俺が女体化でツンデレとかありえない (Axelea)
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第一部
女の子になりました


この物語を書くにあたり、アンダーバー4つ(_____)を多用しておりますが、これは場所の切り替わりもしくは時間の経過を表します。
読みにくいとは思いますがご勘弁下さい。


____授業が終わり、帰宅部の生徒の波が静まった放課後

 

この物語の主人公は

 

「好きです!付き合ってください!」

女の子から告白されていた。

 

____

俺の名前は木下(キノシタ) (ユウ)

16歳の高校一年。

 

はっきりいうと、俺は結構イケメンだ。

顔立ちはなんというか…まぁ、可愛い系だ。いわゆる童顔ってヤツ。

残念ながら俺自身は自分の顔があんまり好きじゃない。

 

俺は今の女の子の告白に

「なんで?」

と返した。

 

顔は可愛くても、性格まで可愛いわけじゃない。

そもそも付き合うだのなんだの、高校生だからってうかれやがって。

よそでやってくれよな。まったく。

 

「俺は別に君のこと好きなわけでもないし、そこまで仲良くもないよね?まぁ、告白されたのは嬉しかったよ。それじゃ。」

 

いつも(・・・)のセリフを吐いて立ち去る。

顔がちょっといいからって、ろくに話したこともない奴に告白なんかするなっての。

 

 

 

男のくせして可愛い顔のせいでナメられる。

小さな頃からそうだった。

いつだって周りからは女の子扱い。

俺はそれに対して『抗った』

 

 

だから____吉良(キラ) 大雅(タイガ)…あいつみたいなのは本当に気に入らない。

 

どんなやつかって?まぁ、テキトーに説明するよ。

見た目はいいわ、頭もいいわ、運動できるわ。

まるで少女漫画にでも出てきそうな男。

おまけに性格もよろしくて周りから慕われている。

 

お家柄もいいんだとか。

そして、なんとなく主導権を握られる感じがものすごく嫌だ。

俺は別に、こいつに嫉妬してるわけじゃない。俺の生活だって充実している。

 

じゃあ何が嫌か?それは周りへの対応。

 

前にも言ったが性格もよく、友達も多い。

嫌なヤツではないのだ。

 

何に対しても肯定、同調する。

でも結局自分は中立の立場。

爽やかに見えるんだが、自分の本心などを全く出さない。

 

それがとても気持ち悪い。

あいつには力があるじゃないか。

顔もキリッとした爽やか系。

 

あんな生き方せずとも、人の中心に立って、皆から畏れられつつも憧れられる。

そんな人間になれるはずだ。

 

 

 

…さっきの言葉は撤回しよう。

 

俺は、吉良に嫉妬しているのかもしれない。

 

決して自己主張しないあいつに。

カッコイイくせに『従う』ことしかしないあいつに。

 

だから、一発シメようとか、そんなんじゃない。

俺は別に不良でもないしな。

ただ、あいつとは一度生き方について話をしてみたい。

なんて、カッコつけすぎかこれは。

 

いやまぁ、クラスは一緒なんだけど…

なんというか、話しかけ辛い。

まぁ、仲良くなりたいわけでもないからいいんだけどな。

 

 

 

____

「優ちゃん、また告られたのか〜?」

 

見慣れた顔が俺の前に現れる。

「おー、隆士いたのか。まぁ、いつものように告られただけだよ。」

こいつの名前は森山(モリヤマ) 隆士(タカシ)

家が向かいにあり、物心ついた頃からつるんでいる。

…親友だな。

よく運動ができるんだけどそこまで頭がよくない。

性格は…ノリがものっすごくいい。

無駄なくらいにノリがいい。

 

「で?また断ったんだろ?いいご身分だな?」

茶化すように俺に言葉を投げかけてくる。

 

「うるせぇ!俺なんかと付き合うとろくなことねぇから、忠告してやってるだけだよ!」

実際にそうだ。俺は誰かと付き合ったことはない。恋とかそういうのは全くわからないんだよな。

まったく、わかってるくせにわざわざ言ってくるんだから。めんどくさい

 

「なんでそんなにツンツンしちゃうかな〜?素直になって、彼女つくれよww」

ちなみに隆士には彼女さんがいる。

 

同じ中学だが、高校は随分と離れてしまった。

まぁ、隆士の頭が悪くて、彼女さんの頭が良かったからなんだけど。

俺も知ってる人だが、なかなかいい人だ。

リア充爆発しろなんて言わないでやってくれ。

 

まぁ、彼女が同じ学校いないから、隆士は俺と帰ってるのかもしれないな。

爽やかな付き合い方をしている隆士と彼女さんを、俺も応援はしている。

 

 

____

帰り道、俺達、帰宅部2人組は少し駅をぶらついて帰った。

 

2人対戦の格ゲーをしたんだが、三連敗した。

くそっ、リズムゲームなら負ける気しないのに…

なんとなく、あの手のゲームは苦手だ。

大体、ゲームで殴り合って何が楽しいんだ。男ならもっと、こう…

…今度練習しておこうかな。

こいつに負けるのは癪だ!

 

 

今日は隆士がバイトのシフトが入ってるってことで早めに切り上げて、俺は、帰ることにした。

バイトあるのになんで俺を待ってたのかは謎だが、そんなにゲームで俺を負かすのが楽しいのか!

 

ちなみに俺は今はバイトはやってない。

そのうちやるかもな。

やっぱり運送とかがいいかな、体も鍛えられるしな。

 

最寄りの駅から家までは歩いて20分くらい。

さっさと帰ってテレビでもみるか。

そう考え、足を一歩踏み出したそのとき、目の前に黒いモヤモヤが浮かんでいた。

 

…え、なにコレ?

 

得体のしれない物体。生き物なのか、なんなのかもわからない。

触ってもいいのか、有害なのかそれすらも分からない。

まさに黒いモヤモヤ。

すごく…妖しい

 

だが、不審に思いつつも好奇心には抗えない。

いやいや、あやしすぎる!嫌な予感しかしない!

しかし、魔法にかけられたかのようにその黒いモヤモヤに手を伸ばしてしまった。

 

 

____指先がソレに触れた時、そこから"悪魔"が入ってきた。

 

 

黒い、気持ち悪いようないいようななんとも言えない感覚を覚える。

はっきりわかるのは、モヤモヤが自分の中に流れ込んできているということ。

この時、俺の頭の中には赤い目をした、褐色の肌のかなりエッチな格好をした女の子が思い浮かんだ…いや、言い方が違うかな、…現れた。

 

俺ってそんなに溜まってんの?

いや、別に褐色とか俺の好みじゃ…

そんなとき、頭の中に直接伝わるように、声が聞こえた。

 

(やぁやぁ、私はサキュバス!よろしくね!依代クン!)

ヤバイな。俺も相当キてしまってるようだ。

幻聴が聞こえるなんて。

やっぱり触らなけりゃよかったよな

 

すると、俺のそんな考えを感じ取ったかのように

 

(いやいや、私は君の妄想でも幻覚とかでもないぞ!)

腕を組んで得意そうに言い放つ

(私はただ、君に取り憑いただけだ!)

悪魔は楽しそうに微笑んだ。

 

 

…は?

 

取り憑いたってなんだよそれ!

頭の中でそう考える。

こっちの思考は筒抜けらしい。

 

(いやぁ、サキュバスってね、ヒトがイチャイチャするのを糧として生きる者なのよ。)

…イチャイチャ?は?え、なんなのコイツ!

わけわかんねぇ!

サキュバスっ?なんだよそれ!

 

(君、かなり顔可愛いから、取り憑いとけばそのうち彼女とイチャイチャするんじゃないかな〜って)

ちょっとまて、頭の整理が追いつかない。

 

(いや〜わざわざこっちから出向くのめんどくさいしさー、いい感じの人見つけて取り憑いて、寝転びながらイチャイチャをみれば楽だし楽しいし、いいじゃない?)

なんの話をしているんだ?

 

ただこいつはかなりめんどくさがりのようだね。

人のことも考えないし。

まぁ、これが夢であれなんであれ…

言ってることの意味、よくわかないけど俺は女の子と付き合う予定はまださらさらないから出ていけよ!

 

気持ち悪いし!

 

(そんなこといわれてもね〜出るのは入るのよりめんどくさいし、そもそも魔力結構使っちゃったしてか眠いから寝ていい?)

勝手に入って来ておいて何を言ってるんだろうか。

いや、俺が触ったのか。

 

つーか魔力ってなんだよ!マンガかっての!

いいから早くでてけよ!女の子とイチャイチャなんてしないから!

 

(そっかそっか〜)

俺の言葉を聞いた瞬間、悪魔はニヤリと笑った。

 

うーん。

…イヤな予感が

 

 

(じゃあ、"女の子"になってもらえばいいんだね!)

あー、確かに男の子とイチャイチャしないとは言ってないもんねー

 

…え、なにいってんのお前?

誰が男とイチャイチャじゃ!気持ち悪いわ!

これは夢だとしてもおかしい。俺は女になんてなりたくないぞ!

深層心理でもそんなこと思ってるはすがない!

 

(サキュバスちゃんはなんでもできるんだよー。えいっ!おやすみ!)

悪魔の声と共に俺は気を失った。

 

 

____

「大丈夫ですか?しっかり!おきてください」

誰かに声をかけられてるみたいだ。

 

俺は、寝てたのか?そういえば変な夢を見た気がする。

確か真っ裸の悪魔と話してたっけ?

女になるなんてバカバカしい。

いや、そんなことより早くおきよう。

心配されてるみたいだし。

 

…誰に?

目を開ける。

 

「あっ、起きたんだね。よかった。

どうしたの?こんなところで倒れてたけど」

目の前には男がいた…ってかコイツ吉良じゃねぇか!

 

俺が言葉を発する前に吉良が言葉をつなぐ。

 

「というか…君って女の子だよね?どうしてうちの高校の…男子の制服をきてるのかな?」

ッ!コイツなにいってんだ?!

ふつふつと怒りが湧き上がる。

 

クラス一緒だろうが!なにが女の子じゃオラァ!

俺の顔すら覚えてないってか?あぁ?

 

「何言ってんだ!俺はどっからどうみても!…へ?」

声が高い。明らかにこれは女の声だ。さすがの俺もここまで声高くないぞ!

風邪でもひいたか?道で寝てたし。

いやいや、風邪で声って高くなるもんなの?

 

「お、話せるくらいには元気なんだね。それにしても俺っていう一人称は珍しいね。可愛い女の子なのに。もしかして、男装が趣味とか?あはは」

少しニヤつきながら話しかけてくる吉良。

おまえは俺に殺されたいのだろうか?

やっぱりこいつ嫌いだ!冗談でも言って良いことと悪いことがある!

 

「ふっざけんな!俺は男だ!」

やはり、声がおかしい。風邪だな。完全に。

いまはそんなことはどうでもいい!この舐めくさった男を成敗してくれる!

俺の右手よ!今こそ力を!

 

「うーん…どっからどう見ても…女の子にしかみえないけど?」

…いや、コイツを殴り殺す前に帰ろう。

俺にも限界がある。

 

「お前ッ!覚えてろよ!」

特撮の敵キャラのような捨て台詞を吐いて、俺はその場から立ち去った。

いやいや、俺は一体なんなんだよって話になってしまうじゃないか!

礼の一つも言わずになんて、筋が通らないじゃないか。

あ~、男としてまずかったな。

襲われた女の子じゃあるまいし。

もっと冷静な態度をせねば!なめられないように!

 

しっかし吉良め、おちょくりやがって!

 

 

____

「やれやれ、なんだったんだ?あの子。顔は可愛いんだけどな…まぁ、なかなか面白い子だったね。」

 

吉良大雅は、"彼女"が見えなくなったあと、微笑みながらそう呟いた。

 

 

____

「ただいま母さん!帰ったよ!」

あれから走って帰ってきた。風邪引いて体力が落ちたのか、いつもよりも息があがっている。

胸もなんか重い感じだ。

 

「おかえり。声おかしいわね。大丈夫?」

リビングから声がする。

やっぱり、人に気づかれるほどのとがやられてしまってるようだ。

リビングに向かい、薬を要求する

 

「母さん、薬ある?」

「今出したわ…ってあんたそれどうしたの?!」

なんだよ、急におっきな声だして。

どうした?ってなんのことを言ってるのだろうか。

怪我とかはなにもしてないんだけど

 

「どうしたってなにが?あぁ、道で倒れてたらしいから制服が汚れちゃってるかもしれないな。」

なんで寝てたのかは知らないけど。

あ、黒いモヤモヤだっけか?いやそれは夢か。

 

「道で倒れてどうすれば女の子になるのよ!なによその体!髪も!顔も!…いや、顔は元から私に似て可愛かったけど!」

さらっと自分のこと可愛いって言ったぞ!

 

いや、そんなことより今なんて言った?

俺のこと女の子って言ったよな?

母さんが冗談でそんなこというはずがない。

小さな頃から俺が女の子に間違えられるのが嫌いなのを知っているからだ。

 

「…今日ってエイプリルフールじゃないよな?冬だし。冗談キツイよ。なんで会う人皆、俺のこと女っていうんだよ!」

ドッキリかなんかしてんのか?

そろそろ俺、泣くよ?

母さんに抱きついちゃうよ?

 

「あんた気づいてないの?!鏡見て見なさい、今すぐ!」

ずいぶん手の混んだドッキリだな。誘導までするだなんて。

姉ちゃんでも待ち伏せしているのか?

 

「はいはい、分かったよ、みればいいんだろ?」

洗面所に向かう。

鏡にドッキリ大成功と書いてあるって線も外せないな

 

 

 

____目の前の鏡には、とてつもなく可愛い女の子がいた。

 

整った小さな顔に、クリクリの大きな目。小さくも潤った唇……いや、それは元々か。

しかし、明らかに髪の長さがおかしい。

しかもなんか、さらさらしている。

 

え、ちょっとまて、一旦制服脱ごうか

 

鏡に俺と同じ動きをして、裸になる女の子が映る。

 

ちょうどいい白さの肌、細い手脚。

妖艶なくびれに…大きめでいい形をした胸。

 

大きめでいい形をした胸?!?!

 

そして、アレがない。

 

…今触った。無い!

 

…。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」

嘘だ!嘘だろ!

 

男の勲章が!じゃなくて

本当に"女の子になってる"なんて!

 

 

 

 

____

「ちょっと、優!なにひきこもってんの?大丈夫?!」

状況が理解できない俺は今、自室に閉じこもっている。

 

いや、ほんとになんなの、どうすればいいの。

女の子扱いされるのが嫌な俺を女の子にするなんて、神様!俺そんな悪行を働きましたっけ?

そのとき、唯一の救世主(悪魔)がやってきた。

 

(おはよー。どう?いい感じでしょ?気に入った?)

コイツ、どうやら寝ていたらしい。寝ぼけ眼な悪魔が話しかけてきた。

気に入るもなにもないわ!

なにしてくれとんじゃー!

 

俺は叫んだ!

もちろん心の中で!

ってか、夢じゃなかったのかよ!

 

(なにしてって…女の子とはイチャイチャしないっていうから、男の子とならしてくれるかな〜と思って…テキトーにやってみたらできちゃった♪)

…ツッコミどころが多すぎる。

テキトーって…テキトーって…

…お前…アホなの?

 

(こんな事ができるなんてもはや天才だと思うけど?あ、元に戻せって言われても、できないからね。そもそも偶然の産物だし、魔力も残り少ないんだ)

テキトーに魔力消費せず、そもそも俺に取り憑かなければお互い平和だったんじゃないだろうか?

てか、どうにもならないの?

はぁ、何で俺なんだよ!

 

(黒いモヤモヤにさわったから)

あれか!やっぱあれか!そして黒いモヤモヤって呼び方定着してるんだ!

あぁ、そんなことやっぱりどうでもいいよ。

正直…死にたい。

 

これからどうすればいいのかもわからない。

家族にさえ受け入れられるのかも心配だ。

…研究対象とかにならないよな?

 

(魔力が溜まれば戻すのにも挑戦できるよ〜、めんどくさいからやりたくないけど。)

…それだぁぁぁぁっ!

はやく魔力を取り戻せ!

そして、戻せ!

 

(いや〜男女のイチャイチャが私の糧って前にもいったよね?

君にイチャイチャしてもらわないとどうにもならないな〜。

自然回復を待つなら、とりあえず800年くらいかかるけど?)

え、800年だとぉう!死んでる!もはやそれ死んでる!

 

目の前が真っ暗になる。

もはや手は無いのか。

でも、こんなことで自分から死ぬなんて、男らしくないよな。

…いや、今は女、か。

 

(ねぇねぇ、提案なんだけど。君にも魔法、使えるようにしてあげるから、一緒にイチャイチャ手にいれて見ない?)

なにこの取引。悪い誘惑をするおっさんの目をしているぞこいつ!

 

俺にメリットなさすぎんだろ!

というか魔法?そんなの存在するの?

これ、まだ夢じゃないのか?悪夢にも程がある!

 

 

…いいよ、やってやるよ。

俺だって、ちゃんと男の姿で死にたいからな!

できれば夢オチがいいけど。

で、魔法ってどんなの?

 

正直そういうの結構好きなんだけど

さっきから割とノリがいいのは魔法という響きのせいなのかもしれない。

決して隆士のノリのよさがうつったとは思いたくない。

 

(皆を魅了して、どんなことでもなんとなく誤魔化せる魔法だよ!すごいでしょ!)

なんだその、サキュバスを体現したような魔法は!

説明もテキトーだし!

 

(右目でウインクすると発動するからね!右目だよ!あ、私はこの魔法を…『魅了(チャーム)』と名付けたよ!)

しかし、考えようによっちゃ最強だなこの魔法。

 

…ふぅ、やるしかないのか。

いつまでも閉じこもっていられない。

扉をあけ、目の前の母親に宣言する。

 

「俺、今日から女の子としてやっていくわ。」

 

「はぁ?あんたなにいって…」

ここで発動!

すかさず右目でウインクする。

 

「まぁ、いいんじゃない?学校もちゃんと行くのよ?手続きはしてあげるから。」

魅了(チャーム)が効いたようだ。

 

 

はっと気がついて試しに自分の頬をつねる。

 

…痛い。

夢じゃない。残念だけど認めざるをえない。

まぁ、うじうじしてるのは男らしくないしな。

訳が分からなくてもとりあえずやってみるしかない。

 

 

これから、俺の女の子生活が始まる。




萌のために書かせていただきますが、ファンタジー要素も後々出てくる予定です。

別に魔法を使ったバトルとかにはならないので、気軽に優たちのイチャイチャな日常を楽しんでやって下さい。

なにかありましたら、感想のほうによろしくお願いします。


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女の子も悪くない(笑)

8話ごろからおもしろくなる予定です(え


「え、それでなに?コイツ女の子になったって言うの?」

「そうよ。私はいろいろと手続きしておくから、あなたはこの子にこれから必要な事を教えてあげなさい。」

「ちょいっ!なにそんなに冷静になってるの!世紀の大問題でしょコレ!」

 

…おっと、紹介が遅れたかな。

さっきからうるさいのは俺の姉。

名前は木下(キノシタ) (リン)。名前の通り、凛とした人だ。見た感じはね。性格はうーん、頼れる姉ちゃんかな。

 

ちなみに俺たち姉弟は仲がいい。

あ、今はもう姉妹になんのか?

なーんてね、ふふふ。自暴自棄になんかなってないよ。ははは。

 

「姉ちゃん落ち着いて。細かいことは気にしなくていいじゃんか」

そう言って右目でウインク。

 

「まぁ、それもそうね。それより学校はどうするの?いきなさいよ?制服貸してあげるから。」

話題がすぐにそれて具体的なものになる。

ちなみに姉ちゃんも去年まで俺と同じ高校に通ってた。

今は大学一年。

 

しっかしすごいなこの魅了(まほう)。イチコロじゃないか。

まぁ、姉ちゃんはもともとノリがいいけどな。

…俺の周りノリがいいやつばっかじゃないか

 

「え、女物の制服着るの?俺が?」

ちょっとまて、それはありえない。

スカートとかいやですわよ、あんなに脚見せて、はしたない!

 

「だって、今はあんた女の子よ?当たり前じゃん。制服以外は…買わないといけないね。

お母さん、私も出すけど優に必要な物買うから、お金くれない?」

わざわざ俺のせいで無駄な出費が…かたじけない。

 

「あ、買ってきてくれんの?ありがとう!」

さっすが姉ちゃん。ぬかりなし!

まぁ、俺もこのままじゃ外にも出れないしな。

「なにいってんの、あんたも来るの!」

 

…。

 

あ、マジっすか。

途方に暮れていたとき、またあいつが来た。

(やぁやぁ、おはよう。どう?いい感じ?頑張って女を磨くんだよ!)

何を言ってんだこの悪魔ァ

心なしか楽しんでいるようにも聞こえる。

あと、いきなり出てくるのはやめて欲しい。

死ぬほどびっくりする。

 

(イケメンとイチャイチャするの、待ってるからね!)

…てかさ、そもそも俺が男とイチャイチャなんて、演技するとしてもハードル高すぎじゃないか?

俺にはそっちのけはまったくないんだぞ!

 

(あ〜、それは女体化のときに"いじって"るから大丈夫。)

大丈夫ってなにがだよ!

いじってるって何をだ?

 

(さぁ?そのうちわかると思うよ。じゃ、おやすみ〜)

ちっ、都合のいいやつ。

やっぱり、悪魔だな。

でも、ふらっと消えたり現れたりは心臓に悪いのでやめてほしい。

 

 

____

「さぁて、優。これから買い物に行くわけだけど」

「お、おう」

「まず、お着替えターイムっ!それじゃ外にでれないもんねぇ」

なんか、楽しんでない?この人。

 

ちなみに今は上下ジャージ。

下着ももちろん男物だぜぇ!はっはー!

いや、女物なんて持ってるわけないからな、そもそも!

 

「あの…ジャージじゃダ…メですよね。ごめんなさい。」

目が怖い。今年で一番怖かったよ。

うるさいんだよなぁ、いちいち。そんなに見た目に気を使わなくたってさぁ、寒くなけりゃいいんだよ。

 

「はい。じゃあ、脱げ。真っ裸になりなさい。」

「へ?」

なにをおっしゃっているのだろうかこの人は。

 

「いいから脱いじゃえ♪」

なんで楽しそうなんだ?この人は!

 

「あの、姉ちゃん?俺ももう高校生なんだけど?いくら姉ちゃんとはいえ…」

恥ずかしいだろうっ!

 

「優は女の子。私も女の子。問題ある?」

ウインクしながらピースで決める。

そういうタイプじゃないけど、やっぱ美形だと決まるな。

でも、雰囲気が″脅し″のそれだ。

 

「あはは〜、びっくりするほど問題ないね。」

泣く泣く承諾する。この人絶対ひかないもんね。

怖い。一生男に戻れなくなるとか以上に怖い!

姉ちゃんの今まで見た事のない裏の顔を見てしまった気がする。

 

…忘れよう。

仕方なく脱ぐ。

が、手が動かない。

 

くそっ!なんのプレイなんだよこれ!恥ずかしすぎるぞ!

なんで姉ちゃんの前で生着替え!

いや、着替えじゃねえ!脱げっていわれただけだった!

姉ちゃんの顔が険しくなってきたので脱ぎ始める。

顔が熱くなっていくのを感じる。

男としての尊厳を一気に失ったかんじだ!

 

「ど、どうだ!真っ裸になったぞ!」

もはや必死で意地を張る。

 

「チッ、顔が可愛いのはそのままで体もナイスバディだとぉ?私と同じく、いい女になりよって〜、けしからん!あはは」

 

姉ちゃんのキャラが定まらない。

最高に『ハイ!』ってやつなんだろうか。

一応褒めてくれているらしいけど。

 

まぁ…なに、ちょっと嬉しいかもな?

っていや、ないないない!なんでそんなこと思っちゃってんの俺!

いい女よりいい男!だろうがぁぁぁぁぁあ!

 

しっかし、冬に真っ裸は寒いよ。

なんなんだよこの仕打ちは!

全部悪魔のせいだ!

 

「背は優の方が低いのか。でも、サイズは…いっしょだね。」

よしっ!っといって姉ちゃんはクローゼットを漁り出す。

 

「ハイ。とりあえずこれね。」

手渡されたのは姉ちゃん使用済み下着(多分)

使用後じゃねぇぞ!洗ってるからなちゃんと!(多分)

 

「うわっ!いきなりなんだよ!」

思わず床に落としてしまう。

弟になんてことをするのだろうか。

恥ずかしさと気まずさでまたもや顔が熱くなる。

俺も一応年頃だっ!

 

って一応ってなんだよ!

…最近セルフツッコミがおおいな。痛い子みたいじゃないか?

 

「も〜、変なところ純粋(ピュア)なんだから。はい!いいから穿く!」

しぶしぶ下を穿く。

…ううっ、なんでこんな。

するすると男と比べると断然薄い下着を穿き終える。

 

ん〜、コレはっ!

男では味わえない感覚。

絶妙なフィット感

…いや、悪くない。

ほんとに、なんか、もう…まぁ、悪くない

 

「ブラ…つけれる?」

さっきまで男だった俺に向かってなにを言い出すのだろうか?

姉ちゃんは俺に女装趣味があったとでも思っているのだろうか?

 

「わけないでしょうが!」

もちろんこう答える。

ほんとに、俺のことなんだと思ってるんだろう。

やっぱり人間不信になりそう

 

「まぁ、とりあえず一回やってみ?」

なっ、なんでやねん!

とりあえずって、そんなこと言われても…

まぁ、仕方ない!挑戦してみる。

渡されたブラジャーを見つめながら、俺は何かしらの覚悟を決めた。

 

…「ぐぎぎぎ、はめれない。」なんなのこのホックって!

不器用な俺には無理ゲーだ!

 

「ぐっ…うぅっ…りゃっ!」

気合で留めた。

 

「どうだ!つけたったぞ!」

何故だ、嬉しい!テンション上がる!

あれだ、手が細くなってるからだ。

複雑だけどなんかうれしい!

 

「まだまだじゃな。それではその美しい乳房を保つことはできんぞ!」

 

もはやキャラ崩壊どころじゃないぞこの人!

なんかの師範みたいになってるし

 

「まぁ、リアルな話、周りの肉もこうやって…ほい。いい感じの形でしょ?まぁ、そもそも後ろで留めようとするのが…」

「はうぅっ!」

胸を急に触るのはやめい!

 

お、おぉ〜。しかし確かに綺麗だ。

…我ながらなのが残念だ。

俺の胸は結構デカい。なのに形はいい。

なんというか…素晴らしい。

俺のなのが残念だ。

 

しかし寒いなー。うん。寒いから上を着たい。寒いもんねー最近

嘘です。恥ずかしいので早くジャージを…

 

「それにしてもほんとにピッタリはまっちゃったわね。あんた、私と同じDカップあるわよ?」

おっふ、D!あれなのね、男から女だからやっぱり貧乳みたいななノリはないのね

 

「おぉ、やっぱり結構巨乳…そんなことより、姉ちゃん。この格好恥ずかしい。」

精神の限界です。

 

「しっかし、優の胸の柔らかさ、たまらないわね。」

ふにふにふに。

姉ちゃんに胸を揉まれる。

 

「ひゃんっ!なっ、なにやってんだよ!」

いっけね、変な声でた!

本当に女みたいじゃないか!(※本当に女です)

胸で感じるとか…おしまいだぁ。

 

「可愛い声でたじゃん。いいね、いいね。可愛いねぇ」

羞恥で顔が真っ赤になる。

や、親指を立てて賞賛するのはやめろ!

おっさんかお前はぁ!

 

「えい、もう一回♪」

ふにゅっ

 

「ふぁぁっ!」

うぁぁぁぁ、助けてぇぇぇ!

 

 

____

「さぁ、優。街についたよ。どう?感想は?」

「死にたいくらい、恥ずかしい。」

え、理由?スカートはいてるから。

怖い。スカート本当に怖い。

ズボンのような安心感がない!

 

そもそも冬にスカートって前からどうかと思ってたんだよね。

冬の寒い中女の子たちってスカートはいてて凍え死なないのかって。バカなのかって。

いや、でもね。タイツってすごいわ。

保温力なめちゃいけない。

いや、まぁ寒いけど。

そんなこんなで姉ちゃんとの地獄のお着替えが済んだ今、買い物のために街に来ている

 

お着替えはほんとに地獄でした。

もう二度とあんな思いはしたくないです。

 

「キャー、ドキドキしてる優ちゃん可愛い♪」

もう、このひとはシスコン街道まっしぐらです。

キャラを固めてください

 

「はやく買い物してはやく帰ろうか。うん。」

そんなこんなでお買い物が始まった。

いや、特に描写はしない。

ダイジェストで説明しよう。

 

まぁ、下着売り場は本当にもうね。うん。察して。

採寸とかさ、慣れてないからさ。

こう、キョドってたら、店員さんが「ウフフ。可愛らしい妹さんですね」って姉ちゃんにいっててもう、俺本当に死にたいって思った。

可愛らしい、妹とダブルできたから立つのが精一杯だったぜ。あやうくKOされるところだった。

 

で、その後に普通に服を見たんだけど。

お約束(?)のように姉ちゃんに着せ替え人形にさせられました。

これまたほかの店員さんが

「可愛い妹にはこれなんかが」

ってかんじで加勢してきて失神するかと思った。

 

軽くトラウマになりつつあります。

 

あ、女の子になっていいことがあった。

実は、俺って割と甘党なんだ。

…子供っていうな!

辛いのもいけるけど、ひぃひぃ言っちゃうタイプで、甘い辛いで言ったら断然甘い方を選ぶね。

 

ちなみにチョコなど、スイーツがかなり好きだ。

…女子っぽいとかいうな!

 

で、姉ちゃんとカフェでお茶しようとしたんだけど、気兼ねなくパフェ頼めるっていいね。

カッコつけないってのも割とありなのかもしれない。

…な〜んて。

 

男の心を忘れちゃいそうになるが、俺は負けない!

しかし、甘いものに関してはおおいにこの容姿を活躍させよう!

 

「しっかし、美味しそうに食べるね。」

「甘い物好きだからな、姉ちゃんも知ってるだろ?俺の甘党なの」

「そりゃそうだけど、今の優がパフェ食べてると絵になるわぁ。本当に可愛い。…でも」

「別に可愛くなくてもいいんだけど、でもってなに?」

「言葉遣いどうにかならないの?あと、俺っていうのもおかしいよ?」

…ですよね。薄々感じてた。

まぁ、我ながら可愛いいから、不自然だろうとはおもってるけどさ

 

 

「やっぱり、そこつっこんでくる?いいんじゃないかな?このままで。」

すかさず右目でウインク!

 

「いや、だめでしょ」

きいてねぇぇぇー!

嘘だろ!どうなってんだよ悪魔!

無理か?ごまかしにも限度があるのか?

 

神よ、あなたは俺に女の振る舞いをしろというのか?!

 

「俺はないわー、そのかわいさで。まぁ、今は仕方ないけど、徐々に治しなさいよ?」

あ、まぁ、どうにかなったみたい。

ほんとに″なんとなく″ごまかしたな。

 

 

____カフェをでて、駅まで歩く。

 

もう買い物は全て終えている。

 

女の子になったということで、荷物持ちにはならず姉ちゃんと半分こで荷物をもつ。

…女子って得だな。

そんなことをつい考えてしまうが

頭の中で否定する。

男に戻ることを忘れちゃいけない。

忘れちゃ…いけないんだよぉぉぉ!

 

いかん、女子道への誘惑に負けちゃだめだ!

(恥ずかしいので)人目を気にしながらも帰っていたその時

 

「あらあら?そこのお二人サン。可愛い顔してるねぇ?どう?俺等と遊ばない?」

男が4人くらいで囲んできた。

え、なにこれナンパ?ナンパされてんの?

 

なんというか…微妙な奴等だな。

なんつーか、ナンパ毎日してるけど連敗してますオーラがすごい。

 

しかし、体は素直で緊張からか後ずさる。

男達は巧みに俺たちを人通りの少ない道へ誘導する。

うわぁ、慣れてやがる

 

「姉ちゃん?」

俺は姉ちゃんにどうするのかを相談するように目を向ける。

 

「んも〜、めんどくさいな。私達、はやく帰りたいからごめんなさいね。そこどいてー」

しかし、ニヤニヤした男達は一向に動く気配がない。

なんなんだよ本当に!めんどくせぇな!男って!

いや、俺もそうだけどね!

心は男だけどね!

 

「あー、めんどくさいなお前等…」

やべっ!怒りが口にでた!

 

「お前等?なに?君、俺等にそんなナメた口聞くの?」

ヘラヘラ笑いながら顔を近付けてくる。

んー、臭い

 

「あ、いや、まぁ、そんなつもりじゃないっつーか…あぁ、めんどくさい…」

しかし、やっちまった!こんな低レベルなやつら、おこらせたらなにするかわかんねぇ!

姉ちゃんもいるのに!

 

俺は今、女の体だし…

男のときは強かったのかって?聞くな!

 

「俺等は優し〜ぃく声かけてあげてんのに、そんな態度はひどくないかぁ〜?ん〜?」

しゃべり方ウザい。

 

「ウザい。消えろ」

姉ちゃんが凛と言い放つ。

一瞬たじろぐナンパ勢。

ざまぁないな!

姉ちゃんをなめるなよ!

 

しかし

 

「おっ、お前等なぁッ!なめくさりやがってぇぇ!どいつもこいつも鬱陶しがってよぉぉ!調子乗ってっとどうなるかわかんだろぅ?!ああっ?まぁいい。とりあえずこっちこいやッ!」

おぉ、やっぱり連敗してたのか。

なんてのんきなことを考えていると男達の一人が、俺に向けて掴みかかるように手を出した。

やっべ。

 

_その時

 

その手を掴む者がいた。

 

「まぁまぁ、こんな事はやめましょうよ。可愛いお嬢さんたちも、お困りのようですから。」

つい数時間前も聞いた声。

 

「さっきぶりだね、男装ちゃん」

ニコッとはにかむ吉良大雅がそこにいた。

 

…うわぁ

 

「…チッ、なんだお前?」

「吉良大雅だ。知り合いの女の子なんでね。他の子を誘ってくれるかな?」

あくまでも爽やかに言い放つ吉良。

 

「はぁ?バカか?関係ねぇよもういいや、やっちまおうぜ!」

吉良のつかめない態度に腹を立てたナンパ勢が動き出した。

 

「おウッ!」

声と共に吉良に飛びかかる男達。

 

がしかし、華麗な身のこなしでよけ、一撃で相手を地に伏せる。

なにこいつ?武術でもならってんの?強すぎるだろ?

なに?実は伝説の不良ですみたいな?

強すぎて怖い!

なにこの実写版少女マンガ!

 

ものの数秒でナンパ男達はひれ伏した。

 

「すみませんでしたぁぁッ!」

土下座をしながら俺と姉ちゃんに謝るナンパ勢。

 

「これからは、女の子にはやさしくねっ。」

ニコニコしながら言い放つ吉良。

 

「心に誓います!」

…なんなんだこの茶番。

敬愛の念がでてるよ、連敗ナンパくんたちから

 

そして短時間でカリスマ性を見せつける吉良。

やっぱムカつく!

 

「怪我はない?あ、そちらのお姉さんも。」

気遣いを忘れない吉良。

ほんとによくできた奴だな。

 

「大丈夫よ。助けてくれてありがとう。えらく強いんだね?圧倒的すぎて笑っちゃったわ。」

連敗ナンパくんたちがボコられるのをみて爆笑していた姉ちゃん。

キャラを固めてよ。怖いよ。

 

「いえいえ、昔一時期武術にハマってたもので。たいしたものじゃないですよ。無事で何よりです」

って、武術やってたのね。マスターしてたのね。

吉良!侮り難し!

 

「で、何?あなたこの子と知り合いなの?」

「えぇ、さっき道で少し…ね。」

なんだその、言い方は!なにかいかがわしいことがあったみたいじゃないか!

 

「というか、あなたのその制服…この子と同じ高校ね。学年は?」

「1年です。」

「ほー、学年もかぶったか。…そうそう、この子、明日からあなたのいる学校へ通う事になると思うんだけど、お願いできる?頼もしそうだし」

ちょ、ちょい!なに勝手にはなしすすめてんだこの人!

よりにもよって吉良に!やめろぉ!

 

「もちろんいいですよ。任せてください。僕の名前は、吉良大雅です。よろしく。」

お前も話に乗るな!

 

「ほら、あなたも挨拶くらいすれば?」

咄嗟に話をふられて焦る。挨拶ったって…

 

「お、俺は…」

あれ、ちょっとまって、名前優のままだとおかしいよね?

ど、どうしよう!

 

「木下…優…奈、です。よろしく」

もう咄嗟に出たのがこれだったわ!

おかしくないよな。うん。大丈夫なはず。

 

「木下優奈ちゃん、か。よろしくね」

手をさしのべる吉良。握手ってか?

ほんとにコミュニケーション能力に長けてるな。

そこがまた腹立つ!

 

 

____

「では、僕はこれで。」

姉ちゃんとの会話を終えて、そそくさと立ち去る吉良。

 

まったく、あいつに二回も会うなんてな。

いろいろと人生で最悪の日だったな

 

「あの子、もともと知ってる子?」

姿が見えなくなったあと、姉ちゃんが聞いてきた。

 

「同じクラスだったよ。これからはわかんねぇけど。俺はあんまり好きじゃない」

できれば、クラス離れたい。

同じクラスにいたら絶対に絡んでくるだろアイツ!

 

「へぇ、なかなかいい子だと思うけどね。彼氏にでもすれば?あははっ」

 

何を言ってるんだこの人!!

 

(お姉様の言うとおりだね。彼氏にしときなってー、にゃはは!)

うおっ!またこの悪魔はぁぁ!

 

「…ふざけるな!するわけないだろ!」

しかし、若干その姿を想像してしまう。…即座に打ち消す。

俺と吉良が付き合う?ありえないっての!

 

 

まぁ、でも

 

 

 

…今日の吉良は、ちょっとカッコよかったかな。



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告られたぁぁ?!

俺が女の子になった翌日

 

「…うぅっ」

俺は校門の前で佇んでいた。

気分はすこぶる悪い。

授業中トイレ行きたいけど恥ずかしいので我慢しているときくらいに辛い。

わかりにくいとか言わないで。

 

なんかあったのかって?いや、普通に学校にきただけですけどぉ?

何気なく通っていた校門も、今はさながら地獄への門と言ったところか。

 

しかし、これをクリアしない限りは俺に明日はない。

ちなみに今の時間は6時30分。

人に会わないために、早く行こうとしたらこうなった。

制服を着る覚悟を決めるのに時間を要したので、起きたのはざっと4時である。

野球部かっての。

起きてから家を出るまでの1時間40分は全て姉ちゃんによる女の子講座で潰れた。

 

定まらないキャラのせいで、今回は教育の鬼と変化した姉ちゃんによる女の子講座は凄まじく、ある意味忘れられないようなものだった。

今朝を境に俺は本気で女の子にならなければいけないのだと確信した。理由は男の素振りを見せると姉ちゃんすっごい怖いから。

家でさえ安らぎの場がない。

しかも下手すりゃ殺される。割と本気で

 

 

「いや〜、この門くぐりたくないな。いっそ消えてしまいたい」

本音が口に出る。

悪魔と心中ってちょっとかっこよくない?

なんちって。

 

「優奈ちゃんは学校が嫌いなのかな?」

「うわっ!」

独り言に言葉が帰ってきて心底びっくりする。

 

今、現時点で俺を優奈ちゃんと呼ぶのは1人しかいない。

そう。勢いで俺に優奈と言わせた張本人。

アイツだけだ。

 

「吉良…か」

「お、名前覚えててくれたんだね?」

覚えるもなにもクラス一緒だったんだよ!俺はな!

しっかしまぁ、仲良くもないのになんだよ、優奈ちゃんって!

…馴れ馴れしい。

 

「なんでお前がここにいるんだ?」

「え?だって、昨日優奈ちゃんのお姉さんに頼まれましたから。あと、僕はここの生徒だよ?」

ここの生徒なのは知っとるわ!

まぁ確かに姉ちゃんがそんな事言ってたような気もしないでもないけど

 

もっと怖いのは

「なんでこんな時間に学校にいる?」

 

これだ。

念には念をいれて、ハイパー早起きしてここにきた俺と同等の早さを誇るだと?

どんな毎日を送っているんだ?こいつは!学校大好き君か!

そら友達たくさんでたのしいだろうねぇ!

 

「あぁ、頼まれたはいいんだけど、優奈ちゃんがどんな時間に学校に行くのか知らなかったから、5時くらいから駅で見張ってたんだ。」

…え?

 

「さすがに僕もやりすぎかな〜っと思ったけど、頼まれた事はしっかりとやらないとね?」

そう言ってニコッとはにかむ。

…こいつ、ストーカーとかになったら1番怖いパターンの奴じゃないか?

背筋が凍ったよ。

全然やりすぎだ!無駄な責任感だよ、どんだけ八方美人したいんだ!

 

「…それは、ありがとうなのか?」

本当にどうなんだろう。これは感謝するべきなのか、警戒するべきなのか。

 

「お礼なんていらないよ。じゃあ、案内するね。とりあえず職員室はこっち!」

急に手を取られる。

 

「うわぁっ!な、なにするんだ!」

ど、ドキドキなんかしてねぇし!

するわけねぇだろ!

ってか何でこんなツッコミしなきゃなんないんだ!

 

「あ、ごめん!悪気はなかったんだけど、そうだよね!そこまで仲の良くない男に触られるの嫌だよね?」

なんて目で見つめてくるんだこいつは!

 

思わず許してしまいそうな、不思議な目をしていた。

なんというか、子犬の目?

 

「にっ、二度と触るなよ!」

あ、だめだ。動揺したのがもろにバレるなこれ。

騙されるな俺!相手は吉良だ!

 

_____

結局、吉良に連れられて校内を歩き回る。

いや正直今までもここにいたんだからだいたいの事は分かるんだけど、良心でしてくれてるのを拒むことはできないので仕方ない。

 

退屈だな~とは思いつつ、朝の校舎にはなかなか清々しい雰囲気をかんじる。

 

…しかしなんだ、吉良(コイツ)

…普通にいい奴じゃねぇか!

なんか、変に対抗意識持ってたのがはずかしいくらいにな!

 

しかしまぁ、俺も自分で負けを認めたくはないから、まだコイツを認めたわけじゃないし!

変態気質だし、ストーカー癖ありそうだしな!

いや、そもそも認めるってなんだ!

あー、最近訳わかんねぇ事ばっかり考えてるぞ俺!

 

「…で、最後にこれが体育館っと。だいたいこんな感じかな?」

 

「お、おう」

一通りの説明が終わった。なかなかわかりやすい説明だったな。

 

途中で豆知識や笑える話を盛り込んでくるところに、コイツのコミュニケーション能力の高さが表れていた。

 

なんか腹立つ。

さすが、成績学年一位は違うね。

 

「ちなみにこの体育館の裏だけど、告白ポイントとして有名なんだよ。成功率が高いとかで」

へー、そうなんだ。

 

俺、昨日告られたの実はここなんだけどな。

あてにならねー。

フった俺が言うのもなんだけどな。

 

「ありがと。じゃあ、職員室で先生と話をするから俺はこれで」

そう告げてここから早足で立ち去ろうとするが、後ろから

「あ、そうそう。今日の放課後、ここに来てねー」

と言われた、どうしようか。

まぁ、後で決めればいいか。所詮吉良だしな。

 

何の用かは知らないけど。

 

 

____

「…というわけで木下さんには、兄の優君がいた3組に入ってもらうことになる。私が担任だ。まぁ、いろいろと心配ごとはあるだろうがいい奴らばっかりだ。安心しなさい」

 

担任との話を終える。

ちなみに"優"は謎の失踪をとげたということになっている。不本意だけどしょうがない。

それで、家の事情で親戚の元で暮らしていた妹の"優奈"が連れ戻された…という設定らしい。

 

明らかに無理しすぎな設定だけど、サキュバスか、はたまた神が手を回したのか誰も木下家の事情を不思議に思うことはなかった。

まぁ、好都合なんだけど。

失踪って、俺に何があったんだよ(笑)

 

時はすぎて、生徒が登校する時間となる。

1時間目のHR(ホームルーム)で紹介してもらうことになっているから、それまでは教室にはいることもできない。

「暇だな。」

しかし、一緒に話をする友達も今はいない。

もともとそんなに友達いないけども

静かに物思いにふけることにする。

 

…これからの学校生活、いや、女の子としての生活は思いの外うまくいきそうな気がする。

なんでそんな気がするかって?

 

それは、たった二日はいただけのスカートに慣れつつあるからさ。

…微妙な心情だよ。

男とイチャイチャねぇ、うーん。

っていやいや、できるわけねぇ!

 

 

____

「えー、うちのクラスの木下が謎の失踪をした。いつ戻ってくるかは分からんが気長に待ってやろう。」

教室がザワつく。そりゃそうだ。

クラスメートが失踪したら誰でも焦る。

俺でも焦るわ。

 

「それで、入れ替わるようにして木下の妹が遠い親戚の元から帰って来て、この高校に通うことになった。紹介しよう。入っておいで」

担任からお呼びがかかる。

 

あ〜、怖い。しかし、腹をくくって扉に手をかけ、中にはいる。

視線が刺さる。心なしか男子からの視線がアツい。

 

「自己紹介をしてもらえるかな?」

「木下優奈です。よろしく」

ぺこりと頭を下げて礼をする。

ついでに右目で魅了(ウインク)

 

「みんな仲良くしてやってくれ。席は…あの端の席だ。」

そういいながら元の俺の席を指差す。まぁ、その方が落ち着くからいいわな。

そそくさと自分の席に向かい、座る。まだ視線は襲ってくる。

しんどいな…。

やっぱりウインクは不自然だったかな。

心なしか男子からの視線が激アツだ。

 

 

 

____

「ねぇねぇ」

前から声がかかる。

 

「おーい、木下さん?」

あ、やべ、ぼーっとしてたわ。

 

「な、なんですか?」

「えっとね。私、神谷(カミヤ) 雪乃(ユキノ)。わからないことがあったらなんでも聞いてね!よろしく!」

俺の前の席の神谷さん。前はそこまで仲が良かったわけでもないが、明るくて親切な人であることに間違いはない。

 

「ありがとう。よろしくね!神谷さん」

ニコッと微笑む。俺完璧じゃね?

まぁ、姉ちゃんに「俺っ娘は特殊すぎる!女の子にはひかれちゃうわ!気をつけなさい」と釘を刺されたからなんだけど。

この爽やか微笑みも姉ちゃん直伝だ。

モブ男はたいていコレでオチるんだとか。

モブ男ってなんだよ…

 

「木下さんって、木下くん…お兄さんとは双子?なんだか同一人物みたいに似てるけど…あ、私のことは雪乃ってよんでくれたらいいからさ」

双子…ねぇ。うん、それの方が楽かな。似てるって思われてもいくらでもごまかしがきくようになるし。

 

「うん。双子だよ。あ、私も優奈で大丈夫だよ」

見ろこのパーフェクトな返しを!

私+優奈、めっちゃ言いたくないフレーズをコンボで言ってのけだぜ!

 

「やっぱりそうか〜。お兄さんも優奈ちゃんも可愛いところが似てるよね!」

うっ、それは…うーん、嬉しいようなそうでないような。

俺の印象可愛いだったのね

 

「ありがと。でも、雪乃ちゃんも可愛いよね。優しいし!」

ちなみに神谷さんは学年五本の指にはいるらしい。

誰情報かは知らないがな。

まぁ、性格も顔もよろしいから人気はものすごいのだろう。

容姿はどっちかというと清楚な感じで黒髪ロングが印象的だけど、おとなしいって言うより少し活発な感じ。

 

「あはは、そんなことないよ。あ、後で私の友達紹介するね」

「うん!」

なんて絡みやすい人なんだろう。

しかし、姉ちゃんのお言葉「学校ではグループに入りなさい。女子は1番それが大事なことよ」はクリアすることができたぞ!

確かにハブられるのは怖いからな。

特に女子の世界は。

 

というか、なんで俺はこんなに順応しちまってんだよ…

男の時よりも交友関係広がりそうだなーと、どこか悲しさを覚えつつも授業をうけてそのまま昼休みに入った。

 

____

「やぁやぁ。"超絶可愛い転入生がきた"と言う噂は聞いてるよ〜。しっかしまぁ、ここまで可愛いとは!こりゃ負けたね。」

急に話しかけられる。

 

「えっ?!え?え?」

誰誰誰誰?!あったことあったっけ?いや、あるわけねぇ!

「あはは、ごめんね。その子さっき私が言ってた友達。面白いでしょ」

横から神谷さんがでてきた。

なんだよ、ほんとにびっくりしちゃったじゃないか。

 

「僕は桜木(サクラギ) (アイ)。かわいくておちゃめな雪乃の友達!」

これまた元気なお友達がきたものだ。まぁ、面白そうな子だな。

でも、クラスにいたっけこんなの?

僕っ娘って印象に残りやすいはずなんだけどな。

 

「愛は1組なんだ。まぁ、昼はいっつも一緒にいるんだけどね」

なるほどね。そういうことか。

 

「よろしくね。私は木下優奈です」

「おー、優奈ね。よろしくなー」

 

しっかしこの2人組、身長差が結構あるな。

 

ちなみに雪乃ちゃんが高くて、モデルのような体型…そして巨乳。

愛ちゃんはちっこくて可愛らしいかんじ。胸は…ぺったんこだな。

髪の毛はショートでよく似合ってる。なんか小動物みたいな印象だな。

 

…なかなかいいキャラしてるじゃないか。いや、特に意味はないけど。

 

そのまま2人と一緒にご飯を食べて、休み時間を共に過ごす。

やはり女の子との付き合いはわからないことだらけだが、この2人となら仲良くやっていけそうだ。

 

学校にいくのは不安があったけど、いまはそれも消し飛んだ。ような気がする。

いや、不安の塊があったっけ

 

 

____

そして放課後。

気が向いたので、体育館にいってみる。

気まぐれだ気まぐれ。まぁ、(いらないけど)校舎案内とかしてくれたことだし、少しくらいいいだろ。

 

「やぁ、きてくれたんだね」

そこにはもう、あいつが先に来ていた。

相変わらず早いな。

 

「まぁな。」

コイツに対して口調を変えるつもりはない!

なんかいろいろ腹立つから俺でぶつかってやるぜ!

 

「友達はもうできたようで安心したよ。心配しなくても、ちゃんと過ごせそうかな?」

コイツ、そういえばクラスでは特に何もしてこなかったな。

まぁ、いつものようにたくさんのお友達に囲まれてたけど。

 

「まぁな。お前なんかに心配される筋合いもないし。」

「あはは、そっか。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。本題に移っていい?」

どうでもいい?なんだか強引な切り返しだな。

 

「どーぞ。手早く頼むよ」

俺だって暇じゃない。

うん。暇じゃない。

えーと、そうだ、姉ちゃんの女の子講座をうけなきゃいけねぇしな!

…やべぇ、めっちゃ暇だ。

なーんて、そんなことどうでもいいか。

とにかく吉良といる時間は無駄ってことで!

 

 

 

「僕と付き合ってくれないかな?」

前と同じニコニコした顔をしながら吉良はそう告げた。

 

ん?なんかいったか?コイツ?

 

「え、今なんていったの?」

「付き合ってくれないかな?」

即答される。聞き違いでは無いようだ。

うん。耳に異常なし

 

「俺が…お前と?」

 

「そう。」

吉良は微笑んでいる。

 

「は?え?ん?ちょっとわけがわからない。」

ナニイッテンノコイツ?

そんな急展開いらねぇよ!

 

「いきなりすぎるよね。ごめんね、変なこといって。」

そうだそうだ!冗談にも限度がある!

付き合うなんてあり得ないわな。

 

 

しかし

 

 

「ううん、大丈夫。付き合ってもいいよ。」

俺の口からはなぜかそう言葉が発せられた。



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帰り道

「…あれ?」

「は?」

いや、ちょっと待ってなに言ってるの?

 

「へ?あ、そっか!ありがとう!昨日から少し僕に対しての態度が悪かったから断られるかと思っていたから驚いてしまったよ。よろしくね!」

はいはい、態度悪くてさーせん。

地味に皮肉言うの腹立つな。

いや、そんなことはどうでもいい!

「いやいや、なに言ってんだお前!そんなことあるわけないだろ!」

「う、うーん…承諾したのは優奈ちゃんなんだけどなぁ。ボイスレコーダー必要だった?」

「言ってない!言うわけない!そして、気軽に優奈ちゃんと呼ぶことを許した覚えはない!」

 

(完全に言ってたよ〜、ヒヒ、ウヒヒヒ!)

ちっ!こいつかァァァ!

調子に乗るなよ!こら!

てか、俺の乗っ取ることまでできるのかよ!

 

(いやいや〜せっかく向こうからきたんだから、これはいくしかないっしょ!イチャイチャっしょぉ!いぇーい!)

ぐぬぬぬ。確かにそれはそうだが、何故吉良なんだ!いやだ!

理由?イライラしすぎてイチャイチャなんかできるかー!

あと、これって絶対あれだろ!吉良のことが好きな女子の取り巻きにいじめられたりするやつだろ!

いやだわ〜そういうの絶対嫌だわ!

少女マンガ展開とかはいらねーんだよ!

高校生活くらい平和でいたい!

 

(ぐちぐちうるさいな〜、"男"らしくないぞぉ?ニヤニヤ)

そういうところで男もってくるんじゃねぇ!

「いいよ、何でもやってやろうじゃないか!」

しまったぁ!口にでた!

「え、あ、優奈ちゃん大丈夫?誰としゃべってるの?昨日にもまして変だけど。まぁ、そういう僕に媚びない、俺っ娘なところも惹かれるんだけどね」

俺も吉良も軽くパニックだな。収集つかねぇ!

 

(あのさぁ?もうすこぉ〜し可愛くできないの?まったく、うまくいくものもいかないぞぉ?お手本をみせてあげよう)

「その…実は…私も昨日あった時からあなたのことが…。助けてくれてありがとう!ニコっ!」

なんて媚び力だ。あえてあなたのことがどうなのか言わないことで期待を抱かせつつ話題を変え、満面の笑顔!

さすがはサキュバスといったところか!

ってなんで俺が解説しなきゃならないんだよ!くそっ!

 

あーだめだ。虫唾が走る。絶望だ。

 

「お前は、誰だ?」

吉良の表情が曇る。

「え?な、なに?私だよ?優奈だよ、大丈夫?」

 

「お前、俺の優奈じゃないだろう?一体どこのどいつだ。何故その体にいる」

(どうしよう、なにこれ、こいつってこんな奴なの?)

いや、知らねぇよ!なんだよこれ!怖すぎる!危ない奴だ!

 

「お、おい吉良?どうした?大丈夫か?頭やっちまったとかか?」

っうぉ!、主導権戻ってた

 

「…ん?どうしたんだい?僕の顔をじっと見て。何かあった?」

え、お、元に戻った!

 

「何だよいまの〜脅かすなよな!俺はもう帰る!」

「え?って、ちょっとまって!」

俺の手を掴む吉良。

 

「うわっ、な、何だよ?」

「一緒に帰ろうよ」

微笑みを向けてくる。こいつ本当ににっこにこだな。

こっちがイライラするほどに!

 

____

「な、なんだよ?」

吉良があのイライラするニコニコ顔を、ずっとこちらに向けてくる。

「いや、出会って2日なのにここまでこられるとはと思ってね」

本当にそれな!

この体になって2日で彼氏作るとか、俺はなんですか?ビッチですか、淫魔ですかぁ?!

 

(…よんだ?)

てめぇのせいだぁぁぁ!

 

(まぁ、なんかその…その吉良って男なんか怖かったから、めんどくさいしあとは自分で頑張って。うん。私は寝ておくから)

も、もうやだ…

てか、魔法も使える悪魔がなんでただの人間に怯えてるんだよ!

 

「ねぇ、優奈ちゃん」

「なんだ?」

「手、繋がない?」

「は?何でだよ!」

こいつ、おかしいんでねぇの?

なんで俺が帰り道に野郎と手をつながなきゃいけないんだ!

 

「…いや、僕さっき君に告白したよね?」

「出会って2日なのにな」

「で、優奈ちゃんもOKしてくれたよね?」

「まぁ、仕方なくな」

「僕達、付き合ってるんだよね」

「いろいろと都合上な」

「手、繋いでいい?」

「嫌だ。」

「…。」

 

「なんだよ!そんな顔するなよ!俺が悪いみたいじゃないか!」

(いや、相当悪いと思うけど?)

なんでだよ!

高校生にもなってそんな気持ち悪いことできるか!

 

(いや〜、それくらいいいじゃないの。というか、いちゃいちゃのチャンスを逃すでない!)

嫌だよ!なんで男と手を繋ぐんだよ、女なら未だしも!

 

(いいから、繋いでみようか!)

「あー、もう、めんどくさいなぁ…ほらっ」

手を差し出す。

自発的にこういうのやると本当に寒気がするぞ。

 

「優奈ちゃんって、こういうのに弱いよね。あっさり折れるっていうか」

ニコニコ笑顔で手を握ってくる。

 

「お前まさか!これも計算のうちか!?」

こっ、こいつ!危険すぎる!

 

「この吉良大雅、やることなすこと何から何まで計算ずくだよ?」

に、ニコニコするのをやめろぉ!

 

 

____

「そういえば、吉良の家ってどこにあるの?」

無言で歩くのもなんなので、(仕方なく)話をふる。

 

「僕は駅から10分くらいかな。あ、優奈ちゃんとおなじ駅だよ。」

「10分か。なるほど。」

結構近かったんだな。いままでよくばったり会わなかったもんだよ

 

「優奈ちゃんは?」

「ん?あぁ、俺は20分くらいかな。結構近いんだな」

「そっかそっか」

 

 

 

____

やがて駅に着く。

「なぁ、いつまで手繋ぐの?電車の中で繋ぐとか、無茶苦茶なこといわないよな?」

「なんで?いいじゃない?悪いことあるかな?」

こいつの頭に羞恥心という言葉はないのだろうか?

 

「いや、そのね、道ゆく人はすれ違うだけだから未だしも、電車はそうもいかないだろ?」

「ふーん。恥ずかしいんだ?」

くそっ!ニコニコするなこいつ!

 

「はっ、そ、そんなんじゃないし!」

「まぁ、今は帰宅途中のサラリーマンとかでいっぱいになる時間だから、そうもいかないかな電車で手が使えないのは色々と危ないしね」

おっしゃ!ざまぁみろ!

 

 

____

「で、どうしてこうなった」

 

俺は今、電車の扉と吉良に挟まれている。

…近い。

 

「僕の優奈ちゃんが、痴漢なんかされたら嫌だからね」

「いや、俺を痴漢なんかする奴はいないだろ」

そもそも、痴漢なんか本当にあるのか?見たことないぞ

 

「あのね…優奈ちゃんはもう少し、自分の顔がいかに可愛いかを自覚した方がいいと思うよ?」

ぬぐぐっ…。

 

「俺のことを可愛いって言うな!」

「やれやれ…困った子だな、電車ではお静かに。だよ?」

くっそぉぉ!舐められてるぅぅ!

なにが電車ではお静かに、だ!

 

「おっ、降りる駅だぞ!しっしっ!」

「まぁ、素直じゃないところが好きなんだけどね♪」

こいつはどんな趣味をしてるんだ本当に。

 

____

「もう、おまえと電車乗りたくない」

「やだな〜、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」

「…だまれ」

「…やれやれ。あ、優奈ちゃん、寄り道していかない?」

「なんでだよ。俺はもう、一刻もはやく家に帰りたいんだけど!」

これ以上一緒にいてられるか!暴れるぞ!そのうち

「うーん、そっかぁ。女の子なら、甘いもの好きかと思ったんだけど、仕方ないね。帰ろっか」

「…ちなみに、どこへ行くつもりだったんだ?」

おっほん、甘いものと聞こえたきがしたぞ。

「ふふっ、まぁ僕がよく行く小さなカフェなんだけど、最近新作のケーキができてね。一緒にどうかな〜って」

「…そういえば、今日はお母さんに寄り道をして帰って来いと言われたような気がする」

「…なかなかかわった伝言だね、それで?」

「仕方がない。吉良がそこまで行きたいというのなら、カフェでケーキを食べてあげよう」

「ふふふ。決まりだね」

そう言うと吉良は俺の手をとって歩き出した。

 

いや、俺別に甘いものに釣られたとかじゃねぇし。

人の誘いを断るのもね?うん、仕方なくだよ。

さっそく付き合いだしたわけだし?別になんの不自然もないよね。はっはっは!

 

 

 

____

 

「んまぁぁい!なにこれ!」

「ふふふ。美味しいでしょ?ここのケーキ、どれも美味しいんだよ?」

俺が食べたのはオススメだという『たっぷりふるうつケーキ』まず、クリームがいい。滑らかでほんのり甘い。しつこすぎず、飽きることなく食べることができる。

そして何よりたくさんのフルーツが入っていて、様々な味、食感が舌を喜ばせる。

 

なんというか、その、コーヒーに合わせて作られてて、甘さは控えめだがとても美味しく落ち着いて食べれる。

たぶん。

「まぁ、苦くてコーヒーが飲めないっていうのは、流石に分からなかったよ。ごめんね」

 

そう。俺はコーヒーが飲めない。

たぶん、これはこのカフェのコーヒーを一緒にのんでこそ完成するのだと思う。

しかし、苦いからコーヒーは飲むことができない!

なんという屈辱!

 

俺にはこの、ホットココアしかないのか!

…このココアもちょっとビターだけど。

 

「〜ふぅ。本当にここのケーキはコーヒーに合うなぁ。落ち着くね」

うぬぬぬぬ。こいつめ!

 

「おい、吉良」

「ん?どうかした?」

「そのコーヒーちょっとよこせ」

「…これ、ブラックだけど?」

 

「…うるさい」

優奈、大人になります。

 

よし、まずは小手調べだ。とりあえず。とりあえず舐めるだけだ。

唇をカップに近づける。

ふ、震えてなんかないぞ。

 

「あっ、これって間接キスだね」

「ふぇっ!」

吉良の言葉に驚き、カップを落としそうになる。

 

「優奈ちゃん!」

咄嗟に吉良が、腕を出して庇う。

 

パリーンっ!

コーヒーカップが地面に落ちる音がする。

 

「優奈ちゃん大丈夫?かかってない?」

いや、お、お前のせいだからなっ!

変なこと言うから!

「…って!吉良!お前!」

キラの右腕はコーヒーで濡れている。

 

「大丈夫か?火傷は?おい!」

「僕は大丈夫。優奈ちゃんも、怪我はないんだね?良かった」

ニコニコ顔をこちらに向ける吉良。

 

……カッケーっっっ!

うぉぉぉぉ!なんだこいつ!紳士だ!うぉい!

 

「店員さん、すみませーん…」

じ、事後処理もたんたんと済ませてるぞ!

これがあれか、日々クラスメートに紛れてあれこれ自分から進んで面倒を受け持つうちに身についた行動力か!

 

____

帰り道

 

「吉良、本当に腕大丈夫か?結構熱かったぞ?」

「なんのこれしき!男の子はこれくらいなんともないんだよ」

お、おう。うぅぅぅ。ここで男って文字を使ってくるか…

 

「ごめんな?本当に。そのっ、えーっと服とかクリーニング代と、カップの弁償したの、俺が…あ、一応病院もいっておくか?」

「いーや。僕が変なこといったからあぁなったんだ。もし優奈ちゃんに火傷でもさせたら大変なところだったよ。今回は全面的に僕が悪いから、優奈ちゃんは謝ることなんてないんだよ」

いやー、そんなことねぇよ。俺にも非があるって。

何かしないともどかしいよ!

 

「やっぱり、クリーニング代だけでもさ!」

「いらない。んー、強いていうなら」

「な、なんだ?何をすればいい?」

俺だって、きちんと筋通してスッキリさせたいぞ!

男だからな!

 

「優奈ちゃんの、唇が欲しいかな♪」

…こいつ、女たらしか?

さすがに、く、唇は飛躍しすぎだろ。こいつ!

今の話の流れでよく冗談言えたな!

本気で心配してたのに。

「殺すぞ?」

「ふふふ。冗談、冗談。仲良くなったのに、嫌われる真似はしないよ」

 

仲良く…なったのか?

まぁ、確かに、いままで毛嫌いしてたのがなんでか分からないくらいこいつ、いい奴だよな。

 

まぁ、いい奴すぎるから裏があるんじゃないかとも思うんだけど、今日、こいつは誰かに流されるわけでもなく、自分からカフェによるのを提案してきた。

 

俺が見てないだけで、けっこう大変そうだな。こいつも。

従うもの故のスキルは見せてもらったけど。

 

「おい、吉良、お前ちょっと屈んで目つぶれ」

「ん?なになに?」

 

ちゅ

俺は吉良の頬に唇をつける。

 

「なんというか、その、あれだ。付き合いはじめの記念っつーことで!」

「っ!…うれしいな。ありがとう」

 

つってもまぁ

(よっしゃー!キタキタキター!イチャイチャパワー、きてますきてます!)

これのためみたいなもんだけど

まぁ、お詫びにこれくらいならしてもいいよな?

 

 

____

あのあと、吉良は俺の反対を遮って、わざわざ俺の家まで送ってくれた。

まぁなんというか、本当に紳士だな。

 

「ってなわけで、付き合うことになっちゃったわけだ」

今は家で姉ちゃんとおしゃべり中。というか報告?

 

「なるほど。つい昨日まで男だった、あんたがねぇ?なんか、できすぎな感じがするんだけど」

それを言われると返す言葉がない。

物事をできすぎた方向に持ってく悪魔にとりつかれているのだから。

「まぁ、何つーか、いい奴だよ。割と」

「まぁ、彼氏にするわけないだろって言ってた昨日のあんたはどこへいったのやら」

「姉ちゃんが、彼氏にすればっていったんじゃないか」

まぁ、あの言葉はとくに関係ないけど。

 

「まぁいいわ。あんたの心変わりはおいといて、だれかと付き合うことになったんなら…」

「より、女の子らしくなることが大事よね?」

 

お姉様、目が、目が怖いっす

 

 

____

(いいね〜、素晴らしいね!)

なんだよ、俺はもう姉ちゃんのレッスンで死にそうなくらい疲れたんだけど。

 

(いちゃいちゃとはやはり素晴らしいもので、生きる活力がわいてくるね)

おー、そういや今日のでどれくらいたまったんだ?

 

(まぁ、魅了(チャーム)一回分くらいかな)

え…それ少なくないかっ?!

 

(だってねー?そこまでイチャイチャしていたわけでもないし)

俺、ほっぺにチューまでしたんだけど?!

 

(所詮は頬っていうか?まぁ、サプライズなところは初日にしては良かったんじゃない?)

お、おう、さすがだろ?

 

(まぁ、淫魔(サキュバス)目線からすると、何もしてないのとあまりかわらないくらいささいなことなんだけどねー。)

あ、あんまりだぁぁぁぁ!

 

____

 

「今日は、楽しかったな〜♪優奈ちゃんから、頬にちゅーもしてもらえたし」

自室でニコニコと今日の出来事を思い出す吉良大雅。

 

「でも…」

「体育館の時の優奈は誰だ?明らかに違う雰囲気だった。気持ちの悪い、俺の嫌いな感じだ」

 

「…さて、また美味しいスイーツのあるところ探さないとね」

 

彼はニコニコと微笑む。



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親友

「あのさぁ…」

「ん?なんだい?」

「いや、わざわざ家の前までこなくていいんだけど」

「なんで?」

 

「いや、理由はないけど嫌だわ」

繰り返し言うようだが吉良は駅から10分、俺は20分。わざわざ俺の家までくる必要あるのだろうか。

俺の家じゃなきゃだめなんですか?駅じゃダメなんですか?

そもそも一緒に行きたくもないんだが。

 

「ぼくは一刻でも早く優奈ちゃんにあいたいんだよ♪」

んー。まるで語尾におんぷマークが聞こえてくるようだ気持ち悪い。

「なぁ、こんなこときくのもなんだけど、なんでお前は俺のことが好きなの?」

「ふふふ、それはね。ぼくに対して愛想をふりまいてこないから!むしろ突き放して来るしね」

え…え?

「いやー、人に合わせて過ごすのも楽だし、あれはあれで楽しいんだけど優奈ちゃんみたいな子に自分から関わっていくのも楽しそうでしょ?」

な、なんだこいつっ!

 

「あー、俺はお前のおもちゃかっての」

なんてやつだ。なんか腹が立つので足を早める。

 

「も〜、優奈ちゃんは怒りん坊さんだなぁ。そんなにはやく歩くとこけちゃうよ?」

「なっ!この歳になってこけるかっての!…っとと」

ふっ、残念だったな小石よ。今日の俺はそんな手に引っかからないぜ。

 

「優奈ちゃん!」

ブンッ!

吉良が俺の体を引っ張ると同時にスピードをだした自転車が目の前を通り過ぎる。

「あっ、危ないな!」

 

「やれやれ、どう?僕がいた方が安全でしょ?」

ぐぬぬ…。俺こんなにおっちょこちょいだったかなぁ?まぁ、注意力が散漫になってるようだ。

気をつけなければ。

 

 

 

____

駅に着くと、見慣れた姿が見えた。

「よぉ、隆士。おはよう」

 

「ん?え?…え?」

なんだこいつ?挨拶くらい返せよなったく

 

「おい、人が挨拶してるんだから返したらどうなんだ?」

「え、あ、おはよう。…で、ごめんなさい誰でしたっけ?」

あ、しまったやらかした。これやっちゃいけないやつだ!

 

「えーっと、君。僕の優奈ちゃんに何か用?」

しまった!こいついたのわすれてた!めんどくせぇ!

 

「えーっと、ようも何もそっちの人が話しかけてきたと思うんだけど?」

そうです、そのとおりです!

「そんなことはどうでもいいけど、優奈ちゃんは僕のだからあまり近づかないでね?」

吉良ぁぁ!やめろぉ!

「え?あ、はい。」

なんなんだ!僕のって!…僕のって!恥ずかしいわ!

そしてすまない隆士!

 

「おい、吉良。何を勘違いしてるか知らないけど、こいつは彼女もちだ。話くらいさせろ」

とりあえずフォローする。

 

「えー、むー。」

いじけ方…おまえは幼稚園児か!

しっかしなんなのこいつの独占欲!危険すぎる。

 

「ごめん、こいつ危ない人だから。でだ、お前の友達の木下優について話したいことがある。放課後に駅で待っていてくれ」

「ん?優がどうかしたのか?そういや昨日今日とみてねぇけど。何かあったのか?」

「とりあえずものすごく大事な話だ。これ、俺の連絡先。なにかあったらここにたのむ。じゃあ、あいつがこわいから今はこの辺で」

 

「えっ?あ?とっ、とりあえずいきゃあいいんだな?」

「そういうこと」

俺は、半ば吉良をひぎずりつつその場を去る。

とりあえず隆士には真実を言っておくべきだろう。昔からの親友だからな。

 

(えー、その親友であるあの子とのイチャラブは?)

いや、ほんと殺すよ?だいたいあいつとなんか気色悪いし、何度もいうが彼女持ちだっての!

 

「おかえり。変なことされなかった?」

おかえりって…

「あのさ、お前五歩後ろでみてただろうが。あと、過保護にするのやめてくれる?生活し辛い」

「おっちょこちょいだから、心配してるんだよ?」

こいつ…

「死ね!」

 

 

____

吉良を振り切るように学校に着くと

「優奈おはよう」

「よっす」

"私"の友人である2人はもうすでに教室に着いていた。しっかし朝から一緒って本当に仲いいな。

 

「おはよ。愛は朝からこっちにいるんだ。本当に仲良いんだね?」

「まぁ、幼稚園からずっと一緒だからね!」

 

「あ、ちなみにクラスの輪に入れないから雪乃のところにきてるとか、そんなんじゃないぞ!一緒に登校してそのまま寄り道してるだけだからにゃー。」

ほー。なんか、俺と隆士もそんな感じだったな。

俺は…クラスの輪にはイマイチ入れてなかった気もするけど。

 

「ま、そんなこと気にしないで、優奈もこの輪にじゃんじゃん入ってきてね。」

「そうそう。そういうことなのじゃ!」

あー、やっぱり頼りになるね。

 

 

____

「そういえば、優奈はどんな部活に入るの?」

雪乃が唐突に話を投げかける。

 

「え?うーん、特に何も考えてなかったんだけど」

そもそも俺、帰宅部だったしな。

「ほーほー。せっかくの青春なのに、もったいないことをするんですなぁ」

 

「むっ…そういう愛と雪乃はなにかしてるの?」

「へっへー、聞いて驚け!僕たちはなんと帰宅部だ!」

ニヤッと愛が笑う。

 

「帰宅部なのかよ?!」

「なのかよ?…まぁ、私達は学校終わったらバイトしてるからね」

うおっと、素がでてたわ。危ない危ない

 

「何のバイトしてるの?」

「聞いて驚け!ケーキ屋さんである!」

なんとも二人にぴったりな可愛らしいバイト先だった。

 

「それでね、今ちょっと働き手が不足してて、もし良かったら優奈もどうかなって」

「やってくれるよにゃー?」

あんた達!その上目遣いは反則でさぁ!

 

「うん!」

もちろんやるさ!だって、ケーキ屋さんだろ?つまりは、そういうことなんだろ?

 

 

____

「おっ、この子が例の子か」

隆士との約束もあるが、学校から近いということで早速例のケーキ屋さんに来ている。

小さなお店だが、まだ若い夫婦が営んでいて味はもちろんのこと、その可愛さからうちの女子生徒に絶大な支持を持たれているらしい。

 

「あら、雪乃ちゃんや愛ちゃんに劣らずな可愛い子を連れてきたのね。お友達?」

「はい。先日転入してきた木下優奈ちゃんです。たぶんうちの高校で一番可愛いんじゃないかな」

「そんなことないって!」

散々可愛いと言われ続けてきた俺にとって、『可愛い』はもちろん禁句なのだが、こう女の子たちに可愛いと言われるとなんだか怒りよりくすぐったさが勝ってしまう。

「僕の折り紙付きである!このお店にぴったりなのだ!」

「ははは、そうだね。じゃあよければよろしくお願いするよ」

 

「は、はいっ!お世話になります!」

「僕は店主の工藤(クドウ) 輝也(テルヤ)。僕がケーキを作っているんだ」

「私は工藤(クドウ) 節乃(セツノ)。店主の妻であり、デザイン担当。そして永遠の看板娘!なんちって、よろしくね。優奈ちゃん」

 

そんなこんなで俺は高校近くのケーキ屋さん『angle warmth』で働くこととなった。

 

____

「待たせたな」

「あっ、どうも」

駅に着くと、ちゃんと隆士は待っていてくれた。さすが俺の親友。

しかしまぁ、よそよそしいな。仕方ないけど。

 

「で、早速本題にはいるけど。君を呼んだのは他でもない、木下優についてだ。」

「お、おう!なんでもこい!」

なにかあったのかと身構える隆士

 

「俺が木下優だ」

「お、おう…うぇぇ?!」

なかなかいいリアクションだ。

 

「と、いうわけで女になりました」

「うぇぇ?うぉぉ、うぇぇ?!」

「うるさい」

なんて言うか、驚きすぎだろ。

 

「お前、驚きすぎ」

「いやいやいや!いきなりそんな話聞かされて驚かないやつなんていないわ!その話、本当なら恐ろしいぞ!これが驚かずにいられるかっ!いや、信じられるか!」

 

「え、本当なんだけど」

 

「…………え、何本当に優なの?ってもしかしてお前ってそっちの気があったのか?!そもそも、あいつが女になんかなったら、発狂して精神崩壊してるだろ!やめとけやめとけ女装なんて!」

こいつは俺をどんな目で見ているんだ。

 

(いや、これが普通でしょ。あんたが鈍いだけ。ってかまだ魅了(チャーム)つかってないし。ばっかじゃないのぉぉぉぉ?)

あ、そっか。というか、いちいち腹が立つんだが!

「おい、こっち見ろ」

隆士にむけて右目でウインクし、魅了(チャーム)をかける。

これでいっちょあがり。本当に恐ろしい力だな。便利だけど。

(まぁ、やるたびに男に戻る道がぐーんと遠ざかるけどね)

う、そういえばそうだった。

 

「へー、それで女の子にねぇ…って納得できるか!あいつ女みたいに扱われるの一番嫌ってたのに!ありえねぇ!」

あれ?!効いてない?

(あーだめだこりゃ。この子みたいに意志や思い込みが強いと、効かないときがあるんだよねー。)

えー、なにそれ初耳。都合良くない?!

というか、俺が女の子扱いが嫌いなのにここ迄確信をもってるのは、友達としてやっぱうれしいな。

さすが親友、心の友だ。

 

「とりあえずあれだ。俺の家にこい」

「え、見知らぬ俺っ娘女子の部屋に?それは…さすがに!俺、彼女持ちだし!」

「いや、なにもないからな?そして、来るのは見知った俺の部屋だ!」

 

 

____

「うわー、普通に優の部屋だな」

 

「当たり前だ」

ちなみに、お母さんの説明もあり、どうにか俺が優だと納得してもらえた。

 

「しっかしあの優がよりによって女の子にねぇ?」

「まぁな。」

「まぁ、元から顔は可愛かったけど、さすがにこんなにちっこくはなかったからなぁ」

 

「ちっこい言うな!」

元の俺の身長は171くらい。今は…161くらいか?

隆士は無駄に182ほどあるから、まぁ差はすごいな。

 

「ほら、可愛いってところじゃなくて、ちっこいって言ったところに反抗するあたり優らしくないんだよなー。」

ぐっ、そういえばそうかも。

なんだかんだで女子扱いに慣れてきてしまっているのかもしれない。

…姉ちゃんのせいか。

 

「まぁ、そういう事なんだけどさぁ、これからもなんだ。その、よろしくな。」

「あぁ。しかしまぁ、俺は彼女持ちだぞ?」

 

「わかっとるぁい!誰がお前の事を好きって言った!」

なんだよ、毎回毎回彼女もちっていいやがって!この彼女コンプレックスめが!

 

「冗談だって。そういや、朝のはなんなの?あいつって、学年一位のなんでもできる君だろ?」

「あー、あれか。色々あってな。なんというかその、付き合ってるんだ」

「え?!?!やっぱりそっちの」

「ねぇわ!こっちにも色々と事情があるんだよ!」

とりあえず、いろいろの部分はなんとか濁した。

 

「…まぁ、そうか?…なんか助けれることがあったら言えよ?親友として、力かしてやるからさ」

「おう。ありがとう」

 

「しかし、その言葉遣いどうにかならねーの?可愛いのに違和感ありすぎ」

「やだ。これは変えたくない。とりあえず人前以外では。そして可愛っていうな」

 

「あらそう?おもしろくないなぁ…ま、今日はこの辺で帰るわ。お邪魔しましたー!」

 

「おう、またな」

「んじゃ」

いつものように別れを告げて、隆士は帰って行った。

 

持つべきものは友だな。今日は改めてそれを実感した一日だった。

 



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私の妹

かなり短め、また本編は進みません。どちらかといえば番外編です


やぁ、みんな久しぶり。え、誰かって?凛ですけど。

わたくし、優のお姉様ですの。 

はいそこぉ、キャラブレブレとか言わない。

元々かわいかった弟がさらに可愛くなれば最高に「ハイ!」になるのも無理ないでしょ。

ってなわけで、女の子になったことにより更にかわいくなった優の家での過ごし方を、私(わたくし)この凛がお伝えしますぞ!

 

 

優は朝に弱い。平日休日関係なく、ほっとくと昼まで寝ている。仕方がないので私がいつも起こしにいっているのだが

 

「おーい、優起きろ!」

「…。」

すやすやと眠っている。ドアから声をかけるだけなんて、まず間違いなく起きない。

私の声が大きくなっていったとしても起きない。私は優の聴覚は、睡眠時に遮断されているのではないかと考えている。

 

そういうわけで、優のベッドへ近づき、揺さぶる。

「おーい、遅刻するぞ!」

と声もかけてみるものも反応なし。しかし、私はそのまま体を揺さぶる。すると、優は必ずキーワードを洩らすのだ。

 

「ぁう…いちごパふぇぇ」

こんな感じで。

なるほど。今日はいちごパフェか。

 

ここで皆さんに優の正しい起こしかたをお教えしよう。

優は、普通には起きない。しかし、呼びかけたり揺さぶるうちに、とあるキーワードを洩らすのだ。それすなわちその日にみた優の夢!そしてキーワードは十中八九が甘いものである。

ここで魔法の方程式『キーワード+飛んでっちゃうよ=起床』。

つまり、今日の場合は

「おーい優、いちごパフェが飛んでっちゃうぞー」と耳元で言う。すると

「それはらめぇぇ!」

と飛び起きる。

「おはよう、優。いちごパフェはおいしかったか?」

と少しいじめてみると

「あ、うぇ、な、なんのことかわかんないな~うん。いちごパフェってな、なんなのかな~」

と顔を赤くしてごまかそうとする。

これがまた、なかなかたまらない

 

優は高校生だが、私は卒業してしまっている。だから、学校でのあいつの振る舞いは分からない。誰か他の人にでも聞いてくれ~。

 

最近は吉良っていう前の優男が迎えにきていたりもして、青春してるなーと微笑ましいものだが、優はまだやらんぞ!なーんて頭の中で思ったりもする。

実はうちは父親がいなかったりする。だから、弟(ゆう)改め妹(ゆうな)は私がまもってあげないとね。

 

優は帰宅部だから帰るのが早い。まぁ、だいたいが寄り道して帰ってくるからそんなに早くはないのかもしれないけど、おかえりと声をかけられるのは私の方だ。

小さい時から毎日律儀に私の帰りをむかえてくれる。本人は無意識というか癖になっているのかもしれないが、私はこういう優しいところが好きだ。優だけに、ふへへ。

 

優の家での過ごし方は基本、だらだらする、だ。動かずに漫画や雑誌を読んでいたりいなかったり。

最終的にはまた眠ってしまっている。

お母さんや私が帰るのが遅いと、ご飯もたべずに寝続けるので何かと危険だ。

 

私の帰りが遅くない日は例によって女の道講習会を夕飯前にしている。

最近は、なかなか女の子の身支度、ふるまいが板に付いてきたんだけど。

「うわぁ…姉ちゃん、俺やっぱむりだよ。」

「うわっ、ぶーっあはははは!なにそれどうやったらそうなるのー?!」

メイクが恐ろしく下手だ。小さな子供が意図的におもしろおかしく顔に落書きでもしたかのようになる。

鏡を見ているのになぜそうなるのか分からないくらいに不器用だ。

 

私がいうのもなんだけど、この子メイクしなくても可愛いから大丈夫なんだけどね。といってもできないままじゃこの先辛いので絶賛猛特訓中です。

 

お母さんは仕事にいってたりするので、母の休みの日以外は私と優でご飯を作る。

 

メイクもそうだけど、結構不器用なところがあるので優には味付けはさせない。(かなり、いや恐ろしく甘党むけな味付けになるから)

ただ、材料を切ったり盛りつけたりするのは小さい頃からやってきただけあってなかなか上手い。

私にはまだまだ及ばないけど。ふふん。

 

 

夕飯が終わってしばらくすると優はお風呂にはいる。

なぜかお湯を張りながら入るので毎日必然的に一番風呂をかっさらっていく。そして無駄に長い。男だった時から長い。

一回はいると心地よすぎてあがれないんだとか。

さすがに風呂場までのぞくことは今までなかったんだけど、晴れて姉妹になったことですし、ここは一つ突撃しましょう。

 

「たのもー!」

「…、姉ちゃん!?」

一泊ほどおいて抜けた調子の返事が返ってきた。

「さて、まずは背中の流し合いからはじめよっか」

「何平然としてんだよ!隠しなさい!」

「残念だったわね、女同士何も問題はないのですわ」

オーッホッホと高らかに声を上げていると優がいそいそと風呂場から抜け出そうとするのでつかまえる。

「裸のつきあいって言うといい響きでしょ」

「それはまた随分と男らしいね」

どうやら観念したみたい。

ここからさきは禁断の領域よ。きゃわわうふふな事はさすがにお伝えできないわね。

「姉ちゃん、そこはらめぇぇぇぇ!」っていう優の声が風呂場に響いたとだけ言っておこうかな。

 

 

風呂上がりに2人でデザートのプリンを食べる。さすがにいちごパフェなんてないからね。私がケーキ屋さんのバイトをしているので(かわいいでしょ?)割と余り物や試作品をもらって帰ってくる。幸せそうにプリンを食べる優をみると、このバイトにしてよかったな~って思える。

ちなみに作ってるわけではないよ。雑用と売り子だからね。

バイトしようかなって最近優がよくつぶやくので、薦めてみようかななんて思っている。

 

優は寝るのが割と遅い。私の方が寝るのがはやいときもあるくらいだ。何してるのかはわからないけど朝起きれないんだったら正直さっさと寝て欲しかったりもする。

 

さて、日常なんてこんなもんかな。あんまり面白くなかったでしょ。

まぁ、父がいないってだけでふつうの家庭なんだからこんなものかな。

 

私って結構弟…じゃないや妹思いでしょう?

 

____

えらい目にあった。

まさか姉ちゃんが風呂の中にまではいってくるとは思わなかった。

最近姉ちゃんの暴走具合が常軌を逸している。はやく男に戻らないと姉ちゃんまでおかしくなってしまうんじゃないかな。

 

姉ちゃんは元々ハイスペックで超優秀だ。天才型なので高校のときからバイトしながらも超難関といわれる大学に通っている。

性格も頼りになるし、堂々としてカッコいいんだけどなんだろう、少し残念なところがあるんだよね。

容姿もいいからモテそうなんだけど、彼氏がいるところをみたことがない。

弟としてはすごく心配なんだけど大丈夫なのかなぁ?

姉ちゃんの弱点はたぶん、俺だ。世話を焼く癖がついちゃったのかもしれないけど、俺優先の行動をとるところが多くて困る。

俺しか知らないはずのことを知っているのも怖いし困る。

弟過保護離れしてくれると嬉しいかなぁ。

ここは一つ男にモテる講座を開くしかないのかもしれない。

俺は男にモテたことがあるわけじゃないけど(あるわけないけど)男のツボなら分かる。普段姉ちゃんは凛としてるから、構ってやりたくなるような一面を見せてやればいいんだ。えーと、たしか『ギャップ萌え』って言うんだったかな。

よし、さっそく姉ちゃんのところへいかねば!

 

俺って結構姉思いでしょ?

 

 

____

あぁ、眠い。

みなさん、おっはー!サキュバスちゃんです。

みんな元気にしてる?こっちは魔力が不足しすぎて眠いよー。不足してなくても眠いんだけどね。

 

ところでみんな、恋してるかい?私達サキュバスはみなさんのイチャイチャぱわーによって日々活動しています。特に働かなくてもいいように、自分でしっかり恋人を見つけてねー。

 

で、いま憑いてるこの子、絶対男に戻る気ないよね。いやー、そもそも男になんて戻せないんだけど。

テキトーにやって戻れたれいいけど、最悪何になるかわからないからね。しかも魔力つかうし時間かかりそうだし本当に恐ろしい。

こんなめんどくさいコトするくらいならこの子の中で寝ておきたい。

で、私が今がんばっているのが精神の女性化!

っといってもこの子が寝てる間に女になれーっていう暗示をかけてるだけだからそうそううまく行きそうじゃないけど。

何とかがんばってデレさせないとねー。あ、なんかこれ人間界にある『ゲーム』みたいでたのしーかも。

 

そのうち真剣にやってみようかにゃ~なんて。

…眠い

 

 

____

 



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僕の日常

ちょっと作者暴走回。
次回からは物語を大きく進めていきます。

基本的にイチャラブがかきたいんですが、このままいくと結構ファンタジーというか、非現実的なことも出てくる予定です。


僕は吉良大雅。まぁ、しがない男子高校生だよ。

 

僕は今、ちょっと街をぶらりとしている。

友達との遊び、また大切な彼女とのデートスポットを探しに。

僕の彼女…木下優奈ちゃんはとても可愛い。

言葉遣いが荒かったり、全然素直じゃなかったりと傍からみればめんどくさい子なのかもしれないけど、僕はそれこそ愛おしいと思う。

 

であった翌日に僕から告白した。優奈ちゃんはどこか様子がおかしかったけれどOKしてくれた。

僕が優奈ちゃんを好きになった理由は、なんだかんだと並べ立ててきたけれど、本当は直感なんだ。それこそ、一目惚れみたいなものだったかな。

道に倒れていた彼女は、この世のものではないような不思議な雰囲気を纏っていた。

…おっとっと、誰もこんなこと興味ないか。

それで、今僕は自慢の彼女、優奈ちゃんのために美味しいスイーツのある店を探しています。

理想は学校もしくは駅から近いこと。

優奈ちゃんは苦いものが苦手なようだから、そこについても考慮しないといけない。

でもまぁ、これはある種僕の趣味だし、優奈ちゃんのためだと思えばとても楽しい。

 

もちろんスイーツだけを探しているわけでもない。カラオケ店があれば収録曲の多さや値段を比較するし、ゲームセンターがあれば、稼働しているゲームの種類をメモする。

アイス、クレープ、プリクラとかはどっちにも応用が利くから要チェックだ。

かと思えば本屋さんに立ち寄り、雑誌を読んだり話題の本を買ったりもする。

ベストセラーなんかはもともと家に置いてあるのでゆっくり読める。

新作の映画が出れば見に行くし季節に合わせて服も新調する。

 

どこからそんなにお金が出てくるのかって?

実は中学三年生の時に僕が開発したスマホ用ゲームアプリが大ヒットした。

今はゲーム会社に権利を譲ってはいるが、それこそ一気に大金を手に入れたのだ。

ゲームの更新の度に新しいアイデアをだしているから、追加報酬ももらっている。

もともと家も裕福な方だから、そのまま全部僕のお小遣いとなっている。

周りの友達にもプレイしている人は沢山いるけど、信じてもらえないだろうしこのことはちゃんと秘密にしてある。

まぁ、お金の話はここまでにしよう。

 

さて、最近女子の間で人気のお店についたので視察してみよう。雰囲気は良さそうだ。

ドアを開けるとカランコロンと可愛い音がした。

「いらっしゃいま…!」

 

 

_____

今日はバイトがある。

雪乃と愛に誘ってもらったケーキ屋さん『angle warmth』でのバイトはなかなか順調にこなせている。

なんせ気心のしれた二人が教育係だから分からないことを質問しやすい。

俺達三人の仕事は主にレジと配膳だが(店内でもケーキは食べられる)ケーキ作りを手伝うこともしばしばある。

と、いっても味付けをすることはなく、飾り付けが主だが何故か俺はここでなかなかの才能を発揮した。

センスはいいらしい。

はじめは人前に立つレジや配膳は正直恥ずかしかったがそろそろ慣れてきた頃だ。

 

ちなみに、ここ『angle warmth』では残り物や失敗作(飾り付けが)をバイト終わりにただで食べさせてもらえる。

「あんまりバイト代たかくないし、なによりあなたたち美味しそうにケーキを食べるんだもの」と節乃さん。

なによりこれを狙っ…美味しいケーキを頂けて俺もホクホク顔である。

ちなみに、チョコケーキがお気に入り。

生地に溶け込んだチョコがしっとりとしていて美味しい。苦いココアパウダーが使われている層もあるのだが、すべての層を口に入れると程よい甘さとなり上品で美味しい。

ちなみにクリームだけをなめるとかなり甘い。…俺好みに。

 

それはいいとして、今日はレジ担当となっている。

レジはドアの真正面となっているので基本的に全てのお客様の接客をすることになる。

まぁ、大丈夫だとおもう…たぶん…いや、俺ならやれる。

 

ドアが開かれる。本日一人目のお客様だ。

「いらっしゃいま…!」

開いたドアの先から現れたのは吉良だった。

 

「おや、優奈ちゃんだ!こんなところで何してるの?」

幸い、雪乃は厨房。愛はバイトを休んでいる。

 

「帰りたまえ」

なんなくいつもの口調で返す

なんで俺はここまで吉良とのエンカウント率が高いんだ!誰の陰謀だよクソやろう!

 

「ふーん…バイト、かな?そっか優奈ちゃんバイトしてたのかー教えてくれたら毎日でも通うのに」

お前の場合、本当に毎日通いそうなのが怖いんだよ!

 

「俺がいつどこでバイトをしたっていいだろ?つーか邪魔だから早く帰れ!」

「彼氏にならバイト先くらい教えておくもんだと思うけどね、なんにせよ報告連絡相談(ほうれんそう)は大事なんだよ?」

鬱陶しいな!

 

「しかし…優奈ちゃんはエプロン姿も可愛いね。いいお嫁さんになりそうだ」

「お、お嫁っ?!」

「ん?想像したの?顔が真っ赤だよ」

「誰がお前との新婚生活を想像するか!」

「誰も僕とのなんて言ってないんだけど、そっか優奈ちゃんはそう思っているのか…」

にこにこと微笑む吉良。

ニヤニヤと笑わないところが逆に怖い…じゃなくて!

 

「だーかーら!バイト中だから帰れって!そしてついでになんか買っていけ!」

「優奈ちゃんのオススメは?」

「チョコケーキ!」

「こういうところだけは素直なんだね…じゃあ、それを頼むよ」

手早く丁寧に箱に入れて手渡す。

「はい、これが商品で…おつりっと」

「ありがとう。それじゃ、僕はこれでお暇するよ」

「二度とお越し下さるなよ」

「やれやれだね」

それじゃと手を振って吉良は店から出ていった。

まったく災難だな。

 

 

_____

「優奈ちゃん、バイトしてたのか…」

帰れと急かされたのでほかにも寄り道をしながら家に帰り、コーヒーを飲みながらチョコケーキを食べている。

なるほど優奈ちゃんのオススメだけあって甘い。

 

さて、今日はここまでかな。あとは家でゆっくりしようか。

メモを取り出してパソコンを起動させる。今日調べたものを書き込む。

まぁ、本当はここまでしなくてもいいんだけど暇つぶしにはちょうどいいんじゃないかな。

そしてケーキ屋さん『angle warmth』のホームページを検索しお気に入り登録をする。

常連になるかもしれないね。いや、僕もいっそのことあそこにバイトとして…

それは流石にひかれるかな。やめておこう。

 

ふぅっと一息ついてベッドに横になる。

それにしても暇だね…そのうちデートにでもいきたいな。

そうして吉良大雅は眠りについた。

 

_____

「はぁ、こんなもんがたのしいのか?」

ムクリと起き上がった吉良大雅は机の上の起動したままのパソコンを見てそうつぶやく。

 

「まぁいい。今日は随分と早寝なようだし、久しぶりにナチュラルな俺の時間だ」

「木下優奈、あいつは怪しい。いや、妖しすぎる。しかも俺よりたぶんタチが悪い」

「まぁ、どうやら向こうは気づいてなさそうだ。気づいたところでどうかできるほどの力もなさそうだが」

「たまには外にでも出てみるか。久しぶりのお散歩だ」

「…しかし、俺から見ても木下優奈…可愛い奴だ」

 

そうして吉良は夜の街へと足を伸ばす。

 

 

_____

その頃木下宅

「ふんふんふん♪ケーキ、ケーキ♪」

「優、あんたものすごく女の子になってきたわね」

「な、なにをおっしゃるうさぎさん!」

「太るわよ」

太るわよ、太るわよ、太るわよ…

「いや、別に俺太るような体質でもないし!」

「優、あなた小さくなったわよね」

「小さい言うな!」

「小さくなったのに、前と同じ…どころじゃないわね、それ以上の甘味を食べてるけどそれはどういうことかわかる?」

「いや、でも多少動けばさ!」

「筋肉量は明らかに減ってるのよ?」

「…でも、実際太ってないし!」

「ふぅん…今のところは栄養が全部ここにいってるようだけど!」

ムニュっ

「ひゃんっ!」

「元男の分際で姉の胸の大きさを超えるとは…礼儀ってものを教えてあげましょうか?」

「いや、なにも俺の好きでこうなったわけじゃ…」

「へー、なら優はむねをちいさくしたいのかな?」

「まぁ、もともとついてなかったもんだしない方が過ごしやすいかもね」

「…チッ。姉ちゃんね、いいマッサージの方法知ってるのよ、胸によくきくらしいわ」

「へ、…へ?」

「オラァァァ!縮めェェェェ!消えろォォォォっ!」

「あんっ!姉ちゃん!ちょっ!あっ、やめっ!」

「くっそー!なんでこんなに気持ちいい手触りなのよ!形も良すぎる!」

 

 

_____

翌日

「…なんか、デカくなってないか?」

(女性ホルモンがでまくったんじゃないのー?)

お、久しぶりだな悪魔

(サキュバスちゃんと呼ぶのデース!)

というか、一日でサイズアップするものなのか?胸って

 

(なんでやねん!そんなわけあるかいな!漫画やラノベの世界や無いんやぞ!)

お前の存在がもはや漫画やラノベの世界だよ

(まぁ、もちろんこのサキュバスちゃんがちょっといじったんだけどね)

おい!

(いやぁ、巨乳俺っ娘とかお主もなかなかやりますな?)

お前がやったんだろうが!

 

 

ちなみに、ブラのサイズが合わなくなった程だという



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すいぞっかん

水族館のこと、すいぞっかんっていいますよね?


「やっぱりいやだ」

朝からめんどくさい。一体なんで男とデートしなきゃいけないんだ。

「まぁまぁ、僕に任せて着いてきなよ。優奈ちゃんの時間は無駄にさせないから」

 

そう。俺は今から吉良とデートにいくことになってしまっている。

ことの発端は吉良の「ねぇ、優奈ちゃん!明日あいてるかな?デートしようよ!」という突然のお誘いから始まり、それに対してサキュバスが「うん、いいよ!」と言ったことで今に至る。

本当に行きたくないので待ち合わせ場所なんかいかずに、家で寝てようと思ったら、待ち合わせ時刻より前に俺の家まで吉良がきやがった。そもそもデートにいきたくないということを置いておいて考えても迷惑だ。

「待ちきれなくて着ちゃったよ」と微笑むその笑顔には恐怖すら感じたよ。

ちなみに居留守を試みたけど、姉ちゃんに引っ張り出されて、きちんとメイクまでされて叩き出された。

 

 

「で、どこにいくんだよ」

「なんだかんだでついてきてくれるんだよね~」

「うるさい」

あぁ、めんどくさい。なんか吉良の手のひらの上で転がされている感じがとても不愉快だ。

「まぁまぁ、落ち着いて。今日はちょっとばかり遠出をするよ」

えー、いやだよけいにいきたくなくなったぞ。休日くらいゆっくり寝たい

「今日は水族館でデートをします」

吉良が人差し指を真上にピンとたてて宣言する

水族館かー、うん、水族館ね。まぁ、いいんじゃない?

「ま、そこまでいうなら連れて行かれてあげなくもないけど」

「素直じゃないな~、優奈ちゃん、結構水族館とか好きなんでしょ」

ぐはっ!なぜわかったこいつ!そうだ。俺は基本水族館とか動物園が大好きだ。

ちなみに虫は無理だ。克服しようと昆虫館にいったら失神しかけたという黒歴史があるので絶対に虫系はいやだ。

ゴキ様はもちろんのごとくクモとかも無理だ。撃退係は姉ちゃんです。しっかり駆逐してくれるよ。

 

 

今から行く水族館は電車で一時間くらいかかる所にあるんだけど、結構デカいらしい。俺はそこには行ったことがないので全くわからない。

吉良はわざわざ下見にまで行ったらしい。なんというか、ご苦労なことだな。でも、ぶっつけで連れて行かないあたり誠意がある。水族館以外にも候補はあったんだとか。

さすが学年トップといったところか、準備にそつがない。

友達(とりまき)と遊ぶときも事前に調べておいたところを勧めるらしい。

 

「混んでるな」

休日だというのに、朝の通勤時間だからか(そんだけ早くに吉良迎えにきたんだよ、チクショー!)電車が混んでいる。残念ながら座れなかった。

「まぁ、二十分くらい我慢すれば空いてくると思うよ。立たせっぱなしでごめんね」吉良がニコニコしながら謝ってくる。本当に謝罪する気持ちはあるのだろうか。

ちなみに今、俺はドアにもたれかかっている。吉良はそれを覆うように向かい合わせで立っている。

自分の彼女を痴漢等から守るためにこうしてたっているんだよ感がハンパない。絶対狙ってこの時間帯選んだだろ。

「吉良近い」

「優奈ちゃんを害から守ってるんだよ」

ほらやっぱり。しかし腹立つな!

「絶対俺に触れるなよ」

「電車は揺れるからね~、保証はできないかな」

怖い。揺れたーとか言いながらボディータッチしてきそうで怖い。

ってなんでそんなことに敏感になってるんだよ俺!

 

しかし、電車の中って暇だな。立ちっぱなしだし、誰かと話そうにもいやな顔でみられるしそもそも吉良となんか話したくないし。

 

_____

「優奈ちゃん、モンブラン飛んでっちゃうよ」

それはだめだぁぁ!

「って、あれ?」

俺のモンブランは何処へ?

「おはよう、優奈ちゃん。そろそろ着くよ」

頭上から吉良の声が聞こえる。どうやら寝てしまっていたらしい。あれ、俺満員電車でたってなかったっけ

「立ったまま寝ちゃったから、席が空いたときに座らせておいたよ。」

「って、うぉい!」

今更ながら自分が吉良に寄りかかっていたことに気づく。かたに頭乗せて眠るとか、付き合ってるみたいじゃないか!(付き合ってるけども!)

「あ、寄りかかってきたのは優奈ちゃんだからね。決して僕からは触れてないよ、念のために言っておくけど」

うっ、嘘だ!たとえ寝ていても俺がそんな失敗するわけがない!

「あはは、さぁ降りる駅だよ」

俺がのんきに寝ている間も気を抜かず起こしてくれたことはありがたいが、そもそも吉良があんな朝はやくにこなけりゃ居眠りなんかしなかったはずなのでお礼は言わない、言うもんかっ!

 

 

「すいぞっかんきたぁぁー!」

テンション上がるなぁ。電車暇だったからね。

「まぁまぁ、落ち着いて」

「とりあえずサメだぁ!サメ!」

吉良がなんか言ってるけど気にしない。

とりあえずデカいやつみにいくぞ!デカさ、それすなわち強さのあかし!

正直走ってでも見に行きたいところだが、残念ながら姉ちゃんに着せられた服や靴が吉良を撒くには向いていないのであきらめる。くそっ!

 

「はいはい落ち着こうね。じゃあご希望のサメたちを見に行こうか」

 

「おー、デカいってやっぱりいいわ」

巨大な水槽を前にして心を踊らせる。サメはもちろんのことエイやそのほか群になって泳ぐ魚達が視界いっぱいに広がっているからだ。

「あー、デカいのに可愛いんだよなーこいつめ」

「あははっ、確かにかわいい顔してるね」

「そうそう。ちょっと間抜けな感じのこの顔がたまらないよね」

と、魚達のおかげ(せいで)すこし吉良と打ち解けてしまいながら館内を見て回る。

「熱帯魚といえばクマノミちゃんたちだよなー、でもイソギンチャクは気持ち悪い」

「僕はツノダシのしましま具合が好きかな、なんかかっこいいしね」

「その感じ俺もわかるかっこいいよな!」いや、さっきはデカいデカいいってたけどさ、やっぱり小さい方が可愛かったりもするわけで、小さい魚がちょこまかと水槽を動き回るのはとても愛らしい。

 

 

 

____

今日は優奈ちゃんと水族館デートにきた。どうやら僕の読みはあたったようで優奈ちゃんは大はしゃぎだ。

高校生の割に子供っぽい…っていうか無邪気だなとか思いつつ僕自身も楽しみながら海の生き物たちを見て回る。

 

「おい!吉良、イルカショーだ!こいつを見逃すわけにはいかないぞ!」

「はいはい、わかったよ」

楽しそうで何よりだ。僕もそこのところは嬉しい。

がしかし、手をつなぐ暇もないんだけど!

前に一度繋いでいるからハードルは低いはずなんだ。今回は『迷子になるよ』という名目で巧みに手をつなごうとしているのだが、見事にスルーされる。

目の前の魚達に夢中でこっちの話を聞いてくれない!

でも、「カメって泳いでる姿も優雅だけど、地面をゆっくり移動しているのもほほえましくていいよね」「それわかる!飛ぶように泳ぐ姿は神秘的だけど、陸でのおぼつかない歩みもたまらないよな!」って感じでコメントにはしっかり反応してくれる。

ま、なんだかんだでどっちにしろ可愛いと思っちゃうんだけどね

 

「あぅー、イルカ可愛いなぁ、しかも跳ぶし。やっぱりテンションあがるぅ!」

興奮しながら食い入るようにショーを見る彼女。

素直じゃないけど、この子といるとやっぱり楽しいなって思える

 

 

_____

「あー、楽しかった!」

結構早くから水族館にいたが、いざ、外にでると空が赤くなりつつあった。

「そうだね。思ったより長いこと楽しめたなぁ、次のデートは動物園とかがいいかな?優奈ちゃん、そっちも好きそうだし」

「いいじゃん、パンダ見にいこうぜパンダ!」

もう正直に言うと朝のような吉良への嫌悪感はなくなった。デートって響きは気にくわないけど、こいつと遊ぶのは結構たのしい。

情報通なので、こいつが勧めるとこは失敗がないんじゃないか?

 

「水族館帰りになんだけど、海でもみて帰らない?心が落ち着くんじゃないかな、ここら辺の海はとてもきれいだしね」

「おう、いいんじゃね?」

せっかくなので誘いにのる。てか、帰りかたもなにもしらないしな。

 

 

オレンジ色の太陽が海の中に沈みゆく。海をみるとなぜか安心するのは俺達を含む地球上の生命全てが、もとは海から生まれてきたものであるからなのだろうか。

なんてへんなことを考えつつ海を見つめる。なんてゆーか、悪くないよな。

海っていうと夏ってかんじがするけど、少し肌寒い今、眺めるだけの海も悪くない。

「優奈ちゃん、はいココア」

自販機で買ってきたであろうココアをあけ、口を付ける

「あつ!」

「ほらまたこぼすよっ!危ないなぁ」

なんか前にもこんなことがあったような気がする。

恥ずかしい。次はやらないからな!

「優奈ちゃん、自覚ないのかも知れないけど猫舌だから気をつけてね。僕も進んで痛い目にあいたいわけじゃないからさ」

ギクッ!そ、その話はやめとくれ

あたふたしている俺を可愛がるような目で見ながら吉良はブラックコーヒーを飲む。なんか腹立つ。

 

「今日のデートはどうだった?」

「ま、まぁまぁだな」

素直じゃないんだからと言いたげに、やれやれといった表情する吉良。

「あー、はいはい、楽しかったですよ。連れてきてくれてありがとう。どうだ、これで満足か?」

仕方がない。ここですねられて置いていかれたりなんてしたら困るからな!仕方ないんだ。

「あはは、満足しないなぁ」

「なっ、なんでだよ!これ以上なにを望んむっっ」言葉の途中で口をふさがれる。

え?

「これで満足。ありがとう!」

ニコッとほほえみかけてくる吉良。

「ちょっとまて貴様、今俺に何をした!」

「えーと、恋人の戯れかな」

「まわりくどい!」

「キスしたんだよ?」

…う、うぁぁぁぁぁ!

キスしちゃったぁぁぁ!

おい、俺のファーストキスをどうしてくれるんだ!

同意も得ずにやるとかだめだろうが!少しは俺のきもちもっ…

って俺男とキスしちゃったぁぁぁ!

あぁ、でも今は女であって特にそれが悪いことかと問われるとべつにそうでもなくて、しかも俺は吉良と(サキュバスに)嵌められたとはいえ付き合っちゃってるわけだし、一回ほっぺにちゅーしたりなんて…

「ゆっ、優奈ちゃん?!」

あぁぁ、だめだ!こいつの顔なんてみてらんねー!

 

俺は訳が分からなくなってその場を逃げ出した。




ゆうな は にげだした!


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俺の気持ち

「やっちまったぁぁぁ!」

い、いやキスのことじゃないんだよ?いや、やっぱりそれもあるんだけどさ、それよりも勢いで逃げてきたから帰りかたがわかんない。

携帯や財布もカバンの中に入れてたし、そのカバンは置いてきたし、今俺何も持ってないんですけど!

(まぁ、自業自得だよね)

サキュバスぅぅぅ!貴様、許さん!

(いやぁ、サキュバスちゃんこう見えていろいろがんばってるよ?)

どこがだ!

(んー、精神の女性化?)

な、なんだよそれ、怖いんだけど

(えーとね、毎日魔力いりの暗示をかけて外見だけでなく内側からの女化に日々勤しんでるよ)

そ、それはやっちゃだめなやつじゃん!

(いや、もう精神の女性化も最後の一踏ん張りってとこだよ。あの男に対しての嫌悪感、なくなってきたでしょ~)

具体的に指摘されて冷や汗をかく。実際そうだ。なんだかんだいっても吉良とデートすることに嫌悪感は抱かなかった。

 

正直、さっきのキスに対しても、男としたってことよりも、ファーストキスを身勝手に奪われるという恥ずかしさと、自分で言うのもなんだが乙女心てきなものの葛藤でパニックになってしまったのだ。

 

「ヤバいなぁ、俺普通に女の子じゃん」

言ってしまった。

 

たぶん、俺は吉良が好きだ。男のままあいつと関わることになったら、友達として好きになっていたかもしれない。

だけど、サキュバスなんかに関わってしまったせいで、最近になって俺はあいつのことを異性として好きになってしまった。

でも、そんなことを認めたくなかった。男らしさを求めていた俺が、女になって数週間で男をマジで好きになるなんてありえないって思いたかった。

(にゃはは、女の子って悪くないでしょ)

あぁ、そうだなまったくだ。

甘いもんは周りの目を気にせず食えるし友達はできるし自慢の彼氏までできちゃったからな。

全部おまえのせいだよ、サキュバス。許さないからな

(素直じゃないね。まぁ、君はいつも気を張りすぎなんだよ。自分の気持ちに素直に生きなきゃ損するぜぇ~)

あー、イライラする。まんまとおまえの策略にはまるとはな。

おかげでいろいろと整理できたけどさ。とりあえず

「どうやって帰ろうか」

たぶん、ここは駅の近く。海からもそんなに離れていない。ただ、闇雲に歩くと迷う気がする。

吉良ぁ、助けてー

空はもう薄暗くなってきている。日の沈むのがお早いことで。

 

「そこの姉ちゃん、なんやみちにでもまよったんかいな」

唐突に後ろからかけられた声に肝を冷やす。

勇気を振り絞って振り返ると

「優奈ビビった?」

「もうっ!愛ったら、普通にこえかければいいのに」

見慣れた二人組がいらっしゃった。

「え…え?」

「驚きすぎだよ!私達このあたりにあるショッピングモールにいって、そのままブラブラしてたんだ」

「私達って…僕はつれてこさせられたんじゃないか」

「文句言わないの!というか、優奈も誘ったと思うんだけどなぁ…いつのまにかうやむやに」

「そういえば、そんなことあったような…」

「とはいえ、優奈はどうしてここにいるの?」

「…ぬぬぬ!もしかして、男では?」

うぐっ!

「え、優奈彼氏いるの?!」

これはヤバい。吉良と付き合うことになってしまってから二週間くらいだけど、ついにばれてしまうのか?

「僕の予想だとたぶん吉良君」

「うにゃっ!」

バッチリ当てられたぞ

「その反応…ふーん、なるほど。そういえばちかくに水族館があったよね。デートかな?」

「そ、そんなこと」

ビクンッ

ヤバい。二人の察知能力半端じゃない。

 

「そうかそうかぁ、デートかぁ。しかもあの吉良君と。よかったね、私は応援するよ!」

「いや、あの、その…」

「むむっ、雪乃殿!肝心の吉良君がみつからないでありますっ」

「そういえばそうだね。てか、優奈かばんは?」

「いやぁ、それがさ…」

「ここにあるぞ」

またもや後ろからかけられた声にぞっとする。なんなんだよまったく。

例によってビクビクしながら振り返ると、吉良がいた。

 

「あ、吉良」

「あ、じゃねーよ心配かけやがって。携帯までおいてくか?財布も持ってないだろ」

「お、おう」

なんだろう、いつもと吉良の雰囲気がちがう。っつーか優しくねぇ!

てかなんだこいつ!何で居場所がわかったんだよ!怖い。ありがたいけど逆に怖い!

 

「雪乃、ここはとりあえずひくべし!な気がする」

「仕方ないなぁ、うん、若い二人の邪魔はできないしね。優奈、学校で事情聴取だからね!」

2人は空気読んで帰ったのかもしれないけど、やだ私2人と帰りたかったのですわ!

うぉー、気まずい!俺を吉良と2人きりにしないで!

 

「はぁ、なんかよくわかんねーけど、俺達も帰るぞ。遅くなる」

「はっ、はいぃ!」

もはや声も変わってるよ!顔とか変わんないのに全体的に怖いよ!

てか、前にもこんなことなかったっけ?

(あったね。おー怖い。サキュバスちゃんはおとなしくひっこんどくよ。おやすみん!」

り、リタイアしやがったぞあの悪魔。そんなに危ないのか?こいつ

 

「優奈ちゃん、大丈夫?本当に見つかって良かったよ。さっきはごめんね」

「おっ、おう?」

あれ?戻ってる。なんだよ本当にこわいよさっきの!ほんとに二重人格かよ!

「さっ、予定がズレちゃった。優奈ちゃんのお姉さんが変な心配しないように帰ろうか」

この若干嫌みな冗談言うのは間違いなく吉良だな。

あぁぁあぁぁあぁぁ、どうしよう。…んっ、よし決めた!

 

「吉良っ!」

俺はとりあえず、ここで男(・・・)らしくガツンと決めてやることにした。

サキュバスの思い通りになってしまうってのはいやなんだけど、こればかりはしょうがない。

「今日はごめん!俺恋人らしいことしなかったしお前をほったらかして…っていうか避けて1人で楽しんでた!でも…」

次の言葉を言ってしまったらもう後戻りはできないかもしれない。

まぁ、覚悟は決めた。これからは、女(おとこ)らしく自分に素直にやってやるぜ

 

「でも、俺はおまえのこと好きだからな!」

吉良が大きく目を開く。どっ、どうだ!一矢報いたんじゃねぇの?

とかいいつつ、自分の体が熱くなるのを感じる。勢いよく放たれた矢は、的にどう受け止められるのだろう。

「あはは、今日の優奈ちゃんはなかなか素直というか……そっか。」

そういいながら吉良に抱きしめられる。まぁ、いやな心地はしないかな。

「ありがとう、優奈ちゃん。でもね、優奈ちゃんがなにもしてくれなくても、僕は楽しかったよ。あと、優奈ちゃんは僕とちゃんと2人でたのしんでたからね。僕に話しかける姿は小学生か幼稚園の子供のような無垢そのものでとても微笑ましかったよ」

俺を抱きしめながら、耳元でそっとつぶやかれる。おれは顔を真っ赤にして

 

「うぐはぁっ」

吉良のみぞおちを殴った。

「おまえ!ばっ、バカにしてるだろ!」

「ごほっ!まぁ、怒ってる姿も可愛いよ。」

くっそ!いつもならここでもう一撃といきたいところだけど今はそんな時間もない。

とっ、特別に今日だけは許してやろう。

「帰るぞ吉良」

「そうだね。」

 

行きと同じく窓側でくっついたまま帰った。別に席は空いてたんだけど、吉良がどうしてもっていうから仕方なく。

うん。仕方なくだよ。

 

 

俺の家までの帰り道を2人で並んで歩く。

いつものように、わざわざ自分の家を通り過ぎなければいけない道を行く。

いや、先に言っとくけど手をつないだりとかそういうのはないから。

はい。まだそういうのは抵抗あるっていうかなんていうかまぁ、その…ね。

歩きながら今日のことを振り返る。色々あったけど一番心に残っているのは…

あ、そうだ事情聴取とかいわれたんじゃないか!うわっ、めんどくさっ!

女子のそういう恋愛が絡む話って超めんどくさそうなんだが。

 

まったく…一日一日を暮らすだけでも大変なのにな。

「あぁ、問題が多い」

「何か言った?」

一番の問題はこいつだな。

まったく、よりによってこいつを好きになるなんて。

「あ、そうそう」

「なんだよ」

「そろそろ僕のこと、″大雅″って呼んでくれてもいいんじゃないかな?」

「は?」

「僕は優奈ちゃんって呼んでるんだからさ、僕のことも下で呼んでくれるとうれしいなぁ」

期待のこもった____まるで撫でられるのを待つ子犬のような目で俺をみる吉良。えー、ちょっとなにこれ気持ち悪い。

「断る」

「隣町の限定プリン」

うぐっ…!

「たっ、た…」

「うんうん、た?」

「たいがいにしとけよ吉良っ!そっ、その手には乗らんからな!」

卑怯だ!限定プリンなんて!しかし今回は負けない!

「優しくないなぁ優奈ちゃん。名前に優ってつくくせにね」

「うるさい」

 

うだうだと言っているうちに家に着いた。こういう時間も今は悪くないと思える。

「それじゃあ、またね優奈ちゃん」

「はいはい。…おやすみ」

「っ、おやすみ!」

ニコニコ笑顔の吉良。ふへへっ、そんなに俺のおやすみが嬉しかったのか。そうかそうか。

俺が家の中にはいるまで帰ろうとしない吉良。ちゃんと見送ってくれることにすこし心が温かくなる。

 

ふと、ドアの覗き穴から様子をうかがってみる。俺を送って寂しいのか、その背中に元気がないような。

うんうん、そんなに俺が好きか。うんうん。仕方がない。魂が抜けたような背中をしている吉良に今日の褒美をくれてやろう。

とぼとぼと帰る吉良に忍び寄り後ろから抱きつく。

「気をつけて帰れよ、なんかぼーっとしてたよ」

「優奈ちゃん…わざわざまた家から出てきたの?」

「事故でも起こしそうなくらい魂の抜けた背中だったからな」

「それは激しい思いこみだと思うけど…ま、ありがとう。気をつけて帰るよ」

「そうそう。"大雅"に怪我でもされたら彼女である俺の夢見が悪くなるからな。月曜日も元気に迎えに来たまえ」

 

 

俺は別に、デレてなんかないんだからな。




第一部、完!(はやい)


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番外編 作者の陰謀

投稿予約を忘れていました…
本編進みません。
萌の補給に数分チャージ!



ピンポーン

「はーい」

 

「よっ!」

「おう」

今日は隆士が家に来た。

なんのことはない。遊ぶだけだ。

吉良は今日は用事があるようで、2人で遊ぶ久々の休日。

俺の体が女なので、変な誤解を招かないためにも家で遊ぶことになった。

吉良の嫉妬も怖いが、隆士の彼女さんはそれ以上に怖い。

 

「久しぶりだな、優」

「まぁ、しゃーないだろ」

吉良が迎えにくるので一緒に登校しなくなり、吉良と一緒に帰るので、まったくあう場所がない。

雪乃&愛もいい友達だが、素を出せるこいつと疎遠になることは避けたい。

 

「飲み物はコーラでいいか?」

「おう、サンキュ」

コーラを2つ用意して俺の部屋へ運ぶ。

さすがの俺でも炭酸はのめるぞ

ってなにいわせとんじゃい!

 

「で、その後どうよ?」

「あぁ…いろいろめんどくさいぞ。」

「ほむほむ。例えば?」

「吉良と付き合ってる」

「ブッフォっっっ」

…。

驚くのはいいが俺にコーラをぶちまけるのはいかがなもんかと。

「殺すぞ隆士」

「だって、おまっ、吉良って」

ウヒャヒャヒャヒャと転げ回る。

処すか。

 

「姉ちゃん直伝鉄拳制裁!」

説明しよう!鉄拳制裁とは、女の子の小さな拳を最大限に生かし、ピンポイントで鳩尾を殴る暴漢撃退法だ!

お姉様の女の子講座で習わされたわけだが、とても役に立ったな。

反復練習を欠かさずやっておいてよかった。

「風呂入ってくるからそこでしばし転がっておくがよい」

「オグゲ、ガガウガ」

何を言ってるかわからんがほっとこう。

髪の毛べたついてキモイしな。

 

____

みんな、お久しぶり。みんなの味方隆士だ。

今日は記念すべき10話目ということで、作者より

「やらかしてこい」という命を受けて遊びに来た。

ところで、動けないんだけどどうしよう。

とりあえず優を剥くことには成功したんだが、みんなが望む次の展開には行けそうにない。

なんで彼女持ちの俺がこんなことまでしなきゃいけないんだよ。

出番があるのは嬉しいけどさ。

あー、気分悪いけど体はそろそろ動くかな。

 

ピンポーン

え、なに、誰?

優は風呂長いんだぞ!あいつシャワーだけじゃなくて湯船までつかる奴だからな!

「はいはい、でますよ…」 ガチャ

「なんで男が優奈ちゃんの家にいるのかな?」

「さぁ、どうしてでしょう」

噂の吉良君来ちゃったよ!?

「いくら優奈ちゃんが可愛いからって不法侵入はよくないな」

俺は懐から武器を出す。

「俺が好きなのはこの子だ!てかこれが彼女な?俺彼女もち!優とはただの親友だ!」

必殺、俺の彼女とのプリクラ集だ。

「浮気は良くないよ」

「やだなぁ、ただの幼なじみですよ」

こいつ怖い!帰りてぇ!

「まぁいいや。とりあえず一発殴らせて」

なんで!?ちっ、仕方がない。

「優の成長の過程を見せてあげよう。それでどうだい?」

「いい友達になれそうだね。僕のことは大雅と呼んでくれるかな?」

分かりやすいな、逆に怖いぞ。まぁ、いいや。

「あぁ、よろしく頼むよ大雅。」

「ところで幼き日の優奈ちゃんは?」

そんなにみたいか!どんだけ溺愛してんだよ!

「まぁまて。それよりもっといいもんがあるぞ。ついてこいよ」

少々無理矢理だけど俺にとっては好都合!

 

さてさて、時は満ちた。

「…ここは?」

「洗面所だ。もとい脱衣所。奥には風呂場がある。」

「つまり?」

「彼女がいる手前俺がこれをやるのは世間体が気になるからな。彼氏ならいいだろ。きっちりイベントこなしてこい!」ガチャっと風呂場のドアが開く音がする。やっとあがって来やがったか。

「お膳立てはしてやる。後はつっこめ!」

小声で話し、親指を立てる。俺ができるのはここまでだ。

洗面所の鍵なんて爪で開けられるからな。

俺は洗練された技術で鍵を開ける。まぁ、彼女の風呂上がりをちょっとのぞくために身に付けたけど、未だ一度も使ってない。優には練習台になってもらおう。

「幸運を祈る」

「なんのことか、っうわぁ!」

扉を開けて大雅をつっこむ。

やらかしてこい!

 

さて、俺の出番はこんなもんか?

鳩尾も痛むし帰るかな。

あとはバカップルにまかせよう。

 

____

「ふぁ~。」

湯船につかる。いやぁ。風呂はいいよね。命の洗濯とかよく言ったもんだよ。

友達部屋において風呂とかありえないかもしれないけど、まぁそんなことができるくらいなかいいのさ。

…あいつにジュースかけられるのは初めてでもないしな。

 

危険なので寝ちゃう前に湯船から上がりシャワーを浴びる。

「しっかし、たいしたもんだな」

鏡に映る俺の体。いやぁ、なんというか素晴らしいよ。

俺が男だったらじっとしていられないね。

吉良に見せても恥ずかしくはないな。それぐらい凄い。

(そこらへんはサキュバスちゃんの力の見せ所だからね)

そういや、結構イチャイチャしてると思うんだが、魔力のたまり具合ってどうなのよ?

(あぁ、おいしくいただいてるよ!産地直送は違うわ~。これからもよろしく!)

おいしくって…。

(まぁ、男に戻るのは無理に等しいよね)

まじか!なんだかんだ言って戻れたらいいなぁって一応おもってたんだけど!

若干気落ちしながら風呂場を出る。

 

 

「はぁ、タオルタオル」

女になって髪の毛が伸びたので乾かすのがめんどくさい。

体が小さくなった分拭く面積は減ったけどさ

いや、俺はペタじゃねえからそこの面積はあるぞ?はっはっは!

 

「うわぁ!」

「ん?」

見慣れた男が目の前に現れる。

「吉良?」

「や、やぁ優奈ちゃん。今日はとても…刺激的だね」

そういいながら吉良は俺に背を向けた。

はぁ?刺激的?

なんのことだ?

(まぁ、自分の体見ろって話だよね~うししし)

急にでてきたらビビるわ!サキュバスさんほんと心臓に悪い

俺の体?

髪の毛拭いてるから頭にタオル乗ってるけど他には変わったところないぞ。

 

いや、ちょっとまて

「おい吉良」

「何かな優奈ちゃん?」

「お前見ただろ」

「…なんのことでしょう」

あれだよね、つまり

「おっ、おまえ俺の裸見ただろっ!」

ヤバい!俺タオルで隠してすらなかったぞ!

「うん。とても素敵な体だっ…優奈ちゃんごめんっ!」

「獣(けだもの)がぁ!地獄に堕ちろ!」

「その前に服を着て欲しいなぁ!」

 

そもそもなんで吉良がいるんだ!

隆士は何処へ行ったんだ?

「お邪魔しました~、あとはごゆっくりね~」

 

…アイツかぁ!

 

 

「それではいまから反省会を始める。」

ちなみにちゃんと着替えたぞ。

いつでも制裁できるように中学時代のジャージを着用した。動きやすい。

髪の毛はまだ乾いてないが、自然乾燥でどうにかなるだろ。

 

目の前には正座をした男が2人。

1人は逃げようとしていたので吉良に捕まえてきてもらった。

「で、どういうことだ?」

「いやぁ、僕は彼に押されて」

「大雅がのぞいた方がお前も嬉しいだろ?」

…。こいつらはほんとに…。

「謝罪くらいしたらどうなのかね?ん?」

「目の保養をありがとう」

「役目は果たした」

 

「鉄拳制裁!」

ダメだこいつらバカだった。

隆士は再び床に沈む。吉良はなんか避けやがった。

1人ずつ尋問しよう。

「隆士、お前はなぜ覗きをしたんだ?」

「いやまて、俺は覗いてない。鍵を開けただけだ。」

キリッとした顔で訂正しやがった。

「…ほう。では何故鍵をあけたんだ?」

「それは俺のサービス精神がものを言ったのさ。」

「死ね」

人の裸(からだ)を見せ物にしやがって!

「吉良、お前は何故覗いたんだ」

「悪いのは全部隆士君です、無理矢理押し込められました!あと、僕はすぐに振り向いたので見てないです!」

なんだこいつのノリは!小学生か?俺は先生じゃないぞ!

とぼけるのもいい加減にしてもらおうか。気は進まないがこちらも手札を切ろう

 

「俺の裸の感想を述べよ」

「白い肌が風呂上がりなことで赤みを増し更に濡れた髪の毛と相成って淫靡な雰囲気を漂わせ、麗しき女性の象徴は」

「うっ、うるさーい!」

失敗だ!俺へのダメージが大きい!

「僕に言わせてもらうと優奈ちゃんの裸はそれこそ芸術で」

「バッチリみてるじゃないかー!!」

 

おぉぉぉう!もうお嫁に行けねぇ!

あぁ、もう無理!恥ずかしい!

「誰に見せても恥ずかしくない裸だったね…ハッ!冗談、冗談!」

くそっ!嘘でも見てないって言ってくれた方がマシだったぞ!

吉良に反省なんかさせようとした俺がバカだった!

なんなんだあの表現力!気色悪い!

 

誰だよ、吉良に見せても恥ずかしくはないなとか言ったの!

いや、俺だ!

恥ずかしいわ!

もう無理!寝る!

 

____

「お疲れ様だな。あとは頼むぞ。」

僕の肩に手を乗せてこの場を去る隆士くん。

若干むっとするけど、優奈ちゃんのはだ…あられもない姿を見ることができたので好感度は上々だ。

「やれやれ。今度隆士くんとはゆっくりと話がしたいものだね。」

「じゃあ、殺されな…優がおとなしいうちに俺は帰る。後片付けはよろしく!」

自分の未来を暗示したのか颯爽と駆けていく隆士くん。

…裸足じゃないか!サ○エさんも真っ青だね。

 

さて、僕は眠れるお姫様を叩き起こしますか。

「優奈ちゃん」

「zzz」

…。かわいい。

zzzって口で言っちゃってるところにキュンとする。

「シュークリームがあるんだけど」

「……zzz」

むっ、なるほどね。

布団にくるまる優奈ちゃんも猫みたいで可愛いが機嫌を直さないと優奈ちゃんのお姉さんが怖そうだ。

まぁ、敵に回すと厄介そうだしね。

 

「優奈ちゃんの裸は「死ね」」

怖い怖い。なんてね。

「起きたんだね優奈ちゃん。」

「帰れ」

「分かったよ、からかってごめん。」

「一生の恥だ」

「…そうでもないんじゃない?」

「お嫁にいけねぇわ」

「僕と結婚すればいいじゃない?」

「…。」

沈黙。

うーん、今回も重傷だね。

 

「そもそもお前なんで家に来たんだよ、用事じゃなかったの?」

「うん。優奈ちゃんにあいにくるついでに用事は済ませてきたよ。」

「…はぁ。」

優奈ちゃんってため息が多いよね?幸せが逃げて行っちゃうのになぁ。まぁ、そうなったら僕が幸せを運ぶまでだけど。

優奈ちゃんには僕の言葉は全て冗談に聞こえてしまうのかな?

結構真剣に考えているのにね。

 

「吉良ってさぁ」

「なにかな?」

「俺と結婚して養うつもりあるの?」

…なるほど、そうくるか。

「もちろんだよ、僕に任せて」

これでも将来のことはちゃんと考えているんだ。かなり早いけどね。

なんだかんだで僕は真面目(•••)だから、優奈ちゃんとの幸せな結婚生活の予定はしっかりとたてている。

 

優奈ちゃんがいやがらなければだけどね。

「ふーん。高校生の分際でねぇ」

「ははは、それもそうだね。でも、幸せな暮らしは保証するよ。努力は惜しまないさ」

ふぅ、何でこんな話になっちゃったんだろう?

なんか今日の優奈ちゃんは様子がおかしい。

 

「今日は帰って。また月曜日な。しゅーくりーむは置いてけ」

「はい、姫君の仰せのままに」

「きもい」

ふふふ、そんなことをいいつつも頬をそめる優奈ちゃんはとても愛らしい。

楽しいな。と、ほどほどにしないとまた怒られる。

バイバイ

 

____

あぁ、今日はおかしくなってしまったな。

なんだよ結婚って、あはは

 

吉良と結婚かぁ…

 

結婚んんんんっ?!

何言ってんだ俺は!あぁぁぁぁ!

お嫁にいけないってなんだよ!なんでお嫁にいくの前提になってるんだよ!

男に裸みられたくらいでなんだ!

学校でも宿泊するとき風呂で見られたろうが!

なに吉良に責任とってもらおうとしてんだあぁぁぁぁ!

 

コレはあれだ。風邪かなんかで頭がおかしくなってるんだ。

寝れば治る!

っっ!その前にしゅーくりーむだ♪

 

うん、甘い。




人気を出すためにとりあえず、ヒロインを脱がせようと。そんな陰謀(おい
ちなみに吉良君、チラッとですが胸は見えたんだとか
「どこがとは言わないけどピンク「鉄拳制裁!」」


次回から二部です。恐ろしく不安ですが。


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第二部
隆士の彼女さん


「なぁ、吉良」

「なんだい?優奈ちゃん」

俺達は今登校中だ。ちなみに、デート明けの月曜日である。

「たしかに、デートのときに俺はお前が好きだといったかもしれないが、忠告しておくぞ」

「ん?」

「過剰なスキンシップは禁止な!」

「過剰とは?」

「なんというか、あれだ、不順異性交遊的なあれこれだ」

「具体的には?」

「あー、えー、あーっと、…だから、急にキスするとかだ!」

「急じゃなかったらいいのかな?」

「いや、断じてそんなことはない!」

「えー、そんなー」

不意に顎に手を添えられる。

そのままクイっと持ち上げられ

「こんなに麗しい唇が目の前にあるのに、優奈ちゃんは我慢しろっていうの?」

「………………!」

「ん?」

「だから!そういうのをやめろと言ってるんだこのバカ!」

本気で顔面を殴りにいくと、空いている左手でひょいと受け止められた。

「さぁ、そんなことより学校にいかなきゃだね、優奈ちゃん」

「離せぇぇ!」

そのまま手を繋いで学校まで引きずられる俺だった

 

 

_____

「それで、優奈はいつから吉良くんと付き合い始めたの?」

ただ今俺は絶賛取り調べ中です。

「えーっと、転入してきた日?だっけ」

「あんさん、そりゃはやすぎやしねぇかい?おぅ?」

ちなみにこの変なしゃべり方はもちろん愛である。

どこから買ってきたのか、俺の目の前には『カツ丼風パン』が置かれている。

…俺の母親は料理しないんだよね。

 

「それで、きっかけはどうなの?」

「えーっと、吉良…君が突然告白してきた。」

「そのあたりを詳しく聞かせてもらおうじゃねぇかい?おぉぅ?」

…。

「えっと、転入してきた日に朝から学校に手続きに行ったら吉良君がいて、学校を案内してもらったんだ。その時に放課後に体育館に来るようにって言われて」

「あぁ、告白スポットだって聞くもんね」

「さぁ、そこでなにがあったんでぃ?おぉぉぅ?」

「そこで、僕と付き合ってくれないかな?と言われて了承した」

「軽っ?!」

「ねぇちゃんよぉ、そりゃ軽すぎるぜ!」

…確かにこれ聞いただけじゃただのビッチさんになるじゃないか!

あ、そうだ!

 

「えっとね、実は話には続きがあって。さらに過去…というか転入の一日前に遡るんだけど」

「「ほぅ?」」

「えーっと…、こ、こっちで住むのに必要なものとかを姉ちゃんと一緒に買いに行ったんだけど、その時にその…集団にナンパをされて」

「「されて?」」

「ちょっとした揉め事になっちゃって、危うく連れ込まれそうになったんだけど、そこに吉良君が助けに来てくれたの」

「おぉー!」

「詳細!詳細プリーズ!」

「えっと、伝説の不良の如くナンパ男達をなぎ倒して忠誠を誓わせたんだ。あ、その前にも道に倒れてた私を介抱してくれてたりしたっけ」

「ちょっとそれ吉良くんイケメンすぎない?」

「そら、惚れるわぁ!惚れちまいますわぁ!」

二人とも目をキラキラとさせている。

今思い出しても、確かにあれはイケメンだな…って、何を言わせる!

 

「そうかー、吉良くんかー。クラス単位で何かをする時っていつも吉良くんが動いてるもんね。気も利くしいい人だと思うよ!」

「そのてん、僕たちの優奈もとにかく可愛いし、とにかく可愛いし、やっぱり可愛いから申し分無しだ!素敵なカップルですな!」

「か、可愛いって連呼しないで!」

「赤くなってるよ?そんなところが可愛いよね、優奈は。反応が新鮮なんだよ」

「優奈可愛い優奈可愛い優奈可愛い優奈可愛い優奈可愛い…」

「愛っ!」

「怒った優奈も可愛いですぜー!」

「…もう!」

俺ってこんなにいじられるようなキャラだったけ?

…いや、そうか。これが友達か。今まで友達なんて隆士くらいしかいなかったっけ。

やっぱり、一番仲がいいのはこの二人なんだけど最近はクラスの人との会話も増えてきた。

これが女の子になったおかげ…女の子になったせい(・・)だとすると複雑な気持ちになるな。

あぁ、なんかだんだん俺この体での生活に充実感をおぼえてしまってるような。

 

 

_____

「昼休みは盛り上がってたようだね?」

現在、吉良と下校中。

「あぁ、前のデートを知られてたからな。事情聴取だってよ」

ちなみにカツ丼風パンはなかなかの一品だった。うちの購買も捨てたもんじゃないな。

「こんど紹介してもらわないとね。神谷さんと桜木さんに」

「えー」

「まぁまぁ」

 

まぁ、そんなくだらない話をしていると前方に隆士の姿が。あ、あれは…

「よぉ、隆士」

「おぉ、優奈ちゃんか」

「…隆士、この子はだ・あ・れ?」

泣く子もお漏らしするような声色で隆士に話しかけたのはこの前言った隆士の彼女さん。

会うのは久しぶりだな。

あれ?そういや吉良どこいった?

「だから、えーっと、言っていいのか?」

「おう」

「優ちゃんだよ、優ちゃん。忘れたわけじゃないだろ?俺の親友の!」

「あぁ、木下くん…いや、私の中の木下くんは男の子なんだけど!」

「大きな声では言えないけど、女の子になっちゃったらしいんだなこれが」

「は?」

「まぁ、色々あったんだよ新田さん」

久々に右目で魅了(チャーム)。

(はい、男への道のりがまたもや一歩後退しました!)

脳内で悪魔が騒いでいるが気にしない。

 

「そっか、久しぶり木下…くん?ちゃん?」

「優奈でいいよ」

新田(にった) 美玲(みれい)さん。隆士の彼女。

ほどほどに長い黒髪をポニーテールに結んだメガネ美女。うちの姉ちゃんから残念感をひいた感じ。

なんで隆士が新田さんと付き合えたのかという疑問が耐えないようないい人だ。

大人っぽいけど同い年。ものすごいヤキモチ焼きなところもあり可愛い。

なんか、改めて考えると完璧だなこの人

 

「あれ、修羅場にはならなかったみたいだね」

どこからかやってきた吉良、おい修羅場ってどういうことだ

「やだな、ちょっとした遊び心じゃないか。そんなに睨ま…ごめんなさい」

「こいつは俺の彼氏。吉良大雅、ご察しの通り性格悪いです」

「そんな紹介をする優奈ちゃんなかやか性格悪いよね?似たものカップルってことかな」

なんだ、この何事もポジティブに捉えられてしまう感じ!

「まぁ、冗談はいいとして、こんにちは隆士くん、…あと隆士くんの彼女さんかな?」

「おー、こいつは俺の彼女。新田美玲。見てのとおり俺にはもったいないくらいの美人!」

「僕の優奈ちゃんのほうが美しいね」

「なにをおっしゃる、優ちゃんはどっちかってと『可愛い』部類だ。『美しい』はうちの美玲が頂く!」

「ふっ、僕の優奈ちゃんは「やめい!」

なんで道端でこんなに恥ずかしい思いをしなけりゃいけないんだ!

「褒めてくれるのは嬉しいけどなんかペット扱いされてるみたいで不快だったわ」

不機嫌丸出しな発言だが、顔はほんのり赤くなっている。

…可愛いさでも勝てねぇんじゃねぇか?

って!なんで俺が可愛いさで勝つ必要があるんだよ!

 

「まぁ、確かに新田さんも素敵そうな女性だ。よろしく頼むよ」

「まぁ、あなたも木下くん…ちゃんを大切にしてるようだし悪い人じゃ無さそうね」

「さて、なんならこんどダブルデートでもするかい?大雅」

「さすが隆士くん、いい事を言うね」

「何勝手に話し進めてるのよ!」

「新田さんの言う通り!」

「はぁ、木下く…優奈ってよんでいい?私も美玲でいいから」

「うん」

「じゃあ、優奈も大変な彼氏を持ったようね。お互い大変だろうけど頑張りましょ。まぁ好きだからいいんだけどね」

吉良と二人、盛り上がっている隆士を見つめるその顔は恋する乙女。

やっぱり、可愛いさ、美しさで美玲に勝つことなんてできないだろうなと思った。

 

ってだから俺は張り合う必要ないじゃないか!

 




ちなみに美玲さん、私の大好きなキャラ3人から要素を頂いてそこに眼鏡要素をたしました。いや、名前はオリジナルなんですけどね。
と、いうわけで二部がはじまりました。
恋愛、ツンデレ要素を抜くことはありませんがサキュバスちゃんや吉良様にスポットをあててファンタジー色が濃くなります。
まぁ、彼女さんの登場も布石だったりなんだったり。

ちなみにモチーフのキャラは9人の女神のハラショーさんとスピリチュアルさんとイミワカンナイ!さんです


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観覧車

「はい、おそらく悪魔です。そうです、影響は大きいようです」

とある女性が電話を通じて誰かと会話をしている。

「はい…そうですか…、わかりました。到着まで待機ということですね」

はぁとため息をつきながら、女性は電話を切った。

_____

「はぁ、本当に行くのか」

隆士と吉良考案のダブルデートが実現してしまった。

知らぬ間に互いを親友とまで呼ぶようになった二人は恐ろしい速さで計画を立て俺や美玲さんに有無を言わせず今日に至る。

「まぁ、それでも久々のデートだから私は嬉しいわ」

さすが完璧美女美玲!懐の深さがちがうぜ!

「久々のデートなのか…ほんとダブルデートでごめんね美玲」

「まぁ、優奈と吉良くんだから大丈夫よ。ダブルデートってどういうものかは良く分からないけど、とりあえずは楽しそうだしね」

女神だ!女神がいらっしゃる!

 

二人いわく、今回のテーマは『遊園地デート』

遊園地、といっても今日きたのはテーマパーク。子供っぽいものではなくてちょうど俺たち向けのアトラクションが立ち並ぶ。

これまた少し遠出なのだが楽しそうではある。

ちなみに今回車両の中ではきっちり四人で座れた。

いや、なにも期待なんかしてないけどね?!

 

「さて、とりあえずどこからか進もうかな?みんなどうする?」

さすが吉良、進行に無駄が無い。慣れてるんだろうな。

ちなみに吉良は俺と過ごす傍らしっかり友達とも遊んでいる。

勉強してるのかとか、そのお小遣いはどこからきてるんだとか色々聞きたいことはあるけど、まだ聞けてはいない。

どうやら数多くいる友達には誰にも俺という彼女の存在を知らせてないだとか。

表立って紹介されるよりはましだが。

 

「ジェットコースターとかどうよ?」

「ジェットコースターがいいと思うわ」

「なら、ジェットコースターで決まりだね」

いや、俺の意見は?!言葉すらはっしてないぞ!

「まぁ、ジェットコースターでいいけど」

あいにくジェットコースターは嫌いじゃない。やっぱ、登っていくのはキリキリと恐怖が登ってくるが、落下が始まれば開放感がいいよな。

 

何故か、並ばなくても済むという謎のカードを吉良が持っていたおかげですぐにジェットコースターに乗り込めた。

しかしあのカードなんだ?そして、なぜ吉良があんなものを?!

湧き上がる疑問を、「まぁ、吉良ならなんでももってそうだもんね」ということで自己完結をさせ楽しむことに集中することにする。てく

横一列でジェットコースターに乗り、安全装置をしっかりつける。

「…この安全装置心許ないな」

「それは優奈が痩せているせいね。まぁ、胸がいい安全装置になってるんじゃない?」

「…。」

まさか美玲がそんなシャレをいってくるとは…

「ふふっ、素敵なストッパーだね!優奈ちゃん」

「お前は後で殺す」

「うちの美玲の方がおっきいけどな!」

「声がでかい、殺されたいの?」

ちなみに俺たちが乗ったジェットコースターは足がブラブラするタイプ。

はっきり言おう、怖い。

 

ガタガタガタガタ…大きな音を鳴らしながらコースターがのぼっていく。壊れたりしないよな?

「吉良、怖くないのか?」

「そうだねー、落下が楽しみ。優奈ちゃん…怖いの?」

怖いの?に若干の嘲りが伺える。彼女相手にその態度とはなんじゃ!

片方の手が暖かく包まれる。

「これで安心だね」

するともう片方の手も暖かく包まれる。

「優奈、死ぬときは一緒よ」

おぉ、仲間がいた!

 

恐怖の時間も終わり、いよいよ降下に入った。

ここはやっぱり楽しいんだけど、足!ブラブラしてるよ足が!

「ヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「あははははははははははは!」

男子二人はとても楽しそう。いや、足がブラブラしてるんだぞ!

しかし、風がすごいな。冬故に寒い!

 

ジェットコースターのゲートから出る頃には、男子二人はハイテンション、女子…二人はお通夜のような状態になっていた。

「でも…これが癖になったりするのよね」

「そう、そうなんだよなぁ…なんか乗りたくなるんだよ」

といっても、俺も美玲も充分とジェットコースターを楽しめたのだった。

 

「次は、3Dシアターあたりがいいか?」

「そうだね、ここから近いし人気だからいいと思うよ」

趣味が似てるのか男子二人は結託している。急速に深まるこいつらの友情が怖い。

「3Dか…」

「3Dね…」

こっちもこっちでどうやら趣味が似てるらしい。

「ん?美玲、怖がってんのか?」

「優奈ちゃんは苦手だったかな?」

ニヤつき方がそっくりである

「さぁ、いくわよ」

「遅いぞお前ら」

 

入り口で3Dメガネをもらう。

「優奈ちゃん、眼鏡もにあいそうだね、サングラスでもプレゼントしようか?芸能人に間違われるよ」

「それはないだろ」

「ブフォッ、美玲ダブルメガネじゃないか」

「うるさいわね」

なかなか賑やかな集団である

席は女子を真ん中に、男子がサイドを固める。

自分を女子にカウントするのをためらわなくなってしまった悲しさ。

あ、トイレはもう余裕です。男子も女子もどちらのトイレも難なく入れるね。

まぁ、そんなことすりゃ痴女だけども。

映画に合わせて席が揺れたりする。

それは全然余裕なんだが、こちらにむけて岩やボールを投げつけてくるのはやめて欲しい。

「優奈ちゃんってこういうの顔を動かしてよけそうだよね」

「うるさい!そのとおりだけども。っと危な痛っ!」

飛んでくるボール(ただの映像)を華麗に避けると、美玲と頭をぶつけた。

「うぅ…」

「…いたた、ごめんなさいね」

「おう、いやこっちもゴメン」

「映像なのに、どんだけムキになってよけてんだよ!ハハハハ」

「「おまえ(隆士)、後で殺すからね」」

 

四人でご飯を食べその後も遊び日も傾いてきた頃、そろそろ帰ろうかとお約束の観覧車に向かう

「それじゃ、お先に」

ここの観覧車は別に四人でも乗れるのだが、せっかくなので別々にのる。なんというか、今日のダブルデートのなかでまともにデートっぽいことするのこれだけなんじゃ…

いや、楽しかったからいいけどな?別にイチャイチャしたいわけじやないし!

 

隆士らのつぎのやつに乗りこむ。レディーファーストと言って俺を先に座らせたあと、吉良は狭いのにわざわざとなりに座ってきた。

「優奈ちゃん、高いのは怖くない?」

「…からかうのもほどほどにしろよ?殺すぞ」

「それはそれでいいかもしれないね」

ぐぬぬ…

とまぁ、今日お約束の会話だがそこまでしつこくもないので、ストレスには感じない。

「なかなかの景色じゃないかな」

観覧車からはちょうど海が見え、夕日がゆっくりと沈む様子がわかる。

「そうだな」

逆側を見れば人造物が立ち並ぶ。まぁ、そんなもんだろ。

「優奈ちゃん」

「ん?…はぁ、うん」

その表情から読み取れるのは『キスしよう』ということ。

まぁ、別に俺はしたいとはおもってないけど?観覧車ですし?まぁ、たまにはいいかな?うん、ここら辺で恩を売るのもいいかな?なんてな。

ゆっくりと目を閉じれば、背中に吉良の手がまわされ、ギュッと引き寄せられる。

…。

…。

…。

あれ?

「おい、吉良?しないのか?」

目を開くと目の前いっぱいに吉良がいる。だがその視線は俺の方に向けられることはなく、外へと向けられている。

「…めんどくさいのが来やがったか」

「…?おい、吉良?」

「…ん?どうかしたかい優奈ちゃん…おっと」

そんなやりとりをしていると観覧車は一周まわり終えてしまった。

…なんか残念だ

て、訂正!いまのなしな!

 

観覧車から降りると、先に乗っていた隆士たちはすぐそこでまっていた。こころなしか顔が赤くなっているようなきがする。

…そうか、お前たちはしたのか。

いや、なにも羨望の目でみてませんけどっ?!

 

若干の歯切れの悪さを残しつつも帰路に着く。いつもの駅に着いてからは二組みに別れて帰る。

吉良は俺を、隆士は美玲を送るのだ。

ちなみに美玲の家は俺の家から吉良とは逆方向に若干遠い。

 

二人並んで歩いて帰る。観覧車でできなかったことを補うように俺達の手は握られていた。

「なぁ、観覧車のときどうかしたのか?」

「ん?なんのことかな」

「なんか様子おかしかっただろ?」

「うーん、覚えてないね。ごめん」

 

「ちょっと、そこのオフタリさんいいかな」

急に背後から呼び止められる。

振り向けば、全身黒色を身にまとった二十代くらいの男がいる。

「お…私達になにかようですか?」

そう聞くと、男は屈託のない笑みを見せこう告げた

 

「いえ、あなたではなくそこの悪魔に用があるのですよ」

 




突如あらわれた謎の男!
優奈と大雅はいったいどうなってしまうのだろうか
次回こうご期待!

感想お待ちしております!


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それぞれの悪魔

「そこの悪魔に用があるのですよ、いやぁ情報を聞いてきてみればこれは実に運が良くてねぇ…いい獲物が見つかりましたよ。

俺は心臓が止まるかと思った。

まさかこの男には俺の中に眠る悪魔(サキュバス)が感知できるのかと。

一方は女体化(このじょうたい)がどうにかなるのではという期待。

一方では魅了(チャーム)の魔法を使ったことのある俺に敵意があるのかどうかという不安。

その格好、その笑顔。俺の目にはそれこそ悪魔のように恐ろしくうつる。

だって、もし女体化がとけてしまったら吉良との関係が崩れてしまうから。

そこまで考えると、俺は何も言えなくなった。

こんな時に限って当の悪魔(サキュバス)はうんともすんともいわない。

こんな相手に魅了がかけられるとも思えない。

戯言を言っているのか、からかわれているのかとも考えてみたが明らかにこの顔は理性を持って言っている顔だ。

 

「おやおや、ダンマリですか。会話がある方が円滑に進むのですがね」

「…。」

いま、吉良はどういう心境なんだろう。なんせコイツは事情を知らないんだ。巻き込んでしまって心が痛い。

とりあえず会話して様子を見なければ。

 

「あ、あの…「人間如きが偉そうにするんじゃない」

その場の空気が凍りつくような声。その声の発生源は俺の隣。

そう、吉良だった(・・・・・)

「姿を現しましたね。そう、それで良いのです!」

嬉しそうに笑う謎の男。

「おい、吉良?どうした?」

「…。」

 

「さぁ、それではメインイベントのハジマリです、そこの悪魔よ名乗ってもらいましょうか」

「…フン、俺は吉良大雅だ。」

いや、違う。吉良は自分の事を俺とは言わない…ん?

「違う!ソレは依り代の名前でしょう。そんなものに興味はない。アナタの名前が知りたいのです!」

「こっちはデートの帰り道を邪魔されて腹が立っているんだ。いや、デート中も付け回していただろう。クソッタレが」

明らかに口調がおかしい。でもこれは…何度か見たことがある吉良だ。

 

「それほどアナタに興味があるんですよ。チラっと垣間見えたあの魔力!フフフ、フハハハハハハハ!」

「うるせぇ、立ち去れ人間」

「いいんですか?あなたの大事な人間(かのじょ)に危害が加わっても」

お、俺?!

「あぁ?」

「ワタクシの使い魔が既に…昨日の夜から彼女さんの影に忍び込んでいるんです。念には念をいれていてよかった。やはりこの女使えるようですね」

「殺されたいのか?人間」

「おいっ、吉良!殺すとか簡単に行ったらダメなんだぞ!しかも知らない人に!」

「名乗っていただけたらそれで良いのです」

一体このふたりはなんの会話をしているんだ?悪魔?使い魔?

俺の中の悪魔(サキュバス)のはなしじゃないのか?

いつから俺たちの世界はこんなにファンタジーになってしまったんだ?

 

「チッ…ルキフゲ。ルキフゲ・ロフォカレだ」

ルキフゲ?その悪魔が吉良にとりついているのか?

 

「これは大当たりだ!宝くじなんてめじゃないようなねぇ!フフフ、フハハハハハハハ!もはや、この世界はワタクシの…。」

「もう捨てた名だ…使い魔を消せ、人間」

「いいでしょう、フフフ。しかしかの大悪魔ルキフゲとはねぇ…富と財宝の管理者。フフフ」

「さぁ、はやく俺の前から消えろ。イライラしてるんだよこっちは」

「フフフ、何を言っているんです?契約ですよ契約!悪魔の契約をしましょう!世界中の富と財宝をワタクシのもとに!」

「断る」

「何故!いいではありませんか!代償ですか?いくらでも支払いましょう!すべてが手に入るのだから!」

「財宝管理(そのしごと)は引退したんだ。もうルシファー様との関わりもない」

なにルシファーって?!それあれだろ?堕天使だろ?一体どの次元の話をしてるんだよ?

財宝の管理?意味がわからないぞ!

 

もしかして、吉良は…悪魔だったのか?いや、それとも俺と同じ境遇なのか?そのことを吉良は自覚しているのか?…もう!謎が多過ぎる!

「いや、あなたの力は消えてはいないでしょう?さぁワタクシと共にこの世界を統べりましょう!そんな女はほうっておいて」

「…そんな女だと?」

吉良の顔に青筋が入ったような気がした。

 

「えぇ、アナタほどの悪魔ですから。そんな女に固執しなくても、もっといい女がこれからはいくらでも侍らせることができるのですよ。ワタクシと一緒にね」

おい、なんてこというんだ!俺が捨てられたらどうするんだ!って違う!なんだよ捨てられるって!俺は女子か!

「人間はどいつもこいつも…いいか?ひとつ教えてやろう。この世で一番尊い財産は愛だ。愛は万の事全てに繋がりを持つ。そして…」

「俺はこの女を愛している。…お前は悪魔(おれ)の怒りの琴線に触れた、覚悟はいいか?」

「ヒハハハハハハっ!悪魔が愛を語るなどと!面白い。かの有名な大悪魔も落ちぶれたものだ。契約?いや、ワタクシが使役して差しあげよう!」

男は黒色のコートの下から剣のようなものを抜いた。

いや、先が尖っている。…レイピアというのだっけか?

っておいおいおい!

 

「大雅!こいつ危ない人(やつ)だって!関わらずに逃げたほうがいい!」

「…安全をとってお前は逃げろ、優奈」

「あれ見ろよ!刃物持ってんだろうが!大雅も一緒に「大丈夫だ、心配するな」

「だから、お前のその態度(じんかく)はなんなんだよ?!大悪魔?なんの話だっ!…でも、それよりもまずは逃げなきゃだろ!刺されたりしてみろ、どうするんだよ」

「俺は優奈(おまえ)が無事ならそれでいい、問題ねぇ。説明は後でする」

 

「いやはや、これが悪魔と人間の『愛』ですかぁ?涙ぐましいですねぇシクシク…なんて言ってるうちに準備は整いました。ワタクシの編み出した悪魔使役『刺突』。大悪魔とて逃しはしませんよ。あ、残念ながらその体は捨てることになりそうですねぇ、ワタクシの『刺突』は威力がありますからこの辺り一帯、もちろんそこの彼女さんも消し飛ぶでしょう。フフフ」

「…おまえ、俺が誰なのかわかっている上でよくそこまで余裕でいられるな。だが、人間の癖に悪魔のような性格してやがる。いや、古来から欲にまみれば人も悪魔も変わらん、か」

「イキますよぉぉ!悪魔使役、『刺突』」

狂ったような声をあげながら、男がレイピアを構えこちらに突っ込んでくる。

異常だ。怖すぎる。

「一応離れてろ」

足がすくんでいる俺を押しのけ、真っ向から立ち向かおうとする吉良。

 

吉良と男の姿が重なる。

「大雅っ!」

「フフフ、これでこれで全てはワタクシのもの…え?」

悦に入る男の顔はそれは醜い悪魔のような顔だった。

「早とちりをするな、クソッタレめが」

吉良が男を蹴り飛ばし距離を稼ぐ。

「残念だったな。俺に対して物質による攻撃は意味がない。」

「何故です!ワタクシはしっかりと突いたはずだ!」

「この剣、そして技は…おまえの財だ。もともとこの世の富と財宝は全て俺の管轄だ。そもそも、人間如きが大悪魔を使役?どこの世界の物語だ?」

「なら、ワタクシは…ワタクシの…富は!財宝は!ワタクシの富はどうなるのです!世界はワタクシの…あぁ、あァァァァァァァァッッ」

「悪魔の裁きを与えよう、お前の富を制限する。なに命は奪わねぇ。俺に不快な思いをさせたんだその代償をいただくだけだ」

 

どんな会話をしているのか分からない。

吉良はどうやら無事のようだが…あれは?男の様子がおかしい。

「目が見えないっ!…はっ?!聞こえない、聞こえないぞ!なにも、何もわからない!ワタクシは誰だ?怖い、どこだここは?一体なんなんだ!」

「視覚聴覚、一部の記憶と引き換えに生き地獄をプレゼントだ。これが悪魔との契約」

吉良は最後にチラっと男を見ると、こちらに体を向け側まで近づき

「帰るぞ」

と、俺に告げた。




えぇ、なかなかの展開ですが暴走ではありません。
色々と吉良くんには設定がありますので…
色々な謎はこれからの展開をご期待ください。

と言いましてもこの十三話目、作者としましても色々と考えさせられるところがあります。
ぜひ率直な感想をお聞かせ下されば、今後の書き方の参考にしたいと思っております。
協力お願いいたします。


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悪魔の正体

今回、またもや読者様を混乱へと導きます(爆)


「おい、吉良!」

手を引っ張って歩きだそうとする吉良を逆に手を引っ張り返して止める。

「どうした」

「あの人、大丈夫なのか?」

謎の男はいまだ、地面に座り込んで唸っている。

「それはあいつ次第だ。死にはしないだろう」

死?俺の考えるスケールとは格が違うが納得するしかないらしい。

「とりあえず、事情を聞くぞ!…俺の家に上がってもらう」

 

会話もなく、また二人の手が繋がれることもなく帰路に着く。

家に着くまで、気持ちの悪い雰囲気が漂っていた。

 

_____

「ただいま」

「おかえり…って吉良くん?」

「お邪魔する」

「話があるから上がってもらう。いいよな?」

「え、いやいいけどさ…え、なにあんたもうそんなところまで「いってないし、いくつもりも…いまはないわ!勘違いするなよな!」

なんてこと言わせるんだっての。

空気の読めない姉ちゃんに部屋には絶対に入ってくるなと釘をさし、俺の部屋へと向かう。

 

正座をして吉良と向かい合う。胡座をかこうとする吉良を睨みつけると、めんどくさそうにため息をつきながらも正座に直した。

やはりこういう話し合いは正座だよな。

「では、まず俺から質問させてもらう」

「おう」

「お前は誰だ」

「…吉良大雅」

ムッと睨みつける。

「はぁ…俺は紛れもなく吉良大雅だ。ルキフゲってのは前世(・・)の名前」

「え?…え?」

つまり、えーとなんだ?俺みたいに取り付いているわけじゃないのか?

「だから…いわば吉良大雅(おれ)は二重人格。あっちの僕(おれ)が表立っている人格。俺は滅多に出てこない裏の人格。」

「…?うん」

整理が追いつかないが、先を促す。

 

「俺たちが生まれたのに順番はない。生まれた時から二重人格だ。ただ…」

「ただ?」

「俺は前世の記憶…悪魔だった頃の記憶と能力を生まれながらに持っていた」

「…輪廻転生はあるってことなのか?」

「難しい言葉を知ってるじゃねぇか、そのとおり。生まれ変わりはあるんだよ」

「吉良は…いつもの吉良はお前のことを知っているのか?」

「俺の存在を僕(おれ)に知られるようなことはあんまりしていない。ただ、あいつは勘がいいからな。薄々勘づいてるんじゃないか?」

「…教えないのか?」

「その方が僕(おれ)は幸せに生きられるだろうな」

「それって…お前はいいのかよ!そんな生き方、そんな人生で!」

「人生ねぇ…」

 

「俺は前世の記憶がある。人生よりもよっぽど長い悪魔生を過ごしてきたんだ、人の死はすぐにくる。それを待つのはそう大変な事でもない」

「…そりゃ、お前はそれでいいのかもしれないけどさ」

「あぁ」

「俺はもうその事情を知ってしまったんだぞ!それを知ったまま過ごせるか!責任取れ責任!」

「はぁぁぁ?」

「そもそも、いるってわかってるのにいないように振舞うとかできるかっての!意識はあるんだろう?」

「まぁ、そうだが」

「なら仮に、仮に!俺と吉良がその…イチャイチャするとしましょう。でも、吉良の中にはお前がいる。果たして俺は気持ちよくイチャイチャできるでしょ…って何を言わせるんだ!」

「いや、今お前自分で」

「とにかく、俺は認めないから!」

 

これって浮気になるのかなぁ…。

『俺はこの女を愛している』

さっきの吉良の言葉にキュンとしてしまった俺が…っと、今のナシ!

というか、いま思えばこっちの吉良に助けられたことって多いんじゃないか?詳しくはわかんないけど。

まぁ、女の子なら?女の子なら惚れても仕方ないんじゃないかな?

 

「やっぱり、そっくりだな」

「何か言ったか?」

「なんでもねぇよ」

「ん、じゃあ決心はついたか?」

「は?なんのだよ」

「吉良同士の話し合い」

「あぁ?何でそんなことしねぇといけねぇんだよ!さっきの話聞いてたかおまえ!」

「あら、あらぁ?天下の大悪魔えっと…ルキフゲ様も流石にもう一人の自分とは話せないんですか?たいしたことない能力なんですねぇ。…あ、もしかしてもう一人の自分と話すのが恥ずかしかったり?」

「バカにするなっての!できるわそんくらい!」

 

見事に引っかかってくれた吉良は目を閉じて瞑想のようなものを始めた。

「うう…」

「おーい、吉良?」

「ん、優奈ちゃん?…えっと、ここはどこ…って優奈ちゃんの部屋じゃないか!」

「そうだよ」

あれ?もう一人のき…ルキフゲは何処へ?

『優待離脱した。今は精神体だ』

目の前にモヤがかかり、一瞬で晴れて半透明の吉良が現れる。

『具現化した。半透明だから魔力燃費がいい』

「…僕?」

「そう。もう一人のお前、名前はルキフゲ」

『だから、それは前世だ。今は吉良大雅』

「ルキフゲ…六大上級悪魔の?」

なんでコイツそんなこと知ってんだよ!

「そう、お前のもうひとつの人格。前世の記憶と能力を持ったまま吉良として生まれたんだと」

「すると、たまに記憶が抜けているのは」

『すまん、俺のせいだなそれは』

「急に眠くなったりするのも?」

『あぁ、俺がやった。すまないな』

「いや、君も俺(ぼく)何だろう?謝ることはないよ」

「なぁ、吉良、反応薄くないか?悪魔だぞ悪魔!二重人格だったんだぞ」

「うるさいよ優奈ちゃん。言われなくてもわかってる、整理させてくれないかな」

やれやれといった顔で黙り込む吉良。

 

『そういえば、反応薄いといえば優奈も相当反応薄いぞ。普通怖がるだろもっと。悪魔だぞ俺、元だけど』

えーっと、それは俺の中に悪魔がいるからであって…って言っていいのかな?

(セイセイセイセーイ!絶対に行ったらダメなんだニャー!)

「うぉっ!」

びっくりした!久しぶりだなおい。

(まぁ、サキュバスちゃんにもいろいろあるのよ、それじゃあこれで。ばいにゃらー!)

あ、消えた

「優奈ちゃん、どうかした?」

『…』

ルキフゲにいたっては訝しむような目でこちらを見ている。

「な、なんでもない!気にするな!どうぞごゆっくり話し合いしてくださいませ!」

「何かあるでしょ」

『おい、ここで隠し事か?俺たちはこんなにオープンなのに』

オープンって…まぁ確かに二重人格を人に知られたわけだしなぁ…本人の一方も知らなかったことだけど。

さぁ、どうごまかそうか…あ、そうだ

 

「まぁ、あんまり気にすんなよ」

(バカ!それはダメ!)

右目で魅了(ウインク)。これに限る。

「あぁ、そうだね」

『優奈…お前…』

呆気にとられた顔をするルキフゲ

「え、え?」

『なんで魅了(それ)が使えるんだ?』

「それってなんだい?」

「えっ…」

うそ、嘘だ!効かない?!…あ!ルキフゲ悪魔じゃん!(元だけど)もしかして効かないん…ですかね?

(はぁ…やってくれたね優奈、サキュバスちゃんもあきれ顔だよ)

頭の中で悪魔(サキュバス)がぐでっとしている。かと思えば今にも泣きそうな顔になる。…えっ、なんかした?

 

『お前もしかして悪魔が「なんのことかなぁ!」』

「えーっと、僕はよく事情が飲み込めないけど、とりあえず優奈ちゃん、ごまかせてないよそれじゃ」

「私は何も知りませんですます」

(そのままごまかすんだ、イケイケーっ!)

『いや、普通の悪魔なら俺が気づく…上級悪魔かっ!…チッ俺が迂闊だった。…しかしよりによって優奈が悪魔憑きとは』

「えっと、もしかして優奈ちゃんにも悪魔がいるのかい?」

『そのようだな。優奈、能力を使わせてもらうぞ』

「へ?」

『管理能力で確認する。危害は加えない』

 

『それには及ばないわ』

またもや目の前に黒いもやがかかる。

 

『久しぶりね…ルキ』

俺たち三人の目の前に半透明の私(おれ)が現れた

 




第一部は優奈と大雅、第二部はルキフゲと・・・

感想お待ちしております。


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悪魔の過去1

過去編です。


「お、俺っ?!」

「優奈ちゃんが二人?いや…」

俺たち二人が、突然の私(おれ)に驚いている頃、ルキフゲは違う方向に驚きを見せていた。

 

_____

俺が生まれた時、すぐに自分の体に人格が二つあることを感じた。

そして、赤子である自分に思考力があることに驚き、また記憶があることに驚く。

俺の名前、前世の名前はルキフゲ・ロフォカレ。

ルシファー様に仕える六大上級悪魔の一人であり、この世のあらゆる富と財宝の管理を任されていた。

 

過去の話をしよう。とある時代、まだ『悪魔』の存在が人間たちに広く信じられている頃。

「ルシファー様、本日の財宝管理完了いたしました」

「あぁ、ごくろうルキフゲ。あぁ、そうだちょうどいいこの子を案内してやってくれ」

「はい、お任せください」

「『夜の魔女』で有名なリリスだ。一度私の城に来たいと言っていたのでな。今回招待したのだ。よろしく頼む」

長身であるルシファー様の影から、可憐な少女がひょこっと見えた。

「リリスともうします。今日はよろしくお願いしますね」

「私はルキフゲ・ロフォカレと申します。城の案内をさせて頂きます。よろしくお願いいたします」

ルシファー様は一国の王である。我々悪魔も普段は人間にまぎれて過ごしているのである。

ルシファー様の治める国は、悪魔に対する措置(たいぐう)がよく、より多くの悪魔が集まり自他共に認める悪魔国家だ。

美しさと実用性を兼ね備えた城は、そこまで迷うものではないのだが一部、危ないところもあるのだ。

 

「広いのですね」

「はい、ですがただっ広いのではなく実用性を加味して城の大きさはここまでに抑えてあるんですよ。ルシファー様が本気を出せばそれはもう悪魔も震え上がる大きさのものができるでしょう」

「まぁ、面白いことを言いますのね。私も一度震え上がって見たいものです」

リリス殿の対応はしやすい。堅苦しすぎず、自分も会話を楽しみながら案内ができている。

 

リリス殿は『夜の魔女』と呼ばれている。悪霊の生成や幻術に長けており、その才能は天才と呼ぶにふさわしいともっぱらの噂だ。

しかし、リリス殿の真骨頂はそこではない。

真に発揮するその能力は、異性は愚か同棲をも虜にするその魅力である。

あるいは私も、この時からリリス殿に好意を抱いていたのかもしれない。

 

やがて、リリス殿は悪魔城に住むようになった。

ルシファー様に『悪魔軍幻術教官』として招かれたのである。

私の仕事である財宝管理は主に城ですることが多く、同じく悪魔軍教育に携わるリリス殿も城にいることが多かった。

話す機会も多く、互いに悩み事を打ち明けられるような仲へと進展した。

この時には私のリリスへの心も、好意から恋へと変わっていた。長くある悪魔の生、この人を伴侶としたいと。

 

しかし、そんな時に城が慌ただしくなりはじめた。

悪魔を恐れながらも共存していた人間たちが、私たち悪魔に宣戦布告をしてきたのである。

それだけならば良い。過去にも何度かあった話だ。悪魔軍が戦力的には圧勝だ。最終的に平和条約を結ぶことになるだろう。

だが、ルシファー様は、部下一同がなぜこんな時に限ってと思うようなことをおっしゃったのである。

「みんなに集まってもらったのは報告があるからだ。我は『悪魔軍幻術教官』リリスと婚姻の儀を結ぶこととなった。此度の戦争、そろそろわれも疲れてきた。後継者を作ろうと思っていたのだ」

その後、リリスの挨拶が始まる。

私の初めての恋心は無惨にも散った。だが、良い。

相手は自らの主、ルシファー様なのである。私と過ごすよりもリリスが幸せになるのは目に見えている。

 

早急に準備のなされた婚姻の儀。

悪魔の婚姻とは、それすなわち出産と言っても過言ではない。悪魔に妊娠などと言った過程はないのである。

悪魔の子孫を残すには、婚姻の儀を結ぶしかない。

儀式に沿って事を進め、最後に婚姻の魔法陣の上で手を取り合い口づけをすれば、その取り合った手の中に子供が生まれるのである。

「それでは、手を取り合い口づけを」

悪魔神官が最後の台詞を述べる。

美しい容姿をした二人の口づけは、見ているものを魅了するまさに芸術であった。

二人の手の中には、闇と光が渦巻きやがて一人の赤子となる。

「我の光とリリスの闇が混ざった子か…まさに悪魔の王だな。名は…サタンと名付ける」

ルシファー様の声とともに歓声が巻き起こる。儀式は終了。宴の始まりである。

 

「ルシファー様、ご結婚おめでとうございます。そしてサタン様の誕生を心より祝福いたします」

「あぁ、ありがとうルキフゲ。おまえにはサタンんの教育を頼むかもしれんな。信頼している、よろしく頼むぞ」

「はっ、お任せください」

「リリス様、ご結婚おめでとうございます。友人として心から嬉しく思います。サタン様も大変元気で可愛いらしく将来は目に見えるように安泰なことでしょう」

「ルキ、リリス様なんてよそよそしい呼び方はやめてよ。いつものとおりリリスでも構わないのよ?」

「いえ、我が主ルシファー様の伴侶となられたお方。そのようなことはできません。ですが、わがままを聞いてもらえるのならこれからも良き友人として頂きたく思います」

「もう…ルシファー様、よろしいですか?」

「もちろんだ。お前達の仲の良さは知っている、それをわざわざ切り離すことも無いだろう。ルキフゲ、これからも妻の良き友人として話を聞いてやってくれ」

「はっ、ルシファー様の寛大な御心に感謝いたします。ルシファー様、もう一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「私からサタン様へ贈り物があるのですが」

「あら、さすがルキね!どんなものかしら?」

「『魔のおしゃぶり』というものです。これを装着すれば、赤子のうちから魔力を取り込めるようになり、魔力操作の向上にもつながります」

「うむ、効果は確かなようだ。しかし、このような宝があっただろうか…」

「いえ、ルシファー様のものである財宝に手を出すことがありましょうか!それは…恥ずかしながら私が作り出したものなのです」

「ほう、おまえがか?」

「はい、なにせ婚姻の儀や宴ではセンスのない私に出る幕はありません。せめて贈り物をと思い、あらゆる富と財宝を研究し『魔のおしゃぶり』を作り出しました。私としましても、『魔のおしゃぶり』は今までで作った私の魔道具のなかでも最高傑作です」

「うむ、確かにこれはすごい魔道具だ。さすがルキフゲだな、ありがとう」

「勿体なきお言葉、ありごとうございますルシファー様、リリス様、サタン様のお役に立てるようこれからも精進いたします」

 

国王であるルシファー様のご結婚に国中がわく。戦争への勢いもますばかりだった。

人間よりも体が強く、また魔法の使える悪魔と、数が多いだけの人間。勝利は明確に悪魔軍にある。

そして、最近はリリスを代表とする各魔法のプロフェッショナル達が軍の指導をしていたのだ。もしかすると、こちら側の死者は出ないのではないかといった考察をする者までいた。

しかし、状態は一変する。

 

「ルシファー様、ご報告があります!」

「どうした?サタナキア」

サタナキアは悪魔軍の大将である。場の空気に緊張がはしる。

「私の部下、アモンの軍が壊滅したとの情報がありました」

「なに!あのアモン軍が負けるだと?!」

その時、王の間になだれ込む物がいた。

「アモン?!」

「ルシファー、さまぁ…ご無礼をお許しください…罰は後ほ、ど、それよりもご報告が、うぐっ…」

「アモンがこれほどにやられるとは!一体何があった!話すのだ!おい、治療を!」

「かはっ、げほっげほっ。人間のなかに祓魔師(エクソシスト)と呼ばれる、者、達がおります。悪魔を滅することを生業とし…光の術を使います。私の軍はそれにより一網打尽に…わたし、も数十人の祓魔師を殺しましたが…ぐっ…奴らの中には、相当な、実力者がいます。ぐぁぁぁ」

力を使い果たしたアモンが灰となる。

場は沈黙に包まれた。

 

「これより、光の術に対する術を教える!戦闘職の将軍数名に収集をかけよ!また、祓魔師にでくわした際は戦略的撤退を取るように指示せよ!」

「はっ!」

 

希望は『堕天使』ルシファー様と『光と闇の子』サタン様にあった。




この物語、たしかジャンルは…恋愛ですよね?

ご感想お待ちしております


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悪魔の過去2

戦争が本格化する。

六大上級悪魔が直々に指揮をとり、ルシファー様が教官の教育へ励む。

祓魔師(エクソシスト)への対策が次々と練られていく中で悪魔、人間それぞれが数を減らしていった。

祓魔師といえども人間である。祓魔術さえ切り抜けられれば低級あくまでもってしてでも殲滅は可能だ。

 

戦力は拮抗した、それに悪魔達は驚きを隠せなかった。

まさか人間に圧勝出来なくなるとは、と。

自分たちが圧倒的優位にあること、それが今まで悪魔たちを繋いでいた鎖だったのである。

やがて悪魔たちの焦りは形を持つようになっていった。

人間との共存を保つために禁止されていた禁断の契約、生きた人間の死霊化など、悪魔の法を犯すものがたちどころに増えていったのである。

それらに対する人間の対応は祓魔師教育の増加。まるで悪魔のような連鎖は止まることを知らなかった。

 

時は流れ、かつての六大上級悪魔(どうりょう)もその数を減らした。

すくすくと成長を遂げるサタン様のみが最後の希望なのである。

そんな中でリリスにある任務が課される。

 

「今現在人間たちによる首脳会談が行われている。リリス、お前にはこの各国の首脳陣をかき乱してほしおのだ。お前ならできるだろう?」

「お任せください、『夜の魔女』の名の通りすべてを虜にしてまいりますわ」

「ルシファー様!私は反対です!確かにリリス様ほどであれば心配をする方が失礼にあたりますが、リリス様は我が国の王妃です、万が一があってはなりません!」

「ルキフゲ、しかしこれはチャンスなのだ」

「これを期に人間たちも何かを仕掛けてくるやもしれません!やるとしても、別のものを用意するべきです!」

「いや、使える駒はリリスより他ない。お前も知っているだろう?これが一番確実なのだ」

「しかし!」

「ルキ、私なら大丈夫です。それよりも、そんなにルシファー様に歯向かうといくら宰相のルキでも、不敬罪になってしまうわよ?」

クスクスと彼女は笑う。

「笑い事ではないので「ルキフゲ!」

ルシファー様が威を放つ。

「これは我が決めたことだ。変更はない」

「それでは早速、準備をしてまいります」

私が立ちすくむ横を、リリスは通って行った。

「お前が国を思って言っているのは分かるが、熱くなりすぎだ、少し頭を冷やせ」

無言で一礼し退く。ここまでルシファー様に歯向かったのは初めてかもしれない。

愚かなことをしていると思っている自分もいるのだが、それでも胸騒ぎがする。心配でしかたがないのだ。

 

やがて、俺の嫌な勘が当たる。リリスが帰還予定時間に帰ってこないのだ。

城内が王妃の安否行方について騒がしくなる中、俺は一人部屋の中で違反を犯そうとしていた。

ルシファー様の許可なしに『財宝管理』を使う。

「私の宝…リリス」

目の前に自らの想い人が横たわる。標的(ターゲット)の趣味なのだろうか、肌の色が褐色になり、顔の造形も少々違っているがいつもと同じ、少し扇情的な服を着ているのは紛れもなくリリスだった。

ただ、信じられないのはその胸に銀色の杭が刺さっているということ。

 

「リリス様…リリスっ!」

「んっ…ルキ?ふふふ、能力をつかったの?ダメじゃない仕事以外で使うのは」

「やはり、罠だったのか?!何があったんだ!」

「人間のお偉いさんのお部屋にお持ち帰りされたら、中で怖いお兄さん達がたくさん待ち伏せていたの。あ、これは聖銀よ。私はもうダメみたいね」

「抜くぞ」

「無駄よ、あなたの手が怪我するだけ。まったく、あの人たちも浅く刺しこんでいくんだもの。すぐにしねないじゃない」

「うるさい、この後に及んで軽口を叩くな。一児の母なら根性を見せろ」

手がジリジリと焼かれるのを感じながら、杭を引き抜く。

「ルキ、今日はえらく荒々しいのね。いつものあなたもカッコイイけどそういうのも魅力的よ」

「…治療するぞ」

「だから無駄だってば、ほら…いたたっ」

リリスが自分の胸元の布を剥ぎ取る。

「お、おい!王妃ともあろうものが」

と、言いつつもチラと覗いたその豊満な双丘は既に灰色に染まり崩れ落ちる最中であった。

「治療より、いいことしましょ?」

不意に唇に何かが触れる。それがリリスの唇だとわかる頃には、二人の唇は既に離れていた。

 

「私は鈍くないから、ルキの気持ちなんてちゃんとお見通しよ?私も…今だから言うけどあなたを愛していたわ。サタンをよろしくね」

満足そうに目を閉じながら、枯れゆく声でそう告げた後まるでリリスをこの世に繋いでいた最後の糸が切れたかのように灰となり崩れ落ちた。

「あ…あう、う、あぁ…あぁぁぁぁぁぁああああああああ!」

溢れ出す涙が灰に降り注ぐ。

私…俺は部屋を飛び出した。

 

部屋を出て向かった先はサタン様の寝室。

焦ることなく乳母や侍女に「ルシファー様のもとへお連れする」と告げて、サタン様を自分の手に抱く。

我が主、ルシファー様はあろうことか自分の妻であるリリスを駒として使ったのだ、俺の忠告を聞くこともなく。

リリスの仇を打つ。祓魔師(エクソシスト)どもを片付けるのは容易だ。だが、俺の心の中には打たなければならない相手はもう一人。

いくらあがこうが、力ではルシファー様には敵わない。ならばそれ以上の力を用意するまで。

『財宝管理』の能力…この世の富と財宝を自分の元へと呼び寄せる、または転送する能力。

しかし、誰にも知らせていない、ルシファー様をも知らない能力がある。

『財宝管理』の名のごとく異次元にある自分だけの世界(そうこ)を司る能力。

サタン様を抱いたまま、自室に戻りその能力を使う。

「リリス…俺がサタン様を育てる。それまで、あの世へはいけない」

 

_____

「バカ…な、我が、我が敗北などとぉぉぉぉ!」

王の間に木霊するルシファーの叫び、その眼前に立つのは成長したサタンであった。

「父上、悪魔と人間が共存する時代は終わったんだ。いや、この20年共存どころか戦争しかしていない。それも膜引きだよ」

「貴様ァァァ、我が子の分際で人間共に寝返りおったかぁァァァ!」

「違うよ、そんなことはしてないさ。ただ、これからは僕が悪魔を統べる。悪魔はもともと人の世の影の中で暮らすものだ」

「誇り高き…悪魔の存在を、消すというのか!」

「光があれば陰ができる。今、光は人間にあるんだ。僕たちは、陰になるだけさ」

 

ルシファーの目の前の空間がぐにゃりとゆがむ。

「ぐっ…ルキフゲ」

「ルシファー様、あなたはリリスの仇だ。しかし、あなたの下で働けたことを後悔はしていません。…さようなら」

20年間、錆びることのなかった聖銀の杭でとどめを刺す。

終わったのだ。戦争も、復讐も。そして…

 

「それではサタン様、私を殺してください」

「ルキフゲ…」

「約束しましたよね、お願いします」

「ルキフゲ、僕の父はあなたです。母さんによろしくね、父さん」

「ありがとう」

サタンの手から、柔らかな光が放出される。優しく包むような光に誘われ、俺は灰になった

 

_____

以後、悪魔が人の世に現れることはなくなった。

しかし、あるいは物語、あるいは伝説となり永遠に語り継がれていくこととなる。

いつの時代も、人間の陰には悪魔がいるとかいないとか。

悪魔の王サタンは、自らの両親(・・)の幸せを祈りつつ、今日も光差すことのなき闇の中で静かに暮らしている。




ハッピーエンド?というわけで時は現代へと戻ります。
ファンタジーな恋愛物語、続きに乞うご期待!

感想お待ちしております!


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かくれんぼ

急に評価数が増えてびっくり!
とても嬉しいです。ありがとうございます!


『久しぶりね、ルキ』

『っ!、…リリスっ?!』

サキュバスの顔からは、何考えているのか感じ取ることができない。

だが、どこか悲しそうだな。と思った。

 

『魅了応用編(チャームカスタマイズ)、『麻痺(スタン)』』

瞬間、俺たちの体が金縛りにあう。

「うおっ、喋れるのに動けねぇ!」

「金縛り…僕も流石に魔法の解き方は知らないなぁ」

『どこにいくんだ!…くっ、さすがリリスといったところか。精神体の俺まで動けん』

精神体のまま、一目散に逃げ出すサキュバス。会話はできるのに、ピクリとも動けないもどかしさ。

呼吸や瞬きができるのが不思議なところだ。とか変なことを考えつつも、今やるべきことを考える。

情報が足りない。

 

「おい、ルキフゲ!どういうことだ!」

『俺に聞くな!まさか本物のリリスに会えると思ってなかったしな!』

本物のリリス?リリスはあのサキュバスのことか?ん?

「…金縛りが解けた!とりあえずあの悪魔を追った方がいいんじゃないかな。普通の人には見えるのかい?精神体(アレ)」

『いや、一般人にはみえないな。俗に言う霊感が強いと見えるし、悪魔が憑いていても見えるが』

「とりあえず追いながら事情を聞くからな!」

 

_____

自分達がどんな人を追っかけているのかもわからぬまま、走り出す。

精神体故に息切れを起こさないルキフゲから二人の過去を聞き出す。

「えーっと、つまりお前がなかなかすごい悪魔で、そのサキュバス…じゃなくてリリスの事が好きだということは分かった」

「なんというか、漫画みたいな話だね」

『まぁ、嘘偽りのない実話だ。まさかリリスも転生しているとは…いや、転生なのか?優奈はなにか聞いてないのか?』

ぎくっ、知ってること話せば俺が元男ってバレる可能性が…

吉良はは俺のことが大好きだけど…って何言ってんだ、まぁ、とにかくさすがの吉良でも元男はキツいだろ。

…キツいよな?まぁ、話すわけにはいかない。

「いやぁ、あいつと話すことそこまで多くないからなんとも」

『そうか…魅了(チャーム)はリリス固有の能力だ、それを使わせるということは、リリスも優奈のことは大事にしていたはずだ』

 

しかし、いくら探しても見つからない。そもそもリリスについての情報が無さすぎて、探しどころの見当がつけられない。

精神体を探せっていわれても、ちんぷんかんぷんだよなまったく。どこのラノベだっつーの。

「ルキフゲ、魔法でなんとかしろよっ…てか、魔力みたいなのでわからないのか?」

『俺のは特殊な能力だからな、他の魔法はそんなに得意じゃないんだ』

「『財宝管理』を使うのはどうかな?ここに呼び出すというのは」

『うーん、あれはなぁ…魔力の供給源がしっかりとないとなぁ』

「さっきの変な男の時使ってなかったか?」

『消費した分の魔力を徴収したからな』

「そう考えると…怖いなお前の能力」

『昔、リリスにも同じ事を言われた』

苦笑いをするルキフゲ。割と弱点なのかもしれないな、能力の話は。

「ちなみに、魔力の供給ができないとどうなるんだい?」

『俺達の体に負荷がかかるな』

「それだけか…じゃあ、呼び出してよ。僕はOKだ」

『三日はろくに動けないぞ』

「16年間共に過ごしてきた俺(あいぼう)のためなら、それくらいなんてことないよ、優奈ちゃんも困ってるようだしね」

「吉良、カッコいい…」

「ふふっ、ありがとう」

「ふぇっ!声に出てた?!」

しまった!つい素で言っちまったぁぁぁぁ!

 

_____

もはや深夜だ。家に連絡を入れて3人で帰る。

「吉良、泊まってくか?動けないらしいし」

「うーん…優奈ちゃんがいいなら」

やがて、家に着く。今日は母さんも帰宅していた。

「母さん、こいつは吉良大雅。俺の彼氏、今日止まってくから」

「はいはい、お姉ちゃんにも言っときな…って、え?」

ちょっと、どういうこと?説明しなさい!と言う声を後ろから浴びながらも、それを無視して姉ちゃんの部屋へ

コンコン、「姉ちゃん?」

ガチャっと扉が開く。

「なに?優」

「今日、吉良うち泊まっていくから。よろしく」

「お世話になります、お姉さん」

「はいよ、ん…ん?え、優、泊まるってまさか…っ!」

「なに?」

「いや、まぁ、その、頑張りなさい。ちゃんとするのよ?」

ちゃんとする?なんのことだ?

「おう」

とりあえず返事だけしておく

 

部屋に入って一応鍵を閉める。

「なんか、様子がおかしかったな。ルキフゲやリリスの影響か?」

『俺にそんな能力はないし、リリスも人間相手にそうそう力は使わない』

「まぁ、たぶん僕が泊まるからそわそわしてるんじゃないかな?」

「なんでそわそわするんだよ」

別に今までだって隆士なんかはよく泊まってたし、小学校の時にいた数すくない友達も泊めたことがある。

「…分かってないみたいだね。優奈ちゃん、年頃の女の子が彼氏を部屋に連れ込むんだよ?それも泊まりで。どういうことかわかる?」

「ん?それほど仲がいいってことか?」

「…まぁ、あながち間違いじゃないけど、つまりは」

吉良に耳元で呟かれた事は…言わせんな!

「吉良、変態」

「えぇ!なんで!」

「だって、吉良も…そういう事考えてたってことだろ?!」

「いや、それはもちろん優奈ちゃんの女神のようなその身体をいつか僕のものにできれば幸せだとはいつも思っているけどさ!こんな事態にそこまで望んではいないよ!」

「ううう、変態!気持ち悪い!恥ずかしいだろ!正直に言うんじゃない!」

でも、吉良も俺の体にはちゃんと興味があるんだな。…よし。

 

『若いなお前ら』

ルキフゲに生暖かい目で見られる。恥ずかしくなったので、吉良の方を向いていた体を逆に向けてそっぽを向く

「よし、じゃあルキフゲ!はじめるぞ!」

誤魔化すように大きな声で気合を入れる。と言っても俺は何もしないんだけど。

『分かった。『財宝管理』標的(ターゲット)リリス』

黒いモヤに包まれながら、半透明のリリスが姿を見せる。

『あ、あれ?…そうか、ルキか』

束の間の驚きの後、諦めたようにため息をつくリリス。

「サキュ…リリス!なんで逃げるんだ?」

…どうもリリスと言う呼び方がなれないんだよな。俺の中にいた時と性格が違うような気がするし。なんか変だよな。

『べ、別に逃げてなんかないけどね〜』

『俺はリリスにあえてとても嬉しい。話がしたいと思っている。なぜ今まで隠れていたのだ?』

「というか、ルキフゲにバレたくないみたいな態度だったよね!」

ここぞとばかりに責め立てる。反逆だよ。フフフ

(コラ!いらないことを言っちゃだめでしょう!)

急に脳内に語りかけてくるリリス。残念、情報操作はさせない!

『リリス…俺のことが嫌いになったか…』

『そう言う事じゃないって!私もうれしいよ!嬉しいけどさ!』

『そうか、ならば何故!リリスなら俺が大雅の中にいたことを分かっていただろう?』

『私もルキフゲと同じ。優が生まれた時から中にいたわ。でも、初めて優と接触を持った日…あの日まで私は深い眠りについていたの、起きたらルキフゲにそっくりな人が居たから近づいてみたら、たまたまルキフゲが感じられたからさ…びっくりしちゃって』

あぁ、怖がってたよな。…あれ演技か!

というか、この会話すごくルキフゲが重く感じるんだが…まぁ、それだけ好きなんだな。

 

『なるほど、俺がリリスを起こしたのかもしれないな…声をかけてくれれば良かったのに!』

『…あなたに合わせる顔がなかったのよ』

場に沈黙が走る。

『死んだ後もあなたとサタンを見ていたわ。そうしたら何?20年もサタンを閉じ込めて、やらせることは父親殺し』

『…それは、お前のかたきを』

『分かってる。でもね、そんなことをルキとサタンにさせたくなかった。でも、させたのは私。全部私が悪いの』

『そんなことはない!』

『あなたの最期もちゃんと見てたのよ…ルシファー様を殺した後自分も死ぬなんて…私があなたを殺したのよ。しかも、あろうことかそれをサタンにやらせてね』

『ちがう!リリスは関係ない!俺はお前のいない世界に生きる理由を見つけられなかっただけだ!』

どっちつかずの言い合い。どっちの言い分もおかしいところがあるけれど、俺が突っ込むのは場違いだ。

これは二人の問題だから。

それも、何百年来の…な。

 

『サタン…今はどうかわからないけど、私が見ている間あの子はずっと独りぼっちだったわ』

『そうなのか…』

ルキフゲの顔が苦々しく歪む。責任を感じているのだろう。いや、育ての親として接してきたのだ。親にしか分からない、そういった感情もあるのだろう。

『そうよ、何百年も独りぼっち。…ルキに会えたことはとっても嬉しかった!またあなたを見ることができてとても嬉しかった!ふふっ、恥ずかしい話だけどね、私泣きながら逃げてたのよ。でも、私はそんな幸せを受け入れてはいけないの』

『リリス…サタン…』

『でも、私は最悪な女だから我慢ができなかった。つい優をつかってあなたを眺めていた。それだけで幸せになれた。でも、会っちゃいけないのよ』

(優、ごめんね。こんな私のわがままで人生をめちゃくちゃにしてしまって。…ろくに話もしなかったわ、ずっと猫をかぶって、なんでもないように振舞って…本当にごめんなさい)

脳に直接話しかけてくる。その様子にいつものおちゃらけたような雰囲気はない。

 

「ふざけるな!」

『優…』

「さんざん俺に迷惑かけてきたんだ!ここまでやっといてそれはないだろ!落とし前をつけろよ!幸せになれよ!」

だって、やっと愛し合える環境になったのだから。

二人を隔てるものはもう何もないのだから。

 

「そのとおり」

窓の方から、聞いたことのない声がする。全員がいっせいに窓を向く。

「幸せにならないと、許さないからね」

そこには背中から黒い羽を生やした白髪の美青年が窓の縁に座っていた。




高校最後のテストが近づき、とても更新ができそうにありません。
最後のテストはガチ勢になる予定なので、次回で二部終了、三部開始は少々お待ちいただくことになるかと!
すみません!


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家族

今回で一応、二部は終わりです。


「幸せにならないと、許さないからね」

窓の縁に座る背中から黒い羽を生やした白髪の美青年。

どう考えても外から入ってきたとしか考えられない。

 

「えっ、誰!というか羽!え、おいなんだよこれ!」

「…それは見てみたいね、でも、起き上がれない」

力が抜けて寝ている吉良の頭を持ち上げて俺の脚へ乗せてやる。これで見れるだろ。

「おぉ…これはっ…すごいね」

なぜ若干顔が赤くなっているのかはわからないが、やはり吉良も感嘆している。

うーん、こう言うの柄じゃないかもしれないけどさ、『美しい』って感じなんだよ。全体的に芸術的なんだよね。

まさに天使みたいな。

 

『サタン?!』

『サタン様?!』

これまた俺たちとは違う反応を見せる悪魔二人。

サタンって、えー…ルシファーとリリスの子供だっけ?で、ルキフゲが育ての親で…ってサタン?!

「吉良!やばい!遂に俺の部屋に悪魔の王が!どうしよう」

「僕に関してはこのまま死んでもなんら後悔はないね」

俺の膝の上で訳のわからんことを言っている吉良を、サタンの方に向けてガードする。

…こいつ見た目より重くないか?

「筋肉がついてるからね」

俺の考えていることをどう読み取ったのか吉良がそう答える。なんか腹が立つので鳩尾に一撃入れてやった。

「ぐふっ…鋼の筋肉も力が入らなければ意味がない…か」

 

「随分と仲がいいんだね、お二人さん」

いつの間にか部屋の中に入り込んでいるサタン。不法侵入だぞ!

「まぁ、いいじゃない」

綺麗に正座をして俺たちに向かい合うサタン。なんだ、今度は一体なんなんだ!

「いやぁ、治してあげようかなと思って。『魔力操作』…はい、動けるでしょ?吉良くん」

「いえ、どうにもまだ動けないみたいです」

「本当かい?うーん、僕の魔力を譲渡したからそんなことはないと思うんだけど」

「いえ、サタンさんは悪くないですよ。僕を縛り付けるのはこのむっちりとした膝枕(てんごく)ですから」

ゴンッ!

思い切り地面に打ち付けてやった。そうか、だからニヤニヤしてたのか。

天然で膝枕しちゃうとか恥ずかしすぎるわ!死にたい

 

「やれやれ」と座りなおす吉良。ひくわ!と思っていると、リリスも顔を引きつらせている。たまに気持ち悪いんだよな吉良って。

しかしその横で大きく頷いているルキフゲ。…こいつら危険だ。と思ってまたリリスの方を向けば顔が青ざめている。

多分俺の顔色も悪そうだ。

…なんというか、前より寒気が二倍感じるね。 そんななか

「そろそろ僕が来た理由について聞いて欲しいんだけど…」

とおいてけぼりサタンがいうのでとりあえず話すことに。

 

「じゃあ、父さん母さん。あらためてお久しぶり。あ、もう様なんてつけなくていいからね父さん。…今日は二人の魂が今までより強く結び付こうとしているのを感じて飛んでやって来たんだ!やっと出会えたんだね」

「いや、あの、えっと…」

リリスは返事化しづらそうだ。

「母さん、僕は何も恨んじゃいないよ。ずっと見守ってくれたじゃないか。大好きだよ」

「サタン…」

愛する息子の言葉に、涙を流すリリス。

「父さんも…やっぱり殺すのは辛かった。でも、約束は破っちゃいけないからね。僕も父さんみたいな一途な愛に憧れてるから」

『サタンさ…サタン…』

泣きそうになりながらも、少し頬を赤く染めている。照れているのかな。

「ちょっと揉めてたみたいだね。悪いけど優奈さんの記憶を見せてもらったよ。でもね…」

ここまで流れるように話していたサタンが、わざと一拍あける。

 

「二人が幸せに…つまり、その…一緒になってくれないと困るんだよね」

 

「困る?え、困るってどういうことだ?話の流れおかしくないか?いま家族愛が…え?」

なんとなく拍子抜けした俺はツッコミをいれてしまう。

「あはは、その、僕の両親って父さんと母さんでしょ?」

『そ、そうね?』

『お前がそう言ってくれるのなら俺はとても嬉しい』

二人は見つめあって頬を染めている。半透明なのに顔だけは真っ赤ってか!くっそ!みせつけやがって!ヒューヒュー!美男美女でお似合いだぜ!

…いや、片方(リリス)は俺とそっくりじゃねぇか。なんだよ美女って!…美女って!!

まぁ、吉良がかっこいいことは否定しない。と思って入るけど口に出すと恐ろしいのでこの邪念(・・)は払おう。

 

「あのさ、僕も結婚しようと思って」

『『え?』』

「母さんが生まれ変わる…いや、優奈さんの中で眠り始めて数年後に…初めて好きな人ができたんだ」

夫婦(・・)の顔が喜びに満ち溢れる

『ついにできたのね!私心配だったの!私が見てなかったここ数年…孤独じゃなかったのなら良かった!』

『そうか、サタンもそんな年頃か…』

そんな年頃って…いや、サタンって何歳だよ。年頃も何も人間だったら悟り開いてるレベルの年齢だよね?!

まぁ、そこらへんの悪魔の事情はわからなくても別にいいか。

 

「結婚といえば、両親に報告だよね?だからさ、早くくっついちゃってよ」

『で、でも…』

喜びから一転、またもやリリスの顔が暗くなる。

「ならこうしようよ、母さんは僕への償いとして、仕方なく(・・・・)父さんと幸せになってよ」

『『は?』』

この二人仲良すぎないか?ハモリすぎだろ…。

「母さんの贖罪は僕のために(・・・・・)仕方なく父さんと幸せになる。父さんの贖罪は僕のために(・・・・・)母さんを幸せにする」

『いや、サタン、それって…』

『おい、それはちょっとちがうんじゃ…』

「子供の初めてのわがままだよ?聞いてくれないの?」

サタン、悪魔の王。そんな存在が屈託の無い満面の笑みを浮かべて両親に語りかける。

ただ、家族みんなで幸せになりたい。それだけなのだろう。

数百年来の家族会議はここに終結した。

 

『そこまでサタンがいうなら、そんな幸せな贖罪でいいのなら、愛しい我が子が言うのなら、ルキと…幸せになってあげてもいいわ』

『俺が出来る唯一の贖罪は家族みんなを幸せにすることだろう。サタンに罪を償えと言われたんだ。仕方ない。精一杯幸せにして見せよう』

…ったく。重いというか、頑固というか…ツンデレ夫婦だなこいつら

涙を流しながらも、笑って抱き合う家族三人。いいよな、俺も将来的には…

「優奈ちゃん、僕達もはやく子供が欲しくなったね?…おっと、ちょうどいいベッドが」

「雰囲気を壊すな!この変態!」

「冗談!冗談だってば!優奈ちゃん!鉄拳制裁だけはっ…ぐぅ…」

俺たちを見て笑う悪魔三人。

そういえば、とかなり吹っ切れた様子のリリスが呟く。

 

『サタンのその…お相手ってどんなひとなのかな?』

『確かに気になるな』

「俺も気になるわそれ」

「なになに?恋バナかい?僕も混ぜてよ」

サタンを見つめてニヤニヤする四人。

「え、お相手っていっても、普通の可愛い女の子だよ。」

「またまた!サタンともあろうお方が普通の可愛い女の子だなんて!えげつない魔力と妖艶な姿を持った魔女とかと結婚しそうなのに!」

「優奈さんは僕をなんだと思ってるんだい?…普通の、普通の人間の女の子さ」

『『「「まさかの人間?!」」』』

四人の声が重なる。おい、なんだ!年の差がすごいことに!

「えーっと、それで、ここで優奈さんと吉良くんにお願いがあるんだけど?」

「なんだ?」

「なんだい?」

「精神体…というかもともと君達自身である父さんと母さん。二人のためにこれから新しく肉体を作るなんてことは僕にもできないんだよね。その…二人ともかなり上級の悪魔だからさ。だからこれからも1つの肉体で生きてもらうことになる」

あぁ、上級悪魔に作り物じゃ釣り合わないから、みたいなかんじか?

「まぁ、今までも一緒に生きてきたんだし、問題ないっつーかあたりまえだろ?」

「僕も優奈ちゃんと同じ意見だね」

精神体の悪魔二人が嬉しそうに、照れくさそうにしている

 

「そういうと思ってたけど、とりあえずよかった!で、ここからが問題。僕の彼女…まぁ結婚相手は普通の人間なんだよね」

「それは聞いたぞ」

「彼女には僕の正体を告げているんだけど…さすがに精神体を両親ですとは紹介できないよね…主に向こう方の両親に」

『それもそうね』

『俺たちの姿ではどうにもならないな』

「そこで、優奈さんと吉良くんへのお願いになるわけだ!」

 

「結婚式や、結婚の挨拶の時に二人の体を父さんと母さんに貸してあげて欲しいんだ!」




ちょっと変な終わり方ですかね…?
というわけで次回は、二部外伝となります。
二部も終わりということで、ルキフゲとリリスの『ツンデレ』で締めてみました。

さて、サタンやルシファーという新キャラ達。回収していない伏線(?)達。
一体三部はどうなるのやら。
姉ちゃんやお友達も最登場し女体化でツンデレな、萌を追求したお話に戻していきますよぉ!!

長文失礼いたしました!感想おまちしております!


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幕間 結婚式

突如現れたサタンの結婚式。

新しい春を迎え、高校2年生になった俺達は式場へと向かっていた。

 

新クラスは吉良はもちろん雪乃や愛、ついでに隆士まで同じクラスになるという奇跡がおき、賑やかな日々を送っている。

 

『緊張するわね、一体どんな御相手なのかしら。悪い人に捕まってないといいんだけど…サタンに限ってそんなことはないわよね』

 

リリスはすっかり母の顔である。

 

『我々のサタンが選んだ花嫁だぞ、心配することは無い。きっと聡明な方でいらっしゃるであろう』

 

ルキフゲは未だサタンへの忠誠心が抜けないのかどこかかしこまった言い方をしている。

 

「なんか、2人とも精神体で話すのが普通になってきたよなリリスとかすっかりキャラ変わってるし」

 

『あら、私の素は元々こんなものよ。今までの方が無理していたって感じだわ』

 

その割には随分とノリノリだったような気がするけど…

 

今日は吉良と2人で電車旅である。

といってもサタン(むこう)も配慮してくれたのかせいぜい1時間程度である。

泊まりにならなくてよかった。リリスとルキフゲは会うとやたらとピンクな雰囲気を見せ始めるのでめんどくさいことこの上ない。

お泊まり事件の時はあらぬ疑いを家族に招いたし俺もちゃんと学んだのだ。

 

電車に乗っている途中で寝てしまったが無事吉良の「フルーツタルト飛んでくよ」で目的地に着く

 

「優奈ちゃん、道そっちじゃないよ。式場までは僕が案内するから、ほら」

 

向けられた手を素直に握り返す。

もう慣れた。キスはまだちょっと恥ずかしいけど手を繋ぐくらいはもうお手の物だ。

俺も成長したのだ!

しかし吉良というガイドがいるといつも便利だなと思う。まさか下調べに1度来ているとかじゃないだろうな…

 

 

____

「やぁ、父さん母さん。御足労さま。今日はよろしく頼むよ。着替えはあっちに用意してるから、その後にお嫁さんを紹介するよ」

 

スタッフさんに連れられて着せ替えが始まる。「これは逸材です!」と慣れない服を取っかえ引っ変えされたが、こういうのはもう

姉ちゃんで慣れている。

お眼鏡にかなった所で表面意識をリリスに渡す。

 

「うん。ピッタリねまぁ少し胸がこころもとないかしら」

『お前どんだけ巨乳だったんだよ!』

まぁ、夜の魔女さんにかなうわけもないか。

って別に俺は胸の大きさで張り合う必要なんてないだろ!

いかんいかん少しムキになってしまった。

 

吉良は既に着替え終えていた。ピシッとキマっていてカッコいい。流石は吉良といったところだろうか。ってそんなのはどうでもいい!

 

「綺麗だよリリス。この世の美で君に勝るものは無い」

 

「ルキもなかなかイカしてるわ。まぁでも私達少し若すぎる気もするわね」

 

「そこは母さんの出番でしょ。お着替えご苦労さま。2人ともよく似合ってるよ」

 

待ちかねていたかのようにサタンがやってくる。

彼も着替え終えている。いつもの羽はどこへしまっているのだろうか

 

「紹介するね、僕のお嫁さん。真鈴ちゃんだよ」

 

「あっあの…サタンくんにお世話になってます。真鈴と言いますっ。お義父さん、お義母さん今日はよろしくお願いしますっ」

 

ペコペコと頭を下げる彼女から悪い雰囲気は全くしなかった。少し気が弱そうな感じはするけど、なんだか守ってあげたくなるような人だ。まぁ、俺たちからすると年上なんだけど。

というか、普通に日本人なんだな。外国人の可能性だって充分にあったけど、アレなのか?日本は悪魔的にそんなに居心地がいいのか?

 

「私はリリス。そしてこちらはルキフゲ。あなたは事情を知っているようだから魅了は必要ないわね。このような体ではあるけれど私たちはれっきとしたサタンの家族よ。これからよろしくお願いしますわね」

 

「でっ、では私の両親を紹介しますっ。こちらへどうぞ…」

 

魅了(チャーム)を使って無事にやり取りを済ませ、結婚式へとのぞむ。

 

サタン側の参加者には悪魔も混ざって居るのだとか。傍から見ても全然分からないけど。

リリスが言うには皆借り物の体だが、見た目は悪魔の時の姿へと変わっていて見知ったものもいるのだという。

俺達のような関係の者が他にもいるということだろうか。

まぁ、あんまりよく分からないし正直どうでもいい。

 

リリスとルキフゲは真面目にもお酌を断りつつ式は『両親へのメッセージ』へと進んだ。

 

「父さん母さん、いままで僕を育ててくれて、見守ってくれてありがとう。僕も2人のように運命の相手を見つけたよ、それでも僕達は家族だ。まだまだ僕にも至らない点はあると思う。まだまだこれから先もどうか導いて欲しい、2人のような夫婦になれるように」

 

ニコッとはにかんでこちらへ目線を向けるサタン。俺(リリス)の目にはじんわりと涙が浮かんでいた。ちなみにルキフゲは号泣である。カッコいい顔が勿体ない

 

「パパ、ママ。こうして私が素敵な人に出会えたのも今まで2人が私を愛して育ててくれたからだよ。最初はものすごく変わった人だと思ったけど、サタンさんはちゃんと私を幸せにしてくれる人だって確信してるから安心してね。これからも私達のことどうかよろしくお願いします」

 

2人のスピーチに会場から拍手が巻き起こる。

2人とも親思いであり、きっとこの2人の家庭は暖かなものになるだろうとみんな感じていたことだろう。

 

 

悪魔の余興は凄かった。おそらく仕込みなしで火を吹いたり氷で2人の彫像を作ったりしていた、魔力を使っているのであろう。

まぁ、それを全てなぁなぁに誤魔化すリリスの魅了が1番凄いのだとは思うけど。

ルキフゲはプレゼントとばかりに『魔のおしゃぶり』を渡していた。少し気が早いんじゃないか?

子供か…いつか俺達の間にも…って何考えてるんだ俺は!

 

 

____

 

「優奈ちゃんはどんな結婚式がいい?僕としてはやっぱりせいだいに執り行いたいんだけど、あ、写真もちゃんと撮りたいね」

 

時期からの帰り道ふとそんなことを吉良が呟く。

どんだけ先のこと考えてるんだよ吉良は…。コイツのせいだいは言葉のままだろうから絶対恥ずかしいことになるだろ!

 

「普通でいいんだよ普通で、というか気が早いわ!そもそも結婚すること確定なのかよ」

 

「確定だね」

 

少し思い浮かべてみる。仕事に向かう吉良へいってらっしゃいと笑顔で送りし…家事をしっかりこなし帰りを待つ俺。

うん、俺には無理だな!

そもそもそんなことになったら姉ちゃんがまた「花嫁修業よ!優!」とか言いかねない。

絶対嫌だ、ろくな事にならないのは目に見えている。

そんな現実逃避をしていると吉良がとんでもない爆弾発言をした。

 

「なんだったら一緒に住んでみようか、家と生活費は僕が持つから。サタンも呼んで二世帯住宅にしようよ」

 

「は!?お前何言ってんの?どんだけ金が必要になると思ってんだよ。そもそもお前なんかと常に一緒にいたら俺がもたないっての!そもそも親が許さないっての!」

 

「ルキフゲの能力ってなんだったっけ?」

 

「え?『財宝管理』だろ?」

 

「リリスの能力は?」

 

「それは『魅了』」

 

「だったら土台は整っているでしょ?なんの問題もないよ」

 

『財宝管理』で金銭を調達し、『魅了』で親を説得するってことか?

まぁ、できると言えば出来てしまうのか…

 

「大丈夫、僕からは手を出さないからそこは安心して?お目付け役…みたいなお手伝いさんも雇うし何一つ不自由させないよ。じゃあ帰りがてら早速優奈ちゃんの家族に許可を取りに行こう」

 

「えっ、おいちょっと待て!俺の意思はどうなるんだ!」

 

「大丈夫、優奈ちゃんのことだからすぐに慣れるって」

 

こうして俺の波乱の新生活が幕を開けることになるのである。

 



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お引越し

「どうだい!見てよ優奈ちゃん。これが僕達2人の愛の巣だよ!」

 

「声が大きい!」

 

ビシッと吉良にチョップをかます。一緒に暮らすと決まってから、いちいちテンションが高くて困る。

 

「父さん、なかなかの家だね。お招きいただき感謝するよ。さすがは『財宝管理』と言ったところだね」

 

サタンが満足気に頷く。

精神体のルキフゲも満足そうである。

確かになかなか大きい家だ。友達を気軽に呼びつけるには気が引けるくらいに。

真鈴さんは

 

「は、はわわ。こんな家に私達は今から住むんですか?!少しでも傷つけてしまったら一体どうすればいいのでしょうか」

 

と、ビビりにビビりまくっている。

 

「そしてこちらが僕たちのお世話役、セバス・チャンだ。家事は自分たちで分担する予定だけど、みんな全くの未経験だから何かと不自由がおこると思うそこでセバス・チャンの出番だよ」

 

「本日より皆様のお世話役を務めさせていただきます。セバス・チャンと申します。気軽にセバスとお呼びつけください。何かご用命の際は気軽にご命じ下さいませ」

 

白い口髭をたくわえた壮年の男性が綺麗に礼をする。御丁寧に髭先はクルんとまがっており、いかにもといった感じである。

セバスに連れられて家をまわる。

内装も綺麗だ。

もしかしてこれ…

 

「どうだい?優奈ちゃん、これが新築の匂いだよ!」

 

「…一体幾ら使ったんだよお前!」

 

「先行投資というやつだよ。大丈夫、こういうものは一生モノなんだからしっかりしたものを選ばないとね」

 

ウザったらしくウインクをする吉良。格好だけはつくのがイヤミったらしいことこの上ない。

 

「一生って重いわ!俺達まだ高校生だぞ!」

 

「でも、一生僕といてくれるんでしょ?」

 

「お前みたいな変態、俺以外じゃなきゃ制御出来ないからな!仕方なくだぞ仕方なく!」

 

こんな変態、そうそうよに放てるか!

 

「掃除は既に終えております。中でゆっくりとお過ごしくださいませ」

 

大きなリビングでお茶を頂く。本当に落ち着かない。

マジでここに住むのか…居づらいったらありゃしないな。あまりにも綺麗すぎる。

 

____

ピンポーンと家のチャイムがなる。インターホンを見るとニッコニコの姉ちゃんが映っていた。

 

「優、荷物もってきたぞい!さぁ早く部屋に案内するんだ!」

 

しっかし大きい家だねーと姉ちゃんが呟く。やりすぎだろコレと俺が返すと、吉良くんのことだからこの位は予想済み!と勢いよく返答してきた。

 

「セバスさん、俺の部屋はどちらですか?」

 

「優奈様、私のことはセバスで構いませんよ。では、部屋にご案内致します」

 

セバスに連れられてとある部屋に入る。大きなベッドと鏡台が特徴的な部屋に通された。

女の子らしい可愛いカーテンまでつけられている。…やれやれ。

というかこの家トイレとかお風呂とかどこにあるんだ?パッと見全然分からん。

これは当分セバスのお世話になることになるぞ。

 

姉ちゃんと2人で荷物を運び込む。吉良はサタンと真鈴さんのヘルプへ行った。

もう家の構造は理解しているのだろう。さすが下調べの吉良。ぬかりない。

 

「まさか優が私より先に家を出ることになるなんてね、しかも高校生の身で同棲?まったくもう 考えられないわよ」

 

「別に俺もやりたくてやってる訳じゃないんだけど…」

 

「その割には荷造り楽しそうだったじゃない?」

 

「うるさいっ!」

 

お姉様にその口答えはなんだー?っと頬を抓られながら荷解きを進める。

ん?これなんだ?

衣料を片付けていると変な紐が出てくる。

スルスル〜っと出すとほぼ紐の真ん中に少量の布が付いてあるモノが出てきた。

………コレって。

 

「おい姉ちゃんこれはなんだ!」

 

「いやぁ、これから必要になるかと思って?少し際どい下着を新調してみたのだ!」

 

使わねーよ!どうやってつけんだよこれ!

 

「持って帰れ!絶対使わないから!どうせ他にもあるんだろ?全部撤収だ撤収!」

 

姉ちゃんにヤバそうな荷物を押し付ける。

やっぱり暴走したか。そうだよな、この人が大人しくしてるわけなんかないよな。

その後「花嫁修業よ!」といいはじめた姉ちゃんに家事を叩き込まれたのは言うまでもない。

 

____

ピンポーンと再びチャイムがなる。インターホンを見るとニッコニコの隆士が映っていた。

 

「引越し祝い持ってきたぞー!」

 

家に上げると我が物顔でリビングのソファーでくつろぐ隆士。

 

「しっかしデッケー家だなぁ。大雅から位置情報聞いてやってきたけど外観に恐れおののいたぞ!」

 

隆士が持ってきたのはいちご大福だった。引越し祝いとしてはどうかと思うが俺の好みを考慮した上でのことだろう。さすが親友、分かっているな。

 

「庭も広いもんなー、大雅!今度みんなでバーベキューとかやらないか?」

 

「それはいい考えだね隆士くん、今度優奈ちゃんの友達や隆士くんの彼女も呼んでみんなでやろうか」

 

「あはは、それは女の子が沢山いて花があるね。いててっ、真鈴つねるのはやめてくれないかな」

 

サタンがしょうもないことを言って真鈴さんに抓られる。真鈴さんも案外嫉妬深い人なのかもしれない。

ちなみに隆士はサタンと何度か会っている。まぁ、俺達(リリスとルキフゲ)の息子という説明はしていないが、一応吉良の親戚ということで話は通してある。

まぁ、当然のごとく普通に馴染んだ。

 

みんなで談笑しつつ、キリのいいとろで隆士は「また来るわ」と帰っていった。

 

 

____

 

その日の晩、真鈴さんの作ったハンバーグを食べた。とても美味しい。

俺は姉ちゃんに「甘いもの以外はやめときなさい!」と念を押されていたので人参のグラッセだけ手伝った。うん。自信作だ。

 

片付けもあらかた終わり、一風呂でも浴びようかと思っているとつんつんと吉良に呼び止められた。

 

「お風呂一緒に入ろうよ優奈ちゃん」

 

即座に右ストレートを振りかざす。が、しかしその手は吉良の左手に遮られた。

 

「大丈夫、水着を用意してるから」

 

一緒に入ること前提でなんてものを用意してくれてるんだとは思ったが、こうなると吉良は引かないので、仕方なく水着に着替える。

 

「変なことしたら殺すからな」

 

風呂場に入る…デカい。これ、2人入る前提で作っただろ!

 

「優奈ちゃんは長風呂だからね、ゆっくりと出来る風呂場を用意してもらったよ」

 

身体を洗っていると、後ろから

 

「うんうん、実に艶やかでいいね。クラクラしちゃいそうだよ」

 

と吉良が気持ち悪いことを言い始める。いよいよホントに変態じゃないか?コイツ。

洗い終わって先に湯船に入っていると、吉良にもう少し前に詰めるように言われる。なんだ?と思いつつも言う通りにすると後ろから抱き抱えるように吉良が湯船に入ってきた。

 

「ちょっ、お前近いぞ!」

 

「まぁまぁ、これくらいいいじゃない。普段どれだけ僕が我慢してると思ってるの?優奈ちゃん」

 

肌と肌が触れ合う。段々とその箇所が熱くなってきた。頭がポーっとしてくる。

ふと首筋に何かが触れる。

 

「ひゃんっ」

 

ちゅっ、と音が風呂場に鳴り響く。

 

「何すんだよお前!」

 

「ふふっ、キスマークつけちゃった。お友達にバレないようにせいぜい気をつけてね優奈ちゃん」

 

悪魔のような笑みを浮かべる吉良。先に上がるねと風呂場を後にする。

取り残された俺は少しの間ボーっとしていた。

慌てて鏡を覗くと首筋に赤い跡がくっきりとついていた。

風呂場を出て普段着に着替える。

 

俺達と入れ替わりで風呂に入るサタン夫婦と出くわす。

真鈴さんはどこか気合いが入っているようだった。

サタンは俺の首元に目をやるとニコッとはにかんだ。

 

この親子、いつか絶対とっちめると心に誓った俺だった。



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