平和を愛するリタイヤ組達 (愬月)
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年に一度の定期イベントより
始まりは農地から


昔のモノを引っ張り出して、再編集。
作者豆腐メンタルなのでお手柔らかにお願いします。


最初にそれを発見したのは、町はずれに住む農家のA君(25)と、C君(22)の兄弟。

「良い天気だな」

「あぁ、良い天気だ」

「絶好の洗濯日和だよなー」

今日の分の洗濯を終え、二人は真っ白になったタオルとシャツを外のロープへと干しに出る。

「今日の昼はどうする?」

「ピザのデリバリーでいいだろ」

「いやいや、久々にパスタでも・・・」

パン、と水気を切ってからロープへかけて、洗濯挟みで止める。

その作業を雑談しながら続けていた弟が、先に気付いた。

「あっ・・・・・・」

「どうした?」

「えっと・・・アレ・・・」

「あん?何が…あー…」

「アレって・・・アレだよね」

「アレだなぁ・・・」

ひょこひょこと、風に揺られて弟の尻尾と耳が揺れた。

ひらひらと、蝶がそこに止まってつい叩き落としたくなるのを堪えて、手を動かして軽く追い払う。

「あ、アゲハ蝶だ」

「久々に見たよ、クロアゲハ」

「だなぁ・・・さて、アレを皆に報告するか」

「うん」

頷いて、弟がタオルの水気を切る。

「あ、でもこれ、全部干してからね」

「あー」

籠に山になった洗濯物を見てから、兄が頷く。

ひらひらと、数匹の蝶がその周囲を飛び回っていた。

「そうだな。シワになるもんな。早く干さないと」

「そうそう」

「これだけ天気がいいなら、ほかほかだろうなぁ」

「お布団も干そうか」

「んー・・・それは先に報告してやらねーと、泣くだろ。あの人達」

「あ、そっか」

結局、町の住人全てに連絡が行き届くまで、たっぷり2時間を要した。

ちなみに、二人の居場所から町までは、徒歩10分でたどり着く距離である。

 

 

***************************************

 

 

うわぁ・・・

遠目に見えたおどろおどろしい城に、心の中で引きつった声を上げる。

それからしばらく山道を歩くと、巨人のような、魔人のような、よく分からないモノの顔をかたどった門が目に入った。

さらに近付けば、その口の部分が僕の身長の3倍はある。

「うわぁ・・・」

今度は声が出た。

「どうなさいました?」

それが聞こえたのか、案内をしてくれた男性が不思議そうにこちらをふり返る。

「いえ・・・ホラーゲームさながらだと思って・・・」

「あぁ、なるほど」

納得したように何度も頷いた彼が、巨大な門へ近づく。

近付くにつれ、門の両脇のレリーフが骸骨を積み上げたものだと気付いて蒼褪めた。

「あ、あのぉ・・・」

「はい?」

「あの骸骨・・・本物ですか?」

「あぁ、あれですか。本格的でしょう?レプリカなんです」

「そ、そうですか・・・」

「あ、ちなみにこの門は勇者一行が入ってくる時用で、我々はこっちですから」

門のすぐ横の石壁がいきなり外れる。

そこから黒い服の女性が現れて、にっこりと笑った。

「お疲れ様です・・・そちらが?」

「そうそう」

「初めまして、カムイです。これから内部をご案内と、これからのご説明をいたします」

「あ、はい・・・」

笑顔を絶やさない女性について、壁の向こう側へ向かう。

あ、ベニヤ板なんだ・・・

石でできた門だと思っていたら、ベニヤ板に薄い石を貼り付けたものだった。

通って来た壁の部分に、元通り板をはめ直して、後ろから釘を打ちつけている。

どうやら門は鉄でできているらしい。裏に、見慣れない金属が張り付けてある。

そして、その他の内装はまるで遊園地のお化け屋敷のようだった。

城までの道の脇には、十字架や卒塔婆の突き刺さった土まんじゅうがバラバラと見える。

その他にも、ガーゴイルやゾンビの彫刻。餓鬼にラミアなどの彫刻まであった。

「あ、あの・・・色々、間違ってませんか?」

「いいんです。雰囲気ですよ、雰囲気」

気味が悪いでしょう?と言われて、小さく頷く。

「ツッコミ所も満載ですけど・・・」

「ちなみにあちらには井戸や棺桶もありますよ。あと、城の中にはキョンシーとかも配置しています。あ、ちなみにゾンビとスケルトンも召喚しておきました」

「ほら、時代はアレですよ。ユニバーサリティですから」

「ここも国際化しているってわけです」

「は、はぁ・・・」

そういう問題じゃないような・・・

ただ、それ以上何も言えず、黙ってその後をついて歩くしかなかった。




誤字脱字・・・ないといいなぁ


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隣人達がアップをはじめました

視点切り替えってこれでいいかな・・・


うららかなある春の日。

今日ものんびりしていようと思えば、何だか表がざわついている。

騒がしい声に、二度寝は無理かと欠伸を噛み殺して家を出た。

「何だ・・・?」

ざわざわとどこか浮かれているような近隣住人を見渡して、数人が指さす方向を見上げる。

「あー・・・」

ピクニックなどで、小学校やらがよく向かう山に見慣れない不穏なモノが見える。

「・・・しろ、か?」

おどろおどろしい暗雲が立ち込める山の頂上に、見た事のない巨大な城が立っている。

昨日まであんなものはなかった。

一夜にして建設された城に、街中の人間がカメラやムービーに納めて楽しそうだ。

「あ、シノノメさん。シャッターお願い」

「ん?あぁ、いいぜ」

知人に頼まれてポラロイドカメラを受け取る。

「ハイ、チーズ」

「いえーい」

パシャ、ジー・・・ガション。

「わーい!ありがとー」

「いいえー」

デジカメが普及している現代で、ポラロイドカメラなんて珍しい。

昔はよく使っている人を見たものだが、今じゃ希少価値が高いモノだ。

その隣では、三脚に眼レフを構えてバシャバシャと連射しているオヤジがいる。

「またアルバムを作るんですか?」

確か、去年も一昨年も、その前も写真を取っていた記憶がある。

「あぁ。去年の半分と合わせて、今年の分で1冊たまるからな」

「あぁ・・・それはキリがいいですねー」

後で見せてくださいとお願いをして、家から出てきた隣人たちの所へ向かう。

「よう、シノノメ」

「よう、サダオカ・・・今年も来たのか」

「あぁ、来たっぽいなぁ」

あー・・・と、嫌そうに近くの山の上を見上げる隣人。

そんな彼の横に、他の隣人たちが集まって来た。

「よう、ヒガ。ヤマダさんも来たのか」

「外が騒がしくてな・・・」

「どうやら・・・今年も来たようですね・・・」

時間は午後2時半。さんさんと、輝かしい太陽が青空に輝いている時間帯だ。

季節は春なので、ぽかぽかとしたちょうどよい暖かさとなっている。

「みんな楽しんでるなぁ・・・」

辺りを見渡してヤマダが呆れた声を上げる。

まぁ、無理もない。

「そりゃあまぁ・・・恒例のイベントと化しているからなぁ・・・」

「アレ、どうやって立てたのかな・・・」

「アレじゃね?今はやりのプレハブ。ほら、パタパタって建てていくやつ」

「いや、張りぼてと見た」

顎を撫でながら、ニヤリとヒガが笑う。

「裏はきっとベニヤ板だろう」

「というか、今年はどうするよ」

「えー・・・正直面倒。放置でよくね?」

「おいおい・・・」

「勇者がそれでいいのかよ」

「もう引退したっていいだろー・・・ピッチピチの若造に任せようぜ?」

「「いや、無理だろ」」

「託宣持ってるのお前だけだろうが・・・」

「ちっ・・・」

「ほら、舌打ちしてないで、準備したら行ってこいよ」

コキコキと、首を鳴らす隣人に呆れる。

我が隣人にして、勇者と神殿から託宣を受けた中間管理職のサダオカ(35)がハッと鼻で嗤った。

「去年はリストラされたさえないオヤジ。一昨年は突発的に思い立ったフリーター・・・そいつら相手に、あそこの城へ乗り込むあのむなしさ!!ダンジョンはべニヤ板!トラップは金ダライ!!あの惨状で、あの手の抜き具合でやる気をだせと!?」

「いや、今年は結構金がかかってるぞ?ほら、コウモリ飛んでるし。門があるみたいだし」

「うーん・・・」

「今年は誰だろうねー」

「というかさ、突発的に〔魔王〕になろう。なんて、普通の奴は思い立たないだろ」

「今時〔勇者〕だとか〔僧侶〕だとか〔拳聖〕とか〔魔法使い〕もないと思うが?」

「お前の隣に揃っているそいつらは?」

左側の隣人がサダオカなら、右の隣人は僧侶と託宣を受けた八百屋のヒガ(36)。

そして道を挟んで正面の家には魔法使いと託宣を受けたマジシャンのヤマダ(45)。

そして、我が家の裏に住むのは、拳聖と託宣を受けた肉屋のタカマツ(40)。

何でも、双子の弟(魚屋)は剣聖だとか。

彼は隣町にいるので、今一応こっちに向かっているらしい。

電話口で、間に合わなかったらごめんねーなんて笑っていたとか。

「これで魔物使いがいたら笑えるわ」

「あぁ、あと踊り子とか?」

「ん?いるぞ、この町に踊り子」

「マジか!!」

「だれ?」

顔を輝かせるオヤジ達に笑顔で答えた。

「タバコ屋のばーちゃん」

「「「…………………」」」

「一応、まだ現役のピッチピチな70歳だから、声かけて・・・」

踵を返したオレの肩を、4人にがっちりと押さえられた。

「シノノメくーん。大丈夫だよ、そんな事しなくても!」

「あぁ、お年寄りは労らないと・・・」

「あんなお山の上までは連れていけないからね、うん」

「でも、あそこ駅あるぜ?」

直通のロープウェイ(片道100円)の駅を指さす。

冬は雪が程良く振るので、町民は皆それ使って山へスキーに行くのだ。

まぁ、去年は暖冬であまり降らなかったのだけど。

「いやいや!大丈夫、大丈夫だからね!!」

「そうそう」

かなり必死な彼らに呼びに行くのをひとまず止めた。

昔はかなりの美人だったのになぁ・・・

無論、美人がそのまま年を取っただけなのでとても可愛らしい女性だ。

「というか、まだ魔王って決まったわけでもないですし・・・ほら、映画の撮影とか・・・」

『臨時ニュースです』

ヤマダの言葉が終わらない内に、すぐ傍の電気屋のテレビからの声が聞こえて視線を移す。

『昨夜未明に突如建設された建築物の所有者が、全テレビ局へ手紙を送ってきました。内容はいたってシンプルです。〔自分は魔王だから、勇者のパーティよ、さっさとかかってこい〕とだけ。なお、人質などはおらず、警察は歴代の馬鹿な魔お・・・失礼いたしました。過去の模倣と見て、今年も勇者の皆様へ依頼をされるようです。なお、本庁は建築物違反などで逮捕状を・・・』

馴染みのニュースキャスターの言葉を聞いて、ゆっくりと視線を勇者たちへ向けた。

「行って来い」

ぽん、と肩を叩いてやる。

オプションとして、貼り付けた笑みを浮かべておいた。

「オレ仕事・・・」

「オレも店を閉めるわけにはいかねーんだよなぁ・・・」

「あ、俺も夜から営業・・・」

「俺だってそうだ」

「あれ?弟は来るんだろ?」

「だって、アイツ嫁さんがいるからさ。仕事頼んで出て来られるんだよ」

「独り身はつらいよなぁ・・・」

「うるせぇ」

「こんにちは」

「うん?」

わいわいと言い合う自分たちに後ろから声がかかる。

それにふり返れば、穏やかな笑みを浮かべる壮年の男性。

隣人たちと同じくらいよく顔を合わせる人物だ。

「おや、ジンノさん」

「こんにちは、いいお天気ですね」

「えぇ、気持のいい日ですね」

「あんなもの見なければさらに良かったです」

「でしょうね・・・あぁ、そうだ。はい」

「はい?」

神殿の神官がやって来て、ぽん、と封筒をサダオカに手渡す。

「あの・・・?」

受け取った彼へ、にっこりと慈悲深い笑みが向けられた。

「巫女様からの託宣です」

「・・・まだ生きてたんだ、オババ」

「えぇ、とっととくたば・・・ごほん。まだまだご健在ですよ」

ちらりと本音を漏らした神官から渡された封筒を、嫌々ながらサダオカが開く。

「うぁ・・・」

「何だ?」

呻いた彼の横から、残りのメンバー共々覗き込んだ。

〔 12時間以内に魔王を倒せ。さもなければ、罰金100万じゃ。

P・S これを読んだ瞬間からカウンターが回ります 〕

読み終えた直後、頭上にデジタルタイマーが出現した。

「ぬお!?」

「ちょ、何でこういう時だけ神通力を使うかな!!」

「あぁ、もう・・・本当に毎回無駄な労力を・・・・・・」

「お暇な方ですからねぇ・・・」

「そーいう問題じゃねーだろ!!」

バタバタと、家の中へ入っていく隣人たちを見送って、自分の頭上に浮かんだタイマーを見上げる。

「・・・オレもですかー」

「みたいですね。巻き添えみたいですけど」

頷くジンノに頬を掻きながら尋ねた。

「でもオレ・・・魔王ですよ?」

「だからこそ倒さないと。存在理由無くなるじゃないですか」

「あぁ・・・確かに」

ぽむ、と手を打って納得した。

今から100年ほど前の事だ。とある薄暗い城の中で、オレは魔王として生まれた。

そうして、お約束のごとく巨大な城で魔王になるための英才教育を10年受けた。

何故10年か?まぁ、理由は簡単だ。脱走したのである。魔王の城から書き置きを残して。

〔 自分の存在意義を探します。探さないでください 〕

後で聞いた話だが、それを見て両親は寝込んだとか。

よかったのか、現役魔王がそれで。

「正直さー・・・アレですよ。魔王とか、勇者とかって・・・結局は神様の暇つぶし」

城の外にで、色んな場所を転々として気付いた事があった。

それは、どこに行っても〔神〕がテコ入れをしてくること。

「たまたま、車に轢かれそうになった子猫を助けるでしょう?その直後に、その子猫が川で溺れるんですよね。で、結局周囲は『何故助けなかったこの疫病神』と罵るわけですよ」

「あー・・・つらいですねぇ・・・」

うんうんと頷く彼にゆっくりと頷く。

「で、放浪・・・というか、歴代の魔王がどうしていたかの確認?それに出たんですけどね・・・」

まぁ、面白くない事この上ない。

どれだけ強かろうが、結局は勇者に倒されてお終いだ。

地を割るほどの力を持った魔王は、勇者によって頭上から隕石を召喚されて圧死。

海を割るほどの力を持った魔王は、大賢者によって生み出された雷によって感電死。

空を飛べた魔王は、大魔法使いによって生み出された乱気流に巻き込まれて墜落死・・・などなど、ろくな死に方をしていない。

自分も、親がそんな風に死なれると目覚めが悪い。なので、強硬手段にでた。

「アレに付き合うのが嫌で、本気で世界征服したんですよねー」

まだ現役の父親が魔王として当時の勇者達とやりあっている間に、各国の王を跪かせたのだ。方法は簡単だ。力・・・ではなく、弱みに付け込んでみた。

叩けば埃どころか、粗大ごみの出てくる連中だ。簡単に降参した連中に色々指示を出して、城へ戻って父親と勇者達の戦いに飛び込んで止めた。

激怒した双方に城の外の状況を教えてやれば、両方蒼くなっていたのを思い出す。

「今となっちゃいい思い出だけど・・・当時は凄かったなぁ・・・親父は怒り狂っていたし、勇者たちは打ちひしがれていたし・・・」

「おや、そうなのですか?」

「そうそう。だって、親父も知らなかったんですよ。神様のゲームに付き合わされているって・・・勇者達だってそう。だからこそ、やってられっかこんちくしょうってことで」

結局、勇者達は普通の生活を送って、普通に結婚して、子供たちに看取られて墓の下だ。




隣人達全員託宣持ちです。


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乗り込みましょうかね

一応の準備はしています。


それでも諦めきれなかった神は、次の勇者を選んだ。

それが、我が隣人たちである。

「勇者と魔王が争ったら、ようやく俺らの国の住人・・・まぁ、獣人とか悪魔系とかさ。そいつらと国交持っていたっていうのに、バランス崩れたら水の泡だろ?」

「えぇ、あなた方のおかげで平和そのものです」

「だから、一応現役の魔王であるオレが、勇者と仲良くなって回避しようと思いましてね」

今から20年ほど前の事だ。巷で流行りのゲームの主人公たちみたいに、ピッチピチの10代になる前から、彼らとよい友好関係を築いておいた。

そうして、神の事も暴露しているので、彼らとの争いはない。

というか、できる事なら神を撲殺しようと目論んでいる。

さすがにそれは止めておいた。誰であろうと、殺人は犯罪だ。

「頑張るな、神。次のコマを送り込みやがった」

「そういえば、生まれつきの魔王と他の魔王は違うのですか?」

「生まれる前に託宣受けて力を持っているか、生まれてから与えられるかの違いですね」

「ほう・・・」

「まぁ、放浪していて気付いた事ですが。一度力を与えた相手に、神は直接干渉できないようでして・・・おかげで、今の所消されずに済んでいます。当面は、彼らが生きている限り平穏ですね」

「大変ですねぇ・・・」

しみじみと同情する、くどい様だが聖職者のジンノに軽く肩を竦めた。

「結局、善と悪が神か魔王かの違いだけで・・・何度シュミレーションしても、どちらが善であろうと、平穏な世界になるんですよ。だからこそほら・・・」

指をさした先には、笑い合う人間と虎らしき獣人と半分機械の人間。その向こうには鳥のような翼の生えた人間と、コウモリのような翼を持った人間が話している。

「平和でしょう?」

「平和ですねぇ・・・」

「今はもう、種族差別も、外見の差別ありませんし」

「あぁ・・・確かに」

うんうんと頷きあう聖職者と魔王のオレ。

んー・・・と、大きく背伸びをして空を見上げる。

あー・・・お陽様がまぶしい。ぽかぽかしていて、絶好の昼寝日和だ。

「・・・寝るか」

「ダメです」

ぽつりと呟けば、速攻で却下された。

「いや、絶好の昼寝日和だし」

「魔王を討伐しに行ってください」

「えー・・・」

「戦争が起きるのは嫌なんでしょう?」

「まぁ、それはそうですけどー…」

にこにこと笑みを絶やさない神官に反論しかけた直後、襟首を掴まれて引きずられる。

「ぐぇっ!?」

「さーいくぞ。とっとといくぞ、諸悪の根源を倒しに!!」

「ちょ、伸びる!!襟が伸び・・・ぐえ!!」

「さっさと終わらせてオレは寝る!!今日は昼まで休みだったんだよ、こんちくしょう」

「んじゃ。オレが獲物を落とす時に使う、このブラッディハンマーで壁を壊すか」

「では私がマグロの頭を一撃で落とす、このエクスカリバーで柱を解体しよう」

「では、私が切れ味と破壊力が上がるように術をかけますか」

「じゃあ、僕は魔法で邪魔する戦闘員を排除するよ」

「というか、弟くん。それ、エクスカリバーって言うんだ」

「あぁ・・・5代目だ。4代目は昨日、臨終されてな・・・」

「え、何で?」

なんとか自力で歩ける状態になって、落ち込むタカマツ弟に問いかける。

「昨日、鮫を解体していたんだが・・・オリハルコンの銛を飲みこんでいたみたいで・・・」

「あぁ・・・」

「って、また無駄に強度のある銛を飲みこんでやがったな…」

オリハルコンは確かにかなりの強度を持っているが、加工が大変なうえに高価なので滅多に見ないレアメタルの一つだ。

「まぁ、おかげで美味いフカヒレが食べられたが」

「いいなー」

「他の部分は?」

「もちろん喰ったぞ。和え物にしたり、ダシとったり・・・」

「へぇ!どうやるんだ?」

「まずは、皮を剥いで・・・」

料理講座を始めたタカマツ弟の言葉に相槌を打ちつつ、ポケットからメモを取り出す。

家に帰ったら両親に食わしてやろう。

余談だが、オレの一族は元々長生きだ。両親は200歳近くになる。

平均寿命50歳を軽く越しているので、本当に素晴らしい事だ。

まぁ、その一端である勇者との争いもないしなぁ・・・

「・・・あれ?タカマツ、お前ナックルは?」

「あぁ、素手で殺ろうかと。そういうヤマダさん、杖は?」

「あぁ、コレですか?」

シュッと、音を立ててヤマダの袖の中から出てきた棒が伸びる。

「携帯用の仕込み杖で・・・ほら、先端に魔力収集用の砡があるでしょう?この下に継ぎ目があって・・・」

「あぁ、鉤爪・・・」

「いえ、魔力が刃になって大鎌になるんです。これで、魔王の首を・・・」

「殺したら殺人罪で、刑務所行きだからなー」

「大丈夫、半殺し」

「僕も首を刈るだけですよ。ほら、柔道とか空手の技にあるでしょう?首狩り」

「いや、ないから」

「あってもそれでやられたら死ぬと思うが・・・」

「引っ掛けて吹っ飛ばすだけです。コレ、新品なんで筆おろしにでもと思って・・・」

「え、実験台?」

「というか、首を鍛えていないと、やっぱり死ぬと思うんだが・・・・・・」

半笑いを返した直後、ふと気になって人数をカウントする。

「あれ?足りなくね?」

「え?」

ひーふー・・・と数えてやっぱり足りない事に気付く。

「勇者のサダオカ、僧侶のヒガ、魔法使いのヤマダ、拳聖のタカマツ兄、剣聖のタカマツ弟・・・」

「揃っているだろ?」

「そうそう、5人」

「いや、サブが数人いただろ」

「お前」

「オレは傍観者」

というか、オレは魔王であって勇者じゃない。

「連絡ねぇの?」

「いや、実はメールがきて・・・アーチャーのトシオさん、ぎっくりやっちゃったって」

「あぁ、もう65歳だしなぁ・・・」

「今、病院で治療中だとか」

「あとで、メロンでも送るか」

「それに盗賊のアンリさんは娘の運動会だとかで欠席」

「それじゃあしょうがないな」

「家族は大事にしないとな」

うんうんと頷いていると、サダオカが溜息を吐く。

「オレらも仕事あるんだけどなぁ・・・」

「あぁ・・・」

「だよなぁ・・・」

ブツブツと、何事かを呟きながら彼らが歩いて行く。

後ろからそれを眺めて、不意に込み上げた笑いに口を歪めた。

「どうした?」

「いやー・・・」

不思議そうに笑う隣人たちに笑った。

「平和だなぁー・・・って」

おそらく、今この状況に一番ぴったりで、一番的外れであろう解答を返して足を速めた。

なんせ、残り時間が10時間を切ったから。

 

 

 

***************************************

 

 

 

何だかんだと準備が進んで、トラップがどんどん仕掛けられていった。

「あの・・・」

「はい?」

「それ、当たったら死んじゃうのでは…」

「あぁ、大丈夫です。もしそうなっても、きちんと保険がおりますから・・・」

「で、でも僕が刑務所に入ってしまうんじゃ…」

「ご安心ください。神がついております」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

笑顔を返す黒い服の女性に困惑する。

神・・・?自分は、その神に選ばれた勇者と戦うために選ばれた魔王なんじゃないのか?

数日前にいきなり手紙が届いて、それからよく分からない内にここへ来る事になってしまった。運動神経も悪くて、魔法なんて当然ながら使えなくて、勉学もそんなにできるわけじゃなくて・・・何故自分が魔王などと呼ばれるのか全く分からない。

「あ、あの・・・魔王って悪事を行うモノなんですよね?」

「えぇ、そうですよ」

「で、でも悪い事はいけない事だと・・・それに僕、捕まったりしたら会社、首になったり・・・」

ゲームの中の魔王のように、装飾だらけの動きにくいローブを着せられて、大きな気持の悪い装飾のされた玉座に座らされて思う。

「大丈夫ですよ、あなたは魔王なんですから。ほら、ドンとかまえてください」

「うぅ・・・」

笑顔の男性達に身を縮めることしかできない。

毎年、毎年。魔王と勇者の戦いはテレビアニメとして放送されている。

子供が好きでよく見ているので、内容は知っていた。

だからこそ、自分にそんな事ができるのかと不安なうえに、恐怖しか抱かなかった。

現実に魔王が出て討伐されるのは数日だが、アニメの放送は丸1年だ。

何でも、テレビ局がある人物に交渉して当時の戦いをアニメ化しているらしい。

今の所、そのアニメが途切れる事はない。人気があるのも、その一因だろう。

勇者が誰なのかは誰も知らない。いや、警察と一部の人間は知っているらしいけど。

でも、そんなのはどうでもよかった。

ただ、ここに魔王として僕が座っていて、やってくる勇者を倒せばいいらしい。

「それでは・・・そろそろ勇者たち一行がやってきます」

「あ・・・は、はい・・・」

「油断なさいませんよう・・・そうそう。ここまでたどり着いた相手は・・・」

ふっと、暗く彼女が笑う。

「全員、殺してくださいね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

その笑顔に戦慄して、がくがくと頷く。

満足気に彼女が笑って姿を消す。

部下だという男達も、配置についたらしい。

「あ・・・ああああぁぁぁ・・・・・・」

頭を抱えて、膝に頭を埋める。

どうしよう。どうしたらいいんだろう?

震える膝に、さっきの笑顔を思い出してさらに震えが走った。

口だけの、絶対零度の微笑みとはああいうものを言うんだろう。

カムイと名乗った彼女の方が、自分なんかよりもよっぽど魔王らしかった。




頑張れ魔王様。


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あの頃と同じ動きはできないようだ

ロープウェイで山の頂上へと登る…つもりが、ケーブルを切られていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ、オレそこの車借りてきます!!」

サダオカの怒りのボルテージが上がっていく。

それを眺めながら、タカマツが交渉するのを眺める。

「・・・おーい!貸してくれたぞー」

「おー・・・」

快く車を貸してくれた初老の男性に深々と頭を下げる。

「ありがとうございます」

「いやいや、今年も面白い映像を期待しているよ」

「えぇ、必ず。腹が捩れるほどの笑いをお届けします」

顔見知りにして、自分の事をよく知るタバコ屋のじいちゃんに笑顔を返した。

彼は勇者と魔王の戦いを描いたアニメの、3世代に渡ってのファンである。

車に全員が乗り込んで、そのまま山道を登っていった。

「知り合いなのか?」

「あぁ・・・さっき話したろ?踊り子のばーちゃんの連れ合い」

「あぁ・・・」

「品のいいじいさんだったな」

「昔、ばーちゃんが芸者だった時に一目惚れしたらしい」

「マジか!!」

「芸者さんだったのか・・・あの人」

「美人で、教養もあって、器量もよくて、その辺の男性の憧れだったぞー」

「へー・・・」

彼はあの踊り子の心を射止めた策士だ。

年齢差20をやってのけたつわものである。

しばらく昔話をしながら走っていると、前方に人影が見え始めた。

「お・・・」

「・・・お出迎えか」

「だなぁ・・・」

「ご苦労なこった。いつ来るかわからない俺らを待つなんてさ」

「給料分は働くんじゃね?」

「ふむ、そこは感心なことだな・・・若いのに」

「いや、仕事に年齢は関係ないから」

車を止めておりれば、ニヤニヤとした浮ついた笑いを浮かべる黒服の集団。

「・・・アレだな。おやじ狩りをするガキみたいな・・・」

「俺はまだ若い」

「ま、オレからしたら若いな、全員」

なんせ年齢差は倍以上だ。

頷いていると、鉄パイプやらナイフやらを持った黒服の・・・たぶん、10代の少年達が取り囲む。一体どうした上層部。いつもの筋肉マッチョはどこにいるんだ?

「さてと・・・」

コキコキと首を鳴らして、サダオカが笑った。

「やるか」

笑う彼は、どうみても勇者というよりも悪役でしかなかったのだけど。

戦闘を始めた彼らを、少し後ろから眺めて傍観する。

え?参加する気なんてありませんよ?

「やる気があるのは良い事だ・・・」

向かってくる子供を一歩横に動いて避け、その腹にサダオカが膝を叩きこむ。

「ぐぇ!!」

「だが、それを勉学や仕事に生かせないかねぇ・・・」

「だな」

タカマツ兄弟が武器を持った奴らを重点的に無力化していく。

相変わらず素晴らしい切れ味と破壊力だ。弟の包丁(エクスカリバー)で、鉄パイプがまるで紙のようにスパスパ切れていくし、兄の肉たたき(ブラッディハンマー)で地面が陥没してそれに何人か戦意喪失していく。

本来の目的に使ってやってくれ。道具がなんか泣いている気がしてくるから。

「ハハハ!!オレを倒したければ、ボディービルダーの兄貴を連れてこい!!」

「ぐっ・・・あ、アニキは育児休暇なんだよ、ばっきゃやろー!!」

「え、既婚者!?」

「マジか!!」

「ちくしょう!なんであのマッチョが結婚できて、俺が結婚できねーんだよ!!」

「!あ、アニキを馬鹿にするな!!」

「アニキは料理と裁縫とフラワーアレンジメントが得意なんだぞ!!」

「何その乙メン!?」

何だか色々面白い会話が飛び交っている。まぁ、同じだけ打撃音も響いているけれど。

「あの3人で充分ですね」

「そうですね」

ヒガとヤマダはオレと一緒に傍観に回ったようだ。

隣で、持ってきた水筒からお茶をついで飲んでいる。

「どうです?」

「あ、いただきます」

「あぁ・・・やっぱりお茶がいいですね」

「そうですねぇ・・・」

濃い緑茶に和んでいると、不穏な声が聞こえた。

「腰が甘い!!そんなんじゃ、このオレに一撃も入れられんぞ!!」

「うっせー黙れ、このクソジジイ!!」

「あ゛?」

直後に鈍い音。それに、慌てて飲んでいたお茶のカップをヒガに託す。

「頼む」

「はい、はい」

暗い笑みを浮かべるサダオカにダッシュした。

「だ・れ・が・ジジイだってぇ?」

「がっ!?ごっ・・・ごふっ!!」

「ちょ、サダオカさん!!サダオカさんストップ!!」

「死にますから。その子、死んじゃいますから!!」

「中学生!!それ、まだ中学生ですって!!」

「るっせー!!仕事してんだから、正当防衛だ!!」

「過剰防衛だ!!中学生をマジで締め上げるんじゃねぇ!!」

ブレイク、ブレイク!!と、ヤマダと二人で押さえる。

ひとまず、その場にいた連中全員を無力化してロープで縛りあげた。

「それにしても・・・今年は気合が入ってるなぁ・・・」

「ちゃんとレポートしてるか?」

「え?あぁ・・・大丈夫、大丈夫」

パタパタと、自分の肩に止まる記録装置代りのペット(テリー)の頭を撫でた。

「ウチのテリーは優秀だからな」

ここでの行動は、ほぼすべてテリーを通して家のパソコンへ届く。

そうして、それを編集したものがテレビ局へと売られていくのだ。

もちろん、このテレビ局は身内でもあるサキュバスが会長を行っている。

著作権によって入る収入によって、フリーターでも生きていけるのだ。

こういう時だけは神に感謝する。

ま、なくても生きていけるけどなー…

どこぞの戦闘員らしく『キー』とだけ喋っていればいいのに、不用意に『オヤジ』などというものだから年齢を気にしていた勇者にフルボッコされてしまった。

「可哀想に・・・口は災いの元だと学習しようぜ?」

「そうですねぇ・・・」

「あれ?サダオカ、どうした?」

「・・・腰が、ごきって・・・」

「・・・ハッスルするから」

「オレらも歳だよなぁ・・・」

「ま、それでもこれくらいはやらないとな」

うんうんと頷きあって、タカマツ兄が武器を持ち上げる。

「んじゃ、壊すか・・・」

「あ、ストップ」

「あん?」

巨大な門を壊そうとした彼を止めて、タカマツ弟の肩を叩いてその隣の石壁を指さした。

「ここ切ってくれ。」

「・・・石を?まぁ、切れない事もないが・・・」

首を捻りながらも、俺の注文通り一刀のもとにぶった切ってくれたタカマツ弟に拍手する。

「・・・薄い?」

「ベニヤ板に石を貼り付けていたのか・・・」

「よし、行こうか」

「あぁ・・・でも、なんでこっちを?別に鉄くらいは・・・・・・」

「あー・・・」

「1日でコレが出来上がったんだから、予想はついただろ?壁はたぶん張りぼてでも、門は必ず通るだろうし・・・な?」

「発案者、ぶっ飛ばさないとなぁ・・・・・・」

「流石に神には会えねぇって」

巨大な鉄の門の裏側には、ちょうど自分たちの背丈分だけオリハルコンで裏側から補強してあった。それも二重にだ。

本当に今年は色々、妙な所に手が込んでいるな。



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勇者と魔王が出会いまして・・・

あ・・・き、来たのかな・・・

扉の向こう側が騒がしい。きっと、勇者たちが来たんだろう。

どんな人間なんだろう?自分と同じ年だろうか?

恐怖と、少しだけ期待を持っている自分に気付いて驚いた。

恐いのは恐いけれど、やっぱり本物の勇者が見てみたい。

わくわくとした感情が抑えられずに、じっとドアの方を見ていた。

『退け、クソガキども!!』

「・・・え?」

聞こえた声は、とても勇者が放つような言葉とは思えなくてぽかんとする。

『オレの前に立ち塞がるモノは全て敵だ!!ぶっ飛ばされたくなければ退きやがれ!!』

『ちょ、サダオカさん!!相手はまだ子供・・・』

『悪い子はいねーがー』

『悪い子は尻叩き100回だぞー』

『どこぞの伝統行事みたいに蓑を着て、鬼の面をつけるな!!てーか、どっから出したそれ!!』

『あ、それ私たちの合体魔法です』

『仮面をヒガさんが、服装を僕が担当してみました』

『何でこう、皆して無駄に技術と魔力使うかなぁ・・・あーもう!!気絶している子供を蹴るんじゃない!!』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

聞こえてくる声に戸惑う。

今、自分が待っているのは、本当に勇者なんだろうか?

ピシ・・・と、正面の大きな扉に亀裂が入った。

数秒遅れて、扉が粉々に吹っ飛ぶ。

あぁ、あのドア・・・結構良い値段するのに・・・

思わずそんなことを考えてしまう。

もうもうと、崩れた壁によって白煙を上げて立ち込めた。

「到着」

「いやー・・・結構柔らかい扉だったな」

「正面のオリハルコンで、税力切れでしょう」

「二重にしていたみたいだからな」

「良かった・・・オレのエクスカリバーが6代目になる所だった・・・」

「まだ、予備あるんだ」

「商売道具だからな」

「それをココに持ち出すか」

「手に馴染むんでな」

「オーダーメイドだし」

現れたオヤジ達に、さらに目が点になった。

 

 

***************************************

 

 

 

「・・・えーっと」

正面の玉座に座って、呆然とする青年に頬を掻く。

「魔王?」

「あ、は、はい!!」

立ち上がって、あまつさえ「気をつけ」の姿勢を取る男性に視線を彷徨わせる。

しばしの沈黙。

完全に頭を抱えて崩れ落ちる勇者一行から離れて、彼の傍へと向かう。

「えーっと・・・雇われ?」

「あ、はい。日給1万で・・・」

「やっす!!」

去年は5万だってのに・・・ケチったな、神のやろう

「そ、そうなんですか・・・?あの、あなたが勇者・・・?」

「いやいや、オレ勇者じゃないって。しかも、パーティでもないから」

「はぁ・・・」

パチパチと彼が瞬きをして小首を傾げる。

「そうなんですか?」

「そうそう。オレ魔王だし」

「・・・魔王?」

「そう、魔王」

「・・・えぇ!?」

ぎょっとなって、あたふたと彼が視線をあっちこっちへ向ける。

「あ、あの魔王は悪い事をするのが仕事だって・・・」

「あー・・・まぁ、ゲームとかの魔王はそうだな」

「ち、違うのですか?テレビの魔王みたいに、人を攫ったりとか・・・」

「いやいや、それ誘拐罪だから」

「い、家を壊したりとか・・・」

「それは器物損害罪」

「ちなみに、オレらがケガしたら、お前傷害罪なー」

「ひぃ!?」

半泣きの男性に脅し過ぎたと思って、その肩を叩いてやる。

「大丈夫、大丈夫。まだ何にもしてないだろ?」

「あ、はい・・・まぁ・・・」

頷く彼に、うんうんと後ろで隣人たちが頷いた。

「別にオレらに向かって来たのは別件の奴らだし・・・」

「この城建てたのも、企業の奴らだし」

「トラップも発案者は違うっぽいし?」

「お前、雇われたんだろ?」

「あ、はい」

「じゃあ、やっぱお前も被害者か・・・」

「・・・ひがいしゃ?」

「神様のゲームに付き合わされてる被害者だよ・・・」

溜息を吐いて、簡単な説明を行う。

それに驚いたように目を見開いて、蒼褪めて、最後には泣き出しそうな顔になってしまった。

「ぼ、僕は・・・どうしたら・・・」

「あー気にしないでいいから。あんた名前は?あ、オレはシノノメな」

「あ、僕はスオウといいます」

「じゃあスオウ。とりあえず、ここを出るぞ・・・まぁ、ちょっと話聞くだけだから」

「え、あ、はぁ・・・」

「はい、撤収―」

「「「「おー」」」」

普通の服にスオウが着替えにいくのを見送りながら、携帯電話を取り出す。

「あー・・・もしもし?シノノメです。えぇ、そう。討伐完了したんで、伸びてる連中検挙しちゃってください。ん?罪状?」

「銃刀法違反と公務執行妨害だろ」

「そうそう」

「あーそういや、そうだな」

忘れがちだが、サダオカは警察官だ。なので、それが適応される。

「そういや、お前犯罪って何した?」

「えぇ!?し、してないですよ!!」

戻って来たスオウに、携帯を切って問いかける。

勢いよく首を横に振った彼が、あっと何か思い出したように動きを止めた。

「ど、どうしよう・・・あの人に頼まれたのに、結局戦ってすらいない・・・」

「頼まれる?」

「その・・・あなた達を倒せって・・・」

「へぇ・・・誰?ロマージュ?」

歴代の参謀の名前を言ってみるが、首を横に振られた。

「いえ・・・カムイって女の人です」

「何!?」

告げられた言葉にサダオカが動きを止める。

「あの・・・?」

「どうした、サダオカ」

「うっ・・・いや、その…」

だらだらと、冷や汗を流す彼に眉を寄せる。

と、不意に殺気を感じて視線を上げた。

「うお!?」

バリバリと、周囲にプラズマが弾ける。

咄嗟にヤマダが張った結界が被害をなくしてくれたらしい。

「お、お前は!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

蒼褪めるサダオカと、彼を睨み降ろす女性。

彼女の顔に見覚えがあって、ぽんと手を叩いた。

「あぁ、サダオカの彼女」

「「「「えぇ!?」」」」

ギョッとする面々を尻目に、サダオカが焦ったように声を上げる。

「カムイ!!お、お前なんで・・・」

「何で?自分の胸に訊いてみなさい、この浮気者!!」

「ま、待て、誤解だ!!」

「お黙り!!」

痴話喧嘩を繰り広げる2人に、どうしようかと視線を彷徨わせる。

「彼女!?あの人彼女いたんですか!?」

「あぁ、一昨年な・・・何でも、よく行くコンビニの店長なんだと」

「出会いがないとか言っていたくせに・・・」

「めっちゃ美人だけど・・・はぁー・・・彼女、なぁ・・・」

「確かまだ20代だったはず。うーん・・・なんかもう、神がなりふり構ってないなぁ」

「何をいまさら」

「そうそう」

「いまさら、いまさら」

「・・・だよな」

「あ、あのう・・・」

「うん?」

頷きあう俺達に、恐る恐るスオウが俺の服を引っ張る。

「・・・止めなくて、いいんですか?」

視線の先では、炎が踊り、雷が床に穴を穿ち、風が壁を切り裂き、床が隆起して地割れを起こし、水流が鋭利な刃となって、柱を切り裂いていた。

「あぁ、うん。正直面倒くさくって」

「「近接職だし」」

「防御に徹しているし」

「荒事はちょっと・・・」

「俺は記録と傍観予定だからさ」

だから放置で、と笑顔で返せばスオウがおろおろと、こっちとあっちの間で視線を行き来させる。

「そ、それでいいんですか?」

「「「「「いい」」」」」

頷いたと同時に、ひときわ大きな爆発音と野太い悲鳴が聞こえた。




魔王らしい女性は彼女でした。


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年に一度のイベント終了

隣人と今年の魔王は呆然とそれを見ている事しかできないようだ。

あ、今さらだが相手がサダオカの彼女だと分かった時点で防御結界からサダオカは蹴りだしている。手前の尻拭いは手前でさせねば。

「えーっと・・・」

魔法の応戦をしている二人を眺めて、事態を整理する。

つまりだ、カムイさんがサダオカと喧嘩して、今回の魔王のイベントに参加して報復しようってことか・・・

ようやく理解した。理解して脱力する。

「ちょ、おいシノノメ!!説得手伝えよ!!」

「えー・・・」

「えーじゃねぇ!!ダチだろお前!!」

ギャーギャーと叫んでいるサダオカに溜息を吐く。

隣人たちへ視線を向ければ、生温かい笑みが返って来た。

スオウは・・・いまだにおろおろとしている。

「しょうがねぇなぁ・・・」

一歩、結界から外に出た。

途端に背筋に刃を突きつけられたような気配を感じて身構えた。

「シッ!!」

「おぉっと・・・うん?」

「おぉ、まさに暗殺者!というヤツだな」

「今の、本気でタマ取りにいってましたね」

「ここにきて本気かー」

「遅くね?」

「し、シノノメさん!?」

つ・・・と、頬を流れた血に軽く目を見張る。

いやはや、包丁で手を切った時以外で怪我をするなんて何年ぶりだろうか。

ザ、アサシン。というルックスで、相手が足を止めている。

「フム・・・なるほど。サダオカを彼女につきっきりにして、それを囮に本職が一番目障りなオレを殺しに来たわけか、なるほど、なるほど。神の崇拝者はそこまで堕ちたか」

「黙れ!神に従わぬ愚か者めが!!」

両袖に仕込んでいたらしいのナイフが飛んでくる。

刃渡り15センチのナイフをを指で挟んでしげしげと眺めた。

「うーん・・・なるほど。皮膚から吸収するタイプの神経毒か・・・かすってもアウトなモノだな。えげつねぇなあ、おい」

姿を現した時点で三流かと思ったが、相手は優秀なようだ。

こうやって相対しているだけで、余裕ぶっているが、喉がからからに渇いてくる。

こんなに危険な敵と一対一で向かい合うのは、これが生まれて初めてかもしれない。

「シィ!!」

「おっと」

新しいナイフの切っ先で喉を狙ってきたため、回避するために円を描くように足を運ぶ。予想より速い。それを、奪った右手のナイフで弾く。

火花が散って、右腕が少し痺れる。攻撃が外見に反して、斧でも叩きつけられたかのように重い。どうやら魔力で強化しているようだ。抜け目がない。やはりプロか?

ぐっと歯を食いしばって反撃を始める。

左手のナイフで太腿を切り裂こうとすが、素早いバックステップでナイフは空を切った。

「ウィンド・ランス」

「おぉっと・・・強化だけじゃなくて、風の魔法も使えるのか」

相手からいくつもの風の槍が飛んでくる。

普通の風の魔法よりも、風の回転が上がっており壁に螺旋状の傷跡を付けて貫通していった。どうやら術士としてもかなりの腕のようだ。

それに感心している暇もなく、飛んでくる電光石火の連続攻撃を、二本のナイフを駆使して防ぐ。逆手は、どちらかといえば防御を重視した構えだ。

刃同士がぶつかるたび、凄まじい勢いで、火花が散る。

「あ、やべ・・・」

自分がとんでもないミスをしている事に気づいた。

自分の馬鹿さ加減にびっくりしてしまう。

このまま、ナイフで戦いを続けるのは危険だと判断して、相手の意表をつくために、いきなり右の上段蹴りを打った。

「!?」

ナイフに気を取られていた相手は、足先をこめかみのあたりに食らう。

鈍い打撃音が響いた。

普通ならこれで終わっている所だが、相手はタフだった。

よろめきながらも、素早くナイフで反撃してきたのだ。今度はこちらが意表をつかれる格好となった。相手の攻撃が、自分の右腕を浅く薙ぐ。

服に切れ目が走って、鮮血が飛ぶ。

「くっ・・・」

それほど深い傷ではないが、神経毒が塗ってあるため思わず舌打ちする。

距離をとる間もなく、ナイフが水平に払われる。

その刃が、咄嗟に屈んだ自分の頭上を通過。髪の毛が数ミリ分切り取られて宙を舞う。うめきつつ、後退した。間合いを取り直し、左手のナイフをアンダースロー。

それを余裕の笑みを浮かべ、相手がナイフを叩き落す。

「シノノメさん!」

「やー・・・久々に動いたわ。心配するな、もう終わる」

ごきり、と首を鳴らして、ちらちらと、こちらを心配そうに伺うサダオカに大丈夫だと片手を上げ、援護しようとしていた他の連中にそう返す。

「強がりを・・・」

「いや、事実。運動不足だったから運動でも、と思ったけど・・・やっぱ疲れたわ。しかも、トレーニング用に重りつけっぱなしとか、オレ馬鹿だわー」

「え・・・」

「まさかの重り付!?」

「ってわけで、これで終わりだ」

パチリ、と指を鳴らせば相手の周囲が歪んだ。

「な!?」

「縫い止めろ、シャドウ・ニードル」

歪んだ空間から大小さまざまな黒い針が、相手に降り注ぐ。

動揺の所為か、相手の動きが乱れる。その隙を見逃さず、肉迫した。

「ッ!?」

右肘を狙って、左の中断回し蹴りを放つ。

それが直撃し、一時的に相手の握力が麻痺して、ナイフが地面に落ちた。

すかさず、回転しながら後ろ回し蹴りを放った。

長い足が、急激に円の軌道を描き、相手の側頭部に叩き込む。

「へぇ・・・」

当たる寸前、微かに急所からはずらしたようで、吹き飛ばされながらも着地し、こちらを睨んできた。

「うん、でもお前詰みな?」

「へぶ!?」

「うわぁ・・・」

「・・・ここまで格好良く戦っておいてコレはないわー」

「鬼畜。シノノメさん鬼畜」

「やかましい」

外野が口々に非難する。いいだろう?オレの勝手なんだから。

「ほら、追加」

ぴよ、ぴよぴよぴよぴよ・・・

「ぴ・・・ピコピコハンマー・・・」

巨大な金タライで頭部を強打され、よろめいた隙に影で拘束され、大量の、可愛らしいひよこの装飾がついたピコピコハンマーが相手の頭上から降り注いだ。

広い部屋の中央に、円形に張られた結界の中。ピコピコハンマーに埋め尽くされた哀れな敵はそのまま生きてるロープ(犯罪者捕縛用)によって縛られて転がされる。

「・・・ここは相手の心を折るために、普通じゃない縛り方がいいか?

「いやいや、この辺でいいでしょう」

「激戦していたはずなのに、最後に金タライとピコハンはないわー・・・」

相手に同情している外野は放置して、

「・・・カムイさーん」

あまりの事に、あちらも戦闘が止んでいたらしい。

こっちを見て、何とも言えない顔の二人に声をかける。

「な、何かしら?」

「明後日の誕生日に届くように、サダオカがダイヤの指輪、注文してましたよ?」

沈黙。

戦闘は止めていたものの、彼女の周囲で弾けていたプラズマが、その一言で消える。

ちなみに、自分はまがりなりにも魔王なので魔法は一切効かない。

ただし、強化された武器での攻撃は除く。

「・・・ほんとう?」

「えぇ」

笑顔で答えておく。嘘も方便だ。

「・・・ほんとう?」

「お、おう!!」

「お休み、とれないって言っていたのに・・・」

「そ、それは・・・」

「実はサプライズで驚かそうと思っていたそうですよ。なぁ?」

「あ、あぁ・・・」

しどろもどろに、ところどころ焦げたサダオカが答える。

「・・・そう」

ふっと、彼女から放たれていた魔力と殺気が消えた。

「・・・ふぅ」

「・・・終わりですかね?」

「おー・・・よし、てっしゅー」

念のために色々とフォローを入れながら、車で隣人たちは下山。

自分は転移の魔法でカムイを家へ飛ばし、サダオカを知り合いの宝石店へ手紙を持たせて飛ばしておく。まぁ、代金は貸しておいてやろう。

ただし、プロポーズの言葉は自分で考えろ。

スオウは隣人たちと一緒に帰したので、残るは自分だけ。

「あ、ごくろうさまです」

「お疲れさまでーす」

警察の方々が後始末にやってきた。腕には「特別魔王対策部」の文字。

色々ツッコミ所満載だがまぁいい。

後始末を任せて、ロープウェイのケーブルを直しに向かった。

こういう時魔法は便利だ。

「いやあ、助かりましたよシノノメさん。わしらは修復系はどうも苦手で・・・」

「壊すのは得意なんですがねー・・・」

ハッハッハ、と笑うロープウェイの管理人であるオーガ夫妻に別れを告げて、途中で道に不備がないかチェックしつつ家へと戻る。

気がつけば、もう夕陽が地平線の向こうに沈んでいた。

隣人たちはすでに戻っているらしく、窓から明かりが見える。

「ただいまー・・・」

「お、お帰り」

どうだった?と、土産話を期待する両親に、今年の魔王について話す。

と、話しながら母親が自分の頭上を見て首を傾げた。

「ねぇ」

「ん?」

「それ・・・なぁに?」

「・・・あ」

やっべー完全に忘れてた。

頭上でカウントをし続けるデジタルカウンターが、残り3時間を示していた。

直後、泡を食ってやってきた隣人達と共に神殿まで転移で向かい、呪いを解除。

去り際の、儲け損ねたという神殿の最高権力者の言葉は聞かなかった事にした。




一応、ここでストック切れ。
修正終わったら、他のも随時上げようと思います。


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卵達の日常
4月は出会いの季節ですね


今さら章管理に気づいて編集しました。
今回の話は、中年勇者じゃない人達のお話。


「そーくん、どうしたの?黄昏てるみたいだけど」

書類を握りつつ、机に突っ伏していた俺にそんな声がかかって、首だけそっちを向く。

「しーさん、女難を払うにはどうしたらいいですか?」

「あぁ、うん。神殿行ったら?」

「神官長に鼻で嗤われました。ついでにイケメン死すべしとか言われました」

「未成年に辛辣な・・・で、何で女難?」

「瑠那の奇行のせいで降りかかる災難をどうにかしたくて・・・」

「うん、諦めろ」

「早っ!?何で!?」

思わず身を起こして叫ぶ。

「あの子、勇者の卵。お前、次期魔王」

「・・・・・・ちくしょう!知りたくなかったよ、そんな情報!!」

思いっきり振り下ろした拳がテーブルを割った。

泣きたい。

「まぁ・・・がんば。色々フォローはするから」

「何で引退したんですか。どうしてもう少し、せめて俺らが成人するまでネバってくれないんですか現役組―!!」

「いやいや、もう現役じゃなかったからな?託宣持ってても、体力とかは衰えるから。後進の育成が始まる次期だから」

「よりによって、何でアイツなんですか。そして何で俺なんですか」

「いいじゃん、神様ざまぁで」

いい笑顔の身内である現役魔王に、いい笑顔でサムズアップされて、彼の術で直ったテーブルに再び突っ伏した。

 

「準備できたー?」

「そっちこそ」

「私は完璧」

「そうか」

「楽しみよね~」

胸を張る彼女に、本気でかなりの不安を抱いた。

「いいな?小中学生時代に起こしたような騒動は止めろよ?」

「え?何かしたっけ?」

あぁ、したよ。伝説になるような事をたくさんな。

小・中学校で彼女の名前を知らない奴はいない。

実家も有名だが、彼女自身も有名だ。

理由?まぁ、一番有名なのは

[放送室占拠事件]

とか、

[教育委員長ズラ事件]

とか、

[真夜中の肝だめし大会]

辺りだろう。

教員に怒られるくらいではへこたれず、己の目的をやり遂げた彼女に最後は拍手喝采だった。ストレスマッハで、病院に運ばれた教員へのフォローは主に俺が行って何とかなった・・・はず。うん、あれからもう来るなと涙ながらに言われたこと以外何もない。

卒業式では本気で万歳して、涙を流していた彼らに本気で謝り倒したのはそう遠くない昔だ。

「・・・・・・とにかく、大人しくすること。あと、真面目に新入生の挨拶をすること…分かったか?」

「イエッサー」

おどけたように敬礼をする彼女に、どうしても不安が拭いされなかった。

「遅刻するぞー」

奥から聞こえた彼女の母親の声に、置いていた鞄を肩にかける。

「行ってきます」

「行ってきまーす!!」

「はい、行ってらっしゃい」

入学式の前にあるオリエンテーションのために、親より先に学園へと向かった。

「おはよー」

「おぅ」

「おはよう、二人とも…今度はあんまり騒動を起こすなよ?」

「待て。俺は被害者だ」

「またまた~」

冗談ばっかり、と笑う彼女に引きつる。

「みんな知ってるよ?二人が仲良しなのは」

「えぇ、実は十年前のあの日…私達、永遠の愛を…」

バカな事を言い出した彼女の頭をぶん殴った。

一応、手加減はしている。

「いった~・・・蒼弥酷い」

「黙れ、トラブルメーカー」

「いや~・・・仲がいいねぇ・・・」

「どこをどう見たらそんな・・・いえ、もういいです」

頭を押さえて睨む彼女を黙殺して、八百屋の店主に一礼すると、足早にその場を去った。

急がないと、電車に乗り遅れる。

通学定期を自動改札に通して、学園前までの電車に乗った。

「ほんと、性別違ってもシノさんと、サダくん見てるみたい」

「あー・・・確かに」

「シノさんがツッコミで、サダさんがボケだったもんねー」

「それが今じゃ、サダくんも立派な警官・・・そろそろ、警部だっけ?」

「警視まで行きそうよねー」

楽しみだと笑いあう商店街の人々の声は、当人へ届けられる事は、今は、ない。

 

 

 

***************************************

 

 

 

入学式が始まった。

厳粛な雰囲気の中、生徒がクラス順に、静かに入ってくる。

校長の祝辞など、一通り終わった頃、瑠那が呼ばれた。

この学校は少々変わっているらしく、新入生代表は男女一人ずつで、その二人がそのまま次の生徒会のメンバーに入るのだ。まぁ、言うなれば生徒会長候補である。

うっかり、瑠那と同点首位になってしまい、俺の名前も呼ばれた。

正直な話、バックレたいが前に出るしかない。

互いに、新入生代表の挨拶を終えると、一呼吸置いて瑠那がマイクを持ち直した。

それに、嫌な予感がして止めようとした。

「私、夕月瑠那は、在学中の祭りという祭りを面白おかしくすることを、ここに誓います!!」

のだが、遅すぎた。

「ですから皆様、ご協力を宜しくお願いしますねっ!!」

するな、そんな誓い。

てか、それをここで言うんじゃない。

思わず殴り倒そうとしたが、破れんばかりの拍手と歓声に脱力した。

「楽しみにしてるぞー!!」

「全力で協力するからなー!!」

「中学時代を再現してくれー!!」

「期待してるわー!!」

信じたくないが、この高校の在校生はみんな彼女を知っていて、あまつさえ騒動を起こすのを期待している。

教師陣は・・・あぁ、頭を抱えているな。

中でも、一際教頭の顔が蒼い。新任なんだろう。

神経性胃炎にでもならなければいいが・・・

まぁ・・・禿げる、ということはないだろう。

だって、その頭には、もう何も残ってはいないのだから。

ライトが汗に反射して眩しい。

とりあえず胃に穴があかないよう、祈っておこう。

上機嫌の瑠那を促して、壇上から降りる。

どうしよう。本気で今すぐ帰りたい。

「楽しみだねー」

「・・・そうか」

「うん!」

輝かんばかりの笑顔に、諦めが勝った。

何だかんだとあったが、こうして入学式が終わった。

明日から新学期だ。

期待と楽しみが半分、瑠那の尻拭いというか、後始末…いや、後処理か。

それに苦労するんだろうという、諦めにも似た、予想というか、予感というか…

そんな微妙かつ、言葉では言い表せない感情を抱えて、自分の新しい教室へと向かった。




勇者達がいるのは本土の方。
彼らがいる島は、船で片道1時間ちょっとのところにあります。


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4月、教員達だって楽しみにしていた、はず

入学式も終わり、新入生は来週にクラス対抗大会があるので、その準備のために新一年生の生徒会メンバーが集まった。

瑠那以外は殆ど初めて見る顔だ。

恐らく、他の島から来たのだろう。

この学園は、大小様々な島の中央にあり、今俺達がいるこの島は本島と呼ばれている。

ついでに、その本島から本土へ直行便が出ている。

この学園は、この学校の大本である定篠(サダシノ)学園の分校に当たる。

その学校の周辺は、色々色々教育上宜しくない施設が立ち並んでいるらしい。

いや、〔いたらしい〕だった。

何年か前に、とある警察官とその友人が潰して回ったらしい。

今まで放置だったのは、特に実害がなかったからだが、未成年が誘拐されかけて潰すことが決定したとか。裏にはヤクザや暴力団がいるかと思いきや、実際はチーマーみたいなちょっとはっちゃけた青年達だったらしく、全員に拳骨制裁と共に、刑務所へぶち込んだらしい。当事者達はその時、清々しい笑みを浮かべていたとか。

あ、そうそう。

それでこの島は、学校や会社、レジャー施設などがある政令指定都市の一つだ。

周囲の島々は農場や漁業従事者、それに本島の会社に通勤している者が住んでいる。

ちなみに、俺や瑠那の家は後者だ。一応、生まれも育ちも島である。

簡単に自己紹介して、本題に入ることにした。

急がないと、期限は来週だ。

「ダイビングして水中サッカーとか・・・」

「できるか!!」

「あの、誰にでも参加できるものに・・・」

「なら、かくれんぼ。見つかったら袋~」

「却下。何故袋にする必要がある」

「フツーに球技にしませんか?」

「あぁ・・・」

良かった。ここに、マシな奴がいた。

「砲丸ソフトボールとか・・・」

「投げれるかぁ―――!!!」

ダメだ。コイツも瑠那と同類だ。このままじゃ、収集がつかない。

「あのぉ・・・」

「え?」

「テニスと卓球とバレーの選択にしたらどうでしょう?」

「それだ」

やっとまともな意見が出た。

なんて安心したのも一瞬だけ。

「そうですね・・・被害が少なそうだ」

「学園外にでないから、器物破損も学園内だけで済みますしね・・・」

「・・・・・・壊れる事前提かよ・・・」

もういい。この会話で分かった。このメンバーも結局は同類なのか。

「種族で固まっているから、ハンデをつけた方がいいですかね?」

「入学前の体力データあるだろう?アレ見て考えよう」

「クラス全体対抗にするとしても、弱点属性使わないように言っておかないと・・・」

「あ、前任者のるるぶみっけー」

「あ、嗅覚が発達した者への刺激物投下禁止って書いてある」

「ここで種族を書かない所が苦肉の策だな」

「というか、相手への妨害として劇物を投げるなとかにしましょうよ」

「甘い。劇物なんて書いたら、食べ物投げるバカがいる」

「うわぁ・・・」

「まともにプレイしようよ・・・」

何となく悟りの境地に立ったような気分になりつつ、意見をまとめる。

何はともあれ、クラスマッチについては決まった。

後は、配布プリントと先生達への報告だ。

「じゃ、手分けして行くぞ」

プリント作りを、パソコンを使える者がやり、他は報告などをしに向かう。

「あー・・・」

「どうしました?」

「何で、俺が仕切っているんだろう…」

「適任だから?」

「何で疑問系・・・」

「瑠那さんを、止められるから」

「あぁ・・・なるほどな」

「それで納得するんだ・・・」

生ぬるい生徒会メンバーに、やさぐれた表情を返して、職員室のドアを開けた。

「失礼します」

「蘇芳君!」

「頼む!君が、君だけが頼りなんだ!!」

「どうかあの魔お・・・いや、夕月君を止めてくれ!!」

入った瞬間拘束された。え、そこまで胃にキてたのか?

というか今、さり気に魔王って言おうとしたよな?

書類を渡しつつ、印鑑を待ちながら頬を引きつらせる。

「彼の身内である君なら、君ならきっとやってくれる!」

「え、いや、あの・・・」

「あぁ、あの伝説のストッパーの身内ならきっと」

「え、何ですかその伝説」

「大丈夫だ!君ならやれる!頑張ってくれ!君の行動に我々の胃がかかっている!!」

「新入生、楽しみだなーなんて、話していたのにっ!」

「い、いたっ!?ちょ、先生!肩が!肩が痛いです!!」

その後、職員達に「穏便に。頼むから穏便に・・・」と念を押されてから帰宅。

「先生。それは彼女を生徒会に入れた時点で無理です・・・」などとは言えなかった。

だって、あまりにも彼らの表情が真剣だったから。

 

 

***************************************

 

 

 

翌日、授業が全て終わった放課後。

もう一度生徒会メンバーで集まる。

ここで、他の生徒会メンバーを確認しておいた方が良いだろう。

まず一人目は、昨日健全的かつまともな意見をだした人物の、朝生 沙那。

一日、行動を共にして思ったが、なかなかの天然な少女だ。

まさか、何もない廊下で転びそうになるとは思わなかった。

二人目は、泉 彰。

彼は・・・うん、腹黒策士や猫被りの天才という言葉を送ろう。

昼休みの教師達と、彼とのやり取りは思い出しただけで震えが走る。

三人目は、高瀬 柚斗。

中学からの親友だが、器用貧乏というか、要領が悪い。パソコンに詳しいので、昨日からあちこちで引っ張りだこだ。

気がいいやつなので、その分色々周囲が手を貸しているのを見かける。

俺?まぁ、またには手を貸すな。たまには・・・

で、四人目は倉林 翔。

たまにズレた発言をするが、常識人・・・のはずだ。

最後は、武仲留衣。

名前だけだと、女っぽいがれっきとした男だ。

そして・瑠那に憧れていたりする。

本当に止めて欲しい。

今日も、瑠那にパシリ同然に使われているのに笑顔だ。

メンバーの考察を終えて、ふと考える。

これからの3年間・・・無事に終わるだろうか?



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5月、友人が増え始めた時期でした

そういや、2章の主人公は蒼弥くんです。
言ってなかった気がする。まぁ、なので貧乏くじ引きまくるヒトです。


いらかの波と  雲の波~

 

なんて、商店街のスピーカーから古い童謡が流れる。

というか、これがこいのぼりって曲名なのを知ってる奴はどれだけいるんだか。

なんて考えながら、活気に溢れる商店街を歩く。

・・・そういや、もう五月か。

両親揃って泊まり込みの仕事なため、家事を全て行なっていたから忘れていた。

いや、デパートとかの特売日は全てチェックしてたけどさ。

今は、世間じゃゴールデンウィークというもので。

「きゃははははは!!」

「やー!待ってよー!!」

「あんまり離れるな!!」

「「はぁーい!!」」

俺の家族であるちびっこがはしゃぎ回っている。

いや、こいつらは昔からだけどね。

男女の双子である、彼らの手をしっかりと繋いで道を歩く。

じゃないと、何をしでかすか分かったもんじゃない。

「お買い物、お買い物~」

「ばんごはん、なぁに~?」

「ハンバーグ」

両サイドから上がる歓声。

足取りも軽く、ご機嫌な双子にちょっと笑う。

「お~相変わらず保護者だな」

「さすが皆の保母さん」

「・・・俺は男ですが」

「いや、だって・・・なぁ?」

「うん。保父さんじゃねぇよな」

「うん。保母さんだ」

「さすがあの伝説の保護者の身内」

「何なんですかそれ!?高校の先生達にも言われたんですけど!!」

懐かしいなぁなんて笑い合う商店街の店主達に思わず叫ぶ。

「お前らアメちゃん食べるかー?」

「「食べるー!!」」

笑顔で飴をもらってご機嫌の双子の頭を撫でながら、いい笑顔で洋菓子店の店主に親指を立てられた。

「頑張れ現役!」

「違います!!現役はしーさんです!!」

「いやいや、あのヒト元、だろ?」

「そうそう」

「違います。違うんです!俺は普通の高校生ですっ!!」

またまたー

なんて、すっごくいい笑顔で否定された。

・・・うん、俺、泣いていいかな?

「にーちゃん、どうしたのー?」

「おなかいたいー?」

「・・・いや、ちょっと世界が、俺に、優しくなくて・・・」

無性に両親に愚痴りたいが、二人が帰って来るのは夏休み頃。

それまでは、不定期に家に戻って来るらしい。

なので。

「・・・二人が帰って来たら、好きなモノいっぱいねだっていいから、それまで俺にできないようなワガママは言わないでくれよ?」

「「はーい!!」」

元気よく返事をした二人に笑う。

この時、両親の背中に悪寒が走ったらしい。

 

 

***************************************

 

 

「・・・暇だわ」

「そうか」

「ひーまー!」

「だったらこれにサインしろ」

「・・・ぶぅ」

頬を膨らませる瑠那は無視。

これに反応したが最後、騒動が起きるのは目に見えている。

今月は中間テストと、実力テストなるものがダブルであるのだ。

騒動が起きたら・・・考えただけで恐ろしい。

「暇なら勉強したらどうだ?試験も近いだろ」

「勉強~?テスト前になんでする必要あんの?授業受けてればいいじゃない」

「確かに正論だが・・・」

スパシーン・・・と、自分の取り出したハリセンが瑠那の頭を叩く。

「そう言う事は、真面目に授業に出てから言え。居眠りばっかしやがって・・・」

「だって、先生達の声って、子守唄に聞こえるんだもん」

「気力で起きろ」

「む・り」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

スパシーン!!

本日二度目のハリセンが、生徒会室に鳴り響いた。

で、そんなやり取りをした翌日。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

登校してすぐ、ざわめく人混みに嫌な予感がした。

足早にそこへと向かい、そうして、人垣ができている掲示板に凍りついた。

「あ!やっと見つけた!!」

「遅いですよ蘇芳くん!!」

「掲示板・・・掲示板にっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

[ 五月と言えば子供の日!!男子は本物の鎧を着て、女子は十二単を着て助け鬼よっ!! ]

 

右端にしっかりと校長と市長の印鑑まで捺してある。

ふるふると、拳が震える。

「あのバカは・・・!!」

「どうしますか?」

潰す・・・ことは無理だ。

先に公表されたから。

ならば、取るべき道は一つ。

「市内に開催日時の公布。それから行動範囲を狭めるぞ」

「予算は?」

「寄付させる。被害を最小限にするために、校長達と話し合いをしてくる」

「会長は押さえます」

短い会話だが、互いにやるべきことはわかっている。

足早にその場を離れ、校長室へと向かった。

「校長!何で許可出したんですか!!」

「だって、6月は大人しくしてくれるって言うから!!」

「6月は会議がたくさんあるんで、イベントはできないんですよ・・・」

すっごく疲れた顔をした校長と、事務長に思わず頭を抱える。

「っ・・・6月大人しくしているって言うのは、雨が多いからですよ!!」

「え・・・」

「アイツ、雨降ると髪の毛爆発するから、雨の日は大人しいんです!!」

「なん、だと・・・!?」

「どこまで許可出したんですか。今から内容に詰めるんで契約書出してください。今すぐ、可及的速やかに、さっさと書類出して役所に手続行かせてくださいっ!!」

書類を燃え尽きたような校長達から受け取り、しっかりと元凶を確保してきたメンバーにぐっじょぶと返して、イベントの内容をきっちりと文面化し、関係各所へと根回しを行うために役所へと向かった。

授業?公休扱いになりましたとも、ちくしょう。

元凶には強制的に授業を受けさせ、しっかりノートを取らせておいたけどな!




商店街の人達は面倒見のいいおじちゃんとおばちゃんたちです。


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5月、イベント準備中

ピーガガガ・・・

『あー・・・テス、テス・・・』

ぴんぽんぱんぽーん・・・

その放送があったのは、掲示板にあの掲示物が張られた5日後の事だった。

『全校の生徒、教員の皆様こんにちは。定篠高校生徒会です』

なんだなんだと、自分を含めたクラスメートが視線を上げる。

『さて、先日夕月会長が勝手に発案しやがっ・・・失礼。勝手に・・・ごほん、彼女の独断専行によって発表されやがっ・・・えー発表される事になった、助け鬼のルールを発表します』

バサバサ、と紙が擦れる音がする。

あぁ、すっごく色々溜まってるんだなぁと、ちょっと同情した。

『参加者は学校関係者全員です。ただし、足腰の弱い方、心臓の弱い方、妊娠中の方は見学、もしくは審判に回って行っていただきたいと思います。その他は、原則参加となります』

バサリ、と紙のめくる音がした。

『昨日の朝礼で各クラスに配布した資料にある通り、男子は鎧ですが・・・自校には、200ほどしかありません。不足分は、近所のとある鉄鋼所と被服店が共同で作ってくれることになりました。なお、費用は発案者が全額負担するそうなので、皆さんは自分の病院費だけ気にしてください。一応、あまりに高額であれば一部負担いたします』

・・・はい?

今、ものすごく物騒な事を言われた気がした。

『助け鬼と言いますが、普通のとはルールが違います。助けるのは、十二単を着た女子です。彼女達を全て自分の陣地に連れて行けば勝ちです。なお、十二単はレンタルなので、100しか準備できません。ですから、鬼の陣地でそれを着ている女子を助け、十二単を脱いでから一緒に逃げてください。鎧は脱いじゃ駄目です。ちゃんと実物より軽いから大丈夫です。十二単も本当に重ねているわけじゃなくて、襟だけ重ねたように見せているので重くないですから安心してください』

バサリ、とまた紙が擦れる音がした。

『陣地は範囲内なら、何ヶ所作ってもかまいません。ただし、行動範囲は、この学校と大通り商店街まで。看板を立てて置きますが、くれぐれも一般市民に危害を加えないよう。あと、備品などを破壊しないように。壊れたら、その代金プラス迷惑料を請求します』

バサ・・・と、書類を投げる音がした。

『えー・・・テスト明けで疲れていると思いますが、くれぐれもケガには気をつけてください。あと、最近商店街で万引きや痴漢が多発しています』

ピン・・・と、クラスの空気が張り詰める。

『見つけしだい、警官に通報。もしくは、集団で囲んでください。警察と学校から、金一封がでます。ただし、相手にケガをさせない事。それと、自分の身を守る事を第一にするように』

『あ、ちなみに副賞でランチのタダ券でるよー』

付け加えられた、別の人物の声を聞いて。

クラスが、というか全校が湧いた。

 

 

***************************************

 

 

そうして、テストも終わった五月の末日頃。

鎧を着た、異様な集団が校庭に集まった。

『野郎ども!!食堂のランチ半額券が欲しいかー!!』

うおおおぉぉー!!

雄叫びを上げる彼らに、満足気に瑠那が笑う。

『ルールは簡単!!自軍の姫・・・あぁ女子の事ね?彼女達を陣地に連れて行けば勝ち!!ただし!各自、鎧についている印を叩かれたら戦闘不能って事で離脱する事!』

『離脱したら、体育館に集合してください。それと、女子にケガさせたら退場です。ついでに一週間の強制校内清掃ですからあしからず』

『各自、ケガと器物破損に気をつけてやること。いーい?』

はいっ!!

揃った声に、にやりと彼女が笑う。

『スタートは一時間半後!!では・・・各自解散!!』

わっ・・・と、クモの子を散らすように生徒が散らばる。

それを眺め、マイクのスイッチを切った。

「さて、俺達も行くか」

「頑張って!」

「お前もだよ!」

校内を他の審判達に任せ、外で審判をするために笑顔の瑠那の襟首を掴み、商店街へと向かった。

「えー・・・初めてましての方もいらっしゃるので、自己紹介をしたいと思います」

一礼。

それに、初顔の面々がまばらに頭を下げる。

「はじめまして。定篠高校生徒会の蘇芳です。で、こいつが今回の騒ぎの元凶の夕月です」

「いやー・・・また今年もやったねぇ・・・」

「まぁ、大人しい方か?範囲も狭いみたいだしね」

「ほんっっとうにすみません。何かありましたら、全額弁償させます」

真顔の自分に、顔見知りな面々が苦笑した。

その横で、訳の分からない顔をする者がちらほら。

「ほんとはもうちょっと広くするはずだったんだけどねー・・・陣営だって、二つじゃなくて5つにするはずだったのにー」

「全校生徒がいったい何人いると思っているんだ・・・!!範囲を絞って、被害を最小限にするために色んな場所に許可を取りに行くのにどれだけ大変だったと思って・・・!!」

「どうどう、落ち着いてストッパー」

「そうだよ、ストッパー・・・今から大変なんだから」

「ここで疲れたらだめだよ、ストッパー」

「今から頑張るんだよ、現役ま・・・」

「言わせねぇよ!?俺は現役じゃないっ!!」

ちょっと泣きが入った俺に、半笑いが返ってくる。

今からもう帰りたい。

「一応、ただの助け鬼・・・のはずなんで、被害はないと思いますが。後、痴漢や万引きの犯人は見つけ次第捕まえます」

「あぁ、頼んだよ」

「まっかせて!!」

胸を張る瑠那に苦笑して、商店街の者達が店へ戻って行く。

きっと、自分達の事を聞いているんだろう。

時々、驚愕の声が聞こえてくる。

「さーて・・・金一封のためにも、頑張ろ」

「街の治安のためだろ」

「それはついで!だって、面白いこと優先だもの!!」

「それがメインだ愉快犯!!」

一応ツッコミを入れて、開始時間が近いのに気づき、その場をはなれた。



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5月、イベント終了

「続け―――!!!」

「敵は目の前じゃー!!」

「ケガしたくなかったら道をあけな!!」

「勝利は我にありぃ!!」

「姫を助けろー!!」

うお―――!!

そこかしこから雄叫びが上がる。

「ここから、先には行かせん!!」

「ぐっ!?」

「先輩!!」

「いけっ!俺の屍を超えていけぇ!!」

「せんぱーい!!」

「冷たっ!?ちょ、冷水飛ばしたの誰だ!?」

「ふははは!!この日のために改良した、ウォーターガンを喰らえ!!」

「と、飛び道具は卑怯だろう!?」

「これが私の武器だ!!」

「た、竹筒もってなにかと思えば・・・」

「飛距離は風の魔術で伸ばす!温度は水の魔術で変える!私に死角はない!!」

「魔術は使用禁止だろうが!!」

「甘い!人に使用してはいけないが、道具に使用する許可は出ている!」

「何ぃ!?」

「・・・あ、ほんとだ書いてある」

「ふははは!これで我らの勝ちだ!」

「くっくっく・・・圧倒的ではないか我が軍は!」

盛り上がってるなー・・・

監視場所から眺めつつ、定刻近くになったので

双眼鏡を片手に、ホイッスルを加えて拡声器を構える。

ピー----!!!

『南区で戦闘中の生徒は、幼稚園のバスが通るので戦闘を中断し、道をあけてください!!』

「おっと」

「おーい!全員戦闘止めー!」

「道開けろー」

ばらばらと武器(ゴム製の刀)を仕舞って、彼らが距離をとる。

バスの中から外を見て泣いている子がいるのを発見。

先生らしき女性が慰めているが、泣きやむ気配がない。

・・・あれは後で、何かしらの詫びを持っていこう。

そして、それを見て何人か落ち込んで慰められている。

まぁ・・・うん、こっちもフォローしておくかな?

と、ここで商店街にサイレンが鳴った。

「どうした?」

『万引き犯発見!!』

「人数は?」

『2人。一人そっちに逃走中!服装は・・・』

特徴を聞いて、周囲を探すと・・・いた。

どうやらこれだけ生徒がいるにもかからわずやったらしい。

馬鹿というか、何というか・・・まぁ、好都合だけど。

拡声機のスイッチを入れる。

『南区戦闘中の生徒諸君!!万引き犯がそっちへ逃走中!!服装は青のキャップをかぶり、紺色のトレーナーとだぶだぶのコートを着用している!』

告げると、一瞬戦場が静まりかえり。

『いたぞー!!』

『こっちだ、青軍が見つけたぞ!!』

『逃がすな金一封―――!!』

『かこめー!!』

『ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ!!!!』

元気なことだ。

『残りはどれくらいー?』

「ざっと半分か・・・そっちは?」

『同じく。そろそろ時間ねー』

『東区、青軍の勝利で終了です』

『北区は赤軍の勝利』

「おー・・・」

『あと二つ…あら、青軍が勝ったわ』

『蒼弥君のところは?』

「・・・・・・・・・・・・終わったよ」

双眼鏡で目を凝らす。

どうやら、犯人を確保して縛り上げると戦闘が始まったらしい。

乱戦模様の中心部から離れた場所で、赤軍がしっかりと姫を救出。

ピストルを構えて、上空に終了の合図を放った。

 

〔 鎧を着ての本格助け鬼 〕

結果、引き分け。

となったのだけど、そんな事を彼らが納得するはずがない。

勝負は大将戦となった。

「まさかこうやって、貴様と戦うことになるとは思わなかったぞ・・・」

「それは私のセリフだ」

青と赤の兜を被った武者が向かい合う。

「では」

「いざ」

「尋常に・・・」

「正々堂々と・・・」

「「食堂のタダ券をかけて勝負!!」」

ほとんどの前触れもなく、赤い武者が右の上段回し蹴りを打った。

しっかりとした重心から、コンパクトに打ち出す鋭い蹴りだ。

「ぬっ!?」

「なんのっ!」

それを地面に伏せるようにして、青い武者がかわす。

軽いとはいえ、それなりの重量をまとっているというのに元気なことだ。

そうして、伏せたような姿勢から、青い武者が足払いの蹴りを放った。

「はっ!」

「ふん!!」

「何っ!?」

「もらったぁ!!」

「っ、甘いわっ!!」

その足払いを赤い武者が拳で殴って止める。

拳と蹴りがぶつかったのに、打ち負けたのは青い武者だ。

そんなムチャクチャな防御に青い武者が驚愕するが、すぐさま後方に跳んでから立ち上がり、すかさず右の後ろ回し蹴りを繰り出した。

その反射的な行動は素晴らしいが、それも赤い武者は予想通りだったらしい。

慌てることもなく、その蹴りを赤い武者は平然とブロックし、彼は反撃の下段蹴りを放って、残った青い武者の足を刈った。

「がっ!?」

「もらった!!」

バランスを崩されて、青い武者は思いっきりひっくり返ってしまう。

そこに、赤い武者からとどめの手刀が振り下ろされた。

ピー!!

「はい、そこまで!!勝者、赤軍大将!!」

引き分けなので、広いグラウンドの中央で代表の一騎討ちとなり・・・

結果、赤軍の勝利となった。

いやー・・・最後は古武術をやっている大将同士、まさにガチの殴り合いでした。

回りも手に汗握る激戦。今や拍手と歓声の嵐だ。

一応、拳を守るグローブ着用とはいえ・・・この二人、骨折れてないよな。

「さすがだ・・・だが!次は負けん!」

「あぁ、挑戦を待っている・・・だが!次に勝つのはまた俺だ!!」

笑顔で握手を交わす二人を、沈みかけた夕陽が照らす。

・・・熱い漢の友情か。

狼と虎の獣人である彼らはいわゆる脳筋と呼ばれる分類であり、運動部特待生なので大将になったのだ。それがまさか、こんな熱い戦いを繰り広げるとは・・・

開始時間は、午前九時。終了時間は、午後六時。

長い一日が、ようやく・・・

「って・・・まだ終わりじゃねぇな」

「えー?」

『只今から、商店街及び校庭の清掃を行います』

使ったら片付ける。汚したら綺麗にする。

まぁ当たり前の事だ。

『なお、このクレーターがあきまくった校庭は大将が責任をもって埋める事』

「魔術使っていいですかー?」

『かまいませんが、元の形を著しく変えることはしないでください。あと、商店街での使用はその周辺店舗の許可をもらってからにしてください。原則は禁止です』

「はーい!」

「じゃあ、俺らは南に行こうぜ」

「各々、陣地近くでいいんじゃね?」

「だな」

「私たちはどうする?」

「私達も陣地ごとに分かれようか」

「だねー」

「生徒会は各場所の監督と、お礼回りだからな」

「はーい」

「了解!」

こうして、5月が終わった。

余談だが、犯罪者抑制に繋がる上、一部の運動不足と闘争本能を適度に刺激する素晴らしいものだとなぜか絶賛され、来年以降の毎年恒例のイベントとなった。

この判断を下した大人に言いたい。

何でだ!!




ちゃんと一騎打ちは熱い戦いになっただろうか・・・


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