聖痕の神殺し(凍結) (貴樹 怜)
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新生

とりあえず第一話投稿!ホレ(゚Д゚)ノ⌒

できれば一週間毎にとうこうしたいなぁ~


 熱い、体中が燃えるように熱い。

 炎の精霊王より加護を受けてこの様とは、さすがは彼の神か………

 そんな風に自嘲しながら右腕を炭化させ横たわる俺に対して胡坐を掻きながらまるで赤子の様に笑う益荒男が語りかけてくる。

 

「呵呵呵………御主、やりおるのう。契約者(コントラクター)とはいえ炎術師、神凪の身でありながらこの吾を殺すとは、天晴れじゃ!」

 

 そう破顔する益荒男だが何かに気付き俺を見ていたその眼は別の方向に向けられていた。

 それに釣られて見てみるとそこにはストロベリーブロンドのツインテール、童顔ながらも何処か蠱惑的でスレンダーな美少女が居た。

 

「ふむ、そうか。御主が噂のぱんどらとやらか。して、用はこ奴の新生かのう」

 

「ええ、そうよ、カグツチ様。それでこの子がわたしの新しい息子なのね。ふふっ。幼い、けれどその魂はこの世界の者ではないモノが混じっている………面白い子。でも、その御蔭で炎と風に愛されているのね」

 

 そう言ってパンドラと呼ばれた少女は俺の方に近づき、優しく頭を撫でながら甘く可憐な声で宣った。

 

「苦しいのね、でもね、我慢しなさい。その痛みはあなたを最高の高みへと導く代償なの、受け入れるのよ……さあ、皆様。祝福と憎悪をこの子に与えて頂戴!四人目の神殺し―――最も幼く魔王となる運命を得た異端の子に聖なる言霊を捧げて頂戴!」

 

「いいだろう!神凪和麻、炎と風に愛されし契約者(コントラクター)よ、神殺しの王として新生する御主に神凪の初代と同じく祝福を与えよう!御主はこの吾――焔と鋼の神の権能を簒奪する最初の神殺しだ。再びこの吾と相見えるまで誰よりも強く在れ!」

 

 

 

 

 走る、走る、走る、

 東京都の某所に存在する日本式邸宅。その廊下を巌の様な男――神凪厳馬が走っていた。

 自身の妻である深雪が産気づいたという知らせを聞き焦っている事に自分でも驚きながらも妻の元へと急ぐ。

 妻の深雪とは「官」「民」併合の為の政略結婚であった。「民」の術家でありながら日本政府に強力なコネクションを持つ炎術の名家、神凪一族の直系として生まれ炎術師の最高峰、神炎使いである自分と「官」の術家であり彼の御老公の祝福を受けた清秋院家の女であり当代随一の類い稀な呪力を持ったが故に体の弱い深雪。当然その夫婦生活に愛は無く、有るのは義務だけだと思っていた。

 しかし、生活をしていくに連れて(こんなことを言うのは柄でもないが)俺達は互いに惹かれ合っていった。

 ある時、深雪が懐妊した。その事は慶事であったが、医者が言うには母体である深雪の体が弱いため出産は母子共に危険らしい。医者は堕ろす事を勧めたがそれでも彼女は頑なに拒んだ。

 その時は自分たち夫婦の使命の為に妻の選択は正しいと俺は思っていたが、それを深雪は悟ったのか「確かに御役目は大事ですがそれ以上に私は私たちの子を産みたいのです」と毅然として言い放った。

その後、彼女が微かに震えていた事を俺は知っている。だからだろう、今もこうして焦りながら走っているのは。

 

 

 病院の産室の前に着いてから数刻が経過した時、室内から産声が聞こえてきた。それと同時にまるで太陽と見紛うばかりの莫大な量の炎の精霊が歓喜している事に気付いた。否、それだけでは無い。それと同数の風の精霊も歓喜している。室内に入ると数人の看護師が倒れていた。我ら神凪、清秋院それに正史編纂委員会が選出した者がだ。そんな中で医者が呟いた。「まるで火之迦具土神の様だ」と。

 

 

 

 

 転生、というものを御存じだろうか?輪廻転生とも呼称されヒンドゥー教・仏教などのインド哲学、東洋思想として有名なアレだ。もしくは黄昏の女神の理でも可。

 昨今では小説、二次創作などで広く使用されている概念の事だ。

 何故、態々こんな事を説明しているかというと、俺自身が体験した為と現実逃避の為だ。

 俺、神凪和麻 現在6歳は“風の聖痕(スティグマ)”の世界に転生し炎と風の精霊王と二重契約(デュアルコントラクト)してしまったのだ。

 

 

 現在、神凪一族は現宗主神凪重悟に娘として神凪綾乃が生まれたのと俺が二重契約したのを祝い宴の最中だ。因みに俺は疲れたのと酔っ払い共から逃げる為に縁側に避難中だ。

 さて、もう暫く俺の現実逃避に御付き合い願いたい。まずは何故俺が二重契約出来たかを説明しようと思う。

 そもそも“八神和麻”という存在は高スペックだ。原作において風の精霊王と契約した契約者(コントラクター)であり、仙骨を持ち、方術や身体能力に優れ成績も優秀で頭の回転も速い。いったい何処のチートだとも思える程の高スペックだ。

 しかし、唯一の欠点は炎術が使用できなかったという点だろう。神凪一族の直系として生まれたのにコレは致命的だ。

 ここで疑問に思うのはそもそも精霊術を使用するのに何が必要なのか?ということだ。原作から鑑みるに“血統”という解が出てくる。

 すると“八神和麻”はどうして風術を使用できたのか?という疑問が浮かび上がる。とある二次創作では“神凪深雪”が風牙衆の出身だからと結論付けていた。確かに納得できる解ではあるが我が母の旧姓は清秋院。確かに風の神格の加護を受けているが精霊術師ではない。

 そこで思い出してほしいのは風牙衆の存在だ。彼らの始まりはゲホウという邪神の信者だったという。彼らは原作においてその邪神に力を与えられ(狂っているとはいえ)風術が強化されていた。

 そこから何故神凪初代宗主が炎術を使用出来たかを考えると精霊術を使用するのに必要な条件の一つとして「地・水・火・風のどれかの神格から加護を受けた本人とその血統」と考えられる。ちなみに神凪一族は火之迦具土神を信仰している事から初代は彼の神から加護を受けたの考えられる。

 しかし、そうなると俺が何故炎術と風術の両方を使用できる事の説明にはならない。そこで考えられるのは魂の存在だ。俺が転生者である事はすでに説明している。そこから思考を発展させて神凪の人間としてフォーマットした為に炎術を使用できる俺の前世、仮称“A”と本来生まれてくるはずであった風術を使用できる原作における“八神和麻”の魂が入り混じり融合した存在、それがこの俺“神凪和麻”だ。

 先程、“風の聖痕”の世界に転生したと言ったが本当にそうなのかは正直怪しい所だ。母の出身が風の神格の加護を受けた清秋院家である事、正史編纂委員会という国家組織の存在、そして何よりカンピオーネと呼称される王達の存在、そのためこの世界は最低でも“風の聖痕”と“カンピオーネ!”の混合世界であると考えられる。他にも混じっている可能性はあるが。

 縁側で現実逃避の為に思考に耽って居たらトットッと足音がする。誰かが縁側に来たらしい。

 

「和麻さん、こんな所に居らしたのね。探しましたよ」

 

声を掛けてきたのは俺の母、神凪深雪だった。外見はそうだな大人になって後ろ髪を上げて結った劣等生の妹様を想像して欲しい。というか俺自身も最初は深雪違いだろうと思った程だ。それ位似ている。

 

「すいません。母上、少々疲れてしまったもので」

 

「まあ、仕方ありませんね。もう夜も遅いから早く寝なさい」

 

「分かりました。それではお休みなさい」

 

「ええ、お休みなさい」

 

 

 

 

 

 不味い!不味い!不味い!不味い!

 よもや厳馬の倅が契約者(コントラクター)それも炎と風の2つとは!!

 今はまだ良い。まだ六つの子供だ。だが時間を与えるのは不味い。

 まだ、事を起こすのは準備が足りない。最低でも、あと十数年は必要だ。しかし、その頃になるとあのガキは成長し我らの最大の障害と成るだろう。

 それならば屈辱ではあるがあの策を実行するしかない。あの策ならば二年後には実行可能だ。

 もう暫くは雌伏の時を過ごさねばならんな。

 

 

 

 




この物語のコンセプトは風の聖痕+魔法少女リリカルなのは+カンピオーネ!となっております。


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反乱

何とかギリギリ間に合った……
今、テスト期間なのに何やってるんだろう


 神奈川県の某所に存在するとある山の山林、比較的に国道にも近い。

 しかし、辺りはもう暗く、夜も更けっているにも拘わらずそこを一体の獣が何かに脅えるように駆けていた。

 月明かりに照らされたその姿は人の子程の大きさの猿であった。

 サトリ、表記的には覚と書き、人の心を見透かす妖怪として広く知れ渡っている妖魔だ。いや、この場所では山鬼と呼ぶべきか?まあ、気にしなくても何ら支障は無い唯の戯言だ。

 逃げなければいけない、少しでも速度を落としたら死ぬ!!そう思いながら彼は必死の形相で駆けていた。

 しかし、天は彼を見放したらしい。前方にあの死神が存在したからだ。その死神の背後には炎で形成された燃え盛る一つの瞳。

 死神の心を読み取り直ぐに目を閉じようとするが時既に遅かったらしい。自身の体が燃えているのを認識しながら彼はその生を閉じた。

 

 

 燃え上がる炎を見ながらサトリから死神と呼ばれていた少年―和麻は討伐対象であった妖魔 サトリが滅せられたのを確認すると炎を消した。

 すると、後方からパチパチパチとの拍手とともに一人の男が姿を現した。

 

「御見事です、若!炎術が極み、七星炎が肆式 刹那。瞬炎と称されるその炎、この大神雅人、感服いたしました!」

 

「良く言いますよ、雅人さん。創造した僕を例外として、宗主と父上以外で唯一、断罪を会得した貴方が言いますか?」

 

 その言葉に苦笑しながら傍に遭った自動車(ウィンダム)の扉を開き雅人は言った。

 

「さて、若、そろそろ御乗り下さい。本家へと帰りますので」

 

 その言葉に和麻は頷き、すぐ傍の道路に停められていた自動車に乗り込んだ。

 

 

 精霊王との契約をして以降、俺は術の開発に取り組んだ。契約者となり強大な力を得た俺にとって既存の術は下手な小細工でしかなく習得するのは無意味であったからだ。

 まあ、元々現在まで伝わっている汎用の術は一定以下の力量の術師用の火力強化として開発されたもののようだし、その有効性は認めるが俺の場合は却って非効率になってしまう(なお、宗主も父上も自分専用のオリジナルの術を持っているようだ)。

 その為、前世の知識からチョイスして術の創造に取り組んだのだ。その結果として完成したのが“真紅”“審判”“断罪”だった。

 炎術師が苦手な空中戦、防御力不足を解消する為の“真紅”、炎術師の弱点である探査能力の向上、幻術の無効化のための“審判”、とあるライトノベルに倣い分類するとパワー型ウィザードタイプの多い神凪の術師の幅を広げる為の“断罪”、まあ、元ネタはメロンパンヒロインの技だが。

 しかし、欠点もあった。一つは汎用の術でありながら習得難易度が極めて高い事だ。2年が経った今でも三つ全てを習得しているのは宗主と父上だけで、どれか一つだけでも数人程度しかない。もう一つの欠点は即時性の低さだ。自由性が高い為に咄嗟の時に構成するのに時間が掛かってしまう。創造者である俺であっても咄嗟の時には“真紅”の「双翼」と「衣」、“断罪”の「太刀」しか構成できない。

 それを解消するべく創造したのが“七星炎”だ。“真紅”“審判”“断罪”を掛け合わせて構築した炎術で、七つの型を予め決めて創造している為、咄嗟の時にイメージしやすく、構成時間の短縮にも成功した。また、副次効果として型同士を掛け合わせる連式も可能となった。まあ、元ネタは忍者バカの八竜ですが………さすがに烈神は無理っぽ。

 他にももう少しあるがもう眠いのでそれは後にしようと思う。

 

 

 

 

 東京都の某所に在る神凪本邸のとある一室。

 もう深夜に差し掛かるというのに十人程の男達が集まっていた。

 和服を着た初老の男性―神凪重吾は周囲を一瞥し人数が揃ったのを確認するとその重い口を開いた。

 

「時間だ。………是より詮議を始める。周防」

 

「ハッ!では僭越ながら報告させて戴きます。桐ケ谷明日奈、旧姓 結城明日奈の所在不明が発覚したのは先月の29日、隣に住んでいるS氏の「隣から異臭がする」との訴えから管理人が確認したところ彼女の夫である桐ケ谷和人の死体が発見されました。警察の検死の結果、27日の午前0時から2時の間に窒息死した事が判明しました。警察は桐ケ谷明日奈が以前からストーカー被害に悩まされていた事、周辺の目撃情報から桐ケ谷和人を殺害し桐ケ谷明日奈を誘拐したとして彼女のストーカーである須郷信之を指名手配しています。しかし、念の為に風牙衆に調査をさせたところ犯人は須郷信之ではなく最低でも風牙の長である風巻兵衛以上の風の使い手であることが判明しました。現在も調査を続けていますが、難行しており事件発生から一月が経った今でも依然として不明のままです」

 

「相分かった。………この件に対して皆の忌憚のない意見を聞きたい。何かあるか?」

 

 重吾のその問いに答えたのは被害者の兄である結城家当主、結城慎一郎だった。

 

「畏れながら宗主、それに厳馬殿。此処は和麻様に調査をして戴くのは如何なものでしょうか?」

 

「うむ」

 

「それは良い」

 

 久我と四条の当主が賛同する中で大神の当主、大神雅行が反対の意見を述べる。

 

「確かに和麻様が動いて下さるのであれば進展を見せるのでしょうが、神凪の術者が風術を使う。それでは神凪の名に傷が付きかねません。そんな事を和麻様がするでしょうか?その証拠に神凪の術者として動く時には炎術以外は使用しておりません」

 

 その言葉に一同が沈黙する中、重吾が口を開いた。

 

「致し方ない。和麻に調査を任せよう」

 

 重吾のその言葉に厳馬と深雪以外の者が騒然となる。それを気にせずに重吾は続ける。

 

「これ以外に現状において有効なものはない。神凪に対して仕掛けてきた者が居る事は明白であり、その者がかなりの使い手である事はまず間違えない。ならば、これ以上後手に回る前に対策を講じる他あるまい。………厳馬、深雪、お前らからも頼んでみてくれないか?」

 

「是、宗主の命であるなら息子も嫌とは言いませぬ」

 

「それに和麻さんは神凪の名に傷が付くというだけで風術を使っていないだけですし、宗主がそう仰るのでしたら何の問題もないでしょう」

 

 二人の返答に満足したのか重吾は頻りに頷き口を開こうとしたその時、ドォーン!!と何かが破壊される音が響き渡った。

 

 

 

 

「か!若!起きて下さい!!大変です!若!起きて下さい!!」

 

「な~んですか?雅人さん」と目をゴシゴシしながら答え、窓を見ると神凪本邸の門が破壊されている事に気が付いた。

 

「ま、雅人さん!コレは一体!?」

 

 驚きながら雅人さんに聞くも彼は首を振り答えた。

 

「………分かりかねますが、戦闘音があるので恐らく神凪への襲撃かと」

 

「そうですか………なら、急ぎましょう!!」

 

「御意!」

 

 

 雅人さんと共に戦闘音のあった中庭に辿り着いた。

 そこでは風牙の者と神凪の術者が争っていた。道中に倒れていた者達の傷から予想していたがまさか風牙衆がこの時期に反乱を起こすなんて予想できなかった。否、予測できたはずだ。反乱を起こす事は“原作知識”として知っていた。ただ、それに妄信して思考を放棄していただけだ。

 恐らく風牙衆が否、風巻兵衛が時期を早めたのは2年前に俺が契約者となったからだろう。原作の時期までまだ14年もある。本来ならばその14年で準備を着実に進めたかったに違いない。しかし、俺が契約者になったことで奴は焦り俺が成熟する前に事を起こしたというのが真相だろう。

状況は神凪の劣勢だ。神凪の術者は円陣を組み対応しているが多勢に無勢、絶え間なく襲いかかる風牙の術者に押されていた。本来ならばこんな事はあり得ないが彼らの風術は狂っていた。恐らく原作で自身の息子 風巻流也にした様に風属性の妖魔を憑依させているのだろう。彼らが神と崇めている“ゲホウ様”とやらに比べるのも烏滸がましい程の貧弱な妖魔だが。それでも神凪の分家の術者に対しては有効なようだ。元々、4大の中で最も速い風、それが分家レベルの術者に通用する程度には威力が強化されているためか分家の術者達は苦戦している。しかも御丁重に上位の術者に対しては妖魔の取り憑いていない者達を(恐らく)洗脳し神風させているため彼らも本来の力を出せないようだ。上位の術者は良識を持つ者が多い為、嫌らしいが有効な策である。

しかし、こんな事もあろうかと、と思って創造していた術がある。

 

騎士団(ナイツ)!!」

 

 その言葉と共に現れたのは炎により構築された異形の騎士団だった。

 “騎士団(ナイツ)”アメリカのマクドナルド家の精霊獣を参考に“真紅”“断罪”を掛け合わせて構築した炎術だ。精霊獣と同じように仮想人格を与えているのでそれぞれが自律的に戦闘可能であり、精霊獣の弱点であった指示のタイムラグは“審判”で統括する事により克服、もう一つの弱点である浄化はそもそも、浄化の炎で構築しているため意味をなさない上に、並みの術者以上の戦闘能力を有している。まあ、元ネタは炎髪で灼眼な彼女の技だが。

 それは兎も角として、異形の騎士たちによって妖魔憑きは滅せられ、洗脳されていたであろう風牙衆は制圧され始めている。恐らく後持って数分だな。

 

「しかし、宗主たちは何所だ?風巻兵衛も居ないようだし」

 

 そんな俺の呟きに先程まで応戦していた神凪の術者が答える。

 

「風巻兵衛はまだ姿を見せておりません。しかし、綾乃様の行方が分からなくなって居る為、厳馬様達が探しておられ、宗主は部屋で深雪様を始めとした女性陣と待機されておられます」

 

「そうか、では制圧され次第、宗主の元へ向かうこととします。御苦労でした」

 

 そう彼に答えると丁制圧が完了したところだった。騎士団を消し宗主の元へ向かおうとしたその時、風巻兵衛が姿を現した。綾乃と妊娠した女性を引き連れて。

 

 

 数分後、宗主たちが姿を現した。宗主は怒りを押し殺したよう声で兵衛に対して問いかける。

 

「風巻兵衛、貴様の目的はなんだ………早く綾乃と桐ケ谷明日奈を解放しろ」

 

そんな宗主に対して兵衛は嘲りながら言う。

 

「目的?そんなものは決まりきっているであろう!復讐、そう復讐だ、神凪重吾!我ら風牙を奴隷の様に道具として使った貴様らの所業、且つ我らが風術を下術と貶めるその行為、到底許せるものでは無いわ!!」

 

 激昂する兵衛に対して宗主は淡々と言う。

 

「反乱か………しかし、貴様らの敗北はすでに決まったようなもの。大人しく投降し彼女らを解放しろ」

 

 淡々と言う宗主の内なる怒りに呼応してか炎の精霊たちが荒ぶるも兵衛は狂ったように笑い風術によって地面に陣を描く。

 

「我らが敗北?面白い事を言いおる。まだ負けてはいないぞ!神凪重吾!!」

 

 そう言いながら兵衛は陣の上に桐ケ谷明日奈を突き飛ばし、ナイフを取り出し綾乃を斬り付け陣の上に投げ捨てた。

 

「兵衛!!貴様ぁ!!」

 

 激昂し“紫炎”を兵衛に放つ宗主。しかし、兵衛は“紫炎”を左手で受け風術によってその腕を飛ばし回避した。そして兵衛は謳うように呪文を唱える。

 

「既に国を生み竟えて、更に神を生みき。故、生める神の名は、火之夜芸速男神。亦の名は火之炫毘古神と謂ひ、亦の名は火之迦具土神と謂ふ。此の子を生みしに因りて、美蕃登炙かえりて病み臥せり。………さあ、神凪の血と赤子をもって生れ出るがいい、火之迦具土神!!」

 

 兵衛がそう言うと陣は燃え上がった。アレじゃあ、いくら神凪の者でも生存は無理だな。それにしても不味いな。まさか奴の切り札がまつろわぬ神とはな………

 そして炎が消えるとそこには一柱の益荒男が姿を現した。

 

 

 




次回、益荒男



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