーシアさんについても、今のままではよろしくない。

何とか落ち着かせるためにも、俺は一先ず二人を警察署に連れていくことにした。

 

「グレモリー先輩、アーシアさん。とりあえず警察に行きますよ。いいですね?」

 

「……わかったわ」

 

「……はい」

 

ぐぬぬ。こうも落ち込まれるとやりにくいな。仕方がないこととはいえ。

何とかして元通りになってもらいたいものだが。特にアーシアさんには。

そして、何とか元気づけるためにも俺はグレモリー先輩に

オカ研の面子を警察署に呼ぶように頼み込むことにした。

どうせ兵藤の事で事情聴取やら何やらされる可能性もある。

そうなった場合の二度手間を防ぐ意味合いも込めて、だ。

 

――――

 

――駒王警察署。

 

「部長、お戻りのところ悪いのですがこれを……」

 

連絡を受け、警察署で待機していた祐斗が、グレモリー先輩に冥界の情報誌を渡す。

それに目を通したグレモリー先輩の表情が、みるみる変わっていく。

どうでもいいが、本当に腹芸の出来ない人だな。人じゃないが。

 

「……ディオドラの事はまだいいわ。けれど、魔王様を悪く言うなんて

 この情報誌、一体何を考えているのかしら」

 

そうして机の上に放り投げられた情報誌は

以前グレモリー先輩をこれでもかってけなしていた、ゴシップ雑誌の最新号だった。

俺にも読ませてくれと言わんばかりに、俺は放り投げられたゴシップ雑誌を拾い上げ目を通す。

そこには――

 

アスタロト家、次期当主が人間に討たれる!

 

今話題のアスタロト家、次期当主はアインスト!?

 

アジュカ・ベルゼブブ、レーティングゲームに新たなアイテムを持ち込む!?

 

……ゴシップどころか、全部事実――最後は類推に過ぎないが――じゃないか!

よくもまぁこれだけの情報を集められたものだ。

恐らくはバオクゥの盗聴かリーの手腕によるものだろう。

魔王陛下に関してはイェッツト・トイフェルのリークの疑いもあるが。

 

そして、この雑誌にまだ小さくだが取り上げられていたのは。

 

――赤龍帝、人間界で暴走するも魔王により回収。

 

よく読んでみなくても、内容は俺が目撃したものと寸分違わなかった。

それに対する反響を調べる方法は……バオクゥかリーに聞くべきか。

冥界を出てから連絡を取っていないな、そう言えば。

 

よくよく考えてみれば、結構霊体でいた期間――

即ち悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を抱えていた期間がそれだけ長かったって事だ。

今となっては覚醒し、禁手(バランスブレイカー)にまで至った神器(セイクリッド・ギア)を持っているのみならず

アモンとフリッケンと言う、強大な力をさらに二つも抱えてしまっているが。

 

……果たして、俺は日常に戻ることは出来るのか?

兵藤が逮捕されたからって、それは赤龍帝と言う存在がこの日本で裁かれるだけで

それ以外の事については何ら解決してない、むしろ悪化さえしかねないんじゃないか?

そもそもだ。俺に憑いたアモンの目的は魔王陛下と戦う事だ。

やはり、まだまだ俺には平穏な暮らしは遠いのだろう。

 

などと考えていると、事情聴取を受けていたオカ研の残りの面々が戻って来た。

やはり、事情聴取なんて慣れないことをしたおかげか大なり小なり疲れている様子だ。

アーシアさんの神器「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」でも、精神的疲労は取れないみたいだ。

 

「オカルト研究部も超特捜課は苦手と見たな。茶は淹れてあるから自由に飲んでくれ」

 

「そうさせてもらいますわ……どうしてイッセー君が……」

 

「お、お巡りさん怖いです……僕何も悪い事してないです……」

 

姫島先輩が不穏なことを呟いていたような気がしたが、俺は聞かない事にした。

ギャスパーもグレモリー先輩の実家から強引に招集されたらしい。

俺も特別課員とは言え取り調べ立ち合いの権限があるわけではないので

取り調べなんて刑事ドラマのそれしか知らないが

ギャスパーには圧迫面接になったんじゃないか?

 

茶を啜りながら、ため息を吐くオカ研の面々。兵藤の逮捕が堪えているのだろう。

俺としても、さすがにこんな空気で浮かれられるほど空気が読めないわけではない。

しかし、やりにくい空気であることに変わりはない。

そこで、俺はさっきからゴシップ雑誌を読んでいるのだ。

 

「……なあグレモリー先輩。魔王陛下は何を考えて、兵藤を氷漬けにして連れ帰ったんだ?」

 

「……本当は伏せておくべきことなのだけど、もうイッセーも逮捕されてしまったし

 言ってもいいのかしらね……その事なのだけど」

 

グレモリー先輩が口を開こうとしたその時、グレモリーの魔法陣が展開される。

そこから現れたのは、グレイフィアさんとサーゼクス陛下。

 

……おい、このタイミングで出て来たって事は……!

 

「おっと。それは私の口から説明させてもらうよ。

 イッセー君の保釈もお願いしたいと思っていたし」

 

やはり! 兵藤の保釈なんて、今のグレモリー家に出せる金額ではないはず……ま、まさか!

冥界ぐるみで兵藤の身柄を引き取るつもりなのか!?

 

「あまり睨まないでくれたまえ、アモン。今日私は君と事を構えに来たわけじゃないのだから。

 グレイフィア。アモンにもお茶を出してあげたまえ」

 

「畏まりました」

 

『セージ! サーゼクスの野郎だ! いい機会だから一発ぶん殴らせろ!』

 

『やめておけ。こっちから仕掛けて傷害沙汰になってみろ。付け入る隙を与えるだけだぞ』

 

グレイフィアさんのお陰で、あっという間に警察署の一室は

豪勢なティータイムを楽しめる一室になった。

片や俺は物凄い勢いで表に出てきそうなアモンをフリッケンと抑えつつ

グレイフィアさんの淹れてくれたお茶を改めて口に……と思った矢先に

フリッケンから待ったがかかる。

 

『不用心だぞ。毒が入っている可能性も考慮しておけ』

 

『悪魔の毒は人間にはきついからな。毒殺される覚えがあるとはセージ。

 お前もやってくれる奴じゃないか』

 

毒の可能性か。俺としたことが見落としていた。

アモンのよくわからないエールを受け取りながら、俺は口に運ぼうとしたティーカップを戻し

グレイフィアさんに突き返す。これが失礼な行いだってのはわかっているが

俺はグレモリー家にとって不倶戴天の敵だからな。

それ相応に警戒はさせてくれ、申し訳ないが。

 

「毒の類は入れておりませんわ、誠二様」

 

「心配性ねセージは。グレイフィアの紅茶に毒なんて入っているはずが無いと言うのに」

 

俺用に淹れた紅茶を飲んで無害であることをアピールするグレイフィアさん。

心情的に他人が口を付けたカップなんて使いたくないから

新しい容器――ただの備え付けの紙コップだが――に淹れ直してもらい

今度こそ俺もグレイフィアさんの紅茶を口にする。ふむ、うまい。

あの恰好も見てくれだけでは無いと言う事か。ルキフグスって確か経済を司る悪魔だったはずだが

紅茶の淹れ方も学ばなければならないとは大変なものだな。

 

……それにしても、さっきからサーゼクス陛下が俺の事をアモンと呼んでいるって事は

やはり俺にアモンが憑いているのはバレているって事か。

そりゃ、イェッツト・トイフェルなんてのを抱えていれば

そう言う情報にも強いと考えるのが妥当か。

その割には、ウォルベンとかの態度を見るに現魔王とはうまく行ってないっぽいが……

 

「……で、イッセー君を何故確保したのか。と言う話だったね?」

 

グレイフィアさんの紅茶を飲みながら、サーゼクス陛下が話し始める。

碌なことでは無いと思うが……

 

「二天龍の話は知っているよね? 悪魔が絶滅に瀕していることも。

 イッセー君の、赤龍帝の力は、そんな悪魔に希望を与える存在になる。

 そう思っての事なんだ。だから、こんなところで終わらせるわけにはいかない。

 そう考えて、今日はこうしてやって来たわけさ」

 

兵藤が悪魔の希望、ねぇ。あんな奴でも、いやあんな奴だからこそ悪魔にとっては

希望になるのかもしれないが……

 

ここで俺は少々嫌な考えをしてしまった。奴の持っている性欲だ。

それが故に、少子化にあえぐ悪魔にとっては素晴らしく映っているのだろうか?

……以前も面と向かって言った気がするが、そういう問題じゃない気がするんだが。

 

だが、それだと赤龍帝の力と結びつかない。

聞いた話だと、奴のあの性格は小学生の頃に形成されたものらしい。

ドライグが目覚めた時期とは一致しない。尤も、神器が宿るのは基本先天的なものらしいが。

 

「お待ちを魔王陛下。今の奴は犯罪者、それを釈放するとなれば反発は必至。

 冥界は、神仏同盟と戦争をなさるおつもりですか?」

 

「まさか。天使や堕天使との戦争をかろうじて回避できて、アインストって脅威もあるのに

 どうして神仏同盟と戦争をしなきゃならないんだい?

 私とて、そこまで愚かではないつもりだよ」

 

そう。禍の団(カオス・ブリゲート)――と言うかアインストと言う脅威は未だあるのだ。

それなのに、戦争の火種を蒔くような行いをしようとしているのだ、この魔王陛下は。

それは無論、兵藤の釈放の事なのだが、その辺はきちんと認識しているのだろうか?

 

「……どうやら、今のイッセー君の状態を話した方がわかってもらえるかもしれないね」

 

そう言って、サーゼクス陛下は兵藤の現状を淡々と語り始めた。曰く――

 

悪魔の駒を契約解除と言う形で抜き取って、仮死状態にあった。

それが覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)を解除させた方法で、そうせざるを得なかった。

それを冷凍保存し、グレモリー先輩に再契約してもらう事で元通りにしようとした。

ところが、グレモリー先輩は再契約に失敗。そこで、魔王陛下が手を貸すことで

兵藤の蘇生に成功した……って事らしい。

 

つまり、だ。今の兵藤は兵藤一誠ではなく

一誠・グレモリーと言っても差し障りない存在と言う事か。

だとしたら、あの愚行も納得が出来てしまう自分が恐ろしい。

まぁ、もしそうだとしても罪を犯したことに変わりはない。

そして立ち会ったのは超常的な存在による犯罪に対抗するための超特捜課。

兵藤を逮捕することに、何ら間違いはない、はずだ。

 

……うん? って事は、兵藤は冥界に亡命した扱いなのか?

いや、あいつは一応一般人だから難民か? んな事はどうでもいいが。

いずれにせよ、今の奴は悪魔の駒のみならず

魔王陛下から何かしらの支援を受けて生き長らえている状態。

やはり、人間としての在り方を捨てたと言う事なのだろうか?

そこまでは、俺は奴じゃないからわからないが。

 

「納得してもらえたようだね。だから、今の彼は日本国民では無く

 我々冥界悪魔領の住民と言う事になるんだ。それを不当に拘束した。

 それだけで、こちらから異議を唱えるには十分すぎる理由になるよ」

 

「不当……だと?」

 

サーゼクス陛下のその言葉には、まるで天野さんの事を考えている節が無かった。

堕天使の力を借りた人間など、悪魔からすれば敵なのかもしれないが

それにしたって……!

 

「セージ君、抑えて!」

 

「……セージ先輩、ダメです……!」

 

「人を一人殺して逮捕されるのが、どうして不当なんだ!

 確かに彼女は堕天使の力を使って、殺人を企てた!

 けれど、殺意に殺意で返すのが悪魔の正しいやり方なのか!

 そんなやり方は、自分の首を絞めるだけだぞ……!!」

 

祐斗や白音さんの制止を振り切り、思わず俺はサーゼクス陛下に食って掛かっていた。

天野さんが死んだこと、殺されたことを不当と言われたことにカチンときたのだ。

そりゃあ魔王にしてみたら人間一人の命なんてその程度かもしれないさ!

けれど、俺にしてみたら目の前で死んだ人の一人なんだ。

それをその程度と言われて黙っていられるほど、俺も淡白じゃないつもりだ。

 

「まぁ、人間の世界の法律ならそうだろうね。

 確かにイッセー君は取り返しのつかないことをしたかもしれない。

 だが、イッセー君にだって未来はあるんだ。

 私に言わせれば、彼の未来も等しく尊ばれるべきものだと思うよ」

 

「……クッ!」

 

平行線だ。サーゼクス陛下は兵藤の過去の行いを知ってて言っているのか?

だとしたら、もうこれは価値観の相違と言う相容れない問題だ。

肉食動物に肉――草食動物を食うな、と言っているようなものだ。

 

「そう言うわけだから、私はイッセー君に弁護士を雇ってやったり

 保釈のための用意をするつもりで来たのさ。リアス、今しばらくの辛抱だ」

 

……陛下は相当依怙贔屓がお好きなようだ。結局グレモリー先輩の機嫌取りじゃないか。

それだけじゃないんだろうけれど、そういう側面は見て取れる。

そんなんだから、魔王陛下の評判に響いてるってわからないのかね。

ここにあるゴシップ誌を突きつけようと思ったが

一笑に伏されて終わるのが目に見えていたのでやめておくことにした。

 

『おい、このままだとあの赤龍帝がまた娑婆に出てくるんじゃないのか?』

 

アモン、言いたい事はわかるが弁護士を雇う権利は兵藤にだってあるんだ。

そして後ろ盾に魔王陛下がついた、しかも悪魔領の国庫の金を利用しているみたいだ。

グレモリー家に金があるとは到底思えないからな。税金で犯罪者の放免か。

よく反乱がおきないな……と思いつつも冥界の住民にとっては

兵藤は犯罪者じゃない。今や魔王陛下がスカウトした期待の新人って扱いみたいだ。

 

……そうか、そう言う事か。

兵藤の人間としての生はとっくの昔に終わっている。

だからこそ、兵藤は悪魔としての生に期待を持ったと言う事か。

だが、だからって人殺しの理由にはならんぞ。

人に危害を加えるような輩は駆逐されるって、知らないわけではないだろうに。

 

ふとグレモリー先輩を見ると、複雑な表情を浮かべていた。

兵藤の釈放のために魔王陛下が動いていることは、グレモリー先輩にとっては

心強い事のはずなんだが。一体全体どういう事なんだ?

 

「お嬢様。もしやまだ……」

 

「……グレイフィア。その件は言わないでちょうだい」

 

グレイフィアさんとの会話から、何かある事は察せる。

しかし、俺にはその正体まではうかがい知ることは出来なかった。

いや、記録再生大図鑑ないし無限大百科事典を使えば

この程度のプライバシーなんてあってないようなものだが

その為に神器を使うのは憚られたのだ。人として大事なものを無くすような気がして。

祐斗の時は緊急だったが、今は別に緊急でもない。

迂闊に人のプライベートな部分に踏み込むのは避けるべきだ。

グレモリー先輩は人じゃない、ってのはまぁ、置いておいて。

 

グレイフィアさんの淹れた毒のない紅茶を飲み干した辺りで、俺のスマホに連絡が入る。

発信者は……バオクゥ? 確かにスマホにも『tsubuyaitar』がインストールされているが……

冥界との交信も可能なのか? と思いながら俺は確認をしてみることにした。

 

――駒王町なう

 

……は? なんでバオクゥがこっちに来てるんだ?

俺は適当な理由を付け、警察署を後にすることにした。

今魔王陛下がいる前にバオクゥを連れてくるのは色々と面倒なことになりそうだと思ったからだ。

幸いにして、俺はもうオカ研の籍がない。元々宮本成二はオカ研の部員じゃなかったしな。

よって、オカ研を理由とした拘束は俺には意味がない。

次に超特捜課としての拘束理由だが、こちらはあくまでも協力者と言う形だ。

したがって、ある程度の自由は保障されている。

兵藤が逮捕されて事情聴取されている今抜け出すのは少々気が引けるものもあったが

バオクゥをこっちに一人でおいておくわけにも行かない。

近くの公園を指定して、そこで落ち合う事にしたのだ。

 

――――

 

ある程度復興が進み、少しずつではあるが元の姿を取り戻しつつある駒王町。

その一角の公園もその例にもれず、少しずつではあるが元の人々の憩いの場としての

機能を取り戻しつつあった。俺はそれが嬉しい。

そんな公園に、俺はバオクゥを呼び出して話を聞くことにした。

 

「どもども、お久しぶりです!

 ……と言いたいんですが、まずは謝らないといけないことがありまして……」

 

「お前さんに、盗聴器仕掛けてやがったんだぜ。そいつ」

 

会話に割って入ったのは、リー・バーチ。こいつもこっちに来ていたのか。

って、バオクゥが俺に盗聴器を? なんでまた?

 

「イェッツト・トイフェルに脅されてたんです。

 こっちに来たのも、奴らにアジトをやられたからですね。

 いえ、別にセージさんのところに転がり込むつもりはありませんよ?

 珠閒瑠でお師匠様がマンサーチャーやってるんで、そこに転がり込みたいところですが

 現役退いたお師匠様のところに転がり込むのも気が引けますからね。

 幸いにして、ここにも放棄された建物とか結構ありそうなので

 そこを新しいアジトにしようと考えてますよ」

 

アジトをやられたって、それ大丈夫なのか?

どうやら、二人とも何らかの形で政府を敵に回しているらしい。

そりゃあ、政府に喧嘩売ってるに等しい俺と関わっていればそうもなるか……。

 

「気を付けてください、セージさん。彼らはセージさんの……と言うか

 アモンの力を狙っています。冥界のいざこざに人間のあなたを巻き込んでしまうのは

 冥界に住む悪魔として心苦しいものを感じるのですが……」

 

「いっそのこと、お前がイェッツト・トイフェルと組んでサーゼクスを倒してしまったらどうだ?」

 

『お、こっちの転生悪魔の兄ちゃんは話が分かるじゃねぇか!』

 

バオクゥが申し訳なさそうに語る一方で、リーがとんでもない提案をしてくる。

アモンはその提案に乗り気だが、俺はそこまでするつもりは無い。

アモンには感謝しているが、最終目的に相違がある。ここが後々響かなければいいが……。

 

そんな事を考えながらも、俺達は情報の交換を行った。この契約はまだ生きているからだ。

もっとも、バオクゥは盗聴で俺の経緯を大体知っていたから俺から伝えることは殆どなかったが。

バオクゥ自身も持ち出した情報の整理がまだ済んでいないらしく、そっちに専念したいとの事で

こっちも得られた情報は殆どなかった。精々、ディオドラ絡みの話に裏付けが出来た程度だ。

 

「へへっ、お前の話は本当に金になりそうだぜ」

 

「リーさん!」

 

リーの相変わらずなマスゴミっぷりは一周回って妙な安心感が得られる。

距離感さえ間違えなければ、何だかんだで彼の情報は強い武器になる。

まぁ、あの魔王陛下はその辺かなり脆弱に見えるが

その取り巻きのイェッツト・トイフェルはそう言う面でも手強い。

 

……その手強い奴が、うまくすれば味方になってくれると言う展開もあり得るが

それは即ち、冥界のいざこざに自分から首を突っ込むと言う事だ。

そこまでする理由が、アモンはともかく俺にはない。

冥界で何が起ころうが、人間界に危害が来なければそれでいいと思っているからだ。

しかし、それは俺の考えが甘いと言う事をすぐに思い知らされることになる――

 

「……ここにいらっしゃいましたか。皆さんお揃いで、好都合ですよ」

 

声がした方を振り向くと、そこにはチョコレートを咥えた

丸サングラスの男――ウォルベンが突っ立っていた。

武器は構えていないが、彼は相当の実力者だ。今の俺でも、勝てるかどうかは危うい。

部隊を率いていたら、勝率はさらに下がる。

 

……ここで争っても得なことは何一つない。

そう考え、俺達はウォルベンの話を聞くことにした。




やはり魔王が糸を引いていました。
まぁ、バレバレでしたけど。

ここは敢えて原作仕様とすることで魔王が何をしているのか、と言う歪さが
浮き彫りになってしまってます。

ライザーの件、ハーデスの件、その他諸々全て依怙贔屓に起因している。
私には、そう思えてならないのです。

もし依怙贔屓で無いとしたら。
もしどんな屑でも原作同様に手を差し伸べていたら。
手を差し伸べる理由を考えると、屑であろうがなかろうが関係ないと思うんです。

「兵藤一誠だから」
「リアス・グレモリーだから」

そこに対するアンチテーゼとして、イェッツト・トイフェルが居たりします。
(ギレーズマやハマリアもザビ家、ハマーン、トレーズと言う
シャア&ゼクスに対するキャラから取ってますし)

そんなイェッツト・トイフェルが人間に戻ったセージに接触。
霊体ではなくなり、ゴーストの名も冠せないセージの物語は
どう一区切りがつけられるのでしょうか。

……え? 某タケル殿は生き返っても普通にゴーストに変身してる?
アーアーキコエナーイ


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Soul85. 誘いと信念

今回、後書きは別のネタで使ってしまっているので
解説は活動報告の方に載せたいと思っています。

イェッツト・トイフェルとの遭遇、冥界との関わり合い。
セージが出す答えは……


駒王町にある中規模の公園。

そこにバオクゥ、リーと落ち合った俺は

とんでもない来客を迎えることになってしまう。

 

魔王直属部隊、イェッツト・トイフェルのウォルベン・バフォメット。

奴が何を思って俺に接触してきたのかはわからない、だが推測は出来る。

 

一つは、俺に憑いているアモンの力を狙っての事。

もう一つは、ここにいるバオクゥとリーの始末。

 

前者は魔王陛下に対するカウンター的措置だろう。未だに俺には俄かに信じがたいのだが

アモンは魔王陛下と肩を並べ戦った、冥界の勇者としての一面を持ち合わせていたらしい。

どういうわけだか、今は裏切り者として扱われているが。

 

後者は、彼女らが冥界政府にとって不都合な記事ばかりを並び立てるから

それに対する制裁の意味合いを込めているのだろう。

実際、冥界にあるバオクゥのアジトは本人曰く襲撃されたらしい。

 

果たして、ウォルベンは何を企んでいるのか。

緊張が走る中、俺達はウォルベンと話をすることになった。

 

「単刀直入に言いましょう。歩藤……いや宮本成二さん。

 あなたには我々に協力してもらいたいのです」

 

俺の懸念の答えの一つは出た。かねてから俺に目を付けていたイェッツト・トイフェルが

いよいよ俺のヘッドハンティングに出て来たか。

だが、俺はその提案に首を縦に振るつもりは無い。のだが……

 

『面白ぇ。要はお前らはサーゼクスら四大魔王をぶっ潰す魂胆なんだろ?』

 

「さすがは勇者アモン、話が早い。徒に冥界に損害を与えるばかりの四大魔王を駆逐し

 我々こそが真なる『現代の悪魔(イェッツト・トイフェル)』として冥界を導こう、そう考えているのですよ。

 その為には、あなた方盗聴バスターやジャーナリストの働きも不可欠ですし

 事が成せた暁には人間界への不可侵条約も締結させましょう。

 

 ……私としても、人間と悪魔は相容れない生き物であると考えていますからねぇ」

 

……おいおい。結局旧魔王派と言ってる事が殆ど一緒じゃないか。

提案こそそこそこに魅力的だが、やはり俺は首を縦に振れない。

アモンは乗り気だが、そこに何かがあるとどうしてもうがった見方が出来てしまう。

 

「……だとしたら、何で私のアジトを襲撃したんです?」

 

俺が考え込んでいると、バオクゥから疑問が投げかけられる。

確かに、協力を要請する相手のアジトを襲撃するなんて、普通はしない。

しかし、彼らは魔王直属部隊でありながら魔王陛下に反旗を翻そうとしている奴らだ。

普通、と言うのがどの程度の事を指しているのかは俺にも分からないが

そんじょそこらのはかりで考えないほうが良いだろう。

そもそも、相手を出し抜くことに関しては長けていそうな相手だ。

 

「その件については申し訳なく思っていますよ。ですが我々も魔王直属部隊と言う性格上

 魔王様からの命令には表向きには従わなければならないのです」

 

悪びれずにウォルベンはバオクゥに向かって語っている。

まるで「殺すのはいつでもできる。今は目的のために生かしておいてやっている」

と言わんばかりだ。イェッツト・トイフェルの性質上、それが出来そうなのが怖い所だが。

 

「要するに、お前らを始末する事なんざいつでもできる、死にたくなければ自分達に従え。

 ……そう言いたいわけか?」

 

「好きな風にとってもらって構いませんよ。協力していただけるのでしたら

 あなた方の身の安全は我々が保証いたしますが」

 

クーデターの片棒を担がせるつもりか。これはますます首を縦に振れないな。

アモンはともかく、俺は冥界とは関わり合いになりたくないんだ。

 

……そう言えば、俺は仮面の赤龍帝として名前が売れていたが

今は一体どうなっているんだろうな。フェニックス領ではえらい目に遭ったが。

今となっては過去の名前だが、そこは気になる。

 

「そう言えば。俺はフェニックス家との一件で『仮面の赤龍帝』と言う呼び名が

 良くも悪くも浸透していた。その件については今はどうなっている?」

 

「その件でしたら、もうフェニックス領以外ではそれほど騒がれてない印象ですよ。

 今話題になっているのは魔王様のスキャンダルや、アインスト絡みの事件ですね。

 本家赤龍帝を魔王様が連れ帰って、期待の新人として扱おうとしているのは

 賛否両論起こっているみたいですよ?」

 

「否の方が割合が大きいけどな。

 言ってみれば、自分の妹の眷属を権力で無理矢理つなぎとめてるんだ。

 お陰で俺もやりたくもねぇグレモリー家への死体蹴りが出来ちまって

 困ってるところなんだぜ?」

 

やりたくもない、と言っているが内心ほくそ笑んでいることがリーの言い方から察せた。

ここまで来るとグレモリー家がかわいそうに思えてくるな、自業自得な面もあるし

そもそも俺はその家に殺されそうになってる節もあるんだが。

 

「私としましてはアスタロトがグレモリーより先に潰れた事に驚きましたがね。

 あれはもう再起不能ですよ。ディオドラに引導を渡した人間に

 ぜひお会いしたいと思っているのですが」

 

「あ、俺もぜひ取材させてもらいたいところだな。人間がどうやって悪魔を、アインストを

 撃退したのか気になってたんだ」

 

ウォルベンとリーの言葉に、俺は首を横に振る。

いくら何でもクロスゲートの向こうにいる人をおいそれと呼び出すわけにはいかない。

あの人(アーリィさん)の事は、可能な限り伏せておこうとも考えているし。

そもそも、クロスゲートは俺の知っている限りじゃあれからうんともすんとも言って無い。

 

「取材拒否かよ……チッ、しゃあねぇな」

 

悪態をつくリーに対し、ウォルベンは何かを悟ったのか頷いていた。

そう言えば、俺には盗聴器が仕掛けられて

それはイェッツト・トイフェルの仕業だって事を考えれば

あの事件の一部始終を知っていてもおかしくないわけか。

 

……全く、本当に厄介な相手だ。

敵に回すのは避けたいが、言いなりになるのも避けたい。難しい所だ。

何が恐ろしいって、こいつはただの尖兵に過ぎない所が底知れなさを増している点だ。

指揮官クラスはコカビエルの騒動の時に遠目に見たが。

 

「話を戻しましょう。成二さん。あなたに憑いたアモンは

 四大魔王とも互角に戦えるはずの悪魔なのですよ。

 しかし、今はベオウルフの事件でサーゼクス眷属を封じているとは言っても

 四大魔王全てを相手取って勝てるとは我々も考えておりません。そこで……」

 

「俺達ジャーナリストが、世論を反魔王派に傾けさせたところを」

 

「あなた方が新政権を立ち上げて、打倒すると言う事ですね」

 

ウォルベンの目論見を察したように、リーとバオクゥが口を挟む。

武力で反乱を起こさないだけ旧魔王派に比べて平和的と言うべきか

人間社会らしいやり方をしているな、と思いつつ

そんなやり方が悪魔の世界で通るのか? と言う疑問も生じている。

兵藤みたいなのが持て囃されると言う事は、力の社会なのだろう。

そこに力を伴わない改革を持ち込んでも、通じるものなのか?

 

「話の理解が早い方は助かりますよ。幸いにして、今の魔王の支持率は半々と言ったところ。

 あと一押しがあれば、四大魔王を更迭することも不可能では無いと我々は考えています。

 そうなってしまえば、後は力で旧来の貴族を封殺してしまえば

 晴れて新政権を立ち上げることが出来る、と考えているのですよ。

 老いさらばえた今の貴族悪魔は、武力では現魔王に敵わないことを知っていますからね。

 武力が厄介な現魔王を更迭してしまえば、後は力でどうとでもなるのですよ」

 

「力が無いから、力ばかりの四大魔王を立てて傀儡にする……

 ま、老獪(ろうかい)な為政者がやりそうなことだよな」

 

リーの指摘に、ウォルベンは黙って頷いていた。

バオクゥも心当たりがあるのか、リーの言う存在に思い当たる節があるような顔をしていた。

「大王派」……そうバオクゥは呟いたのだ。

 

「ある悪魔に曰く、『変化を求めない化石』だそうですよ。悪魔の将来を考えるならば

 今の大王派が実権を握っている状態は、決して宜しいものでは無いはずなんですがねぇ。

 ……これは私個人の意見ですが、化石にはご退場いただこうと思ってもいますよ」

 

「こいつぁ面白ぇ! 俺を締め上げた時はなんだこいつって思いもしたが

 中々面白いことしてくれるじゃねぇか!

 よし決めた! 俺はお前らイェッツト・トイフェルにつくぜ」

 

その大王派と言うのを俺は詳しくは知らないが

どこにでも政治的なしがらみはあると言う事はわかった。

そして、それを快く思わない軍部組織によるクーデター。

それが、今のイェッツト・トイフェルのなそうとしている事なのだろう。

禍の団の脅威が消え去らぬうちに行動を起こすのは、時期尚早な気もするが。

 

「ふっふっふ……賛同していただきありがとうございます、リー・バーチさん……

 他のお二方は、どうなさるおつもりですかな?」

 

「ちょっと待て。その前に禍の団(カオス・ブリゲート)の相手も必要じゃないか。

 クーデターなんか、やってる暇はあるのか?」

 

「勿論、今すぐに事を起こすなんてそれは愚か者のすることです。

 そう、神仏同盟に正面から反感を買いに行っている現魔王のようにね。

 ですから、禍の団の弱体化を確認でき次第、即座に行動に移すつもりです。

 その為の布石を、今の時点から打っているだけですよ。

 

 ……ああ、神仏同盟と手を組んで、四大魔王を駆逐するのも手ですねぇ。

 ふっふっふ、良くも悪くも攻略のし甲斐がある相手ですよ……!」

 

俺の指摘に対しても、ウォルベンは不敵に笑っていた。

やはり、冥界のゴタゴタに巻き込まれるのはご免被りたいところだが……

 

「……考えさせてください。情報と気持ちの整理もしたいものですから」

 

「俺もバオクゥと同じく、だ。禍の団と戦うと言うのであれば協力は惜しまないが

 冥界のいざこざに自分から首を突っ込めるほど、俺は冥界にいい感情を持っていない」

 

バオクゥはやはりアジトを襲撃するような相手と組みたくない心情が勝ったのか

イェッツト・トイフェルと組むことには後ろ向きのようだ。俺もそうだ。

答えの先延ばしに過ぎないかもしれないが、かといって正面切って

イェッツト・トイフェルと戦うのはあまりにも愚策だ。

四大魔王も俺にとって敵かもしれないが、敵の敵が味方である保証はない。

 

「おや。アモンの件もある事ですし成二さんはてっきり協力していただけると思いましたが……

 まぁいいでしょう。当面の敵は禍の団であることに変わりはありませんし

 ジャーナリストの協力が得られただけでも良しとしましょう。

 では皆さん、またお会いしましょう」

 

そう言い残し、ウォルベンとリーは魔法陣で冥界へと転移したようだ。

リーは今後イェッツト・トイフェルのお抱えジャーナリストになるのだろうか。

これから、四大魔王へのバッシング記事が増えそうな気がするな。

 

「……セージさん。私はイェッツト・トイフェルを完全に信用したわけではありません。

 ですが、四大魔王を更迭し大王派を放逐するのも冥界にとって必要なことだと思うのです。

 そこで、自分が何をすべきかもう一度お師匠様と相談してみたいと思うのです。

 ですから、一度お師匠様がいる珠閒瑠(すまる)市に行ってみたいと思ってます。

 何かわかり次第、またお伝えしますので……」

 

そう言い残し、バオクゥは魔法陣で珠閒瑠市へと転移したみたいだ。

珠閒瑠市。一体どんなところなんだろうか。俺は行ったことが無いが。

 

――――

 

公園の緊迫していた空気は元に戻り、辺りは静寂が支配していた。

俺はイェッツト・トイフェルの事やアモンの事など、冥界に関する諸々を考えていた。

冥界での戦いは、俺の管轄を超えている気がしたからだ。

幾らアモンが憑いているからと言っても、そこまでアモンに従う理由は果たしてあるのだろうか。

 

『何を思い悩んでいるんだ。奴ら悪魔が人間界にちょっかいを出さなくなれば

 お前の目的も果たせるじゃねぇか。俺としては、イェッツト・トイフェルと組むのは

 賛成できると思うけどな』

 

『俺は反対だ。奴らは根本のところで悪魔だ。そこにお前が乗り込んでみろ。

 いいように使われるのがオチだぞ』

 

アモンとフリッケンも、見事に意見が割れてしまっている。

こういう時、何も考えてない兵藤が少しだけ羨ましい。

見習うつもりは毛頭ないが。

 

俺は、果たしてどう動くべきなのだろうか。

イェッツト・トイフェルに協力し、冥界を平定させるべきなのか。

人間として、冥界のいざこざには首を突っ込まずにいるべきなのか。

 

……俺個人としては、後者を選びたい。

だがそれは、アモンとの約束を反故にする意味合いも含まれている。

悪魔憑きになった俺には、人間の世界で生きていくことは許されない事なのだろうか?

少なくとも、今の四大魔王の治世では冥界と人間界の関係が良くなることは無いだろう。

他所の国はわからないが、ここ日本とは相性が悪すぎる。

少々反則な気もするが、この事は神仏同盟に持ち込んでみることにした。

 

そう考え、腰かけていたベンチから立ち上がろうとしたとき

目の前に黒歌さんが現れる。留守番を頼んでおいたはずなんだけどな。

 

「お悩みのようね少年。お姉さんが相談に乗ってあげるにゃん」

 

「……暇だからって勝手に外に出んでください」

 

俺の一言に、黒歌さんは慌てて取り繕っていた。図星かよ。

だが、俺が考え込んでしまっているのも事実だ。ここは黒歌さんに話すべきなのだろうか。

まあ、言うだけ言ってみるか。

 

「出て来てしまったものは仕方ないから、いいとしますけど。

 実は――」

 

今まで起きた事を話す。黒歌さんも冥界にいた時間が長かったからか

それなりの情報は知っているようだが、イェッツト・トイフェルの思惑については

今一つ要領を得なかったようだ。

 

「私にはそいつらの目的が今一ピンとこないけれど……

 お兄さんはお兄さんよ。アモンがどうこうじゃなくて、お兄さんが何をしたいのか。

 そこだと思うわ。それが裏目に出ちゃった私が、言えた事じゃないけどね」

 

裏目に出た……それは悪魔契約の事を指しているのだろうか。

深く追及はしないでおいたが。

 

それはそうと、俺のやりたい事……か。

平和に過ごせるのが一番なんだが、それは叶いそうにないからな。

かと言って、冥界のいざこざに首を突っ込みたくはない。

そうなれば、答えは一つ、か。

 

「アモン。お前には悪いが、やはりイェッツト・トイフェルと組む気は無い。

 だが魔王陛下が俺達の世界にちょっかいをかけてくるのなら、俺は迎え撃つ。

 積極的には攻めないが、かといって黙ってやられるつもりも無い。

 

 ……それが気に入らないなら、俺から出ていくなり、無理矢理言う事聞かせるなりして

 意見を通してみるんだな。後者は無論抵抗させてもらうが」

 

『……チッ。今はそれで我慢してやるよ』

 

今は、と言うのが気になるが何とかアモンの言質も取れた。

そうなれば、俺がやるのは今までと同様、超特捜課で町の平和を守るために

活動を続けることだ。

 

「どうやら、お役に立てたみたいで嬉しいにゃん。その対価を支払って欲しい所だにゃん。

 具体的には撫でて欲しいにゃん」

 

「その姿のままでは丁重にお断りさせてください。猫の姿ならともかく」

 

……ここにも色仕掛けしかけてくるのがいたよ。

まぁ、誰ぞと違って悪意が感じられないからまだいいか。それに、こっちは逃げ道がある。

猫を撫でるのは、俺も小さい頃からよくやっているから得意だし、癒される。

 

因みに鳥は好きでも嫌いでも無い――鶏肉は好きだが。

だがカラスを撫でる気にはどうしてもなれない。

姫島先輩に言い寄られるよりは、こっちの方がよほど安心できる。

あの人のアプローチは、好意に起因していない気がするし。

そんなアプローチに乗ってやれるほど、俺は安くないつもりだ。

 

……うん? って事は黒歌さんは……

 

……いやいやいやいや。深く考えるのは止そう。

そうでなくともまだ明日香姉さんの件の踏ん切りがついてない。

 

……果たして、無事でいてくれているのかな。明日香姉さんは。

 

――――

 

警察署に戻ると、既にオカ研の面々は解散していた。

黒歌さんがそのままついてきていたので、白音さんと対面した時にちょっとした騒ぎになったが。

 

「……留守番位きちんとしてください、姉様」

 

「あー、そこはまぁ結果オーライって事で。それよりオカ研と関わるって事は

 多かれ少なかれ魔王陛下とも関わることになるだろうが、その件についてちょっと、な……」

 

そして、俺はその場にいた白音さんと祐斗、それからアーシアさんに

イェッツト・トイフェルの動向について話す事にした。一応他言無用とした上で。

その際、氷上さんら警察の人に盗聴の心配が無いかもチェックしてもらっているので

そう言ったところから情報が洩れる、って点も心配ない……筈だ。

 

「冥界は、そんなことになってたんですね……部長さん、いいように使われてないか心配です」

 

「そうだね。イッセー君の扱いもそうなんだけど

 魔王様は、まるで僕らを実験動物か何かと見ているんじゃないかって気がするんだ」

 

実験動物か。確かに優秀な神器を持っていたり珍しい種族の眷属だったりしたら

そのデータは喉から手が出るほど欲しいだろうよ。

その代表例が兵藤って訳か。自分で言うのもなんだが、俺のデータも狙っているんだろうな。

その為にイェッツト・トイフェルを差し向けたって考えるのが普通だろうが

奴らは奴らで思惑がある。そこも合わせて俺は奴らの案には乗れなかったのだが。

 

魔王と言う役職上、そう言う事をしてでも悪魔と言う種を存続させたいのだろうが……

前にも面と向かって言ったが、人間はサルを人間に改造したりしない。はずだ。

チンパンジーやオランウータンに知育を行う事はあるが

それは少子化問題とは何の因果関係もない。そこの一線は弁えているはずだ。

その一線を超えたからこそ、悪魔の悪魔たる所以なのかもしれないが。

 

「実験動物……間違って無いわね。私も酷い目に遭わされたし

 奴らにとって私ら別種族との約束なんて無きが如しよ。白音、その話は前に話したわよね?」

 

黒歌さんのシリアストーンに、白音さんも黙って頷く。

軽率な考えで悪魔になったことを恥じるとともに、自分のたった一人の妹を巻き込んでしまった

その後悔の念は、今なお黒歌さんを苦しめているのだろうか。

それについて、俺が出来ることは多分、無いのかもしれないが

せめて猫魈・黒歌さんとして彼女と接することが俺に出来ることでは無かろうか。

俺だって、悪魔の駒を抜いてハイおしまい、とは思っていない。

アフターケアは、可能な限り行うつもりだ。

 

「……それにしても、僕は本当に蝙蝠だね。部長に忠誠を誓うと言っておきながら

 こうして部長に反旗を翻しそうなセージ君とも行動を共にしている。

 セージ君、敢えて聞きたいけれど僕は騎士失格だと思うかい?」

 

「……主君の間違いを正すのも従者の役割だと、俺は思うぞ。

 そのポジションに当たる人物がいないのは、グレモリー先輩にとっては不幸だと思っている」

 

「言って聞くタマかにゃん? 私にはそうは思えないけどにゃん」

 

祐斗の発言に対し、俺はそれも騎士の在り方の一つだと答えたが

黒歌さんはグレモリー先輩に対して辛辣な事を述べている。

まぁ、俺も黒歌さんの言う事は大体あってるように思えるんだが……

 

「セージさんは部長さんに間違いを指摘したりしないんですか?」

 

「前から俺はグレモリー先輩にも散々言っただろ、アーシアさん。それがこのザマだ。

 俺はもうグレモリー先輩とも兵藤とも積極的に関わる気は無い。

 特に兵藤、あいつはダメだ。アーシアさんの前で言うのも気が引けるが

 あいつはもう身も心も悪魔になりきってる。人としての良心が、微塵も感じられない。

 人殺しの事もそうなんだが、自分を生み育ててくれた両親に対する感謝ってものが

 すっぽりと抜け落ちてる。俺に言わせば、それだけで評価は最悪だな」

 

「……以前の私なら、悪魔にだっていい人はいます、と言ったかもしれません。

 けれど、今の私の言うそれは、きっとイッセーさんには当てはまらないかもしれません……

 

 天野さんとは、それほど話した事も無かったですし、レイナーレを利用して

 イッセーさんを殺そうとしたのも多分間違ってると思うんです。

 けれどうまく言えませんが……力で誰かを踏みにじる、ってやり方がまかり通るのは

 絶対に間違ってる、私はそう思うんです」

 

アーシアさんは真剣な面持ちで兵藤の、力を正しく行使しない者の在り方を批判していた。

考えてみれば昔のレイナーレも、今の兵藤も力で他人に言う事を聞かせようとしていた。

……って、これは俺もか。合意の上とは言え、グレモリー先輩に反旗を翻したんだからな。

普通ならここではぐれ悪魔になるんだろうが、俺にはもう悪魔の駒は無い。

だから、はぐれ悪魔になる要素は無いわけだ。

その代わり、冥界の裏切り者アモンが憑いているが。

 

「力で他者を踏み躙る……ここにいる皆に改めて言っておきたい。

 俺がもしそんな存在に陥るようなことがあったら……全力で止めて欲しい」

 

「お兄さんはそんな人じゃないにゃん。私を助けてくれたし、白音の力にもなってくれた。

 それがお兄さんの本質にゃん。きっとここにいる皆が同じ考えにゃん」

 

「……姉様を助けてくれたセージ先輩。私は信じてますから。

 もしそうなっても、ここにいる皆で止めますから。心配しないでください」

 

「海道の件でも世話になったからね。敵うか敵わないかの問題じゃない。

 誰かを止めるのは、何も力だけじゃないよ。セージ君」

 

黒歌さん、白音さんの姉妹の言葉に、祐斗の答えに俺は感激していた。

誰かを止めるのは力だけじゃない、か。力でねじ伏せるだけではない、別のやり方。

兵藤や魔王陛下は、その事が頭からすっぽりと抜け落ちているんじゃないか?

そう思えるくらい、力に頼ったやり方が目についてくる。

 

――そう、そこのイケメンのお兄さんの言う通りだよ。

 

ふと聞こえてきた懐かしい声。いや、実際には冥界から駒王町に帰って来た時に

一度だけ顔合わせをしていたから、そこまで懐かしい声じゃないんだが。

だが、俺が身体を取り戻したことで、霊体ではなくなった。

そうなってからは、初めて聞く声。

 

そして、それは彼女達とは異なる存在になった事を意味していた。

そう、声の主は――

 

――虹川姉妹。

 

俺が霊体になって、悪魔にされて初めて関わった騒霊バンドの少女達だ。




「セージさん、人間って……何なんでしょうね」

「僕達は既に悪魔になっている。だからこそ、君にはその道を大事にして欲しいんだ」

「猫は家に付く? そんなもん、迷信だにゃん」

「……この恩は、一生忘れませんから」

「……さ。これが泣いても笑ってもラストライブ。セージには世話になったからね」



「…………俺は」

次回、ハイスクールD×D 同級生のゴースト 最終回

Soul Final. 俺が人間であり続ける理由

11月20日(月) 20:00公開予定


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Soul Final. 俺が人間であり続ける理由

……最早、ここで語る事もありません。
消化不良感も漂うかもしれませんが
同級生のゴースト、これにて閉幕です。

今回もあとがきは別のネタに使っているので、活動報告をもって
あとがきにかえさせていただきます。


俺は宮本成二。

かつてのクラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけたが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされた。

その事がきっかけで、俺は兵藤一誠共々悪魔にされ

あまつさえ俺は自分の身体から切り離されてしまった。

 

俺と兵藤を悪魔にした張本人、リアス・グレモリーから歩藤誠二の名を与えられるが

俺の身体は帰っては来なかった。俺は自分の身体を取り戻すために

ある時はリアス・グレモリーに従い、またある時は逆らいながら

多くの困難と闘い、出会いと別れを繰り返してきた。

 

一度は消滅の危機に瀕しながらも、次元の狭間で白金龍と呼ばれる

巨大なドラゴンから世界を通りすがる力、フリッケンを授かり窮地を脱した。

時を同じくして、ここ駒王町にクロスゲートと呼ばれる円形の建造物が出現。

そこから現れるアインストと言う謎の怪物。

それに合わせて蜂起したテロ集団、禍の団。

 

戦乱の渦に巻き込まれる駒王町の中で、俺達はクロスゲートを通じてやって来た

一人のシスターと出会い、別れ、それと同時に一人の悪魔とも出会った。

その悪魔の名はアモン。

かつての冥界の大戦において、勇者とも呼ばれる功績を残しながらも

裏切り者に身を窶したとされる、伝説の悪魔であった。

 

アモンの助力を得て、俺はついに自分の身体を取り戻す事に成功したが

これで全ての問題が解決したわけではない。

クロスゲート、禍の団、冥界を取り巻く思惑。

俺の問題は解決したが、駒王町と言う場所は

世界はまだまだ混乱の真っただ中にいるのだった――

 

――――

 

――駒王警察署。

 

ここで、俺は懐かしい……と言っても冥界で黒歌さんを助けてから

こっち、駒王町に戻って来た際に顔合わせをしていたから

実際にはそれほど経っていないのだが、何故だか懐かしい風に聞こえた。

 

――そう、そこのイケメンのお兄さんの言う通りだよ。

 

その声の主は、騒霊ガールズバンドをやっている虹川姉妹。

声のした方向に白音さんと黒歌さんが向くが、幽霊である彼女達の姿は

祐斗やアーシアさんには見えないらしく、きょろきょろと見まわしている。

俺はと言うと……

 

 

……見えない。声はすれども、姿は見えずと言う奴だ。

霊体であった頃ははっきりと見えていたのだが、肉体を取り戻したことで

彼女たちの姿は見えなくなってしまったのだ。

虹川姉妹の三女である莉理(りり)の声が聞こえるだけで、姿が見えないのだ。

 

「その声は……莉理か? ……すまない、どこにいるのか見えないんだ……」

 

「……そんな……!」

 

俺の声に、虹川姉妹の長女、瑠奈(るな)が悲しそうな声を上げるのが聞こえた。

声でしか察せないと言うのも、中々不便だな。

 

「姉さんは悲観的に物を見過ぎだって。

 それってつまりセージさんが幽霊じゃなくなったって事じゃない。

 そりゃあ、ちょっとは寂しいけどセージさんにとっては喜ぶべきことじゃない?

 ハッピーに考えようよ、ハッピーに」

 

芽留(める)、無理してないか? ちょっと躁気味のところがある虹川姉妹の次女だったが

こういう所で明るく振る舞われると却って堪えるんだが。

いや、気持ちは嬉しいんだけどさ。

 

「もともと俺は幽霊じゃないって……と言うか、俺の事情って話したか?」

 

ここで俺は単純な疑問にぶち当たった。虹川姉妹とは悪魔契約の上で接触はしたが

俺の身の上は伏せていた……ような気がしたからだ。

音楽活動に専念してほしいから、と言う理由で。

四女の(れい)が、悲しそうに、そして呆れたように答える。

 

「詳しい事は聞いてないわ。訳ありっぽいのは何となく察していたけれど。

 セージさん、言ってくれればよかったのに……」

 

「結果オーライだにゃん。それより、チンドン屋はどうしてここに来たのかにゃん?」

 

「だからチンドン屋言うな駄猫! そうそう、私達も一度ここを離れることになってね。

 そしたらセージが見えたから挨拶に来たって訳」

 

黒歌さんがチンドン屋とからかっている(?)ため

結果として声だけが響いて賑やかになっているが

俺の目にはさっきからメンバーが変わっていない。

虹川姉妹の姿は黒歌さんと、辛うじて白音さんには見えているみたいだが。

 

「……慰霊ライブも終わった事だし、これから私達は沢芽(ざわめ)市ってところに行くつもりなの。

 まあ、沢芽市に限らず色々なところを回るつもりだけどね。

 セージさんは、どうするんですか?」

 

瑠奈の言葉に、俺は声のする方向に向かって答える。が、その方向は壁だ。

傍から見たら壁と話している風にしか見えないだろう。

 

「……決めかねている。身体は戻ったが、具体的にどうすべきかってのはな」

 

「だったら、ライブ! 暫く私達もこっちには戻ってこないつもりだし

 ラストライブやろうよ、姉さん、莉理、玲!」

 

何故だか、ライブをやると言う話になってしまった。

芽留曰く、明日の夜駒王学園の運動場でやるつもりらしい。急だなおい。

とは言えやることも無いので、俺は虹川姉妹のライブを聞いていくことにした。

 

「本当に!? やった!」

 

「やっとナンバー0番がまともにライブに来てくれるね!」

 

「よーし、腕が鳴るわね! エア楽器だけど!」

 

「……頑張ります」

 

盛り上がる虹川姉妹をよそに、黒歌さんと白音さんがやや不機嫌そうだった。

虹川姉妹の様子がわからない祐斗とアーシアさんもきょとんとしている。

 

「……どうして白音さんと黒歌さんは不機嫌そうなんだい?」

 

「二人とも、そう言う低俗なスキャンダルで彼女たちの芸能生活の足引っ張るつもりは無いから」

 

虹川姉妹の側がどう思っているのかは終ぞわからなかったが

俺としてはそう言うやらしい意図で彼女達と関わっているつもりは無い。兵藤じゃないんだから。

と言うか、そういう意図で関わってないって、白音さんと黒歌さんにも言える事なんだけど。

そう言う意図、か……俺はいつまで姉さんの事を引きずってるつもりなんだろうな。

どこかで決着付けないといけないのに。

 

兎に角、ライブを聴きに行く約束を取り付けた後は解散の流れとなり

俺は白音さんと黒歌さんと共に家に帰ろうとしていた。

 

――――

 

「……二人とも、改めて言う事でもないけど。ありがとう」

 

「どうしたのにゃん、改まっちゃって」

 

「……ちょっと怖いです、セージ先輩」

 

帰路につく中、俺は改めて思ったことを口に出す。

率直な意見を言っただけなのに、二人して気持ち悪がられた。何故だ。

二人の応対にがくりとなりつつも、俺は気を取り直して二の句を告げる。

 

「いや、こういう事を言うとむーに怒られそうだけど

 二人のお陰で俺も母さんもペットロスにならずに済んでいるんじゃないかって気がするんだ。

 俺はともかく、こんなご時世だから母さんは……」

 

「お兄さんに一つ言っておくことがあるにゃん。

 猫は家につく、そんなもん迷信だにゃん。

 お兄さんはお兄さんだから、私達は着いてきてるにゃん。

 猫だって家族は大事にするものにゃん」

 

「……姉様が言った通りです。貸し借りはもう無いかもしれませんけど

 それでも、私達はセージ先輩の力になりたいんです。

 

 ……姉様を助けてくれたこの恩は、一生忘れませんから」

 

猫だって家族は大事にする。そりゃ二人を見ればわかる。

町がこんなだから、俺にとってみたら彼女たちの存在は非常にありがたい。

だからこそ、俺は彼女達に頼む。後顧の憂いを断ち切る意味合いも込めて。

 

「……だったら、頼みがある。俺もなんだけど、母さんも支えて欲しい」

 

「マザコン、じゃないと言う事にしておくにゃん。

 お兄さんのお母さんは私にとってもお母さんだからにゃん」

 

「……任せてください」

 

親族の保護には神仏同盟や超特捜課も名乗り出てくれているが

ここにこの二人も加わってくれることで盤石なものになってくれることだろう。

 

……猫の恩返し、か。その好意に甘えさせてもらうとしようかな。

 

――――

 

翌日、母さんと黒歌さんは仕事に。

俺と白音さんは学校に来ていた。

 

……ところが、そこで信じられない光景を目の当たりにしてしまった。

 

「悪魔でも神を信仰するんだ……へぇー」

 

「木場も、その顔は悪魔になったからそうなったのかい?

 だったら俺も悪魔になろうかなぁ?」

 

詰られているアーシアさんと祐斗だ。まさかとは思うが、悪魔だからという理由か!?

直接暴力を振るわれているわけではないが、空気が悪いのは何となくわかる。

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「別にぃ? ただちょっと聖職者気取ってるくせに欲張りじゃないかなって。

 悪魔の恩恵をあやかりつつ、その上神頼みだなんて贅沢過ぎるとおもうんだよ、ねぇ?」

 

「そうそう、木場だって自分が悪魔だからって気取っちゃってさ。

 今までのすかした態度だって自分が悪魔だから、俺達とは違うからって

 そういう感情からきてたんじゃねぇの?」

 

「……っ! 僕はそう言うつもりは……!!」

 

明らかに、二人を挑発している。

二人が取り囲んでいる相手に対して暴力を振るう様は想像できないが

もし何らかの拍子でそういう事態に発展したとしたら……マズい事になる。

 

俺と白音さん示し合わせてその場に割って入ろうとした……が

 

「お前たち、何のまねだ!?」

 

「……っ、何よ転校生。出しゃばるんじゃないわよ」

 

「いいや出しゃばらせてもらう!

 お前たちのやっていることが良くないことだって位私にも分かる!

 二人とも、何を言われようとも気にするな」

 

ゼノヴィアさんも凄い剣幕でやって来ていたのだ。彼女の剣幕に押され空気が一変する。

しかし、悪態だけは変わらずついているようだ。

 

「……転校生も悪魔を庇い立てするのかよ。駒王番長と言い

 この学校が悪魔の学校だって噂、あながち嘘じゃないかもしれないな」

 

「行こうぜ、白けちまった。この学校には行ったのは失敗だったな。

 就職しようと思ったのに、こんな学校出身の奴なんてどこも採らねぇよな……」

 

「ホント。制服が可愛いからって入ったらこんな学校だったなんてね」

 

俺にも飛び火したが、そんなことはどうでもいい。

この学校の評価もがた落ちだな……俺には割とどうでも……よくねぇや。

進路、大丈夫なんだろうなこれ?

そんな事よりも、俺達は祐斗とアーシアさんに改めて駆け寄る。

怪我が無ければいいんだが。

 

「助かった、ゼノヴィアさん。それと二人とも、怪我は無いか?」

 

「僕は大丈夫だよ。アーシアさんは大丈夫かい?」

 

「……ええ、私は大丈夫です」

 

気丈に振る舞うが、若干アーシアさんが震えているようにも見えた。

まぁ、無理もない気はするが……

 

「……なんて奴らだ! 自分がアーシアたちに助けられたと言うのに!」

 

そう。祐斗もアーシアさんも、ここを守るために戦っていたのだ。

アーシアさんやゼノヴィアさんはディオドラとの戦いに集中していたようだが

それでもこの町を守るために戦っていたことに変わりはない。

それ故に、ゼノヴィアさんの怒りが爆発したのだろう。

しかし、アーシアさんの意見は違ったみたいだ。

 

「待ってください。皆さんも苦しんでいるんです、この現状に。

 怒りのやり場がわからないから、こうした行いに出てしまうのだと思うんです。

 ですから……」

 

「だから耐えろと言うのか!? 前から思っていたがアーシア、君は甘すぎる!

 あれは君が悪魔だと知っている者のしわざだ!

 下手をすれば殺されていたかもしれないんだぞ!?」

 

「……ですが……」

 

ゼノヴィアさんの言う事も尤もだ。アーシアさんはこんな目に遭っても

それを仕向けた輩を許すと言うのだからその博愛精神ぶりには頭が下がる思いだ。

俺にはとてもじゃないが真似できない。

が、真似をしなかったからこそこうして身体を取り戻せた節もあるのかもしれないが。

 

「言い争っていても仕方がないよ。とにかく教室に行こう」

 

「……それじゃ皆さん、また後で……」

 

「ああ、後で」

 

白音さんと別れて、俺達は教室に向かう事にした。

白音さんもあんな目に遭ってやいないだろうか? そう考えると心配である。

しかし、フューラー演説でこの学校のヒエラルキーは大きく変わってしまったな。

学校のアイドルだったものが、あっという間に虐げられる側に回っている。

 

ただ、変わらないのは兵藤だが。奴は今までの行いに加え逮捕歴が加わった事で

とうとう学校も庇いきれなくなったのか無期限の停学処分となった。

遅すぎる気もするんだがな。これについて松田と元浜も掌を返したように

 

「とうとうあいつやりやがったか」

 

「いつかやるんじゃないかと思ってたぜ」

 

などとのたまっている。調子のいい奴らめ。

 

……ここに来て、俺は一つの不安要素が芽生えてきたのだ。

それは、この学校に限ったことでは無いが

あまりにも人々の精神が荒んでいるのではないかと言う事。

松田と元浜が、仮に神器ないしそれに近い力を得たとしたら

この町にいる悪魔に意趣返しをするのではなかろうか?

そうなった場合、俺はこの二人を止めるべきなのだろう。

超特捜課の特別課員として、不当な暴力が振るわれるのは避けなければならない。

 

まあ、この二人はまだいい方である。祐斗やアーシアさんには手を出していない。

一応、助けてもらった事についてはきちんと分けて考えてくれているようだ。

それがせめてもの救いである、が……片瀬と村山の態度がおかしい気がする。

 

明らかに、以前よりアーシアさんを避けているし、祐斗も避け気味だ。

あの二人もフューラー演説を鵜呑みにした口なのだろうか。

話を聞きたいところだが、さっきの様子では

俺もグレモリー先輩を庇い立てしたことが裏目に出たらしく

俺も悪魔の仲間ではないかと噂されているらしい。

……あながち間違いではないのがなんとも、だが。

 

そんな俺が二人の話を聞きに行くと言うのも難しいものがある。

……こうして見えない壁がどんどん出来ていくのか。

厄介なことをしてくれたな、フューラー!

 

――――

 

「……災難だったな、ほらよ」

 

昼休み。俺はメンタルケアも兼ねてアーシアさんと祐斗を外に連れ出す事にした。

俺は焼きそばパンを二人に渡しながら、話を聞く。

今の俺に出来るのは、これ位だろう。

 

「セージさん、人間って……何なんでしょうね」

 

アーシアさんの口から飛び出したのは、とんでもない言葉だった。

やはり、今朝の事は堪えていたのだろう。だが、俺もその問いに対する答えは持ってない。

 

「横から失礼。それは僕にもわからないし、多分セージ君にも分からないんじゃないかな。

 ゼノヴィアさんとかが居れば、また話は変わってくるかもしれないけれど」

 

「呼んだか?」

 

やって来たゼノヴィアさんと白音さんを迎えつつ、俺達は対話を続けていた。

二人は来る途中で昼食のパンを買って来たらしく、昼食の心配は無かった。

ただ白音さんは焼きそばパンでは足りなかったらしく、カツサンドを食べているが。

 

……そう言えば、エンゲル係数が跳ね上がったって母さんが言ってた気がする……

 

「……ギャー君、今日も来てませんでした」

 

「そうか……そっちも折角いい方向に進んでいると思ったんだけどな」

 

白音さんはギャスパーと同じクラスだったらしく

学校が再開しても来ないギャスパーを心配しているようだった。

聞けば、ギャスパーもまた今朝の祐斗やアーシアさん、いつぞやのグレモリー先輩みたいに

虐めに遭ったそうだ。そしてメンタルが弱いであろう彼の事だ。

また引きこもってしまったのだろう。人間(奴は人間じゃないが)誰しも楽な方に行きたがる。

俺も例外じゃない。だからその様子がありありと想像できてしまう。

 

「だらしないな、そんなんだから付け入る隙を与えてしまうんだ」

 

「その意見には一理あるけど、立ち直ろうとした矢先にやられたのは

 やはりかなりのダメージだと思うよ」

 

祐斗がゼノヴィアさんの体育会系じみた意見に一定の理解を示しつつも自分の見解を述べている。

祐斗の言う通り、治りかけをやられたのはギャスパーにとって不幸な事故になっただろう。

それだけでも、フューラー演説の効果は計り知れない。

悪魔がしでかした事、ドラゴン――害獣がしでかした事。

そして、それらに連なるものが近くにいる、それだけで人々は恐怖に慄いてしまう。

考えてみれば当たり前なのだが、いざ実際に目の当たりにするとやるせなさを覚えてしまう。

 

「話を戻すけど人間……か。人間を捨てた僕にはちょっと答えられないな。

 セージ君、ゼノヴィアさん、君たちはどう思うんだい?」

 

「決まっている……と胸を張っては言えないな。

 いや、私のやる事に変わりは無いんだが……その、な。

 『人間とは何か』と言う哲学的な事まで私は考えたことが無かったからな……」

 

ゼノヴィアさんは結局素直に「分からない」と答えたようだ。

人間とは何か、か。アーシアさんも随分壮大な事で悩んでいるな。

これは参った、俺も答えに窮するぞ。

 

「ゼノヴィアさん、セージ君。二人ともまだ人間だ。

 僕達は既に悪魔になってしまっている。だからこそ、君達には人間であることを――

 人間としての道を大事にして欲しいんだ」

 

達観したような物言いをする祐斗の意見がふと気になったので

俺は失礼だとは思いつつも敢えて逆に聞いてみることにした。

 

「無礼を承知で逆に聞くが祐斗、お前は悪魔になったことを後悔しているのか?」

 

「……どうなんだろうね。ここまで来たら一蓮托生だとは思っているよ。

 色々と言われている部長だけど、僕を助けてくれたのも事実だからね。

 白音さんみたいに手術をしてまで悪魔をやめるつもりは無いかな。

 いや、白音さんには白音さんの事情があるのは知ってるから

 それを悪いと言うつもりは毛頭ないよ?」

 

「それに、部長さん自身が誰かのいいように使われていると思うんです。

 私達は、ギャスパー君や朱乃さんとも協力しながら

 何とかして部長さんも救ってあげようと思ってます」

 

グレモリー先輩がいいように使われている、か。確かにそう取れる節はあるな。

それをやっているのは実の兄とその同僚だって言うんだから酷い話だ。

そんな事が罷り通るから俺は悪魔に見切りをつけたって部分もあるが。

 

「こんな事を言うと欲張りに思われるかもしれませんけど……

 私はこの町の人達も、部長さんも両方助けたいと思ってます。

 イッセーさんには自分のやった事を理解してもらう必要があると思いますけど……

 それでも、私は私の助けられる人は、みんな助けたいんです。

 

 ……わがまま、でしょうか?」

 

「そんなことは無いと思うぞ。これは慧介の受け売りでなく私の意見だが

 人間と言うのは欲が深いものだと思っている。だから悪魔の誘惑に乗ってしまうが

 それだけが全てじゃない。欲望と向き合うことが出来るものは

 皆、人間である証拠だと思う。そう言う意味ではアーシア。

 君は間違いなく人間であるかもしれないな」

 

ゼノヴィアさん。何だかんだで考えているじゃないか。

アーシアさんも納得したかのように、大きく頷いていた。

 

「私も悪魔ですけど……でも人間を助けられる。

 そんな悪魔になりたい、私はそう思ってます。

 たとえ……人間の皆さんから嫌われたとしても、私は私のやりたいようにやるだけです。

 自分のやりたいようにやる……それはあの時、主に誓った事でもありますから」

 

「……アーシア! 私は感激した! 私は君の友であることを改めて嬉しく思う!

 ならば、私はアーシアの剣となろう! だからアーシアは心置きなく自分の道を進んでくれ!」

 

感激したゼノヴィアさんがアーシアの手を取って上下に振っている。

アーシアさんも苦笑しながらゼノヴィアさんの意見を受け入れているみたいだ。

けれど、正直に言ってアーシアさんは凄いと思う。

普通、自分を虐めた相手を救いたいなどとは思わないだろう。それが人間の限界かもしれない。

その限界を、アーシアさんは超えている。悪魔だからって、そう言う理由ではないだろう。

アーシアさんの生来の性格がそうさせているのだろう。

 

祐斗とアーシアさんの決意が聞けたと同時にチャイムが鳴ったので

俺達は教室に戻ることにした。

 

――――

 

授業も終え、一度家に帰宅した後の夜、駒王学園運動場。

ここで虹川姉妹のラストライブが行われると言うので

俺は白音さんと黒歌さんを連れてやって来たのだ。

 

そこには、アーシアさんと祐斗も来ていた。

ゼノヴィアさんは、慧介さんに止められて不参加みたいだが。

 

「結構一杯漂ってるにゃん。あのチンドン屋、なかなかやるにゃん」

 

「あ、セージだ! こうして見ると、あの時を思い出すわね!」

 

莉理の声がする。白音さんが声のした方角に向いてくれているので

そっちの方角を見ながら俺は話しかける。

 

「約束だものな。久々に堪能させてもらうとするか」

 

「あの時とはメンバーが変わっちゃったけれど、前もこうして来てたよね」

 

祐斗や芽留が言っているのは、まだ俺が悪魔だったころの話だ。

ライブの手伝いが、いつの間にかインベス退治になってしまっていたが。

あの頃とは、確かにメンバーが変わってしまっている。

けれど、それは仕方のない事と思う事にしている。

 

「……さ。これが泣いても笑ってもラストライブ。セージには世話になったからね」

 

「セージさん、他のみんなもいっぱい楽しんでいってね!」

 

「一生懸命歌うから……」

 

「……最後まで、聴いていってくださいね」

 

それから、俺達はひとりでに飛び回る楽器を見ながら

何処からか奏でられる音楽に酔いしれるのだった……

 

――騒霊演奏中...

 

「……セージ、霊感鍛える事って出来ないの?」

 

「筋肉みたいに言うな、そんな方法俺は知ら……いやちょっと待て。

 黒歌さん、たしか気の流れを読む応用で霊体の俺が見えたりしたんだよな?」

 

突発のゲリラライブにして駒王町での虹川姉妹のラストライブ。

それは大盛況の中終わり、俺達は楽屋とも言うべき場所にいた。

そこで莉理から提案されたのは俺の霊感の強化。

 

……その発想は無かった。

が、黒歌さんや白音さんは気の流れで霊を見ているらしいので

そう言う事が俺にもできないかと思い、専門家の黒歌さんに聞いてみることにした。

 

「ん? そうだにゃん。でも触れないけどにゃん」

 

「十分。俺にもその方法、教えてもらっていいか?」

 

……霊感は鍛えられなくても、気の使い方はもしかしたら。

そして、その応用で彼女たちの姿を見ることが出来るようになれば。

 

彼女たちの不安を、少しは取り除いてやれるかもしれない。

 

「チンドン屋のためってのが気に入らないけど……

 お兄さんの頼みだし、無碍には出来ないにゃん」

 

「……ありがとう!」

 

「セージ先輩。姉様の修行は厳しいですよ?」

 

白音さんの言葉にも、俺は怖気づくことなく答えた。

何だかんだで、俺は霊体でいた時間が長かった。

その間に、様々な幽霊と対話したこともある。

そんな彼らに対し、まともに別れの挨拶をしないままと言うのはやはり良くない。

それに、悪魔はやめたが虹川姉妹のプロデューサー契約はまだ生きているみたいだ。

その為にも、俺は肉体を持ちながらも霊体を見ることが出来るようになる必要があるのだろう。

 

『……けっ。めんどくさい奴だな』

 

『同意はしてやる。自分が狙われているって事、忘れるなよ。セージ』

 

……アモンとフリッケンから釘を刺されつつも。

 

――――

 

駒王町。人と魔が住まう町。

こんな町は、何もここに限った話でないことを俺は思い知らされた。

一つは、バオクゥが向かった珠閒瑠(すまる)市。バオクゥが向かったって事は

そこには悪魔に連なる要素がある事を意味している。

 

もう一つは、虹川姉妹が向かったと言う沢芽市。

何故彼女達がここに向かったのかはわからないが、騒霊バンドをそこでやると言う事は

そこもまた、霊的なものを寄せ付ける何かがあるのだろう。

 

人と魔、神は俺が思っていた以上に密接な関係にあったのかもしれない。

その好例がオカルト研究部であり、神仏同盟であり、超特捜課である。

それらと密接に関わり、人間としての在り方さえも根幹から揺るがされながらも

俺は、俺として……人間として、そんな彼らと関わっていきたい。

 

人間とは何か。その答えは未だ俺の中には確固たるものが出来上がっていないが

人として成すべきこと、成してはならぬことの区別だけはついているつもりだ。

ただ、俺のできること、やるべきことを……

 

 

「…………俺は」

 

 

……一つずつ片付けて、少しでも俺の力がこの町の、人間の、世界の自由と平和のために

役立てることを信じて。

 

 

「俺は人間として戦う。悪魔でも、得体のしれない怪物でも無く。

 それが人間では無いと言われてしまっても、心は、魂は人間であり続けてやる。

 俺の、俺達の平和な時間を取り返すためにも――

 

 来るなら来い! 俺は、これからも戦い続ける!!」

 

 

左手の俺の神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を掲げながら

俺は空に向かって叫ぶ。

 

これから俺が戦うべき相手は計り知れない存在ばかりだ。

だが、それでも俺は進み続ける。

それが力を正しく使う事に繋がるのならば。

 

だが、力を持つ者の義務だからじゃない。俺は大事なもののためにこの力を使う。

それは間違っても一人の悪魔のためじゃない。俺が守りたいと思ったもの全てのために使う。

 

身体を取り戻したことで、俺の目的は達成された。

だがそれは、俺の物語が終わった事と同義ではない。

俺の物語はこれからも、戦いが終わった後も続くのだから。

 

寧ろ、戦いが終わった後が本番だろう。

その為に、俺は今を生きる。

過去と向き合い、未来のために、今を生きる。

それこそが……

 

 

……俺が、人間であり続ける理由だ。




――世界を取り巻く戦いも、セージの戦いも、まだ終わってはいなかった。

「時は……満ちた……
 今こそ……静寂なる……世界を……」

活動を再開するクロスゲート。

「バカな……俺達は……英雄じゃ……」

「その聖槍は私のものだ。盗んだ物で英雄を気取るとは
 悪いJunge(少年)だ。いい大人になれんぞぉ?」

聖槍を巡りその本性を現すフューラー・アドルフ。

「唯一不変のもの……それこそが……我々の……」

「そうか……そう言う事か……老いたな、ゼクラムも。時すでに遅いと言うわけか」

冥界で蠢く陰謀。

「借りを返しに来たぜぇ……セージぃぃぃぃぃぃ!!」

白金龍(プラチナム・ドラゴン)の力がそうさせるのか、セージに襲い来る龍の神器を持つ者達。


「まさか、北欧神話(ワシら)の世界樹の名を冠する人間の企業があるとはのう」

「死んで正解だぜ……こんな世の中じゃな……」


戦いの舞台は、駒王町を、冥界を超えて――



「うふふ……あはははははっ!
 念願の再会よセーちゃん、もっと喜びなさいな?」


悪意は、なおも振りまかれる。


ハイスクールD×D 同級生のゴースト 第二期
ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン


近日公開予定


――これが、これが俺が身を捨てて守ろうとしたものの正体か……!?


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