Hallelujah! (JAS39)
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Hallelujah!

GS美神 極楽大作戦!!に登場する神父の短編となります。
10年以上前に書いた作品となります。
以前に他の名義で余所に投稿していました。


 

Doch ohne dich,was ware mir        されど汝なくば、我にとりて何かあらん。

der Morgentau,der Abendhauch,        朝の露、タベの微風

der Fruchte Safa,              果実の液、甘き香りただよわせる花

der Blumenduft               すべて詮なし。

Mit dir erhoht sich jede Freude,      汝とともにすべての喜ぴは高まり、

mit dir geniess'ich doppelt sie;      われとともに君は楽しまん。

mit dir ist Seligkeit das Leben;      汝とともに生命の至福あり。

dir,dir sei es ganz geweiht.        すべては君に棒げられん。

 

 

 

 

Franz Joseph Haydn "Die Schopfung",Oratorio No.32 Duet

フランツ・ヨゼフ・ハイドン作曲 オラトリオ『天地創造』 第32曲二重唱より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1968年

 

イタリア共和国(Republic of Italy) ヴェネツィア

 

美しきアドリア海の花嫁、麗しの都ベニス。

そう称えられた、海洋商業都市に一人の日本人がいた。

 

 

唐巣和宏

 

 

時に、18歳。

 

 

彼はここで、後の人生を決定づける体験をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hallelujah!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二次世界大戦(ヨーロッパ大戦)が終結してから20年あまりの時が流れ、世界は大きく変わった。

ヨーロッパ全土に残った傷痕は、その大半が癒されたが「ヒト」は以前とした混迷の中にいた。

 

 

 

急速に行なわれる戦後復興

 

 

政治体制の変革

 

 

勢力を広げる資本主義

 

 

戦勝国と敗戦国の優劣

 

 

 

 

 

 

それらは、人々の心に光と闇をもたらした。

 

 

闇は人々の「負の感情」に引き寄せられ顕在化した魔物たち。

 

光は混迷の時代に人々を救おうとする若き力。

 

 

日本人 唐巣和宏は、高校を卒業すると共にイタリアを訪れ、キリスト教の修行を行なっていた。

 

彼を引き受け、導いたのはカトリックの神父ロレンツィオ・コルネオ。

 

彼は唐巣の真摯さ、誠実や熱意といったものを愛し、自身の持っている全てを伝えていった。

 

もっとも模範的なカトリック教徒とは言えなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Quando corpus morietur                肉体が死する時

 

fac ut animae donetu                  魂が天国の栄光に

 

rparadisi gloria.                   捧げらるるよう、なしたまえ。

 

Amen….                         アーメン…

 

 

 

 

Giovanni Batdsta Pergolesi "Stabat Mater" XII Duetti:Quando corpus morietur

ジョヴァンニ・バスティッタ・ペルゴレージ 『スターバト・マーテル』第12曲"肉体が死する時"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が唐巣に伝えたのは、人を救うことだった。

 

貧しい者が居れば金銭を与え

 

飢えている者が居れば糧を与え

 

病む者が居れば薬を、癒しを与えた

 

ロレンツィオ神父が、手を差し伸べた者の中にはイスラム教徒も仏教徒もユダヤ教徒もいた。

 

 

結果、彼は多くの人に感謝されたが何時も困窮していた。

入ってきた金銭の殆んどを施しに使ってしまうため日々の食べ物にも困るほどだった。

実際ロレンツィオ神父と唐巣和宏は、空腹の余り倒れてしまったこともある。

 

 

しかし本当に困った時には、不思議と寄付があり、彼らは自身と他者の命を繋ぐことが出来た。

 

 

ロレンツィオ神父の教えは和宏に大きな影響を与えた。

キリスト教の本場、ローマ法王のお膝元であるイタリアで、教会の腐敗と教義の無力さに絶望していた彼にとって

ロレンツィオ神父の存在は隣人愛の体現であったからだ。

長い年月を経て、根を張り枝を伸ばし、悠々と聳え立つ巨樹のように。

ロレンツィオ・コルネオという男の、深い慈愛の心と真っ直ぐな善意の泉が、唐巣和宏という器を満たし彼の渇きを癒していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日ロレンツィオ神父は悪魔払いを依頼された。

カトリック教会において悪魔払いは、医学的に説明不可能な症例に限って例外的に許されている。

依頼内容は眠ったまま目覚めない少女の悪魔払いだった。

和宏は医学で解明できるとして神父が依頼を受けないように説得した。

しかし神父は笑ってこれを退けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、二人は準備を整えると悪魔払いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父と子と聖霊の御名において命ずる!!」

 

蝋燭の明かりに照らされた部屋の中、ロレンツィオ神父は寝台に横たわる少女に手をかざし言葉を紡ぐ。

 

「汝、悪魔バルバリシア!!その者を解放せよ!!」

 

神父の霊力が少女を包む。

 

「フィアト!(命じる)フィアト!(命じる)フィアト!(命じる)」

 

少女の輪郭が一瞬ぼやけ異形の者が現れる。

 

「憑依が解けた!今だ!!」

 

「カズヒロ!まだ早い!」

 

「なっ?! うわあぁぁ!!」

 

和宏が放った霊波はバルバリシアに弾かれ和宏自身を襲った。

 

ロレンツィオ神父は蹲る和宏に駆け寄ると、彼を守るようにバルバリシアの前に立ち塞がった。

 

「し、師父、僕はまだやれます!いいえ、やらせてください!!」

 

「落ち着きなさい、和宏」

 

「師父・・・・・」

 

「和宏、今何が聴こえる?」

 

「なにがって、悪魔の唸り声と師父の声しか」

 

「カズヒロ、心をかき乱されてはいけない、それがどんな所であっても、どんな相手であっても」

 

「師父」

 

「自分を失い、成すべき事を見失ったときが信仰が敗れるときと知りなさい」

 

「カズヒロ、もう一度言おう、何が聴こえる?」

 

「な、なにがって」

 

「カズヒロ、相手は常に自分自身の中にあり、自分自身である。日々自分は同じ大地に立ち、日々自分という敵と戦う。戦う相手は悪魔ではなく自分自身なのだ」

 

「カズヒロ、今再び君に聞く、何が聴こえる?」

 

「はい・・・・・微かに揺れ動く空気の音と・・・・・・・・・(タスケテ)・・・・はっ、少女の救いを求める声が!」

 

「よし!それでいい! カズヒロ続け!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「草よ木よ花よ虫よ、我が友なる精霊たちよ!!邪を砕く力を分け与えたまえ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「汝の呪われた魂に救いあれ!!アーメン!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人から発せられた強大な力はバルバリシアを包み打ち砕いた。

 

後にはへたり込む和宏と悠然と立つロレンツィオ神父、そして安らかな顔で眠る少女が残された。

 

「凄い、生身の人間にこんなに強い力が出せるなんて・・・・・・」

 

「私達の力ではないよ。世界は無数の魂の調和で成り立っている。悪を憎み愛を信じれば、この世に満ちている魂たちが力を貸してくれる。カズヒロ、そのことを憶えておきなさい」

 

「はい!」

 

「しかし、疲れた」

 

「まったくです」

 

部屋の中に師弟の笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間後

 

ロレンツィオ神父の教会には和宏だけがいた。

 

 

 

 

 

 

ロレンツィオ・コルネオに対する破門宣告

 

 

 

 

 

 

 

 

教会からその通告がきた時、和宏は余り驚かなかった。

 

教会に無断で悪魔払いをした以上、何らかの咎めがあることは解っていたからだ。

 

和宏が驚いたのはロレンツィオが破門だけではなく、異端の烙印を押されたことだ。

 

彼は除霊・悪魔払いのためイスラムや仏教など他宗教の書物を集め手法を学んでいたのだ。

 

そのことを咎められ、ロレンツィオは異端者となった。

 

和宏はロレンツィオに何故他の宗教に手を出したのか訊ねてみた。

 

答えは実に単純なものだった。

 

「それで人が救えるじゃないか」

 

堂々と言い放つ姿は爽快だった。

 

「カズヒロ、世界には私なんかよりも、もっと多くのものを教えてくれるものが、たくさんある。求めれば世界は、カズヒロ、君にもっともっと色々な事を教えてくれる。世界を、人を育み愛すれば、人は人を呼びその想いはやがて多くの人々へ受け継がれていく。

 私はカズヒロにキリスト教の教えだけを受け継いで欲しいのではない。その想いの種をまく手伝いをして欲しいんだ。やがて私達のまいた種は木となり、林となり森となって再び人々を育むように・・・・・」

 

和宏の肩に手を置き、そう語り掛けるとロレンツィオ・コルネオは悠然と教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後和宏は、コンスタンチノープル、アンティオキア、エルサレムなどの聖跡を巡り、修行を積んだ。

 

師に習い、人を救うために全力を尽くした。

 

神父になったが師と同じように異端の教えに手を染め破門される。

 

日本に帰国した後はGSとして活躍し後進の育成にも力を入れている。

 

全ての人に慈愛と寛容の精神をもって接し人々を導いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アフリカ ケニア共和国

 

満天の太陽と乾いた風。

 

広大なサバンナから薫る草の香り。

 

この国を唐巣和宏は訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

孤児院の前に1人の老人が立っている。

 

「カズヒロ」

 

「師父・・・・・・・」

 

和宏はロレンツィオ・コルネオに駆け寄ると彼を抱きしめた。

 

齢60を超えるロレンツィオの体は昔と同じように力強く和宏を受け止めた。

 

「カズヒロ、何年ぶりかな?」

 

「もう20年になります」

 

「そうか、カズヒロとは語り合いたいことが、たくさんある」

 

「20年のことを語り尽くそうとすれば20年はかかりますね」

 

「20年でも30年でも。だがまずは家に入りお茶を飲もう」

 

「はい、師父」

 

ロレンツィオは孤児院の中にカズヒロを誘おうとしたが、振り返って和弘に問い掛けた。

 

「ああそうだ、カズヒロ、何が聴こえる?」

 

和宏は胸を張り笑いながら答えた。

 

「はい、師父の声と世界の歌が」

 

その答えを聞くとロレンツィオは子供のような笑顔を浮かべ孤児院の扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は扉を閉めず孤児院の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

開かれた扉の中から、楽しげな笑い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hallelujah!

 

 



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