仮面ライダー鎧武 アナザーストーリー (佐々木 空)
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望んでいなかった結末

森に包まれた広い大地。

 

そこにその姿はあった。

 

三日月をかたどった兜を被り、オレンジを模した鎧を身に付け纏い、馬に跨がるその姿はまさに鎧武者そのもの。

 

その背後にはたくさんの怪物と呼ぶに相応しい存在がいた。ある者は自らの爪を抑え、ある者は自らの羽を使い空を飛び、自分たちの支配者の号令を今か今かと待っていた。

 

鎧武者の見つめる先には同じようにたくさんの怪物と空中を浮遊する機械とハンマーを持った戦士がいた。その先頭にいたのは、二本の角を持ち、バナナを模した鎧を身に纏い、赤いバイクに乗った西洋騎士のような戦士がいた。

 

彼等はお互いを見つめていた。

 

――――――まるでこうなることが分かっていたかのように。

 

 

 

――――――まるでこうなることが決まっていたかのように。

 

 

 

そんな彼等を見ている者たちがいた。

 

緑の鎧を身に纏い、一振りの刀を持つ白い戦士。その傍らには膝をつき、白い戦士に付き従うようにいる紫の鎧を身に纏う緑の戦士がいた。

その背後にも彼等に従うようにいる怪物たちと機械の姿。

 

そこから少し離れた丘にはピンク色の髪の少女と膝をつき俯いている長い黒髪の少女がいた。

その近くにはまるで全身を骨で包まれ、剣を持つ戦士と肩をライオンで模した金色の戦士がいた。

 

 

その場に居る全ての者が分かっていた。

 

 

――――――もう自分たちに出来ることは何もないと。

 

――――――見届けるしかないのだと。

 

 

「なんで・・・なんでこうなるの・・・。こんなの・・・こんなのって・・・・・・!」

 

「――――うん、そうだね・・・。なんでこうなっちゃったんだろう」

 

黒髪の少女の呟きにピンク色の髪の少女が応える。

 

「こんな結末なら・・・・・・変えられたらよかったのに――――」

 

 

鎧武者が少女たちを見る。少女たちには彼が何を思っているのかは分からない。

だが、彼女たちには分かっていた

 

彼が戦うのはきっと――――

 

 

 

一輪の花が舞う。

 

その花が落ちるのと同時に――――――

 

「ウオオオオオオオオオオォォォォォオオッ!!」

 

「ハアアアアアアアアアアァァァァァアアッ!!」

 

――――――彼等は走り出した。

 

 

 

その手に持つは己の武器――――――

 

その手に懸けるのは己の全て――――――

 

その手につかむのは・・・・・・己の未来――――――!!

 

 

自らの信じる未来のために彼等は己の武器を振るい

 

 

そして――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・んん・・・」

 

そこで目を覚ます。

 

暖かいベッドの感触。心地良い抱き枕の感触。

そこまで考え、ピンク色の少女が呟く。

 

「・・・夢かぁ」

 

 

 

 

 

 

天を獲る

 

世界を、己の色に染める

 

その栄光を君は求めるか?

 

その重荷を君は背負えるか?

 

人は、己一人の命すら思うがままにはならない

 

誰もが逃げられず

 

逆らえず

 

運命という名の荒波に押し流されていく

 

 

だが、もしもその運命が君にこう命じたとしたら・・・?

 

 

『世界を変えろ』、と

 

『未来をその手で選べ』、と

 

 

君は運命に抗えない

 

 

だが・・・

 

 

世界は君に託される!!

 

 

 

 




第1話いかがだったでしょうか。
始めました続編にして本編。こちらの方がすぐに書けるのでこちらを進めていきます。
ビギンズストーリーは・・・まぁ、おいおい。


感想、誤字、脱字よろしくお願いいたします。


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奇妙な転校生

「姉さん、準備できた?」

 

「将汰はどうなの?」

 

「もう出来てるよ」

 

マンションの一室。

 

朝ごはんを食べ終え、急いで準備をする声が聞こえる。

一人は学校指定の制服を身に付け、もう一人はスーツを着ていた。

高校生と社会人の姉弟といったところだろう。

 

「じゃあ、俺先に行くから。行ってきます!」

 

「はーい。いってらっしゃーい」

 

学校に向かう弟を見送った後――――

 

 

「――――よかった。将汰、元気がもどって………」

 

 

――――そう優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

「おーい! お一人さん!」

 

「ん?」

 

自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると三人の少女が近付いて来ていた。

 

「こんな可愛い女の子が居るのに一人で先に行くとか、変わった奴だね~」

 

「朝少し早く家を出ただけだっつーの。後、本当に可愛い奴は自分のことを可愛いなんて言わねぇ。おはよ、まどか、杏子」

 

「おはよう、将汰君」

 

「よっす」

 

呼び掛けられた少年、桜庭将汰は軽くあしらい、声をかけると、大人しそうな雰囲気のピンク色の髪の少女、鹿目まどかと活発そうな長い髪を後ろで束ねた赤い髪の少女 、佐倉杏子が返す。

 

「ちょっと! さやかちゃんには何の挨拶もないの!」

 

「はいはい、おはようおはよう」

 

文句を言ってくる青い髪の少女、美樹さやかにも軽く挨拶をする。

すると、杏子がニコニコしながら将汰に声をかける。

 

「なぁなぁ、将汰。宿題やってきたか?」

 

「そりゃ、やってきたけど。それがどうかしたか?」

 

「見せてくれ」

 

「ダメ」

 

「見せてくれ♪」

 

「音符付けてもダメ」

 

どんなことを聞いてくるか大体分かっていたのですぐに断る。

 

「なんだよ~。まどかもダメって言うしさ~。なぁ、頼むよ。少しだけ! な?」

 

「コォラァーーーッ!! 毎度毎度宿題忘れてッ! 私だって面倒くさいけどちゃんとやってるんだからアンタもちゃんとやりなさいっつーの!」

 

「そもそもビートライダーズと学業の両立が無理だったんだよ。あ~あ、やっぱりダンスと歌を熱心にやったら宿題を忘れてもしょうがねぇよな~」

 

「アンタはただ宿題をするのが面倒なだけでしょうが!」

 

わざとらしい困り顔を作りながら逃げる杏子と右手に握りこぶしを作り、怒り顔で追いかけるさやか。

そんな二人のやり取りを将汰とまどかは苦笑いしながら見ていた。

 

「……あいつ等仲良いな」

 

「ははは……」

 

 

 

 

「皆さん、おはようございます」

 

「おはよう、仁美」

 

教室に入るとクラスメートの志筑仁美が挨拶してきたのでさやかが反応する。

 

「どうしましたさやかさん? なにやら少しお疲れの様ですが…」

 

「いやぁ…ちょっとね。杏子と一悶着あって…」

 

「まぁ、相変わらず仲がよろしいですね」

 

「仲良くないッ!」

 

仁美に言われて否定するさやかだが、むきになっているのが逆効果なんだよ、と思う将汰だった。

 

「そういえば今日変な夢見たんだ」

 

ふと何かを思い出したかのようにまどかが言った。

 

「変な夢? どんな?」

 

「う~ん、なんだったっけ…」

 

キーンコーンカーンコーン

 

思い出そうとするまどかだったが、チャイムが鳴り慌てて席に着く。

 

「みなさん、おはようございます!」

 

チャイムが終わると担任の早乙女和子が怒り顔で入ってくる。

クラスの大半が何事かと思ったが、何人かの人物はすぐに分かった。

 

「今日はみなさんに大事なお話があります! 心して聞くように! 目玉焼きとは固焼きですか! それとも半熟ですか! はい、中沢君!」

 

ビシィッ! と棒で指される中沢君。

 

「えっ!? えっと…ど、どっちでもいいんじゃないかと…」

 

「その通り! どっちでもよろしい! たかが玉子の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです!! 女子のみなさんはくれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないようにッ!」

 

「ダメだったか…」

 

「ダメだったんだね…」

 

早乙女先生には付き合っている男がいた。そろそろ3ヶ月になるがここからが分からないとまどかは母親から聞いていたが母親の予感が当たったということだろう。

全部言い終えたのか、早乙女がふぅ、と言った後、笑顔で顔を上げた。

 

「はい! 後、それから今日はみなさんに転校生を紹介します」

 

「そっちが後回しかよ…」

 

「じゃあ、暁美さん、いらっしゃい」

 

教室のドアが開き、一人の女子が入ってくる。

瞬間、教室の雰囲気が変わった。

流れるような長い黒い髪。力強い印象を受ける黒い瞳。綺麗という言葉が似合う少女だった。

 

「うわぁ…すげー美人…」

 

「……」

 

まどかは違和感を感じていた。

初対面のはずなのに、どこかで会ったことがあるような、そんな感覚だった。

 

「はい。それじゃ自己紹介いってみよう」

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

「? 続けて?」

 

先生が先を促すように言うと、ほむらはペンを手に取り、先生がホワイトボードに書いていた自分の名前の続きを書くと軽くお辞儀をした。

みんなはそれを見ると呆気にとられながらも拍手を送る。

 

「「…え?」」

 

一瞬、ほむらがこちらを見たような気がした将汰とまどかだった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、まどか。あの子知り合い? 何かさっき思いっきりガン飛ばされてなかった?」

 

「いや…えっとぉ…」

 

ほむらがまどかを見たような気がするさやかはまどかに聞いてみる。

そのほむらはというと転校生の宿命とも言うべき質問攻めにあっていた。

 

「ごめんなさい。なんだか緊張しすぎたみたいで…ちょっと気分が…保健室に行かせてもらえるかしら?」

 

「あっ、じゃあ私が案内してあげる」

 

「私も行く行く!」

 

「いいえ。お構いなく。係りの人にお願いしますから」

 

そういうと、ほむらはこのクラスの保険係、まどかの下に来る。

 

「あっ…」

 

「鹿目まどかさん、あなたがこのクラスの保険係よね?」

 

「え? えと…あの…」

 

「連れて行ってもらえる? 保健室」

 

言葉にできない圧力を受けながらまどかはほむらと共に教室から出て行く。

ふと、将汰は疑問に思った。

 

「あれ? なんで案内するまどかが後ろなんだ…?」

 

 

 

 

 

まどかは困惑していた。

案内してほしいと言われて付いてきたがまるで“最初から知っていた”かの様に前を行くほむらに。

 

「あ、暁美さん…」

 

「ッ…ほむらでいいわ」

 

「ほむらちゃん…?」

 

「何かしら?」

 

「あ、えっと…その…変わった名前だよね?」

 

「……」

 

「あ、いや…だから、へ、変な意味じゃなくてね! そ、その…かっこいいな~なんて――――」

 

「ッ…鹿目まどか」

 

いきなり振り返ったかと思うと真剣な表情で問いかけてくる。

 

 

「あなたは自分の人生を尊いと思う?」

 

 

「家族や友達を大切にしている?」

 

 

「え――えっと…私は、た、大切だよ! 家族も友達のみんなも――大好きで、とっても大事な人たちだよ!」

 

「本当に?」

 

「本当だよ! 嘘な訳ないよ…」

 

「…そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね。さもなければ―――――全てを失うことになる」

 

 

「……」

 

 

「あなたは鹿目まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも――――」

 

 

それだけ言うと、ほむらは踵を返して行った。

 

 

後に残ったのは状況をうまく飲み込めないまどかと静寂だけだった。

 

 

 

 

 




第2話いかがだったでしょうか。
3月にはアーマードライダーのロックシードが、4月には鎧武の外伝のDVDが届く予定です。すごく楽しみです。


感想、誤字、脱字よろしくお願いいたします。


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ビートライダーズとインベスゲーム

「はぁ!! 何それ!? 才色兼備で文武両道かと思いきや、実はサイコな電波ってか。 くー! どんだけキャラ付けすれば気が済むんだ。 萌えか! 萌えなのか~!」

 

「萌えっつーか、ただ変なだけだろ」

 

 

放課後。

 

 

まどかから話を聞いたさやかと杏子がほむらに抱いた印象を喋る。

 

「まぁ、確かに少し変だけどあんまり気にすることはないと思うぞ?」

 

「うん、ありがとう」

 

「つーかよ、本当に初対面なんだよな? あの転校生」

 

疑問に思ったのか、バッグからポッキーを取りだし、食べながら杏子が質問する。

 

「う~ん…常識的には初対面だと思うんだけど…」

 

「え、何それ? 非常識だと心当たりがあるわけ?」

 

「うん。」

 

 

 

「夢の中で会ったことがある、ような…」

 

 

 

「あはははは! 何それ、ちょーウケるんだけど」

 

「もう! 真面目に聞いてよ! 真剣に悩んでたから」

 

笑うさやかに怒るまどかだが、さやかがゴメンゴメン、と宥める。

 

「あっ…俺そろそろ行かないと。 じゃあな!」

 

時計を見た将汰が急に立ち上がり急いで荷物の中に詰め込んで、教室を出ようとする。

 

「あ! ちょっと! どこに行くのよ!」

 

「バイトだよ! バイト!」

 

「ねぇって! ……行っちゃったか」

 

「まぁ、晶さん二人暮らしだからな。 生活費とか大変なんじゃね?」

 

「あっ。 ねぇ、私たちもそろそろ行こうよ。 みんな待ってるかもしれないよ」

 

「もうそんな時間? 杏子、アンタはどうすんの?」

 

「あ~、私は用事かあるからパスで」

 

待ち合わせの時間が近付いたからなのか、二人は席を立ち、用事があるらしい杏子に別れを告げ、目的地へと向かい出した。

 

 

 

 

 

「将汰、これを2番テーブルに持ってってくれ」

 

「はい、分かりました!」

 

店長に言われて、出された料理を2番テーブルに持っていく。

学校帰りの学生が多いせいか、店の中には何時もより人がいた。

そんな状況でも将汰は文句のひとつも言わない。と言うよりも言う権利は無いと思っている。

色々なバイトを探している時に人手不足と聞いてなんとか雇ってもらった経緯があるし、生活費を姉の給料だけで済ますのはいけないと思ったので、自分の生活費ぐらいは自分で何とかしようと決めているからだ。

 

「おい将汰! 出前が入ったからちょっと行ってきてくれねぇか」

 

「いいですけど、大丈夫なんですか? 俺が抜けて」

 

「なぁに、すぐ近くだから問題ねぇよ」

 

「分かりました。 じゃあ、行ってきます」

 

返事をするとバイクに乗り注文先に向かう。

 

 

 

 

 

 

『ハロ~~ッ沢芽シティッ!!』

 

 

「ん?」

 

バイクで移動している途中、ビルに設置されたモニターから声が聞こえる。

 

『今日も町の至るステージでビートライダーズがホットなダンスを踊ってるぜ。 ファンたちのテンションもグングン上 昇 中 だッ~! そんな奴等の状況をビートライダーズホットラインからDJサガラがおおくりするぜッ!』

 

モニターではこの町『沢芽市』に住む人間なら知らない人間はいないとまでされる人気DJ、DJサガラの配信が流れていた。

 

彼の話術はなにか人を惹き付けるものがあるらしく、実際町の人間はモニターか手元のタブレットで配信を見ていた。

 

 

『所々相手のチームのステージを奪うためチーム同士の衝突が起こっているようだが、そんな時は拳を使うんじゃなくてロックシードを使ってのインベスゲームで決着をつけるのがクールなやり方ってもんだぜッ!』

 

インベスゲーム。

 

それは沢芽市に存在するビートライダーズと呼ばれる若者たちが自分たちのステージを相手のチームから守るため、もしくは奪うためにするロックシードと呼ばれる果物や種を模した錠前を使うことで操るインベスと呼ばれる存在を戦わせるゲームのことだ。

 

インベスゲームで相手チームを倒し、ランキング上位に上がる、それが今沢芽市で人気の娯楽だった。

 

「またか……ずいぶん変わっちまったな、この町も……ん?」

 

移動しているとなんだか人が騒いでいるのが見える。

 

「!? あれは…!」

 

騒ぎの中心に居たのはインベスだった。それも実体化(・・・)した。

 

インベスはロックシードで呼べばホログラムの様な姿で出てくるが、もしバトルフィールドから出れば実体化する。

 

おそらく誰かがインベスゲーム中にロックシードを手放し、コントロール出来なくなったのだろう。

 

インベスにも驚いたが将汰が驚いたのはインベスが襲っている人物だった。

 

将汰はすぐにバイクを動かし、インベスに突っ込む。

 

「キィィッ!?」

 

「! 将君…」

 

インベスを弾き飛ばし、襲われていた少女、まどかの近くに落ちていたロックシードを拾い閉じようとする。

すると、インベスの近くにチャックの様なものが現れ、入り口らしきものが開く。

インベスがそこを通るのを確認するとロックシードを閉じ、入り口を消す。

 

一先ずなんとかなったが、ロックシードは壊れていた。

 

「大丈夫か、まどか?」

 

「う、うん…。ありがとう…」

 

 

「将汰さん!」

 

 

手を伸ばしまどかを立たせると『チーム鎧武』のメンバーが集まってきた。

 

「よぉミッチ。みんなも大丈夫か?」

 

「はい…けど……」

 

 

「インベスゲームの途中にロックシードを手放すとはな!」

 

 

将汰の問いにチーム鎧武の少年、呉島光実が答えるとステージにいた赤いコートの青年が叫んだ。

 

「あいつ等は…確かバロンの……」

 

「試合放棄と見なしていいんだな! だったら今日からこのステージは俺たち『チームバロン』のものだ!」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「ま、まどか、元気出しなって!」

 

「お前が言うな」

 

落ち込むまどかを元気付けようとするさやかだが将汰にツッコまれ怯む。

 

「うぐっ…だ、だってしょうがないじゃん! いきなりステージを寄越せなんて言われたらさ…」

 

話によると、ことの始まりはチーム鎧武のメンバーがステージで踊っていると先程の青年、チームバロンのNo.2的な人物、ザックがリーダー以外のメンバーを引き連れ、ステージを懸けてインベスゲームで勝負を仕掛けてきたらしい。

 

普通はチームのリーダーの指示を仰ぐべきなのだが、怒ったさやかはリーダー不在のままインベスゲームを受けてしまった。

 

結果はロックシードを落としてしまいあの騒ぎが起きたというわけだ。

 

さやかが言うには、何かが手に当たりロックシードを落としてしまったという話なのだが……

 

 

「よお、将汰。元気そうだな」

 

 

「裕也…」

 

そんな三人に声を掛けてくる人物がいた。

 

名前は角居裕也。チーム鎧武のリーダーだ。

 

「さやか、ミッチから聞いたぞ。俺が行くまで待てって言ったろ?」

 

「うぐっ……」

 

「裕也さん…これ…ごめんなさい……」

 

まどかが壊れたロックシードを見せながら謝る。

 

「気にするなって。だからそんなに落ち込むな」

 

「…うん」

 

「なぁ、将汰」

 

「ん?」

 

「ちょっといいか?」

 

 

 

 

 

まどかとさやかを帰らせ、バイトを終わらせた後、将汰は裕也と共にドルーパーズという店に来ていた。

ドルーパーズとはフルーツを専門に扱っている店で将汰たちの行き付けの店だ。

 

「またロックシードか…。最近はどれだけランクが高いロックシードを揃えているかでチームの格付けが決まるようなもんだな…」

 

店の奥に居る錠前ディーラーのシドからロックシードを買い、嬉しそうに店から出て行く人を見ながら裕也が呟く。

 

「俺はあんまり好きになれないな…」

 

「そうか? 喧嘩で怪我人が出るよりマシだしかわいいもんだと思うぜ?」

 

ドルーパーズの店長、坂東清治朗がパフェを将汰と裕也のテーブルに置きながら将汰の呟きに応える。

 

「そもそもあのインベスって一体何なんだ! ランキングだって1年前までは誰も気にしていなかったのに、今じゃみんなインベスゲームに勝ってランキングを上げることに必死だし…!」

 

ビートライダーズにはランキング(・・・・・)が存在する。

 

ダンスやインベスゲームの様子をネットで配信し、街の人々の投票によりチームの順位が決まる。

 

現在の1位は先程のチームバロンだ。

 

ちなみにチーム鎧武は最下位になっている。

 

「お前がいなくなってストリートの様子はすっかり変わっちまった…。1年前、お前が帰ってきた時はまた前みたいになると思ったんだけどな……」

 

「裕也……」

 

「分かってるって。チームを抜けた時みたいにあの時も何かあったんだろ? あの時のお前、普通じゃないくらい元気なかったもんな。心配すんな。チームのみんなもいつかお前がチームを抜けた理由を分かってくれるって!」

 

「……ああ」

 

この街に帰ってきて、たくさんのものが変わっていた―――――

 

街も。人も。自分の知っているものはほとんど―――――

 

 

でも、それでも変わらないものもあった。

 

 

そのことが少しでも良かったと思う将汰だった。

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえり」

 

夕方。

 

マンションに帰ってくると台所から姉、桜庭晶の声が聞こえた。将汰は椅子に座ると、はぁ、とため息をつく。

 

「どうしたの? 元気ないけど…」

 

「なぁ、姉さん。変わるのってそんなにいけないことなのかな……」

 

「どうしたの急に?」

 

「この街はずいぶん変わっちまった…。街だけじゃない。人も、ルールも、たくさんのものが…。ビートライダーズも昔はみんな一緒に笑いあっていたのに…今じゃ、みんないがみ合ってランキングを上げることに必死になってる。だったら、いっそ変わらない方がよかったんじゃ……」

 

たくさんのものが変わってしまった。その結果、傷ついたものや失ったものがたくさんあった。

 

なら、変わること自体が間違いなんじゃないのか、そう思う将汰が聞いたのは――――

 

 

「う~~ん…それは違うと思うよ?」

 

 

――――否定する姉の言葉だった。

 

 

「えっ、な、何で! だって、変わったからみんないがみ合うように―――」

 

「確かにみんな変わったからそうなっちゃったけど、それは仕方ないことだと思う」

 

「仕方ないこと…?」

 

「そう。だって、変わった後に良くなるか悪くなるかなんて、誰にも分からないもの。大切なのは、そういうことを恐れないで変わることだと思う」

 

「大切なのは…恐れずに、変わること……」

 

「そう! で、一番ダメなのは、そういうことを恐れたり色んなことに執着して変わろうとしないこと。良くも悪くも、変わることは大切だからね。将汰はさ、どんな自分に変わりたいの?」

 

「俺の…なりたい自分…」

 

 

昔、変わろうと思ったことがあった。でも、その結果、色んなものを傷付けて…それで、変わろうと思ったのが間違いだったと思って……。

 

でも、それが間違いだっていうんなら――――

 

 

「俺…変身したいんだッ! 何でもできる自分に…!」

 

もう失敗はしない。

 

もう誰も傷付かないようにしたい。

 

――――そんな自分になりたい。

 

 

「…そう。だったら、はいこれ」

 

晶が将汰に渡したもの、それは……

 

「…えっ? ジャガイモ?」

 

ジャガイモだった。

 

「まずは家のこと全部出来るようにならないとね。いきなり違う自分になろうだなんて…人生甘く見すぎだぞ! っと。」

 

「うッ!」

 

喝を入れるかのように腹パンをくらった後、一緒に料理を作る。

 

 

両親が死んでから、ずっと二人で暮らしてきた姉と弟。せめて、その関係だけはこれからも変わらないでいてほしいな、と思う将汰だった。

 

 

 

 

 

 

「何の用だ…」

 

ドルーパーズにて、裕也はシドに呼び出されていた。

 

「何…おたくのチームがピンチと聞いてな。とっておきの秘密兵器でも用意してやろうかと思ってな」

 

「また新手の錠前か…」

 

うんざりしたように言いながら向かいの席に座る裕也。

 

「ふっ……いや……」

 

面白がるような笑みを浮かべながらシドがある物(・・・)をテーブルの上に置く。

 

「これは……」

 

そこにあったのは刀が付いたベルトのドライバーのようなものだった。

 

 

 




話は全部頭の中で出来てるのに腕が全然追い付かない……。

感想、誤字、脱字よろしくお願いいたします。


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変身!空からオレンジ!?

「ここか…」

 

次の日。

 

バイトが早めに終わった将汰は、裕也から『面白いものを見せてやる!』というメッセージと変なものが写った写真のメールが送られてきて、指定された場所に来ていた。

 

「あれ、将君?」

 

「まどか? 何でここにいるんだよ」

 

「何でって、裕也さんに呼ばれて…将君も?」

 

「ああ」

 

まどかも裕也に呼ばれていたようで二人は周りにいないか探していた。

 

しかし、予定の時間になっても裕也は姿を現さなかった…。

 

「おっそいな……一体どうしたんだ……。…って、あれ? まどか?」

 

ふと、周りを見ると一緒にいたはずのまどかの姿も消えていた。

 

 

「どこに行ったんだよ…たくっ、お~い! まどか! 裕也!」

 

二人の名前を呼びながら探していると、まどかを見つけ、いたいた、と言いながら近付く。

 

「……まどか? どうしたんだよ、ぼーっとして…」

 

「ねぇ、将君……これ………」

 

「あ? これってな、に……」

 

まどかが指差す方向を見て将汰は言葉を失った。

 

コンクリートの建物のすぐ横の空き地のようなところに何か入口らしきものがあり、その周りが不自然なほど植物に溢れていた。その周りには明らかに見たことのない植物もあった。

 

「なに…これ…」

 

「これ…どっかに繋がってんのかな……?」

 

「あっ、将君待ってよっ!」

 

植物をまじまじと見ていたまどかだが先に行く将汰を見て追いかけていく。

 

 

 

 

「何だ…ここ……」

 

入口を抜けた先にあったのは森だった。

辺りを見回しても森、森、森。沢芽市のことは知らない所もあるが、少なくともこの沢芽市にここまで深い森は存在しない。

 

「っ! 将君、こっち!」

 

「ちょ、おい、どうしたんだよ」

 

「あれ………」

 

いきなり腕を引っ張られ、木の陰に隠れる。

何事かと思い、まどかの指差す方を見るとそこにいたのはインベスだった。

それもインベスゲームで見るような大きさではない。インベスゲームのインベスは小さいが今目の前にいるのは人間とほぼ変わらない大きさだった。

 

「あれって、インベス……だよね…?」

 

「ってことは……ここって、インベスの住み処なのか…?」

 

近くの木を見ると、果実の様なものがあることに気付いた。

二つほど手に取る。よく見ると先ほどインベスが食べていたものだった。

 

「(なんだこれ………なんか………すげぇうまそう…)」

 

美味しそう、果実を手に取って最初に思ったのはそれだった。

腹がへっている訳ではない。

だが、食べてみたい。

今すぐかぶり付きたい。

不思議にそんな気持ちになった。

手が動く。そして、果実を食べようとして――――

 

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 

――――直前で手を止めた。

 

「!? まどか!」

 

まどかの悲鳴で我にかえる。

声のした方を見ると、そこにいたのはインベスだった。

しかし、ただのインベスではなかった。

上半身は緑の鎧の様なもので覆われ、鋭利な爪を持ち、虎の様な顔をしていた。

 

一瞬、その姿に驚くがすぐにまどかの手を引き走り出す。

少し走った後、木の陰に身を隠す。

 

「はぁ…はぁ…大丈夫か?」

 

「うん…でも、あれってインベス、なのかな…?」

 

「分からない…けど、ただのインベスじゃないのは確かだ…」

 

「! ねぇ、将君…あれ……」

 

驚いたような声のまどかが指さす方を見ると裕也のメールに写っていたものが落ちていた。

 

「っ! ……これって、裕也が言ってたやつだよな…?」

 

「じゃあ、裕也さんもここに?」

 

将汰が拾って確認し、まどかは周囲に裕也がいないか探す。

 

「それにしても…これなんだろう……?」

 

「なんかベルトのドライバーみたいだけど……?」

 

そう言いながらドライバーを腰にあてる。

すると、ドライバーが勝手に巻き付きプレートの部分に顔が浮かび上がり――――

 

「え?」

 

――――手に持っていた二つの果実がロックシードに変化した。

 

「ええぇぇぇえっ!?」

 

「これって…ロックシードだよね…?」

 

「じゃあ、ここになってるの全部……」

 

ロックシード、ということになる。

 

「グルル……!!」

 

「!? まどかこっち!」

 

ロックシードに気をとられすぎていたのか先程のインベスが近くに来ていた。

 

すぐに二人は走り出し、元来た道を通り街に戻るとインベスも後を追ってきて、その背後にあった入口は閉じていく。

 

 

 

二人は一旦、建物の陰に隠れて様子を見る。

 

「はぁ…はぁ…たぶん、まだ追いかけてきてるよね…」

 

「……………」

 

まどかの言葉を聞きながら、ロックシードと自分の腰に付いたドライバーを見ていた。

 

「(このドライバー……もしかしてロックシードを嵌められるのか? ……って、違う!! そうじゃない…!)」

 

この状況と似たものを知っている。

突然現れた化け物、逃げる自分、そして……このドライバー(・・・・・)

 

「(これじゃあ、まるで………)」

 

――――一年前と同じだ。

 

「グルァァアアアァァアッ!!」

 

「!? 伏せろっ!」

 

きゃっ、という声が聞こえた直後、インベスの叫び声が聞こえ、体から光線のような触手を出し、辺りの物を切り刻み、爆発が起きる。

 

「……まどか。俺があいつの気を引くからその隙にお前は逃げろ」

 

「え…で、でもそれしゃ将君は!?」

 

「大丈夫だ。それに………初めてじゃないしな」

 

「え………あ! 将君!」

 

 

 

 

まどかの制止を振り切り、インベスの前に出て気を引く。

案の定、インベスの注意は将汰に向いた。

 

「こっちだ化け物!!」

 

言うや否や、すぐに走り出した。当然、インベスも後を追うべく走り出す。

 

どう逃げるのか? どうすればあいつに勝てるのか? そんなことは全然頭に入っていなかった。

 

あいつを――――まどかを守らないと。

 

今考えていたのは……ただそれだけだった。

 

やがて、金網が目の前に立ちふさがり逃げ道がなくなる。将汰は近くにあった鉄パイプで殴りかかるがすぐに受け止められ、投げ飛ばされて金網ごと弾き飛ばされる。

 

「がは……っ…」

 

意識が朦朧とする中で右手のロックシードが目に付いた。

 

 

 

もしかして、と思う気持ちがなかったわけじゃない……。

 

 

 

だけど、それでこの状況をなんとか出来るなら――――――!

 

 

 

将汰は意を決して立ち上がり、インベスを見据えロックシードを開錠する。

 

『オレンジ!』

 

音声が鳴ると頭上にチャックが現れ、中から巨大なオレンジのようなものが出てきた。

 

「オラッ!」

 

『ロック・オン!』

 

ロックシードをドライバーにセットするとベルトから法螺貝のような音が鳴り音楽が鳴り響く。

 

「ど、どうすんだこれ………こうか?」

 

とりあえず、ドライバーに付いていた刀を降ろし、ロックシードを切る。

 

『ソイヤッ!』

 

すると、音声の後に頭上で止まっていたオレンジが頭に落ちてきた。

 

「えっ?」

 

『オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

「えっ? オレンジって、俺!?」

 

驚く将汰をよそに、オレンジは開き、鎧のようになるとそこには一人の鎧武者の姿があった。

 

「え、ええぇぇぇーーーーーっ!!??」

 

なにかしら起こるだろうとは思っていた。だが、これは思ってもみなかった。いくらなんでも、オレンジが空から降ってきて鎧になるなんて誰も思わないだろう。驚いても仕方のないことだ。

 

「な、な、な、なんじゃこりゃーーーー!!?」

 

「グルゥアァァッ!」

 

「って、うおっ!?」

 

驚いているひまもなく、インベスは襲い掛かってきた。突然のことで驚いたがすぐにいつの間にか右手に持っていた刀、大橙丸を使いインベスに切りかかる。

 

「オラッ! オラッ! オゥ~ッラ!!」

 

「グゥゥゥ……!」

 

「もしかしてこれ…いける! ……うお!?」

 

油断した瞬間、インベスに大橙丸を弾かれ落としてしまう。首を押さえられ、右手を振り上げるインベスを見て、やばい、と思った時、左の腰に大橙丸とは別の刀があることに気づく。

 

「! これだ!」

 

すぐさま刀、無双セイバーを振りぬき、その要領でインベスを切りつけ拘束から逃れるとすぐさま大橙丸を拾い距離をとる。いっくぞー! という掛け声と共に大橙丸と無双セイバーを使いインベスを切りつけていく。

このまま押し切る、と思ったが、不利を感じたインベスはすぐにジャンプし、近くの建物に着地すると触手を無造作に放ってくる。

 

「うお!? っ、このやろ…!」

 

すぐさま将汰も近くの階段を使いインベスを追う。

 

「待たせたなーー!! ってあいた!?」

 

階段を上がり終わったと思ったところに横から蹴りを入れられ押さえ込まれる。

 

「くっ……ん? なんだこれ?」

 

無双セイバーの鍔の部分に何かを発見し、それを引っ張り持ち手に付いている引き金を引く。

 

パンッ!!

 

「うおっ!? だ、弾丸!? これって、刀にも銃にもなんのかよ………」

 

一発目でインベスが怯んだのを好機と思い、すぐに二発目、三発目と打ち出していく。

 

だが……………

 

「あれ? ……もう弾切れかよ!」

 

弾切れになったのを見て再びインベスが向かってきた。

 

「くそっ……ん? これって……」

 

両方の刀の柄に違和感を感じ、合わせてみる。

 

すると二つの刀はくっつきナギナタモードへと変形した。

 

「へぇ~~。これって、くっついたりもできるのか。はあっ!」

 

右上から切りつけ、すぐさま左から切りつける。ナギナタという両刃の流れるような攻撃にインベスも苦戦する。

 

だが、あまりダメージをくらっていないのか、それともやけくそになったのか、雄たけびを上げながら突っ込んできた。うお!? と驚くひまもなく将汰はインベスと共に地上へと落ちていく。

 

「っ、くそ…このままじゃ決め手がない……! 何か…何かないのか……!」

 

何か必殺技のようなものがあればインベスを倒せる。

 

だが、勢いで使っているだけの物のことなんてさっぱり分からない。

 

 

何か―――――何か――――――!!

 

 

 

 

 

『ロック・オン! 一・ 十・百・千 オレンジチャージ!!』

 

 

 

 

 

「!? ――――なんだ…今の………」

 

 

突然、頭の中で見たことのないヴィジョンが見えた。

 

いや……本当に、見たことがない……………? でも、何だ……この感覚は――――?

 

 

疑問に思ったが、無双セイバーとロックシードを見る。

 

「もしかして……」

 

『ロック・オフ』

 

ドライバーから外し、無双セイバーにセットする。

 

『ロック・オン! 一・十・百・千――――』

 

「やっぱり……!」

 

「グゥオオォォォッ!!」

 

「ハアアァァァアアアッッ!!」

 

インベスの触手を切り裂き、大橙丸から斬撃を放つとインベスをオレンジの形をしたエネルギーが拘束する。

すぐさま無双セイバーにエネルギーを溜めて突っ込む。

 

『オレンジチャージ!!』

 

「うぉらぁぁっ!!」

 

「グ………ガァァァアアアァァッ!!」

 

切りつけたあと後、断末魔のような叫びを上げながらインベスは爆発し消滅した。

 

 

 

「はぁ……はぁ…………」

 

ロックシードをドライバーに戻し、閉じて変身を解く。

 

 

「将君!!」

 

「……ああ、まどかか…………」

 

「大丈夫だった!? ねぇ、さっきのインベスはどうしたの………」

 

「あ、ああ…………」

 

戻ってきたまどかに聞かれるが全く頭に入ってこなかった。

 

 

 

さっきのインベスがなんだったのかは分からない。

 

でも、これだけは分かっている。

 

自分は変身し、そして―――――仮面ライダーになった。

 

 

 

「これが……俺の…変身…………」

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでは概ね予想どうり…………」

 

少し離れた所、そこで戦いを一部始終見ている者がいた。

 

 

 

「今度こそ………必ず―――――」

 

 

 




原作と似たような所は同じタイトルで行こうと思います。


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必殺!パインキック!

 

 

あれから一日が経った。

 

裕也に呼ばれて、まどかと一緒に変な森に行って、インベスに襲われて、そして俺は――――仮面ライダーになった

 

正直言って、俺はこの力をどうするべきか悩んでいる。

 

俺は以前、インベスはあんまり好きじゃないって言った。

 

別に怖いとか嫌っていう訳じゃない。

 

ただ……ああいうのを見ると思いだしちまうんだ。―――一年前のことを。

 

バダンとの戦い………そして――――仮面ライダーのことを。

 

俺のせいで大切な友達が傷付いた。

 

だから、俺は逃げた。みんなと居る資格はないって思って……。

 

 

 

 

まどかによると、あれから裕也は家にも帰っていないらしい。チームのガレージにも顔を出していないみたいだ。まぁ、裕也は時々誰にも何にも言わずにどっかに行くことがあるから心配ないだろうとは言っておいた。

けど…このチームが危ないって時にいなくなるのは少しおかしいとは思う。

まどかはもしかしたらまだあの森にいるのかもしれないって言っていた。もしかしたら本当にあの森に……。

ためしに二人でもう一度あの場所に行ってみたけど、あの森の入口も、植物も、何もかもが消えていた。まるで、初めから何も無かったみたいに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…………。

 

もしかして、全部夢だったんじゃないのかって思った。でも、俺はベルトを持っているから夢じゃない。

裕也については何も分からないままだ。

 

 

 

 

そして問題はこのベルト――――――戦極ドライバーだ。

 

 

裕也を見つけられないまま、俺たちはこのベルトについて錠前ディーラーに聞きに行った。このベルトがロックシードを使うってことはもしかしたら何か知っているんじゃないかって思ったんだ。

そしたら、案の定知っていた。

何でもこのベルトは最初に使った人以外は使えないらしい。

ためしにまどかの腰に当ててみたけどまったく反応しなかった。

つまり、このベルトを使えるのは俺だけ、ということになる――――――。

 

 

でも――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ~~~……、どうしろってんだよぉぉ~~~~」

 

 

大の字になりながら青空に悩みをぶつけてみる。当然、返ってくる言葉はない。

 

シドからベルトの事を聞いてから将汰はずっとこの調子だった。

ベルトをどう使えばいいのか、どうすればいいのか、考えていることは全部一緒だった。

別に無理して使う必要はないのではないか? とも考えた。

 

だが、捨てようにも一体どこに捨てればいいのか。結局、自分で持っていたほうが安全かもしれないと思い持っているというわけだ。

 

その時、自分の携帯が鳴っていることに気付き、手に取る。画面には『呉島光実』と表示されていた。

 

「んっ? ミッチ? どうしたんだ急に……? はいもしもし―――――」

 

 

 

『将汰さん! 大変なんです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チームのパスを賭けてインベスゲーム?」

 

「そうだ」

 

「ふざけないでよ!!」

 

「そうだよ! もしあれが無くなったら私たちステージで踊れなくなっちゃうじゃない!!」

 

「だったらお前たちはそこまでだったということだ。ただし、もしお前たちが勝ったらお前たちから奪ったステージは返してやる。そして、お前たちにこのクラスAのロックシードもくれてやる」

 

チーム鎧武のガレージにチームバロンのメンバー数人とチーム鎧武のメンバーが一触即発の空気を発していた。

ロックシードを見せながら自らの要求を伝えるチームバロンのリーダー、駆紋戒斗。

 

彼の要求にチーム鎧武のメンバーが抗議の声を上げる。

 

「でも…………私たちにはもうロックシードが…………」

 

「おいおい、じゃあどうすんだよ?」

 

「なんだったら、お前らの内の誰かがインベスと殴り合ってもいいんだぜ?」

 

「うっ…この……!」

 

 

 

 

「ちょっと待った!!!」

 

 

 

ガレージの扉が開き、声が響く。

 

その声の主は―――――

 

 

 

「将君!?」

 

「将汰!? あんたなんで……っ」

 

「僕が呼んだんです。すいません、勝手なことを……」

 

「ミッチ………」

 

 

「お前は……?」

 

「話は聞いたぞ。インベスゲームをするんだってな。だったら俺が相手をする」

 

そう言いながら将汰は森で手に入れたイチゴのロックシードを掲げる。それを見た戒斗は驚く。

 

「クラスAの錠前だと……!? お前は一体………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガレージを出て、広場へと移動する両チームのメンバーたち。

 

さすがにガレージではインベスゲームはできないと判断し、場所を移すということだった。周りにはインベスゲームを見ようとする見物人で溢れかえっていた。

上位チームと下位チームという組み合わせだ。今にも始まらないかとワクワクしていた。

 

 

「俺が勝ったらバロンはステージを鎧武に返してロックシードも渡す。そうだな」

 

「ああ。だが、もしお前が負けたらパスはもらう。チームは終わりだ」

 

ああ、と返事をし、二人はロックシードを解錠する。

 

戒斗は一度に三つのロックシードをつかい三体のインベスを呼び出す。

 

インベスゲームには使うインベスは一体だけというルールはない。だが、複数のインベスを同時に操るには相当な技術を要する。上位チームのリーダーの名は飾りではないということだ。

 

 

 

だが……………

 

 

 

 

 

「えっ!!?」

 

「なっ…!!?」

 

 

 

将汰の使ったロックシードから出てきたのは人間とほぼ変わらない大きさシカのインベスだった。

 

 

「くっ……上等だ!」

 

「お、おっしゃぁ! いくぜ!」

 

戒斗は三対のインベスを巧みに使い、攻撃を始める。

 

 

しかし、強大な力はどんな戦術をも叩き潰す。

 

 

息の合ったコンビネーションを見せる三体のインベスをシカインベスは自らの角を使い、一撃で倒した。

 

「やった! 勝った!!」

 

「馬鹿な……こんなことが………!」

 

インベスゲームに勝ち、喜ぶチーム鎧武のみんな。

 

 

 

……その時。

 

 

 

「っ、痛っ!」

 

将汰のロックシードを持つ手に痛みが奔り、ロックシードを手放してしまう。

その結果、フィールドにいたシカインベスに異常が起きる。

 

突然、ノイズが奔ったかと思ったらコントロールを失ったせいか、フィールドを破壊し、実体化した。

 

 

「うわぁ! こっちに来るぞ!」

 

「に、逃げろっ!!」

 

 

フィールドを破壊し、実体化したインベスは手当たり次第に人々に襲い掛かった。

 

突然の事態に周りの人々はパニックになり、逃げる者や恐怖する者で溢れかえった。

 

 

 

まずい、そう思いすぐにシカインベスをコントロールしていたロックシードを探すが、逃げ惑う人々のせいでロックシードを見失ってしまった。

 

だが、そんな状況でもはっきりと聞こえた声があった。

 

 

 

「何をしている、貴様っ!!!」

 

 

 

声を聞こえたほうに目を向けるとチームバロンの戒斗が同じチームのペコとザックを問い詰めていた。

よく見ると、戒斗の手には壊れたパチンコ球が握られていた。

 

まさか、そう思うがほぼ確信していた。

 

さやかが以前言っていた、ロックシードを落とした時に手に奔った痛み。そして今回の自分の状況。それらの出来事の犯人はチームバロンのザックとペコだったのだ。

他のメンバーがインベスゲームをしているときにザックがペコに合図を送り相手のロックシードを落とさせインベスを暴走させる。

 

だが、何故それを二人だけで行っていたのか?

 

 

 

答えは簡単だ。

 

リーダーの戒斗がそれらのような卑怯なことを良しとしない性格だったからだ。

 

現に今の戒斗から感じる雰囲気だけで彼の怒りが伝わってくるのが分かった。

 

 

 

 

「うわあぁぁ!!」

 

 

非帯との悲鳴で再びインベスに目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

この光景を知っている。

 

 

 

そして、どうにかする方法も。

 

 

 

 

「でも…………俺は………っ!!」

 

 

自分にそんな資格があるのか?

 

自分に――――――――――誰かを守ることができるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『将汰はさ、どんな自分に変わりたいの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――!!」

 

その時、考えて行動したのか。はたまた無意識だったのかは将汰自身もよく分からない。

 

気付けば戦極ドライバーとロックシードを握っていた。

 

 

「俺に資格があるのかどうかなんて分からない。…………でも、俺にしか出来ないっていうのなら――――」

 

 

 

――――やるしかない!!!

 

 

 

「変身!」

 

『オレンジ!』

 

頭上にオレンジ鎧が表れ、セットする。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

 

 

「はあぁぁぁっ!!!」

 

変身を終えると、すぐさま二刀でシカインベス目掛けて切りかかっていく。

 

 

「あれは………」

 

「将……君?」

 

 

 

 

戦いは有利に進んでいた。

 

 

最初は戸惑いと始めてのベルトということで少し使い勝手が分からなかったが今は違う。

今使える武器のこと。今使っているベルトのこと。だいたいだが分かってきた。

 

ならばやることはあまり変わらない。

 

それに、こんなのよりももっと強い奴だって知っている。それに比べればどうってことはない。

 

 

「よし! このまま押し切る!!」

 

 

このまま必殺の一撃を、と思ったところでインベスが意外な行動に出た。

 

「なっ!?」

 

 

インベスが落ちていたロックシードを拾い、食べたのだ。

果実を食べるのは見ていたので知っていたがまさかロックシードまで食べるというのは少し予想外だった。

 

 

 

直後、インベスに変化が現れた。

 

インベスの目が光ったかと思ったら、その体がみるみる大きくなっていき、背中から角のようなものが生え、拳が巨大化し、口から牙を生やしていく。

 

見て分かるほどに先ほどよりも凶暴になっていた。

 

「なんだ、あれ……」

 

「あれがインベスだと……!」

 

 

 

「まじかよ…………こいつ、イマジンやドーパントみたいにもなるのかよ…っ!」

 

巨大化したインベスが雄たけびを上げる。空気がピリピリしているのを感じる。

 

はたして本当に空気の振動なのか、それとも自分が圧倒されて震えているのか。

前者だと信じたい。

 

「や、やってやるよっ!! うおおおぉーーーーっ!」

 

自分に無理やり言い聞かせて立ち向かう。

 

 

 

 

「ぐ……っ!!」

 

 

インベスは見た目からは想像の出来ないほどの俊敏な動きで回し蹴りを繰り出してきた。

予想外の攻撃をくらい吹き飛ぶが、すかさずインベスが両拳にエネルギーを溜めて殴りかかってくる。

何とか体勢を立て直し武器を構えるが、強烈な連続パンチを受け、武器を手放してしまう。

 

「しまっ………くっ!?」

 

武器に気を向ける暇もなく、インベスの猛攻が続く。

 

このままじゃ、そう思った。

 

 

その時―――――

 

 

 

「はああああっ!!」

 

「なっ!!?」

 

 

 

―――――戒斗が無双セイバーを持って突っ込んできた。

 

そのまま無双セイバーをインベスに振るうが、生身ではインベスに十分なダメージは与えられず吹き飛ばされる。

 

だが、それでターゲットを変えたのかインバスが戒斗に向かって拳を振り下ろす。

 

「! まずい!」

 

『ソイヤ! オレンジスパーキング!!』

 

ドライバーに付いた刀、カッティングブレードを三回倒し、戒斗とインベスの間に割って入る。

インベスの巨大な拳がそのまま頭に直撃するかと思ったとき、鎧になっていたオレンジ鎧が元のオレンジの形に戻り将汰の頭を覆いインベスの拳を弾く。

 

「オラッ!!」

 

拳を弾かれ怯んだ隙にオレンジ鎧を両手で回転させ全力で頭を振るう。拳を弾かれ体勢が安定していなかったインベスはそのまま弾き飛ばされる。

 

「たくっ……大丈夫か?」

 

「くっ……余計なことを……」

 

「大丈夫みたいだな……とりあえず、ほら刀」

 

オレンジ鎧を元に戻しながら刀を投げ渡される。

そこでふと疑問に思った。

このベルトが使えるロックシードってもしかして一つだけじゃないんじゃ………。

 

「もしかして…おいロックシード!」

 

「何?」

 

「何? じゃねーよ!そいつで何とかなるかもしれないんだよ。それに勝負には勝ったんだからそいつはもう俺たちのものじゃねーのかよ!」

 

「っ、ほら!」

 

苦い顔をしながらも方法がないことを理解したらしく、ポケットからロックシードを出し渡す。

 

 

『パイン!』

 

開錠すると頭上からパイナップルを模した鎧が現れる。

 

『ロック・オン! ソイヤッ!』

 

 

『パインアームズ! 粉砕・デストロイ!!』

 

 

オレンジロックシードを外し、新たなロックシードをセットし切る。

オレンジ鎧が消え、新たに装着されたパイン鎧はオレンジ鎧よりも一回り大きく、金色の輝きを放ち、新たに現れたパイナップルの形をした鉄球型の武器『パインアイアン』を持つその姿はオレンジアームズとは違いパワータイプと呼ぶに相応しかった。

 

「なるほど………ロックシードが変わると武器も変わるのか。はぁっ!!」

 

パインアイアンを振り回し、遠心力をつけてインベスに叩きつける。

インベスの拳とパインアイアンが激突する。しかし、パインアイアンの破壊力がインベスのパワーを上回っており、インベスが押し負け拳が砕ける。

 

さらに叩きつけようとするがパインアイアンがインベスの首筋に引っかかり思いっきり引っ張られる。だが、とっさに無双セイバーとパインアイアンをくっつけ、引っ張られた反動を利用し切りつける。

 

「これすげーな! ……って、うおっ!!?」

 

パインアイアンの予想外のパワーに驚愕する。このまま決める、と思った直後、インベスが咆哮をあげる。突然のことで動きが止まった隙にインベスが移動を始める。

 

インベスの向かう先にいたのはチーム鎧武とチームバロンのメンバーや町の人々だった。

 

インベスが右手を振り上げ、人々に振り下ろそうとする。

 

 

 

しかし、その腕はパインアイアンにくっついた無双セイバーが縛り付き動きが止まる。

 

「やらせるわけ……ねえだろっ!!」

 

『ソイヤッ! パインスカッシュ!』

 

「はああっ!!」

 

将汰は高く飛び上がりパインアイアンをインベスに向けて蹴りつける。

 

すると、パインアイアンが徐々に大きくなりインベスの顔に突き刺さり視界を覆う。

 

 

「はああああっ………セイハーーーーーッ!!!」

 

 

右足にエネルギーを溜め、インベスを貫く。

直後、インベスの体は崩れていき爆散した。

 

 

 

「勝った………将汰さんが勝った!」

 

チーム鎧武のメンバーたちが将汰の勝利に喜び合い、集まってくる。

 

 

 

「将君……えっと、あの………」

 

「まどか。みんなのステージ………取り戻したぜ!」

 

「! うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日は飛びっきりの大ニュースを持ってきたぜ!チーム鎧武とチームバロンの因縁の戦いに突如、謎の鎧武者が乱入! チーム鎧武のメンバーらしいこの男はチームバロンのインベスを倒し、チーム鎧武に勝利をもたらしたーーーーー!!!』

 

とある車の中。

 

一人の男がDJサガラの配信を見ていた。

 

 

『突如乱入したこの男、颯爽とインベスを倒したこいつを俺は『アーマードライダー鎧武』と呼ぶことにしたぜ!!』

 

 

「アーマードライダーか……。まずは一人、順調のようだな。しかし、この男………………」

 

男が自分の鞄から資料を出し、その中の一枚に目を留める。

 

 

「やはり……こいつか………」

 

 

 

 

 

 

そこには『創神館学園 1年 仮面ライダーリュウガ 桜庭 将汰』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アーマードライダーという名称が登場しました。今後は新しいライダーが出る度に正式名称を書いていきます。仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ みたいに。

ナックルとデュークの外伝が決定しましたね。

貴虎の決意、戒斗の過去ときて次はどんなのは楽しみです。

あと劇場版仮面ライダードライブと手裏剣戦隊ニンニンジャーとアベンジャーズも。




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バナナなライバルと謎の森

アーマードライダー鎧武

 

 

 

 

 

ロックシードを使いインベスを呼び出すのではなく、ロックシードとドライバーを使い鎧を身に纏いインベスゲームに参加するその異色のゲームスタイルは瞬く間に街の人々の間で人気となった。

 

インベスを難なく撃退できる戦闘力、インベスと言う怪物に立ち向かう人間、様々な要素を持ったそれをもはや知らない者はいなくなっていた。

 

 

 

 

負け続けているランキング最下位のチームに突如現れたそれを、まるでヒーローだ、と呼ぶ者も少なくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「な~にがアーマードライダーだよ。あんなベルトを使っているんだから勝つのは当たり前だろ! つーか、そもそもインベスゲームに人間が参加すること自体反則だっつーのっ!!」

 

「でも、確かにあのベルトはすげぇよな………」

 

 

チームバロンが集まる拠点。

 

 

毎日のようにテレビに取り上げられるアーマードライダー鎧武にペコが文句を言う。その隣ではベルトの強さを認めているのかザックが驚きに満ちた言葉を漏らす。

 

 

チーム鎧武とチームバロンのインベスゲーム以来、ランキング下位の鎧武が注目を集めてきている。今まで負けてきたチームとは思えないほどの追い上げを見せてきているのだ。

 

今でもバロンはランキングトップのままだが、それも時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

「下らん」

 

サクッ!!

 

「「っ!??」」

 

 

 

突如、声が響いたかと思ったら一枚のトランプがテレビに突き刺さり画面が消える。

 

二人が振り向くと戒斗が不機嫌そうな顔で画面の消えたテレビと見つめていた。

 

 

今まで黙っていたので特に気にしていないのかと思っていた二人だったがそれが間違いだったことに気付く。少なくとも戒斗は自分たちよりも遥かに今の状況に怒りを感じているのだ。

 

 

「あいつはあのベルトの使い方がなっちゃいない。あれでは力を持ってはしゃいでいるだけのガキとそう変わらない」

 

 

 

そう。間違っている。

 

 

本当の力を使い方とは―――――――

 

 

 

 

 

「そ、そうですよね!いや~さすが戒斗さん!」

 

「はぁ、どうでもいいけどよ。どうすんだよ戒斗。このままじゃ立場ないぜ俺たち?」

 

ペコが戒斗の考えに賛成する一方でザックが不満を漏らす。バロンは確かにランキング1位だが、みんなの注目は今や鎧武だ。ランキングトップというのもただの看板だと思われるかもしれない。

 

 

「あの、リーダー? 錠前ディーラーからです。」

 

その時、バロンのメンバーの一人が電話を持ちながら近づいてくる。

 

「シドからだと? ………何の用だ…」

 

『よぉ。最近、景気が悪いみたいだな?』

 

電話を取ると聞こえてきたのは人をおちょくるようなむかつく声。

 

この状況を仕組んだのは貴様だろうに、戒斗は心の中でそうつぶやいた。あのベルトはロックシードを使うもの。ならば錠前ディーラーであるシドが知らないはずがない。大方、チーム鎧武にあのベルトを渡したのはシドあたりだろう。そうなんとなくだが理解していた。

 

 

「冷やかしなら他所でやれ」

 

『まぁまぁ、落ち着けって』

 

イライラして電話を切ろうとする戒斗だがシドが引き止める。

 

「用件は何だ…………」

 

『な~に、最近ゲームは一方的すぎて面白味に欠けると思ってな?』

 

 

そう言うシドの目の前には戦極ドライバーとロックシードが置かれていた。

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

「はぁ~~~~~鬱だ………」

 

ドルーパーズにやって来たアーマードライダー鎧武、桜庭将汰は深いため息と共に机の上にうつ伏せになっていた。かれこれもう10分はこの状態だ。

 

 

何故こんな状態なのかというと、時間は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな……ここに来るの」

 

「きっとみんな喜んでくれますって」

 

チーム鎧武のガレージの前に現れたのは将汰と光実だった。

 

「それにしても嬉しいです! まだその服を持ってくれていた事もそうだし、何よりまたチームに戻ってきてくれるなんて…!」

 

「今日からまたみんなと一緒にいるわけだしな。虫に食われてないかちょっと心配だったけど……。それに戻るって言っても用心棒として来たわけだから、ちゃんと戻ってきたとは少し違わないか?」

 

そう言いながら自らが着ている服を見る将汰。

 

今着ているのは、以前チームにいた時に着ていたチームのイメージカラーである青で背中には鎧武者が描かれたパーカーだった。

 

 

チームの代わりにインベスゲームを代行する用心棒として戻ってきたが、果たして本当の意味で戻ってきたと言えるのだろうかと悩む将汰に光実が声を掛ける。

 

「それでもですよ! それにあんなすごいベルトまで手に入れて、インベスにまで立ち向かうだなんて……僕だったら怖くてとても……。本当に、将汰さんがいればもう怖いものなしです!!」

 

「たまたま手に入れただけだけどな」

 

 

まぁ、あまり目立たないように自重するかと思い、光実と供にガレージに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果―――――――自重出来ませんでした。

 

 

 

 

 

ステージに行き、チームのダンスを見守っていた時に『チームレイドワイルド』のリーダー”初瀬亮二”とそのメンバーたちがインベスゲームを仕掛けてきたので用心棒の出番と思い、変身して勝負。

 

観客の応援で気分が高まり、派手に撃退。しまいには観客に向かって「ありがとぉぉぉおおーーーーーッ!!」という始末。

 

これではダンスとアーマードライダー、どちらが主役か分かったものじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが何回かあり、現在軽い鬱状態になっている。

 

「おう、どうしたんだよ。そんなにネガティブになっちまって?」

 

「ちょっと色々あったんですよ………」

 

「ふぅ~ん……ま、とりあえず。ほら、これ」

 

「? イチゴパフェ? 俺何も頼んでないんですけど……」

 

「そりゃ、俺の奢りだからな」

 

え?と疑問に思う将汰にさも当然のように阪東が言う。

 

「チームの事情とかはよく分かんねぇけどさ、みんなお前のこと頼りにしてるんだろ? だったらさ、お前がそんな顔してたらみんなの気も滅入っちまうって。とりあえずこれでも食って元気出せよ」

 

「阪東さん………」

 

 

 

 

「ここに居たか。桜庭将汰」

 

 

 

 

突然、自身を呼ぶ声が店内に声が響く。

 

振り向くと店の入口にバロンのリーダー、駆紋戒斗が立っていた。

 

 

「お前は………」

 

「おい戒斗。ここでインベスゲームはご法度だぞ…」

 

「戦いに来たのではない。話をしに来ただけだ」

 

阪東の忠告を聞きながら、そう言い将汰に近づいてくる。

 

 

「アーマードライダー鎧武、桜庭将汰。貴様に聞きたいことがある。」

 

「………何だよ?」

 

「貴様がアーマードライダーになってからチーム鎧武はどんどんランキングが上がっている。それは紛れもない事実だ。だが、なぜ貴様は他のチームのステージに攻めようとしない?」

 

インベスゲームに勝てばランキングは上がる。それは自分のステージを防衛しようが、他のチームのステージを奪おうがどちらでも適用するルールだ。現にチーム鎧武は挑戦してきたチームをすべてインベスゲームで撃退し、ステージを守りながらランキングを上げている。

 

 

そう、すべて挑戦してきた者を倒して、だ。

 

 

戒斗の言葉通り、他のチームのステージにはまだ一回もインベスゲームを仕掛けに行っていない。

 

「そりゃ必要ないからに決まっているからだろ」

 

「必要ない……だと……?」

 

「ああ。俺は俺たちのステージを守るために用心棒をしてるんだ。それにランキングも上がっている。別に俺たちのステージがあるんだから他のチームのステージを奪う必要がないってこと」

 

「成るほど………やはりな」

 

「……何だよ」

 

将汰の話を聞き、戒斗は将汰をどこか馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

「分かっただけだ――――貴様はただの臆病者だということがな!」

 

「! 何だと! それ、どういう意味だよッ!」

 

「貴様は必要ないからしないのではない。ただ他の連中の恨みを買うのを怖がっているだけだッ!! 自分たちがステージを奪い、他のチームを目の敵になることを恐れてな!!」

 

「お前………!!」

 

「全ての敵を打ち倒し、奪い、踏みにじる。それが力持つ者の権利! 貴様に足りないのはその覚悟だッ!!」

 

「分かった……勝負なら受けてたってやる…!」

 

「ふん……臨むところだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもその前に―――――」

 

「………?」

 

「このイチゴパフェ食ってからな」

 

「…………………早くしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! バロンのリーダーがアーマードライダーに勝負を挑むってよ!!」

「まじかよ!? 早く行こうぜ!」

 

 

チームバロンのリーダー対アーマードライダー鎧武。

 

 

この二人の勝負を観るために広場にはすでに多くの人々が集まっていた。一度負けているとはいえ、チームバロンはランキングトップのチーム。そのリーダーとアーマードライダーとのインベスゲームはたくさんの人々が注目していた。

 

当然、その中にはチーム鎧武やチームバロンのメンバーも含まれている。

 

 

「っ! まどかさん! さやかさん!」

 

「光実君! これって一体……」

 

「何やってんのよあいつ等! ステージも関係ないのにインベスゲームなんて……」

 

 

「そんな甘っちょろいのだったらまだ良かったんだけどなぁ~~」

 

 

さやかの隣から声がしたので振り返るとそこには杏子がいつの間にかいた。

 

「って、杏子!? あんたもいたの!? それにそれってどういう意味?」

 

「これはゲームじゃなくて決闘に近いってことだよ」

 

そう言いながら、二人をポッキーで指差す。

 

そこでは二人が周りは関係ないとばかりに睨み合っていた。

 

 

 

 

 

「お前が何体インベスを使おうと無駄だ。俺が勝つ!」

 

それはある種の自信だった。この前のようなロックシードを食べ、巨大化したインベスならともかく普通のロックシードから出てきたインベスならば100%勝てる自信がある。

 

事実、レイドワイルドや他のチームが複数のインベスを使うこともあったがその全てを難なく撃退してきた。普通のインベスだったらもはや敵なしだった。

 

 

そう、普通(・・)のインベスだったら――――。

 

 

「ふん……そんなお遊びはもう終わりだ」

 

不敵な笑みを浮かべ、戒斗が取り出したのは―――――

 

 

「なっ………それは―――!」

 

 

―――――戦極ドライバーだった。

 

 

「! あれって……」

 

「もしかして……」

 

戒斗がベルトを腰に当てるとベルトが装着される。同時にファンファーレのような音と共にプレート、ライダーインジケータに騎士のような顔が浮かび上がる。

 

 

「―――――変身」

 

『バナナ!』

 

音声と共に戒斗の頭上からバナナを模した鎧が現れ、静止する。

 

『ロック・オン!』

 

ロックシードを手元で回転させ、ベルトにセットする。それと同時にファンファーレのような音が辺りを包み込むかのように鳴り響く。

 

 

「バロンのリーダーも変身するの!?」

「じゃあ、アーマードライダー――――”バロン”ってことか!?」

 

『カモン! バナナアームズ!』

 

ロックシードを切るとバナナを模した鎧が戒斗の頭に突き刺さる。

 

「えっ、バナナ!? バナ…バナナ?!」

 

 

「バロンだッ!!」

 

『ナイト オブ スピアー!』

 

戒斗の怒声と共にバナナの鎧が展開される。

 

そこに立っていたのは二本の角を持ち、右手にはバナナを模した槍『バナスピアー』を握り締めた赤い姿に黄色い鎧を身に纏った騎士だった。

 

――――アーマードライダーバロン

 

今ここにアーマードライダー鎧武に続く二人目のアーマードライダーが沢芽市にて誕生した。

 

 

「お前もベルトを……」

 

「ふん、まさか自分一人だけ、とでも思っていたのか? ―――今から俺が、本当の強さを見せてやる」

 

「ッ! 変身!」

 

『オレンジ!』『ロック・オン! ソイヤッ!』

 

『オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

バロンから感じたことのあるものを感じ取る。かつて何度も感じたことのある……戦うものが発する独特の雰囲気だ。

 

それを感じ取るとすぐさま自信もロックシードを取り出し、アーマードライダーへと変身する。

 

 

アーマードライダー鎧武とアーマードライダーバロン

 

 

今ここに、二人のアーマードライダーが揃った。

 

 

二人はそれぞれの武器を構える。従来のインベスゲームでは実現しなかった初のアーマードライダー同士の戦いが始まろうとしていた―――――その時。

 

 

「ちょっと待ったぁっ!!」

 

 

「っ…何だ?」

 

「………何故ここに居る。水を差すつもりか―――シド」

 

突如、広場に男の大声が響き渡る。

戒斗がその男、錠前ディーラーのシドに怒りを伴った声で自分たちをを止めた理由を問う。だが、それをものともせずシドは二人に向かって話を続ける。

 

「アーマードライダー同士の闘いとなっては、それはもうインベスゲームとはいえない。新しいルールが必要だ」

 

そう言いながらシドは懐から二つのロックシードを取り出し、二人に投げ渡す。

将汰と戒斗はそれぞれ渡された桜の模様とバラの模様が入ったロックシードを見る。

 

「お二人さん、そいつを開けてみな」

 

言われるがままロックシードを開錠する二人。

 

すると普通はインベスを呼び出すはずのロックシードが空中に浮かび上がりながら徐々に大きくなり、バイクに変形した。

 

「すげぇ…」

 

「何だ、これは……」

 

「新開発のロックビークルだ。まだ試作品だが…ま、お前らになら乗りこなせるだろ」

 

「なるほど…こいつで勝負というわけか」

 

「いいぜ。やってやろうじゃねえか!」

 

 

 

 

「あいつ等…勝手に話を進めて……」

 

「さ、さやかちゃん…顔がすごいことになってるよ。と、とりあえず二人とも止めないと……」

 

「いやいや、もう無理だろこれ」

 

「うん。これ……もう収集つかないよ…」

 

 

 

-------

 

 

 

町のはずれにあるコンテナ群。

 

広場にいるチーム鎧武とチームバロンのメンバーは二人の邪魔にならないよう、タブレットのモニターを介してスタートラインにスタンバイしている二人を見守る。

鎧武とバロンはそれぞれのバイク、サクラハリケーンとローズアタッカーに跨りながらスタートの合図を待っていた。

ハンドルを握り締め、エンジンを吹かす。

 

永遠のような時間の中――――――

 

 

ピーーーーーーーッ!!

 

 

開始の合図が鳴った。

 

「「っ!!」」

 

合図と同時にバイクで走り出す。タイミングはほぼ同時。目の前に現れる障害物を避けながらなるべくスピードを落とさずに走り続ける。カーブに差し掛かり、前に躍り出たのは――――

 

 

「先行はバロンだぁっ!!」

 

 

――バロンだった。

 

二人とも同じスピードで走っていた。だが、バロンが先に前に出た理由は実にシンプルだ。それは、バロンはあらかじめカーブの内側を走っていたからだ。たとえ同じスピードで走っていてもカーブの内側を取るのと取らないのとでは天と地の差が出てしまう。

戒斗は心の内で勝利を確信する。最初のカーブだけでも勝負の結末に大きな影響を出す。同じスピードで走っている以上、追いつくことは不可能…………だが。

 

 

「うおおぉぉおっ!!」

 

「っ、何っ!?」

 

突如、鎧武が隣に現れる。それにより二人は並び、再び展開は最初に戻った。

 

「(ばかな!? こいつ、どうやって追いついた!? ………まさかこいつ…)」

 

ほぼ同じスピードでも相手より早く走る方法が存在する。

 

 

スリップストリームという言葉をご存知だろうか。

 

人に限らず物などは移動するときには必ず風の抵抗を受けることになる。もし、全力で走っていても風の抵抗を受け思っている以上の速度は出せないだろう。

ならばどうやって風の抵抗を受けないようにするのか? 答えは簡単だ。前を別の人物が走ればいい。前の人物が風の抵抗を受け、自分がその後ろをぴったり走れば風の抵抗は少なく、同じ速度であっても疲労は少なく速く走ることが出来る。

 

 

「なるほど……ただ力を持っているだけではないということか」

 

「このまま一気に………ん? 何だこれ? スピードメーカー……じゃない?」

 

さらに速度を上げようとする二人だったが、画面にスピードメーカーではない数字が表示される。980、990、どんどんメーターが上がっていき、数字が999に到達した時、それは起きた。

 

「え、何これ!? 桜?!」

 

「何っ!?」

 

モニターが赤くなり警告音を発した後、二人の周りを桜とバラの花びらが舞い始める。それと同時に二人の乗っているバイクが何もしていないにもかかわらず浮き始めそのまま回転を始める。

 

徐々にスピードを上げながら回転し、二人の目の前に見たことのある入口が表れ――――二人はそれに突っ込んで行き姿を消した。

 

「今のって……」

 

「お、おい! 二人ともどこに行っちまったんだよっ!?」

 

 

 

 

 

 

-------

 

 

チーム鎧武とチームバロンのアーマードライダー同士の戦いから突如姿を消した二人。

それぞれのメンバーが安否を心配する一方、その二人はというと…………

 

 

「うおおおぉぉ……ぉ…って、ここは……」

 

「なんだ……ここは……」

 

それぞれ桜の形、バラの形の入口を通り抜けると二人の目に映った景色はあのインベスが住んでいるであろう森だった。

以前はたまたま迷い込んだだけだった将汰だったが、今度は違った。そして気付く。このバイク、ロックビークルは自分たちのいた場所とこの森とを行き来するためのものだということに。それと共に疑問も湧いた。

 

何故、ユグドラシルはこの森のことを町の人々に黙っているのか。

 

ロックシードを作ったのは他でもないユグドラシルだ。そして、このロックビークルを渡してきたシドもユグドラシルの人間だ。当然、この森の存在も知っているはずだ。ならば何故、何も公表しないのか。

 

様々な疑問が頭の中をよぎるが、背後から聞こえるインベスの声で現実に引き戻される。

 

「キイィィッ!」

 

「! インベス……って、なんで飛んでんの?!」

 

近づいてきたのは普通のインベスだった。ただし、背中に生えている虫のような羽を除けば、だが。

なおもバイクを走らせる将汰だが、反対に戒斗はバイクを止めインベスに向き直った。

 

「お前、何してんだよ!」

 

「何を、だと? 戦うに決まっている!」

 

将汰の静止を無視し、バナスピアーを構えるとそのまま飛んでいるインベスに向かって行く。その戒斗を見てほっとくわけにもいかず、ああもう! 、と言いながらバイクを降り、戒斗の後を追うようにインベスに向かう。

 

 

 

「おらぁ!」

 

慣れた手つきで無双セイバーを振るうが、相手は普通のインベスに羽付きときている。何度も何度も剣を振るってもすぐさま空中に逃げられ空を切る。

対するインベスはというと、縦横無尽に空を飛び回りながら確実に鎧武をダメージを与えていく。

 

「ちょこまかちょこまかと……ハエかお前はッ!!」

 

そんな状況が何度も続き、若干イラついたのか、無双セイバーのレバーを引き弾丸を放つ。その弾丸は見事にインベスの羽を打ち抜き、インベスを地に叩き落とした。

対するバロンもインベスの動きのパターンを読み、バナスピアーでインベスを地面に叩きつける。

 

「所詮はこの程度か…」

 

『カモンッ! バナナスカッシュ!』

 

「これで終わりだ。はあああぁぁっ!!!」

 

戦極ドライバーを操作し、ロックシードを切る。すると、徐々にバナスピアーが黄色いエネルギーが溜まっていく。バナスピアーを左手に乗せるように構えると、そのまま目の前のインベスを貫き、そのまま背後にいたインベスも貫く。

 

「セイィィッ!!」

 

「キイイィィアァァッッ!!」

 

バナナ状のエネルギーに貫かれ動きの止まったインベスをそのまま横一閃に切りつけ、二体のインベスは爆発し跡形もなく倒された。

 

「これが、俺の力…………!!」

 

「お前……」

 

喜びのような、驚きのような声を出す戒斗に少し警戒しながら近づき声を掛けるが、戒斗は変身を解く。その様子に警戒を解き、将汰も変身を解きながら先程のことについて言う。

 

「お前、何無茶してんだよ! ここのインベスは普通のやつより危険なんだぞ!」

 

「知ってるのか。この場所を……?」

 

「ああ。前に一度だけこの場所に来たことがある。そのときにこの錠前を手に入れたんだ」

 

周りの見渡し、自分の戦極ドライバーにセットされているオレンジロックシードを指差す。

 

「錠前を?!」

 

「ああ。そこらじゅうの木に生ってるんだ。こう……木の実みたいな形で」

 

「果実……で、町に帰るにはどうすればいい?」

 

「ああ、そのことなんだけど。前は出入り口が分かってたからすんなり帰れたんだ。今回とは少し訳が違う。けど心当たりはある。たぶんだけど……」

 

「恐らく、バイクが鍵だろう。ある程度のスピードで走り続けると二つの世界を行き来できるのかもしれない」

 

「やっぱり、お前もそう思うか……にしても一体どうするか……って、おい! 何処行くつもりだよ!?」

 

「貴様と一緒にいても埒が明かない。俺はこの世界を探索する。」

 

「一人でうろついたら危ないって!」

 

「知ったことか! それとも貴様が一人になるのが怖いのか?」

 

「あ? んなわけねえだろ」

 

「ならば俺は好きに動く。貴様とはここまでだ」

 

「~~~! ああそうかよッ!!」

 

最終的に喧嘩のようになりながら、二人は反対の方向にそれぞれ向かって行った。間違ってもまた会うようなことにはならないために。

 

「俺も裕也を探しに行かないと。たく、何なんだよ一体……てゆうか本当に何処なんだよここはああああぁぁぁぁあああっ!!!!」

 

 

一人になった将汰の叫びに答える者はなく、空しく森に響き渡るのだった。

 

 

 

 




遅くなってすいませんでしたぁッ!!

大学の勉強と考えている新しい小説の原作を調べていました。いや、他のよりも今書いている奴をきちんとしろよという話なんですけど…………。


完結だけはきちんとさせるので何卒! 何卒! 長い目で見守っててくれるとありがたいです。




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誕生!3人目のぶどうライダー

「じゃあ、それまではバロンとは休戦ですね。ええ、分かっています。おやすみなさい、まどかさん。……はぁ、何処に行っちゃったんだろう将汰さん……」

 

そう力無く言いながら、僕は自分の住む”呉島邸”に帰ってきた。ただし、その服装はいつものビートライダーズの服ではなく自身が通っている学校の制服で、だ。

 

本当なら、みんなみたいにガレージだけでなく自分の家で思いっきりみんなのことを考えながら練習をしたい。その日起こった出来事を思い返しながら、笑って、喜んで、そんな毎日を送りたい。

 

だが、僕にはそれが出来ない。――――いや、許されない(・・・・・)

 

今日もそんな空しさを思いながら歩みを進めていく。

 

 

 

 

アーマードライダー鎧武とアーマードライダーバロンの決闘から数時間が経った。あれから二人は姿を消したままだ。

 

 

ロックビークルとやらでレースを行っていた二人は突如として姿を消した。あれからみんなで二人を探したが、結局二人は見つからず今日はうやむやのまま解散となった。最初は警察に届けようという声も上がったが、ことがことだ。ただの子供の悪ふざけで相手にされないのが目に見えている。そもそも、インベスゲームなんて訳の分からないゲームをしている時点で馬鹿にされているんだろう。

本当に頭にくる。こういう自分たちが大人で、僕たちが子供ってだけで自分たちが正しいと思いながら上からものをいう人は……。

 

誰にも気付かれないように音を立てずに家の中に入る。このまま静かに自分の部屋まで――――

 

「光実」

 

「! 兄さん……」

 

――――行こうとして、僕を呼び止める声が階段の上から聞こえ足を止める。

どこか怪しむような、そんな声色で僕の兄”呉島貴虎”は僕のことをその鋭い目で見つめていた。

 

呉島貴虎

 

この家に住む二人の呉島の人間の内の一人。兄さんと僕だけの二人だけの兄弟。現時点でのこの家の家長といっても過言ではない。

 

「こんな時間まで何処に行っていた?」

 

「うん、今日は塾の特別講習だったから」

 

―――――勿論、嘘だ。

 

塾なんてとっくに終わっている。今日は塾を早く終わらせ、チーム鎧武のガレージに行っていた。勿論、そんなことは口が裂けても言える訳が無い。

 

兄さんは僕がビートライダーズをしているだなんて知る由も無い。

 

「近頃、成績が伸び悩んでいるようだが」

 

「中間考査の成績ではクラスでもトップだったよね」

 

事実、ビートライダーズの活動で勉強が若干疎かになっているが中間考査などの成績については全然問題ない。

 

「お前なら学年トップも狙えたはずだ」

 

そうだ。

 

確かに真剣に勉強に打ち込めば学年トップを狙えただろう。

だが、それはみんなとの……チームのみんなとの時間を減らすということになる。そんなことだけは絶対に嫌だ。あそこは―――僕が見つけた初めての場所なんだ。

 

だが、そんなことは兄さんには関係が無いだろう。

 

「光実、お前はいずれユグドラシルで俺の片腕を継がなければならない男だ。そのために今考えること、やるべきこと、全てが分かり切っている。そうだな?」

 

「……もちろんだよ、兄さん」

 

僕たちの父、呉島天樹はユグドラシルコーポレーションの重役の一人だ。当然、その息子である兄さんはその父の跡を継ぐ為に幼いころから教育を受けている。

 

当然、僕も例外ではない。

 

そうだ。分かり切っている。

 

兄さんが僕に求めているのはそんなものじゃない。将来ユグドラシルの為に、兄さんの為に勉強して役に立つ。

 

それが、兄さんが僕に求めていることだ。

 

僕のその言葉を聞くと、満足したかのように笑いながら僕の肩に手を置き、語りかける。

 

「なら、集中しろ。余計なことに気を取られるな。無駄なものを切り捨てることでお前の人生は完成されるんだ」

 

「……分かってる。僕の人生は無駄だらけだ」

 

そう。僕の人生は無駄だらけだ。

ビートライダーズの活動なんて将来、なんて役にも立たない。そんなことは分かり切っている。

 

 

分かり切っているはずなのに…………どうしても手放したくない。

 

 

例え――――どんなものを犠牲にしても。

 

 

「光実……」

 

その時、二人の会話を妨げるかのように兄さんの携帯がなる。僕はチャンスと思い、すぐに部屋に駆け出す。

まるで……兄さんから逃げ出すかのように。

 

「じゃあ、おやすみなさい!」

 

 

 

「私だ。……何?」

 

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

 

「何処まであるんだよここは……行っても行っても森だらけじゃねーかよ」

 

戒斗と分かれてしばらく歩き回っている将汰だが、行けども行けども回りの景色が変わらないことにだいぶ気が削がれていた。途中で何回も同じところを通っているのではないかと思ってしまうほどあまり変わらないのだ。気が滅入るのも仕方ないことだろう。

 

「ん? あれって……人? 何でこんなところに人が…………」

 

少し急になっているところに数人の人影が見えた。

普通なら喜ぶべき場面だが、その人影は全員何か防護スーツのようなもので身を包み、手にはこの森の植物らしきものをご丁寧にビンのようなものに入れて採取していた。

明らかに迷い込んだにしては怪しすぎる。そう思いながら見ていると、足元の木を踏んでしまいその音で向こう側がこちらに気付いた。

 

「あ……え~と………すいません、聞きたいことが………って、ちょっと!? 何で逃げるの!?」

 

気付かれたのなら仕方ないと思いながら近づくも、こちらに気付いた瞬間、向こうはこちらに目もくれず一目散に逃げていった。

 

「なんだあれ。明らかに怪しすぎるだろ………」

 

そう思いながら逃げていく人たちを見ていく――――――その時。

 

 

 

バンッ!!

 

 

「!? 危なッ!!」

 

背後から物音がし、反射的にしゃがむと先程まで自分の頭があった場所を一筋の弾丸が通り過ぎていった。

 

「何なんだよいった………い……」

 

背後を見る。

 

そこに立っていたのは一人のアーマードライダーだった。

 

 

だが、それは自身も……恐らく町のみんなもまだ見たことは無いであろう姿だった。

 

 

左腰には自分が持つ無双セイバーと同じものをぶら下げ、左手には緑色の盾を持ち、盾と同じ緑の鎧を身に纏い、こちらを静かに見つめる白い姿がそこにあった。

 

 

その白い姿を見た瞬間――――――

 

 

「ッ――――――――!!!!!??」

 

 

――――――頭が真っ白になった。

 

 

 

 

―――――全部、お前のせいだ。

 

 

 

 

「白い……アーマードライダー………」

 

 

その白き姿が、かつて見たあの白い仮面ライダーを思い出す。

 

あの時………自分に残酷な現実を叩きつけながら自分を痛めつけてきた――――あの指輪を嵌めた仮面ライダーのことを。

 

 

「(違う……! あいつはあいつじゃない!)」

 

一瞬だけ姿が重なるが、すぐさま頭から外し目の前のアーマードライダーを見る。

相手はこちらを見つめたままいつの間にか右手に持っていたロックシードを解錠し、放り投げる。何のつもりだ、そう思った瞬間、近くにいた一体のインベスが放り投げられたロックシードに近づき――――食べた。

 

「ギイイィィィァァアッ!!!」

 

まさか、そう思った瞬間、インベスは体が植物に覆われ、現れたのは先日自分が戦ったのと同じシカインベスだった。

 

「! 成長した!? やっぱり……こいつらロックシードを食べて強くなるのか……」

 

「ギイイィィィィッ!!」

 

「うお?! 変身!」

 

『オレンジ!』

 

こちらに突っ込んでくるインベスを避けながら、戦極ドライバーにロックシードをセットする。

 

本来なら入口が開き現れるオレンジ鎧がこちら側で変身するからなのか、頭上に現れる。

 

『ロック・オン! ソイヤッ!』

 

『オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

「はぁっ!!」

 

変身すると同時に二本の刀でインベスを切り付ける。インベスも自身の角を使い、刀を弾きながらこちらに反撃を仕掛けてくる。弾きながら白いアーマードライダーを見るが、インベスを呼び出した後はこちらを観察するかのように見ているだけだ。

ならば今相手にすべきは目の前のインベスなのだが、前の奴と同じなだけあって頑丈なのか刀のダメージがなかなか通らない。

 

「だったら!」

 

『パイン!』

 

『ロック・オン! ソイヤッ!』

 

オレンジロックシードを外し、パインロックシードをセットし切る。それと同時に纏っていたオレンジ鎧が消え、新たに鎧を身に纏う。

 

『パインアームズ! 粉砕・デストロイ!!』

 

「おらぁっ!!」

 

「ギィィ!?」

 

右手に表れたパインアイアンを振り回し、シカインベスに何度も叩きつける。やはり相性がいいのだろう。先程よりも確実にダメージを与えていることが分かる。

 

「行くぜ!」

 

『ソイヤッ! パインオーレ!!』

 

カッティングブレードを二回倒す。すると、右足に黄色いエネルギーが徐々に収束していく。

エネルギーを溜め終わると同時にパインアイアンをインベス目掛け思いっきり蹴り飛ばし、すかさず無双セイバーを構え、パインアイアンで怯んだインベスに近づき抜刀の要領で切り付ける。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

「ギイイィィィァァアアッ!!??」

 

 

 

 

「ふう……なぁ、あんた一体……え?」

 

一体誰なんだ、そう聞こうと振り向いた将汰だったが、白いアーマードライダーはこちらに無双セイバーを抜き、左手に盾を持ちながら近づいてくる。

 

言わなくても分かった。次はこいつの戦うことになるのだと。

 

「ち、ちょっと待ってくれ! 俺はあんたと戦うつもりはない! ただ人を探してるだけだ!!」

 

「はあぁ!!」

 

「なっ?!」

 

何とかこちらに敵意が無いこと、この場で戦うつもりは無いことを相手に伝えるが、相手は聞く耳も持たずこちらに向かって剣を振るう。

 

すかさず自身も無双セイバーで防ぐが、予想外の威力に押し負け、弾き飛ばされる。

何とか体勢を立て直そうと立ち上がるが、いつの間にか目の前に接近され再び切りつけられる。

 

「ふん! はあぁぁあ!!」

 

「ぐっ!! うわぁっ!!」

 

何とか続けられる剣戟を防ぎ続けるがすぐに分かる。

 

その一撃一撃が確実にこちらの命を取る攻撃だと。

 

相手はこちらを確実に倒すのに何のためらいも無いのだと。

 

 

「(こいつ、強い……!! 先生と同じかそれ以上に!! しかも攻撃に何の躊躇も無い!)」

 

「ほらほらどうした? 命のやり取りはこれが初めてではないだろう?」

 

そう軽く言いながらも、こちらに向かって放つ攻撃は勢いを増すばかりで無双セイバーを防ぐのも限界になり、タイミングを見て後ろに下がりながら避け続ける。

 

「逃げるな。さあ、かかって来い」

 

「何でだ?! 何であんたと戦わなきゃならない!!」

 

「何故…だと? はぁ! はあぁっ!」

 

戦う理由を問う将汰に一瞬だけ動きを止めるがすぐに白いアーマードライダーは無双セイバーを振りかざしてくる。なんとか距離を取り続けても、すぐに相手は間合いを詰めて切り付け続けるため休む暇も無く剣戟が続く。

 

「敵に何故等と問いかける者は、そもそも戦う資格すら無い!」

 

「ぐあっ!!」

 

再び一撃、ニ撃と切り付けられ地面に倒れる。立ち上がろうとするが受けたダメージが大きいせいか、上手く体に力が入らない。

そんな将汰にお構いなく、白いアーマードライダーは無双セイバーの鍔を引き、銃口をこちらに向ける。

 

「そのベルトは過ぎた力だ。手放してもらおう」

 

バンッ! バンッ! バンッ!

 

3発。白いアーマードライダーが放った弾丸はたったの3発だけだったが、今の将汰には十分過ぎる程のダメージが奔る。

 

「はあ、はあ……そ、そんな……」

 

「戦いに意味を求めてどうする? 答えを探しだすより先に、死が訪れるだけの事。ふん! はあぁっ!!」

 

「ああぁっ!!」

 

また切り付けられ後ろに飛ばされるが何とか木にぶつかり止まる。すぐに白いアーマードライダーに向き直るが、横目で後ろを見る。

 

木にぶつからなければ落ちていたであろう川が見える。落ちればただではすまないであろう高さに足を取られないように気をつける。

 

「はあ、はあ………」

 

「この世界には、理由のない悪意など、いくらでも転がっている。ふんっ!」

 

「ぐっ……!」

 

「そんな事さえ気付かずに、今日まで生きてきたのなら貴様の命にも意味は無い。今、この場で消えるがいい!」

 

一閃、その必殺の一撃を何とかかわしたがそれにより背後の木を切断され支えるものの無くなった将汰に続く盾による攻撃をかわす術は無かった。

 

 

 

「うわああぁぁぁぁぁあああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぁ………」

 

川に落ちたのは運が良かったとしかいいようがない。

 

もしも、落ちていたのが川ではなく地面であったなら今の比ではないくらい大きな致命傷を受けていただろう。だが、受けたダメージは少ないとは言えない。変身が解けているのが何よりの証拠だろう。

 

 

「あ…ああ………」

 

上を見る。

 

白いアーマードライダーは尚もこちらを見続けている。

 

 

「あああああああああぁっっ!!!!!!」

 

逃げなければ。

 

 

逃げなければまたあいつは自分を殺しに来る。

 

 

 

―――――――あの白い仮面ライダーのように。

 

 

 

 

それは恐怖なのか、はたまたただの防衛本能なのか。将汰の足は白いアーマードライダーとは逆の方向へと走り出していた。

 

 

何処に逃げればいいのかは分からない。

 

 

何処でもいい。

 

 

あいつがいない所へと――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふん」

 

白いアーマードライダーは逃げていく将汰を見ながら変身を解く。

アーマーが弾ける様に消えると、そこに立っていたのは呉島光実の兄”呉島貴虎”だった。貴虎は自身の携帯を取り出し、自身が最も信頼する親友に連絡する。

 

「凌馬、私だ」

 

『やぁ、貴虎。侵入者は追い返すことは出来たかい?』

 

「当然だ。だが、逆に拍子抜けしたな。あの学園の仮面ライダーだったというからどれほどの実力かと思ったら、逃げるだけだ。これでは訓練にさえならない」

 

『はっはっは! 相変わらず手厳しいねぇ。まぁ、それも仕方ないか。何せ君が相手だったからねぇ……で、彼はどうしたんだい?』

 

「ああ、多少痛めつけておいた。これでこの森に不用意には近付こうとは思わないだろう」

 

『ふぅん……ま、何にせよこんな夜中までお疲れ様。帰ってゆっくりするといい』

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

「では決まりだな。これから『レイドワイルド』と『インヴィット』はチームバロンの傘下だ」

 

チームバロンの溜まり場に戒斗率いるチームバロンのメンバーだけでなく『チームレイドワイルド』のリーダー、初瀬亮二と『チームインヴィット』のリーダー、城乃内秀保が集まっていた。

話の内容は先程戒斗が宣言した通り、チームバロンを旗本にした三チームによる連合チームの結成だ。

謎の森で将汰と別れた後、戒斗は一人ロックシードを集めていた。理由は単純に戦力の増強だ。今までは錠前ディーラーであるシドからロックシードを買わなければいけなかったが、あの森に行けばいくらでもロックシードを集められる。道中、インベスとも戦っていたが粗方集め終わると戒斗はバイクで森を脱出し、自身の拠点でレイドワイルドとインヴィットのリーダーである二人と話を始めた。

 

連合チームになる為の条件は至極単純、シドの代わりにロックシードを提供すること。そして連合チームでランキング上位を独占すること。

 

今ランキングはチーム鎧武が破竹の勢いでランキングを上げてきている。だがもし複数のチームが連携を取り、チーム鎧武を迎え撃てばその勢いは止まり、上手くすれば自分たちのランキングも上がる。

 

とても合理的な協力関係だ。だが、そこに信頼関係は一切存在しない―――

 

「おい戒斗、いきなりどうしたんだよ? あんな奴らと手を組むなんて……」

 

「別にどうということはない。俺も奴らもお互いの為に利用しあうだけだ」

 

そうザックの質問に答えながら戒斗は森で手に入れた新たなロックシードを見つめる。

 

「……って、戒斗さん! それってクラスAのロックシードじゃないですか!? 一体何処で………」

 

「いずれ話す。だからあまり気にするな」

 

今一度自身の心と向き合う戒斗。はたしてこれが自身の求めている強さと同じなのか、それはまだ彼自身も分からない。ただ、一つだけ理解していた。

 

 

 

これもまた、一つの強さの形だということを……………。

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

 

 

「将君!!」

 

「将汰さん!!」

 

「………まどかにミッチ? どうしたんだよそんなに慌てて……」

 

「そりゃ慌てますよ! 家に帰ってきたって聞いたから急いで行ったのにすぐに出かけたって聞いたんですから!!」

 

「将君、一体何処に行ってたの……みんな心配してたんだよ?」

 

晶から姿を消していた将汰が帰ってきたと聞いて、急いで家に向かったまどかと光実だがまたすぐに家からいなくなった将汰を探しに町中を探していた。だが、見つかったのは以外にもチーム鎧武のガレージの近くだった。

 

「悪い……ちょっと色々あってな………」

 

「色々って………」

 

「それに俺もちょうどみんなに用があったんだ。これ………」

 

そう言いながら、将汰はバッグから戦極ドライバーをまどかに手渡してきた。

 

「返すよ。もう俺には必要ないものだ」

 

「えっ、これって………」

 

「俺はもうチーム鎧武のガレージには行かない。用心棒もやめる」

 

「そんな……」

 

「将汰さん………一体何があったんですか………」

 

「そ、そうだよ。一体どうしたの………」

 

 

 

「―――――もう一度あの森に行った。裕也が消えたあの森に」

 

 

 

「―――えっ?」

 

「そこで…別の白いアーマードライダーに出会った」

 

「白い…ライダー?」

 

「恐ろしく強くて歯が立たなかった。俺はそいつに殺されかけた」

 

「そんな……殺すだなんて…」

 

「本当だ!! あいつは本気だった……」

 

「でも、だからってガレージにも来ないなんて……みんな悲しむよ…」

 

「二人には分かるか? 相手との圧倒的な力の差を見せ付けられて、自分の弱さを痛感させられて、そして自分に迫ってくる―――死の恐怖が?」

 

「っ……それは………」

 

自分の手を見ながらそう二人に語りかける将汰。

 

まどかと光実にも分かった。後姿だけでも分かるほどにその声が、その手がその、背中が、その体が震えていることに――――。

 

 

 

「一度は立ち直った……立ち直ることができた。でも、もう無理だよ。俺はもう――――変身できない」

 

 

 

「将汰さん……でも!」

 

「―――――うん、分かった」

 

「っ!? まどかさん」

 

「いいんだよ光実君。元々、私たちの問題だったんだし将君が無理する必要なんかないよ………」

 

驚く光実に首を横に振りながら将汰から戦極ドライバーを受け取るまどか。暗い顔をする将汰の震える手に自分の手を添えながら笑顔で語りかける。

 

「これはみんなで預かっておくから、今はゆっくり休んで。また元気になったら一緒に遊ぼうよ。ね?」

 

「―――うん、ごめん、まどか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどかさん、聞きましたよねバロンチームの連合の件? この先、将汰さんがいないと!」

 

「いいの……将君は手伝ってくれてただけだから」

 

将汰と別れたまどかと光実はバロンが他のチームと結託し連合チームになっていることについて話していた。今まではバロン以外のチームはどれだけ強くてもインベスしか使ってこなかったため何とかすることが出来ていた。

 

しかし、バロンと結託したということは今後はアーマードライダーとインベス、その両方を相手にしなけらばいけないということ。アーマードライダーである将汰がいない今、他のチームを渡り合うことが出来るのか。光実はそこが心配だった。

 

「でも!」

 

「たぶん将君が行ったっていう森……私も行った事があるんだ」

 

「えっ………」

 

「そこでとっても怖い目にあって……最初はこれでいいのかなって思ってた。将君にこんな危ない役割をさせてて……でも、やっぱり駄目だよ。やっと、やっと……元気な将君に戻ってくれたのに私たちのせいでまた辛い思いをさせちゃうなんて……!」

 

 

一年前に久しぶりに会ったときは碌に会話もしてくれなかった時を思い出す。

 

酷く疲れたような顔をして、すぐに気付いた。

 

 

―――――また、無茶したんだ。

 

 

―――――また、傷ついたんだ。

 

 

 

 

―――――私の知らないところで、たった一人で………。

 

 

 

もうこんな顔を見たくない。だから、みんなで守らなくちゃ……いつもしてくれてるみたいに。

 

「たった一人で傷つくなんて、おかしいよ……! そんなのって……そんなのって………!!」

 

 

 

「誰かの為に傷つくのが……そんなにおかしいことなんですか?」

 

「え?」

 

「確かに、将汰さんは誰かの為に頑張ってくれてます。それで傷つく時だってあります。でも―――僕は将汰さんが間違っているだなんて思わない。だって、そんな風に悲しんだら……本当に将汰さんのやってきたことは何だったのか分からなくなっちゃいますよ!」

 

「光実君………」

 

「将汰さんは必ず立ち直るって信じてます。一年前のようにまた………あの人は何も間違ったことなんてしていないんです!」

 

そう言いながら、光実はどこかに走り出して行った。

 

 

 

 

 

-------

 

 

呉島邸

 

自分の机に座りながら光実はチーム鎧武のみんなが映っている動画を見ていた。何かに苦悩するかのように、何かを決意するかのように。

 

「(僕だって変わりたい……こんな自分はいやなんだ)」

 

ステージの端でみんなを見守る自分、闘っている将汰の後ろで見ているだけの自分、そして……兄を避け続けている自分―――――様々な弱い自分が頭をよぎる。

 

「でも、僕に出来ることなんてあるのか?」

 

いや、違う。何が出来るとか、何が出来ないとかじゃない。何かをしなくちゃいけないんだ!!

 

そう決意しながら光実はある決意を掲げる。

 

 

-------

 

 

「いらっしゃーい……って、光実じゃねーか。一人なんて珍しいじゃねーか」

 

「こんにちは。シドは来てますか?」

 

「おう、奥にいるぜ」

 

次の日。

 

ドルーパーズに訪れた僕は阪東さんからシドの場所を聞き、奥に向かう。目的はロックシードだけじゃない。戦極ドライバーだ。

 

チーム鎧武とチームバロンの二つの戦極ドライバー。複数存在しているということは、恐らくまだある筈。そう思った僕はすぐシドのところに向かった。

 

「よう、今回はどんなものをご所望だい?」

 

「今回はちょっと特別でね。ロックシードと……それを嵌めるドライバーが欲しいんだけど……」

 

そう言いながら僕は自分の財布からカードを取り出す。

 

たとえどれだけかかろうとも必ず手に入れるために、カードの中には複数のロックシードを変えるだけのお金が入っている。

 

だけど―――――

 

 

「―――悪いがそいつはいくら出されても無理だ。諦めな」

 

―――――え?

 

「ど、どうして?!」

 

「戦極ドライバーは俺がこれと見定めた人間にしか渡さないって決めてるんだ。それにお前さん、呉島貴虎の弟だろ?」

 

「っ! 兄さんを知ってるの…?」

 

「父親はユグドラシルの重役の一人で、あいつもユグドラシルのプロジェクトリーダーだ。そんな奴の弟に火遊びを教えたなんてばれたら俺がこの町にいられなくなる」

 

確かにこの人の言うことは最もだ。でもまさか兄さんのことを知ってたなんて。

 

このままじゃ何も出来ない……!!

 

何か、何か方法は………!!

 

 

 

 

 

 

 

―――――あるじゃないか。それも飛びっきりのが。

 

 

 

 

「ねぇ、シドさん」

 

僕はシドの対面に座りながら口を開く。

 

この人は確かに兄さんのことを知っていた。

 

―――――でも、僕のことは?

 

当然、知るわけが無い。僕は兄さんとは違ってユグドラシルに顔が利くわけじゃないから。それを最大限使わせてもらう。

 

「確かに僕の兄は呉島貴虎だ。ユグドラシルのプロジェクトリーダーを務めるくらいのすごい人だ。―――そして、僕はその呉島貴虎の弟だ。いずれはユグドラシルに入り兄さんの仕事を手伝うことになるだろう。そして出世もする。もしかしたら、兄さんよりも上に行くかもしれない」

 

そこまで聞いてようやくコーヒーを飲む手を止め、シドがこちらを向く。

 

まずは第一段階。こちらに注意を向かせること………次は―――――

 

 

「シドさんは兄さんのことは知っていても僕のことは何にも知らないよね?」

 

「おいおい……」

 

「先行きどちらに付くべきなのか……今のうちに考えておいても損は無いと思うよ?」

 

第二段階、未知の実力者への危険視。

 

実力を知っているのと知らないのとでも大きく違う。それが今この場において僕が使える唯一のカードだ。

 

「――――は、はは、はっーーーーーはっはっはっはっはっは!!!」

 

突然シドが笑い出した。

 

 

―――――勝った。

 

 

僕は顔にこそ出さないが、内心で勝利を確信していた。

 

「ずいぶん面白いことを行ってくれるじゃねえか。気に入ったぜ」

 

そう言いながらコーヒーを飲み干しシドは席を立ち、店から出て行こうとする………その直前で歩みを止め、僕に話しかけてきた。

 

「言い忘れていたが、たとえ俺が忘れ物をしていたとしても、行儀のいい呉島の坊ちゃんならご丁寧に俺に届けてくれるんだろうな?」

 

そう言い残し、今度こそシドは店から出て行った。

 

 

「行儀のいい呉島の坊ちゃん………ねぇ……」

 

そう言いながら、僕はシドの座っていたソファに置かれている戦極ドライバーとロックシードを見つめていた。

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 

次の日。

 

いつものようにチーム鎧武の面々はステージにいた。ステージの前には観客がいて、ステージの上にはいつものメンバーがいて。

 

ただし、そこにアーマードライダーである彼の姿だけが無かった。

 

 

「おや~、チーム鎧武。いつもの用心棒はいないのかなぁ~~?」

 

 

そんな状況を見逃す者は少なくは無かった。

人をおちょくるような声を出しながら観客たちを掻き分け、ステージの前にその男、城乃内が現れる。

 

既にチームバロンを旗本にした連合チームの噂は沢芽市の人々に知れ渡っていた。もちろん、その傘下に入ったレイドワイルドとインヴィットのことも。

城乃内の手にはクラスAのロックシードが握られている。ステージを懸けてのインベスゲームを仕掛けてきたことは明白だった。

 

「っ、この――――」

 

 

「待ってさやかさん。ここは僕が」

 

 

え、とその場に驚いたような声が聞こえる。城乃内の前に出ようとするさやかを光実が手で制し、前に出た。当然、みんなが驚いた。今までチームのいざこざでも積極的に前に出ることは一切無かった光実がさやかを止めて自分が前に出てきたのだ。

 

「でも光実君!」

 

「安心してくださいまどかさん。僕たちの―――あの人の場所は、僕が守りますから」

 

 

「何だ、出てきたのはいつも後ろにいたお前か」

 

「チームインヴィットの城乃内だな。インベスゲームに限らず、卑怯な手で相手チームからステージを奪うことで有名な……」

 

「ふっ……策士って言ってほしいね」

 

みんなの前に出ながら、光実は目の前にいる城乃内を睨み付ける。

 

「将汰さんがいない時を狙ってきたんだろうけど、そうはいかない」

 

城乃内がロックシードを構える中、光実が取り出したのは―――――戦極ドライバーだった。

 

「なっ――!? まさか……お前も…!!」

 

「光実君、それって?!」

 

 

戦極ドライバーをセットすると、中華風の音楽が一瞬鳴り、フェイスプレートに緑色の仮面が浮かび上がる。

 

『ブドウ!』

 

右手を左肩まで持っていきロックシードを解錠する。音声がなると同時に、光実の頭上にブドウを模した鎧が現れる。

 

右手を上から右に、左手を下から左に円を描くように広げ、胸の前でクロスさせロックシードを前に突き出し、ベルトにセットする。

 

『ロック・オン!』

 

ロックシードがセットされ、辺りに中華風の音声が響き渡る。

 

「(辛いこと……悲しいこと……世の中から決して消えることは無い――――)」

 

 

呉島として生まれ、それが当たり前として生きてきた。未来を決められ、抗うことも出来ず、ただ受け入れるだけの人生だった。

 

 

 

―――――でも知った。知ってしまった。

 

 

 

―――――それがどれだけ辛いことなのか。

 

 

 

 

 

―――――それがどれだけ………空っぽなのか。

 

 

 

 

 

『私の名前は鹿目まどか。君は?』

 

 

 

 

―――――初めてだった。

 

 

心の底から―――――この笑顔を守りたいと思ったのは。

 

 

 

―――――初めてだった。

 

 

 

 

 

その笑顔のために頑張っているあの人を見て、あんな風になれたら………なんて思ったのは。

 

 

 

 

「(でも、大切な人が傷付くくらいなら……自分が傷付いたほうがいい―――――)」

 

 

 

 

―――――そうだよね?

 

 

―――――将汰さん。

 

 

 

 

「変身ッ!」

 

『ハイィ~~!』

 

『ブドウアームズ! 龍・砲 ハッハッハ!!』

 

歓声が沸きあがり、音声と同時にブドウを模した鎧が展開される。

ブドウの実の様な模様が胸にあり、頭には龍のヒレの様なものが付いた緑の戦士がそこにいた。

 

 

 

ブドウのロックシードを使う、チーム鎧武二人目のアーマードライダーがここに誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

『沢芽シティ&ビートライダーズの諸君!! ビッグなニュースだぜ!』

 

「………? 何だ?」

 

何処ともなく歩いていた将汰の耳に近くの女性が持っているタブレットからDJサガラの声が聞こえてくる。気のせいでなければ、その声はどこかいつもの様なテンションとは少し違っていた。

 

まるで、新しいおもちゃを見つけたような声でサガラは話を続ける。

 

『オーケー! このホットな映像をまずは見てくれよ!』

 

そう言いながらサガラが出した映像に将汰は言葉を失った。

 

 

何かの間違いではないだろうかとも思った。だが、間違いでなければサガラの出した映像に映っていたのはチーム鎧武の仲間である呉島光実が戦極ドライバーを使い、アーマードライダーに変身している映像だった。

 

 

『ななななな何と! チーム鎧武に二人目の鎧武者が出現! クラスAのロックシードで挑んだチームインヴィットを見事に……撃退だ!! 新たな戦士はチャイニーズテイストのガンスリンガー! 決め技が火を吹く様はまさにドラゴンの息吹!! 名づけてアーマードライダー”龍玄”といこうじゃないか。オーケー! 盛り上がってきたぜッ!!』

 

 

 

 

 

 

少しずつ。

 

だが、確実に沢芽市にアーマードライダーは誕生していく。

 

 

 

それが――――仕組まれたことだと知らずに。

 

 




最新話投稿しました。

ちょくちょく後の伏線を入れているけど、実質的なオリジナル展開まで後少しです。


仮面ライダーナックル/仮面ライダーデューク、ランキング1位おめでとう!!



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復活のオンステージ

チーム鎧武の新たなアーマードライダー、龍玄とチームインヴィットとのインベスゲームで龍玄の活躍によって勝利を収めた翌日、チーム鎧武のメンバーたちはガレージにて自分たちが置かれている現状と着々と勢力を広げていっているバロン連合について話し合っていた。

 

「まず、今の僕たちの現状を説明するね?」

 

「うん、分かりやすく頼むよ?」

 

「大丈夫ですよ、さやかさん」

 

ホワイトボードには今の勢力図を表した組み合わせが用意されている。

 

「今バロン連合の傘下に収まっているのは『レイドワイルド』と『インヴィット』、それに『POP UP』。後、昨日の内に『蒼天』と『レッドホット』が加わって、分かっているだけでも五つのチームがバロンの下に集まっている」

 

そう言いながら、ホワイトボードに置かれているバロンのスペースに他のチームの名前を移動させてゆく。

 

「じゃあ、市内のビートライダーズの半分以上がバロンと手を組んだってこと?」

 

「うん。今までは何処もお互いのチームを牽制し合っていたおかげで比較的争いも少なかったけどこれからはそうもいかない」

 

「何で?」

 

「敵味方がはっきりしたからだよ。何処を襲えばいいのか、誰と共闘すればいいのか分かったからね。これからは衝突の頻度も一気に多くなっていく……」

 

「もうさ、いっそのこと私たちも連合に入ったら何処とも戦わなくてもいいんじゃないの?」

 

「そうだよ!」

 

「いや、それは止めたほうがいい。バロンの連合に入ったチームはダンスの上手い人が引き抜かれてバロンのバックで踊ることになる」

 

なるべく危険が少ない方法をメンバーのラットが提案するが、光実の言葉ですぐにそれが出来ないと知り顔を暗くする。

 

いや、彼だけではない。

 

他のメンバーもなんとなく分かっていた。結局、自分たちの居場所を守るためにはインベスゲームで勝つしかないのだと。

 

「今の僕たちには厳しいかもしれない。けど、今の僕たちには戦極ドライバーにインヴィットとのインベスゲームで手に入れたこのクラスAのロックシードがある」

 

そう言いながら机の上に自身の戦極ドライバーとイチゴのロックシードを置く。

 

「僕たちが自由に踊るためには戦って守るしかないんだ!」

 

確かに戦力としては圧倒的かもしれない。けど、チーム鎧武にも他のチームとも戦えるだけのアドバンテージが揃っている。そう簡単には負けない理由も負けられない理由も今のチームには存在していた。

 

 

ピピピッ! ピピピッ!

 

 

その時、光実のケータイが突然鳴り響く。

 

「? ちょっとごめん……」

 

そう言って光実はケータイに表示されている名前を見て驚く。そこに表示されていたのは――――

 

 

「将汰さん………?」

 

 

 

-------

 

 

「悪いなミッチ。昨日の今日で会わせる顔は無いのはずなんだけど……」

 

「いいえ、気にしないで下さい。それにしても将汰さんの方から呼び出しなんて珍しいですね?」

 

ガレージから少し離れた場所に移動した光実は待ち合わせていた将汰と合流する。昨日のことを思い出し申し訳ない顔をする将汰に気にしていない風に光実は話しかける。

 

「あ、あぁ………その、アーマードライダー龍玄ってのは―――」

 

「ええ、僕ですよ」

 

そう言いながら、自身のドライバーを将汰に見せる光実。

だが、将汰が気になったのはドライバーではなく今自分にドライバーを見せている光実の表情だった。まるで、最初にドライバーを手に入れて少しでも喜んでいた自分のような顔をしている。

 

だからこそ疑問に思った。

 

その怖さを話したのにどうしてそんなに嬉しそうな顔をしているのか、と。

 

「なぁミッチ、今の俺に言えた義理じゃないってのは分かってるんだけど……そのドライバーは危険なんだ。そいつを持っていると俺を襲ってきた奴がお前のところにも現れるかもしれない。だから――――」

 

「分かっていますよ、将汰さん」

 

捨てろ、そう言おうとした将汰の言葉を遮ったのは他でもない光実だった。まるでそう言うのが分かっていたかのように……。

 

「あなたは優しい人だから、僕のことを心配して言っているんだっていうのは分かっています」

 

でも、そう付け加えながら自身のドライバーを見つめる。先程までの嬉しそうな顔ではなく、何年も待ち焦がれたもの手に入れたような、そんな顔をしながら……。

 

「どんな力にだって危険は伴う……分かっています。それでも僕は決めたんです。ねぇ鉱汰さん、貴方には分からないかもしれない。何のしがらみも無く自分の人生を歩んできた貴方には。それがどれほど……幸せなことか」

 

えっ? と言う将汰を尻目に光実は語り続ける。

 

――――今まで自分が歩んできた道を。

 

「僕はいつも進む道を人に決められて、ただ流されてばっかりで……そんな自分が嫌で仕方なかった。でもこのベルトを手に入れて、初めて自分の意思で戦いをすることが出来たんです。これは……そんな僕にとって大切な宝物なんです」

 

今までに見たことが無いような顔をしながら語る光実。

 

そんな光実を見て将汰はなんとなく分かった。

 

自分と同じように光実も何かを背負っているということを。

 

そして、ドライバーを決して手放さないということを。

 

 

 

-------

 

 

チームインヴィットのリーダー、城乃内はイライラしていた。

連合チームの本拠地であるバロンの拠点で待っているがその間にもどんどんイライラは増してゆく。連合チームに入りクラスAのロックシードを持ってチーム鎧武に勝負を挑んだまではよかった。だが、まさか鎧武に新しいアーマードライダーがいることは予想外だった。その結果、惨敗したという事実が街に知れ渡ってしまっただけでなく、チーム鎧武の優位性も街に知れ渡らせることになってしまった。それらのことももちろんだが今の城乃内をイライラさせる主な原因は二つあった。

 

一つは、新しいアーマードライダー、龍玄の踏み台になったこと。

 

そして、もう一つは――――

 

「鎧武の新しいアーマードライダーにロックシードを奪われたんだって? 無様だな城乃内」

 

目の前のこの男、駆紋戒斗だった。

わざわざ知っていることを自分に聞いてくるだけでなく、自前のトランプをシャッフルしながらどこか馬鹿にしたような声で自分に話しかけてくる。今すぐにでも文句の一つぐらい言いたくなるがそこを堪えながら自分の用件を済まそうとする。

 

「悪いかよ。あんたの代わりにあいつらと戦ってきてやったんだ。感謝してくらいして欲しいなぁ……。それより代わりの錠前寄越せよ。いくらでも貸してくれるって約束だろ?」

 

戒斗への怒りを抑えながら何も気にしていないような笑顔を作りながら催促をする。まぁ、全然隠しきれていないのだが。

それを聞き、戒斗は机の上にクラスBのロックシードを置く。

 

 

「支配者か……なってみると大して面白いものでもないな」

 

さっさと用件を済まして帰ろうとする城乃内に戒斗の声が聞こえてくる。

面白くない、明らかに自分の失敗のことを言っているんだと分かった。

 

 

「ッ……だったら何で連合チームなんて作ったんだよ?!」

 

「そうだな……例えば―――」

 

そう言いながらトランプを持った手を机の上に持っていき――――

 

 

「こういう有様が嫌いなんだよ」

 

手を離した。机の上にはそれまで手に持っていたトランプが特定の所に落ちていくのではなくその全てがバラバラに落ちていく。

 

「弱い奴らが幅を利かせて誰が強いのかはっきりしない。最悪だ!見苦しくて虫唾が走る」

 

バラバラになったトランプを見つめながら再び集め始める。恐らく、ビートライダーズのことを言っているのだろう。

 

 

戒斗は壊すつもりなのだ。争うだけ争い、増えるだけ増えて、誰が一番強いのかはっきりしないこの現状を。その為に連合チームを作ったのだと城乃内は気付いた。

 

 

「弱い奴は消えろ……とまでは言わない。収まるべき場所に収まっていればそれでいい」 

 

そう言いながら再びトランプをシャッフルし始める戒斗。

 

「だが……」

 

そう言いながらトランプの中からハートの7をはじき出す。

 

「枠に収まらずはみ出した奴はただの弱者じゃない」

 

そのままダイヤの6、スペードの8と次々とカードをはじき出し並べる。

 

「今はただ弱いってだけだ。こいつらにはまだ先がある」 

 

そのままスペードの5、ダイヤの9とカードを並べ終える。恐らくチーム鎧武のことを言っているのだろう。戒斗の雰囲気から城乃内は気付いた。

 

――――ストレート。

 

ポーカーの組み合わせの一つが揃っていた。

 

「チーム鎧武……ああ、確かに見所のある連中だよ」

 

どこか忌々しそうにしながら言葉を続ける戒斗。沢芽市の初めてのアーマードライダー、一対一の戦いのときに使った戦法、今までの戦いから気付いた。鎧武はまだまだ強くなるということを。

 

「だからこそ―――俺と戦う羽目になる」

 

そう言うと、トランプを机の上に置き伏せながら横に広げる。伏せられているカードの中にダイヤの10、ジャック、クイーン、キング、そしてエースの五枚だけが伏せられずにその存在感を発していた。

 

――――ロイヤルストレートフラッシュ。

 

ポーカーの最強の組み合わせがそこに揃っていた。

 

 

 

-------

 

 

 

「で、錠前はどうなった?」

 

場所は代わってドルーパーズにて先に来てパフェを食べている初瀬の聞かれ、向かいに座りながらポケットからドングリのロックシードを机の上におきながら見せる。

 

「最初に連合チームのことを聞いたときはどうかと思ったけどよ、案外悪くないもんだな。他の奴にやられる心配も無いしよ」

 

はぁ? 何言ってんだこの馬鹿は? そう心の中だけで言いながら眼鏡を外し思ったこととは違う言葉を返す。

 

「はぁ……初瀬ちゃんまでそんな事言い出しちゃうんだ…正直がっかりだよねぇ~……」

 

言葉で言われたわけではないがどこか馬鹿にされたのだけは分かった初瀬はパフェを食べる手を止め、あ? と言いながら目の前の城乃内の睨む。

 

「ようは俺たち、バロンの戒斗になめられてるってだけじゃん? ロックシードさえ渡していれば飼い犬みたいに大人しくなるってさ」

 

「何……あの野郎…そんなつもりで嫌がるのか……!」

 

やっぱりこいつ馬鹿だわ、そう常日頃心の中で思っていることを改めて再確認する城乃内。

 

「俺たち揃いも揃って駆紋戒斗の可愛いペットってわけ。 ふふっ……初瀬ちゃんそれで満足かい?」

 

「いいわけないだろっ!!」

 

バンッ! と机を叩きながら立ち上がる初瀬。本当にこいつって扱いやすいなぁ、と思いながら城乃内は心の中だけで笑う。

 

「やっぱ俺たち、まずは戒斗のやつと対等に張り合えるだけの算段をつけないとやばいよね」

 

確かに初瀬は馬鹿だが現状を考えれば組まないわけにはいかない。そう言いながら共に現状を何とかする打開策を考える二人。

 

だがそう簡単にはいかないということも分かっていた。今アーマードライダーと言う強力なアドバンテージを持っているのはチーム鎧武とチームバロンの二つだけ。クラスAのロックシードを持って鎧武に勝負を挑んでもまたアーマードライダー龍玄に負けるということは一度経験した自分がよく分かっていた。ならば、複数用意すればいいという話だが今の自分たちには強力なインベスを複数操る技術は無かった。弱いインベスならまだしも強力なインベスならば制御しきれずに暴走するのがオチだろう。

 

自分たちにもアーマードライダーのような強力なアドバンテージがあれば、そう考える二人を錠前ディーラーであるシドが面白いものを見つけたような顔をして見ていた。

 

 

 

-------

 

 

 

「俺の鎧武に戒斗のバロン、そしてミッチの龍玄か…………」

 

光実と分かれた後、将汰は一人考えていた。光実に何があったのか分からないが恐らく自分がこれ以上言っても決してドライバーを手放さないことは分かった。

だからといって諦めた訳ではないが。

 

もしもドライバーを持ち続けていたら、きっと光実の前にあの白いアーマードライダーが現れるだろう。

 

全力を出せなかったとはいえ、ある程度の戦闘経験を持った自分でもまったく歯が立たなかったのだ。今の光実の前にあの白いアーマードライダーが現れたらひとたまりも無いだろう。インベスゲームだけで十分だ。必要以上の危険を背負って欲しくない。

 

かといってもどうすればいいのか方法が全く思いつかないのが現実なのだが。

 

「はあぁ……どうすればいいんだよぉ~………」

 

 

 

「人の目の前で盛大にため息を吐かないでもらえるかしら」

 

 

 

その時、将汰の背後から声が掛けられる。どこかで聞いたような声だなと思いながら後ろを振り返るとそこにいたのはあの奇妙な転校生、暁美ほむらだった。

 

 

「あ、ああ……悪い暁美――」

 

「ほむらでいいわ」

 

「え? あ、悪いほむら……」

 

名字で呼んだらすぐに名前で呼んで言いと言われ困惑しながらも訂正する。

 

正直、将汰はほむらのことがまだよく分からないでいた。転校してきてから何日か経っている。その間にも何度か注目もされている。例えば勉強。病院に長く居たというのに勉強に遅れるどころか上位の成績を取っているし、運動に関してはクラスの女子の中では一番良いという結果だ。

 

特に一番気になっているのは転校初日に聞いたまどかへと忠告とも言えるような言葉。まどかはまどかのままでいればいい、久しぶりに学校に登校して初対面の人間に対して言う言葉とは到底思えない。

 

基本的には名字で呼ばれているが、まどかや自分に対しては名前で呼んでいいと言う。その違いがまったくもって分からない。いや、気分の問題といわれればそこで終わりなのだが。

 

「そんなことよりも、チーム鎧武のアーマードライダーがこんなところで一体何をしているのかしら?」

 

「ああ、それな……。もうやめたんだよ、それ」

 

「やめた?」

 

「ああ。今はもう別の仲間がアーマードライダーをやってるし、俺も生活が厳しいからインベスゲームとかやる暇がなくてな。それに元々チームを抜けてる身だし、アーマードライダーやってる時も用心棒としてだったから正式にチームに戻っていなかったしな……」

 

「つまり、チームのことはもう自分には関係の無いことだ、と……そう言うことなのね」

 

「――――――ああ、もう関係ないんだ……」

 

「――そう。わかったわ」

 

その通り。もはや自分には関係のないことなのだ。

 

一度ならず二度も逃げ出した自分にはあのチームにいる資格などない。

 

そう、もはや気にしない――――――

 

 

「なら、今バロンの駆紋戒斗が連合チームを引き連れて鎧武にインベスゲームを仕掛けに行っててピンチだったとしても、もう貴方には関係の無いことね」

 

 

――――――はずだった。

 

「………………は? おい、それ……どういうことだよ………」

 

「どういうことって……言葉通りの意味よ。今、鎧武はバロン連合から勝負を挑まれている。そしてピンチに陥っている。ただそれだけのこと」

 

「それだけって問題じゃねえだろッ! 何でそんな事に……!」

 

「何でって……知らないの? 元々バロンが連合チームなんて作ったのは勢力を集めて他のチームを潰すこと。なら最初に潰すのは力をつけてきて勢力に加わらない鎧武なのは当然のことでしょう?」

 

「当然って!! ……ああもう!!」

 

急いでガレージの方へ向かおうとする。

 

「何処へ行こうというの?」

 

「そんなの決まっているだろ!! みんなの――――」

 

「みんなの所へ……とでも言いたいの? 何故? もう部外者である貴方には関係のないことじゃない」

 

「っ! それ、は………」

 

ほむらの言葉に将汰は何も言えなくなる。

 

そう。その通りだ。自分はもう用心棒を辞めた。一度ならず二度も背を向けたのだ。いまさら一体どういう顔をして自分がみんなのピンチに駆けつけるというのか。ロックシードも無い。戦極ドライバーも無い。戦うための力を何一つ持ち合わせていない自分が行こうと行かまいと結果は変わらないだろう。

 

 

そんな事は他でもない自分自身がよく分かっていた。

 

 

「別に鎧武が負けても貴方のせいではないし、貴方の友達も貴方のことを恨みはしないでしょうね。”自分たちの力不足だった”……そう言うだろうと思うけど?」

 

「……ああ。多分、みんなそう言うと思う………」

 

「でしょう? なら私はもう行くから」

 

「ああ。教えてくれてありがとうな」

 

用件が終わったのかほむらは立ち止まったままの将汰の横を通り過ぎて歩いていく。

 

「(ほむらの言う通りだ。俺が行っても何も出来ないし……また誰かが傷付くかもしれない)」

 

―――――なら、余計なことはしないほうがいいのかもしれない。

 

――これでよかったのだ。

 

 

「…………今から言うことは私の独り言よ」

 

「えっ……?」

 

去ろうとするほむらの声が聞こえて慌てて振り返る。こちらの方を向かずにほむらは話を続ける。

 

「例え……行く先が絶望しかなくても、明日が見えなくても………自分の信じた道を突き進む。私の知っている人にそういう人が居たわ」

 

 

「正しいのかどうかなんて誰にも分からない。それでも――――自分が進んだ道を決して後悔はしない。そんな人だったわ」

 

 

「自分の信じた道を…………」

 

 

『おっす将汰』

 

『よう、将汰』

 

『将汰さん!』

 

 

 

 

―――――約束だよ、将君。

 

 

 

 

「―――――っ!」

 

気が付けば体が勝手に動いていた。

 

自分は部外者だし行っても何が出来るのかは分かりもしない。

 

 

それでも……行かなくちゃいけない。

 

 

―――――――後悔しない為に

 

 

 

 

 

「…………行ったのね」

 

走り去っていく将汰の後姿を見つめながらほむらが呟く。だが、不思議にその言葉に驚きの感情は無かった。

 

不意に自身のポケットに手を入れ、入っていたものを取り出す。

 

 

「本当に………何処までも変わらないのね……………」

 

 

どこか嬉しそうな、それでいて悲しそうな顔をしながら――――その不自然に壊れたオレンジロックシードを見つめていた。

 

 

 

-------

 

 

気付けばガレージに向かって走り出していた。

何で無関係宣言をした自分が今更みんなの下に走っているのだとかドライバーを持っていない無力な自分が行っても何の解決にもならないだろうとか、様々な考えが今も頭の中に過ぎっている。確かにそうだ。一度のみならず二度も逃げ出した自分が行っても何の意味も無いのだとか、無力な自分が行っても何の役にも立たないのだとか、そんな事は他でもない自分自身がよく理解している。

 

分かっているはずなのに………

 

「何で走ってるんだよ俺ぇッ!!」

 

いやいや、理由は分かっているつもりだ。過去を振り返ってみるに知り合いどころか実の姉ですら自分に対して時々呆れたような視線を送る事があった。恐らくこういうことを気付かずにやっていたんだろうな。ああ、確かにそうだ。自分でも呆れるわこれは。

まぁ、長く疑問だったことが分かったところで止まるという選択肢は無いわけだけれども。

 

そろそろガレージに着くはずだ………そう思いながらガレージに着くとそこにはすでに龍玄とバロンが戦っているところだった。

 

「ミッチ!」

 

「!? 将汰さん?!」

 

こちらに気付き驚いたような声を上げるミッチ。その声でその場にいる鎧武のみんなやバロンの連中も俺のことに気付く。

 

状況から見てこっちは一人で向こうはバロンとインベス合わせて三人。近くに城乃内と初瀬もいるけどインベスを操っている素振りは無い。ってことはあいつが戦いながらインベスを二体も操っているっていうことになる。おいおい…器用にも程があんだろ!それに実体化してるのに暴走している風には全く見えない。ってことは、あれも戦極ドライバーの力なのか……?

 

「将汰あんたなんでここに…」

 

「聞いたんだよ! 鎧武とバロンがインベスゲームをしてるって…」

 

「聞いたって……いやおかしいよそれは?! だってまだ誰にも言ってないし始まったのだってついさっきだよ!?」

 

はぁ?! と可笑しな声を上げる。ちょっと待て。いくらなんでもおかしいだろそれ。

始まったのがついさっきって……俺がほむらから聞いてここに来るまで走っても五分ちょい掛かった計算になる。それにさやかの言うことが本当だとするとこの勝負はここに居るメンバー以外はまだ誰も知らないってことになる。

だったら何でほむらはこの勝負のことを知っていたんだ……?

 

「ぐああっ!」

 

「! ミッチ!」

 

そう考えている間にもミッチの状況は不利になっていた。

そりゃそうだ。いくらアーマードライダーになったといってもまだドライバーを手に入れたばっかりだし、何よりミッチは今まで戦っていなかったから圧倒的に経験が少ない。

 

戒斗はそんな俺に気付くとふん、と言う風に言葉を発した。

 

「今更のこのこやってくるとはな、桜庭将汰。そこで自分が何も出来ずに仲間がやられていく様を見てるがいい!」

 

そう言いながら攻撃の手を緩めずに逆にどんどん厳しくなっていく。

 

「うおおぉぉおおおっ!!」

 

黙ってみてるわけにもいかずにシールドに向かって突っ込むが、やはり生身では破れないのかまるで何てことも無いように弾かれる。やっぱり変身しなくちゃこのシールドは破れないのか…!

 

「逃げろミッチ! 一人じゃ勝ち目が無い!!」

 

「はぁ……はぁ……負けられない……僕は……はああっ!!」

 

尚を立ち上がりバロンに向かっていくけどインベスとの連携によってまるで歯が立たない。何度もやられてはその度に立ち上がっていく。

 

「何で逃げないんだよ……一人じゃ無理だってっ!」

 

「………きっと将君が見てるからだよ」

 

傷付いていくミッチを見ながら叫ぶ俺にまどかがその理由を述べた。

 

「俺が…見てるから………?」

 

「私…聞いたんだ。インベスに向かっていくのに怖くないのかって……そしたら光実君が―――」

 

 

『ねえ、光実君……怖くないの? インベスに向かって戦うのって……』

 

『怖い、ですか……全然怖くなんてありません! って言えば、嘘になります……。正直に言うとすごく怖いです』

 

『だったら!』

 

『でも、怖いと思うと同時に嬉しいんです僕』

 

『嬉しい……?』

 

『はい。今まで裕也さんや将汰さんが僕等を守るために戦ってくれてました。その、二人の気持ちが分かったような……二人にようやく肩を並べて歩けたような気がして!』

 

『僕をここに導いてくれたまどかさんや将汰さん。いつも元気がいいさやかさんにチャッキーやラット。それにリッカ。来るのは時々だけだけどなんやかんやみんなのことを気に掛けてくれる杏子さん。そして……僕らのことを守ってくれてた裕也さん。そんなみんなを守れるって……心の底から嬉しいんです』

 

『だから―――僕は戦います。あの人が……将汰さんが安心できるように……』

 

 

「ミッチが………」

 

俺が安心できるように………

 

何だよそれ……別にたいしたことなんて全然してないのに……。そんな理由で……?

いや違う。そんな理由なんかじゃない。あいつは俺やみんなを守る為に必死になってまで戦ってるんだ。

それに比べて俺は一体何だ。自分のせいで誰かが傷付くのが嫌だからって逃げて……なんとか振り切ろうとしてもまた怖くなって逃げて―――

 

「馬鹿か………俺は………!!」

 

何が変わりたいだ! 何が誰かを傷つけたくないだ! そんなの……そんなの単に自分の責任から逃げてるだけじゃないか!! そんな自分のことを守る為にああやって戦ってくれてるミッチのようが自分よりもすごいじゃないか。何度傷付いても立ち上がって、何度も向かっていって、たとえ歯が立たないのだとしても決して諦めない。

 

そんなあいつに俺は一体何がしてやれる。

 

ドライバーを手放して弱いままの自分になって見てるだけしかない自分に……?

 

 

 

「……まどかベルトは何処にある?」

 

「えっ……で、でも!」

 

「違う……誰かのためなんかじゃない。今度こそ俺のためだ」

 

「将君……」

 

「弱いままの自分じゃない……弱い自分の殻を破るための力! 俺にはその為の力が必要なんだ………だから!!」

 

「! うんっ!」

 

俺の返事を聞くとまどかは自分の鞄から戦極ドライバーとロックシードを取り出して俺に渡してくれた。

すぐに受け取り、ベルトをセットしてロックシードを構える。

 

「駄目だ…将汰さん!! 貴方にはもう……戦う理由なんて無い!!」

 

「あるさ! あのベルトは俺しか使えない! 俺にしか出来ないことをやり遂げるための力 俺はそいつを引き受ける!!」

 

それに―――

 

「それに俺は―――もう弱いままの俺じゃいられない!! 何でも出来る自分……俺はそんな自分に変身する!! そう決めたんだッ!!」

 

「将汰さん……」

 

「変身!」

 

『オレンジ!』『ロック・オン! ソイヤッ!』

 

『オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

「はぁっ! うおおらああぁぁぁぁ!!」

 

変身し、そのまま助走をつけてシールドに向かって思いっきり殴りつける。最初はなんとも無いような反応だったが、殴られた箇所を基点に全体に向かって波紋が広がりガラスのようにシールドが砕け散った。

 

 

「ここからはおれのステージだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで――――気付くべきだった。

 

他から見れば彼は誰かのために戦う……まさにヒーローのような存在。人を助けずにはいられないお人よし過ぎる人間に見えるだろう。

 

だが――違う。

 

 

彼が戦うのは……正義感とか人助けとかそんなものではない。

 

その奥底にあるのは………自分勝手な理由によって付けられた醜い呪い(・・)だけだ。

 

 




将汰が戦う理由は原作の鉱汰のような正義感ではありません。これが大きな違いです。まぁ気付く人はすぐに気付くと思うけど。



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