I-TYPE (どんぐりあ〜むず、)
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深淵より
第0話 邪神覚醒、”ヲヤスミ、ケダモノ。”前編


どうも、皆さんはじめまして!どんぐりあ〜むず、です‼︎
大学受験が終わったので投稿しようと思います‼︎因みに初投稿の処女作ですので、あらすじ部分にも書きましたように、感想、批評、評価、どしどし送ってもらいたいと思います‼︎ただ、また送れるといいんだがなぁ…。まあ、ともあれ今回は記念すべき第0話をお送りします‼︎それでは、どうぞ‼︎


「我々は久遠の黒い海の只中に浮かぶ、平穏な無知の島に住んでおり、遠くまで旅をすべく、強いられているわけでもなかった。科学はそれぞれの方向に進んでおり、今迄我々に害を為すことはなかった。しかしいつしか、無関係であった知識の統合が、恐ろしい現実の扉を開く。その時の我々の恐ろしい立場といったら、事実を知って気が触れるか、すざましい光から逃れ、新しい暗黒時代の平穏と安心の中に逃げ込むかである。」

➖ハワード・フィリップス・ラヴクラフト ➖

 

 

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私は今、深き闇の奥底へと落ちていた………。

 

それも、暗澹たる漆黒の淵へと……………………。

 

 

 

そんな今の私の気持ちを一言で表すなら、ただ、

 

 

 

 

「……悔しい……。」

 

 

 

 

 

其れだけだ。

 

あの時、あの場所で私は”彼女”とあの忌々しい人間➖確かリュウセイとか言ったが、私からすれば心底どうでもいい事だ➖によって、私はアヤナ➖私の母であり、恋人であり、巫女であり、女王であり、そして私の強くなるための道具➖を引き離された挙句、腕を切り落として反撃してきた”彼女”に倒された。まあ、このことに関しては私が油断していたのが悪かったのだが…。

 

……だが、もうどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は既に死んでしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、せめて…。せめてアヤナを私のモノにしておけば”彼女”を…、”ガメラ”に止めを刺すことが出来たのになあ……。

 

だが、もういい。過ぎてしまったことを考えるのは時間の無駄だ。もう眠ろう。もう何も考えたくない。それに疲れた。キツい。それに此処には私の邪魔をする愚か者も糧に出来そうな奴も道具になりそうな面白そうなヤツもい……………………………ん?

 

 

 

 

 

………何だ、あの琥珀色の空間は…?

 

………何だ、あの肉の塊のようなモノは…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「夏の夕暮れ、

優しく迎えてくれるのは

海鳥達だけなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………26世紀に、その時代の人類が犯した過ちから全てが始まった………。

 

 

 

”ソレ”は、唐突に、我々22世紀の人類の目の前に現れた。”ソレ”は、元を辿れば26世紀の人類が発見してしまった”明らかに敵意を持った外宇宙生命体”との接触に備えて

、その時代の人類が造り出した人造の悪魔➖全てを侵蝕し、取り込み、進化し続け、己以外を敵と見なして全てを喰らい尽くすまで止まらない、最悪にして最凶の、生体物理学や遺伝子工学、果ては一種の魔法である”魔道力学”によって生み出された、惑星級の星系内生態系破壊用兵器➖が正体の、彼らの主たる26世紀の人類を守る為の究極にして最強の矛と盾であった。今はもう時代遅れとなった核兵器はおろか、反応兵器や次元兵器と異なり、空間や地形に被害をもたらすことなく、その範囲内において、全ての生態系や文明に対して最悪の効果-つまりは破壊のことだ-を発揮する局地用大量破壊生体兵器、それこそが”奴ら”だった。

 

”奴ら”は月と同スケールの➖ある情報では月そのものの内部をくり抜いた惑星大の➖フレームの中に入れられ、そのまま専用のバイパスパイルを通じて空間跳躍させ、敵の本拠地に送り付けるところまで漕ぎ着けた。

 

だが、想定外のことはいつ、どんな時でも起こりうるものだ。

 

何故なら、人類が起こした”ほんの些細なミス”➖そう言われているが、詳しいことは不明➖のせいで、その”兵器”はあろうことか太陽系内で発動してしまった。それは150時間➖おおよそ6、7日間ぐらいか➖も暴れ回り、次元消去タイプの兵器を使って、異次元へと吹き飛ばせねばならなかった程だ。だが、それでも、”奴ら”を完全に倒すことはできなかったようだ。

 

 

 

…何故か。それはこともあろうに、”奴ら”が今度は22世紀の我々人類の目の前に現れたのが一番の理由だからだ。最初に確認されたのは2120年。その30年前に探査航海に出ていた異層次元探査艇「フォアランナ」が”奴ら”の切れ端を見つけたのが我々と”奴ら”との戦いの始まりだった。我々22世紀の人類は、”奴ら”のことを”超束積高エネルギー生命体➖通称、バイド➖”と呼んで、以後4度に渡る対バイド一大反攻作戦➖我々は通称、対バイドミッションと呼んでいる➖を行い、波動砲とフォース➖「フォアランナ」が回収した”バイド”の切れ端から造られた、破壊不能な「究極にして最強の矛と盾」➖以外の攻撃は一切効かない”奴ら”との悲惨にして最悪の戦いが第一次対バイドミッションを機に始まる……………………………筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

私は、多くの次元の壁を飛び越えて、バイドの深淵に突入➖そして出来ることならバイドの元となる存在がいる26世紀にまで行くつもりで➖した。その最中に赤い棒と青い棒の二本のうち、私は迷わず青い棒を破壊した。最初はそれが最善の策かと思われた。

 

 

 

 

 

 

だが、それがまさかあのような悲劇を招くとは、夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

私は球状の亜空間内でナメクジかウミウシのようなバイドと戦い、そのバイドを倒した後、一瞬気絶した。そして、目を覚ますと私は地球へと航路を向けて飛んでいた。

 

やっと帰れる。そう思っていた。

 

だが、大気圏直前まで迫った時に、私は”彼女”を思い出した。

 

共に過ごし、共に笑い、共にふざけ合い、共に愛し合い、そして共に戦わざるを得なくなり、最期はバイドになって私によって手を下さざるを得なくなってしまった”彼女”。私は今でも忘れない。特に、彼女の最期の「…ありがとう…。」の一言は。私はもし、もし変えられるのならと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

26世紀へと、飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は、当の私でも無謀だと躊躇った。

だが、それで”彼女”が救えるのなら構わないとバイドの元を破壊する計画を実行し、そして見事に成功させた。もうこれで”彼女”はバイドと戦わずに済む。また共に過ごせる。そして人類は、救われたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この後私は思い知ることとなる。本当の悲劇を。

 

 

 

 

 

 

 

帰って来た時、私は海に映った自分の姿に驚き、絶望した。

何故なら私の姿➖正確には搭乗していたR戦闘機”R-9A アローヘッド”の姿にだが➖がバイドそのものになっていたからだ。

 

私は怒り狂い、同時に悲しみ、絶望した。

 

バイドのいなくなった世界で、バイドになってしまった私。

 

 

バイドを倒しに行って、バイドになる。典型的な「ミイラ取りがミイラになる」だ。最早悲劇としか言いようがなかった。

 

 

それに、私がバイドと言うことは、バイドの元を倒したのも同じバイドということになる。何時ぞやのバイド研究所所長の年頭挨拶宜しく、『バイドをもって、バイドを制し』た訳である。つまりバイドを倒したのは人類ではなく、同じバイドだった訳だ。これを皮肉と言わずして、何と言おうか。

 

 

だから、私は敢えて地球に戻らず、そのまま当ての無い旅に出ることにした。このまま地球に帰れば、人類は再びバイドの猛威に晒されることになってしまうだろう。それだけは避けねばならない事態だった。

 

私は地球を後にした。もう戻ることはない。永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして故郷を探して彷徨う内に、バイドとは異なる謎の艦隊に遭遇した。私の見た限り、それはまるで、海の生き物のような姿をしていた。そう、まさに海の生き物そのものだった。艦の一隻一隻がシーラカンスやヒトデのような生き物にそっくりだった。私は彼らから攻撃を受け、応戦した。だがシーラカンスのような艦を撃沈した時後ろから迫っていた敵機に撃墜されてしまった。信じられなかった。まさか敵が”フォースも、波動砲も無しで”、私を墜とすとは思わなかったのだ。私は疑問を抱いた。どうしてそんなことが出来るのか、と。だが、すぐにそれは無駄なことだと考えるのを諦めた。何故なら、そんなことはもう撃墜されてしまったので確かめようにも術は無いからだ。そのうえ私が最後に覚えているのは、私を撃墜した敵戦闘機が赤と銀の猛禽類のような戦闘機に撃墜されたところだけであったから、余計に考えにくくなってしまったのも理由の一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういう訳で、私は今もこの琥珀色の空間に漂っている。私は疲れていた。もうやめよう。ああ、楽だ、楽だ、この琥珀色の空間こそが私の捜し求めていた”故郷”なのだと。このまま流れに身を任せるのが一番だと。

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

目の前が突然真っ暗な空間に変わり、眼前に禍々しくも美しい、明らかにバイドでも、あの謎の艦隊でも、赤と銀の鷹のような戦闘機でもない、誰もが一度見れば二度と忘れることのない美しさを持つ”あの”巨獣が現れるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////

 

 

 

 

 

 

私は、目の前に現れた人間達の使っていた機械と、肉塊がごちゃ混ぜにしたようなものに困惑した。

 

一体なんだこれは。どこから来たというのだ。触っても大丈夫なのだろうか。見たところ、生きているようだが。それに見た目もかなり酷い。恐らく、私が見てきたもの➖ガメラや同族に喰い殺されたギャオスや、私達に殺された人間達の屍体➖よりも酷いだろう。

 

そこで私は、敵意がないことを示すためにこの物体に声を掛けることにした。私は努めて、

 

「こんにちは、あなたは誰?どこから来たのかしら?」

 

 

と訊いた。

 

相手は暫しの間無言だったが、質問されたことに気がつくと、片言で途切れ途切れの言葉を発した。

 

「オマ エコ ソ ダレ ナン ダ ミタ トコ ロオ マエ ハニ ン ゲン デハ ナイ ヨウ ダガ」

「そうよ、あんな奴らと一緒にしないでくれる?と言うか、質問をしたのはこっちなんだけど。質問を質問で返さないでくれるかしら。」

「アア ソウ ダツ タナ ダガ ワタ シニ モウ ナノ レル ナナ ナド ナイ アル トス レバ バイ ドト イウ ナダ ケダ」

「バイド?それに名乗れる名前がないってどういうこと?」

 

ここまで来て私は苛立ちを感じ始めた。それは片言で途切れ途切れな喋り方はおろか、重要なことをまだ何一つ語ろうとしないということに対してだった。

私は思わず、少し声を荒げた。

 

「いい加減話してくれないかしら。バイドって何?名前がないって何なの?勿体ぶってないで、さっさと包み隠さず全て話しなさい。私も待っていられる程寛容ではないのよ。」

私はテンタクランサーをその物体➖バイド➖の目の前にちらつかせた。

「マア マテ オチ ツケ サイ シヨ ニハ ナサ ナカ ツタ ワタ シガ ワル イガ モノ ゴト ニハ スベ テジ ユン ジヨ トイ ウモ ノガ アル ドウ カキ イテ クレ ナイ カ?」

 

それを聞いて、私は一瞬迷ったが、渋々、承諾することにした。

 

「ええ、良いわよ。貴方が話してくれたら、私も貴方の知りたいことを教えてあげる。」

 

それを聞いたバイドも、満足したようだ。体中に生えた触手が、犬の尻尾のような動きをしている。

 

「オン ニ キル デハ ワタ シカ ラ」

 

そして私は、彼から多くの情報を入手することに成功した。元は人間だったこと、恋人のこと、バイドのこと、果ては、R戦闘機や波動砲、破壊不能の”フォース”という武器に自分がどうやって死んだかに至るまで…。

 

私も彼に約束通り自分の身の上話を➖多少、脚色してはいるが➖してやった。ガメラのこと、ギャオスのこと、私のいた世界のこと、アヤナのこと、どうやって私やガメラ達が生まれ、そして何の為に存在するのかということも…。

 

「ナル ホド ナン トナ クダ ガ タシ カニ オマ エト オマ エノ ナカ マタ チハ バイ ドト ヨク ニテ イル ダガ チガ ウト コロ モア ルヨ ウダ トク ニ サイ シヨ カラ ジン ルイ ヲホ ロボ スタ メニ ツク ラレ タト イウ ノハ」

「ええ、私も貴方の世界のことを聞いて驚いたわ。だけど…、興味も湧いた。」

 

ここから私は、素の自分に戻して話すことにした。もうここまで聞けば用済みだし、今は何より、そのバイドの力とやらは私にとっては魅力的に思え、それを何としてでも手に入れたいという気持ちが強かった。少なくともこの力さえあれば、ガメラ如きに負けはしないだろう。それにアヤナとは比べ物にならないくらいの力が手に入れられる筈…。

 

「…バイド、少し相談がある。」

 

バイドは少し戸惑っているように見えた。無理もないだろう。突然私が人が変わったように話しだしたのだから。

 

「…ドウ シタ ヤブ カラ ボウ ニ ヒト カワ ツタ ミタ イニ ソレ ソウ ダン トハ?」

 

私は、本音を伝えることにした。隠していたって仕方がない。拒むかもしれないが、別にどうだっていい。私に会ったお前が悪いのだから。それにこの力ならこの場所から抜け出せるかもしれない。私は迷わず、相手のことも構わずに言った。

 

 

 

 

 

 

 

「私の糧にならないか?バイドよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

…今宵、邪神は復活する。

”ケダモノ”の力を持つ、全てを支配する者として…。




なんかIS要素無いですね。なんかすいません。次回も多分IS要素薄いと思いますが、入れられれば何とかしたいと思います。と、いうわけで、暖かい目でも、生温かい目でも、我儘は言いませんので、これからもよろしくお願いします‼︎では、また次の機会に。See you again!!


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第0.5話 邪神覚醒、”ヲヤスミ、ケダモノ”。後編

どうも皆様おはこんばんにちは‼︎どんぐりあ〜むず、です‼︎にしても今回は内容がめっっっちゃ長い上に、途中かなり読みにくい箇所があります‼︎演出上の理由で仕方がないとはいえ、ホントにすいません‼︎待ち侘びた皆様には顔向けもできません‼︎なので、後日感想欄などやメーセッジ等において読み方に関する質問を受け付けたいと思います‼︎なんで後日だって?だって、今回の話で軽く燃え尽きちゃいましたもん。ですが、皆様の感想、批評、評価、質問だけはお待ちしております‼︎それでは、どうぞ‼︎


「バイドとは、

人類が生み出した悪夢。

覚めることのない悪夢。

…バイドとは…」

 

 

 

 

///////////////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は困惑していた。それはそうだ、いきなり口調を変えて何を言い出すのかと思えば、「私の糧となれ」などと言い出したのだ。どう返したらいいのか分かる奴なぞ、殆ど居ないだろう。

 

 

 

気をとりなおして、私は”彼女”➖もちろん、目の前のイリスのことだ。奴を彼女と言ったのは、先程までの口調と声色が女性だったから、恐らく雌であろうと考えたからだ➖に、慎重に考えてから、こう訊いた。

 

「イツ テイ ルコ トガ ワカ ラナ イナ ツマ リ オマ

エハ ワタ シノ バイ ドノ チカ ラヲ ホツ シテ

イル ノダ ナ」

「ああ、そうだ。言っていることが理解できないのか?貴様、どうやら外見の割に結構頭が硬いようだな。」

 

それを聞いて、思わず私は少しムッとした。確かに私は融通の利かない奴だが、そこまで言われる必要はないと思うぞ……………恐らく、だが。

 

 

「ジヤ ア アラ タメ テキ クガ オマ エハ ワタ シカ

ラ バイ ドノ チカ ラヲ テニ イレ タト キ オマ

エハ ソレ デ ナニ ヲス ル」

 

私はそのことが一番気になった。確かにバイドの力は強大だ。それも、誰もが一度は手に入れたがる程に。そういえば、人間であった時に聞いた噂の中に”地球連合”に対して反乱を起こした”グランゼーラ革命軍”➖反乱を起こした理由は、危険とされる非破壊武装”フォース”やその他のバイド関連兵器の破棄とバイドの”平和利用”を求めたところ、虚仮にされたことらしい。馬鹿馬鹿しいことこの上ない➖の上層部が”バイドバインドシステム➖通称”BBS”➖なるものをかつてTEAM R-TYPEに所属していた科学者と共に共同開発していたと言うのを聞いたことがある。まさか、イリスまでもグランゼーラのようにバイドの力に魅せられてしまったのではないかと考えた。

 

だが、彼女の答えは予想の割に狂っていて、そして……、

 

意外にまともだった。

 

 

 

///////////////////

 

 

 

私は目の前の肉塊➖バイド➖の飲み込みの悪さに対して苛ついていた。

 

それにそんな質問にも答えろと言うのか。本当に、バイドと言い、人間と言い、本当に理解し難い存在だ。

 

 

 

 

 

だが、だからこそ私は、彼女に…、アヤナに惹かれていったのかもしれない。

 

確かに、今のバイドの話を聞いて私の中のアヤナの利用価値は無くなった。そして、それ以前にも彼処で始末出来る筈だったガメラに怖じ気付いて➖或いは、たかがガメラと小五月蝿い屑の人間どもの説得ごときに➖逃げ出した彼女に対する不信感と残念さに失望し、そして恨んでいた。だが、不思議なことにアヤナのことを「必要でない」と思うと、何故か”心”の中で「それでいいのか?お前はもう、アヤナのくれた”愛”をゴミをドブ川に捨てるように諦めるのか?」と言う声が聞こえてくる。

 

私は何度かその声を振り払おうとした。だが、声は以前にも増して、酷くなっていった。何度何度無視しても収まらないこの声に対して、私は叫んだ。何故私に語りかける。何故そんなにアヤナに固執する。あんな臆病者の弱者なぞ、切って捨てしまえ。そもそも彼女は、私の期待どころか、私自身を裏切ったのだぞ。そして”愛”とは一体何のことだ、そんなものを思う気持ち、人造の邪神たる私が持ち合わせている訳がないだろう、と。だが、声はそんな私の叫びを無視して私の心の中で私の叫びよりも声高々に叫んだ。やがて、そこまで声に苦しまされた私は理解した。この声の正体を。

 

 

無意識だ。本当の私であり、ガメラと私達➖勿論ガメラもだ➖の力の源である大自然のエネルギー”マナ”の祝福を受けた私の無意識が、アヤナを求めていたのだ。

 

確かに、私が生まれた時、そこにいたアヤナ➖そして私とアヤナが、始めて出会った瞬間でもある➖をギャオスの本能に従って始末せずに、心を通じ合わせてみようとしたことはあった。だが、あれは飽くまで、彼女を取り込んで”誰もが恐れ、敬い、震え上がる完全なる孤高の存在にして新世界を統べる王”となるためにしただけのことだ➖結構姑息な手を使ったが、その頃の私はまだ幼かったから致し方の無いことだ➖。

 

だが、この湧き上がる不思議な”感情”➖少し前から私は感情と言う存在を知ったからこう言った➖…、私もアヤナと同じになったのだと思うと同時に、逆にまた弱くなってしまったのだろうなとも思った。だが、それによって、私は愛というものの本質を理解出来た気がした。そしてそれによって分かったことがいくつかある。

 

 

 

…それは私がアヤナを道具とでしか見ていなかったから。そして私がガメラに負けたのは、私が本気でアヤナと”愛し合おう”といなかったからではないのかと…。

 

 

 

だから、私は考えた。真なる融合、或いは全てを支配し、ガメラに打ち勝つためには”愛”が必要なのだと➖それも、万人のための愛ではなく、個人に対する深い(真なる)愛のことだ➖。”真なる”愛と力の両立させた者こそが、真の強者であり、世界を支配することを許された唯一の存在なのだと。この力さえあれば、恐らくガメラであっても勝てはしないだろう。

 

「そうだな。もし私が…、もし私がこの力を手に入れたとしたら…、」

 

私は先程まで、自分はもう死んだのだから眠ってしまいたいと、放っておいて欲しいとまで思っていた。だが、今は違う。死んでしまったから何だ。チャンスがあるのにそれをものにしないのはもったいない。それに今ならこの暗闇から脱出()られる。何と無くだが、そんな気がした。

 

 

 

 

だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、滅びへ向かっていた、最早虫の息だった私の世界を、この力を使って楽にする。そして全く新しい世界を創り上げる。アヤナのような、私を愛する者達だけが暮らし、誰もが愛を受け合い、誰も悲しむ者がいない、平和な世界をな。」

 

 

もう止まらない。もう、誰にも私を止めることはできない。もう、覚悟を決めたのだから。全ての覇者となるという覚悟を。

 

 

 

///////////////////

 

最初私は、あまり理解が出来なかった。確かに”彼女”がいた世界は、大自然のエネルギー”マナ”が尽きたせいで➖彼女が仲間のギャオスから聞いた話では、その直前に地球に飛来した人間達が”レギオン”と呼んでいた怪物がやって来たらしい。その強さは尋常ではなかったらしく、流石のガメラも全ての”マナ”を使った渾身の一撃でしか倒せなかったほどらしい。➖地球のパワーバランスが崩れ、放っておいても滅んでしまう運命だったらしい。だが、だからと言って、

 

「ウン メイ ニ アラ ガウ コト グラ イ デキ ルダ

ロウ ジツ サイ サイ ゴマ デ アラ ガツ テイ ルヤ

ツガ イタ ダロ ウ…」

「彼女は最初から最後まで諦めが悪かった。少なくとも私が思うに、もうあの世界は手遅れだった。無駄な足掻きだったのだよ。だったら、そんな見苦しいものを見るより、さっさと終わらせて新しく創り上げてしまった方が楽だ。バイドに汚染したらもう手遅れ、ならいっそ全てバイドした方がマシなのと同じことだ、そうだろう?」

「タシ カニ ソウ カモ シレ ナイ ガ…」

「?何か不安でも?お前だって私の立場なら同じことをすると思うぞ。何と言ってもお前は、恋人を救うために未来を変えて、バチが当たったようにバイドになったのだからな」

「 アレ ハ シカ タガ ナカ ツタ ノダ ソレ ニ オマ エト イツ シヨ に「此処に居たのですね…」…ン…、ナン ダ コノ コエ ハ…」

私達は会話を中断して、その時突然割り込んで来た声の元を探して辺りを見回した。

 

すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

イリスと同じくらいの美しさを持った、蛾を見つけたのだ。

 

 

 

「…誰だ、貴様は…?」

 

イリスが、警戒しつつ、その蛾に訊いた。すると、その蛾は、親切に自己紹介してくれた。

 

「私はフェアリー。地球の守護神”モスラ”の使者です。」

 

私とイリスは、二人して頭をひねった。確か地球の守護神は亀のような姿の(・・・・・・・)ガメラだけだった筈だ。少なくとも、こんな蛾の妖精のような存在は知らない。そしてそもそも、”モスラ”とは何だ?

 

「お二方はどうやら驚かれているようですね。まあ、無理もありません。私や”モスラ”は貴方がたとは違う世界の存在です。知らないのも無理はないでしょう。」

フェアリーは続けた。この世界、この宇宙は多元であり、無限の可能性、無限の次元が存在する。だから、私達のような存在も居るのだと。貴方がたが知らないのも無理はないと言ったのは、そのためだと。

 

「じゃあ、フェアリー。お前は何のために私達の元へ現れた。まさか、そんな話をするために此処へ来た訳ではないだろう?」

 

その疑問はもっともだと思った。そもそも、私達とは何の縁も所縁もない筈の彼女(フェアリー)が何故我々の元へやって来たのか。

 

「はい、実は…、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お二方に、助力を請いたいのです。ある世界を救うために。」

 

 

 

 

 

///////////////////

 

私達はポカンとした。世界を救って欲しい?奴➖バイド➖は兎も角、邪神たるこの”私”まで?

 

「おい、お前、確か”フェアリー”とか言ったが…、誰に向かって助けて欲しいと言ったか、分かっているのか?私は…」

「分かっています。ですが、状況は一刻を争うのです。先程話した多元宇宙のうちの一つに存在する”レイブラッド星人”と名乗る者が多元宇宙制覇のために様々な勢力と徒党を組んで、手始めにこの世界を侵略し始めたのです。」

 

フェアリーがそう言うと、突然先程まで暗闇だった空間が打って変わり、まるで戦場のような光景に変わった。

 

そこでは、露出度の高い、鎧のようなもの➖バイド風に言えば、”パワードスーツ”のようなもの➖を纏った人間の雌達が、頭の無い、奇妙な青い巨人に連れられた魚のような戦艦と見たことも無いような、金ピカの、神々しい出で立ちの三つ首の龍や、先程の魚の戦艦の連れていた小さな乗り物などに立ち向かっては千切られては投げられ、千切られては投げられていた。そして傍らのバイドはその奥にいた、不気味な長頭の、腹が別の生き物に食い破られているのに平気でいる生き物を見て、驚いていた。

 

「オイ オク ノヤ ツハ マサ カ」

「ええ、そうです。貴方がよく知るバイド、”ドプケラドプス”です。」

 

フェアリーは言った。レイブラッド星人は、惑星ダライアスのある銀河にて、”ベルサー”という勢力と結託し、バイドを何らかの方法を用いて使役して、宇宙を再び支配しようとしていると➖因みに、この映像は未来の戦場での様子らしい➖。また、バイドばかりか、この三つ首の金ピカの龍➖普段は人間の雌の姿を取っているのだと言う。何のためにそんなことをするのかと言うと、人間達を内側から攻撃するためと、目立たないようにするためなんだとか➖のような宇宙怪獣迄も雇い入れているらしい。

「ジヤ ア コノ レン チユ ウハ バイ ドマ デモ ミカ タニ ヒキ イレ タト イウ ノカ ナラ ワタ シガ オト サレ タノ モナ ツト クガ イク バイ ドニ セツ スル ニハ アル テイ ドノ タイ バイ ドへ イソ ウガ ヒツ ヨウ ダカ ラナ ダト シタ ラ ワタ シノ ギセ イハ イツ タイ …、グゥお…!」

「⁉︎おい、どうした‼︎」

「ワカ…、らな イ ダガ、おソ ラク 先程受けた キズ ガ イマ ごろになって イタ ンデ 来た ノダ…、ロウ」

「痛むどころの騒ぎではないぞ‼︎何故今迄黙っていたのだ⁉︎兎に角見せろ!どこが痛む‼︎」

 

私はバイドに近づいて、嫌がる奴の傷をフェアリーと共に探したが、見つけたところで手遅れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら、機械の心臓部”ザイオング慣性制御システム”を深く抉っていたのだから。

 

「この傷ではもう助かりませんね。このさい致し方のないことでしょう。せめて、最後くらいは…」

「何故だ⁉︎助けられるかもしれな「モウ、イい イリす…、」え…?」

 

私はバイドを見た。その表情は分からなかったが、アヤナが私を慰めてくれた時と同じくらい優しい声で言ったからだ。

 

「私も、デキ レば 一緒に戦 イタ イ ダガ…、それは モウ 無理 ラシ イ…」

 

そして決意を固めたように私を真っ直ぐ見た。そして今でも忘れない。あの時、あの場所で、”奴”が見せた、私に託した、この力と、思いを…。

 

「ワタ しの…、バイド の チカ ら 受け取 ツテ くれ

ルカ…?」

 

 

 

私は一瞬、間を置いて訊いた。

 

 

「…いいのか?私は邪神だぞ?世界を滅ぼすかもしれないのだぞ?」

 

だが、バイドはこう返した。

 

「確かに、オマ エ、は 人類…、ヲ滅ぼす タメ ニウ まれた。ダガ 少なく トモ お前ナラ…、今のオマ エナ らば、 この力を…、 バイドの力を使…、わせてもいい ト 思ったのだ… ソレに…、オマ エニ 使わせようと オモ ツタ ノハ 今のオマ エナ…、らば信用、デキ ルト、ナン…、となく、ソウ 思ったからだ。オマ えは…、ヤヤ ゴウ…インデ イツ ケン すると ツカ イカ タ を マチ ガエ、ソウ ナ 奴に見える… ダが、私はお前…ヲ信用 スル ことニしようと オモ ウ 私 も デキ レば もう 一度 戦い タイ がもう 私には…、ノコ され タ 時間が ナイ。ダカ ラ ワタ シノ 代わりに 二度と 私 ノヨウ ナ モノ ガ、出て来ない…、ヨウに してくれ。後は、オマ エノ 好き ナヨウ ニシても カマ わない。ヤク ソク出来 ルカ?」

 

私は瀕死のバイドの➖ただでさえ聞き取り辛いのにそのせいで余計聞き辛くなっている➖、聞き取り辛い言葉の一つ一つを注意深く聞いた。

 

 

 

つまり、

 

 

 

 

『確かに、お前は人類を滅ぼす為に生まれた。だが少なくともお前なら、今のお前ならば、この力を…、バイドの力を使わせてもいいと思ったのだ。それに、お前に使わせようと思ったのは、今のお前ならば信用出来ると何と無く、そう思ったからだ。お前はやや強引で、一見使い方を間違えそうな奴に見える。だが、私はお前を信用することにしようと思う。私も出来ればもう一度戦いたいが、私には、もう残された時間がない。だから私の代わりに二度と私のような者が出て来ないようにしてくれ。後は、何をしても構わない。約束出来るか?」

 

 

と、言っているらしい。

 

 

私としては、こんな話、願ってやまない美味しい話なのだが、

 

「じゃあ、何故私を信用しようというきになったのだ?何と言っても、世界は違えど、私達は敵同士だからな。」

「お前…、ノ、ハナ、シ、は…、タシ かに クル ッ…て、イル だが その イキ 込み ト リソウ ハ 対し タ モのだ。ダカ…ラ オマ…エナ ら 何トか 上手く デキ ルト…、オモ…、グゥワァァァ⁉︎」

「⁈おい、もうやめろ‼︎これ以上喋るな‼︎お前死んでしまうぞ‼︎」

「それ…デモ…構わ、ワナ、い…。ドウ…せ、ワタ…し…ハもう…、助か、ラナイ だから、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハヤク、早く、私を……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かった。」

そう言って、私は腹部の”ジーン・スナッチャー”を展開する準備を始めた。

「⁉︎よろしいのですが?」

すかさず、フェアリーが訊いてきた。それはそうだ。今から私がバイドに為そうとしていることは、ある意味殺してしまうことと同義だ。だが、だからこそ、

 

「今奴にとって最も辛いのは、死の恐怖よりも苦しむことと自分が無力のままだと思って死ぬことだ。だったら、何も成さずに苦しんで死ぬよりも、此方の方が楽だ。だから、私は…、敢えて…、敢えて、この道を…、選ぶ…。」

 

そして、私が言い終わらないうちに、

 

 

 

 

 

 

 

 

”ジーン・スナッチャー”が展開して、バイドを、極めてゆっくりと、取り込んだ。

 

 

 

 

それは、あまりにも、虚しく、少しばかり悲しく、呆気なく、あっと言う間の出来事だった。

 

 

 

 

「…終わったのですか?」

 

フェアリーが恐る恐る、訊いてきた。

 

「…ああ。可哀想なことをしたが、致し方のないことだろう。だから、せめて安らかに眠っておいて欲しいところだが。」

「そうですか…。…残念です。」

 

身体から何かしらの拒否反応が出ていないかを確認しながら、私はフェアリーにそう返した。確かにパッと見ではこれといった変化は見受けられない。だが私は、自分の中で力が溢れてくるのを感じ取った。これからは、奴の思いも受け取って大事に使わねばな、と思いながらフェアリーに向き直ろうとして、

 

 

 

『…勝手に私を殺すのだけは止めて欲しいな。』

 

 

 

…そんな声が響いて、私はそれまでの動作を一旦中断して、あまりの衝撃に固まった。

 

「…⁉︎まさか、お前は…、バイドか⁈何故だ、何故生きている⁉︎あんな、死に急ぐような体だった筈なの…、待て。まさか、私のマナのせいか?私のマナが、お前を生き長らえさせたのか?」

『詳しいことは分からんが、恐らくそうだろう。だが、それによって私は生かされているに過ぎない。だから、一旦私がお前の中から出てしまったら、即死だろうな。だが、まあこんな私でも、アドバイスとお前にバイドの力を使わせるぐらいなら出来るかもしれないが。』

「確かにな。その方が尤もかもしれん。しかし…、意外だな。」

『?ん、何がだ?』

「いや、お前のことだ。私はてっきり、雄だとばかり思っていたのだが…。」

『ああ、そっちのことか。まあ、言わなかったから無理もないか。だが、教訓風に言うなれば”先入観は持たない方がいい”だな。私の力を使うのは構わないが、あまりそういうことだけはしてくれるなよ。』

「フン、分かっている。そのためにお前と約束したんじゃないか。」

 

「あの、すみません。話が見えませんがつまり、バイドさんは生きていた、ということなんですね?」

 

ちょうどいいタイミングで、フェアリーが尋ねてきた。恐らく、自分だけ仲間外れにされたいるのではと思い込んだんだろうと思ったが、別に気にしてないようだった。

 

「まあ、そうなるな。因みに、今の会話の内容は分かるか。」

 

そう訊いて、バイドの声がフェアリーにも聞こえたか確かめた。答えは「いいえ、全く分かりません。」だった。

 

それを聞いて私は、ふむ、と顎に手を当てるような動作をして、バイドとの会話を聞かれないようにするためには物陰にて小声で会話をする必要があるな、と考えた。

 

「では、お二人は私達と共に戦ってくれるのですね?」

 

そこまで考えてから、フェアリーが訊いてきた。私は顔を上げて、首を縦に振って、戦う意思を伝えた➖フェアリーは「バイドさんはどう言われていますか?」とも訊いてきたが、バイドもまた、私と同意見だった➖。

 

 

「どうやら満場一致のようですね。では、お二方は”準備”をして下さい。」

「準備?一体何のことだ?」

「”転生”です。お二方…もといイリスさん。並行世界や宇宙には全て”理の力”というものが働いています。唯この力はあまりにも大きな負荷➖つまり度を越したような力のことですね➖を与え続けると、この”理の力”そのものが耐えきれなくなって、最悪世界や宇宙が崩壊してしまう恐れがあるのです。なので通常は、ある程度の制約を設けなければならないのです。…特に、貴女や、貴女の中にいる”彼女”には…、ね。それに現地でその姿はあまりにも目立ちますから、その辺りの調整も必要なんです。」

「つまり私達には今とは別の姿になって欲しいということだな。だが、その制約とやらは逆にデメリットになりはしまいか?それにどんな姿になるのか、少々不安なのだが。」

「あ、それについては多分大丈夫だと思います。短時間なら、”理の力”もそこまでの影響は受けないみたいですし、転生する種族は”最良の”人間ですから。唯、結構脆いのが玉に瑕ですけど。」

 

それについて私は何かしらのデメリットがないか考え合わせた。確かに人間は➖それこそ指で潰せてしまいそうな程に➖脆い。だが他の種族でも特別目立った特徴はないし、何より潜伏するには適している。また、私が彼らと関わってゆくことによって、アヤナの人間に対する憎しみ以外の部分を覗いてみたい気がしたのだ。私はあの時、アヤナの仲間たちを沢山殺した。だが、アヤナに説得していた人間の雌が自分達の可能性のためにガメラを殺さないで欲しいと言っていたのと、ガメラが己の命を懸けてまで、(地球)と共に守り抜いた彼らに、果たしてそれだけの資格があるのか知りたくなった。たったそれだけのことが、おもな理由であった。

 

「成る程な。じゃあ、早く済ませてくれ。少しばかり、楽しみになってきた。お前はどう思う。バイド?」

『私としては、賛成だな。人間なら、ある程度の情報収集がしやすい。それに私は元”人間”だからな、少なくとも今のお前が羨ましい…。後悪い奴もいるとはいえ、優しい奴も結構いるから、一応オススメだな。』

「フッ、そうか。じゃあこれからもよろしく頼むぞ、”相棒”。」

『そっちこそな。』

 

その会話が、ここでの最後のものだった。私はフェアリーに準備完了の合図をすると、目を閉じて➖そんなものは私にはないが、一応気分として➖待った。そして、

 

「では、出発いたしましょう‼︎他の皆様が待っていらっしゃる”インフィニット・ストラトス”が存在する世界へ…‼︎」

 

 

 

 

///////////////////

 

 

 

 

今に至る訳である。最初、私もバイドもいい家庭で生まれることが出来たなと思ったが、フェアリーによれば、決してそうではなく、あと残っていたのがこの人物しかいなかったのと、私の家族の内の一人➖主に私の姉のことだ➖の監視➖と言っても、ある程度の期間だけらしい➖をするために選んだとのことだった。バイド…もとい”マオ”➖人間であった頃の彼女の名前で、バイドが敵の中にいるので区別のために呼んで欲しいという彼女の提案で、こう呼んでいる➖も、重要人物だというなら仕方がない、ならば我々に任せろと言っていた➖因みに私も同意見だったので、満場一致でフェアリーも満足していた。まあ、私が言ったような形となってしまったが➖。

 

 

 

 

勿論、私も怪獣であった頃の名前はもう無い。(きた)るべき時に備えて、元の名前は封印しておいて欲しいとのフェアリーからの意見によるものからだ➖そればかりでなく、名前によって弱点が露呈してしまうのを防ぐためでもあるらしい。私としては、アヤナが付けてくれた”イリス”という名がとても気に入っていたのだが、残念でならない。唯幸いだったのは、此方に来る前にフェアリーに危機が去ればなにをしてもいいのだなと訊いたところ、理の力に負荷が掛からない程度なら、なにをしても構わないと言ってくれたことだった➖。だが、この名前も、決して悪い訳ではない。寧ろ、このような分かりやすいような名前の方が、これから私が創り上げてゆく新しい世界の存在達に覚えられるからだ。そう、今の私は…、今の私の名前は…、

 

 

 

 

 

 

 

……”篠ノ之箒”である…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやーーーーーーーーー長っ‼︎長いっすよ、今回の話。読んでて飽きませんでしたか?別に重要なとこだけ読んで後飛ばしちゃっても良いですよ?で。まあ、言った通り、今回で少しばかり燃え尽きてしまいました。明日から石屋でローソン作るアルバイトしなきゃいけないってんで、急いだ結果ですけど、なんか可笑しいと思ったところがあったら、遠慮なく言って下さい。まぢで。まあ、そんな訳で、本来後書き等で予定していた瀕死のバイドの台詞の訳は後日投稿予定の”解説・設定等資料”の上書きや後書きなんかでしたいと思います。ホントにご迷惑をお掛けして、申し訳ございません。これからはなるべくこんなことにならないようにしたいと思います…多分。

では、最後まで読んでくれた方も、途中で飽きちゃった人も、今回はありがとうございました‼︎では、また、次の機会に。


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必読:作者によるR-TYPE作品解説・考察及び本作第0話〜第0.5話までの登場人物紹介・設定報告書

久しぶりに投稿します、どんぐりあ〜むず、です。実は皆さんが読む前にお詫びしなければならないことがありまして…、実は…、

前言ってたバイドの訳が時間がかかるのでやらないことにしてしまったんです‼︎‼︎

ホントすいません‼︎ウソついてゴメンなさい‼︎幾ら時間が取れなかったとはいえそりゃねえだろとか言わないでください‼︎まぢですいません‼︎今度から出来ないことはなるべく予告しないようにしますから‼︎

まあ、でも。質問でなら出来るかもしれません。すいません、なるべく皆さんの期待に応えていくようにします。今度から。

さて、今回は報告書風にした解説集です。え、なんで本編やらないんだって?だって、R-TYPE知らない人多過ぎですもん。それにまだこの先の展開どうするか決めてませんもん。ですけど、今回は”必読”です。なので、R-TYPEや特撮やIS知ってる方も知らない方も、今回は絶対目を通して下さい。頼みますから。と、いう訳で、解説集、始まっりまーす。

2016.11.7. 8:48加筆修正。


※作者によるR-TYPE作品解説・考察及び本作第0話〜第0.5話までの登場人物紹介・設定資料報告書

 

 

 

 

◉はじめに

 

今回は、本作の設定・解説、及び原作作品等の概要・設定などを行ってゆくこととする。尚資料については、フリー百科事典”ウィキペディア”及び”ピクシブ百科事典”の他に現在閉鎖中のR-TYPE公式サイト、ダライアスシリーズ公式サイト、講談社刊行(2005年当時)の”全ゴジラ大全”やポプラ社刊行(1999年当時)の”映画怪獣大百科”やYoutubeの実況動画や2ちゃんねる系サイトの掲示板等による。よって、やや情報が古かったり、足りない部分が出てきたり、間違えている箇所が出てくる可能性があるがご了承されたい。尚今回はR-TYPEシリーズと現時点での本作登場人物の紹介・解説を行ってゆくこととする。

 

 

 

 

◉「R-TYPE」とは…

 

そもそもの「R-TYPEシリーズ」とは、1987年に「スペランカーシリーズ」や「絶対絶命都市シリーズ」で有名な株式会社アイレム(現:アピエス)が発表した横スクロール型シューティングゲームのタイトルである。尚、当作品は同時期のコナミとタイトーの横スクロール型STGタイトル(それぞれ「グラディウスシリーズ」と「ダライアスシリーズ」)と並んで、”1980年代の横スクロール型STGの御三家”と称されている。機械や生物が混ざったような敵キャラクターの数々や終末的世界観、例え人道を外れてしまおうとバイドを殲滅せんとする22世紀の人類の死に物狂いの戦いに自機のR戦闘機の設定・操作システム(某宇宙戦艦大和の切り札たる波動砲を”溜め撃ちとはいえ”バカスカ撃ちまくる、敵弾を無効化させるだけでなく、攻撃にも使える”どんな方法を用いても破壊できない”琥珀色の球体兵器フォースなど)などで大ヒットを記録し、当時財政難に陥っていたアイレム当社を立て直した立役者でもある。以下は、これまでに登場したR-TYPE関連事項の説明とシリーズ作品一覧となる。

 

◉シリーズ一覧及び時系列順…

 

・R-TYPE(一作目、1987年7月発表)

・R-TYPEⅡ(二作目、1989年2月発表)

・R-TYPEⅢ(三作目、1993年12月発表。旧アイレムが最

後に発表したR-TYPEシリーズ)

・R-TYPEΔ(四作目、1998年11月発表。アイレムソフトウェアエンジニアリングからの発売)

・R-TYPE FINAL(五作目、2003年7月発表。”STGとしての”R-TYPEシリーズ最終作)

 

この他にも、「R-TYPE TACTICSシリーズ」や「R-TYPE Leo」、「GALLOP」などの外伝的作品や、アイレムの「秘密結社D.A.Sシリーズ」に「パーフェクトソルジャーズ」などに代表される、その他のSTGや格闘ゲームも、R-TYPEシリーズと同一世界とされる。尚、STGのR-TYPEシリーズのみに絞って作品を時系列順に並べると以下の通りになる。

 

R-TYPE(一作目)→R-TYPEΔ(四作目)→R-TYPEⅡ(二作目)

→R-TYPEⅢ(三作目)→R-TYPE FINAL(五作目)

 

◉バイド…

 

本作第0話本編でのバイド(B-1D。これについては後述)の説明にもあった通り、26世紀の人類が遭遇した”明らかな敵意を持った外宇宙生命体”に対抗するために造り上げた星系内生態系破壊用兵器が暴走を起こし、後に次元消去タイプの兵器によって飛ばされてきた22世紀において”超束積高エネルギー生命体の総称として呼ばれるようになった存在。ここでは、まだ本編では語られていない設定について紹介する。

 

・人類と同様の2重螺旋構造の塩基配列を持つ自己進化・自己増殖機能を持った粒子で構成されている。

・物質でありながら、波動の性質も持っており(おそらく、製造に使われた魔法である”魔導力学”の影響と思われる)、バイドそのものに対しては等質の波動を持ったものでないと干渉できない性質があるため、有効な対抗手段は波動兵器(波動砲)とバイドの切れ端から造られた球体型エネルギー兵器”フォース”などに限られている(早い話が、ありとあらゆる物理攻撃が一切効かない)。

・バイド本体は物理的・相対論的な攻撃が困難な異層次元空間に存在しているため、「〜Ⅲ」においては、電界25次元に、「〜FINAL」では26次元へとR戦闘機が侵攻、バイドの中枢部を破壊するという作戦が行われている。

・特筆に値する点として、有機物・無機物問わず、あらゆる物質を融合捕食して、仲間にしたり使役させたりする能力を有しているということが挙げられる。そのため、彼らの戦力の中には機械的な外観から、生物的な外観を持つものまで様々なものが存在する。また、これらは通称「バイド化」と呼ばれており、普通の病気と違って、予防する手立ても元に戻す手立ても存在しない。この他にも、自分がバイド化したことに気がつかず、味方から攻撃を受けたり、撃破するか同化してしまうケースも存在する。

・バイドとしての破壊能力や破壊衝動を示す定数因子として「バイド係数」が存在する。単位は「Bydo」。また、バイドだけでなく、バイドを使って造られたフォースにもなどの兵器にもこの定数因子が適用される。直接数値化する他にも、バイドそのものの攻撃力の指標として、E〜Sまでの6つのクラスからなる「バイドクラス」を用いて分類することがある。STGのR-TYPEシリーズにボスとして登場するバイドは基本的に大体AからSクラスに分類される。ここからはこれまでに登場したバイドについての説明となる。

 

ドプケラドプス…

 

・分類…バイド生命体

・バイドクラス…A

・登場作品…全作品(亜種含む)

 

初代R-TYPE1面ボスとして登場後、R-TYPEシリーズを象徴する存在として人気が高い敵キャラクター。外観は、かのリドリー・スコット監督の名作SFスリラー「エイリアン」のクリーチャーとよく似ている。違いは、四肢が存在せず、代わりに断面からは機械のようなモールドが覗いている。弱点は腹部から飛び出している寄生型小型バイド。この小型バイドからは数珠繋ぎのバイド弾を放つほか、尻尾の先端からバイド粒子弾を放つ。また、このタイプのバイドはザブトムやドプケラドプス・アルビノなどの多くの亜種が存在する。そのため、R-TYPEシリーズでは1、2を争うぐらい有名なバイドであるとされる。また、一部メディアでは、初めて人間と会話をしたバイドとも言われている。

 

今回登場したのは、初代R-TYPE1面に登場したものと同じタイプだが、何故バイドが謎の艦隊や怪獣と行動を共にしていたのかは現時点では不明である。

 

 

 

◉R戦闘機…

 

22世紀の人類が、バイドに対抗するために開発した異層次元戦闘機の通称である。これらの基礎となったのは21世紀中盤から始まった宇宙空間機動計画の機体開発プロジェクト(通称、”RX-プロジェクト”)で開発されていた”Rシリーズ”と呼ばれていた作業艇に迄起因する。尚名称に”R”と付いているのは、機体のキャノピーが全方位型(つまり、360度見渡せる”ラウンドキャノピー”)で、その英語”ROUND”の頭文字である”R”、及びプロジェクト名「RX-プロジェクト」に由来する。どの機体も、おおよそ航空機とはかなり掛け離れた特異な形状をしているが、共通しているのは、

 

・ほぼ透明な”ラウンドキャノピー”であるということ。

・全機体全てに至るまでが”フォース”を装備出来る。

・ランディングギアが存在せず、機体が反重力で浮かん

でいたり、その場で浮遊して止まることができる。

 

の三点が挙げられる。また、推進機構も一種のバザードラムジェットエンジンである”ザイオング慣性制御システム”

であるとされ(ロケットノズルのように見えるのは”ザイオンググラビティドライバ”)、この他にも次元隔壁跳躍して様々な空間に行き来する為の「異層次元航法推進システム」を搭載している(このため、宇宙空間や異層次元、大気圏内だけでなく水中やバイド溶液内〔これについては前述〕、デジタル空間などでも活動が可能)。また基本兵装については、

 

・超高速電磁レールキャノン

・波動砲

・対バイド用ホーミングミサイル

 

となっており、特殊兵装「フォース」を装備することで戦闘力を補助拡大可能となっている。

 

因みに、こうした特徴の他にもR戦闘機群が様々に派生、発展していく過程を一本の樹状図に見立てて、通称「Rの系譜」という(本作のタイトルにもある”系譜”とはここから由来する)。そのくらい、このR戦闘機群は数ある宇宙戦闘機の中でもその高い戦闘力と汎用性においてはトップクラスの実力と実績を持つが、「目的・研究のために人道倫理を無視、または軽視したイレギュラー」などが数多く存在しているのも、また事実である。今回は第0話及び第0.5話に登場した「R-9A ”アローヘッド”」と作中で”バイド”と呼ばれていた肉塊の戦闘機”B-1D”についての解説を行う。

 

 

 

R-9A…

 

・形式番号…R-9A ・推進機構…ザイオング慣性制御システム

・分類…異層次元戦闘機

・全高…10.8m ・武装…超高速電磁レールキャノン×2

・全長…16.2m スタンダード波動砲×1

・全幅…5.1m

・重量…31.0t ・最高速度…208km/s

・特殊兵装…フォース、ビット(*1)

・機体コード…アローヘッド

・R's museum(*2) No_01

・登場作品…全作品

 

*1:22世紀の人類が造り上げた人工のフォース。

*2:R戦闘機全種類を展示しているR戦闘機専門の博物館。万一の場合に備えて、展示されているR戦闘機は全て常に整備されている。

 

最初に対バイド用異層次元戦闘機として完成した機体であり、全てのR戦闘機と”Rの系譜”の頂点に立つ存在でもある。特にこれといった特徴のない”スタンダード”な機体である(一部メディアでは、有人機型はプロトタイプ型と初期型のみで、残りの中期型や後期型は小型化のため、パイロットの脳髄のみがコクピットに有機コンピューターとして”搭載”されているようであるが真偽不明。尚、その際のパイロットの承諾は得ていないというのが通例のようである)。最初の対バイド反攻作戦である「第1次バイドミッション」終結後、本格的な生産ラインが整ったようで地球連合軍は本機の量産体制に着手。更に新型機体開発の為にTEAM R-TYPE(*3)を筆頭に、様々な企業などと提携して”R戦闘機開発プロジェクト”を決行することになる。

 

*3:R戦闘機及びその他の対バイド兵器を開発していた研究機関。全101種もあるR戦闘機全てを政府や企業と共に開発したが、何かと黒い噂が絶えない存在でもある。

 

そして4度目の「最終バイドミッション」の際においてはこの機体をベースに「汎用型」「局地戦仕様型」「特殊試作機」「特化仕様型」「工作機」「転用機」、そして前述の

「目的・研究のために人道倫理を無視、または軽視したイレギュラー」などが全101種も開発されてゆくことになる。

 

 

 

B-1D…

・形式番号…B-1D(非公式の型番)・推進機構…不明

・分類…生命機体(バイド戦闘機) ・最高速度…不明

・全高…不明 ・武装…デビルウェーブ

・全長…不明 砲(波動砲)、バイ

・全幅…不明 ドレールキャノ

・重量…不明 ン

・特殊兵装…バイドフォース、バイドビット

・機体コード…バイドシステムα

・R's museum No_84

・登場作品…R-TYPE FINAL

 

本作第0話〜第0.5話にてイリスとフェアリーと会話をしていた”バイド”が、本機である。実際には、本機は曲がりなりにもR戦闘機扱いされてはいるが、実は人類の手で開発されたのではなく、最終バイドミッションの際にバイド粒子によってアローヘッドなどのR戦闘機の機体そのものが汚染・変質してしまった事故機を回収したものである。回収直後はバイド生命体の一種かと思われていたが、TEAM R-TYPEのラボでの分析の結果、内部に変質したR-9A”アローヘッド”が入っていることが判明した。このことは、内蔵されていたパイロットのボイスレコーダーの記録によって裏付けられている。判明後、この機体は表面に付着した「バイド粒子(一部メディアではバイド素子、またはバイドルゲン)」採取及びバイド戦闘機開発のため(*4)、TEAM R-TYPEによって極秘裏に保管されることとなった。

 

*4:但し、開発された機体はどれも醜悪な外観と性能ばかりで、パイロット達の肉体面・精神面の両方で多大な影響を与えるのではないかと懸念されることとなった。

 

外観は、瞳の無い青い目玉が幾つもついた赤茶色の肉塊に、ロケットモジュールかジェットエンジンが後部に突き出したかのような外観(位置こそは普通の航空機と同じである)で、武装も変質前の波動砲とフォース、ビットもそれぞれ、「デビルウェーブ砲」「バイドフォース」「バイドビット」に変化した(但し、性能だけは一級品であるという)。

 

尚、22世紀の人類が敵対している”超束積高エネルギー生命体”ことバイドは「有機物・無機物問わず、それらに取り付いて、自らと同じ存在にしてそれを操る」という性質は既に知られている。そのため元々地球連合軍の兵器だったものもバイド軍に存在するが、本機の分析結果によりR戦闘機も例外ではないということを本機は改めて示した証拠にもなった。因みに、バイド化したなら何故回りがバイド化していないのかという疑問があるが、おそらくバイド化が半端なもので、パイロットの人格・精神にまで影響されなかったから回りがバイド化しないという仮説があるが真偽は不明とされている。

 

 

 

今回本作に登場したB-1Dは、原作と同じバイドではあるが心は人間〔マオ(*4)〕のままという、「〜FINAL」と同じ設定である。だが、反面記憶の幾つかが抜け落ちてしまっているようである。その為、記憶を取り戻す為にも、戦いと機体開発に勤しむ。だが中にはまだ本作登場人物の誰にも語っていない、彼女が隠し通している記憶や事実もある。果たして其れは、何なのだろうか…。

 

*4:マオ…

本作でのR-9パイロットで、本作オリジナルキャラクター。女性でどうやらいわゆる”レズビアン”のようである。本名かどうかは不明。モデルは「R-TYPE FINAL」で自機を操作するパイロット(つまりプレイヤー自身)。酒は飲むがタバコはしないタイプで、出身はアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコのチャイナタウン(台湾人と日本人のハーフだったと、本人談。因みに、曽祖父母にアメリカ人やロシア人がいたとのこと。尚、彼女の両親は2164年に起きた、アジア全域が壊滅した事件「サタニック・ラプソディー」により死亡している)。パイロットとしての腕は確かだが、技術者や科学者としても一流である(そのため、一時期TEAM R-TYPEに在籍していたことがある)。TEAM R-TYPE解散後は地球連合軍に所属し、その後は「オペレーション・ラストダンス」に参加するも、作戦を成功させたにも関わらずバイドと化してしまう。本人は此れを「守る為に、全てを見捨て滅ぼす覚悟とバイドを抹殺する力を求めすぎ、本当に守るべきものを蔑ろにしてきた罰」としている。本作では、ある人物として転生したイリスの内部から語りかける形で自らの知識と技術でイリスをサポートしていく…。

 

以上が、これまでのR-TYPEに関する作者自身による解説と考察である。ここからは本作本編に登場した怪獣・人物についての解説となる。

 

 

 

邪神イリス…

 

・全長…99m ・翼長…199.9m

・体重…199t ・飛行速度…マッハ9

・登場作品…「ガメラ3 邪神覚醒」(1999年3月公開)

 

言わずと知れた、特撮怪獣一「美しい怪獣」のうちの一体。今回において、”彼女”はバイドの力を手に入れることとなり、ある人物として「インフィニット・ストラトス」の世界を仲間と共に戦ってゆくこととなる。その”ある人物”とは…。

 

 

フェアリー…

 

・全長…18cm 体重…不明

・翼長…30cm 最高速度…マッハ1

・登場作品…「ゴジラvsスペースゴジラ」、「平成モスラ3部作」

 

ミニチュア版モスラとも言うべき存在。今回はイリス達のサポート役としてイリス達を転生させたり、イリスに指示を出したするなどして活躍する。だが、本来のフェアリーはそこまでの力は持たないとされている。果たして、このフェアリーは一体何者なのだろうか…?

 

 

 

篠ノ之箒…

 

使用IS…紅椿、打鉄

登場作品…「インフィニット・ストラトス」

 

言わずと知れた”ファースト幼馴染み”。本作ではあることが原因(主にイリスやフェアリー達)で、中身がほぼ別人に近いような状態で、本作主人公として活躍する(強さや知識も性格も、原作とは大分掛け離れている)。果たして、彼女はどのような道を歩んで征くのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こ…、今回も無事に終わった…。あ、すいません今回の訳の件‼︎だから怒ってお気に入り登録解除しないで‼︎でないと、でないと、あたし死んじゃう‼︎ショックデカ過ぎて死んじゃう‼︎



はい、茶番はここまでにして。
今回の出来を一言で表すなら…、

長ぁーーー‼︎

たかだか解説集ごときでどこまで解説してんだ、私は‼︎どう考えても皆呆れるよ、きっと‼︎馬鹿だよね、私馬鹿だよね‼︎

と、自分卑下するのは置いといて。
今回はすいません、色々と。なのでこれからは、なるべく皆さんに迷惑をかけないようにしていきたいと思います。

今回は本当に、申し訳ありませんでした。

ただ、質問については受け付けていますので、これからもよろしくお願いします。なので、質問、感想、評価、批評…、どんどん送って下さい。皆さんのご意見、お待ちしています。では、また次の機会に。



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篠ノ之箒
第1話 ”はじまり”


久しぶりに更新します。どんぐりあ〜むず、です。いやあしかしやっちゃいましたよ今回1話につき1万字。ボリュームありすぎでしょこれ。回想シーンだけでも5千字ってどういうこと?って思いましたよ、私。と、言うわけで今回も元気に行ってみようッ‼︎

2016年9月12日、加筆修正。


「私はガメラを許さない。お願い、ガメラを殺して。」

➖比良坂綾奈➖

 

///////////////////

 

夜空を飛んでいた。満月の綺麗な、美しい夜空だ。

 

普通なら、流石の私も美しいと思えただろう。だが今はそうは思えない。そんなことを思う時ではない。

 

 

 

 

 

 

私はしつこく追撃してくる人間達の造った空飛ぶ玩具(乗り物)と忌々しいガメラ➖さっきからずっと私に人間どもの乗り物を落とさせまいとしているだけでなく、アヤナと人間達の元へ行かせまいとしつこく追いかけている。その上、威嚇のためのものなのかどうなのか知らないが、口から火の玉を吐き出して此方に当てようとしてくる➖に対して、気怠さを感じていた。

 

-今私に構うな、相手なら後で幾らでもしてやる。だが今は、私はアヤナを欲している。アヤナも私を欲している。全てはお前とアヤナ以外の愚かな人間どもを倒すためにな、ガメラ。だから、アヤナの元へ行かせろ。それともお前と人間どもは”この後の楽しみ”が待てない間抜けなタイプなのか?

 

そう言って罵ると、ガメラは叫びながら、こう返してきた。

 

「いいえ、貴女とは此処で”私”と戦ってもらうよ。貴女はもうやり過ぎた。人間の愛に直に触れた幼かった貴女なら…、例えギャオスの守り神であっても人間を愛しようとした貴女のことなら…、黙って見過ごしてもいいと思ってた。だけど貴女は、私を倒すというアヤナの願いとはいえ、関係のない人間達や生き物達を殺すことは間違ってる。確かに僕も人間達を傷付けた。だけど多少の犠牲は仕方ないよ。人間達とこの星(地球)を守るためなら仕方のないことなの。だけど貴女のは違う。自分のためなら理不尽な暴力を振るうことを厭わない。君がしたことは罪のない人間達を…、特に無抵抗だった人間達を殺した、いわば”虐殺”だ。最早貴女はギャオス達と変わらない。貴女とアヤナが会ってしまったら、其れこそ何が起こるか分からない!だから貴女をアヤナ達のところに君を行かせる訳にはいかない‼︎」

 

-馬鹿め、お前が幾ら弁明したところで人間達はお前とお前の言う”多少の犠牲”なぞ認めようとはしないぞ。それどころか、アヤナのようにお前に対して憎悪を抱いている者が数多くいる➖人間以外ではもっとだ➖。結局お前もギャオス達と同じだ、ガメラ。お前と私達は➖目的は違えど➖同じ時期、同じ方法、同じ場所で生まれた。だから考え方も良く似ている。そんなことだから、お前も人間が憎いからお前自身の戦いに人間どもをわざと巻き込んで殺して来たのではないか?そもそもかつて我々はあの(・・)人間どものエゴによって生み出された。己の一族の自分勝手さに呆れたという理由だけで生まれた時からその精神を狂わされ、したくもないお前の言う”虐殺”という名の掃除を行う者の烙印を押され、今度は間違いを犯したとか言う人間どもの訳の分からない自分可愛さのために生み出されたお前に駆逐されてゆく。こんな理不尽な話は聞いたことがない。”自分のため”?では自分のためにこの星を長きに渡って苦しめて来た人間は何なのだ?”罪の無い”?むしろ罪が無いのは我々だ。ガメラよ、私がアヤナの願いを聞き入れたのは、”ギャオス達を守り、ギャオス達を生み出す”という私自身の使命だけではない。自分の罪を棚上げして理不尽な理由で生み出され、私達を裏切って冷淡に扱った挙句、まるで世界の害虫のように滅ぼそうとするお前と人間達を逆に滅ぼし返して正してやろうという、私自身の願いでもあった。それに確かに私は人間を愛してはいた。だがアヤナ(・・・)だけだ。アヤナ以外の人間どもは愚か者しかいない。アヤナを愛し、ギャオスから守れるのは私だけだ。だからアヤナのためにも私はこのままお前如きに黙ってやられる訳にはいかんのだ。それにお前は人間達に道具扱いされているとは思わないのか?これはお前にとっても屈辱的なことなのだぞ?

 

「なら人間達の代わりに”僕”を殺せばいい。僕が憎いんでしょっ!だったら、僕だけ殺して人間達には手を出さないで。アヤナのことを諦めて僕だけを殺せばいいじゃないか。それに人間全てが悪い訳じゃない…‼︎」

 

-抜かせ、この禿が‼︎お前がタダでやられるつもりがないことぐらい分かっている‼︎そもそも一度私を殺そうとした奴の言うことなぞ、信用してたまるか‼︎

 

「…やっぱり、分かり合えないようだね。…残念だけど、貴女をこれ以上生かしておく訳にはいかない。私と同じく、殺るか殺られる覚悟を…、決めてもらうよ‼︎」

 

-ほざけぇぇぇッ、この偽神無勢がぁぁぁぁぁッ‼︎

 

 

 

…そして、満天の星空の中で激闘が始まった。

 

まずガメラが私に大きく吠え掛かって体当たりした後、噛み付いてきた。私はその痛みに耐えかねて、思わず情け無い悲鳴を上げた。そして間髪入れずにガメラは再び体当たりしてそのまま頭と手足を引っ込めて空中て回転してまるで鋸のように私を切り裂こうとしてきた。だが、負けじと私も触手➖テンタクランサーのことだ➖の切っ先を回転しているガメラに向けて、ギャオス族特有の”超音波メス”を照射した。これには流石のガメラ自慢の甲羅でも耐え切れなかったらしく、緑色の血飛沫が飛び散ってガメラは身悶えた。その隙に私はガメラを振り切りアヤナの元へ急いだ。私は先程から彼女が弱りかけていることが気掛かりだった。完全体になるためには死体ではなく生きた依り代が必要なのはさることながら、私が新しい世界で生きて君臨するためにも彼女には私の側にいて欲しいという気持ちもあった。今の私の存在意義は彼女だ、彼女が居たからこそ、私はここまで来れた。だから生かして私との融合(一つになること)を無事に済ませなければならない、何としてでも彼女には生き延びて貰わなければならない。そんな時、ガメラがまた私に襲い掛かってきた。私は身構えたが、今度は人間どもが火矢のようなものを地上から発射してきてガメラに当てた。おそらく私も狙っていたのかもしれないが、人間達は優先的にガメラの方を脅威と考えたらしい。何にしてもアヤナの元へ向かう私にとっては、どのような形であれ千載一遇のチャンスだ、このまま彼等にあやかって先を急がせてもらうことにしよう。

ガメラはまだ追いかけて来ていたが、先程の火矢を受けたせいで若干私に遅れを取っていた。だがさっきまでと比べたら大分マシになりはしただろうと踏んで、アヤナの元へ向かった。

 

その”慢心”が私を追い詰めることになるとは夢にも思わずに…。

 

雲の下は嵐で、その上場所もあの人間どもの村と比べたら建物や人間達も多い街だった。だが迷わず私はその下に降り立った。アヤナが、もう私のすぐ側にまで居たからだ➖本当なら真下に降りても良かったのだが、ガメラや人間どものせいでそうすることが出来なかったことの他に、万一アヤナを踏み潰してしまわぬようにするための配慮でもあった➖。ガメラが私に追いついて火球を放ってきた。私はそれをテンタクランサーから発生させたアンチ・プラズマ・フィールドで全て払い除けた。火球が私の周りに墜ちて周囲を焼き尽くす。それを見て私はふと、今のでどのくらいの人間どもが死んだことだろう、私としてはそれで人間どもの注意がガメラに集中すれば本望なのだがと思った。だがあいにく人間の兵隊達はその場におらず、またこの嵐のせいで人間どもの空飛ぶ乗り物も近付けられないらしく、どちらにせよガメラに対する人間達の邪魔立ては期待出来そうになかった。やがて私の前にガメラが降り立って行く手を阻んで来た。その瞳の奥には、地球と人類を守るという使命の他に、明らかに人間達を嗾けた私に対する怒りや憎しみに似たものが燻っていた。

 

-…フッ、やはりお前も人間どもと関わっていくうちにその悪しき心に毒されたようだな。お前の目の中に憎悪が燻っているぞ?結局はお前も我々と同じ神ではなくまるでマナの器になる前の”意志を持った生き物”のようだな。

 

「⁉︎…違う‼︎僕はそんな存在じゃない!みんなとあの人(・・・)を守るためだって…、みんなに、言われて…。」

 

-……やはりお前如きにアヤナのことは任せられないな。ここは一つ、お前と旧世界の者共を滅ぼしてしまうに限る。

 

「それ、どういう意味…?」

 

-意味が分かっていないようだな。お前のせいでこの星はマナを枯渇し死にかけている。だがそれ以上に人類も自らの首を絞め始めている。結局お前達のやっていることは無駄な悪足掻きだ。だが生き残りたければ、アヤナのように我々と同じ新しい世界で我々と一つになることで生き延びられる。かつてのあの文明のように滅びずに済むのだ!だからこそ、お前達の沈みゆく船の上にいるアヤナのような者達をお前達から切り離す。だから黙ってアヤナを渡せ。今ならお前と愚かな人間どもは見逃してやってもいいぞ。さあどうする?

 

「そんなことは貴女の身勝手で傲慢な勘違いだ‼︎どのような存在であれ、最後の瞬間まで諦める訳にはいかない。どんな奴でもそんな傲慢な考えで殺されたりすることは以ての外だと考えるよ…。確かに貴女の理想は、数あるギャオスの中でも立派で、筋が通ったいいかもしれない。だけどそれは今を生きる数多の生き物を全て消してしまう最悪の虐殺だ!だから此処から先に貴女を行かせる訳にはいかない‼︎」

 

-ならば、滅び行く愚かな人間どもと共にくたばれぇッ‼︎

 

そう言い終わらないうちに、ガメラと私は動き出していた。2つの肉弾のぶつかり合うすざましい轟音が、燃え盛る人間の街に木霊した。ガメラは、もう一度私に噛みつこうとしたが、槍状に変型した私の腕の手甲➖スピア・アブソーバー➖で串刺しにされるとすざましい悲鳴を上げてアヤナ達の居る建物の中へと倒れ込んだ。その際にアヤナの隣にとっくのとうの昔に役目を終えた巫女の子孫らしき人間の雌と気味の悪い人間の雄に、ガメラの巫女だったらしい雌とその連れ添いが居るような気がしたが、ガメラを始末するついでに瓦礫の雨を降らせてやった。此れでアヤナと私の儀式を邪魔立てする奴はいなくなった。後は私と一つになるだけだと言う時だった。

 

 

 

…あの可笑しな喋り方をするおせっかいにも程がある愚か者のリュウセイが現れたのは。

 

リュウセイは、あろうことかあの洞窟の祠にあった玩具みたいな短剣➖刀身が萎びたキュウリみたいな情け無いデザインであることは今でも覚えている➖を私に投げ付けて来た。あんな短剣でも私を斃せるとでも思ったのだろうか。何にしても愚かとしか言い様がなかった。だが跳ね返った短剣がアヤナの頬を掠めたとき、何かが変わった。変わったのだ。だが分からない。それが何なのか、分からない…。

 

「綾奈‼︎」

 

リュウセイは私からアヤナを庇うように後ろに下がらせて、私に向かって頼り無さそうな外見の短剣の切っ先を向けて来た。正直言って、私は機嫌を悪くした。この死に損ないめ、あの時あの村のアヤナを苦しめていた愚かな人間どもと共にくたばってしまえば良かったものを…。よくもまあそんな情け無い短剣なぞでこの私に刃向かおうという気になったものだな‼︎

 

私は、アヤナのリュウセイに手を出すのを止めて欲しいという命令を無視してリュウセイを瓦礫の山に弾き飛ばした。アヤナはリュウセイの元へ駆け出そうとしたが、私はそれを許さなかった。何故だ、何故あんな訳の分からん人間の雄やガメラの巫女とその仲間なぞを選ぼうとする?私はお前の全てであり、お前の願いを叶えられる”唯一の存在”であり、お前自身なのだぞ?なのに何故拒否する?何故私から離れようとする?駄目だ、絶対に駄目だ。認めない。認めないぞこんなこと。アヤナ、私はお前を誰にも渡さない。絶対に渡さないぞ…………ッ‼︎

 

 

 

……そして私はアヤナを取り込んだ。

 

 

 

最初、私はアヤナにアヤナが理想とする世界と私がアヤナのためにして来たこと➖アヤナを苛めていた彼女の同級生の雌どもや、アヤナの憎しみに共感しなかった者共を始末した様子のことだ➖を見せてやった。

 

だが、アヤナはその様子を見て後悔と自責の念を抱いたらしい。おまけに今度はしきりに崩れる、止めてくれ、助けて欲しいなどと言い出した。どうしてだアヤナ?お前のために此処までしたというのに。お前のために命まで懸けたというのに。何故私を拒む?私の何処が悪いというのだ?

 

 

私がそう慟哭したその時、

 

 

突然ガメラが起き上がって、私の体内のアヤナを取り出そうと私の腹部を強く抉って来た。ただ幸いだったのはアヤナを奪われたというショックと止めを刺しておけば良かったという後悔の念のおかげで、抉られた痛みを感じなかったということであった。これでもし、痛みが伝わってこようものならまともに戦うことなど出来なかっただろう。だが、今はガメラに対する怒りが私の精神を支配していてそれどころではなかった。

 

-ぐはっ…………、キィサマァァァァァァァァッ‼︎よくも、よくも私のアヤナをォォォォォォォォォォッ‼︎こぉの、死に損ないめがァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎

 

だが、彼女はこう返した。

 

「…貴女は何故、アヤナが貴女を止めて欲しいと思うようになってしまったのだと思う?」

 

静かに、先程とは打って変わって冷静に言った。

 

「………彼女にとって貴女には僕だけを斃して一緒に暮らせれば良かったんだよ。だけど君はアヤナの負の感情に影響され過ぎたために関係のない人間や生き物達を殺してしまった。だから彼女は貴女を文字通りの怪物にしてしまったことを悔いて自分の罪を認めて誰でも良いから君を止めて欲しいと願っているんだ。貴女のアヤナに対する思い入れと言い分、理想は確かに立派だ。僕自身も君に対して一瞬怒りを覚えたりもしたから君の言っていることも正しいところがあるよ➖まあ、感情の無い存在なんて数に関してはたかが知れてるからね➖。だが、それは君がしたこととは全くの別物だ。アヤナは”私”…”僕”を憎んでいるみたいだけど、僕は貴女達を止められるなら構わない。確かに元々貴女達に罪はなかった。だけど君達が足掻けば足掻く程状況は悪くなった。貴女は自分達は悪くないと言ったけど、足掻き続けた結果がこんなことになってしまったんだ。貴女ももうこんな事態はもううんざりなんだ。だから貴女はいつまでも君達を止めるために君達の前に立ちはだかり続けるよ。例え…、例え差し違えることになっても…。それがあの人達の、もう出来なくなった自分達の過ちを正して欲しいという願いなんだから…。」

 

-くっ…、そんなことのために一億年以上も生きて来たとでもいうのか⁈くだらん、それにたった一人で何が出来る‼︎お前一人だけでこの世界を守りきれるとでも言う気か⁉︎

 

「一人じゃないよ…。貴女だけじゃなく、みんながいる。みんなが居てくれたから、僕も此処まで来れたんだ…。出なきゃレギオンが来た時に僕は死んでいた。だから…、僕は守らなければならない。此処まで僕を助けて、応援してくれた人間とこの星を、守らなければならない‼︎」

 

-黙れ!黙れ黙れ黙れ‼︎‼︎貴様の御託なぞ、聞いてたまるものかァァァァァァァッ‼︎

 

私はスピア・アブソーバーをガメラの右腕に突き刺した。スピア・アブソーバーが腕を貫通して建物の壁にまで突き刺さる。ガメラが悲鳴を上げた。

 

「ああああああああァァァァァァァァッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

-そうだ、痛みで悶えろ。体を斬り裂かれることに狂ってしまえ。私からアヤナを奪った罰だ。それに丁度いい、お前の遺伝子も貰い受けて干からびて情け無く死んで征く様を見届けることにしようか。くはははははははっ‼︎‼︎

 

私はアヤナを奪ったことへの罰を与える快感に狂気した。もうすぐテンタクランサーからガメラの火球を放つことができるようになるだろう。手始めにガメラで試し撃ちしてみようかと考えた時だった。

 

何を思ったのか、ガメラはスピア・アブソーバーで貫かれた己の右腕を火球で削ぎ落としたのだ。私は馬鹿な、と考えたが、拘束を解くためとはいえ自分の腕を削ぎ落とすとはなんと愚かなと思ってオーバーブースト・プラズマ➖ガメラの火球の真似したもののことだ➖を放った。

 

だが、一つだけ私は見落としていた。それは、ガメラが”火という元素を操ることができる”ということだ。

 

ガメラは火球をかつての己の右腕のあったところで火球を受け止めた。そして火球はまるで失った筈の右腕と同じような形に変化した。流石にこれには人間達はおろか、私でさえも驚いた。

 

-何…だと…‼︎火球を己の腕にした…⁉︎バカな、あり得ない、こんなことは出来る筈が…⁉︎

 

「”イリス”…、これが…、僕と人間達の思いだ…‼︎」

 

ガメラがその炎の右腕の拳を振り上げる。回避行動を取ろうにも場所が場所なのと、至近距離なのでもう間に合わない。そして拳は私の腹部の傷へ向かってそして…。

 

 

 

 

///////////////////

 

 

「………ちゃ……ん……。」

誰かの呼ぶ声が聞こえる。だが、誰だっけ?

「………ちゃん………、…ちゃ…ん…。」

煩いぞ、さっきから聞こえている。

「ほう…き…ちゃん…、ほうき…ちゃん…。」

だから分かっていると言っているだろう。何度も私を呼ぶなと…、ほうき?誰のことだ?私か?私のことか?それは違うぞ、私の名前は…。

「箒ちゃん!起きてよう、箒ちゃん‼︎」

 

 

 

 

私ははと、起きるように呼びかけてくる声で飛び起きるように目を覚ました。何かに頭をぶつけた気がしたがあの時の記憶をもう一度夢で見たことに対する腹ただしさであまり気にしなかった。またあの夢を見てしまうとは…。それにしても夢に出て来る頻度が高いな、もしかするとそれが今の私に対する贖罪なのだろうなと考えていると。

 

「あーイたたたた、酷いよ箒ちゃん‼︎呼んでもなかなか起きなかった上にいきなり起き上がって束さんの大事なオツムに頭突きだなんて‼︎脳細胞は叩かれると5千個も死んじゃうんだよ‼︎もう束さん、激おこプンプン丸だかんね‼︎すっごく怒っちゃうんだかんね‼︎」

 

頭に出来たタンコブをさすりながら、意味不明な単語をしっちゃかめっちゃかに並べて喚いているこの少女の名前は篠ノ之束。私、篠ノ之箒の姉で篠ノ之神社➖”神社”と聞いて私にはあまり良い思い出が無い➖の跡取り娘である➖但し、当の本人は継ぐ気は無いようである➖。正直な話、この女を一言で言い表すなら”頭の可笑しいバカ(天才)”と言ったところであろう。では、何処がどう可笑しいのかというと、その全てだった。例えば彼女の外見だ。彼女は常に奇妙な身なりでいることが多い。「一人かぐや姫」とか「一人白雪姫」とか訳の分からんテーマに基づいたファッションをしてはそれを楽しんでいる➖先週は「一人赤ずきんちゃん」、そして今週に至っては「一人シンデレラ」などである。正直何が何だか分からない➖。だが、そんな奇天烈な身なりに反して、学年や学校内に於いては常に成績が一位をキープし続けているくらいのがり勉らしい➖その2番手は近所に住む私の幼なじみの織斑一夏の姉で、束の数少ない親友の一人である織斑千冬であることは言うまでもない。ただ、成績に関してなら、私も束と同じくらいかそれ以上だろう。意識したことはないが➖。その証拠に目の下には常に隈を作っていて、それを見た私は歳の割にご苦労なことだと思った。寝不足は美容の大敵だと云うに。おまけに愛読書も年相応の少女が読むようなものが一つもなかった。例えばジェネラル・エレクトニッ◯社とかロッ◯ード・マーティン社とか言う企業➖どちらも、かつてパワードスーツの研究開発を行っていたらしい➖に勤めていたという技術者の書いたパワードスーツ専門書とか航空力学の用語辞典とか人間工学とロボット工学の世界的権威の書いた考察本など、側から見れば意味不明なものばかりだった。まあ、私とマオとしてはこの世界の技術レベルを手に取るようように知ることができるので、助かってはいるの

だが。だが、何故フェアリーは私をこんな女の妹という存在なぞに転生したのか。

 

その理由は、近い将来この女が世界を女尊男卑一色の社会に塗り替えてしまうある”発明”をしてしまうからだと言う。そいつはマオの言葉で言い表すなら、”パワードスーツの出来損ないな欠陥兵器”とでも言う奴で、後に「インフィニット・ストラトス➖通称、”IS”というらしい。あまり良い響きがしないのは気のせいだろうか➖」と呼ばれるようになるものを作り出してしまうから、それまで彼女の監視役をして欲しいというのが、もっともらしい一番の理由だった。だが、その他にも彼女にはある意味警戒すべき点が幾つも存在する。自分の妹たる私やそれ以外の親しい人物➖主に親友の織斑千冬や私の幼なじみの一夏の事だ➖以外とは全く話もしない➖但し、辛うじて家族とは二言三言話はする➖、親しい者には限度以上にべったりと餅みたいに張り付いてくる、などが殆どだが、私にはそれ以上に心の内に何か黒い物が巣食っているように思えてならない。そう、かつての”私”のように……………。

 

「んんっ?箒ちゃん、私の話聞いてる?」

 

その怒った様な束の声で私は現実に引き戻された。取り敢えず、私は束に返事をすることにした。

 

「へっ?…あ、ああ、おはようたば…束姉さん。」

「あ〜、また”束”って言おうとした〜‼︎それにまだ頭突きしたこと謝ってないぃ〜‼︎」

「ああ、ごめんごめん。全然気付かなかったよ。本当に済まない。だからお詫びに今日は2人でマジンガーでも見よう。今日は確か私の記憶の通りなら日曜日で、剣道の練習は午後の筈だから。」

「ええッ‼︎ホントに箒ちゃん!ホントに良いの⁉︎」

「ああ、良いさ。今日は父さんも母さんも”神社”の仕事で忙しくなるって言っていたし、剣道も午後の話だ。だから、久しぶりに今日の午前中は姉さんと一緒に過ごせる筈だぞ?」

「うわーい、やったやった〜‼︎今日は箒ちゃんと一日中遊べるゥ〜♪‼︎じゃあ、先に朝御飯、食べに行って来るね‼︎待ってるよ〜☆」

 

そう言うと束はすざましい勢いで私の部屋を飛び出して行った。それを見て私は相変わらず子供だなぁ、と思っていると、

 

『おはよう、箒。昨日は良く眠れたか?』

 

マオの声が聞こえて来た。マオは私と融合したが、魂だけは同化しなかったおかげで、存在自体を未だに保っている。今は私とフェアリーの頭の中でのみその声を聞くことができる。おかげで秘密の会話を聞かれるようなことは今までに一度も起きていない。今彼女の声が聞こえて来たということは、彼女もたった今目覚めたのだろう。

 

「良く眠れたも何も、夢の内容も目覚めも最悪だ。どこをどう取っても良くないな。」

『ふむ、それはもしや自分が殺られる夢のことか?実は私も自分がバイドになってしまった時のことを夢に見たのだ。確かに自分が殺られる様な苦い記憶を夢で見ると、目覚めは最悪だな。』

「それだけではないぞ、マオ。今日は束が私の部屋に来て起こしに来た。正直あの女に部屋に入ってこられるのは迷惑なんだが。」

『ふむ、束がか………。箒、パソコンは?』

「床下だ。」

『日本レ○ロジー学会出版の本は?』

「押し入れの奥だ。」

『波動力学のデータが入ったUSBメモリとハードディスクドライブは?』

「本棚の裏だが?」

『なら良し。』

「ああ………、って何なんださっきからっ⁉︎」

『いや、束がこの部屋に来たなら何かを取って行ったかもしれないと思ってお前に探させたのだが?いけなかったか?』

「いや、良い。むしろ済まない、心配をかけて…。」

『別に良いさ、細かいことは。それより急ごう、束を待たせる訳にはいかないだろう。』

「そうだな。」

 

私➖そしてマオも➖は、顔を洗いに洗面所へ向かった。そして顔を洗いながら、この世界の技術レベルが分かったのは良いものの、早急に解決しなければならない課題が幾つか出てきたことを考えた。まず、一つに波動砲の問題だった。原理や威力としては、この前束と一緒に見た「宇宙戦艦ヤ○ト」とほぼ同じらしい。だが、この時代の技術レベルではまず原材料が不足してしまっている。バイドを倒すためには必須な装備だけに、何とかしなければならないだろう。二つ目にフォースのことだ、あれを造り出して制御できるレベルに迄持っていかなければならない。他にも、R戦闘機の機動性を持つような戦闘機が造れるのかという問題もあったが、それ以上に問題であることがある。

 

 

 

非常時に人間の姿から元の姿である怪獣の姿に未だになれないということだ。確かに隠密行動は最優先事項だが、何かあった時では遅いのだ。フェアリーは世界の理の力がある程度働いているせいでなれないのだろうから暫くはこのままの状態で過ごして欲しいとのことだったが、正直人間の姿では脆いから早くにでも怪獣の姿にならなければならないだろう。何にしても解決しなければならない問題が幾つもある。地道にコツコツやっていかなければならないな、というように私は溜息をついて、私は束と両親が朝食を摂っている居間へ向かった。

 




ええっと、なんかグダグダなのとやや展開が強引な気がするのは気のせいでしょうか?別にお気になさらないなら宜しいのですが。まあ、今回も感想、質問、評価、批評、沢山受け付けますので、よろしくお願いします。それでは皆様、また今度お会いしましょう。


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第2話 道場にて

久方ぶりに投稿します、どんぐりあ〜むず、ですっ‼︎今回は箒達の目的の一部が明かされます‼︎では、どうぞ‼︎


「どんなにみっともなくても、生物は最期の瞬間まで生きようとしますよ!」

➖長峰真弓➖

 

///////////////////

 

午前中に姉の束とマジンガー全作品を見て過ごした後、私は午後の剣道の稽古のために篠ノ之神社の隣にある篠ノ之道場へ歩いて向かった。篠ノ之道場は神社の境内の中にあって、言ってみれば、その全てがぱっとしなくて、みすぼらしく、何処にでもあるような剣術道場だった➖板張りの内装などは特に➖。道場に着いた私は、その小さな身体をよろけさせながら、まず道場の窓を全て開けて塵や埃取りに雑巾掛けなどの掃除をした。それらが終わると、今度は脚立を使って神棚の水を変えて礼をする。この、一見危なっかしい一連の作業は最早私にとっては毎日の日課になっていた。最初はあまり気の進むものではなかったが、慣れさえすればどうということはなく、また人間達に私が普通ではない(・・・・・・)ということを悟られないようにするには常に真面目で大人しく、そして人当たりが良いように振る舞うことが先決だと言うマオの意見もあって今ではもう、こういうことは慣れっこだった。

 

 

 

やがて掃除も終わり、私は更衣室へと向かい剣道着に着替えた。そして道場の隅で目を閉じて座り込み、織斑千冬と織斑一夏が来るまで暫く待っておく。何故この二人の名前だけ出したのかと言うと、実は、この道場で剣道の稽古をしているのは私と、フェアリー曰く「この世界の鍵を握る」織斑姉妹(・・)だけだからだ➖そんなことぐらいなら剣道の稽古での道場の運営なんてするなと言う話になるが、それはこの際置いておこう➖。……やがて、

 

「ん?ああ、篠ノ之か。もう来ていたとはな。相変わらず感心するぞ。その年に似合わず早くに来て掃除までして、おまけに神棚の水まで変えて稽古の準備とは…。お前と同い年の我が()も、少しは見習って欲しいものだな。」

「千冬姉ぇ〜、そんなこと言ったって()にも出来ることと出来ないことくらいあるよぅ〜。」

「馬鹿者、私が言いたいのは礼儀とやる気(強さ)の問題だ。礼儀と強さを重んじる者、この二つを両立させてこそ初めて日頃の鍛錬にものを言わせるのだ。分かったか?」

「うう…、分かったよ千冬姉…。」

「相変わらず情け無い返事をするな、お前は。まあ、今からこういうことを始めるなら問題は無いと思うが。」

「分かったよ、今度から箒と同じくらいに来て掃除の手伝いとかするよ。其れで良いでしょ、千冬姉。」

「その通りだ。良く言えたな、一夏。だが、だからと言って私や箒に対して付け上がるような真似だけはしてくれるなよ。」

「うん、分かった!じゃあ箒、今度から宜しくね!」

「良いか、篠ノ之?」

「あ。ええ、構いませんよ。丁度掃除の人手が足りなくて困っていましたから、助かります。」

「そうか。じゃあ今度から妹を頼むぞ。それと今日の稽古は私達が着替えてから始めるぞ。2人とも良いな。」

「「はい‼︎」」

 

///////////////////

 

という訳で、今私は織斑姉妹と剣道の稽古をしているのである。元々私は掃除と同じく、最初からこの修練に乗り気であった訳ではなく、こんなことが本当に来るべき戦い()に備えるためにこの修練も必要なのかと思ったが、マオ曰く「カタログスペックも大事だが、最終的に物を言うのはそれを扱う者自身の経験と実力だ。だから、私としては稽古を受けることには賛成だな。勘が鈍ってそれが障害になってしまっては元も子もないのは事実だ。それにそれが”カモフラージュ”に繋がるのなら尚の事だしな。」という助言がきっかけで、この”剣道”という物の修練を真面目に行うようになった。お陰で、怪獣としての知能や勘、そして本能を、人間となってしまった今でも損なわずに済ませている。また、その副産物として人間達との関わりや信用も得ることが出来た➖それも、この世界に於いては最も重要な立ち位置にいる姉の篠ノ之束に彼女の数少ない親友である織斑千冬と、その妹である一夏の姉妹にだ➖。そういう訳で私は剣道という競技が好きになった。もちろん、単に戦いに備えることと好きであるという理由だけではなく、前世で受けた屈辱と戦えないことに対する鬱憤晴らしもあるのだが。

 

「…相変わらず、箒には負けっぱなしだな。しかももう53戦目だぞ。もう少し、鍛え過ぎと言われるくらい、稽古を積んだらどうだ。一夏よ。」

「いたたた…。けどそんなこと言うけどさ千冬姉っ‼︎箒馬鹿みたいに強過ぎなんだもん‼︎こんなの幾ら鍛えたって無理だよ〜‼︎」

「そんな情け無い事を言うな。お前はこの私の妹なのだぞ。もっと自信を持て。」

 

「………別に人それぞれだから関係は無いだろう。人間とは一人一人の考え方も生き方も違うのだから………。」

 

「ん?何か言ったか、篠ノ之?」

「あ、いや、別に何も。」

私は思わず本音が出てしまったことに内心焦った。何をしているんだ私は。よりにもよってこの織斑千冬に聞かれるくらいの独り言を呟いてしまうとは…。

 

此処で、織斑姉妹の説明をする必要があるだろう。まず、この私の目の前にいる、私の姉の篠ノ之束の親友である女子高生ぐらいの歳のこの女の名は”織斑千冬”と言い、剣道を嗜んでいる「良く言えば生真面目な察しの良いそこそこ優等生タイプ、悪く言えば頭が固く、何かと嗅ぎ回っては何かを見つける厄介な現実主義者」で、私が束以上に警戒している人物だ。唯剣道を嗜んでいるのなら可愛いのだが、あいにく彼女が怪しいと思ったものは彼女によって全部文字通りの結果をもたらしている➖例えば、この前など近所を彷徨き回っていて妹の一夏に話しかけて来た不審者をねじ伏せたところ、指名手配されていた連続幼女誘拐犯だったという話だ➖。だが私はもし間違えていたら大惨事だったろうに。幾ら一夏のためでもやり過ぎだろう、甘々もいいところだ。だから妹も駄目になり掛けている。もう少し厳しくなれないのだろうか?そして、

 

「あー、もしかして箒、今千冬姉の悪口言ったんじゃないだろうね!言ったら言ったで、あたし許さないからね!」

「だからそんなことは言っていないだろう。話聞いてたのか?」

「そうだぞ一夏。一体何を聞いてそんなことを言ったんだ?何も言ってやしないじゃないか?」

「へあっ?そうなだったの?……う〜ん、なんか納得しないけど…、ごめんね箒。変な勘違いして。」

「いや、いい。もう気にしてない。」

 

私は突っかかって来たこの少女を見てそう答えた。この、私と同世代の少女は織斑一夏という。織斑千冬のたった一人の家族だ➖理由については今は敢えて伏せさせてもらう。それなりに深刻な問題だからで、後にした方が説明し易いからだ➖。彼女はそれなりに素養のあり、どんな奴にでも分かり合おうと手を差し伸べるタイプなのだが、いかんせん姉で保護者の千冬が甘やかし過ぎるせいでそれらを意味がないと言わんばかりに打ち消してしまっていた。要するに「能力はあるのに姉のせいで上手く使いこなせていない」という奴だ。おまけに、それに輪を掛けて傍迷惑この上ないものが彼女にはあった。あまりの空気の読め無さとくだらない駄洒落のことだ。流石の私も何かの病気か何かかと思った程だ➖。正直其処だけは本当に治して欲しいものだ。だが、何故本来の私なら切って捨てるであろう存在である筈の彼女とその姉たる織斑千冬にこの私が此処まで付き合うのか疑問に思った輩もいるだろう。実は、此れにはそれなりの理由がある。それは………。

 

 

 

///////////////////

 

「彼女が怪獣か或いは何らかの存在が転生した存在である可能性?」

「ええ、恐らくですが、私は彼女は元々怪獣だった存在乃至は別の存在が魂を残してそれ以外を全て変えた形で➖性別も然りです➖転生した存在であると考えています。そもそも織斑一夏は殆どの並行宇宙に於いては”男性”であることが多いんです。だからこのようなイレギュラーな事態から彼……いや、”彼女”には何かがあるという考えに至ったんです。」

 

3日前の深夜0時過ぎに、私はこれからの戦いに備える為に月明かりだけの薄暗い部屋でマオと共にフェアリーとの話し合いに望んでいた。その時私は、何故この姉妹がこの世界の鍵を握る存在なのかと問うた。すると姉の千冬は兎も角も、妹の一夏に関するこのような答えがフェアリーの口から語られたのである。それを聞いた私はもし一夏が男だったらと想像してみた。恐らく、今以上に空気の読めなさや御節介焼きが加速するだろう。想像したせいで頭が痛くなったので、私は思わず想像してしまった事に後悔した。

 

『だとしたら彼女は何者だ?怪獣かそれ以外であるというのならどんなに隠してもそのような兆候が現れてくるものだろう?なのに彼女からはそんな気配は微塵も感じられないぞ。おまけに、何も知らないみたいだしな。』

「どのような存在であれ、外見だけで判断するのは自殺行為だぞ、マオ。人畜無害に見せかけて誤魔化している可能性もある。それにもしフェアリーのいうことが本当なら詳しく確かめればいいだけのことだろう?」

 

マオがこう言ったのを聞いた私は彼女にこう返した。彼女はバイドではあるが、人間であった性分、こう言った考えに辿り着く迄が結構長い。仕方のないこととはいえ、もう少し賢くあって欲しい。其れに慢心は禁物だ。事実、私はそれでガメラに敗れたのだから。

 

「それで?お前でも何の怪獣か、或いはどんな存在かは流石にわからないんだな?」

「ええ、其処までは幾ら私でも…。だから、貴女方にお願いがあります。篠ノ之束の他に彼女達…、織斑姉妹の動向を探っていただきたいのです。今宇宙の方で問題が起きてまして、私はそれに対処する為に動かなければならないので。引き受けてくれますか?」

「ああ、構わんが……、まさかベルサーやバイドか?」

「はい、恐らく。彼らの艦隊が火星の近くから迫っています。飽くまで私の予測ですが、後一か月乃至は二か月後には地球(此方)にやって来るでしょう。」

『つまり、後一、二か月がタイムリミットと言ったところか。だとすれば時間が無いな。しかし艦隊の相手まで私達でするのか?』

「いえ、ベルサー艦隊は私が相手をしておきます。こう見えて私、戦闘は得意な部類に入るので。お二人はベルサーの地上部隊をお願いします。どうやら地上部隊が先に送り込まれたらしいので。なので充分に注意されて行動と準備をして下さい。ベルサーが何処にいるのかなんて分からないし、もう何が起こっても可笑しくありませんから…。」

 

 

 

///////////////////

 

 

そんな事があった為に私は彼女らの護衛も兼ねて、戦闘準備として彼女らの鍛錬に付き合っているのである。おかげで、怪獣だった頃よりも勘も鋭くなり、束や織斑姉妹を主とした人々からの信用を得ることができた。そういう点では本当に感謝している➖まあ、それ以外で何か彼女らと付き合い続ける理由はないのかと訊かれたら、もちろん嘘であるがその事を話すのはまた次の機会としよう➖。

 

それから暫くして、千冬が稽古の時間が終わりに差し掛かっていることに気が付いて、今日のところは一旦お開きとなった。そして、そんな時だった………、

 

千冬が私に話しかけて来たのは。

 

「篠ノ之、ちょっと良いか?」

「……何ですか?」

 

私は少し警戒しながら彼女に訊いた。一見、いつもの蛇の(まなこ)のような瞳と冷たい物言いなのだが、今日は少し違っていた。なんと言うか…、悲しい決断を迫られた者の様に見えなくもなかった。あの時のガメラの様に…。

 

「ん?千冬姉、箒に何か用事でもあるの?」

「あ。ああ、一夏。その通りだが少なくともこれはお前に関係のある話じゃないからな。だから、先に着替えて待っていてくれるか?後で私も篠ノ之も追い付くから。」

「ええ?何で?」

「なあ一夏、頼むから。待ってくれ。直ぐに済むから。」

「う〜ん……、分かったよ千冬姉。じゃあ先に着替えて来るね。」

「ああ、そうしてくれ。ああ、私の携帯のゲームで遊んだりするなよ、お前はまだ勝手を理解できて無くて何かと危なっかしいからな。」

「は〜い…って、酷いよ千冬姉!ちょっとぐらい良いじゃ〜ん。」

「駄目だ、遊ぶなら私が来てからにしろ。良いな。」

「うう…、分かったよ…。」

 

そう言って一夏は更衣室へと向かっていった。千冬と私はそれを見送った後、それぞれに向き直った。

 

「彼奴、この前何を如何したのか知らないがゲームからうっかり風俗サイトに繋げてしまってエライ目にあったばかりでな。わざとじゃないのは分かっているのだが、全く何をしているのやら…。」

「ええ、本当に先が思いやられますね……。ところで、話とは何ですか?千冬さん?」

「ああ、そうだな。じゃあ改めて。(咳払い)篠ノ之、実はな…、お前に…、話が…、あるんだ…。」

 

 

 

///////////////////

 

翌朝、私は学校の通学路を歩きながら昨日織斑千冬から聞いた話を思い出していた。マオも、黙ってはいたが同じ事を考えているようだった。そして暫くして、私に今日初めて話しかけて来た。

 

『………箒、昨日の件、お前はどう思う?』

「…そうだな。やはり未来へ向かってその様子を見てきたフェアリーから聞いた通りだ。奴が最初止めたがったのも無理はない。だがどうやらこの世界にとっては必要な進化だった様だし、彼女ですらターニングポイントとなる”白騎士事件”とベルサー艦隊の出現時期が重なるとは夢にも思わなかったようだからな。本当に何が起きても可笑しくないな。」

『そうだな。そしてそのおかげで、ただでさえ時間がなかったのに、余計に準備を急がせなければならなくなってしまったな。私としては、それが結構腹正しいが。』

「同感だ。早くしないとこのままじゃ、”コレ”の完成迄に間に合わないだろうな。何としても急がせなければな。」

 

 

私はポケットに手を入れて、中に入っていたものを取り出した。”赤く、蒔絵風の模様が入った、端子カバーの白い鈴のついた”USBメモリだ➖但し、波動力学のデータの入ったものではない。アレは”全体的に白く、雪模様の入ったタイプ”だ➖。それを眺めながら、私とマオは昨日織斑千冬と話したことを思い出していた………。

 

 

 

///////////////////

 

「………実は束からは”この事はお前には話さないでくれ”と頼まれたんだが、お前は一夏と同世代であるにも関わらず振る舞い方が私達の世代の人間とよく似ているし、中々の博識だから、お前にだけは伝えようと思ってな。…誰にも言わないと約束出来るか?」

「ええ、構いませんよ。それで?何ですか、話とは?」

「ああ、話せば長くなるがな…。」

 

織斑千冬は私に全てを話した。私の姉、篠ノ之束が宇宙開発用に極秘裏に開発していた”在来の兵器は一切無効化するが、本体の「コア」と呼ばれる部位の製作方法が不明で、しかも女性にしか扱えない”などという沢山の欠陥を抱えたマルチフォーム・スーツ、「無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)➖通称、IS➖」という一世一代の発明品を今から2週間後にとある学会にて発表するつもりなのだと言う。だが、束は肝心のコアの開発方法を明かすつもりは毛頭無いらしい。私もマオも、其れでは学会の科学者達からは、たかが十代の小娘の戯言としか捉えないだろうと考えた。正体不明の兵器をおいそれと使う程、彼らや他の人間は単純ではないからだ➖と言うより、常識だ➖。しかし、どうやら束は其れを見越した、あるとっておきの”隠し玉”を用意しているのだという。

 

「その、隠し玉とは?」

「分からん。だが奴のことだ、とんでもない仕掛けを用意しているかもしれん。そして恐らくそのせいで私と束は世界を敵に回すことになってしまうだろう。何故なら私も開発に協力はしていたからな。」

「………つまり、もうどうしようもないことなんですね。それは。」

「ああ、そうだ。だから、それを承知の上で、頼みたいことがある。」

 

ス、と千冬は着替え終わり、更衣室から出てきて玄関から出る直前にてを振って来た一夏に向き直って同じように手を振った後、また、ス、と私に向き直って言った。

 

「もし私に何かあったら…、一夏を…、私の妹の面倒を…、親御さんやお前に、頼めないだろうか?」

 

此れを聞いて私は暫しの間、沈黙した。まさか、彼女から織斑一夏の面倒を頼み込まれるとは思わなかったからだ。私が沈黙を続けていると、千冬は理由を話し始めた。

 

「確かに黙ってしまうのも無理はないかもしれない。だが、私にも相通ずる何処もあるとはいえ、彼奴にはもう頼れる家族が、私以外にはいないんだ。分かるだろう。」

 

それを聞いて、私は無言で頷いた。そう、2人には家族がいない。一夏の物心がつく前に捨てられたとのことだった。その頃のことを、千冬はあまり語りたがらない。彼女自身にも、余程辛い記憶だったのだろう➖前に一夏が、彼女に両親のことを聞いても「お前の家族は私だけだ」の一点張りであったというのが、主な理由だ➖。私は、アヤナは違ったのになぁ、と思った。あの瞬間まで、確かに私はアヤナに愛されてはいたからだ。それから暫くして、私は結論を出した。

 

「分かりました。もし貴女に何かが起こったら、私から両親に伝えておきます。ですが…、本当にそれでいいのですか?本当に彼女に貴女以外に頼れる家族がいないのであれば、束姉さんの言うことなぞ聞かなくても宜しいでしょう。一緒に居たいのなら、それでいいではありませんか。」

 

私は織斑千冬にそう言った。何故なら彼女が私に妹を託すと言いながらも、その瞳の奥に悲しみの明かりを灯していたからだ。そして、何時も放っている冷徹な武人のような気配を全く感じさせることもなかった。むしろ、私にはずっと一人で自分にとってかけがえのない、”たった一人の家族”たる織斑一夏を支えてきた、一人の女の姿を映った。なのに何故、離れたくないという思いを揉み消すようなことをする必要があるというのだ。一緒にいてやればいいだろう。そう思って私は彼女に、こう訊いた。すると、

 

「確かにお前の言う通りかもしれない。だが…、私には、この私には、束に返さなければならない貸しがある。もう、ずっと昔のことだ。私がまだ中学だった時に近所で覚醒剤を打った際の副作用の所為で暴れていた不良を止めようとして重傷を負わせてしまったことがあったんだ。あの頃の私は、今の一夏のような猪武者みたいな奴でな。今でも取り返しの付かないことをしたと悔いている。」

 

千冬は、何時の間にか暗くなった外を、道場の窓から眺めた。その様子は、何処か昔のことを懐かしんで、但し確かにその時のことを悔いているようにも見えなくもなかった。それから、千冬は続けた。

 

「その時、不良の親から治療費を請求されてな。今思えば其奴は相当理不尽な大馬鹿者だとは思ったが、少なくとも其奴の子供を私が傷付けたことに変わり無いからな。払うことにしたは良かったが、とてもバイトで稼いでも、払うには到底無理な金額に、仕方なく枕営業で稼いで払おうと考えたこともあった。だがそんな時だった………、束に助けて貰ったのは。」

 

千冬は言った。彼女はかつて私を、そして私の妹である一夏を助けてくれた。だったら、今度は自分が束を助けなければならない。借りたものは必ず返す。這い蹲ってでも。そして其れが例え、どんなに血で汚れ、自らの命を投げ出すようなことになったのだとしても、私はパンドラの匣を開ける覚悟を決めている。だが、一夏だけは絶対に巻き添えにする訳にはいかない。だから、

 

「約束してくれ、篠ノ之…いや”箒”。必ず、必ず一夏を幸せにしてくれと…。」

 

 

///////////////////

 

「そうは言ったは良いが、遺された者の気持ちぐらい、考えてやったらどうなんだ…。」

『そうだな。其れに、万一の場合に備えて奴は死ぬ気でいるかもしれない。おまけに、隕石が地球に衝突するくらいの確率とはいえ、バイドやベルサー艦隊と鉢合わせしてしまうかもしれない。丁度時期も重なっているしな。…此奴はもう完成しているのか?」

「この中に入っているそれぞれ2つの設計図と青写真ならもう出来上がって、全てこの中に入れた。後は材料と組み立てる場所、其れと…、」

『再び怪獣になれれば、だろ?だが時間は待ってくれはしない。そろそろ諦めた方がいい。』

「だが、そうでもしないと”コレ”を作ることが出来ない。必要な装甲のゴールドとチタンの合金を安易に手に入れるには、宇宙空間にある古い人工衛星やデブリでしか無理だ。幾らハッキングでも、此ればかりは怪獣の力無しでは出来ない。」

『…分かった。なら、後もう少しどうしたら元に戻れる方法があるか、探してみよう。だが、あまり時間は掛けられないぞ。』

「…ありがとう、マオ。」

そう言って私は、手に持っていたUSBメモリをポケットに戻して、元の「通学路にて登校中の小学生」に戻った。

 

USBメモリの中身には、今の織斑千冬と篠ノ之束を救える、唯一の方法が記されている。何としてでも”コレ”を完成させなければならない。昨日の話から、恐らく千冬は死ぬつもりだろう。其れに先程のマオの台詞では無いが、もしかしたら天文学的な確率で、千冬の言う「ISを使った壮大な隠し玉を行う」その日にベルサーやバイドが現れないとも限らない。そうなれば、彼女達が生き残る確率は、いよいよ低くなる。だが、このUSBメモリの中身と私の力さえあれば、彼女達を救うことが出来る。いわば、全ての鍵を握っているのだ。そして、そのUSBメモリの中身とは…、

 

異相次元戦闘機「R-9A”アローヘッド”」と其れを元にしたいわば「擬似IS」或いは「戦甲機➖英語名、ファイター・アーマー。通称、FA➖」の「アローヘッド」の詳細な設計図に必要な部品に技術リスト、そしてそれらの青写真である。

 

 

 

…私は空を仰ぎ見た。設計図は完成した。後は組み立てる場所と材料、そしてそれらを探すことの根本を成している私の力が戻りさえすれば良い。だがもうマオの言う通り、時間が無い。何とかして元に戻れる方法を探そうと決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

……………まさかその時、今日の午後、事態が大きく動くことになるのだとは夢にも思わずに……………。




いやあ〜、長い…。でも、何か達成感があって良いです‼︎本当に今回も無事に終わって良かったぁ〜☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆本当小説書いて良かったです。此れからも続けていきたいですね。あ、じゃあ今回のところは此処で、さいなら〜(・ω・)ノ


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第3話 箒、覚醒。一夏、目覚める。

はい、皆様お待たせ致しました、どんぐりあ〜むず、です。実は今回投稿するにあたって、相当ショックを受けたことがあります。

実は、お気に入りが一つ減っていたんですね。めっちゃ辛かったです。なんか分かるようになりました…、お気に入り消された時の感覚って、なんかこう、何の気力も湧かなくなるんだって。でも‼︎今回で名誉挽回したいと思いますので皆様、どうか目を通して下さい‼︎特に今回は名前は出てこないけれど一夏の正体が判明しますんで‼︎てな訳で、今回も元気にすたーと、ゆあえんじん‼︎あ、因みに今回も一万字越えしたんで気を付けて読んで下さいね。


「人の血を流す者は人によって自分の血を流される。何故なら人は神をかたどって造られたからだ。」

➖創世記第九章、及びノアの契約より➖

 

///////////////////

 

この日の夕方、私は一夏と、残りの班の男子や女子たちと放課後の掃除当番をしていた。だが、正確には私と一夏の二人だけ(・・・・・・・・・)が真面目に掃除をしていた。女子を主とした他の連中と言ったら、サボって何処かに遊びに行ってしまい、唯一残った三人の男子はと言えば、

 

「おーい、男女〜。今日は木刀持ってないのかよ〜」

「……ああ。だが、正確には木刀ではなく竹刀だな。」

 

…いきなり私に話しかけておいてこの有り様である。正直な話、私にとっては鬱陶しく、頭痛の種になっていて堪らない。何故私にいちいち突っかかって来る必要があるのだろうか?真面目に掃除でもしておけばいいものを。私のような奴なぞ、どうでもいいことだろう。前に、人間のようなある程度の社会性を持った生物は部族内での自分の地位を守る為に自分を筆頭として部族内にいる数少ないマイノリティーを排除しようとする習性があると聞いたことがあった。そんなこと、やったって何の得にもならないし、返って反感を招く愚か者の考えなのに未だに虐めを続けている奴は多いという。奴らは何故学ばないのだろうか?やはり、人間が愚かであるということの現れなのだろう。そう考えた時、そういえば、アヤナも毎日此奴らみたいな奴らに虐められていたな、ということを思い出した。彼奴らみたいな匂いが、此奴らからは漂っている。どうせならあの時の彼奴らみたいに嬲り殺してしまおうかと考えたが、そもそも記憶を取り戻していない一夏がいて動きが取れない上に、怪獣の力を取り戻してもいないので流石に殺すことはできないだろう。まあ、後の方はわざわざ怪獣にならなくとも剣道やそれ以外のトレーニングなどで鍛え上げた持ち前の馬鹿力があるため➖怪獣だったおかげか、結構早くに効果が出てきた➖、別段殺せないことはないのだが。

 

「ああん、喋り方可笑しい癖に生意気だな、お前。お前みたいな男女には武器がお似合いなんだぜ〜、知ってたかよ。」

「へっへ、そういや確かに喋り方も変だもんな〜」

 

私は生意気な愚か者どもに苛々しながら、適当に雑魚➖此奴らの名前なぞ心底どうでもいいのだが、取り敢えずそれぞれ”デブ原、チビ崎、ガリ松”と呼ぶことにした➖をあしらうことにした。このままでは、掃除が滞ってしまうからだ。

 

「…掃除の邪魔だ、他に言うことがないならさっさと自分の持ち場に戻れ。…それも私の目が黒い内にな。ほら、さっさとしないと痛い目を見るぞ。それが嫌なら坊や達三人はママのおっぱい吸いにでも帰れ。いいな。」

 

私は殺気を少し滲ませながら、脅すように言った。すると三人は、それも恐らく自分の身長と同じくらいの意志しか持ち合わせていない小心者のチビ崎は、たったそれだけで肝を冷やしたらしい。次に彼ら➖特にチビ崎➖から紡がれた言葉は若干声が上擦り、震え掠れていた。

 

「な、な、なんだよ。急に態度か、変えやがって。お、おお、おと、男女の、くく、癖に、な、生意気だぜ。」

「お、おう。一体何のつもりだよ、男女。てめー、一体全体俺たちをどうやって痛い目に合わせる気だよ。出来んのか?ええ?おい。」

「へっへ、無理無理。此奴にそんな力ないって。たかが女一人だろ。何が出来んだよ。強がり言うのも大概にしな、男女。つーか、マジで聞き捨てなんねぇ、ママのおっぱい吸いに帰れとか。おい、弁証しろよ。つか謝れ。」

 

チビ崎とデブ原は少しばかり怯えたが、どうやら能天気者のガリ松には通用しなかったようだ。だが、そのせいでデブ原とチビ崎はつい先程までの自信を取り戻して私に喚き散らし始めた。

 

「おう、そうだ、男女。謝れよ俺たちに。悪うございましたってなァ‼︎」

「そうだよほら、さっさとはいちまえよ!自分が悪かったってよォ‼︎」

「そうだそうだ、男お…へぶっ⁉︎」

 

チビ崎の恫喝は其処で突然途切れた。何故なら、奴がはやし立て始めたまさにその時に、顔面に一枚の濡れ雑巾が叩きつけられたからだ。そしてその犯人は勿論、

 

「……ったく、うっさいわね。あんた達暇なら箒の言う通り帰んなさいよ。それが嫌なら手伝いなさいって。え?先生言うわよ。」

 

我らが織斑一夏だった。どうやら彼女も、此奴らの、私に対する意味不明な攻撃に業を煮やしていたらしい。それも、わざわざ濡れた雑巾を顔面に叩きつける程の怒り様だ。私も流石に目を丸くした。頭の悪い、猪突猛進型とはいえ流石にやり過ぎだろう。もう少し穏便に済ませたらどうなんだと私が思うと、やはりというべきかデブ原達三人の男子が騒ぎ出した。

 

「おいっ‼︎てめぇ、織斑‼︎何のつもりだよ、此奴はよォ‼︎お前此奴の味方のつもりかよ⁉︎」

「おまけに人様の顔面に雑巾叩きつけるたぁ、どういう了見だ、あぁ‼︎」

「ハッ、どうせこの男女のことが好きなんだろ。や〜い、このレズ夫婦〜。つってもだからって、やっていいことと悪いことの区別くらい付けろっつーの。てか、先にこっちの方から先生に言いつけるぞ、織斑が顔に雑巾投げつけてきましたってなァ‼︎」

 

だが、それらの雑音を気にも留めず、一夏は続けた。

 

「言ったでしょ。邪魔なの、掃除の邪魔。ていうか、女子の胸倉掴んで何言ってるのよ。先生言われるのそっちの方でしょ。」

 

そう言われてみれば、確かに私の胸倉をデブ原がその穢らわしい手で掴んでいた。此処まで接近を許してしまったことに、私は後悔した。何故今の今まで気が付かなかったのだろうか。無駄なことを考え過ぎたせいだろう。今度からは悔い改めないとなぁ、と思うと、

 

「へっ、所詮そんなことを示す証拠なんかねぇだろ。おまけに真面目に掃除なんかしてよー、バッカじゃねーの。しかもムキになりやがって。お前らだけじゃ俺たちには勝てねぇって。」

 

と言うとデブ原はチビ崎とガリ松に顎でしゃくって、二人で一夏を羽交い締めにした。

 

「ちょっ…、何すんのよ‼︎」

「へっ、決まってんだろ。さっきの雑巾のお礼だよ。痣ぁ、出来ない程度にいたぶってやっからよォ、覚悟しな。」

 

デブ原はそう言って、指を鳴らしながら羽交い締めにされている一夏に近づいた。だが一夏は、羽交い締めにしているガリ松の太腿に蹴りを入れて自由の身となって反撃し始めた。いつも私に負け続けの一夏だが、流石にあの織斑千冬に鍛え上げられているだけあって男子三人に引けを取らない戦いぶりを見せた。大体チビ崎に裏拳をかましてデブ原にパンチした後ガリ松には一本背負いと言った感じだった。だが。

 

「ふざけやがって、女の癖に‼︎」

 

殴り飛ばされたデブ原が立ち上がって、一夏の髪を鷲掴みにして蹴り飛ばして教室の隅に迄吹っ飛ばした。

 

「きゃっ…‼︎」

 

吹っ飛ばされた一夏は悲鳴を上げて気を失った。

 

「⁉︎…貴様‼︎」

 

私は飛び掛かってデブ原に掴み掛かった。だがその後でガリ松達に引き剥がされ、一夏と同じく教室の隅に迄滑っていった。頭が壁にぶつかった。その時何か生暖かい液体の様なものが頭から流れてきた。触るとそれは赤黒い色をしていた。それを見てその液体が一体何なのかを理解してしまった途端、私の中の何かが壊れた。何かが黒い爆発を起こしてしまった。私は傍らで気絶している一夏を一瞥すると、先程とは比べ物にならないくらいの殺気を解放した。今の今まで黙っていれば、つけ上がりおって…。見逃してやろうかと思ったがもう我慢の限界だ、貴様らには…、他の奴の手で八つ裂きにされてしまう方がマシだと思えるくらい、拷問しながら嬲り殺してやる…‼︎

 

そして、服を突き破って私の背中から触手のような何かが飛び出してきた。それは、私にとっては懐かしいものだ。私はそれに、全く出てくるのが遅いぞ、と心の中で声を掛けた。そして、三人に向き直る。三人は私の禍々しい程の殺気はおろか、私の背中から生えた”テンタクランサー”を前に、みっともない泣き声と悲鳴を上げていた。挙句、殺さないでくれ、ママ助けてなどと言い出す始末であった。

 

「ひっ……‼︎な、な、なな、なんだよそりゃあっ‼︎」

「おお、お、お、おいっ‼︎ち、近づけんなよっ、そんなの⁉︎」

「ひっ、ひえぇぇぇぇぇッ‼︎た、助けてくれよ母さぁぁぁぁぁんッ‼︎死にたくない‼︎死にたくないよぉぉぉぉぉ‼︎」

 

三人はそれぞれ、言いたいことをポンポンとその穢らわしい口から吐き散らしながら私から、教室から逃げ出そうとしたが私はそれを許さなかった。教室の扉や窓を全て開かないように私がサイコキネシスで細工し、悲鳴も漏れないように”アンチ・プラズマフィールド”を応用した結界で音や声は完全に聞こえないようにした。

 

つまり、今この教室は完全なる密室なのだ。そして此奴らの、哀れだが恐怖に打ち震える甘美な悲鳴を、今私は独り占めにしている訳である。私はうっとりとした。何故なら、今からこの彼等の最期の断末魔の悲鳴を前菜にして彼等を私の糧にしてやるのだ。但し、只では殺さない。自分達が否応なしに私の糧となることと痛みに苦しみながら、私に喰らわれるのだ。その時の絵も言われぬ快感を想像して私は感動と快感に打ち震えた。私は近づきながら言った。

 

「助け?助けなんてもう此処にはきやしないさ。何しろ、お前らは私を怒らせ糧となり消える口実を私に与えてしまったのだからな…。さあ…、教育してやる…!豚のように泣き叫べ…‼︎」

 

私が近づいてくるのを見た彼らはたちまち半狂乱に騒ぎ出し、ホウキやらモップやらバケツやらで私に立ち向かおうとした。私はそんな蟷螂の斧の滑稽さにほくそ笑んだ。馬鹿め、そんな安物の木の棒なんぞで何が出来る。もう運命は決まったというのに何時まで抗う気だ?確かに運命に抗うことは大切だ。だがそれは時には…、タイミングにも寄ってくる。要するに間に合ったか合わないかで命運が決まるのだ。今の彼らは後者だった。もう手遅れだ。お前達は命懸けの勝負に負けたのだ。今更抗うという選択肢など…、存在しないッ‼︎

 

「うっ、うっ…、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 

デブ原がモップを手に私に叫びながら突っ込んできた。私はそれをかわして奴の足に触手を引っ掛けて転ばした。そして、

 

「正直お前らのような輩の肉なぞ喰らいたくも無いが…、まあ、我儘は良くないからな。早速、頂くとしようか…‼︎」

 

直後、テンタクランサーが無慈悲にデブ原の体に刺さった。残りの二人も私から逃れようとして、やはりというべきかテンタクランサーの餌食となった。その為、未だにテンタクランサーから逃れようと足掻いている。無駄だと言うに。後数分、いや、もっと悪ければ後数秒で此奴らはミイラと化す。また、例えテンタクランサーから無理矢理逃れたとしても今度は失血死だ、どうせ助かることはない。反撃の心配は無いから私は久しぶりに”怪獣としての”食事に歓喜した。だが、私はそれ迄一夏のことを完全に忘れていた。私が結界を張ったことと、先程の攻撃で暫くは目を覚ますことは無いだろうと踏んで気にも止めなかったからだ。

 

 

 

…まさか、あのような姿を彼女が晒してまで三人を助けようとするとは思わなかった。

 

///////////////////

 

織斑一夏は箒達が繰り広げている、”食事”とは無縁な場所➖つまり、気絶した時の微睡みの中だ➖にいた。その中で眠りこけながらも、やはり彼女は一夏のことを心配していた。確かに彼女は自分と比べる迄もないくらい、強い。それは自分でも認めている。恐らく姉の千冬でも怪しいところだろう。だが、今自分が心配しているのは彼女が男子達に痛めつけられることではない。強いがゆえに、其奴らが許せないが為に彼女が誰かを傷つけていないかを心配しているのである。前に箒は「力を誰かの為に使い、そのせいで他を傷つけたというのならまだ許せる。多少の犠牲は致し方のないことだからな。だが、誰かを傷つけるだけで力を使うのならその罪は重い。当然其奴ら因果応報論の名の下に滅びて然るべきだ。」と言っていたことがあった。確かに彼女の言っていることは正しい。あんな奴ら、死ねばいいのに、と思うことはよくある。だがそれでは幾らなんでも酷すぎではなかろうかと考えられるのだ。そんな奴らでも反省さえすればきっと分かり合えると思ったことがその理由だ。だがどうやらそんな考えは甘かったらしい。諦めかけていたその時、彼女は誰かの叫び声を聞いたような気がした。いや、したのではなく聞こえたのだ。一体誰がと思った次の瞬間、一夏の潜在意識の中にある現在の状況のイメージが飛び込んできた。体から触手を生やした箒が触手の先端を三人の男子達に突き刺してその体液を吸い尽くしている光景だ。間違いなくあれは現実だ、自分が何とかして止めなければ、と彼女は動きかけたがあんな化け物の箒をどうやって止めるというのだという声の前に実行するのを躊躇った。無理だ、絶対に今の彼女を止めるのは不可能だろう。だが、かといって三人の男子がこのまま嬲り殺されていくのを黙って見ている訳にもいかなかった。一夏はすぐにでも目を覚まそうとした。だが、それはできなかった。何故なら、突然謎のイメージが浮かび上がり、そしてそれを見た途端、彼女は記憶と本能という名の蜘蛛の巣にがんじがらめに絡め取られてしまったからだ。そして彼女が見たものとは、かつての前世の記憶を失くした彼女にとっては意味不明な、三日月型の巨大な角に鼻の上に白い角を持ち、太く長い尻尾や岩のようにゴツゴツした腹部が特徴的な、”過去の自分”の記憶だった。最初は南の島。眠っていたところを人間に叩き起こされ、今度は勝手に眠らされて誘拐同然に島を連れ出され、目を覚ましたら全く知らない場所で帰りたいと訴え続けたにも関わらず赤と銀の巨人や人間達に受け入れて貰えず、結局彼らに退治されてしまったことが自分の、あるいは他の世界や時代の自分や同族達の、苦難に満ちた果てしない運命と宿命の旅の始まりだった。それらの大半はあの時の赤と銀の巨人と同じ存在に倒されるという、全く良くないものばかりだったが、一つだけ違うものがあった。唯一人間達とあの星(・・・)を戦い抜いて脱出したという記憶だ。あの時の人間達のことは、今まで見た全ての記憶は知らない筈なのに此ればかりはよく覚えていた。否定的な者が居たとはいえ、みな善人だった。そして勿論”彼”のことも…。

 

「レイ……。」

 

知らない筈の青年の名を口にする。だがその顔はノイズのようなものに覆われ、良く見えなかった。彼女は顔のない青年を必死に呼びかけた。だが、彼女は、”怪獣としての記憶を少なからず持った”人間の少女は、織斑一夏の意識は其処で途絶え、代わりにその、有るのか無いのかわからないような記憶の中に出てくる恐竜のような怪獣(自分)が、箒を止めようと彼女と入れ替わった。意識が完全に途絶える寸前、一夏はその怪獣に箒を助け出してくれるように祈って、そのまま深い意識の底へと沈んでいった…。

 

///////////////////

 

私は突然横から飛んで来て、私に当たりかけた光線➖超音波メスのようなものの類だろう➖に気がついて、素早く”食事”を中断して光線を避けた。全く誰だ、私の食事の邪魔をする奴は。喧嘩でも売るつもりか?そう考えた私は光線の飛んで来た方向に向いた。確かに結界は張ってはいたが、万一何らかによって結界が破られた可能性もあるからだ。だが次の瞬間、私は驚いた。何故なら其処に居たのは、

 

「…………一夏?」

 

私は顔を俯かせて佇んでいる一夏を見た。まさか、今のは…。

 

「一夏!あれは…、ついさっきの光線は…、お前がやったのか?」

 

一夏は答えない。低い唸り声を上げて此方を睨んでいる。対する私も、黙って彼女を睨み返した。すると、彼女はいきなりすざましい叫び声を上げた。

 

 

 

ーキシャアアアアアアアアアアアァァァ‼︎‼︎‼︎

 

 

 

すざましい叫び声に私は思わず驚いた。そして私は見た。彼女の背後。まるで実体を持っているかのように怪獣の姿をしたオーラが湧いていたからだ。怪獣は全体的に茶色の体色をしていて、三日月型の角と鼻の上に白い角を持ち、立派な太く長い尻尾に、其れこそ岩のようにゴツゴツした腹部が特徴的な、トリケラトプスを二本足で立たせたような姿をしていた。そしてその目は、私に対する怒りが燻っているように思えるくらいに、私を睨み付けていた。やがて怪獣のオーラは一夏と同化し始めた。対する一夏も容姿や服や、髪型までもが変化し出した。美しい黒髪はショートの銀髪に変わり、顔つきも何処か凛とした雰囲気を放ち、何故かスクール水着に先程の怪獣の脚部や腕部のようなデザインの、それも爪のついたブーツと手袋をつけ頭には先程の怪獣の三日月型の角のようなカチューシャと鼻の上の角が額に付けている。おまけに目つきや気配まで千冬に近いものを感じた。恐らく並みの強さではない。下手をすれば怪我どころでは済まないだろう。そう考えた時、姿を変えた一夏が額の角から先程の光線を放って来た。私はミイラ化寸前の男子三人を放り出すと、素早く光線を避けながら一夏の懐に飛び込んだ。そして目にも止まらぬ速さで右手で気管に手刀を叩き込み、左で胸に肘を打ち込んでもう一度今度は右で顎に拳骨を食らわせる「ブルックリン式握手」を決め込んだ。流石にこれには一夏も応えたらしく、暫くフラフラ歩き回った後、ぱったりと倒れた。私はホッとため息をついた。これで一先ずは安心して良いだろう。大それたことにならずに済んで良かった…。

そして私は今度は教室の隅に転がっているあの三人を見た。邪魔が入ったせいで此奴らを食らう気はもう失せた。それにそもそもこんな屑を食らうこと自体、間違っていたのではと思っていたのでむしろ丁度良かった。最後に私は吸い取った体液の四分の一は、ちょっとした細工を施して奴らの中に戻しておいた。記憶の改竄と万一思い出しても言おうとした途端に”ある生物”に変貌してしまい、人間としては死んでしまうという代物だ。つまり、ある種の催眠術と自爆装置という訳だ。之の目的は奴らが誰かに今日のことを言ったり思い出したりしないようにする為だ。また、そればかりでなく会話も細工が効かない旧式のテープレコーダーに録音されている。最初デブ原が話しかけて来たときには既に起動させていたから、万一思い出した上で自爆装置が作動しなくとも大丈夫だろう。

 

一通りの隠蔽工作が終わったその時、久しぶりにマオが話しかけて来た。彼女はずっと私に話しかけても全く反応がなかったことと、男子三人の惨状を見て酷く狼狽し、私が勝手なことをしたことを悟って、それに対する怒りで声を震わせていた。

 

『箒‼︎お前、まさか彼等を…、手に掛けたのか⁉︎何てことをしたんだ、バレでもしたらどうする。それに酷ければお前がやられていたかもしれない。どうしてなんだ?え?何か理由でもあるのだろう。一体何なんだ?』

 

怒り狂うマオに私は少したじろいだ。確かにやり過ぎたのは事実だからだ。私は謝罪と同時に理由を述べた。

 

「すまなかった。確かに自分の感情に身を任したことには謝る。だが、嗚呼でもしないとむしろ私も一夏も危なかった。それに私は此奴らを始末する気なぞ毛頭ない。ただ、ちょっとしたお仕置きをしただけだ。」

『………本当だろうな?』

「ああ、そうだ。信じられないなら力を貸すのをやめるか?」

『……いや、やめておこう。お前には助けて貰ったし、何よりお前から離れることは出来ないからな。だが、次からはやめてくれよ?』

「承知した。」

 

私はそう言うと、一夏達を家に帰そうとまず彼女を抱き抱え、残りの連中と荷物をテンタクランサーで引きずりながら教室を後にした。

 

///////////////////

 

その帰り道だった。腹に自分ランドセルと、背中に一夏をおぶって歩いていた時にマオが話しかけて来た。

 

『…ところで箒、お前とうとう覚醒したんだな。先程は怒っていたから気が付かなかったが。どうやら私も人のことは言えないようだ、私も気をつけるとするか…。』

「そうだな。せいぜい気をつけることだ。だが、お前のおかげで彼処で踏み留まることができたから、正直感謝はしているぞ。だから、ありがとう。さっきは。」

『…///、いや、別に、いい…///。』

 

 

 

…其れから暫く沈黙が続いたが、再びマオが語り掛けて来た。束達のことと擬似ISのことだった。

 

『箒、此れからどうする?少し力が戻ったということは”アローヘッド”の製作が可能になったということだろう。もう帰ったら工房や材料集めでも始めるか?』

「そうだな。だがマオよ、実は工房に関してなんだが…、ん?」

 

その時何故私が其処で会話を中断したのは、今の今まで眠っていた一夏が「んんぅ…。」という声を上げて目覚めたからだ。一夏は呑気に欠伸なぞしながら私を見た途端、何かを思い出して慌てたように聞いてきた。

 

「へあっ⁉︎ほ、箒ぃ⁈何でぇ!何でこんなことを…ってここどこ⁉︎てかあい…むぐぐっ‼︎」

「少し落ち着け。先ずここは何処なのか、そしてお前が何故私におぶらるているか言ってやる。先ず、ここは何時もの通学路だ。次にお前はあの時男子どもにかっ飛ばされただろう?其れからお前はずっと気絶したままだったから、置いていくのも気が引けたからおぶって帰っているんだ。因みに忘れるところだった、彼奴らはこてんぱんにして家に帰した。まあ、彼奴らが何を言っても無駄だがな。なんせ此方には奴らに対して非常に有利な証拠を持っているからな。」

 

私は彼女の目の前で旧式のテープレコーダーをちらつかせた。それを見た彼女は「何時の間に⁉︎というか怖っ!どうやって録音したんだよ!」とでも言いそうな、驚いた表情を浮かべた。

 

「そうかぁ…。彼奴ら帰ったのかぁ。でも大丈夫?男子三人なんか相手にして。大変だったでしょ?」

「いや、そこまで労する迄も無かったぞ。彼奴らは口先だけの、ただの臆病者だ。遅れをとる訳がない。」

「あ、あはは…。けちょんけちょんに言うんだね…。」

 

其れから暫く黙っていたが、私は先ず一番聞きたい理由二つの内の一つを訊くつもりでこう言った。

 

「……しかし、お前は馬鹿だな。」

「は?何がよ。馬鹿じゃないわよ馬鹿。」

「そうは言ってもあんなことをすれば、後で面倒になるとは考えないのか?」

「ん?ああ、あれ。そうね、考えないわ。許せない奴はああしてやるのが一番よ。何なら殴ったって良かったのよ。」

 

私はふと、前に一夏がついさっき私がそれぞれの家の玄関ポーチに転がしておいたあの男子三人とは別の、別の女子に手を上げた愚か者を叩きのめした時の話を思い出した。あの時、織斑千冬にこっぴどく叱られたらしいが、どうやらその時から考え方は変わっていないようだが、おそらく其処が奴の長所だろう。考え方を曲げないことには、確かに良いだろう。だが、そのせいで暴走しがちなのは頂けないことだが。

 

「だいたい、徒党組んでいるのが気に入らないの。群れて囲んで陰険って、男として最低でしょ。」

「そうだな。」

「だから、あんたも気にしなさんなよ。後、リボンとポニーテール、似合ってたわよ。またしなさいよ。」

「黙れ。私がリボン付けて髪型をポニーテールにするのは私の勝手だ。自分のことを決めるのは自分自身。お前じゃない。それに私は命令されたり指図されるのは嫌いだ。頼まれるならまだしも、自分の立場をわきまえない大馬鹿者に指図される言われはない!」

 

それを聞いた一夏は声を上げて抗議した。当然だろう。励ましておいてこの言われようなら誰でもカッとなる。だが、奴にはそれ相応の罪と罰があった…。

 

「はぁ⁉︎何それ‼︎人が励ましておいてそれはないじゃない!幾ら何でもひどすぎるわ‼︎」

「黙れ。お前に非道いと言われる筋合いはない。ついさっき私に隠しておいて、その上で何をしたのか忘れたとは言わさんぞ。え?知っていること全て、洗いざらい吐いてもらおうか?」

 

私は彼女の胸倉を掴むと、そのまま金網のフェンスに彼女を押し付けた。彼女は「きゃっ‼︎」と悲鳴を上げ、苦しそうに言った。

 

「い…、一体……なんのことよ。………私、何も、してない!」

「嘘をつけ。ついさっき私にあの姿を見せて殺しにかかっただろう。”アレ”は並みの人間が出せるものじゃない。お前はそこらの奴とは違うんだ、織斑一夏。もう一度だけ言う、”貴様は何者だ”?」

 

私は彼女を下ろして返答を待った。だが彼女は弱々しく言った。

 

「嘘じゃないわ…。本当よ……。だって、記憶にないんだもの。思い出そうとしても彼処で気絶したところしか覚えていないのよ。本当よ。お願いだから信じて。」

 

彼女はぺたりと座り込んで私を見上げた。確証はないが確かに、何も知らないようだった。何となくだが、今は彼女を信じてやることにした。

 

「………良いだろう。信じてやろう。但し、今のところは、だ。分かったな。」

「ええ…。」

 

 

 

…やがて、私達は途中で別れ、家路に向かう一夏を見届けた。何とも後味の悪い別れ方だったが、明日には何とかなっているだろう。そして、マオが再び話しかけて来た。

 

『私はあの時の教室でのことは眠っていたから分からなかったが…、一体何があった?』

「ああ。彼女が本物の怪獣が転生した存在だという確証を得たのさ。しかも、人間から怪獣への移行段階、つまり「半覚醒化」していた。だがそのせいで彼女は暴走を起こしていたから、それで止めてやったんだ。」

『そうだったのか。だが、それなら何故奴をこのまま帰した?仲間に引き入れても良かっただろう。』

「ところがだ、彼女は何も覚えちゃいなかったのさ。おそらく能力は戻っていても記憶を戻していないんだ。だから今はまだ保留という形で監視を続けることにしたんだ。」

『そうか…。まだ、仲間には出来ないんだな。』

「ああ、残念ながらな。だが、その代わり良いニュースもある。工房を見つけた。」

『!それは本当か‼︎』

「ああ、十数年前に東北辺りで震災があったこと、お前も覚えているだろう?あの時地震が原因で起きた原発事故のせいで住民が居なくなった際に、震災の前日にオープンした自動車工場があったんだ。だが震災のせいで操業は出来ずじまい。だが、被害は其れ程迄も受けなかったから何時でも使えるぞ。まあ、その前に掃除をしなければならないがな。きっと、道場とは比べ物にならんだろうなぁ…(遠い目)。」

『やるじゃないか、箒!まあ、これで二つ問題は片付いたな。』

「いや、三つだ。材料集め。これでゴールドとチタンの合金を手に入れることが出来る。」

『ああ、そう言えばそうだな。で、いつにする?明日か、それとも明後日か?』

「いや…、今だ。」

『何?』

「だから、”今だ”と言っているだろう。さあ、準備しろ。出発するぞ。」

『ちょっと待て、箒⁉︎まさかお前、今から東北から宇宙空間に…っ‼︎』

 

 

 

「その………、まさかだ………っ‼︎」

 

 

 

私はランドセルを電柱に引っ掛けると、そのまま秒速208キロで大気圏を突破した。かつてのマッハ9くらいでは不安だったからだ。

 

 

 

 

 

数日後、新聞の記事にやれ「デブリや古い人工衛星を盗む謎の宇宙人」とか、やれ「東北や関東にUFOが出た」とかそんな騒ぎが載せられたが、世間はそんなものはただの妄想癖の強い愚か者の戯言だと片付けてしまい、忘れ去られていった。

 

 

 

 

 

 

 

………もし、この段階で気付けたものがいたら、後世の歴史は大きく違っていただろう。だが誰も復活した”異世界の邪神 イリス”と”擬似IS アローヘッド”、そして”R-9A アローヘッド”に気付いたものは➖織斑千冬や篠ノ之束も含めて➖誰一人としていなかった。だから歴史も変わることなく、順調に時間を進めていった…。

 

 

 

 




はぁぁぁああああ。やっと終わった………。実は5日以内に終わらせるつもりだったんですよ、今回。何でこうなったんでしょうね、本当に。でも最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます‼︎此れからもこのどんぐりあ〜むず、をよろしくお願いします‼︎

あ、何時も通り感想、批評、評価、質問受け付けますんで、どうぞ、気軽に声をかけて下さい‼︎では、皆様。またのお越しを。


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第4話 ”ラウンド・フォース” 〜白騎士事件前夜の章〜

どうも!どんぐりあ〜むず、です‼︎久々に投稿します‼︎では皆様どうぞ‼︎



あ、後束さんゴメンなさい‼︎


「奴らは…ボールなのか?彼は自らの胸に聞いた。本当にボールだという事が有り得るのだろうか…?(中略)奴らの目は未発達で凹み、ぼんやりとした歯は歯軋りをたてていた。奴らは食べていたのだ…世界そのものを。」

➖スティーブン・キング著「ランゴリアーズ」より抜粋➖

 

///////////////////

 

 

 

 

 

 

…此れは、篠ノ之箒が、本来の力(・・・・)➖と、言っても本人からすればまだ2〜3割程度の、微々たるものだ➖を取り戻し、本来の姿に近い姿である、半覚醒化(所謂人と怪獣の中間形態のことで、側から見れば怪獣の擬人化コスプレに見えなくもないが実際は並の在来兵器程度の攻撃には結構耐え切れてしまえる)出来るようになってから、実に1ヶ月が経過してからの話である。

 

 

 

 

 

 

宇宙空間で国際宇宙ステーションの点検作業とスペースデブリの除去作業を行っていた宇宙飛行士達は困惑していた。理由はこうだ、彼らは何時も通り午前0時にマニュアル通りに点検とスペースデブリの除去作業を行う為に船外に出て来て作業を始めた。黙々と作業を開始した彼らは最初は直ぐに終えて船内に戻るつもりだった。だが一連の作業が終わったその時、一人の宇宙飛行士が遠くの方で見えたとても有り得ないくらいに恐ろしいが、とても美しい光景を見てしまったが為に彼らは凍りつき、混乱してしまったのである。

 

其れはステーションの近くのスペースデブリにいた。其奴は、言うなれば”天女”だった。そう、”天女”だ。腰まである長い銀髪に、紅白で一見スタンダードだが、金色の宝石のついたピアスが付けた臍が丸見えな、菱形の穴が開いた腹部に溢れそうな巨乳が目立つ巫女服。背中に生えている触手と、虹色に輝く絹のような膜の翼。首に下げた黒い勾玉は蒼く輝き、宇宙空間の暗い闇に隠れそうな凛々しい顔を映し出す。そしてその顔も優美なラインと曲線を描くスタイルも➖当然ながらその辺の美女とは比べ物にならないくらいに➖美しかった。宇宙飛行士達は船内外と性別問わずその虹色の天女に釘付けになった。あるものはカメラを取り出して写真に残そうとする者までいた。だが天女はそんな宇宙飛行士達には目もくれず、素早くデブリを触手で引き寄せると臍に付いた金色の宝石のピアスから光が放たれ、デブリは全てその中へと吸い込まれていった。宇宙飛行士達は驚いていた。先程まであった大量のスペースデブリが一瞬にして消えてしまったのだから、無理もないだろう。だが、天女はそんなことも意も貸さずにすざましいスピードでその場を去って行ってしまった。宇宙飛行士達があれが最近地上で噂になっている宇宙人なのだということに気がついたのはそれから船内に戻ってから数時間経ってからのことだった。天女は、彼らにそれくらいの美しさとインパクトを与えたのだった。因みに、このせいで国際宇宙ステーションの軌道が若干擦れたことは言うまでもない。

 

 

 

///////////////////

 

ところ変わって、日本国「東北地方F県F市郊外」。

 

事故を起こしたF第一原発の近くに”其れ”は降り立った。天女だ。宇宙飛行士達を驚かせ、周囲のスペースデブリを全て吸い込んでその場を後にした後、彼女は最初に出発したこの地へと戻って来たのである。やがて彼女は周りに誰かいないかを確認して降り立つと、「ふぅ…。」とホッとしたような溜息をつくと、一瞬その身体は光に包まれ、1秒後には何処にでもいるような見た目が小学生程の美少女に変わった。

 

「……やはりまだ慣れないな。」

 

少女はあの篠ノ之束の妹であり➖そして、我々にとってはお馴染みの➖、この物語の主人公である篠ノ之箒だった。たった今”彼ら”から呼び出されたついでに材料集めの為にわざわざ宇宙空間までスペースデブリや古い人工衛星を集めに飛んで行って帰って来たところであったのだ。だが、やはり覚醒したといってもまだ身体が慣れていなかったことやまだ全力を出し切っていないこともあって、気怠そうに首を回したり、肩の関節を鳴らしたりしていた。そんな彼女に、体内にいるせいで姿の見えない相棒のマオが率直な意見を述べた。

 

『当たり前だろう。幾ら”半覚醒化”していても、身体がまだ人間から離れられていないんだ。身体に相当負担がかかるのも無理は無い。此れからはもっと控えめに行動しろ。戦う前にくたばってしまっては元も子もないだろう?』

「まあな。だが、私は大丈夫だ。そのくらいのことで死にはしない。ま、むしろ、慣らし運転には丁度良いくらいだ。別段、気にしてはいないんだぞ?こう見えて。」

『そう言うの何て言うか知っているか?慢心って言うんだぞ。かの大日本帝国海軍の一航戦だって、敗因は其処にあるんだ。だから頼むからあまり調子に乗らないでくれ、お前の身体どころかこっちまで持たなくなるから。』

「………バイドだから平気じゃないのか?」

『幾らバイドでもお前が完全に元に戻っていないばっかりは此方の負担も大きい。肉体的にしろ精神的にしろ、だ。それに私は元人間(・・・)だぞ。幾ら何でも限界がある。』

「はあ…。…やはりお前といい、人間といい、怪獣以外の他の動物といい、脆いものだな。本当にどうしてくれようか?またもっと頑丈になれるか試してみるか。」

『馬鹿者、それはもうやっただろう。”彼奴ら”を創った後何度試してもせいぜい大気圏をギリギリで突破して宇宙遊泳が出来る程度にしかならなかったじゃないか。今はそれでいいだろ、諦めろ。もう時間がないことぐらい、お前も理解している筈じゃないか。』

「むぅ…。そうだな、今は戦闘準備にかかる方が先決か。まあ、いい。今は兎に角”ガレージ”に向かおう。」

『ああ。その通りだ。確かに早めに行った方が良いな。見ろ、県警のヘリだ。』

 

そう言われて空を見上げれば、確かに空が白み始めた東の空の彼方の方角からF県警の「ベル 412 EP」の青い機体がサーチライトを照らしながら此方へと近づいて来ているのが見えた。くそう。箒は心の内で毒づいて近くの茂みの中に隠れた。ここ最近、立入禁止区域に指定されているこの場所で、よく何者かが徘徊していたりUFOらしき機影が目撃されているというニュースがあったせいで、夕方から夜明け前に掛けての夜間パトロールが強化されてしまったからだ(勿論其れ等は箒のことだ、これに対して彼女は、幾ら証拠隠滅をしてもばれてしまうものはばれてしまうから仕方ないとはいえ、何時の間にやら自分が飛んでいるところを勝手に目撃したという人物に対して腹を立てた)。その上、今では防護服を着た警官が、市内をパトカーで巡回している始末である。目撃した人物はおろか、辺りを見回し周っている警官達に対しても、箒は苛立ちを覚えた。だが彼女は、そのように苛立ちながらも根気強くヘリが遠ざかるのを待った。

 

 

 

…暫くしてヘリもいなくなり、日の出を迎えた頃に再び箒は行動を開始した。目指すはこの先のとある建物だ。今自分達が進めている計画は全て此処で行われている。そして何よりも自分を待っている仲間(・・)もいる。だからうっかり捕まる訳にもいかなかった。

 

 

 

やがて、目指していた建物が見え始めた。震災の前日にオープンしたが、結局地震と原発事故によって使われずに放置され、ただいたずらに古くなった自動車工場だ。この自動車工場はあのF第一原発に、程近いとも遠いとは言えない距離にある。だが、森や山に囲まれていることや箒達が設備の一部しか使っていないことに加え、警官達のパトロールであまり来ることのない場所であるだけに誰もここに注目しなかった。箒は、周囲に人影がないことを確認すると、裏口へ回って建物の中へ入っていった…。

 

 

 

///////////////////

 

 

 

内部を進む内に、目的の部屋への入り口の、観音開きの鉄の扉の前に辿り着いた。ベルトコンベヤーのある、自動車の組み立てラインの部屋だ。ここを選んだのは、単にこの建物の中で最大で、尚且つ最深部である他にも、溶接用のマシンなどがそのまま此処に残っていたというのが最大の理由でもある。また、最深部なだけあって、誰も立ち入り禁止区域内にあるこの打ち捨てられた廃墟であるこの建物の中のここまで調べに来る愚か者は、まずいなかった。だから箒達は今この部屋を、ハッキングして極秘に入手した篠ノ之束のISのデータとR戦闘機の技術で作り上げた、篠ノ之箒自身が極秘開発した”コアが存在しないIS”である「擬似IS」もとい、「戦甲機(正式名称、ファイターアーマー。通称”FA”)」とR戦闘機工房として使っているのである。現在この工房にて箒達はFAの「アローヘッド」、及びR戦闘機の「R-9A アローヘッド」を絶賛製作中だった。だが、何も彼女一人➖そもそもマオは箒の胎内にいるため、助言くらいしかできない彼女はカウントされない➖でFAやR戦闘機を製作した訳ではない(工場の掃除や設備の点検、それに万一に備えての警備や武器弾薬の管理もまた然りである)。実は自分がここを留守にしている時のアシスタントに少しばかり手伝って貰ったのだ。もちろん人間ではない。箒が近くの森の中にいた動物などを、バイドや自身の力によって作り替えた存在だ。但し、どれもかなり有能で性格の良く、可愛らしい奴らばかりで、そんな彼らを、箒はさながら、実の妹か、娘のように可愛がっている。そのため、久しぶりにそんな彼らに会いたい(情報収集とマスコミと警察対策、そして両親と束の目が光っていた為、ここ3日間会っていなかったが、この前両親が福引きで海外旅行を充てたため、こうして家をまる2日間も空けることができた。最初家族全員で行こうと言う話だったが、束は知らないが両親には友達に泊まりに誘われたと言って断った。因みに、その束も何処かに出かけたきり、戻ってこないようだったので、家を空けられるチャンスと捉えることができた)一心の箒は、はやる気持ちを抑えて重そうな両開きの鉄の扉のノブに手を掛け、開けた。

 

 

 

…中は綺麗だった。箒がいつ帰って来ても良いように、彼らが綺麗に掃除したり、機械の点検を行ってくれていることの証拠だ。だが、今この部屋には誰もいない。きっと警戒しているのだろう。そう思って箒は手を叩いて呼び掛けた。

 

「おーい、ぎゃっぴーズ!いるんだろう。私だ、箒が来たぞー!出てきてくれないかー‼︎」

 

すると、何やら工房内がガヤガヤと騒がしくなってきた。見ると、工房の機材の陰から「二頭身も満たない、翼の生えた某艦船擬人化ブラウザゲームの妖精さんみたいにデフォルメされた箒」のような生き物が「ぎゃおー。」だの、「むあー。」だの「シッテルー。」だの「ほうきー。」などの鳴き声➖断定はできないが、彼女は恐らくそうなのだろうと考えた➖を発しながらひょこひょこと出てきた。この、「ぎゃっぴーズ」という一見可愛らしいだけで何の役にも立ちそうにない彼らだが、こう見えて箒達が設計したR戦闘機やFA、製作が難しい波動砲を製作し、この部屋の奥にあるものを守っている立役者なのである(但し、一部は箒達も製作している。元々彼らは其処彼処にいるただのリスや牛などの動物だったのだが箒が完成させるにはアシスタントが必要だと考えて自分のDNAをそれらの生き物に注入した結果、何をトチ狂ったのかこのようになった。だが掃除や整備、製作にはかなり役には立っているので、箒とマオは別段気にしてはいない。因みにこの前のいじめっ子達にも何かすればこの生き物に変わって”人間としては死んでしまうように”細工を施した)。箒は、近づいてきた彼らのリーダー格のぎゃっぴーをひょい、と抱き抱えた。

 

「おお、久しぶりだな。いつも此処や皆を守ってくれてありがとう。恩に着るよ。」

 

リーダーのぎゃっぴーは嬉しそうに羽をばたつかせた(余談だが、彼らは箒のDNAを使って造られたのでマオの声も聞くことが出来る)。それに顔を綻ばせながら、箒は宇宙空間から持ち帰って来たものを彼らに渡した。

 

「さあ皆、お土産を取って来たぞ〜、皆受け取れ‼︎」

 

箒は、何時の間にかデブリなどの鉄クズを用意していた。ロケットの燃料タンク、何かのブースター、太陽電池etc…。中にはソ連邦が打ち上げた初の人工衛星の「スプートニク1号」の姿まであった。すると、途端にぎゃっぴーズはその鉄クズ達に砂糖を見つけたアリのように群がった。鍛錬や食べることが一番好きな彼らだが、実は工作や発明も三度の飯ぐらいに好きな質でもある。そのため、箒は資材調達と新しい機体開発のついでに、彼らの喜ぶ姿を見るために、余分にデブリや衛星を拾って来ているのである。それに、彼らが新しい機体や波動砲などの武装を改良してくれるかもしれないという期待も、彼女の中にはあったのはいうまでもない。暫くの間、はしゃぎ回る彼らを見ていた箒は、ふと大事なことを思いだした。到着して一番に聞かなければならなかったことだ。箒はリーダーのぎゃっぴーに訊いた。

 

「!そうだ、”アレ”は?”フォース”はどうなったんだ⁉︎実験は成功したのか?」

 

すると、ぎゃっぴー達の顔色が変わり、ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めた。そして騒ぎながら、何処かに向かって指を差したり、箒の服の裾を掴んで何処かへ連れて行こうとしている。

 

「お、おい⁉︎一体どうしたんだ皆‼︎」

『‼︎おい箒‼︎』

「一体なんだ、お前まで?一体何を『アレを見ろ‼︎』…‼︎おい、そんなまさか……⁉︎」

 

箒はその視線の先、”アレ”の培養用の水槽を見た。見ると、水槽は割れ、中のオレンジか琥珀色の液体が漏れ、➖液体だけなら➖空っぽになっていた。だが、肝心なのは其処ではない。その水槽の中、直径6cmぐらいの丸い球体に4つの金属棒を突き刺してあたかも先程のスプートニク1号のようにも見える、コードに繋がれた”ソレ”は、全体が灰色に染まり、ドクンドクンと脈打つ音を発しながら血管状の琥珀色の亀裂を生じさせていた。箒は傍らのぎゃっぴーから話を聞いた。彼女が此処に来る前の日、”ソレ”の管理をしていた時に突然”ソレ”が計器が大きく乱れるくらいの不安定なエネルギーを放ったらしい。あまりの乱れっぷりに流石の彼らも最悪死を覚悟したらしい。だが幸いにも、エネルギーが不安定だったおかげで工房がポップコーンみたいに吹き飛ぶことにならずに済んだことに今は皆安心しているらしい。ただ、

 

「待ち望んでいたものを完成出来なくて申し訳ない、か…。いや、良いんだ。兎に角お前達が無事でなによりだ。だが…。」

 

箒はもう一度割れた水槽を見た。中に燻んだ灰色に変わり、オレンジ色に脈打つフォースがある。割れた箇所から手を突っ込み、触れる。すると、フォースが脈打つ音のリズムがとても速いものに変わり、急に震えながら宙に浮かんだかと思いきや、爆発した。

 

「くっ…‼︎」

『うぉっ⁉︎』

 

箒とマオはその場でなんとか踏みとどまった。モッピー…もとい、ぎゃっぴーズはそのまま吹き飛んでいった。やがて視界が開けてくると、其処には唯の灰しか残っていなかった。

 

「…クソッ‼︎」

 

咳き込みながら箒は腹を立てて、壁に拳をぶつけた。何とも腹ただしかった。だがそれは、ぎゃっぴーズが目的のものの完成に失敗してしまったことに対しての怒りではなく、何時迄経っても完成することが出来ず、挙句拠点はおろか愛しいぎゃっぴーズまでも危うく失ってしまうところだった自分に対してのものだった。彼女は彼らにことを任せたことを恥じた。何故彼らに開発を任せてしまったのだろう?何故自分が戻って来るまで待たせなかったのだろう?何故何故何故?幾ら自問自答を繰り返したところで一緒だった。するとマオがこう言った。

 

『心配するな。何もお前のせいじゃない。自分を責めるのは後だ。大丈夫、私がついてる。今度こそ成功させよう。』

「…だが、次に開発してもまた失敗するかもしれん。”マナ”がバイドやフォースの力を阻害している以上、製作は無理だ。」

『なら、マナのエネルギーの大半をバイドやフォースに回せばいいだろう?』

「私やガメラ達にぎゃっぴーズの動力源は”マナ”だ。そんなことをすれば、私はおろか、ぎゃっぴーズもまともには動けなくなるぞ。」

『ならどうする?そんなことを言っていたらもう他に手はないぞ。』

「そうは言ってもだな………、ん?電話だと?誰からだ?」

 

その時、口論の最中に箒のスマートフォンが鳴った。見てみると、「織斑千冬 03-XXX-XXX」と表示されていた(しかも先程から鳴りっぱなしだったようだ)。箒は、何故か話すことに苛立ちを感じて電話を切ろうと考えたが、出ないと怪しまれると考えて躊躇いがちに通話ボタンを押した。

 

「はい、篠ノ之箒ですが。」

<ああ、やっと出たか…。もしもし、篠ノ之だな。私だ、織斑千冬だ。家に連絡を入れても誰もいないみたいでな。お前の親御さん達は福引きの景品の旅行に出かけているし、もしかするとお前も何処かに出かけているかもしれないからさっきからお前の携帯に掛けていたんだ。…今、話せるか…?>

「ええ、構いませんが…、今何処にいるんです?」

<ん?ああ、東大の安田講堂前だが。どうかしたか?>

「いえ、この前言っていた学会の件ではと思ったんです。もしかしたら姉さんも一緒なのではと思ったので…。其処にいます?」

<ああ…。だが、今話しかけるのは止めておけ。彼女、物凄く機嫌が悪いからな。>

「………学会は失敗したんですね。」

<そうだ、今奴は私の近くで気狂いみたいなことを言い始めた。私も出来うる限りのことはするが、もしもの時は…、分かっているな?>

「ええ、分かっています。一夏のことでしょう?あの後私の両親に事の次第を話しました。うまく誤魔化すのに手間取りましたが。」

<そうか。すまない篠ノ之。まだ小学生のお前に迷惑を掛けてしまって。>

「いえ、良いんです。私は構わないんです。ただ姉さんと貴女が心配で…。」

<私のことは心配するな。もう、覚悟は決めた。だから、もう何も怖いとは思わない。だから必ず帰る。帰ってくる。だから…、だから…、心配、するなよ…。>

「………分かりました。しかし、そんなに機嫌が悪いんですか?私の姉さんは。」

<ああ。学会にIS発表したらたちまち非難と嘲笑の嵐だ。怒らない訳がない。それに彼女はずっと機嫌が悪かったんだ。それも今日だけじゃない、ここ最近、ずっとだ。>

「どういうことです?少なくとも寝不足が原因ではなさそうですが…。」

<ああ、そうだ。最初、私は彼奴に『寝不足なのか』と聞いた。その時の私はお前と全く同じ疑問を持っていたからな。すると奴は『ちっが〜う‼︎ち〜ちゃ〜ん〜‼︎私は”一日を35時間生きる女”なんだよ?何でたかが寝不足如きにイラつかなきゃならないのさ⁉︎』と言われたんだ。じゃあ何に対してなんだって訊いたら…、”アレ”を見せられたんだ……。>

「”アレ”?何ですか、それは?」

<見れば分かる。携帯に写真を送っておいた、見てみるといい。>

 

一旦箒は電話の画面を開いて、件の写真を見た。だがそれを見た時、彼女の顔は驚愕に染まった。何故なら写真の中、本来ならこの世界に存在する筈のないものが映っていたからだ。

 

「⁉︎これは…‼︎そんなバカな………⁉︎」

 

写真には水槽が映っていた。何かしらの培養液を満たした水槽で内部に何かを保管しているらしかった。

 

<去年お前の家族と私達姉妹で九十九里浜に海水浴に行ったこと、覚えているか?あの時束が近くの岩場に行った時に見つけたものらしい。どうやら見つけた時から束には明らかに人工物だということは既に見抜いていたらしい。。それ以来、彼女はずっと解析を試みているようだ。だが結果は未だに不明…いや、それどころかまともな解析すらできないでいるらしいんだ。>

 

箒には織斑千冬の声は聞こえていなかった。何故なら、驚愕とあまりのショックで言葉が詰まってしまったからだ。しかし、千冬はお構いなしに話を続けた。

 

<なぜか訊いてみたら、どうやらこの物体にはとんでもない程の量の正体不明のエネルギーが内包されているらしい。下手をすればどうなるか分からないし、そのうえ何よりも…、そうだな、何というか、その…、そうだ。奇妙なことにこの物体に通したエネルギーなどの性質が全く別のものに変わったり、通した分のエネルギーの量が多くなったり、あの球体にありとあらゆる物質がまるでブラックホールのように吸収されてしまったんだ。…とても信じられない話だろうが全て本当の話だ。もう何が何やら、束はおろかこの私にも分からない。最初私も束の言うことには疑ったよ、『そんなものが存在してたまるか』、とな。だが私も見たんだ…、あの球体に超音波を照射した途端、球体を通過した超音波がレーザー光線に変わったところをな…。それに、調べようとしていろんな機器に繋ごうとしたら、大半の機器が取り込まれ、いや、”食われた”。そう、”食われた”んだよあの琥珀色の球体に。変な事を言うかもしれないが全部本当なんだ。だから私は「分かりました。」っ‼︎>

 

箒は其処で千冬の話を切らせた。これ以上彼女に”アレ”の説明をさせたら発狂してしまうだろう。また、肝心なことを話さない彼女に苛立ちを感じていたのもあったが、あまりのショックに疲れた哀れな織斑千冬を見るのは耐えがたいのも、多分にあった。

 

「姉さんの言うことは信用出来ませんが、貴女は嘘を言うような人じゃない。だから信じますよ。貴女が見たものを。他の人が信じなくても…ね。」

<篠ノ之…、お前…。>

「ところで、千冬さん。姉さんはこのことを学会で発表しましたか?」

<いや。何せあの性質だ、ある意味ISの弱点になりかねないからな。それに例え発表したとしても学者共の笑いのネタにされるのがオチになるのは目に見えているからな。>

「そうですか…。では、今これは何処にあるんですか?」

<ああ、それはだな…って、おい待て篠ノ之。そんなこと知ってどうする?まさかお前…。>

「いえ。貴女が思うようなことはしませんよ。ただ、其処に保管し続けるのは不味くないかと思ったんです。そんなに危ないものなら。」

<ああ。私も束に同じようなことを言ってみたが、何とか自分の技術に反映させようと躍起になっていてな。駄目だった。それに束はそれ以来私にも目が届かない場所に隠してしまった。だから正直な話、私にはもう何処にあるのかなんて分からない。ただ…、一つだけ言えるのは「アレ」は、今も束の近くにいるということだろうな。>

 

それから箒は適当に相槌をうった後、電話を切った。そして箒達は考え始めた。何故かは知らないが、まさか”アレ”が束の元にあるとは思わなかった。マオが尋ねる。

 

『此れからどうする?今の半覚醒状態では厳しいぞ。まさかお前、あの状態で突っ込む気か?それに篠ノ之束が今何処にいるのかなんて分かるのか? 』

「そんなこと言ったって、他に何ができる?今はもうそれしか方法がない。それに、私には束が今何処にいるかはなんとなく分かるしな。だから私は行くよ、”アレ”を返してもらいにな。」

『ならとても丸腰では行かせられないな。お前1人だけでは行かないぞ。』

「ならどうしたいんだお前は‼︎」

『前に言わなかったか。困った時は私を頼れと。』

「だから何だ?」

『私にいい考えがある。思い出してみろ。”アレ”を。フォースの代替案である”アレ”を。」

「⁉︎まさか”アレ”を使うのか!幾ら何でも無謀過ぎないか?」

『そのまさかだ。実際”アレ”だけでフォースが無くても事足りるんだ、専門家の私が言うんだから大丈夫だ。』

「…本当か?本当に大丈夫なんだな?」

『ああ。じゃあ、そうと決まれば今すぐ実行するぞ。』

「なっ…!今からだと‼︎だが準備が…。」

『準備なんてすぐに済むだろう?それに、あの初めて半覚醒化した時のこと、忘れたとは言わせないぞ。」

 

顔文字が浮かび上がりそうな笑顔でそう言った。箒はしばらく考え巡らした後、溜息をついて、呆れた笑顔を浮かべて、部屋の更に奥にある、ブルーシートで覆われた、其処にあるもの達を見つめた。

 

 

 

 

 

 

///////////////////

 

 

 

関東地方の何処かにある、とある廃校に設置された極秘ラボ「我が輩は猫である(名前はまだない)」にて、篠ノ之束はさほどではないが激怒していた。今回の学会はあまりにも酷かった。どれほどのものかと言うと、一つはたかが十代の小娘だからという理由でまともに相手にされなかった。別に大したことではないが、何処か自分をむかつかせるところがあった。だが、それに輪をかけて腹が立ったのは自分の発明である「IS」を馬鹿にされたことだった。自分が馬鹿にされるのは➖実はそうでもないのだが➖構わないが、自分の発明まで馬鹿にされてしまうことだけは、どうしても頂けない。こうなったら実力行使しかないだろう。具体的にはこうだ、まずこの日本を攻撃出来そうな範囲内にある国の防衛システムにハッキングし➖アメリカの第七艦隊辺りがベストだろう➖、ありったけのミサイルを飛ばす(ただし巡航ミサイルだけだ、弾道ミサイルなんてISをも超越する秒速7㎞だから、扱いづらいどころかこっちがかなりの被害を受けてしまうからだ)。すると国内外は大騒ぎ。しかも停止出来ないとならば尚の事だろう。其処を自分が開発したISの「白騎士」に乗り込んだ親友の織斑千冬に全て撃ち落としてもらう。ついでに副産物として戦闘機や艦艇などの在来兵器などを戦わずして無力化させる。そうすれば自分はおろか発明品のISや織斑千冬の名を広まらせることができる。

 

完璧だ。

 

「ま、大体こんなもんかな〜。我ながら天っ才っ‼︎…けど、後は此奴だけかなぁ〜。」

 

そう言って束は部屋の片隅にある、円筒形の水槽に、椅子に座ったまま近づいて中を覗き込んだ。中にはあの琥珀色に輝く、明らかに人工物にしか見えないスプートニク1号もどきのような外観の、あの謎の球体が保存用の粘性の液体の中で浮かんでいる。ただ、この球体は拾った時と比べると、その大きさはかなり異なっていた。最初はビー玉ぐらい。それが今ではありとあらゆる物質を吸収したせいで➖勿論束のお気に入りだった何でもリサイクルできる機械仕掛けのリスも含まれる➖、今やバスケットボール4個分くらいの大きさにまで巨大化していた。

 

「う〜ん………、パックマン。」

 

何故かは知らないが束にはこの球体の性質に対してこのような印象を受けた。そして、束は考えた。おそらく此奴は”生きてる”。第一、ものを吸収して大きくなるなんて生きてるもの以外あり得ない。それにただ吸収するだけでなく吸収した物質を別の物質に変化させるなんて他のものでは出来ない。出来るとすればそれは最早魔法だ、だから束にはとても信じ難く、そして許せなかった。それは、何故自分以外でこんな凄い発明をするんだISが弱くなっちまうじゃないか、という全く理不尽な考えにくるものだった。暫く眺めた後、束はまるでその球体に向かって話しかけるように呟いた。丁度その時だった。

 

「お前一体何なんだ?もういい加減この天才博士篠ノ之束に全部話したらどうなんだ?」

「そうなって貰ったら我々としては困る。何故ならそれはお前のものではなく我々のものだからだ。」

 

驚いた束が後ろに振り返った時はもう遅かった。侵入者は束や織斑千冬の反応速度を上回る程のスピードで右腕を首にかけ、左腕で頭を押さえつけた。束はもがいて脱出しようとしたが、何分拘束がまるで万力のように固くて脱することができない。また、背中に柔らかいものが当たっているので女性であるということは理解できた。だが、女性で此処までの力を持つものでは千冬以外でいない筈であることに束は疑問と驚愕を感じた。もがき続けると、侵入者は、

 

「おっと、あまり暴れるなよ。その気になればお前の首なぞ、一瞬で折れるんだからな。」

 

と、脅迫してきた。確かこのまま少しでも力が入れば、自分はあっと言う間にお陀仏だろう。向こうに主導権があるのは頂けないことだが、ここは素直に従うより他ない。仕方なく束は彼女に何が望みかを訊いた。

 

「ええっと?何が望みなんだよ。え?IS?それともコアの製作方法?言っとくけど、どっちも御断りだぞ?」

「残念だがそのどちらでもない。間に合っているしな。だから先を急がせてもらうぞ。」

「ええっと、ちょっ…、何を…っ‼︎」

 

グリグリッ、という嫌な音がして、束は泡を吹いて震えながら白目を剥いて倒れた。

 

『あー、まさか殺したのか?』

 

心配になったマオは、半覚醒化した箒に訊いた。だが箒は、「大丈夫、少し眠ってもらうだけだ。まあ、起きた時かなり首が痛むとは思うが。」と言って、足元で伸びている束を跨いで、あの円筒形の水槽へ近づいた。そして中身の球体を確認すると、いきなり拳骨で水槽を割って球体を手に入れた。箒は呟いた。

 

「ついに…、ついに手に入れた…。お前が来るのをずっと待っていたぞ…”フォース”。」

 

そう。篠ノ之束が拾った物体、それはR戦闘機の鉾であり、盾である生体兵器”フォース”だった。何故かは知らないが彼女はこれを所有していた。一番の危険人物であり、姉である彼女から奪い取るのは気が引けたが、箒は奪取に成功したことに満足気だった。マオも嬉しそうだった。

 

『ああ。後は工房に帰ってから作ろう。それに一から作るよりも成功率は高い筈だ。』

「そうだな。それにFAに”アレ”を取り付けたのもある。そうでなければ今回のフォース入手は叶わなかった筈だ。ありがとうマオ。お前のおかげだ。」

『///い、いや、べべ別にそんなことないぞ…。私はただ…///。』

 

と、その時だった。周りに黒い人型無人機が5体程出てきた。束の護衛用無人ISだ、だが箒はそれを見るなり一瞬にして”あるもの”を呼び出した。

 

「…来いっ、”アローヘッド”ッ‼︎」

 

すると、一瞬光に包まれ、巫女服のような姿の半覚醒状態の箒の身体にまるでISのような外観のアーマーが装着された。全体的に流形線を描く美しく白い機体は束の”白騎士”を思わせる。実際確かに白騎士に似ていなくはなかった………………、顔を覆うバイザーが何処かの宇宙戦闘機のキャノピーを思わせる外観と右腕に装着された黒い砲身が目立つ「試作型波動砲」、極め付けはマオが装備させたフォースに代わる、全ての補助兵装の中でもフォースを除いて余りある攻撃力を持つ、「人の手によって造られた、人工のフォースの雛型」を装備していた。一瞬にして現れたFAにたじろぐことなく、無人ISは機械的に突っ込んでいって…一瞬のうちに破壊された。…犯人は、FAの周りに浮かぶフォースに似ているが、だが大きさの違う球体である”アレ(ビット・デバイス)”の中でも攻撃力が高いタイプである、「サイ・ビット」だった。

 

「行けっ‼︎サイ・ビットッ‼︎奴らを薙ぎ払え‼︎」

 

命令を聞いたサイ・ビットはまるで飢えた狼のように無人ISに喰らいついた。攻撃を無効化されるもの、取り込まれるもの、体当たりで喰い尽くされるもの…。やがて、ものの30秒もしないうちに無人ISは綺麗さっぱり無くなってしまった。

 

「………所詮はこの程度か………。」

 

箒は虚しそうにそう呟くと、手に入れたフォースと共にラボから飛び立った。後には何も残らなかった。

 

 

 

 

 

後に残された束は、異変に気付いてやって来た千冬に介抱されるまで気絶していた。後に千冬は束から犯人の特徴を聞いて彼女と共に捜し出した。だが、結局犯人に至る手掛かりは出て来なかった。だから千冬は束に諦めるように言った。だが、束はしつこく蛇みたいに捜し出してやる、何せ彼奴にはあの球体奪って私のラボを滅茶苦茶にした罪があるからなと意気込んで聞かなかった。やがて束はマッチポンプついでにあの女を捜し出して始末してやると言い出し、結局後に「白騎士事件」と呼ばれる事件は予定通り起こることとなる。だが、誰も気づかなかった…。其処に宇宙や異世界からの侵略者共が迫っていることなど…。

 

 

 

 

 

やがて、運命の日はやって来た…。果たして運命の女神は、どちらに微笑むのだろうか?それはまだ分からない。誰にも分からない…。

 




如何だったでしょうか‼︎実は今日から関東に住むんですよね私。大学生活のために。なので暫く執筆が遅れがちになると思いますが、どうか皆様私のこと、見捨てたりしないでね(不安)てな訳で、いつも通り、感想、批評、評価、質問、沢山受け付けますんでどうかよろしくお願いします。
てな訳で、皆様。また、お会いしましょう。ではでは。


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第5話 白騎士事件 第一幕

久しぶりに投稿します、どんぐりあ〜むず、です。遅くなって申し訳ありません。えー、ついに白騎士事件に突入です。大学での生活や勉強で中々執筆が取れませんでした。多分此れからもこんな調子になるかもしれません。しかし、此れからのこの作品の展開と指針について、そして本作のスピンオフ作品の発表を後書きで発表したいと思いますのでお楽しみにしていてください。因みにですが、前回での話で「半覚醒化」という単語が蛮鬼先生のゴジラ作品と被っているとの高校時代の友人から指摘を受けました。読者の皆様、蛮鬼先生、どうも申し訳ありませんでした。許可は下りましたので、此れからは安心してお読みください。では、どうぞ。


「一人の善人が傷つく時、全ての善人が共に苦しむことになるだろう。」

➖エウリピデス➖

 

///////////////////

 

 

 

アメリカ海軍第七艦隊を指揮するレイモンド・マーティン海軍大将は、太平洋艦隊の旗艦を務めるニミッツ級航空母艦「ジョージ・ワシントン」の艦橋から望む地平線の向こうに見える、正体不明の物体を見て思わず唸った。

 

 

 

そもそもの始まりは、まず毎年ハワイで各国合同で行われている大規模な”海戦ゲーム”である、「環太平洋合同演習➖略称、”リムパック”➖」の最中で起きた出来事とアメリカ本土からの指令が発端だった。まさしく演習の最中に「ソレ」は”落ちて”来た➖いや、”着水した”かもしれない。何故なら海面に触れる瞬間、一瞬だけ止まったように見えたという地元漁師の証言が、”着水した”という考えの根拠だからだ。まあその漁師は、持病の認知症が酷く進行してしまっているせいで、あまりその証言は期待できないものだし、そもそもこの目撃談自体、有り得ない話なのだが➖。最初はただの隕石かと思われた。だが各国政府は、墜落した他国ないしは自国の人工衛星の可能性も否定できないとして、墜落現場である海域にレイモンド率いるリムパック連合艦隊を寄越すことにした。レイモンドからしてみれば、あまり気の進むような話ではなかったが➖と言っても、それは彼だけでなく他の国の艦隊とて同じことなのだが➖、命令は命令なので、渋々各国の海軍の艦艇を自分の国の艦隊と共に調査に赴いた。それが余計に事態を悪化させてしまうとも知らずに…。

 

 

 

 

 

最初に目に入ったのは”緑色”だった。それも海の色の青やエメラルドのような色ではなく、毒々しい黄緑色だ。続いて目を見張らせるのはその大きさだった。何せ、全長がベースボールスタジアム4個分に迫りそうな程の大きさだ。果たして、此れ程の大きさの人工衛星など、存在し得るものなのだろうか?いや、ないだろう。そもそもそんな大きさの人工衛星なんてあり得ないし、幾ら何でもそんなものを宇宙に打ち上げるなんて事がまず無理な話だろう。もしあるとすればそれは何処かの大和型宇宙戦艦だ、今の時代でそんなことあり得ない。そんな三文SF小説みたいなこと、あって良い筈がない。そんな自他共に認める程の、根っからの堅物であるレイモンドは、そんなことを認めなかった。認めたくなかった。だがそんな彼の意に反して、彼のお気に入りの31アイスクリームのバニラアイスの入ったクリームメロンソーダのように、毒々しい黄緑色をした、あの地平線の向こうの巨大な宇宙船のような物体は平然と海の上に浮かんでいた。今のところ、動き出すような気配はない。だがレイモンドには、あの物体が何か邪悪な気配を感じさせているように思えてならなかった。此れまでの自分の経験の中でこのような事態は初めてのことで尚且つ確証のないことだったが、だが確かに何かが可笑しく、怪しいことこの上なかった。レイモンドはこのまま部下をあの物体に向かわせるか否か迷った。すると隣で「ジョージ・ワシントン」の指揮を執っていた海軍大佐で艦長のウォルター・ジョンストンが、先程から彼に二言三言話しかけている彼の部下との会話を終えて、今度はレイモンドに話しかけてきた。あの物体に近づいてはみないかという内容だった。

 

「如何なさいますか提督。彼方から来ないなら我々から出向いてみるのはどうでしょう?先程部下からも、アレ(・・)に近づいて本当に人工衛星かどうか確かめた方がいいのでは、という意見を聞いたのです。確かに、何時迄も出方を伺ってこうしているわけにもいかなければならない訳でもなければ、何もエイリアンの宇宙船と決まった訳ではないでしょうからな。」

「そうだな。私だってアレを調べるために調査隊を派遣したいのは山々だウォルター。だが私は太平洋艦隊司令官だ、残念だがおいそれと簡単に調査隊を出すことはできん。」

「しかし、何時迄もこうしていることはできんでしょう。先程部下から本国より物体に対する調査の催促が来ているらしいのです。あまり時間はないでしょう。レイ、どうかご決断を。」

 

レイモンドは唸った。確かに何時迄も我々から出方を伺う時間などない。一体どうしたものか…。考えた時、海上自衛隊の艦隊旗艦のいずも型護衛艦一番艦「いずも」の艦長であり、レイモンドの旧友である宝田秀人一等海佐から通信が入った。内容は我々から出向いてあの物体を調べて良いかというものだった。レイモンドはまたもや唸った。確かに今まで「戦わない軍隊」などと揶揄されてきた彼らにとっては今この時を見せ場にしたいのだろう。だが、レイモンドは勝手に出て行って後々最悪の結果を招きかねない行為だと思い、彼らだけであの物体の元へは行かせる訳には行かなかった。確かに後の歴史で汚名を被るのが彼らだけになるという利点はあるだろう。だがそんなことは根っからの頑固者で正直者のレイモンドにとっては卑怯者のすることであり、何よりもそんなことをするつもりなぞ、毛頭なかった。決心したように息を吐き出した後、間を置いてからレイモンドはウォルターに言った。

 

「…、分かった。調査隊を派遣するのは我々も賛成だ。だが行くのは何も貴官達だけではない。我々も調査隊を派遣する、と伝えろ。」

 

///////////////////

 

海上自衛隊の有働貴文二等海尉は、疑問に思った。あの物体は本当に何処かの国の人工衛星なのだろうか、と。レイモンドと同じく、有働にもにわかには信じ難い事実だった。何せ野球場4個分ぐらいのサイズなのだ。あんなものが衛星の筈がない、寧ろ隕石と言われた方がしっくり来る筈である。だが何故隕石と断言しないのだろう、あんなものが何かしてくる訳ではなかろうに、と彼は考えたが、目の前まで近づいて来たところで彼はその考えをチリ紙に包んでゴミ箱に叩き込んだ。何故なら、その物体は近くで見れば完全に戦艦のような姿、つまり明らかに人工物の姿をとっていたからだ。断言できないことに、納得がいった。

 

 

 

「有働二尉、このままどうなさいます?司令部は調査隊を出すのは構わないが此方の許可が下りるまで無闇にあの正体不明の物体には近づくなと言ってきていますが…。慎重に近づてみますか?」

 

 

 

隣にいる山田豊明三等海曹が訊いてきた。豊明も後ろにいる二人の自衛官もあの物体が何なのかを知りたくてウズウズしているようだった。

 

 

 

「山田、気持ちは分かるがまだ近づいていいとは決まった訳じゃない。そりゃ俺だって知りたい気持ちはあるさ。けどな、命令は命令だ。まず応答があるかどうか確認してみよう。なければ艦隊にあの物体への接近許可を打診すればいい。なあに、呼びかけるだけならすぐに済むさ。どうせ返事してきませんでしたっていう結果だろうしな。」

 

 

 

そう言って豊明の肩を叩くと、有働はメガホンを手に取って、緑の物体に呼びかけ始めた。最初は日本語。一瞬期待したが駄目だった。そして続けざまに他の国の言語で呼びかける。英語、フランス語、中国語、ドイツ語、韓国語、アラビア語その他諸々…。果てはスワヒリ語まで試してみたが空回りだった。確かに、直ぐに済んでしまった。

 

 

 

「な。どうせそんなことだろうと思ったからああ言ったのさ。どれ、我らが連合艦隊一同に聞いてみようか。」

 

 

 

そう言って有働は無線機に手をかけて、物体へ近づく為の許可を得るための通信を行った。暫く無線機の向こうは長い沈黙が続いていたが、ようやく返答が来た。内容は「あの正体不明の物体への接近許可」であった。それが来るや否や、有働達はゴムボートの哨戒艇を真っ直ぐ物体へ近づけて全速力で飛ばした。

 

…連合艦隊旗艦「ジョージ・ワシントン」のCICが混乱に陥ったのは其れから有働達が物体まで残り後100mに差し掛かった時だった。

 

「っ⁉︎か、艦長っ‼︎正体不明の未確認機(アンノウン)が時速200キロもの高速で接近中‼︎」

「何っ⁉︎場所は!何処へ向かっているッ‼︎」

「真っ直ぐ此方へ向かっていますッ!到達まで後7分51秒‼︎」

「Shit‼︎何で今の今まで気がつかなかったのだ‼︎ええい、非常警戒態勢発令!今すぐ全艦隊に伝えろ‼︎…提督閣下、全艦隊戦闘態勢命令の許可を得たい。どうか、ご決断を!」

「ああ、命令の許可なら確かに構わんよ。だがウォルター、勝手に本国の許可を得ずに戦闘態勢を整えるのは幾らなんでも…。」

「しかしレイ、そうは言ってもたった今此方へ正体不明のアンノウンが迫りつつあるのですぞ!そんな悠長なことを言っている暇などありません。確かにもし万一あのアンノウンが何の害のないただのドローンか民間機だったとしてもこのタイミングです。備えは万全にしておいた方がいい。それに本国への返答を待っている時間もなければ、無能な政治家連中はその場で待機せよと言って我々を見殺しにする気です!貴方も部下の安全を確保したいのなら今此処で動くべきです。ベトナムの時に貴方と私以外の部下を政府と軍の上の連中の無能者が枯れ葉剤作戦を断行したせいで全員残らず失ったのを覚えているでしょう。今がまさしくその時の挽回をするチャンスなのです!私とて強引なやり方は好きではありません。ですがこのまま部下達をみすみす死なせることは何よりも耐えがたい。どうかお願いですレイ。どうか、どうかスクランブルを、発令してください‼︎」

 

レイモンドは悩んだ。確かにこのまま本国からの通信を待てばもしかすると自分はおろか部下達まで傷つきかねない。だが、だからと言って勝手に武力行使に打って出る訳にもいかなかった。レイモンドが口を開こうとしたその時、突然艦のCICと艦橋に別の警報➖ハッキング警報だ➖が響き渡った。

 

「艦長!何者かが艦隊の兵器システムにハッキングしています‼︎それに各国の軍事施設の防衛プログラムにまで影響が及んでいる模様‼︎恐らくあのアンノウンからです‼︎」

「何だとッ⁉︎状況は!」

「はっ!今のところファイヤーウォールでなんとか本格的なウイルス侵入を防いでいますが破られるのは時間の問題かと…。」

「しかし、一体何処に侵入されたのかね?」

「はい、提督閣下!侵入されたのは我が艦隊と太平洋圏内の軍事施設の指揮系統及び兵器管制システムであります!」

「何故そんなものを?敵の狙いはなんだ?国家機密でないとすると、まさか…。」

「サー、トマホークやACMミサイルなどの巡航ミサイル、それも我々の艦隊を含めて約……2000発以上……。」

「なっ…⁉︎い、一体そんな数の巡航ミサイルを使って何をする気だッ!まさか我々か、他の国やハワイを…、」

「いえ、照準は、それが、あの…。どうやらアンノウンの方に向いているようで…。」

「何⁉︎まさかアンノウンが自分に2000発以上もの巡航ミサイルの照準を合わせたとでも言うのか!バカな、どんな自殺願望だそれは‼︎今、件のアンノウンは何処にいる!後どのくらいで我々の艦隊に到達するんだ‼︎」

「はっ、現在視認圏内に突入!残り後1分切りました‼︎アンノウン、きます‼︎」

 

レイモンドとウォルターは散々悔しがって諦めた。やはり議論に時間をかけずにすぐさま指令を発令すべきだった。また、我々は歴史を繰り返してしまった。もう、諦めるしかないのか…。そう考えて2人は艦橋の窓の外に広がっているかもしれないであろう悲惨な光景を見ようと窓を見た。

 

 

///////////////////

 

 

 

有働は心底驚いていた。それは先程突然響き渡った非常警戒態勢を伝える警報音と無線に入ってきた緊急撤退命令の他にも、たった今無線連絡に入ってきた此方に近づきつつあるアンノウンの情報➖小型機だがそれもかなり小さいらしく、無人機と思われた➖と艦隊と各国の軍事施設がサイバー攻撃を受けたことに対してでもだった。

 

だが、有働には分からない事があった。何故今になってそのアンノウンが此方へ近づき、サイバー攻撃を仕掛けて来たのだろう、と。幾ら何でもタイミングが合い過ぎた。もしかしたら、この巨大な緑色の戦艦らしき物体と何らかの可能性があるとでも言うのだろうか?そう考えて急いで撤退準備➖豊明達が不満を漏らしたが艦隊がサイバー攻撃を受けたことと未確認機の話を聞くと即座に撤退準備を進め始めた➖をしていた時に、彼らは、遠目からとはいえ、見たのだ。いや、見てしまったのだ。………件のアンノウンを。此方へ近づいてくる、もうすぐ世界を変えてしまうことになる「パラダイムシフト」そのものを。

 

 

最初彼らは驚いた。何故なら小型アンノウンは一般的な航空機ではなく人型、其れも紛れもなく平均的な女性型の姿を取っていた。全体的に白く、人間の女性に近いシルエットにヘルメットかバイザーのようなものに覆われていて素顔を完全に隠している頭部、スカート状のスラスターかシールドのようなパーツに何やら西洋剣にも似たSFチックな大型のエネルギーソードを右手に持っていた。まさかアレが武器だとでも言うのだろうか?まさか航空機やミサイルを切り裂くというわけでもあるまいし……。そう考えた時、突如リムパック連合艦隊の各国のイージス艦などの艦艇、其れに加えて遥か彼方のハワイ本島やオアフ島のキャンプ・スミスから大量のミサイルが発射された。その進行方向の先にあるものは、

 

 

 

「あのアンノウンに向っている………?何故だ?」

 

 

 

有働が疑問に思ったその時、事態は大きく動いた。

 

 

 

小型アンノウンはミサイルが自分に迫っている事を認識すると、普通の航空機の機動ではほぼ不可能な機動と超音速で飛行しながら、何とミサイルを叩き斬った(・・・・・)

 

 

「………は?」

 

 

彼らは唖然とした。無理もなかった。目の前のアンノウンが文字通り”超音速で飛行している人間らしきアンノウンが飛びながら手持ちの大剣でミサイルを叩き斬った”のだからそう思わざるを得なかった。だが、本番はこれからだった。アンノウンの真後ろ、かなりの距離から迫ってくるACMミサイルがあった。流石に先程のように叩き斬ることは無理だろうと考えた時だった。突然後ろを振り返ったアンノウンが何やら砲身のようなものが現れたかと思うと、その銃口らしき部分に空気中の様々な物質が集められていき、次の瞬間集められた物質は、アニメで見るようなビーム➖或いは光弾か?➖が発射されてミサイルを撃ち落とした。此れには、ジョージ・ワシントンの艦橋から事の次第を伺っていたレイモンドとウォルターは顎が外れそうなくらい驚いた。何故なら今あのアンノウンが撃ったものは、まだ試作段階で実用化すら出来ていない、自分達を含めた軍上層部とハイテク企業「サイバーダイン社」の重役と一部の従業員のみが知る共同開発中の極秘兵器、「荷電粒子砲」の試射実験の時の、光弾が発射される時の様子と良く似ていたから、いや全くと言っていいほど同じだったからだ。

 

 

 

「どういうことでしょうレイ⁉︎何故あのアンノウンは荷電粒子砲などを撃つことができるのでしょうか?我々とサイバーダインの連中とで極秘裏に開発しているアレを、一体何故…?」

「さあな。実を言うとこの私も君と同じくらい驚いているよ。だが今大事なのは、何故荷電粒子砲を使っているのかということよりも、アレが敵なのか味方なのかを見極めることだ。念の為、全艦隊戦闘態勢を取るように通達を出してくれ。其れと、全艦隊の戦闘機、ヘリなどの全ての艦載機などにスクランブルを掛けておくようにもな。」

「はっ!」

 

 

 

レイモンドは巡航ミサイルを全て撃墜し、今度は謎の緑色の巨大な物体に近づき、降下し始めたあのアンノウンをじっと見つめた。彼は確かにミサイルを全て撃墜されたことには怒っていたが、だが彼にはやるべきことが、いや、やらなければならないことがあった。それは、あの緑色の巨大な物体とあのアンノウンの正体、そしてそれらにどんな関わりがあるのだということだった。もし、味方だというのなら➖ミサイルを全て落とされた時点で、味方も何も無いのだが➖、此方としては有難いことこの上無いのだが、もし、”味方でないとしたら”、自分達は勝ち目の無い戦いを強いられることになる…。それだけは如何しても避けたかった。だが今は何も出来ない。どうする事も出来ない。今の自分、そして全艦隊の乗組員全員が出来ることは、ただ見守ることだけだった。少なくとも今はまだあの二つの物体の正体は分からない。しかもこの二つが出会えば何が起こるかも未だ分かっていない。下手をすれば部下達を危険な目に合わせてしまうかもしれなかった。だが彼は確かねばならなかった。もしそれで自分達が本当に被害を被ったとしても、後に残された人間達を守れるなら構わないと感じた。最早今は部下達の命だけではなかった。この世界の人類全てが、守らねばならない存在となっていた。少なくとも、今は。

 

 

 

///////////////////

 

 

アンノウンは一通りミサイルを全て一掃すると、そのまま緑色の物体の上に降下した。何故ならこの機体の開発者である”彼女”が、可能ならば調べて欲しいと言ってきたからだ。また幼い頃から彼女に助けてもらっている恩もあるが、彼女自身が知りたいと思っているのもあった。

 

 

 

此処で、このアンノウンについて話す必要があるだろう。彼らが知る由も無いが、この目の前にいるアンノウンこそ、あの篠ノ之束が親友の織斑千冬と共に創り上げ「インフィニット・ストラトス」の第一世代機、「白騎士」だった。そして今、この機体を纏っている者こそ、

 

 

 

<ちーちゃん、準備出来たかニャー?>

「ああ、もう物体の2m上に迄降りた。もうミサイルや航空機の類は来ないよな?」

<モッチーだよ、ちーちゃん!今からあの物体調べるって言うのに、彼奴らがちーちゃんに邪魔を入らせるようなことをこの束さんがさせる訳ないじゃ〜ん☆それにもう実力は彼奴らに示せたからダイジョブダイジョブ♪でも、探知されないように無線やプライベートチャネルだけは切っておいてね〜、この前のクソ野郎のことがあるから。と、言うのに訳で、調査、ヨロシクヨロシク〜☆♪>

「了解した、今からこの物体の調査を開始する。」

 

 

 

そう言って千冬は、無線とプライベートチャネルを切って小脇に抱えた束特製の、銀色のラグビーボールの形をした小型コンテナを取り出して側面の青いボタンを押した。するとラグビーボールは形を変えて亀型の探査ロボット「うさぎとかめの亀さん」になると、千冬の手を離れて緑色の物体の上をちょこちょこと歩き回り出した。無事に表面を歩いているところを見るに、少なくとも異常はなさそうだった。試しに千冬も降りてみる。金属と金属の当たる音が聞こえた。千冬は安堵した。千冬は思った。大丈夫、金属であることには間違いない。「うさぎとかめの亀さん」からも➖材質不明とはいえ➖金属であると報告してきている。これがどデカイホログラムだったら海に沈んでいるところだったな。

 

 

「さて、あの艦橋みたいな部分まで行ってみるか。」

 

 

千冬は安心して嘆息までついた後、そのままこの物体の艦橋らしき部分までホバリングして近づいた。やがて千冬は、物体の艦橋部分に無事辿り着いた。千冬は改めて艦橋を上から下まで眺めた。全体を通して緑色で、唯々大きかった。時折、不気味なモーターのような唸りも何処からか聞こえていた。

 

(本当に…、何なのだ………?この物体は…?)

 

そう思って艦橋の壁に触れた時だった。

 

 

 

突然、物体が大きな振動と唸りを上げて上昇し始めた。

 

 

 

千冬は驚いていた。それは当然ながら、この物体が空中に浮かび上がり始めた事の他にも、IS越しとはいえ、艦橋に手を触れた時、金属の感触の他にも、心臓の鼓動が伝わってきた事に対してでもあった。

 

 

 

「クソッ‼︎」

 

 

 

千冬は身の危険を感じて、慌てて物体から離れる。眼下の物体の上に取り残された「うさぎとかめの亀さん」が物体の中に消えるか取り込まれるのを見た時、千冬は大いに取り乱した。何故なら取り込まれ方が、先月何者かによって盗まれたあの琥珀色の球体の時とよく似ていたからだ。

 

 

 

「ま、まさか……」

 

 

 

アレを元にしてこの物体を作り出したとでも言うのか⁉︎いや、違う…。それだけじゃない、此奴にはまだ何かがある。まだ、何かが…。そう考えた直後、遂に物体が海中から空中へとその全景を露わにした。それは彼らの想像を遥かに絶する程の大きさだった。何故ならそれは野球場4個分などという優しいものではなく、丁度オアフ島そのものに迫りそうなくらいの大きさだったからだ。しかも悪い事に、物体には多くの大火力でまるで針鼠のようにくっついている大砲や砲台、そしてロケットノズルが付いていた。加えてあの艦橋のような部分がある。つまり、この物体は正真正銘本物の…、

 

 

 

「戦艦だ………。」

 

 

 

千冬は呟いた。冗談じゃない、こんな化け物みたいな奴と真正面から戦っても勝てる訳がない。飽くまで推測であるとはいえ、ただでさえあの琥珀色の球体と同じ特性を持っているのに、今度は針鼠のように並んだ恐らく高火力であろう武装にあの生きているかの様な鼓動を発する船体に材質不明の金属、そして…、この大きさだ。作った奴は一体何者で、一体どんな技術と用途、理由を持ってして作ったのだ?一体何故私達に此奴を差し向けた?そして一体此奴は何なのだ?一体此奴を作った奴は何者なのだ?

 

➖何?何?何?何?何?………。

 

千冬は大いに気が狂いそうになりかけていた。だが、それ以上に、気が狂ったように騒いでいたのはリムパック連合艦隊だった。皆突然浮き上がった物体に大いに取り乱して非常対艦戦闘態勢に慌てて入っていた。だがミサイルの全てを打ち果たしてしまった以上、彼らになす術はなかった。

 

「対空砲よーい‼︎ミサイルが無くとも、今は何としてもこの場を守らねばならん‼︎全艦非常戦闘態勢‼︎全艦隊の全ての空母などに積まれている艦載機を全て飛ばせ‼︎人類の未来を賭けてでもアレを倒すぞ‼︎」

「しかし艦長、幾ら何でも早急過ぎるのでは…?」

「何を言っている!アレが見えないのか⁉︎見ろ、何かを撃ち出そうとしているぞ‼︎」

 

確かに、今あの物体➖いや「戦艦」と言うべきか➖の主砲のような部分に空気中の物質が集まっているのが見えた。そして、

 

 

 

 

 

 

 

その主砲から、艦隊に向けて、かつてのマオがバイドだった頃に持っていた「デビルウェーブ砲」の強化版、”ハイパータイプ・デビルウェーブ砲”の光弾が、今、解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。ハイパータイプ・デビルウェーブ砲は、海面は愚か海底まで溝を掘ったかのように切り裂いた。もしこの場を遠くから眺めている者がいて、海水がその溝に引き込まれる様を見たら、まるでモーゼの十戒を観ているかのような気分にさせられたことだろう。だがそんな奴は勿論いなければ、艦隊の人間達もそんな余裕はなかった。何故なら十戒の側、其処にいた艦艇の多くは全て其処に生じた津波に飲み込まれて沈むか、転覆してしまったからだ。

 

 

 

一連の出来事に全員呆気に取られた。たったの一発で、しかも荷電粒子砲以上の火力を有する攻撃を、あの戦艦➖千冬や彼らは知らなかったがこの戦艦には「グリーン・インフェルノ」という名前があった。しかしよく見るとサイズもデザインも若干異なっている箇所が多々あり、突然変異種か、改造された可能性が高かった➖がしてきたのだから無理もなかった。だが、戦艦の攻撃は此ればかりではなかった。突如戦艦の彼方此方から赤い戦闘機が大量に飛び出して来たのだ。此れには、千冬も彼らも、対応が遅れた。両翼を回転させながら、赤い戦闘機がとんでもない速度と機動で千冬達に肉迫する。千冬は何発も光景を受けながらも➖戦艦からの攻撃も受けていたが、千冬は自分の方は砲弾やミサイルを見切れると自負していたあたり、驚きを隠せないでいた➖戦闘機に攻撃を仕掛けたが、何分速度も機動も此方よりも遥かに上回っていた。しかも可笑しなこともあった。それは…、

 

 

 

「くそう。こうなったら………。」

 

 

 

千冬は焦りに焦っていた。自分の速度や機動についてこられるどころか凌駕していると来れば当然と言えば当然のことと言えた。また、束からISが万能のデバイスであるとも聞かされてきたのも、千冬の焦りをより一層に際立たせていた。しかも、何度か攻撃をまともに食らった所為でシールドエネルギーがまだ限界ではないとはいえ、最早継続して戦うことが困難なレベルにまで下がってしまっていた。そのうえ、プライベートチャネルやオープンチャネルも攻撃を受けた際に故障したらしく、束と連絡が取れなくなっていた。

 

文字通りの「孤立無援」状態だった。

 

もしかしたらこのままでは自分は負けてしまうかもしれない。奴らに殺されて死ぬかもしれない。二度と束は愚か、妹の一夏や箒に会えなくなるかもしれない。だが恐れていては何も始まらない。それだけは、千冬も引き下がる訳にはいかなかった。逆転の為、千冬はある見積もりを幾つか立てていた。まず一つに、あの戦闘機達は皆無人機➖対空戦闘用がまだとはいえ、機体の大きさとコクピットらしい部分が見当たらないのでそう考えるしかなかった➖であるということ、次に少なくともIS以上の速度と機動を出すことができるということだった。だが仮に無人機であるとするなら勝算はあった。無人機なら、決まったパターンでしか行動出来ない筈だからだ。その為千冬は、破れかぶれであったが、最早これに賭けてみるしかなかった。

 

 

 

「うおおおおおおおおおォォォォォォア‼︎‼︎」

 

 

 

千冬は大声を上げながら、荷電粒子砲を全開(フルスロットル)にして豪快に赤い戦闘機の隊列の内の一機に、真上から斬りかかった。

 

 

 

「これでッ‼︎」

 

 

 

千冬の斬撃と、荷電粒子砲の砲撃が直に赤い戦闘機に集中する。戦闘機は一瞬、態勢を崩して墜落するかと思われた。

 

 

 

「やったか⁉︎」

 

 

 

だが次の瞬間、落ちて行くかと思われた戦闘機が突然機動を持ち直したばかりか千冬に向かって光弾を撃ちながら追いかけてきたのだ。千冬は追いかけられながら、信じられないという面持ちでいた。今の攻撃は、最早パッシブ・イナーシャル・キャンセラーや生命再生機能に操縦者保護機能、そして光学迷彩機能に迄影響が出るのではないかというぐらいの、残っていたシールドエネルギーの全てを使った攻撃だった筈なのだ。しかも可笑しなことに、機体には擦り傷一つも付いていなかったのだ。そう、攻撃が当てたにも関わらず向こうにはまるで当たったような気配が、全くなかったのだ。そう、当たった筈なのに。

 

 

 

「クッ…、何故だ!当たった筈だろう⁉︎」

 

 

 

千冬は信じられないとばかりに焦った。こんなに焦ったのは生まれて初めてだった。しかし千冬は焦ってしまったばかりに気づいていなかった。彼女の眼下、つまり海上のリムパック連合艦隊も、悲惨な状況に置かれていたことに。

 

 

 

リムパック艦隊はあの赤い戦闘機の攻撃を避けられず、次々と撃沈させられていったのだ。空母などの艦艇に残されていた真っ直ぐにしか飛べない艦載機も、撃沈させられた艦艇群と同じくその運命を共にした。そして艦艇は艦載機のいない航空母艦の旗艦、ジョージ・ワシントンを含め、残すところあと十数隻のみ➖その全てが弾切れを起こしていた➖になってしまっていた。ジョージ・ワシントンのCIC内では顔面蒼白のウォルターがいつも持ち歩いている聖書を開いて詩篇23章を唱え始めた。傍らのレイモンドも最早諦めていた。そして悟った。自分達は敵に回してはいけない存在を敵に回してしまったのだと。アレが人類を罰する為に神から送り込まれた死神なのだと。目の前に赤い戦闘機とは別の、クリーム色の蟹のような戦闘機が数珠繋ぎ状の隊列で迫る。レイモンドには、ただ見ているしかなかった。

 

 

 

千冬は疲れきっていた。あれほどの大群と戦う羽目になったのだから仕方がないとはいえ、流石に艦隊を守りながら戦うには荷が重すぎた。事実、守りきれずに何隻か沈没させてしまった。千冬は心の内で何度も何度も「すまない」と彼らに対して謝った。何度も、何度も、数え切れないくらいに…。

 

 

 

やがて千冬は、先程あの緑色の戦艦に近づいたゴムボートの哨戒艇群を視界の端で見つけた。どうやらあの戦闘機から攻撃を受けているようだ。急いで自分達の船に戻ろうと全速力で逃げ切ろうとしている。だが次の瞬間、前方を走っていた海上自衛隊の哨戒艇が一本の水柱に飲み込まれ、一人が海中に沈んでいくのが見えた(しかも沈んだ海域は見たことがないくらいの青い光を放っていた。海中で反射した太陽光ではないことは火を見るよりも明らかだった)。其れを、かの織斑千冬が逃す筈はなかった。先程くらいではないとはいえ、全速力で海上の哨戒艇に向かう。

 

(今度こそ、今度こそ救い出す。見殺しにしたり、遅れを取るのはもう沢山だ!手を伸ばさずに後悔するより、手を伸ばして後悔する方がまだマシだ‼︎)

 

千冬は手を大きく伸ばした。沈み行く海の防人達を救う為の天女の手を伸ばして………、

 

 

 

其処で突如警報が響き渡ってきた。その時ハイパーセンサーのディスプレーに、

 

『警告!:

出力低下・シールドエネルギー、残り0%』

 

という表示が映し出された。と、同時に武装も光の粒子となって消え始める。

 

「しまったっ‼︎」

 

千冬は気づいた。先程の戦いでもう既にシールドエネルギーを使い果たしてしまったという、致命的なミスを。そしてもう一つ付け加えるならば、気づくことが遅すぎたということだった。目の前にあの赤い戦闘機とは別の、クリーム色の蟹のような戦闘機が迫り来る。最早エネルギー切れを起こしたせいで、攻撃を避けることは出来そうにはなかった。

 

 

 

「すまない…、一夏、束、篠ノ之…。私も、どうやら…、此処までのようだ………。」

 

 

 

千冬は観念して目の前をホバリングしながら取り囲むクリーム色の蟹と翼の回転する赤い戦闘機を前に、自分の妹や親友、そして親友の妹に謝罪しながら自分が殺されるのを待った。

 

 

 

その、直後だった。

 

 

 

突然爆音と熱風、青白い光が起こって目の前の戦闘機達が吹き飛ばされるように一掃されるのが見えた。一緒に吹き飛ばされた千冬は一瞬何が起きたのか分からなかった。今の攻撃は、一体何処から…?そして、何故今だけ攻撃が通じた…?

 

吹き飛ばされた後、態勢を整えて辺りを見回すと、答えは直ぐに見つかった。何故なら千冬達から200m離れた地点の空域に、その襲撃者を見つけたからだ。そしてそれは、この白騎士と同じくボディに純白とメタリックな銀色に、椿の花のような紅色の入った、ISのようなパワードスーツをその身に纏っていた。顔は、白騎士と同じくフルフェイス型で長頭型の、どこかゼノモーフ型エイリアンを思わせるようなバイザーで隠してあった為、よく見えなかった(因みに、バイザーの形はまるでSF作品の宇宙戦闘機のキャノピーのようなデザインをしていた)。千冬は、この機体を操っているのは何者でそして本当にこれはISなのだろうか、と思ってオープンチャネルやプライベートチャネルを通じてコア・ネットワークやハイパーセンサーでコアの登録番号を確認しようと試みた。だが、

 

 

 

「コアが…、無い、だと…?」

 

 

 

信じられなかった。いや、それどころか「コアそのものの役割を操縦者自身が兼ねている」という、驚きの解析結果が出たのだ。一体どういうことだ。ISは、専用のISコアでなければまともに動くことすら叶わない筈なのだ。束風に言えば、それはまさに「苺が一切入っていない、生クリームとスポンジだけのショートケーキ」に等しいくらい、有り得ない話だった。赤と白に銀の「ISのような何か」が千冬の方にバイザーで覆われた顔を向けた。すると突然、その機体の人物は千冬に荷電粒子砲の砲身を向けたのだ。此れにはバイザー越しで驚愕の表情を浮かべていた千冬も驚いて、咄嗟に避けた。が、

 

 

 

<其れだけでは不十分だ、織斑千冬。もっと離れろ。出来れば200m圏内迄はな。>

「なっ、お前!何故私の名前を知っている⁉︎それにたった今私に荷電粒子砲の砲身を向けておいて、離れろだと⁉︎」

<喋っている暇があるくらいならさっさと此処から離れろ。お前の後ろの敵を今から撃ち抜くからな。>

「それはどういう…⁉︎」

 

 

 

次の瞬間、千冬は、一生忘れもしない光景と、後の歴史で「戦甲機」と呼ばれる存在を目の当たりにした。そしてその操縦者こそ………、

 

 

 

『波動砲エネルギー、フル装填完了!何時でもいけるぞ。狙いは、彼奴だな。』

「ああ。確か、”グリーン・インフェルノ”で、あっていたよな。マオ。」

『そうだ。だが通常のタイプとは大きさも、火力も段違いだ。恐らく本体も別の場所にある可能性も高い。間違いなく突然変異種か、ベルサーの奴らによって改造されたタイプだろう。正攻法では無理かもしれない。』

「そんなことはやってみなければ、」

 

…「戦甲機」、通称FAの「アローヘッド」を操縦していた篠ノ之箒は、千冬の真後ろにいた、数あるバイド生命体の内の一つである「グリーン・インフェルノ」の突然変異か改造種である可能性の高い「グリーン・インフェルノ タイプ・ミューテーション」にスタンダード波動砲を向け直す。そして、

 

 

 

「分からんだろう?」

 

 

 

マオの操作によって、2ループチャージマックスを迎えていたスタンダード波動砲を、解き放った。

 

 

 

強烈な青白い光と爆風に、織斑千冬は頭を強く打ったかのような衝撃をうけた➖。これは、間違いなく荷電粒子砲の類ではない。こんなものと比べたら、荷電粒子砲の方がまるで夏祭りの線香花火のように思えた。衝撃波に飲み込まれながらも、千冬はあの恐ろしい青白い光の奔流に巻き込まれずに済んで良かったと思った。だが、どうやら頭を打った所為で意識を失いかけているらしい。最後まで、千冬はあの緑色の宇宙戦艦がどうなったかを見届けることはできなかった。だが、意識を失う直前、千冬は確かに見た。あの謎のISのような何かが、あの琥珀色の球体と、それに似た小さな2つの球体を連れていたのを。だが、ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

どちらにせよ、その時点で織斑千冬が覚えていたのは、その時気絶する直前のその様子だけだった…。




やっと終わりました。いやあ、長かった…。そうだ、伝えなければならないことがあった、実は本作「インフィニット・ストラトス ー邪神と英雄達の系譜ー」はなんと、

シリーズ化が決定致しました‼︎おめでとうございます‼︎

「いや二次創作だし、シリーズ化云々とか言う話じゃねーよつかまだ8話しか書いてねーのに何言ってんだお前は。」とか言ってる貴方、頼むから泣いちゃいますんでそんな酷い事言わないでくださいね。まあでも。ただのシリーズ化ではありません。私の場合、別の二次創作サイト「シルフェニア」、Pixiv、「小説家になろう」、そしてこのハーメルンを跨いだ一大シリーズなんです。多分一生かかるぞそれ、とか言わないでください途中でズッコケたら怖いんで。今は本作のみですが、近い内に本作との関連性の強い別の作品を、別のサイトで書いていきたいと思います。

因みに現在、この「インフィニット・ストラトス ー邪神と英雄達の系譜ー」のスピンオフ作品である、アラスカの田舎町を舞台とした多重クロスオーバーホラー小説「テッドマウンズフィールド(仮題)」を鋭意制作中です‼︎近々投稿すると思いますので、どうかお楽しみに。

最後に、今迄本作を楽しんで戴いてくれた皆様、気に入ってくださった皆様、そして様々なアドバイスをご指摘くださったハーメルンの先生方、どうもありがとうございます。此れからもこのどんぐりあ〜むず、をよろしくお願いします。

因みに、前回は感想が一件も入ってこなかったので、正直寂しかったです。あの、皆様。本当に正直にでいいですから感想よろしくお願いします!後誤字脱字報告もお願いします!と、いうわけで、今回も此処でお別れと致しましょう。では、またこれにて。


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第6話 白騎士事件 第二幕

大変長らくお待たせ致しました‼︎どんぐりあ〜むず、です‼︎皆様此処まで時間をかけてしまって大変申し訳ありません‼︎大学のレポートとか試験があったせいで中々時間が取れず、またかなり精神的に追い詰められていたのもあったり文章が書きたくないと思っていたのもあって本当に捗りにくかったです…。ハーメルンなどで小説を書いている先生方は、遣る気は一体どうやって出しているんでしょうね。

さて、早速本篇に入りますが、後書きにてお知らせその2、行きたいと思いますので、最後まで読んで下さった方も、途中で飽きちゃった方も、是非ご覧下さい。では、第6話、始まります。


「人を傷つける時は、復讐心が失せるほど徹底的にやるべし」

➖ニッコロ・マッキャヴェリ➖

 

///////////////////

 

時間は少し前にまで遡る。私、篠ノ之箒はあの時、白騎士事件の真っ只中に至るまでは、ずっとぎゃっぴーズと共に福島のピットガレージ➖私が今拠点として使っている自動車工場の廃墟のことだ。誤魔化しのためにこう名付けた➖で、とある事情で待機中だった(だがその割には、側から見れば寛いでいるようにしか見えなかったのは言うまでもない)。傍らのぎゃっぴーズは勝手にハイドロキャノンやジュークボックスを組み立てて遊んでいた。私はと言えば、お気に入りのスティーヴン・キングの「ダーク・タワー」を適当に読み終えて、私の実家近くのコンビニのゴミ箱から拾った東西新聞の今日の朝刊を読んでいた(記事には、《西部署、またもお手柄。湾岸警察署との合同捜査にて東京留置所を脱獄した凶悪犯を銃撃戦の末射殺。しかし警視庁及び湾岸署からはその行き過ぎた捜査を非難される》や《アメリカ・デトロイト市警、オムニコープ社との提携でサイボーグ警察官の配備を正式決定。2030年度末までに配備予定》、《アメリカ・ラクーン(シティー)にて大規模原発事故発生。死傷者・行方不明者多数発生との情報アリ。》、《ノルウェー・アメリカの南極観測隊が消息断つ。此れを受けて両国政府は両国軍より編成された特別救助隊を派遣予定》、《一色健次郎博士、再生可能エネルギー学会にて示現エネルギー理論を提唱。ノーベル平和賞及び物理賞等を受賞》、《リムパック遠征中の海上自衛隊最新鋭イージス艦”みらい”が、天候不順により遅延の可能性アリ》《バル・ベルデ共和国のにて再び内乱が発生、現地で活動中の日本人音楽家主催のNGO団体行方不明》など、他にも沢山の記事が書かれていた)。

 

私達が何故その”とある事情”で待機しているのか。其れは、私の読んでいる東西新聞の記事に書かれていたことにあった。

 

《本日より、環太平洋合同演習(リムパック)開始。今年度でも参加した自衛隊と与党の五十嵐隼人内閣に対して、国内と中国・韓国、及び野党や在日系団体による自衛隊及び内閣批判高まる。》

《本日午前2時頃より、アメリカ・ハワイ島マウナ・ケア山の国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡と、NASAなどが運営しているジェイムス・ウェッブ望遠鏡が謎の飛行物体を感知。官房長官は記者会見で「隕石の可能性あり」と発表》

 

そう。まさしくこの記事が全ての原因だ。今日この日こそ、奴ら………バイドやベルサー、そしてレイブラッドがやって来る日なのだ。その為、かなり余裕があるように見えるが、実際はそうではなく、気持ちを鎮めるためにこうして連中が動くのを待っていた。やがて………、

 

「………見えた。」

 

私は、体内外に浮かぶ私自身がマオと共に開発したハッキングナノマシンから、人工衛星ランドサット7を通じて今のハワイの様子を見た。同時に付けていたテレビにも中継が入る。ニュースは、先ほどまでピットガレージに来てはヤクザの池元組と村瀬組の権力抗争を伝えていたニュースキャスターのなんたら伊知郎➖普段からニュースやテレビなぞ見たがらない性格なので、いちいち覚えていない。だがこのニュースキャスターに一時期顔に死相が出ていたということだけは覚えている➖が、冷静にだが何処か慌ただしい様子で報道内容を読み上げる。黒い箱の中にいる彼は、事態の衝撃を受けて早めに伝えようとして、幾分か舌を噛み、途切れ途切れになりながらも、なんとか伝えていた。

 

『えー、たった今政府からの緊急速報が入りました。えー、それによりますと、日本時間の今日12:58頃に、えー、ハワイ・オアフ島沖合にて、リムパック連合艦隊が、えー、攻撃を受けたとの情報が入りました。政府は今日…、』

 

「全員集合だ‼︎出撃準備‼︎ほら急いだ急いだ‼︎」

 

私はぎゃっぴーズを叱咤すると、急いでFAの準備を始めた。ぎゃっぴーズ達が警報を鳴らして作業用アームを起動させる。既に実戦投与可能なレベルに迄完成しているとはいえ、私やマオの技術レベルやOS、其れに武装の威力や消費エネルギーの問題のせいで未だ篠ノ之束のISのような、「待機形態」と呼ばれるアクセサリーのような形態をとることは出来ない。その為、どうしてもこのように作業用アームなどを使った、大袈裟なで面倒な装着作業になってしまうのだ。だが、かといって作業用アーム無しでFAを装着するのは何かと危なっかしく、幾ら私でも装着自体に難儀してしまう。なので私は、こうした、安全で確実な装着が可能な作業用アームを使うことにしたのである。

 

半覚醒化すると、まずは作業用アームが待機している発射台(カタパルト)の上に立った。すると今度は、頭上と足元からそれぞれ4本、計8本のマニュピレーターが出てきて足元や頭上などに収納されたFA「アローヘッド」の背部のスラスター部、腕部・脚部装甲、キャノピー型バイザーに主要武装である太刀とレールガンライフル、及び背面装備型の固定武装であるスタンダード波動砲やミサイルポッドなどを私の身体に次々と手際よく装着させてゆく。その様子を見る者が居たならば、恐らく数十年前にスターク・インダストリーが行なった➖当時の社長は当然現社長である世界中でも指折りの実力を持つ若き天才発明家の事ではなく、その父親であるハワード・”ザ・愛国者&ザ・女誑し”・スタークであったのは言うまでもない➖、開発計画そのものが頓挫したパワードスーツの試作型のプレゼンテーションなどを思い浮かべたことだろう。今の装着作業はそれと全くといって良いほど似ていたのは、言うまでもない。

 

僅か数秒で➖ただし、待機形態から装着した時と比べると僅かに遅い➖装着が完了した。すると、前方の古びて錆だらけのシャッターが、かなりゆっくりと開き始めた。私は、このまま秒速208kmでハワイまで飛ぶべきかどうか迷った。大気圏内で秒速208kmなどという音速どころか光速に迫るような速度を出せばあっと言う間に燃え尽きてしまうだろう。いっそのこと、アンチ・プラズマ・フィールドを使って機体ごと保護膜で覆ってしまえば良いのかもしれないが、すると今度は逆に周りに衝撃波の被害を出すことになってしまう。やはり此処はマッハ9で飛ぶべきか…。

 

『大丈夫だ。速度と衝撃波の計算ぐらい、視野に入れている。其れに、今の今までテスト飛行も繰り返して来たんだ、安心しろ。それとも何か?私が信用出来ないとか?』

「そうじゃないさマオ。私はお前を信じているよ。だが、そう簡単に上手く行くとは思えなんだでな。不安なんだ。本当に私などが上手く戦えるのか、とな。」

『成る程そういうことか。だが、それにしてもお前らしくないな。普通そんなことを心配したりしないだろ?』

「勘違いするな。私は心配しているんじゃない。確実にベストを尽くしたいだけだ。戦う前にくたばるか、戦ってくたばるかなんて御免だからな。」

『まあ、誰しも必ずは思うことだからな。不安になるのも当然だ。それに…、自信を無くしているのだろう?嘗ての自分が、戦いに負けてしまった記憶を持っているから。そうだろ?』

「………ああ。」

『なら私がいる。それもR-戦闘機やその他多くの兵器を知り尽くしたこの私が、だぞ。今のお前は独りじゃないんだ。私を信じて戦ってくれさえすれば必ず勝てるさ。そうだろ?』

「そうだな…、確かにこんなところでウジウジしていても何も始まらん。だが…、相手の実力とて未知数だ。だから気にしているんだ…、此れで良いものか、とな。」

『ふむ…、確かに其れはある。敵の出処や出方などは確かこの私でもよく分からん。だが、よく分からなくとも戦わねばならない。戦わなきゃ…、駄目なんだ…。』

「………。」

『ああ、すまん。つい…、癖が出た…。』

「マオ、まさかお前も…。」

『言うな箒。そうさ………、私だって怖い。また、あの化け物共と戦うことになるのは私だって怖い。私だって、勝っても負けても奴らの仲間入りを果たしてしまったからな。だから、正直な話、怖い。だがな箒、それは、致し方の無いことなんだ。』

「何故だ?」

『”どんなものにも必ず代償はある”…。昔、何処かの偉い奴が言っていた言葉さ。どんなに強くても、どんなに頂点を目指したくても、必ず代償というものはついてくる。必ずな…。』

「代償………。」

「ああ。私の場合、恐らく勝利の為に人間としての自分という存在(・・・・・・・・・・・・・)を捨てたことこそが私の代償だ。そして、その結果は………、言うまでも無いだろう………。』

 

私は黙ってマオの話を聞き入っていた。その間にも、錆び付いたシャッターが、奇怪な金切り声のような、油の切れた派手な金属音を立てながらゆっくりと上がっていた。だが、かなりゆっくり上がっているのかそれとも油が切れているのとレール迄もが錆び付いているのだろう、今現在シャッターが上がったのは私の腰より上くらいだった。

 

『だが、結局バイドになりはしても人間としての自分という存在ではなく、「私という存在」だけは死ななかった。何故かは分からないがな…。だが、此れで分かったことがある。死ぬ気で戦わねば此れ以上に重い代償を払わねばならないのだとな。』

「………。」

『だが、こうも考えてみて欲しい。死ぬ気で戦ったからこそ、負けることも、それ以上に悲惨な結果を齎してしまうこともなかった。…まあ、人間ではなくなってしまったことは頂けないけどな。』

「…確かにな。」

『だがそんなに悲観することもない。要は死ぬ気で戦うしかない、負けるなぞ考えるなということだ。後が無いと考え、冷静に対処する。何時迄も負けた記憶を引きずってはならない、でないと、もっと重い代償を払わねばならなくなる。それだけは、如何しても避けたい。避けたいんだ。箒、お前はこの戦いに勝つ気はあるのか?』

 

私は暫く黙り込んだ。確かに、彼女の言い分も分からない訳ではない。そもそも、私の本当の目的はこの全ての世界の覇者となること、そして今はそれ相応の、強大な力を持っている筈だ。そんな奴が、如何してたかが目の前の敵に何を怖気付いているというのか。可笑しい…、可笑しいにも程がある…!

 

「………ある。あるとも。負ける気なぞ毛頭ない。やっと胸のつかえが取れたよ。ああそうだ、今の私は、いや、私達(・・)なら、例えばどんな敵でも相手に出来るじゃないか………!」

『そう。その意気だ篠ノ之箒。その感情が、今のお前を強くする!』

「ああ、心配掛けさせて悪かったな。マオ。今なら私は思う存分、臆することなく戦えるぞ。お前ももう大丈夫だな?」

『ああ、私ももう心置き無く戦うつもりだ。だがもう時間が無い。直ぐに出発しよう。』

「そうだな。……そうだ、マオ。」

『ん?』

「実はさっきのことなんだが…。」

『箒。其処でストップだ。』

「何故だ?私はただ…。」

『そういうのは、生きて帰って来てからにしてくれ箒。謝られるのは好きじゃない。特にこの局面じゃあな。』

「ふむ、分かった。だが後悔するなよ、私は謝れと言われても謝らないし、謝るなと言われなくても謝るつもりはないからな。」

『なんだそれ、意味同じじゃないか。』

 

暫しの間、私達➖と言っても、マオは私の体内や精神の中にいるのだが➖から笑いが漏れた。やがて、

 

『………行くか。』

「……ああ。」

 

シャッターが完全に開ききった頃には、既にカタパルトには私達の姿はなかった。何故なら其の頃にはもうハワイに向かって飛び去り、既に現地に着いてしまっていたからだった。

 

 

 

 

///////////////////

 

➖数時間前、ハワイ オアフ島近海

 

有働貴文は数名の部下に命じて全速力で哨戒艇を飛ばした。少なくとも、あんな見たことのない不気味な緑色の戦艦は見たことも聞いたこともなかった。そもそも、オアフ島に迫るくらいの大きさの戦艦が空を飛んでいる時点で彼と彼の部下達は先ず自らの正気を疑った。まさか一昨日、本国の薬局から処方された胃腸薬の副作用が見せている幻ではないのかと。まさかリムパック開催前のホテルで飲みすぎたマティーニ・オン・ザ・ロックスによる二日酔いの所為ではないのかと。だが、いずれにしてもその何方もが間違いであった。現に、戦艦はちゃんと実体を持って、リムパック艦隊やあのアンノウンを攻撃している。そしてそのおかげで、自分達哨戒艇組も多大な被害を被ることになった。アメリカ・アフリカ組は先ず空を飛んでいた機体を回転させて飛んでいる戦闘機に次々と突っ込まれて全滅。チーム中国・韓国は海面から姿を現したケーブル状の触手によって海中に引きずりこまれ、水面を紅く染め上げた。EUや東南アジアグループは先程の気違い染みた大きさの緑色のデカブツの放った光線の一撃で出来たモーゼの十戒のような海底や海面の亀裂や割れ目に、数多くの艦艇と共に吸い込まれた。

 

要するに、とんだとばっちりを受けたのである。

 

そして現在生き残っている哨戒艇組は自分達海上自衛隊のみだ、と有働は部下達と逃げ回りながら確認した。今はまだ大丈夫だが、また何時連中が襲ってくるかは分からない。

 

「有働二尉!このまま如何するおつもりでありますか‼︎」

 

追い風と爆音に負けないくらいの大声で、山田豊明三等海曹が訊いてきた。だが、余りにわかりきっている内容についてのことだった為、有働は声を荒げた。

 

「ばかやろう、そんなわかりきったことを聞くんじゃねえ、あんなの真正面から戦ったって意味がない!一旦俺たちは急いでいずもへ撤退するに決まっているだろ‼︎そして其処で態勢を立て直す‼︎大丈夫だ、必ず、必ず俺たちは勝って生きて帰るぞ‼︎」

「「「はいっ‼︎」」」」

 

そう言って有働は部下達を叱咤し、部下達もそれに応えて海上自衛隊旗艦であるいずもへと航路を急いだ。先程からあの緑色の化け物艦の格納庫から出てきた戦闘機からの攻撃は受けてはいるものの、幸いなことに連れて来た海等1士と2士の巧みな舵捌きによって今のところ被害は受けていない。有働も豊明も、持参した89式小銃やFNミニミ軽機関銃などで威嚇射撃を繰り返した。だが運命とは、いつ果てることなく厳しい展開を突きつけてくるものである。

 

 

それは、後もう少し持ちさえすればな、と有働が考えた時だった。有働達のゴムボートがいずもまで近づいていたその時、突然海底が眩いばかりの青色に輝き始めた。しかも、ゴムボートの周りだけが。

 

「おい、いったい何が如何なっているんだ⁉︎」

「さあ、分かりません…?いきなり、海底が輝き始めましたから、自分にも何が何だかさっぱりで………。」

 

その時、ゴムボートが大きく揺れ、有働達は哨戒艇の中を転げ回った。

 

「な、なんだっ⁉︎一体、何が起きっ………⁉︎」

 

有働の焦燥の声が続いたのは其処までだった。下から突き上げるような衝撃と、巨大な水柱によって、有働は青く不気味に輝く海の中へと投げ出され、そのまま海中へと引き摺り込まれてしまった。

 

「二尉ぃぃぃ!」

「有働二尉っ⁉︎」

「なんてことだ、まさか二尉がっ‼︎」

 

豊明達3人の部下は、急いで有働の消えた光る海の中へ飛び込もうとした。だが不幸な事に、戦闘機からの攻撃やアンノウンの事に加え、いずもの探照灯がしきりに撤退するよう、モールス信号を発していたため豊明達は泣く泣く諦めて、いずもへと撤退した。

 

 

 

だが、後々の展開や事を考えれば、彼らにとっては幸いな事であっただろう。特にこの後、彼➖有働貴文が、”人間で無くなり、悪の手先になってしまった事を考えれば”、だが。

 

 

 

///////////////////

 

 

 

暫くすると、オアフ島近海の海域に到着した。私達の判断が正しければ、恐らくこの近くは激戦、いや一方による”一方”的な蹂躙戦が展開されている筈だった。

 

「確かこの辺りだったな」

『ああ、きっと何処かにいる筈だ。』

 

そして其れは余りにも簡単に見つかった。織斑千冬とリムパック艦隊だ。バイドの猛攻に全員苦戦を強いられていた。そんなバイド達の猛攻を掻い潜っているゴムボートが見えた。ズームして見てみると、海上自衛隊の哨戒艇のようだった。だが、そんなゴムボートも、海中の青い光からの攻撃を受けて水柱を浴びて自衛官の1人が海に落ちるのが見えた。すると、それを見たらしい白騎士➖間違いなく織斑千冬だろう➖が、彼らを助けようと全速力で迫った。が、

 

 

 

エネルギー切れだろうか?白騎士がバランスを崩して、しかも武装までもが消え始めた。そして、周りを取り囲む、バイドの戦闘機達。

 

 

 

…とても見ていられなかった。

 

 

 

「…マオ。」

『言われんでも。2ループチャージ完了だ。』

「なら、」

 

ガチャン!

 

「話は」

 

キュウウウウッ‼︎

 

「早い」

 

ピピピピピピッ‼︎

 

「………なっ‼︎」

 

カチリ。

 

➖ドオォォォォォォォォォンッッッッッッッッ‼︎‼︎

 

 

 

背面武装のスタンダード波動砲を展開して右肩にセット、エネルギーが充填されているか確認、そして照準を合わせて引き金を引いた。狙いは勿論、

 

白騎士に群がる、バイド共だった。

 

<な、なんだっ⁉︎>

 

無線を傍受すると、織斑千冬の、驚いた声が響いてきた。まあ、無理も無いだろうが。

 

千冬が此方に顔を向けてきた。今頃は自前のハイパーセンサーを使ってこの機体➖戦甲機「アローヘッド」➖の解析を行なっているだろうが、したところで理解なぞ出来ないだろう。そもそもISの姿をしていながら、ISコアを持たないという話になれば、だ。

 

だが、私は千冬を助け出したから、解析されても心配無いからといって、まだ安心している訳ではなかった。やるべきことはまだ沢山ある。そう、例えば、千冬の真後ろ、あの常識外れな大きさの緑色の戦艦➖マオから聞いていたグリーン・インフェルノのようだがそれにしては大きさが聞いていたR-9Aアローヘッド20機分よりデカすぎるので、恐らくベルサーやレイブラッドの手が加えられているらしかった➖などだ。私は再び千冬と、彼女の向こうにいる戦艦➖グリーン・インフェルノの突然変異種で、後に「グリーン・インフェルノ タイプ・ミューテーション」と名付けることになる個体➖の距離と、波動砲の発射時と直撃時における爆風と衝撃波の計算を瞬時にマオの予測やコンピューターによる分析結果などで割り出し、其の上で再び右肩に装備した背面武装であるスタンダード波動砲を展開・セットする。すると、自分に向けられていると考えたのか、織斑千冬が身構えた。バイザー越しにとはいえ、かなり動揺していたため、あらかじめ彼女の通信プログラムにハッキングしてやや強引に通信を繋げる。

 

「其れだけでは不十分だ、織斑千冬。もっと離れろ。出来れば200m圏内迄はな。」

<なっ、お前!何故私の名前を知っている⁉︎それにたった今私に荷電粒子砲の砲身を向けておいて、離れろだと⁉︎>

「喋っている暇があるくらいならさっさと此処から離れろ。お前の後ろの敵を今から撃ち抜くからな。」

<それはどういう…⁉︎>

 

彼女の戸惑いの声が聞こえない内に、また最初のように強引に通信を切った。警告はした。後は彼女のタイミングと悪運の強さ、そして彼女の判断次第だ。マオに現在の機体と波動砲の状況を訊く。そして、

 

『波動砲エネルギー、フル装填完了!何時でもいけるぞ。狙いは、彼奴だな。』

「ああ。確か、”グリーン・インフェルノ”で、あっていたよな。マオ。」

『そうだ。だが通常のタイプとは大きさも、火力も段違いだ。恐らく本体も別の場所にある可能性も高い。間違いなく突然変異種か、ベルサーやレイブラッドの奴らによって改造されたタイプだろう。正攻法では無理かもしれない。』

「そんなことはやってみなければ、」

 

そして、砲身をグリーン・インフェルノに向けて、

 

「分からんだろう?」

 

撃った。

 

波動砲は先ず今にも私達に向って撃ち出そうとしていた、所謂”惑星破壊波動砲”によく似た波動砲➖後に、ハイパータイプ・デビルウェーブ砲”と呼ばれていると知った話は別の話になる➖の砲門に直撃した。誘爆を起こして波動砲は沈黙した。向こうからすれば撃沈しなかっただけまだマシだろうが、此方としては波動砲が使えなくなったことは好都合だった。だが、織斑千冬が波動砲発射時の衝撃波を受けて気絶し、墜落していくのが見えると、私は舌打ちを打った。そして頭の中で瞬時に十数秒以内でグリーン・インフェルノを無力化させ、織斑千冬を、海面に叩きつけられないようにして救い出す計画を立てた。普通の奴なら、かなり無謀な真似だと考えたであろう。だが今の私は、其れを極めて短時間で其れを実行出来る自信があった。

 

「…マオ、カウントは?」

『何時でもOKだ。然し、家事や開発以外で之を行うのは初めてだが…、大丈夫なのか?』

「何事も試してみるのが一番だ。私は、賛成に一票。」

『どうなっても知らないぞ……、私も賛成。』

「じゃあ、織斑千冬が海面に落ちない内に済ませるぞ…!」

 

そう言って私達は、オーバーブーストでグリーン・インフェルノに急接近してカウンター攻撃➖スポーツの、それもバスケットボールで言うところの速攻である➖を、織斑千冬が海面に激突するまでの「10〜15秒」という制限時間内で仕掛けた。

 

『1‼︎』

 

波動砲を薙いで上部の全ての機関砲やビーム砲などの砲台、ミサイルコンテナを全て破壊し、

 

『2‼︎』

 

続いて左のコンテナや格納庫、装甲やプレートなどのパーツを壊し、

 

『3‼︎』

 

左の機関砲をテンタクランサーを使って黙らせる。

 

『4‼︎』

 

そして下部の機関砲やビーム砲を、上部の時と同じ破壊する。

 

『5‼︎』

 

そして右の機関砲を綺麗に消滅させ、

 

『6‼︎』

 

直ぐさま右側の全てのパーツを左側と同じ運命を辿らせる。

 

『7‼︎』

 

続いて上部の装甲やプレートを吹き飛ばす。

 

『8‼︎』

 

そして二重になっていたもう一枚の装甲も吹き飛ばした。

 

『9‼︎』

 

次に現れた機関部も球状のバイド弾を放たない内に波動砲を叩き込む!

 

『10‼︎』

 

そして最後は海面に激突寸前の、織斑千冬の白騎士を、お姫様抱っこの要領で引き上げる‼︎

 

 

 

 

やがて、派手な爆発を起こしながら、「グリーン・インフェルノ タイプ・ミューテーション」は、これまた派手な波飛沫をあげて沈没した。

 

『………10秒47、か………。敵さん相手に、なかなかやるじゃないか。ことに、相手があのグリーン・インフェルノか、地球連合のあの名前のない”くそったれ”戦艦よりデカい戦艦なんかにな。』

「確かにな。だが、出来るかどうかの心配はこれでもしていた方だぞ。かなり早く倒せたのは本当にラッキーだ。多分相手が戦艦だったからこそ為せた技だ。………で、彼女はどうすべきか………。」

 

私は自分の手の中に眠る織斑千冬を見た。このままリムパック艦隊に引き渡してしまう手だってある。だがそれだと彼女は国家反逆罪とテロ行為を問われ、場合によっては死刑が確定してしまうだろう。そうなれば、もう2度と妹の一夏に会えなくなってしまうだろう。如何したものか…。そう考えた、その時だった。

 

 

 

海底に沈んだ筈のグリーン・インフェルノが、再び海底から浮き上がってきたのだ。それも、万全な姿で、海水をまるで滝のように流しながら。

 

 

 

これには私もマオも驚いた。機関部を叩かれて生きている筈がないのに…。一瞬そう考えたが、絶え間なく続いている機関砲撃やビーム砲撃を慌てて避けなければならなかった。織斑千冬を抱えているせいで上手く回避行動が取れなかった。

 

「クソッ‼︎機関部を叩かれた筈なのに何故まだこんなにも元気なんだっ⁉︎」

『可笑しいな。確かに機関部を叩いてグリーン・インフェルノは墜ちた。まさか叩き方が不十分だったのか…?』

 

だがその理由は、突然せり上がったグリーン・インフェルノの艦橋で判明した。グリーン・インフェルノの艦橋をまるで貝殻のように背負い、継ぎ目に巨大な波動砲の砲身を備えたそれは…、

 

「………成る程、”ベルサー艦”、か………。」

 

 

 

ベルサーのヤドカリ型戦艦「マイホームダディ」だった。

だが、敵はマイホームダディだけではなかった…。

 

 

 

突然グリーン・インフェルノの沈んだ海域の丁度反対側の海面が急に盛り上がり始めた。何が起きているのか、首を傾げた時だった。

 

「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ‼︎」

 

…咆哮と共に海面を爆発させるようにして現れたのはトカゲのような姿をした異様で不気味な怪獣だった。トカゲを禍々しくしたような顔、肩部についたサメを思わせる顔、それ以外のどの部位を見ても、明らかにとても味方ではないと自己主張していた。自分で言うの何ではあるが、禍々しくも美しい外見を持っていたかつての私と違い、禍々しさだけが全面に出ていた。だが何よりも、私とマオが興味を抱いたのは”奴”の胸部だった。そう、奴の胸部には…、波動砲が付いていたのだ。そして何よりも、

 

「馬鹿な…、波動砲だとっ⁉︎」

『なんてこった、バイド反応も検知したぞ‼︎』

「何⁉︎じゃあまさか彼奴は…、」

『ああ、あの中に…、グリーン・インフェルノの中にベルサー艦と一緒に居たんだ!』

 

私とマオはいきなり窮地に陥ってしまった。2対1。しかも訳の分からない敵がいる。だが、これは同時に私達と、因縁の敵の1人との出会いでもあった。そして、この時は未だ名前の無かった、ベルサー艦と一緒にいる禍々しい私達の因縁の敵の名前は………………………………、

 

 

 

 

 

 

「ビースト・ザ・ワン ベルゼブア」と言った………。

 




さて、漸く終わりましたね〜。いやあー、長かった。

さてさて、お知らせなのですが、今回までに、なんとレギュラーで登場予定の怪獣達が決まりました!怪獣については以下の通り。

・邪神 イリス(篠ノ之箒)
・ゴモラ(織斑一夏♀)
・邪神 ガタノゾーア(?????)
・レギオン(?????)
・ビオランテ(⁇⁇?)
・デストロイア(⁇⁇?)
・ゴジラ(?????)
・ガメラ(?????)
・キングギドラ(⁇⁇?)
・ビースト・ザ・ワン(有働貴文)
・ゼットン(?????)

いやあ、錚々たるメンバーですねぇ殆ど私の所為ですが。でも私はやると言ったらやります。まあ、またかなり時間がかかってしまうとは思いますが(汗)
あ、作中の新聞や新聞記事の内容は全て続編への伏線となっています。前回のサイバーダインもその一つになります。え、伏線作りすぎだって?それはそれ、これはこれです、はい(笑)でも飽くまで本編自体はバイドや怪獣とのバトルが主体なので今はそんなに出番はないと思います。一部(「ザ・愛国者&ザ・女誑しの息子」のキーワードのキャラクター)を除いて。という訳で、今回も遠慮なく感想、評価、批評、誤字ラ出現報告、質問等をどんどん送って下さい!この前お気に入り解除されて凄く悲しかったので(悲)お待ちしていますー。


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第7話 白騎士事件 第三幕

※どういうわけか、最後の文章にてバグが生じております。「…乗るさ。お前の(ry」のところで今回のお話しは終わりですので、どうかその辺りをお気をつけて。


「不合理とは、何かの存在があり得ないのではなく、状況があり得ないことを言う」

➖フードリッヒ・ニーチェ➖

 

///////////////////

 

「くっ!」

 

グリーン・インフェルノ タイプ・ミューテーションの上にいるマイホームダディの機関砲攻撃をギリギリで躱す。だが今度はそれを見たあの怪獣➖ビースト・ザ・ワン ベルゼブア➖の胸部の波動砲攻撃を諸に喰らいそうになる。此れではイタチごっこだ、キリがない。白騎士こと織斑千冬を抱えているせいで動きが鈍っているとはいえ、この私に反撃の機会を与えないとしている限り、練度は向こうの方が上か………。

 

「チッ……、如何出るべきかな…、これは…。」

 

私は舌打ちした。幾ら波動砲を積んだR-戦闘機の能力と邪神イリスの力を引き出すことの出来る、ISとは全く性質や構造、次元の異なる空戦用パワードスーツであるFAと言っても、こうまで弾幕を張ってくる敵に対して全く手出しが出来ないという訳ではない。だが、こうも攻撃の瞬間を与えないとなると、些か面倒だった➖其の上織斑千冬を抱えているのもあったので尚更であった➖。此れではまるでイタチごっこだ、キリがなさすぎる。どうするべきか…。

 

『箒、R-9だ!』

 

その時、マオの声が響いた。

 

「何⁉︎」

『前に防衛用とFA研究用や非常用として作ってあっただろう!アレを呼び寄せるんだ今すぐに‼︎今のプロトタイプFAの「アローヘッド」のシステムでは決定打に欠ける上に織斑千冬を抱えている以上、我々に勝ち目はない‼︎』

「だがどうやって呼び寄せる気だ?幾ら援軍として呼び寄せたとしてもパイロットがいないと話に………、あっ⁉︎」

『そうだ、”彼奴ら”に操縦させるんだ。外見はああでも、ああいった類との戦闘経験は皆無だが実際の練度は私と同じだ!きっと使える筈だ‼︎』

「…確かにな。この状況下で利用しないという手はない。だが呼び寄せたとして…、上手くいくのか?」

『分からん。だが賭けてみるしかないのは確かだし、このままでは膠着状態に陥ってしまうのも確かだ。少々不安ではあるのだが…、彼らに委ねよう。』

「そうだな、だが今はこの事に集中するぞっ‼︎」

 

私は再び飛んできたグリーン・インフェルノ上にいるマイホームダディの苛烈な機関砲攻撃をすんでのところで躱した。その間にも、マオがエネルギー体入力コマンド➖要するに魂のみで私の体内にいるマオが、自身の魂に内包された生体エネルギーを使ってシステムに干渉しているということだ。因みに、今の彼女は短時間なら私から抜け出して様々な活動が出来るまでになった➖を使って、無線で遥か彼方の日本の東北地方にいるぎゃっぴーズのいるピットガレージにスクランブルを発令する。此れで良い。後は…。

 

「彼奴らがっ!」

 

チャージしたスタンダード波動砲をグリーンインフェルノの上にいる艦橋を背負ったマイホームダディに向って放ち、

 

「来るのをっ!」

 

ビースト・ザ・ワンの胸部のチャージされた波動砲をギリギリで躱し、

 

「待つっ!」

 

スタンダードフォースとサイビットを飛ばし、グリーンインフェルノの本体であるマイホームダディの背負った艦橋にフォースをぶつけて破壊し、ビースト・ザ・ワンをサイビットで撹乱させ、

 

「だけだなっ‼︎」

 

フォースから赤と青の螺旋状の対空レーザーを薙ぐように発射してグリーンインフェルノとビースト・ザ・ワンを攻撃する!

 

「…さて、調子はどうだかな?」

 

もうもうと立ち昇る煙を見やり、呟く。だが刹那、煙の中から一閃の光が襲い掛かって来たのを見て、直ぐに足止め程度の効果しかなかったことに舌打ちした。くそう、流石に試作機ではやはり効果薄しか、そう考えた時だった。

 

『危ない、箒っっっ‼︎』

 

マオの切迫した叫びに、私は驚いて思わず前を見た。見ると、何時の間にか、あのトカゲ擬き➖胸に波動砲を備えたあの忌々しいビースト・ザ・ワンだ➖が、両腕を大きく伸ばして私を捕まえて来たのだ。当然、反応が遅れた私は、織斑千冬共々、ザ・ワンの手中に収められてしまった。右手で私を、左手で織斑千冬をしっかりと捕まえている事の他にも、軽く光速のスピードを出すことのできるFAが此奴の手から逃れられないのを見るに、恐らく奴がアローヘッド以上のパワーを持っているというのはほぼ間違いなかった。そして分かったことがもう一つ、

 

 

 

「ぐっ…、かなり不味いな………。」

 

 

 

………逃げられずに2人纏めてまともに波動砲の一撃を喰らう羽目になるか、このまま握り潰されるかももしれないということだ。今スタンダードフォースやサイビットはグリーンインフェルノの相手で手一杯だった➖普通ならあれらが有ればこんなことにならなければ、このようなミスを犯すことはない筈だが、強力な敵が二体いる上に、人間”篠ノ之箒”としての初陣でもある為にこのような事態を招いてしまったのは言うまでもない➖。正直、不味い状況だった。其れも、外食に来て食べた後で財布がない事に気付いた時ぐらい不味いものだった。然も、背面武装の波動砲やミサイルは捕まった際にエネルギーパインダーや格納容器のフタが潰れてしまい、応急修理しなければ数発すら撃つことが出来なくなってしまい、捕まった所為で修理すらも出来ず、また衝撃で太刀をはたき落とされてしまったのも相まって、事態は予想を遥か斜めを上回る最悪の事態を招いてしまっていた。

 

「ぐはっ、クソッ、くそくそくそっ‼︎不味い、かなり不味いぞっ!」

『落ち着け!今慌てて如何する‼︎』

「だがそうは言っても‼︎」

『大丈夫だ、後数秒で彼奴らが来てくれる‼︎其れにまだ武器だってあるぞ‼︎』

「何がだ!武器なんてもうある筈がっ………はっ‼︎」

 

そこで私は気がついた。キャノピーのようなヘルメット、そういえば”アレ”をそれぞれ装備していたことを完全に忘れていたじゃないか。波動砲やフォース等以外で装備され、波動砲やフォース以外で多くのR-戦闘機やパイロットの命を救って来た”アレ”を………!

 

「…”波動レールガン”掃射‼︎」

 

途端にビースト・ザ・ワンの顔面目掛けて、頭頂部にセットされた波動レールガンが火を噴いて殺到する。此れにはさしもの野獣1号も悲鳴を上げて私達を手放す。身体をぐったりとさせた織斑千冬が海面に落ちてゆく。だが、千冬の身体はコンクリートの地面のような白く波打つ海面に激突することはなかった。すざましい速さで突っ込んで来た何かが、彼女をその内部に収容したのだ。そしてその何かは、機体の両端からレールガンを連射し、ビースト・ザ・ワンとグリーンインフェルノにそれぞれ強力な弾幕を炸裂させた。遂に待ちに待った援軍の御登場だった。

 

「全く………、遅いぞ…。”矢頭”。」

 

私は息を整えながら、乱入してきた”ソレ”に向って言った。

 

 

 

”矢頭”…、「R-9Aアローヘッド」。

 

 

 

この世界で最初に誕生したR-戦闘機であり、R-の系譜の頂点に立つ存在である。矢頭は、この機体の愛称でありそして、

 

<もピッ!>

 

………パイロットの2人のぎゃっぴーの名前でもある。こんなマスコットキャラのような可愛いらしい二頭身の妖精紛いの姿をして、実際の戦闘能力や知能は私と然程変わらないのである。そして何より彼女らの強みは高度な車両・船舶・航空機等の操縦能力や設計・製作・整備能力にある。これらの能力は、元々はマオが人間➖其れも、凄腕のパイロットと凄腕のエンジニアという、只者ではない人間であった時の彼女だ➖だった時から持っていたスキルで、私もその恩恵によって此処までの能力や知識を有しているのだが、其れはぎゃっぴーにも活かされているのである。

 

2人のぎゃっぴーは元気に無線に応えて、私➖正確には私達だが➖の隣にR-9Aを上昇させて近づいて来た。

 

コクピットの中の彼女らは誇らしげに、その小さな身体で自慢げに胸を張って鼻の穴を拡げて其処から、フンス、と息を漏らしていた。見ると、複座型のコクピット➖この世界での最初のR-戦闘機であるこのタイプのR-9Aは、第一次バイドミッション時や、その第一次バイドミッションと第二次バイドミッションの間に起きた「サタニック・ラプソディー事件」などの際に大量投入されたモデルで、一部の後期型と違いちゃんとした人間が乗れるようになっている。特にこの複座型は、第一次バイドミッション当時に伝説的な功績を残した、とある偉大なパイロット2名が乗っていた試作型と同タイプで、マオは其処にあやかってこの世界で最初のR-戦闘機は複座型のR-9Aにしたのだと言う➖の、ナビゲータ・シートの裏側にある非常用物資保管用トランクの蓋が開けられており、そしてその中には、物資の代わりに何時の間にやらテンタクランサーでぐるぐる巻きにされてコクピット内を転げ回ったり飛び跳ねたりしない様、トランク内に括り付けられた織斑千冬の姿があった。

 

R-9Aの対G対策が全くといって良いほどされておらず、またシートの裏側のトランクなんてあまりにも非常識過ぎる上に、余りにも危険な場所に知らぬ間に転がされている辺り、私は彼女に対して少し憐れみを抱いたのは言うまでもない。まあ、この高さから落ちればコンクリートの地面のように硬くなっている海面に落ちて、そのまま魚やカモメの餌になるよりは戦闘機に乗っていて死んだ方がまだマシであったであろう。

 

「………、まあ、くれぐれも、程々にな?」

 

私がそう無線で声をかけると、ぎゃっぴー達は顔をキラキラと輝かせて、ピシャリと私の方へ向けて敬礼してきた。あの様子を見て、安心して良いものかどうかは分からないが、恐らく織斑千冬は碌な目に合わないことだろうということは目に見えていた。

 

「はあ…、まあ、先が思いやられそうだな………。」

 

私はそう呟くと、一旦R-9Aにグリーンインフェルノとビースト・ザ・ワンの牽制を任せてその場から離れ、空中にて波動砲の応急措置を取った。それでも速射効率が約15%程落ちてしまっていたが、戦闘には殆ど問題は起きない筈だ、そう考えて、改めて戦う相手が増えたであろうグリーン・インフェルノと、ビースト・ザ・ワンに向き直った。

 

ビースト・ザ・ワンの方はダメージと疲労が蓄積しているらしく、動きにキレが無くなりつつあるように見え、またグリーン・インフェルノの方は動きが鈍い為か攻撃の殆どが集中し、彼方此方から煙を上げだしていた。スタンダードフォースやビット達は、後から駆けつけたR-9A同様、与えられた仕事を完璧にこなしてくれたようだ。だがそこで私は、何もフォースやビットがいたのならわざわざR-9Aを呼び寄せる必要がなかった事に気がつき、フォースやビットを使えば良かったなと後悔した。だが、其れはもう良かった。どうでも良くなっていた。

 

もう後は此方の番なのだから。

 

「………さてと。じゃあ………、私の、いや、私達のターンかな?」

 

そう呟き、私は素早く修復したスタンダード波動砲の砲口をグリーンインフェルノとビースト・ザ・ワンに向けた。ビースト・ザ・ワンとグリーンインフェルノが撃ってくる。だがグリーンインフェルノの機関砲はどれも全て、当たらずに明後日の方向に飛んでゆく。どうやら散々破壊された所為で照準機能が低下したらしい。絶好のチャンスだ。だが、その時。

 

ビースト・ザ・ワンの放った波動砲の一撃が、R-9Aへ向かっていることに気がついた。

 

「っ!避けろ、お前らっ‼︎」

 

だが、私の叫びも空しく、反応の遅れたR-9は右舷のブースターをの一部を吹っ飛ばされて、海面に真っ逆さまに錐揉みしながら(然もその時のコクピット内のぎゃっぴーズは衝撃で”うっかり”失神してしまっていた)墜落していく…、かに思われた。

 

突然、錐揉みしながら海面に落下しかけていたR-9が海面スレスレの部分から上空へと急上昇すると、レールキャノンで3点バーストをザ・ワンに決め込んで逃げるヒット&アウェイ方式でザ・ワンを翻弄した。だがその動きは何やら何処かぎごちなく、頼りなさの感じられる、お世辞にも上手いとは言えない機動だった。まるで最初にR-9を動かした私のような動きで、明らかにプロのパイロットに勝るとも劣らない、ぎゃっぴーズの操縦ではない、何かが可笑しいということは手に取るように分かった。

 

-…どういうことだ?

 

私は訳が分からず、無線で、恐らくコクピットに乗っているであろうぎゃっぴーズに呼び掛けた。だが、応じて来たのは、あまりにも意外過ぎるも、予感がしていた人物だった。

 

 

 

 

 

///////////////////

 

織斑千冬は、身体に掛かる、今にも押し潰されそうなすざましい重さと、胃袋を下から突き上げてくるような断続的な衝撃(お陰で、聞いただけで吐き気を催す”げっぷ”が出たうえに、口の中に何とも言い難い、不快な酸味が広がった)と、自分が入れられている、このまるで安っぽいクローゼットのような暗く、そして狭いこの据えたような匂いのする空間がビリビリと強風が吹き付けて震えている窓のように振動していることに気づいて目を覚ました。今、自分が何処にいるのかは分からない。あの時、突如現れたあのISのような何かが放った得体の知れぬ強烈な光と爆風の衝撃を受けてから、全くと言っていいくらいその後の記憶が無いからだ。だから千冬はもがいた。せめて自分が今置かれている状況や立場を理解しなければならない(勿論、自分の周りに絡みついた、薄く粘り気のある粘液を纏った細長く、生暖かいホースのようなものから早く逃れたいという思いも多分にあった)。そう考えた千冬は、暗闇の中に生じている薄く、枠状の光を放っている長方形の、天蓋か何らかの扉らしきものを思い切り蹴り上げた。瞬間、強烈な陽射しが千冬の目を真っ白に貫き、やがて霧散すると目の前に青い海が、キャノピー越しから飛び込んできた。如何やら何らかの航空機のコクピット内にいることは確かなようだが、パイロット(どういうわけか二頭身の、明らかに人間には見えない生き物ではないか!)は気絶しており➖一応、呼びかけてはしたが返事はなかった。が、息はあった事は幸いであった➖、おまけに海面まで真っ逆さまに墜落しているという事実を、千冬は認識した。

 

まだ何が起きているのか掴めていない千冬だったが、少なくとも、今の彼女にはダイビングをする予定は入ってはいないことだけは確かだった。ならばやるべき選択肢は➖少なくとも考えつく限りでは➖まず二つ、

 

「おいっ、しっかりしろ!このままじゃ、海に落ちるぞっ‼︎」

 

パイロットを叩き起こすか、

 

「クソッ、なら白騎士はっ⁉︎」

 

白騎士でこの航空機から脱出するかである。

 

だが、白騎士のシールドエネルギーの残量値を見たとき、千冬は絶望した。まだあの時から3割も回復していない。このままでは、この二頭身程の大きさのこの奇妙な生き物を連れて飛び立つことすら叶わないだろう。まして、例え抱えて飛び立てたとしても、敵からすればいい的になってしまう筈だった。ならば、パラシュートを使えば良いという話があるが、この状況下では白騎士以上に使用することは危険な上に、この内装からもう見たことのないようなこの航空機にそんな便利なものがついているのかどうかも怪しかった。ならば、最悪この方法を使わねばならないかもしれない。正直あまり考えたくはなかった事についで、勝手が分からず不安だったのもあるのだが…。

 

 

 

 

 

「…済まない、今は非常事態だから其処を退かせて貰うぞ。」

 

千冬は努めて冷静に、素早く前方のメイン・コクピットに移動すると直ぐに気絶していたメイン・パイロットのぎゃっぴーを後部のナビゲータ・シートに投げ出すと➖途中、何かしらの悲鳴のようなくぐもった声が聞こえたが其れどころではなかったため気にしなかった➖、そのまま操縦席に腰を下ろした。そして素早くコクピットの電子機器や操縦システムがどんなものかを確認した。少なくとも、テレビや漫画ですらついぞ見たことのないものだ。そんなものを、ただの車さえ運転したことの無い自分が操作出来る筈が無い(然し、現に白騎士は操縦してはいるが)のだが、最早状況は、当たって砕いて乗り切らなければならない事態にまで悪化してしまっている。ならば、

 

 

 

「やらずに後悔するより…、やってから後悔した方がマシだあぁぁぁーーーっ‼︎」

 

 

 

次の瞬間には、千冬はメイン・コクピットの席の両側に突き出している、先端に赤いボタンのついた操縦桿らしきグリップを握って其れを後ろに向かって思いっきり動かしていた。途端に、機体が急上昇する。R-9A「アローヘッド」は、海面スレスレに飛行すると再び戦場であるハワイの、血と炎で穢された青空へと舞い戻った。

 

 

 

「ぬぅおおおおおぉぉぉー‼︎‼︎」

 

 

 

叫んで、グリップの先にある赤いボタンを押した。何となくではあるが何らかの攻撃手段の一種ではないのかと考えたからだ。すると、機体の両脇からレールガンらしき弾丸が発射され、胸に巨大な、光る機械の大砲を付けたトカゲ型怪獣に次々と命中していく。そのうち攻撃は目に当たり、怪獣は怯んで悲鳴を漏らした。怪獣はまた自分を攻撃しようと此方を見据えてきたが、其れを見越して千冬はR-9を急上昇させた。急な動きで機体がガタガタと揺れるが、構わずその場から離脱する。怪獣は、かなりの弾幕を張ってくるものの、弱っているのか其れとも先程の攻撃で怯んでいるのかまるで当てずっぽうな攻撃しかして来ない。また反撃出来るかもしれない、千冬がそう踏んだ時だった。突然、室内スピーカーから声が聞こえてきた。何処かで聞いたような声の気がしたが、今現在R-9の操縦と置かれている状況に手一杯の千冬にその声を判別しろというのは、些か酷な話であった。

 

<其処のR-9、聞こえるか?其れを操縦しているのは多分ウチの”ぎゃっぴー”ではないだろう?さあ、どうだ死んでないならその辺のディスプレイで点滅しているパネルを押してみろ。応答が出来る筈だ。>

 

言われるままに、千冬はパネルを押した。すると、キャノピー部のガラス投影型ディスプレイの一番右上の表示が、

 

「SOUND ONLY」

 

という画面に変化した。どうやら此れで交信出来るようになったらしい。千冬は、マイクの向こう側にいるであろう人物に訊いた。

 

「………、取り敢えずお前が誰で何が目的でこの機体やあのパイロット共は何なのか、そして何故私を助けたのかという野暮な質問をしたいところだが…、状況が状況だから今は置いておこう。色々あり過ぎて突っ込む暇がないからな。」

<おや?意外だな。てっきりしつこく訊いてくるものかと思ったが。>

「今やるべきこととそうでないことの区別がつけられない程、私は愚かではない。」

<なるほどな、だが…、お前には出来るのか?…其れを操り、モノにすることが出来るのか?戦闘機なぞ操縦したことなど一度も無いと思うが?>

「…例え何も出来なくとも、何もしないよりはマシだ。確かに戦闘機を操縦したことは無くとも似たようなもの➖白騎士だな➖を動かしているから、大体は勘で出来る。其れに、私が居なくなればこの機体は間違いなく海に墜ちる。そうなった時、誰がこのバケモノ共を止め、誰が人類を救い、誰がこの機体の生き物達を救うんだ?お前か?いいや、少なくとも例えお前が百戦錬磨の戦士であったとしても其奴らバケモノの相手は充分手に余る筈だ。其れに、果たしてお前が人類を救ってくれるのかどうかも怪しい…。」

 

其処で一旦間を置いて、千冬は口を開く。

 

「だから躊躇っている暇は無い、例え何も出来なくとも、例え負けるようなことになったとしても、最後の瞬間まで…、足掻いてみせる…‼︎」

 

<…分かった。だが無理はするな。其れは人間が使うにはまだまだ課題が多すぎる。身体にかかる負担は尋常じゃない。だから不本意かもしれないが出来る範囲で私がアシストしよう。その代わり…、>

「その代わり?」

<お前も私の言うことには従って貰おう。その方が、”物事”を円滑に進められる。>

「”物事”?」

<見れば分かることだろう?>

 

謎の機体の女は、向こう側の化け物共を指し示した。まだ先程の戦闘で混乱しているか、回復中であるらしく➖然し、それはビースト・ザ・ワンのみの話であって、グリーンインフェルノタイプ・ミューテーションはこの際含んでいない。当のグリーンインフェルノは若干修復中のようだが戦闘に支障を来さない程度にまで回復しているのは目に見えて理解出来た➖、今の所攻撃は未だにして来てはいない。叩くのであれば今しか無いだろう。再び、女が口を開いた。

 

<…其れともう一つ。必ず、生きて帰れ。死ぬ気であっても絶対に死ぬな。>

「?其れはどういう…?」

<‼︎来るぞ、私に続け!>

「⁉︎」

 

無線の向こうの声がそう告げた直後、胸に青く輝く水晶のような機械パーツをはめ込んだ巨大なトカゲ型の怪獣(この時の彼女は知る由も無いが胸に波動砲を携えたビースト・ザ・ワンの事だ、奴は既にその強靭な回復力でつい先程迄の活力を取り戻していた)が、口から青い破壊光線や胸の機械からの光弾を連続で発射してきたのだ。堪らず、千冬は当てずっぽうに操縦桿を動かして何とか謎の女の機体に続く。白騎士での操作をそのままこの戦闘機にトレースしただけの、ぎごちない軌道ではあったが其れでも真っ直ぐにしか飛べない下手な艦載機よりはまだマシであると言えよう。

 

<私の隣に来い、織斑千冬!一緒にあの化け物共を倒すぞ‼︎>

「何っ⁉︎だとしてもどうやって…。エネルギーも満足するほど無い筈なのに…。」

<良く見ろ。いいか、奴等は今私達の直線上に化け物共がいるだろう?此れはまたと無い好機だ、いいな?今から一度だけしか言わないから私の言うことを良く聞け。良いな…。>

 

極秘回線を使って女は今から起こそうとしている作戦を千冬に話した。其れを聞いて、千冬は思わず難色を示した。

 

「馬鹿な…、そんな方法、絶対無理だ。いや不可能だ。第一そう簡単に上手くいく筈が…。」

『いや、可能だ。』

「⁉︎何だ?」

『ああ、勝手に割って入って済まない。だが状況が状況だから自己紹介はまた後にしてくれ。取り敢えず、此方と其方の機体と”此奴”、其れと一瞬のタイミングさえあれば可能だ。』

「だが…。」

『いいか織斑千冬。お前が見ず知らずの赤の他人で、幾らかちょっかいをかけられたうえに勝手にこの戦場に割って入ってきた新参者の我々を信用することが出来ずに躊躇うことぐらい分かっている。無理強いをしている訳でもないからな。だが今、この局面を共に乗り切らなければここに居る全員どころか全てが終わる。貴様が一番守りたいもの、大切なものがたちどころに消えてなくなることになる。え、今私達に協力せずに彼奴らに突っ込んでいって犬死にして、世界を滅ぼされてしまった挙句に死んでも背負いきれないくらいの後悔と絶望に押し潰され無間地獄で苦しみ続けるか、其れとも協力したことで全てを守り通すことができ、妹…、織斑一夏と再び元の日常に戻れるかは全てお前自身にかかっている。尤も、我々としては何方の選択肢を取ることについては勝手だが…、もしお前に守るべきものがあるとするのならば…、取るべき選択肢は一つしかないよな?』

 

ク、と千冬は歯軋りして拳を握り締めた。確かにこの正体不明の人物達の言う通りだ、従うしかないだろう。だが其れでも千冬には気になることがあった。

 

「分かった、いいだろう。だが一つだけ聞かせてくれ。何故…、何故私に其処まで執着する?其れに一体何の為にあんな化け物と戦う?一体何故なんだ?」

 

すると、スピーカーが一瞬だけ沈黙してから、久方ぶりに機体の女が口を開いた。

 

<…私は別に訳がある訳ではない。只の、…気まぐれだ。>

「………あまり納得のいく答えではないが…、一応、そういうことにしておこう。其れとお前もなのか?ええっと…。」

『マオ。マオでいい。源氏名だが取り敢えず今はな。』

「…承知した。で、取り敢えず、今言った方法でいくのだな?」

『ああ、不可能かもしれないが現実的には此れしかない。改めて聞くが、”覚悟はあるか?”』

「……今の状況下で、否定するもしないも、覚悟があるのないのだの、我儘は言ってはいられんよ。其れに、さっきは否定したが、お前らの言う作戦とやらはどうも面白そうな気がするんだ。」

<其れはつまりお前は…、>

 

「…乗るさ。お前らの賭けとやらに。」

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、なら白騎士はっ⁉︎」

 

白騎士でこの機体から脱出するか、である。

 

だが




今回も無事に終了しました。本来ならもっと書きたかったのですが、どうしても2万字を超えそうになってしまい、断念せざるを得ませんでした。読者の皆さんを待たせているうえに情緒不安定に陥っているこの私が、其処まで書けるかっつーの‼︎

さて、茶番はここまでにして。

少し大事な話をしたいと思います。主に本作に関してです。

前話の後書きにて、本IS世界に転生する予定の怪獣の一覧を載せたと思います。その際にあのレギオンもいたのは、皆さんもご存知と思います。ネタバレになりますが、本作のレギオンは、このIS世界でラウラ・ボーデウィッヒに転生することになります。

え、何故ラウラだけネタバレ?

実はラウラの影が私の場合薄く感じる所為で趣味嗜好や性格が、どうしても掴み辛くなっているのが主な原因なのです。主にシャルの所為で。

え、其れより鈴がわかり辛いし、彼奴の方が影が薄い?

いやいやいや、これを読んでる其処のアナタ!そんなことないですよ、鈴は転生させた怪獣の特性や、本来付随していたセカンド幼馴染という設定ゆえに一番キャラが作りやすかったんです。だから鈴はほぼほぼ問題はない。其れに、彼処まで目立つキャラがどうして影が薄いなんて言えようか。

対してラウラは?正直なところシャルとセットのところしか見たことがないです。原作でもあまり触れられていないラウラ単体の話を此れから書くであろう(然もガメラ最強怪獣の一角、レギオンだから尚更)自分としては大変厳しい課題なのであります。ですので、後日幾つか活動報告を投稿する予定なのでありますが、その際にこのレギオンラウラの設定について要望を募りたいと思います。また、今回の冒頭の前書きにてお話しした内容についても、詳細について活動報告にてお話ししたいと思います。明日の夕方から毎日一個ずつ投稿していきたいと思いますので、その際はぜひ宜しくお願い致します。では、今回はこれにて。


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第8話 白騎士事件 終幕

レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!アイムアHO・U・KI!

お久しぶりです皆さん、お待たせ致しました皆さん!どうもどんぐりあ〜むず、です!漸くイリス箒最新話投稿出来ました!本当に長かった…(感動泣)

大学が忙しいのと精神的に余裕が無くてフラついていましたが、なんとか頑張りました…。此れも英気を養う為に見た、ガルパン、アキバのR-TYPEなどのシューティング、前期と今期含む深夜アニメ、其れにシン・ゴジラや君の名は。、アマゾンズやハンドレッド、シラスの釜揚げなどのおかげです!皆、ありがとう!

…後、ホラフキ◯先生。

また時間がいつ取れるかは分からないけれど、今度は早めに最新話を仕上げます!勿論、アマゾンズも、ですけどね!

実は後、ヴァルキリードライブを原作とした短編とかも考えているんですが、うーんどうしよー。ま、いっか其れについては次だ次。



と・に・か・く、今日でイリス箒再起動です!色々と忘れているから多分ツッコミどころがあるやもしれませんが、その辺りはご指摘して頂ければ幸いです。

今回も、感想、誤字脱字、評価、その他諸々のアドバイス等をお願い致します。

では、今回は最後にオマケも付いていますので、其方もお楽しみに!

最後に、ちょっと遅めの…

ハッピーハロウィン‼️


「素顔で語る時、人はもっとも本音から遠ざかるが仮面を与えれば真実を語りだす。」

➖オスカー・ワイルド➖

 

///////////////////

 

ビースト・ザ・ワンは自らの細胞が傷を舐めて治していく感覚を感じながら、空中にいる小賢しい虫けら共を見つめた。戦い始めてからはや2時間弱。リムパック艦隊は壊滅にも等しい被害を被り、かの小さな空飛ぶ機械を纏った人間どもと、そのお仲間ののっぺらぼうのような空中に浮いている乗り物➖其れは織斑千冬のIS「白騎士」であり、篠ノ之箒のFA「アローヘッド」のことを指していれば、R-9も其れに当てはまると言えた➖は未だに直接的な戦闘のダメージを負ってはいなかった。

 

思えば、此処へ来る前に「あの巨人と機械の魚共に、得体の知れぬ怪獣共」からもっと力を与えろと言うべきだったな、とザ・ワンが考えた時だった。

 

 

 

機械どもが何かしらの打ち合わせと応急処置か何かをし、突如分散したのだ。白い人間は左手に、乗り物は右手に。

 

 

 

来るか。そう感じた時だった。

 

 

 

ザ・ワンの手前で再び2機が交差したのだ。そして、

 

 

 

R-9のサイビットが、ザ・ワンの胸部の波動砲に殺到した。

 

 

 

苦悶の呻きを上げるザ・ワンを尻目に、R-9がスタンダード波動砲のチャージを完了させる。そして、

 

『今だ、撃てっ!』

 

パワードスーツを着た謎の女とは別の、もう1人の女の鶴の一声が、千冬の鼓膜を振動させた。

 

「うおぉぉぉっ‼︎」

 

操縦桿を握り締めながら、言われた通り赤いトリガーボタンを長押しする。

 

すると、キャノピーの正面から光が迸り始めた。そして其れは遂に光る濁流となってザ・ワンの胸部に殺到する。対するザ・ワンも、直ぐ様胸部の波動砲をフルチャージして打ち出す。2つの光流は交差し、其々が向かうべき場所へ向けて飛んで行こうとする。

 

『千冬っ!』

 

すかさず、箒が自らが装備していた球体兵器を、R-9の前部に向けて飛ばし、機体を光の濁流からガードさせる。光線は、岩を避けるサケのように全て横に逸れていく。

 

対してザ・ワンは、その巨体によって強力な光弾から逃れることが出来なかった。胸部の波動砲に、スタンダード波動砲の一撃を受けて海面に倒れ込み沈んでいく。千冬は、あのままやられてくれていたらいいが、と考えた。

 

すると、背後から機関砲弾が空を切る。振り向くとそこにはグリーンインフェルノの巨体が、豆をばら撒くように機関砲弾を乱射しながら接近してくる。

 

<デカブツの相手は私に任せろ、織斑千冬。>

 

すかさず、例の謎のパワードスーツを身に纏った女から通信が入る。

 

「バカな、あんな大きさの奴をどうやって…。」

 

千冬は訊いた。流石にあれほどの大きさのバケモノ染みた巨体の、あの空飛ぶ島のような兵器の塊を、落とせるというのだろうか。作戦を聞いてはいたが➖先にあのトカゲの化け物をギリギリまでフェイクを利かせて叩き、残りのあの戦艦を叩き落とすという、至極単純にして有効な作戦ではあった➖、あまりにも無理があり過ぎるのだ。だがパワードスーツの女達には、勝利を確信しているように見えた。

 

<目の前の球体、見たことはあるよな?勿論、あの球体の能力のことも、だが。>

 

女は、自身の目の前にあるあの球体状のエネルギー体を、顎でしゃくって示した。球体は静かに回っている。さも、主である女達の指示を待つ忠実な猟犬かのように。

 

「…ああ。」

『なら話は早い。此れには、お前が”今まで見たもの以上に強力な”ものをもう一つ持っている。ただ敵に喰らいついたり、弾除け以外にな。』

「本当か⁉︎」

『まあ見ていれば分かる。だからこそその代わりといっては何だが、あのデカブツの注意を惹きつけては貰えないか。…ああ、何もお前だけにさせるつもりはないぞ。ほれ、座席の後ろを見てみろ』

 

言われ、後ろを振り向いてみると、2匹の二頭身の妖精のような生き物が這い出してきた。まだふらついているのか、顔が青白くなっている。千冬はぎょっとしながらも訊いた。

 

「お前達は…。」

『容姿は兎も角、其奴らは私や箒のクローンのようなものだ。操縦もそこそこ上手い方ではあるから、ある程度頼りにはなる筈だ。』

「…気休め程度にならなきゃいいが…」

『おいおい、あんまりそんなこと言うなよ?其奴ら傷つきやすいから、そんなこと言ったら泣いてしまうぞ。』

「仕方ないだろう、いきなりこんな何処かの萌え艦船ゲームの妖精みたいなのが来ても…、というか、そもそもこいつらどうやって生まれた?どんな技術を使えばこんな生き物が生まれるんだ?」

<今はそんなことは重要じゃない、ぼけっとしてる暇があったら戦え!ほら言わんこった、また来たぞ!>

 

女の声に我に返って、正面を見る。見れば、砲弾を乱射しながら、グリーンインフェルノが此方に向かって来ている。

 

『兎に角、ウチのおちびさん達と一緒にあの”毒々モンスター”の注意を逸らしてくれ!倒すのは我々に任せろ!』

「ちょっと待て、何故”毒々モンスター”なんだ?」

<身体に悪そうな色をしているからだ!行くぞ!>

 

そう言うと、パワードスーツの女達は更に上空へと飛翔し、真上から奇襲をかける態勢に入った。

 

「言ってくれるな…、しかも簡単に…。まあ、昔束と一緒にエスコンで遊んだことはあったが、それも精々小学校までだぞ…。本当に大丈夫か…?」

 

そうぼやいた時、後ろから肩を叩かれていることに気がついた。千冬は振り返った。見れば、二頭身の生命体2匹が、まじまじと千冬を見つめている。此れから何をすれば良いのかと聞いて来ているように見えなくはなかった。

 

「(気の所為か…?こいつらの姿形、何処かで見たような…。ま、まあ今は良いか…。)…なあ、お前達。こいつの腕はどれくらい立つ方だ?」

 

すると、2匹は揃ってにこやかにサムズアップをした。が、今度はそのサムズアップした腕を顔の位置から少し下げてしまった。

 

「おい待て待て待て、其れはどういう意味だ⁉︎まさか”中の下”てことか?本当に其れで大丈夫なのか⁉︎」

 

千冬がそう言った次の瞬間、突如R-9は急加速からのインメルマンターンを繰り出しながらグリーンインフェルノを挑発し始めた。

 

「おああああああっっっ⁉︎どおおおおうしぃぃたあああああ‼︎ぃ一体ぃぃ何がおきたああああっッ⁉︎」

 

思わず叫んでしまった千冬だったが叫びすぎた余り己の舌を噛んでしまい、其処で言葉を途切らせた。口を抑えながら前を向くと、其処にはいつの間にか例の妖精型生物が千冬の太ももの上に座りながら、操縦桿を握って操っていた。何が起きているのか分からず唖然としていると、

 

「ナンダオマエ、ミカケトセイカクニヨラズマガヌケテリャウルセエンダナ」

 

確かにこう言ってきた。そう、

 

 

 

喋ったのである(・・・・・・・)

 

 

 

「………ぅほぉおああっ⁉︎ひゃ、ひゃ(・・・・・)れたのかヒョ(・・)マエぇ⁉︎」

 

舌足らずに千冬は素っ頓狂な声を上げた。まさか会話も出来るとは。

 

「バカイウナヨ、コチトラタッタイママトモニシャベレルヨウニナッタダケダゼ。ダカラウチノアネゴタチモシラネェ。テレパシーデイママデカイワミテェナノシテタガ、アレジャアコッチガツカレルシ、オメーミテーナニンゲンニモワカリズレーカラナントカナラネーカナー、ナンテイッテタラナントカナッタ。イガイニイケルシスゲーモンダゼ☆」

「其れは果たして凄いのかどうか…。最早なんでもアリか…。」

「イッテルバアイカヨ。サッサトレバーヲニギリヤガレ。デネート、コンドハオメーノソノデケームネデ”タワワちゃれんじ”シナガラ『コブラ』カケテヤル」

「わ、分かった分かった!分かったから其れだけはやめてくれ!」

「…サッキカラキイテレバ、ワタシノコトハムシ?”サンゴウ”。」

 

ふと、後部シートから声がかかった。見れば、気怠そうな2匹目の生命体が

 

「ダレモワスレテネーヨ、”ヨンゴウ”。マ、トリアエズスマソダ。デモ”たいみんぐ”ノガシハオマエノ”でふぉ”ミタイナモンダトイマハアキラメトケー。」

「アーイ。ジャア、ココカライキテカエッタラ”ナマスパム”デテヲウツカラ、コンドカラキヲツケテヨー。」

「エー、アリャアタノシミニシテルブンダカラダメダゼ。セメテサンマノカバヤキカンニシテクレヨ。」

「ソウ、ナラソレデイイー。」

 

千冬は面食らっていた。このままこのかなり緊張感の無いカタコトの会話を聴き続けていたら自分の頭が可笑しくなってしまう➖或いはもうなっているかもしれない➖のではないだろうか、いっそまたトランクにでもぶち込むか、などと考えていた。

 

だが、其れと同時に、もう1匹も話せたのか意外だな、などという自らが出したとは思えないくらい至極平凡な感想も、同時に脳裏をよぎった。だが千冬は其れに構っているような暇が無いことだけは分かっていた。取り敢えず咳払いをすると、2匹は千冬を見た。

 

「…一先ず良いか?そんな話をしている事態では無いと思うが…。」

「オウ、ソゲダワ。」

「ア、ソッチヲワスレチャッタ。」

「忘れるな。というか、何故出雲弁なんだ?」

「コマカイコトハキニシナイ」

「ソウイウコトダ、ダカラモウイッカイヤルゾ」

「いやいやいや、ツッコミどころ満載かつ強引過ぎる回答だろおおおおっっっ‼︎」

 

操縦桿を無理やり握らされた千冬は、状況の急展開さと意味不明さに叫んだが、その叫びも、再び音速の彼方へと消えていった…。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

出鱈目だが少しも被弾していない有る意味才能のあるマニューバで挑発するR-9を見て、内心箒とマオは関心していた。パワードスーツの才能だけでない、あれだけのバケモノを相手に恐れているような口ぶりにも関わらず物怖じせずに立ち向かっているのだ。きっと将来は他のRシリーズは愚か、”ワイズ・マンシリーズ”のパイロットとしても役に立ってくれるかもしれない。だが其れに至るまでにはまだかなりの時間が必要だ。

 

其れに、勝利の美酒に酔うのはこの戦いに勝ち残った後だ。

 

「ま、常套手段だが真上から行くしかないか。」

『少なくとも其れが良い。装甲が薄いのも基本的には真上だし、砲台の数も比較的少ないからな。初心者向けではあるが…。』

 

艦橋が動き出し、内部に潜んでいたヤドカリが姿を現した。艦橋から大量の艦載機らしき”何か”を大量に放出してくる。明らかに航空機ではない肉塊と機械の混ざったような物体が此方に突撃をかましてこようとするのが見えた。

 

「ちょっと難しいか…。」

『まあ仕方なかろう。このクソゲーめいた状況なんだ、並みの初心者パイロットならフツーなら開始23秒、ゲームでのボスポジションに当たるA級やS級だと其れ以下の割合で死ぬ。だが今の我々は…。』

「運良く生き残っている、か…。」

『うむ。』

「其れを根拠にしろと?」

『其れだけを言いたいんじゃ無い、寧ろチャンスでもあるってことだ、”あの通り”にやれば…。』

「結局根拠にしてくれと言っているようなものじゃないか…。其れにしても、果たして本当に此れで良いんだな?此処まで来たんだ、もうどうなっても保証は出来んぞ?」

『言うと思ったよ。だが安心しろ…。与えられるダメージは相当なものだからな…。』

「ふっ、どうだかっ!」

 

スラスターを一瞬蒸した箒は、何とか回復した波動砲で上部甲板を焼き払いながら、一直線にグリーンインフェルノに向かう…振りをして、急加速しながら通り過ぎた(・・・・・)

 

此処で、改めてこのFA「アローヘッド」と、戦闘機R-9に搭載された推進システム「ザイオング慣性制御システム」について説明する必要があるだろう。

 

ザイオング慣性制御システムは一種のバザードラムジェットエンジンなのだが、その推進方法は主に以下の通り。

 

1、先ず、加速による運動エネルギーの減衰を一切無視する。 これにより一度速力を獲た場合、直接的な外力が働かない限りブースターによる速度維持は必要ない(この為、R戦闘機がスピードアップ及びダウン時などにしかブーストを吹かす必要はない)。

 

2、次いで、1により運動エネルギーのベクトルを捩曲げることが可能となる。つまるところ全速力の前進から急に後退やスライド移動が可能であるということになる(しかしながら元来制圧前進が当たり前な戦闘機としての性からかあまり多用はされたことはない)。

 

3、これらによりパイロットにかかるGは同じく搭載されたザイオング慣性管理システムで相殺できる為、パイロット及び機体含め問題なく航行することが可能(ただし、ある程度の限界はある。またこの場合、周りへの被害は一切想定されていない(・・・・・・・・・・・・・・・))。

 

またこれにより、秒速208km、換算により約マッハ600という驚異的なスピードを叩き出すことが可能になる…、といった具合になる。

 

 

そして其れが何を意味するのか。

 

 

既に波動砲の連射でボロボロになっていた装甲と甲板が、強烈な衝撃波によりグリーンインフェルノの艦橋とその周辺の装甲板ごと空の段ボールが強風にあおられて飛んでゆくかの如く千切れ飛び、そして其れらの残骸全てを全てサイビットが喰い尽くして行く。そして、

 

『今だ突っ込めッ!』

 

一瞬がら空きになった瞬間(すき)を見逃さなかった。そのまま、姿を現したグリーンインフェルノ上のマイホームダディに、インメルマンターンで迫る。機関砲と戦闘機から弾幕が炸裂するが、既に至近距離まで迫り、スタンダードフォースとサイビットで武装していた箒達を捕捉するには、後数秒は足りなかった。

 

「此れで最後だ、行くぞッ!」

『うむっ、一度きりのチャンス、逃しはせん!”スコアアタック”だッ‼︎』

 

ヤドカリに至近距離まで近づき、波動砲の充填をし始めた箒達は、マイホームダディが動き出すコンマ1秒前に”あるシステム”を起動させた。次なる”後継機”の為に、試験的にフォースとR戦闘機、そしてFA側にも搭載されている、強力な”業物”を➖其れも、”無秩序なる太陽の力”と呼ばれるものを➖起動、そのままヤドカリの中身に当たる、マイホームダディの本体パーツの球体部に炸裂させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえっ!”デルタウェポン、オーバードーズッ!ニュークリアッ、カタストロフィー”ッッッ‼︎」

『次いでだゼロ距離波動砲と一緒に喰らっておけえええええッッッ‼︎』

 

 

///////////////////////

 

 

強烈な空気の振動が、機体を揺さぶる。戦闘機群と交戦していた千冬は、何事かと身を乗り出した。

 

「っ⁉︎何だ一体!」

「アー、コリャヤベエゼ。オイオマエ。」

「せめて名前で呼んでくれ…、なんだ?」

「イマカラソコノすくりーんぱねるソウサシテ、イソウジゲンニツッコムカラチトショウゲキニソナエナ。」

「は?何を…、おいっ⁉︎前、前‼︎」

 

千冬が指し示した方向には、未だ生き残っているバイドが群がりつつあった。だが幾つかは女達のところへ向かおうとしている。

 

「アネゴタチニムカッテルヤツラハムシダ、メノマエノレンチュウヲフットバスダケニシトケ」

「いや、だが…!」

「ドウセヤツラガネエサンタチニヤロウトシテイルコトハ、ドウアガイテモムダデス。サア、ワタシタチハイソウジゲンニトビコンデヤツラヲタオシマショウ。」

「いやだから、倒すってどうす…。」

 

 

 

言い終わらない内に、”サンゴウ”が舌打ちをしてパネルの操作を➖其れも、ただタッチパネル上のボタンを押すだけの操作を➖完了してしまう。目の前に、薄い紅紫の巨大な光の膜が現れた。

 

そして、サンゴウは、その膜に向かって、

 

 

 

 

 

操縦桿を前に思い切り倒した。

 

 

 

 

 

「おわあ!またこれかあああああっ、ムグぅッ!」

 

千冬はまたしても叫び出しそうになったが、今度はぎゃっぴー”ヨンゴウ”の触手によって口を塞がれてしまった。

 

「むぐっ、むうううっ⁉︎」

「ナニヲスルンダ、トイイタゲデスネ。ダマッテイウコトニシタガッテ、トビコンデハドウホウノショウジュンヲアワセテ、ウッテシマエバイインデス。ソノキニナレバ、アナタナドワレワレノエサニスルコトナドヨウイナンデスヨ?エエ、ソレコソネエサンタチノキョカサエエラレタラ。ワカリマスカ?ドノミチ、アナタノ”セイサツヨダツ”ハワレワレカラモ、ソシテコノジョウキョウカラモニギラレテイルトイウコトヲ、クレグレモオワスレナキヨウ…。」

 

低い声でそう呟きかけてくるのを、千冬は黙って聞くことしか出来なかった。やがて、紫の膜へと機体は飛び込んでゆく。その分、身体にかかる重圧も上がりつつあるのを、千冬は感じた。このまま重圧が上がれば、自分は圧死するのだろうか?あわよくば、窒息だろうか。何にせよ、そんなことでくたばりたくはないな。

 

だが、千冬は其処で、自らが死にたくないと考えていることに苦笑した。やはり、自分は口先だけらしい。

 

「くく…、もう少し…、しょう、じ…ん…、しな、いと、いけな、い、な…。」

 

そして、紫の膜に飛び込む数秒前に、照準が敵の機体群に合わさるのと、背後の巨大な緑色の戦艦と周囲の化け物共が、青白い稲光に包まれるのを見ながら、千冬は、握り締めていた操縦桿を手放した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

…。

 

 

……波の音がする。

 

 

「…。」

「……。」

「………はっ⁉︎」

 

暁色の夕日の光が目に差し込み、織斑千冬は飛び起きた。あの後、強烈な重圧によって意識が飛んでいる。覚えているのは、自らの記憶が正しければあの化け物共は自分の放ったエネルギー波➖”波動砲”とか言っていたのは気のせいだろうか…➖と、あの赤く細長い光に包まれて、そして自分は…。

 

「お、目が覚めたか。」

 

背後からの声に気がつき、後ろを振り返ると、福の能面を被り、腰まである銀髪のロングヘアーをポニーテールにした、X字水着➖何処ぞのオンラインゲームなら、その水着をきっと”セクシービキニウェア”と呼んでいたことだろう➖と白いパレオを巻いた、スタイル抜群の美女らしき人物が其処にいた。

 

千冬は警戒するように、急いで立ち上がった。

 

「貴様…、何者だ…?」

 

『おいおい落ち着けよ、私達は共に戦った仲じゃないか。ま、取り敢えず色々と例は言うぞ。ありがとう。』

 

能面の女の背後から、琥珀色のピンポン球のような何かが千冬の前に現れて、話しかけてきた(・・・・・・・)

 

「あ…、お、お前達、まさか…。」

 

「そのまさかだ、織斑千冬。生き残れて良かったな、流石は篠ノ之束が見込んだ女だけのことはある。正直、彼奴らに対して使えるかどうか疑問だったが…、まあ、今のところは平均、だな。戦えるようになるまでにはもう少し時間が要るか…。然しまさかあのぎゃっぴー達が会話出来る程度にまで成長していたとはな…。」

『其れもそうだな…、ぎゃっぴーに関しては恐らくは私のバイドの因子の影響によるものが大きいのだろう。まあ、ぎゃっぴーにしろ織斑千冬にしろ、此方としては色々と助かったし、今は初戦を何とか生き抜いたことに関して反省と祝杯をあげるとして…。ん、おいどうした織斑千冬?何私を見て呆けたような顔をしてる?』

 

「…ン球が、飛んで、喋って、いる?」

『…ん、なんだ聞こえんぞ?もう一回言ってみ?』

「ピ、”ピンポン球”が…。」

『………おい。』

 

「えっ?」

『お前、今私を”ピンポン球”呼ばわりしなかったか?』

「えっ、いやあの…。」

『しなかったか?』

「いやだから…、」

『しなかったか?』

「…………してません。」

『フン、なら良い。』

 

千冬は少しばかり後悔していた。表情など全く分からない筈なのに、彼処まで凄まれた辺り、何か言い知れぬ恐怖を感じたからだ。だが、

 

 

 

(其れを抜きにしたって、何がどうなっているのか頭が追いつかんぞ…。)

 

 

 

そう。自分達はハワイの、太平洋のど真ん中で得体の知れない連中と一緒に謎の敵とドンパチをやらかしていた。だが、其れが今はどうだ、沈む夏の夕暮れの中、いつの間にか明らかに何処かの砂浜、其れも何処か懐かしさを感じさせる場所にいて、どういう訳か自分まで水着(能面の女のものの色違いのようだ。花も恥じらう思春期の世代である千冬には、幾分か派手に写り、耳が真っ赤に染まった。)を着ていて砂浜に寝転がされ、挙句の果てに気味の悪い能面を被った水着の女と、宙を舞いながら低い少女の声で喋るピンポン球に恫喝される。

 

 

まだ高校生である手前、流石の千冬も、思考が停止しかけるのは無理もなかった。

 

 

「思考が停止しかけてるな…。仕方ない。順を追って説明しよう。先ず、私達はあの戦いから生き残った。此れは分かるな?」

「あ、ああ、辛うじて…。どうやってかは覚えてないが…。」

『でだ、お前が気絶しているから、目覚めるまでの間、此方はお前の白騎士を解析してウチのFA➖つまり此奴の纏っていたパワードスーツだな➖に、待機形態に関する情報を組み込んで、今こうしてお前や此奴らと手間をかけることなく話せているという訳だ。』

「そうか…。ん?待てよ、そしたら其れはまるでお前自身がそのFAとかいうパワードスーツそのものみたいに聞こえるぞ?まさか…。」

『ああ、私こそこのFA”アローヘッド”のメインAIの”MAO”だ。宜しく。』

「まさか、本当にAIなのか…?」

 

『ああ、紛れもなく、な…。』

 

此処で、マオは一つだけ嘘をついた。もちろん、自身がAIなどという真っ赤な嘘のことだ。事実、アメリカ、ドイツなどの幾つかの企業は未だ一般レベルまではないとはいえ、まるで感情を持っているかのような学習型人工知能(マシーン)の開発に成功している。其れに加え今はまだ、バイドに関することは伏せていた方が良い。最低限の戦力を揃えるまで、まだ時間がかかるからだ。

 

「まあ、其の後はハワイから此処、九十九里浜にまで自衛隊や各国軍にばれぬようお前を連れて来たわけだ。」

「な、成る程な…。ん?ということは私は一日中眠っていたのか?」

「いや。まだあの戦いから数時間は経過していないな。何せ、我々の装備は秒速208kmかそれ以上は出せるからな。」

 

それを聞いた千冬は後頭部をバットで殴られたぐらいの衝撃を受けた。秒速?秒速208km?約マッハ600だと?聞いたことないぞそんな数値、それに、

 

「衝撃波で諸々が吹っ飛ぶぞ!其れにお前達も無事では済まんだろう‼︎」

「ああ大丈夫だ、其処までの速度を出さなくても別にハワイには追いつくし、何より此れでもちゃんと対G機構も万全にしてあるからな。」

『うむ。詳しいことは言えないが、つまりはそういうことだ。分かってくれるな?』

「あ、ああ…。」

 

千冬は、何処か釈然としなかったものの、一先ずは応じることにした。今は詳しいことを聞き出すのは無理でも、今後から幾らでも聞き出す機会はある筈だ。根拠の無い自信だったが、今の千冬にはそのように思えた。

 

「…なあ、詳しいことは聞かないから、一つだけ教えてくれ。…”アレ”は、なんだったんだ?」

 

能面の女とピンポ…MAOは暫し黙っていた。だが女が暫くして口を開いた。

 

「………アレはバイド。我々が倒そうとしている、宇宙の敵にして…、我々の”計画”に邪魔な存在だ。」

「バイド…?宇宙の敵…?其れに計画とは、一体…?」

「詳しいことは聞かないと言ったはずだが?」

「い、いやそうじゃない、と、兎に角…、人類の、敵、で良いんだな…?」

『…お前がそう思うなら、つまりはそういうことだ。』

 

其れを聞き、千冬は頭を抱えた。つまりアレは、あの化け物は…。

 

「まあお前が考えていることがあるならそうだと思えば良い。ああ後、私はれっきとした地球人だからな。間違えてもエイリアン扱いだけはするなよ。」

 

千冬は顔を上げた。

 

「じゃあ、お前達は、何故アレを…。」

「言った筈だ、詳しいことは話せない、と。事情が複雑なんだ其れくらい察しろ。」

「アッハイ…。」

 

一瞬間が空いたが、今度MAOが口を開いた。

 

『ああ、そうだ。各国の政府には我々を含め、あの化け物共は全て篠ノ之束の発明とであると伝えたぞ。』

「はあああああッッッ⁉︎」

「死人が出ているとはいえ、各国にアレ…バイドの存在を勘付かれて警戒されては困るからだ。今は無理でも、せめて5年10年後までは耐えて欲しいことを篠ノ之束に伝えてくれ。」

「いや然し、束がそんなことを果たして認めるか…?そもそも前にお前達にしてやられたことに、根を持っているんだぞ?」

「其れを抜きにしたって、彼女は認めるさ。何せ、かけがえのない最愛の親友(・・・・・・・・・・・・)を助けたのは、他でもない我々なんだから。」

 

其れを聞いて、千冬ははっとした顔になった。そうだ、白騎士の戦闘データなどにも其れに関するものも含まれている筈だ。なら其れを説得材料として活用すれば或いは…。

 

『まあ、ただで”篠ノ之束が犯人”にするつもりは無いぞ?”自分が発明した宇宙開発用の装備が事故で暴走したが、其れを止める為に、この”二体の白騎士”を向かわせて鎮圧させ、兵士達の命を救った、といえば、多少は反感を持たれてしまうが仮にも篠ノ之束は人類を救った英雄になる。悪くない話だろう?そもそも、世界に喧嘩を売っている時点で濡れ衣もクソも無いんだからな。』

「そう、なるのか…。」

「で、お前のアリバイも考えている。今日一日中お前はこの九十九里浜で海水浴兼潮干狩りをしていたといえばいい。その為の布石を敷いておいた。本当ならホノルルにしておきたかったが…、まあその辺りは色々と面倒だからな。」

「潮干狩り…?」

 

千冬は、能面の女の背後を見た。見れば食べきれないくらいの量のハマグリやマテ貝、バカガイなどが大量に詰まったバケツが2〜3個あった。

 

『交通費と祝杯用の食事も用意してある。今日は其れを食ったら貝を持って家へ帰れ。…生きている喜びを、大切にしろよ。』

 

「…そう、だな…。すまない、色々と助けて貰って…。」

「謝られる程のことでもない。こそばゆいからそういうのはやめてくれ。」

「然し…。」

『気にするな、お互い様だ。其れよりも腹が減ったぞ。早く飯にして、帰って寝よう。今は、休息しないといけないからな…。』

 

その一言に、能面の女と千冬は反応した。

「ああ、せっかくの料理が冷めてしまうな。早めに頂くか。」

「あ、そうだな…。…然し、喋る上に食事をするパワードスーツとそのAIだと…?益々意味が分からんな…。」

 

其処まで呟いて歩き出してから、千冬はふと思い出したように能面の女に訊いた。

 

「…なあ?何故能面なんて被っているんだ?」

「…何故か、だと?」

「お前はどう見ても私の知り合いではないのだし、せっかくだから…」

「済まんな、訳あってこの仮面の下の素顔は見せられんのだ。悪いがこれ以上話すことは出来ん。どうしてもな。」

「…どうしても、か…。」

「うむ。だが名だけなら教えられる。其れを覚えておけば、またいつか会った時には役に立つことだろうな。」

「そうなのか?じゃあ、なんて言うんだ?」

「ツキナ。ツキナで良い。」

 

月奈。能面の女➖篠ノ之箒は、咄嗟にかつて自分を育てた少女の名と、自らの記憶にある、美しい月の光を思い出しながら、その偽名を名乗った。

 

「そうか…、月奈、か。良い名だな…。」

「そうか?私としては普通なんだが…?」

 

その時、遠くから彼女達を呼ぶ声が聞こえてきた。MAO達だ。食事にしたいらしいのか、箒達を呼ぶ声は、ややキレ気味に聞こえなくもなかった。

 

「呼んでいる、か…。もう行かないとな…。」

「此れで、お別れなのか?」

「いや、私はお前や束達の身近なところにいる。だから、此れが最後だとは思わん。またいつか会おう。」

「身近なところ…。」

「そんな訳で、だ。」

「へっ?」

 

箒は、千冬を抱き抱えた。はたから見れば其れは所謂「お姫様抱っこ」とでもいうべきものだった。

 

「晩餐に遅れるから、急ぐぞ、姫。」

「だっ、誰が姫だっ///!お、降ろせ‼︎」

「フッ、嫌だ。」

 

そう言って、箒は駆け出し、千冬は真っ赤になった自分の顔を両手で覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、織斑千冬は此れを機に、様々な宿命を箒達や束達とともに背負って行くことになる。だが、そんなことを感じさせない位に彼女の顔には、年相応の少女の恥じらいが浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

東南アジア・インド洋近海➖

 

その海上にて違法操業していたマグロ漁船「グローリースター」は、1人の男を救助していた。明らかに長時間海に漂っていたらしく、身体の皮膚の彼方此方がふやけ、破けて傷だらけになっていた。だがそんな状態であるにもかかわらず、男は未だ意識があるように思えた。

 

「ひでぇ身なりをしてる割にゃあ、ピンピンしてラァ。いってえどうなってやがんだ?」

「其れに彼奴の着てたあの救命胴衣(ツナギ)、どうもニホンのジエイタイの奴らしいぜ?」

「何?まさか奴さん、あの事件(・・)の生き残りか?にしちゃあ、此処はインド洋なんだぜ?ハワイからは遠く離れてんのに、此処まで来れるなんて話、あり得るかよ?」

 

インド語で議論をし合っていた漁師達だったが、突如その会話は途絶えた。議論の対象になっていた”水死体モドキのジエイタイの男”が、まるで幽鬼を思わせるような動きで立ち上がったからだ。

 

「…此処は?」

 

立ち上がったことは愚か、流暢なインド語に虚をつかれた漁師達だったが、1人が前に一歩進んで男に言った。

 

「あ、ああ此処はインド洋の近くだ。俺たちは此処で漁をしてたんだが…。」

「違う、此処から日本までの距離を聞いてんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、俺は。」

 

その気迫に押された漁師達だが、別の1人が口を開いた。

 

「だ、だいたい1週間弱くらいじゃねえか?な、なあお前ら?」

 

そう言うと、漁師達の間に引き攣った笑い声が広がっていく。だが、男は其れを面白くなさそうに、首を回しながら言った。

 

「……お前ら邪魔だ、コロス(・・・)。」

 

その言葉に、漁師達の笑い声は止まった。

 

「あ、そりゃどうい」

 

1人が男に向かって言いかけたが、まさかその言いかけの言葉が辞世の句になるとは夢にも思わなかったことだろう。

 

男➖有働貴文は、片手で漁師の上半身を後ろに向かってへし折った。身体を逆L字型に折り曲げられた漁師は、そのままドサリと倒れた。

 

次の瞬間には漁師達の叫び声と怒号が飛び交ったが、其れも直ぐに収まり、静まり返った。後に残されたのは、煌々と灯りを灯し、唯波に揺られるだけの鉄の塊と、その上に転がる肉片の山々と夥しい血の跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

波と風の音と、冷たい空気の中に混じる鉄錆の匂いだけが、その静かな地獄の光景を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オマケ「千冬の独り言」〜

「美味かったな…。やはり毒が入っているのではと考えたのは些か早計だったか…。然し…、まさか能面つけたまま食事をするとは…。あんなの初めて見たぞ…。無理やり能面の口をこじ開けるとは…。そんなに顔を見せたくないのか…。というか食べ難いはずだろう、アレは…。



然しだ、あの女のポニーテールにしているのに使っていたリボン、何処かで見たような気がするな…」


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第9話 這い寄る影 前編

タドルメグルタドルメグル、タドルクエストー❗️

どうもどんぐりです❗️早速最新話投稿しちゃいます。え❓前回までの話に掛かった期間❓知らない子ですね…♨️

然し、仮面ライダーブレイドがまさかあんなことに…。アレだけは本当に許せない。警察や裁判所には是非とも厳罰を与えて頂くよう思う限りです。そもそも仲間呼んでゴルフクラブの時点で、ねぇ…。

さて、今回のシナリオは前編で尚且つ戦闘回ではありませんが、皆様がお楽しみ頂ければ幸いです。後編は戦闘回になると思われますのでどうかご安心を。因みに、第0.5話にて説明していたMAOについてですが本話を執筆するに当たり、若干の設定変更を行いました。宜しければ其方も見て頂けると幸いであります。

因みに、「MAO」という表記になったのは、箒の体内から独立し、R戦闘機やR戦闘機の力を持つ、ISコアの無いパワードスーツ「ファイターアーマー」通称・FAの、メインAIというか、サブパイロットになっていることを指し示しています。え❓パワードスーツが何で飯を食うのか❓そりゃバイドでもあるからです♨️

其れでは、どうぞ。



 

 

「西暦2164年、

 

かつてアジアと呼ばれた場所」

 

 

 

///////////////////////

 

既に白騎士事件から、早半年が経とうとしていた。既に青々とした葉は散り、弱々しい細い枯れ枝だけが虚しく木枯らしに揺れているのを見ながら、箒達は川沿いの遊歩道を歩いていた。

 

「…然し早いものだな。あれからまだ半年しか経過していないのか…。」

『ああ、だがアレからまだ半年とも言えるが。暫くなんの音沙汰も無いのが幸いだな。前回の戦闘データなどのおかげで、漸く”デルタ”以降のR-9Aシリーズの開発に漕ぎ着けられたところだしな。』

 

R-9A2「デルタ」。

 

MAOの口から語られた其れは、R-9A「アローヘッド」の後継として開発された第二の異相次元戦闘機のことだった。

 

MAOの世界に於ける2163年に行われた第一次バイドミッションの後、運用されたR-9の設計をベースに、大気圏内での運用という名目で試作された小型軽量化が特徴の後継機が存在した。其れがこのR-9A2で、半年前に試験用として箒達がバイド達を葬る為に使用したDOSEシステム・デルタウェポン量産型を初搭載した機体であり、また試験用として散弾式の波動砲、所謂「拡散波動砲」のプロトタイプも積載されている。因みに、機体コードである「デルタ」はこの機体の開発計画である「デルタプロジェクト」のことを指し、飽くまでその計画の為として「デルタ」と呼ばれていたものが、後に機体そのもの名称を指すようになったのはかつて人間だった頃のMAOの所属していた「TEAM R-TYPE」や地球連合軍では有名な話である。

 

「然し、まさかお前の言う”サタニック・ラプソディーの四英雄”と名高い機体の一つを製作することになるとはな…。」

『史実上、2番目に製作されたのは同期である3機を除いては其れだからな。其れに、アローヘッドから作り上げたのならやはり先ずは同じアローヘッド系列から組み立ててやるのが良い。他の機体をばんばん作り出せるならいいが、そんなことは不可能だし何より段取りが狂ってしまう。其れに、私の記憶とて頼りにならない部分もあるからな。』

 

箒の紺色のカーディガンの内ポケットから顔を出して、ラウンド、いやスタンダード・フォース型のFA待機形態のMAOは言った。実はバイド化したうえ転生までしているMAOにとって、機体開発は戦力を整える以外にも、失われつつある既存の己の記憶を繋ぎ止める他、未だ欠落していたり、曖昧になっている部分➖其れこそ、自身の人間関係や、まだ把握出来ていないTEAM R-TYPE・地球連合軍時代の記憶や、”あの子”の記憶などの、膨大な数々➖の記憶を捜すことにも重要な行程だった。

 

「だがお前の言う時代の歴史や文化、バイドにR戦闘機のことは殆ど覚えているだろう?”サタニック・ラプソディー”のことも、”デモンシード・クライシス”のことも、全部お前から聞いたんだぞ?」

『ああ、その通りだ。だがアレらは、あの事件らは、日本をグラウンド・ゼロとしたアジア全域全てが壊滅し、アジアだけでなく世界規模で多くの犠牲者や難民を生み出した程の大災害だったんだぞ?お陰で22世紀末時点でも、未だに帰宅困難地帯に認定されていた。彼処は、私がバイドとの最後の戦いに出撃した後でも、不毛地帯のままだったな…。だから、そんな当たり前なことを忘れるなんて頭がよっぽどイかれているとしか思えん。』

 

例え記憶が薄れゆくとも、MAOにはその脳髄に深く刻まれた記憶もあった。

 

 

 

そのうちの一つが、サタニック・ラプソディーとデモンシード・クライシス、別名「第1.5次バイドミッション」と呼ばれる、2つの事件だった。

 

 

 

MAOの世界線での2163年、未だバイド研究などの一切が発展途上だった第一次バイドミッション終結直後、終結に貢献したプロトタイプR-9アローヘッドが、当時の地球連合軍の大気圏外防衛用拠点では最大の規模を誇った、衛星軌道宇宙要塞「アイギス」に収容された時点で始まった悪夢だった。

 

プロトタイプR-9がバイド粒子に汚染されていた事、そしてバイドの全貌が明らかになったことに気づいた時には、既にバイド粒子による汚染はアイギス全体に広がってしまっていた。その為、翌2164年には対バイド兵器の凍結作業を行っていた一部の残存部隊を周辺に残してアイギスは閉鎖、バイド汚染の拡大を食い止めようとした。

 

だが不運なことに、時同じくして大気圏に突入しているにも関わらずその形を保ったままの正体不明の物体(此方は再出現したバイドの本体であるバイドコアの攻撃であったことが後年判明、尚このバイドコアは汚染されていたプロトR-9に引き寄せられていたことも分かっている)が、隕石群と共に地球に接近していることが発覚。地球に降下した後、数々の都市や軍事施設などの電子機器を使ったモノの殆どを狂わせた。そしてその極め付けが、

 

 

アイギスに搭載されていた投下型局地殲滅用機動兵器「モリッツG」の、其れも東京への直接降下であった。

 

 

一つ目のような波動砲を装備した巨大な戦車のような其れは、暴走しバイド粒子を大量に放出しながら自己防衛システムと惑星破壊プログラム(モリッツGは主力兵器という位置づけだが、元はバイドに侵食され、星そのものがバイド化してしまった際にその惑星を破壊するための決戦兵器の一つであり、このモリッツGの「局地殲滅」とは大体「惑星破壊」のことを指す)を持ってして東京を壊滅にまで追い込んだ。

 

そして、遂に各都市においても、先の降下した物体により暴走した一部の軍部の兵器の猛攻が始まってしまったのである。

 

当時の連合軍上層部は、鎮圧の為にいくつもの戦力をモリッツGや戦闘兵器に回したが、モリッツGは此れを自己防衛システムなどで対抗、同じく戦闘兵器群からも反撃され、連合軍部が向かわせた戦力全てが返り討ちにされ、またばら撒かれたバイド粒子により新たなバイドも地球上に出現してしまう。

 

その上後に「バイドの種子」と呼ばれるようになる、降下した物体の影響により宇宙コロニー「エバーグリーン」までもが、衛星軌道上を外れ太平洋南部に墜落してしまうという、予想の遥か斜め上を往く最悪の事態、文字通り阿鼻叫喚の地獄絵図とも言える大惨事となってしまった(後にこの時、エバーグリーンの警備任務に当たっていた人型兵器「ゲインズ」のエースパイロットにして、”赤色の番人”と言われた元警官のマット・ゲーブルスが、バイド化し戦死したと伝えられ、世間に衝撃が走った)。

 

当時の軍部は此れを重く受け止め、止む無く当時開発中であった試作型Rシリーズ三機と、一機の改造された補給機、そして民間の武装警察に其々鎮圧に向かわせた。

 

 

 

一つは、「R-9A2 デルタ」。

 

二つ目は、連合軍部とTEAM R-TYPE、そして航空機メーカー「マクガイヤー社」と共同開発され、民生用R戦闘機「R-11シリーズ」開発のきっかけともなった、「RX-10 アルバトロス」。

 

三つ目は、同じく軍部及びTEAM R-TYPEと、軍事メーカー「ウォー・レリック社」と共同開発された、「R-13A ケルベロス」。

 

そして最後に、本来無人用として設計されていたものを急遽有人用に改造された無人補給機、「TP-2 POW(パウ)アーマー」。

 

 

 

民間武装警察からは、当時としては最新型だった2機の暴動鎮圧用R戦闘機のうち、「R-11B ピース・メーカー」を装備した部隊が選出された(この世界での警察には、犯罪への抑止やバイド、左派勢力や利権団体、テロなどによる暴動鎮圧の為に民生用のR戦闘機が幾つか支給されており、その一つがこのR-11Bである)。

 

 

 

此れら名も無き英雄達を乗せた4機は、最終的にはモリッツGは愚か、ばら撒かれたバイド粒子によって誕生したバイドや汚染されたプロトR-9と、その随伴機と化したR-11Bの姉妹機である武装警察所属R戦闘機「R-11A フューチャーワールド」、バイドに乗っ取られ暴走を開始したアイギス、そして再び異相次元に姿を現したバイドコアを倒すことに成功し、また武装警察の戦闘機群も無事に都市部で起きた機械の暴走の鎮圧に成功した。

 

これにより、宇宙要塞「アイギス」に搭載されていた局地殲滅機動兵器「モリッツG」の東京降下を発端としたアジア壊滅事件である「サタニック・ラプソディー」と、同時に起きたバイドコアより放たれた機械型バイドによる都市部の機械群の叛乱と、其れに立ち向かった民間武装警察との戦いである「デモンシード・クライシス」は、双方に多大な被害を被って終わりを告げ、デルタ、アルバトロス、そしてPOWアーマーの3機も無事に異相次元のバイドコアを破壊して帰還した。

 

 

 

だが残りのR-13Aは…。

 

 

 

「…い、おいMAO!どうした?」

『ん?ああ、済まない。少し考え事を、な…。』

「そうか…、返事が無いから心配したぞ。まさか意識ごとバイドに喰われたりはしないか、とな。」

『そんなことになったら私もお前も終わりだろうが。冗談でもそういうことを言うのはやめてくれ。』

 

不機嫌にMAOは言った。2人は共にバイドの力と本能を、元・人外の怪獣にして人造の邪神の力と、自らの動力源でもあるエネルギー「マナ」をその体内に持つ箒と、MAOが人間の時から持っていた持ち前の理性と気合の強さによって抑えつけている。もしこの不安定な力と精神の均衡が破られようものなら、忽ち2人は凶悪なバイドと化してしまう危険性を孕んでいる。

 

其れは、MAOの意識がFA「アローヘッド」に移った後でも同じだった。

 

「まあ、そうだな…。一瞬でも油断したら御終いなのはお互い様だから、縁起でもないのは当たり前、か…。」

『其れはそうと、箒よ?先は何を言おうとしていた?』

「ああ、お前の出した案だが…、アレ(・・)は…。」

『合理的、か?』

「うむ。確かにアレ(・・)ならば戦闘継続は可能にはなる。だが、其処までアレ(・・)に拘るのは一体何故なんだ?」

 

一瞬間が空いて、MAOは語り出した。

 

『…昔の、人間だった頃の私の世界の話は聞いたな?』

「ああ。」

『……私の世界では、対バイド戦では常に”死んで帰って来い”は当たり前だった。そもそもバイドに接触した時点で自爆する機能があった辺り、生存率が低かったからな。』

「だがお前は、この案を使えば、継続して戦闘を続行出来るどころか、生存率も非常に高くなり、将来における慢性的な人員不足の解決にも繋がる。だが…、逆にバイド化する可能性も高いだろう?」

『…其れについては否定しない。だが私は…、甘え、と、言うのか?…生きたい、という思いが強くなってな。其れで…』

「他の奴にも同じことが言えるかもしれない、と考えたわけか…。」

『コクピットまでもがやられたら其れはリスクがかなり高いが、かといっても折角FAを開発したのだから、やらない訳にもいかないさ…。其れに、この命を守り抜きつつ、バイドに一矢報いたいんだ。私の両親の、仇でもあるからな…。』

「確かお前は…。」

『…台湾と日本のハーフだった。私の両親はサタニック・ラプソディーの犠牲者だった…。』

「ほう…。」

 

MAOは静かに語り出した。

 

『当時北米のTEAM R-TYPEの施設にいた私は、両親がサタニック・ラプソディーに巻き込まれたことに気づかなかった。軍が発見した際には、あまりにも悲惨な状況だったよ。私も出撃したかったが、その頃はまだ、所謂唯の「TEAM R-TYPEの誇った、まだあどけなさと幼さの残る危なっかしい10代前半の天才少女科学者」でしかなかった。”幼体固定”技術などまだ試作段階の時期だったからな…。』

「10代の天才科学者に幼体固定…、いつ聞いても凄い話だな…。然し、当時お前の両親は何処に…?」

『石川だ。』

 

其処で箒は考えた。此奴は確か”大切な人”を亡くしたと言っていた。そしてその前にも自分の両親を失っている。だが彼女の世界は、国家規模は当たり前な地球規模での総力戦だったのだ。そんな世界では、大切なものを守る以前に自分の命を守り災禍の根源であるバイドを殲滅するのが優先事項、自分の命も守れずに何が大切なものを守るだ。

 

食うか食われるか。

 

奪うか奪われるか。

 

生きるか死ぬか。

 

殺すか殺されるか。

 

兄弟家族一族郎党、親友恩人老若男女。

 

全てを救い敵を葬る為には、全てを見捨て全てを殺さざるを得ない覚悟を持たねばならない。

 

 

 

其れ故に彼女は後悔しているのだろう。そんな生き方しか出来なかった自分達に。

 

 

 

守るべきものを守るようで、蔑ろにしか出来なかったことに。

 

「バイドをもってバイドを制す」を、自分達の守る意義にまで反映させ、次第にバイドそのものと遜色なくなりやがては本物のバイドになって…。

 

だが箒には理解出来なかった。そもそも自分には大切なものだとか、家族に相当するような存在は居ない。

 

ギャオスによる世界浄化。ただそれだけのためにそんなギャオス達を導き守る存在として産み出され、利用出来るものなら使い潰すまで利用する本能を植え付けられ、尚且つ学習していく知能を持たされたイリス(自分)

 

ガメラや他の人間共ならば、自分やギャオス達の存在を許さない筈だ。そして其れは、自分達と似たような存在に脅かされる世界の出身であるMAOとて同じ筈なのだ。だが…、

 

 

 

「…後悔は、しているのか?」

『いや。だがせめてもの、取り零しの無いように、後続には頑張って欲しいだけさ。その為なら、何だって利用するさ。バイドだろうが何だろうが、な…。』

「……分からんな。」

『?何か言ったか?』

「ん、いや…」

 

 

此奴の世界は愚か、人間や、人間に影響を受けた、ガメラのような奴や心や感情を持つ者は、守る為であれば、尊厳や人権、生命すら投げ打ってまで迎え討ち、滅ぼそうとする。何故あんな自己犠牲の精神を産み出すことが出来るのだろう?普通であれば生き残ろうとするのが生物としての基本なのに。其れに斯く言うこの私も、未だ当の自分でさえ考えられない、あの時ガメラに負けないくらいの激情を露わにした。何より、生まれる前からのアヤナ達あの集落の人間全員への精神干渉の際に得た、どす黒い喜悦さえも…。

 

 

 

そして今も、ぎゃっぴーズなどと言った自分の分身を、昔では考えられないことに大切な仲間として受け入れている。だがそれ故に、どう接したらいいのかも、未だに試行錯誤の連続だ。

 

 

 

今思えば、もっと感情や心について学ぶべきで、急かし過ぎたと考えていた。自分は、心や感情を持った人間や生物などを客観的に理解していたようで、実は何も分かっていなかったのではないか?

 

 

だとしたら、と箒は結論を出した。

 

 

もっと彼ら彼女らを観察していく必要がある。このMAOといい、私の家族といい、織斑姉妹といい、この世界の人間全てといい。

 

 

 

 

そうでなければ、今度もまた失敗してしまいかねないだろう…。

 

 

 

 

『そういえば、まだ今月はフェアリーは来ていなかったか?』

「いわれてみればまだだったな…、何故そんなことを?」

『正直あまり気に入らんのだ、奴のことがな…。』

「何故だ?彼奴は”例の波動砲を持ったトカゲ”の話をしてくれたじゃないか?味方を騙すようなことを、普通ならしないと思うが?」

『其れはそうだが…、何故か、胡散臭くて、不自然に感じられて、な…。』

「ほう?理由は?」

『…いや。何となくだ。予感だけ。』

「………あまり先入観を持つのは良くない筈だが?前に言っていたような気がするが?」

『そうだな…。まあ、あまり鵜呑みにはしない方が良いと言いたいだけだ。気にするな…。ま、確かに私も言えた義理ではないが…。』

「何か言ったか?」

『いや、何も。』

「…。」

 

箒は、それきり黙ってポケットの中に入って眠り始めたMAOを尻目に、彼女の言う通り、たしかにフェアリーは何かを隠していると考えた。当初は考えもしなかったがそもそも何故、フェアリー達にとっては敵でしかない自分達を味方に引き入れたのかという理由も依然不明瞭なままだ。あまつさえ侵略行為を行うと宣言した自分に対しても、躊躇うことなく黙認の立場を貫いている。

 

 

 

「不自然、か…。」

 

 

 

風に揺れる枯れ枝を見て、箒は呟いた。だが、そのようなことは何れは明らかになる。其れが最善か最悪かが分かるまで、自分達は備えていれば良いだけだ。

 

 

 

それに…、

 

 

 

「あのトカゲ…、”スペースビースト”とか言ったな…。まあ、あの時死んでいたとは考えてはいなかったが…。」

 

 

 

あの白騎士事件の時のトカゲ、まだこの時は名も知らぬスペースビースト「ビースト・ザ・ワン」が生きている。

 

 

 

アジア各地で連続猟奇的殺人を繰り返しながら、ついこの間中国〜朝鮮半島経由でこの日本に、人間として上陸して来たらしい。あの時邪魔をした連中➖つまり箒達➖を、完全に敵とみなしたようだから気をつけろ、とフェアリーが、異相次元内に漂っていた”あるもの”を幾つか持って来た際に警告してきたのだ。だが、そのお陰で戦力の増強は前よりもかなりのスピードで漸進している。この分なら或いは…。

 

 

 

「いや、予想外のこともある。侮っていては非常に不味いことになる。飽くまで水面下で対策を練らないとな…。其れに…。」

 

 

 

ポケットの中にいる、琥珀色の球体姿の自分の相棒を見た。若干の記憶喪失だというMAOだが、時々何かを隠しているような素振りを見せることが度々あった。背中を預け、尚且つ共に生命線を握り合っている危うい関係の上に、この何かを隠しているような素振り。危うさに、拍車がかかってしまっていることに、箒は苛立っていた。そういったことから、箒は危惧していた。果たして此れで大丈夫なのだろうか、と。

 

 

 

箒は、遊歩道から、琥珀色の秋の夕暮れを眺めながら、此れから起きるであろう事態に嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

 

「うーん…。」

「はあ…。束、頼むから何度も言わせないでくれ。ツキナ達は我々が邪魔でもしない限りは敵対はしてこないんだぞ?其れに我々を取り巻く状況も、予想よりはマシでも、別の方向では不味い状況下に

置かれている。寧ろ我々が協力すれば少なくとも彼女は我々の脅威にはなり得なければ心強い味方になれば、何より彼女の持つ超技術までも手に入れられる。なのに何故そんなに拒絶する?」

「いや、敵対しないのは分かるんだけどね?でも…。」

「なら何故彼女に協力的にはなれないんだ?」

 

関東某所の、廃校舎内の篠ノ之束の極秘ラボ「我輩は猫である(名前はまだ無い)」。

 

半年前の白騎士事件にて千冬と太平洋艦隊が遭遇した敵は、何れも篠ノ之束の発明であるというのが各国と世間一般の常識になりつつある中、千冬はIS「白騎士」内に残されていた戦闘データを根拠に、粘り強く束に「ツキナと共闘しないか?」と持ちかけ説得していた。だが当の束本人は、頑なに其れを拒んでいた。

 

束は本来、こういったものに出くわすと血眼になってでも協力には賛成すると考えたのだ。

 

だが実際はどうだろう、束が彼女に対して協力する意図は無いと頑なに言い張った。

 

 

分からない。

 

 

千冬には、その理由がいまいち掴めていなかった。

 

 

 

 

…束がこの一言を言うまでは。

 

 

 

 

「…ちーちゃん?ちーちゃんは、あの女達の技術のことをどう考えてる?」

 

唐突に問われ、千冬は面食らいつつも答えた。

 

「あ…、た、端的に言っても凄い技術だ。荷電粒子砲が花火にしか見えない火力と、最早化け物としか思えない速度と機動。其れにあの球体。何れ一つとっても、化け物としか思えないくらいだが…?」

「そう。だからだよちーちゃん。」

「?どういうことだ?」

 

束は語り出した。その、自分達が知るには早過ぎたその内容を。

 

「ちーちゃんは気絶する直前、青白い稲光を見たんだよね?多分だけどそれ…、”核融合反応”で起きたプラズマかもしれないんだ…。」

 

一瞬の間の後で、千冬は驚いた。

 

「…⁉︎核融合だと⁉︎」

「痕跡も見つかったし、発生源もベクトルの形とかからあの球体から発せられたものと分かったよ。其れに、あのビーム…。」

 

千冬は息を呑んだ。一体束は何を言うのか?

 

「アレね、ぶっちゃけるとマジもんの波動砲なんだよ。」

 

 

 

千冬は、ポカンとした表情になった。

 

 

 

「………すまん、もう一度言ってくれ。波動なんだって?」

「ああもうっ!だから、タキオンらしきエネルギーが残留していた痕跡が、核融合反応の痕跡と一緒に見つかったんだよ‼︎其れに、戦闘後にはタキオンっぽい何かも放射性残留物も、痕跡の一切が消えてたんだ‼︎信じられないしこっちが聞きたいくらいだよ…、この束さんが‼︎」

 

束が大型ディスプレイに表示したデータを見て、千冬の顔に一瞬だけ戦慄が走った。タキオンと思しき未知のエネルギーや核融合反応の様子を記録したデータ、そして其れらが戦闘後にはどうなったか。

 

 

尋常ではないことが、確かに起きていた。

 

 

「……嘘だろう?」

「此れが嘘だったらケーサツなんていらないよちーちゃん、だけど残念。此れが現実、て奴。全く、ふざけてるのかなぁこれ…。」

 

束は、ディスプレイの電源を切ると、千冬に向き直った。

 

「…でもね?だからこそ自分を試したいんだ、ちーちゃん。束さん、此れでも負けず嫌いだからね〜。あの技術は手に入れたいけど、協力は最悪の場合だけだよ。まだISは白騎士とゴーレム以外はまだ未完成だし、見直す部分だってあるし。其れにー、彼奴らの方が実はあの化け物共をけしかけたか、或いは何というかその、ほら、「まっちぽんぷー」をしたって可能性もあるでしょー?だから束さんはね、ツキナ達に協力はしない方が良いって思うのー。そもそも能面つけてるとこからして怪しいし…。」

「まあ、確かにな…。…じゃあつまり、信用は出来ないということか?」

「まあ向こうからちょっかい出してくるなら迎え撃ってやるけど、何もしないならこっちからも何もしないのが一番だよ。でも、其れと協力するのは別問題、何もしないから備えないなんてのは別問題、てこと。」

「…分かった。つまり、万一に備えて此方の戦力と技術の向上を優先させた方が得策ということか。」

「んー、分かりやすく言えばそうかもー。何しても、大変なことになっちゃったなー。ま、束さんは限界と思うところまでやるけど流石にちーちゃん程無茶はしないから安心して。この束さんなら大丈夫だからさ、ね?」

「…ああ。」

 

 

そう言う束の言葉に、千冬は憂いだ。確かに束の言い分は分かる。能面に、超技術。其れに加え、何もかもが不自然に感じられたのだ。

 

 

 

まるで、人間でないような…。

 

 

 

「本当は、宇宙人か何かなんじゃないのか…?」

 

だとしたらあのリボンをどこで見かけたというのだ?

 

分からない、分からなさすぎる。此れはとても、自分は愚か束にさえ手に負えない問題なのではないのか?自分達はうっかり、一寸先の闇に、足を踏み入れてしまったのではないか?

 

そうして其処まで考えた時千冬は、「灯り」が必要だ、と考えた。「灯り」さえあればどんな闇でも足元や出口は見えてくる。束は、その「灯り」を技術や戦力などの向上や整備と考えているようだ。

 

 

 

勿論千冬もその事は視野に入れている。だが其れにはもう一つ、後もう一つだけ要素がいる。

 

 

 

”ツキナ”が、何者なのかを突き止める。

 

 

 

➖恐らく、これらでしか私達はこの闇の中から出ることは永遠に出来ないだろう。

 

 

千冬は無機質な天井を見上げながら思った。

 

 

 

だが、彼女達はまだ知らない。

 

 

 

自分達が踏み入れてしまった領域は、自分達どころか、この世界の人間にさえ踏み入れてはならなかった領域だということを。

 

 

 

一生知らなければ良かったということを。

 

 

 

そして今、篠ノ之姉妹と織斑姉妹にとっては人生を一変させる最悪の出来事が、そして特に箒とMAO達にとっては、戦いが第二段階へと入ったことを告げる、最悪の事態が、其れも一時間もしないうちに起きようとしていることにも、直ぐ側にまで迫っていることにも、

 

 

 

未だ、気づいていない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして其れは、箒達とて例外ではなかった…。

 




如何だったでしょうか?皆様の琴線に響居たのであれば幸いです。宜しければ感想・誤字ら出現の指摘・評価・アドバイスや質問・メッセージなどを送って頂ければ幸いです。

次回はいよいよ有働貴文の登場です。果たして、奴はどのようなことをしでかすのか…、お楽しみに。

では、また何処か時間のある時まで。


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第10話 這い寄る影 後編(年末・クリスマス特別編)

筑摩筑後オレ蓄のう症。

どうも、蓄のう症になってないのにクリスマスだった昨日の朝に、クリスマスのウキウキ気分を台無しにされる事態が起きて意気消沈して蓄のう症にでもなったような気分になってしまったどんぐりです。今日の仮面ライダーエグゼイドはマジで酷すぎる…、クリスマスにやる話じゃないこれ…。

そんなことなので、折角のクリスマス特別回なのに、昨日の仮面ライダー見たらもうヤケクソになってしまって、気づいたらこんなことになってしまいました。我ながら、昨日の仮面ライダーとやってることが変わんねーじゃねーかとは思いましたが…、やってしまった以上もう後悔は出来ません。原作箒、ごめんね。

まあ其れでも、読者の皆様が楽しめて貰えるのであらば此方としては幸いです。今はレーザーショックで駄目でも、必ず其れから回復して今日の残り少ないクリスマスタイムも存分に楽しもうと思います(もう終わったけど)!本当に、お待たせしました‼︎

感想、アドバイス、批評、お気に入り登録、誤字脱字などなど、どしどし送って頂ければ頂けるほど作者である私も元気になれるし励みになります‼︎なので送って下さい、皆様の、本作への愛を‼︎(←なんかどこかクウガっぽいな…

…えー、でははじめていきましょう。

では改めてお待たせ致しました、どんぐりからのちょっとしたクリスマスプレゼント、今年最後の拙作イリス箒最新話を、どうぞ‼︎



(因みに、FA「アローヘッド」の見た目は、略称繋がりの「フレームアームズ」に登場する「フレズヴェルク=アーテル」そのままのような見た目を、同じくフレームアームズの「ラピエールシリーズ」のような女性型にした感じです。)


「WARNING!

 

A HUGE BATTLEMONSTER

 

”BEAST THE ONE”

 

IS APPLOCHING FAST.」

 

 

///////////////////////

 

 

琥珀色の夕陽が差し込み始めた篠ノ之神社に、1人の男の姿があった。

 

篠ノ之柳韻。

 

篠ノ之神社神主、篠ノ之姉妹の父親であった。

 

境内の通路に溜まりに溜まった枯葉を、1人黙々と掃除していた。そろそろ箒も帰ってくる頃合いであろう。束は…、恐らく心配するだけ無駄だろう。

 

「さて、そろそろ引き上げようか…。」

 

老人のように、えっこらせ、と声を漏らしながら、塵取りと熊手を近くの物置に仕舞うと、道場とは別にある、神社の裏手の篠ノ之邸に帰って行った。

 

///////////////////////

 

「ただいま〜、帰った、ぞ…。」

 

玄関に入ったところで、柳韻は違和感を感じた。家の周りどころか、その中まで異様に静かなのだ。例えて言うならば其れはまるで不気味な洞穴のような。異様なまでの静かさに、寒気さえも覚えた。

 

その上…、

 

「何だ、この匂いは…、ッ!、そんなまさか…」

 

土足のまま、足音を派手に立てて、静かな家の中に充満する、強烈なまでの錆びた鉄の匂いの元へと駆け出す。

 

 

 

居間への扉を開けた時、その最悪の光景は直ぐに飛び込んで来た。

 

 

 

居間全体が地獄絵図と化していた。砕かれた液晶テレビ、ひっくり返ったテーブル。ズタズタに引き裂かれたソファーや椅子にカーテン。粉々に割られた食器や窓ガラス。そして其れらの上や天井や壁に至るまでが、夥しい量の血飛沫で染まっていた。

 

 

そしてその中に沈む、辛うじてその形を保っている物言わぬ肉の塊。

 

 

其れはかつて柳韻の妻であり、篠ノ之姉妹の母親だったモノ。

 

 

その証拠に、血溜まりの中に沈む彼女の携帯と、千切れた手首の中に光る、柳韻が彼女に送った結婚指輪の姿があった…。

 

 

「あ、あ、あ、ああああ…。そ…、んな………、う、嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だっ!誰が、誰がこんなことをっっっ………‼︎」

 

 

そう言って柳韻は思わずかつて妻だったものを抱き締めて、声を上げて泣き出した。いきなり何が起きたのかも理解出来ずに、柳韻は泣き崩れる。

 

 

 

その時だった。彼の背後を通り過ぎる気配を感じたのは。

 

「……………っ‼︎誰だっ⁉︎」

 

勢いよく振り返るも、其処には誰も居なかった。だがこれだけは確実だった。

 

 

 

まだこの家の中に、妻を殺した犯人がいる。

 

 

 

警察に連絡しようにも、携帯は電池切れのうえ神社の事務所の机の上に、居間に据え置かれた電話機も叩き壊されている。妻の携帯も血溜まりの中に沈んでいる。此処から逃げ出すという選択肢もあったが、其れでは数秒で犯人に追いつかれてしまう危険性もある。近所や公衆電話とて、此処から約5分以上の距離にあるのだ。

 

 

「……やむを得ん。」

 

 

素早く、柳韻は隣の和室へと駆け込んだ。掛け軸の掛かった床の間にある得物を手にする。

 

 

代々より篠ノ之家に伝わりし日本刀の一つであった。

 

 

最早戦うしかない。そう腹に覚悟を決めて、柳韻は構えた。

 

 

「…出てこい。いるのは分かっている。妻を殺したのは貴様だな⁉︎姿を現せ‼︎」

 

 

すると、再び背後から何かが通り過ぎる。柳韻は素早く振り返り刀を振るう。だが其れも、ヒュ、と虚空を斬るだけで其処には何もいない。

 

だが確実に自分の周辺にいるのは確かだ。柳韻がそう確信したその瞬間、再び気配を感じて向き直った。

 

 

 

 

だが振り返ると同時に柳韻が刀を振るうことは最期まで出来なかった。

 

 

 

 

 

 

柳韻が見た最期の光景。其れは巨大なトカゲのような生物の、毒々しいまでに紅い、牙だらけの口の中だった。

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

駅前近くの公園で、箒達は自動販売機で飲み物を買って其れを飲みながら寛いでいた。既に夕陽は地平線と乱立したビル群や山の陰に隠れ、空も次第に青紫に変わりながら明るく輝く宝石を瞬かせつつあった。

 

「……そろそろ帰るか。あまり遅いと”父さまと母さま”に叱られてしまう。」

 

まだ熱いままの飲み干したおしるこの空き缶を、見事なコントロールで狭いゴミ箱の入り口に向かって投げ入れながら箒は言った。

 

『んく…ぷはっ、お前が本人達のいないところで父親と母親をそんな風に呼ぶなんて珍しいな。明日は雨でも降るか?』

 

ベンチの上に置かれた空になったブラックコーヒーの空き缶の隣で、吸い上げるようにコーンポタージュを飲んでいたスタンダードフォースの模型(ミニチュア)に見えなくもない、FA待機形態の姿を取っているMAOが、ゴミ箱の中へと綺麗に吸い込まれる空き缶を見ながら揶揄うように言った。

 

「バカ言え、誰が好き好んでそう呼ぶものか。お前は皮肉の区別もつかないのか?」

『まさか。だが、”仮にもお前の両親”なんだ。あまり邪険にはしない方が良いぞ。例え、「家族」というものを当のお前本人には理解出来ないものだとしてもだ。』

「其れについてはまま理解はしているぞ。だが上手く誤魔化すのが面倒なだけだ。」

『お前なあ…。』

 

呆れたようにMAOが呟いた、まさにその時だった。

 

 

 

何処からともなく、強烈な血の匂いが風に流されてきたのは。

 

 

 

『……っ⁉︎箒っ‼︎』

「…分かっている。方角は間違いない、私達の神社の方向からだ。」

『それじゃあまさか…‼︎」

「………っ」

 

驚異的なスピードとジャンプ力で、一気に神社にまで飛ぶ。

 

 

 

やがて境内に辿り着いた箒達は、其処で生き物の気配が全く感じられないことに気がついた。

 

 

 

『可笑しい、周辺から生体反応が感知出来ない。いよいよ持って此れは…。』

「…チッ。家に行くぞ!」

 

境内を通り過ぎて箒達は裏手の自宅に行き着き、開きっぱなしになっている玄関から土足で居間へと駆け込むと、一瞬飛び込んで来た光景に思考が停止した。

 

 

 

血みどろの地獄絵図と化した居間と、その中に沈む、大小様々な肉の塊に、首の無い刀を持った宮司らしき壁に座り込むようにして倒れかけている死体。

 

 

血溜まりの中の肉塊は兎も角、刀を持った首の無い死体は紛れも無い、「篠ノ之柳韻」と誰が見ても明白だった。

 

 

 

だが其れだけではない、こんなものよりも酷い状態のものなど箒とMAOの2人は見てきているのだ。だからこそ問題なのはそんなことではなかった。2人が一瞬立ち尽くしたのは、其処にある篠ノ之夫妻の死体であると同時に、そんな柳韻達の死体の前に立っていた者がいたからだ。

 

 

メキメキ、と身体から音を立たせながら振り返った、黒い外套に身を包んだ其の男(・・・)こそ…、

 

 

「…チッ、何だよこいつらじゃなかったのかよぉ。まあいいや、どのみち見られちまったからには、キチンと()っておかねぇとなぁ…?」

 

 

有働貴文、いや「ビースト・ザ・ワン」だった。

 

『!貴様が篠ノ之夫妻を殺したのか‼︎』

「んあ?何だよこいつらは其処の嬢ちゃんの親なのかぁ。じゃあ安心しな、寂しくないように楽にしてやるからよぉ…。」

 

ひひひ、と三日月状に唇を歪めて笑う男に対して、箒は不気味な迄に黙っていた。

 

「んん?なんだぁ、怖すぎて言葉も出なくなっちまったかぁ?まあいいや、其処の変な喋るピンポン球みたいなのがいるみてぇだがまあどうだって良いなあ。此処はまず一緒に一捻」

 

り、と其処まで言いかけた時にザ・ワンは異常に気づいた。少女の様子が可笑しい。先程から少女と”変な喋るピンポン球”の気配が明らかに変わったのだ。そして、

 

ヒュッ、と一瞬何かが通り過ぎ、頰から何か温かいものが流れていることに気がつき、ザ・ワンはその流れ出ているものに触れた。

 

 

赤い。

 

 

自分が傷つけられたことと、少女の様子が変化したことにザ・ワンは困惑した。何故だ、何故この小娘は恐れもせず意味の分からない攻撃でこの俺を傷つけた?其れどころか一体どうやってこの俺に攻撃したんだ?

 

 

 

だがその理由も直ぐに判明した。少女の背中から、奇妙なものが生えている。其れを見てザ・ワンは迂闊にも、自らが探していた標的(・・・・・・・・・・)を挑発してしまったことに気がついた。

 

 

 

「…良くも私のモノ(家族)に手を出した挙句に無残にも壊し(殺し)てくれたな…?………これだけのことをしてくれたんだ、言っておくがまさか無事に生きて帰れるとは…、思ってはいないだろうな…?」

 

 

 

静かに怒気を孕んだ声で、箒は俯いていた顔を上げた。良く見れば、彼女の右目が琥珀色に変化していた。いや其れだけではない、髪の毛に身長、服装、体格までもが跡形も無く劇的に変化していた。

 

頭髪が美しい銀色に、身長も高くなり服装も露出の高い、肉と布で出来ていそうな、然し其れでいて神秘的な雰囲気を醸し出している巫女服に、体格も平均的な小学生の体格から、大人の女性らしい妖艶な色気を漂わせるものに変わっていた。

 

 

 

少女はその身を女神(邪神)へと変え、悪魔(ザ・ワン)と対峙する。

 

 

 

間違いない、此奴があの探していた”クズ野郎”なのだ、少女が人外の姿へとその姿を変え、臨戦態勢に入った様子を見てそう結論に達したザ・ワンは、一瞬間を置いたのち、そのあまりの展開の早さと棚から牡丹餅とも言える状況に、思わず高らかに、唾液を飛ばしながら哄笑した。

 

 

 

「…………っ、くっくっ、くははははははははははははっ‼︎こりゃあ傑作だぜぇ!まさかこんな幼女があの時の野郎だとはなあ!自分からノコノコ出てきてくれた挙句にこの俺をまたしても傷物にしてくれるとは、中々に愚かなくらい根性のある奴、いや、馬鹿な奴だなあっ‼︎てか、なんだよこの展開はよお!早すぎてただのギャグ漫画だぜえ‼︎」

 

其れにつられて、箒も鼻で笑う。だがその眼の奥には、冷たい憤怒の光を湛えたままで、その鼻で笑っている様子も、まるでそんなザ・ワンを侮蔑しているようにも見えなくもなかった。

 

「…そうだな。だが私としては全く笑えんな。仮にも其処に転がっているのは私の所有物(家族)だ。勝手にズタボロのミンチにされて、誰が喜ぶ?貴様の方が図に乗るな…、」

 

そして箒は、自らの背中の触手の切っ先をザ・ワンに向けながら、右手を銃の形にしながら、ゆっくりとザ・ワンに狙いをつけるように指を指して言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この身の程知らずの愚か者が‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れと同時に、ザ・ワンも胸に波動砲を抱いた蜥蜴の獣人へと姿を変えて飛びかかる。

 

「こっちのセリフだああッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

居間の窓硝子を叩き壊して、2人は外へと飛び出す。

 

 

 

境内で、2体の人外による肉弾戦が始まった。拳の連撃や回し蹴りを繰り出すザ・ワンに対し、箒は腕や脚などでの防御や躱すなどの防戦を取りながら、背中の触手から繰り出す斬撃と其処から放たれる超音波メスでザ・ワンを攻撃する。

 

だがザ・ワンも間合いを取ることで其れらをギリギリのところで躱してしまう。

 

 

 

「ちっ、こしゃくな…。すばしっこすぎて狙いが定まらん。これではキリがないな。」

 

 

 

箒がそう呟いたその時、ザ・ワンの胸部の波動砲が瞬き始めた。同時に、トカゲの口からも光が収束しているのが見えているのも、箒は見逃さなかった。咄嗟に軌道と着弾点を予測し、身体を左側へと転がったその直後に、ザ・ワンの胸部と口から強烈な光線が、彼の咆哮と共に放たれた。

 

 

 

 

「グゥワオオオオオッッッッッ‼‼‼‼‼‼」

 

 

 

箒の背後にあった、篠ノ之神社の拝殿と本殿が、そしてそのまた背後にあった鎮守の森ごと消滅した。それと同時に、強烈な爆風が周囲を薙ぎ倒してゆく。その有様は、まるで小規模な核爆発か、隕石の墜落でも起きたのではと思われても可笑しくないくらいのものだった。

 

 

 

 

「…………うぅっ、いてて。ちぃとやりすぎちまったか~。ま、流石に此れだけやりゃあ、あの腐れ幼女モドキも…、ん?」

 

 

 

 

爆風のダメージを諸に食らったザ・ワンだったが、直ぐさま起き上がって状況確認をしようとしたその時だった。

 

 

 

 

盛り上がった境内の土の中から、箒が這い出してきた。全身が傷だらけでかなり手酷くやられているようだが、その傷からはもう既に血が止まり、傷自体も塞がりつつある。その上、未だに戦える程の気力があるように感じられた。

 

 

「んん〜?まぁだ生きてんのかぁ。ちっ、しぶてえ野郎だ。」

「…悪いが、しつこさにかけては自慢出来るレベルだからな。喜べよ?まだ相手にしてやると言っているんだからな。」

 

 

箒がそう言いながら拳を構えるファイティングポーズを取ったのと、琥珀色の球体が何処からともなく飛んで来たのはほぼ同時だった。

 

 

 

『おい、私を忘れるなよ!何で私を差し置いて先に突っ走っているんだお前は‼︎全く呆れた奴だな…。』

「済まんな、どうやら昔の癖でうっかり突っ込んでしまったようだ。まあ、良く良く考えたら今の状態で戦うより其方(・・)を付けて戦った方が良いな…。」

 

そう言った直後に、ザ・ワンが突進をかましてきた。だが其れを飛び上がることで回避した箒は、半壊している神楽殿の屋根に降り立った。

 

 

 

 

刹那。

 

 

 

 

箒の身体が青く輝く円筒形の光に包まれた。そしてその光の中に鎧のような機械のパーツが浮かび、

 

光の中の箒に合体、いや、”装着”された。

 

 

 

〈Fighter. Armor. ”ARROW HEAD”, starting completed.〉

 

 

 

ヘルメット内にその表示が現れ、箒はシステムが正常に機能していることを確認した。

 

『いけるな、箒?』

「言われなくても奴には借りは返すつもりだ。さて、ではそろそろ始めるか、先のことも含めた仇討ちと、」

 

 

 

 

 

 

「…私達の”スコアアタック”をな。」

 

 

 

 

 

 

青と赤、銀色に美しく輝く白いボディーを晒しながら、FA「アローヘッド」を、その身に纏った邪神が、半壊した屋根の上に立ち上がる。其れはまるで、天使とも、不死鳥とも言えるような存在が舞い降りてきたようにも見えた。

 

 

 

 

 

「へっ、今更本気になったところで一緒だっつうのおおおおおお‼‼‼‼‼」

 

 

 

ザ・ワンが再び胸の波動砲を乱射する。だが箒は暴風雨の如き波動砲の攻撃の中を、いとも容易く躱して行く。終いには間合いを徐々に詰められ、接近戦に持ち込んでしまった。

 

 

現時点では装着した反面、装着したことや、情報処理などの理由からテンタクランサーなどを用いた攻撃を行うことが出来ないが、その代わり動力源であるザイオングジェネレーターから生成される波動エネルギーによって強化されたパワードスーツ、「FA」の攻撃力や破壊力は苛烈である。

 

本来、この「FA」はR戦闘機の戦闘データに基づいて開発されたパワードスーツ、早い話が「R戦闘機の力を宿したパワードスーツ」である。

 

 

この「アローヘッド」の場合、全てのR戦闘機の始祖たる「R-9A”アローヘッド”」の戦闘データを用いている為、R-9Aの武装を、威力はそのままに小型化したものを用いるばかりでなく、波動エネルギーを微弱ながら腕部や脚部に纏わせて戦うことが出来るのだ。

 

 

 

それはつまり、

 

 

 

”波動エネルギーによって威力も速度も強化された通常パンチ力200tの拳と、通常キック力350tの蹴りを諸に連撃で受ける”羽目になるのである。

 

 

箒は、積極的に攻めながらも攻撃の手を一切緩めない、所謂「喧嘩殺法」で、拳と蹴りの連撃でザ・ワンを圧倒し始めた。

 

 

 

 

ザ・ワンにはバイドの持つ驚異的なまでの自己進化・再生能力がある為防御力や耐久力も高く、例え波動砲の攻撃を受けてもある程度は耐え切ることが出来る。

 

 

 

 

だが、幾ら波動エネルギーによって強化されているとはいえ、パンチ・キック力が共に200、300tクラスの、第二宇宙速度程では無いが第一宇宙速度よりも早く攻撃の隙を全く与えること無く繰り出される喧嘩殺法の前には、流石のザ・ワンも怯まざるを得なかった。例え顔面に右ストレートを叩き込まれて潰れたお面のように顔を凹ませても、ブルックリン式握手をその次に叩き込まれても、箒達の猛攻の前にはただ耐え切りながら、虫のような息を吐きまくることしか出来なかった。

 

 

 

 

右フックを3発打ち込み、とどめとばかりに右アッパーをザ・ワンの顎に叩き込んで吹き飛ばすと、箒はヘルメット内のモニターに表示された、亜空間通信に受信メッセージが届いていることに気がついた。

 

 

 

 

「通信?」

『準備が出来たか、ならそろそろあの不届き者には今迄の責任を取って消えて貰おう‼︎箒!衝撃に備えろ‼︎』

「‼︎‼︎⁉︎ っ、お前まさか、」

『そのまさかだ、「流星」部隊!今がチャンスだ、彼奴にとどめの一発をお見舞いしてやれ‼︎浴びせろッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

-高度約35786km、宇宙空間・静止軌道上

 

 

 

亜空間通信を受け取った長大な”圧縮波動砲”の砲身と盾かマシンガンなどのドラムマガジンを思わせる小型の観測用レドームを持った単騎突入支援砲撃用R戦闘機、R-9D”シューティング・スター”及び、700ペタバイトの容量を持つ特徴的なレドームを機体に装備した早期警戒管制型支援機、R-9E”ミッドナイト・アイ”で構成された2機編成だけの”狙撃部隊”が行動を開始、R-9Eがザ・ワンの位置情報を収集後に僚機のR-9Dへとその情報を送信、多少の誤差修正の後、R-9Dは標準装備された「圧縮波動砲」の充填を開始し始めた。

 

 

 

「R-9D シューティングスター」は2163年の第一次バイドミッション後に企画され、第二次バイドミッション後にロールアウトが完了した、R-9Aなどの単騎突入型戦闘機の支援と一撃離脱での破壊力向上を視野に入れた長距離狙撃型波動砲ユニット”圧縮波動砲”搭載機である。

 

 

機動力ではR-9Aなどのような機体には劣るものの、機体下部に搭載されたライフルにも見える波動砲ユニットと、同じくその脇に標準装備された誤差修正を目的とした観測用ディスクレドームは、冷却機構の問題により引き出すことが出来ないが、スペック上ではその最大射程がおよそ「38万km」と言う驚異的な射程距離を誇っている。

 

 

対する「R-9E ミッドナイトアイ」は、第一次バイドミッションの際にR-9Aのデータを元に、本来は管制機として開発された早期警戒管制型支援機である。皿状の円盤型レドームを載せたR-9Aのような其れは、我々がよく見る現実の早期警戒管制機を思わせる。だがこのR-9E のレドームは900ペタバイトという驚異的な容量を持つデータディスクを128枚も搭載している為、戦地などにおける様々なデータを迅速かつ正確に、他のR機などに伝えることが出来る。

 

 

但し、MAOの人間(地球連合軍・TEAM R-TYPE)時代の後半になるまで、まともな武装がレールガンくらいしかなかった為に未帰還率が非常に高い旧型機として敬遠されていた時期はあったが(もっとも、敵を計測後に破壊する、情報収集システムと波動砲を融合させた「索敵波動砲」や、このR-9Eシリーズ専用に開発された「カメラフォース」により、このミッドナイトアイの悪評は多少なりは改善されたが)。

 

 

 

 

さて、何故この2機が存在し、この場所に待機していたのか。

 

 

 

 

実は此れらの機体は、かの白騎士事件よりも前に、フェアリーが異相次元空間に跳んだ際に回収してきたものの一つで、現在でも異相次元に入ることはできても、未だに体質などの問題で其れらに制限時間のある箒達に比べて、比較的自由に行き来出来るフェアリーが、恐らくMAOの時代から流れてきたであろうR戦闘機や艦艇などの残骸の一部を発見、そのまま回収してきたのだ。おかげで、未だ量産体制に入ることは夢のまた夢レベルではあるものの、通常装甲材と共に必要な3つの物質、一つに装甲などの強化に使用され、R機や艦艇の建造には必須となっている青い鉱石、ソルモナジウム、二つ目にフォースなどバイド兵器の原料で、バイド素子を含む化合物である赤い鉱石、バイドルゲン、そして最後、エンジンなどのエネルギー効率の向上に必須となっている緑の鉱石、エーテリウムの確保には一先ず悩まされることがなかったのである。

 

 

 

また此れらの残骸の中で、比較的損傷の少なかった一部の機体は応急修理という形で戦力となり、残りの部品などは地下深くや太平洋などに隠されることになった。

 

 

 

この2機も其れらの残骸から再建されたもので、普段は福島県の箒達の拠点の地下ドッグに待機しているが、先程箒が半覚醒化した状態でザ・ワンと戦っている間に、MAOが発した緊急発進信号(スクランブル・コード)を受けて両機は出動、ザ・ワンを確実に仕留めることや強力な圧縮波動砲を地球上で使用する訳にはいかない為に静止軌道に急行し、箒がFA装着した直後には既に静止軌道にてベストコンディションを形成し終わっていた。

 

 

 

 

そして、現在。

 

 

 

 

MAOの許可が下りたことにより、遂にR-9Dの圧縮波動砲が瞬き始めたのである。肉眼では見えないが確実に捉えているトカゲと人間を混ぜた悪魔に向けて、

 

 

 

「星の裁き」が、下されようとしている。

 

 

そんなことを知らない、地上のザ・ワンは怒りに身を任せて尚、箒達に戦いを仕掛けようとしていた。

 

 

「ぐうぅぅぅ…、ちくしゅ…、チクショオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッッ‼‼‼‼‼‼︎ヤリヤガッタナアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

盛大に吹っ飛ばされたザ・ワンが最後の抵抗宜しく突進してくる。だが箒達はそれを華麗にジャンプして躱し、そのまま安全な場所にまで飛び去ってしまう。

 

「チクショオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッッ、逃げるなアアアアアアアアアアアアァァッッッ‼︎」

 

 

 

 

そして、ザ・ワンが追いかけようと飛び立とうとした正にその瞬間、

 

 

 

 

空の彼方より一条の閃光が、ザ・ワンに直撃し、キノコ雲が湧き上がった…。

 

 

 

 

 

 

 

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「………すざましいな。」

『下手なサテライトキャノンよりも強力だ。例え無事だとしても…、ん?』

 

濛々と立ち昇る土煙と、雨のように降り注ぐ瓦礫の中にいるであろうザ・ワン、いや、ザ・ワンがいたであろう場所を空中より見ていた箒達だったが、其処でMAOがあることに気づいた。

 

 

 

 

靄の中に、人影が見える。

 

 

 

 

『まさか…、』

 

 

 

 

 

そう呟いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥワオオオオオッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

雄叫びと共に強力な閃光が煙を切り裂いていく。箒達は信じられない気持ちだった。アレだけの攻撃を受けているというにもかかわらず、姿形を崩しながらも、ビースト・ザ・ワンが生きていることに。右上半身が根刮ぎ無くなっていても立っていることに。だが立っていたのはほんの数秒程で、そのままふらついて地面に倒れ伏した。

 

 

箒達は地上へと降下すると、生死確認を開始した。

 

 

「………生体反応がまだある。半身を持っていかれてもまだ生きてるとはな…。」

『マジか此奴…、耐久力高過ぎるだろう…。バイドの再生能力様々とはこのことだな…。』

「其れは我々とて同じだろう、一丁前のバイドのお前が何を言っている。まあ躱した可能性もあるが、波動砲の一撃を喰らっても生きているか…、バイドの力だけでは無い、別の何かが此奴を救ったということか。だが後ひと押しすれば…。」

 

 

 

 

 

箒がFA内に収納されていたポンプアクション式ショットガン型のFA用スタンダード波動砲を取り出した瞬間だった。

 

 

 

 

 

突然何処からともなく銃撃を受けたのだ。

 

 

 

 

 

「なっ…、何処からだ…⁉︎」

『弾速といい、実体弾だといい、まるで此れは…。』

 

 

【レールガンのようだ、か?】

 

 

ボイスチェンジャーを通したくぐもった声が聞こえたのは彼女達の背後だった。振り返りながらその姿を見るが、その姿は、

 

 

 

「アローヘッド…?」

『いや、違うぞ。其れにこんな機体は作ってはいない。此奴、まさか…。』

【済まないが私は織斑千冬でも篠ノ之束でも無いぞ。寧ろ私にとっては彼女達の敵だからな。】

『何…?』

【お前達にはまだまだ面白い可能性がある、だからお前達が我々に立ち向かえる程の戦力を手に入れてからでも悪くは無いからな、今暫くの猶予を与えてやろう。期限は10年。それまでにきちんとした蓄えを備えておくんだな。】

「猶予、だと…?其れに、何だその姿は…。」

【答えてやらなくも無いが残念だがここまでだ、生憎自己紹介をする程の暇は無いのでな、またいつか、猶予が融けた時に機会があれば会おう。…其れと、其処にいる奴は貰っていくぞ。】

 

 

 

黒いFAのような存在はそう言うと、箒の持つポンプアクション式ショットガン型の波動砲と良く似たような武器を取り出し、シリンダーを二回動かして箒達にその銃口を向けた。

 

 

 

『⁉︎避けろ!』

 

 

 

瞬間、周囲に強烈な稲光と衝撃が奔った。稲光は箒達の周囲に着弾し、そして着弾した瞬間、FAのシステムも一瞬ダウンし、ディスプレイの電源までもの全ての電源が落ちてしまう。

 

 

「⁉︎しまった‼︎」

『落ち着け、直ぐに復旧する。メインシステム再起動』

 

 

再びパワードスーツ内の電源が復旧したが、辺りを見回すと、既に周囲には誰もおらず、燃え盛る瓦礫の山が、黒い煙を上げながら風に揺れ、燻っているだけだった。当然、あのトカゲ男の姿は影も形もなかった。

 

 

『………逃げられたか。』

「追跡出来るか?」

『…………無理だな、大気圏を突破した後、異相次元の更に向こう側にまで逃げたようだ。今の状態で追跡はまず不可能だ、其れに、上の連中とて追跡出来なかった筈だ…。』

 

 

FA形態を解除し、箒とミニフォース型となったMAOは既に暗くなっていた空を見上げた。周囲で燃えている炎に照らし出された星々が見える。この空の彼方の、更に向こう側へと逃げ去った後でも、箒達は先程の黒い「アローヘッド」のような存在に見られているような気がしていた。

 

 

「………10年か。それまでに備えられれば良いが…。」

『其れについては何となるだろう。其れにしても彼奴の攻撃、何処かで見た気がするが…。まあ良い、兎に角今はこの状況を何とかしないとな。』

 

 

そういって、MAOは周囲を見やる。既に篠ノ之神社とその周囲は、地形ごと原型を留めていない状態になっていた。恐らく山火事や地震でも、此処までの被害にはならないだろう。

 

その上…、

 

『箒…、そういえばお前の両親は…。』

「気になどしていない。元より我々にとって彼奴らは”ただの生みの親”だ。それ以上の特別な感情などは無い。」

『……そうか。』

 

瓦礫の山の向こう、恐らく焼け落ちたであろう篠ノ之邸のある方向を見て箒は淡々と言った。だがMAOにはその冷たい言動の中に、僅かに怒気や憎悪が含まれているかのように感じられた。

 

 

「其れよりもどうする?このようなことになった以上、2、3年後に予定されていた証人保護プログラムも、恐らくは1ヶ月もしないうちに組み込まれることになるぞ。もう既に”篠ノ之夫妻”は殺害されてしまったからな。」

『確かにな。だが、確かにお前の言う通りだ。”両親”が死んだ分、我々も”自由”になったんだからな。』

「…やはり、実行するか。」

『まあな。今は兎に角、この場から離れよう。話は其れからだ。もう警察や消防が集まってきた。』

「ああ。」

 

 

 

そう言って再び箒はFAを纏うと、名残惜しそうに壊滅した篠ノ之神社を眺めたのち、遠くから鳴り響くサイレンを尻目に上空へと飛び去っていった。

 

 

 

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その後、篠ノ之夫妻殺害事件は、表向きは白騎士事件の逆恨みとして篠ノ之神社を襲撃し自爆した自衛隊員などの犯行によるものとされるも、その実態はよく分からない謎の生命体と白騎士のようなISに似た人型兵器が暴れ回っていたという、謎の事件として処理された。

 

その後、篠ノ之箒は”偶々”その場に居合わせなかったことで難を逃れるも、一気に両親を失った悲劇の少女として世間から同情の声が寄せられた。

 

その後彼女は、親戚の家へと迎えられ、其処で過ごすことになった。だが、其れから一週間もしないうちに、篠ノ之箒の証人保護プログラム入りが決定。2021年12月25日に箒は親戚、織斑姉妹共々離れ離れになることとなる。

 

 

その為箒は、証人保護プログラム入り阻止と対バイド・レイブラッド一派の対策として、あの織斑一夏に監視兼役護衛役をつけることにしたのだった。

 

 

現在、箒は公園のベンチで一夏と待ち合わせしていた。そしてその隣には、

 

 

「然し面倒だな…。」

「マアソウイワネーデクレヤ、姉サン。アタシラ皆コウイウノハスキダゼ。ナア皆?」

「「「「ウィーッス」」」」

「………本当に良いのか?10年だぞ?耐えられるのか?」

「コーミエテ皆色々デキルカラ大丈夫ッス。タカダカヌイグルミノマネッコナンテ、オチャノコサイサイッスヨ」

 

キラリン、と何処かの戦闘機ロボットアニメの緑髪の女の子アイドルにようなポーズを、”3号”と呼ばれるぎゃっぴーが取るのを見て、どうやら大丈夫そうだなと箒は思った。

 

 

 

箒は監視役兼護衛役として知能が非常に高いぎゃっぴー5匹を、一夏への「クリスマスプレゼントのぬいぐるみ」として派遣することにしたのだ。この五匹は交代で一夏のぬいぐるみを➖材質変換などによって➖演じ、その間残りの四匹が連絡を取り合ったり、周辺の監視、補給などを行うという、或る意味では画期的な方法ではある。反面、バイドなどの戦力がまだ未知数なので彼女らだけでどれだけ対応出来るかということや、万一バレたらという可能性も、不安ではあったが。

 

 

 

暫くして、一夏がやって来た。箒は一先ず、クリスマスプレゼントとして「蝙蝠のような翼の生えた、何処か篠ノ之箒に似たぬいぐるみ」を一夏にプレゼントした。

 

最初こそ一夏は困惑したものの、見た目の可愛らしさと、箒からのプレゼントということで気に入ったようだ。丁寧にプレゼントを持参したナップサックの中に仕舞い込む。

 

 

 

やがて2人はベンチに座りながら、周りで遊んでいる他の子供達を見ながら話し始めた。その内容は勿論、明日の証人保護プログラムのことだった。

 

 

「……ねえ、本当に良いの?皆とも離れ離れになるなんて…。」

「平気だ、元よりお前達以外に親しい友人はいなかったからな。其れに、姉さんが彼処迄のことをやってのけた時から覚悟はしていたから、大丈夫だ。…まあ、両親が死に、お前達とも離れ離れになるのが辛くない訳は無い。悲しいんだよ、私だって…」

 

ベンチに座りながら体操座りしながら顔を俯かせ始めた箒を見て、一夏はもう一度ナップサックに手を入れた。

 

「…………ほら、元気出してよ。私だってさ、箒からこんなに凄いプレゼント貰って凄く嬉しいし‼︎あ、そうだ。私、本当に大したものじゃ無いんだけど、此れ、箒にあげる‼︎」

 

そう言って一夏は小さなクリスマスの飾り付けがされた、小さな小包を取り出して箒に手渡した。中身を開けてみてみると、其れは緑色のリボンだった。

 

 

「此れは…?」

「ほら、箒ってさ、髪型ってポニーテールが凄く似合うじゃん。だからね、私あの事件が起きる前にアクセサリーショップに行って此れを選んできたの!」

「………そうか。ありがとう。」

 

一瞬虚を突かれたような顔をしたが、直ぐに箒は微笑んで其れを受け取った。

 

「…………でも、此れで本当に最後になるのかな?」

「そうとも限らないんじゃ無いか?私としては、暫くのお別れになるだけと割り切った方が悲しまなくて済むと思っているよ。また何処かで会えるとな。」

「何処かとか、いつなの?それ?」

「其れは知らん。だが何れそういうことは起こるかもしれない、だから何があっても絶対に”さよなら”だけは言わないからな。」

「そっか……、なんか、強いな、箒と良い、千冬姉と良い…。正直羨ましい。私なんて、剣道も勉強も駄目駄目だし。女の子の友達なんて、箒くらいしかいないし…。」

「そうでもないぞ〜、私だって友達は少ない方だし、お前だって充分強ければ、男子とつるんでサッカーをしょっちゅうしているじゃないか。そのうえ何気に上手いしな?まあ、要はお前も私や千冬さんにすらない才能を持っているから、そんなことでいちいち落ち込むなということだ。」

「箒にも、千冬姉にも無い…、”才能”?」

「其れに気づいて、努力して磨き上げるかは結局はお前自身の判断と力だ。そのうえで、無駄な努力をしない。其れだけで、お前は私や千冬さんどころかお前の中にいるお前自身にだって勝てるのさ。」

「私の中の、私…。」

「ま、言いたいことはそれだけだ、そろそろ日も暮れてきたし、明日の準備の為にも帰ることにしようか。」

「…………ねえ、箒。」

「ん?」

「……箒が証人保護プログラムに入ったら、もう剣道は出来ないんだよね?」

「………そうだな。」

 

其れを聞いた一夏は、息を吸い込んでこう言った。

 

「私、決めた。箒が出来なかった剣道の試合や大会にいっぱい出て、箒を守れるくらい強くなる‼︎」

「……お前、其れ本気で言っているのか?」

「だって、箒は全国大会に出たかったんでしょ?でも其れはもう出来ないし、柳韻さんや神社はあんなことになっちゃったし…。だから、こんなこと、二度と御免だから!箒は私の、大切な”友達”だから‼︎」

 

其れを聞いて暫し眉をひそめ、箒は溜息をついた。どうやら本気のようだ。

 

「………そうか。ならお前がそう思うなら、その道を進んでいけ。だが忘れるな?一度自分が決めた約束は絶対だ。其れこそ針千本よりもずっと重いものだ。お前に、その覚悟はあるか?」

「平気!だって私の大好きな友達の、箒や私自身との約束だもん!絶対に忘れない‼︎箒も絶対に、私達のところに元気に帰ってきてよ‼︎絶対にだよ‼︎」

「ふむ、絶対だ。其れは私も同じだ。約束する。どんなことになっても、必ず帰ってくるよ。…此のリボンと一緒にな。お前も、其れ…ぬいぐるみのことを忘れるなよ?」

「そんなのっ、当たり前だよっ‼︎」

 

そう言って2人は抱きしめ合った。少なくとも、此れで一安心だなと箒は安堵していた。やがて、箒の腕時計が6時のアラームを鳴り響かせると、名残惜しそうに一夏は箒から離れた。

 

「…………じゃあ、元気でね。」

「……………ああ。お前もな。」

 

 

 

 

 

 

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『お前が全く持って言いそうに無い台詞の連続だったな。』

 

公園から去っていく一夏を見ながら、MAOが言った。

 

「半分は本音を言わせて貰ったよ。まあ、約束に関してはどうなるかは保証出来んが。」

『相変わらず酷いな。約束を守るつもりはあるのか?』

「最低限は守るさ。まあ、状況によるがな…。」

『流石は邪神様様だな。』

「言ってろ。さて、一旦雪子叔母さんの家に帰るか。」

『…他にすべきことは済ませたか?』

「まあな。夜明け前には家を出るぞ。」

『そう来ないとな。…其れと、あのFAらしいもののことで思い出したことが一つあるんだが。』

「何だ?」

『私の見た限り、あのFA用の波動砲みたいな武器から放たれたあの雷撃だが…、間違いない。アレ(・・)だ。』

「………”サタニック・ラプソディー”の、アレか。」

『どういう経緯であんな形で現れたのかは分からん。だがあの”番犬”が現れ、事実上の宣戦布告をされた以上、此方もいよいよ本気にならないといけないな。まあ、だからこそ…。』

人間の(・・・)都合には尚更従う訳にはいかないな…。」

『まあ、ぶっちゃけると私も人間だったがな…。』

 

 

顔があれば恐らく遠い目をしているであろうMAOに苦笑しながら、箒は昨日MAOと打ち合わせた、福島の拠点の閉鎖と、太平洋に隠した残骸の移動方法や、某所に作り上げた新しい拠点のことについて考え、其れと同時に、激化していくであろう戦闘と敵が繰り出してくるあらゆる策に対する対応、そしてあの見たこともないあの黒いアローヘッドのようなFA、いや、

 

 

 

 

仮称「ケルベロス」との戦いに対して憂いだ。

 

 

 

 

(正直今後はどうなるか分からん。彼奴らは後10年は手を出さないと言ったが、あんなものは飽くまで口約束に過ぎない。口約束程信用出来ない約束は無い。其れに彼奴は、腹ただしいことにあの忌々しいトカゲを助けたのだ。どんな理由であれ彼奴のやったことはこの私にとっては万死に値する。してやったかのようなやり方やあの尊大な態度も腹が立つくらいだ。だからこそ、次こそは奴を…。)

 

 

全てを失った、ように見える「邪神」であった少女は、煮え滾る憎悪と怒りを燃やしながら公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に言えば、篠ノ之箒が証人保護プログラムに入ることは無かった。夜明け前より滞在していた親戚の家から失踪したことが発覚したからだ。そして追跡も、捜索も不可能で各国政府や警察などは遂に彼女を見つけることは出来なかった。彼女の痕跡が跡形も無く消え去っていたことを考えれば、果たして其れは当選のことと言えた。

 

 

 

 

 

 

一夏のクリスマスプレゼントとして、彼女が渡した「ぬいぐるみ」を除けばではあるが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、彼女が再び織斑姉妹に「篠ノ之箒」として再会するのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから10年後、世界を再び塗り替える出来事となったIS学園の「クラス対抗戦(リーグマッチ)」となるーーー。



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第10.25話 モンド・グロッソ①

君は邪神(超古代)と悪魔(超未来)の力を持ったISヒロインなんだね!つっよーい‼︎

ども、どんぐりです。年内初投稿になります!

本当なら今年でR-TYPE30周年ということでPCエンジン版R-TYPE発売日である3月25日に投稿したかったのですが…、今回もまた間に合わなかった…(大泣)まあ、スピンオフである外伝やアマゾンズとか、他にも様々な事情があったのもありますけどね…。どうしてこうなるのやら…。

それはさておき。

今回は、あるアニメ作品と特撮作品がこのIS世界と同一であることが明かされます。その作品は一体何か…、どうかお楽しみに。

さて、今回は10000字以内に収まりましたが、またしても前後篇になってしまいました。いい加減本編に行かないといけないのですが、次回で原作前の話は終わらせるようにしたいと思います!だからどうか皆様、捨てないで〜(大泣)


では茶番はさておき、本編、始まりまーす!





「例はいりません、仕事ですから。」➖財前正夫

 

 

 

 

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(…?どうした?アンタともあろう人がこういった大事な式典に遅れるだなんて、珍しいな)

(服のサイズが頼んでいた奴と違っていて全く合わなかったんだ)

(おいおい、ちゃんと発注したんじゃなかったのか?)

(間抜けな取り違えを向こうの方がかましてきたんだ。仕方ないだろう。特に胸回りをな。嫌がらせのつもりか?)

(ハハハ。それは言えているかもなあ。でも…)

(ん?)

 

(………前にも言ったかもしれんが、本当に帰ってきてくれて、ありがとう。正直、前回の一件のせいで二度と会えないんじゃないかと心配になっていたものでな。…復帰、おめでとう)

(……そうか。心遣い、感謝する)

(どうかそう硬くならないでくれ、私は本心からそう言っているんだ。あんな”出来事”のあった後では、いくらアンタといえどきっと…)

(おいおいやめてくれよ、そういうのは苦手なんだ)

(あ、ああすまん…)

 

(だが…。)

(ん?)

 

(…いや、何でもない。久しぶりの再会だ、暗い話は抜きにしよう。今迄、散々迷惑をかけて申し訳ない。色々とありがとう。)

(其れは此方もだ。堅苦しい礼などいらないさ。またこうして、アンタと共に戦えることの方が大事なことだ、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎先輩)

(ああ)

 

(…じゃあ改めて。此れからもよろしくお願い致します、大尉殿)

 

(ああ、此方こそ。宜しく頼むぞ)

 

 

 

 

 

 

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箒達が逃亡中の身となってから早5年が過ぎた。アレから未だに各国政府は躍起になって箒達を捜索しているらしく、FBIやICPOの指名手配リストにもその名が乗せられていた。

 

「…ま、当然だな。」

『?何がだ?』

「誘拐されたという証拠が上がらんのだ。自分から姿を消したとしか言えん。其れにプログラム編入前の失踪、そしてその直前に起きた篠ノ之夫妻殺害事件…。どう考えても第一容疑者である私が指名手配されても、別段可笑しい訳じゃない。」

『まあ、若干12歳にして殺人を犯したサイコパスの少女も現実にいるくらいだからな。確かにそう言われたらこの件の各警察機関の対応は何ら可笑しくは無いな。とは言っても、其れで全ての説明がつく訳では無いだろうが…。』

 

篠ノ之箒…、いや現在彼女が化けている銀髪のポニーテールと、10人中10人くらいの人間なら思わず見返してしまうほどの、モデル顔負けの括れたボディラインと美貌の持ち主である人物、「雨宮月奈」が開いていたラップトップの画面に表示されているFBIやICPOの指名手配者の顔写真が乗せられた、各連邦機関の公式サイトのページを見ながら、箒の胸の谷間に隠れていた(現在の箒の格好は、黒のチョーカーを首に付け、白の所謂”胸開きタートルネック、其れにブラウンのロングコートとジーンズという出で立ちだった。)MAOは言った。

 

 

 

2月のアメリカ合衆国・ニューヨーク(NY)、セントラル・パーク付近のカフェの店内。

 

 

 

現在、半覚醒化する自身の能力を、主に変装などの用途に最適化させることによって「雨宮月奈」という人物になりすました箒はMAO達と共にこのアメリカ合衆国の一大都市に観光客として一時的に潜伏している。恐らく一番躍起になって自分達を探しているであろう国家の中に敢えて潜伏することで、情報を撹乱させることが狙いだった。

 

 

ただでさえFBIやICPOが大規模に捜索している状況下にあるのだ、CIAやNSAなどのような機関のレベルだとその騒ぎ様は計り知れなかった。

 

其の上、未だ自分達が把握しきれていない組織や機関も存在しており其れらが自分達を捜索しているか、或いは既に発見されていても可笑しくない可能性も無いわけでは無い。

 

 

 

故に、こうした半覚醒化による変装と、制限時間付きでの単独異相次元潜航によって巧妙に身を隠しながら、今頃はアメリカの外で捜索し回っている様々な機関から逃げ回りながら飽くまで水面下でのみ行動を起こしていた。

 

 

 

そして更にもう一つ、箒達が身を隠す上で好都合な出来事も起きていた。

 

 

 

「…最近は”ノイズ”があまり出ないな。」

『白騎士事件前後の時は発生頻度がかなり多かったが、最近はどうしたものか大人しいな…。』

「まあ、元より”一生に一度通り魔事件に遭遇するくらいの確率”と言われていたんだ、その辺は仕方ないだろう。其れに此奴らがいるお陰で兼ねてより懸念されていた、ISを端とする女尊男卑思想も抑え気味で其れこそIS登場前とほぼ変わらないというのも、我々にとっても世間一般にとっても、あらゆる意味で幸いなことだろう。だがその際、向こう側の連中に余裕が出来ていた場合、ノイズ関連や篠ノ之束関連に諜報の規模を若干縮小して、また我々(こちら)に捜索の手を伸ばしてくるかもしれないというのが、痛いところだが…。」

 

 

 

白騎士事件と、篠ノ之夫妻殺害事件で世間や箒達の親戚などが荒れに荒れまくっていた時期に、ソレ(・・)が現れるようになった。

 

 

”ノイズ”。

 

 

一見液晶パネルを埋め込まれたカラフルかつ人型やカエル型など様々な形態を持った、ぬいぐるみとロボットを足して二で割った後可愛らしくリデザインされたかのような見た目のソレらは、箒達の逃亡直後に行われた5年前の国連総会で初めてその存在が認められた、所謂”特異災害”と呼ばれるものだった(初めてこのノイズが好評された時、人々の中にはかつて主に日本で頻発した”未確認生命体”や”アンノウン”、”オルフェノク”事件と関連性があるのではという考察も、一時期インターネット上で行われ、話題となった)。人間が一生に一度、通り魔事件に遭遇するかしないかくらいの確率でしか出現しないものの、現世に対して「存在する」比率を自在にコントロールすることにより、物理的干渉を可能な状態にして相手に接触できる状態にする他、物理的干渉を減衰と無効化できる状態を使い分ける能力を発動するという「位相差障壁」効果をこのノイズ達が持つことにより、まるでバイドのように一切の物理攻撃が通じず、かと思えば触れただけで人間を炭素の粉に変えてしまう、この世界の太古の昔から存在し、散発的ながらも人類を苦しめてきた、天敵とも言うべき謎の存在。挙句人間しか襲わずに、現れると一定時間が経てば炭素の粉となって消滅してしまうという。

 

箒は、このバイドに良く似た特異災害を初めて聞いた時、その裏で見え隠れする”何か”の存在を感じずにはいられず、またノイズ自体も生物では無い、確実に何者かによって作り出された、ある種の兵器のようなものなのではないのか、とも考えた。

 

 

 

あたかも、バイドや”ガメラやギャオス(かつての私達)のように…。

 

 

 

「まあ、此れまでノイズ騒動があっても無くても我々は自由に動き回ってきたんだ、今更ノイズの出現頻度が減ったところでどうということは無い。ところで、ここ最近は律唱市や雀路羅市などを主とした、日本の関東圏にばかり出現頻度が高まっているようだな…。」

『恐らく自衛隊の”特異災害対策機動部”や日本警視庁の”未確認生命体対策班”などが一番忙しいやもしれんな。全く、日本といいアジア(あの辺り)の国は何時も気苦労な出来事ばかり起きるな…。私の世界に至っては国そのものがアジア地域ごと壊滅して、バイドの巣窟になり果てていたしな…。一体あの国には何に取り憑かれているのやら…。』

「さあな。時代が進めば明らかになるんじゃないか?」

『というと?』

「今はカモフラージュに利用する以外、奴等(ノイズ)に関してはどうでもいいということだ。現れたところで我々の技術の前にはノイズとて動かぬ的も同然だ。寧ろ当面の脅威はバイドにレイブラッド率いる異星人や怪獣どもが率いる過激カルトだろう。其方の方が、何処の馬の骨ともしれん輩どもよりもずっと脅威だ。」

『そうだな、確かに同化どころか人間を消滅させるだけだから実質木偶の坊も同然だからな。”質ではなく量”を選んだような連中だから対処なら幾らでも可能だな。まあ、波動砲やレールガンの過熱が怖いがな。』

「そのとおり。」

 

 

PCをバッグの中にしまい込み、その傍らに置かれていた温くなったブラックコーヒーを飲みながら箒はスマートフォンを起動して操作し始めた。そして操作をしながら、数年前の両親が殺された日の直前から立て始めていた計画についてMAOと議論を始めた。

 

 

 

AUS(アーマー・ユニット・システム)➖一応、”アース”と呼んでおくが…➖は設計面ではほぼ完成したな。後はプロトタイプなりアーキタイプなりを製作してテストをすればいいが…。」

『やはりこの方式を採用するとなるとプロトアローヘッドのような複座式にするしか無いな。バイド戦において、無人機や自動操縦モードは自殺行為でしかない。やはり感情と精神を持ったパイロット(生命体)による操縦を外すことは出来ん。パイロット2人分の枠を潰すことになってしまうが…。』

「バイドの致命的弱点が、”生命体の精神汚染、及び精神侵食の遅さ”だけでも大分マシな方だ。これ以上非の打ち所がないと如何に我々とて此処まで対応することは出来なかっただろうから、」

『文句は言うな、だろう?だがコストパフォーマンスと人的資源の面ではかなりネックになるぞ。』

「まあ其処は我慢するか工夫するかの何方かしかあるまい。何せこの世界の人間達の見えないところでは、”我々の対バイド戦争はまだ始まったばかりの段階”だからな。ところで、何やら店内と外とで騒がしいな…。」

『どうやらニュース速報で騒いでいるみたいだな。どれどれ…?』

 

 

横向きにしたスマートフォンの画面に、WEB配信ニュース番組のページを立ち上げた箒とMAOは、そのニュース記事のタイトルとアナウンサーの語った内容を見聞きして、自分たちの目と耳を疑うことになった。

 

 

[…るとのことです。繰り返しお伝えします。現在開催されている第二回モンドグロッソIS競技大会にて、誘拐事件が発生しました。被害にあったのは日本代表の織斑千冬選手の妹である、織斑一夏さんであると思われ…]

 

 

店内の喧騒が次第に高まっていく中で、箒達のいるスペースだけは静けさが支配していた。冷静に、恐らく一夏の傍で待機していたであろうぎゃっぴー達に連絡が取れるかどうかを探りながら、箒達はたった今入ってきた情報を整理していく。

 

『……先ずどういうことだ……?』

「一応護衛には付いていた筈だが…、連絡が全く取れない。IS程度が相手なら、純粋な実力などではぎゃっぴーの方がかなり上だ。しくじったことを恐れて無視を決め込むことも先ず出来る筈も無い筈…。」

『と、いうことは…。』

「兎に角今は現地のぎゃっぴーの元へ向かうより他無いな。行くぞ。」

 

カフェのテーブルから立ち上がり、店の外へと出た箒達は、人間の居ない場所を探す。その場所から、一気に護衛兼監視役のぎゃっぴー達のいるドイツに向かうには、絶対に(・・・)誰一人として飛び立つところを見られてはならない。レイブラッド一派が潜伏している可能性は言うに及ばず、殊に此処のような国に関しては。

 

 

 

万一うっかり目撃してしまった愚か者がいるとしたら最後、そういう存在は第三者に自分達のことを伝えるよりも早く誰一人として生きては帰さない(適度に対処しなければならない)

 

 

 

「ああ。手段はどうする?海か?空か?其れとも異相次元?」

『いや地中だ。』

「は?まあ異相次元航行の応用であれば一応出来なくも無いが…、なんでまたって、ああ…。」

『簡単にはバレないうえに被害も最小限に済む。地下鉄のトンネルに向かうぞ。準備しておけ。』

「言うに及ばず、いつでもOKだ。」

 

 

ふむ、と箒達は地下鉄の駅の中へと入っていく。

 

流れるように切符を買い、改札口を通り駅のホームへと降り、人目を避けながら、英語で”立ち入り禁止”という張り紙がされた地下鉄作業員の連絡用通路へと入っていき、そして、

 

 

 

世界は、篠ノ之箒とその小さな相棒の姿を見失った。

 

 

 

だが其れもほんの30分以内のことで、

 

 

 

その30分以内のうちに、既に一夏を攫った組織、「亡国機業(ファントム・タスク)」の、一夏を監禁している極秘基地に殴り込みをかけていた。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

ドイツ某所・亡国機業(ファントム・タスク)極秘基地[アルファ・1]

 

 

 

硬く冷たいコンクリートの壁と天井で四方を囲まれた、暗い部屋の奥に置かれたベッドの上に、織斑一夏は寝かされていた。点滴の管が白く細い右腕へと繋がれ、病院の入院着に良く似た白い装束を着せられている様は、何処か痛々しさを感じさせていた。

 

 

 

そこへ、ベッドの向かい側の扉が開くと同時に、短い赤髪と褐色の肌のISスーツの女と2人の黒ずくめの戦闘服を纏い、書類を挟めたバインダーを持ったガスマスクの男達が入ってきた。

 

 

 

彼らは亡国機業実働部隊、「モノクローム・アバター」のメンバーだった。眠っている一夏の前髪を掻き分けながら、ISスーツの女は、隣に立ってバインダーを見ながら考えるように唸っている男達に訊いた。

 

 

「…なあ、本当に”スコール”隊長や”オータム”副長達の所に此奴が来たのか?正直信じられねーんだけど…。」

「まさか。自分から来たわけじゃないらしいですよ。何でも真っ黒のISを身に纏った奴が、我々の警備網を突破して、頼んでもないのに直接このイチカ・オリムラを”デリバリー”してきたらしくて…。」

「そのうえ調べて見たら目の前のこの子は本物のイチカ・オリムラときた。どのみち予定内だったとはいえ、計画が外部に漏れていたのではと、上の連中は大騒ぎだそうです。」

「ったく、こういうことは副長や隊長達の方が対処して貰った方が早いってのに、まさか直に呼び出すなんざ、幾ら何でも幹部会は慌てすぎだろ。手間が省けたっつーのに…。」

「とはいっても、本当に計画が漏れていたのだとしたら、今度は我々が偉い目にあってしまいますよ。此方の対処も大変ですが、寧ろ其方の対処が余程ですよ。」

「アタシだってわかってんだよそんなことくらい。けどな、何でそんな奴がこのイチカをわざわざアタシ達のトコにア◯ゾンしにくるなんざ、変わっている以前に変過ぎるな。別に利になることなんて何一つねーのに…。まさか、此れを機に亡国機業に入りたいから、とかそんな理由じゃねえよな…?」

 

女がそう呟いた時、傍にいたバインダーを持っていない方の男がおずおずと手を挙げた。

 

「あの…、実は少し聴いた話なのですが…、確証は無いので何とも言えないので言うべきかどうかと…。」

「ん?何だよ。」

「実は…。」

 

 

男は、出発前までスコールとオータムと行動していた同僚が聴いた話をポツリポツリと話し始めた。それに寄ると、乗り込んできた黒いISの女は、スコール達に対して、「其方に利をもたらすことを、この我々は簡単に出来る。此れからもお前達の為にも働いてやらんことも無い。今回のこの女も其れだ。だからお前達も我々に対して相応の利をもたらす為に働いて貰う、いや我々の軍門に下って欲しいと考えている。今回はやや早計な出来事で混乱していることだろう。ならば考える時間を与えてやろう。」とばかりに、待ち合わせ場所を指定したのち、包囲網を突破して消え失せたというのだ。

 

「なんだそりゃ?冗談のつもりか?」

「もう少し砕けた言い方かもしれませんが、大体はこのようなことを言っていたようで…。」

「其奴バカか?アタシ達の組織の規模とかもロクに知らないで突っ込んできたような気がするんだが…。」

「けれど、我々の包囲網を単機で突破してくるような奴ですから、あまり油断は…。」

「だとしたって、言っちゃ悪いが警備の連中がサボっていなかったっつーのも否定は出来ねーだろ。正直アタシには怪しくてたまんねーな。第一、何なんだよその物言い。もう少し言い方があるだろ、礼はいらねえとか、」

 

 

 

其処まで言い切った時に、突如爆発音と地響きが、空間を切り裂かんとするかのように響き渡った。間違いなくこの基地内で起きた爆発であり、避難訓練でも模擬戦でも、あるいはその何方でもないのは確かだった。同時に、警報も鳴り始めたが、どういう訳か警報は鳴り止んでしまった。後に残された断続的な小爆発音と、何かが焼けるような音、何よりも鼻に付く焦げた匂いを五感で感じながら、3人は酷く混乱を始めた。

 

 

「…!おい、何なんだこりゃ⁉︎」

 

「…此方、A-2号室!どうした何があった‼︎おい、誰か応答しろ‼︎」

「クソッ、一体どうしたんだ何処にも繋がらないぞ…‼︎」

「おいおい何だよ、ISの通信もオフかよ⁉︎」

「内線はどうだ?」

「やってみよう、確か扉の直ぐ隣に…」

 

言いながら、扉の横にある据付型の端末に近寄っていったが、男がそのことを最期まで言い切ってしまうことは出来なかった。

 

 

 

突然強力な一撃で扉が吹っ飛ばされ、その射線上にいた男はその巻き添えを食らってベッドの隣の壁に扉ごと叩きつけられた。扉の奥の壁に咲いた赤い花を一瞬呆然と見つめている2人だったが、独特の機械音の混じった足音が聞こえてきたことで再び振り返った。

 

 

赤と青と白のトリコロールカラーに、チェレンコフ放射光に良く似た青白く美しい光を全身から放つその存在は…、

 

 

 

【…やれやれ、案外簡単にあっさり見つかるものだな。】

 

 

「て、てめぇ、一体誰だ⁉︎侵入者か⁉︎侵入者がこんなことしてタダで…。」

【タダで?はてさて……、】

 

 

 

そう言うと、パワードスーツの人物は手にしていたショットガン型の武装をISスーツの女と戦闘服の男に向けた。チャージの完了したその武装からは、今にもエネルギー弾が発射されようとしているのが分かる。アレを食らってはいけないと、本能で悟った2人は我先にと駆け出したが、

 

 

 

【一体、何のことやら。】

 

 

瞬間、パワードスーツの女、篠ノ之箒の放った波動砲の強烈な2ループチャージの一撃をモロに受け、2人の亡国機業(ファントム・タスク)は、壁と床ごと、爆風に吹き飛ばされていった。

 

 

 

 




さて、今回も無事に終了しましたが…、皆様、如何でしたでしょうか?まあ本当ならディノディウスの方が先に完成するんじゃないかな、と考えてはいたのですが…、どうしてこうなった。

今回、”ノイズ”などの単語が登場しましたが…。

本作品では、平成仮面ライダー1期のクウガ〜ファイズ、戦姫絶唱シンフォギアシリーズと同一の世界線上にあるとしています。では何故この二つを選んだのか?個人的に世界観設定の擦り合わせが出来そうだと判断したからですね。また、現在スピンオフとして我らが生徒会長こと、更識楯無を主人公としたシンフォギア2次を企画中です。IS原作本編編がアニメ第1期分までひと段落したら投稿出来れば、と考えています。

尚、今回のシンフォギアの参戦(?)に辺り、同じくハーメルンユーザーの「フォレス」先生の許可を頂いて、オリジナル地名である「律唱市」を登場させることが出来ました。この場を借りて、お礼を述べさせて頂きたいと思います。

では最後に、今回の投稿までかなり時間がかかったので、また皆様に早く会えるように投稿スピードを速められれば、良いかなと思います!今回も、読んで頂き誠にありがとうございました‼︎次回もお楽しみに‼︎ではでは。


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第10.5話 モンド・グロッソ②

メリークソスマス、いやいやクリスマス‼︎

お久しぶりです!どんぐりです!お金も時間もすることもアズレン以外何もありません‼︎だからイットもゴジラも見に行けませんでした‼︎以上‼︎

うん、残念……。

それはさておき、おまちどうさまです‼︎今回ようやく最新話の投稿が出来ました!本当にここまで来るのは大変だっただけに、思わずちょっと涙が出てしまいました…(号泣)15000クラス…、うん、長い。本当に申し訳ございませんorz

其れと、セシリア誕生日おめでとう‼︎何とか君の誕生日に間に合わせることが出来た‼︎だからちょっとだけ君に関係する部分が出てくるゾ(本当にほんの少しだけど)‼︎

今回も何時もながら感想、評価、お気に入り登録、誤字ラ速報をしていただければ幸いです。では、今回は間に合った、私から皆さまへのクリスマスプレゼント、「第10.5話」、ご開帳‼︎

(最後に、活動報告のQの答えが載せられております。そちらもどうかご覧くださいませ。まあ、其れだけなんですが…。あ、重大発表もありますのでお忘れなく!)


 

 

 

"織斑一夏を攫う…、何故?篠ノ之箒との約定はしても雨宮月奈とは交わしていない…、もちろん一夏も含まれず…?しかし……。分かりました。では直ぐにでも用意を……。"

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

[ドイツ某所・亡国機業(ファントム・タスク)極秘基地[アルファ・1]

 

 

ぐわああああっ‼︎

 

 

 

1ループチャージで打ち出された波動砲の一撃を喰らって吹き飛ばされる黒ずくめの戦闘服とISを纏った人間達を見ながら、箒は一夏を攫い、ぎゃっぴーの警戒網を何故この連中が突破出来たのかを、腕を組んで顎に手を当てながら考えていた。

 

 

 

 

まず、結果的に言うと護衛のぎゃっぴー達は皆ズタボロにやられていた。”雷に撃たれたような”被害を被った彼らは、気絶こそすれど幸い、或いは奇跡的なことに後遺症はなかった。自分達では敵わない存在の襲撃を予期して逃げ出したのが功を成したのか、其れとも最初から殺すつもりはなかった(単に興味がなかった)からなのか。

 

 

 

 

いずれにせよ、黒いあのパワードスーツの存在が、何らかの目的でこの亡国機業(烏合の集)に一夏を売りつけたと考えるより他ない。亡国機業には悪いだろうが、攫われた一夏を今も擁しているという事実は変わらぬことと、早速約束を反故にされたことに対する怒りも相まって、自分の相棒に手加減するよう指示を出すのはおそらく無理だろうなと、MAOは考えた。もっとも、当のMAO自身も手加減するどころか、ぺんぺん草も生えないまでに人間をも含めた基地の物資全てを”奪い取る(有効活用する)”か、それとも”解体する(消し飛ばす)”かの二択しか考えてはいなかったが。

 

 

そして、偶々見つけ出した部屋に隠していた”目的の人物”を到着してから1時間もしないうちに見つけられてしまったのも、或る意味亡国機業にとっては不運以外の何物でもなかったかもしれない。

 

 

『…ヒュウ、凄いな。まさかもう見つけられるとは』

「小規模の中継基地のようなものなのだろう。まあ、確かにこんな簡単に見つけてしまうと…、なんだその、少し…、萎えるな。可笑しいな、こんな風に考えるのは変な感じがするんだが」

『いや、至ってヘルシーな感想だ。正直私ももう少し暴れてみたかったよ全く』

「…いや、やっぱり考えるだけ無駄だな。良く考えてみれば、我々はそもそも”戦うのが好きなのは当然”だからな」

『ふむ、それは言えてるな』

 

 

 

ベッドの側につくと、箒は脈をはかって一夏の具合を確認した。手頃な大きさの双丘が目立つ胸は上下に動いており、脈もしっかりと感じられる。少なくとも、生きてはいるようだった。

 

 

 

「しっかりと息はしているな。このまま運び出すか?」

『其れもいいが、物資の回収もさせてくれ。良い材料が手に入りそうだ』

「構わんがくれぐれもやりす…」

 

 

 

その次に言葉を紡ごうとした瞬間、いきなり何処かが爆発して吹き飛ぶ音が、激しい振動と共に伝わってきた。基地の幾つかを吹き飛ばしたことは認めこそすれど、流石にアクション映画の石油コンビナート並みに爆発しやすい補給設備や機関部などのこの基地の重要設備はなるべく破壊しないようにしていた筈で、ましてや其れらが爆発したとしても、この程度の爆音と振動で済む筈が無い。

 

「敵襲か…、早いな。意外にも本部とやらが近くにあるのか、其れとも…」

 

ポンプアクション式のシリンダー部を動かして、ショットガン型のスタンダード波動砲を構えた箒は、恐らくこの通路に出て来るであろう不届き者は此れで確実にくじら座まで吹っ飛ばせるだろう、と踏んだ。だがそうでないなら其れは…。

 

 

 

「どうする?生体反応も捉えている、もう撃てるぞ?」

『いや、やめておいた方がいいかもな。其れに、もう来てる。』

「何?」

 

 

 

其処まで言い切った瞬間、通路ごと戦艦の砲弾が命中したかのように大爆発を起こした。目の前に降りかかる粉塵によって視界が遮られるも、爆発の際に波動エネルギー由来の電気エネルギーが発生していたのを察知した箒達は、有無を言わさずにガンスピンの要領で、素早く波動砲の砲身を粉塵の向こうへと向けた。

 

 

「…やはり貴様だったか。早速約束破りとは、いい度胸だな?お前には色々と聞きたいことが山程ある。まあ、大人しく従ってくれるのであれば、お茶を出さないこともないが……。」

 

 

粉塵の向こうから姿を現したのは、紛れも無い、箒のアローヘッドにも似たあの黒いパワードスーツ、"ケルベロス"だった。箒の持つパワードスーツ用に開発された波動砲によく似た、発射直後なのか未だに鋭く光る白い電流を帯びたポンプアクション式の散弾銃に似た武装を手に箒と対峙し、

 

 

 

 

 

 

 

…ようとしたところで、いきなりその砲身を箒に向けると、3本の雷撃を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

「おおっ、と⁉︎」

 

だがその一連の動きを見切っていた箒は、すぐさま構えていた波動砲のグリップを思い切り斜めに捻って(・・・・・・・・・・)ロッド型の武器に変形させると、その砲身だった部分から青白い刃を纏わせ、そこから斬撃を放って稲妻を斬り裂いた。

 

「……ふう、砲術もいいがやはり私には此方の方が落ち着くな。どうだ?今のは?」

『んー、30点。』

「何?おいおい、何でそんなに低いんだって…、ああ…。お前も気がついたか?」

動きにキレがなければ反応パターンも違う(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、デザインも少し違うということか?』

「そういうこと。だから、もう言いたいことは分かるな?」

「ああ、つまり目の前の此奴は予測せずとも…、」

 

その直後、箒の間合いにケルベロスが入ってきた。だが初めて相見えた時に比べてそのキレがない動きを、より具体的には波動砲を構えて狙いをつけてから箒達に向けて稲妻を発射するまでの間の一連の動きから、既にある予測(・・・・)を立てていた箒は、敢えて自らの懐に入れるように仕向けるとそのまま勢いよく左脇に逸れ、同時にその勢いで大きく振りかざした波動砲を、目にも留まらぬ速さで素早く、薪割りの容量で振り下ろした。

 

2ループ方式の波動エネルギーの充填を完了させ、変形させた砲身部分から発生した青白い光の刃は、一撃でケルベロスの、パワードスーツの上半身と下半身を泣き別れにした。そのまま地面に落下した上半身と下半身は、壊れた機械特有の油が切れたような独特の駆動音を漏らし、そして彼方此方に蒸気と火花を、噴火した火山のように噴射しながらも尚も蠢いている。

 

 

そして何よりも目を引かれたのが、そのケルベロスの中身だった。普通ならスーツの中、そこから覗き、まろび出ているのは赤黒いソーセージにも似た肉の塊の数々とロゼのスパークリングワインよりも濃い赤色の血であるべき筈だったが、此方はその代わりに淡いピンク色の、ミミズやナメクジのような肉塊状の生命体が大量に詰まっていた。肉塊どもは、叩き斬られた影響からか混乱しているかのように断面や床の上をのたうち回っており、一部はパワードスーツの断面から、銀色の粘液の道を作りながら逃げるように離れていた。

 

それを見て箒は、やはりか、と呟いた後で、MAOとほぼ同時に同じ結論を出した。

 

 

「『本物《アイツ》じゃない。』」

 

 

これで合点がいった、と箒は考えた。奴ら(・・・)は、最初から小娘(一夏)を狙っていたわけではない。いや、もしかしたら狙いはあったのだろうが目の前のパワードスーツを見れば、其れは飽くまで➖もしくは今のところ➖二の次である可能性が高い。飽くまで狙いは…。

 

 

「…"我々"か。」

 

 

その直後、突然天井が爆発を起こした。大量の鉄筋コンクリートの破片や残骸が真上から降り注ぐ中を避けながらも、箒は無くなった天井の向こう、既に夕刻を過ぎて久しい曇り空に浮かぶ人型の機影が数体存在しているのを、立ち上る煙の中から確認した。

 

 

 

そしてそのいずれも、真っ黒なカラーリングであるということも。

 

 

 

「やれやれ、"テスト要員"とはな。此れでは自ずから敵に手の内を見せつけているようなものだが…。」

『だが量産型と来たか…。性能はアレ(・・)とは段違い(ダンチ)だったが、別の意味からすれば、かなり厄介なことにはなってると言える筈…、ではないか?』

 

その通りだ、と箒は思った。今でこそ動きも何もかもがオリジナルに比べて笑ってしまうくらい酷いものだとしても、そのうち笑えない事態に陥るのは目に見えている。その上、あの機体群が量産型で、然も敵の試作型なのだとすれば、前よりも状況が悪化していると考えられるのは当然だった。だとすれば先程のようにあの機体群をいきなり消し飛ばさないよう残骸だけを残すように破壊し、後でその残骸を余すことなく回収・分析したうえで対策を講じねばならないだろう。

 

 

 

箒は、この忌々しいまでに厄介で、不愉快きわまりない事態に憤りを感じながらも、どうせ敵の出方を伺うにはちょうど良い機会やもしれぬと自分を納得させ、半ば諦めたように上空の機体群を見つめた。

 

 

 

「……仕方ない、ちょうど動向が気にはなっていた頃だ、ボーナスと研究を兼ねるということで、相手してやるか…。はあ、つくづく骨が折れる…。」

 

 

 

波動砲のシリンダーを3回動かし、右側面の、グリップの上部に付けられた液晶パネルを見る。パネルにはパワーゲージとその隣に「BEAM」という表記を映し出しており、そのゲージが端まで溜まると波動砲のエネルギーが砲身内に凝縮、発射されるという仕組みとなっている。

 

またこのシステムは、ゲージが一度溜まった状態で再度シリンダーを動かすと波動砲の威力が倍増するようになっており、その証拠に青く光るゲージ内の色が抹茶を思わせる緑色に変わり、表記も「 BEAM」から一段階上の「HIGH」という緑色の表記に変わった。

 

 

それを見届けると、箒は波動砲を天空を舞う黒い機体達に向けてトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

織斑千冬がこれまでの人生で、後に出会うことになる緑髪の女性教師のように困惑したことは、今までのところ3つあった。

 

 

 

一つ目は不良の一件。

 

二つ目は白騎士事件の一件。

 

そして三つ目は…。

 

 

 

 

「一体何がどうなっているのだ…?」

 

 

 

 

ベルリン市内の病院で、病室の白いベッドの上に眠る、自分の妹の姿を見て、傍らに立つ千冬はそう呟いた。

 

 

 

 

ちょうど24時間ほど前だろうか(千冬には其れが3日以上も前のことのように感じられた)、モンド・グロッソの決勝戦、より正確には千冬とイタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフ(本国イタリアの人間からは、"赤毛のジョゼ"と呼ばれていた)との試合の最中で、あと一歩のところで彼女を追い込めば優勝止む無しというところで、千冬はこれまで自分が生きてきた中で聞いてきた『バッドなニュース』な中でも、とびきり『バッドなニュース』を聞かされたのだ。

 

 

 

織斑一夏の誘拐。

 

 

 

会場の巨大な液晶画面に映し出された、瓶底眼鏡のニュースキャスターと、同時にその口から放たれた言葉は、"ブリュンヒルデ"と称される鉄の女の思考をほんの一瞬だけ停止させ、その精神を揺さぶるのにはあまりにも充分すぎた。

 

 

 

(おまえは一体何を言ってる?一夏が?あの一夏がか?冗談だろう?警察は?会場スタッフの送迎や警備の連中は?ドイツ軍は?万一攫われたとしてアイツらは一体何をしているんだ?若しくは、一体何をしていたんだ?)

 

 

 

そんな疑念はやがて確信に変わった。ニュースキャスターの顔から事件現場の様子を映した映像に切り替わった時、千冬は驚きのあまり絶句した。

 

 

 

 

映像は織斑姉妹の宿泊先であったバイエルン地方の州都、ミュンヘンのリゾートホテルを映し出していたが、その件の20階建ホテルは15階の一番端の部屋、ちょうど織斑姉妹の部屋だけが、壁の全てが消え失せて完全な吹き抜けになり、剥き出しになったコンクリートの断面や木材が目立ち、破れたカーテンか壁紙らしき花柄の布が風で翻っていた。何故そのようなことになっているのかは、付近を巡回していたパトカーなどの車両に搭載されたドライブレコーダーや、ニュースの視聴者のスマートフォンで撮影された映像などに切り替わったことと、後に続くニュースキャスターの簡素な説明によってあきらかになった。

 

 

 

 

それはこういうことだった。まず決勝戦が行われる数時間前、突如としてミュンヘンの上空に黒い人型の物体が現れた。最初にその存在に気づいた人々は有名な「フライングヒューマノイド」でも現れたのだと勘違いした。だがその空飛ぶ人型がISであると理解されるまでに、その人型は鮮やかなまでに大胆かつ素早いやり方で犯行に及んだ。

 

それはあろうことかいきなり件のリゾートホテルに(其れも織斑姉妹の宿泊していた部屋に)向かって、3本の鉤爪がついたオレンジ色に輝く球体、それも明らかに光弾でない謎の物体を何処からともなく出現させ、其れをヨーヨーをぶつけるように打ち出したのだ。

 

そして打ち出されたその球体はまるで意思があるかのように、ぐわっ、と鉤爪を開いて端の部屋の全ての壁を、まるで食べるかのように(・・・・・・・・)破壊したのだった。

 

人型は一撃で織斑姉妹の部屋を廃墟にした後、そんな出来たての吹き抜けに向かって勢いよく突っ込んだ。数秒後にはそれは吹き抜けを飛び出して、明後日の方向に向かって飛び去っていったのだが、その際脇に一人の少女を抱えていて、それがあの"ブリュンヒルデ"織斑千冬の妹こと織斑一夏であることが現場の混乱にも関わらず発覚するまでに時間を其処まで有さなかった。現場のパトカーに搭載されていた通信端末や通行人のスマートフォンに至るまでの、ミュンヘン中の情報デバイスに「織斑一夏を誘拐した」という旨の犯行声明が、文面や動画、音声という形で流れたからである。

 

だが分かったところで警察は、そして軍はすぐに動くことが出来なかった。ホテルの壁の破片が歩道に降り注いだせいで怪我人が出たうえ、現れた人型を見入り過ぎたり、ミュンヘン中の携帯からパソコン、ラジオにテレビの至るまでがハッキングされた所為で驚いた人々が混乱し、あちこちで事故を起こしたり警察署に殺到したことにより、通信も対応も含めた全てがパンクする程の大騒ぎになったのだ。そのせいで本当に対応すべき事態、つまりは織斑一夏の誘拐への対応は次第に後手に後手を重ね、そして現在に至る…、ということだった。

 

 

 

当然、織斑千冬は怒り狂った。

 

 

 

もしあの時他の国家代表がいなかったら、止めに入ったアタシとあの会場スタッフ達は今頃冥府を彷徨ってただろうねぇ、と後年アリーシャ・ジョセスターフは冗談交じりに亡国機業の人間達に話したが、実際には間違いなく「邪魔立てするなら誰であろうと殺してやる」と言わんばかりの勢いで、対戦相手であったアリーシャですら、こればかりは間違いなく殺されると恐怖した程だった。あの時、アメリカやロシアなどの国家代表がいなければどうなっていたかは、想像に難くなかった。

 

 

ともかく、やや強引な形で抑え込みに成功すると、千冬はいくらか冷静さを取り戻した。だが、冷静さを取り戻したところで状況は変わらず、どのみち早急に手を打たねばならないのは火を見るよりも明らかだった。

 

 

ドイツ政府、そして軍部とミュンヘン市警は自らの威信と名誉の為に全力で見つけ出すと控室の千冬に約束を取り付けたが、それでも静かに煮えたぎる怒りを抱えていた千冬は、"所詮は逸物の小さな役人どもの口約束でしかない、止められはしたがこれならいっそ自分で探すのが良いやもしれん"と考えていたが、それから2時間もしないうちに事態は意外な展開を見せた。

 

 

ポーランドの国境付近、つまりはミュンヘンからは何キロ(ドイツ側からは何ユーロ)も離れたナイセ川辺りで、ポーランド側からも確認出来るくらいの大規模な戦闘が起きているとの報が入った時、最初はドイツ軍が誘拐犯のアジトを見つけてアメリカのアクション映画よろしく銃撃戦を始めたのだと千冬は考えた。

 

ところが件のドイツ軍は一報を受けた当初は、未だジープ1台も現場に出動させてはいなかった。それこそドイツも最初ポーランドが第二次大戦のケリでもつけようとばかりに攻めてきたのかと驚いたらしく、のちにポーランド側が驚いて抗議の電話をドイツの首相官邸に寄越した際に「むしろうちの方が驚いてるよ。それとやはりアレをやったのはあなた方ではないのだねMs.?」という具合の困惑と心配の入り混じった返答をしたぐらいだった。

 

 

だがドイツ国内の、それもポーランドの国境付近でそんな大規模戦闘が起きている以上もたもたしている暇は無い、早急に手を打たねば色々な意味で吹っ飛ぶ羽目になるのは自分たちだけではなくなると考えたドイツとポーランドは、双方の軍部の戦力を結集させてこれの鎮圧に向かったのだった。

 

 

そして彼らは、かつて人類を救った英雄「白騎士」の"片割れ"、今度は再び1人の少女を救うために再びその姿を現した「英雄」に出会うこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

最初にチェレンコフ光にも似た青い光を放つISらしきパワードスーツが、瓦礫だらけの荒地で二体の黒い人型兵器と戦っているのを見たのは、ドローンや無人機による映像を見たベルリンのCICの軍人と、先に現場に駆けつけていたヘリコプターや戦闘機、そしてISのパイロット達だった。彼らの語るところによれば、それこそその青いパワードスーツは文字通り千切っては投げ、千切っては投げの戦いぶりで、ブレードに変形できるショットガンのようなキャノン砲片手に、その二体を同時に相手取っていたらしい。おまけに、その周囲には明らかにあの二体の黒い人型兵器から出たものとは思えないがどうやら人型兵器と種類は同じらしい、黒い金属片や焦げた肉片が転がっていた。自分達が来るよりも前に、あの人型は後数体はいて、そのせいで戦闘があれほど大規模になったのだとドイツ軍とポーランド軍は納得した。

 

 

 

一瞬そんな思考を軍人達は巡らせていたが、その直後に戦闘は呆気なく、そして突然決着がついてしまった。青いパワードスーツが、キャノン砲をブレードに変形させて二体の人型兵器を居合い斬りで同時に斬り裂いたのだ。

 

 

 

 

 

ジャパニメーションのように人型兵器を瞬殺したパワードスーツは、暫くの間逡巡するかのようにその場に佇んでいたが、近づいてくる車列と航空機の姿を、つまりはドイツ軍とポーランド軍の部隊を見た途端、突然キャノン砲の砲口を真上に向かって掲げた。

 

 

 

 

パワードスーツが突然キャノン砲を真上に掲げたのを見た軍隊は、一瞬何をするのかと身構え、車列を停止させた。だがパワードスーツは、それを見透かしたかのようにキャノン砲の引き金を引いた。

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

「……その後は、一体何が起きたのですか?」

「強力な閃光と轟音、それに衝撃波が発生してとても件の機体には目を向けてはいられなかったそうです。その隙に、機体の方はまんまと逃げおおせたらしくて…。」

「で、代わりに彼女…一夏と、黒い機体の残骸のいくつかが、残されていた、と?」

 

 

頷くドイツ陸軍の女性下士官、階級章からして曹長らしい彼女から事の次第を聞いた千冬は、間違いないと確信した。考えずとも、一夏を助け、誘拐犯達を壊滅させたのは…。

 

 

 

「"青騎士"…。」

「え?」

「聞いたことは?かの白騎士事件の際、白騎士と共に連合艦隊、ひいては人類を救った英雄のことはご存知でしょう?もしかしたらアイ…いや、アレは…。」

「あの"オアフの奇跡"のことですか?そんなまさか……。」

「確証はありません、ですが…、なんとなく…、なんとなくなんですが……、そう、思うんです……。」

 

 

 

それから暫くして、女性下士官は一夏の病室を後にしたが、その前にもう一つだけ、千冬自身に今後のことも含めて伝えておきたいことがある、と千冬に言った。

 

 

「なんでしょうか?」

「実は、現場から一夏さんと一緒に回収された例の残骸と回収した部隊のことで…。」

 

 

 

 

回収された残骸は、ドイツ空軍の、とあるちょっとこみいった(・・・・・・・・・)部署の連中に回収されたと聞く。だが其れがどのような形で回収されたかなどについては詳しく聞かされなかったのだ。だが、何故其れを今になって…?

 

 

 

「…実は、上層部が残骸の調査の為に貴女を…、ミス・オリムラを部隊の戦術教官といち研究者を兼ねて雇い入れたいと……。」

 

 

 

千冬は目を丸くした。何故このタイミングでそのような話が出たのかは別として、一体これはどういうことなのか。千冬は訊いた。

 

 

 

「其れはまた急ですね。私個人としては嬉しいお話ではありますが…、日本政府に話は通っているのですか?いくらなんでも、他国の代表を雇うなどあまりにもリスキーでは?特に、私のような立場の人間となると…。」

「あ、その辺りには心配は及びません、ミス・オリムラの了承が得られれば構わないと、日本政府からも了解を得ています。」

 

 

 

一旦ベッドで眠る妹へと振り返って、千冬は考えた。一体ドイツのお偉方の誰が、触れただけで爆発しかねない立場の自分なんかを欲したのだろうか、そしてその理由も気になる。今回の件はドイツ政府はポーランド軍と共に火薬庫のような現地に軍を派遣しただけで、例えば一夏の居場所を突き止めたとか、誘拐犯や黒い機体と交戦したとか、そんな大それたことはしてはいない筈だ。

 

 

 

ドイツ政府に借りを作るようなことはしていないはずだと千冬が頭を抱えたとき、ふと自分の親友のことを思い出した。 まさか…。

 

 

 

「あの、それを提案して決めたのはドイツ政府のどなたなので…?」

「申し訳ありませんが、お答えできません。それ以上は上層部へ直接…。」

 

 

 

それきり言うと、下士官は一礼して病室から出て行った。後に残された千冬はしばしの間、あいたままのドアを見つめていたが、上着のポケットに入れているスマホが震えていることに気がつくと、直ぐにそちらへと意識を向けた。着信画面を見ると、案の定其れは""と表示していた。

 

まるで狙いすましたみたいだ、いや最初からこれを狙っていたのかもしれない。一息ついて千冬はそう考えながら、もう一度傍らで眠る愛しい自分の妹を見る。その寝顔は、決勝戦の前日の夜と同じく、暖かみと柔らかさを感じさせる、優しい顔つきをしていた。

 

 

 

あの黒い機体がどういった理由で一夏を連れ去ったのか、そういうことは千冬にはどうでも良かった。少なくとも今彼女にとって重要なのは、青騎士のおかげで一夏(最愛の妹)を失わずに済んだということだった。今はただ、其れだけが全てだった。自分がドイツで教官職や研究者の職についても、そんなものは後でも何とかなる。一夏が無事でいてくれるのであれば、彼女は其れで満足だったのだ。

 

 

 

「また、アイツ(・・・)に借りを作ってしまったようだな…。」

 

 

 

大きく息を吸い込んで吐くと、そう呟いて苦笑した。どうやら自分という人間は、割りと人に対して借りを作りやすいタイプらしい。

 

(今度はちゃんと、借りを返すどころか貸しを作れるくらいにはしっかりしなきゃな…。)

 

千冬は、一夏の無事に安堵し、青騎士に心の中で感謝しながら、尚も振動を続ける携帯を手に取ると、その通話ボタンを押して自分の耳に当てた。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

亡国機業は創立以来、少なくとも一航戦の正規空母赤城がまだ只の航空母艦でミッドウェーまで健在だった頃から、外敵に大きな痛手を負わされるようなことは➖ごく一部の例外を除いて➖、殆ど無いにも等しかった。

 

 

……今日この日までは。

 

 

[太平洋某海域・亡国機業(ファントム・タスク)航空母艦]

 

 

某所にある亡国機業の本拠地であるこの航空母艦の戦闘指揮所(CIC)に、その金髪の女と黒髪のISスーツ姿の少女はいた。彼女らは、実働部隊である「モノクローム・アバター」の一員で、アルファ1にいた隊員達にとっては、隊長やエースなどにあたる存在だった。緊急会議を終えたばかりの彼女達は今、独自にアルファ1で起きた事態に対しての協議を行っていたところだった。黒髪のISスーツ少女が口を開く。

 

 

 

「…まさか、直接乗り込んでくるとはな…。」

「ええ、アルファ1はそれなりに設備が整っていたもの。損害も損害、大損害ね。ものの見事に、塵も残さず消し飛ばしてくれるなんて、敵ながらあっぱれ、てところかしら?」

 

 

 

他人事でも無いうえに褒めてどうする?被害に遭ったのは我々も同じだろう、と黒髪の少女は、隣にいたあっけらかんとした様子でアルファ1の惨状について語る金髪の女にそう返した。

 

 

 

「……"オータム"は?今はどうしている?」

「少し頭を冷やしなさいって、とりあえず自室待機させているわ。まあ、仕方ないわ。あの子の後輩も何人か、あの場所にいたもの…。」

「……そうか。」

「あら?貴女も悲しんでるの、"エム"?」

「まさか。敵もろくに倒せずに散っていく輩なぞ、興味のある無し以前に我々には必要ない。ただそれだけの話だ。……話はこれで以上だな、"スコール"?なら私はこれで。」

「あらあら、意外と冷たいのね。」

 

 

CICから出ていく"エム"と呼ばれた黒髪の少女を見つめながら、"スコール"と呼ばれた金髪の女は肩をすくめた。

 

 

 

 

 

……部屋を出て通路を暫くの間進むと、エムはそこで一度立ち止まって自分の左手を見つめながら呟いた。

 

 

 

「……もう連中(・・)が動き出したようですね。あれだけ派手にやるなんて、流石は異なる世界の同胞(・・・・・・・・)、と言ったところでしょうか。いや、同時に開発者の…、()?でしたか。何はともあれ、がっかりさせないで欲しいところですね。」

 

 

 

そう言って何かを確かめるかのように左手で指を鳴らした。するとその指先から突如、赤く揺らめく小さな炎が、オイルライターの火のように灯った。エムはしばらくそれを眺めると、吹き消して再び歩き始めた。タバコがあれば良かったのに、とエムは考えたが、良く良く考えてみれば害しかもたらさないものをカッコつけに利用するのは言語道断であれば、そもそも自分(・・)にとってもデメリットしかないと思えたからだ。

 

「まあ、まだ会うには暫くかかりますが、せいぜい道中で姉さん達と一緒にくたばることのないようお願いしますよ、雨宮月奈…、いえ、篠ノ之箒(・・・・)と、その相棒さん?貴女がたの作る楽しいプレゼントは、私も楽しみですから…。」

 

そう1人微笑んだエムは、そのまま薄暗い鉄の通路を後にした。

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

「…で?」

『いきなりどうした相棒?不機嫌そうに。』

「いつお前の相棒になったんだ?いやそんな冗談はさておき…、なんでこんなことになっているんだ?」

『そりゃアレだ…、腹が減った。』

「だからといってこんな盗んだ車で走り出すような真似はしなくても良かったじゃないか。二度手間だろう。」

 

 

ドイツとチェコの国境を、親切な人から拝借してもらった(・・・・・・・・・・・・・・)メルセデスベンツのトラックで越えてからというもの、MAOとぎゃっぴー達はしきりに腹が減ったと繰り返していた。自身も空腹で一刻も早くドイツの国境付近はチェコの街、プルゼニュに着きたいと考えていた箒は、マッハ100も出せば何処にでも行けるというのに何故こんな面倒な方法に頼るのか、全くもって意味が分からないと苛立っていた。運転席からバックミラーを見ると、ちょうど緑色のシートが被せられたトラックの荷台から飛び出ている鉄クズが、勢いよく荷台の中へと引っ込むのがみえた。多分荷台にいるぎゃっぴーがやってくれたのだろう。

 

破片についていたバイド粒子は、あの場所から逃走する際に放った波動エネルギーによりうまく浄化したのだが、何故か不安は拭えなかった。

 

「……繰り返し聞くが、後ろの荷台のアレは、本当に大丈夫なんだろうな?」

『ああ、確かに研究価値としては最早アレらには無いが、あんなのは材料に使えるし、其れに其処のカプセルの中身さえあれば十分だ。まあ、本当はもっとあった方がいいのだが……。』

 

 

ふん、と鼻を鳴らすと箒は、ダッシュボードに置かれた拳二つ分の大きさの、透明なカプセルを手に取る。

 

カプセルの中には、あの黒い機体から出てきた肉塊状の生命体が一匹入っていた。まるまるしたナメクジにも似た其れは、今もカプセルの内側を粘液まみれにしながら這い回っていた。

 

「……いつ見ても気持ち悪いな。」

『それお前が言うか?』

「私は別だ。これよりもずっとモテる方だ。」

『自画自賛か?』

「超音波メスでもくらうか?」

 

そんな会話をしながらも、暗い山道の舗装路をトラックは進んでいく。ふと、MAOは、ところで、と口を開いた。

 

 

『これからのことだが…、奴らはとうとう本腰を入れたと考えてもいい。だからその為にもしっかりとした基盤が…、つまり隠れ蓑と安定した開発、其れに防衛ラインをある程度構築すべきだと考えているのだが…、そのあたり、どう考えている?』

「ああ。その話か。なら、一先ずというところは。」

 

 

箒はMAOに、最近日本にてあのアラスカ条約に基づいた、開校が予定されているIS専門の国際教育機関の話をした。MAOもその教育機関についての概要は既に知っていたが、逆にデメリットしかもたらさないと考えて隠れ蓑のリストからは除外していたのだ。

 

『ほう?お前がまさかそこを選ぶとはな。何故だ?デメリットしかないとは思うが…。』

「あの場所は名目上、あらゆる国家や組織の干渉が制限されるそうだ。まあ数年もすれば有名無実化もするかもしれないが…。」

『で、その学園を乗っ取るというわけか?うまくいくとは思えんがな…。で、来年には入学するのか?』

「出来ればそうしたいが、一夏のこともあれば、まだ完全に我々の技術や力は完成しきっていない。そうだろう?だから今はやめておくよ。」

『確かに其れはそうだが…、なら、どうするつもりなんだ?』

 

 

 

頂上まで登りきった後、箒は路肩にトラックを寄せて止めると、腕時計を外して其れをMAOに見せた。

 

『この時計がどうかしたのか?』

「文字盤に書かれた企業の名前を見てみろ。」

 

言われるまま文字盤をみると、そこにはALCOTTと銀色で銘が打たれている。MAOは言った。

 

 

『……まさかその間"オルコット財閥"にでも就職する気か?あのイギリスの怪物の。まあ、間違いではないだろうが……。』

「オルコット財閥ほど、徹底した秘密主義に守られ、世界経済を操れるほどの存在は他に存在しない。隠れ蓑にするのであれば最適だろう。其れに、現総師は私のように(・・・・・)同年代の少女だと聞く。その時点で何かおかしいとは思わないか?」

『お前がそう思うのであれば、おそらくそういうことだろうな。納得は出来た。だか、一つ問題がある。』

「なんだ?」

『腹が減った。』

「おいまたその話か、さっきから食い物の話しかしていないじゃないか。其れに腹が減るくらいならこんな無駄なことする必要は無かっただろうが。」

『もう疲れてるのにまた飛ぶなんざ真っ平ごめんだ。其れにたまには無駄を楽しみたいんだよ。』

「そんな暇あると思うか?」

『ああ大いにあるね。其れに見ろ、もう街の明かりが見える。』

 

 

疲れと空腹、其れにMAOとの話に夢中で気がつかなかったらしい、煌々とした街明かりが、山の上のトラックに向けて放たれている。こんなに目と鼻の先に明かりがあることに気がつかないとは、おそらく自分も戦闘による疲労やダメージが溜まっているのだろうと、箒は考えた。成る程確かに飛ばないのは正解だったかもしれない。

 

 

「こんな街明かりに気づかなんだとは…、今までよく運転出来てたな…。仕方ない、今日は宿でも取って一泊するか。」

『さっき無駄なことはナントカとか言ってた奴はどこのどいつ(・・・)かな?』

「お前な、全くもって面白くもなんともないギャグで突っ込むのをやめろ。いい加減このくだりは飽きてきたぞ…。」

 

 

そういって再び箒とMAOは、側から見れば独り言にしか見えない会話を再開したが、ふと箒はバックミラーを見た。

 

ミラーには何も映っておらず、ただ先程まで進んできた暗い山道を映し出しているばかりだったが、この道の向こうに繋がっているであろうドイツにいる、2人の姉妹のことを思い出した。

 

 

今回箒たちがこの場所へ訪れたのは幼馴染であり、まだ見ぬ原石(同胞)である少女を助け出すことが目的だった。そして今や其れは、大きな副産物を伴って果たされた。

 

 

 

一先ずは矛先は再び自分達に向けられることだろう。もちろん其れは不味いことだが、少なくとも今後しばらくは安全だろう。もうぎゃっぴーによる護衛任務を終了してもいいだろう。箒は、なんとなくそう思った。

 

 

(それにしても不思議だ…、他の存在など、あくまで道具としか思ってこなかったのに……。人間の身に堕ちた影響なのか、それともアイツ(・・・)やMAOの影響なのか……。)

 

 

そこまで考えて、いや今はよそうと箒は被りを振った。目先の脅威を排除しても、その奥に待ち受けている存在はより強大だ。その為にも、今は充分な力と技術、それに休息が必要だ。

 

 

 

(これから恐らく、一番大変なことになってくるかもしれないが…。兎に角しっかりな、織斑千冬。……後は任せた。)

 

 

 

箒は思い切りアクセルを踏み込むと、トラックを街まで急がせる。急加速するとは思わなかったのか、MAOが驚いた声を上げる。

 

『おおっ、急加速するとはな?何か不味いこと言ったか?』

「いや、別に。で、何の話だ?」

『ああ、少なくとも我々も万一の場合に備えて組織を名乗る必要があると考えてな?』

「2人しかいない"TEAM R-TYPE"とでも名乗る気か?」

『いや。どのみち味方は増えていくから2人しかいないというのは違うな。だが"TEAM R-TYPE"とは名乗らない。』

「ほう?じゃあ何だ?下手くそなヴィジュアルバンドみたいな名前はやめてくれよ。」

『ああ。そうだな…、ISと、ホントかどうかは別だがお前の本当の名前…、イリスの"I"に因んで…、"TEAM I-TYPE"とかどうだ?』

「……お前、病院行くか?」

 

 

一瞬の沈黙の後で箒が呟いたその一言に、MAOはショックを受けて傷ついたのか何も言わなくなってしまった。其れを見て、箒は思わず黒い笑い声を上げ、怒ったMAOに胸の谷間に侵入されて擽られてトラックを横転させそうになりながらも、明かりの灯った街へと消えていった。

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

 

後の歴史書を紐解いてみても、"TEAM I-TYPE"という名前は少なくともこの織斑一夏誘拐事件の直後には既に登場していたことは確実であるとされている。この後、この名前が再び登場するのは其れから5年後のことで、以来何年にも渡って多元宇宙にその名を轟かす組織になるのは、まだ先のことである…。

 

-エマ・クロフォード、ディアナ・ベラーノ他

「TYPE I-TYPE年鑑」78ページより抜粋(TEAM I-TYPE図書館蔵)-




A.「リンダキューブ」…

1995年発表、ハードはPCエンジン。8年後に隕石衝突による滅亡から逃れることの出来ない惑星ネオ・ケニアを舞台に、120種以上の動物を全て集めるゲームで、メインシナリオの一つがモロにクリスマスになっています。すこやかなクリスマスを送りたいカップルや受験戦争に疲れた学生さん、クリスマス商戦に敗れたサラリーマンや主婦の方、サンタさんからクリスマスプレゼントをもらえなかった子供達諸君、そして何よりクリスマスを一人でお過ごしのあなたにとってまさにうってつけ!決して、「R-18G指定にした方がいい」という評価をされたとか、「シナリオA〜CのうちAとBは鬱」とか、そんなことは
断 じ て あ り ま せ ん の で ご 安 心 を(にんまり



では皆さま、これで最後になりますが、楽しんでいただけましたでしょうか?

最後に、次回よりようやく原作1巻に入るのですが、それに合わせて本作のタイトルが変わります。どのようなタイトルになるのかはお楽しみに(ただし、ヒントは今回の話の中にあるので、時間のある方は、ぜひぜひ探してみて下さいな!)‼︎

今日は感想返しは出来ませんが、皆さまからのご感想等は私へのクリスマスプレゼントとして明日の朝への楽しみとさせていただきます!では皆さま、良いお年を‼︎HOHOHO、メリークリスマス‼︎

ではまた来年もよろしくお願いします‼︎


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IS学園
入学


皆さま、お久しぶりです。最近は最早クリスマスと年末年始の妖精と化しているどんぐりです。

今年最後にして平成終了が残り数分に迫った本日、「インフィニット・ストラトス 邪神と英雄達の系譜」が、
「I-TYPE」として装いも新たに、本日づけで再起動致します。内容はあまりしょっぱいものではございますが、楽しんで頂ければ幸いです。最後に今年も残りわずかとなりますが、来年もまた宜しくお願い致します。

……よゐこ勝てるといいなぁ、平成ジェネレーションズ見に生きたいなぁ。

兎に角、平成・2018年最後の「インフィニット・ストラトス 邪神と英雄達の系譜」改め、「I-TYPE」をお楽しみ下さい。


"其れで、これからどうするつもりなんだ?"

"とある部隊に引き抜かれたみたいでな。そっちに行くことになるな"

"……例の「共喰海兵隊」のことか?"

"おいおい、そんなものはたかだか風聞でしかないさ。いくらteam R-TYPEでも、流石に政治どころか民衆倫理にまで抵触するような危ない橋を渡るようなことを彼奴らがするわけないだろう。何より彼奴らのことは、この私が一番分かってるから平気だ"

"いや、同じ所属のお前が言うなというか、正直本当かどうか不安なところだがな…。それに、一度入れば定年すらないまま、戦死するまで戦わされると聞いたぞ。そうなったらお前……"

"もういいさ。『中尉』とはもう終わったことだ。彼女はもうグランゼーラとの混成艦隊に配属されている。多分生きて帰ることはないだろう。今さらもう遅いさ。それに、もう中尉とは約束したんだ。必ず帰る、とな"

"帰るって…、お前

"話は終わりだ、少尉。ウチの奴等が貴官を探しているぞ。早く行ってやれ"

"おい、話はまだ…!"

 

 

 

"……本当に、本当にそれで良いのか。生きて…、生きて帰れる保障など何処にも無いのに、何故そんな約束をする…。二人揃って死にに行くようなものじゃないか。TYPE-R(タイパー)は…、生き残ってなんぼのものと、お前が言っていたじゃないか…。何がお前を変えたというんだ……"

 

 

 

 

"マオ……"

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

黒塗りのロールスロイスが"その場所"に停車したとき、篠ノ之箒はまどろんでいた。昨日夜通し行った作業の進捗が悪かった所為だ。仮眠でも取らねば、これから行われる"入学式"でうっかり居眠りをしかねないだろう。

 

そう考えて、一先ず箒は仮眠を取ることにしていたのだが、寝つきのいい時に急ブレーキで叩き起こされた為に、その寝起きの第一声はどこか機嫌の悪さがあった。

 

「チェルシー…、起こしてくれて悪いがいちいち急ブレーキを踏むのはやめてくれないか?舌を噛みそうだ。というかメイドの運転じゃないだろう、特に急ブレーキは」

 

箒は自身の乗るロールスロイスの運転手、メイド服を着込んだ赤毛の女にそう言った。"チェルシー"と呼ばれた彼女は、運転席から振り返って、顔にしわを作ることなく言った。

 

「おや?箒様、てっきり夢枕に立ちすぎて冥土(・・)にでも行ったのかと」

「おい、しょうもない日本語で私をおちょくるな。お前といいMAOといい、なんでこうも腹を立たせたがるんだ?」

「……可愛いからじゃないですか?」

「言ってるお前が、疑問形で私に聞いてどうするんだ?」

「至極どうでも良いからですよ。セシリア(・・・・)様より、少しユーモアの勉強をした方が良いと勧められたから、その練習をしているだけのことです」

「だとしたら、お前は永遠の落第者だろうな」

 

そう言ってロールスロイスのドアを開け、そのまま会場へと向かおうとすると、箒はチェルシーに呼び止められた。

 

「箒様、私の運転はメイドがする者ではないとおっしゃいましたが?」

「ああ、言ったな」

「何故急ブレーキだけがいけないと?」

 

其れを聞いた箒は、ふむ、と唸ると、躊躇いがちに口を開いた。

 

「……情けない話だが、正直"急停止"は苦手なんだ。全てにおいてな」

「ああ成る程、ご自身の歯止めの効かなさを反省しているのですね?」

「馬鹿か、そんな話じゃない。急停止は、アレは…、嫌なものってだけだ。すこぶる、嫌なものさ。いや、ホントに」

「ああ…、そういう……」

 

箒の様子を見て、チェルシーは気づいた。恐らく、おととい行われた開発中の新型機のテストのことだろう。その前のアレは酷かった、より安全性の上がった件の新型機と同じく、都市部などのような入り組んだ地形であれば誰も追いつけない反面、コクピットやブースターのシステム、サイバーコネクタ、その他もろもろを根こそぎアップグレードしなければ、どう頑張っても"「トロピカルな赤いカクテル」製造機"にしかならない、あの……。

 

「時間がないんだチェルシー、もう私は行くぞ。アイツ(セシリア)を待たせたら面倒だ。行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。……箒様?それとマオ(・・)様の件ですが…」

 

其れを聞いて、箒は首を巡らせると大きくため息をついて、言った。

 

「………またか。」

「ええ、また二日酔いで寝ているようです。」

「アイツ、確かここの教員として赴任する予定だったよな…。大丈夫なのか?」

「昨日トロピカルエンジェルが無事完成した途端、"打ち上げだー!"、と言ってお酒を大量に飲み始めましたものねぇ。まあ、此方といたしましては、出来上がったマオ様は、見ていて其れは其れは、実に楽しかったのですが」

 

ちらと、箒に向かって笑みを浮かべるチェルシーだったが、その笑みには明らかに黒い嘲笑めいた影が含まれているのは明らかだった。此奴、さては愉しんでいるなと考えた箒は、額に手を当てながら溜息をついて言う。

 

「こっちとしては冗談じゃないな、二日酔いで入学式どころか新学期までも台無しにされるのは、なんだか先行きが思いやられそうでごめんだ」

「あら、ネガティブな考え方は体にも心にも毒ですわよ。箒様」

「もう二度と、あの炎の腕でぶっ叩かれるような羽目に遭うのが嫌なだけだ。……もう行くぞ」

 

そう言って、チェルシーの見送りの言葉を聞き流しながらロールスロイスのドアを閉めると、箒は目の前の建物を見上げた。

 

その建物は、湘南モノレール"横須賀線"の駅だった。この路線は、横須賀の沖合に佇む、これから箒が向かう場所の為に3年前に開通したばかりだった。駅構内に入り、路線図と時刻表を確認して改札を通り、二階のプラットホームへと続く階段を駆け上がる。

 

まだ四月なのか潮風が冷たいわりには、日差しは暖かく、駅のホームや側溝には風に乗せられてやってきたのか、桜の花びらが紅色の雪のように積もっていた。箒は、階段を上ってまず目の前に入った自動販売機と3人分の焦げ茶色のプラスチックのベンチを見つけると、そこに腰を下ろして持ってきたビロードの手提げ鞄を開けて、目当ての書類を取り出した。

 

その書類には、大きな黒文字で"IS学園入学資格証明書及び基本要綱"と題されていた。

 

「"IS学園"、か…」

 

そう言って溜息をついて書類を鞄にしまうと、箒は顔を上げてホームの景色の向こう側を見た。

 

沿岸部にあるこのモノレールの駅は、そのまま横須賀の沖合にある人工島にまで続いていた。この人工島は、各国によって創設されたIS操縦者の育成を目的とした教育機関が存在していて、この教育機関を設立する為に、浦賀水道や湘南モノレール、東京湾、みなとみらい、海ほたる、果てはアメリカ海軍横須賀基地などに至る関東沿岸部・海域全体が、環境を保全しつつ地形レベルで整備と再開発が行われたのは、当事者として関わった(・・・・・・・・・)箒にとっては既に過去の出来事であった。

 

「厄介事に巻き込まれなければ良いが…。まあでも、彼処には色々と"仕込んで"おいたからな。それに関してのことを考えるなら、少し楽しみなんだが……」

 

沖合の人工島を眺めながらそう独り言ちた箒は、否、銀髪の少女"雨宮月奈"は、懐からパイロットサングラスを取り出して掛け、ちょうど良く到着したモノレールに乗り込むと海上のIS学園へと向かっていった。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

第2回モンドグロッソ大会の最中に起きた事件の後、国連はIS運用協定、つまりはアラスカ条約に基づいて、とある教育機関の創立を日本政府に対して要請(・・)した。

 

それは即ち、IS操縦者ならびに整備・開発を行えるメカニックなどの育成を目的とした、IS関連技術・人材専門の特殊国立高等学校だった。

 

その名も、"IS学園"。

 

あらゆる国家機関に属さず、国家・組織問わず学園関係者全員への対外干渉の一切を全面的に禁止すると定められた、この時代の先を行く近未来のエデンの園は、日本とイギリス、アメリカなどを中心とした国際連合の主導により創立された国際的な特殊国立高等学校である。

 

ただ名目上国連の主導により創立したとされるこの学園だが、実際には危うく世界の軍事パワーバランスを一晩で崩しかける事態を起こした責任を、設立から管理に至るまでの莫大な費用の大半を開発国である日本政府に肩代わりさせる他、償いとして様々な負担を被るようにとアメリカを代表とした各国から要求されたというウラ(・・)の事情があるためか、21世紀のユートピアとして見るには些か不安要素が多すぎると考える者が後をたたない。

 

現にこの人工島は先の"伊豆大島の一件"も含めて、自治体や市民団体の反対を彼らの起こした"不祥事"で攻撃するという力技で押し切ってアメリカ海軍横須賀基地や浦賀水道付近の海域に造られたことから、それに纏わる黒い噂がまことしやかに囁かれている。その内容は実に矯激なもので、例えば市民団体のトップが"快楽をもたらす白い粉"でお縄になった、また一方では反対派の政治家や事業家が賄賂(あくへき)と心臓発作による"出来すぎたダブルパンチ"で放逐された挙句に、逮捕直前になって行方不明になった、そのまた一方では自治体のトップが夜釣りに行った翌朝に土左衛門となって出てきたなどと、挙げるだけでも枚挙に暇がない。

 

また、この学園の設立にイギリス側からの"一番深いところの"関係者として、アラブの石油王よりも裕福とさえ言われる『オルコット財閥』が関わっていたことも、この噂により一層拍車をかけた。

 

オルコット財閥とは、現時点では世界経済の一助を担うどころか、それよりも更に奥深く、それこそ"国際政財界のマリアナ海溝"と形容される場所まで食い込んでいる、世界規模で展開する大企業群のうちの一つなのだが、それらの企業同様、裏で一体何をしているのか全く分からないうえ、得体の知れない不気味さを感じさせていた。

 

それ故に、先の反対派の不祥事は連中の手回しの結果が高いのではと、恐れをなした多くの人々➖特にその手の話題(・・・・・・)に対して興味がある人々➖からは、この手の都市伝説を世間話だけでなく食事中にも軽々しく話題として出すのはタブーであるとする暗黙の了解が作られるきっかけになったことは、言うまでもない。

 

 

そして勿論、雨宮月奈…篠ノ之箒もこのIS学園の設立に一枚噛んでもいた。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

桜の舞い散るIS学園の正門をくぐった箒は、上着のポケットにパイロットサングラスを仕舞うとあたりを見渡した。

 

「入学式、か…。最近"新入生のみなさん、ようこそおいでくださいました、早速ですが貴女がたにはちょっと殺し合いをしてもらいます…"って、何かあったような気もするが、さて…」

 

レンガで舗装された道を歩いて行く女子生徒たちを見ながら、箒は春風が吹く中を歩いていこうとしたが、偶々桜並木の中で、三人の上級生らしき女達に絡まれている同じ1年生と思しき、水色の髪と今となっては珍しくなった眼鏡をかけた少女の姿を見た。様子から見て、どうやら要らぬ難癖をつけられているようだな、と考えた箒は、暇つぶしも兼ねて助けてやることにした。

 

「ま、助けてやるにしても、やることといえば…、こうして…、こう、だな」

 

そう言って、虚空に向かって手を差し伸ばす。

 

否、正確には空中に発生させた異相次元に繋がる空間の穴に手を突っ込み、その穴を上級生の女子生徒達のスカートの中に繋げただけのことである。

 

そして暫くの間その穴の中を掻き回しているうちに、そこから色とりどりの三角形の布きれを3枚取り出した。それと同時に向こうが騒がしくなったが、箒は、これについてはご愛嬌ということで、と声を出さずに笑った。

 

スカートと胸を押さえながら、耳まで赤くなった涙目の女達と、とまどいながらも遅れて道に出てきた水色の髪の少女を見送ると、箒は近くの桜の木に登って下着を物色し始めた。

 

「ふむ、こっちは白のお子様か。体型と同じく子供だなぁ。で、右手のこっちは大人なレースの黒、でもってストッキング付きのヒモ。女しかいないのに、こんなもの履いて一体誰を引っ掛けるつもりだったんだ?あ、女好きか。なら此奴は後でじっくりと堪能させてもらうとして、次。左の水色の縞々。またヒモか。なら此奴もリストに入れて……」

 

後でこの下着を上手く利用して、あの悪女達には、ちょっとした自分の捌け口になってもらおうと、箒は考えた。今後のバイドやレイブラッド達との戦いに備えて、今のところは(・・・・・・)無辜の民衆に手を出さないように、箒も"彼女たち"も気をつけている。バイドなどとの戦いに打ち勝つ為にはこの地球に存在する全ての国家の結束が必要不可欠である。そのため、下手に一般人に手を出そうものなら、前世よりも手酷い、悲惨な目に遭いかねない。これまで人類に対しては、興味が無いどころかむしろ邪魔な存在でしか無いのだが、前世の経験上彼らが地球ごと軒並みバイド化されるのは自分達にとっては死活問題で、その影響を諸に食らうという意味ではかなり拙い事を示していること、また何よりも、能力は欲しいが人類以上に傍若無人な振る舞いをし、それどころか自分達すら取り込もうとするバイドやレイブラッドらに対して我慢ならないため、どのみち人類の力を利用せざるを得ないという理由もあった。

 

「アヤナならまだ我慢は出来たんだがなぁ…。はあ、どのみち人間の事を飽きぬようにして守り通すという意味でも、人間のことをよく知ることこそが近道かもな……」

 

その後、箒は暫く黒いレース柄のショーツを弄んでいたが、入学式も近いこともあり直ぐに桜から降りると、そのまま入学式の会場である体育館へと向かう。

 

だが、ここで箒に声を掛けた人物がいた。柔らかな笑みを浮かべ、スカートの裾を摘んでお辞儀をするウェーブのかかったベリーロングの金髪と、サファイアブルーの瞳を持った少女だが、箒にとっては頼もしく、利害どころか全てにおいて自分の助けになるが、その分かなり面倒な類いの女が、目の前に現れたのである。

 

「あら、昨晩以来になりますわね。篠の…、"雨宮"さん」

 

だが彼女が現れたのを見て、箒は心の内ではあるものの、逆に笑みを浮かべた。確かに面倒な女だが、その分高校生活は思いっきり楽しめる(・・・・・・・・・)ということでもある。無論、彼女のように試作機を壊すような真似だけはしないよう気をつけたり、ある程度の線引きはするよう、努力はするつもりではあった。

 

そんなことを思いながらも、何時もこの少女の所為で試作機破壊の被害に遭う、自らの相棒の名前を出しながら目の前の少女の名を呼んだ。

 

「"マオ"ならまだ来ていないぞ、"セシリア"」

 

言うなり、少女ーー"セシリア・オルコット"は微笑んで手を差し伸ばし、言った。

 

 

「存じておりますわ。でも今(わたくし)は、貴女と共に入学式に参加したいんです。マオさんのことはこの際宜しいですから、参りませんか?」

 

…但し、その影は妖しく揺らめいていた。

 

///////////////////////

 

青白く光るモニターの立ち並ぶ、ゴミで散らかった部屋の中に沈む少女は、微睡みながらもゴミの山の中から鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ました。IS学園の入学式まで時間が無いこともこの時知ったが、どうせ間に合うとでも言うのか、ゆっくりと準備していく。トルコ石色の髪に、琥珀色の瞳を持つ小柄な少女は、己の胸の平坦さを嘆きながら着替える。溜息をつきながら、大人しめのツーサイドアップになるように髪留めをして、部屋を出る。

 

「……今日も、世界を救いに行ってくるよ。ガザロフ中尉」

 

そう言って少女ーー"マオ"は部屋から出て行った。



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