ハリー・ポッターと妄執の乙女 (Rios)
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ハリー・ポッターと賢者の石編
プロローグ


初投稿。
プロローグ故にハリー・ポッター要素薄


 ロンドンの郊外の孤児院。その庭先で身の丈より大きい箒を抱え、掃き掃除に励む少女が1人。

 

「ようやく半分ね。このペースじゃ暗くなっちゃうわね。さて、急がないと.........」

 

 彼女の名前はアメリア。

 生まれる前も、生まれ変わった今も、自身が幸福とは無縁な存在であると、自覚していた。

 アメリアは、生まれてからしばらくすると、経験した事のない記憶や、知りもしない知識が、自身の内に存在する事に気がついた。

 しかし、それらは彼女が生きていく上で、強く影響を与えずにはいられない物であり、現在の境遇において、それを誰かに話せば、イジメや迫害を呼び起こすだけだと、彼女は前世の人生経験から理解している。

 

「小説の中に生まれ変わりましたなんて、誰も信じないわよ」

 

 アメリアは庭の落ち葉を掃きながら、ため息をついた。掃除炊事は当番制であるが、女性である彼女にお鉢が回ることが多々あり、物思いに耽るには時間が足りないとばかりに、手は止まらず動いている。

 年齢にしては、しっかりしていると評判の彼女であるが、生まれ変わる前の知識や記憶から、様々な事を、生まれながらに把握できているにすぎない。

 そういう意味では、一概に無用と言い切れないところある。ましてや、転生者という常識からハズレた存在となった彼女が、自らの状況を認識できたのも、それらのおかげである。

 どうやら、この世界が、ハリー・ポッターシリーズとして、世界的なベストセラーとなった小説と、類似した場所、または、そのものであると......。

 しかし、彼女の前世において、あろうことか、ほとんどこの小説に興味をもたず、少しも読んでいなかったのである。

 テレビ放送で、時たまやっていたのを見たり、ブームの際に、人に聞きかじった内容が、朧気に記憶できている程度である。

 主人公の少年が眼鏡だとか、お辞儀が大切だとか、脇役がフォイだとか、有効に活用できるとは思えないものばかりであった。

 

「これなら過去や未来に飛ばされた方がましだった」これまで 幾度か思った事を、頭に過らせながら、彼女は手早く仕事を片付けた。

 

「......少しだけ休めそうかな。世話になってるにしても、限度があるわよね」

 

 アメリアは箒を置き場に戻し、孤児院の中で彼女が生活する、小さな部屋へと引き返した。

 部屋のベッドに腰おろし、窓から外を眺める。外はもう夕闇の降りる気配を、漂わせていた。

 本来であれば、孤児院の子供は、共同の部屋にすし詰めとなるべきところ、彼女だけは狭いながらも、個室をあてがわれている。

 この扱いについて、自身の言動や行動の為だろうと、当初は考えていたが、最近になってそれだけではないと悟らざる得ない出来事が、彼女の身におきた。

 

「ホグワーツ魔法魔術学校。アルバス・ダンブルドア。多分だけど、テレビで見たおばさんとおじいちゃんの片方だと思うんだけど......どっちだっけ?」

 

 今から1ヶ月程前、彼女が10歳の誕生日を迎えた時、窓際にやってきた白いフクロウが、1通の手紙を置いて飛び差って行った。

 彼女はこれにより、ようやく自身がハリー・ポッターシリーズの世界に、生まれ変わったと確信した。

 そして、自分にも彼らと同じ魔法の世界に入る資格があるのだと......。

 しかし、彼女がこの接触が、常の例と異なる点があることに気がつくまでに、今しばらく時を要する。

 

「私が魔女見習いで、1年後にお迎えが来るってのはわかったんだけど、別にこれだけなら無視しても良かったんだけどねぇ」

 

 前世の記憶がなければ、たちの悪いイタズラと無視するが、これが真実であり、異なる理で満ちた魔法の世界への誘いだとわかった上で、彼女とって無視できない一文が知るされていた。

 

(貴方の両親について知りたくば、ホグワーツに足を運ばれたし、この学舎は選択をする者を常に歓迎する)

 

 アメリアが物心ついた時、彼女の両親はいなかった。

気がつくと、ロンドンの孤児院にいて、よくわからぬ前世の記憶や知識を抱えていた。

 最初は奇妙の悪い娘に、恐怖して捨てられたかと、思ったが、孤児院でそれとなく聞いた範囲では、愛情の不足や、金銭面の事情で、捨てられた訳ではないようだという程度が、聞き出せる限界だった。

 自らの生い立ちに不可解な点は多く、年に不相応な知識があるが故に、調べようと行動をして得たのは、不審と孤立のみであった。

 いや、1つだけ得た物はあったのだが......。

 

「はぁ。こんなことなら、ちゃんと見ておけば良かった。そうすれば、こんなに悩まなくてすんだのかも......」

 

 改めて、手紙を見つめ、考えを巡らすアメリア。

 別に彼女にとって、この世界の両親とは縁を結ぶ前に、消えてしまった存在であり、仇討ちだとかとか、絶対許せないとか、そういう負の念に囚われている訳ではない。

 

「お父さん、お母さん。白状な娘でごめんなさい。お祈りするから許してください」

 

 元来、信心とは無縁な国の住人として育ったが、こちらでは、生活する上で、関わりが多くなるため、自然な仕草で、冥福を祈りながら、アメリアは1つの決意をした。

 この先、このまま孤児院で過ごしても、前世と大きく変わることがない。それならば未知の世界へ飛び込んだ方が、早世した両親に報いる事ができるのではないかと......。

 そして、アメリアはそうするべき理由があった。  

 彼女の事を考えて、隠しだてする孤児院の世話役が、密やかに密談していた秘密。

 彼女は聞いてしまった。

 両親を殺害した人物の名前。殺人鬼と呼ばれるその名を......。

 

 そして、話を聞いた直後から、時々夢に現れる、黒髪と灰色の瞳を持つ男。その男の表情までは読めないまま、夢はいつも覚めてしまう。

 だから、確かめたい。生まれ変わった自分の運命変えた人の事を......。

 

「出会って、話して、まずはそれからよ。待っていなさい! シリウス・ブラック!」

 

 星の瞬く、その夜空を見上げながら、アメリアはこの世界で生まれてはじめて、生きる目的のようなものを、ようやく見つけられた気がした。




2015/01/19 改訂


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第1話 魔法の出会い

 

ーーーシリウス・ブラック

 

 今から約10年前に発生した大量殺人事件の犯人。12人の罪のない人々を、殺めた殺人鬼であり、不幸な事にアメリアの両親も、この中に含まれていたようだ。

 曖昧な表現になってしまうのは、彼女こと、アメリア・ブラウンは、その事件によって、天涯孤独の身となった上に、つい最近まで、その事実を知らずに生きてきたのである。

 

(知ってたとしても何もできなかったでしょうね。当時の私は赤ん坊だ。仮に前世の知識や、記憶があっても伝えるすべもなかったのだから.‥…)

 

 手元にある1枚の紙ーーーホグワーツ魔法魔術学校入学許可書。

 

 アメリアは片手で、パタパタとせそれを仰ぎ見つつ、物思いに耽る。

 現在、彼女はロンドン郊外の孤児院から、少し離れた市内にある図書館に滞在している。

 昨日、ダンブルドアと名乗る人物からの手紙がやってきて、丁度1ヶ月後に、今度は、ホグワーツ魔法魔術学校から、アメリアに面会を求める人物が孤児院に訪れた。

 その人物は、ミネルバ・マクゴナガルと名乗った。厳格な雰囲気を身に纏った女性であった。

 彼女は、自らの名と立場を明らかにした後、静かに一礼した。

 アメリアは、自身が怪訝そうな目付きをしているだろうなと自覚しつつ、俄然に現れた女性から目を話せないでいた。

 

(うわー、まんまテレビの中の人がいる。現実で芸能人に会っちゃた気分に近いけど......)

 

 前世で適当な暇潰し、友人と流してテレビで見た......。

 

【ハリー・ポッターと賢者の石】 

 

 朧気ではあるが、間違いない。本当に小説の世界にいるのだと、内心ため息をついた。

 

「はじめまして。ミス・ブラウン。先に送付されている手紙に目を通されていますか?」

「はい。マクゴナガルさん。」

「よろしい。それと教授をつけるように。ホグワーツに来るのであれば、今から慣れておくとよいでしょう。本日は、貴女に渡す物があって来ました」

 

 目の前にいるのは役者ではなく、正真正銘のファンタジー世界の住人であることを、マクゴナガルは直ぐ様しめしてくれた。

 翠玉色のローブの中から、優雅な手つきで、木の棒を取り出すと、アメリアの目の前で、一振りする。

 

「な、何もないところから本が、たくさん......」

「アメリア・ブラウン。これは貴女の物です。それとこちらを」

 

 マクゴナガルは、さらに袖の中から、1通の封書を取り出すと、アメリアに差し出した。

 震える手で何とか受け取り、恐る恐る開封し、中身を一気に確認する。 

 渡された封書には、アメリア・ブラウンは宛として、ホグワーツへの入学の案内、教科書、教材のリスト及び、魔法界の常識と書かれた小冊子が同封されていた。

 

「ああ、それじゃこれは・・・私の教科書?」

「そうです」

「で、でも、私。お金なんて持ってないです‼ こんなに沢山持って来られても」

「落ち着きなさい、ミス・ブラウン。これらは貴女に無償で提供される物であり、金銭は不要です」

 

 アメリアは、この突然振って沸いた上手すぎる話に、動揺を隠せないでいる。

 この教授は、身寄りのない孤児である自分に、無料で学ぶ機会を与えると言っているのだ。

 前世でも、勿論、今生においても、そんな機会とは無縁な人生を送るだろうと、半ば諦めていたのだが・。

 

「但し、貴女がホグワーツへ入学する希望した場合に限ります」

「はぁ。まあ、そりゃそうですよね。・・・マクゴナガル教授。いくつか質問していいですか?」

「はい」

 

 落ち着きを払った物腰で、質問を受ける態度を示した女性はまさに教職者であった。アメリアは己の疑問を口にする。

 

「私は魔法・・・使いなんですか?」

「ええ、貴女は魔女。私と同じく魔法を扱える素養を持っています」

 

 魔女という言葉に疑問を持ったアメリアは、先程受け取った魔法界の常識という小冊子を巡り、該当した項目に目を止めた......。

 

(魔女......魔法族で、魔法が扱える女性、男性は魔法使い。それじゃ......)

 

「私の父や母もそうだったのでしょうか?だから私も?」

「いいえ。違います。貴女は両親は魔法族ではありません。普通の人であるマグルでした」

「マグル?」

 

 また、独特な単語がでてきたよと思いつつ、何故か聞き覚えがあった。その言葉を調べて合点がいった。

(そうだそうだ。テレビでも眼鏡とフォイが、そんな口論してたような。ようは一般人ってことか)

 

 新しい情報が次々と入る中で、状況が少しずつ理解できてきたが、新たに沸いた疑問もでてきたので、さらに問いかけてみた。

 

「何ぜ、私が魔女だってわかるのですか?」

「それについては、私からではなく、アル......ダンブルドア校長から、お伝えする方がよいでしょう。ただ、それだけでは貴女の疑問が残るでしょうから、今の時点で1つだけ教えて差し上げます」

「は、はい」

 

 マクゴナガルは、アメリアの側に歩み寄り、耳元でそっと囁いた。

 

「貴女は特別であり、我々はそれを知っている」

「ええ!?」

 

 予想外の方向とその言葉に、アメリアは思わず大声をあげる。教授は指先を口元に当てるような仕草をした後、次のように告げた。

 

「本来、ホグワーツへの入学は、11歳の誕生日までに魔法の才能を示している必要があるのですが、貴女は既にそれを示しているとだけ」

「で、でも。私にはそれが何なのか。さっぱりわからないし、自覚もないですよ」

「だからこそ、魔法使いと魔女は、己の魔法魔力を制御できるよう、若い内から励む必要があるのです」

「なるほど」

 

 結局、どういう力が扱えて、いつ示したのか、肝心な点は触れらないまま、その場の話は進み、アメリアはホグワーツ魔法魔術学校へ入る事をあっさり承諾した。

 孤児であり、貧困な自分に対しては奨学金制度があり、返還義務もないこと。さらに、言ってしまうと、アメリア・ブラウンはその必要すらなく、在学中、素行に問題なければ、無償で学ぶ機会が与えられる事が、マクゴナガル教授より伝えられたのだ。

 あまりに、魅力的すぎる条件に、二つ返事で答えてしまったとしても、やむ得ないだろう。

 入学すると返答を得て、満足そうに鼻を鳴らしたマクゴナガル教授は、立ち去る際に、有頂天になっているアメリアに言葉を残した。

 

「アメリア。貴女はその生い立ちのため、多大なハンディを抱えている。11歳の誕生日を迎えるまでの時間を有意義に過ごすようになさい。それと、入学時期が迫ったらホグワーツから職員を派遣するので、その者の説明をよく聞くように」

「はい。先生!」

「ふふふ、待っていますよ」

 

 

 

 入学許可の入った手紙から、机に視線を戻したアメリアは、うず高くつまれた教科書を見つめつつ、昨日の事を思い出しながら、思わず苦笑してしまった。

 

「あー、完全に舞い上がってたなぁ。でもしょうがないよね。特別か......豚もおだてりゃなんとやらって、感じかしら」

 

 入学時期は、11歳の年の9月1日。アメリアの誕生日は8月であり、約1年後。

 その期間に、魔法やそれ以外に関する全ての事柄を自主学習しなくてはならない。

 何せ読み書きだって、この世界に転生して、孤児院による最低限できる程度の教えによるレベルなのだ。

 幸い、ホグワーツにより、孤児院への説明が行われたようで、翌年の秋に厄介払いできるとわかると彼女の待遇は、劇的に改善した。

 日々の労働も最低限でよくなり、外出の許可も容易に通るようになった。しかし......。

 

「いくら時間が会っても、全然足りない‼」

 

 魔法が本当に使えるのであれば、翻訳の魔法を使えるようになりたいと、ないものねだりをしつつ、教科書の群れと向き合っている。

 

「さっぱりわからないけど、これって多分初歩の初歩なんでしょ。もう、辛いん......ですけどー‼」

 

 前世の知識や知恵も、語学には対応してくれないようで、このまま時間を無駄に浪費していくしかないのか、と思われたその時......。

 

「あら? 私と同じことを勉強してる娘がいるなんて、凄い偶然ね!」

「はい?」

 

 声の方へと振り向いた彼女の目の前に、栗色髪のちょっとボサボサした髪を靡かせた、少し大きいチャーミングな前歯の天使が立っていた。

 

「私、ハーマイオニー・グレンジャー。ねぇ! 貴女もそそうなのよね!」

 

 あ、この娘、見たことある気がする......ハイテンションなハーマイオニーに、ゆさゆさと揺すられつつ、思考するアメリア。

 彼女がこの出会いに、感謝するようになるのに、そう時間はかからなかった。

 

 




ホグワーツ入学資格的に、ハーマイオニーはイギリスにいるはず。


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第2話 騒々しい人達

 

「ハーイ、ミリー。お元気?」

「ええ、ハーミ。今日もよろしく」

 

 図書館の出会いから、季節はいくつか巡り、また夏がやってきていた。イギリスというより、このロンドンにおける夏は、前世の記憶に残る、東方の島国よりは、幾ばくか過ごしやすいとアメリアは考えていた。

 彼女達のこうした関係は、最初の出会いから、約1年という時間をかけて、互いを愛称で呼び合えるまでに、深まっていた。

 

(でも、いまだに呼び方に慣れないかな。外国のあだ名の付け方って違和感あるのよ。[ミ]ってどこからでてきたのみたいな。まあ、それはそれとして......)

 

 ハーマイオニー・グレンジャー。

 この世界に関わるきっかけを掴んだとはいえ、右も左も文字すら曖昧なアメリアが、最初で挫折を回避したのは、彼女の存在と、その性格によるところが大きい。

 マグル生まれで、親族に魔法族がいないハーマイオニーにとって、魔法という存在は、白いフクロウが届けたホグワーツの入学の誘いと、教科書や参考書のみであった。

 両親の理解や、手厚いサポートがあっても、一抹な不安がない訳ではなく、勉強に励む事で、打ち消そうとしていた矢先に、突如として現れたら同年代の女の子。

 嬉しさのあまり声をかけ、よくよくその境遇を聞くうちに、ハーマイオニーの義侠心に火がつくのに、さして時間はかからず、ほとんど、強制的にアメリアの世話を焼き、それは現在も継続している。

 

(まさか、こんなに近いところに、ハリー・ポッターのヒロインがいるなんて、思ってもみなかったけど、まさしく、これぞ天祐というべきか。ハーミに会えなかったら、途中で投げ出してたに違いない......けど)

 

 普段の彼女らしからぬ、浮わついた様子を感じたアメリアは、ハーマイオニーにその理由を聞いてみることにした。

 

「何だかご機嫌そうね」

「やっぱり、わかっちゃう?」

「んんー、まあ、そりゃ見てればわかるわよ」

「あら、驚かせようと思って、普段通りにしているつもりよ、ミリー」

「ハーミ。残念だけど、本と共にあるような貴女が、本以外の物を嬉しそうに抱えていて、尚且つ、私より遅く来ている時点で、説得力にかけてるわよ」

 

 指摘を受けたハーマイオニーは、ほんの少し不機嫌な様子を見せたが、それ以上に所有している品を見せたいのか、対面のイスを引いて、テーブルに静かに物を置いた。

 置かれた物は、長方形の箱。変鉄もないシンプルなデザイン。しかし、これが何であるか察して、アメリアは思わず大きな声を出しそうになった。彼女には、この1年の魔法に関する勉学の成果もあり、ハーマイオニーの喜んだ理由もよくわかった。

 ハーマイオニーの手で、ゆっくりと箱の蓋が空き、中にある真っ直ぐにしなやかさを感じさせる美しい1本の杖があら現れた。

 

「......綺麗ね。この持ち手の模様がとても素敵だわ」

「うん。私も昨日はずーっとベッドの中で、これを眺めて過ごしていたもの!」

「だから、遅かったのね。まあ......」

 

 はじめての、そして、自分のための杖を手にいれて、輝くような微笑みを浮かべるハーマイオニー。普段の澄ました様子は、微塵も感じさせない。

 まだ、親しい人の前だけに、本当に僅かだけ垣間見える彼女本来の魅力だとアメリアは感じた。しかし......。

 

(この娘は、自分に対して厳しい分、他人に対しても同じように接してしまうところがある。私は今後を考えて、望むところではあったから、問題なく感情を処理できた。前世なんてものを抱えた分、年の功も多少はあったけど......)

 

 内心に沸き立つ、不安のようなものをアメリアは感じていた。

 果して、ハーマイオニーと本当の意味で、同じ年頃の子供が、彼女の態度や性格に我慢できるのかと。余程物好きでない限り、対立したまま、疎遠になってしまう可能性は高い。

 悪く考えると、この世界の彼女にとって、最初の友達に自分がなったということが、この先に大きく影響を与えるのではないかと......。

 自らの思考に、囚われていたアメリア。そこにハーマイオニーは、怪訝そうな様子で声をかけてきた。

 

「どうしちゃったの?」

「ううん。なんでもないよ。つい、羨ましくなって、見とれちゃっただけ」

「ご、ごめんなさい。お勉強教える約束しておいて、遅くなった上に、なんだか自慢みたいに......」

「いいって、いいって。私から振ったんだから、気にしない気にしない。それより......」

 

 内心を悟られないように、話題を切り替えつつ、また思考する。

 ホグワーツ入学の誘いがあった夜に決意した事もあるが、アメリアは今後のいくつかの目標を定めていた。

 

 1つ目は、ホグワーツで魔法を学び、生きるすべを身につけること。2つ目は、転生した世界での、己の運命を変えた相手、シリウス・ブラックに会ってみること。最後に、この不器用な異世界の最初の友人をフォローすること。

 

 やる事ばかり増えていくが、不幸に嘆き、無気力に過していた前世や、去年までの自分より余程よいとアメリアは考えていた。この時は......。

 

 

 

「......本体はブドウ、芯はドラゴンの心臓の琴線か。」

「オリバンダーの店で買ったの。杖の素材について、色々なお話が聞けて、凄い為になったわ。オススメよ」

「と、ところで、学習用の素材ってホグワーツから提供はされるのかしら? 参考書に書いてある中には貴重な物は多そうで、ふ、不安じゃない?」

「最初のうちは、そうだろうけど、その内作ったり栽培したり、あるんじゃ......確か魔法薬学だと...」

 

 とりあえず、話題を魔法学習に反らして、事なきを得つつ、ハーマイオニーの買い物道中の内容を頭の中で、振り返ってみた。

 そして、彼女はその話の内容に、1点だけ疑問があり、思いきって聞いみることにした。

 

「ねえ。ハーミ。貴女が教材の買い物をする時に、ホグワーツの職員は同行したの?」

「いいえ。私の場合は、お父さんが付き添いしてくれるって話になったから、断ったみたい」

「なるほど」

 

 魔法使いの家系でない入学生に対しては、ホグワーツから、様々なサポートを行っている。

 孤児や貧困な家庭への資金援助や、マグル生まれの入学生には、親への魔法に関する常識や知識に関して、直々に出向いて説明や手続きを行うと、マクゴナガル教授から貰った小冊子に書いてあった。

 

「......ご両親の理解があるって素敵ね」

「やりたいようにやりなさいって......お家は歯医者さんだから、もっと小さい時は歯医者さんになるって言ってたみたいで、お父さんは少しがっかりさせちゃった」

「そっか......それじゃ立派な魔女にならなきゃだ駄目ね」

 

 ホグワーツ入学まで、一ヶ月と少し。アメリアの元にやってくるはずの、職員は訪ねてこない。それもあって、彼女は未だに教科書以外の支度ができていない。

 

「本当はミリーと一緒に準備したかったんだけど......」

「あ、そういうつもりじゃないし、誘われても、前に話した通り、無理だったから気にしないでいいよ」

「事情は聞いたから納得はしてる。ただ、友達とお出かけしてみたかったの」

「大丈夫だって。きっとこれからいくらでも機会はあるからさ」

「そう......そうね。次は一緒だって約束。絶対に」

「うん。わかってる」

 

(......納得してくれたかな。どのみち、無理について行ったところで、お金もないからどうしようもない。そんな事で気をつかわせ使わせても悪いだけ......さて)

 

 そうなると、アメリア自身が買い出しにいけるのは、前世の記憶にうっすらあるダイアゴン横丁の町並を歩く、凸凹な二人の存在が浮かび上がってくる。

 そうだ、そうに違いないと内心考えつつ、彼女は近いうちに、原作のそれも主人公である眼鏡の少年に会えるかもしれないと、心が浮き立つのを感じた。

 

「どうしたの?急にニヤニヤしだして」

「は、いや。なんでもない‼ 本当よ」

「??? 変なミリー。あ、もうこんな時間‼ ホグワーツ入学まで、少ししか時間がないし、こうしてるのは勿体無いもの。さあ、はじめましょう」

 

 テーブルに広げた魔法の杖を、手早く片付けながら、

ハーマイオニーはやる気に道溢れた様子で、促している。

 

「ち、ちょっとハーミ。そんなに急がなくても」

「私が遅刻したんだから、その分ちゃんと埋め合わせして、付き合うから安心してね」

「いや、そうじゃなくて......」

 

 アメリアは、この様子に多いに慌てる。

 これまでの付き合いで、ハーマイオニーがこうなると、ベリーハードかつ、噂に聞くバタービール並に濃い時間になることを理解していた。

 

(やばい。完全に勉強モードになってる。今日は楽できると期待してたのに......。そ、そうだ‼)

 

「気持ちは凄い嬉しいわ。でもね、ハーミ。今日は教科書持ってきてないじゃない。これじゃ教えるにしても大変だから......」

 

 そんな彼女の様子に、特別慌てる様子もなく、冷厳な事実をにこやかに告げた。

 

「覚えたから」

「はい?」

「1年生の習う範囲は、覚えてるから」

「な、なんだと......」

 

(これが公式キャラクターの実力? な、なんてインチキ。チートってレベルじゃないわよ。教科書何冊あったかわかってて言ってる!?)

 

「......なーんて冗談よね? 流石に」

「ふふふ、流石ねミリー。ちょっとだけ大げさに言ったのばれちゃったか」

「そ、そうよねー! いくらハーミでもそこまで......」

「闇の力―護身術入門、飛行訓練は実際やらなきゃ駄目よね! ああ、早くホグワーツで習いたい」

 

 結局、それ以外は全部分かるってことじゃないのそれ......。アメリアは嬉々として、本日の教鞭を取り始める友人の、授業を受け止めることとなった。

 

 

 

 その夜。

 ロンドンの夜空を、1台の大型バイクに乗ったヒゲモジャな大男と傷口だらけの眼鏡をかけた少年が、文字通り夜空を掛けていた。少年はバイクのエンジン音にかき消されないよう、大声でバイク持ち主に話しかけた。

 

「ねえ! ハグリット‼」

「なんだ? ハリー‼ どうした? トイレか?」

「違うよ‼ 僕達はどこへ向かってるんだか、教えて欲しいんだ‼」

「あ、すまねぇ。風が強くてよく聞こえん‼ もう少しで、着くから待っててくれ!」

 

 ハリーと呼ばれた少年は、半ば諦めつつ、今の状況に関して、悪いとは考えていなかった。

 ハグリッドは、ダーズリー家から連れ出し、自分を魔法の世界に連れ出してくれた人だ。元々、最悪な環境に身を置いていたから、これ以上、悪くなりようもないだろうと、楽観視してる。

 

「よし‼見えてきたぞハリー! あの建物だ!」

「え、待って‼ このままじゃぶつかるから、止まらないと!」

「大丈夫だ! おめぇさんの預け親の家の扉を、ぶっ壊しちまったのは、忘れてねぇ! 同じ失敗をする俺じゃないことを見せてやる」

 

 ヒゲモジャの大男ことハグリットは、彼が持つピンクの傘から、杖を抜き出し、目の前に迫る建物......アメリア・ブラウンの居室の窓に向かって、呪文を唱えた。

 

「アロホモーラ!」

 

 放たれた光は窓へと吸い込まれ、狙い通りの効果を示した......しかし。

 

「開いてないよ! ハグリット!」

「いっけね! こいつは鍵開けの呪文だった。伏せろハリー!」

「うわあああああああああ!!」

 

 

 

 壮絶な破壊音、乱雑に壊された家具、転がった大男、セロテープで補強された部分が壊れた眼鏡をずり下げた少年。そして、ハードティチャーハーマイオニーにしごき抜かれて帰ってきた部屋主。

 

「何が......どうしたらこうなるのよ!!」

 

 夏の夜空に、やっぱり不幸な少女アメリアの心の叫びが、木霊した。

 



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