IS~二人目の男性操縦者は魔法剣士!?~ IFルート(リメイク版) (ピーナ)
しおりを挟む

キャラ・魔法設定

思った以上に長くなったのでISは別ページに。


霧島八雲 (きりしまやくも)

 

CV 神谷浩史

 

年齢 十六歳

 

趣味 読書→読書、料理

 

特技 戦闘→速読、細かい作業、お菓子作り

 

好きな物 特になし→心の許せる人と居る時間→恋人の笑顔、恋人たちと過ごす時間

 

役職 時空管理局本局運用部第一遊撃部隊隊長(階級は三等空佐)兼IS学園生徒会副会長(次期会長)兼バニングス社テストパイロット

 

使用デバイス インテリジェントデバイス『叢雲』、アームドデバイス『スノーレイン』

 

概要(~八話)

 

本作の主人公。

九歳の時、魔法に出会い、初恋をし、大切な人を失う。

それから自分を責め続け、人々の生活を護り、死んでいくのが罪人の自分に残された贖罪と思い、管理局の最前線で戦い続けていたが、ある時、ひょんな事でISを動かしてしまい、IS学園に入学する事になる。(仕事量が本編よりも多かったので階級が一つ上になっている)

戦闘スタイルは自らの反射神経を活かした高機動万能型で戦う距離を選ばない。

特筆すべきは膨大な戦闘経験からくる洞察力で、まるで相手の動きが分かっているかのような動きをするが、反面、必要最低限の回避しかしないので、一歩間違えれば大怪我間違いなしの戦い方をする。

大切な人を失った事から、人との交流を避けており、人の名前をほとんど呼ばない。(アリサとすずかを始めとした幼馴染組位)なので初見では無愛想でとっつきにくそうだが、たまに素である優しい部分が垣間見れる。

しかし、ほとんどの人が知らないので、周囲からも避けられており、その強さから一部を除き、恐怖の象徴でもある。

 

(九話~十八話)

 

自らの初恋の人、八神はやての叱咤激励を受けて、自分の生きる意味、戦う意味を探している。

幼馴染達や学園で出会って色々迷惑を掛けた生徒会のメンバーや一部のクラスメイトには昔に近い感じで接しているが、「どの道、卒業したら本拠地をミッドに移す」と考えているので、そこまで深い関わりを持とうとは考えていない。

戦い方もリスクとリターンを計算できるようになったものの、咄嗟の事態では体に染みついた動きをしてしまうので、まだまだ危なっかしい。

とっつきにくさが薄くなり、八雲の本当の性格に合わせて歳不相応の落ち着きを見せるようになった。

しかし、感情を押し殺し人とのかかわりを避けてきたせいか、他人の感情の機微には疎く、何人もの女の子に想いを寄せられているが気付かない。

生徒からは敬遠気味だが、早朝からトレーニングする姿を見た教員からは実力も相まって高い評価を得ている。

 

(十九話~)

 

六人の想いを受け止め、ハーレムを構築すると共に、『恋人達の笑顔を護る』という自分の生きる意味、戦う意味を見出す。

ハーレムという選択をしたので優柔不断かと思えば、案外即断即決型で自分の道を定めた後、進路も早々に決めてしまう。

自分の見つけた意味を原動力に日々努力を重ねながら恋人たちと充実した日々を送っている。

戦闘スタイルは機動力を生かしたヒット&アウェイを構築中。本人曰く「色々考えたけど、僕に合ってる戦い方で皆を泣かせないのってこれだと思うし」との事。膨大な経験値と抜群のセンスで一通りは可能になった。もちろん、IS戦だけでなく、生身の戦闘も超一流。その腕前は地球トップレベルの実力者たちと互角以上に戦う。

性格や行動などは昔や本編などとほぼ同じになってきている。

卒業した後の進路の為に月に1~2回ほど翠屋での修行を行うようになった。師匠は「今でも十分お店に出せるレベルだけど、この調子で腕を磨けばお店の看板になるわ」と評価している。

持ち前の器用さを「彼女達の笑顔の為に」とフル活用するので、元々あった様々なスキルがめきめきと上がっていっている。

魔力ランクはSSS以上、事実上測定不能。使用魔法はミッド・真正ベルカのハイブリットでレアスキル『オクタゴンエレメント』を持つ。ポジションは一応FAだがどこでもこなせるオールラウンダー。

 

 

 

 

アリサ・バニングス

 

八雲の恋人その1。

世界有数の企業『バニングス社』の令嬢。持ち前の要領のよさ、学習能力の高さでどんな事もそつなくこなせる。それはISも同じらしくIS適性Aを叩きだし、会社の試作機を受領しすずかと共に一学期の終わりに転校してくる。

八雲がハーレムを作る切っ掛けと全員が告白する切っ掛けを作った張本人。

友人としての感情が何時恋心に変わったかは本人も分かっていないが、少なくとも小学校の頃からその感情は持っていた模様。

一番八雲を見ていたという自信があり、八雲の将来への考えなどを唯一察している。

ツンデレの気があり、八雲曰く「そこをからかって真っ赤になるアリサも抜群に可愛いんだよね」との事。

魔力ランクはAAランク、ミッドチルダ式魔法でポジションはGW。そして魔力変換資質『炎熱』と属性術『火』と『風』を持つ。

 

月村すずか

 

八雲の恋人その2。

地元の名家『月村家』の次女。アリサほどではない物の彼女も様々な事をそつなくこなす。IS適性もアリサと同じくAでテストパイロットに任命されアリサと同じタイミングで編入してくる。

アリサと同じく友人として八雲に出会い、いつの間にか恋心が生まれていた。

実は『夜の一族』という吸血鬼一族の末裔。という物の、長年人間と交わって来たので、吸血鬼の要素などほぼなく、能力が常人よりも優れているレベルで人と変わらない。が、身体能力だけなら恋人内でナンバー1。

距離感を掴むのが上手く、時には友人の様に、時にはバカップルの様に八雲と接する。

魔力ランクはアリサと同じくAAランク、ミットチルダ式魔法でポジションはWB。そしてかなり希少な魔力変換資質『凍結』と属性術『氷』を持つ。

 

更識刀奈

 

八雲の恋人その3。

日本有数の名家『更識家』の当主にして、IS学園生徒会長で二年の学園主席、現ロシア国家代表。その名は伊達ではなく戦闘能力では恋人内ナンバー1。

各所からの依頼で八雲に護衛兼監視として付いたが、他と違う八雲に興味に持つ。とある事件で身を張って助けられた事で自分の恋心を自覚した。

八雲相手には基本押しの一手だが、八雲に押し返されるのに弱い。ちなみに八雲はその両面を楽しんでいる。

魔力ランクは上記二人よりやや多いAA+ランク。唯一の近代ベルカ式でポジションはFA。さらに属性術『水』を持つ。

 

布仏本音

 

八雲の恋人その4

更識家に仕える『布仏家』の次女。そのほんわかオーラでクラスではマスコット的存在だが、彼女自身才女で、ISの技術関連はかなりのレベルを誇る。また、料理の腕は恋人内ナンバー1で物によっては八雲以上。

八雲の監視という名目で観察していたが、他と違う雰囲気を持った八雲に興味を持つ。ある事件を境に柔らかくなった八雲と触れ合う事で、興味が恋心に変わっていった。

八雲には刀奈に近い感じだが、八雲は彼女自身がもつ雰囲気から「どんな時でも僕を癒してくれる人」と認定されている。

魔力ランクはAAランク。ミッドチルダ式魔法でポジションはFB。属性術『光』を持つ。

 

布仏虚

 

八雲の恋人その5

『布仏家』の長女で本音の姉。三年生の学年主席であり、IS学園整備科のトップエース。技術面では各国注目の逸材。出自の関係で家事全般も得意で女子力も恋人内でナンバー1で特に性格からくるお菓子作りは、本職のパティシエも認める八雲並。また、最もグラマーな体型の持ち主でもある。

生徒会の仕事を偶然八雲に手伝ってもらった事で知り合い、その後、ある事を切っ掛けで柔らかくなった八雲と生徒会室や図書室で触れ合っていく事で恋心が芽生えた。

どうも従者の癖が抜けておらず、八雲との距離を測りかねている。が八雲は「それはそれで良いんじゃないかな」と楽しんでいる模様。

魔力ランクや使用魔法、ポジションは本音と同じくAAランク、ミッドチルダ式魔法、FB。属性術は『闇』を持つ。

 

更識簪

 

八雲の恋人その6

『更識家』の次女にして日本代表候補生。IS乗りとしての能力もさる事ながら、魔導師としての秘められた能力は凄まじく、特に中~遠距離での射撃、砲撃戦に置いてはエースオブエース、高町なのはに「1年みっちり訓練したら私と互角になれる可能性がある」と言わせるほど。

臨海学校にて本音の策略で八雲と出会い、自分自身の相談に乗ってもらい、解決への道を見つけると共に一目惚れをする。

まだまだ一緒の期間が短く、順番が逆転しているがお互いを知る所から始めている。しかし、彼女の持つ八雲への気持ちは他の誰にも負けてはいない。

魔力ランクはメンバー最大値のAAAランク、ミッドチルダ式魔法でポジションはCG。属性術『火』『水』『地』『風』を持つ。

 

 

デバイス設定

 

叢雲(むらくも)

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 霧島八雲

 

本作主人公、霧島八雲の相棒。日本刀の形をとる。

単独での戦闘が基本の八雲をサポートできるように転移、探査などの補助系の魔法の魔法の運用も可能に改造されている。

その最大の特徴は並ぶ者のいない八雲の膨大な魔力に耐えれる耐久性。その丈夫さはロストロギアレベルとまで称されるほど。

八雲も大きな信頼を置いており叢雲をIS戦に対応させるためだけに瑞雲の制作を依頼するほど。

 

スノーレイン

 

分類 アームドデバイス

 

使用者 霧島八雲

 

夜天の魔導書の欠片から生まれた八雲のもう一つのデバイス。彼はこれを「僕の築いてきた絆の証」と呼ぶ。

夜天の魔導書の守護騎士達のデバイスそれぞれの形態(リンゲモード[シャマル]、ハンマーモード[ヴィータ]、ガントレットモード[ザフィーラ]、シュベルトモード、シュランゲモード、ボーゲンモード[シグナム])が使用可能で、それぞれの技も使える。

また、夜天の魔導書が元になったからなのか、古のベルカの魔法から現代のミッドチルダの魔法までを蒐集したストレージとしての能力も持っている。

八雲は主にサポート色の強いリンゲモードか両腕を守る為にガントレットモードで使用。

 

フレイムアイズ

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 アリサ・バニングス

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。連結刃刀の形で剣と鞭の二種類を使い分ける。

六人のデバイスは飛行制御補助の能力を持っている特殊な物である。

また、アリサの魔力変換資質『炎熱』を最大限に生かせるようにサポートしている。

 

白雪

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 月村すずか

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。右手に装着するグローブ型。

すずかの希少ながら扱いの難しいとされる魔力変換資質『凍結』の制御をサポートしている。

 

レインクラウン

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 更識刀奈

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。突撃槍の形を取る。

六つのデバイスの中で唯一のベルカ式対応のデバイスで、防御と飛行の制御のサポートを重視している。

 

カーバンクル

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 布仏本音

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。両腕のブレスレットの形を取る。

回復や能力ブーストなどの戦闘補助魔法の制御、サポート能力に特化している。

 

紫水

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 布仏虚

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。両手の人差し指と薬指にある指輪の形を取る。

バインドや結界などの支援魔法の制御、サポートに特化している。

 

野分

 

分類 インテリジェントデバイス

 

使用者 更識簪

 

更識家で発見されたデバイスの一つ。薙刀の形を取る。

誘導弾の制御と集束砲撃の制御能力を重視している。

 

 

属性術

 

八雲の恋人達のみが持つレアスキル。

八雲のレアスキル『オクタゴンエレメント』に対応した八属性(火、水、風、地、氷、雷、光、闇)があって、それぞれの術技が使用可能。

意図的に雷を外したのは、八雲の秘奥義をインディグネイションにしたから。




ヒロイン達はキャラ紹介少な目にしたのですけど、それでもかなり長くなりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS設定

オリジナルIS四機をの設定です。


出雲 (いずも)

 

 

世代 第三世代

 

 

機体性能(SS~Dで評価。個人的偏見あり。追加パッケージなしの通常時)

 

機動性 S

 

パワー B(ただし、操縦者の八雲が並はずれた身体能力を誇るので彼が乗るとA)

 

攻撃力 A

 

装甲  D

 

燃費  C

 

操縦性 D

 

 

搭載装備

 

マルチバレットエネルギーライフル『彩雲』×4(通常型×2、短銃身型×2)

IS専用近接刀型デバイス『瑞雲』

複合武装システム『雨雲』

腰部ハードポイント×2

プロテクションシステム

カートリッジシステム

コアリンクシステム

 

概要

 

バニングス社が開発した霧島八雲専用機。デザインは八雲のバリアジャケットを模している。

元はバニングス社の技術力の宣伝のために作られた技術検証機だが、常人の域をはるかに超える身体能力を持つ八雲と、当代トップクラスのバニングス社所属の技術者達、さらにISに興味を持った管理局から派遣されてきた技官たちの魔法技術まで取り入れられた文字通りの『魔改造機』。

性能的には回避を主に置く、距離を選ばない高機動万能機、中でも、加速力と運動性は同世代機最高峰。

反面防御力は現行存在する機体の中でも低い部類に入るが、後述のプロテクションシステムである程度カバーされている。

本作独自の設定として腰部両側にハードポイントが存在する。これは「いちいち武器を出すコンマ数秒が惜しい」という八雲の要請に応えた形になっている

 

 

 

マルチバレットエネルギーライフル『彩雲』

 

出雲に搭載されている第三世代兵装。イメージインターフェイスによって弾種の切り替えが可能。当初の予定ではアサルトバレット、ショットバレット、スナイパーバレットの予定だったのだが、魔法技術の導入で変更。

また、『コードACS』の音声認識でエネルギー刃『ストライクフレーム』を展開し、ある程度の近接戦も可能。

本作独自の設定として、通常型と銃身を短くして取り回しやすくなった短銃身型も2丁搭載している。

 

高速弾『Fバレット』

 

攻撃力 B

 

弾速  S

 

誘導性 D

 

燃費  B(ファランクスシフトのみC)

 

便宜上、アサルトバレットの改良型。弾速と連射性に優れる。イメージインターフェイスの併用で、エネルギースフィアを設置し、そこから固定砲台のような活用も可能。

また、着弾や使い手の意思でエネルギー弾を爆発させることも可能。

切り札として超高速の一斉連射『ファランクスシフト』が使用可能。

名前の『F』は元となった魔法の使い手で八雲の幼馴染でもあるフェイト・テスタロッサのファーストネームの頭文字から。

 

誘導・収束弾『Nバレット』

 

攻撃力 B

 

弾速  B

 

誘導性 S

 

燃費  B(ディバインバスターのみC)

 

 

便宜上、ショットバレットの改良型。

イメージインターフェイスを使用する誘導弾。同時に何発もの誘導弾を扱う事も可能だが、それは操縦者の能力次第になる。魔導師のマルチタスクありきのバレットで一般人は一発操るのも困難。

切り札として収束砲『ディバインバスター』が使用可能。

『Fバレット』と同じで名前の『N』は元となった魔法の使い手である高町なのはのファーストネームの頭文字から。

 

 

魔法弾『Yバレット』

 

攻撃力 A

 

弾速  A

 

誘導性 使用した技による

 

燃費  C(魔力のみ使用の場合、S。というより消費しない)

 

 

『彩雲』に『叢雲』が接続することで一時的に魔法の制御を可能にし、魔力弾を撃ち出す。

魔導師としての八雲の資質が一番出るので、攻撃力は一番高いが、「違うエネルギーと気付かれて魔法がばれるのがめんどくさい」という理由で非常事態以外では使わない。

魔力を使用しない場合、八雲の使用する魔法(つまり、テイルズオブシリーズの魔法)を模した物が使用される。

『Y』は自分のファーストネームから。

 

 

IS専用近接刀型デバイス『瑞雲』

 

『叢雲』をIS戦に対応させるための専用刀。『叢雲』が接続する事で通常時同様の魔法が使用可能になる。

他の人間が使えば普通の近接刀だが、八雲&叢雲のコンビが使用する事で『管理局の切り札』本来の実力が発揮できる。

 

複合武装システム『雨雲』

 

IS版のスノーレイン。刀形態、槌形態、手甲形態の三形態を持つ。

八雲は主に刀形態での二刀流時に使用。

 

プロテクションシステム

 

バリアタイプ、シールドタイプの防御魔法を解析し再現した防御システム。自分の周囲を包むバリアタイプ、一点集中防御のシールドタイプと任意選択可能。

バリアタイプは『防ぐ』より、『威力の軽減』が主に置かれ、回避の難しい、広範囲攻撃の際に使用される。

一点集中のシールドタイプは大量のシールドエネルギーをつぎ込めば短時間ならばアリーナのシールドを抜く攻撃力のビームを防ぐことも可能で、八雲は主にシールドタイプを使用するが、戦闘スタイル上最後の保険である。

 

 

カートリッジシステム

 

古代ベルカの同名技術をISに取り入れたもので外部エネルギーを一時的に得る事で通常以上の性能を引き出す。分かりやすく書くと性能が1ランクアップ。ただし、機体や搭乗者の負担は考慮されていないので、諸刃の剣にもなりうるまさしく「戦いの中で生まれた技術」。カートリッジはマガジン式で六発。左腕部装甲に装填する。(イメージは仮面ライダー龍騎の龍騎みたいな感じです)

 

 

二重装着

 

叢雲がISスーツを解析しバリアジャケットにISスーツの能力を付加したため出来るようになった、バリアジャケットとISを同時展開する方法。緊急事態に使用するいわゆる『裏ワザ』。

これによりISスーツ以外での展開の時にあるエネルギー消費をなくす事ができる。

 

 

コアリンクシステム

 

自分の魔力を使いISの出力そのものを底上げするシステム。カートリッジシステムとの最大の違いは魔力があれば永続的に上げれる事。通常魔法と装備魔法の違い(遊戯王風)

ただし、膨大な魔力が必要になるので長時間の使用はできない。ちなみに全快時の八雲で約20分程度。

 

 

 

紫雲(しうん)

 

世代 第三世代

 

機動性 A

 

パワー B

 

攻撃力 A

 

装甲  C

 

燃費  B

 

操作性 C

 

 

搭載装備

 

エネルギーライフル『彩雲改N型』×2

IS専用近接用デバイス『瑞雲』(薙刀型)

マルチロックオンミサイルユニット『乱雲』

カートリッジシステム

プロテクションシステム

 

 

概要

本作における打鉄弐式。

出雲を母体に量産を前提にした中距離バランス型として再設計された物を更識簪専用機に改良したもので、紫雲改とも呼べる機体。彼女のCGとしての処理能力を最大限に生かせる装備になっている。

母体の出雲が超が付くほどの高機動型なので、紫雲も機動性が高い第三世代射撃型になっている。

 

 

エネルギーライフル『彩雲改N型』

 

出雲のメイン武器『彩雲』の量産前提の改型。それをさらにNバレットに特化させたもの。

通常の彩雲より誘導弾の制御が容易になっているの(と言っても並のパイロットでは3発が限度)で多くの弾数を操る事が出来る。もちろん、一撃必殺の砲撃も可能。

夏休み現在、簪は移動しながらは5発、足を止めれば10発まで操る事が可能。

 

IS専用近接用デバイス『瑞雲』

 

本来、瑞雲は叢雲のIS戦形態ともいうべきものだったのだが、簪も魔導師だったので彼女の最も得意な近接武器である薙刀型の『瑞雲』が制作された。対近接戦の隠し玉。

 

マルチロックオンミサイルユニット『乱雲』(みだれぐも)

 

打鉄弐式における『山嵐』を魔法技術によって完璧な形で完成させた紫雲最大の切り札。

乱雲単体でも強力だが、彩雲の誘導弾との組み合わせでより強力なコンビネーションとなる。

 

カートリッジシステム

 

出雲に搭載されている物の改良型で負担が減っている。

簪は主に砲撃のチャージタイムの短縮および、最大の攻撃『スターダストブレイカー』(なのはのスターライトブレイカーを見て考案。「星の光は無理だから星屑ぐらいで。それに強化したら流星とか名乗れそうだよね」と本人)に使用される。

 

プロテクションシステム

 

出雲に搭載されている物の改良版で、防いで相手の動きを止める事の出来る『バインディングシールド』を使う事が出来る。簪は射撃に集中するための防御時に使用する。

 

紅雲(こううん)

 

機体能力は紫雲と同等

 

搭載装備

エネルギーライフル『彩雲改F型』×2

IS専用近接用デバイス『瑞雲』(連結刃刀型)

カートリッジシステム

プロテクションシステム。

 

 

概要

本作のオリジナル機で搭乗者はアリサ・バニングス。

出雲を母体とした機体で紫雲の姉妹機。紅雲はアリサが身に着けたGWの技術を活かすために近~中距離での戦いを前提として設計されており、紫雲よりやや機動性を重視した設計となっている。

 

 

 

エネルギーライフル『彩雲改F型』

 

出雲のメイン武器『彩雲』の量産前提の改型。それをさらにFバレットに特化させたもの。紅雲搭載の物は接近戦での使いやすさを考慮して短銃身型を採用している。

通常の彩雲のFバレットに比べて連射力と弾速が向上しており、一発の威力もやや上がっている。

 

炎熱直射弾『Aバレット』

 

アリサの魔力変換資質『炎熱』を再現したバレット。連射速度はFバレットにやや劣るものの一発の威力が高く弾速も同等なので、アリサは牽制用のFバレット、攻撃用のAバレットと使い分ける。

 

IS専用近接用デバイス『瑞雲』

 

紫雲とおなじ理由で搭載された物で簪と同じ理由で採用され、デバイスと同じタイプの武器を採用している。

 

カートリッジシステム・プロテクションシステム

 

紫雲と同型の物を採用している。アリサは主にカートリッジは機動力の強化、プロテクションは切り込むためのシールドを使用する。

 

蒼雲(そううん)

 

機体能力は紫雲と同等

 

搭載装備

マルチバレットエネルギーライフル『彩雲改』×2

カートリッジシステム

プロテクションシステム

 

概要

本作のオリジナル機で搭乗者は月村すずか。

出雲を母体とした機体で紫雲、紅雲の姉妹機。蒼雲はすずかが身に着けたWBの技術を活かせる中~遠距離の戦いを前提に設計されており、紫雲や紅雲、出雲よりも防御力を重視した設計になっている。

 

 

マルチバレットエネルギーライフル『彩雲改』

 

出雲のメイン武器『彩雲』の量産前提の改型。ストライクフレームの機構をオミットし、各種弾のサポートシステムを搭載して扱いやすくはなっているものの、やはり非魔導師には強力だが扱いにくい武器である。

なお、近接武器を搭載していないので接近戦でも一応対応できるように上記二機の彩雲改よりも硬く作られているので打撃武器にも使用可能。

 

氷結直射・誘導弾『Sバレット』

 

すずかの魔力変換資質『氷結』を再現したバレット。その名の通り氷結能力を持っている。Nバレット、Fバレットに弾速は劣るものの、それをものともしない位の汎用性を誇る。

 

カートリッジシステム・プロテクションシステム

 

紫雲、紅雲と同等の物を搭載している。すずかはカートリッジは射撃威力、弾速の向上やプロテクションの強化にに、プロテクションは戦闘スタイル上シールド、バリアを状況によって使い分ける。

 

 

水雲(みなぐも)

 

機動性 A

 

パワー B

 

攻撃力 A(清き熱情はS、ミストルティンの槍はSS)

 

装甲  C(水のヴェールありでA)

 

燃費  C

 

操縦性 C

 

 

搭載装備

 

IS専用近接デバイス『瑞雲・蒼』

アクアナノマシンシステム

プロテクションシステム

カートリッジシステム

 

概要

更識刀奈の専用機でミステリアスレイディをロシア政府の許可を得てバニングス社が改造した物。

武装の変更は無い物の、出雲から得たデータで機動性の強化と魔法制御の技術を応用したイメージインターフェイスを採用する事でより完成度を上げている。

 

IS専用近接デバイス『瑞雲・蒼』

 

蒼流旋にデバイスのギミックを組み込んだもの。仕込みの機関銃が小口径の彩雲改F型に変更されているので実弾からエネルギー弾になっている。

 

アクアナノマシンシステム

 

ミステリアスレイディから引き継いだ第三世代装備。魔法技術由来のイメージインターフェイスでより完成度を増している。

 

プロテクションシステム

 

元々のミステリアスレイディにはアクアナノマシンでの水のヴェールがあったが、これを使う事でアクアナノマシンをより攻撃に割り振る事が可能になった。刀奈は近接戦が多いのでシールドモードを多用。

 

カートリッジシステム

 

一時出力を上げる事が可能なのでアクアナノマシンの発生量の強化などにも使えるのでかなりの好相性。




出雲と紫雲、紅雲、蒼雲の関係性はガンダムならウイングゼロと最初の五人のガンダム、マクロスならYF-19とVF-19FやSと考えていただければいいと思います。
つまり「最高峰の機体」と「その機体を扱いやすくしたがそれでも高性能な機体」という関係性です。ここからさらにデータを集めて量産機になっていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 モノクロデイズ

リメイク版第一話が完成しました。今日中にとりあえずもう一話は上げると思います。


「霧島八雲……関わらないでくれると嬉しい」

 

クラスメイトは僕の自己紹介にざわざわしているけど、そこは無視だ。

あれから6年と少し、あの日僕は全てを失った。僕は何一つ守れなかった。

だから、あの日を境にしがらみも人の付き合いも全て棄てた。突き放してもアイツらは挫けなかったし、今もそうし続けるけど僕はそれを無視し続けている。

僕は今、死に場所を探している。僕は罪人だから、守って戦って、死んでいく。それが俺の贖罪。出来る事なら早く死にたい。でも、なまじ僕が強いから、そう簡単に死ねない。なら燃え尽きるその日まで戦い続けるだけだ。

一人目が動かした事で全世界的に行われた調査で僕がISが動かせる事が分かって、ここIS学園に入れられた。

小中と不登校で、管理局の仕事だけをしてきた。休む事は僕自身が許せない。だから戦い続けた。今回の事でも無視して、仕事をするつもりだったけど、管理局の上の方が消化してない数年分の有給+αを使わせるために、アリサに色々手回しして、僕はここに入る事になった。

多分、僕が送る最期の日常。死ぬのがちょっと遅くなっただけだ。

 

 

 

「更識楯無よ、よろしくね、霧島君」

 

彼女は生徒会長、更識楯無。アリサの友人で彼女が頼んで僕のルームメイトにしたらしい。……アリサは何を考えてこの人を僕のルームメイトに選んだんだろう?

僕にはもう何もいらないのに。

 

「よろしくです、会長さん」

 

たった二年だ。それだけの関係。卒業して、僕の事を忘れてくれればいい。

 

 

 

「よろしくです、会長さん」

 

私が彼、霧島八雲君の護衛に着くことになったのは、友人の一人で、彼を保護している企業の社長令嬢、アリサ・バニングスの頼みからだった。

そして、初対面の挨拶の時、彼の眼は見た事も無い位、深く暗い眼をしていた。立場上、色々な人間を見て来たと自負する私でも見た事も無い位、深く暗い眼。そこには感情を読み取れなかった。

霧島君はクラスでも、誰とも話さないと、彼のクラスメイトであり、私の幼馴染の布仏本音ちゃんは言う。彼女は感情の機微に鋭いので、彼の事を「多分、世界のすべてに絶望した眼ってああいうのを言うのだと思う」と言っていた。

確かに、調べると彼は小学生の時に家族を事故で失っている。しかし、その後も普通に生活をしている。彼が決定的に変わったのは小学三年のクリスマス、それ以来、彼は学校にすら行かなくなったらしい。まるで、世界から関わりを絶つかのように……。

 

 

 

関わらないでくれと言ったけど、クラスメイトはそれを許さない。僕は何故かクラス代表に推薦されてしまった。推薦の理由はとりあえず珍しい男性操縦者だから選んでおけば話題になる。だと思う。

それに噛みついたのは一人のイギリス人。もう一人の男子が何かを言っていたけど、僕にとってはどうでもいい。

イギリス人の方は何も言わない僕を「軟弱」だとか言ったけど、どうして喋らなければ軟弱になるのだろうか? その辺がよく分からない。無視を決め込むと勝手に逆上した。さらに訳が分からない。自己紹介の時に関わらないでくれって言ったのに。

結果的にクラス代表を決める戦いをする事になった。

これに近い事が別の時にもあった。もう一人の男子が話しかけた時の事、僕はいつも通り無視をしていた。すると、彼の横に居たポニーテールの女子が何故かキレた。人と関わりたくないと最初に言ったんだし、今まで誰かに話しかけられても無視をして来たんだから、それぐらい分かれと思う。その女子は竹刀を突然、取り出し振り回したけど、そんなんに当たるほど、僕は甘くない。魔力で拳にバリアを張って、迎撃して、竹刀をへし折った。もちろん、周りが見ていて正当防衛だったから、おとがめは無しだ。

しかも、都合よくほとんど話しかけられなくなった。これについてはラッキーだと思う。ただ一人、

 

「きーりん、一緒にご飯を食べようよ~」

 

僕に妙なあだ名を付け、間延びした喋り方をする女子だけ。どうして、彼女は僕なんかに話しかけるんだろう。それが一番分からない。

 

 

 

私、布仏本音が仕える家『更識』が政府やIS委員会、そして彼を保護している企業であるバニングス社から依頼されたのは、二人目の男性操縦者、霧島八雲の学内での護衛。寮内は当主であり幼馴染の楯無お嬢様がするから、私の担当はクラスでの護衛と様子を観察するのが仕事になる。

写真で顔はみていたんだけど、実際最初見た彼は他のクラスメイトと放つ雰囲気が違った。

私を含めたクラスメイトは、新しい生活、IS学園での高校生活への希望があった。それはいくら望んでなかったとはいえ、一人目の織斑一夏も変わらないと思う。

しかし、霧島八雲の持っている雰囲気は『無関心』であり、他の生徒とは真逆だった。まだ、始まったばかりだし、ゆっくり彼の人となりを知って仕事をすればいいかな。

 

「俺は織斑一夏、よろしくな」

 

そう考えていたらいきなり、二人の男性操縦者が接触した。クラス内。いや、クラスの外に来ている他クラスや上級生の注目が集中する。

 

「…………」

 

しかし、話しかけられた本人は何事も無かったかのように持ち込んだ本を読んでいる。取りつく島も無いとはこの事だ。私の感じた『無関心』はどうやら的中だったらしい。

そう思っていると事件が起こった。

 

「貴様!」

 

織斑一夏の横に居た一人の女子生徒―ISの開発者篠ノ之束の妹でこのクラスの重要人物の一人、篠ノ之箒―が切れて、竹刀を取り出し、襲い掛かったのだ。

次の瞬間、見ていた全員が驚くようなことが起こった。霧島八雲は、自分に振りかかってきた竹刀を殴ってへし折ったのだ。

家柄の問題で武術という物を見る機会が多々あったので、目の前で起こった出来事がそれがどれだけありえない事かを理解している私にとっては非常に興味が湧いた。あんな事はお嬢様も先代様もお父さんも出来ない。

しがらみ抜きで話しかけてみよう。『護衛対象』ではなく、一人の同い年の男の子霧島八雲、ううん、きーりんに。

 

「ねえ、きーりん。一緒にご飯食べようよ~」

 

彼と友達になりたいと思っている私としてはなんだかほっとけないんだよね。

 

 

 

新学期が始まって数日、今年の目玉の男子生徒二人の評価はたった数日でほぼ確定した。織斑一夏君は「イケメン」「男らしい」霧島八雲君は「近付きたくない」「気味が悪い」と両極端になった。

しかし、そんな評価すら、彼は意に返さない。

周りに何を言われようが、全く気にしない、いつも無視をする。彼には感情があるのだろうか? 私は本気でそう思う。

さらに、気味悪さに拍車を掛けたのは、篠ノ之博士の妹、篠ノ之箒ちゃんが起こした暴力未遂事件。

話しかけても返事をしない霧島君に怒った彼女は何故か持っていた竹刀で彼を攻撃。しかし、霧島君はあろう事かそれを拳で殴り、へし折った。

そもそも、竹刀はそう簡単に折れないし、折れたとしても手は重大な怪我を負うだろう。その事件の後、彼は何事も無かったように授業を受けている。つまりは無傷だったのだ。

この一件で、彼に関わろうとする人間はほぼ皆無になった。例外は本音ちゃんだけ。彼女曰く「なんだかほっとけないんだ~」との事だ。

 

 

 

僕はあの日から不眠症だ。たとえ薬を使っても寝れない。寝ようとすると、悪夢を見てしまう。僕が守れなかった人達が目の前で消えていく夢。いくら必死に手を伸ばしても僕の手は空を掴むだけ。それにうなされて目が覚める。睡眠時間が一時間程度なんて当たり前、寝れない日だってある。だから、僕の目の下の隅は取れた事は無い。多分、僕が終わるその日まで消える事は無いだろう。

でも、僕はこれを受け入れている。これは僕が受け入れるべき罰なんだから……。

 

 

 

彼と生活していて気付いた事がある。彼は夜、全くと言っていいほど眠っていない。私は寝付が悪い方なので、ベットに入っても中々眠りに入れない。そうしている時、横の霧島君はうなされて、起きて、そして、たまに泣いている。うなされている言葉と泣いている時に呟いている言葉は全部「ごめんなさい」。

彼は一体、何に謝っているのだろうか? 一つ分かるのは彼がその夢を長年見ているという事。それは、彼に刻み込まれた眼の下の隅が如実に語っている。




今作では複数人の視点から物語が進んで行きます。今までは主人公+ヒロイン+三人称の組み合わせばかりだったので、挑戦してみようと思いました。


本編にある修正前のIFルートに比べると八雲視点が若干減っています。
これはそれ以外の視点を増やした事と、現状世界に無関心な八雲ではなく、外から見た方が良いのでは? とリメイク版を書いていて思ったからです。

次回は一気にクラス代表決定戦です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 死地を求める騎士の強さ

クラス代表決定戦です。


入学から一週間、僕はアリーナでイギリス人と戦った。最初は相手の実力を見るために回避に専念してたんだけど……大口を叩いた割に大した事がない。いや、そもそも6年半ひたすら戦い続けたイカれた僕と比べるというのは間違っているか。

空戦のスキルを全て活かせるとは言わないけど、8割位は活かせている。生半可な実力じゃ何千時間と飛んでいる僕を落とせない。

それと、「逃げてるだけの臆病者」と声高に侮辱するけど、英語には様子見って言葉がないのか? ……もういいや、終わらせよう。

てっとり早く終わらせるために、僕はイギリス人の武器を破壊してから、一気に決めた。まあ、こんなものだろう。

もう一人の男子は素人。だから出来る事が限られるし、慣れた事しかしてこないだろう。それにあった戦法を取れば良いと考えていた。

蓋を開けてみたら剣一本の近接特化だったから、距離に入れさせず遠距離で倒した。猪を倒す事は難しくない。

そして、嬉しい事に実力がありすぎるせいでクラス代表からも外れる事になった。この一件に関しては担任にお礼を言いたい。

 

 

 

私は一年一組のクラス代表決定戦を見に来ている。

出場するのは一人目の男性操縦者で『ブリュンヒルデ』織斑千冬先生の実弟、織斑一夏君、イギリスの代表候補生で今年の入試主席、セシリア・オルコットちゃん、そして、二人目の男性操縦者で私のルームメイト、霧島八雲君。

しかし、見に来た人間の全員がオルコットちゃんの勝ちに決まっていると予想していると思う。正直、結果が分かり切っている男性操縦者の物珍しさだけで来ている人がほとんどだ。

私が見に来た理由はルームメイトの霧島君の応援だけど、予想は他の人と同じ、オルコットちゃんの勝ちだと思っている。

私自身、国家代表だから、代表候補生になる難しさを知っているし、IS戦の素人と熟練者の差というのも理解しているから。

 

『対戦カードをセシリア・オルコット対織斑一夏から、セシリア・オルコット対霧島八雲に変更します』

 

生徒会で聞いた話では織斑君の専用機の搬入が遅れているので既に専用機を持っている二人の試合からになったんだろう。

そのアナウンスが流れてすぐ、二人がアリーナに姿を現わした。

オルコットちゃんはイギリスの最新鋭機『ブルーティアーズ』。背に四枚のフィン・アーマーが特徴のISで手には遠距離重視のイギリス製ISの代名詞ともいえる『スターライトMK3』。対する霧島君はバニングス社の技術検証機『出雲』。特徴は装甲部分が少ない……っていうか、ほとんど無い事。ISというより、中世の騎士の着る儀礼用の服って感じ。彼の持ち物の中にISスーツはあったのは昨日、今日の決定戦の用意をしていた時に偶然見えたから、着ているはずだ。服っぽいとはいえ彼のISは珍しくほぼ全身装甲であるとも言える。手にはスターライト程ではないがそれでも長銃身のライフルを両手に二丁。

 

『あら、逃げずに来ましたのね。噛みついてきたもう一人の方ならともかく、あなたはお逃げになるのかと思っていましたわ。恥をかく前に降参したらどうですの?』

 

……入試主席だというだという事から、オルコットちゃんは代表候補生の名に恥じない実力を持っているんだろう。でも、今の慢心の塊の言葉も、切っ掛けになったと本音ちゃんが言っていた日本をバカにする言葉も候補生までならともかく、それより上を目指すなら、失くさないといけない物だ。代表候補生も十分重い立場だけど国家代表はそれ以上。そんな人間に人種差別や男女差別を簡単に口にする人間は選ばれない。国の顔となる国家代表はそれほど責任のある立場だし、慢心する人間ではその立場に立てるわけがない。それすら気付いていないなら……その程度ってだけだけど。

まあ、それに気付くかどうかは本人次第だし、それを注意すべきなのは教師であり、同国の先輩だろう。私が言ってもあんまり意味が無いと思う。

 

『…………』

 

そして、その言葉を聞いても相変わらずの霧島君。凄い集中力……なのかな? それとも、その事すら興味無しって事?

 

『……まあ、これでお別れですわ!』

 

開始の合図とともにオルコットちゃんはいきなりレーザーを発射する。しかし、霧島君はそれをあっさり避ける。

 

『なっ⁉ まぐれですわ!』

 

オルコットちゃんはそう言うけど、あれはまぐれなんかじゃない。霧島君は発射態勢に入る直前には既に回避行動に入っていた。

それからは、リピート再生を見るように霧島君は最低限の動きだけで避けていく。ブルーティアーズの第三世代兵装である、BT兵器を使ってもそれは変わらない。この出来事に、見に来ていた人たちがざわざわし始める。素人だと思った男性操縦者がとんでもない実力者だったから、当たり前だろう。

 

 

『あなたはっ! 逃げているだけの臆病者ですの⁉』

 

いや、そんなんじゃない。霧島君はオルコットちゃんの一挙手一投足を観察している。何も余計な物もなく、ただ事実のみを頭の中に入れている状態だと思う。なら、それが終わった瞬間……、

 

『Fバレット、シュート』

 

霧島君はこの試合初の言葉を発するとともに攻撃は高速でBT兵器を撃ち落としていく。一瞬で全部だ。しかも無駄弾なし。ただの射的ならともかく、実戦の射撃でこの結果はありえない。

 

『なっ⁉』

 

突然の出来事で驚きの声を上げるオルコットちゃん。丁度、ライフルでの攻撃のタイミングだったのでそれが一瞬動きが止まる。霧島君はその隙すら逃さない。放った弾は吸い込まれるようにスターライトの銃口に。そして、爆散する銃口。

 

『Fバレット、フルドライブ。ファラクスシフト』

 

その言葉と共に、霧島君の前にエネルギーの弾丸が大量に準備される。……密集陣形(ファランクス)とは上手く言ったものだ。あの弾幕は普通でもそう簡単には避けられない。

武器を破壊され、動揺の隠せないオルコットちゃんにこの飽和攻撃が避けられるわけもなく、そのまま、

 

『勝者、霧島八雲』

 

霧島君の勝利で終わった。

アリーナ内は静まり返っている。それもそうだろう。オルコットちゃんの勝利かと思っても見てみたら結果は正反対の霧島君の圧勝。

……正直な所、私も勝てないだろう。実力的にもそうだけど、多分、私がどんな手を打っても霧島君は全て切りかえしてしまうだろう。それくらいの差はある。

必要最低限の動きで避けれるのは相手の攻撃の事を把握すると共に、自分の能力、機体の能力もちゃんと把握していないといけない。これらが高いレベルではまってようやく何とか出来るレベルの事だと思う。それを何事も無かったかのように出来る霧島君は凄いと思うと共に、なぜそこまで慣れているのかが気になる。

 

『織斑先生、エネルギーもほとんど減っていないですし、このまま、二試合目お願いします。アリーナを仕える時間も無限じゃないですし』

 

いくらエネルギーが減っていないと言えど、そこそこ長い時間戦っていたのだし、霧島君は素人なんだから休ませるのが普通だろう。

 

『分かった。すぐに準備させる』

 

少しして管制室に居る織斑先生からの返答が聞こえた。その言葉に驚きを隠せずアリーナ内はざわつく。

何人も見に来ている上級生たちは連戦の辛さを自分たちの経験で知っているから、その判断を下した織斑先生に、一年生は先輩たちの雰囲気にだ。

ただ、遠目から見える霧島君はいつもと変わらない。目を瞑り一人、その時を待つ。……いや、彼の普段の感じから行くと『独り』の方が正しいかもしれない。

 

『試合開始!』

 

私が考え事をしていると、織斑君と霧島君の試合は始まっていた。

開始から少しの間はどちらも動かない。霧島君は持っているライフルすら構えない。さっきと同じなら、霧島君は織斑君がどうやって仕掛けるかを伺っているんだと思う。織斑君の方は……どう仕掛けるんだろう?

そう思っていると、織斑君はブレードを呼び出して、一気に仕掛けた。

が、しかし、丁度二人のスタート位置の中間地点辺りで、霧島君は攻撃を開始。恐ろしいまでの精度の高さの攻撃が次々と織斑君に吸い込まれていく。

……観客席から見ていると、残り10メートルちょっと、スタート地点から残りたったの半分。しかし、その半分がどんな距離よりも遠い。その距離が詰めれず、サンドバックの様に撃たれ続ける。そして、ひっくり返らず、そのまま試合は終わった。

織斑君は一週間、幼馴染の篠ノ之ちゃんと剣道の特訓を受け続けた。それを無駄だとは言わないけど、効率の良い訓練とも言えない。地に足を着けてする剣道と浮いているIS戦では結構違いが生まれてくる。ただでさえISの近接格闘戦は難しいのだ。素人が簡単に出来る事ではない。

……二試合目はともかく、一試合目の動きを自分でやろうと思ったら、無理だ。スタイルが違うとかそういう事を抜きに私はあそこまで的確に最適な判断を下し続けれない。多分、世界最強の織斑先生でも無理だと思う。。

そして私は知りたいと思った。霧島君の強さの訳を。ううん、違うわね。彼自身に興味を持った。これが本音ちゃんの言う『ほっとけない』なのかな?

 




ほぼ、楯無視点でのセシリア戦と一夏戦でした。

今作では序盤の生徒同士の模擬戦での八雲視点は無いと思います。理由としてはこの作品の彼にとって模擬戦は意味の無い試合なので、何も思いません。だから、ただ、相手に合わせて最適な動きをするだけなのです。

事件の際は単独戦闘なので八雲視点の戦闘描写になりますが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 青年の本質

第三話はほとんど新規作成になっています。


クラス代表決定戦の後、周りの目は少し変わった。「気味が悪い」から「恐怖」に。

それもそうか。常識から考えたら、イギリス人は国家代表候補生。それなりの実力を持っているのだから。でも、僕はそれに圧勝した。自分の理解できない力を恐れるのは人として当たり前の事だ。まあ、僕には関係ない。

それでも、例ののんびりした女の子は相変わらず、僕に話しかけてくる。それに最近は彼女だけではない。

 

「ね~、霧島君」

 

ルームメイトの会長さんも積極的に話しかけてくるようになった。彼女達は一体何を考えて、僕なんかに話しかけるのだろう?

 

 

 

予想のはるか上をいった一年一組のクラス代表決定戦。その後のふたりの男子の評価はさらに両極端になった。一人目の織斑君は「初心者でありながら代表候補生に肉薄し、素質を見せつけた」二人目の霧島君は「強すぎて、怖い」というものだ。その恐怖の感情は戦った、織斑君やオルコットちゃんも持っているらしい。

私は同じ部屋で暮らして、彼が勤勉な性格である事が分かっている。人と関わるのは避けているのでアリーナで訓練はしないけど、部屋で出来る筋トレや、ISの勉強の予習復習、朝早く起きてのランニングなどの姿を見れば、一目瞭然だ。

そんな彼だから、彼の強さにはちゃんとした理由があると思う。その理由を彼は決して言わないけど。

だから、私は彼の強さにそんな感情を持たなかった人もいる。私はそうだし、本音ちゃんもそうだ。更には彼の担任でもある、織斑先生もそうだった。私達の考えは大体同じ。「暗い眼と強さについて知りたい」この一点だ。私と本音ちゃんはそれに合わせて『独りになろうとする霧島君をほっとけない』という気持ちもある。

 

 

ある日の事、私は虚お姉ちゃんと一緒に生徒会関係の荷物を運んでいた。お嬢様も生徒会長だけど、国家代表であり、専用機持ちでもあるから、日を決めてこの日は訓練、この日は仕事と分けている。今日は訓練の日なので居ない。しかし、二人で運ぶには中々骨の折れる量だ。

 

「本音、少し持つ?」

「お姉ちゃんの方が多いし、これ以上負担を掛けられないよ~。それに、私は書類仕事得意じゃなくて、あんまりお手伝い出来ないから、これ位はやるよ~」

 

お姉ちゃんはお嬢様専属のメイドなんだけど、学園でお姉ちゃんがやっている仕事と雰囲気から言うとお嬢様の専属の秘書って感じがする。

話ながら進んでいると私の腕の重みがかなり無くなった。見ると、きーりんがいた。その手には私やお姉ちゃんの手にあった荷物があった。

 

「きーりん?」

「……困ってるようなんで、手伝います」

「ありがとうございます、霧島さん。私は布仏虚。本音の姉です。いつも妹がお世話になっています」

「霧島八雲です。よろしくです、先輩」

 

お姉ちゃんへの自己紹介の感じ、相変わらずだな~。でも、こういう優しい所もあるのを知れただけで今日は十分かな~。

それから、きーりんは荷物を生徒会室に運び込んで、図書室に向かった。

 

「噂みたいな、怖い人ではないわね、彼は」

 

初対面のお姉ちゃんは私達少数の方のイメージを抱いたみたい。

確かに戦いの強さの面で怖いと思うのは分かる。でも、そんなのは彼自身を見ていれば抱かない物だ。強さや力にきーりんの本質は無い。彼の本質はさっきの行動だ。そう言いきれる。

 

「でしょ? 多分、凄く優しいんだよ、本当は」

「……その優しさを隠すような何かが起こってしまったんでしょうね。本音の言葉を借りるなら『何もかもを絶望してしまう』ほど大きな事が」

「だね~。でも、そんな絶望だけじゃもったいないよ。私やお嬢様はだから……」

「ほっとけない、ね。私もそう思うわ。といってもルームメイトのお嬢様やクラスメイトの本音ほど出来る事は少ないけど、出来る事は手伝うわ」

 

お姉ちゃんなら、色々相談できるかな? 私達生徒会の中できーりんの本当の性格に一番近いと思うし。

 

 

 

学校に編入生が来た。……どうでもいいけど、なんで、入学式のタイミングじゃなかったんだろう? 入学一ケ月って交友関係とか固まって入りにくいと思うのだけど。まあ、僕には関係ない事だ。

転入生である中国人は話しかけてきたのは一回だけで、すぐ引き下がってくれた。ありがたい。まあ、その条件のために一回戦う羽目になったけど。アリサ、というより僕を保護したバニングス社への恩返しをするために相手の機体のデータと僕の機体のデータと経験は欲しい所だし。

 

 

 

一年生に編入生が来た、中国の代表候補生、凰鈴音ちゃん(私の中ではりんりん)

りんりんは今までの他の人とは違う手段をとって来た。それは「引き下がる代わりに一回戦う」という条件をきーりんに飲ませた事。

国家代表候補生の事も考えると、データ収集かな~? と思ったけど、雰囲気的に実力が知りたいって感じだし、実際にりんりんがきーりんの事を聞きに来た時に話した感じだと警戒しなくて良さそうだな思う。

 

 

 

私、凰鈴音が二人目の男性操縦者である霧島八雲に勝負を挑んだ切っ掛けは転入初日の朝にある。

前日の夜遅くにIS学園にやって来た私は持っていた軽食で夕食を済ませて、早めに眠った。その反動で翌日は結構朝早くに目が覚めて、何の気も無しに窓から外を見たら、早朝に関わらず黙々と走る霧島の姿を見つけた。

その後、ルームメイトのティナ・ハミルトンやクラスメイト、幼馴染の一夏に彼の事を聞いてみたけど、口々に言うのは『強い』と『怖い』という事だけ。

確かに代表候補生に勝つのだから強いのは分かる。怖いはそれの派生だろうと思う。大体の人はそれで止まってしまっている。私が知りたいのは私が見たものと周りの評価とここまで食い違う彼自身なのだ。

一人色の違う答えをくれたのは、クラスでほぼ唯一彼に積極的に話しかける布仏本音という子。彼女は「きーりんは真面目だし優しいよ~。私とお姉ちゃんが重い荷物を運んでる時に手伝ってくれたし。ただ、それを何かそれ以上の事で隠れてしまってるだけなんだ~。そこまでは付き合いの長くない私には分かんないけどね~」と答えてくれた。

どれが正しいのかは分からない。それを判断する方法の一環として私は彼に勝負を挑む事にした。

 

『試合開始!』

 

相手が射撃型だと分かっているから第三世代兵装の衝撃砲『龍咆』の出し惜しみは無し、一気に行く!

しかし、攻撃は届かない。衝撃砲の見えない砲弾を構えた二丁のエネルギーライフルで相殺された。

 

「まだまだ!」

 

更に連打で放つ。しかし、全て防がれる。

想定外の事が起こった私は動揺して攻撃がどんどん単調になっていったと思う。最終的にそれで攻撃を完全に読まれて生まれた隙を突かれて私は負けた。

……後でこの試合の映像を反省の為に見直して気が付いたんだけど、この時霧島は一歩も動いてはいない。そして龍咆の射線は一直線。発射のタイミングもそれに集中すれば分からなくはないだろうから、後は射線の上に攻撃すれば相殺される。

龍咆は衝撃を飛ばしているから、相殺自体は簡単にできるのは分かる。撃った場所が分かるから迎撃できるのも分かる。でも、それを試合中に実行に移せるかどうかは別問題だ。

当初の予定的には、本音の意見の方が正しい気がした。いくら才能があろうと、あそこまで強くなるにはとんでもない量の訓練が必要だと思う。それは一年で代表候補生になった私が今の場所に至るまでがそうだったから、そう思う。どうして、そこまでの訓練をする必要があったとか気になる事もあるけど、それは聞かれたくない事かもしれないし、たとえそれを聞いたところで私の接し方が変わる訳ではない。それに今すぐ出来るような事でも無い。出来るのなら本音が何とかしているはずだと思うから。

とりあえず今は遠目から注目してるだけかな。もし、何か変わったと思ったらもう一回話しかけたらいいだけだし。

 

 




リメイク前では完全カットだった、VS鈴戦を対戦相手である鈴目線で追加すると共に、少し早い虚との遭遇エピソードを追加しました。
前者はリメイク前に端折った鈴関連の話を独立させるし、書いてしまおうと思ったから。後者は八雲本来のお人好しで優しい部分がまだ残っているって事を書いておく方が良いかなと個人的に思ったからです。
次回はクラス代表決定戦。こちらはほとんどそのままなので明日にでも上げると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 諸刃の剣

リメイク前の第二話とほぼ同じ話です。


新学期が始まってからの一月、私は依頼された霧島君の監視(政府、学園、ひいてはIS委員会)と護衛(バニングス社、というよりアリサ)をしていた。この一ケ月で一番感じた事は彼には謎が多すぎるというものだった。

まず、なぜ彼はあそこまで人を遠ざけようとするのだろうか? 我が家が調べた、彼の経歴を見る限り、小学三年のクリスマス前後に何かがあったとしか分からない。機会が有ったら本人……は話してくれなさそうだし、彼の幼馴染であるアリサに虚ちゃんと本音ちゃんと一緒に聞きに行こうと思う。霧島君の過去だからアリサも話してくれないかもしれないけど。

次に彼の強さ。彼はとてもISの初心者とは思えないほどの技量を持っている。恐らく国家代表、しかもその中でもトップクラス。いや、世界最強と謳われる織斑先生とも互角かもしれない。それだけでなく、間違いなく戦い慣れしている。そうでなければ専用機を持った代表候補生を手玉に取る事など出来ないだろう。ならその経験はどこから来たのか? もしかしたら、前者と関連するものがあるのかもしれない。

でも、私が訓練をしていた日に虚ちゃんと本音ちゃんにあった、霧島君との出来事やその時の二人の思った事を聞く限り、彼の今は後で作った物で、本質はその出来事の方だと思う。……なら、一体何時どこで今の様になってしまったんだろう? こう思うと分からない事だらけだ。

 

 

 

新学期が始まって約一ケ月。学園は初めてのイベント、クラス代表戦なるものが始まっている。が、僕は全く興味無いのでいつも通り過ごす。……つもりだったんだけど、何だ、この嫌な予感は? こういう悪い予感はよく当たる。思えばあの日もそうだった。……いや、今は思い返すような時じゃない。この予感が杞憂であれば良い。打てる手は打っておこう。

 

(叢雲、魔力サーチャーを広範囲散布、嫌な予感がする)

(了解)

 

何時でも、動けるように外に居よう。アリーナの近くのベンチで待機だな。

少しして

 

(マスター、アリーナ直上に魔力反応。対象はISに模してありますが、内部にロストロギア『ゴーレム』に似た反応があります)

 

と叢雲の報告が。はあ……面倒事だよ。まあ、良いや。敵が強ければ僕が死ぬ。弱ければ死なない。それだけだ。しかし、似た反応とはどういう事だ? 叢雲はあまり曖昧な表現をしないはずだし。まあ、それは後でゆっくり考えよう。

 

「さあ、行こうか」

 

僕はISを纏って飛び立った。燃え尽きるのは僕の命の炎か、相手か。まあ、どっちでも良いか。

 

(マスター、アンノウンは攻撃態勢。高エネルギー砲でアリーナのシールドを突き破ろうとしています)

「たとえ、どんなんでもやる事は一つだけだね。貫け」

 

僕は手に魔力で出来た漆黒の槍を作り出す。

 

「デモンズランス」

 

そしてそれを投擲する。僕の腕力+ISで強化された力で音速を優に超えるスピードで飛翔する槍。しかし、相手は攻撃態勢を解除して避ける。

 

「やるねえ……」

 

初撃を避けられたので、僕はまず、高度を取る。敵認識をしてくれたのなら、上を取って地上への被害を減らさないと。にしても……

 

(叢雲、あれは無人機だよね? スラスターがどう考えても人が耐えれるように設計されていない)

 

僕の牽制射撃を回避するための動きを見て、僕は叢雲に問いかけた。

いくらISに操縦者保護があるにしても、瞬時加速中に方向転換すれば骨折の可能性があるように、無茶な動きをすれば怪我をしてしまう事がある。だから、危ない機動は基本的な事として教えられるし、そこを狙えれば攻撃を当てる事だって出来る。なので僕は機動の限界だと思うタイミング、角度で足を止めさせるためにスラスターを狙おうとしている。

しかし、今僕が相対している相手はそんな事などお構いなしのスラスター配置と回避方法だ。だから、かなり無茶な機動で避ける事が出来ている。

考えられる事は自分の事を考えていないバカか、傷つく事を喜ぶ変態か、そもそも乗っていないかになる。その中から戦った感じ割と回避パターンが一定だった事から、無人機だろうと思ったのだ。

 

(同意です。私もそう思い、念のために生体スキャンしましたが、確認できませんでした。無人機と判断してもよいでしょう)

 

それなら、容赦なくぶっ壊しに行こう。まずは、瞬時加速をいつでも使えるように用意しておく。後は、突っ込むタイミング。ひたすら、それを待つ。

相手は今までしていた牽制射撃を止めてアリーナのシールドに撃とうとしていた砲撃をこっちに向ける。来た。待っていたタイミングが。僕は近寄ろうとする。

発射される砲撃。

それをギリギリで回避し、用意しておいた瞬時加速を発動、一気に近寄る。

 

(コアは、相手の左胸、人の心臓に当たる部分に有ります)

(ありがとう、叢雲)

 

僕は言われたところに剣を突き立てる。そして、魔力により雷を落とす。技の一つ、雷神剣。

 

(叢雲、コアは剣に刺さってる?)

(はい)

 

確認が取れたので、コアごと、剣を引き抜く。これで相手は行動不能。さて、先生に報告しないと。

 

 

 

クラス代表戦。IS学園新学期始まってすぐのイベントであり、各クラスの現在の指標にもなる、結構重要なトーナメントでもある。

かくいう私も、クラスの代表ではないので参加はしないが、のちのちライバルになりそうな子がいないか確認の意味を込めて見に来ている。生徒の実力を把握するのも生徒会長の仕事の一つだから。

それで今日は一年の部が行われる。私の妹もクラス代表なのだが、とある事情で参加はしていない。四クラスだけなので、専用機持ち同士がぶつかる初戦の一組VS二組が事実上の決勝戦と言える。十中八九この試合で勝った方が優勝するだろう。

その試合の最中、私が見ていた管制室に一本の通信が入った。相手は何と霧島君。

 

「どうした、霧島」

『散歩がてら歩き回っていたら、アリーナの上に謎の機影を発見したのでISを無断展開して迎撃しました。事後報告ですみませんが、指示お願いします』

 

いつも通り冷静な霧島君。でも、その報告を受けたこっち側はかなり慌てている。まあ、解決済みとはいえ、襲撃がありましたって言われたんだし、当たり前の反応だとは思うけど。

 

「分かった。今空いている第二アリーナに搬入しろ。その後、無人機との戦闘のログの提出だ。今回は緊急事態なので、無断展開については不問とする。……よくやってくれた、霧島」

『いえ、やれるところに僕が居ただけですから。では』

 

彼は、移動しながら、管制室に戦闘ログを送って来た。

最初奇襲に近い感じで開戦した、誰も見ていない戦い。奇襲にしようした時の霧島君が使用した武器は彼のIS『出雲』の第三世代兵装だろう。効果はエネルギーを任意の形に形成し、それを武器とするだったかな? その後お互いの牽制射撃を避けつつ、膠着した展開。

先に動いたのは正体不明機。不明機は映像でも分かるレベルの高エネルギー砲を躊躇なく霧島君に放っている。たとえ、ISに絶対防御があると言っても、あんなのを食らったらひとたまりもない。しかし、彼はそれで怯みすらせず、切り込みながら回避、そしてその瞬間に瞬時加速をし、一気に飛び込む。そして、不明機の左胸に剣を突き刺す。そしてコアごと引き抜き、鎮圧完了。

 

「……織斑先生」

「なんだ、更識?」

「霧島君と同じ事出来ます? 今までを含めて」

 

映像を見た私は率直な感想を世界最強に聞いてみた。

 

「訓練なら出来る。しかし、あの状況で同じ事をやれと言われれば、恐らく無理だろう」

 

私も織斑先生と同意見だ。彼の機動自体は特に難しい事をしていない。それこそ、やろうと思えば現状の織斑君でも可能だろうし、みっちり訓練出来れば一般の生徒も一月もあれば出来ると思う。少し、瞬時加速が難しいだけだから。

問題は当たれば大怪我確実の攻撃に向かってそれをしたという事。度胸があるという次元じゃない気がする。それはまるで……自分の命を投げ捨てるようなものだ。

ちなみに、霧島君が正体不明機の襲撃を防いだお蔭で予定通り進んだクラス代表戦は織斑君の瞬時加速を凰ちゃんが上手く衝撃砲でカウンターして勝利、そのままの勢いで二組の優勝となった。




細かい所は変えていますが、話の大筋に変更は無いお話でした。

次回は二巻の内容に入っていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 何もない場所で

二巻の内容に入っていきます。


六月四日、まだ日が昇らない内に僕は部屋を出た。

 

(叢雲、いつもの場所にお願い)

(了解)

 

僕は学園から姿を消した。

転移魔法でやって来たのは海鳴市の小高い丘にある墓地。僕の目的はそこにある一つの小さなお墓。僕はその前にしゃがんで、手を合わせる。

 

「……久しぶりだね、はやて。それと誕生日おめでとう。この数か月少し色々あったから、いつものようには来れなかったけど、これからはちゃんと来るよ」

 

僕は最低でも毎月24日にはここに来ていた。ここは僕が今背負っている物を思い出させてくれる場所で、今の僕の唯一の心の拠り所でもある。

……ここにははやての物は何もない。あの日、闇の書ごとはやてはこの世から消えたから。僕が持っているはやてや守護騎士たちの形見は闇の書、いや夜天の魔道書の破片ともいえる剣十字のペンダントだけ。僕が相棒の叢雲以外で唯一肌身離さず持ち続けている物だ。

傍から見たら、ただの石にすがるバカなガキだろう。でも、僕にはもうこれしかないから。……これしか残っていないから。

 

「二か月ちょっと来てなかったけど、綺麗だ。アイツらも来てくれてたんだな。さて、もう行くよ。……またな、はやて」

 

僕は墓地を後にした。

もし今の僕をはやてが見てたらなんて思うだろう。彼女を守れなかった僕に対してだから、苦しめって思うのかな? この答えはこの世のどこにも無いし答えが出ることも無いんだけど……。

 

 

 

なんかまた、学校に編入生が来た。今度はフランスとドイツから。

僕や一人目のデータが欲しいという国の意向かな。まあ、関わる気は無いから気にしない。

片方のフランス人は男子という触れ込みだけど、体格的に女子っぽい。叢雲の生体スキャンでも女子らしい。何人だろうが、男子だろうが女子だろうが、男装女子だろうが女装男子だろうが僕には関係ない。

もう一方の転校生、ドイツ人は意外な所から情報が来た。あの事の後もなにかと僕を気にかけてくれる人の内の二人、高町恭也さんと月村忍さん。二人からのメールにはドイツで知り合った軍人で、一人目を個人的な感情で恨んでいるとの事。たとえどんな感情を抱いていてもそれが僕に関係しなければどうでもいい。

 

 

 

学園に今年二度目の編入生が来た。今度はフランスとドイツの二か国から。

目的は恐らく、織斑君と霧島君のデータ収集。

学園ではIS委員会を通して各国に男性操縦者二人の操縦データを彼らの専用機の情報が漏れない様に注意しながら、発表はしている。しかし、何処の国も他国を出し抜きたいのだろう。だから、訓練で相対しやすい専用機持ちを送る。事実私もそういう事を若干であるが期待されている節がある。まあ、私はこの前担当者に正直IS学園の発表しているデータ以上の事は分からないというのを詳しく説明して納得してもらったんだけど。

むしろ、ISの母国日本が作った新鋭機と世界トップの技術を持つバニングス社の機体のデータの方が有用だと私は思っている。

しかし……どうして、両国ともこんな面倒な人間を送って来るかなあ。

フランスは代表候補生でフランスのIS業界のトップ企業デュノア社の子息、シャルル・デュノア。性別は男性……なわけはなく、我が家の総力で調べた結果は女性。本名はシャルロット・デュノア。デュノア社の現状も考えて男装してくる理由など十中八九、男性操縦者とその専用機のデータ目的だろう。仕事を増やすという意味でやっかいな人物だ。

厄介という意味ではドイツの方も同じだ。代表候補生で、ドイツ軍人のラウラ・ボーデヴィッヒ。国家代表や候補生が軍人と兼ねているのはそこまで珍しい事ではない。現に、今のアメリカ代表なんかはバリバリの軍人だし。

ただ、彼女はIS学園で教師をする前の織斑先生に教えてもらっていたらしい。私も噂でしか知らなかったけど、今回の件で二人の素行調査をした際に事実を知った。

その件で彼女は織斑先生を敬愛……いや、狂信と言っても良いレベルで尊敬しているとの事。こちらは、事件を起こしそうな人物といった所だ。

普通なら霧島君に注意しておいてと言うべきところなんだろうけど、彼はどちらとも関わらないだろう。だから、私が心配することも無いと思う。だけど念のために本音ちゃんには少し警戒してもらっておこう。

 

 

 

 

入学から二か月と少し経ったので、そろそろISを使った実習が始まる。そこで僕的に困る事が二つある。

それは『人付き合いをしたくない』っていう僕のスタンス。それと、『人に教える事』の難しさだ。

人付き合いの方は僕ではなく他の人が困るから僕が我慢すれば良いのだけど、人に教える事は御免したい。教える事って難しいし、僕には向いていないと思う。というか、そもそも僕なんかに態々教えてと言う人がいるのか? そう思うのだが……

 

「きーりん~、教えて~」

 

……そうだった、この子がいた。この子は今でも一番積極的に話しかけてくる。生徒会のメンバーなので会長さんとも知り合いだからもあるのだろうか?

 

「……なんで、僕に?」

「だって、きーりんが一年生で一番強いし、真面目だから教えてもらうには一番いいと思ったからだよ~」

 

案外ちゃんと見ている子だなあ。のほほんとしたイメージとは合わないけど。後ろに居た何人かも頷いている。

 

「強くても教えるのが上手いとは限らないし、教科書通りの事しか出来ないと思うけど、それでも良い?」

「それを判断するのは私達だよ~。だから、お願いね~」

 

まあ、確かにこの子の言う通りだ。

それからの実習はこの一回目のメンバーが固定となった。

 

 

 

今日から、ISを実習が始まった。

ISの実習は例年、国家代表候補生や企業代表、研究所の代表(一年で企業や研究所の代表などほぼ居ないけど)が一般生徒を教える。通年で7~8人のグループを受け持って教える。一度組んで変えないのは、どれくらいの実力か把握して、教える側の生徒の教える事についての練習であると共に自分の理解を深める目的もあるとお姉ちゃんが言っていた。

今年はきーりん、おりむー、るこっちゃん、ふぁんふぁんに編入生のでゅっちーとでぃっひーになる。うーん……。教えてもらうなら一番上手なきーりんかな~、やっぱり。

 

「ねえ、本音」

 

きーりんの所に行こうとしていた私を呼び止めたのはクラス一のしっかり者、鷹月静寐(私の中ではしずしず)。その後ろには何人かのクラスメイトが居る。

 

「どうしたの~」

「本音はやっぱり霧島君の所に行くんでしょ?」

「そうだよ~。きーりん、真面目だし、強いから一番上手く教えてくれそうだな~って思ったし」

 

私が真面目だというのはちゃんとした理由がある。

これはお嬢様情報なんだけど、基本早起きでそれから二時間位トレーニングをしているらしい。「大体、霧島君の出ていく音で一回目が覚めて、まだ早いからうとうとして、霧島君のシャワーの音で完全に起きるのよ」とはお嬢様の言葉だ。

 

「その、私達も行っていいかな?」

「良いよ~。だってこれはグループ作ってやる事だし。でも、どうして私に聞いたの?」

「やっぱり、どうしても怖いって印象があって……」

 

相変わらず、きーりんは学校中の生徒、一部の教員に怖いと思われている。私が見た感じ、今の授業に居る人間の中でその感情を抱いていないのは転校してきたばっかりの二人を除くと、織斑先生と山田先生、後多分、りんりんかな?

 

「実際は全然そんなことないよ~。それに偏見は駄目だよ?」

 

きーりんは普段、表情は変わらないし、人とのかかわりを避けてるし、その強さで怖いのかもしれないけど、この前、生徒会の仕事を手伝ってくれたみたいに、決して冷血な人間じゃない。最近は何度も話しかけた結果か、相槌打ったり、一緒にご飯食べたりしてるし。

 

「まあ、時間ももったいないし、早く行こっか~。きーりん~、教えて~」

 

この事が周りのきーりんの評価が変わるきっかけの一つになったら良いな~。私だけが良い所を知っているのも嬉しいけど、それ以上に悲しいから。

 

 

 




小さな変化はいくつかありますけど、この部分の一番大きな部分の変化は、実習時の本音パートがある事でしょう。
これはクラス内(ひいては学園内)の八雲の評価を話す際、学園生活の中で一番彼と接している本音目線が一番分かりやすいと思ったからです。

次回は……八雲の過去を話す回ですね。今日明日には上げれると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 一人の少年の物語

なんとか、前の回で言った通り上げる事が出来ました。


編入生二人が来て少し経ったある日の休日、時間が出来たから、私は虚ちゃんと本音ちゃんの三人でアリサに会いに行った。霧島君の事を知るために。

 

「待たせたかしら、アリサ?」

 

アリサは話し合う場所にバニングス社を指定した。なので、私達は受付の人に教えてもらった部屋にやって来た。そうしたら既にアリサは待っていた。

 

「そんなに待ってないわ。それでそちらの二人は?」

「私の幼馴染でウチに代々仕えてる家の子よ」

「布仏虚です」

「布仏本音だよ~」

「アリサ・バニングスよ。よろしくね。で、今日は大事な話があるって聞いたんだけど?」

 

こうやってスパッっと何事も進めるのがアリサの良さだ。

 

「……霧島君の事を聞きに来たの」

 

私がそう言うと、途端にアリサの顔が真剣になる。……やっぱり彼にはそれほどの事があるみたいだ。

 

「良いわよ。ただ、興味本位なら、やめた方が良いわ。アイツの背負い込んでる物は軽い気持ちで聞けるようなものじゃないから」

「そんなんじゃないよ~。私もお嬢様もお姉ちゃんも」

「そう……分かったわ。でも、今から話す事は又聞きの部分も一杯あるし、私の主観も入ってる部分もあるから全部正しいってわけじゃないわよ」

 

そう言ってアリサは話を始めた。

 

 

 

「まず、私と八雲が知り合ったのは小学三年の初日、通学のバスでよ。別の幼馴染が八雲の家のお隣さんでその子に紹介されたのが切っ掛け。あの頃はどこにでもいるような普通の男の子だったわ。まあ、ビックリするくらい料理が上手かったり、その上に運動神経抜群で勉強も出来るっていうだったり、かなりハイスペックだったけど」

 

運動神経が良いのは分かるな~。体育の時間でも軒並みかなり高い数字出してるから。女子ばかりだからよりその数字の凄さが分かる。勉強も先生に当てられると普通に答えるているし。でも、料理は想像付かないかな~。でも、上手なら食べてみたいな~きーりんの作るご飯。

 

「ただ、決定的に普通と違った事があるの」

「違った事ですか?」

「ええ。かなりぶっ飛んだ話になるけど、アイツは『魔法』が使えるの」

「「「……えっ⁉」」」

 

驚きでそれしか声が出ない。だって、突然魔法って言われても信じられないよ~。でも、りさりさの真面目な表情を考えると冗談じゃなさそうだ。

 

「まあ……そうなるわよね。でも、事実よ。ちょっとした切っ掛けでそれが使える事が分かって、その技術がある他の世界の事を知ったの。それと共にこの世界が色々な世界が存在する多次元世界だという事もね。八雲が強いのも戦いに慣れているのもこれが理由。詳しくは知らないけど、素質が凄いあってそれを買われて、その多次元世界を股にかけて平和を護る組織に所属しているの」

「ちょっとした切っ掛けって?」

「戦争やら色々な理由で失われて今の技術では作れない危険な超古代の遺産の回収よ。ロストロギアって総称されてるらしいわ。偶然、小三の時にそれに関連する事件に巻き込まれたの」

 

なんか、波瀾万丈だ。私の小学生時代とは比べものにならない位。

 

「どれくらい危険なの?」

「詳しくは聞いてないわ。守秘義務もあるし。まあ、これが切っ掛け。巻き込まれた事件は無事に解決して、私達の共通の幼馴染のお父さんが剣道の基本教えていたから、剣道と魔法の練習以外は普通の生活をしていたの」

 

 

 

「それで、その年の五月の真ん中くらいに八雲は八雲にとって大きな出会いをしたの。アイツの趣味は読書なんだけど、本って案外するじゃない?」

「そうですね、文庫版ならともかくハードカバーなら結構しますね」

 

私が良く霧島さんを見かけるのは学校の図書室ですし、本音やお嬢様も教室や寮の自室で良く本を読んでいる姿を見ているらしいです。それは変わってないんですね。

 

「で、私達の学校は大学付属の私立の小学校だったから、蔵書の多い大学の図書館が学校の近くにあるんだけど、一般的な文芸作品は少ないから、ちょっと遠いけどアイツは市立の図書館に良く行ってて、そこで一人の同い年の女の子に会って、一目惚れ。まあ、初恋ね」

 

初恋とは……なんとも、甘酸っぱいお話ですね。

 

「その子、八神はやてって言うんだけど、その子は重い病気で不治の病とされていたの」

 

いきなり重い話になりました。……しかし、

 

「妙な言い回しね、不治の病とされていたって」

 

お嬢様の言う通りです。普通なら「不治の病だった」で良いはずです。でも、アリサさんは非常に頭の良い方です。それは今までの話の上手さ、説明の上手さでよく分かります。なのでこの言い回しにも意味があるのでしょう。

 

「それは、『この地球では』って事。はやての病の原因もロストロギア。この時点で普通なら諦めるでしょうね」

 

解析できない技術で起こった病なら治し様が無いように思います。

 

「でも、そのロストロギア『闇の書』って呼ばれている物には守護騎士が居て、彼女の治し方を提示したの。その方法は手段を問わずに魔力の収集。そして、偶然、八雲にはそれを実行する能力を持っていた。それも比類のない力が。だから、八雲達はその未来を否定するために動き出したの。魔力の収集の為に魔法生物や管理局の魔導師を攻撃して戦闘能力を奪ってからの収集だから、それは当然罪に問われる事で、その結果にはやてを助けても決して彼女が喜ばないと分かっていても、ね。ちなみに、このころに私ははやてに初めて会ったわね。幼馴染と一緒に図書館に行った時にね」

 

……何処までも不器用な方ですね。そして、一途な方です。

 

 

 

 

「でも、いくら八雲に力があっても、能力が高くても、当時のアイツは小学生。連日連夜学校行って、休まず戦って、心配かけない様にお見舞い行って、そんな休む暇も無い状態で、気力だけで動き続けて、ついに倒れたの。そして、その事件は八雲が倒れている間に全てが終わった。はやての死っていう、八雲の中で最悪の結末で。その結末を八雲は独りで背負い続けてるの。今も。今のアイツにあるのは罪の意識から来る、戦って守るという義務感と、死に場所を探している虚無感だけよ」

 

……想像できない位、彼の背負っている物は大きく重かった。軽い気持ちじゃなかったけど、聞くべきじゃなかったとまで思ってしまう。

それと共に納得いった事もある。

 

「霧島君の誰とも関わらないのは……」

「もう大切な人を失う悲しみを感じたくないからでしょうね。関わらなければ、そんな事もないだろうし」

 

私もそう思う。

それと共に、彼の、あそこまで無謀な戦いの意味も分かった。今の彼にとって自分の命はかけらの価値も無いのだ。だから、一番有効な手段だと思ったら、自分の身を気にせずその手段を使う。

……そんなの、悲しすぎるよ。

 

 

 

「……私は八雲ほどはやてとの付き合いがあった訳じゃないけど、あの子は絶対に八雲を責めてないし、身も心もボロボロのアイツなんて見たくないと思ってるはずよ。でも、私や私の幼馴染達の言葉はアイツには届かないのよ。どんだけ踏み込んでも、アイツがそれを拒んでいるから。今の環境じゃ、これ以上は望めないのよ。だから、ある意味ではIS学園に行くことが切っ掛けでまた歩き出してくれれば良いと思っているわ。今日、三人に話したのもその一環よ。……私達の幼馴染をお願いね」

 

私達じゃ力不足。歯がゆいけど事実だ。私が、すずかが、なのはが、フェイトが、アリシアが、ユーノが、それ以外の色んな人が色々言っても八雲の心には届かなかった。

私は今の立ち止まって過去を見続けて自分で自分を傷付ける今の八雲を見たくない。だから、私が出来る事を何でもやる。信頼できる楯無に護衛を任せたのも、ウチのIS開発の部門の人達にISの勉強を見てもらっているのも、今日三人に話したのも全て今の私が出来ると思う事だからだ。

 

「……私に何かが出来るか分からないけど、協力したいと思うよ。なんていうか、放っておけない感じがするし」

「私もだよ~」

「私もです」

 

三人味方が増えた。待ってなさい、八雲。アンタが沈んでいくのを黙って見過ごせる人間なんてアンタの傍には居ないのよ! だから、戻ってきてよ……。




今へとつながる八雲の過去を語り、知る回でした。
大きな変更点は修正前と違い、布仏姉妹がいる事。ほっとけない彼女達も動きました。

次は……最初の山場ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 過去の遺物

山場の前編です。


まあ、なんかいろいろあって、今は行事の一つ学年別トーナメント初日となった。

学年別トーナメントはほとんどの一年生にとって初の公式戦の場となる。今回は何故かタッグマッチになったのだが、人数の都合上と僕の実力の問題で一人で参加する事になった。まあ、パートナーの事を気にしなくていいから良いんだけど。

日程は初日に一回戦全部を消化し二日目で残りの試合を消化する。これが二、三年になるとはっきりと科が分かれて、出場する人が減るから一日で全日程を行えるけど、一年は全員参加なので二日に分けられる。ちなみに二、三年は来週末になる。土曜が二年で日曜が三年だったはず。

僕は唯一の単独出場なので、シードとなっている。だから今日は試合が無い。なので今日は部屋でゆっくり読書をしようと考えている。ちなみに同室の会長さんはお仕事でアリーナへ。なんでも「生徒の実力を把握するのも生徒会長の仕事」なんだとか。

そんな時、ISのプライベートチャンネルに通信が入った。

 

『はい、霧島です』

『霧島、今どこに居る』

 

通信相手は僕の担任の先生。何の用だろ?

 

『僕は今日予定が無いので部屋で明日の為に休んでますけど……何かあったんですか? 先生』

『ああ。ボーデヴィッヒのISが暴走して、それを止めたはずだが、再び暴走を始めてな、上級生や教師部隊が抑えているが、正直戦況も良くないし、残りのエネルギーも心もとない。そこで、お前に時間稼ぎを頼みたい。……やってくれるか?』

『ええ、構いませんよ。移動の時間が惜しいので、アリーナの外でISを展開しますけど、よろしいですか?』

『了解した。アリーナ上空のシールドが解除されているから、そこから入れ。……頼んだぞ』

『了解』

 

通信を終え、僕は窓から飛び立つ。僕の手が届く範囲で出来る事を最期の一瞬までやってやるさ。

 

 

 

「最悪の状況ね……」

 

思わず私はそう呟いた。

学年別トーナメントAブロック一回戦第一試合、つまりはトーナメントのオープニングゲーム。カードは織斑一夏&シャルル・デュノアペアVSラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒ペア。その試合の最終盤に事件は起こった。織斑・デュノアペアの勝利で終わるかと思われた時ボーデヴィッヒちゃんのISが暴走したのだ。それ自体はすぐ織斑君が倒して一段落と思ったのだが、何故かISは再び暴走し、もはやISと呼べない位禍々しい物に変化した。

エネルギーの少ない織斑君達を一悶着あったけど下がらせて、私は教師陣とその暴走体(仮)に協力して当たった。

正直、アレを形容する言葉は『化け物』がぴったりだと感じた。十機以上のISが同時に挑んでもびくともせず、それで、触手らしきものでの攻撃は一撃でかなりのエネルギーを削る。一機また一機と戦闘継続困難に追い込まれ、今では残っているのは私だけ。それも回避ばかりで攻撃に中々移れない。

そして、疲労からだろう。一瞬集中力が切れてしまって、それが命取りになった。暴走体の攻撃が直撃コース。防御も回避も間に合わない。思わず私は目をつむってしまう。

しかし、衝撃はいつまでたってもやってこない。恐る恐る目を開けると私を庇い、背中で攻撃を受けている霧島君の姿があった。

 

 

 

僕がアリーナに着くと、そこには異形の物体とそれに対する会長さんの姿があった。どうやら、彼女が殿を務めているらしい。

 

(しかし、叢雲。アレも魔法関連、ロストロギア関連の物品かな?)

(恐らくは。ISが限界を迎えると共に暴走するように設定してあったのではと推察します)

(……たちの悪い時限爆弾だな)

 

止まったと思ったら再起動して暴走だろ? たち悪すぎ。精神的な疲労も半端じゃないだろうし。

 

(マスター。それともう一つご報告が)

(何?)

(以前の時、ゴーレムと似たと言いましたが何か分かりました)

(そうなの?)

(ええ。あれはジュエルシードです。恐らくゴーレムと間違えるように反応を誤魔化していたんでしょう。今回は違うようですが)

 

また、懐かしい物を……。しかし、あれは管理局で厳重に封印されているはずだ。って事は自体はより面倒な方向に……。いや、その辺は後で考えよう。

 

(まあ、その辺も後々報告だね。んじゃ行きますか)

 

戦線に参加しようとした瞬間、会長さんに向けて攻撃が行われる。会長さん自身はかなりの実力者のはず(以前『生徒会長はすなわち学園最強の証』と言っていた)なのだが、疲労からだろう、反応が一瞬遅れた。そして、それは戦いの場では命取りになる。……そんな事、僕の目の前でやらせるかよ。

僕はPICを全て切り、重力に任せながら落ちていく、その間も当然、全開でスラスターを噴かせている。そして、攻撃と会長さんの間に入って、僕自身の身を盾にして庇う。よけきれず右のわき腹を背中側から抉られる。ISの絶対防御にバリアジャケットとISスーツを抜いてくるんだから、脅威だ。そこそこ血も出ているが、それは問題じゃない。

 

「き、霧島君……?」

 

目を瞑っていた会長さんが僕に気付く。

 

「会長さんは下がってください。ここは僕が引き受けます」

「でも、血が……」

「気にしないでください。見た目ほど深くはありませんから」

 

それは嘘だ。怪我は見た目通りの深さで放っておけば結構ヤバいと思う。

 

「……分かった、ここは任せるわ。それと、絶対に無事に帰ってきて」

「……分かりました」

 

そう言って、会長さんは戻っていった。

……どうして、僕は会長さんに分かりましたなんて言ってしまったんだろう? 僕は死を望んでいるはずなのに。自分の感情が自分でもよく分からない。

 

(叢雲、怪我はどんな感じ?)

(大き目の血管が傷付いているので少しまずいですね、早いうちの応急手当をお勧めします)

(……治癒魔法を僕は使えないよ?)

 

正確にはあの後、治癒魔法が使えなくなった。理由は不明。レアスキルと精神状態の関連した問題ではないかというのが管理局の医務官の見解だった。

仕方ないか。僕は叢雲をIS戦に対応させた専用刀『瑞雲』を呼び出した。

 

「魔王炎撃波」

 

僕は刀に火を纏わせるとISの絶対防御を叢雲に部分的に解除してもらって、その刀を患部に押し付ける。

 

「ぐああああああっっっ!!!」

 

激痛で声を上げてしまう。意識も持ってかれそうになるのを必死に耐える。体力も持ってかれたけど、これをしないと戦闘中に意識を失う可能性もある。

 

「はあ……はあ……準備完了。余裕も無いし、とっとと決める」

 

僕は一気にトップスピードに乗り、相手に肉薄する。相手もそれを避けるために迎撃するが、僕はそれを掻い潜っていく。

 

(叢雲、封印すべきコアはどこに?)

(スキャン完了。相手の中心部ですね。しかし、ISを取り込んでいるので強固な装甲で守られています。まずはその破壊を)

 

装甲の破壊と封印までか……威力の高い奴を撃ちこみますか。

まずは近付いて、相手に二撃、十字に切り裂く。そして上空に飛ぶ。その間に武器を『彩雲』に変更。魔力封印に対応したバレット、『Yバレット』に切り替えている。

 

「ターゲットロック。撃ち抜かせてもらう」

 

そこから発射された大きな魔力弾が十字に切り裂いた所に吸い込まれていくように命中する。僕の技の一つ、「クライシスレイン」だ。

 

(マスター、封印が不十分です)

(分かった。でも、動きが弱っているし、直接雷神剣ぶち込んで封印するか)

 

再び一気に近付き、露出していたIS部分に刀を突き刺す。と、その瞬間、

 

(マスター、相手に高エネルギー反応! 自爆を狙っています!)

 

とことん性格のひん曲がった奴だな、これの開発者。しかし、封印直前で一番気が抜けてる時だから、かなり有効な手でもある。

 

(くっ、叢雲、周りにバリアを展開。周囲への被害を防げ。僕はこのまま封印をする)

(了解)

 

自爆と封印、どっちが早い? 時間との勝負だ。

 

 




修正前の四話の部分を加筆したら今までの話と同じくらいの分量(3000字前後)で二話分になったので二つに分けました。
今回の話は流れ的には変更点は無いですけど、設定として無人機や暴走体に使われているのがジュエルシードになりました。全てではなく一部のですけど。
修正中に「そういや、スカリエッティってガジェットにジュエルシード使ってたなあ」と思ったので入れてみました。


次回は……序盤のクライマックス。書いてて辛くなりますけど、頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 僕の背負う罪、貴方が背負っていく罰、僕の貴女への想い、私の貴方への想い

事件が全て終わってから私はずっと保健室の一つのベットの横で座っている。そのベットに眠っているのは霧島君。

あの事件は霧島君の働きでほとんど被害無く終わった。被害を一身に受けたのは霧島君とその専用機出雲。

最後、暴走体は霧島君を巻き込んで自爆した。自爆のエネルギーはアリーナに被害を及ぼす位のはずだったんだけど、それは出雲の機能の一つ、『プロテクションシステム』によって軽減された。しかし、その代償に出雲は一週間は使用不可能というレベルのダメージを負い、霧島君は全身に傷を負った。

そして、その治療の為に彼のISスーツを脱がせたとき、そこに居た保健室の先生と私、それに織斑先生は息を飲んだ。

理由は彼の体中に残っている数々の傷痕。IS学園の保健の先生である吉岡綾子(よしおかあやこ)先生は、医師免許を取った後、学校に入り直し、養護教諭の免許も取り直したという変わった経歴を持っているけど、そんな先生すら眼をそらすようなボロボロの体だった。

これが彼の生きていた人生の厳しさを物語っている。こんなの……辛すぎるよ。

織斑先生と吉岡先生は他の仕事があったので、保健室を後にし、部屋には私と眠っている霧島君だけ。

私は考える。守りたい人、私だったら妹や家族になる。その人を守ろうと頑張ってその末に守れなかったらどう思うのか? ……正直、分からない。凄い泣いて自分を責めそうだなとは思うけど、それ以上は想像できない。

多分本音ちゃんの言っていた、「世界の全てに絶望する」って言うのが一番近いだろう。楽しかったものを楽しめない。それはさながらカラフルな世界がモノクロの世界になってしまったように。

いつの間にか私は泣いてしまっていた。彼への同情も若干はあるだろう。でも、大きいのはそれを理解しながら何も出来ない私自身のふがいなさに。

 

 

 

 

「ここは……?」

 

目を覚ました僕は、なにも無い真っ白な空間に居た。なんかデジャヴュを感じる。まるで、一回僕が死んだ時に来た部屋みたいな所だ。

 

「久しぶりやね、八雲君」

 

僕はすぐにその声に反応する。六年半ぶりでも間違えるはずの無い声だ。僕はその声の方を向いた。

 

「はやて……」

 

そこには成長したはやての姿があった。

 

「何泣きそうな顔しとんの?」

「……当たり前だろ、六年半ぶりに会ったんだから」

 

正直、今は涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだ。

 

「それで、ここはどこなんだ?」

「そうやねえ……表すなら、生と死の狭間の世界かな。今の八雲君は臨死体験中ってわけや」

 

そうか、まだ僕は死んでいないのか……。いっそ、死んだ方が楽になったのに。

 

「私がここに来たのは八雲君にいくつか言いたい事があったからや」

 

やはり恨み言だろう。だって僕ははやてを助けられなかったんだから。

 

「まずは……私の為に頑張ってくれてありがとう」

「……えっ?」

 

予想の斜め上を行く言葉で、僕は変な反応をしてしまう。

 

「何でそんな反応なん? 色々やってくれたんやから、お礼を言うんは普通とちゃう?」

「でも、僕は肝心な時に倒れて、結局守れてないし……」

「それが私の運命やったんよ。八雲君は私の事を想って頑張ってくれた。だから、私はお礼を言いたい。それだけやよ」

「僕はてっきり恨み言を言われるのかと……」

「そんな気さらさらないで。んで、次は、だから、八雲君は八雲君の道を歩いてください。そんで自分の幸せの為に生きてください」

「僕の道……でも、今のが」

「嘘はアカンで。今の八雲君は自分の為に生きてへんもん。人の為と書いて偽と読む。私への贖罪を言い訳にして、八雲君は生きる事から逃げとる」

「そんな事! それに人の為って言うのなら、あの時のも否定するのかよ!」

 

今までの事を否定されるみたいで、大声を上げる。

 

「あの時と今は違うやろ。あの時は『私を守りたい』っていう八雲君自身の意志の為に動いてたはずや。でも、今はそうやない。だからこそ、頻繁に私のお墓に来て、自分を見直さなアカンのや。そうせな、動けへんのや」

 

……何も言い返せないのは自分自身薄々気付いていた事だからだろう。

僕は逃げていた。生きる事も、いや、それ以上に色んな事から。

 

「でも、それじゃ僕が僕を許せない」

「許せないなんて事はあらへんよ。それは、八雲君が自分を許したくないだけ。それに許せないんやったら、私が八雲君の事を許す。八雲君は何も背負わんで良い。……って言いたいけど、それじゃ、八雲君が納得せえへんやろ。だから、折衷案を考えたで」

「折衷案?」

「うん。たとえどんな人生を歩んで、幸せになっても私の誕生日と命日だけは私を思い出してくれればええよ。それが私から八雲君への罰。呪いって言ってもええかもな。八雲君が自分

 

で罰考えるより私が考える方が道理やろ」

「……はあ、分かったよ。その罰を受けてくよ」

「やっと、笑ってくれたな。苦笑やったけど。でも、今までみたいな無表情よりも自然な表情の方がええで」

 

笑った? 僕が? しかも自然な表情って……。そんな事なんてここ何年もしてなかったのに……。

 

「さて、最後や。最後は……私は、八雲君の事が好きです」

「……僕もはやての事が好きだよ。君と別れて六年半経つけど、それは変わらない」

 

きっとこれから先、一生持ち続けていくだろう。どんな人生を歩んでも。

 

「その答えが聞けただけで満足や。……でも、約束通りあっちで新しい恋見つけてな。やっぱ幸せには必要やろうし」

「まあ、頑張ってみるよ。でも、はやてと同じくらい強く想える人がいなかったらしないよ。これは僕の意地だ」

「そっか、分かった。……もう、お別れの時間や」

「もうか。……なあ、はやて。抱きしめていいか?」

「ええよ」

 

僕は彼女を抱きしめる。

二度と触れる事など無いと思っていた。僕は抑えていた涙をもう我慢できなかった。

 

「泣き虫さんやなあ」

 

笑顔を見せるはやて。やっぱり、素敵な笑顔だ。

 

「最後に八雲君にこれから頑張れるようにプレゼントや」

 

そう言って、はやては僕の唇にキスをした。深く長く、自分の存在を刻み付けるように。

 

「いつも見守ってるから、ちゃんと幸せに暮らしてな」

「……うん」

 

そういうはやてはずっと笑顔だった。それは僕が世界で一番大切な人の一番好きな表情。

薄れていく意識の中、僕はもう一度、生きる意味を考えようと思った。……まずは幼馴染の皆に謝る事から始めようかな。

 

 

 

 

「……ホントの泣き虫は私やけどな」

 

消えていく八雲君を見送った私は今まで我慢していた分の感情を爆発させ、大声で泣いた。

 

「お別れしたくないに決まってるやんか! そんなん、ずっと一緒に居たいに決まってるやんか! 八雲君のそばで一緒に生きたかったに決まってるやんか!」

 

これが私の本心。何処までもわがままな私の気持ち。

でも、そんなんを押し殺してでもああいったのは、あんなに苦しんでいる八雲君を見たくなかったから。いつまでも死人の私に八雲君を縛り付ける訳にはいかん。

私の事を想い続けてくれるのは嬉しい。だけど大好きな人だからこそ、私を想ってくれる事への嬉しさよりもいつまでも縛り付け続ける罪悪感の方が大きかった。

だから、私は八雲君の幸せを願う。愛した人だからこそ。

ただ、私も女だから、人だから忘れられるのは寂しい。それだから、誕生日と命日だけは思い出してほしいって言ってしまった。結局、緩くはなったかもやけど、縛っているのは変わらへん。

全部忘れてって言えんだんは私の女々しい部分からやね。

 

「八雲君、最後の私の笑顔の意味分かってへんやろうなあ……。鈍感やし」

 

私はそう呟いた。

私の最後の時の笑顔の意味は、好きな人に見せる最後の顔だから、笑顔で記憶に残りたいという私の気持ちからだった。

それは、泣きたいって気持ちを押し殺せるほど凄い女の意地や。綺麗な顔で八雲君の記憶に残れたかなあ?

八雲君、苦しむくらい私を想ってくれてありがとう。そして、縛り付けてごめんなさい。私はここであなたの幸せを祈っています。だから、精一杯貴方のための人生を生きてください。それが……私の願いです。

 




という訳で、この作品で一番大事と言っても過言ではないお話でした。
個人的に修正前ので満足していて、それ以上出来る気がしなかったので、少し加筆した程度で、ほとんど変わりません。

ある意味ではここまでがプロローグで、ここから先、八雲にとって新しい物語が始まります。彼が、彼の周りがどのようになっていくか、お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 次へ進む。その一歩の為に

第二部開始です。


眼を開けると、知らない天井だった。茜色に染まっているのは夕日のせいだろう。そっか、もう夕方か。

僕が戦闘したのがお昼前だから、結構な時間眠ってた事になるなあ。

 

「霧島君!」

 

僕を呼ぶ声がしたので僕は何とかその方に目をやる。そこには涙を浮かべている更識先輩がいた。

……そっか、この人に心配を掛けてしまったな。僕は体を無理やり起こす。体のあちこちが痛いな。

 

「無理しないで!」

「大丈夫ですよ。訳あってちょっと前まで怪我とか日常茶飯事でしたし。僕のISどこですか?」

「……ベット横のテーブルに置いてあるわ」

 

ベットを見ると、僕のISの待機状態が置いてあった。僕の専用機、出雲の待機状態はネックレスチェーンになっている。ネックレストップが叢雲の待機状態だ。

 

「今から見るのは、誰にも言わないでくださいね」

 

多分、今なら出来るはず。理由は無いけど、感覚的に分かる。見られて根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だけど、この人は秘密にしてほしい事や口にしないで欲しい事はちゃんと察してくれる人だと、この二か月ちょっとで分かってる。

 

「キュア」

 

光に包まれ、傷が癒えていくのが分かる。……六年半動かなかった時間が動き出す感じだ。止めていたのは僕自身だけどさ。

 

「……今のが、魔法?」

「そうです。……って、なんで知ってるんですか?」

「アリサに全部聞いたわ。虚ちゃんと本音ちゃんと一緒に聞きに行ってね。悪いとは思ったけど、私個人としても生徒の身を守る生徒会長としてもあんな戦い方をするのを見てられなかったから、それを何とかしようと思って、お願いして教えてもらったの」

「……そうですか。なんか、色々迷惑かけてすみませんでした。でも、もう大丈夫です。僕の都合のいい夢かもしれませんけど、死にかけて、でもそのおかげで大切な人に久しぶりに会って、憑物を落としてもらいましたから。だから、前を向いてゆっくり考えようと思います。都合よく高校生になってますし」

 

多分、ミッドに行っていて働いていたら、今ほどゆっくりと考える時間は無かっただろう。……いや、今の人生が始まって僕は生き急いでいたと思う。だから、今、前を見据えてゆっくり考えよう。これからの自分の為に。そう簡単に今までのが抜けるとは思わないけど、少しずつ変わっていけばいいさ。やり直す時間はいっぱいあるんだから。

 

「それが良いと思うわ。アリサもあなた達の幼馴染も霧島君の事を本気で心配して、私をルームメイトにする手回しを位なんだから。その子達を悲しませちゃだめよ」

「そうですね、その通りです。……改めて、これからもよろしくお願いします、更識先輩」

「あっ、名前……」

「今まで意図的に人の名前を呼ぶ事を避けていましたから。でも、それも今日で終わりにしますし、小さい所から少しずつ変える……っていうか、昔に戻していこうと思います」

 

『名前を呼ぶ』って事は人と人の関係を繋ぐ上で大事な事だと思う。なのはの言葉を借りれば「友達になるには名前を呼べばいい」。これは極論だと思うけど、お互いの呼び方がそれぞれの信頼度を示しているバロメーターになっていると僕は考えている。

僕が今まで人の名前を呼ばなかったのは、僕が友好関係を築くつもりが無かったのと、無関心を示す手っ取り早い手段だったから。でも、そんな事は今日で終わりだ。

 

「そう。こちらこそよろしくね霧島君」

 

その第一歩として、この一つ年上のお人好しなルームメイトと仲良くなろう。その後は僕に一番話しかけてくれたあの子とそのお姉さんとも。

それと、久しぶりにゆっくり休めそうだ。

 

 

 

 

霧島君が眼を覚ました時、なんというか、彼の雰囲気は柔らかくなっていた。

この感覚は私の気のせいなんかではないのはその後話していてもひしひしと感じた。決定的だったのは、

 

「改めて、これからもよろしくお願いします、更識先輩」

 

私の名前を苗字呼びとはいえ呼んだ事だろう。

今までの彼は徹底的に人の名前を呼ばなかった。私の事は「会長さん」だったし、織斑先生と山田先生には「先生」本音ちゃんや何人かの話しかけてきた子の事を話す時は「君」や「あの子」といった具合に。

彼を私達よりも良く知るアリサは「名前を呼ばないって事は相手を拒絶しているって事をはっきり分かってもらうためには一番手っ取り早くて分かりやすい行動だと思うわ。関係を作りたくないアイツはそれを踏まえてやってるわね。……でも、まだ私達の事を名前で呼んでいるから、いつかはそれが終わる日が来るはずよ」と言っていた。

それを聞いて、なるほどと思う反面、こんな事をするほど、彼の心は追い込まれているんだと思うと、何とも言えなくなる。

でも、そんな事ももう終わりにするつもりらしい。その決意表明が私の名前を呼んだ事だろう。

色んな人が何年掛けても、出来なかった事を一瞬でやってしまう。彼の中の彼女の存在がどれだけ大きいかがよく分かる。……少し羨ましいなあ、お互いを想い想われるのって。それに嫉妬しちゃうよ。

 

「こちらこそよろしくね、八雲君」

 

とりあえず、アリサに頼まれていた事は出来たと思う。ここから先関わっていくのは私個人の意思だ。この気持ちは多分、本音ちゃんや虚ちゃんも一緒だ。

 

 

 

「……ここに来るのも久しぶりだな」

 

あの後、先生の診断を受けて問題無かったので先輩と一緒に部屋に戻って休んだ。

それで翌日の朝早く学園を出た。そしてやって来たのは僕の地元海鳴の名店、喫茶『翠屋』。ホント、ここに来るのって何年振りだろ? 家から目と鼻の先なのに全然来てなかったなあ。

そう思いながら、僕は翠屋のドアを開ける。

 

「いらっしゃい……って、八雲君? 久しぶりね~」

「お久しぶりです、桃子さん。士郎さん」

「本当に久しぶりだね。どういう風の吹き回しだい?」

 

士郎さんにそう聞かれたので答えようとしたら、僕の後ろの入口が開く。振り向くと今までの僕を一番心配してくれた二人でここに呼んだ張本人達でもあるアリサとすずかが居た。

いや、正確に言うと、会おうと言ったのは二人で場所を決めたのは僕。

 

「久しぶり、アリサ、すずか」

「久しぶりだね、八雲君」

「ホント、何年振りかしら?」

 

別に年単位で二人に会ってなかったわけじゃない。二人には春休みには会ってたし、アリサに至っては先々週装備の受領に行った時に会っている。

でも、こうやって特に用もなく、お茶をするために会うのは小学校以来だし、なにより、昔のような僕として会うのは久しぶりだと思ったからこう言った。二人もそうなんだと思う。

 

「憑物が落ちたようだね。今の君はとてもいい顔をしているよ、八雲君」

「そうですか?」

 

士郎さんにそう言われたけど、あんまり実感は無い。確かに何年振りかにぐっすり眠って、肉体的にも精神的にもかなりリフレッシュはできた。

 

「士郎さんの言う通りだよ、八雲君」

「ちょっと前のアンタは無表情で機械的とまで言えるくらいだったのよ? それに比べたら、今の方が何万倍もマシよ」

 

うわ、酷い言われようだなあ、ちょっと前の僕。まあ、死にたがりだったし、仕方ないか。しかも自分では出来ない臆病者の。

 

「まあ、これからの事はゆっくり八雲君が自分自身で納得できる答えを見つければ良いわよ。さて! 難しい話はこの辺にして、何食べる?」

「そうですね……コーヒーにシュークリームとショートケーキをお願いします」

「分かったわ。……ウチに来て食べた一回目と二回目の時と同じなのは偶然?」

「ああ、そう言えばそうでしたね~。でも、偶然です。僕としては桃子さんの作るお菓子の中で1位と2位ですから。……良ければ、昔みたいに作り方教えてください」

「良いわよ~。八雲君器用で筋も良いから教えるのも楽しいし」

 

こう頼んだのは久しぶりに今朝朝食を作って料理がやっぱり好きなんだと気付いたから。後、迷惑かけた更識先輩と布仏さんへのお礼ってこれ位しかできないし。

ちなみに桃子さんは僕が過去を引きずっていた間にも何度かやってきて「一緒にお菓子作りしましょう?」と声を掛けてくれていた。今回のお願いはダメ元だったんだけど、OKしてもらえて結構嬉しい。

 

「私達も楽しみにしているわ、アンタのお菓子」

「りょーかい。感想も教えてね。その方がやる気出るし」

 

まあ、とりあえず昔やってた事、今やりたい事を一つずつやっていこう。そうすればきっと、僕が進みたい未来が見えると思うから。




話の展開的には修正前と変わりません。
加筆部分として八雲がアリサ、すずかに呼び出されて翠屋を訪れるシーンを追加しました。理由として、彼が昔に戻って新しい一歩を踏み出す時に一番いい場所ってどこかなと考えた時に、しっくり来たので。


次回で二巻の内容は終わります。早い内に上げるのでお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 少しずつ取り戻していく時間の中で

今回は戦闘シーンメインです。


たとえ僕が昔に戻っても、必要以上にクラスに関わる気は無いし、ここ数か月での僕の評価から考えて他のクラスメイトも迷惑だろう。どの道ここを卒業したらミッドに行くことに変わりは無いんだし、友人には恵まれているから、そこまで作ろうとは思わない。

ただ、

 

「きーりん、お嬢様が放課後に生徒会室に来てだって~」

「ん、分かった」

 

更識先輩を始めとした生徒会メンバーは普通に話しかけるし、魔法の事も知っている。それでも今までと対応を変えないのだから人として凄い。僕だったら同じ事は出来ないね。

そうそう、僕が生徒会室に行く理由は先輩のスカウトで役員になったから。曰く「学校随一の実力者なんだから、戦力としてスカウトするのは当たり前」なんだとか。僕自身、先輩や本音(本人にそう呼ぶように言われたのでこう呼んでいる。これを聞いて更識先輩や本音のお姉さんの布仏先輩に下の名前、それぞれ楯無、虚と呼ぶように言われたからそう呼ぶようになった)に心配をかけたのでその恩返しのつもりで入る事にした。

そのおかげか、教室より生徒会室の方が居心地がいい。

 

「楯無先輩、僕に用ってなんですか?」

 

開口一番、僕は先輩に尋ねた。

 

「学年別トーナメント中止になって一年生は第一試合だけデータ取りの為にやるって話は聞いてるわよね?」

「もちろん。朝のHRで織斑先生が言ってましたし」

「それで、霧島君の相手なんだけど……私になったのよ」

「はあ、どうして先輩が出張る羽目になったんですか?」

「霧島君の実力が凄いからよ」

 

確かに今の所代表候補相手に連勝中だしな。

 

「てか、ぶっちゃけ私より強いわよ」

「そうですかね? まあ、よろしくお願いします」

 

 

 

僕が楯無さんと戦う事を知らせられた翌日の放課後。僕はアリーナに居た。

 

「それじゃあ、始めましょうか?」

「そうですね。……よろしくお願いします、先輩」

 

中止になったトーナメントの目的の一つデータ収集の為の代替え試合を行おうとしている。

ちなみに僕達以外に居るのはこのアリーナの管理をしている織斑先生と山田先生、それに虚さんと本音の四人だけ。

 

『試合開始!』

 

楯無さんの戦い方を知らないから、まずは見る事から始めよう。見た情報を頭の中で整理してベストな戦い方を見つける。現場じゃなくて模擬戦だからこその戦い方だ。

僕等の仕事で実際の所、戦闘になって様子見なんて悠長な真似は出来ない事の方が多い。だけど、これは模擬戦。その悠長な真似が出来る。だから自分の判断力を見る事が出来るし鍛える事も出来るし、自分の成長の為に条件を付けて戦う事だって出来る。

……まあ、ちょっと前までかなり無謀な戦い方をしていたから、それの矯正の意味もあるんだけど。

 

 

 

「……凄い」

 

試合を見ていた私はそう呟いた。

 

「そうだね~……」

 

その感想は相槌を打った本音も見ている先生方も同じだろう。

八雲さんの対戦相手である、お嬢様は学園唯一の国家代表、しかも大国ロシアのだ。他の生徒とはレベルが違う。それは私を含め2、3年生はよく知っている。恐らく、この試合、誰に聞いてもお嬢様の勝利と予想するだろう。

しかし、お嬢様は試合前に八雲さんの実力を「私より強い」と評価していた。

八雲さんは魔法の事や実戦経験の事を私達に聞かれた時に「魔導師としての飛行時間は5000時間を超えてると思います。全てがISに反映されるわけじゃないですけど、僕の体感としては8割位は経験になってると思います」とおっしゃっていました。お嬢様の通算の搭乗時間は1000時間前後、私が入学したての頃に織斑先生に搭乗時間を聞いた際、1500時間以上2000時間未満で学園に来てからは年間100時間程度とおっしゃっていた事を考えると、単純計算で経験量はお嬢様の4倍、織斑先生の倍以上となります。

それに加えてISは所謂パワードスーツなので、腕力などの身体能力もダイレクトに出てきます。春の体力測定で軒並みアスリートレベルの数字を叩きだした八雲さんの身体能力とは好相性です。

また、八雲さんの駆るIS、出雲も現行トップクラスの機動性能を持ち、魔法技術を活かした兵装も合わせて八雲さんが十二分に性能を引き出せる出来栄えです。

しかし、私はあくまで技術畑の人間で戦いは素人です。家の関係で小さい頃から武術という物は近かったのですが、私にその適正はあまりなく、努力しても護身術程度でした。なので、

 

「織斑先生、八雲さんの実力って実際、どんな所なんでしょう?」

 

この場に居る中でIS戦のプロフェッショナルであり、世界最強のIS乗りである織斑先生に聞く事にしました。

 

「そうだな……私がもし、暮桜の後継機を今この場で持っていて、戦っても勝てるかどうか怪しいな。負けるつもりは無いが勝てる気もしない。少なくともな」

 

それは八雲さんの実力が織斑先生に勝るとも劣らないと言っているようなものです。学園内では厳しい事で有名な織斑先生がここまで言うとは。凄いとしか言えません。

 

「しかし……この学園の人間は何を見ているんだ? 霧島を見ていれば恐怖よりも勤勉な人間のイメージが付くだろう」

「そうですね。今では教員の皆さんは朝早くからトレーニングをしている霧島君を見て印象を改めてますし」

 

八雲さんの印象は「恐怖」と「勤勉」に分けられる。前者は大多数の生徒、後者は教員やその他学園関係者。

IS学園はその特質上、授業や放課後で体を動かす事が多いので運動部の朝練が原則存在しない。自主的にやるだけですが、ISの実習や放課後の練習に体力を残したいので、朝は皆さん早くありません。

逆に教師の皆さんは朝が早いです。理由として教員寮は学園から車で五分ほどの所にある事と、仕事の量から朝からやる必要がある事です。なので先生方は朝から体を動かしている霧島君の姿を良く見ているのです。

……恐怖の根幹には今の女尊男碑の思想があるのではと私は思います。

ISが世界最強の武器でそれを纏える女性が強い。これが女尊男碑の根本です。しかし、八雲さんの存在はその根本から覆してしまうのです。そこから恐怖心が来るのでは? と考えています。

 

「おねーちゃん、考え事?」

「少しね」

「もうすぐ終わっちゃうから、最後は集中しよ?」

「そうね。これほどの試合、そうは見られるものじゃないものね」

 

このような事は置いておいて今はお二人の戦いを堪能するとしましょう。

 

 

 

気付けばもう試合は終盤戦。僕のシールドエネルギーは半分を割り込んでいるし、楯無さんの方も4割程度かな? もっとIS戦に慣れていたら、楽できたんだろうけど、今の僕はこれが精いっぱい。

楯無さんは流石に国家代表。僕が今まで戦った二人の国家代表候補とはレベルが違った。戦闘経験ならはるかに僕の方が多い。でも、互角なのは彼女のセンスと努力の賜物だろう。まあ、負けるつもりは無いんだけどね。

 

「さて、そろそろ決めさせてもらいますよ」

「あら、おねーさん相手に強気ね~」

「僕の方が若干有利ですし。コードACS起動」

 

起動コードと共に彩雲にビーム刃が出現する。

 

「ビームの銃剣……それで何をするのかしら?」

「それは後のお楽しみですよっ!」

 

その言葉と共に突撃を仕掛ける。今まで射撃戦ばかりで、意表を付けたから回避はされない。しかしそれは水の壁(楯無さんは水のヴェールと言っていた)で防がれる。それは予想通り。ACSの本領はここからだ。

スラスターを噴かしてビーム刃『ストライクフレーム』で少しずつ壁を貫いて行く。そして、ある程度抜いた所で……

 

「これで決めます! ディバイン……バスター!」

 

僕の幼馴染の一人の技を模した大威力砲撃を決める。そして、結果は……

 

『勝者、霧島八雲』

 

となった。

しかし……やり過ぎた気がする。大丈夫かな?

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「一応ね。ビックリして、腰抜けちゃってるから少し動けなさそうだけど。ISも解除されてるし」

 

やっぱりやり過ぎた。しかし、いくら暖かくなって来たからと言って、汗かいたままじゃ風邪ひくしなあ……。

 

「先輩ちょっと失礼します」

 

そう言って僕は一回ISを解除して、彼女の首の裏とひざの裏に腕を入れて持ち上げてから、再展開する。

 

「ちょ、ちょっと! 八雲君⁉」

 

慌てる楯無さん。人が少ないからと言っても人前でこんな事をしたからか、顔が赤い。

 

「いくら夏でもこのままじゃ、風邪ひきますよ? それにこうなったのは僕が原因なんですから、これ位はやりますよ。あ、怪我とか無いですか?」

「だ、大丈夫。……ありがとうね、八雲君」

「いえいえ。これ位は当然です」

 

この後僕は楯無さん側のピットに彼女を送り届けてから、自分のピットに戻った。部屋に戻ってから楯無さんに簡単な治癒魔法でもかけるかなあ。一応、疲労回復効果もあるし。




変更点としては端折ったVS楯無戦があった事ですね。これを書いたのでリメイク前五話が二つに分かれました。
楯無さんとの戦闘シーンって本編でも書いてるんですけど、それと違った決着を書きたいと思った時に「そういや、アクアナノマシンのヴェールって防御壁だろ? なら、ACSが使える!」と思いこの形になりました。ありがとう、魔王様!

次回は前出の残り部分をやっていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 少年を想う少女たちの心

意味深なタイトルです。


学年別トーナメントを境にきーりんの雰囲気はとっても柔らかくなった。クラスで話しかけても普通に返事が返って来るし、私以外への対応も普通になったし。いろいろな事に気を使ってくれる。

それに今までは無かったのに最近は一緒に居ると暖かい気持ちになる。このままずっと一緒に居たいなあ~。

きーりんは「臨死体験して大切な人に再会するっていう切っ掛けがあって今までの憑物を落とせたから」って言っていた。

他の誰もが出来なかった事をあっさりしてしまうなんて、凄いな~。それと共に、ちょっと羨ましくも思う。

羨ましいといえば、お嬢様との試合の後、動けなかったお嬢様をきーりんが女子の夢、お姫様抱っこで運んでたのも羨ましいなあ~と思ったんだよね。

それと最近お姉ちゃんやお嬢様と楽しくお喋りしているとそこに入りたくなるんだよね~。……なんでだろう? 後で、お姉ちゃんに相談してみようかな?

 

 

 

八雲さんが生徒会のメンバーになった事で、私との交流も増えました。

管理局での仕事の一環で八雲さんは書類仕事に慣れてらっしゃるので、とても頼りになります。お蔭で私達の負担もかなり減りました。

一番驚いたのは彼の作るお菓子の美味しさ。「久しぶりに作って自信は無いですけど」とおっしゃっていましたが、お店に出しても遜色がないと思うレベルの物でした。

私達が口々に褒めると八雲さんは「そんな事ないですよ~」と照れていました。今までのギャップと相まって非常にかわいかったです。可愛いというのは男性としては不本意でしょうがその他、普通の料理などもお上手でした。私も料理が趣味なので色々情報を交換しています。……少し前までは想像できない様になりました。

八雲さんはこの前の一件で良い方向に変わられたと思います。変わったのは彼の周りもそうですね。周りというのは私、お嬢様、本音の三人です。

端的に言えば私達三人は彼に惚れました。それを実感した理由はそれぞれありますけど、強さと共に弱さも持った彼を放っておけない、支えたい、というのが私の想いです。それになにより、彼の傍は非常に落ち着くのです。八雲さん自身の素質もあるでしょうが、それ以上に八雲さんが歩んできた経験からくる物がにじみ出てるのでしょう。だから、出来る事なら彼の傍にずっと居たいと思います。

ですが……この私の気持ちを伝えるのは時期尚早でしょう。八雲さんがそういう余裕を持てるようになるまでまだまだ掛かると思います。二人に比べて時間の短い私ですけど、彼をないがしろにして自分の気持ちを押し付けたくありません。ですが……お嬢様や本音と楽しそうに話されているのをズルく思って、割り込んだり、お姫様抱っこをされていたお嬢様を羨ましく思うのは良いですよね?

 

 

 

 

八雲君は少しずつだけど、確実に変わってきている。教室では返事をする以外はそこまで変わっていないようだけど、生徒会室や部屋では本当に柔らかい表情を見せるようになった。相対した時の真剣な表情のギャップに少しドキドキしたし。

……ひょっとして、私……彼に惚れちゃった? よくよく考えると放っておけないとか興味を持つって事は最初から意識はしてたのかもしれない。はっきり変わったのは多分助けられた時かな。最近は虚ちゃんや本音ちゃんが八雲君と楽しく話していると邪魔したくなるし。試合の後のお姫様抱っこなんて、嬉しすぎた以上に緊張して心臓の鼓動が今までにない速さで鳴ってたもん。

でもヤバい、そう思うと今まで何も思わなかった部屋での時間が緊張してくる。まあ、それ以上に楽しくて落ち着ける空間なんだけど。

好きという意味では家族や妹の簪ちゃん、幼馴染の虚ちゃんや本音ちゃん、学校の友達に持つ好きの気持ちとは少し違う、彼を好きと思う気持ち。恋心を自覚したのは良いんだけど、今まで家の事やISの事に一直線だった私はそういう経験値はゼロ。そもそも、中学から女子校で、小学校はそんな感情なんて無かっただろうから、出会いも無かったし。

もちろん、ここでも付き合っている子はいるし、そう言う話で盛り上がる事だってある。でも、実際耳にした話と自分がなってみるのとは全然違う。と、とりあえず、同じ気持ちを抱いているであろう虚ちゃんと本音ちゃんに相談しようかな?

 

 

 

「さて、会議を始めるわよ!」

 

ある日の放課後私達は生徒会室に居た。

 

「お嬢様、八雲さんがいらっしゃいませんが」

「きーりん無しで初めていいの~?」

「いいのよ。だって今日の議題はこれだから」

 

そう言って私は後ろにあったホワイトボードを回転させた。

そこには『八雲君の事を私達がどう思っているか?』と書いてあった。

 

「あー……これはきーりんがいちゃ話せないね~」

「確かにそうね。……それじゃあ、言い出したお嬢様から話していただこうかしら?」

「おー、良いね~」

 

まさかの従者姉妹からの反撃。これは……言わないと逃げられないわね。

 

「まあ、ぶっちゃけて言うと好きね。異性として」

「……ストレートですね」

「かんちゃん相手にもそれが出来れば良いのにね~」

 

なんか本音ちゃんが毒舌なんですけど……。そんなに私を苛めて楽しいのかしら?

 

「本音ちゃん! 今はそれは良いでしょ!」

「ですね~。それで私もきーりんの事好きですよ~。もちろんお嬢様と同じ意味で」

「私もです。……ですけど、八雲さんの事を考えると私達は少し待つべきだと思います」

 

確かに良く考えると虚ちゃんの言う通りだと思う。

八雲君はようやく前を向いて歩き出したばかり。そんな八雲君にいきなり気持ちを伝えても、彼を混乱させてしまうだけだ。……そこに気が付く辺り流石は虚ちゃん。一番年上で気遣いが上手だ。

 

「でも、おねーちゃんはそれでいいの~? 私やお嬢様より一緒に入れる時間は短いんだよ?」

 

本音ちゃんの言う通り、私には後1年と9か月、本音ちゃんは高校生活すべてが残っている。だけど、虚ちゃんは三年生だから9か月しか残っていない。

 

「もちろん、気持ちは伝えますよ。だけど、自分の気持ちを八雲さんに押し付ける気も無いです。きっと伝えるチャンスは来ると思いますし、来なかったら卒業式にでも言います。でも、今伝えるのは弱っている彼に付けこむような真似の様な気がするのです」

 

真面目な虚ちゃんらしい答えだと思う。

相手を思いやる気持ち。これは大切な事だともう一人の男性操縦者である織斑君の周りを見ていて凄く思う。ある程度わがままがあってもいいとは思うけど、あれは度が過ぎるってものだ。恋愛関係になりたいのならお互いの気持ちが一緒にならないと駄目な訳だし。

 

「それと、りさりさも絶対そうだから、話に行こうよ~」

「それもそうね。今週末は何もないし、三人で会いに行きましょうか」

「ですね」

 

この後、アリサに連絡したら週末は用事が無いから会えるとの事。会わせたい人もいるし、お勧めのお店で待ってると言っていた。会わせたい人って誰なのかな?

 

 

 

最近、以前に増して生徒会のメンバーと距離が近くなったと思う。

朝や昼は大体一緒に食べるし、たまに夕食を僕と楯無さんの部屋で作って皆で食べる。作るのは大概僕で三人はお手伝い。皆料理上手なんだけど、一人暮らしが長かったのと元々の器用さでレパートリーが多いのでそれを三人に教える感じだ。

ただ、距離が近付くにつれて普段とかスキンシップが増えた気がする。それ自体が嫌って訳じゃないんだけど……普通な状態に戻ったからこそ、意識してしまう。

だって全員スタイル抜群の特級の美少女なんだよ? 意識するなって方が無理な話だよ。折角仲良くなれたんだし、なんとか持たせたいねえ、僕の理性。




ほぼ全文を新しく作ったお話でした。
これで分かる通り、リメイク前と違い、ハーレムメンバーが増強されています。具体的には布仏姉妹ですね。
実は、リメイク前を書いている時も一番接している本音をなんでヒロインから外したんだろうという疑問があったんですよ。なのでリメイクするに当たって本音とその姉で色々関わりを増やして虚もヒロインにしちゃおうと思い、こうなりました。


次回から、三巻の内容になっていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 恋する乙女たちのお茶会

甘めなお話です。


時間は過ぎ7月。もうすぐ僕達一年生は臨海学校がある。今日はその準備の為にIS学園からそこそこ近い距離にある、ショッピングモール『レゾナンス』に来ている。

本当は既にある物で適当に済ませて今日も臨海学校ものんびりするつもりだったんだけど、

 

「これで良かった?」

「ええ、三人ともわざわざありがとうね」

「連れ出し成功~」

「少々強引な気がしますが……」

「これ位強引じゃないと動きませんよ。八雲君を連れだしてくれてありがとうございます」

 

この金髪と紫と水色と赤×2の悪巧みのせいで計画は潰れた。

事の始まりは昨日の放課後、生徒会の仕事が一段落ついた時に楯無先輩に「明日暇なら生徒会関係の買い物に付き合って?」と言われて、僕はそれを二つ返事でOKした。

それで今日の朝、先輩達に付いて行ったら、アリサがすずかと一緒に居たという訳だ。

 

「……僕の悠々自適な休日ライフを返してください」

「ガールフレンドと外出する。これほど学生の休日に相応しい物は無いと思うわよ? 後、ナンパ避け」

「なんだよ、それ……」

 

確かに、五人が五人ともタイプは違えど道行く人が目を奪われるほどの美人だ。ナンパする人種の気持ちは分からないけど、お知り合いになりたいと思う人は居るんだろう、多分。

 

「なんだかんだ言っても私を含めて皆も一緒に八雲君と遊びに行きたかっただけだよ。今までは誘っても来なかったし、無理やりも出来なかったもん」

「……それを言われると、何も言えないよ。分かった、買い物、付き合うよ」

 

ここ数年、最前線に立ち続けていたから、『普通の事』『学生らしい事』ってのが今いち分からない。休みっていうのは、疲れや怪我を癒すために家でぼーっとする時間って感じだし。

遊びに行くなんて、それこそ、ジュエルシードの事があった前後以来だな。

 

 

 

私達は八雲君を強硬手段で連れ出し、皆で遊ぶことになった。この事を八雲君に内緒で決めたのは一週間前の事だった。

その日アリサちゃんに会わせたい人がいるから翠屋に来るように言われたから、お客さんとして訪れた。普段は就職したお姉ちゃんの後釜としてバイトで来ているからお客さんとして訪れるのは結構久しぶりだ。待ち合わせよりも早く来たので先にアリサちゃんとお茶をしてたら、三人の女の子がやって来た。

 

「三人とも久しぶりね。それと紹介するわ。私と八雲の幼馴染のすずかよ。相談の事を聞いて、呼んだわ」

「月村すずかです。よろしくお願いします」

「更識楯無です。こちらこそ、よろしくね。私の事は楯無で良いわよ。もしくはたっちゃんで」

「布仏本音だよ~。よろしくね、すずー」

「本音の姉の布仏虚です。よろしくお願いします。私達も下の名前で構いませんので」

「そうですか? なら、私の事もすずかと呼んでください、楯無さん、虚さん、本音ちゃん」

 

後から来た三人がケーキや飲み物を注文して来てから、話を始める。うん、やっぱり翠屋のケーキは絶品だね。これ以上のにはまだ出会ってないなあ。

 

「さて、ここに居る五人にはとある共通点があるわ、楯無、何だと思う?」

 

ああ、なるほどアリサちゃんのやりたい事が大体把握できた。

 

「皆、八雲君が好きって事?」

「正解よ。もちろん、『like』じゃなくて『love』の方よ?」

 

数か月の間で三人もの女の子、しかも美人ばかりを落とすなんて八雲君も罪作りだね。

でも、昔に戻った八雲君ならそれも分からなくないかな。見た目も私から見てカッコいいと思うし、しっかりしてるし、優しいし、護ってくれる強さもあるし、それでいて信頼する人には弱さを見せるし。

 

「どうして、二人は八雲君を好きになったの~?」

「最初は友達だと思ってたし、八雲君の事を放っておけないのもそうだと思ってたんだけど……」

「ホント、いつの間にかアイツの事ばっかり考えるようになってたのよ。だから、八雲が昔の様になるように二人で色々して来たのよ。あんまりうまくいかなかったけど」

「……なんか、恋敵なのに凄く仲が良いですね」

 

まあ、確かに恋のライバルは仲悪いとかいがみ合っているってイメージはあるかな。

 

「あー、それはね私のお姉ちゃんの影響かな?」

「どういう事?」

「すずかのお姉さんの忍さんはね、今の八雲みたいに何人かの女性に好かれるような無自覚な人と付き合ってるの。曰く『恋敵っていって、ギスギスしてちゃ、肝心の人に嫌われるわよ。それに、男性の好みが一緒なら、そこで話を膨らまして、親友にもなれるだろうし、絶対に仲良くしてる方が良いわよ』らしいから。そもそも、親友と仲を悪くする気なんてさらさら無かったけど」

 

八雲君とそう言う関係にはなりたい。でも、アリサちゃんと仲悪くなるのは嫌だ。凄くわがままだけど、これが私の本心。多分、アリサちゃんも同じ。迷っていたけど、お姉ちゃんの言葉で吹っ切れた部分がある。私達にとっての年が近くてこういう事が相談できる人だし、何でも聞いて答えを出してくれる頼れるお姉ちゃんだ。

 

「今日、アリサちゃんが三人とと会わせたのもその辺が関係してるみたいですし。……それに、最終的には八雲君が決める事ですから」

 

恋愛は相手があってこそ成り立つもの。自分の想いだけじゃダメで最終的には相手の、この場合は八雲君の決断に任せないといけない。想いを伝える必要はあるけれど関係を押し付けたら、きっと本当のそう言う関係には成れないと思う。とても当たり前の事だけど、抜けがちになりそうな事だ。

 

「それに、アイツはまだ恋愛とかそこまで考えらんないでしょ。愚直で不器用なんだから」

「確かに器用とは言えないですね」

「一途でまっすぐとも言えると思うわ」

「言い方、捕らえ方の問題だね~」

「そんな、八雲君を私達は好きになっちゃったんだもん。仕方ないよ。惚れた方の負けだよ」

 

私の言葉で皆顔を赤くする。言った私自身もかなり恥ずかしいから私の顔も多分、赤いんだろう。

 

「……そうね。なら、まずは八雲に普通の学生らしい事をさせましょう。アイツはそういうの疎いと思うし、私達から連れ出さないと」

「確かに~。きーりん普段も勉強か訓練しかしてないもん」

「図書室で良く見かけますけど、それは以前からですよね」

「なら丁度良いわ。今度一年生は臨海学校があるんだけど、その買い物に連れ出せばいいのよ」

「いいですね、それ。それじゃ、善は急げで早速来週に動きましょう?」

 

 

とこんな感じで八雲君を連れだす事に決めた。楯無さん達三人とは初対面だったけど、その後も結構話が弾んだ。凄くいい出会いだったと思う。これは、八雲君が切っ掛けで結んでくれた縁だね。

 

 

 

僕の臨海学校の買い物だったはずだけど、用意するものなんてほとんど管理局の仕事で艦船に乗り込む時の荷物の流用に不足していた物を買い足しただけなのですぐに終わってしまった。買い物には時間をかけない主義なのもある。

なので、五人は服を見に行って、僕はそれの感想を求められている。

しかし……感想に困る。いや、似合わないとかそういう事じゃ無くて、三人ともファッションに興味の無い僕でも分かるレベルで似合ってるし、センスも良いと思う。ただ、何着ても似合うから、中々に感想が難しいのだ。僕自身が口下手なのにも理由がある。

 

「……さっきから、似合ってるしか言ってないけど、何? 適当なの?」

 

そう、ジト目で言うアリサ。やっぱり突っかかって来るよな。

 

「いや、皆美人で、スタイル良いから何着ても似合うんだよ。褒めるためのボキャブラリーも多くないから、それしか言いようがないだけだよ」

 

皆タイプが違う美人だから、かなりの贅沢だよね。

 

「そ、それなら良いけど……」

 

何故か言葉が尻すぼみになってくアリサ。良く見ると顔が赤い。他の四人も同じだ。

 

「皆、顔赤いけど調子でも悪いの? 僕の買い物も終わったし、今日は帰る?」

 

僕の事を考えて連れ出してくれたのだろうけど、それで体調崩したら誰の為にもならない。特に本音は僕と同じで臨海学校が近いんだからその辺気を付けて欲しい。

 

「だ、大丈夫よ!」

 

代表してそう言ったのは楯無さん。他の皆も首を縦に振っているから、同じなんだろう。とりあえず、安心だ。

 

「そうですか。でも、辛かったら言ってくださいね」

「うん。ありがとうね、八雲君」

「じゃあ、私達はお会計に行ってくるから、少し待ってて」

「了解」

 

うーん、こういうのって僕がお金を出すべきだったのかな? なんか、やり過ぎな気もするけど。

 

 

 

「ヤバいわ。好きな人に褒められるのはヤバい。凄い嬉しいけど、恥ずかしい」

「破壊力あり過ぎね。しかも無意識下よね、アレ」

「だね~。ここまでキュンキュンさせるとは、きーりんも中々やるね~」

「ですが、突然はちょっと驚きます。嬉しいには嬉しいですけど……」

「顔が熱いよ……」

 

私達は八雲から少し離れて、落ち着こうとしている。だって、凄い心臓ドキドキ言ってるもん。皆顔も赤いし。

 

「でも、少し安心したなー」

「どうしたのよ、すずか?」

「だって、普通に美人とか言ってくれたから、八雲君も普通の男の子と変わらないんだなって思ってね」

「凄い遠回りの果てだけどね。まだ、私達もアイツも子供だから、良いんじゃない? 焦る必要ないわよ。恋も人生も」

「そうだね、今は八雲君と私達のこの時間を楽しむ事に集中するよ」

 

私が待ち焦がれてた昔のアイツにようやく戻った。ただ、アイツと会って話して一緒に居るだけで今は楽しい。この先、もっと楽しい時間があるはずだ。それを一つ一つ楽しんで行こう。その末にこの恋のゴールがきっとあるのだから。




リメイク前六話とほぼ同じ内容です。
変更点は翠屋でのお茶会が楯無視点からすずか視点に変更になっている事と、恥ずかしがっている皆の会話シーンの視点が楯無からアリサになっている事でしょう。
理由は単純に今まで出番が少なかったから。
この二つは誰でも良かったと思いますけど、一番、八雲とこういう時間を過ごしたかった二人に任せる方が良いかなと思い、こうなりました。


次回から、臨海学校編です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 今の僕だから言える事

臨海学校編始まります。


「海か……」

 

僕はバスの外に見える景色を見てそう呟いた。海なんて見慣れたものだから、他の周りほど盛り上がれない。むしろ、海は良い記憶がない。戦いの記憶だけだ。初めて魔法に関わった、ジュエルシードの時も最後はそうだったし、僕は直接見ていないけど闇の書の時も最後は海だったらしい。

……そういや、しおりに僕の部屋がどこか書かれていなかったけど、何処になるんだろ?

 

 

 

旅館に着いて部屋に案内される。

僕の部屋は一人部屋。しかも泊まっている旅館で一番いい部屋だ。織斑先生が言うには会社側が用意してくれたらしい。後で社長にお礼を言っておこう。

今日のこの後の時間は自由時間で、大体の人間は海に行くみたいだけど、僕は行く気が無い。

だって疲れるし。それに、僕の傷だらけの体を見せて、気分を悪くしてしまうのもどうかと思うし。これが理由で僕のISスーツはダイビングのウエットスーツみたいな全身をすっぽり覆うタイプの物になっている。

 

「お土産でも見に行くか。アリサとすずかと楯無さんと虚さんに」

 

なのは達や海鳴の人はいつ会えるか分からないから、買えないなあ。

後ろ二人は去年おととしと来てるから、要るかが微妙だけど、まあ、普段のお礼って事で。しかし、何にしようか。とりあえず食べ物系統にしようとは思う。キーホルダーとかアクセサリーとかも売ってるけど、僕はセンスないし、好みに合わなかったら貰っても嬉しくないだろうし。

とりあえず、一番量の少ない物を全種類買っていく。

 

「きーりん、何してるの~?」

 

全部の商品をカゴに入れて、会計に行くタイミングで本音に話しかけられた。後ろには一人女の子がいる。見た事無いから、別のクラスの子だろう。……雰囲気は違うけど、顔のパーツは楯無さんに似てる気がする。

 

「お土産探し。自分がちゃんと勧めれるもの買わないとね」

「おねーちゃんとおじょーさまに?」

「うん。後、アリサとすずかにもね。本読みながら、これを食べて時間を潰そうかなって思って」

「海にはいかないの~?」

「面倒。それに僕が長袖ばっかの理由も知ってるでしょ?」

 

生徒会の皆は僕の体の傷の事を知っている。アリサが僕の事を全部話したから。

 

「たしかにね~。そんじゃ、かんちゃんの事任せるよ~」

 

そう言って、本音は海の方に行ってしまった。……僕にどうしろと?

 

 

 

「「……………」」

 

無言の室内。

あの後、あそこで立ち尽くしても仕方ないので、一人部屋だった事もあり、ゆっくり出来るから僕の部屋に誘った。が、無言。本音がかんちゃんといっていた、更識簪さん。一年四組の代表で、日本代表候補生で、楯無さんの妹さん。簪さん(苗字で呼んだら呼ばないでと拒否されたので名前で呼んでいる)は空間投影型のディスプレイとキーボードを使って作業をしている。

ミッドではかなり一般的に普及してるけど、地球ではかなり高くて持ってる人は少ないから、あんまり見かける事がない。持ち運びが便利だし、ここで作業するつもりで持って来たのかな?

 

「えーっと、簪さん?」

「……何?」

「お菓子あるから、どうそ」

「ありがとう……」

 

だーっ、会話が続かねえ~。つーか、何を話せばいいんだ?

……そっか、アリサもすずかも楯無さんも本音も虚さんも話題を振ってくれるから、会話に困らないんだな。その能力が僕には無い、と……。やばいよなあ……。

 

「何やってるかは知らないけど、根詰めてやってて疲れない? 少し休んだ方が良いよ」

「……姉さんや本音に何も聞いてないの?」

「いや、全然。僕自身今の生徒会の人とクラスの何人かしか交流ないし。その交流を本格化させたのもここ数週間くらいだし。もしかしたら言ってたかもだけど、その頃の僕は何にも興味無かった頃だしね」

 

でも、多分楯無さんも本音も虚さんも言ってなかったと思うんだけどな~。

 

「そう……。でも、これは私が今最優先でやらないと駄目な事だから」

「差し支えなければ教えてくれる?」

 

簪さんは少し考えた後、話し出した。

 

「……本当は私も霧島君みたいに、専用機が貰えるはずだったの。でも、織斑君の専用機の開発で私のは中止。私はそれを引き取って、自分で開発しているの」

「……いや、それって普通に凄いじゃん。代表候補生に選ばれる腕があって、それでなおかつ、開発できる能力もあるなんてさ。僕なんて、会社の人に付きっきりで最低限の整備の知識を教えてもらっただけでヒイヒイだよ」

 

この時、僕は技術者向きじゃないと本気で思った。どこまで行っても扱う事にしか適正は無い。

長期の任務で次元航行船に乗り込んだの時、持ち込んだ本を全部読んだ後にデバイスマスターの試験の参考書があったから目を通してみた時も頭が痛くなったし。

 

「でも、姉さんは独力で組み上げたし、私も負けたくない」

 

……ん? なにかおかしいぞ。

 

「ちょっと待って。僕が楯無さんから聞いた話だと、楯無さんの機体は七割は出来ていて、詰まっていた所を同級生や虚さんの協力があって作り上げた、努力の結晶って言ってたけど?」

「えっ?」

 

何故か、根本的な食い違い。これは何が正解なんだ? 今わかっている事を組み合わせていく。

 

「うーん……話を纏めて、考えると、楯無さんが自分の専用機の開発に関わったのは間違いない。だけど、独力じゃない。でも、噂に尾ひれが付いて、『楯無さんが開発した』になったって事かなあ。多分。もしくはロシアのプロパガンダか」

「……私は今まで思い違いをしてて、意固地になってたって事? じゃあ、これからどうすれば……」

 

思わぬ事実に動揺を隠せない簪さん。まあ、根本から崩す事だしな。

 

「うーん……、正直それは簪さん次第だと思うよ?」

「私次第?」

「うん。簪さんが何を一番したいかによると思う。例えば『ISを独力で作る事』なら、今まで通りで良いし、『ISの腕を磨きたい』なら、ここで止まっていられないだろうから、使える物は何でも使って一刻も早く完成させる、とかね」

 

でも、この『一番したい事』をはっきり決めるのは難しい。実際、あの日から数年の僕はこれを見つけられず、ひたすら戦い続けていたわけだし。今僕の一番したい事は……僕の次の人生の指針を見つけたい、かな?

 

「私が一番やりたい事……姉さんに追いつきたい。いや、追い抜きたい」

「ふむ、ハードル高いね。楯無さんに追いつくとなると……専用機の完成と国家代表になる事かな。これで追いつけたって言えると思うよ。追い抜くには……IS学園の公式戦で勝つか、専用機開発を自分だけでやり遂げるか」

 

もしくは両方なんだけど、それをするには時間が無さすぎると思う。だから、どっちかに絞った方が良い。

 

「確かに高い。でも、やみくもに何かをするよりもはっきり目標がある方が良い。努力のし甲斐がある。……なんか、霧島君、同い年って感じがしないね」

 

そういう、簪さんの目はまっすぐ前を向いていた。力になれたようで何よりです。

そりゃ、前世の記憶も持ってますし、今世でも色々経験してきましたからね。

 

「大人びてるっていう褒め言葉として受け止めておくよ。方向も決まったんだし、臨海学校の間はゆっくりすれば? リフレッシュと切り替えの意味も込めてさ」

「……うん、そうする。色々ありがとう、霧島君」

「僕も下の名前で良いよ。後、楯無さん関係で色々あるっぽいけど、楯無さんに言いたい事があるなら、言っておく方が良いよ。言わない後悔より、言って後悔した方が絶対良いから」

 

これは僕の経験。何時、その人と会えなくなるかは分からない。だから、胸の内に秘めている物はなるべく伝えた方が良い。伝えないで良い物もあるけど。僕はこの事で後悔をしたから、この言葉を言った。同じ思いはしてほしくないし。

 

「考えてみるよ」

「頑張ってね、簪さん。応援してるよ。僕が力になれる事ならいつでも言ってね」

「ありがとう。後、その……私も本音みたいに呼び捨てで良い」

「うん、分かった。よろしくね、簪」

「よろしくね、八雲君」

 

そう言って、簪さん改め簪は部屋を出ていった。

 

 

その日の夜、夕食の時に会った本音に「かんちゃんの雰囲気が柔らかくなってたけど、何かしたの~?」と聞かれたので今日会った事を簡単に話したら、「色々ありがとね~。ちょっと前のきーりんよりは酷くなかったけど、かんちゃんも思いつめてたから、何とかしたかったんだよね。きーりんに会わせて、良い方向に持ってければって考えてたけど、想像以上だよ~」と言っていた。

なるほど、あそこでの行動は本音の計算通りだったんだね。

本音は簪さんにとって、僕におけるアリサやすずかの立ち位置で、僕は楯無さんの位置に居る訳だ。

アリサとすずかは僕を立ち直らせるために、僕の交友関係に関係無くて信頼のおける人を近くに置いて、別の方向からのアプローチをやったみたいだけど、今回もそれに近い。

……まあ、丸く収まったわけだし、僕が少しでも力になれていたのなら、それでいいかと思う。

あ、そうそう。お土産はせんべいにしました。個人的に一番好きだったので。買ったら、お店の人にせんべいにあうお茶を紹介されたので、それもセットで買いました。

 




のんびりペースの艦これイベの合間に投稿です。今日中にE-2の突破を考えていたのですが、かなりスムーズに攻略できたので(出撃9回でゲージ破壊完了)この時間での投稿となりました。

今回はほとんど修正前7話と同じです。変わったのは細かい言い回しレベルです。

次回はほぼ新作になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 私のこれから

この作品初の出来事が起こります。


私が彼、二番目の男性操縦者、霧島八雲に興味を持ち始めたのは、数週間前、学年別トーナメントが中止になった頃だ。切っ掛けは私の幼馴染である本音が良く話すようになったからだった。

それまでも噂で「強い」だの「怖い」だの「気味悪い」だの悪い事は耳に入って来てはいた。でも、本音から聞くのは真逆の「真面目で優しい」という物だった。強いだけは一緒だったけど。その強さを目の当たりにしたのは関係者以外立ち入り禁止になっていた霧島君のトーナメントの再試合だった。

私はその試合を本音に頼んで立ち会わせてもらった。理由は私の姉であり、学園の生徒会長でロシア代表の更識楯無との戦いだったからだ。

その試合、霧島君は圧勝とまではいかないけど、苦戦せずに勝った。お姉ちゃんが弱かったわけじゃない。少なくとも私なんかより遥かに強い。でも、霧島君はそれを超えた。霧島君の事を知らない人が怖いというのも分かる気がする。力だけを判断材料にするのなら。でも、私は本音はそんな事で嘘を言う子じゃない事を知っているから、きっとその強さに彼なりの理由があるのだと思った。

そして、臨海学校の初日、一人で専用機開発のための作業をしようと思っていた私は本音に捕まり、偶然見つけた霧島君に預けられた。

彼の部屋に行って、自分の息抜きついでに、何をしているか、何でしているかを彼に話した。

今思うと私は誰かに話して楽になりたかったのだと思う。でも、私は引っ込み思案で人付き合いが上手い方じゃないからずっと、抱え込んでた。本音やそのお姉さんの虚さんも居たけど、お姉ちゃんにも近しい人だから、言い出せなかった。霧島君も近いけど二人よりは遠いだろうし、何より、彼の雰囲気なのか、話し易かった。

話してみて本音の言っていた優しいの意味がよく分かった。

多分、こういう時に一番簡単なのは慰める事。次は答えを提示する事だと思う。でも、霧島君がしたのは上手く話を持っていって、私に答えを出させる事だった。

他人に出された答えと自分で出した答え。どっちが納得できるかといえば後者に決まっている。そこまで上手く導いてくれた事と、自分で自分を追い込んで視野狭窄になってた私を目覚めさせれくれた事。それだけで感謝の気持ちでいっぱいだ。

彼の優しさに触れた事で私には二つ気持ちが生まれた。

1つは一度お姉ちゃんとちゃんと話し合ってみようという事。私はここ数年意図的にお姉ちゃんに壁を作っていた。切っ掛けはお姉ちゃんの言葉からだったけど、私はそれで生まれた自分の気持ちを押し殺して壁を作った。

でも、そんな事をしても、やっぱり私はお姉ちゃんが大好きで、尊敬している事には変わらない。それに気付けたから言わないで悩み続けるより思い切ってぶつかってみようと思った。

もう一つは……私が霧島君の事を好きになったって事。自分の事ながら優しくされただけで惚れちゃうなんて単純だなあと思うけど、そうなっちゃったんだから、仕方ない。

でも、一発でそう思っちゃうくらい、霧島君のううん、八雲君の横は居心地が良い。同い年とは思えない位の落ち着き具合が私の心までを落ち着けさせてくれるのだと思う。

少し話して一緒に居ただけの私がこうなんだから、お姉ちゃんや本音、虚さんもそうだろうし、八雲君の昔からの友達でそういう人もいるだろう。負けたくないとは思う。でも、これで仲直りしようとしているお姉ちゃんや、幼馴染で親友の本音や頼りになるお姉さんの虚さんと仲が悪くなるのも嫌だ。……とりあえず、本音に相談してみよう。

 

 

 

夕食を食べた後、私は本音と二人でロビーの談話スペースに居た。皆はほとんどどこかの部屋で集まってお話をしているみたいだけど、二人で話したいからここにした。丁度、ロビーには人がほとんどいないし。

 

「それで、かんちゃん。お話って何~?」

「えっとね、今日八雲君にいろいろ話して、やっぱり、私はお姉ちゃんの事が大好きだって気付いたから、仲直りしようと思ったの。それで、本音にも手伝ってほしいなって思って……」

「良いよ~。むしろ、私とお姉ちゃんはかんちゃんとなっちゃんには仲直りしてほしいって前から思ってたもん」

 

……駄目な姉妹でゴメンね、本音。後、おねえちゃんの呼び方が昔に戻ってる。素が出てるのかな?

 

「帰ったらお姉ちゃんにも連絡して、早く仲直りしちゃお? おじさん、おばさんも心配していたし、仲直りした姿見せた方が良いよ~」

「……そうだよね」

 

お父さんもお母さんも心配してくれてたのは分かってた。だけど、それすら今までの私は遮断していた。気付いていたのに気付かないふりをしてた。それだけ自分の事に一生懸命だったと言えば聞こえはいいけど、それだけ自分の事しか見えてなかった。

 

「良かった~。きーりんに任せて正解だったよ~」

「やっぱり、あそこで八雲君に任せたのは狙ってたの?」

「うん! きーりんをかんちゃんに紹介したかったし、きーりん、優しいから親身に話聞いてくれるかな? って思ってね~」

 

確かに、八雲君は初対面の私にも優しく接してくれたし。話も聞いてくれた。お蔭で迷っていた自分の心に結論を出す事が出来た。

 

「それとね、本音。私……八雲君の事好きになっちゃった」

「そっか~」

 

アレ? 結構あっさり受け入れられた? 反対されると思ってたから意外だった。

 

「……怒らないの?」

「どうして? きーりん優しいし、カッコいいし、強いもん。好きになるの分かるよ。それに人を好きになるのは自由だもん。かんちゃんがきーりんを好きになるのもそれはかんちゃんの自由だよ」

「そっか……」

「後、なっちゃんもお姉ちゃんもきーりんの幼馴染も好きになってるんだから、かんちゃんが惚れちゃうのも予想してたもん」

「やっぱりお姉ちゃんや虚さんもなんだ。なら、なんで告白しないの?」

「それはねー、色々きーりんにあったんだよ。きーりんが暗かった理由が最近ようやく解決して、自分の事で一杯だから、私達の気持ちを押し付ける訳には行かないよ~」

 

皆、八雲君の事を第一に考えての事だったんだね。私も見習おう。でも、まずは八雲君を知る事から始めよう。

 

「本音。私、もっと八雲君の事、知りたいな」

「良いよ~。あっ、でも私は説明上手じゃないし、もうすぐ消灯時間だから、帰ってからお姉ちゃんやなっちゃん、きーりんの幼馴染達を交えてゆっくり話す機会を作るよ~。だから、それまでになっちゃんと仲直りしちゃお? 私達も協力するからさ~」

「分かった。頑張る」

 

もう私の心は決まった。

お姉ちゃんと仲直りして、専用機も色んな人に協力してもらって作って、自分の腕も磨いて、胸を張ってお姉ちゃんの妹だと言えるようになる。それと同時に『更識楯無の妹』じゃなくて『更識簪』だと周りに認めさせる。そのために全力で進んで行こう。

八雲君にももちろん手伝ってもらおう。力を貸してくれるって言ってたし。その間にお互いがお互いの事を知っていければいいと思う。

 

「ありがとう、本音」

「ほえ? どうしたの、かんちゃん?」

「私の為に色々してくれた本音にちゃんとお礼が言いたかったの。今、すっごくすっきりしてるのも、こうやって八雲君の事を好きになれたのも本音のお蔭だから」

「なんか、恥ずかしいな~」

 

少し顔の赤い本音。

幼馴染だからこそ、面と向かってお礼を言う機会って減ってた気がするし、成長していくにつれて主と従者の関係が出てきちゃってたからね。

だけどやっぱりそんな関係より、本音には幼馴染の親友で居て欲しい。……うん、今度から弱い所、家族に相談しにくい事、色んな事を本音に打ち明けていこう。

私の自慢の親友は受け止めて包み込んでくれる優しさを持った最高の幼馴染だから。




艦これE-3突破できたのでアップします。このノリでE-4、E-5が突破出来たらその都度更新していこうかなと思ってます。今回は出撃6回で甲作戦クリア。割とスムーズに行きました。
これを読んでいる提督さんはメッセージに攻略のコツやお勧めの編成とか送ってくれると嬉しいです。



本編の方ですけど、完全新作です。
そして、初めての全編一人の目線で進みました。多分、まだ、八雲すらやってないはずです。
簪もヒロインに! 修正前の更識姉妹の仲直り回を書いていて、ワンチャンアリかなと思い、こうなりました。

次回は福音戦。頑張って書きます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 イベント、それは事件のフラグ

福音戦です。


さて、学園的には臨海学校のメインイベント(生徒的には初日の自由時間がメインイベントだろう)、一日通しての装備のテスト、楯無さんや虚さんに言わせる所の『デスレース』の始まりだ。

『デスレース』の所以はこのテスト朝の9時に始まり、日が沈んで夜の8時までほぼノンストップで行われる。全員が休憩するのはお昼ご飯の為の30分ほど。後は分かれた班ごとに休憩を合間合間に取る。大体9時間は動かないといけない。終了後、大浴場に行く体力も無く、泥のように眠る生徒が続出するらしい。……どんだけ過酷か想像も出来ないなあ。ってかしたくない。

専用機持ちは機体、というよりその国家事の開発事情によるらしいけど、今年は多いので、その分他の企業も力を入れていて、送られてきたものも多いらしく、そっちのもしないといけないから、例年より大変だろうと予測していたのは虚さん。

まあ、管理局の装備のテストをやった事も一応あるし、長時間の休みなし労働も得意ではあるから、そこまで問題も無いだろう。

ちなみに、労働の方は言われたからでなく、自主的にだ。

生き方を切り替える事を選んでから、とりあえず、なのはやフェイト、ユーノやクロノなど魔法関係の友人や知人には連絡だけしておいた。その時、リンディ提督に「貴方を連れてきたのは私だったから、『有給を取るように』とか『働き過ぎだから休ませろ』ってせっつかれたわよ。合計で250日くらいは取ってないもの」と小言を頂いた。

普通の休日すら満足には取ってなかったし、色々迷惑かけて居たんだなあと再認識した。その節は本当にすみませんでした。今度、士郎さんと桃子さんにお酒を見繕ってもらおう。お詫びの品として。

 

 

 

 

なんかよく分からないけど、緊急事態が起こったので、装備のテストは中止になった。

専用機持ち―僕、織斑君、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんについさっきISの生みの親篠ノ之束博士に専用機を貰った篠ノ之さん―と先生方のサポートとして生徒会役員の本音と代表候補生の簪は昨日の夕食の場所になった大宴会場に他の教師陣と共に集まり説明を受ける事になった。

纏めると、数時間前ハワイ沖で稼働試験をしていたアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音』が暴走。監視衛星などを駆使して航路を予測、残り一時間ほどでこの付近の海上を通過するらしい。

僕達にはそれの捕獲、もしくは撃墜が命じられた。

……いくつか言いたい事があるんだけど。まず、これを収集するのは在日アメリカ軍だろ。次点は自衛隊。少なくとも学生である僕等のやる事じゃ無い。しかも、日本には被害が無いのに、それをわざわざやらせるなんて意味が分からない。どんだけ、自分のメンツが大事なんだよ。

それと、今の作戦会議。これは必要なのか? やらないといけないのは捕獲か撃墜。時間は一時間も無い。そんな中で悠長に作戦会議をしている暇があるのか甚だ疑問だ。こんなものは指揮官が適性を見極めてスパッと指示をだすものだろう。

まあ、教師である織斑先生にそれを求めるのは酷か。

僕がそんな事を思っている間にも、出撃メンバーやら何やらが決まっていく。

作戦は超高速下での一撃必殺を当てる、一撃離脱。メンバーは……どうやら、織斑君になりそうだ。

ただ、福音は超音速飛行中。織斑君の足になるものが必要だ。

大体のISの最高速度は所謂遷音速、旅客機の飛行速度位の速さで飛行する。音速に少し届かない程度だ。僕達の専用機もそうなっている。

対する福音は現在マッハ2に近い速度で飛行中。単純に倍以上の速度で飛んでいる。この速度差を埋めるのはかなり難しい。

僕はやろうと思えばできるけど、出撃するのは織斑君で、彼は素人だから、無理だろう。

結局、篠ノ之博士の推薦もあって、織斑君の足の役割は篠ノ之さんが担う事になった。……大丈夫かなあ? 篠ノ之さんどう見ても浮かれてるし、ヘマしなきゃいいけど。

 

「万全を期すためだ、霧島、お前も普通の速度で良い。付いて行け」

「了解」

 

もし、第一陣で出るんだったら確実に断っていた。だって、何の利もないのにケンカ売りに行くなんて、絶対に嫌だし、しかも命の危険もあるんだから、断るに決まってる。これは強制じゃないわけだし。たとえなんと言われようとも今の僕は理由がない限り命を賭けるつもりは無い。

後詰を引き受けたのは、ここで断って、何かがあると寝覚めが悪いから。ただそれだけだ。二人で決着が着いたらそれはそれで良しだしね。

 

 

 

「ちーちゃん」

 

織斑、篠ノ之、霧島の三人が海岸で出撃の準備をしている間に私達は指揮のための準備を進めている。その時に、まだ部屋に居た束が私に話しかけてきた。

 

「何だ、束」

「あの二人目の子そんなに強いの? 単独戦力としていっくんと箒ちゃんに付いて行かせるんだから、よっぽどでしょ?」

「強い。明日モンドグロッソを開いたらブリュンヒルデになる位にはな」

 

仕事上、世界のIS業界の情報は自然と入って来るし、現役時代に戦った人間も何人も居る。その者たちと比べても霧島は比べものにならない程高い腕を持っている。技術だけでなく、戦いが上手い。それこそ、この点では私より上だ。これは想像ではなく確信だ。

 

「ちーちゃんの目を信用しないわけじゃないけど、それは流石に嘘だ~」

 

束の言葉も最もだ。いくら束にとって信用できる私の言葉でも、私が言ったのはISに乗り出してたった三か月の男性操縦者が現在世界最強だと言っているのだから。

 

「それは、見てみればお前も分かるさ。とにかく、現在ここに居る中で最も信頼のおける戦力であることには違いない」

 

戦闘能力だけではない。この前の無人機の一件で見た、判断力の高さ。後方からの私達の指示よりも霧島の方が的確かつ素早く判断を下せるだろう。この非常事態を任せるだけの力は持っている奴だ。……教師として、大人として生徒、子供に任せるしかないとは不甲斐ないな、私は。

 

 

 

海岸を出発してすぐ、篠ノ之さんは一気に加速して空域に急行した。なんていうか……浮かれてる? 継戦時間を考えなければ速度をあげられるんだけど、それをやると戦えないから、このままで行くしかない。

僕が現場に到着すると、負傷して意識を失ってる織斑君がいた。……ていうか、篠ノ之さんはまだ福音が健在で何をしてるんだよ! ここは試合会場じゃなくて実戦の場なのに!

 

『織斑先生、織斑君が負傷していて、篠ノ之さんも戦意喪失。誰か回収に回してください。福音は僕が引き付けます』

 

まずは報告と意見具申。映像は見えているはずだから、この場は最低限の物で良い。

 

『分かった。残った専用機持ちに出撃させる』

『お願いします』

『この時点で作戦は失敗だ。織斑、篠ノ之両名の退却完了後、頃合いを見て退却しろ』

『了解です』

 

って、そんな間にも攻撃されそうだし。

 

「カートリッジロード。Nバレット、ファイア」

 

誘導弾を今僕が扱えるギリギリの数出して二人への福音の攻撃を迎撃する。

福音の攻撃の第一波をしのいだら、そのまま一気に加速して、押し込み二人から福音を引き離す。とりあえず、攻撃の対象を僕にして、二人から引き離して、時間を稼げばいい。多分、かなり無茶をすれば勝てない事は無いと思うけど、そんな指示は出ていない。情報も少ないし、ここは偵察に専念しよう。使えるかどうかは分かんないけどね。

その後、福音は僕が積極的に仕掛けてこない事に気付いたのか退いて行った。なので僕も織斑先生の指示に従って旅館に戻った。




福音戦はそう簡単には終わらないんですよ!
という訳で福音戦前編をお送りしました。戦闘は凄く短かったですけどね。

今回の話の変更点は織斑先生目線の部分を作った所。原作と違って、ただ、束の意見を入れるだけでなく、必要だと思う手段を取りました。
責任者として、教師として、大人としての思う所もありつつって感じですね。


次の話も大体、仕上がっているので早めに上げようと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 剣と魔を以って

福音戦の後半戦をお送りいたします。


(叢雲、福音の位置は掴んでるよね?)

(もちろん。先ほどの交戦地点から東南東に10キロの地点に佇んでいます)

(いざとなったら、飛行魔法で飛んで行って、戦闘時にIS纏う方法で行けばいいか)

 

今僕は昨日から泊まっている部屋でのんびりしている。作戦が失敗したので、待機と休息を命じられたからだ。部屋に戻る前に僕は戦闘した感じやそのデータを纏めて報告しておいた。作戦の一助になれば良いかな。

だから、昨日買ったお菓子とお茶を飲みながら、次の指示を待っている。……っと、来たな。

 

「何ですか?」

『お前以外の専用機持ちが無断で出撃した。連れ戻して欲しい』

「了解」

 

立ち上がって、すぐに外に出る。その時、ふと気になった事が有ったので織斑先生に聞いてみる。

 

「……あの、僕以外って言ってましたけど、まさか織斑君も?」

『そうだ』

 

あの怪我でどうやって? いくら操縦者保護があるって言ってもISの操縦の体への負担は半端ない。怪我がある状態で乗って良い物じゃない。怪我の悪化はほぼ確実。下手すりゃ命を落としすらする。

 

「分かりました、連れ戻してきます。……しかし、どうやって位置を把握したんですかね?」

『大方、ボーデヴィッヒがドイツの軍事衛星を使ったのだろう。そこそこの地位にある軍人だからな』

「なるほど」

 

職権乱用にもほどがあると思うけど、それは今は良いか。さっさと行こう。

 

 

 

織斑先生に教えてもらった位置に向かうと、もう福音戦は終わっていた。めでたしめでたしだね。さて、皆に……

 

(マスター、高魔力反応! 福音の地点からです)

(まさか、この前の学年別トーナメントみたいな事!?)

 

福音の残骸は見る見るうちに変化していき、異形の暴走体になった。まるで海坊主だな。……ってそんな事言ってる場合じゃないだろ! とりあえず、全員を逃がさないと……。

そう思った瞬間、暴走体の近くにいた織斑君に鋭い触手が襲い掛かる。織斑君は相手から目を離していたからよけきれない。

 

「クソッ」

 

僕は触手と織斑君の間に割って入り、それを受け止める。絶対防御、ISスーツを貫き、僕の体にそれは突き刺さった。そこから流れ出る僕の血。これは……結構深いかな。

 

「き、霧島……?」

「やあ、専用機持ちの皆さん。織斑先生の指示で引くように促せと言われて来たから、さっさと退いてくれないかな? どうせ、あの化け物と戦うエネルギーなんてないし、そこにいる福音のパイロットさんも連れてかないと駄目でしょ?」」

「でも、お前のその傷!」

「これ? 見た目ほど痛くないから、大丈夫。それより、さっさと退いて。仕事が出来ない」

 

無論、痛くないってのは嘘だ。メチャクチャ痛いし、今この瞬間も血は流れている。意識だけ失わない様に気を張らないとね。

 

「お前を放っておいて下がれるか!」

「そう言う問題じゃないんだよ。ここから先は僕の管轄。たとえ。織斑先生がなんと言おうとも、これを何とか出来るのは今は僕だけなんだよ」

 

事情の知らない、魔力を持たない人間が居た所で余計な被害が出るだけ。それに、僕にはそれを説明をする余裕も無い。だから、早く退いてほしい。

 

「でも!」

「……ああ、めんどくせえ。叢雲、僕と、アイツだけを切り取った結界を頼む」

「了解」

「なにを……」

 

全ての言葉を聞かぬまま、結界が展開される。これでこの結界内には僕と暴走体のみ。

 

「とりあえず、応急処置するか。キュア」

 

と言っても、傷が大きすぎるから、ほとんど効果がない。……何時まで持つかな?

 

「といっても、ここから先で暴走させるわけにはいかないよなあ」

 

この先には本音や簪を始めとした無関係な同級生たちが居る。なら、僕は持てるすべてを使って、守り抜こう。それが僕の選択だ。自分自身が後悔しないための選択だ。

 

「叢雲、オーバーリミッツで片を付ける」

「マスター、体の負担が大きすぎますし、隙も生まれます。今の状態ではあまりにも危険です」

 

相棒である叢雲の僕の体を慮った忠告。それは嬉しい。だけど……

 

「んなもん、知ってるけど知った事か。僕がやらないで、誰がやるっていうのさ。僕の魔と剣を以って人々を守る。これが今の僕の選択だ」

「……了解」

「ゴメンね、叢雲。こんな無茶しいのマスターでさ。……カートリッジフルロード。オーバーリミッツ強制解放!」

「Mode Release Over Limit」

 

オーバーリミッツの強制解放で、体が悲鳴を上げる。でも、この程度で!

 

「天光満ところに我はあり」

 

膨大な魔力を感知したのか、暴走体は僕に向けて攻撃を激しくする。隙だらけの僕はそれを受けるしかない。だけど、詠唱だけは止めない。

 

「黄泉の門開くところに汝あり」

 

正直、血の流し過ぎで意識が朦朧とするけど、それを意地と気合で堪える。

 

「出でよ神の雷! ……この勝負、僕の勝ちだ! インディグネイション!」

 

僕の最大級の魔法を発射する。絶対的な自信を持つ切り札。これで、沈んでくれよ。

 

「魔力反応なし。封印を確認」

 

よ……かった……。叢雲の報告を耳にして一安心する僕。やば……安心したら張り詰めてた気が……。

 

「叢雲、後はま…かせ……」

 

最後まで言い終わらず、僕は意識を失った。

 

 

 

きーりんがおりむーを助けて、その後モニターから化け物と一緒に消えてしまって作戦室内は混乱していた。

織斑先生は専用機持ちを退却させ、次の事態に備えようとしている。

多分、この事態をこの場で把握できているのは私だけ。

画面から消えたのは魔法の被害を減らすための結界。それを使ったという事は、きーりんはとても大きな魔法を使って決着を着けるつもりなんだろう。怪我の事もあるし、時間に余裕も無いだろうから。

決着を着けて、最速で帰ってくる手段は、転移魔法。これなら、ISみたいに体への負担も掛からないから、怪我人であるきーりんが選ぶ手段だろう。

私が出来る事はきーりんが来そうな所を予想して、すぐに織斑先生に報告する事。応急処置の医療班の用意は先生がしていたから、それだけでもしないと。

私は、自分の目の前のモニターに旅館近くの海岸を映して、その映像に集中する。……来た!

 

「織斑先生! きーりん、海岸に発見しました!」

「そうか。医療班! 急いで治療に行け!」

 

織斑先生の指示であわただしくなる、作戦室。

医療班の報告できーりんは病院に運ばれる事になった。

 

「更識、布仏」

 

救急車が来るまでの間に私とかんちゃんは織斑先生に呼ばれた。

 

「何ですか、織斑先生」

「事態が収束したか、まだ微妙な所なので、私はこの場から離れられない。後始末もあるしな。なので、お前たち二人には霧島に付き添って病院に行ってもらいたい。頼めるか?」

「「はい!」」

 

むしろ、きーりんの容体は私もかんちゃんも気になる所だったから、渡りに船といった所だった。

だけど、担架に横になって運ばれているきーりんを見て、私達は言葉を失った。

お腹にある大きな傷口からはもちろん、それ以外にも大小、いくつもの怪我がある。そこから流れ出た血でISスーツは赤茶色に染まっている。

それを見てからの事は私は全然覚えていない。それくらい、衝撃の光景だった。

 

 

 

大怪我を負っている八雲君の姿を見てから本音はずっと泣き続けている。救急車に乗っている間も、手術中も、病室に運ばれてからも。

私もショッキングだったけど、横で本音が泣いていてくれたから冷静になれた。だから、落ち着いて病院の先生に八雲君の容体を聞いて、それを旅館に居る織斑先生に報告した。とりあえず、私がやるべき事はこれで終わり。

病室の八雲君の枕元に座り、一息付く。する事が無くなったからなのか、やる事をやって気が抜けたのか、涙があふれ出してきた。一度そうなると、涙は止まってくれない。拭っても、どんどん流れてくる。

お願い……目を覚まして、八雲君。




これにて福音戦は終了です。いかがだったでしょうか?


傷付いた八雲を見た、本音と簪の描写を追加しました。前の話で作戦に参加しているようにしたので、このようにしても良いかな? と思いました。

次回は……リメイク前の事を知っている方なら、どうなるかご存知でしょう。お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 少年の還りを待つ少女たちの想い

二話連続投稿です


八雲君が瀕死の重傷を負った。

私がその連絡を織斑先生から受けたのは、いつも通り虚ちゃんと生徒会の仕事をしている時だった。

私と虚ちゃんが急いで病院に駆けつけると、この前の学年別トーナメントの時とは比べものにならないほどの大怪我を負って、ベットの上で眠っている八雲君が居た。その横では号泣の本音ちゃんと静かに涙を流す簪ちゃん。

涙ながらに二人が教えてくれた病院の先生の診断によると怪我は、腹部の大穴を始め大小の裂傷が数十か所。そこからの出血で4割ほど血が流れたらしい。診断した先生曰く「後、数分遅れていたら助からなかった。締め付けの強いISスーツのお蔭で繋ぎとめたようなもの」と言っていたほどの怪我だった。

病院の先生が部屋を出ていった後、私は本音ちゃんと簪ちゃんに今までの話の事を聞く事にした。簪ちゃんとはぎくしゃくしてたけど、今だけは無視だ。それは後で考える。

 

「本音ちゃんに簪ちゃん、何があったの? 福音暴走の一報はこっちに来てたけど」

「えっとね……きーりん以外の専用機持ちの皆が勝手に出撃したから、それを退却させるようにきーりんに命令が下りて」

「合流する直前に二次移行した福音は他の皆が落としたんだけど、その後、よく分からない事になって……」

 

よく分からない事? どういう事だろう?

 

「ここからは私が説明します」

 

病室に響く電子音。恐らく一番事情を知っている存在だ。

 

「だ、誰?」

 

そうだった。簪ちゃんは魔法の事を知らないんだった。私達は八雲君が変わった後から、生徒会室で叢雲とも話をしているから、気にはならない。

 

「簪ちゃん、今から簡単に八雲君の事説明するけど……聞く? 軽い気持ちなら後悔するくらい重い話だけど」

「……聞く。私だって皆と同じで八雲君の事好きだもん」

 

姉妹って好きな男の子まで同じになるのかな? 虚ちゃんと本音ちゃんもそうだから、ありえそうだよね。

 

「分かったわ。かなり信じられない内容が入ってるけど、全部事実だから聞いてね」

 

そう言って私達は簪ちゃんに八雲君の事についてのあらましを端折りながら説明していく。簪ちゃんはより暗い顔になっちゃったけど、それを受け入れたようだ。

 

「そう……なんだ。八雲君が大人びて見えるのもそれが理由なのかな?」

「そうかもね」

 

それはありそうだ。普通の人生じゃまず経験しない事を八雲君はこの短い間に経験している。だから、彼と話したりすると自分より年上の印象を受けるのだろう。

 

「お嬢様の説明が終わったので叢雲、お願いします」

 

そこから叢雲が映像を交えた説明を始めた。……八雲君の使った魔法の迫力にびっくりしたけど、叢雲が「あれがマスターの切り札ですから」と言っていたから、納得する事にした。

 

「ねえ、叢雲。八雲君はどうしてこんな怪我を?」

「暴走体を止めるためです。あの暴走体はISでは止めれません。と言うより、あれをあの時地球上で止めれたのはマスター一人です」

「きーりんは変わったんじゃないの~? もう自分から死ににいくような事をしなくなったんじゃないの?」

 

涙を拭いながらそう言う本音ちゃんの言葉通り、八雲君は前回の怪我の時を境にあんな真似をしないって言ったはずなのに……。

 

「マスターは確かに変わりましたよ。結果はこうなりましたけど、マスターには明確に戦う理由がありましたから」

「理由ですか?」

「ええ。マスターにとって、楯無を始めとした生徒会の皆さん、そして本音、簪を始めとした同級生の皆さんが危険にさらされているなら、それを黙って見逃すわけにはいかないんです。そしてマスターは止める手段も分かっている。それだけで命を懸けて退かずに戦う理由になるんです。管理局員のマスターにとっても個人のマスターにとっても。マスターにとっては自分が頑張った結果で誰かの笑顔が見れる事が護れたと思える事が何よりの報酬なのです」

 

それは言うなら八雲君のエゴ。他の人の気持ちも考えない、自分勝手な気持ち。

でも、それが八雲君の根本にあって、どんな時も、自分の命すら価値が見いだせなかった時ですら変わらなかった気持ち。

……本音を言うならこんな事は止めて欲しい。好きな人が傷付く姿なんで見たくない。これは私だけでなく、他の皆も同じだと思う。

でも、それを止めるという事は誰も出来ない。それを否定する事は多分、彼が彼じゃなくなる。そんな気がするから。

……今の私が彼の為に出来る事はあるのだろうか? 分からない。誰でもいい、答えを教えて欲しい。

そんな事を考えるとこの病室に近付いてくる足音が聞こえた。

 

「楯無! 八雲の容体は!」

 

病室に駈け込んで来た、さっきの足音の主であるアリサ。

 

「アリサちゃん、病院では静かにね?」

 

後ろにはすずかちゃんも居る。今の八雲君の身元引受人はアリサのお父さんであり、バニングス社そのものだ。だから、会社経由でアリサに連絡がいったのだろう。そこから、すずかちゃんにもいったんだと思う。

 

「落ち着いてください、アリサさん。重傷ですけど、危ない所は抜け出したみたいです。意識を取り戻せば大丈夫だそうです」

「そう……。ホント、ゴキブリみたいな生命力ね」

「それはちょっと酷くない? アリサちゃん。それで、そちらの楯無さんに似た子は?」

 

そこから、簪ちゃんとアリサ、すずかちゃんの自己紹介をしてもう一回叢雲が事情説明。取り乱した私達と違って、二人はそれを粛々と受け入れた。

多分、気持ちとしては私達とそこまで変わらないと思う。でも、それ以上に二人は彼らしさを尊重しているのだと思う。……強いなあ。

 

「なるほどね。事情は分かったわ。……それと、アンタ達四人は一度顔を洗ってきなさい」

「えっ?」

 

アリサに突然そう言われたので、理解が出来なかった。

 

「四人ともその方が良いですよ」

「アンタ達、今結構酷い顔してるわよ。そんな顔で目を覚ました八雲に会うつもり? それなら今のうちに顔を洗ってきなさい」

「……そうするわ」

 

そう言って、部屋を出て近くのトイレに入った。鏡に映った私達の顔は確かに酷い物だった。こんな顔で八雲君に会ったら心配かけるわね。

 

 

 

私の幼馴染で初恋の人、霧島八雲は、誰よりも愚直で、不器用。でも、そんな八雲が私はいつの間にか、好きになっていた。だからこそ、アイツが愛する人に、アイツの心に住み続けるはやてに嫉妬をした事もある。

アイツは死にかけて、アイツの最愛の人に短い時間だけだけど再会した事でようやく前を見て歩き出した。

それからの八雲は少しずつだけど、確実に昔に戻っているように思う。いや、八雲にとって辛かった数年間にも向き合って、消化する事でより魅力的になったと思う……のは、惚れている私のひいき目からだからかな?

でも、生き方はまだまだ変えれないらしい。……いや、たとえ生き方を変えれたとしてもあの状況では退かないと思う。それが霧島八雲の変えられない所だと思うから。

私の本音を言うなら、こんな危ない目に合う様な事は止めて欲しい。もう八雲は十分に傷付いたのだから、これ以上傷付いてほしくない。これは私だけじゃない。他の皆も同じ気持ちだと思う。

でも、それを止めてしまったら、否定してしまったら、きっと霧島八雲じゃなくなる。少なくとも私達の好きなアイツじゃなくなる。そんな気がする。だから、否定する事は出来ない。ならばどうすれば良い? 私に出来る事は? 病院までの道でひたすら考え続けた。

その結果……1つだけ思いついた。じっくり考えればもっと手段はあるだろうけど、今の私にはこれ以上の方法は思いつかない。ただ、これは『私の出来る事』じゃ無い。私のやりたい事、自分勝手な気持ちだ。

色々思う事はあるし、傍から見たら、ありえない選択。それにこれはアイツの事を何も考えない、ただの気持ちの押し付け。だけど、私は後悔をしたくない。だから、この時だけはやりたい事をやろう。




引っ張りますよ~。

というより、ノリノリで書いてたら文字数が8000字近く言ったので、二つに分けました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 繋がる想い

二話連続投稿です。ここから見た人は一つ戻って、前のお話からどうぞ。


僕が目を覚ますと、目に入ったのは蛍光灯の光と見知らぬ白い天井。あの怪我だから、どこかの病院だろう。体中に痛みがあるって事は僕の体は五体満足らしい。……我ながら呆れるほどしぶといよ。自分の生命力に感心するね。

 

「「「「「「八雲(君)!」」」」」」

 

僕の視界の中に入って来たのはアリサとすずかと楯無さんと簪と本音と虚さん。皆一様に心配そうな顔。……やっちまったなあ。

とりあえず、喋りやすいように体を起こす。

 

「アタタタ……、皆心配かけてゴメン」

「ゴメン、じゃないよ! ここまでボロボロになって!」

「ホントだよ。こんな無茶しないでよ。私達がどれだけ心配だと思ってるの!」

「……見てて、心臓が止まるかと思った」

「いきなり画面からいなくなっちゃうんだもん」

「私もそうですが、皆さんそれだけ心配されてたのですよ」

「……ごめんなさい」

 

五人にそう言われて僕は謝る事しか出来ない。それに怒ってくれるって事は本当に僕の事を心配してくれたって事の裏返しだから。それに何人か目が赤いし。

でも、さっきからアリサが一言も喋らないな。……それほど、怒ってんのかな?

 

「えっと……、アリ」

 

僕が喋ろうとした時、アリサは僕の着ていた衣服の胸元を引っ張って、自分の方に近付けて……僕にキスをした。

………………えっ? ええっ⁉

 

「「「「「んな⁉」」」」」

 

驚きの声を上げたのは見ている他の五人。そりゃそうだろう。でも、僕が一番大きく驚いてる。

長いキスの後、離れたアリサは、

 

「私はねボロボロのアンタなんて見たくないのよ。でも、私が好きな八雲はなによりも自分の意志を貫く八雲よ。アンタが自分の生きる意味が見つからないって言うなら、迷ってるって言うなら、私がその意味になるわ! だから八雲、アンタは意地でも生き抜きなさい!」

 

そう言った。

答えようとした時、また襟元を引っ張られた。次はすずか。アリサと同じくらい長いキスの後、

 

「私もね、八雲君にこんな危ない事して欲しくないよ。でも、それを無くしたら、私の好きな八雲君じゃなくなるって言うのも分かってるんだ。だから、私がこれからの八雲君の帰ってくる場所になるから。それが私の気持ちで、私の出来る事で、私がしたい事だから」

 

……僕の脳はオーバーヒート寸前ですよ。そう思ってると三度引っ張られる。三人目は楯無さん。またまた長いキスの後、

 

「私は二人ほど長い時間八雲君と居たわけじゃないけど、それでも、こんな体になるまで無茶をして欲しくないのよ。でも、だからと言ってそれで八雲君の意志を否定するつもりもないし、それがらしさなんだから良いと思うし、そのらしさに惹かれたんだと思うの。だから、私は君を支えたい。これからずっと」

 

いっぱいいっぱいだけど、まだまだ終わらない。続いては本音。

 

「私は~ここに居る皆ほど何かが出来る訳じゃないけど、それでもきーりんの横にいる事は出来るよ。きーりんの横でならいつも笑顔でいれるよ」

 

この展開じゃ、まだ続くよね。その次は虚さん。

 

「私も言いたい事は皆さんと同じです。八雲さんの背負っている色々な物を少しでもお手伝いできるように、いえ、貴方の横で貴方のこれからをお手伝いさせてください」

 

そして、最後は簪。

 

「……私は皆ほど、八雲君を知っている訳じゃないけど、君への想いは本物だよ。だから、これから君と一緒に色々見ていきたいし、君の事知っていきたいな」

 

色々あり過ぎて一周回って冷静になれた。

……これは、皆それぞれ、僕への告白紛いのプロポーズって受け取ってもいいのかな? 良いよね? でも……

 

「……どうして僕なのさ。僕は過去を引きずって、迷って、何かに縋らないと生きれない、弱くて女々しい人間だよ」

 

今の僕は自分自身に自信が無い。皆の気持ちを受け止めれるほど強くない。

 

「過去を引きずったり、迷ったり、何かに縋る事がそんなに悪い事? 人なんだから、弱い所があるのは当たり前だよ」

「私は、ううん、私達はそんな八雲君も受け止めるよ」

「そうですね、むしろ私達にそういう姿を見せてもらえるのは信頼されているって事でしょうから、嬉しい事ですし」

「確かに。ていうか、自分を過小評価するのは止めなさい。アンタは誰よりもまっすぐで一途で、やり抜くと決めたらそれを貫き通す強さを持った人間よ」

 

……はやて、僕にもまた人を好きになるって気持ちは残ってたみたいだよ。あの時ああは言ったけど、僕には貴女くらい好きになれる人が出来るとは思わなかったんだ。

貴女を合わせて7人もの女性が僕の強い所も弱い所も纏めて受け止めて好きでいてくれる人がいる。それだけで僕は凄い幸せ者だと思う。

 

「皆、ありがとうございます。ちゃんと皆の気持ちを受け止めて、自分の納得出来る答えを必ず出します。……それまで待っててくれますか?」

「「「「「うん(ええ)」」」」」

 

五人は返事をくれたけど、切っ掛けを作ったアリサ本人だけ返事が無い。……やっぱり、優柔不断は駄目なのかねえ。

 

「……ねえ、八雲。私がなんであんな強硬手段に出たと思う?」

「自分で言うのもなんだけど僕を見かねてじゃないの?」

「そうなんだけど、告白ならこの二人が居ない所で出し抜く事も出来たでしょ?」

「まあ、確かに」

 

と言うか、そっちの方が普通か。この場で切り出したアリサの気持ちは少し分からない。……なんでだ?

 

「その答えがこの封筒の中に有るんだけど」

 

そう言って、持っていた封筒を手渡す。

 

「何これ?」

「政府、ひいてはIS委員会や国連からのアンタに関する書類。ウチの会社に来たのをパパに渡されたのよ。中身は私とパパしか知らないわ。そこにこの手段に出た大きな理由があるのよ」

 

なんだろ? 気になったので、僕は封筒を開けた。そこには一枚の紙にワープロで出力された文字が。

内容があまりにも信じられなかったので、何度も読み直す。……それで内容が変わる訳ではないけどさ。

 

「アリサ、これは正気なのか? これ、要約すると、一夫多妻制OKって事だろ」

「「「「「ええっ⁉」」」」」

 

皆の反応は正しい。僕だって内心すげー驚いてるし。

内容を簡単に言うと、「男性操縦者の搭乗は遺伝と関係あるのかの調査のために多数のサンプルの為に、自由国籍と一夫多妻制を認める」との事。

 

「正気みたいよ。……私は八雲が好き。でも、ここに居る皆を裏切って付き合う気も無いわ。だからアンタが誰かを選んだら、それで良いと思ってた。だけど、アンタが無茶して、こんな状態になったって聞いて、この知らせを受けた時に悠長な事をやってるヒマは無いって思ったの。世間的にも私達的にもね。だから……」

「告白したって事?」

「そう。それに、アンタは今まで沢山苦しんできたのよ。だから人の何倍も幸せになる権利があるの。だから、私達がその何倍もの幸せをアンタにあげる。絶対に子供や孫に囲まれて良い人生だったって言えるような人生にしてやるわ」

「えっと……展開が突然過ぎて混乱してるけど、八雲君はずっと自分を殺して来たんだから、わがままになっても良いよ? 私としても皆一緒に見てくれるのは嬉しいよ。これでぎくしゃくしたくないって気持ちもあるもん」

「アリサほどは言えないけど、私達を好きでいてくれるなら、それで八雲君が幸せになれると思えるなら、それで良いと思うわ」

「皆が仲良くならそれで良いんじゃないかな~」

「だね。世界が認めたのなら、それに甘えれば良いんじゃない?」

「ですね。苦労は皆で分け合って等分、幸せは皆一緒で等倍にきっとなりますよ」

 

……何で、皆はこんなにも僕を甘やかしてくれるのかな。

 

「その気持ちにもたれかかりたくなっちゃうよ……」

「良いわよそれくらい。今まで一人で色々やって来たんだから、これからは私達に頼りなさい。私達はそれが嬉しいんだから」

「何時まで経ってもずっとはやてを想い続けるよ?」

「それも良いわよ。アンタがどれだけはやてを想っていたかなんて、この数年のアンタを見れば一目瞭然なんだから。……それに、そんな八雲だから私達は好きになったのよ。ねっ?」

 

アリサの言葉に皆は頷く。

 

「そっか。……僕は貴女達の笑顔を護るためにこれからを生きます。貴女達の笑顔の為に僕は必ず生き続けます。だから、ずっと僕のそばで笑顔で居てください。それと、一方的な幸せは要りません。僕達が皆で幸せにならなきゃ意味がないんです。僕は僕を含めて皆が幸せになるために頑張りますよ。だからそんな僕の生きる理由になってください。帰る場所になってください。僕をずっと見守っていてください」

「「「「「「もちろん、喜んで!」」」」」」

 

真っ暗で先に何も見えなかった僕の人生はIS学園に入った事で大きく変わった。後で振り返ると多分こういうのを人生の転機だったと思うのだろう。

とりあえず、まずは怪我の治療からだな。身体能力強化の応用で治癒能力の促進も出来るし。その代わり、ずっと魔力を消耗し続けるけど、彼女達にいつまでも心配かける訳にはいかないからね。桁外れの魔力量を持ってるからこれ位は何とかなる。

これからは……どうしようか? その辺も皆と話し合ってゆっくり決めよう。最終的に決めるのは僕かもしれないけど、それまでの過程で相談が出来る。もう何もかもを背負い込む必要はない。僕には支えてくれる人たちが居るのだから。

 

 

 

 

はやて、自分で選んだ道だけど、どうやら僕は傍から見たらかなり面白おかしい人生を歩みそうだよ。まあ、それを空の上から楽しんで見守っておいてくれると嬉しい。常識から考えたら結構酷い事だから今度そっちに行った時にちゃんと謝る。だから今は勘弁してくれ。

 




今週はこの後、色々あって更新できそうにないので急いで上げました。

この後も何話かは大体出来ています。なので、そう間を置かず更新できるとは思います。



この二話は特に変わらず、前と同じ感じです。もうここまで来ると、今の八雲はただの幸せ物で爆発しろとしか言えません。
ただ、世にも珍しい「娘さんを僕にください」を四回ほどやらないといけないとか、他の幼馴染への説明とか、デートとかネタはあります。事件も解決してませんしね。亡国メンバー、特に原作であまり書かれていないので自由度の高いスコールは本編のままで行く予定です。しかし、事件の展開は変えるつもりです。具体的には……前倒しですね。その辺はまだ構想止まりなのでどうなるか分かりませんけどね。
ある程度書ききったら、外伝として、このIFルートのSTSを書いても面白いかもですね。まあ、これらは予定は未定という事で。



最近、ISの新作案がまた湧いてきました。ライトノベル「紅」の世界観を混ぜ込んでみようという物です。といっても、残酷な描写が出来ないので設定を少し使う感じになりそうですけど。
オリ主物で主人公は「紅」の主人公が修める流派、「崩月流」の直流の人間であり、一夏とは同い年。
ISを動かせるのは一夏、弾、オリ主の三人。
一夏、弾の二人は共に崩月流に弟子入りしかなりの強化済み。
ヒロインはオリ主が簪(もしかしたら更識姉妹)、一夏が鈴、弾が虚(もしかしたら布仏姉妹)。
アンチ・ヘイトがあるかも。
と、こんな感じです。
これを考えたのは最近、簪ヒロイン書きたいなと思ったのと、鈴は可愛いから一夏のヒロインにしたいなと思ったのと、6年ぶりに紅の新作が出たからです。
まあ、どうなるか分かりませんけどね。


次回は日常パート、八雲と彼女達の新たな生活のお話になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 新しい日々の始まり

まったり日常パートです。糖分多めですけど。


「ホント、どうしてこうなったんだろ……」

 

僕が思わずそう呟いた理由は今日の朝に遡る。

 

 

 

臨海学校が終わり、夏休みまであと少しとなって、クラスもこの夏休みの予定の話で盛り上がっている。

臨海学校の翌日は土曜だったので普通に学校は休み。僕は週末を病院で過ごして、日曜の夜に学園に帰ってきた。

 

「はっちー、夏休みはどうするの~」

 

話しかけてきたのは僕の彼女の一人、本音。

彼女の中で唯一のクラスメイトだから、学校がある日だと一番一緒に居る時間が長い。少しずつ昔に戻っていく事で、周りの女子からの視線で精神的疲労が酷いけど本音のお蔭でそれも大分軽減されてきた。今はこうやって彼女と話しているだけで周りの目が気にならなくなった。

まあ、昨日ニュースで大々的に発表された、正式に発表された男性操縦者の自由国籍と一夫多妻制が理由で織斑君への猛アタックが始まってるからもあるんだろうけど。ちなみに、それに合わせる形でバニングス社は僕の意志に任せるので我が社に接触しても仲介しないと声明を出した。ちゃんと、挨拶行かないとなあ。

 

「考えて無いなあ。仕事の関係で一週間くらいは学校から離れるけど、それ以外は出来るだけこっちに居たいかな?」

「皆が居るから?」

「うん」

「そっか~。私も嬉しいよ~」

「それなら良かった」

 

ミッドに行くことは確定だ。ここ数か月IS学園で起きた事件の報告と後々の方針、それと、僕の今後を決めるつもりだ。

一応、入院している間にレティ提督やリンディ提督、クロノと話し合って、簡単にだけど僕の進路は決めた。

クロノは僕のIS学園の卒業と共に新部隊として一年間の試験部隊『機動六課』を始動させ、そこの部隊長を務めるらしい。僕はそこでのナンバー2で前線部隊の指揮が管理局での最後の仕事になる。その後は地球に戻ってきて、バニングス社のテストパイロットに戻る。とりあえず、これが今の僕の未来の青写真だ。

僕のこの先はこの辺にして、今は僕の恋人達との事を考えよう。

多分、僕達が普通の高校生だったら、時間の許す限り一緒に居るだろう。でも、それは難しい。なら、僕が出来る事はその分濃密な時間を作って過ごす事だ。……まあ、濃密な時間って言うのがどうすれば良いのか分からないんだよなあ。デートとかした事無いし。相談するか。士郎さんとか恭也さんとかクロノとかに。あっ、でもクロノとエイミィさんは職場結婚だしデートとかしてなさそうだよなあ。参考にならなさそう。

 

「頑張ってね~。男の甲斐性の見せ所だよ~」

「言われなくても分かってるって。遊びに行く位何も問題ない位はお金持ってるし」

「バニングス社のテストパイロットだもんね~。普通のサラリーマンより稼いでるか~」

「そうそう。本音、そろそろ朝のHRが始まるし、席に戻ったら?」

「そうする~」

 

本音が席に戻って少ししたらチャイムが鳴り、それと共に織斑先生と山田先生が入って来た。

 

「えー……突然ですが転校生とクラス替えを行ったので新しい仲間を4人紹介します」

 

ホント、突然だな。

このクラス、転入生三人目だよね? しかも、クラス替え? ……ありえそうなのは、中国と日本が男性操縦者のデータを取りたいと要請してきたから、かな? ……この計算だと転入生は2人になるんだよなあ。

入って来た人たちを見て驚く。2人は予想通りの人だったんだけど、残りの二人は予想外の人物だった。

 

「2組からクラスが変わった、凰鈴音よ。よろしく」

「4組から変わった、更識簪です。よろしくお願いします」

「編入してきたバニングス社テストパイロット、アリサ・バニングスよ。これから、よろしく」

「同じく編入生のバニングス社テストパイロット、月村すずかです。よろしくお願いします」

 

……彼女達がクラスメイトになりました。驚くのは当たり前だよね?

 

 

 

 

「あそこで、ツッコまなかった自分を褒めたいねえ」

 

お昼ご飯を食べながら僕はそう呟いた。

ちなみに僕を中心に、僕の横にアリサと本音、僕の前に簪、アリサの前にすずかと言う感じ。すずか曰く「斜めからの方が綺麗に見えるんだって」との事。……そんな事しなくても、すずかは美人なんだけどなあ。

 

「確かに。クラスの前で二人に会った時、驚いたもん」

「かんちゃんはなんとなく予想は出来たけど、りさりさとすずーは無理だよね~」

 

本音も大体僕と同じか。ってか、それが普通だよな。

 

「ビックリしたでしょ?」

「ああ、凄くな」

「恋する女の子の行動力を舐めない方が良いよ? 八雲君」

「身に染みたよ」

 

いきなり転校してくる行動力にはさ。

 

「まあ、出雲を元にした量産機の試作機のテストをしないといけないから、その人員に私達が立候補しただけよ」

「って、言ってるけど、私もアリサちゃんもただ八雲君と一緒の学園生活をしたかっただけだよ」

「すずか!」

「そ、そっか……」

 

照れ隠しの言葉を言ったアリサも、さらっと真実を言ったすずかも、それを聞いた僕も顔が赤い。見ていた簪と本音はニヤニヤ。……こうやって、ストレートに好意をぶつけられるのはまだ慣れないなあ。いや、慣れるのか?

 

「なーに三人でイチャイチャしてるの~? 私も混ぜなさい!」

 

そう言いながら、後ろから僕に抱きついてくる、刀奈さん。横には苦笑いの虚さん。

こういうスキンシップも嬉しいんだけど、その……ね、刀奈さんスタイル良いから、柔らかい物がガッツリ当たってるんだよね。僕も男なのでどうしても意識してしまう。

少ししてから刀奈さんは離れて、簪の横に座る。

刀奈さんと簪は僕に告白した後、すぐにお互いが謝って仲直りした。二人は「「せっかくの仲直りのチャンスだったから」」と言っていた。

僕としては、二人がそれで良いのなら良いと思うし、何より、その後の二人はとても素敵な笑顔だったから、これで良かったと思う。

 

「あら、良いじゃない。アンタ、昨日の夜八雲と一緒だったんだし」

「と言っても八雲君、昨日はすぐに寝ちゃったんだもん」

「……面目ないです」

「まあ、八雲君も疲れが溜まってたんだよ。仕方ないよ」

 

アリサと刀奈さんはグイグイ引っ張っていくタイプだけど、すずかは一歩退いて暴走しがちな二人を止めるタイプ。いうならば一服の清涼剤といった所だね。落ち着きたい時、ゆっくりしたい時に横に居て欲しいかな。逆に二人には落ち込んだ時に横に居て欲しいかな。簪と虚さんはすずかに近い。本音は……行動は前者なんだけど、存在が癒しという例外だ。

まあ、そんなんは関係なく……

 

「何か考えてるの、八雲君?」

「いや、大した事じゃ無いよ。ただ、こうやって好きな人達と一緒に入れるだけで嬉しいなって思っただけだよ」

 

だからこそ、僕はこの空間を護るために戦おう。それが新しい僕の戦う理由。そして、この空間こそが僕が戻って来る場所。どれだけボロボロになっても帰ってくるべき場所だ。きっと帰ってきたら素敵な笑顔で出迎えてくれるから。

 

「えと……」

「その……」

 

皆顔が赤い。割と無意識でこういう事言っちゃうんだよなあ、僕。

 

「アンタねえ、いつもの事だけど、オブラートに包むって事も覚えなさい。……まったく、ドキドキさせられるこっちの身にもなれっての」

 

最後の方、アリサは僕に聞こえないように言ったつもりだけろうけど、残念ながら僕はかなり耳が良いので、バッチリ聞こえていたりする。……そっか。それなら、

 

「アリサ」

「何よ?」

「ちょっと、こっち来て」

 

僕がそう言うとアリサは渋々ながら近付いてくる。僕はアリサの耳元で

 

「大好きだよ、アリサ。愛してる」

 

と囁いた。

 

「にゃ⁉ にゃにを言ってるにょよ!」

「アリサ、かみまくってるわよ?」

「それだけ衝撃が強かったんだよ。八雲君もあんまりアリサちゃんをからかっちゃ駄目だよ?」

「善処する。でも、からかいの気持ちはあったけど言葉は全部本音だから」

 

このままだとさっき僕の言った言葉までからかいの気持ちで言ったように取られかねないから、僕はそう付け足した。

 

「ーーーっ!!!」

 

これでもかって位顔が真っ赤になるアリサ。照れてるその顔もカワイイなあ。

 

「ずーるーいー! アリサだけ良い思いして! 私の相手もして!」

「「子供ですか……」」

 

僕と虚さんの意見が被った。

 

「私は虚ちゃんや八雲君が思ってるほど大人じゃないの!」

「はあ……お姉ちゃん何言ってるの」

 

溜め息を吐きながら呟く簪。仕方ない。僕は箸を置いて、身を乗り出し、

 

「部屋に戻ったらちゃんと相手しますよ、刀奈」

「あうう……」

「なんか手馴れてるね、八雲君」

「そう? 全部雑誌の受け売りなんだけど」

「そんな雑誌読んでたの~?」

「入院してる時にすずかのお姉さんの忍さんが持って来たんだよ。やる事無かったし読んでたんだ」

 

忍さんはアリサやすずかから僕関連で相談を受けていたらしく、お見舞いに来てくれた時に「二人とも嬉しそうにしてたわ。……あの子達を泣かせないようにね」と言われた。

それと共に「八雲君は恭也と同じ感じがするから、こういうの読んで少しは勉強しなさい」と言われて、雑誌を置いていった。

ただ……「恭也が覚悟を見たいって言っていたわよ?」と言うのは聞きたくなかったかなあ。

でも、夏休み皆の親御さんに挨拶に行かないといけないよな。しておこうかな、殴られる覚悟。

 

「あー……お姉ちゃんがゴメンね?」

「ううん、謝る必要ないよ。女の子と付き合うのってどうすれば良いかさっぱりだったから、助かったし」

「それならいいけど」

「すずかもやって欲しい?」

「やって欲しいけど、人前は恥ずかしいかな。二人きりか、少なくともこの皆だけのだけの時にしてね」

「了解。そういや、やっぱりすずかはアリサと同部屋なのか?」

「あれ? 聞いてない? 三部屋つなげて、この皆が一つの部屋になったんだよ?」

 

……マジで?

この後、部屋に戻ると、壁が取り除かれキングサイズを超えるであろうベットが二つつなげて置かれた七人部屋が完成していた。

ベット二つ繋がってるって事は一緒に寝るって事だよね? ……持つのかな、僕の理性。

 




という訳で八雲と同い年のヒロイン(アリサ、すずか、簪、本音)がクラスメイトになりました。
使うかどうか分かりませんがここからISの実機を使用した実習は全て全クラス合同になります。
っていうか、専用機持ちが一組に集中しすぎなんですよ、原作。クラスでレベルの差開く可能性大ですよ。なら、いっそ学年纏めての方がマシだと思います。


次回は魔法を先生に説明する回。大分仕上がっているので早い内に上げれると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話 異文化交流……ってほどじゃないかな?

説明回になります。


僕の彼女6人と同じ部屋で暮らし始めて数日、夏休みを翌日に控えた日の放課後、僕は織斑先生に呼び出される事になった。

まあ、事情は大体察している。臨海学校の時の福音事件の事だろう。呼び出された所に着いたので部屋をノックする。

 

「霧島です」

「入れ」

 

了承を得たからドアを開ける。そこには、織斑先生と何故か臨海学校にいた篠ノ之博士が居た。

 

「えーっと、何故篠ノ之博士もいらっしゃるのでしょうか?」

「それは、君の力に興味があるからだよ、やっくん」

「や、やっくん⁉」

「霧島、束はこういう奴なんだ」

「そ、そうなんですか……」

 

なんていうか想像していた篠ノ之博士とは全然違った。というよりどんな感じか想像もつかなかったんだけど。だって、篠ノ之博士は世紀の大天才で誰でも名前を知っていて何年か後に教科書に載るような人だもん。いや、織斑先生も同じ感じなんだけどさ。

 

「えーっと、それで僕はなんで呼ばれたんでしょうか?」

 

分かっているけど一応聞く。

 

「臨海学校の事だ」

「やっくんがモニターから突然消えた事、この前ここであった暴走と福音の暴走と君から出る私の知らないエネルギーの共通する事を聞きたいんだよね~」

「分かりました。最初に言っておきますけど、今から僕がいう事はぶっ飛んでますけど全て本当の事です。まず、篠ノ之博士のおっしゃった未知のエネルギーは、僕らの中で『魔法』と呼ばれている物です」

「「……はあっ⁉」」

 

おお、二人とも凄い驚いた表情と反応だ。ある意味レアじゃないかな?

 

「僕の場合だと、こんな事が出来たり」

 

そう言って右手の上に火の玉を出す。

 

「こんな事が出来たり」

 

火の玉を握りつぶした後、次は水の円盤を発生させる。

 

「こんな事も出来たり」

 

水の円盤を握りつぶして、親指と人差し指の間に稲妻を走らせる。

 

「まあ、こんな感じです。まあ、これは技術として体系化されているので武道と同じ感じですね。もっとも生まれつきの適性が必要ですけど」

 

それ以外の武道の違いは魔法は色んなものに取り入れられている事かな? 技術系の分野もそうだし、魔法を使用したスポーツも沢山ある。管理外世界の僕達から見るとそれは『魔法文化』と言えるものだ。

 

「それで、この魔法は地球じゃない世界、平行世界、別次元の世界発祥のもので、そこでは当たり前の技術です。そこで僕は何年も前から次元世界の平和を護る組織に所属しています」

「お前が妙に戦い慣れしていたのは……」

「それが理由ですね。魔法で空も飛べますし。それで、暴走体や今年度最初の事件の時もそうですけど、そこに失われた古代の魔法文明の解析不能の超技術の物品『ロストロギア』が使われていました。襲撃前に気付けたのはその反応のお蔭です」

「……そうか」

「ほへえ~、私がこの世に知らない事はまだまだたくさんあるんだあ。ねね、その魔法を使える適性って言うのは?」

「ちょっと、待ってくださいね」

 

僕は集中して自分のリンカーコアを具現化させる。

 

「これが魔法を扱う為に必要なリンカーコアと呼ばれるものです。基本的には遺伝されるものですけど、極稀に突然変異というか、自然発生する事もあります」

 

はやてとなのはがこれに当たる。一説にはこの自然発生した人間は軒並み極めて高い能力を持っている場合が多いと言われている。実際なのはは15、6で管理局のエースオブエースとまで言われているし、割と信憑性もある。

 

「といっても、この学園には居ないですよ。魔法を知っていない限り絶対にリンカーコアから微量の魔力が自然と流れ出ていて、それを僕が気付きますから」

 

それだけ言ってからリンカーコアを元に戻す。

 

「そうなんだー。少し残念」

「でも、こんなの個性の範疇ですよ。管理局の発祥の世界ミッドチルダの人口は約100億って言われてますけど、リンカーコアを持っているのは内4割位ですし、あってもそれを活かした職業についている人ってその4割の中で1割にも満たないと思います」

「個性の範疇か……そう思えれば女尊男卑など生まれなかっただろうな」

「それは違うと思いますよ。僕的にはそれ以前から女性専用車両やらレディースデイやらがあったから少なからず女性を優遇していたのはあったと思います。それがISが登場したので顕著になっただけだと思います。たまに行き過ぎたものも見かけますけど」

「私としてはそんな気さらさらないんだけどね~。むしろ、ISを発表して食いついてきた人は男の人が多いし、著名なISの研究者、技術者も男の人の方が多いし、男性も乗れるようにって研究してるから意欲高いもん」

 

多分、宇宙や空を飛ぶ事、パワードスーツにロマンを感じ、自分で使いたい大人子供が一杯いるんだろう。

 

「この状況を当たり前だと思わせない事が今後のISを発信した私達がやる事だな。っと、話が脱線していたな」

「ですね。で、ロストロギアは魔法でしか止める事が出来ません」

「なるほどー、だから、あの時怪我を押してでも一人残ったんだね」

「そうです。あの時あそこで何とか出来るのは僕だけでしたから」

 

ロストロギア絡みだから、あれは僕の仕事だ。と、ちょっと前の僕なら言ってただろう。でも、あの時の僕の意志は、「今の僕を形作る人たちを護りたい」だけだった。

管理局員とか二番目の男性操縦者とかの肩書もなにも関係無い。ただの霧島八雲としての選択だった。

 

「お前しか止められないのならそれを咎められないが……死んでくれるなよ? 寝覚めが悪いからな」

「分かってます。彼女達を泣かせたくありませんし」

 

僕と同じ気持ちを彼女達に味わせたくない。だから、僕は必ず生きて帰ってくる。彼女たちの為に。なにより自分の為に。

 

「ああ、IS委員会からの通達でお前と一夏は世界的に一夫多妻制を認められたのだったな。それで、バニングス社から学園にお前がバニングス、月村、更識姉妹、布仏姉妹と付き合っているから同じ部屋にしてやってくれと連絡があった」

「……マジっすか?」

 

織斑先生から話されたまさかの真実。ってことは社長は、アリサのお父さんのロイ・バニングスさんも多分お母さんの杏奈・バニングスさんも知ってるって事だよなあ。会社に行かないって事は出来ないけど、行きたくねえ……。

でも、僕が選んだ事だし、覚悟決めるか。

と、僕が着々と夏休みの覚悟を決めていたら、部屋に何処からかの通信が入った。

 

『織斑先生! 学園の海上約30キロの地点に未確認の飛行物体を発見。こちらに近づいてきます!』

 

山田先生はよっぽど慌てていたのか、オープン回線でその連絡を入れた。

 

「山田先生、霧島です。その飛行物体の数って分かりますか?」

『き、霧島君⁉ えっと……、4機ですね』

「ありがとうございます。それじゃ、僕が迎撃してきます」

 

そう言って僕は立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「待て、霧島」

「待ちませんよ。どれくらいの速さかは分かりませんけど、残された時間はほとんどありません。教師部隊を編成するにしても、専用機持ちを招集するにしてもね。こういう時は行ける人間は行かないと。では」

 

それだけ言って、部屋を後にした。

 

 

 

八雲が去った後の学園の一室。

 

「仕方ないよ、ちーちゃん。やっくんはこういう非常事態に関してはプロなんだから、自分がどう動くべきなのか良く知ってるんだし」

「それは理解しているつもりだ。だがな、教師として大人として不甲斐なさを感じてしまうんだよ」

「流石の束さんも未知の物に対しては何も出来ないからね~。でも、高校生にもなるとほぼ大人だからねえ。特にやっくんはそれが顕著だよ。だから、妙に干渉するより自主性に任す方が良いんじゃないかな。本当にバカをやった時だけ怒れば良いよ」

 

予想外の束の発言に千冬は

 

「……お前、本当に束か?」

 

とかなり酷い言葉を発した。

 

「酷いよ、ちーちゃん! まあ、色々あって、今一人の子供と一緒に暮らしているからね~。考える事も多いんだよ」

「って、ちょっと待て! 子供だと!」

「そだよ~。事情とかは今度ゆっくり話すよ。それより、やっくんの戦いを見ようよ。いざという時に動けるようにさ」

 




ここからはIFルートオリジナルで進んで行きます。
今回は説明回だったのですが、本編では原作の主要メンバーに話した所を、本作では最低限の人間にしか話していません。理由として現在の八雲の人間関係があります。


次回は今回のお話の流れでの戦闘回です。1つ、このIFルートだから出来るサプライズを考えているので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
出来れば今日中、遅くても明日には上げると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話 僕が歩んできた道、僕が歩んでいく道

戦闘回なのですが、らしからぬ題名です。


僕が校舎の外に出る直前、

 

「どうしたの、八雲?」

「何かあったの、八雲君?」

 

アリサとすずかに出会った。慌てて出て来た僕を見て、二人はそう問いかけた。

 

「ちょっと、未確認の何かが来ててこっち関連かもしれないから出撃するんだよ」

「アンタ、ちょっと前に怪我したばかりじゃない! それでも行くって言うの!」

 

アリサは強い口調で僕にそう問いただす。そりゃ、心配だよな。アリサはいつも僕の事気にかけててくれたもんな。だけど、これは譲れない。

 

「うん。だってさ、ここには僕の大切な人達が居る。僕が戦う理由はそれだけで十分だよ。だいじょーぶ。絶対に帰って来るから」

 

そう言って駆け出そうとしたら、手を掴まれた。掴んでいたのはすずか。

 

「どうしたのさ、すず……」

 

理由を聞こうとしたけど、それをすずか自身の唇に防がれて、止められる。

 

「私もアリサちゃんと同じで止めたいけど、八雲君を信じるよ。これは絶対に帰ってくるっていうおまじない。どう? 効きそう?」

 

いつものすずかとは違う、小悪魔めいた表情を見せながらそう言う。普段見せないその表情はこんな時に思う事じゃ無いかもしれないけど、新しい彼女の魅力を知れた。

 

「……効果」

 

抜群と続けようとしたけど、それをアリサにキスで止められる。

 

「すずかが帰って来るっておまじないなら、私のは怪我しないっておまじないよ! とっとと行って、さっさと終わらせて帰ってきなさい!」

 

顔を赤くしながらそういうアリサ。ホント、最高の女の子達だよ。僕は幸せ者だね。

 

「りょーかい。こんな可愛い彼女のお願いだから絶対に護るよ」

 

それだけ言って走り出す。……帰りを待ってくれる人がいるって良いなあ。つくづくそう思う。

さて、自分の為に、皆の為に、全力で行きますか!

 

 

 

「あーあ、行っちゃった」

 

走っていく八雲君の後ろ姿を見ながら、アリサちゃんはそう呟く。私からはアリサちゃんの後ろ姿しか見えないから、どんな表情をしているのかが分からないけど、声色からは不安を感じる。

 

「やっぱり、心配? アリサちゃん」

「当たり前でしょ。でも、アイツなら大丈夫。絶対に私達との約束を守る奴だから」

 

そう言いながら、振り向いたアリサちゃんは笑顔だった。こういう状況で笑顔を作れるアリサちゃんは本当に強いと思う。

 

「だね。だから、私達が出来るのは皆で帰りを待って笑顔で出迎える事だよね」

 

八雲君はよく私達の笑顔が好きだと言ってくれる。だから、疲れた彼の為に私達が出来る事は笑顔で出迎えてあげる事だ。

 

「……そうね。アイツが帰ってきたら私達が笑顔でお帰りって言うだけで、アイツは笑顔でただいまって言ってくれるもんね。ただ、それだけだけど、それがどうしようもなく嬉しいのよね」

 

今の時間は私とアリサちゃんが何年も望み続けてきた時間。少し形は予想外の物になったけど、今は凄く満足している。何より、大好きな人の笑顔を見れるようになったから。

 

「そうだね。……とりあえず、生徒会室に行こうよ。皆そこに居るだろうし、この事、伝えとかないと」

 

そこで八雲君の無事を祈りながら帰りを待とう。きっと無事に帰って来てくれるとは思うけど、それと祈る事は別問題。信じていても辛い物は辛い。

もしこんな時、私達になのはちゃんやフェイトちゃんみたいに魔力があれば一緒に戦えたのに……。こんな思いしなくても済んだのかもしれないのに……。

 

 

 

ISを装備して、IS学園から約15キロの地点で接敵した。

 

「マスター、相手はやはり無人機です」

 

叢雲からの報告は予想通りだった。

 

「やっぱり。さて、頑張りますか」

「そこでマスター、朗報が一つ」

「何?」

 

このタイミングで朗報も何もないと思うんだけどな。

 

「夜天の魔道書のかけらがデバイスになりました」

「……はあっ⁉」

 

朗報というより驚きの出来事なんだけど! 僕の持ってるかけらはあくまでかけらでしかないはずだ。最後の夜天の魔道書の主だったはやての最期で、その能力の全てを失った。はやてと守護騎士の皆が全てを使って破壊した。皆の願いで今僕の手元にある。僕の罪の証だったもので、僕が紡いだ絆の証。

それがデバイスになったってどういう事?

 

「解析していて、報告が遅れました。……性能を表示しますが、驚かないでくださいよ」

 

そう言って、叢雲がそのデバイスのスペックを見せていく。これは……。

 

「神様って言うのはとんでもないサプライズを用意してるんだなあ……」

 

だけど、このかけらに相応しい性能だね。

 

「ですね。名前はどうしますか?」

「スノーレイン、かな。あの日を思い出す言葉で、皆の力が絆が僕に融けたみたいで、良い感じだと思う。皆の力なら言語的にはちょっと違うと思うけどね」

 

一生忘れられない、雨から雪に変わっていって、一面が白の世界になった日。皆がしんしんふる雪の様に母なる海に融けた日。

今、皆との絆が僕の力になってくれる。

 

「それでよいかと」

「じゃあ、お披露目と行きますか! まずは、スノーレイン、リンゲモード!」

 

僕の左手の人差し指と薬指に指輪が装着される。

 

「まずは目を潰す! クラールゲホイル!」

 

強烈な閃光炸裂弾が辺り一帯を光で覆う。これほど強力であればハイパーセンサーすら誤魔化せる。管理局との戦闘の時、これに助けられたっけ。

誰より皆を心配していて、後ろから力強く支えてくれた人。

 

「スノーレイン、モードチェンジ! ハンマーモード!」

 

指輪はハンマーに切り替わる。

 

「カートリッジロード!」

 

ハンマーのヘッドの根元の部分にある薬室に装弾されるとともにヘッドの後ろ半分が推進器に変わる。

一気に加速して一体の無人機に近寄り、ハンマーを振り抜く。

硬い皮膚を持つ魔法生物のその皮膚や固いはずのなのはの防御すら打ち破ってたんだから、この程度の装甲は簡単にぶち抜ける。

あの時の僕とそんなに変わらない見た目だったのに、凄く頼りになった、一途でまっすぐな女の子

 

「ぶっ飛べ!」

 

吹き飛ばしながら、4機の無人機が一か所に固まる。

 

「次、モードチェンジ! ガントレットモード!」

 

ハンマーは僕の両腕に装着された手甲に変化した。

 

「動きを止める! 鋼の軛!」

 

海上に発生した巨大な圧縮魔力のスパイクが相手を貫き、動きを止める。

100メートル級の魔法生物の動きすら止めれるんだから、これ位は造作もなく止められる。

護る事、それを誇りを持って遂行し続けた守護獣。

 

「これで最後だ! モードチェンジ! ボーゲンモード!」

 

手甲が消え、僕の身の丈よりも大きな弓が現れた。

 

「この一撃で決める! シュツルムファルケン!」

 

弓から発射された魔力は命中と共に大爆発と超高温の炎を発生させ、相手を沈黙させた。

弓の一撃はベルカの騎士の奥義、だったっけな。その威力、確かめさせてもらったよ。

僕の剣の師匠で、不器用だけど、常に先頭に立って僕達を引っ張り続けてくれた人。

 

「ふう……。ありがとう、皆」

 

僕は剣十字のペンダントを見ながらそう呟いた。僕に力を貸してくれた、あの雪の日の夜に海鳴の海に融けていった僕の大切な仲間への感謝の言葉を。

だから僕は、皆の分までちゃんと生きないと。それが生きている僕に出来る事。だよね、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。それと、会った事の無い管制人格も。はやてと一緒にそっちで見守っててくれると嬉しいな。……僕の頬を流れた何かは僕と皆だけの秘密だよ。




はい、このIFルートだから出来るサプライズ、「守護騎士の武器が八雲のもう一つのデバイスになる」です。
これ自体はIFルートをリメイクするに当たって新たに盛り込もうと思っていた事の一つです。そのために小さな伏線も用意しました。
使用しませんでしたがレバンティンのシュベルトフォルムとシュランゲフォルムも存在します。使用するか分かりませんけどね。これで、使える技が増えたますね~。

次回は……まだ、書ききれていません。もう一話挟んで夏休みに行く予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話 一寸先は闇。……その通りだと今日だけで思った。

さらにサプライズをぶち込みます。


僕が行なった迎撃戦から数時間後、僕は管理局の医務局に居た。理由は迎撃戦の直後に戻る。

 

 

 

無人機のコアの回収作業をしていた時の事、

 

「うーん、叢雲、今回のコアはこの前とのは違うの?」

「一回目の無人機とは違ってゴーレムの物を改造したものですね。まあ、ジュエルシードは数に限りがありますし」

 

まあ、たった二十一個しかない物だから、全部に使えるものじゃないわな。ちなみに一回目の襲撃の無人機はジュエルシードを動力源にISに模した能力を持たせたもの。二回目のボーデヴィッヒさんのIS暴走と、銀の福音の暴走はISコアにゴーレムのコアを組み込んで暴走させたもの。今回はゴーレムのコアでISを再現したものとなっている。……誰だか知らないけど、色々バリエーションあるなあ。

 

「しかし、厳重封印の対象だったはずのジュエルシードがどこで盗まれたんかねえ?」

「確か、一度研究の為に持ち出されていたとの事ですから、そこで何かあったのでは?」

「そういや、そんな話聞いた記憶があるなあ。まあ、それは僕の管轄外だからねえ」

 

それも調べてもらう事にしよう。まあ、結果は良い物が出ない気がするけど。つまりは管理局の厳重封印されてたものの管理体制の杜撰さが浮き彫りになる訳だし、多分もみ消されると思う。

 

「調査待ちという訳ですね。っ! マスター、学園方向より、高魔力反応! ジュエルシードです!」

「はあっ⁉」

 

ジュエルシードは僕が完全に封印したはず。それが解けたって事か? しかし、何でこのタイミングで? いや、考えるのは後だ。急いで戻らないと!

 

「待ってください、魔力反応、収まって……、いや、六つリンカーコア反応! 場所は……これは寮のマスター達の部屋です!」

 

たしか、昔ユーノが言っていたジュエルシードの特性って……それと、僕達の部屋に六つのリンカーコア……だとしたら!

 

「叢雲! リンディ提督に連絡! 急いで本局の医務局を押さえてもらって!」

「了解!」

 

 

 

僕の予想通り、生徒会室の六つのリンカーコアは僕の彼女達の物だった。駈け込んだ生徒会室からスノーレインのリンゲモードでバニングス社の転移エリアに転移してそこから本局に移動した。

医務官から聞かされた検査の結果は異状なし。ただし、現状ではと前に付くけど。

 

「で、どうして私達はここに突然連れてこられたのよ?」

 

全員が集められている部屋でアリサに問い詰められる。

 

「単刀直入に言うと、皆に魔力を生み出す元になるリンカーコアが出来てた。ありえない事だけど僕は理由も分かってる」

「理由と言うのは何ですか?」

「刀奈さんは知ってますよね? クラス代表戦の時の事件」

「うん。無人機が来た時の事よね?」

「……そんなことがあったの?」

 

簪がそう尋ねた。見ると、アリサとすずかも驚いている。

あっ、そっか簪は選手だったわけだし、アリサやすずかは学園の生徒じゃないから知らないか。虚さんや本音はその頃から生徒会のメンバーだから知ってるかもしれないけど。

 

「まあ、その件は今は関係ないからスルーして、その無人機のコア部分には僕が初めて関わったロストロギア、ジュエルシードが組み込まれていたんだ。それでジュエルシードの特性は『周囲の強い願望を叶える』」

「もしかして、私達がそう願ったから?」

「だと思う。だけど、本来リンカーコアが後天的に出来る事は無いし、ジュエルシードの願望は思ったように叶うか分からないから、こうやって強硬手段でここに連れてきたんだ。まあ、今のところは一応問題無し。念のために一月に一回位検査しに来て欲しいって言われたけど」

「分かったわ。その辺は帰ったら、ゆっくり予定を組みましょう」

 

そういうのは刀奈さん。多分国家代表で生徒会長の刀奈さんが一番忙しいから、彼女の予定を元に組む事になるだろう。まあ、検査自体は一時間ちょっとで終わるから、拘束時間自体は数時間、余裕を持って半日取れれば問題ない。

 

「ここに来た理由は分かったわ。でも、私達の部屋に入って来た時のアンタは尋常じゃない位焦ってたわ。ここに来る方法もそうね。それはどうしてなの?」

「……もう、大切な人を失う悲しみを味わいたくないから。ありえない事が起こって、理由もなんとなく察しが付いて、皆の身に何が起こるかが分からない。凄い自分勝手な行動だけど、僕が安心したかったから。それだけだよ」

 

二度と大切な人を失いたくない。たとえ独りよがりな行動と言われても、彼女達の安全が確かめられるのならそれでいいと僕は思う。

だから今は一安心している。聞いた時は安心して腰が抜けそうになったんだけど、突然連れてこられて僕がいないと不安になるかなって思って耐えた。これはちょっと恥ずかしいから言わない。

 

「てい」

「痛っ! 何すんのさ、アリサ!」

 

アリサに脳天へのチョップを食らう。地味に痛い……。

 

「私達の身を心配してくれるのは嬉しいけど、もうちょい、落ち着きなさいよ。そんなんじゃ私達も不安にさせちゃうわよ?」

「だね~。それにはっちーが暗い顔してちゃ、私達も笑顔でいれないよ? だから、スマイルだよ」

 

……そりゃそうか。僕が彼女たちの暗い顔を見て暗くなるのと同じで、皆も僕が暗い顔してちゃ笑顔になれないよね。

 

「もし、自分一人でどうしようもなかったら私達を頼ってね。微力かもしれないけど協力するから」

「そうですね。皆さん、八雲さんのお力になりたいんですから」

「ありがとう。これからは頼れる所は頼っていきます。……それじゃ、帰りましょうか。僕達のへ」

「愛の巣へ!」

 

僕の言葉の途中に刀奈さんがカットイン。いや……表現が生々しすぎる気がするんだけど!

 

「お姉ちゃん、その表現はどうかと思うよ……」

「あら、良いじゃない。あの部屋で私達の愛を育んでいるんだし」

「まあ、言い方なんて別に良いんじゃないかな~。あそこが私達にとって大切な場所だって事は変わらないんだし~。それより、帰るなら早く帰ろうよ~。明日から待ちに待った夏休みだよ~」

「本音ちゃんの言う通りだよ。折角の夏休み、思い出いっぱい作ろうよ」

「いろいろな事したいですね。まあ、その辺もゆっくり決めましょう」

「まずは帰りますか。シュネーレーゲン、リンゲモード」

 

僕は転移魔法を使い、一気に移動した。……管理局内位歩けばよかった気もする。

 

 

 

帰ってから、一学期も終わったので小さなパーティを皆で開いた。どうやら、僕が先生方と話している内に料理をいくつか作ってたみたいだ。皆の料理は美味しかった。僕ほどじゃないって言うけど、僕にとっては僕の為に作ってくれたものだから、何よりも美味しかった。ただ……

 

「なんだろ? なんか、体が熱っぽいんだけど……」

 

疲れで体調でも崩したのかな? でも、体は元気すぎるくらい元気だし……。なぜか、皆の顔も赤い気がする。

 

「それ? 更識家に伝わる秘伝の媚薬よ♪」

 

そう言う、刀奈さんの手元の扇子には「一服盛りました♪」と書かれている。……って、ちょっと待て!

 

「なんで、そんな物を……」

 

こういう時、大体誰かに口を塞がれてしまう。今回はアリサ。

 

「やっぱり、皆まだまだ不安なのよ。だから、身も心も私達の虜にしちゃおうってね。覚悟は良いかしら?」

 

……こうして、僕達は忘れる事の出来ない『一夏の経験』をする事になった。

ちなみに、一対六だったわけだけど、どうやら僕はそっち方面も強かったらしく、見事一人で相手しきっただけでなく、余力もあった。

ただ……朝、自分の体液の匂いで起きるのは少し嫌かな。まあ、その後、ある意味目に毒な桃源郷が広がっていたわけだけど。

 




今回のサプライズ「八雲ハーレムのメンバーにリンカーコアを持たせる」でした。
この辺は本編でも書きましたけど、一連のIS学園への魔法関係の物を使った襲撃の裏にはヅカリエッティがいます。彼が関わっているのを想起させるものとして、一回目の襲撃で使われた動力源がジュエルシードにしました。
そして、ジュエルシードの特性は作中に出てくる「願いを叶える」です。原作アニメ内では綺麗な形で叶いませんでしたけど、今作はこのようにしてみました。
彼女達の魔法の設定などはまた別の機会に。

次回から夏休み。いくつかイベントを用意しているのでお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話 今日から楽しい夏休み!

題名通り、この話から夏休み編をお送りします。


夏休み初日。僕は一人で街に出ていた。ちょっと買いたい物を買いに。皆には秘密にしたい買い物なので一人だ。

何件かのお店に回って、買いたい物を買って、お昼を済ませようと、良い雰囲気の喫茶店に入った。

サンドイッチとコーヒーを頼んだけど、中々美味しかった。まあ、味の基準が翠屋だから、結構高いんだよね。

コーヒーをおかわりして、この後どうしようかと考えていたら、

 

「そこのアナタ、支払っておいてくれる」

 

と言って、伝票を置いて行く女性。……折角いい買い物出来たのに最悪の気分だよ。

 

「嫌です。自分の食べた物のお金位自分で払ってください。普通の高校生に支払いを任せるなんて、大人としてどうなんですか?」

 

まあ、僕が『普通の高校生』かどうかは微妙な所だけど、それは置いておいて、知り合いとかならともかく見ず知らずの人に払わせるなんて、大人とか云々言う前に、人としてどうなのさ? こんなんじゃ、いくら見た目良くても駄目だよね。その見た目もそこそこって所だけど。まあ、僕の基準が僕の彼女達になっているから萌あるとは思う。

女尊男卑の社会になってこういう、男性に難題を押し付ける女性を時々見かける。いや、大多数の女性はそんな事ないし、僕もこんな目にあったのは初めてだ。

実は女尊男卑になってそうなIS業界に近いほど、そうではないという逆転現象が起こっている。以前束さんが言った通り、IS業界で有名な人ほど男性が多く、乗り手や関わる女性も、ISという物に興味を持ち、自ら道を選んだ人が多いので、性別より能力で見る人が大多数だかららしい。

バニングス社のIS関係の人で僕にISの知識を教えてくれた人は女性だったけど、全然普通で親身に教えてくれたし。

しかし……面倒なことになりそうだなあ。そう思っていた時、

 

「そこの男の子の言う通りね。見ず知らずの人に、しかも年下の子に払わせるなんてどうかしていると思うわ」

 

何処からか手助けが来た。

声の方を見ると、長身で金髪ロングの女の人が立っていた。……良いなあ、身長高いの。正直、ヒール抜きで僕以上の身長って凄く羨ましいし。

 

「な、なによ! 男の味方をするつもり⁉」

「そういう問題じゃなくて、自分の受けたサービスにお金を払うのは当然の対価でしょ? 知り合いに借りるとかなら兎も角、いきなり、払えって言うのは常識的に考えて無いと思うわ」

 

周りのお客さんもその女性の言葉に頷いている。……男性だけでなく、他の女性も頷いている時点で、最初いちゃもんをつけてきた女性に味方はいない。

しかし、その女性は結局、お金を払わずにヒステリックに喚き散らしながら、出ていった。……はあ、と溜め息を一つ着いた後、少し冷めてきたコーヒーを飲み干してから、僕は財布から福沢先生を二枚取り出し、お店の人に渡した。

 

「お、お客様?」

「えーっと、僕もここのお店の人や他のお客さんに迷惑かけたと思うので、これは迷惑料として貰っておいてください。さっきの人結局お金払ってませんし」

「しかしですね……」

「なら、今いるお客さんの分の支払いにでもしておいてください。それくらいしないと僕の気が済みませんから」

「……ありがとうございます。またのご来店お待ちしています」

「近くに寄ったら来ますよ」

 

色々やってしまったから来にくいとは思うけど、お店の雰囲気や店員さんも良い感じだから、機会が有ればまた来たいな。

あ、そうだ。帰りに本屋さんによって福沢先生の本でも買ってこうかな。色々お世話になってるし。

 

 

 

喫茶店を後にした僕は近くにあった公園によってベンチに座った。喫茶店で出来なかった今日のこの後の予定を考える。のではなく、

 

「そろそろ出てきたらどうですか?」

 

今日、学園を出て来たころから感じた視線の正体を確かめるためだ。いや、正体自体はもう気付いている。

 

「……何時から気付いてたのかしら?」

 

そう言って僕の前に姿を現したのはさっき僕を助けてくれた女性。気付いた理由はこの女性が僕をフォローしてくれた時に感じた視線が減ったから。後はさっきの喫茶店を出た時にセンサーとサーチャーを用意して確認した。

 

「付けられてた事は学園出てすぐ位ですね。確信を持ったのはついさっきですけど」

「……参ったわね」

「んで、何の用ですか? 正直、付けられる理由があり過ぎてどの理由なのか見当が逆に付かないんですよ」

 

殺気が感じられないから、僕の暗殺や誘拐を狙う女尊男卑主義の団体や研究所って感じじゃないし、となると何なんだろってなるし。護衛なら、たとえこう言われても出てこない気もするし。

 

「うーん……降参宣言かしら?」

「降参宣言? 全然理由が分かんないんですけど」

「私が今所属している組織がここ数か月でIS学園で起こった事件を裏から糸を引いてるのよ。私はそこの実働隊の隊長って訳」

「なるほど。……でも、それならもう少し殺気立つって思うんですけど」

「まあ、三件の事件を見て、貴方に勝ち目は無いって理解したわ。私的にもそろそろこういう稼業から手を引こうと思ってたし、最後に一度この目で見て見たかっただけよ」

「はあ。まあ、相当な実力者である人に言ってもらって、光栄です」

 

さっきの喫茶店で見た歩き方とか雰囲気で織斑先生と同レベルの実力者だと僕は感じた。

 

「それで、見たし、顔も見せちゃったけど、さっきの喫茶店での行動で今時中々出来ない事をしたから、ちょっとだけ、私の知っている事を話してあげようと思ってね」

「と言っても、僕は組織に興味は無いですよ? 僕やその関係者に火の粉が降りかからない限りはね」

「でも、無人機やレーゲン、福音の改造コアの出どころは気になるでしょ?」

 

そう言うって事は、この人……

 

「時空管理局本局運用部第一遊撃部隊、通称『一人部隊』の霧島八雲一尉?」

「……やっぱり、次元犯罪者からの横流し品だったんですね」

「ええ。……しかし、一人部隊って無茶苦茶よねえ」

「馬鹿なガキが何も考えず死に場所と死に方を探して迷い続けた結果ですよ。褒められた物じゃないです」

 

まともになって思う。良くあんな真似して死なずに何年も生きれてたなと。

 

「そう。それで、その改造コアの事なんだけど、やったのはジェイル・スカリエッティ。私の所属する組織の偉いさんに接触してきたみたいよ。それで、実働部隊の隊長だった私に紹介されたって訳。その関係で何度か話す事もあったわ。無人機の時に貴方の戦いを見て、貴方の正体と、来歴なんかを教えられたわ。警戒されてたわよ」

「……局内ならともかく、世間一般にはあんまり名前を知られてないんですけどねえ。やっぱり、超一流の犯罪者は厄介ですねえ」

「こっちにも仁義があるから、喋れる事は、改造コアはもう無い事と、ISを使った襲撃は無い事ね。人を使った方も、私や私を慕ってくれる子達が抜けるから、私の組織からは無いと思うわ」

「そうですか。信用は出来ないですけど、そういう情報もあるって頭の中には入れときます」

「それが正しいわね。私もそうするもの」

「……一つ良いですか?」

「何かしら?」

「スカリエッティがあなた達に協力した理由って分かります?」

「それ位は良いかしらね。本人曰く『大きな祭りの前座』らしいわ」

 

……という事は近い内に管理世界を舞台にした大きな何かをスカリエッティが起こすって事か。いつになるか分かんないし、そもそも本当の事かも分からない。まあ、これも頭に入れておこう。

 

「あー、面倒が続きそうだなあ……」

「でも、貴方には帰る場所があるでしょ?」

「……そういう情報って流れてるんですか?」

「学園内に私個人の情報提供者がいるのよ。ちょっとした縁で知り合った子がね。その人に教えてもらっちゃった。大事にするんでしょ?」

「もちろん。たとえ、どれだけ傷付いても必ず皆の元に戻りますよ。っと、もう帰ろうかな」

「それじゃあね、もう会うことも無いでしょうけど」

「人生何があるか分かりませんし、それは分かりませんよ。あっ、そういや、名前聞いてませんでした」

「スコール・ミューゼルよ」

「スコールさんですか。では、スコールさん機会が有ればまた何処かで会いましょう。それと、あなたといた他の二人の方にもよろしくと」

 

そう言って、僕は学園への帰路を歩いて行った。さて、ゆっくり夏休みの計画を立てますか。

 

 

八雲が去った後、スコールに近付く二つの影。スコールと同じくらいの女性と二人よりもやや低いがそれでも平均よりやや高い少女だ。

 

「スコール、最後何を言われたんだ? その様子だと結構ビックリする事の様だが」

 

少女の方がスコールに尋ねた。

 

「あの子、貴女達にも気付いていたみたいだわ。『二人にもよろしく』って」

 

その言葉に近付いてきた二人―スコールとマドカ―は目を見開く。

 

「あの、いけすかねえドクターの戯言かと思ってたけどよ、かなりの化け物だったんだな」

「そうね。能力、経験、どれを取っても超一流。彼がいる限り、IS学園への襲撃なんて成功しないわ。手を引いて正解よ。さて、私達も帰りましょうか」

 

そう言って三人も公園を後にした。

この後、三人の行方は知れない。ただ、良く似た三人組は世界中の様々な所で見られているので、充実した生活をしているのは間違いない。




という訳で、事件は終わりました。

こういう形にしたのは管理局最後の一年が確実に激動の一年になるので、高校生活位、恋人たちと思いっきり楽しんでもらおうと思ったからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話 僕の気持ち YtoA ~いつも手を差し伸べてくれた君へ~

かなり苦戦しました。楽しんでいただければ嬉しいです。

注 かなり甘くなっています。


夏休みに入って数日。僕はバニングス社の社長、つまりはアリサの父親のロイさんと母親の杏奈さんに呼び出されて、バニングス社本社……ではなく、アリサの家に呼び出されていた。

 

「……緊張してる、八雲?」

 

僕の横に居たアリサが僕の顔を覗き込む。

 

「柄にもなくしてるね。朝食べた物吐きそう」

「しっかりしなさいよ。こういうのは覚悟してたでしょ?」

「……まあね。でも、二人に言ったのってアリサだろ?」

「だって、嬉しかったんだもん」

 

……それを言われると弱いなあ。僕としても嬉しいし。

さて、僕も覚悟を決めないと。

 

「よし、行くか」

「ええ、そうね」

 

いよいよ決戦ですね。腹括っていきますか。

 

 

 

鮫島さんに案内された部屋のソファには腕組みしているロイさんとその横でにこにこしている杏奈さんが座っていた。

ちなみにアリサは顔立ち的には杏奈さんにかなり似ている。だけど、髪の色や眼の色はロイさんのそれだし、外国人っぽい掘りの深さもロイさんの遺伝だろう。

 

「……お久しぶりです、ロイさん、杏奈さん」

「そうねえ、霧島君」

 

普通に僕を出迎えてくれる杏奈さん。ロイさんは変わらない、それが怖い。

 

「……君は私達に用があるのではないのかね」

 

話の展開が早い! その辺は世界に名だたる大企業・バニングス社のトップだからなのか⁉ でも、言うしかないだろ。ここで逃げてて、認めてもらえるか!

 

「はい。アリサを、娘さんを僕にください!」

 

簡潔かつ、ストレートに。その言葉と共に僕は頭を思いっきり下げる。

……静寂が部屋を包む。基本、静かなのは好きなんだけど、今この時だけはこの静かさが怖い。

 

「頭を上げなさい」

 

ロイさんの言葉を聞いて僕は頭を上げる。上げた時のロイさんの表情は……笑顔?

 

「そもそも、私達は君とアリサの交際やその先の事を反対するつもりは無いよ。そうでなければ、同じ部屋などにしないだろう?」

 

あ、そう言われてみれば確かに。

 

「私達も霧島君の事は良く知っているし、君ならアリサを任せられると思っているわ。この人がこうやってたのは、私の父親、アリサの祖父に挨拶に行った時にやられた事をやってみたいと前々から言ってたからなの」

「そ、そうですか」

 

……なんか、どっど疲れたよ。ロイさんは社長さんだし、何度かあった感じ真面目って感じだったイメージなんだけど、こういう茶目っ気もあったんだね。

 

「八雲君」

「はい」

 

そういや、ロイさんに名前で呼ばれたのって初めてだなあ。

 

「君の傍ならアリサはずっと幸せで居られるだろう。娘の幸せを願うのはどの親も同じだ。……アリサを頼む」

「八雲君の事を話すこの子は本当に幸せそうなのよ。特にこの前翠屋で会った時の夜なんて何年かぶりに心からの笑顔を見たわ。これからもよろしくね、八雲君」

「はい!」

 

重いなあ。だけど、心地いい重さだよなあ。この人たちの期待に応えれるように、……違うな、僕がやりたい事が出来ればこの人たちの期待にも応えられると思う。だから、精一杯頑張っていこう。

 

 

 

僕はロイさんと杏奈さんの勧めで今日はこの屋敷で過ごす事になった。まあ、この屋敷に訪れたのが三時過ぎでこのままだと帰るのが遅くなるから、僕達も受け入れた。

部屋に案内されるときに鮫島さんに「今日から若旦那様とお呼びしましょうか?」ってからかわれた。……そう言うのはもうちょっと後にしてください。

それで、案内された部屋でのんびりしていると、

 

「少しいいかな?」

 

ロイさんが現れた。何の用だろ?

 

「大丈夫ですよ。僕もただぼーっとしてただけですし」

「そうかい。それで、八雲君、君は将来どうするつもりだい? 卒業後一年だけあっちに行くとは聞いているが」

「……実はですね、夢、っていうか、やりたい事はあるんですよ」

「ほう。差し支えなければ教えてくれるかな?」

「えっとですね……小さくても良いんで喫茶店をやりたいんです。アリサを始めとした皆に僕が作った物を食べてもらって、笑顔になるのを見るたびに、良いな、楽しいなって思うようになったんですよね。だから、自分の店を開きたいです」

 

後、僕の中で夫婦で幸せそうにやっている翠屋が幸せな家庭像、夫婦像として頭の中に有るのも大きな理由だと思う。

 

「幸い、両親が遺してくれたお金もありますし、今こうやってバニングス社で雇ってもらってますし、管理局のお給料も手付かずですから、あっちで金や宝石を買ってこっちで換金も出来ます。だから、こっちに戻ってきて、ロイさんが許してくれるならテストパイロットとして数年働きながら勉強して、いずれは……って感じですね」

「ふむ……分かった。君が店を開く気になったらいつでも言いなさい。開店資金は私が出そう」

「えっ⁉ いやいや、良いですよ! ただでさえ、僕の身柄の安全とかで色々迷惑かけてるのに、これ以上迷惑を掛けれませんよ!」

「気にしなくてもいいよ。今日の事で私と杏奈の中では君はもう、私達の息子だ。息子の夢を応援するのは親の楽しみなのだよ」

 

……ストレートに凄い事言われちゃったなあ。だけど、すごく嬉しいや。こうやって受け入れてくれる人がいる事が。

 

「……その時になったら、お話に行きます。ロイさん」

「待っているよ。後、私の事はいつでもお義父さんっと呼んでくれ」

「……心の整理を付けたらいずれ必ず」

 

押されっぱなしだったけど、こういうのも悪くない、かな?

 

 

 

ロイさんが部屋を後にしてすぐ鮫島さんが夕食の支度が出来たと伝えに来て、夕食を済ませ(名前が分からず、とりあえず、ものすごい高級食材で作られたフレンチだとは理解した)、お風呂に入って、部屋でまた休んでいると、

 

「八雲、少し良い?」

 

アリサが僕の部屋にやって来た。

 

「うん良いよ。それで、どうしたのアリサ?」

「何もないわ。ただ、アンタと一緒に居たかっただけ」

「そっか」

 

僕はベットに腰掛け、アリサは僕が腰掛けている横に座った。そして、僕に半身を預ける。

お互い何も喋らない静かな空間。お昼と同じだけど、この静かさが心地良い。腕から伝わるアリサの温もりが、どうしようもなく嬉しい。

 

「そういや、ママがご飯の前にパパが八雲に会いに行ったって言ってたけど、何の話だったの?」

「僕の将来の話。まあ、管理局を辞めてからの話だね」

「ほとぼり冷めるまでは、ウチで働くでしょ? その後って事ね。まあ、アンタの事だから喫茶店したいとかでしょうけど」

「……何で分かるの?」

「女の勘。……っていうのは冗談で、ずっとアンタを見てたからね。最近、アンタが一番楽しそうにしてるのは、私達にお菓子を作って楽しそうにしているのを見てる時だったもん」

 

そんなにわかりやすかったかなあ? ここ数年のせいでポーカーフェイスには自信があったんだけど。

 

「まあ、そこが切っ掛けなのは否定はしないよ。あのおかげで僕は笑顔を護るだけじゃなくて、笑顔を作る事も出来るって分かったし」

「そう。……ねえ、八雲」

「何?」

「アンタはさ、あの日の病室で私が切っ掛けで押し切って今のようになったけど、良いの? この選択に後悔は無い?」

「無いね。今年の四月まで僕は真っ暗闇の中、ずっと座り込んでた。でも、それをはやてに立たせてもらって動き出して、皆に光を差してもらった。後悔なんてあるもんか。僕の幸せは僕が決めるよ」

 

関わる人は居るけど、僕の人生は僕の物だ。僕の生きたいように生きる。わがままかもしれないけどね。

 

「光ってそんな大げさな物じゃないと思うけど?」

「大げさじゃないよ。見えなかったものが皆の言葉で見えたんだもん。僕にとってはそうなんだよ」

「それなら、良かったわ」

 

これは……僕がこの前買いに行ったものを渡すチャンスって今なんじゃないかな?

 

「アリサ、受け取って欲しい物がある」

 

そう言って僕は叢雲の拡張領域にしまっておいた小箱を取り出し、それを開ける。中にはアリサの誕生石であるルビーをあしらった指輪。

 

「これって……エンゲージリング?」

「うん。こういう事になって、僕からちゃんと形にした物を送りたいなって思ってね。……アリサ、僕は一人に選びきれない優柔不断な男だよ。世間一般の常識から見たらとんでもないクズだよ。そんな僕だけど、アリサを愛していて、手放したくないって気持ちは本物で、この指輪はその気持ちを形にしたものです。……受け取ってくれますか?」

「そんなの、私の答えは決まってるわ。私も八雲を愛してる。でも、この前言った通りすずかも、刀奈も、簪も、本音も、虚も大切なの。だから、こういう形になるように動いたわがままな女よ。だけど、八雲はそれを受け入れてくれた。私の想いごと全部ね。だから、私も受け止めるわ。貴方の気持ち、全部。……はめてくれる?」

 

そう言って僕に左手を差し出すアリサ。僕はその左手の薬指に指輪をはめる。

 

「っていうか、冷静に考えたら、私はともかくアンタ結婚できないわよね、年齢的に」

「……あっ」

 

そう。僕は特別に重婚は認められたけど、それが出来るのは日本の法律と同じ18になってから。今は16なので当然出来ない。彼女達の中にも年齢が理由でまだ誕生日を迎えていない九月生まれのすずか、十二月生まれの簪、一月生まれの本音も出来なかったりする。

ちなみに刀奈さんは三月生まれ、虚さんは二月生まれで皆誕生月はバラバラだったりする。

 

「忘れてたのね」

「忘れてたし焦ってました。まあ、アリサを誰にも譲らないって意思表示と予約って事で」

「……そんな事しなくても私の身も心も八雲の物よ」

「普段は僕は皆の物だけど、今日はアリサだけの物だよ」

「今日は一緒に居てくれる?」

「今日はなんて言わず、ずっと一緒に居るよ」

「……ホント、何処でそんな気障なセリフ覚えたんだか」

「さあ?」

 

というより、僕が思うに男子は好きな女の子を口説いたり、喜ばせるためにそういう歯の浮くようなセリフを製造する回路が存在するんだと思う。六年間眠ってたそれが今はフル稼働しているだけ。

 

「今日は疲れたし、もう寝るよ」

「緊張してたし、仕方ないか。添い寝……してあげよっか?」

「お願いします」

 

ここでNOを言う奴は居ないだろ、普通。

 

 

 

八雲は疲れていたかもしれないけど、私はそうでもなかったから、彼が眠ってしまっても目は開いていた。

横で寝ている八雲を見ると、静かに寝息を立てている。普段は雰囲気あんまり感じないけど、寝顔と笑った時の顔は年相応って感じがするのよね。いや、割と童顔で小柄だから、年下に見えるかも。

しかも、こんな素敵な物までプレゼントしてくれてさ。そう思いながら私は自分の左手の薬指にはめたままの指輪を見る。

パパの会社関係でパーティーに呼ばれる事も小さい頃から多くて宝石がどれくらいするかっていうのも、同年代よりは詳しいと思う。だから、ちゃんとした指輪がそう簡単に用意できる物じゃない事も分かってるつもりだ。少なくとも普通の高校生がポンと買えはしない。八雲はウチの会社からかなりの額の給料を貰い、良いデータで追加報酬を貰っているから買えたのだとは思うけど。

まあ、夏休みの初日に出掛けた時に買ったのは分かっているんだけど。その日くらいしか買い物に出かけてないし。

さっき突然出された時は驚いたけど、それよりもやっぱり嬉しかった。だって好きな人からのプレゼント、しかも指輪よ? 喜ぶなって方が無理があるわよ。

貰った時は恥ずかしかったから我慢したけど、今は頬が緩みっぱなしだし。

 

「ホント、決めたら一直線なんだから……」

 

八雲の良い所で少し直して欲しい所で私が好きな所。ちょっと前まで度が過ぎて破滅へ一直線って感じだったけど、今はブレーキも休む事も覚えたから大丈夫だと思う。

もう一度八雲の寝顔を見る。今まであった隈が無くなって穏やかな寝顔。……やっぱり、今は凄く幸せ。その一言に限ると思う。

私の横で寝ているコイツは「皆の幸せが僕の幸せになる」って言うけど、それは私も同じ。私の、私達の幸せは八雲が幸せが大前提なの。それで、アンタと皆で過ごすなんでもない日常が幸せ。こんな日がずっと続くように私は私なりに頑張ろう。

……八雲のそばに居れるように料理やお菓子作りを勉強しようかしら? いや、そっちは八雲を含めて適任が何人も居るから任せて私は接客や経営面の勉強ね。何事も適材適所って事で。まあ、まだまだ高校生活は続くし、この事はゆっくり考えよう。

 

「おやすみ、八雲」

 

私は寝ている彼の唇にそっとキスをして、彼に抱きついて眠った。この暑さですら、心地いいと思えるんだから、本当に私は心の底から彼に惚れてるんだなあと思う。

あ、それと指輪の事は皆に内緒にしておく方が良いわよね。だって、その方が絶対に嬉しいもん。この気持ちを私だけの物にするのはもったいないもの。皆にも味わってもらいたいから。

 




ここから何話かはこんな感じの話が続きます。

ちなみに順番は八雲のハードルが低い順になっています。


最近、ISの機体ネタがいくつか思いつきました。これを使わないのはもったいない気がするので、その内新作を上げるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話 僕の気持ち YtoS ~綺麗な月の夜に~

超難産でした……。


さて、アリサの家での霧島八雲一世一代の大勝負が終わってから二日後、僕はまた一世一代の大勝負を挑む事になった。……一世一代の大勝負ってそんなに頻繁に起こる事じゃ無いよね? 絶対。

まあ、それは置いておいて今回の舞台は、月村家。難易度的にはバニングス家と同じかちょっと上位? いや、忍さんは認めてくれてるのはお見舞いされた時に分かってるんだけど、恭也さんがなあ……。

 

「お待たせ、八雲君」

「いや、僕もちょっと前に来たばっかりだよ。だから、大丈夫。……それよりさ、服大丈夫かな? 変な所無い?」

 

今日の僕の服は黒のスーツという正装になっている。これはアリサの家から帰る際、杏奈さんから送られた物で、ロイさんの普段使用しているスーツを作っているところにオーダーメイドしたものらしい。ちなみに、値段は……怖くて聞けなかった。

正装と言う意味では普段から着慣れたIS学園や管理局の制服があるけど、両方ともそこまでかっちりした着こなしを強制されるものじゃないから(IS学園は改造OKなので、着こなしもある程度は自由。管理局も動きやすさ重視なので、礼服っぽさは薄い)、なんていうか……違和感が凄い。

 

「変な所なんてないよ? むしろ似合ってる。八雲君、大人っぽいから、そういうきちんとした格好似合うね」

「ありがと。僕的にはまだ、着てるっていうより、着られているって感じがするんだけどね」

 

まあ、このままの人生設計だとスーツを着るような生活ではなさそうだから、一生慣れる事はなさそうだけど。それこそ、冠婚葬祭の時くらいになりそうだ。

 

「それじゃあ、行こっか。お姉ちゃんが待ってるよ」

「そうだな」

 

 

 

ノエルさんとファリンさんのメイド姉妹に案内されて、僕とすずかは忍さんが待っている部屋に案内された。待っていた忍さんは開口一番、

 

「いらっしゃい、八雲君。いや、我が義弟君?」

 

という、強烈な先制パンチを食らった。……アリサの家以上に急展開だぞ。そんな僕の考えを知ってか知らずか忍さんは話を進めていく。

 

「私はすずかと八雲君が決めた事だから、それを尊重するわよ?」

「……それは嬉しいんですけど、話早すぎませんかね?」

「あら、長引く方がお好みだった? だけど、私はすずかの八雲君への気持ちを知ってるし、君がどういう人間かも知ってるつもりよ。それを加味して、君なら私の大事な家族を任せられると思った。だから、それを最初に言っただけよ」

「えーっと……、ありがとうございます?」

「どうして探り探りなの、八雲君?」

「いやー、テンポ急すぎて、まだ現実か分からなくてさ」

「夢でもなんでもないよ? ……そんなに気になるなら、キスして証明してあげよっか?」

 

……今、気付いた。最近すずかの時折見せる、イタズラを仕掛ける一面は、忍さんの影響なんだと。そういや、すずかは猫好きで月村家には何匹も猫がいるけど、すずかのこの猫っぽい所はそれと関係するのかな?

となると、犬好きのアリサは犬っぽいってなる気がする。真面目でしっかりした所とか。

皆を分けるとしたら……

 

犬=アリサ、簪、虚さん

猫=すずか、本音、刀奈さん

 

かな。なんとなくだけど。

 

「あらあら、本当にラブラブねえ。私も恭也に会いたくなって来たわ」

「そういや、恭也さんは居ないんですか? てっきり僕は二人で待っていると思ってたんですけど」

「ええ、家族の話し合いだから、外してもらったわ」

 

……まだ、プロポーズしてないんですね、恭也さん。僕が初めて忍さんに会った6年前から付き合ってて、年齢的にも、その他もろもろの問題も無いだろうに。

 

「そういや、お姉ちゃんと恭也さんはどっちから告白したの?」

「言ってなかった? 高三の時、私からよ。美由希ちゃんなんかには『えっ、まだ付き合ってなかったんですか? 恭ちゃんと忍さん』って言われたわ」

「だって、私が小学生になる頃にはもうラブラブだったよ? 美由希さんの反応になるのも分かるよ」

 

ちなみに僕達と忍さんたちの年齢差は10歳。何時知り合ったかは知らないけど、少なくとも本人達が付き合い始める数年前から周りは二人が付き合っていると思っていたらしい。

 

「恭也さんは鈍感なんですか?」

「違うわ。恭也はヘタレよ」

 

なんか意外だ。恭也さんのタイプなら忍さんの好意に気付かない方だと思ったんだけど。

 

「何でも、私の好意自体は少なくとも高二の時点で気付いていたんだって。それが友人への物か、異性としての物か、自分の勘違いか分からなかったから言い出せなかったんだって」

 

……踏み出すのが難しいって言うのは理解できるから一概にヘタレとは言えないけど、でも、言い出せないんだから否定も出来ないか。その頃の二人を知らない僕としてはこれ位しか言えないかな。ってか、鈍感とヘタレのハイブリット? 

でも、僕の知る限りの二人はいっつもイチャイチャ、ラブラブしてるバカップルだからなあ、恋はそこまで人を変えるんだねえ。

 

「さて、今日はここに部屋を用意したから一日だけでもゆっくりしていきなさい」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 

 

アリサの家と同じ感じでノエルさんに案内されて、僕は今日泊まる部屋に案内された。やっぱり今日もくたびれたのでスーツの上だけ脱いで部屋にあったハンガーにかけた後、僕はベットで横になった。……見慣れた寮の部屋や自分の家と違って高い天井だなあ。

そんな事を考えていると部屋のドアがノックされた。

 

「はい?」

「私よ。恭也もいるわ」

 

ノックしたのは忍さんでさっきはいなかった恭也さんもいるらしい。何の用だろ。

 

「今開けます」

 

ドアを開けると、二人が立っていた。うん、やっぱり美男美女のカップルで絵になるなあ。

後、恭也さんをを見ると身長が欲しいね。僕と恭也さんは大体10センチくらい違う。恭也さん位……とは言わないけど、170は欲しい。

僕は恭也さんと忍さんを招き入れて、部屋に備え付けれていた椅子に座ってもらう。僕はベットに腰掛けた。

 

「それで、なにかお話ですか?」

「ええ、2つほどね。1つは恭也が直接会いたいと言ってたんだけど……」

「俺の方はもう終わった。……父さんの言っていた通り、吹っ切れたようだな」

「その節は本当にご迷惑をおかけしました。でも、吹っ切れたわけじゃないんですよ。色んな人に後押しされて、吹っ切らさせてもらいました。それが無ければ、今も変わらなかったと思います」

 

変わったのは僕に手を差し伸べてくれる人がいるというのを気付けた事。変われたのはその差し伸べてくれた手を握れたから。多分、僕の本質は変わっていない。

 

「そうか……。忍、次の話に行ってくれ」

「分かったわ。……もう一つの話はね、私達月村家に関わる話よ」

 

月村家に関わる話? 皆目見当が付かない。

 

「私達はね、『夜の一族』と称する、いわば、吸血鬼なのよ」

「はい? 吸血鬼って言うと、ファンタジーとかで出てくる人の血を糧にするあれですか?」

 

一応次元世界では確立した技術である魔法ではなく、ファンタジー的な魔法も存在するらしいけど、まさか地球でそんなファンタジーな話を聞くとは思わなかった。

 

「そう。といっても、昔は物語の中の吸血鬼そのものだったらしいけど、長い間、人間と交わってきて、私やすずかは人より高い能力くらいで、吸血衝動とかの吸血鬼らしさはないわ。……これを聞いてどう思う?」

「どうって……。別にどうも思いませんけど? 流石に魔法関連で色々経験してきた僕でも吸血鬼には驚きましたけど、それだけです。僕の中では、おしとやかだけど、時折小悪魔めいた一面を見せてくれて、そんなギャップもカワイイし、それになにより、僕が差し伸べてくれた手を払いのけてもずっと僕の近くに居てくれて、優しく受け入れてくれて、今は僕を支えてくれる。そんなかけがえのない女の子ですよ。生まれがどうとか、そんなの関係無いです。恭也さんだって同じでしょ?」

「そうだな。俺にとっても忍はかけがえのない人だ」

「恭也……」

 

やっぱりバカップルだよ、この二人。早くゴールしちゃえばいいのに。……ちょっとけしかけるか。

 

「時に、義姉さん。義兄さんとの結婚はいつの予定で? 出来れば僕が卒業するまでにお願いしたいんだけど。卒業して一年はあっちで忙しくなるし」

「あら、それは急がないといけないわね」

 

僕の言葉を受けて、がぜん楽しそうな表情でそういう忍さん。

 

「ちょ、ちょっと待て! 俺にだって心の準備がだな!」

「もうそろそろ、夕食だと思うんで、僕は先に行ってますね。という訳で二人ともごゆっくり~」

 

そう言って部屋を出た。ちょっと力技だったけど、まあ、家族になる人たちの幸せを願ってこれ位の事はね。

 

 

 

今日の夕食はよく分かりませんでした。(忍さん曰くトルコ料理との事)分かったのは、良い物を使ってるって事だけ。なので抜群に美味しかった。でも……皆の作ってくれるのがやっぱり一番だね。

部屋に戻って、備え付けられた本棚に有った本(明治時代の日本文学押しなラインナップだった)を適当に取ってベットに腰掛けて読んでいると、ドアがノックされて、

 

「八雲君、今良いかな?」

 

とすずかの声が聞こえた。

 

「良いよ。特に何もやってないし」

 

僕は立ち上がって読んでいた本を本棚に戻し、ドアを開けて招き入れる。僕はベットに座り、すずかは僕の横に座る。おお、デジャヴュ。

 

「そういや、八雲君は何をやってたの?」

「そこにある本棚から適当に取って読んでた。ってか、客室のここになんで本が置いてあるのさ?」

「八雲君、特に荷物とか持って来てないでしょ? 時間が余ると思ったから、お姉ちゃんが用意したんだと思うよ」

「そっか、明日帰る時にでもお礼を言っとかないとな」

 

読む時間は無かったけど、こういう心遣いは嬉しいし。

 

「……ねえ、八雲君」

「うん? 何」

「ありがとうね」

「えーっと……何が?」

「今日、お姉ちゃんが私達の事話したでしょ? あれ、私も聞いてたんだ。お姉ちゃんが盗聴器を持って、その受信機を私が持っててね。それで、私を受け入れてくれたから、ありがとう」

 

別にお礼を言われるほどの事じゃ無いと思うんだけどなあ。愛する人を受け入れるなんて当たり前の事だと思うし。……って、ちょっと待てよ。

 

「てことは……」

「聞いてたよ、八雲君の言葉♪」

 

マジか……。穴があったら入りたい。いや、穴を掘ってでも入りたい。

 

「私は嬉しかったよ?」

「そりゃ良かったけど、僕は今になって恥ずかしくなって来たよ」

 

あれは、すずかに聞かれない前提で僕の真剣さを二人に知ってもらいたかったから言った言葉だったもん。

 

「でも、やっぱり不安だったし怖かったんだ。他の皆にもそう言う気持ちがあったけど、八雲君には一番大きなのがあったよ」

「皆には言ったの?」

「うん。この前、八雲君が買い物に行ってる日にね。皆受け入れてくれたよ。アリサちゃんには『すずかの生まれがどうとか、そんなの関係無いわよ。すずかは私の親友で、一緒に大切な人(八雲)を支えていくかけがえのないパートナー。そうでしょ?』って言われちゃった」

「アリサらしいね」

「だよね。でも、すごく嬉しかった。何の色眼鏡も無く私を見てくれる人たちがいる事が」

 

人とは変わっている所、違っているところって言うのは総じて悩みになる事が多い。仲間外れにされる可能性があるから。それは、ほんの些細な物でもだ。それを知られて外されるのが怖いのは当たり前の感情で、受け入れられて嬉しいのもこれまた当たり前の感情。知られるのが怖いから隠すけど、大事な人には隠したくない。だから伝えるんだけど、それにだって凄く勇気のいる事だ。それをやったすずかは凄いと思う。

僕への場合、忍さんがすずかを気遣ってこういう形になったのかもしれない。

だけど、まだすずかにも不安が少しあると思う。だから、今僕に出来る事をやろう。……さっき読んでた本関連で行こうかな。丁度良い感じのシチュエーションだし。

 

「すずか」

「何?」

「月が綺麗ですね」

 

ある意味、使い古された言葉。だけど、この部屋の窓から見える月は大きくて綺麗な満月。ここまで相応しい言葉もないと思う。大文豪に感謝だ。

 

「死んでもいいわ。……なんて嘘でも言わないよ? 八雲君とずっと一緒に居たいから」

 

嬉しいねえ、ここまで想ってくれるなんて。

 

「ありがと。まあ、丁度読んでた本関連で思い出してさ。ちゃんと顔を見て言っておこうと思ってね。それとこれ」

 

そう言って取り出したのは数日前のアリサの時と同じ小箱、そこにはサファイアをあしらった指輪。

 

「これ……」

「想像通りの物だよ。言葉にするのは簡単だから、形にもしようと思ってさ。……すずか、さっきも言ったけど、僕にとってはすずかがどんな生まれとかそんなのは些細な事なんだ。大事なのは僕が君を愛していて、ずっと一緒に居たいって気持ちだと思うから」

「……ホント、八雲君はズルいよね。八雲君はずーっと、私の心の中に居るんだもん。だけど、それが心地良いと思えるくらい君が大切なんだ。だから、八雲君が私を受け入れてくれたように、私も受け止めるよ。八雲君の想い全部。……指輪、はめてくれるかな」

 

そう言って、すずかは僕に左手を差し出した。僕はその手の薬指に指輪をはめる。

 

「はー……渡せて良かった」

「なんかお疲れ?」

「気持ち的な問題だけどね。挨拶して、大事な事を伝えようと思っていてずっと気が張ってたから」

「それなら、今日はゆっくり休みなよ。そばに居るから」

「ありがとう。それじゃ……おやすみ」

「おやすみ、八雲君。今日はお疲れ様」

 

 

 

八雲君はベットに入るとすぐに眠ってしまった。それだけ精神的に疲れてたんだろう。その辺は私には分からない。だけど、やっぱり八雲君にはありがとうだよね。ここまで私達の未来の事を考えてくれたんだから。だけどとりあえず、アリサちゃんに連絡しよう。

 

『もしもし、何、すずか?』

「アリサちゃん、どうして言ってくれなかったの?」

『ああ、指輪の事? だって、言ってしまったら貰った時の感動が薄くなるでしょ。この気持ちは私だけじゃもったいないわよ。皆にも味わってもらわないと」

 

確かに、八雲君が指輪を見せてくれた時の嬉しさは言葉にできない物だった。アリサちゃんがもったいないって言うのが良く分かる。この感動はまだ渡されていない四人にも伝えたいな。

 

「じゃあ、刀奈ちゃん達には内緒にしておかないとね」

『そうね、それが終わるまでは身に着けるのを自重しとくわ。で、アイツは寝てるの?』

「うん、そうだよ。今日はお疲れなんだって。色々あったから。私の事も伝えたし」

『そう。……今日はこの後どうするの?』

「うーん、私ももう寝ちゃおうかな。八雲君の横で」

『最後の一言は余計よ。だけど、私もそうしたから何も言えないわね。おやすみ、すずか』

「おやすみ、アリサちゃん」

 

電話を切って、ふと八雲君の寝顔が見たくなったから、覗き込む。

普段は大人びた印象の八雲君も寝ている時は年相応の感じ。そういうギャップも八雲君の魅力だと私は思う。

 

「おやすみ、八雲君」

 

私は彼の唇に軽くキスをしてからベットに入り、彼に抱きつく。

私に伝わる彼の温もりが私を幸せにしてくれる。

もう何年も前に芽生えた恋心は、時間と共に大きくなり、八雲君が応えてくれた事で実を結んだ。次はこれを私だけじゃなくて、八雲君と、アリサちゃん、刀奈ちゃん、虚ちゃん、簪ちゃん、本音ちゃんと育てていこう。

やり方は簡単。皆と一緒に幸せな日々を送る。それだけ。




次の話も全く出来てません……。6パターンのシチュエーション&セリフは中々しんどいです。
また空きますがよろしくお願いします。


活動報告にて、オリジナルISの新ネタを上げました。興味があれば見て感想や意見を頂けると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話 霧島八雲IN更識家

更識家編はこの話を含めて五話編成になっています。


すずかの家での二度目の一世一代の勝負から二日後、僕は人生三度目の一世一代の勝負に来ていた。……ここ数日の僕の疲労が半端じゃないんですけど。まあ、僕が選んだ道だから、それは甘んじて受けよう。

しかし、今回は前二つと訳が違う。

まず、刀奈さんと簪の更識家と虚さんと本音の布仏家は代々主と従者という家柄で、四人の曽祖父母の代が兄弟なので、親戚でもある。そして、両家は同じ家に住んでいる。つまり僕は、一気に両家の両親に四人と結婚を前提に付き合ってると言う前代未聞の報告をしないといけない事になる。……代々、国を裏から守護してきた家(告白された時、四人から教えてもらった)だという事を考えると、僕は今日、生きて帰れるか分からない。

それと、アリサの家とすずかの家は僕という人間を知っていて、ある程度信頼があったというのも大きい。が、両家の人には面識が当然ながら無い。

気分はまるで、ルビコン川を南下する直前のジュリアス・シーザーだ。しかしもう、賽は投げられた。後は最後まで進むのみ。

 

「なんか、はっちーに悲壮感が漂ってるよ~」

「確かに。まあ、仕方ない事だと思うけどね~」

「……私達も援護するから、頑張って」

「さながら、ローマ内戦のユリウス・カエサルといった所でしょうか」

 

虚さんと発想が同じだった。まあ、賽は投げられたは有名な故事成語ではあるか。

 

「虚さんの言う通り、ここまで来たら最後まで進むだけですよ」

「だね。それじゃ、我が家にご案内~」

 

大きな門から入ると、いきなり強面の黒服の集団に襲われた。ご丁寧に刀奈さんたち四人を避けて僕だけ。

 

「ちょっ、何事⁉」

「ど、どうなってるの?」

「これはひょっとして……」

「お父さんと先代様の挑戦かな~?」

 

……一方的にやられる趣味は無いし、やるしかないか。かといって、一撃で相手の動きを止めないと囲まれて終わりだし……。仕方ない。

僕は手に雷を纏わせた掌底を当てて、一人一人の意識を刈り取っていく。擬似スタンガンみたいなものだ。拳じゃないのは痛める可能性があるから。

五分で、来た黒服さん(大体40人)の行動を止めて、一息つく。準備運動なしでのいきなりだったから疲れた。

 

「お疲れ、八雲君。それじゃ、行きましょうか。OHANASHIしに」

「あのー、刀奈さん?」

「だね、お姉ちゃん。OHANASHIしないと」

「か、簪?」

「私も一緒にOHANASHIしないとね~」

「もちろん、私もOHANASHIに参加しますよ」

「本音? 虚さん?」

「「「「何? (ですか?)、八雲君(さん)(はっちー)」」」」

「イエナンデモナイデス」

 

……凄い怖いんですけど! 四人の後ろに何かが見える気がするし! 誰か助けて~。

怒りモードの四人に付いて行って屋敷の中に入るとそこには、両姉妹を大人にした感じの女性二人が腕組みをし、その前に正座をさせられている男性が二人いた。……どういう状況?

 

「えーっと、お母さん、真実さんどういう状況?」

「あら、刀奈、簪、虚ちゃん、本音ちゃんお帰りなさい。ちょっと鋼太郎(こうたろう)さんと為人(ためひと)さんにOHANASHIをね。ね? 真実(まみ)

「ええ、ちょっと櫛奈(くしな)と二人でOHANASHIしているだけよ」

 

……凄い怖い。逃げ出したい。

 

「まったく! 娘達が選んだ男の子を試すと言って、ウチの部隊で襲撃するとか何を考えているんですか! 貴方、鋼太郎さん!」

「い、いやしかし……」

「言い訳など、聞きたくありません。実力は士郎さんの折り紙付きでしょう。人柄だって、士郎さんと桃子ちゃんのお墨付き。何より四人が好いているんです。貴方達は娘達の目を信じられないんですか?」

「「………」」

 

完全にたじたじの、両家の父親。……ってか、聞き捨てならない事が聞こえたんだけど。

 

「あのー、一つ良いですか?」

「良いわよ、霧島八雲君」

「さっきお話の中に出て来た士郎さんと桃子さんというのは、高町士郎さんと桃子さんの事で?」

「そうよ。海鳴で喫茶店『翠屋』やってる高町夫妻の事よ」

 

……世間って案外狭いねえ。まさか、こんな所で名前を聞くなんて。そういや士郎さん喫茶店に本腰を入れる前はボディーガードみたいな事やってたって言ってたし小太刀二刀流も士郎さんの家の家伝らしいから、それ関係かな?

 

「桃子ちゃんと私達は中学高校と同じ学校の同じクラスでね。大人になってこの家の仕事の関係で再会した時はビックリしたわ」

「まあ、立ち話もなんだし、上がって」

「はあ、お邪魔します」

 

……なんか、のっけから色々あり過ぎて疲れたよ。

 

 

 

衝撃的な光景の後、僕はスーツから袴に着替えて、道場に居た。認めさせるために戦えとの事。なので……僕の前には両家の父親、更識鋼太郎さんと布仏為人さんが立っている。

 

「「………」」

 

お二人の無言が怖い。目線も怖い。

 

「はあ、霧島君。やってしまいなさい」

「私達が許可します」

 

そうおっしゃる両家の母親、更識櫛奈さんと布仏真実さん。ある意味、こっちも怖い。……しかしどうなんだろうな、これ。ま、でも僕がどうやって戦うのは決まってるんだけど。

 

 

 

戦いが始まって約20分、まだ決着が着いていない。所か全員一撃も食らっていない。僕は体力を温存しながらひたすら攻撃を防ぎ続ける。

 

「……どうして君は反撃をしないのだね?」

 

一旦攻撃の手を止めて、更識さんが尋ねる。刀奈さん曰く「生身の格闘戦なら織斑先生を超える。布仏のおじさんもほぼ同レベル」な人らしいから、僕の実力も察せているんだろう。

 

「それは、反撃したくないからです」

「反撃したくない……と?」

「ええ。ここで勝って認められるのも大事かもしれません。だけど、僕にとってはそれよりも彼女達の悲しむ顔を見る方が辛いですから」

 

肉親が目の前で傷付くのはたとえどんな理由があっても嫌な事だと思う。彼女達を傷付けてしまうかもしれない。間接的にでもそんな事をする位なら、僕は今は認められなくてもいいと思う。最悪、僕が結婚できる年齢になるまで待てばいいし。

 

「「はっはっはっはっ」」

 

突然笑い出す二人。何事?

 

「今時珍しい、性根の真っ直ぐな青年じゃないか! これでは私達が大人げない感じだな」

「ええ。私達の娘ながら見る目がありますね。済まなかったね、霧島君」

 

……これは、受け入れられたっぽい?

 

「刀奈」

「はい」

「今日、この時間を持って、お前の十七代目楯無の名を返上させる。これからは一人の更識刀奈として生きなさい。もちろん簪もだ」

「虚、本音。二人も自由に生きなさい」

「良かったわね、刀奈、簪」

「虚と本音もね。彼ほどの人は居ないわよ?」

 

なんとか一件落着だね。ふぅ……。

 

「あ、それと……」

 

そう思っていたら、両家の母親達が

 

「「孫は皆が卒業してからにしなさいよ」」

 

と特大の爆弾を落とした。……ご忠告は嬉しいんですけど、本気でお宅の娘さん達次第です。ただ、恥ずかしそうに頬を染める彼女達は格別に可愛かったと言っておく。

 

 

 

戦いがあった後、僕は変わらず道場に居る。といってもここには今、僕と両家の父親、更識鋼太郎さんと布仏為人さんしかいない。……緊張感が半端ない。

 

「霧島君、君の事は士郎とロイから聞いたよ」

「はあ、そう言えば玄関での会話の中で言ってましたね」

 

アリサと刀奈さんが昔からの友人って言ってたけど、少なくとも刀奈さんと出会ったのは学校ではない。ならば自然と親の仕事の関係だったのだろうと推測できる。

仕事関係でロイさんとも付き合いがあったと考えるのが自然かな?

 

「それに護衛の為に君の事は調べさせてもらった。だから、君の過去の事も知っている」

「……はい」

「さっき立ち会って、君が誠実な人間だとは分かっている。だが、それを踏まえて聞きたい。君は娘達を君の思い人の代わりと置き換えていないかね?」

 

……はやての代わりか。

 

「無い……とは言い切れないと思います。やっぱり僕の中で凄く大きなものでしたから。だけど、彼女の代わりなんて居る訳ないんですよ。当然、皆の代わりも居る訳ありませんし」

「なら、何故言い切れないのだね」

「ここ数年の僕は糸の切れた凧のようなものだったんですよ。大事な物を失って、何もかもを流れに任せてしまっていた。僕の命さえも。だけど、皆のお蔭で色々取り戻せたんです。僕は違うと思いたいですけど、心の何処かでは取り戻せた『護りたい大切な人』として置き換えているのかもしれません」

 

この辺は自分でも分かっていない。

僕の皆に対する気持ちは本物だと言い切れる。だけど、その後ろにはやての幻影を見ていないかと聞かれると自信が無くなる。

 

「ふむ……私から言わせてもらえればそれ位は構わないのではないかね?」

「そうだな。過去を振り返るなとは言えない。それは君を形作って来たものだから。それを踏まえて娘達を愛し、護っていく。それで良いと思うよ」

 

本当にそれでいいのか? 答えは今すぐ出るものじゃない。これはこれからの課題としてゆっくり考えよう。困ったら今の僕には頼りになる人が沢山いるんだ、その人達に頼れば良い。

 

「……ありがとうございます。少し楽になりました」

 

ホント、今年は色んな人に出会って、色々助けてもらってばっかりだよ。少しでも恩返ししたいなあ。

 

「にしても、お二人もロイさんもどうして僕に親身にしてくれるんですか? 自分で言って悲しくなりますけど、やってる事ってかなり酷いと思うんですよ」

 

だって、現代でハーレムだよ? 中世の支配者階級じゃないんだから。

 

「まあ、娘達が望んだ事だからね。それに、話して君の人柄もある程度把握できたからね」

「後は、ロイもそうだと思うが単純に息子が欲しかったのだよ。まさか二人の娘と娘同然の二人の四人が全員同じ男を好きになるとは思ってみなかったがな」

 

そう言ってお二人は笑い出した。……正直、こんなに立派な人達から息子と呼ばれるのはこそばゆい物がある。

いつか、自信をもってお義父さんと呼べるようになりたいなあ。そうなれるように頑張ろう。うん。




色々盛り込んだ回になりました。それでもってご都合主義回でもありますねえ。
後書きでいくつかの説明を。

更識家、布仏家の両親の下の名前の命名法則

父親が姉、母親が妹を連想させる名前になっています。

鋼太郎 刀の材料である玉鋼から。太郎はザ・日本人って感じでいいかなと思いました。
櫛奈  簪と同じく髪の毛に関する櫛から。二次界隈で良く使われている名前だと思います。

為人  虚からの発想で偽りから『人偏(人)+為』。これは偶然八話の中でも出てました。
真実  本音からの発想で『真実(しんじつ)』から。女性っぽい名前でもあったので。


更識家の長老衆について

構成しているのは更識家に関わる家のご隠居など、経験豊富な人達の総称。次代の楯無はここの総意で決まる。

各家の繋がり

更識家・布仏家 
言わずと知れた主従の家柄。本作独自としてヒロイン達の三代前に婚姻関係にあるので親戚でもある。
以降の更識家には布仏家も含む。

更識家・バニングス家
裏では暗部、防諜組織である更識家だが、表向きの家業は護衛でSPやシークレットサービスの教育にも行くほどレベルが高い。大企業のバニングス社とも付き合いがあり、同年代の娘もいる事で話が弾み、家族ぐるみの付き合いとなった。

バニングス家・月村家
高町家、テスタロッサ家を含めたなのは組は子供同士が幼馴染な事からの家族ぐるみの付き合いである。

更識家・高町家
士郎は実家である不破が更識と深い関係のある家柄で古くから知り、桃子は両家の母親とは中学からの友人。

……こう見ると八雲と高町家で繋がりが説明できるって事になってる。


戦闘の強さ

本作の戦闘を表すと以下のようになります。(生身の格闘戦。魔法無し。見方は「>」ははっきりした差、「≧」はほとんど差がないと考えてください)

八雲=士郎=鋼太郎≧為人=恭也>千冬≧束>>>越えられない壁(人外)>>>刀奈>ラウラ>専用機持ち>一般生徒

という感じです。
ついでに主要キャラのIS戦での強さを作中時間の現在で表すと

千冬≧八雲>束(もし乗ったら)>刀奈>簪>>>越えられない壁(人外)>>>ラウラ=真耶>シャルロット≧鈴>セシリア>箒≧一夏

となります。
IS戦で更識姉妹が人外認定されたのは現在進行形で魔改造(魔法の練習によるマルチタスクの習得)が進んでいるからです。なので、八雲のハレームメンバーは全員越えられない壁を越えてくる可能性が大です。


次回からは甘いお話が続きます。まだ、半分も仕上がってもせんけど……。出来るだけ早く上げたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話 僕の気持ち YtoKもしくはT ~寂しがり屋な僕から貴女へ~

今回の相手は二つの名前を持っている彼女です。


一転して歓迎ムードの中で僕は更識家で一日を過ごす事になり、僕と彼女達に起こった事(主に魔法関係)を話し、夕食を頂き(素材の味を活かした和食。全体的に薄味で僕の好みだったけど、特に味噌汁が美味しかった)、案内された部屋で休んでいる。

……にしても和室、良いねえ。寮の部屋に畳を持ち込んで、気分だけでも味わうかな? その辺、寮監の織斑先生に聞いてみよ。

 

「八雲君、入るわよ~」

 

考え事をしていたら、扉の向こうから刀奈さんの声。

 

「どうぞ~」

 

実は夕食が終わった後、二人っきりで話したいから、僕が今夜泊まる部屋に来て欲しいと四人に言ったのだ。ちなみに順番は四人の方にお任せしてある。どうやって決めたかは知らないけど、最初は刀奈さんになったらしい。

刀奈さんは部屋の押し入れの中から座布団を二つ取り出し、並べた。膝を突き合わせて向き合う形でそれに僕達は座る。

 

「それで、二人っきりで話したい事って何かしら?」

「えっと、ちゃんと更識家の皆さんに認められたから、改めてちゃんと言葉にしようと思ってね」

 

僕自身そうしようと思っていたけど、これを後押ししてくれたのはアリサの言葉があったから。僕がアリサにちゃんと気持ちを伝えて指輪を渡した翌朝、「皆にも機会を作って二人っきりで気持ちを伝えてあげてね」と言われた。

確かにあの時僕は6人纏めての言葉しか言ってなかったしね。だから、恥ずかしくても自分の気持ちを一人一人に伝えようと思う。

 

「そっか。楽しみだな」

 

そう言う刀奈さんの手には開かれた扇子。そこには「期待度MAX!」の文字が。……ハードルがどんどん上がってくよ。

 

「それじゃあ、改めて。刀奈さん、僕は最近気付いた事があるんですよ。僕って結構寂しがり屋なんです。だからずっと一緒に居てください」

 

この事に気付けたのは今年度に入って刀奈さんと同じ部屋で同じ時間を過ごしたから。今になって思うとよく孤独を自分で望んでいれたと思うよ。

それに気付けてからこうやって刀奈さんと部屋で話す何気ない時間ってのが自分の中で大切な物になっていった。他の人から見たら普通の事だけど、目の前の人のお蔭で気付けた大きな事だ。

 

「もちろん、喜んで。ただ、八雲君のそばに居るのは私だけじゃなくて、皆一緒。誰一人外しちゃ駄目よ」

「当然です。皆と一緒に生きていく。その為に頑張るってあの日決めましたから。……これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね八雲君」

「それと、これ」

 

僕は指輪を取り出す。デザインは共通で使われている宝石はアクアマリン。

 

「ひょっとしてこれは……」

「まあ、刀奈さんの考えている物です」

 

僕の言葉を聞いて刀奈さんは抱きついてきた。やっぱり、柔らかいよなあ女の子の体って。……って、僕は変態か!

 

「ありがとう! すっごく嬉しい!」

「そこまで喜んでもらえて僕も嬉しいです。……というより、アリサやすずかに聞かなかったんですか?」

 

すずかの時にも思ったんだけど、何で知らないんだ?

 

「聞いてないわ。少なくとも私は。多分、みんな知らないと思う」

「そうですか……。なんで、内緒にしてんだろ?」

「二人の気遣いじゃない?」

「気遣いですか?」

「ええ。さっき、私はすっごく嬉しいって言ったでしょ? 知っていても嬉しかったけど、さっき以上って事は無いわ。アリサは自分だけの物にするのはもったいないって思ったんじゃないかしら? すずかちゃんはそれに乗っかった」

 

全然そういう事考えて無かったなあ。渡す事を考えるのでいっぱいいっぱいで。

 

「なるほど……。それなら」

「分かってる、まだ渡していない簪ちゃん達には言わないでおくわ。さて、次の人呼んで来るから、頑張って」

「はい」

 

さて、後三人。しっかりと僕の想いを伝えますか。

 

 

 

八雲君が今日泊まる部屋を後にした私はその部屋のドアにもたれかかって、自分の左手の薬指に嵌められた指輪をじっくりと眺めていた。

話したい事についてはなんとなく予想が付いていたんだけど、まさかここまで用意してくれているなんてね。

聞いた時は思わず抱きついちゃったけど、今思うとちょっと恥ずかしかったなあ。思わずそう動いちゃうくらい嬉しかったって事だよね。多分、今も顔は真っ赤。ひょっとしたら首筋まで赤いかも。

 

 

今日、私は正式にお父さんから『十七代目・更識楯無』の解任を言い渡された。といっても元々私が襲名した最大の理由が現在日本で一番狙われやすいであろうIS学園の防衛力強化のためだったから、高校の期間の間だけの予定だったのだけど。ちなみにこの期間に変更はない。

私自身、かなり目立ちたがり屋なのは自覚があったから暗部、防諜組織の色合いの濃い更識家の家業には向いていないと思っていた。

ただ、やっぱり強さも求められて、国家代表になれる実力のあった私は適任とまでは言えないけど、襲名出来るほどの能力はあるとお父さんや更識の長老衆には思われていたらしい。だから、禅譲という形で私がIS学園入学と共に襲名になった。

長老衆はこの三年間で私が暗部に向いた性格に変わればよし、変わらなければお父さんに戻して、適任者を探すとするつもりだったみたいだし、実は私も最初から三年間だけだと割り切っていた。

お父さんが言うには「お前は才能はあるが性格が合わん。適任なら分家に居るから、そいつを育てる」だったらしい。何人か親戚の名前が挙がって、その人達は年齢が私より少し上で、既に更識の仕事で活躍している人だったから、問題無いと思ったし、私よりも適任だとも感じだ。

ちなみに、このお父さんの言葉は当主としての言葉でその後に「まあ、お前が、いやお前たちがか。お前たちが自分たちの幸せを見つけて来たんだ。それを後押しするのも親の仕事だよ。更識の長老衆や私達が後継者と考えている子達だって私と同じ考えだよ」と言われた。

更識、布仏の中で近い年代の女の子って実は私達四人だけだったから、親戚の皆に結構可愛がられていたと思うけど、ここまでだったとは思わなかった。

 

 

どうやら長老衆のおじいやおばあ達は本当は私に継がせるつもりは無かったらしい。歴代で女性当主がいなかったわけではないけど、それはその時に最もふさわしい人材だったのがたまたま女性だったってだけ。私も実動部隊で動くならともかく、当主としては不適格だと思うしそれを決める長老衆やお父さんにもそう思われていた。

それが変わったのがISの登場。女性優位の社会になった事で経験豊富な長老衆もお父さんたちもどう動くか読みにくくなったと共に、日本はIS学園という爆弾を抱え込んでしまった。だから、今回政府の依頼もあって特例として私の期間限定の襲名に繋がったという訳だ。

 

 

私がこの名前、『更識楯無』を名乗るのは後大体一年半。最初の一年は私は仮初とはいえ当主なんだから、しっかりしないといけないと思って色々背負い込んで失敗して虚ちゃんにいつも通りで大丈夫と言われてしまった。今思うと更識楯無の名前に押しつぶされそうになっていたんだと思う。

でもその頃は何処か納得いかない感じで居た。だけど、ちょっと前の八雲君を見ていて虚ちゃんの気持ちが分かった気がする。

パンクしかけの無茶をしている八雲君を見て私は放っておけなかった。これは多分、去年の私を見ていた虚ちゃんの気持ちに近いと思う。

まあ……その気持ちが大きくなって、それが彼が大好きだという気持ちに変わっていって、八雲君が私にとってかけがえのない人になったんだけど。

彼に出会ったお蔭で、私は良い方向に変われたと思う。

無茶をしてた時の彼を反面教師に、無茶を止めて私達を包み込むような優しさに触れた時には、私に恋する事の喜びを教えてくれたし、強さと脆さを兼ね備えた彼を支えたいと思うようになった。

学園生活でそして公の場で求められるのはやっぱり『生徒会長・更識楯無』だったり『ロシア代表・更識楯無』。

だけど、八雲君と私と同じ想いを持つ皆の前ではただの『更識刀奈』で居れる。それは、何も気にせず入れるから当たり前なんだけど。つまり、八雲君を支えたい……と思っている私は実は八雲君や皆に支えられているって事だ。

まあ、そんな中でもやっぱり私は八雲君のそばが大好き。

 

 

今日の事を経て私はこれからずっと八雲君と一緒に居れる。皆と一緒に居れる。これだけで私のこの先は幸せな未来が決定されているのと同じ事だ。そう言い切れる。

だから、今はこの想いを抱きしめて指輪を貰った喜びをかみしめよう。愛する貴方から貰ったたくさんの喜びを。




ご都合主義全開の更識家の裏を書きつつの刀奈回となりました。

題名をYtoKにしちゃうとまだ出ていない簪と被るし、YtoTにすると本当の名前を教えて想い合っている関係にはふさわしくない気がしたので、このような表記になりました。

更識家について

原作で更識家は日本の対暗部用暗部となっていますが刀奈さんは自由国籍持ちでロシアの国家代表という矛盾を抱えた存在になっています。
原作では今後どうなるか分かりませんが本作では『日本政府の依頼によるIS学園の防衛能力強化のための期間限定の当主襲名』として、国家代表に関しては実力で勝ち取った物でその後、政府の依頼で更識家の当主を(高校の三年間だけではあるが)継いだという事にしています。
実際の仕事は本家で行われていて、刀奈さんはIS関連の情報を精査し学園の防衛を固めるのがメインの仕事になっているって感じです。


次回は誰になるでしょうか? 可能なら明日、少なくとも近日中には上げる予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話 僕の気持ち YtoK ~SEVEN COLORS~

昨日ぶりですね。ちゃんと予告通り完成しました。


次はだれが来るんだろうと考えながらのんびりしていると、

 

「八雲君入るよ?」

 

という声が聞こえた。残っている三人は僕の呼び方が違うから誰が来たかそれだけで分かる。

 

「どうぞ、簪」

「お邪魔します」

 

ここは簪の家だからお邪魔しますはちょっとおかしい気もするけど、まあ、そこは気にしないでおこう。

 

「あ、そうだ。簪に薦められたマンガ、読んだよ」

 

最近、簪のおすすめのマンガとかライトノベルと言ったサブカルチャー系のを読むのがマイブームになっている。歴史小説や推理小説ばっかりだったから結構新鮮で楽しい。それ以外に皆でゲームしたりと普通の高校生っぽい事もするようになった。

 

「どうだった?」

「面白かった。後、主人公の技使えるんじゃないかな?」

「八雲君ならISでも、生身でも出来そうだね」

「今度、やってみようかな~」

 

子供みたいだけど、なまじ出来てしまいそうなのが我ながら怖い。というか元々僕の魔法や剣技も前世のゲームであるテイルズオブシリーズからとってるわけだし、そう言う所は前から全然変わっていないと思う。

 

「ねえ、八雲君」

 

僕に話しかけた簪は少し不安そうな顔。どうしたんだろ?

 

「何?」

「八雲君はどうして、会って二日目の私を受け入れてくれたの?」

「どうしてって……僕は一目惚れってあると思っているし、あの時言ってくれた言葉はすごく嬉しかったから、かな。出会ってそんなに時間立ってないのに、そこまで大きい気持ちをを持ってくれた簪を無下には出来ないよ。本当ならもっと時間を掛けてお互いを知ってからだったんだろうけど、ああいう事になったから、順番がごちゃごちゃになっちゃったけどね」

 

僕自身、初恋が一目惚れで、僅かな期間で世界を敵に回す選択が出来るくらいの大きな想いを持てたから、人を好きになるって感情の強さを知っているつもりだし、結局僕は初恋の人に想いを伝えられていないから、その想いを伝える事の難しさも分かっているつもりだ。だからそんな大きな気持ちを持ってくれた彼女に、勇気を出して伝えてくれた簪に応えたかった。それを許される事にもなったって言うのも大きいけど。

 

「……やっぱり優しいね」

「そうかな? 優柔不断なだけだと思うけど」

 

もしくは気が多いか。本当に一途なら時間を掛けてでも一人を選べると思うし。

 

「ううん、あの時までの流れと状況だと、あの選択は普通だと思う」

「そう思ってもらえて嬉しいよ。それで……」

 

僕はこのタイミングで指輪を取り出す。簪のはラピスラズリ。偶然だけど、姉妹で青系統の宝石になった。

あの時の簪と同じ。ほんの少しの勇気を出して踏み出そう。

 

「僕はこれからずっと長い時間を掛けて簪の事を傍で見ていたい、知りたいって思う。これはその証。……受け取ってくれるかな?」

「私もずっと傍でもっと八雲君の事、見ていたいし知りたいって思うよ。だから……指輪はめてくれるかな」

「分かった。だけど」

「分かってるよ。本音と虚さんには言わない。でしょ?」

 

やっぱり、あれは女の子共通の感覚なのかね? そう思いながら簪の左手の薬指に指輪をはめる。

……しかし、初めて会った時は暗い雰囲気だったけど、今はかなり明るいよなあ。その一端を担えているのなら嬉しいな。

暗い雰囲気……というより影がある美人が好きって言う人もいるかもしれないけど、好きな人、大切な人は明るい雰囲気で居て欲しいと僕は思う。

 

「後……こ、これからマンガとかアニメとか私の好きな物を通して私色に染めていくから!」

 

顔を赤くしながらそう言う簪。やばい、凄い可愛い。このまま抱きしめてもっと赤面させたい!

 

「楽しみにしてるよ。あっ、でも皆に影響を受けるから簪色一色には染められないかな」

「なら、虹色になれば良いよ」

 

僕と彼女達七人の色って事か。これからが楽しみだねえ。

 

「無理に一色に染まる必要は無いもんね。皆の興味ある事とか好みとかを知って行って変わっていくのも醍醐味って事か」

「そういう事。それじゃ、頑張ってね八雲君」

「うん」

 

さて、後は本音と虚さんか……。どっちから来るんだろ?

 

 

 

八雲君の居る部屋を後にした私は嬉しさで緩む頬を引き締めようとしながら、お姉ちゃんの部屋に向かう。

お姉ちゃんの部屋に行くのは、今日八雲君の止まる部屋に一人ずつ来て欲しいと言われた後、お姉ちゃんが「それじゃあ、終わったら私の部屋に集まらない?」と言ったから。出来ればお姉ちゃんの部屋に着く前にこの緩んだ表情を何とかしたいんだけど……それは難しそうかなあ。まあ、見られるのはお姉ちゃんだけだろうし、それも少し恥ずかしいだけだから、別に良いか。

 

 

私が八雲君に出会ってまだ一カ月も経っていない。だけど、その一ケ月で私と八雲君の関係は大きく変わった。

会っていきなり一目惚れして、翌日にはタイミングがあったとはいえ、勇気を振り絞ってキスして告白して。……積極的過ぎやしないかな、あの時の私。短絡的かもしれないけど、あの時行動を起こして事は全然後悔していない。むしろ、あれで良かったと思う。

そこから私は八雲君と一緒の時間を過ごし、八雲君の人となりやそれまでの事を知ってあの日の選択は間違ってなかったと今ははっきり言える。

八雲君の過去や戦う意味を聞いて私はヒーローみたいだなと思った。

と言っても、八雲君は『世界を護る』とか『平和を護る』とかの王道のヒーローじゃない。自分の信じる、貫き通したい物を貫き通す、そしてそのための手段も選ばない、所謂ダークヒーローの方だけど。

八雲君は10人と1人なら10人を助けるって言うだろう。だけど、10人と私達の内のだれか1人だったら、躊躇なく1人の方を選ぶと思う。

10人という普通の答えでもなく、両方というヒーローの模範解答でもなく、場合によって変わるこの答えは普通に考えたらどうかなと思うかもしれない。だけど、私はこの答えをとても人間らしい答えだと思う。

冷たい考え方かもしれないけど、大切な人をそれ以外の人と区別する事って誰でも心の中で思っている普通の事だと思うし。

まあ、こんな事八雲君に面と向かって言ったら「ヒーローなんてがらじゃないよ」って笑いながら言いそうだけど。

でも、「私達の笑顔を護る」とか「そのためにもっと強くなる」って言うのはヒーローの言葉だと私は思うなあ。

 

 

今日を切っ掛けに私達はまた一歩進んだ。「恋人」から「婚約者」に。

これのゴールには後最低4年は掛かる。八雲君は高校卒業と同時に1年間の単身赴任でミッドチルダの方に行っちゃうから。それに戻ってきても私達も大学だったりの進んだ道もあるだろうし、実際は皆が落ち着いた、もっと後になるだろう。

だけど、そんな事はどうでもいい。八雲君と私達の繋がりを現わす名前がその内変わるだけで私達の関係がどうなる訳でもないのだから。

とりあえず今は色々勉強してお姉ちゃんに追いつき……ううん、追い越す事を頑張ろう。これは私の見つけた、私のやりたいものだから。

それと同時に家事とかも練習しないとね。だって、どういう道を選んでも最終的には八雲君のお嫁さんになるのがゴールなんだもん。

 

「お姉ちゃん、入るよ~?」

『どうぞ、簪ちゃん』

 

まあ、そんな事は今は置いておいて、私と同じ想いを持つ私の大切な人達との時間を大事にしよう。こういう時間も私達が望んだ幸せの時間だと思うから。

ドアを開けて部屋の中にいたお姉ちゃんの表情はすごく緩んでいた。私がその事を言ったら「簪ちゃんも人の事言えないわよ」って言い返された。その後、お互い顔を見合わせて心の底から笑った。

……今、こうやってお姉ちゃんと普通に話せて、笑えているのも八雲君のお蔭なんだよね。少しずつ返せたら良いなあ。八雲君が好きって言ってくれた、私の笑顔で。




という訳で簪回をお送りしました。


簪の一人語りでのヒーローのお話は僕個人の考えです。
八雲は結果的な行動の多くはヒーローと言える事をしているかもしれませんが、根本はダークヒーローに相応しいと思います。特にA`sの頃は。むしろ、根本だけならIFルートの最初の方がヒーローらしいかもしれません。
戦う理由がどこか人間臭い、それがダークヒーローの魅力だと僕は思います。異論はあるかもしれませんが、こういう考えもあると思ってもらえると嬉しいです。

次回は布仏姉妹のどちらかになります! また、明日会いましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話 僕の気持ち YtoH ~幸せのレシピ~

連日投稿三日目。待っていた方はお待たせしました。


ふう、これで後二人。もう少しだから頑張ろう。

 

「はっちー、来たよ~」

 

三人目が本音。って事は最後が虚さんか。

 

「鍵かかってないから、どうぞ」

「は~い」

 

入って来た本音はいつもの部屋着、つまりは一見着ぐるみにしか見えない服である。ちなみに今日は犬。垂れた犬耳が本音の雰囲気にマッチしてとても似合ってる。

 

「本音、それ熱くないの?」

 

冬場ならこんな事は聞かない。だけど、今は夏休み。つまり一年で最も暑い時期なのだ。いくら日が落ちた時間と言ってもここ数日は熱帯夜で暑い事には変わりない。

 

「だいじょ~ぶ。これ通気性良い素材だから~」

 

いや、そういう問題じゃない気がするんだけど……。まあ、本人が良いなら良いか。熱中症だけは気を付けて欲しいけどね。

 

「そうだ! はっちー、今日の夕飯どうだった?」

「美味しかったよ。薄味で僕の好みだったし」

 

基本的に食べ物の好き嫌いは無い(ミッドを含めた次元世界にもイナゴの佃煮みたいなゲテモノが存在するけど、それも案外平気だ)。ただ、個人的には濃いめの味付けよりも薄味の方が好みってだけだ。

 

「良かった~。実はね、今日の夕飯は私とお母さんの合作だったんだ~。お母さんには量を作るから手伝ってもらっただけで、味付けなんかは全部私なんだよ~」

 

実は、僕の彼女達の中で一番の料理上手は本音。皆比較的料理上手な部類に入ると思うけど、その中でもだ。ちなみに、本音のお姉さんできっちりした性格の虚さんは料理よりもお菓子作りが得意で(もちろん料理も上手ではある)、僕達の部屋や生徒会室にあるお菓子は僕と虚さんの二人で作っている。

 

「そっか。美味しいご飯をありがとうね、本音」

「いえいえ~。はっちーは笑顔が好きって言うからさ~、私の出来るやり方で皆の笑顔をプレゼントしたんだよ~」

 

美味しいご飯を食べると人は自然と笑顔になると思う。それでその笑顔が作った側としては何よりも嬉しいんだよね。その笑顔が親しい人のならなおさら。

 

「笑顔は幸せの素だしね~」

「だね。それじゃもっと本音には喜んでもらおうかな」

 

そう言って僕は今日渡したい物を差し出す。彼女への指輪はガーネット。

 

「はっちー、これ……」

「本音がもっと笑顔で居れるように用意したんだ。……これからもずっと僕の横に居てくれますか?」

「もちろん! それは臨海学校の時に言ったでしょ? 『はっちーの傍でならいつでも笑顔で居れる』って。私は、ううん、私達は絶対にはっちーを一人ぼっちにしないよ。もう、あんなに暗い顔もさせないよ」

 

……多分、僕は彼女の明るい性格とそれを体現した最高の笑顔に気付かない内に救われていたんだと思う。それはきっとこの先何度も何度も感じる事だろう。それに、彼女の笑顔を独り占めできるしね。そう考えるだけで幸せ者だよ、僕は。

僕は彼女の左手の薬指に指輪をはめる。

 

「どうかな?」

「すっごく気に入ったよ~。大切にするよ。これからずっと」

「喜んでもらえて何よりです」

「それとね~、これからお姉ちゃんに会うきーりんにお願いしたい事があるんだ~」

「何? よっぽど、無茶な事じゃ無ければ聞くよ」

「それはね~……」

 

本音のお願いを聞き、それをどう叶えるかを考える。骨子はある程度思いついた。それ以外はアドリブで。

 

「よし! この八雲さんに任せなさいな!」

「任せたよ、はっちー!」

 

まあ、全力でやりますか。僕の為に、本音の為に、そしてこの後来る彼女の為に。

 

 

 

「えへへ~、指輪貰っちゃった~♪」

 

はっちーの部屋を出て、ついさっき貰った指輪を見てルンルン気分な私。この反応は当然な物だと思う。だって大好きな彼からの初めてのプレゼントなんだから。

しかもただのプレゼントじゃなくて私の彼の関係、それと私達の未来を決めてくれるものだったから喜びも大きい。

この気分のまま私はかんちゃんとなっちゃんがいるなっちゃんの部屋に向かった。

 

 

私が入学した頃、つまりはっちーに出会って、まだきーりんって呼んでた頃ははっちーは暖簾に腕押し、糠に釘状態で、仲良くなったクラスメイトにも「何で話しかけているの?」とか「趣味悪い」とか言われた。

結構最初の頃から気になっていた私としてはむっと来たけど、それは堪えて、前者の質問には「ん~なんとなく~」と家の仕事であることを誤魔化した答えを、後者の質問は「そ~かな~? そりゃ~おりむーと比べるのは酷だけど、きーりんもじゅ~ぶんかっこい~と思うよ~」と適当に返していた。

それが少し変わったのは実習が本格的に始まった頃、実習の班を組む時に何人かの生徒が私と一緒にはっちーの班になった事だった。

何回目かの実習が終わった後、皆でご飯を食べる機会が有った。その日のお昼、はっちーはお姉ちゃんに呼ばれてお嬢様が国家代表関係で忙しくて溜まっていた仕事の処理をしに行っていた。

私はふと気になって、どうしてみんな避けていたはっちーの班に自主的に入ったのか聞いた。

細かく言うと皆それぞれ理由が違ってたけど、大きく括れば実力があって、真面目に取り組んでいるし(偶然、はっちーの後ろの子もいて、その子がはっちーのIS関連の小テストで毎回9割以上の高得点を取っていると言っていて、他の子にも教えていた)、努力家である(はっちーの日課である朝のトレーニングを皆一度は見た事があるらしい)からと言っていた。

 

 

これは上級生であるお姉ちゃんやお嬢様から見た意見なんだけど、どうも今年は学園全体が浮付いているらしい。もちろん、理由はおりむーというとびきりの男子が入って来たから。

基本的に出会いの無いIS学園。男性は今まで用務員のおじさん(轡木十蔵さん。実は学園長でお父さんとも知り合い。それでもって既婚)しかいなかったし、出会いがあったとしてもIS=女尊男卑の権化っていう世間一般の認識でそれを学んでいる生徒(教員もだけど)は中々そういう関係にほとんど発展しない。もちろん、IS学園内でも恋人がいる子がいないわけではないけど、それは入学前からの付き合いって場合ばかりらしい。

そんな状態でフリーの男子、しかもイケメンで織斑先生の弟。浮付く事は明白だと思う。

浮付いている証拠としてお姉ちゃんは「例年よりISの予約が若干ですけど減ってるわ。2、3年は誤差の範囲だけど、1年生は結構分かりやすく。だから、ある意味今年の生徒はラッキーなのよ?」と教えてくれた。

さらにその後の実習ではっちーの班のメンバーが実力を伸ばしていて、織斑先生も山田先生もはっちー自身も驚いていた。私がお姉ちゃんから聞いた話を皆に話したというとはっちーと山田先生は苦笑い、織斑先生は苦虫をかみつぶしたような顔で頭を押さえていた。

 

 

2度の負傷を経た今、はっちーのクラス内の評価は「優しいし頼りになる男友達ポジション」に落ち着いた。それ以上の感情を持つ人がいないのは私やかんちゃん、りさりさにすずーが所構わずいちゃいちゃしてるから。おりむーの周りはピリピリしていて若干近寄りがたいらしく、最近ははっちーに話しかける子も多くなった。クラスの子と話してる時ちょっと嫉妬しちゃうけど、これはきっとはっちーにとって良い事だと思うから、そこは抑えるようにしている。ちなみにそう思った日は寮に戻った時に目一杯甘えてる。

 

 

なっちゃんの部屋の前に着いたので部屋のドアをノックする。親しき仲にも礼儀ありだ。

 

「なっちゃん、かんちゃん入るよ~」

『どうぞ、本音ちゃん』

 

部屋に入ると談笑しているかんちゃんとなっちゃん。

小さい頃は当たり前で、ちょっと前までは見たくても見れなかった物。私とお姉ちゃんだけじゃどうしようも出来なかった物。はっちーのお蔭でまた見れるようになって本当に嬉しい。

これからは私達7人が笑顔で一緒に居るのが当たり前になる。何も知らない人が見たら歪かもしれない。だけど、その当たり前の事が私達の選んだ幸せの形だから。




本音回をお送りしました。

本音の料理上手について

原作でそれどうなのと思う物を食べてらっしゃる本音さん。
しかし、僕の友人にココイチの10辛が大好物で苦丁茶を一日一リットル飲む変人がいます。そいつが一人暮らししている家に遊びに行った時、夕食をご馳走になったのですが料理上手と言うだけあって普通に美味しかったです。食べる前は『……絶対、僕の口に合わないだろう』と思っていたんですけどね。
という訳で個人の好みと料理の上手さは関係ないと知ったのでこういう形になりました。
後は普段従者っぽくない本音にぽさを付けたかったって言うのもあります。

さて、いよいよ更識家でのお話も次回で最後となります。また、明日会いましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話 僕の気持ち YtoU ~建前と本音~

更識家編もいよいよ最終話です。


本音がこの部屋を後にしてから少し経って、

 

「八雲さん、入っても?」

 

最後の一人である虚さんが部屋の前に来た。

 

「良いですよ」

 

僕の返事を聞いて虚さんは入って来た。手にはお盆があって、その上にお茶とお菓子があった。

 

「お嬢様方や本音と話されて喉も乾いたでしょうし、夕食からそこそこ時間も経ちましたから、小腹も空いてきているかと思い、お持ちしました」

「わざわざありがとうございます」

 

普段も皆と話している時に、さりげなくお茶のおかわりを入れたりと、小さいけど嬉しい心遣いをしてくれる虚さん。そして、この心遣いで持って来てくれたお茶が美味しい。

お盆を挟んで向き合う僕達。

 

「美味しいです、虚さん」

「お口に合ったようで良かったです」

 

湯呑みに入った温めのお茶を半分ほど飲んで、僕は本音に頼まれた事を切り出す事にする。

 

「虚さん、本音に聞きましたよ」

「? 何をですか?」

「本当は今日、僕の所に来るのを決めるジャンケンの時、一番勝ったのに、自分から最後で良いって言ったって」

「一番年上ですし、お仕えする身ですから。それ位は他の皆さんに譲ります」

 

……その謙虚さ、優しさは虚さんの良い所。だけど、

 

「そんな事関係無いですよ、僕等の中では。それに、その事は虚さんの本音じゃないでしょ?」

 

僕の問いかけに虚さんは俯く。そしてそのまま話し出した。

 

「……私は、自信がないんだと思います。私以外の皆さんはそれぞれ、女性の私から見ても魅力的です。お嬢様方や本音は昔から知っているので当然ですが、知り合って間もないアリサさん、すずかさんもそう思います。八雲さんもとても魅力的な方です。そんな中で私は果たして八雲さんに釣り合っているのかと……」

 

……過小評価だなあ。確かに他の皆にはそれぞれの魅力がある。だけど、それは虚さんにも言える事で、虚さんにも虚さんの魅力がある。僕が惹かれる大きなものが。

 

「そんなの僕だって同じです。皆良い所のお嬢さんで僕は普通の、しかも孤児。皆は凄い美人だけど、僕はもの凄く欲目を見て中の上って所だと思います。釣り合いなんて普通とれないと思います。だけど、そんな事は関係無いんです。僕等の中で釣り合えばいいのはお互いが好きだという気持ちだけですから」

 

家柄とかが関係した昔ならともかく、自由恋愛な現代で実際の所釣り合いなんてない。それは第三者が勝手に決めてる事だと思うから。

 

「それとも、虚さんは僕が好きじゃありませんか?」

「そんな訳ないです!」

「なら、もっとわがままになってくださいよ。それが僕にとっては嬉しいんです」

 

身を引いて譲るのは優しさで、彼女の美徳だけど、僕から見ると他の皆と少し距離があるように感じる。

本音からの頼み事は「おねーちゃんはどこかちょっと遠慮してるから、それを何とかしてあげて」という物だった。だから、ちょっと強硬策だったけど、虚さんの本当の気持ちを聞いて、僕の考えを伝えた。

 

「それじゃあ……」

 

向かいに居た虚さんは僕の横に。そして、僕に体を預ける。控えめだけどいいねえ、こういうの。

 

「……もう少し早く出会いたかったです」

「それはどうなんですかね? ちょっと前の僕はアレでしたし」

「それでもです。それか、もう一年でも遅く生まれたかったです。一緒の高校生活はあとちょっとしか残ってませんし」

 

多分それが誰にも言えなかった虚さんの個人としての本音であり我儘。そうだよな、虚さんにとっての高校生活はもう半分をとっくの昔に過ぎてるんだもんな。

 

「なら、高校生活最後の一年を最高の物にしましょ? 皆との思い出も、僕達二人だけの思い出も」

「……そうしてくれますか?」

「してみせますよ」

 

そこで区切って僕は指輪を取り出す。虚さんの指輪にはアメジストがあしらわれている。

 

「一年と言わず、これからずっとね」

 

指輪を見て僕の言葉を聞いた虚さんは……無反応だった。これは、外したか?

 

「だ、ダメでしたかね?」

「い、いえ、驚きすぎてどういう顔をすれば分からなくて……。でも、すごく嬉しいです。八雲さんの心の奥からの本気の気持ちが伝わってきました。だから、私も本気で答えます。私は、これからずっと貴方を支えていきたい。そう思っていました。だけど、今は少し違います。私は、いえ私達は八雲さんと一緒に支え合ってこれからを生きていきたいです。……これが私の答えです」

 

……ここから先は言葉はいらないかな。僕は虚さんの左手をとってその薬指に指輪をはめる。

人間は気付かない内に誰かに支えられている物。僕は最近それを思い知った。

夏休みの予定を決める時、僕の上司であるレティ・ロウラン提督に連絡した時の事だ。開口一番僕はレティ提督にこれまでの事を謝ったら、実は僕が無理をしない様にレティ提督やリンディ提督が信頼のおける人が率いている部隊が参加しているものばかりに派遣していたらしい。それを頼んだのはクロノであり、ユーノであり、なのはであり、フェイトだった。僕は切ろうとしていた物に支えられていたって事だ。

これからは僕は彼女達を精一杯支えていくし、彼女達に支えられていく。それが僕の選んだ道の形だから。

 

「虚さん」

「はい」

「明後日からミッドに行っちゃいますけど、帰ってきたらデートしましょ。もちろん二人っきりで」

「はい。……はい?」

 

驚いた表情の虚さん。これは珍しい物が見れた。

 

「だから、デートです。日本語的に言うと逢引きって奴ですね。さっき言ったでしょ? 今年を最高の一年にして見せるって。その一環です」

「……じゃあ、楽しみに待ってますね」

 

とっても魅力的な微笑みでそう答える虚さん。

本音が可愛い笑顔の似合う女の子なら、虚さんは綺麗な微笑みの似合う女性って感じ。まあ、どっちが良いかなんて僕には選べない。だってどっちも好きだから。

それはそれとして、とりあえずこれで今日言いたい事は言えたかな?

 

「……お疲れの様ですね、八雲さん」

「分かります?」

「ええ。やはり先代様と父が理由で……」

「それもありますけど、どっちかというと今日、皆に気持ちを伝える方の緊張です。全部終わって気が抜けたら疲れがどっと来ました」

 

多分、慣れる事は無いねこの緊張感に。まあ、もう二度とないから良いけど。

 

「そちらの方でしたか。では、今日はゆっくり休んでください」

「お言葉に甘えさせていただきます。お休みなさい、虚さん」

「お休みなさい」

 

部屋を後にする虚さんを見送って僕は眠りについた。……『そちらの方でしたか』って事はうっすら気付いてたって事だよなあ。何で気付いたんだろ?

 

 

 

「ただ今戻りました」

 

八雲君の私達へのプロポーズが終わったから、私は皆さんが集まっているお嬢様の部屋に向かいます。

昔から四人で話す時はお嬢様か簪様の部屋と私達の中で決まっています。それに理由がある訳ではありません。以前からそうなのです。

 

「皆貰っちゃったね~指輪」

「そうだね。一人一人石を変えてるのが細かいよね」

「ホント、いつの間によね」

「まあ、どう考えても夏休み初日に買いに行ったんでしょうけどね」

 

これは、少し考えれば分かる事で、私達が夕日差す病室で八雲さんに想いを伝えたのは七夕の日。臨海学校が水曜~金曜で、八雲さんは日曜日まで入院してらっしゃいましたし、その後はすぐに期末テストでした。そして、夏休みが入ってすぐ皆さんの家に出向いているので、買いに行けた日というのは唯一一人で出掛けた夏休みの初日だけという結論になるのです。

 

「そういや虚ちゃん、八雲君は今どうしてるの?」

「もうお休みになられましたよ。お疲れだったので」

「はっちー、疲れてたの?」

「全然気付かなかった。やっぱり、お父さんとおじさんが理由なの?」

 

……先代様も父も私達の事を考えての行動なので責められません。むしろ、あの問答だけで許せるのですから器は大きいと思います。ですが、八雲さんの疲れに関しては別の事です。

 

「それもありますけど、どちらかというと私達への気持ちを伝えるのに緊張なされていた事からの精神的な物の方が大きいみたいです。最後の私が終わって気が抜けて、疲れがどっと来たのかと」

「虚ちゃんは色々気付いてたみたいね?」

「なんとなくですけどね。少し普段より話すスピードが速く感じられて、状況から考えて緊張なされていると思いまして。疲れに関しては雰囲気で」

「……虚さん、凄い。八雲君、そういうの隠すの上手そうなのに」

「大した事ありませんよ、使用人としての性みたいなものです」

 

使用人としての生活で察する能力が高いのは確かに有ります。しかし、一番大きいのは……私が心の底から彼を愛しているから、何気ないしぐさに何の意味があるのか、つい観察してしまうのです。流石に八雲さんと付き合いの長いアリサさんやすずかさんの様に彼の考えてる事を読むまではできませんけど。

 

「うーん、かんちゃんやなっちゃんならなんとなく分かるけど、はっちーはまだ無理だなあ。それで、お姉ちゃんはなんかうきうきだけど、良い事あった~?」

 

本当、私は本音に隠し事出来ませんね。

 

「実は、八雲さんにデートに誘われまして……」

「「羨ましい!」」

 

……まあ、もしお嬢様や、簪様、本音がそう言ったら私も同じ事を考えていたでしょう。言葉にするかはともかく。

 

「……それでですね、色々相談したいなと」

「任せて! ……といっても私達もそういう経験がある訳じゃないから」

「アリサとすずかに相談だね」

「お姉ちゃんとはっちーの初デートをプロデュースだ~」

「「おー!」」

 

私以上にノリノリなお嬢様達。多分、話したらアリサさんやすずかさんも同じ感じなのだと思います。

 

「まあでも、それは八雲君がミッドに行ってる間にじっくり話しましょう」

「その間にりさりさとすずーの幼馴染に魔法を教えてもらうけど、その子達も巻き込めば良いよね~」

「そうね。だけど今は、八雲君へ夜這いよ!」

「さんせ~!」

「うん、会えなかった間、寂しかったし」

「その気持ちは分かりますが……まあ、また10日ほど会えませんし」

 

わずか10日の事ですけど、それだけでも寂しい物は寂しいのです。

 

「それじゃ、行きますか!」

 

こうして私達は八雲さんのいる部屋に忍び込み八雲さんの横でその日の夜を過ごすのでした。

私の今年を端的に表す言葉はターニングポイントだと思います。

高校三年で先を考えるから当たり前ではあるのですが、それよりも八雲さんに出会って、恋をして、それがどんどん大きくなっていって、プロポーズまでされて、私の未来まで決まったから、ピッタリの言葉だと思います。いえ、これは八雲さんを含めて私達皆に言える事でしょう。

残りわずかな学園生活もその先の人生もとても素敵な物になっていくでしょう。私にはそんな確信があります。当然これから辛い事もあるでしょう。ですけど、それすらも皆で乗り越えていくのなら楽しめると思います。それだけ皆さんの存在は私にとって大きいと思いますから。

 




という訳で、激動の更識家編最終話にして次回以降への布石を含んだ虚さん編をお送りしました。

虚さんの今までの立ち位置について

作品中で虚さんがどこか遠慮していたとしましたけど、これは『一人の女性』の前に『従者』としての彼女が出てしまう方がらしいかな? と思ったからです。
こうなったのは僕の中の虚さんの人物像が「基本的に器用なんだけど生き方が不器用」という物だというのが大きな理由です。
だから、従者として誰かを支えるのは完璧にこなしますが、自分を出す事がとても苦手という感じです。

次回はデート回……と行きたい所ですけど、一度ミッドでのお話を挟みます。
夏休み編も長くなって来たので時間を進めたいのですが……やりたい事がまだいくつかあるんですよね……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話 管理局にて

なのでISキャラが出てきません。


世にも珍しいプロポーズ行脚を行ってから10日後、僕は管理局の本局の食堂に居た。

思えばこの10日間もいくつか思いがけない出来事があった。その中で一番大きいのは……やっぱ更識家の蔵でロストロギアレベルのデバイスが見つかった事かなあ。

鋼太郎さんに由来を聞くとどうやら何代か前の更識家の当主が珍品収集が趣味でそれの一環で集められたらしい。まあ、一口にロストロギアといっても危険性はなく、ただ性能が高いデバイスであるってだけなんだけど。

丁度六つあったし運命だと思ってこれを彼女達のデバイスにする事にした。だから何年か前から叢雲の主治医をやってもらっているマリエル・アテンザ技官に不具合が無いかを見てもらって、僕と入れ違いに地球での休暇を取るなのはとフェイトにそれを僕の彼女達に渡してもらうように頼んだ。まあ、その時二人には僕の女性関係で責められた。一応その後祝ってはくれたけど。

んで、ここ一週間くらいの仕事の内容は書類仕事だけ。今回の一件の物だけだったのだが、約四か月分の物が溜まっていた。塵も積もればなんとやら、徹夜まではいかないけど、それでも連日朝早くから夜遅くまで机に向かっている。……正直、学校の時より机に向かっている。ここ数日間は約束した期間内で終わるように色々な間を惜しんでやって来たけど、めども立ったし、気分転換として食堂にやってきてちょっと遅めの昼食を食べている。

しかし……味気ないなあ、一人の食事は。裏を返せば皆で食べる事に慣れちゃったんだよね。ああ、早く帰りたい。

 

「おーおー管理局の大エース様が食堂の端で一人で飯とは寂しいねえ」

「まあ、場所はともかく、お昼にしてはもう遅いからね。一人なのは仕方ないんじゃない?」

「ま、そりゃそうだ」

 

ご飯食べてたら盛大にディスられたんだけど。しかも、片方は凄く聞き覚えがある声だし。

とりあえず食べる手を止めて目線を声の主の方にやる。

片方は明るめの金髪を肩辺りで一まとめにしている。知的で優しげな感じのこの青年は僕も良く知っている。無限書庫の若き司書長、ユーノ・スクライア。僕の幼馴染だ。

もう片方は黒髪のかなりのイケメン。イケメンレベルなら織斑君と戦えるレベルだねえ。しかも、オッドアイというこの上ないインパクトのある容姿なのだが……僕の記憶には無い。

 

「久しぶり、ユーノ。んで、ユーノの横に居るイケメンはどなたさん?」

「あー、そっか黒髪の状態だと面識ないんだ。はい、自己紹介」

「そんなに違うかねえ……。俺は、吉野大和」

「銀髪君が銀髪君じゃない……だと……⁉ これじゃ、銀髪君って呼べないじゃん! 何て呼べばいいのさ⁉」

「いや、そこは普通に名前で良いだろ!」

 

いやー、僕が知ってる銀髪君とは完全に別人だね。僕のちょっとしたボケにこうやってツッコんでくれるし。

 

「オッケー、それじゃ大和って呼ぶよ。僕の事は霧島でも八雲でも好きな方でどうぞ。ま、空いてる所に座りなよ」

 

僕が薦めると二人は僕の前の空いていた所に座った。

 

「……性格変わり過ぎじゃねえ?」

「そうかな? 僕が一緒に暮らしてた時はこんな感じだったよ」

 

そんな事もあったなあ。かなり昔の事だから忘れてたよ。

 

「あー……そう言われてみれば俺がひねてた頃もそんな感じだったかも?」

「あの時の大和は女の子にしか興味無かったもんねえ。僕なんか眼中に無かったでしょ」

「……否定できねえなあ」

 

僕をモブ野郎と呼んでいた頃の彼は完全に居ないみたいだ。きっと何か大きな事が彼を変えたのだろう。まあ、彼の心情は彼だけにしか分からないけど。

 

「ま、昔の俺の事は今はどうでもいいんだよ。実はお前に相談があってさ」

「相談?」

「そう。僕ら二人の共通の悩み」

「答えられるか分からないけど、聞くだけ聞くよ」

 

僕はご飯を食べすすめながら二人の悩みを聞いた。二人の相談というのは所謂、恋の悩みという奴だった。ユーノはなのは、大和はフェイトに惚れたらしい。なんでも、皆で僕をどうやって叩き戻すかって事を時間がある時に集まって話している内にそういう意識を持つようになったとの事。間にそういう事を意識しだす時期があったからねえ。

 

「でも、何で僕に?」

「同い年で同姓の知り合いでそういうのが得意そうだったら、相談するだろ?」

「得意そうって、少し前までの僕を知ってるよね?」

「「いやでも、ハーレムの主だし」」

 

……何も言い返せねえ。僕には六人の彼女(数年後に結婚)が居る訳だし。

 

「まあ、僕はある程度流れに身を任せて、最後の最後で決めただけだからねえ。参考にはならないよ」

「普通、流れに身を任せてもハーレムは出来ないと思うよ」

 

って言われてもなあ……。あれは流れに身を任せたとしか言いようがないと思うんだけどなあ。

 

「ってか、そんな事になる流れって何だよ」

「えーっと、学校の行事中にロストロギアの暴走体が出てきて、それで怪我して、病院運び込まれて、目を覚ましたら皆が泣いてて、謝ったら、キスと告白を六人からされて、全世界的に特殊な僕に重婚が許可されるって話を聞いたから六人の気持ちを全部受け止めたって所かな。ちなみにこれはほんの二、三時間の出来事だよ」

 

嘘は言ってない。

 

「……事実は小説より奇なりだね」

「嘘のような本当の出来事だよ。で、相談の事だけど、僕は人並みの事しか言えないよ。知り合って結構時間も経つんだし、はっきりきっぱり想いを伝える。これに限ると思うよ」

 

「察して欲しい」とか「気付いて欲しい」とかは詰まる所、それを言ってる側の我儘でしかない。だからこそ、ストレートに自分の心の中の想いを相手に伝えるべきだと思う。

それに……

 

「言わないで後悔なんて嫌でしょ?」

「……そうだね」

「……八雲が言うと説得力があるな」

 

二人が言う所の『説得力』は闇の書事件の事、それと僕のはやてへの想いの事を言っているんだろう。

実は何年か前に、僕はアリサとすずかを思いっきり突き放した事がある。

今思うとなんであんなことをしたんだろうか分かんないけど、当時は放っておいてほしいのにそうしてくれない二人の事がどうしようもなくうっとおしかったのだと思う。その時に僕は思わず言えなかった後悔を口にしていた。多分、はやての事を出せば引き下がると当時は思っていたんだろう。まあ、そのもくろみは失敗したんだけどね。

 

「こういうのを聞いて良いのか分かんないけどさ、八雲は後悔はないのか?」

「無いね。ちょっと前まで後悔ばっかりしてたけど、それじゃ、意味ないって思ってさ。だから、それは髪の毛が真っ白になってから縁側でお茶でも啜りながらするよ」

「……あの時の選択もかい?」

「もちろん。僕はあの日の選択を間違いだったとは今でも思っていないよ。たとえ、何度生まれ変わっても、その後どうなるかを知っていても、必ず同じ選択をする。そう言い切れるよ」

 

あの時どんな選択肢があったとしても、僕はあの道を歩んでいた。それは絶対に言える。だって、その選択をするのは僕だから。大好きなはやてを助けたくて、笑顔を護りたくて、ずっとそばに居たいっていう我儘な霧島八雲という人間だから。

 

「頑固でまっすぐだねえ」

「まあ、それが八雲の良さなんだよ」

「僕的には良くも悪くもだと思うけどね」

 

『頑固でまっすぐ』っていうのは長所に取れるかもしれないけど、言い換えれば『不器用』って短所になると思うし。

 

「話を戻すけど、言うタイミングは二人次第だよ。そこまでの道筋は人それぞれだからね」

「まあ、そりゃそうだわな」

「経験がないから不安だけど……やるしかないよね」

「そうそう、やるしかないよ。僕もこっちに来る前に皆の家に行って家族に挨拶して指輪渡して来たし」

「「……はあ⁉」」

 

驚きの声を上げる二人。まあ、そうなるか。

 

「アリサやすずかならまだギリギリ分かんなくもない気もするけど!」

「残りの四人はIS学園に入ってからだろ! 決めるの早すぎねえか⁉」

 

うち一人は会って二日目って言ったら、さらに驚くだろうなあ。これは今は言わないでおこうかな。

 

「そうかもしれないけど、タイミングに恵まれたからねえ」

 

物事にはベストなタイミングがあると僕は思う。告白されただけなら後回しにしていただろうけど、その後教えてもらった事で僕の腹は決まった。

 

「それを聞くとタイミングを待つかチャンスを作るかは俺達次第って事か」

「そんな感じだね。……ご馳走様。んじゃ、僕は仕事に戻るよ」

「頑張ってね~」

 

さて、少しでも早く終わらせないとなあ。なんてったって彼女との初デートが待ってるんだからさ!

 




今回のお話はただ「たとえ、何度生まれ変わっても、その後どうなるかを知っていても、必ず同じ選択をする」っていうリメイク版リオンのセリフを言わせたかっただけの回です。

そして、IFルートでは大和が改心しています。
理由として闇の書事件が原作と全く違う終わり方をしてようやく現実感を持ったから。となっています。それで今までの自分から変わって現在に至るという感じです。
髪を銀髪から黒髪に変えたのはその意思表示みたいな物です。これでSTSの戦力を補えたかな。(ヴィータ&シグナム→八雲&大和)

さて、次回はIS学園……に戻る前に思いついたとある事をやろうと思います。
デート回はまだまだかかります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話 僕の想い YtoH ~変わった物、変わらない物~

艦これの夏イベが近付いてきています。何とかそれまでに夏休み編を終わらせたい。


久しぶりに男友達と話した日の翌日、僕は10日ぶりに地球に帰って来た。

そんな僕が今居るのは地元である、海鳴市に面した海。その海岸に一人でいる。

ちなみに、結界を張っているので周りも静かだ。

 

「今年の夏は色々有ったねえ」

「マスター、『今年の夏』というより『今年度』と言った方が正しいかと」

「はは、確かに。叢雲の言う通りだね」

 

今年度―もっと正確に言うと僕がISに乗れる事が分かった今年の3月位―から僕の日常はガラリ変わった。

まず、現場が僕の日常だったのがバニングス社の訓練所に通い続ける毎日に変わって、少ししたら全寮制の女子校であるIS学園にぶち込まれた。

そのIS学園に入ってからが色々あった。

まず、初日にケンカに巻き込まれ(オルコットさんは『決闘』なんて言ってたけど、あんなのは子供の癇癪がぶつかったケンカで十分だ)、竹刀で叩かれかけるというスタートだった。

前者に関してはクラスの皆が推薦したり、最終的には織斑先生の決定だったけど、完全にとばっちりだったよなあ。織斑君とオルコットさんの言い争いが僕に飛び火したんだし。

クラスの皆に関して言うなら、まあ、ああは言ったけど、そんなに時間が経ってなかったから半信半疑って所だろうし、織斑先生については後でその時の話を聞いたら、僕のデータも必要だったから丁度良かったと言っていたから納得はしている。

後者はなんていうか……篠ノ之さん、短気過ぎやしないかな? 後、織斑君も本を読んでいる人間に話しかけるのはどうかと思う。そりゃ、相手にされなかったらムッとするかもだけど、何か別の事に集中しているこっちからしたら、相手にする気もない上にそんな時に話しかけてくるなと言いたい。

しかし、これは今からすると些細な事。今の僕にとって大きかったのは刀奈さん―当時は楯無さんって名前しか知らなかった―と本音との出会い。

このころの刀奈さんはまだ距離感の把握をしていた状態で、部屋の中でもお互いがお互いのやりたい事をやっている感じだった。だけど、僕が予習や復習をしている時にいつの間にか後ろに来ていて止まっているところを丁寧に教えてくれたから本当に助かった。

それに対して本音はこのころから積極的に話しかけてくれていた。と言っても織斑君と違って僕が手持無沙汰で何もやってない外をぼーっと見ているタイミングを狙って話しかけて来たからスルーする事も出来ず、そこそこの対応をしていた。

織斑君と本音の対応の差は空気とタイミングを察する能力の差だと僕は思う。後は粘り強さ。本音はあの竹刀事件の後も唯一話しかけて来てくれたからあの時の僕ですら無下にできなかった。……ひょっとしたら、それ以外の差としてその頃から本音の事を心の何処かで意識してたからかもしれないけど。

 

 

その次は……凰さんが来た事か。初日に模擬戦したいって言ってきたんだよねえ。その後の対応もさばさばしてて結構好感が持てた。最近だと本音や簪、アリサやすずかとも結構仲が良いみたいだし。

そういえば、虚さんに出会ったのはこの頃か。確か、図書室に向かう道中に荷物を生徒会室に運んでいる虚さんと本音に会ったからそれを手伝ったんだっけ。それから何回か図書室で会って挨拶をする位の仲になっていったんだよねえ。当たり前だけど、あの時は今みたいになるとは思わなかったなあ。

ここから少ししたら、今回の一連の事件の始まりであるクラス代表戦での無人機襲撃未遂事件。複数ならともかく、単独だったから、そんなに苦戦しなかった。ただ、後で思い返すとこの無人機がこの先大きく関わって来るんだよなあ。

 

 

その後は追加で二人転校生が来た事。と言っても僕はその二人とそこまで親交がある訳じゃない。ただ、二人には驚かされた。

デュノアさんは最初から気付いてはいたけど転校してきた時はデュノア君だったし。ボーデヴィッヒさんは突然織斑君にビンタかましたり、キスしたりしてるし。

そして、ターニングポイントの一つになった学年別タッグトーナメント。

僕は織斑先生に言われて暴走体の討伐に向かった。動き出した時は何も考えて無かったと思う。あの頃のいつも通り、自分の命をベットして勝つか負けるかっていう野蛮この上ない賭けをしていた。その時にピンチだった刀奈さんを助けたんだけど……後から思えばもっとスマートな助け方もあったと思う。その気になれば攻撃を撃ち落とす事位難しい事じゃ無いし。だけど、あの時の僕は身を挺して刀奈さんを守った。頭で考えるよりも先に体が動いたんだと思う。だから、普段あまり使わないプロテクションで自分の体を守るって事も出来なかった。その後の暴走体自爆に使えたのは自分の体じゃなくて周りを守るのには使っていたからだろう。

それで、臨死体験で6年ぶりにはやてに会えた。そこでお礼を言われて、僕への罰を与えられて、告白されて、背中を押してもらった。……こうやって考えるっと全部受け身だった僕ってカッコ悪いよねえ。まあ、それはどうでも良いんだけど。

あれは僕の都合のいい夢だったかもしれない。たとえ夢でもなんでもはやてに会えた事、想いを伝えられた事で僕は抜け殻だった僕から昔の普通の僕に戻っていけた。

ただ……戻ってしまったからこそ、嫌でも意識をするようになった。同室の刀奈さん、クラスで一番距離感の近かった本音は特にスキンシップが増えた。二人を注意して僕を気遣ってくれる虚さんの優しさが身に染みたねえ。

 

 

それで運命の臨海学校……の前に準備の為に皆で出掛けたなあ。あれは今思うとデートみたいなものだったと思う。皆の着飾った姿を見て眼福だったしね。

臨海学校初日は簪との出会いの日。今じゃ考えられない位思いつめてたっけ。だけど、あの日の会話で自分のやりたい事を見つけられたみたいだったし、その一助になっていて僕も嬉しかった。……まさか、それ以上に大きな想いを生んでいたとは思わなかったけど。

二日目が事件の有った日。と言っても事件自体はほとんど関わってない。僕はいつも通り魔法関連の暴走体を倒しただけ。……その時に管理局に入ってから一二を争う大怪我をしたんだけど。後、久しぶりにインディグネイションを使ったなあ。秘奥義なんて最近使う機会なんてなかったし。

その日の夕方、負傷をした僕が病院で目を覚ますと本気で僕を心配してくれる、アリサ、すずか、刀奈さん、本音、虚さん、簪の6人がいた。そこで6人にキスされて、告白されて。絶対にあの事は忘れられないよなあ。

そこで僕は僕の心の底に有ったホントの気持ちに気付いて、皆の気持ちを受け入れた。受け入れただけだったからそれを形にしたくて、それぞれちゃんと言葉で伝えたくて、一人一人に指輪とプロポーズの言葉を用意した。いや、言葉は割とその場のアドリブの部分が多かったけど。

 

「それで、これが最後か……」

 

そう呟いて僕は上着のポケットから指輪を取り出す。使われている石はムーンストーン。僕の誕生月である6月の物だけど、僕の指輪じゃない。

 

「どこで言うべきか迷ったけど、やっぱり君の最期の場所が一番良いと思ったから、ここで言うよ。あの日から二か月くらい経っただけで色々僕の周りは変わって、君の言う通り僕は新しい恋を見つけたよ。……まあ、複数人いる奇妙な展開で僕自身驚いているけど。でも、やっぱり君が好きな気持ちは、愛しているって気持ちは変わらなかったよ。いや、変えられなかったよ」

 

新しい恋を見つけようが、非日常に巻き込まれようが、何人もの女の子に好かれようが、貴女への想いは変わらない。

 

「こんな事を言ったら君はあきれるかもしれない。けど、僕は意地でも変えない。誰が何と言おうと僕の気持ちは僕の物だから。皆を愛し続ける。君も愛し続ける。これが僕の決めた物だよ」

 

なんか、君の苦笑いが目に浮かぶよ。

 

「だからさ、変わった変わらない僕をずっと見ててくれ、はやて」

 

根本、芯の部分って言うのは貴女に出会い、恋をして、がむしゃらに動いたあの頃と何も変わっていないと思う。だけど、今の僕は変わったと思える。そう思えるのは僕は決して一人じゃない、支えてくれる人たちがいるって事に気付けたから。

僕は立ち上がって、海岸を後にしようとする。ふと、用意した指輪をどうするか考える。

少ししてから、一つの案が思いついた。僕は大きく振りかぶり、

 

「届けー!」

 

指輪を海の方に思いっきり放り投げた。言葉通り、届くと良いなあ。指輪も

 

「すう……はやてー! 大! 好きだーーーーー!!!!!」

 

この僕の想いも。




ただ、ちょっと逸れた事を書いちゃったのでもうちょっと夏休み編は続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話 特別編 私の想い HtoY ~届かない言葉、届いた想い~

おかしい……僕は虚さんのデート回やら夏休みの事件やらを考えてたはずだったんだけど、どうしてこうなったんだ?


と、茶番はこの辺としてナンバリングを超えた特別編をお送りします。今回のお話は本シリーズのメインヒロインさんのご登場です。


私と言う人間の人生は10年にも満たない物やったし、その大半が大変な物やったと言える。

だけど、私がもしも『あなたの人生が幸せでしたか?』と聞かれたら絶対に幸せでしたと答える。だって、最後の短い少しの間だけど大切な家族が出来たし、私は異性を好きになるって経験も出来たから。

その私が好きな人、霧島八雲君は私がこの世を去る事となった闇の書事件の後、加害者側、守護騎士側でたった一人生き残ってしまったからその事で自分で自分を責め続けて、ただひたすら自分の命を燃やして贖罪をしながら死に場所を探し続けていた。

それをあの世からずっと見ていた私は辛かった。

いくら私がその生き方を傷付く事を止めて欲しくて、見ているのが辛くて泣き叫んでも、その声は絶対に彼には届かない。私はそれを耐えるしかなかった。

毎日毎日傷付いて行く八雲君から目をそらす事も出来た。だけど私はそれをしなかった。いや出来なかった。私以上に苦しんで辛い思いをしているのは他ならぬ八雲君なのだから、私が出来る事は自己満足でも見守り続ける事をし続けようと思ったから。

私も知っているすずかちゃんやアリサちゃんを含む八雲君の幼馴染達は自分から傷付きに行こうとする彼を止めようと色々していた。……八雲君の事をちゃんと考えて助けようと手を伸ばしてくれる人たちが居たけど、八雲君は頑なにその手を取らなかった。

そんな事を六年間続けた八雲君だったけど、ようやく転機が訪れた。

私達が小学校に進学する年齢位の頃に発表された、女性しか動かせないとされるISを八雲君が動かした事で彼がIS学園に行かないといけなくなったのが切っ掛けだった。

最初はやっぱり八雲君は他の皆と壁を作っていた。それを壊そうと動いたのは八雲君とルームメイトになった更識楯無さんとクラスで唯一積極的に話しかけていた布仏本音ちゃん。それに本音ちゃんのお姉さんの布仏虚さんも加わった三人が八雲君を気にしてくれて、八雲君の作っていた壁を少し削ってくれたと思う。

基本的に意志が強い八雲君が作った壁が本来ならたった三人だけで崩れるとは思えない。

……これはあくまで私の予想だけど、精神的にも肉体的にもあの時の八雲君は限界に近かったんじゃないかと思う。だから、普段より少し脆かった。

でも、それは危険な状態だったことの裏返しで、もし、IS学園に行ってなくて今まで通りの生活を続けていたら、最悪の未来がすぐに訪れていたと思う。

 

 

 

それである時、八雲君は本当に死にかけた。だけど、そのおかげで私と八雲君はもう一回会う事が出来た。

あの時八雲君に私の想いだけを伝える事も出来た。多分、そうすれば八雲君はすぐにでも私の元にやってきてそれこそ永遠に一緒に入れたと思う。

でも、私はそんな事出来なかった。だって、こんなん誰も幸せにならへんから。

すずかちゃんもアリサちゃんも、IS学園で知り合ったばかりの人達も泣くだろうし、優しい八雲君は後悔するし、私も罪悪感に苛まれる。

だから私は彼の背中を押して、八雲君の作っていた壁を壊す事を選んだ。それが彼の心の中を大きく占め続けて、想われ続けた私に出来る事だと思ったから。

けじめのつもりだったんだけど、やっぱり八雲君を想う気持ちは吹っ切れなくて、何かもやもやしたものが心に残った。

 

 

 

少しずつ昔を取り戻していく八雲君に元々好きになってたすずかちゃんやアリサちゃんは当然だけど、IS学園で知り合った楯無さんや本音ちゃん、虚さん、楯無さんの妹さんの簪ちゃんが惹かれていくのは当たり前の事だと私は思う。

……まさか、ISを動かしたから自由国籍を取得して一夫多妻制が認められて、全員と付き合うとは思わなかったけどなあ。

でも、彼女達の八雲君への想いは私に負けない物だと思うし、彼女達なら強いけど弱さも持っている八雲君を支えていって幸せになれると思う。

だけど……その時私はどうしてあそこに自分が入れないんだろうって思ってしまった。そういう運命だって割り切ったはずなのに。八雲君の幸せを願ったはずなのに。

……ああ、そっか。私は嫉妬しているんだ。そばに居れない私と違って、生きて幸せな未来を八雲君と歩ける皆に。

 

 

そこから少しの間私は日課だった八雲君を見守る事をしなくなった。もう、私が見守らなくても八雲君は大丈夫だと思ったからという建前と、幸せそうな皆を見るのが嫌と言う本音から。

こういう時八雲君が好きになった人が凄く嫌な人だっりしたらまだ良かったかもしれないけど、皆が皆女子の私から見ても魅力的で素敵な人だったから、一緒の時間を過ごしてみたかったなあと思ってしまったから、その女の子達を嫌いになる事も出来なかった。

 

 

もう、頭の中がぐちゃぐちゃでどうすれば良いか分からなくなった時、八雲君は私の最期の場所、海鳴市に面した海に一人でいた。

 

『どこで言うべきか迷ったけど、やっぱり君の最期の場所が一番良いと思ったから、ここで言うよ。あの日から二か月くらい経っただけで色々僕の周りは変わって、君の言う通り僕は新しい恋を見つけたよ。……まあ、複数人いる奇妙な展開で僕自身驚いているけど。でも、やっぱり君が好きな気持ちは、愛しているって気持ちは変わらなかったよ。いや、変えられなかったよ。こんな事を言ったら君はあきれるかもしれない。けど、僕は意地でも変えない。誰が何と言おうと僕の気持ちは僕の物だから。皆を愛し続ける。君も愛し続ける。これが僕の決めた物だよ。だからさ、変わった変わらない僕をずっと見ててくれ、はやて』

 

届くはずの無い言葉を一人で喋っている八雲君。そして、届くはずの無い言葉を聞いている私。

 

「馬鹿やよ八雲君……。吹っ切って送り出したのに一人で勝手に嫉妬してる私を、死んじゃった私をずっと想い続けるなんて……。私の事なんて忘れてしまえばええのに……」

 

口ではこんな言葉しか出てこない。

だけど心は正直で、どうしようもなく嬉しかったから涙が止まらない。拭いても拭いてもどんどん出てくる。

私がたった一人愛した人は不器用で弱くて無茶をする、そんな人。

何人もの女の子を惚れさせて許されたからと言う理由で全員と付き合っちゃう酷い人。

だけど、一本芯の通った強い意志と、大切な人を想い続ける優しい心を兼ね備えたこの世界で一番素敵な人。

そんな人に何年経っても、傍に居なくても想い続けられる私は幸せ者だと思う。

 

『はやてー! 大! 好きだーーーーー!!!!!』

「うん、私も大好きやよ! 今までも! これからもずっと!」

 

これは届かない言葉。そんな事は分かっているけど、私も声に出さないといけないと思った。これからずっと次に八雲君と会うずーっと未来まで見守っていくためにやらないといけない事だから。

そして、神様という存在はそんな私を見かねたようで、目の前は光ったと思ったら八雲君がついさっき投げた物、つまり私の為に用意してくれた指輪を私の目の前に出してくれた。

私はそれを自分の左手の薬指に嵌める。

八雲君、私は君が心の底から大好きだと想ってくれる、それだけで十分です。だから、今は目の前に居る君を心から想ってくれる、傍で支えてくれる、素敵な女の子達を幸せにしてあげてください。それがきっと君自身の幸せに繋がっていると思うから。

その代わり、君がここに来たら目一杯くっ付いて甘えさせてもらうよ。その時間を楽しみに待ってるから。

あっ、でもあんまり早く来るのは許さんで。髪の毛が真っ白になって、顔も皺くちゃになって、沢山の子供や孫達に囲まれながらじゃないと認めへんからな。




このお話を書いたのはどうもIFルートのはやてを綺麗に書きすぎたと思ったからです。
だから、八雲の見ていなかった時の彼女を書こうと思いました。
この作品で自分は死んだ人と割り切っているように書いたんですけど、彼女だって女の子、嫉妬だってするし、羨ましくも思う。迷いもします。


と、いろいろ書きましたけど、こういう告白とかは答えがあって初めて綺麗な形だと思うので、たとえ八雲には届いていなくても一つの形にしたかったと僕が思ったからですけどね。



さて、いよいよ艦これの夏イベの開始の日が発表されました。とりあえず、それまでにこの作品の夏休みを終わらせたいなと思います。


次回はIS学園に戻った時のお話です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編その1 IFルートでStrikerSをやってみた その1

今回は以前竜羽さんに頂いた感想からIFルートのSTSを書いてみました。


新暦75年、高校を卒業した僕はちょこちょこやらないといけない事をやった後、一年間の試験部隊である、機動六課に配属された。初夏を過ぎ夏本番といった感じの七月の日の事だ

 

「ここが僕の新しい職場か~。一年だけなのに意外としっかりした隊舎だねえ」

『普通に何かに再利用されるのでは?』

「新しい常設部隊? いやでも、そんな話は聞かないし……」

『まあ、マスターは来年には退局なされるのですから関係ないのでは?』

 

そうなんだけどねー。気になるじゃん。こんだけデカい建物の使い道ってさ。

 

「そだ叢雲、今何時?」

『マルハチゴーマルですね。マルキュウサンマルに執務室に来て欲しいとクロノから』

「あー、隊長殿がそんな事言ってたねえ」

 

ってか、クロノの呼び方に迷いを感じるんだけど。普段はクロノ、今までの仕事だとクロノ提督だったけど、今回のクロノは隊長なんだよなあ。違和感しかねえ。

 

「ま、とりあえず行きますか」

 

 

 

クロノに貰った地図を頼りにクロノのいる部隊長の執務室にやって来た。

 

「よっす、隊長殿」

 

僕がクロノを『隊長殿』(ちょっと前までは『提督殿』)とわざと呼ぶのは、めんどくさい仕事にばかり駆り出すクロノに対するあてつけみたいなものだ。

僕とクロノは親友だと思っているし、意図的にこう言った感じの皮肉を入れる事位笑って許せる仲だからこその言い方。

 

「普段通りで構わないぞ、八雲」

「了解。んじゃ、いつも通りで行くわ」

 

流石に誰かがいる時は気にするけど、誰もいない時、知り合いしかいない時位は崩した口調で行こうかな。

 

「まずは、三か月の士官研修ご苦労様」

「延ばし延ばしになってたからなあ。クロノや他の皆には迷惑かけた」

 

士官研修は僕が三佐に上がった三年前の春に行われるはずだったのだが、その時にISを動かしてIS学園に入学する事になったから研修は卒業後になったのだ。……その間に、長期休暇にやった任務の功績で二佐になってしまったけど。

 

「部隊全員がしっかりやってくれているから気にするな」

「って言ってもなあ。ここまでで色々あったんだろ? もう、何回も出動してるし、なのはが魔王モードになったって話も聞いたけど」

「……どこからだ?」

「ウチの上司」

「なるほど、レティ提督か」

 

僕の上司(六課へは運用部からの出向扱いになっているので、クロノも直属の上司だけどレティ提督も同じく直属の上司に当たる)である提督は六課の後見人だからそれなりに内部情報にも詳しい。遅れて合流する事になった僕の事を考えて一週間に一回くらい六課の現状などの情報を教えてくれたのだ。

 

「そういや、僕が一番関わるだろう、前線のフォワードの皆は?」

「新人四人は休暇だ。訓練も一段落したからな。隊長陣はそれぞれの仕事をしている」

 

皆忙しいねえ。

 

「とりあえず、新人四人の挨拶は明日……」

 

会話の途中でクロノに通信が入った。モニターに映ったのは僕も良く知ってる顔だった。

 

「やっほー、八雲君」

「お久しぶりです、エイミィさん。カレルとリエラは元気っすか?」

 

モニターに映った女性はクロノの奥さんのエイミィ・ハラオウンさん。結婚を期にクロノの副官からは降りて非常勤みたいな立場になっていたんだけど、今回の新部隊の設立で後方部隊の頼れるまとめ役としてクロノが直々にスカウトしたらしい。ちなみに二人の子供はクロノの母親のリンディさんが預かっているとの事。……夫婦水入らずな生活をしたかったとかじゃねえよな? もし、三人目が出来たら、それが目的だったと僕は勘繰るぞ。こちとら、恋人おいてきての単身赴任だってのに。

 

「うん、元気だよ。って子供たちの事は後。クロノ君、エリオとキャロから連絡があったの。レリックの入ったケースを持った7歳くらいの子供を保護したって。その子がどうやらクラナガンの地下ライフラインを使っていたみたいなの」

「なるほどな。一番現場に近いのは?」

「幸い、休暇で同じくクラナガンに居た大和君にも連絡を入れたみたいで、すぐその場に合流したみたい」

「分かった。なのはとフェイトに出動要請、フォワードは地下ライフラインに突入し先行調査、大和はなのはとフェイトが合流したい先行部隊と合流、指揮を取らせろ」

「了解!」

 

やっぱ、クロノの指揮は安心するなあ。信頼感があるよ。

 

「んで、僕はどうすればいい?」

「いざという時の自由戦力だ」

「戦力の分散はよくないと思うけど?」

「大和、なのは、フェイトの管理局でもトップクラスのエースと新進気鋭のフォワード四人。戦力の信頼は十分だがいかんせん人が足りない。だから、管理局最強の君をどんな事態にも対応できる様に待機させておくんだ」

 

……そこまで言われたら答えないとねえ。

 

「りょーかい。まあ何かあったら八雲さんがスパッと解決するよ」

 

 

 

その後、僕はなのは経由で入った大和の『見つけたレリックを持った女の子を運ぶヘリの護衛の追加要請』を受けて、いつでも出れるようにしてある。今はヘリをスノーレインのリンゲモードを使って遠見の水鏡で見ている。

すると、ヘリの進行上に大量のガジェット―六課が専任で改修に動いているロストロギア『レリック』に絡む件で見られる無人機―が現れた。すかさず排除の為になのはとフェイトが動くけど見た感じ、かなりの数が幻影らしい。これは……

 

「クロノ、ちょっと行ってくるよ」

『了解した。現場での指揮権は全てお前に預ける』

「はいよ。エイミィさん、叢雲に座標を送信してください」

『了解! 皆の事よろしくね!』

「任せてください」

「マスター、転移準備完了です」

「分かった。エレメント1、霧島八雲、出撃します!」

 

さて、久しぶりの現場だ。全力全開で行きますか!

 

 

 

僕の転移した先は女の子を載せたヘリの真上。さて、あのガジェットを破壊して道を切り開くのが先決だね。

 

「覇道……」

 

叢雲に魔力を溜めていく。普段は隙が大きいから溜めの時間をカートリッジで強制的にキャンセルさせているけど、今回はそこまで焦らないから、目一杯溜める。そして、それは結果的には好判断だった。

 

「マスター、へり左側より高魔力反応! 砲撃が来ます!」

 

報告を聞いて砲撃の向きに位置修正。

 

「滅封!」

 

溜めていた魔力を開放し巨大な炎を撃ち出してその砲撃を相殺する。

 

「本局古代遺物部機動六課副部隊長、霧島八雲。ハラオウン隊長の指示で援護に来た。……久しぶりだね、なのは、フェイト」

 

最後に会ったのは何時だろ? ……今年のお正月に海鳴で会った以来だと思うから、半年ぶり位かな。

 

「八雲君⁉ どうしてここに?」

「八雲⁉ というか、副部隊長って何?」

 

……クロノの奴、僕の事言わなかったんだな。こりゃ、後で説明がめんどいぞ。

 

「簡単に言うと僕は六課のナンバー2になったって訳。一応二等空佐でもあるし。まあ、仕事は独立した遊撃戦力

兼現場の総指揮だけど」

 

ちなみに僕以外の人の階級だけど、六課のトップであるクロノが海将、前線部隊のまとめ役の大和が三等空佐、なのはとフェイトが一等空尉、通信管制などの後方部隊のロングアーチを纏めているエイミィさんが一等海尉となっている。

 

「八雲、二佐だったの⁉」

「何時の間に階級上がってたの?」

「……なんか、長期休暇でこっちに来るたびに大きな事件やらミッドを騒がせていた凶悪犯やら、次元犯罪組織の摘発やらに関わっててね。高校卒業したら二佐になってた。お蔭さまで昨日まで研修で朝から晩まで勉強だよ」

 

苦虫をかみつぶしたような顔を見せた僕に二人は苦笑い。現場ではあまりよろしくない空気かもしれないけど、下手に肩に力が入っているよりも何倍も良い。

 

「さて、話はこの辺にして、エイミィさん!」

『分かってますよ~。八雲君、なのはちゃん、フェイトちゃんのデバイスには既に砲撃をして来た人間のいるポイントを送っておいたから』

 

流石エイミィさん、素早い対応が求められるのを理解している。

 

「なのは、フェイト、とっとと決めるよ」

「「了解!」」

 

僕達三人は高威力の一撃を準備し出す。カートリッジも併用しているので数秒でそれを済ませる。

完了を確認したのを確認して、全員が発射態勢に入る。

 

「スターズ1、高町なのはとレイジングハート、行きます! エクセリオン…」

「ライトニング1、フェイト・テスタロッサとバルディッシュ、行きます。トライデント…」

「エレメント1、霧島八雲と叢雲、行くよ。覚悟は出来たか、デモンズランス……」

「「「ゼロ!(バスター!)(スラッシャー)」」」

 

高ランク魔導師の大火力魔法をぶっ放した再開発地区は更地になった。……やり過ぎた?

 

やっぱりやり過ぎたのでこの後、クロノに小言を食らった。それが終わったら今度はなのはとフェイトに冷やかされる羽目に。何故かって? デモンズランスが刀奈の蒼流旋になってたから。……そりゃ、大切な人の武器の形になる事だってあるでしょ。




この時の八雲の設定を少し

霧島八雲

年齢 19歳

階級 二等空佐

役職 古代遺物管理部機動六課副部隊長、コールサインはエレメント1

IFルートでのIS学園を卒業した八雲。偶然2割、必然8割(主にクロノが原因)で春、夏、冬の長期休暇のたびに大きな功績を上げたために卒業と同時に二等空佐を拝命。しかし、三等空佐時の士官研修を受けていなかったので、六課の合流に遅れる事となる。
なお、魔力ランクは通常時はSSSランクだが4ランクダウンでAAランクになっている。
もちろん、六人との関係は継続中。相変わらずのラブラブっぷりで、IS学園の彼らの部屋は「空気がドピンクだった」と言われるほど。
八雲は六課所属の件を「最初で最後の単身赴任だね。まあ、刀奈と簪の出るモンド・グロッソに被らなくて良かった」と言っている。


STS編で皆さんが気になる事があったら、感想やメッセージでどうぞ。

あらかじめ、出そうなものは書いておきます。

八雲の恋人達はSTSにはガッツリ関わってきません。しかし、この前の海鳴市に六課が向かった一件(STSSS1のお話)で全員六課メンバーと面識はあります。
なのはとユーノ、フェイトと大和は関係が進展していません。鉄板ですが進展させようとすると様々な邪魔が入るからです。しかし、なのはとユーノは本編STS通りの進展が有ります。
本作のフェイトはアリシアのクローンではないのでスカリエッティのアジトには突入しません。突入するのはIFルートと言うよりIS編で因縁の出来た八雲を予定しています。
これにより最終戦の展開が結構変わってきます。


それと、前の話で書いた艦これの夏イベ前に夏休みを終わらせるという話ですが、無理っぽいので夏イベ中に少しずつ書いて、マップを一つ抜けるごとに一話上げて行こうかなと考えています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話 事件勃発!(前編)

艦これ夏イベE-1クリア記念に。


僕が誰にも聞かれていない告白をした日から二日後、翠屋に寄ってちょっと早めのお昼を済ませて皆のお土産としてシュークリームを買ってから学園に戻った。ちなみに、昨日は一日中バニングス社でISの起動テスト。僕が頼んで付けてもらったものや、細かい改修のチェックをした。その時にちょっとしたことがあったけど……まあ、それは今は置いておこう。

実は夏休み中に翠屋に行くのはこれが初めてではない。学園から直接各家に行くより海鳴から行く方が交通の便良いし、時間も掛からないから夏休み入ってからミッドに行くまでは自分の家に居て、やることも無かったから翠屋でバイト(パティシエ見習い)をしていた。いやー、勉強になったし色々な経験も出来て楽しかった。……皆に会えなくて寂しかったけど。

 

「皆何をしてるのかねえ?」

『確か、アリサとすずかの二人は今日学園に戻って来る予定だったはずです』

「だったね。って事はまだ帰って来てないかもしれないんだよなあ」

『そうですね、残りの四人は昨日に戻って来たと連絡がありましたから、それぞれやる事をやっているのでは?』

 

何日間か空けてたから、生徒会の仕事とかありそうだよなあ。まあ、今は夏休み中だから量はたいした事は無いだろうけどさ。

 

「って事はフリーなのは簪……いや、それも無いか。専用機完成したんだし」

 

実は簪の専用機は夏休み前にアリサ経由でバニングス社が正式に開発を引き継いだ。魔導師の適性を持った簪は(アリサやすずかもだけど)出雲と同じく、魔法技術を使った兵装を搭載している。

翠屋に寄った時、そこで家の手伝いをしていたなのはに聞いたんだけど、どうやら、僕がミッドに行っている間彼女達はなのはとフェイトの短期魔法訓練を受けていたらしい。

……全員脱落せずに乗り切ったって聞いて驚いた。だってメニュー聞いてかなりのスパルタだったんだもん。国家代表の刀奈さんや代表候補の簪、夜の一族の血を継ぎ、身体能力ならトップクラスのすずかならともかく、他の三人も乗り越えたってのが意外だった。なのはに「愛の力だねえ」ってからかわれた。ただその前の「色々な意味で」ってのが少し引っかかるけど。

 

「とりあえず、部屋の冷蔵庫にシュークリーム入れときますか」

 

今日は八月にしては涼しいけど、それでも30℃近い気温。幾らドライアイスを入れてもらったからって、危ないだろ。だから、まずは部屋に向かう。

その道中、

 

「あっ、霧島君! 良い所に居た!」

「ども、黛先輩。どうしたんですか? 僕今冷蔵庫にしまいたい物持ってるんですけど」

 

僕が出会ったのは黛薫子先輩。刀奈さんのクラスメイトで友人。そんでもって二年整備課のエース。その能力は虚さんも認める所という才女だ。夏休み前に刀奈さんの紹介で知り合った。

 

「緊急事態なの!」

「緊急事態?」

 

こんな夏休みの真っただ中に?

 

「今日、私は本音ちゃんと一緒に簪ちゃんの専用機のテストをする予定だったんだけど、突然、何人もの生徒に囲まれて襲われたの! それで、たっちゃんの所に行く途中なのよ!」

 

黛先輩の言葉を聞いて、一気にキレかける。ここでキレても意味がないから抑えるけど。

 

「……それは、何処ですか?」

「……霧島君、怖いよ?」

 

どうやら怒り自体は隠せなかったらしい。

 

「嫌だなあ先輩。当たり前じゃないですか、恋人のピンチなんですから」

「あー……そうだったね、その事はたっちゃんから話は聞いたよ。今度取材させてね。それで、場所は第二アリーナだよ。ただ、本音ちゃんがいきなり襲われた時驚いてこけて足首ひねっちゃったみたいなの」

 

先輩のその言葉を聞いて僕は持っていた翠屋の箱を押し付けた。

 

「これ、虚さんに渡しといてください」

「ちょ、霧島君⁉」

 

先輩の僕を呼び止めようとする言葉を聞きながら全力で走り出す。一秒でも早く行かないと!

 

 

 

今日、私はようやく完成した打鉄弐式改め『紫雲』のテストをしている。私の専用機の『紫雲』は八雲君の『出雲』、アリサの『紅雲』、すずかの『蒼雲』とは姉妹機になる。

もっと正確に言うと紫雲、紅雲、蒼雲は八雲君、叢雲、出雲のトリオの性能に量産機でどこまで近付けるかのテストをするための機体で、紅雲は近距離重視、蒼雲は遠距離重視、紫雲は中距離のバランス型となっていて、それから私の特性に合わせて武器や性能を調整しているから紫雲改といっても良いと思うものになっている。

基本的に全部出雲が基本になっているので、装備も出雲に近い。

私の紫雲の場合だと、マルチバレットエネルギーライフル『彩雲』が私の適性に合わせてNバレットに特化させた『彩雲改N型』になっていたり、近接兵装の『瑞雲』が薙刀型の物になっていたりする。

専用機と言えば実はお姉ちゃんの機体もロシア政府が許可を出したのでバニングス社の改修を受けている。名前も私達の機体に合わせて『水雲』と変更した。武装自体は変更はないけど、出雲で得たデータや技術を反映しより完成度を上げている。

その中での大きな特徴が、マルチロックオンミサイルユニット『乱雲』。打鉄弐式の『山嵐』をたたき台に、Nバレットの誘導方法などの魔導技術由来のマルチロックオンシステムを組み込んだ装備で紫雲の切り札でもある。受領に行った時に使ってみたけど……予想の上を行く出来だった。自分の手足の様に操れるって言うのはこの事だと思う。

今日のテストは、今自分がどれだけ紫雲を使いこなせるかそれを確かめるつもりだ。

 

「かんちゃん、こっちは問題無いよ~」

「私の方も問題無し。薫子先輩が来たら始めよっか」

 

黛薫子先輩はお姉ちゃんのクラスメイトで友人、新聞部の副部長で整備課の二年生エース。その実力はお姉ちゃんの専用機開発にも一年生でありながら関わった事、ロシア代表のお姉ちゃんの専用機を虚さんと共に任されている事からも分かる。

昨日の夕方帰って来た時に今日のテストの事をお姉ちゃんと虚さんに相談した時、虚さんが「それなら、薫子さんにお願いしましょう。彼女なら腕も確かですし」と言って、丁度、食堂に行く途中の薫子先輩に会ったからそこでお願いしたら、二つ返事でOKをくれた。

私達が薫子先輩を待っているのはお願いした時に「明日は午前中、新学期一発目の新聞の編集会議だから、お昼からなら」と言われたから。予定した時間はちょっと前に過ぎているけど、アリーナに来る前にちょっと遅れるというメールがあったから待っている。元々の予定に私が割り込んだんだからそれ位は待つ。

薫子先輩が来るまでの間、本音と話しながら家の蔵に眠っていたデバイスの一つで私が使っている『野分』に頼んで魔法の基礎、マルチタスクの強化に励んでいる。多分、一緒に居る本音も彼女のデバイスである『カーバンクル』と一緒に励んでいるだろう。

そんな時、突然紫雲が警告を送る。そっちの方を見ると突然何かを撃たれた。私はそれをプロテクションシステムを発動させて防ぐ。

撃った方にはラファール・リヴァイブと打鉄。それが合計で20機ほど。

 

「……なんですか? 突然攻撃してきて」

「アンタが目障りなのよ! 一年のクセして代表候補生で専用機持ってて、姉の七光りで全部手に入れたくせに!」

 

……なるほど、嫉妬か。ここに居る人たちは私が国家代表候補生である事と専用機を持っている事が気に食わない。お姉ちゃんのおこぼれをもらっているだけだと。

そういうのは上級生に流れているとは薫子先輩に聞いた。なまじ、お姉ちゃんが有名人で、私がここまでの行事に不参加だった事からそれに拍車が掛かったらしい。先輩は「と言っても、そんな事言ってるのはISの訓練や勉強そっちのけで遊びにかまけてる不真面目な操縦科の連中だよ。整備課はほとんど全員が簪ちゃんの努力を見てたから知ってるし、整備課と繋がりの深い真面目な操縦科の子達は『代表候補は才能の青田買いかもしれないけど、専用機はそれだけじゃ得られないから』って言ってそんな事笑って流してるから」と言っていた。

 

『本音、逃げれる?』

 

私は念話で後ろに居る本音にそう問いかけた。もうちょっと行ったら、緊急用の避難エリアがあるからそこに行ければ……

 

『ゴメン、かんちゃん。驚いた時、こけて足挫いちゃった』

『大丈夫なの?』

『大丈夫。でも、ちょっと動けないかな~』

 

最悪の事態だ。恐らく、攻撃は続くだろう。本音が近くに居るのに攻撃してきたから、私は本音を守りながら対応しないといけない。

 

『マスター』

『どうしたの? 野分』

『黛薫子がアリーナに来て、この状況を確認しアリーナを出ようとしています』

 

これは良い報告だ。先輩がお姉ちゃんか先生を呼んでくるまで耐えれば良い。ここは後者から一番近いアリーナだから、五分もあれば誰か来ると思う。

それにさっきの攻撃に使われた弾は5,56ミリ弾。ISの使う銃器の中で最も小口径な弾で取扱いの易さから初心者用と言われている物だ。その分威力もお察しである。だから耐えるだけなら難しくない。ちなみに、基本的なISの実弾銃の弾は12,7ミリ。生身の人が持ち運ぶ銃器扱う弾の中で最も大きい弾を使っている。これ以上となるとISの機能で反動を抑えるのが厳しくなってくる。トレーニングや適性、技術で補ってより大口径な物を使う人もいるけど、扱いやすいライフル系はこの辺が普通だ。砲となると、ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンの肩の砲みたいに大口径な物もあるけど、それも取り扱いがとても難しくなってほんの一部しか使われていない。

だけど、やられっぱなしは嫌だよね。私だってもう護られてるだけじゃない。出来る事をやる。

 

「……それで何がしたいんですか? 私を痛めつけても代表候補生にもなれないし、専用機も貰えませんよ」

 

少し間を開けてから私はそう聞いた。

 

「そんなの分からないじゃない!」

 

いや、たとえ集団で押し勝っても代表候補生になれる訳ない。集団(しかも20機以上)で勝った所でこれが実力と言っても鼻で笑われるだけだ。それと、実力と共に代表候補生に必要な(少なくとも日本の代表候補生の選出基準に明記されている)人柄、人格面でもアウトだ。

闇討ちを仕掛ける人間を代表候補生に選べるわけがないだろう。

 

「分かりますよ。スカウト来てないんですし。素直に9月のキャノンボールファストや11月の学年別トーナメントで結果出すために努力した方が良いんじゃないですか?」

「う、うるさい!」

 

そう叫んで先輩が攻撃を仕掛けてきた。もうちょっと話で時間を稼ぎたかったんだけどなあ。

それと同時に後ろにいた人たちも私に攻撃をして来たんだけど……弾幕が荒い。良く見ると、5,56ミリ弾を使う物の中でも短銃身の物を使っている。実弾銃の短銃身は取扱いの向上と引き換えに反動だったり銃声だったりが大きくなっている。と言っても、ISがあれば全然抑え込めるレベルのはずなんだけど……。持ち方もそうだし、ほとんど練習していないっぽい。

……今、こんなかなりのピンチな状況も自分でもビックリするくらい落ち着いて状況を分析できている。これは何日か前の経験が生きて来ている証拠だと思う。

八雲君がミッドチルダに行った翌日、私達はアリサとすずかの紹介で二人(八雲君を含めて三人)の幼馴染である高町なのはとフェイト・テスタロッサと出会った。それで、私達六人は彼女達から魔法の基礎を習った。魔法を扱う基本、私達には全員空戦の適性があったのとデバイスが飛行魔法の補助を自動でやってくれるものだったから、魔法の空戦の基本、全員の能力適性(お姉ちゃんがFA(フロントアタッカー)、アリサがGW(ガードウイング)、私がCG(センターガード)、すずかがWB(ウィングバック)、本音と虚さんがFB(フルバック))の基本を学んだ。かなりISに応用できそうな事があったし、ISの操縦に近い部分もあったから、割とスムーズに行った。ISも魔法も少しの間だけしか使ってないからまだまだ未熟な力だけど、今後ろに居る大切な人を護る為の力。私は今出来る事を全力でする!

 

「紫雲、私に応えて! プロテクションシステム起動!」

 

正面から来る大量の弾丸を私達の前で発生させたエネルギーシールドで防ぐ。本音の事を考えるならバリアタイプを展開する所なんだけど、それだとどこまで耐えれるか分からない。だからより防御力の高いシールドタイプを選んだ。

正確な時間は分からないけど、その攻撃の嵐が通り過ぎるまで二分は経ったと思う。

 

「こうなったら、何人か直接行くわよ!」

 

どうやら、格闘戦に来るらしい。遠近両方をさばききるのは流石に……厳しいね。だけど、何とかしてみせる。

加速して近寄ってくる先輩。数は7人。私は瑞雲を展開して迎え撃つ。しかし、それを使う事は無かった。

何故なら私とその7人の距離が最初の半分を超えた所で私の後ろから白銀の光球がその七人を的確に捉えて、迎撃したから。そして、

 

「僕の大切な人達に手を出したんだ。覚悟……出来ているよね?」

 

世界一カッコいい私達だけのヒーローがやってきた。

 

『ねえ、かんちゃん』

『どうしたの、本音?』

『こういう時に不謹慎だけどさ、はっちーの後ろ姿ってかっこいいよね』

『分かる。護るって気持ちが凄く伝わって来るよね。ある意味八雲君らしさを一番感じる』

 

この背中を支えられるようになりたいなと思う。それは私だけじゃなくて皆と一緒にこれからずっとやっていく事だね。




簪&本音、事件に巻き込まれる回でした。

個人的な意見になるのですが、ヒーローは大体何かを護る為に戦うと思います。それなら後ろからの立ち姿がカッコいいはず。首を九十度曲げて後ろに居る護っている人と話す所とか特に良いと思います。

次回は怒り状態の八雲が簪と共に反撃を開始します。早く上げたいのですが、諸事情で上げるのは恐らく日曜になると思います。

機体やデバイスの設定などは夏休み編が終わったタイミングで上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話 事件勃発(中編)

隙間を見つけてE-2クリア記念。クリアしたのは昨晩ですけど……。

戦闘シーンオンリーです。


何か簪と本音を襲っていた奴らが言ってるけど、そんなのは無視して僕は二人の前に出る。

 

『二人とも、大丈夫?』

『私は大丈夫』

『私も習ったばかりの治癒魔法で痛みは大分引いたから大丈夫だよ~』

 

良かった……ホントに何もなくて。さて、ここから反撃開始と行きますか。

 

『簪、Nバレット何発まで使いこなせる?』

『動かなかったら10発。動いたらまだ4、5発かな』

 

魔法を学び始めてそんだけ扱えれば十分だろ。誘導弾の扱いだけなら近い将来なのはと肩を並べるかもな。

 

『分かった。僕が盾になりながら、どんどん落としていくから、簪はNバレットで撃ち漏らしを落としていってくれ。本音は簪のサポートを。多分その端末で相手のSEとか見えるだろ? 確実に数を減らせるように指示を出してくれ』

 

僕一人だけじゃ、護りながら戦うのは出来なくはないと思うけどしんどい。でも、彼女達は僕を支えてくれるって言ってくれた。だから、その言葉に甘えよう。

 

『りょーかいだよはっちー』

『うん、分かった』

『叢雲、防御は頼む。ちょっとばかし、あの人たちにお灸をすえないとね』

『了解です、マスター』

『あっ、そうだ簪、本音』

 

大事な事言い忘れる所だったよ。

 

『何?』

『僕の背中、任せたよ』

『『うん!』』

 

背中を任せられるって良いねえ。久しく忘れていたよ。

僕は新規開発された彩雲の短銃身を二丁呼び出し、腰に増設してもらったハードポイントに装着、そして以前の彩雲も二丁呼び出し両手に装備した。

 

「さて、一対多の新技行きますか。Nバレット、サターンフォーメーション!」

 

何発かの誘導弾が相手を追いたて一か所に固めていく。僕の狙いを理解した簪が一か所に集めるのを手伝ってくれる。ハイパーセンサーで確認すると本音もせわしなく目線を動かしてるから、指示は本音が出してるな。即席だけど良いチームワーク。10月に有る専用機タッグトーナメントで本音に専用機があったら簪&本音ペアとも戦ってみたかったなあ。

そして一か所に集めた後、誘導弾は逃がさない様に機体の周囲を旋回している。さながら群れで狩りをする肉食獣の様だ。

これは夏休み前に簪が部屋でやっていたロボットが沢山出てくるシミュレーションゲームのとあるロボットが使っていた物。だから、簪も僕の狙いを分かったんだろう。だけどあそこまで精密な誘導弾の扱いが出来るとは思わなかったけど。良い意味で驚いた。

 

「簪、後は任せるよ」

「了解。本当なら超重獄に落ちろ! って言う所だけど、私は私のやり方で行くよ! スターダスト……」

 

あれはまさか……なのは、そこまで見せたのかよ。

ちなみに僕はリアルで超重獄に落とせる。発射するふりをして中心にブラックホールを放てばいいだけだし。

 

「ストライク!」

 

言葉と共に青っぽい白色のエネルギーの奔流が発射されると共に旋回していた簪の光弾も襲い掛かった。僕の操っている物も同タイミングで動かす。簪の撃ちのがし……は無かったから、SEを削りきれなかった機体を確実に行動不能にしていく。

これの元の技はなのはの誘導弾と砲撃のコンビネーション『ストライクスターズ』。誘導弾の制御と直射砲の制御という異なる二つの事(正確には誘導弾一発一発と更に飛行の制御もある)しないといけない、高難易度技術だ。いくらISのサポートがあると言えど、簡単にできるものではない。

簪が僕達の前で語った彼女の目標、刀奈さんに追いつき、追い越す。その一念で努力をし続けた結果、花開いたんだろう。こりゃ、刀奈さんもうかうかしてられないねえ。

 

「っ! 簪、本音を頼む!」

「えっ? う、うん!」

 

僕は簪の返答を聞きながら前に出る。そして、プロテクションシステムで攻撃―荷電粒子砲、レーザー、エネルギーの光波の三つ―を防いだ。

 

『簪、本音を連れてピットへ』

『分かった。気を付けてね』

『怪我しないでね、はっちー』

 

簪が本音を抱えてピットに戻るのをハイパーセンサーで確認しつつ、僕は攻撃してきた三機、―白式、紅椿、ブルーティアーズ―への警戒をし続ける。

 

「霧島! お前何してるんだよ!」

「何って……」

 

僕はそこで少し考える。

一応、生徒会副会長として今年何があったかを確認した時、織斑君に関しての報告書も目を通した。彼が本格的に事件を起こしたのはボーデヴィッヒさんがオルコットさんと凰さんへの必要以上の攻撃を加えた際のアリーナのシールドを壊した一件だけ。それも友人が傷付いて怒ったのが理由。今回僕は怪我を負うほどのオーバーキルはしていないんだけど……。

 

「人助けだね」

「あんな一方的な攻撃がか⁉」

 

この一言で織斑君は事情を理解していないのにこの場に飛び込んで、あまつさえ攻撃をして来たという事が分かった。

僕と簪の攻撃を一方的な攻撃と言って非難するのなら、その前の簪に攻撃していた奴らはどうなるんだよ。アレはリンチじゃないのか? しかも、簪の後ろに生身の本音が居る状態でだ。

 

「そりゃ、手っ取り早く終わらせる方法だったし」

「攻撃できない人を攻撃する必要は無かっただろ!」

 

彼は何を言っているんだ?

SEに関しては基本的に他の機体からも確認できる。(試合の時は競技性を高めるために対戦相手には見えなくなる様に設定されている。僕が戦闘中のSEを把握しているのは、叢雲がそれを大体計算しているから)普通なら彼の言う通りかもしれないけど、今回に関しては本音の安全が最優先だったからちょっとでも攻撃の可能性があるなら摘み取りたかったのだ。

 

「攻撃できない……ねえ。SEが残っている限りISは動かせるんだから攻撃は出来るよ? 僕は必要最低限の事しかしてないよ」

「だからって!」

 

……正直これは無駄な話し合いだと思うんだよね。お互い譲る気は無いんだから。これは先生来るまで平行線かねえ。

 

「ま、織斑君が何と言おうと僕は考えを変えないよ。もし、文句があるならねじ伏せてみれば? 三対一で勝てる自信があればだけど」

 

挑発なんて僕らしくないと思うけど、頭に来てるんだよね。たとえ彼に彼なりの攻撃をした理由があっても、僕の大切な人に向けて狙う意思が無くても武器を向けたんだから。

 

「テメエ!」

 

食いついた! さて、僕の八つ当たりに付き合ってもらおうかな。

突っ込んでくる織斑君と篠ノ之さん、そしてその援護を始めるオルコットさん。

 

『叢雲、Nバレットでオルコットさんの相手を任せるよ』

『了解』

 

別に両方操作しながら戦えなくはないけど、念には念をだ。本音に怪我しないでねって言われたから最善の方法を取る。

さて、臨海学校から夏休みまでの間に一度実戦に重きを置いたIS実習があった。その時の三人の戦闘の感じを見ると、オルコットさんは依然と変わらず、織斑君は二次移行して射撃武器が付いたけど、それを使いこなせていないし、篠ノ之さんは……うん、全然仕上がってない感じ。それとこれは織斑君と篠ノ之言える事だけどISに振り回されてる。性能に乗り手の腕が追いつけていない。

それも当然で世界最高峰の性能を持つ機体は素人に毛が生えたレベルでは乗りこなせない。僕と出雲もそうなんだけど、僕はそれを自分自身の身体能力と今までの膨大な戦闘経験、飛行経験で出雲と言う暴れ馬を抑え込んでいる。

僕はNバレットでオルコットさんを抑えられている事を確認しながら織斑君と篠ノ之さんの相手をする。大量の誘導弾を使えばBTの誘導するための集中力も落ち着いた射撃も出来ない。オルコットさんは最初の織斑君の時みたいに一方的に攻撃できれば力を発揮できるけど、それにハマらなければ実力の半分も出せない。重大な欠点ともいえる。

さて、突っ込んでくる二人の機体の大きな欠点に燃費の悪さが上げられる。

話しに聞くと篠ノ之さんの機体、紅椿はワンオフアビリティとしてエネルギーを回復できるという凄く便利な物があるらしい。が、実習の時はそれを使っていた所を見られなかったので、条件が厳しいのだと僕は思っている。だから、とりあえずFバレットで狙い撃つ。秒間15発の速度で撃ち出される高速のエネルギー弾。しっかり引き付ければ回避は簡単な物じゃない。直撃を食らい、縮めた距離を離される二人。

 

「くっ」

「くそっ!」

 

二人が毒づいても僕は攻撃の手を緩めない。二人とも遠距離攻撃は出来るが近距離での戦いが得意だから、遠距離をメインに戦うのがセオリーになる。しかし、

 

「こうなったら……いくぞ、箒!」

「ああ!」

 

二人ともエネルギーシールドを張って突っ込んでくる。

Fバレットは連射力と弾速を重視しているから一発一発の威力はそこまでは無い。なので、シールドを張られて突っ込まれるのは結構辛かったりする。

 

「「貰った!」」

 

距離を詰められて左右から袈裟切りで切りかかられる。が、しかし

 

「「なっ⁉」」

 

僕は斬撃を彩雲で止める。

IS戦では基本的に彩雲での遠距離戦ばかりしていたけど、本来の僕はオールラウンダーであり、近距離戦も出来る。むしろ近距離戦の方が得意だ。だから、攻撃を受け止める事は難しくない。

まあ、僕の戦い方を管理局の技官に聞いたバニングス社の人が彩雲でも接近戦が出来るようにと無駄に丈夫に作ってくれたから、鈍器としても使えるってのもあるんだけどね。

僕は右手の方に居る織斑君のブレードを押し返して、裏拳の要領で腕を振り抜き、彩雲で殴る。そして、そのまま左の彩雲を軸に回転して篠ノ之さんには回し蹴りを食らわせる。

そのまま、Fバレットの斉射を食らわせて一気にオルコットさんの方に押し込む。

 

「さてと、Yバレット、コード・エンジェルリング」

 

三人を一か所に纏めて仕留める準備を始める。

 

「これで終わりだよ。ディバイン……」

 

決める一撃を用意していると、

 

『そこまでだ! 全員管制室に来い!』

 

……中々良いタイミングで織斑先生がやって来た。僕は彩雲をしまい、そのままピットに戻った。




まあ、以前後書きで書いた感じで容赦なく実力差を発揮してます。

実力差の理由として

そもそもの身体能力の差
戦闘経験の差
IS操縦(もしくはそれに類する)経験の差

この三つがあります。
確かに八雲はIS操縦は入学から学園別トーナメントまで全くしていませんでしたけど、それに類する経験と本作でしている航空魔法戦の経験が豊富です。それに加えて今回のお話までの二か月ほどで刀奈と一緒に訓練もしているのでIS操縦の経験もそれなりに積んでいます。
上二つは言わずもがな。
しかも……八雲、一回も剣を抜いていないんですよねえ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話 事件勃発(後編)

まあ、後始末回ですね。

E-3クリア記念。……今回は掘り(実益)か全部甲(プライド、満足感)を天秤にかけないといけないと思います。


三人より先に管制室に行ったら、織斑先生に山田先生、簪に本音、薫子先輩、後何故か残りの一年生の専用機持ちが居た。

 

『何で皆いるの?』

 

僕は簪と本音に念話で尋ねる。

 

『今回の件結構騒ぎになってるんだよ~』

『それで皆で来て、鈴とシャルロットとラウラは私達が倒した子を回収していたみたい』

 

なるほど、あの三人よりは冷静だったと。流石に僕でも6対1だと……なんとかなるか。そういう時はそういう時の戦い方があるし。

 

「霧島、今回の一件ご苦労だった。事情は黛や更識、布仏に聞いている。……が、最後の私闘に関しては夏休みが終わるまでに反省文を書いてもらう」

 

まあ、これ位は予想通りだったし問題無い。むしろ、夏休みが終わるまでというまだ期間に余裕がある上に枚数の指定も無いからかなり優しい部類に入るだろう。

 

「了解です」

「やけに素直に受けるな」

「だってそれを覚悟の上で挑発してましたし。自分に素直に動いた分の代償と考えてますよ」

 

厳格な織斑先生の事だ。当事者たちや目撃者、ここに残ってるであろう映像データなどから今回の件をちゃんと確認した上でで既に他の人にも処分を言い渡しているんだろう。

そんな事を考えていると僕と戦っていた三人が入って来た。途端に空気が悪くなる。三人が敵対心をこめた眼で僕を見てるから。

 

「さて、お前達の処分だが……私闘に関しては反省文の提出。しかし、その前の霧島への攻撃の件で貴様らは夏休みが終わるまでISの起動を禁止する」

「なんでだよ千冬姉!」

 

織斑君が織斑先生に食って掛かるけど、それを有無を言わさず出席簿で鎮圧する織斑先生。

 

「織斑先生だ。……では聞くがお前達は何故霧島に攻撃を仕掛けた?」

「それは、あまりにも酷い事をやっていたからで……」

「ならば何故霧島がそんな事をやっていたかは理解しているのか?」

 

織斑先生にそれを聞かれて答えられない三人。織斑先生は溜め息を一つ吐いてから、

 

「霧島があれをやったのはそこに居る更識が20人から攻撃されていたからだ。理由は逆怨み的な嫉妬。霧島はそれを鎮圧しただけだ。が、それだけが理由ではない。お前達は、その前の攻撃した20人もそうだが、更識の後ろに生身の布仏が居たのを気付いていたのか? そして、それを分かった上で攻撃をしていたのか?」

「「「えっ⁉」」」

 

……やっぱり気付いていなかったよな。気付いてたらもうちょっと考えて攻撃するだろうし。

 

「……その反応は気付いていなかったみたいだな。今回、霧島は一見やり過ぎな攻撃をしたかもしれんが、その実攻撃された人間も何人か気を失っただけで怪我はないし、ISも損傷レベルは最低限だ。最後の私闘の部分を除けば、霧島は生徒会の人間として最適な手を打ったと言える。が、お前達は本来気付かなかったでは済まない事をしている。客観的に見れば日本の代表候補生への集団暴行に加わった形だからな。特にオルコットは他国の代表候補生へのだ。外に漏れれば本国で待ってるのは牢屋だぞ。まあ、更識、布仏両人が何もなかったから気にしないと言っているので最低限の処分で済ませるが、しっかり反省して二度とこんな事態を起こさない様にしろ」

 

織斑先生の厳しい言葉に三人はうなだれる。

ある意味殺人未遂なのに処分が軽いと思ったら被害者本人がそう言ってたらしい。後で部屋で帰って来た本音に聞いてみたんだけど、『良い物が見れたから~』と言ってた。良い物ってなんだろ?

その時に残った三人が何故加勢しなかったのかを知ってるか聞いたら「三人ともかんちゃんの後ろに居る私に気付いたのと、はっちーとかんちゃんがSEを削りきっているだけだと分かったかららしいよ~」と教えてくれた。

 

「織斑先生、もう寮の部屋に戻っていいですか?」

「ああ、構わん。ちゃんと反省文を期限までに出せよ」

「分かりました。では失礼しました」

 

さて、部屋で一休みしますか。今日戻って来るために連日3時間睡眠だったからねえ。

 

 

 

生徒会の仕事を終えた私は薫子ちゃんが駆け込んだ時に、持って来た八雲君のお土産の翠屋のシュークリームを持って部屋に戻った。

一緒に仕事をしていた虚ちゃんは今日起こった一件でダメージを負ったISの整備の手伝いに駆り出され、簪ちゃんと本音ちゃんは当初の予定通り紫雲のテストをしているとメールがあった。アリサとすずかちゃんは夕飯前に着くと昨日言っていたから後、3時間位は帰ってこないかな?

……ん? 簪ちゃんからのメールで八雲君は部屋に戻ってると言っていたから八雲君と二人っきり? 突然やって来たチャンスにテンパる私。そうこうしている内に部屋に着いた。二人っきりの嬉しさ半分、二人っきりだから何が起こるかのドキドキ半分な状態で部屋のドアノブに手をかける。

 

「ただいまー」

 

そう言って部屋に入るけど返事は無い。……なにか作業でもしてるのかな?

だけど、その予想は外れる。どうやら八雲君はベットに腰掛けて、部屋着に着替えてすぐに寝落ちしたらしく下半身は座っているけど、上半身は後ろに倒れて眠っている。八雲君が仮眠を取るのって珍しいから、多分かなりお疲れだったらしい。でも、これじゃ疲れとれなさそう。そう考えた私は足を持ってベットの上に乗せてちゃんとした体勢にする。

 

「これで良し。……いや」

 

ちょっと恥ずかしいけど思いついた事をやってみようかな。私はベットの上の八雲君の傍に座り、自分の太ももに八雲君の頭を載せる。短めの彼の後ろ髪が少しくすぐったい。

 

「う、うん……あれ? 刀奈さん?」

 

どうやら、私が色々やったから目が覚めたらしい。

 

「起こしちゃった? ゴメンね」

「ってか僕、寝てました? ってかこの状態って……」

 

今の自分の状態に気付いたらしい八雲君の顔は一瞬で赤くなる。

 

「膝枕だよ。どうかな?」

「……最高です」

「そっか、良かった」

 

恥ずかしがる八雲君なんてそうは見れないからね~。しかし、有頂天になっていた私は忘れていた。八雲君は実はSだという事を。

 

「よいしょっと」

 

そう言いながら起きあがる八雲君。ちょっと惜しいなあと思っていると、

 

「刀奈さんも生徒会のお仕事でお疲れでしょ? だから……」

 

私を抱きしめてそのまま倒れ込む。

 

「えっ⁉ えええっ⁉」

 

ビックリしすぎて理解が追いついていかない。今、私八雲君に抱きしめられてる⁉ 何で⁉

 

「刀奈さんの膝枕で僕だけ楽しむより、刀奈さんを抱き枕にして一緒に休みましょうよ」

 

私の耳元でそう囁く八雲君。……ズルいなあ。何日も会えなかった君にそんな甘いお誘いを言われたら断れないよ。

 

「……うん」

 

私は右腕と脚を八雲君の体に絡ませ、彼の体に近寄る。季節は夏。連日真夏日を記録しているから帰って来た八雲君からはシャワーは浴びただろうけど少し汗の匂い。だけど、それは全然嫌な匂いじゃない、だって八雲君の匂いなんだもん。落ち着くなあ。

 

「あ、そうだ」

 

八雲君は何かを思い出したらしい。なんだろ?

 

「どうしたの?」

「いや、大した事じゃ無いんです。ただ言い忘れてた事があると思って。……ただいま、刀奈さん」

「うん、おかえり八雲君」

 

「ただいま」と「おかえり」。ホント何気ない言葉だし、それこそここで一緒に過ごすようになってから当たり前の様に交わしてきた言葉だけど、想いが通じ合って今の関係になってからはこれだけでとっても嬉しい。八雲君や皆のいる所が私の帰る場所で、私達の元が八雲君の帰ってくる場所だと感じれるから。

結局この後私達は夕食前に皆が帰ってくるまでずっと眠っていた。まあ、私達の状態を見て冷やかされたんだけど。




簪、本音の両人的には「怪我も無かったし、八雲のカッコいい所見れたから気にしない」と言った感じです。

一応、一夏側の擁護も少し。
一夏達が最初に見たのは八雲と簪が盛大に攻撃して次々と行動不能にしている所からです。
つまり、規模の違いがあれど、鈴&セシリアVSラウラの焼き直しだと捉えたんですね。
そこで取った行動は八雲への攻撃(一夏、箒、セシリア)と行動不能になった人の救出(鈴、シャルロット、ラウラ)に分かれます。
その差は頭に血が上ったか、冷静に場を見てたか、そして霧島八雲をどう捉えているかの差です。
攻撃した三人は本作序盤の八雲に何かしらやられているため、自分達と同じ感じでやられているという先入観を持って見てしまっています。
残りの三人は偏見を持つほど関わっていない転校生二人と、八雲の恋人達と仲が良い鈴なので三人より冷静に場を見たという訳です。

処分なのですが、全員に箝口令を敷いた上で襲撃してきた人達は、厳重注意の上、反省文提出と二か月間の停学、一夏達が厳重注意と反省文の提出、約10日の謹慎、八雲は反省文の提出となりました。
本来ならもっと厳しくなるはずでしたが、被害者である簪と本音が最初に書いた心境なのであまり厳しくしなくてもと織斑先生に進言したのでこの程度に落ち着きました。
まあ、恐らく襲撃した人たちはその後寮と言う密室空間でマッハでうわさが広がるでしょうからほぼ、自主退学すると思いますが。

次回はようやく虚さんとのデート回。特別編等を挟んでようやくです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話 少し積極的な彼女との初デート(前編)

E-5攻略記念に。

いよいよなデート回です。
思った以上に長くなったので、二つに分けます。後編は近い内に。


夏休みも残り僅かとなったある日、僕は朝早くから学園と本州を繋ぐモノレール駅の前にやって来ていた。

そう、今日は虚さんとのデートの日で今は待ち合わせ中なのだ。そんな僕の今日のファッションは下はジーンズ、上は白のTシャツの上に深めの青色のシャツを重ね着している。ついでにアクセサリーとして胸元に相棒たちの待機状態がある。実はこの服、ミッドから帰ってきて翠屋でバイトしていたら現れた忍さんに渡された物だった。その時「八雲君は恭也と同じでファッションには無頓着でしょ? すずかから聞いたから、これをデートに使いなさい」と言われた。ぶっちゃけ、私服はジャージとTシャツしかないから言い返せない。私服じゃなければIS学園の制服と、管理局の制服と、バニングス家で貰ったスーツと、更識家で貰った紋付き袴がある。……礼服の方が多いってどうなのさ。なかなか和洋の礼服持ってる人っていないと思うし。彼女のいる男子高校生としてもう少しファッションとか興味持つべきなのかねえ。

僕が速く出て来た理由は虚さん以外の五人に部屋を追い出されたから。その時に「虚ちゃんを着飾らさせるから、楽しみに待っててね」と刀奈さんが言っていた。なので、ゆっくり食堂で朝ご飯を食べて、その足で待ち合わせ場所にやって来たという訳だ。

 

「おっ、お待たせしました!」

「いや、それほど待っていた訳……で……は」

 

声がしたから振り向いたらそこには女神が居た。いや、虚さんなんだけどね。

 

「どうしました? 私、何か変ですか?」

「い、いや、全然! 虚さんの姿に見惚れてただけです!」

 

我に返った僕はそう言う。女性物の服などさっぱり分からないけど、夏らしさを演出しつつも虚さんの持っている清楚な雰囲気を最大限引き出すコーディネートだと思う。

 

「そ、そうですか。……良かった」

 

最後の方は小さい声だったけど、確かに「良かった」と虚さんは言った。最後まで色々迷ってたみたいだし、自分の事って客観的に見にくいからなあ。この前自信が無いって言っていたからそれもありそうだし。

 

 

 

今日はいよいよ八雲さんとのデートの日。私は少し遅れてやって来たのですが、八雲さんは気にしていないようです。私としては心苦しいのですが、せっかくこの後楽しい時間が待っているのですから、水を差すのもどうかと思います。なので、謝るのは帰ってからにしましょう。

私が遅れた理由なのですが、私の今日の服を決める際のいざこざが大きな理由です。

 

 

 

私がちょっと早めの朝食を摂って部屋に戻って来た頃、丁度入れ違いで八雲さんは食堂経由で出発しており、部屋の中は5人の姦しい声が響いてました。

まあ、女子は大なり小なり着飾らせる事が好きなのでこういう時は必然と着せ替え人形扱いです。しかし、今回は

 

「どうして皆さん選ぶ服がこんなんなんですか!」

 

と思わず叫んでしまう物ばかりでした。悪乗りしたのはお嬢様、本音、アリサさんで具体的には下は超ミニスカート、上は肩出しへそ出し当たり前のタンクトップと肌の露出の多い物ばかりでした。お嬢様が選んだものに至っては下はホットパンツに上はチューブトップと私を痴女にしたいのかと疑う物でした。というより、タンクトップはインナーとして分かりますけど、お嬢様のチューブトップはどこから用意したのでしょうか? 

 

「だって~虚ちゃんのそのエロい体を活かさないと~」

「確かに私はこの中で胸もお尻も一番大きいですけれど! ひゃっ⁉ な、何をしているんですか!」

 

突然後ろに回り込んで私の胸を鷲掴みにするお嬢様。思わず変な声を出してしまう。

 

「むむっ、虚ちゃんまた大きくなったわね?」

 

確かに八雲さんに告白した後また少し大きくなりましたけど! 人体の不思議なんですけど!

 

「そうじゃ無くて! 皆さんも笑ってないで止めてください!」

 

私がそう言うとようやく簪さんとすずかさんがお嬢様を止めてくれました。

 

「お姉ちゃんたちの気持ちも分からなくはないけど、流石に虚さんがかわいそうだよ。自分が虚さんの立場になって考えてみてよ。その格好でデートに行ける?」

 

皆を諭す簪さん。苦笑いのすずかさん。その言葉に首を横を振る3人。……なら着させようとしないでくださいよ。

簪さんは以前はスタイルにコンプレックスを持っていたでこういう時沈んでいらっしゃったのですが、この一月ちょっとで出る所は出るようになっています。私と同じなのでしょうか?

ちなみに、胸の大きさを並べてみると私>アリサさん>本音>お嬢様>すずかさん>簪さんとなります。簪さんはこの中では一番小さいかもしれませんがそれでも今は平均以上はあるので、この空間が少しおかしいのです。ここに関係してくる身長はアリサさん>私>すずかさん>お嬢様>簪さん>本音となります。と言ってもアリサさんからお嬢様までは2~3センチくらいの差でほとんど変わりませんが。

 

「簪ちゃん、虚さんにはやっぱり清楚系が似合うと思うんだけど」

「私もそう思う。だから、露出を抑え目に、夏っぽい青系や白で……」

 

と、こうして簪さんとすずかさんのお二人は時々私の意見を取り入れつつ、どんどん私のコーディネートを進めていきました。

 

 

こんな感じで今日の私の衣装が決まりました。

八雲さんが褒めてくれたのでお2人には感謝すると共に他の3人の衣装にNOと言えて本当に良かったと思います。

 

「えと、八雲さんもお似合いですよ。普段とは違う雰囲気で」

「確かに。基本的に制服かジャージですからね」

 

八雲さんは身長は平均位(といっても高校に入って数か月規則正しい生活をしていたので数センチ伸び、170を超えたそうです)です。体重は平均以上ですが、体脂肪率は一桁という事で分かりますけどもの凄く締まった体をしているのでどんな服でも着こなせそうなのですが、本人が無頓着なので部屋ではジャージです。まあ、それでもカッコいいんですけどね。

なので、八雲さんは部屋のとてもルーズな感じか制服などのきっちりした感じかのどちらかなので、今着ているカジュアルな感じの服は珍しいです。以前、臨海学校の買い物に行った時は学園の制服でしたし。

 

「そういえば八雲さん秋物の服ってあるんですか?」

「あー……無いですね」

 

なんとなくそんな気はしていました。なので今日は当初の計画通り行きましょう。

 

「じゃあ、今回はお買い物に行きましょう。私の秋冬物と八雲さんの秋冬物を買いに行きますよ」

「僕のもですか?」

「はい。もう一月は夏物で良いでしょうが、そこからは秋冬物に切り替わっていきます。その時期に私や皆さんとデートする時の服も必要でしょう?」

 

しかも、その一月も学園祭とキャノンボールファストと行事が立て続けに有るので、デートに行くのは難しいでしょう。なので、皆さんと遊びに行く頃には今の服では季節に合いませんし、肌寒いでしょうから、確実に必要になります。

 

「ああ、確かに」

「だから、今後の為に今日行きましょう。ショッピングは王道のプランだと思いますし」

「……色々すみません」

 

八雲さんの今までの事情を知っている私からしたらこれ位は気にする事ではないと思います。

 

「気にしないでください。これも楽しみですから」

「……分かりました。それじゃあ、行きましょうか」

 

気を取り直した八雲さんは動き出します。その左手で私の右手を持って。

 

「や、八雲さん⁉」

「虚さん、美人ですから。こうやって僕の物だって周りに見せないと不安なんですよ」

 

その気持ちもあるでしょうが、今の八雲さんの表情を見るに私の照れている所を見たいというのが大きいと思います。

私達が押し倒した日から八雲さんは良い意味で開き直ったみたいで、最近は不意にストレートな褒め言葉を言って私達の反応を楽しんでいます。ビックリするので止めてほしいと思う気持ちも多少あるのですが、それ以上にその時に見せる悪い笑顔にメロメロなのです。そう考えると私も楽しんでいますね。

 

「それは私も同じです。だから……」

 

私は思い切って八雲さんの腕に抱きつきました。顔は熱くなるし、心臓も凄くドキドキ言っていますけど、

 

「ちょっ、う、虚さん⁉」

 

それ以上に八雲さんは面白いように取り乱しています。スキンシップなどは日常茶飯事なのですが。

 

「どうしたんですか、八雲さん?」

 

なるべく平静に聞き返しますけど、それでも少し声が上擦った気がします。

 

「当たってますって!」

 

……これとは比べものにならない位激しい事をやったのにこの反応ですか。まあ、あれは私達が押し倒してその途中で八雲さんの変なスイッチを押した結果だったのですけど。

 

「ふふふ、当ててるんですよ八雲さん」

 

らしくないと思いますが、今日一日は目一杯デートを楽しみたいです。これもその一環です。少し恥ずかしいですけど。

 

「さいですか……」

 

諦めたらしい八雲さんはこのまま歩き出します。いよいよ私達の初デートの始まりです。

 

 

 

凄く積極的な虚さんにドギマギしつつもデートは始まった。……当ててるんですって言ってた虚さんは普段とのギャップもあっていつも以上に可愛かった。

ただ、今現在僕の左腕、具体的に言うと肘の辺りは非常に幸せな柔らかい感覚を味わっている。これで少しずつですが確実に理性が削られているんだよね。それに、ショッピングモールに向かうにつれ周りの目線、特に虚さんという特級の美人を連れている僕への嫉妬の目線が増えている。

……もうごちゃごちゃ考えるのは止めるか。今はデートを楽しもう。場所は臨海学校の買い物にも来たレゾナンス。まずは虚さんの買い物からだ。

 

「意外ですね」

「何がですか?」

 

僕が何が意外だったか分かっていない虚さんは聞き返した。

 

「なんていうか女性の買い物って凄く時間とお金が掛かる物だと思ってたんですよ」

「中学の頃の友人や学園の同級生なんかはそういう子も居ますよ。私は買いたい物をあらかじめ決めてますし、衝動で欲しくなるって事もあまりありませんから、買い物は速い方だと思います。お嬢様や簪さん、本音もそんな感じですよ。ただ、四人で行くとお嬢様と本音が簪さんの着せ替えを始めて時間が掛かりますけどね」

「想像できますね、それ」

 

試着のわんこそば状態の簪と次々衣装を持って来て一つ一つに反応する刀奈さんと本音、それを止めようとしている虚さんって感じかな? その着せ替えショーも見たい所だけど、今日は虚さんとのデートだから僕の心の中だけで思っておこう。

会話をしながらも虚さんは自分が買いに来たものをどんどん選んでいく。時々、色や柄の部分で僕の意見を聞いてくるけど、僕の意見なんて参考になるのかねえ?

支払いも僕が出そうとしたけど、「これは自分の買い物ですから」と言われてしまった。……空回りしてるな。

その次には僕の買い物だったんだけど……

 

「とりあえず、これとこれとこれと」

 

虚さんが次々選んでいく。

 

「あの、虚さん? こんなにも要らないと思うんですけど」

 

そんなに毎日出かける訳じゃないから1、2セット位用意しておけばいいと思うんだけどなあ。

 

「そうですか? 詰まる所ファッションは組み合わせですから種類や色が多い方が楽しめますし、勉強にもなりますよ」

 

これは……僕にも興味を持ってほしいって事かな? まあ、彼女達と出掛けた時綺麗に着飾った横に相応しいような格好で居たいと思うしなあ。

 

「頑張ってみます」

 

結局、僕は秋冬物を大量に買った。幸いお金はかなり持って来ていたから楽勝に足りたけど。

っていうか、今日の為にお金を降ろしに行ったら、僕が気付かない内に預金が一桁増えてた。これはホラーじゃなくて入金先は彼女達の家で連絡したら婚約祝いだそうだ。……使うのは自分の貯金だけにして、結婚式やら皆との旅行やら本格的に入用な時の為に残しておこう。




デート回前編いかがでしたでしょうか?

そしてここで判明した八雲の巨乳好き説。まあ、完全に逆説的な物なんですけど。

彼女陣の身長及びバストサイズは僕の独断と偏見で構成されています。

僕の妄想の産物を垂れ流しておこうと思います。基準が刀奈さんになってます。

アリサ T162 B93/W60/H85
すずか T160 B88/W55/H86
刀奈  T159 B89/W58/H88
本音  T154 B91/W59/H88
虚   T161 B95/W63/H90
簪   T156 B84/W54/H82

皆さんはどの子がお好みですか? ……実際こんなスリーサイズの子は居ないと思いますけどね。ちなみに数値の参考にしたのは九巻の本音のセリフと、とらは3のすずかの姉、忍のスリーサイズです。

次回は後編。お昼ご飯から終わりまでの予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話 少し積極的な彼女との初デート(後編)

E-6クリア出来ました記念です。

デート回だけで一万字近く使いました。頑張りました。


一通り買い物を終えた僕達は良い時間にもなったからお昼ご飯としておしゃれなイタリア料理店に入った。おしゃれだからなのかカップルもちらほら見えるけど女性客が多い。

頼んだものは虚さんがカルボナーラ、僕がジェノベーゼとペスカトーレの二皿を頼んだ。偶然だけど緑(ジェノベーゼ)、白(カルボナーラ)、赤(ペスカトーレ)でイタリアの国旗になってるな。

 

「うん、美味い」

「美味しいですね。……こうなると他のも試したくなります」

「じゃあ、とりあえずこの二つ試してみます?」

 

僕はジェノベーゼの方をフォークに巻きつけて目の前の虚さんの前に持っていく。

 

「はい、あーん」

「あ、あーん」

 

少し頬を赤くした虚さんが僕のフォークに巻きついたものを食べる。これは……アリだな!

 

「どうですか?」

「は、恥ずかしかったです……」

 

それは見たら分かる。素で間違えてる虚さんも可愛いなあ。

 

「あはは、そっちじゃなくて味の方ですよ」

「そ、そうでしたね! ジェノベーゼって初めて食べたんですけど、美味しいですね」

 

僕が間違えを指摘したらさっき以上に顔が赤くなった虚さん。

 

「日本じゃカルボナーラとかより知名度低い感じがしますからね。学園にもないですし」

 

IS学園のメニューは豊富でパスタもかなり種類があるけど、ジェノベーゼは無い。パスタソースのレトルトでもあんまり見た事無いし、どうしても知名度は有名どころよりも落ちる気がする。

 

「それじゃあ……」

 

同じ要領でペスカトーレも食べさせてあげる。

 

「トマトソースはお肉のイメージがありましたど、魚介系も合いますね。そう言えば八雲さんは料理色々作りますし、それこそ皆さんにパスタも振る舞いましたけど、どうして今日はその二品を?」

「両方自分で作るのは面倒ですからね。後、材料もそろえるの難しいですし」

 

まあ、僕の場合食堂に行って食材を分けてもらって、作ろうと思えば作れるけどね。

時間があれば作っても良いけど、学生の身。やりたい事はいっぱいある。料理をするのは好きだけど、それよりも皆と一緒に居たい方が楽しい。

 

「ジェノベーゼは……バジルや松の実がそこそこ大きいスーパーじゃないと買えなさそうですからね。ペスカトーレだと魚介の下準備が面倒ですよね」

「その通りです。まあ、皆に頼まれたら作りますけどね」

「じゃあ、今度頼むかもですね。……そ、それでですね」

 

そう言って虚さんはフォークにカルボナーラを巻きつけた物を僕の口の前に差し出してくる。これは……今になって虚さんの恥ずかしいって気持ちも分かる。よくやれたな、さっきの僕。

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

美味い。……のは分かるんだけど、それよりも恥ずかしさ、照れくささの方が勝って味が細かく分からない。

 

「どうでしたか?」

「美味しいですね。今度学園のも食べてみようかなって思います」

 

この後も料理を楽しんだんだけど、良く考えると虚さんと間接キスしてたと気付いて味がよく分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

ご飯を食べて少しした現在、私達はとあるお店に居ます。そして私の目の前には

 

「どうですかね、虚さん」

 

着流し姿の八雲さん。そう私達が居るのは和装の専門店です。流石は何でもあると言われるレゾナンスと言った所でしょうか。

元々八雲さんは和装に興味があったらしく、先代様が送られた紋付き袴を貰ってかなり喜んでいました。今回偶然とはいえ専門のお店を見つけたので立ち寄る事にしたのです。それで和装に袖を通した八雲さん。非常に似合っていて、現在進行形で見惚れています。今着ているのは群青色の物で、洋服のカジュアルな物だったさっきまでの服とまた違った印象を与えてくれます。言うなら、さっきまでの八雲さんは年相応の感じで今の服は大人っぽさが醸し出されている感じです。

 

「……ほさん! 虚さん! 聞いてます?」

「はっ、す、すみません! 見惚れてました!」

 

思わず本音が漏れてしまう。恥ずかしいです……。

 

「良かった~あまりに似合ってなくて答えに困ってたのかと思いましたよ」

 

どうも八雲さんは自分の見た目に自信がありません。自分の事を「普通」と言いますけど、十分カッコいい部類に入ると私は思います。なんだかんだ学園内での織斑君との人気の割合は6:4まで拮抗してきていると薫子さんが言ってましたし。ちなみにこの差は一年生の差と言っても良いでしょう。八雲さんは同じクラス以外の評判があまり良くない様なので。上級生はほぼ五分五分です。ちなみに八雲さん派の大半が私達が所構わずイチャイチャしていて、その時の優しく包み込んでくれる八雲さんの姿を見て、私達を見てあんな彼氏が欲しいという物らしいです。

 

「なら確かめてみますか?」

「えっ? どうやって?」

「それ、買いますよね?」

「気に入ったので、もちろん。他にもいくつか買おうと思ってます」

 

決める時は即断即決ですね。八雲さんらしいです。

私達の事で誰かを選べなかった事で八雲さんには優柔不断と言う印象を与えるかもしれませんが、むしろ八雲さんはこうと決めたらすぐ動くタイプです。

 

「では」

 

そう言って私はスマホのカメラを起動させて写真を撮り、それを添付して五人にメールを送った。文面は『感想は帰ったら直接言ってあげてください』として。

 

「着てる写真を皆さんに送りました。結果は帰りをお楽しみに」

「はあ……。で、どういう物が良いと思いますか?」

「今着てる感じのような、落ち着いた色合いのシンプルな物がお似合いだと思いますよ」

「ありがとうございます」

 

八雲さんは私の意見を参考に着流しや作務衣、甚平などを選んでいきます。どうやらこれから毎日和装の八雲さんが見れそうですね。楽しみです。

 

 

 

レゾナンスの買い物を終えた僕達は寮に帰る前にレゾナンス近くの公園に寄る事にした。これは虚さんの、と言うより黛先輩を始めとした新聞部の調査が目的だったりする。

 

「えーっとここにあるクレープの屋台でいつも売り切れのミックスベリーをカップルで食べるとそのカップルは幸せになれる。って話でしたっけ?」

「そうです。しかし、いつも売り切れの物をどうやって食べるんでしょうか?」

「確かに」

 

普通に考えていつも売り切れって事は売ってないって事なんじゃないかと思う。それか大穴でお店の裏メニュー的な感じか。

しかし、その屋台の傍に立てられたメニューの書かれた看板を見てもそれらしい文字は見当たらない。

ここで少し考えてみよう。事件の調査なども仕事の一部の管理局員の能力を使って。

まず、「いつも売り切れ」。これはメニューを見れば分かるけど、そもそも売っていないからミックスベリーという商品はここに無い事になる。

次に「カップルで食べると幸せになれる」。ただ食べるだけじゃなくてカップルで食べる事が大事らしい。という事は「カップルがしそうな事をすればそのカップルは幸せになれる」という事か? ……なんとなく、答えが見えた気がする。

 

「虚さん噂の真相が分かったんで、ちょっと待っててくれますか?」

「あ、はい」

 

虚さんにそう言って僕はクレープ屋の店員さん(見た感じ僕より一回り位年上。中々のイケメンで近くの女子中高生がほっとかなさそうだなと思った)に注文を伝える。話を聞いていたらしい店員さんは作りながら小声で

 

「噂に気付くとは中々だねえ、少年」

 

と話しかけてきた。

 

「ゆっくり考えたら誰でも気付きますよ、多分。でも、何でミックスベリーを置かないんですか?」

「最初はメニューに書き忘れてただけだったんだよ。だけど、いつの間にかそういう噂が広がったから、置かなくても良いかってなったんだ」

 

ミスが生んだ噂だったのか。しかし、上手く行ってるならそれでいいのかもね。

 

「しかし、君の顔何処かで見た事があるような……」

 

僕の事あまり大々的に報道されてないから大丈夫だと思ったけど、ピンとくる人は居るみたいだね。だけど、今後来るかもしれないしヒントだけでも言いますか。

 

「そうですね……半年くらい前の新聞を見れば分かると思いますよ」

「気が向いたら調べてみるよ。今後もご贔屓に」

 

そう言って店員さんはできたてのクレープを僕に渡す。お金は先払いだったから僕はお礼を言って虚さんの元に戻った。

 

「はい、虚さん。食べてください」

 

僕は右手に持っていたクレープを虚さんに渡す。虚さんはそれを食べて

 

「これは、ブルーベリーですね。甘味と酸味が良い感じです」

「で、次はこっちです。あーん」

 

お昼の時より周りの目が無いから、虚さんはすぐに僕が持っている方を食べる。

 

「そっちは苺ですか。これも美味しいですね」

「そうです。それで、これでミックスベリーの完成です」

「あっ、なるほど」

 

そう、答えは「ベリー系の物を二人で一つずつ頼んでお互い食べさせ合う」という事。つまり、イチャイチャして食べればハッピーだよねって事だ。

しかし、このクレープ美味いな。今度気が向いたら部屋で作ってみよう。

 

「八雲さんもこっち食べますか?」

「いただきます」

 

と食べようとしたんだけど、クレープを引っ込めて自分で食べてしまう虚さん。

定番の動きだなあ、と思っていると虚さんはいきなり僕にキスをした。そしてさっき食べたクレープを僕の口に押し込む。口の中にはクレープの味が広がっているはずなんだけど、よく分かんない。

 

「……どうですか?」

 

いつもと違ってかなり積極的な虚さんに驚かされつつも、こういう一面もあるんだと思って新しく知れて嬉しい気持ちで一杯になった。

 

「お、美味しかったです。多分、普通に食べるより何倍も。……試してみます?」

 

こう言ってみたものの多分僕の顔は今、ごまかしきれない位真っ赤だろう。それ位さっきの虚さんの言葉にドキドキしてる。

 

「えっと、八雲さんがよろしければ……お願いします」

 

虚さんの答えを聞いてから僕はクレープを食べてそのまま口づけをかわす。その口づけはクレープ、いやどんなに甘くて美味しいスイーツよりも甘いと思う。

あー……皆ともこうやってみたいなって思ってる僕は馬鹿だねえ。ベクトルが同じ方向向いてたらバカップル一直線だよ。まあ、悪くは無いけどね。

 

「どうでした?」

「美味しいですね。それと凄く甘く感じました。……また、お願いしますね?」

「機会が有れば。……さて、そろそろ帰りましょうかね」

「そう……ですね」

 

残念そうな虚さん。僕ももう少しデートして居たかったけど……門限破るのはちょっとね。反省文書くのも嫌だし、皆も待ってるから。

 

「大丈夫ですよ。これからいくらでも遊びに行けますし、ずっと一緒に居ますから」

 

もうデートが終わるのは少し寂しいけど、僕達はこれからずっと一緒に居れる。だから寂しく思うことも無い。

 

「ですね。じゃあ、帰りましょうか。でも、帰るまではデートですよ?」

「分かってますよ」

 

と、ここで僕は一つ考えてた事を言ってみた。

 

「それじゃ、帰ろうか、虚」

「そうね。帰りましょう、八雲さん」

 

この後、帰りのモノレールで虚さんに僕が呼び捨て+敬語抜きで呼んだ事について聞いてみると「学校はちょっと問題があるかもしれないですけど、私達だけの時はお願いします。すごく嬉しかったですから」と言われたのでこれから虚と呼ぶ事にした。それに合わせて刀奈さんも刀奈って呼んで敬語も抜く方が良いか聞いてみよう。

ちなみに、帰って早々、部屋に居た五人に「和装に着替えて!」と言われた。どうやら、虚の見立ては正しかったらしい。着心地も良いからこれからの部屋服はこれになりそうだ。

 




もしかしたら三十六、五話みたいな形で第三者から見たデートの様子を書くかもしれません。まだ未定ですけど。

次回は三十三話で書いた事が起こります。夏休みはまだ終わりません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 二人のデートの裏側で

お久しぶりです。今回は前二話でやったデート回の裏です。とある人たちがデートの覗き見をする漢字のお話です。


「さて、今日は何する?」

 

五人になった寮の自室で刀奈がそう言った。

今日は八雲と虚のデートの日。八雲を追い出し、虚の今日の服を皆(すずかと簪がメイン。私達は肌を出す事を前面に出し過ぎて却下された)で決めて送り出した。

今日の予定は全然決めていないから、さっきの刀奈の言葉が出て来たのだ。

 

「……のんびりすれば良いんじゃない? お姉ちゃん」

「なんだかんだ忙しかったしねえ」

「まあ、多分皆の本音としてはデートを見に行きたいだと思うんだけどね」

 

すずかの言葉に私を含めた四人は首を縦に振る。

興味本位も若干あるけれど、この後いつか必ず来る自分と八雲の二人っきりでのデートの勉強がしたいというのが大きな理由だと思う。

多分、八雲も虚も尾行しても怒らないとは思う。だけど、今回のデートは今年卒業する虚の高校最後の夏で最高の一日にするために八雲が考えた事だから出来るだけ邪魔をしたくない。八雲は目線に敏感そうだから、こっちが気を付けても気付かれそうだし。

 

「よし、準備かんりょ~!」

 

一人会話に加わらず何かを作業していた本音がそう言った。

 

「何をしてたの本音?」

「ちょっと面白い事~。行くよ、カーバンクル!」

『Yes,master』

 

すると、カーバンクルの待機状態が空間ディスプレイとなって映像が映し出される。

その映像はIS学園モノレール駅の前の上空からの物で中心には一人の男子、ってか八雲が居た。

 

「……本音、これまさか」

「かんちゃんが思っている通り、サーチャーで撮影中なんだ~。はっちーと叢雲の探査にかからないようにステルス性を強化してね~。残念だけど音声は拾えないけど~」

「グッジョブよ、本音ちゃん! 早速観ましょう!」

 

これは今日の予定は寮の部屋で二人のデートの見物で確定ね。

 

 

観察し出して少ししたら虚がやって来た。

八雲は着飾った虚に見惚れていた。今日の虚の服装は彼女の良さを最大限に引き出せるものだから、八雲が見惚れたのも分かる。凄い美人だもの。

 

「そう言えば」

「どうしたの、アリサちゃん?」

「いや、大した事じゃ無いんだけどね。付き合ってから私達って八雲の前でちゃんとしたおしゃれってしてないわよね?」

 

こう思ったのは虚の姿に見惚れている八雲を見て新鮮だったから。我が家に来た時、私は普段の私服だったし、皆もそんな感じだったのだと思う。高校生になってアイツの前で着飾ったのは臨海学校前の買い物の時位だった。

 

「確かに。改めて出かける機会が無かったからね」

「ずーっと一緒だから、部屋着か制服だもんね~」

「まあ、一段階飛ばしての同棲状態だからね」

 

というか、私達って普通は踏むべき段階をいくつも飛ばしてきているからねえ……。

 

「おっ、虚ちゃん腕に抱きついた。積極的~」

「八雲君も慌ててるね~」

「あれより激しい事やったってのに、何を恥ずかしがっているのかしら?」

「それはそれ、これはこれなんだよ~。でも、お姉ちゃん羨ましいな~」

 

それは同感。機会が有れば私もしようかしら?

そう思っていると、二人はモノレールに乗り込んだ。本格的にデートスタートね。

 

「この移動中の内にお菓子とか飲み物の用意しちゃおうよ」

「ナイスアイデアだよ、すずー。作り置きしてあるクッキーがあったからそれを食べよ~」

 

 

 

 

お菓子と飲み物をセットし終えると、二人も目的地らしいレゾナンスに到着していた。

 

「って事は買い物かな?」

「鉄板だね~」

「虚ちゃんの買い物もありそうだけど、八雲君の買い物がメインでしょうね」

「どういう事よ、刀奈?」

「だって、八雲君ってこれからの季節の私服って無いでしょ? なら、後々の事を考えての買い物じゃないかなって思ってね。そうじゃなくても、ここ数カ月で7~8センチは伸びてるから服は買わないといけないだろうし」

 

八雲にやって来た成長期は凄い物で入学した時は2、3センチしか変わらなかったのが今は10センチ近く違う。それが理由でISスーツや制服を新調する事になった。八雲本人は「170超えたから満足だよ」って言ってたけど。

 

「八雲って身長の割に体重重いのよね」

「それは筋肉質だからだよね?」

「それでこの前、ウチの会社の人にアイツの体脂肪率聞いてみたら10%前後だって」

「……だから、脱いだらあんなに凄いのね」

「はっちーの着ているISスーツが体のライン出にくい物だったから良かったけど、あれを見せられたら、競争率は上がっただろうね~」

 

本音の言う事も一理ある。八雲のスーツを作った人には感謝しかない。

ただ、女子としてむかつくのは八雲の場合、いくら食べても太らない事。男女差があるにしても八雲本人曰く「燃費が激悪なんだよね~」らしい。

ちなみに、すずかも八雲と同じ感じで本音と虚は胸に行くらしい。……羨ましい。

 

「そう言えば、アリサとすずかは買い物長い方なの?」

 

そう尋ねてきた簪。そう言えば簪とはどこかに出掛けるって機会無かったっけ。今度、女子会と称して八雲抜きで遊びに行こうかしら。

 

「短い方だと思うよ」

「私達はね。ただ、そういう時は私達二人と言うよりなのはとフェイトとアリシアの五人ってパターンで、その三人が私達よりは長いから、相対的に見てって感じだけど」

 

その三人も言うほどは長くないから私達の中でのショッピングは午前中に終わらせる物という認識になっている。

 

「八雲君、凄い量の買い物だよ。本格的にファッションの勉強もするのかな?」

「普通なら躊躇するでしょうけど、そこらのサラリーマンよりは稼いでるしねえ」

「買い物は一段落みたいだから、次はちょっと早いけど、お昼かな~?」

「もう11時過ぎてるから言うほど早いって感じでもないけどね。私達はどうする?」

「手早く作れて、何かしながらでも食べれる物……サンドイッチかな。朝のサラダの残りも使えるし」

「良いと思うよ。それなら皆で手分けして作っちゃおう!」

 

 

 

五人分のサンドイッチだけど、工程をそれぞれ分担すれば案外早く終わる。完成させて戻って来ると丁度二人も食べ始めていた。二人はイタリア料理のお店に入ったらしく、パスタを食べていた。……何故か二人なのに三皿あるけど。八雲の普段の食べる量を考えれば足りないのは想像できるから、あらかじめ二皿頼んだんだろう。

 

「おおっ、食べさせ合いしてるね~」

「二人ともカップルしてるわね~」

「……当たり前なんだけど、朝と夜、時々三食皆同じメニューだから、ああいう機会って無いんだよね」

 

まあ、態々やる必要もないし、恥ずかしさもあったのだと思う。……王道のシチュエーションではあるから憧れはあるんだけどね。虚はこのデートを楽しむために良い意味で吹っ切れてるみたいね。普段なら絶対にやらなさそうだもの。

 

 

お昼を食べ終わった後、二人はレゾナンスの専門店が立ち並ぶエリアに向かった。

 

「これ以上は不味いかな~」

「この先のエリアはちょっと天井が低いからばれる可能性が高くなるね。出てくるまで待ちかな」

 

何でもそろうレゾナンスの所以がこの豊富な専門店のエリア。ぎっしり並んだテナントと他の所よりも低い天井が特徴的で思っている以上に様々な物があるから冷やかしで歩くだけでかなり面白い。

 

「ん? メールだ。虚から?」

「私にも来てる。って言うより、皆に来てるわね。なんだろ?」

 

私と刀奈の言葉で全員が携帯をを取り出した。どうやら虚がメールを一斉送信したらしい。文面は『感想は帰ったら直接言ってあげてください』と簡素な物で写真が添付されていた。その写真には和装姿の八雲が。

 

「おおっ! 似合ってる!」

「確かに!」

「普段とも違った感じだけど、それが良いね!」

「そういや、先代様に袴を貰ってすっごくテンションあがってたね~」

 

その話は八雲がミッドに行ってる間に聞いたわね。まあ、叢雲が日本刀型だったり、和食や緑茶が好きだったりで日本文化好きなのは薄々感じていたけど、ここまで似合うなら……

 

「普段から着て貰いたいわね」

「リサリサ、グッドアイディア!」

「帰ってきたら頼んでみようよ!」

 

皆乗り気だし、これ位のお願いならきっと八雲も聞いてくれるだろう。……今年はもう無理だけど、来年は皆で浴衣で夏祭りとか行きたいわね。

 

 

 

八雲の和装写真付メールが来て少ししてから専門店のエリアから出てきて、レゾナンス内を少しぶらぶらした後、二人は近くの公園に来ていた。気が付いたら既に日は傾き始めている。

公園と言っても遊具の類は無く、綺麗に芝生が敷かれた所に遊歩道があって、日が高い頃なら家族連れでお弁当を食べて遊んだりしてそうな感じだ。

 

「もう夕方だね。これで終わりかな?」

「ちょっと公園を散歩して戻って来るって感じっぽいね」

「でも、買い物よりもこういう所で二人でお散歩したり、レジャーシート敷いて読書したりって言う方がお姉ちゃんとはっちーに似合ってる気がするよ~」

 

……言いたい事は分かる。そういう絵が簡単に想像できるし。だけど、落ち着き過ぎだと思う。高校生っぽくないわね。

 

「クレープ屋の屋台に行くみたいだね」

「そういや、レゾナンス近くの公園にあるクレープ屋の屋台でいつも品切れのミックスベリーを食べたカップルは幸せになるって薫子ちゃんが言ってた様な……」

「なにそれ? 普通にいつも品切れなら無いんじゃないの」

「……二人でベリー系を食べてイチャイチャしろって事なんじゃない」

「「「「あーなるほど」」」」

 

誰が言い出したか分からないけど、よくそんなこと考えるわよね。

 

「確か虚ちゃんって薫子ちゃんにも相談してたよね?」

「じゃあ、お姉ちゃんも知ってるかもしれないんだ~」

 

……こっちはクレープ食べてないけど甘ったるくなりそうね。

そう考えていると、案の定八雲は虚にクレープを食べさせていた。ここまでは予想できた。

でも、この後虚が予想の上を行く行動を取った。自分の持っていたクレープを一口食べるとそれを八雲に口移しで食べさせたのだ。今日の積極さ+周りに人がいないのもあるのだろう。

お返しに八雲も彼女に同じ事をしている。……ちょっと羨ましいとか、私もやってもらいたいとか思っている私も同じ穴のムジナなのかしらね。

クレープを食べ終わった二人は今日一日で見慣れた光景になった腕を組んで帰路についた。

 

「飲み物持ってこようか~?」

 

本音がそう言うと

 

「「「「コーヒーお願い。ブラックで」」」」

 

と私達四人は答えた。

 

「分かった~。コーヒーブラックで5つだね~」

 

甘ったるさを誤魔化すのはそれしかないわよね。普段、ブラックを飲まない刀奈や本音までそうなんだから。




デートを遠くから覗く他の五人の回をお送りしました。

ちなみに八雲は気付いていません。が、叢雲はサーチャーの存在に気付いていました。言わなかったのは、別に害が無いと判断したからと主のデートを邪魔したくなかったからです。

次回は前回予告した事をやるつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八話 パパラッチ襲来!

誰が来るんでしょうねえ……(棒)


IS学園の夏休みも後三日。今日は何もせずのんびりしようと決めている。朝の内にパパッと二学期の予習を済ませて今はベットの上でゴロゴロしている。反省文? そんなものはデートの前に終わらせたに決まってるじゃん。ちなみに僕の左腕は本音が、右腕はすずかが腕枕にしてる。結構腕に筋肉ついているから硬いと思うんだけどねえ。皆こうやってしたがるんだけど、皆がたまにやってくれる膝枕とは違って寝難いと思う。ちなみに他の皆はと言うと虚はこの前の一件のISの整備の手伝いに、アリサ、刀奈、簪は三人でISの訓練に行った。

そんな事を考えていると部屋のドアがノックされた。

 

「んもー、せっかくはっちーとのラブラブタイムだったのに~」

「仕方ないよ、本音ちゃん。お客さんは私達が何してるか知らないんだから」

 

まあ、すずかの言う通りなんだけど、本音の言いたい事も分かる。僕だってノックした人は無粋だなと思ってるから。

 

「しかし、誰だろうな? 二人は心当たりある?」

「私は無いよ」

「そーいえば、この前のかんちゃんの専用機テストの時にかおるん先輩が来るって言ってた気がする~」

 

なるほど、黛先輩ね。って事は僕がIS学園に戻って来た時に言ってた取材って事だな。

 

「ですが、皆さん。部屋の前には四人の反応があります」

 

そう言うのはこの部屋の防犯システムさん事、僕の相棒、叢雲。黛先輩は確定として後のメンバーは誰なんだ?

 

「あー、私はなんとなく察しが付いたよ~」

「私も。それじゃ、私達が出よっか」

「そだね~」

 

そう言って二人は起き上がって入口の扉の方に向かった。

ちょっとしてから、

 

「おっ邪魔しまーす!」

 

と言って黛先輩は突入してきた。その後にすずかと本音、更にその後ろに凰さんとデュノアさんとボーデヴィッヒさんがやって来た。……なんで?

 

「はっちー、お茶とお菓子の用意をお願ーい」

「はいよ」

 

本音の言うお菓子と言うのは、僕がお昼を食べた後に作ったオレンジタルト。……なんか分かんないけど、横で食べてたアリサの顔を見てたら思いついたから、食堂の人に材料を譲ってもらって作ってみた。ちなみに二つ作って一つは食堂の皆さんにおすそ分けをした。

お茶は、虚セレクトの紅茶。淹れ方も虚と桃子さんに教えてもらったから、それなりに自信がある。個人的には紅茶よりはコーヒーや緑茶の方が好きだけど、皆でお菓子を食べる時に紅茶も飲むようになっていった。これが簪の言ってた『私達色に染める』って事なのかも。

 

「たっだいまー!」

 

刀奈の声が聞こえたって事は三人帰って来たって事か。

 

「あら、お客さんが沢山いらっしゃいますね」

 

虚も一緒に帰って来たのね。て事は僕等7人分+お客さん4人で11人分か。12等分で一切れ余るなあ。どうするかは後で考えるかあ。

 

「八雲さん、お手伝いに着ました」

「ありがとうな、虚。それじゃあ、皆の分の紅茶を頼むよ」

「お任せください」

 

そう言って虚は流れるような動きで紅茶を用意していく。見慣れた物のはずなんだけど、こういう所作一つ一つが綺麗なんだよなあ。

 

「八雲さん、今日のお菓子はオレンジのタルトですか?」

「うん。自分でもなんで思いついたかよく分かんないんだけど、アリサを見てたら思いついたんだ。タルトの作り方とかは翠屋で教えてもらってたから、中のクリームとかをアレンジして作ってみたんだよ」

「分からなくもない気がします。なんとなくですけど、アリサさんはさっぱりした柑橘系のイメージですね」

 

そういうイメージから来たのかな? 

虚と話しながらも僕達は準備を済ませ、紅茶とタルトを皆の所に持っていく。元々の住人が多いから食器類やお盆なんかも豊富。普通の部屋ならてんやわんやになってるだろうな。

タルトは虚に任せて紅茶は僕が運ぶ。

 

「お茶とお菓子持って来たよ」

「おおー待ってました!」

 

そう言いながら本音は普段からは想像できない素早い動きで並べていく。こういう時と整備の時に見せるので見慣れた僕達や簪の専用機のテストの時に見せたであろう黛先輩は驚かないけど、普段を良く見ている、凰さん達三人はとても驚いている。

 

「準備かんりょー! いっただっきまーす」

 

準備をし終わって早速食べ出す本音。それに釣られるように他の皆も食べ始める。僕も食べてみるか。……うん、中々の出来じゃないかな。今度、翠屋で作ってみて桃子さんに判定してもらおう。

 

「うん、美味しいね! たっちゃんが旦那自慢をしたくなるのも分かるよ」

 

そんな感想を言う黛先輩。……ちょっと気になる事を言われた気がする。

 

「薫子先輩、なんですかその旦那自慢って」

 

僕と同じところが気になったらしい簪が黛先輩に尋ねる。

 

「別名、飯テロってウチのクラスの皆が呼んでいる、たっちゃんが霧島君や本音ちゃん、虚先輩の作った物の感想をいう事だよ」

 

この関係になってから朝と夜は基本的にここで作って食べている。お昼はお弁当の時もあるし、食堂で食べる時もあるって感じ。

 

「まあ、分からなくはないわね」

「三人の料理美味しいもんね」

「私達も手伝うけど、手際とかが違う」

 

うーん、皆手際も良いし、料理も上手なんだけどなあ。正直、僕が料理が上手い最大の理由って、一人の時間が多すぎた事が理由なんだよね。その時間を使って色々作ってたらレパートリーが増えて、料理の技術も上がってっただけだし。

 

「霧島って料理できるの?」

「まあ、人並みには」

「人並みの人がカレールーを一からは作ったり、昆布や鰹の出汁を一からはとらないよ~」

「それに、思いつきでこんなに美味しいタルトを作れません」

 

ある程度の土台があって、それを少しアレンジしているレベルだから、そこまでじゃないと思うんだけどなあ。

 

「……って、ちょっと待って! このタルト霧島君が作ったの⁉」

 

驚きの声を上げたのはデュノアさん。黛先輩と凰さんは目を丸くしている。

 

「そうだよ。オレンジは初めて使ったけど、僕的には上手く行ったと思うよ」

 

僕の言葉を聞いてへこむ、黛先輩と凰さんとデュノアさん。……なんで?

 

「なんで、女子も裸足で逃げ出すぐらい女子力が高いのよ~!」

 

そう叫ぶ凰さん。へこんでいた二人も頷いているので同じ理由らしい。まあ、そもそも僕には女子力なるものの定義がさっぱり分かってないんだけどね。

 

「りんりん、こんな事でへこんでいたら駄目だよ~」

「そうそう、コイツはそこいらのお母さんより家事が出来るから」

「……世間一般に女子力とされる事は大概できる」

「ほうほう、それはどれくらいだい?」

 

興味津々に聞く黛先輩。

 

「そうねえ……まず料理が凄く上手ね。多分、今ここに居る子達の国の料理は余裕よ」

「お菓子作りも得意ですね。和洋問わず」

「綺麗好きで掃除も良くしてるわね」

「手先が器用だから、裁縫なんかも楽勝だよ」

「最近、編み物してる」

「それでもって、それの一つ一つの手際が抜群なんだよ~」

「おおう……最初の三つまでは予想通りだったけど、後の二つは予想外だあ。なんで、裁縫に編み物?」

「裁縫は必要に駆られて、編み物は節約です」

 

裁縫をしてみた切っ掛けは仕事中にワイシャツの腕の所を引っかけて破った時の事だった。暑い時期ならともかく、寒い時期ならその上に何かを着ている事ばかりだから直せばいいと思ってしたのが切っ掛けだった。

編み物の方はマフラーやらセーターが案外するのでそれなら自分で作るかと思ったから。……それと、クリスマスプレゼントや冬生まれが多いから誕生日プレゼントも作れるなあっていうのもある。

 

「ふむふむ、『自分好みのコスプレを着せるため』と……」

「ちょっと待て!」

 

なんてねつ造しやがるんだ、この人は!

 

「コスプレ衣装買うのにお金がかかるからじゃないの?」

「違います! 内側に着る物が破れた時に直すためです!」

「編み物はボディーラインの出るセーターを贈って冬でも皆のナイスバディを拝むためじゃないの?」

「そんな下心満載じゃありません! 買うより作る方が安いと思ったからです! プレゼントを作って贈るかもしれませんけど、そんな下心ではなくて真心込めてです!」

「ふむ、良い事聞けたねえ」

 

……嵌められた。コミュニケーションを一時期断ってた僕に黛先輩の相手は無理だ。ここは……逃げる!

 

「とりあえず、夕飯作ってきます!」

 

 

 

夕飯を作る大義名分を振りかざし八雲君は逃げ出した。まあ、仕方ないわね。あんまり聞かれたくない事も聞かれそうだったし。

 

「逃がしたか~。霧島君のパーソナルの部分も大事なんだけど、IS関係の事も聞きたかったんだよね」

「そりゃまたどうして?」

「だってさたっちゃん、いくら訓練機と専用機だったと言っても、20対2だよ? ありえないって」

 

まあ、普通ならそうなるわよね。だけど、

 

「しかし、霧島は全然本気ではないと思う」

 

それに気付いていたのはボーデヴィッヒちゃん。まあ、これは少し考えれば分かる事なんだけどね。

 

「そうなの?」

「良く考えてみてください、薫子さん。日本の男子が普通銃器を触る機会ってありますか?」

「それはないと思います……あっ、ひょっとして霧島君は接近戦の方が得意?」

「その通りです」

 

まあ、八雲君は普通の男子かどうかはともかく、これは八雲君だけでなく、ISに乗る前から武術を習っていた候補生なんかによく見られる傾向だったりする。私も家で棒術を習っていたのが今のIS戦の接近戦の大元だし。まあ、八雲君の場合は若干事情が違うけど、少なくともIS戦では本領を発揮できるのは接近戦だ。

実際模擬戦で私は八雲君と接近戦をやったけど、SEを半分も削れなかった。ある程度魔導師のスキルを身に着けた今ならもうちょっと良い勝負できると思うけど、それでも勝てない。

しかも、八雲君の本来の実力と言うのは剣術と魔法を全て合わせた距離、相手を選ばない戦い方。IS戦では決して本気を出す事が出来ない。

 

「という事は、得意じゃない戦い方で多数の訓練機を相手取ったり、三機の専用機を相手取ったって事?」

「そういう事ね」

「開発元のご令嬢で同僚のアリサちゃんと同じくテストパイロットのすずかちゃんはどう?」

「基本的にアイツの本質はオールラウンダーだから、得意じゃない戦い方ってのは正確じゃないと思うわ」

「だね。だから正しいのは『どんな戦い方も出来るけど、一番得意なのは接近戦』ですかね」

 

八雲君の強みがどんな戦い方も出来る事。普通じゃ考えられない人生を送って来たからこその手札の多さ、その一つ一つが武器になっている。

 

「ちょっと、夕食の材料、食堂貰ってきますね~。あっ、皆さんも食べてきます?」

「食べたい!」

 

即決の薫子ちゃん。他の三人も首を縦に振っている。今日はいつにもまして賑やかになりそうね。

 

「了解です」

 

そう言って入口のドアに向かう八雲君。

 

「そだ、八雲君、強さの秘密は?」

 

ドアを開けようとした八雲君を薫子ちゃんの質問が止めた。

 

「そうですね……今まで普通じゃ考えられない経験をして来たとか、色々戦い方を知っているとか、理由はいくつかありますけど、そんな事よりも、僕を大切に想ってくれる人達を護りたいって気持ちですかね」

「おお、言うねー。でも一人に選ばないの?」

「選ぶんじゃなくてもう選んだんですよ。だから僕は自分で決めた選択通り生きていくだけです。それじゃ」

 

そう言い残して出ていく八雲君。言ってくれるのは嬉しいけどさ……時間と場所はわきまえてよ! お客さんのいる前であそこまで言わなくても良いじゃない!

 

「はいはい、ご馳走様。八雲君がどんだけ皆を大切にしてるかと、皆が八雲君の事がどんだけ大好きなのかは分かったから。んじゃ、次は織斑君が好きな三人がここに居るリア充共に聞きたい事聞いちゃえ! その為に来たんだから!」

 

薫子ちゃんに煽られて顔を真っ赤にして俯く三人。ここからは三人の質問に私達がどんどん答えていく時間が続いた。凄く話に熱中していたから気付かなかったけどいつの間にか八雲君が帰ってきて夕食を完成させていた。今日のメニューは八雲君の得意なマーボーカレー。私達はいつも通り美味しく食べたんだけど、始めて食べた四人の内、ラウラちゃん以外は撃沈していた。

まあ、これを食べたら自信失くすわよねえ。

 




という訳で、小さな伏線を回収しつつ、テイルズ1の人気キャラのセリフを言わせる回になりました。
「(誰かを)選ぶんじゃなくて、(皆を愛する事を)選んだんですよ」ハーレムルートに突入させた時にいつか言わせたいと思ってました。


次回で夏休み回最後になると思います。……夏休み長かったなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 IFルートでStrikerSをやってみた その2

以前書いたものの続きになります。本編を楽しみにしていただいた方々、予定を変更して
すみません。


「待っていたよ、『次元世界最強の魔導師』霧島八雲君」

「出向いてやったぜ『次元世界最悪の犯罪者』ジェイル・スカリエッティ」

 

一連のレリック事件がその主犯の判明と共に『ジェイル・スカリエッティ事件』と呼称され、地上本部及び六課の隊舎が襲撃されてから一週間、スカリエッティは古代ベルカ時代のロストロギア『聖王のゆりかご』起動させ、時空管理局の崩壊を狙った。

僕達六課はクラナガン市街地の防衛、ゆりかご内から保護していた女の子、ヴィヴィオの救出、スカリエッティの逮捕の三方面作戦を強いられている。僕が担当するのはスカリエッティの逮捕で、聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラさんと管理局査察官のヴェロッサ・アコーズさんが割り出したスカリエッティのアジトに単身乗り込んでいる。

 

「アンタには聞きたい事があったんだ。4年前の地球で起こした管理外世界でのロストロギアの違法使用、あれは狙って起こしたんだろ?」

「ほう、どうしてそう思うのかね?」

「簡単だよ。あの事件にはジュエルシードが使われていた。あれは全部管理局で厳重に保管されてたはずだ。それが使われてたって事は管理局内、しかもそれがもみ消せるほど上の方に協力者がいるって考えるのが普通だ。んで、そんなレベルなら僕の一挙手一投足を調べるのだって簡単だろ?」

 

スカリエッティの言った『次元世界最強の魔導師』と言うのは僕がIS学園に入る前から言われていた事だ。ここまで盛大に事件を起こして、成功させようと思うなら、僕は警戒の対象になっていてもおかしくない。

 

「今さら隠す必要もないから答えよう。正解だよ。この計画の成功の為に君は一番の障害と言っても構わない。向こうで始末できれば最上、仕事できない程の大怪我があればベターといった所だ。注意をそちらに向けるのはついでだよ。そんな事する必要もないさ」

「アンタにそこまで評価されても嬉しくないねえ。それに多分、それは失策だったと思うよ」

「ほう?」

 

興味深そうに目を細めるスカリエッティ。まあ、もののついでだ。

 

「あの頃の僕は死にたがりだったからねえ。ほっといても死んでた可能性が高いよ。そうでなくても再起不能はあったね。だけど、あの事件で僕は僕に戻れたから。その時点でアンタに勝ち目は無いよ」

「唯一の失策という訳か。いやはや人の感情と言うのは私の頭脳をもってしても理解できない」

「考えるな感じろって事さね。まあ、アンタのお蔭で僕は色々変われたからその点だけは感謝してるよ。じゃあ、捕まってもらおうか」

「いや、悪人らしく最後まで抵抗させてもらおう」

 

 

 

スカリエッティ及びその周りにいた戦闘機人達を捕まえた僕は現在の六課の本部となっているアースラに戻り、少し休憩しようと思ったら、アースラの指揮を任された。

ゆりかご周辺の戦いはクロノの陣頭指揮と武装局員の奮闘で優勢、ゆりかご内部もなのはとフェイトが動力炉を落とし、ヴィヴィオの救出中、市街地戦もスカリエッティ一味を逮捕し後のガジェットの掃討戦を地上部隊に任して六課メンバーはアースラに戻って来た。

 

『八雲君、ヴィヴィオの救出完了したよ! 今か……』

 

突然、通信が切れた。その事で慌てるクルー達。しかし、経験豊富なこの人だけは違った。

 

「ゆりかごを中心にAMF濃度上昇、同時に電波妨害も確認! これが原因みたいだね」

 

すぐさま報告をくれるエイミィさん。

 

「なるほど……それなら」

「疲れているだろうがスバルに救助の指示を」

 

艦橋に入ってきてすぐさま指示を飛ばすクロノ。まあ、僕も同じ判断だった。高濃度のAMF内でも戦闘機人のスバルなら戦力を落とさず救出できる。

 

『クロノ、聞こえるか? 意見具申だ』

「手早く済ませてくれ」

『ヘリの中にバイクがあるから、ティアナも連れて行く。後、脱出口の確保の為に俺も出る』

「了解した。……頼んだぞ、大和」

『はいよ』

 

打てる手は打った。後は無事を祈るだけ。僕は借りていた艦長席をクロノに渡し、壁にもたれかかる。

 

 

 

十分後、全員の脱出が完了した報告を受け、大歓声の艦橋内。クロノでさえ小さくガッツポーズしている。

しかし、

 

『クロノ、聞こえる!』

 

リンディさんの慌てた声の通信でそれは破られた。

 

「どうしたんですか?」

『次元航行部隊の到着がゆりかごの衛星軌道到達に間に合わないわ』

「なっ⁉」

「って事は、このままじゃ……」

『ええ、ゆりかごの伝承通りだと次元跳躍攻撃も可能な不沈艦が現れる。そのなるとこっちは手を出せない』

「しかも、ヴィヴィオがいない今、どうなるか予想もつかないわけですし……」

 

……時間も無いし、やれるだけやるか。

僕は静かに艦橋を後にした。

 

 

 

「か、艦長!」

「どうした!」

「ゆりかごの前に霧島二佐が居ます!」

「何だと!」

 

 

 

『おい、八雲! 何をする気だ!』

 

らしくない位語気が荒いクロノ。

 

「何って……アレを落とすのさ」

『無茶は止めろ!』

「無茶って誰が決めたのさ? それに手を打てるのは今だけだよ。大丈夫、全部ちゃんと終わらせてくるから。これが管理局員、霧島八雲の最後の大舞台さね」

『……死ぬなよ』

「もちろん。クロノとエイミィさん見てて思ったもん。僕も子供が欲しいなってさ」

 

IS学園卒業の時皆とした『必ず帰ってくる』って約束も、四年前にはやてとした『幸せになる』っていうのも破りたくないからね。

 

『そうか……。僕からの命令は一つ。ゆりかごを落として、帰ってこい』

「了解!」

 

クロノとの通信を終えて僕は改めてゆりかごに目をやる。

かつて長い長い戦乱の時代であり、僕の大切な仲間たちが生まれた時代である古代ベルカ諸王時代。その戦乱を終焉に導いた戦船『ゆりかご』。

確かに考古学的とか聖王教会にとっては価値のあるものかもしれない。技術的にもそうだろう。だけど、それが動いて今を生きる人たちに害を為すなら僕はそれを壊して見せる。

今と言う時間はその時間を生きる人の為にあるのであって、古代の遺物がそれを壊していいわけがない。

僕は大きく深呼吸をして、この空域の残留魔力を僕の体に、相棒たちに集めていく。

ミッドの普通の時の空間の魔力の何十倍にも及ぶそれはこの場で戦っていた管理局員の皆さん一人一人の想い。この星に住む、その人達の大切な家族、友人、恋人達を守りたいっていう想い。それを集める。……体は悲鳴を上げているけど、これが終わればゆっくり休めるから無視だ。

 

「Mode Release Over Limit Maximum」

 

これは僕が編み出した僕達のとっておき。一時的に相棒たちを一本の剣『雪雲』。

 

「この星に住む人達の未来の為に過去の遺物はご退場願おうか! 天翔蒼破斬!」

 

雪雲に魔力を集束させた巨大な一撃を一気に振り下ろす。しかし、ゆりかごがまだ無敵の防御力を持っていないと言えど硬い事には変わりない。だけど、

 

「これ位で、この一撃を! 人々の想いを! 防げるかよっ!」

 

僕は体全身を使い、落下する速度も使い、一気に振り抜いた。

その目でゆりかごが真っ二つになって、落ちていく事を確認し、僕はデバイスを仕舞った。

 

「ふう、終わった……ね」

 

あっ、ヤバい。飛行魔法を使う魔力、残って無いや。自然落下していく中、再び叢雲を呼び出し、カートリッジを使おうとした時に、

 

「ったく、後先考えろよな」

 

大和に片手でキャッチされた。

 

「失礼な。ちゃんとカートリッジでフローターフィールド発生させて着地しようと考えてたよ」

「余計な心配って事かよ」

「ま、ありがとね」

「どういたしまして。んじゃ、アースラに戻りますか」

 

この後、アースラに着いた僕は疲労困憊でその場で倒れた。意識はあるんだけど、魔力と体力の限界だった。ああ……冷たい床が気持ちいい。




という訳で最終決戦編をお送りいたしました。

とりあえずここでやりたかったのは、

八雲VSスカリエッティ

八雲VSゆりかご

叢雲とスノーレインを一つに

でした。


……この決着方法はネタを考えてた時に思いついた『はやてが死んだ状態でJS事件を迎え、最期は人々の想いを乗せて命を燃やし尽くす』という時に閃いたものです。あまり悲しい終わり方が好きではないので書こうとは思わなかったのですが、この決着は使いたいなと思い、今回使いました。
なので、原作の動力炉とヴィヴィオ救出の同時進行ではなく、両方を突入の二人でこなすという形にしました。メンバーも違いますし。
ちなみに、元となったネタの派生で

「落下していく八雲がゼロの使い魔の世界に召喚される」
「ミッドチルダ、次元世界を救った事で英霊となった八雲が第五次聖杯戦争に召喚される」

といった物も思いつきました。まあ、書きませんけどね。
この場合のヒロインは

ゼロ魔 ルイズ
FATE 凛

となります。

次回こそは本編をお送りします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九話 愛の響

お久しぶりです。ようやく夏休み編の最終話です。


さて、いよいよ夏休みも最終日という事で僕は恋人達と総勢七人で出掛けている。と言ってもデートなんていう色っぽい物じゃない。やって来たのはバニングス社直轄の研究所の地下試験エリア。ここでやる事は……

 

「1対6の魔法での模擬戦ねえ。なんでまた?」

「腕試しよ、腕試し」

「……どこまで出来るかやってみたい」

「って、この姉妹が凄いやる気だったから、無理言って押さえてもらったのよ」

 

まあ、国家代表の刀奈と姉を目指す簪の腕を上げたい気持ちは理解できる。

 

「じゃあ、別に二人だけで良かったんじゃない?」

「魔法は私達が望んだものだからね。現状どこまで出来るかを試したいんだよ」

「なるほどねえ……。了解。それじゃあ、全力で行かせてもらうよ」

 

僕としては愛する人達と戦うのは嫌なんだけど、彼女達の意見も尊重したい。色々考えて非殺傷設定だから、全力で戦って終わってから全力で皆を治せばいいかと自己完結した。

 

 

 

私達は今八雲に対している訳だけど、私達自身八雲の魔法戦の実力はなのはとフェイト、大和から聞いた事でしか知らない。八雲も私達の魔法の全容を知らないから情報量的には互角だけど、超一流の魔導師三人をして「魔法戦全般に置いて霧島八雲は次元世界最強」と言わせるほどだから、圧倒的に不利な事だけは間違いない。

しかも、私達六人だとバランスが良いとは言い辛い。前衛が刀奈と私で、私は前衛と中衛をこなせる機動型だから、中後衛の多いこのメンバーの前衛に求められる『後ろに通さない』という仕事を務めるのは少し難しいと思う。幸い相手は一人だからまだ何とかなりそうだけど。

 

「さて……戦闘中の指示は全部簪ちゃんに任せるわ」

「そうだね。それが良いと思うよ」

「頼んだわよ、簪」

 

私を含む、前中衛組がそう言う。

 

「えッ? わ、私⁉」

 

指名を受けた簪は驚いている様子。だけど、簪以外の皆からしたら納得の人選なのだ。

まず、基本的に戦闘経験の浅い、私、すずか、本音、虚の四人は論外で刀奈と簪の二人になるんだけど、ポジション的に八雲と直接対峙しないといけない刀奈にそんな負担を掛ける事は出来ない。それに刀奈自身が「簪ちゃんは自己評価が低いだけ。ポテンシャル的には私に匹敵するわよ。戦略眼や咄嗟の判断力は上かもね。最近は皆のお蔭で自信も付いてきたから、近い将来国家代表になるわよ、絶対」とシスコンを差し引くとしてもべた褒めだったし。

 

「だって~、のはちゃん達言ってたよ? CGは司令塔ポジションだって」

「それに一番マルチタスクを使いこなせるのは簪さんですから」

 

後衛二人が追撃を掛ける。ちなみに本音の言ってる『のはちゃん』はなのはの事。フェイトは『ふーちゃん』、アリシアは『あーちゃん』と呼んでいる。……会ってないユーノや大和を何て呼ぶか少し気になるわねえ。

 

「……分かった、やってみる。それで作戦なんだけど……」

 

ここから簡単に作戦の根幹を打ち合わせをしていくけど……刀奈の言ってた戦略眼良さってのがよく分かるわ。皆の魔法の特徴を捉えつつ、長所を生かせる物だと思った。

これで、八雲に一泡吹かせてやるわ!

 

 

 

「僕は準備万端だけど、そっちは?」

「いつでも良いよ」

 

お姉ちゃんが代表して答えた。

 

「了解。叢雲、合図をお願い」

 

八雲君がそう言うと、私達と八雲君の間に大きく『READY』の文字。数秒後、『GO!』に表記が変わる。それと共に、

 

「「「はああああ!!!」」」

 

正面でぶつかり合う、八雲君とお姉ちゃんとアリサ。

お姉ちゃんがランス、アリサが連結刃刀、八雲君が二刀流。

国家代表であり、生身でもかなり強いお姉ちゃんの槍捌きの凄さは私が良く知っている。そして経験が浅いとは思えないほど、アリサの剣筋も鋭い。しかし、その二人の攻撃を凌ぎ、反撃し、押している八雲君。多分、二人は『次元世界最強』身に染みて感じているだろう。

これは当たり前の事なんだけど、八雲君はIS戦で本気を出せない。『出さない』のではなく、『出せない』。八雲君の本気は膨大な経験値、豊富な魔法、自身の磨き上げた剣技、これらを組み合わせた物だと思う。IS戦ではその前提の一つ、豊富な魔法が使えない。それっぽい事が出来ても、それは本気じゃない。まあ、今の八雲君はお姉ちゃん以外には+剣技も封印していて圧勝できるんだけど。……二学期からがっつり八雲君とお姉ちゃんに訓練してもらおう。

 

「すずか、行くよ! アクセルシューター」

「うん! フリーズバレット」

「「シュート!」」

 

青みがかった白色の誘導弾と深い青色の直射弾の攻撃が八雲君を襲う。

八雲君は咄嗟にそれらを防ぐんだけど、シールドはあっさり壊される。基本的に防御魔法は使用した魔力に比例して硬くなる。八雲君の場合魔力量が桁違いに多いから、彼の中ではそこまで使っていなくても結構硬い。本来なら私達のシューター数発で壊れるものじゃない。なら何故壊れたのかと言うと、

 

「くそっ、すずかの方、氷結かよ⁉」

 

八雲君の吐き捨てた通り、すずかには魔力変換資質『氷結』を持っている。魔力変換資質って言うのは術者が使った魔法に属性を付与する能力で氷結以外に、アリサの持つ『炎熱』、フェイトの持つ『電気』の三種類がある。炎熱と電撃は割といるらしいけど、氷結はかなりレアらしい。

さっきのは私の誘導弾で八雲君の回避エリアを限定的にしつつ氷結で八雲君のシールドを凍らせて脆くしてから私のシューターで砕くという方法だ。私のすずかのコンビVSなのはとの訓練の時、強固ななのはの防御を打ち破るために即興でしたのを今回も使った。これで、八雲君はすずかの射撃にも気を取らないといけない。だから、多分……

 

「こうなったら!」

 

八雲君は今までの防御を重視した物ではなく、機動力を生かした回避型にシフト。お姉ちゃんとアリサに抑えられてシューターに狙い撃たれるのを嫌がったんだろう。ここまでは予想通り。

最低限の防御と回避でお姉ちゃんとアリサ、さらには中衛に居る私やすずかにまで攻撃してくる。後衛にまで行かないのは多分、囲まれる状況、特に、私とすずかの射撃に背中から撃たれる状況を作りたくないからだと思う。

こっちに大きなダメージは無いけど、さっき以上にダメージが与えられない。今の戦闘スタイルはIS戦の時に近いからある意味見慣れた物。だから、これも想像は出来た。

シューターで弾幕を張りながら次の作戦に動くタイミングを計っていると、ふと、体が軽くなる。

 

『かんちゃん、支援魔法の準備終わったよ~』

『作戦通り動きますね』

『了解。聞いてたよね、アリサ』

『ええ、もちろん』

 

私が立てた作戦の始動のキーになるのはアリサ。

 

「魅力的な女の子達から逃げるなんてどうなの?」

「確かに皆は可愛いし、バリアジャケットも似合ってるけど、それはそれ、これはこれ!」

「つれないわねえ。それなら捕まえるわ! フレイムアイズ!」

「なあ⁉」

 

アリサのデバイス、フレイムアイズは連結刃刀。つまり、剣の役割と鞭の役割が出来る。この中で唯一八雲君のスピードに付いて行けるアリサに八雲君の動きを止める事を頼んだのだ。アリサは私の期待通り、伸ばしたフレイムアイズで八雲君の動きをからめとり一時的に止めた。

 

「虚さん!」

「お任せを。チェーンバインド!」

 

動きを止めた八雲君を虚さんのバインドでガチガチに固める。……固定→砲撃は若干トラウマだよ。なのはのせいで。

 

「うぐぐ……」

「無理やり引き裂こうとしています! 次を急いで!」

「お姉ちゃん! アリサ!」

「一気に行くわ! この一撃に全てを賭ける! 蒼流!」

「燃やし尽くしてやる! 炎覇!」

「「水月槍!(鳳翼翔!)」」

 

お姉ちゃんが投擲した水で作られた巨大な蒼流旋と、アリサの剣から放たれた炎の鳥が八雲君に同時に着弾し前衛二人の大技が炸裂。だけど、ここで油断をしちゃいけない。

 

「行っくよ~! 無垢なる光と風が相手を包む!」

「私も行きます! 漆黒の鎖に抗って見せなさい!」

「「イノセント・シャイン!(ダークネス・バインド!」」

 

身動きの取れない八雲君を中心に光の風と闇の鎖の巨大魔力が直撃。後衛二人の強力魔法だ。……やり過ぎな気もするけど、更に追撃をかける

 

「最後は私達! 地、水、火、風、四つの力を一つに!」

「冷気に抱かれて終焉を迎えよ!」

「「エンシェントカタストロフィ!(インブレイスエンド!)」」

 

黄色、青、赤、緑の球体の中心に八雲君を据え、その上から巨大な氷の塊、その氷の塊が落ちてくると共に、四つの球体から魔力が放たれ大爆発を起こす。私達の全力六連撃を八雲君にぶつけたけど……

 

「皆、強すぎでしょ……」

 

八雲君はまだ落ちてなかった。「強すぎ」って言うけど、私達の持ち技の中でトップクラスの技を6発ぶつけても倒せない八雲君に言われたくないよ。

 

「皆奥の手行くよ!」

『『『『『『Mode Release Over Limit』』』』』』

 

 

 

『『『『『『Mode Release Over Limit』』』』』』

 

……えっ、あれで本気じゃなかったの? しかもオーバーリミッツって。僕、生きてれるかなあ。

 

「「「「「「私達の魔法の源! 私達の想い! 響け! これが私達のラヴ・ビート!」」」」」」

 

僕を中心に正六角形に居る皆を中心にピンク色の魔力の奔流が流れ出す。

なるほど、なのは達の言ってた「愛の力」ってのはこういう事ね。……ホント、愛されてるねえ。でも、だからこそここで落ちるわけには行かないよ。まあ、ただの意地なんだけど。

 

「叢雲」

『Mode Release Over Limit』

「本気には本気でお相手するよ! 天光満ところに我はあり、黄泉の門開くところに汝あり、出でよ神の雷! これが僕の全力全開! インディグネイション!」

 

僕を中心に降り注ぐ雷。威力だけならこの魔法を超える物もいくつかあるけど、僕が考える僕のとっておき、全力全開はやっぱりこれだと思う。

巻きおこった砂煙が晴れると皆は地面に落ちていた。

 

『試合終了』

「皆、大丈夫?」

 

地面に立ってから皆に聞く。怪我無いと良いけど。

 

「「「「「「大丈夫ー……」」」」」」

 

一応意識はあるみたいだけど、立ち上がれないらしい。まあ、こうなるまでしたのは僕だし、ちゃんと責任取らないとね。

 

「とりあえず、万物に宿りし生命の息吹を此処に。リザレクション!」

 

全力の回復魔法で皆の体力を回復させる。オーバーリミッツ使ったけど、僕の魔力自体はそんなに使ってないからね。結果的に余力はあった。

僕の最大の回復魔法の効果は抜群で、皆は立ち上がって動けるくらいまで回復した。正確に言うとすずかだけまだ起き上がってない。打ちどころでも悪かったかな?

僕はすずかの傍に駆け寄って話しかける。

 

「大丈夫?」

「体の方は大丈夫だよ。だけど、腰抜けちゃった。だから、運んでほしいな。お姫様抱っこで」

 

まあ、汗かいたままだと風邪引くかもしれないしなあ。明日から学校だし、それは不味いよな。

 

「はいよ」

 

僕はすずかを抱き上げる。やっぱり、女の子の体は柔らかい。皆、ISに乗ったり、魔法を使ったりでそこそこ体を鍛えているのに、それが失われないから不思議だよ。

 

「「「「「ずーるーいー!」」」」」

 

五人にこう言われちゃったから、この後一人ずつお姫様抱っこでアリーナのピットに運んだ。皆の体の感触も満喫できたし、役得役得。

この後、夏休み最後だからみんなでカラオケに行った。皆の歌を楽しんだんだけど、全員とデュエットしたから僕だけ歌った量が多かった。今の所喉が痛いとかは無いけど明日に影響でないと良いなあ。




ここまで来るのに半年掛かりました。

次回のお話は夏休み明けすぐの実習としていくつかのバトルを何話かに分けてお送りします。

その前に設定集を上げる予定です。


カラオケでそれぞれが何を歌ったかは皆さんにお任せします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十話 新学期スタート!

お久しぶりです。今回から二学期編始まります。


さて、二学期が始まり二日目の今日。

IS学園は三学期制なんだけど、始業式なんてない。春も入学式はあったけど、二、三年は始業式など無く、即授業だったらしい。二学期二日目にして一年生はいきなりISの実習が入っている。しかし、現在僕を含めたIS学園の生徒達は緊急の集会で講堂に集められている。

 

『緊急の集会って一体何なんだろ? 刀奈、何か知ってるか?』

 

こういう時に非常に便利な念話で刀奈に聞く。

 

『私は知らないよ。集会があるのを知ったのも皆と同じタイミングだし』

 

生徒会は一般生徒よりも教員寄りなのでこういう情報も早く来る。生徒会長の刀奈ならなおさらだ。しかし、その刀奈が知らないのなら今回は本当に緊急だったらしい。

 

「今日、皆さんに集まってもらったのは皆さんに新しい教員の方を紹介するためです」

 

壇上で話し出したのは当学園の学園長先生である、轡木由美子先生。用務員のおじさんである轡木十蔵さんの奥さんでもある。

しかし……わざわざ、新任の先生の紹介を緊急でやる必要があるのか? 三日後に文化祭に関しての連絡の生徒集会があるからその時でも良かったと思うんだけど。ありえそうなのは……その先生が全校生徒に発表するべき人だって事位か? 例えば織斑先生みたいな元国家代表みたいな。

 

「では、どうぞ」

 

学園長先生の呼び込みで入って来たのは、女性用のスーツの上に白衣を来た美人。……ってか

 

「はろはろ~、束さんだよ! 今日からここの特任教師になりました! 私が教えるのは課外で行われる、スッペシャルな授業だよ! 向上心のある子はどんどん来てね~。詳しくはHRで各クラスに連絡が行くからチェックしてね! そんじゃ!」

 

それだけ言って去っていく束さん。周りを見回すと皆口を大きく開けている。まあ普通の反応。織斑先生は額を抑えているけど僕が束さんと何度か話した感じの印象だと真面目な織斑先生は昔から振り回されて来たんだろうなあと容易に想像が付く。

 

『……予想外の人物が来たね』

『でも、全校生徒を呼んで紹介するわよね』

『たしかに~』

 

……まあ一つ言えそうなのは、

 

『私達はどうか分かりませんけど、先生方の仕事は増えそうですね』

 

虚の言葉が僕達全員の気持ちを代弁していた。ホント、ご苦労様です。

 

 

 

集会も終わり、僕達一年生は第三アリーナに集合していた。

今日は全時間ぶち抜きでのIS実習。僕と織斑君のせいで代表候補生、専用機持ちが一組に集中したために実習は全クラス合同になっている。

 

「全員集まっているな。今日はまず、専用機持ちの皆に戦ってもらう」

 

僕達の前に居るジャージ姿の織斑先生がそう言った。それと共に空間ディスプレイに組み合わせが発表された。

 

織斑一夏VS霧島八雲

篠ノ之箒VSラウラ・ボーデヴィッヒ

シャルロット・デュノアVS月村すずか

セシリア・オルコットVSアリサ・バニングス

凰鈴音VS更識簪

 

という組み合わせになった。

 

「なお、この組み合わせは夏季休暇の際、アリーナの使用時間の短い順で組んである」

 

へえー、みんな頑張ってるんだねえ。と言っても代表候補生や企業代表が多い現状でこの時間がイコールでこの夏休みの努力量にはならない。例えば僕は夏休みの大半を学校外で過ごしてISの訓練も会社の施設を使っていた。簪も今の専用機が完成するまでの時間が大半だろうしアリサやすずかは学校よりもウチの研究所の方が多いと思う。国外の代表候補生は本国での訓練時間もあるはずだ。ボーデヴィッヒさんなんかは軍人さんだから本国での訓練時間の方が多そうだし。

……そう考えると織斑君と篠ノ之さんの時間って短いよね。まあ、他の皆の数字が桁外れな可能性もあるから一概には言えないだろうけど。

 

「では、織斑と霧島は用意しろ」

 

さてと、どうやって戦いますかねえ……。

 

 

 

私達は八雲君と織斑君の模擬戦を見ている。と言ってもまだ始まっていないんだけど。

 

「解説はお願いね、簪」

 

横に居るアリサがそう言う。八雲君のISの戦い方は同じタイプの機体を使う私にとってかなり参考になるし、理詰めの戦い方も私に合っている。それの一つ一つを理解して自分の戦い方に取り入れて行けばまだまだ実力を伸ばせると思う。解説は自分の考えを纏めるプロセスに役立ちそうだから問題無いかな。

 

「うん、分かった。だけど後で八雲君にちゃんと確かめる方が良いよ。あくまで私ならこう考えるってのだからね」

「でも、二人分の考えを聞けるならお得だよね」

 

アリサの横に居るすずかがそう言う。ちなみに私のもう片方は本音。

 

『試合開始!』

 

山田先生の合図で模擬戦の火蓋が切って落とされた。

先に仕掛けたのは八雲君。Fバレットで牽制する。織斑君は二次移行で射撃武器が付いたと言えど、本領は接近戦。寄らせなければ実力の一割も発揮できない。セオリー通りの攻め方だ。

 

「こっちだって!」

 

織斑君も射撃武器で応戦。

 

「織斑君のあれは悪手だね」

「どうして~?」

「織斑の本領ってどう考えても接近戦でしょ? 八雲の射撃戦に付き合うより距離を詰める方がマシじゃない」

 

概ねアリサの言う通りだと思う。織斑君の射撃適性とあの射撃武器を鑑みると、至近距離での意表を突く使い方位だと思う。シューティングゲームなんかでのショットガンの立ち位置だね。オルコットさん辺りならあの武器を扱いこなせると思うけど。

後、織斑君の熱くなりやすいっていう性格も災いしているかな。

アリーナ内の戦いはお互いの射撃が当たらず膠着模様。お互い、高機動機なので回避能力が高いから仕方ないか。……だけど、

 

「八雲君の射撃、少し荒くない?」

 

すずかが私も気になっていた点を口にする。

 

「言われてみればそうかも。簪はどう思う?」

「私もそう思う。それに、Fバレットの連射速度と弾速が少し遅い」

 

Fバレットの全力から考えると見た感じ今は7割程度と行った所。全力で攻撃をしないという事はこの射撃は織斑君を確実に仕留めるための布石だと思う。……八雲君は何を狙っているの?

マルチタスクを使って気になる所を片っ端から考えていく。こういう時に並列で考えるのは便利だ。

一つは出だし。基本的に八雲君はこういう模擬戦の時は相手に合わせた動きをするために最初は様子を見るんだけど、今日はいきなり仕掛けた。これは慎重な立ち上がりの多い八雲君からするとかなり珍しい。結構な数見て来て十分織斑君の戦いを知っているからだとは思うけど、ひょっとしたら何か意図があるのかもしれない。

それと本領を発揮しない射撃。なぜ、Fバレットだけなのか。全力を出したりNバレットも混ぜればさらに避けにくいし、そもそも八雲君の勘と洞察力ならたとえ7割程度でも当てる事は出来るはずだ。

……一つ可能性が思い浮かんだ。これが八雲君の狙いとするのなら、

 

「アリサ、すずか」

「どうしたの、簪ちゃん」

「もうすぐこの試合終わるよ。八雲君の勝ちで」

「「えっ⁉」」

 

二人がそう言ったタイミングで織斑君は弾切れになったらしく、雪片に装備を変えて瞬時加速。一気にリズムを切り替えた。零落白夜も発動している。

次の瞬間、

 

『白式、シールドエネルギーエンプティ。勝者、霧島八雲』

 

とアナウンスが流れた。恐らく、ほぼ全員がどのように決着を着いたのか気付いていないだろう。当の織斑君も。アリーナはざわついてるし、織斑君は目を白黒させているから。私の予想通りだった。

 

「簪、どういう事よ!」

「勝ち方自体は簡単だよ。織斑君が突っ込んできたところに突っ込んで切っただけ。しかも、気付かれない様に一瞬で武器を変えてる」

 

その必要があったかは微妙だけど、手の内を隠すって意味合いなのだと思う。

 

「じゃあ、今までの射撃の意味は?」

「私が思う意味は二つ。1つは射撃武器分のエネルギーを使わせて確実に一撃で決めるため。もう一つは織斑君の心理を誘導するため」

「前者はなんとなくだけど分かるよ~。射撃戦に持ち込んで無駄にエネルギーを使わせようって事でしょ~?」

「そう。だから、珍しく一番最初から攻撃を仕掛けたんだと思うよ」

 

織斑君側からすればエネルギーに余裕があったのと、この前の一件で中々寄れなかったから様子見もあったんじゃないかと思う。それが最初の射撃戦。

 

「じゃあ、心理誘導って言うのは?」

「例えば、少し前にボロボロに、3対1で負けた相手と1対1でなおかつ自分の得意じゃない分野で五分五分に持ち込めてたとしたら、どう思う?」

 

これは例えでもなんでもないね。そのままさっきの状況だ。

 

「自分の実力が伸びたって思うんじゃないかしら」

「私も同じかな」

「これが織斑君の心境。少し『自信』が出て来たと共に少し『慢心』も出て来た。この二つは紙一重だから。だけど、射撃武器が打ち止めで『焦り』がプラスされた。『決めなきゃいけない! 今、自分は攻撃を避けられている、流れに乗れているから行ける! 一撃で決める!』みたいにね」

 

あくまで想像だけど、大体合ってると思う。

確かに織斑君は流れに乗れていたとは観ていて感じた。けど、それはあくまで自分の流れであって、この試合そのものの流れは膠着していた。いや、八雲君が膠着状態を意図的に作り上げた事を考えると試合の流れは八雲君に有ったのかもしれない。八雲君はその自分の作った流れに織斑君を乗せれば良いだけ。勝機は勝手に来るし、それを逃すほど八雲君は甘くない。

 

「つまり、八雲君は織斑君に自分の攻撃の事しか考えさせないようにした。織斑君からしたら最速で最高の攻撃かもしれないけど、八雲君からしたら予想通りでしかなかった。後はタイミングを合わせて切り落とせばカウンターは成立だよ」

 

八雲君の射撃の精度が抜群に高いのは今までの模擬戦やら実習で周知の事実。互角なのは狙撃型を使っているオルコットさん位。オルコットさんはそれが『最大の武器』なら、八雲君のは『手札の一つ』。今回の場合、八雲君はその精度の高さを『当たらないギリギリの距離を狙う』という事に使って逆手に取ったという訳だ。織斑君からしたらその精密な射撃を避けられていると思っていただろう。だけど、ここで一番特筆すべき点は八雲君が『決着から逆算して始めから戦っていた事』だと私は思う。織斑君が読みやすいっていうのを入れてもそんな真似は私には出来ない。

今回の一戦はISの技術うんぬんを抜きにして『戦い』という物の経験値の差が如実に出た。恐らく、この結果を見通せていた人は誰もいないと思う。途中何処かのタイミングで八雲君の考えを見抜けたのも私を含めて何人居るか……。

 

「八雲君からしたら、想定通りに行って最低限の労力で倒したって事だもんね」

「被弾ゼロ、彩雲は個別のエネルギーだからSEの消費も移動だけ。……無茶苦茶ね」

 

だけど、それが分野は違えど魔法戦において超一流の八雲君の実力の一端。長い間最前線で戦い続けてきた経験の賜物。でもこの試合で私に必要な物が分かった。相手の2手3手先を読み切る力と、試合を牛耳れる戦略、戦術の確立。だけど、それをするには足りない物がある。経験だ。私自身の経験、紫雲や野分との経験、様々な物が足りていない。でも、それはこれから積んでいけばいい物。まずは目の前の物を頑張ろう。

 




急展開! 篠ノ之束、教師になる。

本作の束さんは宇宙を夢見る天才科学者の要素が強く、フリーダムな行動を見せますが、かなり白いです。
ISを世間に発表した理由も「自分とは違う視点から見る事でISをより高い完成度にする為」という目的です。なので、自分と同じ夢を持つ研究者、面白い発想を持っている技術者と交友関係を持っています。興味対象が広くなっている感じですね。


VS一夏戦は恐らく最も一夏をエネルギー消費を少なくして倒す方法「突っ込んできた所をカウンター」をやってみました。瞬時加速さえ読めれば誰でも出来ます。


次回はこの模擬戦の続き……ではなく、クリスマス用に書いているこの作品の最終回と予定している物を上げようと思います。このIFルートの一応の決着点ですね。
投稿は24日の夕方~夜を予定しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス特別編 その1 緊急事態発生

前のお話で言っていたクリスマス特別編、その第一話です。


色々な行事があった二学期も終わり、IS学園は冬休みに突入していた。学生寮は静かである。というか学園全体が静かだ。

というのは二学期の終わり、第一アリーナの観客席を守るエネルギーシールド発振装置が異常を起こしたので少し早い冬休みに入って、学園のISやIS関係の施設の全面点検に入ったのだ。といっても篠ノ之先生が常人ではありえない速度で終わらせているので僕達関係でお疲れの先生方は少し早い仕事納めで今学園に居る先生は篠ノ之先生と織斑先生、山田先生位。

生徒に関してもどの道ISでの訓練が出来ないのでほとんどの生徒が実家に帰っている。居るのは僕達を含めた専用機持ち。というのも、アリーナの装置の発生の異常が二学期末の操縦試験の時に発覚して、早めの冬休みに入ると共に訓練機の全点検をするために詰め込みで一般生徒の試験を行って専用機持ちは後回しになったのだ。

その試験は明日行なわれる。

前日の今は今年度の残りの行事に関する仕事を少しずつこなしている。

残りの行事というのは『全学年合同トーナメント』。IS学園は2月の頭に学科を全て終わらせて、期末試験を行い、この一年の成果を見るためのトーナメントが開かれる。それが終わると卒業式&春休みとなるのだ。

 

「しかし、クリスマスも学校か~」

「毎年クリスマスは家で盛り上がってたけど、今年は無理そうだね~」

「少し残念」

「まあ、ここでミニパーティみたいな事は出来ますよ」

「学校の方がマシよね」

「去年までは一年で一番忙しい翠屋の手伝いしてたからねえ」

「……そっか、クリスマスか」

 

クリスマスに関しての反応はそれぞれ。一般的な反応(刀奈、本音、簪、虚)、やや特殊な反応(アリサ、すずか)、あまり思い出したくない人の反応(僕)。

……ま、時間作ってお墓参りに行かないとなあ。大切な約束だから。

 

「しかし、試験の組み合わせ発表されたけど、どうなるのかな~?」

「私はラウラちゃんで」

「私はシャルロット」

「フォルテ先輩。強敵だね」

「私の相手のダリル先輩もよ」

「僕の相手は誰なんだろ? ずっと未定のまんまで来てるけど」

 

織斑先生に言わせると「学園最強のお前に相応しい相手を用意してある」らしい。

何時の間にやら織斑先生を含め、何人もの先生の僕の認識が「学園最強」になっていた。確かに、模擬戦とはいえ刀奈、簪、ダリル先輩、フォルテ先輩を相手に勝ち続けたから仕方ない。

しかし、相応しい相手って誰だろ? 人という意味では織斑千冬というこの上なく適役な人がいるけど、この人に相応しいISが無い。刀奈&水雲と織斑先生&打鉄なら前者の方が確実に強い。

ちなみに、組み合わせの一覧は

 

第一試合 織斑一夏VS篠ノ之箒

第二試合 凰鈴音VSセシリア・オルコット

第三試合 月村すずかVSラウラ・ボーデヴィッヒ

第四試合 アリサ・バニングスVSシャルロット・デュノア

第五試合 更識簪VSフォルテ・サファイア

第六試合 更識楯無VSダリル・ケイシー

第七試合 霧島八雲VS?

 

となっている。

相手が分からないから準備できないけど、体調は万全だし、負けは無いかな。だって、カッコ悪い所見せたくないもん。

そんな事を考えているとゾワリと背筋が冷える感覚が僕を襲った。なんなんだ?

次の瞬間、とんでもない魔力を外から感じた。それと共に結界が展開される。

 

「何事⁉」

「外に何かあるよ!」

「なに……あれ」

 

外にあるのは異形と呼ぶのにふさわしい巨大な物体。魔力反応があったという事はまた、ロストロギアだろう。

しかし、何故だ? 僕にはあれに見覚えが……

 

『マスター無茶です!』

『そんなの……知るか!』

『ですが、40度を超える高熱、起きているのすら辛いはずです!』

『だけど! 皆がアレに!』

 

 

 

とんでもない魔力を感じる外の物体を見ていたら後ろで何か大きな物が落ちるような音がした。物音の方を見ると、八雲君が倒れていた。

 

「八雲!」

『大丈夫です、アリサ。気を失っているだけですから』

 

すぐに叢雲は答えてくれたから、すこし安心は出来た。

 

「でも、どうしてこうなったの?」

『それは、あれがマスターのトラウマですから』

「という事は、あれが闇の書ですか?」

『正確に言うと夜天の魔導書が闇の書になってしまった理由ですね』

「でも、吹き飛ばしたんじゃ……」

『あくまで予測ですが、ほんのわずかに残った物が潮の流れでここまで来て、再生したのかと』

 

色々面倒な事になったわねえ。まずは……

 

『更識、聞こえるか』

 

タイミングよく織斑先生からプライベートチャンネルに連絡が入った。

 

『聞こえています』

『会議室に集合だ。霧島も連れてこい』

『それは無理です』

『……何かあったのか?』

『その辺は後で説明します』

 

さて、皆で会議室に向かわないとね。でも、その前に

 

「虚ちゃん」

「分かってます。少々お待ちを」

 

そう言って虚ちゃんと八雲君は転移し、すぐに虚ちゃんは帰って来た。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 

 

会議室に八雲を除いた全員が集まった後、織斑先生が口を開いた。

 

「更識、霧島と外のアレは関係しているのか?」

「それは……」

「全て私がお話します」

 

室内に響く電子音。私たち以外は周りを見回している。山田先生や篠ノ之先生も近い反応をしているという事は魔法の説明はしても、必要最低限だったのだろう。

 

「私は叢雲。マスター・霧島八雲の剣です。皆さんに分かりやすく言えば瑞雲の中身です」

「中身……ですか?」

「ええ。あなた方がISを纏うように、私もそれに対応するために瑞雲を纏っているのです。さて、今現在外に居るのは今年の学年別トーナメントの際のシュヴァルツェア・レーゲンの再暴走や銀の福音の再暴走と近い技術が使われています。まあ、それらに比べると桁外れに危険ですが」

「どれほど危険なのだ?」

「そうですね、アレが全盛期まで復活しているなら、小石と467機のIS位の差はありますよ。まだ、IS一機程度の差で収まっていますが」

 

流石にこの叢雲の言葉には表情を変えなかった織斑先生も驚きを隠せなかった。私達はなのは達に聞いていたから驚かなかったけど。

 

「……一体、アンタと霧島はなんなのよ?」

「そうですね……。ここで学ばれているISは本来、人類の宇宙開発の為に作られた。そうですね?」

「そうだよ」

「SF作品なんかでは宇宙を『星の海』と表現する事もあります。ただ、この世には地球の技術では認識できない海が存在するんですよ。一つ一つの宇宙を繋ぐ海が」

「所謂、多次元宇宙論って奴だね。今の私達が見えている宇宙を一つのくくりで見て、それと同じような物が一杯あるっていう」

「その通りです。私も外にあれも大元をたどれば同じ技術と言って構わないでしょう。私達の世界ではそれらを魔法と呼称しています。まあ、こことは違う技術だと考えていただければよろしいかと。ああ、マスターは地球生まれ海鳴育ちの正真正銘の地球人ですよ。ただ、突然変異で魔法を扱える能力を持って生まれ、出会っただけです」

 

会議室が一瞬、静寂に包まれる。まあ、信じられない事実のオンパレードだったからだろう。

 

「……霧島がここに居ない理由は?」

「一言で片付けるならトラウマですね。今年度が始まってから二か月と少しのマスターの状態の原因もアレに起因します」

「詳しくは……聞かない方が良いのだろうな」

「別に問題はありませんよ。他言無用ですが。アレの大本の主がマスターの大切な人でアレがああなった事でその人を護れなかった。何人もの大切な仲間を喪って、マスターだけが生き残ってしまった。マスターはそれを責め続けた。それだけです」

 

デバイスだから、淡々と事実を告げる。

 

「……誰かに頼る事は出来なかったのかよ」

「今、マスターのいる組織なら頼る事は出来たでしょうね」

「それなら!」

「結末は変わらなかったでしょう」

「どういう事だよ!」

「私達の組織は様々な世界にある危険な魔法物品を管理、封印するのも主任務です。無断所持はそれだけで罪です。たとえそれが関係無い世界の人間でも。それほど危険な物ですから」

「そんな横暴……」

「下手したら地球が消えるんですよ? それでも横暴といえますか?」

 

管理外世界の私達からすると確かに横暴と取られかれないけど、危なさを知る彼からかすると仕方のない処置なのかもしれない。実際は封印さえできればすぐに解放されるらしいし、管理外世界に流れる理由がそう言ったものを扱えるだけの能力があるから、逆にスカウトされる場合も多いらしい。

 

「だけど!」

「それに、あの時は時間が有りませんでしたから。理想に賭けるのではなく、提示された現実を選んだ。それだけです」

「それでも、方法があったかもしれないだろ!」

 

その言葉に、叢雲は反応した。出雲を動かし、瑞雲を織斑の喉元に突きつけるという形で。

 

「私は必要があったから、事情説明の為に話しただけです。織斑一夏、あなたの考える理想論が聞きたくて話している訳ではありません。それにマスターを知ろうとしなかったあなたに霧島八雲を語る資格などありませんよ」

 

デバイスである叢雲に感情は無い。実際、この言葉に抑揚は無い。だけど、その言葉からははっきりと怒りの感情が伝わってくる。殺気すら感じさせ、他の誰も身動きできない。

叢雲はアイツのそばで苦しむアイツを見てきている。どれだけ苦しんできたかを一番知る存在だと思う。だから、軽々しく言う織斑にキレた。

 

「……それで、アレへの対処方法は?」

「今なら、まだISでもダメージを与えられるでしょうが、消滅させるには外部にある程度ダメージを与えて核を露出させて超高魔力を当てる必要があります。本来ならマスターが適役なのですが」

「精神的な物で倒れた霧島を戦力にはカウントできんな。更識達では?」

「無理です。アリサ達は一般的には十分な保有量を持っていますが、今回必要なのは桁外れの量です。六人合わせても足りません」

 

そう、八雲の魔力量は私達6人を合わせた物よりも多い。本来なら私達位で一流と呼べるのだが、八雲は文字通り常識外れの保有量。

 

「外の奴は完全に復活してないんだよね?」

「ええ」

「ダメージを与えれば時間を稼げる?」

「恐らくは」

「なら、方法は一つだね」

「ああ。時間稼ぎで攻撃を続けるしかない」

「先生、力になりそうな人を呼んでも良いですか?」

 

そのすずかの言葉に私達はピンと来た。丁度タイミングよくこっちに帰ってきている、私とすずかと八雲の幼馴染を。

 

「許可する。このままだと人手が足りんからな。」

 

終わりの見えない戦い……。大丈夫なのかしらね、私も皆も。八雲が居ないのが痛手ね。




さて、中々危険な状況にIS学園がなりました。

叢雲がISを動かせた理由について
これは7巻のタッグマッチの際、八雲のパートナーとして遠隔操作機『幻雲』を出現させて、それを叢雲に動かしてもらおうという没設定の名残です。叢雲側からでもある程度ISを動かす事が出来ます。


その2では甘いお話を予定しています。では、1時間後にお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス特別編 その2 仮面を外す時

クリスマス特別編の第二話です。一話目が苦い話なら、二話目は甘いです。


外に居た異形の物体―叢雲曰く『ナハトヴァールの残滓』―と開戦して早数時間。入れ代わり立ち代わり戦っている。叢雲の予想通り、地球の武器はあまり効果が無く、私達がメインに立ち回るようにしている。防御面を考えて虚と本音はISを装備して魔法を使っている。だから、バリアジャケットと飛行魔法分の魔力消費は無い。

そのおかげで余裕があるけど、この調子が何時まで続くか……。

 

「厳しいね、アリサちゃん」

「終わりが分かんないってのがね」

 

三チームに分けて一時間交代で当たっているけど、いずれは魔力回復か間に合わなくなる。それまでに何とかする手段を考えないといけない。その辺は私達は全く知識がないので叢雲任せなんだけど。

そんな時、

 

「秘剣・斬水!」

 

その言葉と共に巨大な水の刃が飛んで行った。他のメンバーはビックリしているけど、私とすずかにとっては頼れる幼馴染の到着に一安心した。

丁度交代の時間だし、戻りながら私達は大和に話しかける。

 

「遅いわよ、大和」

「仕方ねえだろ、緊急事態で長期戦を考えたら移動に魔力を使えなかったんだもんよ。恭也さんが居たから、車出してもらって急いだんだぜ?」

「なのはちゃんとフェイトちゃんは?」

「二人は先に学園で今後の事情説明してる。ちゃんと打てる手を打っておいたから」

 

あっさりそういう対応できるのは流石、現場に居る人だなと思う。

 

「どういう方法?」

「ま、7年前と同じだな。ただ、その準備にどれだけ急いでも5日は掛かる」

「どうして、そんなに掛かるのよ!」

「秘密兵器は搭載されてないんだよ、許可が下りてから搭載だから、時間が掛かるんだ」

 

……とりあえず、終わりが見えただけ良しとするべきか。

 

「まあ、なのはやフェイトも居るんだ、何とかして見せるさ」

「凄い自信だね」

「ぶっちゃけると、7年前よりは弱いからな。さっきの手ごたえで分かった。完全消滅は無理でも完全復活させない様に攻撃し続けるなら出来ると思うぜ。……アイツが居たら、確実なんだけどな」

「仕方ないわよ」

「だな。今のアイツの事を考えるとアイツの手を借りる訳には行かねえよ」

 

 

 

 

僕が目を覚ますと真っ白な空間に居た。……デジャヴュっていうか、半年前に同じような事が有ったねえ。といっても、今回は怪我したわけでもないし。

だけど、僕が忘れようとしていた記憶が思い出された。闇の書の暴走によって皆が居なくなる所。ボロボロの体調で現場に行こうとして倒れた所。

あれのお蔭っていうのは嫌だけど、僕は忘れちゃいけない記憶を思い出せた。

 

「寝ている訳には行かないなあ……」

「せやね。こんな所でゆっくりしてる場合とちゃうよ」

 

声の方に向くと、そこにははやてが居た。驚きはあるけど、この前ほどではない。

ただ、彼女の左手の薬指には見覚えのある指輪が。……もしかして、あの言葉聞かれてた? それなら、神様って中々粋でサービス精神旺盛なんだねえ。かなり恥ずかしいけど。

 

「久しぶりはやて」

「せやねえ。予想以上に早い再会やけど」

 

それは僕も思う。次に会うのは何十年も後の事だと思ってたもん。

 

「今回は突発的な事だから許してくれ」

「責める気はあらへんよ。今回のはしゃあないもん」

 

そう言って貰えると助かる。

 

「しかし、八雲君も変わったねえ。半年前とは大違いや。恋は人を変えるんやね」

「変わったっていうか、昔に戻ったって感じかな」

「いや、変わったやろ。特に女の子を何人も引っかける所とか」

 

……そこを突かれると弱いなあ。事実なだけ言い返しようもないし。

 

「まあ、八雲君位勝手に背負い込んで苦労してしまうような人には沢山の人に支えてもらう方が良いんとちゃう?」

「……いや、凄くあっさり認めるんだな」

 

僕としては後ろめたさも結構あったんだけど。

 

「だって言ったやん? 『ちゃんと幸せに暮らしてな』って。今のが八雲君の見つけた幸せなんやったら、私のお願いは叶ってるもん」

 

そういうもんかねえ……。

 

「……そういえば、どうして僕はここに?」

「おっ、話題変えた。……まあ、今の事は私も関係している。っていうか、私達が収めないといけない事やし」

「そうだな」

 

アレを消すのは僕の、僕達の仕事だ。

 

「やけど、私はなにもできへん。だから、八雲君に直接お願いしよう思うてな」

「僕自身、皆と違うけど夜天の魔導書の騎士だからさ。後始末は僕が付けないとと思ってるよ。だから、行ってくる」

「流石やね。それでこそ、私の大好きなたった一人の男の子やよ」

 

そう、正面切って言われると結構恥ずかしいなあ。だけど、その期待に応えたい。……我ながら単純だねえ。

 

「ありがとな。ちゃんと決着付けてくるよ」

「頑張ってな。……そや、一つお願いがあるんやけど」

「何? すぐに出来る事ならやるよ」

 

こういう事態だからいくらはやての頼みでも流石にね。

 

「うん、騎士甲冑みたいなって思って」

「そっか、はやては見た事無いんだ。分かったよ」

 

ってか、騎士甲冑を装備するのはあの時以来だな。気付いたらデザイン元のジューダスの身長超えてるなあ。個人的にはこっちも好きだし、ISの方も何とか出来ないか言ってみるかな。

 

「私はこっちの方が好きやなあ。でも、その仮面はいらんのとちゃう?」

「確かに、今となっていらないね」

 

元々仮面は正体を隠すための物だった。こんなので隠せるとは思わないだろうけど、実はこれ、認識を誤魔化す能力があって僕と気付かせないためには必要な物だったのだ。

仮面を外そうと手を掛けようとしたら、先に正面に立ったはやてが僕の仮面を取って、唇を重ねる。……多分、傍から見たら抱きつかれてキスされてるように見えるんだろうなあ。

 

「これで、八雲君の勝利は決まったね」

「女神のキスだから、ご利益抜群だろうね。じゃ、行ってくる。またな、はやて」

「うん、行ってらっしゃい、八雲君」

 

 

 

「思った以上に皆の消耗激しいな……」

 

ナハトヴァールの残滓を相手にしながら俺は思わずそう呟いた。

今現在は俺一人で攻撃を加えている。

こんな化け物を相手とした経験など、普通に地球に暮らしているのならありえないし、余計な緊張感がある分、疲労感が大きいのも仕方ない。だから、プロである俺達が矢面に立たないと。気付いたらもう夜だ。とりあえず、もうひと踏ん張り頑張りますかね。

っと、そんな事考えてたら何本も触手伸ばしてきやがった。

 

「甘いぜ! 秘剣・光牙!」

 

回転しながらの魔力斬撃で全部斬り捨てる。本来なら突っ込んでく技なんだけどな。

しかし、相手もしつこく攻撃を繰り返す。

 

「あー、面倒だ! 秘剣・「サンダーブレード!」」

 

俺が技を繰り出そうとしていると上から雷の剣が降って来た。こんな技を使うのは一人しかいない。

飛んできた方向に目をやると夜空に融け込むような漆黒の騎士甲冑に身を包んだ、俺の幼馴染が立っていた。

 

「……ったく、登場がかっこよすぎだろ。八雲!」

「主役は遅れてやってくるものさね。大和、休んでていいよ。疲れてるでしょ?」

「いやいや、一人じゃ無理だろ!」

「大丈夫。それに、僕が決着を着けないといけない事だからさ」

 

……こりゃ、何かやる気の目だな。それに、出来ない事を言うような奴でもないし、任せても良いだろう。

 

「分かった。だけど、すぐ後ろに居るぜ」

「それは、お好きにどうぞ」

 

言葉を交わし終わると、俺は少し後ろに、八雲は前に出る。

しかし、一人で何とかできる方法って何だ?

 

「さて、始めようか。今日という日に相応しい奇跡をさ!」

 

この後、俺は奇跡を一番近くで目撃する事となる。




という訳で甘めのお話でした。

大和の技について
分かる人は分かると思います。八雲の魔法の元ネタとは会社繋がりですね。
でも、もう出たのが10年近く前ですからねえ……。

さて、クリスマス特別編も次で終わりです。苦い、甘いと来て最後は熱い! ですかね。ではまた1時間後にお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス特別編 その3 決着の時

クリスマス特別編、最後のお話です。八雲の起こす聖夜の奇跡をどうぞ!


一人で夜天の魔導書を闇の書にしたナハトヴァールの残滓に向き合っている。コイツと決着を付けるのは僕達じゃないとね。

僕は胸にある待機状態のスノーレインを手に取る。

 

「さて、始めようか。今日という日に相応しい奇跡を! これが僕の紡いできた絆! 我が前に具現せよ、夜天の騎士たちよ! サモン・フレンズ!」

 

特大の魔法陣と共に現れたのは五人の人。四人は丁度7年ぶりに再会する。もう一人は初めて会うけど、誰だか分かる。

 

「久しぶりだね、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。それと初めまして、管制人格さん」

「主はやてよりリインフォースという名を頂いた。そっちで呼んでくれ、霧島八雲」

「分かったよ。良い名前をはやてから貰ったね、リインフォース。あっ、僕は八雲でお願い」

「分かった」

「それで八雲、私達の相手はアレか?」

 

シグナムの目線の先には僕達の因縁の相手。

 

「うん。アレはさ他の誰でもなく僕達で倒さないとね」

「だな。あれは私達でぶっ潰さねえと」

 

気の早いヴィータは既にグラーフアイゼンを構えている。

 

「っと、その前にシャマル」

「分かってるわよ。それじゃ、皆の所に行ってくるから後はよろしくね」

 

そう言ってシャマルはIS学園の海沿いでこっちを見ている皆の回復をしに行ってくれた。シャマル先生の本領はあっちだからな。

 

「それじゃ、こっちも始めようか。ザフィーラ!」

 

スノーレインのガントレットモードを呼び出しながらそう言う。

 

「ああ、行くぞ」

「「鋼の軛!」」

 

巨大な圧縮魔力のスパイクを開戦の合図代わりにナハトヴァールに打ち込み、動きを止める。

 

「八雲、着いて来いよ!」

「OK、ヴィータ。スノーレイン、モードチェンジ! ハンマーモード!」

「「カートリッジロード!」」

 

僕とヴィータの言葉と共にグラーフアイゼンとハンマーモードのスノーレインは巨大化しギガントフォルムになる。

 

「「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」」

「ぶっ潰れやがれぇぇぇぇ!」

 

大質量の最大出力打撃。シンプルだけど強力な一撃はナハトヴァールを分かりやすく破壊した。しかし、再生速度がかなり速い。この部分だけなら多分、7年前並なんじゃないかな。

 

「スノーレイン、モードチェンジ、ボーゲンモード。シグナム!」

「ああ。全力で行くぞ、八雲!」

 

僕達は並んで弓を構え、魔力を溜めていく。攻撃は来るけど、心配はない。皆が止めてくれるから。

……7年の時は長いね。気付いたらシグナムよりも身長が高くなってるよ。

 

「「翔けよ隼! シュツルム・ファルケン!」」

 

音速を超える魔力の塊は着弾と共に強力な爆炎と衝撃波を生み、ナハトヴァールを焼き尽くす。しかし、まだ蘇生するし、コアは見えない。大分破壊したと思うけど。

 

「八雲、私も行こう。ユニゾン・イン!」

 

リインフォースが僕の傍に来てそう言うと、一体化してしまった。海面を見ると僕はリインフォースと同じ銀髪赤目になってる。……これじゃ、僕が銀髪君じゃん。でも、凄く力を感じる。

 

『そして、これが主はやての杖と魔導書だ』

 

そう言って僕の右手には剣十字の杖、左手には夜天の魔導書が現れた。

 

「とりあえず、動きを完全に封じたいね。リインフォース、何か良いのある?」

『それなら、最適な物がある』

 

リインフォースがそう言うと魔導書が勝手にページを進め、あるページで止まった。……なるほどね、文字は読めなくても内容が理解できる。あんまり使った事無かったけど、スノーレインの魔法のストレージ機能と同じ感じだ。というより、スノーレインはこれが元になったんだろう。

 

「『彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!』」

 

詠唱と共に掲げた杖のさらに上に現れた魔法陣を中心に6本、その6本の真ん中に巨大な7本目の光の槍が現れ、発射される。

この技は見た目通りの威力は無い。だけど、『石化の槍』を冠している通り、着弾した部分から石化させていく。見た感じ再生もされていない。これなら!

 

「ユニゾン・アウト。リインフォース、皆、決めてくるよ」

「任せたぞ、八雲」

「うん。行くよ、スノーレイン。シュベルトモード! 叢雲!」

「Mode Release Over Limit」

 

オーバーリミッツ使用と共に僕はナハトヴァールと海面の境目に向かい、

 

「魔神剣・刹牙!」

 

そこから切り裂き続けながら舞い上がっていく。

一太刀一太刀が圧縮魔力を纏った斬撃だから威力は折り紙付。ただでさえ脆い砂岩になっているナハトヴァールの外部を粉々にしていく。

最後に両方の剣で締めの斬撃を出すと、コアが露出した。

 

「これで終わりだ! 真神!」

 

まず、コアに左のスノーレインで切り上げの一撃。それと共に右のスノーレインにありったけの魔力を込める。

 

「煉獄刹!」

 

右の叢雲の膨大な圧縮魔力を纏った突きでコアと突き刺す。少ししてから、そのコアに亀裂が入って、粉々に砕け散った。魔力反応もない。

 

「終わったか。……お前も安らかに眠ってくれ」

 

ナハトヴァールが原因で夜天の魔導書は闇の書になった。だけど、ナハトヴァールが悪いわけじゃない。自分の野望の為にナハトヴァールを生み出し夜天の魔導書を闇の書にしてしまったかつての主が悪い。そいつのせいで、皆は終わらない地獄にいたようなものだし。

 

「お疲れ様、八雲君」

 

いつの間にかシャマルが僕の傍に来ていた。

 

「いやー、久しぶりに魔法を使ったから疲れたよ」

「とりあえず、動かないでね。風よ、癒しの恵みを運んで」

 

怪我は無いけど、シャマルの癒しの風は疲労回復と魔力補給が出来るから、非常にありがたい。

 

「無事、決着を付けれたな」

「ありがとね、シグナム。皆も」

 

僕の周りには7年前に分かれた仲間たち。今日という日が起こした奇跡の再会。……だけど、その時間は長くは続かない。

 

「……また、お別れだね」

「ああ」

「僕が言うのもなんだけど、はやてを頼んだよ」

 

その言葉に5人は力強く頷いてくれた。

 

「八雲も達者でな」

「分かってるよ、ザフィーラ」

「あんまり心配させないでね」

「気を付けるよ、シャマル」

「一度でもお前に会えてよかった」

「僕もだよ、リインフォース」

「次に会う時は手合せを頼む」

「楽しみにしてるよ、シグナム」

「はやての分まで幸せにな」

「違うよヴィータ。僕ははやての守護騎士の皆の分まで幸せになるよ」

「そっか……」

 

そう言うとヴィータは後ろを向いて、少しだけ、IS学園の方に飛んでいく。

 

「アリサ! すずか! それに、八雲の事を大切に想ってくれてる奴ら! こいつはさ不器用で無茶しいのバカ野郎だ! だからさ、近くに居れない私達の分まで八雲の事頼むぜ!」

「そんな事、言われなくても分かってるわよ!」

「八雲君の事は私達に任せて!」

 

アリサとすずかがヴィータの言葉にすぐさま答える。……中々に酷くねえ?

 

「ヴィータ、ひょっとして僕の事嫌い?」

「ああ、嫌いだね。はやてや私らをいつも心配させる八雲なんて大嫌いだよ。だから、心配にならないようにアイツらに頼むんじゃねえか」

 

身から出たさびだった。今までが今までだっただけに言い返せない。

 

「……っと、そろそろ時間切れか」

 

五人の周りには白の光の粒子が。……もう時間か。寂しさはあるけど、悲しさは無い。別れても僕達には確かな絆があるから。

 

「またね、皆!」

「「「「「ああ(ええ)!」」」」」

 

その言葉を最期に皆は光の粒子として空に還っていった。

クリスマスに起こった7年前の続きの事件と奇跡の再会。そのお蔭で大切な事を思い出せたし、本当の意味で過去にけりを付けて、次の一歩を踏み出せると思う。

……もう、皆に心配かけることも無いと思う。だからさ、多分これから傍から見て中々波乱万丈な人生になると思うから、それを皆で笑って見守っていてくれたら嬉しいな。それで、何時になるか分かんないけど、今度会う時は笑顔で迎えて欲しいな。

 

 

 

現実に引き戻されるみたいで嫌だけど、めっちゃ疲れたし、明日テストだから、今日はもう休もう。




三話連続のクリスマス特別編、如何でしたでしょうか?

この話を思いついたのは『この八雲は闇の書事件のちゃんとした決着を着けてない』と思ったのと、『この作品にも少しで良いから守護騎士たちを出したい』と思った事が切っ掛けでした。
前者として完全に消滅しなかった、ナハトヴァールの残滓という形での分かりやすい敵を。
校舎として元夜天の魔導書である、スノーレインを触媒としたサモン・フレンズという形を取りました。
ご都合主義だと思われるかもしれません。クリスマスっぽいド甘いお話を期待した方は本当にすみません。

さて、特別編前のお話でも書きましたが、この特別編が本作の区切りです。
しかし、本編は二学期に入ったばかり。特別編までの空白の4か月間があります。
学園祭、キャノンボールファスト、専用機持ちタッグトーナメント、体育祭、修学旅行……原作であったイベントがまだまだ残っています。
それ以外にもここの第一話に出した、期末実技試験もあります。
それぞれの甘いお話も書くつもりです。
ここからは下手な暗躍などは無しに、熱いバトルと甘いイチャイチャをメインとしたお話ばかりになると思いますが来年もお付き合いください。
ただ、思いつくのが試合ばかり。……戦闘描写が大変だあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別編 IFルートのIFルート 

本編が行き詰っていたので咄嗟に思いついたネタを書いてみました。


さて、学園的には臨海学校のメインイベント(生徒的には初日の自由時間がメインイベントだろう)、一日通しての装備のテスト、先輩方曰く『デスレース』の始まりだ。

『デスレース』の所以はこのテスト朝の9時に始まり、日が沈んで夜の8時までほぼノンストップで行われる。全員が休憩するのはお昼ご飯の為の30分ほど。後は分かれた班ごとに休憩を合間合間に取る。大体9時間は動かないといけない。

専用機持ちは機体、というよりその国家事の開発事情によるらしいけど、今年は多いので、その分他の企業から送られてきたものも多いらしく、そっちのもしないといけないから、例年より大変だろうと予測していたのは虚さん。

まあ、管理局の装備のテストをやった事も一応あるし、長時間の休みなし労働も得意ではあるから、そこまで問題も無いだろう。

ちなみに、労働の方は言われたからでなく、自主的にだ。

生き方を切り替える事を選んでから、とりあえず、連絡だけでなのはやフェイト、ユーノやクロノなど魔法関係の友人や知人には連絡をしておいた。その時、リンディ提督に「貴方を連れてきたのは私だったから、『有給を取るように』ってせっつかれたわよ。合計で250日くらいは取ってないもの」と小言を頂いた。

普通の休日すら満足には取ってなかったし、色々迷惑かけて居たんだなあと再認識した。今度、士郎さんと桃子さんにお酒を見繕ってもらおう。お詫びの品として。

 

 

 

 

なんかよく分からないけど、緊急事態が起こったので、装備のテストは中止になった。

専用機持ち―僕、織斑君、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんについさっきISの生みの親篠ノ之束博士に専用機を貰った篠ノ之さん―と先生方のサポートとして生徒会役員の本音と代表候補生の簪は昨日の夕食の場所になった大宴会場に他の教師陣と共に集まり説明を受ける事になった。

纏めると、数時間前ハワイ沖で稼働試験をしていたアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音』が暴走。監視衛星などを駆使して航路を予測、残り一時間ほどでこの付近の海上を通過するらしい。

僕達にはそれの捕獲、もしくは撃墜が命じられた。

……いくつか言いたい事があるんだけど。まず、これを収集するのは在日アメリカ軍だろ。次点は自衛隊。少なくとも学生である僕等のやる事じゃ無い。しかも、日本には被害が無いのに、それをわざわざやらせるなんて意味が分からない。どんだけ、自分のメンツが大事なんだよ。

それと、今の作戦会議。これは必要なのか? やらないといけないのは捕獲か撃墜。時間は一時間も無い。そんな中で悠長に話している暇があるのか甚だ疑問だ。

僕がそんな事を思っている間にも、出撃メンバーやら何やらが決まっていく。

作戦は超高速下での一撃必殺を当てる、一撃離脱。メンバーは……どうやら、織斑君になりそうだ。

ただ、福音は超音速飛行中。織斑君の足になるものが必要だ。

大体のISの最高速度は所謂遷音速、旅客機の飛行速度位の速さで飛行する。音速に少し届かない程度だ。僕達の専用機もそうなっている。

対する福音は現在マッハ2に近い速度で飛行中。単純に倍以上の速度で飛んでいる。この速度差を埋めるのはかなり難しい。

僕はやろうと思えばできるけど、出撃するのは織斑君で、彼は素人だから、無理だろう。

 

「万全を期すためだ、霧島、お前も普通の速度で良い。付いて行け」

「了解」

 

もし、第一陣で出るんだったら確実に断っていた。だって、何の利もないのにケンカ売りに行くなんて、絶対に嫌だし、しかも命の危険もあるんだから、断るに決まってる。たとえなんと言われようとも今の僕は理由がない限り命を賭けるつもりは無い。

後詰を引き受けたのは、ここで断って、何かがあると寝覚めが悪いから。ただそれだけだ。

 

 

 

海岸を出発してすぐ、篠ノ之さんは一気に加速して空域に急行した。なんていうか……浮かれてる? 継戦時間を考えなければ速度をあげられるんだけど、それをやると戦えないから、このままで行くしかない。

僕が現場に到着すると、負傷して意識を失ってる織斑君がいた。……ていうか、篠ノ之さんはまだ福音が健在で何をしてるんだよ!

 

『織斑先生、織斑君が負傷していて、篠ノ之さんも戦意喪失。誰か回収に回してください。福音は僕が引き付けます』

『分かった。残った専用機持ちに出撃させる』

『お願いします』

『この時点で作戦は失敗だ。織斑、篠ノ之両名の退却完了後、頃合いを見て退却しろ』

『了解です。あ、でも倒しちゃっても良いんですよね? では』

 

って、そんな間にも攻撃されそうだし。通信を切って福音に目を向ける。

 

「カートリッジロード。Nバレット、ファイア」

 

誘導弾を今僕が扱えるギリギリの数出して福音の攻撃を迎撃する。

福音の攻撃をしのいだら、そのまま一気に加速して、押し込み二人から福音を引き離す。

 

「さて、僕に付き合ってもらおうかな」

「La……♪」

 

僕の言葉の返事のように甲高いマシンボイスとともに福音が攻撃を開始する。

確かに全範囲攻撃は脅威だ。機体性能だって高い。だけど、

 

「僕の相手じゃないね!」

 

性能だけで勝てるなら魔力の高い僕はあの時、負けはしなかったはずだ。

むしろ、経験の方が大切だと思う。それは、この前山田先生が専用機二機を相手に勝った事で分かる。

さて、暴走している福音には恐らく制作されてからの経験値しかない。このコアは何年も前からあるけど、コアは新しい機体に乗せ換えるときに初期化をしてしまうから、経験値は福音になってからの期間だけという事になる。それは100時間にも満たないと思う。

乗り手の人がいたら話は別だけど、暴走中で性能で力押しするしかできない相手には負ける気がしない。

 

「さって、行きますか!」

 

右手の彩雲を瑞雲に変えて、接近戦に切り替える。

 

『マスター、搭乗者がいるので、早めの決着を』

「これで決めるさ! 叢雲、出力を上げろ!」

『了解!』

 

一気に加速して四方八方から移動しながら切りかかる。

 

「奥義、ライトニング・モーメントってね」

 

一応警戒しつつ、福音の落ちた地点に近付いていく。

 

『マスター、高エネルギー反応! 恐らく、二次移行です!』

「面倒な事になったなあ。叢雲エネルギーは?」

『被弾もなかったですし、7割あります』

「なら、行けるだろ。叢雲、いつでも切り札切れるように頼むよ」

『お任せを』

 

福音は攻撃を再開し、僕はそれを避ける。かなりの広範囲に光弾がばら撒かれるけど、僕はそれをすべて回避して、海が爆ぜるだけ。

二次移行の福音は攻撃性能、機動力が強化されてた。正直、厄介なレベルである。普通なら長期戦は覚悟しないといけない。だけど、一戦やった後という事と帰りの事も考えるとそんな余裕はない。となると、短期決戦で決めたい。矛盾はあるけど戦術的には変わりないから、二次移行分の差を埋めれば行ける。そのために、

 

「叢雲、切り札使うよ」

『了解。コアリンクシステム起動』

 

切り札の発動と共に、機体のあちこちから白銀の粒子が溢れ出す。

これは出雲の切り札であり、ある意味ワンオフアビリティでもあるコアリンクシステム。

僕の魔力を使うことで機体性能そのものを上げることのできる機構。元々かなりの高性能機体である出雲がさらにの性能が上がるから、並みの機体だと一瞬で決着がつく。

ただ、膨大な僕の魔力でも20分程度しか持たないし、そこまで使ったら魔力の使い過ぎで多分気を失うから、実際は15分ほどが限界だと思う。

これで、福音とほぼ互角。その速度を活かし、光弾の雨を最高速でよけながら、懐に潜り込む。

 

「影すら踏ませない! 奥義」

 

その速度のまま福音の胴体に一撃を叩き込む。魔力も込めているから一撃の威力も高い。

 

「シャドウモーメント! 決まったね」

 

自分の持ち技の中から機体の性能から選んだIS戦における近接戦の大技『ライトニングモーメント』と『シャドウモーメント』。どちらも速度を活かした技だけど、連続攻撃の『ライトニングモーメント』と一撃必殺の『シャドウモーメント』と正反対の技になっている。

 

「さて、乗り手の人を助け出して帰りますか」

 

ただ、どうやらこの言葉がフラグだったらしく、

 

『マスター、高魔力反応! 福音の落ちた地点からです!』

『まさか、この前の学年別トーナメントみたいな事!? 乗ってる人を引っ張り出さないと!』

 

一気に近付いて操縦者を拾い上げる。その後すぐ、福音が異形体に飲まれたから、ギリギリだったね。

しかし、この人を抱えながら戦うのは無理だし……

 

『マスター、後ろからISが来ます』

 

ハイパーセンサーで後ろを確認したら凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんの三人が来ていた。

 

「霧島、この前のタッグトーナメントの奴をデカくしたあれ、何よ!?」

「とりあえず、この人の事よろしく」

 

一番近くに来た凰さんに福音の操縦者を渡す。

 

「待って。霧島君だけで相手をするの?」

「それは無茶だ」

 

二人のこの反応が普通だよね。だけど、相手はこの世界の人間だと相手にならない。……それなら、

 

「炎よ、聖なる獣となりて敵を喰らい尽くせ!」

「なによいった……」

「フレイムドラゴン!」

 

詠唱の終わりとともに龍の形となった炎が異形体を喰らう。質量の差で全部とはいかなかったけど、少しは削れたな。

 

「とまあ、ああいうのは僕の管轄だからさ。だから、ここは任せて」

「……詳しい事は後でじっくり聞かせてもらうわよ」

「気が向いたらね」

 

僕の返答に納得いったかどうかはわからないけど、三人は退いてくれた。

 

「さてと、ここから先で暴走させるわけにはいかないよなあ」

 

この先には本音や簪を始めとした無関係な同級生たちが居る。なら、僕は持てるすべてを使って、守り抜こう。それが僕の選択だ。

 

「叢雲、オーバーリミッツで片を付ける」

「マスター、体の負担が大きすぎますし、隙も生まれます。今の状態ではあまりにも危険です」

 

相棒である叢雲の僕の体を慮った忠告。それは嬉しい。だけど魔力的にも長期戦は出来ない。それなら、自分の持ち技の中で一番信頼できる技に賭ける。

 

「んなもん、知ってるけど知った事か。僕がやらないで、誰がやるっていうのさ。僕の魔と剣を以って人々を守る。これが今の僕の選択だ」

「……了解」

「ゴメンね、叢雲。こんな無茶しいのマスターでさ。……カートリッジフルロード。オーバーリミッツ強制解放!」

「Mode Release Over Limit」

 

オーバーリミッツの強制解放で、体が悲鳴を上げる。でも、この程度で!

 

「天光満ところに我はあり」

 

膨大な魔力を感知したのか、暴走体は僕に向けて攻撃を激しくする。隙だらけの僕はそれを受けるしかない。体中が傷だらけになり、そこからかなりの出血。だけど、詠唱だけは止めない。止めるもんか

 

「黄泉の門開くところに汝あり」

 

正直、血の流し過ぎで意識が朦朧とするけど、それを意地と気合で堪える。

 

「出でよ神の雷! ……この勝負、僕の勝ちだ! インディグネイション!」

 

僕の最大級の魔法を発射する。絶対的な自信を持つ切り札。これで、沈んでくれよ!

 

「魔力反応なし。封印を確認」

 

よ……かった……。叢雲の報告を耳にして一安心する僕。やば……安心したら張り詰めてた気が……。

 

「叢雲、後はま…かせ……」

 

最後まで言い終わらず、僕は意識を失った。

 

 




というわけでVS福音戦、八雲の無双をお送りしました。
原作を読んでいて気になっていた「性能的には恐らくダントツの福音がなぜ負けたのか?」というのを自分なりに推察していて生まれたのがこの特別篇でした。
その結果「福音のコアに貯められた経験値は試作段階という事を鑑みて、圧倒的な性能で押しただけ」という事にしました。二次移行前に専用機持ち達の奇襲で撃墜まで行けたのも奇襲を学習していなかったからではと思います。
福音は性能的には恐らく作中最強だと思います。はっきりと軍用機と明記されている唯一の機体なので。
しかし、そんな福音に勝った原作ではその後専用機持ち達は色々な相手に複数人で挑んで勝てていません。
福音とそれ以外の敵の差は何か? と考えたとき暴走しているかどうか、ひいては経験値の差が出てきました。福音は福音にある経験値だけ、それ以外の敵は機体の経験値+操縦者の経験値がありますから。恐らくナターシャが操縦していたら専用機持ち達の圧敗だったでしょう。
さて、このお話では八雲は勝利しています。これは、出雲の長所である機動性が福音と同等近かった事と八雲の膨大な経験値で性能差をひっくり返したという訳です。


ちなみに、セシリアが居なかったのは、一夏と箒を一刻も早く旅館に運ぶためです。決して一夏の体調を心配してではありません。


今後も、本編が思いつかなかったらこのような形で単発ネタを書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス特別編 その3 スペシャルルート 7年越しのメリークリスマス

お久しぶりです。

今年は中々思うように筆が進ま無い時期がずっと続きました。このお話もリハビリとして書きました。

このお話はご都合主義の塊による特別編です。サブタイトルで分かる通り、去年のお話がたたき台になっています。


一人で夜天の魔導書を闇の書にしたナハトヴァールの残滓に向き合っている。コイツと決着を付けるのは僕達じゃないとね。

僕は胸にある待機状態のスノーレインを手に取る。

 

「さて、始めようか。今日という日に相応しい奇跡を! これが僕の紡いできた絆! 我が前に具現せよ、夜天の騎士たちよ! サモン・フレンズ!」

 

特大の魔法陣と共に現れたのは五人の人。四人は丁度7年ぶりに再会する。もう一人は初めて会うけど、誰だか分かる。

 

「久しぶりだね、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。それと初めまして、管制人格さん」

「主はやてよりリインフォースという名を頂いた。そっちで呼んでくれ、霧島八雲」

「分かったよ。良い名前をはやてから貰ったね、リインフォース。あっ、僕は八雲でお願い」

「分かった」

「それで八雲、私達の相手はアレか?」

 

シグナムの目線の先には僕達の因縁の相手。

 

「うん。アレはさ他の誰でもなく僕達で倒さないとね」

「だな。あれは私達でぶっ潰さねえと」

 

気の早いヴィータは既にグラーフアイゼンを構えている。

 

「っと、その前にシャマル」

「分かってるわよ。それじゃ、皆の所に行ってくるから後はよろしくね」

 

そう言ってシャマルはIS学園の海沿いでこっちを見ている皆の回復をしに行ってくれた。シャマル先生の本領はあっちだからな。

 

「それじゃ、こっちも始めようか。ザフィーラ!」

 

スノーレインのガントレットモードを呼び出しながらそう言う。

 

「ああ、行くぞ」

「「鋼の軛!」」

 

巨大な圧縮魔力のスパイクを開戦の合図代わりにナハトヴァールに打ち込み、動きを止める。

 

「八雲、着いて来いよ!」

「OK、ヴィータ。スノーレイン、モードチェンジ! ハンマーモード!」

「「カートリッジロード!」」

 

僕とヴィータの言葉と共にグラーフアイゼンとハンマーモードのスノーレインは巨大化しギガントフォルムになる。

 

「「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」」

「ぶっ潰れやがれぇぇぇぇ!」

 

大質量の最大出力打撃。シンプルだけど強力な一撃はナハトヴァールを分かりやすく破壊した。しかし、再生速度がかなり速い。この部分だけなら多分、7年前並なんじゃないかな。

 

「スノーレイン、モードチェンジ、ボーゲンモード。シグナム!」

「ああ。全力で行くぞ、八雲!」

 

僕達は並んで弓を構え、魔力を溜めていく。攻撃は来るけど、心配はない。皆が止めてくれるから。

……7年の時は長いね。気付いたらシグナムよりも身長が高くなってるよ。

 

「「翔けよ隼! シュツルム・ファルケン!」」

 

音速を超える魔力の塊は着弾と共に強力な爆炎と衝撃波を生み、ナハトヴァールを焼き尽くす。しかし、まだ蘇生するし、コアは見えない。大分破壊したと思うけど。

 

「八雲、私も行こう。ユニゾン・イン!」

 

リインフォースが僕の傍に来てそう言うと、一体化してしまった。海面を見ると僕はリインフォースと同じ銀髪赤目になってる。……これじゃ、僕が銀髪君じゃん。でも、凄く力を感じる。

 

『そして、これが主はやての杖と魔導書だ』

 

そう言って僕の右手には剣十字の杖、左手には夜天の魔導書が現れた。

 

「とりあえず、動きを完全に封じたいね。リインフォース、何か良いのある?」

『それなら、最適な物がある』

 

リインフォースがそう言うと魔導書が勝手にページを進め、あるページで止まった。……なるほどね、文字は読めなくても内容が理解できる。あんまり使った事無かったけど、スノーレインの魔法のストレージ機能と同じ感じだ。というより、スノーレインはこれが元になったんだろう。

 

「『彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!』」

 

詠唱と共に掲げた杖のさらに上に現れた魔法陣を中心に6本、その6本の真ん中に巨大な7本目の光の槍が現れ、発射される。

この技は見た目通りの威力は無い。だけど、『石化の槍』を冠している通り、着弾した部分から石化させていく。見た感じ再生もされていない。これなら!

 

「ユニゾン・アウト。リインフォース、皆、決めてくるよ」

「任せたぞ、八雲」

「うん。行くよ、スノーレイン。シュベルトモード! 叢雲!」

「Mode Release Over Limit」

 

オーバーリミッツ使用と共に僕はナハトヴァールと海面の境目に向かい、

 

「魔神剣・刹牙!」

 

そこから切り裂き続けながら舞い上がっていく。

一太刀一太刀が圧縮魔力を纏った斬撃だから威力は折り紙付。ただでさえ脆い砂岩になっているナハトヴァールの外部を粉々にしていく。

最後に両方の剣で締めの斬撃を出すと、コアが露出した。

 

「これで終わりだ! 真神!」

 

まず、コアに左のスノーレインで切り上げの一撃。それと共に右の叢雲にありったけの魔力を込める。

 

「煉獄刹!」

 

右の叢雲の膨大な圧縮魔力を纏った突きでコアと突き刺す。少ししてから、そのコアに亀裂が入って、粉々に砕け散った。魔力反応もない。

 

「終わったか。……お前も安らかに眠ってくれ」

 

ナハトヴァールが原因で夜天の魔導書は闇の書になった。だけど、ナハトヴァールが悪いわけじゃない。自分の野望の為にナハトヴァールを生み出し夜天の魔導書を闇の書にしてしまったかつての主が悪い。そいつのせいで、皆は終わらない地獄にいたようなものだし。

 

「お疲れ様、八雲君」

 

いつの間にかシャマルが僕の傍に来ていた。

 

「いやー、久しぶりに魔法を使ったから疲れたよ」

「とりあえず、動かないでね。風よ、癒しの恵みを運んで」

 

怪我は無いけど、シャマルの癒しの風は疲労回復と魔力補給が出来るから、非常にありがたい。

 

「無事、決着を付けれたな」

「ありがとね、シグナム。皆も」

 

僕の周りには7年前に分かれた仲間たち。今日という日が起こした奇跡の再会。……だけど、その時間は長くは続かない。

 

「……また、お別れだね」

「ああ」

「僕が言うのもなんだけど、はやてを頼んだよ」

 

その言葉に5人は力強く頷いてくれた。

 

「八雲も達者でな」

「分かってるよ、ザフィーラ」

「あんまり心配させないでね」

「気を付けるよ、シャマル」

「一度でもお前に会えてよかった」

「僕もだよ、リインフォース」

「次に会う時は手合せを頼む」

「楽しみにしてるよ、シグナム」

「はやての分まで幸せにな」

「違うよヴィータ。僕ははやての守護騎士の皆の分まで幸せになるよ」

「そっか……」

 

そう言うとヴィータは後ろを向いて、少しだけ、IS学園の方に飛んでいく。

 

「アリサ! すずか! それに、八雲の事を大切に想ってくれてる奴ら! こいつはさ不器用で無茶しいのバカ野郎だ! だからさ、近くに居れない私達の分まで八雲の事頼むぜ!」

「そんな事、言われなくても分かってるわよ!」

「八雲君の事は私達に任せて!」

 

アリサとすずかがヴィータの言葉にすぐさま答える。……中々に酷くねえ?

 

「ヴィータ、ひょっとして僕の事嫌い?」

「ああ、嫌いだね。はやてや私らをいつも心配させてた八雲なんて大嫌いだよ。だから、心配にならないようにアイツらに頼むんじゃねえか」

 

身から出たさびだった。今までが今までだっただけに言い返せない。

 

「……っと、そろそろ時間切れか」

 

五人の周りには白の光の粒子が。……もう時間か。寂しさはあるけど、悲しさは無い。別れても僕達には確かな絆があるから。

 

「またね、皆!」

「「「「ああ(ええ)!」」」」

「どしたの、リインフォース?」

 

なぜか、リインフォースだけ反応がなかったから、僕は問いかけた。

 

「いや、ナハトヴァールの呪いが解けたからな、八雲に渡さないといけないものがある」

「僕に?」

 

……なんだろ? 皆の力ならスノーレインに宿ってる。絆も僕の心の中にあり続ける。いっぱい貰ってるのにそれ以外にあるの?

 

「すぐに分かるさ。ではな」

 

リインフォースのその言葉を最期に皆は光の粒子として空に還っていった。

その空を見上げてると人影が見えた。あれは! 

僕は一気に高度を上げて受け止める。受け止めた人は僕の予想通りの人。けど、まずは……

 

「何狸寝入りしてんの? はやて」

「やっぱ、気付くか~。八雲君に受け止めて欲しかったんよ」

 

僕の腕の中にいるはやては笑顔を浮かべながらそう答える。

 

「そっか……。お帰り、はやて」

「ただいま、八雲君」

「で、さっきリインフォースが言ってたナハトヴァ―ルの呪いってのは何なんだ?」

「前の暴走で私が取り込まれて、結果的に消滅した時に私の体は仮死状態で八雲君の持ってた夜天の魔導書に封印されてたんよ。まあ、封印を解く方法が分からなかったから、死んだも同然だったんやけど、多分さっきの戦いに出た空間の残留魔力を使って皆が解除してったんやと思うで」

 

「そうなんだ」

 

皆からの最初で最後のプレゼントって訳か。

僕は皆にもう一度チャンスをもらったんだ。ちゃんと気持ちを言葉にしないとね。

 

「……はやて、これから僕と一緒に歩いてくれますか?」

「そんなん、当たり前やん。あの子達のお願いは私が幸せになってくれる事で、それは八雲君の傍やないと手に入らん物やもん」

「もう、君一人だけを愛する事が出来ないけど、それでもいいのか?」

「ええよ。それに、八雲君は守ると決めた大切な人が多い方が良いと私は思うで」

「なんだよそれ?」

「そのままやよ。八雲君は大切な人が多ければ凄く強くなれると思う。けど、無茶しいやから、同じくらい支えてくれる人も沢山居る方がええと思うよ。まあ、そういう人が居る事に気付けてるから大丈夫やと思うけど」

 

……無茶しいに自覚がある分否定できないなあ。けど、僕には帰る場所がある。待ってくれている人達がいる。それが分かったからはやての言った通りもっと強くなれると思う。

 

「沢山の大切な人が居るけれど、今だけは私だけを見て欲しいな」

「……ちょっと待ってて。『アリサ』」

 

とりあえず、念話をアリサに繋ぐ。

 

『何?』

『はやてに7年分の幸せを少しでもあげたいんだ』

『その言い方はズルいわよ……。ちゃんと私達にも埋め合わせしなさいよ!』

『ありがとな、アリサ。説明とかよろしく』

 

それだけ言って、僕ははやてと二人で転移した。

 

 

 

向かった先は海鳴市。何かしたくても、もう夜もそこそこ遅いし、準備も何もしていないから、クリスマスらしい事なんて何も出来ない。

 

「なんか不思議な感じやなあ。自分の足で立って、八雲君の横でこの街を一緒に歩いてるのが」

 

叢雲とスノーレインのバリアジャケット機能の応用で着替えた僕たちは街中をのんびり歩いている。

 

「確かに。……今から何か出来るわけじゃなかったからさ、僕達の生まれ育った街でも見て回ろうかなって思って」

「十分やよ。私は八雲君が傍でいてくれるだけで、十分」

「そっか」

 

特に目的地もなく歩いていたら、海岸に出た。結構暗くて静かだから、普段なら綺麗な星空が見えるんだろうけど、今日はあいにくの曇り空で、ぼんやり月が見える程度。

 

「星は見えへんなあ。少し残念」

「まあ、これから先、いくらでも機会が……」

 

あるさ、と言おうとしたら、空から雪が舞ってきた。確かに冷え込んでいたし、曇り空で予報でも降るかもしれないとは言ってたけど、こんなタイミングよく降るとはねえ。

 

「ひょっとしたら、あの子らがお祝いしてくれてるんかもね」

「だとしたら、憎い演出するねえ」

 

こんなの、一生の思い出に残るよ。絶対。……あっ、そうだ。

 

「はやて」

「ん? 何?」

「メリークリスマス」

「……そういや、言ってなかったね。メリークリスマス」

 

 

 

この後、学園に帰って皆と小さなパーティーを開いた。僕と僕の愛する人達だけの小さいけど、スペシャルなパーティーを。




久し振りなので出来がどうかが分かりませんが、楽しんでいただけたら幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。