東方好きの優斗と大妖精と (ゆう12906)
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第一話 開かれた『裏』のセカイ

5月の昼下がり、俺、朝霧優斗は自室のベットに転がりながらパソコンをいじっていた。

 

今は高校1年で、ゆったりと青春を過ごしている。

 

始めは厳しい生活になると思ったが、慣れてしまえばつまらない。県内トップクラスの高校に入ってみたけれど勉強は簡単だし、目標もない。

 

 暇なら勉強しろと言われそうだが、簡単すぎてつまらん。県内トップクラスの高校に入ってみたけれど驚くほど簡単な授業だった。

 

 ちなみに父と母は二人とも長期出張が多くて、家にいるのは俺だけ。あと妹もいるけどわけあって家にいることが少ない。つまりぼっちである。

 

 なにか暇つぶしをと、妹から教わったのが一つある。それが東方project。

 

 東方は少女たちが幻想郷というこの世界の裏側で、異変を解決しながらまったり過ごすというゲーム、あるいはマンガだ

 

 しかも『二次創作』という、いわゆるパロディが大変盛んで、ネットを掘ればいくらでも情報が出てくる。

 

 パソコンを肌身離さず持ち歩いている身にとって、東方はなかなか楽しいものだ。まあ、始めて一か月なんだが。いまはパソコンの辞書サイトで東方について調べている程度。

 

 けれどただ調べているだけではつまらない。東方の二次創作は、『同人誌』といわれる個人が出した印刷物を売るのが大変盛んである。

 

 今から出かけるのは、そんな同人誌を大量に取り扱っている店だ。

 

 持っていくものはいつも決まっている。お茶にスマートフォン、忘れてはいけないのが、パソコンとプリンター。二つとも小型で持ち運びができる。科学進歩は素晴らしい。パソコンが1キロを切るなんて昔の人は思いもしなかっただろう。

 

 5分ほどで支度を終え、一軒家のドアを開ける。

 

「ん?」

 

 足元を見てみると地面がない。えっ? なんだこれ。

 

 足をばたつかせても何も感じない不思議な感触が襲う。

 

 地面に穴が開いていても、重力は作用している。つまり、

 

「うわーーーーーー!」

 

 そのまま吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……」

 

 ここはどこだ?

 

 目の前には湖が広がっている。地面はふさふさの草だ。

 

 えーっと確か穴に落ちて……なるほど落ちた先がここなわけだ。

 

 あたりを見渡すと、森や湖が

 

「ぎゃーっはっはっはっはっ!みんな凍らせてやる!」

 

 甲高い声が聞こえた。 

 

 えっ?だれだ?

 

「凍っちゃえ! みんな凍っちゃえ!」

 

 だんだんその姿が目視できるようになってくる。

 

 青い頭のリボンに透き通るような水色の髪。青い服の胸元には、赤いリボン。そして特徴的なギザギザをワンピースの下のほうにあしらっている。

 

 えーっと、以前イラストを見たことがある。

 

 確か……湖上の妖精、チルノだ。ってことはここは幻想郷か。

 

 いろんなものを凍らしている。こっちに向かってきているということは、俺も対象の1人なのか。死の危険を感じるのは気のせいではないだろう。 

 

 そんなことを考えているうちにチルノが迫ってきた。

 

「みんな凍らせてやる!」

 

 反射的に目をつぶり、覚悟を決める。 

 

 だが、体が氷漬けになることはなかった。

 

「だめ、チルノちゃん!」

 

 チルノを突き飛ばす人がいたからだ。

 

 チルノと同じくらいの体格をしている女の子が制止をかけると、チルノはそちらを振り向いた。助かった……

 

「ん、なに大ちゃん。」

 

「よく見てよ。あそこに人間がいるよ」

 

「あ、ほんとだ。気が付かなかった」

 

 普通分かるだろ。――いや、チルノって天性のバカだから、仕方ないか。

 

 心の中でツッコミを入れると、俺は大ちゃんと呼ばれた子のところに行った。

 

 緑の髪にそれに合わせるかのように透き通った緑眼。サイドポニーに黄色の髪飾りがよく似合っている。顔はとても整っていたが、まだ幼い。真っ青な服がチルノと似ていて姉妹のようだった。えっと確か……

 

「助けてくれてありがとう。俺は朝霧優斗。」

 

「こんにちは。大妖精と申します。あなた見かけない顔ですね。どうされたのですか?」

 

 そうそう、大妖精という名前だったな。本家東方では名前が明かされず、二次創作で名づけられたそうだ。まさか実際の名前だったとは。

 

「実は外の世界からきて……」

 

 俺は幻想入りしたことを説明し始めた。

 




ということで、第一話でした。完全に優斗の設定説明回ですね。

感想、コメ、質問は常時受け付け中です。

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ではまた!


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第二話 スキマで帰れる?

「なるほど…幻想入りですか…」

 

 俺は、あの後時間をかけて事情を説明した。この女の子は大妖精といって、いつもチルノと一緒にいる。と、辞典書いてあった。つまり、やはりここは東方の世界というわけか。

 

「ああ。大妖精、帰る方法を知らないか?」

 

 所詮はただの妖精、知るはずがないだろう。

 

「知ってますよ」

 

 なるほど。知っているのか。そういえば大妖精は知的キャラだったような気がする。手のひら返しもいいとこだな。

 

「八雲紫先生が戻してくれるかもしれません。」

 

 なるほど、そういえば紫のスキマはどこでもつながっていると聞いたことがある……ん? 先生?

 

「なんで紫が先生なんだ?」

 

「えっ? 紫先生を知っているんですか!」

 

 『八雲紫』は知っているが、『紫先生は』知らない。そのことを聞くと、大妖精は早口で説明した。

 

 紫が幻想高校という、幻想郷の人々が通う学校の教師であること。そして自分は幻想高校に通っていることを。

 

 初め、幻想郷に学校があるということに少々驚いたが、本当に霊夢とか魔理沙がクラスメイトらしい。

 

「……と、いうわけなんです」

 

 へ~なるほど。そんな話は聞いたこともなかったな。あの紫が先生ね、確かに似合ってる。

 

「ところでどうやったら紫先生は来るの?」

 

「たぶん呼べば来ると思います」

 

「おーい、紫先生~」

 

「はいはーい!何かしら?」

 

 早いな。紫は幻想郷一の切れ者だったはずだ。それに落ち着いたキャラだとも……パッと見、若作りしているおばさんみたいだ。言うと絶対怒るだろうが。

 

「話は聞いていたわ。外の世界の人間なんていつ振りかしら」

 

「確か一番最近は早苗ですか?」

 

「あら、よく知っているわね」

 

 どうも俺の目的は分かっているようで、何とかなりそうだ。

 

「それで俺は戻れるんですか?」

 

 俺は期待して聞いたのだが、

 

「残念ながら、あなたの世界のスキマが見つからないのよね~。じゃ、そういうことで!」

 

 声をかける暇もなく、紫先生は行ってしまった。あっけなかったな。

 

 ふむ……どうしようか。

 

 目を閉じ、じっくりと思案する。頭の中でいろいろな考えが回るが、結局導き出された答えは一つ。

 

 今現在、幻想郷から出られない。うん、どうしようもないな。

 

「残念でしたね……」

 

「んん……」

 

 とするとここで暮らすしかない訳だ。

 

「これからどうしようか……」

 

 と、俺がつぶやくと、大妖精が思いもよらないことを口にした。

 

「だったら、私の家にきたらどうですか? 何もありませんけど……」

 

「えっ? でもそれじゃ迷惑がかかるだろ」

 

「いえ、かまいませんよ」

 

「けど……」

 

「いいんです!」

 

 詰め寄られてしまった。こちらをキラキラとしたまなざしで見上げてくる。ちょ、顔が近い……

 

「じゃあ、お願いします」

 

「湖の近くなので、すぐです。行きましょう」

 

 大妖精がくるりと背を向けた。

 

 ん? 今、大妖精が小さくガッツポーズした?まあいいや。

 

 そのまま大妖精の家へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 さて、こちらは先ほど呼ばれた紫。今は白玉楼で幽々子とだべっていた。

 

「ねえ、紫。」

 

「ん、なに幽々子。」

 

「さっきの大妖精とのやり取り、見ていたわよ。あなた戻そうと思えばあの男の子戻せたでしょう?」

 

 ゆったりとした口調で幽々子が質問する。

 

「まあ、そうだけど」

 

 一拍置いた後、

 

「なんだかあの子がいると楽しそうな気がするわ!」

 

 不敵な笑みを浮かべた。それはまさしく、獲物を見つけた狼だった。

 

 ぐ~

 

 笑いに呼応するかのように幽々子のお腹の虫が鳴った。相変わらずの大食いっぷりだ。

 

「なんだか、お腹が空いちゃったわ~あなたも食べていくでしょう」

 

「そうさせてもらうわ。」

 

「わかったわ。妖夢~!」

 

「はい~」

 

 ちなみにこれで幽々子は5食目である。

 

 

 

 

 

「着きました。ここが私の家です」

 

 おお、なかなかいい家だ。

 

「さあ、中へどうぞ」

 

 整理されててオシャレなのかな…

 

 あんまりそういうのには興味がない。男子高校生には未知の世界だ。

 

「じゃあこれからよろしくな」

 

「こちらこそ」

 

 こうして俺と大妖精の生活がスタートした。

 




紫先生はこれから重要なキャラになってきそうですね。

先生といっても何の教科なのでしょうか?それは幻想高校の日々で!(宣伝でゴメンナサイ)

ではまた!


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第三話 優斗の何でもない?一日

「う~ん……」

 

 え?ここどこ?……って、大妖精の家か。寝ぼけていた。

 

 あれから①晩、大妖精に自己紹介をして、気づいたら寝ていた。

 

 まだ大妖精は寝ているようだ。じゃあ朝食でも作るか。

 

 家族が忙しく、1人でいることが多かったので、料理をするのは慣れているのだ。

 

 目玉焼きを作っていると、大妖精が起きてきた。

 

「おはようございます……あっ、朝ご飯作ってくれたんですね」

 

「居候なんだからこのくらいしないとな。あと…」

 

「はい?」

 

「そんなに敬語使わなくてもいいと思うよ。これから一緒に住むわけだし」

 

「はあ…」

 

「なっ、大妖精」

 

「わかりました…いいえ、わかった!」

 

 こんな感じで朝食が始まったのだが、不意に大妖精が質問をした。

 

「そういえば優斗が持っていた黒くて薄い箱はなんなの?」

 

 敬語でない大妖精は少し目新しさを感じるが、すぐになれるだろう。

 

「ああ…これはね…」

 

 ん~なんて説明したらいいんだろう。

 

「んん~簡単に言うと、幻想郷には無い世界中の事がわかる機械だな。」

 

「へ~、ちょっとみせて!」

 

「ああ」

 

 って、幻想郷にインターネットがつながっているわけないか~―――って、あれ?

 

 ほかのサイトは表示できないのに、一つだけ読み込めるな。

 

 そのサイトの名は「東プロ辞書」といい、東方プロジェクトについて、みんなが説明したり、イラストを投稿したりするサイトなんだけど…なんで使えるんだろう。

 

 ―――まあいいや。あったらあったで便利だし。

 

「あっ、もう学校に行かないと」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

 大妖精が羽をふりながら学校へ向かった。飛べるのがうらやましい。

 

「さてと……」

 

 暇だ。いつもはネットをいじるのが常だが、あいにく使えない。

 

 戸棚に大妖精の教科書が並んでいた。時間割も貼ってあったので読んでみる。えっと…今日の教科は数・理・音・国・美か。じゃあ英語の教科書を見てみよう。学校のレベルの確認だ。

 

 俺は英語の教科書を見たのだが、思わず声を出してしまった。

 

「何だこれ……」

 

 そこに書いてあった例文は…

 

「I am yuki.」とか、「You are baseball player.」とか、まるで中学一年生が習うようなないようだった。

 

「って、ことは歴史の教科書も…」

 

 思った通り、どれも中学校で習うような初歩的なものばかりだった。レベル低いぞ……

 

 こんな感じでぼーっとしてたらお昼になった。

 

 適当にお昼ご飯を済ませ、午後はなぜか使える東プロ辞書で、東方について調べることについた。

 

 大妖精のカップリングがいろいろ書いてあった。大チルとか、大こあ、リリ大などなどあった。やっぱり、妖精との組み合わせが多いようだ。

 

 あと、なんと大妖精はスペルカードが無いことも初めて知った。あのチルノやルーミアさえあるのに……

 

 などと、暇を潰していたら、大妖精が帰ってきた。

 

「ただいま。」

 

「お帰り大妖精。」

 

「優斗、実は今日レミリアにね」

 

 ああ、あの吸血鬼のか。―――で、どうしたんだ?

 

「今日紅魔館でクラスのみんなで宴会するんだけど、優斗もこないかって。」

 

 なるほど、俺は外の世界から来て間もない。気になるのも当然であろう。

 

「ああ、行かせてもらう」

 

「分かった」

 

 でも、紅魔館っていうと、他にもフラン、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔がいるのか。ってことは、あれを持って行かないとな……

 




…と、いうわけで第三話です。

ここに出てくる「東プロ辞書」ですが、要するに、ウ〇キペディアや、ピ⑨シブ百科事典なようなものだと思っていただければと思います。

次回紅魔館編です。優斗がつぶやいていたあれとは何なのでしょうか。

ヒントは、パソコンとプリンター、それに東プロ辞書です。

では!


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第四話 紅魔館でのドタバタ

「おお……」

 

今日は宴会ということで、紅魔館にきているが、その大きさにあっけにとられてしまった。5人が住むにはいくらなんでも広すぎると思う。しかも咲夜の能力で部屋の大きさ広げられるらしい。

 

「さ、いこ」

 

「ああ」

 

って、あれ?紅魔館の門のところに、もたれかかって寝てる人が……―――えーっとあれは確か……

 

「あらら、美鈴さんまた寝てるよ……」

 

そうだった。紅美鈴、紅魔館の門番をやっているんだよな。予想通りの昼寝中だ。

 

「もしもし」

 

美鈴に話しかける。三度目でやっと起きた。

 

「んん~―――はい⁉」

 

やっぱり寝ていたようだ。暗いとこじゃないと寝れない俺と違って、少しうらやましい。

 

「寝てると咲夜さんにナイフを投げられますよ」

 

「あ~そうですね。―――ところであなたは?」

 

「俺は朝霧優斗。今日はレミリアに招待されてきました」

 

「ああ!お嬢様のお客様でしたか!はじめまして、紅魔館門番兼幻想高校3年2組の紅美鈴です!」

 

 学生もやってるのか。大変だな。

 

「よろしく」

 

「さ、どうぞ!」

 

そして俺が紅魔館の中に入ろうとしたとき、

 

「こんにちは~白ちぇん宅配便です~」

 

俺のいた世界でもあった業者の宅配便が来た。すげ、ちゃんと幻想郷でも来るのか。

 

「あ、はいはい」

 

美鈴がサインする。

 

「あ、すいませんがこれ持ってってもらえませんか」

 

「ああ、わかった」

 

俺は荷物を受け取った。まあ渡すのはあとでもいいだろう。

 

そのままバックに入れ、でっかい門をくぐった。

 

 

「―――いらっしゃい」

 

早速主人の登場か。――ってあれ?

 

なんとレミリアは両手両足をとおせんぼ!のように広げ、口を大きく開けていた。

 

「んんっ、どうしたのレミリア?」

 

「いつもとちがうね。って、顔見れない…」

 

 笑いがこらえきれない。俺も大妖精も我慢しているのだが、思わず吹き出していた。

 

「えっ!? だって咲夜がこうするとカリスマになるからって……」

 

 それじゃ逆にカリスマブレイクしているだろ……――あらら……近くにいる咲夜さんが若干鼻血出してるよ…しかもカメラもっているし……多分時間止めたんだな。

 

「咲夜さんちょっといいですか」

 

「はい、なんですか」

 

 俺は咲夜さんと二人になる。

 

「これ、おみやげです」

 

「あら、わざわざすいません」

 

「開けてかまいませんよ」

 

「では」

 

 と、咲夜さんが包装紙を開ける。どんな反応するかな~。

 

「こ、これは!」

 

 相当びっくりしているようだ。

 

「お嬢様と妹様!」

 

 そう、俺が前に行っていたあれとは東プロ辞書のイラストをプリントアウトしたものだったのだ。今回は、レミリアとフラン。しかもおもいっきりロリ化しているものを用意した。

 

「ありがとうございます!」

 

 大成功だったようだ。鼻血だらだら出しているし。

 

 

 

 

 

 そして二人はみんなが集まっているところへむかった。

 

 おっ、もうほとんど大妖精のクラスメイトがいるな~

 

「おっ、お前がが大妖精と一緒にいるって人間か?」

 

 魔理沙が話しかけてきた。

 

「ああ、よろしく」

 

「よろしくな。ささ、飲むんだぜ」

 

 いやいや、俺は高校生……――ここは幻想郷だった。みんな思いっきり飲んでるしな。

 

「ああ」

 

 これが酒か~。おっ、こんなこと言うのは不謹慎だがなかなか味わい深い。

 

「ねえねえ、あなた外から来たんでしょ」

 

「いろいろ教えて!」

 

 雛やチルノを皮切りにみんなが集まってきた。

 

 結構簡単な質問が多かったけど、魔理沙から「弾幕ごっこやらないか?」って言われた時は焦ったな……

 

 

 

 

 

 だいぶ時間がたって、そろそろお開きにしようということになった。

 

「そうだ、預かっていた荷物返さないと。」

 

 レミリアのところへ向かう。

 

「これ、さっき受け取った宅配便です。―――えーっと、PADって書いてある。はい。」

 

「な!」

 

 紅魔館の住人の人たちが一斉に驚いた。

 

「え?なんですか?なにかPADが変ですか?」

 

「あ、あなたそれを口に出すことは、どういう事かわかっているの?」

 

「え、みなさんどうしたんですか?まるで時が止まっているみたいに固まっていますけれど」

 

「ご心配なく。もう止まっていますから」

 

「え!?」

 

 その日、俺は残機がいくつあっても足りなかった。

 




と、いうわけで第四話です。

優斗はPADネタを知らなかったようですねw

あれ咲夜さんどうしたんですか?(震え)

りょ、両手にナイフを…あ、これ死んだな。ピチューン


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第五話 能力発動

「いってらっしゃい」

 

 今日も大妖精を送り出した後、パソコンを開ける。今日も東プロ辞書だ。―――と、いきなりすごいことを発見してしまった。

 

「えっ、うそ!」

 

 そこにはこう書いてあった。

 

 八雲紫のスキマ……どこにも行ける

 

「と、いうことは……」

 

 紫先生嘘ついたな。

 

「あとでちゃんと言っておかないと。」

 

 そしたらまた驚きの事実を知ってしまった。

 

「な、何だってー!」

 

 ルーミアの「わはー」は二次創作なのかー!って、なに変な独り言つぶやいてるんだ俺。

 

 いや~知らないことばっかだな。―――そういえば紅魔郷のルーミアのスペルは…

 

 調べてみると3枚あった。その中から闇符「ディマーケイション」のタグをクリックしてみる。

 

「きれいなイラストだな~」

 

 イラストをクリックしてみるとなんだか画面がゆがんだ。

 

「ん?」

 

 そこからなんと弾幕が出てきた!

 

「おわっ!」

 

 間一髪のところでよけ、そのまま弾は外へ出て行った。

 

「えっ?えっ?どういう事だ?」

 

 落ち着いて考えよう。俺はルーミアのスペルのイラストをクリックした。そうすると弾幕が出てきた。と、いうことは…

 

「これが俺の能力…ということか!」

 

 今でも信じられないが、こういうことなんだ。

 

「じゃあ…」

 

 外に出て、もう一度ルーミアのスペルをクリックしてみた。

 

「月符『ムーンライトレイ』!」

 

 レーザーと弾が出た。すげ~きれいだな~

 

「お~じゃあ、能力名決めないと。」

 

 パソコンのイラストから弾幕を出す程度の能力なんてどうだろうか……いや長すぎるな。それならいっそ……

 

「『パソコンを操る程度の能力』にしよう!」

 

 よし、ならば…時間を止めてみよう!

 

「『咲夜の世界』!」

 

 しかし今度は何も起こらなかった。

 

「あれ?」

 

 何回かやっているうちに法則があることに気が付いた。

 

 ルーミアのスペルはできるけど、咲夜はできない。リグルとキスメはできるけど、霊夢とさとりはできない。つまり……

 

「1面ボスのしかできないのか!」

 

 これじゃ、大したのは出せないから、魔理沙とかとは弾幕ごっこはできないか。

 

「ただいま~」

 

 そうしてる合間に大妖精が帰ってきた。

 

「あれどうしたの?」

 

 俺は今日の事を説明した。

 

「えっ!じゃあ、弾幕出せるの!」

 

「ああ。」

 

「そうなの、じゃあ…今度の大会の練習相手になって!」

 

「え?練習相手?なんの?」

 

「はーい!それは私が説明しましょう!」

 

 突然文が飛んできた。いま、学級新聞の取材をしているんだそうだ。

 

「幻想高校では、期末に弾幕ごっこ大会が開かれるんですよ。」

 

「へ~それで俺に」

 

 いや~できるかな~。まだ弾幕ごっこ未体験だし。

 

「あっ、これ取材させてくださいね~」

 

 こうして二人の練習と、文々。新聞の取材が始まった。

 




と、いうわけで第五話です。

なんと優斗は弾幕が出せたんですね~(1面ボスだけですが…)

優斗は大妖精にどうやって教えるんでしょうか。また、文の新聞も注目です!

では、次の6話でお会いしましょう!


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大妖精の弾幕ごっこ大会 一回目
第六話 弾幕ごっこ練習&射命丸文の連続取材


「よし、まずは弾幕の種類からだ。」

 

 今回は大妖精に弾幕ごっこを教えるのだが、大妖精は理解力がいいので、弾幕の種類から教えることにした。前ネットに書いてあったことパクろう。

 

「簡単に言うと、弾幕には自機狙い弾、自機外し弾、固定弾幕、敵依存弾幕、ランダム弾などがある。避け方は…大体わかるよな。」

 

「うん、自機狙いはちょんよけ、自機外しは動かない、固定や敵依存、ランダムは弾幕を覚えるのがいいね。」

 

「うん。その通り。」

 

 さすが物わかりがいい。

 

「ここで一つ言うと、大体弾幕の列が奇数だと自機狙い、偶数列だと自機外しだ。」

 

「へ~」

 

 さて、大妖精の特徴を生かすには…

 

「大妖精は強い弾幕は出せないでしょ?」

 

「うん、少なくともレミリアとかよりは…」

 

 と、すると…

 

「よし、まずはよける練習だな。それと…うまく弾を配置する練習だな。」

 

「へ?」

 

「つまり、少ない弾幕で、相手の行動範囲を狭めるってことだよ。」

 

「なるほど~」

 

「じゃあ外に出よう。」

 

 

 

 

 

 ――一方こちらは取材中の文。

 

「こんにちはみなさん。清く正しい射命丸文です。」

 

 私の手にした情報によると、幻想高校で秘密の会議が行われているのらしいのですが…しっかりと戸締りがされています。

 

「じゃあ壊しますか…」

 

 と、私が壁を壊そうとすると…

 

「文、壁を壊すのは構わないけど…」

 

「椛に来てもらって、暴露話をしてもらうよ。」

 

 ありゃりゃ。それでは無理ですね…人間の里にでも行きますか。

 

 

 

 

 

「よし、行くぞ。」

 

「よし!」

 

「闇符『ディマーケイション』」

 

「よし!」

 

 大きく大妖精がよける。

 

「ああ~それじゃだめだ」

 

「へ?」

 

「いい、自機狙い弾はちょんよけだよ」

 

「ああ、そうか。」

 

「もう一度。闇符『ディマーケイション』」

 

 今度は自機狙い弾を最小限の動きでよけた。

 

「よし、OK。じゃあ、もう一つの相手の動きを制限する方法だ」

 

「うん。」

 

「相手の右に弾幕を打てば左に行く。そこの方向に弾幕を置いとけば…」

 

「相手の動きを崩せるんだね!」

 

「そう、だから練習だ!」

 

 

 

 

 

 人間の里にきたのですが、驚くべきことを聞きました。里の人間に取材していたとき…

 

「何かありましたか。」

 

「それがね……」

 

「何ですか!」

 

「変な怪物が出るのよ。」

 

「怪物!」

 

 聞くところによると、それは2本の角を持っていて、迷いの竹林に現れる恐ろしい怪物だそうです。これは掘り下げる必要がありますね…

 

 

 

 

 

「まずい」

 

「どうしたの、優斗。」

 

「パソコンのバッテリーが切れそうだ!」

 

「えっ?」

 

「誰か幻想郷で電気に詳しい人は…」

 

「ああ、にとりがいるよ」

 

 そうだった。と、いうわけでにとりの家に行ったら手でこぐタイプの充電器をもらえた。まあこのくらいの技術が限界か。

 

 しかも、「かわりになんかちょーだい!」と、いわれたのでスマホを渡した。まあ、しょうがないか。

 

 ―――と、練習を始めて数日。

 

「よし、大体慣れたな」

 

 積み重なる練習で、大妖精はかなり実力を上げた。

 

「よし、スペル作るか!」

 

「えっ?!スペル?」

 

「ああ、持ってないんだろ。」

 

「そうだね!」

 

「おっ、これは必見ですね~」

 

 文が天狗の速さで戻ってきた。新聞記事は書けるのだろうか。

 

「文。どう、いいネタ見つけた?」

 

「まあ、一応。―――そうだ、2人の写真も撮っておきましょう。使うかもしれないので。」

 

「ああ」

 

「はい、チーズ!」

 

 パチャ

 

「ありがとうございます」

 

 と、いうわけで2人でスペルを作った2日後、とうとう弾幕ごっこ大会が始まった。

 




と、いうわけで第六話です。

次回、やっと大会です。お待たせしました。

大妖精の成長、そしてスペルカードに期待していてください!(弾幕ごっこシーンどこまで細かく書けるかわかりませんが…)

では!


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第七話 弾幕ごっこ大会予選リーグ

 弾幕ごっこ大会の朝。

 

「よし、じゃあもう一度ルールを確認しておこう」

 

「うん」

 

 ルールは以下の通りだ。

 

 ・校庭の広さは限りがあるので、弾幕ごっこをする範囲は一定の範囲が決まっている。

 

 ・スペルカードは一回の勝負につき3枚まで。(勝負を互角にするため)

 

 ・一回でも被弾したほうの負け(もちろんグレイズはセーフ)

 

 ・まず、三人か四人でリーグ戦をし、トップが決勝トーナメントに進出できる。

 

「リーグ戦の相手は誰だっけ」

 

「チルノちゃんとルーミアちゃんだよ」

 

「よし、いける相手だな」

 

「精一杯ぶつかるよ!」

 

 

 

 

 

 学校に徒歩で向かうと。すでに人間の里などいろいろなところから人が集まっていた。

 

「では、これから弾幕ごっこ大会を始めます。皆さん頑張ってください。」

 

 映姫校長先生が話す。パッと見、九割五分の人間が話を聞いていなかった。

 

 

 

「さて、いよいよチルノ戦だな」

 

「うん。」

 

「大妖精の実力なら絶対勝てる。頑張れ」

 

「うん!」

 

 

 

「負けないよ、大ちゃん!」

 

「こちらこそ!」

 

「よし、では始めるぞ。双方とも全力を尽くしてくれ。」

 

 審判は慧音先生だ。

 

「では始め!」

 

「それっ!」

 

 まずはチルノが自機狙いのレーザーを放つ。

 

「自機狙いは…」

 

 細かい動きでよける。

 

「こっちも!」

 

 対する大妖精はクナイ型の全方位弾でレーザーを止める&動きを制限した。

 

「くっ、やるね~」

 

「無駄に優斗と練習してないよ!」

 

「じゃあ、こっちもそろそろいこうかな。氷符『アイシクルフォール』!」

 

 と、大妖精の左右に弾幕が配置される。

 

「残念だけど私、ここの安置知っているよ。」

 

 と、チルノの近くに行く。

 

「もらった!」

 

「それはこっちのセリフだよ、大ちゃん」

 

「えっ!?」

 

 と、いきなり大妖精の前に黄色の小弾が出てきた。

 

「くっ!」

 

 とっさに上に急旋回し何とか避けることができた。

 

「危なかった~」

 

「あたいだって強くなってるよ!」

 

「なるほど。なら…」

 

「おっと、その前に雪符『ダイヤモンドブリザード』!」

 

「うわっ!―――このくらい。」

 

 ばらまきの弾を最小限の動きでよける。

 

「もう一枚だ!霜符『フロストコラムス』!」

 

 さらにばらまき弾が増える。

 

「まずい…―――なんてね。」

 

 今度は最小限の動きに、自分に当たりそうな弾は自分も弾幕を放ち、相殺していく。

 

「あれ?大ちゃんこんなに強かったっけ?」

 

「まあね。」

 

 と、ここでチルノのスペルが2枚とも終わってしまった。

 

「まずい!もうスペルが使えない!」

 

「じゃあいくよ!」

 

「ひっ!」

 

 と、今度は大妖精が自機狙いと自機外しの緑の小弾&中弾をうまく使い、チルノを四隅まで追い詰める。

 

「よし、ここでスペルを使うんだ!」

 

 優斗が叫ぶ。

 

「うん!魔符『フェアリーズマジック』!」

 

 と、いうと、粒弾が一つ現れた。

 

「あれ?これだけ?」

 

「ううん、―――開け!」

 

 と、大妖精が言った瞬間、緑色の自機外し全方位弾が出た。

 

「まずい、左右に動けない!」

 

 さらにチルノの上のほうを狙った自機狙い弾が出る。

 

「くっ!」

 

 下に急旋回するチルノ。そこに…

 

「チェックメイトだよチルノちゃん。」

 

 待ち構えていた大妖精が弾幕を放った。

 

 

 

「勝者 大妖精!」

 

「やった!」

 

「やったぞ大妖精!」

 

「うん!ありがとう優斗!」

 

 やっぱり大妖精は成長していたな。

 

 ザコ妖精などと言わせない。これなら次もいけるぞ!

 




と、いうわけで第七話です。

初めて書いた弾幕ごっこシーンでしたがいかがだったでしょうか?

そして、大妖精の創作スペルはどうだったでしょうか!(魔符は魔理沙だ!とは言わないでください~)

ではまた!



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第八話 弾幕ごっこ大会予選リーグ&決勝トーナメント&…

「それっ!」

 

 大妖精対ルーミアを行なわれている。大妖精がどんどんルーミアを端の方へ追い詰めていく。

 

「くっ、左右に動けないのかー」

 

「ここで…」

 

 大妖精がルーミアの頭を狙い弾幕を放つ。

 

「にげるのかー」

 

 下の方へ行くルーミア。―――そこへ…

 

「いまだ、大妖精。スペルを使うんだ!」

 

 優斗が叫ぶ。

 

「うん!追撃『フェアリーズネット』!」

 

 一気にルーミアの前に網状の緑の弾幕が置かれる。

 

「このスペルは動かさなくても勝手に被弾してくれるから…」

 

「止まらないのかー」

 

「こんな名前にしてみたよ」

 

 ピチューン

 

「勝者 大妖精!」

 

「やった!」

 

「よっしゃ!」

 

 これで予選リーグ突破だ!

 

「頑張ったな大妖精。」

 

「うん!優斗のおかげだよ!」

 

 決勝トーナメントは昼食をはさんで午後からの予定だ。

 

 

 

 

 

 ―――そういうわけで大妖精が作ってくれたお弁当を食べていたとき…

 

「ここいいかしら。」

 

 レミリアが来た。

 

 と、一緒にお昼を食べるだけかな~と、思っていたのだが…

 

「あなた決勝トーナメント表見た?」

 

「ううん」

 

「いいや」

 

 2人同時に首を振った。

 

「じゃあ試合相手知らないのね。」

 

 え?なんでわざわざ俺たちに?―――あ、これは……

 

「ま、せいぜいお手柔らかにね。」

 

 やっぱり対戦相手か……

 

「レミリアが相手!?」

 

 俺たちのことを気にせずサンドイッチを食べるレミリア。

 

 勝てるのかな……不安しかわかない。

 

 

 

「よし、決勝トーナメント一回戦レミリア対大妖精。開始だ」

 

 審判は国語教師、霖之助。(朱鷺子がサポートに入り、審判くらいはできる。)

 

「始め!」

 

「いくよ。それっ!」

 

 レミリアの左右に弾幕を放つ。

 

「なるほどね。こうやって私の動きを制限してから…」

 

「いけっ!」

 

 自機狙いの弾を放つ。

 

「でもこのくらい!」

 

 レーザーでかき消してしまった。

 

「まだまだ弾幕の量が薄いわよ。」

 

「…さすがだね。」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりそう簡単には倒せないか」

 

「私の主人ですしね。」

 

 いつの間にか咲夜さんが隣にいた。能力を使ったのだろうか。

 

「いや~さすがだね。あなたの主人は。」

 

「相手は妖精ですしね。」

 

「いやいや。妖精だけど結構強いぞ」

 

「まあ、お嬢様の強さは見ればわかりますよ」

 

「レミリアの写真を撮りながら?」

 

「えっ!」

 

「俺結構観察力あるから」

 

「……」

 

 横から膨大な殺気を感じた。

 

 

 

 

 

 ―――さてこちらはレミリアと大妖精。

 

「くっ。やっぱり強いなぁ…」

 

 大妖精の弾幕はことごとく消されてしまっている。

 

「こうなったら…魔符『フェアリーズマジック』!」

 

「あら。これ自機外しよね。」

 

「まだまだ!追撃『フェアリーズネット』!」

 

 レミリアの前に網状の弾幕が現れる。

 

「なるほどね。これらの弾幕に紛れて襲おうと…だが!」

 

「だめだ大妖精!その方法では!」

 

 優斗が叫ぶ。

 

 その時、レミリアの顔が変わった。

 

「この弾幕をすべて消せばいいのよ!紅符「スカーレットマイスタ」!」

 

 一気に解き放たれる赤い弾。奇襲をしようとした大妖精は…

 

「ああっ!」

 

 ―――被弾した。

 

 そのまま空中に放り出される。

 

 

 

 

 

「被弾した……」

 

 やっぱりレミリアは強かったか。

 

 ―――って、まずいぞ。あのままでは地面に落ちてしまう! 何もしないところを見ると意識を失っているのだろう…

 

「あの角度とスピードだと落ちる場所は……」

 

 1.5秒で計算しすばやく落下位置に行った。

 

 そしてそのまま首と足を持ち受け止めた。―――危ない、危ない。

 

「う~ん。―――優斗……」

 

 目が覚めたようだ。

 

「負けちゃった……」

 

「いいや、よく頑張ったな。」

 

「うん……―――って!」

 

 よく見るとお姫様抱っこになっている。

 

「……」

 

 まあ、助けたんだからしょうがないよな。

 

 と、いうわけで俺たちの弾幕ごっこ大会は終わりを迎えた。―――のだが…

 

 優勝者も決まり家路につこうとしたとき、一枚の紙切れが落ちていた。

 

「ん? なんだこれ?」

 

 おお、これは学級新聞の文々。新聞だ。どれどれ内容は……

 

「なんじゃこりゃ!」

 

 トップ記事にこう書いてあった。

 

≪大妖精と優斗!ラブラブ弾幕ごっこ練習!≫

 

 と、書いてあった。

 

「おつかれさまでした~」

 

 ちょうど文が来た。

 

「文~」

 

「へ、なんですか?」

 

 文はこちらを見て青ざめる。

 

「新聞の件で話がある」

 

 あくまで笑顔で話す。

 

「げっ!」

 

「映姫より長い説教してあげるよ。」

 

「ひい! か、勘弁してください!」

 

 もちろん慈悲はかけなかった。

 

 

 

 




と、いうわけで第八話です。

優斗の説教……恐ろしい。たぶん二時間くらいしたんでしょう…

いよいよ夏休み編に入ります!(現実は春休みが終わるんですけどね…)

では!



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夏休み
第九話 竹林の魔物


「えっ? 迷いの竹林に魔物!?」

 

夏休み初日、驚きの事を大妖精から聞いた。

 

「うん、その魔物はね…」

 

 聞くところによると、とても凶暴で月に一回だけ現れるそうで、緑の髪をしていて、角が生えているそうだ。―――何かで聞いたことがあるような。なんだっけ?

 

「それでね…昨日学校でね、」

 

ああ、もう聞かなくてもわかったぞ。

 

「みんなで見に行こうというわけだろ。言いだしっぺは…チルノだな」

 

「何で分かったの!」

 

まあ、大体な。

 

行くのはチルノ、ルーミア、リグル、ミスティア、大妖精といういつものメンバー。そして俺も、チルノの目にかかったらしい。

 

「まあ、いいけど。最近少し強くなったし」

 

そう、俺も弾幕ごっこ大会の後頑張って練習したら、2面ボスの弾幕が出せた。どうやら頑張ったらより強い弾幕が出せる能力らしい。

 

「まあ、すぐに疲れるんだけどね…」

 

だけど、強い弾幕を出すと、その分疲れる仕様になっている。もうちょっと、何とかこの能力何とかしてほしい…

 

「じゃあ、いくか!」

 

 

 

 

 

と、いうわけでみんな(バカルテット)と、合流した。

 

「みんな!目的は分かってる!?」

 

チルノが叫ぶ。どうやらリーダーのようだ。

 

「あたいたちで迷いの竹林に潜む魔物を退治するよ!」

 

おおーと、歓声が上がる。

 

「では、2組に分かれるよ!」

 

と、いうわけでチルノと大妖精と俺、ルーミアとミスティアとリグルに分かれて探すことになった。

 

 

 

 

 

「さあ、探そう!」

 

「うん!」

 

と、二人は張り切っているようだが、迷いの竹林で見つけるのは至難の業だと思うのだが……。

 

「何だっけな~」

 

しっかし、魔物の特徴どっかで見たことがあるような気がするんだけど……デジャヴかな?―――その時、

 

「グルオオオオ!」

 

早速でた。見た瞬間、その強烈な印象から、俺の記憶が引き出される。

 

―――このフォルム。緑の髪に角。思い出したぞ。これはまさか……―――まてよ?!確かこの人はみんなの…

 

「逃げるぞ!」

 

信用を壊すわけには……

 

「何言ってるの!倒すよ!」

 

チルノが叫ぶ。

 

「氷符『アイシクルフォール』!」

 

ガシュ

 

やはり一発で吹き飛ばされてしまった。

 

「ス、スペル…」

 

魔物が言う。その途端に背後から無数の棒状の弾幕が現れ、襲いかかってくる。

 

「これは…」

 

―――一条戻り橋だ!

 

「くっ!」

 

何とか弾幕をだし相殺しながら、俺は避ける。チルノも何とか避けている。大妖精は

 

「……」

 

って、放心状態だ!弾も迫ってきてる!

 

「っつ!」

 

抱えるようにして大妖精を避難させる。―――そのとき俺のふくらはぎを弾幕がかする。

 

「痛っ!」

 

少し血が出ている程度だが、人間の俺は結構痛い。

 

「大丈夫!?」

 

また俺の大妖精のところに弾幕が展開される。まずいな…―――その時突然、

 

「フジヤマノヴォルケイノ!」

 

一気に弾幕が消された。このスペカは…

 

「慧音ー!」

 

「妹紅先生!?」

 

大妖精が驚く。やっぱり妹紅だ!

 

そのまま妹紅は抱きかかえるように慧音の動きを止める。

 

「えっ、えっ?どういう事?この魔物は?」

 

大妖精は頭が混乱している。要するに…

 

「この魔物は大妖精の担任の先生。すなわち慧音だったっていうわけだ。」

 

 

 

 

 

その後ルーミアたちと合流し、妹紅の家へ行った。

 

慧音も今は正気である。慧音の口から説明が始まった。

 

「そうか、噂に聞いていたがまさか私だったとは…」

 

慧音は月に一度たまった仕事を片付けるために角の生えている、いわゆるきもけーねになっているそうだ。しかし、暴れているという自覚はなかったらしい。

 

「……私は先生失格だな。みんなに迷惑をかけて。」

 

そのときチルノたちが口を開いた。

 

「ううん、そんなことはないよ。」

 

「そうそう。」

 

「先生はいつでも、」

 

「私たちの先生なのかー。」

 

「みんな……」

 

「まあ、慧音。今日は泊まって行って」

 

妹紅が言う。話したこともあるだろうし、俺たちは帰るか。

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

疲れたな。

 

もうとっくに解散して、家に帰っている。

 

「どうだった?」

 

「うん……優斗大丈夫?」

 

「ああ、このくらいの怪我すぐ直るよ」

 

「そう…」

 

ん?どうしたんだろう。

 

「よかった……私のせいでなんかあったと思って…」

 

と、大妖精の顔に一筋の線が流れる。って、涙…

 

「いや、大丈夫だよ。」

 

大妖精の頭をなでる。不安を取り除かなければ。

 

「うん…ありがと」

 

 俺の膝に大妖精の頭が乗る。

 

 少しずつ涙が引いていっている感触が伝わってくる。

 

「そうそう、それでこそ大妖精だ。」

 

「うん……」

 

どうやら安心したようで、満月の下、大妖精は俺にもたれながら幸せそうな顔で寝ていた。きっと慧音も妹紅と一緒に安心して眠っているだろう。




第九話です。

さすが優斗でしたね。彼の一種のカリスマかもしれません。

では、またお会いしましょう!


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第十話 もう戻れない……

 



「いってらっしゃ~い。」

 

 大妖精はクラスのみんなでレミリアが作った紅魔館内のプールに行った。

 

 え?なんで行かないのかって?―――なぜなら、

 

 ・紅魔館は一回ピチュった経験があるのであんまり行きたくない。

 

 ・昔ラノベを読んでたら、こういう感じの場面があって主人公がろくなことになってないから。

 

 と、いうわけで今日は東方のお勉強だ。

 

「あっ」

 

 思い出した…

 

 見ていたのは八雲紫のページ。―――前に嘘をつかれたのでそれについて話したいのだ。

 

「紫先生~」

 

 反応がない。しらばっくれているな。

 

「藍先生にお願いしてごはん抜きにしてもらいますよ~」

 

「はいはーい!」

 

 作戦成功だ。妖怪最強とは思えないくらい脇が甘い。

 

「何かしら?」

 

「スキマで俺の住んでいた世界に戻せるんですよね?」

 

「あら~ばれた?」

 

「別にいいんですが、もう幻想入りして4か月たってるので家族が心配していると思うんですよ」

 

「え? そんなことないと思うわよ」

 

「はい?」

 

 そこまで家族の仲は悪くない―――と、思っていたのだが……

 

 

 

 

 

「――だってあなたあっちの世界じゃ存在しないことになっているもの」

 

 

 

 

 

 ――…なにを言ってるんだ?

 

「なんなら見てみる?」

 

 と、スキマが出てきたので覗いてみると……

 

「本当だ…」

 

 俺の家なのだが、俺のものがパスポートや保険証もふくめ一個も無い。友達に借りていた卒業アルバムも俺の事がすっぽり抜けている。

 

「どう、わかった?どうせどっかの妖怪の仕業だろうけど……まだあっちの世界へはいけないわよ」

 

「いや、別にかまわないです」

 

 せっかく幻想郷に来たんだ。ここで帰ってたまるか。

 

「まあ、それならいいけど」

 

「ああ、ありがとな」

 

「じゃあ、今度はこっちのお願いも聞いて!」

 

「え? ああ、わかった。」

 

「じゃあちょっときて~」

 

 と、スキマの中に入っていく。

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 見たところ教室のようだが…机が一個しかない。

 

「と、いうわけでこれからテストをやってもらいます!」

 

 え? テスト?

 

「教科は国語と数学。制限時間は一時間。では始め!」

 

 おっと、テストならばやらなければ。って、これ中学生が解くような問題だぞ。

 

 一時間後

 

「はいそこまで。余裕だったわね~」

 

 そりゃ中学生レベルの問題なんか余裕だろ。全問正解間違いなしだ。

 

「じゃ、家に帰っていいわよ~」

 

 と、スキマを使って家に帰った。もうお昼だ。

 

「おつかれさま。大変な一日だったわね~」

 

 と、家に居座る紫。

 

「……もう用はないんじゃないですか」

 

「まあまあそういわずに。実はね、」

 

「何ですか」

 

「こんな残酷なことがあって心が折れそうになってるあなたにご褒美をね。」

 

「いや、心折れてないんですけど」

 

「さあ、いきましょう!」

 

 と、強引に腕をつかんでくる。すごい力だ。

 

「へ?!どこに」

 

「まあそれは行ってからのお楽しみ♪」

 

 ニヤニヤしながら紫が言っている。なんかいやな予感が…

 

「ちょ、ちょっとまって…うわー!」

 

 スキマの中に叩き落されてしまった。

 

 

 

「いてて…」

 

 どこだここ?―――見たところ部屋の中のようだが…

 

「ん?なんだこれ?」

 

 ずらーっとかごが並んでいる。ん?何か入っているぞ。

 

「これなんだ?―――うわっ!」

 

 これは…―――大妖精の青のワンピースだ。

 

「と、いうことは…」

 

 どうやらここは紅魔館の中らしい。そして今日は大妖精たちが泳いでいると言っていたから…

 

「どうする…」

 

 前に見たラノベから推理すると…

 

 ・この光景が大妖精たちにみつかる。

        ↓

 ・問答無用でピチュる。

 

「まてよ…」

 

 必死に頭を動かし考えた結果、

 

 ・すぐに門のところに行って美鈴にお願いしさりげなく今来たようにする。

 

 と、いう結論に達したのですぐに行こうとする。

 

 ―――しかし現実はそんなに甘くない。

 

「いや~良かったね」

 

「最後すごかったね~」

 

 声が聞こえたきた。ここで出たら鉢合わせしてしまうだろう。

 

「こうなったら…」

 

 もう説明するしかないのだが成功する確率を計算したところ…

 

「0.1パーセント…やるしかないか。」

 

 ガチャ

 

 ドアが開いた。

 

「そうだね。―――え!優斗!」

 

 大妖精のクラスの20人以上が入ってきた。

 

「は? どういう事なんだぜ?」

 

「お、優斗さんノゾキですか~もうちょっとうまくやれないもんですかね~(笑)」

 

魔理沙と文がいやらしい笑みを浮かべてくる。精神力がガリガリと削られる。

 

「いや、これは紫に強制的に…」

 

「問答無用だよ」

 

 と、みんなの気持ちを代表したその大妖精の言葉は死刑宣告のような気がした。

 

「追撃『フェアリーズネット』!」

 

 もう2度と紅魔館に行くものかと心に誓いながらピチュる俺であった。

 




はい、というわけで第十話です。

今回の題名、二つの意味があったんですがお分かりになったでしょうか!

優斗は紅魔館では必ずピチュるみたいですねw

ではまた十一話で!



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第十一話 夏祭り そして…

「は~夏休みももう終わりか。」

 

 夏休みもあと一週間となり、大妖精の宿題も佳境になっていた。

 

「よし。読書感想文はこれでいいな。―――これで…」

 

「終わったね!」

 

「ああ、やはり夏休みの宿題は最大の敵だったな。よく頑張った。」

 

「これで夏祭りに行けるね」

 

 宿題が終わらないと夏祭りに行かせないという慧音の脅しがあったようで、チルノは大丈夫かなーと思った。

 

 そんな大妖精たちの苦労もあり、夏休み最後にして最大のイベント、人間の里での夏祭りを迎えた。

 

 

 

 

 

「幻想郷の夏祭りか~どんなんだろうな~」

 

 俺の世界と同じなのかな?と、考えている内に大妖精が来た。

 

「おまたせ~」

 

 あれ?いつものワンピースじゃないぞ。

 

「―――珍しいな、浴衣なんて」

 

 全体的に緑で帯は青の浴衣を着ていた。

 

「まあ、たまにだからね。どう?」

 

「うん、いいんじゃない?―――じゃ、いこう。」

 

 嬉しかったのか、少し微笑んだ大妖精と共に人間の里に向かった。

 

 

 

 

 

 へえ、やっぱり夏祭りってのはどこも同じなんだな。夜店もちゃんとあるし、最後には花火もあるらしい。

 

「久しぶり優斗!」

 

「あら優斗。こんにちは」

 

「おう、大妖精と一緒か!」

 

「みんな久しぶり、チルノにアリスに魔理沙」

 

 やっぱりみんな来ているんだな。みんな浴衣だ。はやっているのかな。

 

「チルノ、宿題は大丈夫だった?」

 

「も~あたいの事をバカにしすぎだよ!」

 

「ごめん、ごめん。」

 

「私たちは協力して何とかなったんだぜ!」

 

「ええ、疲れたわ…」

 

 アリス、顔がまんざらでもない感じだが…まあいいや。

 

「あれ?大ちゃん優斗に―――」

 

「あわわっ、だめだめ!」

 

「おっと、ごめんごめん」

 

「大妖精、ちょっとこっちこい」

 

 なんか魔理沙とアリスが大妖精に何か言っているようだが…聞こえない…なんだろ?

 

「おまたせ~」

 

「大丈夫?なんだか暑そうだけど」

 

「う、うん大丈夫。行こう」

 

 ガールズトークというやつかな?

 

 

 

 やはり祭りといったら夜店だろう。

 

「あっ、射的!」

 

 おなじみ射的がある。ただ、『弾幕とかその他コルク銃以外使用禁止』と書かれているところ

 が幻想郷らしい。

 

「どう、やっていくかい?」

 

「はい、お願いします。」

 

 まずは大妖精。

 

 バスバスバスッ

 

 五発すべて外してしまった。

 

「う~ん難しい」

 

「よし、俺だな」

 

 別にほしいものもないので、大妖精が狙っていた上海人形のような洋風の人形を狙うことにする。

 

「いいか。射的の景品は当たると確実に獲れるところがある」

 

 俺は頭の中であの人形の弱点を考える。気分は草むらに隠れるスナイパーだ。

 

「普通に考えて中心だが…あの持っている右手にある槍を計算に入れると…」

 

 タァン

 

 俺の放ったコルク弾が槍を持っている側の体に当たる。そのままくるくると回転し…

 

「おめでとう! ゲットだよ!」

 

「よし」

 

「やった!」

 

 と、景品を手に取った時、

 

「あ、それ私のよ!」

 

 アリスが来た。あれ本当にアリスのだったのか。

 

「落としていたのよ」

 

「あれ? あなたのだったんですか!? 商品にしちゃいました。」

 

「じゃあ、返すよ。」

 

「ありがとう。―――お礼といってはなんだけど、魔力の入ってないのをあげるわ。いまちょうど二個あるから。―――はい。」

 

 お、ラッキー。なんか二つに増えたぞ。

 

「ありがとうアリス!じゃあ、一個は私で、もう一個は優斗に。」

 

「おっ、ありがとう。」

 

 ちょっと高校生の俺が持つには不自然だが、幻想郷に職務質問はない。

 

 

 

 

 

 人形を見ていると、不意に横から声が聞こえた。紫である。彼女も射的をするらしい。

 

「優斗見てなさい。計算しなくても撃ち落とす方法を教えてあげるわ」

 

 計算しないとは――なるほど。スキマを使って……

 

 と、俺が考えている内にスキマを使って賞品のすぐ前まで移動している。それ反則だと思うのだが…

 

「もらった! ―――ごはっ!」

 

「あんた何やってんの! ――ごめんなさいねこのスキマ妖怪が迷惑かけて。」

 

 どうやら一緒に行動していた霊夢が後ろから殴り飛ばしずるずると引きずっていく。すごく怖い…

 

 そんな一騒動もあったが、いよいよ目玉の花火が始まった。

 

 

 

「よっと」

 

 大妖精が「人が少ないところが見やすいよ。」と、アドバイスをくれたのでメイン会場の後方に座る。

 

 ヒュウウウ―――パーン

 

「わあ……」

 

「きれいだな……」

 

 様々な色の花火が空に放たれる。

 

「今日は射的ありがとね」

 

 不意に大妖精が口を開いた。

 

「いや、あのくらい簡単だ」

 

 なんか大妖精の様子がおかしい。声が上ずっている。

 

「そういえば慧音が変身した時も助けてくれたね。」

 

「え?―――ああ。」

 

 あの時はみんなテンパってたなー。―――ってどうしたんだ。顔赤いぞ。

 

「私…私…―――」

 

 ちょうどその時、

 

 ドッパアアン―――ワー!

 

「わっ!」

 

 この日一番の花火と歓声が起こり、大妖精が驚いた。

 

「大丈夫か」

 

「うん」

 

 なんか真面目だったので深くは聞かないでおこう。

 

 こうして夏祭りは終わった。

 

 

 

 

 

 夏休み最終日。

 

「なんでまたここに連れてこられたんですか」

 

 また紫に言われてある所に来た。何の用だ。なんか映姫校長もいるぞ。

 

「いや、実はね。この前のテストの採点が終わったのよ。すごいわねほとんど正解よ」

 

「できて当然です」

 

 あれは簡単すぎた。内容が中学生だったぞ。

 

「そこであなたにお願いがあります」

 

 映姫が改まった口調で言う。(身長は大妖精と同じくらいだが)

 

「あなたに――」

 

 映姫の提案を聞いて、胸が高まる。

 

「――わかりました」

 

 二つ返事で了承した。

 




と、いうわけで第十一話です。

宿題…どこの世界でも大変ですね。

しっかし優斗は射的までちゃんと考えるなんてさすがですね。そして映姫先生の身長のことについて触れるなんて度胸ありますね。

最後に優斗が承諾したこと。お分かりでしょうか!?

ではまた十二話でお会いしましょう!


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二学期
第十二話 『社会人』優斗


「いってらっしゃい」

 

 と、いつものように大妖精を見送る。

 

 だが俺はいつもの通りでは無い。

 

「あ~これで最後か……」

 

 ガチャ

 

 大妖精の姿が見えなくなってから、ドアを開け外に歩いていく。眼前には真っ黒な空間が広がっていた。

 

 

 

「どうも」

 

 俺がやってきたのは狭く、暗い部屋。―――そこに紫がいた。

 

「あら、こんにちは。ちょうど時間よ」

 

「時間は守るたちですから。それではお願いします」

 

「ええ。もう覚悟はできているのね。」

 

「はい」

 

「ではいくわよ!」

 

 目の前にスキマが広がる。

 

 

 

 

 

「ふう」

 

 目を閉じていた俺の周りに声が聞こえる。

 

 ゆっくりと目を開けると、大妖精やチルノ、魔理沙やお空などが机に座っていた。

 

「どうも。新しく幻想高校の先生になりました。朝霧優斗です。よろしく。」

 

 ここは一年一組の教室。いまスキマでワープした。

 

 今ので全員理解してくれただろう。

 

 大妖精の通っている学校の先生になったのだ。

 

 前のあのテスト、あれは先生になれるかの試験だったらしい。もっともあのレベルではかなり心配だが。

 

「はい、というわけで優斗先生はスクールアシスタントとして、みなさんに勉強を教えてくれることとなった。――ではこれでホームルームをを終わりにするぞ」

 

 慧音が話を締め、生徒には衝撃的だったホームルームが終わった。

 

 

 

 

 

 終わった後歩いていると……

 

「ねえねえ、どういうこと!」

 

「え? ぐわっ!」

 

 あまりに驚いた大妖精から後ろから突き飛ばされた。

 

「教えろ優斗!」

 

「ぐはっ! 背中に乗るなチルノ……」

 

 ついでにバカルテットに潰された。

 

 大妖精はチルノを引きはがすと、俺に疑問のまなざしを向けてきた。

 

「ねえどういうこと? 優斗が先生になった? ――とにかく説明!」

 

 フラフラになった俺は経緯を説明する。

 

「へ~私たちに勉強を教えてたら…」

 

「先生になってと頼まれた!?」

 

「さすが優斗なのかー」

 

「すごいわね!」

 

 みんな口ぐちの感想を言う。

 

「と、いうわけでこれからはいろんなクラスに勉強を教えに行くことになったから」

 

 そんなこんなで全体の学力向上のため尽力することになったのだが……

 

 

 

 

 

「甘かった……」

 

 全身が重い。体力がもう尽きかけている。

 

 たとえば国語。担当は霖之助先生なのだが、他の先生の暴走を止めるために走り回って授業にならなかった。理科は幽香先生がみんなをぶっ飛ばし、体育はおなじみ弾幕ごっこで死にそうになった…

 

 もちろんこの他にも無数にエピソードがある。とにかく俺の高校と違いすぎて、肉体的にも精神的にも疲れた午前中だった。

 

 ―――しかし、授業だけで終わるわけではない。

 

「うあー」

 

 お昼、職員室に戻った時にはぼろぼろになっていた。

 

「大変そうだね」

 

 と、疲れた俺に声をかけたのは、国語担当の霖之助先生だ。

 

「ええ。みんなのパワーがすごいです」

 

「そんなことだろうかと思って……――はい。」

 

「あ。ども」

 

 もらったパンをかじりつつ、霖之助先生と話す。

 

「そういえば霖之助先生って、俺が来るまでずっと男一人だったんですか?」

 

「え? そうだけどそれが?」

 

「なんという無自覚ハーレム……」

 

 たわいもない会話をしていたその時、

 

 ピーンポーンパーンポーン

 

「え?なんだ?」

 

 いきなり校内放送が流れた。―――この声は…永琳先生だ。

 

「え~今日スープが配られたと思います」

 

 へーそうなんだ。そういえば俺購買行ってなかったな。

 

「あの中には私お手製、性格が変わる薬が入ってまーす!」

 

 えっ?―――でもどうやって?

 

「なんだかおもしろそうだったから協力したわよ~」

 

 この声は…購買部の幽々子先生だな…

 

「効果はこれから二十分後から。午後の授業はお休みにしてもらったから存分に楽しんでね~」

 

 そこで放送が切れた。

 

 思わず身震いしてしまった。永琳先生の薬だったら効果は抜群だろう。いったいどうなってしまうのか。

 

 俺を洗礼するかのように午後が始まる。。

 




と、いうわけで第十二話です。

優斗も言っているのですが、これってハーレムですかね?タグ追加したほうがいいかな?いや、霖之助先生がいるから……微妙なラインですね。

、皆さんお分かりの方もいると思いますが、優斗が先生になったことでさらに『幻想高校の日々』とリンクします!お楽しみに!

ではまた!


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第十三話 優斗への洗礼(?)

「じゃあこれからどうします?」

 

「う~ん。――じゃあちょっとみんなの様子を見に行こう」

 

 と、『性格が変わるクスリ』の効果を確かめにいく俺と霧之助先生。

 

「優斗先生、霧之助先生~」

 

「あっ、藍先生」

 

 前から数学の藍先生がやってきた。

 

「聞きましたか」

 

「ええ。―――もう橙が心配で心配で……」

 

 すこし涙目になりながら橙を心配している。(スープは飲まなかったらしい。)

 

「じゃあ、見に行きましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

「じゃあ、一年二組に行きましょう」

 

「それなら私、職員室に戻りますね。ほかの先生の様子を見てきます」

 

 霧之助先生が戻り、藍先生と行く。

 

「着いたか」

 

 ガラッ

 

 そのまま一年二組の前のドアを開け、教室を見渡す。

 

「おっ、いましたよ!」

 

「ちぇん!」

 

 そこにいた橙は………

 

「あっ、藍しゃま。どうなさったんですか」

 

「「えっ?」」

 

「お体に何かあられたのですか? それならすぐに私を呼んでくださいよ。いつでもお供しますから」

 

 こ、これは………

 

「大人っぽくなってる……」

 

 さすが永琳先生のクスリ。かなりの効き目だ。――そしておそらく藍先生の反応は…

 

「ち、ちぇぇぇぇぇぇぇん!!大人になって!もうそんなに成長したのか……」

 

 涙を流しながら橙に抱きついている。大変わかりやすいことで。

 

 

 

 

 

「じゃあほかの様子も……」

 

 次に隣の一組の教室に行く。

 

「ねえねえいいでしょ!!」

 

 中から駄々っ子のような声が聞こえてくる。誰だ?―――普通に考えたらチルノとかだが……まさか大妖精とか?

 

 ―――キャラ崩壊もいいとこだな。

 

 考えながら教室に入るとそこにいたのは

 

「ねえにとり!あの便利な防水服頂戴よ!」

 

「いきなりどうしたの?!雛らしくないよ?!」

 

 そう、冷戦沈着()()()の雛だった。

 

「ひ、雛……なんというキャラ崩壊(笑)」

 

「あっ、優斗!なんか雛が変わっちゃって……なんとかして……」

 

「いや、俺にはどうしようもないから頑張れ。」

 

「そんな~」

 

「まったくうるさいわね~」

 

 と、教室に入ってきたのは、

 

「幽花先生……」

 

 幽花先生はどうなったんだろう?

 

「あっ、ちょうど良かった理科教えてもらえるかしら?」

 

 クスリですごい大人っぽくなったフランとレミリア(その周りにギャップ萌えしている咲夜)が聞く。

 

「ええ。構わないわよ」

 

 やたら優しい幽花先生。薬の効果か?

 

「ありがとう」

 

「べっ、別にあなたのためじゃないわ! ただ成績が良くなってほしいからよ」

 

「あらお姉さま、抜け駆けはずるいですわ。私も教えてくださる?」

 

「だから私はそんな暇は……ああもう、貸しなさい! 仕方ないからやってあげるわよ」

 

「「ありがとうございます」」

 

 これってもしかして……

 

「ツンデレ……――ふはははははは!!」

 

 これは笑える。口調は普通だが完全にツンデレだ。

 

「あなた……笑ったわね」

 

「え?気にしているんですか?」

 

「なぜかこうなってしまうのよ!笑ったな。許さん!」

 

「マズ……」

 

 幽花先生に背を向けダッシュで教室を出る。――危ない危ない。ピチュるところだった。

 

 さすが幽花先生。クスリの効果があるのに少しは自我があるみたいだ。

 

「さて……どうしよう」

 

 どうせならいろんな人の変わり様を観察して楽しみたい。

 

そんな欲望丸出しの願望を考えている俺の前に現れたのは……

 

「おにーちゃんどうしたの?」

 

「な………」

 

 絶句した俺の前に現れたのは、すごく性格がロリ化した映姫校長先生であった。

 




と、いうわけで第十三話です。

今回でこの話終わらせようと思ったけど、おもしろかったんで映姫校長先生登場させちゃいましたw

次回は優斗があわてる未来しか見えないですね。

ではまた!!


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第十四話 映姫ちゃんを連れて

「さてどうしたものか……」

 

 このロリ化した映姫先生に絡まれてしまった。

 

 これでもいっぱしの校長なのだが、威厳のかけらもない。もともと体格は小学生だけど。

 

「映姫先生、これからどうします?」

 

「先生?」

 

 ああ、記憶がないのか。さすが永琳先生だ。

 

「何したい映姫ちゃん?」

 

「ん~とね」

 

 いつもなら説教間違いなしの呼び方で聞く。

 

「お腹すいた」

 

「じゃあ食堂いこう」

 

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

「あら~いらっしゃい」

 

 そこにはこの異変(?)の元凶がいた。

 

「幽々子先生……」

 

「どう?おもしろいでしょ!?」

 

「……まあ」

 

 俺が薬の影響を受けなかったので、すごく楽しい。

 

「はい。これサービス」

 

「あ。ども」

 

 余り物のカレーを映姫ちゃんにあげ、食堂に出る。

 

 

 

 

 

「よう優斗」

 

「おう魔理沙……―――何をやっているのだね……」

 

「ああ……私も困り果てているんだ。―――もしかして優斗も同じクチか?」

 

「ああ」

 

 何と魔理沙はアリスとパチュリーに足を掴まれ引きずりながら歩いていた。

 

 映姫ちゃんと同じくロリ化してしまったらしい。

 

「魔理沙おぶって」

 

「私も」

 

「あーはいはい」

 

 あっちは2人で大変そうだ……――俺も十分苦労しているが、同じ境遇の人がいてちょっとうれしかった。

 

 

 

 

 

「おぶって」

 

「はいはい……」

 

 映姫ちゃんは足が疲れたようだ。体力も落ちたのかな?

 

「どうも~」

 

「おう、小町」

 

 映姫ちゃんの従者の小町だ。

 

「聞いたところによると映姫様がすごく幼くなったんだって?」

 

「ああ」

 

「実はな折り入って頼みが……」

 

「なんだ?」

 

「こんにちは~!!」

 

「文……」

 

 小町の後ろから、文の顔がひょこっとあらわれた。

 

 2人が一緒にいるってことは……―――ははあ、読めたぞ。

 

「写真撮っていいよ」

 

「おっ、さすが優斗さん。お見通しですね~」

 

「そんでもって、それを小町に渡すんだろ?」

 

「さすがは紫先生が見込んだ優斗。噂どおりの頭の切れっぷりだな~」

 

 要するに俺におんぶされている写真をあとで笑いのネタにしようという魂胆だろう。

 

「では!はいチーズ!」

 

 パシャ

 

「ありがとうございまーす!」

 

「あとで俺にもね」

 

「もちろんです! ではでは~」

 

また楽しみが一つ増えたな。

 

 

 

 そのまま映姫ちゃんを肩の上に乗せていると、

 

「よお優斗!!」

 

 チルノが来た。

 

「よう。薬飲んだか?」

 

「?」

 

 飲んでいないのか?―――飲んだとすれば……分かったぞ。

 

「チルノ、正確な日本地図を作ったのは?」

 

「伊能忠敬(即答)」

 

「やっぱり」

 

 めっちゃ頭いいじゃないか。―――あれ?もしかして大妖精は⑨になったのか?

 

「じゃあね!」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 もうそろそろ薬の効果が切れる時間なのだがまだだろうか?

 

「もう疲れた……―――おわっ!」

 

 意識が脳のほうへ行っていたのが悪かった。

 

 足がもつれ,すっころんでします。

 

 そのまま前にいた映姫ちゃんを巻き込み……

 

 ドサッ

 

「痛てて……――えっ?」

 

 なんか壁ドン(床バージョン)になっている。

 

「びっくりした……」

 

 誰かに見られたら確実にピチュってたな。

 

「優斗……」

 

 あれおかしいな? なんで聞きなれた声が真後ろで聞こえるのだろう?

 

 認めたくない。今の行為を見られてたなんて絶対に認めたくない。

 

 諦めたらそこで試合終了。何事も挑戦が大事だ。

 

 恐る恐る後ろを見ると……

 

「なるほど、薬の効果が続いている内に映姫校長先生をめちゃめちゃにしようと……」

 

 顔に青筋を入れている大妖精がいた。しかも末恐ろしい勘違いをしている。やはり望みはないのか。

 

「制裁しなくっちゃね」

 

 そのまま怖い笑顔で俺に迫ってくる。

 

「くっ……」

 

 紅魔館の一件から、こういう時の大妖精は説得など意味がないことを俺は知っている。ならば……

 

「頼むぞチルノ。スペル発動!パーフェクトフリーズ!」

 

 七色の弾幕が俺を包む。このままこれを盾に速攻で逃げてやる。

 

「させないよ!」

 

 すぐに大妖精が反応し弾幕をだす。

 

「ふふ。大妖精。お前の弱点は絶対的な弾幕の量が少ないことだ!」

 

 俺の弾幕は少ししか打ち消されない。これに男子高校生の足を生かせば十分逃げ切れる。

 

「くっ………―――なんてね」

 

「へっ?」

 

 ―――瞬間、

 

 ガキィ

 

「何っ!?」

 

 俺の弾幕がすべて消えてしまった。見ると……

 

「映姫ちゃ、映姫先生……」

 

 映姫先生が正気に戻っている。

 

「よくも……よくも……いろいろやってくれましたねー!!!」

 

 その顔は真っ赤だ。いろいろと俺と一緒の時にあったことを覚えているらしい。

 

 これはかなりまずい。しかし……

 

「人間やってやれないことはない。もう一度頼むぞチルノ!」

 

「行きますよ大妖精」

 

「はい」

 

「マイナスK!」

 

「フェアリーズネット!」

 

「ラストジャッジメント!」

 

 前言撤回。やっぱり無理だ。

 

 そのまま押される。

 

「じゃあ、ゆっくり反省してね♪」

 

 絶対後で説教されるんだろうなぁと後悔しながらピチュっていくのであった。

 




と、いうわけで第十四話です。

大妖精怖えー!笑顔なのがギャップを生み出してさらに怖くさせますよね。

「幻想高校の日々」のほうは今回出てきた魔理沙視点で書きたいと思います!そちらもぜひ!

ではでは!


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第十五話 追加説教タイム

「と、いうわけでよろしいですか!」

 

「……はい」

 

  1時間にも及ぶ長く、辛かった説教が終わり、やっと解放された。―――いや、もちろん俺だってただ黙って聞いていたわけではない。ちゃんとこちらの言い分を言ったのだ。こんな風に。

 

「でもあそこで記憶喪失の女の子がいたら助けますよね?しかもあの非常事態で映姫ちゃんを連れなかったら大変な騒ぎになってましたよ?」

 

 そしたらさらに顔を真っ赤にし、正座させられた。どこが悪かったのかはわからないが、火に油を注いでしまったらしい。

 

「当たり前じゃない……」

 

「え? そうか?」

「図星を疲れた時が一番腹が立つらしいよ」

 

「そうなのか……」

 

 もう6時を回っているのに待っててくれた大妖精と共に校門を抜ける。―――その時、

 

「どうも!」

 

「文……こんな遅いのにどうしたの」

 

「実はですね……―――写真ができたんですよ」

 

 俺の顔がわずかに青ざめる。あの写真は映姫先生がロリ化しているときに撮ったもので、あれを見られたら追加説教間違いなしだ。

 

 だが幸い、ここには大妖精しかいない。適当に理由をつければ危険はない。

 

「はいどうぞ!」

 

 映姫先生がいなくてよかった……―――ん?

 

「あれ? 2枚あるじゃないか」

 

「ああ、それサービスです」

 

 ニヤニヤしている文を後目にもう一枚を見てみると……

 

「……ふふっ」

 

「え?どうしたの?」

 

 瞬間、今笑ってしまったことを激しく後悔した。

 

「い、いやなんでもない」

 

「ねえ、見せてよ!」

 

「見せた方がいいんじゃないんですか~」

 

 い、いや。これを見せると先ほど散りかけた俺の命が……

 

「はい、大妖精さんにも」

 

「ちょっ!?」

 

 写真を受け取った大妖精の顔がどんどん恐ろしい物へと変貌していく。

 

「……どういう事かな?」

 

「いや……」

 

 笑顔で問い詰めてくる。本当に怖い。

 

 そこに写っていたのは、

 

「いや~まさか薬の効果で大妖精とチルノの性格が入れ替わるなんてしまうとは思いませんでしたよ!」

 

 そこに写っていたのは、⑨になった大妖精がわずかに上を向き、ぱっくりと口を開け大笑いしている写真だった。

 

その横に困っているチルノが座っていて、完全に立場が逆転していた。

 

「ねえ優斗」

 

「はい……」

 

「あとでちょっと話そうね♪」

 

「はい……」

 

 すぐ逃げられるようにパソコンを起動しておこう。

 

 ―――しかしこの後、俺たちは写真の事などきれいさっぱり忘れてしまうのであった……

 

 

 

 

 

 家のドアを開けると不法侵入している異変の元凶がいた。

 

「あ、間接的に俺をピチュらせた人だ」

 

「開口一番、恨んだ口調になるのは良くないわね~」

 

 幽々子先生がいた。

 

「で?何の用ですか?」

 

「そうそう。今夜白玉楼で先生たちの親睦会を行うから来てね」

 

「はい?」

 

「もちろん大妖精も行くわよね?」

 

「はい! なんだか楽しそうですね!」

 

「決まりね!善は急げよ!」

 

「ちょっ、まだ何も言っていない……」

 

 目の前にスキマが広がった。

 




と、いうわけで第十五話でした。大妖精がなんか最近怖くなってる……

さて、次ですが先生たちが集合します。そこで行われる出来事とは……ヒントをいうと、幽々子先生の種族についての話をするものです。

ではまたお会いしましょう!


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第十六話 白玉楼での親睦会

「ようこそいらっしゃいました」

 

 恭しく頭を下げて出迎えてくれたのは妖夢。スキマに吸い込まれたときは不思議な感覚に襲われたが、無事白玉楼に着け大きく息を吐いた。

 

「すぐに夕食をお持ちしますね。大広間へどうぞ」

 

 ふすまを置けた先には、幻想高校の先生たちが輪を囲んでいた。

 

 今いるのは、数学の紫と藍のお供の橙。国語の霖之助先生の代理の朱鷺子。音楽のプリズムリバー3姉妹、購買部の幽々子、保健室の永琳といったところだ。

 

 その後、妖夢の料理で宴会となった。強引に酒を飲まされたが、あんまり酔わない。

 

 以前からうすうす感づいてはいたのだが、どうも酒には強いらしい。まだ高1なのだが……

 

「おっ、盛り上がってるな~」

 

 社会の慧音に家庭科の妹紅、英語の神奈子が来てさらに盛り上がったところで

 幽々子先生が口を開いた。

 

「それじゃ、夜も深くなってきたし、怪談大会するわよ~」

 

 季節はずれだろうと突っ込みたくなったが、ノリで行われることになった。

 

 特に紫と幽々子が強く「やりたい!」と大声を張っていた。なんか理由でもあるのか?

 

 それとは対象的に大妖精、橙、妖夢、朱鷺子は不安な顔になっていた。まあ、このメンツで怪談やったら間違えなく怖いもんね。本物いるし。

 

 部屋の明かりはろうそく一本という暗い部屋に輪になって座る。時計回りに俺、大妖精、慧音、妹紅、紫、藍、橙、永琳、神奈子、幽々子、妖夢、朱鷺子という配置で顔を寄せ合う。

 

 後、プリズムリバーの3人はは帰ってしまった。怖くなったのか? 本物なのに。

 

「では私からだな」

 

 トップバッターは慧音だ。どんなものを見せてくれるのだろうか。

 

「実はな!この前な!」

 

 ……開始2秒で怖くないことが確定した。そんなに勢いよく言ったら周りが拍子抜けするぞ。

 

 そのまま勢いで語り終わったが、やっぱり誰も怖がらなかった。

 

「ちょ、みんななんで怖がらないんだよ!」

 

「……気づいた方がいいよ……次私ね~」

 

 やんわりとツッコミを入れる妹紅。慧音ってたまに天然だ。

 

「――あれは今から1200年前くらいのことだ……」

 

 そう言って話し出した。慧音よりはいいものを見せてくれるだろう。

 

 

 

 

 

「―――そういうわけで今でもこの亡霊は幻想郷にいるらしい」

 

 話をまとめると、山に財宝を封印しようとしたものが、突き落とされ、亡霊になったらしい。――……ん?どっかで聞いたことが……

 

「そう、例えばこんな夜中に……」

 

「「ぎゃぁぁ!」」

 

 妹紅の締めの言葉に悲鳴を上げたのはふすまを背にしていた大妖精と朱鷺子。

 

「がっ……」

 

 そして俺も悲鳴を上げた。心理的な理由ではない。大妖精が少しでも怖がらまいと俺の腕をしっかりと握っているのだが、怖がって力が入ると、俺の腕が曲がっちゃいけない方向に曲がりそうになるからだ。

 

「は、離さないでね……」

 

 だからといって引きはがすわけにもいかないし……困ったものだ。

 

 その後、紫、藍、永琳、神奈子と続く。

 

 その間終始、大妖精(途中からは朱鷺子)に腕二本を掴まれ、間接を締められていた。―――しかも……

 

「どうしよ……」

 

 本人たちは気づいていないようなのだが、たまに首の下の部分。つまり胸が当たっているのだ。

 

 これを言うと、俺が驚かす亡霊側に回ることになるため、強靭な精神力で耐える。

 

「じゃ、次私ね~」

 

 いよいよ本物、幽々子の登場だ。

 

 

 

 

 

「と、いうわけでその女の子はポルターガイストを起こしながらこういうの。『遊ぼ』って。」

 

 なかなか怖かった。さすがだな。妖夢とか真に受けてるし。

 

 ――と、その時、

 

「へっ?」

 

 面食らったような大妖精の声と共に、いきなりろうそくが宙に浮き、部屋の周りをぐるぐると飛び始めた。

 

「これって……」

 

 ――ポルターガイストか。ってことはつまり……なるほど。読めたぞ。

 

 コンマ5秒で考えた瞬間、大妖精の後ろで

 

「あ・そ・ぼ」

 

「へっ…ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 やっぱりな?―――って、大妖精、俺の肩を掴みながらこっちに倒れこんでこないで……

 

 ゴッっと、鈍い音がした。後頭部を打ったな。

 

「いつつ……―――おい大妖精、大丈夫か?」

 

 と、目を開いたその前にあったのは…

 

「う、うん…」

 

 いま目を開けた大妖精のかわいらしい顔があった。二人の距離は10センチもない。

 

「……ふわわわっ!」

 

 顔を真っ赤にして起き上がる大妖精。ついでに言うと俺の心臓も少しドキドキしている。

 

「あらあらいいわね~」

 

「おお…すごいな」

 

「不純異性交遊は許さんぞ(笑)」

 

 幽々子、藍、慧音など、先生たちがそろってニヤニヤしている。むむ……

 

「どうだった!」

 

 笑顔で質問してくるのはリリカ。その後ろでルナサ、メルランが得意げな表情を作っている。

 

帰ったと見せかけ、三人で驚かす作戦だったようだ。くっそ、すっかりだまされた。

 

「ゆ、優斗……」

 

 まだ顔が赤い大妖精。今すぐにでも声をかけたい。

 

 しかし、今は教師たちへの仕返しが最優先だ。

 

「こっからが試合開始だ。橙、妖夢、朱鷺子~」

 

 生徒の大妖精、橙、妖夢、朱鷺子には耳栓をしてもらう。そう、次は

 

「俺の番だ」

 

 思わず口角が上がる。俺の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

「そこへ髪の長~い女が……」

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 

「もうやめて限界だよ!」

 

「……」

 

「……私をここまで……」

 

 まず神奈子とプリズム三姉妹をグロッキー状態にした。

 

「こういったんだ。『切って~切って~』と」

 

「なあ、一緒に歴史を教えた仲だろ!やめてくれ!」

 

「一緒に料理したよね!」

 

「ら、藍! どうにかして!」

 

「む、ムリですよぉ~」

 

 続いて慧音、妹紅、紫、藍もだ。顔が青ざめ、震えているのが目視で確認できる。

 

 あと、社会も家庭科も一緒に教えたことはないので容赦はしない。

 

 俺に怪談させたことが間違いだったな。

 

「――以上です」

 

 言い終わったとき、みんなこの世の終わりを見たかのように震え、固まっていた。どうでした先生方?

 

「楽しんでいただけましたか?」

 

 この話が広まり、『恐怖の語り人』という二つ名がついたのは、そう後のことではなかった。

 




と、いうわけで第十六話でした。

優斗…怖い人…

なんか新聞の時もそうですが、大妖精のことになるとスイッチが入ってますよね

あと、コラボ募集中です!

ではまた次回お会いしましょう!



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第十七話 いざ月の世界へ!

 四季がはっきりしている幻想郷がようやく涼しくなってきた10月。その初日のHRの時間は風が吹いて結構涼しかった。

 

「う、う~ん」

 

 いつものように大妖精のいる1年1組の後ろで伸びながらまったりしていた俺。

 

 しかしHRの終わりにそんな日常を壊す慧音の言葉が、唐突に投下された。。

 

「さてと、話は変わるがみんな。月へ行きたくないか?」

 

 クラスが騒然となった。後ろでうたた寝をしていた俺も、思わず慧音のほうへ見入ってしまう。

 

 …………月? 月っていうとあのテクノロジー満載のか? しっかしいきなりなんで……

 

「ほら、今クラス別社会科見学の時期だろ?」

 

 ああそうか。うちの学校と特色として、クラスごとに行われる社会科見学がある。慧音はその場所として自分に関係のある月を選んだのだ。

 

 ――しかし問題があるぞ。俺は教室の後ろから手を挙げて質問してみる。

 

「慧音先生。そもそもどうやって行くんだ?」

 

 すると、慧音先生は若干苦い顔をしながら、

 

「うむ。不本意ながら……」

 

 突然前ドアが開いた。

 

「はーい! 私の能力よ!」

 

 紫か。ああスキマね。便利なもんだ。

 

「無理ね」

 

「あらどうして?」

 

 話の腰を折るように言ったのは霊夢。ずいぶんと自信に満ちていた。

 

「私、月に行ったことがあるのよ」

 

「私もだぜ!」

 

「あら、私もよ」

 

 へえ~。霊夢や魔理沙、レミリアも……ん? そんな本があったような……確か1回読んだはずだ。

 

「それで?」

 

「すごく私たちを目の敵にしていたわ」

 

「ああ、しかもメチャクチャ強いんだぜ……」

 

「その点については心配ご無用!」

 

 諦めの言葉に反論したのは紫。賢者といわれるくらいだから何かいい考えでもあるんだろう。

 

「みんなで忍び込んで、何か向こうの大切なものを盗るの。そして『これを返してほしければ社会科見学をさせろ』って、言えばOKよ」

 

 なるほど……って、脅迫じゃねえか。

 

 でもいい案だ。それと同時に、俺はある子供の遊びを思いだした。

 

「紫先生。これって規模が大きい旗取りゲームですよね」

 

「ふふっ、まあそんな感じだわね~」

 

 そう、俺たちが攻撃側で月世界が守備側。俺たちの勝利条件は相手の大切なものを盗み出すことだ。

 

「それでね優斗。あなたには指揮官をやってほしいのよ」

 

「えっ?指揮官ですか?」

 

「ええ。とってもお似合いよ。みんなもそれでいいわよね?!」

 

 おおー!と、同意が得られた。

 

 指揮官か~。もちろん経験はない。でもやるからには燃えるな。

 

 やる気が出てアドレナリンが出たのか、ここで俺は、霊夢たちが月世界に行った小説の内容を完全に思い出していた。――確か、綿月姉妹だっけ?

 

 姉はともかく、妹のほうはずいぶん下の世界を見下している。というか、自分たちの世界に誇りを持っている印象があった。一泡吹かせるのも面白そうだな。

 

「よーし!みんながんばろう」

 

 うぉーっ!と、歓声が聞こえる。さてどうしようか……

 

「紫、確か前は幽々子たちをおとりに使ったんですよね?」

 

「そう。よく知ってるわね」

 

 あの時は霊夢たちをおとりに使い、さらに自分たちもおとりにした二重ひっかけで突破したんだっけ。ずいぶん簡単な手に引っかかったんだな。

 

「もうその手は通じないわよ」

 

「もちろん」

 

 紫とと会話しているうちに俺にすさまじくいい考えが浮かんだ。ふふ……これならなら絶対引っかかるぞ。

 

 こちらの強みはクラスメンバー全員、およそ20人くらいを使えることだ。さらにほとんどの生徒がスペルや能力を知られていない。

 

 それを使って突破する。相手が油断して揚げた足を容赦なくとる。

 

「それではこれから作戦会議を始める」

 

 

 

 

 

 放課後、職員室の紫の机を訪ねた。聞きたいこと。いや、確認したいことがあったからだ。

 

「紫先生」

 

「はい?」

 

「単刀直入に言いますね。今回こんなことになったのは、」

 

「あら~ばれてるの?」

 

 話を遮った紫を無視し、続ける。

 

「前回の勝利が気持ちよかったからじゃないですか?」

 

 要するに、もう一回憂さ晴らしをしたいということだろう。

 

「……そうだけど?」

 

 あっさり認めたよこのスキマ妖怪。まあいいんだが。

 

 ――俺は隠れていたもう一人に声をかける。

 

「永琳先生も出てきていいですよ」

 

「あらら。気づいていたの」

 

 噂を聞きつけ、調査しに来たのだろう。まったく盗み聞きなんて人が悪い。

 

「別に先生のお弟子さんたちに告げ口してもいいですよ」

 

 永琳先生の質問を先回りして俺は答える。

 

「あら、あなたが不利になるじゃない?」

 

「いや、依姫たちにも言いたいことがありますし、」

 

 もう一つのほうが重要だ。

 

「こんなハードモードでクリアしたら最高にクラスの絆が深まると思いません?」

 

「ふふ、確かにね。じゃあ伝えておくわ」

 

 自分でハードルを上げてしまうのは悪い癖だ。まあ、絶対にクリアしてやるがな。

 




と、いうわけで第十七話でした。

次回、首都攻防戦です!優斗はどう攻めていくんでしょうか!

ではまたお会いしましょう!


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第十八話 月世界での攻防~優斗視点~ パート1

 作戦決行の当日、みな緊張した面持ちだった。(ルーミアとかはいつも通りだったが)

 

「じゃあみんな、別れたか」

 

 この作戦を行うにはクラスのみんなをいくつかのグループに分ける必要がある。俺が率いるのはバカルテット+雛だ。えっ?なんでこんなメンバーかって?それは後でのお楽しみってことで。

 

「よしいくぞ!」

 

 最初に3つのグループがスキマに入る。―――瞬間、月の世界に着いた。非常に壮麗な光景だ。しかし、そんな月に待ち構えていたのは、

 

「来ましたね」

 

 予想通り。いきなりラスボス級の相手をぶつけてきた。そう、依姫だ。

 

 さすがというべきか、強そうなオーラがビシビシ伝わってくる。少し気を抜いただけで気絶してしまいそうだ。

 

「1人も通しませんよ」

 

 霊夢達の時と同じく、ここでストップさせる作戦だろう。―――しかし、今回は人数が違う。

 

「頼むぞ第1グループ」

 

「「よし!」」

 

 ここはフラン、お空、お燐、大妖精、小悪魔に抑えていてもらう。大妖精と小悪魔を入れたのは、フランとお空が暴走したときに止めるためと、もう一つある。

 

「爆符『ギガフレア』!」

 

「いくよー! 禁忌『レーヴァテイン』!」

 

「私も! 猫符『キャッツウォーク』!」

 

「全力で行くよ! 魔符『フェアリーズマジック』!」

 

「スペルないけど……えいっ!」

 

 誤認の弾幕が依姫めがけ襲う。とてもきれいだが、見ている暇はない。依姫の動きが一瞬止まった今、中へと入る。

 

 月世界の中は、SFで出てきそうな雰囲気だった。まさに未来都市、表の世界よりも科学が進歩してそうだ。

 

「よし、別れるぞ」

 

 ここで2つのグループに分かれる。一つは俺と一緒に行くグループ。もう一つは椛とアリス。二人には別れてこっそりと移動してもらう。

 

俺たちに目を向けさせ、その間に捜してもらうという作戦だ。

 

「いくぞみんな」

 

 俺たちが進むときに活躍するのがミスティアとリグルだ。ミスティアの声で惑わせ、リグルの虫で驚かす。その間にこっそりと通り抜けるのだ。

 

 今いるのが2面ボス3人、1面ボス2人、そして2面ボス並みの実力の俺。これでは正面から戦うのは無理だ。下っ端らしい兎一人でもうどんげ並の実力だし。

 

 そんなわけで隠密行動だ。以前幽々子がしたように。

 

 そんなわけで大都市のほぼ中心部まできた。これから俺たちも探すのだ。でもおそらくここには……

 

「あら、よく来たわね」

 

 やっぱりいたよ……もう一人のラスボス……そう、豊姫だ。

 

「まあ、ここまで来たことは褒めてあげるわ。―――でもね、」

 

 次に放たれた言葉は、俺たちの作戦が壊滅的であることを知らせるものだった。

 

「あなたのお仲間。アリスと椛といったかしら? ばっちりカメラに映ってたわよ」

 

 さすがは月世界。高性能なカメラはいたるところにはりめぐらされている。

 

 俺たちは手分けしてカメラを探し、よけてきた。しかし個人行動の2人では……

 

「あなたたちはうまく死角に入ったのだろうけど……もう2人とも捕まえておいたわ」

 

「い、いやしかしフランたちがまだ……」

 

「そーだそーだ! それにここにはあたいがいるもん!」

 

 いや、それはあんまり関係ない。

 

「ああ、それももうすぐ決着がつくわ」

 

 そしてとどめの一言。

 

「この勝負、私たちの勝ちよ」

 

「いいや!まだ終わってない!」

 

 いや、もういいよチルノ……―――しっかし、永琳先生に情報を挙げたの間違いだったな。だって……、

 

 

 

 

「―――こうあっさり引っかかってくれるとは思わなかったからな」

 




第十八話でした。 

次回、いよいよ決着です。優斗の最後の言葉の意味とは!?少しだけ期待してお待ちください!

ではまた!


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第十九話 月世界での攻防~優斗視点~ パート2

「この勝負私たちの勝ちよ」

 

 自信たっぷりに言う豊姫。その言葉は豊姫の幻想でしかない。

 

「―――こうあっさり引っかかってくれるとは思わなかったからな」

 

「えっ?いまなんて……」

 

 その時、豊姫に通信が入った。

 

「何?今取り込み中よ!」

 

「いや実は……月の裏手からも何人か攻めてきたんです!」

 

 よし、タイミングはばっちりだ。霊夢、魔理沙、レミリア、にとりに暴れてもらっている。

 

「わかったわ」

 

 即座に通信を切り、妹へ連絡した。

 

「依姫そっちは?―――そう、終わったのね。すぐに月の裏手へ行って」

 

 あらら、もう負けちゃったのか。エクストラボスと6ボス1人に5ボス1人だぞ? やっぱり別格の強さだったな。

 

 よし、頃合いはよくなった。こっちも始めるとするか。

 

「なあ、お前の能力で素粒子に代えられないものって知ってるか?」

 

「えっ?」

 

 やはり豊姫はこちらの能力まで把握していない。

 

「――ルーミア!」

 

「了解なのかー!」

 

 刹那、あたりが暗闇に包まれる。

 

「えっ? ――これあなたたちの能力なの?」

 

 こっから反撃開始だ。

 

「よし、攻撃だ」

 

「うん! 氷符『アイシクルフォール』!」

 

「闇は任せるのかー! 闇符『ナイトロード』!」

 

「んじゃ俺も。妬符『グリーンアイドモンスター』」

 

 しかし向こうもさすがは永琳の弟子。ほとんど何も見えないのに、感覚で避けているようだ。だが―――

 

「おいおい。こっちが本命じゃないぞ?」

 

「!?」

 

 豊姫が息を漏らして後ろががら空きになった瞬間、ヒュンと豊姫の背後を味方が通過した。

 

 文、小傘、ヤマメ、キスメという足の速いメンバーだ。これで1年1組の生徒全員がこの作戦に参加したことになる。

 

 これが俺が思いついた作戦。フランたち依姫への囮。アリスと椛の単独行動での囮。霊夢たちの豊姫を焦らせる囮。そして俺たち、文たちに目を向けさせないための囮。というわけだ。

 

 前の紫の作戦は二重の囮だった。今回はそれの完全上位互換というわけだ。名づけて……『4つの囮(フォース・トラップ)』といったところか。

 

「くっ……させません!」

 

 暗闇の中、豊姫が俺たちに背を向けて走り出す。俺の計算が正しければ……

 

 ゴォン

 

 なんと、豊姫の頭に火花が出るほどの勢いで何かがぶつかり、気絶した。

 

「もう能力切っていいぞルーミア」

 

 視界が開けた俺たちの前に倒れていたのは……

 

「ほんと……計算通りだったな……」

 

 ――綿月姉妹であった。

 

 

 

 

 

 メカニズムを説明すると……雛の能力だ。2人をめっちゃ不幸にし、あそこでぶつかってもらったのだ。闇と運。この2つには共通点がある。―――そう、豊姫の能力が使えないという点だ。

 

 これが俺が考えた対豊姫用の切り札だった。

 

「う~ん」

 

 先に目を覚ましたのは豊姫だった。

 

「あらあなたは……」

 

「どうも」

 

「あれここは……」

 

 俺が2人を和室に運んでおいたのだ。みんなに手伝ってといってもそういうのは男の仕事だとか、チルノに至っては『私はか弱いんだもん!』だって。そんな言葉どっから覚えたんだろう。

 

「2人運ぶのは疲れたよ……」

 

「あら、ありがとう。―――あ~私たち負けちゃったのね~」

 

 そういうとごろんと寝転がった。どうしたんだ?

 

「私の体好きにしていいわよ」

 

「はい?」

 

 な、何を言ってるんだ?いかんいかん、落ち着け。こんな会話をみんなに聞かれたらピチュり確定だ。

 

「いや……俺がいろんな人にピチューンされるからやめてくれ……」

 

「ふふっ、冗談よ。あなたずいぶんと頭が切れるようだけど、意外と面白いのね」

 

 ありゃりゃ、一本取られた。

 

 そして豊姫は少し真面目な顔になって、

 

「しっかし、私と依姫をぶつけて倒そうなんて……よく考えたわね~」

 

「まあな。大妖精と小悪魔がいい仕事してくれたんだよ」

 

 二人にあのグループに入ってもらったのは依姫を焦らせるためでもある。フランとかじゃ一発で見抜かれるからな。

 

「じゃ、協力しようかしらね~」

 

 そういうと外に出た。みんなの案内役をしてくれるんだろう。

 

 

 

 

 

「う~ん」

 

 続いて起きたのは依姫。随分と長く気絶していたので、その間にPCで綿月姉妹のデータを覚えておいた。あ、あと関係ないが大妖精の日とルーミアの日がそれぞれ毎月8日と7日ということも。

 

「あれ……お姉様は……」

 

「ノリノリでクラスのみんなに月世界の紹介してるぞ」

 

「へえ……ってあなた誰ですか?」

 

 いやだなあ。2人を運んで布団に寝かした人なのに。

 

「改めまして、こっちのチームの指揮官の朝霧優斗だ。よろしく」

 

 かがんで握手を求めてみる。

 

「よ、よろしく……ってあなた人間ですか?」

 

 ジト目でにらんでくる。いいじゃないか人間でも。

 

「でも人間も結構やるもんだろ?」

 

「ま、まあ……」

 

「心のどっかで油断してたんじゃない?」

 

 多分、二人が始めから本気を出してたら俺たちはまず、勝てなかっただろう。

 

「ま、まあそうですね……」

 

「まあ、今度同じ事があったらよろしくな」

 

「は、はい……」

 

 依姫の頭をポンポンと叩いてみる。またこんなことができればぜひやってみたい。

 

「じゃあクラスのとこへ戻ってるから」

 

 依姫は疲れているのか、顔が赤かったので、一人にしておいた。最後のほう無口になっていておもしろかったな。

 

 こうして俺たちは月世界を存分に楽しみ、社会科見学を終えたのである。

 

 

 

 

 

 

「いや~負けちゃったわね~」

 

 優斗たちが帰った後、和室に座っている綿月姉妹の姿があった。

 

 足を延ばしてスカートをまくるというお姫様らしからぬ恰好で豊姫がくつろぐ。

 

「まあいろいろと学ぶものがあったわね。どうだった依姫?」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「……――いや、地上世界にもこんな強いものがいるのだなと」

 

「そうね。あのスキマ妖怪くらいに切れ者ね」

 

「いまだに信じられません」

 

「ふ~ん」

 

 ここで豊姫はあることを仮定した。

 

「まさか……好きになっちゃったの?」

 

「違いますからね?」

 

 驚きと焦りが入り混じった声で反応する。

 

「そう、あなたの初恋の相手がついに……」

 

「違いますし、初恋ではありません」

 

「まあ、あの方なら私も許すわ」

 

「違いますって……」

 

 そして豊姫は思い立った顔になって、

 

「これは一大事よ!みんなに広めないと!」

 

「!?」

 

「みんな~!聞いて聞いて!」

 

 そういって、部屋の外に飛び出す。

 

「違うって言ってるでしょ!――くっ…こうなったら実力行使で…」

 

 月の世界は今日も楽しそうだ。




第十九話でした。長かった……疲れた……

優斗の作戦いかがだったでしょうか?(ネーミングセンスがない?気にするな!)

なんと大妖精にライバル出現です!

依「ぶっ殺しますよ?」

いやだなあ、冗談じゃないか。でも公式設定では依姫って結婚してるんですよね。なんと相手が豊姫の息子……複雑な家庭事情なんですよねw(笑えることではない)ここでは綿月姉妹は結婚していないことにさせていただきます。

ではまたお会いしましょう!次回は少し学校生活から離れて、まったりとした休日の話を書こうと思います。


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第二十話 優斗の作戦

夏コミ行ってきました!やっぱり大チル最高ですね!

まあ諭吉さんが旅立たれたんですが(泣)反省も後悔もしていません!


今日は学校が休みだ。と、いうわけで二人とも暇な時間を楽しんでいた。―――するといきなり、

 

ドガァ

 

……もうちょっとゆっくりドアを開けてほしい。頭を抱えながら玄関に出向くと、

「こんにちは!」

 

チルノが立っていた。ドア壊れてないよな?

 

「あれ?どうしたのチルノちゃん?」

 

するとチルノは満面の笑みで、

 

「あのねー、魔理沙が4人で出かけようって!」

 

なるほど、お誘いに来たのか。

 

「うん、もちろん!」

 

「あ、だけど……」

 

ちらっとこっちを見るチルノ。あ、もう予想着いたぞ。

 

「優斗は来ちゃダメ!」

 

「えっ?なんで?」

 

なんでって……俺の言葉をチルノが代弁してくれた。

 

「だってこれは『女子会』なの!優斗はダメ!」

 

「まーそういうわけで俺はいけないから楽しんでおいで」

 

「う、うん……ごめんね……」

 

「へーきへーき」

 

そして大妖精は申し訳なさそうに外に出て行った。

 

「さて……」

 

大妖精が外へ行ったのを見計らって、俺も外に出る。一応言っておくけどストーカーじゃないからね?お昼ご飯の材料を買いに行くんだよ?

 

ガチャと鍵を締め、里に向かった。

 

 

 

里での買い物は30分ほどで終わった。―――さて、急いで帰らないとな……

 

「おっと」

 

突然現れた人影を見て俺はさっと物陰に隠れた。

 

「危ない危ない」

 

大妖精たちがいたのだ。なぜ隠れたかって?まあ、いろいろとあってね。

 

 

 

―――一方里にいたのは大妖精、チルノ、魔理沙、アリスの4人だ。

 

「じゃ、いこうぜ!」

 

手をあげてみんなを引っ張るのは魔理沙。「里に行こうぜ!」といった張本人でもある。

 

「おっ、見ろよこれ!」

 

雑貨屋で足を止めた4人。今魔理沙が手に取っているのは本物の花が付いたカチューシャだ。

 

「チルノ!どうだこれ?」

 

「ふふふ。私は何でも似合うよ?」

 

そのままチルノの頭にかぶせてみたものの、

 

「ちょっと!凍ってるわよ!」

 

花が冷気で凍りかけている。あわてて外したアリスがあることに気付いた。

 

「ねえ大妖精、あなたなら似合うんじゃない?」

 

「え?そうかな?」

 

髪を止めているとできないので、ゴムを外し、カチューシャをつける。

 

「……すごい」

 

「なんだこりゃ!?最高だぜ!」

 

「そ、そうかなぁ……」

 

とても似合っていた。セミロングの緑の髪に、白い花がとてもマッチしている。

 

そもそもチルノだって似合わない訳ではなかった。花と妖精は相性がいいのかもしれない。

 

「大ちゃん、これをすれば優斗もこの隠し切れない魅力に気付くかもよ~」

 

「ふ、ふえっ!?」

 

おどけた顔でチルノが楽しそうにいじった。やっぱり二人は仲がいい。

 

 

 

昼飯はだいぶ作れてきた。あとは大妖精が来るのを待つだけだ。

 

「こっちも準備できたわよ」

 

「準備完了だよ~」

 

今の声はもちろん大妖精ではないよ?

 

 

 

「いや~楽しかったな」

 

4人がいろんな店を回っている間にお昼になった。ちなみに大妖精はしっかりとカチューシャを買って、頭につけていた。

 

「これで……優斗が……」

 

1人でつぶやいて1人で顔を赤くしている。

 

「なあ大妖精、おまえの家ででお昼ご飯食っていいか?今から作るのめんどくさいんだよな」

 

頭をかきながら魔理沙が頼んだ。

 

「うん。別にいいけど……」

 

「じゃああたいも!」

 

「あの優斗のごはんね。食べてみる価値はありそうだわ」

 

「そ、そんなにあるかなあ……」

 

困った顔をする大妖精。しかし断れないのが大妖精の欠点でもありいいところでもある。

 

 

 

「ただいま~」

 

大妖精がドアを開けた瞬間、

 

「「お誕生日おめでとう!」」

 

優斗とクラスのみんなの盛大な声が家にこだました。

 

 

 

よっし、サプライズ成功!何のサプライズかというと、誕生日だ。妖精って、正確な誕生日がないからお祝いもできない。それなら、日を決めて祝えばいいじゃないか。と、思ったことがこれをやるきっかけだった。

 

何で今日かっていうと、今日は11月の8日。毎月8日は大妖精の日ということは月世界の時に調べた。なので、ここでこうして大妖精のクラスメイトに協力してもらったのだ。

 

具体的には、魔理沙に大妖精を連れ出してもらって、クラスのみんなと料理を作り、にとりに看板を作ってもらい……といった感じだ。

 

「えっ?えっ?何?」

 

こんだけ驚いてくれるとサプライズのしがいがあるものだ。―――そして俺はおもむろにプレゼントを取り出した。

 

「はいこれ。そのカチューシャとよく似あうと思うよ」

 

 プレゼントしたのは赤い花がついた腕飾りだ。偶然か、あのカチューシャと形が似ている。

 

「わあ!ありがとう!」

 

よかったよかった。今日はすべてがうまくいってるな。

 

そしてそのあとは恒例の飲み会。ここで判明したことは、俺は霊夢や魔理沙より飲めるということだ。と、いうか吸血鬼、ひいては天狗に匹敵するぐらい強い。なんか最近、俺が本当に人間がわかんなくなる時があるんだが……大丈夫だよな?

 

 

 

「なあ優斗、弾幕ごっこしようぜ!」

 

もう何杯目だろうと首を傾げながら飲んでいた時、魔理沙にこう言われた。

 

「弾幕ごっこか。でもな~」

 

あまりに実力がかけ離れてると思いませんか?

 

「まあ、実力差がありすぎるからハンデをやろう。」

 

よかった。ちゃんとわかってる。

 

「大妖精と一緒でもいいぜ」

 

なるほど、2対1か。それならなんとか……

 

「まあこっちにはチルノをもらうけどな」

 

信用した俺が馬鹿だった。

 

「なあ、やるよなチルノ?」

 

「もっちろん!一回優斗とは戦ってみたかったんだ!」

 

いやいや、俺の体が持たんぞ。

 

「そこまで言うなら……私もやる!」

 

だ、大妖精まで賛成した……なんという断りづらい空気だ。―――魔理沙がにやにやしている。この状況を狙いやがったな。

 

「わかった、やろう」

 

「よっしゃ!」

 

そうして外に出る4人。この時俺はみんなが酒に酔っていることなどすっかり忘れていたのであった……

 




というわけで節目の20話です!(皆さんのおかげでここまで来れました!ありがとうございます!)

そんなわけで今回は優斗の性格を考えてみたいと思います。

優斗って、かなりの秀才なんですよね。県内トップクラスの学校のテストが余裕と、一話でも言っていましたね。(なんだか殺意がわいてきました)

そして女性関係。優斗は付き合ったことがありません。まああの無自覚っぷりなら当然ですよね。そして誰とでも分け隔てなく接する……よーするに天然の女たらしですね。(殺意が増幅されました)

性格はもちろんクールで冷静。感情的に怒ることはほとんどありません。と、いうか小説内では一回もなかったですね。

ではこんなところで。次回、酒に酔った状態での弾幕ごっこです!何が起こるんでしょうか!そして……おっと、この先は秘密です。(考えてないともいう)

ではまたお会いしましょう!


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第二十一話 優斗&大妖精VS魔理沙&チルノ

 ……魔理沙と」チルノとやる弾幕ごっこって死亡フラグな気がするのは気のせいだろうか?

 

「よーし優斗、外に出ようぜ!」

 

 大妖精の家の外というのは湖の近くで下にはふさふさの草が生えている。魔理沙たちを打ち落としても問題はないだろう。

 

湖に落とす作戦も考えたんだが……俺たちの技量では不可能だし、あとでとんでもない制裁をされるだろうから使えない。

 

 あともう一つ俺には大きな欠点がある。

 

「ねえ優斗、空飛べないの?そんな時は、にとりの空中歩行機はどう?」

 

 そう、今言った通り、空を飛べないのだ。俺の能力はいろいろな弾幕が出せる能力だ。つまり、能力まではコピーできない。空を飛べるようにできるスペカなんてないし、。

 

 ――ならば今言ってた空中歩行機を……

 

「だめですよ!これは欠陥品ですからね!」

 

 すかさず雛がツッコミを入れてきた。

 

「え~せっかく実験データを取るチャンスだったのに~」

 

 なるほど、やめておいた方がよさそうだ。

 

 というか、みんなぞろぞろと外に出てきたんだな。確かにこの組み合わせでの勝負ってそうそう見られるもんじゃないか。

 

「よし、そろそろやるか!」

 

「負けないよ大ちゃん!」

 

 そろそろ開始の時間のようだ。

 

「全力で行くぞ。この勝負、絶対に勝つ」

 

「もちろん!」

 

 二人の連携はもう完璧に近い。大会に向けて練習しまくったし、俺は絶対こういうことがあるだろうと想定していたからな。

 

「よっし、先に行くぜ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

「先手必勝!氷符『アイシクルマシンガン』!」

 

 俺以外の三人はもちろん空を飛んでいるので、必然的に弾幕が上から降ってくることになる。星と氷がゲリラ豪雨のように降ってくる。

 

 けど……薄いぜ?

 

 弾幕が薄いのには理由がある。大妖精が空を飛んでいて俺が地上にいるので、弾を分散せざるを得ないのだ。

 

「そんじゃこっちも行くぞ。疵符『ブロークンアミュレット』」

 

「それっ!」

 

 2人ともばらまきの弾を出して相手のと相殺させる。よし。さらに追撃だ。

 

「仙符『鳳凰……』」

 

 しかし俺はスペル発動をやめ、横へ転がった。なぜなら、

 

「なんだあれ?」

 

 魔理沙の真下あたりの地面に何かがあってそれが急に弾を撃ってきたのだ。

 

 その姿は『異様』としか言いようが無かった。身長は随分と低く、チルノよりもさらに一回り小さい。2頭身で、全身真っ黒だ。

 

「なるほどな……」

 

 ちょっと考えたらわかった。あれは魔理沙の新しい攻撃方法だ。式神のようなものだろう。

 

 これで俺たちは地上と空中の2方向からの攻撃に備えなければならなくなった。

 

「さすがだな魔理沙」

 

「え? 何がだぜ?」

 

 自分で出したものを忘れたのかよ……

 

 そこからしばらくは通常弾幕の打ち合いとなった。俺たちが何回もチルノを周りを弾幕で固め、あと一歩の所まで行ったのだが、すべて魔理沙の星やらレーザーやらミサイルに打ち消されてしまった。

 

「さすが魔理沙だな」

 

「うん、強いね……」

 

「どうした? まだまだいけるぜ? ――でもなんだか酔いが回ってきたな……そろそろ決めるか。行くぞチルノ!」

 

「おう!」

 

 そういうと2人は精神を集中させ始めた。その目は大妖精の方に向かっている。

 

 ―――だがこれはブラフだ。こっちに絶対来る。下からくる弾幕のほうが厄介だからな。

 

 これを避けるにはある方法を使うしかない。できるかわからんけどな。

 

「これで決めるぜ!」

 

 予想通り、俺の周りに弾幕が配置される。完全に囲まれた形だ。魔理沙の星とチルノの氷、それに式神の大弾でもう反則だろうってレベルだ。

 

 さて……前から練習したけど出来るかな?一気に精神を集中させる。

 

「いけっ!」

 

 全方向から弾幕が迫ってくる。しかし一か所だけ、開いているところがある。

 

「それっ!」

 

 俺は思いっきり上へ飛んだ。そう、俺は飛べないと思われているので、上はガラ空きなのだ。―――しかしこれだけではもちろん高度が足りない。

 

 だから俺は……

 

「へ?何をやってるんだぜ?」

 

 パソコンを下に向けた。そのままスペル宣言。たのむ……出てくれ……

 

「気符『星脈弾』!」

 

 下へたたきつけられたものすごく大きい大弾。俺は撃った反動で……

 

「よっし!作戦通りだね!」

 

 宙に舞った。魔理沙たちとの距離が縮まる。

 

「なっ?!マジかよ?!」

 

 そう、これこそが俺の編み出した新しい技だ。

 

 作用・反作用の法則って知ってるか? エネルギーが発生するとき、同じ量だけ反対方向にも発生するという法則だ。

 

 今俺は真下に強いエネルギーを発生させたので、その反作用で上に飛んだのである。名付けて……反動跳躍(リラクションフロート)といったところか。

 

 初めて出した3面ボスの弾幕。そのせいでかなりの体力を消耗した。ここで倒さないと勝ちは厳しいだろう。

 

「これで最後だ。夜雀『真夜中のコーラスマスター』!」

 

「魔符『フェアリーズマジック』!」

 

 魔理沙たちの周りに煙が上がった。やったか……―――まだだ。こんなんでは魔理沙は沈まない。

 

「なかなかだったぜ……しかしこれで終わりだ! 恋心……」

 

 マスパは一方向にしか使えないぞ?

 

「ダブルスパーク!」

 

 やはりか。2方向に来るマスパ。残念だったが、予想通りだ。

 

 マスパの最大の特徴にして欠点。それは愚直なまでに正面にしか飛ばないことだ。ロクに狙いもつけないで出した弾幕にあたるはずもないだろう?

 

 余裕で回避をし、とどめのスペカ。

 

「蛾符『天蛾の蠱道』」

 

「なっ……」

 

 一番の難敵魔理沙もこうして倒すことができた。

 

「やったな大妖精」

 

 と、上をむくと……

 

「え?」

 

 大妖精が降ってきた。最後ので被弾したのか。

 

「おわっ!」

 

 慌てて大妖精を受け止める。しかし俺はその衝撃に耐えられなくて二人でゴロゴロと地面を転がって数瞬意識を失ったのである。

 

 

 

 

 

「う~ん」

 

「おっ、起きたか」

 

 どうも意識を失ってたのはほんの10秒くらいだったみたいだ。

 

「いや~完敗だったぜ」

 

「やっぱり優斗は強いな~」

 

「だって! やったね!」

 

 そうか。何はともあれ、勝ててよかった。

 

 魔理沙たち3人が健闘をたたえあっていた。笑顔がまぶしい。教師として純粋にうれしかった。

 

「よかったな大妖精!」

 

「な、何が?」

 

「とぼけなくてもいいのに~。優斗に抱かれたんだよ!どうだった?」

 

「ど、どうだったって……」

 

 まだ意識がはっきりとしてないのかあまり話が聞こえない。まあ楽しそうなので良しとしよう。

 

「そういえば魔理沙」

 

 あの式神のことについて知りたくなってきた。

 

「あの式神すごいな~」

 

「へ?何のことだ?」

 

 やっぱり忘れてるよ。

 

「ほら、だからこれ」

 

 式神に近づいて指を出す。

 

「これで弾幕出してただろ」

 

「え?そんなもの全く知らないぜ……」

 

 あれ、じゃあこれなんだ?

 

 疑問に思ったその時、

 

 シュバァ

 

 あの式神が弾幕を出した。俺はとっさに反応して避けたが、

 

「かっ……!」

 

 左手に被弾した。当たった二か所から血が噴き出し、激痛が襲う。あれ? 弾幕って殺傷性はないんじゃ……

 

「優斗!」

 

 大妖精がこっちに来た。だめだ、ここは危ない……

 

 そして俺たちに向け、もう一度式神が弾幕を出した。

 

「くっそ!」

 

 残りの気力を振り絞り、大妖精を抱え、横に跳ぶ。

 

 我を忘れて走る、走る。

 

 普段なら大妖精を片手で背負うなんてできっこない。けれどいまだけ、体中のアドレナリンが右手に集まっていた。

 

 後ろから弾幕が迫っているのを肌で感じる。逃げるところはあそこしかない。

 

「大妖精、飛び込むぞ!」 

 

 そのまま湖に飛び込んだところで、

 

「優斗っ!」

 

 今度こそ、長い時間意識が消えたのである。

 

 

 

 

 

 夢を見た。さっきの式神が襲ってくる夢。コロス、コロスといって襲ってきた。正夢……か……

 

「うあ……」

 

 俺はがばっと体を起こし、あたりを見まわした。

 

「おう、起きたか?」

 

 気が付くと、家の中に戻っていた。そうか、意識を失った後、助けてもらって寝ていたのか。

 

「災難だったわね」

 

 横を見ると永琳先生がいた。俺の腕の治療をしてくれたのだろう。

 

「あの変な奴は……」

 

「ああ、それならぶっ飛ばしたぜ。―――あれはなんだったんだ?」

 

「まあ、心当たりがないこともないが……」

 

 俺を幻想入りさせた謎の妖怪と関係があるかもしれない。

 

「優斗っ!」

 

 大妖精が駆け寄ってきた。そのまま俺の腹に顔をうずめる。

 

「良かった……死んじゃうかと思った……」

 

 その眼には涙があふれていた。

 

「悪かったな。心配かけて」

 

 俺も大妖精の頭の後ろに手を回す。今も不安な気持ちでいっぱいなのだろう。

 

「うん、良かった……」

 

 何はともあれ、無事にすんで本当に良かった。

 

「お取り込み中のようだけどちょっといいかしら?」

 

 不意に永琳先生が話しかけてきた。

 

「ん?なんだ」

 

「二人で湖におっこちたでしょう?」

 

「ああ」

 

「その……大妖精の服がね……」

 

 ―――反射的に大妖精のワンピースを見てみると……

 

「あ……」

 

「え……きゃ!」

 

 水で濡れたせいでワンピースが体にぺっとりと張り付き……まあその……透けているのだ。

 

「大妖精、あなたなかなか大胆なのね」

 

 永琳先生がにやにやしながら言う。何のことを言ってるのかは俺にはさっぱりだったが。

 

「優斗……」

 

「さ、殺気が……」

 

 見ると、チルノが顔を真っ赤にした大妖精を隠すようにして立っていた。

 

「大ちゃんをこんなことにした償い、してもらうからね?」

 

「なんだか急にマスパのテストしたくなってきたな」

 

「人形の爆発力が試したくなったわ」

 

「今から記事の内容を作る準備をしないといけないですね」

 

「ギュっとしたら……ドカーンだよね!」

 

「あなたを不幸にして差し上げましょうか?」

 

 クラスの20人ほどが俺の敵になった。

 

「あっ、あんなところに依姫が!」

 

 この隙に窓から外に出て、全速力で逃げる。

 

「あっ!待て!」

 

 ……この後壮絶な逃走劇が行われるんだけど、それはまた別のお話。

 




第二十一話です。初めて3500文字行きました。疲れた……

あの式神。結構重要な存在になりそうです。今後も注目です!

それにしても優斗……あのどうなったのでしょうか。考えるだけでも恐ろしいです……

次回、弾幕ごっこ大会になりそうです。大妖精の成長はどうなったんでしょうか?

ではまた!


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優斗、異世界へ行く  ~夢月剣夢様とのコラボ~
第二十二話 二つの幻想郷


今回から夢月剣夢様とのコラボです!この話だけでも分かると思いますが、夢月剣夢様の東方自然壊録を見てから読むとさらに面白くなると思います!


「きつ過ぎるだろ……」

 

あの月世界での出来事からしばらくたって、テストの時期になった。そしたら先生たちが「優斗暇でしょ?テストの採点よろしくね!」とか言ってきて、ただ今残業中というわけだ。もう8時回ってるぞ。

 

今計算してみたところ、テストの38.3パーセントを採点しなければならないらしい。先生たち,俺の職員内でのヒエラルキーが低いからって俺に仕事押しつけ過ぎだろ……

 

「はあ……」

 

大妖精心配しているだろうなぁ。なんて言おう。俺は背伸びをしながらそんなことを考えていた。俺の体の問題もあるんですよ。大妖精をブチ切れさせた日なんて俺の頭と体がつながってるかなんてわからんからな。

 

「ちょっと紫様!どういう事ですか!」

 

隣で藍の声が聞こえてきた。どうやら紫に小言を言ってるらしい。

 

「授業はしない、事務作業はしない、採点はしない、残業はしない……このままでいいんですか」

 

「そ、そのためにあなたがいるのであって……」

 

「それはそうですが!このままだと引きこもりのダメダメ妖怪になりますよ!」

 

藍先生も大変だなぁ。てか、立場逆転してるぞ。

 

「と、とりあえず今日は疲れたし帰りましょ」

 

「だめです!仕事が山程あるんですよ!」

 

ところがその時、紫は本当に疲れたらしく、

 

「いいの!私が帰るといったら帰るの!」

 

小学生モードになって、駄々をこね始めた。これが本当に最強の妖怪ですか?

 

「だめです!」

 

「いやだ!」

 

「何といってもだめです!」

 

「いいえ!帰る!……うわー!」

 

紫の周りにスキマがランダムに何か所も現れ、また消え、現れる。あーあ、紫が暴走しちゃった。って、このままだと俺もまずいんじゃ……―――そう思った瞬間、

 

「へっ?」

 

俺の真下にスキマが現れ、ふわりとした浮遊感を感じた。

 

「うわっ!」

 

手を懸命に伸ばしたがむなしく宙を切り、俺はスキマへと吸い込まれていった。

 

 

 

「痛てて……」

 

「起きたか?」

 

気が付くと、布団に寝ていた。あれ?確かスキマに落とされて……

 

「気を失っていたから運んで置いた。一体どうしたんだ?」

 

ああ、この人に助けてもらったのか。

 

「どうもありがとう。俺は朝霧優斗だ。よろしく」

 

「火竜葉だ。よろしく」

 

まずここがどこかがわからないと話にならないな。

 

「いきなりで悪いんだが……ここはいったいどこなんだ?」

 

「え?どこって……ここは幻想郷っていうんだ」

 

…………幻想郷?でも葉なんて名前聞いたこともないし……とするとあれか?

 

「なあ、幻想高校っていう学校って知ってるか?」

 

「おや?聞いたこともないが」

 

ビンゴだ。ここは俺の知っている幻想郷ではない。要するにパラレルワールドってことだ。

 

「実は俺はな……」

 

ここに来た経緯と、俺の世界の幻想郷について話しているとき、葉は終始驚いていた。

 

「えっ?じゃあ優斗は別の世界の幻想郷から来たってことか?!」

 

「まあ、そういうことだ」

 

しっかしこれからどうするかな~。まあそのうち紫が助けに来てくれるだろうが。

 

「そうか……そっちの世界はそんな平和なのか……」

 

突然葉が悲しそうな顔をした。

 

「平和な世界って……そっちは違うのか?」

 

「まあな……」

 

そういうと、この幻想郷のことを教えてくれた。―――それは、俺の想像をはるかに超えるものだった。

 

 

 

 

「そうなのか……」

 

ここの幻想郷では、謎の人物によってさまざまな人物が操られていること。それによって多くの犠牲者が出てるらしい。

 

「ルーミアや空神籃空が操られたって本当だよな……」

 

「ああ」

 

何より一番驚いたのは、

 

「大妖精が操られてチルノを刀で刺したってのは……」

 

「全部本当のことだ」

 

俺の世界ではみんな学校で楽しく過ごしているのに……あまりのギャップに声も出なくなっていた。

 

「……こんなの幻想郷じゃない……もっと幻想郷は明るくて……楽しくて……みんなが笑える場所であるべきなんだ……」

 

大妖精とチルノは一番の大親友なんだ。それを引き裂いて悲しませるなんて……

 

プッツン

 

あ、頭の糸が切れた。そして俺の心の中に謎の人物への憎悪が一気に押し寄せてきた。こんなふざけた世界、俺がすぐに変えてやる。心の中にはそんな思いしかなかった。

 

「よし、さっさと行くぞ」

 

「行くって……どこにだ?」

 

「決まってるだろ」

 

俺は一呼吸おいてから続けた。

 

「大妖精たちを助け出しにだ」

 

 

 

 

 

―――一方、優斗の世界の大妖精は優斗の帰りを今か今かと待っていた。

 

「おそいなあ……ご飯が冷めちゃうよ……」

 

一人で夕食を食べようとせず、ずっと待っていたのである。

 

ガチャ

 

「来た!」

 

顔がパッと明るくなり、駆け足で玄関へ向かう。

 

「おかえり!―――って、紫先生に藍先生!?それに橙?」

 

「実はね……ちょっと話があるのよ」

 

そういって、紫は優斗が異世界へ行ったことを説明した。

 

 

 

「えっ?じゃあ優斗はどうなるの!?」

 

とても不安そうな顔で大妖精が訪ねる。

 

「位置は追尾してあるから心配ないわ」

 

大妖精の顔に安堵の色が浮かんだ。

 

「ただ移転先でトラブルに巻き込まれていてね……今こっちへ戻すわけにはいかないのよ」

 

「……わかりました」

 

「と、いうわけで!優斗の分のご飯!私たちが頂くわよ!」

 

「はい!橙、いっぱい食べるぞ!」

 

「はい!」

 

(ここで大妖精が焦って優斗に探しに家を飛び出して倒れたなんてなったら大参事よね。見張っとかなくちゃ)

 

紫はそんなことを考えていた。

 

「えっ?!ど、どうぞ……」

 

そんなことはつゆ知らず、一緒にご飯を食べる大妖精と藍。こちらの二人は楽しそうだ。

 




というわけで第二十二話です。

初めてのコラボ……大変でした。でも……すごい楽しいです!

次回は葉君の世界での大妖精救出ですね!今から楽しみです!そして夢月剣夢様の方もぜひご覧ください!

では!



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第二十三話 異世界での戦闘 前編

「優斗が手伝ってくれるのか?だけど相手が正直悪くないか……?」

 

葉はそんな心配をしてくれた。

 

「……ああ、分かってるよ。この世界とは言え、大妖精を倒さなければいけない。正直相当辛いや。だけど、こっちの大妖精だからと言って見捨てて、大妖精に辛い重いさせたまま引いたらただの腰抜けだ。絶対にもとに戻して見せる」

 

なんかさっきから調子がおかしいな。俺ってこんなこと言うやつだっけ?

 

「ああ、なら宜しくな。そろそろ時止めも限界だし、大妖精の所に行くか」

 

え?時間止めてたの?すげえな。咲夜さんみたいなことできるんだ。

 

「ところで、大妖精のいる場所分かるのか?」

 

「ああ、命令を受けた時以外は大体霧の湖にいる。だけど真っ向勝負で勝てるのか?今の大妖精ならだいたい霊夢と同等ぐらい強いぞ」

 

マジか~あっちの大妖精もそのくらい強ければいいのに。―――だけど大丈夫な気がする。根拠はないがな。

 

「いや、正直大妖精が強くなっても、不思議と突破口が見つかる気がするんだよな。何でだろ?」

 

こんな根拠もなしに動いたことあったか?う~ん、どうしてだろう。

 

「(それは親友、いや、恋人?だからじゃないか?言わないでおくか。)うーん、分からないや」

 

「まあいいや、……じゃあ早速大妖精の所に行って、助けに行こう。」

 

俺は一気に集中力を高めた。一気に視界が広がり、明るく見えるようになる。幻想郷に来てからというもの、ここぞという時に集中できるようになった。

 

「……じゃあ行くか。」

 

霧の湖に行くと、緑の髪に青いワンピースが見えた。間違いない、大妖精だ。

 

大妖精は湖の近くの原っぱに悲しげな顔をしながら座っていたが、俺たちに気づいたらしく、少し離れた場所から話しかけて来た。

 

「一人には人には見覚えありますね。火竜さんじゃないですか。またやられに来ました?しかし、もう一人の方は誰ですか?」

 

とりあえず話しかけてみよう。全然操られているようには見えないが……

 

「俺は優斗だ。お前が操られていると火竜から聞いたので、助けに来たんだ」

 

「助ける?何を馬鹿なことを。私は正常ですよ」

 

なっ……本当に操られている。大妖精はこんなやつじゃないのは俺が一番よく知ってる。

 

「じゃあどうしてチルノを傷つけたんだ」

 

心の中の嵐を押さえつけながら俺が質問する。落ち着けよ……俺……

 

「そんなのあの方に命令されたからに決まってるじゃないですか。あの方の命令遂行の為なら手段なんて選びませんよ。例え友達でもしょうがないです」

 

これは……だめだ。一回正気に戻さないとらちが明かない。

 

「……悪いけど一回本気で気絶させる。そんなことを言っている大妖精を俺は見たくない。」

 

「……そうですか。では、こちら側に来てもらうために一回痛い目に合って貰います。

 

くっそ、やるしかないのか……―――見ると、葉も表情が引き締まっていた。

 

「そうかよ……じゃあ……弾幕ごっこで勝負だ!」

 

気づくと、2人で同時に叫んでいた。って、今日はほんとにどうしたんだ俺?

 

 

「……貴方達馬鹿ですか?弾幕勝負なんてする気は無いですよ。殺し合いしましょうよ」

 

「ならそっちは殺す気でこいよ。俺たちは「弾幕ごっこ」で行くからさ」

 

おお、また葉とハモった。気が合うな。

 

「……何故本気で来ないのです?……不愉快です。やはり貴方達はここで殺します」

 

「殺せるなら殺してみろ。行くぞ!」

 

また二人同時に言葉を放ち、大妖精に向かう。くそ、やっぱり戦わなくちゃいけないのか……

 

俺は心の中で悪態をつきながら、パソコンを正面に向けた。

 

「産霊『ファーストピラミッド』」

 

まずは様子見……あっ、このスペルだめだ。超余裕でかわされている。本当に強いな、確かに霊夢並みかも。―――それに葉のスペルはどうも剣を使うものらしい。なので、範囲の大きいスペルは全て使えないな。

 

「やっぱり優斗だけでは無理か……俺も行くぞ!『ファイアー&プラントスラッシュ』!」

 

そういうと、葉が取り出した木刀に火がまとった。すげ、あれが葉の能力か。

 

「うおりゃ!」

 

そのまま突っ込んで、大上段から降り下ろす。―――しかし、弾かれてしまった。やっぱりそう簡単にはいかないよな。

 

「やっぱり1人では無理か。―――来るぞ!」

 

葉が叫んだのと同時に、とんでもない密度の緑の弾が襲う。

 

「な、なんだこれ……」

 




コラボ編第二話でした。

本当は一話で書こうと思ったんですが……書いてるうちに楽しくなって、長くなったので前後編となりました。もう少しお待ちください。

では次回大妖精との戦闘決着です!


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第二十四話 異世界での戦闘 後編

「やはり強い……」

 

この大妖精は特別強いな。弾の配置が適格だし、自機狙いと自機外しをとてもうまく使っている。

 

「密度が濃いが……行けない量ではない!突入するから援護を頼む!」

 

葉がそんなことを言ってきた。二人で協力すればいけるか……

 

「分かった。頼むぞ!」

 

「よし!」

 

葉が全速力で弾の間を駆け抜け、大妖精の正面から炎剣を振る……かと思いきや、ぱっとしゃがんだ。よし、ここが勝負だ。

 

「当たれ……呪符『ストロードールカミカゼ』!」

 

パソコンから人形が飛び出し、大妖精に直撃した……はずだ。

 

「たぶん当たったはずだ!」

 

近くで見ていた葉が報告してくれた。たのむ……倒れててくれ。

 

「おわっ!」

 

そんな淡い期待は飛んできた大弾によって簡単に打ち消された。

 

 

「この程度で勝てると思っていたんですか?甘いですね」

 

これも効かないのか……さっきのは3面ボスのスペカだったし体力的にもきついな……―――そんなことを考えてたら、葉が俺に話しかけてきた。

 

「こうなったら一か八かだ。『力の解放』を使う」

 

「力の解放?」

 

「ああ、これを使うと、敵も味方もMAXまで力が出せる。こっちの強さがどの位変わるのか分からないが……やるしかない」

 

「わかった。やろう」

 

もうこれに賭けるしかないのか……俺の全力……もしかしてあれが使えるのか?

 

「どうしましたか?こっちから行きましょうか?」

 

こういわれた葉はニヤリと笑い、最後の戦いへのスペルを発動した。

 

「いや?これで終わらせる!」

 

葉が叫んだとたん、明らかに俺の中で変化が起こった。おおっ、これは……本当に力があふれ出てくる。これならいける……―――まあ向こうも同じなんだが。

 

「よし、二人で突撃するぞ葉」

 

「ああ、行くぞ大妖精!」

 

2人で大妖精の下へ全力で走る。―――その途中、俺はあるスペカを発動した。

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

そう、今までは絶対に出すことのできなかったフランのスペカだ。俺の右手に炎の剣がめらめらと燃え盛る。―――しかしスペルの強さに比例して体力が失われるのが俺の能力。今、流れ出るように体力が失われて続けている。これで決めないとな……

 

「そらっ!」

 

「おらっ!」

 

二人で大妖精に切りかかる。

 

「甘いですね……!」

 

これに対し、大妖精は弾幕で盾のようなものを作って守る体制になった。ガキィ、と音がして俺たちの剣2本と大妖精の盾がぶつかる。

 

「くっ……」

 

「があっ……」

 

「負けませんよ……」

 

3者ともギリギリの状態だ。あと1押しすれば……しかしこれ以上スペルを使うと俺の体力が……しかしここでやらなければ負ける。やるしかない。

 

「葉、もう一本剣を出してくれ!俺もやってみる」

 

「分かった……やってみよう!」

 

最後の力を振り絞り、片手でパソコンを操作する。フランと近いキャラで剣のようなスペカといえば……あれしかない。

 

「出ろ……神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 

俺の手に槍が構成されるとともに、体力が一気に減少し始める。今にでも崩れ落ちてしまいそうだ。

 

「負けるか……」

 

思わず声が出る。見ると、葉の方ももう1本剣のようなものを出している。よし、これで剣が4本になった。ここで絶対に負けられない。そんな思いだけが2人に限界を超えた実力を出させたのだろう。

 

「「おらっ!」」

 

俺たちは4本となった剣で大妖精の盾を打ち破った。か、勝ったのか……?

 

「やったな優斗!勝ったんだ俺たちの力で!」

 

ああ、そうなのか。フランとレミリアのスペカを使って体力的にも精神的にももう限界だが。

 

「あれ……私は何を……?」

 

大妖精が起きた。よかった、正気に戻っているようだ。

 

「良かったな。戻って」

 

葉が大妖精にやさしく声をかける。良かったな、とりあえず解決だ。

 

「わっ……いきなり何を……」

 

「何って、怪我してるじゃないか」

 

葉が大妖精をお姫様抱っこしていた。なんかちょっといい感じに見えるな。

 

「よっし、とりあえず帰るか……」

 

葉がそんなことをつぶやいて反転したその時、

 

「な、なんだ?」

 

急に弾が迫ってきた。このままでは葉たちに当たってしまう。

 

「くそっ……」

 

葉たちをかばうように背後に立ち、剣を振って弾をそらす。この弾の出所は……

 

「ん……敵か!」

 

葉も気づいたようだ。地中から急に人間が出てきた。って、レーヴァテインもグングニルも壊れてやがる……どんだけ強いんだこの弾。

 

「お前は誰だ?」

 

俺の質問に人間はニヤリと笑ってこう答えた。

 

「私は夕陽。あの方の従順な操り人形ですよ」

 

こいつも操られているのか。しかもかなり強そうだ……

 

「引くぞ葉」

 

俺たちにはこれしか選択肢はなかった。

 

「ああ、そうするしかなさそうだな」

 

フランとレミリアのスペカで俺の体力はもう限界。しかもおそらく大妖精より強い相手なんかとやっても勝機は万に一つもない。

 

「しかし……どうやって逃げる?」

 

「今から俺の世界に転送させる。2人でこう叫ぶんだ」

 

と、耳打ちしたのだが、葉は心底嫌そうだった。

 

「どうしてもこれじゃないとダメか?」

 

「ああ、これ以外だと帰れない」

 

「分かったよ……」

 

「よし、せーの……」

 

「「助けて~!ゆうかり~ん!」」

 

瞬間、足元にスキマが現れた。

 

「「うわっ!」」

 

 

 

「おかえりなさ~い」

 

転送先は大妖精の家だった。ああ、家にいたのね。

 

「優斗!―――良かった……」

 

紫から事情を聞いてたらしく、落ち着いた様子だった。

 

「こっちが別世界から来た葉だ」

 

「どうも。君が大妖精か。―――ちょっといいか?」

 

大妖精を引っ張って外に出た。ん?話でもあるのか?

 

 

 

(……君と優斗は付き合ってるのか?)

 

(ええっ!―――ち、違いますよ……)

 

(そうなのか?!絶対付き合ってると思ったんだが)

 

(違いますよ。こちらの私は優斗さんのことが好きなんですよ)

 

(な、何を言ってるのそっちの私!?)

 

(同じ大妖精ですからね。まあ頑張ってください)

 

 

 

何の話をしてたんだろう?あっちの世界のことを報告でもしたのだろうか。

 

「じゃあ世話になったな。少しこっちの世界で修行してから戻るよ」

 

その葉の言葉には強い信念が込められていた。ほんとに強くなるつもりなんだな。

 

「ああ、頑張ってくれ」

 

「おう!」

 

俺たちはがっちりと握手を交わした。

 




第二十四話でした。

いつもとは違う葉との協力シーンが書けてとても楽しかったです!夢月剣夢様には本当に感謝しております!東方自然壊録もぜひご覧ください!

話はまだ続きますよ!今度はこちらの世界です!(もちろんギャグ中心ですよ)

ではまた次回お会いしましょう!


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第二十五話 こちらの世界で

「はあっ……はあっ……」

 

「何で……こんなことに……」

 

葉がこちらの世界に来て1週間。今俺たちは、

 

「おい!見つかったぞ!!」

 

―――追われていた。しかもかなりの手練れに、だ。

 

「きたぞ!」

 

葉が叫んだと同時に、色とりどりで無慈悲な弾幕が襲う。

 

「つっ……」

 

俺はパソコンを後ろに向け、ルーミアの弾幕を出す。弾が相殺され、弾を撃った反動で一気に加速する。これは最近編み出した技、反動跳躍(リラクションフロート)の応用版だ。

 

「つあっ!」

 

葉のほうは、取り出した剣で弾を薙ぎ払っていた。―――しかし2人とも体力が無くなってきて、かなり危険な状態だ。

 

……そろそろ説明しなきゃだめだな。なんでこんなことになったのか……

 

 

 

俺たちがこちらの世界に転送されてから1週間、葉はずっと修行していた。まあ確かにあのレベルの敵がぞろぞろ出てくる世界だ。厳しい修行が必要だろう。

 

俺も何度か様子を見に行ったが、その気迫は目を見張るものがあった。というか、あんなに必死になっていて体は大丈夫なんだろうか?

 

―――この疑問の答えは1つ。俺は葉に話しかけた。

 

「そんなに激しい修行ばっかりだと体壊すんじゃない?」

 

俺はおどけた口調だったが、葉はあいかわらず真面目な顔つきだ。

 

「いや……もっと強くならないといけない。せめて俺一人で操られている仲間を助けられるくらいには……な」

 

なるほど、葉は俺にシリアスなセリフを求めているんだな。だが俺にそんなことを求めるのは完全にお門違いなんだが。

 

あの時は結構真面目なこと言ったが、いつもの俺を見てごらん?一発でイメージが吹き飛ぶから。

 

「はいはい、そう固くなんないで。ちょっと来てもらいたいところがあるんだ。」

 

「いや……そんな時間は……」

 

「なっ、2人とも」

 

「そうですよ。息抜きは必要です」

 

「うんうん、少し休憩したほうがいいよ」

 

突然二人の大妖精に言い寄られ、たじたじになる葉。人っていうのは予想外の攻撃に弱いもんだ。

 

「よしわかった!で、俺を一体どこに連れて行く気だ?」

 

「まー行けばわかるって。1つだけ言うと……向こうの世界とは全く違う雰囲気だってことかな?」

 

葉を連れて、静寂に包まれた森を抜け、湖を越える。そこにとても大きな建物が現れた。

 

 

 

「なんだここは……」

 

葉が目を丸くして驚いている。無理もないな、こんなもの向こうにあるわけないもの。

 

「幻想郷に学校があるのか……」

 

相変わらず独り言をつぶやいている葉。そう、ここは俺の勤務している学校、幻想高校である。

 

ここの生徒や先生はみんなほんわかと楽しそうに暮らしているから、葉の緊張感を和らげるにはちょうどいいだろう。

 

 

 

「……と、いうわけで今日1日だけですがよろしくお願いします」

 

1年1組での紹介を終えた葉と大妖精。さっそくクラスのみんなが集まり、質問攻めにしていた。

 

特に、こちらの世界と瓜二つの大妖精に興味が集まっていた。

 

「そっちの大妖精はこっちの大妖精をどう思ってるんだ?」

 

魔理沙が質問している。なるほど、同じ大妖精だと性格が同じか確かめるんだな。

 

「そうですね、そちらの私は私よりチキン野郎ですね」

 

いきなり大妖精が毒を吐いた。いや、どっちかっていうとこっちの大妖精は勇気があると思うが……

 

「どういう事だぜ?」

 

「私ならさっさと言ってしまいます。まったく……あんなにチャンスがあるのに……」

 

「ああ、そういうことか……」

 

大妖精がさっさという?つまり、普段は無口なキャラということか?

 

「ほんとに……頑張ってください」

 

「お前、あっちの大妖精に負けるな!」

 

魔理沙が励ましている。よくわからんが、思ったことはちゃんと言った方がいいぞ。

 

「優斗は本当にあれだな……」

 

「あれって?」

 

急に葉からあれといわれてもな……文には述語が無いと。

 

「それじゃあ、ちょっと校舎内を見て回っていいか?」

 

「ああ、俺が案内する」

 

この時2人だけで歩き出したのが、悲劇の引き金だったんだな……

 




コラボ編もガラッと雰囲気が変わり、こちらの世界のお話でした!

今回は優斗がどれだけ無自覚かを書きたかったです。あそこまで行くと逆に感服しますよねw

次回、いよいよ謎が解けます。優斗たちが追われていた相手とは―――もう少しだけお待ちください!

ではまたお会いしましょう!


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第二十六話 逃走の原因

ただ今全力で逃亡中の俺と葉。今さっきの敵をまいてつかの間の休憩タイムとなっている。

 

見たところ、もう完全に包囲され、出口も封鎖されてしまっているようだ。なんか絶望的な状況だな。

 

「なあ、こんな時に役立つのがあの人じゃないか?」

 

あの人?ああ、俺たちを助けてくれた人ね。

 

「まあ、やってみる価値はありそうだな」

 

「よし、じゃあ行くぞ!せーの―――」

 

「「助けて~ゆうかりん~!」」

 

 

 

 

 

大妖精が質問攻めにあってる間、俺は葉に学校の紹介をしていた。

 

やっぱり葉はすごく驚いてたな。というか驚いてくれないとここに連れてきた意味が無いのだが。

 

「どうだったか?」

 

大体の場所を紹介し終え、感想を聞く。そしたら予想通りの答えが返ってきた。

 

「すごく楽しかったし、驚いたよ。優斗っていつもこんな調子なんだな。逆に感服した」

 

なんか逆に驚かれてしまったぜ。―――葉の顔を覗き込んでみると、向こうにいたときは考えられないくらい幸せに満ちていた。

 

「少しは息抜きになったか?」

 

俺の質問に、葉はぱっと顔を明るくした。

 

「ああ、すごく楽しかった!これでまた頑張れそうだ!」

 

葉の嬉しそうな言葉に思わずほほが緩み、大きくうなずいた。

 

「あら、優斗。そっちの人が大妖精ね」

 

「おお、これが異世界から人間か」

 

和気あいあいと話してる中、突然角から現れたのは体育の先生、一輪&雲山だった。そういえばさっきまで1年1組の授業体育だったな。

 

「さっきの時間ね、別の世界の大妖精も授業に参加してたわよ」

 

「へえ~どうでした?」

 

声に出して反応する葉。確かにこちらとあちらの大妖精で身体能力に差があるか気になるな。

 

「……だいぶむこうの大妖精が勝っていた。クラスの中でもかなり高いレベルじゃった」

 

「へえ~」

 

なるほど。あちらは殺伐としていたから、力が付いたのかな?

 

「まあ……こっちの大妖精は弱くて守ってあげたくなっちゃうところが、男が悩殺されるポイントなんだけど……」

 

「え?何ですって?」

 

あまりに一輪がぼそぼそと喋るので聞き取れなかった。

 

「大妖精……頑張れ……」

 

葉に肩をポンとたたかれた。葉には聞こえたようだけど、なんで俺の肩なんか?

 

「まあそれはそうとして、さっき変なものを見たんだけど何か知らない?」

 

唐突に一輪先生に質問された。

 

「何ですか?」

 

「ええ、全身真っ黒で人間の形をしていたのよね。あと、なんだか丸っこかったわ」

 

「―――えっ……」

 

―――一瞬、意識が飛んだような気がした。

 

「……それはどこにいましたか?」

 

「え?ああ、一年生の教室に行ったわ」

 

「すみません、ありがとうございました」

 

2人にくるりと背を向け、早歩きで歩き出す。まさか……考えたくはないが……

 

「おい、一体どうしたんだ?」

 

事情を呑み込めない葉が質問してきた。そうだよな、葉はあの式神のこと知らないもんな。

 

「実はな……」

 

気持ちが急いてる中、俺は早口で説明した。弾幕ごっこ中にさっき言われた特徴に当てはまる式神が現れたこと、俺たちに襲ってきたこと、実際に俺が怪我したことを。

 

「え!?じゃあその式神が……」

 

「校内に侵入したかもしれない」

 

 

 

一年生のフロアに行くと、思った通りあの式神らしきものがいた。前のよりなんだか背が高いな。別の仲間か?

 

「おい、今1組に入ったぞ!」

 

葉が目を見開くと同時にあの式神が1組に入った。どうするか……って、答えは1つだよな。

 

「突入するぞ葉」

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺はパソコンを起動し、葉はいつでも剣がだせる状態になった。よし、準備完了だな。

 

「よし、ドアを開けるぞ」

 

葉が組のドアを開け、1組の部屋の中に一気に突入する……1組だって?

 

背筋にゾクリと寒気がした。1組ってもしかして……

 

「だめだ、開けるな葉!」

 

「へっ?」

 

時すでに遅し。だった。

 

「ふえっ、優斗?―――わあっ!何開けてるの!」

 

「葉さん……やるならもうちょっとこっそりやった方がいいんじゃないですか?」

 

着替え中だった。盛大に。盛大にって日本語おかしいと思わなくもないって、何混乱してるんだ俺。

 

みんな体育着から私服へ着替えてる途中で、着替え終わっていたのは幻想郷最速の文とまめな霊夢くらいだった。

 

しかも最悪なことに一番近くにいたのが今まさに体育着の上下を脱いで、ワンピースを着ようとしていた大妖精2人。なんかもう絶望的だな。

 

「わあっ!ごめんなさい!」

 

慌てて葉が扉を閉める。どうしよう、葉に責任を押し付ければ許してもらえるかな。いや、どうせ俺も同罪って言われるな。

 

「優斗ぉ……なんか教室の中からただならないオーラが……」

 

うん、今にも俺たちを殺すといわんばかりに伝わってくるね。

 

「優斗……俺たちはどうすればいいんだ?」

 

「2つの中から選んで。1、今すぐ土下座して謝る(ピチュる確率100%)

           2、一か八か逃げる(ピチュる確率99.9%)   」

 

「なんだその絶望的な選択肢は!」

 

「さあ、どうする?」

 

「もう……2しかないだろ!」

 

「OK、地獄の逃走劇の始まりだな」

 

 

 

 

 

そして今に至っている。シリアスだって?何の話だ。

 

「スキマが開いたぞ!これで助かる……」

 

葉がほっと息を漏らす。

 

「どう、楽しんでもらえたかしら?」

 

スキマから現れた紫が持っていたのは真っ黒な布。まさかあの式神って紫……

 

「優斗、あなた葉に楽しんでもらいたかったんでしょ?だから協力してあげたのよ」

 

「「楽しくねえよ!むしろ死にかけてるよ!」」

 

俺と葉のツッコミが一言一句合わせるように被った。

 

「ええ、まあ私も楽しかったわ」

 

「うむ、まあ頑張るんじゃな」

 

紫の後ろにひょっこりとあらわれたのは一輪と雲山。2人も一枚かんでたのかよ……

 

「じゃ、がんばってね~」

 

そういうとスキマが閉じてしまった。あんのBBA……あとで藍先生に言ってやる。

 

「今回はおとがめなしですよ。面白かったので」

 

2秒だけスキマが現れ、藍が言い残していった。ああもういいよ……

 

「優斗、もう逃げるしかない……」

 

ああ、こうなったら全力で逃げてやる。

 

「「もう終わりですよ」」

 

背後から一番見つかりたくない相手から冷徹な声が聞こえた。

 

「大妖精、あれは事故だったんだ。な?」

 

葉が何とか説得しようとする。まあ、結果は分かってるけどな。

 

「だめですね。下着を見られてすぐ許すほど温厚じゃないんです」

 

「もちろん優斗も同罪だからね?」

 

やっぱりか……こっちの大妖精も厳しいなー

 

「くっそ……」

 

葉が後ろを向いて逃げ出そうとする。

 

「そうは問屋がおろさないぞ?」

 

しかし後ろには慧音がいた。

 

「慧音先生、あれは事故なんです……わかってください」

 

慧音に泣きつく葉。もういいよ……どうせ、

 

「自業自得だ。あきらめろ」

 

こうなるからな。はあ……今度は何時間で終わるかな……

 

「優斗、何とかしてくれ!」

 

最後の希望とばかりに俺に聞く。

 

「うん……ほんとにきついから覚悟した方がいいぞ」

 

「へっ……」

 

そのまま前と後ろから迫ってきた弾にフルボッコにされた俺たちだった。

 

 




コラボ編第四話となりました!

シリアス?何それ新しい宴会のネタですか?こちらの世界にシリアスなんてほとんど存在しませんよ。

ちなみにあの後二人は、クラスのみんなにそれはそれはきつい折檻を受けたようですよ。

ではまた次回お会いしましょう!


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第二十七話 最後の弾幕ごっこ

あの地獄のような出来事からしばらくたった。葉はこの前のがトラウマになっているらしく、もう二度とあの学校には行くか!と言ってたな。

 

まあ、その学校で体がぼろぼろになりながらも俺は過ごしているわけだから、慣れの問題でもあるだろう。俺もトラウマになったがな……

 

そんなわけで相変わらず強くなるために森の奥で修行している葉。最近ではあっちの大妖精も手伝ってるらしい。もちろんこっちの大妖精や俺もちゃんとやってるが。

 

「よう、調子はどうだ?」

 

仕事が早く終わったので、葉の元に行くと、すっごく充実した顔をしていた。これは……何か発見したのか?

 

「どうした葉。恋人に告白してOKもらったか」

 

「するか!ってか相手いないし……」

 

「ただの冗談だ。で?実のところは?」

 

「突っ込みスルーかよ。ああ、新しいスペルというか……弾を生み出すことに成功したんだ」

 

なるほど、そりゃあ嬉しいだろうな。俺も大妖精がスペルを編み出した時の顔を見たことがあるが、すごく幸せそうな顔をしてたしな。新しいものを生み出すというのはそれだけいいことだ。俺は能力の性質上そういったことはできないが。

 

「それでな……そろそろ向こうの世界に帰ろうかと思うんだ」

 

そうか……いつかは来るものだとは思ってたけど、友達と別れるのはなかなかつらいな。けれどもあっちの世界も大変だし、引き留めるのは俺のエゴでしかないし、こういうときは笑顔で送り出すものだ。

 

「そうか、気をつけてな」

 

「おいおい、まだ行かないよ。一つやり残したことがあるんだ」

 

「なに?」

 

文に新聞の内容を変えてもらうように頼みこむことか?まあ頼んだところで次の新聞の内容は俺たちがトラウマになったことだろうけど。

 

「優斗、お前とサシで弾幕ごっこがしたい。まだ一回もやったことなかっただろ?」

 

葉が得意げな笑みを浮かべた。そういえば、純粋に一対一ではやったことなかったな。協力プレイではなく対戦プレイというわけか。うん、面白そうだ。

 

「もちろんだ。やるからには全力だ。後悔するなよ?」

 

「その言葉、そっくり返すぞ。今度は力の解放使わないからな?」

 

「おおっ!優斗と葉が戦うって!面白そうだね!」

 

「はい、私も非常に興味があります!どちらが強いか気になりますね」

 

2人の大妖精か目を輝かせてこっちをじっと見ている。こりゃあ……美しい戦いをしないとな。なんてったって弾幕は魅せるものだ。この前のトラウマの時は無粋な殺傷道具にしか見えなかったけど。

 

そして俺たちは森を抜け、湖の前と向かった。いよいよ葉との弾幕ごっこか。とても楽しみだ。

 




今回キリが良かったので少し短めでした。次頑張ります!

第二十七話ということでコラボ編もいよいよ大詰めを迎えましたね。

次回、コラボ編最終話です!優斗と葉の弾幕ごっこです。二人の勝負を楽しんでいただければと思います!


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第二十八話 優斗VS葉

 湖の前へとやってきた俺たち。空は雲一つない快晴でそよ風も吹いていて、絶好の弾幕ごっこ日和だった。

 

「んじゃいくぜ!」

 

 葉が得意げな表情で元気に叫ぶ。そういえば俺もサシで弾幕ごっこしたことって無いな。最初は感覚つかんでいかなきゃな。

 

「おう、いつでもこい」

 

 葉の声に呼応しながらぐっと、パソコンを体の近くに持っていった。よし、こっちも準備完了だ。

 

「さあ~始まりました。葉と優斗の弾幕ごっこです!審判&実況は私、射命丸文が務めさせていただきます!」

 

 さすがは幻想郷最速、文がいつの間にか来ていた。今の今まで気づかなかったぞ。メモ帳を持っているということは新聞に書くつもりなんだろう。こりゃますます頑張らないとな。

 

「まずは小手調べだ。怪符『テーブルターニング』」

 

 まずはレティの強めのスぺカで様子見……ってダメじゃん。葉って炎使うんだから。

 

「よっし、じゃあ行くぞ!」

 

 嬉々とした表情で葉が出したのはオレンジ色の粒弾と小弾。それに俺のスペカはみるみるかき消されていく。いくらなんでもあんなに消えるもんか?

 

 ああそうか、予想通りあれは炎の弾幕っていうわけね。

 

「いけっ!」

 

 その弾がこっちに向かってきた。ぐう……密度が濃い……やっぱり一人の時だと弾が分散しないもんだな。

 

 弾をよく見てなるべく最小限の動きで避けているがこりゃグレイズするな。オレンジ色の葉の弾幕なんか見るからに熱そうというか、絶対熱いよな。

 

 やっぱりというか……じりじりとグレイズするたびに体感温度が上がってくる。熱いの苦手なんだよな。

 

「よっし、こっちも本気出すぞ!」

 

 葉が叫んだと同時にこっちに突っ込んできた。5メートル、3メートルと距離を詰めてくる。切りかかるつもりか?それなら初撃を交わした後にカウンターすればいいのだが……

 

「そう単調でもないぜ!」

 

 残り1メートルのところで葉が飛んだ。そして俺の頭上を大きく飛び越える。まあ、葉も強くなっている。こちらの考えと全然違う行動をとってくるのは当然だろう。

 

 しかし、振り返って弾幕を撃てばいいだけだ。葉も弾幕の準備をしている。単純な力のぶつかり合いになるな。

 

 こちらも俺が出せる最高峰の弾幕でぶつかる。

 

「炎符『ファイヤーショット』!」

 

「力業『大江山嵐』!」

 

 葉が出してきた赤とオレンジで様々な大きさが入り混じってる弾幕と勇儀のスペルがぶつかり、激しい音と光を生み出す。

 

「す、すごい!とってもきれいです!」

 

 パシャパシャと踊るように写真を撮っている文が見える。いいね、これこそが弾幕ごっこだ。

 

 現在、衝突の衝撃でモクモクと煙が立っている。たぶん葉はあそこにいるはずだ。

 

「もう一回……鷹符『イルスタードダイブ』」」

 

 煙の中へいるであろう葉へと向かって多くの鱗弾が突っ込む。やったか……おいまて、やったかと言うと相手に生存フラグが立つぞ。

 

 そんな考えを張り巡らせていられたのは背後から弾が来るまでだった。

 

 はあ? なんで背後から弾が来るんだ。おいまさか……どんだけ早く移動したんだ。

 

「どうだ? これが特訓の成果だ!」

 

「ああ、もう強すぎだぞ葉……」

 

 もー降参していい? 一応打開策が無いこともないが……しかたない、あとでたっぷり寝とかなきゃな。

 

「葉、このスペルがかわしたならこちらの負けだ。こちらの持てる全力で行くぞ」

 

 もう体力が残ってないもんでね。俺の能力って長期戦には向いてないんだよね。

 

 目を閉じて大きく深呼吸をした。よし、これでいけるはずだ。

 

「これで決めるぞ。『グランギニョル座の怪人』」

 

 言わずと知れたアリスのラストワード。完全なるパターンなんだけど、葉は初見のはずだ。これをかわされたらもう無理だよな。俺の体今にも崩れ落ちそうだし。

 

「これはなかなかだな……」

 

 思った通りというか……やっぱりだめか~。粒弾も鱗弾も右に左へと見事にかわされてしまっている。

 

 そしてスペルが終わった時には完全に葉有利となっていた。ありゃりゃ、もうこれはダメだ。

 

「はい、降参! もう強すぎだろ」

 

 両手をあげ、降参の意を示す。これ以上やってもだめだ。ぼっこぼこにされる未来しか見えない。

 

「よっしゃ! 勝った!」

 

 葉はガッツポーズをして飛び跳ねていた。そのまわりで文が何枚も写真を撮っている。2人とも疲れてないのか。すごいな。

 

 

 

 

 

 別れの夜、紫をよんであとはスキマへ入るだけになった。

 

「優斗、ありがとうな」

 

「ああ、すごく楽しかったぞお前といて」

 

「ああ、2人で折檻うけた中だ!もう怖いものは無い」

 

「はは……あれは大変だったな」

 

 と、俺たちは終始笑顔だったのだが、大妖精たちはぼろぼろ大粒の涙をこぼしていた。

 

「また……くるよね……」

 

「はい……必ず」

 

 スキマがつながってるんだから会おうと思ったらすぐ会えるのだが、そうはいっても泣くのが女の子という生き物らしい。やはり乙女心というのは難しくて理解できないな。

 

「ではそろそろいくわよ!それっ!」

 

 別れのシーンをぶち壊して紫のスキマがぱかっと広がった。なあ、空気読もうぜ? さすが年の功だな。

 

「じゃあな優斗、また弾幕ごっこやろうぜ!」

 

「おう!今度は負けないぜ!」

 

 パタッとスキマが閉じた。とうとう行ってしまったんだな。あちらの世界を救うために。

 

「よし大妖精帰るぞ。大会の練習しないと」

 

「うん、頑張る!」

 

(どうやって練習しようかな……)

 

 考え事をしながら大妖精と二人でゆっくりと家へ帰って行った。その頭上には巨大な満月と無数の星が俺たちを見守るかのように輝いていた。

 




コラボ編最終話でした!

初めてのコラボということでいろいろ大変でした。しかしネタをくれた夢月剣夢様をはじめ、多くの皆様のおかげで無事終了することができました!本当にありがとうございました!

さあ、次は二回目の弾幕ごっこ大会です!大妖精の成長にぜひ注目してください!(その前に『幻想高校の日々』を投稿するのでしばらく日にちが空くと思いますが) 

ではまたお会いしましょう!


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大妖精の弾幕ごっこ大会~タッグ編~
第二十九話 魔がさすのはよくあること


題名思いっきり関係ありませんが、弾幕ごっこ大会編スタートです!


 幻想郷にも雪がちらほら降り始めた。すなわち十二月の始まりである。エアコンなんて便利なものは当然あるはずもなく冬が嫌いになりそうだ。

 

 十二月、ということは幻想高校の学期末。そう、弾幕ごっこ大会の季節である。式にすると、十二月=学期末=弾幕ごっこ大会という感じか。

 

 そんなわけで今日から大妖精と練習することになっている。そろそろ買い物から戻ってくるはずだ。

 

 にしても前回はレミリアにボロクソにやられたよな……やっぱり絶対的な弾幕の量を何とかしないとな。

 

 そんなことを考えてるとコンコンとドアが鳴った。帰ってきたな。

 

「お帰り――家違いです」

 

 失礼、家を間違えた人だった。あんまりこの近く住宅街じゃないんだけど……また扉が鳴った。今度こそ帰ってきたかな?

 

「お帰り――違いますよ?」

 

 速攻でドアを閉める。二回も連続して間違えるなんてよっぽど家の形状が似ているのか?少なくとも真っ赤なロングヘアに全身黒の滑降なんてコスプレでもしない限り大妖精じゃないし。

 

 そんなことを考えているとまたノックされた。今度こそ……

 

「お帰り――だから違いますよ?」

 

「ふえ……」

 

「ごめんごめん、冗談だ」

 

 すみません、ずっと知ってました、小悪魔ですよね。ちょっとからかいたくなったんだよね。

 

「も~!なんてことするんですか!」

 

 さっきは半泣きだったが、今はぷんすかという効果音が付きそうな感じで怒っている。ごめん、全く怖くないです。

 

「優斗……?」

 

 後ろからひょこっと大妖精が現れた。やべ、今のやり取り全部聞かれてた?

 

「どういうつもりかな?」

 

「いや、その、これはだな……」

 

 こっちを笑顔でにらんできて本当に怖い。いや、ちょっと魔が差しただけで……

 

「もういいよ、優斗も反省したみたいだし」

 

「まーこあちゃんがそこまで言うなら許してあげる」

 

 慈悲をありがとう小悪魔。おかけで生き延びることができた。

 

 よっし、話をちゃんとしたほうにしよう。このまま続けるといつ大妖精の機嫌が悪くなるか分からんからな。

 

 

 

「それで何でまた小悪魔なんて連れてきたんだ」

 

 玄関でのやり取り後、ぬくぬくとしたこたつに入った俺はまずこれを質問した。

 

 ただ遊びに来ただけなら小悪魔だけ呼んだ、というはずがない。俺の疑問に対して口を開いたのは大妖精だった。

 

「実はね……私たち一緒に弾幕ごっこ大会に出るの!」

 

 …………え?――2人で出る?だって大会は個人戦なんじゃあ……

 

「それがですね、ある先生の気まぐれで今回は2対2のチームバトルになったんですよ」

 

 へえ~、まったく聞いてなかったぞそんな話。ついでに言うとその気まぐれ先生は間違いなく妖々夢のラスボスだろうな。

 

「なるほど。それで2人がタッグを組んだ、というわけか」

 

「はい、大ちゃんが誘ってくれたんです」

 

「前にこあちゃんとは一緒に戦ったからね。とっても楽しかったんだ」

 

 そういえば月世界の一件で2人には依姫を罠に落とす役割をしてもらったな。それで仲良くなったのか。

 

「要するに、2人で連係をとるためにここで練習すると」

 

「察しがいいですね。その通りです」

 

「優斗なら大丈夫だよね!」

 

 たぶん俺がレクチャーするんだろう。なんか俺の実力が過信されているような気がする。しっかしタッグマッチかあ……一回だけ経験あるんだよな。ほら、魔理沙とチルノ相手にやったあれだ。俺も小悪魔も大妖精も強い弾幕を出せるわけではないから、あれに似た感じの戦い方でやればいいかな。

 

「よっし、早速やろうか」

 

「はい。がんばろうね」

 

「うん!」

 

 大妖精が顔を輝かせる。もともと大妖精は努力家だけど、2人でやるとモチベーションが上がるんだな。さてと、さっそく連係の練習を……

 

「おろ?」

 

 なんだ、誰かいるぞ。えーっと、手にネタ帳を持っていて真っ黒な髪と翼。も、もしかして……

 

「お久しぶりです優斗さん!」

 

「帰れ」

 

 取材モードに入っている伝統の幻想ブン屋、射命丸文だった。まさか今度も……

 

「今回もぜひ取材させてください!」

 

「お断りだ!」

 

 思わず声を荒げてしまった。あることないこと新聞に書かれて再度取材うけるバカがどこにいるか。

 

「え~せっかく記者らしく元気な感じでいったのに」

 

「いやそれ関係ないから」

 

「では決定という方向で」

 

「なんでそうなる!」

 

 なんだか文としゃべるとすごく疲れるのは気のせいだろうか、いや絶対違う。

 

「分かりました。なら……」

 

 そのまま不敵な笑みを浮かべつつ、今玄関から出てきた大妖精に何か耳打ちする文。何か脅迫して強引に許可を取ろうという作戦か。甘いな、大妖精がそんなものに屈しないことくらい知っている。

 

「大妖精さーん!――――――…………これで取材受けてもらえますか?」

 

「……いいよ」

 

 いや、何したの文。なんかもうツッコむの馬鹿らしいからいいけど。

 

「よっし、じゃあ始めるぞ」

 

「優斗の……写真……」

 

 あの~大妖精?さっき文になんて言われたの?この後いくら聞いても教えてくれなかった。




第二十九話でした。何してんの優斗。

なんだかんだでひと月半ぶりの更新なんですね。お待たせいたしました。これからは隔週くらいで出せれば……と、考えています(あくまで考えてるだけ)

では!



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第三十話 小悪魔から見ると優斗は結構すごいことをやっている

大妖精と小悪魔を鍛え上げて2週間、ついに弾幕ごっこ大会の日を迎えた。

 

「寒っ……」

 

意気込んで学校に来たのはいいものの、寒さで体が凍りそうだ。頼むリリー、早く来てくれ。

 

「優斗ー! 対戦表が出たよ!」

 

こちらに大妖精と小悪魔が駆けてきた。その手には対戦表が握られている。

 

「どれどれ……」

 

えっ―と2人は……Iブロックか。相手はにとり、雛ペアか。十分に戦えるな。もうひとペアが……

 

「えっ?」

 

「どうしたの?」

 

アリスとパチュリーだって?いや、強いのはもちろんなんだがあの2人仲悪かったんじゃないの?

 

「なるほど、倒せない敵ではないな」

 

「そうなんですよ。絶対倒します!」

 

おーと思いっきりこぶしを突き上げる小悪魔。俺たちの士気は今かなり高まってきている。

 

「よし、2人とも。ちょっと相手の様子を見てきてくれ」

 

「うん」

 

「分かりました」

 

ここで相手の様子を見て二人にリラックスしてもらおう。相手の上体を見ておいた方が自信もつくし。

 

 

 

 

 

「戻りました……」

 

「何があった」

 

なぜ2人ともそんなに暗い顔なんだ。大妖精、なぜ半泣きなんだ。

 

「なんかもう話を聞いてもらえませんでした」

 

しまった、失策だったか。あのアリスとパチュリーのことだから試合前に対戦相手に会話なんてするはずないか。

 

「2人とも大丈夫だ。アリスとパチュリーは仲が悪い。あの二人が強いなんてことありえないから大丈夫だ」

 

「あんなに怖い目してたのに?」

 

「絶対大丈夫だ。俺が保証する」

 

それでもまだ不安そうな顔の大妖精。どんだけ怖かったんだよあの二人。

 

「大丈夫。大妖精はそんなに弱い子じゃないだろ?」

 

「う、うん……」

 

とりあえず自信を取り戻してくれたようだ。

 

「なんかすごいですね」

 

「何がだ」

 

「惜しげもなく大妖精の頭を撫でられるところですよ。ごちそうさまです」

 

「ごちそうさまってなんだ?」

 

何か見てて楽しいか?

 

「「ごちそうさまです」」

 

「だから何がだ。というかこんなところにいていいのか?」

 

背後から現れたのはにとりと雛だった。もうすぐ二人はアリスたちの試合する時間なのだが。

 

「いや~軽くしゃべっておこうかと思ってね」

 

「そうです。ついでに様子見ですよ。なかなか強そうじゃないですか」

 

「そりゃそうです。この人ためにきちんと練習してきましたから」

 

「そう!絶対勝つよ!」

 

ここの2組は戦う相手でもあるけどクラスの仲間だもんな。ぜひ楽しんで弾幕ごっこしてほしい。

 

「にとり、雛。試合の時間だぞ」

 

「は~い。じゃあまた終わったら。絶対に負けないからね!」

 

「トップは私たちです」

 

「せいぜい頑張ってくれ」

 

「頑張って!」

 

藍先生に連れられ、にとりと雛は背を向け歩いていく。

 

「優斗、私たちもいこ」

 

「ああ、偵察だな」

 

俺たちも後を追うようにして校庭の中央、メイン会場へと向かう。

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

思わず絶句してしまった。まあ無理もない。

 

「つ、強い……」

 

「厳しい戦いになりそうですね」

 

2人も目を見開いていた。

 




第三十話でした。すみませんキリ悪くて……

次回、あの二人とのバトルです!

ではまた!


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第三十一話 優斗は突如ジレンマに立たされる

 同じブロックのアリス、パチュリーペア対にとり、雛ペアの弾幕ごっこが今さっき終了した。

 

 結果を一言で表すなら圧勝。6枚のにとりと雛のスペルカードは全て避けられた。

 

 アリスたちはその6枚のスペカを全て料理した後、4枚のスペルカードでゴリ押して勝利という結末だった。

 

 あれだな、一言でいうと弾幕ごっこらしくなかった。もうちょっとスペルがぶつかり合うところ見てみたかった。

 

 と、いうわけで……

 

「頼むぞ2人とも」

 

「任せといて」

 

「もちろんです」

 

 午後3時、大妖精たちの初戦が始まる。相手はアリスたち。アリスたちはすでに勝っているので、ここでアリスたちに負けると予選リーグ敗退が決定してしまう。

 

「ふふん。いままで優斗に教えてもらったことを使えばばっちりだよ!」

 

 ちょっと得意げな笑みを浮かべて、両手を握りしめる仕草を見せる大妖精。よし、さっきなんかひどいこと言われたけど士気は大丈夫だな。

 

「じゃ、いってくるねー」

 

「いい結果を待っててください」

 

 弾幕ごっこ会場の校庭の中央へと歩いていく2人。その背中はとても頼もしく見えた。

 

「えっと……」

 

 あの後、1人になった俺は、2人の対戦表を見て次の相手を研究していた。まあ決勝トーナメントの組み合わせは明日決まるんだけど。

 

「どうだ2人は?」

 

 慧音がこっちに来た。彼女は2人の担任でもある。

 

「ばっちりですよ。ちゃんとスペルも考えたし」

 

「それは良かった。――じゃなくて、今はこれを言いに来たんだ」

 

「はい?」

 

 慧音が見せてくれたのは、先生用の弾幕ごっこ大会スケジュール表。これがどうかしたのか?

 

「これが?」

 

「ほらよく見ろ」

 

「……やべ。ありがとうございました」

 

 俺も大妖精たちの後を追うように走る。そういえば俺にもやることがあったんだよな……

 

 

 

 

 

「では、大妖精、小悪魔ペア対アリス、パチュリーペアの試合を始めます」

 

「ああ、審判優斗だったの……」

 

「審判がいない! って、映姫先生が叫んでましたよ」

 

「ごめんごめん、先生が審判やるってこと忘れてた」

 

「もう……」

 

 後で説教される確率大だなこりゃ。

 

「ほら、さっさと始めなさい」

 

 アリスからも催促が来る。はいはい、厳正にやらせていただきますよ。

 

「ではスタート!」

 

「「それっ!」」

 

「「……」」

 

 4者同じように勢いよく上へ飛翔する。そのまま空中で静止し、じっとにらみ合う。しかしそれも長くは続かない。

 

「いきなさい」

 

 最初に動いたのはアリス。懐から2体ほど人形をだし、弾幕を出させる。

 

「じゃあこっちも……」

 

 それに続いて、パチュリーも赤い結界を出現させる。

 アリスの人形はそれぞれ小弾と中弾をだす。中弾のほうが速度が遅く、複雑な弾幕になる。そこに、大弾サイズの炎が加わり、様々な大きさの弾幕が2人に襲い掛かる。

 

「さあ、いくよ!」

 

 もちろん2人も負けてはいない。飛び回るなんて無駄な動きはせず、その場でちょん避けを続け、空間が開くと、すかさず弾幕を撃って牽制する。

 

「…………」

 

 まだ試合はまだ始まったばかりなのだ……そんなことを言っている場合ではない。

 

「ど、どうする……」

 

 そう、俺は今窮地に立たされていた。

 俺は空を飛べないので、4人の戦いを見上げるような形で審判を行っている。4人の戦いを真下から見上げる。つまり、

 

「み、見えそう……」

 

 すごくパンツが見えそうなのだ。というかもうすでに。何言ってんの俺。

 いままで弾幕ごっこの観戦ってしたことが無くて気づかなかったけど、ほんときわどいんだな。特に大妖精、ワンピース短すぎ。

 しかも、審判という立場上4人の戦いを注視しないといけないというジレンマに立たされている。

 お願い、誰か何とかして……

 

「助けてやろうか?」

 

「ま、魔理沙! 頼む!」

 

 よっし、これからは救世主魔理沙と呼ぶことにしよう。

 ほうきの後ろに乗っからせてもらい、猛スピードで大妖精たちの同じ目線に立つ。

 俺も試合もここからがスタートだ。

 




第三十一話でした。優斗語りましたね~

ところで大妖精とこあのパンツって何色なんでしょ?やっぱり白と黒なんでしょうか?

あれ?二人ともどうした?えっ?こっちへ来いって?なんで?………ぎゃああああ!ピチューン

大「次回もお楽しみに!」

こあ「うp主はちゃんと処理しておきましたのでご安心を」


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第三十二話 弾幕ごっこは続く

 ただ今弾幕ごっこ真っ最中。対戦カードは大妖精、小悪魔ペアVSアリス、パチュリーペア。審判は俺、魔理沙。ただいま魔理沙のほうきにまたがって審判してる。

 

 しばらく牽制の仕合が続いていたのだが、

 

「ん~このままだと少し興ざめね。そろそろいきますか」

 

 先に動きを見せたのはアリスだった。懐をまさぐり、結構な数の人形を取り出しスペルを告げる。

 

「呪符『ストロードールカミカゼ』」

 

 人形たちが特攻隊のように奔りだし、大妖精の元に向かう。小悪魔のほうには1体も向かっていないので、一点集中型のスペルということがわかる。

 

「速いね……」

 

 しかしそこは特訓した大妖精。素早くその場を離れ、縦横無尽に空中を駆け巡る。

 

「ふう……そろそろ終わったかな?」

 

 最後に残っていた人形を無数の小弾でたたき落とし、安堵する。

 

「あら、私を忘れないでほしいわ」

 

「!?」

 

 背後からパチュリーの声がし、大妖精の顔が一気に厳しいものに変わる。一対二に持ってかれると非常に厳しい。

 

「火符『アグニシャイン』」

 

 大妖精の背後からパチュリーのスペルが発動され、空が火に埋め尽くされる。さらに、

 

「闇符『輪廻の西蔵人形』」

 

 前からもアリスがスペルを発動し、挟み撃ちにされる。こりゃ反則レベルだな。

 

「…………」

 

 それに対し、顔面蒼白になっている大妖精。マズイ、あれは思考停止してるときの顔だ……

 

「させませんよ!」

 

 突然大きな声が大妖精の背後からした。大妖精にも当然仲間がいる。その仲間の声だ。

 

「しっかりして大ちゃん! まだこっからだよ!」

 

「あ……うん!」

 

 小悪魔の励ましに一気に活力を取り戻す大妖精。

 

「いきます!」

 

 もう一度大声を上げ、スペルを取り出す小悪魔。これが彼女が生まれて初めてのスペルカードだ。

 

「鏡符『ショットバック』!」

 

 小悪魔の周りに紫の大玉が生まれる。それがパチュリーのスペカの炎と接触し……

 

「なっ……!」

 

 反射した。火と大玉がパチュリーの元へ向かう。

 

「くっ……水符『プリンセスウンディネ』」

 

 あわてて水の弾幕で相殺するパチュリー。これこそが小悪魔が生み出した弾幕。

 

 彼女は決して弾幕の量が多いわけではない。しかし彼女は手先が器用だった。そこで俺が「反射とかできないか?」といったのが始まりで生まれたのがこのスペルである。

 

「魔符『フェアリーズマジック』!」

 

 大妖精の方も隙間の少ない全方位弾でアリスの弾幕を相殺する。フェアリーズマジック発動したのこの前の弾幕ごっこ大会以来だな。

 

「はあはあ……」

 

「これは強敵ね……」

 

 ふたたび合流したアリスとパチュリーだったが、とても疲れているように見える。しかも2人ともスペルを今まで2枚使っているので、あと1枚しか使えない。

 

「こうなったら……」

 

「こうするしかないわよね……」

 

 何かを思い立ったようにお互いを見据える2人。何か奥の手でもあるのか?

 

 次の瞬間、2人は全く同じようにある行動に出た。

 

「なっ……」

 

 俺はその行動の意味が理解できず、しばらく固まっていた。

 




第三十二話でした。弾幕ごっこって書くの難しいですね~

アリスとパチュリーが何をしたのか。結構簡単にわかるかもしれませんが、今はお楽しみということで。

ではまたお会いしましょう!


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第三十三話 そしてアリスたちは……

アリスとパチュリーの行動にしばらく呆然としていた。

 

しかし俺は審判だ。公正な判断をしなければならない。

 

「えーっと……大妖精たちの勝ち。決まり手は自滅だ」

 

今、アリスはゴリアテ人形を、パチュリーは謎の真っ赤な球をお互いにぶつけ合った。2人とも全く同じタイミングだったので避けることができず、両者絶賛気絶している…………

 

「はああああああ!?」

 

「えええええええええ!?」

 

「な、何があったんですか!?」

 

大妖精たちと共に叫びをあげる。いやちょっと待て、なんで2人が同士討ちなんかしたんだ?

 

待てよ……確か2人は二次だと仲が悪かったはず。あ、恋のライバル的な意味でね。

 

そ、それでお互い相手を抹殺するためにチームを組んだっていうことか?

 

「あー……たぶん優斗の思ってることで正解だと思うよ」

 

大妖精が天を仰ぎ見ながら話しかけてくる。

 

「そういえばパチュリー様いかにも危ない薬作ってましたね。あれってアリス倒すためだったんですか……」

 

「マジかよ。じゃあチーム組んだのもお互いの策略だったのか?」

 

「たぶんそうでしょうね」

 

2人とも同じことを考えるなんて仲がいいのか悪いのからわからないな。

 

「まあ、そういうわけで2人とも、初勝利おめでとう」

 

「うん! 強敵だったけど良かった~」

 

満面の笑みで答える大妖精。小首を傾げる仕草がかわいらしい。

 

「なかなかでしたけど、まあ大ちゃんとのコンビですからね」

 

「ああ、特訓の成果だな」

 

まあちょっと特殊な例での勝利になったけどな。

 

「おめでとうございます~」

 

俺たちが喜びに浸ってる最中、頭上からいきなり現れたのは

 

「き、来たな……」

 

弾幕ごっこ大会中、俺の天敵となる射命丸文だった。

 

前回の弾幕ごっこ大会の記憶を俺は鮮明に覚えている。あいつがむちゃくちゃな記事を書いたおかけで俺は殺されかけた。

 

しかし、そんな甘っちょろい俺は前回で打ち止めだ。今回はちゃんと対策をとってきた。

 

要は俺に変わるような記事があればいいわけで……

 

「ちゃんと拝見させていただきましたよ! いいですねこれ!」

 

「だろ?」

 

俺が事前に渡していた写真。ずばり椛がもふもふされているイラストだ。ちなみに若干危ない感じ。昨日印刷してきた。

 

これで記事を書いてもらうことで死を回避するのだ。――何言ってんだろ俺。

 

「えっ? 優斗何あげたの?」

 

「ま、まあ……いいものだ」

 

まさかR-15の椛がもふもふされてるイラストなんて答えられるはずがない。

 

「えっとですね……」

 

「なっ……卑猥な写真だって!」

 

「だ、断じて違うからな……」

 

くっそ、やっぱり文は俺をからかって楽しんでやがる……あとで大量の宿題だそうか。

 

「まあ、それは置いておくとして……もう1回勝てば予選勝ちぬけですね」

 

「ああ、そうだな」

 

小悪魔ナイスフォロー。さすが大妖精の親友だ。どこかの天狗とは大違いだ。

 

「じゃ、俺30分後に審判あるから」

 

ピチュりそうになったらさっさと逃げる。これが幻想郷を生き抜く鉄則だ。なんか果てしなくどーでもいいな。

 

 

 

 

 

その後、1時間に1回のペースで審判をこなし、1日目が終わった。

 

夕焼けの中、校庭の端で大妖精たちと合流した。さて、大妖精たちの結果は……

 

「どうだったか?」

 

「やったよ!」

 

「にとりたちにも勝って決勝トーナメント進出です!」

 

全て予想通り、2戦2勝で決勝進出だ。

 




第三十三話でした。

文は優斗の天敵ですね~やはりジャーナリズムは恐ろしい……

優斗の指導力はさすがですね。あいかわらずゆるい感じですが…

ではまた!


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第三十三話 決勝トーナメント一回戦で

予選ラウンド、大妖精たちは見事2戦2勝で突破を果たした。

 

そして2日目、決勝トーナメントに入る。

 

「うわっ!」

 

思わず声が出てしまう。俺は教師なので審判をやらなくてはならない。

 

現在の対戦カードが咲夜&美鈴VSお空&お燐。1回戦というのに、大物同士の試合だった。

 

おい、校長(映姫)こんな強いところに俺をブチ込まないでくれ。割と本当に死にそうだったんだが。

 

勝負はお空が最初スペルを使いすぎた結果、咲夜たちの猛攻にあい、敗北した。

 

もうちょっとお空は深く思慮できればいいところ行くのになあ……まあそれができたらお燐がとっくに直してるだろうけど。

 

おっと、今はこんなことを考えてる場合じゃないな。現在大妖精たちの試合が行われている。対戦相手はというと……

 

「あらら~あなたたちなかなか強いわね~」

 

「さっさとやられちゃえ!」

 

青蛾娘々こと霍青蛾&忠実な死体、宮古芳香だ。

 

「やっぱり青蛾の方を倒さないとダメか……」

 

大妖精が自分に言い聞かせるようにつぶやく。そう、芳香の方にいくらあててもすぐに青蛾が回復してしまう。

 

つまりは回り込んで当てる方法が有効なのだが、いかんせん芳香がかばうように被弾しまくるのだ。絶対の信頼がある青蛾と芳香。2人はどうやって崩していくのだろうか。

 

「じゃあ青蛾、いっちゃっていい!?」

 

「もちろんよ」

 

芳香が大声を張り上げ、スペルを発動する。

 

「毒爪『ポイズンマーダー』!」

 

紫のクナイ弾が一気に展開され、弧を描くように2人に襲い掛かる……けどこのくらいなら余裕だな。

 

おお、小悪魔が弾に紛れて後ろへ回ろうとしている。うまくいけば挟み撃ちの体制を作れる……けど芳香がいるしな、どうだろう。

 

「いっくぞー!」

 

「あっ、こら待ちなさい!」

 

あ、前言撤回。こりゃ勝てる。だってほら、芳香が大妖精に襲い掛かってる。

 

「待て待てー!」

 

「へ? ――うわああ!」

 

大妖精と芳香の鬼ごっこが始まっている。あー……完全に芳香、弾幕ごっこ中だって忘れてるな。

 

2人とも縦横無尽に空をかけていてとても楽しそうだ。いや、大妖精は怖がってるか。

 

「ほらほらー!」

 

「な、何でよー!」

 

「こら、芳香! 止まりなさい!」

 

必死に青蛾が芳香に制をかけるが、聞く耳を持たない。そしてこの時、青蛾は芳香の方に目が向いていた。

 

「ほら、私たちも鬼ごっこしませんか?」

 

青蛾の背後に小悪魔。背後に回られたの気づかないなんてどんだけ芳香のこと好きなんだよ。

 

「あ~もうだめね~」

 

ゆっくりと両手をあげ、地上へ降りる青蛾。

 

「ほら、帰るわよ~」

 

「あ、はーい!」

 

大妖精と小悪魔の2回戦進出が決まった。

 

 

 

 

 

「というわけでいかかでしょうか椛さん!」

 

取材モードに入っている文。彼女は現在椛に取材をしている。その内容とは、

 

「何だこの写真は……」

 

優斗が渡した、椛がもふもふされている写真についての話だ。

 

優斗は文がただのゴシップ新聞しか書かないと思っている。

 

しかし彼女には事実をもとにしか新聞を書かないという絶対のポリシーを持っている。結局ゴシップ新聞なのだが。

 

それで、椛に取材していたのだが、

 

「ふざけるな……」

 

「ああっ! 何するんですか?」

 

椛が写真をビリビリに引き裂いてしまい、うなだれる文。

 

「こ、こうなったら……」

 

ネタが無い記者ほど恐ろしいものは無い。

 




第三十三話でした。

文が何か考えています。あれ?なんだか前にも見たような……まあ、お察しの通りですw

では!


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第三十五話 死亡フラグ

 いやー負けた負けたボロ負けだった!

 

 2回戦、青蛾娘々と宮古芳香相手に大妖精たちは頑張った。というか芳香が勝手に大妖精を襲って自滅しただけなのだが……

 

「むむ……やっぱり強かったね」

 

「さすがお嬢様を倒しただけありますね~」

 

「ああ、やっぱり相手が悪かったな」

 

「そうですよね! あれは反則ですよね!」

 

「抽選が運悪かったよね!」

 

「あ、分かったから二人とも落ち着いて……」

 

 3回戦の相手はなんと霊夢&魔理沙ペア。おい、チートじゃないのか。

 

 いや、一応頑張ったんですよ? 1枚ずつスペルカード使わせたし。

 

 けど仮にも主人公だしな。いくら特訓したからって妖精が勝つのは厳しいだろう。

 

 まあ、2人はよく頑張ったと思う。

 

「まあ、レイマリは負けてもしょうがない。でも楽しかっただろ?」

 

「そうだね。すごく充実した2週間だったよ!」

 

「まさかここまで行けるとは思いませんでしたよ。とっても楽しかったです」

 

「それならよかった。――おっと、審判の時間だ」

 

 勝ち負けももちろん重要だ。まあ、それより大事なものもあるかもしれない。

 

 結局、個人のとらえ方なんだよな。大妖精たちは何か感じ取ってくれたのだろうか。

 

 

 

 

 

 太陽が完全に沈んでしまった。まだ辺りは明るいが、すぐに暗くなるだろう。

 

 大会の方はというと、咲夜&美鈴が霊夢&魔理沙を破って優勝となった。って、レイマリ負けたんだよな……

 

 さあて、新聞が発行される時間だ。そのために1人でこっそり文の元へきている。

 

「号外~号外ですよ~」

 

 もう校庭の中央で新聞をばらまいていた。印刷速いな。

 

 前回とは違い、1面は咲夜と美鈴が嬉しそうに写っていた。よっし、やはり椛写真の効果は絶大だな。

 

 そのまま紙をめくり、2面を拝見してみる。どんな記事だろう?

 

「なっ……」

 

 あ、ありえない。こんなバカなことが……

 

 そこには、『今度は2対1?秘密の甘々練習を激写!』という大見出しが。おかしい、文とは協定を結んでいたはずでは……

 

「おや、こんなことにいましたね優斗」

 

「なあ、一回落ち着こう」

 

 なんか後ろから刃をつきつられているんですが。こんなことされるいわれはないはずだ……

 

「どうもこんにちは。文にこんなものを渡したのはあなたですね?」

 

「も、椛……」

 

 言われ思いっきりありましたわー。イラスト結構危ない感じだったんだよね~。そりゃ怒りますわー。

 

「はいでは、続きはこちらの方々にお願いしたいと思います~」

 

 なんだ、急に司会者みたいに……だが問題ない。あまり思い出したくないが、折檻には慣れている。どんな人が来たって……

 

「まさか文にそんなこと言ってたなんて……」

 

「これは罪が重いですね」

 

「大変申し訳ありませんでした」

 

 即、土下座。

 

 これは無理ですわ。大こあとかどんな死亡フラグだよ……

 

「じゃ、話はゆっくり家の方でね♪」

 

「面白そうなんでついていきますね」

 

 もう一つの試合のゴングが鳴った。

 




第三十五話でした。まだ終わらせませんよ!

これから優斗がどうしていくのか考えただけで面白いですね~死なずに済むんでしょうかね……

では!



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第三十六話 優斗の気づいていなかった一面

 さて、今回の勝敗条件を整理しようか。

 

 俺の勝利条件は大妖精と小悪魔に許してもらうこと、敗北条件は死だ。随分と重い罰なことで。

 

 さて、勝利に近づくためにはこの方法しかないことを俺は知っている。大妖精にひきずられているときに思い立った。

 

 そして今、こたつのある和室に正座させられている。2人に見下されているっていう何かに目覚めてしまいそうなこの状況も俺から恐怖を引き出している。

 

 考えていても仕方ない。やるか……

 

「すいませんでしたあ!」

 

 土の下に座ると書いて土下座。ドゲザ。とにかくDO・GE・ZAである。

 

「だって、こあちゃん。どうする?」

 

「う~ん……どうしよう? 煮るなり焼くなり好きにして構わないよ」

 

「それはもちろん大前提だよ」

 

 なんか末恐ろしい声が頭上で聞こえている。

 

「何とか許してもらえないでしょうか」

 

 そのまま畳に頭をこすり付け、懇願してみる。

 

 小悪魔がこちらを覗き込んできた。そしてそのまま微笑を保ったまま末恐ろしい低音で質問してきた。

 

「優斗、あなたが何やったかわかってます?」

 

「はい、椛のイラストを文に渡してしまいました」

 

「どんなイラストでしたか?」

 

「十五歳未満は閲覧禁止のやつです」

 

「挙句の果てに新聞になんて書かれましたっけ?」

 

「あることないこと書かれました」

 

「大ちゃん、やっぱり処刑でいいんじゃないかな?」

 

「それだけは何とか」

 

 もう小悪魔拷問人になれるって。

 

「まあ、もうやることは決めているんですけどね。――ねえ、ここは私に任せてもらっていい?」

 

「もちろんだよ」

 

 どうやら何かやることになってしまったらしい。

 

 満面の笑みでズボンのポッケから何か取り出した。あれは……なんだ?

 

 それは、両手で持てるサイズで、銀色で包まれていた。先端にはカメラのレンズらしきもの。これって……

 

「これこそ月で買った時代の最先端! ビデオカメラというものです!」

 

 いや、もうスマホの時代なんだが。しかも大きい。確かに幻想郷では超最先端科学なんだろうけど格段驚きもしない。

 

「これ何?」

 

「これはね……これに残しておいた映像を後で見ることができるの」

 

「えっ、どういう事?」

 

「つまり、これに写っているものは絶対ってこと!」

 

「そ、そうなんだ……――それでこれで何をやるの?」

 

 いよいよ発表である。俺の正面に立ち、小悪魔が判決を告げる。

 

「これですね優斗さん、あなたに大ちゃんへ愛の告白をしてもらいますよ。そしてその様子はバッチリこれにおさめます」

 

「ふ~ん ――はっ?」

 

「へえ~ ――ええっ!」

 

 俺と大妖精の声が重なる。こ、告白!? なにその内容、全く意味が、いや意味はわかるけどさ。そりゃいくらなんでも大妖精が嫌がるだろう。

 

「ちょ、ちょっとまってこあ! どういう事? 優斗が私に告白!?」

 

「うん、すごく恥ずかしくって、精神的に来る罰ゲームでしょ?」

 

「いや、そうだけどさ……」

 

「おいおい、そんなの大妖精が迷惑するだろ?」

 

「い、いや……別にそんなことはないけど……」

 

「へっ?」

 

 声が小さすぎて聞き取れない。

 

「ちょっと来て大!」

 

 小悪魔が家の外に引っ張る。扉が勢いよくしまり、全く会話が聞こえない。

 

 大妖精を説得するつもりなのだろうがそうはいかない。確かに大妖精は俺を慕ってくれているが、そこに恋愛感情が存在しないのは火を見るより明らかだ。

 

 それに、好きでもない人に告白されるなんて迷惑以外の何物でもないだろう。ここから導き出される結論は、

 

「無罪放免……だろ?」

 

 俺が得意げにつぶやいたと同時に2人が入ってきた。この勝負、もらった。

 

「了承してもらいましたよー!」

 

「なんだかね……優斗が恥ずかしがっているところ見てみたいと思ったの。すごくレアな光景じゃない?」

 

 マジかよ。完全に大妖精を甘く見ていた。考えてみればさっきの俺の発言。あれ完全にフラグだったな。

 

「既成事実って言葉で……一発でしたね……これで半年はニヤニヤできそうです」

 

「おい、なんか言ったか」

 

「いえいえ」

 

 どうせ心の中で快哉を叫んでいるんだろう。

 

「では、準備しましょう! ほら、大ちゃんこっちに! こうやって大ちゃんの前に立って……あっ、手でも握った方がいいですね。そうですそうです。おっと、目線をそらすのは許しませんよ。アイコンタクトをしっかりとね。うん、完璧です!」

 

 演出家のように口をフル回転させながらてきぱきと進めていく。いっそのこと映画監督にでもなればいいんじゃないだろうか。

 

「カメラも準備オッケーです! ささ、どうぞ!」

 

 くっそ……やるしかないのか……

 

「優斗、い、いつでもいいよ……まあ……嘘っこだからね。そう、これは演技……」

 

 やっぱり照れくさいのか、かすかに頬を赤らめている大妖精。やっぱり子供っぽい。

 

 こんなことなら素直にピチュってた方が良かったかもしれない。今となっては後の祭りだが。

 

「大妖精」

 

 しっかりと大妖精を正面に見据え、いよいよその時を迎える。

 

「好きだ」

 

「…………!」

 

「ぐおっ……!」

 

 なんだこれ? 

 

 言った瞬間、何か熱い物が胸に流れ込んできた気がした。そしてその後にくる、焼けるようなほほの感触。そして最後に気付くいつもよりずっと早い心臓の鼓動。

 

 なるほど、これは恥ずかしい。精神力が削り取られていくようだ。あ~体があっつい。

 

「じゃ、わたしはこれで~」

 

 小悪魔は撮るだけ撮って帰ってしまった。まて、今回得したのあいつだけじゃないか?

 

「だ、大妖精……」

 

「…………」

 

「あ、あれは小悪魔にやらされてやっただけだからな。そんなんじゃないからな」

 

「う、うん……」

 

 どうしよう。超気まずい。

 

 俺はこれまで恋愛経験が無いせいでこういう時の対処法が全く分からない。一番の有効な手は……くっそ、考えても全く分からない。

 

 俺があぐらをかいて首をひねったその時、

 

「こんな優斗初めてだね」

 

 唐突に大妖精に頭をなでられた。大妖精は思考停止してるはずじゃ……

 

「まさかここまで恥ずかしがるとは思わなかったよ」

 

 妖艶な笑いでそう語りかけてきた。何も言えずに固まっている俺に、言葉をつづける。

 

「優斗も意外と……子供っぽいんだね。どんなに頭が良くっても、どんなにクールでいられても、やっぱり優斗は優しいんだよ」

 

「あ、ああ……」

 

 やられた。完全に大妖精の方が一枚上手だった。

 

「はあ……」

 

 なんだか不思議だ。今までずっと子供だと思ってたのに。今の言葉はとても大人びていた気がする。思わずかわいいと思ってしまった。

 

「じゃ、ご飯作ろ?」

 

「……ああ、そうだな。よっし、今日は特に腕によりをかけるぞ」

 

「うん!」

 

 弾幕ごっこ大会の最終日の夜は、やはりこうしてゆっくりと、そして優しく過ぎていくのであった。

 




第三十六話でした。今回のテーマ、優斗を追いこむ。

優斗もこんな感じになるんですね。僕も初めて知りましたw

優斗の心境も若干変わってきたのではないでしょうか。大妖精がどういう行動をとるのかも注目ですね。

では!


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冬休み
第三十七話 年末の問題


「おっ、見ろよこれ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「霊夢が大金持ちになっているイラストなんだけど……」

 

「夢だったの?」

 

「その通り。まあ今頃ほんとに見てるかもな」

 

 弾幕ごっこ大会も終わり、テストもみんなが唸りながら過ぎ去った。あ、今回はテストの50.9%の採点やりました。あれは本当俺を過労死させるための策略だと思う。

 

 そこから何が始まるわけでもなく、2学期も終わりとなった。

 

 そんなわけでただ今冬休み中。今日はちょうど外の世界ならクリスマスだ。特に何もやらないけど。

 

 冬休みというパラダイスを楽しむために課された大量の宿題はもう終わらせてしまった。

 

 所詮中学校レベル。大妖精の優秀な頭脳だと、3日で終わった。チルノは6日。チルノの思考がぶっ飛び過ぎてて教えてる俺の方が疲れた。

 

 そんなわけでこたつでゴロゴロしながら東方情報をサーフィンするくらいしかすることが無い。

 

 特に何かするわけでもなく、そのまま3日が流れた。

 

 

 

 12月28日、朝っぱらから来客がやってきた。どうも俺に用があるらしい。

 

 真冬のこの時期にノースリーブで見るからに寒そうだ。それに特徴的な巫女装束。緑の髪に、簡素な造りのお祓い棒。「この幻想郷では常識に以下略」の早苗だ。

 

 入ってきたとたん、こたつに入り込みお茶を要求してきた。偉そうだったのでただの水を出してみたら自分で作り直し、俺に渡してきた。熱湯だった。さすが早苗、抜け目がない。

 

「それでどうすればいいでしょう?」

 

「そうだな……」

 

 早苗は俺に相談があってここに来たのだ。もうすぐ新年。新年で巫女さんがかかわる行事といえばあれしかない。

 

「初詣ですよ初詣! 博麗神社には負けたくないんですよ! 霊夢さんには悪いですが、1年の頭にドドッと儲けて楽に暮らすんです!」

 

「なんか霊夢みたいな発言だな」

 

「うちは毎年博麗神社だけどね」

 

「では今年はぜひとも守屋神社へ! 甘酒が待ってますよ!」

 

「いや、こっからだとすげー遠いんだよな」

 

 守屋神社って妖怪の山の頂上だろ? 

 

 何が出るかわかったもんじゃない。博麗神社も妖怪めちゃくちゃ出るけど。

 

「まあとりあえずビラでも配ったらどうだ?」

 

「あ……そうですね! もうやってますけど!」

 

「妖怪が通りやすいように道を整備したら?」

 

「ああ……そういう手もありますね! 今からやろうとしていたところです!」

 

「わかった。要するに何も考えてなかったってことだな」

 

「だね」

 

 元は高校生なのに妖精よりおつむが残念そうである。早苗ってこんなキャラだっけ。

 

 ちゃっかり昼食も食べ、帰って行った。これだけで参拝客が目に見えて増えるとは思わないのだが、本人が満足なので良しとしよう。

 

 

 

 その翌日、12月29日。

 

「それでどうすればいいと思う? 教えてちょうだい」

 

「あ……えっと」

 

「どうしたのよ」

 

「昨日早苗が来たんだよ」

 

「えっ? ――先を越されたか……」

 

 今日も来客が来ていた。早苗と全く同じ仕事をしているが、早苗よりぐうたらで神社ニートの霊夢である。

 

 入ってきたとたん、「ほら、来客にはお茶でしょ」とか偉そうなことを言っていたので氷水を出してみたら顔にぶっかけれられた。巫女とはもっと清楚なものではないのか。にやっと笑う光景を見れたのは珍しかったたが。

 

 質問も全く同じ。この世界の巫女は自分で考えるという選択肢はないのか。

 

「まあとりあえずビラでも配ったらどうだ」

 

「あと、道を整備すれば?」

 

「なるほど……要するに妖怪退治して行きやすい神社づくりを目指すってことね」

 

「退治したら参拝客減るんじゃないか?」

 

 博麗神社の客って9割得体のしれない妖怪だし。

 

「お賽銭入れないやつは参拝客じゃないわ」

 

「待て、その理屈は何かおかしいぞ」

 

 それじゃ博麗神社には参拝客は来ないということになる。

 

「……なんかすごい失礼なこと考えなかった?」

 

「イイエ、ナニモ」

 

 エスパーかよ。

 

 

 

 12月30日、昨日のことを整理してみることにした。

 

 こういう時はこたつに入りながら2人で話すと良いアイデアが浮かんだりするものだ。

 

「要するに2つの神社からお互いの神社を潰すお願いをされているわけだろ?」

 

「優斗はどっちの味方に付くの?」

 

「どっちって言われても……選べないだろ」

 

 どっちを選んでも後でもう片方から多大なる仕返しをされることは目に見えてるし。

 

 あれ? これひょっとして詰んだ?

 

 いや、まだ手は残されている。どっちの味方もすればいいんだ。つまり、

 

「なあ、なにもしなければ恨みっこなしになると思うか?」

 

「確実にどっちからもスペルが飛んでくるよね」

 

「やっぱりそうだよな」

 

 どうしよう。今からでも両方に誤りに行けば許してくれるだろうか。

 

「どうしようか……――なんかいいアイデアあるか?」

 

 だめ元で大妖精に聞いてみる。別に大妖精がバカってわけじゃないんですよ? ただ、

 

「ふふ……優斗、私にすごくいいアイデアがあるよ」

 

「頼む、すぐに教えてくれ」

 

 こうやってドヤ顔してる時の大妖精って大体ズレたこと言うんだよな。

 

 ところがいつもとは違う不敵な笑みを浮かべていた。手招きしているところを見るとどうも耳打ちで伝えたいようだ。

 

 そんなに自信があるのか。あと、ここで耳打ちしようが、大声で叫ぼうが他に聞いている人いないと思うけど。やっぱり少し抜けている。

 

「よし、聞かせてもらおう」

 

 大妖精の口元に耳を持って行く。

 

「ああ、その前に、」

 

 てっきり方法を言ってくれるのかと思ったら何か条件を出してくれるようだ。

 

「後で1つお願い聞いてね♪」

 

「へ? 何を?」

 

「いいから! 私が何も言わないと優斗ピチュちゃうよ」

 

「こんなこと誰から吹き込まれたんだ?」

 

「相手が弱み見せたら、お願い聞いてもらった方がいいって私のタッグ相手が言ってたの!」

 

 明らかに小悪魔の一緒にいた弊害が出てる。小悪魔より純真だけど。

 

 しかし、承諾しなければならないのも事実。

 

「ん、ああ」

 

 勢いで承諾してしまった。まあ変に難しいことは言われないだろう。

 

「それで方法ってのはね……」

 

 話を聞いてる中で、俺は11回もうなずいてしまった。

 

「どうかな?」

 

「それだ」

 

 即座に実行しようと決めた。

 




第三十七話でした。

やったぜ長期休業だ! みなさんこの時期いかがお過ごしでしょうか?

僕は暇なので、投稿のペースを最低でも三日に一度にしたいと思います!(こういうことを言って退路を断たないと書かない性格なんです…)

今年受験生なんだから春休みは勉強しろって? 因数分解?知らない子ですねぇ…

ではまた!


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第三十八話 フラグクラッシャー霖之助?いいえ、優斗のことです

12月31日、大みそかの今日はあの作戦を実行する日だ。

 

珍しく8時前に目が覚めてしまった。緊張でもしているのだろうか。

 

最近、相談事を引き受けるのが少し怖くなってきた。失敗=死ってのは絶対におかしい。

 

でも、この状況を軽く楽しんでる気もする。幻想郷に順応してきているのだろうか。それならそれでいいことだが。

 

さて、朝食でも作っておくか。

 

 

 

午前中はもうやることが決まっている。これを見ないと年越しができないあれだ。

 

こたつに寝っころがって、左手で頬杖をついて右手でマウスを動かす。幸せだ。

 

「ふふっ……くくっ……」

 

まずい、笑いをこらえきれない。別に笑ったって大妖精に変な目で見られるだけなのだが。

 

不思議そうなまなざしで大妖精がこっちを見てくる。まあ、パソコンの前で笑うやつ見たら引くよね。

 

「何見てるの?」

 

「ああ、これはだな……」

 

「何これ? 藍先生と橙がいるね」

 

「これはな、パラレルワールドの2人が漫才しているんだ」

 

今見ている動画は、「東方S-1ぐらんぷり」。いろいろな漫才コンビが優勝を目指してネタをぶつけあう二次創作アニメだ。

 

「あれ? ここって学校?」

 

「そう、学校で橙が作文を読んでてな……もう最高なんだ」

 

橙がとことんゆかりの悪口を並べ立てて藍を困らせるというネタだった。

 

橙がしゃあしゃあと悪口を言っていて、それを聞いた藍が必死に弁解をしていて、本当に面白い。

 

「さて……次はっと」

 

このまま優勝コンビだけを贅沢に見続けようか。いや、敗者復活のコンビだけを見るのも悪くないな。

 

この選択は大事だ。しっかりと考えなくてはならない。と、思っていた矢先、

 

ピンポーン

 

どうやら来客が来たようだ。

 

「まさかあいつらじゃないよな……」

 

あの巫女たちが来たら今度はバケツに目いっぱいキンキンに冷えた水でも出そうか。

 

大妖精がドアの方へ向かってくれている。わざわざこたつから出る必要もあるまい。軽いこたつ中毒になっているし。

 

「はーい、いらっしゃい……うわっ!?」

 

大妖精がドアを開けると同時に誰かが飛び込んできた。軽いからだが吹っ飛ばされる。目を回していないか心配だ。

 

なんとこっちに走ってくる。部屋で暴れまわっちゃいけませんって習わなかったか?

 

「優斗、さっさと数学教えるんだぜ!」

 

「まず大妖精を起こしてからにしろ」

 

「いや、もう助けてあるぜ」

 

反射的にドアの方を見てみると、

 

「まったく……あんまり無茶をするなよ。大妖精の方は問題ない。まだちょっと錯乱状態だけど」

 

「あれ? 霖之助先生、付き添いですか?」

 

「付き合わされただけだ」

 

 

 

 

要約すると、元気すぎる魔法使いこと魔理沙が宿題を聞きに来た。そのお供、というか荷物持ちで国語の教師の霖之助も来ている。

 

「いや~さすが優斗だな。まさかこんなに早く終わるとは思わなかったぜ」

 

「ふむ……さすがだね」

 

魔理沙だけでなく、隣で見ていた霖之助にもお褒めの言葉をいただいた。

 

その後、魔理沙と大妖精はどこかへ出かけて行った。

 

取り残された俺の霖之助はいろいろとだべっていた。途中でよく分からない質問をいくつかされたが。

 

ところで、魔理沙って霖之助のことをどう思っているんだろうか。

 

もしかしたらひそかに恋心を抱いてたりするのだろうか。けど、魔理沙をよく見ていてもそんなそぶりは一切見えない。俺の予想はまだ自覚が無いが、少しは好意を持っている程度だと思う。

 

ただ、フラグクラッシャーで有名な霖之助のことだ。どうせ気づかないのだろう。

 

少しは俺を見習ってほしい。誰からもフラグが立ってないから壊すこともないからな。なんだか悲しくなってきた。

 

少し自己嫌悪をしたところで、大妖精たちが帰ってきた。霖之助も、お昼ご飯の用意をするからと言って、魔理沙と一緒に帰って行った。末長くお幸せに。

 

「さあて……準備をするか」

 

「うん。行こう……あそこに」

 

その後、俺たちも外出した。目指すは今回の作戦に絶対必要なあの人物の家。

 

そこへ向かっている途中、どこからともなく黒い雲が心をよぎった。

 

「しかしなあ……本当にうまくいくのか……」

 

「あれ? 私が信用できない?」

 

怖いっすよ大妖精さん。

 

「いや、そういうわけじゃないんだが」

 

「じゃあ大丈夫! 私に任せておいて!」

 

ドンと胸をたたいて誇らしげな顔になっている。こういう動作を見るとやっぱり少し幼いんだなって思う。

 

そんな感じでしゃべっている内に、あの人の家へと到着した。

 




第三十八話でした。フラグが立ってない?ネタですか?

作品中に出てくる「S-1ぐらんぷり」は有名なあれとは全く関係ございません。ゴメンナサイ嘘です。

個人的にM-1は、お空がボケで雛がツッコミのコンビ作ったら最強だと思います。あ~るの~とさんお願いします!

では!



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第三十九話 一年の回想

午後10時、俺たちは博麗神社のこたつで温まっていた。

 

別に霊夢だけに協力するわけではない。博麗神社の方が近いだけなのだ。ただ、これから関係なくなるのだが。

 

「はあ……しっかしあんたらもよく考えたわね」

 

霊夢がつぶやきながら隣に座ってきた。手にはお盆に乗った3つの湯飲み。

 

「まあ俺が考えたじゃないんだけどな」

 

「あら、大妖精なの?」

 

「そうそう。何か変?」

 

「いえ、いいアイデアだと思うわよ。ただ、妖精がこんなこと思いつくんだって驚いててね」

 

「まあチルノだったら絶対無理だっただろうな」

 

妖精にだっておつむの違いはあるものだ。頭がいい妖精が並の人間レベルと考えると少々悲しくなるが。

 

「ほら、せっかくこの私が入れたのよ。飲んだら?」

 

「ああ」

 

悲しい事実を忘れるように、湯呑みを口に運ぶ。

 

「熱っ!」

 

「ふふ……かかったわね」

 

「優斗、舌大丈夫?」

 

「ぐ……なんて奴だ」

 

まさか報復に熱湯攻撃とは……舌が天に昇ってしまいそうだ。しかし、目には目をだ。反撃開始。

 

「ふふ……なかなか面白かったわよ」

 

「よっし、お賽銭箱を持って行こう」

 

「うん、これで守屋神社は大盛況だね!」

 

「ごめんなさい、それだけは勘弁してください」

 

案外ちょろかったな。大妖精との連携攻撃で完全勝利だ。なんだよ連携攻撃って。

 

協力しなかったらどうせお札が飛んでくるんだ。少しくらい文句を言ってもいいだろう。

 

お茶が適度の覚めるのを待ちながら、時が進むのを待つ。

 

あと数十分で日付が変わる。

 

思えばこの1年間は今まで生きてきた16年間より長く感じた。無理もない、幻想入りなんて特別な体験、普通出来ないもんな。

 

約8か月、幻想郷での生活をしてきて分かったことがある。

 

「なあ、大妖精」

 

「ん?」

 

「意外と幻想郷に飛ばされても何とかなるもんだな」

 

「どうしたのいきなり」

 

「まあ……ふと思っただけだ」

 

「そうなんだ。私はここで生まれたとき慌てふためいてたよ」

 

「あー……頭に浮かんでくる。霊夢が大人げなく弾幕飛ばしてくる姿が鮮明に見えるな」

 

「!? ちょっとひどいわね。こんな妖精襲うまでもないわよ」

 

「優斗、あれは嘘だよ。実際チルノちゃんの家に何度も押し入って……」

 

「さすが霊夢さんだ。清楚な巫女さんだとみじんも感じさせないな」

 

「2人して畳み掛けてくるんじゃないわよ!」

 

霊夢の強烈なツッコミをもらうと、俺たちは顔を向け合ってクスリと笑いあった。

 

恐らく幻想郷で一番深い関わりがあったのはこの大妖精であろう。

 

大妖精がいなければきっとチルノに凍らされて命を落としていた。

 

その後、居候させてもらって、本当に感謝している。面と向かって礼を言うのはなんか照れるからやんないけど。

 

小悪魔が周到に用意した悪魔のビデオの一件があってから、大妖精の印象が大きく変わった気がする。

 

前までは小さい子供ってイメージしかなかったもんな。今では他の妖精より少し、いやかなり、聡明で大人びていると感じている。

 

小さな体を持ちながら、それに合わない大きな心を持っている。こんなギャップのある女性を今まで見たことが無い。

 

また1年、お世話になるのだろう。

 

「優斗、時間だよ! 起きてる!」

 

「んあ……ああ」

 

頭の中で1年を振り返っていたら、日付が変わる10分前になっていた。さて、始めるか。

 

「2人とも、いよいよ実行の瞬間となったわけだが」

 

「最後にあれをやらないとね。私は準備万端だよ!」

 

「あまり気が進まないのだけど……本当に叫ばないといけないの?」

 

「こうしないと来ないからな。アイツは」

 

「はあ……わかったわよ」

 

この作戦を実行するにはあの人が不可欠だ。

 

あの人を呼ぶためには叫ばなければならない。3人で思いっきり息を吸い、ありったけの声を出して叫ぶ。

 

「「「助けて~! ゆうかり~ん!」」」

 

「はいは~い♪」

 




第三十九話でした。霊夢さん不憫……(特に後半)

次回はあの人が活躍します!もう仕組みはわかりますね!

では!


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第四十話 作戦通り

 博麗神社と守屋神社、この2つの神社を同時に繁盛させるのはかなりの難易度であるのは間違いない。

 

 両方を儲けさせるにはみんなが両方の神社に賽銭を入れてくれば良いのだが、この2つの神社が僻地にあるのが問題である。

 

 博麗神社は幻想郷の端、守屋神社は妖怪の山の山頂にある。初詣に両方行こうなんて物好きはそうそういないだろう。なんせ遠すぎる。だれも初詣で半日使いたくないだろうし。

 

 遠すぎるのならばどうする? 答えは簡単だ。それこそが大妖精のアイデアである。

 

「じゃあ、いくわよ~」

 

「お願いします」

 

「借り1ってことでいいかしら~」

 

「これ以上借金作りたくないんで勘弁してください」

 

「今度は誰にいいようにされたの?」

 

「言い方が悪いですよ」

 

 先ほど大声で呼んだ紫。彼女のスキマはいわばドラえもんのどこでもドアのようなものだ。

 

 実際のスキマ空間はいろいろカオスらしいけど。なんせ俺を異世界を飛ばしたのもこのスキマが原因だ。紫は違うと言い張っているが。

 

 このスキマを使って両神社をつなぎ、両方に賽銭が入るようにする作戦だ。

 

「あっ! 誰か来たよ!」

 

 先ほどから外で待っていた大妖精が声を上げた。紫とともにこたつから重い腰を上げて、賽銭箱のところへ行ってみると、

 

「おや、優斗じゃないか。どうしたんだ?」

 

「あれっ? 紫先生もいるじゃん。何してるの?」

 

 初めに来たのは幻想高校の教師の2人。慧音と妹紅だった。

 

「お二人はどうなさったんです?」

 

「見ればわかるだろう。なんせ新年だしな。初詣というわけだ」

 

「一緒に行こうって誘われたんだー」

 

「っ!? ま、まあそういうわけだ」

 

「そうなんですか」

 

 なるほど。要するにラブラブというわけだ。実は先生同士の恋愛も珍しくなかったりする。実際俺の通ってた高校でも1回あった。

 

「おい、なんか変なこと考えてただろ」

 

 さとりかよ。

 

「何のことでしょう」

 

「仕事増やすぞ」

 

「すんません。頭の中が百合でいっぱいでした。冗談ですから」

 

「百合? なんだそれは?」

 

 そうか、慧音が百合(隠語)を知るはずないか。ここは先生同士、教えてあげなければならない。

 

「慧音先生、ちょっといいですか?」

 

 慧音を神社の横へと連れて行く。ちょっとこの話は大妖精や妹紅には刺激が強すぎる。

 

「なんだ、百合ってのはそんなにほかのやつに聞かれたくないものなのか?」

 

「そういうわけじゃないんですが……百合ってのはですね……」

 

 簡単に百合について説明する。

 

「わかりましたか?」

 

 ゴスっ

 

「痛った……」

 

 思いっきり頭突きされました。

 

「ななな、何言ってるの! わ、私と妹紅が……いやいや! ありえないでしょ!」

 

「口調変わってますよ」

 

「あまりに突拍子ないからだ!」

 

「だから冗談ですって。さっきから言ってるでしょう」

 

「そ、そうだよな……つ、疲れた」

 

 にしてもこの2人本当に仲いいよな。二人で弾幕ごっこやるとどうなるのか1度ぜひ見てみたい。

 

 痛む頭をさすりながら境内の正面に戻ると、すでに多くの参拝客が来ていた。

 

 あいかわらず8割妖怪だが、まあいいだろう。去年はもっと閑散としていたらしい。

 

 そしてスキマの向こうから、

 

「ほう……これが噂のスキマ神社ですか。これは取材必須ですねぇ……」

 

 災いを呼ぶブン屋こと文がぶつぶつ言いながらやってきた。天狗は守屋神社に近い所に住んでいると聞くし、守屋のほうで拝んできたのだろう。

 

「おや、優斗さん。やっぱりあなたのアイデアですか?」

 

「いや、今回は違う。ほら、あそこで誘導している人の発案だ」

 

 頑張って参拝を終えた客をスキマに案内する大妖精を指差した。

 

「へえ……そんな考えを妖精が思いつくとは」

 

「この世界の住人は全員妖精がバカだと思っているのか?」

 

「あの全身青の妖精を見たら誰でもそう思いますよ」

 

 文が指差した先を見てみるとチルノも並んでいた。バカルテットと一緒にいるのだが、よい子は寝る時間ではないだろうか。あ、それだと大妖精がバカということになるのか。まあ、めでたい新年ってことで。

 

 その後、守屋神社から来た客も大量の賽銭を入れたおかげで、かなりの金額が賽銭箱の中に入っていた。作戦は大成功だ。

 

 

 

 

 

「お、おお……」

 

「どうだ霊夢。かなり入ってるだろ」

 

「いつもの2.421倍入ってるわ。素晴らしいじゃない大妖精、優斗!」

 

「そんなに細かくわかるの!」

 

「これが巫女パワーよ!」

 

「私のほうも結構入ってました。ありがとうございます」

 

 嬉しさでやたらとハイテンションになっている霊夢と大妖精の横で、早苗に一礼された。

 

 どちらも満足してくれたようで本当に良かった。主に自分の体的な意味で。やった、死なずに済んだよ……

 

「大妖精、ちょっといいかしら」

 

「何?」

 

「私と霊夢さんで話し合ったんですよー。やっぱりここまで良くしてくれた2人になにかお礼しないといけませんからねー」

 

「で、それを中に用意してあるのよ」

 

「わかった」

 

 2人が歩いていく。

 

「ああ、ちゃんと優斗のも用意してありますからね」

 

「そりゃどうも」

 

「さて、私たちも行きますよー」

 




第四十話でした。もこけーねは少し百合百合しいくらいがちょうどいいですね。ほかは認めん。

早苗と霊夢は普段は仲いいんですかね?早苗が霊夢に取り入ってそうな気もしますが。

では!


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第四十一話 早苗の策略

 早苗に、六畳の和室に案内された。こたつとタンスがあるが、隣の部屋が霊夢の部屋だ。そちらに大妖精と霊夢がいる。なぜこちらの部屋にもこたつがあるのだろうか。

 

「なるほど……確かに正月らしいな」

 

 霊夢と早苗が用意したあるものに目をやり、俺は感想を漏らす。

 

「そうでしょう! なんせ2人で作ったといっても、霊夢さんほとんど私にやらせてくれなかったですから!」

 

「ドヤ顔で言ってるそれは文句なのか? こんなものめんどくさそうなものを霊夢がやったのか?」

 

「『まったく、しょうがないわね』と、言ってましたが絶対ノリノリでしたね。これがいわゆるツンデレというやつでしょうか」

 

「ああ、いわゆるツンデ霊夢というあれだな」

 

 そこでいったん言葉を切り、改めて黒と灰色と白で作られたそれを見る。

 

 しっかし、よく作られてるなあ……。おそらく手縫いだろうが、ミシンのように精密な糸さばきだ。

 

「ほら、着てみてください」

 

「ああ。…………」

 

「……………………」

 

「いや、着替えるから外出ろよ」

 

「そうでしたね! 危うく嫉妬されるところでしたよ!」

 

「はいはい、早く」

 

「は~い」

 

 妬むって俺の着替えを見てだれが妬むんだよ。利用価値ないぞ。

 

 心の中でツッコミを入れながら、その衣装に身を包む。

 

 灰色と黒のストライプが入っているロングスカートのようなズボン。黒の長着の上にかける羽織の胸の部分には白い家門のようなものが刺しゅうされている。昔からある、男性の正装。

 

「終わったぞ」

 

「はーい! おお、やっぱり似合いますね! クールさがにじみでてますよ!」

 

「ほめかたがうさん臭いぞ」

 

「そんなことはないですよ。袴を着ると誰でもかっこよくなるんですね」

 

「それ悪口になるからな」

 

 袴、それは古くから日本の重要な場で使われてきた正装だ。これを2人が作ってくれたのだ。

 

 袴なんて七五三の時以来だな。とても新鮮だ。

 

「さて、隣に行きましょうか。気になるでしょ?」

 

「まあな」

 

 男の俺へのプレゼントはこれ。では女性の大妖精は? 

 

 女性の正装、つまり着物だ。

 

 大妖精は基本的には公式通りの服装で一年中過ごしている。実際はドット絵だけというツッコミは無しで。

 

 黄色のリボンで緑の髪をサイドポニーにしていて、白シャツに青のワンピース。胸元には左右対称の黄のリボンをつけている。

 

 さすがに冬場は下にタイツをはいているが、それ以外はそのままの格好だ。チルノと一緒にいると寒さをあまり感じなくなるらしい。妖精というのはそんなもんとだと大妖精に教わったことがある。

 

 そんな一年中同じ格好の大妖精が、今は着物を着ているというのだ。イラストでも見かけたことがないのに、本物がみられるなんて、さすが幻想郷だ。

 

「さっ、こっちですよ」

 

 すぐ隣の部屋なので、数歩で障子の前に立つ。わずかに期待に胸を膨らませ、大妖精と霊夢がいる障子を開け――

 

「――!?」

 

 ない。慌てて取っ手から手を放したとたん、背筋から嫌な汗がダラダラと流れた。

 

「おい早苗。着物って着付けるのに時間かかるよな?」

 

「そうですね」

 

「まだ中で着替えてる可能性は?」

 

「むー……無きにしもあらずといったところでしょうか」

 

「気づかなかったのか?」

 

「はい! まったく考えてませんでいた!」

 

 危ない危ない。早苗の天然がこんなところで出るとは。気づいてよかった。本当に。

 

 もし不用意にあけて、もしまだ途中だったら、それは悲惨なことになっていただろう。いや、凄惨といったほうが正しいか。

 

 ここは一回早苗に確認してもらわなくては。

 

「早苗、ちょっと中を見てくれ」

 

「はーい。――どれどれ……」

 

 障子をわずかにあけ、片目でのぞき見する。俺にあとで変な疑いがかからないようにしてくれているのだろう。

 

「大丈夫ですよ。霊夢さん見とれてました」

 

「そんなにいいのか」

 

 これで一安心だ。今度こそ、障子を勢いよく開ける。

 

「大妖精、どんな感じd……」

 

「うわぁ! 何やってるの!?」

 

「サーセン!」

 

 障子を開いた手を返すようにパァン! とすぐに閉める。

 

 あ、ありのまま今起こったことを話そう。確かに早苗は大妖精が着替え終わったといっていた。

 

 ところがどうだろう。開けた瞬間目に映ってきたのは、ちょうど着物の前の部分を抑えるのに苦労していた大妖精のあられもない姿。

 

 大丈夫、いくら着物だといっても下着はきちんとつけていた。上下とも真っ白いやつ。子供っぽいな……って何言ってるんだ。あれ? これすごくマズくない?

 

「おい、どういうことだ」

 

 俺の冷ややかな声に、早苗は満面の笑みでペロッと舌をだし、

 

「面白そうだったんで!」

 

「最初に俺に開けさせようとしたのは……」

 

「私がそんな馬鹿なわけないじゃないですかー」

 

「こっちは命かかってるんだよ!」

 

「安いアクション映画みたいですね」

 

 つかみどころがない返答だったが、今はそれで揉めている場合ではない。

 

 うわあ……部屋の中からどす黒いオーラが出てるんですが……

 

 逃げるか? いや、そんなのダメに決まっている。中にはチート主人公の霊夢がいる。仮に早苗と協力したとしても仲良く破滅するのがオチだ。

 

 とすると、あれしかないか……

 

「早苗、わかってるよな。あれをやるぞ」

 

「えー。パンツ見たの優斗だけじゃないですかー」

 

「もし逃げたら霊夢にお前の悪行をすべてチクる」

 

「う……わかりました」

 




第四十一話でした。早苗さんさっすが。

優斗は無傷で済むのでしょうか……たぶん駄目でしょうね!  

では!


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第四十二話 必死の抵抗

 俺と早苗がギャーギャー言い合っている間に、強大な怒のオーラがこちらへ移動してくるのを感じた。大妖精のものではない。それよりもっともっと威圧感のあるものが迫ってくる。

 

 もう一度よく考えよう。大妖精はおそらく着物を着たことがなかったはずだ。とすると、俺と大妖精と早苗以外でここにいる人物。怒らせると鬼のような形相になるあいつしかいない。

 

「ど、どうするんですか優斗! 霊夢さんが私たちにスペカの矛先を向けたらシャレにならないですよ!」

 

「原因お前だろうが。どうするもこうするもああするしかないだろ」

 

 2人で言い争っている最中に、障子が外れそうな勢いで開いた。お祓い棒とスペカを手にした霊夢の御開帳である。

 

 当然のごとく、ブチ切れているのがよく見て取れるが、それだけではない。軽く口角を上げているのに、目が全く笑っていないところが最上級にブチ切れていることを表している。

 

「霊夢さん、私悪くありませんよ! 優斗が『ぐへへ……』みたいな気持ち悪い笑みを浮かべてのぞいただけなんです!」

 

 こいつさっそく仲間を売りやがった。

 

「霊夢、それは全く事実とは違う。確かに俺は障子を開けてしまった。けど、それは早苗が仕向けただけなんだ。早苗がいなければ開けることは絶対になかった。いつもテストで上位を争っている霊夢ならわかってくれるよな?」

 

「いいえ! 私はきちんと止めたんです!」

 

「何言ってる。俺はきちんとお前に確認したんだぞ」

 

「そっちこそ何言ってんですか。結局見たんでしょ? 大妖精の」

 

「ぐ……それでもすべての責任は早苗に……」

 

「二人とも黙れ」

 

「「すいませんでした」」

 

 速攻で土下座タイムに入る。ひざを折って土下座モードに入るまでなんと0.93秒。のびたの昼寝並みに速い。

 

 やはり土下座慣れしてきたせいだろうか。嫌な慣れだな。

 

「二人とも安心しなさい。これは事故なんでしょ?」

 

 おっ、この流れは……

 

「『反則結界』から食らってもらうってことでいいかしら?」

 

 うん、まあこうなるよな。予想通り。全然うれしくない。

 

「霊夢さん落ち着いて……。事故、そう! あくまで事故なんですから。」

 

「早苗の言うとおりだぞ霊夢。いいか、これは不可抗力なんだ」

 

 一転、協力モードに入った俺たちに、霊夢は慈悲深い笑みを浮かべた。

 

「ええ、さっきからわかってるって言ってるじゃない。それより、せっかく正月になったんだし。今しかできない遊びをしましょう」

 

 ああ、そういえばもう日付は1月1日になっている。ただ、時間は午前2時。いったい何の遊びを……

 

「まずは朝日が出るまでちょっと待っててよね!」

 

「はっ?」

 

 急に飛んできたお祓い棒が脳天にヒットし、一気に視界が沈んでいく。

 

 最後の力で横をちら見すると、でっかい陰陽玉が早苗の体全体にぶち当たっていた。

 

 

 

 

 

「うあ……」

 

 目を開けた瞬間、視界が白くなった。ここは、外……? 

 

「おや、起きたんですか」

 

 早苗の声が背後から聞こえる。姿見えないが、かなり近い距離だ。

 

「いったい何がどうなったんだ」

 

「ふふ、説明してあげましょう。いまは朝の七時くらいです。で、ここは博麗神社の境内です」

 

 なるほど、あの後5時間ほど眠っていたのか。

 

「で、今私たちは縛られてるわけです」

 

「ふーん。――……は?」

 

「ですから、霊夢さんに縛られてたんですよ。どうなるんでしょうね」

 

「あ、確かに」

 

 俺たちは仲良く棒に縛り付けられていた。パソコンも手元になく、おそらくほどくことはできないだろう。

 

「あら、起きたのね」

 

「霊夢……どうする気だ」

 

「さっき言ったじゃない。お正月といえば羽子板でしょう?」

 

 意地の悪そうな笑みを浮かべ、ポケットから板を取り出す。

 

 何をするかと思えば、もう一方のポケットから針を取り出し、板でポーンポーンとついた。えっ? 嘘だろ。

 

「あのー……冗談だよな?」

 

「本気以外に何かあるの?」

 

「待て、落ち着け。マジで俺の残機が」

 

「大丈夫よ。コンティニューできるからっ!」

 

 やっぱり、羽子板で針をこっちめがけてついてきた。しかし、羽子板というものはコントロールが難しい。俺のギリギリ横をかすめていった。

 

「ふう……」

 

「優斗、安心している場合ではないですよ」

 

「へっ?」

 

 首だけを懸命に回すと、

 

「ふふ……5時間ぶりだね」

 

 背筋が南極並みに凍った。もちろん大妖精である。

 

 着物はしっかりと着ていた。緑が基調だが、ところどころに交じってる青の線が清らかな川を思い浮かばせる。帯は濃い緑で、薄めの布とよくマッチしていた。

 

 まてよ……ほめて何とかできないか?

 

「大妖精、その服すごく似合ってるな」

 

「ぶっ飛ばすぶっ飛ばす……――へ? そうかな?」

 

「ああ、大妖精の雰囲気にぴったりだ。可愛いぞ」

 

「そ、そうかなあ……へへ、ありがとう♪」

 

 さすが大妖精。この2言でここまでとは。いける、いけるぞ。もうひと押し……

 

「騙されるんじゃないわよ。さっき2人で決めたでしょう」

 

「……そういえばそうだね。いけないいけない」

 

 ムリデシター。

 

 あとはお察しのとおりであるので特に何も言わないでおこう。

 




第四十二話でした。

優斗も大変ですねー(他人事)

早苗は面白かったそうなんで満足しているのではないでしょうか。霊夢もSっ気が発動して楽しそうでしたね。やっぱり優斗しか損してない気が……ああ、大妖精もか。

では!



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三学期
第四十三話 戦争開始 しかし優斗は相変わらず


 1月1日、新年早々刈り取られかけた命を、俺は何とかつなぎとめた。

 

 幻想郷に来てから、自然治癒力が飛躍的に伸びた気がする。土下座力と同じで、回数を重ねたらのびる力なのだろうか。いやだなあ……

 

 しかし、それ以外は平和に寝正月を過ごした。お昼前に起きて、ブランチを食べ、午後はパソコンをいじるか、ぶらぶらしに行く。最高だ。

 

 そして、新学期が始まった。いつも通り、スクールアシスタントとして、様々な教室に行って、補助をしている。あいかわらず、みんな勉学は苦労しているようだ。

 

 そしてそして、なんと残業が3学期入って1日もなかった。なんだろこれ、天国?

 

 俺が何かに巻き込まれるときは、何かの行事中が多い。正月を乗り切った1月なぞ怖くもなんともない。

 

 3月は弾幕ごっこ大会があるので何とも言えないが、少なくとも1月、2月は平気なはずだ。

 

 つまり2か月もの間、平和に過ごすことができ――

 

「おい優斗! 待ちやがれー!」

 

「待ってよー!」

 

「優斗……あたってもらうわよ」

 

「絶好のシャッターチャンスですね!」

 

 るわけないんだよなこれが。現在、魔理沙に大妖精、霊夢や文、その他もろもろに追っかけられている。

 

 さらに、楕円形の形をしたあるものが、俺の背中に数多くあたっている。が、弾幕ではない。

 

 別に、着替えをのぞいたとかそういう類ではない。そうだったら、ガチの弾幕が飛び交い、いまごろ追っかけっこは終了しているだろう。

 

 のぞいたときは、葉っていうやつと一緒にそれはひどい拷問を受けたんだが、わざわざ思い出す必要もあるまい。

 

 では、今飛んでいるのは?

 

 今日は2月3日、この日に投げるものと言ったら、

 

「それっ!」

 

「お空、その制御棒で打ち出すのはやめてくれ……」

 

「せやっ!」

 

「魔理沙、で投げるのやめろ!」

 

「お正月の弾幕みたいにいくよ! えいっ!」

 

「魔理沙に比べて投げ方が優しいな。――って、それ思い出させないでくれ大妖精……」

 

 豆しかないだろう。要するに、現在鬼の役として、2階建ての校舎を逃げ回っている。

 

 ちなみに、俺のほかに霖之助先生も鬼役だ。こういう時は、男に体力が押し付けられるものらしい。

 

 萃香と勇義がやればいい話だと思うのだが、2人が豆にあたると、本当に傷ついてしまうらしい。だからってなんで俺が……

 

 別に豆を投げられるだけなら構わない。問題は、

 

「むー、なんだかまどっこしいね」

 

「あのーフラン? その手に持っている紙切れを見るとすっごく嫌な予感しかしないんだが……」

 

「大丈夫大丈夫! ほんとのやつじゃないから!」

 

「そういう問題じゃなくて……」

 

「禁弾『スターボウブレイク』豆ばーじょん!」

 

「ちょ、痛、いたたたた!」

 

「よっし! かなりヒットしたね!」

 

 ここで豆を多くあてた生徒は、成績が上がるのだ。別に進学するわけでもないので、成績が悪くたってどうもならないのだが、みんなの中で燃えるものがあるらしい。

 

 それで、みんなガチで当ててくるのだ。八卦炉を使う魔理沙に、制御棒で打ち出してくるお空。とうとうスペカまで使ってきたフラン。いずれもテストの点はあまりよろしくない。

 

 超速で打ち出された豆は、時に立派な凶器となるって初めて知ったよ。

 

 まあみんなが楽しんでくれるならいいんだけど……教師ってブラックなんだな。

 

 

 

 

 

「ふあー、終わった」

 

 職員室で、大きな息を吐く。午前10時からお昼まで、2時間も走り回っていれば、息の一つくらい当然だろう。

 

「はい、お疲れさま」

 

「あ、ども」

 

 隣の霖之助からあったかいお茶を受け取った。普段運動してない、霖之助のほうが大変だったろう。

 

 見たところ、別に疲れてるしぐさは見えない。実は妖怪だから動き回れるのだろうか。

 

 まあいい。いまはゆっくりしよう。

 

「優斗ぅ!」

 

 ゆっくりできそうになくなった。魔理沙がここまで突撃してきた。あと、大妖精とチルノとアリスと……目がかすんできた。

 

「なんだ、魔理沙。今は少し休ませてくれ……」

 

 目を抑えながら魔理沙をたしなめるが、魔理沙は今にもしゃべりたそうな顔をしている。

 

「優斗、外の世界には2月14日にイベントがあるって聞いたんだが……ほんとか?」

 

 2月14日? ああ、あれか。

 

「あるけど……なんでまた?」

 

「2月って節分しかなかっただろ? 文に聞いたんだが、何かイベントが起こるらしいんだ」

 

「ああ、それはバレンタインデーだな」

 

「ほうほう。それはいったい?」

 

「まあ、簡単に言うと……普段感謝している人にチョコレートを贈るんだ。基本的には女子が贈るものだな」

 

 幻想郷にはバレンタインはなかったんだな。まだ外の世界で流行っているし、幻想入りしてなかったのだろう。

 

「それでだな、送るチョコには3種類あるんだ?」

 

「えっ? 感謝を伝えるだけじゃないのか?」

 

「いろいろ度合いがあってな……。友達同士で送りあうのが友チョコ。普段付き合いがあるからって、軽い気持ちで送る義理チョコ。」

 

「もう一つは?」

 

「これがバレンタインデーのメインといわれている。自分が思いを寄せている人に贈るもの、これが本命チョコといわれる奴だ」

 

「「何っ!?」」

 

 後ろからざわめきが起こった。チョコと一緒に思いを伝える文化はなかっただろう。驚くのも当然か。

 

「わかった。サンキューな」

 

「おい、もういいのか?」

 

 今のひとことで、みんな足早に去ってしまった。――ああ、もう昼休みも終わりか。

 




第四十三話でした。優斗は完全なるトリガーであった。

「幻想高校の日々」のほうで詳しく掘り下げていきます。こちらのほうは、おもに優斗、大妖精視点で進みたいと思います!

では!


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第四十四話 をかし=趣がある

 2月14日といえば、多くの人がバレンタインを連想するだろう。

 

 両手いっぱいの本命チョコをもらう人、家族にしかもらえず涙を流す人、友達から友チョコ、義理チョコを多くもらう人。さまざまあるが、俺は一番後者だった。男女問わず、何人か友達はいたので、両手で数えれるくらいにはもらっていた。

 

 まあ、俺の話はどうでもいい。幻想高校で突如広まった、バレンタインはなかなかに大きな行事となっていた。

 

 義理チョコ、友チョコ、そして本命チョコ……今日のホームルームだけでも、多くのチョコが飛び交っていた。うちのクラスは……まあほとんど友チョコだった。

 

 職員室に帰ってからも、先生たちはその話で持ち切りだった。

 

 俺の予想では、昼休みあたりに慧音が妹紅に、照れながら渡すと予想している。それをニヤニヤしながらこっそりのぞくのが楽しみだ。

 

「お前が何を想像してるのかは大体わかるが、口にしたら即スペカだからな」

 

 なぜ俺の心だけこんなに読まれるのだろう。心を読まれる程度の能力でも備わってるのか?

 

「でも用意しているんでしょ?」

 

「それは当然だ。何をバカなことを言ってるんだ?」

 

「あ、そすか……」

 

「お前はどうなんだ。この学校では男ほとんどいないだろ。それはさぞかし……」

 

「はい、もらいましたよ。全部義理ですけどね」

 

 朝のうちにチルノや魔理沙、レミリアとキスメにもらった。

 

 チルノ、もらえるのはありがたいんだが……チョコは凍らせるものではないぞ。

 

 あとキスメ、お前からどす黒いチョコを渡されると、何か入ってるようにしか見えない。

 

 もちろん、帰ったら全部いただくが。

 

「おや、大妖精からはまだなのか?」

 

「さあ? チルノには渡してましたけど」

 

 チルノに渡してたから、俺にもくれる……はずだ。もらえなかったら少しヘコむだろうな。

 

「ふーん……わかったわかった。そういうことな」

 

「何がですか?」

 

「いや、別に。――霖之助、お前はどうだ」

 

 話の話題は、俺の隣で座っている霖之助に向かった。

 

 霖之助は、「ん?」とこっちを向き、あごに手をやり考えるポーズをとった。

 

「僕は妖夢と橙からもらったよ。ほら」

 

 差し出された二つの袋には、それぞれメッセージが書かれていた。

 

 妖夢のほうには、「いつもお世話になっています。幽々子様の分と一緒のものです」、橙の袋の上には達筆で、「義理じゃないわよ~」と書かれていた。

 

 橙のほうはきっとあの、BBAが書いたのだろうが、ツッコまないでおこう。ツッコんだら負けな気がする。

 

「あれ? 魔理沙からはもらってないのか?」

 

「いやまだだが……どうせ忘れてるんじゃないのか?」

 

「ふーん……わかったわかった。そういうことな」

 

 慧音、さっきと全く言ってることが変わんないんだが。

 

 霖之助は割とすぐに職員室へ戻っていたので、渡す機会がなかったのだろう。

 

「もうすぐ授業始まりますよ。いきましょう」

 

「そうだね、このプリント持ってってくれるかい?」

 

「わかりました」

 

「2人の1時間目は、1年1組か?」

 

「そうですよ」

 

「わかった。ふむ……ということは魔理沙と大妖精か。この時間ならあるいは……いや、大妖精のことだからどうせ……」

 

 ぶつぶつ何か言いながら、慧音は1年3組へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 今日の授業の内容は、古文の枕草子だった。この程度なら、フランでも……

 

「ねーねー優斗、枕草子っておいしそうだね」

 

「え? なんでだ」

 

「ほらほら、『をかし』だって」

 

「あ、そうだな……」

 

 こりゃ、1からやらなくちゃダメだな……

 

 

 

 フランの珍解答に、すごく頭が痛くなっているうちに授業が終わった。

 

「あ、そうそう! お姉さまに先越されちゃったけど、はいこれ」

 

「おっ、サンキューな」

 

「手作りなんだよー!」

 

 フランからもチョコをもらった。うん……何の形かよくわからない。包装ははがれかけ、チョコが飛び出している。が、いくら変形しているといえありがたいものだ。作るときは咲夜がついてるだろうから、食っても問題だろうしな。

 

「そうそう、大ちゃんも……」

 

「フラン~? 次、理科室だから行きましょ?」

 

「痛たたたた! わかったよー!」

 

 突然後ろから現れたレミリアによって、フランは手をバタバタ振りながら連行されていった。

 

 大妖精がどうしたのかすごく気になるが、レミリアがこっちを一にらみしてきたので、足を止めてしまった。今のはカリスマポイント100くらいあげてよかった。

 

 そのあとも滞りなく4時間目まで終了し、昼休みを迎えた。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 職員室の席に着くと、購買から買ってきた惣菜パンを、もそもそと食った。

 

 以前、学食に薬を入れられたときからあまり利用しないようにしている。わざわざピチュる確率を上げることもない。

 

 昼休みは1時間ほどとられている。あと40分はゆっくりできるだろう。

 

「させませんよ」

 

 また心を読まれた。って、今度は誰に……

 

 俺が背後を見ると、珍しい顔がそこにいた。

 

「こんにちは優斗さん。以前は大妖精さんにお世話になりまして」

 

 なんだ、さとりか。

 

「大妖精が世話になったって、会う機会なんてあるのか?」

 

「それは、乙女どうしのシークレットですよ。それよりチョコもらいましたか?」

 

「まあ、10個くらいはな」

 

「それは結構。わたしも用意してきましたよ」

 

「サンキュー。って、これ外の世界の板チョコじゃないか。どこで手に入れたんだ?」

 

「秘密のルートですよ。乙女の秘密よりトップシークレットです」

 

 ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。ずいぶんと久しぶりに見たチョコだ。

 

「さて、優斗さん。のんきにパン食べている場合ではないですよ。さっさと廊下を見にいきましょう」

 

「なんでまた?」

 

「昼休みは一番チョコが飛び交うんですよ? こっそりのぞくこと以外何が?」

 

「確かに誰が誰に渡すのかは気になるが……ほかの人を誘えばいいだろ」

 

「いいえ、あなた適任です」

 

「そこまで言うなら……」

 

 好奇心に突き動かされ、さとりとともに職員室を後にした。

 




第四十四話でした。さとりん!さとりん!

さとりと優斗が一緒にいるとよくわからない雰囲気になりそう……うまく表現できん。

では!


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第四十五話 優斗の天使と悪魔

「優斗さん、隣の部屋に行きましょう」

 

「誰がいるんだ?」

 

「ふふ……朝あなたに『て、照れるわけないでしょ!』って言ってた人ですよ」

 

「そんな言い方した奴なんて……なんかいたな。そんなツンデレっぽくはなかったぞ」

 

 俺の隣の社会教師か。え、もしかして今チョコ渡してるのか。この学校には文もいるし、すぐにばれそうなものだが。慧音にしてはちょっとツメが甘いな。

 

 おそらく、とてもいい気分で周りが見えなくなっているんだろう。それならばこちらとしても好都合だ。朝はあれだけそっけなかった慧音がどうなるのか、とても気になる。

 

「ほら、ここですよ」

 

「隣ってここかよ……」

 

 慧音、会議室で何をやっている。ここってあれだろ、幻想郷の従者たちが主たちの不満を集まって吐露するって噂の部屋だろ。

 

 それを全く気にもせず、さとりは数センチほど会議室のドアを開ける。半目でニヤつきながらこちらを手招きしてくる。無言でじっとこちらを見据えているその姿は、俺を悪いものに染めようとする悪意を感じさせた。

 

 どうする……俺の好奇心は俺をドアの前へと動かそうとしている。だが、理性の部分は……

 

 そう迷っていたら、突然心の中で天使と悪魔が出てきた。悪魔はさとりで、天使は大妖精。

 

 さとりには、まさに悪魔といえる羽や牙がついている。大妖精のほうはいつもの羽が、ふわふわで真っ白くなっていた。暖かそう。

 

「優斗さん、別に何も恐れる必要はありませんよ。どうせ、慧音さんはこちらに気づきません。どんな感じかのぞき――見学するくらいいいでしょう」

 

「ダメだよ優斗! これはプライベートなことなんだよ。見たら失礼だと思わない?」

 

「別にかまわないじゃないですか。今日は特別な日ですよ?」

 

「そんなの……関係ないもん!」

 

 頭の中でバタバタと手を振って反論する大妖精に、軽く笑ってしまう。もうちょっと冷静になればいいんだがな……それを求めても無理な話だ。やはり、チルノのお守役といっても、妖精は元気で子どもなんだな。

 

 なんだかとてもほっこりした気持ちになった。大妖精のことを考えていると、なんだか優しい気持ちになれる。それはやはり、彼女の長所だろうか。

 

 よし、のぞくのはやめるか。

 

「そんなことさせませんよ!」

 

 突然、脳内に誰かが乱入してきた。そいつは、白いシャツに黒ベスト、同じ黒のスカートで、ネクタイも黒な、本当の悪魔。小悪魔である。

 

「そんなつまらないことを優斗、あなたが見逃すんですか? あなたらしくもない」

 

「何言ってるのこあちゃん! 担任の先生でしょ!」

 

「もちろんそうだけど……いいの大ちゃん? こっちには……」

 

 不敵に笑って脳内小悪魔が取り出したのは、文字通り、悪魔のカメラ。

 

「この中には……わかってるよね?」

 

「う、うう……」

 

 そう、以前小悪魔の策略で、俺は大妖精に「好き」といったことがある。つーか、あれは大妖精も了承してたよな……やっぱり好きでもないやつにそう言われるのは黒歴史か。

 

「優斗、のぞいていいよ」

 

 ついに大妖精も陥落してしまった。

 

「むふふ……ついにあきらめましたか優斗さん」

 

 その声で一気に現実に引き戻された。うえ? なんで本当のさとりがこのタイミングで……おい、まさか……

 

「どうですか、私の能力は」

 

「待て、さっきの全部お前が? でも、心しか読めないんじゃ」

 

「私が異変の時、スペカをコピーしたのをお忘れですか。メディスンのスペカを覚えていてよかったです」

 

「んなっ……」

 

 じゃあさっきのは全部幻覚……なんでさとりがあのことを? 

 

――心読めるんだったな。なんというチート能力。

 

「ほら、のぞきましょう」

 

「は、はい……わかりました……」

 

 最後はなぜか敬語になってしまい、一緒に悪の道へと突き進んでしまったのであった。

 




第四十五話でした。これがさとりんクオリティ。

しかしさとりは幻覚を見せるだけで、そこから優斗が考えることまでは操れないわけで……

本当は今回で慧音をのぞき終わるところまで行く予定だったのですが……どうしてこうなった。

では!


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第四十六話 既視感

「どうでしたか? 私の見立て通り、かなりいい感じだったでしょ」

 

「最高だったな」

 

「ふふふ……優斗さんもだいぶこちらの道に入ってきましたね」

 

「誰が誘導させたと思ってんだ」

 

「あっれー? 誰でしたっけーね?」

 

「まず確実に言えるのは、慧音はお前を止める側だろうってことだろうな」

 

 と、表向きではさとりに強い口調で当たっているものの、のぞいたのは結構面白かった。あんな緊張していて、声が途切れ途切れになる慧音もなかなかレアな光景だろう。

 

 それを平然とスルーして笑顔でお礼を言う妹紅がまた……。思わず変な想像をしてしまった。

 

「そうですか~。優斗さんもガールズラブの良さに気づいてしまいましたか~」

 

「すぐに心を読むのはやめろ」

 

「そんなこといわれましても。私だって本当は見たくはないんですよ? ただ能力が勝手に……ああ、なんて不幸な私」

 

「そういうことはそのニヤけ顔をやめてから言ったらどうだ」

 

 絶対にこいつがしらふでこんなことやるわけない。

 

「ほら、次行きますよ次! 藍先生の良い感情をキャッチしました! きっと橙さんからもらってメロメロなんですよ!」

 

「わかったから大声で叫ぶな」

 

 こんな話を廊下の真ん中でするのはいかがなものか。

 

「大丈夫ですよ。みなさん私の話を聞くとろくな目に合わないの知ってますからね」

 

「自覚あったのかよ。まあそれならいい……」

 

 じゃあ、さっさと次に行こう。誰にも恐ろしい目にあわされないと今証明されたしな。

 

「なーにやってるんですか二人とも?」

 

 突然、背後から高い声が聞こえ、背筋が冷たくなる。首筋には、ヒヤッとした指の感触。ちょ、問題ないって話なんじゃ……

 

「な……なんでもないですよ?」

 

 震え声で取り繕ってみても、背後から感じられるオーラが変わることは無い。

 

 金縛りを受けたように体を動かすことができなくなっている。横目を向けると、さとりも猫のように首をつかまれ、ガタガタ震えていた。

 

 依然として背後にいる人物がわからない。甲高い声で、俺たちの悪ふざけを止めるような人物というと、まず考えられるのは大妖精である。

 

 だが大妖精は、こんなに凛々しい声はしていない。チルノやルーミアは口調が違いすぎるので除外。慧音はさっきので打ちのめされているだろうから確実にない。とすると……

 

(なあさとり、後ろにだれがいる?)

 

 後ろの人物に聞こえないくらいの小声で話しかける。

 

(えっ、それ聞きますか。知らないほうが幸せだと思いますよ。一つ言えるのは私の天敵ってことです)

 

(どうせ後でわかることだ。心の準備をしておきたい)

 

(ならひとつ約束してください。決して抜け駆けしないで一緒に謝ってください)

 

(おいおい、俺がそんなことするわけないじゃないか。俺はそこまで堕ちてない。で、誰なんだ)

 

(四季映姫校長先生です)

 

「すいませんでしたあ!」

 

 俺の能力、「高速で土下座する程度の能力」が発動した。

 

「ちょ、優斗さん! 速攻で反故にするのやめていただけますか!?」

 

「その名前だとは聞いていない」

 

 映姫だけは無理。機嫌を取らないと校長室で正座からの、怒涛の六時間説教コースが確定するから。

 

「映姫先生、私悪くありませんよ。優斗さんが『ぐへへ……』って気持ち悪い笑みを浮かべて、のぞいてただけですから」

 

「おまっ、さっきの約束は……あれ?」

 

 なんだろう、この展開前にも見たことがある気がする。

 

 確かあれは正月の時……博麗神社で起こったことだった気がする。

 

「えーっと、確か……」

 

「なにつぶやいているんですか優斗先生?」

 

 だめだ、思い出せない。かろうじて頭に残っているのは鬼の形相をした霊夢の顔だけだ。そのことだけ、すっぽりと抜け落ちていた。

 

 というか、今はそんなことを考えてる場合ではない。

 

「映姫先生、すべてはさとりが悪いんです。こいつは俺に幻覚まで見せてきて、仲間を増やそうとしたんです」

 

「それで堕ちた優斗さんも同罪ですよ。いや、むしろその程度で折れてしまうその弱い心が一番の問題だと私は思います」

 

「論点をすり替えようとするな。俺はやりたくてやったわけじゃない」

 

「途中からノリノリだったじゃないですかー」

 

「それはお前がそうさせたんじゃないか」

 

「2人ともその辺にしてください。大体の話は分かりました」

 

 終わることのない2人の争いに割って入った映姫は、ヤマザナドゥのほうの真面目な顔になっていた。

 

 ――判決が下る。

 

「2人とも、『黒』ですね。しかも純粋で真っ黒ですな。さっ、校長室まで行きましょうか」

 

「ちょ、それはあんまりじゃないか! 頼む……もうあそこには……」

 

 じたばたして最後の抵抗を試みるも、首筋の冷徹な右手が、離れることはなかった。

 

「ふふふ……こうなったら地獄の底まで付き合ってもらいますよ優斗さん」

 

 さとりが笑みがこんなに邪悪に見えたのは初めてだった。

 




第四十六話でした。早苗もさとりも優斗の天敵ですねー。

それに乗ってしまう優斗も優斗ですが……大妖精にさんざん冷たい目を向けられているのに、直す気は皆無のようですね!もう僕の力ではどうにもならない!

では!


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第四十七話 優斗錯乱中

「わかりましたか優斗先生?」

 

「はい……」

 

「よく聞こえません。返事はしっかりしてください」

 

「はい、承知いたしました……」

 

 西日が窓から差し込み、頭がふらりとする。

 

 説教のフルコースを浴びせられ、現在午後の4時。校長室に呼び出されたのが昼休みだから、4時間近くも正座させられたことになる。

 

 けど、6時間以上続かなかっただけ、まだマシだと思えてしまうのはなぜだろう。理由はわからないが、涙が出てくる。

 

「失礼しました……」

 

 いつもより数倍重く感じる校長室のドアを閉め、地獄の閻魔が見えなくなる。やっと……、やっと終わった……。

 

「いやー、不運でしたね。あそこですぐに逃げられれば良かったんですが。まさかあそこまで気配を消してくるとは」

 

「お前元気だな……」

 

「慣れって大事ですよ」

 

 さとりは至って平常運転だった。なんであの精神をエグってくる長話を聞いて、ピンピンしているんだろう。どれだけ普段から怒られているのか、想像もしたくない。

 

「しっかしもう4時ですか。一番いい時間を逃してしまいましたね」

 

「もう俺は絶対やらんからな」

 

「もういいですよ。付き合ってくれてありがとうございます。これは追加報酬です」

 

「報酬って……」

 

 もう一個チョコをもらった。さとりは何個用意してるんだ? 問屋ごと買い占めてたりしたのだろうか。

 

「……あれ?」

 

 なんでチョコ? なぜさっき、さとりからチョコもらったんだっけ?

 

「ほら見てください、皆さんからの視線が変わってますよ。さっきはあんなに冷たかったのに今はこんなにほほえましく……」

 

「憐みの目だよな完全に」

 

 さとりの軽口で、少し意識が覚醒する。 

 

 先ほどから下の真ん中を歩いているが、周りから、「あー、校長の逆鱗に触れたな」という視線が矢継ぎ早に刺さっている。

 

「そんなことあるわけないですよ。――じゃあ聞いてみますか。ああ、チルノさんがいますね。ねえねえ、今どんな気持ち……」

 

「ちょっと待った。それはさせない」

 

 映姫のように強くさとりの襟首を抑える。

 

「うわっ、またですか。何も変なことしませんよ」

 

「なあ、小さい子を汚してそんなに楽しいか?」

 

「はい! とっても!」

 

「…………」

 

 無言でパソコンを開く。

 

「ちょ、目がマジになってますよ」

 

「冗談だ」

 

 こいつがクズってことは前から知ってることなので、もうイラッと来ることもなくなった。

 

 慣れって大事だな。

 

「ではチルノさん、どうでしたか」

 

「ちょ……」

 

 いつの間にかチルノのもとへ回り込んでいた。さとりは無意識系スペルも使えるのかって思うくらいの早業だった。

 

「えっと……優斗!」

 

「えっ、俺か?」

 

 唐突に俺の名前が出た。少し意識がはっきりした。

 

「大ちゃんが家で待ってるよ! じゃあね!」

 

 それだけ言い残し、背を向け走り去っていく。

 

「ああ、待ってくださいよう!」

 

 さとりの制止も聞かず、廊下の角を曲がり見えなくなった。

 

 大妖精が待ってるって……いつものことじゃないか。何か今日特別なことあったか?

 




第四十七話でした。今日は何の日?ねのひだよ!(ほんとは2月14日だよ!)

完全に優斗精神折られてますねー。説教四時間なんて考えるだけで恐ろしい……

今回短めですが、次回でバレンタイン編終了かな?もう少しお待ちください!

では!


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第四十八話 優斗整理中

「はあ? 何考えてるんですかあなたは」

 

 心を読んでいたらしいさとりにすっごい顔をされた。こんなに口をあんぐり開けるさとりも珍しい。

 

「何って……今日の記憶を思い出しているんだ」

 

 けど、午前中までの記憶が霧がかかったように見えてこないが。映姫のありがたいとすりこまれたお叱りしか記憶に残っていない。

 

 ただそれだけなのに、なんでさとりは失望したような顔をしてるんだ? 

 

「優斗さん、あなたを見てるとラノベの主人公の、男友達みたいな気持ちになるからですよ!」

 

「俺の心の中と会話するのやめろ」

 

 心を見透かすのが当然だとしゃべらなくても会話できるんだな。

 

 ラノベの主人公ってどういうことだ。流行りの異世界転生モノみたいなチート能力を持っているってことか? 俺の能力は弱くはないだろうが絶対ではないぞ。

 

 あと、地底に住んでいるお前が何でラノベって単語を知ってるんだ。さっきのチョコといい、外と何らかのパイプを持ってるのではないかと俺は睨んでいる。

 

「チート系主人公じゃありませんよ。無自覚系ラブコメですよ……」

 

「そんなぼそぼそ言っても俺は心読めないから聞こえないぞ」

 

「はあ……もういいです」

 

 げんなりといった様子でため息をつかれた。別にさとりに迷惑をかけるようなことはしていないと思うのだが。というかむしろ、被害を被ってるのは俺だけだと思うのだが。

 

「本当の本当に、今日が何の日が覚えてないんですね?」

 

「ああ、ってかそもそも今日の月日さえ覚えていなくてな……教えてくれよ」

 

「いえ、私はやめておきましょう。部外者がかかわる問題ではありませんし」

 

「部外者ってなんだ」

 

「そう、私はただの盛り上げ役! 周りは固めますが、一番の核心には触れられないんです!」

 

「一人で盛り上がるな」

 

 しかし、これ以上同じことを繰り返しても無駄だろう。

 

「けど優斗さん、これだけは言っときますよ!」

 

「ちょ、近い」

 

 一瞬のうちにさとりが背伸びして俺の顔に近づいてきた。軽く俺を見下ろしてきて、らんらんと目を輝かせている。

 

「さっき、チルノさんに大妖精さんが待っているといわれましたね」

 

「ああ、そうだな」

 

「これがさっきの質問のヒントなんですが……まだわかりません?」

 

「だから映姫の説教できれいさっぱり忘れたって」

 

 なぜさとりはこんなに、今日の日にちを思い出させようとするんだ。

 

「じゃあ、一つお教えしましょう。大妖精が待ってるということは、あなたに何か用事があるはずです。そしてそれは、今日の日付を思い出せば必ずわかるはずです」

 

「そ、そうなのかー」

 

 ルーミアのセリフで茶化してみたが、あいかわらず、さとりの目は今日一番輝いていた。俺の言葉を気にする様子もなく、まくしたてていく。

 

「そして、思い出した時あなたはこう考えるはずです、『あ、やばい、すっかり忘れてたどうしよう』と」

 

 さとりの能力って未来予知じゃないだろ。なんでこんなにわかるんだ。

 

「けど、そこからが勝負です。そこからの受け答えで、あなたと大妖精の心がプラスにもマイナスにもなります。それを決めるのは優斗さん、あなた次第ですよ」

 

「わ、わかった。肝に銘じておこう」

 

「そしてこれが一番言いたいことですが、」

 

 呼吸を整え、さとりはもう一度大きく息を吸う。

 

「私自身の勝手な感情としては、ハッピーエンドがいいです! バッドエンドのエンターテイメントなんて面白くないに決まってますから!」

 

「それは竹取物語に失礼だろ」

 

 ハッピーエンドってどういうことだ?

 

「おお、そういえばそうでしたね。――まあ、それは例外ってことで。――まあとにかく、大妖精さんと仲良くしてね、ってことが私からのお願いです」

 

 真面目な顔してなにいってんだこいつは。

 

「その課題ならもう完了してるぞ」

 

 そんな当然のことお願いされるまでもないだろう。俺と大妖精は仲がいい。はずだ……俺の誤解だったらすごくショックを受けるだろうが。

 

「うわ……――はあ……」

 

 また深いため息をつかれた。

 

 

 

 

 

 さとりと別れてから帰路についている途中、ずっとそのことばかり考えていた。が、考えても頭が働かない。思考を頭の中の何かが強制的に排除してこようとする。

 

 周りに積もっている雪や身体に刺さる冷気から、今は真冬と推測される。

 

 冬に行うイベントといえば、クリスマスにお正月……正月は霊夢の賽銭集めを手伝った記憶がある。

 

 では、弾幕ごっこ大会? これも違う。今回はクラス対抗らしいだし、そんな面白そうなものを忘れるはずがない。それに定期テストもやっていないので、今日は三月ではない。

 

 つまり、今日は一月半ば~二月末ということになる。

 

「むむ……」

 

 目を閉じ、整理したもののやはりだめだ。

 

 まあ、思い出せなくてもいい。もうすぐ家につく。そこで大妖精に聞けばいい話だ。

 




第四十八話でした。今回でバレンタイン編終わるといったな。あれは嘘だ。

さとりがどんどんメタくなっていく……さとりは結局自分の好奇心で動いている感じですね。幻想郷ってそんな人ばかり。

では!


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第四十九話 優斗勝負中

「ただいま~」

 

「あっ! お帰りなさい!」

 

 やけにうれしそうな声色で大妖精が出迎える。今日は大妖精がうれしくなる日なのか。1つ情報が増えた。

 

 まあ、もうまどろっこしいことを考える必要もあるまい。さとりは面白がって口をつぐんでいたが、大妖精は違う。その純粋さはさとりを比較対象にするだけでもおこがましくなる。

 

「ただいま。突然なんだが……今日は何月何日だっけ?」

 

「ふえっ?」

 

 俺から突然日付を聞かれ、間のぬけた顔をした。こんなこと突然聞かれたら当然驚くだろう。

 

「いや、実はな……」

 

 大妖精に今日の出来事を説明する。理由はわからないが、さとりと共に映姫から説教を食らったこと。そして今日は大事な日とさとりから聞かされたのに、その記憶を無くしてしまったことを。

 

「そういうわけでな……さとりから聞き出すのはあきらめた」

 

「なるほど。大変だったね……」

 

 軽く微笑んで、同情してくれる。少し心が和らいだ。

 

「それで、今日の日にちだけど…………」

 

「ああ」

 

「……………………」

 

 期待して待っていたが、それから次の言葉が出ない。

 

 大妖精の顔が少し曇り、片手で軽く胸を抑えている。大妖精の視線は、その右手に注がれていた。

 

「おい、どうしたんだ」

 

 突然胸を抑えた大妖精を見て、軽く困惑する。

 

 もしかしたら急性心筋梗塞の可能性も……そんなのが妖精にあるわけないか。

 

 十数秒後右手を離し、大妖精は落ち着いたように深呼吸をした。

 

「ううん、心配しないで」

 

「それならいいが……」

 

「けど、やっぱり今日は何の日か教えるのは秘密。自分で考えて」

 

「ああ、――ええっ!?」

 

 予想だにしなかった一言で、思わず大声が出てしまった。結局教えてくれなかった。俺そんなに嫌われてたか?

 

「優斗、やっぱり自分で思い出して。そうしたほうが絶対いいと思うな」

 

「大妖精が秘密にするくらい、そんなに大事な日なのか?」

 

「うん……とっても」

 

 そこまで言われたら、もう何も返せない。どうやらもう一度、自分の脳にローラーをかけなくてはならないようだ。

 

「わかった。もう少し考えて見る」

 

「でも、まずはお風呂に入ったら? とっても寒そうだよ」

 

 大妖精からこんな提案をされた。それはありがたい。

 

「そうさせてもらう」

 

 凍てつく風がコートの下から体を突き刺したせいで、体の芯から冷えている。まずはゆっくり浴槽につかってもいいだろう。脳が温まって、なにかを思い出せるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 服を脱ぐ前に、シャワーの栓をひねっておく。冬の時期はお湯が出るのに時間がかかる。

 

 それにしても、なぜ大妖精は教えてくれなかったのだろう。見たところ、最初は笑顔で言ってくれるようすだった。それが、胸を抑えてから急に……今考えていても仕方ないか。

 

 シャワーの水から湯気が立ち上ってくる。そろそろだな。

 

 まずはキンキンに冷えたコートから脱ぎ始める。

 

 ドサッ

 

 その瞬間、なにかがコートのポケットから転がり落ちた。

 

 それを拾ってみると、

 

「これは……」

 

 かわいらしくリボンでラッピングされている。手触りは固く、においをかいでみると芳醇だった。

 

 これは、チョコレートか?

 

「あれ……」

 

 チョコ? なんで俺がこんなものを……

 

「あっ」

 

 間抜けな声が出てしまった。

 

 ――刹那、頭の中が一気に聡明になっていく。

 

 涼風が脳に突き抜けたようだ。すっぽり抜け落ちていた午前中の記憶が視えてくる。

 

 チョコ、そして冬。さとりが興味を持つもの。これってもしかして……

 

「バレンタイン……」

 

 そうだ間違いない。今日は2月14日、バレンタインデーだ。

 

「やばい、すっかり忘れていたどうしよう」

 

 そうか、さとりの言ってたことってそういう……見事に未来予知されてしまった。

 

 とりあえず心を落ち着かせるため服を脱ぎ、シャワーを浴び始めることにする。暖かいお湯が冷たい体を火照らせていく。だんだんと思考回路が起動してくる。

 

 大妖精はもしかして俺にチョコを渡してくれるつもりだったのだろうか。いや、そうとしか考えられない。

 

 もちろん本命ではないだろう。となると義理……でもないような気がする。じゃあ友チョコか?

 

 なんでもいい、それより問題なのはさっきの大妖精との会話だ。自分の言動を思い返してみる。

 

 帰ってきて、チョコを渡そうとしてくれた大妖精に俺は確か……

 

 ――今日何の日だっけ?

 

 みたいなことを言っていたな。なるほど。

 

(ああ……)

 

 何やってるんだ俺。

 

 深い自責の念がわいてきて、思わず頭を抱えてしまう。なんて場違いなこと言ってしまったんだ。デリカシーのかけらもない。

 

 そんな俺の言葉を大妖精は優しく聞いてくれていたのか。なんだか悪いことをさせてしまった。

 

 シャワーを浴びているのに、体の芯が冷たくなっていく。深い後悔の海が押し迫ってくる。

 

 どうすればいいのだろう。真面目に謝るものなんか違うだろうし。

 

 さとりが言っていた、「あなたの受け答えで大妖精の心がプラスにもマイナスにもなります」とはまさしくこの状態を指している。どうにかしなければならない。絶対に。

 

 幸い、1人で考える時間はある。状況を悪くしてしまったのなら、考えて考えて考え抜いて、活路を見出せばいい。

 

 シャワーを止め浴槽につかり目を閉じ、思慮を始める。

 

 良い雰囲気を保つためには……のぼせる寸前まで脳のネットワークをフル回転させていた。

 

 

 

 

 

「あがったぞー」

 

「はーい。ごはんの準備しておいたよ」

 

「今日は鮭か。おいしそうだな」

 

「魚屋さんがずいぶん安くしてくれたんだよ。傷がついちゃったんだって」

 

「食べられれば十分だよな」

 

 テーブルには白米に味噌汁、銀鮭におひたしと典型的な和食料理が並んでいる。出来立てのそれは、レストランに出されていてもおかしくないくらいおいしそうだった。

 

「じゃあいっただきまーす!」

 

 大妖精が無邪気な笑顔で箸を持ち、鮭の身をほぐしはじめる。

 

(さて……)

 

 食事中は心が広くなるとどこかの本で読んだことがある。ここからがさとり言っていた、「勝負」の時間である。

 

「なあ大妖精」

 

「もぐもぐ……なに?」

 

 ほんとにもぐもぐという音をしゃべりながら食事をするのって、大妖精だけだよな。とても子供っぽい仕草でかわいい。

 

「ホワイトデーって知ってるか?」

 

「ほわいとでー? ――ううん、聞いたことない」

 

「ホワイトデーってのは3月14日にあってな、」

 

「ふんふん」

 

 よし、興味を示してくれた。

 

「男性が女性にクッキーやマシュマロみたいなお菓子をお返しとして贈る日なんだ」

 

「外の世界はそんなのがあるんだ。――お返し? お返しって何の?」

 

「3月14日の1か月前にある行事だ。そこでお菓子をもらった女性にお返しを渡すってことだ」

 

「1か月前ってことは2月14日? ――今日だ!」

 

「そのとおり」

 

「なるほど。バレンタインデーのお返しに……あれ?」

 

 首をひねっていた大妖精が、こちらをじっと見据えてくる。どうやら俺が思い出したことに気付いたようだ

 

「もしかして……」

 

「ああ、すべて思い出した。悪かったなさっきは」

 

「ううん、全然大丈夫だよ。でもちょっとドキドキしちゃった」

 

「まあ、ずいぶんとさっきの俺おかしかったからな」

 

「ううん、違う。だってずっと忘れてたら、これ渡せなかったもん」

 

 大妖精がブラウスの脇ポケットから取り出したのは、赤いリボンで包まれている包装紙。いや、包装紙もあるものを包んでいる。

 

 大妖精は微笑んでいて、とても幸せそうな顔をしていた。

 

 思い出せてほんとによかった。もし忘れていたら、大妖精の心を踏みにじる、そんな最悪なことになっていただろう。

 

「今までありがとう優斗。そして、これからもよろしくね」

 

「ああ、こちらこそだ」

 

 ハート形に包装されたチョコレートは、その質量以上にいろいろなものを感じ取れた。大妖精と俺の信頼の糸が、さらに深まったような気がした。

 

「さっ、ごはん続けよう」

 

「そうだな。ちゃんと魚の骨とらないとのどに突き刺さるぞ」

 

「刺さる!? どうすればいいの!?」

 

「そういう時はご飯を丸呑みするんだ」

 

「そ、それも何か嫌だな~」

 

 バレンタインという行事があっても、幻想郷と俺たちの時間の流れは相変わらずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~うまくいきましたね。眼福眼福。」

 

「いいもの見せてもらったね」

 

「おやこいし。いつからそこにいたんですか?」

 

「えっと、お姉ちゃんが食事中の大ちゃんにテレパシーで指示を送ってたあたりかな」

 

「それなら話は早い。どうですが優斗さんの無意識は? かなりのイベントこなしてますし、そろそろ惚れてもいい頃合いじゃないですか?」

 

「ちょっとずつ進行してってるね。もっともっとイベントがあればもしかして……」

 

「やはりそうですか。ふふ……ますますこれからが楽しみですね」

 




第四十九話でした。優斗と大妖精、二人だけの会話とか何話ぶりだろう……もっともっと書きたいです。

今回でバレンタイン編終了ですが、MVPはさとりですね。いろいろな意味で。

次回はおそらく三月になって、久しぶりの弾幕ごっこになるかな? もう少々お待ちください! 

では!


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第五十話 デススマイル

「いいか、この辺とねじれの関係なのはこれとこれだろ」

 

「だからこれって言われてもわからない!」

 

「もう一回よく見て。辺ABと触れてなくて、平行でもない辺はこの2本しかないだろ?」

 

「平行ってなに?」

 

 氷の妖精、チルノが小首をかしげて聞いてくる。

 

「そっからか……」

 

 頭を抱えた俺の後ろから、また悲痛な声が上がる。

 

「ゆ、優斗! なにこの変な記号の羅列は!」

 

「どれどれ。――これ英検で言うと四級くらいなんだが……」

 

 お空の羽がパタパタしていて、この英文を全く理解してないことが手に取るようにわかる。

 

 それと同時に、俺の頭痛がどんどん激しくなっていく。ああ、どうしよ……

 

 時は2月末。バレンタインが終わった後に待ち構えていたのは、恐怖の学年末テストであった。

 

 大妖精や霊夢などは問題なくパスした。だが、全員が勉強しないで良い点を取れるはずがない。

 

 予想通りといってはアイシクルフォールやメガフレアが飛んでくるだろうが、チルノとお空はすがすがしいくらい低い点数を取り、追試を食らっていた。

 

 そんなわけで、大妖精の家へ来た2人。仕方ないので休日返上で教えているのだが、

 

「チルノ、平行ってのはいくら伸ばしても交わることがないってことだ。あとお空、この『is playing』は現在進行形だ。今ちょうどしていることを表す時に使う」

 

「「どゆこと?」」

 

「むむ……」

 

 俺の教え方が悪いのか2人の理解力が悪いのかわからないが、テストを通過できる気がしない。

 

 しょうがない。いったん休むか。

 

「じゃあ少し休憩な」

 

「みんなおつかれさま~。お茶入れたよ」

 

「あ、ありがとう大ちゃん……」

 

 持ってきた麦茶にチルノが飛びつく。脳が相当オーバーヒートしているのだろう。正座している大妖精の膝にあおむけで転がって、すごい勢いで飲み干していく。

 

「大ちゃん、助けて……優斗がよくわかんないこと言ってくる!」

 

「そうそう。現在進行形なんて言われてもよくわからない!」

 

 チルノとお空が俺への不満を大妖精にぶつける。

 

「おいおい、すべてまっとうなことだぞ。あと大妖精に助けを求めても無駄だぞ」

 

「「へっ?」」

 

 もう一度大妖精の顔を見た二人が青ざめる。

 

 大妖精は口角を上げ、満面の笑みになっていた。この笑顔は、普段なら彼女がご機嫌なことを意味している。だが、この場合……

 

「ちゃんとやろうね? さもないと留年しちゃうよ? 私が先輩になっちゃうよ?」

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

 でた、大妖精の得意技「笑符『デススマイル』」。この笑顔を受けたものは誰であろうが大妖精に逆らえなくなる恐怖のスペカだ。俺は日常茶飯事で食らっている。

 

「よっし、じゃあ続きやるぞ」

 

「うわーん! 弾幕ごっこしたいよ!」

 

「早くさとり様のもとへ帰りたい……」

 

「大丈夫だ。あと半月もすれば弾幕ごっこ大会だろ」

 

「待ちきれないよ!」

 

「今は勉強だ。確か今回の大会はクラス対抗だろ? ここでいい点とれば絶対楽しくなると思うけどな~」

 

「そ、そうかな?」

 

「当然。なっ、大妖精?」

 

「もちろんだよ!」

 

「わ、わかった。頑張る!」

 

 ちょろいなこの妖精と八咫烏。

 

「あとお空。お前の主人はとんでもない裏の顔を隠し持ってるからな?」

 

「へっ? ――そ、そんなことはない! 立派な人よあの方は!」

 

「まあお前がそう思ってるならそれでいい」

 

「えっ?」

 

「さあ勉学に励むぞ」

 

「みんな頑張って!」

 

 日付が変わるまで知識を詰め込んだかいあって、赤点ギリギリで通過できたのはこの3日後のことである。もっと早く誰かに教えてもらえよ……

 




「デススマイル」って、どこかのフラワーマスターが使ってましたね。

今回久しぶりの一話完結。帳尻合わせの意味も兼ねてたりします。

次回、チルノの言ってたあれになります!ただ、優斗視点なのでちょっと違った方向からになりますかね。

今回で五十話! ここまで積み重ねられたのは応援してくださってる皆様のおかげです!ありがとうございます!

ではっ!


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大妖精の弾幕ごっこ大会 の裏側で
第五十一話 仕事疲れの解消法


「ふああ……」

 

 今日何度目かもわからないあくびが出る。

 

 周りには誰一人としておらず、職員室の光は手元のライトしかなかった。外を見てみても、3月なのに雪が降っていて真っ暗だ。コートを持ってきていないので、帰りは寒いな抱えることになるだろう。

 

 視線変えて時計を見てみると、もう日付が変わろうとしていた。

 

 最後に俺の横を確認すると、テストの束が積み上げられていた。

 

「はあ……」

 

 状況を確認したところで、今日何度目かもわからないため息が出た。

 

 定期テストの採点は基本的に俺の仕事なのだが、いくらなんでも多すぎである。先ほど計算したところ、全体の90.4%が俺に割り当てられていた。前よりひどくなってないか?

 

 気合で1、2年生は終わらせたものの、3年生まで俺の担当なのは相当ツライ。

 

「ん、ああ……」

 

 背筋を伸ばして抵抗したが、今日はもう仕事をする気が起こらない。手元のライトを消し、学校を後にした。

 

 

 

 

 

 暖房がついているようで、扉を開けると暖気がふわっと顔にかかった。寒暖差で思わず身震いをする。

 

「ただいま~――って、起きてるわけないか……」

 

 天井の明かりはついているものの、大妖精はリビングにいなかった。もう寝てしまったのだろう。

 

 その証拠に、机の上にはごはんに味噌汁と3品のおかずがラップをかけた状態で置かれていた。

 

 そのラップの上には、かわいらしい丸文字で、「先に寝ます。たべておいてね」と書かれてあった。

 

 遅く帰ることに何一つ文句を言うこともなく、食事を作ってくれて本当にありがたい。

 

 手を合わせ、感謝して白米を口に運ぶ。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 手を合わせ、深くお辞儀をする。このままお風呂に入って寝る、といきたいところだ。

 

 しかし、まだそれはできない。もう12時をとっくに回っているが、もう1か所行かなくてはならない場所がある。

 

 他の日に行けよ、と思われるかもしれないが、大妖精が寝ている今こそチャンスなのである。

 

 部屋の明かりを消し、もう一度夜の幻想郷へと歩を進めていく。冷たい風が再度、体全体を覆っていった。

 

 

 

 

 

 夜の減少今日は不気味で恐ろしい。真っ暗闇で、少しでも油断するとたちまち食べられてしまう。そんな想像をすると背筋が凍りつく。

 

 だからこそ、こうこうと光っている場所があると目につく。

 

 俺はとある店の明かりを見つけ、そのドアへ手をかけた。

 

「こんばんは」

 

「いらっしゃい。――おや、優斗じゃないか」

 

 その店主、森近霖之助は座ったままこちらに視線だけを向けた。

 

「今日は例のものを確認に」

 

「わかってる。今まで残業かい?」

 

「ええ、まあ。まだ相当残ってますけど」

 

 テストの採点は俺が約90%、霖之助が9%の割合になっていた。他の先生は俺に恨みでもあるのだろうか。

 

「まああの量だとね……。心中察するよ。僕も手伝いたいんだけど……」

 

「いえ、先生はこっちの仕事もありますし。とっても助かってます」

 

 いつも爆睡しているスキマ妖怪とかがやればいいんじゃないだろうか。

 

「それより優斗、こっちに例のものは用意してるよ」

 

 そちらを一瞥すると、俺の頼んだものが積み上げられてあった。

 

「いい感じですね。――あれ? 少し多くないですか?」

 

 が、少し数積み上げられすぎていた。俺は10数個ほど頼んでおいたのだが、その倍ほどありそうだった。

 

「ああ、それは僕の分だよ。君がやるんだったら僕もやらないと」

 

「なるほど」

 

 合点がいった。

 

 なら、今日はこれで正真正銘お仕事終了だ。少し頭が重いし、明日も授業。帰ってさっさと寝よう。

 

「では、あさってよろしく……ハックション!」

 

 さっきから寒気はしていたのだが、とうとうくしゃみが出た。

 

「風邪かい?」

 

「さっき寒い中歩いてきたからですかね……このくらい平気ですけど、おいしいもの食べてゆっくりしたいですね。」

 

 最近の激務に睡眠不足、相当免疫力が落ちていることだろう。何か精のつくものでも食べたくなってきた。

 

「そうだね、休んだほうが……ああ、食べるならいいものがあるよ。僕も最近聞いたんだけどね、味が良くて体にもいい食べ物があるそうなんだ」

 

「それはいいですね。どんなのですか?」

 

「多分そのあたりに……ああ、ちょうど来たみたいだ」

 

「屋台ですか?」

 

「その通り。ほら、耳を澄ますと聞こえるよ」

 

 人間の俺には聞き取れなかったのでドアを開け、闇のほうへじっと聞き耳を立てる。

 

 すると、聞き覚えのある美声が遠くのほうから聞こえてきた。

 

「うなぎー、うなぎー、ミスティアの八目鰻~。食べると目がよくなるよ~」

 

 なるほど、八目鰻か。目にいいという話だが、鰻は現代でも精のつく食べ物とされている。身体の疲労を取ってくれるだろう。

 

 食べている姿を想像すると、思わず顔がほころびた。思考することを忘れるほど、心が食欲に支配されていく。

 

「いいですね、さっそく行ってみます。今日はありがとうございました」

 

 外に出てみると、八目鰻と書かれた提灯が数十メートル先で光っていた。

 

 遠くに行かれては困るので、提灯が見える方向へ小走りで向かう。

 

「ああ、ちょっ! ――寝るのが一番効果的だからね……聞こえてないか」

 




第五十一話でした。家に帰ったら大妖精の手料理だと……爆ぜろ。

投稿遅くなってすみません! 風邪ひいてました!(一日で直ったので言い訳に使えないのは周知の事実)

では!



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第五十二話 執念の一日

「う……クシュン! あー……」

 

「あれ、風邪?」

 

「まあちょっとな」

 

 結論、さらに風邪がひどくなった。

 

 確かに八目鰻は絶品だった。おかげで目がすごく冴えている。

 

 ただ日本酒をのどに突っ込みながら、ミスティアにテストの採点について愚痴ってたらいつのまにか凍えるような風が吹き荒れる屋台で爆睡していしまった。見るに見かねて起こしてくれたが、家に帰ってきたのが朝の四時半。三時間ほどは寝れたが、もう仕事だ。

 

 食べることより睡眠が必須だと身を持って……

 

「……おっと」

 

 目の前が白くなり一瞬だけ体の自由が利かなくなったが、右足で踏みとどまった。重苦しい頭が地につきそうだった。

 

「じゃ、先に行ってるから」

 

「う、うん……。無理しないでね」

 

「全然平気だって。こんなに目が開いてるだろ?」

 

「じゃあその場でジャンプしてみて」

 

「簡単だ。――ほら、霊夢みたいにこんなに高く飛べる」

 

「どこが!?」

 

 実際は10センチほどしか飛べないほど足がなまっていた。しかも着地すると、頭に石が落ちたような衝撃がかかった。

 

「まあ無理してないって言ったらウソになるけど、休むわけにもいかないからな」

 

「わ、わかったけど……。1つ約束してね」

 

「ああ、きつくなったら休むってことだろ? 今日は授業が終わったらすぐに帰るよ」

 

「そうだよ! 今日は私が全部やるからゆっくりしててね?」

 

「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか。――もう時間だ。じゃあ学校で」

 

 大妖精の優しさをひしひしと感じ、昨日よりさらに冷え込んだ幻想郷に耐えながら学校へ向かう。

 

 

 

 

 

「おはようございますー」

 

「おはよう。ここが今日の範囲だ」

 

 慧音から授業計画表をもらい、軽く目を通す。

 

「っつ……」

 

 少し文字を追っただけで頭がふらつく。

 

「お、おい。風邪か?」

 

「ええ。けどこのくらいなら平気です」

 

 俺のおでこに手を置いた慧音は一瞬でその手を離し、驚いていた。

 

「熱っ! このくらいって、相当高いぞ。帰ったほうがいいんじゃないか?」

 

「いえ、問題ないですよ」

 

「お前がそう言うのならいいが……あんまり無理をするんじゃないぞ」

 

「大妖精にもそう言われました」

 

「へえ……」

 

 級に慧音がジト目になった。そんな不機嫌にさせるようなことは言ってないと思うのだが。

 

「乙女心を全然わかってない……」

 

「はい?」

 

「いや、こっちの話だよ。今日は教室の後ろで休んでおけ」

 

「ご配慮ありがとうございます」

 

 普段は厳しい慧音先生がここまでとは……風邪をひいてもいいことはあるものだ。

 

「今日は早く帰ってゆっくりするんだな」

 

「大妖精にそう言いました」

 

「乙女心をわかってるじゃないか……」

 

「何ですって?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

 こっちってどっちだよ。

 

 

 

 

 

「ぐわー……」

 

 多くの生徒が心配してくれたのが功を奏したか、5時間の授業を終え。だが、満身創痍で身体の節々が重く、痛い。朝より熱が上がってきていることが体の奥から伝わってくる。

 

「お疲れ様。あとは私がやっておくから帰れ」

 

「はい……ありがとうございます……」

 

「ほんとに辛そうだな。あれだぞ、きちんと大妖精に感謝の一つでも言っておくんだぞ」

 

「そうですね」

 

 今日だけは慧音が天使に見える。調子が悪いから幻覚を見てるのかもしれない。

 

「ついでに言うと、頭の一つでもなでてやるともっと効果的だぞ」

 

「いつも妹紅先生が慧音先生にやってるみたいにですか?」

 

「んなっ……! その重い頭に私の石頭をぶつけてやろうか?」

 

 いや、天使は言い過ぎだな。普段とのギャップがありすぎて良く見えるのか?

 

「ほんの冗談ですよ」

 

「ほら、さっさと帰る!」

 

 

 

 

 

 今日の幻想郷は真冬日だった。昨日の夜のように、冷気がコートを突き抜けて全身を駆け巡る。

 

「はあ……はあ……」

 

 雪山で遭難したかのように、足が少ししか前に進まない。気を抜くとすぐに下を向いてしまう。それでもなんとか前へ前へと向かおうとする。メロスはこんなにつらかったのだろうか。

 

 ビュウウウ

 

「ぐあっ……」

 

 一段と強い風が吹き荒れ、また進めなくなる。少しおさまってから進むを繰り返してなんとか家に着こうとする。

 

 大妖精たちは弾幕ごっこ大会の話し合いがあるようで、放課後も残っている。頼れるのは自分だけだ。そんなことを心の支えにしていた。

 

 一歩、また一歩と進み、30分後。

 

「着いた……」

 

 やっと霧の湖の近く、つまりは大妖精の家に到着した。 ほっ、と息が漏れる。ここまでくればもう大丈夫だ。

 

 ドアにもたれかかり、左手でドアノブをしっかりと握る。

 

 回すと、体重でドアが開き、見慣れた光景が飛び込んでくる。

 

「ああ……」

 

 ふわっとした暖気が体を包み込む。なんて気持ちいいんだろうか。

 

「…………」

 

 だが、その暖気は俺の脳に強く作用した。頭にかかっている白いもやが、暖かさでさらに濃くなっていく。

 

「…………」

 

 それに対応するかのように、視界が真っ白になっていく。何も考えられなくなっていくことがわかるのに、どうすることもできない。

 

「…………」

 

 力が抜ける。ひざが地面に着く。目が強制的に閉じる。

 

「…………」

 

 うつぶせの状態になって倒れこむ。起き上がろうとしても、金縛りのように指一本動かせない。

 

 そのまま、意識が遠のいていく。

 




第五十二話でした。これを書いてる時に、僕も風邪で三日寝込んだのはなにかの呪い?

慧音先生は普段が厳しいから、優斗には優しく感じてしまうのかな? 普段はどんな感じなのでしょうか……

では!


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第五十三話 謎のふくらみ

 目の前が暗い。完全な闇が包み込んでいる。そもそもここが夢の中なのか、現実なのかさえ分からない。

 

 玄関でぶっ倒れたところで完全に記憶の糸が切れている。どうやら意識は戻ったらしいが、まだ金縛り状態は解除されていないようだ。指一本動かせず、頭も悪い魔法にかけられたように重い。

 

 それに、自分の体が横たわっている状態だってことも感触を通して感じている。息苦しくないので、おそらく仰向けだろう。

 

 寝ているということはやはり夢の世界なのだろうか。それとも、あのまま成仏してしまったのだろうか。

 

「まさかな……」

 

 ――そうだったら、後悔してもしきれない。

 

 自分でツッコミをつぶやいてしまうぐらいには思考が戻ってきたのだろうか。

 

「…………」

 

 まずは、状況把握からしなければならないだろう。

 

 視界は全くあてにならないが、触覚は機能している。自分の腕に力を込めると痛みが起こったものの、少し持ち上がった。そのままゆっくりと、左右に動かす。大事なものを探すように、文字通り手さぐりで。

 

「あれ?」

 

 自分のか細い声が出たのがわかった。腕を右に伸ばすと、なにかやわらかいものに五本の指が当たった。

 

 ソファーやベッドとは違う柔らかさで、少し膨らんでいる。

 

 これがなんなのか皆目見当もつかない。ただ、以前この感触を感じたことがあるような気がする。

 

 軽く真上から手で押してみると、それも沈んだ。離すと、元の形に戻る。

 

 さらに手を伸ばすと、同じようなふくらみがもう一個あるのを感じた。どうも、左右対称にあるものらしい。

 

 なんどか触れたのち手を戻して、気を付けの姿勢に戻って考える。

 

「……だめだ」

 

 視界が開けないのがもどかしい。

 

 明かりがあればわかるのだろうか。いや、俺がもうこの世にいなければ、電気は意味をなさないか。

 

「ともかく明かりを……」

 

 パチッ

 

「あれっ?」

 

 俺が声に出した瞬間、白い光が煌々と照らされた。

 

 なぜ俺がしゃべったとたんに? そもそもここは? この感触の正体は?

 

 疑問はいろいろあるが、ともかく好都合だ。片づけられる疑問から手を付ける。

 

 先ほどまで全くいうことを聞かなかった頭だったが、今は少し制御を戻せている。先ほどより大きな力を籠め、横を確認すると、

 

「はえ?」

 

 またすっとんきょうな声を上げてしまった。

 

 そこにあったのは、幼いながらに、端正な顔立ち。透き通るような緑の髪を横で束ねる黄色のリボン。閉じた瞳のうえで、長いまつげがはねている、俺の良く知っている人物。

 

「大妖精……」

 

 意識していないのに言葉が漏れ出る。それほど、隣の正体に驚きを感じているのだろう。

 

 こちらを向いて寝ている。その上には厚い毛布が掛けられている。なるほど、ここはベッドということか。

 

 あれ、ちょっと待てよ? 隣にいたのが大妖精ということは、さっき俺がふれたのは大妖精というわけだ。ということは、あの感触は大妖精の体の一部で、大妖精の柔らかい部分といえば、それは大妖精の……

 

 いったん落ち着け。心の中で大妖精を連呼しすぎだ。

 

 冷静な自分がそう告げる。一回深呼吸すると、冷たい空気が頭を冷やした。

 

 一回整理して考えよう。俺がさっき触ったのは間違いなく大妖精の体だ。

 

 あのやわらかい部分は俺の手の位置にあった。つまり、それは上半身にあったということだ。

 

 大妖精の上半身にある、左右対称で、柔らかいものといえば?

 

「……………………」

 

 頭では正解がはじき出されたが、なぜだろう。「それは大妖精のほっぺだ!」と、声を大にしている自分がいる。

 

 もともと火照っている身体が、さらに熱くなるのを感じる。今まで気にしてなかった心臓の鼓動が急に胸中で主張してきた。

 

 以前一度だけ感じたことがあるこの感触。あれも弾幕ごっこ大会の時だっただろうか。

 

 羞恥心のようなもの、といえばいいだろうか。にしても、なぜ大妖精の時だけこんなに強く……

 

「お目覚めかしら?」

 

 感じてしまうのだろうか。――あれ? 今声がした?

 

「ちょっと、聞こえてる? もしかしてまだ聴覚が戻ってないのかしら」

 

「全然平気ですよ」

 

「『全然』の後には否定形で文を作らないといけないのよ~」

 

「日本語は日々変化していくもの……って、当然のごとく会話してますけど俺、まだあなたが誰か見えていないんですよ」

 

「じゃ、病人にこんなこと言うこの口を確かめたら?」

 

 急に声がして驚いた。だがさっき明かりがついたということは、ここに誰かがいても何らおかしくはない。

 

 実は声色でもう確信を得ていたのだが、顔を逆側に傾けると、

 

「何事も変わらないのが幻想郷の良さなのよ?」

 

 赤と青のツートンカラーの服。大人びた体形。

 

 月の頭脳こと、八意永琳が座っていた。

 

「あの……一応こんな話したくないほどボロボロなんですが。それにいろいろ聞きたいです」

 

「どこから話しましょうか。自分が玄関で気絶したのは覚えてる?」

 

「ええ、しっかりと」

 

「その後帰ってきた大妖精が見つけたらしくね……。私を頼ってきたよ」

 

「そうなんですか」

 

 もし大妖精が永琳に知らせなければ、そのまま死んでいた可能性もあったのか。

 

「けれどあの子すごいわね……。パニックになってたのもあるかもしれないけれど、私のところまで1人で行こうとしたのよ?」

 

 思わず息をのむ。永琳の居住場所といえば、

 

「迷いの竹林……」

 

「そうよ。躊躇なく突っ込んでいったわ。迷うかもしれないとか、いったんほかの人に知らせようとか考えてなかったみたい。とにかくあなたが心配だったのよ」

 

「それで!? 大丈夫だったんですか!?」

 

「落ち着いて。そんなに声を張るなんてレアな光景ね」

 

「俺が質問してるんです」

 

「今ここにいるってことは、平気だってことよ。特にケガもしてないわ」

 

「そうですか」

 

 思わず声を荒げてしまったが、永琳の言葉を聞いて、力が抜ける。

 

「大妖精もラッキーだったわね。()()()()私がてゐにお使いに行かせ、()()()()てゐが大妖精を見つけて、()()()()てゐが話しかけたから今私がここにいれるのよ」

 

「え……」

 

 つまり永琳はこんな事態になることを……

 

「えっと……ありがとうございます」

 

「お礼なら慧音先生とか霖之助先生に行ったら~? 案外みんな、あなたのことを気にかけてるのよ」

 

「そうですね」

 

 そうか、隠してたつもりだっだけれど、全部見透かされていたわけだ。

 

「まあ、そんな感じで時系列が進んだのよ。――ああそう、話は変わるけど……」

 

 今まで微笑んでいた永琳の口角が上がり、小悪魔な笑みを浮かべている。これはもしかすると……

 




第五十三話でした。弾幕ごっこ大会といえば優斗を追い込む時期ですね~。

永琳先生初登場です! 「幻想高校の日々」では何回か出てきていて、保健室の先生をやっています。これから優斗と絡ませるのが楽しみですね。

では!



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第五十四話 見透かされる演技

「そうそう、話は変わるけど、人間が一番欲望を表に出しやすい状態って知ってる?」

 

「なんですか唐突に」

 

「まあ暇つぶしだと思って」

 

 絶対嘘だ。

 

 ただ、無視してると怪しまれるので答えておかなければならない。

 

「そうですね……飲酒してるときとか? よくサラリーマンが愚痴を吐いてますよね」

 

「ミスティアの屋台で飲んでた昨日のあなたみたいにね」

 

「どうしてそれを……」

 

「わたしさとり先生と仲いいのよ」

 

「人のプライバシーをなんだと思ってんですか」

 

「まあまあ。それも正解ね。けど、もう1つあるのよ」

 

「なんですか?」

 

「寝てるときよ」

 

 そういうことか……。さっきの行為をダシにして、俺のとことんイジリ倒す魂胆なのだろう。

 

 永琳は俺が今さっき意識を戻したと思っているはずだ。なら、このままシラを切っておいたほうがいいだろう。無意識で胸をまさぐるのも相当な罪だが、寝ぼけてやるよりまだマシだな。

 

「へー、勉強になりました」

 

「さっき寝ている姿を観察してたら、珍しく欲求丸出しなあなたが見えたのよ」

 

「そうなんですか? 俺に限ってそんなはことないかと……」

 

 先ほどから笑いが途切れない永琳だが、俺の演技はバレてないようだ。

 

「けれどあれ、本当に寝ていたのかしらね? あの時明かりもついてたし、あなた何かつぶやいていたわよ。もしかしたらあれは確信犯……」

 

「何のことを言ってるんですか? そもそも話の中身が見えてこないんですが」

 

 俺の顔は崩れてない。大丈夫だ、何の問題もない。

 

「まあ、結構すごいことをしてたのよ」

 

「はあ……あんまりよく覚えてないですね」

 

「そうなの? ならちょうどよかった。――大妖精起こしてくれる?」

 

 大妖精を起こす? 何をするつもりだ?

 

「まだ真夜中ですよ。こんな時間に起こすのはちょっと」

 

「どうしても大妖精に見てもらいたいのよ」

 

「何をです?」

 

 俺が尋ねると、永琳はおもむろに胸ポケットから何かを取り出した。両手で持てるサイズで、銀色で包まれていた。先端にはカメラのレンズらしきもの。

 

 それを見た瞬間、嫌な汗が背中から噴き出る。忘れもしない。あれは小悪魔が持ち歩いている恐怖の……

 

「月の最新式ビデオカメラで録画しておいたさっきのあなたの行為よ」

 

「すみません、すべて俺が悪かったです」

 

 それをやられたら俺の人生が確実に終わります。

 

「あっれ? けどさっきは何も覚えていないって」

 

「寝ぼけてましたけど記憶はあります……」

 

「すると……あなたは意識的に大妖精の胸を触ったあげく、それを隠そうとしたの?」

 

「はい……」

 

「やっぱり大妖精起こして報告させてもらっていいかしら?」

 

「反省してるので勘弁してください……」

 

 俺の残機をゼロにする気なのだろうかこのドSな医者は。

 

 本当に告げ口されたら冗談抜きで首がもげる事態に発展するので、上半身を精一杯下げて懇願する。

 

「だったら2つだけ約束を守ってもらえるかしら?」

 

「なんでもやります」

 

 永琳の瞳が一気に真剣になる。

 

「まず大妖精を心配させないこと。あと、完治するまで外に出ないこと」

 

「わかりました」

 

 外出禁止とはまたずいぶんと厳しい処置だ。それだけ重病なのだろうか。

 

「あの、俺の病気ってなんだったんですか?」

 

「よく考えてごらんなさい。高熱に猛烈な頭痛と頭のふらつき、節々の痛み。これだけ明確な症状がでていればわかるでしょう?」

 

「ああ……」

 

 インフルエンザか……。

 

「じゃあもう寝なさい。また朝になったら来るから」

 

「はい。――その前に大妖精を移動させてもらえますか?」

 

「なんで? 隣で寝ればいいじゃない?」

 

「インフルが移ったら大変じゃないですか。明後日には弾幕ごっこ大会がありますし」

 

「大丈夫大丈夫。大妖精には即効性のワクチン打っておいたから」

 

「しかし、」

 

「ほら、目をそらさない!」

 

 永琳は俺の肩に手をかけ、妖艶な微笑みで、

 

「少しは隣にいてあげなさい。それが大妖精にとって一番うれしいことだから」

 

「はい……」

 

 俺の言葉をさえぎった。

 

 今のはなかなかに卑怯だ。そんなこと言われたら、隣で寝るしか無くなってしまう。

 

「じゃあまたね~。キスの一つくらいやっておけば~」

 

「全力でお断りします」

 

 永琳がドアを開けるところまでは確認できたが、まぶたがだんだん閉じていく。

 

 あおむけの姿勢に戻ると即、深い眠りの世界へ戻っていった。

 




第五十四話でした。永琳&さとりのコンビは無敵ですね

小悪魔は月世界でビデオカメラを買ってましたよね。あれは伏線(仮)だ!

では!



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第五十五話 ちっぽけだけど大きくて

「う……痛……」

 

 ガンガンと重い響きが脳内で鳴る。失われていた意識がほんの少し、戻ってくる。

 

 本日2回目の起床は頭痛が目覚ましとなった。

 

 右手で頭を抑えながらゆっくりと目を開けると、ほこりが光で反射しているのが見えた。どうやら朝を迎えたようだ。それを見てもう少し正気になる。

 

 えっと、寝る前は何をしていたんだっけ? 玄関でぶっ倒れて、それから……永琳と話をしたような気がする。

 

 あれが夢でないのなら、もう体は動くはずだ。

 

「ん……!」

 

 腹筋に力を込めると、それに呼応するかのように上半身が動く。

 

 ベッドの上で上半身だけ起こした、まさしく病人の姿勢になった。太陽の暖かな光が目に入りこみ、思わず目を細める。

 

 あと永琳と何を話したか……確か俺が寝ぼけて大妖精の胸を、

 

「ああ……」

 

 意識が一瞬で覚醒する。

 

 そうだ……さんざんイジリ倒されたんだったな。

 

 もとはといえば、永琳が俺の隣に大妖精を寝かしたのが悪いのだ。それなのにあの女医は俺を悪人に仕立て上げたのだ。

 

 あれ? とすると大妖精はもしかして。

 

 ある可能性に行きわたり、ゆっくりと首を曲げて横を確認してみる。すると、

 

「……やっぱり」

 

 思った通り、大妖精が静かに寝息を立てていた。

 

 時計のほうを見ると、もう7時30分。普段ならとっくに起きているのにまだぐっすりだった。

 

 それも当然であろう。なにせ昨日の真夜中、たった一人で不気味極まる真夜中の幻想郷へ飛び出していったのだ。しかも一歩足を踏み入れれば、右も左もわからなくなる迷いの竹林へ躊躇なく。

 

 その時に使われたエネルギーは察するに余りある。

 

 そんな俺の命を救った顔を見ると、いろいろな想いがあふれてくる。

 

 どれだけ不安だったのだろうか。どれだけ寂しかったのだろうか。どれだけ怖かったのだろうか。俺などでは到底想像できない。もし自分がこの立場だったら……逃げ出していたかもしれない。

 

 そして、その原因を作ったのは何か何まで俺である。先ほどからあふれ出るような後悔と自責の念が襲ってきている。

 

 けれどそれ以上に感謝の気持ちがある。あのまま誰にも見つけられなかったら、最悪の想定をしなければならなかっただろう。

 

 こんなしがない居候のために命を張ってくれた……どれだけ優しくて慈悲深いのだろうか、この小さいけれど大きい妖精は。

 

 こんなことを大妖精の顔を見続けながら考えて続けていた。

 

 

 

 

 

 数秒だったか、数分だったか、数時間だったか。しばらくして心がとても落ち着いた頃、

 

「う……」

 

 大妖精が小さなうめき声を漏らした、お目覚めの合図だ。

 

 無意識に目をこすりながら、俺と同じように上半身だけ起こした。

 

 パジャマ姿の大妖精はまだこちらに気づいていない。

 

「おはよう大妖精」

 

「ん……おはよ……」

 

 とりあえず朝の挨拶をしてみると、きちんと返してくれた。あんなことがあったが、もう平常に戻っているようだ。

 

「もう学校へ行く時間だぞ」

 

「まだ眠いよ……優――」

 

 突然大妖精の動きが固まり、動きが固まる。すばやくこちらに回したその表情は、驚愕に安堵が入り混じっていた。

 

 こちらをじっと見つめてくる。その顔がほころびてくる。今度は不安そうな顔に変わってくる。

 

「心配をかけて悪かったな。おかげで一命を取り留めたよ」

 

「…………」

 

「まあこれからはもう少し休息もとっていく。今までちょっと無理しすぎた」

 

「…………」

 

「そうそう、明後日には弾幕ごっこ大会だろ? もう準備したほうが……」

 

「優斗!」

 

 間をなくすために続いていた俺の言葉が遮られた。なぜなら、

 

「よかった……私、倒れてたの見てびっくりして、何をすればいいのかわからなくなって……」

 

 大妖精が手を俺の肩から後ろに回したからだ。顔を俺の肩にうずめて、声を漏らした。

 

 柔らかい感触が体全身に伝わってくる。もちろん胸の話ではない。

 

「いや、その判断は正しかったと思うぞ。こうして無事に生きられてるわけだし」

 

 俺も何も考えずに大妖精の腰に手を置く。こんなに本能的になったのはどのくらい前だっただろうか。

 

 なにか気のきいた言葉の一つでも掛けられればいいのだろうが、そこまで器用ではない。ただ大妖精の反応を待つしかない自分がもどかしい。

 

「頭の中で、死んじゃう優斗が何回も映ってきて……永琳先生を呼ぼうとしたんだけど、道に迷って……」

 

「そこでてゐに出会ったんだっけな」

 

「うん……ほんとについてた……」

 

 震える声を聞いて、事の重大さを再認識して、申し訳なくなる。けれど、そのことは顔に出さないようにしている。

 

『少しは隣にいてあげなさい』

 

 永琳の言葉が頭の片隅に残っている。俺まで怖い顔をしたら、ますます大妖精を不安にさせてしまうだろう。

 

「……よかった。本当によかった……」

 

 こちらを上目づかいで見るその目は、涙がこぼれていた。

 

「ああ。ありがとう」

 

「こちらこそ。無事でいてくれてありがとう」

 

 ただし、満面の笑みで。

 

 これで大妖精の不安はぬぐい切れただろう。

 

「ねえ、もう少しこのままでいいかな?」

 

「大妖精が迷惑でなければ」

 

「そんなわけないよ……」

 

 そしてこれが大妖精のそばにいるということなのだろうか。

 

 傍から見れば抱き合ってる恰好のまま、しばらくベッドで座っていた。

 

 

 

 

 

「なあ、もうそろそろ時間……」

 

 ちらりと時計を見ると、登校時間まで20分を切っていた。

 

 いくら俺がインフルエンザでも、遅刻させるわけにはいかない。

 

「ほんとだ。けど、今日は休むよ。優斗を一人にさせるわけにはいかないよ」

 

「いやいや、弾幕ごっこ大会も近いだろ。俺のことは構わずに行ったほうがいい」

 

「けど……」

 

「大丈夫さ。昼食くらい自分で用意するから」 

 

「そんなに言うならそうするけど……絶対無理しないでね」

 

 大妖精が教科書類をバッグに詰めたその時、

 

「その必要はないわよ~」

 

 不意に天井から声がした。

 

 驚いた俺たちがとっさに顔を上げると、

 

「あの妖怪のスキマって便利ね~。こんど開発してみようかしら……」

 

「これ以上厄介ごとを増やさないでください」

 

 スキマがパックリ開いており、永琳が顔を出していた。

 

「あんまり遅かったから迎えに来たのよ~」

 

「わざわざすみません」

 

「だからお礼なら紫先生とかに行ったら? 無償でスキマを提供なんて、たまには優しいこともするみたいね」

 

 確かにいつものトラブルメイカーな一面からは考えられない。

 

「お昼時にはもう一回つないであげるわよ。――ほら、来なさい大妖精」

 

「は、は~い!」

 

 ちょうど歴史の教科書を詰め込んだ大妖精がスキマに上がる。

 

「ではよろしくお願いします」

 

「あら、そんなご丁寧に。お代はもうもらってるから」

 

「紫先生からですか?」

 

「いいえ、あなたたちからよ」

 

「俺(私)たち?」

 

 お代とはいったい何のことだろうか。夜中のイジリ代だったら、俺が払ったものだろうし……

 

「これよこれ」

 

 ポケットから取り出したのは……夜中のビデオカメラ!? まさか――、

 

「さっきの一幕、撮らせてもらったわよ」

 

「ええええっ!」

 

「マジか……」

 

 二人同時に頭を抱える。どうも俺たちにプライバシーはないらしい。

 

「もちろん小悪魔の持ってるのとは比べ物にならない、月の最新技術で作られたカメラよ。――さっ、行きましょ大妖精」

 

「えっ!? ちょ、ちょっとまって、今の話本当だったら……その……ひゃあ!」

 

 顔を真っ赤にした大妖精が無慈悲にも連れて行かれ、スキマは閉じた。

 




第五十五話でした。自分で言うものなんですが、DMT(大ちゃんマジ天使)ですね。

大妖精は初期からびっくりするほどキャラがぶれませんね。行動性が一貫してるからでしょうか?

では!


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第五十六話 さとりの口撃

 大妖精は昼時に帰ってくるらしい。それまでの3時間半、1人で過ごさなければならない。

 

 外に出たくても教師として教壇に立ちたくても、身体がそれを許さない。インフルエンザに罹ったのは久しぶりだが、この体を押し付けられるような感覚は鮮明に覚えていた。

 

 何をすることもなく、ただ耐える時間が続く。苦しい時間が長く感じるのは科学的根拠があるらしい。相対性理論に書かれているとかなんとか。

 

 そんなどうでもいいことを考えていても、やっぱり時計の針は進まない。退屈過ぎて死にそうだ。

 

 なにか暇つぶしはないものかと、上半身を起こして首を回しあたりを確認してみる。すると、

 

「むむ……」

 

 数メートル先のテーブルにタブレッドが置いてあった。俺がぶっ倒れた後、永琳が回収して置いてくれたのだろう。

 

 思わず手が出そうになる。イケナイことだとは理解していても、身体が制御できない。熱のせいであろうか。

 

「……ハッ!」

 

 それでも思いっきり息を吐き、身体がベッドから出るのを留まらせる。

 

 必死に理性を働かせて、もう1度横たわる。画面を見たらさらに体調がひどくなることはわかりきっている。普通に考えれば寝ているのが最善の策だが……それでも……。

 

 欲望と理性の狭間でやきもきしていると、唐突に2人の人物が脳内に浮かんできた。その2人はそれぞれ、天使と悪魔を模していた。

 

 この天使と悪魔は確か……バレンタインの時と同じだ。天使が大妖精で悪魔がさとり。

 

 大妖精の羽が天使の羽毛のような羽に変わっていた。パタパタとわずかに揺れているのがかわいらしい。一方さとりはまさしく悪魔といえる角や尻尾があり、第3の目をさすりながら薄ら笑いを浮かべていた。

 

 こんなおかしい妄想をしてしまうなんて、どうやら俺の脳内はウイルスにむしばまれているようだ。だが、暇つぶしにもなるのは確かだし、面白そうだ。

 

 先に前に出てきたのはさとりのほうだった。

 

「やっちゃいましょうよ優斗さん。10分や20分パソコンいじったって、身体は悪くなりません。むしろ精神安定になるんですよ。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いはありません」

 

「絶対だめだよ! 風邪の時は寝てるのが一番だよ。それに明日には弾幕ごっこ大会もあるんだよ!」

 

「だからこそですよ。インフルエンザを1日で直すのは至難の業です。それを達成するには、精神面でのケアが重要なのです。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いはありません」

 

「だけど……それでもし体に何かあったら……」

 

「心配ありませんよ。もし電子機器をいじっただけで死ぬのなら、外の世界の方々はほとんど亡くなっています。なので心配する必要はないですよ。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いありません」

 

「うう……」

 

「お分かりいただけましたか? これが心理カウンセラーです」

 

 さすがさとり。理路整然としていながらも押しが強い。ディベートをやったら最強なのではないだろうか。ただし、心理カウンセラーは全く関係ないが。

 

 ただ大妖精の言うことも一理ある。パソコンをいじった結果、体調が悪くなっては本末転倒だ。

 

 ここはひとつ誰かに意見を聞きたいのだが……あいにく今は無理だ。

 

 はあ、とため息交じりの空気を漏らしたその時、

 

「――え?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なにかの表現技法ではない。突然見上げていた天井から真っ黒な穴が開き、そこから誰かがベッドの横に落ちてきたのだ。

 

 まさか、と数秒間固まっていた。俺が思ったことがまるまる見透かされ、家に誰かが侵入してくる。そんなことあっていいはずがない。

 

 だが俺は知ってしまっている。それができる人物が1人いることを。

 

 なんだか頭痛がひどくなってきた。今度はどんなことをされるのやら……。

 

 その地霊殿の主は、気を付けの姿勢でこちらに視線を送った。そして一言、

 

「呼びましたか優斗さん」

 

「帰れ」

 

 先ほど脳内で登場した古明地さとり、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「優斗さんが暇そうにしてるのが見えたので来ちゃいました。どうですか調子は?」

 

「さっきよりひどくなった気がするな」

 

「それは大変ですね、永琳先生に来てもらって、大妖精さんの胸の話をしてもらいますか?」

 

「いや……それは……」

 

「では改めて、調子はどうですか?」

 

「さとりが来たから少し良くなった。さすが地霊殿の主だな」

 

「お褒めいただき光栄です」

 

 だめだ、舌戦で勝てる気がしない。

 

 さっそく強烈なジャブを食らわせたさとりは、近くにあった丸椅子に座った。

 

「ところでさとり、2つほど質問があるんだが、」

 

「なんでしょ?」

 

 これ以上話を続けられるわけにはいかないので、強引に話をそらす。

 

「さっきの穴、どうしたんだ?」

 

 あんな時空をゆがめるような穴、紫でもない限り作れないだろう。

 

「ええ、優斗さんの思ってるとおりですよ。あの穴は紫先生が作って、ここと学校を繋げたものです。いつでもお見舞いに行けるようにとのご好意らしいです」

 

「プライバシーはどうなってるんだ」

 

「そんなのここでは、あってないようなものです」

 

 つまり、俺の行動がすべて監視されてるわけだ。気を付けないと。

 

「もう一つ、こっちのほうが大事なんだが、」

 

「私が優斗さんの秘密をばらさないか、ってことですか? ご心配なく、こいしにしか話しませんよ」

 

「そうじゃねえよ。俺の脳内に映った天使と悪魔。あれは誰がやったんだ?」

 

「やだな~、私に決まってるじゃないですか」

 

「…………」

 

 殺意がわいたのは言うまでもない。

 

 それにしても、このジト目で見られると、すべてを見透かされてるように感じる。

 

 例えばこのように、

 

「あ、そうそう。結局ネット見るんですよね。持ってきましたよ」

 

 一瞬で俺のパソコンを手元に持ってくるところとか。

 

 画面を開き、実に器用にマウスを使って操作するさとり。外の高校生のようだ。

 

「へえ……外の世界で私たちの人気投票やってるみたいですよ」

 

「東方キャラのか?」

 

「そうですね。残念ながら、優斗さんは入ってないみたいですね」

 

「あたりまえだ」

 

 1年に1度、非公式で人気投票をやってるという話を聞いたことがある。

 

 当然トップは霊夢……と思っていたのだが、こいしがとったこともあるらしい。

 

「優斗さんならだれに投票しますか? やっぱ大妖精さんですよね、そうですよね、決まってますよね。絶対入れますよね」

 

「畳み掛けるな。――けどまあ……そうなるな……」

 

「……さらっと惚気やがりましたね。さすがです」

 

「えっ?」

 

 さとりがあまりにぼそっと言うものなので、聞き取れなかった。

 

 あと投票するなら霖之助とかだな。

 

「ちなみに前回は……やっぱり霊夢さんでしたか」

 

「えっ?」

 

 今のさとりの言葉に違和感を覚えた。

 

 やっぱり霊夢? なんでこいつは外の世界で霊夢が人気なことを知ってるんだ?

 

「ちょっと待て。なぜ……」

 

「ああ、私外の世界の女子高生と交流があるんですよ。バレンタインのとき言いませんでしたっけ? この流れるようなパソコン技術も、彼女から教わったんです」

 

 そういえば前、さとりから外の板チョコをもらったな。けどあれの出所は教えてもらわなかったような……。

 

「話戻しますけど、私は今回こそこいしが1位になると思いますよ」

 

「いや、なんだかんだいって霊夢だろ」

 

「あれ? 大妖精さんを推さないんですか?」

 

「前回50番台だったし……きついだろ」

 

「やはり古明地姉妹は最強なのですね」

 

「今回こそはお前を抜いてやるからな」

 

 などと、人気ランキングの話を数十分続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「では優斗さん、もう帰りますね。あとはゆっくり休むよう」

 

「ああ、もう話疲れた」

 

 最初さとりが来たときは戦々恐々としていたが、なんだかんだ俺に気を使ってくれたようだ。おかげで暇が潰せた。

 

「じゃあ最後に催眠術をかけてあげましょう。――だんだんあなたは眠くな~る。目がとじ~る……」

 

「おいおい、そんなの効くわけ……」

 

 さとりの上ずった声に、思わず笑みがこぼれる。だが、その笑みはなぜが眠気を誘発させた。

 

 まぶたが自然と閉じて、意識が遠のいていく。

 




第五十五話でした。さっとりん!さっとりん!

優斗たちが話していた東方人気投票が始まってますね!(一月十五日現在)

みなさんはだれに投票しますか?

もし投票するキャラが決まってなかったら……ぜひ優斗と同じ投票先で!

では!






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第五十七話 古明地姉妹の口撃

「皆さんお待ちかね、古明地姉妹の心さとりんタイムが始まりました~」

 

「誰に話してるのお姉ちゃん?」

 

 優斗が寝静まってから数時間後。さとりは再び大妖精の家に訪れていた。

 

 今度はこいしも連れ、優斗の寝顔をのぞきこむ。何も知らずにスヤスヤと、ひと時の安らぎを謳歌していた。

 

 そんな幸せそうな顔を見て、さとりは納得した。

 

 ――なるほど、これは惚れる。

 

 こんな整った顔立ちに、あの性格だ。大妖精が夢中になるのも無理はないだろう。事実さとり自身も、優斗を魅力的に思っていた。もちろんラブでなく、ライクのほうだが。

 

(優斗さんも甘いですねぇ。ちょっと優しい言葉をかけただけで、すぐに堕ちるんですから)

 

 表現は大変卑猥だが、言っていることは間違っていない。興味を持った相手をとことん掘り下げる。そんな意地の悪い面をさとりは持っている。

 

 それをすっかり忘れ無警戒で寝てしまった優斗は、彼にしては思慮が足りなかったと言わざるを得ない。

 

(まあそこが優斗さんの可愛いところなんですが)

 

 クスリと笑いを漏らしたさとりは、こいしに視線を送る。それだけで優斗をじっと睦めていたこいしは気づき、さとりに満面の笑みを向けた。

 

「楽しみだねお姉ちゃん!」

 

「ええ、ドキがムネムネしてます。興奮ですね」

 

「もう始めちゃっていいんでしょ?」

 

「さっさとやってしまいなさい。早くしないと帰ってきてしまいますからね」

 

 さとりの注意を聞き、すばやく優斗のもとに駆け寄る。

 

 こいしは片膝を床につけ、優斗にかかっている毛布をそっととった。

 

 今度は、優斗の頭を抱えるようにして持ち上げた。小さいうめき声が漏れだしたが、起きることは無かった。

 

 その顔が、こいしの顔に少しずつ近づく。こいしが優斗の顔を持ち上げ、自身の顔も

 接近させているためだ。

 

 10センチ、5センチと、彼我の距離が縮まる。

 

 傍から見ればそれはまるで、キスで姫を目覚めさせる王子のようだった。

 

 こいしの視界が優斗で遮られるくらい、顔を近づけたその時、

 

「な、何やってるの!?」

 

 古明地たちの後ろから声がした。具体的には、さとりの真後ろに。

 

 予想通り、とこいしが振り返るとこの家の主が立っていた。そう、大妖精である。

 

 時間はもう正午。彼女は昼食を優斗に渡すため、戻ってきたのだ。その手には、皿に盛られたおかゆがある。

 

 大妖精が衝撃を受けたのも無理はないだろう。こいしの行っている行為は、大妖精にライバルができたことを意味しているように見えるのだから。

 

「さとり先生なんでここに? いやそれより……こいしちゃん……? いったい優斗に何を……」

 

 事態をわかっていない、いや、わかりたくない大妖精は口をパクパクとするばかり。

 

 そんな無防備でか弱い妖精は、性根が悪いさとり妖怪の格好の的となる。

 

 さとりは固まっている大妖精の背後に回り込むと、両手を大妖精の脇に回した。腕に力を込めて、羽交い絞めの完成である。

 

「ちょっと静かにしてもらいますよ」

 

「えっ? ちょ、離して……――ふえっ!? どこ触ってるの!? あっ、だめっ……」

 

 ついでにちょっとセクハラもして、大妖精の行動を完全に封じる。

 

「こいし、やってしまいなさい!」

 

 こいしの顔が優斗と重なる。

 

「ダメっ、やめてっ!!」

 

 大妖精の叫びが部屋中に響きわたるが、その願いが聞き入れられることは無い。

 

 とうとう、こいしと優斗の顔に距離がなくなり、

 

 

 

 触れた。

 

 

 

「……あれっ?」

 

 間のぬけた声が大妖精から漏れた。

 

 こいしは唇を合わせたわけではない。触れたのは額であった。

 

 こいしは2つの目も閉じて、なにかを感じるように静止している。

 

 しばらく経ったのち、

 

「……にゃるほどにゃるほど」

 

 したり顔を上げた。

 

「安心してください。優斗さんを奪うほど、古明地姉妹の性格は悪くありませんよ。むしろ、あなたに協力したのですが」

 

 ポカーンと口を開けている大妖精に、さとりが説明をし始める。

 

「久しぶりに優斗さんの心の中をのぞきたくて、さっき話していたんです。しかし私の能力では、うわべの心しか読み取れません。そこで、こいしを連れてきたというわけです」

 

「こいしちゃんが優斗のことを……」

 

「ないない! だって二人の意識を感じるほうが楽しいもん!」

 

 震える声で尋ねる大妖精を、こいしは一蹴する。

 

「そんなわけで、どうでしたこいし? 優斗さんの純粋無垢な恋心は?」

 

 こいしは勢いよく親指を突き立てた。

 

「とっても進行中! 本人はまだ自覚してないけどね~。もう1イベント2イベントあれば……」

 

「ほうほう。だそうですよ大妖精さん」

 

「は、はあ……」

 

「なんですか、嬉しくないのですか?」

 

「そ、それはやっぱりうれしいけど……」

 

 畳み掛けて説明を重ねる古明地姉妹に、まだ思考が追い付いてないようだ。

 

 さとりは羽交い絞めを解除して、大妖精を自身の正面に立たせた。

 

「もう一度説明しましょう。今こいしに、優斗さんの深層心理を見てもらいました。その結果、なんだかとってもいい感じだったということです」

 

 さとりも親指を立て、白い歯を見せる。

 

「そう……なの?」

 

 小首をかしげてぼそっとつぶやく大妖精に、さとりは大きなため息を吐いた。

 

「……事の重大さがわかってないようですね。説明し直しますよ」

 

 さとりは珍しく目を見開き、真面目な顔になった。その姿を見て、こいしが驚いていた。

 

 さとりはふだんどれほど、人を小馬鹿なしてる顔をしてるのだろう。

 

「私、初めは優斗さんとあなたがここまでいい関係になるとは思ってませんでした。てか正直、大妖精さんの一方通行で終わると思ってました」

 

「うん……――へえっ!?」

 

 予想外の言葉に、叫び声が上がる。

 

「確かに優斗さんはあなたを好いています。ただそれは……父親が娘に向ける愛情といえばいいでしょうか」

 

「……そのくらいわかってるよ」

 

 嫌なものを見たかように、目を背ける大妖精。

 

 彼女だってとうに理解しているのだ。優斗は自分を女性として見ていないことぐらい。

 

「けれど驚くべきことに、今じゃ風向きが変わってきたんですよ!」

 

「そうだよ! ちょっとずつ、ラブのほうへ向かってきてる! 私が言うんだから間違いない!」

 

「まさか……けど……」

 

 だが、それは過去の出来事。彼は少しずつ、惹かれてきている。大妖精の女の子でなく、女性の部分を。

 

 大妖精の顔が少し赤くなり、目を泳がせる。嬉しさと疑念が入り混じった、複雑な表情が現われる。

 

 古明地たちの言葉を信じたかった。しかし同時に、信じることが怖いのだ。

 

「それになにより、」

 

 さとりの顔が一気にデフォルトに戻っていく。すべてを見透かしたような薄ら笑いが再びみられる。いきなりの出来事で、大妖精は警戒する暇もなかった。

 

「もし優斗さんがあなたに恋愛感情を抱けば、優斗さんはロリコン認定されるんですよ! それでイジリ倒せるなんて……ああっ! 興奮でおかしくなってしまいそうです!」

 

「違うよ!? 優斗がロリコン? そんなことないよ!」

 

 この発言に、さとりは心の中でほくそ笑んだ。

 

『なぜあなたはロリコンという単語をご存じなんですか?』とツッコみ倒して大妖精を泣かせることも考えたが、こいしが『もっといい方法があるよ』なんて面白そうな考えを送ってきたので、それに従う。

 

「優斗さんがロリコンじゃない? おかしいですね。そうなると考えられる可能性は2つ。優斗さんがあなたを好いていないか、あなたが子供ではないかのどちらかですね」

 

「そ、そう! 私は大人! ――少なくともチルノちゃんより……」

 

 さとりの思った通りの発言を大妖精はしてしまった。

 

「なるほど、大人なんですね。……それにしては、身体が成長してないですね。ご存じですか? 胸は揉むと大きくなるらしいですよ」

 

「ふえっ!? 何する気!?」

 

 さとりがいやらしく指を動かすのを見て、思わず両手で胸を抑える。先ほどのセクハラがよっぽどトラウマらしい。

 

「まあ体型はしょうがありませんね。勘弁して差し上げましょう」

 

 大妖精が本当に安心して息を吐いたのもつかの間、

 

「だったら心を伸ばそう。私にいい考えがあるよ!」

 

「ほお、どんなのですかこいし?」

 

「これぞ甘々カップルのすること! って感じのやつだよ!」

 

 こいしが間髪入れずに、提案をする。

 

 すばやく大妖精の横に回り込みそっと耳打ちをして、その内容を告げる。

 

「そんなこと……やらなくちゃいけないの?」

 

「そうすれば、ワンランク上の大人の女になれるよ!」

 

「私もこれはお勧めします。絶対優斗さん喜びますよ」

 

 相変わらず顔が赤い大妖精はしばらく考えていたがやがて、

 

「……わかった」

 

 悪魔二人の罠にかかった。

 




第五十六話でした。東方人気投票がさとりこいしそろってトップテン入りしたので、今回は二人大活躍の回。

三人称視点が久しぶり過ぎて苦労してました。優斗に語らせるのってほんと楽ですね……

ではっ!


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第五十八話 古明地姉妹の快哉

「優斗、優斗!」

 

 遠くのほうから声が聞こえる。実際に遥か彼方にいるのか、はたまた俺の意識が遠いせいで、そう感じるのだろうか。

 

「なんだ……」

 

 上半身を起こし、目をこすりながら声をかける。

 

 睡眠欲に忠実なまぶたに逆らって隣を見ると、見慣れた顔。

 

「起きた? お昼だからごはん持ってきたよ」

 

「あ……もうそんな時間か」

 

 数時間ほど眠っていたらしい。インフルエンザのせいでもあるが、さとりとの会話で、精神力を極度に消耗したことが一番の原因だろう。

 

 大妖精の手元には、おかゆが入ったお椀があった。

 

「ありがとな。とってもおいしそうだ。幽々子が作ったのか?」

 

「うん。珍しく全部食べないで残ってたよ」

 

「作為的なものを感じるな。誰かに残すように言われてたのか……」

 

「そこまで食に貪欲じゃないよ!?」

 

 作為的は言い過ぎだが、確かに珍しいことだ。

 

 ところで大妖精はさとりと出会っているのだろうか。

 

 俺が寝た後、さとりがいつまでも居座っていた可能性も否定できない。あのセクハラ悪魔が、変なことを教えていないか心配だ。

 

「大妖精、家に誰かいなかったか?」

 

「私が帰ったとき?」

 

「そうだ。例えば……さとりとかいなかったよな?」

 

 誰も来ていない、という返答を願って尋ねる。

 

「ああ、それならね……――……」

 

「どうした?」

 

 なぜか大妖精が黙り込む。まるでしゃべりたいことを、誰かから止められているかのように。

 

 しばらくの間があった後、

 

「誰も来てないよ」

 

「そうか。それならいいんだ」

 

 謎の空白があったものの、さとりと出会ってないようで安心した。

 

「じゃ、ごはん食べていいか?」

 

 いくら病気の身といっても、昼には食事が必要。

 

くどいようだが、さとりとのやり取りで大量の体力を持って行かれて、補給が必要なのだ。

 

「うん、ずっと寝てたからお腹すいたでしょ?」

 

「ああ……そうだな……」

 

 さとりと人気投票の話をしていた、とはさすがに言いづらい。罪悪感を覚えながらも、目線をそらす。

 

 ごまかすように、大妖精が持っているおかゆに手を伸ばす。

 

「ちょっと待って」

 

 だが、大妖精からストップがかかった。

 

「大丈夫? 1人で食べられる? なんだかとっても身体がつらそうに見えるな」

 

「そうなのか?」

 

 妖精だけにわかる、なにかがあるのだろうか?

 

「もしかして……身体の波長が見えるのか?」

 

「波長……――そう! 見えるの!」

 

 実際にあるようだ。妖精おそるべし。

 

「えーっとね。――見える、見えるよ」

 

「何がだ?」

 

「優斗が1人でご飯を食べてはいけません、って身体が言ってる!」

 

「本当の本当に?」

 

「ほんとのほんとに!」

 

「そうか。じゃあどうすれば……」

 

「そうだね……」

 

 大妖精は首をひねって考え込んでいたが、やがてぽんと手を打った。

 

「分かった。私が優斗に食べさせればいいんだよ」

 

「まあ、それしかないよな」

 

 自分では食べられず、ここには大妖精しかいない。そうなると、食べさせてもらうしかないわけだ。

 

 なんだか介護のようで大妖精に申し訳ないが、仕方のないことだ。これしか方法がない。

 

「じゃあ、はい、あ~ん」

 

 大妖精がスプーンでおかゆをすくい、俺の口元へ運んでくる。

 

 それを食べるだけの簡単なお仕事だ。絶妙な塩加減が、身体を癒す。

 

「どう? のど通る?」

 

「ああ、とてもいいおかゆだな」

 

「そう、じゃあもう一口。はい」

 

「ん……」

 

「おいしい?」

 

「……ああ」

 

「あれ、どうしたの? なんだか顔が赤いよ。もしかしてまた体調が悪くなったの?」

 

「……いや、別にそういうわけじゃない」

 

「それならいいけど……。はい、もう1回」

 

「……うん」 

 

 その……なんというか……目についてしまったのだ。

 

 大妖精は下からスプーンを差し出してくる。こちらはそれに顔を近づける。

 

 必然的に、大妖精との距離が近くなる。それだけならまだいい。問題は、

 

「どうしたの? 上のほうなんか見て」

 

「……別になんでもない」

 

 身体を前に倒している大妖精のシャツがたるんでいるのだ。そして食べるために顔を下に向けている俺はそれをのぞきこむような格好になる。

 

 大変不純なのは承知しているが、その、見えそうになるのだ。シャツの中が。

 

 下着はつけているので大丈夫だとか、そういう話ではない。

 

 さっきから見えるか見えないかのラインで、とても心臓に悪い。

 

 前までは意識してなかったはずだが……今日の朝のことが焼き付いて離れない。

 

 あと、このシュチュレーションも悪い。傍から見たら、まるで……カップルのようではないか。

 

 心の中で悶々としていても、スプーンは相変わらず運ばれてくる。

 

「もう少し食べる?」

 

「ああ、うん……」

 

 なんとか理性を保ちながら、昼食をとったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すばらしい、素晴らしいですよ! 大妖精さんも優斗さんも!」

 

 その頃、さとりは地霊殿で手をたたいて叫んでいた。

 

「どうだったー?」

 

「こいし、そこにいたんですか。ええ、そりゃあもう大妖精さんがかわいすぎますね!」

 

「大ちゃんと優斗の心に介入したかいがあったね!」

 

 そう、こいしは大妖精に、「自分たちと会ったことは言わないでおくこと」、優斗には、「大妖精の話を信じること」という無意識を送ったのだ。

 

 その結果、優斗たちはこのようなことになったのである。

 

「ええ。彼女、表向きは平静を装っていましたが、内心は心臓バクバクでしたものね。まあ、無事優斗さんに、あ~んができたから及第点ですね」

 

「もう少しすれば……」

 

「ええ……首を長くして待っていましょう」

 

 2人はハイタッチをして、作戦成功を喜んだ。

 




第五十七話でした。うp主の精神力も刈り取られました。

優斗は、以前同じようなことをさとりにやられているのですが……(四十九話あたり)全く気付いてないですね。さすが地霊殿エクストラボスです。

では!



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第五十九話 板挟みな優斗

「よう! 様子を見に来たぜ!!」

 

「私も来たよー! どれどれ……わあ、驚かせられないほどの熱だね!」

 

 午後5時ごろ。あいかわらずベッドで寝ていたが、玄関のほうから騒がしい声が聞こえてきたのでベッドの上で起きていた。

 

 すぐに俺の横にやたらハイテンションな2人がやってきた。ただその後ろに歯止め役がいて少し安心。

 

「魔理沙に小傘、大きな声を出さないでくれ……頭に響く」

 

「ほらほら、優斗もそういってるんだ。一回静かにしないか」

 

「そんなこと言われても霖之助、私達はこれから特訓するんだぜ? 気分あげてかないと途中で飽きるんだぜ」

 

「いつもそんな感じじゃないか」

 

「むー! そんなことないよ!! 私の傘で興奮しちゃえばいいんだ!」

 

「いや、霖之助先生の言ってるとおりだぞ。あとその言い方は誤解を招くぞ小傘」

 

「確かに……小傘ちゃんはいつも驚かせようとして失敗してるからね」

 

「大ちゃんまでそんな殺生な!?」

 

「どこで覚えたんだそんな言葉」

 

 数十分前とは打って変わってとても賑やかになっているが、魔理沙と小傘はすぐに行ってしまうらしい。

 

 というのも、明日はみんな大好き弾幕ごっこ大会なのだ。小傘と魔理沙がタッグを組んで出場するらしいのだが、それが決まったのがなんと今日。

 

 当然連携も何もできているはずもなく……これから霖之助を巻き込んでの特訓らしい。

 

 だがその前に、向こうで小傘が抗議しているみたいだ。

 

「大ちゃんはオトナだから驚かなくてもしょうがないんだ!」

 

「そんな得意げな顔で言われても……」

 

「みんなを驚かせてこその唐傘妖怪だものな」

 

 大妖精と魔理沙の冷静なツッコミに小傘は顔を真っ赤にして反論する。

 

「驚いてくれる人が驚けばいいんだ!」

 

「なんだかすごく卑屈に聞こえるのは私だけ……」

 

「心配するな。私もだぜ」

 

 3人が向こうでいろいろとしゃべっていて、男二人は取り残されている。

 

 だがこの方が好都合。この時間を利用して、ただ今霖之助と会議だ。

 

「頼まれてた例の品、過不足なくそろえておいたよ」

 

「ありがとうございます。では明日、手筈通りに」

 

「わかっているが……大丈夫かい? 明日来れる体調には見えないのだけれど」

 

「ご心配なく。一晩寝れば治りますよ!」

 

「そうなることを願ってるよ」

 

 3人に聞かれないようにこっそりと、すばやく話したので時間が余った。

 

 あちらの会話に耳を傾けると、

 

「じゃあどうすれば驚かせられるの?」

 

「自分が驚くようなことをすればいいんじゃないか?」

 

「私が?」

 

「それもそうだね。自分で体験してみるのが一番いいよ」

 

「ふっふっふっ、それはできない相談ですなおふた方」

 

「なんだその口調」

 

 小傘は腰に手を当て、得意げな表情。大妖精のように表情がころころ変わるな。

 

 突然変なしゃべり方になったものの、まあ小傘の言いたいことはわかる。つまり、

 

「私は驚かす側。つまり! 驚かされる側なんてできるはずがない!! だって何事も怖くないもん!!」

 

 ということだ。こんなに高らかに宣言して平気だろうか。

 

「ほう……」

 

 ああ……魔理沙がものすごくイイ笑顔になっている。首と肩をポキポキ鳴らしていて臨戦態勢が整っているぞ。

 

「おい優斗、聞いたか。どうやらこいつは何しても平気らしいぞ」

 

 こちらに話を振らないでほしい。

 

「まあほら、話の流れってものがあるから」

 

「おや? 小傘をかばうのか。それならお前がこれを食らうことになるぞ」

 

 言うと同時に魔理沙の指が滑らかに動き出す。

 

 一瞬で察してしまう自分が嫌になる。あれは以前の拷問でもやられたことがある強力な技だ。あの指が脇の下や首まわりに入って滑らかにかき乱されたら……想像しただけで笑ってしまいそうだ。

 

 小傘には申し訳ないが、こちらは病気の身。くすぐりの犠牲になってくれ。

 

「魔理沙……俺は何も見てなかったことにしてくれ」

 

「それでいいんだぜ」

 

 満足げな顔で首を縦に振る魔理沙。とりあえず当面の危機は回避……

 

「優斗……小傘ちゃんを売るの?」

 

 ……されなかった。もはやおなじみ、大妖精のデススマイルが全身に刺さる。肩に置かれた大妖精の手から何か冷たいものが流れ込んでくる。

 

 前門の魔理沙、後門の大妖精。絶体絶命どころの話では無くなってきた。確実に……散る。

 

 必死の思いで唯一の仲間に視線を送る。ありがたいことにしっかりと感じ取ってくれたようで、

 

「ほらほら、あんまり優斗を困らせるとまた熱が上がるぞ。もうそろそろ練習に行こう」

 

「霖之助がそう言うなら……命拾いしたな優斗」

 

「なんで俺がメインターゲットみたいな言い方になってるんだ」

 

「ほら、行くぞ小傘。今夜は眠らせないからな」

 

「望むところだい!」

 

 霖之助のつるの一声で3人は特訓へと向かっていった。あとで香霖堂で目いっぱい買い物をしておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 その夜、身体も少し楽になってきた。みんなでワイワイ話すと体内のウイルスが外に出るのだろうか。

 

 夕食は消化によさそうな煮込みうどん。だが胃に優しくても心には逆効果で……

 

「どしたの?」

 

「いや……ほんとに何でもないから……」

 

 なんだろうこの既視感。

 

 本気で申し訳なく思っているのだが、相変わらず食べさせていただいていた。

 

 しかもタイミングの悪いことに大妖精は風呂上がりだった。まだ水滴のついている艶やかな緑髪から、蒸気を感じる。いつもより血色の良いほっぺや、普段まじまじ見ることがなかった髪を下している姿に思わず見入ってしまう。

 

 うっかり下を見たあかつきには、

 

「!? ……あぶな」

 

 禁忌のパジャマの中が見えそうになる。普段の服よりさらに首回りがゆったりしていて危険度が数倍アップしている。

 

 なにか作為的なものがあるのだろうか……考えすぎか。

 

 夕食を食べたらすぐに就寝。明日には治っているといいのだが。

 




第五十九話でした。小傘と大妖精の書き分けって難しそうでわりと簡単ですね。

やっと優斗が倒れてから一日が終わりました。二十四時間をこんなに細かく書いたのは初めてです。疲れた……

では!


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第六十話 強すぎる特効薬

「優斗、優斗ー! 起きてー!」

 

 大妖精の遠くからの声で頭が覚醒した。時計を見るともう8時。眠りつづけた12時間が光のごとく進んでしまった。

 

 今日は待ちに待った弾幕ごっこ大会だ。大妖精の雄姿をぜひこの目に焼き付けたい。問題はインフルエンザが完治しているかどうかだが……なんとなくわかってしまっている。

 

 ほおを触ってみるとまだ熱い。体を動かすと筋肉痛でもないのに痛い。起き上がろうとすると脳が霧に包まれたように動かない。これは完全に、

 

「カゼはどんな感じ……まだみたいだね」

 

「パッと見でわかるくらいまだまだ治ってないな」

 

 額に置かれた大妖精の手からひんやりとした感触。まだ治っていなかった。

 

 まあ初めから覚悟はしていた。外の世界なら特効薬のタミフルやリレンザを用いれば、一晩で治ることもある。だが科学技術のかけらもない幻想郷では仕方のないことだろう。

 

「じゃあゆっくり寝ててね。今日試合は午前中だから、午後には帰ってくるよ」

 

 ありがたいお言葉が胸に刺さる。だが今は……それを拒みたい。

 

「試合が午前中なら、その試合だけ見ることはできないか? 午後は休むから」

 

「だーめ。そうやって無理したから倒れたんでしょ。きちんと寝てないと長引くよ」

 

「そこをなんとか……」

 

「いくら優斗の頼みでも譲れないよ。だって……もうあんな思いは……」

 

 ぐう、そこを突かれるとツライ。

 

 家に帰ったら玄関に同居人がぶっ倒れていた。不安になって当然であろう。その全責任は俺にあるので、反抗するわけにもいかない。

 

「わかった。じゃあこっちからも1つお願いがある」

 

「なに?」

 

「今日は帰らないで1日学校にいてくれないか?」

 

「帰らない? なんで?」

 

 なんでって……どこまで純粋なのだろうか。昨日から罪悪感が胸を支配しっぱなしだ。

 

「たまにはみんなでワイワイやったほうが楽しいだろ? 昼ご飯とかはさとりに面倒見てもらうからさ」

 

 ずっと世話をしてくれるのはありがたい限りなのだが、少しは俺のことを忘れて楽しんでもらいたい。そのくらいのわがままは通させてもらうぞ。

 

 そんな覚悟を決めていたが、大妖精はあっさりと首を縦に振った。

 

「じゃあずっと寝ててね。見に来たりしないでよ」

 

「わかったわかった」

 

 大妖精はこちらを何度も振り返りつつも、鼻歌を刻みながら学校へ向かった。

 

 では弾幕ごっこ大会見に行くか。

 

 ……大妖精には大変申し訳ないが、わがままパート2だ。年に3回しかない弾幕ごっこ大会、見逃すわけにはいかないのである。

 

 といってもこのまま無理をして出かけても、あの時の二の舞になるだけである。

 

 そうなると、久しぶりにあれをやるしかない。

 

 困ったときに何とかしてくれるあの人を呼ぼう。いつもは仕事を俺に押しつけまくっているのだから、こんな時ぐらいは何とかしていただかないと困る。

 

 動きづらい身体を気力で起こし、大口を開け、肺の奥までたっぷり空気を充満させる。そしてありったけの声で、叫ぶ。

 

「助けて~! ゆうかりん~!」

 

「はいはーい!!」

 

 さすが、どこでもドア妖怪。天井からゆっくり降り立った姿も様になっている。

 

「それで何の用?」

 

「この熱を治してほしい」

 

「そういうのは永琳の仕事じゃないかしら~」

 

「どうせ永琳から薬もらってるんだろ? さっきのやり取りも全部聞かれてるだろうし」

 

「あら、幻想郷のなんたるかがわかっているじゃないの」

 

「個人情報も減ったくれもないってことだけは、身体で覚えさせられた」

 

 ホント……外とかけ離れてるよな。いい意味でも悪い意味でも。

 

「その学習能力のご褒美に、この薬をあげましょう」

 

 手渡されたのは、カプセル状のたった一錠の飲み薬。

 

 一見すると即効性はなさそうだが、月の世界を甘く見てはいかない。すぐに治る優れものだろう。

 

「永琳から伝言されたこと言っておくわ」

 

 そうつぶやくと紫はのどを軽くさすって、裏声を出した。

 

『本当はアポトキシン4869くらいの強いやつも作れるけど、あなたの体が持たないからただの解熱剤にしておくわ。飲んだらすぐに平常に戻るけど、激しい運動とか蝶ネクタイで声を変えたら、熱がぶり返すから気をつけなさい』

 

「なんでコナン知ってるんだ。あと声マネうまいな」

 

「さっき大急ぎで準備していたのよ。じゃ、頑張ってね~」

 

「連れてってくれないのか?」

 

「それは甘え過ぎよ。ホントは私を呼ぶだけで、国家予算クラスの大金が発生するのよ?」

 

「幻想郷に国家なんてないけどな」

 

「じゃ、ばいばーい」

 

 俺のツッコミはきれいにスルーされ、再びスキマに消えていったのであった。

 




第六十話でした。話を伸ばしたいときは紫を使いましょう。

また外に出る優斗ですが、今度は無事に帰ってこれるのでしょうか……

では!


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第六十一話 思い出せない『あいつ』

「うう……」

 

 永琳からもらった薬が強力過ぎる。飲んで数分で寒気がするほど熱が下がり、身体が自由に動かせるようになった。こんな経験はもちろん初めてで、なんだが不思議な感覚だ。

 

 といっても無理しすぎてはいけない。あくまで日常生活程度の運動しかできないため、慎重に行動する必要がある。

 

 そんなわけで、現在二日ぶりに外に出て、湖の横をゆっくりと歩いている。水で冷やされた風が全身に当たり、とても清々しい気分だ。普段はそんな気にしないのだが、神経が敏感になっているのだろう。

 

 学校までは歩いて20分ほど。ただ、今は大事を期しているので、25分ほどで着くだろうか。

 

 湖を抜けると、当然舗装されていない砂利道が続く。両隣にある何本もの高い木が、道全体覆っている。あそこにあるのは……地蔵だな。

 

 いつもなら見過ごしていただろうが、こうして周りを見渡しながら登校するのもなかなか風情なことだ。確か6体ほどいたはずだ。せっかくなのでお参りしていこう。

 

「……どうも」

 

 しゃがんで合掌し、目を閉じて感謝を言う。神様でも、仏様でも、イエス様もブッタ様も、困ったときにはお願いしておいたほうが得だ。いかにもマミゾウが化けていそうな古い地蔵でも、ご利益があるのだから。

 

 1、2、3……7体もの地蔵様に、いつも見守っていただいている。インフルになるくらい無理をしてはいけないな……あれ? 7体も連なってたっけ?

 

 記憶違いだろうか。もう一度よく見渡してみる。すると、

 

「変だな……」

 

 1体おかしな奴がいた。普通の地蔵は紺色だが、そいつは真っ黒。他の6体は俺の膝くらいの高さなのに、腰くらい。丸々としているところは地蔵と似ているが、身体の半分くらいが頭で、目だけが白抜きになっている。

 

 間違いない、こいつは偽物だ。なんで今まで気が付かなかったのだろう。

 

 それよりこのニセ地蔵、どこかで見たことがあるんだが。やはり病原菌はまだ、俺の体をむしばんでいるようでなかなか思い出せない。

 

 確か、魔理沙と弾幕ごっこをやりあった時に……。なんでこいつの記憶があるんだ?

 

 えーっと、こいつが魔理沙の式神だと思ってて、その後……。

 

「ああっ⁉」

 

 記憶のピースが一瞬でつながった。それと同時に、真後ろへ飛びのいた。

 

 その瞬間、その位置にうどんげがよく使う、座薬弾が飛んできた。

 

 やっと正体がわかった。いつもなら速攻で気付いているのに……薬はあくまで、身体をごまかしているだけなんだな。

 

 間違いない、こいつは魔理沙とチルノと大妖精と俺で弾幕ごっこ大会をやった時に、いきなりおれたちを襲ってきたやつだ。

 

 なぜ今……と考えたいのは山々だが、あいにくこの式神もどきを撃退することが先決だ。

 

 大妖精に固く止められていたパソコンを開き、式神の方向へ構える。すまないな、非常事態なんだ。

 

 式神を真正面に見据えて、今すべき最善のことを考える。

 




第六十一話でした。こちらが進みすぎているので、今回は少し短めです。

今さらですが、シャドバなるものを始めてみました。ネクロマンサーを極めてやるぜ!

あとツイッターなるものもやってみたので、そのうちハーメルンとつなげるかもしれません。

では!


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第六十二話 式神攻略法

「突風『猿田彦の先導』!」

 

 空中から式神が放ってきた座薬弾を、文のスペカで風を巻き起こして吹き飛ばす。

 

「想起『テリブルスーヴニール』! そこだっ!」

 

 返す刀でさとりのスペルを発動する。レーザーの予告線が式神に重なり、向こうが右に移動した。

 

 さすがに避けられるか。さとりらしく、相手の移動先を予測して左に中弾を放っておいたのだが……どうやら俺はただの人間のようだ。

 

「……イケ」

 

 また式神が座薬弾をばらまいてくる。真上から制圧射撃されるような感じで、大変避けにくい。少しずつ、息が切れていく。

 

 右に左に、あるいはこちらも対抗して弾を打ってなんとか相殺する。ただ、本調子ではない俺に全てを見極めることは難しかった。

 

「痛っ……なんでまた」

 

 弾に殺傷性がある仕様は以前と変わらないらしい。粒弾がかすめた左の太ももに、切り傷ができて動脈から血が垂れていた。

 

 そもそも、なぜこいつは俺を襲うのだろうか。霊夢の言葉を借りるならば、幻想郷には人間を襲う凶悪な妖怪がたくさんいる。

 

 ではこの式神は妖怪か、と聞かれたら首を縦に振るだろう。幻想郷の妖怪は、襲うときも真摯に、華麗に、律儀に、とても人間らしいものなはずだ。それと比べてこいつはただの獣だ。まるで誰かに命令されているように冷酷で、それでいて無慈悲に命を脅かす。

 

「……こうなったら」

 

 コイツと出会った時からうすうす覚悟はしていたが、本気を出さなければならないようだ。

 

 だが、こちらはアイツを倒す手段がない。弾幕はもちろん効かないし、上空に浮かんでいて距離が離れすぎているため、打撃を加えることもできない。だから――、

 

「拳打『げんこつスマッシュ』」

 

 一輪のスペルカードで、雲山の握り拳を発射する。ただし、

 

「……ナニ?」

 

 真下に。俺のおかしな行動に、初めて式神が疑問を持った。

 

 この技、反動跳躍(リラクションフロート)を使うのも久しぶりだ。地面に打ち付けた拳という作用が反作用を生み出し、俺の身体が宙に舞い、一気に式神との距離が縮まる。

 

 ここでパンチやキックの一つでも出せれば晴れて幻想郷の超人たちの仲間入り、なのだがあいにくおれはただの人間だ。空中で手足をバタバタさせても、式神には届かない。

 

 そう、決して式神は倒せない。だったら方法は一つ。俺は今ちょうど正面に対峙している式神に面を見せつけた。

 

「……チッ」

 

 式神はモンハンの緊急回避のように、高速で真下に退避する。誰だってそうするだろう。けどそれは、

 

「大いなる間違いだ。恋符『マスタースパーク』!」

 

 おなじみのマスパ音とともに、極太レーザーが空中に展開される。当然ながら作用はとても大きく、反作用も尋常ではない。しかも今は空中にいて、背中も足も地についていない。つまり、

 

「……おおおっ!」

 

 大空を一気に駆け巡った。式神との距離がどんどん離れていく。体力が少し無くなってきたが、これで作戦成功だ。

 

 勝ち目がない戦いをする必要は微塵もない。負けそうなら逃げる、これが鉄則だ。魔理沙あたりに聞かれたら、意気地なしと罵られそうだが。

 

 ともかく、これであいつがこちらを視認できないくらいには遠ざかった。あとは着地の時にもう一度弾幕を出し、勢いを殺せば万事うまくいく。

 

 最高点に到達し、身体がどんどん地面に近づく。さて、そろそろ準備を……。

 

「…………あれ」

 

 突然ゾクッ、と背筋に戦慄が走った。頭を横に勢いよく振りって寒気を吹き飛ばそうとするが、その頭がフラフラする。

 

『本当はアポトキシン4869くらいの強いやつも作れるけど、あなたの体が持たないからただの解熱剤にしておくわ。飲んだらすぐに平常に戻るけど、激しい運動とか蝶ネクタイで声を変えたら、熱がぶり返すから気をつけなさい』

 

(……まさか)

 

 永琳からの伝言が頭によぎる。最悪のタイミングで解熱剤が切れたとでもいうのか。

 

「クソッ、動け……!」

 

 せめてもう一度マスパと、念じるけれどパソコンが応えてくれることは無かった。それどころか、着地地点がぼけて見えてくる。ああ、これは完全に、

 

(大妖精……すまない)

 

 いまさらながら、後悔の念がわいてくる。

 

 おとなしく寝ていればよかったものを、自らの欲求に流され……なんて馬鹿なことを。

 

 固い地面が近づくのが何となく感じられる。覚悟して、目を静かに閉じる。

 

 インフルエンザで倒れた時もこんなに嘆いていたな。あの時は大妖精が助けてくれたが……まさかね。

 

「優斗ぉ!」

 

 ……まさか。地上で俺の背後から聞こえる声は俺の幻聴だろうか。

 

「……マジで?」

 

 どうやら存在していたようだ。俺が地面に突き刺さる瞬間、抱きとめられた。これでは逆お姫様抱っこだ。開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。

 

 なぜ俺が落ちることに気付いた? なぜ学校からここまでこれた? なぜ自由落下してくる男子高校生を受け止められた? 

 

 疑問なら頭の中に埋め尽くされている。だがそれさえも、安堵と感謝で塗りつぶされていく。

 

 後頭部から伝わってくる、柔らかい手の感触。間違いない、こんなタイミングは大妖精以外ありえない。

 

 とりあえず上を向き、大妖精の目を見る。

 

「ありがとう大妖精……」

 

「あっらー、やっぱり大妖精さんかと思っちゃいましたか? 残念、さとりんでしたー‼」

 

「帰れ」




第六十二話でした。さとりんは永久に不滅です!

実は「さとりんだよー」がやりたかったために、優斗をインフルにして、大妖精とイチャイチャさせ、さとりにいじらせました。……ここまで五か月かかってるんですね。

ではっ!



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第六十三話 それぞれの本音

「あっれれー? そんな偉そうなこと言える立場ですか?」

 

「助けてもらったことは感謝してもしきれない、ありがとう。――けど、けど……」

 

 本音を出すのはさすがに気が引ける。ただ口に出さないところで、

 

「ええ、よくわかりますよ。なんで私が来ちゃったんでしょうね? このシュチュレーションは、どう考えても大妖精さんが助けてからのキスですものね」

 

 バレるのは確定なのだが。キスってなんだキスって。

 

「それは決してないが、大妖精しか来る可能性がないって考えたのは事実だ」

 

「そもそも優斗さんは大妖精さんに内緒で来たんですよね? あなたの行動に気付けるのは、私と紫先生くらいだと思いますが」

 

「認めたくなかった、それだけだ」

 

「そりゃ私だって本意ではありませんよ。まあ、ゆするネタが1つ増えたので良しとしますが」

 

 さとりの口から大変危険な言葉が飛び出た。

 

 別に現金とか食べ物を請求されるのだったら、構わない。喜んで盗られよう。ただこれが大妖精に告げ口とかそういうことになってくると、全力で阻止しなければならなくなる。

 

「……何が望みだ」

 

 あいかわらずのお姫様抱っこ状態で、至近距離にあるさとりの目を真剣に見つめる。

 

「ご心配なく、別に給料半分よこせとかそんなことは言わないですよ」

 

「だったら……」

 

「いやいや、何も要求しませんから。私を小悪魔とでも思ってるんですか」

 

「大悪魔、もしくはさとり妖怪の面を被った凶悪妖怪だろ」

 

「おお……そこまでですか。――けど、これで少し評価が上がりますよ。はい、こちらにどうぞ」

 

 俺を優しく地面におろしてパチン、と指を鳴らした瞬間、ある乗り物がさとりの胸元から膨らんで現れた。

 

「雲山先生の能力をお借りして小型化しておきました。おっと、どこから手に入れたのかなんて聞かないで下さいよ」

 

 車輪が二つに、座席が一つ。エンジンの代わりに乗り物を前に押すための取っ手がある。

 

「これじゃホントに重病人じゃないか」

 

 さとりが用意した車いすに、よろめきながら乗車する。手を両脇に置くと、冷たい鉄の感触が服の上から伝わってきた。

 

「これで俺を家に送り届けるのか?」

 

「それでまた一日中ベットの中ですか? そんなつまらないことを、さとりさんがすると?」

 

「なら……――ああ、理解した」

 

 なぜだろう、今日のさとりはただのさとりではない、スーパーさとりさんな気がする。もしかして俺の状態をさとって優しくしているのかこのさとりは……

 

「さとりさとりうるさいですよ。どうせなら、大妖精さんの雄姿を拝みましょう。もう何物にも邪魔させません、私がいますから」

 

「……すまないな」

 

「いえいえ、生徒と教師の喜びを見るのが心理カウンセラーの喜びですから」

 

 さとりに押され、車いすはゆっくりと学校へ向かう。

 

 

 

 

 

「そういえばあの式神のことですが、結局正体はわかったんですか?」

 

 高校へ向かっている途中、背後からさとりに質問された。

 

「いや、まったく。チートキャラさとりなら2秒でわかるだろ?」

 

 なにしろあらゆる能力を使える程度の能力だからな、どうせ情報を隠し持っているのだろう。

 

「そんなの朝飯前……と、言いたいところですが、こればっかりは」

 

 なんと、さとりでも分からないことがあるのか。――待て……阿求の能力ってことは、絶対記憶持ってんのかコイツ。

 

「阿求さんの能力をコピーしているので、結構な知識はあるはずなんですがねえ……優斗さん、そいつと出くわしたのは2回目なんですよね」

 

「ああ、前に魔理沙たちと弾幕ごっこしたときに合ってる」

 

「そこからずっと正体不明とは……結構な実力者なのかもしれんね。もしかしたら、この世界の住人ではないのかも」

 

「パラレルワールドからってことか?」

 

 それなら一度体験がある。もう1つの幻想郷から来たイケメンと一緒に弾幕ごっこしたっけ。

 

「あんときは2人で生徒たちの着替え、覗き見しようとしてたじゃないですか。なに美化してるんですか」

 

「よっし、話を戻そう。だったら月の世界か?」

 

 不自然すぎる咳払いで、話の転換を全力で行う。下手に地雷を踏まないようにしなければ。

 

「まあ勘弁してあげましょう。残念ですが、月世界ならある程度知ってますよ」

 

「なら……」

 

「ですから問題なのです。さて、話は変わりますが、」

 

 結局式神については情報なしか。いつになったら安全に、幻想郷ライフを送れるのだろう。

 

「どうです、大妖精さんのことは?」

 

 ずいぶんとあいまいな質問だな。まるで核心をついてない。

 

「なんて答えればいいのか知らないが……最近は弾幕ごっこ大会の練習、頑張ってたみたいだぞ」

 

「そーゆーことではありませんよ。キスしました?」

 

「するか」

 

「なら一緒にお風呂くらい入りましたよね」

 

「するか、通報されるぞ」

 

「だったら添い寝くらいしましたよね」

 

「……するか」

 

「はい頂きましたー! もう、照れなくてもいいんですよ、永琳先生からすべて伺ってますから」

 

 柄にも合わないウインクが俺の精神を刈り取る。

 

 あれは不可抗力、致し方のないことだったんだ。ほら、インフルエンザにかかるって結構イレギュラーだし。

 

「御託はいいですよ。で、結局どう思ってるんですか?」

 

「抽象的な質問は答えにくいぞ。まあ、性格はいいと思うぞ」

 

「だからそういう一般的なことじゃなくて! ああ、もうまどろっこしい、タブーの質問行っちゃいますよ!」

 

「なんだよ、始めからそうしろよ」

 

 何回セクハラしましたか、とか聞かれても絶対答えないぞ。

 

「好きでしょ⁉ 大妖精さんのこと‼」

 

 ドクンッ‼ と、心臓が大きく跳ねる。

 

 何も返せずに、しばらく沈黙が続く。その間にも車いすは確実に進み、猶予を短くする。

 

「……なんだ急に」

 

 その禁忌の質問に、長針が1週くらいしてやっと、一言反応できた。

 

 さとりは俺が離した途端、口から泡を飛ばし、

 

「あんな性格、容姿、頭脳が最高値の美少女にあんなに優しくされて惚れこまないわけないでしょ!」

 

「そんなのお前のさとり能力で……」

 

「霞がかかって見えませんよ。私はその場その場で思ってることしか見通せません。総合的なものは全く」

 

「そうか……にしてもその質問は困る」

 

 こんなこと考えるのは柄にも合わないのだが……逃げるわけにもいかないだろう。

 

 この感情が、今まで味わったことのないものであることは確かなのだから。

 

 好きだけど、好きじゃない、と表現したらよいだろうか。

 

 少なくとも、17年間生きてきて一番俺が気に入った人物だ。妖精だけど。

 

 どんな時でもそばにいてくれ、些細なことを本気で心配してくれ、一緒に笑い合ったくらいには仲がいいと思っている。

 

 きっと大妖精も俺を慕ってくれている……と考えたい。俺のことが嫌いならば、居候なんてもってのほか……なはずだ。

 

 もちろん大妖精のことは好きだ。確実に、ライクベリーマッチだ。

 

 ただ、ラブかと聞かれると……正直イエスともノーとも言い難い。

 

 分からない、俺の中で生み出されるほわほわした暖かい何かが、恋心なのかが。

 

 だから、だから、だから、俺は、俺は、俺は……

 

「……すまない」

 

 思考が止まった。

 

「別に、私が勝手に聞いたことなので。このことは誰にも言いませんよ」

 

「そうしてくれるとありがたい」

 

「すみませんね、こんなこと聞いて。なんだか不安になったのです」

 

「なにが?」

 

「実はですね、こいしが最近そわそわしているのです。リアルタイムの情報しか知れない私ですが、こいしは違います」

 

「それで近い将来何かが起こると」

 

「可能性はあります。一応覚えておいてください」

 

 さとりがここまで真剣な顔になるとは……ただ事ではなさそうだ。

 

「最後に、私前に、『私は部外者だ、核心には触れられない』とか偉そうなこと言ってましたけど、撤回させてください」

 

「ずいぶんデリケートなこと聞かれたからな」

 

「はい、核心は触れました。けど掴むことはできませんでした。こっから先はあなたが考えることです」

 

「そうだな、結論は出しておく」

 

「それなら結構、では、こっから先へ進むのもご自由に!」

 

「はあ?」

 

 さとりの顔が一気に明るくなる。ああ、この流れはもう……

 

「そりゃっ!」

 

 怪力乱神を使っているのか、さとりが車いすごと思いっきり俺を持ち上げた。

 

 即座に開かれたのは、もう見飽きてしまったスキマ。

 

「これは私が作ったスキマなのでご心配なく。では夢の世界へ……」

 

「待て、どこへ落とす気だ!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 流れるような作業で、スキマの奥底へと叩き落された。

 




第六十三話でした。いつからさとりはレギュラーになったんでしょ?

今回ここまで優斗を語らせたので……そろそろ最終章への予感がしますね。伏線もコミコミですよ!

ではっ!


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第六十四話 果てしない落下

「うわっ、うわわっ……!」

 

 車いすに乗せられたまま、自由落下が続いている。ジェットコースターに乗った時のように、ふわっとした嫌な感触が胸に突き刺さる。

 

 すぐにどこかへ転送されると思っていたが、しばらく猶予があるようだ。ということで、

 

「……さて」

 

 目を閉じ、力を抜いてあらゆる情報を遮断する。その分のエネルギーが、脳へと向かっていく。

 

 考えろ、この穴はどこへとつながっている? もし俺がさとりだったら、どこへ飛ばす?

 

 大妖精の家……はない。それではあいつは何も楽しくない。誰もいないという観点で、校舎の中でもない。

 

 となると、弾幕ごっこ大会真っ最中の校庭なわけだが……あそこの隅にある大木の下なんて、優しいはずがない。

 

 弾幕ごっこ中のステージ上に叩き落されるか、映姫校長の真上に落とされるか……こんな想像できる時点で涙が出てきそうだ。

 

「……待て」

 

 万が一、俺が危惧していたことが現実だったらどうなる? とりあえず3時間は説教確定だが、そういう次元のことではない。

 

 今乗っている車いすはスチール製。なぜ幻想郷にあるのか甚だしく疑問だが、もしこれが映姫校長の頭に直撃したら……想像しただけで恐ろしい。

 

 仕方ないので車いすから降り、パラシュートなしのスカイダイビングだ。

 

 さて、いったいどこに落とされるのか。すべての集中力を視覚に使い、準備を整える。

 

2つ3つ選択肢が頭に浮かび、対処法を考える。さとりがそんなに多くのパターンを持っているとは考えにくい。

 

「見えた……」

 

 遥か遠く、とても小さい光が現われた。

 

 当然のことながら、距離は近づき、穴は大きくなっていく。さあ、さとりとの真剣勝負の時間だ。脳内で残り時間を素早くはじきだし、スペルカードを取り揃えておく。

 

 残り5秒、――2、1、

 

「やっぱりかっ‼」

 

 スキマから離脱した瞬間、緑と黒の艶やかな髪の毛が見えた。その2人は、楽しげに談笑していた。

 

 即座に横にパソコンを向け、光の速さで詠唱する。

 

「気符『星脈弾』!」

 

 少し弱めに放ったエネルギー弾の反作用で身体が移動する。ドスッ、と鈍い音ができて着地することができた。

 

「イテテ……」

 

 さとりも爪が甘い。さすがの俺でもこれは予想できてしまった。だってさとりが俺を落とそうとした先は、

 

「……ウソ」

 

「あれ、優斗さん。風邪で寝込んでるんじゃ?」

 

 大妖精と小悪魔だった。絶対に俺をピチュラせる魂胆だろうが、そこまで馬鹿ではない。

 

2人の問いかけに、ゆっくりと立ち上がってこたえる。

 

「いやいや、少し良くなったからな。永琳から薬ももらったし」

 

 黒目の悪魔は疑問で頭がいっぱいだろうが、緑眼の妖精は不安で頭がいっぱいだろう。

 

「ごめんな大妖精、約束破って」

 

「……うん」

 

「けど、どうしてもお前の雄姿を見たくて。許してくれ」

 

「身体は? また無理してるんじゃ……」

 

「永琳から即効性のある抗ウイルス剤もらってきたから、激しい運動しなければ問題ないよ」

 

 実はすでに1バトルやってきてるんだが。

 

「だってあの車いす……どうみても……」

 

「あれは大事を取ってだ。動けないってほどじゃない」

 

 これも真実とは言えない。体調だけで言えば、最悪だ。頭がボーっとして、いつもの口調になれない。

 

「試合はいつ?」

 

「それならちょうど今からですよ! ささ、行きましょう!」

 

 小悪魔がいいタイミングで車いすを運んできてくれる。さっきから何度もウインクされているので、とっくにお見通しなのであろう。

 




第六十四話でした。優斗のしゃべり方、なんだかおかしいような……

投稿間隔があいて申し訳ありません……四月からの新生活なめてました!

では!



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第六十五話 筒抜けの理由

「起き上がれますか?」

 

 小悪魔が手を差し伸べてくれる。強がって断りたい気もするが、そんな余裕はなかった。

 

「ん、悪いな……」

 

「せーので行きますよ。――ほら、大ちゃんも!」

 

「えっ? うん、わかった」

 

 おとなしく両手を差し出すと、右が小悪魔、左が大妖精の柔らかい掌に包まれた。

 

「せーのっ!」

 

 小悪魔の掛け声とともに、ものの数秒で起き上がることができた。

 

 ところが足に力が入らない。小悪魔はそれを瞬時に察したのか、

 

「すぐに背負って!」

 

「ええ? ――こういうこと⁉」

 

 小悪魔と大妖精の肩に体をゆだねた。男子高校生を背負わせてしまって、本当に申し訳ない。

 

「やっぱり手放しで安心できないよ……体に力が入ってないのが伝わってくる」

 

「ということは普段の優斗さんの身体を知っている、つまりベタベタ触ってるってこと? いやー、うらやましいなあ!」

 

「そ、そういうことじゃないよ⁉」

 

「はい、車いすに乗せるよ!」

 

 大妖精の疑問を即座に返す、さすがだ。

 

 車いすに乗せられて、ゆっくりと会場へ移動する。

 

 こうしてじっくりと周りを見渡してみると、さすが幻想郷、校庭1つとっても美しい。四方は高い針葉樹に囲まれていて、目の保養になる。特にあそこに立っている大杉なんて……あれ、魔理沙が根元で寝ている。

 

 ぶっ倒れるのは悪いことばかりだと思っていたが、周りがよく見えるという点では評価できるかもしれない。

 

「そういえば、あのスキマは紫先生が繋いだの?」

 

 その途中、車いすを押してくれている大妖精から尋ねられた。

 

「いや、それが違って、あれはさとりが作ったんだ」

 

「さとり先生? なんでスキマ作れるの?」

 

「ちょっと待ってください、さとり先生は私たちの審判務めるんですけど。なんで優斗さんと会ってるんですか?」

 

「ちょ、神子じゃないから同時に質問されても……」

 

「ああ、ごめんなさい。なんでさとり先生と会ったんですか?」

 

「えっと、ここに来る途中でスキマを作っていきなり出てきて……。それでここに飛ばされてきた」

 

 嘘は言ってない。

 

「それで今さとり先生はどこ?」

 

「さあ……戻ってるといいんだが」

 

「もし試合開始までに来なかったら……」

 

「それは問題だな……俺が審判するか」

 

「やめてっ‼」

 

「いやいや、冗談だよ」

 

「優斗ならほんとにしかねないもん……」

 

「永琳先生からその場しのぎの鎮静剤までもらって来るくらいですからね」

 

「ちょ、そのことは……!」

 

「……その場しのぎ?」

 

 大妖精の笑みが凍りつく。

 

 ああ、分かる。分かるぞ……。大妖精のこめかみに青筋が立っていて、マンガのごとく額が陰で黒くなっている恐怖の顔が瞬時に想像できてしまう。

 

 というかなんで小悪魔は薬の効果をそんなに細かく知ってるんだ……。秘密の通信回路でもあるというのか。

 

「ちょっと優斗、どういうこと…」

 

「おーっと! 会場に着いたみたいだな‼ さあ、いよいよ試合だ」

 

「私たちの集大成だね! 頑張ろう大ちゃん‼」

 

「あ……うん」

 

 けれど小悪魔は一応フォローしてくれているので、まだ何とかなっている。当然、さとりや紫に慈悲など無い。

 

「2人の闘い、期待してるからな。今回はチーム戦だから、存分に1年1組に貢献してきてくれ」

 

「当然です! ここで勝たなくてが優斗さんに申し訳ないですよ!」

 

「ちょっと緊張するけど……精一杯ぶつかってくるよ!」

 

「それが聞けて安心した。よっし、いってこい!」

 

 最後に2人の肩を軽くたたき、送り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあー。こちらさとり。優斗さんの調子はどうですか?」

 

「紫よ。無事に大妖精と合流できたみたい」

 

「文です! 車いす優斗さんとそれを押す大妖精さんを激写できました! まるで円熟夫婦みたいですね!」

 

 にとり仕込みのトランシーバーで、優斗を困らせている面々は連絡を取り合っていた。

 

 幻想郷にトランシーバーと聞くと首をかしげるかもしれない。だがにとりは以前、スマートフォンを優斗からもらっている。通話の仕組みが分かったにとりに、離れた者同士をつなげる道具を作ることなど、造作もないことだった……。

 

「こちら早苗。弾幕ごっこ観戦に最適な場所に優斗さんはいます!」

 

「小悪魔です。あとは大ちゃんが魅せる試合を見せられるか……ですね」

 

「あなたは試合に集中しなさい」

 

 紫の的確な一言で、一斉に通信が切れた。

 




第六十五話でした。さとりに紫に文に早苗に小悪魔……濃いですねー。

スマホの伏線は幻想高校の日々のほうでやったような……やってないような……投稿頻度が遅すぎて忘れてしまった!

ではっ!



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第六十六話 大妖精の成長と対戦相手

「よっと……」

 

 両側についている車輪の回転を腕の運動を止めた途端、大きな息が勝手に出た。自分で車輪を動かすなんて経験は当然初めてなわけで、ただ移動するのがこんなにも難しいなんて驚きだ。

 

 顔を上げると、1辺十数メートルの弾幕ごっこ会場が勝負を今か今かと待ち構えている。この後すぐ、大妖精たちの試合が行われる予定だ。

 

 それにしても、いい場所を確保することができた。リングの端から5、6メートル離れていて、空中戦も楽にみられるだろう。ただ、流れ弾は心配だが……。

 

「その時は私が吹き飛ばしてあげますよ」

 

「いつから俺の後ろに立っていた」

 

 安心と信頼のさとり先生登場。

 

「いやー、私ホントは審判だったんですけどね。大こあの活躍をこの目に焼き付けるためには、やっぱり優斗さんを理由につけてサボタージュするのが一番簡単ですね」

 

「人の質問に答えろ。あとなんでお前が外の世界のカップリング知って……いや、答えなくていいわ」

 

「外の女子高校生と交流あるって前言いませんでした? 今年18歳らしいですよ」

 

「ふーん」

 

「それで『これでR-18作品が描ける!』とか息巻いていましたけどね。結構変わり者ですよ」

 

「……そうか」

 

 なんだか聞き覚えがある特徴だが、気にしないでおこう。

 

「そんなことより優斗さん、そろそろ大妖精さんが入場……やべっ」

 

 目にも止まらぬ速さでさとりがひざを曲げ、俺を身体を壁にする。

 

「どうした、――ああ、なるほどな」

 

 反対側の観客席にわれらが校長、映姫が座っていた。足を組み、右手で強く握っている悔悟の棒を何回も太ももに打ち付けている。早い話、機嫌が悪そうだ。

 

「ちなみに代わりの審判は誰に?」

 

「……霖之助先生です」

 

「霖之助は確か魔理沙と行動してたよな……映姫が走り回って探したんだろうなー」

 

「それがわかっているならさっさと匿ってくださいよ」

 

「ええー、どうしようかなー」

 

「ちょっと⁉ お願いしますよ!」

 

 何だろう、この快感。自分にSっ気は無いと思うのだが。普段さんざんやられてることをし返すのはこんなに爽快なのか。

 

「まあ条件次第だな」

 

「別にパンツくらいなら見せてもいいですけど。ああ、上はつけてきてないんで勘弁してください」

 

「よくそういうことを白々しく言えるよな……」

 

 大人の本でありそうな光景だが、真顔で言われてもまったく興奮しない。しかもさとりだしなおさら。

 

「えっ、まだ足りませんか……仕方ないですね。今日はお空と寝る予定だったのですが……今日は寝かせませんよ」

 

「ちょ、さすがにやりすぎだ……」

 

「えっ? 別に私は優斗さんなら一向に構わないのですが……」

 

「その発言も十二分の問題だけど、この会話を大妖精に聞かれることがまずいんだよ!」

 

 思わず強い語気でさとりにツッコむ。さっきから微笑を浮かべてとんでもないこと言い放ってくるが、自分が言ってること本当に理解してるのか……。

 

「なるほど、氷の笑みで攻められた後に土下座コースですか。尻に敷かれてますねー」

 

「俺が言おうとしてたこと先取りするな」

 

「その優斗さんに対する強さが彼女をここまで頑張らせたのでしょうね。さあ、やっとゴングが鳴りますよ‼」

 

「すごく綺麗に収めたな……」

 

 車椅子の下から言われても、まったくありがたみがないのだが。

 

 再び会場の中心に向くと、霖之助先生が凛々しい顔で立っていた。いつもの目じりが下がった朗らかな顔とは一線を画している。

 

「ではこれから、弾幕ごっこ大会1年生の部、第八回戦を始める。対戦カードは1組対2組、1本勝負だ。では1組から入場だ」

 

 大きな拍手が当たりを包み込む。向かって左側からゆっくりと、そして大きく、2人が歩いてくる。

 

「一組側、大妖精&小悪魔ペア」

 

 ワーッ! ともう一度歓声が沸き起こる。

 

「優斗さん、どうせなら思いっきり声を掛けたらどうですか? これで最後ですし」

 

「最後って……ああ、一年生は最後だな。――じゃあせっかくだし、」

 

 いったん息を吐いて、集中。口元に全神経を集めて、

 

「大妖精ー‼ お前が出せる最高の力、出し切ってこい!」

 

 病人が出せる最大級の声をとどろかせた。

 

「おお、ちゃんと届いてますよ」

 

 しっかりと伝わったようで、こちらに向かって小さく手を振っている。大勢の前で緊張している中で、なんとか作ったはにかんだ顔がとてもまぶしい。

 

 出会ったころは弾幕ごっこのイロハも知らなかったのにここまで成長するとは……

 

「……大きくなったな」

 

「なーに保護者面してるんですか。ほら、相手が入場しますよ」

 

 今度は右側から、2組の精鋭が来る。

 

 どんな相手が来るのだろうか。もちろん厳しい戦いになることは間違いない。だが、2人の連携が決まれば……

 

「は?」

 

「えっ?」

 

 俺とさとりの間のぬけた声が同時に響く。大妖精たちの前に立ちふさがったのは、

 

「お相手にとって不足なし! 奇跡だけじゃなくて、実力だって兼ね備えてきましたよ!」

 

「早苗、そういう時に敬語はいらないんじゃない?」

 

 早苗と諏訪子。まごう事なき神様ペアだった。

 




第六十六話でした。意外と伏線マシマシだったり?  

そして恒例の、投稿遅れて申し訳ありません……ozn。こちらに使う時間がだんだん減ってきている……頑張らないと……

相変わらずの優斗×さとりですが、まさかここまでさとりが幅を利かせるとは……投稿当時は全く予想してなかったです。いまでは優斗×大妖精の掛け合いの次くらいに書いてて楽しいです。

ではっ!



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第六十七話 試合開始

「ちょちょちょ、なんであなたがここにいるんですか?」

 

 固まっている大妖精とは対照的に、大声を立てて小悪魔は抗議する。

 

 早苗は一年二組の生徒なので、全く問題はない。驚くべきはその隣にいる、ちびっちゃい土着神のほうだ。諏訪子は教師でもなければ、当然生徒でもない。

 

 無関係なものが助っ人として大会に出る……えっと、確か前にもこんなことがあったような。

 

「前回の弾幕ごっこ大会の美鈴さんと咲夜さんですね。あれは強すぎた」

 

「ああ、そうそう。――それをクラス対抗で持ち出してくるか……」

 

 完全に予想外だ。早苗の奇跡ももちろん強力だが、諏訪子はさらにその上をゆく。神様が、エクストラボスが、弱いはずがない。

 

「小悪魔さん、これには深いわけがあるんですよ!」

 

 小悪魔を指差し、勝ち誇った顔で早苗が叫ぶ。

 

「なんですか? まさか無双するためなんてよこしまな考えじゃありませんよね!」

 

「まさか! うちのクラス19人なんですよ!」

 

「それがなにか……あっ」

 

「ご名答。奇数なんで余ったんですよ! ――あれっ、なんだか目から汗が……」

 

「こあちゃん、なんだか勝てそうな気がする」

 

「奇遇だね、私もだよ」

 

 早苗のメンタルはボロボロだった。これなら可能性はまだ残っている。

 

 こちらは種族的に力技を使えない妖精と悪魔。かたや風神録の主役を張った実力者。力の差は誰の目から見ても明らかだが、大妖精たちには磨き抜かれた技と連携がある。あとは2人を信じるのみだ。

 

「さて、準備が整ったようだね。ではこれより、弾幕ごっこ大会第5回戦、大妖精&小悪魔チーム対早苗&諏訪子チームの試合を始める。両者とも、正々堂々楽しくやるように」

 

 流ちょうに霖之助が宣言をして、火ぶたが切って落とされる。

 

「開始っ‼」

 

「開幕一番!」

 

「うわわっ!」

 

「いきなり多いんですよ……! ――大ちゃん、私の後ろに!」

 

 開始数秒であいさつ代わりに早苗が大玉をたたき込んだ。あれはあたり判定が小さく見かけ倒しのことが多いのだが、量でカバーしていた。

 

 一方で大妖精は小悪魔の背後に回って、後ろから粒弾を放って最低限の処理を行う。前方からしか飛んでこないため、まだまだ余裕そうだ。

 

「むふふー、もちろん早苗だけじゃないよ?」

 

「っつ! それは結構厳しいんですがね‼」

 

 空中に埋め尽くされた大玉の隙間から、レーザーが噴出してくる。これはどうやっても消せないので、小悪魔は真上へ急速飛翔する。

 

 小悪魔が避けると大妖精が……と、一瞬頭によぎったが、心配はいらなかった。小悪魔の真逆、地面すれすれに移動していた。ここまでくれば、大玉もレーザーも射程圏外だ。

 

「もう移動したの? さすがすばしっこいね。どうする早苗?」

 

「とりあえずは様子を見ておきますか。相手のカードを切らせておきたいです」

 

「了解、――くるよっ!」

 

 上と下から、一気に近づいていく。神に一撃を食らわせるためには、遠くからいくら弾を撃ったって届かない。リスクを覚悟してでも、懐に入るしか方法がない。

 

「一気に行くよ、手筈通りに!」

 

「うん! 網符『フェアリーズネット』!」

 

 早苗たちの足下5メートルにもぐりこんだ大妖精は、早くも1枚目のスペルカードを繰り出した。

 

 澄んだエメラルドグリーンの網で相手の行動範囲を狭める。さらに網を上の方に移動させて、早苗たちを追い詰めていく。

 

「大妖精ちゃん、いくら一方向だけ塞いだからって、ここは三次元。逃げる方向なんていくらでも……ちぇっ、なかなかやるね。土着神『ケロちゃん風雨に負けず』」

 

 さすが諏訪子、気づいたか。大妖精と小悪魔がこっそりと背後から弾幕を出して、諏訪子の周りを囲んでいた。しかしそこは実力者、いや、実力神か。物量のあるスペカを素早く発動して、弾をほとんどかき消した。

 

 大妖精と小悪魔の十八番であるフェイントをかけて相手を惑わしていく戦い方は、チルノ相手なんかだと即効で勝てるのだが、そう甘くはないか。とはいっても、弾幕の量、スタミナは差がある。なるべく早いうちに決めなくてはどんどん苦しくなっていくな……。

 




第六十七話でした。諏訪子のスペルを全く知らないにわかうp主が通りますよっと。

一応これ、優斗視点の一人称です。話に出てこない優斗視点で書くことの難しさよ。

では!



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第六十八話 決死の突撃

「早苗、楽々勝てるって言ってたあれ、なにかの冗談?」

 

「諏訪子様の腕なら瞬殺だと思ったんですがね……思っていた以上に成長しているようです」

 

「そーそー。まさかスペルを吐かされるなんて思ってもみなかったよ」

 

「小悪魔さんはスペルを持っていないのでこちらが有利なのは間違いありませんが……後ろも詰まっていますし、長引かせるのは得策ではないかと」

 

「ならさっさとカタをつけろってことね。――いくよ、フォーメーションフロッグ!」

 

「はいっ! お二方、どうぞ括目していってください‼」

 

 長々としゃべっていた早苗たちが行動を開始する。というか、戦隊ヒーローの悪役のようにそれが終わるまで律儀に待っていた大妖精たちも紳士だな。

 

 さあ、神の全力攻撃がいよいよ飛んでくる。あの微妙なセンスの技名はきっと早苗がドヤ顔で生み出したんだろうな……それを嬉々として口にする諏訪子も諏訪子だが。

 

 ポケットからスペカを諏訪子が取出し、空中に紙切れを飛ばして発動させる。おい、あれは……

 

「祟符『ミシャクジ様』‼」

 

「なっ⁉」

 

「個別に回避するよっ‼」

 

 小悪魔の顔がさらに険しくなる。ミシャクジ様はゲームだとラストスペカだ。その威力はわかっているだろう。

 

 即座に指示を出したのは大妖精で、すでに胸ポケットのスペカに手をかけている。2枚目の発動も辞さないつもりか。

 

「大丈夫大ちゃん、まだスペカ使わなくていいよ! このくらい……」

 

 一気に展開される粒弾を上下移動で確実に回避する小悪魔。まだその動きには余裕があり、彼女の言葉に信憑性を持たせる。

 

「あれれ、そんな悠長なことを言ってる暇あるんですかねえ?」

 

「当然、――はあっ⁉」

 

 小悪魔の表情が驚愕に変貌する。いくら聡明な彼女でも、これは予想できなかったのだろうか。

 

「蛙の舌のように高速移動して獲物を捕らえる、これぞフォーメーションフロッグ! どうです、これぞ奇跡‼」

 

 早苗が諏訪子のはなった()()()()()()()()、と表現すればいいのだろうか。大玉の上で器用に立ち、超速で移動していた。

 

 普通は味方の放った弾幕だろうが、乗るなんてこと出来ないのだが……これを奇跡1つで片づけてしまうところがさすが早苗といったところか。

 

「さあ、一気に畳み掛けますよ!」

 

「早苗、こっちに来て! 私と一騎打ちだ‼」

 

 大妖精が柄にもなく強気な発言。まだスペカも残っているし、少しでも弾幕を引き付けようという魂胆なのだろう。

 

 しかし早苗はそれを相手にせず、

 

「残念、そこまでバカじゃありませんよ。諏訪子様のスペカだけで苦しそうですね……――小悪魔さん!」

 

「っつ⁉ 寄ってたかって悪魔をいじめると後で魂抜き取りられますよ‼」

 

「それでも結構。あなた方はコンビネーションなら学校一でしょう。しかし裏を返せば、片方が欠ければ恐るるに足らない‼」

 

 低空で弾幕をかわしていた小悪魔がロックオンされた。すでに早苗はスペルを取り出し、臨戦態勢だ。

 

「こあちゃん! 今いく――うわっ!」

 

「そんなこと私のスペルが続いている内はさせないよ!」

 

 さらに諏訪子がレーザーを放ち、大妖精の動きを止める。

 

「まずい……まずいぞ」

 

 小悪魔の絶体絶命のピンチに、俺の拳が固く握られる。

 

「早苗ペアも考えましたね。大妖精さんたちを分離させることを念頭に置いた戦い方、さすがです」

 

「感心してる場合か。小悪魔が落とされそうだぞ」

 

「教師である以上、一応私は中立ですからね。つーか優斗さん、あなたも同じですよ?」

 

「だから?」

 

「言い切りやがりましたねえ……そういうところがあなたらしいですが」

 

「そりゃどうも」

 

 1年練習に付き合ったら情がわくのも当然だ。

 

「ほら、早苗さんがスペル撃ちましたよ!」

 

 再び早苗に注目すると、すでにスペルを握りつぶしていた。あの量の弾幕を真下に叩き落すつもりか。

 

「神徳『五穀豊穣ライスシャワー』! さあ、神罰の時間です!」

 

「ぐ、これはもう……」

 

 大量の米をふりまかれ、さらに密度が濃くなる。なんというか、もうこれ反則級だな。

 

 さすがにこれは小悪魔でも……そう思った矢先、彼女がヤケクソ気味に叫んだ。

 

「ああもう、まさかこんなに早く追いつめられるとはね! 大ちゃん、後は頼んだよ!」

 

「へっ、何を……」

 

「諏訪子さん、神風特攻隊って知ってますか? 私は慧音先生の歴史でみっちり教えられましたよ」

 

「それがどうか……うわっ、くるなっ!」

 

 体をくるっと回転させ、思いっきり諏訪子をにらみつけた。瞬間、小悪魔が移動を開始した。被弾のリスクを考えず、弾の間を縫って高速で。

 

 ミシャクジ様の間を器用に抜け、諏訪子に肉薄する。

 

「私だってね、スペカを用意してきたんだ!」

 

「やめ、――早苗! 何とかしなさい!」

 

「は、はい!」

 

 慌ててライスシャワーが小悪魔を追尾してくる。これはもう……遅い。

 

「神と悪魔で相打ちならおつりがくる。いくぞ!」

 

 ネクタイの奥から取り出したとっておきのスペルカードが惜しむことなく発動される。

 

「槍符『デビルズグングニル』‼」

 

 小悪魔の背後から、黒い槍状の弾幕が何本も形成される。まるでレミリアのスピン・ザ・グングニルが増殖したかのように。

 

 決死の覚悟で放たれた弾幕にあっけにとられた諏訪子は、

 

「ふわわわわっ‼」

 

 ピチューン

 

 悪魔の槍に貫かれた。だが、その代償は大きく、

 

「スペカ打つのってこんなにつらいの……大ちゃん、早苗さん強敵だけど頑張ってね」

 

「こあちゃん……まだ、まだいけるよ!」

 

「はは、ごめんね。ちょっとこの米粒は避けきれないや。それに早苗さんくらい余裕で勝てないと、」

 

 とうとう、ライスシャワーが小悪魔に追いつき、

 

「優斗さんには絶対に勝てないかな」

 

 全方向から被弾した。

 

 小悪魔と諏訪子、相打ち。

 




第六十八話でした。小悪魔にスペルがあってもいいじゃない。

デビルズグングニルはレミリアのそれより数は多いですが、威力は低い感じですかね。

あと1、2回で弾幕ごっこ大会も終わりですかね。うp主が変な気を起こさなければ。

これが終わるといよいよ……伏線を要チェックだ!

では!


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第六十九話 ラストスペル

 普段は俺を貶めることに全力を注いでいる早苗だが、その裏には確かな実力がある。普段チャラいやつが実は強い、そんなお約束な展開のあれだ。

 

 そもそもあちらは自称人間の半分神様。人為的に豊作にさせたり、海を割るなんてお手の物だ。対してこちらは幻想郷最弱とも揶揄されている種族の、きわめて普通な妖精。ハナから不利な勝負なのだ。

 

 ――だが逆に考えれば、もし早苗に勝てたらジャイアントキリングということだ。

 

「ほらほら、どんどんツッコみますよ。――逃げてばかりでは勝てないですよ?」

 

「……だから挑発には乗らないって」

 

「ふむ、まあそのくらいはわかっていますけど、結局こちらから行くだけですけどね!」

 

 早苗がお祓い棒を高々と上げると、その先端から諏訪子のように蛙弾が放出される。

 

「さらにもう1個」

 

 今度はお祓い棒を横になぎった。すると今度は細かい粒弾。物量が違うな。

 

「さあさあ、今度は『フォーメーションケロケロブレイク』とでも題しましょうか! 弾けろっ‼」

 

 2種類の弾幕が交差し、わずかな間だけ融合するように混ざり合い、

 

「うわっ! ――……しょうがない、魔符『フェアリーズマジック』!」

 

 爆発四散した。完全ランダムでしかも高速の融合弾が、大妖精の四方八方を取り囲む。

 

 たまらず2枚目のスペルを発動させて何とか弾消しを図ろうとする大妖精。今の状況を数学らしく表すと、早苗の通常弾=大妖精のスペルカードということだ。

 

「ふふ、これで使い切りましたね? 私の記憶が正しければ、あなたはこれしかスペルを持っていない。まあ3枚目を撃てる余裕があるか怪しいところですが」

 

「……っ、ずいぶんと余裕だね」

 

「そりゃこっちだって、日々霊夢さんに追いつけるよう精進していますからね」

 

 息を切らしながら声を絞りっ出す大妖精に対し、薄ら笑いを浮かべる。

 

 ああ、もうこれは――、

 

「おや、まさか大妖精さんが負けるとでも思いですか?」

 

 終始心を読んでいる地底の主が車いすの下から聞いてきた。

 

「あんまりネガティブな思想は好きじゃないんだがな。1対1に持ち込まれた時点で相当厳しいと思うぞ」

 

「それは愛しの大ちゃんを裏切ったと判断してよろしいので?」

 

「あくまで事実を言ったまでだ」

 

 愛しってなんだ愛しって。

 

「そんなんだからいつまでもチキン野郎って言われるんですよ」

 

「それは大妖精が言われて無かったか。ほら、もう1人の大妖精に」

 

「論点ずらさないでもらえます?」

 

「サーセン。でもやっぱり弾幕の濃さが……」

 

「はあ……」

 

 大きなため息をつくと、さとりは車輪の隙間からこちらに目線を合わせてきた。珍しく、まるでゴミを見るかのような目で。

 

「ですから、その時点ですでにネガティブなんですよ! あなたは大妖精さんの一番の理解者でしょう? 信じなくて誰が大妖精さんを惚れさせるんですか?」

 

「わか、わかってるけどさ! ――あとちょいちょい恋愛要素入れてくるのやめろよ……頼むから」

 

 それをされると正常な思考ができなくなりそうだ。

 

 なぜか、なぜだか頭がぽーっとする。熱のせいだとすがりたくなるが、そんなことではないと体の奥からアピールされている。まったくもって不思議だ。

 

「ふーん。話変えますけど、結局わかったんですか。その動悸と息切れの原因」

 

「いや、まったくもって」

 

「はあ……もう誰かに相談しては?」

 

「言われなくてもその予定だ」

 

 俺1人ではどうしようもない、きっと大妖精に話すしかないのだろう。大妖精ならきっと、分かってくれる。これも根拠は微塵もないが、なぜだか断定できそうな気がする。

 

「ったく、ここまでヘルプしたのにまーだ足りないんですか」

 

 ぼそっ、とあまりに小さい独り言をつぶやく。その後彼女は車いすを跳ね飛ばし、不意に立ち上がった。

 

「おい、映姫に見つかるぞ」

 

「構いませんよ、今度こそ決めてくださいよ」

 

「何を?」

 

 俺の質問をまるっきり無視して、さとりは2人が戦っている方へ首を傾けた。

 

「大妖精さん、ちょっといいですか?」

 

 突然自分の名前呼ばれ、大妖精はとっさにこちらを向いた。

 

「は、はいっ⁉ ――さとり先生?」

 

「おっ、教育的指導ですか。どうぞごゆっくり」

 

 早苗も空気を読んで弾幕を一時停止してくれた。いったいどんなさとり劇場が始まるのか。

 

「なんかですねー! 優斗さんが言うにはあなたが早苗さんに負けるらしいですよー!」

 

「ちょちょちょちょ、とんでもないこと告げ口するな⁉」

 

 ただのチクリだった。

 

「……本当?」

 

「私は心を読む妖怪ですよ?」

 

 しかも大妖精も信じてる⁉ いやまあ、状況が不利なことは動かしがたい真実だけどさ。

 

「優斗?」

 

 出ましたデススマイル! 俺は死ぬ。

 

「そ、そんなことはない! 絶対に勝てるって信じてる、やれるから! こんな似非心理カウンセラーは信じるな!」

 

 インフルエンザもびっくりの必死の弁解で説得する。こんなに大声を出したのは久しぶりだ。

 

「男は信用できませんからねー。どこまで信じてあげれるか……」

 

「信用できないことは無いと思うけど……不安だね」

 

「じゃあこうしましょう。もしこの勝負にあなたが勝ったら、優斗さんの二人きりで話をする。これなら優斗さんの本心もわかりますよ。ちょうど彼も言いたいことがあるそうですしおすし」

 

「なんでもいいよ」

 

「あの、俺の意見は取り入られないんですか……」

 

 大妖精もバトルで熱くなっていつもの冷静な感じじゃなく、どんどん話が変な方向に向かっていく。

 

「じゃあそういうことで。中断させてしまいすみませんでした」

 

 ぺこぺこと周りに謝り、事後のケアも忘れない。

 

「おい、どういう魂胆だ」

 

「私としてはあなたの願いをかなえたつもりですが。まっ、大妖精さんの頑張り次第ですね、いろんな意味で」

 

「はあ?」

 

 さとりが言い終わった瞬間、今度は大妖精が口を開いた。

 

「早苗、私にチャンスをくれない?」

 

「おお、ついにやる気になってくれましたか!」

 

「このままやっててもジリ貧だし。それなら一縷にかけた方がいいかなって」

 

 いつにもない自信に満ち溢れた表情が新鮮だ。今日は大妖精の熱い一面を見たような気が……

 

 ドクン

 

「かはっ……!」

 

 心臓が高らかに鳴り響く。だからなぜだって何回も言ってるんだ。なぜ経験したことのない感情がわく?

 

 俺の葛藤はさとり以外には誰にも知られず、大妖精は続ける。

 

「お互いスペル1枚ずつで勝負するの。もう逃げも隠れもしないよ」

 

 まさか、大妖精が3枚目のスペルを持っていただと? 俺が倒れている間にいつの間にそんな……。

 

「それは構いませんが……そんな悪条件でよろしいので?」

 

「自分からわざわざ不利な条件を仕掛けると思う?」

 

「おお、今日はいつにもまして強気ですね」

 

「今日は何が何でも絶対、勝たないといけないの。こあちゃんのためにも」

 

「……そしてあなた自身のため、でもあるわけですか。いいでしょう、いざ尋常に」

 

 一陣の風が2人の間を通り抜ける。会場で無駄話をしているものは1人もおらず、静寂が包み込む。

 

 さあ、本当のほんとにこれで、――決まる。

 

「ではっ‼」

 

「勝負だっ‼」

 

 お互いのおそらく最強であろうスペルが取り出され、

 

「大奇跡『八坂の神風』!」

 

「『妖精の円舞曲(ロンド)』!」




第六十九話でした。投稿遅れてすみません。(デジャヴ)この前買ったBF1が面白すぎたのだ……。

結局さとりさんの出番かー。まあいいけど。(艦これネタですみません)

次回決着になると思います。しかし、優斗との延長戦がまだ残っていたり……。

ではっ!



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第七十話 最終戦の前哨戦

 八坂の神風……確か風神録では早苗が最後に放ったスペカだったな。

 

 粒弾が弧を描くように早苗の周りを一回転し、そのあと中弾とともに一気に襲い掛かってくる物量重視の技だった気がする。

 

 背筋がきゅっと引き締まり、さらに緊張感が高まる。早苗が出した最高のスペル、大妖精はいったいどうやって返していくのか。

 

 先に展開が終わったのは早苗で、大妖精の左右まとめて、弾幕を向かわせる。

 

 高速で襲い掛かる弾幕。今にも大妖精に当たりそうになったその瞬間、

 

「それっ!」

 

 一気に跳躍。今まで見たこともないスピードで空を駆け、早苗の上を取る。

 

 そのまま大妖精の身体の周りに数々の弾幕が展開されていく。赤、青、緑、黄、オレンジ、紫、水色と色とりどりの小弾だ。

 

「これは……」

 

「おそらく虹をイメージしているのかと」

 

「ああ、なるほど」

 

「ほら、大妖精さんの反撃開始ですよ」

 

 だがこのスペルを見た早苗は一笑して、

 

「なるほど、きれいな弾幕ですね。ですが、数が! 量が! 圧倒的に足りませんよ!――さあ我が弾幕よ! 八坂の風で大妖精さんを倒せ」

 

 弾幕を上に傾け、勝負を決めに掛かる。

 

 確かに大妖精の弾幕は薄い。7色の弾が……5セットで35個くらいだろうか。対して早苗はその何十倍もある。

 

「悪いけど、この勝負貰いましたかね」

 

「弾幕は量じゃないよ」

 

「ほお? だったら証明してみてくださいよ!」

 

「今からそうする! いけっ!」

 

 その35の弾が移動を開始する。

 

「……なんですかこれは。遅すぎません?」

 

「さあ、どうだろうね」

 

 早苗の言うとおり、虹の弾幕は致命的にまでゆっくりだった。

 

「どうするんですか、これではすぐに消されますよ」

 

 さとりが怪訝な表情で聞いてくる。

 

「へえ、そりゃ珍しいな」

 

「へっ?」

 

 さとりにしては少し短絡的な考え方だ。理由もなく大妖精がこんなことするはずもない。

 

 速度は遅いし、量も少ない。ではこのスペルはどこにリソースを割いているのか。それを考えればいい。

 

 ただ体力がなくなったから? 違う。では、1発の威力が高い? 違う、弾幕ごっこは1回でも当てれば勝ちだからな。

 

 ではこのスペルの最大の利点とは、あれしかない。

 

「あの虹弾を吹き飛ばしちゃってください!」

 

 早苗の真っ直ぐな弾幕が7色弾と相殺するために移動する。

 

 2人の弾幕が交差する直前、

 

「ふへっ?」

 

 早苗が間のぬけた声を出した。

 

 無理もない、だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてまた少しずつ、早苗に接近していく。

 

 早苗も何とかしようと次々と向かわせるが、結果は同じだった。

 

「まさかっ……!」

 

 ようやく早苗がそのカラクリに気付いた。

 

「……()()()()()()()()()()()⁉」

 

「その通り、よく気づいたね……」

 

 会場全体がざわつく。今までにないタイプのスペルカードだ、当然だろう。

 

 目標物に当たるまで決してその歩みをやめない、相手にとっては恐怖の弾幕。けどこちらから見れば、その華麗さはまるでロンドを踊る妖精のようで。

 

「さあ、倒しちゃって……はあ、はあ……」

 

 しかしこれを出すには相当な労力が必要らしい。すでに息絶え絶えで、弾幕を回避するだけで精いっぱいのようだ。

 

「……ならば当たる前にあなたに私のを当てる!」

 

 大妖精の限界が来るのが先か、弾幕に出すのに必死な早苗が被弾するのが先か。

 

 息もつかせない攻防が長針1週分くらい続いた。

 

 ――結果は、

 

「……ダメですか。ここまでのスペルでも避けきりますか……!」

 

 早苗の勢いが弱くなる。すでに弾幕の密度も薄くなり、それに反比例するように大妖精の弾幕は早苗の首を絞めていき、とうとう、

 

 ピチューン

 

「勝者、大妖精!」

 

 被弾と同時に、霖之助が高らかに宣言する。

 

「やった!」

 

「さすが大妖精さんですね! こんな青春的興奮したのは久しぶりです!」

 

「青春的興奮ってなんだよ」

 

「性的ではないということです」

 

「うん、いつも通りで安心した」

 

 いつもの変わらないさとりとの掛け合い。このまま何事もなく家に帰って、いつも通り過ごせればありがたいのだが、

 

「では優斗さん、覚悟はよろしいですか?」

 

 今日ばかりはそうはいかない。

 

「大妖精さんは私との契約通り、試合に勝ちました。今度は優斗さんが約束を守る番です」

 

「……極めて不本意だがな」

 

「けどそちらの方はいいでしょう? そのモヤモヤ、スッキリしたくありません?」

 

「お前がその正体を言ってくれたら早いんだけどな」

 

「ですからそれでは意味がないって言ってるでしょう? あなたは頭いいんですから、そのくらい自分で判断してください」

 

「……ふん、そこまで言われて逃げたら1生文句言われるな」

 

「ではいきますか、ちょうど大妖精さんも落下してますし」

 

「いつでも……――はっ?」

 

「ほら、体力を使い果たしたらしく」

 

 そちらを見てみると、確かに大妖精がふらついていた。意識はあるのだろうが、いくら羽を動かしてもその高度が維持されることは無かった。

 

「こっからは延長戦です、ぜひ勝利してもらえるとありがたい。優しい優しいさとりさんの情けで心読まないであげるので、全部ぶちまけちゃってください」

 

 柄にもないウインクがちょっとかわいいと思ってしまった。

 

 今は気づかれないので、心の中で思っておこう。

 

 ありがとうさとり、お前のおかげで真の自分と向き合えそうだ。

 

「では、大妖精対朝霧優斗、試合開始っ‼」

 

 大妖精と俺の真下にスキマが広がり、一気に落下する。

 

 

 

 

 

 

 

 ボフッ

 

 落ちたのはベッドの上だった。

 

 ゆっくりと息を吸って、吐く。

 

 その途端、甘いにおいがぶわっと入ってくる。ミントのようにさわやかだけど、それでいてバターのように芳醇。まさか、

 

「これ大妖精のベットか……」

 

 あまり彼女の部屋には入ったことないのだが、相変わらずきれいに整えられていた。ベットの横にある白いクッションがいかにも女子の部屋だ。

 

 あの机の上には……アルバム? 文からもらった写真だろうか。

 

 いずれにしても、ここにいると心が落ち……

 

「つかねえよっ!」

 

 自作自演ノリツッコミなんて初めてだな。それだけ精神が乱れているということか。

 

 もう一度、深呼吸……落ち着いて、落ち着いて、

 

 ふわっ

 

 無理。なぜかここの空気を吸うたびに、ぽわーんと頭が霞む。

 

 まあガンジーのように平常でいろなんて無理な話だ。これはただの勘でしかないが、なにか大きく、人生が変わりそうな気がする。

 

 視界にちらっと映った天井を見上げると、もう一個スキマが現れた。

 

 そこから出てくるのはもちろん、いうまでもない。

 




第七十話でした。何回でも叫びたい、さっとりん!さっとりん!

ホントは最後まで書き切りたかったのですが……時間がないんだ時間が。あと一時間あればなあ……

今週めちゃくちゃ忙しいので、来週末投稿できないかもしれないです。って、いつものことか……

では!


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第七十一話 気持ちの正体

※第七十一話から見始めた方へ

かなり重要なターニングポイントです。ここから見始めても十分お楽しみいただけますが、第1話から見始めることをお勧めします。

そんな暇ない!という方は、第51話から見ていただくと最低限の流れが分かるかと思います


 ボスっ、と鈍い音を立てて現人神に勝利した妖精は降り立った。

 

 何が起こってるのか分からないと目をぱちくりさせているその表情はワルツのように華やかで、それでいてロンドのように爽やかで。

 

「はれ……? どういうこと?」

 

「とりあえず夢じゃないってのは確かだな」

 

「うん……――なんでいるの?」

 

 ベッドで向かい合って数秒。特に驚かれもせず、真顔で質問された。ただ、それの返答は非常にしにくいのだが。

 

「まあ1番はさとりに……いやなんでもない、ちょっと話があってだな」

 

 さとりに促されたのは事実だ。だが、本意はそこではない。

 

「ふーん。なになに?」

 

「――そうだな、何から話せばいいか……」

 

 大妖精が無防備にこちらへ顔を向け思わず目線を逸らす。大妖精も大妖精で疲れてあまり冷静な思考ができていないのだろう。

 

「まずはおめでとうって言っておくよ。まさか早苗に勝つなんてな……正直厳しいと思ってた」

 

「大番狂わせだったでしょ! 優斗も応援してくれてるし、絶対に負けないって思ったら、ほんとに勝っちゃった」

 

「最後のスペル、自分で考えたのか?」

 

「うん、こあちゃんと2人で作ったんだ。会心の出来だよ!」

 

「まさか追尾弾とは……成長したな。7色でとても綺麗だった。早苗の意表を突く、素晴らしいスペカだったと思うぞ」

 

 俺が見てないところでどんどん大きくなっていくんだな。

 

 俺の本音に歯を見せて笑った大妖精は、

 

「妖精が下剋上するためには頭を使うしかない。そう教えてくれたのは優斗だよ?」

 

「そういえばそんなことも言ったな。大分昔の話だ」

 

「そうだね、優斗が来たのがもう10カ月も前……なんだかもっと長く感じるよ」

 

「外の世界の科学によると、つまらない時間ほど長く感じるらしいぞ?」

 

「へっ? ――いや、べ、別にそういうことではないよ⁉」

 

「すまん、冗談だ。俺もすごく長く、幸せだ。そう思ってる方が幸せだしな」

 

 なぜか今だけは、心からの本音が言える。さとりが能力でも使ったのだろうか。

 

「それならよかった。あの時はほんとに急に人間が現われて……どうなることかと」

 

「あそこでお前がいなかったらチルノに凍らされて生きてなかっただろうな」

 

「それで何の因果か……不思議だね」

 

「ああ、まったくだ」

 

 レミリアではないが、運命というのはほんとに数奇なものだ。

 

 まさか幻想郷が実在していて、公式では立ち絵さえない大妖精とこうして暮らして。1年前、高校に上がる前まで誰が想像できただろう。

 

「初めはスペルさえ持ってなかったもんなー」

 

「そうだね。これで3枚目……弾幕ごっこ大会で戦えるくらいにはなったよ。――それで、話って?」

 

「ああ、そうだな……」

 

「終わってさあ落ちようと思ったらいきなりこんな……まだ理解が追い付いてないよ」

 

「確かに。――って、試合後は倒れること前提なんだな」

 

「むー……だってそうしないと勝てないもん」

 

 思わずクスッと笑ってしまう。確かにその通りだが、頬を軽く膨らましながらだとなんだかほほえましい。

 

「いや、まあいろいろ聞きたいことはあるんだけど、なんて表現すればいいのか……」

 

「なになに、そんなに迷うことなの?」

 

「そうだな、何から話せばいいのか……」

 

 まずはあたりさわりのないとこから。

 

「ほら、まだちゃんと話せてなかっただろ? まだインフルエンザが完治してなかったこと」

 

「そうだね……って、やっぱり無理してたの?」

 

「いやいや、永琳の薬は最上級だぞ。――インフルエンザはそれを上回るけど」

 

 今度は打って変わって不安な顔。くどいようだが、ここまで感情表現が豊かな女の子を今まで見たことがない。

 

「けど、結局何とかなったからいいじゃないか」

 

「もう……優斗らしくないよ」

 

「はは、確かに。それだけ周りが見えてないってことかな」

 

「堂々巡りになるけど、なんでベットで休んでなかったの? どうして車いすになるまで動き回ってたの?」

 

「う……」

 

 顔を寄せられ、文もびっくりの素早さで質問攻めされる。視線は先ほどからずっと俺の目の中だ。

 

「なんでかなー……」

 

 返す刀で1つ、息を大きく吐いた。

 

 言い表しがたい、不思議としか言いようがない感覚だ。自然と身体から力が抜けていく。

 

 特にそれに抗うこともせず、俺はベットにあおむけに横たわった。

 

「ただ確実に言えるのは、大妖精、――お前の試合が見たかった」

 

「え?」

 

「どうしても、永琳からの怪しいクスリ服用したとしても、雄姿を拝みたかった」

 

 一つ一つ、次にいう言葉を慎重に選んでいく。

 

「おかしいよな、いままでここまで強い感情は生まれなかったのに」

 

「そ、それってどういうこと⁉」

 

 大妖精が興奮したように覆いかぶさってくる。両手で支えを作り、髪を垂らしてこちらを覗き込むようにしていた。

 

「そうなんだよ、それがさとりが言ってた俺が質問したい事柄だ」

 

「うん、話してみて」

 

 あっさりと引き受けてくれた大妖精は、呼吸が軽く乱れていた。そんなに驚くべきことか?

 

 どっちにしろ好都合。教師としても、できるだけわかりやすく伝えよう。

 

「看病された時からか……それとももう少し前か……。なんだか、顔が赤くなったり、胸がドキドキするんだ。インフルの影響かと始め思ったが、どうもそれとは関係なく突発的に出る」

 

「どういうときに?」

 

「お前だ」

 

「はいっ?」

 

 意味が分からない、といった様子で首をかしげている。当然だ、俺もわからないことをつらつらしゃべっているだけだから。

 

「おかゆを食べさせてくれたときとか、弾幕ごっこを一生懸命やってるときとか、お前の優しいところとか、そういうとこを見ると、思わず目を背けたくなる。あ、もちろん悪い意味じゃないぞ」

 

 これ以上眺めていたら、なにかの一線を越えてしまう。そう身体が言ってる気がして。

 

「それって、もしかして……」

 

「ん? わかるのか?」

 

「……本当に見当つかないの?」

 

「ああ、サッパリ」

 

 大妖精の呼気がさらに荒くなる。どういうことだ、そんな変な質問したか?

 

「優斗、それって、もしかして、」

 

 1文節ごとに区切るように、大妖精がゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「…………」

 

 だが、肝心の中身の手前で、止まってしまう。

 

 しばらく沈黙が続く。よっぽど場をつなぐ何かを言おうと思ったが、寸でのところで踏みとどまる。

 

 ――どのくらい経っただろうか。突然大妖精が、

 

「こういうことっ⁉」

 

 一瞬にして距離を詰めた。彼女の体を支えていた腕がとめる暇もなく、俺の背中に回る。布団と背中の間に隙間を開け、指と指が絡まったのが感じ取れた。

 

 その腕に力がこもる。さらに、吐息がわかるくらいにまで大妖精の顔が近づいていく。

 

 ドクドクドク、俺の心拍数が急上昇する。今までで一番激しい反応だった。

 

 つまり、これはすなわち、

 

「……大妖精、これは」

 

「……ぎゅってしてるの」

 

 やっぱり。

 

「どう、優斗。私の心臓の音感じ取って」

 

 上から覆い被さられているので、心拍音がじかに伝わっている。

 

 そちらに意識を向けたと途端、

 

 ドクドクドクドクドクドクドクドク

 

「……俺と一緒で速いな」

 

「でしょ? それに私、とっても暑いの」

 

「つまり、俺と一緒の感情を持ってるってことか?」

 

「そういうこと……でいいね?」

 

「はえっ?」

 

 今強い要求をされた気が。

 

「私とおんなじ、そうでしょ?」

 

「ああ、そうだと……思う?」

 

「そうだよね?」

 

「はいっ‼」

 

 ニコッ、十八番のデススマイルが飛び出した。なんでこのタイミングで……。

 

「よかった。それなら、もうためらうこともないや」

 

 今度は安堵の顔になった。

 

 ためらうって何のことだ? そんなに話しにくいことなのか?

 

「ずっと前から想ってたよ。この感情は、」

 

 大妖精の口から、ずっと探し求めていた答えが飛び出ようとする。

 

 走馬灯のように、ゆっくりゆっくり、時間が1フレームごとに進んでいく。

 

 いよいよ、時を迎える。

 

「す――うわあっ⁉」

 

 だが、大妖精が答えを言うことは無かった。

 

 なぜなら、

 

「……これは、何だ?」

 

「……矢、だね」

 

「もちろんそうなんだけどさ、見ろ、矢文だ」

 

 スコッ、と軽い音を立て、突然天井から矢文が飛んできた。俺の横、わずか数十センチのところに刺さっている。

 

 今さら天井から降ってくることに驚きはしないのだが、さすがに手紙が降ってきたのは初めてだった。

 

「どれどれ……」

 

 大妖精と話したいのはやまやまだが、まずはこれを確認しなくてはならないだろう。

 

 身体を起こし、矢文から手紙を取り出して広げる。

 

「なんて書いてあるの?」

 

 両手で手紙を持ち、とりあえずさらっと一読……。

 

「……はあ?」

 

 できなかった。書かれている内容があまりにも衝撃的すぎて。

 

 横から覗き込んでいる大妖精もみるみる青くなっていく。

 

「……紫、さとり、永琳‼」

 

 即座に判断し、いつもなら頼りたくない3人を即座に呼ぶ?

 

「ゆっかりーんて呼びなさいよ」

 

「どうしました? まだ終わってないんですか?」

 

「ちょっと、これから審判なんだけど」

 

 ものの数秒で3人が軽口をたたきながら飛んでくる。

 

「そんなこと言ってられなくなったぞ。これを見てみろ」

 

 飛んできた手紙、それは、

 

『月世界、正体不明ノ敵ニヨリ侵入ヲ受ケテイル。現在、相当劣勢ナ状況。至急、応援求ム。豊姫』

 

 月世界からの緊急通報(エマージェンシーコール)だった。




第七十一話でした。さあ、終わりの始まりです。

お待たせいたしました……いつもの倍くらい書いたので許してくださいなんでも(ry

話は変わりますが、チルノのさんすう教室⑨周年版が発表されましたね! もう20回は聞きました!

ではっ!


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月世界での攻防 ~もう一つの東方紺珠伝~
第七十二話 絶望の布陣


「助けてください? あの姉妹が? おかしな話ね」

 

 呼んだ手紙に異議を唱えたのは紫だ。

 

「あれだけプライド高いのに、普通こんな手紙送ってくるかしら? たちの悪いいたずらじゃない?」

 

「あなたねえ……よく考えなさいよ。確かにあの子たち、特に依姫は排他的だけど、だからこそ今切羽詰まってるんじゃないの?」

 

「そうだと思うぞ。俺たちが弾幕ごっこ大会やってるの知ってるだろうし」

 

「ふーん……。まあ行くだけならいいけど」

 

 よく二次創作なんかで書かれている紫とは違い、ここのゆかりんは温和でよかった。

 

「じゃあどうしますか。私たちだけで行きます?」

 

「そうだな……」

 

 さとりの質問に髪の毛を触りながら考える。

 

 まず言えるのは、すぐに出発しなければならないということだ。

 

 ただ当然、今は弾幕ごっこ大会の真っ最中だ。簡単には人は集まらないだろう。時間と人手、相反する問題をどうやって解決するか。

 

「なら簡単ですよ。私、いいもの持ってるんですよ」

 

 おもむろにさとりが取出したのは、外の世界で見たことある気がするトランシーバー。

 

「そんなもの持ってるのか」

 

「にとりさんの技術は幻想郷一ぃぃぃぃぃ! ということでね」

 

「だったら早速頼む」

 

「私もスキマで呼んでくるわね~」

 

 言うが早いが、2人は颯爽とスキマの奥へと消え去った。

 

 戻ってくるまで数分あるだろう。それまで休憩と、もう一度ベッドに横たわる。

 

「優斗、ほんとー、に無理してない?」

 

「いや、もう限界」

 

「とうとう我慢しなくなったね……」

 

「……もう相当無理してると思うぞ。まだひと踏ん張りしなくちゃいけないみたいだけど」

 

 またぶっ倒れてベットに強制送還される未来が見えるのだが、手の打ちようがない。

 

 頭を空っぽにして、少しでも充電しようとしているところに、もう1人の重鎮が来た。

 

「あなた本当にあっち行くの?」

 

「お前と紫とさとりだけで無双できそうな気はするけどな」

 

「そんなんだからいつもテスト採点押し付けられるのよ」

 

「語弊があるな。押し付けるってのはいやいやながらも引き受けるってことだ。俺には拒否権がない」

 

「それだけ口回るなら起き上がりなさい……といいたいところだけど、今回は特別サービス」

 

 永琳は一つため息をついた後、胸ポケットから取り出した錠剤を渡した。

 

 どこぞのアポトキシン4869のように怪しいが、これはどのような薬効があるのだろう。

 

「ほら、疑う前にさっさと飲む」

 

「ゴハッ⁉」

 

 強引に喉の奥に突っ込まれた。どうでもいいが、いつもこんなことやられてるうどんげの気持ちがちょっとだけわかった。

 

 一錠が食道、胃袋へと入っていき、腹のあたりが何だか熱い。即効性の薬だろうか。

 

「……なんか重いんだけど」

 

「そりゃ菌を死滅させてるわけだし」

 

「永琳先生、この薬ってどんな効き目なんですか?」

 

「そうよね、愛する優斗君が心配だもんねー」

 

「そ、そういうつもりじゃ……」

 

「この非常事態にあんまりからかうな」

 

「ビスケットじゃないけど、たたけば惚気が出てくるって素晴らしいと思うわ。――でその薬だけど、とにかくすごいっていえば伝わるかしら?」

 

「いや全く」

 

「ウイルス全死滅、内臓器官全回復、脳内スッキリ、アドレナリンによる体力増幅と持久力アップってところかしら」

 

「十分すぎるほど理解できた」

 

 外の世界を軽く凌駕していた。

 

「普段ならこんな生の倫理壊す薬出さないんだけどね……うちの子を助けてもらうんだし」

 

 頬を手でおさえながらのお姉さんボイスはなかなかにレアシーンだ。

 

「お待たせしました! いいメンバーがいっぱいですよ!」

 

 永琳の薬が完全に効いたころ、さとりのスキマが現われた。

 

「よし、早速通してくれ」

 

「了解です。まず小悪魔さん」

 

「大ちゃん、まだ試合が終わってないんだって? 私に任せといて!」

 

「こあちゃん、ありがとう。百人力だよ!」

 

 なるほど、確かに試合が終わった小悪魔ならすぐに呼べるな。……終わってないってどんな意味だ?

 

「咲夜さん!」

 

「月世界にはいろいろ因縁がありますので」

 

「あの、依姫に攻撃しないようにな?」

 

 そして俺も下手な発言でナイフを当てられないようにしないと。

 

「次に早苗さん!」

 

「昨日の敵は今日の友! 私も微力ならお手伝いいたしますよ!」

 

「あー、うん……」

 

 あれ、このメンバーさ……なんだかすごく嫌な予感しかしないんだけど。

 

「そして最後、文さん!」

 

「記録係はお任せください!」

 

 予想した通り過ぎて、反射的に頭を抱えた。

 

「そうか、これだけの豪華な顔ぶれなら俺は必要ないな。審判やってくる」

 

「許されると思ってるんですか?」

 

 あ、死んだな。第六感がそう告げた。

 

「……謀ったな」

 

「さあ、何のことかサッパリ」

 

「あら、何話してるのよ。こっちも連れてきたわよ」

 

 今度は壁から紫のスキマが出てきた

 

「じゃあ紹介するわね。映姫校長先生よ」

 

「月世界の危機と聞いて」

 

「帰るううううううう!!」

 

 何なんですか、肉体の危機を脱出したと思ったら今度は精神的に苛め抜くつもりですか俺に休息の時は与えらえないんですか。

 

「ほら、もう繋いどいたからさっさと行くわよ」

 

「こんなところいられるか。俺は帰るぞ」

 

 半ばあきらめの死亡フラグを自分から立てる。

 

「大妖精さん、羽交い絞めにしてしまいなさい!」

 

「うんっ!」

 

「おわっ、ちょ、そんな……」

 

 連行される絶望感が、背中にかかる柔らかい感触に全て塗りつぶされる。

 

 皆を見回すと、全員合わせたかのようなニヤニヤ。

 

「……頑張ろ」

 

 敵は月世界を攻めている輩だけではない、とひしひし感じつつスキマの奥へと突入した。

 




第七十二話でした。このメンバー強そう(小並感)

優斗にとっては嫌な思い出しかないですが、まさにオールスターメンバーですね。さすがに気分が高揚します。

ここからはちょっとまじめなお話。

みなさまお気づきでしょうか。僕の小説、ある東方シリーズのキャラが一人も出てないことに。そして月世界が攻められている。

はい、つまり今回の敵はあの人たちです。お楽しみに。(72話の先頭に書いてあるのでいう必要なかったような……)

では!


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第七十三話 「アイツ」の正体

 スキマに入ったら一瞬で月世界まで行ける、というわけではないらしい。なんだかグニャグニャ歪んでいる奇妙な空間を進んでいく。

 

「紫さん、あとどのくらいで着くのですか?」

 

「そうですよー、早くバトりたいです」

 

「私も、お嬢様から指令を受けているので」

 

「えっ、レミリア様このこと知ってたんですか? さすがカリスマ……ですね」

 

「あなたのとこのお嬢様威厳がなさそうね」

 

「それに比べて,紫お姉さんはみんなの役に立ってるわよー。もっと褒めてもいいわよ」

 

「わー、スゴイデスネー」

 

「どうしよう、このテンションについてけないんだけど」

 

「私もそうだから心配しなくていいと思うよ」

 

「あまり口をはさむとロクなことはないでしょうね」

 

 前から文、早苗、咲夜、小悪魔、紫、永琳、さとりにしんがりが俺と大妖精と映姫。みんなぺちゃくちゃ喋っている。

 

 パッと見いつも通りの光景だが、実は切羽詰まっている……ような気がする。

 

「ほら、もうちょっと緊張感持たないと」

 

 パンパンと手をたたくと多数の目がこちらを睨みつけてくる。

 

「この布陣でそんなこと言われましてもねえ……」

 

「うん、早苗が言うとめちゃくちゃ説得力がある」

 

 さっきから雰囲気が遠足みたいだ。

 

 小学校の先生のような気持ちになりながら歩くこと十数分、

 

「えっと……ああ、これね。――みんな、ここに入れば月世界に行けるわよー」

 

 1つのスキマをまさぐっていた紫が、手をメガホンにして叫ぶ。

 

 両手でごそごそやっている内に、スキマが俺の背丈くらいに広がった。あれ伸縮可能なのか。

 

 よく分からない驚きに浸っている間に、前から一列にスキマに入っていく。躊躇なく突入していて、みんな異変慣れしているな。

 

 俺も負けてはいられない。パソコンの画面を開き、東プロ辞書を起動。いつでもスペルが発動できるようにしておく。

 

 永琳の薬が強力過ぎて、体中に鋭気がみなぎっている。強いスペルを出すほど体力を消耗する俺の能力だが、これなら妖怪でも神でも吸血鬼でも余裕そうだ。

 

「どうしたの、早くしなさいよ。開け続けるのめんどくさいのよ」

 

「ああ、ちょっと待ってくれ……」

 

 1つ深呼吸して、心臓の高鳴りを抑える。

 

 この時、ちょっとだけさとりの言葉が脳裏によぎった。

 

『これで最後かもしれませんし』

 

 あれはもしや、これを予期していたのではないか。いまとなっては考えるだけ無駄だが。

 

「紫、先行ってくれ」

 

「え? ――まあいいけど。なるべく巻きでね」

 

 紫がスキマに消えた後、

 

「大妖精、悪かったな。さっき話を遮って」

 

「ううん、こんなことになっちゃったもん。しょうがないよ」

 

「けど、大切な話なんだろ? 内容はよく分からないけど、これだけははっきり理解できる」

 

「そうだよ、ずっと前から言おうと思ってたこと。夏祭りとかね」

 

「夏祭り……ああ、あの花火の時か」

 

「そう、いつもタイミングを逃しちゃって……」

 

 夏祭りというと……約半年前か。そんな昔から、思ってたのに口に出せない。重ね重ね、ひどい仕打ちをさせてしまったと自覚して、心が痛くなる。

 

「今度こそ、これが終わったら本当に、話そうな。それまで我慢してくれるか?」

 

「もちろん、慣れっこだからね」

 

 クスッと笑う大妖精に俺もつられてしまう。

 

「そうか、ありがとう」

 

「えへへ……」

 

 思わず手で大妖精の頭をポンポンしてしまった。

 

「よし、行くか!」

 

「うんっ‼」

 

 2人で走って一気にスキマを脱出する。そこでは――、

 

「風符『風神一扇』」

 

「出会いがしらに弾幕とは礼儀が鳴ってないですね。私を見習ってほしいものです。想起『テリブルスーヴニール』」

 

「いや、お前も弾幕出してるだろ」

 

 なんてツッコミはほどほどに、文たちが対峙してるほうへ首を回した。

 

 そしたらそこにいたのは、

 

「……なるほど、さとりが分からないわけだ」

 

「あ、あれって、もしかして、式神⁉」

 

 100体はいるだろうか。俺を散々苦しめてきた式神らしきものが襲い掛かっていた。

 




第七十三話でした。歯車が動き始めました。

もはや恒例となりつつある、遅れて申し訳ありません……。けもフレ事件が響いたんだ……

では!


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第七十四話 会議開始

「あいつらは月世界への侵略者……だったのか?」

 

 それならなぜ幻想郷なんかに来ていたのだろうか。侵略への土台にでもするつもりなのだろうか。

 

 相変わらず疑問は耐えないが、今は目の前の障壁を取り除くことが先決だ。

 

「優斗、この先行ったところに大きな広場があるわ。以前依姫たちと戦ったね」

 

「最強妖怪がなんで月世界に詳しいんだ」

 

「そこは乙女の秘密よ~。で、そこの階段を下れば普段会議室として使ってる部屋があるから、そこにいって。きっと誰か居るはずよ」

 

「ちょっと、それ月人にしか教えてないトップシークレットなんだけど」

 

「私なんかに見破られるようじゃ秘密でもなんでもないわねー」

 

 紫と永琳がやいのやいの争っているが、その後ろでは相変わらず弾が交錯していた。

 

「優斗さん、ここは私たちにお任せを。お嬢様がボコボコにされた恨みをここで晴らさせていただきます」

 

「そうか、頼んだぞ」

 

 レミリアが戦ったのは依姫なんだけどね。そこらへんは理解してくれているらしい。

 

 俺、紫、永琳、映姫に大妖精は一斉に、式神に背を向け走り始める。

 

 もちろん背後から無数の弾幕が飛んでくるが、そこは幻想郷の実力者たちが抑えてくれている。なにも心配する必要がない。

 

 

 

 

 

 

 

 数分走っていると、近未来的なビル群が立ち上る。空中に浮いているチューブは移動用だろうか。他にもいろいろと使用用途のわからないものが数多くある。

 

 普段なら多くの月人で活気立っているのだろうが、いまは人っ子一人、その姿は見えない。

 

 さらに歩いていると、公園らしき場所に到着した。殺風景だった月世界に、新緑の芝生がよく生える。中央には樹齢数1000年くらいに見える巨木がそびえていた。

 

 ここが広場であろうから、この近くに階段が……

 

「こっちよこっち~」

 

 永琳が手を振った方には、確かに地下へと通じる螺旋階段があった。

 

 一列に並んで一段ずつ降りていく。鉄製の段はコンコンと軽い音を立てて、地下の人間に俺たちが来たことを告げるのだろう。

 

 しばらく下っていると、ドアが見えてきた。あそこが会議室だ。

 

「おーい、開けてくれー」

 

 待っていても反応がないので、とりあえず呼んでみる。

 

「……おまえは誰だ。刺客か? もしそうだったら容赦はしないぞ」

 

 扉の奥から冷ややかな声が返される。きっと兎の兵士であろう。

 

「いや、敵じゃない。俺は朝霧優斗。豊姫の助けの手紙を見て飛んできた、幻想郷のしがない教師だ。疑うんだったら、俺の後ろのやつを見てくれ」

 

「ほら、さっさと開けなさい」

 

「や、八意様あ!? も、申し訳ございません、すぐに!」

 

 ギシッ、と厚さ数十センチの鉄の扉が開き、中から2匹の兎が顔を出した。もちろん、腰に拳銃のようなものをぶら下げて。

 

 

 

「それで、いったいどんな状況なのよ」

 

 俺たちが席に座ってすぐに、永琳が問いかける。

 

 平静を装っているが、ちょっとだけ声がうわずっている。落ち着いていないのは明らかだった。

 

「は、はい! それについてはサグメ様が説明します」

 

「サグメ? ――あら、あの子あんなにえらくなったのね」

 

 聞き慣れない名前に質問する前に、部屋の奥にあるドアから誰かが入ってきた。

 

 セミロングの銀髪に、なんだか先の方で分裂しているスカートが特徴的なこの女性がサグメというわけか。

 

『こんにちは、稀神サグメと申す』

 

 月人らしく丁重に挨拶された。

 

「えっと、サグメさん? そのホワイトボードについていろいろと聞きたいんだが・・・・・・」

 

 ただし、マジックペンを用いた筆談で。

 

 もちろん世の中には喋れない人だって居るので文句は言えないが、月世界の技術で何とかならないのか。

 

『すまない、能力の関係上あまり喋れない』

 

「詳しく説明するとややこしくなるんだけど、サグメは言ったことと反対のことが起こる程度の能力なのよ。厳密に言うとちょっと違うんだけどね」

 

 確かにそれは大変だ。けどそれなら、

 

「ええー、それなら月世界に侵略者が来るって言えばいいじゃないですか」

 

 俺の気持ちをさとりが代弁してくれた。

 

 が、永琳は首を振って、

 

「だから、ドラえもんのウソ800みたいなこと、ってわけでは無いのよ」

 

「いちいち外の世界のアニメで説明するな」

 

 さすがにまだ幻想入りしてないと思うが。

 

「それで、一体どうなってるのよ。いきなり攻められたって……。そもそも、綿月姉妹は?」

 

 永琳がすばやく正面を向きなおして、続けざまに質問を浴びせた。

 

『それがだな……』

 

 マジックペンで書き書き、すぐに消し消し、謎の間が発生しながら現れた文章がひっくり返される。

 

『豊姫様は前線に、依姫様は今治療を受けている』

 

 一瞬、書いている意味が分からなかった。

 

 だかすぐに、

 

「嘘でしょっ⁉」

 

 バタッ、と机をたたいて立ち上がったのはやはり永琳だ。もちろん、俺も含めて皆の空気が変わった。

 

 あの依姫が、霊夢やレミリアの弾幕をもろともしなかった最強の姫が、ダウンしている。改めてただ事ではないのがよく理解できる。

 

『そして、敵は依然不明だ。今は防衛で精一杯でな』

 

「わかったわ。とりあえず依姫のとこまで連れてって。咲夜、いるー?」

 

「ここに」

 

 呼ばれた瞬間、トランプと一緒に咲夜が出現した。

 

「はい、治療はお任せください」

 

 血相を抱えて二人は飛び出していった。

 

 扉が閉まった後、視線が集中したのに気付いたサグメは再びペンを走らせる。

 

『みなさん、外へ出てみたらどうだ。敵の様子を知ってほしい』

 

「そうですね、まずは相手の弱点を知っておきましょう。行きますよ優斗先生」

 

「ずいぶんと積極的ですね」

 

「早く終わらせないと弾幕ごっこ大会が回らないでしょう? 何人教師が抜けてると思ってるんですか」

 

「そういえば……急がないといけませんね」

 

 映姫と話すと気持ちが引き締まる。がんばらないと。

 

『私も向かう。友人も来るので一回席を外すから外で合流だ』

 

「だそうだ。みんな行くぞ」

 

「「おう!」」と快活な声と共に一斉に立ち上がる。連携力なら負けはしないだろう。

 




第七十四話でした。繋ぎも繋ぎの話でしたね。

やっとサグメさんが登場です! あのミステリアスな雰囲気いいですよね……彼女の友人は誰でしょうか……あの三面ボスが怪しいですね。

では!


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第七十五話 突入開始

「それで、どこで戦闘は起こってるんだ?」

 

 愉快な仲間たちとジョギングしながら、先導する兎に質問する。

 

「はい、現在最大の激戦区となっているのは、この先の市街地、北都です」

 

「被害状況はどうなってるの?」

 

「東西南北、四つある都市が攻撃を受けています。負傷者多数、建物にも相当な被害があります」

 

「なんでだだっ広いとこに誘導しなかったのよ」

 

 紫の愚痴に兎は苦い顔をして、

 

「もちろん尽力しましたが……あまりにも数が多くて捌ききれていないのです」

 

「戦闘部隊をもってしても?」

 

「すでに前線にでております。しかし……劣性です」

 

「そこまでの相手とはね」

 

「これは燃えますね~。私の力のだしどころではありませんか」

 

 ほとんどのスペルを自在に操れるさとりにとっては、数だけ多い敵なんてなんてことないのだろう。……さとり?

 

「お前いつからここにいた?」

 

「無意識を操る程度の能力ですから」

 

「あっ、そう……」

 

「優斗さんは準備できてます?」

 

「もうとっくに。おまえこそスペルの準備はすんでるか?」

 

「奇跡を起こせと言われたらいつでも」

 

 軽口をたたき合う位の余裕はありそうだ。

 

 そんなこんなで、中央都市と北都をつなげるパイプを走っていると、だんだん前の喧騒が大きくなっていく。少しずつ近づいてきている。

 

「敵、来ます!」

 

 突如兎が大声を張り上げた。さすがの索敵能力だ。

 

 前方を注視すると、黒い影が3つ飛来してくる。その形はドラえもんのように2等身で、全体的にまるまるしていた。身長は……50センチぐらいだろうか。全身黒だが、目のところだけ白抜きになっている。

 

 間違いない、こいつが俺をさんざん苦しめてきた式神の正体だ。

 

「攻撃、来ます!」

 

 兎が叫んだ瞬間、どす黒い大玉が無数に飛んできた。

 

「みなさん、よけてください!」

 

「あら、そんな必要ないわよ? ――『二重結界』」

 

 紫が手を一なぎすると、永夜抄のスペカのような紫と青の結界が俺たちを包み込んだ。もちろん、放たれた弾幕は結界の前に姿を消す。

 

「ふっふーん、そんなの効かないわよ!」

 

「ほら、ガッツポーズしてないでさっさと行くぞ」

 

 結界を展開したまま、前進する。この中にいればまず被弾することは無いだろう。

 

「北都の中心部に入ります! 全方向から攻撃が飛んでくることが予想されます!」

 

「だってさ、どうするみんな」

 

 体を反転させ、後ろ向きで走りながらすばやく声をかける。

 

「さっさと決めましょう」

 

「そうね、先手必勝!」

 

「魔理沙さんのスペカで吹っ飛ばします!」

 

「私もやるよ!」

 

 やる気満々の声を聞き、俺も体の底から力が湧いてくる。

 

「敵、さらに飛来! ――うっ、先ほどとは比べ物にならない……」

 

 兎が絶句する。市街地に出た瞬間、100体はいるであろう式神があたりを囲んだ。

 

「すみません、この式神しか敵はいないんですか?」

 

 それを見たさとりが質問する。

 

「え? ――ま、まあ今のところは」

 

「そうですか、だったら……」

 

「「楽勝ですね(ね)」」

 

 さとりと紫の声が重なる。2人だけでなく映姫もさとりもすでにスペルカードを出して臨戦態勢だ。

 

「楽勝って……相手は私たちの部隊と互角に渡り合う実力ですよ⁉ そんなすぐには……」

 

 兎が逆死亡フラグを立ててくれた。

 

 ほぼ同時に、5人の助っ人が声を上げる。

 

「罪符『彷徨える大罪』」

 

「魍魎『二重黒死蝶』」

 

「魔砲『ファイナルスパーク』のぜ?」

 

「スペルじゃないけど、えいっ!」

 

「じゃあ俺もやろうか……呪符『ストロードールカミカゼ』。吹き飛ばせ」

 

 さあ、殲滅戦だ。

 




第七十五話でした。ウサギガニゲテルッ!(言いたかっただけ)

先週忙しくて投稿できませんでした。すみません。

サグメさんをもっと活躍させたいですね。(←これからの展開をまだ考えてないともいう)

では!


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第七十六話 圧倒する幻想郷

 弾速が一番速かったのは、さとりが放ったファイナルスパークだ。あれは光の塊なので瞬時に拡散する。

 

「吹き飛べ吹き飛べー! 優斗さんが唇をかむくらいに!」

 

「俺はもうお前に敵わないって割り切ってるから、そんな感情わかないぞ」

 

 超威力のレーザーは前方90度にいた式神達にクリーンヒット。当たった瞬間式神は声の高い断末魔をあげ、光の粒子とともに消え去った。

 

「じゃあ次は私ね~。我が手から伸びし冥府の蝶達よ、今こそ相手を打ち砕くのだ! ――かっこいい?」

 

「わー、すごくかっこいいー」

 

 中二病な発言だったが、その威力は本物だ。紫の周りから放たれた蝶々が敵の懐めがけて一直線に飛ぶ。もちろん、蝶々は式神とぶつかった瞬間、死への道へと彼らをいざなう。

 

「よっし、残ったのは俺たちで全滅させるぞ」

 

「うん、任せて!」

 

 仕上げに、細かい操作が得意な俺と大妖精が1体ずつ処理していく。

 

 俺も大妖精も、前より弾幕をとばす精度が上がっていて、自分たちの成長が感じられる。

 

「う、うそ……」

 

「あれれ、もしかして私の出る幕はないですか?」

 

「そうみたいですね。まあ体力を残しといてください」

 

「こんなにあっさりと……」

 

「なんだ、この程度ですか?」

 

「それが巷で話題のさとり顔ってやつ?」

 

「あの、地上の方、聞いています?」

 

「ほらみんな落ち着いて次……ああごめんなさい、なんですか?」

 

「いえ、その、――やっぱいいです……」

 

 兎が言葉を発せないほど驚いている。というか正直、俺の心臓もバクバクだ。

 

 ものの数分で敵の一大隊を壊滅してしまう、最強の幻想郷軍団。そのリーダーっぽいことをしているのが、いまだに信じがたい。もちろんみんなの強さにも感服だけど。

 

「え、なにが起こったの……」

 

「……敵が消えた」

 

「もしかして、あの人たちが……」

 

 建物の陰から、1人、2人と兎たちが顔を出す。やはり、高速で壊滅させてしまったことに理解が追い付いていないらしい。

 

「なあ、悪いがここの兎たちに状況を説明してもらえないか。もうこの辺りは平気だから他のところへ向かってくれって。俺たちは先に行ってるからさ」

 

「北都には私がとっておきの結界を張っておくわー。破れるものなら破ってみなさいって胸張れるくらいのね」

 

「はあ……わかりました……」

 

 いまだぼーっとしている兎に目もくれず、北都の出口へ走っていく。

 

「……速くね?」

 

 突っ走ってる中、ふと今までの行動がよみがえってくる。手紙が来たかと思えば即座に出発、そして即決即断、敵を撃滅。

 

 あれ、異変ってこんなスピーディーに事が運ぶもんだっけ。

 

「それは優斗さんが優秀すぎるだけでは? 霊夢さんだと3か月くらいたってから重い腰あげますから」

 

「それはうれしいけど、お前に褒められるとなんか裏があるって疑うぞ」

 

「別に間違ってないと思いますけどね」

 

「なんだか優斗が疑い深くなっている……」

 

「大丈夫だ大妖精、さとりとゆかいな仲間たちに対してだけだから」

 

 特にめちゃくちゃ敬語使ってくるのが危ない。さとりに小悪魔、早苗……こうして考えてみるととんでもない奴ばかりだ。

 

「優斗、次はどこ行くの? このまま真っ直ぐ?」

 

「そうだな、南都に行こう。1つずつ潰してくぞ」

 

 北都からひたすら真っ直ぐ進み、再び中央街を通り抜ける。

 

 相変わらず多くのけが人が運びこばれている。永琳がうまい具合にやってくれるだろうが。

 

「みんなー、分かってると思うがこのまま前進だ。南都の敵を撃滅させるぞ」

 

『私もお供する』

 

「うわ、いつからいたんだ」

 

『背後からこっそり』

 

 クスりと笑みを見せたのは、地下室から出てきたのであろうサグメ。

 

『南都では私の友人、ドレミーに指揮をとってもらっている。今のところ何とかもっているが、時間の問題よ』

 

「わかった、急ごう」

 

 最強パーティに月の司令塔を加え、ますます死角がなくなってきた。

 

 またマラソンが始まるのだが、ただ走ってるのも味気ないのでサグメのほうに肩を向け、

 

「なあ、ちょっといいか」

 

『なに、手短にね。あと、能力発動しちゃうような発言はダメよ』

 

 あれ、ちょっとだけ言葉尻が柔らかくなってる? まあそれはいいとして、

 

「あの式神、幻想郷でも出てきたんだけど何の関連があるんだ?」

 

『というと?』

 

「いや、きっと敵は月世界の侵略が目標なのに、なんでこっちに何匹かまぎれたのか気になってな」

 

『それは……ああ、まどろっこしい』

 

「そうねー、いろいろ考えられるけど、」

 

「いーやー、サグメが喋ったー⁉」

 

「紫、動物扱いすると罰が当たるぞ」

 

「その発言も十二分に失礼だと思うのだけど……まあいい」

 

 はあ、と大きくため息をつかれた。ただ、少し考えた後、律儀に答え始めてくれた。

 

「これは結構な機密情報なんだけどね。月世界って、イザって時の遷都場所が想定されてるのよ」

 

「え、それってもしかして、」

 

 遷都なんて突拍子もないこと言いだしたと思ったが、すぐに辻褄が合う。

 

「そう、あなたの考えてるとおり。具体的に言うと能力発動しちゃうから言わないけど」

 

 幻想郷、ってことだよな。

 

「以前あなた、依姫様たちと旗取りゲームやったでしょう? それで豊姫様が幻想郷を気に入っちゃって。すでに何回かお忍びで幻想郷に行ってるのよ。えっと、どこだっけ、あの竹林の……」

 

「永遠亭だろ? ――それは初耳だ」

 

「恐らくそれが察知されてた。だから式神が潜入していたのだと思う」

 

「じゃあ万が一ここが陥落したら……」

 

「最悪の場合遷都になるわね。幻想郷にいる式神たちが黙っていないけど」

 

「ちょっと、私も黙ってないわよ。あなたたちが来たら幻想郷のバランス崩れるでしょうが。調整するの私なのよ?」

 

「だったらここで食い止めればいいだけの話だ。――南都に突入する!」

 

 おしゃべりもここまで、2戦目に突入だ。

 




第七十六話でした。さーぐーめ! さーぐーめ!(意味不明)

今日メロンブックスで同人買ったんですけど、大チル本かドレサグ本で迷って後者を買ったのです。つまり僕の好きなカップリングにドレサグが、最近上位に食い込んでるということです! はい、どうでもいいですね。

では!


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第七十七話 キャラかぶり?

「えっと、ここが南都の入り口か?」

 

 しばらく走っていると検問所のようなところが見えてきた。もちろん、今は全く機能していないが。

 

『そうだ、正面から突っ込むか?』

 

「それは愚策だ、って普段ならツッコむんだけどな……このメンツならその必要はない」

 

「ちょっと、なによその私たちが脳筋みたいな言い方」

 

「詮索しすぎだ。チームワークがなってないと勝てないぞ」

 

 個々の能力で何とかなってるけどさ。

 

 その後ろでは大妖精とサグメがすでに打ち解けたのか、2人で喋っている。

 

「サグメさん、友達のドレミーさんってどんな人なの?」

 

『そうね……捉えどころがないっていうか、不思議な雰囲気な人ね。けど面白いからすぐに打ち解けれると思うわ』

 

「ふーん、どんなお話するの?」

 

『彼女夢の世界の住人でね、いろんな夢の話が聞けるわよ。おまけに敬語と普通の言葉が入り混じってるせいで、なんだか独特の雰囲気が出るのよね』

 

「すごいね!」

 

 ……敬語かあ。いい印象が思いつかないんだが。

 

「そうよねえ……やっぱり距離を感じちゃうわよね」

 

「普段100%敬語のかたは黙っていただけますか」

 

「ええー、私だって砕けた口調になることくらいありますよー」

 

「それはそれでろくでもないこと画策してるって疑うだけ」

 

「うう、針圧な……」

 

「うわー、優斗先生が泣かせた。どう思う映姫?」

 

「え、どう考えても……――、そういうことですか。優斗先生がすべて悪いかと」

 

「空気読まなくていいから」

 

 さとりと紫の話なんて八割でたらめって思った方がいい。

 

「すみません、そろそろ助けて頂けるとありがたいんですが。すでに南都の部隊壊滅中なんですよ」

 

「ああ、ごめんなさい……え、スキマ?」

 

 唐突に真上から声が聞こえたと思いきや、空間がゆがんでいて中から誰かが顔を出していた。

 

「いや、スキマとはちょっと概念が違うのだけど……、まあ、いいわ。サグメさん、この方たちが幻想郷から来た助っ人たちですね?」

 

『そうよ、南都のケガ人は全員撤退できた?』

 

「もちろん、みなさん気持ちいい夢を見てらっしゃいますよ」

 

 青い髪と青い瞳。頭には赤いナイトキャップ。そして夢がどうたらという話。つまり彼女が、

 

『ドレミー、自己紹介を頼む』

 

「ええ、みなさんこんにちは、ドレミー・スイートと申します。普段は夢世界でのんびりしている獏ですが、月世界防衛のため狩り出されました」

 

「夢の世界……ってことはさっきのスキマみたいのも、」

 

「その通り、夢空間は便利ですよ」

 

 確かに物理的な空間を無視できるな。

 

「ぐっ、何よあの能力……」

 

 だが、ここに歯噛みしてる妖怪が1人。

 

「完全にキャラ被りじゃない……!」

 

「危惧してるのそこか」

 

 スキマがいらない子になってしまうけど。ただドレミーは夢だが、紫のやつは今だ得体が知れないけど。

 

『ドレミーには月住人の避難を手伝ってもらってるの。ついでに南都防衛にも参加してもらってる』

 

「夢世界には『広さ』という概念はありませんからね」

 

「マズイマズイ、出番がとられるわよさとり」

 

「紫さんの能力に私ばりの敬語能力ですか……早々に対処しなければいけない案件のようですね」

 

「こらこら、物騒すぎるだろ」

 

 あと敬語は能力じゃないから。

 

「あれ、その奥の方は妖精ですか?」

 

 ドレミーの興味が大妖精に移ったようだ。

 

「はい、大妖精っていいます!」

 

「綺麗な羽ですね。――いえ、別に疑ってるわけではありませんが、こんな激戦地にいて平気かと興味を持ったので」

 

「その点に関して言えば何の問題もない。俺が保証しよう」

 

「ほうほう、あなたが言うなら大丈夫でしょうね」

 

「そんな信用されてるのか」

 

「ただの人間がここへ来れるわけ無いでしょう? 見たところ別に腕っぷしが強そうでもないし。――ってことは切れ者ってことよね」

 

「優斗は弾幕ごっこも強いんだよ!」

 

 後ろから大妖精の援護射撃が入る。

 

「ほお、ずいぶんと信用されているようですね。――後で夢を覗いてみるとしますか」

 

「ちょっと待て」

 

 ドヤ顔とジト目が入り混じった奇妙な笑いに危機感を覚える。やっぱり敬語は信用ならない……のか⁉

 

 まあこれを突っ込んでいる暇もあるまいが。

 

 「…………」

 

 けど面白い顔だな。ドレ顔とでも名付けるか。




第七十七話でした。ああ~ドレ顔がぴょんぴょんするんじゃ~(意味不明)

話が全然進まなかったです。ドレミーさんの雰囲気にやられてしまった。訴訟。

では!


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第七十八話 東都の守護者

「い、いや~、まさかこれほどまでとは……」

 

 あはは、とドレミーが乾いた笑いを漏らす。

 

 南都に入った瞬間襲いかかってきたのは先ほどと同じ式神。北都より数は多かったが、そんな問題はこのチート妖怪達には関係なかった。

 

「サグメさん、とんでもない方を連れてこられたようですね」

 

『いや、私はなにもしてないぞ』

 

「豊姫から手紙をもらってな。それで飛んできたんだ」

 

「なんと、あの方が助け船ですか! せっぱ詰まってるのがよく分かりますね」

 

『感心している場合じゃない。豊姫様は東都を1人で受け持ってる。いつまで持つか分からない』

 

 驚きに満ちた全員の顔がサグメに向かう。

 

「じゃあそっちへ向かうとして……あのー、その豐姫さんとやらはどんな方なんでしょうか。そんなにお強いのですか」

 

 さとりが質問したのはサグメなのに、手を挙げたのは紫だった。

 

「もちろんよ。前、霊夢をコテンパンにやっつけたのよ。私はそれを囮にしたんだけどね」

 

「さりげなく自慢しない」

 

『よし、じゃあ東都を見に行こうか。豐姫様のことだから大丈夫だと思うが』

 

 サグメの号令で一斉にみんなが走り始める。俺の指揮ではこうはうまくいかないだろう。主に紫とかさとりとか紫とかさとりとかのせいで。

 

 その最中、さとりの興味は相変わらず月世界にあったようで、

 

「その戦いって、月へのロケットがどうこうって騒いでた時の話ですか?」

 

「そうよ。このアホ妖怪は無謀にも、依姫たちに戦いを挑んでね……そもそもアンタも捕まってたじゃない」

 

「幽々子と私は一心同体だからいいのよー」

 

「はあ……。優斗さん、あなたの頭痛お察しします」

 

「種をまいてるのはお前もだけどな」

 

 そもそもなんでここにえーりんが居るんだ? 多分興味本位で見に来ただけだと思うが。

 

 とにかく、こんな気楽にやられると逆に力が抜ける。

 

「映姫さん、これが終わったら教頭のポストくらいあげたらどうですか?」

 

「まあこれだけ頑張ってもらってますからね」

 

 え、それって給料上がるってことですか。

 

 しかも管理職になる。すなわち紫たちの上司になれば、仕事を押し付けられなくなるのか。……いいな。

 

「まあ優斗さんのことですから、生徒たちにいろいろセクハラすると思いますが。成績を盾にとってね」

 

「今すぐクビですね」

 

「おいコラ」

 

 上げて落とす、いつも通りのさとりだった。

 

「……そんなことが許されると思ってるの?」

 

「さとりの妄想を本気にしないで……」

 

 ちょっとだけ、大妖精の目が死神になった。

 

「ええと、大妖精さんでしたっけ? あまり束縛してはいけませんよ。男の人は自由を求めるのです」

 

『あなた心理学でも習ってたの?』

 

「いえ、ただ夢をいろいろ覗いていると、ドロドロしたのが見えるだけです」

 

『う……怖い』

 

「夢はその人の願望を写しますからね。特に幻想郷の方々は分かりやすくて、清々しいですよ」

 

「私の見たことある?」

 

「さあ、ご想像にお任せしますが」

 

 幻想郷って良くも悪くも正直な人多いから、それが夢にも反映されるのだろうか。

 

「けど、優斗さんの夢なら何度かありますよ」

 

「ほんと⁉」

 

「人に見せられない夢じゃない……はずだけど」

 

「ええ、あなたの受け持ってる生徒たちが高得点連発してる夢でしたよ」

 

「まあそんなもんだろ」

 

「……前はね」

 

「えっ?」

 

「いえ、こちらの話」

 

 何度でも声を大にして言いたい、敬語は何考えてるかわからないな。

 

『いつになったら雑談終わるんだ。もうそろそろ東都着くのだけど』

 

「サグメ、残念ながら一生終わることは無い」

 

「ちょっと、適当なこと言わないでくれるかしら。一生の概念なんてあいまいな物よ。後、私そろそろ戻るわねー」

 

「不老不死は黙っていてください」

 

「性の概念? 優斗さんと大妖精さんがちゅっちゅすればいいんじゃないですかね」

 

「変態はもっと黙ってろ」




第七十八話でした。人数が多くて書き分けがつらみ。というかできている気がしない……

とうとう戦闘シーンを全カットするという暴挙にでたうp主。これからどう話を収拾するのか! 次回、ネタ尽きる! デュエルスタンバイ!

では!」


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第七十九話 因縁は水に流して

 永琳は再び治療室に戻り、いつものメンバーで東都の端に到着した。

 

『ではみんな、再確認だ。弾幕の準備はできたな? あと心の準備……いや、聞くだけ無駄かな』

 

 とうとうサグメに諦められた。このノリに慣れてしまったということでもあるが……。

 

『東都での私たちの任務は、豊姫の援護、また、敵戦力の全滅だ。しっかりと集中する……いや、こちらの話だ』

 

「それは言うべきだろ」

 

 それとも信用されてるのかね。ポジティブに捉えるのならば。

 

 サグメはさらに続ける。

 

『作戦なんだが、古典的だが正面突破でいく。まず私たちが豐姫様と合流する。横からドレミーと紫でサポートするという作戦だ』

 

「なるほど、この獏とどっちが使えるか勝負するのね」

 

「争いごとは勘弁なのですが……そういえばこれ戦争でしたね。いいでしょう、ゆかりさんに負けないくらいかき乱してやりましょう」

 

『やる気があるようで何より。じゃあ頼んだぞ』

 

 サグメが言い終わるやいなや、2人の瞬間移動スキル持ちは、それぞれの持ち場へと消えていった。

 

『よっし、突撃ー!』

 

 戦時中の日本兵のごとく、全員スペルを握りしめて全力で駈ける。

 

 その中でも一番速かったのは、

 

『豐姫様ー!』

 

「あのー、ホワイトボードにそんなこと書いても意味ないかと」

 

 豐姫の部下、サグメだった。夢の中からドレミーが困り顔ををして追いかける。

 

「おやおや、サグメさんってあんな情熱的な性格でしたっけ? そこらへんドレミーさんはどう分析します?」

 

「詳しいことは知りませんが彼女、豐姫さんの直属の部下だったような気がします」

 

「それって私が映姫先生を尊敬するようなもんですか? ――さっぱり分かりません」

 

 オイコラ。咎める暇無いからってさらっと爆弾発言するな。

 

 そんなこと言ってる合間にも歩みは止まらず、ビル群の隙間を縫って進み、少しだけ開けたところにでる。すでに地面の舗装はなく、月表面の堅い感触が伝わってくる。

 

「ああ、あれか……」

 

「そうそう、あの帽子、間違いなく豊姫さんだね!」

 

 遠くの方に見えてきたのは、長いドレスに右手には扇。間違いない、月世界のお姫様だ。

 

 ここからでも、多くの式神が襲い掛かっているのがよく分かる。もちろん、アイツらを扇を払って簡単に打ち倒す華麗な姿だって。

 

「豊姫ー」

 

「え? ――あら! 優斗に大ちゃん! どうしてこんなところに?」

 

「ちょっとサグメに助っ人を頼まれてな」

 

「私の? あら~、私そんな信用されて無かったかしら……」

 

「そんなことないよ! きっと万が一のことを考えて、危機管理してくれたんだよ」

 

「そんなこと言ってもねー。正直私一人で十分なのよね」

 

 こちらを向いて話す豊姫だが、その片手間で式神たちを消滅させていっている。その顔は余裕綽々だ。

 

「やっぱりちょっと過剰戦力だったか……」

 

「今は、だけど」

 

「へっ? それってどういう?」

 

 ちょっとだけ凛々しい顔に戻って、少しだけ早口になって、

 

「もちろん、この敵だけだったら苦労してないわよ。依姫がやられたって聞いた?」

 

「ああ」

 

「私も詳しいことは分からないけど、どうも人型のやつがいるらしいのよ。そいつに傷つけられたらしいわ」

 

「依姫が……か」

 

 依姫の強さは十分に理解しているつもりだ。油断するようなタマでないことも。

 

 簡単な話、少なくとも依姫より実力者だということだ。正面突破で行けるのかね。

 

「まあいい。ここはもう安全だから、他へ加勢してくれ」

 

「え、それってまさか……」

 

 チラリ、豊姫のジト目が俺の後ろへ向かう。思わず振り返ると、スキマ妖怪がいつの間にか回っていた。

 

「何よ、文句あるの?」

 

 即座に紫がかみつく。視線と視線がぶつかり合い、ピリピリした空気があたりを包む。そういえなこの2人、前に因縁があったな。

 

「ちょちょ、2人とも……」

 

「ケンカは良くないよ!」

 

 俺がたしなめようとしたけど、その前に反応した妖精が1人。

 

「今はそんなことしてる場合じゃないの! 月と幻想郷が仲悪いって前聞いたけど、それより重要なことがあるでしょ!」

 

 ツルの一声とはこのことか。睨み合っていた2人の口角が下がった。

 

「ちょっとー、大妖精にそんなこと言われたら引き下がるしかないじゃないのー」

 

 ため息が紫から漏れ出る。

 

 大妖精のお説教に勝てるのなんて、いるわけないだろう。

 

「紫、あなたいい生徒を持ったわね」

 

「羨ましい?」

 

「少しだけね」

 

 相変わらず少し距離があるけど。

 




第七十九話でした。儚月抄四コマの依姫さんがいい味出してて溶けそう。

土日暇なかったので、今日投稿しました。そのせいか、少し適当になってるような……

では!


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第八十話 避けきれなかった運命

「さあ、残りは西都だけだな。さっさといくぞ」

 

 とりあえず発破だけかけておく。なお効果はあまりない。

 

『いや待て、その必要はない』

 

 だが間髪入れずにサグメから待ったがかかった。

 

 ガクッ、その横ではなぜかドレミーがひざを突いた。

 

『ちょ、どうしたドレミー』

 

「いえ、どうせなら最後までやりたいってだけです」

 

『別にいいじゃないか。小悪魔と早苗? とかいうのが殲滅してくれてるらしい』

 

「あ、」

 

「それって……」

 

 大妖精と顔を見合わせる。こくん、とうなずきあって色々と悟った。あいつらもう移動してたのか。

 

「じゃあこれからどうするんだ」

 

『連中もこれで終わり、というわけにはいかないだろう。必ず攻勢に出てくるはずだ。それまで少し休んでおくといい』

 

「分かった。おーいみんな、戻るぞー」

 

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」

 

「なんでしょ」

 

 背後からお姫様に呼び止められた。

 

「もしよかったら、依姫の様子を見てくれない?」

 

「えー、あの小娘の?」

 

「横から口を挟むな自称最強妖怪」

 

 本気で月世界とやり合ったら幻想郷滅びるからマジで。

 

「それはかまわないが、容態は平気なのか」

 

「ええ、だいぶ回復したと。救護所は都の中心部分ですからすぐ着きますよ。――サグメ、案内をお願いできるかしら」

 

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げる姿は、月世界の品格を感じさせた

 

「優斗さん、私サグメさんと結構長くいるんですけどー、あんな凛々しい姿初めてですよ」

 

「そうか、結構頼もしいじゃないか」

 

 月世界の司令塔として機能しているようだし。なにより、この個性的なメンバーをまとめているわけで。

 

 けど、ドレミーは全く納得いっていないようで、口上をまくし始めた。

 

「まさか! たまに夢世界に招待するんですけど、そのときのサグメさんはヒドいもんですよー。なにせ一歩も動かず、ご飯食べたいだのマンガ読みたいだのワガママ放題……そうだ。この前なんか」

 

 ガシッ

 

 しかし、ドレミーが次の言葉を発することはなかった。

 

「な! いつの間に裏を!」

 

『私はしゃべらない分、感覚が敏感なのよ』

 

 ニッコリと、今まで見たこと無かった満面の笑みで、

 

「さあ、私が口にするわ。『あなたにとてもとても気持ちいいことが起こる』」

 

「ひ、ひええええええええええ」

 

 ナイトキャップを引っ張って、夢の世界へ連行していった。

 

「……よし、じゃあ行くか!」

 

「2人の存在を無かったことにしようとしているの!?」

 

 大妖精の手厳しいツッコミを頂戴したが、リスクマネージメント能力だけならピカイチのこの脊髄が、ドレミーを助けるなとささやいているもので。

 

 

 

 

 

 豊姫直々に案内され、元来た道をしばらく戻ると、何もないところで立ち止まった。

 

「ここよ、少し待ってなさい」

 

 こちらの返事を待つ前に扇を一なぎ。まあどうなるかはあらかた予想がつくが、それにしても仕組みがさっぱりわからない。

 

 もちろん、一陣の風の後から床に秘密の地下通路が現われていた。

 

 一人ずつしか進めない通路だったので、みんなに先を譲って最後尾から階段を下る。

 

「あのー、依姫さんとはどういう方ですか?」

 

 すぐ前にいたさとりが首を180度曲げた。

 

「うーん、俺もそんなに関わってるわけじゃないけどな。厳しいけど責任感が強くていいやつだぞ」

 

「うっ……まるで映姫先生のようではありませんか」

 

「何か言いましたか?」

 

「ナンノコトダカ」

 

 あのささやきを拾えるなんて、どれだけ地獄耳なんだ?

 

「あっ、いま優斗さんが映姫先生のこと地獄耳だって揶揄してましたよ」

 

「どうして口にしちゃうんだよ」

 

 こっちも大概だけど。

 

 

 

 

 

 ドアを開けると、やはり大勢のケガ兎が列を作っていた。

 

「うわあ……こんなに」

 

「確かにこれだけいると治療が大変そうだな」

 

 俺がいまいち他人事なのは、そこにいる超優秀看護師の方がいるからだ。

 

「はい次、ほら、さっさとどきなさい。――はい治療完了」

 

 時間を操る程度の能力はこのために存在したのではないのだろうか。咲夜が超速で包帯を巻いていた。

 

「あらみなさん、掃除は終わったんですか。暇なら手伝っていただけますか」

 

「その必要を全く感じないのだけど……」

 

「もしかして治療が怖いんですか? まあ貴方は治療される側ですからね」

 

「うーん、否定はできない」

 

 結構無茶やってます。

 

「ほらほら、無駄話しない! ただでさえ忙しいんだから、面会するならさっさと行きなさい!」

 

 奥から永琳の怒号が飛んでくる。珍しく白衣を着こんでいて、白衣の天使に見えなくもない。

 

「あそこのカーテン開けたらいるから。多分ふてくされて寝てるから、励ましてやって」

 

「ご迷惑をかけて申し訳ありません……」

 

「いえ、月世界のことだから。それにしても、ちょっとびっくりしたわよ。まさかあの子があんな傷で帰ってくるなんてね。よかったら、そこら辺の事情も聴いてもらえる? 敵の情報がわかるかもしれないし」

 

「承知しました」

 

「……永琳先生って偉いんだね」

 

「上に立つ者ほど変人だってことだな」

 

 綿月姉妹が敬語を使うなんてねえ……しかも相手が永琳……いや、知ってたけど違和感がすごすぎる。

 

 永琳に改めて首をかしげながら、仲良く移動する。

 

「依姫さん……いろいろイジってみたい……」

 

「目を輝かせるな」

 

 なぜか恍惚としているさとりはほっておくとして、

 

「依姫ー、開けるわよー」

 

 豊姫がカーテンのヘリに手にかける。

 

「あ、ちょ、」

 

 そうしたら、その奥から久しぶりに聞いた依姫の声。ただ少し、か細かった。

 

 ん? ちょっと待て。普通、「どうぞー」とかの返答するはずだよな。依姫があんな歯切れの悪い返事をするだろうか。

 

 何かほかの理由が? いずれにしても、ただ事ではなさそう。

 

 ここまでの思考で、0.5秒。

 

「ちょっと待って、一回依姫の話を……」

 

 ダメだ、これでは間に合わない!

 

「へっ?」

 

 ……時すでに遅しとはまさにこのことかっ。すでに俺たちの間にそびえた壁は影も形もなく、

 

「あっ、」

 

「あら、」

 

「おおっ、サービスシーン」

 

「大妖精さん、優斗先生の目を塞ぎなさい!」

 

「言われなくても!」

 

 これは避けきれなかった……気がする。俺は悪くない……気がする。

 

「ちょ、なんなのよ貴方たちー!」

 

 ちょうど着替え中の依姫大先生が顔を真っ赤にしていた。……サラシかあ、大和撫子だな。

 




第八十話でした。綿月姉妹は二人でバランスとれてて好きです。(唐突)

そんな綿月姉妹ですが、原作だと一応既婚者らしいですよ。依姫の夫が豊姫の子ども(つまり依姫のおいっ子)……。月世界怖い。

先週、ほかの原稿書いてて遅れましてすみません。そっちもそっちで、締切日にモンスターエナジー突っ込んで間に合わせました。その日は頭が動かなかったとさ。

では!


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第八十一話 生真面目な依姫

「カーテン開けるときは一言かけてください! 人間としての常識です!」

 

 顔を真っ赤にしたとこまでは見えたが、そこで大妖精の規制がかかった。それが解かれたときには、手元のシャツを着ていた。

 

「ほら、私たち桃ばっかり食べてる天人だし……みなさんにご紹介をと思ってね」

 

「よく分からない御託を並べない! はあ……しかもこんな大勢引き連れて……」

 

 ジロリ、あきれ交じりの視線がこちらへ向く。あ、これ絶対俺見てますね間違いない。

 

 ジロリ、ジロリ、ジロリ、ジロリ、

 

「あのー? なんで皆さんこちらを向くのでしょうか?」

 

 そしたらいつの間にか14個の目がそろいもそろって集中した。

 

「そりゃ私たちは見てもなんとも思いませんけど、優斗さんは健全な男子高校生ですからねえ」

 

「これくらいで興奮するわけがないだろうが」

 

「あらー、依姫、あなたに魅力がないって言われるわよ」

 

「斬りますよ?」

 

 やったー、ツッコミ役が増えて負担が減ったぞー。……なぜかいまいち空しいが。

 

「ホントに何も感じないんですかー? ――あっ、そうでした。優斗さんは小さい女の子でしかハアハアできないんですものね」

 

「ロリコンのレッテルはそろそろ剥がしてくれませんかね……」

 

「大妖精さん、今すぐ2人で逃げましょう」

 

「校長まで参加しなくていいですから」

 

「優斗さん往生際が……そうか、小さい男の子の間違いですね」

 

「……もっと始末に置けないじゃないか」

 

 ダメだ……このままでは捌ききれなくなる。リスクは高いが、攻勢に打って出なければならない。

 

「とにかくおれは無実だが……お前はどうなんださとり」

 

「くっころ女騎士みたいでゾクゾクしました」

 

「よーし依姫、みじん切りで頼む」

 

 正直で大変よろしい。

 

「……あなたも大変ですね」

 

「月のトップにそう言っていただけてなにより」

 

「じゃあそろそろ本題に入ります? まさかただ覗きに来たわけではないでしょう?」

 

「そうだな」

 

 周りの甘言に惑わされずに己を貫く姫君、素晴らしいです。

 

「今回の異変の詳しい話を聞きたくてな」

 

「ちょっと待って、これ異変になってるの? だったら私が名前付けていいかしら」

 

 こっちの姫様は自由奔放だな……。

 

「いいですから、話終わるまでに考えといてくださいね」

 

「姉上は部屋の隅で丸まっててください。――優斗さん、まず現状報告を聞かせていただけますか?」

 

 ベットの上で正座になった。さとりではないが、騎士のような礼儀正しさだ。

 

「えーっと、とりあえず東西南北の都市は掃除しといた。紫の結界を張っておいたからもう心配ないはずだ」

 

「なるほ……え?」

 

「まあ特に強い敵もいなかったからな。けが人はここに運んでいる以外は、とりあえずドレミーに任せておいた」

 

「……あ」

 

「とりあえずこれ以上の被害を抑えることに全力を……」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 まだ言い終わってないのに頭を90度下げられた。

 

「私が不甲斐なく倒れている間に……なんとお礼を言ったらよいか……」

 

「いやいや、俺達が来るまで抑えてくれたのは豊姫だよ」

 

「べ、別に敵が弱かっただけだし!」

 

「なんでツンデレなんだ……」

 

「それでも……地上部隊があんなに苦労してたことを片づけて頂けるのは、本当にありがたいです」

 

 伏せた頭を上げようともしないので、なんだかこそばゆい。

 

「これはきっとあれですね、この後『お礼といってはなんですが……私の身体、好きにしてください』ってなるパターンですね。公然プレイとはレベルが高い」

 

「今はネタをぶっこむ空気じゃないだろ」

 

「お礼といってはなんですが……私の身体、好きにしてください」

 

「お前はそれでも依姫の姉か!」

 

「……優斗? 約束したよね?」

 

「本気じゃないっ!」

 

 ああもう、話が進まない。

 

「もうお礼はいいから、俺が聞きたいのはその傷の出所だ。あの大勢いた奴らに負けたってわけじゃないだろ?」

 

「ああ、はい、まず確実に言えるのは、相手の主犯は3人だということです」

 

「まとめて戦ったのか?」

 

「はい……うまく乗せられました」

 

「そりゃあきつかったな。どんな感じだった?」

 

「はい、1人は体格が小さくて、残りの2人のことを『ご主人様』、『ご友人様』と呼んでいました。おそらく従者かと。主人の方がリーダ格で、嫦娥様のことを恨んでいました。異変の原因は恨みの可能性があります。友人のほうは特に何もなく……ただの興味で異変に協力しているように見えました」

 

「なるほど……分かった、ありがとう」

 

 少しずつ、異変の全貌が見えてきた。

 

「それで、これからどうするのよ」

 

 珍しく落ち着いていた紫に珍しくマトモな質問をされた。明日は雪か。

 

「そうだな……こっちから打って出る必要もないと思うんだよな」

 

「そうね、相手の居場所もわからないし」

 

「相手はかなりの戦力を失ったし、結界でこれ以上進めない。多分だか、その黒幕とやらが直接来るだろ。それまで待つのが得策だ」

 

「そんなのいつまでかかるか分からないじゃないですかー」

 

「暇なのはしょうがないだろ」

 

「物資なら大量に保管しています。ご安心を」

 

「食べ物じゃなくてー……そうだ、ポッキーゲームでもします?」

 

「なんでそうなる」

 

「え、楽しいからですけど」

 

「真顔で言われると反応に困る」

 

「あ、わかりました。優斗さんはみんなでやるゲームがいいんですね! だったら答えは1つ、」

 

 全く聞く耳を持たないのは慣れっこだが、こういう時のさとりはロクでもない考えがあるもので……。ああ、もうコイツは止まらない。

 

 少しだけ口角を上げて、目じりを高くして、

 

「王様ゲームですよね!」

 

「そうだ!」

 

「そうね!」

 

「そうです!」

 

 背後から、しばらく聞いていなかった、むしろ聞きたくなかった3銃士の声。

 

「小悪魔、文、早苗……」

 




第八十一話でした。今日見た2chのまとめで依姫が一番くっころ属性あるって記事を見ました。その通りだと思いました。(小並感)

優斗にも相手の正体がつかめてきたようです。くろまく~。

次回はいったん小休止、ということでカオスモードですね。今までの優斗のイジメ係、総集合です。

では!



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第八十二話 心臓に悪い王様ゲーム①

「掃除が終わったので戻ってきました! そちらも大体片付きました?」

 

「ああ、とりあえずはな。今は少し休もうってとこ。そっちはどうだった?」

 

「楽勝も楽勝よ。もうちょっと歯ごたえがあるかと思ったら……扇の1なぎで簡単に吹き飛んだわ」

 

「早苗さんも文さんも強くて、頼りっきりでした。もうこの近くに式神はいないと思います」

 

「そうか、サンキューな」

 

 都の外周での雑魚狩りを早苗と文と小悪魔には任せていたが、滞りなく終わったようだ。

 

 ここで終われば頼れる仲間、なんだけど、

 

「お三方、クジは用意しておいたので早速始めましょう」

 

「私たちだけじゃつまらないですよ」

 

「そうね、やっぱりワイワイやったほうがね」

 

「大ちゃん、こっち来て!」

 

「大妖精を染まらせるな」

 

 仕事の後ハメ外す人って、タチ悪いと思うんだ。

 

「優斗さんも暇つぶしがてら王様ゲーム、どうですか?」

 

「ええ……」

 

 どうせ拒否権はないのだろう。

 

 噂によると天国にも地獄にもなるゲーム、と聞いたことがあるが、実際にやるとは思ってもみなかった。

 

「それってどうやってやるの?」

 

 無垢な大妖精がさとりに説明の機会を与えてしまった。

 

「えーと、実際やってみた方が早いですね。お三方、優斗さん、いきますよ」

 

「え、ちょ、」

 

 息つく間もなく、さとりに袖口を引っ張られた。そのままくじを1枚つかまされ、

 

「「「「王様だーれだ!」」」」

 

 引かされた。

 

「各クジには番号が書かれてますが、1枚だけ『王様』と記入されています。その人が、命令を下せるのです。例えば、」

 

 自分のクジをちらっと見て、にやりと笑みを浮かべるさとり。王様クジもってやがるな。不正の香りがプンプンする。

 

「3番さん、私の肩をたたいてください」

 

「っと、俺か……」

 

 まさか見通してないだろうな?

 

 仕方なく、さとりの背後に回ってトントントン。

 

「こんな感じで番号を使ってどんどん指示を出せるんですよ」

 

「へえ~。どんなことができるの?」

 

「そりゃあ……なんでもですよ」

 

「なんでも⁉」

 

 大妖精の声が裏返った。そりゃあこんなゲーム幻想郷にはないよなあ……なら、なんでコイツら知ってるの?

 

「そうですよ。あんなことやそんなことだって思いのままに操れてしまうのです」

 

「スリルあるでしょ? だから面白いんだよ!」

 

「う、うんそうだね……」

 

 ズルいぞ小悪魔。お前に推されたら大妖精が断りづらくなるだろうが。

 

「人数も多いので、6人ローテーションでやりましょう。ただし優斗さんはオールで」

 

「なんでだ」

 

「うーん、男女バランス?」

 

「……だろうな」

 

 悔しいことにぐうの音も出ない。

 

「じゃあまずは……依姫さん、いかがですか?」

 

「えっ、――私はまだキズが……」

 

「あら、やってみればいいじゃない。私が代わりに引いてあげるわよ」

 

「あと紫さん、やりますよね?」

 

「あら、当然じゃない」

 

 第一ラウンドは俺、依姫、紫、3銃士に決まった。

 

「はい、みなさんくじを持ちましたかー?」

 

 頼む、王様来い。当たり障りのない命令で切り抜けてみせるから。

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

 素早くクジを引き抜き、確認する。

 

 うーん、3番か。王様は……?

 

「よっし、私ね」

 

 持ち前の扇をパタパタ振って文がクジを高々あげた。

 

「うーん、まずは無難なところから行きましょうか」

 

 3番呼ぶな……3番呼ぶな……

 

「1番と5番の方!」

 

 とりあえず良かった。さあ、命令は……

 

「私のカメラに満面の笑みで2ショット!」

 

 なるほど、文らしい。さて、肝心の2人は、

 

「あら依姫、出番よ」

 

「始めからとはツイてない……えっ、依姫?」

 

「紫⁉」

 

 ありゃあ、よりにもよってこの2人かあ。

 

「じゃあベッドの上でイチャイチャしてきてくださいねー。文さん、とびっきりの笑顔よろしくです」

 

「ちょっと待ってください。なんで因縁の相手と……」

 

「そうよ、優斗のほうがマシよ」

 

 どういう意味だコラ。

 

「文、いろんな角度から頼む」

 

「了解です!」

 

「「いやああああああああああ」」

 

 このゲームに置いて王様の命令は絶対。断ることなんて許されないのだ。

 

「じゃあ撮影の間に第2ラウンドです! ――じゃあ……大妖精さん、映姫先生、豊姫さん、参加願います」

 

 3人ほどメンバーを交代して、再びクジが用意される。

 

 1回目はうまく切り抜けたが……幸運の女神よ、もう1度助けてくれ。

 

「では! せーの、」

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

「あら、私ですね」

 

 まず反応があったのは月の姫様。

 

「うーん、どうしましょう……好きな食べ物を答える、とかじゃつまらないでしょうし」

 

「さすが依姫さん! わかっていらっしゃる‼」

 

 いや、全然普通でいいんですよ。日本語おかしいけど、全然いいですよ。

 

「じゃあ、ハグでもしていただきましょうか」

 

 とんでもない地雷を投下しやがった……。

 

 思わず自分のクジを2度見してしまう。今回は4番。当たるなよ……。

 

「1番と2番で!」

 

 心の重しが一気に軽くなる。

 

 どうしたんだ今日は。ラッキーがこんなに続くなんて珍しい。

 

 で、そのお2人さんは

 

「あっ、あたった」

 

「……大ちゃんか。良かったー」

 

 大こあだった。特に不都合はなさそうだ。

 

「じゃあさっさとやっちゃうよ!」

 

「いきなりっ⁉」

 

 真向かいにいた大妖精に、ダッシュで飛びついた。全体重を大妖精に預け、くるっと1回転。

 

「ふふっ、大ちゃん暖かいね」

 

「こあちゃんもね!」

 

 ああ、平和だ……。

 

「ううっ、尊い……」

 

 横ではさとりが涙を流す勢いで震えていた。鬼の目にも涙とはこのことか。

 

「けど、私たちは前に進まなければいけないのです! 第3ラウンド、行きますよ!」

 

 ええ……綺麗にまとまりそうだし、終わりでいいじゃんか……。




第八十二話でした。

王様ゲーム1話で終わらせようと思ったけど、こういうのをダラダラ書くのが楽しくて……多分明日投稿します。(宣言することで明日のモチベーションを確保する)

みなさん冬コミ行きます? 僕は行く予定なんですが、まだ相手が見つかってないんですよね……このままだと単艦突撃になりそう。

では!



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第八十三話 心臓に悪い王様ゲーム②

「まだまだっ、スパイスが足りないですっ! 優斗さんはそんな平坦な人生でいいんですか」

 

「まったくその通りだが?」

 

 大妖精とかとまったり過ごせてればそれで幸せだから……。さとりはいちいち副交感神経に悪くて。

 

「とにかく次ですよ! 大妖精さんとこあさんには抜けて頂いて……咲夜さん、永琳さん、1回だけお付き合いください!」

 

 さとりが遠くの方で手を振ると、2人がやれやれといった様子で歩いてきた。

 

「今忙しいから手早くお願いね?」

 

「さとりさん、能力の使用は許可されていますか?」

 

 ちょっと待てメイド長。堂々と反則しようとするな。

 

「え、構いませんが? 私だって皆さんの番号は手に取るようにわかりますし」

 

 出来レースとはこのことか……。反則級の能力持ちばかりだ。

 

 俺にできるのは、ただ祈ることばかり。頼む、もう少しこの幸運、続いてくれよ。

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

 今度は5番。そろそろ王様引いても確立上問題ないんだけどな。

 

「王様は私です。別に能力は使っておりませんよ?」

 

 俺の横で銀髪メイド兼看護師が手を挙げた。

 

 さっきまで悪く言ってたものの、咲夜なら場をわきまえた言動をしてくれるだろう。幸いなことに、ここにスカーレット姉妹はいないし。

 

「そうですねー……では、4番の方」

 

「ふわっ⁉」

 

 咲夜の反対隣りで声が漏れ出た。

 

「あのー、反応すると不利ですよ?」

 

 こっそりと耳打ちで注意を促すが、いまだその震えは止まっていない。こんなわかりやすい言動をするプレイヤーはこの中で1人しかいない。ねえ、映姫先生?

 

 ただ、咲夜のことだからもう命令は決まっているだろうが。

 

「この異変が終わったら、紅魔館で1日メイド体験して頂くということで」

 

「え、ええっ⁉ な、なんてこと命令するんですかあなた!」

 

 額に青筋を浮かべた映姫が顔は真っ赤にして、咲夜に詰め寄る。

 

「く、首絞めないでくださいっ! たまたま、たまたまですから! ――校長といえども絶対守っていただきますけどね」

 

「そ、そんな……」

 

 ありゃー、ツイテなかったな。これ、もし俺が当たってたら多分女装させられてたな。くわばらくわばら……。

 

「その際はぜひ文々。新聞で取材させてください!」

 

 当然カーテンの奥から記者モードのブン屋が飛び出してきた。

 

 キッ、と力強く睨み返す映姫だが、それくらいで怯むはずもない。相変わらずパシャパシャ撮影していて機嫌がよさそうだ。

 

「文、2ショットは撮れたのか?」

 

「はい、そりゃあもうバッチリ!」

 

 現像した写真をみんなで覗き込むと、

 

「おお……すっごく仲よさそうだな」

 

「紫先生も依姫さんもいい顔してるね」

 

「さすが文さんです。こいしに見せたいんで後で焼き増しお願いします」

 

「私はお嬢様に」

 

「それ、依姫のとこだけ切り抜けるかしら? 写真立てで飾っておきたいの」

 

「やめなさいあんたたち!」

 

「ここで拡散するってなら切り捨てますよ⁉」

 

 遠くでギャーギャーわめいてる2人はいなかったことにしよう。

 

 

 

 

 

「どうします依姫さん、もう1回やりますか?」

 

 すでに多くの人が恥ずかしさで耐えられなくなってるのに、まだやるのか……。

 

 しかも依姫をあおるなんて……これでは、

 

「ええ、やってやりますよ!」

 

 乗ってしまうではないか。場を盛り上げることだけなら天下一品だな。

 

 よっし、もう1度、切り抜けてみせる。

 

「いいですね、その意気込み。さあみなさん、クジを手にかけて!」

 

 今度は俺、依姫、さとり、大妖精、小悪魔、早苗の6人。

 

「今度こそ、王様を引いて見せます! 姉上、頼みましたよ!」

 

「任せておいてー。ちなみに王様になったら何をお願いするの?」

 

「変顔の写真を撮っていただきます!」

 

 ありゃ、根に持たれたな。けど、これくらいの命令なら可愛いもんだよ。

 

 少しだけ安心したが、まだ気は抜けない。なにせさとりがいるからな。さとりがいるからな。大事なことなので2回言いました。

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

「来いっ!」

 

 依姫の大声が重なる。案外熱中してくれたみたいでなにより。

 

 さあ、結果は……。

 

「いよっし、今日はついてますねー!」

 

 キャー、サナエサーン。

 

「もう決まってますよ! 誰かが誰かに全身マッサージをしていただきます」

 

 俺と早苗以外から安堵の息が漏れる。表面的にとらえるなら、特に害はなさそうに見える。

 

 しかし俺は油断しないぞ。もしやる側がさとりだったら……マッサージ(性的)になること間違いなしだ。マッサージの定義が広すぎるんだよ。

 

「うーん、どうしましょうかねー。皆さんいろいろな表情をされてて迷いますねー」

 

 早苗すっごく楽しそう。俺もあの輝くクジを引きたい。

 

「……決めました。奇跡よ起これ!」

 

 頼む、あたるなっ……!

 

「3番が、」

 

「おほっ♪」

 

 向かい側から聞きたくなかったさとり妖怪の笑い。

 

 これで絶対負けられなくなった。お願いだから、2番と呼ばないでくれ。

 

「1番に!」

 

 よっしゃ! では犠牲者は……。

 

「あ、あちゃー……。依姫、ごめんなさいね」

 

「はあああああああああ⁉」

 

 いいだしっぺの法則、ここで発動。

 

 うわー。さっきの写真といい、悲惨だな。王様ゲーム嫌いにならなきゃいいけど。

 

 そんな俺の危惧はつゆ知らず、ひさびさにサトリックスマイルが解放されていた。

 

「ふふふ……動けないなら好都合。さとりさんの指テク、ご披露いたしましょう。――あ、大妖精さんには過激だと思うのでカーテン閉めといてください」

 

「かしこまり! 楽しんできてください!」

 

 早苗もウキウキだ。目配せとかしてないよな?

 

「少しお話しません? ほら、私怪我してますし。天人なのでマッサージとか必要ないんですよ。だからこの権利はどうぞほかの方に……あ、ちょっとどこ触って……」

 

「権利じゃなくて義務なんですよー‼」

 

「ふわあああ……ダメです、そんなとこ……やめ……やめてぇっ!」

 

「大妖精、目と耳塞いでおきなさい」

 

「うん、そうだね……」

 

 俺と大妖精は仲良く、見て見ぬふりでやり過ごしていた。




第八十三話でした。キャラの書き分けが大変だー。

珍しく一日で投稿できました! やったねゆうちゃん、見てくれる人が増えるよ!

話は変わって、のんびよの映画化が発表されましたね! いまだ興奮さめあらぬ気持ちです! 絶対、絶対見ます!

では!


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第八十四話 さとり回避の方法

「ふう……よっし、こんなもんですかね」

 

「…………」

 

「気絶するほど満足されたようで何よりです」

 

 その理論3割くらいしかあってないような……。

 

 けれどまあ、俺の被害を被ってくれた依姫には感謝だ。後でヤツメウナギでも送ろうかと思うくらいには。合掌。

 

「まあ、これで安心ですね。依姫さん、後頼みますよ」

 

「事後処理は任せておいて」

 

 会話がとても不穏なのですが……二人とも不安な笑いをしているし。

 

「おや、もしかして私たちを信用していないのですか? 心外です」

 

「今までやってきたことを胸に手を当てて良く考えてみな?」

 

「いえいえ、不純な意味でなく。依姫さんに快楽堕ちして頂いたのもちゃんと理由があるのですよ」

 

「言葉を選べ」

 

 面白外人のようにそんなに肩竦められても……

 

「いいですか、おそらくこれから敵はまた攻勢をかけるでしょう。そしてきっと依姫さんは戦いたがるでしょうね。その重たすぎる責任感ゆえにね。これは依姫さんの身を守るための、致し方ない処置なのです」

 

「もうちょっと別の方法があっただろうが。――ちなみに、なんでこのやり方を?」

 

「面白いからですけど?」

 

「斬られてしまえ」

 

 さとりがやりたいことがたまたま依姫を助けてるだけのような……考えると恐ろしい。

 

「そうね~まだ依姫には眠ってもらわないといけないかしら。そのかわり私がバリバリ働くから許してね?」

 

「いや、依姫に無理をさせないことには賛成なんだ。あと豊姫は依姫のそばにいてもらえるか」

 

「あら、そんな楽な仕事でいいの?」

 

「隣に姉がいると安心するぞ。俺も昔風邪ひいたとき、姉さんがいるとなぜか心強かったし」

 

「それならそうしたほうがよさそうね」

 

 ただ、今の姉の脳内に俺の情報は何一つないんだろうけど。

 

「依姫さんは寝てしまいましたし、王様ゲームもお開きにしますか」

 

「そうだな。で、これからどうする。この中で待つか。それとも外にでるか」

 

 地獄の終わりに心の中で快哉を叫ぶ。同時にさとりが変な気を起こさないように矢継早に畳み掛けた。

 

「ふむむ……どうしましょう」

 

「さとり先生、私に提案があるのですが」

 

「は、はいっ! なんでしょう⁉」

 

 手を挙げたのはさとりの天敵、映姫校長。頼りにしてます。

 

「もう一度見回りをしませんか? また新しい敵が湧いているかもしれませんし」

 

「そうですね。なら、2人1組がいいですかね。皆さんもそれでよろしいですか?」

 

 即座に全員の首が縦に振られる。警戒をするに越したことは無い。

 

「じゃあ適当にペアを組んでください。――優斗さん、一緒にどうです?」

 

「断る」

 

 ライフが抉り取られそう。

 

「なにおーっ! そんなに大妖精さんがいいのですか!」

 

「お前に比べたら数百倍」

 

「さっきから辛辣過ぎません⁉」

 

 王様ゲームで疲れたんだよ……。

 

「大妖精、もしよかったらどうだ」

 

「あ、うん!」

 

 嬉しそうに、屈託なく笑ってくれた。やはりさとりとは正反対だ。

 

「じゃっ、お先に」

 

「そんな殺生なー‼」

 

 これ以上相手するのも時間がかかるだけなので、さっさと走り去ってしまった。




第八十四話でした。久しぶりに書いてたらめっちゃ優斗がさとりに厳しくなってた。

今回正月休みのリハビリも兼ねてるので少し短めです。明日投稿できれば……いいな。

最近バーチャルyoutuberにはまっております。もしかしたら短編を書くかもしれない。もう構想は立っていて、「バーチャルyoutuber If物語」ってタイトルです。バーチャルユーチューバーが異世界行ったり学園ラブコメしたりします。

では!



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第八十五話 優斗から見た日本の原風景

 何やらわちゃわちゃ騒いでいるさとりには振り向かず、階段を駆け上がり、扉を全力で開閉した。

 

「優斗……速いよ……」

 

「ごめんごめん、この足がさとりから早く離れようと必死で」

 

「気持ちは……はあ、分かるけど……はあ……」

 

 さとりさん、大妖精にさえ少し引かれてるのか……。本人が楽しそうだから特に注意しない方針だけど。

 

「で、飛び出してきちゃったけど、これからどこ行くの」

 

 実はあんまり考えていない。って苦笑いしたいところだが、即刻呆れられるだろうから、

 

「もう一度4つの都市を確認しておこうか。一応ね。どこから行く?」

 

「だったら北都がいいんじゃない。最初に行ったから、もしかしたら侵入されてるかも」

 

「そうだな。時間も潰せるし」

 

 階段の入り口から逆方向、北都へ向かい始める。

 

「……こうしてみると、やっぱり月世界って綺麗だな」

 

「うん、なんだかこう……整ってるよね」

 

 建物もシンメトリーで、外の世界のように近未来的だ。

 

「俺が住んでた都会みたいに、区画整理されているよな。これはこれですっきりする」

 

 けど、味気ないとも表現できてしまうわけで。

 

「幻想郷の自然も違った味があるけどな」

 

 こことは正反対、アシンメトリーで日本古来の美しさも捨てがたい。

 

 春は幽々子の桜が咲きほこり、夏は太陽がサンサン照り付け幽香の向日葵が光って、秋は食物と秋の神様がドヤ顔を浮かべ、冬は妖怪と氷の妖精が幅を利かせる……月世界、あるいは外の世界ではちょっと考えられない。

 

「そろそろ霧の湖が恋しくなってきた」

 

「まだ数時間しか経ってないよ⁉」

 

「普段見慣れたものがないと落ち着かないよ」

 

「だったら早く終わらせないと」

 

「そうしたいけどな……今回ばかりはいろいろデリケートだからな」

 

「それって?」

 

 あれ、まだ俺の存在が外の世界でなかったことにされてるの言ってなかったか。後、それに式神が関与してるのも。

 

「いや、あの式神が俺が幻想入りした原因かもしれないんだ」

 

「……それは、大変だね」

 

「いろいろ事情はあるけど、これが終わったら全部説明するから。だからまず、目の前のことに集中しよう」

 

 どうやら納得してくれたらしく、こくんと首が縦に振られる……

 

 ――それと全く同時に、

 

「あんた達、そんな平和ボケしている暇あるのかい」

 

「はっ?」

 

「へっ?」

 

 真上から声が聞こえて、

 

「ちょっとは危機感持ちなよ!」

 

「危ないっ!」

 

 弾幕が降ってきた。

 

 ほとんど反射で加速してギリギリ回避はできたものの、突然の攻撃に脳の処理が追い付かない。

 

「おい、お前は誰だ?」

 

 金髪ロングヘアーで、赤がかった紫色の眼。水玉の帽子を被り、首元にひだ襟の付いた、青地に白い星マークと赤白のストライプの服を着ている奇抜な奴に声をかける。

 

「質問するならまず自分達から名乗ったら?」

 

 食えない奴だ。

 

「……朝霧優斗。幻想郷から月異変を解決にしたただの人間だ」

 

「えっと、大妖精です……これでいいの?」

 

「多分な。こういうの初めてでよく分からない。けど、敬語はいらないと思うぞ」

 

 明らかに敵だし。

 

「朝霧優斗……あれ、あんたの名前聞いたことあるな……まあいいか」

 

 松明を持ったそいつはさとりのような薄ら笑いを浮かべて、

 

「あたいはクラウンピース。地獄の妖精にして、この異変の首謀者の部下さ。これで満足?」

 

「クラウンピース……」

 

 聞いたことないな。少なくとも今までの東方作品には出てきていない。

 

「あなたも妖精なの?」

 

「そうさ。ただ、おそらくあんたとは対極に位置してるだろうけど」

 

「……?」

 

「分からない? あんたから狂気を感じないってことよ。まっ、それは置いといて、」

 

「俺たちをどうするつもりだ」

 

 コイツが依姫を倒した人型の敵か? 強い奴特有の威厳が全く感じられないのだが……どこぞの奇跡を起こす人とか地底の妖怪の先例があるので油断できない。

 

「どうする? 別に倒しちゃっても全く支障はないだろうけど」

 

「それはお互い得策じゃないだろう? お前はここに何をしに来たんだ。まさか単騎特攻で玉砕されに攻撃したわけじゃないだろう」

 

「まあさすがにね。ご主人様の命でちょっと状況確認しに来ただけさ」

 

 これで確定。依姫が話してた体格が小さい敵だろう。

 

「分かったならさっさと引け。危害を加える気なら反撃も辞さないが」

 

「ほう、なかなか煽ってくるわね。ちょっとだけやる?」

 

「よく考えてみろ。俺を倒したら、それ以上の弾幕に襲われることになるぞ」

 

 自分の実力を過信するな。ここは確実に、引かせる。ただ、弱気なところも見せてはならない。

 

「ふん、戦いたいのかそうでないのかハッキリしなさいよね。まあいい、ここは下がってやるよ」

 

 上手く口車に……乗せたか?

 

「まっ、タダで乗ってやる気もサラサラないんだけどね」

 

 まっ、そんな簡単にはいかないか。ある程度の消耗は覚悟だ。

 

「来るぞ大妖精。準備しろ!」

 

「う、うん!」

 

「イッツルナティックターイム! 狂気の世界、あんた達は乗り切れるかな?」

 

 そう叫んだあと、スペルカードを口で噛み千切った。

 

「『フェイクアポロ』! まっ、せいぜい耐えるがいいさ」

 

 吐き捨てて、クラウンピースは異空間へ溶け込んでしまった。……逃がしたか。

 

 しかし今は目の前の弾幕に集中せねばならない。しかも俺たちに耐えろってことは恐らく、

 

「多分これ、耐久だ! 回避と弾幕撃って粘るぞ!」

 

「了解! 背中は任せて!」

 




第八十五話でした。明日投稿するといったな。あれは嘘だ。(土下座)

寒いとなんであんなに眠くなるのでしょうね……ここ一週間の中で三日くらいは9時間以上寝てるという体たらく。

東方人気投票の結果が出ましたね。大妖精は62位! 憑依華と天空しょうのキャラがいっぱい追加されてるのに、順位が一つしか下がってない。つまり相対的に上昇している!素晴らしい!投票してくれた方々、ありがとうございました!

では!


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第八十六話 戦術的撤退

 耐久スペル、原作では何度か経験したことがある。フランの「そして誰もいなくなるか?」だけは、なんとかクリアした思い出がある。まあ、妖々夢で藍に挑む前にリアルの幻想郷に飛ばされてしまったわけだが。

 

 知識として、耐久スペルを持っているのは全員覚えている。フラン、幽々子、藍、紫、輝夜、永琳、妹紅、諏訪子にこいしにぬえマミゾウなどなど。いずれも幻想郷の実力者ばかりだ。

 

 それなのに、妖精がいとも簡単に撃つなんていったいどういうことだろうか。相当の実力者であることは間違いないだろうけど。

 

「大妖精、後ろに隠れてろ。とりあえず俺が対処する。きつくなったらバックアップしてくれ」

 

「分かった。無理しないでね」

 

 大妖精も俺もスペルをきゅっと握って、万全の用意。

 

 さあ、我慢の時間だ。さとりから逃げれたと思ったら別の輩に絡まれて……世知辛い。

 

「来るぞっ!」

 

 亜空間が3つほどあらわれ、そこから顔を見せたのは、

 

「……月?」

 

 直径3メートルくらいだろうか。大分小さい月が3つ迫ってきた。もちろん、ただ物理攻撃するわけではないだろう。まだ何か追加であるはずだ。

 

 嫌らしいことに、こういう悪い予感は大体当たるものだ。幻想郷ほど第6感が鍛えられる世界もないだろう。

 

 ニセモノの月、その意味がようやく分かった。あれは地球の衛星なんかじゃない。弾をばらまくだけの贋作だ。

 

「やっぱり、月から弾が! どうやって避ける?」

 

「弾の間を抜けるぞ。ついてきてくれるか」

 

「どこだって、優斗が導いてくれるなら」

 

 俺が差しのべた手に、ギュッと力強く握り返してくれた。

 

「……悪いな、外の空気吸うだけのはずがこんなことになって」

 

「異変なんてそんなもんだよ。敵がいつ現れるなんて分からない、行き当たりばったりなもの。確かに攻撃は受けちゃったけど、霊夢とか魔理沙とかより優斗はいっぱい考えてるから」

 

「……ありがと。ちょっとだけ、逃避行に付き合ってくれ。重ね重ねだけど、この異変が終わったら絶対にベットの上の話、全部済ませるから」

 

 お互いにコクンとうなずいて、最終確認。それから、月を背にして、

 

「逃げるぞっ!」

 

 脱兎のごとく駆ける。当然、月は追尾しながら全方位弾を放ってくる。

 

 すぐに俺たちの横を弾が通過してくる。弾幕ごっこは殺傷性のない弾を使うのがお約束だが、あの狂気妖精がそんなことを考えるはずもないだろう。

 

 このままでは確実に被弾する。そんなことは重々承知しているので、当然スペルで対抗しなければならない。どんなに強いスペルでも弾は出続けるので、なるべく発動時間が長く、攻撃範囲が広い……これだな。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

「魔符『フェアリーズマジック』!」

 

 とりあえず相殺できそうなスペカを置いといて、後ろには目もくれず走り続ける。

 

 見えないところで爆発音が次々と聞こえてくる。同時に視認できる相手の弾幕は減り、効果が実感できる。

 

 ただ、魔理沙のレーザーが打つたびに、鼓動がどんどん早くなる。いくら永琳の魔法の薬があっても、4面ボスの長期弾幕はなかなかに体に来る。

 

 前に走りたい、けど臓器が命令を聞かない、そんな長距離走のような状態を必死に耐える。

 

「……もう、ちょっと」




第八十六話でした。昨日バーチャルyoutuberの小説投稿したのでこっちが短めです。

今回、幻想郷の生き方みたいなのにちょっとだけ触れてみました。霊夢とか顕著ですけど、みんな刹那的に生きてるような気がします。生に執着もしていないし。

優斗自身、始めのころに比べて行き当たりばったりに行動している……のでしょうか。やはり1年も幻想郷にいると染まってくるのですね。これが成長と言えるのか、それは彼自身が決めることでしょうけど。

では!



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第八十七話 反撃への分析

 別に身にもつけたくもなかった能力だが、逃げるのは得意だ。特に後ろからの弾幕をかわしながら耐え続けるのは十八番と胸を張れる。

 

 もちろん数多くの逃亡経験があって鍛えられたのだが、今思えばこの時のために練習していたのだろうか、とため息をつく。好感情は全く生まれないけど。

 

「優斗、平気? 能力で辛くなってない?」

 

「ああ、永琳の薬で今までにないくらい持久力がある。――『封魔陣』!」

 

 フェイクアポロが生み出した無数の弾幕を霊夢の結界を借りて消滅される。やはり巫女の力は邪な物に良く効く。

 

 このまま耐え続ければ依姫たちの元へ戻れるだろう。

 

 だから、すでに段階は次のステージに入っている。この先のことも考えて、手を打っておかなければならない。

 

「あそこ、入り口が見えたっ!」

 

 大妖精が指差した先には魔払いの階段が確かにあったが、まだ入るわけにはいかない。

 

 つま先で一気にブレーキをかけて、その勢いでくるっと反転、弾に正対する。

 

「大妖精、ちょっとだけやりたいことがある、少しだけ待っててくれるか?」

 

「いいけど……いったいどうするの?」

 

 俺が体を張れば後はすごい人たちが何とかしてくれる。さあ、自己犠牲タイムと行こうか。

 

 ――霊夢、もう一度力を借りるぞ。

 

「神技『八方鬼縛陣』!」

 

 前方に一気にオレンジで八芒星の結界を出現させる。

 

 本来このスペカは妖怪などを捕らえるものだ。

 

 ここから推察するに、物理的に存在している全てを縛ることができる、と考えても十分に自然だ。言い方は悪いが、強力なゴキブリホイホイのようなものだろう。

 

 ならば――、

 

「……よし」

 

 予想通り、弾も入る。結界の中で動きが鈍くなり、最終的には推力を失い捕縛され、こちらの手中になる。

 

「おっけー、これで完了だ」

 

 

 

 

 

「……ただいまー」

 

「おかえり。月の世界の空気は楽しんでもらえた?」

 

「幻想郷と変わらず澄んでたな」

 

「あら~、スキマ妖怪が嫉妬するわねー」

 

「気を使うって言葉知らないのかしら?」

 

「俺の発言でケンカしないでもらえますか……」

 

「おかえりなさい! 月の世界の空気は大妖精さんを乱れさせましたか?」

 

「1ミリもありえない」

 

「なんだーつまんないの。文さんとこあさんに取材してもらおうと思ったのにー」

 

 そりゃまた恐ろしいコンビだ。

 

「優斗先生、さとり先生の言うことは無視してかまいませんが、特に変わったことはありませんか?」

 

「ああ、それなんだけどな、」

 

 こういう時の映姫は幻想郷一頼りになる。

 

 

 

 

 

「……ってことで、クラウンピースって妖精が襲ってきた。依姫の見たのと同じと判断して構わないだろう」

 

「地獄ですか……特に報告は上がってないんですけどね」

 

 映姫も知らないところで異変の準備が進められていたらしい。閻魔様ならなにか聞いてるかと思ったが、新たな発見はなかった。

 

「で、クラウンピースの弾をいくつか採集してきたんだけど、これ解析できるか?」

 

「申し訳ない、いくら地獄の妖精と言えどもそこまでは……」

 

「あら、ここにプロフェッショナルがいることをお忘れかしら?」

 

「できるのか?」

 

「有効策まで立ててあげるわよ」

 

「なるべく早く頼む」

 

 手をひらひらさせて奥の部屋へ消えていった。

 

 とても小さな変化だが、やっと一歩、異変の深層へ近づいた気がした。

 




第八十七話でした。続きが全く思い浮かばなかった……

だいぶ間を開けてしまったので明日も頑張って投稿したいです。がんばりゅ。

では!


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第八十八話 動き出す歯車

「ふああ……」

 

 一仕事終えてから数十分、暖かいお茶をすすってゆっくりしていた。

 

 もちろん汗は結構掻いたのだか、足はあまり重くない。走り慣れている成果がこんなところで出るとは複雑だ。もちろん永琳の薬の効果もあるのだろうが。まだまったく眠くないし、出せる弾幕は強力だし、いったい何が入っているのやら。

 

 ところで、湯呑みの中に入っているこの緑茶、月原産のものだろうか。どこぞの神社で出されるやつとは段違いで深みがある。そもそも月で茶葉が作れるのかさえ分からないけど。

 

「それは地上の世界から仕入れてるのよー」

 

 そんな俺の疑問を見抜いたのか、弾幕の解析を終えたであろう永琳が肩を叩いた。

 

「え、そうなのか」

 

「そもそもこっちじゃお茶の需要があんまりないわよね。みんな桃の水分で十分らしいわ。味気ないと思わないのかしら。私はごめんだから地上から仕入れてるけど」

 

「それ平気か? なんかこう……穢れがどうのこうのとか文句でないのか?」

 

「そんなのあなたたちと戦った時にすっかり無くなったわよ。あのスキマ妖怪は骨抜けにされて悔しがってたけど」

 

「それならいいんだ。で、弾幕の分析終わったか?」

 

「もちろん。まあいろいろ小難しい話はできるんだけど……まっ、とりあえず口開けなさい」

 

「ん?」

 

 反射的に半分ぐらい指示に従うと、マッドサイエンティストの手が伸びてきて……

 

「食べなさい!」

 

「グホォ⁉」

 

「優斗⁉ 何されたの⁉」

 

「ああ、あなたもちょうどよかった。はい、あーん」

 

「あ、あーん……――うえっ……なにこの苦いの」

 

 俺の声を聞いて駆け付けた大妖精もろとも薬を飲まされた。てか、なんで俺だけこんな乱暴なんすか……。

 

「多分それで相手に有効打与えられるはずだから。あいにく2錠しか作れなかったけど」

 

「え、マジすか……だったらもうちょっと強い人に」

 

「そうですよ、紫先生とか」

 

「こういう時はあなた達、って相場が決まってるのよ。その方がいろいろ対応できるでしょ?」

 

 母親が子供に向けるに近い微笑が浮かべられる。

 

 連携が取れるから、ということだろうか。それだったら綿月姉妹にお願いしたかった。

 

「それに紫は喜んで裏方に回ってくれるだろうし。彼女、なんだかんだ手を回してくれたでしょ?」

 

「確かに」

 

 結界は全部紫のおかげだ。

 

 少しの沈黙があった後、永琳は声のトーンを下げた。

 

「さて、これでぜーんぶ、準備はできた。――覚悟はいい?」

 

「それってつまり……」

 

「ええ、こちらに手の内が知られた以上、もう相手は出し惜しみしないでしょうね。あなたたちが帰ってきてから1時間弱……そろそろかしらね」

 

「おい、その弓矢は」

 

 いつの間にか永琳の手に握られていたのは、全体が白光する幻想的な武器だった。

 

 あれは……永夜抄で使ってたやつか。これすなわち、

 

「先生……本気出すの?」

 

「あら、むしろ手を抜く方がおかしいと思うけど? ちなみにスキマも閻魔様ももう戦闘態勢バッチリだけど」

 

「え、……あ、みんな目が笑ってない」

 

「大妖精、残念ながらあそこの変態は一切変わってないぞ」

 

 大事なところで真面目になるのが幻想郷の重鎮だと理解していたが、例外もいたようだ。

 

 そんなKYは放っておいておくとして、今まで数々の経験をしてきた不老不死の予測は伊達ではなく、

 

 ドンドンドン!

 

「……来たか」

 

「いよいよ、だね」

 

 警備兎の救助要請だろうか、入り口が激しくたたかれた。

 




第八十八話でした。明日投稿しようとしたけど話のつなぎが全く思いつかなかった……

これでようやく最終決戦でしょうか。適当で名をはせるうp主のことなので脱線するかも

では!


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第八十九話 新たな敵

「増援が来たのね?」

 

「はい、先ほどとは比べ物にならないほどです! 結界をどんどん破って侵入しています!!」

 

 この報告に永琳と紫はそろって曇った顔を見せた。

 

「ですって。あなたの結界そんな脆かった?」

 

「うーん、ちょっと使い過ぎたせいで膜が薄く……って、そんなヤワじゃないわよ。あんな雑魚どもに攻撃されたくらいで壊されるんじゃ最強妖怪じゃないわ」

 

 では、考えられる可能性は1つ。

 

「つよーい敵さんが襲い掛かってきたんでしょ。私の十八番を突破するその力……気になるわね」

 

「打って出るのか」

 

「もちろん。ただし、扉は絶対待ち伏せされてるだろうから、スキマで飛ぶわよ」

 

「よし、頼む。みんなもそれでいいな」

 

 声は出なかったけど、全員首を数回縦に振って了承の合図が送られた。

 

「あ、ちょっと待ちなさい。豊姫、あなたはここにいなさい」

 

 けど、そこに永琳が割って入った。

 

「あら……なぜですか?」

 

「さっきも言ってたけど、依姫が目覚ましたら戦いたがるでしょう? 傍らで止めておいて。私たちだけで戦力は十分だろうし」

 

「かしこまりました。ここの警備はお任せを」

 

 宇宙一恐ろしい警備員だな……。

 

「話遮って悪かったわね。私たちは仕事しに行きましょう」

 

 俺も一度目を閉じ、一気に集中。目を開けた時には仰々しいスキマが目の前に現れていた。

 

 きっとこれで終わるはずだ。最大限の注意力で、最高峰に脳を回転させて、乗り切ってやる。

 

「突入だ」

 

 大妖精は走り、文は飛び、さとりはゆっくりとした歩みで、おのおの決戦場へ飛び出していった。

 

 

 

 転移先は、扉から数十メートル離れた、固い地面の上だった。さとりが造ったスキマは中に入る人間のことを全く考えていないけど、こっちは柔らかに着地できた。

 

「式神は……」

 

「優斗、あそこ!!」

 

 一足先に索敵していた大妖精はすでに見つけていたらしい。

 

 斜め上に首を動かすと、まず飛び込んできたのはところどころ剥がれおちている結界だった。けど、そんなのはすぐ気にならなくなった。

 

 その奥、つまり結界の外側で数えきれないほどの式神が体当たりを仕掛けていた。

 

 ほとんどは神風特攻隊のようにはかなく散っているが、少しずつ結界にダメージが入っている。それよりなにより、先ほどとは少し異なる敵がそびえていた。

 

「でかいな……」

 

「合体でもしたのかな?」

 

「合体ロボですかっ!?」

 

「落ち着け早苗、あの時の異変の奴とは関係ないから」

 

 顔や体型は普通の式神となんら変わりない、しかし、ただただ巨大な式神がパンチを何回も撃っていた。

 

 全長30センチくらいの時は丸っこくて黒い身体と、白抜きの目が愛らしいと言えなくもなかったが、今、数十メートルの大きさとなっては不気味でしかない。

 

「……攻撃手段を変えてきたわね。あんな馬鹿力で押されたら、破れてもおかしくないわ」

 

「張り直すことは?」

 

「ジリ貧よ。今のうちに殲滅したほうが早いわ」

 

「おっけ。よし、全員突撃、あの式神たちをやっつけてくれ」

 

「それはもちろんだけど、あなたたちは休んでおきなさいね。戦闘が始まると薬の効果が始まるから、今動かないほうがいいわ」

 

「りょーかい!」

 

「頼んだぞ」

 

 まあこの面子なら心配はいらない。

 

 こうして話している内に文は口火を切っている。もう空高く舞い上がって、巨大な風を巻き起こしていた。

 

「スペル使うまでもないわ! 巻き起これ、旋風陣!」

 

 遠目からでも文のドヤ顔と吹き飛ばされる式神がよく分かる。

 

 ただ、あの巨大なやつはちょっときついようで、うちわを数回振ったらすぐに、こちらを振り返った。

 

「誰か、パワーある方、あの巨大なやつ、お願いできますか?」

 

 マスパが撃てれば吹き飛ばせるのだろうけど……まっ、それはただのイメージで、もっと力強いスペルはいくらでもある。

 

「では、私がやりましょうか」

 

「頼みます、校長!」

 

 文が急速落下するのと入れ替わりで映姫が飛び上がる。ポンポンポンと空中をけるような、軽やかなステップだ。

 

「まったく、あなた方に説法が通じれば少しは救われたのでしょうけど……どうやら叶わないようですね。全力で行きましょう」

 

 映姫がスペルを帽子の中から引っ張り出した。そこにしまってあるとは初耳だ。

 

「罪符『彷徨える大罪』。さあ、成仏してください!」

 




第八十九話でした。すみませんでした……!(初手謝罪)

えー、投稿間隔空いた言い訳をさせていただきますと、うp主、実は新人賞に応募するためのオリジナル小説を書いていまして、ここ二か月は最終確認で忙しかったのです。あと新年度になっていろいろあったり……許してヒヤシンス。

新人賞の結果をそのうち書くので許してください。たぶん落ちてる。

次は早く出します!印刷室のコピー機みたいに!!

では!


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第九十話 張りぼての中には

 映姫のスペカは色とりどりのレーザーだった。映姫が右手を払うと右から左へ、左手だとその逆で、七色の光線が空気を切る。

 

 この手の攻撃は数だけの敵に効果抜群だ。東方永夜抄で例えるなら、道中は高速スペルのほうが使いやすいって感じかな。

 

 それはそうとして、式神たちがあっという間に殲滅されていく。普段はから落ち着いた足取りで学校を見て回る映姫を、今の表情からは想起できないだろう。

 

「校長、どうですかー!」

 

「ええ、今日はとっても調子がいいみたいです。……次はあなたですよ」

 

 こちらの質問に答える余裕を見せつつ、視線は大物へと向かう。

 

「ただ操られるだけの人生……今こそ終焉させ、正しい輪廻へと戻しましょう。大丈夫です、ちょっとは罪状を軽くしてあげますから」

 

 同情の色を浮かべたその顔つきは、閻魔というよりはむしろ天使か。これが彼女なりの慈悲なのであろう。

 

「それっ!」

 

 レーザーを集約させ、一点集中で大式神の額めがけて発射する。

 

 もちろん相手だって黙ってはいない。おそらく弱点であろう額をかばうように両手を突き出す。

 

「グ、グアァ……」

 

 式神から明らかに苦しそうなうめき声が漏れ出た。確実に映姫の弾幕が効いている。

 

「先生、頑張って!」

 

「ふふ、ありがとうございます。生徒の応援ほど力になるものはありません」

 

「せんせー頑張ってー」

 

「さとり先生は黙りましょうね?」

 

 さとりにツッコミを入れられるくらいには余裕があるのだろう。少し怒りを混ぜ込んだ苦笑いを向け、さらにギアを上げる。

 

「消えなさい!」

 

 背後からさらにレーザー追加。いったいどれほど隠し持っているのか。

 

 今まで何とか拮抗していた式神もさすがに力不足だ。どんどん押されていく。

 

 レーザーがだんだん細くなっていく。色が混ざりあって虹を描いていく。今は弾幕ごっこではないが、映姫の戦い方はスペルカードルールにのっとった美しいものだった。

 

「それっ!」

 

 最後の、一押し。

 

 さらに威力を上げたレーザーは式神の両手を貫通した。最後の砦が打ち破られれば残りは急所のみ。

 

 白黒ごまかさず、式神の額の中心に、着弾した。

 

「ウゴッ……」

 

 頭の重心が大きく後ろへ傾く。2頭身の頭でっかちでは一度崩れたバランスを戻せるはずもない。

 

 まず左足、すぐさま右足も続けて地面から離れる。あまり長くない腕を回して何とか立て直そうとするが、全くの無意味だった。

 

 ドシン、地面が震えた。

 

「やりました」

 

「よっし、さすがです校長」

 

「地獄の閻魔たるもの、当然です」

 

 戻ってくるときには元の穏やかな笑みに戻っていた。

 

「これで敵の攻撃が止むといいのですが……」

 

「ですね。椛、ちょっと見てくれるか?」

 

「もうすでに。特に増援らしきものは確認してません」

 

「あら、もう終わりなの?」

 

「永琳先生、矢をむやみやたらに振り回さないでください……」

 

「だってこれじゃあ霊夢とスキマが襲ってきたときよりもこざかしい……って、なによあれ」

 

「えっ?」

 

 永琳が指さしたほうを振り向くと……

 

「なんだ……」

 

「まだ終わってない……のかな」

 

 黒く小さな球体が式神の腹からポコポコ漏れ出ている。

 

 1粒1粒は小さいのだが、なにせ数がけた違いに多い。集まってどんどん大きくなっていく。

 

 いつの間にか直径2メートルほどの大きな球に変貌した。

 

 それからさらに形を変えていく。両手両足らしきものが生え、人間の形を作っていく。

 

 服、装飾、顔のパーツと、どんどん個性が表れていく。

 

 そして、とうとう、

 

「……はあ。ついたわねん♪」

 

 ソイツが完成した。

 




第九十話……何か月たったんだ一体

いろいろと苦労していまして……これからもこんな感じですけどよろしくです。

では!


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第九十一話 地獄を統べる女神(厄災)

 ソイツは余裕に満ち溢れていた。

 

 赤髪で、肩のあたりまで伸ばしたセミロング。 白い文字で「Welcome Hell」と描かれた黒いTシャツを着ている。

 

 ……前置詞無いのおかしいだろ。「welcome to Hell」が正しいんじゃないか。しかも地獄は一つしかないんだからtheを付けてないのもおかしい。

 

 濃い色の緑チェックが入ったミニスカートで裾部分に黒いフリルと小さなレースがついている。 靴は履いていないが、足には傷一つない。

 

 とにかく不気味だった。幻想郷の住人は感情豊かだからわかりやすいけど、こんな戦場で、こんな劣勢で、なぜ、コイツはニヤニヤしているのか。

 

「純狐の眷属たちをここまで簡単に倒すとは、想定外だわ。兎たちにこんな力があったなんて……」

 

 こちらは全く気にせず、周りの惨状を確認しつつ飛び回る。声は抑揚が無く、自分に言い聞かせているようにか細かった。

 

 あんな不気味な人物を放っておくわけにはいかない。俺たちのほうへ飛んできたタイミングで話しかけるしかない。

 

 彼我の距離が、およそ15メートルくらいになったときであろうか。俺は意を決した。

 

「おい、待て」

 

「はい? 貴方は――兎ではないようね」

 

「当たり前だ。俺の耳はそんなに長くない」

 

「確かにね。なら……月の民?」

 

「あいにく違うな。その月の民の要請をやってきた者だ」

 

「へー。あいつらも頼むって概念があるのね。どこから来たの?」

 

「幻想郷だ」

 

「はあっ!?」

 

 初めて動揺した。

 

「まさか、アイツらが……」

 

「ああ確かに、半年前までは想像できなかっただろうな。だが、今はもうすっかり有効な間柄だよ」

 

「なるほど……どうりで妖精たちが」

 

「そういうことだ。お前が誰だか知らないが、月の都は俺たちが守る」

 

「……ふん」

 

 アイツの歯がちらりと見えた。月世界と幻想郷の共闘。そんなありえないことを目の当たりにした驚きは隠せるものではない。

 

「まあ、いいわ。元々期待するもんでもないし」

 

「ずいぶんと自信があるようだな」

 

「ええ、これでも女神なものでね」

 

「神様なら供給が多すぎて価値が下がってるんだよ」

 

「あらあら、私の名前を聞いてでも立っていられるのかしら?」

 

「……言ってみろ」

 

「では♪」

 

 目を糸にして笑うと、ソイツはてっぺんに玉が乗っている帽子をとり、軽く会釈。そして、

 

「私の名前はヘカーティア・ラピスラズリ。3つの地獄の支配者だ。覚えておけ」

 

 急にぶっきらぼうな口調で、名前を明かした。

 

「……悪いが聞いたこともない。って、おい、どうした」

 

 俺のパソコンにデータは入っていないし、知っている者はいなかった。ただ一人を除いて……。

 

「……ヘカーティア、様!?」

 

 地獄の閻魔、山田・ヤマザナドゥ。彼女だけは固まったままだった。

 

「知っているのか?」

 

「知っているも何も……とんでもない」

 

 言葉が出てこないほど震えている。先ほどまでの余裕が正邪の能力で反転したように。

 

「優斗さん、逃げるんです。今すぐ」

 

「ちょ、何を言っているんだいきなり」

 

「無理です。敵う相手ではありません」

 

「なぜそんな……」

 

「ちょっと、知ってるなら説明しなさいよ」

 

 横から紫も割って入る。

 

「いいですか、皆さんご存知の通り、私は閻魔業で日々人々を裁いております」

 

「そうだな」

 

「しかし、それは結局幻想郷担当の、一裁判官でしかないということです。ヘカーティア様は私たち裁判官、地球も月もその他の世界も、すべての地獄をつかさどっているのです」

 

「えっ?」

 

 それって、

 

「ちょっと待て、地獄っていったいどれだけあるんだ」

 

「それはわかりません。強いて言うなれば、星の数ほどです」

 

「……なるほど」

 

 だからTシャツの「Hell」にtheがついていないのか。

 

「地獄をつかさどる神様ねえ……確かに強そうだけど、これだけ人数あるし、いけるんじゃないの」

 

「紫さん、それは大いなる間違いです。だって、」

 

 次の一言は、

 

「いくらあの身体に弾幕を当てても、倒せませんから」

 

 全員の表情を硬く、冷たくさせた。

 




第九十一話! 連続投稿なんて私は本当に私なのか……

しばらくはちゃんと更新したい気持ちだけは一人前です。

では!


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第九十二話 『器』を手に入れた者達

「あら、よく分かったわねん♪」

 

「貴方の噂は常々聞いています。私のような身分では拝見することさえ叶いませんが……しかし、こんな形でお会いできるとは」

 

映姫の声が震えていた。会社の上司と部下の関係を超えた、絶対的なヒエラルキーがあるとでもいうのか。

 

「優斗先生、よく聞いてください。今我々が正対しているヘカーティア様は実物ではない。言うなれば、あれも式神のような存在なのです」

 

「ご名答。本物の魂は……まっ、地獄の奥底ってところね」

 

「でもそれなら力は弱まってるはずでしょう? 全員で飛び掛かれば……」

 

「やめておきなさい紫先生。貴方の力でどうにかなる相手では……」

 

「ちょっと、何なんですかさっきからー!!」

 

険しい顔の映姫に待ったをかけたのは、これまでずっと口を閉じていた早苗。

 

あー……物足りなさそうな目をしている。今まで弱い奴らとしか戦ってなくて不完全燃焼なんだろうな。

 

「先生がそんなネガティブでどうするんですか!」

 

「早苗さん、ネガティブというわけではなくて、ただ事実を……」

 

「あんな変なTシャツヤローなんてこれだけ戦力があればきっと勝てます、大丈夫ですから!」

 

うわ、とうとう言っちゃった。みんな空気を察して口に出さないのに空気を読めない早苗さん言っちゃった。

 

「変な……?」

 

ほら、ヘカーティアが声を震わせている。案外煽り耐性はないのかもしれない。

 

それならむしろ好都合。心の安定を崩し、その隙に背後に回り込めば勝機はある。

 

――だが、刹那、

 

「――死ね!」

 

「危ない!」

 

「うわっ!」

 

3人の大声がほぼ同時に響いた。

 

ヘカーティアと早苗と、あとは……?

 

「……止められたか」

 

罵倒していたのはもちろんヘカーティアだろう。おそらく早苗に向かって何らかの弾幕を発射した。

 

……見えなかった。規格外のスピードだ。俺ならば、一瞬でやられてしまっただろう。

 

早苗が悲鳴を上げたのも無理はない。今の一瞬で彼女のお祓い坊が三分の一ほどえぐれていた。きっと彼女も反応できなかったに違いない。顔つきが先ほどとは180度変わっていた。

 

そしてもう1人は、

 

「……まったく、不安に駆られて来てみれば」

 

「あ、ありがとうござい゛ま゛す゛さ゛く゛や゛さ゛ん゛~」

 

あ、早苗が半ベソかいた。なんて珍しい。

 

そう、間に割って入ったのは十六夜咲夜。きっと時間を止めて超速の弾幕を払ったのだろう。

 

「あら、なかなか面白い能力してるのね」

 

「ええ。それにしても、不意打ちなんて美しくないですね。スペルカードルールをご存じないのですか?」

 

「もちろん。だってここは月でしょう? そして私は地獄の女神。どうしてそちらのルールに付き合う必要があるのかしら」

 

「女神ならそのくらいの包容力を見せてほしいものです」

 

「……貴方も大概ね。いいわ。そっちがその気なら」

 

空中でふわっと1回転。10メートルほど飛び上がった。

 

「来るぞ、準備を」

 

全員身構える。念には念を入れるに損はない。

 

「……お前らは私を愚弄した。それだけで、地獄の苦しみを受けるには十分だ」

 

また口調が変わった。……本気か。

 

「異界『逢魔ガ刻』」

 

「境符『四重結界』!」

 

ヘカーティアがスペルを唱えると同時に紫も防護壁を張る。これで相殺できるといいのだが……。

 

ヘカーティアのスペルはなんてことはない、紫色で棒状の弾幕だ。

 

「おらっ!」

 

それらが何百、何千と集まり、一斉に境界へ突撃する。

 

「はっ、そんな弾幕……」

 

紫の軽口が、止まった。

 

結界があきらかに歪んでいる。今までどんな敵でも、いや、どんな幻想郷の住人でも、破ることのできなかった最強スキマ妖怪の得意技に、ヒビが入った。

 

「何っ……なんなのよ」

 

これはもう……限界だ。

 

「ごめんなさい! 抑えきれない!」

 

考えうる限り最悪のスタートだった。まさか紫の結界が数秒で破られるなんて、だれが想像しただろう。

 

「皆、回避優先! できる人は相殺!」

 

「「「了解!」」」

 

まず俺、大妖精、小悪魔、椛は逃げを優先した。なるべく体力を使わないように体をひねりながら、最小限の弾幕で逃げ道を作る。

 

「優斗、こっち!」

 

さすが弾幕ごっこで鍛えられた大妖精だ。的確に弾の薄いところを突いてくる。俺も弾消しに優れたスペカを数枚発射し、なんとか援助する。

 

一方強者たちはそんな戦い方はしない。

 

「天丸『壺中の天地』!」

 

「魍魎『二重黒死蝶』!」

 

大妖怪と月の重役を筆頭に、無限に射出される弾を何とか消していく。

 

だが、それは結局対処療法でしかない。

 

こちらから打って出て、ヘカーティアに致命的な一撃を与えるしかこの弾幕を止める方法はない。

 

だが一体どうすれば。相手はこちらの常識を次々に打ち破る最凶の女神だ。俺の思考ですぐに倒せるような相手では……。

 

「おや、優斗さんが倒す必要はないと思いますけどね」

 

「並走するな」

 

考えているうちにさとりが横に出没していた。こんな時でも楽しそうだなコイツ。

 

「何のために永琳先生の出来立てのアレを飲まされたと思ってるんですか?」

 

「薬を飲んだだけなのにどうしてそんな表現ができるんだ」

 

「才能ですよ。で、その薬はヘカーティアさんを倒すものではないんでしょう?」

 

「ああ、そうだが」

 

「なら、こんなところは他の人に任せて、我々は行きましょう」

 

「……どこにだ」

 

「どこって、そりゃあ決着をつけるべきところですよ。ねえ、大妖精さん?」

 

「私も?」

 

「あなたも薬飲んだでしょう? その瞬間、あなたには権利が発声したんですよ。おいしいところをかっさらう権利をね」

 

つまり、俺たちがラスボスを倒す勇者になれという事か。

 

「……分かった」

 

「頼りないかもしれないけど、頑張るよ」

 

 

 

『こういう時はあなた達、って相場が決まってるのよ。その方がいろいろ対応できるでしょ?』

 

 

 

永琳の言葉が脳裏をよぎる。彼女は俺たちに期待を込め、希望を託したのだ。裏切るわけにはいかない。

 

いつものように大きく息を吐き、数秒「無」になる。

 

これで集中力も上がった。覚悟も、固まった。

 

「よし、善い目ですね。では、――ドレミーさん!」

 

さとりが夢空間の主を呼ぶと、

 

「へっ、――うわああああっ!?」

 

「きゃあああああ!?」

 

もうこのパターンも慣れたものだ。地面の間隔がなくなり、俺と大妖精は仲良く落下していった。

 




第九十二話でしたー。早苗さんは癒し。

この勢いでラストスパートです!失踪せずに疾走するぞ!(激寒)

では!


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第九十三話 突入

 ジェットコースターの浮遊感はあまり好きではないが、あれは数瞬で終わるから我慢できるし、別に乗らなければいいだけの話だ。ところがこの1年で何度パラシュート無しスカイダイビングを敢行しただろう。

 

「……考えてみれば声出す必要もないか」

 

「なんでこんな状況で落ち着けるの!?」

 

 幻想郷にきて身についたことといえば、危機回避能力と自由落下への耐性だろう。もし元の世界に戻ったら嬉々としてジェットコースターに乗れるのだろうか。嫌な慣れだ。

 

「もう何回も経験してるし、今更驚くのも」

 

「苦労してるね……」

 

「ほら、もう着くみたいだ」

 

 ぐるぐる身体が回転しているので時たま下が見える。少しずつ厚みが1メートルくらいの白いクッションが大きくなるのを確認し、ほっと息を吐いた。いつもはこっちが行動しないと叩きつけられるのがお決まりなのだが、ここの主は心優しいようだ。

 

 そのままクッションに身を任せ、何回か跳ね返った後、ようやく運動が止まった。

 

「ようこそいらっしゃいました♪」

 

 一度聞いたことのある声。えーっとこの人、いや、このバクは、

 

「ドレミーか」

 

「はい、ここは夢空間ですよ」

 

「俺に優しいからやっぱそうだよな」

 

「はは、どう受け取ればいいのでしょうね」

 

『彼にとっては非日常が日常ってことだ』

 

 サグメも隣でホワイトボートに文字を走らせていた。そういえばサグメがドレミーを引っ張った後から姿を見ていなかったが、ずっと夢空間にいたのか。

 

「とりあえず降りてきたらどうですか?」

 

「ああ。大妖精、立てるか?」

 

「う、うん。まだちょっとクラっとするかも……」

 

「じゃあこのまましばらく。で、なんでここに……」

 

「あ、少々お待ちを。もう1人補助が必要な妖怪がいるので」

 

 サグメが俺たちの右横の向きに指をさすと、同じようなクッションがまた出てきた。真っ白なそれに対比されて、黒い影がどんどん大きくなっていく。

 

 あー……サードアイがあるよ……。

 

「いやっふうううううう!!」

 

 よっぽどスリルがあったのか、大声をあげながらボイーンと跳ね返り、こちらのクッションまで飛んできた。

 

「いやー、ジェットコースターみたいな爽快感でしたね!」

 

「なんでお前がそれを知ってるんだ」

 

 もうすっかりお馴染みのさとりさんが珍しくさわやかな笑顔で額をぬぐった。

 

 そのまま仰向けで寝そべっている大妖精のほうへ笑みを向け、

 

「おや、元気がないようですね大妖精さん」

 

「ちょっとね……」

 

「そんなんではこれからの戦いについてけませんよ」

 

「分かってるけど……」

 

「それっ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「目が覚めましたか?」

 

「おいコラどこ触ってるんだ」

 

 しかも両手で両胸いったよこのセクハラ妖怪。

 

「嫉妬ですか? あなたも女の子に生まれてくればよかったのに」

 

「そうでないことは分かってるだろさとり妖怪なんだから」

 

「確かに。ところで前より揉み心地が良かったんですけど」

 

「いや知らないよそんなこと」

 

「胸って揉めば揉むだけ……ってのは有名な話ですし、つまり優斗さんが」

 

「そんなわけあるか」

 

 ここまで来て変わらないのは逆に称賛すべきなのだろうか。いや、俺の精神安定的に絶対認めてはならない。

 

『コントみたいだな』

 

「まったくです。ところで、大妖精が自分で揉んだという可能性は……」

 

「そ、れ、で、俺たちを呼び寄せたからには理由があるんだろう?」

 

 ドレミーまで参加すると収集つかなくなる。

 

「そうですね。先ほど、ヘカーティアが襲い掛かってきたでしょう?」

 

「ああ、とんでもないパワーだった」

 

「先生たちがあんなに苦戦するところ見たことなかった……」

 

「紫さんも永琳さんも大概チートですが、それを上回る変態っているんですね」

 

『このままでは長くはもたない。しかし、希望もできた』

 

「というと?」

 

『ヘカーティアが来た道を逆探知し、こちらも相手の親玉の』

 

 一度字を消し、また書き直す。

 

『場所を特定した。それで君たちを呼んだわけだ』

 

「なるほどな。で、もう繋いであるか?」

 

『ああ。ただ、1つ問題がある。』

 

「敵がかわいい女の子だったら私が攻撃できないことですか?」

 

『さとり、君の攻撃は効かないんだ』

 

「永琳さんの薬を飲まないと弾が当たらないらしいですよ」

 

 完全にスルーするとは手厳しいが、今はさとりに構っている場合でもない。

 

「あともう1つ、敵が2人いるという事です」

 

『クラウンピースとかいう妖精と、もう1人の正体が分からない』

 

「もしバラバラで襲ってきたら、優斗さんと大妖精さんが分かれて戦わなければなりません」

 

「そしたら私がクラウンピースと戦うよ。妖精は妖精が倒さないと」

 

「そしたら私はどちらのヘルプに入ればいいんでしょうか」

 

『場合によるとしか……』

 

「じゃあ好きにやらせてもらいますね」

 

「ひっ!?」

 

「指をそれらしく動かすな」

 

 逃げるようにクッションから降り、ドレミーの近くまで向かう。当然さとりも追いかけてくる。

 

「では、準備はよろしいですね?」

 

「ああ」

 

「いよいよ、だね」

 

「これが終わったら……彼氏と結婚するんです」

 

「やめろフラグになるから」

 

『頼むぞ、命運は君たちの手にかかっている』

 

 どうも雰囲気がふんわりしている……本来ならばもっと感動的な場面なのだろうが。

 

 幻想郷にきてからというのも大ごとが小事になったというか、めったなことでは驚かなくなった。あれほどの経験をしたら当然だが。

 

「では空間を開けます。飛び込んでください! 3、2、1」

 

 さあ、最終決戦だ。

 

「それっ!」

 

「走れっ!」

 

「キャハハッ!」

 

 3つの声が同時に放たれた。……3つ?

 

 明らかに甲高く、不自然な声。これはまさか……。

 




第九十三話でした。長期休みになるとやる気出ます

これからも頑張ります。では!


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第九十四話 信頼を託して

 夢空間が閉じると、あたり一面、黒、黒、黒。漆黒の世界が広がっていた。

 

 だが、ただの暗闇というわけではない。所々で電気がショートするような光の小爆発が起こっている。なにより、こんな照度にもかかわらず、お互いの顔がはっきりと識別できる。

 

 まずは遠くから飛んできた甲高い声の確認だ。おそらく、いや、確実に奇抜な服装の奴であることは間違いないのだが。

 

「よく来たねー! おや、3人だけかい?」

 

「クラウンピース……だな」

 

「そうだけど? もう名乗ったことあるじゃない」

 

 空中2メートルほどのところに浮いて、見下すように吐き捨てた。もはや確認する必要もない。松明を抱えた妖精、クラウンピースだ。

 

「へー。確かに妖精みたいですね。体形がチルノさんとそっくり」

 

「そこかよ」

 

「あ、大妖精さんは別格ですよ」

 

「はいはい」

 

 真顔でふさげたことを連ねているさとりはスルーして、負けじとクラウンピースをにらみ返す。

 

「悪いが、お前に構ってる暇はなくてな。もう一人のほうに用がある。通してもらおうか」

 

「それにおずおず従うのが正気だろうけどね、あいにく狂気しか持ち合わせてないんだ」

 

「百も承知だ」

 

 前回会った時から、「狂気」というワードを連呼している。おそらく能力にかかわってくるのだろうが、解明したところで攻略できるわけでもない。

 

 覚悟していたが、仕方ない。このための準備は万全。

 

「ちなみにお前の主人、いや、友人か? どこに隠れている」

 

「ご主人様はお仲間と戦ってるじゃないか。もう少しすれば殲滅して、お帰りになるよ」

 

「確か地獄を統べる者だったか? 残念ながらこちらは死んでも地獄を破壊しつくしてから生き返るような連中だ」

 

「アンタ……言わせておけば……」

 

 ふむ、少々怒りっぽいと。それにしても今はよく口が回る。薬の影響か。

 

「それより友人のほうは? 倒してから聞くのは面倒だからな」

 

「ふん、アタイの背後のずっと奥だよ」

 

「ずいぶん素直に教えてくれるんだな」

 

「ああ、黙る必要もないさ。アンタ達はこの先には行けないし、万一倒されたとしても、ご友人様には決して敵わないからね」

 

「……なるほどね」

 

 突如声を発したのは大妖精。決して俺たちには向けない、ゾッとするほど低く暗いトーンだった。

 

「それだけ聞ければ十分だよ。優斗、さとり先生、先に行って」

 

 大妖精の目は見開き、じっとクラウンピースを見据える。いつもは緩やかな目じりも口角も先鋭化している。

 

「ちょっと待て、置いてくわけには」

 

「妖精の相手は妖精がすべきだと思うんだ。それに、」

 

 人差し指をクラウンピースに、

 

「1対1で話したいことがある」

 

 凛々しく、突きつけた。

 

「……ははあ、そういうことですか」

 

 何かを察知したのか、指をあごにやり深くうなずくのはさとり妖怪。相変わらずの薄ら笑いを浮かべ、その真意は測れない。

 

「ちょっと待て、そんなこと、このアタイが許されないぞ!」

 

「優斗さん、ここは大妖精さんのことを信じましょう」

 

「いやしかし、こんな強敵に……」

 

「おい、」

 

「大妖精さんの成長はあなたが一番知っているはずでしょう?」

 

「だが万一何があったら……」

 

「おい、お前ら」

 

「大丈夫です。断言できます。彼女の覚悟を、あの瞳を、信じませんか」

 

「……よし」

 

「無視するなよっ!!」

 

 やはり短気だな。少しでも判断を鈍らせ、大妖精の補助をしようと皮算用を立てていたが、ホイホイ引っかかった。

 

 口ではあんなことを言っていたが、心ではとっくに覚悟を決めている。ご友人様とやらはクラウンピースよりずっと格上だろう。それを俺一人で倒そうなんてのは自信過剰だ。とすると、さとりはこちらに着いてきてもらわねばならない。予想されたルートの1つだ。

 

「アンタら……」

 

 狂気妖精の怒りもそろそろ限界か。

 

「――大妖精」

 

 これから孤独な戦いに挑む妖精の方にそっと手を置き、

 

「頼むぞ」

 

「……うん!」

 

 ただ一言、それで十二分だ。

 

「さとり、行くぞ」

 

「はい。鵺さん、力を借りますよ」

 

「おい、待て! ――あ?」

 

 おそらく封獣ぬえの能力だろうか。こちらの正体を紛れさせる。この能力、完全なものではないが10秒も持てば良い。

 

「走りますよ!」

 

 そのままクラウンピースの足元を通り抜け、背後をつく。そのまま倒してしたい気もするが、友人のほうが手助けにきて乱戦になってはたまらない。逸る気持ちをぐっとこらえ、後ろは振り返らず、走り続ける。

 




第九十四話でした。お久しぶりです……

なんやかんやいろいろ忙しかったですが、これからは完結に向けて一直線です。

では!


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第九十五話 対極の妖精

 クラウンピースが背後を振り返った時には、すでに優斗とさとりははるか遠くまで走り去っていた。

 

「逃がしたか……!」

 

 顔が歪ませ、松明を振り回す。一瞬優斗たちのほうへ重心が傾くが、すぐに目の前の妖精に向き直る。

 

「やってくれるわね。妖精のくせして」

 

「あなたも妖精でしょ? 対等だと思うけど」

 

「そこら辺で生まれたただの妖精とアタイを一緒にしないでくれるかしら」

 

「私だって、結構戦ってきたんだよ」

 

「確かに確かに、ここまで来るってことは妖精にしては最強格ね。ただ、私と全然違う」

 

「どういう意味で?」

 

「『狂気』だよ」

 

 松明を高く掲げ、陶酔したようにまくしたてる。

 

「アンタからは狂気が全然感じられない。大概の妖精は無垢なもんだけどさ。それはプラマイゼロってことじゃない? アンタは違う。まるで天国の泉のように、穢れがない。地獄の妖精の私とは対極。どっちがいいか悪いか、そんなのは分かんないけどね。私はこの立場で満足してるけど」

 

「それはそうとしてさ、」

 

 間髪入れずに、大妖精が話題を切り替える。

 

「ああ、なんか聞きたいことがあるんだっけ? いいよ、なに?」

 

 思えば深く考えていたことはなかった。ただ、これを解決せずに真の優斗は判別できない。大妖精も彼女なりに、考察を建てていた。

 

 まずは、確認の1つ目。

 

「私たちが最初に会った時、あなた、優斗のことを知ってるみたいなそぶり見せたよね」

 

「え? ――ああ、そんなこともあったかもね」

 

 言質はとった。次に2つ目。

 

「あの式神は、あなたたちが発したものだね?」

 

「ああもちろん。ご主人様お手製のものさ」

 

 少しずつ、核心に迫っていく。心拍数が上昇する。

 

 もしかしたら、自分はとんでもないパンドラの箱を開けてしまうかもしれない。これを知らなければ幸せに生きれるかもしれない。妖精の第六感が制止をかけていた。

 

 だが、突き動かされる妖精は大妖怪よりずっと肝が据わっている。

 

「私ね、同じような式神を幻想郷で見たことがあるの。今回と同じように、話も聞かずに弾幕を放つ、凶暴なやつだった」

 

「月の世界と幻想郷は関係があるからね。ご主人様が偵察に向かわせることもあるかもねー」

 

 忘れもしない。大妖精が優斗とペアで、魔理沙、チルノペアと弾幕ごっこを行った時。

 

「その式神にね、優斗は傷つけられたんだ」

 

 式神から大妖精をかばって片腕にまともに被弾した姿を、血が滴り落ちて苦しがる姿を、それでも気遣って笑みを浮かべる姿を、気絶している間に包帯を巻かれる姿を、嫌でも覚えている。

 

 それだけで、今では万死に値する重罪だ。しかし、ここ付きの世界では、仕返しをこらえていた。必ず、その正体を突き詰めるために。

 

「あら、まあそういう不運もあるかもね」

 

「それだけじゃない」

 

 少し俯き、自分に最後の歯止めをかける。ここで戦いに入れば、まだ引き返せるかもしれない。心のどこかで反抗している自分がいた。

 

「もしかして……

 

 当然抑え込む。覚悟は、とっくに決めている。

 

「あなたたちは、

 

 目を一度ぎゅっとつぶり、すぐに限界まで開く。

 

「優斗が幻想入りしたことと関係があるんじゃないの?」

 

 今まで決して話してこなかった、優斗が別世界に飛ばされた要因。そもそも原因が分からなかったし、いちいち話し合う事でもなかったからスルーし続けてきた。

 

 そもそもただの幻想入りだったら紫がスキマで簡単に戻せる。しかし、紫は接続先が分からないと言ってかわし続けた。となると、他に優斗が元の世界に戻れない原因があるはずだ。

 

「どうして初対面であるはずのあなたが優斗を知ってるのか。もしかして、昔に接点があったんじゃないの?」

 

「幻想入り? 何それ」

 

「優斗はもともと、表の世界からやってきたんだよ。それがなぜか幻想郷に飛ばされてきたんだ」

 

「へー。そんなことが。……あれ?」

 

 今まで適当に返事していたクラウンピースの思考が回る。

 

「別世界に飛ばされる人間……朝霧、優斗……?」

 

「何か知ってるの?」

 

「うるさい、思い出すから待って」

 

 首を右に、左に、グルグル回して考え込む。妖精の中では賢くとも、あくまで妖精の中の話だ。

 

 1分、2分、――それから、40秒後。

 

「……ああ」

 

 大きくため息をついた。記憶の底から引っ張り出してきたのだろうか、若干疲労している様子さえ見受けられた。

 

「どう、思い出した?」

 

「ああ、確かに」

 

 そこから繰り出されるのは、予想はしていたが、しかしあまりに残酷な一言。

 

「ご主人様だよ。朝霧優斗を幻想郷に送ったのは」

 

 大妖精の喉が鳴る。思わずワンピースの裾を強くつかんだ。

 

「私たちの住処と月世界をつなぐテストをしていたころだったかな。間違えて別世界の人間を転送してしまったと言ってたよ」

 

「それが……優斗?」

 

「その名前、そこで聞いたんだろうね。それで、ご主人様と一緒に()()()()()()

 

「……痕跡?」

 

「朝霧優斗が存在していた痕跡さ。あいにく転送ゲートは未完成品の一方通行でね。急に朝霧優斗がその世界から消えたら周りが不思議がるでしょ? そうしたらこちらが突き止められるかもしれない。だから、朝霧優斗という存在を消した」

 

「……消したって、何を!?」

 

「全てだよ。彼が生きてきた証全て。周りの人の記憶や、彼の持ち物。もちろん、公的にその存在を証明するものも。朝霧優斗には姉がいたからねー。一人っ子ということにしておけばそこまで違和感はなかったさ」

 

「だから、戻れなかった……!?」

 

「まあご主人様も無関係な人を巻き込んで何もしないほど残酷ではないのでね。もっとも、さっき話したような不都合が起こるからだろうが。しかしそれが廻り廻ってアタイ達の邪魔をするだなんてね……たかが人間なのに」

 

「……それが、真実」

 

 何かクラウンピースに返す言葉を浴びせたかった。けど出てこない。

 

 あまりに、あまりに、予想外で、受け止めなければならない事実。

 

 おそらく優斗はそのことを知っていたのだろう。紫が教えていないはずがない。

 

 自分という唯一無二の存在が抹消され、家族にも会えない。それなのに、不安な顔一つせず、いつもみなと明るく接していた。優斗との日々を思い返すたび、ぎゅっと胸が締め付けられる。

 

 大妖精は去年まで家族という存在はいなかったが、いつしか優斗との生活が当たり前になっていた。もし今、それが引き裂かれ、記憶まで消されれば――。

 

「それから忙しくなったから、ご主人様も忘れちゃったんじゃない? まっ、ここで倒される運命なんだけど」

 

「……理解したよ」

 

 いや、そんなことを考えてるべきではない。今の話を聞いて判明した事実がもう1つ。

 

「あなたたちなら、元に戻せるってことでしょ?」

 

「その発言は理解した内に入らないかな。それにいいの?」

 

 スペカを握りしめて臨戦態勢の大妖精に、クラウンピースが舌なめずりして不敵に笑う。

 

「もし私たちを倒してすべてが元通りになったとしてさ。それって、朝霧優斗が元の世界に戻ってしまうことにならない?」

 

「……そうだね」

 

「どういうレベルでかは知らないけど、アンタは朝霧優斗をとても信頼しているようだし。帰っちゃうかもしれないけど、いいの?」

 

 今がチャンスとばかりにまくしたてる。普通の妖精なら、いや、人間だろうが妖怪だろうが同じだが、突きつけられた真実に肩を落とすしかない。

 

「……いいよ」

 

 ――ただ、それに動じるほど大妖精は弱くない。

 

「だって、約束したから」

 

 涙は、後だ。

 

「約束だって?」

 

 敵に向けるには甘すぎる、穏やかな笑みで、

 

「たとえ帰っちゃうからって、優斗が何もしないわけないよ。きっと、私の想像をはるかに超える秘策で、ぜんぶぜんぶ解決しちゃう。さとり先生じゃないけど、分かるんだ、私には。だから、まずは」

 

 今度は鬼気迫るほどに眉を吊り上げて、

 

「あなたを倒して、終わらせて、ちゃんと、話をする」

 




第九十五話でした。シリアスシーンを書くのは体力が要る。

色々伏線回収する回でした。書いたのが昔過ぎて、思い返すのに時間がかかったのは内緒。

では!


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第九十六話 無名の存在

「どういう方向での涙ですか?」

 

「え?」

 

 走り続けて早数分、並走しているさとりから珍しく怪訝な顔を向けられた。

 

 頬に手をやると、確かに涙を伝った後で冷たい。もう片方に手を当てても同じだ。全く意識はしてなかったが、いつの間に……。

 

「まさか走ってて目が乾燥したから、なんてつまらないこと宣わないでくださいね?」

 

「いや、違うよ」

 

 理由はいくつか思いつくのだが、グチャグチャに絡まっていて説明が難しい。正反対だからこそ、余計にだ。

 

「まずはこれから最大の敵と対峙しなければならないという恐怖かな」

 

「なるほど。ということは他にもあるのですか?」

 

「こう、武者震いというか。みんなが託してくれたものを背負っている重さを自覚してるってのもあるかもしれない」

 

「ふむふむ。さすが責任感が違いますね」

 

「ああ、お前とはな。それに、」

 

「む、ずいぶん傷つくお言葉。――失礼、聞きましょう」

 

「一番は喜びと不安、かな。大妖精の」

 

「ほう?」

 

 ようやく元の薄ら笑いに戻った。もはやその顔のほうが安心するようになってしまっていた。

 

「俺たちを送り出して1人でクラウンピースと対峙した、その成長への喜びと、それでも負けてしまうのではないかという不安だ。こんだけ言語化すれば伝わるだろ?」

 

「別に喋らなくても私にはわかりますけどね。まっ、言葉のほうが痛いほど私の胸に響きますよ。薄っぺらい胸板ですけど」

 

「お気に召したようで何より」

 

 涙は出し惜しみできるものではない。今泣いてしまうのなら、それは仕方のないことだ。後に涙を流すような場面に出会っても、その時また生み出せる。ならば、自らの情緒に従うべきであろう。

 

「それがあなたが幻想郷で学んだことですか?」

 

「ああ。欲望には正直に。刹那的に生きたほうが楽しいからな」

 

「それは外の世界じゃ通じないでしょうけどね。――さて、」

 

「ああ」

 

 先ほどから、直径1メートルほどの光の柱が前方に出現している。ここからは、300メートルほどであろうか。

 

 もはや考えるまでもない。ご友人様のご登場だ。

 

 

 

 

 

 

 ソイツは、目を閉じていた。

 

 鮮やかな金髪に、ふわふわとウェーブのかかった長髪が垂れ下がっている。中国式の、袖がゆったりとした黒の礼装を着ている。その上から、ベストの形で、中華風の真っ赤で金の詩集が入った装束を羽織っている。下は黒のロングスカートだ。後ろには7本のしっぽが生えていて、まるで藍のようだ。だが、色は髪のような金ではなく、禍々しい紫だ。

 

「どれだけ時間をかけたとしても、やはり月の世界。口惜しい。もう少しで届くというのに」

 

「お前が月世界を攻め立てた犯人か?」

 

 勝手にしゃべりだしたソイツに、ぶっきらぼうに尋ねる。

 

「いかにも。私は純狐。怨みで身体をなす者だ。貴方達は?」

 

「幻想郷より馳せ参じた、朝霧優斗だ。それなら話が速い。今すぐ、撤退してもらおうか」

 

「古明地さとりと申します。どうやら私のことを地上人だと思ってるようですが。残念ながら地底を統べる者です」

 

 もちろん口だけで決着できる気などさらさらない。自然とパソコンに力がこもる。

 

「その提案、肯定するわ」

 

「はっ?」

 

「えっ? それならハッピーエンドっぽいんですけど」

 

 斜め125度からの返答に、眉が動く。いや、こんな言葉を信用してはならない。この時点で、背後に弾幕を仕込まれているかもしれない。

 

「まさか月面に幻想郷の穢れた者達を呼んだうえ、夢世界まで活用するとは、頭の片隅にもなかったわ。あれだけ干渉や庇護を嫌う月の民がこんな手段を用いるとわね。もう決着はついたってことよ」

 

「まて、お前の仲間が月世界で暴れてるだろう」

 

「それは私の知ったところではないわ。彼女、ヘカーティア・ラピスラズリは勝手に行動させている」

 

「なら、説得して治めてくれ。もう戦う理由はない」

 

「あら、そうかしら」

 

 やはり、来るか。

 

「正直今回の計画は完全な失敗だったが……。ここまでわざわざ来たんだ。相手するのが常ってことだわ」

 

「やっぱそう簡単に許してくれませんねー」

 

「今更期待はしてないさ」

 

 俺たちが目を細めるのとは対極に、純狐は血筋を見せて眼を開き、真上を向いて叫ぶ。

 

「嫦娥よ、見てるか!? お前の忌み嫌った地上人が、今私の正面に顕現し、愚かしくも私と戦おうとしている! さあ、見せてもらおうじゃないか、幻想郷の可能性を! そしてその純然たる生命力、発揮せよ!!」




第96話でした。純狐のキャラが急変させるタイミングが難しい

夜中なので面白い話が思いつきません。昼でも同じだけどね。

では!


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