FAIRYTAIL~錬鉄の魔導士~【凍結中】 (深淵の守人)
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プロローグ

この作品は私が小説を投稿し始めて二つ目の作品でした。
見直してみると、おかしな表現が有ったり無かったり。
懐かしいですねぇ。
と、本編へどうぞ!


~プロローグ やっぱり王道は転生から~

 

 

 

バンッ!!

 

俺の身体が、空を舞う。

視界に入るのは青い空と僅かに飛び散る赤い液体。

だが、急に視界が黒くなったかと思うと、俺は黒い壁が迫ってきた。

……………いや、俺が落ちたのか、道路に………。

どうやら、車にはねられたらしい。

そして視界は黒く塗りつぶされた。

 

目を開けると、白い空間にいた。

「何処だ、ここ?」

 

「ようこそ、真理の間へ!初めまして、佐野咲夜君」

 

振り返ると、全身白い某鋼のおチビ活躍の世界に出てくるアイツがいた。

 

「んで、これ転生フラグ?」

 

「当ったりー!さて、早速この中から、好きなカードを選んで?」

何処から取り出したのか、手には三枚のカードがある。

 

「何、これ?」

 

「君がこれから行く世界にあう力を三つ抜選したんだ。因みに一つだけらね」

迷うなぁ。

 

 

「これだ!」

引き抜いてカードを見ると、『錬鉄の英雄』っと書かれていた。

 

「やっぱりそれを選んだね!」

 

「なんだ、決まってたのか?」

 

「いや、だってね、君思いっきり錬鉄の英雄の幼少期に似てるもん」

 

「……よく言われる」

なんだかなぁ、と。

 

「さて、その力の説明だけど、初めは強化しか使ええないよ」

 

「縛りプレイ!?」

 

「いや、魔術回路を定着させるのに時間がかかるんだ。肉体はどうする?」

 

「そのままで、身体能力を錬鉄の英雄と同じくらいまで上げてくれ」

 

「はいはい、任せて」

 

「……なんか淡々と進むな。もしかして、初めてじゃないのか、こういう事」

 

「そだよ~!」

 

「少しは悪びれろっ!」

 

「転生させてあげるんだから文句無いっしょっ?」

なんて神様だ。

 

「んなんで、よく神様勤まるな?」

 

「あ゛あ゛あ゛、聞こえない聞こえない!!」

ッ、コイツ!!

 

「さ、もう行きなよ」

 

「は?何処に行くんだよ。聞かされてねぇーぞ?」

 

「行けば分かるよ。じゃあね~」

俺の身体が浮く。

いや、後ろに吸い寄せられている?

振り返ると、何時の間にか真理の門がある。

 

「オマっ、覚えてろよ~~~!!」

それに抵抗出来ず、俺は吸い込まれた。




今日は二話ぐらいまで投稿しようかと。
では次回までどうぞ。


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序章
一話


この頃は小説携帯でやってたので一日中携帯握ってました。
そう言えば、電源切れるの早かったなぁ。
一回それで書き上げたデータがおじゃんになって一日中泣きました。
では、本編へどうぞ。


~一話 駆け抜ける地獄と怨念と悔恨と 《前編》~

 

 

 

目が覚めると真っ暗。

しかも、窮屈。

 

「何だ、何処だ、ここ?」

もぞもぞ動く。

「チッ、暴れんじゃっねぇ!!」

 

バシッ!!

 

痛っ、何かで殴られた。

何なんだよ!!

と、突然浮遊が俺を襲う。

 

ドスンッ!!

 

「痛っ!!」

受身すら取れなかったぞ!?

「オラ、出ろ!!」

やっと視界が明るくなったかと思えば、そこは洞窟。

周りにはみすぼらしい格好をした人達が隅っこで固まっている。

「何だ、此処は……?」

「お前が一生を過ごす仕事場だ。」

「わっけ分かんねー。」

 

バシッ!!

 

「黙って従ってればいいんだよ、餓鬼が!!」

木の棒みたいなので殴られた。

男は後ろにある牢の扉から出て、鍵を閉めてどっかに行った。

 

「おい、大丈夫か!?」

前から青い髪の少年が近づいてきた。

あ、見たことあるぞ。

確か、FAIRY TAILに出てくるジェラールだ。

「大丈夫、これぐらい何ともねぇよ」

柔道やってて何時も投げられてるし。

「はは、頑丈な奴だな。名前は?」

「咲夜だ。よろしくな」

「サクヤか。ジェラールだ、よろしく!」

俺達は握手した。

少年時代のジェラールってことは、此処は『楽園の塔』か。

「みんな、来いよ。新しい仲間だ」

ジェラールの呼び声に、ぞろぞろと子供達が寄って来た。

「初めまして、エルザだよ。」

うわ、小さいエルザだ。

目の前で見るとやっぱ可愛いー。

「?どうしたの?」

「あ、いや何でも。咲夜だ、よろしく」

俺はノーマルだ、ロリコンじゃない。

煩悩退散、と。

 

「ショウだよ。よろしく」

次に尖がった髪が特徴的な小さな少年から挨拶。

 

「ウォーリーだ、よろしく。ボソ(ミリアーナには手を出すなよ)」

続いて子供にしては妙に角ばった顔の少年。

丁寧に脅しまでつけてくれやがりました。

「あ、ああ」

将来、より角ばった顔を見ることになるのか、と思うと吹き上がる笑いを抑えるのに必死だ。

 

「ミリアーナだみゃあー。よろしくみゃあー」

間延びした口調で話す猫のように瞳が細い少女からも挨拶。

 

「シモン……よろしく。」

最後に若干老けた顔の少年がボソッと挨拶をした。

 

「咲夜だ。みんなよろしくな」

こうして、俺はジェラール達と仲良くなった。

 

 

 

 

あれから何日経っただろうか?

いや、何ヶ月か?

何年か?

時間という感覚がないこの中で、兎に角長い間過ごした。

分かった事といえば、まず何故か身体は縮んじまってる事(どこぞの小さい名探偵みたいだな)。

髪の色は黒だったのが緋色になっていた事(絶対神の仕業だ。そんなに衛宮が気に入っているのか?)。

それと、まだ強化の魔術すら使えないという事。

意外に拙いな、魔術が使えないのに。

今日はジェラール達と脱走する段取りになっている。

勿論、失敗するのも分かってる。

その後戦闘になるんだったら戦う力がなきゃ拙い。

ま、身体能力はあるみたいだし、生前やっていた柔道でやれるとこまでやるつもりだが……。

 

「姉さん、こっちだよ!早く!」

言い出しっぺのショウが先導する。

「ショウ!!でけェ声出すんじゃねェヨッ!!」

どう考えてもショウより大きな声のウォーリー。

「ウォーリーの方が大きい声みゃあー」

それを制するミリアーナ。

「へへっ、すまねぇ、ミリアーナ」

ウォーリーは大丈夫か、この調子で。

 

「エルザ……急がねえと奴等に見つかっちまう。」

シモンがエルザを急かす。

「う、うん。」

恐怖からか、エルザは震えている。

 

伊達に精神年齢こいつ等より上じゃないし、ここは年長者の出番かな。

「大丈夫だ、俺達はみんな一緒だ、怖くないぜ。何かあったら俺がみんなを守ってやるよ」

「サクヤ……。」

声色からエルザの安心感が漏れる。

 

「俺もいるぜ。」

そして、ジェラールがエルザの肩に手を置く。

「ジェラール……。」

「わーてるよ。な、大丈夫だ。心配すんな」

「うん!」

 

 

 

結果はやはり見つかった。

 

 

 

 

「脱走計画の立案者は誰だ?懲罰房へは、そいつ一人に行ってもらう。やさしいだろ?俺達は……ひひひひひ」

俺たちを捕まえた看守がそう言った。

 

これが優しさだって言うならアンタら人間じゃねぇよ。

 

ショウがガクガク震え出す。

恐怖するのは当然だ。

これまで散々逃亡を謀った奴らがぼろぼろになるのを見た。

どうなるのか先が見えてる、というほど恐ろしいことは無いだろう。

潮時だな。

 

「わ……「俺が計画した」……!?」

エルザの言葉を遮り、堂々と口を開いた。

これはエルザとジェラールを救える唯一の方法だ。

原作どおりならば此処で連れて行かれたエルザは右目を負傷し、エルザを助けに行ったジェラールは何者かに洗脳される。

この両方を避けるにはこれがベストだ。

「(おい!)」

ジェラールが小声で怒鳴る。

俺は振り返らず、言った。

「(逃げ出せる奴が行く方がいいに決まってんだろ?エルザ達を頼むぜ)」

 

最後のは嘘だ。

身体能力はあっても、体が子供並みで武器無しじゃ高が知れてる。

 

「俺が立案して、先導した。」

「ほぅ?」

看守は嫌らしく俺達を見回す。

 

「フン、この女だな。」

そう言って、看守はエルザの腕を掴み、引っ張り上げた。

ちっ、やっぱりエルザに目を付けたか。

どう足掻いても結果が同じように進むのか?

 

「連れてけ。」

エルザは看守の一人に連れていかれる。

 

「俺だ!!俺が立案者だ!!……俺が立案者だって――」

この場面を打開するには無理にでも対象を俺に向けさせなければならない。

俺は近くの木箱にあった鉱石を握り、

 

「―――言ってんだろうが!!!!」

思いっきり看守に投げつけた。

 

ゴンッ!!

 

鈍い音と共に、エルザを連れていこうとした看守は吹っ飛んだ。

「な、この餓鬼ィ!!」

看守が掴みかかろうと、腕を伸ばしてきた。

 

「おいおい――」

 

足下を回し蹴りして払う。

 

「―――足下がお留守だぜ。」

 

 

「こ、この餓鬼ッ!!もういい、コイツを連れてけ!!」

 

 

「サクヤ!!」

ジェラールの声を聞いた最後、無数の手が迫る。

 

その後、何人もの看守に取り押さえられ、俺は懲罰房を連れていかれた。

 

 

 

バシンッバシンッ!!

 

鞭で打たれる音が響く。

勿論、俺がやられてるんだが。

 

 

 

 

「この餓鬼、嘗めやがって!!」

鳴り止むことの無い鞭の音が耳を通り抜ける。

痛みで既に身体の感覚は無い。

 

「ハッ……驕りは……強者の特権だからな……。俺は………お前等みたいに……数だけ揃えた……弱虫とはちげぇーんだよ……」

虫の息でも皮肉は止める気は無い。

 

「ッ!!この―――」

 

怒りに狂った看守はどこにあったのか、剣を振り上げ、

 

「―――糞餓鬼がぁ!!」

俺の右目を思いっきり斬った。

 

「があァアァアアアァァアァッ!!!」

痛い、痛い、イタいッ!!

 

 

 

 

考えればそうだ。

本来、右目を負傷するのは()()()だった。

それを肩代わりしたと言うことは、その因果を受け取るのはサクヤなのだ。

けたたましい悲鳴の後、吊るされたサクヤはぐったりと垂れた。

 

 

 

 

「アハハハハ、いい気味だな!」

「おい、やりすぎだ」

「チッ、何だよ!?いいところなんだよ」

「それにそろそろ外の見回りの時間だ。行くぞ」

「チッ!」

 

かんシュたチはでテいった。

イタい。

ナマじ、エイレイノにくたいをサイゲンしてあるだけアッて、ショック死は、させテくれないラシイ。

 

 

 

 

激痛に襲われながらも、サクヤの意識は途絶えた。

 

 

 

「こっちだ、エルザ!!」

「うん」

 

ジェラールとエルザは牢を抜けて、咲夜を探しにきていた。

エルザ達は懲罰房を見つけた。

そこで、横たわる咲夜を発見した。

 

「「サクヤ!!」」

 

二人は咲夜に駆け寄る。

二人係で吊るされたサクヤを床に下ろす。

 

「おい、しっかりしろ!サクヤ!!………!?」

 

徐にジェラールは昨夜を抱き起こす。

 

「……酷い……」

 

エルザがそう呟くのも無理は無かった。

ジェラールとエルザは見てしまったのだ。

無惨にも右目を切り裂かれたサクヤを………。

 

「俺達が………俺達が何したっていうんだよ……」

 

親友(サクヤ)の姿を見て、ジェラールはそう呟くしかなかった。

 

「兎に角運ばないと……」

 

エルザがジェラールを促す。

その時だった。

 

「脱走者はこっちだ!」

 

外で慌しい足音が無数に聞こえる。

 

「チッ、サクヤを連れて先に行け!俺は攪乱して戻る!」

 

ジェラールは転がっていた石を引っ掴み、駆け出す。

 

「わ、分かった!」

 

ジェラールが懲罰房を出てすぐに声が聞こえる。

合い音が遠ざかるのを待って、エルザはサクヤを連れて出ていった。

 

一方ジェラールは看守達を引き連れて遠回りをしながら牢へ向っていた。

 

「おい、こっちだ、ノロマ共!!」

「あっちにいたぞ、捕まえろ!!」

 

時折後ろを振り返り、わざと声を上げて引き付ける。

それでも追いつけない看守達を見て安堵していたのだろう。

 

「これなら逃げ―――」

 

だから前に注意を払って無かった。

ドスッと何かにぶつかる。

 

「―――えっ?」

「イテェじゃねぇか……糞餓鬼ィ!!」

 

バシンッと音が響く。

前から来た看守は手にしていた木の棍棒でジェラールを殴った。

 

「ガッ!!」

 

短い悲鳴を上げて、ジェラールはそのまま倒れ込み、気を失った。

 

「チッ、手こずらせやがって」

 

 

 

その頃、エルザ達は自分の牢に戻って来ていた。

 

「姉さん!!サクヤ兄さんは!?」

 

戻ってきた二人を見て、ショウが声を上げる。

 

「………。」

 

しかし、エルザは黙って、ゆっくりサクヤを横たわらせた。

それだけでも見えただろう。

……サクヤの状態を。

 

 

 

 

 

「あ、あぁ……」

ショウはただただ口をパクパクさせていた。

立案者だった手前、罪悪感と恐怖で表情が強張っていた。

「何という事を……。」

近くにいたロブお爺ちゃんはサクヤを見て言った。

私のせいだ。

私の……。

 

「……エル……ザ?」

「サクヤ!?」

意識を取り戻したサクヤに、私は駆け寄った。

「何……悲しそうな……顔……して……んだよ?可愛い……顔が……台無し……じゃ……ねぇか」

サクヤの手が私の頬に触れる。

「泣くな……お前の……せいなんかじゃ……ないんだ」

「でも……」

「この世は不条……理な……事だらけだ……手を伸ばせば………離れていって……しまうほどに。それでも………俺達は……追い求めなければならない」

息も絶え絶えで、それでも言葉を紡ぐサクヤの言葉をしっかりと聞く。

「…遠くても……求め続けろ。その先に……ある未来(せかい)は、きっと……価値があるものだから……」

そこまで言って、またサクヤは意識を失った。

 

「グス……もうやだ……もう、こんなトコやだぁあああ!!」

ショウが泣き出す。

その騒ぎを聞きつけ看守がやって来た。

 

「何の騒ぎだ!!」

看守が牢を開けて、入ってきて脅す。

「ガキ、黙れ!黙らなねぇと、舌引っこ抜くぞ!!」

「ショウ、落ち着け」

「ショウくん、大丈夫だよ、おじいちゃんが近くにいるからね」

ウォーリーとロブお爺ちゃんがショウを宥めるのが耳に入ってくるが湧き上がってくる恐怖に襲われる。

私は耳を塞ぐ。

怖い、怖い!

また誰かが傷つく。

また……。

 

その時、サクヤの言葉がリフレインされた。

 

 

 

 

「この世は不条……理な……事だらけだ」

 

彼は私達より少し大人びていて―――

 

「それでも………俺達は……追い求めなければならない」

 

何処か遠くを見ていて―――

 

「…遠くても……求め続けろ」

 

誰より優しい笑みを浮かべて励ましてくれる―――

 

「その先に……ある未来(せかい)は、きっと……価値があるものだから……」

 

だから、少し勇気を出してみよう―――誰も傷つかない世界を夢見ることは、間違った事ではないのだから。

 

 

 

「うわあァァアアアァァアァァアッ!!」

 

エルザは看守から槍を奪い取り、二人の看守をまとめて凪払った。

そこにいたみんなが驚きの声を上げる中、エルザは声を張り上げた。

 

「従っても、逃げても、自由は手に入らない。戦うしかない!!自由の為に立ち上がれぇぇ!!」

 

オオオォォォ!!

牢に大勢の人達の声が響く。

反乱の開始だった。

 

 

 

 

「今日中に第八セクターを解放する!!みんな、頑張って!!」

 

エルザは、反乱軍を先導する。

 

「無茶だ!あそこは兵の数が多い!」

 

仲間の一人が声を上げる。

対して、エルザも言う。

 

「あそこにはジェラールがいるんだ!!サクヤなら、きっと助け出すって言うよ!!」

 

近くで聞いていたウォーリーは、隣を走るシモンにニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

「サクヤなら……だとよ。脈なしだな、シモンさんよ?」

 

ドサッとシモンは咲夜を地面に落とし、引きずりながらエルザに近づいていく。

 

 

「お、おい、サクヤを雑に扱うなよ!!」

 

ウォーリーは流石にやり過ぎたか、と思った。

 

「エルザ、お前サクヤの事好きなのかよ?」

 

シモンが徐に尋ねた。

 

「は?こ、こんな時に……な、何言ってるの?そんな話、今は……」

 

図星なのか、エルザは少し頬を赤く染めてあたふたとする。

 

「俺はお前が―――」

 

シモンがその様子に絶えかねて口を開こうとした。

その言葉は最後まで続かなかった。

 

ゴォーーーンッ!!

 

轟音と共に飛んできた劫火がシモンと咲夜を吹き飛ばした。

 

「シモーーン!」

 

ミリアーナが声を上げる。

轟音の正体は魔法。

つまり―――

 

「魔法兵だーー!!」

「逃げろーー!!」

 

―――最悪の展開だ。

反乱軍は一斉に退却を始めた。




前作での文章に手を加えただけなのでおかしな表現があったかもしれません。
アドバイス有りましたら宜しくお願いします。


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二話

実はまだストックがある。
ララバイの処までのデータがあるので。
今日中にするかはともかく、なんですけどね。


~二話 駆け抜ける地獄と怨念と悔恨と 《後編》~

 

 

 

 

「駄目っ!!みんなあきらめないで!!戦わなきゃ駄目なの!!」

 

散り散りに散っていく仲間にエルザは叫ぶ。

そんなエルザに魔法兵が杖を向ける。

 

 

「エルザー!!」

「姉さーん!!」

ウォーリーとショウが叫ぶ。

 

劫火はエルザに向かった飛んでいく。

 

 

 

気づいた時には私の目の前に劫火が迫っていた。

だが、それは間に入ったロブおじいちゃんに当たった。

「ロ、ロブお爺ちゃん!!」

背中から焼け焦げた臭いが私の鼻を刺激した。

「こ……こんな老いぼれでも……少しは……役に立てて……良かったよ。……お爺ちゃんはとっくの昔に『魔力』はなくなっちゃったけどね……エルザちゃんには、まだ無限の可能性があるよ」

「おじいちゃん!!」

「こんな場所で、あんな笑顔が見れるとは、思わなかった。」

そう言って、ロブお爺ちゃんは膝をつく。

「自由とは心の中にある。エルザちゃんの夢は、きっと叶うよ」

そうして、ロブお爺ちゃんは息絶えた。

「あああああああ!!」

喪った。

傷つくだけじゃ済まなかった。

私は声上げる。

それに呼応するように辺りに散らばっている剣が、槍が、浮き上がって、魔法兵達に向かっていった。

「ギャーーー!!!!」

「逃げ――うわああ!!!!」

武器の群れが魔法兵を次々と貫いた。

 

 

 

 

魔法兵達の悲鳴がやんだ頃、辺りは静まり返っていた。

 

エルザ「これが……魔法……」

私は拳を強く握る。

これなら――

 

「あっ、まだだ、エルザ!!」

ウォーリーが何かに気付いて声を上げる。

「危ない、姉さん!!」

ショウが叫ぶ。

右を見ると倒した魔法兵の生き残りが、杖を向けて劫火を放っているところだった。

避けられない、そう直感した。

そんな私の前に、再び人影が入った。

 

 

 

地面に叩きつけられた。

シモン、流石に痛いぜ?

……あれ?

何でシモンが倒れているんだ。

……!?

素人の俺ですら解る位、顔が焼け、煙が上がっていた。

俺が寝ていたから……守れなかった……?

ハハ……ハハハハ………………………ふざけるなよ。

何の為に、力をもらったんだよ。

軋む身体を奮い立たせて立ち上がる。

 

―――身体など知ったことか。

 

近くにあった、今は身の丈程ある剣を拾う。

 

―――何だか力が湧いてくる。

 

ああ、やっと使えるようになったのか。

……シモンが傷つけられた後に!!

 

周りを見回す。

そこには、エルザとエルザに杖を向けた兵がいる。

強化・開始(トレース・オン)

魔術回路を何かが流れる感触を感じながら、強度を上げる。

駄目だ、もっと……アイツが放とうとしている魔法を防げるだけ……強く、より強固に!!

 

魔法兵から炎が放たれた。

間に合えっ!!

 

エルザの前に飛び出し、剣を下に向け、盾のようにする。

ガツンッと衝撃に押され、しかし脚に力を入れて踏ん張る。

炎と剣がこかつする。

拙い、このままじゃ二人とも炎に呑まれる。

「うおぉぉぉぉ!!」

剣を腹の部分においた左腕を支点に、炎の軌道を上にずらした。

 

 

 

「サクヤ!!」

エルザが後ろから歓喜の声を上げる。

しかし、今はそれもまともに届かない。

「ば、馬鹿な!剣で魔法を弾きやがった!?」

魔法兵は在り得ない事だと言わんばかりに否定する。

俺はそのまま剣を手にゆっくり近づく。

「ま、待ってくれ!見逃してくれ!」

畏怖した魔法兵が命乞いをし始める。

「……見逃す?………お前をか?」

「そ、そうだ!お願いだ!」

 

「……なあ、お前は何で剣は重いんだと思う?」

自然と口が動いた。

「……サクヤ?」

エルザが何時もと違うだろう俺に声をかける。

しかし、それにこたえる気にはならない。

「な、何の事だ」

 

魔法兵は突拍子も無い質問に疑問に思う。

 

「答えろよ。言っておくけど、物量の事聞いてんじゃねぇぞ。知ってるか?相手を剣で斬るとき、重みが増したように感じるんだ。それは何故だと思うか聞いているんだ」

握っている剣が段々と重くなってきている。

「し、知るか!」

魔法兵はまともに取り合わなかった。

それを聞き、咲夜の目は光った。

 

「だろうな。一度もそんな事、考えた事ない奴に答えられる訳がない。剣っていうのは、敵を斬る道具、即ち()()絶・》|つ()道具だ。……命は尊い。その命を斬るっていうのは、()()んだよ。だから剣は重いんだ、軽々しく命を斬れないようにね」

これは、俺の単なる思い込みだ。

剣を握ったことが無い俺が、今握ってそう思っただけ。

しかし、不思議と間違った気はしない。

 

その場にいる誰もが、サクヤの言う事に耳を傾ける。

 

「命を絶つという事は、その命を背負うという事なんだ。斬る事を許されるのは、斬られる覚悟を持っていて、尚且つその命を背負える人だけだ。撃つ事を許されるのは、撃たれる覚悟を持っていて、尚且つその命を背負える人だけだ。……だが、アンタ等はどうだ?アンタ等は従わないから、口答えしたから、そんな理由で意味なく命を奪った。姿形は違えど、人の命は、いや、生き物の命は全て等しく同じ価値があるんだ!アンタ等はそれを何の気無しに奪ったんだ!!命の重さを分からない人でなしが、命乞いなんかしてんじゃねぇ!!」

噴きあがるのは怒り。

 

「ま、待ってくれ、等しい価値の命なんだろ!?なら見逃してくれ!!」

醜い、憎い。

そんなドス黒い感情が胸の内を支配する。

 

「人が剣に重みを感じるのは人を斬る時だけなんだ。人が背負える命も人だけなんだ。でもな、俺はアンタを人とは思わない。だから重みを感じることもないし、ましてやアンタの命を背負おうとは思わない!!」

振り下ろされた剣は魔法兵の胸を貫き、魔法兵は息絶えた。

畜生なんかにやれる感情なんか無い。

そう思ってしまうのは俺も畜生だからなのか。

初めて人を殺した。

肉を裂く感触、骨を砕く感触が、手に残る。

約束された平和を享受できた俺の世界とは違うんだと、改めて思う。

現実なんだ、これが。

この世界にとっての。

酷い話だ。

創作物じゃ済まないんだ。

生きてるんだ、この世界で、エルザ達は。

 

そして、何より酷いのは()だ。

俺は、どこかゲーム感覚だった。

駒を動かし、盤上を支配し、望んだ通りの結果へ導く。

俺は彼ら(エルザ達)を人間として扱っていなかった。

何でも思い通りになると勘違いしていた。

 

ふと未だ電撃を受けたような痛みが走る右目の傷に触れる。

これはそんな俺へ罰なんだ。

「サクヤ!!」

エルザが安堵した表情で駆け寄ってくる。

嬉しそうに駆け寄ってくる。

そんな……そんな顔で俺を見ないでくれ。

「よかった。サクヤ、もう大丈夫だね」

そんな言葉をかけないでくれ。

「サクヤ?」

「……めん」

「え?」

俺から漏れた言葉は、

「御免」

ただ今までの謝罪だった。

「どうして謝るの?」

仲間に運ばれていくシモンを見る。

「俺なら守れたかもしれないのに」

倒れ伏したロブお爺さんを見る。

「俺なら救えたかもしれないのに」

()()可能性はあったのだ。

俺がもっとちゃんとしていれば防げたかも知れない未来(げんじつ)を、俺は認めてしまったんだ。

「でも、サクヤは私を助けてくれたよ。だから―――」

「それじゃ駄目なんだ!!」

広い空間に俺の叫びが木霊する。

「それじゃ……駄目なんだよ」

「サクヤ……」

「俺は最低だ。傍観者気取って、真面目に受け止めてなかった。俺はお前達を軽く見ていた」

沈黙が走る。

その沈黙を先に破ったのは、

「サクヤは凄いよ」

目の前の少女(エルザ)だった。

「皆に優しくて」

違う。

「達観していて」

違う。

「素直で」

違う。

「だから、サクヤは最低なんかじゃないよ」

「違うんだ、エルザ。俺は、そんなにできた人間じゃないんだ」

情けない話だ。

生きていたのはこの少女より長いくせに、俺は餓鬼そのものだ。

温かい手が俺の手を持ち上げ、包む。

「ううん。きっとね、サクヤは物凄く優しいんだ。そうじゃなきゃ―――」

手を離し、俺の右目の傷に触れる。

「―――私の身代わりにこんな傷受けたりしないよ。間違ったことを謝ることなんてできないよ。私はね、サクヤが来てから変われたんだよ?だから、これからも私はサクヤを信じるよ」

ああ、なんて―――

 

 

 

 

―――なんて優しいのだろう(愛しいのだろう)

 

「今度は……」

 

―――もし

 

「エルザを」

 

―――この少女との出会いが運命だったならば

 

「皆を」

 

―――俺は、この少女を

 

「守るから」

「うん」

 

―――華のような笑顔で応えてくれた彼女に誓おう。何があっても、『絶対に守り抜く』、と

 

 

 

 

「ジェラールは?あいつは何処に?」

ジェラールにはエルザのことを頼んだ。

あいつが此処にいないなんておかしい。

「サクヤを助ける為に囮になって」

エルザの言葉に目を見開く。

「捕まったのか!?」

「……うん」

嫌な予感がする。

もし、もし原作(シナリオ)通りならば、あいつ(ジェラール)は―――

 

剣を拾い上げ、俺が押し込められた懲罰房に走ろうとする。

しかし、エルザに腕を掴まれた。

「私も行く!」

「だ―――」

いや、待て。

此処で彼女を置いて行けば、彼女は此処に囚われることになるかもしれない。

危険と解っている。

ならば誓いを守るためには、彼女を連れて行くしかない。

結果辛い思いをするかもしれないけれど、それでもまだ救いがある。

 

同時に、先に海岸に向かわせた仲間達の事を考える。

……全ては救えない。

どちらかを切り捨てなければならない。

そして思った。

まるで、(エミヤシロウ)みたいだ、と。

常にこの二択に迫られ、彼はより多くを救うために戦った。

一を切り捨てた。

俺は如何すべきなのか解らなくなる。

俺はエルザもジェラールも助けたい。

皆も助けたい。

どうすれば―――

「サクヤ!!」

目の前でエルザに叱責され、現実に引き戻される。

「考えるのは後!!ジェラールを助けなきゃ!!」

そう言って、彼女は走り出す。

止まらない。

止められない。

だから、俺は―――

 

「待て!俺が先攻する!」

 

―――エルザを選んだ

 

御免なさい。

俺は、貴方達を見捨てる。

 

 

 

 

懲罰房で腕を縛られ、吊されたジェラールを見つけた。

「ジェラール!!」

「ジェラール、大丈夫!?」

俺達は駆け寄り、縄を斬る。

「終わったぜ、何もかも。」

「そうだよ!!私達は自由なんだよ!!」

そう言い、倒れ込んだジェラールを抱き起こす。

けれど、彼の瞳には()がなかった。

「……サ……クヤ……エルザ……もう逃げる事はないんだ。」

 

何もかもが遅すぎた。

 

「本当の自由は、ここにある。」

 

ジェラールは、エルザに手を伸ばす。

 

パシンッ

 

俺はその手を払いのけ、エルザを持ち上げて後ろに下がった。

 

「何を……!」

俺の行動にエルザが疑問を投げかける。

「ジェラール、俺達の自由は此処にありはしない。ゼレフなんて、手を出してはならない」

「ゼレフ……?」

一人だけ理解していないエルザはおろおろする。

だが、ジェラールは歪んだ笑みを浮かべた。

「なんだ、お前は知ってたのか。なら、俺が言いたいこと分かるだろ?ゼレフの世界こそ、本当の自由だ!」

 

違う。

 

「今なら奴等の気持ちも、少しは分かる。あのゼレフを復活させようとしていたんだ。だが、奴等はその存在を感じる事が出来ない哀れな信者どもさ」

 

間違えるな。

 

なあ?、なんて言いながら、ジェラールは近くに横たわる看守の頭に足を乗せる。

「この塔は俺がもらう。俺がRシステムを完成させ、ゼレフを蘇らせる」

「ど……どうしちゃたの?ジェラール……」

様子がおかしいジェラールに動揺するエルザをジェラールは見据える。

 

そして、ジェラールは不適な笑みを浮かべ、看守の頭を―――

 

 

 

 

グシャッ!!

 

 

 

 

―――踏み潰した。

 

その後も、ジェラールは魔法でどんどん看守達を殺していく。

 

「アハハハハハハハハハハハ!!」

無惨な看守達を見て、ジェラールは笑い狂う。

 

気付けたのに。

如何して。

手が届かない。

 

「ジェラール……しっかりしてよ……。きっと何日も拷問を受けていたせいで―――」

エルザがジェラールの異常に涙する。

しかし、ジェラールは否定する。

「俺は正常だよ。サクヤ、エルザ……一緒にRシステムを……いや、『楽園の塔』を完成させよう。そして、ゼレフを蘇らせるんだ」

 

既に手遅れだ。

 

「ジェラール駄目だ。お前は間違ってる」

「馬鹿な事言ってないで、私達はこの島を出るのよ!!」

俺達は拒否した。

 

その瞬間、ジェラールの目が光った。

 

強化・開始(トレース・オン)!!」

 

剣に強化をかけ、補強する。

魔法は防ぎきったが、勢いは殺せず、エルザと共に後ろの小さな崖まで吹き飛ばされた。

二人ともゴロゴロと転がり落ちる。

 

「っ~!エルザ、大丈夫か?」

「なんとか」

 

ふらふらと立ち上がる。

ジェラールが崖の上に歩いてきた。

 

「いいよ、そんなに出て行きたければ二人でこの島を離れるといい」

「二人?」

ジェラールの言葉にエルザが疑問を返す。

 

「ジェラール!!」

 

止めなければ。

 

「他の奴等は全員俺がもらう。心配するな、俺は奴等とは違う。みんなに服を与え、食事を与え、休みを与える。恐怖と力での支配は、作業効率が悪すぎるからな」

 

「ジェラール話を聞け!!」

 

だが、ジェラールは黙って、右腕を何かを掴むように突き出す。

すると、下から黒い手が俺とエルザの首を掴み、締め上げ始めた。

 

「く、苦しい!」

息苦しさにエルザは苦しい悲鳴を上げる。

 

「お前達は、もういらない。殺しはしないよ。邪魔な奴等を排除してくれた事には感謝してるんだ。島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」

「ジェラ……ル…お…ねが…だ…話を……」

 

聞いてくれ。

 

「分かってるだろうけど、この事は誰にも言うなよ?政府に知られるのは厄介だからな。バレた暁には、証拠隠滅で、この塔及びここにいる奴等を消さなければならない。お前達が近づくのも禁止だ。目撃情報があった時点でまず一人殺す。そうだな……まずはショウあたりを殺す」

 

止められないのか?

 

「ジェラ………ル。」

エルザはボロボロ涙を流す。

 

俺じゃあ、何もできないのか?

 

「それがお前達の自由だ!仲間の命を背負って生きろ!アハハハハハハハハハハハ!!」

 

そこで俺達の意識は途絶えた。

 

 

 

 

気がついたら浜辺に流れ着いていた。

エルザは俺がしっかり抱えていた。

エルザはまだ気絶しているようだ。

 

歯車は狂いだしてしまった。

 

「ジェラール……俺は必ず止めてやる(救ってやる)。必ずだ………」

 

そう、胸に誓った。




この部分は改良しました。
話に違和感出てないといいんですけど。
そして情報覗いたらもう見てくれている人がいて更に評価が一ポイント付いていた。
嬉しくて泣けてくる。
次回頑張ろうかな、と。


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三話

更新遅れました。
こっちは二ヶ月ぶりといったところですね。
早速どうぞ。


~三話 エミヤという力の代償~

 

 

 

 

理想と現実は大きくかけ離れている。

そんな事気付いていなかった訳じゃない。

この世界に来て、所謂『未来』を知っている俺は、行動で現実が変えられると思った。

それが過ち。

例え、この世界が異物(オレ)を取り込んだところで結果は変わらない。

そう、この右目の傷は正しくそれだ。

誰がその傷を負ったのか、どれ程の規模なのか、それらが違うだけで『懲罰房へ行った者が右目を負傷する』という結果は変わらなかった。

いや、寧ろ酷くなった。

未来が書き換わるとは、それだけのリスクを負う。

この先俺が関わるほど、『未来』は捩れ、捩れ、より悲惨なグロテスクな『未来』をたどる可能性だってある。

 

それでも―――

 

小波が響く海岸に痛む身体を奮い立たせて立ち上がる。

 

―――救いたいと思ってしまうのは間違いなのか

 

潮風でズキズキと痛む右目を無視し、歯を食いしばる。

 

―――僅かばかりの可能性に賭けることは間違いなのか

 

震える膝に苛立ち、拳で殴りつける。

 

―――『結果(げんじつ)』を認めてしまっていいのか

 

幼く愛おしい彼女の元へ身体を引きずる。

 

―――そんな事できる訳が無い。

 

そう考える俺はきっとまだまだ子供なのだろう。

理想(ゆめ)を追うばかりで現実を否定し続ける、それは何処までも幼い餓鬼の甘えだ。

だが、『だからなんだ』と。

諦めが付くほど、きっと今の自分は大人にはなれない。

 

この身の、かの赤き英雄が理想を追ったように。

 

冷め切った無常である事が大人である事なら、いっそ子供のままでいい。

俺は、赤き英雄のような大それた理想を持っている訳じゃない。

けれど、大切にしたいものは沢山ある。

ジェラールだってそうだ。

だから、諦めてやらない。

何より―――

 

「エルザの為にも」

眠りながら彼女は目尻から雫が流していた。

頬を伝うそれを優しく拭い、彼女を抱え上げる。

 

胸の内を語る事など赦されない。

理解などされてはならない。

これは俺の過ちから始まった『未来』。

ならば、俺一人で決着をつける。

 

右目の深く抉られて痕をなぞる。

 

戒めはこの傷だ。

今や、この身はかの赤き英雄なのだ。

ならば―――

 

―――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

そう、この身はただ目的を果たすだけの道具だ。

それ以外の意味など不要。

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

苦しい、辛い等と口から漏らす事さえ赦されない。

故に、人間としての機能(感情)も不要。

 

 

 

 

全ては失った絆を取り戻す為に。

 

 

 

 

 

ロブ爺さんがいたと言われるギルド(妖精の尻尾)

みすぼらしい格好でエルザに肩を借り、ふらふらと歩く。

かなりの距離があった事で、辿り着くまでに身体は疲弊しきっていた。

流石に体力までは剣といかなかったか、と変な自嘲。

自分より体格の劣る少女に肩を借りるというのは中々に精神を抉られたが。

主に自尊心が。

 

「此処がロブお爺ちゃんがいたギルド……」

そう噛み締めるように呟いたエルザを横目に考える。

彼女は今何を思っているのだろう。

彼女を庇って死んだロブ爺さんの事だろうか。

楽園の塔の事だろうか。

みんなの事だろうか。

……ジェラールの事だろうか。

 

ズキッと右目に電流が走る。

今はボロ布を右目を覆い傷を隠している。

大通りをこんな状態で歩くわけにもいかなかった。

歩く歩幅を調節しながらエルザが心配そうに此方を見るが、傷なんて二の次だ。

 

「中に入ろう」

「うん……」

会話は短い。

エルザは起きた後からこの調子だ。

 

情けない。

どうすればエルザの負担を減らせるのか、そんな事さえ思いつかない。

今はただ前に進む事しか、俺に出来る事は無かった。

 

 

 

 

「何だ?あいつ等」

「ひでェ恰好だな」

 

周りからの声を無視して前に進む。

 

「お前さん達、どうしたんじゃ?」

カウンターからゆっくりと歩いてきた老人。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルドマスター『マカロフ』だ。

「アンタが、此処のマスターか?」

一応問う。

「そうじゃ。マカロフという」

「アンタのギルドに、俺達を入れてくれ」

そう言うと、マカロフは思案顔になった。

「構わんが……どうして此処に?」

最もだ。

だけど、これは―――

 

「ロブおじいちゃんが此処にいたって……」

そう口にしたのはエルザだ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行きたい、そう最初に言い出したのはエルザだった。

俺もそのつもりだった。

これ以上下手な事をして『未来』に被害を出すわけにはいかなかった。

あくまで『物語』に沿って行動する必要があった。

無論、危険が及ぶような事が起きる事件には介入を続ける。

他ならぬエルザをこれ以上傷ついて欲しくは無い。

故に『物語』に沿って、安全が比較的確保できる妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する必要があった。

 

「何!アイツに会ったのか!?アイツは何処にいる!?」

予想外の返答だったのか、取り乱すマカロフ。

だからこそ、エルザが次に紡ぐ事実が重いモノとなる。

「ロブおじいちゃんは……私を庇って………」

「………そうか」

長い沈黙が場を包む。

 

そんな中で、自嘲することなくズキッと右目に痛みが走る。

歯を噛み締めて悲鳴を噛み殺す。

 

「ん?お前さん、怪我しておるのか?」

マカロフが俺の右目を見た。

「大した事無い」

「いいから見せい。きちんと手当てもせにゃあならん」

そう言って、マカロフは手を伸ばしてきた。

 

「触れるな!」

思わず、手を叩いた。

一瞬怪訝そうな表情をしたが、マカロフは再び手を伸ばして右目を覆った布に手をかけた。

 

瞬間、周りから息を呑む音が聞こえた。

額から頬まで大きく切り裂かれた痕があった。

出血は止まっているものの、肉を大きく抉ったその傷は見た者に痛々しさを十分に与えた。

 

 

 

 

「これは……一体誰にやられた?」

赤銅色の髪の少年の傷は生半可なものではなかった。

少年達の風貌も兎に角酷いものだった。

如何してこんな酷い事が出来るのだと、マカロフは思った。

「どうでもいいだろ」

だが、少年は至極如何でもよさそうに言った。

「良いわけ有るか!早く治療を―――」

「必要ない!」

しかし、少年は治療すら拒否した。

「消えて良い筈が無い。無くして良い筈が無い。これは俺が背負わなくてはならないモノなのだから」

それだけ言うと少年は空いている椅子に座って腕を組み閉眼した。

これ以上語る事は無いと言うことだろう。

ただその幼い姿から覚悟が滲み出ていた。

 

 

 

 

空から鋭利な爪が襲い掛かる。

受け流し、避け、離れようとする影に剣を突き立てる。

鮮血を撒き散らしながら地に落ちてきたのは鷲の様な上半身に獅子の下半身。

“グリフォン”と呼ばれる幻想種が横たわっていた。

 

俺達がギルドに入って三ヶ月が経った。

ひたすらに討伐クエストばかりを請け負い、魔術を慣らす為に戦い続けた。

難易度の高い討伐クエストをほぼ俺一人でこなしていた為、俺はSランク魔導士に特例として昇格した。

元々人の領域を軽く突破した力を持っているのだから戦闘技術においてもその辺の魔導士には引けを取らないという事もあっただろう。

クエストの受注出来る幅は広がったが、危険度の高い討伐クエストしか受けなかった。

ただ己を強くする為。

それと仮説の実証の為。

ここ最近の事だが、魔術を行使する度何かに引っ張られる感覚がある。

この身体は英霊になる前のエミヤシロウの身体なのだ。

にも関わらず行使しているのは英霊エミヤの力そのもの。

恐らく魔術を行使する度に英霊としての霊格を取り戻しつつあるのだろう。

英霊としての霊格を完全に取り戻してしまったら、俺は“■■サクヤ”ではなく“エミヤシロウ”になってしまうのだろう。

そうなれば俺は“(サクヤ)”でいられなくなるだろう。

その先がどうなってしまうのかは解らない。

俺の記憶がなくなってしまうのか、はたまた俺の意識が“サクヤ”から“エミヤ”に切り替わってしまうのか。

可能性など幾らでも有るがそれでも俺はこれ(魔術)を手放す気は無い。

この力は目的を果たす為には必要不可欠だ。

例え“俺”が消えるのだとしても目的が果たせるまでもちさえすればいいのだ。

 

投影し強化した二振りの剣鉈を見る。

鮮やかな赤で濡れたそれはただの剣鉈。

宝具クラスの武器の投影はまだ成功してはいない。

神秘を宿していないただの剣などなら投影は可能なのだが、この世界での魔法剣なども投影は出来ない。

少なくとも今の段階では何かしら“力”を宿す武器の投影は困難と言う現状。

とは言え投影が出来るならばまだ良い。

“エミヤシロウ”の強みはその手数の多さだ。

空手や柔術、中国拳法、ムエタイなどあらゆる武術の二流を極めた彼にとって武器も魔術も目的を果たす為の道具でしかない。

才能の無い彼は質より量を選んだのだ。

ならば好みに相応しいのは“技能”より“技術”だ。

技術に見合うモノを投影出来さえすれば、後は勝ちを拾いにいくだけだ。

奇襲、人質、毒、裏切り、etc…勝つための手段など幾らだってある。

非道と言われようが構わない。

技術だけで勝てるなんて思わないから。

“エミヤシロウ”の戦闘技術、戦闘経験があると言っても、それを使うのはあくまで俺なのだ。

彼の様な判断力や覚悟を持たない俺が一人前の戦士として戦うなど笑い話だ。

故に欠けている部分を補うだけの事。

 

剣鉈を逆手に持ち替え、横たわるグリフォンの牙に突き立て折る。

今回のクエストは村周辺に巣を張ったグリフォンの討伐。

依頼してきた村の村長に物証出来る品が必要だったからだ。

剣鉈の投影を破棄して村に向って歩き出そうとして肩に走る電気に顔を顰めた。

肩や胸の辺りには無数の裂傷。

今回の戦闘で負った傷だ。

完璧に防ごうとしてこれだ。

爪に毒でも合ったら一瞬でお陀仏だったろう。

これだから戦闘経験は自分で積むに越した事は無い。

まあ、エミヤの戦闘経験は対人戦が主体なのだからこういった幻想種に遅れを取るのは当たり前なのだが。

 

他の獣を寄せ付けないようにする為にグリフォンの死体に火をつけた。

思考を巡らせながら樹海を立ち去るサクヤ。

その後ろには凡そ十のグリフォンの消炭になった死体が転がっていた。

 




今回はちょっと短かったですね。
戦闘も途切れてましたし。
次の話も戦闘はおあずけです。
というか早く本編にもって行きたい。


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四話

時間にちょっと余裕が出来たので更新。



~四話 拒絶と決闘~

 

 

 

 

夢を見た。

それが夢だと解ったのは俺の記憶じゃないからだ。

 

夢の中の自分はセイバーを愛していた。

 

夢の中の自分は遠坂凛を愛していた。

 

夢の中の自分は間桐桜を愛していた。

 

夢の中の自分はロンドンにいた。

 

夢の中の自分は教会にいた。

 

夢の中の自分は戦場を見下ろしていた。

 

“エミヤシロウ”が経験した全てが俺に流れ込んでくる。

技術、知識……そして感情。

でも俺は“エミヤシロウ”じゃない。

俺は“■■■■■■■■”だ。

だから入ってくるな。

 

拒絶しても流れは止まらない。

激動の中でもがき続ける。

これに飲まれたら俺は消える。

だから否定する。

 

 

 

 

「お前は俺じゃない!!」

ベッドから飛び上がり、布団を押しのける。

グッショリ濡れた寝巻きをパタパタと煽ぐ。

額の汗を拭い、あの駄神が妙な力をくれやがって、と愚痴と漏らしながらベッドから這い出た。

 

 

 

 

 

二年の歳月が流れた。

相も変わらず戦闘経験をクエストで積む日々。

変わった事といえば、宝具の投影が可能になった事と……エルザと距離を置くようになった事ぐらいだ。

とは言え真名開放はまだ身体に負担をかけるようなので、多様は出来ない。

エルザに関しては早々に決断していた事だった。

俺は彼女にとって辛い記憶を呼び起こす存在だ。

このままギルドに任せる方が彼女は幸せでいられる。

だから話さなくなった。

だから一緒に居る事が無くなった。

彼女と一緒の借家に住まいながらも、彼女とは一切の関わりを立っている。

これで良い。

あの娘が幸せになれるなら、俺は消えるべきだ、と。

 

 

 

 

 

緑衣の外套 を靡かせ、悠然と歩く。

町並みもいい加減見慣れてきた。

何百回くぐったかも忘れたギルドの入り口を通り抜け、カウンターに腰をかけているマカロフ(爺さん)の元に行く。

途中ギルドの同世代の仲間と話していたエルザと目が合う。

鎧を着て、髪をおさげにしたエルザは少女らしさが残るものの一端の魔導士へと成長を遂げていた。

 

「あっ……」

 

だが、目を逸らし何かを話したそうにしていたエルザの横を素通りする。

そのままカウンターまで歩いて足を止めた。

 

「爺さん。10年クエストを受けたい」

 

その一言でギルド内が静まり返った。

 

「お前さんにはちと早すぎはせんか?」

「出来ないと言う事ではないのだろう?」

 

問いに問で返す。

 

「じゃがのう……」

 

言葉を詰まらせる爺さんに付け加えようとした。

後ろでガタッと椅子を引く音がした。

歩み寄ってくる足音にゆっくり振り返る。

無表情で見つめた先にいたのは、やっぱりエルザだった。

目尻に涙を溜め、歯を食いしばっていた。

 

「お前は―――」

 

漸く口を開いたエルザの言葉は、

 

「如何して一人で行ってしまうんだっ!!」

 

切望だったのかも知れない。

だけど、それは受け入れてはならない。

剣で覆え、無数の刃で覆え。

 

―――体は剣で出来ている。

 

心など不要だ。

無表情で無感情で言い放った。

 

「言いたい事はそれだけか?」

「っ!!」

 

エルザは振り向きもせず、ギルドを出て行った。

 

「お前さんは如何してそこまで冷徹になれる?」

 

怒気を滲ませながら爺さんは問うてくる。

虚言など通じる筈も無いので素直に応えた。

 

「あの娘が幸せになるなら俺など不要だ」

「エルザがお前さんと居る事を望んでいるのにか?」

 

俺の応えにすぐにきり返しがくる。

 

「俺が居ればエルザに辛い記憶を呼び覚ます。苦痛を与える。だから距離を置く。そうすればあの娘は幸せになれる」

「それが独り善がりだと何故解らん!!」

 

爺さんは怒鳴り声を上げた。

だが、それは俺が最善を選んだ結果。

否定など許す筈も無い。

 

「そんな事先刻承知だよっ!!だがな。俺はあの娘にとって害悪に他ならない。彼女の幸せを真に望むのならば、彼女と関わりを絶つ事が最善だとしたまでだ!!」

「お前さんはどうなんじゃ!エルザが哀しそうにしているのに何とも思わんのか!!」

「それこそ不要な事だろう!?彼女から幸せを奪った俺が自らの望みを口に出す事すらおこがましいんだよ。必要ならば虚言で偽れば良い!!」

 

罵り合いの応酬。

どちらも間違いではないからこその対立。

正解など無いのだから相容れない。

だから次の言葉が堪えた。

 

「エルザの幸せの中にはお前さんが含まれているのにか!!」

「っ!!」

 

苦々しい表情が浮き出ている事だろう。

言葉に詰まり、応えられない。

漸く捻り出したのは、

 

「それでも俺はあの娘の傍に立つ資格などないんだ」

 

後悔からの苦渋の言葉だった。

短い沈黙の後、爺さんが口を開いた。

 

「手続きはしておく。三日やるから準備を済ませて来い」

 

それだけ言うと、爺さんはカウンターに向き直り、もう振り返ることは無かった。

用件を終えたから準備の為に去ろうとする。

そこに立ち塞がる桜色の髪の少年と黒髪の少年。

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ナツ・ドラグニル。

氷の造形魔導士、グレイ・フルバスター。

この二年の間に入ったギルドの新人。

人格も知っているのでこれから何が起こるかも予想が付いた。

 

「「俺と勝負しろ、サクヤ!!」」

 

エミヤの幸運Eと言うのは伊達じゃないらしい。

 

 

 

 

(ナツ)がエルザに初めて会った時に思った感想は、俺と似ているな、だった。

目の前を見ている筈なのに、何処か遠くを見て寂しげにしている。

大切な人においていかれた、迷子の様な目。

俺も大切な(ヒト)においていかれたから解るんだ。

アイツはじっちゃんと何か言い合ってたのがどういうことか解んなかったけど、アイツが間違ってるって直感で思った。

だから勝って俺が正しいって証明してやる!

 

 

 

 

 

アイツ(エルザ)は何時も哀しそうな表情を浮かべていた。

(グレイ)が何言っても聞かないし、答えない。

原因があの野郎(サクヤ)だと解っているけれど、何が正しいのかなんて解らない。

だから、勝てないと解っていても戦って知りたいと思ったんだ。

 

 

 

 

「俺と戦う?」

「「そうだ!俺が勝ったら一つ言う事聞け、って真似すんじゃねぇこの氷野郎(炎野郎)!!」」

 

何なんだコイツら。

行きピッタリで来るから二人で画策していたのかと思っていたが、個人で来たのか?

しかも、氷野郎も炎野郎も貶しになっていない。

 

「「お前は後にしろよ!俺が先にやるんだ!」」

 

之じゃあ自体が収集出来ない。

よって代案を出す事にする。

 

「解った。受けよう」

「「本当か!?ってお前に言ってんじゃねぇよ!!」」

「両方だ!……まとめて相手してやる。場所を変えるぞ」

 

それだけ言うと、さっさと外に向おうとする。

後ろでは罵り合いが続いているが気にせず歩いた。

 

 

 

 

街から離れ、開けた場所で互いの戦闘準備を整える。

 

「こちらの条件を出していなかったな」

「ん?何かあんのか?」

 

ナツが伸脚しながら聞く。

 

「当たり前だ。フェアではないだろう?それにただ勝負じゃあ負けてもお前らは納得しないだろう?」

「成る程な。後腐れなくって事か。良いぜ、条件は?」

 

グレイが不敵に笑いながら問う。

 

「俺が勝ったら、金輪際俺とエルザのことに関わるな。お前達が俺に勝負を仕掛ける理由ぐらい解ってるつもりだ。だからこその提案だ。お前達に実害無いのだから破格の条件だろう?」

「やだね」

「解った」

 

前者はナツ、後者はグレイだ。

まあ、之も予想はしていたが。

 

「それじゃあ始めるか」

 

無手のまま構えを取る。

 

「おい。まだ俺は良いなんて言ってないぞ!!」

 

ナツが声を上げるが、丸め込むなど容易い。

 

「如何した。お前が勝てばいいだけの事だろう?まさか勝算も無く挑んでくるわけじゃあるまい。それともお前の魔法は口先だけの大した事無いモノなのか?」

「巫戯けるな!イグニールの教えてくれた魔法は最強だ!!」

 

よし、乗ってきた。

呆れ顔をするグレイを他所に集中する。

 

自己に埋没し、回路に魔力を流す。

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

自らの身体に強化を施す。

強化を施すと同時にナツが突っ込んでくる。

 

「いくぜ!火竜の鉄拳っ!」

 

炎を纏わった右手をこちらに突き出す。

半身を反らして左に避け、そのまま腹に膝蹴りをかます。

ナツは息を詰まらせるが、それで止まるとは思っていない。

 

「ぅおりゃあっ!!」

 

炎を纏わり付かせたまま裏拳で横に薙ぐ。

それを後ろに跳んで避ける。

同時に左から冷気を感じる。

そのまま真上に跳躍する。

 

「アイスメイク〝槍騎兵(ランス)〟」

 

放たれた無数の氷の槍がさっき立っていた場所に突き刺さる。

避けれたことに安堵する暇も無く次の攻撃が来る。

いつの間にか滞空していたナツが炎を纏った脚を振り下ろす。

 

「火竜の鉤爪っ!!」

 

咄嗟にガードはしたものの空中で踏ん張りなどきく筈も無く、ガードごと吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ!」

「どうだ!!」

 

ナツの声が聞こえる。

本来の俺ならここで終わっていただろうが、土埃を払いながら立ち上がる。

右腕には以前に投影して巻き付けたままの赤い布切れ。

“聖骸布”と呼ばれるそれは対魔力(レジスト)に乏しいこの身を外界に対する一級の守りとなって守る 。

ただし、この聖骸布自体での防御は出来ない。

あくまでエミヤが完全な投影が可能なのは剣もしくはそれに準ずる物だ。

それ以外の投影品は少し傷が付いただけで消えてしまう。

故に右腕の特に聖骸布への攻撃は防がなければならない。

避けられない状況を作り出されたら、右腕を防ぐが故に他の防御を捨てなければならなくなる。

 

「クソッ。これだからなまじ強い魔導士との戦闘は嫌いなんだ」

「何だ。もう降参か?」

 

グレイが言う。

 

「ただの戯言だよ。少し見積もりが甘かった」

「へぇ、Sランク魔導士にそう言ってもらえるとは光栄だね」

 

皮肉に皮肉で返してくるグレイ。

 

「調子に乗るな。あくまで俺だからこそだ。他には通用しない」

「上げといて下げんのかよ」

 

げんなりとした様子だが気になどしない。

 

「事実だ。俺は他のSランクと比べれば“最弱”だからな」

 

そう、この身に魔術の才など無い。

ましてや剣の才も無い。

戦闘における才など二流までしか身に付かない。

故に最善の状態を作り上げてからの戦いで漸く勝ちを収めるしかない。

その為の布石は()()打ってある。

 

「少し本気を出すか。―――投影、開始(トレース・オン)

 

両手を前に突き出し、空に幻想を編む。

剣の丘に埋没し、引き抜いたのは二振りの無銘の剣鉈。

両腕をダランと垂らし構えを取る。

 

「本気、ね。なめられてたのか?」

 

グレイの問に悠然と答える。

 

「いや。君達は俺より遥か強い。ただの“喧嘩”から“戦闘”にランクアップしただけの違いだ」

 

この身に慢心など無い。

この世界の魔導士に比べれば、俺は遥かに劣っているのだから。

 

「来い。お前達の答えが正しいか証明して見せろ」

「言われなくても―――」

「やってやるぜ!!」

 

芸が無く突っ込んでくるナツ。

その手には炎を纏っている。

 

「火竜の鉄拳っ!!」

 

突き出してくる拳を僅かに身を引きながら回転させ、その遠心力を使って剣鉈の棟で後ろから首を叩く。

 

「ガッ!」

「突っ込んでくるだけの攻撃なぞ二度も見せられれば返し技の一つは考え付く」

 

身体は地面に崩れようとしているがナツは意識を保っているようだ。

だが止めを刺す必要は無い。

 

「アイスメイク〝槍騎兵(ランス)〟」

 

殺到する氷の槍が俺が避けた場所に突き刺さる。

その衝撃に吹き飛ばされ、ナツは顔面から地面に叩きつけられる。

 

「グゲッ」

「チッ。邪魔なんだよ炎野郎」

 

両方を相手にする必要など無い。

二人の魔導士を相手にするなど苦行でしかないが、この二人の場合は戦力は一人分として数えていい。

本来チームでの戦いは仲間を巻き込まない様にするがこの二人にはそれが無い。

何故ならこの二人ひたすらに相性が悪い。

例えるなら蒼崎の姉妹。

……いやそれよりは下か。

まあ放っておけば必ず潰し合いを始める。

最も脅威の方が潰れてくれたし、こちらの方が遣り易い。

滅竜魔法なぞ訳の解らないモノを剣で受ける気にはならない。

 

「さて始めるか」

「……さりげなく酷いな。お前」

「さあ?何の事だ」

 

再び構えを取り、迎撃に備える。

 

「アイスメイク〝槍騎兵(ランス)〟」

 

放たれる氷の槍。

この魔法はグレイを中心に巻いてくる様に飛んでくる。

ならば中央を駆け抜けるのが最良。

魔力ブーストを上げ、氷の槍の間を駆ける。

飛来してくる氷の槍を剣鉈で弾きながら距離を詰める。

効果が無いと見ると、グレイは氷の槍を解く。

 

「クソッ!氷雪砲(アイスキャノン)

 

氷の造形魔法で作られた砲撃が跳ぶ。

即座に剣鉈の投影を破棄。

 

「―――投影、開始(トレース・オン)

 

撃鉄を打つ音と共に現れたのは細身の西洋剣。

聖騎士ローランが持ち、決して折れず、切れ味の落ちないといわれた宝具 。

〝不滅の刃〟デュランダル。

それを飛んでくる氷の砲撃に縦に斬りかかる。

 

「おおおおぉぉぉぉ!!」

 

声を上げながら、剣の柄を握り締め押してくる勢いに逆らい駆け出す。

左右に分かれる氷塊を見てグレイは氷の砲撃を解き、距離が縮まった俺との迎撃に入る。

グレイが造形魔法で作り出した氷の双剣を見た瞬間、デュランダルを破棄し更に投影。

作り出すのは弓兵が最も信頼を置く陰陽の双剣。

太極図を表すその剣の銘は干将莫耶。

白黒の短い双剣を振りかぶる。

氷の剣と鉄の剣がぶつかり合う。

 

薙ぎを受け、払い、一撃。

突きを反らし、押しのけ、一撃。

 

こちらが守勢に徹するに対して、グレイは氷の剣を振り回すだけ。

純粋な剣士同士の戦いならば互角どころか不利になっているだろうがグレイに対してそれは無い。

グレイは造形魔導士だから本来クロスレンジでの打ち合いなど想定していない。

打ち合いに持ち込めば勝手に焦り始める。

更に言えばグレイの造形魔法は左の掌に右の拳を乗せるという動作を行い発動させるモノが多い。

こうして打ち合いに持ち込むことで他の造形魔法も封じられる。

そしてこちらは最小限の動きだけで、グレイは力任せに大振り。

こんな事を繰り返していれば―――

 

「ハァ、ハァ……クソッ。何でテメェは息が上がってねぇんだ」

「経験の差というやつだ」

 

疲労が溜まってくる。

集中力も途切れてくる。

一瞬気が緩んだ瞬間に回し蹴りで脚を払う。

 

「ウォ!?」

 

態勢を崩され、素早く立ち上がろうとしたグレイの首に白剣を宛がう。

 

「まだ続けるか?」

「いや。降参」

 

短い返答の後、グレイは地面に転がりゼェゼェと荒い呼吸をする。

ナツはまだのびたまま。

 

 

「それだけ強けりゃ、力がありゃアイツだって守ってやれるだろう?何でアイツの傍にいてやら無いんだ」

 

グレイから不意に放たれた言葉に思ったように返す。

 

「俺が強いなど有り得ないな。お前が弱いだけだ。それにな、()そのものが彼女を傷つけるならばそれは守っているなどとは言わないんだよ」

 

長い沈黙の後、ふと思ったことを口にする。

 

「お前にエルザを任せたいと言ったら如何する?」

「断る」

 

即座の返答。

期待はしていなかったが。

 

「アイツの隣を歩けるのはお前だけだろう」

 

またその話か。

いい加減聞き飽きた。

 

「俺は準備があるのでな。先に帰る。ナツはお前が背負って帰れ」

 

踵を返しその場を立ち去ろうとする。

最後に耳に入ったグレイの言葉が妙に印象的だった。

 

「何で爺さんが三日与えたのか考えろよ」

 

子供が妙に悟ったように言いやがって、と内心毒づいていた。




あれぇ?
今回で本編にとぶはずだったのに。
戦闘にかなり尺取られました。
次回まで過去編は続きそうです。
お楽しみに。


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五話

久々の投稿ですね。
今回はオリジナル宝具やおまけがあります。
その為少々長いです。
では、どうぞ。


~五話 触れ合う心と旅立ち~

 

 

 

 

ナツ達と別れて先にマグノリアに戻ってきた俺はとてもじゃないが旅支度をする気分ではなかった。

爺さんやグレイに言われた言葉がグルグルと頭の中を駆け巡る。

何が間違いなのか解らない。

苛立ちを押し留めながらも、街を何気なく歩く。

流れていく街の風景の一角が目に留まった。

迷うことなくそれに近づいていった。

 

 

 

 

ギルドを飛び出したエルザは嫌な事があったら来る川沿い近くの土手に腰を下ろして泣いていた。

何故、如何して?

浮かんでくるのはそんな事ばかり。

でも、それは仕様が無い事だとも思っていた。

エルザは自分の意思で(サクヤ)を避けていた。

楽園の塔から離れて目が覚めた彼に何処となく違和感を覚えた。

塔にいた頃とは違う何か。

少し一緒に居て気が付いた。

彼は感情を外に出さなくなっていた。

それでいて目に宿した強い光。

それが何処か怖くて、だから距離を置くようになった。

でも、それは間違いだった。

一日、一ヶ月、一年、日をおうごとに自分の行動を後悔した。

日に日に影がさしていく彼を見て後悔した。

自らの身体に傷を負っても無関心な彼。

まるで“何か”の為に動く人形の様な彼。

危険な道を走り出している彼を止められない自分が歯痒い。

何で自分は彼を突き放したのだろう、と何度も何度も後悔して、その度に自らの愚かさを嘆いた。

どんどん手の届かないところへ行ってしまう。

今日の事で思った。

もう彼の隣へ絶つ事は許されないのだ、と。

明確な拒絶をされて自分を呪った、天罰だ、と。

 

涙が枯れ果て、未だ頬を伝う雫を拭い去ると膝を抱え込んだまま空を見上げた。

意味なんて無い、ただ一時期の忘却を願っただけ。

あの頃が懐かしい。

ショウ達は今頃如何しているだろう?

彼らの事だって一度たりとも忘れた事は無い。

彼らも救えず、身近にいるサクヤさえ救えない。

自分はなんて弱いのだろう。

 

幾度とした自虐から現実に戻り、視線を元に戻して驚いた。

川を挟んだ向こう側に赤銅色の髪の少年が大きな荷物を抱えて歩いている。

今最も傍にいたい少年。

彼の後ろには御婆さんがいる。

きっと荷物を運ぶのを手伝っているのだろう。

相変わらずの無表情だが、その行動は善意によるものだと言う事ぐらい解る。

 

そしてまた過ちに気付く。

彼は感情を押し込めているだけだ。

自分を周りに悟らせず、一人で何かを抱え込んでいるだけだ。

感情を外に出さないんじゃない、出せないんだ、と。

何が“人形の様”だ。

自分が勘違いしていただけじゃないか。

 

視線は彼を追う。

笑顔でお礼を言っている御婆さんと困ったように頭を掻いている彼。

やっぱり本当の彼はああなのだ。

不器用で、気難しくて、そして……優しい。

 

もう一度彼と歩みたい。

拳を握ると、エルザは駆け出した。

 

 

 

 

 

御婆さんを見届けた後、再び歩き出す。

我ながら御人好し過ぎるな、と思う。

いや、これもエミヤの人格が浮き出ている影響か?

時間が有るのか無いのか解らないのが不安の種ではあるのだが考えても仕様が無い。

 

思考に耽り閉眼しながら歩いていた俺を前に誰かが立った。

怪訝に思って目を開くと、息を切らしたエルザが立っていた。

如何して、と動揺を無理矢理押し込んで言う。

 

「如何した。何か用か?」

 

無表情で冷え切った言葉を浴びせる。

今朝までのエルザならこれで口籠って終わっただろう。

しかしその瞳に迷いは一切無かった。

 

「話がしたい」

 

ただその一言にどれだけの思いが込められていたのだろう。

駄目だ、答えてはならない。

答えたら、俺は―――

 

「私の覚悟を聞いて欲しい」

 

その瞳に映った光から目を逸らせない。

如何すればいい。

 

―――体は……

 

違う。

 

―――体は剣で……

 

俺はそんなに強くない。

 

だから俺は―――

 

「解った」

 

―――“逃げ”を選んだ。

 

 

 

 

街外れの丘にサクヤとエルザ歩いてきた。

辺りは既に暗くなり、星が瞬いている。

先に膝を立ててサクヤが座り、エルザが横に膝を抱え込んで座った。

星空を二人で見上げて、二人は黙した。

時間がゆったりと過ぎていく。

 

「俺は、お前に如何映って見える?」

 

先に口を開いたのはサクヤだった。

エルザはその問に眉を顰めたが答えた。

 

「凄く強い。ただその一点だ」

 

その一言にサクヤは自嘲に満ちた苦笑を浮かべた。

 

「強い……か。全く、強いって何なんだろうな」

「は?」

 

呆気に取られてサクヤを見たエルザは口籠った。

その表情があまりにも儚くて、触れてしまえば消えてしまいそうな気がして。

そんな弱々しいサクヤを見て、エルザは声が出せなかった。

 

「きっとそれは上辺だけの力じゃない。何があっても貫く信念だって俺は思ってる」

 

物語の主人公みたいな台詞だな、とサクヤは重ねて自嘲した。

星空に手を翳し、サクヤは続けた。

 

「俺は弱い。救えたのに救えず。切り捨てて選んだものすら守れず。立てた誓いも貫き通せない」

 

視線を戻したサクヤはエルザを真っ直ぐに見据えた。

右手がエルザの頬を優しく撫でる。

 

「お前を守るって決めたのにな。傷付けてばかりだ」

「私を……守る?」

「それが一番最初に決めた事だったからな。後は済崩しってのもある。でもあの日の事を忘れたわけじゃない。ショウもウォーリーもミリアーナもシモンも……そしてジェラールも」

「サクヤ……」

 

その表情はまるで懺悔をしている様だった。

喪ったものを取り戻す為の奮起だった。

 

「見捨てたくせに。救えなかったくせに。それでも救いたくて、だから強くなろうと思った」

「ただただ走って。強い敵を前にして。力と策で捻じ伏せて」

「強くなりたかった。今度こそ守れるように。失わないように」

 

その姿は彼の赤き弓兵の様だった。

自身の心を誰にも理解されず。

口にする事も出来ず。

ただ頑なに、最後まで守り通すしかなかった(エミヤ)

 

違うところがあるとすれば、それはサクヤがエミヤ程非情になれない優しい少年だったところだ。

 

「もう如何すれば良いか解らないんだ。何が正しくて間違いなのか解らないんだ」

 

あまりにも弱々しいサクヤ。

しかし、エルザは失望も、呆れもしなかった。

サクヤを引き寄せて、抱き締めた。

 

「エルザ?」

「もういいんだ。お前一人で背負わなくていい」

 

エルザはサクヤを強く抱き締める。

 

「私が弱かったからサクヤにばかり背負わせてしまった。サクヤだって苦しかった筈なのに。だから私は強くなろうと思ったんだ。お前の背を守れるぐらい、お前を支えられるぐらい、強くなる。だから―――」

 

抱き締めていた腕を解いて、サクヤと向き直る。

そして、こう言った。

 

「だから、お前と一緒に歩みたい」

 

サクヤは絶句した。

絶句して、そして笑みを漏らした。

 

「俺より男らしいな。エルザは」

「なぁ!?どういう意味だ!」

「だいたいな。聞き様によってはプロポーズだぞ、それ」

 

サクヤがニヒルな笑みを浮かべたが、エルザは頬を赤くしてそっぽ向いて言った。

 

「そう採ってくれて構わない」

「は?」

 

今度はサクヤが呆気に取られた。

そんなサクヤにエルザが慌てる。

 

「何だ。悪いか!?」

「いや。……くくくっ」

「笑っているじゃないか!」

「お前らしいな、と」

 

笑顔で言うサクヤに何とも言えないエルザ。

なら、とサクヤは続けた。

 

「誓いを立てよう」

「誓い?」

「そうだ。剣を出してくれ」

 

エルザは剣を換装魔法で剣を取り出し、サクヤは剣を投影した。

 

「剣というのは、古来より儀式や誓いを行う際に神聖なモノとしていてな。剣に誓いを立てることで決して破らないと誓いを立てるんだ」

「ほぅ。良いなそれ。よし、やろう」

 

軽く金属音を鳴らしながら剣を交える。

そこでエルザがむぅ、と唸った。

 

「それでここから如何すればいいんだ?」

「如何と言われてもな。ただ誓いたい事を言えば良い」

「なら私は『お前の背を守る』だな」

「ハハッ。なら後ろは任せるとしよう。俺は『“救われるべき一”を救う』だな」

「如何いう意味なんだ?」

「何、大した事は無い。お前や俺が本当に救いたい人達を助けるという独り善がりな誓いさ」

 

そう言って剣をしまったサクヤの心にもう陰りはなくなっていた。

エルザも剣をしまい、サクヤが見据えている星空に目を移す。

星は自分達より輝いてる気がして、エルザは唐突に思いついた。

 

「サクヤ」

「うん?」

「目を瞑れ」

 

それが如何いうことなのか理解して、言われた通りに目を瞑るサクヤ。

そして二人の影は重なった

 

 

 

 

翌朝一緒にギルドに足を運んだサクヤとエルザに珍妙なモノを見たかのような視線が送られる中、ナツが走り寄ってきた。

 

「サクヤ!このクエスト一緒にやるぜ!」

「了承無しか。二日後にクエスト控えてるから長期になるのは無理だぞ」

 

そう言って見せられた討伐クエストに顔を顰めた。

こいつは捜索や戦闘時間を頭に入れて計算しているのか。

少なくとも俺とナツだけなら人員不足だ。

 

「エルザ」

「任せろ。昨日の今日だ。誓いを破る気は無い」

 

会話をする二人に更に奇怪な視線を向けられる中マカロフだけは笑っていた。

 

「後は……グレイ!」

「へいへい。共同か、面白そうだな」

「まずは服を着ろ」

 

ああっ!と声を上げながら服を取りに言ったグレイを笑いながらクエストに向った。

 

 

 

 

「幸先が良いのか悪いのか」

「良くは無いだろうな」

 

溜息を漏らしたサクヤにエルザが冷静に言った。

目の前には十数匹のワイバーンの群れがいる。

 

「なぁ早くやろうぜ」

「心気クセェ顔してねェでさっさと片付けようぜ」

 

今にも駆け出しそうなナツとグレイを見て更に溜息をつく。

 

「まあ幸い俺より優秀な前衛がいることだし、でしゃばらずに後衛に努めるか」

「なら私はお前への攻撃の牽制だな」

 

既に戦闘を開始したナツとグレイを見てサクヤとエルザも戦闘態勢に入る。

 

投影重装(トレース・フラクタル)

 

黒塗りの洋弓と一振りの先端が鋭利な木の枝を投影する。

それを番え、弓を引絞る。

―――魔力充填を開始

 

空から襲い掛かるワイバーンをエルザが剣で振り払う。

 

―――十秒

 

再び飛来したワイバーンを換装魔法で持ち替えた戦斧を振るい腹を抉る。

だが傷は浅くワイバーンは空へ上り態勢を立て直す。

 

―――二十秒

 

天空にワイバーンが集まっていく。

ナツは口から火を吹き、グレイが氷の槍を放つ。

しかし大空を舞うワイバーン達には届かない。

 

―――三十秒、準備万端

 

魔力が番えた“矢”を纏う。

それを危険と判断したのか、ワイバーン達が次々とサクヤに向ってくる。

 

―――無論ただの枝ではない。

 

北欧神話の光の神バルドルを死に至らしめたヤドギリの枝。

万物に対してバルドルに危害を加えないという誓いを立てさせた中、ヤドギリの新芽だけは非力さ故誓いを立てさせなかった為それは呪いの武器としてバルドルを死に至らしめた。

 

その枝の名は―――

 

必滅する死呪の枝(ミスティルテイン)ッ!」

 

放たれた矢が黄緑色の光を撒き散らして飛ぶ。

飛来してきた一体のワイバーンの翼を射抜き、更に飛ぶ。

そして、空高くで弾け、破片がワイバーン達に襲い掛かる。

二体逃れたが十分だ。

次の瞬間、ワイバーン達の体が不自然に硬直した。

翼を動かすのを止めれば当然落ちてくる。

 

「何だ!如何なってる!?」

「良いから止めを刺してこい」

 

生命力の高いワイバーンは落ちた程度じゃ死なない。

何が起きたか解らないエルザ達を促して地に臥せっているワイバーン達を仕留める。

ワイバーン達の体の硬直は勿論ミスティルテインの能力だが本来のとは少し違う。

文字通りあれは死の呪いによって対象を殺すモノだ。

与えた傷が浅かろうが深かろうが当たった者を死に至る原因に導く。

ただこの宝具は高い神性を持つ者により効果を発揮する。

加えて言うと伝説に準えて投擲することで効果を発揮するのだ。

投擲以外の使用用途で放っても正規の効果が現れないのだ。

 

「ちっ。まだ真名開放は無理があったか」

 

その上、魔術回路が一瞬ショートしかかった。

(エミヤ)の魔術回路は総計二十七本。

その内今起動できるのは一本。

現段階でかなり無理があるし、魔力が足りなくなる為多用できない。

見上げた空にはまだ二体のワイバーンが悠々と舞っている。

だが―――

 

「よぉし。あれ倒した奴が今日の晩飯奢りな」

「勝手に決めんな、糞炎。ま、勝つのは俺だけどな」

「賭け事は性に合わないが良いだろう。無論私“達”が勝つがな」

 

仲間がいる。

それだけで負ける気などしなかった。

 

「さて、残党狩りといくか」

 

今度はただの矢を投影し番えると弓を引絞る。

狙いを付けた矢は弓から放たれた。

 

 

 

 

 

二日後、ギルド前にエルザとナツ、グレイに爺さんが俺の見送りをしてくれた。

 

「帰ったらまた戦おうぜ」

「お前はそれしか言うことねェのかよ」

 

日常と化したナツとグレイの罵詈合いを尻目に爺さんと話していた。

 

「気ぃ付けろよ。お前さんただでさえ無茶するんじゃからな」

「解ってるって」

「それと週に一回は定期連絡せい。通信用の魔水晶(ラクリマ)は渡したじゃろ」

「了解」

 

紐を引っ張って袋の口を閉じると勢いを付けて肩にかける。

その横では黙りこくったエルザがいた。

如何したものかと考えて、やはり思い付くのは一つだけだった。

 

「サクヤ?」

 

唐突に頭を撫でられたエルザは一瞬呆けた。

そんな愛しい彼女に笑いかける。

 

「『強くなる』だろ?通信する時はエルザにも代わってもらうように言うから」

「!ああ。行ってこい」

 

愛する人と仲間に見送られながら緑衣を靡かせギルドから影は遠ざかって行った。

 

 

~おまけ~

 

主要キャラクターのステータスをFate風に纏めてみた。(作者の独自解釈、オリジナルあり)

 

サクヤ

 

真名:佐野咲夜(エミヤ)

筋力:D

耐久:C

敏捷:C

魔力:B

幸運;E

 

技能

 

・肉体憑依A …特定の対象に憑依する能力。ランクAともなれば肉体の技能や経験を最大限まで引き出せるが、自我を喪失する可能性がある。

・千里眼C …視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。

・魔術C- …オーソドックスな魔術を習得。特異なカテゴリーは不明。

・心眼(真)C …修行。鍛練によって培った洞察力。窮地において、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。なおこのスキルは肉体憑依でも再現出来ない。

 

備考:FAIRYTAILの世界は大気のマナが濃い為、ステータスが最高レベルのマスターとラインを結んだ時と同レベルまで向上する。

※一部資料抜粋

 

ナツ・ドラグニル

 

真名:-

筋力:B

耐久:B

敏捷:D

魔力:B

幸運:D

 

技能

 

・野生の本能A …野生で培った闘争本能。人格に影響が出る代わりに、逆境において一部の自らのステータスを向上させる事が可能。また同ランクの心眼(偽)を得る。

・滅竜魔法(火)B …太古に失われた魔法。同レベルまでの火の魔法を受け付けなくなる。また火を食べる事で肉体治癒、魔力回復を促進させ、自らの魔法の威力の向上させる。ランクBはまだ完全に習得できていないレベル。

・乗り物酔いB …乗り物に対する精神嫌悪。ランクBは最早自己暗示レベル。

 

備考:ステータスは滅竜魔法を使用している際のモノである。

 

グレイ・フルバスター

 

真名:-

筋力;D

耐久:C

敏捷:D

魔力:B

幸運:D

 

技能

 

・造形魔法(氷・静)A …氷で望んだ形に造形する魔法。物体や武器の造形を得意とする。ランクAで漸くマスターしたレベル。達人には程遠い。ただし技能の向上の可能性はある。

・脱ぎ癖A …天性の露出魔。温度による環境変化をある程度無効化する。ランクAは無意識下でも行動できるレベル。

・心眼(偽)B …直感、第六感による危険回避。

 

備考:服が無い。ただの露出卿のようだ。

 

ルーシィ・ハートフィリア

 

真名:-

筋力:E

耐久:C

敏捷:E

魔力:A

幸運:E

 

技能

 

・星霊使役B …星霊を使役するスキル。ランクBは一部(一匹?)を除いて完全に使役できるレベル。本来ならランクAで星霊に慕われるレベル。

・ツッコミA …ツッコミの才能。ランクAは条件反射で行えるレベル。論理のすり替えにも敏感。

 

備考:ヒロインなのに特徴少ない。幸運Eはナツ達の仕事における損害賠償で報酬を減らされる事が多いから。

 

エルザ・スカーレット

 

真名:-

筋力:B

耐久:B

敏捷:D

魔力:A

幸運:D

 

技能

 

・換装魔法A+++…異空間から武器を出し入れする魔法。A+++ともなれば達人級で目にも留まらぬ速さで換装が可能。

・心眼(真)C …修行。鍛練によって培った洞察力。窮地において、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

・心眼(偽)B …直感、第六感による危険回避。本来心眼(真)とのスキル複数所持は不可能だが何故か出来ている。

・カリスマC …軍団を指揮する天性の才能。ランクCは一師団を十分に扱えるレベル。カリスマは稀有な才能である。

 

備考:色んな意味で規格外。ステータス自体がほぼ英霊に近い。サーヴァントになったらクラスはセイバーだと思う。あんた何者と言うレベル。




今回は悪乗りたっぷりでしたね。
いよいよ次回から本編。
でも介入がララバイ編からです。
エルザが登場するのがそこからだから合わせるとそうなりました。
では次回をお楽しみに。


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呪歌編
六話


連日のバイトで疲れ気味で更新が遅れました。
じゃあ、早速どうぞ。


~六話 過ぎ去りし時と共に~

 

 

夢を見た。

 

遠い日の夢。

 

俺がまだ■■■■だった頃の夢。

 

映像のように映し出されたそれを見る。

砂嵐のように掠れた映像を見る。

途切れた継ぎ接ぎの映像を見る。

 

そしてその記憶が抜け落ちている事に気付くのだ。

磨り減っていく■■■■の変わりにエミヤシロウが入ってくる。

 

俺はまたエミヤになっていった。

 

 

 

 

「何だ。エルザは居ないのか?」

『うん。帰ってくるなりナツとグレイ連れて何処かに行っちゃたの。ブレーキ役に新人の“ルーシィ”って子も一緒に行ってもらったわ』

 

魔水晶に映った白銀の髪の女性“ミラ・ジェーン”と通信をしていた。

 

「爺さんも不在か。ふむ、仕方あるまい。事後報告だけすることにする」

『何か問題でもあったの?』

「クエストとは関係無いがな。それ自体は十日程前に完了した。帰還の際に少しばかり面倒事が起きてな。二日程で片付くとは思う」

 

路地裏からある店の一角を監視しながら言う。

正確には“ある人物”を、だが。

 

その人物が店から出てきた。

 

「っと、すまない。動きがあったからもう切るぞ」

『うん。マスターには伝えておくから』

「頼む」

 

通信を終え、手早く袋に仕舞うと人込みを避けつつ追跡を開始した。

 

 

 

 

オニバス駅を越えクヌギ駅に近づいていた頃、周辺にはゴロツキの様な男達が集まっていた。

 

「ふん。成る程、此処が合流地点と言うわけか。列車でも占領する気か?」

 

木陰から様子を伺っていた俺の視線の先には監視していた大鎌を担いだ男がいる。

闇ギルド『鉄の森(アイゼンヴァルド)』のエース“死神”エリゴール、それが男の名だ。

有事の際の準備は幾つかしてあるが戦力として此方が余りにも劣勢過ぎる。

目的も定かでない以上仕掛けるわけにはいかない。

 

しかし―――

 

「おい。何時まで隠れてるつもりだ。出て来い」

 

どうやら敵もそう莫迦ではなかったらしい。

得策とは言い難いが此処で出て行かなければ背後を見せたまま魔法を放たれるのが落ちなので大人しく木陰から出る。

 

「それなりに気配は消していたつもりだったのだがね」

「俺は『風をよむ』事が出来んだよ。テメェが付けていたのは結構前から気付いていたぜ?」

 

迂闊だった。

最低でもキロ単位で離れてる必要があったようだ。

 

「緑衣に赤髪。妖精の尻尾(ハエ)のとこの“剣聖”か。噂はかねがね聞いてるぜ?つい最近も八頭の大蛇を殺してきたらしいじゃないか」

「楽ではなかったがね。無傷など持っての他だよ」

 

先日完了したばかりの十年クエストの事だ。

何故かは知らないが、この世界にも神話の化生がいるらしい。

例によってそのクエストの標的は『ヤマタノオロチ』だったのだから。

 

「それで。折角そちらの方が戦力的に優勢なのだ。このまま私にぶつけてみるかね?」

「いいや。こいつ等は後に使うつもりだからな。今戦力を削られるのは困るんだよ」

 

皮肉な笑みを浮かべて問う俺にエリゴールは否定した。

成る程、つまり此処はあくまで“通過点”と言うわけだ。

 

「買い被り過ぎだと思うがね」

「ぬかせ。S級魔導士が何言ってやがる。―――さて、折角名高い剣聖がいるんだ。俺が直々に首を落としてやる」

「妄言はその辺にしておきたまえ。痛々しくて目も当てられない」

「晒し首決定だなァ。テメェらは先に行ってろ」

 

エリゴールが後ろにいる連中に指示を出すと、ぞろぞろとクヌギ駅の方へ向っていった。

向き直ったエリゴールの顔は殺戮を嗜好する狂人のそれになっていた。

この手の奴は単純で楽だ。

挑発にしっかり乗ってくれた。

 

「では無駄話はこの辺にしておこう。―――投影、開始(トレース・オン)

 

魔術回路に魔力を流し、自己の心象に埋没する。

剣の丘から引き抜いたのは、自分にもよく馴染んだ黒白の陰陽剣。

 

「死ねェ!!」

 

宙に浮かんだエリゴールは大鎌を振り上げながら高速で接近してくる。

振り下ろされた大鎌を、腕をクロスさせ右の干将で防ぎ、左の莫耶で刺突を放つ。

しかしエリゴールは風に乗ってひらりと避け、距離を取る。

 

「どっちが“ハエ”だよ、全く……」

 

久々に(サクヤ)の地が出たが、即座に思考を切り捨てる。

戦闘面で俺《サクヤ》の思考は殆ど役に立たない。

特に相手が手加減してくれるような者で無いなら尚更だ。

 

I am the bone of my sword.(我が 骨子は 捩れ 狂う)

 

干将莫耶に魔力を流し込む。

すると、ビキビキと音を立てて形状が変化した。

それは正しく“翼”。

短剣から一層伸びた刃が異様な雰囲気を作り出す。

 

短剣の長所は小回りが利くと言う点だ。

その要素を捨ててでも剣の骨子を曲げたのには理由があった。

エリゴールは大鎌を使いながらも動きは素早い。

敵が最速と謳われるランサーのサーヴァント“クー・フーリン”ならば短剣で良かったかもしれない。

槍の基本動作は“突く”だ。

攻撃の範囲は“点”となる。

となれば軌道を反らすだけで最小限の動きで回避が出来る。

だがエリゴールの使う得物は大鎌だ。

大鎌の基本動作は“薙ぎ”だ。

加えて曲がった特殊な形状から防御がし難い。

下手に軌道を変えて反らすより受ける方が得策だ。

ならばレンジの短い短剣である必要は無い。

 

「これなら如何だッ!」

 

エリゴールが手を動かすと同時に突風が吹く。

飛ばされないように脚に力を入れて両腕で吹き込む風を防ごうとした。

次の瞬間、左肩、右肘、左胴、右膝に身を切る感触が走る。

 

「くっ!鎌鼬か!」

 

流血した肩を押さえながら、エリゴールを見る。

エリゴールが大鎌を振り上げ、再び接近してくる。

振り下ろされた大鎌を右の干将で弾くと今度は此方が後退する。

だがエリゴールも追撃の手を緩めない。

此方もこれ以上後退すればペースを乱される。

繰り出される斬撃に応じる。

一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃、七撃、八撃、九撃。

最良の手段によって防ぎ、弾き、撃ち落す。

鋼の二重奏が響く。

執拗な攻撃を鉄壁の防御を持って迎え撃つ。

次第にエリゴールの方がペースを乱され、最後に大振りで一撃するとエリゴールは後退した。

 

「(凌げたか)」

 

態勢を立て直せばまだ反撃のチャンスはある。

だと言うのにエリゴールは笑みを浮かべていた。

 

「如何した。気でも狂ったか?」

「何。十分足止めさせてもらった。列車も占領したようだし、残念ではあるが此処で打ち止めだ」

 

エリゴールの物言いに目を強化して駅の方を見る。

窓越しから先の連中が乗っているのが解った。

時間を掛けすぎたか。

 

「じゃあな、剣聖。全てが片付いたらその首、貰いに来てやるよ」

 

手を動かして印を結んだエリゴールが俺に手を突き出す。

 

「―――暴風波(ストームブリンガー)!!」

 

直射上に渦巻く風が放たれる。

魔力ブーストを上げ、射線上から離脱する。

 

見上げた空には去っていくエリゴール。

 

「逃したか」

 

強化した目でエリゴールが列車に乗ったのを確認すると、投げ出していた袋から止血剤で簡易な応急処置を済ませると列車が去った方角を見据える。

 

「(確か次の駅はオシバナ駅だったな)」

 

魔力の残量は六割弱。

強化と軽量の魔術を使用しながら、数キロを走れば二割はもっていかれるだろう。

エリゴールと先の連中を肩抱けるには少々心許無いがやる他は無い。

 

「―――同調、開始(トレース・オン)

 

魔術回路に魔力を走らせる。

腕に、脚に魔力を満たす。

 

そして、列車が走り去った方へ駆け出した。

 

 

 

 

数刻の後、オシバナ駅にてナツ、グレイ、ハッピー、ルーシィ、エルザはエリゴール率いる『鉄の森(アイゼンヴァルド)』と相対していた。

列車の上に腰掛けていたエリゴールは忌々しげな表情をした。

 

「今日はつくづく妖精の尻尾(ハエ)に縁がある日だな」

 

エリゴールの言葉にエルザ達は首を傾げたが、気を取り直す。

 

「貴様らの目的は何だ?」

「何だろォなァ」

 

エリゴールは不敵な笑みを浮かべ、エルザ達の神経を逆撫でする。

苛立ちを隠せず奥歯を噛み締めたエルザを見て、エリゴールは更に表情を歪める。

エリゴールは風で舞い上がり、駅内の放送スピーカーをコツコツと叩いた。

 

「まさか!呪歌(ララバイ)を放送するつもりか!?」

「ふははははっ!この駅の周辺には何百…何千もの野次馬共が集まっている。音量を上げれば死のメロディーが街中に響く!!」

「何の罪の無い人々を無差別に殺すと言うのか!」

「罪が無いものか!“権利”を奪われた者の存在を知らず、“権利”を掲げ生活を保全している。これはそんな愚か者どもへの粛清だ!」

 

憤りを顕にするエルザ達を前に、エリゴールは朗々と言う。

 

「この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た!」

「貴様ァ!」

 

高笑いを続けるエリゴールに、エルザは唸った。

 

その時、背後から声が響いてきた。

 

「非道な行いに憤る程成人してくれたのは嬉しいが、まずは右に避けろ」

 

えっ、と聞き覚えのある声に驚き振り向いたエルザの目の前を、何かが高速で通り過ぎる。

それはエリゴールへ真っ直ぐに飛んでいく。

 

「ッ!」

 

エリゴールは肩に担いだ大鎌を振るう。

甲高い金属音が響き、弾かれたそれは鉄の森(アイゼンヴァルド)の軍勢の中央に落ちた。

 

それは歪な形の黒い西洋剣。

そこには()()の魔法剣には無い魔力が内包されている。

 

それを理解した時、エルザは誰よりも歓喜に震えた。

長年再会を待ち望んでいた思い人が来てくれた、と。

 

照明が落ちた暗い通路から人影が見える。

エリゴールはそれを確認して先程には比べられない程の忌々しげな表情をした。

 

「またテメェか……“剣聖”!!」

「あぁ。また邪魔させてもらうぞ……“死神”」

 

暗い通路から現れた青年サクヤは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 




戦闘を続けて書こうとすると、どうしても一話が長くなるので一旦区切ります。
次回もお楽しみに。


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七話


最終投稿から約四ヶ月。
借り住まいを探したり、学校の課題におわれたりとなんやかんやでおろそかになってました。
今回は少し短め。
次の週からペースを戻していくつもりです。


~七話 ゼレフの遺産~

 

数分前、サクヤは集まった野次馬を飛び越え、オシバナ駅内部に潜入していた。

 

警戒しながらも奥に進んでいくと、通路に武装した兵士が十数人倒れていた。

おそらく鉄の森(アイゼンヴァルド)の襲撃を受けたのだろう。

幸い命に別状は無いようだが、怪我を負っている。

辺りに飛び散った鮮血が遠い日の記憶のフラッシュバックさせる。

 

一人一人応急処置をしているサクヤの顔は酷く苦悶に満ちていた。

彼にとって納得のいく状況ではなかった。

 

此処に来た兵士達は当然こうなる事も覚悟していただろう。

それでもサクヤには納得がいかない。

彼らが傷つく理由などなかった、自分が至らなかったばかりに、そう自意識過剰にも等しく自身に罪を押し付ける。

 

楽園の塔の一件(あの日)以来、サクヤの人間観は狂ってしまっていた。

自らの価値は地より低く、他者の価値が絶対化した。

善悪を推し量り、己の手が届く人々をただ救い続ける。

 

それはまるで罪を償う罪人のようで―――

 

―――その背は彼の錬鉄の騎士と重なっていた。

 

 

 

 

「テメェ、如何やって追いついた?」

「何、脚は人並み以上には自信があってね。走って追いついただけだ」

「冗談ぬかせ」

 

宙を舞うエリゴールを見据えて皮肉を言う。

当然の反応だろう。

ただ走っただけでは生身の人間が列車に追いつく事など不可能だ。

 

それを可能に出来るのは魔術を使ったからだ。

“軽量化”の魔術と“強化”の魔術を併用する事で速度を維持して跳躍してきたのだ。

 

サクヤは投影した弓を破棄し、新たに干将莫耶を投影する。

そのまま距離を詰めエルザ達に並ぶ。

 

「あのぉ、どちら様でしたっけ?」

「可笑しなことを言う。君と会うのは初めてな筈だが?」

 

露出度の高い服を着た金髪の少女の問に返す。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のサクヤだ。君が噂の新人君かね?」

「えっと、そうです。ルーシィって言います」

 

噂の、の辺りから表情が引き摺っているルーシィに、サクヤは何か失礼でもあったのかと思うが、彼女が、何でもないです、と何かを諦めたように言うので深くは追求しなかった。

 

会話の最中、終始仏頂面のサクヤの表情を見たエルザが笑みを漏らした。

 

「久々だな、サクヤ。如何して此処に?」

「ふむ。私としては君達が此処に居る事の方が不思議なのだが。私はエリゴールを追っていたからだよ」

 

簡略して話せばこうだ。

 

 

 

 

数日ほど前のことだ。

クエストが終了し、久々の帰郷の前に新しく情報を仕入れに情報屋を訪れていた。

 

どの世界おいても情報というのは貴重だ。

事に裏の情報は簡単に手に入る物ではなく、自ら捜査するには手間が取る。

そんな事もあり、情報捜査に長けた存在が情報屋だ。

彼らは経済や政治からマフィアや裏市場に至るまであらゆる情報を手に入れ、それらを売り稼ぎを得ている。

 

ところが、サクヤが以前から好意にしていた内の一人の情報屋が何者かによって殺されていたのだ。

首が胴体から切り離され、デスクの上に首が置かれていた。

首から滴る血はデスクからまるで滝の様に流れ、顔は恐怖に引き攣っていた。

 

部屋は暴れた様子はあれど漁られた形跡は無く、物取りで無いと解ったときデスク周りの捜査資料を探った。

そして一番新しい日付の物を見つけた。

 

その内容は闇ギルド『鉄の森(アイゼンヴァルド)』の近状について。

連日に渡る記録。

活発化していることを示唆する記述。

 

それらを見て確信した。

彼は口封じの為に殺されたのだ、と。

 

 

 

 

 

「酷い……」

 

「闇ギルドの連中は得てしてそういう奴が多い。今回の事に限らず、な」

 

ルーシィの呟きに半ば反射的にサクヤは返した。

先の話を聞き取ったエリゴールが笑い声を上げる。

 

「ああ、あの男か!いや、アイツは傑作だった。恐怖に歪んだ顔がなんともねぇ!」

 

風で舞い上がったエリゴールが悦楽に浸るようにクルクルと回る。

 

「黙れ」

 

瞬間、サクヤが弾丸の様に跳ぶ。

エリゴールの大鎌とサクヤの干将莫耶が甲高い金属音を上げ、衝突する。

勢いに乗ったサクヤの剣でエリゴールは列車の上空まで押し戻されるが、すぐさま剣ごとサクヤを弾き飛ばす。

 

停車したままの列車の上に着地したサクヤは更に追い討ちをかける。

足場が無いと不利と判断したエリゴールは列車の上に降り立ち、サクヤの追撃を迎え撃つ。

大鎌の刃がサクヤの剣を受け止める。

 

「貴様には評議会の方で手配が出されている。発見次第捕縛するように、と。また、生死を問わない、ともな。貴様は此処で仕留める!」

 

サクヤの言葉でエリゴールは不気味な笑みを浮かべる。

 

「勝てると思ってんのかよ?」

 

「勝てないとでも?」

 

皮肉を皮肉で返す。

その言葉を最後に衝突は激しさを増す。

 

お互い一歩も引かず強力な一撃を繰り出す。

それを弾き、受け、流す一進一退の攻防。

 

一方は死神の笑みを浮かべ、一方は無表情を象る。

 

打ち合う事、数合。

小回りの利く小剣を扱うサクヤに比べ、大鎌を使うエリゴールは息を切らしてきた。

エリゴールは大鎌を薙ぐ様に使っていて、尚且つサクヤの基本カウンター型の戦い方をする。

自ら仕掛ける必要が無い為、常に大立ち回りしているエリゴールの方が疲労が激しいのだ。

 

当然その事をエリゴール自身も気付いている。

右の大鎌を振るいながら、空いた左腕に風を纏わせ鎌鼬を飛ばす。

クロスレンジで放たれた鎌鼬を避ける為に、サクヤは大きく後退する。

 

しかし、鎌鼬そのものはワイドレンジ。

狭い列車の上では避けきるのは困難と言っていい。

即断したサクヤは列車から跳び、エルザ達の下に降り立つ。

 

それを見届けたエリゴールが再び空に舞い上がる。

 

「時間をくった。テメェらは妖精(ハエ)共をもてなしてやれ」

 

エリゴールは窓を突き破ると隣のブロックに消えていった。

 

「クッ、待てエリゴール!」

 

去るエリゴールに手を翳すもサクヤに止める術は無い。

赤原猟犬(フルンディング)による追尾もこう建物の中では壁などの障害物により意味を成さない。

壁を破壊しようにも外にいる野次馬への影響もある。

 

事実上、此処でエリゴールを捕らえる術は無い。

サクヤは次に考え得た策を指示する。

 

「ナツ、グレイ。エリゴールを追え。エリゴールの確保は最優先だ!奴にあの呪具を使わせるな」

 

「うっし!」

 

「任せとけ」

 

ナツもグレイもサクヤには十年来の信頼を置いている。

指示を受けるや否や隣のブロックに繋がる通路に走っていった。

 

「ちッ!逃がすかよ!」

 

「こっちもだ!!あの桜頭だけは俺が仕留める!!」

 

一人が影に沈み、もう一人は指から伸ばした糸の様なモノで二階に跳ね上がりナツとグレイを追う。

サクヤにとって誤算ではあったが、想定の範囲内だ。

 

「残る連中の一掃を如何するか、だな」

 

残りの魔力の残量を考えるに、エリゴールとの再戦を考え魔力は温存しておきたい。

しかし、後の小事を考えるに此処に居る連中も野放しには出来ない。

 

「一掃するだと?テメェら三人で何が出来るってんだよ!」

 

「何。足止め程度如何という事では無い」

 

ナツとグレイがエリゴールを捕らえる事に賭ける、サクヤが下した結論だった。

 

「男の方は如何でもいいが、女の方は生け捕りだ!」

 

「脱衣ショーでもやらせるか」

 

サクヤの発言により、慢心を色濃くした鉄の森(アイゼンヴァルド)のメンバーが罵詈雑言をとばす。

サクヤにとってこの状況を作り出す事が先の発言の意図である。

 

同時に、彼らの傍に転がる()()()視線を逸らす為でもある。

 

「忠告だ。敵が落とした物に不用意に近づかない事だな」

 

―――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

剣に内包された魔力が爆ぜる。

込められた魔力は少しだったものの連中を吹き飛ばすには十分の威力だった。

 

「ガァアアッ!!」

 

「ぐわあああ!!」

 

爆発により四方に飛ばされ、立っているのは運良く爆発に巻き込まれなかった二人だけだ。

 

「テメェ…図に乗んじゃねぇぞっ!!」

 

残った内の一人が腕に魔力を纏わせ突進してくる。

しかし、鷹の眼はその程度の動きを見切れない訳など無い。

半身だけ動かし最小限の動きで避けると後ろから後頭部を干将の柄で叩いて気絶させた。

 

最後の一人はサクヤが睨みを利かせると、ひぃ、と怯えた声を上げ、通路の奥に消えていった。

 

それを見据えて静かに言い放つ。

 

「準備も覚悟も足りなかったな」

 

サクヤは投影した剣を破棄して、エルザ達の下へ向った。

 

 

 

没エピソード

 

「男の方は如何でもいいが、女の方は生け捕りだ!」

 

「脱衣ショーでもやらせるか」

 

サクヤの発言により、慢心を色濃くした鉄の森(アイゼンヴァルド)のメンバーが罵詈雑言をとばす。

サクヤにとってこの状況を作り出す事が先の発言の意図であったが、思惑外の事が起きる。

 

「……サクヤ」

 

唐突に呼びかけられたサクヤの背筋に悪寒が走る。

自分に向けられてモノではないが、その怒気は凄まじいものだ。

無論、此処にそれだけの怒気を放てるのは一人(エルザ)だけだ。

 

「足止め程度では生温い―――」

 

振り向いた先には魔法の鎧・騎士(般若)のエルザがいた。

如何やら、サクヤの発言は味方を炊きつける事にも繋がったらしい。

 

―――循環の剣(サークルソード)

 

「完膚なきまでに一掃するっ!!」

 

無数の剣がエルザ達を中心に展開され、鉄の森(アイゼンヴァルド)のメンバー達を斬りつける。

一人、また一人と崩れていく敵にエルザは口を開く。

 

「これ以上、妖精の尻尾(フェアリーテイル)への侮辱は許さん。何より―――」

 

「その下卑た視線で私を見るなっ!!私をその様に見ていいのはサクヤだけだ!!!」

 

そう豪語するエルザを見て、サクヤは道を誤った気がして頭痛が隠せなかった。

 




没エピソードは完全にネタです。
今後もちょいちょいおまけを入れたりするつもりです。


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