全ては「ボク」の仲間の為に (Colore)
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ボンゴレファミリーのボス
今はマフィア界の戦国時代。地や地位を争い死人が多発する時代。そう、俺が率いるこのマフィアも狙われている。日々狙われているため、日に日に部下が消えていった。
何故こんな世になったのだろう? 俺はいつもいつも悩んでいた。
確かに前から地位争いも狙われることも死人が多発することもあった。だが、これほどまで長期間にわたって出たことはないのである。心休まる時がないほど長く続くのは俺がボスになってから今まであったであろうか?
それにしても、嫌な予感がする。俺の超直感が告げていた。俺は大切なモノをなくす。一体何が? 書類を見つめながら考えていた。手に持っている書類は部下の死亡が詳しく書かれた紙である。
ココ最近、まったく葬儀もしていない。いつ殺されるかわからない。その恐怖に葬儀すらままならなくなっていた。落ち着いたら、今が終わったら葬儀をして墓を造ろうと考えてはいるものの、この時代が終わる気配もましてや落ち着く気配もまったくなかった。
一瞬、目眩で身体が倒れそうになる。すぐ傍にいた獄寺君が支えてくれた。この頃は書類整理で一時間寝られればよい方である。心身ともに疲れが溜まっているのは言わずもがな、わかっていることである。
「十代目、少しお休みになる方が――」
「獄寺君、見てわかるでしょう? 今はまだ休めない」
「ですが! ……休まなければ、動けません。貴方に付いて行く部下の為にも、休んでください」
初めは怒鳴り気味に獄寺君は言ったが、少し間を空け俺に怒鳴ったことを悔やむように静かに続けた。獄寺君もこの状況を理解し、俺を心配して言っていることだ。でも、今の俺は心にゆとりはなかった。
「この書類が終わるまでは動けない!! 今も俺の為に何人何十人の人が死んでると考えたら、寝てなんか――」
怒鳴り、そのまま続けて言おうとした時、俺の視界は真っ暗だった。さっきは一瞬だった目眩が今は数秒にわたって続いている。獄寺君が叫ぶのが僅かに聞こえたが、すぐに俺の意識は沈んでしまった。
気づけば俺はベッドの上。獄寺君が運んだのだろう。前運んでもらった時より筋肉が付いているのにお姫様抱っこなんて、獄寺君には相変わらず驚かされる。
獄寺君は、俺以外は肩に担いだりして運ぶのに俺だけは姫抱っこなのである。確かに、ボスを肩に担ぐのはアレだが、俺と獄寺君の仲なのだから肩で担いでくれてもいいものを。
寝たおかげなのか、多少心に余裕が出来ていた。
「とりあえず、早く終わらせないと」
一度、しっかりとAランクの石に
「っ十代目!!」
すると、獄寺君の姿が飛び込んできた。心配でいっぱいになったような獄寺君の顔を見て、「あぁ、何でこんな顔させちゃうくらいほっといたんだろう」と後悔した。
「お体は大丈夫ですか!?」
「もう、大丈夫。さぁ、仕事にかかろう。俺は怖かった、でも皆と一緒だから。もう心配ない」
獄寺君に今の自分に出来る精一杯の笑顔を見せ、歩く。俺の事務室へ急いで歩く。こんな時代を、早く終わらせる為にも。
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マフィアボンゴレの死※残酷な描写有
爆発音が城内に響いた。恐らく一階からだろうと俺は予想を立てる。慌てて事務室へ入ってきたのはまだ若い部下だった。
「っボス!! 城内に敵が侵入しました!」
「んだとっ!? 何敵の侵入許してんだ! 天下のボンゴレに入れるなんて馬鹿なマネして――」
部下が入って侵入したことを伝えると、すぐに獄寺君の怒鳴り声が事務室に響いた。
「獄寺君、今は非常事態だ。少し黙ってて」
「一階フロアは中央広場にかなりの破損が出ています。先ほどの爆発で三人が重症、七人ほどが軽症を負った模様です。敵の侵入経路は西壁に爆弾を仕掛け穴を開けその穴から侵入した様子。私が確認した中でもう城内には十数人侵入してきています! 武器に描かれていたマークはフォリアロッテファミリーのものと同じであり、敵はフォリアロッテファミリーのテロ集の模様!」
「わかった。直ちに幹部を――」
俺が言い終える前に、フォリアロッテの人間が扉を開け銃を構えていた。その銃は
「武器を捨て、手を上げろ!」
男は散弾銃を俺の方へ向けると、少しずらして引き金を引いた。弾は俺の肩や腕を突き抜けて行き、その痛みに顔がゆがむ。嵐の炎は俺の身体に灯り、俺を焼いていく。獄寺君が駆けつけようとすると男は獄寺君の足元を狙い撃った。
「動くな」
男の低い声が妙に響いた。獄寺君は舌打ちをし、そのまま手を上げて立っているだけだった。
「何もせずゆっくりとこちらへ来い。何かしたら撃つぞ」
男は脅しながら指示を出す。今も俺の身体を蝕んで行く嵐の炎に顔を歪めながらゆっくりと立ち上がった。
男は俺たちを一階に連れてくると、ロビーへ入れた。
そこで俺が目にしたのは、仲間のスプラッタな死体だった。
山本は腕をグニャグニャに曲げられ、さらに捻じられていた。腕は血で真っ赤に染まり、顔は焼き爛れて山本だとは思えない。俺が山本だとわかったのは、近くに山本の匣兵器が落ちていて、ネクタイが山本のお気に入りのものだったからである。
お兄さんは手全体の皮が剥げており、両膝は骨が見えるほどパックリと肉が割れていた。眼球は片方くり貫かれており、顔の近くに転がっている。目、手、膝、身体のいたるところから血が溢れており、お兄さんの白髪はところどころ真っ赤に染まっていた。
骸は武器の三叉槍の手持ち部分は粉々であり刃の部分は欠けて使えなくなっていた。骸自身は両手が潰されており、頭は身体と離れたところで押しつぶされたようだった。腹部は切り裂かれており、内臓が丸見えである。大腸が少し飛び出ていた。
クロームは脳の部分が飛び出しており、眼帯が外れ左目から血を流していた。骸とは違い胸部分が引き裂かれており肋骨が見えている。肋骨は折られていて心臓が飛び出し潰されていた。足が付け根から切り離されていて綺麗な断面になっている。二の腕部分が潰されていた。
雲雀さんは頭から大量の血が流れており顔が真っ赤になっていた。腕は有り得ない方向に曲げられていて足は潰されていた。身体は焼かれたようで全体が爛れていた。血が身体全体から噴出しており雲雀さんの殆どが真っ赤であった。男性器は切り外されており、壁に釘で打ち付けられていた。男性器が切り取られているのは見た限り雲雀さんだけであり、壁に打ち付けられているのが雲雀さんの物だと考える時間はそうかからなかった。
俺は吐いた。胃の中に入っていたものを全てその瞬間に吐き出した。まだ消化されていない野菜が口の中から溢れ出て来た。酸っぱく気持ちの悪い胃液と共に全てを吐き出し目からは涙を溢れさせる。
ランボがここにいなかったことが唯一の救いだと思う。
「吐き終わったか? ほらよーく見ておけ、自慢の右腕君が無残に殺される姿をなぁ!」
愉快そうに叫んだ男は言い終える前に獄寺君を散弾銃で撃ち抜き、近くにいた男の仲間が獄寺君の頭を吹っ飛ばした。獄寺君の頭は勢いよく飛び壁から鈍い音が聞こえた。人間とは思えない力で獄寺君は縦に引き裂かれ俺の身体に血飛沫が大量にかかった。それだけでは終わらず獄寺君の身体を剣が横に切り裂き獄寺君の身体は四等分にされた。獄寺君の身体から内臓が血液と共に飛び出ていき、辺りの血の海をさらに広げた。
俺は吐く暇もなく狂った。狂って狂って、身体全体から夜の炎が吹き出ていた。夜の炎の発生条件は絶望、俺の精神は絶望から来るあの境地にあった。全てを飲み込んでしまいそうなほど真っ黒な夜の炎に男を放り込み上空から落とす。見渡しの良くなったホールから中庭は見え、上空から落ちてきた男が地面に叩きつけられる音が良く聞こえた。男の四肢はあらゆる方向へと曲がり顔面や足、腕などのから血がドッと溢れ出る。
男の仲間はすぐに逃げていったが俺には止まって見え、全員上空から叩き落した。面倒くさいからあいつらの走る勢いを利用した。走っていった目の前に夜の炎のワープホールを作ればそのまま地面に直行ルートの完成である。勢いがある方がより効果的に落とせるから良かった。
数時間後、俺は全ての敵を殺した。城の周りは血の池を連想させるほど真っ赤に染まり、俺自身も真っ赤であった。城の周りの森もある程度真っ赤であり、フランの言っていた深紅の森なんて言葉がピッタリかもしれない。
ジッリョネロやキャバッローネの応援が来るまでの間に、俺は自殺していた。仲間は死んだ。もう俺には何も残ってないと思った。全て失った。でも、俺にはまだ自殺という選択肢が残っていた。楽になれると思ったんだ。俺は走って、ワープホールに入って自由落下に身を任せた。痛いと思っていたのだけれど、案外痛くないものだ。だって、地面に当たる前に俺は気を失ったのだから。
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ボクの道
目が覚めたのは、日本にある俺の実家沢田家の俺の部屋だった。俺の部屋といっても、高校に入った以降の部屋ではなく中学一年生のときの部屋とそっくりだった。
俺は、窓を見た。外は綺麗な青空で、ふわふわした雲がゆったりと流れているだけだった。そんな時、窓ガラスに映った俺の容姿がたまたま目に入る。
――その姿は、十五年前の中学生時と同じものだった。
「……!」
言葉が出なかった。驚きで声すらも出なかった。
俺は、慌てて一回へと駆け下りる。ドタドタとまだまだ綺麗な階段を下りた先のキッチンには、母さんがチラシを皆がら座っていた。
「あらツッくん、そんなに慌ててどうしたの?」
やはりそこには、十五年前と同じ若い母さんがいた。
きっとここは十五年前の世界なのだろう。超直感に頼らなくても、その考えにたどり着いていた。十年バズーカや人の身体を分解して保存する機械、平行世界を移動できた人間もいたほどだから、驚くのは今更であろう。
「えっと、母さん。今って何月何日だっけ?」
怪しまれないように、まだ幼い自分を思い出した。あの頃は母さんに迷惑ばかりかけていた時だったはず。リボーンがいないから、きっとリボーンが来る前なのだろう。
「急にどうしたの? 今日は六月十七日でしょ」
ビンゴ、どうやら今日はリボーンが来る前の日らしい。リボーンの書類、自分で整理しておいて正解だった。
「ご、ごめん。部屋のカレンダーの日付見てたら急にこんがらがっちゃって」
とりあえず、十五年前の並盛町を確認しておいた方がいいだろう。後々役に立つかもしれない。それに、現地民が町をまったく覚えてないなんて可笑しいだろうから。
「母さん、ちょっと出かけてくるね」
「暗くなる前には戻ってくるのよ~。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
キッチンを早足で出て行き、俺は外に出た。六月に入っているからか、外は思っていたよりも暑かった。
初めに、並盛中学校へ向かう。ここ十年ほど行っていないから、記憶を頼りに歩いていく。
俺がこの時代にすべきことは何か。俺は考えてみた。時おり電柱に頭をぶつけそうになりながら、俺は道路を歩いていった。
一度頭をぶつけて、やっと着いた並中のある部屋には電気がついていた。職員室でもなく、校長室でも職員玄関でもない一部屋。きっと、雲雀さんが率いる風紀委員会だろう。
俺は自分の記憶を掘り出し、下駄箱から上履きを取り出した。久しぶりに履く上履きに懐かしさを感じた。おじさん臭いとか誰も言わないよな、これでもまだ二十九なんだから。心の中で呟いた。
学校内を歩いていると、学ランを着た学生に声をかけられた。たぶん、いや絶対に風紀委員だろうと思い振り返る。声をかけてきた生徒は草壁さんだった。
「その部屋は風紀委員室だ、風紀委員長に何のようだ?」
「えっ!? ここ、風紀委員室だったんですか!? 知らなかった……」
違和感は無いだろうか。少しばかり不安がよぎる。
「……そうか、次から気をつけろ」
草壁さんが一瞬驚いたように見えた。そんな時――
「君たち、僕の部屋の前で何してるの……群れてるようなら」
扉を開けて出てきたのは雲雀さんだった。雲雀さんを見るなり草壁さんは顔を青くし、一歩下がる。
「咬み殺すよ」
雲雀さんは隠してあったトンファーを取り出し、俺たちの目の前で構えた。まだまだ隙だらけの構えだった。懐かしい。
「おい、何をボーッとしているんだ!」
懐かしい。懐かしい。そうだ、俺は。ボクは。
――彼らを裏社会に巻き込まないために、時間を戻ったんだ。
ボクがそう考えていると、上から雲雀さんのトンファーが降ってくる。ボクは無意識に近い意識でトンファーを避ける。身体が若干動かしにくいのはこれからのトレーニングで何とかなるだろう。
「へぇ、ぼーっとしてる癖によく避けられたね。でも、これなら?」
先ほどよりも少し早い速度で雲雀さんはトンファーを振り回す。それでも、やっぱり一般人というべきか隙が結構あった。ボクが意識して避ければ簡単に避けられるだろう。
「すみません、ボクこれから用事があるので次時間があるときにまた」
ボクはその場から駆け足で逃げた。ボクは、流石に校内で喧嘩する気にはなれないから。
雲雀さんが追いかけてきていたけど、それでもボクは逃げ続けた。
またって言ってしまったけど、やはりもう関わらない方が良いのかもしれない。ボクと一緒にいると、マフィアになってしまう道は避けられないものになってしまうと思うから。
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厄介な悪魔
僕は急いで並盛を周った。公園の時計では、もうとっくに六時を回り辺りは薄暗くなっていた。
慣れない身体はなかなか動かし辛い物で、家に着く頃は息が荒くなっていた。疲れた身体でドアを開ける。今日はもう、晩御飯は要らない。疲れすぎて、食べる気が起きない。
「お帰りなさい。遅かったじゃないの! 今日は私特製のカレーライスなんだから、冷めない内にさっさと食べちゃいなさい」
前言撤回。僕は急いで顔と手を洗って嗽をした。母さんのカレー。久しぶりの母さんのご飯。楽しみで、身体の疲れなんかすっかり忘れていた。さっきまでの睡魔も、今はもう襲ってきていなかった。
「遅くなってゴメン。それじゃ、頂きます!」
「あら、ツナ君頭でも打ったの?」
一口目を飲み込んだ時、母さんが心配そうに僕に言った。飲み込んだ後でよかった。飲み込んでしまう前だったら、カレーを噴出してしまっていたに違いない。
「そんなこと無いよ! 何言ってるんだよ母さん」
母さんは心配そうに、ずっと僕を見て食べていた。この頃の僕、一体どんな接し方していたんだろうか。
久しぶりの母さんのカレーライスは中辛で、お肉が柔らかくて野菜がたっぷりで、じゃが芋は崩れ過ぎず硬すぎず、人参は柔らかく桜形、アスパラガスのほのかな苦味の中の甘さ、盛り付けのブロッコリーのさっぱりとした味、ご飯にピッタリな優しい味のルーにふっくらしっとりとした柔らかい炊き立てご飯。
「ご馳走様でした」
今日はぐっすり寝られる気がした。
***
――ピピピピ、ピピピピ。
目覚ましの音で、僕は目を覚ます。
窓から見える電線には雀が止まっていて、可愛らしい鳴き声を爽やかな朝に響かせた。
現在の時刻は六時。並中の登校時間は八時十分だから、二時間前後くらいの時間はあった。今日から少しでも体力をつけなければいけないと、僕はジャージに身を包んだ。
一階へ下りてみると、キッチンから良い匂いが流れてくる。母さんはこんな時間から僕のお弁当を作ってくれていたんだっけな。感謝感謝。
「ツッ君、おはよう。今日は早いわね!」
驚きながらも母さんは笑顔で挨拶をしてくれる。笑顔が明るくて、ボスになって合う機会が減っていた僕には眩しい笑顔だった。
「そうかな。今から、ちょっとその辺走って来るから」
「あら、本当に珍しいわね。何かあったの?」
「何にも無いよ」
そう告げて、僕は靴を履いた。登下校用の靴ではなく、体育用のスポーツスニーカー。
キッチンに聞こえるように、少し大きめの声で言った。母さんも気分よさげな声で返事をくれた。
家の周りをビルドアップで十五周。今はこれが丁度良い。
汗を垂らして家に帰ったのは、七時ぴったりの時だった。母さんが作ってくれた朝食を食べて、仕度を始める。今日の朝ごはんは昨夜のカレーの残りとヨーグルトだった。一晩置いたらまた美味しい。
六時から作ってくれた弁当を持って、僕は元気に家を出た。張り切って家を出たはいいけど、学校には行かないけれど。
今日はリボーンが来る日だから。僕は気配を限りなくゼロに近くして息を潜めていた。
大体一時を回った時、ゆっくりと歩くスーツの赤ん坊の姿があった。リボーンである。レオンを帽子に乗せて歩くリボーンは、やはり十五年前の姿だった。赤ん坊姿で歩くリボーンはとても懐かしい。
僕がボスになって五年経ったくらいに、リボーンはヴェルデの開発した薬によって、また大人の姿を取り戻したのである。子供のリボーンはもう見れなかったのだから。
リボーンは僕の家の前に来ると、鞄の中から一枚のチラシを取り出した。母さんがあの時持っていた家庭教師のチラシである。
僕は気配を戻し、家庭教師のチラシをポストから取り出した。そして、引き裂いた。
「てめえ、俺のチラシに何すんだ」
リボーンはコンクリートの塀の上に立つと、僕の頭に銃を向けた。リボーン愛用のレオンの銃で。
「こんな物は要らないからね。僕に家庭教師なんて必要ない。リボーンなんて必要ない。僕は一般平均近くの成績を取る一般の生徒になるんだから」
銃で怯まない僕を見て、リボーンは一度考える。それはそうだ。かするかも知れないが、本気を出していないリボーンの弾なら僕は避けられる。もっとも、かするのは身体が付いて行かない所為だからであって、ボスであった頃の僕なら本気を出さないリボーンは余裕である。
「てめえからは殺気を感じる。何がそんなに嫌なんだ?」
「あなたが僕に近寄ることが嫌。早くお国に帰って欲しいね」
相変わらず銃を下ろさないリボーンに、どうやら殺気を放っていたらしい。無闇に殺気を放つのは僕のやることじゃない。気をつけないと。
「何を知ってるかわからねぇが、どうやらてめえはツナってヤツらしいな。情報とは結構ちげぇが……これから俺が立派なボスにしてやるぞ」
「結構。あなたが僕に教える事なんて、もう一切無い。帰ってよ」
結局リボーンはチラシを入れた後、僕に向かってニィと笑った後消えてしまった。読心術なんて心得ていないから、僕はリボーンが何を企んでいるかはわからない。
世界最強のヒットマンの肩書きを持つアイツは、本当に何を考えているかわからない。だから、厄介なんだ。
母さんが玄関から出てこようとしていたから、僕はその場から立ち去った。二時を過ぎるまで、僕は公園で時間を潰そうと思う。
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十五年前もやはりアイツは侮れない
ブランコ、シーソー、ジャングルジムで遊んで約一時間が経過した。長かった。小銭を持ってきていないから、自販機で飲み物も買えなかった。僕の喉は今、随分と渇いている。
「……帰ります、か」
ブランコをこいで、軽く飛んでみせる。大丈夫、今この公園には僕しかいないから。一人赤面しているところは、きっと誰も見ていない。
「ただいまー」
靴を脱いで、いそいそと僕は階段を上っていった。
「綱吉――学校から電話があったわよ!」
母さんは台所を片付けながら僕に言った。
「今日は学校サボったんだってねぇ。あんた将来どーするつもり?」
母さんは怒りながら僕の後をついて来ていた。このやり取りも、やっぱり懐かしい。僕が椅子に腰掛けるころ、母さんは既に部屋の中に入ってきていた。
「母さん別にいい高校や大学に行けっていってるんじゃないのよ」
母さんは続けて、僕の将来思ってほしいことをキラキラした目で言った。僕もそんな将来になってほしい。僕も皆も、そうやって楽しい思いをして過ごしてほしい。
「そうだね、僕もそう思うよ」
「……あら、あんた熱でもあるの」
母さんは疑いの目をかけた。確かにここに来る前は寝不足と疲れが半端ではなかったけど、今は元気いっぱいに決まっているじゃないか。
「そうだツッ君、今日家庭教師の先生が来るの」
「……」
「ポストに面白いチラシが入っててね」
母さんはチラシを僕に見せながらそう言った。そのチラシは、リボーンが持っていた物と同じである。そりゃそうだ、二枚破いたところで何枚でも複製できるからね。元がある限り。
「ステキでしょ? こんなうたい文句見たことないわ」
母さんは嬉しそうに笑顔を浮かべる。やっぱり母さんの笑顔は元気になるなぁ。
母さんの好きな物を上手く使った誘導、さすがリボーンだと思う。敵になると、本当に嫌なやつ。敵にしたくない。でも、仕方ないんだ。そう、みんなの為に頑張らなくちゃね。
「きっと凄腕の青年実業家庭教師よ!」
凄腕は認めるけど、青年実業家庭教師ってフレーズは認めません。
「僕は断じて認めません!」
「っ!? 何よ急に大声出して!」
――ちゃおっす。
その場が一瞬にして静まる。高く幼い声。CHAOSの言葉。リボーンが着たのである。
「三時間早く来ちまったが特別にみてやるぞ」
「ボク……どこの子?」
母さんが驚くのもムリは無い。こんな赤ん坊の姿をしたやつが家庭教師だと言って、信じるやつなんて一部除いて僕の周りにしかいないのではないだろうか。
「帰ってくれないか」
「俺はお前の母親に雇われたんだ。ま、その前に別のヤツに雇われてるから帰れねぇけどな」
リボーンは、またニィと笑って僕を見つめた。その目は測っている様な目つきだった。
「なら別のヤツのところに行けばいいだろう?」
雇っているのは、絶対九代目。もういいよ確かにザンザスに継がせると厄介であるけど、それはそっちの都合なのだから。現時点で十代目にならないって選択肢を与えてください。
「それはムリな話だな。俺はソイツに頼まれて来たんだ」
「んじゃ、その人の連絡先教えてよ、クレームするから。何なら住所でもいいよ、その場合は父さんの電話番号を教えてもらうけど」
……そういえば、僕本部の住所も番号も覚えてるじゃん。怪しいけど、かけてみるのも……。イタリア語は覚えてるし、お金は父さんが稼いでるし……。ちょっと高いけど、やってみよう。
「てめぇ、人の話無視するな」
リボーンが壁を使って飛び蹴りをしてくる。手を抜いていた、僕にはわかる。要らないよね、一般人には。僕はリボーンの攻撃を必要最低限の動きでかわす。軽く運動――って言っても公園で遊んだだけだけど――したお陰か、普通に避けられる。
「すまない、リボーン。少し考え事してた」
「一般人だった癖して良い反射神経してんじゃねぇか」
「こら!! 室内で暴れるんじゃないの!」
今までついて来れていなかった母さんのお蔭で、多少空気が和らぐ。でも、この空間に母さんは危ない。……僕とリボーンがいるんだもん。
「母さん、ちょっと部屋から出てって」
母さんは機嫌を斜めにして拗ね始める。顔を膨らませて、子供みたいだ。
「嫌よ! まだ話は終わって――」
「後は俺が面倒見てやるぞ」
母さんはリボーンに圧されてか、部屋から出て行った。やっぱり機嫌は直っていないけど、ここにいて怪我されるよりはマシだ。
「ちょっと、ここで待っててくれる? トイレ行って来るよ」
「ああ」
リボーンはまた笑ってるけど、次に笑うのは僕のほう。これから電話かけるんだから。僕は子機を手に取り、トイレの中へ入った。
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世界の筋書きは変わらない
ということで、『』内はイタリア語という設定でお願いいたします。
素早く番号を打ち込み、イタリアへ繋げる。イタリアとの時差は結構あるが、今あちらは11時なため恐らく問題は無いだろう。十代目候補権限で問題は捻じ伏せる。
『――はい』
『ボンゴレ九代目に繋げていただきたい』
『……所属と、用件を』
『ボンゴレ十代目候補沢田綱吉だ。それ以上は九代目に直接話す』
『確認が取れない。出直して――』
『何かあったのか』
『コヨーテ様!? ボンゴレ十代目候補と名乗る方から電話が……』
『貸せ』
電話の奥で小さく聞こえる会話にも耳を傾けることは忘れない。コヨーテさん、確か九代目の嵐の守護者だったはず。この方なら話が通じるかもしれない。
『それで、誰だお前は』
『ボンゴレ十代目候補、沢田綱吉だと言った筈です。この電話も日本からかけているのは知っているでしょう。九代目に直接伺いたかったんですが、生憎少しバタバタしてまして』
『幼稚な演技だな。沢田綱吉がイタリア語を話せるわけが無い』
「話せるから、話してるんですよ。まぁ、コヨーテさんなら九代目に話が通ると思ってお話します。俺は、絶対に十代目は継ぎませんから。絶対に。なのでさっさとリボーンも引き上げさせてください。俺はこのまま平穏に暮らしますから」
「……日本語と、リボーン。どうやら偽物であっても無くても、只者ではないな。ここへ直接繋がる番号もリボーンから聞いたのか」
「いいえ、とだけ。僕の用件は終わりましたので、これで失礼します」
一方的に電話を切り上げ、トイレから出て直ぐに視線を見つける。階段の上から見下ろすリボーンを睨むみつけボンゴレ本部へ意識を向ける。暫く向こうでは騒ぎになっているのではないだろうかと、少し胸を痛めながらリボーンを無視して部屋へと戻る。
その途中にリボーンが少し本気で仕掛けたトラップを勘でかわしながら、僕は教科書を開いた。
高校まで必死で勉強させられたため、どうやって勉強すれば良いかは頭で分かってる。それに一度クリアした箇所だ、今の僕だったらどうとでもなる。
パララとめくっただけの教科書を再び机の上に置き、これからリボーンをどうするか考える。これでも、俺の信用していた、大好きな家庭教師だ。失いたくない、絶対に失っちゃいけない俺の仲間。……今の僕が拒み続ければ、リボーンはアルコバレーノの呪いを解くこともなく、本人が覚悟していたように無惨な死を遂げるだろう。それだけは絶対に阻止したい。誰も死なせたくない。そのためにはタルボさんと、俺の守護者だった彼らとみんなの存在が必要不可欠だ。代理戦争自体は確実に起こるだろうし、そのことについても考えなくちゃいけない。
でも、今の僕に守護者も仲間もいないのに、どうやって……?
いいや弱気になるな。きっと何か解決方法があるはずだ。
警戒心をむき出しにしたリボーンを見やって、また考える。この世界でもう一つ警戒しなければならないのは、入江正一との接点。全てがリセットされたというのなら、この世界で僕の家に入江正一がやってきて、それがきっかけで白蘭の能力が開花するというものだった。つまり、なんとしてでもランボの監視は怠ってはいけない。リボーンが日本に来ているため、ランボも既に日本に来ているのだろう。厄介だ。早いところボヴィーノファミリーに返しに行かなければならない。
ランボが誰よりもたくましいことは僕が一番知っている。リング争奪戦の時の20年後ランボは、今にして思えば白蘭に征服された世界で生き残った存在だとも思える。だから、ランボはきっとこの先何があっても生きぬいていくことが出来るだろう。
ランボがボヴィーノに送り返せたのなら、悲惨な未来のひとつは恐らく回避できる。あの世界で僕らが白蘭に勝てたのは、中3のときに入江正一と出会った世界の延長線上だったからだ。それくらい些細な出来事で未来は変わる。
何も言わなくなったリボーンは、電話を抱えて部屋の外へ出て行った。
これから忙しくなる、僕はそう胸に刻んで眠りについた。
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悪あがき
朝起きると、いつもの如くポーカーフェイスの笑みを貼り付けたリボーンが視界いっぱいに広がっていた。
何か言いたげなその瞳に完全無視を決め込んだら、背後から蹴りが入るが避ける。
「ツナ。昨日ボンゴレ本部に勝手に連絡したんだってな」
俺を咎めるようにリボーンが口を開く。その声は普段の人を小馬鹿にした声ではなく、真面目な話をする時の低いトーンだった。
リボーンに一度視線をやり、肯定の意思を示す。
「一体そんなものいつ知った? 家光からか?」
「話す気は無い」
「そうか。まあいい……お前をボンゴレ十代目にするのは俺の役目だ。絶対に退かねぇ。だが、九代目はそうでも無いようでな……俺は一年の猶予を貰った。一年でお前が成長しないようなら撤退するようにってな」
「……そうか。僕は何もしない。成長する気もないし、十代目になる気もない。この決意は変わらない」
「おめーがなんと言おうと必ず育ててみせる。俺はお前の家庭教師だからな」
ニッと笑って、リボーンはまたいつもの見透かしたような表情を浮かべる。前世で、あんなにもお世話になったリボーンと全く変わらないから、どこか心の奥底で頼ってしまいたくなるのをぐっと堪える。
ダメなんだ、僕が十代目になったら。僕のように舐めた人間はマフィアのボスを継ぐのに相応しくなかった。
今にして思えば、D・スペードと同じ状況だったと思う。被害状況に関してはあの頃の更に上で。手薄になってしまった所に、敵が攻め込んで。
あんな思いは二度としたくない。エゴだと思う。知ってる。それでも、俺が巻き込んで半ば無理矢理マフィアにしてしまった彼らを無残に殺させてしまったのは俺で。
それこそザンザスが継いでくれれば、あんな悲劇は見ないで済むんだ。
より多くの血が流れるとしても、仲間を失うよりずっと楽だったのかもしれない。
そんな会話をして少しすると、イタリアからの転校生。僕の為に呼ばれた、あまりにも一途で盲目な番犬。どんなに強い番犬でも、飼い主が見極めて動かしてやらなきゃ無残に殺されるに決まってた。分かってたのに、あの時の僕はそれが出来てなくて。
HRも終わっていない中、僕は強く手を握りしめ興奮を抑える。不甲斐ない自分に腹が立って、どうしようも無くなりそうで。
まだ随分と幼い獄寺くんにガンを飛ばされながら机を蹴られるが、何事も無かったように振る舞う。出来るだけ獄寺くんには雑魚として見られたい。そしたら僕に興味なんて抱かないはず。
「てめぇ、ちょっとこい」
そうだった、こんな事もあったんだった。遠い記憶を遡りながら、他人事の様に空を眺める。
確かこの後、果てろって言われながら爆弾を投げられるんだっけ。で、うっかりした獄寺くんは自分の周りに落として……。落とさせないようにすればいい。うん。攻略法はこれでいける。
「お前がボンゴレ十代目なんて認めねぇ! 果てな!」
出来るだけ爆弾は消化しつつ、どうしようもない爆弾は放置する。多少暴れてもどうせボンゴレが隠蔽するんだろう。そういう事は多くしてきた。
「なかなかやるじゃねぇか。2倍ボム!」
「中学生はタバコなんて吸っちゃダメだよ」
散らかった爆弾の被害に合わないよう避けながら、獄寺くんのタバコを奪い取る。さすがに服の内側にあるストックは取れなかったけど。
「てめぇ! 俺を馬鹿にしてんのか!」
「してないよ。ただ、やっぱり若いうちからヘビースモーカーは体に悪いんじゃないかな」
「うるせぇ!3倍――」
「ダメだって」
火の着いたタバコをすぐさま奪い取り、爆弾に着火出来ないように邪魔をする。
タバコに火をつける火種はあるだろうが、その火種で爆弾に着火するには少々時間がかかるはず。量を出せないなら、今の僕にとっては安全だとも言える。
それから何度も何度もタバコを奪い取って、ストックのなくなったらしい獄寺くんは膝を着いた。足元には無数の吸殻があって、虫みたいでちょっと気持ちが悪い。
「お見逸れしました……」
「え?」
「お見逸れしました! 十代目! 今までの非礼を許してください! 俺、十代目がどれほど強いのか知りたくて、試しただけだったんです!」
忘れてた。獄寺くんは、こういう男だった。僕が勝ってはいけなかったんだ……時すでに遅し、獄寺くんは僕の前に跪いている。
「これからは十代目の右腕として――」
「要らない」
「……え?」
「聞こえなかった? 僕にキミは必要ない」
「で、ですが……」
食い下がってくる獄寺くんに、睨みを利かせて念を押す。
拒絶。僕が俺だった頃には、殆どすることが出来なかった、絶対的な拒絶。俺が頼りにしていた獄寺くんだけあって、下手に媚びてくる事は無かった。
「いいや、獄寺はお前に必要だぞ」
「リボーンさん!」
「言っただろ。僕はボンゴレ十代目にはならない。獄寺くんも早く国に帰ったほうが良いんじゃない? こんなところで時間潰すより、もっと有意義なことに使うべきじゃないかな」
「いいえ、十代目についていくこと以上に有意義なことなんて存在しません!」
「うざい。うるさい。僕に関わらないで。僕は十代目じゃない。次その称号で呼んだら……暫く口の利けない身体になってもらおうかな」
殺気を込めて獄寺くんを睨みつけると、いくらリボーンの前であったとしても、僕に食い下がってくることはしなかった。獄寺くんは息を呑んで、僕がその場から離れるのを見つめていた。
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太陽すら浮かばぬ大空
俺は獄寺隼人。ボンゴレ十代目候補と呼ばれる人間がどんなものなのか見たくて観察していたが、特に変わり栄えの無い一般人の一人だって印象だった。
物静かで、特に発言するわけでもなく、上級生からの暴力にも抵抗しない、軟弱な奴だと思った。
……その目を見るまで。
クラスに転入して初めて面と向かって対面したそいつの目には、どこか底知れないものを感じて恐怖した。見かけは怯えている一般人。そのはずなのに、俺の本能が危険だと騒いでいた。ガンをつけて何とか視線を逸らし、退屈な授業が終わるのを待つ。
リボーンさんの助言も借りて、校舎裏へ呼び出したそいつは見るからにひ弱そうで。こちらに物怖じしない態度だけは褒めてやりたかったが、ただ抵抗する気力さえ削がれている可能性もある。決して口には出さなかった。
とりあえず力量を見ない限り、俺はコイツを十代目だとは認めない。そう思ってボムを出したらあっさりとかわされた。意地になってボムの数を増やしても、相手に傷一つ負わせられない。それどころか、コイツはタバコの火を奪って消した。
何度も何度も挑戦したが、アイツは絶対にタバコを吸わせようとはしなかった。確かに、俺はタバコ以外でも着火方法を持っている。ただし、威力に関してはやはり精度が落ちる。何が何でもタバコを咥えてやろうと意地になって抵抗しても、あっさり消されてしまって勝負にならない。
力量差は圧倒的だった。俺はこいつ……この方には勝てない。そう思って、タバコが無くなった時点で膝をついた。この強さこそ、ボンゴレ十代目に相応しい。そう思ってついていこうとしたら、あっさりと断られた。
それでも俺はこの方についていきたい。どうしてか意地になってすがり付こうとしたとき、背筋も凍るほどの冷たい視線が俺を突き刺した。
全く動けない。こんな経験は初めてだ。冷や汗が垂れるのを感じる。
二度と十代目と呼ぶな、そう言って十代目……沢田さんは学校を後にした。
今日だけでも何度か睨まれたが、今のが一番強烈で、寒気を覚える。何か、どこかを見つめているのに、瞳の中には俺が映っていない。凍りついた瞳が脳裏に焼きついて離れなかった。
リボーンさんは、沢田さんの瞳について何か知っているだろうか?
そう思ってリボーンさんを見ると、リボーンさんも驚いているのか表情を動かさずにじっと沢田さんの背中を見つめていた。
俺は、沢田さんのことは温室育ちの、何も知らない、ぬくぬくしたガキだと侮っていた。なのに、実際にあった沢田さんは全く違って。絶望を知っているような姿で。
沢田さんのことがもっと知りたいと思う自分と、恐怖で関わりたくないと思う自分が頭の中でバトルを始める。俺はどうすればいい。どうしたら良い。勝ったのは、沢田さんのことがもっと知りたいと思う俺だった。
とにかく、沢田さんについて俺はもっと調べることにする。
翌日、学校に来てみると沢田さんは既に登校なさっていた。どこか遠くを見つめるように窓の外を眺める沢田さんは、昨日のような気迫は感じられず、あれらが本当に現実だったのか疑ってしまうほどだった。
ボーっと立ち尽くす俺を不審に思ったのか、沢田さんはこちらに視線を一瞬だけ移し、つまらなさそうに机に伏せる。その時見た瞳は、確かに昨日を変わらない冷たい瞳だった。
「さ、沢田さん、おはようございます!」
「……おはよう、獄寺くん」
礼儀として挨拶をすれば、ぶっきらぼうにだが返事をしてくださる。
昨日殺しに掛かった俺に対して、まだクラスメートとして扱おうとしてくださる。沢田さんは俺のタバコに関しても、ずっと身体を心配した言葉を掛けてくださっていた。沢田さんは言葉や振るまいこそ冷たいものの、心の中では暖かい方なのだ。
俺がそう信じるのに時間は掛からなかった。
もっともっと沢田さんのことが知りたかったが、リボーンさんからの提案で、一度日本を離れることになってしまったのが残念だった。
待っていてください沢田さん。俺は直ぐに戻ります!!
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雨の日の水溜り
沢田綱吉はダメダメのダメ。いじめられっこで、いつも何かを押し付けられる。
それでいい。僕はこのままでいい。誰も巻き込まないように、このままで良いんだ。そう決意したから、グラウンドのトンボがけも別に苦だと思ったことは無い。最近は体力もつけてきたし、そんなに時間も掛からず終わらせられるから気にすることも無い。
……と思っていた。
「助っ人とーじょー!」
そういえば、そんな事もあったかもしれない。笑顔で登場する山本にはいつも助けられていたから、その顔を見ると思い出してつい顔を背ける。
「僕一人でやるから、山本は戻ってなよ」
「そんなこと言うなって! お前一人だと大変だろ? 俺も手伝うぜ」
「できるよ」
「つれねーな、俺の注目株」
その言葉に僕は一瞬反応する。剣道の試合も、球技大会でも結局僕のせいでボロ負け、リボーンは何か手を打って来るという事はしなかった。僕が山本の注目株になることは無かったはず。
リボーンのせいか?
「最近さ、お前性格変わったよな。なんつーか……ぼや~としたのがビシッて感じになったってか」
「……そんなことないよ。山本も知ってるだろ? 僕はダメダメで何をしても取り得の無いダメツナだって」
「でもさ、俺見ちゃったんだよな。お前が獄寺と校舎裏で……会話は良く聞こえなかったけど、身のこなしとか、あの獄寺がツナに懐いたのもスゲーって思った」
「そんな! たまたまだよ! 獄寺くん、あの時足捻挫してたみたいで、そのせいで蹲っただけだって」
「……なるほどな! でも、ツナのあの身のこなしは俺の見間違いじゃねーって思ってるぜ」
俺がボンゴレボスだったとき、気づいたことがあった。山本は天然に見せかけて、めちゃくちゃ頭の切れる奴で、本当は心のそこで全部理解してる。そういうときの山本は一瞬眉を動かすんだ。
「たまたまだって」
「ツナがそう言うならそうなんだろうな。……なぁツナ、突然打率落ちてさ、野球始めて初のスタメン落ちして、俺さ、どうすりゃ良いと思う?」
「……なんでそれをダメツナに相談するんだよ」
「なんか、ツナなら何か分かるんじゃねーかなーってさ! ハハッ……ごめん、忘れてくれ」
明るく振舞っているが、その内心ストレスでイライラしているのを僕は知っている。笑顔に影がさしているのがその証拠だった。
この頃の山本は、まだ野球一筋で。今からなら、野球選手になる道もあるかもしれない。それなら、ここで腕を痛めてしまう練習法を改善するしかない。
誤っても僕の道に進まないように、適度な距離感で、絶対に。僕が山本を正しい道へ導かないといけない。
「たまには休んでみることも必要じゃないかな。山本はずっと野球に打ち込んでるから、気分転換して、そしたら何か見えてくることもあるんじゃない?」
「……そっか。んじゃツナ、今日ちょっと付き合ってくんね?」
「……それは」
「いーじゃねーか、お前もなんか落ち込んでるみたいだし、二人で気分転換しようぜ」
そんなことない、と否定したかったけど、否定できるほど元気が無いのも事実だった。僕が再び沢田綱吉として生活し始めてから、どこか遠いところを見つめている時間が増えていたかもしれない。この間も恐らく、獄寺くんにバレていた。今度は、俺のことなんか殆ど見てなかったはずの山本にまでバレている。……山本は細かいところに気づくのが上手い、というのも特技の一つだからかもしれない。
結局、そのまま山本に引きずられるように学校帰りに並盛商店街へ足を運んだ。山本は野球道具を見て目を輝かせていたが、その後は軽く買い食いをして穏やかな時間を過ごすだけだった。
バッティングセンターを見た山本が無意識のうちに足を運びそうになったのをそれとなく押さえつつ、たいやきやジュースを買って遊んだ。
「それでさー、俺の親父が言うんだよ。『武、俺はお前が生まれる前は海を横断してマグロを獲って暮らしてたんだ』てさ! 流石に信じられねーっつったら、親父次の日出てっちまってよ、夜中に帰ってきたと思ったらでっけーマグロ持っててさー」
「なにそれ、とんでもなさすぎ! 山本のお父さんって山本に似て頑固だなー」
「そーそー、俺もあん時はびっくりしたな」
久々に笑ったかもしれない。たまに山本が話すお父さんの話はどれも面白くて、自然と笑いがこぼれてくるものばかりだった。そうやって父親の話をする山本がまた楽しそうで、笑顔で話してくれるから自然とリラックスさせられる。
「やっとツナ笑ったな。ずっと落ち込んでるみたいだったから心配したぜ」
「そんな落ち込んでるように見えた? もしかしてそのために?」
「いや、ツナが真剣に俺の話を聞いてくれたから気分転換もいいかなって思ってよ、ツナも落ち込んでるみたいだったし、ついでに遊んじまえばって思ってさ」
「山本……ありがとう」
俺の雨の守護者だった山本。今の僕の心も落ち着かせてくれる山本は本当に凄いと思う。山本がいたから冷静に対処できた仕事も多かったし、この山本は知らなくても、いつも心の底から尊敬して、感謝を伝えたい相手だった。
「俺も随分リラックスできたし、お互い様ってな! 俺こそ付き合ってくれてありがとな、ツナ」
「うん」
「っと、そろそろ家にもどらねーと。親父の手伝いがあったんだ」
「そっか、頑張ってね」
「おう、また明日な!」
「うん、また明日」
変わってしまった僕の事も、変わらず接してくれる山本が改めて大切だと思う。
だから、絶対に巻き込んじゃいけない。山本は山本の夢がある。野球選手として生きていく道が絶対にあるはずだ。
こっそり僕を尾行していたリボーンに目を向ける。一瞬しか目に入らなかったが、それでも存在は確認できた。リボーン、僕は絶対に彼らをマフィアにはさせない。
空になったジュース缶をゴミ箱へ投げ入れ、僕も家に帰った。
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満点青空バンジージャンプ
僕と山本が会話してから、前世ではあんなことがあったから様子を見ていたけど、どうやら山本は無理に練習することもなく、無事にスランプを乗り越えられたらしい。心配事が一つ減って、僕は胸を撫で下ろす。
しかしまだ油断はできない。些細なことで歴史は変わるとしても、大まかなことが変わらないことだって確かにあったんだ。正一くんがそう言っていた。
かつての世界では、確かに些細なきっかけで白蘭に勝利することができたけど、それ以外の世界ではすべて白蘭に掌握されていた。その多くの世界でも細かいところが違っていただろうに、それでも白蘭の手に落ちてしまった。
もし、もし山本のあの腕が、正一くんの話のように変えられる可能性の少ない未来だとしたら。
超直感が告げている。この未来は、いつだって俺に降りかかるんだって。
「おい、山本が事故ったらしーぞ!」
「マジかよ!」
「軽トラに引かれたんだって! 今病院で治療受けてるらしいけど……しばらくは学校に来れないんだってよ」
「やべ〜……」
そんな、クラスメイトの切羽詰まった話を聞いた。その怪我は確かに俺のときより多くて。動機が激しくなる。他人に聞こえてしまいそうなほど心臓がうるさい。
ダメだ。俺のせいだ。俺が、俺が山本の未来を変えてしまったから、更に大きな怪我に巻き込まれてしまった。
いても立ってもいられなくて、僕は教室を飛び出した。
がむしゃらに走って、辿り着いた先は病院だった。山本がお世話になる病院。看護師さんに案内されて、ようやく気づいた。僕は別に山本と特別仲のいい友達というわけではない。突然押しかけて変に思われないかな? 不安が襲ったけど、看護師さんに扉を開けてもらった手前、帰るわけにもいかなかった。
「……山本」
「……ツナ」
重い沈黙が僕達の間に流れる。山本は悔しそうに顔を歪めて、その体は腕だけじゃなく足も骨折しているようだった。ギプスがはめられ、安静を強要されている。
「……見舞、来てくれたのか。ありがとな。学校、どうしたんだ?」
「……サボり。気づいたらここまで来てたんだ」
「……そっか。俺、しばらくは学校行けねーから、みんなに言っといてくれよ。ってことで、俺は大丈夫だからさ、ツナは早く学校に戻って授業受けて来いよ!」
「だけど」
「頼む……」
余裕のない山本の笑顔がただ苦しくて、僕は何も言えないまま病室を後にした。来るときよりもずっと遅いペースでなんとか学校に戻って、頭に入らない授業を聞き流した。山本が気になって仕方なくて、でも合わせる顔なんてもうない。
山本が来なくなってから一週間、なんとなく嫌な予感がして、少し早めに学校へ向かうと騒ぎが起きていた。とうとう山本の屋上ダイブ決行日になってしまったらしい。悔しさに拳を握りしめながら、僕は大急ぎで屋上へ向かう。
「……ツナ」
「何してんだよ、山本」
屋上の柵の向こう側に立っていた山本は腕と足にギプスを、頭に包帯を巻いていた。痛々しい姿に僕は顔を歪める。俺のせいで、こうなった。
周りからは、「そんな馬鹿なことはやめろ」「俺達のヒーローがそんなことで挫けんなよ」と静止の声が聴こえる。違うんだ、みんな、違う。山本が絶望してるのは、野球ができなくなったことだけじゃない。
「止めたって無駄だぜ」
「うん。でも、話くらいは聞いてほしい。いいでしょ? 死ぬ前に雑談しようよ」
「ああ。いいぜ、ツナ様は俺に何を話してくれるんだ?」
僕を突き放す言い方に、心が軋む。僕は山本を止める権利なんてないけど、それでも、僕は俺はお前に死んでほしくないんだ。
「……山本はどうして死にたいの?」
「俺は野球の神様に見放されちまったんだよ。全然伸びなくなって、その後事故って動けなくなって。きっと、もう野球はすんなってことなんだって、そう思った」
「そっか。治っても、もう二度と野球ができない体になったってこと?」
「……医者からは、治れば復帰できるって言われた。でも、俺にはもう……!」
「まだできるじゃないか。山本は義務で野球をしてるんじゃなくて、好きで野球をしてたんでしょ。本当は、まだ野球をしたいって思ってるんじゃないの。見放された、なんて野球が好きじゃないと出てこない言葉だよ」
「できねぇよ、だって」
「見放されてないよ。野球の神様は山本を見ていてくれている。山本が野球の神様から目を背けちゃったから、ちょっと不幸が起きただけ。山本は伸びないことに焦って野球の神様が見えなくなってただけなんだよ。焦らず、もう一度しっかり向き合えば、すぐにだって山本は野球ができるようになるはずだよ」
「お前に何がわかんだよ!」
「分からない、けど、分かる。俺は山本が野球と、野球チームが大好きなのを知ってるから。……それにね、俺は山本に生きていてほしい。たとえ野球をしなくなったとしても山本は山本で、俺達を笑顔にしてくれる存在なんだ。だから、絶対に死んでほしくなんてない」
前世で言葉に出来なかったこと。言葉にせずとも受け入れてもらったこと。それを全部言葉に乗せて、僕は山本に近づいた。近づいて、柵を乗り越えた。山本が死ぬなんて許さない。死ぬ人を見送る気持ちを味わったらいい。
僕は山本が目を見開いてまごついているあいだに、その身を空中へ投げ出した。
「ツナ!」
山本が開いている手で必死に僕を掴もうとする。一緒に飛び降りたら意味ないじゃないか。でもそれが山本で、なんだか安心してしまう自分がいた。
今ここで山本が死んでしまったら、死んでも死にきれない。その決意を額で燃やす。
なんとか炎で衝撃を緩和させる。別に、夜の炎を使えばもっと安全だったけれど、あの炎が完治されるのはめんどくさい。だから、僕は両手の平から炎を出してなんとか衝撃を抑えた。
手が焼けて痛いけど、それより山本のほうがもっと痛いのを知ってる。
「山本、体は大丈夫?」
「あ、ああ……ツナは?」
「僕も大丈夫」
「よかった……お前が飛び降りて、心臓止まるかと思った」
「……自殺者を見送る気持ち、わかった?」
「あぁ。身に染みてな……それに飛び降りて分かったんだ。死ぬのが怖いって。だから助かってすげーほっとしたし、ツナが生きててくれて、俺を助けてくれてすげーうれしかった! ありがとな、ツナ」
「ううん。僕が勝手にやったことだから……」
吹っ切れたように明るく笑う山本を俺は直視できなかった。その笑顔が、あまりにも眩しくて。嘗ての俺の雨を思い出して。僕は、隣にいる資格なんてないのに。
「……な、ツナ。俺さお前の親友になるから!」
「え?」
「親友。お前が困ってるなら必ず助けるし、お前が笑ってる時に一緒に笑いたい」
「……親友は、ちょっと。友達からで」
「ああ! でもいつか必ず親友になるから、覚悟するのな!」
「親友の押し売りって、なんかおかしくない?」
変わらないペースの山本を見て僕はたまらず笑いを零す。僕の笑いを見て、山本は目を見開いて驚いた見たけど、すぐに笑顔に変わって僕の肩に腕を回した。もちろん、怪我のない左腕で。
「ファミリーゲット、だな」
「……リボーン」
陰から僕を観察し、ただ傍観していただけのリボーンがようやく木陰から出てきた。その顔は期待通りを意味するニヒルな笑いが描かれていてあまりにも不快だ。違う、山本はもうファミリーじゃない。二度とファミリーにしてはいけない。
山本には山本の夢がある。僕たちの薄暗い世界に誘ってはいけないんだ。
「違う、山本はファミリーじゃないよ。そんなこと僕が絶対に許さない」
「なんだ、よくわかんねーけどこいつはツナの弟なのか? っていうかファミリーって」
「山本!」
山本が僕に問い詰めようとしたタイミングで、屋上にいた生徒が松葉杖を持って山本に駆け寄ってきていた。みんなに心配をかけていた山本はそれを無下にすることはできず、みんなの言葉を受け入れながら誠心誠意頭を下げる。曖昧にごまかさず、向き合うことができるのが山本のいいところで、俺が憧れていたところだった。やっぱり、僕には山本は眩しい。
「山本、先に行ってて。僕はこの子を家に届けてくるから」
「あ、ああ」
クラスメイトに押される形で保健室へと進んでいく山本を見送って、僕はリボーンに向き直る。にやにや、にやにや。まるで俺の心を見透かしているようで。僕はたまらなく不快だった。
「僕は絶対に山本をファミリーにはしない。ボンゴレも継がない。誰も傷つけたくないんだ。失いたくないんだ。だから……二度とファミリーだのと抜かすな」
僕が前世で勝ち得た殺気を押し出してリボーンを睨みつける。流石世界一の殺し屋リボーンだけあって、僕の殺気でも怯むことはない。最強の名に恥じないその強さに僕は恐怖を覚える。昔は頼もしいと、そう思ってさえいたはずなのに。
僕はその恐怖から逃れようとしてリボーンに背を向ける。僕が向かう先は教室だ。流石に、僕がこれほどまでに性格が変わってしまえば、リボーンといえど迂闊に手は出してこないらしい。だから今一番安全なのは教室だと僕は判断した。
リボーンから遠ざかる僕の背中に、リボーンは一言だけ言葉を投げつけてその姿を消した。
「てめぇが何と言おうと俺はやめねーからな」
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