【完結】きみと居た時間 (えいぷりる)
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帰還1

生きとし生けるものが朽ちて行くように、

ヒトの世が創る歴史もまた朽ちていく。

腐った帝都に跋扈(ばっこ)する、天が裁けぬ悪を斬る。


我ら全員、殺し屋稼業ーーー


***

ナジェンダ「アカメ、皆を招集してくれ。…朗報だ。」


アジトのすぐ近くに流れる川。

シェーレに鎧泳ぎを特訓されたこの場所で、今、男の熱い戦いが繰り広げられていた。

 

タツミ「うおぉぉぉ!!ぜってー負けねーからなぁ!」

ラバック「なーに言ってんの!ご褒美を前にしたオレが負けるわけないでしょーが!」

 

水しぶきを撒き散らす、男の熱い戦いーーー。

そう、俺とラバは「ご褒美」を賭けて争っていた。

 

 

ラバック「1000m自由形!これに負けた方は今日の覗きのオトリだからなぁぁ!」

 

ラバが挑んできた、このなんともアホな勝負。

負けた方は、入浴の覗きがバレた時オトリになれって話だ。実にくだらなすぎる。

 

…が、この戦いは負けられない!!

 

だって今日の覗きの相手、姐さんだからなぁ…。

 

 

タツミ「!! もうすぐゴールだ!」

 

最後のラストスパート、ラバとほぼ一線でゴールの岩に手をかけようとしたその時、

 

バシャッ!!

 

タツミ「うおっ!!」

ラバ「なっ!?」

 

俺たちが触れようとしていたその岩の上に突如アカメが降り立った。

急停止した俺たちの顔に岩から跳ね返った水がかかる。

 

アカメ「タツミ、ラバ!急いで戻ってくれ。」

 

俺たちを急かす、キリリとした顔つき。

これは…新しい仕事か!?

 

自然に拳に力が入り、立ち上がった瞬間、アカメの目から力が抜け優しく微笑んだ。

 

アカメ「リンが帰ってきたぞ。」

 

 

 

アカメから漏れ出る喜びのオーラ、ラバのだらしな…いや、嬉しそうな顔。

"リン"って人は、きっとナイトレイドにとって欠かせない人物に違いない。

そしてラバの顔から察するに…女だな。

そんな推察をしながら、2人と共にアジトへと足を進めていた。

 

 

アカメ「ボス、2人を連れ戻した。」

 

任務の伝達や報告をする時に集まるこの会議室。

既に姐さんとマインがいて、入り口から一番離れた壁際の椅子には、ボスが座っている。

 

ナイトレイドのシンボルが描かれたフラッグを背に、座る人が座れば迫力負けしそうなこの場所。

…だが、さすがはボス。その存在は圧倒的だぜ!

 

組織のトップの貫禄を目の当たりにし、ゴクっと唾をのみこむ。

それと同時に、ふとボスの傍らに目をやると見慣れない女性が立っていた。

 

 

この人が…。

 

背は、アカメより少し小さいくらい。

肩の下にのびた薄黄色の髪の毛先はゆるくウェーブがかかっている。

おっとりした可愛らしい顔立ちだが、深い蒼の瞳からは揺るぎない信念が見え隠れしている。

彼女は、まさしく"凛"という文字を具現化したような女性だった。

 

ナジェンダ「よし、皆揃ったな。ではリンからの報告を聞こうではないか。」

 

ボスに指名されると、"リン"と呼ばれた女性が報告を始めた。

 

 



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帰還2

久しぶりに帰ってきたこの場所。

吸い込む空気も変わりなくって、その懐かしさが嬉しい。

ついリビングや温泉に足が向かいそうになるけど…早くボスに顔見せなきゃね。

 

寄り道しそうになる気持ちを抑えて、私はボスの居るあの場所へ足を運ぶ。

少し緊張しながら重々しく扉を開くと、懐かしい顔が揃っていた。

 

レオーネ「リン!久しぶりだなぁ!」

マイン「上手くやったようじゃない。まっ、私ならあと半月早く帰ってくるけどね~。」

リン「相変わらず手痛いなぁ、マインは。」

 

ふふっと笑いながら2人の元へ近ずく。

笑ったおかげか、ちょっと心が和らいだみたい。

 

 

マイン達との歓談も終え、私がいない間に起こった出来事を聞いていると勢いよく扉が開いた。

 

アカメ「ボス、2人を連れ戻した。」

 

扉の前には、相変わらず黒髪の艶やかなアカメと、ついさっきボスから聞いた新入りであろう男の子と…彼がいた。

 

 

タツミ「リンは、1年間もここを離れていたのか。」

リン「ええ。ここから遠く南にある革命軍本部の周辺に未確認の危険種が現れてね。援軍として向かったのよ。幸い、数はそれほど多くはなかったんだけど、思ったより本部の被害が甚大でね…。立て直すのに時間がかかってしまったの。」

ナジェンダ「何にしても、革命の要である本部回復の任務を全うしてくれた功績は大きい。そして無事に帰ってきてくれたことも。リン、感謝する。」

 

ボスからの思いがけない賛辞の言葉に、少し照れる。

 

レオーネ「いや~でもリンが戻ってきてくれて本当助かるよ!いくら回復力の強いあたしでも、ちょっと厳しい時あるもんな~。」

リン「あら?レオーネは私の力がなくても十分かと思ってたけど?」

マイン「そうそう。リンいらずのレオーネとはあたしのことさ~!って叫んでたのは誰かしら?」

レオーネ「ちぇーっ、そりゃないよ!」

 

ハハハ…

会議室が笑いに包まれた。

 

私が再びナイトレイドに戻れたことを喜んでいると、

マインとレオーネも、空いた隙間が埋まったかのようにホッとした表情を見せてくれた。

 

 

------------------------

 

 

リンの帰還祝いでどんちゃん騒ぎ、今は誰もいなくなったダイニング。

結構シーンとしてて怖ぇーんだよなぁ…。

 

タツミ「あれっ?珍しいな、ラバ。」

 

ビクッ!!

クローステールの手入れをしていると、インクルシオの鍵を担いだタツミが声をかけてきた。

 

ラバック「…なんだ、タツミか。で、何がよ?」

タツミ「久しぶりに会った可愛い女の子の風呂なんて、一目散に覗きに行きそうなのに。」

ラバック「はぁ~…お前ね、人は見かけによらないっての覚えといた方がいいぜ。」

タツミ「?」

ラバック「あいつ、怒るとナイトレイドの中で一番こえーから。」

タツミ「…まじかよ。」

 

とんでもなく顔を引きつらせている。

まぁ、レオーネ姐さんの風呂ですら果敢に挑戦する俺がそう言えばそうなるわな。

 

タツミ「もし行くことになっても、俺をオトリに使うなよな。今日の勝負もチャラになったんだし。」

 

そう言い残すと、タツミは訓練所の方へ消えていった。

 

あいつは立派にブラートの背中を追いかけてる。たった2人の男だ。俺もガンバらなきゃな。

…でも、シェーレとブラートを失った今、リンが戻ってくれたことは本当に助かる。

 

そう思った途端、なぜか頬が少し火照る。

 

…なんだこれ。

戦力も増えたし、しかもそれが女の子ってのが嬉しいだけだよな?

風呂が覗けないのも、瀕死の危機に陥るからで…

 

ラバック「あ"~~~、集中集中!」

 

両手で頭を掻きむしっていると、入り口からふふっと笑い声が聞こえた。

 

リン「行き詰まると髪をいじるクセ…変わっていないようだね?」

 

声のする方に目をやると、バスタオルを肩にかけ、まだ冷めていない体からほんのりと湯気を立ち上らせたリンがいた。

 

風呂は終わったらしい。

…それはそれで、少し残念な気持ちになる。

 

リンは俺の側へ来ると、両手に持っていたマグカップの一つを俺の前に置いた。

専用の緑のマグカップの中には、淹れたてのコーヒーのいい香りが立ち込めている。

"ナジェンダLOVE"と書かれていることが、今このシチュエーションだとこっ恥ずかしいが。

 

リン「わっかりやすいマグカップで助かったわ。」

 

小花柄の水色のマグカップを隣に置くと、半分呆れたようにニヤニヤ笑いながらキッチンへ歩いて行った。

さっきまであんなこと考えていたせいか、なんだか照れくさい。

マグカップの中で揺らめくコーヒーを見つめていると、砂糖の入った小瓶を持ってリンが戻ってきた。

 

 



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帰還3

リン「…シェーレとブラートのことは聞いたわ。」

 

そう呟きながら砂糖をテーブルの上に置き、俺の隣にそっと座った。

 

リン「こういう稼業だってことは十分わかってる。…でも、会いたかったな。」

 

改めて二人の名前を聞くと、堪えていた悲しみが溢れ出てきそうで。

その気持ちをなんとか誤魔化そうと、砂糖を入れたコーヒーをひたすらかき混ぜる。

 

ラバック「でもさ、リンが帰って来てくれて皆喜んでるよ。」

 

明るい話題に変えようと、ぎこちなさの残る笑顔で話を振った。

突然自分に振られるもんだから少しビックリして俺を見つめていたが、すぐに柔らかい表情に変わった。

 

リン「うん。私も戻って来れて嬉しい。もちろん、任務は完遂するつもりだったけど…私達はいつ死んでもおかしくない立場だから、こうやってまた皆と会えて本当に良かった。」

ラバック「タツミも会えて楽しそうだしな。」

リン「ふふっ。あの子、ラバと気が合いそうだね。」

 

そりゃどーゆう意味だ…

いやまぁ、間違ってはいないか。

 

小さく口を尖らせながら、十分に混ざり合った砂糖入りのコーヒーを口に含む。

ふとリンの胸元に目がいった。

 

ラバ「寝る時もつけてるんだね、それ。」

 

一瞬きょとんとしていたが、すぐに察しがついたようだ。

 

リン「…うん。これは帝具だけど、それだけじゃないからね。」

 

首からかけた十字架のネックレスに触れながら、リンが話を続けた。

 

リン「小さい頃に母さまからもらったの。貧しい村だったから、プレゼントを貰うなんて珍しくて…すごく嬉しかった。認められた者にしか反応しないから、それまでこれが帝具だなんて誰も思ってなかったみたい。」

 

過去を懐かしむかのように遠い目をしながら、リンはコーヒーを一口すすった。

 

リン「でも、年貢の徴収に来た衛兵に帝具の存在を知られてしまって…。大臣は、帝具の納付を拒んだ私達の村を襲わせたわ。」

 

瞳の奥に鋭さを潜ませ、持っていた水色のそれを静かに置く。

動作こそ静かだが、取手を握るその手は力がこもり、微かに震えている。

 

リン「私はこれの力もあってなんとか生き延びた。…でも、村はダメだった。」

 

リンの瞳はどんどん深い闇に堕ちていく。

やべ…話題振り間違えたかも…。

そう思った瞬間、こっちの様子に気づいたのか「あっ」と慌てた顔をした。

 

リン「ごっ、ごめんねこんな話!暗くなっちゃったね。」

 

えへへ…と苦く笑いながら、また一口コーヒーをすする。

 

気、使わせちまったかな…。

横目でチラリとリンを見る。

 

伏せた目の先のまつげはまだ少し湿っていて、一粒の雫が落ちそうで落ちない。

初めて見せる物憂げな表情から、目が離せなかった。

 

 

------------------------

 

 

ラバック「俺でよければさ、話…聞くし。」

 

そっぽを向きながら、ラバが言った。

マグカップで顔を隠してるみたいだけど…もしかして、照れてる?

その言葉と仕草がとても嬉しくて。

 

リン「ありがとう。」

 

とっておきの笑顔で返事をした。

 

 

なんでだろう?

今まで過去の話なんて、仲間にしたことなかった。

自分の昔話なんて、誰が聞いても虚しくなるだけ。

皆に悲しい顔させたくない。

だから聞かれない限りは話さない。

 

ずっと、そうやってきたのに…。

 

見つめたカップの中身は半分まで減っていたけど、私の心はとても満たされていた。

 

リン「私はね、このネックレスのこと帝具だなんて思ってないの。これは…母さまからの大事な贈り物。」

 

まだほんの少し湯気の残るカップを持ち、立ち上がった。不思議と体が軽い。

 

リン「大切なもの…もう失いたくない。だから、きっとこの国を変えてみせる。」

 

さっきまでの淀んだ靄は消えていた。たった一言で、こんなにも心が晴れるなんて。

そんな私の様子を見ていたラバにも、笑顔が戻っていた。

 

リン「お手入れ、邪魔しちゃってごめんね。」

 

少し名残惜しかったけど、残っていたコーヒーを飲み干して、おやすみと告げた。

 

 

穏やかな足取りで部屋に向かう途中、訓練所の方から何かを振り回す音を耳にした。

そっと覗くと、眩しい月に照らされて、自分の体ほどある大きな剣を振るう少年の姿があった。

 

リン「頑張ってるのね、タツミ!」

 

私に気づいた少年は剣を振るのを止め、照れ臭そうに「へへ…」と笑った。

 

タツミ「おう!ありがとう、リン!」

 

はにかんだ笑顔から一変、眉をキリっとあげ、正面を見つめて再び剣を振るった。

そんなタツミの姿も頼もしく思いながら、訓練所を後にした。

 

 



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怒涛1

久しぶりのアジトでの朝を迎える。

昨日のことがあったからか、寝覚めはとてもいい。

両手を上にあげ深く伸びをすると、もうすっかり目が覚めた。

 

 

朝食を終え、後片付けをしていると

 

マイン「誰か!アタシと訓練なさい!」

 

訓練所の方へとドタバタ走り抜ける音の後に、威勢のいい声が響き渡った。

骨折したマインの腕、昨日治療した甲斐もあってどうやら完治したみたい。

 

…そう、私の帝具は治療行為に特化した「ホーリーチャーム」。

私の精神、生命エネルギーを使って対象者を治療する。

生命エネルギーだけは、敵から頂いて自分に還元することもあるけれど、

戦闘によっぽどの余裕がないと敵から奪うことは難しい。

話にしか聞いたことはないけれど、エスデスからは絶対無理なんだろうなぁ…。

 

食器を全て棚にしまい込み、みんなが汗を流す場所に向かった。

 

 

タツミ「革命軍本部まで遠出?」

ナジェンダ「あぁ。」

 

どうやらボスは、三獣士から奪取した3つの帝具を届けるためにアジトを空けるらしい。

それまでは、アカメがボス代行となる。

 

ナジェンダ「作戦は、"みんながんばれ"だ。」

アカメ「だいたい分かった。」

 

コクッと機械人形のように頷くアカメ。

 

タツミ「おいっ、アバウトだな大丈夫か!?」

ラバック「アレできっちり役割こなすから問題ないって。」

 

ラバがカラカラと笑う。

ふふっ、私もナイトレイドに入って初めてアカメがボス代行になるって時は、内心心配したなぁ。

うーむ…と半信半疑全開のタツミを見て、当時の自分を思い出して可笑しかった。

 

 

ボスが出発した後、各々が独自に散らばっていく。

ラバとレオーネ、タツミはラバが働いている貸本屋兼ナイトレイドの隠れ家で合流するらしい。

アカメは訓練所でマインの手合わせの相手をしている。

私は治療道具の手入れを終えると、ゆっくりと朝風呂を堪能することにした。

 

切り崩された岩場と木々の自然に囲まれた露天風呂。

あまりの快適さに、自分が暗殺者であることを忘れてしまうくらい。

ほどよく温まった湯船に、鼻が出るギリギリまで浸かった。

 

なんだかちょっと、頼もしくなってたな…。

 

ポーッとした頭で思い出すのはラバのこと。

私がアジトを出る前は、女の子の前ではただただお調子者の男の子って感じだったのに…。

 

マイン「物思いにふけってるとこも、まぁまぁ絵になるじゃない?」

 

声のした方へ顔を上げると、湯をゆらめかせながらマインが体を沈めてきた。

 

マイン「おおかた、ラバのことでも考えてたんでしょー?」

リン「ぇ、えぇっ!?」

 

まさかの指摘に動揺が隠せない。狙撃手って、心の中まで的中させるのか。

 

マイン「バレてないとでも思ってた?皆の目はごまかせても、アタシの目はごまかせないわよ。」

 

ふふん、と鼻をならしながら勝ち誇った顔をするマイン。

一気に顔が火照ったのは、温泉のせいだけじゃない。それをマインに悟られたくなくて、話を逸らした。

 

リン「もう手合わせは終わったの?」

マイン「まぁね。やっぱり、さすがアカメよ。息切れ一つしてなかったわ。…って!話そらしてんじゃないわよぉ!」

 

…バレたか。

 

マイン「久しぶりに会って、ちょっとは印象変わったんじゃない?」

 

諭したようなマインの物腰に露天風呂の開放感も手伝って、なんだか気持ちをさらけ出してもいいような気がしてきた。

 

リン「ラバは…ラバのままだよ。お調子者で…女の子好きで。でも、純粋で一途なんだ。」

 

目を閉じて、ラバの姿を思い出す。

 

リン「普段はあんなだけどね。やる時はちゃんとやるし。」

マイン「ふ~ん、そのギャップがいいってことね。」

リン「ちょっ…そこまで言ってない!」

マイン「この後に及んでまだ隠すつもり~?」

 

顔を真っ赤にしながらムキになる私を見て、マインは一層ニヤニヤする。

 

マイン「ま、仕事ではリンとラバが組むことが多いものね。アタシたちが知らない顔も知ってて当然。」

リン「…。」

マイン「で、どうすんの?奪っちゃう~?」

 

右手を口に当て、ムフフと笑いながら私を見る。

 

リン「わ、私は別に…ボスに一途なラバを含めてラバだから…奪うとか…そういうのは…。」

 

自分の予想を越えた指摘に、しどろもどろになってしまう。

 

ラバとどうこうなりたいなんて、考えたこともなかった。

仲間として一緒にいられるだけで楽しいし、ラバはボスに恋をしている。

それになにより、私たちは暗殺者。いつ命を落とすかわからない上に、恋愛が命取りになることだってあるかもしれない。

そんな稼業に身を置いている私が、つ、付き合う…なんてこと…

 

ポカッ!

 

頭に衝撃が走り、一瞬にして意識が現実に戻る。

 

マイン「アンタのことだからド真面目に考え込んでるんでしょーけど、もっと気楽にしなさいよね。」

 

ザバッと景気良くマインが立ち上がった。

 

マイン「アタシ達だって人間よ?仕事ばっかりじゃなくて、息抜きも必要だわ。」

リン「マイン…。」

 

自分に真っ直ぐに生きる姿がとてもたくましく見える。

そんなマインの優しく強い言葉は、私の気付かないところで、私の背中を押してくれていた。

 

 

マインと共に各自の部屋に戻る途中で、酷く慌てた様子のラバとレオーネに出くわした。

 

マイン「どうしたのよ?」

ラバック「急いで会議室に集合してくれ!話はそこでする!」

 

ただならぬ雰囲気を感じとり、私とマインは顔を見合わせると、すぐに指定された場所へと急いだ。

 

アカメ「タツミがエスデスに攫われた!?」

マイン「ナイトレイドの一員だってことがバレたの!?」

ラバック「殺伐とした空気って感じじゃなかったけど…。よく分からない…。五分五分かな。」

レオーネ「どうする?ボス代行。」

 

張り詰めた空気が会議室を包む。

エスデスが主催している都民武芸試合に出場したタツミが優勝し、そのままエスデスに連れ去られてしまった。

ボス不在でのこの一大事…。さすがのアカメも、苦悶の表示が隠せない。

 

マイン「助けに行くとかバカなこと言わないでよ、アカメ。」

アカメ「…。」

 

助けに行きたい。でも、相手は帝国最強の将軍…。

簡単に出せる答えではないことは、誰しもがわかっていた。

だから、ボス代行であるアカメの判断を待つしかない。

 

アカメはしばらく考え込んだのち、一つの覚悟を決めたようにテーブルに差し出した右手の先を見つめた。

 

アカメ「無策で突っ込んだりはしない。…ただ、タツミは大事な仲間だ。出来ることをする。」

 

ーー作戦は、"みんながんばれ"。

自分に出来ることを尽くして必ず仲間を救出してみせる。

 

さっきまで緊張感で満ちていた部屋も、同じ思いを胸にした仲間たちの結束感へと変わっていた。

 

 

------------------------

 

 

俺が紹介した大会で、タツミが連れ去られた。

想定外の事態を目の当たりにして、状況を飲み込むのが精一杯だった。

 

ナイトレイドだってこと、バレてないよな…

冷静を装う仕草に反して、心拍数は上がる一方だ。

 

リン「大丈夫。タツミはきっと生きてるし、必ず連れ戻す。」

 

そんな俺の心の内を読んだのか、リンの柔らかい手が背中に触れた。

 

…そうだな、クヨクヨしてたって始まらねぇ。

俺が蒔いた種なんだ。きっちり落とし前つけてやる。

 

マイン「ボスが不在の今、全員がアジトを離れるわけにはいかない。…かと言って、敵陣に乗り込むのに手薄で行くことほど怖いものはないわ。」

アカメ「エスデスは新しく組織を作ったばかり。お手並み拝見と称して外に出る機会があるはずだ。そこを狙う。」

レオーネ「網を張って、掛かるのを待つってことだな。」

アカメ「側にエスデスが付いているかもしれない。必ず誰かが近くにいる範囲で行動してくれ。」

 

各々が行ける範囲まで前線に出る。危うい作戦かもしれないが、タツミを救うにはそれしかない。

クローステール限界まで包囲網を張った。

 

待ってろよタツミ…必ず助けるからな!

 

 

自身が前線まで出る戦いは、その戦闘スタイルからほとんどない。

最強の将軍とその部下が相手だと思うと手に汗が滲むが、そんな時、あの言葉を思い出す。

 

ーー大丈夫。タツミはきっと生きてるし、必ず連れ戻す。

 

普段は穏やかな雰囲気で周りを和ませるリンだが、仕事となると、途端に彼女を纏う空気が変わる。

内に秘めた強さーーー。

ナジェンダさんとはまた別の強さを持つ彼女の言葉が、今の俺の支えになっていた。

 

 

アカメ「ラバ、どうだ?」

ラバック「いんや、何の反応もねぇ。」

 

俺の近くには、アカメちゃんが付いていた。

メンバーの中で最も機動力が高く、別の位置で反応があった時瞬時に対応できる人物だからだ。

 

アカメ「自分のせいだと思っているのか?」

ラバック「…まぁね。」

アカメ「優勝して連れていかれるなんて、誰も予測できない。ラバに責任はないさ。」

ラバック「ははっ。ありがと、アカメちゃん。」

アカメ「リンも心配していたぞ。」

ラバック「…!」

リン「リンは、優しいな。」

ラバック「…あぁ。」

 

少し赤らんだ頬がバレないように糸の反応を見る振りをしながら返事をした。

 

 



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怒涛2

タツミが攫われてから数日が経った。

交代制の見張りといえど、タツミのことを思うとおちおち休むことも出来ない。

私に疲労回復の力があれば…そう思いながら、首から下げたホーリーチャームを握りしめる。

 

会議室には、腕を組み天井を見上げたレオーネと抱えたパンプキンを見つめるマインが交代の時を待っていた。

ガタッ!

不意にレオーネが立ち上がる。

 

レオーネ「かーっ!ダメだ!ただ待ってるだけってのは性に合わない!」

 

そう声を上げ勢い良く会議室の扉を開けると訓練所の方へ歩いて行った。

私とマインは、そんなレオーネの後ろ姿を見届けると再び俯き、一言も発することはなかった。

 

 

ーーーもう何時間こうしていたんだろう。

そんな思いが頭をよぎったその時、遠くで激しい音が響いた。

 

ドオォォン!

 

マイン「…フェイクマウンテンの方からね。」

リン「まさか…タツミ?」

 

私とマインは少しでも状況がわかるようにと、アジトの外へと飛び出す。

入り口を出たところで、同じく音を聞きつけたレオーネとも合流した。

 

 

------------------------

 

 

ドオォォン!

激しい爆発音とともに、俺たちの潜む木々が大きく揺れる。

 

ラバック「っ危ねぇ!」

アカメ「割と近くから聞こえたな。」

 

ずり落ちそうだってのに、アカメちゃん冷静なのね…。

 

キュルキュルキュル…

 

ラバック「糸に反応がある!ここから川下へ800m先だ。ただ、1人だけじゃねぇ…!」

アカメ「問題ない、葬る!」

 

その言葉を発すると同時に、電光石火のごとく駆けていった。

俺もアカメちゃんの背中を追いかけて行く。

 

 

敵に見つからないよう、林の中を進む。いつの間にかアカメちゃんの姿が小さくなっていた。

…相変わらず早ぇーな。逃げ足なら負けねぇんだが。

 

反応は1人。

インクルシオに似た動きをしていたもう一つの反応は、離れて行ってはいるがまだ結界圏内。

それより気になるのは…

タツミと思われる反応の近くに、なんか蠢いてんだよねぇ。動きからして人間じゃあなさそうだが…

タツミと思われる反応は動く気配がない。さっきの爆発でタツミが負傷してたら、ちょっとピンチかもね。

 

糸の引き具合から様々な憶測を立てる。

もうほとんど見えなくなったアカメちゃんの後を追い続けていくと、視界の先に光が見えてきた。

 

ラバック「おっと…」

 

草木の切れ間には、真っ二つにされた危険種が横たわる。

アカメちゃんか?

そう思うと同時に、目の前に見慣れた二人の姿を確認し、思わず頬が緩んだ。

…が、

 

アカメ「おかえり、タツミ。」

タツミ「あぁ、ただいま…。」

 

おぉぉぉぉい!!

なにラブコメし合っちゃってんのよ!!

 

二人が見つめあって互いの手を取り合おうとした瞬間、

 

ラバック「どーーーーーん!!」

 

思いっきり邪魔してやった。

いや、別に悔しいとか羨ましいとかじゃないからな!

 

ラバック「まずはここを離れなきゃでしょー!ホラ、こっちこっち!」

 

二人の手を引いて、ひとまずこの場を去った。

 

 

 

タツミ「ラバ、お前までありがとな。」

 

アカメちゃんに肩を貸してもらいながらひょこひょこと山道を歩くタツミ。

 

ラバック「お前がいなくなると、男は俺一人。ハーレムだからそれも良かったんだけどさ〜。」

 

こういう時、素直になれない。

 

タツミ「ひっでぇなぁ。」

アカメ「あんなこと言っているが、実際はかなり心配していたぞ。」

タツミ「あぁ、わかってる。」

 

全部聞こえてるっての…。よけい恥ずかしいじゃねぇか。

まぁなんにしても、無事救出できて一安心かな。リンの治療があれば、タツミの傷もすぐ良くなるだろ。

 

…。

俺、真っ先にリンの顔浮かんでねーか…?

アカメちゃんにあんなこと言われたから?

 

いや…もっと…前から?

 

 

------------------------

 

 

冷たい風が頬をさする。

しばらく3人で立ち尽くし、頬だけでなく体も冷え切り始めた頃、

私たちの視線の遠くに待ちわびた光景が映った。

 

レオーネ「タツミ!」

リン「よかった…!」

マイン「ふんっ、田舎者のわりにやるじゃない。」

 

ラバを筆頭に、アカメの補助を受けながら帰ってくるタツミの元へ、3人で走り寄った。

 

レオーネ「おねーさんはなぁ、タツミがいなくて心細かったぞぉ~」

マイン「ま、あのエスデスのとこから帰ってきたんだから認めてやらなくもないわ。」

 

アカメから奪ったタツミをぎゅうと抱きしめ、自慢の胸に押し付けるレオーネ。

腰に手を当て顔を背けながらも、彼女なりの賛辞をするマイン。

それを微笑ましく見守るアカメ。

 

"やっと元に戻った。"

そんな暖かさがみんなの心に宿った。

 

女性陣から一歩引き、頭上で腕を組み安堵の表情を浮かべるラバの元へ、そっと近づく。

 

リン「ふふっ、ちょっと涙目?」

ラバ「…なっ!んなわけないでしょ…。」

 

人差し指で鼻をこするラバ。

恥ずかしい時はウソつけないのも変わってないのね。

 

ラバ「…ありがとね、リン。」

リン「え?」

ラバ「俺のこと心配してくれてたってさ、アカメちゃんに聞いた。」

リン「…ラバも、大切な仲間ですから。」

 

それっぽいことを言ってごまかしたけど、"仲間"だからってだけじゃない。

ラバにだけは…少し特別な気持ちがある。

 

ラバ「仲間…ね。」

リン「? 何か言った?」

 

とても小さな声でつぶやくから、最後の言葉が聞き取れない。

聞き返してみたけど、「なんでも。」と言ってはぐらかされた。

 

 

その日の夜は、タツミの帰還を祝して、みんなで飲んで騒いだ。

事あるごとに飲んでる気がするけど…それもナイトレイドの良いところよね。

ただ、当のタツミはレオーネにガッチリ捕まって酒盛りの相手をさせられているから、ちょっと可哀想だけど。

そして心なしか、マインがそんな二人をチラチラ気にしてる気がするような…。

 

ラバック「メンバーも揃ったし、あとはナジェンダさんが帰ってくるだけなんだけどなぁぁ。」

 

ラバはテーブルにつっぷし、おいおいと涙を流し嘆いている。

 

…あれ?なんか、チクっとする…。

 

ーーーボスを好きなラバを含めてラバだと思うから…。

 

ついこの前、マインにそう言ったばかりなのに。

今までだって、ラバがボスに夢中なこと気にしてなかったはずなのに。

いつの間にか、私の中のラバが大きくなってる…?

 

ラバの方を直視できなくて、目の前に盛大に盛られた料理を見つめる。

 

アカメ「調子でも悪いのか?」

 

ずい、と突然目の前に骨付き肉が現れる。

 

リン「ううんっ!なんでもないよ!ごめんね、心配かけちゃったかな。」

アカメ「謝ることなどない。大事な仲間だ、心配ならいくらでもするさ。」

リン「ふふっ。優しいね、アカメは。」

アカメ「? それはリンだって同じだろう。」

 

私を見て微笑むアカメ。綺麗な朱色の瞳は、全てを知ってくれているような…そんな真っ直ぐな瞳だった。

 

アカメ「食いたい時に食わないと、もったいないぞ。」

リン「そうね。せっかくのお祝いだもんね。」

 

アカメから肉を受け取り、ナイフとフォークで一口分ずつ取り分けた。

アカメの分も…と思ったら、もう片方の手で死守していたらしい骨付き肉を、ガブリとかじっている。

 

リン「もぉ〜」

アカメ「?」

 

 

 

私は…ラバとどうこうなりたいなんて思ってない。

みんなで生き残って、革命を成功させるの。

それが一番の願い。

 

でも…

 

平和な世の中になったら、私の気持ち、伝えてみてもいい…かなぁ。

 

 



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苦境1

胸に小さな決意をしてから、慌ただしい日々が続いた。

 

イェーガーズのメンバーの一人によるアジトの奇襲。

ボスの帰還と、新メンバーのスサノオ、チェルシーの加入。

新しいアジトが見つかるまでのマーグ高地での潜伏。

 

私たちを取り巻く環境が、忙しなくやってきては過ぎ去った。

私とラバはあれから進展もなく、偵察の時にペアを組む、いつも通りの関係だった。

 

 

チェルシー「アタシが地方部隊だった時はまだ風の噂。ま、クロに近いグレーってとこかな。」

ナジェンダ「ヤツの尻尾を掴むべく、革命軍の密偵チームが探っている。」

ラバック「俺たちがその密偵チームと落ち合って、伝達を受けるってわけね。」

スサノオ「ボリックがシロかクロか。安寧道の宗教反乱は、革命において起点となる。そこを潰されるわけにはいかないな。」

リン「まだ不確定要素が多ければ…私たちが、安寧道のあるキョロクで直接調査ってことですね。」

ナジェンダ「頼んだぞ。ラバック、リン。」

ラバック、リン「了解。」

 

 

ーー安寧道。

帝国の東部に位置するキョロクという街で、一人の教主によってまとめ上げられた宗教団体。

"善行により幸せや長寿がおとずれる"という教えが人を呼び、今や一つの勢力として確立するほどだ。

教主の穏やかな性格と超常の力により、信者から絶大の信頼を誇る強固な団体である。

 

彼らの信仰と相反する帝都に対し、近く武装蜂起を勃発させる動きを見せているが、

それを察知した大臣がスパイを送り込み、蜂起の阻止を目論んでいるとの情報が回っている。

 

東の安寧道の武装蜂起を利用し、西の異民族、南の革命軍が帝都に攻め入るのが革命の大枠だ。

この三方からの反乱を成功させるためにも、ボリックを討ち取り、安寧道の内部崩壊を阻止することは必須。

私たちは調査報告を受けるため、事前に知らされていた場所で密偵チームと落ちあった。

 

ラバック「睨んだ通り、やっぱクロだったか。」

リン「ここで安寧道が崩れたら、帝国に反する勢力が削がれてしまう。なんとしても、ボリックを処理しなくてはならないわね。」

ラバック「教団内部のことも頭に叩き込んだし、そろそろ報告に戻りますか。」

 

ボリックが大臣のスパイである裏付けも取り、アジトへと戻る道中だった。

 

???「ククッ。せっかくいいオモチャも手に入ったし、あいつらで遊ばせてもらうか…。」

 

キュイィィィン

 

ラバック「今、変な音しなかった?」

リン「!! 前!」

 

ゴオォォォォ…

 

突如、危険種ともヒトともとれる異形な生物が、土埃と共に、私たちの前に立ちふさがった。

2メートルほどの高さに、大木のような両腕が備わる。

 

ラバック「くっ、なんだよコレ!」

リン「アジトを襲ってきたやつに似てる。」

ラバック「ってことは、科学者サマのお土産ってことか。」

リン「でも、Dr.スタイリッシュは倒したはず…きゃっ!」

 

バキィ!!

危険種が激しく腕を振り回し、道の両脇に構える木々を吹き飛ばす。

飛びかかってくる木片や石をギリギリで避け、危険種と距離を図る。

 

ラバック「なぎ倒されちゃうんじゃあ、隠れても意味ねぇか…。」

 

ラバがクローステールで防御網を張ると、危険種は網めがけて大きな腕を振るう。

 

ズウゥゥン!!

その威力を物語る、凄まじい地響き。両足で踏ん張るラバの体は、ズズッと後方へと滑る。

 

あれに殴られたらひとたまりもないでしょうね…。

けれど、体が大きい分、次の動作への転換が鈍い。

私はその隙をついて裏へ回り込み、殺意の精神エネルギーを込めた注射器を3本、首元へとお見舞いした。

 

ギョオォォォォ!!

 

この世のものとは思えない奇声を発し、膝から力なく崩れ落ちる。

 

ラバック「ナイス、リン。」

 

そう言うと、クローステールを異形種の首へ巻きつけ一気にへし折った。

 

リン「アジトを襲ったやつより精度は落ちているようだけど、一体どこから…。」

ラバック「Dr.スタイリッシュが単独行動をとっていたことを考えても、イェーガーズの報復ってわけじゃなさそうだしな。」

リン「また別の部隊?」

ラバック「だとしたらやっかいだね。」

 

誰が何の目的で?

様々な憶測が飛び交う中、前方から見慣れた黒髪の少女がこちらへ向かってきた。

 

アカメ「ラバ、リン!ここにいたか!」

リン「アカメ!」

アカメ「帝都で新種の危険種が出現している。これらの駆除の任務が決まった。急いで戻ってくれ!」

ラバック、リン「!!」

 

迎えに来たアカメの緊急招集の命を受け、私たちはすぐさま新しく構えたアジトへ向かった。

 

ナジェンダ「やはり、ボリックは大臣の差し金だったか。」

チェルシー「真ーっクロな顔してるもんね〜。」

タツミ「ラバ達を襲ってきた新型の危険種ってのも気になるな。やっぱり、いま帝都で暴れてるやつらの仲間なのか?」

ナジェンダ「なにか関係があることは確かだろうな。」

 

タバコの煙をふぅ…とひと吹きし、言葉を続ける。

 

ナジェンダ「やつらは今も人や家畜を食らっている。イェーガーズや帝国兵が駆逐しているが、数が多く追いつかないそうだ。私たちが手を貸すことは、言ってしまえば帝国に協力する形になるが…いいな?」

タツミ「もちろんだぜ!今回は事情が事情!」

アカメ「話を聞く限り、速やかに葬るべき連中だ。」

 

新型危険種の討伐は帝国側も動いている。

帝国兵士やイェーガーズと対峙することのないよう、俺たちは夜に出動することになった。

 

 

ラバック「ちぇーっ、俺のペアは男かよ。」

 

俺はタツミとフェイクマウンテンの調査担当だ。

この付近ではなかなか高度のある山で、見晴らしがいいといえばいいが、観光用の山じゃないため、道中も落下防止の施しなんてのはない。

落ちたら一環の終わりだぜ…。

 

タツミ「そんな露骨にガッカリしなくていーだろ。」

ラバック「帝国兵とか潜んでねーだろうなぁ…。」

 

肩をすくめてキョロキョロと周りを見渡してみる。とりあえず周囲には何もいねーな。

 

タツミ「ははっ、そんなにビビんなって。」

ラバック「お前ね、臆病さってのは殺し屋が生きる上で必須なんだぜ?」

 

連日の修行で自信をつけたのか、余裕をかましているタツミの方へツカツカと歩み寄った。

 

ラバック「ナジェンダさんだってそう言ってたぞ。覚えとけよ、コラ。」

 

俺の啖呵に圧倒されて言葉も出ないようだ。

 

タツミ「そういえばさ、昼間も思ったんだけど…」

 

と思いきや、ド真剣な顔して含みのある台詞を吐きやがる。

 

ラバック「な、なんだよ…。」

タツミ「ラバはボスのことナジェンダさんって呼ぶんだな。」

 

!!

何言うかと思ったらそこかよ!

って、こんだけ一緒に生活してて気付いてないのかよ!!

 

照れくさいところを突かれたのとタツミの鈍感さとで、返す言葉がなかなか見つからなかった。

 

ラバック「ま…まぁ、そりゃあな。帝国軍時代からの付き合いだからな。」

 

へぇ〜と言わんばかりの表情で、次の言葉を待っている。

この話、続けなきゃダメなのね…。

 

ふぅ、と一息ついて、俺のナジェンダさんへの想いを語ってやることにした。

 

ラバック「…ナジェンダさんが俺のいる地方に赴任してきて、一目見て惚れたね。俺は富豪の家の四男坊だったけど、兵士として志願して、持ち前の器用さで傍に仕える兵に上りつめたってわけ。」

タツミ「じゃあお前がナイトレイドにいるのって…」

ラバック「あの人への愛ゆえに…かな?」

 

前髪をサラッとかきあげてみる。

 

ラバック「帝国抜ける時、記録を死亡扱いにしてついてきたんだ。健気だろ?俺って。…でも報われないんだぜ。泣ける話だろ。」

 

初めて話した俺の一途な愛。これでタツミも俺のこと少しは見直すだろ。

タツミに背を向け余韻に浸っていると、ガシッ!と左肩を掴まれた。

 

タツミ「ラバ…」

 

おっ、今注がれているのは尊敬の眼差しか?

 

タツミ「じゃあ他の女の風呂を覗こうとするなよ!!!」

ラバック「はぁ!!?」

 

ちょっと!想像してた反応と違げーけど!?

しかも!!

 

ラバック「それとこれとは別だろ!?何言ってんのお前!」

 

好きな人がいたって、可愛い女の子が見たいのは男の性だろーが!

 

タツミ「あ、でも…リンの風呂だけは断固として覗かないよな、お前。」

 

ハタ、と何かに気付いたように、俺の方に置いていた手を離す。

 

ラバック「前も言ったろ。あいつを怒らしたら、命がいくつあっても足りねーんだって。」

タツミ「ってか、いつも女の子はちゃん付けで呼ぶのに、リンのことは"リン"なんだな。」

 

!! こいつ…

鈍感なくせに色々痛いとこ突いてきやがる…

 

ラバック「いや…それはまぁ…、リンとは任務で組むことが多いからね。そういう意味では、ナイトレイドの中で一番関わりが深いからかな。」

タツミ「ふーん、息のあったパートナーってわけか。」

 

パ、パートナーって…

なんかそれっぽい響きになっちゃってるけど、そんなんじゃねーし!

しかも俺にはナジェンダさんが…!

 

タツミ「? なに赤くなってんだ?要するに、マインとシェーレみたいな関係ってことだろ?」

 

あ、なるほど…

 

ラバック「そっ、そうそう!そういうこと〜!」

 

アハハハハ、と空笑いで誤魔化す。

…全然誤魔化しきれてはいないが、「変なラバだな。」とだけ言い、タツミはそれ以上は気にしていないようだった。

 

タツミ「それにしても、危険種いそうにねぇなぁ。」

ラバック「糸も張ってるんだが、獲物がかかりゃしねぇ。」

 

クィっと引っ張ってみる。やはり無反応。

 

タツミ「ここらが安全ってなら、ひとっぱしり山頂の方見てくるわ。」

 

背負った剣型の帝具を抜きながら、タツミが言う。

 

ラバック「なんかいても逃げてこいよ、二人でかかるぞ。」

タツミ「了解、すぐ戻る!」

 

瞬時にインクルシオの鎧を纏うと、あっという間に頂上めがけて飛び去っていった。

 

 



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苦境2

頂上へとすっ飛んで行ったタツミの姿は、あっという間に見えなくなった。

フェイクマウンテンは危険も多いが、遮るものがない分、隠れた夜景スポットでもある。

澄んだ星空と、地上にちりばめられた宝石のような街並みを堪能しながら、火照った体を冷ますことにした。

 

俺、ナジェンダさんのこと聞かれた時より、リンのこと聞かれた時の方が戸惑った。

…本当は、わかってるんだろ?

でも素直に向き合ったら、今まで積み重ねてきた心地良い関係が崩れちまいそうで…。

この気持ちは、ナジェンダさんの影に隠してたんだ。

 

それに昔、"みんなと一緒にいるのが幸せ。"リンは、そう言っていた。

だから…このままでいいんだよな。

 

 

キュルルルルル!!

突如、クローステールが凄まじい勢いで反応する。

 

ふもとから山への侵入者!?

なんだこの移動速度…尋常じゃねぇ!

 

得体の知れないモノが、異常なスピードでこちらへ向かってくる。

とっさに、崖のスキマから生えていた木に身を隠す。

 

誰だか知らないが鉢合わせはゴメンだ、ここは隠れてやり過ごす…!

 

 

--------------------

 

 

レオーネ「私がリンと組むなんて、片手で数えるほどだよな〜。」

リン「ふふっ、そうね。レオーネ、私の力がなくてもピンピンしてるからね。」

 

手配書の回っていない私とレオーネは、帝都近郊の調査に出ていた。

ナイトレイド内では、ペアのパターンは大抵決まっている。遠近距離のペアだったり、得意分野が似ているペアだったり。

私は偵察と援護を主としているため、同じく偵察を得意とするラバや、戦闘の際は接近戦を得意とするアカメと組むことが多かった。

レオーネも接近戦タイプだけど、彼女は圧倒的な回復力を持ち合わせているため、ペアを組んだことはほとんどない。

 

レオーネ「この辺はやっぱ帝国の兵とかイェーガーズがやっつけちゃってるんだろうねぇ。なーんにも出てこなくてお姐さんつまんないわ〜。」

リン「出て来ないってことはこの辺は安全が確保されてるんだから、いいことじゃない。」

レオーネ「せっかく気合入れて来たんだし、ちょっとは暴れたかったけどねぇ…」

 

右腕をぐるぐる回し、出て来いと言わんばかりの後ろ姿だ。

 

レオーネ「ま、でもただ歩いてても退屈だしぃ?リンの近況でも聞いとこうかなぁ。」

 

グフフ、と笑いながらこちらを振り返る。

こういう顔…いつかのお風呂場でも見たような…。

嫌な予感がした瞬間、ガバッとレオーネに肩を組まれる。

 

レオーネ「で?戻ってきてだいぶ経ちますけど、進展したのぉ?」

リン「…え!?な、ななな、なんのことだろう!?」

一瞬にして耳まで真っ赤になったのが自分でもわかった。

このやりとりも、お風呂場のデジャヴな気がする…。

 

レオーネ「ふふ〜ん?お姐さんに隠し事しようったって、そうはいかないよ。ライオネルの嗅覚をナメちゃあいけない!」

 

そんな勘まで鋭くさせなくていいのに…!

茹でタコのような顔を下に向けていると、レオーネがふっと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

レオーネ「あたしはね、みんなには笑っててほしいんだよ。ホラ、こんな稼業じゃん?いつ報いを受けるかわからない。だから、何もしないで後悔して欲しくはないんだ。」

 

先陣切って我が道を突っ走っているようで、ちゃんとみんなのことを想ってる。

レオーネの暖かさに触れて、私の頬も緩んだ。

 

レオーネ「んで?ラバのどこが好きなのさ?」

リン「唐突だね…。」

 

気付けばさっきのニヤニヤ顔に戻っている。

そんなレオーネを横目に、ぽつりぽつりと、言葉を紡いだ。

 

リン「…ボスから聞いたの。シェーレが死んでしまった時、ラバは泣いてたって。

怒りじゃない、悔しさじゃない。悲しみの気持ちでいっぱいになった…。そんな優しさが好き。」

 

くすぐったくなって、へへっとはにかんでみると、レオーネがこの上ないニヤケ顔を見せ思いっきり抱きついてきた。

 

レオーネ「もぉ〜〜そういう甘酸っぱいの、お姐さん慣れてないから恥ずかしいよ〜〜。」

 

ニャハハハと言いながら、自身の頬を私の頭に擦りつける。

 

リン「じ、自分から聞いたくせに!ちょっと…苦しいよレオーネ!」

 

こんな話をしながら堂々と闊歩できるくらいだから、帝都周辺の新型危険種は駆逐済み。

そう確信した私たちは、アジトへと戻ることにした。

 

 

 

アカメ「タツミが戻ってこない?」

マイン「あいつ、どんだけ心配かければ気が済むんだか!」

 

一足先に帰っていたアカメやマインと共にダイニングにいると、フェイクマウンテンからラバが一人で戻って来た。

 

ナジェンダ「エスデスか?」

ラバック「糸の重さからして、女じゃなかったね。」

ナジェンダ「あれからタツミも成長している。エスデスでなければ、そう簡単にやられはしないと思うが…。」

チェルシー「一人で突っ走るからよ。」

 

リビングの入り口から声がした。

 

チェルシー「夜のフェイクマウンテンなんて、どんなヤツが潜んでいるかわからない。なのに単独行動を起こすなんて…やっぱり甘いのね。」

 

チェルシーとスサノオが任務から戻ってきていた。

口調はキツイけど、チェルシーの言うことも一理ある。それは誰もがわかっていた。

 

ラバック「一人で調査するのを許したのは俺だ。タツミを甘いって言うなら、俺も同じだよ。」

チェルシー「仲間を庇う、か。優しいんだね〜。ま、それがココの良いところなんだもんね。」

リン「そんな風に言ってるけど、チェルシーも心配なんでしょう?」

 

チェルシーが私たちを"甘い"と言ったのはこれで二回目だ。

でも、以前とは全く違う。タツミに対する厳しさよりも、心配が優っている…そんな顔をしていた。

 

スサノオ「一本取られたな。」

チェルシー「勝手に代弁しな〜い。」

 

やれやれ、という仕草をしながらスサノオとともに私達の輪に入る。

 

ナジェンダ「新型危険種の駆逐とともに、タツミに関する情報収集。これを新たな任務とする。」

全員「了解。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タツミの行方を探す日々が続く。

その一方で、新型危険種狩りはあらかた片付いていた。

 

レオーネ「よーっし!この辺の掃除も完了!いや〜働くって清々しいねぇ。」

チェルシー「結局、タツミの情報はなんにも出てこないね〜。」

マイン「新型危険種のことも、どっから現れたのかとかなんにも得られてないけどね。」

チェルシー「今のところの手がかりは、ラバ達が聞いた音か。」

レオーネ「危険種が出現する前に聞こえたってアレか?おねーさんがいれば、音の元がわかったかもしれないのに、残念だ。」

マイン「フンッ、新しい勢力だろうとなんだろうと、このパンプキンで撃ち抜くまでよ!」

チェルシー「へぇ〜気合い入ってるじゃん、ホ・ケ・ツ♪」

マイン「はぁぁぁあ!?アンタいつまでそれ言うつもりなのよー!!」

 

キャイキャイ言いながら、レオーネの周りをぐるぐる追いかけ合う二人。

 

レオーネ「おーい…任務中だぞ、一応。」

ラバック「張り切ってるねぇ、マインちゃん。」

 

一連の様子を遠目で鑑賞しながら、別の場所を担当していたアカメとラバ、私はレオーネ達に合流した。

 

レオーネ「おぉ、お疲れ。」

アカメ「こちらの地区もほぼ殲滅した。」

レオーネ「さっすが、仕事が早いねぇ。」

リン「でも相変わらず、タツミに関してはなんにも。」

レオーネ「う〜ん…。なぁラバ、タツミはフェイクマウンテンではぐれたんだよな?」

ラバック「あぁ。中々戻ってこなくて様子を見に行ったけど、タツミも、異常なスピードで山頂に向かって行ったヤツも姿はなかった。」

アカメ「もしかしたら、また同じ場所に現れるかもしれないな。」

レオーネ「そんじゃあ、次はあたしが迎えに行かせてもらおうか!この間は待ちくたびれちゃったからな!」

 

言うや否や、ピュン!とフェイクマウンテンの方へと走り去って行った。

 

アカメ「そこに戻るかは確実ではないが…。」

 

親友の声も、レオーネ自慢の耳にはもう届いていないようだった。

 

マイン「ちょっとぉ!単独行動は危険だって言ってるじゃないの〜!」

 

ピンクのツインテールを大きく揺らしながら、レオーネの後を追いかけて行った。

 

チェルシー「ありゃりゃ、マインは先を越されたね。」

アカメ「チェルシーはいいのか?」

チェルシー「え、私!?いやいや、なんで急に振るかな〜。」

アカメ「まぁ、別のところに現れるかもしれないからな。こちらはこちらで調査しよう。」

チェルシー「それ、乗った〜♪」

 

そう言うと、アカメとチェルシーはフェイクマウンテンとは反対の方向へ歩き出した。

 

リン「タツミ、人気者だね。」

ラバック「くそぅ…なんでアイツばっかり…。」

 

取り残されたラバは、振り子のような涙を垂らしながら悔しがっていた。

 

 



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苦境3

レオーネ「あれぇ?タツミ、なにやってんの?」

タツミ「姐さん!」

 

謎の光に包まれ、エスデスと共に遥か遠くの無人島へ飛ばされていた俺。

しばらく島で生活していたが、再び同じ光が出現し、思い切って入ってみた。

その勘も当たり、飛ばされる前に居たフェイクマウンテンの頂上へ戻って来ていたのだった。

 

レオーネ「体育座りって…プッ!」

 

透明化しているとはいえ、存在が消せるわけではない。

共に帰って来たエスデスに気取られないよう、必死に身を固めていた。

で、ちょうど透明化を解いた時に姐さんと鉢合わせたってわけだ。

 

レオーネ「で、でかい図体して…ちょこんと…た、体育座り…アッハハハハ!」

タツミ「笑いすぎだぞ姐さん…。」

レオーネ「アハハ…まぁなんにしても無事みたいだからよしとしよう!」

 

バシンバシン!と背中を叩かれる。生身の姿に戻ったからか、けっこう痛い。

でも、この痛さが姐さんの気持ちなんだよな…。

 

タツミ「ごめん、また皆に心配かけちゃったな。」

レオーネ「んー?まぁね。でもタツミはもう大丈夫って思ってたよ、皆。強くなったって認められてる証拠じゃーん?」

 

頭上で腕を組みながら山を下る姐さんが、こちらをチラリと振り返りながら言う。

気遣ってくれてるんだろうか。

 

タツミ「ラバにも、謝っとかなきゃな。最後に二人で調査してる時に別々になっちゃったし。」

レオーネ「そうそう!ラバと言えば!」

 

何かを思い出したかのように怒りだす。

 

レオーネ「ま〜た性懲りもなく覗こうとしてるもんだからさ〜!指5本イッといた!」

タツミ「ハ…ハハ…。姐さんは容赦なく体の一部持ってくし、チェルシーはちょん切るっていうし…。」

 

俺の心配はいずこへ?という疑問よりも、姐さんとチェルシーには絶対逆らわないでおこうという恐怖が上回っていた。

 

タツミ「二人のお仕置きでもお腹いっぱいなんだが…果たしてリンは一体どんなフルコースを見舞ってくれるんだ?」

レオーネ「ん?なんでリンが出てくるんだ?」

タツミ「ラバが言ってたんだよ。リンの風呂を覗かないのは一番怖いからだって。」

レオーネ「アッハハ!アイツそんなこと言ってんだ。」

 

何の冗談?と言わんばかりにカラカラと笑う。

 

タツミ「違うのか?」

レオーネ「確かに、リンは静かに怒るからね。怖いといえば怖いけど、危害を加えるようなことはしないよ。」

タツミ「そ、そうなのか?じゃあなんでラバはあんなこと…」

 

真剣に考える俺を見て、姐さんは前へ向き直して答えた。

 

レオーネ「ホントに好きな子の風呂を覗く度胸なんてないんだろうねぇ。」

タツミ「えっ、好きな子って…」

レオーネ「あれぇ?気付いてなかったの?少年。」

 

ニヒっとした顔を向けて、ワザとらしくからかってくる。

 

タツミ「えっ!だっていつもナジェンダさんナジェンダさん言ってるよな!?」

レオーネ「ハハッ、あれは照れ隠しだろ。まぁ最初はボスに惚れてたんだろうけどね、今はリンが気になってしょうがないんだろ。」

タツミ「ぜんっぜん気づかなかったぞ…。」

レオーネ「…あの二人も、素直になればいいんだけどね。」

 

ポソっと呟き、こちらを見て優しく笑う。

でもその笑顔は、俺を通して別の人へ向けているように見えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ナジェンダ「タツミ、よく無事に帰還した。皆も、討伐と情報収集ご苦労だったな。」

 

夕食や各々の作業も済み、私たちはボスの待つ会議室に集まっていた。

ここに集合する時は、たいてい大きな仕事が動く。ボスの緊張感からも、それが伝わってきた。

 

ナジェンダ「戻ってきて早々になるが、時間もあまり無い。次の動きへ打って出る。」

 

革命軍の密偵部隊が掴んだ尻尾…安寧道に潜り込むスパイの暗殺だ。

 

ナジェンダ「ここのところ、ボリックの動きが派手になってきている。ヤツが事を起こす前に、我々で処分する。」

タツミ「安寧道は、帝国の反乱分子。ってことは、俺たちの仲間も同然だもんな!みすみす崩壊させはしねぇ!」

ナジェンダ「そして…」

全員「?」

ナジェンダ「イェーガーズがエスデスの率いる隊である以上、大臣の私兵であることには変わりない。今回の任務を円滑に進めるためにも、先に潰しておくべきだろう。」

 

人に見立てたチェスの駒で、もう一つの駒を弾く。

 

ナジェンダ「あいつらは今、全力で私達を狩ろうとしている。ならば帝都の外まで誘き寄せ、そこで仕掛ける!!」

 

イェーガーズとの全面対決…。

帝具と帝具の戦いは、必ずどちらかに死をもたらす。

それが、実力が均衡している両者ならばなおのこと。

彼らとの戦いは、お互いに死という運命を避けられないだろう。

でも…必ず私たちが生き残ってみせる…!

 

 

そう…きっとこの時から、

私たちの秒針は、定められた運命へと加速していたんだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日、私たちは安寧道のあるキョロクへと歩を進めていた。

睨んだ通り、イェーガーズも同じ目的地へ出発したとの情報が入っている。

 

キョロクまでの中間地点となるロマリーの街でイェーガーズの戦力を分散するために、私たちの目撃情報を操作する。

…ボスの狙いはアタリ。

ナイトレイドが東と南に分かれたと知り、イェーガーズも二手に分かれ、私たちを追っていった。

けれど、実際はナイトレイド全員が南側の渓谷で迎撃の構えをとっていたのだ。

 

ラバと私は、ボスを追って東へ向うであろうエスデスが、罠と知り引き返してきた時に足止めをする役目。

息を潜めていると、無数に掛けたクローステールが激しく軋みだした。

 

ラバック「戦い、始まってるみたいだね。」

 

隠れていた木が揺れる。

 

リン「厳しい戦いになるでしょうね。せめて、革命軍のターゲットになっているボルスとクロメだけでも始末出来れば…。」

ラバック「この先誰が倒れても、回復役のリンは絶対逃げのびる。いいな。」

 

実力が拮抗しているからこそ、勝利の鍵は体力や精神力にある。私がそこをサポートすることで、自軍の勝率を格段に上げられるのだ。

勝って次に進むためにも、絶対に倒れるわけにはいかない…!

 

 

地面の揺れを何度か感じた時、ふと、チェックのスカートがひらりと横目に映った。

 

リン「チェルシー!」

ラバック「もうそっちは片付いたの?」

チェルシー「あっちチームでの私のノルマ、終〜わり。」

 

化粧箱型の帝具をラバと私に見せ、ふふっと笑う。

 

チェルシー「正面切って戦うのはもう懲り懲りよ。次は隙をつかせてもらうわ。」

 

チェルシーの帝具は、変身自在なガイアファンデーション。

メイク道具の形をしたアイテムで様々なものに変化し、対象に近づいて暗殺する。

 

チェルシー「…で、火炎放射器持ってるのって、白いマスク男よね?」

リン「ええ、ボルスよ。村を丸ごと焼き払う力を持つ帝具、ルビカンテの持ち主。」

チェルシー「そう…。」

ラバック「って、チェルシーちゃん!?」

 

突然立ち上がると、チェルシーは地面へと降り立った。

 

チェルシー「エスデス達の足止めは任せたわ。よくは知らないけど、ボスが認めるほどだもの。ラバの奥の手、頼りになるんでしょ?」

ラバック「まぁ…時間稼ぎ程度なら、だけどね。」

チェルシー「オッケー、そっちはよろしく!」

 

何か策があるかのように、一人林の中へと入っていく。

 

リン「一体、どこへ?」

チェルシー「私は私のやり方で確実に仕留めさせてもらうわ。まぁ任せなさいって。」

 

そう言い残すと、チェルシーの姿は林の奥へ消えて見えなくなった。

 

リン「一人で大丈夫かしら…。」

ラバック「チェルシーちゃんも、アカメちゃんと同じくらい任務を成功させている手練れだ。何か策があるなら任せて大丈夫でしょ。」

 

心配ではあったけど、今は自分たちに命じられた任務に集中した。

 

 

しばらく潜んでいたが、エスデスが引き返してくる気配はない。布石として配置しておいた賊が役に立っているのだろうか。

その間にも、仲間達の命の削りあいの怒号が何度も轟く。

イェーガーズ…やはり対峙するだけあって、そう簡単に決着をつけてくれそうにないわね…。

そう思った瞬間、辺り一面を激しい閃光が覆いつくし、少し遅れて鼓膜が破けそうなほどの爆発音が鳴り響く。

 

ゴオォォォォオ!!

 

リン「…っ!」

ラバック「まさか…ルビカンテの自爆!?」

 

爆発音とともに、爆風が襲ってくる。

 

ラバック「最終手段を引っ張ってくるってことは、こっちが優勢だったのは確かだろうね。」

リン「今ので、一人は倒した…?」

ラバック「いや、なかなか一筋縄じゃいかないみたいだぜ。」

 

ラバの糸は、自爆を引き起こした本人がまだ生きていることと、向かった先がチェルシーと同じ方向だということを示していた。

 

ラバック「後を追おう!」

 

 

ラバの意図を頼りにチェルシーとボルスの後を追っていくと、広場の中でチェルシーが見事ボルスを仕留めた姿が映った。

 

ラバック「逃がさずかっちり標的を仕留めるなんて、さすがチェルシーちゃん。」

チェルシー「ラバ、リン!」

ラバック「みんなと合流しようぜ。」

チェルシー「…私はこのままクロメを追って、エスデス達と合流する前に仕留める。」

リン「なっ…!」

ラバック「おいおい、さすがに危険だぜ!ここで無茶するキャラじゃないだろ!」

チェルシー「このままクロメを逃したら、また体制を整えて襲ってくる!そっちの方が危険でしょ!」

リン「でも…」

チェルシー「二人は戻ってこのことを皆に伝えて。で、新しく戦闘タイプを2人派遣して。」

 

いつもなんとなくかわすチェルシーだけど、この時の彼女には鬼気迫るものを感じた。

 

ラバック「…わかった。でも、くれぐれも無茶は」

チェルシー「しないよ。エスデスと合流してたら、とっとと引き返すし。」

ラバック「すぐに援軍を向かわせるからな!行こう、リン。」

チェルシー「よろ〜!」

 

クロメの追跡をチェルシーに任せ、私たちは臨時のアジトへと走った。

 

 

ナジェンダ「なるほど、ボルスは仕留めたか。」

マイン「あいつ、単身でクロメを追ったのね。」

リン「これまでの情報を合わせると、クロメはドーピング以上の何かをしている。どんな動きをするかわからない以上、チェルシーでも攻撃を当てられるか…。」

マイン「援軍は、急いだ方がいいわね。」

ナジェンダ「アカメ、タツミ!聞いた通りだ。まだ回復し切っていないと思うが、急いでチェルシーを援護しろ!」

アカメ、タツミ「了解した!」

 

 



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苦境4

"すぐ近くにいたのに"

ーーまた一つ後悔が増える

 

"今度こそは"

ーーもう何回目だよ?

 

周りから言われるほど、器用なんかじゃない。

弱さを隠すために装ってるだけなんだ…。

 

 

標的を追ったチェルシーちゃんのことは、援軍として向かったタツミとアカメちゃんに任せることにした。

 

本当は俺がサッと華麗に助けたいところだが、俺に与えられた仕事は、吹っ飛んだレオーネ姐さんの左腕をサッと華麗に縫合することだった。

 

スサノオ「マインの応急処置は大体終わった。」

リン「ありがとう、スーさん。後は任せて!…と言いたいところだけど、さすがはスーさん。完璧に処置してある。」

ナジェンダ「ふふん。さすが私の帝具だ。」

マイン「ハイハイ。でも本当にすごいわね、全然痛くないわ。」

 

くっそー…ナジェンダさんもマインちゃんもリンも、スーさんばっかりチヤホヤしやがって。

 

レオーネ「まぁまぁ妬くなよラバ。私の腕は、ラバとの連携じゃないと治らないんだぞ〜?」

ラバック「ハハ…お気遣いどーも。って俺、糸縫ってるだけなんだけどね。」

 

 

部屋の中に、ひんやりとした空気が流れ込む。

 

あぁ、雨降ってきたのか…。

 

人目につかない林の中へ建てた仮住まいのアジトは、ログハウスタイプ。外の空気や湿度がダイレクトに伝わってくる。

仮アジトの外は、いつの間にか灰色に染まっていた。

 

雨の中、仲間の帰りを待つ。こんな時は嫌でもシェーレさんのことがフラッシュバックしてしまう。

もう…あんな悲しい思いは沢山だ。

 

またあの言葉を聞きたくて、無意識にリンの方を見る。

俺の視線に気付いたのか、こちらを見て微笑む。「大丈夫。」…まるでそう言ってくれてるかのように。

俺の弱さも全部包み込んでくれるリン。

それが、自分でも気付かないうちにすげー救いになってたんだ。

あの笑顔は…絶対に失いたくない。

 

 

部屋の中にまで音が聞こえてくるほど、雨足が強くなっていた。

窓の側に立ち、外を眺めていたナジェンダさんがハッとする。

…が、一瞬悲しい目をして、静かに瞑った。

 

キィ…

ログハウスの扉がゆっくりと開き、ナジェンダさんが目を瞑った意味を、誰もが知る。

 

帰ってきたのは…タツミと、アカメちゃんだけだった。

 

 

 

"チェルシーは助けられなかった。"

アカメちゃんの言葉を最後に、誰も一言も発することなく時間だけが過ぎていく。

外の空気を吸おうと、俺はそっとアジトを出た。

 

雨は上がっていたが、灰色の景色は変わらない。

 

あの時、俺が付いていればチェルシーちゃんは助かったかもしれない。

タツミだって、エスデスに攫われた時も無人島へ飛ばされた時も、俺が近くにいたのに…

 

"今度こそ"って意気込んでみても、結局誰も救うことが出来ない。

後悔ばかりが積み重なって、ちっとも前に進めない。

俺…なにやってんだよ…

 

ナジェンダ「お前が物思いにふけるのも珍しいな。」

ラバック「ナジェンダさん…。」

 

いつの間にか、ナジェンダさんが隣で煙草を吸っていた。

 

ナジェンダ「帝国兵の時から共にいるが、お前のそういう姿は初めて見るかもな。」

 

近くに手頃な切り株を見つけて腰掛ける。

俺のこと、追ってきてくれたのか。

 

ラバック「…俺、臆病だからさ。だんだん皆がいなくなっちまって、本当は怖ぇんだ。」

 

ナジェンダさんは何もかも見透かしていそうで…だから、本音を打ち明けてみる。

 

ラバック「でも、タツミやアカメちゃんみたいにバリバリの戦闘タイプじゃない俺に、なにが出来んのかな…って。」

 

俺の弱音を聞き終えしばらく沈黙していたが、口に含んだ煙をゆっくり吐き出した。

 

ナジェンダ「…迷うな、ラバック。お前は、お前が本当に大切だと思うものを守れ。」

 

俺が…本当に大切なもの…

 

ナジェンダ「もう、気づいているだろう?」

 

 

後悔はいつだって付いて回る。

自分の非力さに心が打ちのめされる時だってある。

でも…その分、思いは強くなっていくんだ。

 

ナジェンダ「先に戻ってるぞ。風邪、引くなよ。」

 

決意を胸にした俺を見て、安心したようにその場を去っていった。

 

 

 

"すぐ近くにいたのに"

ーーだから、間に合わないことなんてない。

 

"今度こそは"

ーー必ず、守ってみせる。

 

 



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激情1

イェーガーズとの激突から数日、ついに俺たちは教団本拠地のあるキョロクに到着した。

そこでのアジトは、既にキョロク入りしていた革命軍の別部隊が確保してくれている。

各々街に出て情報を集めに出ることとなり、探索のメインである大聖堂付近の調査は俺が張り切って志願した。

 

ラバ「迷路のような街並だな…。これだけ人が多いと、紛れ込めるから探りやすくて助かるけど。」

 

一般人のように練り歩きつつも、地形を叩き込んだり路地裏や地下通路がないか探る。

偵察において、視線の配り方でバレることも少なくないが、俺はそんなヘマはしない。

さくっと調査して、ポイントアップしてやるぜ。

 

メズ「ねぇシュテン、あいつちょっと周囲を探る動きしてない?」

シュテン「多くの修羅場をくぐってきたものの足運びだな。」

メズ「じゃあクロだね、殺しちゃおうぜ。」

 

この時までは、まさか歩き方でバレているなんて思いもよらなかった。

 

 

--------------------

 

 

リン「ボス、どうやらボリックの護衛に羅刹四鬼がついているとの報告が。」

ナジェンダ「羅刹四鬼…大臣お抱えの処刑人で、生身で帝具使いと渡り合えると言われている実力者達か…。」

リン「大臣は、イェーガーズにもボリックの護衛に付くよう指示したようです。」

ナジェンダ「イェーガーズに羅刹四鬼…両者を一度に相手にするのは苦しいところだな…。だがこの任務、必ず成功させる。」

リン「えぇ、もちろんです。」

ナジェンダ「最大限に注意を払うよう、街に出ている皆にも伝えてきてくれ。」

リン「了解。」

 

 

--------------------

 

 

ラバ「くそっ!いきなり襲ってきやがって!」

シュテン「ハハァ!逃げ回るだけか小僧!」

ラバ「ぐっ!」

 

ドシャア!!

筋骨粒々な巨漢の男のパンチが背中にクリーンヒットし、そのまま地面に打ち付けられる。

 

シュテン「ん?なんだ、死んだのか。手ごたえのない。」

 

俺は瞬時にクローステールで脈を止めていた。ここはやり過ごすのが正解。

…ってか、早く行ってくれよオッサン。いつまで死んだフリしてればいーんだ!

 

メズ「ほーらシュテン、もう一人女がそっち行ったよ!そいつも反乱分子の密偵!」

 

ありゃ…俺が合流するはずだった子かな。

すまないが助けられねーぜ。密偵である以上、こういう覚悟は出来てるはずだ。

 

密偵「キャァァ!」

 

密偵の子は、シュテンと呼ばれた巨漢男と色黒の女に挟まれてしまう。

 

シュテン「俺が迷える魂を解放してやろう。」

密偵「ぐ…ぐぅ…」

 

ギリギリギリ…

大柄な男の手が、密偵の子の華奢な首を左手だけで締め上げる。

 

密偵「…く…た、たすけ…」

 

…くそっ!

 

シュッ!

気付けば俺は立ち上がり、大男目掛けてナイフを投げつけていた。

男は後ろから投げられたナイフを、二本の指でいとも簡単に受け止める。

 

ラバック「あ〜やっぱりダメだ!味方の女の子見殺しにはできねぇ!」

メズ「バッカだなぁ〜、そのまま死んだフリしてりゃーいいのに。」

 

脈を止めていたカラクリには気付いていないらしい。

 

ラバック「俺はさ…自分のポジション考えて、正面きった戦いは極力避けてんだ。」

 

さっきまでの俺とは違う気迫を感じ取り、大男が締め上げていた女の子の首を離して構えを取る。

 

ラバック「でも、いざガチで戦うとなりゃあとことんやるぜ!」

 

キュイイイイン!

両手を広げ、クローステールの糸を張り巡らせる。

 

ラバック「二人まとめてかかってきなぁ!!」

 

 

--------------------

 

 

リン「ラバ!」

 

戦いを終えそのまま裏路地を歩いていると、背後からリンが追いかけてきた。

 

ラバック「おぉ、リン。何か掴めたのか?」

リン「ボリックが自身の護衛にイェーガーズと羅刹四鬼を付けたわ。」

ラバック「あ〜それね、今羅刹二鬼になってるんじゃない?」

リン「ど、どういう意味?」

ラバック「俺もやるときはやるんだぜ?」

 

自慢気に右手でガッツポーズを取る。

 

リン「倒したの?羅刹四鬼を?」

ラバック「まぁね。いつまでも逃げ回ってばっかじゃいられないからさ。」

リン「…バレたのね、調査してるのが…。」

 

ギクッ!!

 

リン「作戦成功のために一番大切な情報収集…失敗したら命取り。もちろん、身に染みてわかってるわよね?」

 

わ、笑いながら怒ってやがる…

やっぱナイトレイドで一番怖ぇーっての、間違いじゃないんじゃないの!?

 

グイッ

行き場のなくなったガッツポーズが引っ張られ、その勢いで俺はリンと向き合う形になった。

げっ、何?ビンタ??パンチ??

 

リン「隠したってダメだよ、わかってるんだから。」

ラバック「へ? …イッテテテテテテ!!」

 

オッサンと可愛いこちゃんにやられた部分をグッと指で押された。

そこ…一番痛いとこ!!

 

リン「軽く押しただけでこんなに痛むなんて…無茶しすぎよ。早くアジトに戻りましょう。」

ラバック「…ハイ。」

 

ザシュッ!!

 

刃物で切られたような音と共に、リンが崩れ落ちる。

ラバック「!? おい、リン!」

スズカ「うぅ〜ん、急所は外したようだね。」

ラバック「誰だ!」

スズカ「シュテンとメズを殺ったのはアンタ?うちを二人も相手になかなかやるじゃない。」

ラバック「…羅刹四鬼か。」

 

目線の先には、顔に横一文の傷痕が付いた女が立っていた。

やべぇな、さっきのでだいぶ消耗しちまってる。羅刹四鬼ともう一戦はキツイか…。

 

リン「ラバ…逃げて…。」

ラバック「…冗談。三鬼倒してお前も助けて、一躍ヒーローになれるチャンスなんだぜ?」

スズカ「ホラホラお喋りはそこまでだよ!」

 

両手の指先から伸びた爪が俺とリンを襲う。

 

ラバック「くっ!」

 

防御網を張り、刃物のような爪を防ぐ。

さっきの二人といい、こいつといい、体が帝具みたいなもんかよ!

 

スズカ「よそ見してたら殺られちゃうよ〜?」

 

瞬時に背後に回った女が次の攻撃を繰り出す。

くそ、全部防ぎきれねぇか…!

何本かの爪が糸を擦り抜け首元に差し掛かった時、

ザッ!

リンの治療道具のメスが、女の爪を切り落とした。

 

ラバック「サンキュー、助かった。」

リン「足手まといにはなりたくないものね。」

 

俺が応戦している間に止血をしたらしい。だが完全には治療出来ていないようで、フラフラしながら立ち上がる。

 

ラバック「無理はするな、ここは逃げるぞ。」

リン「そうね、なんとか相手の隙を作るわ。」

 

余裕を見せる女を前に、俺とリンもそれぞれの武器を手に取った。

 

 

 

 



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激情2

ガガガガガガ!

路地の幅を超えたそれは、邪魔だと言わんばかりに左右に建つ家や店に深い爪痕を残していく。

 

リン「ここだと一般市民に被害が出るわ!」

ラバック「街の外まで誘い出すしかないか…」

 

リンは近くにあった瓦礫を包帯で巻き取り、勢いをつけて地面へ叩きつけた。

衝撃でアスファルトの欠片や土埃が舞い上がり、相手の視界を塞ぐ。

その隙にクローステールでトラップを作りつつ、街の境界へ向かって駆け出した。

 

スズカ「この糸の切り口…なかなか刺激的。」

 

女は糸をかわすどころか、切られるのを楽しんでるように見える。

でもそれで女の進行速度が遅くなったのは確かだ。ある意味トラップ成功か。

 

少し走った先に、街の終わりを示す塀が現れた。

帝国以外で境界に塀を構えるのは初めて見るが、それだけ教団の力が大きくなっているということだろう。

 

自分の身長より少し高い塀を飛び越えると、栄えた街から一変し、大小に隆起した赤茶色の岩山が広がった。

早くリンを治療させないとヤバイ。止血した部分から少し血が滲んでいる。

 

 

ラバック「この辺なら身を隠せそうかな。」

 

街から離れてしまったが、岩山の合間で身を潜めた。

 

リン「ごめん…やっぱり、足手まといになっちゃったね。」

ラバック「なーに言ってんの。お前のフォローがなかったら、俺あそこでやられてたし。」

リン「とりあえず、応急処置は終わったから大丈夫。」

ラバック「相手の気配が完全になくなったら街に戻るぞ。」

スズカ「街に帰る前にさぁ…もっと攻めておくれよ。」

ラバック、リン「!!」

 

上を見上げると、女が崖の上でクスクスと笑っていた。

 

ラバック「姿は隠したつもりだったんだけどね。」

スズカ「別に見えなくったって関係ないさ。美味しそうな血のニオイがしたからねぇ。」

 

撒くこともままならないってか。

 

ラバック「防戦一方じゃ許してくれないってんなら…これでどうだ!」

 

高速で糸を束ねて、身長の倍もある大きな斧を作り上げる。

 

ラバック「くらえ!!」

スズカ「へぇ…器用なもんだ。」

 

両ひざを目一杯折り曲げ、女へと飛びかかる。その力を利用して斧を思いっきり振り下ろすが、右にかわされる。

女の動きを読んでいたリンが、女が避けた位置へ即座に注射器を投げつけた。

 

スズカ「いいコンビネーションだけど…」

 

避けた勢いを殺さず一回転し、注射器を弾く。

 

スズカ「手負いで不完全燃焼なのかしら。もっと鋭く来てくれなくちゃ。」

 

斧を振り下ろした遠心力で空中に舞っていた俺は、腰元に手刀をぶち込まれ、思い切り地面へ叩きつけられた。

 

ラバック「ぐっ!!」

 

シュルルルル!

地面スレスレで糸のクッションを敷き、激突を免れる。

 

スズカ「へぇ〜、シュテンとメズを殺っただけはあるんだねぇ。」

 

体に巻きつけた糸で防御するも、帝国至高の武術を極めた者の手刀はかなりのダメージをくらう。

俺もリンも、余裕かましてる場合がねぇ。クローステールが相手の体にさえ刺されば…。

 

女は攻撃の手を緩めることなく、やっと立ち上がった俺へと向かってくる。

 

スズカ「ボロボロのやつを相手にしても張り合いないし、そろそろ戯れは終わりにさせてもらうよ!」

ラバック「容赦なしかよ…!」

 

鋭く光る爪を防ごうとクローステールを構えた時、風のように白く細長い布が横切る。

女の攻撃と同時に放ったリンの包帯だ。

 

スズカ「クスッ、そうくると思ったよ。」

 

ニヤリと笑う。

自分へ向けて放たれた包帯のムチを飛んでかわし、俺の頭上を超えてリンへ襲いかかる。

 

リン「しまった!」

ラバック「くそっ狙いはリンか!」

スズカ「まずは一人目!」

 

 

ザシュッ!!!

 

 

血飛沫が舞う。

 

女の顔に、飛び散った返り血が付着する。

 

全てがスローモーションに映り、一連の出来事が走馬灯のように頭の中を過ぎ去って行った。

 

 



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激情3

リン「ラバァァッ!!」

 

女の爪を受けたのは、俺だった。

 

スズカ「カノジョを守るなんて男だねぇ、そういうの嫌いじゃないよ。」

ラバック「こんな時じゃねぇと…いいとこ見せらんねぇからなぁ…。」

 

ドクン…ドクン…

心臓の鼓動に合わせて、切られた腹から血が流れる。

 

スズカ「いい男だってのは認めてあげるさ。でも、ここでお別れだ。」

 

女がゆっくりと右腕を振り上げた。

リンがその手に向かって一刀のメスを投げる。小さなメスは、女の腕にかすることなく上方へ飛んでいく。

 

スズカ「アンタも朦朧としてるのかい?すぐ楽にしてあげるよ。」

 

…いや、キッチリ正確なピッチだぜ?

 

プツン!

布が切れる音がした後、ガラガラと音を立て、女目掛けて無数の岩が落ちる。

 

スズカ「!! トラップか!」

 

岩を回避するために後方へ飛んだその時だった。

 

ズブッ…

 

スズカ「…カハッ!」

 

女の胸を、クローステールを束ねて創った槍が貫いた。

 

スズカ「まさか…全部…」

ラバック「あぁ…。確実にクローステールの餌食にするためのトラップだよ。」

 

膝についた砂を払い、ゆっくりと立ち上がって女の方へ歩み寄る。

 

スズカ「女が…あそこから動かなかったのは…」

ラバック「お前をあの位置までおびき寄せるためさ。」

 

女の体内にある槍が少しずつ一本の糸へとほつれていき、心臓へと走る。

 

スズカ「…じゃあ…最初の斧を回収せずにあのままだったのも…」

ラバック「お前に気付かれないよう槍に変形して、背後から仕留めるためだ。」

スズカ「フフ…これを追いかけながら考えてたってのかい…。痺れるくらい頭の回転が早いやつだ…」

 

観念したように、目を瞑った。

 

ラバック「さっきのお前の言葉じゃないけど…。苦しいだろ?そろそろ楽にしてやるよ。」

 

グッ!

心臓を握りつぶすように糸を引く。

 

スズカ「グハッ!」

 

女は一気に血を吐き出すと、ピクリとも動かなくなった。

 

ラバック「くっ…」

 

終わった開放感からか、どっと疲れが押し寄せた。

 

リン「ラバ!」

 

しゃがみ込む俺の元に近づき、止血をする。

ただ、リン自身のコンディションも良くない。これ以上能力を使わせるわけにはいかないな…。

 

ラバック「このまま夜道を歩くのは危険だね…。明るくなるまでどこかで待機しようか。」

 

小高い崖に浅い防空壕のような穴を見つけ、そこで一晩を明かすことにした。

 

 

周りに遮るものがない景色。雲もなく、澄んだ星空が眼前に広がる。

こんな状態じゃなけりゃ、最高のシチュエーションってやつなんじゃないの?やっぱとことん損な役回りばっかだな、俺…。

 

運のなさに目眩がしたか、血の流しすぎで貧血か…足元がフラつき始めたのでその場に腰を落とす。その隣にリンが座った。

 

ラバック「…リンは大丈夫?」

リン「私は平気よ。それより早くラバの手当を…」

ラバック「それはダメだ。今の状態でその帝具を使ったら…お前が死ぬぞ。」

 

回復の力は、リンの生命エネルギーを使用する。自身の状態が左右され、瀕死の時に力を使えば、術者の生命エネルギーがゼロとなり死に至る。

 

リン「でも、今ちゃんと治療をしないとラバが…!」

ラバック「たとえ俺がいなくても、皆が革命を成功させてくれる…。」

リン「そんなこと言わないで…!ナイトレイドには、あなたの力が必要なのよ!?」

 

かわしてみるが、リンの険しい表情は変わらない。

 

ラバック「リンの能力は勝利に不可欠なんだ。」

 

リンは徐々に俺から目線を外し下を向くと、作った両手の拳を見つめた。

 

リン「…ナイトレイドの…ためだけじゃない。」

 

小さく体が震えている。その手に、ポツリと雫が落ちた。

 

リン「私が! …私が、あなたに生きていてほしいから…!!」

 

いくつもの雫を落とし、肩で息をしながら呼吸を整えている。

ふと、彼女が顔をあげた。

 

リン「好きなの…ラバック…。」

 

ドキン…!

大きく鼓動が鳴った。

 

ふいに名前を呼ばれたから?

泣き顔が美しく見えたから?

いや…

 

ラバック「リン…」

 

ポロポロと涙を流す彼女を見つめる。

 

ドキン…ドキン…

 

何か言わなくちゃ

そう思っても、言葉が出ない。

それでも無意識に、彼女の頬を伝う涙を手で拭った。

 

少しずつ落ち着きを取り戻す姿を見て、やっと言葉がこぼれ落ちる。

 

ラバック「俺は…」

アカメ「ここに居たのか!」

ラバック「!?」

 

突然の大きな声に驚き振り向くと、逆光の中に、ロングヘアーがなびく姿と、耳と尻尾が揺れる姿が映った。

 

リン「アカメ?レオーネ?」

 

アカメちゃんが急いでこちらへ走ってくる。その後ろを、邪魔してごめん!という顔とポーズでレオーネ姐さんが歩いてきた。

 

アカメ「二人とも、なかなか帰ってこないので心配したぞ。」

リン「ごめんなさい…私が付いていながら。」

 

ボロボロの俺と自分の姿を見られ、役目を全うできていないことを悔む。

 

アカメ「何を言っているんだ。二人とも生きてる、それで十分だ。」

ラバック「姐さんが探してくれたの?」

レオーネ「あぁ、二人の匂いを追ってきた。さすがに血の匂いが混ざりはじめた時は焦ったけどね。でも…」

ラバック「心配かけて悪かった。」

 

何か余計なことを言われそうだったから、思い切り遮る。

 

アカメ「さぁ、帰ろう。」

 

俺とリンは、アカメちゃんとレオーネ姐さんの肩を借りながらアジトへと向かった。

 

 

さっき言えなかった言葉…

 

戦いもなにもかも全部終わって、平和な世の中ってやつになったら

ちゃんと伝えるか…あいつに。

 

 



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慟哭1

マイン「いったぁぁぁぁぁい!!!」

 

傷口に消毒液を塗られたマインが泣き叫ぶ。

 

リン「パンプキンがオーバーヒートするまでエネルギーを放出したっていうのに…それだけ元気なら安心ね。」

タツミ「ちっちゃい体して、無茶すんなよな。」

マイン「ち、ちっちゃいですってぇ!?ちょっと口には気をつけなさいよねー!!」

 

タツミに牙を向くマイン。

腕や体が包帯で固定されて動けずにいる分、顔がよく動くこと。

 

ナジェンダ「安寧道の脅威であったボリックも始末した。これで残る標的は大臣のみ…。我々にとって、最後の大仕事だ。」

 

 

ラバと私がアジトに戻った数日後、教団の全信者達が集まる設立祭に乗じて、ボリック暗殺に踏み出た。

外部から突入して撹乱する側と、内部に潜入してボリックを暗殺する側に分かれ、潜入組のラバがボリックを始末。

確かに、ボリック自身に戦闘力があるわけでもなく、暗殺対象としては底辺クラス。

でも、あの傷が癒えないまま動くのは、本人が気付かないところできっと負担になってる。これ以上無理しなければいいんだけど…。

 

 

ナジェンダ「キョロクでは、イェーガーズや羅刹四鬼とも対する中、皆よくやってくれた。」

 

火のついた煙草を灰皿に押しつけ、鋭い眼光が潰れたそれを捉える。

 

ナジェンダ「しばし体を休めたら…いよいよ戻るぞ、帝都に。」

 

最後の決戦。

ここでの勝敗が帝国の…いえ、国民の将来を決める。

でももう気負いする者はいない。絶対に成功させる、その気持ちがみなぎっていた。

 

 

 

リン「この戦いが終わったら…レオーネはどうするの?」

 

私とレオーネは、涼風が通り抜ける崖の上で、夕焼けに照らされる帝都を眺めていた。

 

レオーネ「あたし?うーん…マッサージ屋続けるのもいいし、旅するのもいいし…やりたいこと色々あって困るなぁ〜。」

リン「ふふっ、レオーネらしい。」

レオーネ「とにかくさ!みんなが楽しく過ごせればそれでいいかなって!」

 

夕日に負けないくらい、レオーネの笑顔も眩しく輝く。

 

リン「そうだね。私も、みんなが幸せになれる国が見たい。」

レオーネ「もちろん、リンもな。」

リン「え…?」

レオーネ「幸せになるってこと!何があったかは聞かないけどさ、ちゃんと前に進んでるんだろ?」

 

前に…か。

私が一方的に伝えてしまっただけなんだけど

 

リン「…うん。」

 

それでも、何もしなかった頃からはちゃんと進んでいるのかもしれない。

 

レオーネ「でーもさぁ〜!お姐さんはもっとこう、ラブラブしてるのを見たかったわけよ〜!」

 

自分で自分を抱きしめながら嘆いている。

 

レオーネ「それが二人ともなんかぎこちなくなっちまって!お姐さんにも甘酸っぱいエキス吸わせて欲しいっていうのに…。」

 

怒ったり泣いたり、くるくると表情が変わる。

 

リン「レ、レオーネ?別に、ラバとどうこうなったわけじゃないよ。」

レオーネ「はっ!?」

 

ピタッと動きを止め、目を大きくしてこちらを見る。

と同時に、そういや邪魔しちゃったんだったね…と申し訳なさそうにうなだれていた。

 

リン「あの時は状況が状況だったから。…だからね、この革命が終わったら、もう一度ちゃんと伝えてみる。」

 

レオーネは目を輝かせながら、うんうんと大きく頷く。

 

レオーネ「自分の気持ちに素直なリン、好きだ!」

リン「きゃっ!」

 

頭をワシャワシャと撫でられ、髪の毛や髪飾りが乱れる。

そんな私を見てお腹を抱えて笑うレオーネ。

髪を乱した張本人が大声で笑うのを見て、つられて笑う私。

 

 

こんな時間が永遠になればいいのに。

 

ーーううん、永遠にするために私たちは戦う。

 

最終作戦決行の日は、すぐ側まで来ていた。

 

 

------------------------

 

 

久しぶりに戻ってきたアジト。あとは安寧道の武装蜂起に乗っかり帝都に攻め入るだけ。

だが、キョロク解放を帝都側も非常事態と受け止め、これから来るであろう革命の波に対抗する為に、

エスデス、ブドーといった帝都最強クラスの将軍だけでなく、大臣の息子まで出てきたって話だ。

あちらさんも、主力を揃えて迎え撃つ準備万端ってわけだな…。

 

俺とタツミは、宮殿内で働くレジスタンスと協力し、革命軍の突入を内側から支援する役割を担っている。

その日に備えるためさっそく帝都入りし、レジスタンスと落ち合うことにした。

 

タツミ「本当に休んでなくてよかったのかよ?キョロクじゃ羅刹四鬼3人も相手にしてんだ。まだ本調子じゃないだろ。」

ラバック「タツミちゅわ〜〜ん、心配してくれてるの?」

タツミ「バカ、離れろって。」

 

抱擁しようとするが、タツミの手は俺の頬を押して拒む。

 

ラバック「最後の大仕事になるんだぜ。下準備は慎重すぎても足りないくらいだ。ここで俺が出なくてどうする。」

タツミ「…リンに、こっちに来てもらえなかったのか?」

 

言いにくそうに問いかけてくる。

最近、タツミがやけにリンの名前を出すようになった気がするが…レオーネ姐さんあたりが変なこと吹き込んでんじゃねーだろうな。

 

ラバック「…下準備とはいえ、俺たちが潜入するのは国を動かしている中心部だぜ?どんな仕掛けがあるかもわからない。」

タツミ「そうだけど…。」

ラバック「負傷が避けられない中で、回復能力を持つってのはナイトレイドの切り札みたいなもんだからね。ここでリンの力を失くすわけにはいかないよ。」

 

その言葉に、タツミが立ち止まる。

 

ラバック「どした?」

タツミ「…失くしたくないのは、能力なのか?」

 

俯いたまま問いかけてくる。

俺は、何も答えられない。

 

タツミ「こんな時だからこそ、もっと素直になれよ。」

 

顔を上げ、真っ直ぐな目で訴えてくるタツミ。その純粋な眼差しを直視することが出来ず、タツミに背を向ける。

そして、一呼吸置いてから答えた。

 

ラバック「バーカ。お前に言われなくてもわかってるよ〜。」

 

ポケットに突っ込んでいた右手を出し、ヒラヒラさせながら先へ歩き出す。

 

タツミ「…そっか。」

 

ホッとしたように、タツミは俺の後を追ってきた。

 

 

女「あの…ナイトレイドの方ですか?」

 

横道から、フードで顔を隠した女に声をかけられる。

俺たちを知ってるってことは…

 

ラバック「君が、レジスタンスの?」

女「はい。」

 

フードを脱ぎながら答える。

うん…なかなか可愛い子だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ラバック「宮殿内部に潜入するのは、俺と透明化できるタツミが担当する。」

 

宮殿内部への仕掛けと突入の手引きを担うこの任務。

革命の成功を大きく左右する重要な役割なのは言うまでもなく、ラバの提案はもっともだ。

でも、私はラバの傷が完治していないことを知っている。

作戦会議が終わり、上着を取りに自分の部屋へと戻ったラバを追いかけた。

 

リン「潜入は、私がいくわ。」

ラバック「って…そんなに俺頼りないのかよ。」

 

口を尖らせてふて腐れる。

 

リン「隠してもダメって言ったでしょう?」

 

後ろを向くラバを捕まえ、着ているシャツを思い切って捲り上げた。

 

ラバック「リ、リンちゃんってそんなに大胆だったっけ…?」

 

背中とはいえ、あられもない姿にされたことに戸惑いと照れを隠せないらしい。

そんなラバをよそに、包帯と傷跡の目立つ痛々しい背中を見つめる。

 

ラバ「ちゃんと休養もとったし、大丈夫だって。」

リン「…。」

 

あまりにも不安げな顔をしていたのだろう。"安心してよ"と言いながら、頭にぽんと手を乗せてくる。

目線を背中からラバへ移すと、少し間を開けて、照れ臭そうに頬を掻きながら言った。

 

ラバ「…この戦いが終わったらさ、聞いて欲しいことがあるんだ。」

 

頬が熱くなり、瞳が大きく開いたのが自分でもわかった。

そんな顔を見られるのは恥ずかしかったけど、今ここで目を逸らしてはいけない…そんな気がした。

 

ラバ「だからお互い生き残る!約束な。」

 

小指を差し出すラバ。

向けられたの小指の元へ、ゆっくりと自分の小指を近づける。

 

リン「私も…もう一度聞いて欲しい。」

 

そう答え指切りをすると、役目を終えたそれらは離れていった。

 

 

 

アカメ「リン… ? リン?」

 

アカメの呼びかけにハッとする。

 

アカメ「考え事か?」

リン「うん…少し。」

アカメ「こんな時だもんな。色々とよぎることもあるだろう。」

 

ボス、アカメ、スーさん、私は帝都突入の最前線。

いつ事が動いてもいいように、帝都の入口付近に布陣を置いていた。

 

 

アカメ「もう済んだのか?」

リン「ええ、完了したわ。」

アカメ「…それが準備のままで済むことを祈る。」

リン「もちろん…そのつもりよ。」

 

 



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慟哭2

侍女「ここです。」

 

宮殿内の広々とした庭の角に、普段使われていない倉庫へと続く道がある。

どうやらそこに、反大臣派を中心にまとまる革命軍の協力者、レジスタンスが集まっているらしい。

 

コンコン…

ノックの返事はない。

 

侍女「…?」

タツミ「どうした?」

侍女「変です、いつもなら合言葉変わりのノックが返ってくるはずなのに…」

 

嫌な予感がする。

ふと、足元を見た。

 

ラバック「!!」

 

冷たく閉ざされた扉の隙間から、大量の血が流れ出ていた。

予感…的中か…?

扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

 

ラバック「なっ…」

侍女「キャァァァァ!!」

 

眼下に広がるのは一面の血の海。

惨たらしい姿を晒し、レジスタンスは全滅していた。

 

タツミ「こ、これって…」

ラバック「マズイな、ここはもうバレてる…!」

 

先手を打たれたか…そう思ったのも束の間、横たわっている死体の一つが突然膨張し始めた。

ヤバイ!!

 

ラバック「みんな!逃げろ!」

 

ドォォォォォォン!!!

 

倉庫一つが吹っ飛ぶほどの爆発が起こり、辺りは焼け落ちた。

もうもうと立ち込める煙と熱気。気付けば俺たちは数人の兵士に囲まれていた。

 

シュラ「遅かったなぁ…待ちわびたぜ。」

 

声がする方へ振り返ると、崩れ落ちた瓦礫の上に、蜃気楼に揺れる一つの影が映っていた。

 

シュラ「レジスタンスとやらは全員粛清させてもらったぜ。」

 

炎を背に、男が現れた。

褐色の肌と無駄なくついた筋肉が、一筋縄ではいかないことを印象づける。

 

シュラ「んん?どっかで見たことあると思ったら…お前、エスデスのネエちゃんを辺境に飛ばした時に一緒にいたヤツじゃねぇか。」

 

コイツがタツミとエスデスを遠くの島へ…?

チッ、やっかいな能力持ってそうじゃないの。

 

タツミ「じゃあ、あの時の危険種はお前が…何のために!?」

シュラ「決まってんだろぉ?おもしれーからだよ!」

タツミ「この野郎!!」

 

タツミが先陣を切る。

 

バリバリバリバリ!!

突如雷鳴が響き、褐色の男へと駆け出したタツミの目の前に、タツミの倍くらいはあるだろう体格の男が雷と共に現れる。落ちた雷は強烈な風と土埃を巻き起こし、燃え盛る炎を掻き消した。

こいつはもしかしたら…とんでもねぇクジ引いちゃったんじゃねーか…?

 

タツミ「な、なんだ…?」

ブドー「やはりネズミが入り込んでいたか。」

 

圧倒的な迫力の前に、タツミも俺も立ち尽くす。

 

ブドー「我が名はブドー。主君より大将軍の任を賜りし者だ。」

 

ブドー…やっぱりな。

コイツまで出てきちまったってことは、無事には帰れなそうだぜ…。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ナジェンダ「わかった…。引き続き調査を続行してくれ。」

密偵「ハッ!わかりました!」

 

囲いとしての役目をギリギリで保つ白い瓦礫から、ボスが出てくる。

 

ナジェンダ「西の異民族との連絡が途絶えたようだ。」

アカメ、スサノオ、リン「!?」

アカメ「じゃあ…」

ナジェンダ「いや、作戦は決行だ。」

 

光る眼光でアカメとスーさんを見つめる。

 

ナジェンダ「宮殿内への突入…お前達が先陣を切ることになる。頼むぞ…!」

スサノオ「わかった。」

 

本来であれば、安寧道と西の異民族の反乱に私たちが紛れ込む作戦だった。多分、エスデスが西を鎮圧したのだろう。

…これで、大きな戦力の一つを失ったことになる。

タツミとラバの成功が雌雄を決する大きな鍵になるのね。

 

ふとボスを見ると、嘆願するような表情で空を仰いでいる。きっと、同じことを思っているのだろう。

…ここで私が二人を信じなくて、どうするの!

不安な気持ちを払うように頭を振り、気合を入れ直した。

 

リン「大丈夫ですよ、ボス。二人ならきっとやってくれます。」

ナジェンダ「あぁ…信じているさ。」

 

ボスと私は、突入してくる革命軍を先導するために、アカメ達と別れ帝都の門へと向かった。

 

 

 

馬に乗り門へと向かう途中、道端に白い花がちらほら現れ始める。帝都の門近辺でしか見られない珍しい花だ。

私は馬の足を止めると、素朴ながらも毅然と咲くその花を一つ摘んだ。

 

ナジェンダ「その花、お前に似ているな。」

リン「ふふっ。ラバにも同じこと言われました。」

ナジェンダ「ラバックが?」

リン「私がナイトレイドとして帝都に来たとき、ラバに帝都一帯を案内してもらったんです。」

ナジェンダ「そういえば、そんなこともあったな。」

リン「その時にもこの花を見つけて…。」

ナジェンダ「会ったばかりでその人となりを見抜くとは…アイツらしいな。」

 

小さな花を、そっと胸に抱いた。

 

リン「村が滅んでからずっと一人だったから、自分のこと見てくれる人がいるんだって…嬉しかったんです。」

ナジェンダ「そうか…。」

 

普段は男性と見間違えてしまうほど淡麗な顔立ちをしているボスが、とても女性らしい、柔らかな表情で私を見つめた。

 

ナジェンダ「専門分野が得意なお前達を組ませることが多かったからな。沢山の時間を共有した者同士、絆も深くなったのだろう。」

リン「ボス…?」

ナジェンダ「お前が遠征に行った時、平然を装ってはいたがあまりにも様子が違くてな。レオーネに散々からかわれていたぞ。」

 

思い出したかのようにハハッと笑う。

そんな話を聞いて、顔が赤くならないわけがない。

 

ナジェンダ「この戦いが終わったら…お前達には幸せな未来を築いて欲しいと切に願うよ。」

 

ボスがゆっくりと馬の歩を進める。

私は熱い頬を冷ますように勢いよく馬にまたがり、ボスの背中を追った。

 

 

 



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慟哭3

タツミ「インクルシオォォ!!」

ラバック「タツミ!」

 

タツミがブドーへと猛進する。

さすがに一人じゃムリだ!

加勢しようとタツミの元へ駆け出した瞬間、目線の先が光り、そこから拳が突き上げられる。

 

ラバック「ぐっ!」

 

咄嗟に腕でガードしたがその威力は強烈で、数メートルほど飛ばされた。

 

シュラ「お前の相手は俺がしてやるよ。」

 

なんだコイツ…いつの間に!

 

シュラ「お前らは手ェ出すなよ?俺の獲物だ。」

 

自身の兵に指示を出すと、こちらをまじまじと観察する。

 

シュラ「あん?なんだよ、お前もどっかで見た顔だと思ったが…このシュラ様のオモチャで遊ばせてもらったやつじゃねーか。」

 

やっぱりな…

 

ラバック「さっきの話からまさかとは思っていたが…あの時の異形な危険種もお前の仕業だな。」

シュラ「けっこうデケェやつ仕向けたつもりだったんだがな。失敗作には変わりねぇってことか。」

ラバック「へっ、それなりに楽しませてもらったよ。」

シュラ「そりゃ良かった。…まぁ立ち話もなんだ、また遊ばせてもらうぜェ!!」

 

正面から攻撃とは、ナメられたもんだぜ!

投げつけられたナイフを防御し、そのままシュラへと糸を飛ばす。

このまま捉えるッ!

糸が男を囲ったが、一瞬にして目の前から消えた。

 

ラバック「なにっ!?」

シュラ「どこ見てやがる、ナイトレイド!」

ラバック「くっ…!」

 

突如背後に現れ、振り向きざまに拳を受けるが、ギリギリでかわし距離をとる。

瞬間移動…、帝具か…?

 

シュラ「そう不思議そうな顔すんなって。」

 

俺をあざ笑うかのように自身の能力の種明かしを始める。

 

シュラ「俺の玩具シャンバラはなァ、自分でも相手でも、予めマーキングした場所に…」

 

シュラの足元が光り、姿が消える。

 

シュラ「一瞬で移動させることができる。」

 

後ろから気配がし、そちらへ身構えると、また光りと共に消える。

空間を操る帝具…!

 

シュラ「マーキングは宮殿内のあちこちに仕込ませてもらってるぜェ!」

 

空間移動を使い、宮殿の庭を逃げ回る俺を弄ぶように、じりじりと迫り来る。

アイツ相手に距離をとっても意味がない。どこへ逃げても一瞬で追いかけてくる!

…だけど!!

 

回廊の屋根へ糸を放ち、俺自身を引き上げて空中へ飛んだ。

 

ラバック「マーキングをしていない所なら、追っては来れないだろ!」

 

下から俺を見上げるシュラ。

ヘッ…と不敵な笑みを浮かべると、ヤツの足元が光る。

 

まさか…ッ

 

空中待機している俺の横へ光とともに現れると、握りしめた両拳で思い切り地面へ叩きつける。

 

ラバック「…カハッ!」

 

空中にもマーキング出来るのかよ…!

糸で防御してるとはいえ、拳の一撃が重い。衝撃をまともに受けた地面はめり込み、大きなヒビが入っていた。

 

シュラ「逃げ場なんて最初からねェんだよ、どこにもな!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

マイン「こんな複雑な通路、よく作ったわよね。」

レオーネ「帝都の繁栄と共に大きくなったんだろうね、ムダに。」

 

マインが赤ペンで地図にチェックマークをつける。

あたしとマインは、帝都の地下水道の調査をしている。

管理がずさんで、革命の際の突入にも逃げ道にも利用できる。既に、地図に記されていない通路もいくつか発見した。

全ての通路を確認し地図を作り終えたら、帝都に潜り込んでいる革命軍の密偵に手渡す算段になっている。

 

マイン「タツミとラバはうまくやってくれてるのかしら。」

レオーネ「大丈夫だろ。特にラバには帰ってきてもらわなきゃ困るしな。」

マイン「…また何か焚きつけたのね。」

 

お節介ね、と言いたげな顔でチラリと見てくる。

 

レオーネ「そーんな言い方するなって。それに、あたしは何もしてないさ。あの二人らしく、ゆっくり進んでたってことだよ。」

マイン「ふぅん?」

 

マインは再び地図に顔を戻し、まだ調査し終わっていないポイントを眺めていた。

 

マイン「ま、いいわ。この革命を成功させなきゃ、元も子もないものね。だから仕事するわよ!仕事!」

レオーネ「へいへ〜い。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

タツミ「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

耳をつんざく程の雷鳴と、タツミの悲痛な叫びが響き渡る。

 

ラバック「タツミ!」

 

ガシッ!

タツミに注意を向けた瞬間、後ろからがんじがらめにされ、身動きが取れなくなった。

 

ラバック「お、おい、アンタ!」

侍女「ごめんなさい!でも、こうしないと幽閉されているお父さんとお母さんが…!」

 

くそっ…!仕組まれてたってことかよ…!

殺意に満ちた面持ちで、手に刃物を持ったシュラがこちらへと近づいてくる。

万事休すか…!

 

シュッ…

 

侍女「…え?」

 

首から鮮血を撒き散らし、バタリと女が倒れた。

ど、どういうことだ…?

 

シュラ「手ェ出すなって言っただろ?オモチャが余計なことしやがって。」

ラバック「オモチャ…だって?」

シュラ「そうよ!!この帝都もコイツらも全部俺のオモチャよ!利用するだけ利用して、いずれ大臣の座も俺のものだ!」

 

プツン…

俺の中で何かがキレた。

 

シュラ「オイオイどうした、もう降参か?まだゲームは終わってねェぞ?」

ラバック「いや…終わりだよ。アンタの負けだ。」

 

ヒュッ!

糸を引き、シャンバラを持つシュラの右手を手首から切り落とす。

 

シュラ「ぐぁっ!」

 

何が起こったかわからず困惑していたが、自身の周りに張り巡らされた糸に気付いたらしい。

 

シュラ「…テメェ、逃げながらこれを作ってたってのか!?」

ラバック「界断糸の結界だ。糸は殆ど使い切っちまったが、ギリギリで完成できた。」

 

落ちた手首を帝具ごと拾い上げる。

 

ラバック「全員武器を捨てなァ!!」

 

これで形勢逆転…かな。

 

 



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慟哭4

ドスッ

 

ラバック「ぐっ…!?」

 

突如後ろからのしかかられた重みでよろけ、そのはずみで、持っていたシュラの手首は地面に転がって行った。

じわじわと、刺された背中から鈍痛が広がる。

背後にぴとりとつくその姿を見ると、さっきまで倒れていたレジスタンスの女だった。

 

くそっ…油断したか…!

 

侍女「シ…シュラ様…、どうかこれで…父を…母を…。」

 

女は虫の息で両親の助けを乞い、そのまままこと切れた。

 

シュラ「クククッ、ハハハハハッ!最後まで笑わせてくれるなァ!お前の両親なんかとっくにくたばっちまってるよ!!」

 

!!

コイツ…どこまでも人を弄びやがって!

 

笑いながら、切り落とされた自身の手を拾う。

帝具だけでも取り返したいところだが、思った以上に刺し傷が深く、しゃがみこんだまま動けない。

 

シュラ「ククッ…そういや、あの時一緒にいたネーチャンはまだ生きてんのか?」

 

リンのことか…?

 

シュラ「あんな失敗作でやられるようなタマなら興味ねぇが、ナイトレイドってんならちゃんと生き残ってんだろ?」

 

顔にかかる長い髪をかきあげ、ニタリと笑う。

 

シュラ「あぁいう純粋そうな女を蹂躙するのが一番の楽しみなんだよ…クククッ!」

ラバック「! …んなこと、させるかよッ!」

 

糸を飛ばすも、シャンバラで容易くかわされる。

 

シュラ「お前には楽しませてもらったが、そろそろお終いだ。」

 

手首を投げ捨て、シャンバラを掲げる。

 

シュラ「お礼に奥の手を喰らわせてやるよ!消し飛べ!世界の果てまで!!」

ラバック「!!」

 

足元に、今までとは比にならないほどの大きなの光が現れ、俺はなす術もなく飲み込まれていった。

 

 

ラバック「…!?」

 

なんだここは…!

辺りを見回すと、いつか本で見たような宇宙空間が広がっている。

仄暗い中に小さく光る星々と塵が舞い、目の前には、地上とこの空間を繋ぐシャンバラの光がブラックホールのように佇んでいた。

 

シュラ「この奥の手を受けて還って来たヤツはいねェ!世界の最果てで朽ち果てな、ナイトレイドォ!!」

 

空間に、高笑いするシュラの声が響き渡る。

でも、甘いな…。俺一人で、終わるわけねぇだろ?

 

グイッ!

 

シュラ「なっ!?い、糸…!?」

 

手首を切り落とした時にシュラの腕に仕込んでおいた糸を引くとシャンバラの光の中から、シュラの体が徐々に現れる。

引っ張られまいと応戦しているようだが…何者だろうと、この界断糸を断ち切ることは出来ねぇぜ!

 

ラバック「よォ…また会えたなぁ…。」

 

シュラが完全にこちらの空間へ引き込まれると、シャンバラの光も消えた。

ちっ、段々と目が霞んできやがったぜ…。だがこれで空間に閉じ込めることが出来た…!

 

シュラ「ふざけんなァ…!俺がこんなところで終わるハズがないんだ!俺がこの退屈な世界を変えてやるんだよォ!!!」

 

再び帝具を起動し、シャンバラの光を出現させる。

 

ラバック「逃がすかよ!!」

 

空いている方の手でクローステールの槍を形成し、シュラの胸へと突き刺した。

 

シュラ「ガッ…!」

ラバック「世界を変えたい…か。そうだよな、誰だってそう思うよな…。けどな、だからって他人の命をオモチャにしていい道理なんてねぇんだよ!!」

 

最後の力を振り絞り、シュラの心臓へと到達した糸を引いた。

 

シュラ「…グッ…カハッ!」

 

心臓が破壊されると同時に、シャンバラが解ける。

 

終わった…か。

 

帝具戦の終結。

開放感と出血とで、意識が朦朧とし始めた。

 

 

 

ヒュウゥゥゥゥ…

 

強い風が、かすれた意識を呼び戻す。

そして、自身が上空から彼方の地上へ落ちていることをぼんやりと悟った。

 

今まで世話になったな…クローステール…。

 

装着していたクローステールのウインチを外すと、役目を終えたと言わんばかりに粉々に砕け散っていった。

 

 

抗うこともせず、目を瞑り、静かに最期を受け止める。

すると、みんなの優しい顔が浮かんだ。

 

 

けっこー…楽しかったな。

 

死にそうになったことは何度もあったし、辛くて悲しいことだって沢山あった…

 

でも、ナイトレイドに居れて…

みんなに会えてよかったよ。

 

 

 

けど…

後悔なら…一つだけ…。

 

 

ナジェンダさん、約束破ってごめん。

大切なコ…守ってやること出来なくなっちまった…。

 

 

リン…、あの時言えなかったけど…

 

 

 

俺、お前のことずっと…

 

 

 

 

ドスドスドスッ!!

地上で俺を迎え入れたのは、先端が冷たく光る無数の槍。

 

タツミ「ラバアァァァァァッッ!!!!」

 

遠くで、タツミの声がしたーーー

 

 

 

 

 

 

リン「!」

 

一筋の風が通り過ぎ、手にしていた花の花弁が、ハラハラと落ちる。

不意の出来事に、馬の足を止めた。

 

ナジェンダ「どうした?リン。」

リン「いえ…なんでも。」

 

なんだろう…この胸騒ぎ…

 

例えようのない不安を包み込むように朽ちた花をきゅっと抱きしめ、城壁で取り囲まれた宮殿の方へ振り返る。

 

 

ラバーーーーー?

 

 

 



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運命1

"今すぐ大広場に戻られよ"

 

密偵からの知らせを受けて、ボスと私は馬を走らせる。

さっきの胸騒ぎが気のせいであればいい…何度も心の中で唱えた。

 

 

メインストリートへ入り広場に近づくにつれて、人影が増えていく。

深くフードをかぶり人々の合間をすり抜けると、御触書が撒き散らされる広場の中に、レオーネとマインの姿を見つけた。

 

リン「レオーネ?一体何が…」

 

レオーネは厳しい表情のまま視線を逸らさない。

瞬時に脳裏をよぎる予感。

 

 

ドクン… ドクン…

 

大きくなる鼓動を感じながら、ゆっくりと、その目線の先へ振り向いた。

 

 

悲しげな夕日に照らされた無機質な木の杭には

タツミの公開処刑を告げる御触書と…

見慣れた赤いバンダナが、静かに風に揺れていた。

 

 

---------------------

 

 

リン「私…置いてあった道具があるから取ってくる。先に戻ってて。」

 

静けさを打ち破ったのは、リンだった。

マインが記した地下水路の地図を頼りに、一度待機ポイントへ戻ることになった私たち。広場からここまで、誰一人言葉を発することはなかった。

 

リンは、今にもはち切れそうな顔でそう告げると、私たちに背を向けて暗闇の中へと消えて行く。

 

ナジェンダ「…少し、一人にさせてやろう。作戦の変更は私達で立てるぞ。」

 

ボスの言葉に続き、私とマインは地下水路を進んだ。

 

 

リンは一粒の涙も流さなかった。

気丈だからとか、報いだからとか、そんなんじゃない。

自分を保つことで、必死に何かを守っているんだろう…。

 

広場でリンの肩を支えてはいたが、その場で崩れ落ちることはなかった。

…でも、震える体が彼女の心を物語っていたんだ。

 

レオーネ「ごめん、作戦会議はよろしく!」

マイン「あ、ちょっと…!」

 

マインの制止を背中に受けながら、リンが消えた暗闇の中を追った。

 

 

---------------------

 

 

メインストリートの中にある、ラバの貸本屋。

戦いが終わったら、ここを大きくしていずれは全国チェーンだ!…なんて言ってたっけ。

 

店の中に入ると、ひんやりとした空気が身を包む。

夕方の日が差し込んでいる時間にも関わらず、暗く冷たい影を落とすこの場所。

まるで、帰ってこないと分かっている主を、寂しげに待ち続けているようだった。

 

リン「私と…一緒ね。」

 

カウンターにそっと手を置く。

そのままにされたレジスターやペンやエプロン…さっきまで彼がそこに居たような風景に、目頭が熱くなる。

彼が読んでいたのであろう、ページが開かれたままの本を手に取った。

 

 

わかってる。

 

これは報い。

 

覚悟は…出来ていたはずよ。

 

 

 

でも…

 

リン「…約束、したじゃない…! ウソつきッ!!!」

 

溢れ出る涙を止めることは、もう出来なかった。

 

傷が癒えていないことを知っていたのに。

あの時ちゃんと引き止めていれば良かったのに。

どうして…

 

後悔ばかりが浮かび、抱きしめていた本は大粒の涙に濡れて歪んでいった。

 

 

 

 

気付けば辺りは暗くなり、泣きはらした顔で見上げた窓の外は、月が顔を覗かせている。

 

私、ずっと泣いてたなんて…

こんなんじゃ、笑われちゃうね…。

 

枯れるまで出尽くした涙を、全て受け止めてくれていた一冊の本。

"もう泣くなよ?"

ラバに、そう言われている気がした。

 

ゆっくりと立ち上がり、決意を新たにする。

私たちが約束したのは、"この国を変えること"。

それだけは…守ってみせる。

 

本棚の裏に隠された階段で隠れ家へと降りる。日も入らないこの場所は、店以上にしんとして冷たい。

補充用として置いてあった器具を装備すると、カタンと背後から音がした。

 

リン「レオーネ…?」

レオーネ「こんな悲しみの連鎖は、私たちで終わりにしよう。」

 

階段から降りてきたレオーネに、私は微笑みで返事をした。

 

リン「…!」

 

よく見ると、レオーネの鼻の頭がほんのり赤い。

…もしかして、ずっと外に?

きっと心配して後を追ってくれたんだろう。そして私の姿を見て、待っていてくれたんだ。

鼻がツンと痛くなる。

 

リン「心配かけてごめん…レオーネ。でももう大丈夫だよ。私がやるべきことは、泣くことなんかじゃない。」

 

レオーネを思い潤んだ目を一拭きして、前を向く。

 

リン「今やるべきなのは、捉えられた仲間を取り戻すこと…!」

マイン「処刑当日、地上と上空から仕掛けるわ。」

 

レオーネの背後から、マインがツインテールを覗かせる。どうやら、新たな作戦が決定したらしい。

その後、ボス、アカメ、スーさんも合流してタツミを奪還すべく意志を一つにする。

 

ナジェンダ「最終作戦にはタツミのインクルシオが必要だ。死んでいった仲間達のためにも…必ず成功させる。」

 

 

ボス、マイン、スーさんはエアマンタに乗り上空から。

アカメ、レオーネ、私は地下水路を使い地上から突入する作戦だった。

 

地下水路から敷地内に出ると、木々の先に宮殿がそびえ立つ。多少距離があるものの、ここまで近づいたのは初めてだ。

ここから闘技場へは庭園を通り抜けなければいけないが、不幸中の幸いか、闘技場付近の警備が強化されているためこちら側はさほど警戒されていないようだった。

 

小さな樹海を抜けると、目に飛び込んできたのは焼け焦げた瓦礫と無数にヒビ割れをした地面。ところどころに血痕も残っている。

 

レオーネ「…戦いは、もう始まっているんだな。」

アカメ「これから、この場所以上の戦場が待っている。」

レオーネ「もちろん、覚悟は出来ているさ!」

リン「 行きましょう。」

 

惨状を背に、庭園へと続く格子戸を開こうとした瞬間だった。

 

??「そこから先は行かせたくないねぇ。」

 

ドゴォ!!

上空からの敵襲に、咄嗟に身をかわす。

 

レオーネ「ちぇっ、そう簡単には通してくれないってわけか。」

 

臨戦態勢を取りつつ土埃の先に捉えた相手は、いつかラバと共に対峙した羅刹四鬼の一人だった。

 

リン「お前は…!」

スズカ「あの時はこれ以上ないってくらいいい経験させてもらったよ。また楽しませてくれるんだろう?」

 

あの時、仕留め切れていなかったってこと…ね。

正直、攻撃型じゃない私がどこまで応戦できるかわからない…けど!

 

リン「先に行って。アカメ、レオーネ。」

アカメ「!」

レオーネ「何言ってんだ!」

リン「タツミ奪還は一刻を争うわ。こんなところで足止めを食らっていてはいけない。」

レオーネ「でもそいつは…!」

 

相手は、ラバでも苦戦を強いられた羅刹四鬼。レオーネが言いたいこともわかる。でも…

 

リン「ラバは…完治していない体でも…それでも危険な任務に向かったの。」

 

閉じていた目を開け、アカメとレオーネへ振り向く。

 

リン「私も、負けてられないから!」

 

苦悶の表情を浮かべる二人を安心させるように、精一杯笑ってみせた。

 

アカメ「…行こう。」

レオーネ「絶対助けに戻るからな!」

 

格子戸の先へと走っていく背中を最後まで見送った。

 

 



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運命2(完)

リン「…しぶといとは思っていたけど、ここまでとはね。」

スズカ「良いセン行ってたんだけどねぇ〜…糸使いの体力もギリギリだったってことだ。」

 

いくら心臓を潰されなかったとはいえ、瀕死の状態からここまで回復するなんて…肉体操作は伊達じゃないようね。

 

スズカ「タツミを奪われちゃうと、エスデスに怒られちまう。まぁそれも快感だけど…殺されちゃうのはカンベンだからねッ!」

 

ナイフのように光る爪が襲いかかる。

左に避けるも、もう片方の手の爪が避けた先に待ち構えていた。

袖に隠し持っていたメスを出し弾くも、切り落とすまでには至らない。肉体が武器なだけあって、強度もそれなりにあるらしい。

このまま間合いをとっていては、相手のペースにのまれてしまう。

 

リン「それなら…」

 

相手との距離を詰めれば、爪の伸縮に隙が出るはず!

応戦しつつ、ゼロ距離になったところで、すかさず首を狙う。

が、その瞬間に見たのは不敵に笑う女の口元だった。

 

リン「うっ…」

 

あと少しで注射針が届くところで、腕に激痛が走る。血が流れる腕を抑えつつ、瞬時に女から離れた。

私の腕を貫いたのは、女の足の爪。ぐにゃりと曲がった爪は女の肩まで届き、その先端には血が付着している。

 

伸縮だけじゃなくて形まで変えるなんてね…ともかくあの爪を封じないことには勝機はない…。

視線を配らせた先に、あるモノが目に入った。

 

これなら…!

 

スズカ「もう万策尽きたのかしら?なら、遠慮なくいかせてもらうよ!」

 

最後の一狩りと言わんばかりの勢いで突進してくる女へ向かって、複数の注射器を飛ばす。

 

スズカ「そんな攻撃じゃ通用しないってわかってるだろう?」

 

余裕を見せながら全ての注射器を弾く。

…もちろん、そんなのお見通しよ。

 

スズカ「!」

 

ドスドスドスッ

女の顔や体に瓦礫が命中する。

 

スズカ「ぐ…」

リン「目先の武器にとらわれていたようね。」

 

目の前に飛び込んでくる攻撃にだけ集中させ、その背後を包帯で操った瓦礫で襲う。

私の武器が器具のみであるという思い込みと、余裕から出る隙を突いた一手だった。

 

スズカ「フフ…片腕は使えないようにしたハズだけどね…。」

 

応急処置であれば、戦いながらでも回復できる。貫かれた腕の傷口は既に塞いでいた。

 

スズカ「その帝具…邪魔だねぇ…。」

 

スイッチが入ったかのように、女の眼光がより強くなっていった。

 

 

そこからは攻防戦が続き、互いに攻撃を繰り出しながら、決定打となる一瞬を探る。

既に割れていた地面のヒビはさらに深く刻み込まれていき、流す血も増していく。

 

このままじゃ、体力が削られて行く一方だ。なんとかしないと…!

たった数分が途方もなく感じ始めた頃、戦いの幕を下ろす音が聞こえた。

 

パァン!!

 

リン「!!」

 

喉元を狙われ、避けることが出来ず受身をとると、一本の爪が帝具を砕いた。

 

しまった、狙いは帝具…!

 

割れた帝具がパラパラと地面に落ちる。

次の一手に出ようにも、焦りを隠すことで精一杯だった。

 

スズカ「…遊びももう飽きただろう?」

 

額から流れる血の隙間から、鋭い女の目が私を捉える。

振り上げた腕を勢いよく地面に突き刺すと、足元からいくつもの爪が飛び出した。

 

リン「!?」

 

どこから攻撃されるかわからない…!

 

ビシッ!ビシッ!

足首や腰や肩、身体のあらゆるところを襲う。

女はあえて急所を外し、痛めつけることを楽しんでいるようだった。

 

リン「くっ…!」

スズカ「うぅ〜ん、いい表情だ。アタシもあんな風にされてみたいよ。」

 

飛び散る鮮血を眺め高揚しながらも、攻撃の手は緩めない。

ドシュ!ドシュ!

地面から降る雨のような無数の刃。その内の一つが、私の片足を貫いた。

 

リン「ぐっ!」

 

地面に倒れこむと、勝利を確信したのか、女はゆっくりと攻撃の手を止めた。

 

スズカ「ククク…アタシを殺し損ねた上にダンナには死なれて…あんたには同情するよ。」

リン「!」

スズカ「でも安心しな、すぐにダンナの元へ送ってやる!!」

 

まさに狩りを楽しむ鬼。

原形をとどめない形相のまま、最後の一撃を振るおうと猛スピードでこちらへ走り出した。

帝具を破壊され、私は為す術もない。

 

皆、ごめんなさい…!

 

 

 

 

…!!

 

最期を覚悟したその時、目の前がキラキラと光る。

 

クロース…テール…?

 

太陽の光に反射して輝くそれは、クローステールの界断糸だった。

 

ラバ…!

 

沢山の思いが溢れるのを抑え、漂う一本の糸を強く握り締める。

そして、私を仕留めようと向かってくる女を見据えた。

 

 

スズカ「くたばりなァ!!」

 

ザシュッ!!

 

スズカ「…!?」

 

女の首が飛ぶ。

相手のスピードを利用したカウンター。

宙を舞う女の顔は、両手で糸を張る私の姿にただただ目を見開いている。

切り離された首と行き場をなくした胴体は、同時に地面へ落ちた。

 

これで…終わった…

 

リン「かはっ…!」

 

咳込み膝をつく。地面には血が飛び散った。

手で押さえた私の左胸には、女の長い爪が一本…背中まで貫通していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

3度目の禍魂顕現…これを使えば私の命も…

だが、エスデス相手に出し惜しみをしている場合ではない!

 

ポゥ…

 

ナジェンダ「!!」

 

突如体にエネルギーが纏う。

これは…リンの…

 

ナジェンダ「くそっ…」

 

だがこの力、活用させてもらうぞ!

 

ナジェンダ「3度目の…禍魂顕現!!」

 

 

スサノオを殿として残し、我々はタツミ奪還に成功した。

いや…成功というには尊いものを失くしすぎたか…。

後味の悪さを残しながら、エアマンタに乗り処刑場の外へ脱出する。

 

レオーネ「ボス!リンの加勢に行ってくる!」

 

脱出するや否や、ボロボロの体のまま威勢良く飛び降りるレオーネ。

 

アカメ「ボス、加勢なら私も… ボス…?」

 

アカメの申し出に答えることが出来なかった。

そんな私の様子を"答え"と受け取ったらしく、アカメは黙ったまま俯いた。

 

 

3度目の禍魂顕現を使おうとしたその時、リンの奥の手「命の信任(ホーリートラスト)」が発動した。

使用者が命を落とす時、予め術を施した対象に自身の全ての力を与える技だ。

この奥の手…使わずに事が終わればと願っていたが…

握りしめた拳は、ギシギシと音を立てた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

レオーネ「リン!リン!!」

 

閑散とした戦場に、レオーネの声が響く。

 

レオーネ「戦いが終わったら…ラバの店、手伝うって言ってたじゃないか…!ちくしょう!!」

 

抱きかかえられたリンの頬に、大粒の雫がポタポタと落ちる。

リンの顔は眠っているかのように安らかで、その手には緑色の糸が一本、大事そうに握られていた。

 

 

 

ねぇ、ラバック…

 

あなたと居た時間は、本当にかけがえのないものだったよ。

 

なかなか素直になれなかったけど…

私が私でいられたのは、あなたが側に居てくれたから。

 

あの時、あの森の中で、私を見つけ出してくれてありがとう。

 

 

生まれ変わったら、またお店をやるのかな?

私も手伝いに行くよ。

だって、あなたに任せてたら変な本ばっかり仕入れちゃうものね。

 

 

二人がまた出会えたら…

この国で果たせなかった約束、もう一度しよう?

 

 

"これからは、ずっと一緒だよ。"

 

 

 

ー完ー

 

 



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あとがき

「君といた時間」、お読みいただきありがとうございます。

ラバックとリンの物語はひとまずお終いとなります*

 

 

小説投稿は初めてで、読みにくい部分が沢山あったかと思いますが、

ここまでお付き合い頂きとても感謝しています。

 

二人とも、与えられた任務を完遂して散っていった…という終わり方は当初から決めておりまして、物語の主人公がどちらもいなくなってしまうというのはイレギュラーなものかとも思いますが、あたたかく受け入れてくださいますと幸いです。

 

 

ここからは、備忘録を含めた「君といた時間」のお話の中でのキャラクター設定(原作キャラは、動きの多かったキャラのみ)や、裏話をつらつらと書き連ねていきたいと思います*

※つまらないお話になってしまうかと思いますので、Uターンして頂いても大丈夫です!

 

 

 

◇キャラクター◇

 

■リン

この物語のヒロインで、オリジナルキャラクターです。ラバックのお相手という立ち位置で誕生しました。

 

イメージカラーは水色。

性格としては、THE普通な感じです。(笑)

ナイトレイドの女子メンバーはみんな個性的なので、ここはあえて「清らかな正統派」が居てもいいのかなと。あとはラバックがお調子者キャラなので、そんな彼も寛容に受け入れられるタイプがいいなと思いました。

 

作中でも触れていますが、普段はめったに怒りません。心が広いです。

でもレオーネも言っていましたが、怒る時は笑顔で静か〜に怒るので、それが恐いんでしょうね。

 

イメージカラーについては、原作でいない!と思ったことと、リンの性格的にピッタリだったので水色が自然と浮かんだのですが、よくよく考えたら、タツミが水色…?あれ、被ってる…?と後から気付いた所存です。

 

帝具は「ホーリーチャーム」。十字架のネックレス型をしています。

リンの精神エネルギーや生命エネルギーを使用する帝具で、メインは傷の治癒や体力の回復。サブで器具にエネルギーを込めて武器として使います。ただし攻撃力はさほどないので、奇襲で討つことがほとんどです。

奥の手は作中でナジェンダさんが解説していたので割愛(笑)

 

 

■ラバック

この物語でのラバックは、リンに対しては男らしい面を良く見せていたんじゃないかと思います。

"好きな人にはちょっかいを出したくなる"とよく聞きますが、ラバックの場合は全く逆で、照れ臭くてちょっかい出せないタイプでしたね。他の女の子にはヒョイヒョイ行けるのに(笑)

 

リンと出会うまではナジェンダさん一筋でした。ですがリンに会い、惹かれていくけれどもその気持ちに気付くのはなんかむず痒い…だから「ナジェンダLOVE」って公言することで照れ臭さを隠しているという、年頃の男の子らしさもあります。

周りにはバレバレだったようですが(笑)

 

 

■レオーネ

原作キャラの中で、ラバックとリンに一番絡んでいたキャラクターです。

当初はそんな予定は全くなく、ラバック以外の原作キャラクターは二人を温かく見守っている位の設定だったのですが、気付けば二人の仲を取り持ついい姐御になっていました。

困った時はレオーネ姐さん!というくらい動かしやすいキャラクターだったので、二人にとってもそうですが、私にとっても頼りになるお方でした。

 

 

■アカメ

多くを語りませんが、周りの空気に敏感で、ふとした時に寄り添ってくれる良い子。

ラバックとリンの関係も、レオーネと同じくらい気にかけていました。

また、マインとチェルシーの気持ちにもちゃんと気づいていたようです。

個人的に、タツミ奪還第一回目のアカメとラバックのやりとりが書いていて楽しかったです。

 

 

■マイン

普段はレオーネにからかわれるマインも、リンに対してはちょっとお姉さんぶる?ところがあります。

でもそれは、マインの"自分の気持ちに真っ直ぐなところ"をリンが慕っているからこその関係だと思います。自分にはないその姿勢を、とても尊敬しているのでしょう。

リンの背中を最初に押したのも彼女でした。

 

 

その他キャラクターももっと動かしたかったのですが、あまりに沢山と関わらせてしまうとお話が散らばってしまうので、泣く泣く断念…

ですが、他の機会にぜひリンと原作キャラクターの関わりを書けたらと思います*

 

 

 

◇裏話◇

 

■スズカ倒しちゃった!

元々、ラバック&リンvsスズカの戦いは、スズカに岩を落として終わりの予定でした。(原作と同じで、岩の下敷きになったけど実は生きていた!という設定で。)

なんですが、勢い余って槍を刺す始末…。ラバックのカッコイイ所を書きたい!という思いが強すぎたようです、トホホ。

そのおかげで、心臓潰されたはずなのに生きてるよ!ゾンビかよ!という再登場になりました。

 

 

■勝負の行方は…?

しょっぱなにタツミとラバックが賭けをしていた勝負。物語中ではお流れになっていましたが、実は数日後に再戦しています。

結果は僅差でタツミが勝ち、覗きのオトリはラバックだったのですが…

どうやら覗きに行く道中でリンに捕まり、2人ともこってり絞られたそうです。

 

 

■座っちゃった

雨上がりの空の下で物思いにふけるラバックを励ましに行ったナジェンダさん。

そこまでは良かったのですが…腰かけた手ごろな切り株は、まだ湿っていたようです。

ラバックの視界から消えた後にさりげなくズボンを気にしていたのはナイショ。

 

 

 

 

さて、冒頭でラバックとリンの物語はお終いとお伝えしましたが、

「君といた時間」のプロローグ作品を只今執筆中です。

(さっそく矛盾していてすみません。笑)

 

いつお披露目できるかはわかりませんが、

2人の物語、まだまだお付き合いいただけますと嬉しいです*

 

 

 

お目通し頂いたみなさまに感謝をこめて…

 

 

ーえいぷりるー

 

 



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