【リリカル】海鳴鎮守府 騒動録【艦これ】 (ウェルディ)
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第一話 海鳴鎮守府

運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する。

                   ショーペンハウエル

 

 

 

結論から言うと彼女は逃げ遅れた。

海鳴市に鳴り響く警戒警報は耳障りな唸り声をあげて町中に響き渡り。

彼女は、もう誰もいない海岸線を焦りと共に駆け抜けていた。

 

「迷惑をかけちゃダメ。早く逃げないと……」

 

こうした避難自体は、全国的に見て珍しいものではない。

 

数年前より出現しはじめた「深海棲艦(しんかいせいかん)」

その姿は最も多いのが駆逐艦型と呼ばれるクジラのような形をしたもの

人型に砲塔や魚雷を生やした軽巡洋艦型、重巡洋艦型

頑健な装甲、驚異的な威力を有した砲塔を多数装備した戦艦型と多岐に渡る。

その姿は総じて女性体であり、その理由は諸説多岐に噂されている。

 

ただ、確実に言えるのは…彼女らは人類と船舶に限りの無い恨みを抱いている。

その一点のみである。

 

彼女らは、その分類された通りの能力を持っており。

戦艦型は戦艦に匹敵する防御力と攻撃力を持っており多くの港町を焼き尽くした。

 

勿論、軍隊は何もしなかった訳では無い。

 

現代兵器は、人間程の小さな標的でも正確に捉えその弾丸を命中させる。

例え相手が戦艦並みの装甲を備えていてもミサイルを数発命中させれば打倒は可能である。

しかし、人類は追い詰められ深海棲艦に制海権を奪われていた。

 

「きゃぁっ!!」

 

突然、少女の前方にあった防波堤が爆音と共に吹き飛ぶ。

衝撃によって起こった風は激しく彼女のツインテールを揺らし。

その振動に耐え切れなかった少女は尻餅をつく。

 

そして、壊れた防波堤の隙間から見えるのは数十体を越える白と黒のコントラストに彩られた絶望の軍団である。

 

現代兵器は、高性能である。

「深海棲艦」の戦力評価は第二次世界大戦における艦船と同程度。

この程度の敵であれば一対一であるのならば負けは無い。

ならば、近代兵器が悉く敗北した訳は、ただ一つである。

『弾の数より、敵が多かった』

この一点に集約される。

ミサイル一発数千万が当たり前の昨今。

数万以上の数が湧き出る敵を相手にしていては予算が持たない。

 

「ひぃ」

 

少女、高町なのはは、後ずさる。

彼女達「深海棲艦」は湧き出る数によって各国の軍隊を磨り潰し。

世界中の制海権を奪って海岸線上にある港町に襲い掛かってくる。

幸い、上陸して進攻してくる事は無いので多くの国は内陸に退いて命脈を保っている。

 

「電の本気を見るのです!!」

 

だが、その絶望を横合いから殴り飛ばす者達がいる。

ドン、ドンという太鼓に似た砲音が鳴り響き。

大きな口から舌のような砲を出し少女を狙っていた駆逐イ級を吹き飛ばす。

 

「艦……娘……」

 

艤装と呼ばれる船の機関部と似ているものを背負い。

連装砲、単装砲と呼ばれる大砲や魚雷で武装した少女達が海を滑るように駆ける。

 

『艦娘』

 

それは、魔法の力によって生み出された人類の希望。

かつて、この世界で勃発して二度目の世界大戦を戦い抜いた戦舟の記憶を持つ少女達。

彼女達は、魔法の力で駆動する戦闘艦の武装を模した魔法の杖で絶望を打ち払う。

 

白い髪をした10歳ほどに見える少女が海岸から上陸し、高町なのはを確保。

後ろに庇って海岸線に押し寄せてくる敵艦に対して砲撃を開始する。

その轟音に耳を押さえていると高校生くらで髪を長いツインテールにしている女性が立ち塞がるように海岸線に滑り込んでくる。

 

「要救助者発見、これより救助活動に移る」

 

「第六駆逐隊は、要救助者を連れて鎮守府へ!!

 ここは五十鈴(いすず)に任せなさい」

 

「いきや、提督が奮発してくれた流星、烈風や」

 

その後ろからは赤い帽子にコートを羽織った自分より、少し年上くらいの少女が巻物のようなものから飛行機を具現化させて飛ばす。

ふわり、と風を掴み優雅に舞う飛行機に目を奪われる。

緑色に塗装されたソレは春風に舞う新緑の葉を思わせる力強さを纏い少女の目を惹きつける。

 

「制空権確保、道は開いたで早よいきっ」

 

烈風と呼ばれた機体は体と同じくらいの球型の頭を持った深海棲艦が口から吐き出す人の口がついた蟲のような艦載機を叩き落す。

流星と呼ばれた機体は、その名の如く流星のような降下と共に放った魚雷で道を塞ぐ駆逐イ級を消し飛ばす。

爆発により水しぶきが雨のように降り注ぎ虹を作る。ある種幻想的な光景に高町なのはは意識を奪われる。

 

「さっ、行くのです」

 

「もっと私を頼っていいんだからね」

 

気がついた時には顔のそっくりな二人の少女に両脇を抱えられて持ち上げられていた。

見かけによらない力持ちである。

 

「あっあの、すみません」

 

「大丈夫よ、私は雷(いかずち)。

 雷(かみなり)じゃ無いんだからねっ」

 

「私は、電(いなづま)助けられる命は助けたいのです」

 

何処か、怯えるように謝る少女は怒られるのを恐れる幼子のようで。

双子のような艦娘は、そんな事は無いよと笑って自己紹介しながら海へと飛び込む。

 

「ひやっ!!」

 

浮遊感と共に海の上に浮かび上がる。

船底を模したスケート靴のような靴からフロート系の術式が展開され高速で海の上を滑り出す。

 

「大丈夫、私達にかかれば鎮守府まであっと言う間なんだから」

 

「ごっ、ごめんなさい!!

 御迷惑をおかけします!!」

 

雷と電姉妹に挟まれて海の上を走り出すと進路を確保していた少女に声をかけられる。

セーラー服に錨のマークがついた黒い帽子をかぶった髪の長い少女である。

 

「特Ⅲ型駆逐艦一番艦の暁(あかつき)よ。

 レディーが、そんな暗い顔をしながら謝っちゃダメよ。

 そんな時は、笑顔でありがとうって言いなさい」

 

「あっ…ありがとう!!」

 

どこか、金髪で気が強い自分の親友アリサ・バニングスを思わせる少女の言動にクスリと笑いを浮かべ。

高町なのは、今日一番の笑顔を見せて礼を述べる。

 

「いい笑顔だね。響(ひびき)、三人と同じ特Ⅲ型駆逐艦さ」

 

「あの、お姉さん達は?」

 

殿についた撤退を最後まで支援していた白い髪に暁と同じ帽子とセーラー服を纏った少女が挨拶してくる。

なのはは、最後に残った女性二人を心配して声をかける。

 

「心配いらないわ、龍驤(りゅうじょう)さんと五十鈴さんはウチの鎮守府でも古参の艦娘よ錬度だって抜群なんだから」

 

「それに援軍が来たのです」

 

それに答える雷と電につられるように空を見る。

すると空を埋め尽くすように飛ぶ百以上の飛行機が目に入ってくる。

 

「わぁっ」

 

正面で肩に盾のような航空甲板をつけ短パンに改造した袴をはいた弓道服と防具をつけた二人の女性が次々と弓を射ている。

矢は航空機へと変じて次々と空に飛び立っていく。

 

「赤い袴が赤城(あかぎ)さん、青い袴が加賀(かが)さん。

 ウチの鎮守府の正規空母のトップ2よ」

 

誇らしげに暁が二人を紹介する。

赤城は、こちらに微笑みかけ、加賀は黙々と弓を放っている。

そんな二人とすれ違うと先ほどとは比べ物にならない轟音が空間を引き裂く。

肌にまでビリビリと感じるような轟音。

振り返って後ろを見れば着色された四色の水柱は逆さに落ちる滝のようだ。

人間の数倍以上の水柱を起こした砲弾を放ったのは四人の女性。

 

「ヘイ、私達がここに来た以上。

 もう、ノープロブレムね」

 

そう言って、自身満々の笑顔を見せる肩の大きく開いたミニスカの巫女服を着込んだ女性達。

 

「お姉さま、油断は禁物ですよ」

 

「私の戦況分析によれば、ここが最後の襲撃場所です」

 

どこか控えめな女性と眼鏡をかけ髪を六四ほどで分けた女性が後に続き。

 

「気合!入れていきます!!」

 

短髪の腕白といった女性が前に出る。

 

「金剛型の四姉妹ね。

 前から一番艦の金剛(こんごう)さん、さっき前に出てきたのが二番艦の比叡(ひえい)さん。

 後ろにいるのが三番艦の榛名(はるな)さん、眼鏡をかけているのが四番艦の霧島(きりしま)さん」

 

「ウチの鎮守府で一番出撃の多いメイン火力なのです」

 

放たれる砲弾の力強い響き、粉砕される敵艦の姿を目を丸くして見つめる高町なのは。

空を制する美しい艦載機の飛行、敵を粉砕する砲弾の力強い響きと威力。

この二つの光景は、彼女を生涯を決定づける重要な要素となり。

 

後に46cm砲を連射し、空を埋め尽くす艦載機を操り、

200隻以上の艦娘を配下に収める日本の三大提督の一人となる高町なのは提督の原風景となることとなる。

 

 

 

 




ネタですので、微笑ましく笑ってください。


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第二話 海鳴提督

運命は神の考えることだ。 人間は人間らしく働けばそれで結構である。

夏目漱石

 

 

 

深海棲艦の進攻により、海岸沿いの建物の値段は安い。

各市町村に居を構える提督は、艦娘の住居もかねて海岸沿いに建てられたマンションなどを鎮守府として使用している。

もっとも横須賀、呉、佐世保などの千名以上の提督が常駐する大規模鎮守府は、万を越える艦娘と共に新市街を形成している。

 

海鳴鎮守府は、世界最古の艦娘提督が司令官を勤める鎮守府であるが、その存在は機密であり。

日本中にいる、地方艦娘提督に紛れるように小規模鎮守府を構えて故郷防衛に努めていた。

 

一階に居酒屋『鳳翔』、食事処『間宮』の店舗を構えた七階建てのマンションが現在の海鳴鎮守府である。

二階に作戦会議室、提督執務室などの鎮守府機能を備え。

三階から上は十畳一間、風呂、トイレ、台所つきの艦娘寮となっている。

 

短いポニーテルに作務衣、下着にスキューバーのインナーのような服を着た女性が二階の提督執務室を訪れる。

提督在中は緊急連絡もあるため執務室に鍵はかけられていない。

戦闘中であるが故にノックも無く執務室の扉を開けると、提督が待ち受けているであろう報告をする為に女性が口を開く。

 

「超弩級戦艦『伊勢』(いせ)入室します。

 提督ぅ、なのはちゃんを無事保護しました。

 安心した?安心した?」

 

部屋の通信機の前では黒髪ロングで冷静沈着を絵に描いたような軽巡洋艦娘『大淀』(おおよど)が出撃艦娘に命令を伝え。

提督と呼ばれた白い軍装姿の青年はコの字型の政務机に腰掛け空中に投影したモニターで戦況をチェックしている。

 

「そうか、今は何処に?」

 

「間宮で、第六駆逐隊と一緒に甘味を食べてもらってる。

 電や暁とは、かなり相性が良いみたいだね。

 今は精神的にも落ち着いているよ」

 

知り合いの無事にホッと表情を緩めながら20代前半程の若い提督は息をつく。

 

「そうか、恭也のやつに切られずにすむな。

 士郎おじさんには、天龍(てんりゅう)や龍田(たつた)達もお世話になってる。

 艦娘には翠屋のファンも多いしな」

 

「ああ、恭也さんと一緒に海岸線掃討戦に出ていた天龍と龍田もすぐ戻ってくるってさ」

 

伊勢の報告を受けているとヘッドホンを外した大淀が終息宣言をする。

 

「提督、第3波の沈黙を確認。

 海鳴海岸に押し寄せてきた深海棲艦36隻の殲滅を確認しました」

 

「よし、警戒レベルを一つ下げる。

 今日と明日は海上護衛及び哨戒任務を厳とせよ。

 青葉(あおば)と那珂(なか)は夕張(ゆうばり)と共に戦況レポート動画の編集を何時ものサイトにアップせよ」

 

終息宣言に笑顔を浮かべる伊勢が茶々を入れる。

 

「ソレ、よく続くよね。

 テレビでも専用チャンネルがあるよね。

 各地の戦況実況とか艦娘の歌番組とか」

 

「広報は必要だし、スポンサーの意向とかファンの陳情とか色々な。

 ああ、大淀。

 提督の着任書類と艦娘の建造資格証の用意を頼む」

 

提督の言葉に艦娘の二人が驚いたような声をあげる。

 

「それって、なのはちゃんの?

 確か、中学卒業後で本人の意思確認をしてからって話じゃなかった?」

 

「そうです、提督!

 小学生で提督というのは早すぎます」

 

提督は、一枚の書類に目を落とし艦娘二人に目をあわせる。

 

「そうも言ってられなくなった。

 私としても、恭也、忍さん、スポンサーの海自、バニングス海運も、そうしたかったんだが」

 

提督が見た書類には、こうある全国一斉魔力値検査表。

 

「魔力値、130万オーバー。

 管理局基準だとAAAクラス。

 艦娘を100名維持するのも余裕の魔力量だ」

 

深海棲艦が現れ世界中で制海権が奪われていく中、地球という世界に一つの接触があった。

時空管理局。

略して管理局とだけ呼ばれることもある。

とりわけ、次元世界の崩壊を招きかねないロストロギアについては、最優先で対処する。

なお、魔法が確認されていない世界は、本来なら管理局の管理外だ。

そのような管理外の世界で魔法を悪用しようとする者がいないかを監視するのも、管理局の任務の一つである。

「次元世界をまとめて管理する、警察と裁判所が一緒になったところ」で、

他に「各世界の文化管理とか、災害救助とか」を行う場所であり、

「他に細かい仕事は多くあるものの大筋はそれ」らしい。

 

地球で例えるのであれば、PKOなどで派遣される多国籍治安維持軍が、それに近い。

 

地球で発現したロストロギアである深海棲艦の性能を見るに数が多いが人類が滅亡するほどでは無い。

ロストロギアの性能も多次元まで影響を及ぼすものでは無く最悪、地球全土が占領されるだけですむ。

 

故に対処も場あたりてきなモノである。

『我々には支援の用意があり、

 次元世界加入条件は次元憲章の厳守、質量兵器の破棄、年会費の納入、管理局の設置が条件である』

 

受け入れられる訳が無い。

 

現行の軍隊を解体して、次元世界からの治安維持軍を受け入れて次元世界連盟の決定に従う国になってくださいと言う事である。

自国の銃規制すらまともにできない国が多い中で、そんな事を実行できる国は皆無に等しい。

そも、軍の解体となれば下手をすれば国民の一割から二割は路頭に迷う。

支持母体に軍がらみを持つ政治家も多く彼らの強行な反対は想像に難くない。

軍とは国を護る剣であり盾、国民にとって最後の拠所とすべきモノである。

普段は縮小や予算削減を主張している政治家も解体となれば反対するだろう。

 

次元世界としても、提案が拒否されるなら御勝手にと言う所だ。

自分達は手を差し伸べたという事実が欲しいリップサービスにすぎない。

自分達にたいした被害が及ばないのに手を突っ込もうとするほど次元世界も暇では無い。

次元世界間をまたぐ大規模戦争の終結を宣言してから65年。

次元世界平和維持活動(PKD)は「破綻国家」「脆弱国家」と呼ばれる国家機能が破綻、

もしくは脆弱な地域に投入されるケースが増大している。

戦争による傷が癒えず膿む。

弱い者を踏み台にして力をつける者など枚挙に暇がない。

ある意味、管理局ですら、そうした事象を利用して力を増大させてきた勢力の一派だ。

彼らの違いは、踏み台を補強して新たな階梯へと登るか?踏み台を潰して新たな踏み台への跳躍を成すか?

膿は、様々な犯罪を生み出し。

それを糧に成長した犯罪者は病を広げ、正常な経済活動を取り戻した地域にまで侵食してこようとする。

こうした場合、本来その国の治安維持部隊が果たすべき役割を多次元国家社会の側が果たさなくてならなくなる場合が多い。

戦後に物資が困窮するとテロ活動が無くても治安は悪化し、脆弱な治安組織では対応できない事態が増加する。

当然、戦争をしていたのだから軍隊は残っている。

だが、軍というものは、他国の軍隊と戦う為に組織された集団である。

一般市民が暴動を起こした時、なるべく一般市民を傷つける事無く群集を沈静化させる術など訓練していない。

敵を殲滅する為の装備はあっても、無傷で沈静化させる装備が無い。

そして、護身用の武器など荒れ狂う暴徒の群れに対するには、あまりにも非力。

 

だからこそ、非殺傷魔法で暴徒を鎮圧し、独自法によって本来裁くのが難しい支配者層も平等に裁く事のできる管理局は忙しい。

治安維持機能が生きていて暴動も内乱も起こってない非加盟世界に手を出すほどの余裕は無い。

 

せいぜい、魔力資質を持つ優秀な人材に目をつけて移民を進めつつ。

現地政府が崩壊後を見計らって目をつけていた人材とその家族友人の確保で次元世界に抱え込もうというのが基本方針である。

そうした事自体は、遥か昔から行っており。

主要都市であるミッドチルダなどでもナカジマやホンダなどの日本名を見ることができる。

 

国家間に友情は無く、国に頭は二つも要らない。

あるのは、ただ利害のみである。

 

故に現在の日本の状況は、全世界的に見ても想定外である。

 

「現在、250万いる艦娘提督の中でみてもトップ10に入る程の魔力量。

 他国、及び管理局に渡す事など絶対にできないビップだ。

 公的検査で発覚してしまった以上、青田刈りをしようという勢力を掣肘する必要がある」

 

「今や艦娘提督は、日本でもトップランクのなりたい職業ですからね」

 

「ああ、三年前に青葉と那珂に海鳴防衛戦の動画を大型動画サイトにアップさせて以来。

 集え力ある者達よ。

 古の戦船の魂を宿せし少女達と共に戦い世界を護るのだ。

 この煽り文句に釣れる釣れる」

 

大淀の答えに提督は窓から見える海に視線を移しながら遠い目をして答える。

艦娘に関して批判が集まる事は目に見えていた。

いかに力を持っているとは言え、駆逐艦娘など、見た目小学、中学生くらいにしか見えない。

人間と同等の知性を持つ美少女(重要)を使い魔として『建造』すると言う点にも突っ込みどころは満載だ。

 

「批判が集まる前に数を増やす必要があった。

 士郎さんの伝手で海自に建造管理デバイスである提督バッチをばらまいたとは言え世論を巻き込むには数は力だからな」

 

管理局で言う所のCランク程度でも二艦隊12名程の艦娘は保持できる。

艤装の主機である缶で燃料を使い防壁、移動の為の術式を動かす魔力は確保できる。

攻撃はベルカ式カートリッジと呼ばれる魔力を込めた弾丸で補う。

艤装に彼女らの体を構成する魔力を制御させるコアを仕込む事でさらに省エネ化を進めるという。

魔導師の常識から見れば、無茶を成して道理を引っ込めているのが艦娘という存在となる。

艤装ごと轟沈してしまうと再生が効かないが大破重症を負っても艤装さえ直せば再生可能という点でも狂気の沙汰である。

 

「艦娘の人口は日本の総人口にも匹敵するようになった。

 彼女らもたらすシーレーンの確保と労働力は、無視できない領域まで食い込んでいる。

 最早、多少の批判は鼻で笑える」

 

日本人の人口は、一億二千五百万程。

人口の十分の一が魔力を持っているとして1250万人程。

その中でも高校生以上でCランク以上が五分の一で250万人程になる。

世界人口リストにおいて第十位、ロシアとの人口差が二千万人しかいないという超人口過密地帯が日本という国である。

 

管理世界平均においては、一つの世界につき。

せいぜい10億人程度しかいない彼らからみれば狭苦しい島に世界の十分の一を詰め込んだような狂気の沙汰であり。

 

米と豆と魚、卵と鳥、乳牛と豚に生産力をガン振りすれば食料もギリでどうにかなってしまいそうなチート島である。

 

「確か、提督のお爺さんが海軍工廠に勤めていた頃に計画していた艦娘計画が私達の元だったかしら」

 

そんな島であるので艦娘計画が順調に実行されていればガチで世界と喧嘩して。

世界も核で島ごと消滅させにきたであろう事は想像に難しくない。

 

「ああ、百年くらい前の幕末開国あたりに紛れ込んできたベルカの落ち武者だったらしいな。

 二次大戦時の戦力の不足を艦娘で補おうとしていたらしい。

 爺さんが途中で正気に戻って研究所を破壊して逃げたらしいが……」

 

伊勢の質問に答える提督の肩から水兵帽子をかぶりセーラー服を着た握りこぶし程の少女が顔をのぞかせる。

艦娘製造管理デバイスの管制人格、通称『妖精さん』である。

妖精さんの頭を指でグリグリしながら提督は続ける。

 

「まぁ、他国にもベルカの落ち武者は一定数いるみたいだがウチほど侵食の早い国も早々あるまい」

 

ノリの良さと民族としての意思統一と伝達の早さ。

流行に乗り遅れるのを何よりも恐れる民族という特性。

銃のような自衛の武器を全く持たない国民というのは世界的に見ても非常に珍しい。

 

サブカルチャーに染まりきっており。

ある日、特別な力に目覚めて外敵と戦うという類の作品は山のようにある。

 

故に規制が行き届く前に魔法と使い魔というシステムは古い雑巾が水を吸うように瞬く間に広がった。

管理局としても250万の魔導師がわずか三年で誕生したというのは寝耳に水である。

彼らから生まれた一億を越える使い魔達がロストロギアと戦い始めた。

という続報に「え?」としか返せなかった管理局高官を誰が攻められよう。

 

訓練に時間のかかる戦闘は戦闘艦の戦闘経験をパッケージした艦娘に完全依存。

提督に必要とされるのは艦娘を維持する為の維持魔力と資材と出撃撤退を管理する事務能力だけである。

そして、義務の教育の行き届いている日本では義務教育終了程度の学力さえあれば最低限の管理業務が可能。

 

「あまりの応募の多さから、高校生以上。

 自衛隊の入隊試験に準拠した試験に合格した者のみという制限を設けたからな」

 

ロマンに燃えるオタクというのは凄まじい。

最低限の魔力を持っている事が確認されたオタクどもは自分を鍛えなおし次々と提督資格をもぎとっていた。

 

「故に、未だフリーの提督候補は各所に狙われる。

 提督となれば艦娘の護衛がつくし絆を結んだ艦娘と離れようとする提督はそういない」

 

何人かは艦娘ごと次元世界に行ったそうだが、政府公認の密航という訳のわからない事態が発生している。

他国の大半が混乱としている中、

自分の所は戦力の魔法化がスムーズにいったからといってフライングぎみに管理世界化してしまうと他国のバッシングが痛い。

 

「それでも批判は出ると思うけど仕方ないか」

 

「ああ、護衛くらいつけとかないと他国の拉致が一番怖い。

 本人に一番価値があるんだ交渉などできないと思ったほうがいい」

 

溜息をつく伊勢に提督が答える。

自らが魔力を供給する艦娘であれば互いの位置を知るのは容易い。

GPSを仕込んだ携帯を持たせるより確実に護衛も救出もできる。

 

「深海棲艦の根は絶てず。

 悪党が世に幅をきかせて、小悪党は懲りることを知らない。

 騒動は絶えず世間を騒がせて、今日も世は事も無し」

 

深海棲艦の登場によって、世で言う処の過激派が急速に力をつけている。

衣食足りずして礼節を忘れる。

深刻な資源不足は国家間の小競り合いに発展して海のみならず地上でも争いは絶えない。

他国の干渉が無くなった為、独立を掲げるテロ組織が国をたちあげ混乱を助長する。

 

故に高レベルで治安と戦力を維持増大させ管理世界との取引で物資を確保して穴熊を決め込んでる日本に批判は多い。

自衛隊所属の艦娘は色々と国際協力の名目で海外で活躍しているのだが……。

それすら、他国の嫉妬をあおっているらしい。

 

「政治って難しいねぇ」

 

伊勢の言う言葉に全てが集約していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話 提督が鎮守府に着任しました。

気高い夢を見ることだ。あなたは、あなたが夢見た者になるだろう。

あなたの理想は、あなたがやがて何になるかの予言である。

 

                           (ジェームズ・アレン)

 

 

01

 

 

9歳、この年齢の子供は何をしているだろうか?

基礎的な学習が終了し発想力を必要とする応用学習に入る時期であり。

他の児童との差が顕著に現れてくる頃である。

現在に追われながら果敢に学習し、人格を形成する大事な時期。

運動が得意な子、勉強が得意な子、様々な特性に分かれていく人生の岐路と言い換えてもいい。

子供とは基本的に我侭なモノである。

 

自分の思い道理にいかない事があれば癇癪を起こすし泣くし暴れる。

少しづつ、別の方法を考える、諦める等の選択の幅を増やしていき。

一応の落ち着きを見せるのは高学年と呼ばれる10歳~12歳くらいだろうか?

 

だが、歳に似合わず落ち着いた子や、よく考える子がいる。

そうした子は兄弟が多かったり、何かの問題を抱えている場合が多い。

 

苦労する親を見て育った子供は、自分を殺すのが上手くなる。

家族が好きだからだ。

家族とは、自分を護ってくれる巣だが、自分を縛る檻にもなる。

 

故に高町なのはは、自らを良い子であれと縛ってきた。

 

きっかけは三年前の深海棲艦の海鳴襲撃である。

平和な日常を侵す戦いの非日常。

制海権の喪失は物資の不足を招き、正常な商業活動を妨げる。

お母さんが経営する翠屋は規模を縮小せざるをえず。

お父さんは昔の伝手を使って外に出る事が多くなった。

兄も姉もなにやら友人と共に深海棲艦と戦っているらしいと伺えた。

 

そんな家族を支えて一生懸命なお母さん。

お父さんは忙しく動いており兄や姉もそれを手伝っている。

だけど、私は小さくて何も手伝えない。

一人ぼっちが寂しくて悲しかった。

私は何もしなくて良いのかという。

焦りと罪悪感。

漠然と感じるのだ『私は存在する事自体が悪いことなので無いか』と。

そんな事ばかりを考えていた。

 

だけど、違った。

悲しそうな顔をしていたお母さんが私を見つけて抱きしめてくれた。

 

「なのは―――」

 

萎れた花が、水を与えられ太陽の光を受けて鮮やかに花開くような笑顔。

私が、それを忘れることは一生ないだろう。

 

「ごめんね、何時も一人で寂しいよね。

 だけど、皆頑張っているから、もう少しすれば落ち着くわ」

 

強い笑顔だ。

きっと、守るものを持つからこそ得られる強さ。

 

「そしたら、きっとまた。

 家族みんなで遊びにだって行けるから」

 

それを羨ましいと思った。

暖かな腕に抱かれて、暖かさと切なさが心に満ちる。

 

もどかしく、情けなかった。

 

何もできず待っているしかない自分。

守られ、心配されるしかない自分。

悲しんでいる人を前にして、何もできない無力な自分。

 

理解している。

私が後ろにいるから家族は踏ん張っていられるのだと。

 

お兄ちゃんが、優しく頭をなでてくれる。

 

「お前がいてくれるから、母さんも父さんも頑張れるんだよ」

 

お姉ちゃんが小さな私の顔に高さを合わせて笑ってくれる。

 

「なのはが笑ってくれれば元気100倍!

 お姉ちゃん達だって頑張れるんだから!」

 

だから私も笑う、ちっぽけな矜持がそれ以外を許さない。

 

「じゃあ、いつも笑ってる。

 皆が元気になるように!」

 

私は、あの憧れた笑顔を得たいのだ。

守るものを背負うあの力強く慈愛に満ちたあの笑顔を。

 

お姉ちゃんやお兄ちゃんに好きな事をさせてあげたいのだ。

お父さんやお母さんに夢の道を進んで欲しいのだ。

 

だから、一人のときに沢山泣いた。

涙よ枯れ果てろと悔しさを涙にして流しつくした。

 

やがて、艦娘の存在がテレビで噂で街で海で。

あらゆる場所で戦う牙を持った少女達をみかけるようになった。

 

彼女らの中には自分より少し上の少女達もたくさんいる。

 

『理想とした自分が目の前にいる』

 

その事実に頭が真っ白になったのだ。

父や兄、姉の動きが綺麗だと思った。

だから自分も彼らのように動こうと思った。

小さな手足は上手に動かず。

縺れて転ぶ。

その無様さに何度も泣いた。

悔しかったのだ、小さな自分が。

思う通りに動かない小さな体が。

 

彼女達の活躍によって街に物が戻ってきた。

楽では無いが甘味程度であれば楽しむ余裕が出てきたのだ。

 

彼女達自身が甘味を好んでいたというのも大きい。

 

翠屋は新たな顧客を大勢獲得して生活も安定した。

 

家族は以前の余裕がある笑顔を取り戻していった。

愛されている自覚はある。

家族に不満なんてあるはずが無い。

だけど、怖い。

だけど、苦しい。

 

そう、深海棲艦は未だ制海権を抑えて世界の海に君臨している。

一度あったのだ“同じことが起きない保障”なんて無い。

 

その時、自分は戦えるのか?

家族を助けてあげられるのか?

お姉ちゃんやお兄ちゃんに好きな事をさせられるのか?

お父さんやお母さんに夢の道を進んでもらえるのか?

 

まだ、小さなままの自分の手。

何もできない無力な自分。

 

そんな事は無いと親友達は言う。

 

「なのはちゃんが、いてくれたら私達三人は友達になれたんだよ」

 

「そうそう、自分を高く見ろとは言わないけど。

 あまり低く見るのは私達にとっても侮辱よ」

 

一年生になったばかりの頃。

いじめっ子な金髪の強気な子と濃い藍髪の泣いてる子。

言葉で伝えて、伝わらなくて。

ぶつけあって、ぶつかりあった。

そうやって、初めて解ることもあると知った。

 

学校の中庭、お互いに引っかき傷だらけ。

小さな自分達は、すぐに体力も尽きてお互い背中合わせに倒れ込んで立つ気力も無い。

残るのはお互いの意地の張り合い。

 

「バカじゃないの?

 何なのあんた」

 

「泣いてる子を見ないふりするくらいならバカでいい」

 

それから何度もぶつかりあいながらお互いを認め合った。

ハーフで金髪の髪が綺麗なアリサちゃん。

緑髪とも紫髪とも呼べるような綺麗な黒髪のすずかちゃん。

アリサちゃんもすずかちゃんもこれ以上ない親友になれた。

 

大事な友達が教えてくれたのだ。

得るためには踏み出さねばならないと

『勇気ある一歩を踏み出さなければならない』と

 

だから、彼女はその話に飛びついた。

 

父や兄と共にやってきた兄の友人。

挨拶くらいはするが、それほど親しくはしていなかった青年。

 

彼は白い軍装を身にまとい。

しゃがんで自分に視線を合わせながら言ったのだ。

 

『提督になってみる気がないかい?』

 

これが、彼女の運命を大きく変える分岐点。

派遣されたミッドチルダにて一人大隊と呼ばれ。

ミッドに迫る自動機械群を打ち払った少女の始まりである。

 

 

02

 

赤いレンガのようなタイル張りがされたマンション。

それが、海鳴鎮守府という建物だった。

 

提督さんが言うには「やっぱり赤レンガ風には拘りがあってね」と苦笑い。

 

作戦室と書かれた部屋ににお父さんやお兄ちゃんと共に通される。

髪を短いポニーテールにまとめた秘書らしき女性からお茶と茶菓子が出される。

 

「狭くてごめんねー。お客様を通せそうな応接セットがあるのがこの部屋だけでね」

 

明るく快活、そんな言葉がよく似合う女性だと思った。

 

「私は伊勢、好きに呼んでね。

 なのは提督」

 

「はいっ、こちらこそ宜しくお願いします」

 

緊張の為か上ずった声を出してしまったが、それを伊勢さんは微笑ましげに見ている。

 

「まぁ、お茶を飲んで、まずは落ち着いてくれ。

 さて、恭。

 提督について、何処まで説明している?」

 

「簡単には話している。

 まず、艦娘と提督の関係は大きく分けて二種類ある。

 俺のように艦娘と共に戦う提督。

 お前のように艦娘に戦うのを任せて後方支援に徹する提督がいる事」

 

お茶を飲んでいる間、お兄ちゃんと提督さんが会話を始めます。

これは、家でも聞いていた事。

お兄ちゃんやお姉ちゃんは警報が鳴る度に数名の天龍さんや龍田さんなどの艦娘を連れて戦いに出ている。

 

「まぁ、恭はFランクでギリギリ艤装が動かせるだけだから艦娘は、こちらからの貸し出しだがな」

 

「射撃は、それほど得意では無い。

 足の速い艦娘を貸してくれて感謝している」

 

「お前みたいなのがいないと、俺達提督は女の後ろに隠れて戦う臆病者って呼ばれるからな。

 最大限に手伝うさ。

 友達が怪我するのも寝覚めが悪いしな」

 

深海棲艦が現れてから使用されはじめた力がある。

管理局という世界の外からもたらされた技術。

 

『魔法』

 

管理局管理下世界のほとんどに存在する魔力素を特定の技法で操作し、作用を発生させる技術体系。

術者の魔力を使用し「変化」「移動」「幻惑」のいずれかの作用を起こす事象。

これら作用を望む効果が得られるよう調節し、または組み合わせた内容をプログラムと言う。

用意されたプログラムは詠唱・集中などのトリガーにより起動される。

その為、数学や物理といった理系的な知識が魔法の構築や制御には重要になる。

 

「魔法とは、自然摂理や物理作用をプログラム化してしまう。

 それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで、作用に変える技法である」

 

この技術により人は自らの力によって空を飛び、ビルや鉄橋すら吹き飛ばすほどの力を得た。

 

万能に思えたこの技術にも大きな穴があった。

大気中に含まれる魔力素とよばれる物質。

これを体内に精製されるリンカーコアと呼ばれるアストラルサイドの器官を使用して人は魔力を作り出す。

人の身長や体重が一定でないようにリンカーコアが作り出す魔力の量、

体内に蓄積できる魔力の容量は人によって異なり一定では無かったのだ。

人の半数近くは体内で魔力を精製する事ができず、精製が可能な人間も資質によって大きく差が開いた。

この素質の事を『魔力資質』と呼ぶ。

 

管理局はこの資質に大まかな基準をもうけてSSS>SS>S>AAA>AA>A>B>C>D>E>F の11ランクに類別した。

SSSは震度7強の大地震や洪水などの天変地異を起こすことすら可能な力がある。

しかし、Fランクでは震度1程度の微震を起こすのが精一杯である。

 

軍や治安維持組織は魔力資質を持つ人間を集めるのに躍起になっているという。

 

戦力を個人の資質に頼るなど下策中の下策である。

 

しかし、個人で戦艦を越える戦闘能力を持った存在が“発生し始めた”。

その力の持ち主をかき集めるしか戦力バランスを取ることができなくなっていたのも事実である。

 

その中で、日本はいち早く魔法を扱うための道具を量産した。

それを艤装と呼ぶ。

 

缶と呼ばれる機関の中で空気を燃焼させ魔素を取り出す。

それをコアで魔力に生成して海上を進む浮力やバリアジャケットと呼ばれる防護服を作る。

 

艤装のコアが魔力を生み出す魔法は提督の魔力を使って動いており。

提督が艤装をつけて戦いに行くのは可能である。

コアの演算で魔力構成体という体を維持している艦娘は、提督の魔力供給なくして存在しえない。

 

攻撃は、カートリッジと呼ばれる弾丸を艤装の各部につけられた砲や手にもった銃のような砲に装填して魔法を打ち出す。

カートリッジとは、圧縮魔力を込めた弾丸をロードすることで、瞬時に爆発的な魔力を得る。

その分制御は難しく艤装が破損したり使用者が負傷したりする事例が相次いでいる。

 

そのため、少々の傷であれば魔力で強引に治癒できる艦娘で強引に運用している。

 

提督が運用する場合、普段は自分の魔力を用いて砲を撃ち。

緊急時のみ使用が許されている。

 

提督は鎮守府、最後の戦力であり。

いくら艦娘が残っていても提督が死ねば艦娘ごと全滅する。

提督は後方で魔力供給と弾丸などの資材生産、後方指揮に徹するのが推奨されている。

 

「私もお兄ちゃんみたいに艦娘と一緒に戦いたいです」

 

故に、この本人の希望は最も危惧する事であり。

なんとしてでも防がねばならない案件である。

 

高町家の家長である高町士郎は、苦いものを飲まされたような顔をする。

その横に座る長男、高町恭也は、眉をしかめる。

 

「なのは、艦娘を生み出せば戦う事に関しては彼女達の方が適正がある」

 

「危険はできる限り排除するべきだ。

 直接戦わずにすむならそうした方がいい。

 後方支援も立派な戦いだよ」

 

彼らは、なのはが戦いに向いているとは思っていない。

だからこそ家伝の剣も教えていないし、ごく普通の子供として育ててきた。

 

だが、蛙の子は蛙であり。

少女は、色濃くその血を継いだ高町の娘である。

 

その姿に否と答える一人の少女。

顔を真っ直ぐに正面に向けて、両手を握り締めるその姿は決意を決めた戦士の姿だ。

 

「私も力になれるはずだよ。

 それなのに一人で安全な所にいろって言うの?」

 

否定されれば否定されるほど、小意地になるのは幼さ故か。

無理も無い。

大人びているとは言え、彼女はまだ10年程しか生きていないのだ。

感情に任せて暴れまわってもおかしくはない。

むしろ、その方が対処が楽なのだが……。

 

「戦う事は否定しない。

 だが、もう少し地力をつけた方が良い。

 身近に優秀な教師も多いのだから」

 

高町の血筋は、基本的に頑固だ。

正しいと思った事に対しては、愚直に貫き通す。

正面から突破できない場合は、迂回路を探すだけの柔軟性もある。

故に論理のみで納得させるのは非常に困難だ。

 

「まずは、訓練。

 荒れた海上を進む訓練。

 砲を撃って敵に当てる訓練。

 敵の砲をものともしない強度の防護服を編む訓練。

 それが全て終了してからでなければ認められない」

 

だから、ひたすら正論で押す。

教育カリキュラムとは年単位で立てるものだ。

中学や高校は3年単位であるし基礎教育である小学は6年の訓練をようする。

高校生以上の艦娘提督で実戦に出たいと希望する提督は漏れなく士官学校に叩き込んでいる。

 

「訓練……」

 

「そうさ、お兄さんやお父さんは長年戦う訓練をしている。

 なのはちゃんもすぐ追いつけるとは思っていないだろう?

 だから、まずは走る訓練からだ」

 

元々、自衛の力はつけてもらおうと思っていた。

ミッドチルダに秘密裏に派遣されているミッドチルダ地上本部との交換留学生からのレポートは読んでいる。

 

管理世界では、魔導師の低年齢就職率が高い。

魔力が生み出すエネルギーは、天候を操作する事すら可能である。

農業、溶接や切除加工も魔法を使えばグッとコストが抑えられる。

戦闘力に至っては戦車や戦闘機に匹敵する魔導師は、優先管理対象である。

魔導師ランクによる試験免除。

兵として強力な力を持つが故に彼らを低い地位に止めておけば様々な弊害がおきる。

高ランク魔導師を指して『便利アイテム』などという揶揄があるが、それは一面的には真実である。

膠着した状況を打ち砕く破城槌、災害現場で不足しがちな発電等のエネルギーを補う強力なジェネレーター。

魔力切れ寸前の治癒術士や大雨、地震などで緩くなった地盤を支え続ける結界術士への魔力補給。

一個人で発電所に匹敵するエネルギー源となりうる存在。

この悪意ある世界で、それを悪用しようと言う人間は決して皆無では無い。

Aランク以上の人間には、必ず尉官ランク以上の人物が保証人につき。

その力が悪用されないように保障する義務が管理世界では発生する。

無論、人権侵害では無いか?と言う意見はある。

だが、力における責任の所在を曖昧にする事は害悪である。

利用されていた、幼かった、責任者がいなかった。

被害者からしてみれば、言い訳にもならない。

万が一の事態を起こさない為にも『高ランク魔導師の保証人制度』は必要なものだった。

浚われて、街を破壊する為の大規模術式の動力源にされていましたでは済まないのである。

高ランク魔導師の試験免除制度は『人材を他に取られないよう早々に責任ある地位に立たせる』

『早く、自分自身の責任くらい取れるようになれ』という二つの意味合いが大きい。

 

この考え方には大きく考えさせられるものがあり。

 

国民の安全と保障をする為の全国一斉総魔力検査は実施された。

高い魔力を持つ子供を全国にある鎮守府で保護しようと考えたのだ。

 

「うん、わかった。

 私、頑張るっ!」

 

努力型の彼女に訓練押しの説得はよくきいたようだ。

胸の前に握りこぶしをあげて決意を秘めた笑顔で返事をかえす。

 

「決まりねっ。

 訓練計画を組んでおくわ。

 では、お決まりの言葉で締めますか」

 

「お決まり?」

 

伊勢の言葉になのはは、首をかしげて尋ねてくる。

 

「そう、新しく提督になる人物を迎える伝統的な挨拶があるのベランダに出てくれる?」

 

「はい……」

 

なのはは伊勢に手を引かれてベランダに出る。

そこから見えるのは臨海公園のグラウンドであり、

そこには海鳴鎮守府の艦娘が勢ぞろいしていた。

 

ベランダに出てきた、なのはを確認すると高らかにラッパの音を鳴り響かせる。

 

「えっ?これは…」

 

あまりの事態に思考が停止する少女を艦娘全員が見ながら粛々と儀式は進む。

 

「きをつけぇーっ!」

 

一番右に並んだ戦艦達の筆頭である長身で一際大きな大砲を身にまとう大和(やまと)が号令をかける。

休めの姿勢で待っていた艦娘達全員が背筋を伸ばして敬礼する。

 

一番先頭に立っていた各艦種の代表である艦娘が一歩前にでる。

 

大きな二連装砲を備えた勇ましい艤装をまとった金剛が宣誓する。

 

「戦艦娘、総員12名、現在9名、3名は当直任務中デース」

 

隣に立つのは盾のような航空甲板を備えた赤城が宣誓する。

 

「空母艦娘、総員15名、現在15名」

 

艤装に古鷹(ふるたか)と書かれた、どこかメタリックな目を輝かせた艦娘が続く。

 

「重巡洋艦娘、総員18名、現在15名、3名は当直任務中です」

 

眼帯に楽しげな視線を向けてくるのは家の道場でよく見る天龍さんだ。

 

「軽巡洋艦娘、総員20名、現在17名、3名は遠征任務中だ」

 

小柄な体に両手には盾のような装甲版、暁が胸を張って言う。

 

「駆逐艦娘、総員51名、現在36名、15名は遠征中よ」

 

水着の上にパーカー、胸にはイムヤとある艦娘の声がグラウンドに響く。

 

「潜水艦娘、総員6名、現在6名」

 

宣誓を聞いた伊勢が整列した艦娘達に宣誓する。

 

「提督が、鎮守府に着任しました。

 これより、艦隊の指揮をとります!!」

 

『着任を確認しました!!

 これより艦隊の指揮を預けます!!

 暁の水平線に勝利を!!』

 

整列した艦娘達が一斉に唱和し、その勢いに押されて高町なのはは答えを返す。

 

「よろしくお願いします!!」

 

これが第一歩。

 

少女が得るために踏み出した勇気在る一歩である。

 

 

 

 

 

 



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第四話 古代ベルカ

第三次世界大戦に使われる武器についてはわかりませんが、

第四次大戦ならわかります。石と棍棒でしょう。

 

                         アルベルト・アインシュタイン

 

 

 

01

 

古代ベルカ

この存在は全てを語るのに避けては通れない。

 

300年程前、日本でいうなら江戸幕府ができた頃に滅びた文明でありながら、その技術喪失の凄まじさから古代と称されている。

それ以前とそれ以降では4世代から5世代は技術格差が存在する。

産業革命の頃と現代くらいの差と言えばいいだろうか?

当然の事ながら、古代ベルカより進んでいる技術も存在はするが、それも方向性の違いでしかない。

 

戦乱期にあった古代ベルカ末期の技術は戦闘に特化している。

当時の戦略兵器に対抗するには三倍以上の戦力が必要とも言われている。

 

ベルカとは、聖王を頂点に擁く連合国家だった。

江戸幕府のような形態をとっていたと言えば解りやすいだろうか?

 

崩壊の理由としては、王家の求心力の低下。

地方の反乱が主な理由として述べられる。

 

被害が拡大した原因としては、現在ロストロギアと呼ばれている遺失技術の暴走があげられる。

 

戦略・戦術兵器として開発されたソレは単独で1惑星を消滅させられるものもあり非常に危険である。

 

戦乱の影響は深く。

ネットワークに保存された情報はネットワークごと消滅。

紙などに書き記された情報は、悉く焼き払われた。

 

技術や知識の伝承は口伝や僅かに残された資料に頼るしかなく、その技術の多くが失われた。

 

文化、芸術などに関する喪失は戦闘系技術より、さらに酷い。

単純に優先順位が低いからだ。

 

保存の為の技術が高かった事も喪失に拍車をかける。

 

高度に圧縮された情報は、多くの情報を扱うのに便利であるが、致命的な欠陥を有している。

読み取り機が健在でなくては読めないのである。

 

例えば、DVDに保存されている情報はCDの再生機では見る事ができない。

重要なビデオがあっても、DVDデッキしかなければ見る事ができない。

 

10年前に記録した情報が規格の差に阻まれて見ることができなくなるなどザラである。

名作と呼ばれるモノは最新式のデバイスに移し変えられる事はあるが、マイナーな作品は忘れ去られていく。

半世紀前のモノになると専門施設でなければ再生すらできない。

 

そんな状況で戦争が起きれば、どうなるだろう?

間違いなく、文化、芸術と呼ばれる分野の情報は散逸してしまう。

綺麗な層を描いていた文化と技術は地殻変動を起こして近代と過去の入り混じったカオスを形成する。

 

使い方は判るが、作り方が判らない。

今は動いているから見れるけど、壊れたらもう見れない。

ネットワークが寸断されて何も見えない。

ネットワークは残ってるが再生機が無い。

 

口伝や書籍化されている情報はマシだが、それでも不完全。

データー化されている情報は、断片化してしまい、ほぼ全滅。

それでも名作や主流が、ある程度残ったなら良いでは無いかという意見もある。

しかし、それは多様性の喪失であり未来に広く枝葉を伸ばす可能性の喪失に他ならない。

 

かくて、ベルカ中央の技術は多くが失われ。

その断片的な技術は地方の文化、技術基盤に吸収されて消えていく事となる。

 

深海棲艦と艦娘とは、そうした古代ベルカの残した技術の一つである。

 

鎮守府の一室で、新任提督である高町なのはに艦娘をよく知ってもらう為の授業が行われている。

先生は、眼鏡をかけた委員長気質である大淀と責任者である提督。

 

「ベルカ崩壊後に起きた『聖王統一戦争』は『ゆりかご』と『聖王家』を失った事で終結しました。

 ですが、世界間の小競り合いや小さな戦争は新暦に入るまで収まらず。

 今尚、休戦しただけで、戦争継続中の世界だってあります。

 世界内で戦争をしている所は多く。

 表面上は穏やかな次元世界は、未だ平和には遠い所にあります」

 

「大淀さん!

 なぜ、古代ベルカの人たちは、そんなになるまで戦争をしたの?

 自分達が困る事は判っていたのなら何処かで止められたはずだよ?」

 

なのはの質問に提督が答える。

 

「食べ物が、足りなかったからだよ」

 

「食べ物……」

 

その言葉に思い出すのは、深海棲艦が攻めてきた初期。

未だ艦娘はおらず。

世界の制海権が奪われて物資が困窮した混乱期。

買占めに走る者がいた。

盗みに走る者がいた。

店からは、瞬く間に食べ物が無くなり人々の焦りを加速させた。

 

喫茶店である翠屋は、その問題が直撃した当事者の一つだ。

狂ったように食料を求める人々の光景は幼い心に焼き付いていた。

 

「現在、約35ある管理世界の食料自給率です」

 

大淀が、ホワイトボードに100%と書かれた赤い線の引かれた棒グラフを張る。

グラフの中で、食料自給率が100%を越えている世界は半分に満たない。

このグラフが正しいのだとすれば、次元世界の半分以上は飢えている事になる。

 

「……全然、足りてない」

 

「そうだな。

 多くの世界は、それを人々に認識させない事に腐心している節がある。

 貧困にあえぐ一部地域を作り出し、自分達の住んでいる世界とは違う事だと認識させる。

 明日は我が身である事に目を逸らす」

 

提督は茶を飲みながら、我が事ながら無常な事だなと呟く。

 

「そうした事情があるからこそ、管理局は150を越える管理外世界に対して不干渉の姿勢をとっています」

 

言外に言う地球も含めて食糧事情の良くなく、次元外に進出する技術の無い世界に構っていられないのだと。

 

「話は、ベルカ本星が崩壊し『聖王統一戦争』がおきる数百年前に遡ります。

 先ほど話した通り、どの世界も食料事情と言う物は厳しく。

 どの時代、どの世界であろうとも餓死者は少なからずいました。

 古代ベルカ時代は、聖王家の執政部が中心となって豊作であった世界から食料を買い付け仲介する事。

 医療の発達した世界や農業の発達した世界から指導を行い食糧事情の改善に着手していました。

 そうして、ギリギリのラインで回していた物流や技術交換の流れが、ベルカ本星の崩壊と共に崩れ落ちました」

 

「たいへんなの…」

 

「そう、大変な事になりました。

 ベルカ本星の崩壊に伴って大量に発生した難民。

 巨大な次元震による次元間航海の長期にわたる不安定化。

 もの凄い勢いで消費されていく食料及び資源備蓄。

 外貨を得られず、倒産していく生産産業。

 世界に溢れる失業者の群れ。

 その日の糧を得る収入を失い飢えながら死んでいく人々。

 食料を求めて次々と上がる内乱の火の手」

 

提督が説明に注釈を入れる。

 

「その難民を率いて移住してきたベルカの騎士が我々、提督と艦娘の先祖と言える」

 

大淀は、説明を遮るなとギンッとした視線を提督におくって説明を続ける。

 

「多くの世界がそうである以上、周辺世界に救いの手を差し伸べる余裕のある世界など存在しませんでした。

 食料生産世界だって例外ではありません。

 失業者によって生産力が低下している所に周辺世界から一斉にSOSが送られてきたのですから。

 問答無用で食料生産世界に襲い掛かる工業世界だってありました。

 これに対抗する為に食料生産世界が取った手段は、多くありません。

 武力において有力な勢力、世界に食料提供を交渉材料に自世界を護ってもらう事です。

 そうして形成された勢力を中心に戦禍は拡大していきました。

 戦争を止める事などできません。

 戦うことによって糧を得ている彼らは戦いを止めれば飢えて死ぬ事を知っているからです。

 例え、大儀名分を失おうとも止める訳にはいかなかったんです。

 そうして、世界に多くの悲劇が紡がれていきました」

 

「どうやって当時の人たちは戦争を止めたんですか?」

 

なのはの質問に提督が答える。

 

「ある程度、戦乱が進むと不可侵条約や友好条約、

 隣近所での大きなグループができる。

 あとは、それを繋ぐ組織ができれば和平交渉や休戦条約の交渉が劇的に進む。

 それが、聖王教会と管理局だ」

 

「聖王教会?」

 

初めて聞く単語になのはが首をかしげる。

大淀は、金髪を結い上げ柔らかく微笑む女性の写真を新たに張る。

 

「戦争末期、最後の聖王オリヴィエ聖王女殿下に仕えていた人々の末が聖王教会の前身となる組織を立ち上げました。

 聖王教修道会。

 彼らは、戦を良しとしなかったオリヴィエ聖王女殿下の教えを説いてまわり。

 正しき、教えを広めるという使命感の下に管理世界、管理外世界に問わず。

 聖王家と関係のあった全ての世界に修道院を設立していきました。

 元々、習慣として組み込まれていた聖王崇拝です。

 一部の衝突を除いて概ね良好に各世界に根付いていきました」

 

「聖王崇拝……」

 

「そうですね。

 ですが、王崇拝という概念自体はこの地球でもありました。

 古代ベルカにおいては、さらにそれは直接的です。

 偉大なる魔法の力で、風を呼び雨を呼び、緑を生み出し、

 襲い来る外敵を雷をもって撃ち滅ぼす。

 古代において、魔法を使い民を治める王は神と同意だったんです」

 

「それで、その人たちは何をしたの?」

 

「まず、各世界に設立された修道院を通して全世界に次元間通信網を構築しました。

 なのはちゃんに解りやすく言えばそうね。

 インターネットの回線を引いたと言えばいいかしら。

 それを信者に対して格安で利用できるようにしたの」

 

「インターネット?

 便利になるのは判るけど、それが世界平和に繋がるの?」

 

「便利なものは人々に受け入れられるの。

 彼らの教えは、それと共に人々に浸透していき厭戦空気が生まれていきます。

 情報の伝達がスムーズになる事で各世界の生産事情や今までできなかった世界間のやりとりが

 身近になり隣人の概念が生まれていく。

 管理局も独自に次元間通信網は構築していたけど、それは緊急用であったり。

 世界間の調停に使われる回線であったら民間に使用させる事はできなかった。

 それに民間使用に回すだけの人員もいなかったようだしね。

 修道院から得た情報を元に各世界の商人達が活発に動き出したわ。

 必要な機械や薬、食料の買い付け、販売にと次元間経済活動が復活していったの。

 そして世界に余裕が出てくれば管理局を通して休戦、停戦の条約が結ばれていたわ」

 

「だが、利敵行為だという政府の批判は、恩恵に預かっている商人の保護でかわしたのだが。

 強硬派の現地政府に襲撃されて燃え落ちた修道院も少なくない。

 現在、組織されている教会騎士団の主な役割は修道院の守護だった」

 

そこに提督が言葉を挟むが、大淀は言葉を続ける。

 

「商人達からの寄付金、回線使用料金などで活動資金を得た教会は、孤児院、病院、学校の設立に注力していくの。

 そうした中で特に力を入れたのが管理局株の買い付け」

 

「管理局株?」

 

なのはは、突然出てきた言葉に困惑する。

 

「当時の管理局の名前は、時空航行管理局。

 いってみりゃー次元航行艦を護る警察活動をしていたんだ。

 商業活動を活発化させて次元世界を安定させる事を狙っていた教会が支援するのは自然な流れだな」

 

提督の言葉を大淀が引き継いで補足する。

 

「現在において、聖王教会は管理局の筆頭株主であり。

 どの世界よりも多くの監査官を送り込んでいます。

 そして、我々と次元世界を繋ぐ重要な後援者でもあります」

 

「後援者?」

 

「管理局は、助けても利益の出ない世界より、自分の加盟国を優先して助けなくてはならない。

 となれば我々提督は、艦娘に関する技術と引き換えに聖王教会と友好を結んだのさ。

 簡単に言えば聖王教会の修道院を誘致した。

 治安を整えて、次元世界と取引ができる最低条件を整えるのに三年かかった」

 

管理局は、その地域を管理する国から管理費を受け取り治安を管理する機構だ。

それには国からの承認が必要であり、加入条件が飲めるか?税金から予算を捻出できるか?など様々な議論と国民の理解が必要であり。

加入による周辺諸国からかけられる圧力など即時に交流を持つのは不可能である。

 

法に照らし合わせれば、宗教法人であり、魔力通信事業者である聖王協会は民間組織であり、その誘致は個人事業でも可能である。

 

「私からすれば、よく三年程度でと思いますよ」

 

と大淀は呆れたように呟いた。

 

 

 

 

02

 

ロストロギアは戦乱で失われた技術の総称であり。

一般的には製造・制御の方法が失われた魔導兵器が有名である。

 

制御を失っているが故にその兵器は次元を超えて様々な世界に散逸した。

魔法が存在している世界、魔法の存在しない世界分け隔てなくその災禍を撒き散らした。

 

深海棲艦もその一つである。

 

遮るもののない青海。

水平線は丸みをおびており世界は丸いのだと実感させられる。

 

その青い世界に墨のような黒い点が表れる。

 

「おっ、敵艦隊みゆ!!

 上々だなおい」

 

飛行機にスキー板のような足がついた水上偵察機からの視界を共有して敵を見つける。

軽巡洋艦娘である天龍は敵を発見し上機嫌に声をあげる。

 

「あら~天龍ちゃんってば上機嫌ね」

 

その声にマストを模した薙刀に愛用の14cm単装砲を構えて同じく軽巡洋艦娘である龍田が戦闘態勢を取る。

 

「ここの所、護衛任務が多かったからな。

 後ろを気にせずやれるのは気が楽でいい」

 

天龍は眼帯の位置を直しながらマストを模した長刀を抜き放ち獰猛な笑みを浮かべる。

 

「チビどもは右から回り込め。

 俺と龍田は正面から囮になる。

 確実に仕留めろよ!!」

 

「レディを小さいなんて言っちゃダメなんだからね」

 

錨のマークがついた黒い帽子が特徴の駆逐艦娘の暁が過剰に反応する。

 

「ふふふ、怖いか?

 心配ないぞ、なにせ俺達がいるからな」

                            トップスピード

そう言って笑うとスピードスケータのように腰を低く落として第一戦速で駆け出していく。

そんな天龍の後ろを「あらあら」と笑いながら姉妹艦の龍田が続く。

 

「あーもう勝手なんだから!!

 雷! 行くわよ!!」

 

「もう、暁も

 もう少し素直になった方がいいと思うわよ」

 

そう言って天龍の指示どうり妹である第六駆逐隊を率いて暁は右に舵をとる。

 

天龍は、33ノットで海を駆ける。

単純に時速に換算すると時速61キロ程であるがタンカーを代表とする貨物船が15ノット程。

客船で20ノットほどであるのを考えるとかなりの高速である。

 

深海棲艦は、軽巡洋艦、重巡洋艦とその位階を上げるごとに人型に近くなっていく。

目の前に見える重巡洋艦のリ級などほぼ人型であり、両手に駆逐艦イ級に似た艤装を備えている。

 

「いるいる。駆逐が3、軽巡が2、重巡が1.

 たまんねぇなぁオイ」

 

天龍は、さらに腰を落とすと左右に軸をぶらして稲妻のように蛇行しながら突撃する。

 

前方6艦は高速で接近する天龍に対して砲撃を開始する。

間断なく撃ちこまれる砲弾は一斉ではなく僅かに時間をずらし連続して着弾する。

 

駆逐艦や軽巡洋艦は、その快速性を維持する為に防御は最低限まで削ってあると言って良い。

防御力に力を入れればその分、速度が犠牲になる。

そのようなものにリソースを回すくらいならば速さに回す。

 

駆逐艦や軽巡洋艦は、魚雷などによる水雷攻撃から戦艦戦隊を守る為に生まれた。

高速で艦隊に迫り、戦艦すら撃沈可能な魚雷は深刻な脅威と見なされ。

大型艦をも撃沈しうる厄介な小型高速艇を捕捉し撃沈する艦艇が求められた。

 

そう、彼女らは護る為に生まれたのだ

 

外洋での行動力と一定の対艦・対空・対潜能力を兼ね備え汎用性は極めて高い。

駆逐艦や軽巡洋艦は水雷艇の役目も包含した汎用性の高い戦闘艦として進化を始める。

 

敵を発見し喰い破る使命をおびた水雷戦隊への命令を極めて単純に表現すれば

「走れ、撃て」この二つの単語で事足りる。

 

「命短く駆けよ乙女!

 天龍様のお通りだ!!」

 

隠れる場所の無い大海では距離感を制した者が全てを制する。

ギアを変則的に変えてターンの距離の変化で幻惑する。

 

至近に砲弾が着弾しようと決して速度だけは緩める事は無い。

必中の射程に入る時間が一秒延びれば自分の寿命が一秒縮むのだ。

 

ガンスモークの煙に隠れたクジラのような駆逐艦イ級に必殺の砲弾を叩き込む。

三つの丸を頂点に持つ三角形の魔法陣が展開され砲弾を加速させる。

 

「喰らえ!!

 14cm単装砲!!」

 

打ち出された瞬間、魔力により圧縮されていた砲弾は本来の姿を現し凶悪な牙を剥く。

何かを撃ちだせば当然、撃った側にも同等の力がかかる。

通常は、後ろに押される力を前に出る力で打ち消すのだが天龍は、あえて”後ろに下がる”。

弾かれたように後ろに飛ばされ独楽のように方向転換した天龍の後ろには片膝を水面につけてスナイピングスタイルで構えるの龍田。

 

「死にたい船は、誰かしら?」

 

放たれた砲弾は、過たず軽巡洋艦ヘ級の頭を打ち砕く。

のけぞるように半回転し激しく水面にたたきつけられる敵に目もくれず。

天龍を追って龍田は左に飛ぶ。

 

鮮やか、あまりに鮮やかな手並、明らかな脅威に深海棲艦の目は左に飛んだ二艦に集中する。

 

「それは、余りに私たちを舐めすぎじゃないかしら?」

 

「電の本気を見るのです!!」

 

無視された形になる第六駆逐隊の駆逐艦娘4隻から一斉に魚雷が放たれる。

魔導の力によって往時の力を再現された酸素魚雷が吸い込まれるように残った敵艦に突き刺さる。

 

前述した通り、魚雷の威力は凄まじい。

3発と喰らえば堅牢な戦艦ですら沈める事ができる程の威力を秘めている。

 

当然、それが突き刺さった駆逐艦や軽巡洋艦など一溜まりも無い。

 

爆発の中、巻き上げられた海水は雨のように降り注ぎ海域に擬似的な霧がかかる。

 

ひび割れた装甲からオイルのような粘性を伴った血を流し赤い目を怨念に輝かせながら重巡洋艦リ級が立ち上がる。

 

そのような明らかな隙を…

 

「永全不動・御神真刀流・小太刀二刀術塾生 天龍。

 参る!!」

 

日本屈指の対怪物用の剣術を収めた軽巡洋艦娘が逃すはずが無い。

魔力の支援を受けずともドラム缶程度ならば容易く断ち切る太刀筋が魔力による支援を受け。

さらに時速61㌔の加速すらも威力に上乗せて放たれる。

 

斬撃は滑りやすい頭部を避けて柔らかい肩を確実に捕らえ脇腹にかけて真っ二つに切り裂く。

海上が爆発したかと見まがう震脚は余計な力を海に逃がしながらも振るった剣に確実に威力を伝える。

その前に鉄と等しい防御力を持つはずの皮膚は紙のように切り裂かれる。

 

「成敗ってな」

 

深海棲艦のオイルのように粘ついた血を振って掃い剣を鞘に納める。

二つに分かれて沈み逝く強敵を眼下に不敵な笑みを浮かべて海戦の終了を宣言する。

 

海鳴市は少々特殊なれど、近年では日本全国で見られる鎮守府近海の哨戒戦闘である。

 

 

 

 

 

 

 

03

 

扉を開ければ、応接セットと執務机、その背後に広がるミッドチルダの景色。

両サイドを本棚が埋め尽くす圧迫感が壁一面の窓ガラスの向こうの景色へと目を誘導する。

そして、ミッドチルダを背に轟然と佇む部屋の主。

 

よくできた部屋だと言える。

彼の信念をこれほどまでに形にした部屋は此処以外にありえないだろう。

 

部屋の主の名は、レジアス・ゲイズ。

 

『地上の守護者』と呼ばれている男である。

 

「第97管理外世界か……」

 

聖王教会を通じてベルカ自治区に留学してきている人物に関する報告書を読みながら壮年の男が呟く。

 

その世界の話を聞いて世界で一番頭を悩ませたのが、この男だ。

 

管理外世界にてロストロギアの発動を確認。

 

その一報がこの男に与えた心労は計り知れない。

 

現地の政府が白旗を上げて、海の部隊がロストロギアを鎮圧した後を考えるのは、この男の仕事である。

 

紛争の終結後、現地の治安組織が機能していれば、管理局は監視や助言をしていればすむが、現実でそんな事はまずない。

一方、「治安維持」の名の下に寄せ集められた近隣世界の警官が治安を維持できるかと問われれば否である。

治安維持組織の構造や機能は、その世界にあわせて独自に発展してきたものである。

違う世界の警邏を集めても部隊として機能させるのは困難を極める。

その為、ここ半世紀は各世界間の共通事項や了承事項の制定、多世界籍での合同訓練に注力する事になる。

次元社会における半世紀の試みを検証すると、以下の教訓が引き出せる。

 

第一に紛争終結後、次元社会が、崩壊した現地政府に変わって治安を維持しなくてはならないケースが多い。

この場合、短期間で集中的に人数を入れなくては、混乱で国が崩れかねない。

これを一国で担うのは難しく多数の国家が共同で行うのも難しい。

警察と司法を違う国が担当すれば両世界の制度が異なる為に関連して機能せず、摩擦による争いがおきる。

役に立たないどころか、現地で深刻な問題を起こすことがある。

 

その為に管理局が生み出したのが次元航行艦隊であり地上部隊、次元世界法である。

短期間で十分な人数を得ることができ、日ごろから各次元世界に武装隊をプールしておく。

それと同時に、任務遂行のためお互いの技術、手法を可能な限り標準化しておく必要がある。

一口に武装隊と言っても、機動隊のような任務から交通、犯罪捜査、市民警邏まで様々である。

どの要素が、いつ、どれくらい必要か?

司法部門が機能していない地域の治安をどうやって維持するのか?

これには、大規模戦争が終結して65年の現在に至るまで明確な答えは出ていない。

 

この議論の相違によって、紛争地域が終結するごとに大規模な人員の引き抜きが行われる。

これを原因として地上部隊と次元航行部隊との溝が深くなっていくのである。

 

この訳は第二問題にある。

ある程度社会が安定してきならならば、可能な限り素早く治安権限を現地政府に引き渡すのが最良。

これが長引けば長引くほど、現地政府に対する住民の信頼は薄れ社会経済と治安を不安定にする引き金となる。

また、新政府に新種の植民地であるような疑念を抱かせてしまっては円滑な次元世界交流に影を落としてしまう。

だが、彼ら単体で治安を維持するには多大な不安が残る。

そこで、駐留する武装隊の指揮権を現地政府に移譲して管理局との繋がりを強く残しつつ社会機能維持を現地政府に引き渡す。

新しい、地上部隊の誕生である。

 

たまらないのが人員を引き抜かれた他世界の地上部隊である。

他世界の地上部隊の中核になれるような人材は、その世界においても中心となれる優秀な人材に他ならない。

それを他世界の安定の為とは言え引き抜かれてはたまらない。

その為に一から人材を育てなおさなくてはならない上、何時引き抜かれるか判ったものでは無い。

人員を引き抜かれた後には、治安維持に穴が空き。

それを理解している次元犯罪者につけいられる事態が多々ある。

新たな人材を育てる為に余裕の無い人員の中から、さらに人が削られる。

新しい地上部隊の為に新たな予算が組まれる。

そして、各地上部隊の予算が削られるなどと言うのは良くある事。

 

一番のしわ寄せが来るのが第一世界ミッドチルダであり、その地上本部を統括するレジアス・ゲイズである。

 

「艦娘か……次元世界では到底できない事をやってのける」

 

その言葉は、小気味よい笑いを含んだものだった。

管理外世界からベルカ自治区への留学。

たとえ、自治区とは言え、次元間を移動する場合、管理局の入国管理を受ける事になる。

犯罪者や違法な移民の流入を防ぐ為には必ず必要な措置である。

 

「BランクからAAランクの移動者10名にその使い魔625体」

 

明らかに桁がおかしい。

これでは、せっかくのBランクやAAランクの魔導師達が殆ど魔法を使う事ができない。

この艦娘提督と呼ばれる魔導師達は、その魔力を使い魔達に食いつぶされてEランクかFランク程度の魔法行使しかできない。

艦娘達も大半はEランクからCランクで少数のAランクが散見されるだけである。

魔導師ランクによって様々な免除が受けられる管理世界においてはありえない魔力容量の使い方だ。

 

「倫理的に問題が少なく。

 同一規格の使い魔を量産が可能」

 

艦娘は、魔力とプログラムで体を作る為、量産がしやすい。

通常の使い魔とは違って死体を利用する必要が無く心理的な抵抗が低い。

使役獣と違い育てる手間が大幅に短い。

 

数とは、最も単純な力である。

一人ではできない事でも二人いれば可能な事が多い。

 

たとえ能力が劣っていようとも一人では物理的な限界が存在する。

効率の上昇は力の大小とは別問題である。

 

ミサイルを防げる壁が一枚あるより銃弾が防げる壁が三枚ある方が圧倒的に便利なのだ。

 

部隊を運営するには、戦力が違いすぎると非常に使いにくい。

戦力が違いすぎると部隊を交代させて休ませる事ができなくなるのだ。

 

A部隊とB部隊の戦力に二倍の差があるとする。

Aを休ませるとBでは戦力が足りないので他所から部隊を持ってこなければならなくなる。

 

Aの人数を半分にしてローテーションを組むとAを分けた部隊から数の多いBを妬む声が出てくる。

 

『俺達は少ない人数でやってるのにヤツラは倍の人数でやっている』

 

給料などでその不満をカバーしてもAからもBからも不満が出る。

 

大きな駒は強力であるが使いにくい。

そうした駒を艦娘の製造技術で適度に調整する事ができれば大きな力となるだろう。

 

「問題は、それを良しとする魔導師が少ないであろうと言う事か」

 

使い魔を維持する為に魔力を取られれば自分が使える魔力が少なくなる。

ランク取得試験などで不利になる。

 

出世にダイレクトに響くのである。

 

それに自分一人ですら持て余しているのに人並の知性を持った生き物の保護責任を課せられる。

食事や住む場所の確保など課題は多い。

 

家族を持つだけの甲斐性のある人間でないと使い魔を持つのが難しいのが現状となる。

 

有用とは解っていても使い魔が普及しない理由の一つとなっている。

 

「何かを成すには人手が必要。

 人手を動かすには予算が必要。

 予算を得るには実績を積むしかない。

 だが、実績を積み上げるのにも人手はいる。

 

 何につけても予算、予算。

 全く、ままならないものだな」

 

『戦闘機人計画』と書かれた書類に目を落としながらレジアスは愚痴をこぼす。

 

誰もが問題を抱えており、

誰もが問題を打破する力を求めている。

 

 

現状の手駒で今日を凌いで明日を作り出す。

 

管理職というものは何処までいっても修羅の道である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話 艦娘

 

 

全てが失われようとも、まだ未来が残ってる。

 

クリスチャン・ボヴィー

 

 

 

 

01

 

人を形作っているのは骨と肉であり、それを維持するには肉の補充が欠かせない。

鋼の骨に魔力の肉が艦娘を構成し、魔力さえ与えられれば何かを食べる必要は無い。

 

全世界が深海棲艦との戦時中と言える現在。

食料、燃料は貴重品である。

日本においては、休田の復活。

空洞化した地方農地に艦娘達が大量に滑り込み。

秋には黄金の稲穂で満たされた地域も多い。

艦娘の活躍と聖王教会の誘致によって劇的に食糧事情を改善した日本であるが……。

その総数が一億に手が届きそうな艦娘達に行き渡らせる程の食料は無い。

 

「榛名は、提督の魔力さえ頂ければ大丈夫です。

 だから提督はしっかりと食べてくださいね」

 

誰よりも血を流し、誰よりも傷つき、厳しい戦いの中で散った者も少なくない。

そんな彼女達は笑って言うのだ。

 

「夕立は食べなくても大丈夫っぽい。

 だから提督さんは、おなか一杯食べるっぽい!」

 

その言葉の数々に覚悟を決める提督は多い。

 

なかでも積極的に協力を申し出てきたのは漁協だ。

漁業従事者は、艦娘と共に船を出す。

 

「提督! ゴーヤ魚群を見つけたよ!!」

 

「大漁や!

 提督、魚を追い込むで!!」

 

始まりは遠征や出撃に出ていた艦娘が何かの足しになればと魚を取ってきたこと。

やがて、間宮や鳳翔といった料理を得手とする艦娘達が残った魚で炊き出しを始める。

漁協がこれに大きく反応を返し、各地の鎮守府が各地の漁協と手を組んで操業しはじめる。

 

艦娘が生まれた当初、最も困ったのは住居である。

生活の上で大事とされる衣食住。

衣は、バリアジャケットと呼ばれる魔力で編んだ防護服があり。

ダメージを受けると破れてしまう仕様であるが、そのダメージも砲弾クラスでないとビクともしない丈夫なもの。

汚れもバリアの言葉通り一度解除して張りなおせば新品同様である。

服としてこれ以上のものはない。

デザインにもある程度融通がきき上着やアクセサリーを付け加えて他の同型艦娘と区別化する提督は多い。

 

食事は、前述した通り。

食べれない訳でも味覚が無い訳でも無いが必須では無い。

だからと言って納得できる人は少なく。

せめてと用意しやすく物資負担の少ない飲み物やスープ類を充実させる提督が多く見受けられる。

 

基本的に艦娘の所属は海自である。

名を消された始まりの提督によって海上自衛隊員の魔力持ちが探し出され。

最初に組織された横須賀鎮守府に集う艦娘の数は5千を越えた。

 

彼女達の最初の鎮守府はテントと仮設住宅の粗末なものだった。

民間から次々と誕生する提督達とネズミ算が可愛く見えるくらいの勢いで数を増やす艦娘。

 

全ての海岸線で深海棲艦の襲撃が確認され、使えるなら猫の手でも借りたい状況。

誰もが自らを護る強力な守護者を必要としていた。

 

全国の避難所で誕生する艦娘達。

彼女らは自らの提督と共に避難所から自宅に戻り。

ビル持ち、マンション持ちの提督達は艦娘警護中の看板と共に操業を再開する。

提督掲示板では、そうした提督が他の艦娘の住居に困った提督に手をさしのべ。

街に人が戻れば仮設住宅が空き、スライドするように艦娘が滑り込む。

 

そうして彼女達は、学校のグラウンドの仮説住宅から漁協の簡易住居、提督の自宅や共同マンションと。

日本中に広がっていく事となる。

 

艤装を纏った彼女達は、とにかく力持ちだ。

幼い駆逐艦娘ですら、魔力によって強化された力で200㌔くらいの荷物ならば軽く持つ。

戦艦娘にいたってはトンクラスの荷物も一人で運べてしまう。

もちろん、持ちやすさや大きさで大きく左右されてしまうが彼女らは数が多い。

多くの場所で物資や家具などを運ぶ彼女らの姿が見られた。

狭い日本、重機の入れない場所も多く。

深海棲艦との戦いで生み出された瓦礫は多かった。

 

そして陸自が動く。

 

「各地で目覚しい活躍をし甲斐甲斐しく働いてくれている艦娘に対して海自は十分に報いていないのではないか?」

 

彼女らの本領は海であるが、陸でも十分強い。

一番弱い駆逐艦娘が装備している12㎝単装砲であるが、言い換えれば120㎜砲である。

これは自衛隊の主力戦車である10式戦車(ひとまるしきせんしゃ)と同じ口径であり。

戦艦娘に至っては35.6㎝連装砲が基本であり、口径に至っては三倍の大きさがある。

 

当然、同等の装備の敵と戦うのが前提にある艦娘の防御力は高い。

当時の戦闘艦のセオリーは自艦の砲撃に耐えられるのが基本であり艦娘もそれに準拠している。

 

陸上兵器で艦娘を倒そうと思えば最低でも戦車が必要である。

 

艤装が重いため地上では、歩くしかない彼女達ではあるが

彼女らは人型であり、艤装が邪魔ではあるが車やバイクの運転を覚えて使いこなすだけの器用さも持っている。

ならば、後はデザインの問題だ。

艤装をつけていも乗り降りや運転に支障の無いバイクや車があれば彼女らは地上でも十分な機動力を確保できる。

 

重いとは言っても戦艦娘でも乗用車程度の重さであり電車や飛行機で艤装ごと輸送される艦娘は多く見受けられた。

 

陸自が欲しがらない訳が無い。

 

「強くて、健気で、美人さんの集団を独占するのはズルくない?」

 

ぶっちゃけ本音を一行で現すとコレにつきた。

当然、陸自の隊員からも『提督』を募っており。

半信半疑で海自に出向した陸自隊員が成果を出す頃には、艦娘の生産技術は海自がガッチリと握っていた。

日本領海を深海棲艦から開放して陸自に艦娘と共に復帰した提督達が陸上で見せる活躍。

復興支援でも多大な活躍を見せる艦娘をもっと多く確保したくなるのは自然な真理と言えた。

 

だが、新規に艦娘を生み出せるのは海自で、提督になりたい人は海自に行く。

結果として魔力持ちは陸自に来なくなる。

 

そこで、サポートが十分ではない住環境を理由に介入してくる事となる。

 

そこからは上層部の殴り愛。

さして面白いわけでもなければ、話して楽しい事でもない。

 

多くの民間提督が、近場の駐屯地の支援を受けて斑模様の勢力図を築いていくこととなる。

 

 

 

 

 

02

 

居酒屋『鳳翔』

今や全国に同名の店舗が多く見られる艦娘のチェーン店である。

提督には提督同士のネットワークがあるように艦娘にも艦娘同士のネットワークがある。

そこで手いれた他鎮守府の情報は噂となって広がるし、有益な情報は積極的に交換しあう。

 

『鳳翔』や『間宮』も最初は、提督の為に取ってきた魚が余ったものを融通しあって炊き出しを始めたのが開店の切欠である。

艦娘が自主的に始めたものであり、店舗の設営などは提督が関与したものの後はノータッチ。

店を基点に連絡網が完成し、隣近所の鎮守府の緊急事態に対する即応性は何処よりも早い。

 

その経営形態から、提督同士の会合や作戦の壮行会から打ち上げなどによく利用される。

 

「提督。

 何か心配事ですか?」

 

夜も更け、暖簾を下ろした店で店主である鳳翔と提督が、漬物をつまみに日本酒を酌み交わす。

 

「心配事と言うより、厄介ごとかな」

 

苦笑いを浮かべて提督は鳳翔に告げる。

 

「あら?

 バニングスさんに船住みの提督になってくれって言われた件ですか?

 私達は、何処にだって貴方についていきますよ」

 

海運会社に艦娘ごと雇われ、タンカーに住居施設を増設したものを鎮守府として運営し海暮らしをしている提督がいる。

彼らは海上貿易の要であって全世界で活動している。

 

海外において自分を護れるのは自分のみである。

情勢が不安定な海において艦娘提督は一番の宝と言える。

その身を狙ってくるのは深海棲艦のみならず人類からの襲撃も多い。

 

『海賊』全人類が餓えて弱っても逆に元気になる人種もいるという象徴である。

世が乱れれば乱れるほど元気になり、何処にでも湧いてくる。

 

タンカーの物資、現代の魔法の杖である艤装、美人な艦娘と魔力を持つ提督。

 

海において、これほど魅力的な獲物もそうは無いだろう。

 

始末が悪いのは現地政府が一枚噛んでいる場合が結構あるという碌でもない事実である。

濡れ衣を着せて提督を拘束しようとした所も結構多い。

 

勿論、艦娘達が黙って自分の提督を渡す訳が無く。

これら『海賊』を撃滅した例は多い。

 

「いや、海鳴大学病院から要請がきてね」

 

そう言って鳳翔に見せたのは一枚の要請書。

 

「先日の魔力検査によって魔力欠乏症の可能性が浮上した患者に艤装による魔力供給を試してみたい。

 患者の魔力容量は………S!!」

 

その数値に鳳翔は驚きの声をあげる。

間違いなく、日本全国で確認された魔力持ちの中でもベスト3に入る。

 

「石田医師からの要請でね。

 原因不明の体の痺れが、艦娘と契約しすぎて魔力欠乏症になった患者の症例と似ていると報告が来た。

 検査の結果、魔力の容量はSという膨大なものでありながら残有魔力がゼロに近かったそうだ」

 

「これの何処が厄介なのですか?

 特に問題も無いと思われますが」

 

魔力保持者を保護する為に検査を行ったのだのだから病気の原因が魔力にあるとわかったのは朗報だ。

 

「そこには、彼女の経歴と保護者がなによりも問題なんだ」

 

「八神はやて、8歳。

 誕生日は6月4日。

 深海棲艦の襲撃で両親を亡くして……現在一人暮らし?

 

 ちょっと待ってください提督!!

 

 両親が亡くなったのが三年前となっていますが、その時の彼女は5歳ですよ!!

 周りは何を考えていたんですか!!」

 

提督が渡した資料を読んだ鳳翔が眦をあげて提督につめよる。

彼女は面倒見のよい鎮守府の母親役をこなしている場合が多い。

海鳴鎮守府は、駆逐艦が多く彼女はよく面倒を見ていた。

 

「その当時は、財産管理人であるギル・グレアム氏の親族が生活の面倒を見ていたそうだ。

 まぁ、追跡調査によると家事などを問題なくこなせるまで覚えた一年後くらいかな?

 面倒を見ていた女性は姿を見なくなったそうだ」

 

「児童相談所は何をしていたんですか?」

 

「当時は、混乱の中にあったからな助け合いの輪から外れて孤独死なんて珍しくなかった。

 自殺者も多かった。

 孤児に至っては自主的に保護を求める者に対応するので手一杯だったそうだ」

 

苦味のはしったしかめ面をする提督の目を真っ直ぐに見て鳳翔が言う。

 

「ウチの鎮守府で保護しましょう。

 明らかな育児放棄です。

 強権を行使してなんら問題はありません」

 

「普通ならばな。

 だが、保護者が問題だ。

 強権を行使すると最悪戦闘がおきる」

 

「それが、どうしました。

 私達は提督の指揮下にて無辜の民を守る為にいるのです。

 それが、貴方の中で正しいと信じるのであれば、

 貴方は私達に命じれば良いのです。

 

 出撃せよ!と」

 

 

その顔に迷いは無い。

彼女達は、暴力でもって民を守る為に生み出された軍艦の魂を継ぐ者達。

見た目は可憐でも戦うと決めれば迷う事は無い。

 

自分が正しいと感じ、提督が迷っているならば、迷わず彼女達は提督の背中を押す。

 

大丈夫、私達がついてるじゃない!!と

 

「サー・ギル・グレアム氏は英国の英雄だ。

 彼は深海棲艦の襲撃から祖国を救い。

 女王陛下より騎士の称号を与えられている」

 

「深海棲艦から?」

 

鳳翔が聞き返す。

敵戦力を推察するための情報には貪欲であれ。

それは、前世で痛いほどに実感した事だ。

ギル・グレアムが深海棲艦を退けたという事は自分達を同等以上の力を持っている事に他ならない。

 

「時空管理局・顧問官 ギル・グレアム。

 地球出身の魔導師で、一部門の長にもなった人物だ。

 海から押し寄せてくる深海棲艦の群れを彼と彼の使い魔二体で撃退したそうだ」

 

提督がスマホにその映像を再生させる。

 

 

 

 

 

 

老人が、二匹の猫を肩に乗せ、眼下に海を見下ろす高空から敵艦隊を見下ろしている。

老人は、懐からカードを取り出し起動する。

その身を包むのは、白と青を基本とした管理局本局の制服をアレンジしたバリアジャケット。

手に握られるのは、花の蕾のような形状の出力器を先端に持つ魔法の杖。

ただ起動しただけであると言うのに出力器に据えつけられている蒼いクリスタルからは冷気を伴う魔力が放出されている。

 

 スティンガー レイ

『Stinger Ray』

 

接近してくる敵艦隊に対してグレアムの右肩に座る仔猫が魔法を起動。

グレアムの眼前に展開される十数個の魔方陣から速度とバリア貫通能力に優れた光弾が連続で発射される。

それらは一撃も外すことなく深海棲艦を撃ち抜き戦艦ル級の装甲を打ち砕く。

 

空母のヲ級が、上空にいるグレアム達を撃ち落すべく行動を起こす。

頭部の帽子のようなモノの口が開き何百という艦載機が飛び立つ。

カラスの頭部を黒く塗り、人の歯で武装したような禍々しい艦載機は群れをなして老魔導師に迫る。

 

グレアムの左肩に乗る仔猫が、ひらりと舞い落ちる。

くるりと回転しながら軌道を修正、光を纏い、光を散らしながら人型となって艦載機の群れに迫る。

頭上に掲げるのは拳では無く、指を折り曲げた平手。

指の先に伸びるのは魔力で構成された光爪。

猫娘と敵艦載機は、微塵もスピードを落とすこと無く交錯。

猫娘は、螺旋の捻りを加え速さを得たビンタ。

艦載機は、口に据えられた機銃を放つ。

両者が交わる一秒にも満たない時間で交わされた二合の剣戟と銃撃は空間に水色と闇色の燐光を残すのみ。

機銃の銃撃は猫娘のバリアジャケットを撃ちぬけず魔力の爪は敵がクッキーであるかのようにボロボロと削り落とす。

 

少女と艦載機は、螺旋を描きぶつかり合いながら上空へと駆け上がってくる。

 

グレアムは、己の使い魔達の攻撃を受けても進行速度を落とさぬ深海棲艦を見て不動。

その顔に笑みも無ければ、驚愕も無い。

 

王者は動かない。

 

やがて、グレアムを射程に収めた戦艦級、重巡洋艦級が主砲による対空砲撃を開始する。

銅鑼を打ち鳴らすような砲音に海上がガンスモークで真っ黒に染まる。

 

 ラウンド シールド

『Round Shield』

 

突き出した刃先を中心に幾重にも光壁が展開し、敵砲弾と衝突する。

防壁はガラスを砕くように次々と砕かれる。

弾丸を使用した闘争において、弾丸が届かぬように盾を用意する。

弾丸と盾の間で繰り広げらる終わることの無い闘争。

盾は、護り手の意思を砕かせぬ為に厚く、硬く。

弾丸は、撃ち手の狂気を貫かせる為に鋭く、速く。

 

盾に込められた防護の魔力は凶弾の前に立ちふさがり。

弾に込められた狂気の意思は、魔力の力を受け盾を打ち砕く。

 

止まる事の無い進撃を続けていた深海棲艦の動きが唐突に止まる。

目に見えぬ程細い光の輪が、蜘蛛の巣の如く張り巡らされている。

 

そこで、初めてグレアムの瞳に熱が宿り。

楽団の指揮者の如く杖を振り上げる。

 

 スティンガー ブレード・エクスキューション シフト

『Stinger Blade Execution Shift』

 

高らかに謳い上げる声と共に上空に展開された数百の剣が蜘蛛の巣に捕らえれた艦隊に襲い掛る。

その剣の津波は、深海棲艦を覆いつくし、蹂躙する。

時折おきる魔力刃の爆散による爆煙をひきながら眼下の海に数十メートルは届こうかという水柱を作り上げた。

 

 

開始、1分。

両者の間で交わされた攻防は数百を越え。

 

王者は、悠然と上空に佇み。

侵略者は、海底へと叩き帰される。

 

 

 

 

「すさまじいですね」

 

鳳翔は、口に手を当てて息をのむ。

 

「正直、正面からは勝てる気がしない。

 彼は現在、宮廷魔導師として英国軍に魔法を指導している。

 まぁ、これもはやて嬢を一人にした理由の一つだろう」

 

「ならば、一緒に英国へ連れて行けばいいだけの話です。

 見た限り、彼がいれば安全面は万全、渡英に問題は無いはずです。

 混乱していた日本に残す理由がありません」

 

提督の言葉を鳳翔は、即座に否定する。

 

「難しかったろうな。

 俺もそうだったが、未知の外敵に対抗できる新技術を持つものというのは狙われる。

 俺は名を失い。

 親兄弟は保護の名の元に電話もできない。

 英国は日本と立地条件がほとんど変わらない。

 国民も魔法というものを素直に受け入れる素地がある。

 国民に銃の所持を認めていないから管理局法の受け入れもスムーズだ。

 なにより、管理局顧問官とに直接コネがある。

 だから、彼女狙い目だ。

 イングランド、スコットランド、アイルランド。

 決して、英国は一枚岩の国家では無い」

 

「その英雄がSランク魔導師の素養を備えた幼い女の子の保護者」

 

提督は苦い顔をしながら答える。

 

「ウチで保護すると英国や管理局から直接苦情がきそうだろ?」

 

「世知辛い話ですねぇ。

 でもやるんでしょ?」

 

そんな提督に鳳翔は笑顔で問い返す。

 

「地獄の底までついてきてくれるかい?」

 

おどけたように提督が返せば、

 

「喜んで」

 

華が咲くような笑顔で鳳翔が返した。

 

「よし、全艦を集めろ。

 作戦会議だ」

 

 

そうして、『八神はやて、確保作戦』が発動される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 闇の書

孤独は山になく、街にある。

一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の”間”にある。

(三木清)

 

 

 

 

 

01.

 

彼女は、死が必ず訪れるモノであると言う事を知っていた。

その訪れには予告がある時が多いが、時に死神は予告無しに訪れる。

 

彼女の両親が、正にそれであった。

 

彼女に残されたのは、空っぽの家と何時の間にかあった一冊の本。

 

深海棲艦と呼ばれる嵐は、彼女の両親のみならず。

多くの者の命を理不尽に奪って言った。

誰もが他人を構う余裕を無くし、明日の糧を心配するようになっていく世界。

優しさとは余裕の表れであり、人々は優しくあるための力を失っていった。

 

そんな中で彼女に一本の手が差し伸べられる。

 

彼女の両親の友人であるという人物がやってきて両親の残した財産の管理とこれからの生活援助をしてくれる事となった。

 

彼女の名は、八神はやて。

両親の友人を名乗る人物の名はギル・グレアムと言った。

 

グレアム氏は、海外の人であり仕事場も外国を飛び回るような仕事をしているらしい。

彼は、一年かけて一人で暮らす為の最低限のスキルをはやてに与えると。

はやてを戦場の溢れる世界へ連れて行く事はできないと言い、彼女を日本に残した。

 

そうして、彼女の一人暮らしはスタートした。

始めは戸惑う事も多かった家事であったが、

洗濯などは自動化されているし、料理については教本が多い。

彼女が元々、器用なほうであったのは幸いだった。

彼女は順調と言える滑り出しで一人暮らしをマスターしていった。

 

むろん、一人が寂しくない訳が無い。

誰も居ない家が、怖くなり、毛布をかぶって震えながら眠った夜があった。

テレビの音が響く家で、孤独を感じて膝に抱いたクッションを濡らした事もあった。

 

ああ、人が死ぬと誰もが、こんな寂しさを味わうことになるのか。

 

聡明な彼女は、周りの子供達より早く死を考え、死を恐怖した。

 

リビングで、笑っていた父を覚えている。

台所で、鼻歌を歌っていた母を覚えている。

 

寂しい、悲しい。

だが、人に迷惑をかけてはいけない。

それは、父や母とした数少ない約束の一つ。

 

彼女は、悲しみを隠して周りの人々には笑顔をみせて暮らしていた。

 

そして、定めの日が訪れる。

 

違和感は感じていた。

時折、足の反応が鈍くなる時があった。

違和感は大きくなっていった。

やがて足が上がらなくなるまで、さほど時間はかからなかった。

 

倒れた彼女は、海鳴大学病院に担ぎ込まれる事となる。

 

診断の結果は、原因不明。

神経系に何らかの負荷がかかっているため、

筋肉に指令が届かないのでは無いかと診断された。

 

主治医である石田医師の下で一ヶ月ほどの検査入院を経たが原因は判らず。

そのまま学校を休学して、学業自体は在宅教育に切り替え。

定期的に病院に通う日々を過ごすこととなった。

 

身体障害者用の学校は県に一つはあるものだが、あいにく海鳴の近くには無かった。

ハンデを抱えながら普通校に通う事となる事は、ままある。

 

そして“他と違う子供”と言うものはデリケートである。

 

両親や周囲のサポートがあるのであれば安心であろうが

“八神はやて”の特殊な事情はリスクが高すぎた。

 

病院に入院して様子を見るという手段は無い。

日本の医療事情は、非常に厳しい。

病名もはっきりとせず、

何時まで入院すれば良いのか判らないような患者に与えられるベッドが無いのだ。

重症患者ですら

入院の基準日数超過によるペナルティを恐れて放り出される時勢である。

 

増して今は深海棲艦との戦時である。

病院は常に緊急時に対応する為の余力を残しておかねばならず。

精神性の疾患で体に不調を訴えるものは多い。

彼女もそんな一人の中に埋もれてしまうのも仕方の無い事と言えた。

 

病院だって商売でありボランティアでは無い。

儲けが無くては医者や看護士を養っていけない。

保険事情が国の定める法律に寄っている以上、

医学的もしくは心情的に不適切でも放り出さざるを得ない。

 

結果、自宅療養で様子を見つつ通院。

学業は、自宅での教育で単位を取る。

 

彼女は、世間の隙間に弾き出されてしまった。

 

幼い彼女は、そんなものかと思い。

誰に顧みられる事も無く、誰の迷惑になる訳でもない状況を受け入れた。

 

断続的に襲ってくる痺れと痛みは、否応無く死を思わせ一人の家は寂しさを増した。

 

襲撃警報の音は、あの日を思い出させ動かない足を抱えて泣いた事もあった。

 

時折やってくるグレアム小父さんの手紙は、何時も自分への謝罪から始まっていた。

そんなに気にしなくても良いのにと思う一方、

気にしてくれる人が少なくとも二人は居る事が嬉しかった。

 

図書館へ通うようになった。

静かではあるが、周りに人がいる空気が好きだった。

そして、自分が居ても違和感を覚えない数少ない場所だった。

字の多い本は、読んでいて疲れる。

だが、そこには疲れを忘れさせるだけのモノが存在していた。

 

そこでの自分は、多くの騎士を従えた王であったり。

風を呼び、雨を呼び、緑を生み出す偉大な魔法使いであったり。

邪悪を打倒し正道を貫く騎士自身となれた。

 

多くの者が、苦難を乗り越えて栄光を掴んだ。

多くの者が、栄光の果ての謀略を乗り越えられず悲劇的な末路をたどった。

 

新しい物語の多くが幸せな最後を迎える。

だが、古い物語になればなるほど、多くの物語の終わりは主人公の死で最後を迎える。

 

死に近い位置にいた彼女は、幸せのうちに終わる物語より。

死をもって終わる物語に惹かれていった。

 

ある英雄は、妻の疑心によって毒をもられて死を迎えた。

ある英雄は、己の不義理を妻に恨まれ謀略によって塗炭にまみれた死を迎えた。

ある英雄は、息子の反乱によって命を落とした。

ある英雄は、身内と己の名誉を護る為に命を落とした。

ある英雄は、愛する人と幸せになる為に逃げ裏切りによって命を落とした。

 

どれもこれも家族とほんの少し行き違わなければ良かったものばかりだ。

どのような難行を乗り越えた英雄も家族には、勝つことができなかった。

 

ああ、自分は家族を大切にしよう。

たとえ、自分の終わりが家族によるものであれ、その時は微笑んでいこう。

 

「まぁ、そうは思ても……私に家族は、おらんけどな」

 

十年後に彼女が、鎮守府のお母さんと呼ばれるようになり。

ミッドチルダで新設された鎮守府にて

多くの艦娘達と共に問題を抱えた子供達を育成する事になる。

 

そんな彼女の始まりは、この小さな誓いから始まることとなる。

 

 

 

 

 

02.

 

「そうですか、新しい治療法を……」

 

ギル・グレアム時空管理局・顧問官は、中継ポートを通して

第97管理外世界の病院へと電話をかけている。

これは、週3回のはやての通院日には必ずかけるようにしている習慣である。

 

『はい、鎮守府の全面的な協力を得られるようになりまして。

 あちらの伝手を使って、ベルカの魔法疾患の資料も集めてくれるそうです』

 

現在は、イギリス軍のアドバイザーもしており。

二束の草鞋を履いて両世界の架け橋として精勤に励んでいる。

 

ロストロギア事件は、何処であろうと発生する可能性がある。

それは、それだけ古代ベルカという文明が広く広がっていた証拠であり、

戦乱がいかに広範囲を覆ったかという事でもある。

 

故郷が、ロストロギアの被害にあったと聞いた時。

ついにこの時が来たかと思い、執務官長であった頃の伝手を使い即座に動いた。

 

執務官とは、事件捜査を自分で請求できる立場であり。

証拠さえ揃っていれば、独自の裁量で犯人を逮捕する事ができる。

自由に動かせる人員としては100人ほど(ランクとしてはBもしくはC中心)

の中隊クラスの指揮権を行使する事ができる。

管理局全体で見ても6パーセントほどしかいないエリートの集団。

執務官試験は半年に一度、筆記も実技もそれぞれ合格率は15%以下の難関である。

 

そこの一部門長であったグレアムの手は広く。

かつて、部下であった者に捜査権を獲得させると

現地アドバイザーの地位に納まり事件解決にのりだした。

 

そして、事件は暗礁に乗り上げた。

深海棲艦の核を生み出す姫級と命名された上位固体。

通常のロストロギアであれば、こうした上位固体を全滅させれば、

後は下位固体を殲滅して終了である。

 

だが、彼女らは忌まわしい能力を有していた。

 

『転生機能』『無限再生機能』

 

姫級の上位固体を破壊すると転生機能が発動し下位固体に転生。

無限再生機能により、新たな姫級が誕生する。

 

ならば、と姫級の固体を封印すると下位固体が進化して新たな姫を生み出す。

 

その様は、細胞分裂で増え、環境が変化すると雌雄を生み出すアメーバーのようだ。

 

増殖力は強く。

されど、世界を破壊できるほど強くもなければ知恵も無い。

 

実に優秀な侵略兵器と言えた。

 

おそらく、送り込んだ後。

終わりの無い持久戦に引きずり込み。

相手国が疲弊して降伏するまで暴れまわらせる“だけ”の兵器なのだろう。

相手を弱らせる事に特化しており、土地が受けるダメージは最小限。

下位固体の知能は昆虫並みで話し合いによる和平も不可能。

イナゴのように人類という名の穀物を食い荒らす害虫である。

実にいやらしい。

 

相手が降伏しなかったとしても人類が全滅に近いダメージを受け。

エサが無くなった深海棲艦が全滅してから征服すれば良いだけの話。

 

もちろん、こうした危険生物がいる星にも人類は立派に生存している。

他の世界から地獄に見えても人類は生き汚く、しぶとい生き物である。

どれほど生き難い環境でも適応し、

それなりに人生をエンジョイしてしまえるのが人類という種。

 

例えば、龍種のいる世界。

人々は、魔法によって龍自身を守護者にしたてあげ。

里を護り生活している世界がある。

 

人間などひき潰せそうな巨大な昆虫がいる世界。

その世界では虫の神経系を掌握して操る魔法が生み出された。

 

では、この世界では?

 

答えは極東にて生まれた。

 

『艦娘』

 

滅びをもたらしたのもベルカの業であれば、救いを生み出したのもベルカの技。

深海棲艦に対抗する為に生まれた新たなる生命は、

瞬く間に数を増やし世界中の海で戦い始めた。

 

これは、よくある悲劇だと。

この世界でおきたロストロギア事件を軽視していた者達も目を疑った。

 

魔法技術など無く、逃げ出す為の次元航行技術も無い。

すぐに根をあげて助けを求めてくるだろうと予想されていた。

その窓口となるのは、この世界出身の魔導師であるギル・グレアムであり。

 

そこから、魔法技術がこの世界に浸透して新たな管理世界の秩序が生まれると。

 

だが、名を忘れられた騎士達が、

忘れ去られた技術共に立ち上がり無辜の民を護る為に立ち上がった。

これに喝采をあげたベルカ系の騎士も多い。

 

何より、人材不足に悩む次元世界にとって、艦娘の増え方が何より驚愕をよんだ。

魔法の無い世界で隠棲するベルカの騎士は意外と多い。

大概は、手が足りず自分の身の回りを護りつつ管理局か聖王教会に保護を求める。

 

多くを護るには、多くの手を必要とする。

どれほど力強く、大きな手でも一本だけでは救える数には限界ができる。

 

故に、彼らは強い力を細かく割き多勢である事を選んだ。

そうして生み出された小さな力を機械(デバイス)の力で増幅した。

 

ある提督が、高らかに謡う。

 

「僕達の手は小さく短い。

 だが、繋ぐ事ができる。

 繋いだ手は環となって人々を護る柵となれる」

 

現在、艦娘の技術はヨーロッパとアメリカに伝わり。

ビスマルクやミズーリなどの新たな海外艦娘を生み出している。

 

その数は、加速的に増えて数年後には深海棲艦の数を凌駕するだろう。

そして、繋がれた手は人々を護る結界となるだろう。

 

「これも運命と言うべきか」

 

誠実に生きなさい。

悪い事や隠し事をする者は相応の報いを受けるものです。

 

そう言っていた祖母の言葉を思い出す。

あれは、この世界を飛び出すと決めた日の事。

大きな大戦が終わったばかりで世界は未だ混沌としていた。

だが、明日への希望に輝いていた。

 

自分は、まだ少年で

自分の持つ特別な力と誰も見たことの無い世界への好奇心に浮かれていた。

そんな自分に祖母が贈った戒めの言葉。

それが何十年という時を越えて自分の胸に突き刺さる。

 

「祖国、海と陸の思惑、上層部同士の力学、最高評議会の方針………」

 

今、自分が行っている事は全てに対する裏切りである。

 

深海棲艦が進攻を開始する5年前。

ギル・グレアムは一つのロストロギアを発見していた。

 

『闇の書』

 

放置しておけば、暴走によって世界一つを飲み込み。

周辺世界を巻き込んで消滅しかねかない最悪のロストロギア。

本来ならば、発見した直後に対処すべきシロモノだった。

 

だが、このロストロギアとは因縁があった。

 

第六次・闇の書事件

封印を破り暴走した闇の書に次元空間航行艦「エスティア」を乗っ取られた。

その時、自分は一人で船に残り闇の書を押さえていた部下ごと、

エスティアを吹き飛ばした。

この責任をとり、執務官長を辞した自分に用意されていた。

次のポストは訓練校の校長だった。

 

これらの事実の裏に臭いものを感じ取った。

10歳の頃から管理局に関わり、魔導師として勤めるようになって40年以上。

それなり以上に組織の裏側と黒い部分を眼にしてきた。

 

自らのシンパと派閥の人員を密かに動かして探ってきた結果は、やはり黒だった。

次期執務官長と名高い人物が、整備部に工作を行った形跡を見つけたのだ。

しかし、この証拠だけでは立件には弱く。

証拠は闇の書と一緒に吹き飛ばしてしまっている。

 

泥沼の権力争いに突入しかねない。

 

組織である以上、足の引っ張り合いはある。

だが、多くを犠牲にするような諸行までは行われるはずがない。

 

では、何故このような事が行われたのか?

グレアムは、校長の業務を利用して信頼できる人材を育てながら原因の究明に努めた。

そして、彼の補佐官まで上り詰めた元部下から有力な情報を得ることができた。

 

『最高評議会の介入があったと思われます』

 

管理局最高評議会

旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後一線を退いた3人の人物

彼らが、その後も次元世界を見守るために作った組織。

前記の3人のみで構成され、それぞれ議長、書記、評議員の役職についている。

管理局の最高意思決定機関となってはいるが、

平時は運営方針に口出しすることはない。

 

正直、権威はあれど決議権の無い組織と言っていい。

だが、持ちえる資産や影響力は馬鹿にできたモノでは無い。

各種の研究機関は、彼らの資産力をバックボーンとしている所が多く。

正確な所は確かでは無いが、ミッドの名だたる大企業の株を多く所持、運用している。

その費用は、管理局の発行する債券や予算にも一部食い込んでおり、

支援を打ち切るなどと言われると困る部署が多数表れる。

 

「老人どもめ……」

 

悲劇の英雄であるクライドには盛大な局葬が行われた。

そして、彼の勇気と正義は称えられ管理局員の精神を打ち直した。

 

『かくあるべし』

 

偉大な背中には誰しもが夢を見る。

直接彼に関わった人物、彼の実像を知る事は無いが伝聞で伝え聞いた人々。

彼を知る人物は彼を称え、彼の背中を追う。

彼を知らぬ人々は、彼の背中を追う人々を通して彼を知り、その生き様に心を正す。

 

思えば、

いかに封印困難なロストロギアとは言え管理局が六度も取り逃すのは不自然だ。

調べてみれば、闇の書の所持者が保護を求めてきた事だってある。

 

闇の書は、何度滅ぼそうとも復活する。

そして、暴走して厄災いを振りまき……成敗される。

 

管理局には敵が多い。

次元世界の治安機関として潜在的に絶大な権能を有している。

放って置けば際限なく自己肥大して各次元世界の主権を侵しかねない。

その為に各次元世界と調整をしてきた。

 

「管理局員は、己の功績を誇らず。

 己について多くを語らず。

 あらゆることに対し自分を勘定に入れず。

 よく見聞きし分かり。

 そして忘れず。

 正しきを見極めて職務に励め」

 

基本的に管理局は、何か被害が出てからでないと動けない。

監視用のサーチャーに魔力が感知され、犯罪者を発見できたとしても

現地世界に明確な被害が出るまで介入できないのである。

放って置けば、大きな被害がでかねない。

その事に強行を主張する局員を標語の下で押さえてきた。

 

では、管理世界側の政府機関はどうやって抑えるのか?

彼らにとって管理局は主権を侵されかねない外敵である。

自分達に手の負えない魔導師犯罪やロストロギアの問題は多い。

それゆえに本格的に敵対する世界は無く。

世界間貿易の利潤の為に管理から離脱しようという世界は無い。

だが、あれこれと口出しされるのは嫌だ。

なので配分金の負担を安くしようとしたり常備艦の削減などを訴えたりする。

 

そんな彼らに管理局暗部は、こう囁くのだ。

 

ああ、次元転移して災害を振りまくようなロストロギアに襲われれば、

そんな事を言ってられないだろうな。

 

「白いばかりの組織に未来は無いと理解はしているが……」

 

人の良いだけの組織など、

各世界の猛禽どもの良いエサになるだけだと理解はしている。

猛禽を押さえつけるに足る毒を撒き、己を狙う害虫を黙らす必要がある事も。

 

「報いは必ず受ける」

 

自らの情報網やコネを使い、闇の書の新マスターを突き止めた。

本名を使い、哀れな少女を確保した。

封印に必要なデバイスを用意した。

被害が出始めれば、適当な時期に“故郷に帰り”事件に巻き込まれよう。

 

本名を使う以上、自分も必ず報いを受けるだろう。

 

その計画も三年前に瓦解する。

ロストロギア『深海棲艦』の襲撃。

 

彼は慌てた。

襲撃に刺激された『闇の書』が主を護る為に緊急起動するかもしれない。

ロストロギアの鎮圧が決定され海の部隊が地球へ行けば

『闇の書』を発見してしまうかもしれない。

そうなれば、彼の悲願は打ち砕かれる。

 

古代ベルカの技を持ってロストロギアと戦う未加盟世界。

この硬直を崩すのに『闇の書』は最適だ。

暗部の連中の跳梁を許しかねない。

 

『闇の書』『深海棲艦』『艦娘』、この三者が喰い合えば程よく消耗するだろう。

 

深海棲艦の特性上、闇の書が深海棲艦を食い尽くす前に完成する可能性もある。

むしろ、高いといってもいい。

 

だが、それは豊富なエサが管理外世界にある事を指す。

 

管理世界の被害は最小限に抑えられることになる。

 

そして、『闇の書』が破裂寸前になった時に管理局は囁くのだ。

 

『手を貸しましょうか?』

 

結果がどうなろうと、管理局は損をしない。

 

“それが、どんなに酷い判断に思えても。

 私達は最善をとらねばならない。”

 

そう言ったのは誰であったか?

責任ある者とは、自己の護る集団の利益を最優先に考えなくてはならない。

 

誰かの損失とは誰かの利益であるが故に。

 

「それでは、悲劇は終わらない」

 

『深海棲艦』と『闇の書』に引っ掻き回された被害は検討がつかない。

 

彼の手は、カード状態で待機中のデバイスを握りしめて天を睨む。

 

「闇の書は、必ず封印してみせる」

 

誰に聞かせるともなく彼は、そう呟いた。

 

 

 

 



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第七話 スクライア

どんな馬鹿げた考えでも、行動を起こさないと世界は変わらない。

 

                     (マイケル ムーア)

 

 

 

 

01.

 

スクライアと呼ばれる一族がある。

考古学を営むその一族は主な職業として教職を営んでいる場合が多い。

管理世界の現地政府からの統一戦争時代の遺跡発掘依頼、

都市開発などで発見されたロストロギアに対するアドバイザー。

管理局などの危機対処部門からは暴走したロストロギアに対する諸賢を求められたりもする。

 

発掘に赴くとなれば、身の安全を確保できるだけの武力の準備は必須である。

 

故に、魔力資質を持った子供には英才教育が施される。

 

身を護る事に特化した防御魔法、結界魔法。

被弾面積を減らして逃げる事に特化した変身魔法。

危険な魔法生物やロストロギアを封印する為の封印魔法。

 

そして、戦乱の時代に関する深い知識。

 

マルチタスクと呼ばれる魔導師が行う多重思考術式は特に重視される。

高位魔導師に至っては必須を言える技能である。

 

違う作業を同時にできるメリットに関しては説明するまでもないだろう。

 

数学を学びながら歴史を学ぶ。

思考を二重、三重と展開して、学習速度を加速させていく。

 

同じ事であっても同時に二つの事ができるメリットは計り知れない。

例えば、治癒魔法を二つ同時に行使できれば二人同時に救える。

砲撃の火力は単純に二倍となり、防壁は倍になる。

 

元々、早く社会に出て活躍して欲しい魔導師には詰め込み教育が行われるものだが。

ユーノ・スクライアという少年は、そんな中でも頭一つ飛びぬけていた。

 

次元世界大戦が終結した直後であるのならばともかく。

終戦より65年の歳月がたった現在であれば、

学校という堅牢な枠組みの重要性は嫌というほど認識されている。

 

単純な事だ。

当時、飛び級によって早期に社会に出た魔導師達。

彼らが大人となり壮年となり、退職を目の前にした時。

同僚、や友人達とする会話の中でスッポリと抜け落ちているものを発見したのだ。

 

学生時代。

 

その輝かしくも尊く、美しい時代。

 

人の倍学び、人の倍走り続けてきた。

そして、ふと周りを見渡せば一人ぼっちの自分を見つける。

もちろん友人はいる。

だが、それも魔導師の友人ばかり。

戦後の不安定な時期、失った友人も多い。

だが、その葬儀はどうであったか?

周りは大人ばかりで同年代の子供など一切見かけた覚えなどない。

 

生き残った彼らは一同に思った。

 

これはマズイ。

 

早急にカリキュラムの変更を行った。

権力も力も持った思春期を失った大人達は、強権を行使した。

自分の後輩達を学園という揺り篭に押し込める為に。

 

魔導師に対しては、マルチタクスで対応の難しい実技を中心とした学習に切り替え。

可能な限り長く学園生活を過ごせるように。

その中で友人を得て、長く続く人生をより豊かに過ごせるように。

 

義務教育期間を設定して15歳以下の子供達を学園に押し込める事には成功した。

 

だが、親の心、子知らずというのは万国共通の真理でもある。

 

才能のある子ほど、その揺り篭を窮屈がり。

早々に卒業単位を取得した少年少女たちは外へと飛び出していく事となる。

 

ユーノ・スクライアもそんな子供の一人だった。

 

第一世界ミッドチルダ 次元港。

その外観は、地球にある空港や港と変わらない。

広めのロビーと待合室があり、建屋の隅には土産物屋や食事処が並ぶ。

要所要所では、警備員と思わしき職員が巡回をしており。

管理局の警邏詰め所も複数配置されている。

 

「管理外世界への渡航―――」

 

並ぶカウンターの一つではオペレーターの女性と十歳くらいの少年が渡航手続きをしている。

だが、オペレーターの顔はかんばしくない。

管理内世界であるならば、快く送り出してあげられる。

だが、少年が目指すのは管理外世界である。

 

次元の海には、いくつもの世界が存在する。

治安維持組織である時空管理局の管理を受け、

文化交流を行っている世界を『管理世界』

そうでない世界を『管理外世界』と呼ぶ。

管理世界のほとんどと管理外世界の一部には「魔導」と呼ばれるエネルギー運用技術が存在する。

一般的に使用される「魔法」もその一部であり、

優れた術者が魔導師と呼ばれるのもここに由来する。

近年の魔導技術は科学と深く融合して一般生活に浸透している。

 

魔導の観測されていない管理外世界ならば、まだ良い。

表示されている彼のパーソナルデーターは、Aランク。

少々の荒事ならば潜り抜けられる実力がある。

 

「渡航の目的はロストロギアの探索?」

 

「はい」

 

だが、第97管理外世界には独自魔導が存在し、

ロストロギア由来の魔法生物の活動が観測されている。

 

「あの……

 管理外世界での発掘や探索行為は……」

 

聖王教会の出先機関があるとは言え。

治安が不安定な土地の火に油を注ぐようなまねは推奨されたものではない。

 

「いえ、違います。

 発掘では無く。

 なくしものでなんです。

 輸送中に事故があって、その世界に落ちているはずだって……」

 

その言葉に益々顔をしかめるオペレーター。

言葉には出さず、手元の端末を操作して注意情報を追加していく。

 

「なるほど、捜索対象は危険指定物ですか」

 

渡航許可書のサインを確認して、これが公務である事を確認する。

全ての端末に警告情報を流して第97管理外世界への渡航制限を呼びかける。

火に油はすでに注がれていた。

 

「管理局には連絡済で、

 先行調査の許可もとっています」

 

情報を追加しながら、近くの航路を通る次元航行船にチェックを入れる。

おそらく管理局からは情報の通達が出ているだろうが朝のブリーフィングで出なかった以上。

これが最新情報だろう。

資料を航行管制室に転送、判断はチーフの仕事だ。

 

「それから、現地での魔法使用許可と

 魔導端末(デバイス)の持込も」

 

「かしこまりました、それでは端末を確認させていただきます」

 

彼と彼の保有していた魔導端末は後に

高町なのはと接触する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

02.

 

日本 海鳴市 市街地。

海と山に挟まれた。

日本であれば何処にでも見かける変哲のない地形。

二階建ての母屋に庭には道場。

深海棲艦の襲撃によって海沿いの土地の地価が下がっているとは言え豪邸といってよい規模。

海鳴市、藤見町に高町家はあった。

 

時刻は7時45分。

会社に学校と人々が揃って動き始める時間。

世界的に見ても几帳面と言われる日本人の性質はどんな状況でも変わらないのか。

それとも皆であわせる事によって精神の安定をはかっているのか?

 

まぁ、そんな考えも時間的合理性の前には戯言でしかない。

 

「なのは、はい お弁当!」

 

「ありがとう。

 おかーさん!」

 

毎朝の儀式のように母は笑顔で娘に手作り弁当を渡し。

娘は笑顔で、それを受け取る。

 

「うん、いってらっしゃい。

 気をつけてね」

 

「うん、いってきまーす!」

 

母の言葉に元気に答えて娘は学校へと向かう。

 

高町なのはは、喫茶店経営の両親の下。

三人兄弟の末っ子として生まれる。

 

数年前まで海域を脅かし続けていた深海棲艦は倉庫街に新設された海鳴鎮守府によって追い出され。

 

学校の勉強。

春休みに買ってもらった携帯電話。

同じクラスになれた仲良しの友達。

 

そうした平凡な幸せに囲まれた。

ごくごく普通の小学三年生“だった”。

 

将来の夢は何?って聞かれたら。

 

「皆を護る為に戦いたいと思います」

 

と答えるしかないのが最近の悩み事。

 

「ま―――

 そりゃ普通とは言いがたいわね。

 普通の小3は未来の夢なんて決まってないわよ」

 

「わたしもだよ。

 ぼんやりと『できたらいいな』って思ってるだけ」

 

友人である。

日本では珍しい金髪の少女アリサ・バニングス。

黒く艶があり、光の加減によって紫にも見える長髪の少女 月村すずか。

二人にそんな相談をすれば、このような答えが返ってきた。

 

「でも、アリサちゃんとすずかちゃんは、もう決まってるんでしょ?」

 

「んーでも全然漠然よ。

 深海棲艦のせいでウチは三年前に一回潰れかけたから。

 その時、パパとママを助けなきゃと思ったくらいだし」

 

弁当のおにぎりを豪快に口に放り込んだアリサは口の端についた米粒を指で拭いながら言う。

 

「その時、鎮守府の提督さんがウチに来て。

 『船を出してください。必ず艦娘達が護ります』ってパパを説得して。

 それからウチは持ち直したの。

 だから、ああ…こうなりたいなって、そう思ったの。

 幸いと一艦隊まかなえるだけの魔力はあるみたいだし勉強と体力作りね」

 

フォークに刺した春巻きを咀嚼して飲み込んだ後、すずかが自分について語る。

 

「私は、機械系や工学系が好きだし。

 ウチでお姉ちゃんが、明石(あかし)さんや夕張さんと艤装を組み立てているのとかを見て。

 楽しそうにキラキラしてるのがいいなって。

 まぁ、実際は油まみれで肌も日焼けとかしてたけど。

 一緒にできたら、うれしいだろうな――って」

 

そんな親友達の答えを聞いて、面映いようになのはは笑う。

 

「……そっか、じゃぁ三人とも艦娘関係だね」

 

バニングス海運、月村工房。

この二つは、艦娘の誕生当初からの関係である。

 

戦線を広げ、生活圏を確保して戦線を維持する。

そこに必要なのは万全な補給線であり後方支援である。

 

提督が打った手は三つ。

 

信頼のおける技術者による艤装の解析と複製。

スポンサーである船会社の得る。

自身と艦娘達の社会的な保障を海自に行う技術提供によって確保すること。

 

この三人の少女達は、艦娘誕生からの激動の時代。

それを当事者達のすぐ傍で見つめ続けてきたといえる。

 

「先に行って、待っていなさい。

 すぐに私も追いつくわ」

 

「じゃぁ、なのはちゃんや艦娘さん達の艤装は私が修理するね」

 

「ふふ、超弩級戦艦 高町なのは。

 押して参ります」

 

少女達は顔を見合わせて笑いあう。

 

その日の晩の事である。

21個からなる、エネルギー結晶体が海鳴市に降り注ぎ。

それを奪い合う、深海棲艦と艦娘達。

空を駆ける黄金の魔導師による壮絶な争奪戦が繰り広げられる事となる。

 

 

世に言うPT事件の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話 艤装

賢人は、妨げうる不幸を座視することはしない一方、

避けられない不幸に時間と感情を浪費することもしないだろう。

                       (ラッセル『幸福論』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

01.

 

海に並べられた標的が波に揺れている。

岸辺には、明るいオレンジ色の服を着た大人しそうな女性が5人の少女を連れてきている。

 

「では、訓練を開始します。

 皆さん宜しいですか?」

 

「はい、神通(じんつう)さん」

 

髪をツインテールに纏めて何時もの制服姿で、高町なのはは元気よく返事をする。

 

「レディたる者、何時だって準備は万端よ」

 

「дa、準備は万全さ」

 

ツンと澄ました少女の暁、冷静沈着そうな少女、響。

 

「私は、大丈夫なんだから」

 

「なのです」

 

元気溌剌とした少女の雷、その後に続く電。

似通った四人の少女は、これからの訓練に気合を入れる。

 

「では、皆さん。

 艤装の展開、出航を始めてください」

 

神通は、パンと手を叩き上に掲げた手から光が広がり体を覆うように広がっていく。

腕には砲塔がバンドで固定されスカートは花びらのように可憐に舞う。

腰に魚雷の発射管が装着され右肩下に水偵を発艦させるカタパルトが展開される。

展開を終えた神通は、ふわりと海面に立つ。

 

「暁の出番ね」

 

「響、了解した」

 

後に続けと暁が飛び出し海面に飛び込む。

ジャンプの為に踏み出した足が光に包まれ船を模したシューズが展開される。

空中に飛び出して伸びた背筋に燃焼と魔力の精製を補助する高温高圧缶が装着される。

右肩には砲塔、左肩には防盾が展開される。

 

響は、幅跳びのように両足を揃えて海面に着地する。

展開される艤装は、姉妹艦である暁と瓜二つである。

勢いを殺すようにクルリと一回転すると、キュッと帽子の鍔を斜めに被りなおす。

 

「いくのです」

 

「さぁ、出航よ」

 

双子のような姉妹である雷と電が二人同時に海に飛び出す。

二人で手を繋ぎ、踊るように飛び出した二人は着地の衝撃を二人で支えあい。

その衝撃を利用してお互いを放り投げるように手を離して加速する。

 

「高町なのは、大和型艤装、展開します」

 

少女の全身が光に包まれて、手足がスラリと伸びる。

胸は大きく、その体を包み込むように船を半分に割ったような艤装が展開される。

両舷と背中には体の半分はある巨大な三連装の砲台が装着される。

大和型の象徴である46㎝三連装砲。

その最長射程は40キロに及び、船に搭載された火砲としては史上最強を誇る巨大砲。

さらに両舷に左右2基づつ、合計4門の15.5cm三連装砲が展開される。

ミニスカートのセーラー服と鋼の首輪には菊の御紋。

その全体的な意匠は、巨大化変身をして三分で怪物を倒して去るヒーローを連想させる。

素肌をのぞかせる眩しい太ももには銃帯がまかれて大型砲専用のカートリッジが装着されている。

対地対空用の三式弾、対装甲用の九一式徹甲弾。

いずれも凶悪な魔法が仕込まれた破壊に特化した専用弾である。

 

そこには、展開した艤装にあわせて19歳程の大きさ変身した高町なのはがいた。

 

「大和型戦艦、高町なのは押して参ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私だって、私だって、いつか立派なレディになるんだから…」

 

「わぁ、凄いのです」

 

海上では胸を押さえてコンプレックスを刺激されている少女達がいたのは全くの余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

02.

 

私立聖祥大付属高校のグラウンド。

空を見上げれば空に設置されたコースを飛ぶ生徒達が見える。

スピードは、走る程度でずいぶんとヨタヨタと飛んでいる印象がある。

聖王教会の海鳴市進出に伴い、ザンクト・ヒルデ魔法学院と聖祥大学が姉妹校提携を結び。

付属高校裏手の山に海鳴教会支部と教会騎士の訓練施設が併設された。

それに伴い、高等部には魔法学科とデバイスマスター科が新設される。

当然影響は大きく。

日本初のデバイスマスター科は外部からの入学希望者が殺到し恐ろしい倍率となっている。

 

「おーやってるなぁ。

 ウチの空母や航空戦艦達も似たようなものだが」

 

そんなグラウンドを見上げながら、海鳴提督が空戦への道は遠いなぁと呟く。

艦娘にデバイスを持たせて空戦適性があるか調べた時、

空母系、航空戦艦系、航空巡洋艦系の艦娘に空戦適性がある事がわかった。

やはり、普段から航空機を操作しており、空を飛ばすという感覚を持っている事が大きかったようだ。

航空戦艦の日向など「これからは航空戦艦の時代か」と感慨深げにうなずいていた。

 

とは言え、燃費は最悪。

艤装とデバイス。

考えてみれば当たり前だが、二つを同時に使うのだから燃費は倍になる。

艤装に空を飛ぶ機能を追加できないか?

大学部に設立されている艤装の研究をしている研究室が異様な情熱をもって取り組んでいる。

 

「では、提督。

 明石は研究室の方へ顔を出してこようと思います」

 

「あっ、私もついていくね。

 木曽(きそ)、提督の護衛よろしくー」

 

明石と名乗った天然パーマのかかった紅色の長髪の女性。

動きやすいように髪をまとめた夕張と呼ばれる高校生くらいの少女。

 

「ああ、教授達に宜しくと伝えてくれ」

 

「オレがいるんだ、提督の安全は万全だ。

 そちらこそ、妙な暴走をするなよ」

 

眼帯、マント、迷彩がかかったセーラー、腰にはサーベル。

男心をくすぐると言うか、色々な意味で突き刺さる格好をした重雷装艦『木曽』。

高町道場にも熱心に通っている。

海鳴鎮守府の武闘派の一人である。

 

現在、大学工学部の教授達の暑い情熱により艤装の生産は可能になっている。

工作艦である「明石」には艤装の整備、修理、艦娘のメンテナンス機能がそなわっており。

兵装実験艦である「夕張」は、各種艤装に対する知識がインストールされていた。

これらを研究して現在の提督用艤装は生産されている。

 

だが、未だに艦娘本体の製造に関しては妖精さんにしかできない。

大規模鎮守府の最奥にて護られている妖精さんのスケジュールは超過密。

新人提督の艦娘から資材に余裕のできた古参提督まで、建造予約で埋まっている。

 

提督達が教会支部の方に歩みを進めれば、魔法訓練場が見えてくる。

 

「ほぅ、広い練習場だな」

 

「ああ、陣取り合戦もできるように作ってあるからな10メートル四方の小規模な砦型の陣地……。

 まぁ砦と言うよりはトーチカか。

 両脇を天然の森に囲まれ小高い丘を中心に対峙するように作ってある。

 何にせよ陸戦というのは基礎だ。

 先天資質でA以下だと飛行しながら戦闘をするには魔力を効率よく運用する技術が求められる。

 空を飛ぶには魔力量、制御力は必須だ。

 そもそも、指導できる人間が希少だしな」

 

「まぁオレ達は、基本的に砲戦だ。

 もちろん、一足の間合いに踏み込んできたら叩き切るがな」

 

魔法で実際の砲撃射程を再現している彼女達の射程は長い。

駆逐艦の砲でおおむね8キロ、戦艦でおおむね22キロから40キロ程の距離まで飛ばせる。

ちなみに、人間の狙撃ギネス記録が概ね2.5キロほどである。

もちろん最大射程での命中率は、とても悪い。

五階くらいのビル屋上から地上に置いた半紙に墨汁を落として当てるようなものである。

これを観測射撃で当てていた当時の砲手の腕前は想像もつかない。

それ故に、普通の空戦魔導師が戦うロングレンジは彼女らにとっては目と鼻の先。

「至近距離まで近づいてくれたぜ」とおかしな事を言ってのけることになる。

 

「まぁ、聖王教会騎士との陸上演習はやる予定だ。

 今は、アポを取って待たせているシスター・ヨランダに失礼が無いようにするのが先だ」

 

「ああ、陸戦だろうとオレ達を相手にする愚かさを教えてやるだけさ。

 艦娘として撃ち、永全不動・御神真刀流の剣士として切るだけだ」

 

「すまん、相手にする常識的な教会騎士が可哀想になってきた」

 

杖をつきながら歩く提督は、上機嫌に「オレを誉めても何もでねぇぞ」と笑う艦娘を連れて教会へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

03.

 

水平線の彼方、目をこらせば見える黒い点。

 

「方位0-2-0 距離……7870」

 

水上に浮かぶ6人の人影。

大人しそうな印象を受ける神通は一歩後ろでチェックボードを持ち前の5人を観察している。

5人の中で一際背の高い変身した高町なのはが、艤装に備わったレーダーで標的の方位と距離を割り出す。

 

「こちら暁、目標を視認。

 全艦停止、各主砲に装填を開始するわ」

 

「照尺距離、苗頭修正完了。

 さて、射撃訓練に入るよ」

 

それを受けて、暁が全員に指示を出し、響がそれをサポートする。

 

「はわわわ」

 

「うち~かた~ はじめ!!」

 

そして、5人が空気を叩くような轟音と共に砲弾を撃ちだす。

数秒の時間をおいて着弾した砲弾は激しい水柱を生み出してビリビリと大気を振るわせる。

 

『着弾』

 

着弾地点を観測していた神通が、観測機からの報告を受けて結果を発表する。

 

「『暁』遠・中」

 

「うっ…」

 

神通の笑顔で通達されるプレッシャーに少し涙目になる暁。

 

「『響』遠・近・夾差」

 

「まずまずだね」

 

結果に満足そうにうなずく響。

 

「『雷』遠・近」

 

「もー、なんで当たらないのよ」

 

「『電』遠・遠」

 

「はわわ」

 

雷電姉妹は結果に目をまわす。

 

「『高町なのは』夾差・近・夾差。

 惜しかったですね」

 

「次は当ててみせます」

 

両手をグッと前に出して気合をいれる高町なのは。

 

5人の前にでた神通がクルッと回転すると全員に総評を伝える。

 

「響と高町さん以外。

 照尺距離が合っていませんね。

 もっと下げてください。

 砲身には旋条が施されていますから定偏苗頭も忘れないように」

 

私の指導力不足です。

と受講者の胸を抉るような仕草で受講者の良心をえぐる。

 

「つっ…次は命中させてみせるのです」

 

「レディは、地道に階段を登っていくものよ」

 

「神通さんには何の落ち度もありません」

 

そんな仕草に容易くつれる生徒達に幸せいっぱいの笑顔を浮かべて神通は死刑宣告を告げる。

 

「そうですか、では皆さんが標的を全て撃破するまで訓練を続けますね。

 標的は低速で動きますますので頑張りましょう」

 

その宣言に顔を引きつらせる暁型駆逐艦一同。

標的は、まだ数十基用意されており。

全てを撃破するとなると日が暮れる。

次の日の昼まで標的撃破に時間のかかった睦月型駆逐艦達の屍ような様子が脳裏に蘇る。

 

「睦月(むつき)ちゃん達…徹夜だったって……」

 

「根をあげそうになると……後ろで思いつめた感じで見つめてくる神通さんがプレッシャーだったって」

 

「レッ、レディの笑顔って怖いものなのねっ」

 

絶望の表情を浮かべる暁達と対照的に特訓大好きな血筋の高町家は目をキラキラさせながら気合を入れる。

 

「高町なのは、頑張ります!!」

 

深夜遅く、最後の標的を高町なのはの副砲が粉砕するまで砲撃訓練は続けられた。

 

 

 

 

 

 

04.

 

 

提督の真髄は、ただ一文で言い表す事ができる。

 

『資源を集めてバケツで殴れ』

 

艦娘の運用には燃料、弾薬が必須であり。

負傷した艦娘を癒すには鋼材、燃料が必須である。

 

素の状態の艦娘は、せいぜい電柱を殴り倒せる程度である。

しかし、カートリッジ(弾薬)を用いて艤装でパワーを増幅させれば砲撃でビルを薙ぎ倒せる。

 

負傷をしても鋼材で艤装を修理して燃料で魔力を生産すれば良い。

魔力構成体である彼女達は自らを形作るプログラムに沿って体を再生させる事ができる。

 

バケツと呼ばれる高速修復材を使えば即座に戦線に復帰する事も可能だ。

 

資材の続く限り、艦娘は戦い続ける事が可能であり。

多数の艦娘で効率的なローテーションを組んで勝つまで波状攻撃を続ける事こそ艦娘の真価である。

 

 

管理局との交流が深まった数年後。

 

管理局の戦技披露会の集団戦闘において、

倒しても倒しても、後方で液状になるまで圧縮された魔力をバケツでかけられ戦線に蘇る艦娘。

後方でバカスカ砲撃しながら随伴艦にバケツをかけて戦線に送り出す提督。

提督の周辺を固める格闘戦に特化した護衛艦隊。

 

相手をしたどの部隊も口を揃えて「白い悪魔がいた」と後述している。

 

 

 

 

 



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第9話 ジュエル・シード

諸君は必ず失敗する。

成功があるかもしれませぬけど、成功より失敗が多い。

失敗に落胆しなさるな。失敗に打ち勝たねばならぬ。

 

(大隈重信)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

01.

 

そこは、厳粛な空気と穏やかな空気を同時に纏っているような空間だった。

昼の明るい日差しを室内に呼び込む執務机の後ろの大きな窓。

片側の壁には聖典や各種資料の並んだ本棚、その中に置かれた色とりどりの酒瓶が部屋の主の性格を表している。

反対の壁には教会の紋章が刺繍された旗や飾り盾や剣が飾られている。

テラスに繋がるガラス張りの壁の傍には来賓をもてなす為の白い椅子の並べられた丸いテーブル。

所々に繊細な彫刻がなされたテーブルは待つ間も来賓の目を楽しませる工夫がなされている。

外から差し込む日の光を遮断している高い天井に据え付けられたシャンデリアは魔力の光を灯して部屋の中を明るく照らしていた。

 

テラスに差し込む日差しは優しく。

春を抜けて夏へと続く生命の雄雄しさを雄弁と語っているようだ。

 

そんな、執務室に白い軍服を身にまとった青年が尋ねてきている。

海鳴の地の提督総代であり、配下の提督と艦隊に対して指揮権を保持している大提督。

通称として海鳴提督と呼ばれる男がそこにいた。

 

「まぁ、座りな。

 話は聞いてるよ、災難だね」

 

「他人事では無いでしょう、シスター・ヨランダ。

 落下地点予測は、アジア広域。

 元々、地球は七割が海である事を考えると多くは海に落ちたと予測できます」

 

顔に不敵な笑みを貼り付けた老練なシスター。

それと対峙するのは、彼女と比べれば年若いと言える青年提督。

 

「あんたも、海鳴という一地域を任される男だ。

 覚悟くらい、とっくの昔に済ませてるんだろ。

 なら、ガタガタおいいでないよ。

 ウチの連中も急造にしちゃぁ良い感じに仕上がっている」

 

シスター・ヨランダは、彼に視線で座るようにうながし、着席させる。

 

「こちらも人手を出して情報を収集した。

 これが資料だよ」

 

「助かります。

 大本営から配布された各地の哨戒機が捉えたロストロギアの落下痕跡です」

 

海鳴提督とシスター・ヨランダは、互いに資料を出し合い交換する。

 

「名称、ジュエルシード。

 現地の伝承によると『願いを叶える宝石』と呼ばれ。

 戦争や紛争の一因となった事もある。

 発見総数は21個。

 184年前におこった次元振で当時の文明は致命的な打撃を受けて管理局により解体された。

 当時の世界は複数政府による世界大戦が勃発しており……。

 ジュエルシードを巡って各政府の特殊部隊が激しい戦闘を繰り返していた。

 

 文明崩壊の一因となった大規模次元振の原因は複数のジュエルシードが暴走した為と予測される。

 5年前に崩壊時にできた次元断層の収束を確認。

 1年前に魔素濃度が安全値まで低下、スクライア一族が発掘権を競り落とし発掘を開始。

 

 発掘したジュエルシード21個を輸送中に次元暗礁に輸送船が乗り上げて座礁。

 救命艇で乗組員は脱出するも船は沈んで積荷は離散。

 次元観測隊所属の広域観測艦が、第97管理外世界に落ちる魔力波動を検知」

 

「どうも、元となった世界では移動要塞や船、魔導杖の動力として使われていたらしいね。

 願いを叶えるというのは魔導補助術式で祈念型を組み込んでいたからのようだよ」

 

渡された資料に海鳴提督は唸る。

 

「一個だけでも地震を起こせるレベルのパワーがあり。

 数個まとめて暴走させれば世界を滅ぼせるレベルの地震がおこせるとか何考えて作ったんでしょうね」

 

「他所が使っていれば危ないと理解していても……。

 あんたらの所にだって核兵器ってのがあるだろう?

 それと一緒さ、恐れが人を力に向かって走らせる」

 

「たとえ、それが滅びの道と判っていても…」 

 

惑星から逃げ出した避難民達の間に残された伝説。

崩壊のさなかで一人でも多くと戦い続けた人々の口伝。

 

その中にはジュエルシードを振るって猛威に抗う人の姿もある。

暴走する魔導兵器に脱出船から一人背を向けて駆け抜けた青年とその仲間達。

 

惑星変動のさなかにおこった魔力流を打ち払って船を逃がす為に死地に残った砲撃魔導師。

 

多くの部下を失いながらも残された民を率いた小さな王。

 

「『世界は変わらず。

  慌しくも危険に満ちている』

 旧暦の時代から、これだけはずっと変わらない人の業さ」

 

「思った以上に資料が充実してますね」

 

「滅びた故郷の記録を残しておきたいってのが避難民の人情。

 うちの信徒も少なからずいるしね。

 滅びた世界の無常さを語って戦争を終結させ戦争のおきにくい世界を作る。

 それがウチの教義さね」

 

滅びに抗う人々。

その姿は儚くも力強く美しい。

醜いものも多いが、それが力強い信念をさらに輝かせる。

その辺りをドラマ化したり映画化した映像作品は実に多い。

 

「大衆向けに演出が多く入っているが、願いの宝石と21の英雄という書籍がある。

 帰りに持っていくといい」

 

「ミッド語ですか?」

 

当然の事ながら、異世界との交流には文字や言葉の疎通が何よりも重要である。

幸いな事にミッド語は英語に近く、広域に分布している分、翻訳機には事かかない。

ベルカ語は、単語にいくつもの種類があるので読み解くのが難しい。

翻訳の候補先が多くずいぶんと妙な文章になるのだ。

 

それは、日本語自体にも同様な事が言えるので、倍率ドンで摩訶不思議な翻訳が出てくるのも珍しくは無い。

 

「確か、誤訳だらけの文章をブロント語とか言うんだったかい?

 安心しな。

 ミッド語の翻訳版だよ」

 

「まぁ、日本語の難解さが災いしてるのかどうなのか。

 ミッド語ですら謎の文章が訳される時がありますけどね。

 普通に日本語が扱える駐在シスターさん達は素直に凄いなぁと感じますよ」

 

その様子にシスター・ヨランダは、クスリと笑い据付のティーポットから紅茶を入れると口に含む。

 

「せいぜい勉強するんだね。

 語学ってのは、その世界の文化そのものだ。

 学んでおいて損になるようなものじゃぁない」

 

「鋭意、努力します」

 

海鳴提督も、出された紅茶を飲んで息を吐く。

 

「にしても、そちらの索敵結果を見るにずいぶんと広範囲に落ちたみたいだね」

 

「おそらく、半分以上は深海棲艦どもに確保されているでしょうね。

 各地の鎮守府から遭遇頻度と襲撃頻度の上昇が報告されています」

 

各地の鎮守府が彩雲を使用して偵察を繰り返した結果。

深海棲艦達の活動が活発化しているのが各地の報告で提示されている。

これは、年に数度ある深海棲艦の活動期が近づいている時の兆候によく似ており。

大本営より、各地の鎮守府に大進攻が近くあるだろうと警告が飛ばされている。

 

「各地の鎮守府は、資材の貯め込みに走っているようですよ。

 ウチの偵察機の報告だと海鳴市近辺にもいくつか落ちている事が確実視されています」

 

「ああ、ウチの教会にも管理局から協力要請の通達がきたよ。

 ユーノとかいう若い協力者が先行調査員としてくるらしい」

 

そう言って、シスター・ヨランダは何枚かの写真を渡してくる。

 

「……若いなんてもんじゃないですね。

 ウチのなのは提督と同じくらいじゃないですか?」

 

「まぁ、否定しないよ。

 管理世界でも見てもヒヨッ子もヒヨッ子だろうさ。

 だが、知識と魔力量は一人前ときている」

 

そう言いながら、シスター・ヨランダは茶を追加する。

 

「誰か止めなかったんですか?」

 

「若くて、力があって、正義感に燃える子供。

 力で劣る、良識のある大人の意見にホイホイと従うもんかい。

 少し痛い目に見ないと、その辺は落ち着かないもんさ。

 あんたみたいにね」

 

そう言って、シスター・ヨランダは海鳴提督の右足を見る。

 

「もう少しで、南方棲戦鬼を仕留められる。

 無くなっていく資材に時を置けば、置くだけ回復していく敵戦力。

 焦っていたんですよ。

 自分がやらなければ間に合わなくなる。なんて自惚れて…」

 

「結果として、右足をダメにされて、付き従ってくれた女に一生モノの傷を負わせる。

 碌なモンじゃないね」

 

「感謝してます。

 古鷹の義腕と右目は、貴方達がいなければ命すら失っていた」

 

装甲空母鬼の固める前線を突破し、敵潜水艦最終防衛線を越えた時。

配下の艦娘は皆、何らかの負傷をしており。

その中には大破した者すらいた。

突撃は無謀であると理解はしていた。

だが、上手くいけば……

 

そんな誘惑を振り切れず敵大型超弩級戦艦との決戦に踏み切ってしまった。

 

結果は惨敗。

何人かの艦娘を失い。

自身と古鷹も瀕死の重傷を負った。

横須賀の病室で天井を見上げながら聞いた南方棲戦姫の撃破報告には、自分の情けなさに涙した。

 

「あの子は元気かい?」

 

「ええ、皆の面倒をよく見てくれる艦隊の柱です」

 

「そうかい、大切におしよ」

 

二人で体を支えあい、なんとか浮かんでいた所を救ってくれた人たちがいた。

聖王教会から派遣されていた観戦武官であったシスター・ヨランダとその部下達だった。

この大規模攻勢で、痛い目を見た提督は多い。

 

『帰ろう、帰れば、また来れるから』

 

これは、第二次世界大戦時の木村少将言葉である。

濃霧が前提となる突入、救出作戦にて、

戦術の前提である濃霧が晴れてしまい目標を目の前に撤退を判断した将。

焦りに逸る部下や上層部を抑えて粘り強く時を待ち。

見事に救出作戦を成功させた将軍である。

 

艤装さえ残っていれば艦娘は再生させる事ができる。

しかし、激しい戦闘で艤装を回収する余裕が無く海に沈んでしまえば、

その艦娘は永久に失われる。

艦娘を守るためには、作戦を強行してはならない。

という戦術セオリーをも言い表した懐の深いこの言葉。

加えてキスカ島の奇跡の作戦は、艦娘達を失いたくない。

「提督」達の愛の戒めと共に、また広範に知られる事となったのだった。

 

「忠告しておくよ坊や。

 私たちを信頼してはいけない。

 物理的な距離が近ければ近いほど、利害というものは密接な関係を持つもんだ。

 組織なんてもんはね、国もマフィアも変わりゃしないのさ。

 己の護るものの為であればね。

 どんな汚れ仕事だってするし汚い策略だって張り巡らせる。

 平和ってのは血と涙と努力でもってもたらされた

 富と力の均衡によって生み出されるんだ。

 そして、その均衡を崩しかねないイレギュラーは平和の名の下に排除されるのさ」

 

「判っています。

 艦娘だけでも、かなりのイレギュラー。

 『秘匿級』の古代遺物(ロストロギア)ともなれば……」

 

「世界のバランスを崩すどころじゃぁない」

 

器以上のものを器は収める事ができない。

艦娘という存在は、

地球と呼ばれる一世界に納まりきらず管理世界まで溢れ出そうとしている。

 

「破滅的な力を持つ古代遺物(ロストロギア)は軍の手に落ちれば、

 すぐさま争いの道具となるのが相場さ」

 

「その気持ちは判らなくもないです」

 

「だがね、坊や。

 そうやって滅びた世界は、いくつもある。

 それでも、自分達を護る為に人は力を求めちまう」

 

顔のシワをより深くして、シスター・ヨランダは紅茶を飲み干す。

 

「今ある力で、できる限りの事を……。

 人はね。

 それが誠意一杯だし、それ以上を求めても碌な事になりはしないのさ。

 焦って力を求めても、ソレに飲み込まれて終わりだよ」

 

「ご忠告、感謝します。

 早期に先見調査員と合流して古代遺物(ロストロギア)の管理は彼に任せます」

 

深く、礼をし退出を申し出る海鳴提督に老練なシスターはニヤリとした笑いを見せる。

 

そうして、退出しようとした時に凶報がもたらせる。

 

『提督!!

 緊急事態です!!』

 

デバイスから空中に画面が投影され鎮守府の作戦司令部が映し出される。

珍しく焦った顔を見せる眼鏡のクールビューティである『大淀』が早口でまくしたてる。

 

「どうした大淀」

 

『はい、昨夜からトラック泊地からの定期連絡が途絶えており。

 夜間定期連絡が途絶えた直後、

 大本営より各大規模鎮守府に向けて偵察艦隊の派遣が要請されました。

 先遣艦隊によると海路を敵潜水艦隊に封鎖されており、

 大規模な敵機動部隊が移動しつつあるそうです』

 

トラック諸島は西太平洋にあり、

周囲200km、248もの島々からなる世界最大級の堡礁である。

歴史は古く、人類はカヌーなどを使い島を渡って大陸間を移動。

広がっていったのでないかという学説もある。

 

フィリピンと真珠湾を結ぶライン上にあり。

アメリカ軍との連携もとりやすい位置にある。

 

太平洋の荒波から保護された大環礁は優れた泊地能力を有しており、

中継地点として申し分ない。

また、大型船が着岸できる岸辺が無く。

その事が逆に艦娘を大型船を気にせず運用できるメリットとなった。

 

現在は、アメリカの保護下にあり。

日本から派遣される艦娘の窓口、

及び諸外国からの輸送艦護衛の中継点としてにぎわっていた。

 

「大本営の対応は?」

 

『現在、アメリカの駆逐艦娘と共同で敵潜水艦の排除計画を進めているそうです。

 機動部隊に対しては呉、横須賀から特別編成の艦隊が足止め作戦を……。

 アメリカで就役しつつあるアイオワ級艦娘と合流、

 足並みを揃えて反撃を開始するようです』

 

その報告を聞いて、思案顔になる海鳴提督。

 

「アメリカではレキシントン級やヨークタウン級の空母艦娘が就役していたと聞いたが彼女らは?」

 

『アリューシャン列島を北方棲鬼が率いる艦隊が強襲。

 同時にミッドウェー諸島に出現した中間棲鬼が率いる艦隊が散発的な遊撃を行い米戦力を足止めしているようです』

 

「復活が早すぎる。

 去年の夏に二体のアドミラル級は撃破したはずだ」

 

そこで、黙って聞いていたシスター・ヨランダが口を挟む。

 

「ジュエル・シードだね」

 

『ほぼ、間違いないと思われます。

 北方棲鬼の撃ち抜かれた胸、

 中間棲鬼の撃ち抜かれた右目に蒼い宝石を見たという報告があるそうです』

 

「では、南方を攻め立てているのは……」

 

大淀は、提督の足を見た後に目に怒りを浮かべて断言する。

 

『南方棲戦鬼とリコリス飛行場姫を中心とした大艦隊がサーモン諸島、

 ルンバ沖、鉄底海峡より湧き出てきました。

 大本営は、呉と横須賀に対して『AL作戦/MI作戦』を発令。

 佐世保、舞鶴鎮守府に南方海域奪還作戦『渾作戦』を発令しました。

 大湊警備府の提督はトラック諸島にてアメリカ軍と共同作戦。

 各地に設けられている泊地を死守せよとの事です』

 

「我々、地方鎮守府に対する命令は?」

 

『主力艦隊を近隣の大規模鎮守府と合流。

 自由裁量で参加する作戦を選んでも良いと通達がきました。

 ただし、一年未満の新任提督と艦娘は参加不可。

 護国の任にあたれとの事です』

 

 

後の世に語られる。

アメリカ艦娘艦隊、日本艦娘艦隊による連合軍。

ドイツ派遣艦娘艦隊による世界最大の決戦。

総数2億とも言われる艦娘と

5億を越えると言われた深海棲艦との大海戦の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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