魔弾の王と召喚師 (先導光)
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第一章銀閃のなびく大地
グラデンスの依頼


 四堕神及びルシアス討伐から半年後。

 

―帝都ランドールにて

 

 「新しいゲートが見つかった?」

 

そう気だるげに言うのはまだ16歳程の見た目をした金髪碧眼の少年だった。

 

「はい!ですから、先輩に調査していただくよう指示があったので連絡したんですよ!」

 

少年とは対照的に元気よく連絡しているのは明るい緑の髪を短く整えた少女だ。

 

「・・・リム。そういうのはルジーナとかの仕事じゃないのか?」

 

少年がそう尋ねると、少女―リムはこう告げた。

 

「イェーガー先輩、ルジーナさんは今、魔神の討伐で居ないんですよ。カルさんやセリアさんもそれぞれの任務でいませんし未開の地へと送れるのは先輩だけなんです。」

 

少年―イェーガーはため息をついた。

そうか、あのクソまりも頭野郎め。勝てもしない仕事に行ったか。

と、思った時頭の中のルジーナが文句を言い始めた。

想像の中でもうるさい奴だな。だから、セリアとも喧嘩ばかりするんだろ。

すると今度はセリアまでもがルジーナと共に騒ぎ出した。

 

「・・・先輩?聞いてますか?」

 

リムが綺麗な緑色の瞳でイェーガーを見つめながら声をかけるとイェーガーははじかれたようにリムを見た。

 

「なに?」

 

聞いてなかったんですね、とリムが嘆くように呟くとリムはこういった。

 

「ですから、グラデンス様も是非行ってこいとおっしゃってましたよ?」

「お師匠様が?」

 

イェーガーの師匠であるグラデンスはイェーガー達、召喚師が所属するアクラス召喚院でかなり地位の高い『召喚老』と言う地位にいた。今はグランガイアと呼ばれる地域に頻繁に魔神が出るようになった為に地位を顧みて自ら最前線に立つようになった。召喚老というだけのことはありその力は他の召喚師とは次元が違っていた。

イェーガーは幼少の頃グラデンスに助けられその強さに憧れ弟子となったのだ。

 

「はい!」

「・・・お師匠様が絡んでるじゃ断れねぇな。しゃあない、ゲートは?」

 

グラデンス程の召喚師がたのみこむと言う事はそれほどまでに任務は難しく重大だと言う事だ。

 

「えーと・・・パルミナ諸島とリゼリアの間のゲートです!」

 

イェーガーは管理局を出てゲートの狭間へと向かった。するとそこには巨大な扉―ゲートがあった。

ゲートの先は光で包まれ何も見えない。

イェーガーは背中に背負った大剣―覇炎剣ダンデルガと旅の必需品が入ったカバンがあることを確認するとゲートを開けた。

 

「行ってくる。」

 

お気をつけて!というリムの声を背後に聞きながらイェーガーはゲートを抜けた。



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召喚院からの追加事項

広い草原だった。とにかく広い。広いとしか言いようが無い草原だった。

しかしそれは逆を言えば、隠れられる場所が無いと言うことだ。

イェーガーは警戒を解かずに回りを見渡す。その時、召喚師に渡されている通信端末が音を立てた。

 

『・・・輩。イェーガーせんぱーい!聞こえますかー!』

「・・・リム、聞こえてる。だが、もう少し緊張感を持ってくれないか?こちとら未開の地にいるんだからさ。」

『あ、すいません。でも、先輩なら大丈夫かなぁって。』

「・・・まあいい。で?なんだ?」

『召喚院からの通知です。今回同行できるユニットなんですが、一体だけにしてください。と、言うことです。』

「それ先に言えよ!」

『す、すいません。だって急な指令だったもので・・・』

 

イェーガーはため息を吐いた。

アクラス召喚院も、もう少し早く言って欲しいものだ。

 

「仕方がない。ヴァルガスだけ準備しといてくれ。」

《へぇ。久しぶりに俺の出番か?楽しめるんだろうな?》

 

イェーガーの頭の中に声が響く。

声の正体は煌覇炎神ヴァルガスだ。ヴァルガスはイェーガーが初めて召喚した英雄で、その強さから【六英雄】と呼ばれている。イェーガーは彼とこれまで何度も危機を乗り越えて来た。ヴァルガスはイェーガーの持つ大剣ー覇炎剣ダンデルガに意思が宿っていて、イェーガーが呼ぶとヴァルガスは現実に顕現し共に戦う。

それが、召喚師であった。

 

「ああ。また、頼む。」

《へへ。いいぜ。手伝ってやるよ。》

『先輩、準備できましたか?そちらの情報については私達の方でも集めますので、それまでは可能な限りで調査してください。あっ!だからって無茶しないでくださいよ!』

「へいへい。了解だ。」

 

イェーガーは強引に通信を切り気づいた。

あれは・・・煙?と言うことは何かあるのか?まあいい。調査の一環だ。行くか。

イェーガーは煙の見える方へと歩き出した。

 

しばらく、歩くと城壁のような物が見えた。だが、それは丸太を組み上げただけの城壁で、かなりお粗末なものだった。

そしてそれだけでは無く畑や農家もちらほらと見えてきた。

城壁、畑、家・・・と言うことは少なくとも人が住んでる痕跡があった。って事か。まあ、作りはアレだが。

 

「もし、そこの方。」

 

突然声をかけられたイェーガーは驚き臨戦態勢をとりながら声のした方を向いた。

そこには、人の良さそうな老婆がキョトンとしてこっちを見ていた。

 

「どうかしたのかえ?」

「い、いえ。すいません。で、なんですか?」

「あんたは旅の方かい?」

「ええ…まあ。」

 

すると老婆は珍しそうなものを見る表情を浮かべてこういった。

 

「ほえー。若えのに大したもんだ。」

 

イェーガーは愛想笑いを浮かべた。

人・・・少なくとも魔物の類じゃないな。

 

「ここはブリューヌ王国のアルサス地方のセレスタって町だぁ。なんもねえとこだけどゆっくりしてってくれ。」

 

老婆は笑みを浮かべてそう言うと畑の方へと歩いていった。

ブリューヌ王国・・・?聞いたことが無いな。

 

「ヴァルガス、お前は?」

《いや、グランガイアは一通り歩いたがそんな国は聞いた事がねえ。》

「ふうむ。」

《とりあえず、街に行ってみたらどうだ?幸いにも言葉は通じるみたいだしさ。》

「そうだな。行ってみるか。」

俺はヴァルガスの言葉に従い目前に見える町ーセレスタへと歩き出した。



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閉じられた扉

―帝都ランドール アクラス召喚院にて。

 

「はあ。先輩、大丈夫かな・・・?」

 

管制室とゲートの狭間をつなぐ通路脇にある休憩所でリムは物憂げに呟いた。

本人はそのつもりは無いのだが十分無茶をしてるのをリムは知っている。

だから、今回イェーガーを未開の地へと送る事にリムは心配を覚えていたのだ。

きっと今回の調査でも先輩は無茶するに決まっている。でももし、万が一先輩が命を落としでもしたらと思うとリムは気が気でなかった。

再びリムが物憂げにため息をついた時唐突に声をかけられた。

 

「おいおい、ため息何かついてどうした?」

 

リムが声のした方を向くとそこには蒼髪の若い男が微笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「あ、カルさん。」

 

リムがそう言うと男―カルはよう、と言った。

 

「任務が終わったから報告しに来たんだ。ところで、イェーガーを知らないか?」

「先輩なら未開の地の開拓調査任務に行きましたよ。」

「へぇ、あいつも忙しそうなんだな。」

 

カルは意外そうな表情を浮かべそのまま続けてこういった。

 

「んで、リムちゃんのため息の原因もあいつなんだな?」

 

リムは慌ててカルを見た。カルはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

 

「い、いえいえいえいえ!そっそっそそんな事なななななないですよ!」

 

リムが慌てているのを見てカルは軽い笑い声を上げた。

 

「で?ホントのところは?」

 

カルがそう尋ねるとリムは泣き出しそうな表情になり

 

「う~・・・カルさんのいじわる・・・。」

 

と言ったのでカルは一変慌てた表情になり悪気はなかったんだ、とバツのわるそうな風に言った。

 

「けど、リムちゃんもわかってると思うけどあいつなら大丈夫さ。きっと乗り越えてみせるさ。」

「・・・でしたらいいのですが。」

 

リムはまだ何か言いたげな表情だったがカルの言葉に納得したのか明るい表情へと戻った。

その時だった。ゲートの狭間と呼ばれる場所で騒ぎが起こったのは。

 

「ゲートが閉じるぞ!」

 

誰かが悲鳴のような声でそう叫んだ。

その声につられて二人がゲートの狭間に行くとイェーガーの入っていったそのゲートがまさに閉じようとしているところであった。

リムは青ざめた表情となり急いで管制室へと戻った。

 

「先輩!応答してください!先輩!」

 

リムは端末に向かいそう呼びかけるが帰ってくるのは無情なノイズであった。

 

「おい、どうした?」

 

リムの同僚のノイマンがそう尋ねるがリムは気にも止めずに通信を続ける。

だがいくらかけても返ってくるのはノイズだった。

 

「もう止せ。」

 

いつの間にか追いついたカルがリムを止めた。リムは青ざめたままカルに向き直り震える声で尋ねた。

 

「どうしましょう・・・?」

「俺たちだけじゃ何もできない。グラデンスの爺さんのところに行ってみよう。何かわかるかもしれない。」

 

リムは小刻みに頷いた。その間にも端末はノイズだけを送っていた。



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セレスタ

「ここがセレスタか・・・。」

《結構賑わってるな。》

 

ヴァルガスの言葉にイェーガーは頷いた。

ゲートが閉まってからおよそ一時間。イェーガーはセレスタの町についていた。

賑わってる、と言っても田舎にしてはと言う意味である。

イェーガーは道行く人々の穏やかそうな雰囲気に目をやり知らず知らずのうちに自分の育った故郷を思い出していた。と、いうのも彼の故郷もまた田舎だからだ。

・・・今はそんな事考えてる場合じゃないな。とにかく情報収集だ。

 

「すいません。」

 

イェーガーは道を歩いていた若い男に声をかけた。

 

「ん?なんだい?」

「人がよく集まる場所を知りたいのだが、どこか手頃な場所はないか?」

 

すると男は怪訝そうな目をイェーガーに向けた。

 

「いいけど・・・あんたは旅人さんか?」

「まぁそんなとこだ。」

「しっかしなんでこんな田舎に?」

 

いや。なんでと言われてもゲートを通ったらここについたんだが・・・。

とは当然言える訳もなく若干引きつった笑みを浮かべてこういった。

 

「実はこの辺に来るのは初めてでな。近くの森で迷ったんだ。」

「ああ、なるほどねぇ。」

 

男は合点がいった顔で頷いた。

 

「じゃあ、この通りの先に宿も備えた酒場があるよ。」

「そ、そうか。ありがとう。」

 

イェーガーはそう言うと足早にそこを離れた。

 

「とりあえず。酒場の場所はわかったな。」

《ああ。早速行くか?》

「ああ。」

 

イェーガー達は男に言われた通りに歩き出した。イェーガーはあたりをキョロキョロしながら歩いてた。

その所為で注意力も散慢になっていたのだろう。

案の定―

 

「キャッ!」

 

人にぶつかった。

 

「す、すまない!大丈夫か?」

 

イェーガーはそばに倒れている少女に慌てて謝り目を向ける。

少女は侍女の服を着ており栗色の長そうな髪はツインテールでまとめていた。

 

「い、いえ!こちらこそ申し訳ございません!」

 

少女はあわてて立ち上がりはしばみ色の瞳に狼狽の色をにじませてこちらを向きこう尋ねた。

 

「あの、お怪我はありませんでしたか?」

「ああ。俺は大丈夫だがあんたは?」

「いえいえ、大丈夫です。」

 

少女はそう言うが袖の部分が少し破れ、そこからわずかに血が滲んでるのをイェーガーは見逃さなかった。

 

「良ければこの薬を肘の怪我に使ってくれ。」

 

イェーガーはそう言いながらカバンから取り出したのは回復薬だった。

回復薬は召喚院の召喚師達が長く愛用している薬で程度の軽い怪我なら少しの量で治ると言う薬だ。

少女はイェーガーが薬を出したのを見て慌ててこう言った。

 

「いえいえ!それほどの怪我ではございませんので!」

「だが怪我をさせたのは間違いじゃないだろ?せめて持って行ってくれ。」

「・・・分かりました。」

 

少女はイェーガーの誠意に気づいたのか回復薬の瓶を受け取った。少女はイェーガーに一礼するとそそくさと走っていった。

 

「・・・気を付けよう。」

《だな。》

 

ヴァルガスの賛同を聞きながらイェーガーは宿屋へと向かった。

 

 

「弱ったなあ・・・。」

 

イェーガーは夕焼けに染まった道をトボトボと歩いていた。

宿屋に泊まろうとしたら、ゼルが使えなかったのだ。それからいくつも宿屋をまわったがどこもゼルが使えず泊まれなかったからだ。

 

「うーん・・・。ゼルが使えないってどういうことだよ・・・。」

《俺にもさっぱりだ。》

 

イェーガーのつぶやきにヴァルガスもそう言った。

ちっ。このままじゃあ町の中で野宿か・・・?

旅の途中で野宿するのは珍しいことでもなくイェーガーもよくやっている。だがそれはあくまで人がいない森や廃墟での話だ。流石に町の中で野宿するつもりはなかった。だがこのままでは町の中で野宿することになるだろう。

・・・それだけは嫌だ。

イェーガーがそうして頭を抱えているところに声をかける者がいた。

 

「あ、あの・・・?」

「ん?」

 

イェーガーが声のした方を向くと昼間にイェーガーとぶつかった少女がいた。

 

「あんたは昼間の・・・?」

「ティッタと言います。」

 

少女―ティッタはそう名乗った。

 

「あの・・・。あなたは旅の方ですよね?」

「そうだが?」

 

イェーガーがそう言うとティッタは少しためらったがこういった。

 

「よろしければ、お屋敷の方に来ませんか?」

「いいのか?こんな見ず知らずの旅人何か招き入れて?」

「構いません。」

 

うーん・・・ありがたい申し出だがなあ・・・。

結局いろいろ考えて一晩お世話になることにしたのだった。



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囚われの領主

「おいおい・・・マジかよ。」

《屋敷とは聞いていたがな・・・》

 

イェーガーがティッタに案内されたのはこの街で一番大きい家であろうと言う屋敷だった。

田舎であるから質素な作りで首都にある一般の家と同じくらいだろうが、イェーガーが記憶している故郷の村長の家と比べるとその差は歴然であった。

 

「ティッタ。あんたの主は町長か何かか?」

「はい!ここにお住みになっているティグル様はアルサスの領主様です!」

 

ティッタは誇らしげに答えるが対照的にイェーガーは頭を抱えた。

おいおいおいおい!俺は礼儀作法ってやつが大の苦手なんだが・・・。

 

「・・・いいのか?一介の旅人なんか招き入れて?」

「ええ・・・。」

 

そう尋ねるとティッタは沈んだ表情となった。

 

「どうかしたのか?」

 

イェーガーがそう尋ねるとティッタはこういった。

 

「立ち話もなんですからこちらへどうぞ。」

 

 

そうしてイェーガーが通されたのは客室であった。

客室にはベッドと机があるだけで他には窓くらいしかなかった。

ちなみに窓からは町がみえた。

 

「ま、いろいろあったけど宿にありつけて助かったな。」

《全くだ。あの子が来てなかったら今頃どうなっていたか。》

 

沈みゆく日を見ながらイェーガーはそう言う。

 

「ここは神々の侵攻を受けなかったのか?」

《さあな。だがそんな所があるってのは聞いたことがない。》

 

ヴァルガスがそう言う。

もともと、イェーガーが住んでいる世界は神々の攻撃から生き延びたグランガイア人達がたどり着いた世界だ。それと同様にこの世界も神々の侵攻から逃げ延びた人々が着いた世界ではないか?

だがそれを確定できる証拠は今のところはない。

 

「まあ、焦っても仕方がないか。」

 

イェーガーがそう言った時、扉がノックされた。

 

「失礼します。」

 

ティッタがそう言って扉を開けた。

 

「お食事の用意が整いました。こちらへどうぞ。」

「ああ。ありがとう。」

「ところで・・・話し声が聞こえたのですが、どなたかとお話されていたんですか?」

 

イェーガーは少し慌てた。ヴァルガスとの会話を聞かれていたからだ。

ヴァルガスの声はイェーガー以外には聞こえず他人から見るとヴァルガスと会話している時のイェーガーは独り言を言ってるようにみえるからだ。

 

「気のせいじゃないか?」

 

イェーガーは動揺を悟らせまいと必死に感情を押し殺しながらそう言う。

 

「そうですか・・・?」

 

ティッタは怪訝な表情をしてはいるが納得はしてくれたようだ。

イェーガーは内心でホッと息をつきティッタについていった。

 

 

食卓に通されて今度はイェーガーが怪訝な顔をする番だった。

ここで領主と顔を合わせることになるのかと思っていたのだが食事はイェーガーに出されている一人分しかないからだ。

 

「ここの領主様は病か何かなのか?」

 

イェーガーがそう尋ねるとティッタは沈んだ表情となった。

これで二度目だ・・・。この子が沈んだ表情になるのは。

 

「どうしたんだ?」

「・・・お話しますのでお食事をどうぞ。」

 

・・・つまり食ってから話すってことか。

イェーガーは席に着き食べ物を見る。

スープにパン・・・肉に・・・野菜。怪しい物はないな。

イェーガーはそう判断すると食事を始めた。

 

 

「ふう・・・うまかった。」

 

イェーガーは久しぶりに満足していた。

出された食事はとんでもなく美味かったからだ。

 

「お口にあってよかったです。」

 

ティッタは笑顔を浮かべそう言う。

全く、俺と同い年くらいに見えるのに大した子だよ。

イェーガーは食器を手際よく片付けていくティッタを見ながらそう思った。

セリアもこれくらいおしとやかならなあ・・・。

イェーガーがそう思った時頭の中にセリアが浮かび猛烈に文句を言い始めた。

イェーガーは頭を前後に軽く振り想像を打ち消した。

 

「大丈夫ですか?」

 

その様子を見ていたのだろうティッタがそう言う。

 

「・・・大丈夫だ。ところで、そろそろ何があったのか聞きたいのだが。」

 

するとティッタは足元に視線を落とし向かいの席に座った。

 

「はい・・・。旅人さんは最近、この近くのディナント平原で戦いがあったのを知ってますか?」

「戦い?いや、知らんな。」

「・・・その戦いにティグル様もご参加されて捕虜になったんです。」

「捕虜?」

 

捕虜と言うことは人同士の争いか。

まあ、普通はそうだよな・・・。

ティッタは話を続ける。

 

「先日ジスタート王国の戦姫様から身代金の要求が届きましてその額が・・・。」

「高いのか?」

「はい。アルサスの領収に換算して約三年分です。」

「・・・それはそれは。」

 

イェーガーは唖然とした。

アルサスの収入が高いか低いかはともかく領収の三年分とはかなり高額だな。

 

「国や他の貴族達は?」

「いろいろとお頼みしてるのですが・・・。」

 

この反応はあれだな。ダメだったんだな。

イェーガーは静かに席をたった。

 

「すまないな。辛いこと聞いちまって。」

「い、いえ・・・。」

 

 

 

「と、いうのがティッタから聞いた事情だ。」

《なるほどな・・・。》

 

イェーガーは部屋に帰ったあと荷物を整理しながらヴァルガスにそう言った。

 

《で、お前はどうすんだ?》

「どうする・・・って何が?」

《助けるのか?》

 

ヴァルガスがそう尋ねるとイェーガーはきっぱりとこういった。

 

「んなわけないだろ。俺は召喚師であって正義の味方じゃない。」

《へぇ・・・。》

 

ヴァルガスは意外そうな響きを含めてそう言った。

というのも、イェーガーは今までにそう言う人の困りごとにめんどくさがりつつも首を突っ込み解決していたからだ。

 

「・・・できることなら手伝ってやりたいが、何ができる?」

《・・・戦姫とやらを倒すとか?》

「どれだけ強いかわからないのにそんなリスクを侵せるか。第一場所がわからない。」

《ま、そうだよな。》



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始まりの炎

扉を叩く音でイェーガーは目を覚ました。

 

「旅人さん!早く起きてください!」

「ティッタか・・・?なんだ?こんな朝早くに。」

 

イェーガーは寝ぼけ眼のまま起き上がると服を着て扉を開けた。

そこにははしばみ色の瞳に焦りと怯えの光を写したティッタがいた。

 

「どうした?」

 

ただならぬ気配に気づき眠気が吹っ飛んだイェーガーは尋ねた。

 

「早く森の方にお逃げください!まもなくテナルディエ公爵の軍がここに現れます!」

「何?どういうことだ?テナルディエとは誰だ?」

 

ティッタの言葉を省略するとこうだ。

アルサスはブリューヌ王国とジスタート王国の国境にあり先の戦でアルサスの領主は捕虜となり不在となった。

もしもこの隙にジスタートがアルサスを奪えばそれはブリューヌにとって危機となる。そこで使い物にならないようにするためにアルサス全土を焼き払ってしまおう。

と言うわけだ。

これを考えたテナルディエ公爵はブリューヌで1、2を争う大貴族であった。また、非道な人物としても知られておりブリューヌ国内の貴族はその勢力の大きさからか半分以上はテナルディエ公爵を弾劾できず従う者の方が多かった。

 

「ですから、旅人さんも早くお逃げください!」

「・・・わかった。」

 

イェーガーはそう頷くと町の近くにある森へと逃げ出した。

 

 

「はははは!殺れ!やっちまえ!」

 

町からテナルディエ軍の兵士の声がする。

テナルディエ軍総勢3000は5分程前に町に入り略奪を欲しいままにしていた。

セレスタの住人にかかわらず、アルサスの住人は戦に対する危機感は薄かった。

主要な道はなく山や森がいたるところにあるような土地だからだ。その為かテナルディエ公爵の非道さも領民にはあまり伝わっておらずテナルディエ軍が来ることを深刻に受け止めてなかった。

その所為で今アルサスの住人はテナルディエ軍により蹂躙されていた。

 

《おいおい。本当にほっとくのか?》

 

ヴァルガスが森の中で身を潜めるイェーガーにそう言う。

イェーガーたちはティッタの言葉に従い森の中へと逃げていたのだ。

 

「考えてみろ。今は任務中だぞ。余計な面倒には巻き込まれたくない。」

《そりゃあそうだけど・・・あれは酷すぎないか?》

 

イェーガーは襲われている住人たちを一瞥した。

 

「確かにやりすぎとは思う。が、俺が助けなきゃならん理由がない。」

《・・・そりゃあそうだが。》

「それよりもさっさと行くぞ。見つかったら面倒だ。」

 

イェーガーがまさにそう言った時だった。

 

「おい!隠れている住人が、見つかったぞ!」

 

イェーガーの背後からテナルディエ軍の兵士が叫んだ。

彼らは見つかったのだ。

 

「・・・。」

 

イェーガーは振り向き兵の数を確認する。

大体20人ってとこか・・・。森の中を捜索とは精が出るな。

 

「おい。そこのガキ動くなよ」

 

兵士がそう言って近づいてくる。

 

《イェーガーどうすんだ?》

「・・・逃げる。」

 

イェーガーはぼそりとつぶやくと兵士たちとは逆の方向―すなわちセレスタへと走り出した。

 

「待ちやがれ!」

 

兵士たちも走って追いかけるがそこは装備と地形に助けられた。

大剣を背負ってるとはいえ軽い衣服のイェーガーに対し重厚な鎧を着込んだテナルディエ軍の兵士が森という地形で思うように動けるはずがなかった。

 

「待てと言われても誰も待たないだろうになんでそういうのかな?」

《あー。あれだ。気分。》

「かな?」

 

イェーガーは会話する余裕をみせたままセレスタへと入っていった。

だが、それが冷静に考えれば一番とってはならない選択であった事にすぐに気づく事となった。

それは町の広場に通ずる道に入った時だった。

 

「いたぞ!領民だ!」

 

略奪を楽しんでいたテナルディエ軍はイェーガーに気づき一斉に駆けつけてきた。

 

「げっ。まずった・・・。」

 

イェーガーはそう呟き後ろをチラリと伺うとそこには別の兵士が回り込んでいた。

 

《あーらら・・・。囲まれたな。》

「・・・だな。」

 

イェーガーはそう呟くと大剣に手をかけた。

 

「おいおい坊主!この人数差でやりあう気か?」

 

兵士の一人が挑発するようにそう言った。

 

「やめとけって!怪我するだけだぜ。」

「そうだよ。俺からすればお前は売り物なんだから大人しくしろって。」

「売り物・・・?」

 

その言葉でイェーガーはすべてを悟った。

国の為にアルサスを焼く。と言う名分のもとでこの軍は初めからここの領民をことごとく捕らえ奴隷として売るつもりであると言う目的もあることに。

・・・やってくれるじゃねえか。数は・・・300くらいか。ハンデにもならないな。

熟練した戦士であればイェーガーの異変―静かな闘志と冷酷なまでの殺意がイェーガーから放たれた事に気づいただろう。だが、彼らは未熟すぎた。

 

「・・・どうやらやるしかないようだ。」

「おいおい!やめとけって!坊主!」

「・・・見かけで判断しないほうがいいぞ。」

 

イェーガーはダンデルガを構えた。

 

「どちらにせよ、降りかかる火の粉は払うまでだ。」

 

先頭にいた兵士が大げさにため息をついたかと思うとイェーガーに斬りかかった。

刃がイェーガーを切り裂いたと思った時、兵士の剣は空を切った。

 

「はぁ?」

 

斬りかかった兵は呆けた声でそう言った。そして、それがその兵士の最後の言葉となった。

次の瞬間兵士の首が胴から離れ首を失った身体は音を立てて崩れ落ちた。

一瞬、見ていた兵士たちは何が起こったのか理解できなかったが目の前に無傷で立つイェーガーを見て唐突に理解した。

この少年が剣を振ったのだと。

 

「行くぞ。」

 

イェーガーがそう言った刹那同時に二人の兵が倒れた。

 

「く、クソガキが!」

 

倒れた兵の隣にいた兵士がイェーガーに槍を突き出す。

イェーガーはその槍をたやすくかわすとダンデルガを振り下ろした。

ダンデルガは兵士の兜を簡単に打ち砕き兵士の身体を二つに裂いた。

 

「ひぃぃ!」

「ば、化物だ!」

「助けてくれぇ!」

 

兵たちは口々にそう言って逃げ出す。

 

「助けてくれとは・・・随分都合のいい話だな。」

《・・・やるのはいい。が、加減しろよ。》

 

ヴァルガスはイェーガーがやろうとしている事に気づきそう言った。

問題ない。

イェーガーは心の中でそう返しダンデルガを振り上げた。

 

 

ダンデルガが覇炎剣と呼ばれるのには理由がある。

遥か昔―神々との争いでヴァルガスが使っていたためとも言われるがそうではない。ダンデルガは使用者の意思に応じ燃えるからだ。その理由は諸説あるが有力なのはある鍛冶師が火山で採れる特殊な鉱石を利用した為だというものだ。ヴァルガスは神々との戦いでこの剣の力を使い幾度と無く勝利を収めてきた。

そして今、イェーガーはその力を行使しようとしていた。

くらえ・・・!

 

『永久の炎に焼かれよ!(インフィニティ・ノヴァ)』」

 

イェーガーは炎に包まれた剣を振り下ろした。その動作に呼応して炎は一筋の太い線となり道を逃げていた兵すべてを呑み込んだ。兵たちは瞬く間に消し炭となった。役目を終えた炎は急速に弱まり消えた。

 

「ふう・・・。」

 

イェーガーは息をついた。

勇技(ブレイブ・バースト)』は威力は高いがその分使用者の負担も大きい為乱用は難しいのだ。

一通り片付いたか・・・?

そう思った時、屋敷の方から続々と騎士がやって来るのが見えた。

おいおい・・・勘弁してくれよ。

イェーガーは静かにダンデルガを構えたが攻撃しなかった。

イェーガーに向かっている騎士たちはテナルディエ軍の鎧とは違ったからというのと先頭に立って兵を率いているのがイェーガーと同い年くらいの少女だったからだ。

少女は美しい顔立ちで白銀色の髪を腰まで伸ばしており紅の瞳には凛々しさが輝いていた。そして手にはひと振りの長剣が握られていた。

その背後には副官とも思われるくすんだ赤い髪を短く整えた少年がひかえており手には黒い弓を握っていた。そして、黒い瞳は温和そうな輝きを帯びながらも強い意思も見て取れた。

・・・油断は禁物か。

イェーガーは静かに少女を睨んだ。だが、少女はひるまずイェーガーに近づくとこう尋ねた。

 

「あの炎を放ったのはお前か?」

「・・・だったら何だ?」

 

イェーガーは臨戦態勢を解かずにそう言う。少女は珍しい物を見る目でダンデルガを眺めると後ろの少年に尋ねた。

 

「ティグル。こいつはお前の村の者か?」

「いや、こんな奴見たことがない・・・。」

 

イェーガーはその名に聞き覚えがあった。

 

「あなたがティグルか?」

「え?そうだが・・・?」

「俺は旅人だ。昨日、あなたの屋敷のティッタと言う侍女に助けられたのでな。礼を言う。」

「ティッタが?」

 

ティグルは一瞬不思議そうな表情をしたがすぐに合点がいった顔をした。

 

「お前、名前は?」

 

少女がイェーガーにそう尋ねるとイェーガーはこういった。

 

「あとにしないか?敵は去ってないんだからさ。」

 

少女は一瞬呆気に取られた表情をしたがフッと微笑み同意した。

 

 

イェーガーと謎の一軍はそれからあまり時間をかけずにテナルディエ軍の撃退に成功した。

テナルディエ軍は500の兵を失い近隣のモルザイム平原へと逃げ込んだ。

こうして、イェーガーの物語は本当の意味で始まったのである。



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炎竜降臨

「では。改めて自己紹介といこう。」

 

少女がそう言う。

戦いを終えたイェーガー達はひとまずセレスタの入口に集まり馬上のままで話を始めた。

今その場にいるのはイェーガーを含めて4人だった。

 

「まずは私からだ。」

 

なぜか得意げな様子で銀髪の少女がそう言う。その背後ティグルともう一人、別の女性がいた。

女性は端整な顔立ちで長い金髪をサイドポニーテールで整えていた。女性は無表情でイェーガーを睨んでいた。

・・・俺何かしたか?

困惑するイェーガーをよそに少女が自己紹介を始める。

 

「私はエレオノーラ=ヴィルターリア。七戦姫の一人で『銀閃』アリファールが主だ。」

 

その紹介を聞きイェーガーは少し驚いた。

この子が戦姫?何かイメージと違うな・・・。

 

「ティグルヴルムド=ヴォルンだ。一応アルサスの領主だが今はエレン・・・エレオノーラの捕虜だ。」

 

ティグルがそう言う。

うーん・・・。名前が長いな・・・。

 

「エレオノーラ様の副官を勤めています。リムアリーシャです。」

 

女性がそう言うとイェーガーは一歩前に出て名乗った。

 

「俺の名前はイェーガー。一応旅人です。」

 

イェーガーがそう言うとエレオノーラが意味ありげな視線を投げかけた。

 

「・・・なんですか。」

 

視線に耐え切れずイェーガーがそう尋ねるとエレオノーラがこういった。

 

「一介の旅人と言うのは嘘だろう?本当のことを話したらどうだ?」

 

・・・あそこまで嘘と言い切るのもすごいな。まあ嘘だが。

 

「話せません。話しても信じてもらえないでしょうから」

 

するとティグルが困ったように笑いながらこういった。

 

「それでもいいから話してくれないか?」

 

・・・こいつは馬鹿なのか?それともドがつくほどのお人好しなのか?

 

《試しに話してみれば?いざって時は俺を呼べばいいんだし》

 

ヴァルガスがそう言う。

うーん・・・だがなぁ、やはりそれは無茶だろう。さて。どうしたものか。

イェーガーが言いづらそうにしているとティグルが助け船を出した。

 

「わかった。話せると信用してくれたら話してくれ。」

「・・・すみません。」

 

イェーガーの話題が終わると次はテナルディエ軍についてだった。

 

「イェーガー殿が討ち取った敵兵が300。我らの手勢が討ち倒したのが200ですのでテナルディエ軍の残りの手勢は2500。我々は100騎をこの街の守備に置いていくので動かせるのは900騎です。」

 

リムアリーシャが淡々とした調子でいう。

・・・やはり戦うしかないのだろう。曲がりなりにも貴族の兵を殺したのだから。

 

「約3倍か・・・。敵はどこに逃げるのだろうか?」

 

イェーガーはそう尋ねる。

彼がヴァルガスを呼び出しともに戦えば2500の兵くらいならばすぐに全滅するだろう。だが、正体を隠している今それは進言できない。

その問にティグルが答えた。

 

「おそらく。モルザイム平原だろう。ザイアンは俺たちが追って来ることを予想しているはず。だから騎士の力を最大限に発揮できる場所に陣をしくはずだ。」

《間違いないだろう。俺も一時アグニの騎士団にいたからな。騎兵の強さならある程度わかる。》

 

ヴァルガスが同調する声が聞こえる。

 

「私とティグルで400を率いる。リムお前が残りを率いろ。」

「・・・イェーガー殿は如何しましょう?」

「お前が面倒見てやれ。」

 

リムアリーシャがそう尋ねるとエレオノーラは事もなげにそう言った。

 

「・・・承知しました。」

 

リムアリーシャは不承不承といった様子で頷いた。

 

「あと、必要な物は?」

「そうですね・・・。ロープが欲しいですね。細い物でも束ねればいいのでできるだけ多く。」

「替え馬はどうするんだ?」

 

ティグルが尋ねる。

替え馬とはエレオノーラ達が連れてきた予備の馬たちだ。

 

「セレスタの町に置いていきますが何か問題でも?」

「思いついたことがあるんだ」

 

それから半刻後。

両軍はモルザイム平原で対峙した。

 

 

「始まったようですね。」

 

エレオノーラ達の軍とテナルディエ軍が激突してから約5分後。

別働隊で行動しているリムアリーシャの軍にいるイェーガーはテナルディエの第一陣が瓦解したのを見てそう言う。

 

「ええ。我々も動きましょう。進撃開始。」

 

リムアリーシャは淡々とした調子でそう言うと馬を走らせた。イェーガーも慌てて走らせる。

リムアリーシャの軍勢は大きく迂回しテナルディエ軍第二陣の側面をついた。

イェーガーは目の前の騎兵に向かいダンデルガを振り下ろした。

ダンデルガは兵士の身体をなぎ払い周りの敵兵も巻き込んだ。

 

「イェーガー殿。別働隊が来ました。手はず通り下がりますよ。」

「了解!」

 

イェーガーは最後のひと振りを敵に放つとリムアリーシャとともに撤退を開始した。

抵抗は散発的なものにとどめ小高い丘へと逃げていく。

異変が起こったのは斜面の半ばにさしかかった時だった。

テナルディエの騎兵が一斉に転倒したのだ。

うまく引っかかった!

リムアリーシャが用意したロープを彼らは地面に泥だらけにして張り罠を仕掛けていたのだ。

それを見たリムアリーシャの軍は一斉に反転。テナルディエ軍を掃討しようとした時だった。

イェーガーの背筋にゾクリと嫌なものが漂った。

 

「止まれ!」

 

イェーガーが叫ぶ。

 

「どうしたのですか?」

 

リムアリーシャが尋ねるのも気にかけずイェーガーは空を見つめた。

黒く曇っている空に突然魔法陣のようなものが浮かび上がった。

 

「召喚陣!?」

 

イェーガーがそう言う。

召喚陣とは召喚師や神がユニットを呼び出すために作り出す擬似ゲートのようなものでその陣を通してユニットはこの世に顕現するのだ。

誰が呼び出しやがった・・・!

イェーガーが召喚者を探そうとした時、召喚陣から一体の赤い竜が赤い目に暴力の色を帯びて現れた。

 

「竜・・・!」

 

リムアリーシャの目が大きく見開かれる。

 

「創炎竜・・・ダリマオン!」

 

イェーガーが睨みながら呟いた。

 

「GYAOOOOOOOO!」

 

ダリマオンが咆哮を上げ口から火を噴いた。

ゲヘナブレス―ダリマオンが使う炎のブレスは鋼鉄をも一瞬で焼き尽くす。

ブレスは辺り一面を火の海にしテナルディエ兵を襲った。彼らは悲鳴を上げる間もなく燃え尽きた。

 

「なっ・・・!」

 

そのあまりの強さにリムアリーシャ達が絶句した時ダリマオンがイェーガーたちを睨んだ。

イェーガーは馬から降りてダンデルガを構えた。

そして、不敵に笑うとこういった。

 

「いいぜ。相手になってやんよ!」



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煌炎の召喚

「GYAOOOO!」

 

ダリマオンは標的をイェーガーに定めゲヘナブレスを吐いた。

 

「ッ!!」

 

リムアリーシャ達が身構える中イェーガーは『勇技』を使った。

 

「『永久の炎に焼かれよ!(インフィニティ・ノヴァ)』」

 

ダンデルガから放たれた炎の奔流はゲヘナブレスを打ち消しダリマオンへと向かう。

だが、ダリマオンは炎の奔流から逃れようとしなかった。

なぜだ?

イェーガーは不審に思った。

大抵のユニットならばあの一撃を避けようとするはずなのにダリマオンは何故その場にとどまる?

嫌なものをイェーガーは再び感じた。その時だった。

ダリマオンは口を大きく開け炎を取り込んだ。

 

「なっ!?」

 

これにはイェーガーも驚きを隠せなかった。

だが驚きもつかの間。ダリマオンは取り込んだ炎を自らの物としそのままイェーガーたちに放った。

 

「ちっ!」

 

イェーガーは舌打ちするとダンデルガを地面に突き立て叫んだ。

 

『悠久の護りよ、我らを守れ!(イグニート・ウォール)』」

 

ダンデルガを中心に左右合わせて500メートル程の炎の壁が現れゲヘナ・ブレスを防いだ。

後ろの兵士たちから歓声がこぼれる。

 

「リムアリーシャさん!早く兵を退くか迂回して突っ込むか決めてください!皆さんを守りながら戦うのは無理です!」

「しかし!それではイェーガー殿が・・・」

 

リムアリーシャが反論をさらに続けようとした時イェーガーが叫んだ。

 

「いいからさっさと退け!今のあんたたちで何ができる!?」

 

目の前で繰り広げられている炎の応酬。それを目の当たりにしリムアリーシャは自らの無力さを嘆いた。

私にもっと力があれば・・・!

 

「・・・それでも。私は引きません!」

 

リムアリーシャは強い決意に満ちた声でそう言った。

 

「・・・勝手にしろ!」

 

イグニートウォールが消えると同時にイェーガーは動いた。

一気に距離を詰めてダンデルガを振った。

 

「ッ!!」

 

ダンデルガからイェーガーに痺れが伝わった。

硬いのだ。ダリマオンの鱗はイェーガーの予想を超えて硬くなっていた。

 

「GYAOOOO!」

 

ダリマオンが爪を振りイェーガーを襲った。

 

「グッ!」

 

イェーガーはとっさにダンデルガで防いだがかなりのダメージを受け地面に叩きつけられた。

くっ・・・どうする。本気を出すしかないのか・・・。

イェーガーの本気はかつて四堕神アフラディリスとの戦いにおいて使用されその一撃はアフラディリスと同化した城を消し飛ばす程の力だった。ただし、消耗も激しく使用後イェーガーは3日間眠るはめになったのだ。

 

《だーっ!俺がいるじゃねぇか!》

 

ヴァルガスがそう言う。

・・・やれるか?

 

《当たり前だろ!》

 

イェーガーの問いかけにヴァルガスが答える。イェーガーは後ろでいつでも戦闘に入れるようにしている兵士たちとリムアリーシャを見る。

・・・こいつらを守るにはそれしかない。

イェーガーは決断を下した。

行くぞ。ヴァルガス!

 

《おう!》

 

イェーガーは立ち上がるとダンデルガの柄を額に当てて唱えた。

 

「『遍く炎よ。我が祈りに答えよ。理を超え炎の翼翻し英雄を我が元に導きて顕現せよ!』」

 

すると空に召喚陣が広がった。それはダリマオンを呼び出した物よりも遥かに大きかった。

 

「GYAOOOO!」

 

ダリマオンが危険を悟ったのかゲヘナブレスを放った。

 

「『来い!!ヴァルガス!!』」

 

イェーガーがそう叫ぶと同時にゲヘナブレスがイェーガーを包み込んだ。

 

「イェーガー殿!!」

 

 

 

それと同時刻。

エレオノーラとティグルが率いる軍はテナルディエが飼い慣らしていた地竜を倒しザイアンを追い詰めていた。

 

「なんだあれは!」

 

エレオノーラが丘の方角で上がっている火柱に驚く。

 

「・・・ッ!」

 

ティグルが慌てて駆け出そうとした時、エレオノーラが引き止めた。

 

「何をする!エレン!」

「何をするはこちらの台詞だ。ティグル!」

「放してくれ!俺は二人を助けに行くんだ!」

 

そう言うティグルにエレオノーラは刃を連想させるような鋭い視線でティグルを睨みこういった。

 

「敵の総大将が目の前なんだ!そいつを倒せば全てが終わるんだぞ!」

「だが!」

「ティグル!私を信じろ!心配するな!リムならあんなところで死んだりしない。」

「くっ・・・!」

「ティグル!」

 

迷うティグルにエレオノーラが声をかける。ティグルは迷いを晴らすように敵の本陣へと馬を進めた。

リム・・・イェーガー・・・無事でいてくれよ・・・!

ティグルはそう思わずにいられなかった。

 

 

ゲヘナブレスがイェーガーを包み込みその周囲を焼き尽くす。

 

「イェーガー殿!!」

 

リムアリーシャが懸念の声を上げたその時だった。

 

『悠久の時を超えし勇炎を受けよ!(ブレイブリー・セイヴィア)』」

 

炎の中から聞きなれない男の声がした。と同時にゲヘナブレスを消し飛ばし今までで一番強い炎がダリマオンを襲った。ダリマオンが口を開け炎を吸収しようとすると炎はさらに燃え上がりその力をはねのけた。

ダリマオンが苦痛の咆哮をあげる。

 

「全く・・・やっと俺の出番かよ。」

「悪いな・・・。」

 

その時強い風が吹きイェーガーを包んでいた炎が消える。

そこにいたのはボロボロのイェーガーと重厚な鎧に身を包んだ赤髪の男だった。

そしてその男の背中には・・・炎を纏った翼があった。

 

「・・・!」

 

リムアリーシャはその様子を絶句しながら見ていた。

 

「ま。いいさ。とっととケリ、つけちまおうぜ。」

 

男はダンデルガを振り上げながらそう言う。イェーガーは隣でどこからか取り出したふた振りの剣を持っていた。

一つは白くもう一つは黒い剣―魔導剣トゥル・アンファン、グラデンスからイェーガーに与えられた双剣だ。

 

「ああ。」

 

イェーガーはダリマオンを睨みながら静かにそう言った。

さあ、反撃だ。



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モルザイム平原の戦いー終結ー

「GYAOOOO!!」

 

炎を振り払ったダリマオンは突然現れたヴァルガスを見つけ睨みつけた。

 

「へっ。なかなかに楽しめそうだな。」

「ヴァルガス、甘く見るなよ。あいつはダンデルガの炎を吸収したんだぞ。忘れたのか?」

「へぇ。そいつはすごい。」

 

ヴァルガスがちっともすごいと思ってない声でそう言う。ダリマオンがゲヘナブレスを吹き襲いかかってくる。

 

「『闇と光よ、我らに向かいし力を消し去れ!(イレイザー・アンバー)』」

 

イェーガーが叫びながらトゥル・アンファンを振ると地面から闇と光が現れゲヘナブレスを包み込み消し去った。

それを見たヴァルガスは翼をはためかせ飛んだ。

 

「お前も忘れたか?」

 

ヴァルガスがダンデルガを振り上げながらイェーガーに言う。

 

「俺の炎はお前の炎より強いって事を。」

 

ヴァルガスはニヤリと笑いそう言うとダンデルガを振り下ろしながら叫んだ。

 

『炎よ、舞い上がれ!(フレアライド)』」

 

ダンデルガはダリマオンの右翼を切り裂き大地に下ろされた時、火柱が上がりダリマオンを襲った。

ダリマオンは再び、炎を吸収しようとして失敗し、炎に焼かれた。

 

「竜の翼が切れた・・・!」

 

リムアリーシャが絶句する。そのそばにイェーガーが戻ってくる。

 

「やばいだろ。あいつの力。」

「・・・イェーガー殿。あなたは一体何者ですか?」

 

リムアリーシャは人間離れした状況でもイェーガーにそれを問いただした。

 

「・・・そうだな。もう隠せないし話してもいいだろ。」

 

イェーガーはそう独りごちるとヴァルガスの戦いを見ながらリムアリーシャにこういった。

 

「リムアリーシャさん。あんたは異世界、てのを信じるか?」

「・・・あなたがそこから来たとでも?」

 

そう返すリムアリーシャの声はひどく冷たかった。だがイェーガーは意に介さず頷いた。

 

「そうだ。」

「・・・冗談や嘘の類ではなさそうですね。」

 

リムアリーシャがそう言う。

 

「この世界にはどこかにゲート、と言う世界と世界を繋ぐ扉があるんだ。」

「あなたはそれを通って来たと?」

「ん。平たく言えばそゆこと。」

 

イェーガーはなんでもないかのようにそう言う。

 

「ゲートが出てきたらそこにある世界が危険かどうか調査しなければならないんだ。危険ならこっち・・・つまり俺の世界に来れないように防衛措置を取らなきゃならないからな。そんで、そこを調査するのが召喚師だ。」

「召喚師とはあなたのような人をさすのですか?」

「まあ・・・そうだな。」

「・・・ひとつお聞きしたいのですが。」

 

リムアリーシャが尋ねる。

 

「どうして、初めからあの方を呼ばなかったのですか?」

 

あの方と言うのはヴァルガスだ。イェーガーは我が意を得たりと言う顔をした。おそらく、その質問が来ることを予想していたのだろう。

 

「ヴァルガスを呼び出した力は召喚術って言ってな。第三者から見たら援軍を呼び出せる便利な術に見える。けどな、やっぱデメリットはあるんだわ。」

「デメリット?」

 

イェーガーはニヤリと笑いこういった。

 

「呼び出している間は余り戦えないし、ヴァルガスには制限時間がある。」

「制限時間・・・ですか?」

「だいたい5分ってとこだ。」

 

そこまで言った時ヴァルガスが叫んだ。

 

「おい!イェーガー!時間がやべぇ!決めるぞ!」

「了解だ。」

 

イェーガーはそう言うとヴァルガスの隣に並び立った。

 

「『煌めく炎よ、絶望の闇よ、包み込む光よ、我らが敵を狙い穿ち逃れる術もないまま葬り去れ!』」

「食らえ!合成技!『聖炎と闇の波動(イグニート・アポカリプス)!」

 

イェーガーとヴァルガスはほぼ同時に剣を振り下ろした。すると、闇と光が合わさり一つの大きな炎となり、ダリマオンに襲いかかった。

 

「GYAOOOO!」

 

ダリマオンが最後の抵抗と言わんばかりにゲヘナブレスを放ったが炎はそれを消しとばしダリマオンを焼いた。

周囲にダリマオンの壮絶な叫び声に包まれた。そして、炎が消えた時、ダリマオンの姿は無く周囲を覆っていた炎も消えていた。

兵士の歓声が響き渡ると同時に、イェーガーはその場に倒れた。

 

「イェーガー殿!」

 

リムアリーシャが駆け寄り抱きかかえる。イェーガーは意識を失っていたがその手にはトゥル・アルファンとダンデルガが握られていた。

 

モルザイム平原の戦いは戦姫エレオノーラ及びティグルが率いるジスタート軍の勝利に終わった。テナルディエ軍総指揮官ザイアン・テナルディエはティグル及びエレオノーラによって飛竜ごと落とされ戦死。テナルディエは跡継ぎと2頭の竜を失う大損害を被った。

イェーガーは意識を失い2日間眠り続けた。

こうしてモルザイム平原の戦いは終結したがこれは大きな戦いの一角にすぎなかった・・・。







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幕間―グラデンスの現場確認―

イェーガーがモルザイム平原で戦いに入った頃

 

―帝都ランドール

 

アクラス召喚院のゲートの狭間に四人の人物がいた。その中の二人はカルとリムで、あとの二人のうち一人は赤い鎧を纏い黒い髪を無造作に束ねた女性で、もう一人は白を基調としたローブを着ており右目に眼帯をつけた老人であった。

老人が尋ねる。

 

「・・・カルや、本当に突然ゲートが閉じたんじゃな?」

「何度も言ってるだろう、グラデンスの爺さん。はっきりとはわからねえが見てた奴の話を聞く限りそうとしか思えないんだ。」

 

カルが老人―グラデンスにそう言う。

グラデンスはイェーガーの師匠にしてカルの育て親だ。あるところで捨て子の時のカルを見つけ村に連れて帰り村人に世話を頼みつつカルを見守っていたのだ。

というのも、彼は当時召喚師の中でも最も位の高い『召喚老』と言う位におりとてもではないが子育てを自らの手で行うのは無理があったからだ。

現在は『召喚老』と言う地位にありながら最前線で戦うがその強さは他の召喚師を遥かに凌駕し神ですら一目おいているほどだ。

 

「全く・・・ゲートが突然閉じるなんてあのバカも大変ね・・・。」

 

カルの隣で女性がそう言うとリムが泣き出しそうな顔になりこういった。

 

「すいませんセリアさん!やはり私が先輩を止めていれば・・・!」]

「べ、別にあなたが悪いと言うわけじゃないのよ!」

 

女性―セリアは慌ててそう言う。

 

「それにあいつがそう簡単に死にはしないわよ!」

 

セリアはそう言った。

というのも、セリアは以前自分と深い因縁がある魔神の討伐をイェーガーに助けてもらって以来イェーガーの強さを信じているからだ。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、セリアよ果たして本当にそうかの?」

「どういうことだよ?グラデンスの爺さん。」

 

グラデンスの一言に真っ先に反応したのはカルだった。

カルにはグラデンスの一言が意外だったのだ。

 

「カルよ、わしが今回あやつに依頼したのは理由がありまたいくつかの展開も予想してたのじゃ。そのうちの一つが当たったと言うことじゃよ。」

「グラデンス様!予想していらっしゃったのにあいつを調査に出したのですか!?」

 

セリアの問いかけに老召喚師は頷いた。

 

「いかにも。」

「その予想とはなんなんですか!?先輩は無事何ですか!?」

 

リムの問いかけにグラデンスは笑みをこぼした。

全くあやつめ、すみにおけんわい。

 

「リムよ。無事かどうかは分からぬ。なにせあやつの相手はゲートを閉じることができるほどの力を持った魔神なのだからのう。」

「そんな魔神がいるのか!?爺さん!」

 

カルが驚きの声を上げた。

 

「カルよ、お主も名前ぐらいは聞いたことがあるじゃろう?相手の名はおそらく、アルトニクスじゃ。」

「・・・!!」

 

カルは絶句した。

アルトニクスとはカルがリーダーを務めている第二十四魔神討伐部隊『レブルエンス』こと通称『ニーヨン』が一ヶ月前から追いかけている魔神、それがアルトニクスだ。初めて交戦した時、被害は最小限で食い止められたがその力の差をまざまざと見せつけられたのだった。

 

「じゃが、問題は無い。すでに手はうっておるからの。」

 

グラデンスは笑いながらそう言った。



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第二章ヴォージュ山脈山賊掃討戦
魔神の脅威


「うう・・・。」

 

割れるような頭の痛みでイェーガーは目を覚ました。

一体何だと思い自分の状況を確認すると自分が眠っていたのはティグルの屋敷の客室のベッドで今の時間は大体朝の8時頃であることがわかった。ベッドの右側に荷物とダンデルガがありイェーガーは左側に横たわっていた。

・・・頭が痛いのはベッドから落ちたからか。

 

《おう。起きたか?》

 

ヴァルガスの声がする。

 

「うう・・・目覚めは最悪だ。」

《ははは!見事な落ちっぷりだったぜ!》

 

ヴァルガスがさもおかしそうにそう言う。

 

「俺は何日程眠っていた?」

 

イェーガーにはこれまでの経験で自分が眠っていたのが1日ではないことを悟っていた。

 

《まる二日だな。》

「そうか、意外にも早かったんだな」

 

などと会話をしていた時、扉が開きティッタが入ってきた。

 

「あ!イェーガーさん、お目覚めになったのですね?」

「ああ、まあな。」

「皆さんが一階の応接間でお待ちですよ!」

 

はあ、説明しなきゃダメなんだよな・・・。

イェーガーは頭を悩ませながら応接間に向かった。

 

 

「おお!来たか!」

 

応接間に行くとイェーガーはエレオノーラの歓声を聞いた。

それはまるで面白いおもちゃを見つけた子供の反応のそれだった。

応接間にはエレオノーラ、イェーガー、ティグル、リムアリーシャの四人がいた。

 

「早速で悪いが、お前の話を聞こう。」

「おい、エレン。イェーガーは今目覚めたんだ。少し落ち着いたらどうだ?」

 

ティグルがそう言うとイェーガーは首を振りこういった。

 

「いや、面倒事先に済まさせてもらう。・・・だが、気遣いには感謝する。ありがとう。」

 

イェーガーはそう言うとエレオノーラの方を向いた。

 

「今更だが、俺は礼儀作法ってやつに疎い。無礼を承知でいうがこの口調のまま説明させてもらうぜ。」

 

イェーガーはそう前置きをするとすべてを語った。

自分が異世界人であること、この世界には安全かどうかの調査に来たこと、そしてヴァルガスを呼び出しダリマオンと戦い勝利した事。すべてを順序よく話した。

 

「にわかには信じられんな。」

 

エレオノーラがまずそう言った。イェーガーは顔をしかめてこういった。

 

「信じてくれとしか言えん。・・・ま、普通は信じられんだろうがな。」

「だがあの時あの場で火を吐く竜がいたのも事実だ。おそらく嘘じゃないんだろう。ただ、ひとつ聞かせて欲しい。」

 

ティグルがそう言う。

 

「何だ?」

「どうして話してくれなかったんだ?」

「・・・話したところであんたたちは信じたか?」

 

イェーガーは鋭くティグルたちを睨みながらそう言った。

 

「そ、それは・・・。」

「そういうことだ。」

 

イェーガーはそう言った時リムアリーシャが口を開いた。

 

「イェーガー殿、あなたはこれからどうなさるのです?」

「どう、とは?」

「この地の調査を続けるのか我らと共に戦うのか。」

「私としてはこのままともに戦って欲しいだが、それはお前が決めることだ。」

 

エレオノーラがそう言う。

イェーガーはためらう素振りもなくこういった。

 

「このままあんたたちと戦おう。」

「・・・理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

ティグルが尋ねるとイェーガーは深刻な表情となった。

 

「どうなさいました?」

 

リムアリーシャが尋ねるとイェーガーは意を決したようにこういった。

 

「この地にはどうやら召喚術を使えるかなり強力な魔神、もしくはそれにそうとうする何かがいると思うんだ。」

「魔神?なぜそう思った?」

 

エレオノーラが尋ねるとイェーガーは自分の推測を語った。

 

「まず、先の戦いで呼び出されたダリマオンだ。あれで召喚術を行使した術者がいるってことがわかる。そして次にダリマオンの強さだ。明らかに普通のダリマオンより異なっていた。」

「何?あんな物ではないのか?」

「いや。普通はあそこまで強くない。なにせ炎を吸収したんだからな。これらの点を総合すると・・・。」

「強力な何かがいる、と言うことですね?」

「ご名答。」

 

イェーガーの説明が終わるとティグルは空を仰いだ。

 

「テナルディエだけじゃなくてそんな奴までいるなんて・・・。」

「大丈夫だ!ティグル!私がいるではないか!」

 

エレオノーラがそう言う。イェーガーは続けてこういった。

 

「ああ。それに魔神の相手は俺がする。任せてくれ。」

「イェーガー・・・エレン・・・そうだな、俺が弱気になっちゃダメだよな。」

 

ティグルは二人を見てこういった。

 

「みんな、力を貸してくれ。」

「ああ!」

「もちろんだ。」

「非才なる身の全力をもって。」

 

三人は快諾した。



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召喚院の異常

ここで出てくる端末とはスマホなどのタブレット状のものです


「さて、では私はそろそろ行くとしよう。」

 

エレオノーラが唐突に立ち上がる。イェーガーは目を丸くして尋ねた。

 

「どこかに行くのか?」

「ん?ああ。ジスタートの王都にな。」

 

エレオノーラがそう言う。

 

「王都?」

「陛下に事の仔細をお伝えしなければならないんだ。」

「へぇ・・・戦姫っていうのも、大変なんだな。」

「まあ、仕方のないことだ。」

 

エレオノーラが苦笑混じりにそう言う。

事実、戦姫はジスタート国内においては王に次ぐ程の位の高さであり世界的に見ても最重要人物でもあるのだがイェーガーはこのことを知らない。

 

 

 

「さて。」

 

イェーガーは客室で召喚院に報告するため端末を荷物から取り出した。

というのも、エレオノーラはジスタートの王都に行きティグルはティッタとともに村の見回りにいった為屋敷には彼とリムアリーシャしかいないのだ。

 

「面倒だが、場合によってはユニットを増やす報告をしとかなきゃなぁ・・・。」

 

イェーガーはそう独りごちた。

イェーガーが使用出来るユニットは何もヴァルガスだけではない。ただ、ヴァルガスはイェーガーの持つユニットの中でも最高クラスの強さを持っておりさらにイェーガーの旅が始まってからの長い付き合いなので、イェーガーはヴァルガスを重宝しているのだ。

 

「召喚院。こちら、イェーガーだ。応答願う。」

 

イェーガーは端末に呼びかける。が、端末からはノイズしか帰ってこない。

 

「召喚院?応答してくれ。リム。」

 

イェーガーは自分を先輩と呼び慕うオペレーターの名を呼んだ。が、やはり返事はなくノイズのみが帰ってくる。

 

「リム?応答してくれ。リム?」

 

やはり、ノイズしか帰ってこない。

故障でもしたのか?

イェーガーはその可能性を考えすぐに打ち消した。というのも召喚師の持つ端末は非番の時は召喚院預かりとなり預かられている間は常にメンテナンスをされているからだ。

だとすれば何故・・・?

イェーガーがそう疑問に感じた時客室のドアがあいた。

 

「何をしているのですか?」

 

淡々とした声音でリムアリーシャが入って来る。

 

「あれ?どうしたんですか?」

「あなたが私の名を呼ぶので。」

 

イェーガーはそう言われて怪訝な表情になったがすぐに合点がいった。

そういえば、この人はエレオノーラやティグルからリムと呼ばれていたな・・・。ややこしい!

 

「すまない。召喚院と連絡を取ろうとしてたんだ。」

「・・・それと私の名、どのような関係が?」

「ああ、それは・・・。」

 

イェーガーは召喚院にいるリムについて教えた。すると、リムアリーシャは表情を変えずにこういった。

 

「なるほど。」

 

いや。全然なるほどっていう表情じゃないだろう・・・。

イェーガーはそんな事を思っていたがリムアリーシャは続けた。

 

「連絡は取れたのですか?」

「いや・・・何故か通信―連絡が取れない。」

「その道具が壊れた、ということは?」

「ないない!これは俺の任務がない間は召喚院に管理されてて常にメンテナンスされてるんだ。だから、大丈夫だ!・・・多分。」

「め、めんてなんす?」

 

リムアリーシャが目を丸くしながらそういった。

その表情が新鮮だったイェーガーは思わず笑っていた。

 

「な、なにがおかしいのですか?」

 

リムアリーシャが声音に羞恥と怒気を僅かに含ませてそう言う。よく見るとその顔も僅かに赤くなっている。

 

「悪い悪い!あんたのそんな顔初めて見たからつい・・・。」

 

イェーガーは息を整えるとこういう。

 

「メンテナンス、ってのは簡単に言うと道具の点検ってことだ。」

「・・・なるほど。なのに連絡が取れないというのは?」

 

リムアリーシャがそう尋ねるとイェーガーは表情を曇らせた。

 

「わからない。考えられるのはゲートがしまったってことぐらいだが多分大丈夫だろう。ま、なんとかなるさ。」

 

イェーガはそう言うと端末を荷物の中にしまった。



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イェーガーの提案

今日は都合で更新遅くなりました。
すいません(><)


「なんとかなるとは・・・。もし帰れなくなったらどうなさるおつもりですか?」

 

楽観的なイェーガーにリムアリーシャが尋ねる。

 

「ん~?まあ、戦うのには困らないから旅でもするかな。」

「・・・随分と短絡的ですね。」

 

リムアリーシャがこれ以上ないくらいの冷ややかな声音で言うがイェーガーは意に介さずこういった。

 

「だって分かりもしないことをうだうだ考えるよりかはさ、どっしりと構えていた方が楽だぜ?」

「・・・。」

 

そのイェーガーに対しリムアリーシャは無言の圧力で答えた。

あらら・・・やばい感じだなこりゃ。

 

「リムアリーシャさんはさ、めんどくさくないのか?先のことばかり考えてばっかなの。」

「面倒と思ったことはございません。それが私のやるべきことですから。」

「やるべきこと、か・・・。」

 

イェーガーはつぶやき昔、グラデンスに言われた言葉を思い出していた。

それはイェーガーが初めてヴァルガスを呼び出す事に成功した時だった。

 

『よいか、イェーガー。力を持ち行使するは容易い。じゃが、何のために行使しそれが己のなすべき物なのかどうか・・・それをよく考えて使うのじゃよ。』

 

老召喚師はそう言ったが、当時のイェーガーは少なからず反感を抱いていた。

自分の力は見せかけじゃない!本物なんだ!

だがその思いもイェーガーが戦い、学ぶ事によりいつしか消えていったのだ。

 

「どうかなさいましたか?」

 

リムアリーシャが遠い目をしているイェーガーに尋ねる。

 

「・・・いや、なんでもない。」

「そうですか。」

「ところでさ、リムアリーシャさんの事をさ、リーちゃんって呼んでもいい?」

 

突然の提案にリムアリーシャはしばし呆然となったがすぐに我に返り氷のように冷たい視線を無言でイェーガーにぶつけた。

 

「・・・。」

「何も言わないってことは良いってことだよな?」

 

イェーガーは視線にある種の恐怖を感じたが意に介さずにこやかにそう言った。

 

「・・・いけません。そもそも、何故呼び方を変えるのですか?」

「だって、リムアリーシャって呼ぶのも長いし、かと言ってリムって言うのは仲間でいるし。」

「ダメです。」

 

リムアリーシャが少し強めに言うとイェーガーはリーちゃんってのはいいと思うんだけどな・・・。っと残念そうにつぶやいていた。

全く・・・この人には危機感と言う物がないのでしょうか。

リムアリーシャはそう思いながらイェーガーに当てられた客室をあとにし、資料室へと向かった。

 

 

 

その頃・・・

 

―モルザイム平原戦場跡

 

すっかり兵士たちの死体が取り除かれた平原だが一箇所だけ真っ黒になっていた。

そこはイェーガー達が戦っていた所だ。

その場所に黒い鎧を身にまとい頭に角をはやした謎の物がいた。

それはイェーガーの戦ったあとの様子を眺めにやりと笑った。

 

「これはこれは・・・。召喚院の者が現れたかと思いったら予想以上の大物が現れたようだ。」

 

男はそう呟くと自分の部下を呼びこう命じた。

 

「イェーガー君を見張ってろ。そして、チャンスがあれば殺せ。ただし、周りに感づかれるな。」

「・・・御意。」

 

黒いフードをかぶった部下はそう言うとその場からさりまもなくそれも去っていった。



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煌炎の記憶

「はあ・・・。暇だ。」

 

リムアリーシャと話した翌日。イェーガーはそう呟いていた。

実際にはやることとして調査があるが戦いに巻き込まれた所為で自由に大陸を歩くことは難しいしアルサス周辺は既に調査済みであった。

・・・召喚院からは相変わらず何も来ない。

イェーガーからもコンタクトをとっているのだが召喚院からの応答がなかった。

実際にはゲートが閉まってるからだがイェーガーはそれを知らなかった。

 

「・・・暇だ。」

《そのセリフいい加減聞き飽きたぜ・・・》

 

ぼそりと呟くイェーガーにヴァルガスがそう言う。

ちなみにヴァルガスがカウントしているだけでイェーガーのその台詞を聞くのは十一回目だ。

 

「だって暇なものは仕方ないだろ?」

《そんなに暇なら連絡手段くらい探せよ?》

「自由に動けないのにか?」

《・・・。》

 

その一言にヴァルガスは黙り込む。

正確に言えば、自由に動けないわけではない。ただ、この状況で動けば敵対しているテナルディエ派の人間に会う可能性も高く、さらに言えば魔神もしくはそれに相当する力を持ちイェーガーに敵対する召喚師に遭遇する可能性があるからだ。

 

《そういえば・・・イェーガー、気づいたことを言っていいか?》

「なんだ?」

 

ヴァルガスの声音がいつになく真剣なものだったのでイェーガーも思わず姿勢を正す。

 

《あいつエレオノーラだっけな?が使っていた剣だが・・・俺はあれを見たことがある気がする。》

「なんだって?おいおい・・・。」

 

イェーガーが驚きの声を発する。

もしそれが本当なら、ここはグランガイア、もしくはエルガイアのようにグランガイアの人間が逃げてきた場所ってことじゃないか。

 

《確か・・・あれは大戦初期の頃だっけな・・・。》

 

ヴァルガスが語りだす。

 

《神々の侵攻が始まったグランガイアで、俺は始めから最前線に立ち神々に剣を降り神の軍を幾度となく打ち倒していた。その時に神々の側についていた女の騎士と刃を交えたことがあった。

その女騎士はかなりの使い手で俺と互角以上に戦っていたが最後は俺に敗れ姿を消した。で、その女騎士が持っていた剣があれにそっくりなんだよな。》

「・・・それはそれは。」

 

イェーガーはそう呟いた。

ヴァルガスの言うとおりだとすれば、あの剣は神々のグランガイア侵攻において神の作り出した剣と言う事になる。でだ、もしそうならばここはグランガイアの一部って事になる。

 

「・・・う~む。」

 

イェーガーは唸った。

情報が足りん。どうやってもまだまだ調査を進めなきゃわからんことばかりだ。

 

「とりあえず。」

《とりあえず?》

 

ヴァルガスがそう尋ねるとイェーガーは布団に入りこういった。

 

「寝る。」

《・・・さいですかさいですか。》

 

ヴァルガスが呆れたようにいった時には既に寝息を立てていた・・・。



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召喚術の実践

最近忙しく更新が途絶えがちになってました。
すいません(><)


「・・・。」

「・・・。」

 

応接間の中に重い雰囲気が充満する。応接間にいるのは3人。

1人はイェーガー、もう1人はリムアリーシャだ。あとの1人は初老の男で、温和な顔付きをしているが今はその目からただならぬ気配を放ちイェーガー達を警戒しているのがよくわかった。

ああ・・・俺こういう空気って本当に苦手だ・・・。

イェーガーはそう思った。イェーガーも何度か逃げ出そうとしたがこの空気と2人のたたずまいがそれを許さなかった。

 

「あ、あの・・・。」

 

イェーガーが遠慮がちに口を開くと二人はギロりとイェーガーを睨んだ。

 

「なんじゃ?」

「・・・とりあえずマスハス様、世間話でもどうですか?俺はこの辺の事何も知らないから・・・。」

 

そう言うイェーガーの声は二人の放つ無言の圧力により小さくなっていく。

 

「全く・・・イェーガー殿、このような状況でよくもそのようなことが・・・。」

「だってさ、リーちゃん。俺、この圧力に耐えられねえよ。」

「なっ!?だれがリーちゃんですか!?」

 

リムアリーシャが顔を赤くしイェーガーにそう言う。イェーガーは肩を小さくすくめた。

 

「・・・良かろう。聞けば、イェーガー殿あなたは旅人じゃったな?あなたの話をしてみればどうじゃ?」

 

男性―マスハスが少し雰囲気を和らげてそう言う。イェーガーはホッと息をついた。

 

「俺の旅ですか?」

「そうじゃ、話してみよ。」

 

・・・うかつに話して大丈夫か?

イェーガーはそう考えたが、ほかに切り抜ける道を思いつかず自分の旅を話し始めた。

ティグル・・・頼むから早く帰ってきてくれ。

 

「・・・にわかに信じられぬな。」

「ですよね?」

 

イェーガーがうんうんと頷く。その様子をリムアリーシャが冷たい目で見つめる。

 

「その召喚術というのが本物ならば実践してくれぬか?」

 

マスハスが尋ねる。イェーガーは静かにたった。

 

「なんじゃ?」

「ここは呼び出すのに狭いので屋敷の裏に回りましょう。」

 

 

「では、行きますよ。」

 

イェーガーがそう言う。

イェーガーの言葉を聞き入れマスハスとリムアリーシャは屋敷の裏にある空き地に出た。

 

『遍く炎よ、我が願いに答えよ。悠久の時を生きし英雄を今ここに顕現せよ。』

 

少し小さめの召喚陣が空に広がる。力の奔流を二人は感じた。

 

『来い!ヴァルガス!』

 

イェーガーがそう叫ぶと赤い光がイェーガーの前に落ち煙をあげる。

 

「結局、いつか俺の言った通りになったな。」

「・・・忘れたな。」

 

煙の中からイェーガーと別の男の声がする。

煙が晴れると黒い鎧を着たヴァルガスがそこにいた。

 

「・・・!!」

 

突然の出現にマスハスが絶句する。ヴァルガスは二人に向き合いこういった。

 

「俺はヴァルガス。訳あってイェーガーに協力している剣士だ。」

「・・・初めて見たときと少し様子が異なりますね。」

 

リムアリーシャの呟きにイェーガーがこういう。

 

「当たり前だ。あんな戦闘準備万端のヴァルガスを呼べるか。つーか、そもそも体力がもたない。」

 

そこで、ようやく我に帰ったマスハスがイェーガーを見てこういった。

 

「貴君の言葉を疑って済まない。」

「別に気にしてませんよ。普通は信じられないでしょ?」

 

イェーガーがそう言った時表でティグルの呼ぶ声がした。



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行動方針

更新かなり遅れてすいません(><)
一段落着いたので更新再開します。
今回大鎌を持つ女性が出ますがヴァレンティナではありません。


「マスハス卿?どちらにいらっしゃいますか?」

 

その言葉に反応しマスハスが返事をする。

 

「ティグル。わしはここじゃ。」

 

すると少ししてティグルが屋敷から出てきた。

 

「マスハス卿、ここにいらっしゃいました・・・。」

 

ティグルの言葉は戸惑いによって途中で終わった。

ああ、そういえばリーちゃんとマスハス様の間ではまだギクシャクとした空気が流れてるからな。

 

「戻ったか、ティグル。無事で何より・・・言いたいところじゃが、おぬしに聞きたいことがある。この屋敷に旅人とティッタやポーラ以外の女性がいるというのは、非常に珍しいことじゃのう?」

 

ポーラとは、近所に住む五十代の主婦だ。ティグルの父ウルスが存命だった頃に侍女として働いてこともあり、今でも忙しい時期に手伝いに来ることがあった。

 

「それも、旅人は異世界の人間とやらで、もう一方はジスタートの方でアルサスの代官というではないか。詳しい話を是非おぬしの口から聞かせてもらえんかな?」

 

ティグルはイェーガーとリムアリーシャ、そしてヴァルガスにも目をやったがイェーガーは苦笑いをし、リムアリーシャはいつもと変わらぬ無愛想な表情でヴァルガスは事態が飲み込めたのか静かにしている。

ティグル・・・がんばれ!

イェーガーは心の中でそう言った。

 

 

「ふむ・・・。つまり隙を突くのは難しいと言うことかな?」

「御意。」

 

セレスタから少し離れた所で、二つの影が話していた。

 

「イェーガーは封神ルシアスを倒しただけのことはあり、迂闊に隙を見せませぬ。」

「ふむ・・・。」

 

影の一つが考え込む仕草をしこういう。

 

「では、ユニットを用いて彼を討て。もしくはあの貴族に討たせれば良い。」

「御意。」

 

そういうと影の一つが消えた。

 

「・・・くくくく。さて、イェーガー君はどう出るかな?」

 

残った影はそう言って高らかに笑うと後ろに大鎌を持つ黒髪の少女を引き連れて去っていた。

 

 

 

「リムアリーシャ殿、イェーガー殿、まずお主らを疑った事をお詫びしたい。」

 

手を膝について頭を下げるマスハスにイェーガーが慌てる一方でリムアリーシャは冷静に答えた。

 

「仕方の無いことです。こちらも、礼を失したことをお詫びします。」

「一体俺たちが帰ってくるまでに何があったんだ?あと、そちらの方は?」

 

ティグルがヴァルガスを見て尋ねる。

 

「ああ。お前と会うのは初めてだな。俺はヴァルガス。旅の剣士で今はイェーガーの助っ人だ。」

「ああ、ティグルこいつは・・・。」

 

イェーガーがヴァルガスの紹介に重ねて自分の呼び出したユニットであることを説明した。

 

「へぇ・・・。話には聞いていたが実際に見るのは初めてだな。ところで制限みたいなものはあるのか?」

「ああ。召喚師が呼び出したユニットには制限時間があってなこれぐらいなら後15分は大丈夫だ。」

「へぇ、制限時間があるのか?」

 

ティグルが感心した時マスハスが咳払いをした。

 

「ティグルヴルムド卿。」

 

リムアリーシャも話に脱線に気づき静かに呼びかける。

 

「すまない。」

「・・・ところで、リムアリーシャ殿、イェーガー殿。あなた方にお尋ねしたい。」

 

マスハスがヒゲを撫でながらイェーガーたちを見て質問する。

 

「あなた方は何故ティグルを助けたのだ?」

「エレオノーラ様は義を重んじ、情に厚い方ですので。」

「ただ、義と情だけで動いてくださったと?」

「契約も重んじます。ラジカストの名にかけて。」

 

ラジカストとはブリューヌとジスタートで信仰されている神でこの神の名を用いた約束事は非常に思いとされている。

リムアリーシャとマスハスが話し終わるとマスハスはイェーガーに目を向けた。

 

「うーん・・・俺の場合は単なる偶然ですね。」

「偶然・・・とは?」

 

マスハスに尋ねられイェーガーはバツの悪い表情をしてテナルディエの私兵と戦った経緯を話した。

 

「つまりですね、俺はそもそもアルサスを守るためではなく、自衛のために戦っただけ、というわけですよ。」

「・・・ではあなたはこの後その召喚院とやらに戻られるのか?」

「いえ・・・そうもいかないんですよ。」

 

イェーガーはテナルディエとの戦いで感じた魔神の気配について話した。

 

「魔神・・・本当にそのような者が存在するのか・・・?」

 

マスハスが厳しい表情でイェーガーに尋ねる。

 

「それは間違いないです。俺の力を凌ぐ魔神が一体か二体はこの地に存在しています。」

「・・・ではあなたはどう動かれるのです?」

「俺はティグルヴルムドきょ・・・!」

 

ちゃんと名を呼ぼうとしてイェーガーは失敗し舌をかんだ。

その様子をティグルが半ば呆れながら見つめリムアリーシャが冷たい視線を送った。

 

「おいおいイェーガー・・・。肝心なとこでかむなよ・・・。」

 

ヴァルガスがそう呟いた時ヴァルガスが光となって消えた。制限時間が来たのだ。

 

「消えた・・・!」

 

ティグルが驚きに満ちた目でヴァルガスのいた空間を見る。

 

「・・・俺はティグルと共に動きます。」

 

イェーガーが気を取り直してそう言って続けた。

 

「おそらく、魔神はテナルディエに対し何らかのつながりを持っています。ということはテナルディエを叩けば魔神も出てくる可能性は大いにあるでしょう。」

「・・・イェーガー殿、魔神とやらは強力な敵なのか?」

「間違いなく。おそらく俺以外では相手にできないでしょう。」

 

イェーガーは確信を持ってそう言った。

事実、召喚師の力は召喚術のない世界では一国の軍隊を遥かに凌駕するだろう。それを超える魔神の強さは生半可なものではない。おそらく、戦姫でも勝ち目はないだろう。

 

「・・・よくわかった。ならば、今一度ティグルに力を貸してやってくれ。」

「もちろんです。」

 

イェーガーはそう答えた。



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ティグルの覚悟

「ところで、マスハス卿。ガヌロン公爵の兵はどうなったんですか?いや、あなたはどのようにして彼らを食い止めたんですか?」

 

ティグルがイェーガーの話が終わるのを待ってそう言う。

ガヌロン・・・って誰だ?後でリーちゃんに聞いてみよう。

 

「うむ、言ってしまえば運が良かったのじゃな。わしは時間稼ぎしかしておらん。」

 

マスハスが語った話を要約するとこうだ。

マスハスは近隣の小貴族に呼びかけガヌロン軍に酒と食事を用意し軍の指揮官と面会して自分たちは中立でガヌロン公爵に敵意がないと告げた。もともとあまり乗り気でなかった指揮官はこのことを口実に進軍を止めテナルディエ軍に竜がいることを知り更に敗れたことを知ると早々に引き上げていった。

マスハスはティグルを見て尋ねた。

 

「ティグルよ、ジスタート軍が竜を二頭とも屠りさったと言うのは事実なのか?わしはこれまで五十年以上生きてきたが今まで一度も竜を見たことがないのじゃ・・・。」

「本当です。」

 

ティグルが断言するとリムアリーシャもそれに合わせて言う。

 

「はい。二頭とも戦姫であるエレオノーラ様が討ち果たしました。」

 

マスハスはヒゲを何度か撫で渋い顔のまま大きくため息をついた。

 

「ティグル、お主が言うからには本当なのじゃろう。じゃが問題はこれからじゃ。―ティグルお主はどうするつもりじゃ?」

「テナルディエ公爵と戦います。」

 

ティグルがそう言うとイェーガーは目を少し細めて尋ねた。

 

「マスハス様、勝算はありますかね?」

 

マスハスは重々しい口調のまま答えた。

 

「ガヌロン公爵の傘下に入る事じゃが・・・。」

「いいえ、俺はどちらにも属するつもりはありません。」

 

ティグルがそう答えた時、イェーガーは申し訳なさそうに尋ねた。

後で聞こうと思ったけど・・・まあ、いいや。

 

「ガヌロン公爵・・・って誰?」

 

一瞬、部屋に呆れ返った雰囲気が漂う。

 

「うむ・・・。イェーガー殿は異世界より参られたから仕方があるまい。」

 

マスハスは苦笑しながら口を開く。

 

「テナルディエ公はご存知じゃろう?」

「前に攻めてきた奴で、この国で一、二を争う大貴族ってことは。」

「ガヌロン公爵はテナルディエ公爵の宿敵のようなものでのう。早い話が政敵じゃよ。」

「・・・ということはテナルディエと同じくらい権力があるって事か、ガヌロンは。」

 

イェーガーはとりあえずの納得をしたが別の疑問が湧き上がりティグルに尋ねた。

 

「あれ?じゃあ何故そのガヌロン公爵と手を組まないんだ?」

「・・・イェーガー殿。ガヌロン公爵が何をしようとしたかお忘れですか?」

 

リムアリーシャがやや諦め気味の視線をイェーガーに投げかけて尋ねた。

ガヌロンがやろうとしたこと?・・・あっ!そうだ!奴もここを攻めようとしたんだった!

イェーガーの合点がいった表情を見てティグルはうなづいた。

 

「・・・ティグルよ、お主なりによく考えた上での結論じゃな?」

 

気を取り直し尋ねるマスハスの鋭い視線からティグルは逃れず決意を込めて言う。

 

「確かに相手はブリューヌで一、二を争う大貴族。それに比べて俺は辺境な田舎の小貴族です。」

 

ティグルは一度視線を落とし再び上げていった。

 

「だけど、俺には父上から受け継いだアルサスを、この地の民を守る義務がある。いえ、義務がなくとも俺は守りたい。いざという時に彼らを守るための、俺は領主なんです。」

「ティグル・・・。」

 

マスハスがどこか感極まった様子でティグルを見つめた。

どれほどの力差があっても逃げず恐れず立ち向かう・・・か。嫌いじゃないなそういうの。

イェーガーはティグルの言葉を聞きそう思った。その心中には神々に立ち向かった英雄達を思い出していた。

 

「その道はお主が考えている以上に険しいものじゃぞ。テナルディエ公爵はジスタート軍を国内に招き入れ国土を渡したこと、お主が彼の息子を討ったことを許さぬじゃろう。自分がアルサスに兵を向けたことを棚に上げてな。その姿勢に賛同、あるいは黙認する者がいても批判する者はおらんじゃろう。」

 

マスハスはそこで言葉をきりリムアリーシャを見て再びティグルに視線を戻し続けた。

 

「リムアリーシャ殿を前にして言うのははばかられるがジスタートにもジスタートの都合があろう。それだけをあてにして戦い抜けると、お主は本気で思っておるのか?」

「さすがにそこまで楽観はしてません。まあ、なんとかやっていこうと思います。」

 

ティグルがそう言った時イェーガーは思わず笑ってしまった。

 

「い、いや。悪い悪い。だけどあんまりに曖昧なもんだからつい・・・。」

「・・・イェーガー殿。」

 

リムアリーシャが咎めるようにイェーガーを見る。イェーガーはすぐに笑いを打ち消すとマスハスに尋ねた。

 

「マスハス様。会話から察するにこの国では内乱が起きようとしてるか起きてるんですよね?」

「・・・そうじゃ。」

「どういう勢力図か教えてもらっても?」

「何故か理由を訪ねても良いか?」

 

マスハスが重々しく尋ねた。

 

「何もすべての貴族がガヌロンとテナルディエについてるわけじゃないでしょう?それらの貴族を味方につけられれば少しは状況が変わると思うんですよ。」



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召喚院からの緊急伝達

この意見にはティグルだけでなくリムアリーシャも目を瞠った。

確かにイェーガーの言っていることは味方の少ないティグルにとっては今取れる最大限の行動だからだ。

それにしても・・・。

リムアリーシャはイェーガーを見る。

ずれた発言をしたかと思えば鋭い意見を言う・・・ますますあの方がわからなくなってきました。

 

「うむ・・・。イェーガー殿、お主のいった通り今のブリューヌは内乱という嵐が起こるのを待っているところじゃ。その中でガヌロン公とテナルディエ公のどちらかにつく者とどちらにも属さぬ者で三つに分かれておる。じゃがうまくいくかは分からぬ。」

 

マスハスはここで言葉をきりティグルを見つめると再び話しだした。

 

「今のブリューヌを百としよう。そのうち三十ずつがテナルディエ公爵とガヌロン公爵についておる。わしとティグルはどこにも属さぬ残りの四十の一つじゃ。」

「・・・それだけを聞くと対抗の余地はあると思われますが・・・?」

 

リムアリーシャがそう言うとマスハスは首を振った。

 

「四十の内、三十は我が国の騎士団。国の国境を守る者や、王都を守っている者達じゃ。中立の立場をとっておる貴族など十でしかない。」

「十か・・・。国の騎士団ってやつは手を貸してくれないんですか?」

 

イェーガーがそう言うとマスハスはこういった。

 

「騎士団はあくまで陛下の直属の兵士じゃ。自らの一存では動けぬ。」

 

そう聞いてイェーガーは顔をしかめた。

どうやら状況は思っているより悪いらしい。

 

「じゃがな、ティグル。お主だけは他の貴族とは条件が違うのじゃ。」

 

重い空気を振り払うようにマスハスが言う。

 

「お主はジスタートの戦姫殿を味方につけておる。うまくやれば他の貴族達をまとめ第三勢力としてなれるやもしれぬ。―いや、イェーガー殿も味方につけておるからそれ以上のものになるかもしれぬ。」

「・・・それはすごいですね。」

 

ティグルは生唾を飲み込んだ。

確かにそれだけの力があればテナルディエとも互角に戦えるだろう。

 

「あくまでなれるかもしれないですよ。」

 

リムアリーシャが釘をさした。

 

「そもそもティグルヴルムド卿は我が国に領土を渡した叛逆者です。もしかすると今すぐにでも討伐軍が来るかもしれませんよ」

「いや、リーちゃん。多分すぐには来れないと思うよ。」

 

否定したのはイェーガーだった。リムアリーシャは説明して欲しいという視線を送った。

 

「マスハス様の言葉から考えると竜ってのは稀少な存在なんだろ?それを二体も倒した上に三千の兵を壊滅させられたんだ。少なくとも俺なら倍以上の兵を用意するか竜の数を増やすな。その場合は結構時間がかかるはずだ。」

「イェーガー殿・・・あなたはどこかで兵法か何かを学ばれたのか?」

 

マスハスが尋ねるとイェーガーは笑いながら答えた。

 

「俺のお師匠様が知識はあって困るものではないって主義でね。軍事関係や俺の世界の知識とかは一通り教えてもらったんだ。」

 

ま、礼儀作法だけはとんでもなく苦手なんだけどな。

イェーガーは苦笑混じりにそう言った。

 

「・・・それにティグルヴルムド卿だけにも構ってはいられないと言うことですか。」

 

リムアリーシャは納得したように呟いた。

 

「じゃが、悠長に構えている時間はない。ティグルよほかに案はないのか?」

 

マスハスがそう言うとティグルはこういった。

 

「国王陛下に書状を送ろうと思います。」

 

ティグルはそう言った。

その書状はおそらく釈明状となるはずだが・・・?

 

「その書状は効果があるのですか?」

 

リムアリーシャが尋ねる。

 

「効果は薄いだろうが臣下としてやる必要はあるじゃろう。」

「・・・だけどその書状は誰に持たせるんだ?」

「わしが持っていこう。」

 

マスハスがあっさりとそう言った。

 

「ま、待ってください。わざわざマスハス卿が・・・。」

「わしはお主と違って他国の兵を引き入れておらぬし宮中にいくつかツテもあるからお主よりは謁見しやすいはずじゃ。」

 

ためらうティグルを遮りマスハスはそう言った。

しばしの逡巡の後ティグルマスハスに頼むことにした。

 

その後会議はまずテリトアールを治めるオージェ子爵に協力を頼むことでひとまずのお開きとなった。

 

 

客室に戻ったイェーガーは荷物の中に入れてある端末が音を立てている事に気づいた。

通信がつながったのか?

イェーガーは扉を閉めると端末を取り出した。

 

『・・・輩。きこえ・・・?先・・・』

 

かなり通信が悪く途切れ途切れだがその声はリム・メリルハルムであった。

 

「リムか?」

 

イェーガーがそう尋ねた。

 

『・・・輩!ご無事・・・・ですね?』

「無事ではあるが・・・どうした?そんなに慌てて。」

『ゲート・・・・・・後閉ま・・・!』

「・・・ゲートが閉まった?」

『・・急事態な・・・ユニットの使用・・・数・・・増加し・・・六体・・・ます!』

 

途切れ途切れでわかりづらいがユニットは六体使えるようになったらしい。

 

「わかった。」

『先・・くれぐれも無茶・・・ないで・・・!』

 

と言うところで通信は途切れウンともスンとも言わなくなった。

 

「・・・さてさて。厄介になってきたな。」

 

イェーガーはそう呟くと端末を荷物の中になおした。



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野盗討伐の依頼

旅をするにはもってこいの天気だな。

イェーガーはそう思いながら空を見上げた。

 

「イェーガー殿、どうかなされましたか?」

 

イェーガーの隣に馬を並べるリムアリーシャがイェーガーに尋ねる。

 

「ん?いやぁ旅にはちょうどいい日だなぁって。」

「イェーガー殿・・・我々は遊びに行くわけではないのですよ。」

「わかってるって、リーちゃん。」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャは諦めたようにため息をついた。

どうやら訂正するのが面倒になったようだ。

 

「・・・これが遊びなら壮大すぎるだろう。」

 

リムアリーシャの隣―すなわちイェーガーの反対側でティグルが苦笑する。

イェーガーは後ろをチラッと見る。

彼らの背後にはジスタート兵百騎がついてきていた。

イェーガー達はマスハスとの打ち合わせ通りテリトアールへと向かっていた。

今のところイェーガーはゲートが閉まったことをヴァルガス以外には教えていない。

・・・無駄に心配事を増やす必要もないだろう。

ここでイェーガーが言う心配事とは魔神のことだ。ゲートが閉じられたと聞いたときイェーガーはすぐに魔神の仕業だと判断した。そして同時に自分の敵である魔神は自分の想像を絶する程の力の持ち主だと知り厄介だと思った。

 

 

「・・・ところでイェーガー殿。ジスタートの国王陛下の御名前を正確に述べてください。」

 

リムアリーシャがイェーガーにそう言う。リムアリーシャはティグルとイェーガーにジスタートに関する知識を叩き込んでいた。というのもティグルはこの戦いが終わったあとの事後処理で、イェーガーはこの地の調査に役立つからだ。

フッ。リーちゃんめ。俺がリーちゃんがティグルに対して同じ問題を出していたのを聞いていないと思ってるな?だが甘い!

 

「ヴィクトール=アルトゥール=ヴォルク=エステス=ツァー=ジスタート、だろ?」

「正解です。では冬の終わりと春の訪れを祝う、古くから行われている祭は?」

 

リムアリーシャがすかさず次の問題を提起した。

・・・な、なんだっけ?

 

「え、えーと・・・。あれだあれ。えーと・・・太陽祭。」

「正解です。」

 

リムアリーシャがそう言うとイェーガーは心の中でガッツポーズをとった。

みたか!これが俺の力だ!

 

「課題が増えなくてよかったですね。」

 

この時イェーガーは魔神と遭遇するよりも恐ろしい恐怖を感じた瞬間だった。

 

 

 

 

「野盗退治?」

 

ティグルから聞かされた言葉にイェーガーは呆気に取られて聞き返す。

テリトアールへとたどり着いたイェーガー達はまずテリトアールを治める貴族オージェ子爵の元に向かったのだが、そこでイェーガーはティグルとリムアリーシャの話が終わるまで外で待つことにした。

まあ・・・やりたいことがあるからなんだがな。

ティグル達と別れたイェーガーは人気の少なそうなところで召喚陣を呼び出しヴァルガスを除く残り五体のユニットの選定を行っていた。結論だけを言えばユニットの選定は終わった。あとはその使用タイミングだった。

そして集合地点に戻ってすぐにティグル達から野盗退治の話を聞いたのだった。

 

「ああ、実はだな・・・。」

 

ティグルの話を要約するとこうだ。

オージェ子爵の協力は得られた。ただし、その条件としてテリトアール内を荒らし回っている野盗の集団を倒して欲しい。

 

「・・・随分と簡単な事のような気がするが?」

 

俺がそう呟いた時ティグルの表情が少し曇った。

ああ。やっぱり訳ありか。

 

「オージェ子爵も三百の兵を率いたのだが・・・」

「あぁ、その流れからすると負けたな?敵の数が多かったのか?」

 

とすれば今の俺達の兵力じゃ少し不安が残るな。

 

「いや、こちらの軍勢よりは多いが子爵の連れていた兵よりは少数の二百だ。」

 

二百?たかだか野盗二百程度に貴族の兵三百が負けたのか?

 

「・・・詳しく聞こうか。」

「子爵の話だと野盗達は狭い山道に味方をおびき寄せ一網打尽にしたらしい。」

「・・・簡単で単純な策だが実に見事だな。」

「あともう一つ・・・明らかに普通とは異なる力を持っている奴がいるらしい。」

 

その一言を聞きイェーガーの目が光った。

そいつは・・・ユニットの類か?だが納得できんな。何故野盗ごときにユニットを?

ティグルの背後に控えていた禿頭の若い騎士も顔をしかめる。

・・・たしかルーリック、だっけな。

 

「手ごわい相手になりそうですな。」

 

それを聞きイェーガーは思わず笑った。

 

「何がおかしい。」

 

ルーリックが表情を険しくしてイェーガーに尋ねた。

 

「これから国の大貴族と戦うんだろ?たかだか二百の野盗に手間取ってたらキリがないぜ。」

「・・・フッ。確かにそうだな。」

 

イェーガーの言葉にルーリックが少し表情を和らげる。

 

「ところで旅人殿には何か策がおありかな?」

 

ルーリックが言葉に棘を含めてそう言う。

ふーん・・・俺も随分嫌われたもんだな。

 

「あるわけないだろ。そもそもこの辺の地理を俺はよく知らない。」

「ルーリックには何かあるのか?」

 

ティグルが尋ねるとルーリックは少し考えこういった。

 

「ティグルヴルムド卿が矢を五十本ほど矢を背負って山に入り五十人仕留めたら山を降りて再び五十本背負い・・・というのを繰り返すのはどうでしょう?」

「おもしろい案だな。俺は何人めあたりで敵に見つかり殺されると思う?」

 

とんでもないことを言い出したルーリックをティグルは睨みながらそう言う。

 

「それは最後の手段としましょう。」

 

リムアリーシャが呆れた目でティグルとルーリックを見ながら地図を広げる。

 

「さっさと終わらせましょう。長期化するのは好ましくありません。」



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ヴォージュ山脈野盗討伐戦―開始―

翌朝、イェーガー達は同行しているティッタやバートランを町に残しベルフォルの町をたった。

ベルフォルはテリトアールの中心となる町でオージェ子爵の屋敷があるのもこの町だ。目的地であるヴォージュ山脈まで馬で一日と言う距離だ。

 

「そういえば、ティグルヴルムド卿に見ていただきたい物がありました。」

 

そう言ってリムアリーシャがティグルに馬を寄せ数枚の紙を見せる。

なんだろ?

イェーガーも気に紙を見た。纸の中にはかなり数字が書かれていた。

 

「・・・何だ、これ?」

「私たちがアルサスをたってから発生している戦費です。」

 

ティグルが顔をしかめて尋ねるとリムアリーシャはそう答えた。

おいおい、これが戦費だって?0が5個くらい見えた気がするぞ。

 

「・・・俺だって百人の兵を率いたことはあるがここまでかかったことはないぞ。」

「もともと騎兵は馬がいるぶん歩兵より費用がかかります」

 

それに、とリムアリーシャが言葉を続ける。

 

「ティグルヴルムド卿が率いていたのは普段は畑を耕している者たちのことでしょう。いま、あなたが率いているのは普段から戦うために己を鍛え続けている兵です。練度が高く畑の収穫期でも問題なく戦える兵ですので給料が高いのは当然です。」

 

ここまで、リムアリーシャがいった言葉を聞きイェーガーは訝しく思った。

なんでリーちゃんはよりによって戦いの前にそんなことを?

《イェーガー。随分と答えに近づいてるぜ。その疑問に当たったのならもう一歩だ。》

ヴァルガスがイェーガーに語りかける。

その口調だとお前は何か気づいたのか?

《まあな。》

ふぅん・・・。

《・・・全然信じてないだろお前。》

なんのことかな?

イェーガーはヴァルガスにシラをきると考えを続けた。そして少し考えひらめいた。

 

「なるほど・・・だから今戦費の話を。」

 

イェーガーがそうひとりごちた時リムアリーシャがイェーガーに僅かに微笑み尋ねた。

 

「気づきましたか?」

「ああ。」

 

すると、ティグルが尋ねた。

 

「どういうことだ?」

「ティグル・・・考えてみてくれ。百騎でもこれだけの戦費がかかるんだ。二百もの野盗が食いつなぐとすれば相当なもんじゃないか?」

「・・・近いうちにまた山を降りるってことか。」

 

その言葉にリムアリーシャが頷く。

 

「彼らが最後に村を襲い、食糧を奪った日から考えると数日中には。」

「これ以上被害が出ないようにしなくちゃな。」

 

ティグルはそう言って手綱を強く握りしめた。

 

 

その翌日、ヴォージュ山脈まで半刻というところでリムアリーシャは進軍を止め軍を二つに分けた。百騎の兵を二十と八十にわけ八十のほとんどを馬からおろす。二十の兵に馬を守らせその場に残すと再び進軍を始めた。

そして、太陽が昼と朝の中間くらいにきたところで両軍は対峙した。

 

「イェーガー殿、どうですか?」

 

野盗を見るイェーガーにリムアリーシャが尋ねる。イェーガーは頷きこういった。

 

「一体・・・いや、二体ってとこか。だがこの程度の力なら多分俺だけでなんとかなる。」

 

イェーガーはただ敵を見ていただけでなく、オージェ子爵の軍を打ち破ったユニットに注意を向けていたのだ。

 

「どこにいるかはわかりますか?」

「・・・今はわからない。だがすぐにわかると思う。」

 

イェーガーがそう言った時、野盗が雄叫びを上げて襲いかかって来た。

その野盗からまず二つの影が姿を現した。

 

「オラァ!金目のもんをよこしなぁ!」

 

二つのうち斧を担いだ中年の男がそう言う。もう一人の男は若かったが二本のナイフを持ち続いている。

・・・山賊鬼サザンと大盗賊レナードか。また微妙なの出してきたなぁ。

イェーガーはそう思ったがそれでもこの世界では十分脅威だ。イェーガーはダンデルガを構えると馬からおり走り出した。イェーガーはすぐにジスタート軍から突出しサザンとレナードにダンデルガを横薙ぎに振った。

 

「おっと!」

 

サザンはそう言ってダンデルガを受け止めレナードはイェーガーに刃を振った。

 

「喰らうか!」

 

イェーガーはそう叫ぶとレナードを蹴り飛ばした。レナードは四メートル程吹っ飛んだ。

サザンは素早く下がりレナードに目をやると二人で軍から離れだした。

俺をジスタート軍から離そうという魂胆か・・・。まあいい。そっちの方が楽だ!

イェーガーはすぐに二人を追った。



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ティグルの頼み

「よし!ここらで相手になってやるぜ!」

 

戦場から三百メートルほど離れたところでサザンとレナードは踵を返しイェーガーに襲いかかってきた。

レナードはナイフ、サザンは斧を構えて突っ込んでくる。

・・・なにが狙いだ?

イェーガー達のいるエルガイアで伝えられているサザンとレナードは狡猾さと大胆さ二つを備え兼ねた人物だ。なんの意味もなく突っ込んでくるとはイェーガーには思えなかった。

ええい!やるしかないか!

イェーガーは迷いを捨てダンデルガを振る。

 

「うぉら!」

 

サザンがレナードより前に飛び出しダンデルガを斧で受け止めた。イェーガーの動きが止まった隙をついてレナードが二本のナイフを繰り出す。

イェーガーはそのナイフを避けようとしたがダンデルガがサザンにより止められていて動けなかった。

しまった!

ナイフがイェーガーに触れるかと言う時、一本の矢がレナードを襲った。

 

「うおっ!危な!」

 

レナードはそう言って慌てて下がり矢を避けたが避けきれず矢はレナードの左腕を貫いた。

レナードが悲鳴をあげサザンが動揺した隙をついてイェーガーは後ろに下がり体勢を立て直す。

どこから!?

イェーガーが矢の飛んできた方を見るとそこには次の矢をつがえたティグルがいた。

おいおいおいおい!ここからあそこまで三百メートルぐらいあるぞ!それを当てるって・・・あいつはラリオかロクスかよ!

ラリオとロクスはグランガイアの英雄の一人で両者ともに優れた弓の使い手であり神々に立ち向かった。今のティグルはそれに匹敵するほどの実力を見せたのだ。

 

「いてぇ!いてぇよ!」

 

レナードがそう叫ぶ。矢が刺さった左腕からは血が溢れている。

あの分なら左腕は使い物にならないな。

 

「てめぇ!」

 

サザンが怒りの表情を浮かべて襲いかかってくる。だが、一対一ならイェーガーに分があった。

振り下ろされる斧をダンデルガで弾きその勢いのままに斬りつけた。ダンデルガはサザンを二つに切り裂いた。

サザンの死体はその場に崩れ落ち光に包まれ消え去った。

倒されたユニットは光となって消え去るが消滅したわけではなく再び呼び出すことは可能だ。

ただし、少しの時間がかかるため一度倒されると再召喚はすぐにとはいかない。

少なくともここで倒しておけば、少しはマシになるはずだ!

イェーガーはそう考えレナードがいた方を見るとすでにレナードの姿はなかった。

 

「倒せた?・・・いや、逃げたな。」

 

イェーガーは誰にいうわけでもなくそう独りごちる。

何はともあれ・・・ティグルに助けられたな。

イェーガーは静かに戦場に目をやると野盗達はジスタート兵の奇襲にあい算を乱して敗走するところであった。

・・・今のサザンやレナードといいこの間のダリマオンといい何故あれほど強力になっているんだ。さっぱりわからん。

イェーガーはそう考えながら味方と合流した。

 

 

「何か言いたい事はありますか?」

 

その日の野営の時、イェーガーは幕舎でリムアリーシャにそう詰問されていた。幕舎には二人のほかにティグルもおり三人は机越しに向かい合っていた。

 

「いや、その・・・」

「その・・・ではありません。全く、軍を飛び出し単騎で挑むなど無謀なことを。」

 

リムアリーシャは詰問の声に若干の呆れを混じらせながらそう言う。

 

「まあまあリム。イェーガーも少しは懲りただろうからそのへんにしておいてやってくれないか?」

「・・・ティグルヴルムド卿がそうおっしゃられるなら。」

 

リムアリーシャは不服そうだがティグルの穏やかな声音に負け引き下がった。

イェーガーはティグルに向きなおりこう言った。

 

「ティグル・・・。今日は助けてくれてありがとな。」

「別に大したことじゃないさ。」

 

いや、大いに大したことあるよ!

イェーガーは内心でそう突っ込んだ。

 

「けど、イェーガー。君はもう少し周りに頼ってもいいんじゃないか?」

 

ティグルがそう言ったのを聞きイェーガーはティグルを見る。

赤髪の青年は真摯な響きを込めてイェーガーに話を続けた。

 

「俺は君とあってまだ日は浅いけど、なんとなく君が多くの物をひとりで背負っているように見えるんだ。」

「・・・どういうことだ?」

「例えば、この間の魔神の話をした時、君は自分以外では相手にならないといった。」

 

それがなんだというのだろう?

 

「確かにそうかもしれない。だけど、それと他の―えーっと、ユニット?との戦いなら俺たちでも手を出せるんじゃないか?」

 

・・・間違いではない。

 

「今日の戦闘も君はユニットをなんとかしようとしたのはわかる。だけど、そのためだけに自分を危険に晒すような真似はしないでくれ。」

 

そこでイェーガーは以前にも同じような話をある老召喚師に言われたことを思い出した。

・・・自己満足な自己犠牲はやめろ・・・か。

イェーガーは今日の戦いを振り返る。

確かにティグルならば、あの弓の技量ならばなんとかなるかもしれない。仲間を頼れ・・・か。以前セリアにいったことが自分に返ってくるとはな。

 

「約束しよう。これからはなるべく周りにも頼って戦うよ。」

「そうか。・・・わかってくれてありがたいよ。」

 

ティグルは安堵したようにそう言う。リムアリーシャはイェーガーを見る。

・・・先ほどよりも心なしか晴れ晴れした表情のなった気します。

 

「では、軍議に移りましょう。」

 

それでも、リムアリーシャは冷静にそう言った。

 

 

 

その野営地点からかなり離れたヴォージュ山脈の野盗の隠れ家にて。

 

「・・・つまりサザンは倒されたと?」

「ああ。すまねえな。」

 

野党の首領であるドナルベインは白髪で赤い目をした長身痩躯の若い男にそう言う。

 

「だけどな、レイブンの旦那。やはりテナルディエの旦那が言ったように相手は手ごわいぜ?何か手はねえのか?」

 

するとレイブンと呼ばれた若い男は少し考え込む仕草をしこう言う。

 

「では新たなユニットを呼び出そう。その力を使いジスタート軍もろとも召喚師を葬るのだ。」

「・・・具体的にはどうやって?」

 

するとレイブンは赤い目に冷たい輝きを帯させドナルベインを睨む。

 

「人間風情が・・・。そんな事も考えられんのか?」

 

その圧倒的ともよべる覇気に押されドナルベインは顔を青くして謝る。

 

「す、すまねえ!だから許してくれ!」

「・・・フン。」

 

レイブンは鼻であしらうと後ろを向き唱えた。

 

『強大な虚無の力よ。死を司る者よ。我が前に現れ生命を刈り取る鎌を振るうがよい。』

「顕現せよ。●●●●●●●●!」

 

すると召喚陣から鎌を持つ死神が姿を現す。

 

「ヒイ・・・。」

 

その姿を見たドナルベインは恐怖のあまり腰を抜かした。レイブンは興味なさげに目をやるとこういった。

 

「このユニットも貴様の命に従い動く。好きに使うが良い。・・・だが不甲斐ない戦いをすると貴様と仲間の命はないと思え。」

 

レイブンはそう言うと闇に溶けて消え去った。



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黒弓の力

その夜、イェーガーは怪しい気配に気づいて目を覚ました。

・・・穏やかな気配じゃないな。

イェーガーは素早くダンデルガを持つと自分の眠っていた幕舎を出た。

 

「て、敵襲!」

 

それと同時にジスタート兵の叫びがする。

夜襲か・・・。やってくれるな。

イェーガーが声のした方を見ると昼間戦闘を行った野盗が攻め込んでくるところであった。

その数約百二十。ほぼ全軍だがこの時は誰も気にせず戦うしかなかった。

イェーガーは前から斬りかかってくる野盗を革鎧ごとダンデルガで切り裂いた。

 

「こいつ!」

 

それを見ていた別の野盗が声を上げるがその時には既にイェーガーはその野党との間合いをつめダンデルガを振っていた。その時イェーガーのそばにいた三人の野盗が矢に刺さり死んだ。

ティグルか・・・。やっぱスゲーわ。

イェーガーは内心でそう舌を巻くと次々と敵を屠った。

イェーガーの攻撃とティグルの弓、そしてリムアリーシャの指揮によりジスタート軍は立ち直り反撃に出ようとしたときであった。

 

「くっ!」

 

ルーリックが肩をおさえてイェーガーの元に現れた。

 

「大丈夫か?」

「私は大丈夫だが、味方が・・・!」

 

そう言うルーリックの方を見ると一つの影が次々とジスタート兵を倒していた。

ドナルベインだがイェーガーはそのことを知らないが、あれを止めなければならないと思い間合いをつめた。

あと一歩、と言うところでドナルベインはイェーガーに気づいた。

 

「お前がレイブンの旦那のいっていた召喚師ってやつか?」

 

ドナルベインは振り下ろされたダンデルガをかろうじて防ぎながらそう言う。

 

「何?何故お前がそんなことを知っている?」

「へっ。教えるかよ!お前さんの相手にふさわしい奴がいるんだよ。」

 

ドナルベインはそう言うとイェーガーから距離をとり叫んだ。

 

「現れろ!冥界神ディリウス!!」

 

すると空に召喚陣が浮かび大鎌を持った死神が姿を現した。

おいおい・・・マジかよ。ってなんであいつが召喚術を!?

ディリウスは血を思わせるような赤い目でイェーガーを見ると鎌を振った。

 

「くっ・・・。」

 

イェーガーはなんとかその一撃を受け止めた。

 

「ほう・・・召喚師か。面白い。死の運命に逆らおうというのだな?」

 

ディリウスは低いぞっとするような声でそう言うと再び鎌を振り上げた。

 

『愚かなりし人に与えるは死の定め。死すべき者の魂よ我が元に集え!』

魂魄吸収(ソウルイーター)!」

 

ディリウスがそう叫ぶと鎌から闇を模したような球が無数に現れジスタート兵と野盗に向かっていく。

球の当たった兵士や野盗はその場に力なく崩れ落ち絶命した。

 

「これは・・・!」

 

いつの間にかイェーガーの近くにいたティグルとリムアリーシャが驚きに目を見開く。

 

「っ!!ティグルヴルムド卿!!」

 

ルーリックがそう叫んでティグルを押し倒す。闇の球がティグルをかばったルーリックを襲おうとした時にイェーガーが唱えた。

 

『深淵なる闇より出でし光よ。死の呪いより我らを防げ!!』

冥府の護り(イノセント・レイ)!」

 

イェーガーがそう叫びダンデルガを掲げると光の線が闇の球を貫きディリウスの鎌を襲った。

 

「ぬう。小賢しい!」

 

ディリウスはそう歯噛みすると鎌を振り光線を避けた。それと同時に鎌から放たれていた闇の球は止まった。

今だ!

 

「『永久の炎に焼かれよ!(インフィニティ・ノヴァ)』」

 

イェーガーは唱えダンデルガを振り上げた。ダンデルガから炎が放たれディリウスを襲う。が、威力は低かったのかディリウスは自らを覆う炎を鎌のひと振りで消し去った。

くっ・・・。やはり連続で『勇技』を使うのは無理か。だが、このままでは決定打がない。

イェーガーは苦々しく思いながらディリウスを睨みつける。

その時、イェーガーは背後からの強大な力の気配に気づいた。

これは・・・まさか魔神か!?

イェーガーがそう思い後ろを振り向く。

そこには黒い光を放つ矢をつがえたティグルがいた。イェーガーはその矢から放たれる力を見て目を見張った。

あれは『勇技』!?だが、何故ティグルが・・・?

イェーガーはそう疑問に思った時ティグルが黒く輝く矢を放った。矢は凶暴な力を携えたままディリウスに向かっていった。

 

『すべてを消し去る暗黒の力をここに顕現せよ!』

暗黒の侵食(インベイション)

 

ディリウスは危険を感じ即座に『勇技』を放った。闇で形成された渦が放たれた矢を飲み込んだが矢は止まらず『勇技』を打ち消しそのままディリウスに向かっていく。

 

「馬鹿な!?」

 

ディリウスは驚愕の声を上げた。だが、すぐに矢を止めるべく鎌を振り上げようとした時、イェーガーが動いた。

 

「させるか!」

 

イェーガーはそう叫びながら持っているすべての力をダンデルガに込めてダンデルガを鎌に振り下ろした。

イェーガーの渾身の一撃は鎌の刃を砕きティグルの放った矢はディリウスを襲った。

 

 

矢が当たった時は静かであっただが、それは一瞬のことであった。

次の瞬間、矢に込められた凶暴な破壊の力は炸裂しディリウスを轟音とともに消し去った。

 

「勝った・・・のか?」

 

ティグルはディリウスが消滅した空間を見ながらそう呟くとその場に倒れた。

 

「ティグルヴルムド卿!」

 

そばにいたルーリックが素早くティグルを抱きかかえる。

それから少し離れたところではイェーガーがかろうじてと言う様子で立っていた。

矢が炸裂した瞬間、ディリウスを押さえ込んでいたイェーガーはまともにその衝撃を受けそうになったが寸前でイグニートウォールを張り自らを守っていたのだ。

・・・なんとか生き延びたか。

イェーガーはそう思ったのを最後に気を失った 。



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暗雲の起こり

更新が遅れがちですいません(><)


気絶してから約5時間後、イェーガーは目を覚ました。

全く。短期間に二度も気絶するとは俺もヤキが回ったか?

そう苦笑しながらイェーガーは周りを見る。イェーガーが寝かされていたのは幕舎の一つのようであまり広くはなかった。イェーガーは立ち上がり体に異常がないか確かめると近くに横たえられていたダンデルガを背負い幕舎を出た。

 

「あ、お目覚めですか?」

 

外に出ると幕舎の警備をしていた若い兵士にそう声をかけられる。

 

「ああ。・・・あれからどれほどの時がたった?」

「約5刻ほどです。」

 

イェーガーはそうかと短く返すとあたりを見渡した。

軍全体の戦闘の傷はイェーガーが想定したより深くはなく負傷者は多いが死者は少ないようだ。

 

「あの・・・もうしばらく休まれては?」

 

若い兵士はためらいがちにそう言う。

イェーガーはフッ、と笑みをこぼすと言った。

 

「大丈夫だ。それよりもリーちゃ・・・リムアリーシャ殿とティグルは?」

「お二人なら現在中央の幕舎にて軍議をしております。」

「そうか。ありがとう。」

 

イェーガーは礼を言うと二人のいる幕舎に向かい歩き出した。

ティグルには聞かなきゃならないことがある。

 

 

 

「イェーガー殿!あの時はありがとうございました!おかげでこのルーリック、一命を取り留めました!」

「・・・。」

 

イェーガーは困惑し目の前の禿頭の騎士を見た。

幕舎に向かおうとしてすぐにルーリックに出会いすぐにルーリックから溢れんばかりの賛辞を聞かされていたからだ。

・・・確かコイツって俺のこと悪く思ってなかったか?―まあ、俺の思い込みってのはあるが。

イェーガーはそう思いながら言った。

 

「いや・・・俺は大したことをしてないが?」

「何をおっしゃいます!あの光で我々をお助けくださってくれたではありませんか!」

「いや、あれはだな・・・」

 

イェーガーが戸惑って言葉を探しているとルーリックは神妙な声音になり言った。

 

「実は私、騎士でありながら上官の言葉を疑っていました。イェーガー殿に不思議な力があるはずなどない、そう思っておりました。」

 

いや、その反応は正しいぞ。

イェーガーがそう言う間もなくルーリックは話し続ける。

 

「ですがイェーガー殿は私の疑いを晴らしてくれたばかりかあまつさえ命まで助けてくださって・・・!このルーリック、誠に感服いたしました!」

「・・・お、おう。そうか・・・。」

 

うーん・・・困ったなぁ。これでは先に進めん。

イェーガーがそう思った時ルーリックの背後から二人の男女が歩いてくるのが見えた。

 

「イェーガー殿、目を覚まされましたか。」

 

ルーリックの背後からリムアリーシャがイェーガーにそう言う。そのそばにはティグルもいた。

ルーリックはリムアリーシャの声を聞き慌てて二人の間を避けた。

 

「ああ。なんとかな。」

 

イェーガーは内心でホッとしながらそう言う。

 

「無事でなによりだ。」

 

ティグルがそう言う。イェーガーはくすんだ赤い髪の青年に目を向けた。

 

「ティグル―」

 

聞きたいことがあると続けようとした時リムアリーシャが遮ってこういった。

 

「立ち話もなんですからあちらへ。」

 

そう言って幕舎へと歩き出した。

イェーガーもそのあとに続く。

 

 

 

 

その場所からかなり離れた土地、テナルディエ公爵の領地ネメタクムのテナルディエ邸にて。

 

「・・・やはりドナルベインでは小僧の相手にもならぬか。」

 

大柄な体躯を豪奢な絹服に身を包んだ黒ひげの男―テナルディエ公爵は私室で部下から報告を受けていた。

テナルディエ公爵は怒りを表情ににじませた後その部下を下がらせた。

 

「・・・あのユニットとかいうものはドナルベインごときでは使えぬということか。」

 

テナルディエ公爵がそういった時私室の暗がりに隠れていた男―レイブンにそう言う。

 

「いかにも。だが、テナルディエよ。それは汝にも言えることだ。」

「・・・ふん。ならば貴様が使えば良いだろう。だが、ユニットは我らにとって切り札となる。お前には我らの指揮下に入ってもらうぞ。」

「・・・思いあがるな人間。貴様ら下等な猿ごときが我ら神々を操れる訳が無かろう。」

 

レイブンは真紅の目に怒りをにじませながらそう言う。

本来ならレイブンはテナルディエだけでなく人間に力を貸すことなど望んでいなかった。

 

「そのようなことをすれば、貴様に命令を下したアルトニクス様は黙っておらんだろう?」

「・・・。」

 

レイブンは無言で肩をすくめた後尋ねた。

 

「策はあるのか?」

 

するとテナルディエは思案顔となり答えた。

 

「小僧にはもったいないが『七鎖(セラシュ)』を使おう。そして―」

 

テナルディエはここで言葉をきると書状を準備しながら答えた。

 

「戦姫には戦姫だ。」



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幕間―動き出した歯車―

ブレフロ本編のストーリーについて若干のネタバレが入っているのでご注意ください。


「あの、グラデンス様。どちらまでゆかれるのですか?」

 

セリアがたまりかねそう尋ねる。

イェーガーに通信がつながる数時間前、グラデンスは召喚院を出てグランガイア大陸のバリウラと言う地域を歩いていた。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。カルやお前さんならわかるじゃろう?」

「・・・。」

 

そう尋ねるグラデンスをよそにカルは沈黙を保っている。

 

「え?カル、わかったの?」

「・・・一応、な。」

「ええ!ねえ、どうするの!?教えて!」

 

セリアはそう頼むがカルは黙ったままだ。

・・・何か変ねえ。こういう場合、カルはすぐに教えてくれるはずなんだけど。

セリアがそう思った時、グラデンスが歩みを止めた。

 

「着いたぞ。」

「っ!!ここは・・・。」

 

セリアはたどり着いた場所を見て絶句した。

そこは半年前、封神ルシアスを倒した場所―グランガイア封穴だからだ。

まさか・・・グラデンス様!

セリアが気づいたとき、空から明るい声がした。

 

「あっ!グラ爺だ~!セリアにカル君も!」

 

セリアがはじかれたように空を見上げるとそこには緑色の法衣を纏った少女が宙に浮かんでいた。

セリアはその少女を見て喜びの声を上げ名を呼んだ。

 

「ティリス!!」

 

ティリス―それは元ルシアスの神徒として半年前イェーガー達を導き四堕神を倒す手伝いをした女神だ。

ティリスはルシアス同様自由にゲートを開くことが出来る為ルシアス亡きあとはこの地にとどまりこの地に封じられている災厄を封印している。

 

「よう!女神さん!久しぶりだな!」

「うん!みんな久しぶり!元気そうでよかった!・・・ってあれ?イェーガーは?」

 

ティリスがそう尋ねる。セリアは少し慌てたがグラデンスが口を開いた。

 

「うむ・・・。ティリスちゃん、ちと厄介な事にあやつは巻き込まれての。ティリスちゃんの力を貸して欲しいんじゃ。」

 

そうグラデンスが言うとティリスは驚きの表情を浮かべた。

 

「ええ~!何かあったの!?」

「うむ。実はな・・・。」

 

グラデンスが事のあらましをティリスに伝えるとティリスは更に目を丸くした。

 

「ええ~!それって大変じゃない!!すぐに助けに行かないと・・・。」

 

そう言うティリスをカルが慌てて止める。

 

「おいおい。女神さん!女神さんがいなかったらここはどうするんだ?」

 

するとティリスがばつの悪い顔になる。

 

「そ、それは・・・。」

「ふぉっふぉっふぉっ。確かにティリスちゃんの気持ちはよーくわかる。」

 

グラデンスが好々爺然とした笑みを浮かべる。

 

「そこで、ティリスちゃんに相談なのじゃが。イェーガーの向かった世界へのゲートを開けることはできぬかの?」

 

するとティリスは難しい顔つきになる。

 

「うーん・・・。どこの世界かはわからないと。」

「わかる手段ならばある。」

 

不意に男の声が聞こえた。カル達がその声の方を見ると黒いマントを羽織った若い男がいた。

 

「アーク!」

 

ティリスが男の名を呼ぶ。

アーク、ティリス同様ルシアスの神徒で神々と人の争い時に人々をグランガイアから逃がすため六英雄を討った者だ。今はティリス同様災厄から現れる魔神を封じ込める役を担っている。

 

「ティリス、イェーガーの気配を感じるんだ。」

 

アークは言った。

 

「イェーガーの気配?」

「そうだ、彼の気配を数あるゲートから感じ取れ。そうすれば彼の居場所がわかる。」

 

アークは強い確信を持ってそう言う。

ティリスはそっと目を閉じ集中する。イェーガーの気配、かつて自分を支えてくれた恩人を救うために。

そして。

 

「わかった!ここよ!」

 

ティリスは目を開けそう叫ぶ。グラデンスが尋ねる。

 

「どうかな?ティリスちゃん。開けられそうかな?」

「うん!任せて!」

 

ティリスはそう言うと静かに唱えた。

 

『我が名において命ずる。かの大地に続くゲートよ、我が呼び掛けに答え顕現せよ。』

 

すると目の前に巨大な扉―ゲートが現れ静かに開いた。

 

「この先にイェーガーが・・・?」

 

セリアが尋ねるとティリスは頷いた。

 

「うん。・・・けど、すごくやな気配もしているの。」

「・・・アルトニクスか。」

 

カルが苦々しげに呟く。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。ありがとうティリスちゃん。あの不出来な弟子は必ず連れ戻す。じゃからここはわしに任せてくれぬか?」

「おいおい爺さん!一人で行くつもりか?それはないぜ!」

 

穏やかに笑うグラデンスにカルがそう言いセリアも続く。

 

「そうです!私達もともに行きます!」

「・・・じゃが、相手はこれまで戦った中でも最強クラスの魔神じゃぞ?覚悟は良いのか?」

 

グラデンスがそう尋ねると二人は同時に答えた。

 

「もちろんだ!」「もちろんです!」

 

グラデンスは少し考えうなづいた。

 

「よかろう。二人ともついて来るがよい。」

「グラ爺、カル君、セリア。イェーガーを・・・お願いね。」

 

ティリスがそう言う。

 

「大丈夫よ。必ずあのバカを連れ戻してまた来るからまってなさい。」

 

 

 

そして三人はゲートをくぐった。三人の召喚師の介入が吉と出るか凶と出るかは誰にもわからなかった。ゲートを司る女神はそっと四人の無事を祈った。

だがそれすらも、魔神の強大な力に阻まれる。彼らの運命はいかに・・・?




次回からは対リュドミラ編に入ります。


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第三章凍てつきし大地
覇神帝アルトニクス


「で、どういうことか聞かせてくれないか?」

 

イェーガーはティグルにそう尋ねた。

幕舎へと移動したイェーガーはティグル、リムアリーシャと向かいあう位置に座りすぐに尋ねたのだ。

急だった事もありティグルは最初何について聞いているのか分からず呆気に取られた。

 

「何がだ?」

 

ティグルがそう尋ねるとイェーガーは答えた。

 

「あの黒弓の力だ。ありゃあ何だ?」

 

するとティグルは困ったような笑みを浮かべた。

 

「何だと言われても・・・実は俺もよくわからないんだ。前のザイアンとの戦いの時に初めて知ったきりで。」

「ザイアン?ああ、確か前に攻めてきた奴らの指揮官か。」

 

イェーガーはそう言われて後悔した。

あの時イェーガーはダリマオンとの戦いを終えすぐに気絶していたからだ。

だが・・・。イェーガーはディリウスに向かって放たれた矢を思い出す。

あの威力は尋常な物じゃなかった。あの矢は奴の『勇技』すらも蹴散らし標的を貫いていた。エレオノーラさんが持っている剣といいティグルの持っている黒弓といいこの世界は何なんだ?

 

「・・・イェーガー?」

 

考え込んでいるイェーガーにティグルが声をかける。

 

「ん?何だ?」

「俺も聞きたいことがある。・・・あの時現れたあいつもユニットって奴なのか?」

「ああ。冥界神ディリウス。話には聞いていたユニットだが実際に見るのも戦うのも初めてだった。」

「教えてくれ。ユニットってのは俺達でも使える物なのか?」

 

ティグルが真剣な表情で尋ねる。

もし自分にもあの力が使えるなら・・・人の力を遥かに凌駕するあの力が使えるならばそれを使って一つでも多くの物を守りたい。

ティグルはそう思ったのだがイェーガーの返事は冴えない物だった。

 

「・・・無理だ。」

「どうして?」

「・・・本来召喚術はある神が俺達グランガイア人が神々に抗えるように授けた力だからだ。」

 

イェーガーがそう答えるとティグルは納得しかねると言う表情になった。

 

「じゃあ、なんであいつは使えたんだ?」

 

あいつとはドナルベインのことだ。

ドナルベインはディリウスを呼び出した後その力に恐れ味方をおいて逃げていったがイェーガーはそれを知らない。

ティグルの一言にイェーガーは沈鬱な表情となった。そんなイェーガーを見てティグルとリムアリーシャは不安になった。少なくともイェーガーがここまで暗い表情を二人に見せたのははじめてだったからだ。

 

「ティグル、問題はそれなんだ。俺は少し敵を甘く見ていたのかもしれない。」

「・・・つまり?」

「相手は人に召喚術を与え使役させる事の出来る程の力を持った魔神と言うことだ。」

 

その一言を聞きティグルにはあまり実感がわかなかったのだがイェーガーの表情を見て恐ろしい相手だと思った。

 

「・・・イェーガー殿、我々に対抗する術はございますか?」

 

リムアリーシャが尋ねる。イェーガーは沈鬱な表情で考える。

・・・対して変わらないかもしれんがせめてルジーナとかがいればなあ。

 

「・・・厳しいと言わざるを得ない。」

 

イェーガーはため息混じりにそう言った。その時、ヴァルガスがイェーガーにいった。

 

《だーっ!お前はいつからそんなに弱気になったんだ!!》

 

ヴァルガス・・・。

 

《イェーガー。お前がルシアスとの最後の戦いの際にいった言葉忘れたわけじゃねえよな?》

 

・・・ああ。

 

 

それは半年前、イェーガー達を排除しようとしたルシアスとの戦いの時その圧倒的とも呼べるルシアスの力にイェーガーが諦めかけた時のことだ。

 

『諦めんな!今、お前の後ろにいるティリスやカル達を守れんのはお前だけだろうが!確かにルシアスの力は強大だ。だが、奴にはないものをお前は持っている。だから最後まで足掻いてみろ!!』

 

ヴァルガスのその言葉に奮起したイェーガーは【六英雄】すべての力を使いルシアスを倒した。

 

 

・・・そうだ。そうだったな。ヴァルガス。

イェーガーはフッと笑う。

やる前から諦めてる場合じゃない!

 

「大丈夫だ。ティグル、リーちゃん。どんな奴が来ようともぶっとばすからさ、二人はテナルディエとの戦いに集中してくれ。」

 

イェーガーは明るい声音でそう言い切る。

 

「ですが、イェーガー殿。どのようにその魔神を倒すのですか?」

「ん?ま、なんとかなるさ。人と神々の戦いは常に何が起こるかわからない。今回もうまくいくさ。」

 

その迷いを振り払ったイェーガーを見てリムアリーシャは僅かにだが安堵した。

ひとまずは元に戻った、と言うところですね。

 

「では、これからについて話し合いましょう。」

 

 

 

 

同時刻―ヴォージュ山脈より北方の土地ディナントにて。

 

「ゆ、許してくれよ旦那!」

 

ドナルベインが目に涙を浮かべて懇願した。その相手はレイブンであった。

 

「ならん。」

 

レイブンは無情にもそう言い放った。

ドナルベインは先の戦での失敗を咎められていた。

いかに予想外のことがあったとはいえこの下等な生物にこれ以上情状酌量の余地はない。

 

「消え去れ。」

 

レイブンはそう言うと左手を掲げる。左手から黒い球が生み出される。

 

「ひいぃぃぃぃぃぃ!お助けぇ!」

 

ドナルベインがそう叫ぶ。レイブンが球を投げつけようとした時だ。

 

「待て。」

 

静かな―だが威厳のこもった声がした。その声を聞きレイブンははっとして跪く。

そのレイブンの背後から中肉中背で血のように朱い髪をした碧眼の男が現れた。

 

「アルトニクス様!どうしてこちらに?」

 

レイブンがそう尋ねる。

男―覇神帝アルトニクスはドナルベインを見ながらこういう。

覇神帝とはアルトニクスの神々における異名だ

 

「火急の用事が出来たのでな。」

 

ドナルベインは目の前の男から発せられる覇気と恐怖により逃げる事も叫ぶ事もできずにいた。

アルトニクスはそんなドナルベインを見てこういった。

 

「人間よ、お前に最後のチャンスをやろう。我が授けるユニットを用いてこの地に新たに現れた三人の召喚師を葬れ。」

 

ドナルベインはあまりの恐怖の為頷くしかできなかった。アルトニクスはニヤリと笑うと術式を展開した・・・。



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消えた召喚師

魔神アルトニクスがドナルベインに任務を与えた数時間後のディナントに三人の人間が訪れた。

 

「なあ、爺さん。やっぱ手分けして探した方がいいんじゃないか?」

 

三人の一人―カルがそう尋ねるとグラデンスはこういった。

 

「うむ。平時ならばそうすべきじゃろう。じゃが、相手はゲートを操る事の出来る魔神、アルトニクスじゃ。おそらく我々三人が個々に立ち向かってはちと厳しいじゃろう。」

「それはそうだけど・・・。」

 

カルは不満げにそう相槌を打つ。

それはイェーガーにも同じことじゃないか・・・?

カルはそう思ったが否定した。

いや、あいつは四堕神だけでなくルシアス様も倒したんだ。そう簡単にはやられはしないはずだ。

ここまでカルは考え納得しようとしたがやはり、だが・・・と思わずにいられなかった。

 

「カル?大丈夫?」

 

セリアが考え込んでいるカルに尋ねる。

 

「あ、ああ。大丈夫だ。」

「そう?あっ。あのバカなら大丈夫よ。あれでも四堕神を倒したじゃない!」

「・・・そうだな。」

 

カルはセリアにそう言われて少し気が楽になった。

 

「お、おい!おおおおお前ら!」

 

その時だった。唐突に野盗の身なりをした男に声をかけられたのは。男はボロボロの甲冑を身にまとっていて非常に怯えた声音をしていた。

 

「おおおお前らが、しょ、召喚師ってやつか!?」

 

そう尋ねられてカルは真剣な顔つきになる。

この地で召喚師と言う物を知っているのはおそらく魔神の手先だからだ。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、そうじゃと言ったら?」

 

グラデンスが穏やかにそういう。

すると男は、

 

「やらなきゃやられる。やらなきゃやられる!」

 

そう呟いたかと思うと男―ドナルベインは叫んだ。

 

「現れろぉ!!大神聖メルキオ!!」

 

すると、大きな召喚陣―かつてディリウスを呼び出した物よりも巨大な、が現れそこから白き鎧に身を包み十の翼を持つ物―大神聖メルキオが現れた。

 

「なっ!!」

 

カルが驚きに目を見開いた。メルキオは静かにカルたちを睨むと一言呟いた。

 

「タイショウヲハッケン。センメツシマス。」

 

メルキオは手にした巨大な槍を振り回しカルたちに向かう。

その槍をグラデンスが剣で受け止めた。

 

「・・・疑問は尽きぬ、がまずはこいつを倒すのが先のようじゃの。ゆくぞ!カル、セリア!」

「ああ!」

「はい!グラデンス様!」

 

カルとセリアは返事を返すとそれぞれの武器を構えた。

 

「く、くそが!まだいるんだよ!」

 

ドナルベインはそう叫ぶと新たなユニットを呼び出した。

 

「来い!殲神帝ベルフーラ!天雷の騎神エイミ!」

 

再び空に召喚陣が浮かびそこから氷の竜にまたがり黒い鎧を着た騎士と雷を纏いハルバードを持った女騎士が姿を現した。

 

「おいおい、マジかよ!」

 

カルがそう叫びながらベルフーラの大剣をハルバードで防ぐ。

 

「カル!」

 

セリアが叫んでカルに近づこうとするがエイミが立ちはだかりハルバードを振る。

 

「ちょっと!邪魔!」

 

セリアがそう叫んで大剣でハルバードを弾く。そしてそのままの勢いで大剣を振る。が、エイミは紙一重でよける。

 

「くらえ!『魔神蒼破斬』!」

 

カルが『勇技』を放つ。ハルバードから氷の刃が放たれベルフーラを襲う。

 

我が力よ。彼のものを弱体化せよ!(ステュクス)

 

ベルフーラの大剣からも氷の刃が放たれカルが放った『勇技』を相殺する。

 

「ちっ!」

 

カルが苦い表情をする。

まずい・・・こっちが押され気味だ。ここは一度引いた方が・・・!

そう思った時だった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。二人ともまだまだ修行が足らんのう。」

 

グラデンスがそういう。

カルがグラデンスの方を向くとそこには既にメルキオの姿がなかった。

 

「では、ゆくぞ!」

 

グラデンスはそういうと右手に槍、左手に剣を構え叫んだ。

 

『悠久なる光と闇よ、我が求めに応え顕現せよ!』

『闇と光の乱舞(フューラージハード)!』

 

グラデンスの剣からは光、槍からは闇が放たれ二体のユニットを襲う。その威力はカルやセリアの『勇技』を遥かに上回っていた。

 

我が真なる力よ!全てを弱体せよ!(グレイシアドラグーン)

「行け!『紫電神槍』!」

 

ベルフーラとエイミは同時に『勇技』を放って応戦したが無駄であった。

グラデンスの『勇技』は二つの力を消し去り二つのユニットをも消し去った。

 

「・・・!」

 

カルは目の前で起こった事に驚いていた。グラデンスの力が強大であることは知っていたが以前よりも威力が増していたからだ。

 

「さて、こんなものかの。」

 

グラデンスはそう言って呆然と座り込んでいるドナルベインを睨み付ける。

 

「お主には―」

 

聞きたいことがあると続けようとした時、突如強力なプレッシャーがあたりを支配した。

そして次の瞬間、三人を光が包み込んだ。

光がなくなった時、そこに三人はいなかった。

 

「ご苦労だったな。人間よ。」

 

何があったのか分からず呆然とするドナルベインに神徒レイブンが声をかける。

 

「レ、レイブンの旦那!」

「貴様のおかげで奴らを散り散りにできた。礼を言う。」

 

レイブンがそう言いドナルベインが表情を明るくした時、ドナルベインは地に倒れ伏した。

 

「せめてもの礼だ安らかに眠れ。」

 

それがドナルベインの聞いた最期の言葉であった。



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召喚師の行方


今回はカル、セリアサイドです。


うう・・・ここはどこ?

清潔なベッドで寝かされていたセリアは頭の割れるような痛みで目を覚ました。

確か・・・カルやグラデンス様と一緒にあのバカを探しに来て・・・それからどうなったんだっけ?

そこまで考えて頭がはっきりした。

そうよ!ユニット!!あの男が急にユニットを呼び出して・・・!

セリアは急いで起き上がり周りを確認する。セリアが寝かされていたのは白を基調としたどことなく高貴さを感じさせる部屋でセリアが寝ているベッド以外に小さめの机がありそこに武器以外のセリアの荷物があった。

だが、カルやグラデンスはそこにいなかった。

一体二人ともどこに・・・?

そう思った時静かに扉をノックする音がなり初老で侍従の身なりをした男が入ってきた。

 

「お目覚めでございますか?」

 

侍従は丁寧な口調で尋ねる。

 

「え、ええ。・・・あの・・・ここは一体・・・?」

 

セリアがそう尋ねると男は丁寧に答えた。

 

「ここはレグニーツァの公宮でございます。ここのお庭にあなたが倒れていらしたのでこのお部屋までお運びして侍女の者にご看病させました。」

「公宮!?ここには偉い方がいるんですか?」

 

セリアがそう尋ねると侍従は一瞬怪訝な顔になったが丁寧さを失わずに答えた。

 

「ここにはレグニーツァ公国が主にて【七戦姫】が一人であらせられるアレクサンドラ・アルシャーヴィン様がいらっしゃいます。」

 

セリアは七戦姫と言う聞きなれない言葉に興味を持ったもののここが一国の主の邸宅であると知り驚きを隠せなかった。

 

「つまり、王様の屋敷ってこと?どうしよう・・・?」

「・・・?」

 

セリアがそう呟き侍従が怪訝そうな顔をした時再び扉がノックされて別の侍従が現れた。

 

「失礼致します。お客人、アレクサンドラ様がお会いになるそうですのでお迎えに上がりました。」

 

セリアは思った。

全部あのバカの所為よ!もう・・・どうしよう・・・。

 

「わ、分かったわ。」

 

セリアはそう言うと立ち上がり侍従の後に続いた。

 

 

 

 

ててて・・・ここはどこだ?

カルは鈍い痛みで目を覚ます。カルは目を覚ますとすぐに周囲を見渡し自分の状況を確認する。

カルが寝かされているのは宿屋の一室らしく部屋にはベッドの他に小さな机がありそこにカルのハルバードと荷物があった。そしてベッドのそばには一人の金髪の女性が付き添っていた。

 

「目が覚めましたか?」

 

女性はカルにそう尋ねる。

 

「ああ。ーあんたが助けてくれたのか?」

 

カルがそう尋ねる。女性は頷いた。

 

「はい。ジャンヌと申し上げます。」

「ああ。俺はカルだ。よろしく。」

 

カルは微笑みながらそう言う。

 

「ところで何だが・・・。ここは?」

 

カルがそう尋ねるとジャンヌは答えた。

 

「ブリューヌ王国南方の土地アニエスです。」

 

ブリューヌ?と言うか人がいてちゃんと文化や生活も整っているのか?

カルは内心疑問に思ったが言葉にはせず尋ねた。

 

「俺はどうしてここに?」

「・・・実は昨夜ここに宿をとった後、お嬢様が少し散歩をなされたいと申されましたので共に外に出たらあなたが倒れていました。」

「お嬢様ってのは?」

 

カルがそう尋ねるとジャンヌは僅かに顔をこわばらせ答えようとした時部屋の扉が開かれ一人の金髪の少女が駆け込んできた。

 

「ジャンヌ!!」

「お嬢様?どうなされました?」

 

そのただならぬ様子にジャンヌが身をこわばらせえ尋ねる。

 

「あの者達がここへー!」

 

そう言った時、下から男の怒鳴り声がした。

 

「見つけたぞ!殺れ!」

 

下から騒がしい音が近づいてくる。カルは素早く立ち上がるとハルバードを手にする。

 

「お待ち下さい!何をなさるおつもりですか?」

 

ジャンヌが尋ねる。カルは微笑みを浮かべると言った。

 

「あんたたちは俺を助けてくれたろ?そんでもって今あんたたちは危険な状況じゃないか。なら恩返しってことだ。」

「なりません!お早くお逃げください!」

「そうだ。早く逃げろ。」

 

カルはそう言う。その時、4人の男達が剣を持って姿を現す。

 

「へへ。観念しやがれ!」

 

男の一人、リーダー格の男がそう言う。

 

「今、大人しくすればムオジネルに引き渡してやるだけで終わってやるぜ。」

 

リーダー格の男の後ろにいる男がそう言う。カルは静かに告げた。

 

「表へ出ろ。」

「あぁん!?なんだって?」

 

後ろにいる男がそう言う。

 

「表へ出ろって言ってんだよ!」

 

カルがそう怒鳴った時部屋を冷気が支配した。

この時期のブリューヌは冬で確かに寒い。が、しっかりと暖のとられた部屋が寒くなると言う異常事態とカルの迫力に気圧されて男達はカルに従った。

 

 

宿の外、住人がいなくなった大通りでカルたち3人と宿に侵入してきた男達とその仲間11人が対峙する。

 

「いまここから立ち去れば命は助けてやるが?」

 

カルが静かに尋ねるとリーダー格の男は叫んだ。

 

「この人数差に勝てると思ってんのか?バカめ!」

 

外に出て仲間と合流したことにより男は勝利を信じ疑わなかった。だが次の瞬間、男は自分の間違いを悟った。

 

「じゃあ・・・行くぜ!」

 

カルはそう言うが早いがハルバードを振り4人の男を一文字になぎ倒した。そうかと思えばすぐにまた4人の男が倒れたちまちのうちに半数以上の男を倒していた。

過信ーそれが男の犯した間違いだった。




次回はイェーガーサイドに入ります。


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召喚師の誇り

短めですが更新します。


「ヴォルン伯爵、リムアリーシャ殿。このテリトアールの主として、心から感謝申し上げる。じゃが・・・そちらの御仁は?」

 

テリトアールに帰還したイェーガー達を出迎えたのは初老の男性だった。ーユーグ・オージェ子爵。テリトアールを治める貴族だ。

ユーグは前回野盗討伐の依頼を出した際にはいなかった、イェーガーを示しそう尋ねた。

 

「俺はイェーガーと言います。訳あってティグルとともに戦う旅人です。」

 

イェーガーがそう答えるとユーグは怪訝な顔になりティグルを見る。

 

「ヴォルン伯爵?何故、旅人殿をここに?」

「それは・・・」

 

ティグルが答えようとした時イェーガーが遮って言った。

 

「オージェ様、これから話すことは事実ですので落ち着いてお聞き下さい。」

 

イェーガーはそう前置きすると自分が戦う理由について語った。

召喚師であること、魔神がいることも含めて全て、だ。

 

「・・・にわかには信じられぬ。魔神・・・本当にそのような者が?」

「信じてもらうのは難しいとは思います。ですが、事実なのです。もし、お望みでしたら召喚術だけでも行いますが?」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャが厳しく言った。

 

「イェーガー殿。術の乱用は程々になさった方がいいのでは?・・・召喚直後に魔神が現れ一網打尽ということもあると思うのですが。」

 

最後の一言はとってつけたような感じであった。ティグルにはなんとなくリムアリーシャが最近よく力を使い果たし気絶するイェーガーを気遣っての一言だと思った。

当のイェーガーはそのことに気づかずキョトンとして言った。

 

「だけどそれ以外に手はないんじゃ?」

「いや、召喚術とやらは使わなくとも良いぞ。」

 

そう言うのはオージェだ。イェーガーはオージェを見つめる。

 

「恐らく以前までのわしならば戯言じゃと片付けていたじゃろう。それが例えヴォルン伯爵がおっしゃってもじゃ。」

 

ここで一度言葉をきり続けた。

 

「じゃが、イェーガー殿やヴォルン伯爵、そしてリムアリーシャ殿達の誠意ー確かに感じられました。その戦い、わしも力を貸そう。」

 

ティグルの表情が明るくなる。だがオージェは厳しい表情となって続けた。

 

「じゃが・・・イェーガー殿。あなたに一つお尋ねしたい。」

「・・・なんでしょう?」

「魔神とやらは我がテリトアールに対し被害を与えると思われるか?またその時、お主は我らを見捨てぬのか?」

 

オージェがそう尋ねるとイェーガーはフッと笑い答えた。

 

「ご冗談を。召喚師としての誇りに誓いましょう。俺は魔神の脅威からここにいる全ての人間を守りぬこう。」

「・・・誠か?」

「ラジカストの名にかけて。」

 

イェーガーはそう答えた。

 

 

かくしてティグルの元にテリトアール領のオージェ子爵が協力を示した。

ティグルの対テナルディエ対策は徐々にではあるが整っていき順風満帆に見えた。

だが、新たな敵が迫っていることにまだ誰も気づかなかった。



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意外な趣味

「さてと・・・。」

 

オージェとの面会の後、イェーガーは幕舎へと戻っていた。

というのも、ティグルとリムアリーシャはそれぞれ用事でおらず、外に出ればルーリックに出くわす可能性があるからだ。

うーん・・・。嫌いじゃないんだがなぁ。なんというか・・・苦手だ。

イェーガーは苦笑交じりにそう思った。

しかし…暇だな…。仕方が無い。少し外に出るか。

イェーガーがそう思って立ち上がり入り口に立った時、そばに置いてあった荷物が入った袋にぶつかってしまった。

 

「あらら…。」

 

イェーガーはため息混じりにそう言うとぶつかった拍子に中身が少し外に出た袋へと歩み寄る。

・・・?これは熊のぬいぐるみ・・・?誰がこんな物を・・・?

イェーガーは怪訝に思いながらぬいぐるみを袋に戻して-驚いた。

これは・・・!リーちゃんの荷物!?えっ!ま、まさか・・・!リーちゃんに意外な趣味が!?

驚いた後イェーガーは少しだけバツが悪くなった。

でもまあ…。趣味は人それぞれだよなー。俺も神話とか伝説の探求が趣味だし。

イェーガーのいるエルガイアでは神々との戦いの所為か人々の間で神話を探求するということはあまり無くあるとしてもやはり、イェーガーのような一部の召喚師だけであった。

イェーガーは袋を元の位置に戻して外に出た。

 

 

「ふーっ。」

 

予想外の発見にしばし呆然としたイェーガーだったがすぐに我に戻り外に出てため息を一つ吐く。

 

「イェーガー殿。ここにいましたか。」

 

そのイェーガーにいつのまにか帰って来ていたリムアリーシャが声をかける。

イェーガーはさっきの荷物の一件を思い出し少しバツが悪いように思ったがなんとか平静さを保ったままリムアリーシャを見る。

 

「どうした?」

「エレオノーラ様がキキーモラの館にて待つとのことです。出発しますよ。」

「ん?俺もか?」

 

イェーガーは意外そうに尋ねる。

ティグルは伯爵でリムアリーシャは副官だからともかく、一旅人でもある自分も呼ばれるとは予想外だったからだ。

するとリムアリーシャはいつもの無表情を崩さずに答えた。

 

「エレオノーラ様はあなたにお礼を申し上げたいようです。」

「え?」

 

イェーガーはますます話がわからなくなった。

お礼を言われるような事をした覚えが無いんだが・・・?

 

「よくわからないけど・・・わかった。すぐに準備を始めよう。」

 

イェーガーはそう言うと幕舎へと戻った。

うーん・・・お礼・・・ねぇ。

 

《ま、あの剣について聞いてみるチャンスじゃねぇの?》

 

ヴァルガスがそう言う。

・・・まあ、そうなんだが。

イェーガーは首をひねりながら準備をした。



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イェーガーの世界

 「あれが、キキーモラの館です。」

 

リムアリーシャがそう言って指さしたのは荒野の丘にぽつんと建つ黒い建物だった。

 

「へぇ。あれが、別荘か。ところで、どうしてキキーモラって呼ばれてるんだ?」

 

ティグルがそう尋ねるとリムアリーシャは表情一つ変えずに答えた。

 

「キキーモラとは我が国に伝わる妖精の名前で善人の家の安全を守ると言われています。それゆえ、凝った名前でも付けない限り別荘にはこの妖精の名前が冠されます。」

「へぇ・・・。じゃあもし俺が別荘を建ててもイェーガーの別荘では無くキキーモラの館って呼ばれるのか?」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャは答えた。

 

「はい。イェーガー殿がそう呼べとおっしゃらない限りは。」

 

そんな他愛のない話をしているうちに三人は館についた。

館の屋根は黒く館の大きさはティグルの屋敷と同じ位であった。

 

「結構デカイな・・・。」

 

そうつぶやくイェーガーを横目にリムアリーシャは勝手知ったる様子で館に足を踏み入れると厩舎へ向かいホッとした様子で呟いた。

 

「エレオノーラ様は既に到着なされているようです。」

 

そう言うリムアリーシャの視線の先には一頭の馬がいた。恐らく、エレオノーラが乗ってきたものだろう

三人は手早く馬の世話を終えると厩舎を出て入り口の扉の前に立った。

リムアリーシャ扉をノックすると程なくエレオノーラが顔を出した。青を基調とした服装で腰には銀閃、アリファールを佩いている。

 

「来たか。」

 

エレオノーラは無邪気とも取れるような笑顔を浮かべてそう言う。彼女は三人を館に招き入れた。

ティグルはテリトアールから担いできた袋を見てエレオノーラが感心したような声をあげた。

 

「ずいぶん大きな土産だな。」

「土産というほどの物ではありませんがぜひ見ていただきたくてお持ちしました。」

「そいつは楽しみだ。」

 

エレオノーラがそう言った時、三人の間をふわりと優しい風が通り抜けた。

・・・アリファールの起こした風か?

 

「こいつも一人前におかえりと言いたいらしい。」

 

エレオノーラがそう言った時、イェーガーは予測があたった事を知った。

 

 

「では、再会を祝して。乾杯といこうか。」

 

四人でテーブルを囲むとエレオノーラは葡萄酒の瓶を開け、用意した四つのグラスに注ぐ。四人はグラスを重ね合わせ、乾杯と言う響きが重なった。

 

「ところで・・・どうして俺まで呼んだんだ?一応一介の旅人なんだが・・・。」

 

イェーガーが疑問をぶつけるとエレオノーラは答えた。

 

「リムからの手紙で知ったが、お前は私の兵達を死神のようなものから守ってくれたらしいじゃないか。それに関して一応礼を言いたくてな。」

 

ディリウスの事か・・・。結果的にあれはティグルが仕留めたが?

イェーガーがそう思った時、エレオノーラはイタズラっ子のような笑みを浮かべそれにと付け加えた。

 

「お前の住んでる世界についても知りたい。」

 

そうきたか・・・。まあ、隠すほどのもんじゃ無いな。

イェーガーはそう思い、葡萄酒を一口飲むと答えた。

 

「俺の住む世界。エルガイアは元々グランガイアと言う大陸に住んでいた人間が逃げ延びた土地だ。」

 

そう言うとティグルが尋ねた。

 

「逃げ延びた・・・って何から?」

「神だ。」

 

イェーガーはこともなげにそう言ったがエレオノーラ達はキョトンとした。

 

「イェーガー殿・・・。神とは・・・そのままの意味ですか?」

「そうだ。俺たちの世界では昔人間と神々は争いあっていたんだ。」

「何故争いあっていたんだ?」

 

ティグルが尋ねる。

 

「理由は様々だが、恐らく人間の中で神々に逆らった者が出たからだろう。」

 

イェーガーはコホンと咳払いを入れると続けた。

 

「結果的に俺たちは神々との戦に敗れある英雄と神の導きを得て逃げ延びた。」

「何?神は敵では無かったのか?」

 

エレオノーラが尋ねる。イェーガーは首を横に振り答えた。

 

「神の中でも都合というものはある。全滅の憂き目にあった人間を救い出したんだ。後は・・・わかるな?」

 

イェーガーがそう言うとティグルが納得したような表情になった。

 

「その神が人間の信頼を得て自分だけが信仰される世界が出来るって訳か。」

「そういうこと。」

 

イェーガーが肯定するとエレオノーラは不快そうに呟いた。

 

「・・・果汁水のまずくなるような話だな。」

 

全くだ。

イェーガーは心の中で同意すると続けた。

 

「ま、そんな経緯があり俺達は今の世界ーエルガイアに辿り着いたんだ。」

「じゃあ、召喚術もその助けてくれた神が与えたのか?」

 

ティグルが尋ねるとイェーガーは首を振り答えた。

 

「いや、その神の企みを快く思わない神が俺たちに与えた。・・・その神を倒させるためにな。」



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イェーガーの世界2

「別の神を倒すために神を倒せる力を与えた?その神とやらは馬鹿なのか?」

 

エレオノーラがそう言った時、イェーガーは思わず笑みをこぼした。そのイェーガーにリムアリーシャが咎めるように尋ねる。

 

「何がおかしいのです?」

「いや、エレオノーラさんのー」

「エレンでいいぞ。むしろ、そのほうが慣れている。」

 

イェーガーの言葉を遮りエレオノーラ・・・エレンがそう言う。イェーガーはしばし考え続けた。

 

「エレンさんの言ったことが昔の俺が思っていたことと全く同じだったんだ。けど、その神-大神皇カルナ・マスタにはそれしか手がなかったんだ。」

 

イェーガーがそう言うとティグルは尋ねた。

 

「手が出せなくなっていた、もしくは似たような状況だったのか?」

「そうだ。カルナ・マスタはその神-封神ルシアスにより封印されていたんだ。せめてできたのは封印される前に人間に召喚術を与えることだけだったんだ。」

 

イェーガーがそう肯定するとエレンが尋ねた。

 

「どうして封印されることになった?」

「ルシアスにとって自分の信仰を確立するのにカルナ・マスタは邪魔だったんだ。だから大戦のあと弱っているカルナ・マスタを封じ込めたのさ。」

 

イェーガーはそう言って締めくくり始めた。

 

「まあ、話せば長いから一気に省略すると神々から逃げ延びた人間が行き着いた世界。それが俺の住む世界だ。」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャは眉を顰め尋ねた。

 

「いくらなんでも省略し過ぎでは・・・?」

「じゃあ、世界観以外の質問は?」

 

イェーガーがそう尋ねるとリムアリーシャはこう尋ねた。

 

「国家などは存在しているのですか?」

「ああ。2つの国がある。一つはアクラス召喚院擁する帝国ランドール。もう一つはエルガイア連邦だ。ただ、エルガイア連邦とランドールと言っても基本的に覇権はランドールが握っていてエルガイア連邦は属国みたいになっているな。ーさて、今度は俺が聞きたいんだが・・・エレンさん、その剣は一体何だ?普通とは違うものということは分かっているがどうしても知りたい。ー一応知り得た知識ではそれは『竜具(ヴィラルト)』と呼ばれていて全部で7つありそれを担うのが『戦姫(ヴァナディース)』だというのはわかったんだが『竜具』の出処がどうも気になってな。」

 

イェーガーは大雑把に説明するとこの機を逃すまじという風にエレンに尋ねた。

エレンは少し困ったような表情を浮かべて答えた。

 

「悪いが私もこの剣についてはよくしらないんだ。何せ顔も知らん奴から託されたようなものだからな。」

 

その答えにイェーガーは少し首をひねった。

どういうことだ?

すると、ティグルが尋ねた。

 

「戦姫ってどうやって選ばれるんだ?」

 

エレンは少しだけ思案して答えた。

 

「まあ、お前たちになら話しても大丈夫だろう。だが他の者たちには話すなよ。戦姫は『竜具』が選ぶんだ。」

 

・・・ん?どういうことだ?

エレンは話を続ける。

 

「私は二年前こいつに選ばれて戦姫となった。




アンケートにご協力いただきありがとうございます!
なるべく実現出来るように頑張ります。


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国王の指令

武器が持ち手を選ぶと聞きイェーガーは手元のダンデルガに目をやる。

イェーガーがグランガイアを旅していた頃イェーガーはダンデルガを見つけそれに宿るヴァルガスの意志に認められダンデルガの炎を操れるようになったのだ。

武器が持ち手を選ぶ。その認識にイェーガーは大して違和感を覚えなかった。

 

「・・・意味が少しわからないんだが。」

 

ティグルが困惑して尋ねる。

・・・まあ、それが普通の反応だよな。

 

「いい目をしてるな。真面目に聞こうという目だ。」

 

エレンが嬉しそうに返すとティグルは少し笑い答えた。

 

「その・・・どうやって『竜具』が戦姫を選んだ?」

「ある日突然。、こいつが目の前に現れる。手にとったら言葉みたいな物が流れ込んでくるんだ。ーお前は戦姫になった。公宮へ向かえ、とな。そして公宮についたら晴れてその日から戦姫だ。」

「・・・それって公宮にいる人たちは反発しないのか?」

 

イェーガーがそう尋ねた。

 

「嫌かもしれないが、こいつが選んだのでは仕方が無いだろう?」

 

エレンがそう言いながら竜具をぽんっと叩く。

・・・不思議なもんだな。

 

「ところで、エレオノーラ様。王都での謁見はどうなったのですか?」

 

リムアリーシャがそう尋ねるとエレンがは真剣な表情となり答えた。

 

「面倒な点が2つの起こった。が、それを話す前に先に言っておくがイェーガーの事は王には伏せてある。」

「・・・まあ、説明しても信じてくれないだろうしな。」

 

イェーガーがそう言うとエレンは頷いて答えた。

 

「それもあるが・・・まあ、おいおい話していこう。まず一つ目だが、領地を得た場合は王に全て献上することになった」

 

・・・ん?それのどこが変なんだ?

 

「今となにか違うのか?」

 

ティグルも首をひねりつつ尋ねる。

 

「アルサスは戦いが終った後エレオノーラ様の統治では無く、国王の指名した代官が治めるということです。」

 

リムアリーシャがそう言うとイェーガーは尋ねた。

 

「それは普通じゃないのか?」

 

するとエレンは一瞬怪訝な顔になり合点がいった調子で答えた。

 

「ああ。そう言えばこの戦いの対価について話してなかったな。この戦いによって得るはずだったもの・・・それがアルサス全土だ。」

「・・・何?」

 

おいおいおいおい!言葉の意味だけだとすげえ約束してるぞこいつら!

 

「つまりそれは戦いが終った後アルサスはエレンさんの直轄領になるはずだったってことか?」

「うむ。まあ、そうだ。」

 

・・・戦姫って国王の配下じゃないのか?

そんなイェーガーの困惑をよそにエレンは話を続ける。

 

「まあ、これはまだ戦いが終わるまでに何とか出来る。だが、陛下がおっしゃった言葉はもう一つある。」

「それは?」

 

ティグルが尋ねる。

 

「ジスタートの国益を第一に考え行動せよ、だ。」





アンケートでとったユニットの登場までもうしばしお待ち下さい(m_m)


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戦姫二人

大変ながらくお待たせいたしました!
再開します!


・・・国益を第一に、か・・・。また厄介な一言だな。

イェーガーが眉をしかめてそう思った時、ティグルが尋ねた。

 

「それがどう問題なんだ?普通のことじゃないのか?」

 

すると、エレンが苦笑した。

 

「お前には少し難しかったか。」

「ティグル、今回問題になるのは国益を第一にというところだ。」

 

イェーガーがティグルにそう言う。ティグルが首を捻り考えているとリムアリーシャがイェーガーに尋ねた。

 

「その様子ではイェーガー殿は理解してらっしゃるようですね?ティグルヴルムド卿にご説明お願いします。」

 

イェーガーはチラリとリムアリーシャを一瞥すると答えた。

 

「例えばジスタート国内でテナルディエと交流のあるジスタートの貴族がティグルに敵対する行動をとってもその貴族が国益になると考えたとでも言えば無罪放免って事だ。」

「・・・かなりの拡大解釈ですが、概ね間違いありません。」

 

イェーガーの一言をリムアリーシャが肯定するとティグルは顔をしかめた。

まあ、無理もないか。

そんなティグルを見てイェーガーはそう思った。

魔神やテナルディエのみならずジスタートの貴族まで相手だもんな。そりゃあ不安にもなるか。

 

「そのうち、すでに一人は敵だと断言できる。」

 

エレンがそう言うとリムアリーシャは思い当たったようで少し顔をしかめた。と、ほとんど同時に呼び鈴が鳴った。

 

「私が見て参ります。」

 

リムアリーシャがそう言って席を離れた。

 

「えーと・・・。エレンさん、敵ってのはどんな奴なんですか?」

 

イェーガーがそう聞くとエレンは心底嫌そうな顔をした。

その表情をみてイェーガーはふとルジーナと共にいる時のセリアの顔を思い出した。

アクラス召喚院第23魔神討伐部隊【スカイガーデン】リーダー。それがルジーナだ。見た目は小者臭が漂う若い男だが、実力は折り紙つきで性格さえ問題無ければ召喚院の中でもかなりの実力者と言えるだろう。そう、性格さえ良ければ・・・。セリアはこのルジーナが嫌いでもし鉢合わせすることになれば今のエレンと同じ表情をするだろう。

 

「我がライトメリッツ公国から南方に位置する国、オルミュッツ公国の主にして戦姫の一人だ。」

「・・・別の戦姫か。」

「そういえば・・・エレンさん。こいつを見てくれないか?」

 

イェーガーはそういうと袋の中身を取り出した。

それは野盗たちが着けていた鎧だった。

エレンはそれを繁々と観察すると苦々しげ呟いた。

 

「オルミュッツ製の甲冑だな。なぜこんなものが?」

 

エレンの疑問にティグルが答えた。

 

「実は俺達が倒した野盗が身に着けていたものなんだ。」

「・・・フン。やはりあいつは余程私たちの邪魔をしたいらしい。」

「あいつというのは戦姫か?」

 

ティグルが尋ねるとエレンが答えた。

 

「リュドミラ=ルリエという私と比べればどうということのない奴だがな。」

 

強い嫌悪感をあらわにしてエレンは答える。

 

「口を開けばやれ礼儀だの品性だのとやかましいくせに自分がジャムを持ち歩くのは嗜みだというジャガイモのような女だ。」

 

・・・どんな奴だ?

イェーガーが取り敢えずエレンがそのリュドミラなる人物を罵倒しているのだと理解した時扉が勢いよく開いた。

 

「誰がジャガイモですって!?」




次回はセリアパートです


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病の戦姫

やっと投稿できました!
よろしくお願いしますm(_ _)m


 一方同時刻レグニーツァにて。

 

セリアは一つの部屋へと通された。その部屋は公宮の一室というには簡素でほとんど最低限の家具しか置かれていない部屋だった。部屋の壁にとりつけられた暖炉が赤々と燃え数少ない彩りを放っていた。

その部屋の中央にあるベッドに体を起こしている黒い短髪の女性がいた。女性はどこかはかなげな雰囲気を放ちながらもその目からは確かな強い意志の輝きが見て取れた。そして、手元には二振りの赤い短剣が置かれているがそれが不思議な安心感を与えていた。

女性はセリアを微笑みながらむかえいれた。

 

「はじめまして。レグニーツァの主にして七戦姫が一人のアレクサンドラ=アルシャーヴィンです。」

「ええ…っと…。」

 

セリアは戸惑っていた。今まで少し問題はあるが愛すべき女神や強力な神と話す時、彼女は決まっていつもの口調だったからだ。と言うのも、神々とは敵対することの方が多かったと言うことがあるからだ。だが、目の前のアレクサンドラと名乗る女性の言葉には敵意が無くどこか優しさが含まれているからだ。

セリアが戸惑っているとアレクサンドラは続けた。

 

「私の事は気軽にサーシャとよんでくださいね。」

 

その一言でセリアはハッと我に返り慌てて名乗った。

 

「セリアです。ええと…サーシャ様?」

 

少し緊張気味のセリアを見てサーシャはクスリと静かに微笑むと続けた。

 

「では、セリアさん。一つお願いがございます。」

「な、なんでしょう!?」

 

セリアが身構えるとサーシャは微笑んだまま続けた。

 

「…できれば親しい友人と話す時のような口調で話さないかい?堅苦しい会話は少し疲れると思うんだ。」

 

セリアは一瞬面食らった。が、既に砕いた口調の彼女を見てそれに続く事にした。

 

「え、ええ。そうしてもらえると助かるわ。」

 

セリアがそう答えるとサーシャは頷いた。

 

「では、改めてようこそ。レグニーツァへ。早速で悪いんだけれど何で君が公宮の庭で倒れていたのかを聞きたいのだけどいいかな?」

 

サーシャがそう尋ねるとセリアは少し困った顔をした。

その表情を見てサーシャは首を傾げる。

 

「どうしたんだい?」

 

セリアは少し考えた末にこう答えた。

 

「もし私が他の世界からやってきたって言ったら信じる?」

「・・・にわかに信じられないね。」

 

サーシャは一瞬呆気にとられた顔をしたが少し顔をしかめて答えた。セリアはその答えを予想していた。

やっぱり・・・。ここはこの世界の人間って事で乗り切るしか・・・。

セリアは素早くそう判断するとさっきの言葉は冗談と続けようとした。だが、それより早くにサーシャが続けた。

 

「けど君の言ってることは嘘とは断定できないね。じゃなかったらそんなこと口にしないだろうしね。」

「え!?じゃ、じゃあ信じるの?」

 

セリアが驚きながらそう尋ねるとサーシャは苦笑しながらこう言った。

 

「勿論、無条件で信じる訳じゃないよ。ただ、何か事情があっての事なんだと思うから今はこれで納得するよ。」

「そ、そう・・・。」

 

セリアは内心安堵の息を吐いた。そして、尋ねた。

 

「あなたは何か病気なの?」

「うん。まあ、ちょっと治すのが難しい病気なだけだよ。」

 

サーシャはなんてことはないかのようにそう言ったが実際はそんなに単純な物ではない。

血の病ーーサーシャの一族の女性が持つある意味では呪いのような病。発症するまでの潜伏期間も症状も一切不明。発症してからも死亡するまでの時間は人それぞれだが、治療法が無い為発症すると死ぬことになると言う病だ。

 

「ええと、大丈夫なの?」

 

セリアがそう尋ねるとサーシャはクスっと笑い頷いた。

 

「今は大丈夫だよ。多分、ね。」

 

その時、扉が慌ただしいく叩かれた。

サーシャが許可を出すとセリアをここまで案内した侍従が入って来た。

 

「どうかしたの?」

 

その慌てぶりを見てサーシャが尋ねる。侍従は息も絶え絶えに答える。

 

「大変です!竜が、竜が城下町に現れました!!」

 

その言葉を聞いた時サーシャは一瞬怪訝な表情をしたがすぐに表情を引き締め答えた。

 

「部隊を展開して竜を包囲して!警備隊は住人の避難を最優先に、正規の部隊は竜の気を引きつけて!」

 

そう言うとサーシャは立ち上がろうとした。セリアが慌てて尋ねる。

 

「ちょっと!どうするつもりなの?」

 

サーシャは先ほどとは異なるーー戦姫にふさわしい凜とした表情でセリアに答える。

 

「僕が行く。竜が出たなら僕が戦わなきゃ・・・!」

「戦うってそんな状態で?無茶よ!」

「でも他に手は無いよ。」

 

サーシャがそう答えた時セリアは微笑んで答えた。

 

「あるじゃ無い。手なら。」

 

サーシャが怪訝な表情を浮かべてセリアを見てその言葉の意味を推し量った時、呆れた表情を浮かべて答えた。

 

「君が戦うの?それこそ無茶だよ。」

「まあ、見てて。」

 

セリアはそう言うと素早く外へと飛び出す。廊下を駆け抜け一気にバルコニーへと飛び出す。街を見渡せるバルコニーから見えた町は美しかった。こんな状況でなければ長く見惚れていただろう。だが、町には一体の茶褐色の竜が居た。そしてそれは眼下に広がる街に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「させないわ!」

 

セリアはそう叫ぶと詠唱した。

 

『大空は貴女の世界。紅き翼翻し、害なす敵を焼き尽くせ!』

「出番よ!創竜姫神アーシャ!」

 

空に紅い召喚陣が展開される。そこからひときわ強い光が放たれると紅い竜に乗った紅い鎧の女性騎士が姿を表す。

創竜姫神アーシャーーグランガイアで初めての竜騎士にして神々に抗った英雄。竜との連携より放たれる攻撃は如何なる敵をも打ち倒したと言われてる。

セリアは大剣を構え竜に飛び乗る。

 

「さあ、行くわよ!」

 

今、紅き鬼神の焔が放たれる。



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鬼神の焔

掟破りの2話連続です。
お願いします!


セリアは眼下に立つ竜を睨む。

ユニットでは無い為、余り強く無いと思えたのだがそれは脅威的な大きさであった。その竜ーー地竜は家屋を薙ぎ倒しさらに町の中心部へと足を進めようとしていた。

 

「行きましょう!マスター!」

 

アーシャはそう言うと竜を操り地竜の上空から一気に近づいた。

 

 

 

地竜は退屈であった。長きにわたり暴れなかった為人の街に出て思う存分暴れようと思ったのだが彼の前に人は余りに脆すぎた。地竜が足を踏み出すだけで何人もの人の命が絶たれ家屋は破壊される。だが、それだけでは満足しなかった。彼は求めていたのだ。自分を滅ぼせるような強敵を。自分と渡り合えるような強敵を。だが、彼は肝心な事を忘れていた。それは人間の力など、自分と比べれば取るに足らない存在である事を。

フン、クダラナイ。ショセンヒトナドコノテイドカ。

彼はそう思い再び歩みだそうとした時、上空から強力な力を感じた。そして、それは自分に向かってきていることに気づいた。空に目をやると紅い竜に乗った二人の女性がこちらにまっすぐ向かってくるところであった。

地竜はニヤリと嗤う。恐らく、上から近づく者たちは自分よりも強者だろう。そして、もしかすると自分はここで死ぬことになる。地竜はそう思ったが不思議と恐怖を感じなかったのだ。彼の奥底から溢れ出るのは歓喜ーー自分を満足させるほどの強者に出会ったことに狂喜したのだ。

デハユクゾ!ニンゲンヨ!!

地竜は一声大きく吠える。戦いが始まった。

 

 

最初に仕掛けたのはセリアだった。

竜から飛び降り地竜の背に乗ると大剣を振り下ろす。

だが、僅かな傷をつけるだけで、大したダメージにはならなかった。

そんなことは分かってるわ!

セリアは特に落胆する事無く駆け抜け地竜の首付近へと走り出す。だがその時、地竜が大きく暴れセリアは地竜から振り落とされた。

 

「キャッ・・・!」

 

セリアは地面に叩きつけられ小さく悲鳴をあげる。

地竜はそのセリア踏み潰そうと足をあげる。

 

「はあああ!」

 

その時、アーシャが竜から飛び降り剣をセリアの突き立てた場所に思いっきりつき立てる。やはり、ダメージは無く地竜は構わず足を降ろそうとした。その時、アーシャの乗っていた紅い竜がブレス攻撃を放ち地竜の視界を遮る。

地竜は怒りの声をあげる。視界が遮られたお陰で地竜はセリアの叩きつけられた地点から少しずれた位置に足を下ろした。セリアは素早く立ち上がると大剣を振り上げて唱えた。

 

「『焔の狂宴(イグニート・ヘヴン)』!」

 

地竜の足元から火柱が立ち上がり、地竜の足を焼く。地竜が少し怯んだ隙をついてアーシャとセリアは再び竜に飛び乗り空に舞う。

 

 

眼下で繰り広げられる戦いにサーシャは目を瞠っていた。普通の人間にしか見えないセリア。彼女がどこからか現れた女性騎士とともに地竜相手に互角以上の戦いを行っていたからだ。それにあの女性騎士が乗っている生物。あれは紛れも無く竜だった。つまり、あの女性騎士は竜騎士という事である。

竜騎士ーー黒き竜の伝説が根付くジスタートにおいて伝説とも言われている騎士だ。伝説の上では黒い竜に乗り国王の為に戦ったと言われている。だが、竜の希少性、意思疎通が出来ないことから存在は疑われていた。その竜騎士が目の前で戦っている。

一体何者なんだ?

サーシャがそう思った時、セリアの言った言葉を思い出した。

 

『もし、他の世界からやってきたと言ったら信じてくれる?』

 

まさか・・・。けど・・・。

サーシャはある意味で確信を持ちつつあった。

 

 

 

地竜は苛立ちの咆哮をあげる。

二人の人間と一体の飛龍はさっきから無駄な攻撃を何度も続け彼を苛立たせていた。

ニンゲンガ!ムダダトイウノガワカラヌカ!

彼は再び大剣を振り下ろした人間を振り落とし踏みつけようとする。

実質彼も同じ攻撃しかしていないのだが条件が違っていた。彼には二人と一体の攻撃は殆ど効いていないのだ。彼の強靭な身体は刃も焔すらも通じず全くの無傷だったのだ。

フン、ツギモフタタビホノオダスノダロウムダナアガキダ。

そう思い踏みつけようとしたとき竜に乗っている人間が叫んだ。

 

「『唸れ!竜の咆哮!(ドラゴン・レイジ)』」

 

すると、竜がひときわ大きく紅い輝きを放ち高威力の焔が吐き出される。

ムダダ!

構わず踏みつけようとした時、激痛を感じた。

 

 

よし!やったわ!

セリアは地竜が叫びを上げるのを聞くと素早く大勢を立て直し思い切り飛び上がる。セリアは名うての召喚師だ。だが、地竜に苦戦を強いられていたのには理由がある。それは地竜の強靭な身体の為だ。ならば、その身体を使えなくしてやればいい。執拗なまでに同じ攻撃をしたのはそれが理由だ。そして、セリアが高く飛べたのには理由がある。

セリアの背中には焔の翼があったのだ。

ある魔神との決戦。以前イェーガーの助けを借りて立ち向かった因縁の魔神を倒した時、セリアはこの力を得た。

セリアは空に舞い上がると地竜の背中ーー砕けた身体を狙って唱えた。

 

「『全てを焼き尽くす、決意の焔!(レーヴァテイン)!』」

 

詠唱が終わると同時にセリアの持つ大剣が焔に包まれ一つの巨大な剣となる。セリアはその剣を振り下ろし砕けた身体を貫いた。地竜は断末魔の叫びを上げ焔に包まれ動かなくなった。それと同時に兵士達の勝鬨が響いた。




少し中途半端ですがセリアパート終了です。


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超絶最強召喚師

かなり短めですがここでしか切れそうに無いので投稿します。


開かれた扉の方にイェーガーが目をやるとそこには青い髪をした少女がいた。いかにも育ちが良さそうな雰囲気を醸し出しておりその佇まいはか弱い少女の雰囲気は無く、凛とした雰囲気を醸し出していた。そして、イェーガーの目はその少女が持つ短槍に向く。

あれは・・・。どう考えても普通の武器とは違うな。そして、さっきの発言・・・なるほど、この娘が戦姫リュドミラ=ルリエか。

イェーガーはエレンのジャガイモみたいだと言う話からルジーナの女性版を想像していたのだが、考えが外れてホッとしていた。その時、ティグルに腕をつつかれた。

 

「イェーガー、呼ばれてるぞ。」

「ん?そうか、これは失礼。」

 

イェーガーは悪びれる様子も無くそう言うとリュドミラはゴミを見るような目でイェーガーを見て言った。

 

「ふん、所詮は旅人あがりかしら。エレオノーラの元で働くくらいだからとんだボンクラね。」

 

・・・これは恐れ入った。一言で俺を怒らせるとはな。

イェーガーはリュドミラを冷たい目で見る。イェーガーの雰囲気が変わったのを察したのだろう。部屋がかつて無い緊張に包まれる。

イェーガーは口を開いた。

 

「あーらら。礼儀を弁えない子供如きにボンクラと言われるとは俺も焼きが回ったかな?」

「な、なんですって!?」

 

リュドミラが顔を赤くして怒鳴る。イェーガーは冷たい目を向けたまま答える。

 

「今度はヒステリックに叫ぶ、か。俺も大概ガキだが、あれほどでは無いな。」

「お前、誰に向かって口を聞いてるのか分かってるの!?」

「目の前の、生意気な子供にだが何か?」

 

イェーガーがそう言った時、リュドミラが小さくラヴィアスと呟く。主の求めに応じて短槍は穂先に氷の刃を顕現する。刃が顕現するや否やリュドミラはイェーガーに槍を突き出した。

あくびが出るな。

イェーガーはそう思うと槍の柄を素手で掴んで自分の前で槍を止めた。

リュドミラの表情が驚愕に彩られる。イェーガーは冷たい視線に本気の殺気を込めて言った。

 

「ガキが、俺を見くびるな。」

 

リュドミラの表情が青くなる。それほどまでにイェーガーの殺気は強烈だったのだ。だがその時、イェーガーが予想にもしない声がした。

 

「おーおー、怖い顔だねー。思わず、助けを呼びたくなっちまうぜ。なーイェーガーさんよー!」

 

その瞬間、今度はイェーガーの表情が驚愕そのものに包まれる。イェーガーは入り口に目をやるとそこには緑色の短髪で、小物臭漂う男がいた。

 

「おいおい、まさかてめー。俺様の事を忘れたんじゃ無いんだろうなー。この超絶最強召喚師のルジーナ様の事をよ!」



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提案

「ルジーナ・・・!!」

 

イェーガーが驚きと困惑に満ちた声でそう言う。

ルジーナはニヤリと笑いながらイェーガーを見る。イェーガーは取り敢えずラヴィアスから手を離す。するとリュドミラも静かに後ろに下がっていく。

 

「誰だお前は?」

 

エレンが不機嫌極まりないという風に尋ねる。ルジーナはイェーガーを睨むと怒鳴った。

 

「おい!イェーガー、てめー!この俺様の事を話してねえとはどういうことだ!」

 

その言葉にイェーガーが半ばうんざりした表情を浮かべて答える。

 

「いや、そもそもお前がここにいるなんて知らなかったしな・・・。つか、お前どうやってここに?」

 

イェーガーがそう尋ねるとルジーナはニヤリと笑い答える。

 

「へっ。最強の俺様はな、なんでもお見通しなんだよ。」

「・・・。」

 

イェーガーが半眼で見つめるとルジーナはイラっとした表情を浮かべた。

 

「・・・ぜってー信じてねえな。くそ、グラデンスの爺さんだよ。いつかのゼヴァルアの時のように万が一の時はてめーをサポートするように依頼されてたんだよ。」

「お師匠様が?」

 

ん?つまり、お師匠様はゲートが閉まる可能性を知ってたって事か。

 

「で?なんで俺の居場所が?」

「それは私たちがリュドミラ様と行動を共にしてたからよ。」

 

ルジーナの後ろから一人の女性が姿を現す。その女性は白く輝く鎧を身に纏い、長い髪を背中まで伸ばしているが清潔感がある。そして、どことなく高貴な雰囲気を醸し出している。

 

「久しぶりね。イェーガー。」

「パリスまでいるのかよ・・・」

 

イェーガーは呻くように言った。

こりゃあ、カルやセリアがこの世界に来てたとしても多分驚かないだろうな。

パリスーーランドール皇国皇帝直属の近衛兵部隊『インペリアルガード』の隊員。四堕神討伐の最中ではイェーガーに協力した仲間の一人。

 

「ええと、イェーガー。取り敢えず、この人たちは?」

 

ティグルがそう尋ねる。

 

「ええと、こっちの女性がパリス、んで、そこの野郎がルジーナ。二人とも俺のいた世界の仲間だ。」

「ケッ。正直気にいらねーな。」

 

ルジーナがそう言うとパリスが顔をしかめて言った。

 

「相変わらず、下劣な事を言う人ね。」

 

ルジーナは不快感を隠さずに応じた。

 

「ケッ、さすが『インペリアルガード』様は礼儀正しいなーおい。それと、おい!そこのチビ女!来て早々喧嘩ふっかけてんじゃねーぞ!」

 

チビ女ーーもといリュドミラは顔を真っ赤にしてルジーナを怒鳴りつける。

 

「誰がチビですって!?」

「はっ!誰彼構わず喧嘩をふっかけるような奴なんざチビで十分すぎるぐらいだぜ。」

 

そのルジーナをパリスが些かうんざりした表情でたしなめる。

 

「ルジーナ、もうその辺りにしておきなさい。リュドミラ様も分かってらっしゃるはずよ。」

 

すると、リュドミラはハッと我に返ったようになりティグルの元に歩み寄る。

 

「待て、貴様ティグルに何の用だ?」

 

エレンが尋ねる。その表情はあからさまに不機嫌が最高潮に達しているようだった。

よほど、リュドミラの事が嫌いなんだな・・・。

イェーガーが漠然とそう思った時、リュドミラがティグルに声を掛けた。

 

「あなたがヴォルン伯爵ね?」

「そうだけど・・・?何か用でも?」

「来なさい。貴方と二人で話がしたいの。」

 

リュドミラがそう言った時、エレンが言った。

 

「待て、話ならここでもできるだろう?それに二人で話とはどういう事だ?」

 

リュドミラはチラッとエレンとルジーナの方を見てから答えた。

 

「ここでは、邪魔が入るからよ。エレオノーラ。」

「待て、何故俺の方を一回見た?」

 

ルジーナが不機嫌極まりない様子で尋ねる。

 

「そのままの意味だと思うけど・・・。」

 

パリスがぼそりと呟くとルジーナがパリスを睨んだ。

ルジーナが怒鳴る前にイェーガーは慌てて提案した。

 

「待て、これは俺達にとっても一つの機会じゃないか?少なくとも、俺はお前らが何故あのクソガキと一緒にいるのかが分からない。」

「誰がクソガキですって!?」

 

リュドミラがそう怒鳴った時少しイラっとした様子でイェーガーが言った。

 

「いちいち叫ぶな。話が進まん。」

「ケッ、不本意だが同意だ。話し合いの件も叫ぶなって方もな。」

「そうね・・・。一度お互いの状況を確認し合った方がいいかもしれないわね。」

 

話が纏まるとイェーガーはエレンに尋ねた。

 

「エレンさん、という訳で少し話をしてくるけど何処で合流すれば良い?」

 

エレンはリュドミラを油断なく睨みながら答えた。

 

「私達もこれから出立する。ロドニークで落ち合おう。ルーリックに案内してもらえ。」



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決別

人物紹介の欄を削除いたしました。


キキーモラの館を出た近くの森でイェーガー達は話し合いを始めようとしていた。森にはイェーガー、ルジーナ、パリス、そしてルーリックがいる。

 

「で、話を聞こうか。なんで、お前らはあのクソガキと一緒にいたんだ?」

「イェーガーまでリュドミラ様をその様な風に呼ぶの?」

 

パリスが少し非難めいた目線を送ってくるがイェーガーは気にしなかった。

そんな事と言われても事実だろ?

 

「チッ、気にくわねーが教えてやる。俺とこの女はこの地に入ってすぐに魔神の調査を始めた。その結果、魔神がこの世界の大貴族、テナルディエってヤローの所にいる事がすぐに分かった。」

「やはり、テナルディエの所に魔神がいるのか・・・。」

 

イェーガーはそう呟いた。

薄々感付いてはいた。だが、やはり事実か・・・。

イェーガーは質問を続ける。

 

「で、それがあのクソガキとどう関係が?」

「おいおい、お前は何も調査してねーのか?イェーガーさんよー。」

 

ルジーナが挑発するようにそう言うとパリスが顔をしかめてたしなめる。

 

「ルジーナ、その辺りにしておきなさい。」

 

そしてイェーガーのほうに向き直ると続けた。

 

「リュドミラ様はテナルディエ家と交流があるわ。なんとか、彼女にテナルディエとのパイプを作って貰おうと思ったのよ。・・・まあ、この男の所為でかなり手間取ったけどね・・・。」

 

パリスが表情を曇らせてそう言うとルジーナは鼻であしらった。

ああ、なるほど。確かにあのクソガキとルジーナじゃあ水と油みたいな関係になりかねん。というか、ルジーナと気の合う奴がそもそもいねえ・・・。

 

「つまり、お前らはリュドミラを通じてテナルディエ家に潜伏している魔神を滅ぼすって事か?」

「そうだ。まあ、最もこれは俺たち、魔神討伐隊の仕事だがな。バカなお前でもこれぐらいは理解できるようだろ。」

「次はイェーガーの話を聞かせてくれないかしら?どうしてあの方達といたのか。」

 

パリスがそうたずねる。イェーガーはため息を一つ吐き今までの経緯を語った。

 

「・・・話には聞いてたけど、やはりテナルディエは非道ね。」

 

話を聞き終えてパリスがそう感想を漏らす。ルジーナは苛ついてる表情で言った。

 

「ケッ。やっぱり、てめーには面倒事ばかり纏わりつくな。まあ、マヌケなてめーにはそれがお似合いだがな。なーイェーガーさんよー。」

 

イェーガーはイラッとはしたが、相手はルジーナだ仕方がないと諦めた。

 

「イェーガーはここからどうするの?私達と共に行動するの?」

「・・・いや、俺はこのままあいつらと動く。」

 

イェーガーはそう言い切った。

するとルジーナが目を細めてこういう。

 

「まさかテメー、目的を履き違えてる訳じゃないよな?言ってみろ、俺たちの目的はなんだ?」

「魔神の討伐じゃないのか?」

「バカか!この地の調査だ!誰もこの世界の人間のために魔神を倒せなんざ言ってねーんだよ!」

 

その言葉を聞きイェーガーは言葉を詰まらせた。

確かにイェーガーが召喚院から依頼されたのはこの地の調査だ。魔神を発見したのはあくまで副産物の様なものでしかない。魔神が討伐するのはそれこそルジーナ達魔神討伐隊だろう。

しかし・・・

 

「じゃあこのまま捨てておけって言うのか?この世界の人々では魔神に敵う訳が無いんだぞ!?」

 

イェーガーがそう言うとルジーナは嘲笑った。

 

「ハッ!なんで何の縁も無いましてや異世界の人間を助けなきゃならない?今は任務が優先だろうが!」

「ルジーナ!」

 

パリスが咎めるようにルジーナを呼ぶ。イェーガーはさっきとはうって変わって静かに言う。

 

「・・・確かにそうかもしれない。今は任務が優先なのかもしれない。」

 

その言葉を聞いてルジーナがニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。

だが、とイェーガーが続ける。

 

「だからと言って、人命を軽視するなんて俺には出来ない。助けを求めてる奴を放っていって後で後味悪い結果になるなんて、後悔はもう御免だ。」

 

これは意地だ。あの日、グラデンスに助けられた少年、イェーガーとしての意地。イェーガーはルジーナを真っ向から見やり答える。

 

「だから俺はこのまま彼らと進み自分の信じた道を辿る!それで後悔するなら本望だ!」

 

そして、それともと続ける。

 

「超絶最強召喚師のルジーナさんは魔神が怖くて仕方が無いから調査だけにしようと言うのか?」

 

イェーガーがそう挑発するとルジーナは目を細める。

あれはかなりキレてるな。

 

「テメー・・・。言うようになったじゃねえか。まだ俺様の凄さが理解できねーようだな。・・・いいぜ。テメーが言う信じた道とやらを進みやがれ。だが、その過程で俺の邪魔になる様な事があればーー」

 

ルジーナは自分の剣ーー覇竜剣『天魅』を抜きイェーガーにその切っ先を向ける。

 

「遠慮なくぶっ潰してやる。いいな。」

 

ルジーナは一方的にそう言うと去っていった。

 

「ちょ、ちょっとルジーナ!」

 

パリスは慌ててルジーナを追いかける。

イェーガーは後ろで控えているルーリックの元に歩み寄る。

 

「待たせた。行こう。」

「・・・よろしかったのですか?彼らと共に行かなくて。」

 

ルーリックがそうたずねるとイェーガーはルジーナ達がいなくなった後の森を見て言う。

 

「あいつの言うこと、分からない訳じゃない。だけど、理解はできても納得できない事なら俺にだってある。」

「ですが・・・」

「良いんだ。ーーさあ、ロドニークに行こう。お前もこっちに呼ばれてすぐの事で疲れてるだろうけど頼めるか?」

「それは大丈夫です。それでは、行きましょうか。」



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水と油

「ここがロドニークか・・・。なーんか、火山の近くみたいな臭いがするな。」

「ここロドニークには温泉があるのでその香りでは無いでしょうか?」

 

イェーガーがそうたずねるとルーリックがそう答える。

あれからイェーガーとルーリックは馬を駆りエレン達が先に向かったと言われるロドニークに着いた。

道中特に襲撃も無く進んでいた。

・・・一つの問題はあったが。

 

「ケッ、こんな所に別荘なんて作るのか?戦姫って奴はよー。」

 

不機嫌な顔のルジーナがそう言う。後ろには疲弊顏のパリスもいた。

森でイェーガーに宣戦布告をして先に進もうとしたものの彼らはリュドミラと合流する必要があり、そしてそのリュドミラはエレンやティグル、リムアリーシャと共にロドニークに来ている。さらにルジーナ達はロドニークまでの道を知らないわけで結局イェーガー達と再び行動することになるというなんとも締まらない結果となったのだ。

その間ルジーナは常に不機嫌顔で悪態をついてはルーリックと言い争いその仲裁をパリスが行うと言う事を繰り返していたのだ。

 

「で、エレンさん達はどこにいるんだ?ルーリック。」

 

イェーガーがそうたずねる。

だが、ルーリックからの返答が無いのを訝しみルーリックの方を向く。そこには怒りに顔を赤く染めた鬼神の如き表情をしたルーリックがいた。

 

「おーい?ルーリックさーん?」

 

イェーガーが繰り返し呼びかけるとルーリックはハッとしてイェーガーに向き直る。

 

「はい!なんでしょうイェーガー殿!?」

「いや、エレンさん達の居場所を聞いたんだけど・・・大丈夫?」

「HAHAHA!このルーリック、決して怒ってなどおりませぬゆえに大丈夫です!」

 

ルーリックが笑いながらそう言う。

目が笑ってねえ・・・!こりゃあやべえな。

イェーガーは内心で冷や汗をかきながらそ、そうか。と返事した。

 

「それよりもエレオノーラ様達の居場所でしたね!それならこちらです!」

 

ルーリックがそう言って案内を始める。

ふう、とイェーガーがため息を吐くのと同タイミングでパリスもため息を吐く。イェーガーがパリスを見つめるとパリスも疲弊した顔で見返してくる。

お互い大変だな・・・。

・・・そうね。

二人はその意思をアイコンタクトで交わしたのだった。

 

 

こちらにエレオノーラ様達はいらっしゃると思います。

そう言われて案内されたのは浴場らしき所だった。

 

「ここに?」

「ええ、間違いありません。エレオノーラ様はここにおいでになられた時は必ずと言うほどにここにいらっしゃるので。」

 

ルーリックがそういう。

へぇ。エレンさんは結構温泉好きなのかな?それかこの地に何かあるか、か。

イェーガーはそう思った時ルーリックが踵を返した。

 

「ルーリック?」

 

イェーガーがそう尋ねるとルーリックは背を向けたまま答える。

 

「私の任務は皆様をここにお連れすることなので、これで失礼致します。」

「だが、ここまで殆ど休み無く来たじゃないか?少し休む訳にはいかないのか?」

「ははは!イェーガー殿の苦労と比べればこの程度何て事はありませんよ!それではまたお会い致しましょう!」

 

ルーリックはそう言うと急ぎ足で去っていった。だが、イェーガーは見逃さなかった。

去り際のルーリックの目が笑ってない事に。そして、猛烈なまでの殺意がルジーナに向かっている事に。

・・・ルジーナ、挑発しすぎだ。



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遭遇

長らくお待たせしましたm(_ _)m



「最期に・・・言い残す言葉はありますか?」

 

リムアリーシャが冷たい声音でそう尋ねる。その顔は僅かに赤く染まっているが目からは羞恥と怒りの織り混ざった光が放たれている。

 

「ま、待ってくれ!リーちゃん!話せばわかる!いやむしろ話をしよう!」

「話?話なら必要無いと思われますが・・・。」

 

イェーガーの必死の叫び虚しくリムアリーシャは静かにイェーガーに歩み寄る。

ヤバい・・・!これは本気でヤバい・・・!

イェーガーは身の危険を感じたが立ち上がる事はしなかった。いや、立ち上がれなかったのだ。リムアリーシャの放つ圧倒的な威圧感がイェーガーの行動を完全に封じていたのだ。

くそ!なんだよこれ!ルシアスと対峙した時以上の恐怖を感じるぜ!ってそんなこと言ってる場合じゃない!動け!俺の身体!うご・・・。

イェーガーがそう思った時にはイェーガーの体は宙を舞っていた。それに少し遅れてイェーガーの頭を激痛が襲った。

ああ・・・。オワッタ。

イェーガーはそんな事を思いながら地面に叩きつけられたのだった。

 

 

 

 

話は少し遡る。

イェーガー達が浴場に着いた後。

 

「この中にエレオノーラさん達がいるんだよな?」

 

イェーガーが尋ねる。

 

「そうね・・・。ここに案内されたということはそういうことよね。」

「ケッ、気にいらねーぜ。なんたってこの俺様があんなチンチクリンの為にここまで来なければならないのやら。」

 

ルジーナが不機嫌な様子でそういう。

それをパリスがとがめる。

・・・なんか、この流れパターン化してきてないか?

さてさて、そんな事はさておき。

イェーガーは浴場の入り口を見上げる。この中で合流できるかな・・・。

そう思った時、イェーガーはその気配を感じ戦慄を覚えた。

なんだ!?今、浴場の中からとんでもない程の力が・・・。

そっと、パリスとルジーナの方を見やる。二人もその力を感じたらしく臨戦態勢をとっていた。

 

「チッ、面倒な気配を感じるな。」

「どうする?中に入るか?」

「いえ・・・此処はこのまま待機した方が良いように思えるわ。」

 

パリスがそういう。

敵の数も内部構造も分からぬまま入るのは危険だ。

パリスはそう判断した。

ルジーナは不機嫌そうながらも同じ判断を下したらしくそのまま待機を選んだ。

一方でイェーガーはと言うと・・・

待機だって?だが、もし内部に魔神がいたらどうする?そうなるとあの四人は間違いなくあの世行きだ。

四人とも中にいるんならなおのこと、突入するしかない!

イェーガーはそう決意すると単身入り口から中に乗り込んだ。乗り込んだと言っても走った訳ではない。あくまで歩いて入った。

パリスとルジーナが何か呼びかけてくるがそれを無視して中に入る。

 

 

さて、中に入ったは良いがどうしたものかな。何故かさっきの気配はとんと感じられない・・・。

こちらの出方を窺っているのか?それとも・・・

などと考えながらイェーガーは廊下を歩いていた。そうしているうちに大きな部屋に入った。

ん?煙?・・・いや、湯気、というべきか。まあ、それはそうか。ここは温泉があるらしいし湯気の一つやふたーー

と、考えたところでイェーガーは目の前の人物と目があう。

そこにはリムアリーシャがいた。

・・・一糸纏わぬ姿で。

イェーガーとリムアリーシャの間の時間が唐突に止まる。だが、止まったのは一瞬だった。

次の瞬間ーー

 

「キャァァァァァァア!!」

 

リムアリーシャの悲鳴が響いたのであった・・・。




書きました。
やっちまった感はあります。が、後悔はしてません(;^_^A


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ティグルの場合

あけましておめでとうございます(*^^*)
なるべく去年中に投稿したかったのですが諸事情によりできませんでした>_<
ちょっとネタを考えるのにも時間がかかってしまいました>_<
こんな作品ですが今年もよろしくお願い致しますm(_ _)m


「やれやれ、悲鳴が上がったから何事かと来てみれば・・・。」

 

リムアリーシャに殴り飛ばされ倒れ伏すイェーガーをエレオノーラはいたずらっ子のような目で眺める。

 

「イェーガー、お前も何の考えもなしに突撃する様な奴だったのか?」

「い、いや・・・中から凄い力を感じたから何事かと思って・・・。」

 

イェーガーが倒れ付したままそう言う。

すると、ティグルがバツの悪そうな顔をした。

 

「ああ・・・それって多分・・・。」

 

 

話はイェーガー達が浴場へと着いたころに遡る。

 

ティグルはエレンから教えられた風呂場への道を考え事をしながら歩いていた。

テナルディエ・・・魔神・・・。二つとも俺からすると強大すぎる敵だ。テナルディエはともかく魔神なんてものは初めて聞いたときはにわかに信じられなかったが・・・。

ティグルはそこまで考えてユニット達を思い出す。

普通の人の様な姿をしながら人を圧倒的に凌駕する力をもった者たち。そして、それを使役する者ーー『召喚師(イェーガー)』。

彼らの力を実際に目の当たりにすると如何に自分の相手が強大であるかを思い知らされる。それに、エレン。戦姫(ヴァナディース)である彼女は竜具(ヴィラルト)から力を得ている。自分とは明らかに一線を画す強さだ。

俺は二人の足手まといになってないだろうか。

ティグルはそこで自分の黒弓のことを思い出す。

ティグルの家の家宝として奉られていたあの黒弓はかなりの力を秘めていた。エレンの竜具やイェーガーの召喚術並みの力を。だが、得体が知れない力でもあった。

せめてあの力をもう少し理解できればきっと二人の様に強くなれるのだろうな。

ティグルはそう考えたが次の瞬間、ふと笑みをこぼした。

俺は何を焦っている?俺がこんなでは助けてくれているエレンやイェーガーに申し訳がたたないじゃないか。二人は二人で俺は俺。なら俺にしかできないことをやるだけだ。

ティグルがそう納得した時、ティグルは風呂場に着いた。

風呂場に着いた時、そこには先客がいたのだ。

青い髪の強気そうな少女ーーリュドミラだ。

しかも、場所が場所であるから当然服も何も身に纏ってない訳で・・・。

次の瞬間、リュドミラは床に置いておいた竜具ーーラヴィアスを拾うと氷の刃を顕現してティグルの喉元に突きつけた。

 

「浴場は武器を持ち込む場所では無いと思うが・・・。」

 

ティグルはやっとの思いでそう言ったがそれは何の効果もなさなかった。ティグルは目を閉じて静かに続ける。

 

「その・・・身体を隠してくれ。恥ずかしく無いのか?」

「犬や猫に身体を見られて恥ずかしいと思うの?」

 

リュドミラは静かな怒気を帯びた声でそう言う。

沈黙が二人の間を漂う。ティグルが次の言葉を発そうとした時リュドミラが続けた。

 

「その様子だと私を辱めに来たわけではなさそうね。」

「偶然だよ。誰かが入ってると考えなかったのはこちらの落ち度だな。」

「言葉遣い。」

「申し訳ございません。」

 

直後、空気がうねりティグルは頭に衝撃を感じて倒れた。

リュドミラが立ち去っていく気配がする。

ティグルは殴られた頭をさすりながら起き上がる。

犬や猫に身体を見られて恥ずかしいと思うか・・・。

ティグルは自分の格好に目をやる。自分もまた一糸まとわぬ姿だ。リュドミラの言ったことがわからず少しの間困惑していた。

 

 

 

「という事があったんだ。」

 

ティグルから説明を聞きイェーガーは納得する。

なるほど、確かにあの不思議な武器ーー竜具の力ならそれくらいの気配は出せそうだ。イェーガーはリムアリーシャに静かに向き直ると頭を下げた。

 

「ごめん!りーちゃん!俺の早とちりの所為だったみたいだ!」

 

すると、リムアリーシャは少しバツの悪そうな顔をしてこう言った。

 

「いえ、こちらも少し動転しておりましたので気になさらないでください。・・・ただ、イェーガー殿は本当にわからない方です」

 

最後の一言は聞こえないくらい小さく言ったため誰にも聞き取れなかったない。

 

「ケッ、だから考えもなしに突っ込むなって言っただろう?バカ!」

 

ルジーナが不機嫌そうにそう言い放つ。パリスも少し疲れた表情で続けた。

 

「残念だけど、イェーガー。今回ばかりはルジーナが正しいわ。仲間の事が心配だったのはわかるけど何の考えもなしに突っ込のは間違ってるわ。」

「う・・・。」

 

パリスにまで言われてイェーガーはうなだれた。



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襲撃

翌日の朝、イェーガー達はロドニークを出た。朝から馬を進ませれば、昼になる前に公宮へ通じる街道へと出られるからだ。

 

「嫌な天気だ。」

 

イェーガーは空を見上げてそう言った。

空は暗く、濃灰色の雲が厚くたちこめいまにも一雨きそうな天気であった。

 

「イェーガー殿は天気をよく気になされますがどうしてですか?何か、戦術的な意味でもあるのですか?」

 

不意にリムアリーシャが尋ねる。

イェーガーは前を走るリムアリーシャにあっけらかんと答えた。

 

「ああ、それは戦術的とかじゃなくて気分の問題だよ。」

「・・・気分?」

 

リムアリーシャがおうむがえしに尋ねる。イェーガーは笑いながら答えた。

 

「ああ。旅する時に曇ってたらなんか嫌じゃないか?だからなんとなく天気を気にするようにしてるんだよ。それに、移動中に雨に降られても嫌だからな。雨に備えるっていう意味では戦術的なのかもな。」

 

イェーガーがそう言うとエレンは言った。

 

「イェーガー、それは戦術的とは言わんと思うぞ。どちらかといえば常識的だ。」

「ハハハ。そうかもしれないな。」

 

イェーガーがそんな感じだからかティグルとリュドミラの間で流れる剣呑な雰囲気も何処となく和らげられていた。

比較的穏やかな雰囲気にリムアリーシャはホッとしていた。というのも、エレンとリュドミラの仲が険悪であるからだ。

だが、その穏やかな雰囲気も終わりを告げた。

 

「止まれっ!」

 

ルジーナが唐突に叫び馬を止め、天魅を抜いた。

 

「どうしたの?ルジーナ?」

「ケッ!前をよく見やがれ!」

 

怪訝そうに尋ねるパリスにルジーナが不機嫌そうにそう言う。イェーガーも馬を止め目を凝らし前をよく見た。

・・・これは

 

「鋼糸、か。」

「そうだ。ケッ!クソッタレが!どいつだか知らねーがこの俺様を狙う奴がいるようだな。」

「別にあなたを狙ってるのでは無いと思うのだけど・・・。」

 

パリスもレイピアを構えながらそう言う。イェーガーも素早くダンデルガを構える。ティグルやリムアリーシャ、エレン達も既に武器を構えていた。

 

「面倒ね。エレオノーラ、あなたの『竜技(ヴェーダ)』で吹き飛ばしなさいな。」

「地面がえぐれて馬では進めなくなるぞ。まわりの木々も巻き込むしな。」

 

リュドミラの問いにエレンが答える。

『竜技』?また新しい言葉だな。後で聞いてみるか。

イェーガーがそう思った時、人の動く気配を感じた。

その瞬間、イェーガーは反射的にダンデルガを振った。

ダンデルガは違うことなくーーイェーガーに飛来する太矢を切り裂いた。

 

「チッ!仕掛けてきやがったか!」

 

ルジーナがそう叫んだ時、矢が飛来した場所から小さな人影が飛び出した。小さな人影は子供と間違えそうだったか間違いなく成人した男の顔だった。

男が細い筒を口元で構えた時、

 

「オラァ!」

 

ルジーナの天魅が男を真っ二つに切り裂いた。男は血を巻きながら地面に叩きつけられる。

 

「気をつけろ!こいつら、訓練されてやがる!」

「なんなのかしら?相手は暗殺団?」

 

パリスの質問にリュドミラが答える。

 

「そうよ。この連中は『七鎖(セラシュ)』よ。」

「『七鎖』?」

 

リムアリーシャがおうむがえしに尋ねる。

 

「必ず七人で行動しているという名うての暗殺集団よ。腕に鎖の入れ墨が入ってるのが見えるかしら?アレが奴らの目印よ。」

 

くっ・・・。つまり後少なくとも6人はいるってことか。面倒だな。森の中じゃ俺の『勇技(ブレイブ・バースト)』が使えねえ。敵どころか俺たちまで燃えちまう。

イェーガーがそう思った時、一人の男が空から短刀を構えて落ちてきた。その男をリムアリーシャは冷静に剣で斬り裂く。だが、男に気を取られ反応が遅れたのか空から落ちてくる蛇の存在に気づかなかった。

 

「!?リーちゃん!」

イェーガーがそう叫んだが既に時遅し、蛇はリムアリーシャの胸を噛んだ。

 

「リム!」

エレンが叫びながら『銀閃』で蛇を斬りつけたがリムアリーシャの顔色はみるみる青白くなっていきリムアリーシャは落馬した。

 

「リム!」

「リーちゃん!」

 

イェーガーは馬から飛び降りるとリムアリーシャに駆け寄った。

くっ!こいつは毒蛇か?ここの地域に詳しくねえからなんとも言えない。取り敢えず、召喚院から支給されてる解毒薬で・・・!

だが、イェーガーが解毒薬を取り出すよりも早くにティグルが駆け寄ってくると躊躇いなくリムアリーシャの胸の傷に口をつけ強く吸って口の中の血を吐き出した。

なるほど!応急手当か!こっちはティグルに任せるか!後は・・・

イェーガーがそう思った時、空から四つの影が躍り出た。

暗殺者達が止めを刺しに来たのだ。

くそ!一か八か『勇技』で・・・!

イェーガーがそう思った時、ルジーナが動いた。

 

大地よ!揺らぎな!(ロック・ハーデス)!』

 

すると、無数の岩が舞い上がり暗殺者達を叩き潰した。

ルジーナ・・・!流石といえば流石か。

 

「失望したわ。エレオノーラ。臣下一人のためにここまで取り乱すなんてね。『戦姫』失格よ。いつかあなたの民をーー。」

 

リュドミラは最後まで言い切ることが出来なかった。

イェーガーが素早くダンデルガを振り下ろし地面に叩きつけたからだ。地面に叩きつけられたダンデルガはそこから火柱をあげて今まさに襲いかかろうとしていた『七鎖』の最後の一人を焼いたからだ。

 

「ーー良かったな。リュドミラサマ。今こいつ(七鎖)が襲ってこなかったらあんたが焼かれてたとこだ。」

 

その声は酷く冷たい声であった。魔神討伐隊隊長のルジーナが思わず言葉を失うほどに。

リュドミラは無言のまま去っていった。ルジーナは一度舌打ちをするとリュドミラに続いていなくなった。

 

「イェーガー・・・」

「パリス、俺なら大丈夫だ。そんなことよりルジーナの事を頼んだ。」

 

イェーガーはティグルに解毒薬を手渡しながらそう言った。

パリスは一度頷くと二人の後を追った。




リュドミラの良さを書けてない気が、、、>_<
ホントはいい子なのに>_<


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目を開ければ、そこはベッドの上であった。

リムアリーシャは目を覚まし、まず自分のお腹の上に重みを感じた。リムアリーシャがそこに目をやるとティグルの頭がのっかっていた。それを反射的にどけようとしてーーやめた。

まずは・・・現状を確認しなければ。

 

「あ?リーちゃん、目が覚めたか?良かった〜。」

 

右から心配そうな声がした。

リムアリーシャがその方向に目を向ける。そこには眠気を噛み殺しているイェーガーがいた。

 

「イェーガー殿・・・?ここは?」

「安心しろ。ここはロドニークだ。リーちゃん、体調はどうだ?」

「少し、疲れを感じる以外に不調は感じません。」

「そっか!それは良かった!ティグルがすぐに応急処置をしたおかげだな。」

 

イェーガーがそう言った時、リムアリーシャが尋ねた。

 

「エレオノーラ様はどちらに?」

「エレンさんなら少し休んでもらってる。ずっと、そこのねぼすけと一緒にリーちゃんの看病してたからな。『七鎖』とかいう奴らも全滅したみたいだし、しばらく暗殺者の心配は無いと思うぜ。」

「そうですか・・・。」

 

リムアリーシャは一度下を向くとポツリと一言漏らした。

 

「エレオノーラ様をお守りするはずが倒れてしまうとは・・・。不甲斐ない。」

「不甲斐ない・・・?」

 

イェーガーはティグルに毛布をかけながら尋ねる。

リムアリーシャは静かに頷く。

 

「エレオノーラ様をお守りするために倒れたのであればともかく、敵の攻撃に気づかずその一撃を受けて倒れるとは不甲斐なー」

「なあ、リーちゃん。」

 

イェーガーがリムアリーシャの言葉を遮って尋ねた。

 

「急にどうしたんだ?そんなこと言い出して。」

 

リムアリーシャはイェーガーを少しみつめると俯きがちに答えた。

 

「イェーガー殿は初めて私の前で召喚術を行使した時のことを覚えておいでですか?」

「ん?たしか、ダリマオンに襲われた時だったな。リーちゃんや兵士の人たちを守るために使ったやつだな。」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャは頷いた。

 

「けど、それがどうした?」

 

イェーガーが尋ねた。

 

「私はあの時ほど自分が非力な存在であると思った事はありません。いえ、もちろんわたしが強いと自惚れていたわけではございません。しかし、私はあの時もっと強い力を望みました。一軍を預かるライトメリッツの将として、エレオノーラ様をお守りする身として。」

「・・・。」

 

イェーガーは静かに次の言葉を待った。

 

「ですが、此度も私はエレオノーラ様をお守りするどころか真っ先に倒れてしまいました。私は・・・エレオノーラ様の副官失格でー」

「リーちゃん。」

 

イェーガーはリムアリーシャの言葉を遮って名を呼んだ。

リムアリーシャがイェーガーの方を向くとイェーガーはため息をひとつ吐いて言った。

 

「ダリマオンの時もそうだけど、普通の人の力じゃあなんとかできない時だってあるさ。確かにリーちゃんは俺みたいに召喚術が使えるわけではないしエレンさんの様に『竜具』という特殊な武器を使えるわけじゃない。」

 

リムアリーシャがまた下を向く。

 

「だけど、だからなんだってんだ?」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャはハッとして顔を上げた。

 

「『竜具』が無ければエレンさんじゃ無いのか?召喚術が使えなければ俺じゃ無いのか?違うだろ?そんなもの無くたって俺は俺だしエレンさんはエレンさんだ。そうだろ?

まあ、確かになんの運命の悪戯なのかは知らないけど俺は召喚術という力を手にしたしエレンさんは『竜具』という力を手にした。けどそれだけだ。だから、俺には俺にしかできない事があるしエレンさんにもエレンさんにしかできない事があるし当然ーーリーちゃんにもリーちゃんにしかできない事があるんだ。」

「私にしかできない事・・・?」

 

リムアリーシャがそう尋ねるとイェーガーはニヤリと子供の様に笑って答えた。

 

「自分が良くわかってることだ。まあ、それを教えてやるほど俺も親切じゃないぜ。」

 

けどとイェーガーは続ける。

 

「リーちゃん、覚えといて。さっきリーちゃんはエレンさんの副官失格だ、って言おうとしてたけど俺にはそうは思えない。エレンさんの副官はリーちゃんにしかできないって確信を持って言える。」

「それはなぜですか?」

「君たち二人は固い絆で結ばれている。俺にはそう見えたからだよ。」

 

イェーガーがそう言った時、扉が開いた。

 

「おお!リム!目を覚ましたか!」

 

入ってきたのはエレンだった。エレンはイェーガーを見ると顔を顰めて言った。

 

「イェーガー、お前まだ寝てないな?後は私が見ておくからお前も休んでこい。」

「・・・そうだな。休ませてもらうとしよう。」

 

イェーガーはそう言うと部屋を出た。

後は二人に任せておこう。



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決断

本格的な戦闘にまで入れなかった>_<


イェーガー達の元にオルミュッツ軍がライトメリッツとの国境付近に接近中という報せが入ったのはそれから2日たった日の事であった。その時、イェーガー達はライトメリッツの公宮に着きすぐにブリューヌへと兵を動かそうとしていた。オルミュッツ軍現れるという報せを聞きエレンは不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「やはりあのジャガイモ女め、邪魔しに動いたか。」

「・・・まあ、予想通りと言えば予想通りか。」

 

イェーガーは表情を曇らせながらそう言う。

今回の動きが牽制狙いである事は明白だが、こっちが動けば十中八九戦闘になるな。となると、ルジーナも来やがるな・・・。問題はパリスがどう動くかだ。まあ、あいつなら多分こっちに積極的に剣を向けようとはしないだろうが。

また、オージェ子爵からティグルに一通の書状が送られていた。

 

『ヴォージュ山脈で怪しげな旅人を捕らえたのじゃが、奇妙な手紙を持っておってな。同封する故目を通して欲しい。』

 

オージェから送られてきた奇妙な手紙の内容を要約するとこうだ。

 

『エレオノーラが兵を率いてブリューヌへと向かったら手筈通り、手薄になったライトメリッツを攻めて欲しい。』

 

ティグルはこの手紙を執務室で仕事中のエレンやリムアリーシャ、そしてその手伝いをしているイェーガーに見せた。

ーー手伝いっつても終わった書類をリーちゃんの指示通りに分別する簡単なお仕事だけどな。

 

「ふん、モルザイム平原で討った息子はボンクラだったが父親の方はくせ者のようだな。」

 

手紙に素早く目を通したエレンはふん、と鼻をならしそう言う。ティグルはリムアリーシャとイェーガーに視線を動かす。

リムアリーシャは書類から目を離さず醒めた口調で尋ねた。

 

「ティグルヴルムド卿、なぜ、テナルディエ公爵はこの使者をヴォージュ山脈に向かわせたのだと思いますか?オージェ子爵は公爵を嫌っております。オルミュッツへと最短距離とは言え危険すぎるのではありませんか?ーーイェーガー殿、この書類はそちらへ。」

「りょーかい。」

 

イェーガーが指示通りに書類を置くの見ながらティグルは気づいた。

 

「まさか、戦姫には戦姫をって事か!?」

「ん、そゆことー。ごめん、リーちゃんこの書類どこ置くんだっけ?」

「イェーガー殿、その書類はあちらです。」

 

そんなイェーガー達の様子を見てティグルは思った。

緊張感が無いな・・・。

だが、不思議と不安にはならなかった。それはやはり、イェーガー達の強さを信じているからだろう。

出会ってまだ、数ヶ月ーーイェーガーに関しては数週間くらいしか経っていないがーーしか経っていない。だか、ティグルにとって時間なんて関係なかった。

彼らは信頼するに足りる。力を貸して貰っておいてこう思うのは失礼な気がするがティグルにはそう思えたのだ。

 

「俺たちが動けば、オルミュッツはここ(ライトメリッツ)に攻め込んで来るだろうか?」

「・・・恐らくな。」

 

エレンが答える。

ティグルは迷った。テナルディエを討つために一刻も早くブリューヌへと戻らなければならない。だが、それにはエレン達の協力が必要不可欠だ。しかし、ライトメリッツ軍を連れてブリューヌへと戻ればオルミュッツ軍はライトメリッツへと攻め込んで来るだろう。

挟み討ちか・・・。

その時、迷うティグルにエレンが声をかけた。

 

「ティグル、お前が選ぶんだ。」

「え?」

「私たちを連れてブリューヌへと戻るかここでリュドミラを追っ払うかはお前が選ぶんだ。私たちはお前の決断を信じる。その結果、ここが焼かれることになったとしても後悔は無い。」

 

その一言は為政者としてはあるまじき発言であった。だが、エレンは言い切った。

・・・それほどの覚悟があるということか。

イェーガーはそう思った。

んじゃ、俺もルジーナをぶっ飛ばす覚悟でもしとくか。

 

「ティグル、俺もお前について行くぜ。テナルディエに向かえば魔神が、リュドミラに向かえばルジーナがいるんだ。どちらにせよ俺の力は必要だろ?」

 

イェーガーがそう言う。

ティグルは目を閉じ息を吐くと目を開き言った。

 

「オルミュッツ軍を追い払おう。」




おまけ


次回、魔弾の王と召喚師
『激突!!ジャガの脅威!』
お楽しみ!

*嘘です(;^_^A


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奇襲

それから数時間後、オルミュッツ、ライトメリッツ両軍は国境付近の平原にて対峙した。

ティグルは戦闘に入る前にリュドミラに書状を書き兵を退くように要請した。だが、リュドミラはその要請をはねのけかえってティグルにテナルディエへと降るように命じた。

「やるしか無いのか・・・。」

 

ティグルは苦々しげにオルミュッツ軍を見ながらそう言った。オルミュッツ軍は全員重厚な鎧に身を包んでおり機動力はライトメリッツ程では無さそうだが防御は万全だ。

 

「守りの軍勢のようだな。あんな鎧ではいくら騎兵でも素早く動けないはずだ。」

 

イェーガーがそう言うとリムアリーシャが頷く。

 

「ええ。我々が彼らに苦戦を強いられる大きな理由がそれです。ですが・・・隙が無いわけではありません。」

 

リムアリーシャはそう言った時、オルミュッツ軍が仕掛けてきた。

 

「行きます。」

 

リムアリーシャはそう言うと兵を率いて攻撃を始める。イェーガーもそれに続いた。

 

「行くぜ!」

 

イェーガーもダンデルガを構えて突っ込む。騎兵の一人が迫ってくる。イェーガーはその騎兵をダンデルガの一振りで切り裂く。重厚な鎧と言えども覇炎剣ダンデルガに歯が立たず紙でも切るかのごとくたやすく切り裂かれた。その様子を見て僅かながらオルミュッツ軍に動揺が走ったのをイェーガーは見逃さなかった。

今しかない!動揺が走っているうちに出来る限り叩く!

イェーガーはそう判断するとすぐさま次の騎兵に狙いを定めた。

 

 

 

リムアリーシャ達が戦闘に入ったのをエレンとティグルは確認した。ティグルは弓による援護を行いエレンはいつでも救援に入れるように準備していた。

 

「ティグル、イェーガーを見てみろ。まさに獅子奮迅といった様だ。」

 

ダンデルガを振りオルミュッツ兵を斬るイェーガーを見てエレンが感想を述べる。

ライトメリッツ軍も剣が通じない割には善戦していたがイェーガーの働きは最早次元が違っていた。

何かおかしい。

ティグルはそう思わずにいられなかった。見たところこちらが優勢だが何かが引っかかる。ティグルはもう一度オルミュッツ軍に目を向ける。

そう言えば、イェーガーの仲間はどこに?

ティグルがそう思った時背後から鬨の声が聞こえた。

 

 

 

その声はイェーガー達にも聞こえていた。

イェーガーが慌てて声の方に目をやるとライトメリッツ軍が背後から奇襲を受ける場面が目に入った。

やばい!

 

「リーちゃん!撤退だ!味方が奇襲を受けている!」

 

だが、イェーガーがそう指示した時にはすでにリムアリーシャは指示を出し味方と合流するために兵を纏めようとしていた。だが、味方が奇襲を受けたことによりライトメリッツ軍は完全に浮き足だっていた。浮き足だった軍を纏めるのは容易では無い。ましてや、戦闘中ならなおさらだ。

浮き足だったライトメリッツ軍をオルミュッツ兵が襲いかかる。

イェーガーはダンデルガを振るいオルミュッツ兵を次々と切り捨てる。

 

「急げ!俺が殿を務める!早く退くんだ!」

 

イェーガーの声とリムアリーシャの指示が効いたのか兵達は落ち着きを取り戻し速やかに味方と合流を始めた。

オルミュッツ軍は部隊に追い討ちをかけようとしたがイェーガーがその前に立ちはだかる。

 

「恐れるな!敵は一人だ!」

 

オルミュッツ兵がそう叫んで襲いかかる。イェーガーはダンデルガを構えて敵を迎え撃つ。

一人また一人とオルミュッツ兵は倒れていく。だがそれに伴いイェーガーに疲労が蓄積していく。

くそっ!まだ倒れるわけにいかないんだ!

イェーガーが自分にそう喝をいれ敵を見据えた時、一人の男が襲いかかってきた。

 

「喰らいな!『業覇刃』!」

 

破壊の意思を持った一撃がイェーガーを襲う。イェーガーはその一撃を紙一重でかわして攻撃してきた男に目をやる。

 

「もうボロボロだなー。まさかこの程度なのか?なー、イェーガーさんよー!」

「ルジーナ・・・てめぇ・・・!」

 

イェーガーは得意げな表情を浮かべるルジーナをにらみながら呻く。

 

「この奇襲作戦・・・てめぇの仕業か?」

「へっ!だからイェーガー、テメェはバカなんだよ!あたまを使わず馬鹿正直に迎え撃ってくれたお陰で全部この俺様の計算通りだったぜー!」

 

ルジーナはそう言うと再び斬りかかってくる。イェーガーはその攻撃をダンデルガで弾きかえす。

 

「なんだってこんな事を!」

「テメェが気にいらねーからに決まってんだろが!」

「そんなお前のエゴごときで!ルジーナ!覚悟しやがれ!」

イェーガーはそう言うと構えた。

 




感想やアドバイスもお待ちしてますm(_ _)m


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敗北

投稿が遅れました!すいません>_<


永久の炎に焼かれろ!(インフィニティ・バースト)

 

イェーガーはルジーナに問答無用で『勇技』を放つ。その一撃はまっすぐルジーナに吸い込まれるかと思われたが・・・

 

「無駄だ!」

 

イェーガーは自分の目のまえの光景を疑った。炎の奔流はルジーナに向かいーー急に軌道を変えて左に逸れていった。

馬鹿な!一体、何で!?

イェーガーがそう思った時、炎の中から一体の巨人が姿を現した。

 

30{8+^r]{Dr。&${'*(損傷軽微。使命を果たします。)

 

・・・ッ!?面倒な相手のおでましか!

イェーガーはそう思いながら目の前の巨人ーー大神厳グランヴァースに目を向ける。

グランヴァースーー神々との大戦の時にある魔族が自分の娘を護るために作り出したゴーレムは最終形態だ。その耐久力とパワーには目を見張るものがあり以前戦ったディリウスなどものの敵では無いだろう。

 

「やっちまいな!グランヴァース!」

〉8+解。敵。I0滅{ ' *(了解。敵を殲滅します。)

 

グランヴァースは目を光らせるとイェーガーに襲いかかる。イェーガーはグランヴァースから繰り出される巨大な拳と額のレーザーを避けながら考える。

まずい。状況はかなりまずい。味方が撤退するまでの時間稼ぎのつもりが逃げられない状況になっちまった。とにかく、逃げるにしてもルジーナを何とかしなければ逃げられない。・・・仕方がない。こっちも召喚するか!

 

『太古の英霊よ。我がーー』

「させるかよ!『天地を揺らす一撃(モルタ・スカイガーデン)!』」

 

くっ!ルジーナの『勇技』が放たれた所為で詠唱できない!

イェーガーはルジーナの『勇技』を避ける。そのイェーガーをグランヴァースの一撃が襲う。

 

神々を滅する力をここへ!(マグネイドリジェクター)

「ぐわあああ!?」

 

その一撃を避けきれずイェーガーはまともに食らった。イェーガーの全身に激痛が走る。死なないのは辛うじて急所を防御できたからだろう。だが、かなりの痛手であることは誰の目にも明らかであった。

ルジーナがニヤリと笑う。

 

「どうした?イェーガーさんよー。てめぇの実力はこんなもんか?」

 

くっ!イェーガーは言い返そうとしたが声が出なかった。声が出ないほどの打撃であったのだ。

 

「所詮てめぇの実力なんざそんなもんか。堕神を倒せたのもルシアスを倒せたのもマグレって事だなー。けっ。そんなんでイシュグリアに行こうってんだから笑えるぜ!」

 

イェーガーは立ち上がろうとした。だが、倒れてしまった。力が入らないのだ。ルジーナがニヤニヤしながら続ける。

 

「この俺様に楯突くからこうなんだよ。こんな実力ならてめぇでは何も救うことなんざ出来ねぇよ!なあ、雑魚召喚師のイェーガーーー。」

「そこまでよ。」

 

そのルジーナを遮る者がいた。イェーガー朦朧とする意識の中でその方向に目を向ける。ルジーナを止めたのは短槍をもつ青い髪の少女ーーリュドミラ・ルリエであった。

 

「あぁん?何の用だ。チビ女?」

 

ルジーナがこれ見よがしに挑発する。だが、リュドミラはルジーナを相手にせずイェーガーにのみ目を向ける。

 

「無様ね。そんな中途半端でこのオルミュッツ軍に勝てると思ったのかしら?まあ、いいわ。」

 

リュドミラは近くの兵に命じた。

 

「連れて行きなさい。」

 

オルミュッツ兵が現れイェーガーを拘束する。

ルジーナは面白くなさそうに言った。

 

「てめぇ・・・。いきなり横槍を入れてんじゃねえよ。」

 

リュドミラはルジーナを相手にせずに立ち去った。




ゴーレム語って難しいですね。


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意外な訪問者

イェーガーがオルミュッツ軍に連れて行かれるのを見てティグルが飛び出そうとする。そのティグルをエレンが止めた。

 

「待て!ティグル。一応聞くがどこに行くつもりだ?」

「イェーガーの助けに行く。このまま見過ごせるか。」

「・・・。悪いがこのまま行かせる訳には行かんな。」

 

エレンはそう言いきった。ティグルはカッとなって言った。

 

「じゃああいつを見殺しにしろって言うのか!?そんなことできるわけーー。」

「落ち着け!ティグル!」

 

エレンはティグルの言葉を遮る。

エレンはティグルの顔を正面から見据えて言った。

 

「私は何もイェーガーを助けないとは言っていない。」

「じゃあなんでーー。」

「だが、今のお前は冷静に動けるのか?」

 

その言葉にティグルはハッとなる。

 

「イェーガーだって殿を務める以上こうなる覚悟は出来てた筈だ。今はまだ焦る時では無い。それにこちらの被害も大きい。イェーガーのおかげで戦闘継続が不可能なわけではないがな。」

 

イェーガーが殿を務めオルミュッツ軍を食い止めていたおかげでライトメリッツ軍はリムアリーシャと合流後一気に巻き返し奇襲部隊の撃破に成功していた。だが、奇襲による被害は甚大で現在ライトメリッツ軍は死者こそ少ないが負傷者の数はかなり多かった。

 

「ティグル・・・。わかってくれ・・・!」

 

エレンがそう言う。

ティグルは気持ちを落ち着けるために一度大きく息を吐く。

 

「わかった。今は退こう。」

「・・・すまない。」

 

ティグルはそう言うと全軍にそこから500アルシン離れた所で野営を始めるように指示を出した。

 

 

ーーその夜

ティグル達は幕舎で会議をしていた。

議題はイェーガーの奪還及びオルミュッツ軍の撃退だ。

 

「オルミュッツ軍には私があたろう。」

 

エレンがそう言う。

確かに現状ライトメリッツ軍最大の戦力であるエレンが当たるのが普通だろう。だが、ティグルは言った。

 

「いや、もう少し考えよう。」

「何を迷う必要がある?私ならあいつらには負けんぞ。」

 

エレンがムッとしてそう言う。リムアリーシャがその問いに答えた。

 

「確かにエレオノーラ様ならオルミュッツ軍を蹴散らせるでしょう。ですが、敵はオルミュッツ軍だけではありません。イェーガー殿と同じ召喚師がいますので恐らく厳しいかと。」

「リム、私の力を信じてない訳では無いだろう?召喚師と言っても小者の様な者じゃないか。私の敵では無い。」

 

エレンがそう言った時、緊迫した会議には似つかわない穏やかな笑い声がした。

 

「フォッフォッフォッ。ルジーナも甘く見られとるのー。」

「誰だ!?」

 

ティグルがそう言う。リムアリーシャとエレンは素早く臨戦態勢をとる。幕舎の入り口に姿を現したのは一人の老人であった。老人とは言えないほどの覇気を宿しながらもその老人はどことなく人を安心させる雰囲気を持っていた。

 

「フォッフォッフォッ。そう構えずとも良い。ワシはお主らの味方よ。」

「・・・何者です?」

 

リムアリーシャが冷たく尋ねる。老人は答えた。

 

「ワシの名前はグラじゃ。グラ爺と呼んで欲しいのー。」

 

グラ爺ーーもといグラデンスがそう言った。

 

「・・・で、グラ爺とやらが何の用だ。」

 

エレンが不機嫌そうに尋ねる。グラデンスは穏やかに笑いながら言った。

 

「フォッフォッフォッ。その前にお主らの名を教えて欲しいのう。名前がわからねば呼び辛いのでな。」

 

一瞬三人は毒気を抜かれた顔をした。次の瞬間エレンは笑いながら言った。

 

「確かにその通りだ。私の名前はエレオノーラ・ヴィルターリア。ライトメリッツ公国の主にして『銀閃(アリファール)』が使い手。」

「リムアリーシャです。」

「ティグルヴルムド・ヴォルンだ。ティグルと呼んでくれたら幸いだ。」

 

三人の名を聞きグラデンスは頷き言った。

 

「フォッフォッフォッ。では、お主らに尋ねるとするかの。お主らはイェーガーとどういう関係じゃ?」

「あなたはイェーガーを知ってるのか!?」

 

ティグルがそう尋ねる。グラデンスは笑いながら言った。

 

「フォッフォッフォッ。ちょっとした腐れ縁での。」

「・・・イェーガーは俺たちを助けてくれている仲間だ。」

「フォッ!?助けておるとな?」

 

グラデンスがそう尋ねるとリムアリーシャも同意した。

 

「はい。我々を魔神の脅威から助けてくれています。あの方の協力がなければ我々は全滅していたかもしれませぬ。」

「・・・。そうだな。あいつには二度軍を助けてもらった。」

 

エレンが答えた。

グラデンスは目を閉じて考えると言った。

 

「さて、お主らの話じゃが外で大体聞かせてもろうたわい。そこでじゃ、このジジイに一つ提案があるのじゃが聞いてくれるかの?」




本文に大幅な訂正箇所がありましたので削除して再投稿致しました>_<


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陽動作戦

翌朝、ティグル達はオルミュッツ軍がタトラ山に籠城したと聞いて驚いていた。

 

「まさか・・・本当にこうなるとは。」

 

エレンも思わず感嘆の声を漏らす。

というのも昨晩、グラ爺はこういったのだ。

 

 

 

 

「恐らくあの軍は近くの砦に籠るはずじゃ。そこが狙い目じゃよ。」

「なんだと?」

 

エレンが訝しげにグラデンスに尋ねる。グラデンスは自信たっぷりに言い切った。

 

「うむ。間違いないじゃろうな。少なくともワシならそうするわい。」

「どういう事です?」

 

リムアリーシャが尋ねる。グラデンスは笑いながら言った。

 

「かの軍勢はどうにもお主らの軍よりも動きが鈍そうでのう。恐らく、白兵戦ではいくらルジーナがおったとしてもかなりの被害が出るじゃろう。だがあの軍勢の動きが鈍いのは鍛えておらぬからではない。彼らが守りの軍勢じゃからじゃ。」

「守りの・・・軍勢。そういえばイェーガー殿もそう申されてました。」

 

リムアリーシャがそう呟く。

 

「なるほど。だから籠城戦に持ち込むのか。」

「確かに・・・。あいつの考えそうな事だな。籠城するという意見には納得いったがそこが狙い目とはどういう事だ?」

 

エレンが尋ねる。

 

「うむ。籠城戦になるという事は、じゃ。逆にイェーガーの位置を把握し易いのじゃよ。そこで提案じゃ。ワシが考えた策は派手な陽動作戦じゃよ。」

「陽動作戦・・・ですか?」

 

リムアリーシャが尋ねる。グラデンスは頷く。

 

「うむ。まず、エレオノーラ殿とリムアリーシャ殿、お二人には兵を率いて敵の砦に前で派手に戦って欲しい。じゃが、なるべく味方への被害を少なくな。ーーお二人が戦っとる間にワシとティグル殿で敵の砦に忍び込みイェーガーを救い出す。簡単な策じゃろ?」

「砦に忍び込む・・・ってかなり危険な策じゃないか?」

 

ティグルが尋ねるとグラデンスは答えた。

 

「うむ。たしかにかなりの危険を伴う。じゃがの、この策はかなり効果的じゃぞ。少なくとも真正面から敵を打ち破るよりかはの。」

「一つ尋ねたいのですが。どうしてティグルヴルムド卿なのです?ティグルヴルムド卿が戦場にいなくてはかえって敵が疑問に思うのでは?」

 

リムアリーシャが尋ねるとグラデンスは頷き言った。

 

「うむ。じゃが、ティグル殿はオルミュッツの戦姫殿と面識はあるがお主らより浅い。故の決断じゃよ。」

 

グラデンスはそう言う。

リムアリーシャは確かにと理解はした。だが、納得した訳では無かった。

イェーガー殿は・・・モルザイム平原の時もロドニークの時も私を助けてくださっていた。このまま恩を返せなくては私は・・・!!

 

「・・・。グラよ、頼みがあるのだがーー。」

「フォッ?」

 

グラデンスが意外な声をあげるとエレンは答えた。

 

「私の事なら大丈夫だ。だから、リムも一緒に連れて行って欲しい。」

「エレオノーラ様!?」

 

リムアリーシャが驚きに声をあげる。

グラデンスは静かにエレンに目をやると尋ねた。

 

「理由を尋ねても良いかの?」

「理由はさっきも言った通りだ。私なら一人でも大丈夫だしそれに潜入する時の不測の事態に備えて連れて行けば問題なかろう?」

 

それは理由にしては根拠が弱すぎた。

潜入するなら人数は少ない方が良いしエレンが一人で大丈夫であるという保証は絶対にない。

 

「エレン!それはーー。」

 

無茶だとティグルが続けようとした時ティグルはエレンの目を見てエレンのやろうとしていることを悟った。

エレンはリムアリーシャの意を汲んだのだ。自分の大切な副官、その部下の想いを汲んだのだ。

グラデンスは目を閉じて少し考えると言った。

 

「ふむ。そこまで言うのならば連れて行こう。じゃが、エレオノーラ殿。くれぐれも無茶はするでないぞ。」

 

エレンは力強く頷いた。



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正体

ライトメリッツ、オルミュッツ両軍はタトラ山の砦にて再び対峙した。

 

「ふん、所詮ぽっとでの戦姫ってとこかしら?単純な力押しで倒せるとでも思ってるのかしら?」

 

タトラ山の砦の城壁の上で少女ーーリュドミラ・ルリエはガムシャラに攻撃を続けるエレンを見て蔑む。

そんな方法ではこの砦は突破できないわ。

リュドミラは内心でそうほくそ笑む。

普通の砦であれば、エレンも力押しではなく『銀閃(アリファール)』の力で城内へと乗り込み敵を切り捨て内部から崩すことは容易であっただろう。だが、リュドミラが敷いた陣形、それは先代の戦姫ーーリュドミラの母が考案した対『銀閃』用の陣形だ。

オルミュッツ公国とライトメリッツ公国は昔から犬猿の仲で度々戦姫同士の戦闘も起こっていた。だから戦姫同士の戦闘が珍しいわけではないのだ。だが、対戦姫用の陣形でここまで効果を成した陣形は他には無かった。その事からリュドミラの母は軍略家としても一流だったと言えるだろう。

そして、それはエレンも知っていることだ。ゆえにリュドミラはエレンの事を蔑まれずいられなかった。

・・・同世代の戦姫が誕生したって聞いたときは少し期待したのにね。

リュドミラはどことなく寂寞とした思いを抱えながら先頭で剣を振るうエレンを見下ろし呟く。

 

「やっぱりあなたは戦姫失格よ。エレオノーラ。」

 

 

 

「怯むな!かかれぇ!」

 

エレンがそう叫ぶと兵たちはさらに奮起し全身を始める。負傷者こそ多いが死者が殆どいないのはエレオノーラ様のお陰でしょう。

ルーリックはそう思う。

ですが・・・何故このような力押しを?リムアリーシャ様やティグルヴルムド卿がいないこととも関係があるのでしょうか?

ルーリックはそう思いながら馬を前に進める。

ルーリックを始めとするライトメリッツ軍の騎士たちはイェーガー救出作戦の事を知らなかった。情報の流出を避けるためとグラデンスが誰にも伝えるなと言ったからだ。

だが、それでも彼らはエレンに続いた。それは全員が彼女を信頼しているからだ。信頼し自らの主であると認めているからだ。だがそんな中、ルーリックだけが疑問を抱いていた。

イェーガー殿が捕まりリムアリーシャ様やティグルヴルムド卿がいない・・・。何故いない?

ルーリックがその答えにたどり着くまでそう長くはかからないだろう。

 

 

 

 

エレンは内心でモヤモヤしたものを抱えていた。

それはリュドミラと戦っているからではなければテナルディエの事が気にかかっているからではない。

グラデンスのことだ。

あの老人・・・。唐突に現れイェーガー救出作戦を提案したかと思うと二人を連れて行くとはな。もっともリムに関しては私が提案したのだが・・・普通あんな提案受けるだろうか?隠密作戦を提案した人物が。

エレンはここまで考え以前イェーガーから人に化ける魔神の話を聞いたことがあったのを思い出しアッとなる。

しまった!!何故もっと早くにこの考えにたどり着かなかったんだ!何故もっと疑わなかったんだ!もしこれが本当だとするとリムが危ない!

そう思うのと同時に彼女の『竜具』ーー『銀閃』が砦の裏からの邪悪な気配を伝えた。

くそ!無事でいてくれ・・・!

 

「『風影(ヴェルニー)!』」

 

エレンは『竜技(ヴェーダ)』を使い空高くに舞い上がると砦を飛び越え裏へと向かった。

 

 

 

 

「グラ殿、一つ聞いてよろしいですか?」

 

異変が起こる少し前、リムアリーシャがグラデンスに尋ねる。

 

「フォッ?何かの?」

「・・・あなたは何者なんですか?」

 

グラデンスは穏やかに笑うと答えた。

 

「師匠じゃよ。イェーガーのな。」

「そうだったのか?」

 

ティグルが尋ねる。

リムアリーシャは考えていた。

確かにグラデンスという師匠がいるということはイェーガー殿から聞いています。ですが何か腑に落ちませんね・・・。もしかすると・・・。

 

「グラ殿、イェーガー殿が始めて倒した魔神の名をご存知ですか?」

「ム?勿論知っておるがそれがどうかしたかの?」

「よければお聞かせください。それはどのような魔神だったのですか?」

「うむ、あやつが最初に倒した魔神の名は覇妃霊メリオン、様々な疫病を操る魔神じゃよ。」

 

リムアリーシャは少し考えるとティグルを引っ張りグラデンスから距離をとった。

 

「リム?一体何を・・・?」

 

ティグルが戸惑いの声を上げる。リムアリーシャは素早く剣を抜き言った。

 

「あなたは何者です!本当の姿をみせなさい!」

「フォッ?なんじゃ突然?」

「確かにイェーガー殿が倒した魔神は疫病を操る魔神です。ですが、メリオンではありませんでした。イェーガー殿は私に教えてくれました。レデュハークであると。何故あなたがそれをご存知無いのですか?」

「・・・少し忘れておっただーー」

「召喚老と呼ばれる高位の役職につき魔神のことを忘れないあなたがですか?」

 

リムアリーシャがそう尋ねる。

グラデンスは少し目を閉じると不気味に笑いだした。

 

「クフ、クフフフフフ。まさかヒトごときに我の正体を見破られるとはな。」

「!?」

 

ティグルも素早く下がり弓を構える。

 

「あなたは・・・何者です!?」

 

リムアリーシャが尋ねるとグラデンスーーいや、グラデンスの形をした『ソレ』は答えた。

 

「我が名は礫覇神クロフォード!!貴様らをあの世に送る偉大なる神!」

 

するとグラデンスの形は崩れていき禍々しいオーラを放つ一つの魔物が姿を現した。

その魔物は肩が竜の頭のような形をしており左手と思しき部位には槍を、右手と思しき部位には斧を持っていた。

クロフォードはニヤリと邪悪に嗤うと言った。

 

「死ね!哀れな人間よ!」




クロフォード「いつからグラデンスだと思っていた?」


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魔神の力

リムアリーシャとティグルは戦慄していた。唐突に目の前に現れた『それ(魔神)』は二人の想像を遥かに上回る存在だったからだ。

 

「これが・・・魔神!なんて力だ!対峙しているだけなのにプレッシャーがびしびし伝わってくる!」

 

ティグルはそう言うと弓を構える。

 

「これは・・・我々の手に負える相手では無さそうです。しかし、すんなり逃してくれるとも思えない。・・・くっ、やるしかないようです。」

 

リムアリーシャも覚悟を決めて剣を構える。

 

「行くぞ!人間よ!」

 

クロフォードはそう言うと右手の斧を振り下ろす。

ティグルとリムアリーシャは左右に分かれその一撃を避ける。ティグルは弓を引き絞り狙いを定めて放った。

矢はクロフォードの目へと向かう。

当たれ・・・!

その願いむなしく、矢はクロフォードに到達する前に消滅した。

 

「無駄よ。無駄!」

 

クロフォードが叫ぶ。

く!このままではマズイ!

ティグルがそう思った時クロフォードが槍を横薙ぎに振った。

反射的にリムアリーシャがその一撃を剣で止めようとする。だが、剣が槍に当たった瞬間剣はあっさりと折れ槍はリムアリーシャを襲った。

 

「リム!」

 

ティグルが懸念の叫びをあげる。

だが、リムアリーシャは至って冷静であった。彼女の狙いは初めから槍を防ぐ事では無かったのだ。リムアリーシャは体を反らし槍を避けると隠し持っていた短剣をクロフォードに突き立てる。短剣はクロフォードの胸ーー人で言うならば心臓がある位置を貫いた。

やった!

ティグルがそう思った時、クロフォードは邪悪に嗤った。

 

「何かしたのかな?人間よ。」

 

リムアリーシャが驚きに目を見開く。と、同時に短剣を素早く手放し距離をとった。その刹那、クロフォードから衝撃波が放たれる。リムアリーシャはその衝撃波を避けきれずーー吹き飛ばされた。

 

「リム!!」

 

ティグルは叫ぶと吹き飛ばされたリムアリーシャを受け止めた。リムアリーシャの体のあちこちから出血が見られ骨は何本か折れているようであった。だが、距離をとったおかげか致命傷では無いようだ。

クロフォードの胸に突き刺さった短剣がクロフォードの体に飲み込まれていく。

 

「哀れな人間よ。所詮、我の敵では無いという事か。」

 

クロフォードが哀れむようにそう言う。ティグルはクロフォードを睨みつける。

だが、睨むだけで何もしなかった。いや、思いつかなかったのだ。この絶望的状況を覆す策を、状況を好転させれるような一手を。

これが・・・魔神の力。俺たちでどうこうできる敵じゃ無い・・・!これまでか・・・。せめて、リムだけでも逃がしたいところだが。

そこまで考えたところでクロフォードが斧を振り上げる。

 

「消えよ!愚かな人間よ!」

 

ティグルが覚悟を決めた時、辺りを冷気が支配した。

そして、静かなーーしかし、凛とした声が聞こえた。

 

「『凍蓮(ラヴィアス)』」

 

そして、空から迫ってくる強大な力の気配。

これは・・・一体!?

 

「『空をも穿ち凍りつかせよ!(シエロ・ザム・カフア)』」

 

すると巨大な氷塊が空から落下しクロフォードを襲った。

 

「何!?」

 

さすがのクロフォードも慌てた声を出し斧を振り下ろし氷塊を打ち砕く。

 

「『大気ごとなぎ払え!(レイ・アドモス)』」

 

それと同時にティグルの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

あれは!

ティグルが空を見上げる。すると丁度クロフォードを破壊の意思を帯びた風の塊が襲うところであった。

 

「フン!小賢しい真似を!」

 

クロフォードはそう叫び槍を振るい風の塊を消す。

 

「ハッ!これが本命だよ!『天地を揺らす一撃!(モルタ・スカイガーデン)』」

 

聞き覚えのある声がし、クロフォードを無数の岩が襲う。

岩を避けきれずクロフォードは岩の下敷きとなった。

ティグルとリムアリーシャの前に三人の人間ーーエレン、リュドミラ、ルジーナが降り立つ。

 

「へっ!てめえみたいな魔神はこの超絶最強召喚師、ルジーナ様の敵じゃねえんだよ!」




イェーガー「出番まだかなあ。」


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放たれた力

「エレン・・・!」

 

ティグルが驚きに声を上げる。何故エレンがここにいるのか。何故、敵対していたはずのリュドミラとルジーナも共にいるのか。驚きと共に疑問が次々浮かんできた。

 

「ティグル。話は後だ。まだ、油断できない。」

 

エレンがこれまでに聞いた事がない程緊張した声音でそう言う。リュドミラが頷く。

 

「最強召喚師ってのも大した事ないのね。」

「アァン!?んだと、このチビ女!」

 

ルジーナがそう怒鳴る。リュドミラも額に青筋を浮かべて言う。

 

「なんですって!この、バカ男!」

「んだと!ーー」

 

ルジーナも負けじと言い返す。ティグルはそんな様子の三人を見て思った。

緊張感が無さ過ぎじゃないか・・・コレ。

 

「大丈夫かしら?」

 

不意に声をかけられその方に目を向ける。いつの間にかパリスが近づいてきておりリムアリーシャの容態を見ていた。

 

「・・・幸い致命傷では無さそうね。とりあえず、回復薬でーー」

 

そこまで言った時、地面が揺れた。

 

「くっ!!」

 

リュドミラとルジーナも言い争いをやめ目の前に意識を向ける。目の前で積み重ねられている岩がはね退けられてクロフォードが姿を現した。

 

「クソがぁ!下等な猿ごときが我に傷を負わせるだと!?ふざけるな!」

「ケッ、やっぱり生きてやがったか。」

「だけど、効果がなかった訳では無さそうだわ。」

 

エレンも同意する。

 

「ああ、奴の傷は深そうだ。今のうちにケリをつけるぞ!」

 

すると、クロフォードが怒りに叫ぶ。

 

「ケリをつける?下等な猿ごときが魔神たる我を倒せると思っておるのか!?甘く見るな人間!」

 

クロフォードは叫ぶと槍を構え突っ込んでくる。

 

「『静かなる世界よ。(アースイビルク)』」

 

動じることなくリュドミラは唱え『凍蓮』を大地に突き刺す。次の瞬間地面が凍りつき同時にクロフォードの足をも凍らせた。

 

「なっ!?」

「魔神っていう割には頭が悪いのね。」

 

リュドミラが冷たく言い放つと同時にエレンが距離を詰め『銀閃』を振りクロフォードの左腕を斬りとばす。

 

「ぐうっ!!」

「はああああ!」

 

エレンは叫びながら再度自分の相棒を振りクロフォードの右腕を斬りとばし蹴り飛ばす。地面の氷が砕けクロフォードが吹き飛ぶ。

 

「ぐあああああ!」

「まだだ!」

 

吹き飛ぶクロフォードにルジーナが追い討ちをかける。

 

『太古より眠りし守りの巨人、悠久の時を経て再び起動せよ!』

「力を貸しやがれ!グランヴァース!」

 

ルジーナが叫けぶ。すると、瞬時に召喚陣が空に展開され巨人ーーグランヴァースが姿を現わす。

 

神々を滅する力をここに!(マグネイドリジェクター)

天地を揺らす一撃!(モルタ・スカイガーデン)

 

ルジーナの『勇技』とグランヴァースの『勇技』が同時に放たれクロフォードを空高く舞い上げる。

 

大気ごとなぎ払え!(レイ・アドモス)

空をも穿ち凍らせよ!(シエロ・ザム・カフア)

 

と、同時にトドメと言わんばかりの一撃が二人の『戦姫(ヴァナティース)』から放たれクロフォードを襲った。

 

「ガハッ!!」

 

クロフォードはなす術なく風に切り刻まれ氷に貫かれた。

 

「や、やったか?」

 

ティグルが呟く。その時、動かないと思われたクロフォードの体が動いた。

 

「チッ!しぶといヤローだ。」

 

ルジーナが不快そうに呟く。すると、氷が砕けクロフォードが立ち上がった。

 

「愚かな人間どもめ・・・。我を怒らせた事を後悔させてやろう。」

「へぇー。まだ動けるとは流石魔神様だなーオイ!」

 

すかさずルジーナが挑発する。たが、次の瞬間ルジーナ達は戸惑うこととなった。憤怒に満ちたクロフォードの表情が一変無表情へと変わったからだ。

 

「な、なんだ?」

 

エレンが訝しげに呟く。クロフォードは大きくため息をつくと言った。

 

「まさか、再び、この地において本来の力を使うことになるとはな・・・。」

「なんだと?おい!どういうことだ!!」

 

ルジーナが尋ねるとクロフォードは冷笑を浮かべた。

 

「答えるはずがなかろう。ーーまあ、良い。見よ!魔神本来の力を!」

 

クロフォードがそう叫ぶとクロフォードの体が禍々しい光に包まれる。光はみるみるうちに大きくなりそれと比例してあたりに漂うプレッシャーも大きくなっていった。

 

「な・・・ッ!?」

「これは・・・!?」

「チッ・・・!」

 

三人が絶句する。それと同時に光がはじけとぶ。あたりを衝撃波が襲う。と、同時にグランヴァースが動き三人を護った。だが、防ぎきれず衝撃波が三人を襲った。

 

「「「ぐわああああ!?」」」

 

三人が悲鳴を上げ吹き飛ぶ。ティグルはリムアリーシャとパリスをかばった。

 

「くっ!?」

 

かろうじて飛ばされる事は無かったがかなりの力であった。

なんだ・・・何があった!

やがて衝撃波が止む。

あたりは無残にも破壊され城壁はすでに無く兵士たちがあちこちで転がっていた。幸いにも死者は少ないようだがオルミュッツ兵のほとんどが負傷していた。

そして、その前を。先ほどまでクロフォードが存在した場所には見るもおぞましい怪物がいた。

その怪物は体に無数の顔のような模様があり、槍のような右腕と剣のような左腕があった。そしてその目は紅くひかり殺意をむき出しにしていた。

 

「ユクゾ!人間ヨ!我ニ逆ラッタコトヲ後悔シナガラ死ヌガヨイ!」

 

クロフォードが動く。エレンとリュドミラは反射的に『竜技』を撃つ。

 

大気ごとなぎはらえ!(レイ・アドモス)

空をも穿ち凍らせよ!(シエロ・ザム・カフア)

 

氷と風二つの力が目の前の災厄に襲いかかる。クロフォードはニヤリと嗤うと二つの一撃を槍を振るい消しとばした。

 

「なっ!?」

 

エレンとリュドミラは驚いた。と、同時にガクンと力が抜け倒れる。『竜技』を使いすぎたのだ。

 

「くっ・・・!」

「こんな、所で!」

 

クロフォードはそんな二人を見やりニヤリと嗤うと剣を思いっきり振り上げる。

 

「!?」

 

リュドミラは反射的にエレンに覆い被さりエレンを庇った。

それは無意識のうちだったのかもしれない。自分と同世代の戦姫、友だちとなって欲しかった者、それを護るための咄嗟の行動であった。

 

「哀レナ・・・。ナラ二人纒メテ逝クガヨイ!」

 

クロフォードが剣を振り下ろそうとした時強力な力を正面から感じた。クロフォードがそちらに目をやる。

そこにはティグルが黒弓に矢を番えて放とうとする所であった。そして矢じりには強大な破壊の力が渦巻いていた。

 

「ホウ・・・オモシロイ。ウッテミヨ。」

 

クロフォードがそう言った時矢が放たれた。矢は破壊の意志を持ちクロフォードに向かう。

クロフォードはそれをーー正面から受けた。

 

「ッ!?」

 

ティグルは愕然としていた。目の前の光景が信じられなかったからだ。ティグルが放った矢はクロフォードにあたりそのままーークロフォードに取り込まれていった。

打つ手が無い・・・!!

 

「待て・・・!」

 

クロフォードに声をかけるものがいる。リムアリーシャだ。側にはパリスもいる。二人はクロフォードの正面に立っていた。

いつの間に!?

ティグルが驚く。リムアリーシャは弱々しく剣を振り上げて言った。

 

「エレオノーラ様に・・・手出しは・・・させない!」

「・・・。」

 

クロフォードはため息をつくと剣を振り下ろした。

リムアリーシャは諦め目を閉じた。

その時だった。

 

「俺の友達に、手を、出すなァァァァァァァア!」

 

聞き覚えのある声とともに人影が砦から飛び出し剣を弾く。クロフォードが驚きに目を開く。

 

全てを焼き尽くす炎をここに!(インフィニティ・ノヴァ)

飛び出した人物は続けざまに叫ぶ。剣先から龍の形を模した炎が放たれクロフォードを焼いた。

 

「クッ!!」

 

クロフォードは炎を避けるために下がった。リムアリーシャは自分の目の前に立つ人物を見て弱々しく声を出した。

 

「イェーガー殿・・・。」

 

人物ーーイェーガーは憤怒に満ちた表情でクロフォードを睨みつける。

 

「ホウ・・・。コノ者タチノ仲間カ。精々抗ッテミセヨ。」

 

クロフォードがそういうとイェーガーはダンデルガを地面に刺し二対の剣ーー『魔導剣(トゥル・アンファン)』を構えて言った。

 

「このクソ野郎が・・・。たかだか魔神ごときが図に乗ってんじゃねえ。本気で相手してやるよ。来い!」




イェーガー「俺のターン!!」


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六輝武装

ひっそりと更新開始(^_^;)



「ホウ・・・我ニ敵ウトデモ思オテオルノカ?」

 

クロフォードがニヤリと嗤いながら尋ねる。

 

「ああ?やかましい!ちょっと黙ってろ!こちとらどうやってテメーを痛めつけてやろうか考えてるとこなんだからよ。」

 

イェーガーが苛立ちながらそう答える。クロフォードの動きが一瞬止まる。だが次の瞬間ーー

 

「自惚レルナヨ!人間ガ!」

 

イェーガーに剣で斬りつける。

その動きは余りに早くティグルには見えなかった、

だがーー

 

「そう慌てんなって。時間はまだまだかかるんだからよ!」

 

クロフォードの剣は空を切りイェーガーはクロフォードの背後からそう言う。クロフォードが動いた瞬間、イェーガーもまた動いていたのだ。

 

「ナッ!?イツノ間ニ!?」

 

クロフォードは驚きを隠さずそう言う。イェーガーはニヤリと笑うと手にしている二対の剣を振った。

二対の剣は正確にクロフォードの腕を捉え斬り飛ばした。

 

「チイッ!!」

 

クロフォードは舌打ちすると素早く距離をとった。

と、次の瞬間クロフォードの腕は何事もなかったかのように再生した。

その様子を見てイェーガーはピクリと片眉を上げる。

 

「へぇ・・・。意外にタフなんだな。お前。」

「コノ程度造作モナイ事ヨ。」

 

クロフォードがそう言う。イェーガーはフッと笑みをこぼすと唱えた。

 

『太古の英霊よ。我が求めに応えよ。神に叛きし騎士よ、友を思う気持ちを力と為し顕現せよ!』

「現れろ!聖騎戦真皇ソディウス!」

 

イェーガーが唱え終えると召喚陣が展開される。

召喚陣が光を放つとそこから白い鎧を纏った一人の騎士が姿を現わす。

 

「我が名はソディウス!護神十二聖の長なり!イェーガー殿の助けに応じ推参!」

 

白い騎士が名乗りを上げ槍を振り上げる。

ソディウスーーかつて神々を守護する役目を担った部隊『護神十二聖』の隊長であり一番初めに神々に叛いたと言われている英雄だ。

 

「小癪ナ!消エ失セロ!」

 

クロフォードが叫んで剣を振る。ソディウスはそれを避ける事なく甲冑の腕の部分で受け止めた。剣は甲冑により止められる。

 

クロフォードが驚きに目を開く。

 

「その程度の攻撃では私に傷一つ付けられんぞ!」

 

ソディウスはそう言うと槍を振るう。クロフォードは素早く距離をとりその槍を避けた。

 

「クッ!小賢シイマネヲ・・・!」

「まだまだ来るぜ!」

 

イェーガーはそう言うと再び詠唱を始めた。

 

『異界より現れし影よ。汝の姿は闇夜の如く、全てを闇より葬る力となれ!』

「現れろ!緋影闇神オボロ!」

 

イェーガーが叫ぶと召喚陣の周りが暗くなりそこから一体の忍びが姿を現わす。

 

「オボロ。推参!」

 

忍びーーオボロはそう言うと刀を構えてソディウスの隣に並び立つ。

ソディウスはオボロを見て言った。

 

「ふむ、間者のような者か?手を貸してくれるようだな?」

「・・・拙者は主であるイェーガー様の忠実なる影。主の命に応じ助太刀致そう。」

 

オボロはそう答えると姿を消した。

 

「!?」

 

これにはソディウスのみならずクロフォードも驚きを隠せなかった。

 

「ド、ドコニ・・・?」

 

その瞬間、クロフォードは強烈な殺気を背後から感じた。

 

「ムッ!?」

 

クロフォードは瞬間的に障壁を生み出す。

障壁はクロフォードを中心に5メートル程の円状に展開される。

 

「甘い。」

 

そのクロフォードの上を飛び越えながらオボロが言う。

その時、クロフォードは気づいた。

自らの足元に黒い球がある事を。そして、それは火薬が詰まっているだろうという事を。

 

「小賢シイ!」

 

クロフォードは障壁を解き黒い球を吹き飛ばす。

その瞬間、白い影がクロフォードに躍りかかる。

 

「我が槍を受けよ!」

 

白い影ーーソディウスはそう叫びながら槍を突き出す。

ソディウスの槍はクロフォードの胴体を貫く。

 

「グウウ!」

 

クロフォードは呻くが自らの胴体の槍に構うことなく右手の剣を振ろうとする。

だが、その右手は動かなかった。

 

「ナゼダ!?」

 

クロフォードが右手に目をやると右手に鎖鎌が巻きついおりその先をオボロが握っていた。

 

「ナラバ!」

 

クロフォードは左手の槍を突き出す。

ソディウスはクロフォードに槍を刺したまま下がる。が、クロフォードの槍をよけきれず右腕を貫かれた。

 

「クッ!」

 

ソディウスが苦痛にわずかながらの声をあげる。クロフォードが畳みかけようとした時オボロがクナイを投げつける。

 

「足止メノツモリカ!?」

 

クロフォードがそういってクナイを叩き落とす。だがその時、オボロはすでにクロフォードの懐へと潜り込んでいた。

 

『呪禁・闇獄鬼葬』

 

オボロの声が静かに響く。闇を纏った短刀がクロフォードを切り裂く。が、致命傷には至らなかった。

 

「グッ・・・。コ賢シイ!」

 

クロフォードがそういって剣を振るう。だがその一撃はオボロに届かなかった。

 

「させぬ!」

 

ソディウスがクロフォードの一撃を左の手甲で受け止めた。そして、右手(・・)で槍を構え再び突き出した。

 

「ナッ!?」

 

クロフォードは驚愕に包まれた。ソディウスの右腕は確かに槍で貫いた。つまり、ソディウスの右腕は使えないはず。なのに目の前にいるソディウスは右腕を使い槍で攻撃してきたからだ。

 

ーーナゼダ!?ナゼ右腕ガ使エル!!

 

クロフォードはイェーガーの方に目をやる。

イェーガーの隣にはいつの間にか剣を携えた銀髪で緑の目をした女性ーー賜光の聖綺神シャルルがいた。

 

「サンキューシャルル。そのまま援護は頼んだぜ!」

 

イェーガーはシャルルにそう言うとダンデルガを担ぎクロフォードに向かう。

 

「コノ・・・人間風情ガァァ!」

 

クロフォードが怒りで力を解き放つ。強い衝撃波がオボロとソディウスを襲う。至近距離にいた二人はなす術なく吹き飛ばされる。だがクロフォードは二人には目もくれずイェーガーに向かう。

クロフォードが詠唱を始める。

 

『忌ムスベキハ光ナリ。大イナル黒ヨ、破壊ノ意思ヲ携エ仇ナス者ヲ永遠ニ滅セヨ!』

大イナル黒(ファータイル・ダーク)!」

 

破壊の意思を纏った闇の一撃がクロフォードの槍に宿る。いくらイェーガーでもその一撃を食らえば消え去ってしまうだろう。しかし、それと同時にイェーガーも詠唱していた。

 

『人々の希望よ、変わらぬ思いと絆と共に我に宿れ。我が名はイェーガー。世界を変える召喚師!』

六輝武装(ネクサス・ユニゾン)!」

 

クロフォードの槍がイェーガーを貫き爆発する。

 

「イ、イェェェェェガァァァ!」

 

ティグルが叫ぶ。たが、煙の中から吹き飛ばされてきたのはイェーガーではなくクロフォードであった。

 

「馬、馬鹿ナァァァ!」

 

クロフォードは城壁の瓦礫にぶつかる。ティグルが煙の中に目を凝らす。

 

「・・・この姿になるのはルシアスの時以来、か。まあ、良い。クロフォード。ここからが本当の蹂躙(たたかい)だ。覚悟しろよ。」

 

右手と左手に形状が異なる2本の槍を持ち背後に4本の剣を浮かべた召喚師ーー六輝絆の召喚聖イェーガーがそう言った。




どうかとは思いました。けど、後悔はしてません((((;゚Д゚)))))))


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決着

更新遅れてすいません…>_<…
長年の相棒(携帯)が故障するという不運に見舞われました(;^_^A
とりあえず、再開しますm(_ _)m


魔神ーーそれは人々に害をなす圧倒的なまでに理不尽な存在。召喚術をもってしても人は魔神に敵う事などあまり無い。ましてやクロフォードは上位の魔神。普通の人間が勝つのはもはや不可能だろう。だが、そんな理不尽な存在に抗う力。

人々の希望ーー【六英雄】と絆を結び力を手にした者。それが六輝絆の召喚聖イェーガー、だ。

 

 

ティグルは目の前で起こってることが到底信じられなかった。好々爺然とした老人が急に怪物になったかと思うとその強さは戦姫2人の力を合わせても敵わない程強く不思議な弓の力も通用しない。その怪物が今目の前でたった1人ーーそれも自分と同じくらいの年齢の青年に圧倒されていた。

 

「グアアアアア!」

 

クロフォードが吹きとび城壁の残骸にぶつかる。イェーガーは右手の槍を肩にのせ左の槍で狙いを定めたまま尋ねる。

 

「どうした?そんなものなのか、お前の力は?さっきまでの余裕はどうした?」

 

イェーガーは相手を嘲笑った。

こ、これが・・・召喚師(イェーガー)の力・・・!次元が違い過ぎる!

 

「グ・・・図ニ乗ルナァ!」

 

クロフォードが激昂し右手の剣を掲げようとする。するとその右腕をイェーガーの周りを浮遊していた剣の1つーー氷宝剣レクシーダが切り裂いた。

 

「へぇ?まだ戦えるのか?流石にそこは腐っても魔神だな。」

 

イェーガーは少し驚いた様子でそう言う。そして、けど、と続けた。

 

「その程度じゃあ俺には勝てない。お前には俺の仲間に手を出したツケをきっちり払ってもらうとしよう。」

 

イェーガーはニヤリと嗤いながらそう言うと唱えた。

 

『人々の希望となった六の輝きよ、太古より伝えられし神越の力よ。今ここに我が名において顕現しその力を解き放て。我が名はイェーガー、神を討つ召喚師也!』

 

するとイェーガーの背後に浮かぶ4つの剣とイェーガーが持っていた2本の槍が強く輝きながら空に浮かぶ。

 

六輝・神絶の舞!(ネクサス・エンドレスワルツ)

 

6つの武器は破壊の力を帯びながらクロフォードに飛んでいく。氷、炎、樹、雷、光、闇。それら全てが無数の斬撃となってクロフォードを襲った。

 

「ヌウアァァァァア!」

 

クロフォードは最後の力を振り絞って自らの前に盾を作り出す。クロフォードの神としての力全てを消費して作った盾だ。無数の斬撃と言えどもその盾を突破できないだろう。イェーガーが舌打ちして次を撃とうとした時だった。背後から強い力の片鱗を感じた。

 

大気ごと・・・薙ぎ払え!(レイ・アドモス)

空をも穿ち凍てつかせよ!(シエロ・ザム・カフア)!』

 

いつの間にか立ち上がっていたエレンとリュドミラもまた最後の力を振り絞り『竜技(ヴェーダ)』を放つ。氷と風、二つの力が一つとなりイェーガーの『超勇技(スーパーブレイブバースト)』とともに盾を襲う。『竜技』と『超勇技』が盾を襲う。凄まじい爆発が起こり爆風が吹き荒れる。

爆風の中でクロフォードの叫びが響き渡る。

仕留めたか!

イェーガーがそう思った時爆風が晴れる。そこには満身創痍のクロフォードが立っていた。

 

「・・・チッ。悪運の良い奴め。」

 

イェーガーが静かに毒づく。クロフォードがニヤリと嗤った時そのクロフォードを一つの黒い光が襲った。

 

「!?」

 

イェーガーが驚き背後を振り返る。

そこには弓を放った後のティグルがいた。

 

「グ、グアアアアア!バ、馬鹿ナァァァァア!魔神タル我ガ・・・愚カデ下等ナ種族如キニィィィイ!?」

 

その瞬間破壊の力が炸裂し再び爆発が起こる。

爆発が収まり視界が晴れる。そこにクロフォードの姿は無かった。

 

「・・・倒した、様だ。」

 

イェーガーがそう呟く。するとそこに鬨の声を上げながらライトメリッツ軍が駆けつけた。

 

こうして、タトラ山砦の戦いは幕を閉じた。



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幕間ーー夜明け

展開をもう一度練り直してたら更新が遅くなりました。すいません…>_<…


タトラ山地の激戦から3日が経った。

イェーガー殿はまだ目を覚まさないのでしょうか?

リムアリーシャはイェーガーの幕舎を後にしながらそう思う。

イェーガーは昨日の戦いー元々はライトメリッツ軍対オルミュッツ軍の戦いであった魔神クロフォード討伐作戦が終わり変身を解除するや否や気を失い倒れてしまったのだ。

パリス曰く、召喚術の行使は術者に大きな負担を掛ける。複数体のユニットを呼び出しただけでなく六英雄の力を束ねる【六輝武装】を使ったイェーガーの負担は想像を絶するものがある。

リムはイェーガーの幕舎を後にしながら思う。

何故イェーガー殿はここまでボロボロになりながらも力を貸してくれるのでしょうか?それほどまでに魔神が憎いのでしょうか?ですが日頃の発言にそのような兆候は見られませんし・・・。

そんな事を考えながら歩いていると意外な人物に出会った。

 

「リム。傷はもう大丈夫なのか?」

「・・・ティグルヴルムド卿。珍しいですねこんな朝早くに。」

 

リムアリーシャはそう言う。

ティグルは苦笑しながらこう言った。

 

「まあ、たまにはな。」

「・・・狩りに出ようとしていらしてたのでは?」

 

リムアリーシャがそう尋ねるとティグルは肩をすくめてこう言った。

 

「さすがにそんな気分じゃないさ。」

「・・・何かございましたか?」

 

リムアリーシャが尋ねるとティグルはうーんと唸り言った。

 

「まあ、色々な。・・・あの激戦が3日前の事なんてまだ実感が湧かないよ。」

 

ティグルはそう言って手に持っている黒弓に目をやる。

というのもティグルが早くに起きた理由は黒弓についてだからだ。

ティグルはあの瞬間確かにクロフォードを射ち倒した。だが黒弓については未だ不明な点が多すぎた。恐ろしいほどに強大な力がある事はわかったが未だにその実態は分からないままだ。ティグルはそれを突き止めようと弓を使って訓練をしていたのだ。

 

「ティグルヴルムド卿。」

 

リムアリーシャが呼びかける。ティグルはハッとしてリムアリーシャに目を向ける。

 

「・・・イェーガー殿はまだ目をお覚ましになりませんね。」

「・・・そうだな。でもきっとすぐに目を覚ますと思う。」

 

ティグルがそういうとリムアリーシャがティグルを見つめる。

ティグルは肩をすくめて勘だよ、と笑った。

 

「・・・そうですね。あの人ならすぐに目を覚まされるはずですよね。」

 

リムはそう言う。

私は・・・何を迷ってるのでしょう。

イェーガー殿が力を貸してくれる理由?そんなものはどうだって良いではありませんか。今、あの人(イェーガー)は味方。それで良いではありませんか。敵ならばここまで命を張るとは思えません。それに・・・あの人は私に私にしか出来ない事があると言いました。なら私はいつまで考えても仕方ないことを考えてる場合では無いでしょう。

今私がすべき事はーーエレオノーラ様、ティグルヴルムド卿、そしてイェーガー殿。この三方のために持てる全ての力を振るう事です!

リムアリーシャがそう考えていると2人の前に兵士が駆けつける。

 

「報告します。イェーガー殿の意識が戻りました!」

 

ティグルは顔を輝かせて言った。

 

「リム、言った通りだろ?さあ、イェーガーに会いに行こう。」

「ええ。」

 

リムアリーシャも頷く。

東の空から太陽が顔を出す。彼らの希望を照らすかのように・・・。



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第四章誇り高き黒騎士
目覚め


ーイェーガー、あなたに会えて本当に良かった・・・。

 

待て!ティリス!

 

 

 

イェーガーは静かに目を覚ます。

夢か・・・。

イェーガーはそう分かると大きく息を吐く。

・・・あの時の夢を見るとはな。ティリス・・・。大丈夫かな?あいつは、大切な俺の仲間だ。早くイシュグリアに行って魔神を倒さないと・・・。

 

「あっ!目を覚まされましたか?」

 

イェーガーにそう尋ねて来るのははしばみ色の瞳をした少女ーーティッタだ。

イェーガーは軽く頭を振りながら答える。

 

「ああ、ティッタか。おはよう。・・・ところで、アレから何日経ったんだ?」

「アレから・・・?ああ、タトラ山での戦いからですよね?確か3日だったと思います。」

 

3日・・・。思ったより短いな。感覚では1週間くらい眠ってた気がするんだが・・・。

イェーガーはそう考える。

というのもイェーガーがこの力を使いルシアスを倒した時は1ヶ月程眠っていたからだ。

 

「あの・・・。何か召し上がりますか?」

 

ティッタがそう尋ねてようやくイェーガーは腹が空いていることに気づいた。

 

「そうするか。」

「でしたらご用意しますのでしばらくお待ちくださいね!」

 

ティッタは元気よくそう言うと幕舎を飛び出して行った。

・・・元気だなあ。

イェーガーはあくびをかみ殺しながらそう思う。

すると、今度は別の聞き慣れた声がした。

 

「イェーガー殿?お目覚めと聞きましたが?入ってもよろしいですか?」

「ん?リーちゃんか、おはよう。別に良いよー。」

 

イェーガーは伸びをしながらそう言う。

ほどなくしてリムアリーシャが入ってくる。

 

「おはよう、リーちゃん。」

「ええ。おはようございます。もう大丈夫なのですか?」

 

リムアリーシャがそうたずねる。イェーガーは笑いながら大丈夫だと答えると真剣な表情となって尋ねた。

 

「あの後どうなったんだ?クソガーー・・・リュドミラとは話がついたのか?」

 

イェーガーがそう尋ねるとリムアリーシャの代わりにティグルが答えた。

 

 

ティグルによるとあの後、戦どころの騒ぎでは無かったらしい。オルミュッツ軍は護るべき砦が半壊しライトメリッツ軍も陽動作戦による被害は大きく両軍少なからず死者が出たという。

その後両軍は一時撤退を決断し事実上の停戦状態へと陥ったらしい。

 

 

イェーガーはそこまで聞いてなるほどと納得した。

確かにあんな化物(クロフォード)が現れたんだ。そりゃあ混乱もするか。

 

「と、いう事はだ。事実上の停戦状態に陥っただけでオルミュッツとの戦はまだ終わってないってことか?」

「一応な。」

 

ティグルがそう答える。それにリムアリーシャが続く。

 

「ですが、今回の戦でオルミュッツ軍は多大なる被害が出たはずです。そう簡単に態勢を整えれるとは思えません。」

「・・・それってこっちにも言える事だよな?」

 

イェーガーがそう尋ねるとリムアリーシャは頷きながら続けた。

 

「そうです。なので現状を考えみればかなり不味い状況へと陥ったと言わざるを得ません。」

 

イェーガーはそれを聞いてため息を吐く。

確かに・・・。相手があのクソガキーーリュドミラ・ルリエだけならばこれでも良かったかもしれない。だが俺たちの本当の敵はリュドミラでは無くブリューヌに蔓延る害虫(テナルディエ)だ。

ただでさえ強力なテナルディエ軍に加えて魔神の脅威・・・。今回、魔神の力を見た兵士からすればかなり不安だろう。

間違いなく士気に大きく関わるよな…。

そこまで考えてイェーガーは他の召喚師について思い出した。

 

「そう言えば、パリスとルジーナはどうしたんだ?リュドミラの方に行ったままなのか?」

 

イェーガーがそう尋ねるとリムアリーシャは頷いた。

 

予想通り、だ。だが分からない。何故ルジーナはああまでして魔神との接触を避けるんだ?調査任務にせよ今回は少しやり過ぎのような気がする。それこそルジーナらしからぬやり方だ。

 

「あのーー」

 

そこまで考えた時不意に声をかけられてハッとした。声がした方を向くとティッタがおそるおそるといった様子で入ってきた。

手に持つ食器からは食欲をそそる香ばしい匂いがする。

 

「お食事のご用意が出来ましたよ。」

 

ティッタがそう言う。イェーガーは頬の筋肉を思わす緩めていた。

 

「ありがとう。二人とも難しい話は一旦終わりにして食事にしようか。二人ともまだなんだろ?行こう。」

 

イェーガーはそう言って立ち上がり幕舎を後にした。



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魔神への考察

今回はお試しに漢数字ではなく数字を使っています。


イェーガーが遅めの朝食をとり息を吐いているとエレンが現れた。

 

「イェーガー、体はもう大丈夫なのか?」

 

白銀色の髪をした戦姫はイェーガーにそう尋ねる。

イェーガーは軽く笑いながら答えた。

 

「ああ。俺ならもう大丈夫だ。それより・・・。」

「ああ、分かってる。こちらの状況だろう?」

 

イェーガーは頷く。

リムアリーシャからある程度に事は聞いているがやはりもう1度確認したい。

イェーガーはエレンを見つめて尋ねる。

 

「どういう状況だ?いや、もっとぶっちゃけて聞くと戦いは継続可能なのか?」

 

イェーガーは尋ねる。

エレンは顔をしかめた答える。

 

「いや、深刻だ。兵の士気は悪くない。アレだけの事を経験して未だ士気が高いのは誇れる事なのだが数に問題がな。」

「・・・そうか。」

 

イェーガーが表情を暗くする。リムアリーシャがそのイェーガーに心配気に声をかける。

 

「イェーガー殿、決して貴方の所為ではありません。むしろ、貴方は上手くやっていた様に思えます。・・・あの様なモノに遭遇しこれだけの数が生還できたのは紛れもなく貴方のお陰です。恐らく、我々だけでは全滅していたでしょう。」

 

その言葉にエレンが少し顔をしかめながら続ける。

 

「まあ、全滅といかなくても今よりももっと被害はでたと思う。イェーガー、私からも感謝させてもらう。」

 

イェーガーはエレンとリムアリーシャ、そしてティグルを順に見つめる。

ああ、こいつらはーー

イェーガーは思った。

こいつらの眼はまだ死んでいない。まだ闘志を燃やし戦う者の眼だ。・・・だったらおれが落ち込む訳にはいかない。この戦いで失われた生命の為にも尽力しよう。

 

「ところで、イェーガー。1つ聞きたい。」

 

ティグルが尋ねる。

 

「アレが・・・テナルディエの元にいる魔神って奴なのか?もしそうなのならこれ以上お前が戦う理由はーー」

 

「残念ながらそいつは違う。てめぇらが相手にしてんのはあんな小者なんかじゃねー。」

 

幕舎の外から聞き覚えのある声がする。

イェーガー達が幕舎の入り口に目をやるとそこにはルジーナが立っていた。

 

「お前は・・・確かリュドミラの元にいた・・・?」

 

エレンがそう呟く。

ルジーナはその呟きに答えずにイェーガーは目をやる。

 

「ハッ!またぶっ倒れやがったのか?まあ、ノロマなお前にはお似合いだな!」

 

ルジーナがそう嘲笑する。エレンがカッとなり何か言おうとする前にリムアリーシャが口を開く。

 

「いいえ。瓦礫に逆さまに挟まっていた貴方と違います。イェーガー殿はノロマなどではありません。」

 

その途端にルジーナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

というか、ルジーナ・・・。お前また変なとこに挟まっていたのか・・・。どうりであの戦いの時姿を見ない訳だよな。

それはさておき、アレがテナルディエの魔神ではない、か。

イェーガーはルジーナの意見について考える。

 

ふむ・・・確かに戦闘力だけならかつて戦ったユグレイアに匹敵する様な気がする。

だが、相手はゲートを操れるような魔神だ。

ルシアスと比べたらあいつ(クロフォード)は全然強くないな。ーーまあ、ルシアスは魔神ではなかったが。

・・・アレがテナルディエの元の魔神ではないとすれば魔神はもう一体いることになるのか。この世界には。

 

イェーガーはティグルに目を向け答えた。

 

「ティグル、ルジーナの言っていることは多分本当だ。あいつは俺たちの敵の魔神ではない。



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召喚師の推測

「アレ以外にもまだいるなんて・・・。」

 

ティグルの表情が暗くなる。

イェーガーとルジーナの推測にエレンの表情にも僅かながらの翳りが見えた。

まあ、それはそうか。魔神と戦う俺達からしても未知の脅威だ。加えてこの世界の人達からしたら初めて遭遇する化け物だ。しかもそいつは戦姫でさえ歯が立たない様な相手だときたものだ。不安になるのは当たり前だろう。

イェーガーがそう思った時リムアリーシャが声をかけた。

 

「それにしてはイェーガー殿達は落ち着いているように見えますが・・・何か策がおありなのですか?」

 

そう言われてイェーガーは少し苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

策・・・か。そんな感じに呼べる代物では無いけど考えならある。いや、推測だったけどコイツ(ルジーナ)が来たことでほぼ確信に変わった。

 

「・・・その表情だと、てめーも同じ考えの様だな。」

 

そう言われてルジーナの方に目をやると彼も苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

「そうか。お前と同じ考えに辿り着くとは奇遇だな。」

「ケッ。嫌でも辿り着くだろう。というよりそれでもつかなかったらどんだけウスノロなんだよ。」

「ちがいない。」

 

イェーガーがそう肯定するとエレンが尋ねる。

 

「どんな考えだ。イェーガー。こんな奴と同じ考えの様だがロクな考えではないのだろう?」

 

 

おい!そいつはどういう意味だ!と、ルジーナが抗議の声をあげるがイェーガーはお構い無しに頷く。

 

「予想だが・・・俺とルジーナ以外にも召喚師が来てる。それも・・・俺の知り合いだろうな。多分。」

 

カルとセリアはもう間違いないだろう。となると後は・・・お師匠様(あのジジイ)か。恐らく。

 

「知り合い?何故そんな事がわかる?」

「召喚師は慢性的に人手不足なんだよ。魔神と戦うからってのもあるけど誰でもなれる訳では無いっていうのが一番だな。そして、今回俺にこの任務を依頼したのはお師匠様だ。お師匠様ならこうなる事を見越していたとしても不思議じゃあない。事実ルジーナはこっちにいたからな。なら、後はあいつらが来るのはほぼ確定だな。」

 

イェーガーは事も無さげにそう答える。その答えにルジーナは顔を顰める。

 

「チッ。てめーはやっぱり肝心な事はわかってねーのか?それとも敢えて答えてねーのか?」

 

イェーガーはため息を一つ吐き答える。

 

「敢えてだよ。ぶっちゃけ対策の取りようが無いだろ?話したところで。」

「どういうことだ?」

 

援軍が来るかもしれない。本来ならその報せに喜ぶべきだろう。特にそれが自らの知り合いともなればなおさらだ。

だがそれとは裏腹にイェーガーの表情は暗いままだった。

そのイェーガーにティグルが尋ねるとイェーガーは答えた。

 

「ティグル。俺がこの世界に来た時一番最初に着いたのはアルサスだった。ということはだ。お師匠様たちも出て来るとするならアルサスだろう?で、アレだけ派手に戦ってたんだ。計算してこっちと関わらなかったコイツと違ってお師匠様たちならこっちにくるはずだ。だが、一向にそんな気配は無い。つまり、お師匠様たちは魔神に遭遇して敗れたもしくは合流できない状態にされたかって事だ。」

「そんな・・・。それじゃあ結局状況は変わってないんじゃ・・・。」

 

ティグルが青ざめた表情でそう呟く。イェーガーは首を横に振り答えた。

 

「いや、そうでも無いぜ。少なくとも生きてるとは思うぜ。」

 



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黒騎士ロラン

ようやく…登場です。


「死んではない・・・ってなんでそんな事がわかるんだ?」

 

エレンがそう尋ねるとイェーガーはあっけらかんとして答えた。

 

「勘だ。」

 

イェーガーがそう言うと辺りに呆れた空気が漂い始めた。

 

「勘ってお前・・・」

「イェーガー殿・・・」

 

エレンとリムアリーシャが半眼になりながら呟く。

 

「いや、マジなんだって!と言うか、この程度でお師匠様がくたばる訳がねえよ。」

「フン。それには同意だ。むしろこの程度あのジジイどもがくたばればこっちはどれくらい楽なんだっつーの。」

 

イェーガーの言葉にルジーナが同意する。

 

「けど結局の所どうするのかしら?このままでは打つ手が無いのも事実でしょう?」

 

気を取り直しパリスがそう言うと再び部屋に暗い空気が漂い始める。

参ったな・・・。このままじゃ、碌な案が出ないぞ。

会議はまだまだ続きそうだとイェーガーはため息をついた。

 

 

 

 

 

場面は変わりブリューヌ王国西方ーーザクスタンとの国境地帯。三千を超えるであろう騎兵の一軍がブリューヌとザクスタンの国境を越えようとしていた。

騎兵の一軍の正体はザクスタン軍だ。ブリューヌ王国が内乱で混乱している隙を狙い侵攻を始めたのだ。この侵攻が成功すればブリューヌ王国は壊滅状態へと陥り事実上滅亡するだろう。

そう成功すればの話だ。

国境を越え一時間。ザクスタン軍の前を別の一軍が遮るように立ちはだかる。それはブリューヌ王国騎士団の一つ精強さにおいてはブリューヌ王国随一とも称されるナヴァール騎士団だ。彼らはザクスタンとの国境警備の任について長くまさしくこの地域の守護者であった。しかしその数はザクスタン軍よりも少数であり普通であれば敗北は必至とも呼べる状況であった。しかし騎士達の顔に不安はなくそこには絶対の信頼と自信に満ち溢れた表情を浮かべていた。

騎士達の中から一人の騎士が姿を現す。その姿は全身真っ黒な鎧で覆われており搭乗している馬も黒で統一されていた。

その騎士は迫り来るザクスタン軍に叫ぶ。

 

「ザクスタンのネズミども!また懲りずに我らの大地を汚しにきたか!古びたチーズならくれてやる!さっさっと引きあげろ!」

 

その叫びは天地を揺るがす程を大きくザクスタン軍の中にはその声を聞き悲鳴のような声を上げる者もいた。

 

「黒騎士だ!」

「黒騎士ロランだ!もうおしまいだ!」

 

黒騎士ロランーー若くしてナヴァール騎士団の団長を務め王家より与えられた大剣ーー《不敗の剣》デュランダルを操る騎士。その強さはブリューヌ王国では並ぶ者が居ないとされる程であり騎士達が自信を失わないのもこの騎士の存在が大きい。

 

「行くぞ!」

 

ロランはそう号令を掛けると一目散に敵を目掛けて突っ込んだ。

ロランは恐ろしい速度でザクスタン軍の先頭に迫ると無造作に大剣を振るった。

 

グシャ!

 

嫌な音がなると同時に5人の騎馬兵達がその命を失う。5人が命を失った事を認識するよりも早く次の一振りが放たれ更に多くの騎馬兵の命が失われる。

 

「う、うわあああああ!」

「こ、殺せ!殺せぇええええ!」

 

その様子を見たザクスタン兵が口々にそう叫ぶ。しかしそうして叫ぶ間にもロランが振るうデュランダルはザクスタン兵の命を奪っていく。

 

「ば、化け物か!コイツは!ええい!俺がやる!」

 

そう言い一人の大柄な騎士がロランの前に立ちはだかる。彼は巨大な鉄製のハルバードを構えロランの一撃を受け止めようとした。

 

しかし、デュランダルはアッサリとハルバードを真っ二つにした。

 

「へ?」

 

大柄な騎士がそう間の抜けた声を上げると同時にその命は失われ地面に叩きつけられた。

 

「ひ、ひえええええ!」

「お、お助けええええ!」

 

そう叫びながらザクスタン兵達は算を乱して逃げ出す。その兵達をロランをはじめとするナヴァール騎士団の面々は追撃する。

追撃を始めて少し経った頃、ロランの目にある物が映った。

 

ーーアレは、投石機か?

 

ブリューヌとザクスタンの国境線沿いに巨大な投石機が設置されていた。そしてその投石機に構えられた岩はロラン達を狙っていた。

 

「放てぇえええええ!」

 

指揮官らしき男がそう叫ぶと同時に岩が恐ろしい速度で打ち出される。

 

人間相手に投石機を持ち出すとはな・・・。

 

ロランは内心そう苦笑するとデュランダルを両手で構えた。

 

そしてーー

 

「!!」

 

その場にいたザクスタン兵達は目を疑った。岩は寸分の狙いを違わずロランに放たれた。しかし、ロランはその岩をデュランダルで切り裂きそしてーー粉々に打ち砕いた。

 

「笑止!この様なもので俺を止められると思ったか!ザクスタンのネズミどもよ!」

 

ロランは何事も無かったかのように叫びながら迫ってくる。

ザクスタン兵達はその黒騎士に戦慄を覚えざるを得なかった。

 

「う、うわああああああ!」

 

ザクスタン兵達は再び算を乱して逃げ出す。

結局ロランの追跡はザクスタン軍が国境を越えザクスタンへと戻るまで続いた。



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蠢く闇

「了解した。テナルディエ公には仔細承知したと伝えられよ。」

 

ザクスタンとの戦闘後、若き黒騎士ーーロランを待っていたのはテナルディエの使者を名乗るものだった。

ロランは使者から手紙を受け取り目を通した後鋭い視線で使者を見抜きながらそう告げた。

使者は少し顔を青ざめながら頷くと逃げ出すかのように慌てて外へと出て行った。

 

「ロラン、テナルディエ公はなんと言ってきたのだ?」

 

そう声をかけるのは金髪ロングヘアーの若い騎士。ナヴァール騎士団副団長オリビエだ。ロランはオリビエの方に向き直り苛立ちを隠さないまま答えた。

 

「俺たちに賊を討伐せよとのご達しだ。」

「賊?」

 

オリビエがおうむ返しに言うとロランは頷いた。

 

「ヴォルン伯爵という貴族を知っているか?その男が反旗を翻しジスタート軍をブリューヌ国内に招き入れたらしい。」

 

オリビエの表情が一瞬驚愕に包まれる。が、それは一瞬のことですぐに冷静な表情に戻るとロランに尋ねた。

 

「俺たちが向かうのは良いとしてその間ここの守りはどうするんだ?」

「テナルディエ公が二国間で停戦協定を結ぶらしい。」

 

ロランがそう答えるとオリビエは少し訝しげな表情を浮かべた。

 

「アレならばそれくらいの事はするだろうが・・・。数はどれほど連れて行くんだ?」

 

オリビエのこの問いにロランは簡潔に答えた。

 

「全軍だ。」

「全軍だと!?この砦にいるナヴァール騎士団全軍でか!?」

 

オリビエが驚愕しながらたずねる。ロランはオリビエに答えた。

 

「そうだ。今回ヴォルン伯爵が引き込んだジスタート軍を率いているのは常勝無敗、一騎当千の戦姫らしい。」

 

ロランの言葉にオリビアは耳を疑った。

戦姫ーーその名はザクスタンとの国境であるこの地にまで届いている。一度戦場に出れば類い稀なる武勇や知略を発揮し戦場を縦横無尽や駆け抜ける英雄達。

 

「・・・本気か?しかし、何故戦姫がヴォルン伯爵などという田舎領主に力を?」

 

そう尋ねるオリビエにロランは答える。

 

「わからん。」

 

だが、と続ける。

 

「真偽はどうあれ我が国の領土を同盟国でもない相手が荒らしまわってるのであればこれを捨て置くことなどできぬ。」

 

その目に静かなる炎を燃やしながらロランは呟く。

若き上司のの怒りを感じながらオリビエは尋ねる。

 

「いつ出発する?」

「明日だ。」

 

黒騎士は短く答える。

 

そして、戦乱吹き荒れるブリューヌにもティグル達にも大きな転機が訪れようとしていた・・・。

 

 

 

一方 ーー

 

どこかの地下にて

 

1人の老人がいた。

長いローブをまとっており顔が隠れているため男性か女性かはわからない。その老人は二頭の竜の亡骸を観察していた。

 

「妙じゃな」

 

誰に言うでもなく老人はひとりごちる。

片方の竜は地竜の亡骸だ。こちらは真っ二つの状態で発見された。

老人の興味を引いているのはもう片方の亡骸であった。

それは飛竜の亡骸だった。しかしこちらは真っ二つではなくまるで内側から破壊されたかのような状態であった。

 

「この力の残滓・・・。『竜具』とは異なる。まさか・・・。」

 

老人が呟く。その時、老人の前に若い男が姿を現わす。

 

「ドレカヴァクの爺さん、呼んだかい?」

 

男は陽気な感じで老人ーードレカヴァクに声をかける。

 

「ようやっと来たか。お前に頼みたい事があっての。」

「へぇ?」

 

若い男は片眉をあげた。

 

「珍しいね。爺さんが僕に頼み事なんて、明日は槍がー」

「弓が現れた。確認して来てくれんか?」

 

男の軽口を遮るようにドレカヴァクが告げると男が驚いた表情に変わった。

 

「本当かい?爺さん。」

「まだ、可能性の範囲じゃ。じゃが・・・。」

 

ドレカヴァクは目の前に横たわる竜の亡骸を指差しながら告げる。

 

「この傷は『竜具』によるものではない事は確かじゃ。」

 

そう言われて男は竜の亡骸に目をやる。

なるほど、言われてみれば何かが違う。上手く表現はできないが残された力の残滓ーその源が異なるそんな気配だった。

 

「けど、いいのかい?爺さん?妙な連中もいるのに迂闊に動いちゃって?」

 

男がそう尋ねるとドレカヴァクは含み笑いを浮かべる。

 

「関係あるまい。弓が現れたのなら我らの宿願、果たされる日も近いということ。であるなら異界の来訪者風情に何ができようか。」

 

へえー。と、男は興味なさげに呟くとドレカヴァクに手を差し出した。

ドレカヴァクはその手に大量の金貨を握らせた。

男はニヤッと笑うとその金貨をーーひと口に喰らい尽くした。

 

「じゃあ、行ってくるよ。爺さん。」

 

男はそういうとその場から溶けるようにして消えた。

 

「ああ、精々気をつけてな。ヴォジャノーイよ。」

 

ドレカヴァクは虚空に向かって声を上げた。

 

こうして、悪意の輪は動き始めたのだ。



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番外編 最強は誰がために
予告編


中途半端ですが番外編の予告エピソードですm(_ _)m


こんなはずじゃ無かった。

俺は薄れゆく意識の中でそう思う。

こんなはずじゃ無かった。俺は、最強で誰にも負けない。

そう思っていた。・・・アレに遭遇するまでは。

くそ・・・。ここまでかよ・・・。

その思いを最後に俺の意識は途切れた。

 

 

「逆らう者には死あるのみだ!容赦するな!」

 

褐色の肌をした軽装備の兵士が叫ぶ。他の兵士達も声をあげ略奪を欲しいままにする。

ここはアニエス地方。ブリューヌ王国の南部で大国ムオジネルとの国境にあたる場所だ。ブリューヌ国内にて内乱が勃発してからはや3ヶ月。ブリューヌ内部の混乱に乗じてムオジネルは行動を開始。アニエス地方への侵略ーーつまり、ブリューヌへの侵攻を開始した。自国の混乱のスキを突かれた国境守備部隊はなす術なく敗走。後にはムオジネル軍からの略奪が待つばかりであった。

 

「おい!女がいたぞ!」

 

一人のムオジネル兵が嬉々としてそう叫ぶ。

ムオジネルでは奴隷文化がある。だからムオジネルの略奪対象は作物や物のみならず人も含まれるのだ。

ムオジネル兵に見つかったのはまだ10にも満たない少女とその両親だ。少女の両親は互いに顔を見合わせると一心不乱にムオジネル兵に組み付いた。

 

「ーー早く逃げるのよ!」

 

娘の名を呼びながら母親は叫ぶ。

 

ーーおかあさん!!

「ーー早く行くんだ!ここは私達が食い止める!」

 

少女の叫びに対して父親が叫ぶ。ムオジネル兵といえど二人に組みつかれては動けなかった。

 

「くっ!応援を頼む!早くしろ!ガキが逃げるぞ!」

 

ムオジネル兵が叫ぶ。

少女は涙を流しながらその場を逃れる。

 

 

少女は走った。見知った道も薄暗い路地裏も昨日まで友達との遊び場になってた道も走り抜けた。

その後ろからはムオジネル兵が迫る。

逃げなきゃ。逃げなきゃ。

少女はそう思いながら走る。だがついに路地裏に追い込まれてしまった。

 

「ケッ!このクソガキが!手間取らせんな!親見てぇにぶち殺されたいのか!?」

 

ムオジネル語を知らない少女にその言葉の意味がわかるはずが無かった。だが少女は全てを悟りその場にひざから崩れ落ちる。

ムオジネル兵が少女ににじり寄る。

 

ーー助けて。

 

少女の口から言葉が溢れる。ただ一つの切実な願い。

 

ーー助けてよ・・・。おかあさん、おとうさん・・・。

 

ムオジネル兵がまた一歩近づき手を伸ばす。少女は叫んだ。

 

ーー誰か助けてよぉ!

 

その時だった。

空に光り輝く陣が形成されそこから光が落ちてくる。

 

「ぐわあああ!」

 

ムオジネル兵が吹き飛ぶ。が、光で少女には何も見えなかった。

光が見え晴れた時そこには槍と剣を担ぎ白い服を着た目つきの悪い男が立っていた。

 

「あ''?なんだここは?」

 

男は不機嫌そうに言う。

 

「ク、クソガキィィィ!」

 

吹き飛ばされたムオジネル兵が起き上がり少女に襲いかかる。男は鬱陶しそうにムオジネル兵を見ると無造作に槍を振るう。

槍は正確にムオジネル兵を襲い槍に殴られたムオジネル兵は吹き飛び壁に叩き付けられた。

叩き付けられた兵士はカエルのような声を上げると気を失い動かなくなった。男は自分の背後にいる少女に気付くと不機嫌そうに尋ねた。

 

「おい、そこの。ここはどこだ?」



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願い

今回は番外編の投稿ですm(_ _)m
本編更新は今しばらくお待ちください。


はじまりは唐突だった。

何の前触れもなしにーーいや、前触れはあったのかもしれない。私達が気づかなかっただけなのかもしれない。ーー彼らは攻め込んできた。

 

ー蹂躙せよ!略奪を欲しいままにせよ!

 

彼らはただそれだけを声高に叫びながら進んできた。

私達は、どこかで期待していたのかもしれない。きっと国境を守る騎士達が彼らを撃退してくれると。そうでなくとも神様が助けてくれると。

 

だけど、現実(かみさま)は非情だった。

 

 

 

焼け焦げた臭いが鼻に付く。あちこちから悲鳴が響く。

だが私にとってそんなことは最早どうでもよかった。何故なら私の視線は目の前に立つ男に向けられていたからだ。

 

「ーーおい!!聞こえたんだろ!答えろ!此処は何処だ!?」

 

男が苛立ち紛れにそう尋ねてくる。その目に宿るのは圧倒的な破壊の意思。暴虐の力を目の当たりにし少女はある意味での恐慌状態へと陥っていた。

 

ーー殺される!助かったと、神様が助けてくれたと信じていたのに!

 

少女はそう思った。神様が助けてくれるなら少なくとも目の前にいる男よりもずっとマシな方を連れてきてくれるはずだ!

もうすぐ自分は死ぬ。そう思うと少女は言葉にしようのない恐怖に囚われた。

 

ーー死にたくない!やめて!殺さないで!

 

少女はそう叫んでいた。

 

「あ"?何言ってやがる?此処が何処か教えれば命まではとらー

ーー殺さないで!いやだ!死にたくない!

「おい!話を聞きやがれ!じゃなきゃ本当にーー」

 

男がそこまで言った時背後から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「いたぞ!殺せ!」.

 

叫びとともに足音が近づいてくる。

男は振り向きざまに槍を振った。

 

「うるせぇ!黙りやがれ!」

「ガハッ!」

 

その一撃で接近していた褐色の兵士ーームオジネル兵は首をあらぬ方向へと曲げ壁に叩きつけられた。

・・・チッ!鬱陶しいな!クソが!

男はその場を後にしようとする。しかし、男を少女の泣き叫ぶ声が引き止める。

殺さないで、ただ一言、少女は叫び続けていた。

哀れな奴だ。

男はそう思い後にしようとする。

だがーー

男は再び歩みを止め泣き叫ぶ少女に視線を向ける。

それはただの気まぐれだったのか憐れんでの行動なのかはわからない。だが、男はただ一言少女に尋ねた。

 

「お前ーー」

 

名前は?

 

ーー私はーー

 

少女は泣きじゃくりながらも答える。男は静かに目をやるとため息を一つ吐き剣を腰に差し少女を肩に担ぐ。

 

ーーひっ!やめて!離して!

少女が叫ぶ。

我慢の限界だ。

 

「うるせぇ!死にたくなければ黙ってろ!」

 

男はそう叫ぶと少女を担いだまま地面を蹴る。

ただそれだけで男の体は空へと舞い上がり男は屋根へと着地した。

 

ーーえ?

 

少女は涙で濡れた顔で男の人背中に目をやる。

男は自分に向けられる視線に気づくが何も言わずに走り出す。

とにかく…今は此処から離れるか。このガキさえいなければ下の連中なんざぶっとばせるんだがな…。

男は移動しながらため息をついた。



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