とある鎮守府の乱雑な運営日誌 (臨機高来)
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鳳翔とあの子

鳳翔とあの子の話です。
史実では鳳翔とあの子が50航戦(練習部隊)でした。
まぁ、そんな二人のお話です。



私があの子と知り合ったのは、ある日提督に呼ばれた為でした。

 提督室のドアの前。

 ノックを4度。

 

「航空母艦、鳳翔。入ります」

 

 そう言いながら、私は提督室のドアを開けます。基本、艦隊から離れ、新しく入隊する艦娘の教育をする教導官役である私としては、この部屋はあまり馴染みのない部屋でした。

 

「ああ、よく来てくれたね」

 

 そういう提督の手元には、なぜか箒・・・そして、壮年とも若年ともとれる顔には作戦後とは違う疲れた顔をしています。提督室は、お世辞にも整っているとは言えず、色々なものが煩雑に置かれています。ティーセット、ジュークボックス、掛け軸等々・・・床には落書きの跡が見えます。一度、皆さんに提督室が何たるものか言わなければいけないのでしょうか。

 

「提督、出直しましょうか?」

 

「いいや、いい。話は直ぐに終わる」

 

 そういって提督は椅子に座ります。流石と言ったものか、提督の執務机と椅子の周りは整理ができており、艦娘の提督室侵攻を寸でのところで食い止めていました。

 

「鳳翔。あなたを呼んだのは、預かってもらいたい人がいるからだ」

 

 そういって提督は隣に目を向けます。そこには少し特徴的な髪形・・・耳のあたりでぴょこんと髪を跳ねさせ、長い髪を二つに縛っている少女が、提督の隣に座っていました。

 その子は私と目が合うと一度の会釈を、そして笑いかけてきました。

 

「彼女は魚大 京子<うおひろ きょうこ>。ある艦との適合率が高いのだが、まだその艦が何なのか判明していなくてね、学生なので艦学に編入させたのだが寮の使用条件を満たしていない。」

 

 艦学とは艦娘学校のことで、艦娘となった少女達が教育を受ける自由を尊重するために作られた教育機関です。私は大学卒業後、艦娘となったのでどういったものはよくわかりません。しかし、小中高大までの付属学校で飛び級制度があり、その他は普通の学校とはそこまで変わらないと聞いています。

 寮は、艦娘となり実家を離れることを余儀なくされた子に充てられるもので、入寮条件は色々ありますが、彼女は「艦娘であること」という条件をまだ満たしていないようです。

 

「確か、あなたは寮母だったはず。艦が判明するまでの間、彼女を預かってもらいたいんだ。彼女にとっても、寮近くで生活できれば入寮したときに色々とスムーズに溶け込めるしね。」

 

 寮母は、寮の近くに居を用意されています。私はそこを『居酒屋鳳翔』として改装し、寮暮らしの子、そうでない子達のコミュニケーションの場として提供しています。・・・あっ寮も私の家も、学校もすべて基地内にあるので、一般の方が利用することはまずないと思います。自衛隊の方などは時々来られますが。

 

「彼女が住む家がないというのは、提督のせっかちのせいではないでしょうか?」

 

 私は少し困った顔をしながら言います。本当は困ってはいないのですが、ちょっとだけ言い返したくて。

 

「居酒屋を開くという、ワガママを聞いたんだ。私のワガママも少しくらい聞いてくれ」

 

 そういうと提督は彼女・・・魚大さんと少し話し、話が終わると魚大さんは私の前に来て。

 

「鳳翔さん。よろしくお願いします!」と言いい、ぺこりと頭を下げて笑顔を見せました。

 

「・・・ふふっ、冗談ですよ。京子さん、よろしくお願いしますね」と私も彼女にぺこりと頭を下げた。

 提督室から出る時、提督に「その子は居酒屋で働かせるといい。いい働きをすると思うぞ」と言われたのだったのだった。

 

 

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 彼女との生活が始まり数日が過ぎましたが、別段と私の生活が変わることはありませんでした。それもその筈で、彼女は十分一人暮らしするには困らないだけの生活ができていたからです。朝も5時起床ということで、最初は戸惑っていましたが今ではちゃんと20分前には起きています。学校でも問題も起こさず、お友達ができ、そのお友達をお店に連れてくることもあります。

 

 変わったとするなら、お店の仕事量。仕込みも何もすべてやっていた時と比べれば、劇的に仕事は減りました。教導官の仕事も、艦学が終わった後なので、その間に帰ってきたあの子に仕込みをしてもらったり、お店のお掃除をしてもらったりで大助かりです。

 

 ですが、一番変わった事は、私の気の持ちようでしょうか。育ちのいい子供を持った気分。まだ、若いはずなのですけどね・・・。

 

「鳳翔さん。やっぱり鳳翔さんのご飯は美味しいです!」

 

 お客さんが捌けた後の二人のお夕飯。そう彼女はいいます。よく食べる子です。

 

「どうやったらこんなにおいしくなるんでしょう?」と、彼女はムーとご飯を見ています。

 

 そんな彼女の仕草がかわいくて少しだけクスリと笑ってしましました。

 

「それはですね」

 

「はい!」バッと目をキラキラさせながら顔を私に向けます。

 

「食べる人の顔を思い浮かべながら作るからですよ」

 

「食べる人の顔を・・・」京子ちゃんは顔を上げて思い浮かべます。

 

「どんな顔をしていました?」

 

「おいしそうな顔をしていました!」

 少し言葉が足りていない表現にまたクスリと笑ってしまいます。

 

「今は、それくらい思い浮かべばいいですよ」

 私は、色々見てきました。居酒屋鳳翔で、食べながら愚痴を言う人、おいしそうに食べる人、仲間を失い

嗚咽を漏らしながら食べる人・・・1年。この戦争はまだ続いています。

 

「どうしたんですか?鳳翔さん」彼女が私の顔を覗いてきます。

 

「い、いえ。大丈夫ですよ。なんでもないです」まだこの戦争に寄与していない女の子に、私は精一杯の笑顔を見せました。

 

 

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 1か月程経ってでしょうか。提督に、京子ちゃんと一緒に提督室に来るように言われました。多分、ある艦が特定できたのでしょう。

 

 提督室のドアの前。

 

 ノックを4度。

 

「航空母艦、鳳翔。入ります」

 

「入れ」

 

 提督の声が聞こえます。私はその言葉に従い、ドアに手を掛けドアを開けました。

 

「待っていたよ」

 

 今日の提督はこの前と比べ厳格な雰囲気を醸し出しています。提督としての仕事だからでしょうか。しかし、散らかった提督室のせいでその雰囲気は霧散していると言わざるを得ません。

 

「提督。今日呼ばれたのは、京子ちゃんのことですか。」自分の名前を呼ばれピンと伸ばした背筋が一層伸びている京子ちゃんを見て提督は「そうだ」と一言いい、続けます。

 

「魚大 京子。貴官に『潜水母艦、大鯨』の任を与える」

 

「は、ひゃい!」彼女が上ずった声で答えます。それを気にも留めず

 

「そのため、大鯨には寮に入ってもらう。」私たちの顔が少し引きつります

 

「鳳翔」呼ばれ私は思わず「あの、提督」と言葉を出しますが、提督は聞き耳を持たず

 

「魚大 京子保護の任を解除する」私の聞きたくなかった言葉が聞こえます・・・

 

「あの、提督・・・鳳翔さんと一緒に・・・」京子ちゃんはおずおずと聞きます。

 

「ダメだ。潜水母艦は潜水艦との連携があって初めて活きるもの。寮に入り潜水艦達とコミュニケーションを取ってもらわなければならない。部屋も彼女たちと近くになっている」

 

 京子ちゃんはその後も提督に食い下がりますが、提督は聞き耳を持ちません。

 

「鳳翔さん!」京子ちゃんが私に縋る様にみます。

 

「・・・大鯨さん、これは、任務です」私は縋る彼女の肩を持って言います。その時の彼女の顔を私は見ませんでした・・・見れませんでした。

 

「鳳翔、大鯨の教導官としての任を与える」提督は言います。それに対し私は「了解しました」と敬礼をして答えました。

 

 こうして、彼女との生活は終わりました。大鯨は私と離れるまでの間、手をつないで泣いていました。

 

 

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 ・・・元の生活が始まり数日が過ぎましたが、別段と私の生活が変わることはありませんでした。それもその筈で、私は十分一人暮らしするには困らないだけの生活ができていたからです。朝も5時起床もいつも通り20分前には起きて。教導官として仕事と、居酒屋鳳翔の運営もうまく行っています。

 

 変わったとするなら、お店の仕事量。仕事もあの子と一緒にしていた時と比べ、こなさなきゃいけないことが増えました。教導官の仕事は、艦学が終わった後なので、その間に仕込みを済ませなければいけなく、時間のない中での切り盛りをしなければいけません。

 

 ですが、一番変わった事は、この沈んだ気持ちでしょうか。一人娘が嫁いでいったかのような感覚・・・まだ、結婚していないはずなのですけどね。

 

 そんな沈む気持ちを汲み取ってか、居酒屋開店時には扶桑さんがいつも気にかけてくださいます。他の方々も各々のタイミングで気にかけてくださいます。しかし、今私が欲しい声はあの子からしか聞くことができません。

 

 教導官として彼女と会うときには私語はありません。大鯨はまだ、私のお店に来ることはありません。元々、潜水艦の方々は日夜作戦を実行し、お店に顔を見せる事は殆どなかったので、大鯨もそうなることはわかっていました。わかっていても、来ることを期待してしまいます。

 

 お客が捌けた後のお夕飯。私のご飯と向かいに側にあるご飯。この頃ずっと、作ってしまいます。いないのはわかっていても、あの子のご飯を食べる顔を想像してしまうと、作ってしまいます。

 

 ご飯を食べていた時、一筋の涙が零れました。

 

 

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 大鯨の教導官として任を解かれ数か月。やっと元の生活に戻ることができました。あの子の顔を見なくなって却ってよかったのかもしれません。今は教導官としての仕事もなく、お店の切り盛りだけですので暇を少しだけ持て余しています。

 

 今はお店の椅子に座ってお茶を一人でしています。そんな昼下がり、居酒屋鳳翔の裏口をノックする音が。

 

 ノックの音は3回。

 

 誰でしょうか。龍驤さんかな?でも、彼女なら表口から来るはず。

 

「鳳翔さん」出てくるのを待ちきれないというような声音が聞こえてきました。その声に思わず私も顔をにやけさせます。私がずっと聞きたかった声の主・・・

 

「今開けます」声が上ずらないように慎重に声を出します。

 

 ドアを開けるとそこには、綺麗な着物を着た大鯨がいました。

 

「鳳翔さん、私に空母道を教えてください」彼女が声を弾ませて言ってきます。

 

「あなたは、空母じゃないでしょう」少しだけ、目に涙がたまります。

 

 その言葉に彼女は胸を反らしながら言います。

 

「今は潜水母艦改装空母の龍鳳です。」そんな仕草をする彼女が可愛くて。

 

「潜水母艦としての仕事がない時は、龍鳳として艦隊に従事することになりました」彼女の言葉も聞かずに

 

「だから、鳳翔さん。空母道を教えてください」思わず私は彼女を抱きしめました。ずっと会えなかった我が子のように。強く強く、抱きしめました。

 

 私が落ち着くのを待って、弓道場に行きます。まずは空母道の前に彼女に弓の使い方を教えなければいけません。

 

「鳳翔さん」歩いている途中で彼女は言います。

 

「また、鳳翔さんと一緒に歩けて、龍鳳、うれしいです」

 

「私はそうでもないですよ」そんな意地悪を言って

 

「え!?そうなんですか・・・」とすこししょんぼりする彼女を見て

 

「・・・ふふっ冗談ですよ」と笑いかけました。




次からがホントの第一話


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鎮守府ができる前の話

 こんにちは、不知火です。

 

 世界が深海棲艦に侵されて早十数年が経ちます。人間が深海棲艦の脅威を認知したのはたった数年前。それより前からその脅威を感じ、そして対策をせんとしていた司令官は何年もの詐欺師の誹りを受け、研究職を追放されます。そんな中で私たちと出会い、色々な伝手を使いその研究を続けてきました。それが数年前の深海棲艦の観測によって立場が逆転。司令官の研究を国が認め、飛躍的に研究が進み、数か月前、その対抗策が打ち出されたのです。

 

 それが艦娘という機構。司令官にその原理を聞きましたが、私たちは良く理解していませんでした。しかし、司令官の言葉を信じ、鍛錬を積むだけです。

 

 さて、前置きが長くなりましたが、今日はその艦娘試験運用最終日。最終日と言っても、艦娘の運用は決定されたものなので、実際には実践で扱うための鍛錬、といったものでしょうか。私の近くには各艦の試験運用者、軽巡 夕張、戦艦 扶桑、正規空母 加賀に軽航空母艦 龍驤・・・そして、駆逐艦である私、不知火が水上を滑走しています。

 

 今でこそここまで艤装を自身の手足のように扱うことができていますが、初日では散々たるものでした。まず、地上で歩くことすらままならない。艤装によって我々の身体能力が飛躍的に向上しているものですから、まるで自分の体が自分のものではないような。歩こうといつものように蹴りだすと、思っている以上の力で蹴りだしてしまう。自分の体、というものを一度見つめなおすことが必要なようです。艤装を外してしまうと今度は立てなくなる。疲れと艤装解除による身体能力のギャップによって、今まで感じたことのない脱力が襲い掛かります。宇宙から帰還した宇宙飛行士がこんな感じなのかなと、他人事のように考えては意識を途絶えさていました。

 

 試験運用の大半を体に対する艤装の慣らしに費やし、いざ、水上訓練が始まる時には、予定に大幅の遅れが生じていました。水上訓練は、皆さんが臆することなく、遂行していたので直ぐ終わるものとなりました。

 

 水上訓練が終わり、次が実践訓練の前夜、私の部屋にノックが3回。

 

「どうぞ」と私は言います。この部屋に来れる人はそう多くなく、顔を知っているので、特に気にすることなく応対をします。

 

「邪魔するで」「お邪魔するわね」と空母組の二人が入ってきます。

 

「不知火さん、明日の準備はできているかしら」言葉遣いの丁寧な加賀さんは見た目もそれに違わず、素朴で綺麗な姿をしています。それに落ち着いた表情をいつもしています。

 

「せやで、明日はうちらにとって重要な日なんやから、な?」少し可笑しい関西弁を操るのは龍驤さん。体躯は幼さが目立ちますが、れっきとした20歳前半。お加賀さんと同じ年の女性です。昔その変わった口調について尋ねてみましたが「昔ちょっとだけ、大阪に居たんよ。その時うつってな」とにこやかに話していました。

 

「ええ、準備は万全です」そういい、私は整備された砲塔を見せます。まだ、正式な部隊となっていなかった私たちには、武器庫など存在せず。個人で管理するようになっていました。

 

「・・・あなた達と出会って、何年くらいかしら」加賀さんがふける様に言います。

 

「うちと加賀は10年くらい、不知火は正式に深海棲艦が公表される前やから、5年くらいやろ。」龍驤さんは私のベッドに座り込みながら指折り数えます

 

「でも、提督のおかげでな。うちらは生きる理由をもらったんや。世間を恨まず生きる術を手に入れた」その言葉に私と加賀さんは大きく頷きます。

 

「深海棲艦。私たちにとって打つべき敵です」私は砲塔をなでながら言います。

 

「世間にとっては世界の敵かもしれないけれど、私たちにとっては個人的な敵ね」加賀さんが言います。

 

 夕張さん、扶桑さんと他3人にとっては一つの成果物である艦娘。私たちにとっては唯一の敵を討つ方法。

 

 少し長い沈黙。

 

「ま、明日も早いんや。早寝や」そう龍驤さんが切り出し、ベッドから立ち上がり私の部屋から出ていきます。

 

「そうね。おやすみなさい」加賀さんもそういって、部屋を出て扉を閉めます。

 

「おやすみなさい」私は二人が出ていった扉を見ながらつぶやき、ベッドに潜り込みました。

 

 

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「ちょっと不知火聞こえてるー?」

 

はっと物思いに耽っていた私を現実に引き戻す声を聴きます。

 

「な、何でしょうか伊勢さん」と私はその声の主に応答します。

 

「そろそろ、作戦海域に入るから気をシャキッとさせてよ」と伊勢さんは言います。

 

 そうでした。今は実践訓練中。集中しなければ。

 

「とはいっても、相手はただの案山子、動かない的だ。そう緊張するな」と日向さんの声が聞こえます。その後ろで騒いでいる伊勢さんの声が聞こえ

 

「いい。絶対壊すようなへまをしないで頂戴ね」と恨めしそうな山城さんの声が聞こえます。

 

 その後、3人で言い争う声が聞こえてきます。

 

 戦艦としてこの試験運用に参加している、扶桑さん。そして、オペレータ役の伊勢さん、日向さん、山城さん。この4人は研究職を追放された司令官についてきた研究者であり、艦との適合率の高く、今後も戦艦の艦娘として籍を置くことが決定しています。彼女たちにとって艦娘とは研究の結晶であり、その結晶が実るかどうかは今後の戦火にかかっています。そのこともあり、4人はこの試験運用に熱が入っています。

 

 一先ず、言い争っているオペレータとの通信を切り、前を向きます。一面に広がるのは青い海。何も私の視界を隔てることはありません・・・あれ?作戦では夕張さんが前に出ているはず。

 

「ちょっちょっと。不知火ちゃん速過ぎない?お、おいていかないでー」と私のすぐ後ろで夕張さんの声が聞こえてきます。

 

「おや、夕張さん。機械トラブルですか?」と私は言います。

 

「わかって言ってるのそれ!不知火ちゃんより私は遅いのよ」とプンプン怒るような声が聞こえます。そうでした。最大速力は35.5ノットと同じなのですが、通常時には私は18ノット、夕張さんは14ノットと4ノットほど私の方が速いんでした。

 

 私は速力を落とし、夕張さんに先頭を譲ります。「すみません。夕張さん」とすれ違う途中で言ってはみましたが、夕張さんはプクーと頬を膨らませ応答をしてくださりませんでした。不知火に落ち度でも?

 

 夕張さんは、この中では一人だけ珍しい、研究室に就職してきた子でした。工業の専門学校出身で、主に艤装の設計などを手掛けており、例にもれず艦との適合率が高かったため、今後も艦娘と設計の二束の草鞋を履いて活動することになるそうです。

 

 ちらりと、後ろを見ます。私の後ろにいるのは扶桑さん。少し通信を通してか話をしています。多分、山城さんと話をしているのでしょう。

 

 その後ろでは並走している加賀さんと龍驤さんの姿が、あの二人は気が合うのか一緒にいる姿をよく見ます。多分、この中では一番親交のあるコンビなのではないでしょうか

 

「作戦海域進入。空母部隊発艦せよ」日向さんの作戦実行の合図が言われます。

 

「さぁ仕切るで! 攻撃隊、発進!」待ってましたと言わんばかりに、龍驤さんが巻物を広げ、発艦させます。巻物の甲板はまるで風など吹いてないかのように、重力などないかのように水面と水平にして動くことがありません。式神形式の艦載機が、巻物の上を通るたび、本当の形に姿を変え、発艦されていきます。

 

「攻撃隊、発艦します」龍驤さんに遅れて加賀さんも弓矢をもって、艦載機を発艦させていきます。放たれた矢は、艦隊の上を飛んでいき、敵艦隊と中心程の位置になると艦載機に姿を変え、作戦実行をしていきます。

 

「戦艦、砲撃開始!」伊勢さんの号令が聞こえてきます。それに合わせ扶桑さんが

 

「主砲、副砲、撃てぇ!」と35.6cm砲の爆音を響かせます。

 

「砲撃の着弾確認し、不知火と夕張は、最大速力で敵艦隊に突撃。翻弄後に魚雷を浴びせて」と山城さんの命令。

 

「着弾、確認よ」と扶桑さんの通信が入ります。

 

「さぁ!色々試してみても、いいかしら!」と先ほどの速力で鬱憤のたまっていたのか、夕張さんが速力を上げていきます。

 

「徹底的に追い詰めてやるわ。」と私もそれに追従する形で速力を上げていきます。

 敵との距離はどんどん縮んでいきます。相手は動かない的。そうはいってもこちら側のミスで激突することはあり得ることです。細心の注意を払い。作戦を実行していきます。・・・動かない的をどうやって翻弄させればいいんでしょうか。

 

 

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作戦終了、そして帰投。多分作戦実行はできたと思います。伊勢さんが満面の笑みで迎えてくださったので。

 

 

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「いやー。みんなお疲れ!大成功大成功」と試験運用終了での宴会の場で伊勢さんが言います。

 

「ん?そうなん」と龍驤さんが料理をつまみながら聞いています。

 

「そうそう。今日の実践訓練。あれってさ、実践に託けたパフォーマンスなんだよ」と伊勢さんが言います

 

「・・・どういうことですか」私は少しの不快感を示しながら訪ねます

 

「いや、遊びでやったって訳じゃなくてね不知火ちゃん」と少し腰を引きながら答える伊勢さん

 

「まぁ、不知火そう不快そうな雰囲気を出すな」と日向さん

 

「しかし、不知火は実践のためと思って、懸命にやりました。それをパフォーマンスと言われては」と私は素直に言う。

 

その言葉を聞いてか日向さんが「まだ、艦娘をよく思っていない者が、政府や行政、自衛隊や研究者の中にいるんだよ」と私をなだめるように言います

 

「そ、そうそう!まだ私たちの実態が掴めていないお上が多いんだよ。そんな人たちを今回の訓練に招待してさ、艦娘の機能性とか、色々、見てもらったんだ。そのために大立ち回りな訓練になったけど・・・」と日向さんの言葉に伊勢さんが補足する。

 

「つまり、実戦形式ですが、ある程度のオーバーアクションが含まれていたと」私は少し納得したような顔を見せます。

 

「提督は、研究職・・・学会を追放されていましたから。そんな方の研究を認めないという方々があるのですね。権威主義というか・・・」扶桑さんが困った顔をしながらうんうんと頷いています。

 

「一番の理由は提督を追放、詐欺師扱いしておいて、自分たちの推測がデタラメだったのを私達に証明されて、妬んで僻んでいるだけ。自分の勝手で失脚しておいて、その理由を私たちに擦り付けてるだけ」と吐き捨てるように山城さん。

 

 この4人は学会を追放された司令官についてきた研究者。今はこの上なく上機嫌でしょう。正しいとついてきて、その正しさを半ば証明できたんですから。

 

「愉快だったよ。最初は懸命に提督を嘘つきだとか、言い伏せようとしていた連中が、訓練が開始されると段々とトーンが下がり、終わるころには、ぐうの音も出せなくなる。」日向さんがその時を思い出してか笑みがこぼれます。

 

「あ、そうそう。みんな艤装の使用感教えてくれないかしら?」と思い出したかのように紙を配る夕張さん。

 

「今後は艦娘も増えるでしょ。今のうちに改善できるところは改善していきたいの」と付け加えます

 

「ん~うちは今のままでもいいかな」と龍驤さんが紙を返します。

 

「ダメ。ちゃんと枝葉末節、小さいところまで思い出して」と夕張さんは紙を受け取りません。

 

「は~面倒くさいなぁ」とため息を零す龍驤さん

 

「ああ。私たちも今後のために、訓練の最適化をしておかなければな」と日向さん

 

「訓練の度に、海に出るまでにあんなに時間掛けちゃいけないよねぇ」伊勢さんが資料を取り出します。

 

「特に最初はそうね。最初にどれだけ時間がかかるかで、情勢が変わってくるわ」と真剣な表情で資料に目を通します。

 

「やっと、スタートラインを引くところまで行けたのねぇ」と扶桑さんが感慨深く思いに耽っています

 

 不知火としても、やっとという気持ちになります。なす術なく5歳程で一人社会に投げ飛ばされ、孤児院へ、その孤児院でも上手く行かず、少し特殊な孤児院へ転院。しかし、その転院があったおかげで、不知火は友達と呼べる人を見つけることができ、司令官と知り合い、今に至ります。

 

「そういえば、司令官はどこに」私はあたりを見回し、司令官がいないことに気が付きます。

 

「提督?提督なら、色々な書類とかで忙しいからいないわよ」と資料に目を通す山城さんが投げやりに答えます。

 

「あれ、なんで提督って呼ぶようになったんだっけ」と伊勢さんがふと思い出したかのように聞きます。

 

「たしか、艦娘というのは、昔の艦と適合することによってある種の力を手にする。だから、その艦を指揮する自分は提督だ・・・とかそんな感じだったか」少しお酒の入った日向さんが曖昧な言葉で返します。

 

「後は、所長とかそういう、学会や研究室を思い出すような言葉は嫌っていたのが理由だったかなと・・・」オレンジジュースを両手で持つ扶桑さんが答えます。

 

「加賀は何か覚えてるん?」と龍驤さんが加賀さんに目を向けると

 

「おかわり、いただいてもいいかしら」と特製の大盛りお茶碗を龍驤さんに向ける加賀さんがいました。

 

 

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この後、正式に艦娘が日本の防衛機関として任命され、海上自衛隊からいくらかの出向、鎮守府とそれに付随する施設が作られ、艦娘候補生を色々な方法をもって募集し、深海棲艦と戦う力を日本持つことになるのです。




この鎮守府は不知火・加賀・龍驤・夕張・扶桑・山城・伊勢・日向がプロトタイプ。鎮守府が正式にできるまでの間深海棲艦を迎撃してきた子達です。
鎮守府ができたすぐの頃ははもっぱら裏方(教導官)として尽力し、前線に出ることはありませんでした。
ある程度の艦娘が運用可能となって鳳翔さんが教導官となった後は前線にではる様になりました。


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自衛隊から

艦娘は一応、海上自衛隊の管轄である。指揮権は殆どないが。

 

その海自から、いくらかの出向があった。戦うために必要な人員だ。もちろん、艦娘となる隊員もいた。早期入隊組とはそういった連中のことだ。

 

コンコンコンと、ノックが3度響く。

 

「入ってください」提督としてこの椅子に座って数度程、いまだこの受け応えすら緊張する。ただの研究職員がこんな隊を率いることになるとは思っていなかった。ああ、ああ。少しだけ艦娘というものを発明したのを後悔している。大体のことは出向組がしてくれると言っているが、この上なく不安だ。

 

 ドアが開き3人が入ってくる。まだその服は海上自衛隊のそれだ。いや、彼女たちが艦娘とならないのなら、そのままの服でもおかしくないのだが。今日の目通しは、そういう人が来るはずだ。

少しの間

 

 私が緊張していることに気が付いたのか、あきれたのか、一人ずつ勝手に自己紹介を始めていく。

 

「海上自衛隊准海尉、重巡洋艦である利根である。よろしく頼むぞ。提督よ」

 

「海上自衛隊海曹長、重巡洋艦である筑摩と申します。よろしくお願いいたします。提督」

 

「海上自衛隊1等海尉、航空母艦、鳳翔です。よろしくお願いいたしますね」

 

「以上、艦娘としての出向、3名です」

 

「あ、ああ。よろしく」私はいまだに、これくらいのことしか言えなかった。

 

 

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 利根、と言っていた子が気を利かせて食堂で話す事を提案してきた。この場では私がどうしようもないと悟ったのだろう。私はそれを了承、他の2人もそれを受諾し、食堂へ移動していった。

 

 鎮守府ができて、実は初めて食堂へ行く。今までずっと資料作成や、資料をしかるべき処へもっていったりと、ずっと休まることのできていなかった。研究からも離れている。少し研究室が恋しい。

 

「提督よ、少しは落ち着いたか?」利根が私にそう聞いてくる。年は20前半だろうか。ツインテールのせいでもっと幼いイメージが付きまとう。しかし物腰が、年以上に長く人生を生きているような雰囲気も醸し出している。

 

「・・・少しは」先ほどの緊張はないが、今は違う緊張を感じる。女性3人とお茶を囲むのは初めての経験だ。おかしい。研究室じゃあ5人の女性と机を囲っていたはずなのに。それとは比にもならない緊張に襲われる。

 

「お疲れですか?今日久しく暇ができたと聞きましたが」筑摩少し心配そうに私に聞いてくる。利根と比べるとこのくらいなく大人びて見えるが、これでも利根よりも年下らしい。先程私は、利根のことを表面は幼く、内面は大人びていると評したが、筑摩はどちらも成熟した大人のそれだと感じた。

 

「誰から聞いたんですか」私は特に気にしてはいませんでしたが、聞いてみました。

 

「あら、提督。この鎮守府にどれだけの出向者がいるか知っていますか」少し脅すような言葉で筑摩が言ってくる。ああ、私は悟った。私は逃げることができない。まぁ、艦娘のそれを知っているのは私と少数の人間。逃げられたら困るか・・・少し、気がめいる。

 

「こら、筑摩さん」と鳳翔さんが飲み物をもって机に来る。彼女のイメージとしては、少し古風という感じだろうか。佇まいが良い意味で時代錯誤。今時出会えないような女性ではないだろうかと思います。

 

「ごめんなさい。提督、少し筑摩さんが粗相をしてしまったようで」それを聞いて筑摩がおかしそうに笑います。

 

「いえ、提督。そんな意味で言ったわけじゃないんですよ」堪え切れてない笑い声が漏れる筑摩。

 

「筑摩よ、さっきのはどう聞いてもそういう風にしか聞こえんぞ」と利根が言って言い改める。

 

「提督には吾輩たち、海上自衛隊が付いておる。あまり気を重く持たず堂々としていればよい」胸を叩きながら利根が言う。

 

 その言葉を信じすぎずに、私は聞く。監視、というのは事実としてあるんだろう。だが、ここに来ている出向組はそんな気は露としてない、といったところか。しかし、その言葉は私の緊張感を解くには十分だったようだ。

 

「まぁ、よろしく頼むよ」緊張のせいで出てきた慣れない敬語が、解除されたようだ。

 

「ふむ」利根はその言葉に満足したようで、鳳翔さんが持ってきたコップに口をつけた。

 

 緊張が解けたおかげで話が進んだ。重要な話もいくらかした。食堂でするような話なのか?という疑問はあったのだが。

 

「私たちは誰かに艦娘としてのいろはを学ばねばならないのですね」鳳翔さんが聞く。

 

「そうなる、誰になるかはわからないが・・・」私がそう言っている後ろから

 

「あ、提督やん、こんなところでどないしたん?」微妙に似非っぽい関西弁が聞こえてきた。

 

「龍驤か、どうしたんだ」私は振り向きながら言う。

 

「いやーちょっと加賀と鎮守府の探索。さっきは夕張も居ったんやけど、アイツ工廠行ったらそこから出てこようとせんかったから置いてきたんや。」やれやれと龍驤は困ったもんだと言うように仕草を作る。

 

「鎮守府はどうだった」

 

「いやーいいもんやで。ずっと居ったあそこに比べれば天国やな」鎮守府の出来に満足のようだ。

 

「でもって、提督。そっちのねーちゃん達は誰なんや」龍驤が私と机を囲む女性が誰なのかを聞いてくる。

 

「ああ、彼女たちは」

 

「重巡洋艦利根じゃ」私の言葉を遮るように利根が言う。その顔は龍驤に向いており、何かを比べるかのように近づいていく。

 

「な、なんやねん」いつもは気後れのしない龍驤がたじろぐ。

 

 利根と龍驤がくっつかんとするくらい近づいていくと、「ふむ」勝ち誇ったように利根が言う。

 

「胸も、身長も吾輩の方が大きいようじゃな」満足そうに利根は龍驤から離れる。

 

「な、なにゆうてんねん!キミ」龍驤はその言葉を聞くと利根に詰め寄り、2人はギャーギャー言い合いを始めた。

 

「重巡洋艦、筑摩です」「航空母艦、鳳翔です」「空母、加賀です」そんな2人を我関せずと3人は各々の自己紹介を始めた。

 

「私たちにいろはを教えてくださるのは、貴女達となるのでしょうか」鳳翔さんは加賀に聞く。加賀はそれを聞くとそんな話は聞いてないと私に顔を向けてくる。

 

「そういうことだ」と加賀に私は言った。

 

「・・・そのようね」加賀は問いただしても無駄だと判断したのか、それを了承した。

 

「でも、これじゃ2対3ですね・・・もう1人教える方がいた方が・・・」

 

「いいえ大丈夫よ」筑摩の疑問に加賀はこう答える。

 

「不知火も投入するわ」私だけが面倒事に巻き込まれるのは気に食わないと、加賀は不知火も巻き込んでいくいことを決定したようだ。自分がいないところで勝手に決定される不知火、これこそが巻き込まれるというんだろうね。

 

「不知火さんですか」筑摩が少し不安そうに聞く。

 

「そう、不知火。大丈夫よ。彼女は現水雷戦隊のエースだから」そりゃ現水雷戦隊は不知火しかいないからな。

 

「あら、そうなんですか」それを聞いて安心したのか、筑摩は安心したような笑顔を見せる。何も知らないってのは、幸せなことだな。

 

「どうしたんですか。皆さんこんな所に集まって」その声は今巻き込まれている不知火だった。

 

「こんな小さい子もいるんですか」鳳翔さんが少し珍しそうに不知火を見る。こんな施設内に、平時に子供がいることに驚きを隠せないのでしょう。

 

「その子も艦娘よ」加賀はあえて名前を言わずに明かします。

 

「へぇ。あなたも艦娘なんですね」筑摩がかわいい物を見るような目をします。

 

「私は航空母艦鳳翔です。よろしくお願いしますね」

 

「重巡洋艦筑摩と申します。よろしくお願いします」二人はニコニコしながら自己紹介している。

 

「私は駆逐艦、不知火ですご指導、ご鞭撻、よろしくです」それを聞くと2人の顔がそのまま凍り付く。こんな子が自分たちの指導を行うと思っていなかったのだろう。

 

「あの、不知火ちゃん、水雷戦隊のエース・・・なんだよね」今まで敬語でいた筑摩の語尾が少し崩れる。

 

「はい、現水雷戦隊は私しかいませんので、エースといえばエースでしょうか」不知火は少し前に交えられた会話を知らないので、素直に答えます。

 

「あの、加賀さん。聞いていませんよこんな小さい子だなんて」筑摩が加賀に向かって言います。

 

「ええ、言ってないもの。それともあなた、彼女が小さい子供からってだけで、師事できないのかしら」その言葉に筑摩が黙る。

 

「少なくとも貴女達より、艦娘としては一日の長があるわ。心配しないで、不知火は誰よりも訓練をしてきたわ」不知火は話が読めずに3人の顔を見合わせるだけだった。

 

 

-----

 

 

「不知火は、何も聞いていません」少し泣きそうな顔をしながら不知火が答える。

 

「さっきの場で決まったからね」加賀は悪びれもせずに答える。

 

 食堂のグダグダになった空間に夕張が来て、利根、筑摩、鳳翔を連れて行った。どうも艦娘としての能力を最大限に生かすためのテストなどを行うらしい。3人がいなくなった食堂で私、加賀、龍驤、不知火が机を囲んでいた。

 

「でも不知火、後のこと考えておいたら、指導を経験しておくのはええと思うんやけど」龍驤が不知火を説得をする。

 

「しかし、龍驤さん」不知火が少し不安そうにいう。

 

「不知火はまだ、中学生です。そんな私が、年上にそんな教えることは・・・」

 

「不知火そんな事を言っても、教えられるのは私達3人よ。他の5人は今、正式にこの鎮守府が始まる前に所員への指導を率先してやってくれているわ。何もやってないのは私達3人だけ。私たちは自分たちができることをやるべきじゃないから。」加賀がキリッとした顔で答えます。

 

「そんなこと言っても、不知火は加賀さんが巻き込んだんじゃないですか」その言葉に加賀は顔をプイッと背ける。そして私を見る。私が巻き込まれたのは提督のせいだと言わんばかりに。

 

「あー不知火。確かにお前は、まだ学校のことがあるだろう。そっちが終わるまではそんなことをやる暇はないな」

 

「はい、不知火は学校という行かなければいけない使命があります」

 

「だから、お前は指導の補助だけをすればいい。その中で、加賀と龍驤から指導する時のポイント等を教えてもらえ」この妥協案でいいだろう。良いって言ってくれ。

 

 一応はこの妥協案で決定した。でも、多分、これで済まないんだろうなぁ。加賀と龍驤のことだし。




ここの鎮守府は形式上海上自衛隊の管理化みたいな話
そこそこの人員が海自から寄越された人間です。それだけ深海棲艦は脅威と扱われています。

利根は海自出身ぽいからそれに引っ張られて筑摩もそっちに入った。
鳳翔さんは割とワガママ聞いてもらえる立場かなと思ったので(居酒屋鳳翔とか)
出向組は伊良子、間宮、大淀、明石もですが、まだ艦娘側としては出向していません。各々自分の持ち場にいます。


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鎮守府の始まり

こんにちは。不知火です。

 

 鎮守府が完成し、いよいよといった感じでしょうか。日本の深海棲艦への反撃が始まろうとしています。そのためには先ず、戦える人員を増やすことをしなければなりません。今日から3月、春休みに入ろうかという時期、艦娘学校への転入が終わり、艦娘候補生が集まり艦娘の育成が本格的に始まります。私が担当するのは駆逐艦。まぁ当然といったものでしょうか。それに扶桑さんが補助として支えてくれます。

 

 軽・重巡は夕張さんと日向さん。空母は加賀さんと龍驤さん。戦艦が伊勢さんと山城さん。ちゃんと教えられるか緊張します。一応は早期入隊組というのが何人かいて、その指導に当たっていたので教える・・・ということはしてきたのですが、少し心許ないと感じます。

 

 今、教える皆さんとの顔合わせをする部屋の間にいます。

 

「・・・扶桑さん、緊張した時には何をすればいいでしたか」緊張して蒸れる手袋を外しながら私は聞きます。

 

「よく言われるのは、手のひらの人を3回書いて飲み込むかしら」頬に手を置きながら扶桑さんが答えます。今、彼女の背には艤装が着けられていません。まぁ、あんなに大きいものを屋内で着けられていては邪魔言うものです・・・

 

 扶桑さんに言われるがまま、人を3回手のひらに書き飲み込む・・・緊張が解けたようには思えませんが、手が蒸れからいくらか解消されたので、手袋をつけて、一言。

 

「行きましょう。扶桑さん」臆していては何も始まらない。一歩、前に。

 

 

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 ガラリ、とドアを開ける。その部屋は広く、しかし部屋の広さを感じさせないような人数の少女たちがいました。音に引かれて顔をこちらに向けます。一瞬たじろぎましたが、気を持ち直して、前に立って言います。

 

「今日から、艦娘としてあなたたちの教導をします、不知火です。よろしくお願いします」そういい私は頭を下げます。

 

「教導補助の扶桑です。よろしくお願いいたします」と幽雅な仕草でお辞儀をします。

 

「この中で、適合艦が判明している方はいるでしょうか」私は見渡します。

 

 適合艦の有無を調べるのは時間が掛りませんが、適合艦を解明する検査に時間が掛ります。私達も艦娘という機構が完成して半年程がたち適合艦を判明しました。ですから、検査から間が経ってない今、それが判明しているのは非常に稀と言ってもいいでしょう。

 

 見渡すと5人程他の方たちと離れた場所に座っています。その前の椅子には適合艦アリとの張り紙・・・多分、そうなのでしょう。5人の前に行き確認すると、そうだと返答が返ってきました。

 

 確認をとれたので扶桑さんと2、3言葉を交わし「では、私は先ずその5人を指導しますので、ほかの子の指導を扶桑さん、お願いします」と5人を引き連れ部屋を後にします。

 

「はい、それでは、基本的なことを学びましょうか」と閉めたドアの奥から聞こえてきました。

 

 6人で廊下を歩きます。その間に会話はありません。少し気まずそうに黒髪の子がキョロキョロします。

 

「今日から新しい生活が始まりますね」黒髪の少女に私は言います。

 

「は、はい!そうですね!えっえっと・・・」

 

「不知火で大丈夫です」

 

「は、はい、不知火さん!」と少しほっとした顔で彼女は私に顔を向けます。

 

「自己紹介、しましょうか」少し緊張を解すためにも提案します。

 

「は、はい!」今までと違い少し活気を取り戻した黒髪の少女が食いつきます。

 

「ですが、ここでの名前は適合艦としての名前でお願いします。別々の名前で呼ばれては面倒でしょう」それを聞くと青い髪の少女が

 

「じゃ、じゃあ私からしますね」とだいぶ緊張した面持ちで話し出します。

 

「私は白露型 6番艦 五月雨って言います!えっとえっと・・・あの、私ちょっとおっちょこちょいで迷惑かけてしまうかもしれませんが・・・よ、よろしくお願いします!」と大分慌てたように言います。確かに、ちょっと身振り手振りが少し大仰に見え、周りが見えてないような雰囲気があります。

 

「じゃあ、次は私がしますね」最初の自己紹介を遮られたせいか少し威嚇を含んだ声で、黒髪の少女が言葉を切り出します。

 

「吹雪型 1番艦 吹雪です。よろしくお願いしますね。不知火ちゃん。五月雨ちゃん。」と周りに嫌みのない笑顔を向けながら、黒髪の彼女は言います。

 

「よろしくね!吹雪ちゃん」とつないだ手をブンブンと振り回す五月雨さん。

 

 そのほほえましい姿に少しほほえましさを感じていたら。

 

「あら・・・あんたも吹雪型なの」ともう一人の水色の髪の子が言葉を放ちました。

 

「え、もしかしてあなたも吹雪型なんですか!」と吹雪さんが当の子に詰めかけます。

 

「そう、吹雪型 5番艦 叢雲よ」とそっけなく返します。

 

「わー。まさかこんな早く同じ艦に会えるなんて!」とさっきの五月雨と同じようにブンブン手を振り回しています。

 

「落ち着きがないのねえ…大丈夫?」と少し辟易した素振りを見せ、私に顔を向ける。

 

「なんですか。叢雲さん」と少しジト目で対応すると。

 

「あんたが教導官ね。ま、せいぜいがんばんなさい」と返してきました。

 

「ええ、頑張らせていただきます。そちらの方、自己紹介をどうぞ」と挑発を受け流して茶色の少女に促します。

 

 指名され、少しビクッと反応し、しばらくし「い、電です・・・」と小さい声でつぶやくのが聞こえました。

 

「ねえ何型?吹雪型?」と同じ型の少女がすぐ近くにいた吹雪さんは上機嫌で聞いて

いきます。

 

「い、いえ・・・ちがうのです。暁型 4番艦 電です。どうかお願いしますね」といい、彼女はおずおずと目立たない位置に戻っていきました。

 

「・・・では、最後にどうぞ」桃色の少女に最後の自己紹介を託します。彼女は

「え?私」と手に持ったスマホから私に顔を向けます。

 

「ええ、はい」と私が言うと何やらスマホに打ち出し画面をみんなに見せます。

 

【漣←これ、何と読む?】

 

「レン・・・でしょうか」「わー見たことないです」「・・・そっそれがどうしたのよ。早く自己紹介したらどう?」「な、なんて読むんですか・・・?」各々わからず頭をひねらせます。

 

「教導官さんは、わかるでしょ」と画面を私に向けてきます。

 

 少し前の私にはわからなかったことかもしれません。しかし、今の私にはわかります。なんせ、私たちの適合艦の源流、第二次世界大戦中日本が従えていた軍艦を勉強してきましたから。

 

「さざなみ、ですね綾波型 9番艦」とすこし得意げに答えます。

 

「ちぇー。みんな答えられなかったらメシウマだったのに。メシマズー」と少し不満げな顔を少し見せ。

 

「綾波型 9番艦 漣です。こー書いてさざなみって読みます。よろしくね」と不満そうな顔を見せたとは思えないほどの笑顔を見せたのだった。

 

 

-----

 

 

 その後も他愛もない話をしていたら、目的地に着きます。その名も地上練習場。言葉そのままに地上での艤装使用の練習をする場です。艤装を装着するにあたっての注意点等を一通り教え「それでは、実際に装着し、歩いてもらいましょう」

 

 結果は昔の私と同じような事に・・・やはり、そんじょそこらの人ではこれに簡単になれることはできないのでしょう。周りには阿鼻叫喚と悲鳴が轟きます。

ある程度、情報が集まったのか工員さんがこちら来て、彼女たちの艤装を調整します。

 

「何をしているんですか」吹雪さんが私に聞いてきます。

 

「いま、出力を調整しています。さっき体験してもらったのはのは最終段階の出力です。その結果を踏まえて、今体に負担がかからない出力に各々変えてもらってるんです」研究者組がうんうん頭をひねった結果、これが一番安価で簡単、大勢に施せる上達方法だと至ったようです。

 

 そこから少し世間話をしてると。

 

「最終的には水の上に立つんでしょ」唐突に叢雲さんが聞いてきます。

 

「はい、そうなりますね」「あんた、立てるの?」私の回答に間を置かずに聞いてきます。

 

 その言葉に5人の視線が私に向きます。期待しているような、不安の色があるような。

私は立ち上がり工員さんのところへ行き「すみません。不知火の艤装の修理は終わってますか」その後何度か工員さんと言葉を交え、私の艤装をもってきてもらいました。

 

「確かに、一度見せておいた方が今後の展望というものがわかりますか」と5人を引き連れ、向かいの練習用出撃ゲートへと向かいました。

 

 

-----

 

 

 鎮守府にある港は、他の港と何も変わるものはありません。港の海抜も変わらない。これは日本中に艦娘専用の鎮守府を作る事は出来ず、代替案として、海上自衛隊基地を間借りするという方法をとったためです。艦娘専用の鎮守府は今の所ここだけにしかありません。

 

 出撃ゲートは、凹というような形をしていて、このへこんでいるところから出撃します。穴の広さは横5mほど、縦に50mほど。そして、水面からの高さ10mほど。出撃時には、最低でもこの高さを飛び下り、水上に出ることが必要とされます。この高さにも理由があるとのことですが、今はそんなことは気にしなくてもいいと、提督は教えてくれませんでした。目の前の任務をこなせと言うことかもしれません。

 

 ふぅっと深呼吸。ちらりと5人を見ます。今から起こることへの好奇心、今後自分たちがしなければいけないことという不安といったところでしょうか。

 

 精神を統一させて「・・・不知火、出撃します。」臆することなく勢いをつけて飛び下ります。飛び下りる時には勢いが大事です。できるだけ蹴った壁より離れるつもりで。

 

着水してからが本番で、慣性の法則で前に行こうとする体を安定させるために、最初は水面を走り、安定してきたらスケーティング、最後に滑走モードを起動し、体のバランスを保ち、仁王立ちする感じで安定させます。

 

今こそこんな不格好ですが、慣れてくれば滑走モードの間の姿勢はある程度自由にできるようになるでしょう。この工程を50m以内でこなさなければいけません。

 

 一旦水上で止まり、5人を見上げます。五月雨さんと漣さんは目を輝かせて、吹雪さんはヒーローを見るような、叢雲さんは少しバツの悪そうな顔で、電さんは驚いて頭がついてきてないような顔をしていました。

 

「艤装担いで、最終的にはこのような感じになると思ってください」私は少し、恰好をつけて言いました。

 

 艤装をつけていると10mの壁も難なく登ることができます。そのことに対しても5人は驚いてくれました。

 

「ほんとに水面を滑れるのね・・・」叢雲さんは信じられないという顔で言います。

 

「楽しそうでしたねぇ」五月雨さんが目をキラキラさせて言います。

 

「これをつけて、悪の組織と戦うんでしょ?燃えてキター!」漣さんの言葉に私はたまらず

 

「ヒーローごっこのおもちゃではありませんから」強く私は言います。

 

「な、なによ」漣さんが一歩足を引いて言います。

 

 私はそれに合わせて一歩前に出ます。あたりに不穏な空気が流れ込みます。

 

「ま、まぁまぁ」吹雪さんが慌てたように漣さんと私の間に割って入ります。

 

「漣ちゃんは、別にふざけて言ったわけじゃないんです。ほら、あの、はやる気持ちをね、表現しただけで・・・あの・・・」吹雪さんが漣さんの心代弁しようとします。それでも私の怒気は引っ込もうとしません。また一歩でようとしたとき

 

「あ、あの・・・」と電さんが私に向かってこういいます。

 

「お怪我は、ないですか・・・」と私に可愛らしい絆創膏をおずおずと渡してきます。

 

 それのおかげで、私は頭を冷やすことができ、詰め寄ることをやめました。

 

「大丈夫です。そんなへまはやらかしません」と絆創膏を受け取ります。

 

「だ、大丈夫なら、よかったのです」と一旦顔を伏せて

 

「か、かっこよかったのです」と私に顔を向けて言ってきました。

 

 一般の人は、そんなものなのかもしれないと、この言葉を聞いて感じました。私は、一度も艦娘がどういう目で見られるのかを考えたことはありません。漣さんの言葉も一般的なものなのかもしれない。

 

「漣さん、申し訳ありません」詰め寄ったことを謝ります。

 

漣さんも吹雪さん影から顔を出して

 

「私も、言葉が軽かったかも」と謝罪なのかわかりませんが言葉をくれました。

 

「さぁ、調整も終わっているでしょうから、訓練場に戻りましょう」私の言葉に、皆さんついてきてくれました。



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進水式のような気持ち

 こんにちわ。吹雪です!

 

 鎮守府に来て1か月が過ぎ4月。学校と艦娘の両立の生活が始まりました。朝は学校、学校が終わってからは艦娘としての訓練。忙しいですが、皆と力を合わせて頑張っています。さて、1か月も経つと全員の適合艦か判明し、私たちより遅れて地上訓練に合流しましす。合流している間は私たちも皆の訓練を手伝っていましたが、この間、私たち5人・・・私である吹雪、五月雨ちゃん、電ちゃん、叢雲ちゃん、漣ちゃん。それに数人が水上訓練に移行することが決定しました。

 

 水上訓練からは、他の艦種の人達も一緒にやっていきます。訓練用出撃ゲートは多く配置されていないためだといいます。訓練用出撃ゲートとはいってもその作りは簡素なもので、普通の出撃ゲートをブイや網等で囲い、海に出過ぎないようにしているくらいのものでした。

 

「あーもう!」着水に失敗してずぶ濡れになった叢雲ちゃんが、イライラした顔を張り付けて登ってきます。

 

「おうおうヘッタクソだなぁ」と叢雲ちゃんを煽る声が向かい側から聞こえます。それに反応し、キッと叢雲ちゃんが睨みます。

 

「私ならこんなもの直ぐにできるわよ。だっけ」睨まれても煽ることをやめません。

 

「あんたも同じようこと言ったじゃない。天龍・・・センパイ」叢雲ちゃんは特徴的な艤装の耳をピンと天龍先輩の方へ向けます。

 

「お前より先に・・・だ。まだまだこれじゃあ、余裕を持って練習に取り組めそうだな」叢雲ちゃんの煽りに我関せず、こちらも特徴的な耳のような艤装をピョコピョコ動かし、叢雲ちゃんを挑発します。

 

「まだ着水もできないくせに」「お互い様だろ。まぁ、俺より先にできるように頑張れよ」グヌヌとなる裏雲ちゃんに勝ち誇る天龍先輩。そんな劣勢の叢雲ちゃんに援護射撃が。

 

「あら~。でも天龍ちゃん、私よりも早く終わらせるとも言ってなかったかしら」と着水訓練を一足早く終わらせ、次の段階に行く前の小休憩をしている龍田先輩が天龍先輩に向かって言います。ギョッとする天龍先輩。仲の良い人から後ろから撃たれると思っていなかったのでしょう。

 

「そうよ!私を気にしている場合じゃないじゃないかしら。遅れてるわよ、天龍センパイ?」水を得た魚のように叢雲ちゃんは天龍先輩に畳み掛けます。

 

「あーいや、それはな・・・」シドロモドロになる天龍先輩。目も頻りに泳いでいます。そんな天龍先輩を見れて満足そうな龍田先輩。自分の事を棚に上げて勝ち誇る叢雲ちゃん。

 

 ゲートに目を戻すと、今五月雨ちゃんが出撃準備をしていました。足元を確認、艤装がしっかり装着できているか、一つ一つ指さし確認をしながら確認していきます。

 

両手を前にグッと出して気合十分。蹴りだす、が足元を滑らせ無念の着水失敗。頭から落ちていきました。水深は深いのでそこに顔をぶつける事はないと思うけど・・・。五月雨ちゃんは比較的上手なのですが、時々このように不慮の事故を自分の手で起こし失敗します。

 

「うわあぁぁん冷たーい!」と水面から顔をだし言う五月雨ちゃん。まだ4月、冬は終わりましたがまだまだ水は冷たいです。

 

「大丈夫?」と私は覗き込みながら言います。

 

「はいぃ、大丈夫です」と梯子を登ろうとする五月雨ちゃん。しかし途中で止まってしまいます。連日の練習と慣れない生活で、疲労が溜まっているのでしょう。

 

「手、貸そうかー」と私は手を伸ばします。「はい、お願いしますー」と五月雨ちゃんも手を伸ばします。しかし、私も同じように疲労が溜まってきているようです。引っ張る手に力が入りません。

 

「手伝います」と朝潮ちゃんが私の横から手を差し伸べ、二人の力で無事引っ張り上げることができました。

 

「ありがとうございます!吹雪ちゃん、朝潮ちゃん」にっこり笑顔を作って五月雨ちゃんが言います。

 

「いえ、困った時はお互い様です」そう固く答える朝潮ちゃん。一緒に訓練している時には、年下だとは思えない程、受け応えがしっかりしています。強い口調のため、最初は五月雨ちゃんや電ちゃんが一歩引いていましたが、今はそんなこともなく普通に接することができています。

 

「保健室に念のため行っておきましょう」朝潮ちゃんは五月雨ちゃんの懐に潜り込むと肩を貸す形で立たせます。

 

 「私も手伝うよ」と朝潮ちゃんに言いますが、その言葉を聞く耳を持たず、そのまま歩き出します。しかし、五月雨ちゃんは足に力が入っておらず、だれも支えていない方向に倒れ込みそうになり、朝潮ちゃんも一緒に倒れこみそうになりましたが

 

「不知火も手伝います」と不知火さんが二人を支えて事なきを得ました。

 

 自分の不手際を助けられたせいか、朝潮ちゃんがどことなくぎこちなく「おねがいします」と小さい声で言いました。ある程度は艦娘となっているので大丈夫ですが、やはり無理はし過ぎない方がいいようです。

 

 ふぅっとため息をつき、訓練しようにも疲労が溜まっているのを自覚した私は、何をするでもなく辺りを見回していると、訓練をそっちのけで違うことをしている二人がいます

 

「ここの振り付けはこう!」「こうですか」「違うよー」と那珂ちゃん先輩が漣ちゃんに振り付けを教えていました。

 

 そういえば、漣ちゃんが「那珂ちゃんは地下アイドルではそこそこ人気のあった人」「今年に入って話を聞かなくなったって思ったけど艦娘になってたとわ・・・」って言っていたような気がします。

 

それに対し那珂ちゃん先輩は「1月から那珂ちゃんは艦娘アイドル!何回かテレビCMで見なかった?」と言っていた気がします。

 

確かに、艦娘のCMでいたような気がします。でも、世間的には【大人気モデル2人、艦娘に転身】と長門さんと陸奥さんが大きく報道されて、CMもこの2人がメインだったような気がします。

 

 二人とも楽しそう、私もつい体が一緒に動いてしまいます。

 

「むっ」と那珂ちゃん先輩が私をロックオン。目で一緒に踊りたいの?ってメッセージを送信してきます。那珂ちゃん先輩の異変に気付いたのか一緒に漣ちゃんまで。

 

「わ、私はいいです・・・疲れてますから」丁重にお断りを入れたら

 

「大丈夫!疲れなんて那珂ちゃんと一緒に踊っていたら飛んでっちゃうよ!」とポーズを取りながら言ってきます。

 

「そう!漲ってキター!」と漣ちゃんも独自のポーズを取りながら言ってきます。

 

「あ、そのポーズいい!那珂ちゃんもらい!」と漣ちゃんと同じポーズをビシっ。

とその後色々なポーズを取りながら二人が私に迫ってきます。怖い!怖いです!ホラー映画よりよっぽど!

 

「二人とも、無理強いはいけませんよ」と私の後ろから声が響きます。

 

 その声にビクッと震える二人。

 

「それに、今は大事な訓練中です。ふざけていてもしもの時、本領を発揮できなかったらどうするおつもりですか」凛とした声が響きます。

 

 二人は言い返せないとスゴスゴ退散していきました。

 

「赤城さん、ありがとうございます」と私は振り向きながら言います。

 

「いえ、二人には困ったもですね」ひと段落したのか、カロリーメイトを頬張っている赤城さん。

 

「でも、いつもは真面目にやっていますよ」「はい、知っています」私のフォローにすぐ返し、続けます。

 

「しかし、自分の興味ないことに対する集中力の欠如は、無視できません」赤城さんはもう一箱開けて頬張ります。

 

「あ、あの。それ、おいしいですか」このままでは長い説教が始まりそうなので話題を逸らし。

 

「いえ、こういったものは食べたことないので、味見比べをしてみようかなって」よく見ると箱に書いている味が全部違うものだと気づきました。

 

「どれが好みの味ですか」「そうですね。全部、おいしいと思います」微妙に会話が成り立ってないような気がする。しばしの沈黙。

 

「吹雪ちゃーん」と地上訓練場からこっちに走ってくる人影。

 

「白雪ちゃん」とここだと手を振ります。

 

「どうしたの白雪ちゃん」「私も地上訓練終わって、明日からこっちに移るの」と逸る気持ちを抑えきれないというように私に伝えてきます。

 

「そうなんだー」と一緒に喜びます。一人でも一緒にやれる人がいるとやる気がアップします。

 

 赤城さんが誰なのでしょうか?という感じに佇んでいたので、私を介して自己紹介。

 

「訓練中、くれぐれも慢心のないようにしましょうね」その言葉に白雪ちゃんは「はい、ご一緒に頑張りましょう」と力強く返しました。

 

 二人がいい雰囲気を邪魔しない為に、冷えてきた体を温める為に、一人歩き出します。出撃ゲート周りは人が多く、歩くだけでも色々見えて楽しいです。いまだに口論をしている叢雲ちゃん、天龍先輩と龍田先輩。場所を変えて懲りずに振り付けを教えている那珂ちゃん先輩と漣ちゃん。他にもいろいな人が、それぞれのテンポで訓練を続けています。

 

 そうやって歩いていると、前の方でうずくまる2人。電ちゃんと阿武隈先輩のようです。

 

「ご、ごめんね・・・電ちゃん」と涙目の阿武隈先輩。

 

「はわわ・・・」額を掌で抑える電ちゃん。

 

 それを見てため息をついている大井先輩と笑い転げている北上先輩。大井先輩に何があったのか聞くと、どうやら先輩方が座って話していた時、着水のコツを教えてもらおうと電ちゃんが話しかけ、阿武隈先輩が振り向きながら立ち上がって頭をぶつけたようでした。

 

 このカオスな状況を収める仕事はいつも大井先輩です。

 

「二人とも、ぶつけたところ見せてくださいな」優しい声音で二人の接触場所を見ます。それにおとなしく従う電ちゃんと阿武隈先輩。

 

「これくらいなら、大丈夫そうね」と二人の傷跡を撫でる大井先輩。二人とも気持ちよさそうです。

そのころには北上先輩もある程度おさまったようで、顔をヒクつかせながら「だ、大丈夫二人とも」と心にあるのかないのか分からない言葉を投げかけます。

 

「もー、笑うなんてヒドイわ北上さん」「なのです!」二人は北上先輩に怒っているよう。

 

「えーそんなこと言ったってさ、普通あんな感じに頭ぶつけたりしないって」怒っている二人に気にすることなく飄々と言い放ちます。

 

 ムムム・・・と二人は北上先輩を睨みます。

 

「わ、悪かったって」北上先輩はドウドウと二人を諌めます。

 

 とりあえずは満足したのか、電ちゃんと阿武隈先輩は向き合い、謝り合っています。

 

 とこんな風にいつも訓練を続けています。今日は平日ということもあって、みんな好き勝手していますが、休日はそうはいきません。朝から夜までみっちり練習です。不知火ちゃんには「戦えるだけの技術が付けば一先ず落ち着いていきますから、それまでの我慢です」と言われ・・・そこまで行くのに後どれだけ必要なんだろうと不安になります。

 

 

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 水上訓練をはじめ3週間程経ちました。今では地上訓練をほとんどの人が終え、私達4月初めに水上訓練に入った人は最後の段階に移行していました。今、私は出撃ゲートの前に立っています。今日は試験日、水上訓練修了試験、週あに1度だけの志願制です。やることは単純、50m・・・岸壁が途絶えるまでに滑走すること。すごく難しいです。着水時に勢いをつけすぎてバランス崩す、勢いを殺し過ぎて止まってしまえばそこで失格。その後のバランスを取るための走り→スケーティング→滑走にという順に切り替え。この間にもいくつかルールがあり、それもクリアしなければなりません。

 

 私は胸に手を当て今までしてきた訓練を思い出します。大丈夫、これだけしてきたから。お審査員である加賀さんが私をじっと見ます。早くしろというような目で。

 

「吹雪、出撃します」私は蹴りだいました。

 

 勢いよく蹴りだすと10mの高さから落下が待っています。ここで臆すると、必要以上に勢いを殺して失格をもらうことになります。放物線は垂直に落ちないようになるのが理想です。着水。上手く体が前のめりにならないようにそして勢いを殺さないように水の上を駆け出します。その後スケーティングと一緒に滑走のためのスクリュー起動の準備を。この時滑ること、準備どちらにも神経を使います。そうしなければ横にそびえたつ岸壁にぶつかったり、準備に手間取って規定以内で滑走することができず、失格となるからです。

 

 スクリューも起動するのに時間を要します。その間にスケーティングで進路を決定、姿勢を正し、綺麗な形で海に出られるようにします。スクリュー起動を確認し滑走に切り替え、この切り替えタイミングを失敗すると、スクリューによって足があらぬ方向を向き、岸壁に激突、またはこけてしまう恐れがあります。足を出口へ向けて固定、体は胸を張って。まだ、両端には岸壁が見えるので規定内で済ませることができたようです。

 

 そののまま滑走していくと、今まで岸壁によって視界が狭く暗かった世界が、一面を青く光らせ何も遮ることはない世界に変わりました。大海原です。今まで感じたことのない潮風が体を包み込みます。清々しい気持ちで忘れていて、外に掛けてある網に引っ掛かってしまいました。それも気になりません。それだけの達成感を感じています。

 

「大丈夫かしら」加賀さんが来てくれて引っ掛かった艤装などをはずてくれます。それに対して私は「大丈夫です!」と元気よく答えました。今の私はとにかく上機嫌です。

 

 ゲート前に戻ってきて、加賀さんは一言「合格よ、この先もがんばりなさいね」と言って審査員席に戻りました。あまりに簡素な合格発表に肩透かしを感じましたが。合格は合格です。らんらんとみんなが待っている部屋に戻ってきました。

 

 その後、皆に合格を伝えた私は、もみくちゃにされて祝われました。不知火ちゃんを抜けば私が駆逐艦第一号。最初の駆逐艦艦娘となりました!その後、電ちゃん、五月雨ちゃん、叢雲ちゃん、漣ちゃんも合格をもらい私達5人は今日付けで無事艦娘として活動できるようになりました。ちなみに、天龍先輩と叢雲ちゃんがどっちが先かでもめていました。が、龍田さんは先週合格を貰っていたので、やはり天龍先輩は龍田先輩のおかげで劣勢の舌戦となっていました。




書いてて纏まらない。そして気づいた、纏まったことがないや。
ここからもっと纏まらなくなる気がする。でも書く


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司令官てあだ名

 不知火ちゃんをジーとみるのです。今日の睦月は不知火ちゃんに聞きたいことがあって会いに来ました。でも何か忙しそうに手を動かしているので邪魔しないように終わるのを今か今かと待っているのです。

 

 「何か、ご用ですか」しばらく見ていると不知火ちゃんは何かに観念したかのように手を止め、私を見ました。質問チャンス!

 

「不知火ちゃんだけ司令官って呼ぶのはなんでにゃし?」そうです。そうですとも。他の教導官の人達はあの人を提督って呼ぶのに、不知火ちゃんだけ司令官と呼ぶのです。私たち駆逐艦は皆バラバラ好き勝手呼んでいますが、軽巡以上の人達は皆提督と呼ぶのです。謎です。睦月脳内会議をもってしてもわからないのです。

 

「ああ、そのことですか」となんでもない事のように不知火ちゃんは言います。

 

「不知火も詳しくないのでざっくばらんに言いますが、昔軽巡以上の艦に命令を下す方を提督。駆逐艦以下に命令を出す方を司令官と呼んでいたそうだからですよ」と不知火ちゃんはいいます。

 

「提督と司令官は違う人なんですか」命令を出す人が違う人だから、提督と司令官は違う人で、でもあの人は提督で司令官で・・・あれ?睦月わからなくなっています。

 

 睦月が目を丸くして睦月なりに考えていると不知火ちゃんがこういってきます。

 

「まぁそんなに深く考えず、そういうあだ名だと考えればいいですよ。そして、駆逐艦からのあだ名は司令官だったと思っていただければ」

 

「そーなんですかー。ということは、睦月も司令官と呼んだ方がいいんですね」睦月なっとく!

 

「それが望ましいですね」と不知火ちゃんがいい子いい子してくれたのです。睦月かんげきぃ!

 

「そういえば、不知火ちゃんは何をしていたのですか?」私は不知火ちゃんの手元のノートを覗き込みます。

 

「宿題と復習、予習です。明日は学校、睦月さんは終わらせましたか」不知火ちゃんが言ってきます。

 

 睦月はピンッと背筋を伸ばしてこういうのです。「新しい任務が見つかったので、今日はたいさんするにゃし」ピューと不知火ちゃんの部屋をでて、部屋に戻って如月ちゃんに宿題を教えてもらいました。明日から皆にあの人のあだ名を教えないといけません!

 

 

-----

 

 

 げつようびー・・・5時にラッパに起こされてうーん・・・ねむいーむつきはもういちどおふとんにはいりー・・・

 

「皆!ちゃんと起きた!」朝起き係の皐月ちゃんが来てしまいました。おひるねはまた今度のようですー・・・。

 

 あーさーはおきたらー体操の後に軽いうんどー。ちょっとずつ眠さから解放されてきました。運動の後は皆で朝ごはん。ご飯は原則同じ型の子と一所に食べます。食べ終わった後には始業時間まで自由時間になるので急いで食べる人もいます。睦月は、ちゃんと準備してきてるからゆっくり食べるのです。今日のご飯もおいしいのですー・・・。っは!今のうちに皆に教えてあげないと。

 

「ねぇみんな?」と睦月型のみんなに話しかけます。

 

「どうしたんだい、睦月?」皐月ちゃんがご飯を食べながら応答します。それに合わせて、皆私に注目してくれました。

 

「あの人の呼び方の違い、わかったよ」というと望月ちゃん以外が興味深そうに顔を向け、望月ちゃんだけは、ご飯に戻りました。

 

「提督は軽巡以上の人が使うあだ名で、司令官は私たちが使うあだ名みたいですよー」

 

「司令官ですか、失礼のないようにしなければいけませんね」三日月ちゃんはいつも真面目で睦月の話をすごく聞いてくれます。

 

「へー、そうなんだ。じゃあ僕達は司令官って呼べばいいんだ」皐月ちゃんがご飯を食べ終わり、箸を置きながら言います。

 

「ほう、あの人は司令官か・・・」遠い目をしながら菊月ちゃんが言います。

 

「司令官だな!頭に叩き込んだぞ」長月ちゃんが自信に満ち溢れたように言います。

 

「司令官、いい響きねぇ。し・れ・い・か・ん」如月ちゃんも食べ終わったのか箸を置いて私の寝癖を弄りながら言います。

 

「しれーかん。ふぁああ・・・」とまだ起きれてない文月ちゃんも言葉にします。

「でも、司令官ってどう意味なんだい?睦月」皐月ちゃんが聞いてきてドキッとします。

 

「えーと、睦月もよくわからないにゃしぃ」シュンとしながら答えます。

 

「司令官だろう。なら、サッカーの司令塔みたいな意味なんじゃないか」長月ちゃんが箸を止めて答えます。

 

「ということは、司令官と呼ばれるだけあって、頭の切れる人なんだな」菊月ちゃんは目を細めながら答えます。

 

「そして、顔もいいだなんて、いやぁーん如月惚れちゃそ」と手を頬に当てて如月ちゃんが言います。

 

「顔は睦月見たことないけれど、いつも制服の上から白衣を着ているのは知ってます!」あれは変だと思うのです。

 

「しれーかんって、私たちにとってどんな人なんだろーねぇ」文月ちゃんが言います。

 

「司令官というくらいだ。私たちにとってすごく重要な人だと思うぞ」長月ちゃんが自信ありげにいます。

 

「父親、みたいなものかもしれない」菊月ちゃんにとってお父さんはどんな人なんだろう。

 

「どんな人か・・・僕たちを助けてくれる人かもしれない」皐月ちゃんもまた自信ありげ。

 

「如月のお父さん」その言葉に皆が振り向き「・・・なぁーんちゃって」と愛嬌をふりまきながら如月ちゃんが答えます。

 

「ごちそうさま」望月ちゃんが食べ終わり、席を立ちます。

 

「あれ、望月ちゃん」「司令官でしょ。わかってるって」といいながら食器を片付けに行きました。

 

「望月はいつも通りだね」皐月ちゃんそういいながら立ち、皆立ち上がります。睦月と文月ちゃんだけが席に残ってしまいました。

 

「えーもっとお話ししよーよー」と文月ちゃんが皆にいいます。

 

「私は二度寝したいの」と望月ちゃんはさっさと帰ってしまいました。

 

「私もお化粧とかしないといけないから・・・ごめんね。睦月ちゃんも寝癖治したいから早く食べてね」と如月ちゃんも断りを入れて部屋に帰っていきます。

 

「へっへーん。文月」と皐月ちゃんが文月ちゃんの後ろに立ちます。

 

「皐月は一緒に喋るよねー」と文月ちゃんがニッコリ笑顔を見せます。

 

「残念だけど、僕は菊月長月と他のみんなでサッカーしに行くんだ。文月もいくだろ」と指を指します。

 

「ええ。文月も行くー」と小さい口をがんばって開けてパクパク食べていきます。

 

「その様子じゃ、時間かかりそうだし、僕たちは先に行っておくよ」と伝え、皐月ちゃん達は食堂を後にしました。

 

 文月ちゃんはこの中で一番食べるのが遅くて、時間いっぱいまで食べているところをよく見ます。睦月もよく時間気にせず食べてギリギリになることは一杯ありますけど・・・でも、今日は如月ちゃんに寝癖を直してもらうために早く食べないといけません。




睦月型のちょっとした小話っぽいもの

まだ艦娘となった子は少ないので、発足初期なので提督は書類のために東奔西走中。鎮守府にはまだいません。あと少しで書類仕事にもひと段落が来るでしょう。

睦月型と朝潮型は小学校6年生くらいを考えています。あと暁型も他は何だかんだ中学生以上だと思う(小学生ばっかは考えにくいし)

艦娘としての知識はあると思いますが、全部が全部あるとは考えにくいと思ってこんな感じの話を考えてみたり。


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汝ハ何者ナルヤ

 木曾さんの雷巡への改装が今日行われます。今、私大井はその改装が終わるのを待つためにある海域へ来ています。理由は木曾さんに雷巡の動きを教えてくれと言われたから。北上さんが遠征に出ているため、暇つぶしにそれを承諾しました。

 

 この海域は敵が比較的少なく、人も少ない。遮蔽物も少ないので、ダミーを使っての訓練にはちょうどいいかしらと、ここを選定しました。

 

 木曾さんが来るまで手持無沙汰なので、意味もなく水上を歩きます。滑走は燃料を使うので使いません。何もない海を、代わり映えのしない風景を楽しみます。

 

 少し飽きたかなーと思っていると、どこかしらか水を掻く音。敵かしらと慎重にその現場に急行します。水音が近づくにつれ、小く声も聞こえてきした。

 

「…あ、あれ?おかしいな、体が浮いちゃうよ!?」流暢な日本語に少し安心。どうやら敵ではなさそう。

 

 少し気持ちを緩ませて、声の主と対面します。彼女は白いスク水を着ていて、突然の来訪者である私に目を丸くしています。

 

「えっえっ・・・艦娘さんですか」彼女はおずおずと私に聞いてきます。

 

「はい、重雷装巡洋艦、大井です。よろしくお願いしますね」私は怖がられないように笑顔を湛えながら言います。

 

「初めまして・・・」彼女は少し緊張が解れたのか、安堵の表情を見せます。

 

「あなたのお名前は」

 

「初めまして…まるゆ、三式潜航輸送艇のまるゆといいます」恥ずかしそうに答えます。

 

「まるゆちゃんね、わかったわ」私たちが自己紹介を終えたころ、私のポケット震えます。スマホに着信が来たようです。相手は木曾さんでした。まるゆちゃんに断りを入れて電話に出ます。

 

 ちなみに艦娘の専用通信アプリ「艦娘最前線」というものがあります。センスなさを感じてしまいますね。他の通信方法で情報漏えいをさせないために、平時はこのアプリを使用しての連絡を義務付けられています。

 

「はい、大井です」

 

「木曾だ。わかっていると思うが念のためにな」木曾さんは少し嬉しそうな声でした。強くなるのが嬉しいのでしょうね。

 

「それで木曾さん。どうかしたんですか」そういうと木曾さんは不満そうに言葉を返します。

 

「おいおい、いつも言ってるじゃねぇか大井姉さん。姉妹なんだ、呼び捨てでいいってさ」やれやれと木曾さんが頭を振っているのが目に見えるようです。

 

「・・・はいはい、分かったわ。木曾」「いや、口調まで変えなくても・・・まあいい」木曾さんが本題を言います。

 

「少し改装に手間取っていてな、訓練時間が大幅に遅れるかもしれない」申し訳なさそうに木曾はいう。

 

「しかたないわ。作戦は予定通りに進まないことなんかしょっちゅうでしょ」私はそれほど気にしてないと意思表示をします。

 

「そして、これが本題なんだが」木曾が言う。

 

「改装中に読もうとしていた本が延長によって品切れた。改装中はここを離れることもできねぇ。終わるまで話し相手になってくれないか」退屈であることを声に滲ませて言ってきます。

 

「別にいいわよでも、話し相手はもう一人増えるけれどいいかしら」

 

「別にいいぜ。構わない」

 

 一度木曾との電話を切り、まるゆちゃんのIDを聞いて3人のグループを作ります。

 

「2人共、聞こえる」

 

「はいぃ、大丈夫です」まるゆちゃんの声が2重に聞こえます。

 

「おう、大丈夫だ。そいつか?もう一人ってのは」木曾がまるゆちゃんを画面越しに見ながら。

 

「お前、潜水艦か?」と聞いてきました。水着で分かったけれど確信が持てないという感じでしょう。

 

「はい、三式潜航輸送艇のまるゆです」胸を張りながらまるゆちゃんは言います。

 

「お前、潜れるのか」茶化すように木曾が言ってきました。

 

「むー!潜れますよー」怒り顔でまるゆちゃんがいいます

 

「ホントかー?」と木曾さんが茶化し、まるゆちゃんが本当だという問答を何回か繰り返し、とうとうまるゆちゃんが

 

「ほっ・・・ほっといてください!」とまるゆちゃんは機嫌を損ねてしました。

 

「木曾」少し怒気をはらませながら言葉を出します。

 

「はい、なんですか大井ねえさん」木曾は少しやりすぎたという念はあるのか、私の言葉に畏まります。

 

「せっかく話相手になってあげてるのに、機嫌損なわせてどうするつもりよ」

 

「・・・おっしゃる通りです」

 

「早く謝りなさい」

 

「あー・・・まるゆ。ごめんな、いや、お前の反応が面白かったからさ、つい・・・な」とシドロモドロになりながら木曾がまるゆちゃんに謝ります。まるゆちゃんも一応は機嫌を良くし、この場では事なきをえました。

 

 3人での会話は円滑に進められ、最初の一軒以外では特にトラブルはなく、円満な時間を過ごすことがえきました。

 

「ん・・・ああ。改装が終わったようだ。今からそっちに向かう」と木曾はグループから抜けました。

 

「・・・みたいだから、私も木曾を迎えにいきますね」まるゆちゃんにそういいます。

 

「はい!わかりました」と最初にあった時とは見違えるように今ははきはきと答えます。

 

「練習、お互い頑張りましょう」

 

「はい!」

 

 

-----

 

 

 木曾へのレクチャーも順調に進み、大体は教えることができました。その辺りは勤勉家の木曾のおかげです。木曾も手ごたえがあったのか、何度か「この力、アリだな!」と力強く言っていました。

 

「大体はわかった。後は実践の中で俺に合った方法を探していこうか」木曾は満足げに言います。

 

「そういば、まるゆはどうした」少し気になっていたのでしょうか、木曾が言います。

 

「あっちの方で、練習しているはずよ」私は指をさします。

 

「1人でか」

 

「そうだけれど」

 

「武装してたか?俺にはしてなかったように見えたんだが」

 

「・・・危ないかもしれないわね」私の記憶にも武装はしていないような気がします。

 

「帰るがてら、拾っていった方がよさそうだな」木曾がそう提案します。

 

「そうみたいね」私たちはまるゆちゃんがいると思われる地点に向かいました。

 

 

-----

 

 

 訓練を切り上げ、今はまるゆのところに向かっている。だが俺と大井姉さんは電探をつけてないからどこにいるのか分からない。当たりをつけてシラミつぶしだ。もしかして先に帰ってんじゃないか?そんな気もしながら探している。

 

「木曾、あれ」大井姉さんが指をさす。そこには確かに潜れていない白い物体、まるゆがいた。スクリューを止めて遠目に観察する。話を切り上げてかなり時間が経っているが、未だに安定していないようだ。

 

「ったく、まだやってたのか。夜も近いし鎮守府に帰れなくなり前に回収するか」

 

 俺が一歩踏み出した時、もう一つの異音がきこえた。大井姉さんも気づいたらしく足を止め耳を澄ませる。音の方向に顔を向ける。島も何もない、船影もない・・・ここから導き出される一番の可能性は。俺はそれに気づくと一目散にまるゆの方へ駆け出す。滑走した方が楽だが、今は一度止めたスクリューを回す時間が惜しい。何より、この程度の距離なら走っても十分間に合う!

 

「大井姉さん。まるゆを頼む」まあ、そんなこと言わなくても、わかっているだろうけどな。

 

 俺に気付いたのか、まるゆの方向に進んでいたと思われる深海棲艦は俺の方へ方向転身する。駆逐級2体。ちょうどいい、雷巡の試し撃ちといこうじゃねえか。

 

「俺に勝負を挑む馬鹿は何奴だぁ?」

 

 

-----

 

 

 なにが起きたのか分かりません・・・私は、潜る練習をしていただけなのに・・・

 

 何かが私の方に向かっていたのはわかりました。でも、それは私の前で転身し、向こう側へ行ってしまいます。その方向には木曾さんがいました。なんで木曾さんがここにいるんだろう。

 

「まるゆちゃん。大丈夫?ケガはない」と大井さんが私の方へ向ってきます。

 

「はい。まるゆは、大丈夫です・・・でも、何があったんですか?」

 

「マイペースな子ね・・・」大井さんは、はぁっとため息をつきました。

 

「今、あなたは危険な状況だったのよ」その言葉の後で大きな水柱が立ちました。

 

 木曾さんが大声で叫びます。「弱すぎる!それで逃げたつもりなのかい?」私が置かれていた状況を理解しました。

 

「えっと・・・大井さんと木曾さんのおかげで私、助かったんでしょうか・・・」そう伺います。

 

「まぁ、そんな処ね。でも恩なんて感じなくてもいいですよ。同じ艦娘なんですから。」大井さんはニコッと微笑みかけます。大井さん、いい人だな

 

「おう、まるゆ。怪我はなかったか」満足げな木曾さんが私に向かってきます。

 

「は、はい。大丈夫です!ありがとうございます。木曾さん、大井さん」

 

「いいってことよ」「いいえ、お互い様ですよ」木曾さんと大井さんが言います。

 

「さぁ、帰りましょう。暗くなって迷ったら危険だわ」大井さんが促してきます。

 

「ま、また襲われたりしないでしょうか・・・」少し不安なので聞いてみます。

 

「不安なのか?大丈夫だ、俺を信じろ。」木曾さんが自信満々に言います。少しだけ、安心しました。

 

 

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 帰還途中、私はある疑問を持ったのでまるゆちゃんに質問します。

 

「そういえばまるゆちゃん」「何ですか、大井さん」きょとんとした顔で私を見ます。

 

「なんであそこで練習してたのかしら。誰かに勧められたの」

 

「隊長があそこはいいぞって言っていました」隊長・・・提督の事かしら。

 

「なんて言ってたの」さらに聞きます。

 

「今日はあそこに艦娘が何人か来るから、何かあれば言えって言っていました」へぇ、今日は何か作戦があのあたりで合ったのかしら。

 

「えっとですね、確か・・・」まるゆちゃんが思い出します。

 

「茶色の髪と目でベージュの服を着て、魚雷をたくさんつけた優しい子がそのあたりの警邏をしているからって」ふーん。そんな子いたかしら。

 

「木曾、まるゆちゃんが言ってる人、誰かわかる」そういいながら振り向くと、木曾は笑いを堪えているよう。

 

「木曾?」「ん・・・な、なんだ・・・大井姉さん」私の顔を見ないように木曾が言いう。

 

「誰か心当たりあるの」木曾を問い詰めます。

 

「い、いや、知らねえな。おう、まるゆ、もう少し鎮守府に着くぞ。」とまるゆちゃんの運貨筒を引っ張ります。

 

「あ、ちょっとー」運貨筒をひっぱられた事によって、まるゆちゃんも一緒に引っ張られていきます。

 

「大井姉さん」私より幾分か前に出ると木曾は振り向き「帰ったら鏡を見た方がいいぜ」そういって、まるゆちゃんを引っ張りながら鎮守府へ先に帰っていきました。鏡を見ろって、私の髪形崩れているかしら・・・。

 

 鎮守府に戻って、木曾に手などを洗うついでに鏡を見る。何だ、別に何ともなってないじゃない。でも誰のことだったのかしら。茶色の目と髪をしていて、魚雷をたくさんつけた・・・。鏡に映っているのは、茶色い目と茶色い髪の女の子。そして、その子は重雷装巡洋艦として、魚雷を満載に搭載しています。

 

「・・・私のことじゃない」提督・・・後で沈めておかなければいけませんね。誰が優しい子よ・・・!




木曾・まるゆ・大井の話です。
作中ではそこそこ時間が経っています。まぁ木曾改二が登場するからわかりきっていますね。

タイトルのセリフは木曾が言ったいうエピソードがありますが、
その時に木曾は横須賀で整備中でそれはなかったと言われています。
実際は大井だったというのが、文献を整理した場合に出てくる答えのようです。

大井さんは面倒見がよさそう。
木曾さんは艦娘になる前では3女の末っ子(設定)なんである程度経験でわかっていそう。
まるゆちゃんはこの話では関係ないですが、艦娘になる前では素潜り最年少記録を持っています。(設定)


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【閑話休題】お嬢様方の前日譚

ボクはかわいい服がちょっとだけ苦手なんだ。だから、この学校の制服は好きじゃない。

 

「モガミン、モガミン?」目を開けると心配したような顔をしている三波がいる。どしたんだろう。

 

「どうしたんだい?そんな心配そうな顔をして」ボクは起き上がって三波に問いかける。

 

「いえ、モガミンがうなされていましたので・・・」三波がいう。

 

「大丈夫だって、寒かっただけさ。ほら、ボクはこの通り」と少しオーバーリアクションを見せる。1月に外で眠るのは少し辛かったかな。

 

「・・・だったら、よろしいのですけど・・・」まだ心配そうな顔をしているけれど、一旦は信じてくれた。

 

 風景を見る。よく見る学校の風景だ。ボクは、この学校が好きじゃない。お嬢様学校として、入学者には大和撫子、とでもいうんだろうか。女性らしさを強制・・・じゃない、教育する場所だ。ボクとは、正反対・・・とまではいかないけれど、ボクにはふさわしくない居場所。よく先生には怒られる。先ずはその言葉遣い、その説教が終わったら仕草だとか、色々言われる。はっきり言っているだけで気が滅入る。友達誘われたのもあるけれど、両親に強く言われてこの学校に決まったが、やっぱり失敗だったと思う。

 

「何か見えますの」三波がボクの見ている先を一緒に見る。

 

 彼女は岩隈 三波。ボクの家の隣の子だ。そして、岩隈財閥のご令嬢。ボクの家も少し前まではそういった財閥みたいなものだったんだけど、事業の失敗等が重なり、昔から交友があった岩隈財閥の援助がなくては立ち行かなくなってしまった。ボクにとって、彼女は命の恩人でもあった。それだけでなく、この学校で主席でもある。ボクとは真逆の人生を歩んでいる。少し、妬けちゃうな。

 

「ねぇ、三波」ボクは少し声を落として言う。「なんでボクをこんなに・・・えっと・・・心配?してくれるのさ」少し言葉を纏めずに切り出したために、よくわからない言葉になってしまった。でも、三波は答えてくれる。

 

「モガミン、昔の事をお忘れになってしまったの。私達、恋人じゃないですか」三波が肩を落として言ってくる。

 

「そ、それは幼稚園の頃のにやってたごっこ遊びでしょ!」恋人ごっこ。ボク達がよくそれを知らなかった時やってた遊び。そういえば、ボクはずっと彼氏役をしてたんだっけ。今の性格もそこから来ているのかな。

 

「酷いですわ・・・モガミン・・・ずっと、私はあなたの事思ってきてたのに・・・」三波が顔を伏せて肩を震わせる。

 

「え?あ、ちょっと三波!泣かないでよ」ボクがアタフタしていると向こうから声がする。

 

「お?彼女泣かせるなんてとんだ女泣かせだねぇ?モガミン」水色の髪で、この学校指定制服を着ていない女の人が。

 

「あらあら、鈴華さん。モガミンが今まで何人の乙女を泣かせてきたと思っていますの」その人と一緒に同じく制服を着ていない茶色の髪をポニーテールに結んだ女の人が来る。

 

「そうだったねぇ野道。よっこの女たらし!」威勢よく鈴華と呼ばれた女の人が言います。

 

「や、やめてくださいよ!先輩。三波も泣き止んでって」わたわたしながらボクはそれを制止する。2人とも取り敢えず満足したのか、そのままの足取りでボク達の横まで来て、腰掛ける。

 

 ボクの隣に腰掛けたのは水色髪の鈴華先輩。鈴華先輩の家・・・谷原家は、この学校において他の追随を許さないお金持ちで、学校への寄付金は全体の10%に行っているとも言われている。

 

でもそのお嬢様はこの学校への関心は全くといっていいほどなく。制服も気に入らないのか、自分でデザインした制服を着ている。そのセンスはファッションを知らないボクから見ても、すごくいいと思う。

 

 その隣には茶髪の野道先輩。こちらも学校の中でも上位のお金持ちの家の、熊谷家のご令嬢で、この学校に1つしかない運動部、空手部のただ一人の部員であり部長をしている。

 

というより、運動部なんかなかったこの学校の歴史において、唯一の運動部を設立した人だ。空手の腕前はかなりのもので、そっちの方面で学校に取材が来ることもある。そして、鈴華先輩の制服を着る2人の内1人。

 

 このように、この学校において不良真っ盛りである2人であるけれど、その寄付金によって半ばアンタッチャブルな存在となっている。ボクと違って。

 

「先輩。今は授業中ですよ」ボクは少しでも言い返そうと言った。

 

「モガミンもサボってるじゃん」自分で墓穴をほっちゃった。

 

 今、ボク達がいる場所はこの学校で人がほとんど来ない場所だ。いつもボク達はサボる時にはココに来る。今日は珍しく三波も一緒にいる。

 

「わたくした達の事を構うのもいいですけれど・・・上奈さん。三波さんをいつまで泣かせていますの」外のコンビニで買ったのか、アイスを舐めながら野道先輩は言ってくる。

 

「そうだった。三波~ごめんってばーだから泣き止んでー」いくら謝っても、三波は泣き止んでくれません。

 

「三波、私からも頼むから泣き止んでよ」鈴華先輩もあやしてきます。

 

「わかりましたわ・・・でも、条件があります・・・」三波が顔を伏せたまま

 

「モガミンが『愛しの三波』って言って下されば、泣き止みますわ」

 

「な、なんだよそれぇ!」ボクは顔を赤くして言います。

 

「でも上奈さん。それを言わないと泣き止んでくれませんわよ」野道先輩が少し笑いながら催促してくる。

 

ボクは覚悟を決めて「ご、ごめん。愛しの三波」

 

「いいえ!心が篭ってませんわ」三波が言ってくる。心が篭ってなんなのさ!

 

鈴華先輩がひとしきりその言葉に笑ってから言う「三波、もう許してやんなよ。ホントは泣いてないんでしょ」

 

「あら、気づかれてましたのね」ケロッとした顔で三波が顔を上げる。

 

「ちょ、三波泣いてなかったのかい」ボクは顔を赤くして言う。

 

「はい、上奈さんの愛の言葉を聞けて、三波は感激です」ここだけボクをあだ名で呼ばずに三波が言ってくる。

 

「じゃ、じゃあボクだって泣いちゃうぞ!『愛しの上奈』って言ってくれないと泣き止まないぞ!」そういってボクは顔を伏せて泣く真似をする。さっきのお返しだ!

 

 顔を伏せて少し経つと耳元に暖かい空気が掛ってくる。何だろうと思っていると

 

「申し訳ありませんわ。愛しの上奈さん」と艶のある声で三波が言ってくる。ボクはその言葉を聞いて顔を真っ赤にした。それのせいで顔を上げられなくなってしまった。恥ずかしくて肩が震える。

 

「あれ、上奈さん。本当に泣いてしまいましたの」少し戸惑ったような三波が聞こえるけれどそれを喜んでいられる程余裕がない。ボクは顔が平静に保つのに必死だった。

 

「ちょっと野道」と鈴華先輩の声が聞こえて1分位たって、両方の耳が湿った空気にさらされ

 

「愛しの上奈、どうしたましたの」と先輩二人の声が聞こえた。たまらずボクは顔を上げる。

 

「あれ、泣いてないじゃん」鈴華先輩が呑気な声で言います。

 

「ちょ、ちょっと三波、なんであんなこと簡単に言えるのさ」ボクは鈴華先輩の言葉を無視して三波に質問します。

 

「それは簡単な事ですわ。モガミン、私は貴方の事をお慕いしていますの」恥ずかしげもなく三波は言う。ボクはもうこれ以上ないくらいに顔を赤くする。今日だけでどれだけ顔を赤くしただろう。

 

「おーい上奈―おーい」と鈴華先輩先輩の声が聞こえたけれど、ボクは返せなかった。

 

 

-----

 

 

 学校が終わり、4人で帰る。結局今日の学校は4人で全部をサボってしまった。あの授業だけサボるつもりだったんだけどな。

 

「あ、そういえば上奈、あのゲームちょっと手間取っててさ。少し返すの遅くなるかも」

 

「あ、大丈夫だよ。ボクはもう終わらせてるから」

 

「お、さんきゅー」

 

「野道さん、今、これがここまでできたのですけれど、ココからどうすればいいか解りませんの」

 

「そこですか?そこはですね、こうやって、こうしてとおおおおっと一思いにやるんですの」

 

「あの、えっと・・・今度、見せていただいてもよろしいかしら」

 

「ええ、いいですわよ」相変わらずの天才型だ、野道先輩。ただのビーズのアクセサリー作り方の説明なのに何であんな雄叫び上げるんだろう。・・・ただの説明下手なだけかな。

 

 そんな他愛のない話をしながらボク達は帰っていく。いつもは車なんだけど、いつもの鈴華先輩の気まぐれで歩いて帰る。帰る途中、ボクはある場所で足を止めた。

 

そこはよくある電気屋だ。そこのショーウィンドにあるテレビのCMに目を奪われた。ただのCMなんだ。少し前に騒ぎになった有名モデル転身先の場所のCM。最初にそのモデルが写り、その2人の号令の元後ろの子達・・・艦娘だっけが水上を駆け巡る。そして、艦娘募集のテロップが出るだけの簡素なCM。それだけなのに、ボクはカッコいいと思った。今いる学校よりも、魅力的だと思った。

 

「んーどうしたの上奈・・・ってあ、艦娘のCMじゃん。それがどうしたの」鈴華先輩が何でもないように聞く。

 

「これって、ボクもいけるのかな」「まぁいけるんじゃない・・・てっ上奈行く気なの!?」いつもは脅かす側の鈴華先輩が珍しく驚いている。でも、そんなことはどうでもいいんだ。

 

「うん、今の学校より、断然」ボクは言い切る。いたってボクは落第生の落ちこぼれなんだ。ボクにふさわしくないし、ボクにとって力不足の場所だ。それなら、場所を変えるのもいいかもしれない。

 

「・・・まぁ、あっちにも学校があるっぽいし、それもいいんじゃない」鈴華先輩が言う。

 

「鈴華先輩。何で学校あるって知ってるの」

 

「え?ウチの家が少しだけ出資してるからさ。そんな話が少しだけ家の中であんの」

 

「もっと知ってることがあったら教えてくれいかな?」

 

「ま、まぁいいけどさ」そういって鈴華先輩が話してくれる。

 

「・・・とまぁ、思ってる以上にしっかりしてる所だと思うよ」とその言葉で鈴華先輩は締める。

 

「そうなのか・・・うん、うん」

 

「あーでも、上奈、私は悪いこと言わないからやめておいた方が良いと「鈴華さん」」鈴華先輩が何か言っていると野道先輩がそれを制止する。

 

「上奈さんがそれが良いと言っておられるのなら、部外者であるわたくし達は言葉を投げ掛けるべきではありません」そういい、野道先輩は三波を見て

 

「ここで意見を言って良いのは、三波さんだけですわ」といいました。

 

「三波は・・・その・・・上奈さんがいいと思うのなら、それでいいと思いますわ」その目に涙を湛えながら、三波は言う。

 

 鈴華先輩がそんな三波を見て一言「じゃ、じゃあ、私と三波は先に帰るから、野道は上奈と一緒に帰りなよ。私よりは、まともなアドバイスできるだろうしさ。」そういって鈴華先輩は三波の肩を抱いて先に帰っていきました。

 

「上奈さん。貴女は少し、周りが見えない時があります。これは咎めている訳ではありません」そういって一泊置く。

 

「貴女にとって大事な選択ですから、情に流されないことは重要だと思います」

 

「その上で、三波さんの言葉と泣き顔を考えてくださいな」

 

「・・・うん、わかったよ」ボクは三波に申し訳なく思った。でも、ココに行きたいのは変わらない。

 

「行くにしても、ちゃんとご両親を説き伏せてでお願いいたしますわね。今の貴女は何も言わずに飛び出してしまいそうです」

 

 野道先輩とボクは、先に帰った二人と合流しないように、牛歩で帰って行った。

 

 

-----

 

 

 両親の説得を成功し、艦娘となるための試験にも合格。ボクは3月の修了式を待たず、この学校を離れることになった。とはいっても、3月中はこの学校に在籍しているけれど。

 

4月から、ボクの居場所は此処じゃない。登校最後の日、ボクはこの学校で始めて晴れた気持ちでこの学校に来ることができた。それほど、ボクはこの空間が好きじゃなかったみたいだ。

 

 あの騒動から、三波と口を合わせることがなかった。一緒にいることはあっても、喋ることはなかった。2人して、先輩にだけ話していた。先輩たちは分かった上で「倦怠期?」とか茶化してくれた。

 

 ボクは今日の授業も終わって、学校の門のレールりを跨いで、振り返って学校を見る。こんな形してたんだ。ここを行くとき、いっつも下向いてたから知らなかったや。

 

「上奈、今日までかー私の後輩なのは」そういって鈴華先輩は来る。

 

「サボり仲間が減ってしまうのは、少し寂しいですわね」そういって野道先輩も来る。

 

「先輩。今まで、ありがとうございました」そういってボクは頭を下げる。そうしていると鈴華先輩は言う。

 

「あれ、あれあれ?私達だけでいいの。上奈」そういって、鈴華先輩と野道先輩は横に移動する。二人の後ろには、三波がいた。

 

「三波・・・」ボクはなんて声を掛けたらいいのかわからず、うつむく。

 

「遠距離恋愛になってしまいますわね・・・モガミン」そう寂しそうにいう三波。

 

「ごめん、三波。ボクのワガママでなんか・・・その・・・気を使わせちゃってさ」

 

「いいんですの。三波から見ても、上奈さんはココを気に入ってなかったように見えますから」

 

「もともと、三波のワガママで上奈さんはココに入学してくださいましたものね。三波もちゃんと、上奈さんのワガママを受け入れますわ」そういうと三波は泣きそうな顔をしながら笑顔を作ってくれた。

 

「だ、大丈夫さ、三波。いつだって、寂しくなったらボクの所に来ていいから」そういってボクは三波を慰める。

 

「・・・本当ですの」「うん。ホントさ」

 

「じゃあ、いつか行かせてもらいますわね。モガミン」

 

「うん。じゃあボクはあっちに行く用意とかしないといけないから、先に帰るね。みんなも一緒に帰るかい?」ボクは迎えの車に乗りながら言う

 

「いいえ、大丈夫ですわ。折角こうやって別れの言葉を告げたのに、一緒に帰っては興が削がれるというものです」野道先輩が首を横に振りながら言う。

 

「そっか。じゃあ、また会おうね。みんな」そういってボクの乗った車は走って行った。

 

 次、三波に会えるのはいつになるかな。

 

 

-----

 

 

 上奈の乗った車を3人で見送る。

 

「三波、これでよかったの?」。

 

「ええ、いいんですの。何より上奈さんは言っていたでしょう。いつでも来ていいと」

 

「あー・・・んん。そんなこと言ってたねぇ」

 

「実は私もお母様達を説得中ですの」

 

「何を」

 

「艦娘学校への転入、ですわ」

 

「それってもしかして・・・」

 

「私も、モガミンと一緒に艦娘になりますわ」

 

「あら、それでよろしいの。さっきの話では貴女のワガママでこの学校に来たと行っていましたが」

 

「だって、モガミン。かわいい服を着ようとしてくれませんもの」

 

「制服目当てだったんかい」

 

「はい。そうですわ」

 

「・・・鈴華」

 

「何さ、野道」

 

「わたくし達も艦娘になると言うのはいかがでしょう?」

 

「うぇ?なんでそうなんの」

 

「どうせ、わたくし達もココにいても意味がないですわ。それなら、スリルを感じに行くのもいいかと思いますわ」

 

「・・・パパ説得できるかなぁ」




最上型の艦娘になる前の話です。個人的にはそういう話の方が妄想が膨らみます。
4人はお嬢様キャラ。熊野も似非じゃないお嬢様です。お嬢様です。

名前はそれぞれ
最上=最川 上奈(もがわ かみな)
三隈=岩隈 三波(いわくま みなみ)
鈴谷=谷原 鈴華(たにはら すずか)
熊野=熊谷 野道(くまがい のみち)
です

お嬢様度は 最上<熊野<三隈<鈴谷 と考えています。


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