ゆずゆずゆゆ式 (ツナマヨ)
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せーのっ!

原作っぽく三人の日常を書けたらいいのですが、どうしてもあの雰囲気は真似できません。(原作のあれは奇跡の産物やで)

出来るだけ原作の雰囲気に近づけるように、ゆゆ式らしさを出していけるように頑張るのでよろしくお願いします。

後、PCが現在手元に無いので、文章の最初や!?などの記号の後に空白を作れません(携帯で開けてもプレビューでチェックすると空白が無くなってました)
御了承ください


曲がり角を曲がったところで、少し離れた場所を歩く女の子の後ろ姿が目に入った。綺麗な髪と独特な歩き方から、そいつが幼馴染の一人である日向 縁だとわかる。縁は、見ているこっちがハラハラする程危なっかしい足取りで、フラフラと歩いていた。

 

きっと、眠いなぁ、めんどいなぁと思いながら歩いているんだろう。

今日から高校生で入学式の日だというのに、普通はドキドキしたり、ワクワクするものなんじゃないのか? まあ、縁らしいっちゃ縁らしいけど。

苦笑を浮かべ、声を掛けるかどうかを逡巡し、やめた。縁との距離は開いており、少し大きな声を出さないと聞こえないだろう。縁じゃないが、朝からそんな事をするのは面倒だ。

それに、こっそり近づいて驚かせてやろうという、いたずら心が鎌首をもたげていたからでもある。

 

歩くスピードを少し上げて、ゆっくりと縁との距離を詰めていく。

 

それにしても危なっかしい歩き方だなぁ。足取りはフラフラしているし、姿勢は前のめりだし、手はなんか変な振り方だし、その内転びそうだ。

 

そん危なっかしい縁の姿を見て、歩くスピードを上げたのがよかった。

もう少しで手が届くという距離まで来た時に、足首をぐねってしまった縁が、自分の家の壁に激突する前に抱き止めることが出来たのだから。

 

「危ないぞ、縁。ちゃんと歩かないと」

 

「あ〜柚君だ〜」

 

俺の体に寄りかかっている縁が顔を見上げ、その視界に俺の顔が映ると、ほにゃりと笑顔を浮かべた。

その笑顔を見るだけで、こちらも嬉しくなり自然と笑顔になる。

 

「ほら、もうそろそろ自分の足で立ってくれ」

 

「えへへ〜あったかいね〜」

 

会話が成り立たない。まあ、縁を含めて幼馴染の三人と話しているときは、会話が成り立たないことはよくあることだ。

今日のこれは、まだ眠たいから思った事をリアルタイムに伝えているんだろう。

そんな時の対処方もわかっている。

 

「春だけどまだ寒いな」

 

「そうだね〜」

 

「今日から高校生だな」

 

「そうだね〜」

 

「縁も新しい制服だな。似合ってるよ」

 

「ありがと〜」

 

「唯とゆずも新しい制服だな」

 

「……はっ! 唯ちゃんとゆずちゃんの制服、見たい!」

 

脳内で制服を着た二人を思い浮かべたのだろう。

急に元気になった縁が体を離した後、こちらに向き直って、両手を胸のところでガッツポーズのように握った。

 

「じゃあそろそろ学校に行くか」

 

「うんっ! はー何か、目ー覚めてきたかも」

 

縁は頭をフルフルと振った後、道路のある一点を見下ろし、手を振った。勿論そこには何もない。…………まだ寝ぼけているのだろうか?

まあ、いいか。縁が時たま、可笑しな行動をするのは見慣れているし。

 

「よぉーーし、柚君。唯ちゃんとゆずちゃんに、会いに行こー♪」

 

「そうだな……っと、その前に縁。さっき足首ぐねっただろ? 大丈夫なのか?」

 

「えー? 何のことー?」

 

すごいな、さっきの事をもう忘れてるよ。

 

「まあ、痛みがないなら大丈夫だろ」

 

「はやく行こーよー」

 

縁が手を引き急かしてくる。

 

「はいはい、じゃあ行くか」

 

「うんっ!」

 

 

 

 

 

 

「なあ縁、いつまで手を握っているんだ?」

 

「え〜? だめ〜?」

 

新学期早々、手をつないでの登校は少し……いや、大分恥ずかしいものがある。

だけど、にこにことこちらの顔を見ている縁に、ダメとは言えない。

 

「まあ、いいけど」

 

結局、嬉しそうな縁を見ていると、断ることが出来なかった。

そんなんだから、唯にも甘いと言われるんだろう。

 

「えへへ〜やったぁ!」

 

うん、気にしないでおこう。

 

「けど、握ってて寒くないか?」

 

俺は冷え性で、冬場は手足がものすごく冷たくなる。

もう四月とはいえ、まだまだ寒さが残っており、俺の手は冷たいだろう。

 

「大丈夫ー、柚君の手、冷たくて気持ちいいよー」

 

そう言う縁の手は暖かくて、繋いだ手からぬくもりが伝わってくる。

 

「それにね〜」

 

「うん?」

 

「柚君は高校生になったら、遠くに行っちゃって会えないと思ってたから、またこうして、いっしょに学校に行けるのが嬉しいの」

 

心の底から嬉しそうな顔をする縁を見て、本当にこっちに残ってよかったと思えた。

両親と別れて一人暮らしをすることになり、慣れない環境と、今までは母親に任せていた家事を、全部自分ですることになった。

一人暮らしをする前から、家事や炊事を手伝っていたため、一人暮らしでも何とかやっていけるだろう、と軽く見ていた俺だけれども、実際に一人暮らしをすると、そのしんどさに身を追われ、早くも一人暮らしなんてするんじゃなかったと、後悔していた。

勿論、幼馴染の三人、それにその両親までもが、色々と手伝ってくれたけども、それにも限度がある。

その度に、母親に甘えきった以前の生活を思い出し、落ち込んでいた。

 

だけど、またこいつらと同じ学校に通って、くだらない話をして、毎日笑って過ごせるんだと思うと、後悔なんてどこかに吹き飛ぶ。

 

繋いだ手を少し握ると、縁も握り返してくる。

そんな些細なことが、これからの毎日に、楽しい日々が待っていることを実感させてくれた。

 

「楽しみだな、学校」

 

「楽しみだね、学校」

 

二人して笑い合っていると、少し離れたところに唯とゆずの姿を見つけた。

どうやら気づかない内に、待ち合わせ場所まで来ていたみたいだ。

二人は仲良さげにはしゃいでおり、そばにあるスクーターが所在なさげに沈黙を保っていた。

騒いでる二人はまだ、こちらに気づいてないみたいで、ゆずが唯に抱きつこうとし、それを必死に止めようとしている唯。その姿が俺たちだけじゃなく、周囲の注目を集めていることにも気づいてない。

 

いつもと変わらない二人に苦笑が漏れる。

まあ、これからもう一人が加わって、さらに騒がしくなるんだけど。

 

「おーいっ! 唯ちゃんゆずちゃん! おっはよーっ!!」

 

思った通り、縁が二人の元へ走っていく……俺の手を引きながら。

ある程度予測できていたので、緩い駆け足で縁と歩幅を合わせることが出来たが、少し転びそうになったのは秘密だ。

 

軽くとはいえ、走っていることによりぐんぐんと、二人への距離が縮まる。

加えて縁は手を大きく振りながら、声を上げている。

そこまでして、ようやくこちらに気づいたのか、ゆずは大きく、唯は普通に手を振った。

そんな状態でもゆずは、抱きつこうとするのを止めない。そのため二人は、互いに押し合いながらこちらへ手を振るという、なんともシュールな光景が生まれている。

 

「ゆかりちゃん、ゆず、おっはよーっ!! 見てみて! 唯ちゃんの制服姿、超カワイくない!?」

 

「ゆ、柚彦! ゆずこを引き剥がしてくれ……って、何でお前ら手ぇ繋いでるんだよ!!」

 

「いや、流れで」

 

相変わらず、唯のツッコミにはキレがあるなぁ。

けどいいのか? ツッコミに気を取られてる間に、ゆずが抱きついてるぞ?

 

「ホントだ〜制服、超カワイーよ〜」

 

「うわっ! こっち来た!」

 

縁が手を離し、二人の元へと駆けて行った。

何となく手持ち沙汰になった右手で、携帯を持ちカメラ機能を呼び出す。

そのまま気づかれないように、写真を何枚か撮った。

 

「くそっ! こいつら、頭ん中春真っ盛りか!! 柚彦、見てないで助けてくれ」

 

面白かったけど、もうそろそろ助けるか。

 

「ゆず、縁、写真撮るぞー」

 

その声に二人は電光石火のごとく反応した。

 

「はあっ!? ちょ、やめろって」

 

「確保」

 

「ラジャー」「らじゃ〜」

 

素早くゆずと縁が唯の両手を押さえる。

肩に顔を乗っけて、笑顔でこちらにピースする二人を、強引に振り解かないのは唯の優しさだろう。

なんだかんだで、唯も二人には甘いのだ。

観念したのか、恥ずかしがりながらも、目線はカメラに向ける唯と、腕を押さえるのをやめて、唯と片手を繋いだ二人がカメラの枠に納まったところでシャッターを切った。

 

「よしっ、写真は後で送るから、とりあえず学校に行こうか」

 

時間もまだ余裕はあるが、初日だし早めに着いておくほうがいいだろう。

 

「え〜、柚君は〜?」

 

「そうだよ! ゆずも一緒に写真撮ろうよ。すいませーん! 写真撮ってもらってもいいですか?」

 

「お前、こういう時には行動が早いよなー」

 

唯が感心したように呟くが、同感だ。

ゆずはすでに道行く女性に携帯を手渡し、こちらに戻って来ている。

まあ、別にいっか。

 

「ねえねえ、柚君。ちょっとしゃがんで〜?」

 

制服の袖を引く縁の言う通りに、少ししゃがんで中腰になる。必然的に低くなった右の肩に、両手を重ねるように乗っけて、そのまま顔を寄せてくる縁と、それに習うかのように左で同じことをするゆず。

心なしかカメラを構える女性に、微笑ましい目線を向けられ、羞恥心が溢れ返った。

 

「だめだぞー柚彦ー、顔はカメラに向けないとなー」

 

すごい棒読みなセリフとともに、下に向けた顔を強制的に上げられる。

そのまま、左右の密着ぐあいが増したことから、唯は縁とゆずの肩に手を回し、挟み込んでいるのだろう。視界の両端にピースサインをした唯の手が映っている。

 

道行く人達がこちらを見てくる。

さっき写真を撮った復讐だろうか? それならこれほど効果的なものはないだろう。

早く写真を撮って欲しい。一秒一秒が長く感じられたのは久しぶりだ。

 

「あらあら、じゃあ撮るわよ? はいっ、チーズ」

 

シャッター音が鳴った後、素早く包囲網から脱出した。

一秒でも早くこの場から離れたいが、三人を置いてどこかへは行けない。

ゆず達は写真を撮ってくれた女性にお礼を言っている。

普通なら俺もお礼をしないといけないのだが、恥ずかしさでどうにかなりそうな俺には無理だ。

なぜ、入学式の日に肩身の狭い思いをしているのだろうか?

視線を中空に彷徨わせながら、そんな現実逃避をしていた。

 

「照れてるね」

 

「照れてる〜」

 

「照れてるな」

 

いつの間にか、近くに来ていた三人の、そんな声が聞こえるが、無視だ。

 

「顔があかいね」

 

「あかいね〜」

 

「そうだなー」

 

我慢の限界だった。

 

「ああっ! もうっ! 早く行くぞ!!」

 

地面に置かれている全員のカバンを手に取り、三人へ渡した後、そのまま背を向け歩き出した。

幸いにも三人は付いてきているようで、すぐ後ろから足音が聞こえた。

よかった、このまま付いて来なかったら、振り返って三人を待つことになる。それは恥ずかしいので勘弁して欲しい。

 

「かわいいねー」

 

「かわいーねー」

 

「プッ、そうだな」

 

「うっさい」

 

そのまま、弄られたり、時々反撃したりして短い距離を歩く。

四人で入れば、朝の気だるい気分も気にならなくなり、学校まではあっという間だった。

 

「ちょっと待ったぁー!!」

 

正門をくぐり、校内へ入ろうとした俺たちをゆずが止める。

 

「どうしたの? ゆずちゃん」

 

上半身を倒し、両手を突き出した格好で静止するゆずに、縁が問いかけた。

唯が頭に手を当てて、またか、と言わんばかりにため息を吐いた。

俺はというと、正門で大声出しながら、変なポーズまでとって恥ずかしく無いのかなんて、今更なことを考えていた。

 

「ここは今日から私達が通う学校ですね!」

 

ゆすが当たり前のことを言い出した。

 

「そうだな」

 

と、冷静に返す唯。

 

「今日は記念すべき入学式ですね!」

 

「そうだね〜」

 

と、間延びした返答の縁。

 

「四人で一緒に通えるんですね!!」

 

「……そうだな」

 

と、少し詰まったけど普通に返す俺。

 

「じゃあさ、願掛けしようよ」

 

「「「願掛け?」」」

 

三人揃って首を傾げて聞き返す。

 

「みんなで、せーので学校に入ろうよ!」

 

いやいやいや、この歳になってそれは恥ずかしいだろ?

 

「それいいね〜」

 

笑顔で肯定する縁。

まあ、こういうのは好きそうだし頷くだろうと思ってた。

けどこっちには唯さんがいるし。常識のある唯のことだ、普通に拒否するだろう。

 

「それいいな。なんかずっと一緒に居れそうだ」

 

唯さん!?

 

「じゃあ並んで並んで」

 

ゆずが唯と手を繋ぎ、唯と縁が手を繋ぐ。

そのまま、空いた方の手をゆずが差し出してきた。

周りを見てみると、この学校の生徒や先生がこちらを興味津々といった目線で見てくる。

なんの拷問だよ、これ。

 

「一緒に通えるんだよ」

 

「そうだよ〜」

 

ゆずと縁は期待のこもった目で見てくる。唯は恥ずかしそうにしながらも、繋いだ手を離そうとしない。

あいつらの気持ちもわかる。受験シーズンのすぐ手前で、引っ越しすることになった俺が両親と離れてまで、こっちに残って同じ学校に通うことにしたのだ。

それが嬉しくてはしゃいでいるのだ。それに、またどこかへ行ってしまうかもしれないという、不安を吹き飛ばしたいのだろう。

それがわかるから無視して門をくぐれない。

結局はのろのろと足を進め、ゆずの手を握っている。

唯の言う通りだ。

俺はこいつらに甘い。

 

「じゃあ行くよ?」

 

「「「「せーのっ!」」」」

 

声を合わせて、足を出す。

当然のように、全員が右足を出し同時に校内に踏み込んだ。

 

「私、いっちばーん!」

 

「あ〜ずる〜い」

 

「あっ! お前ら待てって」

 

ゆずが走り出し、それに吊られるように二人も走り出した。

途中で唯が振り返り俺を見たが、苦笑している俺を見たのだろう。同じような笑顔を浮かべ、走っていった。

 

「恥ずかしくなって逃げたな、あいつら」

 

おかけで周囲の目線は独り占めだ。

けれどもさっきまでの恥ずかしさは無い。

心の中にあるのは嬉しさばかりだ。

 

やっぱり俺はあいつらが好きだし、一緒にいたいんだな。

 

それを再確認できたとこで、苦笑を一つ、空を仰ぎ見た。

 

「今日からはいい日が続きそうだ」

 

空は晴れ渡り、桜が舞っていた。




今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
割とテストの点はいい

日向縁・ヒナタユカリ
家はお金持ち

櫟井唯・イチイユイ
お金にうるさい

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
寝るときは浴衣


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足並み

今回クオリティが低いかもです
その内直すと思いますが今はご勘弁を……

それと、前回が長すぎただけで、本来は今回かそれよりも少し多めといった文量になると思います。
ぶっちゃけ、前回はどうしてもあのタイトルにしたかったがために、二千文字程足したのであの長さになっただけなので……知っていますか?今回と合わせて七千文字程書いたけど、アニメの中ではop入れて六分程しか経っていないことを……。
先が長過ぎて挫けそうな作者です。


 面倒な入学式も終わり、俺たちは教室へ向かっていた。

 

「みんな一緒のクラスでよかったね~」

 

 縁の言うとおり、俺たちは四人とも同じクラスになれた。それが分かったときは、掲示板の前で大騒ぎしてしまったゆず達を落ち着かせるのに苦労した。

 唯もあまり表には出さなかったが、嬉しかったのだろう。抱きついてきたゆず達を引き剥がすような事はせず、されるがままになっていた。

 入学式の開始を告げる放送が入らなかったら、いつまで続いていたかわからない。

 

「きっと、願掛けがよかったんだよ」

 

「そうかもな」

 

 まあ、クラス自体は願掛けする前から決まっているのであまり関係ないが、それをここで言うのは野暮だろう。

 

「それにしても、入学式長かったなー」

 

 うんうん、とみんなが一斉に頷く。縁なんて朝に見た、だるそうな歩き方になった。転んだことは忘れているんだろうな。

 

「疲れた~もう帰っていいかなー?」

 

「はや…」

 

 やる気のない縁の発言に、唯が呆れたようにツッコム。

 それにしても…。

 

「俺も同感、もう帰りたいな」

 

「まだ始まったばかりだよー二人とも」

 

 それは分かっているが、面倒なのは面倒なのだ。

 というより、眠たくなってきた。朝はそれほどだった気温も、日が昇るにつれ暖かくなり、今では昼寝に丁度いいくらいの気温だ。

 校庭の端に見えるベンチが俺を誘ってるような気がする。

 あそこで今眠れたら、どれだけ気持ちいいだろうか。

 

「帰っちゃう?」

 

「そうだな~」

 

「アホか」

 

 真面目だねぇ、唯は。

 

「けど、帰るのも面倒だ」

 

「あ、そっか。ゆずの家、学校から遠いもんね?」

 

 ゆずの言う通りこの高校から俺の家は遠く、一時自転車で通うことも考えたのだが、ゆず達と一緒に登校したいがために断念した。

 

「家まで一瞬で帰れたらいいのにな。それこそ魔法みたいに」

 

「じゃあ…たとえば目をギューッとつむってー」

 

 そう言って本当にギューッとつむるところが縁らしい。

 

「パッ!て開けたら…、目の前に玄関がぁ……みたいな能力ないかなあ?」

 

「ないな」

 

「はいっ! それ私も欲しいです!」

 

「もうちょっと使い勝手のいいやつがいいな」

 

 俺たちの中で唯一、好意的な意見のゆずに縁が駆け寄ろうとし、待ち構えていたゆずと二人して動きを止めた。

 

「……」

 

 ゆずと縁は唯のリアクションを待っていたのだろう。それは唯にもわかっているはずだが、二人をじっと見た後、ふいっ、と顔を背け何も言わずに歩き出してしまった。

 

「ええ~唯ちゃん夢ないよ~宝くじ当たったらいいなぁとか思ったりしないのー?」

 

「あれは夢を買ってるとか言うよね」

 

 ゆずの一言に唯が立ち止まりこちらに振り返った。

 

「ちがうだろ、お金がほしいからだよ」

 

 ま、マジのトーンだ…。

 いつになく真剣な唯の表情に比べて、俺たちは三人ともげんなりとした表情になっていた。きっと三人とも同じようなことを考えているだろう、すなわち、また唯(ちゃん)がお金のことで熱くなってる……と。

 そんな俺たちを置いてけぼりに、唯の熱弁はまだ続いていた。

 

「一生遊んで暮らせる様なお金が…ほしいからだろ!!」

 

 分かる。わかるよ唯さん。俺もどっちかって言うと唯が言ったように、大金が欲しいと思いながら宝くじを買う口だ。けどそれは学校の廊下、ましてや入学式の日に大声で言うようなことじゃあないと思う。

 

「ふぅ……」

 

 言いたいことを言って、すっきりしたのか一息つくと歩き出してしまった。

 

「け、けど宝くじとかくじ引きって、当たれって思いながら買うと当たらないよな~」

 

 微妙な雰囲気をどうにしたかったのだが大丈夫だろうか?語尾とか震えてないよな?

 

「あっ!それわかる!商店街の福引とか、欲しいやつがあっても全然当たらないよねぇ」

 

 さすがは幼馴染、すかさずゆずが話しに乗ってきた。

 

「私、この前当たりました~」

 

「「うっそぉ!?」」

 

「あー縁は昔から運がいいからなぁ」

 

 えへへと笑う縁の頭に唯が手を乗せた。

 相変わらずの仲の良さに、微笑ましい気持ちになる。

 仲の良い俺たちだが、縁と唯には俺たちと唯たちとの繋がりより深いものを感じる。

……縁に言わせれば俺とゆずも同じようなものらしいのだが。

 きっと、縁と唯は小学生の頃からの幼馴染だからで、俺とゆずは産まれた時からの付き合いだからだろう。

 いくら仲が良くても、距離感の違いはある。唯と縁の輪は重なっていて、俺たちと唯たちの輪は数ミリ程ズレている。

 普段は気にもしない程度の差異。

 実質、普段は俺もゆずも縁も唯も全く気にしていない。

 けれども、ちょっとしたことで、その本の数ミリ程のズレが引っかかる事もあるだろう。

 もしもその時が来たらどうなるのか。

 そんなことを考え、すぐに出た答えに苦笑した。

 

「どうしたの?ゆず?」

 

 足を止めた俺に気がついたゆずが、振り返って何事かを問う。

 ゆずにつられて唯たちもこちらを振り向いた。

 

「これからもよろしく」

 

 そう言って笑いかけた。

 なんだかんだでゆず達と何時でも一緒にいるんだろう。

 一人が転んでもみんなで助けて、また足並み揃えて歩き出す。

 

 それでいてみんなで笑い合う。

 そんな未来しか思い浮かばなかった。




私の中で縁は運が良さそうなイメージがあります。

今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
欲しい魔法・回復魔法

日向縁・ヒナタユカリ
欲しい魔法・瞬間移動

櫟井唯・イチイユイ
欲しい魔法・時間を止める

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
欲しい魔法・身体強化


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アニメのゆゆ式はシーンが飛び飛びなので繋ぐのが難しいんですよねぇ
もとが四コママンガなので仕方ないっちゃ仕方ないんですが……。
そのためキリのいいところで終わらないといけないので、どうしても短くなるような時もあるとは思いますが、よろしくお願いします。


「放課後っ!校舎をうろついてみようぜぃ!!」

 

 入学初日のガイダンスとクラスメイトとの顔合わせ、短いホームルームも終わり、教室には談笑している一部の人を除き、大多数の人がカバンを持って教室から出て行った。

 そんな中、俺達はいつもの四人で集まって談笑していたのだが、突然ゆずが立ち上がり、謎のポーズをとりながら大きな声をあげた。

 

「ゆずちゃん、もう放課後だよー」

 

 ……なぜそこを指摘したのだろうか?

 他にもツッコムところがあるだろうに。例えば軽く膝を曲げて、両腕を斜めに伸ばしている謎のポーズとか……。

 相変わらず、縁の感性は俺たちと一歩ほどズレている。

 

「はっ!そうだった!」

 

 ゆずが必要以上にオーバーなリアクションをとった。

 わざとらしすぎて、この後の展開が容易に想像できるな。

 

「今かr「うるさい!」……はい」

 

 ほらな、思った通り唯に止められた。

 もう一度あのポーズを取ろうとしたのだろう、中途半端に伸ばされた両腕が行き場をなくしている。

 

「まあ、言い方はどうであれ、ゆずの提案には賛成だな」

 

「でしょでしょ」

 

 この学校は結構広い、受験するにあたってパンフレットなどは見たが、実際に校舎を回らないと、どこに何があるのかわからないのが現状だ。

 

「私も、探検したい!」

 

「決まりだな」

 

 縁が勢いよく頷き、唯も同意する。

 今回はまともでいて、身のある提案だったから唯の了承も得られた。

 俺達は何かを決めるとき、唯の意見を最終的な決定にすることが多い。まあ、それは唯が最後に返事をすることが多いからだが……。

 それでも唯がやらないと言えば、大抵のことはやらない。

 どうしてもしたいことだった場合は俺がなだめすかしたり、ゆずと縁が押し切ったりもする。

 なんだかんだでゆずと縁には甘い唯は、押し切られることも多いが、それでもダメなものはダメだと言う。

 そして、あまりにもしつこいと鉄拳制裁が待っている。

 そんな唯を攻略するために、ゆずと縁は作戦を練っていたりするのだが、そのことは唯には秘密だ。

 

「柚彦ー、いくぞー」

 

「んっ?ああ、おう」

 

 

 

 

 

「この学校、結構部活に力入れてるみたいだな」

 

 教室に荷物を置き身軽になった俺達は、広い校舎を雑談しながら歩いていた。

 目的地などはなく、楽しそうな縁を先頭にあっちにふらふら、こっちにふらふら。

 ある程度歩きまわったら、階段を登って次の階へということを続けていたのだが、その階段には部活勧誘の張り紙が貼ってあり、その種類の多さと力の入れ具合に少し驚いた。

 

「そうだね…部活はどうしよっか?」

 

「なるべく自由なとこがいいよね」

 

「そうだな」

 

 部活か……今、部活をするかバイトをするかで迷ってるってゆずたちにバレたら面倒くさそうだな。

 とりあえず、ゆずたちが入る部活を見てからどっちにするか決めるか。

 

「あっ」

 

 キョロキョロと周りを見ながら歩く三人だったが、自分達の教室がある階まで来ると、ゆずと唯はそのまま教室に戻ろうとした。

 縁はというと、まだ部活の張り紙を見ており、そのうち何かを見つけたのか小さく声をあげて、とたとたと小走りで駆け寄る。

 

「どうしたの?」

 

 すぐにゆず達も近づき、三人で掲示板に貼られている紙を覗き込んだ。

 何を見ているんだろうか?

 三人が何を見ているのか気になったが、小さな紙を三人で覗き込んでいるため見れなかった。

 

「ぜろ人だって〜」

 

「ぜろ人かぁ」

 

「ぜろ人だな」

 

 どっかの部活の人数がぜろ人なんだろう。会話からそう推測できるが……この部活の顧問の人辺りにいないよな?

 聞かれたら悲しむんじゃないか?この会話。

 

 結局ゆず達は部活を決めることなく、本来の目的である校内の散策だけを終えた後、一旦教室に戻り荷物を持って校舎を出た。

 

「今日はさあ、適当にその辺ブラブラして行かない?天気もいいし」

 

「いいねぇブラブラ、ブラブラ日和だねぇ」

 

「ブラブラには最適だねぇ」

 

「まあ、ブラブラしたくなるような日だな」

 

 そこは散歩日和とか、散歩には最適だとかじゃないんだろうか?いや、ゆず達に乗った俺が言えたことじゃないけど……。

 

「どこブラブラ〜?」

 

「とりあえずあっちにブラブラー?」

 

「適当に駅前ブラブラ〜」

 

「じゃあ駅前ブラブラー」

 

「お前ら……」

 

 こうやって、話に一段落ついてからツッコムあたり、唯の優しさが見える。

 ゆず達もツッコミのタイミングがわかっていたのだろう。唯が声を出し立ち止まった後、二人は数歩ほど前に進み、示し合わせたかのように同じ場所で足を止めていた。

 

「ブラブラ言いたいだけだろ」

 

「そんなことないブラ〜?」

 

「そうブラそうブラ」

 

 待ちに待った唯のツッコミに、二人は順に振り返りながら答える。

 三人の息の合いようと、仲の良さに微笑ましい気持ちになり、それと同時に、心の器に淋しさと言う名の雫が一滴垂れ落ちた。

 いつからだろうか、俺は、そんな輪を一歩離れた場所で見ることが多くなった。

 昔はそんなことは無かったはずなのに……。

 きっと俺が男であいつらが女だからなんだろう。

 だとしたら、そんな理由じゃ納得いかない。何時までも一緒にいられないことはわかっている。だけど、それは今じゃない。結局は俺がどうするかで、そしてどうするかは決まっている。

 淋しいなら混ざればいい、単純明快なその答えは前にも出したはずだ。俺が入る場所なんて何時でも開けてくれてる。

 

「唯にも言って欲しいブラ」

 

「ちょっ、バカ、柚彦!」

 

「「はああぁ……そうブラ!そうブラ〜」」

 

「ち、近寄るな!」

 

 あたふたとしている唯が心底可笑しくて、自然と笑顔が浮かんだ。

 

「言って欲しいブラ〜」

 

「言って欲しいブラよー」

 

「ああーもう、離れろ!」

 

「「言って欲しいブラ〜」」

 

「うっさい!…………ブラ」

 

 怒鳴り、早足で歩き出す唯だが、最後にボソッと呟いた一言と赤くなってる耳は筒抜けで、俺達は三人で顔を見合わせ同じような表情を浮かべた。

 

 立ち位置なんて気にする必要ない。好きなようにやって、好きなように笑おう。

 ゆずも、縁も、唯だって、見えないけど笑顔を浮かべているはずだから。俺だけ笑えてなかったら不公平だ。

 こうして毎日笑おう。それが楽しみで一緒にいることを選んだのだから。

 

「唯ちゃんかわい〜」

 

「唯ちゃん赤くなってる〜」

 

「照れんなよー」

 

「うっさい!!」

 

「「「あはははははははは」」」

 

 笑い声が空に響く、きっと、毎日、これからも。




今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
好きな数字・55

日向縁・ヒナタユカリ
好きな数字・8

櫟井唯・イチイユイ
好きな数字・1

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
好きな数字・21


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幼馴染

最近忙しいなーとか思ってたら、前回の更新から一ヶ月も経っていたことにびっくり。
社会人になってから時間が経つのが速すぎです。

まさかこんな、アニメにもコミックにもないような場面がこれだけ広がるとは思いもよらなんだ。
アニメ1話が終わらない


「お嬢様、次はどちらに曲がりましょうか?」

 

「えっとね〜、右!」

 

「柚彦、やめろその口調。寒気がする」

 

「唯ちゃんナイスツッコミ」

 

「お前らひどいな」

 

「あははははは」

 

 他愛のない話をしながら、適当に街をぶらつく。前を歩く三人の後ろ姿は、中学生のときと比べてそれほどの差異はなく、高校生になってもあまり変わらないなぁ、なんて自分のことを棚に上げ思い浮かべた。

 制服が新しいからか、見慣れた路もどこか新鮮だ。それはゆず達も同じだろう、いつもよりはしゃいでる三人は楽しそうで、見ているこっちも気分が良くなる。

 

 中学生だったころ、放課後から夜までの暇な時間、よく四人で集まってこの街を歩き回ったものだ。そのときから進む方向を決めるのは縁の役割で、今日も例に漏れず、縁が道を選んでいた。

 まあ、いつものことながら、曲がり角が来るたび適当な方向へ進んでいるので……。

 

「あれ?ここ、さっきも来たよね?」

 

「ほんとだ」

 

「えへへへ」

 

 こういうことがよく起こる。

 そして、恥ずかしそうに頭を掻いている縁だが、実はこれで今日二回目のことだったり。

 昔からよく同じ場所に出たり、知らない道に出て迷ったりもするが、不思議と最後には行きたい場所に着くばかりでなく、途中で本人ですら忘れていたような、ちょっとした用事のある場所に着くことが多かったので、道を決めるのは自然と縁の担当になった。

 

 毎回ふらふら〜っと適当に進んでいるはずなのに、何故行きたい場所に出るのだろうか?

 道を覚えているってことはないだろう。運良く目的地に着いたときに一番驚いているのは縁だし。

 名前が縁だからかな?俺達に縁のある場所に惹かれていたりして……ってないな、縁ってもうちょっと違った意味だったような気がする。

 きっと難しい理由なんてなにもなく、縁だから、で解決しそうだ。

 

「じゃあ次は〜、まっすぐ!」

 

「まっすぐか、大通りに出るな」

 

「あっ、じゃあさ、本屋に寄ってもいい?」

 

 唯が振り返り、みんなの顔を見ながら聞いてくる。

 

「いいよ。というか唯ちゃん、そんな控えめに言わなくても〜」

 

「そうだよ〜」

 

「もっとさ、ぐいぐいっ!て来てもいいんだよ?」

 

「近づくな!手を広げるな!ゆずこの真似をするな!!」

 

「おおー三連続」

 

 相変わらず見事なツッコミ、ゆずが度々ふざけるのも分かるというものだ。

 

「似てたね〜」

 

「本当にな。声は似てないんだけど、仕草とか言葉のイントネーションとか、そっくりだったな」

 

「ほんとほんと、私もそばで見ながら、私がやりそうだなぁって思ったし」

 

「いや〜それほどでも〜」

 

 なかなか好評みたいだ、これからもやろう。

 

「お前ら、本当に兄妹みたいだな」

 

 親しくなった人達から必ず言われるこの言葉。唯も呆れたような表情をする。唯ならず縁にも何度か言われたが、それでも言ってしまったのだろう。いつも通り否定しようとして、ゆずからアイコンタクトが送られていることに気づいた。

 面白そうなので了承の意を込めて軽く頷く。

 

「フッフッフッ実は私達!」

 

「生き別れになった!」

 

「双子の」

 

「兄妹」

 

「「なのさ!!」」

 

「お前ら一度も別れてないだろ!!」

 

 片手をゆずと繋ぎ、唯と縁に向けて手を広げる。

 唯はツッコミをいれられ、縁は声を出せないほど笑っている。期待通りの反応が返ってきて満足だ。

 打ち合わせもなにもなかったけど、当たり前のように成功した。

 こんなところが兄妹と言われる所以なのだろう。

 

 大通りへ続く道、そのど真ん中で目立つようなことをしたからか、周りから注目を浴びていることだし、直前の自分の行動が恥ずかしいので、さっさと退散したい。

 

「じゃあ本屋に行くか」

 

「そうだね」

 

 あっさりと手を離し歩き出すゆずと俺に、数巡唯が戸惑い、少し慌てながら縁の手を引いて歩き出す。

 どうやら唯も周りの目に気づいたようだ。

 

「縁ー大丈夫か?」

 

「はぁー、はぁー、わ、笑いすぎて……おなかいたい」

 

「「いぇーい!」」

 

 ゆずと笑い合い、手を打ち合わせた。

 パンっと乾いた音が鳴るが、大通りの喧騒に掻き消されそれほど響かなかった。

 いつの間にか本屋の近くに来ていたみたいで、横断歩道を挟んだ向こう側に本屋の看板が見えていた。

 

「俺とゆずが兄妹だったら、どっちが上でどっちが下だろうな?」

 

 信号を待つ間にこんな話題を振ってみる。

 

「うーん、ゆずと私ならゆずが兄じゃない?ほら、しっかり者の兄とおちゃらけてる妹みたいな」

 

「いやいや、ゆずと俺なら俺が下だろ。周りをしっかり見てまとめてる姉と、その後について行く弟って感じ」

 

「いやいや、ゆずは後ろから暖かく見守る兄で」

 

「いやいや、ゆずはしっかりしてるし姉だって」

 

「じゃあ聞いてみようよ、唯ちゃんと縁ちゃんに」

 

「そうだな、そうするか」

 

「唯ちゃん」

 

「縁」

 

「ゆずと私ならどっちが下?」

 

「ゆずと俺ならどっちが下?」

 

 振り返り、後ろに並んでいる縁達に聞いてみる。

 

「というか、ゆずゆずうるさい」

 

「呼び方を変えてみたら?」

 

「呼び方を」

 

「変える?」

 

「うん、ゆずちゃんはゆず君をお兄ちゃんって呼んで」

 

「えっ?」

 

「ゆず君はゆずちゃんをお姉ちゃんって呼ぶの」

 

「なんで?」

 

「私お兄ちゃんいるでしょー、けどもし私がお姉ちゃんで、お兄ちゃんにお姉ちゃんって呼ばれたら何かへんな感じがするもん」

 

 唯さんのばっさりとした返答は置いといて、縁の意見はつまり。

 

「呼んでみてしっくりきた方が正解ってことか?」

 

「うん」

 

 ざっくりした解釈になったけど合っていたみたいだ。

 けど、なんか……。

 

「は、はずいね」

 

「…そうだな」

 

「…………」

 

「…………」

 

 唯も縁も心待ちにしないで欲しいんだけど……まあ、なるようになれだ。

 深呼吸をして息を整える。

 

「お、お兄…ちゃん?」

 

「お、おね……姉さん」

 

 俺とゆずとの間に冷たい風が吹いた気がした。

 春だというのに冬の風のように冷たかった。

 

「プッ」

 

「うわー!はずいはずいはずい!!」

 

「うわー、なんか全然しっくりこない。うわー」

 

「「あっははははははは」」

 

 珍しい唯のばか笑いと、発案者であるはずの縁の笑い声に羞恥心が頂点に達した。

 身体中が暑い、さっきまで冬のような感じだったのに、一気に夏になったようだ。

 

 一頻り騒ぎ、どうにか落ち着いた頃には、何度も信号は変わっており、またもや赤信号に待たされている。

 

「なんというか、あれだね?」

 

「そうだな」

 

「ゆず」

 

「ゆず」

 

「これが一番しっくりくるね」

 

「そうみたいだな」

 

 信号が青に変わり今度こそ横断歩道を渡る。

 ゆずは白い場所だけを踏み、俺は黒い場所だけ踏む。

 

「結論、俺達は兄妹じゃない」

 

「よーくわかったね」

 

「それじゃあ本屋に入るか」

 

「やっとだな」

 

「長かったね」

 

「俺達のせいだけどな」

 

「私だったら、ゆずちゃんは妹にしたいかな?」

 

 若干一名ズレているが、無事に目的地に到着した。

 

 長かったなぁ。




縁ちゃんが爆笑しているシーンを想像しながら書くと、書いている自分も笑ってしまいます。

今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
犬好き、猫大好き

日向縁・ヒナタユカリ
猫大好き、犬大好き

櫟井唯・イチイユイ
犬、猫大好き

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
猫大好き、大型犬大好き


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本屋さん

千文字くらいで終わらせようと思っていた本屋での話が三倍にまで膨らんだ。なにを言って…(略)

はい、第5話です。
今までで一番サブタイに迷いました。
いいじゃないですか本屋さん。私、本屋さんも好きです。

後は相変わらず会話文が少ないのが難点。
どうでもいい地の文が多いのは今後の改ざん点ですかね。
頑張ります。


 本屋に入った後、俺は唯達と離れた場所にいた。

 と、言っても大した理由があるわけでもなく、唯の欲しい本と俺の欲しい本が別の場所にあるため、唯たちは文庫本のところへ行き、俺は料理のレシピ本がある場所に来ているだけだ。

 

 一人暮らしを始めて数ヶ月経つが、未だにレパートリーは少ない。基本的に自炊をして外食などはなるべく控えているが、どうしても面倒くさくなったりした時は食べに行くし、簡単な物で済ませたりもする。

 それに月に数回はゆずの母親に誘われ、御飯をご馳走になっている。それを遠慮するほど浅い付き合いではないし、産まれたときから世話になっているような人だ、ゆずのように俺のことも息子同然に思っているのだろう。

 だから、度々食事に呼んでくれるし、一人暮らしをし始めた俺を色々と気にかけてくれているのは、とてもありがたい。いずれは何かお返しをしてあげたいとも思っている。

 それに、ゆずの母親の作った料理を食べるたびに思う。

 

 俺もこんな料理を作ってみたい、と。

 

 というわけで、最近は人に聞いたり、レシピ本を見たりしながら料理の練習をしているのだ。

 今見ているのは結構本格的な物で、本が分厚く、値段も高い。難しすぎて今日買ってもあまり意味がないので、眺めているだけだ。もっと料理が上手くなったら作ってみたいと思うが、まだまだ先だろう。

 

 ついこの間のことだ。

 日頃のお返しにと、ゆずの家族にその料理を振る舞ったところ、全員から絶賛された。

 爺さんから教わった料理を褒められて、嬉しかったのもあるがそれ以上に、笑顔で美味しいと言ってもらえたことが何よりも嬉しかった。

 そういうことがあり、最近は料理にハマっている。

 

 それに、今度はゆずだけじゃなく唯と縁にも食べてもらいたい。

 それであの二人にも美味しいと言ってもらえたなら、どれだけ嬉しいか。

 まずは、フライパンにバターを落とし、ケチャップと絡めて弱火で加熱し続ける。こうすることでケチャップの酸味を和らげると共に味に深みを出す。その間に人参、玉ねぎ、ナスを細かく刻み、別のフライパンで火が通るまで炒めた後、牛挽き肉を強火で焼き赤ワインを……。

 

 パンッ!!

 

「ぬはぁい!!?」

 

「「プッ……ふふ…あはははははは!」」

 

 突然、左右の耳の側で鳴り響く乾いた音に心底驚愕する。

 思わず変な声が出てしまうほどに。

 後ろを振り返ると、ゆずと縁がお腹を抱えて笑っていた。どうやら二人に耳元で手を打ち鳴らされたようだ。

 

 いつもなら二人を止めているはずの唯がその場に居ない。

 助けを求めるかのように辺りを見回すと、レジのところで必死に笑いをかみ殺している唯がいる。

 他にも何人か笑いを堪えている人達も見え、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 

 とりあえず本を元の場所に戻し、未だに笑い続ける二人の内、ゆずの額にデコピンをお見舞いした。

 

「いっ……たあぁぁい!!」

 

 そこまで強くはやっていないはずなのに、大袈裟なやつだなははは。

 

「っと次は縁だな」

 

 ゆずの痛がる姿を見て、ある程度溜飲を下げたがまだ一人残っている。

 指をデコピンの形にし次のターゲットの方へ向ける。

 そこには目をギュッと閉じ、プルプル細かく震えながら額をこちらに差し出す縁がいた。

 

 ……な、なんか非常にやりづらいな。

 震えている縁は小動物のようで、守ってやりたくなるような……いや、守らなくてはならない使命感に駆られてしまう姿だ。

 そんな縁に対して痛い思いをさせられるだろうか?いや、出来ない。

 ま、まあ溜飲はゆずで下げたし、ちょっとしたイタズラにそこまで怒ることもないだろう。

 けど、何もしないのはあれなので、ちょっと弱めのデコピンにしておこう。

 

 様々な葛藤の末に放たれたデコピンは、ぺちっという軽い音を立て縁の額を少しだけ赤くした。

 ゆずのときはべぢんっ!!だったけど、まああまり変わらないだろう。

 縁は、ぽけっと口を開けてぼーっとしている。

 正しく何をされたのかわからないっといった感じだ。

 

「よし、外に出るか」

 

「ちょっと待って!」

 

 極力周りを見ないようにしながら、店の外に向かって早歩きしようとしたら、ゆずに袖を掴まれた。

 一体なんだと言うんだ?こっちはいち早く外に出たいというのに。

 

「どうしたんだ?」

 

 本当はわかっているけれども、心底おかしそうな顔で聞いてみた。

 十中八九さっきのデコピンのことだろう。

 

「い、いやーなんというか、私だけ扱いが違くない?」

 

「いや、二人ともデコピンしただろ?」

 

「はいっ、音!!音が違いました」

 

「濁点と半濁点だろ?大した違いじゃないって」

 

「縁ちゃん!痛かった!?」

 

「なんかね……ちょっとかゆい」

 

「ほらっ!」

 

「わかったわかった、後でなんか奢るから」

 

 元はと言えばゆず達の所為なのになぁ。

 まあ、長い間一緒にいるから遠慮っていう言葉を忘れてるもんな、俺達。

 ……ゆずにちょっと悪かったかな。

 

「終わったか?」

 

「あっ唯ちゃん、ゆずが酷いんだよー」

 

「お前も悪い」

 

「ぐふっ」

 

 唯が来てゆずが絡んでばっさり切られて片膝をつく。

 この流れるような一連の動作が、日常的に行われている俺達四人組は、やっぱり少しおかしいのだろう。

 少なくとも周りから注目を集めるくらいには。

 

「ほら行くぞ?」

 

 唯が未だに片膝をついているゆずの肩を叩き、四人揃って歩き出す。

 

「唯ちゃん文庫は買わないでいいの?」

 

「いいのいいの、また今度。お金無いし」

 

 ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

 

「ふぅぃっ!?」

 

 店の入り口に置いてある防犯用の機械から音が鳴った。

 ちょうど俺とゆずが外に出ようとしたところだったので、お互いに顔を見合わし、ゆずと二人でそそくさと店の中に戻る。

 俺は何も盗ってないし、ゆずもそんなことをするはずがない。

 きっと何かの誤作動だろう。

 そう思い、もう一度二人で店の外に向けて歩き出す。

 そこで俺とゆずの距離が離れた。

 

 なんでゆずはそんなにゆっくり歩いているんだろうか?

 俺は何事もなく店の外に出て、唯達と合流することが出来た。

 やっぱり誤作動か何かだったんだろう。

 そう思っていたのも束の間、ゆずが出ようとした時には先程と同じような機械音が鳴った。

 

「あっ、わあああ……」

 

 見ていて可哀想なほど動揺しているな。

 

「少々お待ちください」

 

「へい」

 

 店の奥から店員の声が聞こえる。

 やっぱり誤作動か何かだろう。両手を上げているゆずは何かを盗んだ様子ではないし、店員も万引きが出たにしては落ち着いた対応だ。

 きっと何回か同じようなことが起きているのだろう。

 

「まあまあ、落ち着け、ゆず」

 

 店の中に戻ってゆずの肩を叩き、いつまでも上げている腕を下ろしてやった。

 奥からやってきた店員も、固く強張った表情ではなく自然な笑顔、もとい営業スマイルを浮かべており、さっきの俺の考えにも確信を持てる。

 

「お巡りさん、こいつです」

 

「本屋さんです」

 

 少しふざけてみたら、ゆずが口を挟む隙がないほどの即答で返された。

 その和やかなやりとりに、ようやくゆずも肩の力が抜けたようだ。

 

「やっぱり誤作動ですか?」

 

「そればっかりは確認してみないとわからないですねー」

 

 まあ、それはそうか。

 本屋さんは改めてゆずに向き直る。

 

「とりあえず中にどうぞ」

 

「鞄にレンタルの物とか、長いコードのある物なんかが入ってませんか?」

 

「はい、あります」

 

 レンタル……ああ、そういう可能性もあるのか。

 ゴソゴソと鞄を漁っていたゆずの手には、オレンジ色の音楽プレイヤーが握られていた。

 

「ああ、コードに巻かれている状態だと…たまにセンサーが勘違いしちゃうことがあるんです」

 

「はえぇ〜」

 

 感嘆のため息を吐いたゆずは、巻かれているコードを解いた後、ゆっくりと店の外に歩いてくる。

 

「本当だぁ解いたら鳴らなくなった」

 

 店の外では唯と縁がほっとした様子を見せた。

 

「お姉さん化学者です「本屋さんです」か?」

 

 先程よりも速くなっている、この人面白いな。

 

「はービックリしたー」

 

「こんな体験初めてだな」

 

「それとお客様ー、店内では静かにしててくださいね」

 

 あれだけ騒げば注意されるのは当然か。

 ただ、笑顔のまま言われたのがちょっと怖い。

 

「はーい」

 

「すみません」

 

 俺もゆずも少し沈んだ声だ。

 自業自得なんだが、何ていうか上げて落とされた気分だなぁ。




今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
「お〜!やらか〜い!」

日向縁・ヒナタユカリ
「や〜らかいね〜!」

櫟井唯・イチイユイ
「や、やめろアホ!!」

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
「あの仲には入れないな、うん」


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花と団子

なんか久しぶりに文章を書いたからか、全然上手く書けなかった。
長さもいつもの短いのよりもっと短いですが、よければ読んでいってください。



「た、た、タランチュラ!」

 

「ら、らぁ〜。ら、ら、ラ・フランス」

 

「セレブって感じだな。んー、スーパーマリオ」

 

 本屋から出た俺たちは、また当てもなくフラフラと歩き始めた。今度は縁が先導するでもなく、誰となく並んで進み、なんとなくで道を曲がり、それとなく行きたい道を選び、さりげなく道の選択を譲っていた。

そうやって、気の向くまま進むゆず達三人は、いつの間にかしりとりを始めていた。

 いや…まあ、ゆずが少し変わった名前の喫茶店を見つけて、店名を呟いたら、縁がまた少し変わった名前の道具で続き、唯がそれに巻き込まれていた。

 今では暗黙の了解として、普段のしりとりでは使わないような単語ばっかりを羅列しているみたいだ。

聞いていた限りじゃ、スイカとかラッパに狸なんて、普段のしりとりで真っ先に消費される言葉は、出てきていない。

 

「やっぱりさー、ゆずもしりとりやろうよオベリスク!」

 

「ぷっ!」

 

「語尾に変なの付けるなよ。それとやらない」

 

 ほら見ろ縁がツボに入って変な歩き方になってる。

 

「え〜いいじゃん。一緒にしりとりやろうぜオリンポス!」

 

「はうっ!」

 

「変化球を混ぜんな。ていうかそろそろやめてやれ、縁が死にそうだ。それに俺が入ったら三人で俺を狙うだろ?」

 

 目を逸らすなこっち向け。

 あからさまに目を背けて、ご丁寧に口までとんがらせている幼馴染に、思わずジトっとした目を向けてしまっても仕方の無いことだろう。

 

「今日のは難しいから無理だって。それに楽しいよ?だからさ、しりとりやろうぜオーディ「んがついたら負けだぞーゆずこ」……エンス」

 

「お前…凄いな」

 

「でしょでしょ!」

 

「狙うのは否定しないんだな。そして俺は俺で楽しんでるから遠慮する」

 

 縁の歩みがいよいよ怪しくなり、ゆずが後ろを向きながら歩いている。そんな二人をフォローするように唯が一歩前に出て、俺は三人に少し近づいた。

 春だからか、高校生になったからか、何が理由かはわからないが、こんな日常の一ページがなんとなく楽しい。

少し変わっているかもしれないが、俺はこの立ち位置を気に入っているのだ。

 

「ほら縁、落ち着いたか?」

 

「はーっ、はーっ、だ…大丈夫。次なんだっけ」

 

「うーんまあ、ゆずが初めに言った、オベリスクのく、じゃないか?」

 

「く?くー、くー、草薙の剣?」

 

「おおっ!凄いの出てきた」

 

「しかし何故に疑問系?」

 

「ぎ、かー。ぎ…ぎゃ、ギャラドス」

 

 そうやって四人で楽しく歩いていると、商店街の近くまで来ていた。腕時計を見てみれば、昼を食べ終えてから丁度いい時間が経っており、そろそろ小腹が空いてくる頃だろう。気のせいじゃなければ、商店街から漂う美味しそうな匂いに釣られてか、三人の足並みが綺麗に揃って商店街の方へと向いたのを目撃した。

 会話に花を咲かせながらも、食べ物に釣られる辺り、まだ今は花より団子なのだろうか。いや、この三人なら蟹を食べてる時までもふざけたり、じゃれあったりして花を咲かせていそうだな。

 そんな三人の様子を見るのが好きな俺は、団子より花なのかもしれない。

 

「スペランカー」

 

「カール・ゴッチ」

 

「ち、ちゅ、チュパカブラ」

 

「どんどん色物になってきてないか?」

 

 なんでいきなりプロレスラーの名前が飛び出すんだ。しかも続く言葉がチュパカブラって……。

 

「そうかな?じゃあラジオペンチ!」

 

「またちぃ?ちー、ちくわ」

 

「YMO」

 

「なんでそう、極端なんだよ」

 

「お餅」

 

「お餅……食べたーい!」

 

「おおっ、ルールブレイカー」

 

 しりとりが終わった。これでわかったがこいつらはまだ花より団子らしい。

 

「あっ、でも私もお餅食べたーい」

 

「ねー。食べたいねー」

 

「「お餅食べたいなぁー」」

 

「なんすか」

 

結局唯は二人の食べたい光線に身を焼かれ、膝を屈した。しかし、二人の猛攻はまだ終わっていなかったのだ。

 

「たい焼きも、食べたいな〜」

 

「えっ!?たい焼き……食べたーい!」

 

顔を少し傾け、陰のある表情を作ったゆずがボソッと呟く。ご丁寧に額を痛そうに摩りながらだ。無駄に芸が細かくて腹がたつ……が、俺は本屋の一件でこいつの言うことを聞かなくてはならない。

さらにはゆずに便乗、というか誘導された縁がとても、本当に食べたそうにしているため、退路は断たれたも同然。

俺も数秒と持たずに陥落した。

 

「ほら、餅じゃなくて団子だけど」

 

「唯はゆず達に甘いなー。ほれ、たい焼き四人分」

 

「うるさい。ていうか柚彦も同じじゃん」

 

「俺はこいつらには勝てない」

 

「柚彦は縁達に弱いなー。ありがと」

 

「「甘ぁーい」」

 

女の子三人が花開くかのように笑顔を浮かべる。

ベンチに座っている三人から、少し離れた街灯に背中を預け、空を見上げる。

暖かな日差しが辺りを照らし、心地いい春の風が、どこかで散った花びらを運んでいる。少し視点を下げれば、遠くの山に桜が広がり、斜面を桃色に染めていた。

耳をすませば、商店街を行き交う人々の喧騒に混じって、楽しそうな声が二つと、時々あいづちを打つ声が一つ。

その中に自分は混じっていないけど、見ているだけでも楽しいし、女の子が楽しそうにしているのには花がある。

ほら、こんな日常もいいものだ。

 

とりあえず、たい焼きを喉に詰まらせたゆずのために、お茶を買ってくるとしよう。




今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
アニソンなんかも聴く

日向縁・ヒナタユカリ
ナツメロなんかも聴く

櫟井唯・イチイユイ
サントラ好き

瀬川柚彦・セガワユズヒコ
むしろクラシック派


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