『A』 STORY (クロカタ)
しおりを挟む

外伝
【外伝】ガンプラバトル選手権を実況するスレ


感想蘭で要望があったので書いてしまいました(白目)

注意

・スレ形式
・時系列はプロローグ
・スパロボ
・微スパロボネタ


 スレ形式が苦手な方は、ご注意をー。



1、名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 このスレはガンプラバトル選手権、中高生の部の実況スレです。

 

2名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 次のバトルはなんだっけ?

 

3名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 茨城県と和歌山県のチームのバトル。

 いやあ、どんなバトルを見せてくれるんでしょうか。

 

4名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 今期のダークホースは西東京のトライファイターズだとして……茨城県ってそんな目立った成績残してたっけ?

 

5名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 みんな大会って実際に見てるの?

 俺、ネットで配信されてる生放送見てるんだけど。

 

6名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>2

 チーム『イデガンジン』とチーム『ノワール・ノワール』のバトルですよー。

 

7名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 去年は確か別のチームが出てたよ。

 白色のバンシィを使ってそれなりに強かったけど、三回戦で負けてた。

 今年は新しく来たチームだね。

 

8名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 そんな期待はしてないな。

 ガンプラ学園が無双して終わりっしょ

 

9名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 確かにガンプラ学園は反則的に強いよね。

 

10名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 この二チームのデータを教えてくれー

 

11名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 試合開始3分前。

 でもこのスレは人が少ない。

 

12名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 実況するよりニゴ生見た方が速いからなwww

 

13名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 今年有力そうなファイターは少なそうだなぁ。 

 

14名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>10

 チーム『ノワール・ノワール』だけ知ってるので紹介します。

 黒いカラーリングのガンプラを用いることで有名なチームで、今年で三回目の大会出場になる常連校。

 

 県予選ではストライクノワール、黒いヤクト・ドーガ、クロボンX2で猛威を振るった。ファンネルにオールレンジ攻撃、バスターランチャーによる大火力、ノワールのバランスの良いポテンシャル。

 中堅チームって所。

 

 チーム『イデガンジン』は今年初めて大会に出場するチームだから分からない。

 

 

15名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>10

 ありがとう。

 

 しかし、経験的にはノワールノワールの方が上手だから、そっちの方が有利かな?

 

16名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ぶっちゃけ、無名チームより実績のあるチームの方が強く見れるよね。

 

17名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 確かに。

 

18名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ………そう言ってられるのも今の内だな。

 

19名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 この住人は、チーム『イデガンジン』の恐ろしさを知らないんだ。

 

20名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 どうせみんな……いや、まだ言うまい。

 

21名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 

 >>18~>>20

 お前等どうしたwww

 

22名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 フフフ……。

 

23名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 一体チームイデガンジンに何があるんだwww 

 

24名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 バトル始まるぞ!

 

25名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 きたあああああああああああああ!!

 

26名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 バトル開始だァァァァァァ!!

 

27名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ガンプラバトルゥゥ!レディィィッファイト!!

 

28名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 チームノワールノワールからは、ノワールクロボンヤクドか……。

 

29名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あれ、何かイデガンジンのガンプラがガンプラじゃないぞ?

 

30名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ………。

 

31名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あ、あれ……?

 

32名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ガンプラバトルだよな?これ、何でジンクスの後ろに神様がいるんですかねぇ?

 

33名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ま、まさかチームイデガンジンの名前って……。

 

34名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 茨城県は魔境だったなぁ。

 

35名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ジム神とザク神様が降臨なさったあああああああああああああ!!

 

36名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 もう駄目だおしまいだぁ……。

 

37名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 チーム『イデガンジン』

 大会初出場のチーム、リーダーであるジンクスを基盤として大会で暴虐の限りを尽くした化け物チーム。決勝では前回大会出場の青嵐学園を血祭にあげた、歴代最強チームと噂されるチーム『冥王』のガンプラ、冥・Oに勝利を収め、全国大会へ出場するに至った。

 

 県大会実況スレは、阿鼻叫喚に包まれ、戦う相手チームは供物と呼ばれていた。

 

38名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 どうなっているんや!

 これおかしかないか!?一回戦で拳法使う奴いて爆笑したけどこれシャレにならんやつやないか!?

 

39名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 冥王……?

 冥・O………冥王計画?

 

 いや、馬鹿なそんな、え?

 

40名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あのジムイデオンガン持ってっぞ!?

 

41名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ガンド・ロワ「出番か?」

 

42名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>39

 

 調べた。

 マジ冥王計画だったわ。

 前県代表一方的にボコしてて声震えたわ。 

 

43名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>41

 色々滅ぶからやめてください。

 

44名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あ、ジンクスビーム撃った……外したwww

 

45名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 下手くそか!

 

46名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 いや待て、ノワノワの後ろのデブリに当てて陣形崩したぞ。

 

47名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 神様の先兵やぞ!!そら強いにきまっとるやないか(テノヒラクルー)

 

48名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

先兵違う、あれは神クスです。

 

49名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 え?神……何?

 

50名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あ、イデオンガンに光が―――― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

150名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 まとめ。

 

 ジンクス、ビーム撃って敵を攪乱。

 イデオン、イデオンガンぶっぱでヤクド、クロボンX破壊。

 ガンバスター、破損ノワールにとどめのイナヅマキック。

 

 

 ……いやあ、ノワノワは強敵でしたねぇ!

 

151名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 茨城は魔境ってはっきり分かんだね。 

 

152名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 やべぇ……やべぇよ。ガンプラ次元にスパロボ次元の連中がきやがった……。

 

153名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 どうせみんなスパロボになる。

 

154名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 今年の大会は荒れる(確信)

 このチームはガンプラ学園不敗神話を覆してくれるに違いない。

 

 神だけに。

 

155名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ガンバスターを作ってくれる人が居てすごくうれしい。

 

156名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>153

 

 なんでそんなこと言った!言え!!

 

157名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ジンクスの場違い感半端ないっすわwww

 

158名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 確かにジンクス場違いな感じする。

 出る作品を間違えた感がある。

 

159名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 出る作品間違えたのメンバーの方なんですが……。

 

160名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 いや、スパロボでいうならジンクスが一番やばいぞ。

 県大会見ている連中と地元の連中なら分かると思うけど、ジンクスのファイターは正直バケモン。

 

161名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 だよなぁ、今回は控え目だったけどあのジンクス明らかに動きおかしいもんな。

 

 

 

 

 

 

 あ、ガンバスターもイデオンも十分おかしいけどな!!

 

162名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 県大会見てない俺にだれか教えてくれ……。

 

163名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 何せガンバスター(未完成)をほぼ即殺した冥・Oを倒す奴だぞ。あれが場違いなら俺ガンプラバトルの自身無くすわ……。

 

164名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ジンクスのファイターのことまとめてみる?

 

165名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>164

 ありがてぇ

 

166名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>164

 お願いします

 

167名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>164

 お前にはフフフ……する権利をやろう。

 

168名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 フフフ……

 

169名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 フフフ……

 

170名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 フフフ……

 

171名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 まとめた。

 あくまで私の目で見たことだから鵜呑みしないように。

 

 ジンクスⅣのファイター、AR(本名出すのはダメかと思ったのでイニシャルだけ)

 

・茨城県でそれなりに有名なジンクス乗りで、父親が『荒熊』って呼ばれていたらしい?大会での決勝までの戦績はそれほど目立つような華々しいものじゃないけど戦い方が玄人好みの堅実なタイプのファイター。

 大会初出場ともあって、ほぼノーマークらしかったんだけど、決勝戦対チーム『冥王』戦で注目されることになる。

 

 一応、『冥王』のチーム編成と性能。

 ジ・Oの改修ガンプラ、『冥・O』。

 サイサリスの改修型、サイサリス・ボーグナー。

 サイサリスは変わらない感じだったけど、ジオがやばい。

 

 ちょっと軽くまとめるから待って。

 

172名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 まとめ乙。

 ジオからゼオライマーとか全く想像できないけど。

 

 荒熊って、第三回世界選手権ベスト8の人の息子なのかよ!?

 選手権出禁組じゃねぇか!!

 

173名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>171乙

 

 てか今、茨城県県大会決勝の動画見てるけど、なんですかこれ。

 戦闘音だけ聞こえるけど、冥・O何してるかまったく分からん。え?まさか原作さながらの理不尽攻撃すんの?

 

174名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 対晴嵐学園から見てるけど……(震え声)

 これ勝つの無理だろ。初見じゃなくても回避無理だわ……。

 

175名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 動画サイトにうpされたものはバトル中の声とか省かれているからね。

 決勝の時は、ジンクスのファイターが謎解きみたいに言っていたから分かったけど、ふつう考えつかないよな。

 

176名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 そもそもいきなり手足が爆発するとか、レナート兄弟のタイムストップ作戦思い出すわ。

 

177名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 まとめた。

 

 冥・Oのここがヤバイ。

・不可視の攻撃で四肢を爆発させてくる。

・ファイター自身そもそも並じゃない。

・メイオウからは逃げられない。

・粒子量がおかしい、多分外部から吸収してる。

 

 

178名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 これどうやって勝ったの?

 というよりこの不可視の攻撃のタネって何?

 

179名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ARさん曰く、クリアファンネルミサイル

 ファンネル積んでるジ・Oなんてジ・Oじゃない!って思ったけど、タイタニアからの派生って聞いてようやく理解できた。

 

 ……でも納得した訳ではないがな!

 

180名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あ、なるほど。

 タイタニアくっそ懐かしいなぁ。

 

181名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 クリアファンネルミサイルかー、あるあrねーよ!!

 どっちにしろ避けられねぇじゃねーか!!

 

182名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ところがどっこいジンクスは対処したんだなよなぁ。

 

183名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 見えないミサイルとか、普通のファンネルよか性質悪いよな。使い捨てだけど、無線兵器だから自由自在に動かせるし、威力も少なくとも前県代表バンシィの腕ぶっ壊せるくらいだし。並のシールドとかバリアだったら、連続での爆発で突破できそうだし。

 

 つーかあのジンクスがおかしいんだよな!!

 俺会場で見てびっくりしたもん!いきなり投げたサーベルでビームコンフューズやったと思ったら、空中で何かが爆発したんだぜ!?観客全員の目が点になったわ!!

 

184名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ビームコンフューズって使えたんだ……私、サーベルにビーム撃っても拡散してくれなかった……。それにARさんって左腕破壊された直後に、いきなりサーベルを持つ手を振るったんだよね。全然見当違いの方向に振るったから「何!?」と思ったけど、あれって近づいて来たクリアファンネルを切り落としたんだよね……次の瞬間には爆発してたし。

 あれどうやって気付いたか分からないんだけど。

 

185名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 透明且つ無音で近づいてくるファンネルミサイルに気付くのは不可能……と思ってた時期がありました。

 

186名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 決勝戦見た。

 場違いなんて言ってすいません。

 

 最後なんて泥臭い戦いだったけど魅入った。

 

187名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 熱いよな最後。

 メイオウだ終わりだぁからの、イデオンとガンバスターに守ってもらってからのトランザム、からの、クリアパーツ仕込みのランスでのとどめ。

 

 この流れ最高だった。

 チーム全員で勝ち取った感があった。

 

188名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 つーか、県大会はジンクスⅢだったんだな。

 ……あれ?ジンクスⅣってキット化されてたっけ?

 

189名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>188

 発売されてないから、多分自作。

 今日のバトルの出来を見る限り、ビルダーとしても一流だと思う。

 

190名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 今年はイデガンジン応援するわ。

 イデオンもガンバスターも好きだし。

 

191名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 俺も応援するわ、ダイナミックなバトルしてくれるだろうし。

 次のバトルどことどこだっけ?

 

192名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 どこだっけ……チーム『凶鳥の羽ばたき』……だったかな?

 

193名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 凶鳥……?

 

194名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 おい……それって……ヒュッケb―――

 

195名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 まさかヒュッk

 

196名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 >>194>>195

 

 バニシングされてしまったか……。

 

197名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 無茶しやがって……。

 

198名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 でも本当にヒュッケだったら笑えない。

 もし出たらゲッター作って来年大会に出るわオレ

 

199名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 つ佐賀県代表チーム『大黒刃』

 

200名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 アイエエエエエエエエ!?ブラゲェェェェ!?

 

 

 

 

 




何故書いてしまった(白目)
外伝なので続くとしたら本編が終わったら、ですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
プロローグ


 リハビリがてらに短編を一つ。

 オーラバトラーが出れるなら他の作品も行けるのではないか?という単純な思考の元、書いてみました。
 後、劇場版イデオンで、少しだけセンチになったから。

 時系列は全国大会らへん。



 ガンプラバトル、それは自分たちで作ったガンプラを、専用のフィールドでプラフスキー粒子で操り、戦わせる競技。

 ガンプラファイターは、それぞれの趣味嗜好、こだわりで選び、作り、改造したガンプラを楽しむこの競技は瞬く間に一世を風靡し、世界に名を轟かせた。ガンプラのコンテストも行われるし、ガンプラバトルの大会なんてものもある。

 しかも大人から子供まで楽しめる。

 努力さえすれば世界大会にだって出る事もできる。大人の力に子供が勝てる訳ないって、普通は思うかもしれない。自分でもそう思っていた。だけど7年前の世界大会、大人達に混ざって死闘を繰り広げる『彼ら』の姿を見て、考えを改めさせられた。

 

 俺も世界に行ってみたい。

 

 当時9歳の俺の言葉に父は、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は経ち、あの世界大会から7年の時が過ぎた頃、俺、アンドウ・レイは県を代表するチームの一人として、ガンプラバトルの全国大会、『全日本ガンプラバトル選手権』に出場していた。

 ずっと待ち焦がれていた全国という舞台。

 全国大会の猛者達との戦いを前に俺の心はひたすらに滾っていた。自分の作ったガンプラがどれ程通用するのか、相手はどんなガンプラを作って来るのか。そんなことを考えていると昂ぶりが止まらないのだ。

 一回戦のチーム『トライファイターズ』の戦いはとても素晴らしいの一言に尽きた。合宿の時とは比べものにならない程の改造を施していた彼らの機体は、同じガンプラファイターである自分から見ても舌を巻くほどのものだった。

 

「………よし」

 

 自分達も負けてはいられない。俺にはチームメイトがいる、地区予選を勝ち抜いてきた仲間達がいる。

 一つ年下だが、どちらも可愛い後輩。

 

「行くぞ……コスモ、ノリコ」

「はい!!」

「ええ!先輩!!私達の力を見せつけてやりましょう!」

 

 キャラが濃いのは難点だが、強く頼もしい仲間達。

 気合いの入った声を出した男子の名はユズキ・コスモ、赤いアフロが特徴の生粋のジム使いだ。試合の度にジムを改修しており、いまやそのジムの姿は、赤色に彩られ、見た目は武器が無いように見えるが、全身にミサイルを内蔵、その手首からはビームを放つことができる。しかも恐ろしく耐久力とパワーが高いというお墨付きだ。

 

 女子の方はタカマ・ノリコ、綺麗な黒髪を持つザク使い。彼女もコスモのように試合の度にザクを改修している。その為か、コスモのジムと同じように元の姿からかけ離れており、黒色に彩られた装甲にスーパーロボットのようなビジュアル、頭部には星のような突起が創られていた。僅かにザクの面影が残っている位に変り果てている。

 

 どちらもオリジナリティがある素晴らしいガンプラだ。

 でも何故かガンプラの名前を教えてくれない。名前がないのかと思って一度聞いてみたが、どちらも『既に名前は決まっている』らしい。

 今日の試合の後に教えてくれるそうだが、なんだろうか……。

 

『チーム『イデガンジン』対、チーム『ノワール・ノワール』とのバトルを開始いたします!』

 

 チーム名はノリコが決めた。理由は分からないが別に気にする事でもない。相手チームを見据え、BASEを設置し、ガンプラを置く。

 

 俺のガンプラの名はGN-XⅣオリジン、劇場版機動戦士ガンダム00に登場した、GN-XⅢの次世代機である。ジンクスⅣはまだHG化はしていなかったが、ジンクスをこよなく愛する俺はジンクスⅢから自分で作ってしまった。だからオリジナルの意味を込めて『オリジン』と名付けている。

 それにジンクスⅢでお馴染の突撃槍も装備させている。色々なギミックを施しているからとても使い勝手がいいし、なにより槍は素晴らしい……。

 

「……ジンクスⅣオリジン、アンドウ・レイ、出るぞ」

「タカマ・ノリコ、行きます!!」

「ユズキ・コスモ、発進する!!」

 

 火花を散らしながら、俺のジンクスがフィールドへと飛び上がる。フィールドは宇宙、三体三のチーム戦。バーニアを吹かしながら、コスモとノリコの機体を視界に収める。

 

「コスモ、ノリコ、俺が先陣を行く」

 

 地区予選と同じ戦法、俺が近接戦闘を仕掛け、後から続く形でノリコが追撃、コスモに後方支援をしてもらう。

 前方には既に敵の姿が見えている。見えるのは二つの三つの『黒』。チーム『ノワール・ノワール』はストライクノワール、クロスボーンガンダムX2、黒いヤクト・ドーガを駆り、前方からスラスターを噴かせ接近してくる。砲撃型のX2とファンネルを使うヤクト・ドーガの連携は厄介だ。

 まずは俺が先行して攪乱させて、分断させるのが最善手だろう。

 

「いえ、まずは俺に任せてください」

「……?」

 

 しかし、俺の指示に対してコスモの操る赤色のジムが、両手に握っているキャノン砲のようなものを掲げる。メガバズーカランチャーを改造したものか?成程、それならば先陣を切るにはもってこいの武装だ。

 

「任せたぞ」

「ありがとうございます!」

 

 こちらに礼を言うや否やその場で急停止し、キャノン砲から伸びるコードを自身の胸部に接続させる。すると、砲身が徐々に震えていく。

 だが、敵も既に射撃体勢に移っている。X2がバスターランチャーをコスモのジムに照準を向けている。流石全国大会、あの距離からでも狙ってくるか……だがしかし!!

 

「その距離は俺の距離でもある!!」

 

 GNビームライフルを放つ。当たるなんて思ってはいない、相手の動揺を誘えればそれでいい。放たれたビームは敵機MSの背後にあるデブリに直撃し爆発。その爆発の余波で砕け散ったデブリの破片が敵機チームに襲い掛かり、連携を乱す。

 

「流石です!先輩!!」

 

 まぐれ当たりもなんとやら……運も実力の内。

 

「油断は禁物だ。ノリコ!コスモが討ち漏らした敵を討つぞ、コスモ、チャージが済み次第それを撃て」

「はい!」

「分かりました!!」

 

 GNビームライフルを腰にマウントしながらコスモの方に振り返ると、彼の持っていたキャノン砲、さらに彼のジムの顔と各所までが淡い光を放っていた。

 凄まじい粒子量だ……これなら敵を一気に掃討する事もできるかもしれない。

 

「イデオンガン!出力30パーセント!!行ける……ッ」

 

 コスモが叫ぶ。イデオン?全く聞いたことない武装名だ。

 なんだろうか、俺自身結構なガンダムオタクだけど、全然知らない。オリジナル武装だろうか?というか30パーセントで大丈夫なのか?

 

「撃ちます!!」

 

 イデオンガンと呼ばれたキャノン砲の砲身から眩い光が走った瞬間―――

 

 

 

 

 宇宙が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なに……あれ」

 

 全国大会、第一回戦で無事勝利を収めたチームトライファイターズ。勝利の余韻を噛み締めながらも、これから戦うファイターたちの戦いを分析するため、会場に来ていた私達の目の前のモニターには衝撃的な光景が広がっていた。

 

 赤色のジムの持つメガバズーカランチャーに似た砲台から放たれたビーム………いや、あれはビームなんて生易しいものじゃない。

 竜巻のように広がり、うねり狂った粒子の奔流は、チーム『ノワール・ノワール』のMSを粉々に吹き飛ばしてしまった。

 なんなんだあの威力は、まるで台風のように広がり、射線上を漂うデブリすらも物ともせずに破壊し尽くした。会場はそのあまりの威力に呆気にとられている。それも当然だ、あんな光景見せられて絶句しない方がおかしい。

 あれでは、IフィールドもGNフィールドも意味をなさない。

 

「ユウ君……あのガンプラは……?」

「ジムの改修機だという事は分かりますが……それ以外は全く……」

「スッゲェ……ッレイのチーム『イデガンジン』……全国大会には、キジマ以外にもこんなに強い奴らが沢山いるのか!!」

 

 セカイ君はいつも通りで安心したけど……て!?

 

「何でセカイ君がアンドウ・レイさんの事を親しげに呼んでるの!?」

 

 合宿で挨拶ぐらいしかしていなかったじゃん!?

 

「え?ああ、ビルドバーニングの腕が壊れた時、直すの手伝ってくれたんですよ」

「敵チームのヤツにビルドバーニングを触らせたのかセカイ!?」

「あの子だけじゃなかったの!?」

 

 思い出すのはあの銀髪の可愛い系の女の子。

 ……何かむしゃくしゃしてきた!!

 

「スゲェ良い人でさ、なんていうか、ガンプラをすごく大好きな人だなぁって……でも悪い事をしようって言う感じじゃなかった。あの子も『彼はガンプラに優しい人』って言ってたし」

 

 あの子ってあの子か?あの子なのセカイ君?

 

「……もう、今度からはむやみに他のチームの人にガンプラを触らせちゃ駄目だからね……でもよかった、手伝ってくれたのがアンドウ・レイさんで……」

「先輩もレイの事について知っているんですか?」

 

 それにしてもチーム『イデガンジン』。私達と同じ全国大会初出場のチームで、一度だけ合宿でバトルを見たけど……。

 

「ええ、『荒熊』の異名を持つアンドウ・セイジの息子であり、ジンクス使いとして有名なガンプラファイターよ。私達と同じ、大会初出場者という事もあって、少しだけ話をする機会があったのよ。セカイ君は合宿の時、一度だけ戦うところを見たでしょ?」

「はい!レイのガンプラ、強かったです!」

「……セカイ君、アンドウ・レイさんは、高校生だから私達より年上なのよ?」

「……あ!……や、やっちまった……俺ずっと、呼び捨てにしてたぁ……」

 

 しまったとばかりに表情を青くさせるセカイに、少しばかりに微笑ましいものを感じながらも、あの赤いジムについてラルの意見を聞こうと思い、彼に尋ねようとする。

 

「彼を筆頭としたチーム……ラルさんは何かあのガンプラについて――――っ!?」

 

 隣を見て驚く。私達の隣に座っていたラルさんは、驚愕の表情を浮かべていたのだ。ここまで動じているラルさんを見たのはある意味で初めてだった。

 私の声が聞こえていなかったのか、ジッとモニターを見つめていたラルさんはボソリと何かを呟くのが聞こえた。

 

「イデオン」

「イデ……何ですか?」

「ガンダムの生みの親、トミノ氏が創ったロボットアニメの一つ……それがイデオン」

 

 その名前なら誰でも知っている。彼がいなければ、自分はガンプラバトルをすることもなかったし、この世にガンプラも生まれる事はなかっただろう。

 

「それに、もう一つのザク……あれは――――」

 

『何だソレはァァァァァァァァァ!!』

 

 モニターからファイターの絶叫が聞こえてくる。

 すぐさま目を向けると、そこには片手と片足を失ったボロボロのストライクノワールが、フラガラッハを片手にチーム『イデガンジン』に襲い掛かろうとしている光景だった。

 回避してもあの損傷具合からすると、何時爆発してもおかしくはない。それでも挑むのはファイターの矜持かはたまた意地か、どちらにせよその気概は称賛に値するものだった。

 

 あの砲撃をしたジムは全身から熱を放出し動かなくなっている。だが、ジンクスとザクが健在な所を見ると、勝機はもうないに等しい。

 

 スラスターから煙を上げながら突撃を仕掛けるストライクノワールを迎撃しようと、ビームサーベルを抜き放ち前に出ようとしたジンクスだが、それを遮るように、『腕組み』をした黒色のザクがジンクスとストライクノワールの間に入る。

 

『コスモが魅せたのなら、今度は私が先輩に魅せなくちゃ!!』

 

 腕組みが無駄に様になっているザクは、ストライクノワールに視線を向ける。

 

『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

 会場を揺るがさんばかりの雄叫びを上げる。同じ女子とは思えないほどの気迫。驚くのも束の間、タカマ・ノリコが駆るザクは、一気に上昇し、蹴りの体勢に移行する。

 

「な、なに!?まさかセカイ君と同じ……!?」

「いや違うぞフミナくん!あれは、あの技は―――」

「知っているんですかラルさん!!」

 

 ザクの脚の裏に電ノコのようなものが展開され、一気にストライクノワール目掛け尋常じゃないスピードで急降下してくる。あの速さ……ッ、瞬間的な速さならユウ君と同じかそれ以上……ッ。

 

『スゥゥパァァァァ!!イナズマァァァァァァ!!キィィィィィック!!!』

『嘘だろォォォォォ!?』

 

 避けられないと悟ったストライクノワールが振るったフラガラッハは一瞬の内に粉々に砕かれ、黒色のザクが放った蹴りが胸部に命中し、そのままの勢いで巨大なデブリに押し込む。

 

『こんなものじゃない!!このガンプラにはッ……先輩の……先輩の思いが……籠っているんだからァァァァァァァ!!!』

 

 瞬間、全身から稲妻が迸ると、そのまま勢いが衰えることなく、ストライクノワールごとデブリを砕き、爆発する。

 残ったのは、黒色のザク……いや、あれを本当にザクと呼んでいいのか分からないけど。

 

「スゲェ!!スゲェよあのガンプラ!!ラルさん!あれも何か知っているんですよね!?」

「あれはガンバスター……」

「ガンバスター……あのガンバスターですか!?」

「ユウくん知ってるの!?」

「え、ええまあ。でも1980年代のロボットアニメですから、さっきまで思い出せなかったのですが……でも、まさかガンプラとして作り上げるなんて……ファンとしては称賛されるべきですね……」

 

 確かにガンダム作品ではないロボットを作るのは素直にすごいと思う。

 7年前の世界大会出場者であった、ルワン・ダラーラさんのアビゴルバインの場合を考えると、そういう例がなかったわけではないけど……。

 

「作品自体はガンダムとは関係ないロボットアニメだが、ザクに似たモノアイと顔によって一部の者には『ザクの神様』と呼ばれている」

「ザクの神様ぁ!?ま、まあ確かに、あれを見ると神様と言われても納得せざる得ませんけど……」

「そして、先程のイデオンもそうだ。あれもまた『ジムの神様』と呼ばれている」

「今度はジムの神様……!?」

 

 今回の全国大会では神様と闘わなければならないということなのか。パワードジムを使っていた自分にとってイデオンというロボットは気にならない訳ではないが、今は今後の対策について考える方が重要だ。

 先が思いやられるが、ようやく念願の全国大会へ出場することができたのだ、負けるつもりはない!

 

「ガンバスターにイデオン、そのどちらも再現しているとなると、強敵となるのは間違いない。だが、最も注意すべきは、アンドウ君、彼だ」

「確かに彼の使うガンプラは完成度が高い、それにファイターの腕もかなりのもの……あの牽制射撃……一撃で相手のペースと連携を崩し、加えて、仲間の為のチャージ時間を確保した……」

「そうね、高火力を用いた戦術は確かに強力だけどいくらでも対策のしようがある。でも、アンドウ・レイさんのようなサポートと戦闘を両立させられるファイターは厄介……」

 

 ただのビームライフルで遠距離のデブリを狙い撃ち、仲間への隙を作った技量と計算高さ、流石ラルさんと同じく大会出場経験を持つ『荒熊』の二代目と呼ばれるファイター。

 

「それに彼のガンプラも、まだHG化されていないジンクスⅣ。彼もまた彼のチームメイトと同様に、自身の好きなロボットを自ら作り上げた生粋のガンプラファイターだ……もしかするならば、彼の協力によってあのガンプラが創られたのかもしれん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにあれ?え?なにあれ俺知らないよ?

 何でザクが電撃だしてんの?何でジムがフィールドのほとんどのデブリを消滅させてんの?

 

「先輩、ありがとうございます。貴方のおかげで俺のイデオンは完成しました。といっても、イデオンガン一発でしばらく動けなくなるくらいじゃ、真の完成とは程遠いかもしれませんけど……」

 

 試合後、静寂に包まれた会場の中でコスモはそう言ってきたが、俺のおかげってなんですか、俺そんな宇宙戦艦に搭載されているような広域破壊砲の作り方なんて教えてないよ。教えたとしてもプラフスキー粒子の応用とか、ガンプラの作り方ぐらいだよ!

 

「私も先輩のおかげでガンバスターを完成させることが出来ました!!」

 

 ノリコ君、俺は君にライトニングブラストを教えた覚えはありません。

 

「俺のおかげじゃない。お前たちの力でそれを作り上げ完成させた。だから俺はなんにもしてない」

「……そう言うと思っていました……なので、俺達は勝手に恩を感じて勝手に恩返しさせて貰います」

「ええ、先輩と一緒に来たこの全国大会、私達は貴方の為に全力を以て優勝を目指します!!頑張りましょう!!」

 

 あまり張り切り過ぎるのは良くないと思うんだ。だって君達の口ぶりからすると、まだまだ全ての性能を見せた訳ではないんでしょう?

 だって思い返してみれば、ガンプラ作るときの君達の質問どこか常軌を逸していたもん。

 『射程無限のビームサーベルってどうやったらできますか?』とか『ホーミングレーザーってどうやったらできるんですか?』とか『ビーム跳ね返すマントってどういうコーティングをしたらできますか?』とか、当時はそれに近いものを真面目に考えてあげたけど、到底再現できるものではなかったはずだ。

 だが、今回のバトルでコスモが使ったイデオンガン、あれはすごい。

 

 恐らく粒子圧縮を赤いジム、イデオン内で行わせ、圧縮させた粒子をイデオンガンへと転換させた。イデオンガンの役割は、あくまで圧縮された粒子エネルギーを増幅させて撃ち出すことでしかない。

 つまりイデオンガンをビームライフルのような単体での武装として考えるのではなく、イデオンとのセットで強力な武装として成り立つ、ガンダムXとサテライトキャノンのような関係にあると見ても良い。

 

 単体では再現不可能な威力を、機体と武装に『役割』を与える事でそれをクリアさせた。

 色々と課題はあるが、試行錯誤の末に導き出したものだということは分かる。

 

「……俺は嬉しいよ」

「勝てた事をですか?」

「いいや」

 

 こんな頼もしい後輩に巡り合えたことをだ。

 とびきりぶっ飛んだガンプラを作り上げた二人だが、まだまだ全国大会は始まったばかり、目標はガンプラ学園。こいつらと一緒ならば、俺は、俺達は戦える。

 

「あ、先輩!次の試合に備えて、冷凍光線を出したいんですけど、具体的にはマイナス一億度位の!!アドバイス貰えますか!!」

「俺もイデオンの装甲を強化したいんですが……具体的にはメガビーム砲に耐えられるくらいには」

 

 まずはこいつ等を自重させないといけないけどな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄まじい性能のガンプラ、イデオン、か……」

 

 今の若者にイデオンを知っている者が何人いるだろうか、恐らくシアに知っているかと聞いても分からないと答えられてしまうだろう。

 

「ああ、流石、レイのチームだけのことはあるぜ。まさかあのガンバスターを作り上げるたァな」

「意外だね。君がガンバスターを知っているとは」

「当然だろう。『トップをねらえ』は名作だからな」

「あ、ああ……」

 

 臆面もなく言い放つ、いかつい男、アドウ・サガ。

 まさか彼が堂々とファンを公言するなんて、普段の彼を見ている身からすれば意外だった。

 

「キジマ、お前の方こそイデオンを知っているじゃねえか。普通はいねえぜ?イデオンを知っている学生なんてな」

「笑止、俺の趣味は、ライディーン、ブレンパワード、キングゲイナー、リーンの翼、といったトミノ氏が手掛けたロボアニメを視聴することだ。生き甲斐と言っても良い。最近は、新しいガンダムでもあるGレコが毎週楽しみで楽しみで仕方がない」

「お、おう……」

 

 その反応は慣れている。

 

「アドウ、そういえば君はアンドウ・レイとは合宿の時に手合せしていたな」

「ああ、一度アイツとはバトルしたことがある……大した奴だったぜ」

「……面白い。やはりガンプラバトルはこうでなくては!!まだ見ぬ好敵手、まだ見ぬガンプラ!そしてイデオン!!」

 

 イデオン、最強ロボットの一角として位置するあのロボを模したあのガンプラとは是非とも戦いたい。柄にもなく興奮しているのは分かる。

 それも当然、凄まじい完成度で、ガンダム作品ではないロボットが今まさに動いているのだ。これで熱くならないはずがない。

 

「いつもより元気ね、兄さん」

 

 透き通ったような声が部屋に響く、声の主に目を向けるとそこには白髪の少女、キジマ・シアがにこやかな笑みを浮かべ、室内に入って来るのが視界に映った。心なしか上機嫌だ、何か良い事でもあったのだろうか?

 

「シアか、先程の試合、どう見る?」

「彼等のガンプラ、とても生き生きとしている。でも、まだまだ足りないみたい」

「ほう、それはもっと強くなる……いや、モデルに近づいていくと考えてもいいのかな?」

「兄さんの言っているモデルはよく分からないけど、レイのガンプラ、合宿の時よりも綺麗になってる」

「ジンクスⅣオリジン……俺と同じ00のガンプラ……か。合宿時に彼の戦いは見せて貰ったが、彼もカミキ・セカイと同様に素晴らしいファイターだった。……彼の戦い方は、彼の父『荒熊』を思わせる荒々しさと、その中で時折見せる繊細さを兼ね備えている……まるで……」

 

 何と言えばいいのだろうか。

 『荒熊』では彼の父とは変わらない。……もっと、二代目然とした感じが……。親、子……子供……。

 

「『小熊』?……すまない、今のは忘れてくれ」

「ははははは!!何だよ『小熊』ってよ!随分と恐ろしい熊だなぁおい!!」

「ぷ、ふふ、可愛らしい例えだわ。兄さん」

 

 正直、自分でもないと思った。

 思わず、顔を赤面させてしまう。

 

「いいじゃない、『小熊』のレイ、私はそう呼ぶわ」

「お、おい……」

 

 妹は乗り気になってしまった。こうなったらもう考えを改めさせてはくれないだろう。

 しかし、先ほどから気になっていたのだが……。

 

「何故シアがアンドウ・レイの名を―――」

「ふふっ、ひ・み・つ」

「………………………何?」

 

 ……アンドウ・レイ、私には君と闘わなければならない事情ができてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ!?」

「どうしました、先輩?」

「風邪ですか?」

 

 なんだろう、今何か背筋も凍るような殺気が……。

 

 

 




 スパロボUXのジンクスⅣ……俺は惚れたぜぇ!

『A』STORYの『A』はアンドウの『A』です。似てるけどアストレイではありません。


 連載の方がいいかもしれませんが、BFTの本編が終わってない事に加え、他の作品もあるので、とりあえずは短編という形で出しました。

 主人公の名前については、単純に『アンドレイ・スミルノフ』から『アンドレイ』を抜き出して、さらにアンド/レイから、アンドウ・レイにしました。
 チームメイトの二人も、元になった扱う機体の搭乗者の名前からもじりました。

 イデオンやガンバスター等の、多作品のロボットは出ましたが、パワーバランス的に、それほど反則的な強さにするつもりはありません。『プラフスキー粒子で再現できる』位の範囲で再現していくような感じです。

 あくまで基準はガンプラ、ということです。


 続くかどうかは未定です。
 続きがあるとすれば……多分、過去編から書いていくと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~選手権出場前~

私としたことが、プロローグにメイジンの出番を書いていませんでした……。
何と言う不覚。

 という訳で、前回のバトルを見たメイジンとレディカワグチの反応と、お詫び(?)としてガンバスターを使う、タカマ・ノリコの過去編だけを更新したいと思います。


 本文にて過去編、メイジンは後書きに載せます。





 中学生の頃の憧れだった。

 自分より一つ年上の先輩、アンドウ・レイ、ジンクス使いのガンプラファイター。模型店で偶然会い、その縁でガンプラバトルをし、敗北したその時に私は確かな憧れを彼に抱いた。

 

 もう一度バトルしたい。強くそう思った私は、先輩のいる高校へ進学を決意し、柄にもなく真面目に勉強して見事『暮機阪高校』を合格した。

 だが、彼の所属している『ガンプラ部』へ訪れると、私の想像しているものとは別の光景が広がっていた。

 たった一人でガンプラを作っている先輩の姿。他には誰もいない。私の姿に気付くと、先輩は少し驚いたような表情を浮かべてから、『久しぶりだね』と挨拶してくれた。

 私はそんな彼の姿に、少しだけ寂しさを感じた。

 

 

 

 部活動は思ったよりも単純で、楽しいものだった。

 ガンプラを作って改修してバトル。ただそれに繰り返し、一応はそれなりのバトルシステムがあるおかげで、私と先輩でバトルすることもできたし、私としても先輩とのバトルで色々得られるものもあった。

 だけど、入部から三週間が過ぎたあたりだろうか。先輩とのバトルが30を超えた頃に、私はどうしても気になっていた質問を先輩に投げかけてしまった。

 

「ガンダムで戦えばもっと楽に勝てるんじゃないんですか?」

 

 当時、高校入学したての時の私がガンプラ部で一人で活動している先輩、アンドウ・レイの姿を見て思わず口に出してしまった言葉である。その言葉を言い放った後にとてつもなく後悔した。言うなれば私の言った言葉は、ジンクスという量産機を愛用する先輩を侮辱した言葉だったからだ。

 

 でも、後悔はしても自分は間違ったことは言ってはいない。

 余程の玄人ならまだしも、ガンプラバトルはどうしてもガンダムというカテゴリーが強く、そして人気がある。第一、ジムやザクといったいわゆる『やられ役』で大会やトーナメントを優勝した例は今まで見た事が無い。

 

 それにどれだけこだわりを持とうとも、所詮は個人個人での価値観に過ぎない。大会の観客や子供達は地味なMSよりも、ストライクフリーダムやνガンダムといった、華があるガンダムの方を評価する。

 

「先輩は……何でガンダムを使わないんですか?」

「俺はコイツが好きだから」

 

 作りかけのGNーXⅢから目を話さずにそう返す先輩にもどかしい気持ちになる。

 先輩の事は、高校に上がる前から知っている。地元では有名だ、ガンプラバトルで負けなしのジンクスばかり使うファイター。

 

 挑んだ私のサザビーは、彼のGN-Xによるランスの一撃で戦闘不能に陥ってしまった。

 

 事実、先輩は強い。挑んだ私が一番それを分かっている。

 でもそういう評判を疎ましく思う人はいる。そいつらは決まって言うのだ。

 

『量産機は所詮は量産機、主役の引き立て役でしかない』

 

 そんな理由で先輩が馬鹿にされたのがどうしようもなく許せない。量産機がなんなんだ、Vガンダムだって量産機だ、インパルスだってパーツを使い捨てるという点で言うなら、ある意味量産機よりも酷いかもしれない。

 だからこそ、失礼だからと分かっているからこそ、先輩には分かって欲しかった。

 

「俺は好きなガンプラで勝ちたい。ノリコ、君は……自分の好きなガンプラで戦っていないのか?」

 

 先輩の言葉に私は何故か言葉を返す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 思えば何時からだろうか、設定の性能だけでガンプラを選ぶようになったのは。

 思えば何時からだろうか、自分の好きなガンプラで戦わなくなったのか。

 

 結局は先輩の言葉に何も返すことができないまま部活が終わり、家に帰ってきてしまった。

 

「好きなガンプラ……」

 

 自室の中の棚に目を向ける。

 そこには一際、目立つように置かれている機体『ザクⅡ改』があった。

 

 登場作品、【機動戦士ガンダム ポケットの中の戦争】で、バーナード・ワイズマンが搭乗したザク。別名最終生産型ザクⅡ、ザクⅡFZ型。

 

 ストーリーはなんとも胸の締め付けられる感慨深いものだったが、色々ひっくるめて良い作品だった。

 それにバーニィが載ったザクⅡ改の戦う姿は、何処か泥臭さを感じられるも、それがカッコいいと思えた。何より最終生産型という響きが何処かワンオフ的な何かを感じとれるから、小学生の頃の私はこの機体ばかりを使ってバトルしてた。

 周りの反応は……今日の先輩に対しての私のようだった。大抵の子供はカッコいいMSを使っていた。まあ、そうだろう。当時はSEEDといった、リアルタイムで人気のあるアナザーガンダムが人気を博していたのだから。

 

 それにお世辞にも私はガンプラバトルで強い方とは言えなかった。戦いが終わった後に残るのは喜び勇む相手と、フィールドの真ん中で虚しく転がっているザクⅡ改を見つめる私の姿。

 

 勝てない事もなかったわけではないが、それほど多いという事もない。ただ……負けるという事は、思っていたよりもずっと悔しくて、ずっともどかしいものだった。

 何回も何回もバトルしていく毎に、負けたくないと思うよりも、自分の作った好きで好きでたまらないガンプラが負ける姿は見たくないという気持ちに変わったのだ。同時に、自分のせいで負ける姿を作ってしまっているとも感じてしまった。

 

「………好きなガンプラを使っても負けたら意味、ないじゃないですか………かっこいい姿、見たいじゃないですか……」

 

 あのいつしかの大会、三代目メイジン・カワグチも、ポケットの中の戦争に出たケンプファー、ケンプファーアメイジングを使ってはいたが、大会後半ではエクシアを使っていた。

 自分勝手な解釈なのは重々理解しているが、やはりこう思ってしまう。

 

 ああ、やっぱりガンダムの方が強いのか、と。

 

 メイジンを追い詰めた、ジムを扱うレナート兄弟のようなタクティクスは私にはできない。

 でも、それでも自分の好きなガンプラの負ける姿を見たくないと思った私は……。

 

 

 

 

 

 今のようにザクを観賞用のガンプラとして扱うようになった。

 

 

 

 

 

 飾っておけば、何時も凛々しくもカッコいい姿を部屋で見る事が出来る。

 飾っておけば、負ける姿を見る事もない。

 飾っておけば、何時までも輝かしい姿を見せていられる。。

 飾っておけば……。

 

「……なに考えているんだか……」

 

 自分の考えている事に、嘆息しながらザクⅡ改を棚に戻す。そろそろ寝ようかな、と思いながらベッドのある方向に振り返ろうとする。すると……。

 

「いっ!?」

 

 ゴッという音と共に、振り返るために踏み出した脚の小指が、棚の出っ張りに勢いよく当たる。思わず出してしまった変な声が鼓膜を震わすと同時に、形容できない痛みが足の小指から昇って来る。

 

「いった~」

 

 若干、涙目で足の小指を抑える。

 しかし、先輩に偉そうなことを言ってしまった報いなのか、今度は俯いた私の頭に何か硬い尖った物が勢いよく落下する。

 

「~~~ッ!?形容できない位痛い!?~~~~!もう何!?何が落ちてきたの!?」

 

 頭を抑えながら、落ちてきた物体を拾い上げると、それはザクを飾っていた棚の上の段にしまっておいた一つのブルーレイボックスだった。

 

「『トップをねらえ』……かぁ……危ないなぁ……自分でしまっておいてなんだけど……」

 

 いつしか父親に誕生日プレゼントがてらに送って貰ったもの。私としては【ガンダム】のヤツって頼んだけど、父が間違って買ってしまったのだ。

 でも、見てみるとこれが面白い。人と人との戦いであるガンダムとは違い、宇宙怪獣との戦いだが、なにより驚いたのは主人公を取り巻く人間関係と、『ガンバスター』というロボット。

 顔がザクに似てるなぁと思いながら、なんとなく片手間に見ていたけど、どんどん引き込まれ最後の最後にはもう夢中になっていた。

 

「オカエリナサト、か……」

 

 あの主人公は、自分みたいには諦めなかったな。

 自嘲するように笑い、棚にディスクを戻し今度こそベッドに入り眠りにつく。

 

 さっきまで沈んでいた気分は幾分か安らいでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学校が終わり、部活動が始まった。

 部活と言っても、ガンプラバトルをするか、プラモを作っているかのどちらかなのだが、昨日の事があったからか、どこか気まずい雰囲気のまま部活が始まった。

 

「………」

「………」

 

 き、気まずい。いつも通りに黙々とガンプラを整備している先輩の姿に、いつもより威圧感を感じる。昨日の事を謝った方がいいのは分かっているのに、怖気づいて言葉が出ない。

 

「ノリコ」

「はいっ!?」

「調子が悪いなら無理しない方が……」

「いいえ!大丈夫です!!」

「あ、ああ。それならいいんだ……」

 

 自分を気にしつつも作業に戻る先輩に、さらに気まずいものを感じつつも、とりあえずは私も部活動をしようと思い、自分のガンプラを取り出す。

 黒く塗装されたサザビー、ファンネルは使うのが苦手なので全て取り除き、スラスターを増設した高機動型サザビー。名前は【サザビー・ハイマニューバ】。何処のジン・ハイマニューバだとかは言われそうだが、ネーミングセンスはないのは自覚しているので気にしない。

 ザクほどではないが、愛着のある機体だ。

 

「失礼します!」

 

 サザビーに手を付けようとした瞬間、部室のドアが勢いよく開け放たれる。入って来たのは赤いアフロが特徴的な男子生徒。私と同じ一年生だろうか?

 

「いらっしゃい、見学した時以来だな。もしかして入部希望かい?」

「はい、ちゃんと入部届けも持ってきました」

 

 先輩は、この男子の事を知っているようだ。私がこの部に入ったのは学校が始まってから一週間くらい過ぎた頃だ。見学ということは、この男子は私より早くこの部に訪れていたという事なのか。

 

「……ああ、そういえばノリコには言ってなかったな。彼はユズキ・コスモ、一度ここに見学に来た、お前と同じ一年生だ。ユズキ、彼女の名はタカマ・ノリコ」

「よろしくお願いします」

「よろしくね」

 

 悪い人ではなさそうだ。

 入部希望所を持ってきている所を見ると、これで部員は三人になった。これで全国大会に出られる。恐らく先輩は大会出場の届を出すだろう。

 私も出たい、もし出るとするならばガンプラの強化が必要になる。

 

「じゃあ、オレは顧問の先生に君の入部届を出してくるから、ノリコは彼にこの部について教えてあげてくれ」

「あ、分かりました」

「頼んだ」

 

 こちらに手を振りながら、部室から出ていく先輩。

 いまさらだが、先輩は昨日の事、それほど気にしてないようだ。でも、あの言葉をない事には出来ないし、後でちゃんと謝っておこう。

 ……それより先に、彼にこの部について教えてあげなくちゃね。

 

「じゃあ、まずどこから説明しようかな……えーと……」

「コスモでいいです」

「じゃあ、私もノリコでいいよ。後、同じ一年生なんだし敬語も必要ないよ。じゃあ、コスモ君、まずこの部についてどれだけ知っているの?」

「多分……大体は先輩から教えてもらいま……教えて貰った」

「この部に置いてあるバトルシステムの事も?」

「教えて貰った」

「部の活動日も?」

「それも」

「………」

 

 どうしよう、教える事がもうない。

 結構単純な部活だから、教えることもあんまりないんだよね……。

 

「じゃあ、ガンプラバトルでもしてみる?」

「いいな。俺、あんまり同年代の人とバトルしたことないし」

「よしっ、じゃあやろうか。ガンプラは……勿論持っているよね?」

「もちろん」

 

 仲良くするならまずはガンプラバトルだね!……と初対面の相手に思うようになってしまうようでは、私も相当なガンプラバトル脳だね。

 何時か『ガンプラバトルで拘束する!』って言いそうで、自分が怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルシステム、ガンプラバトルを行う機器の前に向かい合うように立ち、自分のガンプラ、そしてガンプラのデータ、そしてガンプラの製作データ、ファイターID、戦績が記憶された記憶媒体、BASEをスロットに収納し、準備を整える。

 ちなみにダメージレベルはC、バトルに負けてもガンプラには影響はほとんどない。

 

「歓迎バトル!!タカマ・ノリコ!サザビー・ハイマニューバ!!行くよ!!」

「ユズキ・コスモ!イデオン・ジム、発進!!」

 

 イデオン・ジム……?ジム系等のガンプラを用いるのか?

 ――サザビー・HMがステージへと火花を散らせ飛び出す。ランダムで決められたステージは、【平原】。見渡しの良いステージだ。

 

 スラスターを噴かせながら、地を滑るように移動しながら、索敵をする。

 周囲に隠れるような場所はないから、すぐに見つかるはず。……案の定レーダーに反応、反応は前方から。

 

「あれか!」

 

 目を凝らしながらコスモ君の機体を見る。見えたのは赤色のジム。

 モニターを部分的に拡大させ、明確な姿を確認。全体的に赤の比率が多い、恐らくキットはHGUCのジム。だが顔が微妙に違う、凸ではなく□だ。

 

「武装を持っていないッ!?」

 

 イデオン・ジムは丸腰だった、バックパックにはビームサーベルすら装備されていない。普通ならビームライフルやらビームスプレーガンやらを持たせたりするはずなのに。

 まさかGガンタイプ?いや、それだったらわざわざジムでする必要性はないし……。

 

 ランドセルからスラスターを噴かせ、地上を這うように飛んだイデオン・ジムは、こちらを見据えると、一気にスピードを上げ接近してくる。

 

「ジムが徒手空拳なんてぇ!!」

 

 腰にマウントしたビームライフルをジム目掛けて放つも、ジムは軽やかな起動で、横にロールしビームを躱してしまった。

 巧い、操作技術は高い。でも……!

 

「丸腰じゃ私のサザビーには!!」

 

 ビームトマホークからビーム刃を発生させ、目前にまで近づいてきたジムに対してビームを放つと同時に接近戦を仕掛ける。

 

『イデオォ―――ン!!』

「なんだっていうの!!」

 

 ビームを回避したイデオン・ジムが拳を突き出してきた。何かしら武器を使ってくるとは思ってはいたが、まさか普通に殴って来るとは思わなかった。

 でも近接がお望みなら受けて立つ!拳を左手の盾で受け流しながら、トマホークを振るう。

 

「何でジムで接近戦なんて……!!」

『ジムだからこそだ!!』

 

 頭部に振られたトマホークを持つ腕を殴りつけ、軌道を逸らされる。凄まじい運動性と反射神経、なおさら疑問に思う。何故ジムだ。

 これだけの格闘を行えるのならば、もっと良い機体があるはずなのに……。そんな事を考えていると、イデオン・ジムの放った拳が再度、私の左手のシールドを殴りつける。

 はっ、と我に返り応戦していると、私の口は自然に相手に開いた。

 

「もっと格闘向けのガンプラがあっただろうに!!」

『俺の求める【イデ】はジムの極致にこそある!それを曲げてまで、成し遂げたい目標ならッ今日の俺はここにはいない!!』

 

 そう相手の声が聞こえると同時に、私が振るったトマホークがイデオン・ジムの腕を切り落とす。

 

『たかが左腕!いくらでもくれてやる!!でも!!』

「怯まない!?私のトマホークが!!」

 

 断たれた左腕に見向きもせずにジムは、振り切った右手に蹴りを食らわせトマホークを弾き飛ばす。近接武器がなくなった、でもまだビームライフルがある。

 咄嗟にライフルを前方へ撃ち出そうとすると、すぐ目の前には残った右腕を掲げたイデオン・ジムの姿。

 

『これが俺の第一歩!』

「素手は効かないとッ!!」

 

 掲げた腕ではどうすることもできない。精々振り下ろすだけだろう。ここまでの戦闘から、恐らく彼のガンプラはほとんど武装は積まれてはいない。

 腕を上げたその隙を―――。

 

『否ッ!』

 

 瞬間、サザビーの視界を通じて私の視界に一筋の白い光が出現した。いやこれは違う、これは白いビームサーベルがイデオン・ジムの手の付け根あたりから伸びている。

 

『これはイデオンソードだ!!』

「な……!?」

 

 イデオンソード、そう名付けられたやや長めのビームサーベルは、私のサザビーを上から下へと切り裂いた。一瞬の静寂と共に、私の機体にスパークが走り、爆発。

 

 ゲーム終了のアナウンスと共に、私の負けでバトルは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

「負けちゃった、か」

 

 私のサザビーが負けてしまった。敗因はなんだろうか、不意打ち?それとも油断?

 いいや違う、私は無意識のうちにジムを侮っていたんだ。武器がないからって、量産機だからって、無意識のうちに主役級のMSには敵わないんだって。

 

「ありがとう、いい勝負だった」

「ううん、こちらこそ。良いガンプラだね」

「ああ、俺が目指している最強のジムの第一歩となる機体。それがイデオン・ジムだ」

「イデオン?」

 

 そういえば昔、そういうアニメがあったと、父さんから聞いたことがあったような気が。……まあ、違うよね。でも、コスモ君との戦闘は、何か得られるものがあったような気がする。

 

「そういえば、ノリコさんは何でジムで接近戦なんか?って聞いたよな」

「あ、ごめん。色々珍しかったから……」

「いいや、そうじゃない。その答えを言おうかなって」

 

 答え……?

 

「ジムとイデオンが好きだから。イデオンはちょっと残酷………いや、ちょっとじゃないかな?……悲しい話だけど、俺は好きなんだ。カッコいいし、強い……でもその不安定で圧倒的な力に登場人物が振り回される、そんなイデオンに俺は心を奪われた。最終的に『イデの発動』により知的生物が全て滅び、その後に転生を思わせる描写がある発動篇の終わりと、ファーストガンダムでアムロ・レイが自分を迎える仲間達を見て、自分の帰る場所に感動し涙を流す終わり……。全ての『生』がなくなってしまったイデオンと、仲間と、そして自分の『生』に感動し涙するアムロの、両作品の『生きる』って所に対する対照的な描写に、すごく考えさせられた」

 

 イデオン、というものについて語る彼は何処か感慨深げな表情だった。彼が自身の手に持っているイデオン・ジムを私にも見せるように掲げる。

 

「……ジムもさ、ポケットの中の戦争ってあるだろ?ジムスナイパーⅡ、あんな活躍見てるとさ、やって見たくなるだろ?どんな奴でも倒す最強のジム、子供みたいだろ?」

「……そっか、コスモ君はジムが好きなんだね」

「ああ!大好きさ!なんだってもカッコいいからな!」

「…………コスモ君!ちょっと先に帰るって先輩に伝えてくれないかな!!私ちょっとやらないといけないことができた!!」

「え?あ、ああ!」

 

 そうか、こんなに簡単な事だったのか。私はずっと小学生の頃で止まっていたんだ。他人の価値観に自分を否定されて、それで自分を肯定できずに結局は、自分で自分を否定して、ザクを狭い部屋に閉じ込めてしまった。

 

 鞄に荷物をしまって部室から飛び出す。

 

「うおっ!?」

「先輩!?す、すいません!?」

 

 ちょうど職員室から帰って来たのか、先輩と鉢合わせしてしまった。面と向かって先輩と顔を合わせた私は、考える前に言葉を吐きだしていた。

 

「すいません!私!あんな失礼なこと言って!!」

「……………ああ、昨日のあれね。………うん、悩みは解決したか?」

 

 ………ああ、やっぱりこの人は鋭い人だ。

 きっと私の悩みなんて筒抜けだったのだろう。だから、ジムを使っている彼と私を戦わせた。ジムが好きな彼と昔の私は、本当の意味で同じだったから。

 

「はい、解決しました!」

「そうか、よかった」

「あの、先輩!!」

「ん?」

 

 だから今から言う言葉は決意表明のようなものだ。

 

「ガンプラバトル選手権、優勝しましょう」

「……本気か?」

「本気です」

「そうか、ははは……そうか、分かった、お前の気持ちはしっかりと受け取った。コスモはどうだ?」

「まだ、一日も活動していない俺を部員と呼んでくれるのなら、勿論、俺もノリコさんと同じ気持ちです。出ましょう!ガンプラバトル選手権!」

「なら今年は忙しくなりそうだ」

「!!っじゃあ!!」

「ああ、俺達、暮機坂高校ガンプラ部は、全日本ガンプラバトル選手権に参加する」

 

 私とコスモを見て、先輩は笑みを浮かべる。本当に楽しみで仕方がないと言わんばかりの笑顔だ。先輩は、心の底からガンプラが、ガンプラバトルが好きなんだ。

 そんな先輩だからこそ、私は貴方を頼れる。

 

「あの、それでなんですが、選手権に向けてちょっと作りたいガンプラがあるんです。手伝って貰えませんか?」

 

 答えは決まっているとばかりに、先輩は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後すぐに家に帰った私はすぐさま自室に駆け込み、飾り付けてあったザクⅡ改を手に取り、昨日脳天に落ちてきたブルーレイを再生した。

 

「……そうだ、好きな事をするんだ。私が先輩とザクを全国へ連れて行く、そして―――」

 

 画面に映し出される黒色のモノアイが特徴的な巨人。

 宇宙怪獣と闘う、スーパーロボット。

 私が考え得る最強のロボット、それが―――

 

「ガンバスター」

 

 画面に掲げたザクⅡ改の装甲は反射して光る。

 もうせまい所に飾ったりはしない、私も一人のファイターとして、ザクが好きなビルダーとして、ガンプラバトル選手権、まずは県予選を勝ち抜いてやる!!

 

「絶対に負けない最強のザクを作ってみせる!!!絶対に……っ!絶対に!!やぁってやるんだから!!」

 

 高校一年の春、私の止まっていたガンプラファイターとしての時間が、また動き出す。

 

 




~二人のカワグチ~

 静寂が支配する会場。言葉もないとばかりに一様に驚愕の表情を浮かべている観客達。その中で、観客席よりも高い場所に位置する、会場全体を見渡せる部屋には二人の男女がジッと会場内にいるチーム『イデガンジン』のメンバーを見つめていた。

「やはり仕上げて来たか……ッ、チームイデガンジンッ!」
「大会初出場のチーム『イデガンジン』、まさしくダークホースね」

 茨城県代表、『暮機阪高校』の彼らのいるブロックは、トライファイターズやガンプラ学園とは別のブロック。順調に勝ち進めば各ブロックでの代表として決勝トーナメントに出る事になるだろう。
 しかし、彼女にとって、あのガンバスターを使っている少女はどう見えるのか。

「あの子のガンプラ……」
「『トップをねらえ』に登場するスーパーロボット。君としてはあのガンプラは邪道かい?」
「フフ、答えはノーよ。素晴らしい発想と評価させて貰うわ。合宿時の時は、気付けなかった自分が恨めしい」
「悲観することはない、ガンプラとはまさしく変幻自在。ファイターの数だけ、ガンプラの数がある」
「あら?貴方は予想していたのではなくて?」
「私はそこまで万能ではないよ。だが、ファイターとしての勘、というものなら感じていた……彼、アンドウ・レイ君の中で燃え上がっているファイターとしての闘志……ッ!そして!!今日の彼らのガンプラバトルを見て私はこう思った!!ガンプラは……ッ!!ガンプラの可能性は……ッ!!」

 握り拳を掲げたメイジン・カワグチは、会場に居る全ての人々に見せつけるように、声を上げ叫んだ。


「無限大だぁ!!」





~終~






 大会での主人公達の居るブロックは、トライファイターズやガンプラ学園、天王寺学園とは別のブロックとなりました。分かりやすく言うなら、グラナダ学園のあるブロックですね。この先の展開的に変えるかもしれませんが、今の所は茨城県代表としたいと思います。

 今回はアンドウのチームメイトであるノリコがガンバスターを作ろうとする展開までを書きました。コスモのジムは、ただ手首にビームサーベルを仕込み、顔を凸から□に変えた赤いジムです。

 この作品ではガンバスターとイデオン、そしてほんの少しのジンクスが活躍するものなのですが、思いのほか多作品のロボットを出してほしいとの要望のほか、BFT本編で『トライオン3』というロマン機体が出てきたことに加えて、ガンプラは自由だぁなので、とりあえずは出す方向で行きたいと思います。

 今の所出そうと考えている候補についてのヒントを挙げるなら……。

ジ・O+冥王=冥・0
ハイモック……異能生ぞゲフンゲフン。

 これぐらいですね。
 後は無理やりガンタンクに足つけてガタイ良くしてウォーカーギャリアというのも考えたのですが、あまりやると茨城県の県予選が魔境になってしまうので自重しました。

 後、主人公は今の所はジンクスのままです。一度中の人的にオーガニック的なガンプラにしようかな、とは思いましたが、そこはやはり周りが暴走しまくるので、主人公はジンクスで頑張ります。


 これで後書きは終わりです。

 過去編ならば本編が進んでいなくとも書けるには書けるのですが、かなり不定期になってしまいます。
 それでもよければ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~選手権~

 引っ越しの関係でインターネットが出来なくなるので、今のうちに更新しておきます。

 本編は進みませんがとりあえずは、過去編だけは更新しておこうと思います。


 今回は、少しだけ飛んで県予選一回戦、アンドウ・レイの視点から始まります。



 ガンプラバトル選手権、県予選。

 ………よくもまあ、この舞台に立てたものだと思う。去年は一人だけ。今ではコスモとノリコといった後輩が一緒に大会に出場してくれているが、一年前、俺が高校一年生の頃は、俺の所属していたガンプラ部には俺以外誰も入ってはいなかった。

 

 俺が入学した高校、茨城県立暮機坂高校のガンプラ部には、俺が入る前は部員がいたらしいが、その部員は卒業と共にいなくなってしまったらしい。翌年の新入部員は俺一人だけ。部員の人数に関しては、クラスメートに名前を貸してもらってやぶれかぶれで誤魔化して、存続させてはいるのだが……。

 

 ぶっちゃけ滅茶苦茶心細かった。

 クラスには友達はいるが、ガンプラのできる友達はいない。一時期は訓練用のハイモックが友達だった。

 

 でも、なにより辛いのは大会に出れない事。何もできない俺は、ただただニュースで流れる大会の結果、静岡県代表のガンプラ学園が6年連続の優勝という快挙を成し遂げたという話題を、黙って見送る事しかできなかった。

 

 ガンプラ学園の選手の強さに歯がゆい思いをしながらも、俺はひたすらにガンプラを組み立て、プラモ屋でガンプラバトルをするだけの高校生活を過ごしていた。部員は相変わらず俺一人、棚には今まで作ったガンプラが並ぶ。

 

 何かを変えたいとは常々思っていた。

 だが、自分が住んでいる場所はお世辞にも都会とは言えない辺鄙な場所。近くにプラモ屋があるだけでも恵まれているのだろう。

 見通しが甘かった自分が悪いのだが、どうにも自分はこの現状を良しとはしていない。

 戦いたい。

 ガンプラバトルをしたい。

 全国の猛者達。

 未だ見ぬガンプラ、強いガンプラ。

 ガンプラ学園。

 

 父から教えて貰ったガンプラの技術と腕が、どこまで通じるか試したい。そして自分の好きな機体で華麗に泥臭く、熱く、滾るような、心の底から満足するようなガンプラバトルをしたい。

 

 だが、二年生になった時、転機は訪れた。

 俺に部活での後輩ができたのだ。

 

 タカマ・ノリコとユズキ・コスモ。

 ザク使いとジム使いのガンプラファイターである彼らが、俺を後押ししてくれた。全日本ガンプラ選手権と言う戦いの舞台へ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の戦車はァ!!』

「ガンタンクでここまでの性能とは!」

 

 県大会一回戦、那珂川学園模型部、チーム『パトリオット』と、暮機阪高校ガンプラ部、チーム『イデガンジン』とのバトル。

 敵チームの用いるガンプラは、三体のガンタンクの改修型。その中で今現在俺が相手をしているリーダー機、『ガンタンクⅣ号F2型』が曲者だ。市街地のステージという地の利がある事に加え、ガンタンク由来の強力な砲撃が脅威だ。

 

 コスモとノリコは残りの二体の相手をしてもらってはいるが、正直心配だ。彼らの機体は未だに未完成、今戦っているファイターの技量から考えると、あちらも相当の実力を持っていると見てもいいだろう。

 

「どうしたもんかな……」

 

 ガンタンクと侮るなかれ、相手の改修したガンタンクは、厚く強化された装甲で防御力の強化、スパイクの取り付けられたキャタピラによって運動性の強化が施されている。まるで『戦車』を思わせるその様相と、ガンタンクが本来持つ一対のキャノン砲により、並のガンタンクとは一線を画す性能を誇っている。

 

「流石大洗……ッ!戦車主義もここまでくれば……」

『落ちろって言うんだよぉ!!』

 

 放たれたキャノンを反転して躱しながら、GNビームライフルを撃つ。放たれたビームはガンタンクⅣ号の装甲に直撃するも、まるで弾かれるように拡散してしまう。

 

「ビームコーティングか……つくづく戦車を思わせる堅牢さだ」

 

 ビーム系統の武装は効果が薄いと判断してもいいかもしれない。

 ならば、俺のランスで行く。

 

 右腕に装備されている、普通のGNランスよりもやや小ぶりなランスを構える。既存のジンクスⅢのGNランスとは違うのは、ビームガンとランスを完全に一体化し、刺突武器と遠距離武器を合わせた形になっているということだ。

 加えて、ランスで言う『柄』の部分が無く、極めて刺突に最適な腕とランスの一体化を目指した武装。名付けるならば『GNガンランス』。

 ……どこのモンハンだ……全く。

 

「これでっ!」

 

 GN粒子を一気に放出し、小刻みな機動を取りながらガンタンクⅣ号への接近を試みる。これならビームコーティングと堅牢な装甲を突破できるはず。

 砲撃を全て回避し、一気にガンタンクへ肉薄、そのままランスを突き出す。

 

『くっ、分離!!』

「なにッ」

 

 しかし、ガンタンクⅣ号もそう易々とはやられはしなかった。なんと目前で上半身と下半身が分離したのだ。だが俺もファイターの端くれ、即座に分離した上半身に狙いを変え、刺し貫く。

 

 一瞬のスパークの後、機能停止に陥られるガンタンクⅣ号。

 だが、何故かこれで終わりとは思えない。確証はないが、漠然とした違和感が俺に警鐘を鳴らしていた。

 

『かかったなぁ!!』

 

 聞こえた声は下から。すぐに下に視線を移すと、そこにはキャタピラだけになったガンタンクがこちらに、恐らく上半身に内蔵されていたであろう、やや大きめの砲台を向けている光景だった。

 コアファイターの部分を丸ごと取り除いて砲台を隠していたのか……ッ。

 

『そんなごじゃっぺな武装で俺の、俺達の戦車が倒せるかぁ!!』

「くっ……!」

 

 回避は不可能に近い。ただでさえ一撃必殺の威力を持っていたあの砲弾を食らうのは危険すぎる。しかも俺のジンクスのシールドは既に破壊されてしまっている。

 

『発破ァ!』

「そう易々とやらせるか!」

 

 思いきり後方へ退避しながら腰からサーベルを引き抜き、身体の中心に沿って斬り降ろすようにサーベルを振り降ろす。瞬間、一瞬の手応えと共に、後方に真っ二つになった砲弾が通り過ぎ、爆発。

 偶然とはいえ危ない……間一髪だった。

 

「信じたくなったよ……まぐれというものを!!」

『出鱈目な!……第二射―――』

「遅い!」

 

 後方からの爆風に狙いを乱されぬよう、スラスターでバランスを取りながら即座にガンランスをガンタンクⅣ型に向け、引き金を引く。引き金を引くと同時に、ランスの付け根部分に火花が散り、小規模な炸裂音と共に、ランスの先端が高速回転しながら射出される。

 

『な、なんなんだよそれぇ!?』

「ランスだ!」

 

 実はショットランサーの機構も内蔵してある優れもの。ショットランサーの機構は、円錐型のランスをいくつもの層によって成るミルフィーユのように重ねる事で、最大5発、ランスを射出することができる。

 

 回転しながら飛んで行ったランスの先端は、キャタピラを回転させ回避しようとしたガンタンクⅣ型の中心を捉え、串刺しにする。

 もう動かない、はずだ。

 

「………ノリコ達は?」

 

 敵のリーダーは倒した、後は二人の援護に行かなくては。二人の実力を疑っている訳じゃないが、ガンプラバトルは何があるか分からない。さっきのように敵ガンプラにどのようなギミックが施されているのか分からないのだ。

 動かなくなったガンキャノンⅣ号を再度確認してから、急いで彼女達の方へ飛んで行こうとすると、途端にフィールドの上からプラフスキー粒子によって形作られた世界が解除される。

 

【BATTLE!END!!】

『第一回戦の結果は、チーム『イデガンジン』の勝利です!』

 

「終わったのか……」

 

 バトルシステム全てが解除されると、操縦空間から、会場内へと景色が移り変わる。緊張が解け、軽く息を吐く。

 決して相手は弱くなかった。ガンタンクの特性を最大限に生かした改造、そしてキャタピラ運動を完全に理解していたあの挙動。間違いなく強敵だった。

 

「強化が必要だな……」

 

 ジンクスⅢじゃ力不足だ。トランザム……いや、それ以上の機能を付けなければならない。まずはどういう基準で作るべきか。ツインドライブを内蔵したバックパック?いや、出力を上げても安定性がなければ荷物にしかならない。AGEⅡダークハウンドのキットからドッズランサーを改造して装備させるか?これも駄目だ、主武装の発展案は決めているんだ。

 クリアパーツ……これならプラフスキー粒子の粒子流動率も上がるから、これを使えば……。

 

「先輩!」

「うん?」

「もしかしてガンプラに何か不具合でも?」

 

 考えに耽っていたのか、バトルシステムの前でボーっとしていた俺の前に、コスモとノリコが心配そうな表情で近づいてきていた。

 そうか、俺達は皆で勝ったんだな。感慨深くなりながらも、フィールドにあるジンクスを拾い上げた後、二人に心配いらないとばかりに手を挙げる。

 

「大丈夫。とりあえず次の試合が始まるから、移動しよう」

「分かりましたっ」

 

 とりあえずはその場から離れ、会場の外へ移動する。ふと、後ろを振り返ると、先程戦っていたチームが悔しげに自身のガンプラを見つめていた。

 

「………そうだよな、悔しいよな」

 

 でも、ここで俺達が掛ける言葉は何もない。もしここで彼らに慰めの言葉を掛けても、侮辱にしかならないから。

 

 そんな言葉を投げかけても、何の意味もない。受け方によればバカにしていると思われるかもしれないし、いらない禍根を残すかもしれない。だから俺達にできる事は、この先のバトルで勝ち進むことだけ。細かい事は分からない、だがそれが敗者にできる勝者としての役割だと、俺は思っている。

 

「勝つぞ、次も」

 

 それから会場を出るまで俺は、一度も後ろを振り向くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホーミングレーザーはどうやって撃つかだって?」

 

 大会一日目の日程が終了したあと、俺達ガンプラ部は二回戦の為にファミレスでミーティングをしていた。学生と言えばやっぱりファミレスだなぁ、と何故か感動していた俺に、ノリコが質問したことがそれだった。

 

「はい、ホーミングレーザーです。できますか?」

「……そりゃあ、ビームを操作することはできなくはないけど」

 

 00に出ているモビルアーマー、レグナントは劇中でビームを曲げたりしていたけど、あれは一度だけ曲がる感じのものだ。ノリコが言っているホーミングレーザーとは、恐らく目標までミサイルの如く相手を追尾するビームと言う訳だ。

 

「……ビームを曲げたりするのは可能だ。ガンダム00ではGNフィールドの応用でビームの軌道を操作する事ができた。………それをプラフスキー粒子で代用すればなんら難しい事はない」

「それなら!」

「問題はその指向性だ。ノリコ、君はどのようにしてホーミングレーザーを撃ち出したいんだ?」

「え?一応は、手からババーンって撃ち出したいんですけど……」

 

 両手からレーザーを出して、相手を捉えるという感じか。成程、レーザーを手から発することで、手持ち武装が相手の攻撃によって損なう危険性を予防できるというのか。

 だが、複数同時のレーザーを戦闘中に操作しきれるのか?例え制御できたとしても、かなり難しいぞ。

 

「確かノリコはファンネル系統の武装は苦手なんじゃないのか?」

「それは、最終的に相手のいる方向へ目指すようにすれば……ロックオンする感じで」

「成程、じゃあ、次は粒子操作だな……GNドライブを内蔵すれば、粒子を操作する事が可能だから……行けるかもしれない。でも純正GNドライブは出力が強すぎるかもしれない……まずは粒子タンクで代用……OO系列の機体ならうちの部室にあるから……」

 

 確かエクシアと、ジンクス、それに00粒子タンク版があったはず。今から時間を切り詰めれば次の戦いには間に合わないだろうけど、三回戦までには余裕だろう。

 

「GNドライブ……じゃ、じゃあ私、それを私のザクの肩にいれてみたいんですけど!!」

「……肩?それって00みたいに?」

「違います!肩パッドみたいにです!!」

「……ま、まあ、お前がそれで良ければ……止めはしないんだが……」

 

 最近の女子高生の感性は分からないよ……。

 でも彼女のザクも最初と比べると大分様変わりした。全体を黒く塗っているのは彼女の使うガンプラの特徴だが、今回の彼女のザクは黒より明るい藍色だ。それに、装甲の隙間に黒いゴム製のラバーが取り付けられている。柔軟な素材のラバーで関節を守るのが目的だろうが、他ではあまり見ないやり方だ。

 

「すいません、先輩」

「どうした?」

「自分にもアドバイスを貰いたいのですが、構わないですか?」

 

 可愛い後輩達の相談ならいくらでも答えるに決まっている。コスモの使っているジムも、部活に入った当初より強化されていたな。全体的に一回り大きくなったが、それに合わせた強化かな?

 

「無限大のビームサーベルってどうやって出すんですか?」

「………」

 

 予想の斜め上を行った……。

 無限大?のビームサーベル……。今の所、理論的には不可能……だと思う。

 ……いや、ここで適当な答えを言っては、俺を信じて頼ってくれたコスモに申し訳ない。とりあえず考えてみよう、無限大のビームサーベルとは、極大的に解釈すると、すごく長くて振り回せる剣だ。つまり、様々なガンダム作品でそれに近く、また準ずる武装を探し、参考にすればいいのではないか。

 

 まずは、ZガンダムとZZのハイパービームサーベル。あれは、オカルト的な部分がその大部分を占める。ならZのパーツを使えばいいのではないか?と思えるが、生憎Zはバイオセンサーという、どの部分か分からないシステムが使われている。

 

 次にV2ガンダムの光の翼。あれはミノフスキードライブの出力上昇と共に、推力に変換できなかった余剰エネルギーが翼のように現れる現象。これも強力なものだが、サーベルと言う定義に当てはまると思えない。

 

 次にガンダムエピオン、これがある意味で一番再現しやすいが、これはビームソードだ。コスモの言う無限大には及ばないだろう。なにより、徒手空拳を使っている彼のガンプラには合わないだろう。

 

 最有力なのは、00ライザーのライザーソード。これがコスモの言う無限大に最も近く、それでもって強力な兵器。だが、コスモだってバカじゃない、ライザーソードという案を考えない訳がない。

 

 ………ここまで考えて、良い案が浮かばないということは……。

 

「コスモ、残念ながらそのビームサーベルを作る方法は俺は知らない」

「……そうですか」

 

 しかし、既存の作品を参考にしても分からない場合、俺にできることは一つしかない。

 

「でも、模索することはできる。プラフスキー粒子には未開の可能性が広がっている。それを模索し、応用するのが俺達ガンプラファイターだ。コスモ、まず手始めに試せる事から始めよう」

「……やっぱり、貴方についてきて正解でした。……だれもこんなバカな事取り合ってくれませんでしたから……」

「俺達はチームだ。そしてノリコもお前も俺の後輩だ、バカにするはずがない」

 

 それに父からもプラフスキー粒子の応用の広さは教わっている。その応用の最たる例が、第7回ガンプラバトル世界大会優勝者、イオリ・セイさんとレイジさんの使ったガンプラ、スタービルドストライクガンダム。彼らのガンプラのシステムは、まさにプラフスキー粒子を有用に扱った最高峰のものだった。

 

 だからどんなに無理だと思っても、ちゃんと筋道が通れば可能なものに変わる。

 

 だからガンプラバトルは面白いんだ。

 初めてガンプラを完成させた達成感。素組のまま完成させたガンプラを動かせる感動に打ち震え、次に塗装とかスミ入れとかガンプラを通して学んで、そして自分だけのガンプラを作って、友達と遊び、競い合う。

 

 それがガンプラ、そしてガンプラバトルなのだ。

 

「………先輩!もう一つ聞きたいことがあるんですけど!!」

「待てノリコ、まだ俺が――」

「じゃあ、皆で聞いて考えよう!!今度は私も考えるから!」

 

「ははは、そうだな……」

 

 皆で楽しむのもガンプラの醍醐味だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コスモとノリコとガンプラについての改修案に論じる事、1時間。ようやく一段落ついたあたりで、ノリコが携帯を開き、しまったとばかりに声を上げた。

 

「あ、……そろそろ帰らなくちゃ」

 

 時間は既に7時を超えていた。夏にさしあたったあたりだからか、僅かに外が白んではいるが、結構遅い時間帯だろう。

 

「先輩、俺もそろそろ帰ります。先輩は?」

「……ああ、俺はもうちょっとだけここにいるよ」

「そうですか、じゃあお金ここに置いておきます」

「あ、私も私もー」

 

 っ!それぐらい先輩として奢らなければいけない!そう思い、咄嗟にコスモとノリコのお金を出す手を止めようと口を開こうとすると、コスモはそれを予想してと言わんばかりに『先輩にこれ以上負担を掛けさせるわけにはいきません』と言い、ノリコと共に千円札を出した。

 

「今日はありがとうございました!二回戦、頑張りましょうっ」

「俺も、ありがとうございます……本当に」

「………全く……また明日な」

 

 二人に手を振り、姿が見えなくなると軽く背伸びしながら椅子に背を預ける。

 

「茨城県、代表か……」

 

 決勝にまで勝ち上がるには、後3回勝ち上がらなければならない。決勝で当たるのは恐らく、前回全国大会に出場した『青嵐学園』。

 去年の県の代表、今日の予選を見た限りではその実力は、圧倒的の一言に尽きた。

 なにより、あのリーダー格の白色のバンシィガンダム、『バンシィ・ネガ』の強さが際立っていた。ユニコーンではない白色のバンシィ、それに『バンシィ・ネガ』を中心に連携を取っている二体のジェスタも厄介だ。

 恐らく決勝に勝ち進めば当たるだろう、青嵐学園とのバトルでは、今日のような個人戦ではなく、チーム戦が重要になってくるだろう。

 心して掛からなければならない。

 

 

 

「お客様、相席、構わないでしょうか?」

 

 

 

「ん?」

 

 テーブルに置いてあるジンクスⅢを見つめていると、不意に自分に声が掛かって来る。鈴のように跳ねるような声だ。声のする方向に目を向けると、そこには自分に声を掛けた店員と、ノリコのような黒色の髪をセミショートにした少女がそこにいた。

 

「あ、ええ。構わないですよ」

「はい!それじゃあ、どうぞ」

 

 了解を得ると、俺と向かい合わせの位置に座る少女。

 その視線は俺の手元、ジンクスⅢに向いている。

 

「すまないね、少し混んでいて席がなかったんだ」

「……あ、ああ……」

 

 なんだろうか、ガンプラに向けられている視線に少しばかりの悪意を感じる。何かしようという悪意ではなく、もっと純粋な、なんというか、綺麗な悪意だ。

 駄目だ、何を考えているんだ俺は、初対面の人に対して。ニュータイプじゃあるまいし。

 

「良いガンプラだね。私も好きだよ、ジンクス」

「ありがとう」

 

 唐突に褒められる。少しばかり照れながらもそう返すと、彼女は口角を僅かに上げる。

 

「……でも流石チーム『イデガンジン』のリーダー。アンドウ・レイ君のガンプラだよ」

「!………まさか、君は選手権の関係者か何かか?」

「関係者と言うよりは選手さ。……あ、えと、別に狙ってここに来たわけじゃないよ。本当の本当に偶然さ。だから勘違いしないでくれ。別にスパイとかそう言う意図があった訳じゃないんだ」

 

 軽く両手を上にあげる彼女に、少しばかり戸惑う。別に怒ってはいないんだけど、彼女が自分達を知っていた事の方が驚きだった。

 自分たちは有名なチームではない今年初出場の新米チームだ。それにこの大会に出ている人たちだって相当居る筈だ、その中で俺達のチームを覚えていることに驚いている。

 

「いや、怒ってはいないんだけど、何で俺達の事を?」

「そりゃあ、君達が県予選で私達が警戒しているチームの最有力候補だからさ」

「青嵐学園がいるだろう?アレと比べれば俺達なんて……」

「いいや、君達の方が警戒に値する。私は自分の目で見て、感じた事しか信じない……。今日の試合、君のジンクスとガンタンクの試合、見させてもらったよ」

 

 何時の間にか手に持ったメニューを開き頼むものを決めながら、こちらに向かって話している。

 

「見てすぐに分かったよ。君と君達のチームは私達の大きな壁になるってね」

「………」

「そして、君の後輩の創りだそうとしているガンプラが、まだ完成に至っていない事も分かる」

「完成かどうかはアイツらが決める事だ」

「ああ、それもそうだ。不躾なこと言ってごめんね」

 

 そう謝ると、彼女は呼び出しボタンを押し、店員を呼ぶ。

 しかし、ここまで話して分かったが、彼女は本当に偶然ここに来てしまったようだ。まあ、ここが混んでいるのはしょうがないか。

 とりあえず相手だけが自分の名前を知っているというのは変な感じがするので、名前だけは聞いておこう。

 

「君の名前は?」

「八極学園、高等部二年、チーム『冥王』リーダー、キリハラ・ミサキ。そして……」

 

 彼女はゆっくりとこちらを見ると、楽しそうに笑った。

 笑った彼女、ミサキの姿を見て、俺は彼女から感じていた純粋な悪意の正体をなんとなく理解できた。

 

「使用ガンプラは『ジ・0』」

 

 俺のジンクスを見てからだ……それで俺は彼女の闘争心を呼び起こしてしまった。だから、わざわざ公平を規す為に自分のガンプラについて明かしてくれるし、自らの所属チームも教えた。

 

 俺が思うに、この子は……。

 

 

 

「名前は【冥・0】……決勝で会おう。レイ君」

 

 

 

 強いファイターとのバトルに飢えている……。

 

 

 




ガンタンク、結構好きです。
キャタピラとかすごく好きです。
そして下半身だけになると普通に戦車に見えるから不思議です。



今後の主要のオリジナルキャラはミサキだけです。

それにしても、県予選一回戦目から既にカオスな事になってしまいました。
茨城県の大洗で戦車って……。

でも魔境ではありませんから、大丈夫ですね(錯乱)



それと……一応過去編だけは更新していくので短編から長編に変えました。


これで後書きは終わりです。
冥王計画ゼオライマー見直してきます。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~準決勝戦~


実家の方から更新です。

今回は準決勝まで飛びます。



 

『『『私達は!!奥部高校!!ガンプラバトル部!!』』』

 

「……はぁ」

 

 勝ち上がった4チームが抽選によって対戦を決められた組み合わせ……準決勝第一試合『暮機坂高校』チーム『イデガンジン』VS『奥部高校』チーム『エレガンツ』とのバトルが開始されていた。ステージは『軌道エレベーター』、地球から伸びる長大なエレベーターを基盤としたステージ、軌道エレベーターという巨大な建造物を中心として戦うステージなのだが……。

 

 準決勝で俺達の前に立ちはだかった相手は、なんというかとても眩しかった。

 

『ゴールドⅠ暁!!』

『ゴールドⅡ百式!!』

『ゴールドⅢ金ジム!!』

 

『『『私たちの輝きを見るがいい!!』』』

 

「………ノリコ、ホーミングレーザー、スタンバイ」

「え、えと……ホーミングレーザー発射準備」

 

 良くは分からないがバトルは既に始まっている。相手は何故かとても幸せそうだがこれは真剣勝負、真面目にやらせてもらおう。

 ………急造でこしらえたノリコのツインGNドライブが心配だが、その点は一応大丈夫なはず。

 

「粒子チャージ完了!対象、ロックオン!!」

 

 ザクの両肩の突起の下部分の粒子排出口から大量の粒子が排出されると、ノリコは両腕を横に広げチャージを開始する。

 

『さあ、行きますよ!皆さん!』

『はい!』

『華麗に優雅に勝利を手に―――』

 

「ホォ―――ミングレェェェェザァァァァァァ!!!!」

 

『『『え?』』』

 

 ノリコが雄叫びと共に両腕を前方に突き出すと、凄まじい量のレーザーが嵐のように三体の金色の機体目掛けて飛んでいく。全てのレーザーが生き物のようにうねり、目標目掛けて突き進んでいく。

 

 目標となった三機は今更に回避行動を取ろうとはするが、時既に遅し、直後にレーザーがその区域に殺到し、背後の宇宙を明るく照らす。

 

『うひゃああああああああ!?』

『これが若さですかぁ―――!?』

『主役は私達ではなかったのですか―――!?』

 

 ……少し可哀想な気がするが、バトルが始まった直後にあんな事されては攻撃したくもなる。

 

「……な、なんか、全然勝った気がしないんですけど……」

 

 心配ない、心境的には俺も似たようなものだから。

 しかし、流石ツインGNドライブ、威力は申し分ないが、ホーミングレーザーを放った後の腕がこれ以上の戦闘が不可能な程にボロボロになってしまっている。

 これからの課題としては両腕の耐久力強化とチャージの時間短縮、命中率の安定が重要になってくるな。

 戻ったら両腕の強化……いや、プラフスキー粒子を効率よくレーザーに変換するためにクリアパーツを入れてみるのも手かもしれない。

 

『ちょぉぉぉっと待ちなさいよォォォォォ!!』

「!」

 

 レーザーが殺到した場所から、ゴールドⅠ暁と呼ばれたアカツキを元にしたガンプラが飛び出してくる。確か、アカツキにはビーム攻撃を反射するヤタノカガミという装甲が有ったはずだから、恐らくそれで防御したのだろう。

 ノリコのレーザーを防ぐあたり……あの口上がなければもしかしたら、苦戦を強いられていたかもしれない。

 

『私一人でも貴方達を倒―――』

 

 全身からドラグーンを射出したゴールドⅠ暁をビーム砲が打ち抜いた。撃ったのは俺じゃない、両腕の破損したノリコのザクでもない。

 

「サーベルです。……一応」

『私は不可能を可能にするはずなのにィィィィ!!』

 

 腕のみをゴールド暁Ⅰに向けているコスモのジムだった。恐らくサーベルを内蔵していた手首付近からビームを出したのだろう。本人は『なんだかサーベルが飛んで行った』と言ってはいるが、サーベルとビームを両立させることができるという点から……中々使い勝手の良い武装だろう。

 コスモのビーム(サーベル?)によって胴体を打ち抜かれたゴールド暁Ⅰは、一撃で戦闘不能に陥り、射出したドラグーンも制御を失い宙に漂ってしまった。

 

【BATTLE!END!!】

 

 なんだかとても呆気ない勝負だった。コスモとノリコの新しい武装の修正点と改良するべき点が見えただけでも重畳かもしれないが……。

 なんだかな、何か違う。活躍したいとかじゃないけど……バトルがしたかった。というよりあの口上をし続けて準決勝までこれたということは、相当強かったんじゃないのか……?そう思うと、すごい申し訳なくなってくる。

 

「ま、まあ、これで決勝ですよ!」

「そ、そうですよ先輩、気を引き締めましょう」

 

 本当に良い後輩だ。

 二人の言う通りに気を引き締めていこう。

 他の大会はどうか分からないが、茨城の県予選では準決勝が同時に行われるという、少し変わった形式で行われる。つまり、今回の俺達の準決勝が予想より早く終わったという事は、他のチームの準決勝、つまり決勝で当たるチームとの対戦を見ることができるという事だ。

 

「この時間を使って晴嵐学園と………八極高校のバトルを見に行くぞ」

「決勝で当たる相手ですからね……」

「八極高校という名は聞き慣れませんけど、強いんでしょうか?」

「……チーム名は『冥王』。使うガンプラの名はジ・0の改修機『冥・0』」

「冥王……名前からして凄そうなチームですね」

 

 キリハラ・ミサキのバトルを見なくてはいけない。ファミレスで見せたあの自信と闘志。そして『決勝で会おう』という宣言、ガンプラバトルに余程の自信を持っていなければ、ああは言わない。

 

「あ!先輩!!まだ、やってますよ!準決勝!!」

 

 観客席に移動した先には、白色のバンシィと同じく白のガンプラが戦っている光景が見えた。

 会場は時が止まったように静かになっており、皆一様に準決勝が行われているモニターを見ている。俺達も視線をモニターに向けると、そこには……。

 

『フフフ、NT-Dなぞさせるものか、ってね』

『………くっ、クソ、何だこの兵器はぁ!!』

 

 至近距離で放たれたバンシィのビームマグナムをIフィールドのようなもので完全に防ぎきり、そのまま右腕でバンシィの胸部を殴り装甲を破壊する、圧倒的な性能で晴嵐学園のガンプラを蹂躙している白いガンプラの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の冥・0は君達じゃ止められない……』

 

 破壊された装甲からはサイコフレームが露出され、最早面影がないほどに痛めつけられたバンシィだが、戦意を喪失していないからか、ビームマグナムからジュッテを展開し、果敢に白いガンプラに戦闘を挑む。

 

『舐めた事を……ッ!!』

『フフ……』

 

 白いガンプラを捉えたかに見える一撃、しかしその一撃は冥・0が圧倒的なスピードで回避した為空しく空を切る。あの巨体であのスピード、恐らくあの白いガンプラがジ・0を元にしたミサキの『冥・0』。

 

「晴嵐学園が負けてる!?」

「……それほどまでに強いのか……あのチームは……」

 

 宙に尊大に浮かび、煤で汚れた純白のバンシィを見下ろしている光景は、後輩達が予想していた光景とは違っていたのだろう。それほどまでに前年度県代表という肩書は印象としては強かった。

 

 しかし俺は倒れ伏すバンシィよりも冥・0のその姿に衝撃を覚えた。あまりにもジ・0とかけ離れたその姿。刺々しい両肩と、顔と胸部と両手に取り付けられた橙色の宝玉。そしてスリムさをも感じられるその外形に、本当に元がジ・0だったのかさえ疑ってしまいたい衝動に襲われる出来だ。

 

『まだ抵抗するかい?』

『化け物が……ッ!』

 

 片手を腕に掲げた冥・0の手の宝玉が一瞬煌めくと同時に、バンシィの腕部が突然爆発する。

 

『また……っ一体どうなっていやがんだ!?俺のバンシィが……バンシィなんだぞ!!』

 

「なんだ、なにをした?」

 

 全く挙動が見えなかった。腕の宝玉が光ったらバンシィの腕関節が吹き飛んだ。光ると同時に目にも止まらない速さでビームでも繰り出したのか?いや、そうだとは限らない。

 そういえば、両チームの仲間はどこにいるのだろうか。冥・0の背後にはガンダム試作二号機の改修型が一機、晴嵐学園の方は……。

 

「ジェスタが二機ともやられている……ッ」

 

 バンシィ・ネガの背後には頭を潰され、四肢を破壊された二機のジェスタの姿があった。サーベルやライフルでの破壊ではない。一機は背部のスラスターと頭部、そして両腕が破壊されている。もう一機は両脚部と上半身がくりぬかれたように……どちらも動かすことができない程に破壊されている。

 

『うおおおおおおおおおおお!!!』

 

 NT-Dの作動を潰され、隻腕となったバンシィ・ネガがビームトンファーを展開、ボロボロのスラスターを無理やり動かし冥・0へと特攻を仕掛けた。あの損傷であそこまで動けるところを見ると流石前県代表だが、相手が強すぎた。

 

『ミサト、プラフスキー粒子圧縮』

『了解』

 

 冥・0の体に植え込まれている宝玉が再び煌めき、その色を強めていく。また不可視の攻撃をするつもりか?だがその前にバンシィの攻撃が当たる。その場から動く気配のない冥・0じゃ直撃は免れない。

 

『負けられない!このバトルだけはぁ!!』

『メイオウの力を見るがいい……』

 

 冥・0が上方に掲げた両の手の宝玉を胸部の宝玉に勢いよく合わせるように構えた瞬間、モニターが光で埋め尽くされた。

 

「何だ!?」

「ま、眩しい!?」

 

 強烈な閃光で何も見えないまま数秒ほどが経過し、ようやく画面が回復し状況が確認できるようになった時には、全てが終わっていた。

 

『ふっ、ふふふ、はははははははははははははははははははははッ!!!』

 

【BATTLE!END!!】

『じゅ、準決勝、『冥王』の勝利です!!』

 

 会場に響き渡るミサキの笑い声。彼女の駆る未だに健全な冥・0と試作二号機の足元には、無残な姿となったバンシィ・ネガが沈んでいた。ジェスタのような壊れ方とは違う、両腕が消え去り、辛うじて残っている脚部も使い物にならない程に損傷し、全身がまるで焼き焦がされたかのように壊れている。

 耐久力が高いと評判のバンシィがこんなにもボロボロになるなんて……一体どのようにしたらあんな風になるのか……。

 

「あれが決勝戦の相手……キリハラ・ミサキ……チーム『冥王』」

 

 決勝戦はこれまでとは一線を画す激しい戦いになるだろう。決勝戦に向けて俺ができること、それは冥・0の正体不明の攻撃の正体を暴く事と、その対抗策を考えること。

 

「先輩。私、応援しに来てくれた友達に頼んでさっきの試合、録画してもらったんです。それを見て対策を考えましょう」

「!本当に助かる、ありがとうノリコ」

 

 これで対策が取りやすくなった。

 問題は何処で対策を取るかだ、学校は生憎テレビがない。ファミレスは論外……テレビもあって三人が活動できる場所と言えば……。

 

「一つしかないか……」

 

 俺にとって、ガンプラを作る最高の環境、自宅だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ここが先輩の家ですか」

「あまり失礼な真似はできないな……」

 

 後輩二人を招いて、家の扉を開ける。見たところ両親はまだ帰ってきていない。

 からかわれる心配がないからある意味でチャンスだ。二人をリビングに招き、ソファーに座らせテレビをつける。

 そして彼女の友達が録画してくれたというビデオカメラをテレビに繋ぎ、『冥王』の戦いを最初から見る。画面に、晴嵐学園と八極高校のバトルが映し出される。

 

「やっぱりチーム『冥王』は試作二号機とあの白いガンプラの二体だけのようですね……」

「ああ、多分、白いガンプラ、冥・0を二人で操縦しているんだろう。あれほどの火力を持つ機体だ。補助を担う役割が居てもおかしくない」

 

 戦闘が始まった。

 序盤の戦況を見る限りバンシィとジェスタが果敢に攻撃を仕掛けていた。対する冥・0は一向に攻撃を仕掛けようとせずにただ攻撃を避けているだけ。

 

「元がジ・0ともあって凄まじい運動性ですね」

「ああ、多分あれでも本気じゃない……」

 

 しかも後の試合を見る限り、冥・0にはIフィールドに似たようなギミックが搭載されている。ノリコのホーミングレーザーも効かないかもしれない。

 しかし、あの試作二号機の違和感は何だ?冥・0から遠く離れ、全く戦いに加わろうとしていない。大きな盾を持っている割にはサーベルぐらいしか武装が見当たらない。他に重要な役割があるのか?

 

「……不自然だな」

 

 不気味ともいえる。置物のように単騎で三体のガンプラを相手している冥・0に何もせず傍観している姿は異様だ。

 ……試作二号機の事はとりあえず後回しでいいだろう。まずは、冥・0とバンシィ・ネガ、そしてジェスタ達の戦いを見ておこう。

 

『は、はは!』

『何を笑っているんだ!!』

『バカ迂闊に近寄るな!!』

 

 ライフルが当たらないことにしびれを切らしたジェスタの一体が、腰部からミサイルを発射しながら、右腕部に装備されているサーベルを引き抜き、冥・0に斬りかかる。

 

『舐めているのか僕達を!!』

 

 迫りくるミサイルとジェスタ、それらが接近してくるまで沈黙していた冥・0の腕部の宝玉が一瞬だけ煌めくと、目前にまで迫ったミサイルがまず爆発し、次にジェスタのランドセルと両腕部の関節が爆発。

 失速しながらもミサイルによって発生した煙を突き抜け、たどり着いたジェスタの頭部を、冥・0が鷲掴みにし、握りつぶす。

 

『なっ、嘘、だろ、俺のジェスタが……』

『ふふっ、残念』

 

 驚愕で声が出ないジェスタの操縦者の声を聴き流し、地上に頭部を握りつぶしたジェスタを投げ捨てた冥・0は、ゆっくりとした挙動で残りの二機に振り向く。

 

『さあ、今度はどっちが来るかな?』

 

 一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

 

 それからは俺達が見た時同じ状況だった。残りのジェスタは、両脚部を一瞬の内に破壊され、冥・0の宝玉から放たれたビームによって胸部を穿たれ、戦闘不能。バンシィ・ネガもNTーDを使い対抗しようとはしていたが、ことごとく冥・0にそれを邪魔され、最後にはあの正体不明の攻撃によって破壊されてしまった。

 

 まず分かることから考えよう。

 冥・0の基本武装は、拳と宝玉からの強力なビーム砲。機動力は高く、改修されたであろうバンシィの機動力を上回っていたという事もあり、非常に高性能。防御面はこれといった被弾は無かった為不明だが、ビームを無効化するフィールドがある。

 そして肝心のキリサキ・ミサキのファイターとしての技能、恐らく全国大会クラス。前年県代表三機相手に無傷で立ち回れる時点で異常だ。

 

「……ノリコ、今日、このビデオを貸してくれないか?」

「え?構いませんよ」

「ありがとう。二人とも、とりあえず今悩んでいてもしょうがない。ノリコ、まずはホーミングレーザーの威力に腕部が耐えられないから、その強化を。コスモ、お前が前に提案した、機体の各部からミサイルを発射する機構、それを決勝までに完成させるぞ」

「「はい!!」」

 

 俺の家にもガンプラはたくさんある。道具も充実しているし、ある意味部室よりも使い勝手がいい。だから、俺は二人の要望に、とりあえず自分たちにできる強化を施す。それが現状できることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、二人が帰った後、俺はずっと自室でビデオを見ていた。もう何十回目だろうか。爆発する瞬間で時間停止し、巻き戻す、その繰り返しの中で俺はある懸念に苛まれていた。

 

「……ミサキの使う冥・0は本当にジ・0なのか?」

 

 見れば見るほどに異様な形状のガンプラだ。

 丸みを帯びたジ・0とは全く違う鋭利を帯びたフォルム。

 謎のシステム。

 ビームソードやライフルを使わない事。

 

 何度も何度も見返すうちに、そんな疑問が頭の中でぐるぐると回っていた。どんな改修をしたらああいう風になるのか、どんな考えを持って作ったのか。ファイターとしてではなく、一人のガンプラ好きとして気になる。

 

「……ああ、悪い癖が……」

 

 今はそんなこと考えている場合じゃない。

 ………あの最後の攻撃、強烈な光のせいでいまいちどんな攻撃かは判別できなかった。でも何度も見て分かった事がある、最後の映像で少しおかしいところがあった。

 試作二号機の巨大な盾が酷く煤汚れているのだ。

 

 導き出される推測は二つ。

 今まで動かなかった試作二号機が、冥・0の作り出した隙を突いて核を撃ったか。

 でもこれはない。映像にもあったが、何故かあの盾の裏面には何もない。核が内蔵されているであろう砲身がないのだ。試作二号機を使っている割には解せない。

 ただの数合わせに見えるあの試作二号機、絶対なにかある。

 

 二つ目の推測。

 接近してきたバンシィがボロボロになるほどの強烈な攻撃が冥・0から発せられた、というものだ。あの時、ミサキは粒子の圧縮を仲間に指示した。粒子を圧縮するということは、高威力の武装を使う可能性が高い。

 これならば試作二号機の盾が焦げたように煤汚れていた事に合点がいく。

 

 この推測が有効とするならば対抗策が講じられる、だが問題はあの不可視の攻撃だ。

 

「あれが、分からない」

 

 冥・0の腕の宝玉が光ると、次の瞬間には爆発した。

 これでは予測も立てられない。スロー再生してもヒントすらも見つからない。

 

「……いや待てよ……もしかしたら俺は考え過ぎていたんじゃないか?」

 

 あの攻撃が無条件で破壊する類という可能性を捨てきれなかったこともあるが、何かを見逃している気がする。映像的なものではなく、もっと別な可能性を……。

 

「不可視……見えない?……っ!まさか!」

 

 ベッドから立ち上がり、作業台の上にある棚から二枚のディスクを取り出し再生する。一枚目のディスクに目を通すとある推測が浮上し、二枚目のディスクで推測は確定的なものに変わる。

 

「そうか、だから試作二号機の盾には何もなかったように見えた!!そういうことだったのか!」

 

 試作二号機の存在。

 ジ・0が元という認識。

 そして宝玉の光。

 冥・0の圧倒的な存在感。

 

 彼女と俺が会ったのは偶然だろう。だが彼女はその偶然を武器にした。さりげなく、そして大胆に、なまじジ・0というMSについての知識があるだけに見抜けなかった。

 

 全ての要因によって成り立つ謎、それが俺の目を曇らせていたのだ。

 蓋を開けてみればこれほどまでに簡単だった。いや、簡単だからこそ気づけなかった。

 

「彼女の冥・0は間違いなくジ・0から作られた。いや、真の意味で元になったのはジ・0じゃない……」

 

 全ての謎が連なるように並び、一つずつ紐解かれていく。

 試作二号機の盾の謎も、不可視の攻撃の謎も、全て。確かな希望を見出した俺は、二枚のディスクを見て感慨深い気持ちになる。

 

「……第7回ガンプラバトル世界大会、決勝トーナメント……まさか、俺の宝物が役に立つとは思わなかった……」

 

 やはり思い出というものは掛け替えのないものだということを再認識した。

 ……とりあえずこの事をコスモとノリコに伝えなくちゃな。

 

「分かったとなれば、思う存分やらせてもらうぞ。キリハラ・ミサキッ」

 

 決勝戦、持てる力のすべてを掛けてバトルさせてもらおう。

 

 





『ジ・0』と入力すると、0とOを間違えて『ジ・お』になるこのもどかしさ……。



今回の準決勝の相手は、本編で言う水泳部のようなギャグ要因みたいなものです。
……下手に対戦相手を出すと敵がカオスになると、このごろ理解しました。

全国まで我慢しろ私ッ、これ以上茨城を魔境にしてはいけない……ッ。

ゼオライマーの能力を再現するうえで、次元連結システムとか、完全にプラフスキー粒子の再現限界を超えていました……。再現的には、これが限界ですね……十分これでもヤバいんですけど……。

ミサキの冥・0はジ・0を元にしてます。(ジ・0から作ったとは言っていない)

次回は早くも決勝戦です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~決勝~

決勝は少し長いので二つに分けました。


 県代表を決める戦いが始まる。

 『暮機坂高校』チーム『イデガンジン』VS『八極高校』チーム『冥王』。短い期間でできることは全てやったし、対策も全て頭に叩き込んだ。

 

 バトルシステムの前にやって来た俺達は歓声溢れる会場の中で、相手チーム『冥王』の面々と相対する。チーム『冥王』はキリサキ・ミサキと二人の男女によって構成されている。確か、彼女の双子の妹のキリサキ・ミサトと、彼女達と同年代のオキツ・イサオ……だったはずだ。

 試作二号機に乗っているのがオキツ・イサオと仮定すると、あの冥・Oは姉妹二人で乗っていると考えるのが妥当だろう。

 

「やあ、レイ君。決勝で会ったね」

「ああ、ミサキ……良いバトルをしよう」

 

 準決勝の時のようなドS然とした笑みではなく朗らかな笑みを浮かべるミサキに、少し慄きながらも返事を返す。

 後輩二人が『知り合いなの?』と言いたげな視線でこちらを見るが、どうやって彼女の事を説明していいのか分からないからその話は後にする。今は目の前のバトルに集中することが重要だ。

 

「さあ、やるぞ。チーム『イデガンジン』。コスモとノリコ、お前達と俺のガンプラでまずは県を獲るぞ!!」

「「はい!!」」

 

 そうだ、俺が待ちに待った最高の舞台、選手権への切符を手に入れる為の戦い。しかも相手はこれまでで最強で最恐の相手。

 でもやることはこれまでと変わらない、自分の信じる好きなガンプラで最後まで戦い抜くだけだ。

 

「アンドウ・レイ!!ジンクスⅢ!!出るぞ!!」

「タカマ・ノリコ!!ザク!!行きます!!」

「ユズキ・コスモ!!ジム!!発進!!」

 

 プラフスキー粒子によって形作られた世界に、俺達のガンプラが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、あの人とは知り合い?」

 

 バトルシステムに冥・Oを置こうとした私に、妹のミサトが興味深げに私にそんな事を質問してきた。その質問に関して、私は少し考えてから、とりあえずの回答を言葉にする。

 

「前、偶然ファミレスで相席になってね。それで少し仲良くなっただけさ」

「それって、姉さんが一人になりたいって言って先に帰った時の?」

「その時だね」

「おいおい、まさか俺達の事について話してないだろうな?」

 

 妹とは違って同級生であるオキツ・イサオが私に訝しげな視線を送って来る。……失礼だ、と言いたいところだが、結構重要な事教えちゃったから反論はしない。

 

「心配いらないさ。私だけが彼のチームの事を知っていると不公平だと思ってね。でも名前ぐらいしか教えてないからさ」

「……頼り切っている手前偉そうなことは言えないが、あまり不用意な真似はしないでほしいな」

「大丈夫、大丈夫」

 

 まあ、彼に冥・Oの事を教えたのはもっと別の意図があったんだけどね……。難しいようで簡単な冥・Oのシステムの謎―――それをレイ君は解くことができたのかな?……それはバトルで分かるまでのお楽しみだね。

 

「じゃあ、始めようか。ミサト、システムの操作は任せるよ。私じゃ、冥・Oのシステムは扱いきれないからね」

「了解、姉さんもね」

 

 冥・Oは私とミサトでしか動かせない。いいや、私に関しては実力云々を抜きにするならばイサオでも扱える。だが、冥・Oのシステムは…………。

 

「始まるぞ、ミサキ。冥・Oの準備をしろ」

「……本当に空気が読めないよね。イサオは」

 

 対面する形にバトルシステムに立ったレイ君に視線を移しながら、私は冥・Oをバトルシステムの上に置く。プラフスキー粒子により作られたコックピットに包まれるのを確認すると、ガンプラを操縦するための球体に手を置く。

 

「さあ、決勝だ。手加減なしで行くよ!冥・O、キリハラ・ミサキ出るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージは『森林』、木々が生い茂る森の中でバトルは行われる。俺達は木々の上を飛ぶ形で敵機の索敵を行っていた。

 先頭を俺が飛び、その後ろから二人が左右を索敵しているという配置で索敵している。

 

「森林は敵が見つかりにくい。……でも裏を返せば、敵も俺達の姿を見つけにくいという事だ」

「先に敵を見つけて、有利な状態で戦うという言う事ですか?」

「そうだ」

 

 ……といっても、相手が隠れて戦ってくるようなタイプと聞かれれば、すぐにNOと言える。準決勝で見たようにミサキは、正面から相手を圧倒するタイプのファイターだ。

 彼女の思考で行くとすれば―――。

 

「……っ!!まあ、そう来るよな……!!」

 

 前方から巨大なビームが飛んでくる。

 余裕を持って散開し、ビームを回避した俺達の前に白いガンプラ、冥・Oが途轍もない速さで近づいてくる。

 

「コスモ!!」

「分かってます!!」

 

 コスモのジムの手足の装甲の一部が開き、ミサイルの弾頭が顔を出す。Iフィールド対策その1、ミサイル攻撃。普通の規格よりも若干小型のミサイルだが、十分な威力があるはず、あの冥・Oに効果があればいいのだが……。

 

「食らえぇぇぇ!!」

 

『……へぇ』

 

 四肢から一斉に放たれるミサイル。それを見て、少し速度を緩めた冥・Oは片腕を前に突き出し、宝玉から大出力のビーム砲を放つ。

 

 ビームはミサイルの数発を撃ち落とすが、まだ大量にミサイルは残っている。

 

『まだまだだね。ミサト』

『了解』

 

 冥・Oの手の宝玉が連続で光り、ミサイルが空中で勝手に爆発する。

 やはり使って来た。ミサイルを全て撃墜し、そのまま勢いを落とさずに接近してくる冥・Oに、俺はサーベルを抜き放ち、一気にスラスターを噴かす。

 

『接近戦かい!!』

「いいや!!」

 

 抜き放ったサーベルを、冥・Oの居る方向目掛けて回転させるように投げる。

 

『何を……っ!ッ!?ミサト!』

「遅い!!」

 

 GNガンランスを構え、回転しながら宙を舞うサーベルにビームを連続で放ち、ビームを拡散させる。投げたサーベルはともかく拡散されたビームでは、冥・Oにダメージは与えられないだろう。

 だが、狙いは別にある。

 

 拡散されたビームは、勢いよく冥・Oとその周囲に襲い掛かる。冥・O自身にはダメージがない事は分かる、しかしその【周り】はどうだ。

 ビームの拡散攻撃により、何もなかった空中で小規模の爆発が複数起こる。狙い通り落ちてくれたか……。

 

『やってくれたね……ッ!』

「そのトリックは先輩が見破っているのよ!!」

 

 俺が先行する時に合わせ、空高く飛び上がったノリコのザクの飛び蹴りが冥・Oに向けて放たれるも、冥・Oは凄まじい運動性でくるりと宙で回転して回避すると、俺達から距離を取る様に後方に下がる。

 その隙を見逃すはずがなく、GNガンランスを構え、ビームマシンガンで威嚇しながら突撃する。

 

『くっ、ふ……』

 

 突撃と同時に繰り出されたランスを、身を捻り避けそのまま片腕で掴み取った冥・O、こちらも反撃はさせるかとばかりに冥・Oのもう片方の腕を掴み押さえつける。

 必然的に、お互いのガンプラの頭部が激突し、拮抗状態に陥る。

 

「考える時間はいくらでもあったッ」

『でもそうそう思いつくものじゃない……ッ』

 

 ああ、確かに思いつかないだろうさ。

 でもオレは、見ている。あの7年前の彼らの戦いを。

 

「クリアファンネル。第7回ガンプラバトル選手権、アイラ・ユルキアイネンのキュベレイ・パピヨンの武装……それがお前の不可視の攻撃の正体だ」

『……く、くくく……すごいね。本当にバレるとは思ってなかったよ!』

「ノリコ!コスモ!近づくな!!ファンネルは全て破壊した訳じゃない!!」

 

 今俺が無事なのは、冥・Oに超至近距離にまで接近しているからだ。ここから少しでも離れれば、一瞬の内に脆い個所を攻撃され破壊される。

 

「でも私なら!!」

「!?」

 

 俺の制止を聞かずノリコが接近してくる。

 

『それは勇気じゃないよ、ザクのファイター』

 

 押さえつけている宝玉が光ると同時に、ノリコのザクの両脚と両腕の関節部が同時に破裂する。思わず叫びそうになるが、次の瞬間、無傷のザクが煙の中から姿を現した。

 

『!?……へぇ!!』

「私のザクは、装甲も関節もッ!!ザクとは違うのよ!!」

 

 ノリコのザクの拳が押さえつけている冥・Oの顔面を捉え……たかにも思えたが、瞬間、凄まじい勢いで全身からスラスターを噴出させ、抵抗する俺ごと別方向へ飛び出した。

 

「姿は変わってもジ・Oッ、なんていう出力だ……っ!」

 

 まずい、戦況を整えさせられる……ッ!

 第一接触で速攻で倒すのは無理だ……次の作戦に移らなければ……。

 

「コスモ!!試作二号機を探せ!!そいつが追加分のファンネルを持っている!!ノリコは俺と!!」

「分かりました!!」

『やっぱり一番厄介なチームだね!でもだからこそ!』

 

 そのまま抑え、抑えられながらも、ステージ内を数百メートルほど飛ぶ。

 しかし、そこで急停止、慣性力と共に急回転し俺のジンクスを引き剥がすように、森林の方へ弾き飛ばした。

 

「まず……!」

 

 ファンネルが来る事を悟って、不安定な体勢のまま急加速し、その場から離れる。瞬間、ジンクスのつま先部分に微かな金属音が響き、爆発が起こる。

 左腕のシールドで防御した俺は、その爆発を見てある確信をする。

 

「やっぱり爆発するファンネル……厄介な……」

『フフフ……』

 

 引き剥がされる際に手放してしまった俺のランスを地上に放り投げた冥・Oは、その場に浮きながら、こちらを静かに眺めている。

 主武装が落ちてしまった。取りに行かせてくれるほど甘い相手とは思えない……行った瞬間にファンネルが俺に襲い掛かるだろう。

 

「先輩!!」

「来たか……」

 

 やや遅れて到着したザクに若干安堵しながらも、冥・Oからは視線を外さない。

 全く……不可視の武装程恐ろしいものはない。ここはガンランスを諦め、ファンネルに捕捉される前に攻勢に転じた方が得策だな。

 腰にマウントしてあるGNビームライフルを左腕に、サーベルをもう片方に装備する。

 

「行くぞ……!」

 

 冥・Oの周りを高速で旋回しながらライフルを撃つ。当然冥・OはI・フィールドでそれを防ぐが、ノリコのザクがその隙を突き攻撃を仕掛ける。

 

「はァァァァ!!」

『それが完成していれば話は変わっていたかもしれない……でも』

 

 ザクの放った蹴りは、冥・Oの放った拳と衝突し弾かれる。だがノリコも大会で勝ち進んできたファイターの一人、弾かれた勢いを利用し、肩のスラスターで方向転換、姿勢を再び冥・Oに向け片方に掌を向け、至近距離でのホーミングレーザーを放つ。

 

「この距離なら照準は関係ない!」

 

 放たれる無数のレーザー、だがその攻撃は冥・Oに当たる事が無くI・フィールドによって防がれてしまう。予想していたが、冥・Oは極力武装を軽減しているせいか、運動性・機動性・粒子量が並のガンプラの比じゃない。

 

『狙いは良い。狙いはね』

 

 冥・Oの宝玉が連続で光る。その挙動に悪寒を感じとった俺は、すぐさまサーベルを冥・Oに向かって突き出すが、それも淡い光を放った腕部の宝玉に防がれる。

 

「粒子を放出して防いだのか!サーベルを!?」

『プラフスキー粒子の応用さ。それより、いいのかい?君の仲間は』

 

 ミサキの声に咄嗟に視線をノリコの方に向ける。すると、ノリコのザクの右腕と左脚の関節部に、連続して爆発が起こっているのが視界に映る。

 ラバーによって守られている関節部を集中して狙ったのか……ッ。

 

「……う、まだぁ!!」

『駄目だよ……』

 

 連続での爆発に耐えられなかったのか、爆発された関節から先が引きちぎられるように分断されてしまったザクは、爆発によって生じた風圧により、森林の方へ落ちていく。

 

「うぅ……ッ先輩っすいません!!」

「ノリコ!!」

『装甲を過信し過ぎたね』

 

 まさか限りあるファンネルを迷いなく、惜しみなく使ってくるとは。並大抵の攻撃が効かないノリコを真っ先に狙ったか……。これでは同程度の耐久力を持つコスモのジムもやられてしまうぞ。

 強い、強すぎる。ファイターとしての腕も、その観察力も、判断力も。俺が戦ってきたファイターの中で上位に位置するヤバさだ。

 ここまでして俺達の攻撃が一度たりとも当たってはいない事がさらに絶望的だ。

 

『さあ、敵討ちでもするかい』

「いや、これはガンプラバトルだ」

『……そうだね』

 

 まだノリコは終わっていない。俺は彼女の事を良く知っている、素直で負けず嫌い。このままやられて黙っているはずがない。それを理解しているからこそ、俺は冥・Oから視線を逸らさない。

 

『じゃあ一対一だね!!』

 

 突きだしたサーベルを防いでいる腕とは別の腕が動くのを見ると同時に、脚部を動かし冥・Oの腹部に膝蹴りを繰り出す。当然、回避しようとする冥・O、しかしその瞬間に膝蹴りを中止し、左腕のライフルを持ち替えて思い切り殴りつける。

 

『……ふ、く……は、はは!!』

「なッ!?」

 

 大きくのけ反る冥・Oだが、のけ反った状態のままこちらに拳を向け、ビームを放って来た。

 それを危うく躱そうとするが、左腕がシールドとライフルごとビームに巻き込まれ消滅する。

 

「っ!!」

 

 左腕が消失したと認識すると同時に、咄嗟にサーベルを何もない空間に無造作に振るい、右腕の関節を狙ったであろうクリアファンネルを撃墜させ、再度冥・Oに接近戦を挑む。

 

『えぇっ!?』

『君はニュータイプかい!?』

「残った腕を狙うのは当然だろう!!」

 

 正直な話、ホントに来てるとは思わなかった。

 

『並の神経じゃないね……。しかしよく気付いたねぇ!!ファンネルと分かったなら、普通ならそこで考えが止まるのに!!』

「関節部の爆発、それが第二の鍵だった!」

 

 ただのファンネルならおかしな点があった。ファンネルを用いているはずなのに、ビームを確認することができない事。透明なビームを放つことができると言われればそれでお終いかもしれないが、俺はガンプラバトル世界大会、決勝トーナメントの映像が入っている二枚目のディスクを見て、ある可能性が浮上した。

 

「レナート兄弟のジムスナイパーK9の『タイムストップ作戦』ッ。これはガンプラの関節部に小型の爆弾を取り付け、動きを止めるという戦術!!」

 

 メイジン・カワグチはガンプラの関節部にグリスを塗る事で破壊を回避したが、もし、その対策ができない兵器があるとしたらどうだろうか。

 もし、どんなファイターにも目視すらさせないファンネルと、ファンネルのように宙を意のままに停滞・突撃・その軌道を操作することができる兵器があるとすれば……。

 

「やり方は違うが、お前、いやお前達は見えない爆発するファンネルを使って、あの不可視の攻撃をしているということ……、それに当てはまるファンネルは一つしかない。ファンネルミサイル……そうだろう、ミサキ」

 

 ファンネルミサイル。 『閃光のハサウェイ』で登場した無線式兵器、ファンネルをビームを撃ち出す兵器としてではなく、それ単体をミサイルとした、既存のファンネルとは一線を画したファンネルである。

 

『……すごい、ここまで見破られるなんて……』

『そうだねミサト………そうさ、私達が使っているのはファンネルミサイル!!そこまで理解しているという事は、私達の冥・Oの秘密も、もう分かってると考えてもいいんだね!』

「……勿論だ」

 

 高出力のビームをロールする機動で危なげに躱し、接近を試みる。

 

「ッ!!確かにお前たちの冥・Oはジ・Oから作られた……でもジ・Oはファンネルを使わない。ある意味その認識に惑わされていた……でも!」

 

 ビームの隙間を抜けた先で、こちらに向けて突き出された粒子の纏った拳を、破壊された左腕の肩で受け止めながらも、冥・Oの尖った肩を下から切り上げるように切り落とした。微かな手応えを感じながらも思い切り息を吸い込み、間髪入れずに突撃をかける。

 

「ファンネルを使うジ・Oは存在する!」

 

 ゲーム以外では立体化も映像化もされていない設定上の機体だが、確かに存在する。

 ファンネルを使うジ・Oの強化型。

 

「お前達の冥・Oは確かにジ・Oを元にして作られたガンプラだ!!でも冥・Oとして形になる前の段階はジ・Oじゃなかった!!そう考えれば辻褄が合う!その白い塗装も!その鋭利な外観も!!ファンネルを扱う事も!!」

『君も相当のガンダム好きだね……今時知っている人なんて殆どいないよ……』

 

 何処か嬉しげな声音のミサキ、だがこちらはそんな事に反応している訳じゃない。こうしている今も、こちらを捕捉しようとしているであろうファンネルと、冥・Oの攻撃を必死に回避し捌く。

 

『タイタニア……それが私達の冥・Oの前のガンプラ。そしてタイタニアは冥・Oに変わった。無敵のロボットの名を関するガンプラにね』

 

 それが冥・O、全く出鱈目なガンプラだ。

 謎を解いた今でも感嘆の声が上がってしまいそうになる。第7回大会以降一度も見る事はなかったクリアファンネルを使いこなし、ましてやそれを使い捨てのファンネルミサイルにするという発想。

 そしてミサキと彼女の妹のファイターとしての圧倒的なセンス。

 俺一人では、今頃負けていたと思う。

 

『でも分かったからと言って勝てる訳じゃないよ!』

 

 確かにそうだ。

 隻腕のまま、ミサイルファンネルが飛び回るこの場ではかなり分が悪い。しかもこの高速戦闘下の中で負傷したノリコのザクが追い付けるはずがない。

 ミサイルファンネルの数は着実に少なくなってきている。……でも、試作二号機の大盾をバインダーに仕込まれているであろう分も考えれば安心はできない。

 

「コスモ、頼んだぞ……ッ。ここは保たせる…だからお前は………」

 

 冥・Oの拳とジンクスのサーベルが激突し、周囲に粒子を散らす。

 片腕の状態で何処までできるかは分からない。だけど、やれるところまでやらせて貰う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩にファンネルを持っているであろう試作二号機、サイサリスの撃墜を任された俺のイデオン・ジムは木々生い茂る森の中を飛んでいた。

 

「見つけた」

 

 サイサリスは思いのほか簡単に見つかった。

 先輩曰く、冥・Oのサポートを担っているであろうそのガンプラは、先輩達と冥・Oが戦闘を行っている場所から、一定の距離を保ち移動しているとのことだった。

 

 サイサリスを発見した俺のイデオン・ジムは、即座にミサイルを放ち、サイサリスの撃墜を試みる。

 

『……ッ!!見つかったか!!』

「そんな大胆に動かれちゃあ簡単に見つけられるさ!!」

 

 ミサイルを盾で防いだのを目視した後、すぐさま腕部の手の付け根付近からサーベルを出し、サイサリスへと斬りかかる。しかし相手のサイサリスも容易くはやられてはくれない。こちらと同じように展開させたサーベルで受けられる。

 

「ファンネルは出させない!!」

『……!!気付きやがったか……ッ。ならなおさら落とされる訳にはいかないな!』

 

 先輩は、サイサリスの持っている盾に不可視のファンネル、クリアファンネルが大量に積まれていると言っていた。何故、そのような予備のファンネルが必要なのかと疑問に思ったが、そのファンネルがミサイルなら納得がいく。

 ファンネルミサイル……絶大な威力を誇るが消費が激しい、そのためにファンネルミサイルを補充するための『ストック』、その役割を担うサイサリスが出てくるわけだ。

 

『……っ、く……うおおおおお!!ジムが何でこんな……ッ!』

「ただのジムじゃッない!!」

 

 サーベルを押し込み、サイサリスの頭部を融解させる。

 早く、早く決着を着けて、先輩とノリコの援護に向かうわなければならない……ッ!サーベルを展開している方とは逆の腕を前方に突き出し、内蔵したビームを撃ち出す。

 

 それを無理な体勢で動かした大盾で防がれ、その瞬間を狙われ両肩のスラスターの噴出によって大きく距離を取られる。

 

『ッ……ふぅ……成程、大会を勝ち上がって来たからには、相当強い……サポートしかやっていない俺では勝てないか……だが、俺を倒してもミサキとミサトの冥・Oには敵わないぜ』

「……それは貴方が決める事じゃない」

 

 サーベルの出力を上げたサイサリスに警戒しつつも、相手、オキツ・イサオの言葉に耳を傾ける。

 

『稀にいるんだよ、ああいう奴等は……。才能とでも言うのかね?クリアファンネルなんて只のおまけみたいなもんさ、本当のキリサキ・ミサキはただただ強く、キリサキ・ミサトは人に見えない何かが見える。それでガンプラを作る技術もあるんだから理不尽なもんさ』

 

 ……諦めた様に呟いている目の前のファイターは高校二年生の先輩だが、今の自分にはただ疑問だけしか抱けなかった。気持ちはすごく分かる、才能の違いを嘆くのは分かる。それは誰だって思う人の感情のようなものだから……。

 でも、それを今嘆くのは違うのではないか?今、自分に言うのは違うのではないか?今はそのキリサキ姉妹も戦っているし、先輩達も戦っている。それなのに理不尽だから負けを認めろと諭されても、はい、そうですかと納得するはずがない。

 

「強い、敵わない、そういう言葉はただの逃げだ。貴方がどんな魂胆でそういう話をしたかは分からない。時間稼ぎの為の嘘だとしてもっ!!今の言葉は……ッ、今この時に全力を尽くして戦っている先輩達に対しての侮辱だ!!」

『なら俺はどうしてこんな様になっている!?こんな棺桶のようなガンプラを操作して!!そうせざるを得なかった俺は何にどう訴えればいい!?』

「好きにバトルすればいいだろう!!それがガンプラバトルじゃないのか!!」

『大会で勝つ為にはそうするしかないだろ!?役に立てないまま突っ立てるよりも!!勝つ為にできる最低限のサポートを見せなければ、チームの一人である俺の立つ瀬がねえだろうが!!』

 

 怒声と共に大盾をはるか後方に投げ捨て、両手で握りしめた長大な長さと化したサーベルを構えて突撃してくるサイサリス。俺は迎撃するために脚部に内蔵された残りのミサイルを全て放つ。

 

「そんなつまらないプライド……!」

『つまらないプライドだからこそッ……守らなければ意味ないじゃないか!!』

「守らなければ保てないプライドなんて……!」

 

 ミサイルを身に受けながらも突き進んで来たサイサリスが振るった高出力のサーベルを、腕部のサーベルで受け止める。サーベル同士が激突し、強烈な光が周囲を明るく照らす。

 相当無理な操縦をしているのか、先程は勝っていた力が今は拮抗している。そのかわり、目の前のサイサリスの腕部からは故障したようにスパークしている。

 

「そんな使い方……身を滅ぼすぞ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

「……ッ!」

 

 この人がやっている事はただの八つ当たりだ。でもその八つ当たりの矛先は自分自身、選手権でのバトルに自信を見出せない不満からくるもの。

 荒んだ心に武器は危険、とはうまい言葉だとこんな時だからこそ思う。

 

「でも、負けてやるわけにはいかない……ッ」

 

 終わらせる。

 両腕に内蔵された16本のサーベルを同時に発動させる。隣り合ったサーベルは相互作用によって粒子同士が干渉し、その出力を倍増させてゆく。

 V2ガンダムのビームサーベルの使い方を見て自分で作り上げ、それに先輩の手も加わって作る事が出来たオリジナルのビームサーベル、これで断ち切る。

 

『サーベルが伸びッ……!?』

「イデオンソォォォ―――――ド!!」

 

 自身の5倍を優に超える長さのビームサーベルを手首から伸ばしたイデオン・ジムは、そのまま木々をなぎ倒しながら、動きを止めたサイサリスへと横薙ぎに振るう。

 

 サーベルの枠を超えた発光した粒子の塊は、サイサリスが防御した高出力サーベルにぶつかり粒子を撒き散らす。

 

『こんな、バカみたいなサーベルが……ッ!!』

「バカを突き詰めてこそ……ッガンプラファイターだろォォォ!!」

 

 腕を力の限り突き出し、イデオン・ジムのパワーを最大にまで上げる。同時にサーベルが凄まじい勢いで粒子を放出しその色を白色に変え、サイサリスのサーベルを徐々に消滅させ、巨大な刃を本体のサイサリスへと迫る。

 

『……ッ……最低限の仕事はできたかね……』

 

 俺の予想のソレを上回って巨大な光線と化したサーベルはサイサリスの胸部から下を消滅させ、その後方の森の木々までをも両断した。

 

 腕を振り切ったイデオン・ジムの視界には上半身のみとなったサイサリス。その光景に何処か虚しさを感じながらも、元のピンク色に戻ったサーベルの出力を切る。

 

「あの人……いやそれより……白くなった……まるで……」

 

 イデオンソードみたいに。まるでどんな巨大な物でも両断した、あの光の剣のように。思い出されるのは先輩の言葉、これがプラフスキー粒子の『未開の可能性』。

 

「そうだ、ファンネルが!!」

 

 サイサリスが捨てた大盾の事を思いだし、すぐさま捨てられた盾の方に近づく。急いでファンネルを破壊してすぐに先輩の援護に向かわねば。

 巨大な盾を裏返しにしその中身を見る。先輩の話からすると、ここにクリアファンネルが格納されているはずなんだが……。中を探ろうと手を差し入れた瞬間、盾の内側の一部が破裂し、複数の留め金のような物が弾け飛ぶように上に飛んで行った。

 

「な!?」

 

 爆弾!?咄嗟に距離を取るが何も起こらない。

 

「……まさか!」

 

 盾の持ち手を掴むとまるで積み木のようにボロボロと盾の部品が地面に落ちていく。

 ……やられた。俺はそこで、彼がこれを見越して盾を捨てた事に気付いた。考えてみれば当然だった。あの広範囲攻撃に耐えうる盾が、敵に悪用されないとは限らないのだ。

 そのための安全策は当然の如く用意しているはず。そう考えると、さっきの人の煽るような言動は何処かおかしかった。あれではまるでこちらの意識を盾から逸らすように……。

 

「ファンネルは!!……ない!?」

 

 ここにはないという事は既に飛ばされている事になる。

 相手のファンネルの及ぶ範囲を見誤っていた……。全てのファンネルが先輩達の方に既に行っているとしたら相当不味い。

 

「……先輩!!ノリコ!!」

 

 戦闘中なのか、先輩にもノリコにも繋がらない……。いてもたってもいられず、周囲の空を見回し、先輩達が戦っている場所を探す。近くでいくつもの爆発音と、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえる。その方向に目を向けると、この場所からさほど遠くない距離で、二つの影が凄まじい速さで戦闘しているのが目に入る。

 そして―――。

 

「あれは……」

 

 二つの影の内の一つが急停止したかと思った瞬間、凄まじい爆発が二つの影があった場所で起こった。

 考える前に直ぐに機体を動かしていた。あの二つの機体が何かは判別がつかないが、一つだけ分かるのは、この戦いに終わりは近い事、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……来た』

 

 戦闘の最中、冥・Oを突如制止させたミサキが静かにそう呟いた。バトルが始まってから数十分、なんとか凌いではいるものの、こちらは既に満身創痍だ。

 消失した左腕は肩からなくなり、脇腹の装甲はビームによって焼き焦げ、武装はGNビームサーベルしかない。対してミサキの冥・Oは所々に損傷は見られるが、まだまだ戦える状態にある。

 それに先程の言葉。

 

「追加のファンネルが来たという事か」

『そうだよ、私の仲間が近くまで持ってきてくれたんでね』

 

 コスモは間に合わなかった……いや、この場合相手の方が上手だったという事か。どうしようか、このまま奥の手である『トランザム』に賭けてみるのもいいが、エネルギーを考えると確実性が無さ過ぎる。

 

『ミサト、メイオウを発動させるよ。最大出力でね』

『了解』

「させるか!!」

 

 制止している冥・Oの全身の宝玉が黄金色に輝くのを見ると同時に、阻止するべく前に飛び出す。しかし俺の進む先を塞ぐように、一つのファンネルミサイルが爆発するのを皮切りに、爆発により生じた黒煙により姿を現したファンネルミサイルが次々と自爆していく。

 俺を狙うのではなく冥・Oへの行く手を強引に塞いでいるのか。

 

『だからこそのファンネルミサイルさ。キミ相手に棒立ちは余りにも無防備すぎるからね』

 

 爆発による余波に晒され装甲がどんどん剥がれていく。頭部はファンネルの破片が突き刺さり、右腕のサーベルが吹き飛ぶ。このままではあの広範囲攻撃が放たれ、俺のジンクスは完全に破壊されてしまうだろう。迷っている暇はない。

 

「トランザ――――」

『遅いよ!!』

 

 冥・Oが両の手を胸部の宝玉に重ね合わせた。

 瞬間、暴力的なエネルギーが爆発するように周囲へ放たれた。

 

「メイオウ……そういうことか……っ!!」

 

 目前にまで迫って来る破壊の力に俺は成す術もなく飛ぶことしかできない。

 このまま終われるかッ、まだ全国に行っていない。後輩たちの期待にも応えていない。

 

「トランザム!!」

 

 粒子量を三倍にするトランザムのスピードで後方に退する。だが相手は高濃度の粒子の全方位攻撃。簡単には逃げきれず、その距離はどんどん近づいていく。

 ジンクスの片足がトランザムの負荷に耐えきれず破裂した。瞬間、一瞬だがジンクスのバランスが崩れ、ガクンとスピードが緩む。

 

「ここまでか……!!」

 

 

『先輩!!』

 

 

 光に飲み込まれる寸前、俺を呼ぶ仲間達の声が聞こえた。

 

 




冥・Oの正体はタイタニアでした。
ファンネル搭載機って事は、やっぱりパプテマス様ってすごかったんですね。


PSP版の魔装機神Ⅱが960円で売ってたので欲に負けて買ってしまった……。
サイバスターってやっぱりカッコいいですね。小さい頃に見たアニメ版の『魔装機神サイバスター』の印象がありましたけど……あのアニメはOPが印象的でしたね。……うん。

次話もすぐさま更新致します。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~決勝2~

後編です。


 私の妹、キリサキ・ミサトは不思議な子だった。

 ガンプラバトルはそれほど強くはなかったが、異様に攻撃を避けるのが巧いという特技があるミサト。当然私も疑問には思って彼女に訊いてみると、訳の分からない言葉が帰って来た。

 

「姉さんには、綺麗な光が見えないの?」

 

 綺麗な光が何を指しているのかは分からなかった。でも、ミサトには自分達には見えない、特別な何かが見える事はなんとなくだけど理解できた。大切な妹の事でもあるので、彼女とバトルしながらもネットや本でその事を調べてみると、答えこそ出ないがある予想が私の中で浮かんだ。

 

 もしかしたらミサトはプラフスキー粒子の流れを見る事ができるのではないか?という物だ。

 

 ガンプラを動かすうえでプラフスキー粒子は必要不可欠。でもその粒子を目視する事は普通はできない。

 ガンプラの能力による作用で目視することはできるが、それとは別にステージを構成している空気中の粒子、ガンプラを動かしている粒子。それらの目には見えないであろう粒子の流れをミサトは見る事ができた。

 

 そう考えるとミサトは粒子の微量な機微を見定めて攻撃を先読みしたと考えても良い。稀有な才能、それが最初に抱いた私の感想で、次に思ったのは、私とミサトが一緒に戦えば、非の打ち所のないガンプラが生まれるのではないか、というものだった。

 

 当然、ミサトにも全て話したうえで相談し、快く了解を貰って私達はミサトの力を最大限に生かせるガンプラ作りに取り掛かった。作るうえでモデルとしたものが『冥王計画ゼオライマー』に登場する圧倒的な強さを誇るスーパーロボット、ゼオライマー。

 なんでこれ?とミサトにやや引かれながらも聞かれたが、なんか強くてカッコいいからだとしか言えない。正直に言うなら……自分の中で思い浮かぶ最強のイメージと言ったら、真っ先にこれが思い浮かんだから、というのが一番の理由かもしれない。

 

 高校一年生の時から一年間を費やし、ようやく完成させたゼオライマー……いや、冥・Oは私達の予想を超えた強さのガンプラとなった。

 

 不可視の無線兵器、クリアファンネルミサイル。

 ミサトの目と補助によって相手の挙動を先読みし、私に伝えるシステム。

 そして問答無用で広範囲を一気に殲滅することができるメイオウ。

 

 正直に言うとやってしまった感が半端なかった。

 冥・Oの力試しとして出場してみた選手権、県予選の最初の相手をあっという間に倒してしまった時は、自分でもあまりの呆気なさに思わず呆けてしまった。

 

 私とミサトでガンプラを楽しみたいからこそ作った冥・Oではあるが、対等な相手がいないという理由で躓くなんて思いもしなかった。

 相手を侮っている訳ではない、逆に油断なく全力で戦ってしまった結果、そうなってしまっただけだ。

 

 イメージする最強が最恐すぎた。

 私自身、冥・Oがついこの前完成して、柄にもなく舞い上がっていたのかもしれない。

 

 県予選を終えた私達は、前年県代表の青嵐学園のバトルを少しだけ見てから帰ろうとしていた時、ある一つのバトルが私の目に留まった。

 

 ガンタンクと灰色のGN-XⅢがバトルしている光景。

 地味なバトル、他のダイナミックな戦い方をしているガンバスターに似ているザクとイデオンに似てるジムの戦いを見れば目移りしてしまうかもしれないが、何故か私はその地味なバトルに目を奪われてしまった。

 

 ミサトとイサオはザクとジムの方に目が行っているようだが、どうにもあのジンクスからは目が離せない。ジンクスのパイロットの名はアンドウ・レイ。アンドウという有名なガンプラファイターの名は知っているが、彼はその関係者なのかもしれない。他の選手と比べてガンプラの操作が鮮やかだ。

 

 彼のジンクスはその手に持った、ライフルとランスが合体したような武装でガンタンクを突く。しかし、相手の方も甘くはない。上半身を囮として切り離し、戦車のような形態となった下半身で、無防備なジンクスⅢを狙い撃とうとする。

 ガンタンクは見た目は弱く見えるが、砲撃特化の重戦車、実弾を持つMSの中ではそれなりの攻撃力を持つ機体だ。そんな攻撃の直撃を受けて無事に済むはずがない。

 

 そんな事を考えていた私の目の前で、ジンクスが亜音速で迫りくるガンタンクの放った砲弾をサーベルで両断する光景が視界に映りこむ。

 

 思えばこの時、予感していたかもしれない。

 チーム『イデガンジン』は、この大会で冥・Oの力を出し切って戦えるチームだということを……。

 

「……楽しみにしてるよ、アンドウ・レイ君」

 

 少し恥ずかしい独り言を呟いた直後。彼、アンドウ・レイと偶然ファミレスで相席になってしまうという中々に気まずい体験をしてしまうことを、この時の私は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『メイオウ』は戦闘の最中、吸収した周囲の粒子を自身に取り込み、圧縮し一気に周囲へ破壊のエネルギーとして撒き散らすだけの単純な技。周りのファンネルを全て破壊してしまい、尚且つエネルギーのチャージに少しばかり時間を掛けてしまう事が難点だが、それに値する威力が備わっている。

 攻撃範囲は吸収したプラフスキー粒子に比例して拡大、そして早く広まっていく。

 

 技が発動すれば並大抵の相手はどんな方法を用いても回避は不可能。

 

 バンシィであろうと、トランザム中のガンプラであろうと、最大出力のメイオウからは決して逃れられない。

 少し古い漫画のように言うなら、冥王からは逃げられない、だろうね。

 

「でも、なんでかなぁ」

 

 まだバトルは終わっていない。まだまだ私と、冥・Oと戦ってくれる。それが今まさにメイオウに飲み込まれたであろう、レイ君のジンクスのいる場所からモニターを通して伝わって来る。

 

「姉さん」

「うん?」

「私はもう何もできない。ファンネルも、集めた粒子も全部使っちゃった」

「……そっか」

 

 ミサトはこの真っ白い空間の中で見る事ができたのだろう。彼女の言葉で、離しかけた手元の球体に再度手を置き、力強く握りしめる。

 

「後は、私が好きにやるよ」

「うん」

 

 メイオウが内側から霧散するようにフィールドに解けていく。徐々に開けてゆく視界の中、胸の中で熱く燃え上がる『何か』を感じとる。彼等とバトルしている時、ずっと私の心を滾らせるように訴えていたもの。

 断じて恋とかそういう甘酸っぱいものではない。もっと別な、もっと熱く、心を揺さぶるような躍動する感情。

 

「ワクワクしているんだなぁ、私」

 

 光が全て消え去り、私の目の前に現れたのは、全身を酷く損傷した赤く大きなジムと、片腕と片足がない紺色のザクが、レイ君のジンクスⅢを守る様に壁になっている光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前に赤いジムと濃い紺色のザクが居る。

 いや、正確に言うならば、紺色のザクが俺のジンクスⅢを覆うように片手を広げ壁になり、さらにその前に赤いジムがその後ろで、ミサキの放った冥・Oを受け止めていた。

 

「ノリコ……コスモ……っ」

 

 二人のガンプラが俺とメイオウの間に同時に割って入り、俺を庇っていたのだ。荒れ狂う嵐を思わせる粒子の波に、徐々に装甲が剥がれ落ち、腕、脚が千切び、痛々しい姿に変わっていく二人のガンプラ。

 

「お前等、何で……」

「すいません、勝手に動きました」

「私もッ……です!」

 

 ノリコに至っては浮いていられるのもやっとの状態じゃないか。何で、こんな半壊に等しい俺なんて、見捨てても良かったはずなのに。

 

「俺は、自分の役目を成し遂げられなかった駄目な後輩です。でも、そんな俺でも……先輩に、貴方に勝ってほしいです……ッ」

「私とコスモはっ、先輩に勝って欲しい!!だから私はっ……だから無理でも無茶でも、不可能でも言わせてください!!先輩戦ってください!!」

「………困ったな」

 

 だからといって身を挺して俺を助ける事はないだろうに……お前達だけで戦うという選択肢もあっただろうに……それをさせるほど、信頼されてたのか……。全く、どこまで責任感が強くて、素直で実直で、可愛い後輩達だよ……。

 

 そんなに期待されたら俺もやる気を出さざるを得ないじゃないか。

 

「任せろ」

 

 メイオウの光が途切れ、視界に映る光景が元の景色に戻る。それと同時に装甲が焼け焦げ変り果てたジムが、その役目を終えた様にゆっくりと、後ろへ倒れ込むように森林へ落ちていく。

 そして、ノリコのザクもコスモより少し遅れて落ちていく。その光景を見届け、ミサキの冥・Oの方に視線を移そうとしたその時、ノリコの大声が聞こえた。

 

「せんぱぁぁぁぁぁい!!受け取ってくださぁぁぁい!!」

 

 声のする方に驚きながらも目を向けると、隻腕のザクが落下しながらも、こちらへ灰色の突起状の物体を投擲してきたのだ。こちらのすぐ横を通り過ぎる軌道で投げられた、突起状の物体を空中で掴み取る。掴み取ったソレを見て、俺は感慨深い気持ちになった。

 

「………俺だけじゃ、勝てなかったな」

 

 この大会は何時だって後輩達が居たからここまで来れた。

 コスモには自由な発想力を教えて貰った。

 ノリコのガンプラバトルへの溢れる活力には驚かせて貰った。

 

 そしてこの試合でも、俺一人ではミサキには勝てなかった。ノリコがいなければ、彼女のファンネルミサイルに落とされていただろう。コスモに試作二号機を任せて置いたおかげで、安心してミサキと闘う事が出来た。コスモとノリコがいなければ、自分はメイオウで落ちていた。

 結果的にそうなったと言えばそれだけかもしれない。でも、俺が今この場で戦えることが、何よりの証拠だ。

 

『良い後輩だね。私もあんな後輩が欲しいよ』

「そうだな、俺には勿体なさ過ぎる奴等だ」

 

 左腕の肩から先はないし、左足もない。サーベルも盾もライフルも全てなくなってしまったし、今は切ってあるがトランザムの残り時間も僅か。でも俺には後輩から受け取った槍がある。

 

 冥・Oによって森林に捨てられ、後輩の手によって再び俺の手に戻って来た『GNガンランス』を腕に装備し直す。右腕にしっくり来る装備にどこか懐かしい物を感じながら、機体をミサキの方に向かせる。

 

『私は全てを出しきったよ。君はどうだい?』

「出しきるさ、今からな」

 

 背のGNドライブから粒子を放出させてランスを構える。遠距離武器は効かない、全部近接攻撃のみで勝負を着ける。そしてチャンスはトランザムが続く数分のみ。

 

「トランザム!!」

『さあ、このバトルに決着を着けよう!!レイ君!!』

 

 赤く発光したジンクスと、全身のスラスターを噴かし白い光を拳に纏わせた冥・Oが、同時に前に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中で白いガンプラと赤く輝くガンプラがぶつかり合う。トランザムを作動したジンクスⅢは、その手に持ったランスを冥・O目掛け、叩きつけるように横薙ぎに振るう。

 冥・Oはそれを粒子を纏わせた拳で弾き、上方に勢いよく上昇する。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 トランザム状態のジンクスも上昇し、冥・Oを追跡する。しかし冥・Oの最大出力はトランザムのスピードとそうは変わらない。徐々に距離が狭まっていくと、冥・Oが突然急停止、側方のスラスターを一瞬だけ噴かしてこちらへ振り向いた。

 全身にスラスターを内蔵しているジ・Oだからこそできる芸当。スピードの乗った今のジンクスが冥・Oの一撃を食らったらただでは済まない。良くて半壊、悪くて木端微塵。

 それを予測したうえで敢えてショットランサーを撃ち出し、ミサキの注意を逸らす。

 

『それは見たよ!』

 

 即座に弾かれるもそのまま接近し、近距離から再びショットランサーを放つ。間髪入れずに放たれたソレは、冥・Oの肩の関節に突き刺さった。

 

『……っ……』

「今!」

 

 肩に突き刺さったショットランサーに合わせるようにランスを繰り出し、冥・Oの腕を肩から切り離す。苦悶の声を上げるミサキだが、冥・Oが無造作に振りぬいた左腕がジンクスのメインカメラを捉え、側頭部が深く抉り取られる。

 

「ぐッ……」

『やってくれるね……ッ』

 

 一瞬視界が暗転したせいか、数秒の間重力に従って落ちていくがすぐに建て直し、再びショットランサーを二つ放つ。しかしミサキは同じ手が効くような相手じゃない、宙で横に回転するようにして弾かれる。

 

『これが、これがしたかったんだよ!私は!!』

「何を!!」

『これが私が求めたガンプラバトルさ!!』

 

 すごく楽しそうな声だ。

 ……いや、楽しいんだろうな、俺だって楽しい。こうした死力を尽くしたバトルはある意味初めてかもしれないけど、こうやって楽しんでするのもガンプラバトルだ。何もおかしい事ではない。

 

 全国にはミサキみたいなすごく強い選手が沢山いるんだろうか。一番最初に頭に浮かぶのはガンプラ学園の選手達。去年は届かぬ距離にいた全国への舞台は、今や目の前。

 

 こんな楽しくて面白い事をここで終わらせて良いのか?

 いいや俺はもっとガンプラバトルをしたい。全国という舞台で自分のジンクスがどれだけ通じるかも試したいし、知らないガンプラをもっと見たい。

 

「ああ、楽しいなぁ、ガンプラバトルは……」

 

 小さくそう呟きながら、GNガンランスに施した『奥の手』を発動させる。

 手元に近い部分からガコンとランスが根元付近から外れ、放射熱と共に中身が露わになる。

 

『それは……!?』

「全部出しきるって言っただろ……これが俺の奥の手だ」

 

 円錐状に作られた緑色のクリアパーツのランス。やや小さなそれは、トランザムの光に呼応するように赤い輝きを放つと同時に、身の丈ほどの粒子でできた光の槍が形成される。

 

『光で一杯に……』

『クリアパーツ……プラフスキー粒子をそこまで……』

「これで最後だ、ミサキ」

 

 大きな光の槍を形成したランスを振りかぶり冥・Oへと直進する。ランスから延びる光はより大きな光を放ち、周囲に溢れだすように粒子を放出する。

 でも、不思議とエネルギーが消費している気がしない。その感覚を何処か不思議に思いながらも、上方に掲げたランスを力の限り冥・Oに振り下ろす。

 

『ああ……良かった。決勝の相手が君で……ホントに今そう思う……でも!負けてあげる程私は簡単な相手じゃないよ!!』

 

 残りの粒子を全て左手の宝玉に集めたであろう冥・Oがランスを受け止める。こちらも振り下ろす腕に力を籠める。右腕が限界に近い、でもここで引いたら負ける。

 

「レッドゾーンまでぇぇぇぇ!!」

 

 トランザムの粒子放出量を最大までに上げ、さらに力を振り絞る。機体がショートし今にも爆発寸前だが、お構いなしに機体を前に進ませる。

 ジンクスが前に進むと同時に冥・Oの腕が爆発し、ランスの切っ先は左肩から左脇腹までを両断させる。

 

『く、うううううう!!』

 

 だが行動不能に追い込むことはできなかったのか、辛うじて浮き上がる冥・O。俺の方はトランザムが終わってしまう。

 

『そのサーベルには驚かされたけどまだ勝負は―――』

「いいや!!」

 

 トランザムが終了する数秒までにGNドライブのほぼ全ての粒子をランスに注ぎ込む。GNドライブの粒子を浮力を失い落下していきながらも、冥・Oの方へ振り返る。

 

 

 

「これはランスだ!!」

 

 

 

 

 右腕のランスを逆手に持ち替え、思い切り投げ飛ばす。限界に達していた右腕が爆発すると同時に、現実の右腕に強烈な痛みが走るが、それを気にせず冥・Oへ視線を固定する。

 

『……あーあ、もっとバトルしたかった……』

 

 その手を離れてなお形成された光の槍は、最早動ける状態ではない冥・Oの胸部を貫き、数秒ほどの静寂の後に浮力を失い爆発した。

 落下しながらもそのミサキの声を聞いた俺は苦い笑みを浮かべる。

 

「お前とバトルするのは、時間を置きたいなぁ……」

 

 

 

 

 

【BATTLE!END!!】

『優勝は!!チーム『イデガンジン』です!!』

 

 

 

 

 

 ゲーム終了のアナウンスが響き渡る。

 ガンプラバトル選手権、茨城県大会決勝は……俺達の、チーム『イデガンジン』の勝利だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージの粒子が解除され、周りの景色が露わになると同時に、大きな歓声が全身を打ち付けるように響く。バトルシステムの中に居たせいか、どっと疲れが沸いて、脚に力が入らず倒れそうになる。

 

「先輩!!」

 

 こちらへ走り寄って来たコスモとノリコが、後ろから俺を支えてくれる。

 

「すまない……ちょっと力が入らない」

「大丈夫ですか?」

「びょ、病院行った方がいいですか!?」

「いや、それほどじゃない……休めば、治ると思う」

 

 心配げな声を上げる後輩二人の声を聞きながら、自分の脚で立つ。一応記者とかも来てるし、変な姿とか見せられないからな。後々学校でからかわれてはシャレにならない。

 

「大丈夫?」

 

 何時の間にか近くに来ていたチーム『冥王』の面々、その先頭にいるミサキが俺の顔を覗き込んでそう聞いてきた。

 

「大丈夫、すぐに治る」

 

 バトル中にどこかぶつけただけだろう。さっき見た感じ、腫れも青痣もできていないし、痛みも引いてきた。身体の疲れも寝れば治る程度のものだ。

 

「そっか……楽しいバトルだったよ。できればまたしたいな」

「少し間を置きたいな。お前とのバトルは……」

 

 楽しい事には同感だけど、毎回こうも疲れては身が保たない。背後の妹らしき少女、キリハラ・ミサトも苦笑いしている所を見ると、未だ元気な彼女に呆れているかもしれない。

 

『凄かったぞ、お前のジム。あ、バトルの時は怒らせてすまないな。ああするしかなかった』

『いやっ、そんな謝って貰わなくても……』

 

 ふと視線を逸らすと『冥王』のチームのオキツ・イサオとコスモが何やら話していた。バトル中何かあったのだろうか?まあ、仲良くする分には良い事なので口出しはしようとは思ってないけど……。

 

「はいっ!」

「うん?」

 

 目の前に突然左手を差し出してくるミサキ、これは握手しろと言う事なのか。とりあえず何か期待するようにこちらを見るミサキに耐えられずに、痛みのない左手を差し出して軽く握手する。

 

 

 

「優勝おめでとう。全国、応援するよ」

 

 

 

 彼女の言葉を聞き、ようやく俺は茨城県の代表として選手権に出る権利を得た事を自覚したのだった。

 

 




 セラヴィ―って結構ネタガンダムですよね。
 セラフィムとか完全に逆パターンの飛かg―――


 これで県大会が終わりました。
 かなり色々やってしまいましたが、今後の本編の展開によっては少し内容を変えるかもしれません。

 次回は合宿扁を一応ですが予定しています。

 感想蘭の方で多数のロボ案が出ていますが、予定としている者としては……。
 顔がシナンジュ・スタインと若干似ている魔装機神とかがいいかなぁとは考えています。
 丁度ゲームもやったので。

 でも、あくまで予定なので必ず出すとは限らないです。本編の展開的に無理があると出せないこともありますので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~ニールセン・ラボ~

合宿へ行きます。
今回は、本編キャラが登場しますね。


 全国ガンプラ選手権へ参加する資格を勝ち取った俺達チーム『イデガンジン』。

 茨城県の代表になったのはいいのだが、その後が大変だった。トロフィーの授与やら地元の新聞の取材やらで本当に忙しかった。でも、本当に大変だったのは大会後、自宅の父にバトル中の事を話した途端、血相変えて病院へ連れていかれたのだ。

 

 結果は特に異状なし、まあ強いて言えば全身にかなりの疲労が溜まっていたらしいのだが、それはすぐに治るものだ。

 父はミサキとのバトルに何か心配する事でもあったのだろうか。

 

「レイ、もうすぐ着くぞ」

「……ああ、分かった」

 

 少し考えに耽っていたな。現在、俺達暮機坂高校ガンプラ部は、俺の父であるアンドウ・セイジの運転する車に乗って、合宿の為にある場所へ向かっていた。目的地は『ニールセン・ラボ』。ヤジマ商事運営のガンプラバトル研究所である。そこはあのヤジマ・ニルスが所属する研究所であると同時に、彼の旧姓にちなんで名づけられた施設。

 

「すいません、送って貰っちゃって」

「本当なら俺達は自分で行くべきなのに……」

 

 後ろの席に乗っているコスモとノリコが、申し訳なさそうに父に謝る。まあ同年代ならまだしも、先輩の父親に送ってもらうのは中々に気まずいものがあるのだろう。

 

「気にしなくていいさ。私もここへ古い友人に会うんだ。そのついでと思ってくれればいい」

「そうだぞ、コスモ、ノリコ。そんなに気負う事はない」

 

 しかし父の古い友人とは誰なんだろうか。現役だったころの関係者かな? ガンプラ研究所で落ち合うことからしてその可能性が高そうだけど。

 

「そうだ、レイ。新しいガンプラは完成したのか?」

「新しいガンプラ!? 選手権用に新しいガンプラ作ったんですか先輩!!」

「俺も興味あります!!」

 

 いやいや、がっつきすぎだろ二人とも。後ろの席から身を乗り出した二人を諌めながら、鞄のケースから未完成のガンプラを取り出す。

 ジンクスⅣ、劇場版ガンダム00に登場したジンクスⅢの発展型の機体。決勝には間に合わなかったが、なんとかここまで作る事が出来た。

 

「まだジンクスⅢの面影が残ってるけど、なんとかここまで形にすることができた」

「劇場版のジンクスですね!うわあアンテナもついてますし!」

 

 そう、ジンクスⅣの頭には、ガンダム特有のV字アンテナが付いているのだ。それによって、ちょっと悪そうな顔だったジンクスも見事にガンダム顔になった。

 まだ完成具合は70%ぐらいだが、大会までには絶対に間に合わせる。大まかな改修は全て終わっているので、後は細かい所を変えていけばいいだけだ。そんなには時間は掛からないはず。

 

「そういえば先輩、ニールセン・ラボにはどのくらいの人が来ているんですか?」

「……俺達みたいな県代表チームが多く来ているらしい。しかもその多くは連続で県代表になっている人達ばっかりらしい。もし練習の一環で対戦する事が出来れば、胸を借りるつもりで戦っておいた方がいい。負けるにせよ勝つにせよいい経験になると思う」

 

 むしろ俺達のような新参者の方が珍しいのかもしれない。県代表という物は県によってはあまり変わらない事が多いからな。去年の代表だった青嵐高校も、数年前からずっと選手権に出場していた強豪校だった。

 

「皆、見えてきたぞ」

 

 父の声で全員が窓の外を見ると、視界の先に大きい建造物が映る。風車のような特徴的な形、近くに大きな湖があり、自然に囲まれている場所に、目的地である『ニールセン・ラボ』が有った。

 

「あれが俺達の合宿場、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニールセン・ラボ、高性能のバトルシステムと充実したガンプラ工作室がある、ガンプラファイターとしては最高の設備がある環境。

 ガンプラバトルの特訓場として有名な場所だが、『全国大会を3回以上出場すること』が利用可能条件とされており、一般のファイターやビルダーには敷居が高い事で有名な場所。

 

 ……正直、全国初出場である自分達にはあまりにも場違いな場所だが、この研究所に関係のある父のおかげで、俺達のチームもここで合宿できるようになった、という訳だ。少しズルイ気がして申し訳ないが、使えるものは全部活用していこう。

 

 建物の中は壮観、様々な設備と広い空間。あまり来ないような雰囲気のある場所なので慣れない物がある。

 

「父さん、俺達は部屋に荷物を置いていくよ」

「鍵はさっき渡したから大丈夫だな?」

「勿論。それじゃあ行こうか」

「「はい」」

 

 受付を済ませ、父が予約してくれた部屋の鍵を貰い、部屋に向かう。父は別の知り合いに会うそうなので、別々になってしまうだろうが、問題はないだろう。

 

 建物内を見回りながら、今晩泊まるであろう場所へ向かう。

 ……でも、改めて見ると本当にすごい施設だ。プラフスキー粒子を研究する施設だけの事はある。

 

「色んな人がいるなぁ」

「そりゃそうだろ。何て言ったって研究所なんだから」

「工作ルームも充実しているな……」

 

 工作ルームには俺達と同じ年くらいの学生達が、真剣な表情でガンプラと向き合っている。自然に足が向かいそうになるのを自制し、視線を前に向ける。休憩時間に寄れば良い、せめてトレーニングが終わった後だ。

 

 建物内部を見ながら軽く話している内に部屋に到着。中を覗いてみると意外と広い……ガンプラを作る事も念頭に置かれて造られているのかもしれない。

 

「ノリコの部屋は別だ。男女一緒は問題あるからな」

「やっぱりそうですよね……」

「まあ、遊びに来るのは構わないぞ?」

「やったー!」

 

 遊びと言っても何時ものようにガンプラの相談だと思うけど。そんなことを考えながらノリコに隣の部屋の鍵を渡し、俺とコスモも部屋に入る。

 

「じゃあ、ガンプラを持ってトレーニングルームに行きましょうか」

「ああ……ん? ちょっと待て……あー悪いコスモ、先に行っていてくれ」

「どうしました?」

 

 俺としたことが、ジンクスⅣの肩のバインダーに昨日使った装備を取り付けるのを忘れていた。合宿ともあって少しテンションが上がっていたのかもしれない。遠足が楽しみで眠れない子供か俺は。

 ガンプラをテーブルに乗せながら、コスモにそのことを説明する。

 

「そうですか、じゃあ先に行ってます」

「すぐに向かう」

 

 コスモとノリコが先にトレーニングルームに向かう。……さあ、手っ取り早く装備を取り付けて向かおう。ランスは決勝で使ったGNガンランス、肩のバインダーにはGNバスターソードを一つ。腰部にはGNロングライフル。

 その全てをジンクスⅣに、ポロッと落ちないようにしっかりと取り付ける。

 

「……そんなに時間は掛からなかったな」

 

 ものの数分で終わってしまった。

 これじゃあ二人に待ってもらった方が良かったかな? 装備の取り付けが終わったジンクスⅣをホルダーに入れ、トレーニングルームに向かう。

 

 コスモとノリコに追いつくために、少し小走りで通路を進んでいると、通りがかった部屋から騒がしい声が聞こえてくる。

 

『おいセカイ!! ビルドバーニングは何処だ!!』

『今探しているんだよぉ!!』

『ならもっと良く探せ!!』

『もぉ~セカイく~ん!』

 

 ………声の幼さからして中学生くらいだろうか。ここにいるという事は、全国大会に出場する子達なのか……。そう考えると、やっぱりガンプラには年齢は関係ないと思わせてくれる。

 もしかしたら、この声の主である彼等とも、大会で俺達と闘うかもしれないな。

 

「む!!」

「っ……すいません!」

 

 と、思いを馳せていた所で、曲がり角で男の人とぶつかりそうになってしまった。寸での所で止まれたのはいいが、ぶつかりそうになったことには変わりない。謝罪しながら相手の顔を見ると、固まった。

 

 軽いオールバックにされた茶色がかった髪。

 バイザーを思わせるサングラス。

 年齢は20代前半。

 

 第7回ガンプラバトル世界大会準優勝者にして、世界大会3連覇を達成し、名実共に最強ファイターとして殿堂入りをした最強のガンプラファイター。

 

「メイジン・カワグチ……!」

「……良い目をしている。少年ッ君の名を聞こうか……ッ」

 

 流石メイジン、言動のテンポが三倍早い。

 どうしよう、少し感動してる。後進育成のために全国を回っているメイジン・カワグチと、偶然とはいえ会う事が出来るなんて、滅多にない。

 

「暮機坂高校ガンプラ部のアンドウ・レイです」

「暮機坂高校、確か茨城県からの出場者だったな。それにアンドウ……君がセイジさんの息子かな?」

「アンドウ・セイジは自分の父です」

 

 もしかしたら父さんの知り合いはこの人かもしれないな……。大会経験者の父なら知っていてもおかしくはない。

 

「……成程、父に違わず良いファイターの目をしている。

「父と比べれば俺なんてまだまだです」

「フッ………彼を燃え盛るようなバーニングな少年とするなら……君は内に秘めた熱い闘志を静かに燃え滾らすボルケーノな少年と言うべきか……」

 

 流石メイジン、言葉がスピリチュアルすぎてよく分からない。でもメイジンの言う事だ、きっと何か凄い意味があるのだろう。

 こちらを見て何故か笑みを強めたメイジンは、俺の肩に手を置いた後、さっと手を掲げ、俺がやって来た通路の方に歩いていく。

 

「……アンドウ・レイ君、また会おう」

「は、はい」

 

 ……すごい人だったな、色々な意味で。サインくらい貰っておいた方が良かったかもしれない。でも、できたらガンプラバトルをしてみたかったな……。勝てる確率は限りなく低いだろうけど、得る物はたくさんありそうだ。

 

「トレーニング室にいくか……」

 

 コスモとノリコにもメイジン・カワグチがここにいる事を話そう。きっと驚くはずだ、ガンプラバトルをする者なら必ず知っている最強のファイターだからな。

 

 そして俺の憧れの人の一人でもある。

 第7回ガンプラバトル選手権、父と一緒に会場で見たメイジン・カワグチの試合は、幼いころの自分でもすごいと思えるほどのものだった。戦術とか技量とかそういうものじゃなく、見ていて素直にすごいと思えるバトルをメイジンはしていたのだ。

 でも疑問に残るのはその決勝戦、イオリ・セイさんとレイジさんのスタービルドストライクガンダムとの戦いは、何処かメイジンらしくない荒っぽい試合だった。

 

「帰ったらもう一度見直してみるか」

 

 あの決勝戦、世界大会の猛者を相手に勝ち上がった三人の、今の自分とそう変わらない学生たちによる最高峰のガンプラバトルを……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせた」

 

 メイジン・カワグチとの邂逅から数分後、ようやくトレーニングルームに到着した俺は、二人を見つけてトレーニングルームに入る。

 トレーニングルームには沢山のバトルシステムが設置されており、まさにガンプラバトルを練習するに最適な場所だった。

 

「ん?」

 

 コスモとノリコの姿が見えたが、どこか様子がおかしい。

 俺の声に気付いていないのか、目の前で行われているガンプラバトルに目を奪われている。

 

「どうした?」

「……あ、先輩」

「バトルか? 誰がやっているんだ?」

「鹿児島県代表の我梅学園と……ガンプラ学園です」

「……」

 

 ……ガンプラ学園と来たか。

 選手権6連覇を成し遂げているガンプラの為の学園。俄然……というよりすごく興味がある。期待を籠めながらフィールドを見ると……。

 

『俺達のザクがこんな簡単にッ!?』

『これが……ガンプラ学園だっていうのかよ!!』

 

『歯応えねぇーなァ!! おい!!』

 

 一体のガンダムに蹂躙されている三体のザク系列の機体。恐らく一体だけの方がガンプラ学園の機体だろう。……赤いマントのようなものを纏っている……何のガンプラを元にしているのだろうか。

 マントだからサンドロック? いや……あの前面の鎧はデスサイズの翼か? 共通点が多い部分があるからW系の機体?

 

『そんなんで選手権に出場しようってのかよ!!』

 

 その場から全く動かない赤マントを纏った黒い機体、その側面に装備されている大きな手から円錐状の物体が飛び出す。

 

「ファング……滅茶苦茶だな……」

 

 全くなんの機体から作っているのか分からない。それとも、いくつかのガンプラを組み合わせて作っているのだろうか?

 

「先輩、私止めに行っても良いですか?」

「………理由を聞こうか?」

「このバトル、ダメージレベルBなんです」

 

 ダメージレベルB……そうだとしたら、我梅学園のファイター達は……。

 でも止めに入ると言ってもバトルシステムを止める権限は俺達にはない。それにバトル中、ファイターの周りには防音の壁が作られている。

 止める方法はバトルに乱入するしかない。

 

「駄目だ」

「……です、よね」

「あの我梅学園の生徒も納得してバトルを受けた筈だ。それにノリコのガンプラは壊れたら修理に時間が掛かる。予備パーツはまだ出来ていないんだろ? そういうリスクは負う必要はない」

「……はい」

 

 乱入してバトルを止めると言っても、相手が言葉で納得してくれるとは限らない。もし、バトルに発展して壊されでもしたら、直す時間を費やさなければいけない。

 それにノリコとコスモのガンプラは元から改修しすぎて代替する部品が作りにくい。納得いかないように俯くノリコに再び声を掛ける。

 

「俺が止めに行く」

「え!?」

「先輩、貴方のガンプラも……」

「俺のはまだ部品の替えが効くからな。それに、あれ以上やらせるとダメージレベルがBといってもガンプラ自体が駄目になってしまう……」

「……で、でも!」

「俺はお前達のリーダーだ。そういうことはリーダーである俺に任せろ」

 

 我梅学園の三機は既に死に体だ。ミサキの冥・0と青嵐学園のバトルに展開が似てはいるが、あれはダメージレベルCの話だ。それにミサキはあそこまでしない……はず。加えて過度な暴言と死体撃ちはあまり褒められた事ではない……。

 今の俺のジンクスは、改修したといってもまだ完成していないので、その様相はジンクスⅢに若干近い。壊れたとしてもまだコスモやノリコよりは直すことが容易だ。

 ホルダーからジンクスⅣを取り出し、バトルシステムへ進む。

 

「やめたまえ」

 

 突然、何者かに横から手を掴まれる。驚きながら振り返ると、絶句する。

 

「青い巨星……ラル大尉……」

 

 何でここに……ってそれより今日は有名人に会いすぎだ。まさか伝説のグフ使いと会う事が出来るなんてもう感無量……じゃなくて、今はバトルを止めに行かなければ……。

 

「君達の会話は先程聞いていた。君の言う通り我梅学園の彼らはダメージレベルBと理解した上でバトルした……君も選手権の出場者なのだろう? 相手はガンプラ学園、ここは……」

「忠告ありがとうございます。でも、俺もファイターなんです。あれは、俺としても見過ごせない」

 

 後、このまま放っておくと、大事な後輩が飛び出していきそうだったからね。俺の言葉を分かってくれたのか、大尉は手を離す。俺は軽く大尉にお辞儀しながら、側面に設置してあるバトルシステムにジンクスⅣを置く。

 

「戦闘に発展しない事を祈るか……アンドウ・レイ! ジンクスⅣ! 出る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……もう終わりか……」

 

 鹿児島県代表我梅学園、ホワイトウルフ。大仰な名の割にはあまり歯応えがなかった。ガンダムジエンドの肩慣らしにもなれば良いとは思っていたが、肩慣らしにもならなかったぜ。

 

『く……』

『う……くそ……』

『まだ、負けては……』

 

「一人前なのは威勢だけかよ……」

 

 ボロボロのザク三体にもう戦える力は残ってはいない。よくそんな力量で県代表になれたもんだ。いいぜ、終わりにしてやるよ、お前らのお望み通りになァ。

 

 ガンダムジエンドを操作し、リボルバー型のビームガンを6発発つ。動けない相手ならこれぐらいで十分だろう。弾倉をリロードしながらそう考えていると、不意にレーダーに目の前のザクとは別の新たな反応が映りこむ。

 

「なんだ? ……乱入か」

 

 一直線にこちらへ飛んで来た機体は、三体のザクの前に降り立つとその手に持った大剣とランスで、ジエンドが放ったビームから我梅学園のガンプラを守る。

 

『突然の乱入申し訳ない。もう彼らにこれ以上のバトルは無理だ……引いてくれないか?』

 

 現れたのは灰色のジンクス……微細な違いがあるが、劇場版に登場するタイプのジンクスだ。いきなり現れてふざけた事を言うのは気に入らないが……さっきの一瞬で見せた機動性、何千と闘ってきたから分かる……コイツは強ぇ。

 

「お前は誰だ?」

『……茨城県代表、チーム『イデガンジン』。アンドウ・レイ』

 

 ……確か、関東圏の県代表チームで無茶苦茶強ェジンクス使いがいるとは聞いたが……まさかコイツか? そうだとしたら俺はとても運が良い。こいつら相手じゃ物足りなかったんだ。

 

「く、かはははははは!! 引く訳ねぇだろ!! 久しぶりに強そうな奴とバトルできるんだぜ!!」

『……ちょっと待ってくれ。俺は……』

「ファング!!」

 

 相手の返答を待たずに十基のファングを射出する。放たれたファングは一斉にジンクス目掛け飛んで行く。

 

「ほらほらぁ!! 避けねぇと後ろのに当たるぞォ!!」

 

 バトルに介入してくるような正義感溢れるような奴のとる行動は一つだけ、上に逃げるだろう。地表じゃ逃げる範囲が狭まる、だからより逃げやすい空への回避を大抵の奴は選ぶ。

 

『俺が出たのは藪蛇だったか!!』

「!」

 

 奴が取ったのはこちらに突っ込んで来るというものだった。向かってくるファングに自分から向かってくるなんてなんてとんでもねぇ事をする奴だ。だが、向かってくるファングはどうする?

 

『ファングなら!』

 

 右手に装備していたランスを肩のアーマーにマウントしたジンクスは、左手に持った大剣、GNバスターソードの刃を光らせ強引に振りぬく。それだけの挙動で奴に直撃する軌道にあったファングが全て切り落とされる。

 

「やるじゃねぇか!!」

『もっと怖いファンネルを知っている!』

 

 残りのファングはジンクスを素通りした後に折り返すが、それではこちらに向かってきているジンクスには追いつけない。

 ……面白ぇ、この短い時間だけでこいつがただもんじゃねぇことが分かった。両肩に接続された大型クローを動かし、目前に迫ったバスターソードを防ぐ。しかしそれも一瞬、背後から近づいてくるファングに気付くと、目の前のジンクスは即座に上方へ上がり停止する。

 

「他の奴とは違うなぁお前!」

『それは、大会を勝ち上がったからな』

「そう言う話をしてるんじゃねぇよ」

 

 俺が言いたいのは対等なバトルができる奴を見つけたって事だ。これで選手権での楽しみもできたってもんさ。

 

「自己紹介はまだだったなぁ。俺はガンプラ学園のアドウ・サガだ」

『……ここで終わりにするという選択肢は……』

「ないに決まってんだろ!!」

 

 浮遊させている残りのファングを合体させ、大きな銃弾にさせてジンクス目掛けて放つ。生半可な攻撃じゃこいつは壊れない、どうする? アンドウ・レイ。

 

 ジンクスは再び右腕に装備されたランスを右腕に装備し、ビームを放つ。だがそんなもんじゃ俺のファングは壊れない。それを悟ったのか、奴は再びランスをファングに向けると次はショットランサーを撃ち出しやがった。

 

「だから!! 効かねぇつってんだよ!!」

『そうではあるけども!! 俺のランスは!』

 

 射出されたランスは5発、その全てが連なる様にファングへ直撃し相殺される。まさかこれも防がれるとは思っていなかったが、相手が強い程、俺も熱くなるってもんだぜ!!

 

 全てのショットランサーを撃ち尽くした奴のランスは、緑色に輝くクリアパーツのランスに変わっていた。尋常じゃねぇ粒子量……アレがあいつの隠し玉っつー事か。

 

『ガンプラ学園相手に出し惜しみは無しだ!!』

「いいねぇ! そういう気概!! ますます気に入ったァ!!」

 

 そういう出し惜しみしない所は、キジマが気に入りそうだ。

 クリアパーツのランスに変わった奴の武装から、先程とは段違いの威力のビームが放たれる。GNソードⅤと似た兵器だな、そうなるとトランザムにすると巨大なサーベルに変わる可能性があるな。迫って来たビームをホバー移動で回避しながら、ビームガンを放つ。

 

『強いな……』

「おいおい、まだ終わりじゃねえだろ!!」

『止めに来た手前……こっちも楽しくはなってきた』

「お前も俺と同類じゃねぇか!!」

 

 身の丈ほどの大きな緑色のサーベルを生成したジンクスが、こちらへ急降下を仕掛けてくる。一撃に賭ける気か? ますます面白い奴だ、ならこっちも遠慮なくやらせて貰うぜ。

 肩のクローを開き、奴を迎え撃つ。どっちが強いか力比べと行こうじゃねぇか。

 

「最高だぜお前!! もう一回名前を聞かせろ!!」

『アンドウ・レイだ!!』

「その名前覚えとくぜ! アンドウ・レイ! 『デッドエンドフィンガー』!!」

 

 ジンクスが突き出した光の槍と俺のデッドエンドフィンガーが激突し、粒子が周囲に舞う。これがそうだ、これが俺がやりたかった戦いだッ強い奴とのギリギリまで互いを削り合う勝負!

 もっと楽しませろ! アンドウ・レイ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は何者だい?」

「……見つけたよトシヤ、彼はアンドウ・レイ、今年大会初出場のチーム『イデガンジン』のリーダー」

「機体データは平均より上……いや、これはまだ未完成のガンプラだね。上がり下がりが不安定だ」

 

 僕の疑問に答えるかのようにノブヤとカズヤが答えてくれる。弟たちも僕と同様に、彼に脅威を感じたのだろうか。アンドウ・レイ……未完成のガンプラで、あのガンプラ学園と互角に渡り合えるのは脅威だ。

 今のうちにデータを集める必要があるね。それに彼の実力を考えるならば、彼のチームメイトも脅威と成り得る。それも合わせておく必要もあるだろう。

 

「僕達は運が良い。ガンプラ学園と、ノーマークだった実力者の戦闘データを取る事が出来るなんてね」

「そうだね、まさかこんな非公式の試合でこんなデータをくれるなんて」

 

 マヌケとも言っても良い。情報はバトルに置いてもっとも重要なファクターだ。それを晒してまで何が楽しいのやら……。

 

「彼の戦闘データは見つかるかな?」

「県大会のデータなら恐らくは」

「じゃあ、今夜集めたデータを見てまとめよう。それで対策を」

「そうだね」

 

 二人が頷くのを見て、再びバトルの方に視線を向ける。

 本当に楽しそうにバトルをしている。片や憎きガンプラ学園のファイター、片やノーマークだったファイター、ある意味で異質な二人のバトルに、僕はどこかざわざわするような感情を抱いた。

 




 今更ながらすごい間違いがあったことが発覚しました。

 本編での、選手権の茨城県の相手が鹿児島県でした。
 鹿児島といえば我梅学園、そう合宿の時にアドウ・サガにやられた三人のチームです。

 トーナメント表をずらす形で間違えてしまいました……変えるのも無理があるので、我梅学園は一つ上の和歌山県と入れ替えて、石川県とバトルしているということにしたいと思います。

……ん?一回戦の我梅学園の相手が茨城県だとしたら……あのニンジャ達は?……もしあのニンジャ達が茨城県代表のチームだったとしたら……


 アニメ本編でも茨城県は魔境だった


 ということになるのでは……?
 そうだったら後一体くらいニンジャが増えてもいいかもしれないですね(錯乱)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~ニールセン・ラボ2~

 あ、ありのまま今起こった事を説明するぜ……私が茨城県について調べていたと思ったら何時の間にか群馬県について調べていた……何を言っているか分からねーと思うが、おれも何をされたのか わからなかった……でも一つだけ理解できるのは『お前はまだグンマを知らない』を全巻買っていたという『結果』だけが残っていたという事だった……。

……おのれ ト チ ギ !


………( ゚д゚)ハッ!

ニールセン・ラボ2、更新します。
今回は少し長いです。




「なんという少年だ……」

 

 ガンプラ学園と我梅学園のバトルを止める為乱入した少年、アンドウ・レイと言ったか。バトルに乱入しようとした彼を止めようとしたのはもしかしたらいらぬ世話だったのかもしれない。

 

「このラル、彼の力量を見誤っていた……不覚……ッ」

 

 自らを戒めながらもバトルを注視する。このバトルを止めるつもりだったようだが、今はそれを忘れて戦っている。

 茨城県代表……西東京代表のチーム『トライファイターズ』と同じ関東圏のチーム……。

 

「息子がバトルしているようだな」

「ん?……!!セイジか!?」

 

 背後から私の隣に歩み寄って来た中年男性を見て目を見開く。十数年ぶりの再会だろうか……彼の名はアンドウ・セイジ。私と同じ世界大会経験のあるベテランの元ガンプラファイターであるが……何故ここに?

 

「久しぶりだな大尉」

「それはこちらの台詞だ、何故ここに……?」

「ここに古い友人が勤めていてな、研究の一環で来させてもらった」

「そうか……今バトルしている彼はもしかして君の息子かな?」

「ああ、私の自慢の息子だ」

 

 相も変わらず静かな男だ。だがガンプラに対する情熱は誰にも負けない男でもある。アンドウ・レイがこの男の息子ならば、あの実力も頷ける。

 

「……強い子だな」

「子供という物は一を知って十を知るものだ。好きなものならば尚更、レイはそれが顕著だった……親は子の成長に盲目になるものだからな、つい教え過ぎてしまった」

「それはいいではないか」

「アシムレイト」

「!」

「ダメージフィードバックの現象がレイにも起きてしまった」

 

 まさか彼もセカイ君と同じアシムレイト現象を起こしていたというのか!?……成程、それではセイジも心配する訳だ。

 アシムレイトは機体の性能を三倍に上げるものだが、それに伴うリスクが大きい。ガンプラのダメージが現実の肉体に及ぶ……腕が壊れれば腕に激痛が走り、胴体が両断されればそれ相応のダメージが襲い掛かる、まさに諸刃の剣と成り得る危険なものだ。

 

「ガンプラのダメージを感じた気がする、と言われた時は全身の血が凍りそうだったよ。だが、それと同時に私は嬉しくなってしまった。大尉、アシムレイトの発生条件は何と言われているか知っているか?」

「……資質を持った一部の者、かな?」

 

 セイくんやメイジン・カワグチのような類まれな資質を持つファイター。でもそれはあくまで有効な一説であるだけで、非科学的と言うならば、もっと多くある。

 

「ガンプラを心の底から楽しいと思った時。非科学的だが私はこれが間違いとは思っていない。息子は私が教えたガンプラバトルを心の底から楽しんでいる……父親として、一人のファイターとしてこれほど嬉しい事はないだろう」

「確かに」

 

 それも一つの要因と成り得るだろう。なにせアシムレイトにはまだまだ謎がある。感情の爆発を切っ掛けにして覚醒する事もあり得る。現にセカイ君もそうだった。

 

「ら、ラルさん……これって一体どういうことですか?」

「誰かがもう戦っているぞ?」

「お、おお……来たか皆」

 

 フミナ君達がどうやら到着したようだ。彼等にも事情を説明してあげなくては。セイジに一声掛けながらも、フミナ君達に視線を向ける。

 その瞬間―――

 

「……っ!!」

「ちょ、ちょっとユウ君!!」

 

 ユウマ君がレイ君とガンプラ学園の生徒がバトルしているバトルシステムに、ライトニングガンダムを握りしめ走っていってしまった。

 

「……はっ!?」

 

 突然の事に固まってしまったが、いかん、彼らのバトルは―――

 

「止めてやるな、ラル」

「セイジ何を!?」

「彼からは並々ならぬ執念を感じる……きっとレイの戦っている相手に何かしらの因縁があるのだろう」

 

 ユウマ君を止めようとした私の肩をセイジが掴む。

 彼はどこか達観したように、明らかに冷静ではないユウマ君の表情を見てから私の方に視線を向ける。

 

「ここは私達のような老いぼれが出る場ではない。彼の問題は彼自身と若いものに任せるべきだ」

「私はまだ老いぼれという年齢じゃ……」

「お前は十分おじさんだ」

 

 セイジの言葉に反論したい気持ちに駆られるが、よく考えれば自分は40過ぎ……否定はできないのが辛い所だ……。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍々しい光を放つクローと緑色の光を輝かせる槍が拮抗する。ランスを繰り出している右腕にパワーを籠めながら改めて思う。強い、これがガンプラ学園の実力。ガンプラの完成度、技術、ミサキとは別の強さがプレッシャーとなりモニターからジリジリと伝わって来る。

 

 止めに来た筈なのにバトルしているのはどこか本末転倒だが、溢れ出るこのワクワクは止められない。メイジン・カワグチとは別の意味でガンプラ学園と言う存在は、俺にとっては憧れであり目標のようなものだったからだ。

 

「戦ってみたかった……お前達と……!」

『カハハッ!!それが本音かよ!!』

 

 ランスと拮抗しているクローを横から蹴り飛ばし再度光の槍を生成し突き出すも、もう片方のクローでランスを掴まれる。凄まじい力でランスごと持ち上げられ、無防備な体勢になってしまった俺のジンクスに対して、アドウのガンプラは、マントの下からリボルバー型のビームガンを覗かせる。

 このままでは撃たれる……ランスを手放しGNバスターソードに持ち替え盾にする。放たれたビームをバスターソードで防ぐ事が出来るが、放たれた一発が運悪く脚部の関節に命中、破裂し脚が切り離される。

 

「く……っ」

『これだけやってそれだけか!』

 

 胸部のバルカンを連射させながら、腰のGNライフルとロングバレルを組み合わせつつ距離を取る。右足が動かない、これじゃあ空中戦しかできないな……。

 それに接近戦は危険すぎる。特にあの両肩のクロー、一瞬見えたが掌に顔があった。まるでデビルガンダムヘッドを思わせる意匠、何か仕込んであると見て良い。まさに、てんこもりガンプラ、いろんな系列のガンプラを組み合わせてある。

 右腕にライフル、左腕にバスターソードを携えながらどう攻めようか考えていると、前方の黒いガンプラがクローで掴んでいた俺のランスをこちらへ投げつける。

 

「……っと、なんのつもりだ?」

 

 バスターソードを地面に突き刺して、GNガンランスを受け取りながらアドウの突然の行動に疑問に思う。相手に舐めて掛かるような人格ではないことはバトルを通じて理解しているつもりだが……。

 

『気が変わった』

「は?」

『気が変わったっつってんだよ。未完成のガンプラに勝ったって何も嬉しくねぇ』

 

 図星を突かれて驚愕した俺の反応を見たアドウは不敵に笑いながらも言葉を連ねていく。

 

『今のお前に勝っても意味ねぇ。俺は完成したお前のガンプラとバトルして勝ちたいんだ』

「………」

 

 この男は相手に対して乱暴な言動やバトルはするが勝負事には正々堂々なのか。それに俺の方もアドウの攻撃を避けるのに一杯一杯だった。加えてアドウのガンプラはまだまだその本領を発揮していない。

 悔しい所だが、ここは彼の提案を受けるしかないか……。

 

「選手権でやろう、といった感じか?」

『ああ、そうだ。分かってんじゃねぇか』

 

 勝負に関してはアドウという男は純粋なだけなのかもしれない。彼の頭の中には強いファイターと闘えるか戦えないか、そして勝つか負けるか、そのどちらかしかない。

 彼の戦いの全てを肯定する訳ではないが、それだけはなんとなくだけど分かる気がする。

 地面に刺したバスターソードを肩にマウントし、ゆっくりと息を吐きだす。

 ……足がやられてしまったが、この程度なら簡単に直せる。むしろ試運転もできたことだしこれからの改善点もよく分かった。少なくとも今の俺が目指す完成像ではアドウには勝てない。武装の強化もしなければ……。

 

「それじゃあこのバトルはもう終わ―――」

 

『見つけたぁぁ!!』

 

 

 突如、遠距離からの砲撃がこちら目掛けて放たれた。方向からして狙われていたのはアドウのガンプラの方だったので、俺は空に上がる事で避けれたのだが誰が狙った?

 レーダーに新たな反応が出ているのを確認しながらもそちらにジンクスを向けると、そこにはガンダムタイプの蒼いガンダムがビームライフルを連射しながら近づいてきていた。

 

『やっと見つけたぞ!!見間違えようがない!!お前はあの時の!!』

『いきなり出てきてキャンキャン吠えんな!!』

 

 ビームを紙一重で回避していたアドウは、両肩のクローを広げ銃弾型のファングを射出する。

 

『吠えるのは俺のファングだけでいい!!』

 

 射出されたファングは凄まじい速さで青色のガンプラへ迫る。

 

「おい!これ以上のバトルは……ッ!」

『2年前のバトル!忘れたとは言わせないぞ!!』

『ああッ?こちとら年がら年中バトってんだ!!残念ながら覚えてねぇな!!』

 

 瞬く間に戦闘を始めてしまう二機。その光景を呆然と見ながら、俺は思わず重いため息をついてしまう。

 これでは何のために俺が出てきたのか分からない。……でも、あのガンダムタイプのファイター……アドウと何か因縁があるのだろうか、所々聞く限りだと訳有りのように見える。

 

「アドウ!!」

『ハッハァ!!レイッ!テメェは手を出すなよ!!これは俺が売られた喧嘩だ!!』

 

 先程の戦闘のせいで何処か高揚しているアドウ。俺のせいではあるけど……どうしたらいいんだ。この損傷じゃ二体同時を相手取るのは難しいぞ……。

 

 ファングによって狙われた青いガンプラは、空中へ逃れると同時にMAへ変形し崖の方へ飛んで行く。誰かは分からないが、凄まじい気迫……いや、執念だろうか。

 崖を目前にして急上昇した青いガンプラはMSの形態に変形し、纏まって上昇してきたファング目掛けビームを放つ。ビームが直撃したファングは大きな爆発を起こし、他のファングを巻き込む。

 

『なに!?』

『この2年間ッ、ずっと繰り返してきたんだ!!お前の攻撃の対応策を頭の中で何万回も!』

 

 ……まずい。あのファングはまさしく銃弾のように相手を貫く硬さと威力がある。並大抵の攻撃力じゃ破壊できない。

 案の定、ビームによって生じた白煙の中から無傷のファングが続々と飛び出してくる。

 

『ご苦労なこった!!』

『何であんなにファングがもつんだ……!?』

『悪いねぇ!特別性なんでなぁ!!』

 

 バックパックのミサイルとビームを続けて放つも、アドウのファングの勢いは止まらず、そのまま青いガンプラの胸部と脚部にファングが突き刺さり、そのまま機能を停止し地に落ちていく。

 

『そ、そんな……僕の……』

 

 あまりにも早い決着……。地上に落ち、損傷を負っている青いガンプラにアドウの操作する黒いガンプラが近づいていく。赤いマントの隙間からはビームガンが握られた右腕が見える。

 俺はアドウが何をしようとしているのかを察すると同時に、右手のロングビームライフルを構えアドウのビームガンを掠らせる形で落ち落とす。

 

『んだァ!?』

「アドウ!!」

『……わーったよ。うるせぇな……』

 

 サッと青いガンプラにもう片方のビームガンを収め、おちゃらけたように手を挙げる黒いガンプラ。

 ……容赦がないというより徹底的に相手の心を折りに行く戦い方をする奴だ。素直に恐ろしい。

 

 

『次元覇王流!!聖槍蹴りィィィィィ!!』

 

 

「!?」

『………またかよ』

 

 今度は赤いガンプラが回転蹴りをしながら乱入してきた。その後ろには黄色いSDガンダム。二機だけということは青いガンプラのチームメイトだろうか。アドウが無抵抗の蒼いガンプラに止めを刺そうとした光景を見たら無理もないだろうが、もう滅茶苦茶だ。突然攻撃を仕掛けてきた青いガンプラのファイターに責任はあれど、この二機のファイターはただ仲間を助けようとしているだけに過ぎない。

 

「………どうすればいいんだ……」

 

 止めようにも攻撃を仕掛けてきた相手に対して素直にアドウが引いてくれるのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と混戦しているようだね」

 

 バトルが行われているトレーニングルーム、その一つ上の階から見える光景。チームメイトのアドウ・サガと二機のガンプラが戦っている。

 一体は格闘主体のガンプラ、もう一体はサポート主体のSDガンダム。そしてもう一体、三機の戦いを静かに見守っているジンクスⅣ……最初にアドウが戦っていた茨城県代表のファイター……。

 

「アドウは嬉しいでしょうね、アラン伯父さん」

「だから伯父さんはやめてくれないか?………僕も驚いているよ、まさか乱入してきた彼がアドウとほぼ互角とは思わなかった。」

 

 バトル自体は途中から見たから全容は分からないが、相当の実力者と見た。

 アドウのファングは並の事では突破できない。ほとんどの相手がアドウに辿り着かずに貫かれ敗北する。だが、彼はどうだ。一撃で致命的な損傷に至るファングに対し、真っ向から突っ込んだ。無線兵器に戦い慣れていないとできない判断だ。

 

「羨ましいですよ」

 

 あれほど奇抜な戦い方をするファイターは居そうでいない。それに未完成のガンプラとはいえ、自らの切り札であろうクリアパーツで作られたランスを惜しみなく繰り出す事に好感が持てる。

 

「おや、妬いているのかな?」

「ご想像にお任せします」

 

 GN-XⅣ、私と同じ00系列の機体。それもカスタムタイプではなく既存のMSを自ら作り上げた……いや、ここは作り上げていると言った方が正しい。未完成ながらも良い出来のガンプラだ。

 彼ほどのファイターを今まで自分が知らずにいたのは少し歯痒くなる。……彼のチームメイトを含めて今年の選手権、少し違うものになるな。

 

『次元覇王流!!流星螺旋拳!!』

 

 SDガンダムから分解されたパーツを巨大な拳として装備した赤いガンプラが赤い炎を燃え上がらせながら、アドウ目掛けその拳を繰り出す。その拳に対しアドウは『デッドエンドフィンガー』で対抗している。

 

「……次元覇王流拳法の使い手、か」

 

 思い出すのは、ガンプラバトルに卑劣な行為を持ち込むあの男、イノセ・ジュンヤが使っていた拳法。……そして、彼と同時に思い出されるのは、そのイノセ・ジュンヤと真っ向から戦った、黒いマントを身に纏ったマスターガンダムを操るイノセ・ジュンヤとは対照的な強さを誇ったあの獰猛な男。

 彼は次元覇王流に真っ向から戦った……あの試合は今でも鮮明に思い出せる。強い、そして怖いとも思ったのは、これまでの経験の中であれが初めてだろう。

 

「ナガレ……彼も恐らくここに来ている」

 

 興が削がれたという理由で試合を辞退したような男の事だ。ただひたすらに強者を求めてここを訪れている筈。もし彼がこの試合を見ていたならば、すぐさま接触を試みる可能性がある。

 ……それも案外面白いかもしれない。

 

『何だ!?』

 

 アドウが驚く声がトレーニングルームから聞こえ、我に返る。フィールドを見ると、地に伏せる次元覇王流拳法を使っていたガンプラと、バラバラになったSDガンダム、そして宙に浮きながらも上方を見上げているジンクスⅣとアドウのジエンド。

 彼等の視線の先には……。

 

「……学生同士のバトルに乱入するとはまったく困った男だ。バトルを見ていて血がたぎったのかな、タツヤ……いや メイジン……」

「……はは!」

 

 まさか、こんな所で見れるのか。世界大会三連覇を成し遂げた最強のファイター、キング・オブ・ガンプラのガンプラが。

 

「メイジン・カワグチ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天空から降りてくる真っ赤なガンプラ。雲の隙間から差し込む太陽の光がそのガンプラを神々しく輝かせる。観た瞬間にあのガンプラを誰が操縦しているのか分かった。神々しいほどの圧倒的な完成度、佇まいからビリビリと伝わる強者のオーラ。

 

「伝説の、パーフェクトガンダム三号機……」

 

『そう、その名こそアメイジング・レッドウォーリア!!』

 

 全身真っ赤なカラーリングと口元を覆うようなフェイスプレート。背に装備されたガンブレイドとハイパーバズーカ。ミサキのクリアファンネルミサイルのような特殊な機能など施されてはいない単純な装備だが、その単純な装備を十全以上に扱いきれる技能がメイジンには備わっている。

 シンプルなものこそ一番使い勝手が良い……それを体現したようなガンプラ……。

 

『思いのほか早い再会だな、レイ君!』

「え、ええ……」

 

 何故ここに居るのか、なんて無粋な事は聞かない。きっとメイジンには俺にさえ思い至らないようなすごい事を考えているに違いない。

 

『嬉しいねぇ……あのメイジンが出てくれるとはなぁ』

 

 赤いガンプラを飛び越え、メイジンの前に進んだアドウ。メイジンのレッドウォーリアは俺のジンクスから、アドウのガンプラの方へと機体を向ける。

 

『ガンプラ学園の者か……』

『アンタと戦えることができれば、俺の力は世界へ通じるって事になる。リカルド・フェリー二、ルワン・ダラーラ、グレコ・ローラン……そしてメイジン・カワグチ……!強ぇ奴等がわんさかいる世界になぁ!』

『……何故そこまで力を求める』

『飢えてるからさ……ッ!強ぇ奴とのバトルをさ。俺と戦える奴はこいつを除いてキジマくらいしかいねぇ……後はてんで話にならねぇ!俺は強い奴と戦っている時こそ満たされている!こいつと戦っている時がまさにそれだ!!』

 

 アドウのガンプラが一瞬だけこちらを見る。……やっぱりミサキと同じタイプのファイターだったか。彼女は姉妹で扱う冥・Oを力の限り戦わせることができる理想のバトルを探していた。アドウは本気を出して対等に戦える相手を探していた。

 ミサキとは違うように思えるものだが、根本は同じ。強いファイターとバトルして楽しみたいという思い。

 

『その気持ちは私にも分からないでもない……。だが、今の君が世界選手権に出ようとは!!笑止千万ッ!!』

『なんだと……?』

『強さだけを求めるのがガンプラではない!そう言っているのだ!!』

『だったら試させて貰おうか……ッ!!俺の戦いで!』

 

 俺が撃ち落としたビームガンを拾い上げ、両腕のビームガンをレッドウォーリア目掛けて放つ。しかしメイジンはその攻撃に対し、右腕に装備されている実体剣が付随されたビームライフルで、ピンポイントで迫りくるビームを撃ち落とす。

 

「すごい……」

 

 流石だ、一寸の狂いのない正確な射撃でなければできない芸当。アドウもまさかそんな方法で防ぐとは思っていなかったようで驚いていたが、すぐさまファングを射出し、メイジンへ襲い掛からせる。

 だがそれすらもメイジンは実体剣の一薙ぎで切り伏せる。

 

『強者故の孤独か……』

「……?」

『じゃあ次はどうだ!!』

 

 一瞬だけレッドウォーリアの視線がこちらへ向いた気がする。……いや、気のせいだろう。それよりも俺に使った、あのファングをひとまとめにして砲弾のように突撃させる攻撃がメイジンに迫っている。

 メイジンはガンブレイドを突き出し実体剣と衝突させ、背部に装備されたバズーカでファングを破壊してしまった。

 

『レイ君!君はガンプラが楽しいか!!』

「え……楽しいです!」

 

 アドウとの戦闘の最中のはずなのに、こちらへ声を投げかけてきた。突然の問いに戸惑いながらも反射的にそう返してしまうが、メイジンは少し笑みを零し、声を張り上げる。

 

『そうか!!ならば良し!!』

 

 何が良しなのか分からない。でもそういうことなのだろう、多分。

 

『すげぇすげぇ、流石メイジンの名を冠する事だけはあるぜ……ッ!!』

 

 黒いガンプラが飛び上がり、胸部の装甲を翼のように広げて全身を覆っていたマントを消し去り、その姿を露わにする。

 ……俺と戦っていた時もその本領を発揮していなかった彼のガンプラの真の力……か?

 

『なら俺も究極で行かせてもらうぜ………ッ』

『……む』

 

 黒いガンプラの両肩が真ん中からスライドし目玉のような文様の部分が露出し、禍々しく思える程の粒子が黒いガンプラを中心に放たれた。

 しかし……。

 

『食らえェ……デッドエンドォ―――』

 

【BATTLE!ABORTED!!】

 

「!……強制終了……」

 

 プラフスキー粒子によって構成されたステージが解除されていく。同時に俺の周りを覆っていたバトルシステムが解除され、周りの景色が鮮明に見えるようになる。

 強制的にバトルシステムを解除されたのか?そんな事をできる人なんて一般生徒にはいないはずだが……。

 

「誰の仕業だ!!」

 

 メイジンとの戦いを強制的に止められてしまったアドウは、苛ただしげにバトルシステムを止めた人物に向かって叫ぶ。俺もガンプラをしまいながら見るとそこには、金髪の男性がバトルシステムを強制的に止める装置を操作していた。

 

「ダメージレベルBでこれ以上のバトルをさせる訳にはいかない」

 

 元PPSE所属のアラン・アダムスさん……!?第7回世界大会でメイジン・カワグチのパートナーを務めた人じゃないか。

 

「うちのメンバーをあまり苛めないで欲しいね。メイジン」

「ならよく言い聞かせる事だ、相手に敬意を払わず、傲慢を振りかざす者を私は好まない」

「フッ……良く言い聞かせておくよ」

 

 現在のアラン・アダムスさんが何をしているかは知らなかったが、今の会話を聞く限り、彼はガンプラ学園の関係者のようだ。……PPSE社の社員だった彼ならガンプラファイター育成に力を入れているガンプラ学園に居るのも納得できるな。

 ガンプラ学園でもそれなりの地位……もしかしたらアドウたちのチームの監督をやっている可能性もある。

 

「おい」

「ん?」

 

 アドウが声を掛けてくる。面と向かって顔を見るのは初めてだけど、俺と同じ高校生……だよな?

 

「楽しみにしてるぜ、お前の完成したガンプラと戦うのをな」

 

 それだけ言い放ち、アラン・アダムスさんと共にトレーニングルームから出て行ってしまった。

 いずれ彼と戦う為に今のジンクスよりも遙かに強く、そして楽しく戦えるガンプラを作らなくちゃな……。

 

「セカイ君!!」

「!」

 

 バトル中に聞こえた女子の叫び声……只事じゃないその声に振り向くと、先程までバトルしていた赤髪の少年が、ぐったりとしてラル大尉に支えられるように気を失っている。彼の周りには、彼のチームメイトらしき女子と呆然と自身のガンプラを見て立ち尽くす少年……。赤髪の少年から少し離れた場所には、彼を心配気に見ているノリコとコスモ、そしていつの間にかここに来ていた父がいた。

 とりあえずチームメイトの方に走り寄り、何があったかを聞いてみる。

 

「コスモ、一体どうしたんだ?彼は……」

「バトルが終わったら突然倒れたんです」

「突然倒れた……?」

 

「あっ、ユウ君!!」

 

 今度は青い髪の少年までもが、自身のガンプラを放置したままトレーニングルームから出て行ってしまった。

 もしかしてさっきのバトルで何かあったのだろうか。一応バトルに参加していた身だ、原因が俺にあるなら謝罪しなければならない。

 

「大尉、彼は大丈夫ですか……?」

「ああ、大丈夫だ。疲れているだけだと思う」

 

 赤髪の少年、セカイくんと言ったか……彼を抱えた大尉が彼のチームメイトらしき少女と一緒に医務室に向かう際に声を掛ける。見た所外傷はないがかなり疲労している……。

 

「やっぱり俺が無理やりにでもバトルを止めれば……」

「いや、君のせいでは……」

「あまり思いつめるなレイ君」

「メイジン……」

「セカイ君の症状は君のせいではない」

 

 こちらへ歩み寄って来たメイジンが、大尉に抱えられている少年の表情を一目見てすぐに顔を上げる。

 メイジンは彼の症状について何か知っているのだろうか。

 

「アシムレイトですか?大尉」

「ああ、少し思い込みの激しい子でな……」

 

 アシムレイト?彼の症状に関係のある言葉だろうか……。ガンプラバトルに関係する言葉なら父が知っているかもしれない。後で聞いてみるか。

 

「地区大会の決勝見ましたよ。純粋な思いを炎に変える……まさにバーニングな少年だ」

 

 思いを炎に変える?まさかさっきのバトルで彼が繰り出した、炎を纏わせた拳がそのアシムレイトなのか?確かに燃え上がるような凄まじい粒子量だった。

 トランザムのように爆発的に出力が上がったように見えたが、その原理はよく分からなかった。

 

「レイ君」

 

 少年を医務室に連れて行く大尉を見送ったメイジンが、今度は俺に話しかけてきた。

 

「ガンプラを楽しむその心、大事にしたまえ」

「……勿論です」

 

 俺の言葉に満足したのか、嬉しそうな笑みを浮かべる。ガンプラを楽しむ心……それがメイジンが後進を往く子供達に伝えたい事なのかもしれない。

 

「メイジンはどこに?」

「……少しやらなければいけない事ができたのでな……。暗闇に迷いこんだ少年を案内する役目だ」

 

 バトルシステムに置かれている青色のガンプラを、レッドウォーリアが保管されているであろうスーツケースの中に入れる。メイジンの言葉に俺は、先程トレーニングルームから出ていってしまった少年の事が頭の中で浮かんだ。

 彼はアドウと何かしらの因縁があったのだろう。それも彼にとってとても大きな、執念にも値する因縁が。だがアドウは覚えていなかった、それどころかあまりにも呆気なく自分の方がやられてしまった。

 それで彼のガンプラへの思いが粉々にされた。それはとても苦しくて辛い事だろう。今まで自分が積み重ねてきたものが無意味に見えてしまうほどに……。

 

「………やはり君は私が見込んだ通りに、ボルケーノな少年だよ」

 

 そう呟いたメイジンは、トレーニングルームの出口へと歩いていく。彼を見送った後、トレーニングルームに残された俺は、ノリコとコスモと父の方に歩み寄る。

 

「悪い、心配かけた」

「本当ですよ……でも、あの子大丈夫でしたか?」

「疲労で倒れたから大丈夫らしい……が、この後俺が見にいくよ。ガンプラも直したいからな。……父さん、この後予定は?」

「いや、今日はもう大丈夫だ」

 

 よし、それなら……。

 

「じゃあ、コスモとノリコの指導をしてくれないかな?俺のせいで大事な合宿の時間を無駄にするわけにはいかないから」

「息子からの珍しいお願いだ。受けようじゃないか」

「ありがとう。二人とも、ここは父さんに任せる」

「先輩は大丈夫なんですか……?」

 

 心配気にコスモが聞いてくるが、大丈夫だ。足を損傷したとはいえそんなに重いものではない。すぐに直る程度のものだ。だけど、それよりも今頭の中を占めているのはもっと別の事。

 

「ガンプラ学園の生徒とのバトルで何か得られたようだな」

「ああ、でもすぐに二人の練習に参加できるように早くジンクスを早く修理しなくてはいけない……だからノリコ、コスモ。俺が居なくても思いっ切り練習してくれ、俺も直ぐに参加するからな」

「はい!!先輩も頑張ってください!!」

「思いっ切りやらせてもらいます!」

 

 二人の返事に安心した俺は、まずは赤髪の少年がいる医務室に向かうべくトレーニングルームから出る。医務室は確か工作ルームから少し離れた所にあったはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大したことはない、時期に目が覚めるよ」

「はい………」

 

 夕焼けが差す医務室のベッドに、チームメイトであるセカイ君が眠っている。地区大会の決勝戦の後にセカイ君が倒れてしまった時と同じだ。まるでガンプラの傷や疲労をセカイ君も感じているみたい。

 

 あのバトルの時、ユウ君はガンプラ学園の生徒にやられてしまった。そして私もセカイ君のガンプラも……。私達は少し甘く見ていたのかもしれない。地区大会の決勝を勝ち上がった私達のガンプラは全国でも通じるのではないか、と。

 でも現実はこれである。選手権はチーム戦、ガンプラ学園の生徒一人相手にしただけでも私達は圧倒されてしまった。だから、私達はもっと強くならなければならない。

 セカイ君もユウ君も……そして私自身も。

 

 ……そういえばユウ君が乱入する前、誰かのガンプラが、ガンプラ学園の生徒と一緒に居た。もしかしてセカイ君を医務室に連れて行くときに話しかけてきたあの人なんだろうか。結局話に入れず聞きそびれてしまったが、彼も私達や我梅学園と同じ、選手権へ出場する選手なのかもしれない。

 ……いや、今はそんな事より、まずはユウ君を探さなくちゃ……。

 

「ラルさん、セカイ君のこと……お願いしても良いですか?」

「それは構わんが……」

「私、ちょっとユウ君を探しに行きます!」

 

 ラルさんに任せておけば大丈夫だろう。私は私のできることをまずやっていこう。まずはユウ君だ、さっきのバトルのユウ君の様子……もしかして二年前もあのガンプラ学園の人とのファイトが原因で彼がガンプラをやめてしまったなら―――。

 

 医務室へ近づこうとしたその時、私が扉を開ける前に誰かが扉を開けた。誰かが入ると思っていなかった私は少し驚きながらも、扉を開けた人物に視線を向ける。

 

「君は……」

「さっきの……」

 

 トレーニングルームでラルさんに話しかけていた人……その人が医務室に訪れてきたのだ。何故彼がここに?と最初に疑問に思ってしまった私だが、扉が空いた音を聞いたラルさんがこちらに気付き声を掛ける。

 

「ああ、レイ君か。セカイ君なら大丈夫だよ」

「……そうですか、良かった」

 

 ラルさんの言葉に安堵するように胸を撫で下ろした人は、困惑している私に気付くとしまったとばかりに表情をしかめる。

 

「すまない、自己紹介はまだだったな。茨城県代表、暮機坂高校のチーム『イデガンジン』のリーダー、アンドウ・レイだ。俺もさっきのバトルに参加していた」

「………」

「………?」

「……どうした、フミナ君?」

「え?……あ……わ、私は聖鳳学園、チーム『トライファイターズ』のホシノ・フミナです!」

 

 ラルさんの声に我に返り、すぐさま自己紹介する。いけない、鹿児島県代表の人達と態度が違いすぎて少し呆然としていた。

 茨城県代表……私達と同じ関東圏の代表。

 それに、さっきのバトルに参加していたということは、彼があのジンクスを操作していたのか……。

 バトル中、ガンプラ学園の事で精一杯で気付かなかったけど、ユウ君が乱入する前はこの人がガンプラ学園の人と戦っていたのかな……?私達が来た時は、二機のガンプラが戦闘をちょうど止めたあたりだったから……。

 

「聖鳳学園のチーム『トライファイターズ』……確か西東京のチームだったか」

「知っているんですか!?」

「いや……俺達と同じ全国初出場のチームだったから、珍しくてね」

 

 アンドウさんたちのチームも全国初出場なのか。

 

「……あまり長居すると迷惑になるか……突然すいませんでした。そろそろ行きます」

「いや、こちらこそ無用な心配をかけてすまない」

 

 そう言ったアンドウ・レイさんは軽くお辞儀してから医務室を去って行った。

 セカイ君を心配してここに来てくれたのか……。なんだか変に疑ってしまった事に申し訳ない気持ちになって来る。

 後で心配させてしまったお詫びもかねて、ユウ君とセカイ君と一緒にちゃんと挨拶しに行こう……。

 

「……じゃあ、ラルさん!私今度こそユウ君を探してきます!!」

 

 その為には一刻も早くユウ君を探しに行かなくちゃ!

 




 ガンダムジエンドの名前を知って、真っ先にニルバーシュtype the endが思い浮かんだ私は少しズレているのかもしれない……。

 今回は選手権扁で戦う予定にあるオリジナルキャラの名前を出しました。

 イノセ・ジュンヤと同じように拳法に秀でる人、と考えたら、あのキャラが思い浮かんだのでそのキャラをモデルにしました。

 ナガレが苗字で大体わかってしまうかもしれませんね。
 使うガンプラは合体しない黒いゲッターです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~ニールセン・ラボ3~

今週のビルドファイターズでJ・〇ークっぽい奴が出てましね。

後、Cパートのジュンヤのガンプラがどう見てもヤル〇バオトに見えて仕方がない……。

もうBFTのスタッフは本気でスパロボ時空を作り出そうとしているようにしか思えなく
なってしまいました。


【BATTLE!START!!】

 

 トレーニングルーム、バトルシステム、演習モード。

 プラフスキー粒子によって構成された宇宙の中で俺のイデオン・ジムとノリコのザクが、バトルシステムによって作り出されたあるMAと対峙していた。

 

 劇場版ガンダムOO登場MAガデラーザ。

 全長約300メートルの巨大MAである。7基の疑似GNドライブの出力はOO世界の機動兵器の中で随一の威力を誇り、また機体に内蔵された大量のファングは全ての敵を切り裂き撃ち落とす。

 無人の敵として俺達の前に出現した巨大MA、MAの中で随一の性能を誇る機体……相手にとって不足はない。

 

 

 大出力で放たれたビームを回避しながら、ガデラーザからファングが射出されたのを確認し、イデオン・ジムの全身に内蔵されているミサイルを発射する体制に移る。

 ファングは残しておくと厄介だ。最初から全火力で破壊させて貰う。

 

「ノリコッ合わせろ!!一気にファングを撃ち落とす!!」

「オッケー!!」

 

 少し離れた所でチャージを済ませたノリコが両手を弓のように引き絞り、俺のミサイルの発射と同時に腕を前に突き出した。

 

「今だ!!」

「ホォォミング!!レェェザァ――――――!!」

 

 イデオン・ジムの胴体と四肢から大量のミサイル、ノリコのザクの掌からはレーザーが発射され、大型ファングと、射出された小型ファングに殺到し、星の光さながらに爆発していく。

 

 だがガデラーザのファングは普通の量ではない。討ち損じたファング達が続々とこちらへ迫って来る。

 

「よーっし!!コスモ、ファングは私に任せて!!」

 

 何故か野球のバットに似ている棒を持っているノリコのザクに疑問を抱きつつ、彼女の言葉に従いイデオン・ジムを先行させる。このまま本体のガデラーザを叩く。

 

「全方位だ!!」

 

 ビームを放ってくる小型ファンネルをミサイルで撃墜しながら、凄まじい速度で移動しているガデラーザを追跡する。だがガデラーザはELS相手にたった一機で優勢に戦った、異常な性能を持つトンデモMA。主武装である複数の大型ファングが、GNフィールドを鋸のように展開させながら襲い掛かって来る。

 

「しゃらくさい……ッ」

 

 イデオン・ジムを切り裂こうとする大型ファングを回避すると同時に一つを横から蹴り飛ばし、脚部側方のミサイルを撃ち込む。……だがGNフィールドを展開させたファング相手には効果は大きくない、何事もなかったかのようにこちらへ再び襲い掛かって来る。

 

「バスタァァァァ!!ホォゥムランッ!!」

 

 イデオン・ソードで対処しようとした瞬間、ノリコのいる後方からもう一基の大型ファングが凄まじい速度でこちらの大型ファングに直撃し、まとめて爆発する。唖然としながら背後を見ると、バッドを振り切った紺色のザクの姿。

 まさか大型ファングをこちらへ野球のように打ったのか、いやそれよりも……。

 

「本当にバットだったのか!?」

 

 なんていう予想外の武器を使っているんだ。しかも戦闘に役に立つとは……ガンプラバトルは本当に分からない。でも、さっきの一撃で大型ビットは全て堕ちた。

 

「後は大本を叩く!!」

 

 脚部と背部のスラスターの出力を全開にさせ、ガデラーザに迫る。

 当然の如く迎撃するためにあり余るほどのミサイルとビームを一斉に放ってくるが、こちらは両腕のサーベルのジェネレーターを同時に発動させ、巨大なサーベル……イデオンソードを形成させる。

 まさかソードだけで突破できるとは思ってはいない。だが、俺は一人で戦っているんじゃない。

 

「コスモ、援護するよ!!」

 

 直撃するであろう弾幕をミサイルと、後方からノリコが放ってくれたホーミングレーザーで相殺し、スピードを落とさずに両の手を振り切る様に構え一気に突撃する。

 だが相手も伊達に強力な機体が登場する劇場版の上位に位置する強さを持つMAではない。ガデラーザはソードを構え突撃するこちらに対して、巨大なビーム砲を開き放つ態勢に移る。

 このまま直撃すれば、いくら強度に優れたイデオン・ジムといえどもただでは済まない。

 

「出力全開!!」

 

 後方に構えたイデオンソードの出力をさらに上げ、その放出の勢いでさらにスピードを上げ、一気にガデラーザをソードの射程圏内に捉える。

 

「捉えた!!イデオンソォ―――ド!!」

 

 射程に入ると同時にビームを放たれるが、こちらの方が早い。両腕で発動させたことにより、ガデラーサさえも容易に分断できる大きさとなったイデオンソードを、スピードと力任せに振り切る。

 長大に伸びた光の剣はガデラーザの砲身から後部まで、綺麗に真っ二つに切り裂いた。

 

「……よし」

 

 後方で爆発が起きたのを確認しイデオン・ジムを止める。

 ノリコも俺も無傷……取り敢えずは改修の成果が出たって事かな……。

 

【BATTLE!END!!】

 

 バトルが終了し、システムが解除される。

 深呼吸しながら確かな手応えを感じつつも、まだまだ物足りないという感情に苛まれる。

 

「まだ、俺は足手まといだ……」

 

 ガンプラ学園の生徒と先輩のバトル。自分はそれなりに戦えるとは思っていたが、まだ実力が足りない事を痛感させられるものだった。このままでは俺とノリコは先輩の枷になってしまう。

 ある程度同等の相手ならばまだ大丈夫だろう。でもそれ以上の相手と戦う事になったら自分達は機能しなくなると言ってもいい。それだけは死んでも嫌だ。

 

「及第点、と言っておこうか」

 

 バトルが終わっても無言な俺達に先輩のお父さんが声を掛けてくる。

 

「現役を離れた私が、君達のバトルを見て、色々アドバイスできる所は見つかった、が……まず言わせてくれ。君達は一体年はいくつだ……そのガンプラのモデルは私が子供の時の作品だぞ?」

 

「「………」」

 

 そういえばノリコのガンバスターも、俺のイデオンもすごく前にやっていたアニメだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖鳳学園の赤髪の少年、セカイ君の見舞いをした後に、アドウとのファイトで損傷したジンクスの修理と改修の為に工作ルームへ訪れた。 

 一つの作業机に座り、その上にジンクスⅣと一緒に持ってきたジンクスⅢ用の予備パーツを置く。幸い人がいない時間帯なのか、静かに作業を進める事が出来る。

 

「流石、ガンプラの為の研究所」

 

 改修に必要な道具は全て揃っている。これなら道具に困ることはなさそうだ。

 ……取り敢えず傷ついた脚部とか表面を直していきながら、ジンクスⅣの改修案を考えよう。

 

「さて、どうするか……」

 

 アドウのガンプラの性能は凄まじいの一言に尽きる。

 あのガンプラに対抗するためにはジンクスⅣを作り上げるだけでは足りない。通常時のクリアランスも今一決め手に欠ける。ロングライフルやサーベルは通常装備として常備するとして、これからの改修案は、チーム戦に特化したタイプか個人戦に特化したタイプ……またはその両方を担うことができるタイプに分かれる。

 

「リーダーとしてはどっちも、だな……」

 

 コスモとノリコの使うガンプラは拳や蹴りを用いた接近戦を主としている。しかもノリコは飛び蹴りを使う攻撃が得意だ。

 俺も合わせて蹴り技ができるように改造すれば……。

 ふと先程のバトルを思い出す。炎を纏った赤いガンプラ、確か次元覇王流といったか。外から見た感じでは武装は全てオミットされ、その攻撃方法は拳と足を用いた格闘のみ。そしてあのガンプラの両手足の各部には僅かだがクリアパーツが露出していた。

 

 前々から自分のガンプラにはユニークな部分が不足していると思っていたんだ。これを気に色々改造してみるのもいいかもしれない。

 幸い選手権まで結構日はある。

 

「……悪くない」

 

 できるだけジンクスⅣの外形を崩さずに内側の部分を改修していきたいな……。姿を変えてはジンクスⅣを作ってみようという目的が違ってしまうからな。

 取り敢えず今修理している右足に試作的に仕込んでみるとする。道具もクリアパーツもある事だし。

 

 次はランスの改修案。

 候補としてはこのままクリアランスを中心として強化していくか、父にとっつきのギミックを教えて貰ってそれを組み込むか。 

 悩むが、今の最高攻撃力を持つクリアランスは手放し難い。さっきのバトルではまだジンクスⅣがまだ未完成だったせいでトランザムが使えなかったが、クリアランスは本来トランザムと併用して使う武装だ。

 

 純粋な利便性を求めるか?

 ミサキのI・フィールドや一回戦で戦ったガンタンクのビームコーティングの事も考えて、タクティカルアームズのようにビームと実弾を選べるようにするとかもアリかもしれない。

 

「……まずはここでできる作業だけやっていくか……」

 

 鞄から予備パーツを取り出しながら作業机の上のジンクスと向き合い、作業に取り掛かる。

 ……少し時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 修理を開始してから二時間はかかったかな?外も何時の間にか暗くなってきたせいで、建物内も微妙に暗く感じる。

 

「右足は大体出来上がったか……」

 

 集中的に右足を修理していたからか意外と早く作業が終わったので、アドウとの戦いでジンクスⅣを操った感覚を元に部分的な改修をして、大分ジンクスⅣに近づける事が出来た。ついでに右足に特別なギミックも入れる事もできた。……まあ、加工したクリアパーツを入れてみただけなんだけど……。

 後は火力不足を補う改修をできれば……。

 

 

 

 

 

 

「綺麗ね、貴方のガンプラ」

 

 

「!?」

 

 

 

 

 突然、真後ろから声がした。思わず椅子から転げそうになりながらも、何事かと思い咄嗟に振り返る。

 そこには見慣れぬ白髪の少女が居た。月の光が差し込む工作ルームの中で、その少女の存在はどこか神秘的に見えたせいか……。

 

「乙女だ……」

 

 訳の分からない事を呟いてしまった。

 

「?」

「……いや違う」

 

 何を言っているんだ俺は、まるでメイジンにでもなったつもりか。

 とりあえず心を落ち着かせながら椅子に座り直し、不思議そうに首を傾げている少女に視線を向ける。

 

 ……それで、この子は何者なのだろうか。見た目の年齢からして、さっき病室で会った子と同じ中学生に見える。そうだとしたら大会に出場する子かもしれない。いや、もしかしたらここの研究所に所属している方の娘さんかもしれないな。

 

「どうしたの?」

「……少し驚いてね。君はいつからそこに?」

「ついさっきよ」

 

 作業に夢中で気づかなかったのか。まあ、他校の生徒にも別に見られても構わないが本当にビックリした。少女は少し横に移動し、ジンクスをジッと見つめている。

 

「ジンクスね?劇場版に出た」

「あ、ああ。良ければ見るか?」

 

 何だか興味深々なので席をずらしてジンクスⅣを見せる。邪気とかそういうのは無いと感じたからこその判断だが、こうすると地元の模型店の子供達を思い出す。

 模型店を訪れる子供達もガンプラバトルやガンプラを作っている所を見て、見せて貰おうとせがんで来る。この状況も地元の模型店の子達の時とよく似ている。

 

「貴方の名前は?」

「……アンドウ・レイ」

 

 上機嫌に俺のガンプラを眺めながらそう聞いてくる少女。

 ……相当なガンプラ好きと見た。

 

「私はシアよ。もう少しここで見て良い?」

「それは、別に構わないが……」

 

 この後する事なんて俺以外は特に面白くもないんだけど……。

 だが、こちらの困惑を余所にやや嬉しそうな笑みを浮かべた少女、シアは隣の作業台の椅子に座る。

 

「ふふ……」

「………まあいいか」

 

 何かよく分からないが、上機嫌だし別にいいか。さあ、作業の続きをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コスモ、先輩は工作ルームにいるんだっけ?」

「その筈だな」

 

 一通りの練習を終えた私達は、先輩がガンプラを修理している工作ルームへ足を運んでいた。先輩のお父さんは、夕食の席を取ってくれているそうなので、先輩を呼びに行くのは私達に任されたという訳だ。

 

「………?」

「どうしたの?」

 

 コスモが何かを見つけたのか、横切った通路の先を注視している。

 私も気になってコスモの視線の先を見ると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

『貴方と会う事ができて光栄です!!ニルス・ニールセン殿ッ!!』

『い、いや、ここで土下座させられても困るんだけど……』

 

 白衣を纏ったドレッドヘアーの男性が、白髪の大柄な男性に土下座させられている光景が視界に広がっていた。

 

『失礼ッ今はヤジマ・ニルス殿とお呼びするべきでしたッ!』

『……あ、えーと。今は少し忙しいから、話は後でいいかな?一段落したら時間もとれるから……』

『お時間取らせて申し訳ありません!!』

 

 土下座のままでそう返した男性にドン引きしながらもにこやかな笑みを浮かべた男性は、このまま目の前の男性を土下座させるわけにはいかないと思ったのか、背後を気にしながらその場から離れていく。

 

 その光景に呆気にとられていた私達だが、土下座していた男性がバッと起き上がったのを見て直ぐに我に返る。

 

「ね、ねえコスモ。どうしよう?」

「どうしようって言ったって。俺達にはどうしようもないじゃないか……見ろ、あの人」

 

『感激だ。まさかあの戦圀アストレイを扱っていたニルス殿と合間見えるとは露程も思ってはいなかった。これは迷子になったナガレに感謝せねばならないな……』

 

「男泣きしてる……」

「う、うん」

 

 身長が190近い白髪の大男が男泣きしている光景に正直ドン引きせざる得ない。どう対処したらいいのだろうか、いやここは対処する必要はないのではないか?むしろこのままそっとしておく方向でこのまま先輩のいる工作ルームへ行った方がいいのではないか?

 

『其処の二人組!』

「……絶対私達だよね」

「ああ、俺達だな」

 

 私達にはその選択を選ぶ暇はなかったようだ。

 バッと大仰に私達の方を向き、ズンズンと足音が聞こえそうなくらいの勢いで歩み寄って来た大男。

 近くで見るとより大きく感じる。年は……20代前半ぐらいだろうか。

 

「すまない、チームメイトを探しているんだ」

「チームメイト?」

「見るからに危なそうな奴だ。知らないか?ナガレというのだが……」

 

 それはまず警備員に聞いた方がいいのじゃないかな。

 コスモも同じような事を思ったのか、表情が引きつっているのが横目で見える。

 

「チームメイトって事は、貴方は選手権に出場するチームの監督なんですか?」

「……?ハッハッハッハッ、面白い事を言う。私はまだ17歳だ」

 

 嘘だ、なんて本当に冗談だと思って快活に笑う彼の前で言えるはずがなかった。本当にこの人は自分と同じ高校生なのか?しかも先輩と同じ年だし、色々違いすぎて一瞬耳を疑ってしまった。

 

「私は佐賀県代表、チーム『大黒刃』のセンガだ。君達も県の代表チームだろう」

「え、ええ、私達は茨城県代表のチーム『イデガンジン』です」

「自分はユズキ・コスモ、こっちはタカマ・ノリコです」

「茨城県の……ふむ、選手権では敵同士だが、ここでは合宿を共にする同士だ」

「は、はあ……」

 

 悪い人ではないようだが、身長が大きいせいか少し怖い。

 

「貴方は一人なんですか?」

「……実はもう一人の仲間もいつの間にかいなくなってしまってな……全く、誰もが好き勝手に行動しおって……手間が掛かる奴等だ」

「………」

「………」

 

 さっき土下座している姿を見てからじゃあ、貴方の方が迷子になっているように見えるのは気のせいだろうか。無言の私達を怪訝に思ったのか、首を傾げたセンガさんだが、すぐに気まずい表情を浮かべる。

 

「すまない……。君達はチームメイトを迎えに行くのだったな、時間を取らせて済まない」

「あ……そちらも頑張ってください……探すの」

「気遣い感謝する」

 

 そう言ったセンガさんは、片手を上げて私達とは逆の方へ歩いていく。

 ………色々豪快な人だったけど、悪い人ではなかった。大会では彼はどんなガンプラを使うのだろうか。すごく気になる。

 

「先輩の所、行こうか」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 かれこれ三十分、ずっと作業している俺のガンプラを眺めているぞこの子。すごい忍耐力だ、やはりこの子は生粋のガンプラ好きというのは正しい認識かもしれない。

 

「……ジンクス、好きなの?」

 

 静寂の中での突然の問いに、ジンクスⅣを磨いていた手が止まる。

 ジンクスが何故好きか、か。そういう事を聞いてきたのは、ある意味初めてかもしれないな。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「貴方がガンプラに触れている時ってとても楽しそうなんですもの」

「……楽しいに決まっているさ、作って遊んで戦って……それがガンプラだからな」

 

 ゆっくりと手に持ったジンクスを机に置きながら思い出す。

 小学生の頃、父に何も言われずに差し出された箱を貰った時に、初めてガンプラという遊びに触れた。最初は箱の中に詰め込んである、沢山の四角い枠に収められた玩具のような部品の数々に戸惑った覚えがある。

 そして、その箱に描かれていたのは灰色のロボットだった。

 

「……初めて作ったガンプラがGN-Xだ」

「初めて?」

「そう、初めて、のだ。7歳の誕生日プレゼントに父がくれた物だ……まあ、出来上がりは最悪だった。子供の作ったもの、と言えば言い訳が効くが、余分なプラスチック部分が残っているわ、はめ込みは甘いわ……散々だったよ」

「一人で作ったの?」

「いいや、父が一緒に作ってくれた。でも父は最低限の事しかしてくれなかった。ほとんど俺に作らせた」

 

 最初はすごくつまらなかった。色々教えてくれる父に何故全部作ってくれないんだと何度も愚痴をこねた。でも、父に言われるままパーツを組立てシールを張り付ける。

 最初に脚が完成し、腕、胸部、腰、頭、どんどん出来上がっていく灰色のロボット……。

 

「優しいお父様ね」

「ああ、今でも尊敬してるよ」

 

 作っていくうちに不思議な感覚に陥ったのを今でもしっかりと覚えている。夢中、ではなく……もっとあやふやな感覚、そう……ワクワクしていたんだろうな。元々作られている玩具とは違う、自分だけで作り上げるガンプラという存在にただひたすらに心を躍らせていた。

 

「あの時の感覚があるからこそ……今までも、これからもずっと……俺はガンプラを楽しもうと思える」

「ふふ……貴方の事が少しだけ分かったわ」

 

 にっこりと笑みを浮かべる彼女、その笑みは俺とジンクスに向けられている気がする。

 

 少し語り過ぎたかな?自分より年下の子に自分語りとか、ドン引きされていないか心配だ。内心気にしながらもシアの方に視線を向けようとしたその時、工作ルームに一つの影が駆け足で入ってくるのを見かける。

 特徴的な赤髪……あれは――。

 

「目を覚ましたのか……」

 

 チームトライファイターズのセカイ君。もう大丈夫そうだが、一応声を掛けておこうか。

 ジンクスⅣをホルダーに入れ、作業机のある場所にまで降りてきた彼の方にまで足を運ぶ。

 

「具合は大丈夫か?」

「え?アンタは……」

「昼間、ガンプラ学園の生徒とバトルしていた一人だ……えーと、このガンプラを見れば分かるか?」

「……ああ!ユウマが戦う前に戦ってた!!」

 

 ジンクスⅣを見せると、セカイ君は納得が行ったように声を上げる。分かってくれたか、とりあえずお互いに自己紹介をしながら、彼がどうしてここに来たのかを尋ねる。

 

「セカイ君、でいいか……君はどうしてここに?ガンプラを直しに?」

「ああ!ビルドバーニングを直しに来たんだ!」

 

 そう言いこちらに今まで握っていたであろう赤いガンダムを見せてくる。見た所、肩が壊れ装甲が所々傷ついている。

 ……それにしても、スゴイ出来のガンプラだな。

 傷ついた装甲の隙間から見える内部にクリアパーツが施されているところを見ても、相当手が込んでいる。まるでメイジンのガンプラと同等の出来と言っても差し支えないぞ……。

 

「綺麗なガンプラ……」

「おっと……」

 

 何時の間にか背後から近づいていたシアが、覗き込むようにセカイ君のビルドバーニングを見ていた。セカイ君も驚いたように慄いていたが、すぐに我に返ると急ぐように近くの作業机に座り、ビルドバーニングの修理に取り掛かる。

 

「……あの!ここ使わせて貰う!!」

「どうぞ……と言っても、ここの使用は自由だから好きに作業しても構わないよ」

「ああ!」

 

 元気にそう返しながら自身のガンプラと向き合うセカイ君。……うん、どうやら本当に大丈夫なようだ。バトルによる疲労も抜けているようだし。

 そろそろ俺も切り上げてノリコとコスモの所に行こうかな、これ以上作業すると遅くなりそうだし。

 

「ガンプラが痛がっている」

「?」

 

 自分の作業机の方を片づける為にそちらへ行こうとすると、突然シアがそんな言葉を背後にいるセカイ君に向けた。彼女の声に振り向くと、セカイ君が無理やりガンプラの関節を嵌め込もうとするのが見えた。

 

「もっと優しくゆっくり嵌めて。声を出せないガンプラの気持ち、分かってあげないと駄目」

「え?えーと、こうか?」

 

 彼女の言葉に従い、先程とは違う軽い手つきで腕部のパーツを嵌め込む。するとスッと簡単に嵌め込まれるパーツを見て喜ぶセカイ君。まるで初めてガンプラを組み立てたとばかりの反応に、先程シアに話したような小学生の時の自分と重なって少し感慨深くなる。

 

「そのガンプラ、バトルで負けたの?」

「……直球だな」

 

 ズバズバ切り込んで来る彼女に少し戦慄しながらも、昼間のバトルを思い出す。乱入に乱入を重ねたバトル、セカイ君とアドウのバトルは……アドウの勝ちだろう。SDガンダムのパーツを巨大な拳として装備し、その拳で次元覇王流……という拳法の技を繰り出すが、アドウのデッドエンドフィンガーに敗れた。

 負けるのは悔しい。稀に負けを認めないような人もいるが、セカイ君はどうだろうか。

 

「ああ、こてんぱんにやられた。すげぇ強い奴だった」

「その割には、嬉しそうだな……セカイ君」

「負けたら悔しいに決まってるさ。でも、俺の師匠が言っていた。勝負は勝ち負けより、その勝負に納得できたかどうかが大事だって……。今度あいつと戦う時、俺はできるだけ準備したい。勝つにせよ、負けるにせよ……納得して戦いたいんだ」

「そうか……」

 

 この子をバーニングな少年と言ったメイジンの気持ちがよく分かった。まさしく清々しい程に正直な少年であり、ガンプラバトルを勝ち負け関係なく楽しんでいる。

 

「……普段のノリコを見ているようだな……」

 

 同じとは言わない。正直な所とか、真っ直ぐな所とか色々な所をひっくるめて似ているだけだ。

 セカイ君は、いずれ選手権で戦うかもしれない相手。だけど、何だか応援したい気持ちに駆られてしまう。ガンプラに触れた頃の自分を見ているようで、頼もしい後輩に似ているようで……。

 

「レイ」

「どうした?」

 

 声をかけてきた彼女の方を向く。シアはセカイ君とこちらを見て、ニッコリと笑みを浮かべる。こちらを見る彼女が何を言いたいのかをなんとなくだが察して頷いた俺は、ガンプラの修理をしているセカイ君の隣にある作業机の椅子に座る。

 案の定、彼は戸惑った表情を浮かべる。

 

「手伝うよ」

「え?何で……」

「理由は、俺もよく分からない」

 

 自分が初めてガンプラを作った頃の事を思い出したからか、純粋にこの少年を応援したくなったからか……それとも、敵味方関係なしにこの子にガンプラの楽しさを知って欲しかったからかもしれない。

 

「……教えてくれるならありがたい!!」

 

 あくまで俺は手を出さないでアドバイスするだけだ。小学生の時、自分自身の手で作り上げる楽しさを教えてくれた、父がそうしてくれたように……。

 

 戸惑いながらも返事をしたセカイ君を見て、彼女は―――。

 

「ガンプラ、直そ?」

 

 そう嬉しそうに言葉にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく工作ルームに到着した……。何回か先輩のいる工作ルームとは別の所と間違えてしまったが、今度こそちゃんと係員の人に聞いたから大丈夫な筈。

 なんとか辿り着いた工作ルームの中は人気がなく、先輩が居るかどうかも分からない。

 

「せんぱーい、いますかー?」

「ノリコ、静かにしろ……」

 

 コスモに注意されながらも工作ルームを見回せる所から絶対を見渡すと……三人くらいの人が集まっているのを見つける。

 

「あ、見つけた」

「なら行こう」

 

 コスモと共に下の階にまで降りる。降りた所には先輩と見覚えのない少女と、昼間のバトルで倒れた赤い髪の子がガンプラを直していた。

 

「先輩、迎えに来ました!……あ、お取り込み中でしたか?」

「……すまない、連絡しておけば良かったな……こっちから行こうと思っていたんだけど、どうにも夢中になっていたようだ」

「レイのチームの人?」

 

 白髪の少女が先輩にそう問いかけた。

 ……すごい可愛い子だ。年下に見えるから中学生かな?

 

「そうだ、セカイ君、俺はそろそろ戻る。後はシアと一緒に」

「ありがとう、すげぇ助かったよ!!」

「そう言ってくれるとありがたい」

 

 しかし、無茶苦茶子供に慕われているなぁ……しかもこの短時間で……流石、地元の模型屋に行くと瞬く間に子供に囲まれる人だ。

 そんな呑気な事を考えている内に、先輩は別の作業机の上に置いてあったパーツや道具等を片づけてからこちらへ歩み寄って来た。

 

「じゃあ行こうか」

「はい!」

 

 先輩のお父さんも結構待たせているから早くいかないとね。

 それにしても、先輩のジンクスも直ったのかな?意外とちゃっかりとしている先輩の事だからちゃんと改修くらいまで終らせていると思うけど……。

 

「レイ!!」

 

 赤髪の子が突然立ち上がり、先輩に声をかける。彼に対しゆっくりと振り返った先輩に対し、赤髪の子は挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「戦う時は、全力で!!」

「……ああ」

 

 そう一言だけ返し、先輩はこちらへ振り返る。私もコスモも先輩の後ろをついていく。工作ルームを出て食堂までに歩くまでの道のりの最中、今まで無言だった先輩が私達の名を呼んだ。

 

「ノリコ、コスモ」

「?」

「はい?」

「選手権、頑張ろう」

 

 今の先輩の心境は私にもコスモにも分からない。

 だが、その言葉に対し私達が返せる言葉は一つしかない。

 

「勿論です。貴方は私達の先輩で、リーダーなんですから」

「俺もノリコと同じです」

 

 私達の言葉に先輩は照れくさそうに歩を速める。なんだか新鮮な反応だなぁーと思いつつも再び歩を進める。先輩のお父さんが席を取ってくれているという食堂は先輩の居た工作ルームからそう遠くない場所にあるので、意外と早く到着した。

 

「父さんは?」

「待ってくれていると思うんですが」

 

 もう夜の8時を回っているからかあまり食堂には人はいなかった。ちらほらと私達と同じ年くらいの人達もいたが、その人達は既に夕食も食べ終わっているからか雑談に興じているようだった。

 

「……あ」

 

 その中で私は一際目立つ白髪の大男の姿を見つけた。センガさんだ、迷子になったというチームメイトの人達は見つけられたのだろうか?

 

『む!?』

 

 センガさんも私達が食堂に入ったのに気付いたのか、こちらへ手を挙げながら近づいてくる。そこで私は気付く。凄く目つきが悪い人がセンガさんの後ろからついてきている事に……。

 

 その人はこちら……というより先輩の視界に捉えるなり、その目を獰猛なものに変えて、早足でセンガさんを追い抜き、先輩の前まで近づいてきた。一瞬頭の中をよぎったのは選手権の大会規定……暴力沙汰を起こしたら出場停止という項目だった。

 

 

 

 

 

 

 

「アンドウ・レイ、で合ってるよな?」

 

 誰だろうかこの人は。突然大柄な人と一緒にこちらに近づいてきて、いきなり話しかけられた。父を待たせている身としてはできるだけ用件は手短にしてほしいのだけど……。

 

「俺は、佐賀県代表のチーム『大黒刃』ナガレ・リョウヤ。今日のバトル見させてもらったぜ。ガンプラ学園に喧嘩売ろうとする奴なんざ、久しぶりに見たからな。面白れぇってのなんの」

「いや、あれは喧嘩しようとしたわけじゃ……」

 

 バトルを止めようとしただけだが、傍から見れば喧嘩を売っているように見えていたのか。まあ、結局は俺も応戦してしまったのだ、そう言う風に受け止められてもしょうがない。

 

「バトルが終わった後、ずっとお前を探していたんだ……」

「俺を?」

「いずれ選手権で戦う相手だ、挨拶しておきたくてよぉ」

 

 ずっと、というと今の時間を考えると結構探していたのか。会えなかったのは俺のせいじゃないが、何だか申し訳ない気持ちになって来る。

 

「おいナガレ、またお前勝手に……すまない、こいつが何か無礼な事をしなかっただろうか?」

 

 今度は白髪の大男がナガレの隣に歩み寄って来た。現れた大男にナガレは呆れたようにため息を吐きながら、食い掛かる様に彼を睨みつけた。

 

「おい……センガ、俺が毎回も迷惑かけているとは限らねぇだろ?」

「毎回ではなくいつもだ。君達もすまなかったな、直ぐに連れて行く」

「待て、まだ俺の話は―――」

 

 センガと呼ばれた大男に腕を掴まれながらも、連れて行かれまいと抵抗しているナガレ。ノリコとコスモは白髪の彼とは知り合いのようだが、そのどちらについても良く知らない俺はどうすればいいのか。

 

 人数が少ないとは食堂は人が集まる場所、徐々に人の視線も集まってくる。深いため息をつきながら止めようと足を踏み出そうとしたその時、俺達の後ろから誰かが掛けてくる音が聞こえる。

 

「貴方達~~!!」

 

 風を思わせる速さで俺達の前へ飛び出した人影は、センガとナガレの頭部をシューズで勢いよくバシーンとはたく。かなり痛そうなのだが、叩かれた二人は少し顔をしかめて頭を抑えているだけ……大丈夫なのか?

 

「……っ!カナコではないか!?今までどこにいた!!」

「どこにいた?どこにいたかって?」

 

 よく見れば現れた人影は、ノリコよりやや背が低い茶色がかった髪色の少女だった。ナガレたちと一緒に居る所を見れば俺達と同じ高校生に見えるだろうが、彼女一人だけでは絶対中学生と間違ってしまう程に小柄だ。

 

「よくそんな台詞が言えたな!!何で合宿に来たら皆直ぐに迷子になるの!?合宿だよ!?練習しなきゃいけないんだよ!?今9時前だよ!!」

「あぁ?それじゃあ飯食った後に練習すればいいじゃねーか」

「うむ」

 

 地団太を踏みながら怒りを目の前の二人にぶつける少女だが、その様相に分からないとばかりに首を傾げている目の前の二人を見て、諦めたようなため息を吐きバッとこちらへ向き直る。その表情は何処か鬼気迫っていた。

 

「すいません!すいません!すいません!、このおバカ達にはきっちりリーダーである私が言い聞かせておくのでどうか問題にはしないでください!!」

「いや、問題にするつもりなんて……」

「すいません!!じゃっ私達はこれで!!」

 

 深く下げた頭を上げると同時に、背後にいる大柄な男の腕を掴み、瞬く間に食堂から出て行ってしまった。

 残された俺は目の前からいなくなった三人組に対し少し呆然とした後、さっきまで空腹だったことに気付く。

 

「ご飯、食べようか」

「「……はい」」

 

 嵐が過ぎ去った気分というのはこういう感じなのだろうか……。

 

 

 




 佐賀県代表チーム『大黒刃』
 ナガレ、センガ、カナコで揃いました。

 カナコはイデガンジンでのアンドウと同じような立ち位置にいるキャラです。ガンプラもアンドウと同じ普通(?)です。

 そしてもう一人のセンガの扱うガンプラは親分の機体です。
 パワードレッド……150ガーベラ……斬艦刀?



 今週のBFTを見て、もう自重しなくていいのではないか?と危険な思考に陥ってしまった……。

∀を髭つながりでマスタッシュマンにしたり―――セラフィムをニンジャにしてそのニンジャをセラヴィ―と神魂合体して、そのセラヴィ―INニンジャをセラヴィ―Ⅱとで超獣合神してマックスゴッドにして―――

あれ?後半セラヴィ―ばっかりな気が……。)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~ニールセン・ラボ4~

ファフナーってやっぱり面白いですね(虚ろ目)
あれでまだ7話なんですから、もっとすごい事が起きるに違いありません。

……どうせみんな(ry



ニールセン・ラボ4、更新致します。




 ニールセン・ラボでの合宿一日目が終了した。

 思えば合宿の一日目でジンクスが破損してしまったのは結構な時間のロスだったかもしれない。

 ……だがトライファイターズのセカイ君、ホシノ・フミナ、そしてガンプラ学園のアドウ・サガ、大黒刃といった、全国大会で戦うであろう猛者達との出会いを果たすことができたのは僥倖だったのかもしれない。

 修理に時間を掛けたおかげでジンクスも修理できた事だし、合宿二日目はどんどん練習していこう。

 

「先輩、食べないんですかー。朝ごはんは食べないと力がでませんよー」

「あまり食べ過ぎるのはよくないけどな」

「ちょっとコスモ、それどういうこと?」

 

 合宿二日目の朝、俺達は食堂で朝食を摂っていた。昨日の夕食後もジンクスの改修をしていたわけだが、結局完成はしなかった。……いや、一応ジンクスⅣ単体としては完成はしたのだろうが、機能的な部分での完成はしていないと言った方が正しいかもしれない。

 まあ、それは選手権までに仕上げていけばいい話、とりあえず合宿中はスタンダードなタイプのジンクスⅣで練習することになる。

 

「レイ、今日は忙しいから昨日のように見てはいられないぞ?」

「分かってるよ、今日は俺も参加できるし、三人で練習する」

 

 父も予定があるという事は事前に聞いておいたので、そこらへんはちゃんと理解している。よってこの後はノリコとコスモ、そして俺との三人で練習する。

 

「二人とも、バトルモードはもうやったんだろう、どうだった?」

「……やっぱり、粒子研究の為に用いられるバトルシステムだけあって、出てくる機体も強力なタイプばかりです。でも、やっぱり人が操ってないからですかね……動きがどこか機械的に見えます」

「私もそれ思いました。なんていうか……分かりやすい動きしているんです!」

「……成程」

 

 コスモとノリコの言っている事がなんとなく分かった。最高峰の研究所でのバトルモードといえど出てくるのは性能の良いAIだけ、どれだけ優れていたとしても、考えて思考する人間には決して及ばない。

 

「機械的な動きをする相手に強くなっても意味がないからな……。できれば、他のチームと模擬戦のようなものをしてみたい所なんだけど、それは無理だろう」

「確かに……」

 

 できるだけ手の内を明かしたくないと思っているチームもあるだろうしな。

 

「だから二対一でローテーションしながらバトル、バトルモードを利用してバトルロイヤルも良い。それで互いに見つけた欠点や癖、それを後から話し合おう」

 

 効率は良いとは言えないが、他人から見た自分の姿というのは、かなり重要なものだ。ガンプラバトルは少しの隙が命取りになる。その隙と成り得る欠点や弱点を理解しておくことも、勝つ為にできる事の一つ。

 

「ちゃんと先輩をやっているな」

「茶化さないでくれよ、父さん」

 

 俺も結構考えているんだ。

 後輩たちの前でカッコ悪い姿を見せないようにね。

 

 

 

 

 

 昼食を終えた俺達は父とその場で別れて、昨日俺がバトルしたトレーニングルームへと足を進める。一日経つと大分建物の構造を把握することができたのか、なんとなくだが方向が分かる。時間的にはトレーニングルームは解放しているから、すぐに使用することができる。日本最高峰のバトルシステム、昨日使えなかった分、しっかり堪能させて貰おう。

 トレーニングルームと記された電光掲示板が見え、其処に入る。

 

「……あれ?先輩、何だか揉めてますよ?」

 

 手を覗き込むように額に当てたノリコが、そう訝しげに言葉にする。自分もトレーニングルームに入ると、確かに騒がしい、というより特定の人物が何やら中々の大声で話しているようだ。

 

「セカイ君じゃないか。どうしたんだ?」

 

 昨日、ガンプラの修理を手伝った少年であるセカイ君とラル大尉、そしてロングヘアーの、俺達と同じ年ぐらいの男が対立するようにしていた。

 

「はぁ、昨日みたいな事にはなっていないだろうな……」

「そ、それはないですよ……多分」

「二度ある事は……」

 

 コスモ、それから先は言わなくていい。知っている顔がいない分は我関せず……ということもできるだろうが、見知った人物を無視するほど薄情じゃないつもりだ。とりあえず、近くにいるラル大尉に話を聞いておこう。

 

 一応、彼を見知っている俺を先頭にして、トレーニングルームの入り口から、彼らの方に移動する。その際に、セカイ君の前に立っていたロングヘアーの男性がこちらに気付く。こちらを見て満面の笑みを浮かべるその男にどこか引きながらも、セカイ君達の近くに辿り着く。

 

「おぉ?もっと、うってつけの相手がきたじゃあないか……」

「………?」

 

 何がうってつけなのだろうか。ガンプラバトルの相手としてか?それなら拒みはしないけど、やるならやるで理由を聞きたいんだが。

 近くにいる、大尉に状況を聞いてみる。

 

「これは一体どういうことです……?」

「いや、セカイ君がバトルを申し込まれてな……」

「バトル……?」

 

 ただバトルを申し込まれてこんなギスギスした空気になるはずがない。何かあるのかと思いつつ、ロングヘアーの男性の方に体を向ける。

 

「神奈川県代表の本牧学園のカリマ・ケイだ。アンドウ・レイ、やろうぜガンプラバトル」

 

 ……挑まれた勝負、突然だが俺にとっては日常茶飯事だ。よし、なんだかよく分からないが受けよう。

 でも俺一人じゃノリコとコスモの為にはならないな……相手は神奈川県代表って言うのだからチームメイトもいるだろう。三体三でバトルしてもらえるようにまずは交渉しなくては―――。

 

「いいだ―――」

「この人は関係ないだろ!!」

「……」

 

 俺の言葉を遮ると同時に、セカイ君が俺の前に立つ。

 ……何か事情でもあるのだろうか?もしかしてカリマ・ケイは、先にセカイ君にバトルを申し込んでいたのだろうか。それなら悪い事をした、年上として恥ずかしい。

 

「すまな―――」

「いいやあるね、俺は見ていたぜ。昨日のお前のバトルをよぉ……あのバトルでメイジンを除いてコイツだけがガンプラ学園と渡り合っていたのさ」

「なんだって!?」

 

 雲行きが怪しくなってきた……というより、自分だけ一向に事態を把握できていない。どういうことだ、昨日のアドウとのバトルが関係しているのか?

 

「先輩、先輩ー」

 

 背後からノリコが声をかけてくる。

 背後に意識を向け、ノリコの声に耳を傾けながら前の問答を見る。

 

「先輩、こんなバトル受ける必要ありませんよ!」

「……何で?」

「先輩はガンプラ学園の実力を測るダシにされちゃうからです!」

 

 ………成程そういうことか、全然気づかなかった。駄目だな、バトルを挑まれたらどんな時でも受けてしまう悪い癖が出てしまった。こういう時に冷静な後輩達がとても頼もしく思える。

 

「あんたは、俺達を通してガンプラ学園と戦おうとしているのか」

「そうでなくては君達と戦う意味がない」

 

 全国大会においてガンプラ学園は大きすぎる障害だ。六連覇という称号は伊達じゃないし、その称号に相応しい強さを持っている。一部では大会の優勝ではなく、全国大会に出る事を目的としているチームもあると聞く。

 ……そう考えれば、どんな手を使ってもガンプラ学園に勝ちに行こうとするカリマ・ケイの気持ちも分かる。

 

 だが、自分とのバトルを前座扱いされて黙っているほど俺はお人好しじゃあない。

 

「そのバトル受け―――」

 

 

 

『そんなに私たちの実力が知りたいなら直接バトルを申し込めばいい』

 

 

 自分達以外の第三者の声。全員がそちらに視線を向けると、そこには金髪の長身の男が、鋭い目つきでカリマ・ケイを睨みつけていた。彼の後ろにはアラン・アダムスさんまでいる。

 それに……アドウと同じガンプラ学園の制服、ということはこの男もガンプラ学園のレギュラーメンバーと言う事か。

 

「……ッまさか、願ってもない……まさかガンプラ学園様が直々にきてくれるとはなぁ」

 

「キジマ!」

「相手を侮辱するようなバトルをする輩を私は許しません。3代目メイジンでも同じことを言うはず」

 

 アランさんがキジマ、と呼ばれた男を止めようとするが、彼は相当カリマ・ケイに腹を立てているのか全く引こうとはしない。このままカリマ・ケイとガンプラ学園とのバトルが始まるのか。

 その場合、俺達やトライファイターズはどうすればいいいのだろうか……色々変わって来るぞ。

 

「随分と面白い事になっているじゃないか、俺達も混ざて貰おう」

「チーム我梅学園……!?」

 

 今度は先日のバトルでアドウと最初に戦っていたチーム我梅学園の生徒が割って入って来た。ガンプラ学園が相手と聞いて、昨日の意趣返しに来たのか……?

 だとしてもこの状況で来られてもすごく困る。ここには既に、トライファイターズ、ガンプラ学園、本牧高校と俺達の4つの選手権の出場チームがいるんだぞ。

 

「……これじゃあ、昨日の二の舞じゃないか……」

 

 しかも今度は乱入によるバトルロイヤルではなく、最初からバトルロイヤルの混戦になってしまうぞ。今度はアラン・アダムスさんが居るだろうから、ダメージレベルがCだと思うが……。

 

「大尉、なんとかできませんか……?」

「すまない、ここまで来るともう……」

 

 大尉でも無理か。

 ……しょうがない。少々汚いが、学校同士の問題に発展する可能性があるから、ここは身を引いておくべきか。些細な事で選手権の出場停止もあり得るからな。

 

 

 

 

 

 

【GANPURABattle……Combat・StartUp!】

 

 

 

 

『!?』

 

 突然作動するバトルシステム。粒子を放出しステージを形成するバトルシステムに、全員の視線が向けられる。そこには、あまりにも見覚えがあり過ぎるスーツ姿の男性。

 

 

『メイジン・カワグチ!!?』

「話は聞いた!この勝負!!三代目名人である私が仕切らせて貰おう!!」

 

 バッと腕を振りぬいたメイジンは俺達を見回した後、一呼吸入れてからバトルの説明をし始める。

 

「行うのは……全国大会出場チームその代表者によるバトルロワイヤルッ!制限時間は大会通りに15分、機体ダメージはCに設定ッ!最後まで生き残った者が……勝者だ!!」

 

 代表者によるバトルロワイヤル!?流石メイジン、瞬く間に場を収めると同時に代替案まで設けるとは……。だが代表者、それならばノリコかコスモに任せたいな。

 全国大会出場者と戦うチャンスが出来たんだ。この機会を活かして二人のどちらかに戦わせてあげたい。

 

「俺達に気を遣わなくても大丈夫ですよ」

「……何で分かった?」

 

 何故か言葉にする前に釘を刺されてしまった。ニュータイプ張りの予知に慄きつつも、苦笑いしているコスモとノリコに戸惑いの視線を向ける。

 

「分かりますよ、そんなに悩んでいれば……私達は昨日しっかり練習しましたから、私達のリーダーとしてカッコいい姿を見せてくださいね!」

「……生意気な」

 

 本当に生意気……だがこれが信頼というものなのか。先輩と後輩の距離が近づいてる感じがして、内心すごく嬉しくなってくる。後輩たちに背中を後押しされ、一歩前に出る。

 各チームの代表は、セカイ君と、キジマと呼ばれていたガンプラ学園の生徒、カリマ・ケイに、我梅学園の生徒、そして俺の5人で行われる。混戦必須のバトルロワイヤル、やるのは初めてではないが、ここまで実力者が集中した場合は初めてだ。

 

「おい!!メイジン!!」

「む!!」

 

 バトルに臨もうとしたその時、さらなる第三者の大きな声がトレーニングルームに響く。声と同時に入り口から男が一人、凄まじい迫力と共に走って来る。そして彼の後ろからは大柄な白髪の男とやや小柄な少女の二人が、血相変えて先に走っていった男を追いかけてくる。

 

「飛び入り参加はどうだぁ!!」

「構わん!!」

「おっしゃあ!」

 

 流石メイジン返しも三倍速い……ではなくて、今やってきたのは確かナガレ・リョウヤだったな。そして彼の後ろにいるのは彼のチームメイトだろう。その内の一人が、走りながらシューズを脱ぐや思い切り振りかぶり―――

 

「おっしゃあ!じゃないでしょ!?何でそう無鉄砲なの!?何でそんなに私の話を聞かないの!?皆さんすいません!!本当にすいません!!」

 

 昨夜の如く、ナガレの頭をシューズで殴りつけた少女は、流れるように彼の頭を掴みそのまま周りへ下げさせる。その様子に微妙な表情を浮かべる面々だが、一人だけは違っていた。

 

「ナガレ……やはり君も来ていたか……」

「よぉ、久しぶりじゃねぇか。随分と面白いことをしているから飛び込んで来ちまったぜ……」

 

 少女の手を振り払ったナガレが獰猛な笑みを浮かべてキジマを睨む。

 まさしく猛獣のような迫力がある。

 

「今年は随分と食い甲斐のある奴らがいるからなぁ」

 

 言葉と共にギロリとこちらに視線を向けるナガレにビビりつつも、チームを背負ったリーダーとして、視線を逸らさぬように努める。それが可笑しかったのだろうか、彼は獰猛な笑みをさらに深め、背後であわあわと周囲に頭を下げている少女へと向き直る。

 

「俺が出る。センガ、カナコ。お前らはすっこんでろ」

「何も言う事はない、最初に言い出したのはお前だからな……ここで観戦させて貰う。行くぞカナコ」

「ちょ……待って、勝手に……私リーダーなのにぃ……」

 

 ヒョイと片手で少女を掴み上げた大男はトレーニングルームの壁際まで移動していった。……随分、我の強いチームに思えるが、彼等も選手権を勝ち上がって来たチームの一つ。彼等も相当強いに決まっている。

 ……でも、まずは目の前のバトルだ。

 

「……これで準備は整った!!それでは代表諸君ッ、バトルシステムへ!!」

 

 メイジンに促されそれぞれがバトルシステムへ移動し、ガンプラを所定の位置に置く。完成した状態での初のバトルがこんな密度とは思わなかったが、相手は全国から集められた猛者達……不足はない。

 

「ジンクス……新しく生まれ変わったお前の力、試させてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

【BATTLE!START!!】

 

 バトル開始の合図と共に一気にステージへ飛び出す。飛び出した先は建物がひしめき合う市街地、加えて周囲が暗い事も考えると夜だろうか。頼りになる光が空から差し込む月の光だけというのは些か心許ないが……。

 

「なるようにするしかないか。……っ!」

 

 レーダーに反応、その反応に機体を向ける。月を背にビルの上に佇む白いガンプラ、GN粒子特有の粒子放出エフェクトと、クリア素材を用いた槍に似た武器を持っている。

 

『まさか最初に会うのが君とは……面白いッ!!』

「ガンプラ学園の……」

 

 00系のガンプラの改修型、類似する形は、エクシアか!建物の間を飛ぶこちらを見下ろすようにように佇んでいる白いガンプラは、その手に持った槍を大きく振るうと光弾のようなものを生成、射出する。

 その数5つ、こちらを追尾するように放たれた光弾。

 

「伊達にこの場で戦ってはいない!」

 

 こちらに迫ってきた光弾を上昇して回避し、スラスターを急制動させそのまま下方へ向きを変える。下から迫って来る光弾をGNロングライフルを放つ。

 

 放たれたビームは三つ、それらは五つの光弾の内三つを撃ち落とす。残りの二発をランスで薙ぎ払って爆発させる。白煙がジンクスを包み込むが、再度ランスを振るいそれを掻き消し、白いガンプラに体を向ける。

 

『やはり超えて来たか!!』

「超えるさ!超えて行かなければ意味がない!!」

 

 あの光弾は厄介だ、ライフルで撃ち落とすのは難しくはないが決定打には欠ける。それならば接近戦で一気に叩く、駄目ならその時だ。

 粒子を上昇させ、白いガンプラ目掛け近接戦闘を仕掛けるべく接近を試みる。

 

『槍と槍……その勝負受けて立つ!!』

「貫くッ!」

 

 白いガンプラも槍を突き出すべく腕を引き絞るのが見える。こちらもGNガンランスを構え、速度を落とさずに突撃する。しかし、それと同時に別方向から、ミサイルとビームが俺と白いガンプラに殺到する。

 

 ……そうだ、これはバトルロワイヤルだ。相手はガンプラ学園だけじゃあない。迫って来たミサイルをサーベルで切り落とし、GNガンランスのガンモードでこちらに狙いを定めるファンネルを撃ち落とす。

 

『どちらも只では落ちないか!!』

「我梅学園か……」

 

 先日見た時は半壊状態だったが、成程……仲間のパーツを組み合わせて一体のガンプラを作り上げたのか。そうだとしたら撃ち落としたファンネルは彼らのものか。

 

「見えるファンネルは俺には効かん!!」

 

 サーベルを引き抜き投擲と同時にビームを連射、回転するサーベルにより拡散されたビームが、数機のファンネルを撃ち落とす。

 

『……ッ!!アンドウ・レイ!!昨日のバトルの乱入……理由はどうあれ感謝はしている!だが、手を抜くつもりなど毛頭ない!!』

 

 さらに追加されたファンネルと腕部のインコムが俺と白いガンプラ目掛け、続けて飛んでくる。恩を感じてバトルしてもらう方がよっぽどこちらにとっては嬉しくない、むしろ全力でぶつかってくれる方が嬉しい。

 GNガンランスからGNバスターソードを装備、迫りくるファンネルをくるりと反転しながら回避し、そのままライフルの照準を我梅学園のガンプラへ向ける。

 

「―――落とす!」

『トマホォォォゥクッブゥゥメランッ!!』

「ッ!」

 

 雄叫びと共に凄まじい勢いで飛んで来た斧がロングライフルを切り飛ばした。舌打ちしつつも火花が散るライフルを捨てると、何時の間にか至近距離にまで近づいて来た黒いガンダムが拳を繰り出していた。

 

『おぅらぁ!!』

「まだいるかぁ!!」

 

 反射的にバスターソードを前面に押し出し、盾にして直撃を防ごうとはするが、予想より一撃が重い。こんな威力を何度も食らったらソードが保たない。バスターソードを斜めにして拳を受け流す。

 

『思った通りだぜ……』

「……っ!ナガレか!!」

 

 黒いガンダムが自身の黒いマントを振り回すとその姿が露わになる。荒々しい様相だがその姿は格闘主体のガンプラ。その鋭利な角……マスターガンダムの改修機か。

 

『今からテメェと戦うって事だよォ!!』

 

 マフラーのように靡いた黒いマントをその手に持ち、マスタークロスのように操りこちらへ振るう。それを機体を反転させて回避するが、すぐ後ろに位置していた建物を真っ二つに切り裂いた。

 

『ゲッタァァァックロォゥス!!』

 

 ビームじゃない、ただ力任せに振るっただけの一撃。背後で崩れ落ちる建物から敵機に意識を集中し、残ったサーベルで連続で繰り出されてくる黒いマスタークロスを弾きながら、胸部のバルカンで牽制する。

 だがマスターガンダムは回避する姿勢を見せず、バルカンをその身に受けながら問答無用で接近してくる。しかも無傷、凄まじい硬さの装甲だ。

 

 腰にマウントされていた二つの斧を引き抜いたマスターガンダムに対し、バスターソードを構える。しかし相手はマスターガンダムだけではない、緑色のビットがいつの間にかこちらへ接近していた。

 

『俺を忘れて貰っては困るなぁ!!』

「カリマ・ケイか!」

 

 建物の影から姿を現したケルディムガンダムがGNビームピストルと共にライフルビットを放つが、マスターガンダムが斧を無造作に投げつけた。ただの斧を投げつけて何をするつもりだ、とナガレの行動に困惑するも、それも一瞬、投擲された斧はブーメランのように円を描く様に回転し、ビットを破壊していく。

 

『なぁっ……!?ぐあぁ!?』

『うるせぇ邪魔すんな!!』

 

 驚愕のあまり動きを止めたカリマ・ケイへマスタークロスを叩きつけたマスターガンダムは、再度こちらへ突撃を仕掛けてくる。

 

『キジマァ!!コイツは俺が貰っていくぜぇ!!』

『なに!?ナガレッ、貴様!!』

 

 当然応戦しようとするが、接近してきたマスターガンダムは俺が振り下ろしたバスターソードを両手で押さえつけるように掴み、そのまま凄まじい力で押し込んできたのだ。

 この勢い……、この場から離脱させて一体一に持ち込むつもりか!!

 

「これが目的か!」

『おうよ!!キジマとは何回かバトルしてるからなぁ!!』

 

 逆噴射を掛けてマスターガンダムを振りほどくと同時に、腹部を蹴り飛ばし距離を取る。先程戦闘があった場所から少し離れてしまった。だが、戦う事には変わりはない。

 これはバトルロワイヤル、最後に残った一機のみが勝利を手にすることができる。

 

『お前のバトルを見てずっと思ってた、戦ってみてぇってなぁ!』

「やることは変わらない、俺はいつも通りにガンプラバトルをするだけだ」

『俺のGマスターとお前のジンクス……どっちがつえぇか決めようじゃねぇか!!』

 

 Gマスター……見た目からしてグランドマスターじゃないが、どうにも既存のマスターガンダムとかけ離れている外見をしている。口元を隠すように取り付けられた銀色のフェイスプレートのようなもの、マスターガンダム特有の背部ユニットをオミットされている。それに両拳にはスパイクのような物が取り付けられ、左腕部には鋭利なカッターが取り付けられている。

 武装は俺のライフルを破壊した斧が二つ。

 

 ……近接特化ということは、遠距離攻撃に耐えうる装甲を備えている。まあ、Gガン機体だから近距離戦を得意としているのは簡単に分かるだろうが……相手はガンプラ学園の生徒と対等に話していたファイターだ。

 

『来ねぇなら、こっちから行くぜぇ!!』

 

 黒いマントをはためかせながら、右手に持つ斧で斬りかかってくるGマスター。

 生半可なパワーでいったら力負けする。こちらもGNバスターソードを両手で握りしめ、全力を以て迎え撃つ。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

『うおぉりゃあああああ!!』

 

 リョウヤと俺、互いに雄叫びを上げ繰り出した一撃は、大きな火花と共に激突し、暗い市街地を一瞬だけ明るく照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日、アドウ・サガとバトルしていたジンクスⅣが、マントをなびかせたマスターガンダムによってどこかへ連れて行かれてしまった。その後も状況はめまぐるしく動き、バトルに参加していた我梅学園のザク、そしてケルディムガンダムがガンプラ学園の00タイプのガンプラに撃墜され、現在は二つの代表の脱落により、フィールド内では二つのバトルが繰り広げられることとなっていた。

 

 セカイのビルドバーニングガンダムと、ガンプラ学園のガンプラとのバトル。

 ジンクスⅣとマスターガンダムとのバトル。

 

『次元覇王流!!波動裂帛拳!!』

 

 ビルドバーニングが地を殴ると、火山の如く地面が吹き上がる。今までなかった技、それだけセカイが成長しているということなのか。

 ……あいつはバカで向こう見ずに突っ走るけど、何時も真っ直ぐな気持ちで戦っていた。先日の僕は目先のバトルにばかり囚われて何も見えなくなっていた。それが昨日までの僕とセカイとの違い。

 

「ユウ君!あっちを見て!」

「!」

 

 先輩の声に慌ててセカイ達のバトルから視点を別のモニターに変える、そこではセカイ達に負けず劣らずの、凄まじい近接戦闘を繰り広げている二機の姿がモニターに映りこんでいた。

 

『どぉッりゃぁ!!』

 

 マスターガンダムの改修型と思えるガンプラが、ジンクスのGNバスターソードの峰に当たる部分に斧を叩きつけ、ソードを砕き割った。

 

『……ッ!!たかが武器一つ!』

 

 武装を破壊されたジンクスだが、マスターガンダムが続いて胴体目掛け横薙ぎに振るった斧を引き抜いたサーベルで切り払うと同時に、下から斧を持つ手を蹴り上げ、斧を弾き落とす。そのまま中ほどから砕け散ったGNバスターソードを投げ捨て、肩にマウントしていたランスを新たに装備し、それをマスターガンダムの胴体に殴りつける。

 

 僅かに装甲が弾け飛ぶがそれも束の間、すぐに体勢を整えたマスターガンダムは、前のめりになりながら、ランスを携えたジンクスを睨みつけた。 

 

『やるじゃねぇか!!』

 

 常軌を逸した削り合いだ。よく格闘主体のマスターガンダムに自ら進んで格闘戦を行えるものだ。あれを僕とセカイに例えるなら、遠中距離型のライトニングが、セカイのビルドバーニング相手に近距離戦を行うのと同じだぞ。

 

「加えてあの……」

 

 丸腰のはずのマスターガンダム。持っている武装もさっきの蹴りで失い、あるのは拳のスパイクと左椀部のカッターだけ……だが、それでも闘気は未だに衰えない。

 Gガンダムの機体は確かに格闘向けだ。だがあのマスターガンダムは、Gガンダムの利点を全く活かす気がない。セカイなら次元覇王流という拳法を用いて戦うだろう。それとは違い、あのファイターはそういうのを全く頼らずに、暴力のみで戦っている。

 

『それじゃぁ……こいつはどうだぁ!!』

 

 突如方向を変え、一際巨大な建物に近づいて行ったマスターガンダムは、突然その建物を左腕のカッターで叩き割る様に切り裂き、ビルを中程まで両断する。

 

「何をするつもりなんだ……あのガンプラ……」

 

 そして驚くべき光景が視界に映りこむ。巨大な建物をマスターガンダムが持ち上げている光景が画面一杯に広がったのだ。あまりにも信じがたい光景に思わず眼鏡を外してしまったが、もう一回かけ直しても一体のガンプラが身の丈以上の大きな建物を担ぎ上げている光景は変わらない。

 

『食らってみろ!!』

『その程度!』

 

 戦っている相手も只者ではない。右手に装備したランスの突起部分を根元からパージし、クリアパーツのランスへと変える。それを振り上げ、雄叫びと共に上段から振り下ろした。

 

『トランザムッ!!』

 

 真っ赤な粒子がジンクスの体色を染め上げると同時に、クリアパーツのランスから赤色の巨大なサーベルを生成させ、投げ飛ばされた建物を縦一文字に切り裂いた。

 

「で、出鱈目な……」

 

 あれだけの質量を一気に切り裂けるサーベルを形成するなんて……。トランザムを併用したって普通はできない。

 

『隙有りィ!!』

『……ッ!!』

 

 ぶん投げた建物の後ろに潜んでいたマスターガンダムが、そのままスパイクを延長させた拳をクリアパーツのランスに打ち込み破壊してしまった。これでジンクスの方は武装はほぼなくなってしまった。

 だがそれでもジンクスのファイターは諦めない、追撃を与えようとするマスターガンダムへ膝蹴りを与え、そのまま地上へ叩きつけるようにスラスターを用いての蹴りを放つ。

 

『ぐッ……か、ははははは!!』

『ここは本当に強いファイターが沢山いる……』

 

 ……気のせいだろうか、トランザム中のジンクスⅣの粒子放出量が突然上がった気がしたような。いや、むしろ右脚部の装甲の隙間から、赤色の帯のようなものが漏れ出しているようにも見える。

 

『―――こいつを使うのはやぶさかじゃあない!!』

『来るか!隠し玉っつーもんがよぉ!!』

 

 両の手の拳を握りしめたジンクスⅣが更に上昇し、そのままトランザムのスピードを乗せてマスターガンダム目掛け飛び蹴りを仕掛けた。まるでセカイのように繰り出されたその蹴りは、トランザムの赤い軌跡を残し一直線に地上へと向かっていく。

 

『正面から打ち破る……ッ』

 

 蹴りが用いられている右足の装甲から漏れ出している赤色の粒子の帯が、ジンクスⅣの身体を覆うように螺旋状に巻き付いていくのが見えた。

 明かに尋常じゃない粒子を放出し、それを身に纏わせ突撃してくるジンクスⅣに対し、対戦者のマスターガンダムは何かしらの危険を察知したのか、素早い機動で横に大きく回避する。

 だが放たれた蹴りは止まらない、対象者がなくなったとしても未だ減速しないまま地上へ突き進み―――。

 

 

『はぁぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

「ッ!セカイ?!」

 

 同時にセカイとガンプラ学園が戦っているモニターから赤い光が輝く、一瞬だけ視線をそちらへ向けた時、ステージの上空には巨大な炎鳥が空へと昇り、地上では大きな地響きがフィールド全体を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ObjectCrash……StageChange】

 

「ここまで燃え上がるとは……ッ!」

 

 素晴らしい、二人のアシムレイトが極限にまで高まった力。それが今まさに私の目の前に結果となってステージに刻み込まれている。

 

 セカイ君が放った巨大な炎の鳥は、天空に位置する月を割り、粉々に砕いた。

 

 アンドウ君が繰り出した蹴りは、地を抉る赤い流星となって、周囲に並び立つ建造物をその余波で瓦礫に変えた。

 

 どちらも技は回避されてしまったようだが、これは彼らにとっての始まりに過ぎない。

 カミキ・セカイ、熱い心を燃え滾らせるバーニングな少年。

 アンドウ・レイ、内に秘める熱い思いを爆発させるボルケーノな少年。

 

「ああ、そうさ!!君達の決着の場はここではないッここで良いはずがない!!」

 

 地形が大きく変更されてバトルが強制的に終了してしまったが、それも良し。結果的にはここに居る全てのファイターに大きな成長を促すことができた。見ている彼等も、実際に戦っていた彼等にもだ。

 

「敢えてここで言わせて貰おう!!これが、これこそがガンプラバトルだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルが終わった。

 ……今でも自分が何をしたのかはよく分かってはいない。ただ、右足に激痛が走るのが、最後の一撃と関係しているのはよく分かる。右足から漏れ出した赤い光の帯、あれは鍵だ。俺のジンクスが次の段階へ行くための鍵。

 ただのジンクスⅣから、俺だけのジンクスへと作り上げるために必要なもの。

 

 帰ってからやる事が沢山できてしまった……。

 

「おう」

「……ナガレか……」

 

 先程まで戦っていたナガレが、幾分か友好的な笑みを浮かべて話しかけてきた。ナガレは本当に強かった、あの近接戦闘の恐怖はミサキも上回っている事に加え、なまじ特異な機能無しで戦ってくるので、小手先の技が通用しない。

 相手の策略を真っ向から潰すタイプのファイターだ。

 

「最後の一撃、ありゃあ大した威力だ。だが―――」

「分かってる。お前との決着は大会でだ。その時までに俺ももっと強くなっておく」

「ははは!言うじゃねぇか、俺とやりあってそんな事言った奴今までいなかったぜ」

 

 上機嫌なナガレに背中を叩かれバランスを崩しそうになりながらも、バトルシステムに手をつきなんとか倒れずにすむ。……これはいよいよ父に話を聞くしかないな。

 

「脚怪我してんのか?」

「大したことない、と思う。前にもあったことだからな」

「……しょうがねぇ」

 

 右腕をいきなり掴まれ、ナガレの首に回される。これは、支えてくれているのだろうか?こちらとしてはありがたいが、バトル中の事を考えると、少し怖い気持ちもある。

 

「後味悪ィからな」

「見た目に反して親切だな……」

「見た目は余計だ」

 

 軽口を呟きながらバトルシステムのある場所から降りる。するとノリコとコスモがナガレに肩を貸してもらっている俺に駆け寄って来る。

 

「先輩、さっきのキックはなんですか!!」

「バカ!それより怪我だろ!!」

 

 頬を赤くさせながらこちらへ詰め寄って来るノリコ、そんなにあの蹴りが衝撃的だったか。あれはノリコとコスモの為の連携用の攻撃だったんだが……自分にも訳が分からない武装に変わってしまった。

 

「ナガレ、もういい」

「お前のチームメイトは変わってんな」

「……お前には言われたくない」

 

 ナガレの肩から腕を離し、コスモに肩を貸しても貰う。ノリコは自分もーとばかりに肩を貸すように訴えているが、流石に女子から肩を借りるのは少し気が引ける。

 ゆっくりと歩を進めながらトレーニングルームを出ようとしていると、今度はナガレのチームメイトの少女が血相を変えてこちらへ駆け寄って来る。

 

「ま、まさかナガレがついに傷害事件を……?」

「いや、そう言う訳じゃ……」

 

 ついにって何だ、ついにって。

 

「すいません、せめて警察に突き出すのは大会の後にしてくれませんか!」

「この足の怪我はナガレのせいじゃないから、少し落ち着いてくれ……」

「あ、そうなんですか……」

 

 落ち着きを取り戻したのか、安堵するように胸を撫で下ろした少女。その後ろから白髪の大男とナガレが大きなため息を吐きながら歩み寄って来る。

 

「カナコ、だから言っただろう。ナガレはそんなに短慮ではないぞ」

「そうだ、全く……俺も信頼ねぇな」

「どの口が言うか……こいつら……」

 

 わなわなと震えていたが、そうしている事も無駄と悟ったのかすぐにこちらへ向き直り、軽く頭を下げた。

 

「えと、私から改めて自己紹介します。佐賀県、鏑木学園代表のアスハ・カナコです。後、後ろの大きいのはセンガ」

「茨城県代表のアンドウ・レイだ。なんというか、大変そうだな……」

「初めて常識人に会えた気がする……」

 

 ジーンとどこか感動しているカナコに慄きつつも、そこで別れを告げトレーニング室から出ていく。ナガレといい、センガと呼ばれる男と良い、少々濃いメンバーのようだ。

 だが相応に強い。少なくともナガレは、アドウにも引けを取らない強さを有していた。

 

「先輩……どうしました?まさか、脚が……?」

「や、そっちはとりあえず大丈夫だ」

 

 まだ痛いけど我慢できない程じゃない。

 

「そうですか……なら、先輩!あれ、あの技です!」

「あれか」

「どうやったんですか?」

「よく分からない。強いて言うなら気合いだな」

「……成程、気合いですか」

 

 そんなに真面目に悩まないで、今のジョークだから。

 ……しかし、本当になんだろうな、アレ。どうやったら出来たのだろうか、でも出来るにせよ出来ないにしろ全体的な強度を上げないといけない。あのキックに耐えられるような強化―――いや、その強化パーツを作って見るか。

 

「……あれもいわば槍、となるとスパイラルランスと言った所か」

「確かに回ってましたからね。しかもギューンって脚から伸びてグルグルーってなんというかバーッて彗星みたいでしたよ!」

「……ノリコ、無意識かもしれないがそれは色々とマズイ」

「え、何で?」

 

 彗星、そういえば昔、父がレイズナーというプラモデルをどこかに飾っていたな。確か蒼き流星……だったか、かなり古いガンプラに思えたが……父曰くあれはガンプラではなくプラモデルだそうだが、ガンダムにそっくりだったって言う印象が強かった。

 

「流星、か」

 

 後でもう一度見せてもらおうかな。

 




アンドウのジンクスが意図せずレッドパワーに目覚めてしまった……。



今日のBFTを見て―――

 我梅学園が何をしたって言うんや……。
 きっとグラナダ相手に善戦してくれるのかなぁ、と思った結果が戦闘カットとか……。。
 こんなんじゃぁ満足できませんよ……。

……あ、フルクロスカッコ良かったです。



今回登場したナガレのGマスターは冥・Oとは違い、超力技で戦います。

名前の由来はゲッターマスターのゲッターのイニシャルのGからGマスターとしました。グランドマスターではありません。
ゲッターガンダムにすると、普通にGガンダムになってしまうので変更いたしました。


今回で恐らくニールセン・ラボ編はは終了です。
次話は大会までの繋ぎの話を入れていきたいと思います。

イデオンとガンバスターの改修とか、ミサキとのタッグバトルを予定しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~再戦を約束して~

ビルドファイターズAを全巻買って見たところ―――


―――ガンプラ塾が弱肉強食過ぎて笑えない……。


今回は閑話のようなものなので、三体ほど再現機体を出させていただきます。





 合宿が終わり茨城県に帰ってきた。

 これだけ言えば合宿がとても短く感じてしまいそうな感じだが、実際はとてつもなく濃い期間だった。全国屈指のバトルシステム、全国の強者たちとのバトル。

 アシムレイト。

 ガンプラ学園。

 カミキ・セカイ君とチームトライファイターズ。

 大黒刃にナガレ・リョウヤ。

 

「―――つまり合宿は楽しかったわけだね」

「まあ、そうだ」

「羨ましいなぁ」

 

 場所は地元の模型店、そこに設置されているバトルシステムを間にし、俺とキリハラ・ミサキはガンプラバトルを行っていた。

 

「合宿から帰って次の日なんでしょ、疲れてないの?」

「心配いらない。この通りガンプラバトルが出来る程度には元気だよ」

 

 ノリコとコスモには休んで貰うべく今日は休息日としたけど結局ジッとしていられなくなり、ちょうど携帯に電話してきたミサキからの誘いを受け、この模型店に来た訳だ。

 ミサキからの誘い、それはガンプラバトルに付き合ってくれないか?というものだった。こちらとしては実力者である彼女とバトルできることはなんら悪い事ではないので、今こうしてバトルしているのだが―――。

 

「今日はジンクス使ってないんだね」

「俺だって何時もジンクスを使っているわけじゃない」

 

 今日の俺はジンクスを使ってバトルしてはいない。

 現在操作しているのはジンクスⅣではなく別のガンプラ。ヴィクトリーガンダム、機動戦士Vガンダムに登場する主人公機で、背部ユニットを取り付けることで様々な局面に対応することができる万能機である。

 

「君がガンダムを使うのは似合わないなぁ」

「実際、あまり使わないからな」

「ジンクスが君には一番合ってるよ」

「ありがとうございます、っと」

 

 呑気な会話をしながらもミサキのガンプラから放たれたビームを回避する。ミサキ自身も本気で戦っているわけではないが、油断していたらどこかしら吹き飛ばされる。

 

「お前もその機体は合わないと、思うぞ」

 

 『荒野』のステージに設置された岩陰から緑色のガンプラが飛び出してくる。緑色のずんぐりとした機体、ボリノーク・サマーン……珍しい機体を使ってきたミサキに驚きながらも、ビームサーベルを伸ばす。

 

「そうかな?この機体は訳すと『森のくまさん』って言うんだ。可愛くない?」

「見た目にそぐわないファンシーさだな」

 

 扇状にさせたサーベルでビームを弾き、ボリノーク・サマーンにビームシールドでの体当たりを仕掛けるが、それも躱される。

 

「その場でガンプラ作ってバトルするのは悪くない」

「でしょ?私は妹と一緒にやってたけどね」

「一人っ子だから羨ましいよ」

 

 ふふんと得意げな笑みを浮かべるミサキに、苦笑しつつも手は休めない。しかし、こうまで勝負がつかないとはな、素組のガンプラじゃ慣れないところもあるが―――そろそろ時間か……。

 

【TimeUP!】

 

「時間切れだね」

「そう設定したからな」

 

 あらかじめ時間制限を設けておいた為にバトルが強制終了され、お互いのガンプラが戦っている状態で停止する。

 

「いやあ、次はどうする?何か作る?」

「それもいいな……」

 

 作ったガンプラを戻して、バトルシステムが置いてある部屋から商品が置いてある場所まで移動する。

 流石はこの町一番の模型屋、品揃えは専門店にも劣らない。山のように並んでいる箱を吟味しながら、ミサキと共に店を歩く。

 

「今日は大会で使うガンプラは持ってきているのかい?」

「改修してる最中で今日は持ってこなかったんだ。だから、代わりに暇を見つけて作っていた、こいつを持ってきた」

 

 ホルダーからガンダムタイプのガンプラを取り出す。先程使っていたVガンダムは店で作っていたものだが、これは違う。ジンクスがもしもの事態で使えなくなった時の為に作っておいた予備のガンプラ。

 ダメージAで行う選手権用にいくつか使っていたガンプラの内の一つで、俺にしては珍しいガンダムタイプの改修機。

 

「Gーセルフ?」

「大会前に発売されたからな。買ってみて、試しにバトルしたらこれが面白い。結局はジンクスの方が優先されてしまったけど、これも良いガンプラだ」

 

 新しいものは好きだ。部活の一環でモンテーロを購入しようと此処に来たら、Gセルフしか店頭に置いていなかった事がそもそもの始まりだった。キットには最小限の装備しか入っていなかったが、それも良いと思い少しだけ改修を施したのだ。

 

「大まかな改修はしてないが、少なくとも県大会では戦えるように作っておいたものだ」

「へぇ……私はキット見てげんなりしたけど、中々いいね。今日買って帰ろうかな」

 

 まじまじと興味深そうにGセルフを見るミサキ。

 つい前に宇宙用バックパックが発売されたので、それを装備させているが……今度、トリッキーパックやアサルトパックも出るんだよな。何時か買ってみたい。

 というより、ジンクスに装備させるのも面白いかもしれないな。

 

「うん、良いガンプラだ」

「でもこれじゃあ大会には勝ち上がれない。アシムレイトの発動と同時に発生する、あの赤い粒子の帯……あれを制御できるようにしなくちゃならない」

 

 アシムレイト―――父から聞きだした話を聞き、正直俺は耳を疑った。強い思い込みに寄り成せるファイターの極致ともいえる技能、ガンプラの出力を三倍にさせるが代償としてガンプラが負ったダメージを自分にも反映させてしまう危険なもの。

 

「しっかしアシムレイトねぇ、随分と物騒なものがあるね。まあ、そんな奇天烈な現象が起きてる人が少ないのは幸いだよ」

「確かにな、下手すればガンプラバトル自体が危険と判断されてなくなる」

 

 そうなったら最悪ガンプラバトルがなくなるという事態が起こるかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。だからあの力は制御できるようにしなくてはならない。

 自分のせいでガンプラバトルが無くなる、という事態は防がなくてはならない。

 

「………大丈夫なの?」

「大丈夫さ。合宿の時痛めた足も、この通りすぐに治った」

 

 痛めた方の脚を動かしながら、近くの棚に置いてあるキットを手に取る。………シャッコ―か、同じVガンダム系列の機体だが、こちらも中々面白い造形をしているから結構好みだ。

 

「それよりミサキはどうしているんだ?大会が終わってから」

「新しい大会用のガンプラを作ってるよ。冥・Oの強化型をね」

「……素直に怖い。アレと戦うのは神経削るからな」

「そう言わないでよ。完成したら真っ先に君と戦おうと思ってるんだから」

「……それは光栄なことで」

 

 冥・Oがより凶悪になったガンプラといずれ戦わなくちゃいけないのか、これは来年の大会も大変かもしれないな。

 

「でも作っている間はどうしているんだ?冥・Oは使えないんだろう?」

「勿論、君と同じ予備の機体位はあるさ」

 

 バックから一体のガンプラを取り出し俺に見せる。全体的に明るい灰色で着色され、背部スラスターは翼のようになっている。一瞬アドウと同じタイプのガンプラに思えたが、すぐに元になったガンプラが思い浮かんだ。

 

「エピオン……か?」

「そう、名前は【風のエピオン】……冗談、冗談、名前は決まってないよ。だからただのエピオン」

「……近接格闘が得意なお前には合っているガンプラだな」

「冥・Oを作っている間に使っていたガンプラもこれさ」

 

 ガンダムWに登場するエピオン・システムを内蔵した近接特化型のガンダム。近接型のMSを使うと思ってはいたが、近接に特化している機体を持ってくるとは思わなかった。

 

「お互い予備機を持ってきたことだし、一度本気でバトルしてみる?」

「……やるか」

 

 手に取ったキットを元の場所に戻し、バトルシステムがある場所に再度向かう。今度はさっきのような軽い戦闘ではなく本気での戦闘、しかもどちらも大会用に作っておいた予備機、面白いバトルになりそうだ。

 

『レイくーん……おーい、レイくーん』

 

 バトルシステムに歩を進めようとしていた俺に、店長が声を掛けてくる。あまりに此処に通っているせいか名前を憶えられてしまった上に、色々指導とか頼まれるのだが……今度もまたガンプラ初心者の子にレクチャーして欲しいとかのお願いだろうか……?

 

「レイ君、呼んでるよ?」

「ちょっと待っててくれ」

 

 首を傾げているミサキをその場に残し、こちらへ手招きしている店長のいるカウンターへ近づく。よく見るとカウンターには店長以外に二人の同い年くらいの男がいる。

 

「店長、どうかしたんですか?」

「いやぁ、丁度君が此処に居てくれて良かったよ。実はさ、この二人が此処で一番強いファイターは誰だって言ってね」

「一番強いファイター?」

 

 腕試しという奴か?店長の言葉を怪訝に思いながら、店長の前にいる二人を見る。片方は緑がかった髪色で、もう一人は茶髪に近い赤みがかかった髪色をしている。

 俺の視線に気付いたのか、赤みがかかった男が一歩踏み出して、こちらへ一礼した後に口を開いた。

 

「すいません。俺達は千葉県から旅行でやってきた者なのですが、偶然バトルシステムがあるここを見つけまして―――」

「ガンプラバトルするなら強い奴と戦いたいってなっ、なっキョウスケ」

「少し黙ってくれないか、折角店長が呼んできてくれた人なんだぞ……マサキ」

 

 ……一応はバトルしたいだけのようだ。それにしても千葉県からか、隣県から旅行とは随分と酔狂な事をする二人だな。

 

「受けてもいいんじゃない?」

「ミサキ……」

 

 店長に呼び出された俺を疑問に思ったのか、ミサキが何時の間にか近くまで来ていた。話も半分くらいは聞いていたようで、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「私達は二人、相手も二人。ほら丁度ぴったり!」

「それもそうだな、丁度バトルしようと思っていた所だしな」

「感謝する」

「サンキューな!」

「じゃあ、バトルシステムはさっきの所を使ってもいいよ。……あ、でもダメージレベルはCでやってね。うちはダメージレベルC以上は禁止だからね」

 

 店長の言葉に頷き、さっきミサキと共に使っていた一番奥にある大きいバトルシステムに脚を運ぶ。

 とりあえずは其処に着くまでに、自己紹介を済ませておく。

 

「俺はアンドウ・レイ」

「私はキリハラ・ミサキ」

「俺は、アイバ・キョウスケ。こっちがマサキ」

「よろしくな!」

 

 キョウスケにマサキか。

 

「何で茨城に?」

「合宿だ。旅行という名のな、今年はガンプラバトル選手権には出場できなかった……だから今年は関東圏のファイターと経験を積んでおこうと思って此処に来た」

「二人じゃ大会には出れねぇからなぁ、まあ、作って一年も経ってないガンプラ部に部員が入る方がおかしいけどよ」

 

 大会に出場できなかった、か。まるで去年の自分を見ているような気分だ。俺は後二人だったが、この二人は後一人で大会に参加できた……一人の違いだが、その残りの一人がどうしようも遠かったのだろう。

 

「じゃあ、此処に来て正解だったね」

「……何故だ?」

 

 にっこりと笑ったミサキがこちらへ視線を移す。その視線に何処か悪戯を仕掛けようとする子供のような悪意を感じ、思わず彼女を止めようとするが、ミサキをひらりと身を翻し俺の背後に隠れるように移動した。

 

「レイは、我が茨城県の代表チームのリーダーなんだよ!」

「何!?」

「すげぇ、やっぱり俺の勘は間違っちゃいなかった!!」

 

 見て分かる通りに戦意を滾らせる二人。やや呆れた目で背後のミサキをみやるも、彼女はニコニコと笑った表情を崩さずに、手を合わせ形だけの謝罪をするだけだった。

 ……どうせ、本気でバトルしたいという理由だろうが、俺をダシに使うのはやめて欲しい。

 

「残念ながら、今日は大会用のガンプラは持ってきていないんだ……すまない」

「謝らなくていい。押しかけたのはこっちだからな」

「全国に出場できる選手と戦えるだけで俺は十分だぜ!!」

「……じゃあ、バトルしよう」

 

 一際大きいバトルシステムが置かれている部屋に到着した。

 キョウスケとマサキはやる気十分とばかりに、早々とシステムの前に移動した。

 

 こちらも彼らと向かい合うように移動し、ガンプラを置く。

 ……よく考えれば、ミサキと一緒にバトルするのはこれが初めてだ。ちゃんとチームワークを取れるかどうか心配……いや彼女はチームワークとか考えるようなタイプじゃないな。

 

「Gセルフ、アンドウ・レイ、出る!」

「エピオン、キリハラ・ミサキ、出るよ!」

 

 宇宙用バックパックを装備したGセルフが、シールドと盾を装備した状態へステージへと飛び出す。選択されたステージは月面。宇宙用バックパックが有効に活用できるステージだ。

 

「ミサキは……」

『ここだよ』

 

 斜め上でエピオンが腕を組んだ姿で浮かんでいる。何だろうか、冥・Oと同じ威圧感を感じるのは気のせいだろうか。

 

『まずは相手の出方を見ようか。勘、だけどあの二人結構やると思うよ』

「ああ」

 

 薄々は感じてはいたが、キョウスケとマサキ、ふちらも只者ではない雰囲気を醸し出していた。俺が選手権に出場すると聞いた時のあの目からビリビリと伝わる、凄まじい気迫。

 

「簡単には終わらないな……このバトルは……」

 

 十秒ほどレーダーを注視していると、急速に接近してくる二つの反応がレーダーに映りこんだ。

 

「来たぞ!!」

 

 一体は月面をホバー移動しながら、もう一体は宇宙から近づいてくる。小さいながらも前方に見えた機影をモニターに拡大しながら、ライフルの照準を合わせる。

 

「赤い……ケンプファー、か?」

 

 赤い重戦車、それがまず最初に抱いた感想だった。両肩に増設された巨大なスラスターに、左腕のガトリング砲、そして父が使っていたようなとっつき……そして全体を真赤に染め上げるような着色。

 

 凄まじいスピードで一直線でこちらに近づいてくるケンプファーにビームを放つ。GNビームライフルとは違う短いビームが連続して赤いケンプファーに向かっていく。

 

 だがケンプファーは避けずにそのままビームが直撃する、落とした、と思ったのも束の間、ビームによって生じた白煙から無傷のケンプファーが飛び出してくる。

 

『その程度じゃコイツの装甲は貫けない……ッ』

「俺の相手は硬い機体ばっかり……」

 

 最近のファイターは硬さに主眼を置いているのか、ミサキと良いナガレといい皆硬すぎる。装甲の隙間を狙うのも手だと思うが、キョウスケがそれを許すとは思えない。

 接近戦もあのとっつきが怖い。

 

「でも……リスクを負わなきゃいけない時もある」

 

 首元からサーベルを引き抜き、盾を構えバックパックの出力を上げ飛び出す。こいつのサーベルなら大抵のものは斬り裂ける筈。

 

『この距離、行ける!ブースト!!』

「それはこちらもそれは同じ!!」

 

 赤いケンプファーが月面からジャンプし、ガトリングを乱射しながら右腕のとっつきを引き絞る。嵐のように襲い掛かって来るガトリングをシールドで防ぎ、近づいた所をサーベルで切り落とさんばかりに縦に振るい下ろす。

 

 相手は相変わらず回避する挙動を見せない。変わらず右腕を力の限り引き絞っているだけ―――。サーベルがケンプファーの頭部に接触しようとしたその瞬間、ケンプファーの頭部のホーンが赤く発光しサーベルと激突した。

 サーベルから伝わるこの感触、抵抗されている……ッ。

 

「角が武器なのか?!」

『伊達や酔狂でこんな頭をしている訳じゃない!!』

 

 バチィッ!と大きな音を立てサーベルと角が接触し火花を散らす。赤く発光……ビームに対抗しているという事は発熱しているという事、つまりヒートナイフと同じ機構があの角に備わっているのか!

 

『その隙!!頂いたぞ!!』

「しま……ッ!」

 

 一気に加速を掛けたケンプファーにサーベルを持った腕が弾かれ無防備な体勢を晒す。これではとっつきが直撃する、そうなる前にシールドを相手と自分に挟み込むように構え、スラスターを上昇するように噴かす。

 

 とっつきがシールドに深く突き刺さると同時に、右腕から撃鉄のような音が響く。

 

「ぐぅ……!」

 

 凄まじい衝撃がシールドから伝わり、貫かれるもギリギリ回避が間に合い、上空に逃げる事に成功する。

 突然の衝撃、あれは……パイルバンカーか?直撃は危険すぎる。恐らくだが、あの武装は大抵の防御なら難なく突破し致命的な損傷を与えてくる。

 だからこその重装甲型のケンプファーか。

 

『流石だ、伊達に選手権に出場する訳じゃない……ッ!

「それはこっちの台詞だ……肝が冷えた」

 

 初撃でやられてもおかしくはなかった。やはりとっつきは恐ろしい、父から何度も食らってはいるが、未だにあれを防御できるシールドが作れない。

 ……だが、こちらもGセルフの力を出し切った訳じゃない。シールドはまだ使える。武装もまだある。とっつきの衝撃をモロに受けた左手を確かめながら、フォトンエネルギーを発生させる。余剰エネルギーとして放出されたフォトンエネルギーがふわふわと掌に溢れ出てくる。

 ……行ける。

 

『この機会、胸を借りるつもりでやらせて貰う!!』

「こちらも!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちは楽しそうにやってるねぇ」

『アンタは楽しくないのか?』

「冗談」

 

 レイ君は、ケンプファーとバトルしているようだし、私は私で好きにバトルさせて貰いますか……。

 目の前で浮かんでいる白色のガンプラ、西洋剣を握った騎士を思わせるかのようなその機体。そして普通のガンプラにはない尾と足の爪。

 これはやはり―――。

 

「魔装機神だね。元になったのはシナンジュかな?」

 

 サイバスター、スーパーロボット大戦OGサーガに登場した風の魔装機神。全く、こうも私と同じような発想をする人を二人も見つけるなんて思わなかったよ。

 

『知ってるのか!?』

「レイ君と戦ってるのはケンプファーを元にしたアルトアイゼンでしょ?私ロボット大好きだから大抵は知ってるよ……」

『まさかこんな簡単にバレるなんてな……』

 

 エピオンの翼を大きく広げ、腰にマウントされているビームソードを装備する。風のランスターをモデルにして作ったガンプラだが、あくまで主武装はビームソードだけ。

 元々使っていたガンプラだ……思う存分にやらせて貰うよ。

 

「さあ、私達もバトルしよう」

『……アンタ相当強ぇな。だけどな!!俺のガンプラは―――』

 

 距離が開いているにもかかわらず、実体剣を素早くこちら目掛けて振り下ろした白いシナンジュ。直感的に危険を感じ、機体を横に逸らすと透明に近い斬撃が私の横を素通りしていった。

 

「プラフスキー粒子を斬撃に乗せて飛ばしたのか……面白い事をするね」

『……へへ、やっぱそう来なくちゃ!』

 

 実体剣を再度構えるシナンジュ、得意分野で勝負しようという訳か。乗るしか手はないね、きっと楽しそうだ。右手にビームソードを携え、シナンジュへ突撃する。

 

「風をモデルにしたガンプラ同士で勝負と行こうじゃないか!!」

『……はっやっ!?』

 

 慌てて防御したシナンジュの実体剣にビームソードがぶつかる。徐々に押し込むことも可能だが、そのままの状態で両肩の装甲をスライドさせ、砲口を展開する。

 

『ただのエピオンじゃないのかよ!?』

「君と同じさ!ボーン・フーン!!」

 

 という名のプラフスキー粒子の竜巻を両肩から放つ。ゼロ距離からの砲撃、普通は当たるが相手は私の勘通りに只者ではない。鍔迫り合いの状態から、抵抗するために出力を上げていたスラスターを切り、下方に下がりボーン・フーンをギリギリ避けたのだ。

 

『あ、危ねぇ……』

「油断は命取りだよ!」

『分かってるっつの!』

 

 続けて振るわれたビームソードを、受け流し粒子の斬撃を放つ。迫りくる斬撃をビームソードで無理やり弾き、再度接近し、剣戟を交わす。

 

「ははっ、いい、すごく良いよ!!」

 

 お互いの剣がぶつかった衝撃で距離が離れたその瞬間、私はMAに変形し月面から大きく離れるように上昇した。私が変形した意味が分かるかな、マサキ君。

 

『速さ比べか……面白れぇ……ッ』

 

 実体剣を腰にマウントさせたシナンジュは、こちらへ追いすがるべく一旦上昇してくる。だがMA化したエピオンには追いつけない。いくらサイバスターをモデルにしてもその状態で追いつけるほど甘くはない。

 

「どうするんだい?」

『理想を実現させる為には―――』

「!?」

 

 上空へ上がったシナンジュが変形していく。尾が顔のように前面に展開された後に、頭部は胸部に隠れるように沈み、脚は前脚のように変形し、最後に背部のスラスターが上を向いた。

 ―――まるで、鳥に似た姿に変形したシナンジュが、凄まじいスピードで急加速し私のエピオンへ追いすがる。

 

『無理しねぇと駄目だからなぁ!!』

「どっちか早いか競争と行こうじゃないか!!」

 

 予想以上にこのバトル、面白い事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い、流石選手権に出場する選手でもある。

 俺のアルトアイゼン・Kの攻撃をこうも容易く回避し続けている事から疑いようもなく強い。だが少し妙だ、俺のステークの攻撃の対処が慣れ過ぎている。

 まるで何度も戦ったことがあるようにも見える。

 

 アンドウ。

 ……まさか、な。

 

「貴方はッアンドウ・セイジの関係者か何かか!」

「ッ!父だ!!」

 

 ステークを薄い青色の光を灯った手で払ったGセルフから戸惑い気味にそう返された言葉に、何処か納得する。そうか、『荒熊』のご子息が彼なのか。妙な縁だ、まさか憧れの存在の家族と戦うとは。

 

「猶の事、勝たなければならない!!」

 

 ヒートホーンを赤熱させ、そのまま体当たりを仕掛ける。当然相手は回避しようとするだろう。

 だが、そうはさせない。

 

「この距離でクレイモア……貰ったぞ!!」

『散弾!?』

 

 両肩がスライドし、大量の炸裂徹甲弾が射出され目前のGセルフに殺到する。至近距離からのクレイモア、余程の装甲ではなければ堪えるはずだ。

 

 だが彼のGセルフはシールドを投げ捨てサーベルを持った両手首を高速で回転させシールドのようにして次々と襲い掛かって来るクレイモアを防いでしまった。

 クレイモアですらほぼ無傷で防ぐか……。

 

「まだ、至らない……だが!!」

 

 クレイモアによって生じた爆風によって視界が不安定な今なら!未だに凄まじい回転をするサーベルによって黒煙が吹き飛ばされた瞬間に、頭部のヒートホーンを加熱。

 

 ミキサーのように回転するサーベルにヒートホーンを激突させ無理やり回転を阻害し、動きが止まった所でステークを胸部目掛けて正確に打ち込むべく、空いている左手で右腕を拘束し、そのままステークを突き出す。

 

「受け取れ!!」

『ッ!!』

 

 胸部にステークが直撃する瞬間、Gセルフの体表が揺らぎ陽炎のような何かが飛び出しアルトを押し出した。訳の分からない現象に焦燥しながらも、ガトリングを連射しながら、月面に着地する。

 

「機体の表面に展開させた粒子を形として放ったのか……」

『はああああ!!』

「……くッ!!」

 

 こちらが月面に着陸すると同時に急降下しサーベルを振り降ろしてくる。

 

「甘い!!」

 

 左腕の三連ガトリングを放ち、破壊とは言えないがサーベルの発生部分を破壊する。これでサーベルは失った、この距離ならば―――。

 

『Gセルフのフォトンエネルギーはッこんな使い方もできる!!』

 

 無手になったはずのGセルフが再度手を掲げ水色の粒子エネルギーをその手に発生させ、振動するように震えたソレをこちらを両断するように思い切り振り降ろした。なんだか分からないが直撃はマズい、そう直感的に判断し、狙いを定めずに右腕のステークを前方へ突き出した。

 

「――――!」

『―――ッ!』

 

 手刀のように繰り出されたGセルフの振り下ろした一撃はアルトの左肩に紫電を撒き散らしながら深く突き刺さる。だがこちらの装甲は伊達じゃない、損傷を気にも止めずにそのままステークがをセルフの右肩目掛け突き刺し破片を撒き散らす。

 

「全弾持っていけ!!」

 

 断続的に衝撃がGセルフ目掛けて襲い掛かる。その度に左肩に突き刺さった手刀からこちらへも衝撃が伝わるが、それは相手も同じ。我慢比べ、とはいかないがその左腕は頂くぞ……ッ!

 

『やむなしか……ッ!』

 

 最後の一撃を放つその瞬間、ガクンと手応えが消えた瞬間に機体に大きな衝撃が走る。逃げられた訳ではない、現にステークは肩に突き刺さっている、だが肝心の本体が左肩をパージし、アルトの腹部に蹴りを叩きこんだのだ。

 

 左腕を捨ててこちらへの攻撃を優先させたのか……。こちらもマシンキャノンは撃てるが左腕が上がりそうにない。

 結果的にはどちらも腕を失った状態、五分と五分だ。

 

『……来年、俺達はまた大会に出る』

 

 宇宙へ昇ったレイのGセルフからそんな声が聞こえる。来年の大会、それを意味するのは―――。

 

『来年は選手権に出れるかは分からない。だが、次会った時は俺も本気のガンプラでお前と戦いたい』

「……望むところだ。今日、貴方と戦えたのは何よりの励みになった」

 

 左腕が駄目になってしまったせいか予備弾倉を装填できず、残り一発のままのステークをGセルフへと向ける。

 次の選手権は必ず勝ち上がって全国へ行く。この際オープントーナメントに出て力を磨くのもありだ。やれることは全てやっておきたい。

 明確な目標が出来たからかこれからしなくていけないことがどんどん見つかって来る。

 

「手始めに打倒させて貰うぞ、レイ!!」

『こちらも切り札を切らせて貰う!』

 

 左腕を失ったGセルフの各部のクリアパーツが光を灯す。

 その光はクリアパーツから徐々にGセルフを覆う。恐らくアルトの肩を貫いた手刀と同じフィールドを纏っている……。

 

「だとしても、俺のやる事は変わらない」

 

 何時だってやってきたように、この右腕でどんな装甲も撃ち貫くのみ。青い光を纏ったGセルフがさらに上空へ昇っていくと同時に、こちらも全力で月面を飛びあがる。

 拳を突き出し急降下してくるGセルフと、ステークを構え上昇するアルト。

 

 地球をバックに激突した二つのガンプラは自然に組み合うような形で制止する。大きさが異なるガンプラだが、どういうことか体躯で劣るGセルフと力は互角、拮抗するように腕部を震わしながら頭部を激突させたGセルフをモニターから見て、自然に笑みがこみあげてくる。

 

「フッ……」

 

 マサキではないが、俺もガンプラバトルを楽しんでいると言う事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちは派手にやってるねぇ!!」

 

 地球を背にし凄まじいバトルを繰り広げている赤と青のガンプラを横目で見る。こちらは高速戦闘の真っただ中だが、気になるものは仕方がない。

 しかも、あのレイ君のガンプラの状態……アレがアシムレイトか。傍目ではよく判断し辛いけど明らかに普通のガンプラが出せる粒子量じゃない。

 

『余所見している暇があるのかよ!』

 

 一気に接近してきたMA形態のシナンジュが一瞬で変形し実体剣を振り降ろしてくる。こちらも変形しビームソードで振り下ろされた剣を防ぎ、ボーン・フーンを放つ。

 

『このままじゃ埒が明かねぇ!!』

「おや、私達も必殺技って奴を出してみるかい?」

『上等ッなら見せてやるぜ!!』

 

 実体剣を後方に投げ捨てたシナンジュの各部に取り付けられた緑色のクリアパーツがレイ君のガンプラと同じように光を灯す。まさか、この子もアシムレイトを……?いや、違うこれは蓄積された粒子を解放しているのか、武装が実体剣しかないデメリットを利用したシステム。

 私の冥・Oと同じ感じにしたという事か。

 

『アカシックッ―――』

 

 それならばこちらもエピオンの奥義をぶつけなければ意味がない。貯蔵された全粒子を用いての一撃、いくら硬く造っておいたエピオンでもただでは済まない。

 

 ビームソードを後方に投げ捨て両肩の砲口を開く。放つのは暴風、私が用いる数少ない遠距離武装。

 

「デッド・ロン―――」

 

 お互いの必殺の一撃放たれるその瞬間、私はある事を忘れていたことに気付いた。そう、ここは先程までレイ君と一緒にバトルしていたバトルシステム。

 当然、バトルでの設定はさっき私達がバトルした時と同じ設定だと言う事、私達がバトルしてから既に10分以上が経過している。

 慌ててバトルが始まってからの時間を確認するため、モニターの端に表示されている数字に視線を移そうとしたその瞬間。

 

 

【Timeup!】

 

 バトルを強制終了させる合図が月面に響き渡った……。

 

「……あ」

『……へ?』

 

 素っ頓狂な声を上げるマサキ君の声を機に、制限時間の超過によりバトルシステムが強制的に解除されてしまう。

 レイ君も今更ながらに気付いたのか、バトルシステムが解除され、姿が確認できるようになった彼は、頭を抑えていた。正直、私もそんな気分だ。しかも必殺技をぶつけようとしていたから尚の事恥ずかしくなってきた。なんて言い訳しようか。いや、これは言い訳しないで素直に謝った方が良いのではないか。

 

「悪い、制限時間をかけていたのを忘れてた。もう一度バトルしよう」

「ホント、ごめんね……」

「………いや、いい」

「お、おいキョウスケ!」

 

 何故か再戦を断るキョウスケ君。満足したような表情からしてこのバトルに不満があったようには言えないが、一体どういう風の吹き回しだろうか。

 

 首を傾げる私だが、そんな疑問を知らずかレイ君の方へ歩み寄ってきたキョウスケ君が手を差し出してくる。

 

「次戦うのはもっと大きな舞台だ」

「そういうこと、か」

「ああ、そういうことだ」

 

 微かな笑みを浮かべ、握手に応じたレイ君。これが男の友情という奴なのかーと思いつつも、何故か釈然としない気持ちになる。

 

「おっと、キョウスケ君、来年の大会に関してなら。レイ君はまずは私に勝たなくちゃ全国へは行けないよ」

「……同じチームじゃなかったのか?」

「ミサキとは決勝で戦った縁だ」

「え、そうだったのか!?道理で強いわけだぜ、一人は優勝者でもう一人は準優勝者かよ!」

 

 私とレイ君が同じチームだったらさぞかし面白い事が起きそうだけど、彼には頼れる後輩達がいるから私が入る余地はないんだよね。

 

「今日は無理なお願いを聞いてくれて本当に助かる。選手権、応援してる」

「静岡県にも行く予定だから応援しに行けるぜ」

「ありがとう、そっちも部員集め頑張ってくれ。アドバイスにはならないかもしれないが、部活説明会はあまりコアな事を説明しない方が良い。作る楽しさを前面に押し込めば、興味を持った人が来てくれると思う」

「そうなのか……良い事を聞いた」

 

 マサキとも握手を交わした後に、彼らと別れる。彼らの次の目的地は東京らしい。茨城県からならば電車一本で東京に行けるからという理由だそうだ。

 

 彼等の背を見送りながら、指を一つずつ折り曲げたレイ君は、嘆息しながら軽いため息を吐く。

 

「アドウにリョウヤにキョウスケにセカイ、バトルを約束した人たちが多くて困るな」

「私も忘れないでね」

「そうだったな。お前が最初だったな……」

 

 満更でもなさそうに笑みを浮かべたレイ君は夕暮れに染まった空を一度だけ見た後、また店内に脚を運ぶ。私も彼の後を着いて行くように歩くと、不意に前を歩く彼が一つの箱を棚から取り出し私に差し出す。

 

「俺と同じガンプラじゃ、面白みがないだろ?だから今度はこれを作ろう」

「Gーアルケイン?……姫様のガンプラじゃん。私にぴったりだねっ」

「……あ、ああ」

「普通に引かれると困るよ……」

「……でも、結構久しぶりにG-セルフを使ってみたが……これを応用すれば……」

「レイ君、君はジンクスをスーパーロボットにするつもりかい?……前のジンクスでもリアルロボットギリギリなのに……」

「……?」

 

 小粋なジョークを放ちながら、今日が着々と終わっていく。ふと、カウンターにまで運ぼうとしたレイ君に渡されたキットを少し眺め考えに耽る。

 

「アルケイン、か」

 

 MAになるG系のMSだから改修によっては結構私好みなガンプラになりそうだ。もしかしてこれは贈り物という奴か?と、少し乙女的な事を考えてみるが……レイ君にはそういう感情はないのだろう。

 ただ、ガンプラを通しての人と人との触れ合いを楽しんでいるのだろう。彼はそういう男だ。

 

「……あ」

 

 ……そういえば、忘れてたけど、今日レイ君を呼び出したのはあるお願いをする為でもあったんだ。

 

「レイ君」

「どうした?」

「君の後輩のガンプラ作り、私手伝っていい?」

「……いいのか?」

「いいの、いいの。あの子達のガンプラ、興味あるし!」

「そっか、ノリコもコスモも喜ぶ」

 

 ガンダムを知り尽くしたレイ君とロボットオタクな私の力が合わさればとんでもないものが作れそうだ。

 それで大会を驚かして楽しむのも……悪くない。

 

 

 




 プロローグの惨劇を引き起こした功労者の一人、キリハラ・ミサキ。


 ジンクスばかり使っては、あまり戦闘的に面白みがなくなってくるので、今回はG-セルフを使わせました。

 Gセルフなら、オーバーマンの技くらい簡単にできるはず(真顔)
 実際、拳にフォトンエネルギー纏わして殴り飛ばす描写もあったこともあって、劇中のフォトンエネルギーの応用性が凄まじいと感じたので出しました。




 今回の再現機体は、スパロボOGの主人公機二体と風のランスターを登場させていただきました。

 アルトアイゼンをケンプファーにした理由は、

 ケンプファー=闘士
 アルトアイゼン=古い鉄

 というドイツ語で呼ばれている機体同士である事に加え、角が素敵だから、という理由でした。


 風のランスターに関しては……色以外の見た目がすごいそっくりだったからです。
 胸のパーツと良い、翼の形状とか。


 サイバスターも同じ理由ですね。
 変形に関しては、意外と単純な機構だったので再現可能と判断しました。


 今回は閑話のようなものなので、アルトアイゼンとサイバスターは全国大会編では出番はおそらくないです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編~全国を前に~

今週のBFTを見て……。

・アイバの苗字が被ってしまった……。
・やっぱり補給ユニットは必須(スパロボ脳)
・ガンダムジエンドが常軌を逸したゲテモノ機体だった(褒め言葉)

補給ユニット二機が、ミサキ戦のファンネル持ちだったサイサリスと同じに見えて少しきまずい気持ちになりました……。

今回で過去編は終わりです。



 休日である土曜日に俺、ノリコ、コスモは、暮機坂高校ガンプラバトル部にて、大会で使うガンプラの改修を行っていた。

 俺のジンクスの方向性は見えてきたところなのだが、ノリコとコスモは何が納得いかないのか、しきりに首を捻る様に自身のガンプラと睨めっこしている。

 

 だが、今はこちらの方を優先せざるを得ない。ノリコとコスモに気を使わせることのないように、早く俺のジンクスを完全なものにする必要がある。

 アシムレイトとTRANS-AM―――二つのシステムを完全に制御した上で、切り札として確立させる。

 

 G-セルフのフォトンエネルギーが良いヒントになった。クリアパーツから放出された粒子を機体の表面を覆う事で、回避、防御、攻撃、全てをこなすことができるトリッキーな事をできる……はずだ。

 

 取りあえずこれまでで施した事は、右足だけに埋め込んだクリアパーツを左足と両腕に。そして粒子の排出口を関節の間に作り、『粒子の帯』を出す場所を設けた。一応の改修はこれぐらいにしておいて……。

 

「後は……この図通りに新しいランスを作るしかない、か」

 

 アドウやリョウヤには俺のランスが通用しなかった。いや、正確にはミサキにも通用したとは言えない。あれは力で押し込んだだけの結果に過ぎない。

 

 ―――其処で俺が作ったのは。新しく作り直したランス。

 いや、バックパックというべきか。メイジンが操作した数あるガンプラの内の一つ、エクシア・ダークマターを参考にして考えた、近接格闘専用バックパック『アドヴァンスドブースター』。

 機動力、姿勢制御、予備のランス、システムの補助、全ての役割を担うバックパック。これさえあれば、ナガレの時のように、手持ちの武装がほとんどなくなるという事態は起こらなくなるだろう。

 

 大会までには間に合うかどうかは分からないが、今から作ればギリギリ間に合うかもしれない。でもそうなると、今度はノリコやコスモに手が回らなくなってしまう。

 

 簡単に書いた設計図を睨めっこしながら葛藤していると、不意に俺の携帯が狭い部室の中で鳴り響く。驚いたようにこちらを見たコスモとノリコに謝罪しつつ携帯を見ると、そこには先日一緒にバトルをした少女の名前。

 

「……ついたか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩が誰かを迎えに外へ行ってしまった……。

 何やら私とコスモのガンプラを作るのを手伝ってくれるというが、正直言って申し訳ない。行き詰っている私達が、先輩に負担をかけてしまっているのだ。

 

「連れて来たぞ」

 

 先輩はすぐに帰ってきた。一人の女の人を連れて来て……。

 

「やっほー、久しぶりだね」

「チーム冥・Oの……キリハラ・ミサキさん……?」

 

 先輩と死闘を繰り広げた冥・Oを操作していたファイター、キリハラ・ミサキさん。そんな人が何で暮機坂高校に……?まさかこの人が私達のガンプラ作りを手伝ってくれるという―――。

 

「自己紹介は、一応しておくね。八極学園二年、キリハラ・ミサキ、今日は君達を手伝いに来たんだ」

「……とのことだ。ミサキ、助かる」

「いやいや、私もこの子たちのガンプラが気になってるからね。……あ、別に敵情視察とかじゃないよ?」

「そんな事しなくてもお前は十分強いだろ。そこのところは気にしてはいない」

 

 見たところそれなりに仲が良いようだ。先輩が信頼しているなら安心できる。それにあの冥・Oを作り上げたビルダー……すごく気になる。

 

「この子たちは私達に任せて、君は心置きなく作業に取り掛かると良い」

「あまり変な事吹き込むなよ?間を見て、見に行くからな?」

「変な事ってなにさ……」

 

 そんなやり取りを交わした後に、先輩はこちらへ向き直る。

 

「大会まで時間はない。だから俺の事は気にするな。いつも通りに思う存分、好きなように作るようにな」

 

 私たちの返事を聞き、満足したような表情を浮かべた先輩は、部室の端の方にある作業机の方に移動していった。思う存分好きなように、その言葉を反芻しながらミサキさんの方を向き、お辞儀する。

 

「よろしくお願いします!ミサキさん!」

「俺達の為に……ありがとうございます」

「ふふ、こちらこそよろしくね。さあ、まずは君たちのガンプラを見せてもらおうかな」

 

 部室に設置してある大きなテーブルに、私のザクとコスモのジムを置く。ミサキさんはそれを優しく手に取ると、目を細めながらガンプラを見回す。

 ……なんだか、すごい返答が怖い。

 

「うん、うん……ザクとジムとしては破格の性能を持っているね。でも、元になったロボットには及ばない」

「「!?」」

 

 この人、知ってる。ガンバスターの事を……そしてコスモが元にしたであろうロボットの事を。先輩は知らなかったが、ガンプラの事は私が知る誰よりも深く知っていた。でもこの人は、私の理想のガンプラの姿を知っている。

 それだけで結構違ってくる。

 

「レイ君は何も分からない状態で君たちのガンプラに改修案を提示していたようだけど……それについては文句はない。むしろスゴイと言いたい」

「でも、それは俺達が先輩に依存しているという事になる」

「そうだね、君達は努力していない訳じゃない。私とのバトルでは、君たちがあそこで介入しなければ、私が勝っていたかもしれない……」

 

 あれは紙一重の勝利だったと、大会の後に先輩は言っていたがまさしくそうだった。キリハラ・ミサキのファイターとしての能力は凄まじい、私のザクに攻撃が効かないと見るや、限りあるファンネルを惜しみなく使って私を落としに来た。

 ―――これから先の展開を考えて、耐久力に優れる私を行動不能にしようとしたのだ。少なくとも私よりは格段に強い。

 

「いえ、あそこで先輩が落ちていればミサキさんの勝ちでした」

「はは、それは分からないよ。ガンプラバトルは何が起こるか分からないからね……おっと、話が逸れたね、君達は自分だけの力でイデオンとガンバスターの力を引き出さなければならない。そのための改修案として、私はこれを提示しよう」

 

 ミサキさんが持参してきた大きめの手提げから1つの箱が出てくる。

 HGUCユニコーンガンダムデストロイモード、装甲の隙間から赤色の光を覗かせる白色のガンダム。

 

「君のジムにはサイコフレームが相性が良いだろう」

「……でも、サイコフレームは不安定じゃ……?」

「それを安定させるのが君さ。ガンプラバトルはガンプラの完成度とファイターの思いに依存するからね。ようは君次第って訳さ」

 

 確かにサイコフレームは良いかもしれない。でも先輩は絶対に提案しないような案だ、先輩は出来るか出来ないかで判断することが多い。安定性が高いからこそ安心して使えるが、その分私達は先輩に頼り切りになってしまう。

 ……そう言う意味では、ミサキさんの提案するサイコフレームの組み込みは、コスモにとっての自立を意味するものと言ってもいいかもしれない。

 

「NT-Dか……分かりました。あの……お金払います」 

「いいよいいよー、気にしなくても。君達のガンプラが見れて楽しいから」

 

 ニコニコと邪気のない笑みを浮かべたミサキさん。

 ……なんだかバトルしていた時とは違う。あの時は怖い感じだったけど、今はすごく親しみやすいお姉さんって感じだ……。

 

「本当にありがとうございますッ、これで俺も前に進めます!」

「ははは、そんな感謝されるとまんざらでもないね………さて、君にはもうちょっとアドバイスしたいことがあるけど、今は君だね」

 

 コスモにキットを渡したミサキさんは、今度はこっちに向く。コスモは深く一礼してからキットを持つと、私達のいる場所の近くでジムとキットを見比べて、改修の段取りを決め始めた。

 

「君のザクの両肩部にはGNドライブが組み込まれているね」

「ホーミングレーザーを操作するためにはGNドライブを入れるのが一番良いと言っていたので……」

「うん、両肩に組み込んだのは良い判断だね。そして腕部には粒子の変換率を補助するクリアパーツまで入れてる……そしてこれは……」

「胴体とは別の機構として作動するようにしています……だからこれは正確に言うとツインドライブではありません」

「……推進力と粒子操作にのみ役割を限定したって訳だね。良いアイディアだ」

「でも、肝心の電撃がでないんです」

「あー、そうか……」

 

 ガンバスターの代名詞と言われる技「スーパーイナズマキック」をする時に発する放電が、どうあっても再現できない。ハンブラビのウミヘビとか色々考えてみたものの、強力な電撃とは言い難い。

 

「それは簡単な事さ」

「……え?」

「MSは電気で動いているんだ。SEED系列はバッテリーさ、つまり……」

「意図的に機体に負荷をかけてスパークさせるって事ですか!?そんなんじゃ機体が持ちませんよ!!」

「あれ?そのために関節部に頑丈なラバーを入れてると思ってたんだけど……?君程頑丈なガンプラならある程度なら可能なんじゃないの………?」

「………そ、その手があったか――――!!」

 

 驚天動地とはまさにこの事だ。特に改良も要らなかった……いや、ある程度は必要だろうけど……。

 

 関節部のラバーでスパークが機体に広がらないようにすることができるし、何より今まで試したことよりも、圧倒的に強力な電撃を得ることができるはず。でも、それを実際に形にするにはまだまだ課題がある。

 でも、これからの課題が見えてきたのは、私はまだ前に進めるという事だ。

 

「……よし!」

「……ははは、じゃあ試しにやってみる?」

「はい!」

 

 ザクを持って部室の隣にあるバトルシステムへと足を運ぶ。

 いつものようにガンプラを置いてバトルシステムを起動させる。ステージは地上に設定し、仮想の敵として出てくるハイモックの数は0体で設定し、バトルを開始する。

 

「……あれ?」

 

 私のザクの他にもう一機、別のガンプラが居る。

 明るい灰色のガンプラ、エピオン……だよね?それが地上に降り立った私を見下ろしながら降下してくる。

 

『私も参加させて貰ったよ』

「ミサキさん!?そのガンプラ、ミサキさんのなんですか!?」

『ああ、そうさ。さあ、やって見せてくれ』

 

 ミサキさんに促され、右腕部にパワーを送り負荷を掛ける。右肩のGNドライブが凄まじい勢いで作動し始める。この段階はホーミングレーザーを撃つときと同じ負荷だろう。だがこれ以上強くなったらどうなる?

 さらに出力を上げ、限界値ギリギリまで右腕部の出力を上げる。

 

「こ、怖い……」

 

 まだ足りないのか。振動こそはすれど、いまだ変化のない右腕。下手すれば爆発する可能性もあるのだ、ダメージレベルCとはいえ、怖がるのは当然の事だろう。

 

『確実に出る筈だよ。爆発はしない、だから怖がらずに』

「……はい!女は度胸!!いっけぇぇぇ!!」

 

 思い切ってオーバーヒート寸前にまで出力を上げる。

 すると右腕から徐々に放電が始まった。稲光のように一瞬の儚い光だったが、電撃は電撃。ノリコはその場で喜ぶようにエピオンを見た。

 

「できました!」

『……熱を逃がす機構を作った方が良いかもしれないね。これじゃあ何回も使えない』

「そうですね……全国大会はダメージレベルA……いくら頑丈なザクでも何度も持ちません」

 

 バスターコレダ―を入れる予定だったから、一度腕と脚は作り直した方が良いかもしれない。少なくともある程度の構造は考える事が出来た。

 

「ありがとうございます!ミサキさん!!」

『いやあ、君に至っては相談すればレイ君が気付いただろうし……』

 

 照れたように頬を搔くミサキに精一杯の感謝を送る。これで先輩に余計な心配を掛けずガンプラ作りに励んでもらえる。もう県大会のような不甲斐ない姿を見せる訳にはいかない。

 私も、先輩やコスモと一緒に戦って勝つんだ。

 

「ミサキさん!!」

『ん?』

「バトル、お願いしてもよろしいでしょうかッ!!」

 

 先輩と同等以上の強さを持つミサキさんは恐らく全国クラスの実力がある筈。彼女とのバトルを通じて自分に何が足りないか、何を伸ばせばいいのかを見極めたい。

 

『ふふふ、いいよやろう。どんどん来なさい一年生』

 

 了解を得て私は前に飛び出す。大会まで残り数日、それまでにどれだけのものを学べるか、時間との勝負だ。

 

「行きます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~場所は変わり、佐賀県、鏑木学園高等部~

 

 

「……完成だ」

 

 一人の白髪の大柄な男が一息つくと同時に言葉を漏らした。

 彼の名はライドウ・センガ、チーム『大黒刃』のメンバーの一人である。年は17、高校二年生。なまじ高校生とは思えない外見をしている彼の前には、漆黒に彩られたガンダムタイプのガンプラが佇んでいた。

 

「完成したのかセンガ!!」

「ああ、後は県大会で使っていたこいつを持たせれば―――」

 

 同じチームのナガレが後ろから覗き込み、センガのガンプラを見て感心するように口笛を鳴らす。センガはナガレに構わず、机の端に置かれているソードカラミティガンダムから、ガンプラの大きさを優に超える大剣を取り外し、黒いガンダムの横に置く。

 

「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン・パワードレッド。名付けるとするならば、ダイゼンガー豪式、となるな」

「アストレイ・パワードレッドだけに豪式って訳か?」

 

 大きくせり上がった巨大な両腕、頭部のアンテナは甲冑のように巨大化、全体的に胴はスリムに見えるが、その代り脚が従来のレッドフレームよりも延長され、赤い脚甲が取り付けられているせいか強度も上がっている。アストレイレッドフレームを元にはしているが、腕の大きさに合わせて延長されて作られたからか、一般的なガンプラより若干大きくなっている。

 そして何より目立つのはその傍らに置かれている巨大な剣、それがさらに凄まじい力強さを感じさせた。

 

「相変わらずそれかよ」

「斬艦刀は俺のガンプラの魂の剣……そうやすやすと他のに乗り換えたりはせんさ」

「……見たところ、コイツ以外に武器は見当たらねぇが……」

「斬艦刀一刀で十分ッ!!」

「……か、はははははは!!とんだバカ野郎だぜ!!こいつはよぉ!!」

「お前もそのバカ野郎だろう、ナガレ」

「その通り!」

 

 ナガレのGマスターは遠距離攻撃がほぼ一つしかない、事実上の超近接格闘型のガンプラ。そしてセンガのダイゼンガー豪式に至っては、斬艦刀のみの超超超近接特化型のガンプラ。

 彼等のリーダーであるカナコの気苦労は底知れないもんだろう。

 

「ああ?そういえばカナコの奴はどこ行った?」

「近くの模型店に行くらしい。なにやら小規模の大会が行われているらしいから、暇潰しに参加してくると」

「暇潰しねぇ。ま、アイツなら心配いらねぇな」

「確かにな……ときにナガレ、ダイゼンガー豪式の練習相手を頼めないか?」

「お、いいぜ」

 

 チーム『大黒刃』。

 一人目は巨大な剣を繊細かつ豪快に操る漆黒の侍。

 二人目は野生と知性を兼ね備えた漆黒の闘士。

 三人目は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の歌を聞いてェ――――!』

「ガンプラバトルの外でやってよ!!」

 

 私、アスハ・カナコはいつもおかしい人とガンプラバトルをします。今日は中途半端な変形をさせた赤い装飾が施された白いウイングガンダムで歌い始める子です。こちらの意識を混乱させる手だろうけど、すごく耳障りなだけだ。

 しかも何故に飛行機形態の状態で腕と脚だけを出す。隣接する建物の側面をホバー移動できるのは魅力的だけど、わざわざ私の目の前でやる必要はないと思う。

 というより、マクロスかよ。そして突然歌わなくなった瞬間に攻撃を始めた……。

 

『―――ッ!ええい!うろちょろと!!』

「その程度のマニューバで!」

 

 桜色に彩られたセイバーガンダムが高速で変形を解くと、同時に引き抜いたヴァジュラビームサーベルでウイングガンダムの翼の一部を両断する。バランスを保てなくなったのか、人型の形態に変形したウイングガンダムに、背部のビームキャノンを放つ。

 

『……くっ』

 

 シールドで防御したが、ビームはシールドごと突き破り左腕部を破壊。まだ戦意は残っているようでこちらにバスターライフルを放ってくるが、こちらもビームシールドを展開しながら突撃する。

 

『ただのシールドで私のキャノンは防げない!』

 

 シールドに激突したビームは難なく拡散され後方の建物に当たる。相手もただのシールドでない事が分かったのだろう。だがそれも遅い。

 

『ア、アルミューレ・リュミエールですって!?』

「貰った!」

 

 ビームシールドから放たれるアルミューレ・リュミエールをサーベルへと変容させて、そのまま無防備なウイングガンダムを一気に両断する。

 

『貴方にLoveハートォォォォ!』

「それが言いたかっただけだろ!?」

 

 思わずツッコんでしまったが、取りあえずは決勝戦が終わった。

 小規模の大会だったけど、結構楽しかった。……相手がMAを奇妙な形に変形させたり、飛行機か人型か分からない姿にさせなければ、もっと楽しかったかもしれないけど……。

 

「ま……今日はナガレもセンガも部室だし、私だけでのんびり大会参加者についてまとめようっと」

 

 一応リーダーなのでそれぐらいしないといけない。……というよりセンガとナガレがいると、逆に仕事が滞るので基本的に自分一人で行わなくてはならない。

 大会が終わっても尚賑わいを見せる模型店のガンプラ工作スペースに、大会への予備機である『セイバーガンダムツヴァイ』を置き、バックから有名な選手のデータをまとめたパソコンを取り出す。

 

「ガンプラ学園、グラナダ学園、我梅学園、天王寺学園……暮機坂高校……あれ?これってアンドウ・レイさんがいる高校だったよね?」

 

 見直して気付くが、あの人は茨城県代表のチームだった。あのナガレと互角の勝負を見せていたあたり相当な腕のファイターだ。

 

「うっへぁ……決勝戦の解説どうなってんのこれ……」

 

 店長に承諾を得てから店のネットを繋いで、彼らの県大会の決勝戦の映像とその解説を調べてみると、中々に面倒くさい事が書いてあった。

 

『今年の茨城県大会は前大会決勝校である青嵐学園、準決勝校奥部高校が、今年初出場の二校に準決勝で敗退という大番狂わせが起きました。決勝に上がったのは八極高校チーム『冥王』と暮機坂高校チーム『イデガンジン』。この異様な決勝戦に、多くの観客は戸惑いを見せていました』

 

 其処まで読んで下にずらすと両チームのガンプラの写真が張り付けられている。その写真を見て私は眼を疑った。

 レイさんのガンプラはいい。普通だ、多分普通のジンクスだ。もう一方のチームも普通のサイサリスだ。だが彼のチームメイトと相手のガンプラはどうだ?何故、ゼオライマーにイデオン、ガンバスターが居るのだろうか。

 

 スーパーロボット最強四天王に君臨する三機が満を持して参加しているぞ。

 佐賀県の県大会だって、決勝はコンボイカラーの百式が出ただけなのに……茨城県はどれだけの実力者たちの上に成り立っているんだ……?

 いや、待て落ち着こう。まだ先があるはずだ。ここから先は試合の精密な内容が漏れないように音声がない状態且つ、解説が簡略化されている。

 

 現場で見ていた観客達は大会中の音声は聞いてはいるが、運営委員会からの一応の処置らしい。だから基本的に動画内の会話は無音、バトルしている音声だけが聞こえる。

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 見た結果、何をしているのかが全く分からなかった。ビームコンフューズで空中の何かが爆発したのは分かるが、それの正体が分からない。

 ファンネル?爆発する粒子エネルギー?……クリアファンネルか?

 

「……いや、こんなことを考えてる場合じゃない」

 

 問題なのは、動画を見る限り凄まじい戦いを制したのがチーム『イデガンジン』という事だ。ナガレの話に出た、アンドウ・レイはガンプラ学園と互角に戦っていたというのは案外事実かもしれない。

 

 ならば当たった時、どうする?ぶっちゃけ自分にはあの堅牢なガンバスターを超える攻撃力はない。センガとナガレなら行けるだろうが、もしバトル中に分断されでもしたらサポート寄りの私は逃げるしかない。あの装甲を崩せる装備を取り付けてみるか?実体剣はこちらのパワーが足りないから無理。サーベルも恐らくイデオンソードで貫かれるから無理。なら打ち合う必要なく一気に勝負を付けられるサーベル?ビームナイフか?それならバッテリー駆動ではなく機体と直接つなげればラミネート装甲さえも溶解させられる威力を作れるはずだ。そうなるとやはりハイぺリオンのキットが必要になって来る。それは此処に売っているから大丈夫。後はアンドウ・レイさんを相手取った場合のバトルの予想だ。合宿時点ではジンクスⅣだった、恐らくあれはまだ改修途中、強化してくる可能性はあるだろうが、あのバトルロワイヤルの様相を見ると、大会にはトランザム駆動による超高速戦闘を必殺とする戦闘方法を用いてくるだろう。それに対峙する為にもこちらはよりMAに変形可能なガンプラを用いなければならない。それは今の機体の条件で事足りているので、クリアしているとする。問題は強化されるであろうジンクスⅣに私の武装が効くかどうかである。レイさんは近距離戦闘が得意なファイターだ、遠中距離タイプの私じゃ分が悪い。アルミューレ・リュミエールの防波結界を使えば近づけなくすることもできるだろうがそれまでだ。いずれは突破される。ならいっそドラグーンで近づけないようにするべき、ではないな。八極高校とのバトルで冥・Oが使っていた不可視の攻撃をファンネルと予測を立てるならば、レイさんはその攻撃が及ばないであろう超至近距離を保ち続けていた。そういえば合宿でも自分で「見えるファンネルは効かない」とか言っていたから生半可な無線兵器は効かないと見てもいいだろう。ジャスティスガンダムのようなフォトゥム00をバックパックとして扱うか?あれなら、乗っても良し背負っても良し……でも代わりに本体が手薄になるデメリットもあるから無理か。

 

「カナコ姉ちゃん、ねぇってば~」

「ふぇっはい!!」

 

 突然の声に驚きながら横に顔を向けると、男の子が私のガンプラを見て興味深々とばかりに目を輝かせていた。

 

「また、ボーっとしてたよ」

「あー、ごめんね。お姉ちゃんは集中すると周りが見えなくなっちゃうんだ……」

「別にいい!それより!ガンプラ見せて!!」

「いいよ、壊さないでね」

「うん!!」

 

 セイバーガンダムツヴァイを男の子に優しく渡しながらも、またやってしまったとばかりに額を抑える。……いい加減考えに没頭すると周りが見えなくなる癖を治さなくちゃ……。これのおかげでナガレとセンガの動きについて行けるのが嬉しいんだけど、そのせいでナガレにはからかわれるし散々だよ……。

 

「よく考えたら、レイさんもガンバスターとイデオンにはさまれてたんだよなぁ……」

 

 こっちはダイゼンガーにゲッターだよ。危険度はあっちの方が上なのに、このパイロットの温厚さでの敗北感。しかも予選とか見たらレイさんの相手イロモノばっかりだし……。

 もう嫌……誰かまともなバトルをさせてください……。

 

『カナコちゃーん、おーい、カナコちゃーん!』

「カナコ姉ちゃん、店長が呼んでる、って何で泣いてんの?」

「な、泣いてないやい!」

 

 目元を拭い、男の子から差し出された私のガンプラを仕舞い店長の居る場所に歩み寄る。何の用だろうか?

 

「店長、どうしたんですか?」

「いやぁ、ちょっとこの二人がこの店で一番強いファイターを紹介してくれって言うもんだからさ。ほらっ、君達、この子が我が佐賀県の代表チームのリーダー、アスハ・カナコちゃんだよ」

「ちょ、勝手に説明しないでよ!!」

 

 まだバトルするとは一言も言ってないのに!?でも一体誰にバトルを申し込まれたんだろう、店長の後ろを背伸びする形で覗いて、姿を確認する。

 

 一人は緑色の髪の男でもう一人は赤みが掛かった茶色い髪の男。どちらも私と同じ位の年だ。

 

「すっげぇ!やっぱり俺の勘は冴えてるぜ!!」

「黙れ、誰のせいでここに来たと思っている。お前に地図を渡したのがそもそもの間違いだった」

「う、うるせぇな!結果的にはいいだろうが、今度は佐賀県の代表の人とバトルできるんだぜ!」

 

 なんだかものすごく行き当たりばったりな人たちだった。どうしよう、すごく遠くから来ているっぽいからバトルくらいしてあげても良い気がする。若干の憐みの眼差しで二人を見ていた私に気付いたのか、赤みが掛かった茶髪の人がこちらへ低く一礼してくる。

 まともな対応に驚いた自分がいるのが悲しい。

 

「いきなり申し訳ない。千葉県から来たアイバ・キョウスケと言います」

「俺はマサキって言うんだ!」

「あ、どうも……アスハ・カナコといいます」

 

 とりあえず挨拶を済ませると、先程気になる言葉を聞いた。『今度』は佐賀県代表の人と、マサキくんは言った。つまり私よりも前に大会に出場する選手とバトルしているという事になる。

 すごく気になる。

 

「私よりも前に大会出場者とバトルしたんですか?」

「ええ、茨城県代表チームと県大会の準優勝のチームの二人のリーダーとバトルしました」

「かへぁ……ッ」

 

 変な声出た。これはいよいよ大会で戦う可能性が上がってきた。なんとなくだが、用心しておいた方がいいかもしれない。……まずは、茨城県代表チームのリーダー、レイさんと準優勝チームのリーダー、キリハラ・ミサキのバトルを経験した、この二人とバトルしてみよう。

 対策は今夜ゆっくり考える。

 

「アンドウ・レイさんでしょ?私も合宿で会ったよ」

「!……そうなのか!」

 

 

 

 

 

 

 この後、私は自分の運命を呪った。

 サイバスターとアルトアイゼンってどういうことだよぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスハ・カナコ。

 類まれぬ集中力を持つチーム要の刃。

 

 尚、変なファイターに恵まれている性質がある。




 方向音痴も健在です。

 前半はそれぞれのガンプラの強化。
 イデオンにサイコフレームは危ないと思ったのですが、自重しないと決めたのでやらせていただきました。……イデは発動しません。発動したらバトルが共倒れで終わっちゃいますから。
 そして、ジンクスⅣには新しくバックパックをつけました。
 プロローグまでには間に合わなかったので装備してはいませんが、三回戦あたりから装備させる予定です。

 後半は大黒刃のチームについて書きました。
 センガはアストレイ。
 ナガレはマスターガンダム。
 カナコはSEED系の機体でバトルします。


 そして今回出た再現機体は―――。

 コンボイカラーの百式(名前のみ)
 VF25カラーのウイングガンダム。 
 アストレイパワードレッドのダイゼンガー。

 百式は、以前コンボイと似ているのではないか?と感想蘭で指摘されたので、出させていただきました。


今回で過去編は終わりです。
次回からは全国編に突入です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~強敵~

合体妨害は卑怯(ゲッターチームから目を逸らしながら)

今週のトライオン3は思った以上にスパロボしてましたね。


全国編入りました。
とりあえず本編で決勝トーナメントが始まったので進めたいと思います。


 全日本ガンプラバトル選手権中高生の部。

 県大会で振るいにかけられた一握りのファイターが参加する大会。その大会に出る事は一種の夢であり憧れでもある。なにせ全国有数のファイター達と戦える、それだけで出場する価値は十分にある。

 

 俺達、チーム『イデガンジン』は選手権一回戦を勝利し、二回戦への切符を手に入れた。だが一回戦を突破したからといって油断はできない。同じブロックには、合宿に来ていた我梅学園のチームホワイトウルフと、ナガレのいる『大黒刃』がいる。

 

 そのどちらもが一回戦を突破している所を見ると、二回戦でホワイトウルフVS大黒刃となり、その勝利チームが三回戦で俺達と当たる事になるだろう。

 

 ……それまでにアドヴァンスドブースターの調整を終わらせなければ……。二回戦には間に合わない……そこで負けたら終わりだろうが、負けないように頑張るしかないのが現状だな……。

 

 しかし、しかしだ。

 後輩二人と一緒に大会初日のバトルを見ていた最中、面白いガンプラでバトルしているチームがいた。

 

 

『トライオォーン!3ィィ―――!!』

 

 大阪代表の天大寺学園。

 ZZガンダムをベースにしたガンプラ、トライオン3を三人で操作しているチームである。ZZ特有の合体機能を利点とした合体機構と、腕を分離しての無線兵器。胸部からのビーム、まだ見極められる段階ではないが、『ガンプラ心形流』のガンプラに似ている。

 

「う、うわぁ……」

「ザンボット3?……トライダーG7?……まるっきりのスーパーロボットじゃないか……」

 

 後輩二人が困惑の表情を浮かべてはいるが、俺としては感嘆の声しか出ない。

 

「………合体することで三体分の粒子を集約しているのか。デメリットをメリットに……」

「先輩……もっとツッコむところがありますよ……」

 

 ツッコむ所?……腕を飛ばすならば何かしら装備させた方が強力になるかもしれないな。でもあの腕を伸ばす機構、戦闘中に腕がなくなるのはデメリットになるかもしれないが、それを考えても応用性は高い。

 手放した武器を回収できるし、不意を突くこともできる。あのブロックでの決勝トーナメント出場は天王寺学園が有力かもしれないな……。

 

「要注意だな」

 

 黒色のカラミティガンダムがトライオン3により両断され、バトルが終了する。今の所注意するべきチームは大黒刃、ホワイトウルフ、そして同じブロックのグラナダ学園。

 あそこにはガンプラバトルヨーロッパジュニアチャンプが留学していると聞く。シード校だからバトルは明日になるが……一応見て置いて損はないだろう。

 

「それより二回戦の相手だな」

「岩手県代表の南原高校です。使用機体は……ガンダムmk2、支援機二機」

「チーム名は……うーん確か……『凶鳥の羽ばたき』……だっけ?」

 

 試合を見た限り南原学園のチームの戦術は支援機によるヒット&アウェイ、主力のmk2による白兵戦。リーダー格の黒いmk2の背部にはシナンジュに酷似するスラスターが増設され、ガンプラの各部も重厚なものに改修されている。二機の支援機は、大幅な改修がされているだろうが、恐らくスーパーガンダム、MK2ディフェンサーの背部ユニット……Gディフェンサーの改修機だろう。

 

 一機目は射撃に優れた改修が施されたタイプ。

 二機目は装甲に優れたタイプ。

 

 射撃タイプ機体は、見た通りの射撃特化。4門の砲口とミサイルを主武装とするサポート器。装甲主体の機体は……一応支援機と言えるのだが、見た目からして何かしらギミックが施されているのが丸分かりだ。なにしろ、並のMSと同じサイズに加えて、折りたたまれた腕や脚甲が見え隠れしている。

 

 ―――Gディフェンサーの改修機にガンダムMK2……恐らく局面に合わせて合体する仕様と見た。

 

「……コスモこれってヒュッケ―――」

「駄目だノリコ。それ以上いけない」

「ユッケ?」

「あ、なんでもありませんよ先輩!!」

 

 ……焼肉にでも行きたいのだろうか。大会が一段落したら、息抜きがてらに連れて行ってあげるというのもアリかもしれない。二人には何時も苦労を掛けているからな。苦労を掛けているという意味ではミサキもか?後輩たちのガンプラ作りを手伝ってもらってるし……。

 

「ま、とりあえず、次の試合も見ておこう」

 

 次は長崎県の代表チームと岡山県代表のチームだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっやっぱ全国は面白ぇ奴らがいるな」

「血沸き肉躍るとはまさにこの事だな」

 

 バカ共が騒いでいる光景を余所に、私は先程自分達と同じブロックで行われた試合を頭を抱えながらも思い出していた。

 

「カナコ、どーしたんだよ」

「何であんたらこの大会のおかしさが分からないの……」

 

 他のブロックはギリギリガンプラバトルをしているだろう……大阪以外。チーム『イデガンジン』のイデオンとガンバスターのジェノサイドバトル。『凶鳥の羽ばたき』の言葉にできぬもどかしさ……皆、おかしい。あ、私のチームもおかしかったなー。

 

「次はホワイトウルフか……」

「明日はシード戦。二回戦まで一日の猶予がある。リーダーとしての意見を聞かせてくれ」

「……」

 

 ホワイトウルフは技巧派チーム。

 高機動ザク改の改修型を用いるチーム。サイコミュ、白兵戦、汎用性、安定性があるチーム。

 

「特にアンタたちに言う事はない。好きにやって……私が合わせる」

 

 こいつらありえないほどしぶといから大抵の攻撃なら大丈夫だろう。その分搦め手に弱いけど、それはまあ私がサポートすれば済む話だし。

 

「好きにやってと言う事はマジでやっていいってことだよなァ」

「……相手は選手権連続出場の中堅チーム。下手な侮りは敗北に繋がるからね。ステージのある程度の破壊も……許可……する」

「……そんな苦渋の決断のように言われるとはな……」

 

 だってお前等、一回やらかして店一時期出禁になってたじゃん。

 

「そういえば、レイの奴が戦う二回戦の相手」

「……ヒュッケバインだな?」

「バカかお前!!そういうことは口に出しちゃいけないんだよ!?」

 

 それ色々な意味でヤバイから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選手権の一日目が無事終わりを迎えた……かに思えたのも束の間、一見、終わりに見えた一日目で、まさかまさかの予想外の事態が俺達に起こってしまった。

 

『選手権一日目が終了しました!ここで私、カミキ・ミライが二回戦へと進出を果たした選手に突撃インタビューを行いたいと思います!最初にインタビューするのは茨城県代表暮機坂学園のアンドウ・レイ君です!』

『……よろしくおねがいします』

 

 突然、大会スタッフに連れて行かれ、テレビの前に立たされ、そのままインタビューされてしまったのだ。これで地元に帰りたくなくなってしまった。絶対これ後でネタにされるやつだ。

 

「先輩がテレビ出てる」

「できれば受けたくなかった……」

「いいじゃないですか。俺は遠慮しますけど」

 

 現在、ホテルの一室にて三人で鑑賞してはいるが、正直言って俺はテレビを直視できない。

 

『見事一回戦を突破したチーム『イデガンジン』ですが、これからのバトルに関しての抱負等はありますか?』

『勝っても負けても悔いのない試合ができたらそれでいいと思っています』

 

「でもこの人本当に綺麗だよねー」

「開会式のインパクトはすごかったな……」

「あれれ?まさかコスモ、惚れちゃった?」

「ば、バカ言うな……」

 

 テレビから視線を逸らし、作業机に向き直る。机の上には今日バトルで使ったジンクスⅣオリジンと、未完成のバックパック『アドヴァンスドブースター』が置いてある。

 バックパックの方は、後少しの所で完成するのだが、とりあえず最初は一回戦のバトルで使用したジンクスの方を見て行こう。

 

「……明日はガンプラ学園対本牧学園のバトルか」

 

 アドウ・サガ、キジマ・ウィルフリッド……そしてカリマ・ケイ。合宿でバトルしたファイター同士のバトル。どうなるか見物だな。合宿後調べてみれば、カリマ・ケイは本来はMA乗りという事が判明した。

 MAは多くの粒子エネルギーと火力を有するものが多い。加えてカリマは、ガンプラ学園に対して並々ならぬ闘志を抱いているようだった。……何が何でも勝つ、そう言う気概すら感じられた。

 

「先輩、明日ミサキさんが来るんですよね?」

「ん?ああ、彼女の妹も来るらしいぞ」

 

 なにやら旅行がてら大会終了時まで滞在するらしい。来年戦うかもしれない選手たちの戦いを見ることが目的らしいが、中々に度胸がある。なにせ姉妹二人だけで来るのだ。

 

「ガンプラ学園の試合が始まる前ぐらいに来るらしい」

「私、迎えに行きましょうか?」

「いや、俺が行こう。コスモとノリコは席を取っておいてくれ」

 

 明日はバトルこそないが忙しくなりそうだ。

 一応、今日は作業を早く切り上げて明日に備えて早く寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会二日目。

 今日はシード枠と残りの一回戦が行われる。

 ……というより既にもう行われているのだが、現在俺は会場近くの駅に待ちぼうけを食らっていた。

 

「……遅くないか……」

 

 予定よりも30分くらい遅れてる。5分前に届いたメールには駅を乗り過ごしたとだけ書いてはあったが、どれくらい乗り過ごしたのだろうか。最悪、ノリコとコスモにバトルを撮影して貰わなければならない事態が起こってしまうぞコレ。

 

「お待たせー!」

 

 大きなため息を吐くと同時に駅の出口を見ると、こちらに手を振りながら走り寄って来る一人の少女、申し訳なさそうに小走りで先頭を走る少女の後を追う少女がいた。

 キリハラ姉妹だ。

 

「待った?」

「すごく」

「そこは待ってないって―――」

「………」

「……ごめん」

 

 無言になった俺に何を思ったのか、顔を青くさせ謝ってくる。何で遅れたのかは聞かない、というよりその手提げから見える『ご当地限定長崎カラーHGアッガイ』を見ればなんとなく分かる。

 

「でもでも、レイ君の分も買っておいたよ!」

「……」

「姉さん、もう一回謝ろう?」

「いや、もういいよ。とにかく会場に行こう。多分、もう始まってる」

 

 再度ため息をつきながらも二人をバスに乗る様に促す。時間的にガンプラ学園のバトルが始まる時間帯、まあすぐに終わらない限りは、ここからそう遠くないから大丈夫だろう。

 

「あ、そういえば紹介してなかったね。私の妹、ミサトだよ」

「大会以来ですね。キリハラ・ミサトです」

「冥・Oのサポートをしていたのは君だな」

 

 バスに揺られながらも軽く自己紹介を済ませ、到着次第会場まで急ぐ。ガンプラ学園のバトルとも会って歓声がここまで聞こえてくる。

 

「うわぁすごい、写真撮っていい?」

「後にしろ!!」

 

 能天気なんだかマイペースなんだか……周りを見て興味深そうにそわそわとしているミサキの背を推したミサトと共に観客席に飛びいるように入り込む。

 

 全身を叩きつけるような歓声の中、俺達の目の前にガンプラ学園と本牧学園のバトルが映し出されたモニターが前面に広がった。

 

 ―――が、その内容は何処か違和感を感じさせるものだった。

 まず最初にガンプラ学園側の機体が緑色のガンプラ一体に対して、相手側の本牧学園の機体はヴェイガンギアの改修機……。あの緑色のガンプラがアドウやキジマのガンプラでないのは明白。かといってあの二人が簡単にやられるようなファイターではないのは分かっている。

 アドウとキジマとは別の三人目のファイター……そう判断し、モニターからバトルシステムの方へ目を向ける。見覚えのある銀髪の小柄な少女が視界に映りこむ。

 

「シア?……ああ……そういうことか……」

 

 つまり彼女が『三人目』だったという事か。セカイ君のガンプラの修理を手伝った時、並のビルダーじゃあないとは思ってはいたが、まさかガンプラ学園の生徒だとは思わなかった。

 

 彼女の操作している緑色のガンプラは、ヴェイガンギアから放たれた大量の追尾レーザーを全て回避している。巧い、一発の被弾もしていないところを見ると相当の腕があるな。

 

「粒子変容フィールドで相手の放ったレーザーに乗ったね」

「……うん、すごい丁寧に作られたガンプラ。水みたいに滑らかな粒子」

「GNドライブが見えるという事は00系列のガンプラ……サキブレ、か?」

「あー、顔が有って分からなかったけど、サキブレかぁ納得」

 

 劇場版ガンダム00の最後に少しだけ出た機体、それがサキブレ。見た目がかなり酷似しているが……サキブレと確定するには情報が少ない。

 まあそれよりバトルの方だ。傍から見ればMAとMSのバトル、粒子量に違いがあり過ぎる点から見てシアのMSの方が不利に見える。が、シアのガンプラはヴェイガンギアから放たれる攻撃をことごとく躱し、ビーム砲までもを粒子変容フィールドで防ぎきってしまった。

 

『――――――』

 

「?」

 

 歓声にかき消されて聞こえなかったが、シアが何かを言った気がする。その言葉を聞いたカリマが激昂するように攻撃を繰り出そうとした瞬間に、シアのガンプラは容易くカリマのヴェイガンギアを戦闘不能に陥れてしまった。

 

「……綺麗な壊し方」

 

 隣にいたミサトがそう呟く。彼女の言葉を聞いて改めてカリマのガンプラを見ると、ガンプラの関節部を綺麗に破壊して戦闘手段を奪っている事に気付く。

 

「私にはできないやり方だね」

「お前の場合は下手すれば粉々だろう……」

 

 メイオウとか本気でやられるかと思ったからな?実際、後輩達がいなければ戦えなくなっていたし。まあ、良くも悪くも手加減をしないというのはミサキの良い所かもしれないが―――

 

 

 

 

「気に入らねぇな」

 

 

 

 

「!?」

 

 すぐ隣からの声に驚きつつも顔を向けると、凄まじい形相で歯軋りをしながら腕を組んでいる男の姿が目に入る。というよりナガレだった。いつのまにそこに居た?あまりにも近すぎて後ずさりしてしまった……。

 

「な、ナガレか……驚かすな」

「上からお前の姿を見かけて来ただけだ」

「え、誰?レイ君の友達?」

 

 不機嫌そうに会場を見つめるナガレに気付いたキリハラ姉妹が、俺の背から覗き込むようにナガレを見る。壁にされているような気分だが、彼女達はナガレとは初対面……とりあえずの紹介を済ますまで甘んじて受けるしかない。

 

「何が気に入らないんだ?」

「このバトルに決まってんだろうが」

「……ガンプラ学園から一人しかバトルに参加してないことに関係あるのか?」

 

 何かしらの不備で一体しか出せなかった、という可能性もあるだろうが。そうだとするならば一旦試合を先延ばしにする筈。そうしないということは―――。

 

「キジマは任意で一体だけで戦わせたのさ。どういう理由か知らねぇが舐めてやがる」

「……意趣返し、か?」

「ああ?」

 

 俺は合宿二日目に起こった事についてナガレに話した。内容としてはカリマ・ケイに練習台としてバトルを申し込まれた事と、それに対してどれだけキジマが憤りを抱いていたかを……。

 

 その話を無言で聞いていたナガレはさらに歯軋りを強め、鬼のような形相を浮かべる。

 

「あのカリマっつー野郎が、キジマにとっての気に入らねぇ事をやらかしたのは分かるぜ?だがよぉ、わざわざ餓鬼みてぇな仕返しをする意味が分からねぇ。どちらにしろ気に入らねぇ。それもわざわざ妹で試そうとするなんざ……」

「……妹?」

「知らねぇのか?今戦っていたのは、キジマ・シア。キジマ・ウィルフリットの妹……らしい。俺も今日初めて見たが、名前が合っているという事は間違いではなさそうだ」

「意外……じゃあないな」

 

 先程のバトルで実力は証明されている。……本当にキジマが意趣返しとしてこのバトルを行ったとしても、そもそもの原因はカリマにあるからキジマを責める理由は俺達にはない。

 カリマにバトルを挑まれた時は、俺自身も憤りの気持ちを抱いてはいたが、それはメイジンが仲介したバトルによって清算された。

 

「―――そろそろ行く。これ以上ここに居っとカナコの奴が探しに来そうだからな」

「?……ああ、またな」

 

 暫し無言で考え込んでいると、ナガレが不機嫌な顔を少し緩和させながら、上の観客席に上がる階段の方に歩いていく。

 ナガレの姿が見えなくなると、俺の後ろに居たミサキが遠慮気味にこちらへ声を掛けてくる。

 

「あの人も大会出場者?」

「佐賀県代表チームのナガレ・リョウヤ。ミサキとは違った意味で怖いファイターだよ」

「へぇ……」

 

 ミサキの目が細められる。好戦的なものを感じさせるその眼に彼女の後ろにいるミサトは「またか」と言わんばかりに額を抑えている。

 

「選手権出場者にバトルを挑みたいなら大会が終わった後にしてくれ……」

「ちゃんと分かってるよ」

「姉さん……」

「何でこんなに妹から信頼されてないんだろうね、私……」

 

 そりゃあキョウスケとマサキの時の事を思い出せばそうなるわ。

 

「……後輩達を待たせているから行くぞ」

「はーい」

 

 今日で全ての一回戦が終わる。

 ―――目的の試合も見た事だし、ノリコとコスモと合流して明日の為の準備でも……。

 

「レイ君、近くに模型店とかあるかな?」

「前から思ってたけど、お前結構いい性格してるよ」

「そ、そうかな?」

「今のは照れる所じゃないよ姉さん……」

 

 色々苦労しているんだな、と少しばかりミサトに同情しつつ、こちらを見つけ手を振っている後輩達の居る方へ向かっていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュウト君、明日の相手」

「……強い、でも僕達なら……勝てる」

 

 選手が泊まっているホテルの一室。

 三人の男女がテレビの前で悩ましげに明日の二回戦に備えてのミーティングを始めていた。

 

 一人は、優しげな風貌の少年。

 一人は、やや釣り目の少女。

 一人は、静かに目を瞑った少年。

 

 彼等の前に置かれているテレビのモニターには一回戦、チーム『イデガンジン』の試合内容が映し出されていた、

 

「この相手に接近戦は危ないだろうね」

「え?でもそれじゃあ……」

「見た目に騙されちゃいけない。半端な覚悟で突っ込んだら間違いなく返り討ちになる……リオ、アオイ、君達は僕のサポートをお願い。絶対に一対一で戦おうとはしないで」

「分かった」

「……」

 

 リオと呼ばれた少女とアオイと呼ばれた少年が頷いたのを見て満足そうに頷いた少年は、テーブルの上に置いてある3体のガンプラに視線を移し、そのうちの一体を手に取る。

 

「初めての全国、皆で勝利を勝ち取ろう!」

 

 手に取ったガンプラは、ガンダムタイプ。

 原典は機動戦士Zガンダムに登場するMS、ガンダムmk2。その改修型。全体的に大きな改修はされてないものの、元になったとされるmk2とは違う。背部に増設されたミサイルが内蔵されたスラスターユニット、腕部に装備され板状の武装。

 

 その名は『ガンバインmk2』。

 凶鳥を目指し作られた、ガンダムならざるガンダム。

 

 そして、凶鳥を支える二つの翼、Gディフェンサーの改修機。

 4つの砲台を取り付けられたGガンナー。

 重厚な鎧とスラスターに包まれたGボクサー。

 

「凶鳥の羽ばたきは神にも届くことを明日、証明する!!」

 

 岩手県代表、南原学園、チーム『凶鳥の羽ばたき』。

 

 

 ―――二つの翼を携えた凶鳥が牙を剥く。




 感想欄で要望のあったヒュッケバインを出させてもらいました。
 仕様はヒュッケバインmk2ではなく、mk3の方にしたいと思います。

 加えてGディフェンサーの改修機として、AMガンナーとAMボクサーもあります。出した大きな理由としては、SRXが出せないならボクサーを出せばいいじゃないか、という天啓が降りたので、突発的に出しました。

 名前の由来はガンダム+ヒュッケバインで単純にガンバインです。ダンバイン?ははは、何の事やら(メソラシー)

 新しく出たキャラに関しては何も合宿に居ただけがメインキャラじゃなくてもいいかなーと思って試しに登場させました。

今日もう一話更新することができたら、更新したいと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~凶鳥~

二話目の更新です。

今話はバトルが二つあります。


『Battle!Start!!』

 

 プラフスキー粒子によって生成された宇宙に三つの光が飛び出す。チーム『ホワイトウルフ』、鹿児島県代表、我梅学園の生徒である。彼らの高機動型ザクが敵機が出てくるであろう場所へと飛ぶ。

 

「敵は……?」

「へっ、怖じ気づいたんじゃねぇのか」

「俺達にビビってさぁ!」

 

 ホワイトウルフのリーダー、ザク・マーナガムを駆るマツナガが停滞するデブリを避けながらフィールドを進む。彼のチームメイトであるザク・アルヴァルディのコシバとザク・クラーケンのウズキは、軽口を叩いているようだが、それも彼らなりの緊張をほぐす為の手段。

 

 いつもの事、と思いつつ索敵を続けていると、前方から反応が三つ。

 ―――敵だ。

 

『ハッハァ!!狼を食らうのも面白れぇ!!』

 

 1機が突出してこちらへ凄まじいスピードで迫る。あれは近接特化型のガンプラ、Gマスター。それがアストレイタイプのガンダムと、可変MSを率いて来る。

 チーム『大黒刃』、ホワイトウルフの二回戦での相手である。

 

「ウズキ!!」

「俺に任せろ!!」

 

 ザククラーケンが両肩のファンネルと両腕のマニュピレーターを射出し、オールレンジ攻撃を仕掛ける。相手が一纏めになっているこのタイミングで使えば、こちらを優位な状況に持っていくことができる。

 ビームを放ちながら先行していったファンネルに対し、先を往くGマスターは靡くマフラーを身に纏いさらにスピードを上げファンネルに突っ込んでいく。

 

「何を―――」

 

『バカ一号!落とせ!!』

『うぉっしゃぁぁぁぁ!!!ゲッタァァッ!ビィィィィィィィム!!』

 

 どういう原理なのか、身に纏った黒いマントから漏れ出すように大量のビームが放たれる。不安定な機動を描いた閃光は、宙を舞うファンネルに次々に直撃し、爆発を引き起こした。

 

「んなバカな……!?」

『バカ二号!!突撃!!』

『心得た!!』

 

 パワードレッドを改修したであろう黒いアストレイが、その手に大剣を掲げ突撃を仕掛ける。

 

「調子に乗るんじゃねぇ!粉々にしてやる!!」

 

 両手のスパイクシールドを構えたザク・アルヴァルディが、大剣を掲げバカ正直に突っ込んで来る黒色のアストレイに応戦するべく飛び出した。

 

『いざッ勝負!!』

「食らえやぁぁぁぁぁ!!」

 

「待て!」

 

 露骨な誘い―――それを止めようと前に出ようとしたザクマーナガム、しかしその瞬間、上方から凄まじい速度で何かが落下してきた。落下してきた可変機体はザクマーナガムの背後を取ると同時に変形し、鋏に似た形状のバックパックを前方に転回し、そのままザクマーナガムを挟み込んだ。

 

「なッ!?粒子がッ!?」

 

 粒子が凄まじい速さで減っていくと同時に、凄まじい強さで挟まれ軋む機体。ギギギと背後を振り向くと、逆さのままこちらを挟み込んでいるMSが映し出される。

 

 不気味に光るモノアイ。白色の配色―――そしてあれは……。

 

『短期決戦で行かせて貰う!』

「マガノイクタチッ!ヴァンセイバー改か!?」

 

 ヴァンセイバーに敵機のエネルギーを吸収する武装、マガノイクタチを装備させたガンダム。本来は相手に接触せずとも吸収できるらしいが、相手はこちらの動きを止める為に両腕ごと拘束している。

 拘束と無力化を同時に行えることができる厄介な武装……まず一人では解けない。

 

「ぐあああああああ!!」

「ウズキ!?」

 

 ザククラーケンがGマスターの拳によって貫かれ戦闘不能に陥ってしまった。

 これでは相手の思う壺、せめてもの抵抗として右腕に装備されたビームマシンガンを、黒いアストレイに突っ込んでいったザク・アルヴァルディへの援護の為に撃ち出そうと動かすとするも、背後にいるヴァンセイバーがビームライフルでビームマシンガンを落とし、それも失敗に終わる。

 

「く……ッ、コシバ!下がれ!!」

「……ッ!?クッソォォォォォォ!!」

『向かってくるかッその意気や良し!!』

 

 こちらに気付いたコシバだが、目の前から突撃してくる黒いアストレイの凄まじい気迫に我に返り、再びスパイクシールドを構えスラスターの出力を全開にする。

 

「まずはテメェを倒して次だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『推して参る!』

 

 スピードを上げたザク・アルヴァルディを迎え撃つように、黒いアストレイは身の丈を優に超える大剣を軽々と横に構え、さらにスピードを上げる。

 

『チェェェストォォォォォ!!』

「な……早……」

 

 常軌を逸したスピードで薙ぎ払われた大剣はザク・アルヴァルディの構えた盾に叩き付ける。叩きつけられた盾は一瞬の抵抗を見せるもその腕ごと吹き飛ばし、そのまま胴体をすれ違い様に切り裂いた。

 

「我に……断てぬもの無しッ!」

 

 一瞬の静寂と共にザク・アルヴァルディは爆発し、バトル続行不可能となった。

 それと同時にザクマーナガムの粒子が底を尽き、バトルが終了した……。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

「凄まじいな」

「色々な意味で凄まじいです……」

 

 ホワイトウルフと大黒刃の試合を控室で見ていた俺達、チーム『イデガンジン』。二回戦を突破した後は、ナガレとのバトルに決まった。決して楽ではない戦いになるだろう。

 ナガレのGマスターは勿論、あの黒と赤が混じったアストレイ。戦国アストレイのような重厚な機体からは想像もつかない速さと、パワーがある。あの斬艦刀、と言った大剣から繰り出される一撃は、彼の言ったとおりに全ての装甲を断てる威力を伴っているに違いない。後……多分、あれも硬い。

 

 そして要注意なのが、あのマガノイクタチを装備しているヴァンセイバー。正直言って粒子吸収は怖い。装甲なんて関係無しに問答無用で粒子を奪ってくる……ノリコとコスモの天敵と言ってもいい。ナガレとのバトルを優先させたい気持ちはあるだろうが、三回戦はカナコの相手をしなければならないかもしれない。

 

「先ずは眼の前のバトルだな。ここで負けては対策も何もない」

「負けませんよ!私達!」

「どんな強い相手でも……行けます」

「やる気は十分だな?行くぞ!」

 

 制服を正し、会場へ移動する。相手はMSとMAを巧みに操るトリッキーな戦術を用いるチーム、『凶鳥の羽ばたき』。

 バトルシステムが鎮座する会場に入り込むと、観客席から歓声が上がる。一回戦とはまた違ったその歓声に、少し緊張しながらも、見渡すと。見知った顔が応援席に居ることに気付く。

 

『応援しに来たぞー!』

『……あまりはしゃぐな……』

 

「キョウスケにマサキ、来たのか」

 

 二人に軽く手を挙げると、それに気づいたマサキが大きく手を振ってくる。キョウスケは腕を組んだまま微かに微笑を洩らしただけだ。

 ……ミサキとミサトも来ているのだろうが、人が多すぎて姿が確認できない。

 

『これよりチーム『イデガンジン』とチーム『凶鳥の羽ばたき』のバトルを開始いたします』

 

 運営のアナウンスの声と共にバトルシステムに立った俺達はそれぞれのガンプラを置き、バトルの準備を済ます。目の前に現れた球体に手を置きゆっくりと深呼吸しながら、心を切り替える。

 

「ジンクスⅣオリジン!アンドウ・レイ、出るぞ!!」

「ガンバスター、タカマ・ノリコ、行きます!」

「イデオン、ユズキ・コスモ、発進する!」

 

 カタパルトからガンプラが走り出し、空間に浮き出した穴から飛び出す。ステージは……荒野?いや岩石地帯?壁の聳え立つ巨大な岩が並ぶこのステージで戦うという事か。

 

 俺が空を飛び、ノリコとコスモには地上を走ってもらいながらも地形を把握する。重力があるステージではMAの相手が有利か。考えて行動しなければマズイかもしれない。

 

「コスモ、イデオンガン発射準備」

「え?でもこれを使ったら……」

「相手は一回戦の俺達を見て慎重になっているはずだ。出てこざるを得ないように燻りだす」

「了解」

 

 イデオンガンを機体に接続し前方へ向ける。その間、俺とノリコは一回戦の時と同じように無防備なコスモを守るように周囲を警戒する。岩に囲まれているせいか視界が悪い。

 GNロングビームライフルを構えながら宙を漂っていると、頭上でギラギラと輝きを放っている太陽に微かな違和感を感じた。一瞬、何かが動いた……首を動かし上を見上げると―――。

 

 太陽を背にしてこちらを見下ろしている、一機のMAの姿がモニターに移り込む。

 

「しまった……ッ!コスモ避けろ!!」

「……え?」

 

 コスモの砲撃を妨害する時間はいくらでもあった。だがそうしないということは、あちらはコスモのイデオンガンよりも早く、こちらへ攻撃を仕掛けることができる砲撃を放つことができるという事……ッ。

 

 斜め左方向から光が見えると同時に、二つの巨大なビーム砲がコスモとノリコの居る位置に放たれた。ノリコはビームが来る前に回避できたようだが、チャージ途中にあったコスモはイデオンガンを切り離した瞬間に、片足とイデオンガンがビームに飲み込まれ消滅してしまった。

 

「やられたかッ。俺が先行する!!コスモ動けるな!?」

「動く分には支障ないです!!」

『外した!?』

 

 空に居るMAはこの際無視。目下はあの砲撃を放ったであろうファイターを先に撃墜する。

 見えたのはGディフェンサーの改修機と合体?しているガンダムmk2の改修機の姿。―――イデオンガンのように合体した二機は近づいてくるこちらを視界に納めると、砲身として合体したであろうGディフェンサーをこちらに向け、ミサイルを放つ。

 

『やるね……でも!!』

「これ以上やらせない!!」

 

 GNロングビームライフルを構え粒子ビームを放つ。放たれたビームは射線上にあったミサイルを撃墜しmk2へと突き進む。

 

『リオ!解除だ!!』

『ええ!』

「分離か!」

 

 分離することでビームを回避したmk2。スラスターを噴射させているようだが、あれは長く空中に居られないと見た。ノリコに合図を促し、彼女を先行させつつ背後からビームを放ち援護する。

 

「でぇいやあああああああ!!」

『すごい迫力だ……!!』

 

 ガンバスターの掲げた右腕から凄まじい量の電撃が放たれる。シールドでビームは防げてもアレを防ぐことはできない。

 ガンバスターが突き出した拳がmk2の掲げたシールドに直撃するその瞬間、上空からノリコのガンバスター目掛け何かが激突し、機体を地上に叩き付けた。

 

「いった!?」

『助かった!アオイ君!!』

「もう一機の方か……ノリコ!大丈夫か!?」

「へ、平気です!」

 

 叩き付けられただけなら大丈夫。コスモが追い付いたのを確認しながら、バスターソードを装備し重装甲のGディフェンサーへ接近戦を試みる。

 

『―――近づかせるな!!』

「!?」

 

 射撃型のGディフェンサーの背に乗ったmk2が背部のバックパックの上方を開きミサイルを覗かせると同時に、それを接近しようとしたこちらに連続で射出する。残りの二機もミサイルを放つ。

 

 この距離でこの量は多い……恐らく追尾式であろうコレを回避しきるのは至難の業。

 

「先輩はやらせない!!」

「バスタァァァァァッ!ビィィィィム!!」

 

 後方から放たれた小型ミサイルと地上から伸びた光線がこちらへ迫るミサイルを撃ち落とす。ノリコとコスモの支援攻撃―――後輩たちのアシストを頼もしく思いながら、再びバスターソードを握り直し前へ進む。

 

『リュウト!?』

『アオイ、Gボクサーコンタクト!!』

 

 白煙を切り払った先では、重装甲型のGディフェンサーがmk2の背を覆うような形でドッキングしていた。それだけではただのスーパーガンダムだろうが……違う。

 

 Gディフェンサーに折りたたまれていた中央部のアーマーが下に降り、mk2の脚部を包み込むように収まり、側方に備え付けられた既存のMSのそれをはるかに超える腕部は、mk2の両腕に重ねるように装備される。

 ―――Gセルフ、高トルクパックのような一回り大きい姿になったmk2は両の拳を大きく打ち鳴らし、拳をこちらへ向け叫んだ。

 

『これが僕のガンバインとGボクサーの最強形態!!ガンバイン・ボクサーだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガンバイン……ボクサー?」

 

 トライオン3みたいな合体機能を持ったガンプラ。恐らくあの形状からみてセカイ君のように拳で戦うタイプのガンプラのようだ。あの両腕をかぶせるように装備された腕から繰り出される一撃は想像したくない。

 

「……ガンダムmk2とGディフェンサーをあんな風に使うなんて……盲点だった」

「どういうこと、ユウ君?」

「よく考えてみてください。あれは二機分の機体の粒子が合わさっている機体なんです。つまり単純に出力が二倍……いや、それ以上かもしれません」

 

 そう考えると出力という面では強力。

 

「一回戦で見たトライオン3、あのガンプラにも同じことが言えます。しかしあのガンバイン、といったMSの合体形態は一つではない」

 

 Gガンナーと呼ばれていた機体が合体した姿、あれが最初にレイさん達を襲ったビームを放った。射撃に特化した形態と格闘に特化した形態を使い分けることができる。しかもmk2を操縦しているファイターも只者じゃない。戦闘の最中に隙の多い合体を戸惑いもなく行うのは驚嘆に値する。

 

「仲間を信じなくちゃ……できないよね」

「少なくとも、お互いを信じなくては無理でしょう」

 

 攻撃されるかもしれないという不安の中、自身の機体の全てをリーダーに任せる信頼。そして仲間の身を預かる精神力、そのすべてを兼ね備えてこそ成し得る合体……。

 

「それが、ガンバイン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年の選手権はどこか違っているようだな……」

「え、ええ、そうね」

 

 レディ・カワグチは現在行われているバトルに戸惑いを感じていた。

 いや、現在行われているバトル以前に、今年の大会は参加メンバーが選ぶガンプラはどこかガンダムとは思えないものばかりなのだ。メイジンは大雑把なものしか理解していなさそうだが、彼女は大体を理解していた。

 この試合では―――

 

 イデオン

 ガンバスター

 ヒュッケバイン

 AMガンナー

 AMボクサー

 

 一応言っておくが、今挙げた機体はガンダムではない。別作品のロボットだ。プラフスキー粒子の万能性が引き起こした産物ともいえるこの状況に、彼女は思わず頭を抱えた。

 ツッコみたくない。

 ツッコむと自分の年が老けて見えるようになってしまうから。

 第一、高校生でイデオンとかを知っている事に驚きだ。普通はファーストガンダムに目が行くはずなのに……。

 

「スーパーガンダムをこのような形にするとは……ッ見事!」

「最初に砲撃を行ったGディフェンサーも合体していたわね」

「二機の粒子エネルギーを統合してでの大出力砲撃だろう。一機での砲撃よりも早い事に加え威力も高い」

「チーム『イデガンジン』は一杯喰わされたという事かしら?」

「いや、レイ君は仲間に砲撃が放たれる前に位置を伝えていた。Gディフェンサーの居場所及びその目的を瞬時に理解し、仲間に指示を伝えた。この場合、二つのチームの実力は拮抗していると見てもいいだろう」

 

 流石メイジン、見事な観察眼。恐らくここからの戦闘は力と頭脳が試されるチーム戦。制限時間15分以内に決着をつけることが問題になってくる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度ォ!!」

 

 ノリコが飛び上がり、上方へ向かって雷を拳を纏わせた拳を突き出す。それに合わせるように俺もバスターソードを突き出す。

 

『ガイストナックル!!』

「バスタァァァブレイカァァァァァ!!」

 

 淡い光を帯びたmk2の拳とノリコの雷撃が、目の前で激突し閃光を散らす。一瞬の拮抗こそ見えたが、打ち勝ったのはmk2。

 

「勝てない……どうして!?」

『力を合わせたんだ!!』

「二人分だからってッこっちも二人だよ!!」

「ノリコ!!」

 

 バスターソードの切っ先が、ガンバスターの頭を潰さんがばかりに拳を掲げたmk2の右腕に当たり、弾く。僅かに動揺したのも束の間、巨大な足でガンバスターを蹴り飛ばしながらこちらへ振り向いたmk2は、再び拳にエネルギーを纏わせる。

 突き出された拳をバスターソードで受け流しながら、一気に上方へ円を描く様に加速し、mk2の背後を捉える。

 

「コスモ俺ごと撃て!!」

「了解!!」

『なっ!?』

 

 接近していたイデオンの胸部と腹部の間のクリアパーツから大出力ビームが放たれる。イデオンガンへチャージしたエネルギーをそのまま放ったもの。イデオンガンよりは遥かに威力は落ちるが、それでも並のガンプラを戦闘不能にする威力がある。俺はGNフィールドである程度防げる。

 後はこちらを押さえつければ―――

 

『リュウト!!』

「支援攻撃か……ッ!?」

 

 最初に分離していたGディフェンサーがミサイルをこちらへ放ってきた。やむを得ずmk2を抑えた腕を離し、追尾してくるミサイルを迎撃するべくその場から離れた。

 

『はずれた!分離!!』

「コスモ!!」

「全方位!発射!!」

『皆、避けろ!』

 

 分離し回避したが、易々と距離を取らせるほどこちらも甘くはない!最後のミサイルを撃ち落とし、そのまま照準をmk2に向け、ビームを放つ。支援機二機はミサイルに狙われて動けない。今がチャンス。

 しかしそれも相手が引き抜いたサーベルによって切り払われる。

 

『僕だって!負けたくない!!』

「それは誰だって……ッ」

 

 こちらもサーベルを抜き放ち斬りかかる。緑色のサーベルと赤色のサーベルがぶつかり合い、眩い光が散る。落下しながらも剣閃を交わす。接近戦ではこちらに分がある。が、支援機の事を考えると時間はあまりない。

 サーベルで押し切られた一瞬の隙をついたmk2は腕部の板状の装備をその手に持ち、こちらへ投げつけてきた。こちらへ回転しながら飛んできた板は十字となり、電撃を纏いながらジンクスを切り裂かんばかりに向かってくる。

 

『フォトンスラッシャー!!』

「無線兵器……?」

 

 ビームで弾いても少しブレるだけ。ビームはあまり効果がないと判断し、サーベルで回転自体を止めるように切り払い地上へ落とす。

 ―――距離を与える時間を与えてしまった。容易には近づかせてくれないだろうから……その隙を作らせるのみ!

 

「ノリコ!ホーミングレーザー!!」

「はい!」

『く……』

 

 簡易型のホーミングレーザーを手の平から発射し、mk2へと殺到させる。こちらも被弾する可能性がある危険な行為だが……仲間を信じなければ何がリーダーだ。被弾覚悟でレーザーの雨を潜り抜け、回避に専念しているmk2をモニターに捉えると同時に、mk2の肩にサーベルを突き刺し方にマウントされているバスターソードを手に取る。

 

「これで―――ッ!?」

『させない!』

『リオ!?』

 

 幾分か被弾したように見えるGディフェンサーがこちらの動きを邪魔するように体当たりをしてきた。反動でバスターソードが手から離れ地上に落ちて行ってしまった……。

 

『まだ動けるわ!』

『………アオイ!もう一度合体するぞ!!』

 

「しま……ッ」

 

 気付いた時にはもう遅く、凄まじい速さでガンバインボクサーへと合体を果たしたmk2は、ミサイルを放ちながら近づいていったコスモのイデオン目掛けて下降気味の蹴りを放つ。赤熱したように赤く光った脚部はコスモのイデオンの右肩に叩き込まれた。

 ――――堅牢なはずのコスモのイデオンの装甲が割れる。

 

『カタパルトキィィック!!』

「ぐあッ……」

「コスモ!?」

 

 蹴られた勢いで地上へ消えていくイデオン。

 

「コスモはまだ倒れていない!」

「分かってます!!」

 

 mk2から距離を取ると同時にコスモを助けに行く。

 残り時間も少ない……早く決着を付けなければ負けるのは俺達かもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……強い……強すぎるよ……」

 

 僕たちの攻撃が有効打に成り得ない。県大会ではどんな相手の装甲も砕く事もできたのに、今回のバトルはどうだ?イデオンもガンバスターも硬いし、ジンクスのパイロットは巧い。仲間への指示もガンプラの操作技術も……。

 今は押しているが、粒子量と皆の損傷を考えると、残り時間のうちに押されてしまう可能性が高い。

 

「リュウト、アレをやりましょう」

「あれをやったら君の機体は保たない……」

 

 あれは機体がある程度万全な時に使用を限定した広範囲攻撃。今のように損傷を受けた状態での砲撃は、リオのGガンナーが自壊してしまう可能性がある。

 

「くっ……」

「……俺達はなんのために戦っている?」

「アオイ……?」

 

 何時も無口な彼の言葉……何のために?勝利の為……いや違う、そんな目的は県大会で優勝した時にもう果たされた。なら何だ?

 全国で優勝するためか?

 強いファイターと戦うためか?

 いや、違う。全然違う。

 

「皆で勝ちたいからでしょ?」 

「それが俺達のガンバイン。そうだろうリュウト」

「……そうだったね」

 

 きっと目の前の彼らも同じ、皆で勝ちたい。だから皆で戦える機体を作った。合体も飛ぶこともできつつ、特別なカッコいいロボット。

 

「私の事は気にしないで、だからGガンナーの全ての粒子を籠めた一撃を……!」

「……分かったよ。ボクサー!ガンナー!ジェネレーターフルコンタクト!!」

 

 僕達の奥の手、ガンバイン、Gボクサー、Gガンナー全てのジェネレーターを直結させた必殺技。最高出力の砲撃。

 

「二人とも、僕に力を貸して!」

「貴方が望むなら……」

「お前に委ねるぞ!」

 

 GガンナーとGボクサーの全ての粒子エネルギーがガンバインに注ぎ込まれる。エネルギーは十分、行ける。照準は下方に居る敵機に定める。

 

「ジェネレーターコネクト!ターゲットロック!!」

 

 4つの砲身に集められた紫色の粒子エネルギーが溢れ出し、球体へと変化する。この威力、食らえば唯じゃ済まない……。

 

『まだ俺達は!負けてない!!』

「……ッ!」

 

 ジンクスに支えられたイデオンと、ガンバスターがこちらを向いている。イデオンが両腕に、ガンバスターは頭部にエネルギーを集約している。

 

『ガンプラがファイターの思いで強くなるなら……応えて見せろ!イデオン!!』

『私達は……負けない!!』

 

 装甲の隙間と罅割れた肩部から赤色の光が漏れ出しイデオンの体を包み込む。あれが何の光かは分からない。だがとても危険な光だということは理解できる。

 

 でもいまさら引けるか!こっちだって捨て身の覚悟で仕掛けるんだ!

 

「フルインパクトキャノン!!」

 

 4つの砲身で収束したエネルギーはそのまま凄まじい奔流となり前方へ放たれる。前方に固定したGガンナーの機体が軋む―――これ以上の出力はGガンナーが崩壊する……ッ。

 

「でも、ここでやめたら男じゃない!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

『イデオンッソォォォド!!』

『フルパワー!バスタァァァァァビィィィィィィム!!』

 

 双方から強烈なビームが放たれる。

 一方は紫色の四つの光線。

 一方は、白色の二つの光線と、黄色の光線。

 天と地から放たれたそれらは激突し嵐を呼び、岩々を削り取るほどの衝撃を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場は静まり返っていた。誰もがこのバトルの行く末に注目していた……。

 光で満ちたモニターを仁王立ちで見ていたメイジン・カワグチ。最初こそは座っていた彼だが、バトル中盤になってからはいつの間にか椅子から立ち上がり、迫真の表情で彼らのバトルに注目していた。

 

「……お互いの力を本気でぶつけ合う、燃え上がるなぁッガンプラ!!」

 

 加えて懐かしいものまで見せてもらった。

 サイコフレームの輝き、かつて自身が扱っていたあのガンプラに重なる光をまたこの目に見るとは思いもしなかった。……ガンプラが楽しくて楽しくて仕方がなかったあの頃の自分を見ているようだ。

 

「これで終わり、という訳ではないでしょうね」

「勿論、ここで終わるなどありえないだろう。時間制限など以ての他」

 

『カタパルトキィィィィック!!』

 

 ビーム同士の激突により生じた砂煙の中から飛び蹴りを放つガンバインボクサーの姿がモニターに映し出された。そう、まだ終わっていない、彼らはまだ諦めていない。

 勝利を掴むことを、バトルすることを諦めていないのだ。

 

『トランザム!!』

 

 同じく地上から一気のMSが飛び出してくる。

 灰色の装甲を赤く輝かせたガンプラ、自身の体から流れる赤色の帯を赤い軌跡として上昇したジンクスⅣオリジンは、mk2の繰り出したキックとランスを激突させる。

 

「今こそ流星となり駆け巡れ!!レイ君!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあああああああ!!』

 

 ノリコとコスモが開いてくれた活路、無駄にはしない。

 二人の粒子エネルギーを全て使い切らなければ防げなかったあの砲撃はもう撃てない。

 

『負けるかぁぁぁぁ!!』

「ッ!!」

 

 mk2がキックから突如姿勢を変え、無理やり拳を繰り出してきた。それがトランザム中のジンクスの腹部に当たり体勢を崩す。その隙をついたのか、粒子を集めた拳を続いて叩き付け、無理やり距離を取られてしまった。

 

『アオイ、スラッシュモード起動!』

『ああ!』

 

 距離が開いたその瞬間、mk2の機体を覆っていたGディフェンサーが分離し、脚部の部分が変形し刃のような形状になり、その上にmk2が乗る。ボードのようにそれを乗りこなした相手は、俺目掛けて突撃してくる。

 

『Gソード!ダイバァ――――!!』

「そう来るか……ッ!」

 

 クリアランスを出している時間はない。ならば、腕部の粒子の帯を巻き付けそのまま迎え撃つ。

 

『行ッけぇぇ!!』

 

 剣に変形したGディフェンサーの威力を上げる為か、そのまま勢いよく押し込む様に飛び降りたmk2。加速するGディフェンサー。

 

「右腕は……くれてやる!!」

 

 アシムレイトが発動しているのは百も承知。その上でカウンターの要領でGディフェンダーに粒子を纏った拳を突き出した。拳が激突すると共に右腕に激痛が走るが、構わず拳を振り切り、Gディフェンサーを押し返す。

 

 歯を食いしばり痛みに耐えながらも空いている左腕で、ランスの外殻をパージしクリアランスへと変える。

 

「ぐ、おおおおおおおお……」

『……な!?押し返している……!?』

 

 左腕のランスを逆手に持ち、上から押し返したGディフェンダーにランスを突き刺し、行動不能に陥らせる。抵抗を失ったGディフェンダーが地に落ちていく。だらりと下がった右腕部、こちらも右腕が死んだ……。

 

 痛みで荒くなった息を整え、間髪入れずに逆手に持ったままのクリアランスから長大なビーム刃を発生させる。呆然と宙を漂っていたmk2は近づいてくる俺の機体をしっかりと見て、やり遂げたような声音で小さく何かを呟いた。

 

『……出し切ったよ……僕……』

「ッ!……最高の……バトルだったッ!」

 

 すれ違い様に振るわれたビーム刃はmk2の肩から脇腹付近までを切り裂いた……。

 

 

 

【BATTLE!END!!】

 

 

 

『二回戦!このバトルを制したのは暮機坂高校チーム『イデガンジン』です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ったのはレイのチームか。へっ、上等だ」

「きつい戦いになりそうだ……」

 

 激戦を制したのはチーム『イデガンジン』。イデオンとガンバスターを率いるジンクスのチーム。多分、どんなに対策をとっても安心はできないだろう。

 なにせ、イデオンの発した光、ガンバスターの電撃……そしてジンクスの赤い光の帯、腕に巻き付けて殴るとか普通は考え付かないでしょ……。

 

「なに難しい事考えてんだよカナコ」

「あんたらが考えない分私が考えているんでしょうが!!」

「経験上言わせてもらうがよぉ……レイみてぇなチームにはな、力押しの方がいいんだよ」

「そりゃ……お前らはそうだろ!」

 

 大会で遠距離中心のチームがいた時のこいつらの行動はいつも同じ。とりあえず手持ちの武器をブーメランの如く投げつけることだ。ナガレは良い、ちゃんと戻ってくれるから。

 でもセンガは一撃必殺とばかりに力の限り投げつけるから投げる機構をつけても戻ってこない!

 

「……お前らはいつも通りにやっていいよ……私は私で頑張るよ……」

 

 でも、いくらこいつらでも簡単にはいかないだろう。

 そんな漠然とした予感を感じながら、今日何度目か分からない大きなため息を吐くのだった……。

 




正直に言うと本編でホワイトウルフってあまり戦っているシーン無いからどんな戦い方するか分からないので、書こうにも書けなかった……。

トライオン3が三機分粒子エネルギーを持っている、という話から、合体すれば粒子エネルギーが普通の機体より多くなると解釈しました。


前話で書くのを忘れていましたが、アオイの元キャラはいません。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~完成~

アニメ本編もいよいよ佳境に入ってきました。

こちらも休みが明ける前にどんどん更新していきたいです。


名称を『アドヴァンスドパック』から『アドヴァンスドブースター』に変更致しました。




 二回戦終了後、相手チームのリーダーであるリュウトと握手を交わし、一言二言会話した後に会場を出たが、その時、最後の一撃で捨て身で繰り出した俺の右腕には凄まじい痛みが襲っていた……。

 すぐに痛みは治まるだろうが、大事にならないよう一応手当だけはしようと思った俺は、後輩達に先にホテルに帰るように伝えてから医務室へと向かった。

 

 ……なかなかどうして、アシムレイトは使いどころが難しい。俺自身痛いのは嫌いなので、ここぞという時にしか使わないようにはしているが……これが慢性的になってしまったら、いよいよ専門家の手を借りるしかないかもしれない。

 ―――まあ、今の所俺に起こっているアシムレイトは突き詰めれば『すごい思い込み』だから、他の人がどうかは分からないが、これといって怪我を負っていないのが救いかもしれない。

 

「……失礼しま……ん?」

「あれ……レイさん、何でここに?」

 

 ……医務室でホシノ・フミナさん。西東京、聖鳳学園チーム『トライファイターズ』のリーダーと遭遇した。何故彼女が……?と思いつつ、右手を診て貰ってはいたが、病室で寝ているセカイ君を見る限り、大よその察しはついた。

 

「アシムレイト、か」

「知っているんですか!?」

「オレもそうだからな」

 

 手当して貰った右手を掲げると、眠っているセカイ君と俺を交互に見てホシノさんが驚く。ここでアシムレイトの事をばらしていいのか、と言われれば答えはYESだろう。別段バレても問題ないし、対策を立てられたとしても、ここぞという時にしか使わないから、立てた対策も意味を成さない。

 

「大丈夫なんですか……?」

「俺はセカイ君ほどのアシムレイトは発動していないようだから多分大丈夫。セカイ君は……?」

「セカイ君なら、もう少しで目が覚ますって」

 

 それは良かった。彼自身もアシムレイトを使いこなしているようだし、余程の事が無ければ大事には至らないだろう。……合宿の彼を見た限りでは、彼が簡単にバトルを諦めるような性格はしていないのは分かる、今日の試合もかなりの無理をしていたようだから、少し心配だ。

 まあ、あまりにも危険な時は彼の仲間が止めてくれるだろう。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「あ、お大事に……」

「彼も」

 

 右腕の調子を確かめ、制服を持って立ち上がる。ホシノさんにも一声かけたので、医務室から出ようと思ったその時、医務室に誰かが入って来る。

 目の前で扉が勢いよく開いたので、驚きつつも入ってきた人物を見る。

 

「すいません。アンドウ・レイ君いま……ってあれ?意外と大丈夫そうだね」

「手を軽く痛めただけだ。明日には治る」

 

 入ってきたのはミサキだった。相も変わらず飄々としている彼女に微かなため息を漏らしながら、彼女を押しやり病室から出ていく。

 

「全く、アシムレイトに頼ってたら何時かガンプラが出来なくなっちゃうよ」

「好きで身につけた訳じゃないからな。でもフィードバックは最小限に留めるようにしてる。だからこそこれだけで済んでる」

 

 廊下を歩きながら俺の右腕に視線を向けて放たれたミサキの言葉に、そう返す。

 実際、アシムレイトの発動はトランザム中だけに限定している。父からも云われたがアシムレイトは『諸刃の剣』。飲み込まれ過ぎるとガンプラへのダメージが本物のダメージとなってしまう。

 父の『バトルができない体にはなりたくないだろう?』と低い声で言われたのがかなり効いたからな……。

 

「病室に居たあの子、聖鳳学園のチームの子もアシムレイト持ちだね?」

「そうだ」

「使いすぎだよ。アシムレイトを武器にし過ぎ。あれじゃあ試合の度に身を削っているようなものだよ。今日の試合だって、ボロボロだったじゃん」

「きつい物言いだな」

 

 ―――だが確かにそうだ。セカイ君はアシムレイトと相性が良すぎる。それを多用することは一概に悪いとは言い難いが、彼のこれからのガンプラバトルを思うならば――――。

 

「俺には止める資格はないよ。俺もアシムレイトを武器として使っているからな」

「……そうだよね」

「セカイ君はそのへんも分かっていると思うぞ?それを抜いても彼にはチームメイトがいるんだから、もしもの時はちゃんと止めるさ」

「確かにね」

 

 俺自身、アシムレイトに関しては、今もまだ悩んでいる途中なのだ。全国が終わった後もこの力を使い続けるか、二度と使わないようにするか。

 

「まあ、今はこんな事で悩んでいる場合じゃない。三回戦の相手はナガレだ。一層気を引き締めて挑まないといけない」

「そこまでの相手なんだね」

「強敵さ、とびっきりのな」

 

 合宿の時はアシムレイトとトランザムが無ければこちらの負けだった。相手の堅牢さと剛腕、パワフルな攻撃に防戦一方だったが―――。

 

「アドヴァンスドブースター……」

 

 俺が持てる全ての技術をつぎ込んで作り上げたバックパック。後少しの所で完成するソレを完成させ、三回戦で想定し得る性能を引き出す事が出来れば、ナガレと互角に戦う事ができるだろう。

 

「……お腹空いちゃったなー」

「妹と食べてくればいいじゃないか。…………分かった分かった、そんな目で見るな……皆で行こう」

「流石分かってる」

 

 ホテルのバイキングに飽きてきた所だけども、その期待するように無言で見るのは卑怯だ。応援してくれた手前、断れないじゃないか……。

 

「気分転換も必要だよ」

「……ああ」

 

 三回戦までには日が空いているから特に損傷の酷いコスモのガンプラの修理は大丈夫だから―――。折角静岡に来たんだから、触り程度に街並みを見るのもいいかもしれない。

 

「じゃ、ミサトを呼ぶね?あ、ノリコちゃん達に電話しなくても大丈夫だよ。ミサトと一緒にいるから」

「……用意周到だな」

「偶然だよ、偶然」

 

 上機嫌に携帯を取り出すミサキ、こちらはため息を吐きながら通路の壁に背を預け、彼女の通話が終わるのを待つ。……ここのところずっとホテルか会場に籠りっぱなしだったから、精神的に余裕ができる時間をとるのも悪くはない。

 

「夕食は何にしようかな……」

 

 そういえばノリコがユッケとか言っていたな。

 この際だ、焼肉でもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、グラナダ学園のチームが宿泊しているホテル。その一室にてグラナダ学園のチームの監督、スリガはヨーロッパジュニアチャンプ、ルーカス・ネメシスに彼にとって意外な提案をされていた。

 

「……三回戦に出場……?」

「ええ」

「しかし、ルーカス。君が出るのは決勝トーナメントの予定だったのだが……」

「そうせざる得ない相手が4回戦で当たります。その為にいち早く準備をしておきたいのです」

 

 切り札として今まで温存されてきたルーカスが、突然出場を早めたことに困惑するスリガだったが、ルーカスは退く気が無いとばかりに頑なだ。

 

「今のレギュラーメンバーでは役不足と?」

「そうは言っていません。彼らは素晴らしいファイターで、将来性もあり確かな実力を持っている。しかし、これはルーカス・ネメシスという一人のファイターとしての願いです」

「君としての願い……?」

「チーム『イデガンジン』にチーム『大黒刃』。そのどちらもが決勝トーナメントに勝ちあがる資格を持つチームであり、僕がバトルしてみたいと思ったチーム」

「……ヨーロッパジュニアチャンプにそこまで言わせるのか……あの二校は……」

「僕の言葉が判断基準にはなり得ませんが……確実に強いです」

 

 それぞれが特異な機体を操縦して戦う二つのチーム。ルーカスは二つのチームのバトルにファイターとしての本能と言うべきものが滾るのを感じた。ルーカスは、ヨーロッパでの大会で何回か感じたあの昂ぶりがガンプラ学園以外に感じ取れた事が嬉しくてしょうがないのだ。

 

 圧倒的暴力を振りかざすマスターガンダム。

 洗練された剣技を見せるアストレイ。

 トリッキーな動きで相手を仕留めるヴァンセイバー。

 

 凄まじいパワーと電撃を発するザク。

 サイコフレームの光を纏うジム。

 機転と技量で相手を圧倒するジンクス。

 

「三回戦、彼らの試合は必見でしょう。きっとすごいバトルが起こります。そしてその勝利チームが四回戦で僕達の次の相手になる……」

 

 喜色がかったルーカスの声を聞き、スリガは彼の提案を受ける事を決心した。

 彼とて長年グラナダ学園の監督の場について何十人ものファイター達を育成してきた……。スリガ自身も元ファイターだったからこそ、分かる。

 今のルーカスは、自身が本気で戦う事ができる相手を見つけられたのだ。

 ガンプラ学園や、現在スリガが警戒している聖鳳学園以外で―――。

 

「分かった。君に全てを任せる」

「ありがとうございます」

「負けても文句は言わん。君の好きなようにやるがいい」

「僕は全力でガンプラバトルをするだけですよ。いつも通りに楽しむだけです」

 

 そう言い、嬉しそうな笑みを浮かべたルーカスはその場で席を立ち、ホテルの窓際から見える景色を見つめこれからのバトルに思いを馳せる。

 

「楽しみだなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかまさかの焼肉なんてビックリだよ」

「先輩、食べてから言うのもなんですが、何で焼肉なんですか?」

「え?お前達が食べたいと思ったんだけど……違ったか?」

 

 夕食は会場近くの焼肉店で済ませた。ここは静岡県のグルメ的な何かを食べるべきかな、とは思ったが、昼間、後輩達がユッケについて話していたのを思い出し、焼肉にしないかと提案した。

 ……しかし、食べた後から聞いてみれば当の本人達は焼肉を特に所望してはいなかったようだ。まあ、美味しく食べてたみたいだし結果オーライだろうけど、肩透かし感がすごい。

 

 小さく溜め息を吐きながら夏の夜風に当たり、街頭に照らされたホテルまでの道を歩いていると満足気なミサキがにこにこ笑いながらこちらへ声を掛けてきた。

 

「もう食べちゃったんだしもういいじゃないか。そんなことより、これからどうするの?」

「勿論ガンプラの修理だ。後はバックパックを完成させる」

 

 無事二回戦を突破できたことだし、これで不安もなくバックパックを完成させることができる。中途半端な出来で大会に出さずにしっかり仕上げ、三回戦でお披露目する。

 

「アドヴァンスドブースターだっけ?」

「そうだ、コンセプトは絶えずバトルを行う事が出来る安定性。俺が戦うファイターは武装を破壊するタイプが多いからな、武装を増やすと同時にそれが弱点にならないように機動力、推進力を上げるようにしている」

「安定……レイ君らしいね」

 

 リーダーとして求められるのは、絶えずチーム全体を見る事が出来る視野の広さと、どんな状況でも戦える技能。少なくとも俺はそう思っている。

 うんうん、と納得したように頷いているミサキに苦笑しつつ、一歩後ろを歩く形でついてくるノリコとコスモに振り向く。今日のバトルで二人にはどう感じたのか、気になった。

 

「……正直あんな簡単にイデオンの装甲が壊されるとは思いませんでした……」

「相手も強かった……ノリコは大きい損傷はなかったようだから、コスモのガンプラの修理を手伝ってあげてくれ」

「はいっ!」

 

 二回戦のバトルで一番損傷を受けたのはコスモのガンプラだ。脚部の損失、肩部の損傷、イデオンガンの破損。チームで一番頑丈なイデオンをそこまで損傷させるリュウト達のガンプラは本当に強かった。

 やっぱりガンプラバトルはどんなガンプラが出てくるのかも醍醐味だな。

 

「でも、イデオンガンを修理している時間はなさそうです。あれは大会ギリギリで完成したものですから……」

「何もイデオンガンだけがお前の武器じゃない。……というより次のバトルは広範囲攻撃はあまり意味がないかもしれない」

「と言いますと?」

「恐らく相手は一体一の勝負に持ち込んで来るだろう」

 

 少なくともナガレは……我梅学園のバトルでも若干の個人プレーが目立っていた。というよりもう一体のセンガの操るアストレイもそんな感じがした。加えて、その二機を纏めているヴァンセイバー、カナコが二人のバトルにより生じた隙を掻い潜って、的確に相手を狙い撃っている。

 

「コスモ、ノリコ。正直に言わせて貰うと、お前達ではヴァンセイバーの相手は難しいかもしれない」

「マガノイクタチ、ですか?」

「それもあるが……」

 

 ―――ダイナミックな戦い方をするナガレとセンガに隠れてはいるが、カナコも相当厄介だ。粒子消費が多いノリコとコスモでは、マガノイクタチを装備しているヴァンセイバーの粒子吸収とは圧倒的に相性が悪い。

 

「カナコは恐らく俺と同じタイプのファイター、いやむしろ俺以上に『周り』を見ているファイターかもしれない」

「それは……厄介ですね」

「あのチームメイトですもんね……そりゃあ周りに気をつかうようになるのも分かる気がします」

 

 それはカナコ本人としては否定して欲しいことかもしれない事かな。

 だが、周りを広く見れる、というのは厄介だ。地形を利用した戦い方を最大限に生かしてくることもあるし、仲間との連携を仕掛けてくる。

 

「戦術は後で決めようとは思うが、もしかしたら俺がカナコの相手をする事になりそうだ」

「ねえねえレイ君」

「―――ん?」

「前に誰かいる」

 

 ミサトが前を指さし誰かがいることを伝えてきた。それに促され前を向くと、前方から一組の男女が歩いてくるのが見えた。

 ――――あの人は……ッ!

 

「メイジン……!」

「む、また意外なところで会ったな」

「あら……貴方はチーム『イデガンジン』の……」

 

 見知らぬ女性だが、メイジンと同じくサングラスをしている所を見ると、関係者と考えるのが自然だろう。

 

「何故ここに……?」

「不届き者を見つけてな、少し灸を据えに来た……とでも言っておこうか」

「……?」

「……?」

 

 ミサキが露骨に首を傾げているが俺自身も意味が分からない。……良くない人が居たという事だろうか?

 

「ふむ……二回戦おめでとうと言わせて貰おう。そうだ、君達の名前を聞かせてくれないか?」

「タ、タカマ・ノリコです!」

「ユズキ・コスモです」

 

 後輩二人が感動するように慄いている、勿論俺も感無量と言った気持ちだ。メイジンと遭遇すること自体もう奇跡としか言い様がないものなのに、加えて試合の好評もしてもらえるとは……光栄極まりない。

 自分も少しばかり高揚していると、メイジンの隣にいる女性が一歩前に出て自己紹介をする。

 

「初めまして、私はレディ・カワグチ」

「カワグチ……あ……」

 

 目の前の女性、レディ・カワグチの名を聞いたミサトは彼女の顔をジッと見つめると、何かを思い出したように声を出した。

 ―――?何だろうか、一瞬だけど、レディ・カワグチから凄まじい気迫が感じられた気が……?

 

「姉さん、この人もしかして……」

「あっ!もしかして6年前の関東選抜大会に出てた―――」

「知らないわ」

「え?でも、見覚えが―――」

「知らない、と言っているでしょう?」

「………はい」

 

 ミサキが気圧されるのを初めて見た。何時も飄々とニコニコしている彼女が慄くのなんて俺でも数えるほどしか見た事が無い。

 それにしても、何でレディ・カワグチは頑なにミサキとミサトの言葉を否定したのだろうか。6年前の関東選抜大会の事は生憎よく知らないのだが、もしかしたら彼女はその出場者なのかな?

 

「気になっていたのだが、レイ君。そこの少女たちは?」

「ミサキの事ですか?」

「ああ、ファイターなのは分かるが……選手でないと見える」

 

 メイジンは感覚でファイターの有無が分かるのか……すごい、いつか俺も分かる様になりたい。

 とりあえず、ショックから立ち直ったミサキの肩を軽く叩き自己紹介するように促す。

 

「私はレイ君と茨城県、県大会の決勝でバトルしたキリハラ・ミサキと言います」

「双子の妹のキリハラ・ミサトです。ここに居るのは、アンドウさんの応援に来たからです」

「ほう……県大会準優勝者か、どうりで……」

「負けちゃいましたけどねー」

 

 キリハラ姉妹の素質を見抜いたのか、笑みを浮かべるメイジン。その背後にいるレディ・カワグチはジッと観察するようにキリハラ姉妹を見ている。

 

「君達の戦い、実際に見てみたいものだ」

「それほど綺麗な試合ではありませんよ」

「泥試合みたいなもんだったからねぇ」

 

 もう最後に至ってはゴリ押しみたいなものだったから、お世辞にも鮮やかとは言い難いバトルだった。

 

「バトルに綺麗も何もないわ。アンドウ・レイ君」

「そうだ、どれだけバトルを楽しみ、力の限りバトルをしたという事が重要だ」

「確かに……今のは失言でした」

 

 メイジンとレディ・カワグチの言葉に同意しつつ、自分の失言に反省する。憧れであるメイジンに見られるかもしれないという思いからでの発言だったが……駄目だな俺は。久しぶりに会ったから少し興奮しているのかもしれない。

 

「―――時間も遅い、君達もホテルに戻った方がいいだろう」

「え?分かりました」

「君達のバトル、楽しみにしているよ」

 

 そう言い、メイジンとレディカワグチは俺達が往く道とは違う方向に歩いて行ってしまった。彼らの姿が見えなくなると、緊張が解けた様にノリコとミサキが胸を撫で下ろし息を吐いた。

 

「はぁ―――!すっごい緊張しました!」

「私もだよぉー。もうレディ・カワグチさん一瞬だけどすごい剣幕だったし」

「私もあれにはびっくりした。何で隠すんだろうね……」

「分からないよ……」

 

 俺は合宿時に何回か話しているから耐性(?)のようなものが出来たからかそれほど緊張はしなかったが、初めて会話するノリコとコスモはそうはいかなかったようだ。

 でも……これもいい経験、と思いつつ皆を急かして街頭で照らされる道の中を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……やるか」

 

 キリハラ姉妹をホテルへ送り、自分達のホテルに帰った俺達は、それぞれのガンプラの修理に移った……といっても俺は、破損した腕と小さな傷を直すだけで事足りるのだが……。

 

「やられたのは外……いや、これじゃあ中のクリアパーツごと入れ替えた方がいいかもしれないな……」

「もういっそ腕は丸ごと入れ替えた方が手っ取り早いと思う」

「そうするか……」

 

 イデオンの修理は少し時間がかかりそうだ。三回戦にまでは間に合うだろうから問題はない。

 ―――というより、俺も早くバックパックを完成させなければ。後は一度バラした部品を組み立てるだけの簡単な作業だから、余程のことが無ければ一時間くらいで終わる。

 

 『アドヴァンスドブースター』

 GNガンランス×2

 GNクナイ×2

 GNバスターソード×1

 GNシールド×2

 計6つの武装と2つのシールドを詰め込んでいる。

 

 GNガンランス、二つでの運用を考えて、ドッズランサーのように片手で持てるような握りと、大きさを縮小したもの。バックパックにおける位置はF91のヴェスバーのように背部から前に出せるような機構にしたが、強度を得るためにクリアランスの機構をオミットして、ショットランサー、ビームガンだけの単純なものとさせてもらった。

 

 GNクナイは『スペルビアジンクス』という、ジンクスの亜種の主武装から作ったもの。刃のある方とは逆の所からサーベルを出す機構が備わっている近接戦闘向きの武装であり、斬って刺して使うのもよし、クナイよろしく投げて使ってもよしの中々に使い勝手の良い装備。

 

 GNバスターソードは前まで持っていたものと変わらないが、背中から引き抜けるようにバックパックの中心に峰から嵌め込む形でつけさせてもらった。何気に愛着のある武器だからな、コレ。

 

 GNシールド、本来は中にハンドグレネードがあるはずなのだが、それを付けずに盾だけの性能を求めた。GNフィールドの発生装置を担っている装備なので、ジンクスⅣと合体する際は両肩に位置する部分を覆う形となる。

 

 バックパックを作るにあたって、本体の方の装備も若干だが変えさせて貰った。

 

『ジンクスⅣオリジン』

 

GNビームサーベル×2

GNビームライフル×1

ロングバレル×1

GNクリアランス×1

GNバルカン

 

 本体の方でもある程度戦闘できるようにある装備は残しておいたので、前とあまり変わらない。

 変わったのでは手持ちのランス。

 初めからクリアランスの状態にさせておいた。……大会では『クリアランス』という奥の手は露見してしまったので、もう隠す必要がないことから、最初からクリアランスでのバトルとなる。

 実弾武装であるショットランサーがなくなってはいるが、その為のバックパックのGNガンランスだ。

 

 他は変わらず、バルカンとサーベル×2、GNビームライフル、ロングバレルのみ。

 

「これだけあれば、もう困る事はない、か?」

 

 無線兵器に対してビームコンフューズが有効すぎてサーベルを投げてしまう所も俺の駄目な所だとは思うが……。というより、俺のバトルは相手からの攻撃で破壊されることもあるが、回避のために自分から武器を捨てたり、叩き落とされたりすることが多い。

 ミサキの時とか、アドウ、リョウヤ、リュウトの時とか。

 

「いや……やっぱり不安だけど、これ以上は乗せられないな」

 

 バックパック側にGNドライブを取り付け、ブースターと増加粒子タンクを付けて機動力とかを諸々底上げはしているものの、やはりこれ以上の武装を積むと、折角上がった機動力が変わらなくなるという問題が発生してしまうのだ。……まあ、それでも積むときはバトルしながら武器を捨てていく感じでバトルすることになるが……。

 

 

 

 

 

 

「―――よし」

 

 組立終了。

 これで今のジンクスⅣのGNドライブのパーツを取り外して、バックパックにあらかじめ作っておいた大きめの窪みにカチリと取り付け、GNドライブが嵌められていた場所にバックパックとジンクスⅣと合体させれば―――。

 

「完成、か…………」

 

 これでようやく俺のオリジナルの『ジンクス』になった。エクシア・ダークマターとは少しかけ離れてしまったが、この形も悪くはない。

 ランスを縮小化したおかげでそれほどアンバランスと言う訳ではなく、うまく立てている事に若干感動しつつもその様相を周りから観察し、何処かおかしい所がないか見る。

 

「……大会中に完成って、おかしいよなぁ、多分」

 

 でも、カッコいいからいいか。バックパックにも色々なギミックを盛り込んだし、もうこれ以上の改修は思いつかない。なにせ自分の持てる粒子応用の知識とビルダーとしての技術、経験を全て盛り込んだ機体だ。

 肝心の名前はどうするかだが、これが意外と難しい。

 やはり『進歩』という意味のある『アドヴァンスド』か、『誇り』という意味の『スペルビア』からとるべきだろうか。どちらもジンクスの亜種機体だけど。

 

「アドヴァンスドジンクスⅣオリジン……じゃ長いか。スペルビアも……GNクナイしか要素がないから無理やりすぎるか……」

 

 普通にジンクスⅣオリジンでいいや、オリジナルのジンクスを突き進むという意味でも当てはまるだろうし。 

 ……完成したからには、真っ先に後輩達に伝えなければいけないな。

 

「ようやく完成したぞー」

「本当ですか!?」

「これで三回戦、全力で戦えますね!」

 

 バッとこちらを向いたノリコが早足でこちらへ駆け寄って、完成したジンクスを見る。コスモも後ろから覗き込んでいる。

 

「意外とスマートですね……」

「大きいのはバスターソードだけだ。後は比較的小さい装備だ」

「あれ……?」

「どうした?」

 

 コスモが何か気付いたようで、首を傾げながらジンクスⅣの腰の部分を指さす。

 

「ここって、普通のジンクスⅣと何か違う気が……?」

「流石の観察眼だ。ここに面白い機能を付けて置いた」

「面白い、ですか?」

「機能といってもそれほど強力ではないが―――いざという時に役に立つかと思ってな。でも使う時は相当限られる、使ったとしても呆気なく潰されるかもしれないし、逆転への布石にもなるかもしれない」

 

 あくまでこれは保険だ。設定的にもいざという時にしか使わないような機能だし、なによりこの機能単体では相手にダメージを負わすことができない。

 ―――だが、バックパックとの連携を考えれば、もしかしたりする。まあ、そこまで改修を施している訳ではないから今は無理だろうけど。

 

「まあ、奥の手、と考えればいいさ。さっ、コスモのガンプラを直すのを手伝うよ。その後はノリコのガンプラだ」

 

 皆で修理を終わらせれば早く終わる。その時間を使って三回戦の為のミーティングも行いたいし、アドヴァンスドパックの試運転も行いたい。

 きっと三回戦は俺達にとって辛い戦いになるだろうが、それでも楽しみだ。合宿のバトルの続きが行えると思うと、昂ぶりが止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナコ、今度は何作ってんだ?」

「三回戦の為の改修だよ。ナガレはやんなくていいの?」

「俺はずっとこいつで戦ってきたからな。メンテだけで十分だ」

「……はぁ……」

 

 実際、こいつに対策とか無駄骨みたいなものだからあまり心配はしないけど……。問題は私のガンプラの方だ。ホテルに備え付けられたテーブルの上に乗せられているヴァンセイバー。

 装備上の問題はないが、恐らく我梅学園のバトルで、マガノイクタチに警戒をレイさんに抱かせてしまっただろう。それは念頭に置いてはいたが、そうなるとマガノイクタチ持ちの私を潰してくるために、レイさんが私に戦いを挑む可能性が高くなってしまった。

 

 ナガレはレイさんのチームメイトのどちらかが抑えられるし、肝心のセンガは……。

 

「―――イデオンソードか、面白い」

「……はぁ……」

 

 フローリングの上で正座しながら試合のビデオを見て、何やら気合いのようなものを高めているし。もうコレは色々覚悟を決めるべきかもしれない。

 

「とりあえず、私にできる事はやっておこう。とりあえず妙な小細工は通用しないという結果が出たから……こちらも小細工無しでやろう」

 

 一体一の戦いに無理やり持ち込めば、私がレイさんを抑えている間に、ナガレとセンガが決めてくれるはず。凄まじい機体には乗っているものの、正直、イデオンとガンバスターのファイターは大会でのバトルでは経験不足。

 それならば経験で勝るナガレとセンガが有利だろう。不測の事態があった場合は……その時だ。

 

「……というよりさぁ……」

「何だよ?」

「最強の矛を決める戦い、になりそうだ……」

 

 椅子を部屋の中央に向け、寛いでいるバカ二人を見る。

 普通なら何もおかしい事はないだろう。何時もの部活風景ならもっとカオスだ。だがしかし、ここはホテルの一室だ。おかしいところだらけだよ。

 

「ここ私の部屋!!」

「……それがどうした、うっせぇな。いいだろ減るもんじゃねぇし」

「私の精神が削れていくよ!?もうミーティングは終わったからさっさと自分の部屋に戻れよぉ!」

「わーったよ、行くぞセンガ」

「……仕方がないか」

 

 何そのしょうがねーなコイツみたいな感じは。私、全然悪くないよね?

 このやり取りもう何回目だろう。

 

「あぁ……バトル勝ったらレイさんとチーム交換できないかなぁ……」

 

 彼ならなんとなくだが、あのバカ共と相性が良い気がする、と思えるのが不思議だけど……。

 

 




スペルビアジンクスって00世界のニンジャですよね。
GNクナイとか足のクローとか完全に狙っている気があります。

でも顔とかエヴァ三号機みみたいでカッコいいです。

次話は、他チームのバトルと『イデガンジン』と『大黒刃のバトル』にしたいと思っております。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~三回戦~

お待たせいたしました。

ようやく引っ越しも終り、ネット環境が整ったので更新致します。





 三回戦が行われる当日。

 本日のバトルは、トーナメント表の都合で本日行われるバトルは、トーナメント表左に位置するバトルだけが行われる。控室でのメンテを終えた俺達チーム『イデガンジン』は大黒刃とのバトルを前にしての緊張をほぐす為に、他のブロックでのバトルを観戦していた。

 

 俺達のバトルを前に行われているのは、大阪府、天大寺学園代表チーム『ビルドバスターズ』と長崎県、聖ガルデ学園チーム『ホワイトマスク』のバトル。

 バトル開始から5分、両チームのバトルは今大会では珍しいタイプのバトルとなっていた……。

 

『アームドッブースター!!』

『マニュピレーターナッコォ!!』

 

「最近は腕を飛ばすのが流行っているのか……?」

「違います。多分」

 

 モニターの中でぶつかり合う拳と拳。これまで圧倒的な力で手相手を捻じ伏せてきた三体のガンプラを合体した『トライオン3』に、これまで実力の片鱗を見せずに三回戦にまで上がってきたチーム『ホワイトマスク』が駆るMSが眼前に立ちはだかっていた。

 

『おのれぇ……合体を邪魔する挙動すら見せないから舐め腐っとると思っとったが……どうやら違うようやなぁ!!』

『舐め腐る?いいえ、正面から打倒してこそ意味があるのです。私達のジオングで勝利を……』

 

 それは真っ黒な彩色に彩られたパーフェクトジオング。背部の赤色の翼を思わせるスラスターを見る限りいくらか改修が施されているようだが、それを意識できない程の威圧感が感じられる。しかもあのジオング、大きさは既存のHGジオングに脚を付けた感じだから、大きさ的にMA扱いだろう。よってガンプラ三体分の粒子量があると見ても良い。

 

 双方、攻撃として放った腕を回収し向かい合う。

 

『ふふふ……ジオン栄光の為に……』

『ただデカいだけでこのトライオン3がやられるかい!!ブーメランッスタッガ―――!!』

『マニュピレーターだけが私達の武器と思わないことです……ジオン剣!』

 

 背部スラスターの中心部から柄が出現し、背部に腕を回したジオングがそれを掴みとり、一気に引き抜くと同時に振り下ろし、今にも切り裂かんばかりに飛んで来たトライオン3のブーメランスタッガーを弾き飛ばした。

 

『剣!?』

『パーフェクトジオングには剣が一番!!』

『そんなわけあるかいッ!!変な設定を持ち出すなドアホウが!!』

『ガンプラバトルに常識を持ち込む方が無粋です!!』

『それをワイらに言うかァ――――!!』

 

 脚部のバーニアを噴出させ、地上を滑る様に急発進するジオング。対して赤熱化したウィングシールド、『ヒートウイング』を展開させ、迎え撃たんばかりに発進させる。

 

『ヒィィトッウイングッ!!』

『でぇぇいやあああああああああ!!』

 

 ぶつかり合う剣とヒートウイング。サーベルの様に強烈な光こそ散らしはしないが、金属が削れるような音がフィールド全体に響く。

 

『ミナト君!超咆剣を!!』

『分かっとる……でも……今のこのタイミングじゃあ……』

『その油断が、隙になる!マニュピレーターナックル!!』

『なにぃ!?』

 

 鍔迫り合いをした状態で、剣を持った方のマニュピレーターを起動させ腕を発射する。さながら剣が腕ごと飛んでいったと表現するべきだろうが、相手からしたら腕が突然に凄まじい勢いと共に伸びたと感じるだろう。

 事実、発射と同時に腕部から噴出されたスラスターの勢いで、トライオン3の体勢が大きく崩れた。

 

『こんな使い方……なんちゅう戦いや……ッ』

『ジオン砲!いかせてもらいます!!』

 

 片腕を回収したジオングは地上に剣を突き刺すと、そのまま両の手を前に突き出し、頭部と腰部、そして背部スラスターに収納されていた二門の砲撃を前に展開すると同時に、凄まじい粒子砲撃をのけぞったトライオン3目掛け発射する。

 

『まずい!ライガーグレアァァァ!!』

 

 トライオン3もビームで対抗するも、相殺しきれずにビームの直撃を喰らってしまった。凄まじい砲撃による余波によって砂煙が舞い上がり、トライオン3が居るであろう場所に立ち込める。

 

「これで、終わりでしょうか?」

「……いや、まだだな」

 

 これまでのバトルで圧倒的なパワーで相手を倒してきたトライオン3。そんな彼らがこんな簡単にやられるはずがない。それに……何と言えばいいのだろうか、トライオン3のパイロットには執念のようなものが感じられる。

 

 事実、彼らに砲撃を放ったジオングは再び剣を手に取り、砂煙に包まれているトライオン3を睨み付けている。

 

『―――こんな所で負けられる訳ないやろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!ワイはコデラはんと皆の思いを背負っているんや!!』

『来ましたか!』

 

 砂煙を吹き飛ばし、姿を現したトライオン3の手に握られているのは、西洋剣のような形状で形作られたビーム刃。それを一気に振り下ろし構えたトライオン3は、破損した片方のモノアイをギロリと光らせジオングを見て叫ぶ。

 

『『『超ッ咆ッ剣!!』』』

『そちらも剣というわけですかぁ!!』

 

 雄叫びを上げたトライオン3がビーム刃を上方に掲げ、正眼の構えで先程と同じように前へ飛び出す。ジオングもトライオン3と同様に飛び出し、双方の実体剣とビーム刃がぶつかり合い、衝突の衝撃で両機体の足場に罅が入る。

 

『はあああああああああああああああああああ!!』

『でぇいやああああああああああああああああ!!』

 

「やっぱり、こういうバトルを見ていて思う。この熱さがガンプラバトルだ……ってな……」

「……」

「……」

 

 目の前のバトルに声が出ないのか、絶句している後輩達に少し笑いながら、モニターへ向き直る。先程のように腕を発射し隙を作るという事はできないだろう。そしてあんな密着に近い状態じゃ、メガ粒子砲は放てない。

 となると、ここで試されるのはガンプラの完成度と、力量……簡単に言えば、退かない方が勝つ。

 

『トライオン3を……ッ舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 トライオン3の両腕に仕込まれたスラスターが全開となる。そのまま放たれずに押し込まれた超咆剣と呼ばれたビーム刃は、実体剣の刃に少しずつ罅を入れる。

 

『ぶった切れろやぁぁぁぁぁぁ!!』

『な!?』

 

 バキィンと実体剣を叩き折った超咆剣はすれ違い様に、ジオングの頭部半分よりやや右半身を真っ二つに切り裂く。だがまだ辛うじてだがジオングは生きている。そのまま背後のトライオン3へマニュピレーターを射出しようと腕を伸ばそうとしたその瞬間―――。

 

『これで終いや!ファイナルトライッざぁぁぁ―――んッ!!』

 

 急停止し、そのまま一回転する挙動で、ジオングを横真っ二つに切り裂いた。一瞬の静けさの後、十字に切り裂かれたジオングを背にし、残心を残すようにトライオン3が剣を構えたその瞬間―――。

 

『リベンジ……させてもらいますからね』

『いつでも来いや……受けてたってやるわ』

 

 一瞬の静寂の末に爆発。

 アナウンスと共に天大寺学園の4回戦進出が決定された。 

 

「……トライオン3、個々の力を集結させた結晶とも言っても良いガンプラ……決勝トーナメントに上がるとなれば、当たる確率は高い。……でも、今は目の前のバトルだ。二人とも、いつも通りに行こう」

「「はい!」」

 

 相手は強敵、チーム『大黒刃』心して掛からねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はナガレとレイのいるチームか。ハッ、こりゃ見逃せねぇバトルになりそうじゃねえか」

 

 会場内で向かい合う両チーム。チーム『イデガンジン』とチーム『大黒刃』。今から行われるバトルを会場の特別席から見下ろしていると、窓際まで歩み寄ってきたキジマが、興味深げな視線でその光景を見定めていた。

 

「どちらも私達にとっての強敵と成り得るチーム。必見に値する」

「兄さんの言うナガレってそんなに強いファイターなの?」

 

 キジマの真剣な表情に疑問を抱いたのか、シアがそんな質問を投げかける。大会でのこれまでのバトルでは、ナガレはあっという間に敵を粉砕しているから、その実力は見るにも見れなかったが―――。

 

「こと格闘に関しちゃあいつの右に出る奴はいねぇ」

「ああ、危険度で言うなら大会で上位に入るほどと言っても良い」

「そもそもアイツの戦いは比較的シンプルだ。接近して殴る、それだけしかねぇ。かといってバカだとも言いきれねぇのがアイツの怖い所さ」

「アドウの言った通り、ことバトルに関してはシンプルだが、距離を取って戦わせてくれるほど容易い相手ではない」

「……厄介な相手ね……」

 

 キジマは見てないだろうが、合宿の時もレイとナガレがバトってた時も事実そうだった。終始近接戦でレイの装備をほぼ破壊し押し勝っていた。

 

「それに……あのカナコというファイターは……」

「そいつがどうしたんだ?」

「いや、なんでもない」

 

 会場で若干疲れた様に肩を落としている女を訝しげに見ているキジマに微かな違和感を感じつつ、レイの方に視線を向ける。

 

「……!!」

 

 ベースに乗せられたガンプラに新たな改修が施されている。ジンクスⅣにブースターが取り付けられている。

 

「はっ、ようやく本領発揮と言う所かよ!」

「それぞれのリーチに応じた装備を備えたバックパック、これが君の出した答えか」

 

 いよいよこのバトル、どうなるか分からなくなってきたぜ……ッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトル開始の合図と共にフィールドに飛び出した俺達。

 フィールドはコロニーの残骸が漂う宇宙。遮蔽物が多いこのステージは、かなり……いや凄く厄介だと言っても良い。

 

「先輩、調子は?」

「ブースターの調子は……良好だ」

「なら作戦は予定通りに?」

「ああ、変わらずだ」

 

 今回の作戦は――――ッ。

 遙か前方から放たれた二つのビーム砲を回避する。恐らくヴァンセイバーの砲撃、あくまで牽制だろうが、これはある意味で都合が良い。

 

「俺が先行する!ついて来い!!」

「「はい!」」

 

 ブースターに粒子を注ぎ込み一気にビームが発射された地点へ加速すると共に、前方に掲げたクリアランスの切っ先を前方に向ける。ビーム発射口であるクリアランス内の根元に内蔵された砲口に粒子をチャージし、圧縮と共にクリアランスの部分が淡い緑色に輝くのを確認し、一気に放つ。

 

「お返しだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……外したな」

「下手くそが!」

「牽制だから当たらなくていいんだよ!?」

 

 MA状態のヴァンセイバーの砲撃から数秒、相手の出方を覗うために一旦待機しているのはいいものの、味方がすごくうるさいのはなんとかならない物だろうか。―――いや、今は頭を切り替えよう。さっきの砲撃でこちらの位置を特定したレイさんはこちらへ攻め居る、は……ず?

 

 レイさんがいるであろう場所から、球体状のエネルギー体が凄まじい勢いで飛んで来た。イデオンにもガンバスターにもない兵器。それは四散する形でそれを回避した私達の背後に飛んで行き、コロニーの残骸に直撃し洒落にならない爆発を発生させ残骸を消滅させる。

 

「や、やば……なんちゅーもんを……」

「カナコ!よそ見している暇はないぞ!」

「どうやら来たようだぜ!」

 

 すぐさま前方のモニターを拡大し、砲撃を撃ってきたであろう敵機を見据える。

 拡大されたモニターには、大会では見る事の無かった物を背負っているジンクスⅣの姿と、それを筆頭に背後からついてくるイデオンとガンバスター。

 

 ジンクスⅣの手の中にはクリアパーツで作られたランスがあることから、先程の砲撃はアレと見てもいいだろう。

 

「ナガレ!連携を崩せ!!」

「おうよ!」

 

 ナガレのGマスターが黒いマントを身に纏い先行する。その後ろからMA形態の私とセンガがついて行く。相手との距離が狭まると同時に手筈通りにナガレのスパイラルゲッタービームが放たれる。

 

 あわよくばこれで連携を崩す、無理ならナガレを突っ込ませて無理やりにでも崩す。

 

『読み通りだ……ッ』

「は?読み、通り……?」

 

 そうレイさんのジンクスから声が聞こえた瞬間、仲間に指示を出さずにそのままさらに加速し、ビームを放ったナガレ目掛けて突っ込んだ。驚愕しながらジンクスⅣの背後を見ると、イデオンを守る様に停滞したガンバスターがマントのようなものを背後から取り出し、ナガレのビームを弾き防いでいた。

 我梅学園で使ったような戦法は使えないか……。

 ならこちらも作戦を変更しなければならない。

 

『アドヴァンスドブースターならぁ――――!』

 

 迫り来るビームをロールしながら回避し、クリアランスに長く光るビーム刃を発生させ、ナガレのGマスターへ突き出した。

 

「ナガレ!」

「へっ、やるかよぉ!!」

『貫けッ!!』

 

 トマホークとランスがぶつかり、反発し合うように両者が弾かれる。

 こちらも援護しようとビームライフルを向けようとするも、ジンクスⅣの背後からこちらの動きを阻害するようにミサイルがイデオンから放たれ、その挙動を止められる。

 

 その間に、ジンクスⅣはクリアランスを宙空に置く様に手放し、ガチャンと言う音と共にバックパックから外された二つの小ぶりなランスを両手に握り、同時に繰り出す。対してナガレはスパイクを展開させた両腕で対処する。

 

「ッらあああああああ!!」

 

 二つのランスの切っ先とスパイクが接触する。力での勝負ならナガレに圧倒的に分があるが、それが分からないレイさんではない。ギャリギャリとランスを軋ませながらも、彼はトリガーを引いた。

 

 ランスの根元から放たれるビームマシンガン―――超近距離から放たれたビームの雨に咄嗟に腕をクロスさせて、殺到するビームの弾幕を防ぐGマスター。

 

「効くかよォ!!」

『知ってる!』

「うお!?」

 

 ビームマシンガンでナガレの視界を潰した上で勢いに乗った蹴りを食らわし、Gマスターを後方へ蹴っ飛ばしてしまった。あのバカを手玉に取る時点でかなり異常だ。

 ……というより、前のバトルでナガレとのバトルに慣れてしまった?いや、そもそも戦い慣れているという印象さえある。

 

「センガ!ナガレとここは任せた!!」

「承知!」

「おい、待て!まだ俺が―――」

 

 この際無視!ほぼ無傷のGマスターを確認しながら、MS形態へ変形し加速と共にサーベルを引き抜く。私がジンクスⅣを抑える。

 多分、ナガレとセンガじゃ時間内に決着がつかないッ。

 

「私が相手だよ!」

『………』

 

 両の手のランスをバックパックに戻したジンクスは、先程宙空に置いたクリアランスを掴みとると後ろを振り向き飛び去る。

 

「……は?……いえ、そういうことか!!」

 

 突然の退避に面を喰らうが、相手の真意に気付き、すぐさまMA形態に変形しジンクスを追跡する。何故この場から離れたのか、それは単純、相手も私達と同じような作戦を考えていたからだ。

 

 チームの中核を担うリーダーの排除と各個撃破。

 

 イデガンジンの場合はレイさん。

 大黒刃の場合はこの私。

 

 目的が同じじゃあこうも滅茶苦茶になる訳だ。なにせレイさんの目的は、私をナガレとセンガから引き離す事だったんだもの。

 

「でも、甘い……甘いよ!!」

『……ッ!?』

 

 MA形態でジンクスⅣの前方のデブリを打ち抜き、ジンクスⅣの動きを止める。その瞬間を狙い変形と共にサーベルを引き抜き斬りかかる。

 クリアランスでサーベルを防がれるが、お構いなしにサーベルを押し込み、お互いのメインカメラを激突させそのまま押し込む。

 

「私の仲間を舐めないで!あいつらはバカで言う事聞かないし滅茶苦茶でアホだけど!!ことバトルに関しては普通に強い!!」

『それは俺も同じ、二人は俺をここまで支えてくれた後輩達ッそう簡単に負ける程弱くない!!』

 

 ジンクスⅣの機体の表面が緑色の粒子に覆われると同時に、粒子が放たれ機体が吹き飛ばされる。体表に纏った粒子を形として打ち出したの!?

 

『俺はお前と戦い、勝つ!!』

 

 クリアランスをこちらに投擲し、バックパックから弾き飛ばされたダガーに似た武装を逆手で持つように両手に装備すると同時に、腰部から前にせり出されたランスからビームが放たれる。

 

「違う!勝つのは私!!」

 

 先行してきたクリアランスを蹴りとばし、アルミューレ・リュミエールのビームバリアで防ぐ。案の定防御した隙を狙って斬りかかって来るジンクスⅣ。だがこのシールドは光波防御シールド、物理攻撃もビーム攻撃も弾く最強の盾!

 

「アルミューレ・リュミエールを貫けるかッ!!」

 

 盾で体当たりを仕掛けジンクスⅣの体勢を崩しつつサーベルを2本引き抜き、敢えて不利な接近戦へと望む。

 

 集中するんだ。何時もしてきたように、自分の注視するものしか目がいかないような……極限の中で思考する私だけの時間の中に―――。

 

「―――」

 

 サーベルとダガーが凄まじい速さで斬り合う。いなし、弾き、逸らされる。

 相手の息を吞む声が聞こえるが、そんな声に気にもならずにただ一心不乱に手を動かし続け、サーベルを叩きつける。

 

「うおおおおおおおお……ッ!」

『ぐっ……』

 

 このまま押し切る。あわよくば倒す。

 無理だったら助けが来るまで粘るッ。やや後ろ向きな気合いを入れながら果敢にサーベルを振り回し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ、先輩の作戦通りだね。コスモ」

「ああ、後は俺達の仕事だ」

 

 先輩がマガノイクタチ持ちのヴァンセイバーを連れてここから離してくれた。このバトルにおいて最初に先輩に言われた言葉は『前に出るな』だった。マガノイクタチは粒子を吸い取る凶悪な装備、粒子を多く使う私達にとってはまさに天敵そのもの。

 でもその障害が取り除かれた今なら思う存分にバトルすることができる。

 

『おうらぁッ!!』

 

 先輩と戦っていたゲッターもどきが拳を繰り出してくる。合宿でも見たがこの人は強い、そして先輩相手に優勢に戦ったファイターでもある。―――だからこそ、私がこの人と戦わなくてはならない。

 先輩に任された私の役割だから……ッ。

 

 繰り出された拳を右腕で掴み取る。

 

『何!?』

「パワーが貴方の専売特許と思わないでちょうだい!」

『はっ!』

 

 続いて突きだされた左拳も掴み取る。必然的に組み合う形にはなるが、退くつもりは無い。もう、県大会の決勝の時のような無様な姿は晒さないと誓った。

 先輩と肩を並べて戦うと決めた。

 

「だから!私は―――」

『チェェェェストォォォォォ!!!』

「!?」

 

 ナガレの背後から黒と赤が入り混じった大柄なアストレイが飛び出し、背後のコスモへ大剣ではなく、拳を叩きつけた。

 

「のおおおおお!?」

『場所を変えさせてもらうぞッ!!』

 

 凄まじい膂力で防御した腕ごと機体が後方へ吹き飛ばされたイデオンの肩を掴み、そのまま背後に見える巨大なコロニーの残骸へと押し込んでいくアストレイの姿を見て、思わず叫んでしまうが、その瞬間にものすごい力でGマスターが前で押し込んで来る。

 

『余所見している暇なんてねえだろうがァ!!』

 

 力が抜けた所を突いて一気に押し出してきたGマスターに、膝蹴りを当て距離を取る。これといった損傷は無し、先輩の言ったとおりにすごい装甲だ。

 

『お前も相当やるじゃねぇか!!ゲッタァァットマホォォォゥク!!』

 

 腰から引き抜いたトマホークをこちらに投げつけてくるが、こちらも背に装備された武器を捕りだしてトマホークを弾き飛ばす。

 

『ッ……テメェ……そいつは……』

 

 トマホークをキャッチしたGマスターは、私のガンバスターの持っている武装を見て、驚く様に硬直する。当然だろう、なんせ私の持っている武装は『バスタートマホーク』。設定上存在するゲッターロボと同じ斧状の武装。もう片方の腕に同じものを装備させる。

 

「持っている武器は同じ!ならやる事は分かってるよね!」

『ッ!いいぜぇそういうの!!面白れぇ!!いっちょ泥臭ぇ殴り合いでもおっぱじめるかァ!!』

 

 正直、すごく怖い。なにせ怖い声だし、マスターガンダムの威圧感も半端ない。ファイターの人の顔も怖いし、戦い方も荒々しい。

 

 でも―――。

 

「やります!!」

『かかってきな!』

 

 私は、私達は負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナコをノリコとコスモのいる場から引き離してから数分が経つ。でも体感的には引き伸ばされたかのように長い時間に感じる。

 

『―――ッ!』

 

 ある時を境にしてカナコの動きが様変わりした。圧倒的な精密性と絶え間ない攻撃。強制的に近接戦闘を強いられてしまう程の反射神経で、俺の反応を先読みするが如く手を潰してくる。

 

「俺の動きを先読みしてるのか!!」

 

 GNクナイで振るわれるサーベルを弾き返しつつ腰のショットランサーを射出するも、凄まじい速さで切り払われてしまう。どうするべきか、大きな損傷は負っていないが、それは相手も同じ。

 

「怪我を恐れちゃ勝利は見えないか……ッなら!」

 

 GNクナイをヴァンセイバーのメインカメラに投擲し、もう片方のGNクナイのビーム刃を発生させ胴体を狙う。

 案の定、投擲したGNクナイはいなされ、その切っ先は繰り出した腕に向けられる。このままでは腕が切り飛ばされてしまうだろうが―――。

 

「トランザム!!」

 

 瞬間的な加速で上回れば問題ない!

 

「読めるものなら読んでみろ!!」

『―――んなぁ!?』

 

 GNクナイのビーム刃はトランザムの超加速によりサーベルが腕を斬り飛ばすよりも早く、ヴァンセイバーの脇腹に当たる部分に突き刺さる。ここで少しは怯んでくれれば儲けものだが……。

 

『この、程度ォ!!』

「ッッ!」

 

 左腕部が切り飛ばされ、トランザムと共に発動したアシムレイトの痛みが左腕を襲う。歯を食い縛りながら、右腕に纏った粒子の帯でサーベルを持つ手首を粉砕する。

 

 一時、その場から後方に下がるついでにGNロングバレルを腰からパージし、右腕に装備させたGNビームライフルに連結させ高出力のビームを放つ。

 

『そろそろやられてよ!』

「無茶を言ってくれる!!」

 

 MA形態に変形しビームから逃れたヴァンセイバーをトランザム状態のまま追跡する。流石MAだけあって速い、加えてカナコのビルダーとしての技術が優れているからか、トランザム状態のジンクスⅣと同等のスピードを有している。

 

「でも俺には!!」

 

 先程、カナコに蹴り飛ばされたクリアランスを回収し、さらにスピードを上げる。

 まだ上がる。アドヴァンスドブースターのスペックならもっと上がるはずだ。

 

「もっと……もっと速く……あいつより速くッ」

 

 右腕、両足の排出口から溢れんばかりに赤い帯が飛び出し後方へ流れ、切り裂かれた左腕の断面からは、血が噴出するように緑色の粒子が噴出している。加えてアドヴァンスドブースターのGNドライブからは、四肢から流れ出る赤い帯が、尾の様に後ろへ広がっている。

 

『―――私の知らない機能……ッ!』

 

 周りの景色が青から黄色へと変わる。即ちガンプラ活動範囲のイエローゾーンに入ってしまったという事。

 

「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 それに合わせて身体が軋むように悲鳴を上げている。機体を大きく回転すると共に、帯を前方目掛けて螺旋状に変質させ、ガンプラにかかる負荷を和らげると同時にさらに加速する。

 

「お前を二人の所へ行かせるわけにはいかない……ッだから!」

 

 距離が狭まると同時に真赤に染まったクリアランスを構え、自身の体にかかる負荷を紛らわすように声を絞り出す。

 

「此処で落とす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から迫って来る赤い輝きを放つガンプラ、ヴァンセイバーのフルパワーの出力で飛んでいても追いつかれそうなほどの超スピード。トランザム状態にある今、力で圧倒される可能性があるからこの方法を取ってはいるものの、これでは自分から追い詰められに行ったようなものだ。

 

「私にだって打つ手はあるんだよ!!」

 

 逃げられないんなら迎え撃てば良い話。機体を反転させ、こちらに突っ込んで来るジンクスⅣへMA状態で突貫する。

 

「アルミューレ・リュミエール!!」

 

 ヴァンセイバーの砲身からアルミューレ・リュミエールの力場を作り出し、それを鋭利な三角錐状へと変える。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

『貫けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 ジンクスⅣのクリアランスがアルミューレ・リュミエールに衝突する。衝突の衝撃でガンプラがギシギシと軋み上げるが、負担が掛かっているのは相手も同じ。

 

「―――くぅ……っ!」

 

 ビキリとアルミューレ・リュミエールに歪みが生じ、力場を発生する砲身から煙が噴き出る。一瞬の拮抗でこれとかどれだけの破壊力を秘めているんだよ。VーMAXかよ!これ絶対トランザムじゃない!トランザムってこういう使い方しないもん!!

 

「それでもッ!!」

 

 私が突っ込んだのは正面からジンクスⅣを倒そうと思ったからじゃない!

 機体上方のスラスターを一瞬だけ噴かし、拮抗状態から一瞬の内にジンクスⅣの側面に移動し、マガノイクタチを起動し、ジンクスⅣを挟み込む。

 

『……ッ!?』

「私の……ッ勝ちだ!!」

 

 粒子吸収さえできれば私はまだ戦える。相手を拘束したまま粒子吸収を開始する。粒子吸収さえしてしまえば、相手は一定のパワーがないと抗う事すらできない。

 しかも、ジンクスⅣのトランザムはマガノイクタチで拘束した時には既に―――。

 

「……ない!?」

 

 さっきまであったブースターが何時の間にか切り離されている。それに腰部分の部品もごっそり消えている。しかもよく見れば粒子の吸収が遅い。導かれる結論は―――。

 

「まだ―――」

『その隙ッ頂いたぞカナコ!!』

 

 斜め上から声が降って来ると同時に、ヴァンセイバーの背部スラスターが爆発する。バラバラと炸裂音が聞こえた事から、恐らくはバルカンで狙い撃ちされたと見ても良い。

 

「コアファイター!?」

 

 バルカンを撃ちながらこちらへ突っ込んで来るのは灰色のコアファイター。ジンクスⅣにコアファイターってあったっけ!?オリジナルギミック?!いやそんな事よりも―――。

 

『設定再現は醍醐味だろう!』

「そんな飛行機落としてやるよぉ!!」

 

 頭部バルカンでコアファイターを狙う、が、複雑な機動を描いたコアファイターはバルカンの雨を容易く掻い潜り、ジンクスⅣの元へ飛んで行く。

 だが、あのジンクスの中には粒子はもうない。その事を知らない筈がない、がそれを止めてやるほど私は優しくはない。破損していない方の腕でサーベルを取り出し、ジンクスⅣを突き刺そうと振り上げる。

 

「その中身は空っぽだよ!」

『いいや!!俺には見えている!!』

「え!?」

 

 ジンクスⅣが合体すると同時に、ジンクスの後方、私のヴァンセイバーの前方からジンクスⅣが背負っていたブースターが凄まじい勢いでこちらへ迫り、コアファイターが入り込んだジンクスⅣに再び合体した。

 

「まさか……ッ!」

『お前の粒子吸収は確かにヤバイ……だが、その吸収する粒子が貯蔵されるメイン出力を切り離せば話は別だ!!』

 

 目に見える程力を取り戻したジンクスⅣが、急いで振り下ろしたサーベルを後方に下がる挙動で回避する。そして背に装備されたGNバスターソードを右腕で引き抜いた。

 

「だから私のマガノイクタチが当たる前にブースターをパージしたんだね……」

『コアファイターはお前からブースターの存在を欺くためのブラフだ』

 

 要するに私は読み負けたということか。

 ここまで完敗だとぐうの音も出ない。

 

『まさか使うとは思ってなかったけど……』

「は?」

 

 ―――なにそれ納得いかない。そう言葉を発しようとした瞬間、私のヴァンセイバーはGNバスターソードにより切り裂かれ行動不能となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンドウ・レイとアスハ・カナコのバトルに決着がついたその時、会場内でその様子を見ていたメイジンは、額に浮かべた汗を安堵の表情で拭っていた。

 

 先程のバトル、正直に言う所危険な所だった。彼ならばセカイ君のように無茶はしないと思ってはいたのだが、まさかトランザムとアシムレイトの相乗作用で、機体の限界を超えた速さで移動を行うとは思わなかった。

 しかし、それが原因で機体が瓦解するほどの凶悪な加速でファイターを傷つける、危険極まりないものへと変わってしまった。セカイ君とは違い、あの軌道は機体自体が瓦解してしまうようなもの、文字通り『バラバラになるほどの痛み』がファイターを襲うこともありえる。

 流石に止めるべきかと逡巡はしたが、まさか―――。

 

「彼のブースター、それが機体のダメージを緩和させたのか!」

「それだけじゃないわ。物質化した帯はアルミューレ・リュミエールをも貫いた。恐らくアスハ・カナコが全ての粒子エネルギーを用いての捨て身に近い突貫を真っ向からね」

 

 名はアドヴァンスドブースターと言ったか、流れ出る粒子が物体化した帯を前方へ流すように展開することで、機体に掛かる負荷を最小限に留めた。そして前方へ転回された帯はそのまま機体を守る槍となり、敵を粉砕する。

 

「己の弱点を補いつつ攻勢に転じた。攻守一体のシステム!」

「まるで貴方を彷彿とさせるファイターじゃない」

「『紅の彗星』ではなく『赤い流星』か……言い得て妙だ」

 

 しかし、レイ君と互角以上に戦っていたカナコと呼ばれる少女も侮りがたい。状況判断能力、それに機転。今回のバトル、レイ君のガンプラへの隠しギミック、コアファイターと、GNドライブの分離が無ければ勝っていたのは彼女だろう。

 恐らくあのコアファイターは、設定だけ存在する『ジンクスⅣコアファイター搭載型』を再現したものだろう。まさにジンクスへの愛に満ち溢れたギミック。

 

「結果だけ見れば彼女の負けだけど、実は紙一重のバトルだったわ。お互いが似たようなタイプのファイターだけあって、『読み』の勝負だった訳だし」

「―――だが、問題はこの後のバトルだ」

 

 チーム『大黒刃』のリーダーが撃墜され、戦力が減ってしまった。

 そしてチーム『イデガンジン』も―――。

 

「恐らくレイ君のジンクスの粒子は三分の一を切っているだろう」

「吸収は免れたんじゃ?」

「彼自身、アスハ・カナコがあのタイミングでマガノイクタチを使うとまでは予想していなかったのだろう。事前に分かっていれば、機体にマガノイクタチの餌食となる粒子を残してはいなかった……」

「つまり、咄嗟に切り離したブースターには機体に巡らしていた粒子が消え、貯蔵している分しかないと言う事?」

 

 彼女の言葉に頷き、ヴァンセイバーを両断したジンクスⅣを見やる。あのタイミングであそこまでの事をやり遂げるのは驚嘆に値するが、残りの時間を戦うとしては中々に厳しい状態になってしまった。

 

「しかも、彼は捕獲された機体から粒子を吸収されないよう、残留粒子でトランザムの発動終了を演出し、コアファイターで難を逃れた……恐らく切り離されたブースターをカモフラージュする為でもあるだろうが……」

「払った代償が大きすぎた、ということね」

 

 つまりチーム『イデガンジン』は、これまで支えにしてきたアンドウ・レイという人物を欠いた中で、後半戦に突入しなければならないということだ。

 

「さて、どうなるか……」

 

 

 

 




BFTのトーナメント表は何処かおかしい(確信)
何で左と右で数に偏りができるんだろう……?


今回のジオングは技をダンクーガに近い感じにさせました。
たまには純粋なガンプラバトルをした方がいいと思いましたからね(錯乱)

そして直ぐに使う事になってしまったコアファイター。
バルカンがついている所はオリジナルですが、ジンクスⅣのコアファイターと言うものは設定だけですがあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~三回戦2~

スパロボWが中古で売っていたので買おうと思ったらSDガンダムGジェネレーションDSも売っていた。

やりこんだ覚えがあったので、凄く懐かしかった……。
モノアイガンダムとか今でも覚えているほどです。




今回で決着ですね。






「あれはセカイと同じ……アシム、レイトなのか?」

 

 俺のトライバーニングと同じように機体出力が増したレイのガンプラ。ガンプラについてよく分からない俺でも、あのジンクスの凄さは理解できる。レイは武術の経験が無い、でもそれを補うほどガンプラバトルをこなしてきた、いわばガンプラバトルという実戦で培われた経験が今の彼を支えていると言っても過言ではない。

 

「レイ君のあの様子からしてアシムレイトなのは間違いないだろう。だが、彼の使った機能はセカイくんのバーニングバーストとは根本的に異なると見ても良い」

「俺と、違う?」

「粒子出力が増加するのは変わらないが、彼のガンプラはアシムレイトによる損傷を回避するためのセイフティが施されている」

「あのブースターに秘密があるんでしょうか?」

 

 レイのガンプラが赤く発光し速度を上げたその瞬間、苦しげな声を出したレイはガンプラを一回転させ、赤い帯を螺旋状にさせて側方を覆った。あれがバーニングバーストとの違い?

 

「アシムレイトを安定した機能として扱う、セカイ君とはある意味で真逆に位置する使い方をする子だな」

「次元覇王流拳法で圧倒的な攻撃力を見せるトライバーニングと、あらゆる局面に対応できる汎用型ジンクスⅣ……いやジンクスⅣコアファイター搭載型……セカイ、同じアシムレイト持ちとしてはレイさんはビルダーとしても、ファイターとして強敵だ」

 

 ユウマの言う通り、レイは強敵だ。

 あのサーベルとクナイみたいな武器同士の斬り合いもまさにテクニックとテクニックの真っ向勝負。自分には決して出来ないような高速下での戦闘。そして、あの光、凄い光だった。

 

「戦ってみたいッ」

 

 熱く闘志が燃え滾る。

 アドウの時の様に、キジマの時の様に、格闘家として、ファイターとして、真っ向からあの人と戦いたい。

 

「……全く、相変わらずバカなんだなお前は」

「なんだとぉ!」

「ははは、セカイ君らしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぅらぁ!!』

 

 ガキィンとけたたましい音と共に斧がぶつかり合う。圧倒的な膂力に機体が持って行かれそうになるけど、めげずに出力を上げ対抗する。

 

『強ぇッ!たまんねぇぜこりゃあ!!!』

「うあああああああああああああああああああ!!」

 

 雄叫びと共に頭部バスタービームを発射させると同時に、バスタートマホークを回避したGマスターに投げつける。飛んでいったトマホークを離したその瞬間、Gマスターも手持ちのトマホークを投げつけ、バスタートマホークを叩き落とした。

 

「……っ!ホォォミングッ!レェ―――ザァ―――!!」

『あめぇ!!ゲッタァァァッビィッィィィィィム!!』

 

 外套を身に纏ったGマスターが放った拡散するレーザーにより、私が放ったレーザーのほとんどが撃ち落とされる。だがそれがどうした……残りのトマホークを振り上げ、再度Gマスター目掛けて突撃する。

 

 Gマスターがカッターを巨大化させ、トマホークを防ぐ。

 

『貰ったぜぇ!』

「あっまい!!」

 

 振り上げられたトマホークの腕を空いた腕で掴み、そのままバスタービームの体勢へと移る。この距離なら硬さとかそういうのは関係ない。

 そう言い放とうとしたその時、嫌な感覚が私の体を駆け巡り咄嗟にGマスターを突き飛ばす。次の瞬間、ガンバスターの全面を掠める様に凄まじいエネルギー量の粒子砲がGマスターの腹部から発射された。

 

「危なッ」

『ゲッターなんだぜこいつはよぉ!!』

「うっ……うわッ……」

 

 投げられたトマホークが防御に回したバスタートマホークに直撃し、どちらも飛んでいってしまった。衝撃でのけぞった瞬間、目の前に鋭利な棘を生やした拳が迫る。

 拳を雷撃を伴わせた左腕で防御するが、繰り出された拳は容易にガンバスターの腕へ突きこまれ陥没する。

 

「ぐぅ……ッ。つっよ!!でもっ腕一本で引くほどッ私のガンバスターは弱くないのよぉぉぉ!!」

『な、がァァァっ!?』

 

 拳を撃ち込まれた腕に過剰に粒子を送りスパークさせる。左腕の肘から先の部分が強烈な電撃に耐えられず爆発するが、電撃は拳を伝ってGマスターに伝わったはずだ。

 

『効いたぜぇぇぇ!!』

「タフすぎるよ……っ!」

 

 グワンと腕を広げ機体の隙間から黒煙を挙げたGマスター。

 勝てるとは思わなかったが、とんでもない化け物だ……残った右腕で左腕の状態を確かめながら、私は微かな焦燥を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおおおおおおお!!』

「だあああああああああああああ!!」

 

 赤いジムと赤と黒が入り混じったアストレイの拳が激突する。俺がこのアストレイ……というよりダイゼンガーもどきに吹き飛ばされ、着地したのはひときわ大きいデブリの残骸。

 イデオンよりも後に着地したダイゼンガーもどきは大剣をデブリに突き刺し、空手の構えを取った。こちらも拳を構えた事を皮切りに、実弾もビームも一切用いない肉弾戦が始まってしまった。

 

「オレのイデオンはミサイルだけじゃあないぞ!」

『承知の上!』

 

 イデオンの拳がダイゼンガーもどきの顔面に突き刺さるが、相手は腕を掴み取りお返しとばかりにイデオンを持ち上げ、背負い投げの如くコロニーの残骸にイデオンを叩きつける。追撃が来る前に脚部のスラスターを噴かせ起き上がりながらも、ダイゼンガーもどきに回し蹴りを食らわせる。

 

『……やはり無手での勝負も強い』

「何がしたいんだ……貴方は……」

 

 無傷のままのダイゼンガーもどきを見据え、再び拳を構える。近接戦闘は互角、いや若干だが相手の方が強い。

 

「貴方がナガレさんと一緒に戦えばもっとバトルを優位に運べたはずだ。その手段を用いずに俺とのバトルを優先させたのは……」

『ナガレと俺は似たモノ同士でな。だが似た者同士であるが故に、頑固でもある。―――このバトルッ俺はお前との一対一のバトルを所望したッ!!それ以上の理由は必要かッ!!』

 

 傍らに突き立ててある大剣、斬艦刀を手に取りグルグルと回転させこちらへ刃を向けるように構えたダイゼンガーもどき……いや、ダイゼンガーは真っ直ぐとイデオンを睨み付けてきた。

 

「……いいや、自由にバトルするのがガンプラバトルだ!!」

『俺の名はセンガッ。ライドウ・センガ!!愛機、ダイゼンガー豪式がお前のイデオンを打ち破る!!』

「オレのジムは……いや、俺達チームイデガンジンは負けない!」

 

 こちらも負けずに睨み付ける。

 するとセンガもそれに応じる様に斬艦刀を振り回し、突きの構えに転じる。

 

『ならばッいざ尋常に―――勝負!!』

 

 雄叫びと共に斬艦刀を引き絞る様に構え突きを繰り出してくる。パワードレッドを素体にしただけあって凄まじいパワーで繰り出された突きは、それだけ必殺の威力があるだろう。

 それを横に避ける挙動と合わせて手首から生成したサーベルでいなし、本体のアストレイを狙う。

 

「その大きさが隙になるんだ!!」

『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 突き出された大剣が急停止すると同時に刃がこちらに向き、強引な横薙ぎへと変化する。あんまりな力技、流石にこれは予想できるはずがない。

 

「はぁ!?そんな大剣を短剣みたいに扱うなんておかしい―――」

 

 こちらを両断せんとばかりに振るわれた斬艦刀。受けたらイデオンの装甲だって真っ二つにされそうだ。仕方なしに、右腕部ジェネレーターを全て稼働させ、巨大なビーム刃を生成しつつ後ろへ飛びながら斬艦刀を受ける。

 

『チェェェェェストォォォォォ!!』

 

 野球のバッターよろしく斬艦刀をイデオンごとフルスイングし吹き飛ばされる。すぐさまスラスターで体勢を整え、長大に伸ばしたイデオンソードを叩きつける。

 

「イデオンソォ―――――ド!!」

『それを待っていたァ――――!!』

 

 イデオンソードを避けずにそのまま斬艦刀で受け止められる。いくらパワーで劣っていたとしても、大量の粒子で構成されるイデオンソードの前には意味はない。

 

 だがイデオンソードは拮抗したまま動かない。

 

『しかと受け止めたぞ!!イデオンソード!!だが……我が斬艦刀はッ俺の魂の剣!!断ち切るゥゥゥ!!』

「なんだとぉ!?」

 

 瞬間、イデオンソードが斬艦刀を振り回す挙動でビーム刃を散らされ破られる。防がれた事に驚愕すると同時にイデオンソードの放出を止め、デブリに着地すると、ダイゼンガーは再度斬艦刀の切っ先をこちらに向けるように構える。

 

『今こそ!アストレイは俺の魂の愛機と成り得た!否ッもはやアストレイではないッ!武神装攻ダイゼンガー!!』

「そういうのははっきり言っちゃ駄目だろ!!」

『もはや問答無用ォ―――!!』

 

 声高々と宣言したダイゼンガーは斬艦刀を振り上げ、こちらへ叩きつける様に振り下ろした。それを後ろへ下がりながら、腕部からビームを放ちつつ距離を取る。

 

「イデオンソードは負けていないぞ!!」

『ならばもう一度!!でぇぇぇいやぁぁぁぁぁぁ!!』

「なに!?」

 

 再度振り上げた大剣をデブリに叩き付け、その反動で宇宙へと飛び上がる。凄まじい勢いで上昇していくダイゼンガーをモニターに映しながら、イデオンに意識を集中させる。

 

「負けてないよな、お前の力は……ああ、そうだ。まだ本領じゃないよな……イデオン!!」

 

 サイコフレームの共振と共にイデオンが赤く、白く発光する。その際にメインカメラに当たる部分も強く発光し、上昇するダイゼンガーに右腕を向ける。

 

「最大出力で行く!!イデオンソォ――――ド!!」

『見るが良い!!我が雲燿の太刀ッ!!』

 

 砲台のように放たれたイデオンソードと落下と共に振り下ろされた斬艦刀がぶつかり合う。凄まじい粒子量を吐き出しながら進んでいくイデオンソードは斬艦刀によって受け止められ、フィールドにビーム刃が散らされる。

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 フィールドに散らされたビーム刃が、周囲のデブリを真っ二つに切り裂きながら広がっていく。その中心にいるダイゼンガーもただでは済んでいない。機体に亀裂を生みながらも、雄叫びと共に突き進んでいく。

 そして突き進んだ刃が目前へと近づいたその時、更に雄叫びを挙げたダイゼンガーがイデオンの右腕を切り落とすように斬艦刀を切り上げ、振り下ろした。

 

『チェェェェストォォォォォォォ!!!』

「ぐっああああああああ……ッ」

 

 振り下ろされた斬艦刀はイデオンの肩から胸部までに深く食い込み、止まる。ここまでの損傷じゃもう動くことはできない。だが俺は思いのほか冷静だった……、無傷で倒せるような相手とは思っていなかったからこそ―――。

 

「倒すッ!!ここで終るにはッまだ俺は何もあの人の役にはたってはいない!!」

 

 スパークを起こしかけた機体を無理やり動かし、斬艦刀を切り込んだダイゼンガーの胸部に左腕を突きこみ、残った粒子と共に―――。

 

「イデオンッソードォッ!!」

『なに!?』

 

 ダイゼンガーの胸部に巨大な穴を空ける様に、イデオンソードを発生させた。力なくだらりと斬艦刀から腕を離し、両の腕を下ろすダイゼンガー。斬艦刀が突き刺さったままのイデオンも膝を屈し、前のめりに倒れる。

 

『素晴らしい勝負だった……ッ』

「ありがとうございました……」

 

 先輩、ノリコ……後は頼みました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうらぁ!!』

「あああ!!」

 

 ガンバスターの残った左腕がカッターによって切り落とされる。相手のGマスターは見た目には深刻な損傷を見られない一方で、私のガンバスターは両腕を落とされ、機体の各部がへこむような損傷を受けてしまっている。

 

『ゲッタァァァァ……ビィィィィィム!!』

『バスタァァァァッビィィィィム!!』

 

 それぞれの頭部と腹部から放たれたビームがぶつかり合う。

 

「……ッ……粒子がッ……」

 

 ここでガンプラでの戦闘法での差が出た。ほぼ格闘だけを用いるGマスターとビームに大量の粒子を用いる私のガンバスターじゃ、どうしても粒子運用に違いが出てしまう。

 ―――ぶつかり合ったビームが徐々に押される。

 

「まずい……このままじゃ……」

『らあああああああああ!!』

 

 ビームを押しきりこちらへ解き進んでいく赤色の光線。もうガンバスターに対抗する手段は残されていない、なけなしの粒子でこのビームに対抗できるとは思えない。

 

「諦める……もんか……ッ」

 

 だとしても、二人が戦っている。

 なら例え負けそうでも戦わなくちゃいけないでしょうが。眼前まで迫ってきたビームから目を逸らさずに睨み付けたその瞬間……。

 

 

 私のガンバスターとGマスターのビームの間に、クリアパーツでできたランスがどこからか割って入ってきた。

 

『んな?!』

「これは先輩の!?」

 

 ビームが直撃し拡散させたランスは、衝撃でどこかへ吹っ飛んで行く。それを呆然と見た私は、こちらへ近づいてくる味方機をセンサーで確認する。

 

「ノリコ、良くここまで頑張ってくれた!!」

「先輩!!」

 

 相手チームのリーダーと共に離れていった先輩が、若干損傷したジンクスⅣと共に私の傍へ辿り着く。

 

『来たか!!あのカナコをやっちまったのかよ!!』

「オレもただでは勝てなかったがな……、ノリコ、俺のジンクスの損傷も軽いものじゃない、だから……一緒に倒すぞ」

「っ!……はい!!」

 

 諦めなくて良かった。心の中からそう思い、Gマスターを見据える。

 先輩の機体は所々傷ついているし、腕も一つしかない。でも……負ける気がしない。

 

「ノリコ、一回戦の蹴り、出せるか?」

「……出せます!!」

「上等だ、なら準備しておけ!その間、ナガレは俺に任せろ……トランザム!!」

 

 赤い光を纏ったジンクスが残光を残して飛び出した。私も先輩に言われた通りに技の準備にかかる。残りの粒子量と残り時間からして、チャンスは一回のみ。

 なら……絶対に成功させなくちゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノリコとようやく合流できた俺は、すぐさまナガレとのバトルを開始していた。残り時間も少ない、なので惜しみなくトランザムを使ってはいるが―――。

 

『うおおおおお!!』

 

 目の前のGマスターはちっとも引いた様子はない。ノリコのガンバスターとバトルして結構ガタが来ているはずなのにこれとは、やっぱり凄まじく硬く、強いファイターだ。

 

「これを喰らっていられるか!!」

 

 ブースターのショットランサーを発射させながら、サーベルを突きだす。ショットランサーはそのまま弾かれてしまうが、突き出したサーベルはそのままGマスターの胴体に突き刺さる。このまま真っ二つに引き裂こうと力をいれようとするも、サーベルを持っている腕目掛けて振り下ろされた手刀によってその挙動は中止され、下がらざるを得なくなる。

 

『効かねぇなぁ!!』

「相変わらずのタフさだな!!」

 

 GNバスターソードを片手で引き抜きGマスターへ叩きつける。カッターでバスターソードを防がれるも、構わず何度もバスターソードを叩きつけ、腹部を蹴り飛ばす。

 

『ッ!!やっぱ、テメェの後輩にやられたダメージが響いてんなぁ!!』

「当然だ!!俺の後輩だぞ!!」

『確かになぁ!!』

 

 スパイクが展開された拳がジンクスの脇腹を深く抉り込まれるが、今はアシムレイトを使っていないトランザムなので痛みはない。流石にこの機体損傷でアシムレイトはバトル続行不能の危険性が伴うので発動していない……そう判断しての事だが……脇腹の損傷を一目見て身震いしながらも安堵する。

 

『テメェがここに来たって事はカナコはやられたって見てもいいんだよなぁ!!』

「ああ!」

 

 ジンクスⅣと俺の体が悲鳴を上げている。カナコの時に使ったアシムレイトが相当体に負担をかけたようだ、だから俺もそう長くは持たない。

 それほどまでにカナコは強く、俺達のチームにとって天敵のような存在だった。

 

「悪いがエネルギー量もそこまで多くないんでな!!短期決戦とさせて貰おう!!ノリコ!!」

「準備オッケーです!!」

『このバトルを終わらせるにはまだ早すぎんだろうがァ!!』

 

 ノリコの準備が完了したと耳にしたその瞬間、こちらへ拳を繰り出したGマスターの腹部にトランザム状態での飛び蹴りを叩きこみ、無理やり距離を空ける。

 

「行くぞ!!」

「え!?先輩も!?」

「そうじゃなきゃナガレの防御は突破できない!!」

「は、はい!!」

 

 怯んだGマスターに続けてバスターソードを叩きつけた後に、すぐさまガンバスターと共に飛び上がり背中合わせのままアシムレイトを発動させ、赤い帯を脚部から発生させ、左足に纏わせる。

 

「合わせろ!」

「行きます!!」

 

 雷撃を纏わせたガンバスターの右足に全身の雷が集まり、光を放つ。それに合わせてナガレ目掛けて蹴りの体勢で飛び出したノリコに合わせて、俺も左足を突き出す。どういう訳か赤い帯がガンバスターにも移ると同時に、彼女の脚部から迸る雷撃も赤い帯へと帯電するように映り、赤白入り混じった輝きを撒き散らす。

 

「先輩と私のッスーパー……いやハイパーイナズマキックッだあああああああああああ!!」

『合宿の時と同じかよ!!いいぜ!!受け止めてやらぁ!!』

 

 ジンクスⅣとガンバスター二機の蹴りをGマスターが受け止める。だが拮抗するのも一瞬、数瞬のうちにGマスターの両腕が破壊され、胴体に蹴りが叩き込まれる。

 

 圧倒的な硬さを誇るGマスターでも、これは受け止められるはずがない。これはノリコと俺の最後の力を振り絞った一撃、止められるはずがない。

 

『ぐ、うおあああああああ……!』

「ノリコ!とどめを!!」

「バスタァァァコレダァァァァァァァ!!」

 

 突き刺さったガンバスターの脚部の装甲が開き、そこから数十本の杭に似た槍が飛び出し、Gマスターに突き刺さり、追加の電撃を叩きこんだ。

 

 雷とトランザムの光が収まった頃には、蹴りを叩きこまれ、胴を幾本もの杭によって貫かれたGマスターは動かなくなっていた。アシムレイトによる影響で強烈な懈怠感と共に大粒の汗を流しながら、辛うじて出せる声で、後輩二人への労いの言葉を口にする。

 

「コスモ……ノリコ、よくやってくれた」

 

 

『第三試合!暮機坂学園、チーム『イデガンジン』VS鏑木学園、チーム『大黒刃』のバトルは、チーム『イデガンジン』の勝利です!!』

 

 

 俺達の勝利を意味する声を聞き、ゆっくりと深呼吸しながらバトルシステムのジンクスⅣを手に取る。ブースターは俺の想定以上の性能を発揮してくれた。だが若干だがそれに振り回されている感じがするのも、俺のファイターとしての実力がまだまだ足りないという証拠だろう。

 

「先輩!」

「体は大丈夫ですか!?」

「……大丈夫だ、まあ医務室には行く予定だけど……直ぐに治る」

 

 まあ、アシムレイトに伴う痛みは実際の怪我ではないからな。深呼吸しながら荒い息を整え汗を拭っていると、チーム『大黒刃』の三人が俺達の方へ歩み寄って来る。

 

「俺達に勝ったんだ。こりゃあガンプラ学園ぶっ倒して優勝狙ってもらうしかねぇなぁおい」

「何であんたはそういう事言うかなぁ……普通に健闘を讃えあう事もできないの!?」

「これが俺なりの讃えだよ」

 

 漫才のようなやり取りをしているナガレとカナコを困ったように見ていると、二人の隣に居たセンガがコスモの方に真っ直ぐ歩いて行き、無言で片手を差し出した。

 

「また何時か、バトルをしよう。そして次こそは雌雄を決しようぞ」

「ええ、俺も貴方の斬艦刀に打ち勝てる程に強くなって……貴方を真っ向から倒します」

 

 ガシリと熱い握手を交わした二人は微かな笑みを浮かべ、睨み合っている。成程、バトルの中で好敵手が出来たという訳か……良い事だな。

 

「ナガレ、カナコ。またバトルをしよう」

「……ハッ、当たり前だろうが」

「うん、負けっぱなしは嫌だからね」

 

 ノリコと共に握手を交わしたその後に、俺達は次のバトルが始まる前に会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝ったのはチーム『イデガンジン』ですか」

「スゲェチームだな……ガンプラバトルじゃねえみてぇだ」

「いや、スパロボだろもう」

 

 チーム『グラナダ』学園の控室。其処で三人のファイターがモニターを興味深げに眺めていた。一人はヨーロッパジュニアチャンプ、ルーカス・ネメシス。残りの二人は、グラナダ学園からの出場チームでの補欠、アイバ・タイキとトミタ・ルイ。

 

「予定より早くなっちゃったけど……アイバ君、トミダ君。次のバトルを勝ったら、次はあのチーム『イデガンジン』だ」

「分かってるぜ。でも俺達のやることは変わらねぇ。お前に言われた通りに動くだけだ。なあトミタ」

「ああ、普通なら俺達みたいな補欠はこんな晴れ舞台になんか出れやしねぇんだ……そのチャンスを作ってくれたお前の役に立ちたい」

「ありがとう、二人とも」

 

 アイバとトミタは素行が悪いと言われていたが、単純に実力主義的なグラナダ学園の教育方針に合わなかっただけかもしれない。どちらにせよ、彼らはルーカスによって選出された人員。ルーカスが求める役割をきっちりやり切る事が出来る優秀なファイター。

 

「でも君達には、地味な作業を押し付けてしまうかもしれない……」

「気にすんなよ。大会に出れる、それだけで俺達は嬉しいんだ」

「そうだぜ!」

 

 本来はもう少しだけ先に選出しようと思っていた二人だが―――このタイミングで出しておいて正解だったかもしれない。精神状態的にも、あまり連携の取れるとは思えないレギュラーチームよりも、自分を信頼してくれる仲間と一緒の方が、戦いやすい。

 

「……さあ!二人とも、そろそろ出ましょう!まずは一勝!!」

「頼りにしてるぜ!」

「それはこちらの台詞ですよ」

 

 自らのガンプラを持ち、控室から歩を進める。

 この最高傑作のガンプラと、頼れる仲間達となら……きっと楽しいバトルができる。

 

 あの人のように、自分でバトルして……喜びを分かり合える。

 

「さあ、楽しもう!ガンプラバトルを!」

 

 

 その日、ルーカス・ネメシスが駆るクロスボーンガンダムフルクロスは、会場内の全てのファイターに戦慄を与える。そして彼等『フォン・ブラウン』が4回戦で当たる、今大会のダークホースの一つである『イデガンジン』とのバトルに、多くの注目が集まる事になった……。




 ドラえ○んカラーのアッガイとか考えたら、既に作っている人がいて笑いました(挨拶)


 今回はチーム『イデガンジン』にとって色々苦しいバトルに成りました。
 イデオンは半壊、ガンバスターはほぼ半壊、ジンクスⅣも全体的に損傷を負っている。
 まあ……ガンプラバトルは壊れてこそ、ソレですからね。

 次話は……大会以外のバトルをやるかもしれません。



 ふと思いついたことなのですが……。
 グレンラガンが出せなければラゼンガンにすればいいのでは?色的にガンメン的にセラフィムと相性が良いですし。あのネジネジしたドリルも、Gレコの樹木ビームを見ればできない気がしない(錯乱)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話~キョウスケ編~

フミナ顔のガンプラの出現でヴァルシオーネの再現が可能になってビビりました。


今回はスピンオフ?のようなものです。
キョウスケメインの話で……選手権では出せない再現機体を数体出したいと思います。

レイ達の三回戦のバトルの直ぐ後の話です。



………全国編では出ないと言いましたが、これは閑話だからセーフ(震え声)


「順調に勝ち上がっているな、レイは」

「ああ、今日のバトルなんて鳥肌もんだぜ」

 

 トーナメント表左のブロックの三回戦が全て終わりを迎えた。現在はマサキと共に会場の外で暇を潰している所だが、数日滞在しているからか特に見るものがなく、近くのベンチに座りながら先程の試合に対しての考察をしていた。

 

 やはり三回戦にまで残るファイター達の腕は相当なもので、それらの試合を見た俺もマサキも得るものが多少なりともあった。

 それにしても大会のバトルを見た時は驚いた……。

 

「この大会はスーパーロボット型のガンプラが多いようだ」

「モデルが有った方が再現しやすいだろうし、どうせなら好きなロボットで戦うのがいいだろ?」

「確かにな……」

 

 レイのチームは只者ではないとは思ってはいたが、まさか俺達と同じようにガンプラを基盤にしたロボットを作っているとは思わなかった。原典には性能は劣るとしても、ガンプラバトルでは圧倒的な出力と工夫により強力な機体となっている。

 

「俺もあと一押しといった所か」

 

 大会を見ていて分かる。今のアルトアイゼンKのステークではあと一歩及ばない。あのトライオン3もそうだが、基本的に勝ち上がるガンプラの多くは堅牢。いかにアルトといえど圧倒的な装甲の前ではかなりキツイものがある。

 

「あ、見てみろよキョウスケ!!」

「なんだ?」

 

 マサキが会場近くの出店を指さす。そちらに目を向けると、設置型のバトルシステムと人だかりが見える。見たところ誰かがバトルしているようだが……立て看板を見る限り、小規模のガンプラの大会が行われているようだ。

 

「なあ、見てみようぜ」

「暇潰しには丁度良いかもしれないな」

 

 ああいう大会にはあまり出ることはないのだが、もしかしたら選手権で敗退してしまった選手が参加しているかもしれない。

 早足で行くマサキの背を追う様についていくと、現在バトルシステム内で行われているバトルが見える。

 

『な、なんだそのガンプラは!?』

『このガンプラは私についてきてくれる!!』

 

「うわぁ……何かすげぇガンプラでバトルしてんな~」

 

 脚部についたローラーのようなもので地上を滑るように移動する真紅のガンプラが、バスターガンダムから放たれるビームを回転するように躱し、バスターの砲身に二又のダガーを突き刺しそのまま蹴り飛ばしていた。

 

「ゼイドラ……だよな?あれ」

「ガンダムAGEに登場したヴェイガンのMSだ」

 

 ゼイドラをモデルにした改修機、首回り背部のユニットには黄色の着色が施され、脚部には地上を移動する為のローラーが増設されている。全体的にはゼイドラの刺々しさを軽減させたようなものだが、それほど違和感を感じさせないデザインとなっている。

 

 そして特に目を引くのは鈍色に輝く右腕の爪。アンバランスさが感じられる巨大な腕だが、鋭利な爪も相まって異様さすら感じられる。

 

「紅蓮か」

 

 コードギアス反逆のルルーシュで登場したロボット。地上を縦横無尽に駆け敵を破砕する、黒の騎士団のエースが用いる機体。

 そのモデルと変わらない機動で市街地で生成されたフィールドを飛び回り、後退するバスターガンダムを胸部のアンカーを用いて追いかけ、その右腕で掴み握り潰すように捕縛し―――

 

『消し飛べ!』

 

 右腕から放たれた高エネルギーがバスターガンダムへ注がれるように放たれる。紅蓮型のゼイドラによりエネルギーを注がれたバスターガンダムは、一瞬のその動きを止めた末に爆発、それでバトルは終了した。

 

 俺のステークとは違い、あちらは内部から相手を破壊するのか。

 

『選手権記念バトルはカレンさんの優勝でーす!!優勝したカレンさんにはここからお好きなガンプラを三つ送らせて貰いまーす!!』

 

「やった――!」

「よくやったぞカレン!」

「やったね」

 

 喜びの声を上げるカレンと呼ばれた中学生ほどの少女と、彼女に駆け寄る黒髪と茶髪の二人の男子を見ていると、マサキが俺の肩を叩く。

 

「なあなあ、この大会って今日何度もやっているらしいんだよ」

「本当か?」

 

『それでは今日4度目の大会の受付を行いまーす!』

 

 司会を行っていた女性がマイクを持って受付に立っている。其処には既に金髪の少女が受付を行っている。アメリカ系だろうか、やけに上機嫌に署名を済ませた少女は、俺の視線に気付くとウィンクした後に、バトルシステムの方に歩いて行ってしまった。

 

「なあ、聞いてんのか?」

「あ、ああ……出よう」

「そう来なくっちゃ!!」

 

 あの少女には面を喰らったが、取り合えず出てみるのも面白い。説明を見る限りでは、一回の大会での参加人数は8人まで、4つのバトルシステムで行われる。優勝したものには三つのガンプラを貰える、というものだ。

 

 ガンプラを三つ貰えるのは嬉しい。旅をしているおかげで正直余裕がなかったのだ。マサキか俺が優勝できれば、無料でガンプラ三つが手に入る。戦意を滾らせながらマサキと共に受付の前に立ち、参加の手続きを行おうとすると、受付の人は俺とマサキを見て申し訳なさげに頭を下げてきた。

 

「申し訳ありません、後一人しか参加できないのですが……」

 

 既に7人分の枠は埋まってしまったらしい。

 同時にマサキと目を合わす。

 

「マサキ、諦めろ」

「へへへ、こっちの台詞だぜ、キョウスケ」

「………」

「………」

「こういう時は」

「ああ……ッ」

 

 一緒に旅をしている上で喧嘩することは何度かあった。

 そんなときの解決方法は―――。

 

「「ジャンケン!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『倒すッ!』

「さあ、来い!!」

 

 大会一回戦目、並行して4つのバトルが行われるその中で、俺のアルトアイゼンKは市街地を走り、敵機とバトルを繰り広げていた。この大会ではステージは市街地で固定されたままのようで、バトルの度にステージは変更されない。

 地に脚がついているほうが性に合っている俺としてはなんら問題はないが……。

 

「速いな……」

 

 相手のガンプラが速い、恐らくガンダムXに登場したコルレルというMSだろうが、その速さを生かせるような改修が施されている。

 

『はあッ!!』

「同じことを何度も!」

 

 背後から飛んでくる機関砲を反転して受けながらもマシンキャノンを放つが、相手はその場で飛び上がり、ビルに四肢で張り付き、こちらへ飛びかかって来る。

 

「アレクサンダ……またコードギアスか……!」

 

 コルレルの改修機、恐らくアレクサンダを元にしたものだろう。コルレルのあのスピードとあの柔軟性に特化した仕様は間違いなく厄介、加えてこのステージは相手にとって有利。あの四肢で走る形態はアルトのスピードに匹敵するかもしれない。

 

 コルレルの腕から展開されたトンファーをステークで受け止めマシンキャノンを構えるも、密接した状態で蹴り上げられ、あらぬ方向に向く。

 これまでの戦い方では駄目、だがこちらには―――。

 

「いくら動こうとも!クレイモア!!」

『……っ!?』

 

 胴体を蹴り飛ばして後方に下がったコルレルが、凄まじい挙動で建物の壁を蹴りクレイモアを避けた。三次元戦闘、とでも言うのか。

 壁を飛び回り、手首から刃を展開させたコルレルが、クレイモアを撃ち尽くしたアルトへ複雑な機動を描き特攻を仕掛ける。

 

「ここで仕掛けるにはあまりにも早計だぞ!」

 

 向かってくる刃に対してこちらも突撃を仕掛ける。装甲に刃が突き立てられるが、不快な金属音と共に中ほどから折れる。そのまま体当たりで吹き飛ばされるコルレルに、スピードを落とさずに右腕を引き絞る。

 ステークを危険でないと判断したのはミスだ!

 

「撃ち貫く!」

『う、うおおおおお!?』

 

 コルレルにステークが撃ち込まれ、バンカーが炸裂―――たった一度の衝撃でコルレルが砕け散る。そのまま腕を振り切り、ブレーキをかけて一息つくと試合終了のアナウンスが流れる。

 

『はーい、これで一回戦全てのバトルが終わりました―!一回戦を勝ち抜いたのはキョウスケさん、エクセさん、謎の食通さん、エンデュミオンの鷹さんでしたー。それでは次の試合の準備をお願いしまーす』

 

 ……後半は名前ではないだろう、むしろ異名だ。

 

 謎の食通に当たる人物を見ると、サングラスをかけた金髪の成人男性が見える。持っているガンプラは……黒いアストレイ?図体が大きいという事は、アウセンザイターか?まるでレイのチームがバトルしたダイゼンガーに似た形状だが、もしかしたら関係者かもしれないな……。

 

「……次のバトルに取り掛かるか」

 

 次のバトル開始はすぐだ。相手はあの金髪の少女、エクセ。愛称かどうかは定かではないが、それなりの腕を持ったファイターであることは分かる。

 

「よろしくね~!」

 

 バトルシステムを挟んでこちらににこやかに挨拶してくる彼女に困惑しながら会釈した後、BASEとアルトアイゼンKを置き、起動させる。

 

「アルトアイゼンK、出るぞ!!」

 

 プラフスキー粒子で構成された世界にアルトが飛び出す。着地と同時に市街地の間を駆ける。変わらず同じステージだが、今回は何か違う感じがする。

 

 索敵しつつアルトを走らせていると、眼前からビーム特有の桃色の光がこちらへ向かってくるのが見える。機体を横にずらしビームを避け、ビームが発射されたであろう空を見上げる。

 

 

『ジムスナイパーフライトちゃん、いっきまーす!』

「空か……」

 

 エールストライカーのようなバックパックを取り付けたジムスナイパーがこちらへロングレンジ・ビーム・ライフルの砲身を向ける。長距離特化か、俺の苦手なタイプの相手だ!

 

 だが、俺のアルトとてそんな相手と戦わなかった訳ではない。

 ジムスナイパーから放たれたビームをヒートホーンで弾き、そのまま突っ込む。

 

『わぁお!すっごい装甲ね!でもやりようはあるわよぉ!』

 

 続けて放たれるビーム、だが今度は何だ、連射して放たれている?

 危険を感じ、受けずに回避するも、クレイモアを撃ち出す肩の端にビームが連続して直撃し装甲の一部がくりぬかれたように破損してしまった。

 

 同じ箇所を集中して狙ったのか。ケンプファーとジムスナイパーとの対決とだけで皮肉を思わせているのに、空を飛んで遠距離射撃とは……まるでヴァイスリッターのようではないか。

 

「フ……望むところだ」

 

 加速と共に直撃の危険度が増す。そこで深刻な一撃を喰らいさえすれば一気に勝利はあちらへ傾く。だが距離を詰めなくてはこちらは圧倒的に不利。

 

「分の悪い賭けは嫌いじゃない……ッ」

 

 雨の如く降り注ぐビームを掻い潜る。ホーンで弾き、ビームを受け止め、それでも尚加速を続ける。圧倒的な加速を見せるアルトに驚くような声を漏らした少女は、空中で制止させたジムスナイパーを動かし、ビームを放ちながらの突撃へと戦法を転じる。

 

『赤いケンプファーなんて、運命的ねぇ!!』

「……っ、攻勢に転じたかッ」

 

 明かな異常なローリングでビームを乱射してくるのを見てから、すぐさまマシンキャノンを放ち牽制と同時にビームを撃ち落とす。正確すぎるなら不得手な射撃でも防ぐ事は容易ッ。

 

 そして相手は自ら突っ込んで来た―――これでこちらの!!

 

「この距離なら!ブースト!!」

『来たわねぇ!』

 

 反動をつけてジャンプしたアルト、それを予期していたのか迷わずこちらへ照準を合わせてきたことには感服せざるを得ないが―――。

 

「やらせて貰う!」

『簡単にはやらせないわよぉ!』

 

 引き絞った右腕がジムスナイパーに向けられると同時に突き出される。相手も照準に指が掛かっているのを見ても、ここで求められるのがどちらが早いかということであるのは明確。

 

「撃ち貫く!」

『うわぁ!?とっつき~!?』

 

 突き出されたステークに放たれたビームが直撃し、ステークの着弾点がずれ、ジムスナイパーの頭部を浅く削っただけで、そのまま地上へ落ちていく。

 咄嗟にスラスターを噴かし、ビルの上に着地しジムスナイパーを見据える。

 

 こちらは機体の至る所に損傷はあるが、あちらはメインカメラの損傷のみ、状況はあちらの方が優勢だが、まだクレイモアもステークもある。まだまだ戦える。

 

『メイジン杯の為にちょっとだけ早く来たのは間違いじゃなかったってわけね』

「メイジン杯の参加者だったか……」

 

 それならこのジムスナイパーの機動性に納得がいく。背部のエールストライカーもよく見れば縮小化され、小回りが利く様にスラスターが可動できるように改造が施されている。そして全体的な白い着色と青色のラインに、アルトとの対比的なものを感じざるを得ない。

 

『やっぱり日本はいいわね~流石ガンプラ発祥の地。バンダイバンザーイって感じ~!』

「……口が過ぎるぞ、バトル中だ」

 

 何故か分からないが、この少女からは版権的にヤバイ発言をする気が……いや、何を考えているんだ俺は。

 

『そうね、私が勝ってから話の続きをしましょうね』

「抜かせ、勝つのは俺だ」

 

 くるん、とロングレンジ・ビーム・ライフルを回転させ照準を向けたジムスナイパーを見据え、こちらもマシンキャノンを突き出し、ステークを引き絞る。

 さあ、バトル再開だ!

 

 

 

 

 

 

 

「良いバトルしてんなぁ……羨ましいぜ」

 

 あそこでパーだったなら今頃俺はあそこでバトルしていたはずなんだけどな……。まあ、負けたのはしょうがない、次に出場すればいい話か。

 

『ビームはお嫌いかしら~!』

 

 キョウスケがバトルしているやけにテンションの高い少女は、楽しむようにバトルしている。一方のキョウスケも仏頂面だが僅かに声に昂ぶりが感じられるから、楽しんでいる。

 

「んで、もう一方のバトルは、と」

 

 キョウスケのバトルから隣で行われているバトルに目を向ける。確か謎の食通とエンデュミオンの鷹のバトルだ。あちらにも人が集まっているから、それなりにいいバトルをしているのだろう。

 

『ガンダムアストレイトロンべだ』

『おいおいそんなアストレイいたっけな……というよりあんた、さっきアウセンザイターっって―――』

 

「トロンべっておい」

 

 完全に謎の食通じゃねぇか。

 頭を抱えながらバトルを見ると、ソードストライクの周囲を旋回するようにホバー移動している黒いマントに包まれたアストレイが、長大な銃身のハンドガンを連射しているのが見えた。

 

 マントから見える感じアストレイ系列の機体だろうが、黒く彩られている事に加え、頭部からモヤモヤとしたビームのようなものが流れ出ている。

 大きく改修された両足に両肩、肩に装備された円形の装備が、既存のアストレイとはかけ離れた外見を形作っている。

 

「ありゃあ……変形しそうだな」

 

 胸部に浮き出る様に取り付けられた折りたたまれた馬の頭を見て冷や汗を流しつつ、アストレイと何を合わせたのかを考察する。

 

「なんのアストレイ使ってんだアレ……?」

「ミラージュフレームでしょうね」

「はあ?」

 

 突然の声に横を見ると、白い制服を着た紫色の髪の同い年くらいの少年が横に居る事に気付く。誰だろうか、いやその前にミラージュフレームと言ったのか?ミラージュフレームなら、複雑な変形も可能だろうだが……。

 

「でもミラージュフレームって……」

「ええ、ミラージュフレームはMGでしか発売されていません。恐らくあれはあの方が作り上げたオリジナルのアストレイでしょう。加えて、あれには風雲再起のガンプラの部品が用いられているようですね」

「成程なぁ、あのハンドガンも風雲再起の脚かぁ」

 

 風雲再起なら納得がいったぜ。マスターガンダムに付随しているものを使ったのだろう。足と頭部の部分を可変可能なアストレイと組ませたのがあれって訳か。

 

「ありがとな、教えてくれて」

「いえ、私も暇だったものですから」

 

 表情を変えずにそう言った男に若干の不信感を抱く。あのガンプラの正体を見抜く技能は並じゃねぇ、それに馬に変形することも理解していたし、なによりコイツの感じは何だ。

 多分、すげぇ強いぞコイツ。

 

「アンタもこの大会に参加しようとしてんのか?」

「既に参加しましたよ」

 

 俺と反対側にある手を上げ、紙袋の中に入っているガンプラをこちらへ見せて来る。僅かに見えたガンプラは……HGのヴァーチェとクアンタ……?優勝したのか、組み合わせがどうか分からないが凄いな。

 

「名前聞かせて貰ってもいいか?俺はマサキだ」

「シュウです」

 

 シュウ、か。なんだか凄い因縁を感じる名前だ。でも、それから一言二言言葉を交わしてみるが、どうやら悪い奴ではなさそうだ。俺とキョウスケが来年の大会の為に関東を回っている、と言ったら驚くように目を見開いていたので鉄面皮と言う訳でもないし、さっきから気になっていたその変な口調も自然になってしまうらしい。

 

「……それなら私の居る所にもいつかは来そうですね」

「関東に住んでいるのか」

「ええ、群馬県の方に」

「へぇ……お前は選手権とかは?」

「生憎、私以外の部員が全員辞めてしまったので今年は諦めました」

 

 俺達と同じ理由で大会出場を断念したのか。少しだけ親近感が沸いた。

 

「……どうやら、あちらの方は勝負がついたようですね」

「え!?」

 

『トロンべよ!駆け抜けろ!!ランチェ・カノーネ!!』

『そりゃぁないでしょ!?くッおおおお!?』

 

 シュウの声にバトルシステムの方を向くと、黒いアストレイが両の手に持つ長大な銃を連射し、ソードストライクを蜂の巣にして戦闘不能に陥らせている場面がモニターに映し出されていた。

 

「……それでは私はこのあたりで帰らせて貰いましょう。マサキ、貴方との会話は楽しかったですよ」

「え、ああ……またな!」

 

 俺の言葉にフッと笑ったシュウは、薄ら笑いと共に街のある方向に消えて行った。そういえばどこの学校かは聞いていなかったな。……来年の大会には上がってきそうだな。

 

「ま、そんなことよりも……キョウスケのバトルはどうなってるかな」

 

 シュウの姿を見失うと同時にキョウスケのバトルへと目を向ける。まだバトルは続いているようだが、どちらも損傷を受けているあたり、今の所は互角のようだ。

 

 ケンプファーとジムスナイパーのバトル、原典ではジムスナイパーの方に軍配は上がったが……。

 

「これはどうなるか、だな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトル開始から十数分が経った。大会規定なら後少しでバトルが終了してしまうが、こちらも相手もまだまだ余力を残しており、互角の戦闘を繰り広げていた。

 

「捉えたぞ!!」

『しま……なーんてね!』

 

 飛び上がったアルトを待ち受けていたとばかり腰に装備されていたハンドグレネードを投擲し、ビームで打ち抜かれ爆風が生じる。それをノーガードで受けながら構わず、下がろうとするジムスナイパーを追随する。

 

「ここで決める!」

『うっそ!?』

 

 ハンドキャノンを連射しながら接近するも、放たれたビームにより限界に近づいていた左腕が破裂する。だがそれでも怯まずに、両肩のクレイモアを開き、一気に放つ。

 

『そんなのってあり~?!』

 

 今までクレイモアの存在を知らずにいたジムスナイパーは、咄嗟にライフルを防御するように構えクレイモアを受け止める。致命的な損傷は防がれてしまったが、まだ俺の手は尽きてはいないぞ……ッ。

 

『あ、あれ、まさかコンボ中?』

 

 至る所をスパークさせ煙を上げるジムスナイパーに赤熱させたヒートホーンでの体当たりを直撃させ、ライフルごと右腕を切り離し、同時に引き絞っていた右腕を一気に穿つ!

 

「遠慮するな!全弾持って行け!!」

 

 ステークが胸部に深々と突き刺さると同時にバンカーを全弾打ち込む。加速の勢いと相まってジムスナイパーが瓦解し始めるが、構わず全弾打ち込むと右腕を振り切る。

 

 ボロボロのジムスナイパーはビルに叩き付けられ、そのまま機能を停止する。

 

『二回戦、終了いたしました―。二回戦の勝利者はキョウスケさんと謎の食通さんでーす!』

 

「……なんとか、勝てたか」

 

 プラフスキー粒子が解除されると、損傷を追っていたアルトが元の状態に戻る。

 なんともいい経験になった。遠距離特化であそこまで強いファイターと戦うのは初めてかもしれない。後少し、アルトの装甲が柔らかかったら、遠距離から嬲り殺しにされていた可能性もあった……。

 

「負けちゃったけど、楽しいバトルだったわよ」

「あ、ああ」

 

 外国人のノリという奴なのか、フレンドリーに握手を求めて来るエクセ?に対して、こちらも手を差し出す。何が嬉しいのか、うんうんと頷いた彼女は自分を指さす。

 

「?」

「私は、エクセレン。メイジン杯に出場するためにアメリカから留学してきた花の16歳よ」

「あ、ああ……キョウスケだ。千葉県から来た、同い年だな」

 

 いきなりの自己紹介に驚くが、なにより名前に驚く。偶然だろうがなんとも変な気分になる。

 

「うっそ!チバシティ!?私が留学する学校がある場所も其処なのよー」

「そうなのか」

 

『二回戦が終わったようなので決勝戦を始めまーす。キョウスケさん、謎の食通さん。バトルシステムの方にお願いしまーす』

 

「……取り敢えず、話は後にしてくれ」

「はーい」

 

 どう反応していいか困っていた所で丁度良くアナウンスが入ってくれた。さりげなくエクセレンをマサキに押し付けながら、決勝が行われるバトルシステムの上に立つ。

 ……だが謎の食通が上がってこない。

 

 疑問に思い、バトルシステムから降りて下を見ると……。

 

「監督、あんた何やっているんですか!?大人げないですよぉ!!」

「むッ!?離せカナコ!それに私は監督ではない!!レーツェルッ……レーツェル・ファインシュメッカーだ!!」

「トロンべトロンべ言ってる大人はあんただけしか見た事ないよ!!てかアンタ、謎の食通で出場してただろ?!どんな翻訳機使ったら謎の食通で登録されるんですか!?」

「くっ……」

 

 佐賀県の代表、アスハ・カナコがバトルシステムへ行こうとしている謎の食通を食い止めている。困惑しながらも、彼らの近くに歩み寄ると、俺に気付いたカナコはぎこちない笑みを浮かべ、必死に頭を下げ始めた。

 

「すいませんすいませんキョウスケさん!この人大人げないので直ぐに連れて行きますね!この人私達の監督なんでやってもらわなくちゃいけない事が沢山あるんですよ!!」

「あ、ああ」

 

 凄まじい勢いで頭を下げながらこの場から離れたカナコと謎の食通。周囲は無言になるがいち早く状況を理解した司会の女性は、やや上擦った声でアナウンスを始める。

 

『え、えーと。謎の食通さんは出場を辞退?……したようなので大会優勝はキョウスケさんでーす!』

 

 

「………納得できん……」

 

 

 あんまりな優勝に思わずそんな言葉が漏れてしまったが、この場に居る誰もが同じことを思っただろう。マサキもエクセレンも苦笑いしている所を見ると、どうやら同じことを思っていた様だ。

 

 

 

 

 

 その後、若干肩を落としながら、マサキと共にバトルシステムがある場所から出ていくと、何故かエクセレンがついてきている事に気付く。

 

「何で来てる?」

「え、だってー」

「いいじゃねーか。俺は大会受けて来るから、エクセレンにはキョウスケの話相手になってくれって頼んだんだよ。お前、一人になると無口になるからな!」

「余計なお世話だ」

 

 『じゃ、受付いってくるぜー』と言い駆けて行ったマサキの背を見てため息を吐きながら、ベンチに座り選んで来た三つのガンプラを確認する。

 ……確認するのはいいが、興味深そうにこちらを覗き込んでいるエクセレンはどうしたらいいんだ。あまり邪険に扱えないので、尚更どう扱っていいか分からない。

 

「……見るか?」

「ええ!!」

 

 取り敢えず貰って来たガンプラを見せると、食いつく様な笑顔を見せた。メイジン杯に参加する程のビルダーならガンプラに食いつくと思ったが……どうやら正解だったらしい。

 

 箱を見回し、空け、喜び勇んでいる彼女を横目に見ながら、どうしてこうなったとばかりに小さなため息を零しながら、もう一つのキットに手を伸ばすのだった……。




群馬のGは~グランゾンのG~!(白目)

今回はキョウスケ編をやりました。
このままだと主人公ばっかりのバトルになりそうなので、一息がてら別のバトルをさせてみました。



今回の登場ロボについて。


ゼイドラ(AGE)→紅蓮二式。
コードギアス反逆のルルーシュの機体。

コルレル(X)→アレクサンダ
コードギアス亡国のアキトの機体。

アストレイトr……ミラージュフレーム(SEED)→アウセンザイター
アストレイミラージュフレームと風雲再起を合わせたガンプラ。
構造上変形機構は同じではありません。




もうGバウンサーがR-1にしか見えない私はもう駄目かもしれないです。

次回、本編に戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~悪手~

もう一度BFTの最終話のバトルロワイヤルを見て思った事があります。
これは……下手をすれば大参事スーパーロボット大戦が勃発するのではないかもしれない……と(戦慄)

しかもほとんどが本編の改修型ですから、レイがこれまでバトルしてきた大会出場者のガンプラが、もう一段階強化されることになって―――。



「拳法家同士のバトル、ね」

「合宿でも彼は不思議な拳法を用いていたが、まさか同門のファイターと当たるとは……しかもその相手は様々な武術を会得しているときている……」

 

 三回戦でのガンプラの修理をようやく終えた俺達は、キリハラ姉妹達と共に左ブロックの三回戦のバトルを観戦していた。チーム『トライファイターズ』とチーム『タイタン』のバトル。

 チーム『タイタン』は個人の戦闘を優先させ過ぎたのか、三機の内二機は落とされてしまったが、残りの一機が桁違いの強さでセカイ君のトライバーニングガンダムを圧倒している。

 

「うっわえっぐ、アイムレイト相手に急所攻撃に首絞めとか……」

「卑怯ではないな。アシムレイトは出力を上げるがその分ダメージが操縦者に返って来る……セカイ君はそれを理解しているか上で使用しているんだ。それであのファイターを責めるのはお門違いだろう」

 

 これが生身で行うボクシングだったら非難を浴びせていただろうが、アシムレイトという恩恵に預かっているからにはそのリスクは自己責任だ。

 

『ぐ、ああ……ッ』

 

「でも、アシムレイトの事を理解している上で嬲るような攻撃を食らわしているとしたら……それはファイターとしてあるまじき行為だ」

 

 紫色の粒子の髪?でトライバーニングの首を絞めているガンダムタイプのガンプラを鋭く睨み付ける。

 今回のバトルでセカイ君の認識が少し変わった。彼は強情で無理をしがちな性格のようだ。チームメイトはそれを尊重して彼に一対一のバトルを任せているようだが……。

 

「いや………これは俺が言って良い事じゃないな」

 

 あくまで彼らはエースであるセカイ君を信じているから手を出さないのだ。俺のように安定を目指すような子達じゃない。

 

 悩ましげに唸りながらモニターに視線を戻す。

 そこにはボロボロのトライバーニングが眩い輝きと共に立ち上がっている所が映っている。胸部の粒子を貯蔵する部分に何かが見える。コアに何か細工を施しているのか。

 どちらにしろ見当もつかない技術だ。

 

「……いや、待てよ。俺はアレを知っている」

 

 輝きこそ違うが、その方向性は何時しか見た、というより記憶に深く刻まれている。第7回世界選手権優勝者、イオリ・セイ、レイジ組のガンプラ、スタービルドストライクガンダムのRGシステムの光―――。

 

「なんだろ、アレ念体かな?ミサト、どう見える?」

「プラフスキー粒子がガンプラの形になって攻撃してる。それくらいしか分からない」

 

 5体の分身体で技を繰り出してゆくトライバーニングを見ていると、思わず笑みがこみあげて来る。合宿の時から微かには疑問に思っていたのだ。ガンプラの知識が乏しいセカイ君のビルドバーニングを誰が作ったのか―――あの完成度からして普通のビルダーでない事は分かっていたのだが……。

 

「……イオリ・セイさんのガンプラだったのか……」

 

 彼等の通う学校は聖鳳学園。イオリ・セイさんの母校だ。

 なにかしらの理由で彼のガンプラを使っていても不思議じゃない。

 

 セカイ君が相手のガンプラの腹部に平手を添え、粒子砲を放ちフィールドを震わせる。そこまでは見て立ち上がり、真剣な表情でバトルを見ていたコスモとノリコに声を投げかける。

 

「ノリコ、コスモ。そろそろ行くか」

「え、あ、はい!」

「分かりました」

「三人とも、頑張ってねー」

 

 ミサキとミサトに軽く手を振りながら、一応の戦術を頭の中で反芻させる。恐らく考えた作戦は今日のバトルでは役には立たないだろう。

 ヨーロッパジュニアチャンプ、ルーカス・ネメシス、使用機体クロスボーンガンダムX1フルクロス。

 

 一筋縄じゃいかない相手であることは確かだった。

 

 

 

 

 

 控室に入り、バトルに用いるガンプラの点検を行う。

 コスモは新しく作り直したイデオンガン、ノリコはガンバスター全体を見ており、俺はブースターに装備されている武装を見ていた。

 

 ―――前回のバトルでややブースターの性能に引っ張られがちだったが、今回のバトルではそれが無いように調整を施しておいた。軽量化を図るためにGNバスターソードは細くする形で縮小させ、ブースターの側面にGNダガーを6本取り付けて置いた。GNダガーならビームコンフューズに使えるし、いざという時に投げつける事ができる。

 

「フルクロスにはこれぐらい警戒しておいた方がちょうど良いな」

「凄かったですもんねぇ、あんな粒子ばんばん使って戦えるかって思いましたよ」

「事実、数分ほどで相手チームのガンプラは圧倒されていました」

 

 ―――確かにバトル中のフルクロスの動きは異常だった。あまりにも粒子をふんだんに使いすぎている、あんな調子じゃ5分と持たないうちに貯蔵分の粒子を使い切ってしまうだろう。

 その前に勝負をつけるつもりなのか……。

 

「可能性があるとしたら……」

 

 あの仲間が、補給ユニットとしての役割を担っているか……。

 ミサキとのバトルの時と同じ対応を頭の隅に置いておきながら、取り外したブースターを取り付けジンクスⅣを断たせ、暫し注視する。

 

「………よしっ」

 

 大丈夫、これでいつでもバトルが出来るな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右ブロックの4回戦が始まる直前に迫った一方で、会場外では一人の男が憑き物が落ちたような顔で帰路を歩いていた。

 その男の名はイノセ・ジュンヤ。

 先程、チーム『トライファイターズ』と戦っていたチーム『タイタン』のメンバーの一人であり、セカイを追い詰めたディナイアルガンダムのファイターである。

 

「……鍛え直しだな……」

 

 力に固執していた己の考えを、セカイが真っ向から否定した。最後に出したあの力がどのような力か理解は及ばないが、セカイは兄弟子である自分を超えて勝利を得たのだ。

 負けた筈なのだが、清々しい気分のまま会場の敷地から出ようとすると、目の前で車に乗った男と、車の横で立って談笑している強面の男の姿が見える。

 

「随分と顔つきが違うじゃないの」

「へっ、お前も負けちまったか」

 

「スガ……それにナガレじゃないか」

 

 二年前の大会で死闘を繰り広げた二人のファイターがジュンヤの前に現れた。というより、スガとナガレが知り合いだったことに素で驚きながらも彼らに近づくと、ナガレは二年前と変わらない凶暴な笑みでジュンヤの背を思い切り叩く。

 

「いってぇ!?何すんだこのバカ力が!」

「お前も随分と丸くなっちまったなぁおい!なあ、お前もそう思うだろスガァ!!」

「カハハ、お前は尖り過ぎるんだよナガレ。カナコちゃんが苦労しているのが目に見えてるよ」

 

 苛々しげにナガレの腕を弾いたジュンヤは、ジト目でナガレを睨む。

 

「何でお前がまだここにいんだよ。テメェは三回戦で敗退していただろうが」

「監督が太っ腹でよ、決勝まで滞在してもオッケーだとよ。んでもって、今からレイのバトルを見に行こうとホテルから出たら、久しぶりにスガにあったっつー話だよ」

 

 車のハンドルに手をかけているスガに指を向けたナガレは、会場を楽しそうに見ながらジュンヤにそう言った。レイ、アンドウ・レイか、ジュンヤにとって凶暴な獣という印象があるこの男を下したチームに少なからず興味はあったが、今の気持ちを考えると見る気は起きない。

 

「俺はお前と違って暇じゃないんでね、帰るとするわ」

「おう、帰れ帰れ、そして次会った時バトルしろ」

「はぁ?何でお前とバトルしなくちゃいけねぇんだよ」

「バトルするのに理由なんていらねぇだろ。好きな時にガンプラバトルして楽しむのがソレだろうが」

 

 実はジュンヤ自身ナガレとのバトルは願ったり叶ったりだったりする。暴力で相手を粉砕するナガレであるが、意外と技巧派なのでジュンヤでも手を焼く動きをする。

 

「はっ、上等じゃねぇか。次会った時、受けてやるよそのバトル」

「はーい、なら俺ともバトルしようぜっ」

 

 ここぞとばかりにスガが手を挙げる。

 

「……お前は前、俺とは二度とご免だって……」

「あの時のお前とはご免だって意味だよ。今のお前となら……楽しいバトルができそうじゃん」

 

 ニカッと人の良い笑顔を浮かべるスガに、一瞬呆けた表情を浮かべるジュンヤだが直ぐに笑みを浮かべ、何かを噛み締める様にしながらポケットに両手を入れる。

 

「そろそろ始まっちまうから俺は行くぜ。じゃあな」

「ああ……」

「カナコちゃんをあまり困らせるなよー」

 

 時間を見て会場の方へ走っていくナガレを見送ったジュンヤは、会場ホール全体を見据える。もう一度、ここへ来てみるのも悪くないかもしれない、そんな事を思いながら感傷に浸っていると……。

 

「あ、ジュンヤ、車乗ってけよ」

「はぁ……」

 

 相変わらずこいつは陽気な奴だ……二年前から変わらないこの男に嘆息しながらジュンヤは車へと近き、そのドアに手を掛けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより、暮機坂高校チーム『イデガンジン』とグラナダ学園チーム『フォンブラウン』の4回戦を始めたいと思います』

 

 バトルシステムの作動と共にBASEとガンプラを置き、生成された球体に手を置く。相手はヨーロッパジュニアチャンプ、個の力はこの大会最強クラス。

 

「チーム『イデガンジン』!行くぞ!」

「「はい!!」」

 

 だとしても、負けるわけにはいかない。操縦桿を押し込みジンクスⅣを発進させ、フィールドへ飛び込ませると同時に停滞させ、周囲を覗う。

 

「………コロニーの内部?」

 

 出てきたのは、上が傘のように覆う装甲のようなもので守られた空間。下には西方風の街並みが広がっている。ここがコロニーだと仮定すると、外は宇宙空間になっていると考えるのが自然だ。

 俺達が戦いやすい場所を選ぶなら、今すぐにここを抜け出すことが先決か。

 

「ここじゃ迂闊にイデオンガンは使えませんよ」

「分かってる」

 

 俺の姿を見つけて近づいて来たコスモのイデオンとノリコのガンバスターをの方に機体を向け、ステージに合わせた戦術を言い渡―――っ。

 

「単騎で来たか……」

 

 コロニーの物資搬入口から凄まじい加速でこちらに近づいてくる大柄な機体。髑髏を背負うガンダム、クロスボーンガンダムX1フルクロス。それがこちらに、ビーム砲を連ねた大砲『ビーコックスマッシャー』を向ける。

 

「コスモ、イデオンガンの準備を。発射準備完了次第撃て。ただし出力はあまり上げるな。すぐに動けるように抑えてな」

「了解」

 

 イデオンがその手に持つ大砲『イデオンガン』を胸部のコネクタに接続し、粒子を圧縮しているのを横目で見ながら、クリアランスと縮小されたGNバスターソードを両手に持ち、ノリコのガンバスターと共に前方へ飛び出した。

 

『向かってくるね……っ!』

「ノリコ、俺の後ろにつけ!」

 

 ガンバスターが後ろへ並んだ瞬間に、ブースターのシールドジェネレーターを作動させGNフィールドを展開する。ビーコック・スマッシャーが同時に放たれ、指向性を持ったビームの嵐がジンクスのシールドへと殺到する。

 

 衝撃で機体がぐらつくが構わず、GNフィールドの解除と同時にクリアランスを振るって煙を吹き飛ばし、クリアランスからのビームを放つ。

 

「ノリコ!」

「はぁぁぁぁぁい!」

 

 I・フィールドでビームを防いでいるフルクロスに、背後から飛び出したガンバスターが四肢の側面からビームを放射させながら、フルクロス目掛け拳を繰り出す。

 

『くっ……流石の迫力ッ』

 

 ビームを受け止める姿勢から、一気に上昇し射線から逃れたフルクロスはムラマサ・ブラスターでガンバスターの拳を受け止め反動で吹き飛ぶと同時に、脚の裏に展開させたダガーをガンバスターの肩に突き刺す。

 防御と同時に攻撃を行ったか、流石はヨーロッパジュニアチャンプ……伊達じゃない。

 

 ムラマサブラスターから全てのビーム刃を発動させ、怯んだガンバスターに振り下ろそうとしている所に、加速と共に接近しクリアランスで突きを繰り出す。

 個の力でやるのは勝手だろうが……これはチーム戦だぞ。ルーカス・ネメシス!

 

「それ以上はやらせないぞ……!」

『そう簡単にはいかないか……』

 

 繰り出したクリアランスと振り返りざまに薙ぐように振られたムラマサ・ブラスターが激突し大きな火花を散らす。―――やはり、こいつは飛ばし過ぎている。

 こんなオーバーペースで粒子を放出しつづけてどうなるか、分からない相手ではない筈。

 

 押し込まれるムラマサ・ブラスターに舌打ちしつつ、腰のショットランサーを二発発射しムラサメ・ブラスターを斜めに逸らす。

 

「はああああああああ!!」

『!……回復が早い!?』

 

 肩にダガーを叩きこまれたガンバスターが俺へ向けてきたビーコックスマッシャーを蹴りで破壊した。

 

『準備完了しました』

 

 通信から聞こえたその声を聴くと同時に、ガンバスターの腕を掴みその場から急いで飛び去る。フルクロスは追撃しようとこちらへ接近を試みようとするが―――

 

「撃て!コスモ!!」

『分かりました!イデオンガンッ発射ぁ!!』

 

『……こんな狭い場所で―――!』

 

 遠方に見えるイデオンガンから、小規模の竜巻が放たれ、建物を蹂躙しながらとぐろを巻くようにフルクロス目掛けて放たれる。出力を絞っているとはいえ、イデオンガンの威力は底が知れないものがある。コロニーの内面を剥がし、形あるものを瓦礫に変えて突き進む―――。

 

「ノリコ、ここから出るぞ!!コスモも射撃後はコロニーから脱出!」

 

 ガンバスターの手を引いたまま俺はコロニーの外壁目掛けクリアランスから光弾を放ち、コロニーの壁面に穴を空けそこに飛び込み、イデオンガンによって破壊されつくされるであろうコロニーから脱出する。

 

 直撃したかはどうかは分からないが……。相手チームの一人くらい脱落させれば御の字か。

 ……一応、保険は掛けておくか。

 

「コスモ……は、粒子の問題があるか、ならノリコ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことしやがるんだアイツら!!MAP兵器じゃねぇんだぞ!!」

「やはり凄まじいですね……チーム『イデガンジン』」

 

 イデオンガンから放たれた砲撃をギリギリ回避する事に成功したフルクロスは、コロニーの搬入口の入り口付近に隠れていた、アイバとトミタの乗る青と赤のギラドーガと共に宇宙空間へと逃れていた。

 

「もうちょっと待っててくれ……でもこんな早く使い切っちまうもんなのか?」

「それほど全力で臨まないとマズい程の相手ということです。あの黒いザクの迫力は凄まじく、赤いジムの放つ砲撃は恐ろしく、ジンクスⅣのファイターの判断能力は侮れない……」

 

 アイバの乗る青いギラドーガの肩のタンクから延びたコードがフルクロスの背に接続され、粒子エネルギーが補充されていく。

 束の間の休息の中で、ルーカスは自分の手が震えていることに気付く。恐怖でもなく武者震いでもなく―――歓喜からくる震え。短い戦闘の中でも戦慄の連続だった。

 

「ふ……」

「おいおい、どうしたんだよ。まさか諦めたんじゃねーよな」

「まさか、ただ―――」

 

 茶化すように話しかけてきたトミタの言葉に苦笑しながら、チーム『イデガンジン』が居るであろう宙域に視線を向け、再び笑う。

 

「―――本気になって戦えると思うと楽しい気持ちになっちゃって」

「………ははは、頼もしいなぁおい」

「―――しっ!満タン!思う存分戦ってこい、俺達のエース様!!」

「ありがとうアイバ君!君達はこの後、それぞれの補給ポイントで待っていてくれ。まだ彼等にはばれていないだろうけど、細心の注意を払う様に!」

「ああ!」

「分かってるって!」

 

 二機のギラドーガがコロニーの残骸に隠れて飛んで行くのを見送ったルーカスは、フルクロスの状態を一通り見まわし、深呼吸をし―――

 

「行きますか……」

 

 その目を鋭いものへと変え飛び出した。

 粒子を出し惜しみせず常に最高の状態のポテンシャルで活動できるフルクロスは、あっと言う間にその視界にチーム『イデガンジン』の敵機を捉える。

 

 ジンクスⅣと赤いジム―――しかし一機足りない。

 

『来たか……』

「―――黒いザクがいない……?」

 

 どういうことだ、思考しようとしたその時、ジンクスⅣがその手のクリアランスを腰に戻し、ブースターから切り離された二つのGNガンランスを掴み取り、フルクロスに迫る。

 

『考えている場合じゃないか……I・フィールド!!』

 

 肩からパージされたスカルヘッドを両腕に装備させると同時にジェネレーターを起動、拳にI・フィールドを纏わせ、ジンクスⅣが突き出した二つのランスと激突させる。

 

『―――この出力……ッ』

「はああああああああああ!!」

 

 雄叫びと共に、機体を下がらせビームマシンガンを放つレイのジンクスⅣに追撃すべく、アンカーに接続したムラマサ・ブラスターを投擲する。

 

「その距離は僕の―――』

『やらせない!イデオンソード!』

 

 瞬間、ジンクスの後方から伸びた白い光の剣がムラサメ・ブラスターを弾き飛ばし、遙か遠方まで伸びたサーベルは、フルクロスを切り裂かんばかりにそのまま振り下ろされた。I・フィールドで防ごうとするも、あまりの長大且つ巨大な刃の為か、ふんぎりがつかずIフィールドバリアごと叩き斬られそうになる。

 

「防げない……?!クッ……」

 

 I・フィールドが突破される前になんとか回避し、刃の奔流にフルクロスの外装甲が焼け焦がされるような感覚を感じながら、すぐさま両腕のブラインドマーカーのビームダガーを展開させ、追撃を仕掛けてきたジンクスⅣと殴り合いに似た応酬を交わす。

 

『強い……なによりチームワークが厄介だ……』

「こっちも受け流さなきゃこっちの腕が破壊されそうだ!―――でも、そのカラクリは分かっている!!」

『ッ!』

 

 カラクリ―――まさかこんな早く気付かれたのか?いや、三回戦で補給する場面はみせてはいない筈だ。

 ハッタリ?……それもあり得るだろうが、と困惑しつつも突き出されたGNガンランスをビームダガーを合わせ弾き飛ばす。

 粒子量の差でパワーで圧倒されつつも衝撃を受け流したジンクスⅣに乗るレイは、先程のルーカスの反応を見て確信に至ったのか―――

 

「補給ユニットの方に向かえ!!恐らくフルクロスが出てきた方向―――コロニーの残骸付近に居る筈だ!!」

 

 ―――とだけ、言い放った。

 瞬間、ルーカスの頭の中は真っ白になった。どうやって勘付かれた。いや、それより……目の前の彼は誰にその命令を下した?目の前のイデオンは動いてはいない。

 

『―――ルーカス!こっちに黒いザクが来たぞ!!』

「……っ!アイバ君……そこから離れるんだ!!」

 

 通信から焦燥の籠ったトミタの声が聞こえる。

 

『さあ、ここからだ』

「は、ははは」

 

 乾いた笑いを浮かべ、ジンクスとイデオンを見たルーカスは背に冷たいものが走ると共に、ヨーロッパ大会で何度か体験した、ビリビリとした焦燥感を抱くのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーカス・ネメシスは確かにヨーロッパジュニアチャンプとしての強さは持っている。だが―――」

「補給ユニットによる粒子の補給という戦術はアンドウ・レイにとっては悪手だった……ってことかしら」

 

 これでバトルの様相は五分に変わった。

 粒子の消費が激しいが、イデオンとジンクスを圧倒していたルーカス。

 苦戦しながらもフルクロスの攻撃を捌ききったレイと、彼が撃墜されかけた場合にサポートに徹するコスモ。

 メイジンは、懐から取り出した一つのバトルを記録したデータディスクを見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

「キリハラ・ミサキとミサトと言ったか、このバトルを見ていなかったならば驚愕していた所だ」

 

 先日、メイジンとレディはユウマが不良たちに襲われた後に、遭遇したレイ達の中に居た少女、キリハラ姉妹の事が頭から離れず、彼女の事について簡単にだが調べ、そしてバトルの映像と音声を記録したデータを入手することに成功した。

 

「―――クリア・ファンネルにタイムストップ作戦……見るのも懐かしい名前が出ていたが―――」

「サイサリスを補給ユニットにし、予備のファンネルを持ち歩く……そしてルーカス・ネメシスの粒子供給の補給ユニット。フフフ、すごい偶然ね……」

「人は似たような事態には機敏だ……衰えを見せない粒子量、姿を見せない仲間……レイ君にとってそれだけで確信に値する要素に成りえるだろう。だが……逆を言うならば本当の戦いはここからともいえる」

 

 粒子の回復が無くなったともいえるこの状況はまさに五分と言っても良い。補給ユニット二機に襲い掛かるガンバスターとフルクロスに相対するジンクスとイデオン。

 

「私の目には……フルクロスの姿が、魔王を前にした勇者に見えるわ」

「意外にメルヘンだな、君も」

 

 確かにルーカスの作戦を看破したジンクスの後ろに控えるイデオンの姿を目の前にすれば、そう思うのも無理はないだろうが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――見つけた!』

 

 コロニーの残骸の影で待機していたアイバは、近くまで迫っていたガンバスターに恐怖していた。この青いギラドーガは戦闘する為のガンプラではなく、あくまで補給用のガンプラであり、装備もビームライフルとサーベルくらいしかない。

 

「くっ……なんて奴等だ……く、うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 威圧感を放ち襲ってくるガンバスターにビームライフルを連射するも、動揺と焦燥が相まってかガンバスターには当たらず、その背後へビームが素通りしていく。

 

 駄目だ、相対できる気がしない。すぐさま反転し身を隠すべく逃走という手段を選ぶ。

 しかし―――

 

『悪いけど見逃せない……ッホォォミングッッレェェェザァァァァ!!』

 

 圧倒的数の追尾式のビームがガンバスターから放たれ、アイバのギラドーガへと殺到する。慌てて近くのコロニーの残骸を盾にするも、数発のレーザーを右半身に食らってしまい、ライフルを持つ右腕が根元から消え失せる。

 

「……畜生……こんな簡単に終われるか……」

『大丈夫かアイバ!!』

 

 近くで待機しているトミタが先程のホーミングレーザーの光と破壊音に気付き通信を送って来る。……トミタはまだ補給用の粒子を使っていない―――この場で最も重要なのはアイバ自身の生存ではなく、一人で戦ってくれているルーカスへの助けになれるトミタを無傷で送ってやること……。

 

『待ってろ!今援護に―――』

「来るんじゃねぇ!!俺のことは良いからルーカスの所に行け!!」

『はぁ!?お前何言ってんだよ!!』

「カッコつけさせろよ……つーか、分かるだろ。相手はあのガンバスターだぜ?宇宙怪獣相手にたった一機で戦った最強のロボットの一角、そんな相手に今から一泡吹かせようと思ってんだから……行けよ」

『……分かった』

 

 通信が切れると同時に残り粒子量と補給用タンクに貯蔵された分を見て、決心し立ち上がる。

 

「一泡吹かすって大きな事言っちまった手前だけど……やるしかねぇ……ッ」

 

 決心が鈍らない内に残骸から飛び出し、警戒しながら近づいていたガンバスター目掛けて突進を仕掛ける。ライフルも何も残っていない状態で何かできる訳でもない。案の定、ガンバスターが放ったビームで半壊状態にまで追い込まれてしまうが、それでもアイバは加速をやめない。これ以上の負荷はガンプラが駄目になってしまう。

 

 ファイターとして、ビルダーとしてそれは辛いが、だが同時に―――これはガンプラバトルだ。命のかからない勝負―――――それならば!

 

「捨て身の攻撃ができるってことよォ!!」

『突貫!?いや、まさか―――』

 

 貯蔵、残量粒子をオーバーロードさせて青い機体を赤く発光させたギラドーガは、そのままガンバスターへ体当たりを仕掛けた。同時にガンバスターの拳がギラドーガの胸部を貫く。が、ギラドーガは自身の胸部を貫くガンバスターの腕を無事な方の左腕で抑え込み、容易に抜けないように固定してしまった。

 

「へっ、俺の悪あがきは普通じゃねぇぞ!!ガンバスター!!」

『この距離は……しょうがない!右腕をパージ!!』

 

 バキンと右腕と胴体が切り離された瞬間、アイバのギラドーガは近くに居たガンバスターを巻き込み爆発した。ギリギリパージが間に合ったガンバスターだが、近くで爆発を喰らったためか凄まじい衝撃にさらされ、センサーに誤作動が生じ一時モニターが真っ暗になる。

 

 しばらくすると、爆発の余波も収まりセンサーも元に戻る。

 ガンバスターの外見は煤焦げた様に汚れ、所々の装甲が剥がれていた。あれほどの爆発でこれほどの損傷で済んだのはノリコのビルダーとしての腕と、右椀部をパージするという判断のおかげなのだが……。彼女はしばらくギラドーガが自爆した宙域を見てふと言葉を漏らした。

 

『……執念、ってやつね……でも』

 

 ―――私達も負けられない―――

 そう小さく呟き、彼女は後一体居るであろう補給ユニットを探すべく、隻腕のままコロニーの残骸へと進むのだった。




フルクロス(勇者)VSジンクス(魔王)+ジム(神)+ザク(神)

文字にすると………えぇ……。


今回は、セカイとジュンヤのバトル、ジュンヤとスガ、ナガレのバトル後のやり取り、そしてルーカス・ネメシス編でした。
チームワークを重視して書いてみたのは良いですが、同じ毛色の戦闘にならないようにするのがとても骨が折れました……。




余談ですが、主人公であるレイのBGMとはなんだろうと、思うこの頃。
後輩達とか他スパロボファイターは元ネタがあるのでイメージBGMとか分かりやすいのですが……。

ガンプラバトルverBGMだと、00の挿入歌。
スパロボバトルverBGM…………VIOLENT BATTLE……?


次回で四回戦は決着です。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~チーム~

お待たせいたしました。



 残り時間が10分を切ったその時、バトルは終盤へと移る。

 宇宙では三つの機影が飛び交い、凄まじいバトルを繰り広げていた。

 

「食らうか!」

 

 イデオンがフルクロスに拳を繰り出す。巨体に見合った威力を内包しているその拳を間近にして、フルクロスは機体をスウェーすることで攻撃を避けると同時に、脚の裏のヒートナイフでイデオンの胸部の装甲を浅く削り取る。

 そして前面のスカートから伸ばしたアンカーをイデオンの脚に巻き付け、イデオンを近くに漂うコロニーの残骸に叩き付けた。

 

「くっ……」

「コスモ、無理するな!」

 

 呻くコスモの駆るイデオンの脚に撒きつけられたアンカーをGNバスターソードで切り裂きつつ、GNダガーを指に三つ挟んで投擲し、バスターソードで斬りかかる。

 

「そこ!」

『―――くっ』

 

 GNダガーをムラマサ・ブラスターで弾き飛ばされ、ビーム刃が展開されたソレでバスターソードが受け止められる。―――先程よりも粒子出力が少ない。これなら流さずとも打ち合える。

 一気に攻勢へ出る。

 右腰にマウントされたクリアランスを左腕で引き抜くように抜き放ち、一瞬のうちにビーム刃を形成させフルクロスの装甲に一筋の亀裂を刻む。

 

「押し斬らせて貰う!」

『そうさせるほど、僕はまだ勝利を諦めていない!!』

 

 瞬間的にバスターソードが弾かれ、上段からムラマサ・ブラスターが振り下ろされるも、それを逆手に持ったクリアランスで捌く。しかしフルクロスは間髪入れずに回転と共に横薙ぎの一撃をこちらへ振るう。

 

『君は落とさせて貰うよッ!』

「さッせるか!!」

 

 クリアランスとバスターソードで腹部への一撃を守り、パワーで押し斬られる前に下方から殴りつける様にフルクロスへ蹴りを叩きつけ、なんとかムラサメ・ブラスターの一撃を避ける。

 その場で一気に後方に下がり、コスモの居る場所にまで移動する。

 

「先輩!」

「合わせろ!!」

 

 俺の意図を理解したのか、追撃してこようとするフルクロスに向けて胸部砲口からエネルギーを収束させ始めるイデオン。こちらもクリアランスを両手で持ち、粒子を充填させる。

 

「受けられるものなら受けてみろ!!」

「グレンキャノンも、です!!」

 

『っ!』

 

 クリアランスとイデオンから放たれた赤色と緑色の砲撃がフルクロスを飲み込み、その奥のデブリを消滅させながら突き進み、一際巨大なコロニーの残骸へと衝突する。

 流石の粒子量だが―――。

 

「これで倒せるとは思っていない……」

 

 案の定、砲撃後、ほぼ無傷のフルクロスが白煙の中から現れる。

 

『まいったね……これ程とは思わなかったよ……チームワークを侮っていた。こういうところで個人戦との違いと思い知らされる……』

 

 全力であろうI・フィールドの展開―――いくらフルクロスであろうと、補給を断たれた状態ではいつかは限界が来る。放熱途中で使用できないクリアランスをコスモの背後にあるデブリに突き刺し、ブースターから飛び出したGNクナイを掴み取り、次の攻撃へ移るための準備を整える。

 

「―――I・フィールドを使わせて削らせるという手もあるが………あまり粒子は消費させたくない」

 

 こちらもさっきの一撃で粒子を多く使ってしまった。一応はトランザムの為に温存するため粒子を消費しない実体剣で押し切るしかない、か。

 

「コスモ、粒子量は?」

「心許ないですが、殴ったりミサイルで援護することなら可能です」

「十分だ……ッ」

 

 あちらも厳しいのかムラマサブラスターからビーム刃を展開させずに、受けの体勢に移る。

 

『フ、フフ、こんなビリビリとしたバトルは久しぶりだ……』

「そうかい!」

「援護しますよ!」

 

 飛び出した俺の背後からミサイルが放たれ、先行してフルクロスへと迫り来る。それらに対しムラマサ・ブラスターのビームで対応しながら、左腕のブランドマーカーを展開させ、あちらも接近戦を仕掛けて来る。

 

 振るわれたムラマサ・ブラスターをクナイで受け止めるも、殴りつける様に放たれたブラインドマーカーが防御に移したクナイに激突し、後方に突き飛ばされる。

 

「フルクロスの性能は、伊達じゃないって事か!」

『まずは君を―――』

「ブースターのランスはまだある!全弾受け取れ!!」

 

 回避と同時に反転しながら、腰部のショットランサーの残りの8発をフルクロスへ撃ち出した。キョウスケの台詞通りに全弾だッ。

 

『なっ……』

 

 突然のショットランサーに、追撃を食らわせようとしていたフルクロスは慌てて迎撃に移ろうと武器を振るうが、至近距離からの一撃に流石に耐えられなかったのか、半分が機体を覆う装甲へと突き刺さる。

 

 ―――これが活路になる。

 続けてGNクナイのサーベルを発生させ、投擲と同時にバスターソードを引き抜き、刺突の構えへと移る。

 

『終わらせない……ッ』

 

 ショットランサーが突き刺さったままの状態でGNクナイを切り落とし、脚部のヒートダガーでGNバスターソードを突き出した。

 突き出されたヒートダガーはこちらの右腕の関節に直撃しその衝撃で体勢を崩される。―――簡単には終わるとは思ってはいなかったが、正確に関節部を狙うのは流石過ぎるだろ……。しかも関節部を狙い打たれた事で、力の緩んだ右手のバスターソードにアンカーが取りつき、奪取されてしまった。

 

『そのブースターも!』

 

 体制を崩し、勢い余ってフルクロスの横を通り過ぎるその瞬間、奪われたバスターソードでブースターの側面が切り裂かれてしまう。―――だが幸いGNドライブが無事、ならば―――。

 

「ブースター分離!GNドライブ射出!!」

 

 ブースターが背部から分離し、GNドライブがブースターから射出される。余剰粒子でフルクロスの攻撃を回避しながら、GNドライブとジンクスⅣをドッキングさせる。

 

『そんな機能が―――』

 

 驚愕するルーカスを見据えサーベルを引き抜き再び攻撃を仕掛けようとすると、コスモのイデオンが居た場所からクリアランスが飛んでくる。それを掴み取って飛んで来た方を見ると、フルクロスに牽制用のミサイルを放つイデオンの姿が見えた。

 

「先輩!クリアランスで!」

「よし!」

『は、はは……何てチームなんだ君達は……』

 

 クリアランスからビーム刃を生成させる。

 これでトドメだ。

 

 

『さぁぁぁせねぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 

 

「!?」

 

 あらぬ方向から飛んで来たガトリングがジンクスⅣを襲い、その挙動を制止させられる。第三者からの砲撃……ッ、これは―――。

 

『ルーカス!今から送る座標に行け!!其処にタンクは置いて来たぁ!!』

 

 ガトリング砲を持った赤いギラドーガ。

 しかし、補給ユニットたるタンクが無い。

 

『トミタ君!?』

『行けええええええええええ!!』

「ッ、させるか!」

 

 クリアランスをガンモードにして、指示されたであろう座標地点へ向かおうとしたフルクロスに狙いを定めようとするも、させるかとばかりにガトリングで妨害してくる。

 ―――ここでフルクロスに回復させるのはマズい、が。あの執念、身を捨ててでも俺達を食い止めるつもりか。

 

「これもチームワークの形か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トミタくんが示した座標は思いのほか近かった。恐らく、僕が押されている姿を見て急いで準備したのだろう。無理やりデブリへ固定されたタンクが見える。それから延びるコードをフルクロスへ接続させ粒子を補給させる。

 

「本当に……」

 

 正直トミタくんが来てくれなかったら、危なかった。僕は心のどこかでチーム戦を甘く見ていたのかもしれない。チーム『イデガンジン』は個の力が突出し過ぎているチームだ。赤いジム、イデオンと黒いザク、ガンバスターの圧倒的な超火力を理解した上で、最大限に活躍できる指示をしているジンクスⅣのファイター、アンドウ・レイを中心にチームワークが展開されている。

 

「―――ふふふ」

 

 トミタくんに戦わせてしまっている手前、不謹慎だが高揚している。

 自分が知る強さとはまた違った強さ、個の結束と言う力を身を持って思い知った……だからこそ、全力を以て勝ちたい。

 

「……残り時間5分、粒子量50パーセント……心許ないけど、これで行くしかないか」

 

 ゆっくりと立ち上がり、ムラマサ・ブラスターと、ジンクスⅣから奪ったGNバスターソードをデブリに突き刺し、機体に突き刺さったショットランサーを引き抜く。いくらか装甲内のスラスターが機能停止にはなってしまったが、動く分には問題ない。

 

「……よしっ」

 

 デブリに突き刺した二刀を握り直し、トミタくんが粘っているであろう宙域を見る。

 ―――行くか。

 

『キィィィック!!』

「!?」

 

 飛び上がろうとスラスターを噴かせようとしたその瞬間、レーダーに反応が映ると同時に高速でこちらへ接近してきた機影が、減速せずにデブリ目掛けて突っ込んだ。

 危うく回避したこちらが破壊されたデブリの方に視線を向けると、最初の接触で戦った黒色のザクが、隻腕にも関わらず凄まじい威圧感と共に、こちらをグルンと視界に収めるのを目撃する。

 

『………あれ、フルクロスはコスモと先輩が相手しているはずじゃ……じゃあ、あっちでバトルしてるのって……』

「僕の仲間さ、さあ―――」

 

 ―――倒させて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はああああああああああああああああああ!!』

「悪いけど―――そう時間をかける訳には行かない!!」

 

 フルクロスを逃がして約二分が経った。

 コスモが振り下ろした手刀で機体を真っ二つにされたギラドーガを見据えながら、つい先ほど爆発のようなものが起こった宙域を見据える。

 

 恐らくノリコが補給中のフルクロスを見つけ攻撃したのだろう。すぐさまコスモと共にその宙域への移動を促しながら自身の機体の調子を確認する。

 

「右腕は……拳は作れるが関節の動きが鈍いか……」

 

 十全とはいかないだろうが……まだまだ戦える。

 でも、アドヴァンスドブースターを破壊されてしまい、GNガンランスもダガーもどこかに飛んで行き、バスターソードもフルクロスに奪われてしまったのは痛い。

 

 粒子残量もそうは多くないし、コスモに至ってはギリギリ。ノリコは……余裕があるだろうが、先程の通信では自爆で片腕を持って行かれてしまったらしい。

 

「追い詰められているのはこちらの方かもしれない」

「こっちはカツカツですからね……」

「しかし、四の五も言っている場合じゃない……出るぞ!」

 

 宙空を漂うデブリを超え、ノリコとフルクロスが戦っているであろう場所に出る。広い場所に出て視界が広がると同時に、こちらに脚部を破壊されたノリコのガンバスターが吹き飛んでくる。

 

「ぬわあああああああああああ!?」

「おわぁ!?」

 

 コスモのイデオンがガンバスターを受け止めるのを確認してからクリアランスを構えると、目の前には粒子を回復したであろうフルクロスの姿があった。左手にあるGNバスターソードが中ほどから破壊されている所を見ると、ノリコのキックを防御して破壊されたと見てもいいのだろうか……。

 

「っつー、先輩。すいません粒子回復させちゃいました……」

 

 最初にやられた肩の損傷が後から効いているのか、残った腕の動きが鈍い。

 ……これ以上のバトルは無理か……。

 

「いや、誰のせいでもないよ。その損傷じゃ満足に動けないだろ……後は俺に任せろ」

『―――行くよ!』

「コスモ、俺が隙を作る。―――ぶち込め」

「っ……はい!」

 

 俺の言葉の意図を察したコスモのイデオンは、力強く頷く。

 良かった伝わってくれたか。

 

 残り粒子量では補給を終えたフルクロスには押し負ける。瞬間的に上回る速さと威力で押し切る。これしかない―――でもそれだけでは攻めきれねい場合は―――。

 

「信頼する後輩を信じるしかない!トランザム!!」

 

 折れたバスターソードを捨てたフルクロスへ、赤い光と帯を纏わせ突き進む。やつの装甲はショットランサーで幾分か機能を失って居る筈。

 

 左腕のクリアランスからビーム刃を発生させ、同じくビーム刃を展開させたムラマサ・ブラスターに打ち合わせる。

 

「……っ!パワーでは劣るかぁ!」

『いくらトランザムでも!!』

 

 鍔迫り合いの甲斐無くクリアランスが弾き飛ばされる。やっぱり片腕無しでは些かパワーには心許ないが―――手が無い訳ではないッ。

 振り返したムラマサ・ブラスターの斬撃が切り上げる様に繰り出されるも、トランザムによって発生した帯を無手になった左腕から幾重も発生させ、前面に振り回すと共にシールドのようにフルクロスと俺の前に展開させる。

 

「この帯は、刃も弾く!!」

 

 バチィッ!とムラマサ・ブラスターの斬撃が端から霧散していく粒子の帯にぶつかり、弾くように衝撃を拡散させる。

 

『そんな防ぎ方……っ』

「使いどころは難しいが……侮れないぞ!!」

 

 さらに帯を巻き付けGNクローでの抜き手を放とうとするが、それは後方に下がられ回避されてしまう。こちらもゆっくりと下がりながら弾き飛ばされたクリアランスを回収し、再度攻撃を仕掛ける。

 

『何故……その粒子量では!』

 

 その疑問は尤もだろう。トランザムのために粒子を温存はしておいたが、今の俺は惜しみなく粒子を使っている状態にある。これでは1分も保たないだろう。バトルの残り時間3分前にして、俺の選んだ手段は最悪な部類だろう。

 

「個人戦では俺の行動は無謀に等しいだろうな!」

 

 フルクロスへクリアランスを振るいながらも斬撃を帯で防御し、一定の距離を保つ。相手と、このバトルを見ている人々からしたら、俺はバトルを諦めヤケになった様に思えるだろう。

 

 実際、粒子補給したフルクロスと疲弊した俺達とではアドヴァンテージに差がある。本来ならば、圧倒的な出力と技量で他を殲滅するフルクロスには補給をさせてはいけなかった。それが出来なかった時点でこちら側が不利に傾くのは当然の理―――。

 

「良く狙えよ……ッ」

 

 破損し関節が動かせず、かろうじて繋がっている状態の右腕の拳を固く握りながら、逆手に持ったクリアランスを左腕を巻き込む形で赤い帯巻きつけたままムラマサ・ブラスターを受け止めると同時に、威力を流すように左方向に一度回転するように懐へ潜り込む。

 

「グッ……まるで博打だな…………だが!」

 

 無理な体勢で攻撃を流したその反動で左腕の関節に痛みが走る―――が、これから襲ってくる痛みの方が凄まじい事は分かっているので歯を食い縛り我慢する。

 硬く握りしめた右拳のある腕を回転の反動を付けるように振り回し、フルクロスへ叩きつけるようにその拳の矛先を向ける。

 ―――肘の関節が動かず、まともな威力が出ない事を理解しているルーカスが困惑するように呻き声を出しているのが聞こえるが、そんな事はコイツを使っている俺でも分かる。

 

『右腕は使えない筈!』

「俺にはコレがある!」

 

 雄叫びと同時に右腕に残留粒子の全てを送り込み、アシムレイトにより生じる赤い粒子の帯をスラスターの如く勢いよく噴出させる。赤い帯により勢いづいた拳はフルクロスの腹部の装甲に容易く突き刺さる。

 

『ッ!?まだ……』

「これが俺が狙っていたッ一撃!!」

 

 一旦止まったかに見せた右腕の排出口から再び赤い粒子の帯が放出され、フルクロスの巨体を押し上げる様に突き進んでいく。だがこちらもフルクロスを押し上げるパワーを機体に回す粒子量はほぼない。

 

 だから―――流行にあやかるのも悪くはない!!

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 フルクロスを支えにしながらも再び腕を引き絞り、そのまま力の限り腕を突き出して、無理やり肘から先を前方へ解き放った。同時に右腕に激痛が走り声が漏れるが、必死に意識を繋ぎとめながらしっかりとフルクロスを見据える。

 

『な、何が起こっているんだ!?』

 

 ジンクスの肘から先から解き放たれた右腕は、本体と離れても尚凄まじい勢いで粒子の帯を放出し続け、フルクロスの本体を貫きながらコロニーの残骸へと突き刺さった。

 

「ハァ―――――ハァ―――ハァ―――」

 

 フルクロスは辛うじて戦える状態にあるが、片腕と装備を失ってしまったジンクスⅣは完全に粒子が底をつき、戦闘不能に陥ってしまった。機能停止に陥るも、辛うじてモニターが見える状態にあるジンクスⅣを、ガンバスターが受け止める。

 

「せ、先輩……ロケットパンチとは流石です。私一生ついていきます!」

 

 やや興奮気味なノリコの言葉は両腕を全身にかかる疲労で認識できなかったが、辛うじて目の前のモニターに見えるフルクロスに向け言葉を言い放つ。

 

「行け……コスモ……」

「はい!!」

 

 赤い機体が動けないフルクロスへと飛んで行く。

 俺のとった行動は個人戦では最悪の部類に位置する悪手だろう。だが、これはチーム戦。仲間が居る、それだけで、後ろに仲間が居てくれるだけで―――俺はどんな相手とだって戦える。

 

 背後で機を見て待機していたコスモの乗るイデオンが、フルクロスを縫い付けているジンクスⅣの右腕に拳を重ねる様に突き刺した。

 

 一瞬の静寂が場を支配するが、ゆっくりと拳を引き抜いたイデオンがこちらを向くと同時に、フルクロスのツインアイの光が消失する。

 

 

【BATTLE……END……】

 

 試合終了の声―――それが聞こえると同時に俺の目の前は白い光に包まれると同時に、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4回戦の後、レイ君はすぐに気を失って医務室に運ばれてしまった。後輩二人は大慌てで、医務室で彼を心配していたが、彼等もアシムレイトの事を理解していた為かすぐに落ち着きを取り戻し、彼が目覚めても無駄な心配を掛けないように、破損したガンプラを修理すべく自室へ戻っていった。

 

 今はまあ、この私とミサトが彼を診ている訳だが……。

 

「たくさん来たね。人」

「そうだね」

 

 キョウスケにマサキにレイ君が三回戦でバトルした大黒刃の面々。いかにもスパロボ然とした面々が見舞いに来ては帰っていった。

 

「決勝トーナメントかぁ……ここまで来ちゃうなんてね」

 

 私達に勝った彼等ならそんくらい言って貰わなくちゃ、とは思ってはいたが本当に来てしまうとは。自分の事のように嬉しいよ。彼のジンクスⅣと後輩達のイデオンとガンバスター。今でも思い出せる、彼のジンクスが私の冥・Oを倒すその瞬間を―――。

 

「ま、来年は負けないけどね」

 

 冥・Oのとりあえずの改修ももうすぐ終わるしね。一度どっかしらの大会で試しに乗ってみるのもアリかもしれない。

 

「でも、来年になったらレイ君のジンクスはどうなっちゃうんだろうね」

「今回は……ロケットパンチをしてたね。皆、目を丸くしてた」

 

 そう、トライオン3のようなスパロボ然としたガンプラならまだしも量産型のリアル系、いわばゲシュペンストが突然腕をぶっ飛ばしたようなものだ。驚かない方が無理はない。

 

 ネットでは、神様の主が一番スパロボしているんじゃないか?と言われている始末。

 でも、それでもレイ君は無意識なんだろう。私のようにスパロボも何も知らずに、ただひたすらガンダム作品を追求し続けていった彼の作るガンプラは―――変幻自在だ。

 

「う………ここは……」

「あ、目が覚めた……」

 

 呻き声と共に目を開けゆっくりと起き上がったレイ君に、とりあえず水の入ったコップを差し出す。ミサトは医務室の先生を呼びに出て行ってしまった。

 

「大丈夫?」

「だ、大丈夫。それより試合は……」

「イデガンジンの勝利だよ。次は決勝トーナメントさ」

「そうか……」

 

 水を飲みながら、私の言葉を噛み締める様に目を瞑るレイ君。恐らく嬉しいのだろう、彼だっていつも冷静に見えて子供らしいところもあるのだ。

 

「……俺のジンクスは?」

「君の後輩がちゃんと回収してくれたけど……結構酷いもんだよ。特に両腕とブースターが」

「ブースターは何とかなる。ちょうど加えたい機能もあったしな……後は……両腕、か。……うん」

 

 ベッドに乗ったまま腕を組み考え込む彼に、どことなく嫌な予感を感じながらも待つ。恐らく彼の頭には修理と一緒に行う改修も考えているのだろう。それが私にはある意味予測できているので、怖い。

 

「………ミサキ、ガンプラの修理と改修を手伝ってくれないか?少しやりたいことがあって……」

「因みに訊いてみるけど、そのやりたい事って?」

「腕を……」

「いや、それだけで分かったよ。君がそれでいいなら手伝うよ……」

 

 もうジンクスⅣからスーパージンクスとかに改名した方がいいんじゃないかな。ある意味で私の冥・O以上のスーパーロボットになりつつあるよ?君のガンプラ。

 

「そうか、ありがとう」

「ま、まあ。君を倒すのは私なんだから……やぶさかではないよ」

 

 一昔前のツンデレを披露した私を軽くスルーしながら、ジンクスⅣが入れられたであろうホルダーを手に取り、暫し見つめた彼がふと、何かを呟く。

 

「アシムレイトってやっぱり凄く痛いよな」

「……いや、まあ。そうだね」

「でもガンプラと同じ痛みを共有しているって所が、凄い考え込ませる。セカイ君のガンプラから迸る炎も俺のガンプラから放出される赤いラインも、感覚を共有したからこそ得られる産物?みたいなものかもしれないな。むしろ痛みを共有することが本来の機能みたいな…………ま、あくまで想像に過ぎないから当たっているとは限らないんだけどな」

 

 破損したジンクスを優しげな手つきで取り出しながらそう私に言った彼の表情は、分かりにくいが確かに満足気な表情だった。

 

 

「ね、その赤い帯出すの、やっぱりトランザムって名前なのかな?」

「ん?特に決めてないぞ」

「やっぱり恰好つかないからさ、トランザムと帯出すシステム分けた方がいいんじゃない?トランザムなしでもアシムレイトの能力は発動させることはできるんでしょ?」

 

 結構前から思っていたのだが、レイ君はあの赤い帯に名前とか付けていない。彼自身はスーパーロボットへの道を歩んでいる自覚はないから当然なのだが、せっかくの不思議能力に名前を付けないのは流石に味気ない。

 

「……確かにな、じゃあ……オリジン・システムで」

「安直過ぎない?……いや、でもスパロボ系なら機体名からつけるのもアリかな?」

 

 むしろスパロボZ的に言うならオリジン・ローで次元力ッ!みたいな感じに吹き込めばレイ君もいい感じに仕上がるかもしれない。我ながら悪い貌になっているのを自覚しながら笑みを浮かべてレイ君を見る。

 

「うん、いいんじゃない?」

「そんな良い笑顔で言われるとは……そんなに気に入ったのか?」

 

 やや引き気味で言われた彼の言葉にやや傷つきながらも、ミサトが医者を連れて来るその時まで技名に対する弁解を続けるのだった……。

 




ロボットパンチに利便性を見出したレイ君でした。


ここまでジンクスⅣオリジンのスパロボ的要素。

・クリアランス――ルガーランス(ファフナー)
・トランザム体当たり―――V-MAX(レイズナー)
・帯防御―――硬質残光(ヴヴヴ)
・破損腕飛ばし―――ロケットパンチ

後一押しで、立派なジンクスになれそうですね(節穴)



このペースで行くなら後、7、8話くらいで本編は終わりそうですね。
次回は改修回とルーカスや他キャラの話になると思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~挑戦者~



お待たせいたしました。




 全ての決勝トーナメント進出チームが決まった。

 チーム『ソレスタルスフィア』

 チーム『トライファイターズ』

 チーム『ビルドバスターズ』

 そして―――チーム『イデガンジン』

 

 そしてチーム『イデガンジン』に敗北したチーム『フォンブラウン』のルーカス・ネメシスは決勝トーナメント出場チームを見上げ、薄らと笑みを浮かべた。

 

 不思議と悔しいとは感じない。

 むしろ清々しい気持ちだ。本気で戦って負けたのだから。

 

「嬉しそうだな」

「!」

 

 トーナメント表から離れ後ろを向いたルーカスに、金髪の男が声を掛ける。ガンプラ学園の白い制服を着た美少年、キジマ・ウィルフリッドが壁に寄りかかりながら腕を組み、ルーカスを見ていた。

 少し驚いた表情を浮かべたルーカスだが、直ぐに微笑と共に歩き始める。

 

「僕はまだまだ勝ちたいと思える人が居る。それが嬉しいんだ。キジマ・ウィルフリッド君」

「……強いか、アンドウ・レイ……いやチーム『イデガンジン』は」

 

 正直、キジマはルーカスが勝つとばかり思っていた。実際、バトル終盤の流れは粒子補給をしたフルクロスに向いていた。だが、それをアンドウ・レイが見事逆転して見せた。否、彼らのこれまでの行動すべてが、ルーカスが立てた勝利への布石を崩し勝利を手にした。

 

「それは、君が確かめるべきだ。決勝トーナメント、楽しみにしてる」

「……フッ、その通りだな。私も少し高揚しているらしい。あんなバトルを見せられてな」

 

 どんなことをしてくるか予想すらできない彼等の戦いはキジマの闘争心を沸き立たせていた。勿論一緒に見ていたアドウもだ。レイのジンクスⅣの右腕がフルクロスを貫いた時なんて『なんだそれ!ソウルゲインかよ!!』と言った後にこれ以上ないくらいに爆笑していたのだ。

 

 その時の事を思いだしながらも、キジマは自分を通り過ぎ会場の外へ消えて行ってしまったルーカスに一度振り返り、一層笑みを深め歩き出す。

 

「兄さん!」

「む、シアか」

 

 自分を探していたのか、シアがこちらを見つけると駆け寄って来る。

 ……なんとなしにある事を思い出したキジマは大会中気になっていた事を聞いてみる事にした。

 

「そういえば……アンドウ・レイ、の事はどう思っている?」

 

 一回戦後、意味深に「ヒ・ミ・ツ」とシアが言ったことを思いだしたので緊張気味にそう聞いた。一時は離れて暮らしてた妹がまさか、まさか色気づくような事態があってはいけない。

 しかし、シアの答えは思ったより淡泊だった。

 

「ガンプラが凄い大好きな人だなって」

「……それだけか?」

「そうだけど……それがどうしたの?」

 

 首を傾げこちらを見る妹に若干額を抑えながら、「そういえば妹はこういう妹だった」ということを今更ながら思い出す。

 なら安心だ。いつか見た夢で『シアァァァァァァァァァ!!』と叫ぶような事態にならずに済んだようだ。

 

「ならカミキ・セカイは?友達か?」

「セカイっ?」

 

 明かに違った反応を見せるシアにキジマは動揺を見せる。

 ―――カミキ・セカイとシアは年が近い。

 セカイはガンプラ初心者、らしい。シアは卓越した技術を持っている……。

 

「まさか……そうなのかシア……」

「?」

 

 ニッコリと笑みを浮かべながら首を傾げるシアに何かを確信したキジマは表情を引き締める。

 

「そうか、頑張れ」

「?」

「さあ、決勝トーナメント前に準備をしておかなければな」

「……?そうね?」

 

 さも自然な流れで会話の流れを変えたキジマは、監督とアドウの居る個室の方に共に歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『熱血ガンプラバトル!!』

 

「あ、レイ君をインタビューしてたおねーさんが出てるよー」

「そこに食いつくなよ……」

 

 私は今、レイ君達が泊まっているホテルで彼のガンプラの改修を行っていた。今の時間は7時位だろうか、ようやく暗くなった外を見ながら、私は軽い現実逃避をしていた。何故、ミサトとカナコとコスモは買い出しに行ってしまった……彼等もレイ君のこの発想の凄まじさに驚くこと間違いなしなのに……。

 

「いいじゃん、綺麗な同年代の人にインタビューされて嬉しくない?」

「うーん、今はバトルの方が重要だからなぁ」

 

 興味なさげに手元のガンプラに目を移したレイ君。前レイ君がテレビ出てるよーって言われて見て思ったけど、彼は本当にガンプラにしか興味がないんだね。

 今、テレビに映っている同年代位の少女、確かモデルをやっている……カミキ・ミライだっけ?女の子の私から見ても可愛いと思えるほどの美人さんに直々にインタビューされても毛ほどもなびかないとは……なんとも鉄壁過ぎるガンプラバカだ。

 

『では準決勝の見どころをガンプラバトル解説者ライナー・チョマーさんにお聞きします』

 

「なにッッッ!!ライナー・チョマーだと!?」

「凄い食いつきっぷりだね!?」

 

 画面にカラフルな衣服を着た赤みがかった男が出てきたその瞬間、レイ君はぐるりと画面に釘づけになる。連年世界大会に出場しているベテランのガンプラファイター。

 

「むむ……これ昼間の映像か……」

「そうだね。でもさ、この人が出演しているって事は少なくとも世界大会関係者は注目しているってことじゃないの?」

「そういえばそうだな」

「……それだけ?」

「……そうだけど?」

 

 世界へ実力を見せつければオープントーナメントへ挑戦できるかもしれないんだよ?

 

「オープントーナメントには、出たくないの?」

「……あ、出たい」

「今気づいたね……」

 

 この大会のことしか考えていなかったのかな?

 意外と抜けてるところあるから、この大会の後とか考えてなかったんだろうなぁ。

 

「そんな先のバトルの事なんか考えてられるか。まずは目先のバトルだ―――さ、チョマーさんの話も終ったから作業に戻ろう」

 

 テレビ画面からこちらに顔を向けたレイ君は、何処か満足気にガンプラを磨き始めた。

 

「―――ミサキ、アシムレイトの発動と同時に発生するこの帯を有効に使う機構を考え付いたんだが……」

「う、うん」

 

 彼の目の前には、大体の修理を終えた両腕が無いジンクスⅣと、武装が全て取り外され、分解されたブースター。掌に置かれた腕を私に見せつけた彼は真剣な表情でこちらを見てくるが、とてつもなく嫌な予感を感じとった私は曖昧に頷くことしかできない。

 

「まず、腕部の排出口を4つから8つに増やす。肘に近い部分と手首に近い部分にだ」

「あのラインの出す口を増やすって訳だね。でも増やしてどうするの?」

「指向性を持たせて腕を飛ばす」

「………いや、あのさ……真面目に言っているの?」

 

 私のように何かモデルにして言っている訳じゃない。レイ君はロケットパンチの意味を理解せずに、ただただ利便性だけを求めて真面目に腕を飛ばそうとしている。

 

「俺はいつだって真面目だ。腕を飛ばす、というのは奇抜な発想だとは俺も思った。でもなミサキ、奇抜と思えて実際かなり使える。リーチを伸ばせる、意表をつける、手から離れた武装の確保、そしてラインと併用して使える―――というより、アシムレイトと同時に使う事を考えている」

 

 ロケットパンチってそんな深い事考えて撃つものだっけ……?逆に凄いよ、ロケットパンチにそこまでの可能性を見出せるなんて。

 でも、面白いなぁ。

 

「腕部の排出口はブースターの役割も?」

「そうだな、アシムレイトを使わない状態では意味をなさないから、今回は一部分だけサーベルの機構も加えておこう。ビームトンファーのように肘の部分の排出口に乗せる感じに嵌めておけば干渉しないだろう。いざという時パージして手持ちとして使えるし」

 

 ジンクスⅣの形を保ったままどんどんスーパー系になっていく……。

 

「アシムレイトもトランザムとは別にして使う。今まではトランザムと併用し使っては来たが、これからのバトルはそうは言っていられないレベルのバトルになる」

「フィードバックは?」

「なんとかしてみるさ」

 

 ケースから細長いサーベルの柄に当たる部分を取り出し、それにジョイントの様なものの外側を削りながら巧く嵌め込み、外した右腕の肘に当たる部分にカチリと挟み込むように取り付ける。

 

 塗装はしていないのでサーベルとジョイントの色が目立つが、それでも違和感がない位にはそれっぽい。レイ君は満足そうに笑みを漏らすと、再びケースから緑色のビーム刃を取り出し取り付けた柄に差し込んだ。

 

「よし、本当は手首につけたいが……手持ちの武器が干渉するのを防ぎたいから、これで取り敢えずとするか……」

 

 ジンクスⅣに嵌められた腕の肘に生えたサーベルを見て、ソウルゲインかよ!?というツッコミをしなかったのを褒めて欲しい。これを素でやっているのか彼は……だとしたら凄すぎる。

 

 とりあえず私ももう片方の腕を取りながら、レイ君と同じようにサーベルを取り付ける作業を手伝う。腕を飛ばす機構は少し時間がかかりそうだけどできなくはないね。

 

「腕を飛ばすのは私に任せてよ。君はブースターの修理に集中して」

「助かる」

 

 そう言うと私にガンプラの右腕を私の前に置き、ブースターを手に取り傷ついた部分を確認している。彼はブースターも改修すると言っていたから、私の思いつかないような凄いことをしてくれるに違いない。

 

「ブースターを……コアファイター……削れば?いや無理か」

 

 彼は何時もバトルの後、こんな風にガンプラを直していたんだろう。一回戦前まではこのジンクスⅣもここまでのガンプラじゃなかった。でも……。

 

「今までの経験が生きたのかな?」

「ん?何が?」

「いやぁ、このジンクスⅣになるまで一杯強い人たちとバトルしてきたから、それが君の力になっているんだろうなぁって」

「そりゃそうさ」

 

 今までのバトルを思い出すように、一度目を瞑り笑顔になった彼は数える様に指を折りたたみ、これまで戦ってきた人たちの名を口ずさむ。

 

「リョウト、カナコ、リョウヤ、ルーカス、マサキ、キョウスケ、アドウ……それにお前とミサトと、他にも沢山いるけど……俺と戦った人達との経験と知識が詰まったのがこのジンクスだ」

 

 ―――なんだか今のレイ君に申し訳なくなってきたのは気のせいだろうか。

 だって、名前を聴く限りカナコとルーカス、という子以外全員……いや、言うまい。私とバトルしたときもレイ君スーパーロボットに片足突っ込んでいたし、資質はあったのだろう。

 

「後は……やっと戦えるチャンスが来たからかな?」

「?」

「ガンプラ学園とだよ。あそこは俺の憧れだったんだ。……別に入学したかったとかそういうことじゃない。戦いたかった、高中最強と讃えられているからな―――それがもうすぐ叶うかもしれないって思ったら……楽しむしかないだろ。ガンプラバトルなんだから」

「……フフっ、そうだねっ」

 

 まあ、彼のガンプラは色々変わってきているけど、彼のガンプラファイトに対する思いは初めて会った時から全然変わっていない。それが凄く良い所だと思う。

 

「GNガンランスも持ち手を覆うようにしてもっと保持力を上げたほうがいいかな……」

「スレードゲルミルかよ……ッ」

「え?」

「な、なんでもないよ……」

 

 無意識に変な所を学んじゃうところが傷だけどね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

「―――私の彼に対する考察はどうやら間違っていた様だ」

 

 レイとミサキがジンクスⅣの改修に勤しんでいる一方で、セカイ、フミナ、ユウマのチーム『トライファイターズ』の面々は、ガンプラの修理を休憩する合間に、決勝トーナメント出場チームの各バトルを見て考察を立てていた。

 

 決勝トーナメントはトーナメント表発表と同日に行われるので、今の内に対策を練っておかいた方が良い。チームの付き添いで来ているラルのその言葉で始めたミーティングだが、チーム『ビルドバスターズ』とチーム『ソレスタルスフィア』のバトルの映像を見た後、チーム『イデガンジン』のバトルの映像を見て、おもむろにラルがそう呟いた。

 

「それってどういうことですか?」

「何かおかしいことでもあるんですか?」

 

 ジンクスⅣがフルクロスを殴り飛ばす瞬間で一時停止し、表情を鎮めたラルにいまいち分からないとばかりにフミナが質問する。

 傍目から見れば、ジンクスⅣがフルクロスを殴り飛ばすと同時に腕部をパージしたようにしか見えない。しかもフルクロスの巨体に隠れているからか、ジンクスⅣの切り離された腕が見えない。

 セカイも腕をパージしていると考えたらしく、首を傾げながらそう疑問の声を出す。

 

「先輩、セカイ、アンドウ・レイさんは腕をパージしたんじゃない。引き千切ったんだ」

 

 ラルが応えようとする前に、ビルダーとしての腕に自身があるユウマがラルと同じように表情を険しいものにしながら言い放つ。―――腕を引き千切る。フミナはその事実に思い至り、驚愕の表情を浮かべた後にそれがどれほどの行為かを理解し、僅かに顔色を悪くする。

 

「それがどうしたっていうんですか?」

「セカイ君。レイ君は君と同じアシムレイトを発動した状態だったんだ」

「!」

 

 ようやくセカイも理解できたのか、自身の右腕を抑え信じられないような表情を浮かべ、ラルを見た。

 彼自身アシムレイトの痛みは一番理解しているつもりだ。大会中で腕を壊された時は、激しい激痛が走った。

 

「私は前に彼はセカイ君とは真逆に位置すると言ったね?」

「は、はい」

「逆だ。彼は君と近い、チームの勝利の為に死力を尽くしチームメイトに活路を作り出す役割を担っているんだ」

 

 ラルが合宿で初めて会った、アドウと我梅学園のバトルに乱入した時のチーム『イデガンジン』の会話。今思えば、彼の発言は内に秘める激情が漏れ出したからこその行動だったのかもしれない。

 

「一人で突っ走る所とガンプラの知識力を除けばセカイに似てるな……しかもセカイのバーニングバーストよりも遙かに応用性が優れている粒子の帯……厄介だな」

「盾とかスラスターみたいに使ってたね……」

 

 ユウマとフミナが動画を見ながらジンクスⅣについての考察を述べているところを見ながら、一つ頷いたラルは鞄からもう一つディスクを取り出し、今映っている4回戦のものと入れ替える。

 

「それにもう一つ見てもらいたいものがある。これはチーム『イデガンジン』のこれまでのバトルを纏めた簡単なものだが……」

 

 映り込むのは一回戦から四回戦のバトルの映像。

 チーム『トライファイターズ』に劣らないド派手で迫力のあるバトル。部分部分に纏められた簡単なものだが、三人は食い入るようにそれを見つめる。

 

「イデオンもガンバスターも優れたガンプラだ。でも今はレイ君のジンクスに注視してくれ」

 

「―――あ!」

「成程……ッ」

「へ?なに?」

 

 フミナとユウマの驚いた声に、セカイが分からないとばかりに隣にいる二人を見やる。

 

「勝ち上がっていく毎に、ガンプラが改良されていっている……」

「うむ、ただ修理している訳じゃない。合宿の時もそうだったが、彼のガンプラは未完成だった。それからだ、彼のガンプラのバトルを見る度に強くなっていく」

「壊してしまったら……もっと強くするという感じですか?」

「いや、多分違う。彼は経験を取り込んでいる、と私は考えている。例えばで言うなら三回戦で使ったブースターに装備されているGNバスターソード、四回戦では片手持ちができるように縮小されているだろう?」

 

 確かに、とユウマは思った。

 あのランスもブースターに増設されたGNダガーも一回戦にも二回戦にも見れなかったものだ。

 

 だとしたら、決勝トーナメント、アンドウ・レイはさらに改良したジンクスⅣを出してくるのではないのか?と思ってしまう。

 普通なら新しい装備を試合で試そうとするなんて危険な行為だ。余程自分の腕に自信がなければやろうとは思わない。少なくともユウマはやらない。

 

「―――ビルダーとしての自負。それがアンドウ・レイさんの強みでもあるのか……」

「ヨーロッパジュニアチャンプをも下したチームのリーダーだ。皆、準決勝であたることになったら心して掛かるように」

「「はい!」」

 

 決勝トーナメントに出場した3チームはどれも強敵揃い。

 それでも彼らは勝たなくてはいけない。

 自身の目標の為に―――。

 信頼する先輩の為に―――。

 強者と戦う為に―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 準決勝戦が行われるその日、会場の真ん中へ集められた決勝トーナメント出場チームの面々の中で、カミキ・ミライの合図と共にモニターに映し出された組み合わせに心を震わせていた。

 

 準決勝第一試合、暮機坂高校VSガンプラ学園

 

 準決勝第二試合 天王寺学園VS聖鳳学園

 

「―――ははッ」

 

 準決勝の相手がガンプラ学園。

 なんということだ全く、柄にもなく笑みが止まらず、口元を抑えてしまう。

 

「相手にとって不足無し、って所ですね!」

「やってやりましょう」

 

 後輩達も怖じ気づくどころか、笑みすらも浮かべ高揚している。ああ、そうさ、優勝するには必ず打倒しなければならない相手がガンプラ学園だ。

 

 去年はただ見ている事しかできなかった。

 

 年が明けてもただの憧れだった。

 

 後輩(なかま)が出来たら目標になった。

 

 ミサキとのバトルで県大会を制し目標は打倒へと変わった。

 

 ニールセンラボでアドウとのバトルを通し再戦を約束。

 

 なんて長くも短い道のりだろう。

 だがそれは確かに俺達が通った道のり―――。

 

 

 

「ここまで来たぞ。アドウ」

「ああ、待っていたぜ……レイッ」

 

 

 

 ずっと待っていた―――そんな顔をしている男の名は、アドウ・サガ。ニールセンラボで戦ったガンプラ学園の生徒。凄まじい技量と、特異なガンプラを扱うファイター。

 

「私も忘れて貰っては困るな」

「決勝に上がるのは私達よ」

 

 キジマとシアがアドウの横に並び出る。アドウだけが相手ではないことは分かるが―――どちらにせよ俺達の気勢が下がる事はない。

 

「決勝に上がるのも!それに優勝するのも私達よ!!」

「ノリコ言いすぎだぞ、と言いたいけど―――同感だ」

 

 威勢よくそう言い放つ二人。

 だが、ノリコの言葉に他の二チームも反応したのか食って掛かる様にこちらへ詰め寄って来る。

 

 

「おうおうおう、アンタ等好き勝手言っているようだがなぁ!優勝するのはワイら、チーム『ビルドバスターズ』やさかい!」

「いいやそうはさせない。優勝は僕達チーム『トライファイターズ』だ」

「なんやてぇ!!」

 

 心形流の使い手と思わしき男子とユウマくんが口喧嘩の如く詰め寄っている。

 ……まさか、アドウに再戦の約束を果たそうと言い放った事を切っ掛けに、こんな事になるとは思わなかったな。

 

「いい加減にしろ、物事は単純だ……誰が勝つか、負けるかだ。ようするにバトルすればいいんだよ」

 

 アドウがそうその場の面々に言い放った。

 単純明快、いかにもアドウらしい言葉に苦笑しながら、ノリコとコスモの方を向く。

 

「だ、そうだ。ならバトルで示そう。今まで俺達が培ってきたものを全て使ってな。一応聞いておくが、ガンプラ学園相手に怖じ気づいてはいないよな?」

「勿論ですよ!」

「ここで怖じ気づいたらこれまでの意味がありません……やりましょう」

 

 ―――なら、これ以上言う事はない。

 準決勝第一試合はこの後すぐに開始される。

 

「なら、やるか……最強を打ち倒すぞ」

「「はい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このバトル、どう見る?トシヤ」

「……実力だけ見るならばガンプラ学園。だけど、このバトルは僕には予想がつかない……」

 

 会場から遠く離れた新潟から見ているが―――正直言って、このバトルは全くの予想がつかない。ガンプラ学園は今の大会でも常軌を逸したレベルの強さだが、チーム『イデガンジン』も相当だ。

 

「イデオンの火力、ガンバスターの火力―――正直パワーだけなら今大会一」

「というよりあの二機硬すぎるんだよね……イデオンに至ってはサイコフレーム内蔵とかおかしいレベル」

 

 ノブヤとカズヤが呆れた様に愚痴を漏らすが、事実あの二機の単体火力は異常なので特に反論しない。一回戦を見た時なんて眩暈がしたよ。

 

「一番おかしいのはアンドウ・レイなんだけどね」

「納得」

「だよね」

「正直、彼は僕達の予想を超えて来る。こんなにもデータが役に立たなくなるのは、トライファイターズ並さ」

「腕引きちぎったのはドン引きしたよ」

「「うんうん」」

 

 あれは僕もドン引きした。

 アシムレイト対策に考えて置いた戦法も水泡に帰すくらいのバカな戦法だ。でも一番ドン引きしたのは茨城県県大会決勝戦、チーム『冥王』とのバトル。

 アンドウ・レイが撃墜してようやく気付けた不可視の攻撃。

 僕達はアレをクリアファンネルの亜種と見ているけど―――あれを相手にほぼ単体で立ち回るのはそれだけで頭がおかしい。

 

「まあ、アドウ・サガもキジマ・ウィルフリッドも化物だが……アンドウ・レイとその仲間も十分化物だ」

 

 だからこそ分からない―――だがそれ以上に楽しみだ。

 

 

 このバトルの行く末が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に設置されたバトルシステム、壇上へ上がる入り口で俺達は並んでそれを見据える。

 

 手の中にはこれまで一緒に戦ってきたガンプラ。

 隣には一緒に戦ってきた頼もしいチームメイト。

 

 視線を観客席の方に向けると、見知った顔がちらほらと見える。

 ミサキとミサト。

 マサキとキョウスケ。

 カナコとリョウヤ、センガ。

 それにリュウトもルーカスだって見ているだろう。

 

「―――」

 

 後輩と顔を見合わせ壇上に上がり、対戦相手の顔をしっかりと視界に収める。

 無精髭を生やした白髪の青年、アドウ・サガ。

 金髪の髪を結った碧眼の青年、キジマ・ウィルフリッド。

 銀髪の髪の少女、キジマ・シア。

 三人ともがファイターとしてもビルダーとしても最高峰に位置する存在。

 

「俺達は挑戦者(チャレンジャー)って所だな」

 

 そうさ、俺達はこの大会ではいつだって挑戦者だった。なにもかもが手探りのバトルだったし、このジンクスだってバトルの度に直して形にしていった。

 バトルシステムの前に立ち、今一度、ジンクスⅣオリジンに目を向ける。

 

「思う存分にやろう……」

 

 そう一言だけ呟き、システムにジンクスとBASEを置く。BASEがデータを読み込みプラフスキー粒子の放出と同時にジンクスがバトルシステムの中に入り込み、俺の周りにコックピットのように粒子によるしきりが形成され、目の前にガンプラを操縦する球体が生成される。

 それに手を置きゆっくりと息を吸いながら、隣にいるであろうコスモとノリコに聞こえる様に声を張り上げる。

 

「チーム『イデガンジン』!!」

「「行きます!!」」

 

 さあ、ガンプラファイトをしよう。

 




かつて、スパロボ学園というDSのソフトがありました。
………うろ覚えですが狐っ娘(?)とのバトルがキツくて泣いた覚えがががが……。



次話、対ガンプラ学園です。
今話は、ジンクスⅣの改造話です。

予想できるでしょうが、アシムレイトと合わせてドン引きするロケットパンチの使い方をします。

ま、既に三兄弟ですらドン引きさせているので、手遅れみたいなものですねっ(白目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~決闘~

デッドエンドフィンガー……。

デッドエンド……。

………フフフ……… ( ゚д゚)ハッ!


お待たせいたしました。
最近少し忙しかったので更新が遅れてしまいました。


更新です。


『Field8―――Sky』

 

 粒子で形作られる空、そして宙に浮く島々。

 ―――ガンプラバトル選手権、準決勝。使い慣れたガンプラ、ガンダム・ジエンドを操作した俺は、フィールドに機体を慣らしながら飛ばしていた。

 

 俺が属するチーム、『ソレスタルスフィア』の相手、チーム『イデガンジン』。そのリーダー、アンドウ・レイと初めてバトったのはニールセンラボで、我梅学園のザク使い三人と気まぐれにバトルしていた時、奴が乱入してきた事がそもそもの始まりだった。

 中途半端な出来のガンプラで何しに来たかと思えば、これまた仰天、俺のジエンドとまともにバトルできるときた……。

 

 ここで勝負を決めるのは勿体ねぇ、と思ったね。

 だから今の今まで待った。奴ならば必ずここまで上がって来る、そんな確信があった。というより、俺と互角にバトルできた奴がそう簡単に負けるとは思えなかったというのが大きな理由かもしれねぇ。

 

 案の定、昇ってきやがった。

 ナガレとヨーロッパジュニアチャンプを打倒し、俺達の前に立ちはだかる相手として、これほど楽しい事は無い。

 最高に強い奴と、本気でバトれる。今、こうして飛んでいるだけでも戦意が滾るのが分かるほどに高揚している。

 

「相手はヨーロッパジュニアチャンプに勝利した、実力者だ……心配はしていないが、油断するなよ」

「んなこと分かってるよ!」

「ええ!」

 

 ジエンドの両隣を飛ぶキジマのトランジェントガンダムとシアのGポータント。

 隠しているようだが、冷静を装っているキジマもこのバトルに高揚しているのか、声に若干の猛々しさがある。

 

 何時も冷静沈着な奴だが、無理もないだろうな。俺達はここまで来るのがあまりにも簡単すぎた。大会のレベルは低いという訳じゃない、むしろ今年は粒揃いだったと言ってもいいだろう。

 だが、生憎そいつらは俺達とは当たらなかった。それだけが心残りだが……その鬱憤はこのバトルで清算される筈だ、なにせ――――。

 

「!」

 

 センサーが前方から近づく反応を捉えた事により思考は中断される。自分の中で沸々と感情が高揚してくるのが分かる。

 

「―――どうやら来たようだぜ……ッ」

 

 近付いてくる影は三つ。

 あの日の続きをおっぱじめようぜ……ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アドウさん!?」

 

 アドウさんのジエンドがレイのジンクスⅣオリジン目掛け先行してしまった。私も兄さんもアドウさんを後ろから追う形で進んでいくが―――レイのジンクスが先行するジエンドを迎え撃つべくスピードを上げたのを見て、思わず声を上げる。

 

「兄さん!アドウさんが!」

「好きにやらせておけ……前を見ろシア!」

 

 兄さんの声で咄嗟にジンクスⅣの後方に目を向けると、私と兄さん目掛けて巨大なビームが迫っている光景が視界に映る。すぐさま粒子変容フィールドでビーム砲を受け流し、撃ってきたであろう相手を見る。

 

 ―――頭部から粒子の残光を残しながら、ジンクスⅣの後ろをついていくガンバスター……と、イデオン。あの二機が私達の動きを牽制するようにビームを放ったのか。

 

「待ちかねたぜぇぇぇ!!」

『あの時の続きだ!!』

 

 私達の事が眼中にないのか、アドウさんは、ビーム刃を引き延ばした槍を掲げ振り下ろしたジンクスにクローを展開させ突き出した。

 高出力のビーム刃とクローがぶつかり光が走る。

 

『同じだな……!』

「ならこっからどうなるかは分かってんだろうなぁ!!」

 

 受け止めたビーム刃を掴み取り動きを封じる。ジエンドのクローは並大抵の力じゃ抗えない。これを好機と見たのか兄さんのトランジェントが、GNパルチザンを切り払うかのように振るい、ランスを掴まれたジンクスへと向かっていく。

 

「―――私も……っ!!」

 

 イデオンもガンバスターも厄介だけど、一番危険なのはレイだ。

 私もGNスマッシュライフルを掲げ、狙いを定める。集団で落とすのは気が引けるけど―――。

 

「避けなきゃ終わるぜぇ!!」

「一人で出てくるのは迂闊だぞ……っ!」

「落ちて!」

 

『勝算も無しに来たと思ったら大間違いだ―――』

 

 ジエンドが振るうクローをサーベルで弾いたジンクスは、向かってくるトランジェントと私が放った高出力のビームを一瞬だけ一瞥し、そう言い放った。

 

『――――――オリジンシステム、発動』

 

 この時、トランジェントとジエンドの後方で見ていた私だけが気付いた。

 トランザム状態でないにも関わらずレイのジンクスから赤い帯が放出されている事に―――。

 

「トランザム無しでその機能は―――」

『行け!』

 

 ジンクスが今にも斬りかかろうとしているトランジェントに腕を向け、粒子の帯の加速と共に凄まじい勢いで撃ち出す。

 腕を飛ばす―――フォンブラウンとのバトルでレイが最後に自らのガンプラの腕を引き千切って繰り出していたが……まさか、飛ばせるように改造したとでも言うの!?流石の私でもそこまでのギミックは読めない……。

 飛ばされた腕は正確にトランジェントの中心を穿つように放たれるも、GNパルチザンの柄を盾にして防御する。

 

「型破りな……ッ!」

「兄さん!?」

 

『相手は先輩だけじゃないぞ!!』

 

 飛んで来た拳によって押し出されたトランジェントを待っていたのは、この場に到着したイデオンが放った拳だった。圧倒的な膂力で振るわれたその拳をふわりと回転しながら回避したトランジェントは、GNパルチザンの切っ先を鋏のように展開させて高出力の粒子ビームを放つ。

 

 だが、イデオンは迫り来る粒子ビームに対して回避も防御する挙動も起こさず、拳を構えた。トランジェントの粒子ビームの威力は私が一番分かっている、何を待っている?

 

 その疑問はイデオンと粒子ビームの前を横切るようにして飛んだジンクスの腕によって氷解する。ただ横切っただけではない、流れ出る赤い粒子の帯をカーテンのようにイデオンの前に展開させ、粒子砲を拡散させた。

 

「っ!!飛んで来た腕が粒子ビームを防いだっていうの!?どういう発想!?」

 

 消滅した赤い帯を手でかき分け向かってくるイデオン。

 GNピアスソードを構え、迎え撃とうとする私を手で遮った兄さんは、アドウとレイの方に目を向け、若干焦燥とした声を上げる。

 

「シア!アドウの援護に回れ!」

「……っ!?分かったわ!」

 

 このバトル、今までとは違う……ッ。

 漠然とした予感を確信へと変えながらも、熱くなっていく掌を感じ、Gポータントをアドウさんの居る方向に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GNアームビット、腕を飛ばすこの武装、キジマのトランジェントガンダムへの牽制とイデオンの援護の為に飛ばしたが―――問題は、アドウの方。

 

『面白れぇもん使ってるじゃねぇか……っ!』

「お前程じゃないッ!」

 

 ランスを手放しながら、GNガンランスをパージし右腕で掴み取る。ソレでジエンドが突き出したクローを弾き、ビームガンを放つ―――が、クローで防御される。

 ……クリアランスは捨てられてしまったが、右腕しかない状態で拾わせてくれるほど優しい相手じゃない。それなら―――。

 

『いいぜいいぜぇ!』

 

 戻ってきた左腕を一瞥しながら、ガンランスを戻しGNロングビームライフルを掲げる。ジエンドもリボルバー型のビームガンを取り出し銃身をこちらに向け、同時に放ってくる。

 

『片腕で俺とバトれると思ってんじゃねぇぞぉ!!』

「そんなこと分かっている!」

 

 ビームガンを帯で防ぐ、右腕しかない状態じゃ防御しかできないが―――。

 左腕が揃えば、攻撃手段はいくらでも増やせる!遠隔操作した左腕を、アドウの死角から殴り込ませる。

 

 思いつかぬ場所から突っ込んで来た拳が、咄嗟に回避しようとしたジエンドの右手のビームガンを粉砕―――死角からの攻撃に反応するのは流石と言うべきだが、隙ができたぞ!

 

「このギミックは見抜けない筈だ!」

『楽しませてくれるなぁ、おい!』

 

 ロングビームライフルを持つ右腕のアームビットをジエンド目掛け射出し、左腕のアームビットを回収し粒子を充填させながら、ロングビームライフルを持たせた右腕を操作し、ビームを放つ。俺の方も右腕の操作と共に、GNバルカンを放つ。

 

『かはは!すげぇ変な使い方するなぁ!!』

「自覚している!」

 

 このまま絶えず死角から撃ち出しファングを出す暇を与えず、その間に左腕を飛ばしアドウに捨てられ宙に浮いている島に引っかかっているクリアランスを掴み取る。やっぱり結構この腕は使える、この腕を飛ばす機構を考えた人は天才だな。

 ……これで主武装が手元に戻ってきた。

 

「先輩!」

「ノリコか!」

 

 手元に戻ったクリアランスのビームをジエンドに放ちながら、到着したノリコのガンバスターに目を向け周囲を確認。―――シアのガンプラが来ているな、彼女のビルダーとしての技量は天才的だ。カリマ・ケイとのバトルを見ても、相手のガンプラの関節を的確に切り裂き、戦闘不能に陥らせたあの技量からして甘く見て良い相手じゃない。

 

 ここは―――。

 

「ノリコ、辛いかもしれないが、少し頼む。コスモと連携して戦ってくれ」

「任せてください!」

「コスモも聞こえたか!」

「はいッ!」

 

 トランジェントガンダムの槍と拳をぶつけ合いながら、鬼気迫る声で返してくるコスモ。一対一のバトルよりも連携を生かしたバトルの方がノリコとコスモにとっては得意分野と言ってもいいだろう。

 ジエンドに向けて放っていた右腕を回収しながら、シアのガンプラの方を向く。

 

『どこ行こうって言うんだァ!!』

「行かせない!」

『チッ……だが、まあ―――テメェと戦うのも悪くねぇ!!』

 

「お前なら大丈夫だ、ノリコ……」

 

 ジエンドの行く手を遮る様に割って入ったガンバスターを頼もしく思いつつも、オリジンシステムを再び作動させ、勢いに任せシアのガンプラの方へ加速する。

 

『向かってきた……レイ!』

 

 緑色の美しいGN粒子を輝かせふわりと浮き上がった緑色のガンプラが、その手に持ったGNソードに類似した剣を振るい、刃の先から鞭に似た粒子をこちらに繰り出してくる。

 恐らくあれは触れれば切れる。カリマ・ケイのヴェイガンギアの改修機を切り裂いた武装―――。

 

「こちらも似たような事はできるッ!!」

 

 ランスを左手に持ち替え、右腕部の手首付近の放出口の一つから伸ばした赤い粒子の帯を掴み取り、シアの粒子の鞭と同じように振るう。

 宙を切り裂くように振るわれた双方の粒子ビームは、バチィと反発しあう様に火花を散らせながら弾き飛ばす。

 

『私と同じ……!』

「ちょっとした応用、ってとこだ!」

 

 ミサキならこう言いそうだ。

 GNソード(?)を構えたシアのガンプラがこちらに迫っているのを見据え、こちらもクリアランスを突き出す。

 

「あの時は、君と戦う事になるとは思っていなかったな!」

『私はなんとなくそう思ってたわ!セカイと同じように!』

 

 突き出したランスを流れる様に回避され、シアのガンプラのライフルがこちらを向く。そのまま撃たれれば胴体を貫かれてしまうが、こちらもそう簡単にやられてあげる程、優しくないつもりだ。

 

「サーベル!」

『っ!』

 

 空いた左腕でサーベルを引き抜きライフルを破壊する。が、一瞬間に合わなかったからか、ブースターのGNバスターソードにビームが直撃し、バスターソードがブースターから弾け飛ぶ。

 ―――軽くなったと前向きに考えておこう。

 

 サーベルとソードを打ち付け合いながらも、宙に浮く島々の間を飛ぶ。

 クリアランスとブースターのGNガンランスからビームを放つも、それは粒子変容フィールドによって防がれる。

 硬い、恐らく生半可なビームじゃあの粒子変容フィールドは越えられない。クリアランスの最大出力の粒子砲なら突破できそうだが、それをさせてくれる程相手は甘くはない。

 

『貴方のガンプラの名前はなんて言う名前!?』

「ん!?」

 

 戦闘の最中、突然シアがそんな事を聞いて来た。

 純粋な好奇心ともとれるし、こちらの油断を誘っているかに思えるが……この子の場合は前者と考えるのが自然かな。

 

「―――ジンクスⅣオリジンだ!!」

『私のガンプラはGポータント!』

 

 Gポータント―――00系列のサキブレに酷似しているが、どことなくレコンギスタのG系のMSにも精通している部分がある。どちらにしろまだまだ隠されたギミックがあっても不思議じゃない。

 ファイターとして見るならば、厄介なガンプラ。

 ビルダーとしてなら―――

 

「凄いガンプラだ!」

『貴方のも!』

 

 だが俺のジンクスのアームビットの性能は全て出したつもりは無い。

 粒子変容フィールドを張り続け防御に徹するならそうすればいい、クリアランスを腰に戻しブースターのGNガンランスを両手に装備させる。

 

「突破する」

『―――その武装では……ッ』

「ガンプラの手首は回る!!」

 

 手を覆う様に改修したGNガンランスが、手首の動きと同調して共に回転し始める。余りにも回転の勢いが強いせいか腕が引っ張られるが、無理やり引き絞る。

 

「ぐ、……行ッけッ!」

 

 暴れ狂う両腕を突き出すと同時に放つ。複雑な軌道を描き、Gポータント目掛け飛んで行く。アシムレイトで補助してはいるものの、余りある回転力に操作するのも一苦労……まるで暴れ馬だが……ッ。

 

「威力は折り紙付きだぞ……ッ」

『え、なにそ―――』

 

 アームビットを回避しようにも、回転するGNガンランスにより複雑な軌道を描く為か動きを予測できず、慌てて粒子変容フィールドを張るGポータント。

 粒子変容フィールドにまず右のアームビットが突き刺さり、後から続くように繰り出された左のアームビットが、Gポータントの粒子変容フィールドを突き破る。

 フィールドを突破したアームビットは左腕部を穿ち、脇腹を抉り取る。

 

『くぅ……』

 

 ブースターを噴かせ、損傷したGポータントへ接近する。その最中に、回転を止めた両腕部を回収しクリアランスを腰から引き抜く。

 

「頂くぞ!!」

 

 

 

「先輩避けてください!!」

 

 

 

 シアにトドメの一撃を繰り出そうとしたその瞬間、こちら目掛けて黒色の粒子ビームが迫って来るのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイに高出力の粒子ビームが放たれる少し前、選手控室、天大寺学園チーム『ビルドバスターズ』のサカイ・ミナトは、試合の様相に驚愕の表情を浮かべていた。ビルダーとしての活動が主だった彼としては、両チームのガンプラはとても興味深いものだった。

 

 しかし―――。

 ジンクスの腕がロケットパンチさながらにぶっ飛んでからは違った。

 

 最初は「あの人、ロマンっちゅーもん分かってるやないか!」と目を輝かせてはいたが、腕にライフル持たせて疑似ファンネルにするわ、腕を飛ばして武器を回収するわ。

 彼は思わずツッコんだ。

 

『スパロボか!?』

 

 これには流石のチームメイトであるコデラも苦笑い。

 

「どっちも化け物や、な」

 

 トランジェントとジエンドを任された二機は、巧みな連携で互角にまで持ち込んでいる。……一方のガンプラ学園のガンプラは良くも悪くも我が強いチームだ。これまでのバトルでも、圧倒的な腕と性能で苦戦と言う苦戦も無く勝ち上がってきた。

 サカイに言わせてみれば、この状況は強すぎたからこそ起きた事態。

 

『まさか画面越しの存在と合間見えようとは……ッ』

『―――貴方達は俺とノリコが抑えて見せる!』

 

 トランジェントの突き出したGNパルチザンを手首から生やしたビーム刃で切り払ったイデオン。これまでのバトルから、イデオンガン、イデオンソードによる大出力の攻撃に目が行きがちだが、キジマ・ウィルフリットと打ち合えるだけの近接戦闘能力、それがイデオンのファイター、ユズキ・コスモの真骨頂。

 

「そして―――」

 

『そう!任されちゃったんだから!!』

『大口叩けるほどの実力が備わってるのかよぉ!ファング!!』

 

 異形のガンダム、ジエンドのクローから射出された銃弾型のファングを一度身に受けながら、迸る電撃で破壊するガンバスター。

 こちらはイデオンとは違い、これまでの印象の通りに格闘と大出力の砲撃、そして堅牢な装甲。愚直な程に繰り出される一撃は、並のガンプラなら一撃で粉砕されてもおかしくない程の威力がある。

 

「だが、ガンプラ学園はそんな甘くはあらへん」

 

『ハハハハハハ!!俺のファングを受けてその程度かよ!硬すぎだろ!!ならこいつはどうだぁ!!』

 

 再び撃ち出されたファング、しかし今度は分散して当たって来るのではなく、砲弾のように集約されガンバスター目掛け撃ち出される。

 

『ノリコ!そいつには当たるな!!』

『余所見する暇がどこにあるかァ―――――!!』

 

 トランジェントから一時離れたイデオンがガンバスターの方に腕を向け、叫ぶ。大会6連覇を成し遂げている強豪ガンプラ学園に対し、意識を裂く行為は傍から見ればマヌケとしてしか見えないが、イデオンのファイターはそれを理解した上でガンバスターに腕を向けた。

 

『頼むよッ、バスタァァァ――――ミサイル!!』

『イデオンソードッ!!』

 

 ガンバスターに伸ばされた―――否、ガンバスターへ迫る砲弾と化したファングに向けられた腕から放たれたイデオンソードが一瞬でファングを消滅させる。

 同時、大きく腕を広げたガンバスターの指から小型のミサイルが多量に放たれ、攻撃を仕掛けようとしたトランジェントと、ファングを撃ち出したジエンドに殺到した。

 

『―――ッ!!キジマ!!こいつは撃ち落とせ!!』

『分かっている!』

 

 迫るミサイルを残り一丁のリボルバー型のビームガンで撃ち落とすと、ミサイルが爆破地点を中心に強烈な粒子爆発を起こした。原作通りなら、バスターミサイルはブラックホールなんちゃら……だった筈だ。

 あれに飲み込まれればジエンドとて危険。

 

 あれがもしトライオン3に当たったらと考えたら―――そのもしもの可能性に、サカイ達は背が凍るような感覚に陥った。

 

「あ、サカイ君!!」

「なんや、コデラはん」

「ジンクスⅣのバトルの方!!」

 

 やけに焦ったようなコデラの声に視線を別のモニターに向けると、そこには粒子変容フィールドを貫かれ、深い損傷を負うガンプラ学園ガンプラ、Gポータントの姿が映っていた。

 

「は、はぁ!?何があったんや!?」

「え、えと、ジンクスⅣの腕にランスがついてそれが回って……飛んで…ガンプラ学園のガンプラを貫いた、ごめんこれぐらいしか言えない……」

「こ、コデラはんが謝らなくてええんや……というかスパロボか!!もう一度言う!スパロボかっ!!トライオン3だってしないわそんなこと!!」

 

『―――ッ!シア!!損傷したのか!!』

 

 別のモニター内で戦っているキジマもアドウも気付いたのか、シアが戦っている宙域に目を向け驚きの声を上げている。

 

『しゃらくせぇ!キジマ、一旦立て直す!!俺が一発かましたらシアを回収して来い!』

『了解した!』

 

 禍々しい両肩のクローを開いたアドウは、それをシアの居る―――レイのジンクスⅣに狙いを定める。勿論、イデオンとガンバスターが止めようとするも、させないとばかりにトランジェントが妨害する。

 

『デッドエンドォフィンガァァァァァァッ!!』

 

 二つのクローから放たれた強力な粒子ビームは、島々を抉り取りながら的確にジンクスⅣ目掛け突き進んでいった。

 

『先輩避けてください!』

 

『!!』

 

 ガンバスターのその声に停止したジンクスⅣは迫り来る粒子ビームを視界に収めてから、あっさりと退がりビームを回避する。その間に、接近していたトランジェントは損傷したGポータントを回収し、その場から離れて行った。

 粒子ビームを放ったジエンドもすぐさま島を盾にしながらその場から離れて行った。

 

「これでまだ5分も経ってないとかおかしいやろ……」

 

 バトル開始から4分33秒、戦況はまだ大きく動いていない。

 しかし、ガンプラ学園不敗神話を信じてやまなかった、会場の観客達の予想は大きく覆された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gポータントは?」

「左腕はもう駄目だけど、胴体の損傷なら直せるわ」

 

 Gポータントの腰に装備されたタンクから放たれた、ガンプラを修理する機能、カレルを操作しながらシアは、周囲を警戒しているキジマのトランジェントにやや焦燥気味に言う。

 

「俺がレイの相手をする」

「アドウ!」

「悪いがアイツとのバトルは俺が先だ。誰にもやらせねぇ」

 

 操縦する球体から右手を離し見る。あの医者からは俺の手首が限界近いと言っていたが―――今はすこぶる調子が良い。これまでのバトルがファングとクローだけで事足りたからかもしれないが、これで正真正銘の本気でジエンドを動かすことができる。

 

「―――……分かった。俺とシアはガンバスターとイデオンを相手しよう」

 

 俺の心情を察したのか、キジマが大人しく引き下がる。思う存分にやる事を認められた俺は、すぐさまファングの制御をオートからマニュアルへと変更し、右手を慣らすように振ると球体を強く握りしめる。

 

「ようやく、本気(マジ)でやれる」

 

 ガンダム・ジエンドの本領を見せてやるぜ……ッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか……」

 

 バトル開始から8分、ノリコ、コスモと共に島々を飛び敵機を索敵している最中、レーダーに三つの機影を捉えた。

 先程のような総力戦をすればパワーのあるこちらに分がある。が、相手はガンプラ学園、わざわざ自分達が不利になる土俵でバトルするという危険は犯さないだろう。

 

 相手の得意な勝負、一体一のバトルに引き込んで来る可能性が高い。

 クリアランスを左手に持ち替えながら、ライフルを取り出し戦闘に備えていると、目視できる距離にまで迫った敵機から黒と青、二つの光が煌めくのが見える。

 

「―――!散開!!」

 

 俺の声に反応し、ノリコとコスモがその場から離れる。前方から発射されたのは、二機のガンプラから放たれた高出力の粒子ビーム。こちらの最初の攻撃の意趣返しとも取れるが―――違う。

 

 粒子ビームを回避し、仲間の場所を目視で確認しようとすると、それをさせないとばかりに黒色の粒子ビームを放ったガンプラ、ガンダムジエンドが銃弾型のビットを放ちながらこちらに接近してくる。

 

『―――さあ、やろうぜぇ!ガンプラバトルをなぁ!!』

「やられた……ッ!」

 

 クリアランスを構えながら、コスモとノリコが回避した方向を確認すると、そちらには損傷したGポータントとトランジェントガンダムと交戦しようとしているイデオンとガンバスターの姿が見えた。

 

『行けよッファングッ!』

「……っ!」

 

 放たれたファングにGNロングビームライフルとクリアランスを向け狙いを定める。確かに速いが、見えない程じゃない。

 後方に退がりながらビームを放つ。

 

『前と同じだと思ったら痛い目みるぜ!!』

「!?」

 

 ファングを撃ち貫かんばかりに放たれたビームは、生き物のような複雑な軌道を描くファングによって回避されてしまった。

 

 何だ、今の動きは……。

 先読みして放ったビームをファングが回避するように避けた……?

 

「手動で操作しているのか……?」

 

 俺のアームビットのように操る対象が二つだけならまだしも、アドウは10個以上のファングを扱うんだぞ。それほどの操作技術を有していてもおかしいとは思えないが、どちらにせよ人間業じゃない事は確かだ。

 

 狙いの着けにくい軌道でこちらに迫るファング。ノリコやコスモならまだしもジンクスが食らったら、致命的な損傷になること間違いない。

 GNロングビームライフルを腰に取りつけ、クリアランスを両手で握りしめる。

 

「撃ち落とせないなら薙ぎ払えばいいだけだ……ッ!」

 

 オリジンシステムの発動と同時に、緑色のクリアランスが赤く染まりビーム刃が形成される。後方への加速をストップさせると同時に、それを横薙ぎに振るい、3つのファングを消滅させる。

 

『まだファングはあるぜぇ!』

「これは防ぐ!」

 

 頭上から突き刺さらんとする二つのファングを、オリジンシステムによって生成された赤色の帯で止め、突き上げたビーム刃で消し去―――ろうとするが、ファングと同タイミングで繰り出された顔つきのクローの一撃で突き飛ばされる。

 機体に衝撃が襲いモニターが揺れる、空に浮く島々の一つに機体がぶつかるもすぐさまその場から浮かび上がり、GNダガーを三つ引き抜き、追撃のファングへ投擲し一つ落とす。

 

『後ろががら空きだ!』

「く……ッ!!」

 

 それでも流石に縦横無尽に動き回るファングに対処できるほど俺の腕は速くない。背後から抉り取られるようにブースターに一筋の裂傷が刻まれる。幸い、GNドライブは無傷だが、このままではなぶり殺しだ。

 

 一気に接近戦に持ち込んでもマニュアルで操作しているアドウからすれば、距離なんて関係ないだろう。下手すればクローとファングの板挟みで詰み。かといって遠距離攻撃に徹していても、こちらに有効な遠距離攻撃手段がない限り、勝つことは不可。

 

「対処しきれればいいんだろ……ッ!!」

 

 赤い帯とクリアランスでファングとクローをいなしながら、ジエンドと一定の距離を保つ。

 反応はできている、それでも手が追い付かない。

 

「方法は……ッ!ある!!GNクナイ!!」

『ああ?』

 

 パキンとブースターのGNクナイが弾け飛ぶようにパージされる。この場面でリーチの短い武器を取り出した俺にアドウが疑問の声を上げるが、構わずクリアランスを腰に戻しながら、両腕を横に掲げ――――

 

「アームビット!」

 

 粒子を十分に貯蔵させたアームビットを撃ち出すと同時にGNクナイを掴み、制止したジンクスを貫こうとしているファングを切り飛ばす。

 

「手が追いつかないなら追いつけるようにすればいい……ッ!!」

『本当変な使い方してんなぁ!!おい!!』

 

 何がおかしいのか笑いながら追加のファングを射出したアドウに、GNアームビットと本体のジンクスを操作する。迫るファングは約15個。

 モニターにせわしなく目を移しながらアームビットを操作し、ファングを弾いては斬る。背後から、側方から、前方から、斜めから迫る、大量のファングの全てを対処した上で、ジエンド本体から放たれるクローも防ぐ。

 

「防戦一方なだけとは限らないぞ!!」

 

 アームビットとジンクスを操作しながら、ブースターのGNガンランスを展開させ、ショットランサーとビームマシンガンをジエンド目掛けて撃ち出す。

 

 撃ち出した攻撃を防御、回避したアドウ。

 彼は機体をこちらに向け、禍々しい程にクローと腕を広げジンクスを威圧するように嬉々とした声を上げた。

 

『面白ェ……ッ!!』

 

 ここから先はギリギリの攻防戦、集中を切らしたら機体に風穴が空く……。集中しろ、俺……ッ。




 本編ではガンプラ学園の中心はキジマでしたが、この話ではアドウが中心となります。
アドウもキジマと同等の実力を持っているという設定だったのと、ニールセンラボでレイと再戦の約束をしていたからですね。



今話はジンクスⅣオリジンのアームビットの変態的な応用を披露しました。

・ロケットパンチ。
・武器を拾う(マジンカイザーSKL)
・GNガンランス付アームビット(スレードゲルミル)

・アームビットから出る帯で味方を守る。
・ライフル持たせて飛ばす。
・GNクナイ付アームビット。

 書いていて気付いたのですが、GNクナイ付アームビットでファング弾くのって、完全にH×HのVSユピーの時のシュートだった………。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~決闘2~

お待たせいたしました。

全国編~決闘2~を更新致します。


 フィールド『天空』―――多くの島々が浮く幻想的なその光景の中で、二つの戦いが繰り広げられていた。

 

「アドオォォォ!!」

「レイィィィ!!」

 

 正統とはかけ離れた姿をした異形のガンプラ、『ガンダムジエンド』と正統な進化を遂げた様に見える灰色のガンプラ『ジンクスⅣオリジン』。両ガンプラが己が持つ最大限の武装を用い、他の追随を許さない攻防戦を交わす。

 

「デッドエンドォ……ッフィンガァァッ!!」

 

 ジエンドのクローから高濃度の粒子ビームがジンクスⅣ目掛け撃ち出される。避けようとブースターを操作しようとするジンクスⅣだが、それをさせまいとばかりに粒子砲と並列させて操作されたファングに動きを阻害される。

 

「―――ッ!オリジンシステム!」

 

 避けられないと判断したジンクスⅣは飛ばした腕を片方のみ戻し、アシムレイトを発動。カーテンのように伸ばした帯で粒子を拡散させ、一瞬だけビームの威力を殺しその間にその場を逃れる。ジンクスがその場を離れた瞬間に粒子ビームが帯を突き破り、宙に浮く島の一角に風穴を開ける。

 

「止まってられると思うなよぉッ!」

「元から止まるつもりなど毛頭ない!」

 

 ビットとして飛ばしている腕のGNクナイで本体を狙うファングを弾く。その挙動に合わせてもう片方の腕を回収したジンクスⅣは、手に持ったGNクナイを投げファングを撃ち落す。

 これで残りのファングは数える程しかない。ある程度自由に動けるようになったジンクスⅣはクリアランスとサーベルを引き抜き、一気にブースターを噴かしてジエンドへの接近を試みる。

 

 接近してくるジンクスⅣ。対してジエンドは両肩部のクローを同時展開させ、かぎ爪の如くそれを突き出す。

 

 直撃すれば抉り取られる、

 

 これまでのバトルからそれを理解していたジンクスⅣはサーベルでクローをいなそうとするが、それを予測していたアドウが僅かにクローの狙いをずらし、サーベルを持つ左手が僅かに抉られ指が破壊される。

 

「ぐぅ……っまだ拳は握れる……」

 

 火花を散らすサーベルを放り投げ、硬く拳を作り引き絞る。まだ発動しているオリジンシステムの帯を破損した左手から放出し、ジエンドが繰り出したデッドエンドフィンガーと激突させんばかりにその左腕を繰り出した。

 

「おおお……ッ!」

「はッはァッ!」

 

 クローと拳、黒い粒子と赤い粒子がぶつかり合い、青空を禍々しい色に染め上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、黒と灰色のガンプラが戦うその宙域からそう遠くない場所で、4つのガンプラによるバトルが行われていた。ガンプラ学園のトランジェントガンダム、Gポータントと暮機坂高校、イデオン、ガンバスターのバトル。

 

「どういう方法で修復したかは知らないけど!」

 

 ガンバスターがGポータント目掛けその手からホーミングレーザーを放つ。

 目標へ向かって突き進んでいくレーザーだが、そのレーザーはトランジェントがランスから放った粒子の弾により正確に撃ち落される。

 

「そう簡単にやらせるわけにはいかないな」

 

 Gポータントとガンバスターの前に割って入るように下降したトランジェントは、ランスの矛先を開き高出力の粒子ビームを放とうとする。

 

「白いのは落とさせてもらうぞ!」

「イデオンか!……防御が高いだけではなぁ!!」

 

 トランジェントを追って同じく上空から拳を振り上げ落下してきた赤い影、イデオンに放ちかけた粒子砲を閉じたトランジェントは上方へ向かっての切り上げを行った。拳とランスがぶつかり金属音に似た音がフィールドに響く。

 その様子を見たGポータントはその手のGNピアスソードの先から粒子の鞭を放出し、トランジェントと鍔迫り合いをしているイデオンにソレを振るう。

 

「私だってソレスタルスフィアの一員だからっやられっぱなしでいられない!!」

「っ!!」

 

 ビルダーとして高い能力を持つキジマ・シアが繰り出した攻撃は、イデオンの関節部、構造上脆い部分目掛けて正確に放たれる。トランジェントとの鍔迫り合いの最中にいる為か、自由に動けないイデオン。

 

 粒子の鞭がイデオンに当たるその瞬間、二機を飛び越えたガンバスターにより粒子の鞭が掴み取られる。

 

「討たせない……っ」

「凄い気迫……」

 

 拳から雷を迸らせ接近してくるガンバスター、どんな相手も粉砕できるであろうその拳に並々ならぬ脅威と畏れを抱いた彼女、それと同時に先のバトル、アンドウ・レイとのバトルを経てからどこかあやふやだったその感情を理解することができた。

 

「……これがガンプラバトルなのね」

 

 ”楽しい”、強敵と戦う緊張感、いつやられるか分からない焦燥感。ギリギリのバトルの中で僅かながらに高揚したような笑顔を浮かべながら、シアはGポータントを前に進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アドウ・サガ……」

 

 チーム『トライファイターズ』のファイター、コウサカ・ユウマは現在行われているバトル、『イデガンジン』VS『ソレスタルスフィア』のバトルに言い様のない気持ちを抱いていた。

 

 アドウ・サガは彼が一時期ガンプラバトルから離れてしまう程のトラウマを作った人物。合宿時では恨んではいたが、あの時のメイジンとのバトルを経てバトルで決着を着けようと思っていた。

 

『ビックリ箱かお前のガンプラはぁ!!色々出すぎだろ!!』

『お前には言われたくないな……!』

 

 フィールドでは禍々しい粒子を放ったクローと赤い粒子の帯を纏った拳をぶつけあうガンプラ、ガンダム・ジエンドとジンクスⅣオリジン。見た目は対照的な二機だが、これまでの戦闘を見る限り、その本質は同じ。

 

「何が出てくるか分からない。それが何より厄介だ」

 

 ファングを全て手動で操作するというアドウの技術も並外れているが、腕を飛ばすアームビットでそれを防ぎ、さらに攻撃まで行うレイも中々に化物。正直、このバトルが始まるまで勝つのはガンプラ学園かと思っていたユウマだったが、明らかに常軌を逸した攻防戦を繰り広げる二機に唖然とせずにいられない。

 

「すげぇ、あの赤いガンプラ……」

「セカイ?」

 

 ユウマとは別の方を見ていたセカイが珍しく慄いたように口を開く。隣に居たフミナもその声を聴いたのか、フィールドを目にやりつつセカイに声を掛ける。

 

「赤いガンプラ……イデオンの事?」

「はい、キジマ・ウィルフリッドの力は対決した俺が一番良く知ってます。格闘で俺と同じ位だったキジマと渡り合っている……」

「恐らく元々はセカイ君と同じ、格闘主体のファイターということでしょう」

 

 これまでのバトルから彼らは、広範囲殲滅型兼近距離戦闘型のイデオン、中近距離戦闘型のガンバスター、万能型のジンクスⅣというチーム編成となる。パワー一辺倒に見えて、チームワークで相手を撃破するテクニカルなチームだ。

 ジンクスに至っては装備されている武装上近距離型にカテゴライズしてもいいかもしれないが、アームビットの運用により攻撃手段が劇的に変わってしまったために隙が無くなってしまった。

 

 そもそもトライオン3のバトルを見ていた時から思っていた事だが、ロケットパンチなんて安定性が欠けているものが使い物になるのか!?なんて考えていたユウマだが、レイのジンクスⅣの新しいギミックにド肝を抜かれた。

 常識そのものをぶち壊す発想、アシムレイトの併用でさらに凶悪さを増した【アームビット】。常識から外れているが、それが彼が尊敬するイオリ・セイの常識に囚われないガンプラという教えを体現しているような気がして、少しだけ嫉妬した。

 

「……でも、だからといって……そこまで常識に囚われないのは、流石にツッコみたくなりますよ……」

 

 サカイなら「スパロボか!?」とツッコんでいるかな、と苦笑しながら、自分が所属する『トライファイターズ』と比べてみる。

 遠距離射撃型のライトニングガンダムフルバーニアン、万能型のスターウィ二ングガンダム、近接特化型のトライバーニングガンダム。相性は悪くない。むしろそれぞれの個性で勝っている部分がある。

 だが言い換えれば個性でしか勝っていない、と言っても良い。

 

 ライトニングはイデガンジンのメンバー程近接戦に優れてはいないし、トライバーニングも射撃武器を摘んでいない格闘一辺倒な所もある。唯一弱点らしい弱点が無い万能型のスターウィ二ングだが、それは相手のジンクスⅣも同じ。

 しかもジンクスⅣのファイター、アンドウ・レイはセカイと同じアシムレイト持ち、加えてセカイ以上にガンプラの知識も技量も持ち合わせているベテランのファイターだ。都大会決勝戦でセカイがバトルしたスガ・アキラのような技を使ってくる可能性だってあり得る。

 

「勝てるのか……?」

 

 ガンプラ学園とまともに戦えるチームを見るのは今回で初だ。だからこそどちらのチームの凄さも分かる凄まじい試合と言える。トライファイターズが優勝するには、そんなバトルを勝ちぬいたチームと戦わなければならない。

 

「なに弱気な事言ってんだよユウマ!」

「いった!?セカイ!いきなり何をするんだ!!」

 

 弱弱しく呟いたユウマの背をバンッと叩いたセカイが、手に拳をぶつけ猛々しくフィールドを見る。

 

「勝つか負けるなんて考える事じゃない!やるからには勝つ!そうだろうユウマ!」

「全く、お前という奴は……」

「まずは、準決勝を絶対に勝つ!んでもって優勝だ!!」

 

 これから戦わなくちゃいけない相手の強大さを理解していないのか、あっけらかんに笑う彼に呆れながら、ユウマは僅かに笑みを零す。

 そんな二人を横目で見たフミナも、気合いを入れる様に両の拳を握りしめる。

 

「そうだね、まずは準決勝を全力で戦おう」

 

 それぞれの決意を固めた二人は彼女のその言葉に頷き、再びバトルが行われているフィールドに目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最強のロボットとは何だ?

 ユズキ・コスモはそう問われたときに必ずこう答える。「好きだと思うロボットが最強だ」、と。何せロボットというものはいつの時代でも様々な最強がある。

 それぞれが最強だと主張し、ときに争うのは、その最強と信じて疑わないロボットが好きだからだと思っている。そうでなくては議論にすらならないし、話題にも上がらない。

 

 イデオン、中々に好き嫌いが分かれる作品だと思う。

 結末のどうにもならない気持ちは筆舌しがたいものがある。

 

 だがそれでも彼はイデオンというロボットが好きだ。ストーリーも何もかもひっくるめて受け入れている。

 

 好きだからこそ本気になれた。

 荒唐無稽と思われるような技の再現も、大会という大舞台で成し遂げて見せた。

 これ以上ないくらいの喜びを味わった彼だが、まだやり残したことがある。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

「甘ぁい!!」

 

 選手権の優勝。

 大恩ある先輩に恩返しをすること。仲間たちと協力して作り上げた【イデオン】で―――。

 

「やはり思った通りに君は面白いファイターだ……」

「それはどうも……っ!」

 

 青と白のガンプラ、『トランジェントガンダム』の刺突を拳で弾いたイデオンは、僅かに距離が空いた隙を狙い脚部からミサイルを発射する。

 追尾するようにトランジェントへ迫ったミサイルはGNパルチザンの一薙ぎで破壊されてしまうが、ミサイルの後から追うように迫ったイデオンが、ミサイルの爆発によって生じた煙から飛び込んでくる。

 

「ガンプラ学園でも無敵な訳じゃないだろ……!」

「っ!ははっ!!そうだッ私は無敵などではない!無敵であってたまるか!!私はファイターだ!!」

「何をォ!!」

 

 繰り出された剛腕をパルチザンで防御したトランジェントガンダムのファイター、キジマ・ウィルフリットは自然と笑みを零す。

 

「待っていたぞ……好敵手!」

 

 カミキ・セカイ以来の強敵との真っ向勝負。

 これがどれほど喜ばしいことか―――選手権6連覇ともてはやされ、日々のバトルに一抹の空しさを感じていた彼にとって、強敵とのバトルは飢えきっていた闘争心を燃え上がらせる。

 

 普段の彼から想像もできない獰猛な笑みと共に危険を顧みずにトランジェントを前に進める。

 

「近接での戦闘がお望みなら、こちらも!」

 

 追撃の拳を振るおうとしたイデオンへカウンター気味の蹴りを胴体に当てる。腹部から白煙を上げながらもバランスを保ったイデオンは、お返しとばかりに腹部からのビームを発射させるもそれは容易く躱される。

 

「その巨体故に―――!!」

「……っ」

 

 流れるように空中で反転したトランジェントが急降下と共に繰り出した飛び蹴りは、イデオンがクロスさせた両腕に直撃し、機体を大きくのけぞらせる。

 同じく反動で反対側に飛ぶトランジェントだが、不安定な体勢の中でも正確にイデオンに狙いを定め、GNパルチザンの矛先を展開させた粒子砲を向ける。

 

 このままでは撃たれる。

 ここでやられれば戦況は一気に不利になる。

 

「撃たれ……っさせるか!!」

 

 コスモの動きは早かった。反動でのけぞった体勢のまま脚部とランドセルのスラスターを全開で噴出させ、背面のまま上昇する。次の瞬間、先ほどまで居たであろう場所に青色に輝く粒子ビームが通り過ぎる。

 

 あと数秒遅れていれば、脱落していた……その事実に背が凍るような悪寒が走るコスモだが、すぐさま気を取り直し粒子補填中のトランジェントへと機体を向け、腕部のサーベルの展開と共に突撃する。凄まじい威圧感と共に向かってくるイデオン、だがキジマは怯むことなく真っ向から受け止める。

 

「!」

『そうだ、もっと向かって来い!イデオン……否ッユズキ・コスモ!!』

 

 両手で持ったパルチザンでイデオンを押し込み、僅かに上昇したトランジェントは、徐々にプラフスキー粒子を放出しながらイデオンを見下ろす。

 

『君達は素晴らしいチームだ!だからこそッ全身全霊を尽くし戦おう!!』

 

 ―――トランジェントのGNドライブから一気に粒子が吹き出し、翼のようなものを形成する。帯の様に見える光の翼にコスモはレイのアシムレイトを真っ先に思い浮かべたが、これは違う。圧倒的な程の粒子排出量にものを言わせた機体の機動性の強化、トランザムの上位互換とも言っても良い程の出力上昇。

 若干怖じ気づくコスモだったが、自身の背で戦いを繰り広げる二人の仲間達の姿を思い出し、怖気づいた心に喝を入れる様に頬を叩く。

 

「……変わらない、俺達は勝つ為に……一緒に優勝するために勝つんだ……だから!!」

 

 青い光を放つ翼を生やしたトランジェントとは対照的に、赤い光を全身から放ち始めるイデオン。

 サイコフレームの輝き、人の思いの輝きがイデオンを赤く染めその力を高めていく。

 

「イデオォ―――ン!!」

「人の意思の力、イデが君の切り札ならば!未来に羽ばたく翼ットランジェントバーストが私の奥義だ!!」

「来い!キジマ・ウィルフリッド!!」

 

 長大に伸ばされた光の翼をはばたかせトランジェントは空を駆ける。その視線の先には赤く漏れ出す光を纏う、紅蓮の神。

 火力に任せた攻防戦が始まる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……兄さんのトランジェントバースト!?」

 

 フィールドを淡く照らす二つの光、赤と青が入り混じる様にぶつかり合い周囲のデブリを破壊していく。他者の追随も許さない激闘、通信から聞こえてくる兄の雄叫び、今まで見る事の無かった兄の荒々しい一面にシアは驚いた。

 

「このバトルを楽しんでいるの……」

「ここに居る全員がバトルを楽しんでいると思うよ。貴方を含めてね」

 

 腕を組み浮島に仁王立ちしているガンバスターのファイター、ノリコがシアにそう言い放つ。互いに警戒しながら睨み合っている中でそんな事を言ってくるのは些か無警戒すぎやしないか?と思ってしまうシアだが、その思考はすぐさま無粋と切り捨てる。

 

「各々が『大好きなガンプラ』で戦うんだから楽しむのはあたりまえだよ」

「……大好きなガンプラ……」

「ガンダムも量産機もマイナー機も、使って楽しんだものが勝ちでしょ。それが私が先輩から学んだ事だし、これから絶対に変える事の無い心情よ」

 

 タカマ・ノリコは好きなガンプラで戦う事を尊敬する先輩から教わった。

 愚直に戦い楽しむことをコスモから教わった。

 ―――それで作り上げたのはガンバスター。元の姿からかけ離れてしまったが、その元とされているのは間違いなく彼女の長年の相棒、ザクⅡ改。

 

「単純な事なのね」

「―――そう、すっごく単純。でも私はそんなことにうじうじ悩んで時間を無駄にしちゃった。だからその分を取り戻すくらいの気概で今を、この時を楽しむ…さあ、やろう!ガンプラバトルを!」

「……ええ、私も全力で!」

 

 ふわりと浮き上がったガンバスターが腕組みをしたまま上昇する。それに合わせてGポータントも上昇し、同じ高度まで上昇したその時、両機は同時に攻撃を仕掛ける。

 

 敵を追尾し敵機を貫く光線、ホーミングレーザー。

 歪曲しながら迫るレーザーにシアは僅かな笑みを漏らすと、くるりと機体をロールさせ迫るレーザーを躱すと同時にレーザーを粒子変容フィールドで干渉し、手で押し出すように機体を押し出した方向とは反対へ移動させる。

 

 粒子変容フィールドの扱いに長けたGポータントとシアにのみ許された技術。

 流麗な動きでレーザーを回避していくGポータントに、ノリコは彼女と同様に笑みを浮かべた。

 

「まだまだぁ!!バスタァァァッビィィィィム!!!」

「無駄よ!私のフィールドは貫けない!!」

 

 続けて放たれたバスタービームを粒子変容フィールドを張り巡らし完全に防御。これこそがGポータントの真骨頂、アルミューレ・リュミエールに匹敵する防御力を有するフィールドと、粒子変容フィールドを応用した回避性能。

 アンドウ・レイのジンクスⅣのようなフィールドを突破することを前提とした強力な貫通力を有する兵器でなければ無理な話―――。

 

「行って!」

 

 GNピアスソードの鞭を形成し、リボンの如く複雑な軌道とともにガンバスターへ繰り出す。蛇行するように放たれた粒子の鞭を先の戦闘のように掴もうとするガンバスターだが、鞭は容易くガンバスターの手をかいくぐり、その本体へと叩きつけられる。

 

 機体へ刻み付けられる一筋の亀裂。

 あのヴェイガン・ギアですら瞬殺した攻撃だが、些かガンバスターの防御を突破し破壊するには至らない。

 

「効いていない訳じゃない!なら倒れるまで叩くまでよ!!」

「その前にぶっ叩く!!」

 

 振るわれる粒子の鞭と拳。

 一定の距離を保とうとするGポータントとガンバスターのバトル。

 

「はあああああああああああああああ!!」

「……一歩も引いてくれない!」

 

 徐々に傷ついていくガンバスターだが、それを物ともせず突っ込んで来る。関節部を狙おうにも意図したのかどうかは分からないが、ラバーが装甲を覆っているため鞭が通らない。

 

「埒が明かないわ……ここはいっそ―――」

 

 飛び込む―――!

 急停止と共に突っ込んでくるガンバスター目掛けて加速をするGポータント。いかにGポータントといえども、ガンバスターの拳を粒子変容フィールドなしで受けるのは厳しいものがある。

 だが彼女は信じていた。

 己が心血注いで作り上げたガンプラを―――!

 

「Gポータントならッ!!」

 

 横に構えたGNピアスソードから鞭を後ろへ流すように展開。 

 そのままガンバスターへさらに加速。急加速により一層モニター越しからの威圧感が増し、手が硬直しそうになるシアだが、恐怖を振り払うように加速をかける。

 

「加速と遠心力……そして相手の力が合わされば……っ」

 

 自分は見ていたはずだ。

 壊れた腕さえも武器にし、ヨーロッパジュニアチャンプに打ち勝ったアンドウ・レイのバトルを。彼も相手の力を利用して攻撃に転じていた、その技を―――。

 

「でぇぇいッ!!」

「く……ぅ……ッ」

 

 大きな挙動と共に繰り出された拳を破損した左上の肩で受け、回転と共に懐に入る。

 肩の装甲が砕け散るが構わず勢いに身を任せ、左方向にくるりと回る。

 

「それは……ッ!」

「ここ!!」

 

 回転により後方に伸ばした粒子の鞭が自身を取り巻くように渦巻く。渦巻いた粒子の鞭の中心、必殺の一撃を作り上げたGポータントは、回転の勢いに任せ、GNピアスソードを振りぬいた。

 

「―――」

 

 ガンバスターの脇腹を捉えたGピアスソードは、すれ違いざまに装甲に浅い傷を与える。だがこれで終わりではない。リング状に幾重にも重ねられた粒子の鞭が、GNピアスソードにより刻み込まれた傷に連続して叩き込まれる。

 

 どんな堅牢な装甲をしてようが、同じ箇所を攻撃され続ければ壊れない筈がない。

 図らずもレイの戦法が、ガンバスターを打倒する糸口になってしまったのだ。

 

 だがその代償は決して小さくはなかった。ただでさえ尋常ならざる威力を持つガンバスターの拳を受けてしまったGポータントは、レッドゾーンギリギリのダメージを受けていた。かろうじて残っていた肩の部分が弾け飛び、受け流しきれなかった衝撃で胴体に所々亀裂が入って行ってしまっている。

 

 数分もあればカレルで戦える状態まで修理することができるが、それをするにはまずガンバスターを倒せているかどうかが問題になってくる。

 

「倒せた、の?」

 

 ガンバスターの後方の浮島に着地したGポータントは、背後を振り向き空中で停止しているガンバスターを見据え僅かに冷や汗を流す。

 先程の一撃は完璧なタイミングで決まった。ガンバスターの右の脇腹には火花と電気が散り、致命傷だということが一目で分かった。

 

 しかし―――。

 

 

 

「――――はああ……ッ」

 

 

 

 ガンバスターが全身から電撃を放つ。

 『まだバトルは終わってないぞ』と相手が言っているような気がして、やや焦燥気味の笑顔を浮かべたシアはGNピアスソードを地に捨てる。

 

 もうソードを振るえるほどの強度はGポータントにはない。ならば重荷を捨てGポータントの本領……全粒子を注ぎ込んだ粒子変容フィールドでガンバスターの攻撃を受けきるしか方法はない。相手も損傷を受けているにも関わらず無理やり電撃を放出しているようなもの、あれだけの負荷をかけ続ければいつ自滅してもおかしくはない。

 

「勝負よ……!」

 

 ガンバスターが自滅するか、フィールドを突破しGポータントを破壊するか。

 シアはこの後のバトルの事は考えていなかった。余力を残さずにガンバスターを倒し切る、その一心で気力を振り絞る。

 

「これで決める!!」

 

 電撃を纏ったガンバスターが上昇、それと同時に軋む機体を上に向かせ粒子の放出を開始させるGポータント。咆哮するように叫び、上昇しきったガンバスターは、下方を見下ろすと同時に蹴りの体勢に転じ、そのままGポータントへの飛び蹴りを放つ。

 

「受け切って見せる……!」

「はあああああああああああああああああ!!!」

 

 粒子変容フィールドを全面に展開したGポータントは、ガンバスターの蹴りを受け止める。電撃がフィールドに弾かれ拡散し、轟音と共にGポータントが立っている島を焦がし破壊する。

 

「く、ッ……う……」

 

 ギャリギャリとガンバスターの足裏のスパイクにより粒子変容フィールドが金属音を立てる。だが、Gポータントとて負けてはいない。最大限に粒子を放出し形成されたフィールドはガンバスターの蹴りを通さない。

 

 だが、フィールドにも限界がある。この勢いで削られ続ければ突破されてしまうだろう。しかし今のガンバスターは万全ではなかった。

 

「機体がッ!」

「やっぱり……っ!」

 

 ガンバスターの脇の装甲が弾け飛び、内装が露わになり、放電とはまた別のスパークと黒煙が噴き出る。

 シアの捨て身に近い一撃、それがガンバスターに決して浅くない傷を与えたのだ。恐らく駆動系かジェネレーターが損傷している。

 

「貴方のガンプラはもう限界よ!もう―――」

「そんなことは作った私が一番分かってる!でも………それは私が引く理由にはならない!!」

 

 衰えるどころかさらに勢いを増す電撃。

 シアはノリコの思考が理解できなかった。彼女にとってガンプラは大切なものだ。だから例え敵とはいえ対戦相手のガンプラが目の前で傷ついていく様は見たくはない……だからこそ、ノリコの言葉は驚愕に値する言葉だった。

 

「―――そうね」

 

 だからこそ、彼女は理解しようと試みた。

 兄とアドウが渇き、求めたガンプラバトルを……。

 

 膝を屈した機体を無理やり立ち上がらせ、頭上のガンバスターを睨み付ける。

 自滅の一途を辿るガンバスター、その痛々しい姿に思わず目を背けたくなる。だが、どうしてか―――。

 

 どんなに傷ついても前に進もうとする彼女のガンプラは、ただ飾られているガンプラよりも――――綺麗に思えた。好きなガンプラが傷ついていく様なんて見たくはないのに、でもそう思ってしまった自分の変化に驚きながら、彼女もノリコと同じように叫ぶ。

 

「私も、負けない……貴方に勝つ……ッ勝って見せる!!」

 

 既に双方の視界は黄色から赤へと変わり、どちらが先に果ててもおかしくはない状況の中でさえガンバスターもGポータントも出力を落とそうとしなかった。

 

「はあああああ……ッ!!」

「でぇぇぇぇい!!」

 

 島は崩れ、残骸が地へ落ちていく最中、ノリコのガンバスターが胸部が爆発する―――キャパシティをオーバーしてしまったガンバスターだが、構わずノリコはさらに雄叫びを上げ、操縦している腕を思い切り前へ突き出す。

 

「諦めるッ……もんかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「――――――ぁ……」

 

 ガンバスターの最後の輝き。最後の粒子をつぎ込んで放たれた電撃は、前方のGポータントのみならず己すらも焦がし傷つけながらも、蹴りと共に粒子変容フィールドを突き破る。機体を崩壊させながら繰り出された一撃はGポータントの胸部に直撃し、そのまま崩壊寸前の浮島へと突き刺さった。

 

「―――――――」

「……!」

 

 蹴りが直撃したと同時にGポータントから一言だけ通信が聞こえた瞬間、電撃と粒子が爆発するように放出され、ただでさえ崩壊寸前だった浮島は真っ二つに割れる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ―――ッ……ハァ―――ッ……」

 

 原形を留められなくなり地へ落ちていく瓦礫の中。

 半壊状態の二機のガンプラが地へ落ちていく。一機は既に機能停止に陥っているが、もう一機は消えかかっているモノアイから見えるモニターの視界の中で、荒い息を吐き、もう通信が切れているであろうGポータントのファイターに、送られた一言に対する言葉を放った。

 

「楽しいでしょ、ガンプラバトルは……」

 

 好きなガンプラを作り。

 作ったガンプラを動かし。

 動かしたガンプラで戦う。

 

 それがガンプラバトル、アンドウ・レイと共に大会への出場を決めたあの日から―――ノリコはガンバスターという己の理想を作り始めた。何度も壊れて、直して、壊した。

 でも、その繰り返しの中でガンバスターはどんどん本物に近づいて行った。

 

 だが本物に近づいていたとしても、理想には届いてはいない。恐らくノリコの想像する理想のガンバスターへの道のりは限りなく険しく遠いものだろう。

 それでもタカマ・ノリコは、理想を求め続けるだろう。アニメのように華々しい活躍をする『最強無敵のガンバスター』を作り上げるまでは―――。

 

「だからやめられない……ガンプラは……」

 

 あの瞬間、シアが言った一言。

 それは彼女が心からガンプラバトルを楽しんだ証であり、自らを破ったノリコへの挑戦とも思える言葉。

 

 

『―――次は負けない……』

 

 

 受けて立つ―――疲労でよく働かない頭のまま力強くそう言い放った彼女のガンバスターは、力尽きる様に機能を停止させ、重力に従い地へ落ちていくのだった―――。

 

 

 




対ガンプラ学園は後もう一話ほど続きます。


スパロボBX発売おめでとうッ。
騎士ガンダムが来て嬉しいです。

他参戦作品も充実していて楽しみ過ぎます。




後、もう一話ほど片手間で書いたスレ形式の外伝を更新致します。感想蘭で要望されたので書いてしまいました(白目)

ワンサマーSOSのようなものなので、外伝枠に移動しておきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編~決闘3~

お待たせいたしました。

とりあえず一言……正直、勝敗に関しては物凄く悩みました。



 ガンバスターとGポータントの撃墜、その知らせは二人のチームメイト両名に伝えられる。

 赤く輝くイデオンのファイター、ユズキ・コスモは驚愕の表情を浮かべ、青い翼を広げたトランジェントのファイター、キジマ・ウィルフリッドは動揺しながらも機体を前に進める。

 

「はああああああああああああ!」

 

 刺し貫く様に突き出されるGNパルチザンを腕で弾きイデオンソードを振るう。

 

「その長さが命取りだぞ!ユズキ・コスモッ」

 

 長大が故のイデオンソードだが、小回りの利き、加えてトランジェントバーストにより爆発的に出力が増しているトランジェントガンダム相手には些か分が悪い。

 大振りに振るわれたエネルギーの剣は容易く躱され、距離を取られる。

 

 イデオンが現在伸ばしているソードの長さは精々浮島を両断できる程度の長さ、本来のイデオンソードの長さどころか00ガンダムのライザーソードにも及ばない。

 絶対的な威力を誇り何者も切り裂く超高密度のエネルギー刃が特徴のイデオンソードだがその弱点は多い。まずは消費する粒子の量が凄まじい事。そして大きすぎるが故に小回りが利かない事。

 そして―――仲間に攻撃が当たる可能性があること。

 

 イデオンガンという味方諸共破壊しかねない超広範囲攻撃を行う武装もある点を加えて、イデオンはチームで戦う為のガンプラではない事は一目瞭然だろう。

 

 だが

 

「本気でやっていいんだな……ッ」

 

 ユズキ・コスモはそれを欠点とは欠片も思わなかった。信頼する仲間に攻撃を当てる等とも絶対に思わなかったし、これまで幾度も苦難を乗り越え、最強の剣と信じて疑わないイデオンソードが負けないと信じているからだ。

 長さが命取り?

 仲間に危険が及ぶ?

 粒子消費量が多い?

 

 何も心配はない。

 長さがどうした?長すぎるが故の隙?そんなの最初から理解していたし今更そんなことを後悔しない。

 

「本当のイデオンソードを見せて良いんだな?」

「!」

「なら、俺はもう躊躇しない―――ここにある全てのモノを粉々にし尽すつもりで使う」

 

 空中で停止したイデオンのメインカメラから点々と光が溢れる。信号のように点滅し、怪しげな光を放つジムを見据えたキジマは笑みを引き攣らせる。

 知っているからだ、イデオンの本気を、星すらも両断した最強のロボットを―――。

 

「イデォ―――――ンソォォ―――――――ド!!」

 

 力強く、鼓舞するかのようにコスモは叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が一筋の閃光となってフィールドに広がる。

 サイコフレームの赤い光とは違う神々しく真っ白な光の剣はイデオンを中心に伸ばされ、浮島を物ともせずに貫きフィールドの端に突き刺さる。

 

「これが……イデオンか……これが本当のイデオンソードか!!ユズキ・コスモ!!」

 

 語る事はないとばかりに、常軌を逸した長さと化したエネルギーの塊をこれ見よがしにトランジェントへと振るう。

 振るうだけで範囲内にある浮島が両断されてゆくその現実離れしたその光景に嫌な汗を感じとったキジマ。だが悪寒と共に充実感を感じていた。

 

「は、ははは!!」

 

 今のイデオンには射程なんて存在しない。後方に下がろうとも前方に進もうとも逃げ場がなくなってしまった。それほどの威力、粒子消費量度外視の正真正銘の必殺技。

 

 このまま逃げに徹していれば高確率で勝てるだろう。

 だがキジマ・ウィルフリッドはそのような手段は用いようとは思わない。粒子切れを狙う?冗談じゃない、キジマ・ウィルフリッドの目的はガンプラバトルをする事だ。必ず勝てる勝負をして、虚しい勝利を得ることじゃない。

 

「私はどうやら君と同じ大馬鹿野郎のようだ……!」

 

 迫り来る二つのイデオンソードを回避し翼をはためかせる。小さな動きでは捕捉され両断される、ならば大きく動きを取り―――。

 

「一撃で決める!」

 

 イデオンの周囲の浮島を盾にし大きく飛び回りながら、必殺の一撃を見舞うべくGNパルチザンを構える。浮島が障害物となりイデオンソードの狙いを付けられないと見てからの行動だが、イデオンはそれをあざ笑うかのように、がむしゃらに双方の腕を振るい始めた。

 

 大きいが故の障害物の影響を受ける。だが最大出力のイデオンソードはその常識すらも打ち破る。

 障害物と成り得る浮島すら物ともせずに切り裂き、砕き、粉砕し、瓦礫へと変え、フィールドを蹂躙する。

 

「―――幾度となく私の予想の上を行く!!」

 

 後方から浮島を切り裂きながら迫るイデオンソードから逃げながら、そう叫ぶキジマ。大きさも長さも……全てがデメリットになり得る全ての要素をひっくるめた上でそのまま愚直に突き進み、それを必殺とする。その粒子の消費量は尋常ではないだろう。恐らく残り時間のことなど考えていない、絶対にトランジェントガンダムを倒すという覇気が伝わって来る。

 

「ッ」

 

 イデオンソードに追いつかれるその瞬間、キジマはトランジェントを急停止させると同時に宙返りし、回避と同時にイデオンソードの根元へと加速する。

 

 ただただ真っ直ぐ進むようではイデオンソードの恰好の餌食だ。あれはビームライフルのような点ではなく、面で圧倒する広範囲殲滅兵器。しかしトランジェントバーストは、並大抵の力ではない。

 

「こちらもォ!!」

 

 最早、時間制限など、この後のアドウと共にアンドウ・レイを倒すという考えは捨てる。

 全粒子を注ぎ込み、空を駆ける。イデオンソードよりも速く、イデオンがその腕を振るうより速く、そしてこれまでの自分よりも速く。

 

「はあああああああああああああああああああ!!!」

 

 イデオンソードがトランジェントの左腕と左足、そして翼が伸ばされた左の背部ユニットを切り裂く。しかし同時に極大化した青色の翼はイデオンソードに干渉し反発する様に弾く。

 だがそれも一瞬、イデオンソードによりトランジェントの翼は掻き消されるが、その一瞬の隙がトランジェントに勝利の兆しを見せる。

 

「見えたぞ!」

 

 瞬間的な硬直を見せたイデオンへ接近して見せたトランジェントは、逆手に持ったGNパルチザンを力のままに突き出し、イデオンの肩に突き刺す。

 

「ユズキッコスモォォォ!!」

「ぐっ……まだッ」

 

 GNパルチザンを意に介さず腕を振るい、即座に身を引いたトランジェントの残りの脚を焼き斬る。しかしキジマ・ウィルフリッドはそれを意に介さず、腕部からGNビームサーベルを展開し、それをイデオンの胸部を突き上げる様に繰り出す。

 

「これで終いだッ!!」

 

 繰り出した一撃は正確にイデオンの胸部を斜めに貫き、背部のランドセルをも貫通する。己が繰り出せる最強の一撃、確かな手応えと共にイデオンを見る。

 GNパルチザンとGNサーベルとの両方で胸部を貫いたからか、粒子が溢れだすように噴き出しイデオンソードが消滅していた。

 

「まだ……俺は……」

「ッ!?」

 

 勝負はついたかに見えていた。だが突き刺さったトランジェントの腕を掴んだイデオンのその手により、キジマは我に返る。

 

「何もしていないッ」

 

 掴まれた腕は動かない。

 胸部を貫かれ、粒子も底をついたとは思えない程の執念、勝利への飽くなき渇望、挑戦者の意地―――がたつく様に動かされたイデオンのメインカメラが怪しく輝く。

 

「ノリコが頑張ったのに……ッ先輩が戦っているのに……俺が負けていられるか!!!」

「まだ動くかぁ!!」

 

 イデオンがその腕を引き絞ると同時に、キジマは抑えられた右腕をさらに捻じり込む。

 腕の半ばまで突き出した分だけ距離が狭まり、イデオンとトランジェントの頭部がガチンと激突し、双方のモニターにお互いのガンプラの姿が映り込む。

 

 キジマは間近からイデオンを見て、息を漏らした後に微かな笑みを浮かべた。その表情には先程の覇気も闘争心も消え失せ、ただ満ち足りたような表情を浮かべた。

 

「食らッえぇぇぇぇ!!」

 

 引き絞られた拳がトランジェントの胸部へと突き刺さる。

 イデオンソードも何もない只の拳、だがそれはイデオンが繰り出した最後の一撃。

 

 片や胸部をサーベルと槍により貫かれ―――

 もう片方は胸部を拳によって撃ち貫かれた―――

 

 辛うじて浮き上がっていた双方のガンプラは力を失ったように落下。そのまま浮島へ落ち、支え合う様に倒れる。機能停止に陥った操縦席の中、辛うじて映るモニターを見てキジマ・ウィルフリッドは悔しそうに笑っていた。

 

「久しぶりだ、な。悔しさを感じるのは……」

 

 結果を見れば引き分けだが、キジマからすればそうとは思えない。彼はユズキ・コスモの執念で負けてしまった。それがたまらなく悔しく、嬉しくもある。

 

『次、戦う時は絶対に勝ちたい』

 

 そう悔しく思える自分も居たことに若干の驚きすらもある。

 

「だが……まだ私達が負けたとは限らないぞ」

 

 微かに映るモニターの端で一つのバトルが繰り広げられている。イデオンの攻撃の余波を物ともせずに激闘を繰り広げていた二機のガンプラ。

 

「アドウ……任せたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は俺達だけだな……」

「どうやら、その様だ……二人とも、よくやってくれたな……」

 

 イデオンが放ったイデオンソードが消え、破壊された島々が崩壊し地上へ消えていく中、ジンクスⅣオリジンとガンダムジエンド、両チームの最後の一機が相対していた。

 

「大した奴だぜ、お前等は」

「中々やるだろう?自慢の仲間だ」

「ああ、正直お前だけが残ると思っていたよ。くくく、それがまあこんな様だ。天下のガンプラ学園様がなぁ」

 

 まさかキジマが相討ちとはいえ、戦闘継続不能にまで追いつめられるとは思わなかった。何せ彼はアドウと同等以上の力を持っているファイターだ。力押しといえども勝つのは困難な相手だ。

 だが結果を見れば両チームで戦えるのは己とレイのみ。どんでん返しとはまさにこういうことを言うのだろう。

 

「さあ、続きをやろうぜ」

「そうだな……時間も残り少ない」

 

 戦闘開始から丁度12分、バトル終了まで3分。

 それまでに決着がつかない場合、本来は残機の数により勝敗が決まるルールだが、双方に残機が一機ずつの場合、残った代表での一体一の延長戦が行われる。

 

 延長戦は避けたい、とレイは考える。

 ルールにより定められたインターバルの間にファングが補充されるのは厄介。こちらも装備を整えられるが、初見と既視ではアームビットの効果はまるで違う。アドウなら確実にアームビットを真っ先に封じようとするだろう。

 ならファングが尽き、五分五分の状態に持ち込んだ今が好機。

 右腕部の指が破損、ブースターに僅かな傷、GNクナイ紛失―――それ以外は大丈夫。

 

「―――行くぞ」

 

 威圧するかのように腕とクローを広げ、受けの体勢で構えるジエンドに対してロングビームライフルを装備し放つ。

 

「甘ぇなぁ!!」

 

 ビームを薙ぎ払うようにクローで防いだジエンドは、左手に持たれたリボルバー型のビームガンを連射しジンクスを牽制するが、ジンクスはこれを読んでいたのか、急停止とともにビームを避け、破損している右腕のアームビットにGNガンランスを接続しジエンド目掛けてソレを飛ばした。

 

「生半可な事ではこいつは防げないぞ……ッ」

「俺を嘗めるんじゃねぇぞ……ッ!!デッドエンド!!」

 

 肩のクローの掌のガンダムヘッドの顔を展開させ、回転しながら突き進むアームビットを受け止める。だがGNガンランスの回転はGポータントの粒子変容フィールドすらも突き破った規格外の貫通攻撃―――受け止めるだけでは止めることは叶わない。

 

「ッフィンガァァァァ!!」

 

 しかし、アドウ・サガは違った。

 彼は受け止めずにそのままクローからの粒子ビームを放ったのだ。いくら強靭なクローといえどもただでは済まない、案の定アームビットと自らが放った粒子ビームにより、クローは自爆してしまった。

 

 だが、超至近距離からの粒子ビームの直撃を食らったアームビットはGNガンランスとともに消滅。

 

「腕はこっちのほうが多いからなぁ!!」

「そうきたか……っ」

 

 腕部喪失というデメリットを防ぐためのGNガンランスとの合体ではあったが、力づくで壊されたら補助も何もない。レイは歯噛みしながらも、放たれるビームガンを回避しながらロングビームライフルを放つ。

 

「足元がお留守だぜぇ!!」

 

 ビームガンに気を取られているジンクスⅣの下方から突き出されるクロー。抉り取らんばかりに凄まじい速さで迫るそれを後方に退がることで直撃を免れるが、代わりにロングビームライフルがクローにより半ば程まで削り取られ使い物にならなくなる。

 

「チィッ!」

 

 思わず舌打ちしてしまうレイだがすぐさまクリアランスを腰から抜き放ち、追撃のクローを弾く。アームビットの一つが破壊されてしまい中距離戦はあちらの方が有利になってしまった。

 

 このままでは削られる―――そう判断したレイは弓を引くようにクリアランスを引き絞らせるように構え、ブースターの加速とともにジエンド目掛け突き出す。

 

「ッやる!」

 

 僅かに肩の装甲を削り取るもクローによっていなされてしまう。一瞬の接近と共にジンクスⅣの腹部にジエンドの蹴りが撃ち込まれ再び距離を離されてしまうが、それでもレイは前に突き進むべくジンクスを前へ進ませる。

 

「引いていられるか!!」

 

 クリアランスがジエンドの脇腹に当たる部分を削る形で突きこまれたその瞬間、レイはさらに加速をかけ、下方―――地上へジエンドを押し出す。イデオンソードにより、フィールドの形を成していない天空から、島々だった瓦礫が積み重なり燦燦とした有様となってしまった地上へと―――。

 

「ハッ、ゴリ押しで俺のジエンドをやれると思ってんのかよぉ!!」

 

「力押しじゃなければお前に傷一つ付けられないだろうが!!」

 

「ハハハッ!言うじゃねえかよ!」

 

 地上が鮮明に見える場所にまで押し出されたときを見計らい、アドウが右手のビームガンをジンクスの頭部に押し当て引き金を引く。

 

「あぶっ……な」

 

 頭部を破壊せんとするビームを慌てて身を起こすことにより回避したジンクスはクリアランスを振るい、ジエンドを投げ飛ばす形で距離を取る。

 その間、一旦大きく息を吸ったその後に、クリアランスからの粒子ビームと共に再び突撃を仕掛ける。

 

 楽しい、そう思いながらレイはバトルしていた。

 いや、これまでのバトルでもそう思っていた。ガンプラバトルは楽しい、作るのも好きだが一番好きなのはジンクスで、自分の作った好きなガンプラで武器を振るわせ、放ち、縦横無尽に動かすのがこれ以上なく大好きなのだ。

 

「はッははッ!!」

 

 大会で優勝することは大事だ。

 だが、今この時待ち望んだガンプラ学園とのバトル、そしてアドウ・サガという対決を約束した最上のガンプラファイターとのバトルが楽しい。

 

 ぶつかり合うクローとランス。

 弾け飛ぶ装甲、破片。

 

「デッドエンドッフィンガァァァ!!」

「オリジンシステム!!」

 

 黒色の粒子ビームが赤い帯に阻まれ流されるようにジンクスⅣの後方へ拡散しフィールドを彩る。

 

機体もボロボロだ。加えて両ファイターは機体面だけではなく、身体的な問題もある。

 

 レイはアシムレイトによるフィードバックによりダメージを受け―――

 アドウは無理が祟った右手の痛みに苛まれて―――

 

 普通ならば止めなくてはいけないほどの死闘。

 それでも二人はバトルを止める事は無い。

 

 優勝の為ではなく。

 相手を破壊する為ではなく。

 勝利する為でもなく。

 

 ただ楽しむため。

 

 それだけしか考えていなかった。

 それだけしか考えていなかったからこそ、最高のパフォーマンスでガンプラを動かせる。

 

「そいつッ貰ったァ!!」

 

「っ」

 

 制限時間残り1分半を切ったその時、何度目か分からないランスとクローの打ち合いの最中にとうとうクリアランスがクローに掴まれ、掌のガンダムヘッドにより握りつぶされる。

 クリアランスを破壊されると即座に判断したレイはこちらを狙い撃とうとするビームガンをGNバルカンで撃ち落としながらも、クリアランスを手放し後方へ下がる。

 

 ジンクスⅣはボロボロだった。

 ブースターの武装も残っているのはサーベルとガンランスしかなく、機体も全身に罅が入り、残っている武装も数えるほどしかない。

 

「まだ終わりじゃねぇだろ!!」

 

「……当たり前だろッ、俺の……俺達のジンクスⅣの真価はこんなものじゃない!!」

 

 ジンクスⅣはレイがこれまで戦ってきたファイターの全てを詰め込んだ集大成。それが片腕がないくらいで、武装が足りないくらいで手詰まりなんていう事はあり得ない。

 

 彼はサーベルも引き抜かないまま、左腕部を腰溜めに抱える様に深く引き絞る。

 一瞬の黙祷と共に、彼は思い出す。茨城県大会決勝のバトルを―――

 

 あの時もヤバかった。

 残っていたのは片腕だけだったし、メインカメラも半分やられていた。

 勝てたのは奇跡、いや……ノリコとコスモが居たおかげだった。

 二人が居たから大会に出れた。

 二人が居たからミサキに勝てた。

 

 これから何年、何十年経っても断言できる。

 俺達は最高のチームだ、と。

 

「俺の今は俺だけが積み重ねた物じゃない―――行くぞジンクスⅣ」

 

 機体が半壊しようが構わない。

 次がジンクスⅣの最後のアタックだ。

 

「トランザム!」

 

 ジンクスの全身が赤く輝きを放つ。アシムレイトとの同時発動により赤い帯がブースター、腕部から流れる様に伸ばされ、ジンクスⅣを覆う衣のように展開する。

 しかし、トランザムだけではジエンドを倒す決定打になり得ない事はレイとて理解している。だからこその左腕、否、彼が保険に残しておいた武装。

 

「切り裂くぞ……ッ」

 

 肘に取り付けられたサーベルが伸ばされ、アシムレイトの影響で普通のサーベルよりも鋭く、赤い輝きを放つ必殺の刃が展開される。アシムレイト、トランザム、サーベルの展開の工程を経たジンクスはジエンドへと迫る。

 

「面白ェ!!」

 

 振るわれる赤刃に対し、アドウは回避の挙動を見せずに粒子を纏わせたクローを突き出す。デッドエンドフィンガー、どんなものでも砕き、噛み千切る強力無比な武装。

 

「だがそれでもッ……!」

 

 帯を纏わせた拳と共にクローに渾身の拳を突き出す。

 赤と黒、禍々しい色の粒子が激突し、ジンクスⅣのモニターを震わせる。

 

「これでッ極めて見せる!!」

 

「まだ終わらせるかよぉ!!」

 

 互角の力を見せたのはほんの一瞬、どちらもガタがきていた拳とクローは砕け散る形で瓦解する。

 

「なっ!?」

 

 腕部の半ばごろから砕かれた腕に目もくれずジンクスは一気にジエンドへと肉薄し、腕部を力の限り振り上げジエンドの体へとサーベルを叩きつけた。

 

「はあァッ!!」

 

 赤刃がジエンドの防御した両腕を切り裂き、胸部に一筋の斬撃を刻み付ける。まさしく必殺の一撃と言っても差し支えの無い攻撃。

 だが―――

 

「カハハッ起きろ!イッカク!!」

「なっ!?」

 

 止めを刺したと思ったのその瞬間、切り裂かれたジエンドの腹部から白い何かが飛び出し、ジンクスⅣの胴体を貫き、そのまま両断したのだ。それと同時にレイの体にこれまでのバトルで最も強烈な衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはガンダムジエンドの奥の手だった。

 それはあまりにも異端的であまりにも美しい兵器、ガンダムの中に住むガンダム『イッカク』。普段はジエンドの胴体に内蔵されているソレは、余程のことが無い限り出すことはない。その真の性能も、出させるに至る者がいなかったからだ。

 それが表に出ればこれ以上なく、相手の意表をつける。

 実際、アンドウ・レイはサーベルをジエンドに喰らわせた時点で勝利を確信していた。

 

 その結果、油断という隙を突かれ胴体を貫かれ真っ二つにされた。

 会場に居る大多数の観客はこの時点で終わりと思っただろう。当然だ、真っ二つにされて生き残れるガンプラなんて最初から分離機能を持っているガンプラ位しかいない。

 

 しかし、一部の者―――アンドウ・レイというファイターを理解している者達は違った。彼等には見えていた……。会場から見えるレイの目が―――アシムレイトを発動しているにも関わらず、未だに目が死んでいないことに……。

 

「これで……終わったの?」

 

 会場の一角でレディ・カワグチはそう呆然と呟いた。

 その傍らでバトルを静観していたメイジンはその言を訂正するように、力強く、高揚したように会場全てに響き渡るかと錯覚するような気迫で叫ぶ。

 メイジンは二人のバトルを見て、思い出したからだ。

 手に汗握る最上のバトル、イオリ・セイとレイジとのバトル―――機体が壊れようとも戦い、戦い、戦い抜いた、あの色褪せる事の無い黄金色の思い出ともいえるべきバトルを―――。

 

 

「否!!断じて終わりなどではない!彼らのバトルは……ッ本当のバトルは……これからだ!!行けガンプラファイターよ!!その熱い闘志を、今こそ爆発させるのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地へ落ちるジンクス。

 これで終わりだろう、普通のガンプラならば。普通のガンプラと戦っていたならばアドウとてここまで高揚はしなかっただろう。今、戦っていたのは誰だ?アンドウ・レイだ。

 どんな強敵もガンプラと技能で打ち破り、己と対等に戦えるまで実力を高めた男だ。

 そんな男が……そんな男が―――。

 

「………ハハッ」

 

 ここで終わりな訳がない。

 アドウをジエンドを上に向かせる。地へ落ちたジンクスではなく上へ、分かっていたからだ。『イッカク』に貫かれるその瞬間、ジンクスのブースターと腰部のパーツが同時にパージされたことを―――。

 

 吐き出された二つの部品は空中でドッキングし、一つの形を成す。

 ブースターとコアファイターの合体。それがアンドウ・レイの奥の手、正真正銘の最後の手札。

 

「まだ……終わってないぞ!!アドウ!!」

「最ッ高だ……本当に、お前って奴はァ!!」

 

 だからこそ、全力で応えよう。

 全てを出し尽くし、終わらせる。時間制限一杯まで楽しんでやる。

 

「トランザム!!」

 

 上昇と共に反転したコアファイターは片方だけのGNガンランスの槍先をイッカクに向け、トランザムの発動と共に一気に降下してくる。全身全霊、全てを賭けた一撃、それを見据え満面の笑みを浮かべたアドウは、手元のコンソールを操作し『ガンダムジエンド』の最後の機能を発動させる。

 

「割れろ!!ツノワレ!!」

 

 『イッカク』のアンテナが二つに割れ、装甲の隙間から赤い光が漏れ出すと共に展開される。それは縮小化したユニコーンガンダムのように輝き、獰猛な叫び声をあげ突貫を仕掛けるコアファイターを睨み付け、獲物を待ち構える様に構える。

 

「はあああああああああああああ!!」

「食らえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 赤き流星と化したコアファイターと禍々しくも美しさを感じさせるガンプラが、全ての力を振り絞ったであろう一撃を同時に繰り出す。

 雄叫びを上げた二人のガンプラがフィールドの中心で交わる様に激突する。ツノワレがランスを受け止め、それを貫かんばかりに押し出すコアファイター、一進一退の攻防―――

 

「お前にあの時会えてよかった!!」

「おいおい、それはこっちの台詞だぜぇ!!」

「だが勝つのは俺だッ!」

「いいやこの俺だぁ!!」

 

 互いを讃えあう様に、勝つのは自分だとでも主張する様に、レイとアドウはほぼ同時に手元の球体を前へ押し出し、機体の出力を限界すらも超えて引き出す。

 光り輝くガンプラ。

 放出される粒子。

 罅割れ、砕けてゆく機体。

 

「なっ――――」

「うお!?」

 

 互いのガンプラが接触した瞬間、フィールドが凄まじい光に包まれた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラフスキー粒子の光、誰もを魅了する光に照らされたレイは限界近い意識の中、光の奔流の中で薄らとモニターに映るガンダムジエンドを見据え――――

 

「……はは」

 

 そう微かに笑みを浮かべ、力尽きる様に気絶した。

 彼が気絶すると同時に光は消え、衝撃抜け切らぬ声でバトル終了のアナウンスが発せられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………バトルが終わったのか……」

 

 次にレイが目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。

 また倒れてしまった自分に不甲斐なく思いながら起き上がると、レイの声に気付いたであろう医務室内の人がカーテンを開けこちらを覗いて来た……のだが。

 

「お、目が覚めたのか」

「……は?」

 

 何故か、出てきたのはアドウだった。

 右手には包帯のようなものが巻かれているのが気になるが、まず初めにレイは彼に訊きたいことがあった。

 

「どっちが勝った?」

 

 バトルの勝敗。

 最後に気絶してしまったからか、レイはどちらが勝ったのかを知らないのだ。レイの質問を受けたアドウは少し表情を顰めるが、すぐに不遜な表情を浮かべたまま、たった一言だけ簡潔に伝えた。

 

 

 

 

 

 

「俺達の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 チーム『イデガンジン』の敗北。

 思いのほか衝撃は少なかったものの、ショックな事には変わりはない。それよりガンプラ学園相手に頑張ってくれたコスモとノリコに申し訳ない気持ちの方が大きかった。

 

「だが、俺は納得してねぇ」

 

「は?」

「最後にガンプラが動かせただけで勝利なんて、納得できねぇんだよ」

「子供かよ……お前は……」

「うるせぇ……だが勝ちは勝ち……そこでだ、俺に一本取られてお前、我慢できるのか?」

 

 不敵な笑みでこちらを見るアドウ。

 『また戦え!コラァ!』という意思がジワジワと伝わってくる事に苦笑しながらも、彼は真っ直ぐにアドウを見据え言い放つ。

 

「我慢できる筈がない、首を洗って待っておけ。次は俺達が勝つ」

「俺『達』か……カハハッ、やっぱ最高だぜお前」

 

 そう一声笑ってからゆっくりと立ち上がったアドウは、そのまま医務室の扉へと歩いていく。

 

「決勝、頑張れよ」

「おうよ」

 

 ひらひらと左手を振った彼はそのまま扉を開き、外へ出て行ってしまった。

 右手の包帯の事は敢えて訊かなかった。アドウも聞いてほしくなさそうだし、何より訊く必要はないと思ったからだ。

 一人になった医務室の中で、レイはベッドに寝転び天井を見る。

 

「負け、か……」

 

 悔しい。

 形容できない程に悔しい、だけど後悔はない。

 できることは全てやって、それで負けた。それが判定だろうが、なんだろうがどうでもいい。

 でも、自分の願いに報いようとしてくれた後輩達になんて言ったら良い?

 

「バカか俺は……そんなこと決まってるじゃないか」

 

「「先輩!!」」

 

「っと、丁度来たか……」

 

 扉が勢いよく開かれノリコとコスモが飛び込んで来る。

 二人ともこちらを見ると息を吞み無言になった後に、こちらへ歩み寄って来る。ベッドから起き上がったレイは若干痛む体を叱咤しながらもゆっくりと床に脚を付け、無言で俯いていた二人の肩に手を置く。

 

「楽しかったか?」

「……はい」

「……っ、は……い」

 

 沈んだ声……大方、責任感の強い二人の事だから、自分が不甲斐ないばかりに負けてしまったとばかりに思っているのだろう。

 はっきり言おう。

 そんなことがあってたまるか。

 中高校生最強のキジマ兄妹と引き分けた二人が不甲斐無い?そんなことがあって良い筈がない。

 

「十分だ」

「でも……ッ俺のイデオンが動かせたなら、勝てたかもっ」

「それなら私も!」

「全く……お前らは本当に可愛い後輩だよ」

 

 全国最強のチーム二人を抑えてくれただけでも十分だっていうのに、なんて後輩だ。目頭が熱くなりながらもレイは嬉しそうに口を噤む。

 

「確かに優勝は大事だ。でも、俺はお前達とチームを組めて良かったと思っている。一年前なんて大会にすら出れなかったんだ、それが今年は何だ?こんなにも素晴らしい後輩二人が俺をこんな所にまで連れて来てくれた……こんなに嬉しい事は無い―――だから」

 

 ここまでに至る様々な事を思い出し、感極まった彼はそのまま二人を抱き寄せこれまで頑張ってくれた二人に最大限の感謝の言葉を述べた。

 

 

 

「よくやった……ッ!ありがとうッ!」

 

 

 

 たったそれだけの短い言葉だが、その言葉を受けた二人も彼を抱き返しながら嗚咽を漏らし始めた。そして彼も静かに涙した。

 

 

 

 

 

 長い長い彼らの夏が今ここで終わりを迎えた。

 だが彼らのガンプラファイターとしての物語は終わりを迎えてはいない。

 否、今この時、チーム『イデガンジン』の物語はこの敗北を機に始まったのだ。

 

 イデオン、ガンバスターの完成に終わりがない事と同じように―――

 ジンクスⅣの進化に際限がない事と同じように―――

 彼らの物語は輝かしい程に幾重にも広がっていく。

 

 そして、アンドウ・レイの物語も――――

 

 

 

 

準決勝第一試合

 

茨城県代表

暮機坂高校

チーム『イデガンジン』

 

VS

 

静岡県代表

ガンプラ学園

チーム『ソレスタルスフィア』

 

勝者

チーム『ソレスタルスフィア』

 

 

 

最終成績

チーム『イデガンジン』

 

『ジンクスⅣオリジン』アンドウ・レイ

 

『ガンバスター』タカマ・ノリコ

 

『イデオン』ユズキ・コスモ

 

全国ガンプラ選手権

中高生の部―――ベスト4




決勝戦と準決勝敗退という二つのルートを考えていました。

 でも、ガンプラ学園とのバトルを書いている時、このまま勝ち上がって決勝、トライファイターズ戦を書けるのか?という疑問にぶつかってしまいました。
 ガンプラ学園戦の文章量とか諸々で書ける気がしない事に加え、ライバルポジのアドウがはまり役過ぎて、アニメの焼き増しみたいな事になりかねないと思ったので、準決勝敗退、というルートにさせて貰いました。



 次回はエピローグがてらのメイジン杯の方を予定しています。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ上

エピローグですが……一万字じゃ足りなかったのは予想外でした。
よって上下構成になったので、とりあえず上だけ完成したので更新します。



 俺達、チーム『イデガンジン』の全国ガンプラバトル選手権は終わりを迎えた。だが大会は続き、ガンプラ学園とのバトルの二日後に決勝が行われた。

 

 決勝に上がったのは俺達に勝利したガンプラ学園と、天大寺学園に勝利した聖鳳学園チーム『トライファイターズ』。中高生全国一を決める最後のバトル。

 勿論、俺達も観戦した……まず見て驚いたのは、アドウのガンプラが様変わりしていた事だった。

 

 巨大なクローはさらに鋭利なものへと変わり、指の先に空いていたファングの射出機構が完全にオミットされている。貫通力と破壊力を極限にまで高めたもの―――恐らく、あの右手の怪我に負担を掛けないように、尚且つそれが重荷にならないような改修といった所だが……。

 あのクローの厄介さを身を以て味わった俺としては、厄介極まりない武装に変貌したとしか思えない。

 

 デスサイズのように鋭利な造形、明らかに近接戦を想定したビームサイズ、ジエンドよりも禍々しい姿へと進化したそのガンプラは見る者全てを畏怖させる素晴らしい出来だった。

 

 彼は『ガンダムジエンド・ビギニング』と呼んでいた。

 終わりを意味するガンダムから、終わりと始まりを意味するガンダムの名を冠した機体へと変わった彼のガンプラのバトルは、ガンダムデスサイズヘルをモチーフにした造形とは裏腹に、クローとビームサイズを主軸にした真正面からの超攻撃的な戦法だった。

 

 勿論、シアも後方で援護していたが、試合終盤になってから流石のアドウも右手を負傷していたからか動きが鈍り、その隙に活路を見出したユウマ君とフミナちゃんが意地を見せ、なんとか相討ちにまで持ち込んだ。

 

 そこから先は異例の異例。

 両チームから残った一機だけでの延長戦。

 

 トランジェントガンダムとトライバーニングのバトルだ。

 

 どちらも筆舌しがたいバトルを見せてくれた。

 チーム全員のパーツを用いての……チームの全てがつぎ込まれたガンプラ。形は歪なれど、俺はそのガンプラはどんな精巧に作られたガンプラよりも綺麗で、強いものだと分かった。

 

 結果、優勝はチーム『トライファイターズ』。

 何も言う事は無い、俺はただ彼らに惜しみない拍手を送った。

 彼らは本当に強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、レイ君、これは凄いね」

「流石メイジン杯、色々な作品があるな……」

 

 

 選手権が終わりその二週間後、俺達はビルダーの夢の舞台、メイジン杯の展覧会へと赴いていた。周りには大会で見知った連中がちらほらと見られ、その中にはキョウスケとマサキ、そして見覚えの無い金髪の少女の姿が見られた。

 かくいう俺も、後輩達とキリハラ姉妹と共に来ているのだが、ここは本当に最高峰のガンプラが集まっている所だということを再認識させられる。後輩達とキリハラ妹が先に会場へ行っているので、今はミサキと共にぶらぶらと出品物を眺めている所なのだが……。

 

「むむ、このラフレシア……メイジン杯の規定サイズからオーバーしてるね……」

「凄いのは凄いんだけどなぁ……なんというか残念だな」

 

 中には腰ほどにまでもあるガンプラもある。

 一体、誰が作ったのだろうか、ラフレシアなんて超大型MA。

 

「大会が終わってどう?何か変わった?」

 

 不意にミサキがそんなことを訊いてくる。

 変わったか、日常的な意味では全く変わってないな。心情的には少し別だが。

 

「強いて言うならば、もっとガンプラバトルがしたくなった、だな」

「君らしいね。やっぱり」

 

 ガンプラ学園とのバトルは本当に充実したものだった。苛烈だけど、それ以上に楽しくバトルできたあの興奮は、何度味わってもいいものとさえ思える。

 俺は一生ガンプラと付き合っていくんだなぁとさえ思えてくるほどに。

 

「そろそろ行くか、最優秀賞の結果発表は見逃せないからな」

「そうだね、じゃ、行こっか」

 

 携帯の時計を見てから会場の方へ足を進める。

 メイジン杯、最優秀作品は誰になるのだろうか。ユウマ君かサカイ君か、はたまた別の人か。気になる所だ。

 

「ちょっと待ってレイ君」

 

 ピタッと突然近くのケースを見て立ち止まった彼女は表情を硬直させて、近くにあった二つのケースに視線を釘付けにさせる。

 一体、どうしたというのだ。

 ミサキが硬直するほどの出来のガンプラがあるのか?

 

「どうした?……ん?」

 

『デンドロ・シュバリアー』

『ブラスタM』

『ラゼンガン』

 

 スゴイな……デンドロビウムをここまで改修させて尚且つ、このクオリティ。刺々しい外観も相まって、中心に乗り込んでいるガンダムが騎馬のように見える。しかも大きさも大会規定ギリギリではあるもののクリアしている。

 

 ブラスタMというガンプラも……Mは、改修元のモンテーロのMだろうか。横に大きく広がれた黒色の翼が似通っているのであながち間違いではなさそうだ。

 

 ラゼンガン……顔が二つある事から、恐らく全体的に丸みを帯びさせたセラフィムに黒色の塗装を上塗りして艶を入れて生き物然とした質感を施したのか、可動域が尋常じゃない程に広い事に加え出来がとてつもなく良い。

 

「流石メイジン杯に出展するガンプラだ……なっミサキ。他にも……バンシィ・アッシュ、ラピズリーモック……まだまだ沢山あるな……」

「大会の影響かなぁ……こういうガンプラが増えてるの……」

 

 何を黄昏ているんだ。

 その二機の隣にも、マントを纏い大剣を携えたバンシィや緑色のハイモックを陸戦仕様に改修したようなもの、様々な創意工夫を凝らされた作品が多く並んでいる。……もう少し見てみたい気持ちに駆られるも、もう受賞作品の発表は始まっている筈なので、ミサキを急かし会場へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイとミサキが来る数分前―――。

 ノリコは沢山の人が集まっている会場の中で、メイジン・カワグチがメイジン杯最優秀賞作品を読み上げるのを今か今かと待ち続けていた。

 

「先輩、遅いなぁ……」

「姉さんが迷惑を掛けてなければいいのだけど……」

「先輩とミサキさんなら大丈夫だと思うぞ?」

 

 この場に居ないレイとミサキの姿を探すも見つからない。

 そうこうしている内に壇上にいる女性が、小学生の部の賞の発表を終えてしまう。

 

『続きまして、オープンコースの発表です!プレゼンターのメイジン・カワグチさんお願いします!』

『うむ』

 

「あ、始まっちゃう」

 

 選手権でもレポーターを務めた女性、カミキ・ミライがメイジンに最優秀作品の発表を促す。メイジン・カワグチは一歩前に踏み出し、懐から用紙を取り出し会場に居る人々へと目を向ける。

 

『メイジン杯ッオープンコースのチャンピオンは……』

 

 メイジンの声にざわついていた会場が静寂に包まれる。

 誰がチャンピオンになるのか、待ち焦がれる様にメイジンに視線が集まる。

 

『―――エントリーナンバー……9』

 

『よっしゃ―――!!9やぁ―――!!ワイの勝ちy――――』

 

『むッ、失礼、逆だった……本当はエントリーナンバー6番!コウサカ・ユウマ!ライトニングゼータガンダム!!』

 

 モニターにコウサカ・ユウマくんの名前と彼のガンプラが映される。今年の優勝はコウサカ君のガンプラだったかぁ、ま、サカイ君のあのガンプラじゃ、評価はされても賞は貰えないよね。

 

「済まない、遅くなった」

「あー、もう発表しちゃったみたいだね……へぇ、コウサカ・ユウマ君のガンプラがそうなのかぁ」

 

 背後からの声、振り向くと先輩とミサキさんが感心したように壇上に上がるコウサカ君を見ていた。

 

「もう遅いですよ、先輩」

「む、悪い。ちょっと寄り道しててな。……サカイ・ミナト君がメイジン・カワグチに食って掛かっているな……」

「悔しいだろうね。まあ、彼ほどのビルダーなら結構良い所まで行っているんじゃないかな?」

「へ、先輩知らないんですか?」

「何が?」

 

 と、そこでノリコは躊躇する。感受性の強いレイにこの事実を伝えて良いのか、と。サカイ・ミサトの作ったガンプラの特色に関心し、彼もあのようなガンプラを作ってしまうのではないだろうか。

 

『なら見せたるわ!!ワイの心に従がった―――最高傑作をォ――――!!』

 

 そんなノリコの葛藤をあざ笑うかのように壇上で喚いていたミサトが己のガンプラの姿を晒す。同様に悩んでいたコスモとミサトもバッと壇上に視線を向ける。会場全体が輝かせながら、その全容が露わになったガンプラ。それはレイの予想を大きく上回るガンプラだった―――。

 

 

 

 

 

 

 スーパーふみな。

 ガンプラと定義していいか分からないガンプラ。サカイ・ミナトの持つ技術、ガンプラ心形流の全てを注ぎ込み完成させた異端の中の異端と言っても差し支えのないガンプラ。

 その様相を一言で表すならば『フィギュア』。

 チーム『トライファイターズ』ホシノ・フミナの姿を完全に再現し、尚且つガンプラバトルとしての性能を高めたもの。無駄に凄い技術、無駄に凄い造形、無駄に可愛いの三拍子が揃っているというのが特徴である。

 

 

 

 レイは衝撃を受けていた。

 ガンプラ心形流の、サカイ・ミサトのガンプラに対する自由な発想に。

 

 色々な方面で疎い彼でもフィギュアくらいは知っている。だからこそ、それをガンプラで再現しようなどと思う行為に衝撃を受けていた。まさにガンプラ心形流の名に恥じないガンプラ。ビルダー最高峰の流派。

 

「それを抜きにしても、あれはないな」

 

 流石にこれはない。

 結構寛容な彼でさえそう断言した。その言葉に安堵の息を吐いた後輩二人。そんな二人の隣でミサトはスーパーふみなを見て大爆笑しているミサキを諌めている。

 

『サカイ君。ガンプラは自由だ……無限の可能性がある。……確かに君のガンプラは素晴らしい……だが、君は大きな間違いを犯している!!』

 

『な、なんやてっ。わ、ワイがどんな間違いを犯したっちゅーんや!!』

 

 スーパーふみなの登場でざわめく会場。その中で静かに口を開いたメイジンの言葉に、サカイは動揺するように詰め寄った。

 

『君の間違いそれは…………本人の許可を取っていない事!!そしてッ、君のガンプラは別部門だ!!』

『な、なんやてぇ―――!?オープンコンテストなら何でもええんちゃいますの?!』

『それは去年までだ!!今年から特別部門、ガンダムッ娘コンテストが開催されているのだ!!』

『う、嘘やろ!?が、ガンダムッ娘ォォォォォォ!?』

 

 サカイは怒髪天を突きながら背後から迫っているフミナの姿に気付かず、慄き膝をつく。

 昨今のビルダーはガンダムッ娘という新しいジャンルを開拓したせいか、昨年の大会でフィギュア然としたガンプラ作品が急増し、これを問題視した運営はこれを別部門としてのコンテストとして開催することで、オープンコンテストとの差別化を図った。

 

「ミサキ……ガンダムッ娘って……」

「確か……今年の優勝はヴィクトリーンガンダムって奴だよね。リーンホースjrとVガンダムのガンダムッ娘で評価されてた。いやぁ、ああいうのがアレ?艦娘っていうの?」

「いや、俺に言われても分からないんだけど」

 

 カラカラと笑いながらそう補足するミサキに困惑しながらも、再度ため息を吐くと『しかしッ結果が気に入らないのならばッバトルで己の意地を通すが良い!!』と叫んだメイジン・カワグチとレディ・カワグチさんがバトルシステムを発動させ、事態はサカイとユウマのバトルへと発展。

 

 メイジン杯のガンプラの戦う姿を一目見ようとレイが前へ進もうとすると、背後から誰かに肩を掴まれる。振り向くと、見知った顔。

 

「選手権以来だな」

「キョウスケか、それに……」

「はぁい!キョウスケのお友達かしらん。私、エクセレン!」

 

 やけにテンションの高い少女だ、と若干たじろぎながらも自己紹介をし、キョウスケの方を向く。レイの前に居たミサキもキョウスケとエクセレンに気付いたのか、後ろを振り返り軽く手を振る。

 

 社交性が高い少女なのか、エクセレンという少女は物怖じせずにミサキと後輩達の方に走り寄りフランクに挨拶をし始めた。

 

「はぁ、遠慮というものを知らないのか……アイツは……」

「マサキは一緒じゃないのか?」

「……大方迷子になっているんだろう。少しすればひょっこり出て来るさ。……それより選手権、良いバトルを見せて貰った」

「これ以上ない程に楽しいバトルだったよ」

「だろうな」

 

 腕を組み、僅かに微笑を漏らすキョウスケ。

 選手権という舞台で戦うレイの姿はガンプラバトルを心の限り楽しんでいた。来年こそは、次こそはとその思いを燃やし、決意を固めた彼は隣のレイの目を真っ直ぐ見て、宣戦布告するように言い放つ。

 

「来年は俺も出場する。勿論優勝を目指してだ」

「そうか……でも俺達は……まずは県代表になることが目標だな。うちはそう簡単に勝たせてくれない奴がいるからな」

 

 キョウスケの言葉を受けたレイの視線は彼から、前方に居るミサキへと向けられる。本来は彼女が県代表になってもおかしくは無かった。あの冥・Oはそれほどの出来と性能を持ったガンプラだったし、キリハラ姉妹の二人での操縦技量は他を圧倒するレベルだった。

 キョウスケもミサキとレイのバトルを見た。だが、それでも彼にここまで言わせるほど危険な相手なのか。

 

「それほどなのか……?」

「少なくとも……俺一人では勝てないな」

「一人では……か」

 

 そう、一人では勝てないからこそのチーム戦。

 どんな強いガンプラでも、協力して戦えば勝てる。

 それをこの選手権で……ノリコとコスモと一緒に戦ってきて理解したことだった。

 

「会場の面々がバトルシステムに集まってきているな」

「……これは……」

 

 キョウスケとの話に没頭している間に、バトルシステム内はかなり混沌した状況になっていた。スーパーふみなとウィ二ングガンダム、ライトニングZガンダム……それに、トライバーニングに似た刀を持ったガンプラを中心に、会場に集まったファイターが続々とバトルシステムに己のガンプラを乗せている。

 

 その中には白銀のガンプラ、サイバスターの姿もある。キョウスケは露骨に額を抑えると、腰のホルダーからアルトアイゼンKを取り出しバトルシステムの方へ進む。

 

『オラオラぁ!!俺のサイバスターに挑む奴はいねぇかぁ!!』

 

「あのお調子者………しょうがない、俺も参加してくるか」

「苦労しているな」

「全くだ」

「あ!キョウスケも参加する!?メイジン杯特別賞のヴァイスちゃんの力を見せてあげるわよぉー!」

「少しは静かにしてくれ……頭が痛くなる」

 

 キョウスケとそれに着いて行くエクセレンの背中を苦笑いを浮かべながら見送った後に、バトルシステムの方に目を向ける。

 あれだけ大規模なバトルシステムなら百人くらい参加しても全然大丈夫そうだな。頃合いを見て参加しようか。

 

「俺とノリコは行こうと思うんですけど先輩も行きますか!」

「……いや、俺はもう少ししたら参加するよ。俺に構わず楽しんでこい」

「はい!」

 

 新たに改修したガンプラを携え、ノリコとコスモもバトルシステムの一角へ行く。もっと近くで見ようか、そう思い人ごみをかき分け前の方へ歩いていくと、見知った少女の前に出てきた。

 彼女は一瞬、レイを驚いたように見ていたが、すぐに笑みを浮かべて声を掛ける。

 

「レイ」

「……シアじゃないか」

 

 ガンプラ学園の生徒であり、キジマ・ウィルフリッドの妹。

 彼女もバトルに参加しようとしていた所なのか、その手にGポータントを持っていた。

 

「久しぶりだな、アドウは元気にしてるか?」

「早くレイとバトルしたいから手首の治療に専念してるわ……あんなに大人しいアドウさんを見るのは初めてよ」

「そ、それは楽しみだな……」

 

 何時かミサキとの再戦を誓った時のような悪寒を感じた。バトルするのは構わないが、毎回あんな全力を尽くしたバトルでは身がもたない。程々にしてほしいと思いつつ目前に迫ったフィールド内を見る。

 

「綺麗でしょ、セカイのガンプラ」

「あれはやっぱりセカイ君のガンプラか……君が教えたのか?」

「ええ、選手権が終わってからずっと教えていたの。彼凄く物覚えがいいから私も楽しくなっちゃって」

 

 トライバーニングを彷彿とさせるデザインと格闘を用いるという点から彼のガンプラだと予想していたが―――シアがガンプラ作りを教えたのならば、あの出来は納得だ。彼女はレイよりもずっと教え方が巧い事に加え、セカイ自身も非常に飲み込みが良い。

 

「ガンプラは良いな……やっぱり、こんなにも人を楽しくさせる」

「そうね、私もノリコさんとのガンプラバトルで綺麗にして……優しくすることだけがガンプラじゃない事をようやく知る事が出来た。今なら私も心の底から楽しんでガンプラバトルができる」

「それは重畳だけど……ノリコさん?……俺にさん付けはしないのか?」

「レイはレイよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「なんだそれ……」

 

 項垂れるレイをクスクスと笑ったシアは「じゃあ、私も行くわ」とだけ言って、バトルシステムにGポータントを乗せる。フィールドに新たなガンプラがまた一つ、また一つ増える。それらはまるで星の様に瞬き、光と共に消える。

 

―――そろそろ参加させて貰うか。

 

 ホルダーから”新しい”ジンクスを取り出し、空いているバトルシステムの前に移動―――しようとするも、背後から追って来たミサキによりその挙動は中止される。

 

「もう!先に行くなんて酷くない!?」

「姉さんがバトルに熱中しているのがいけないんじゃ……」

「そうだ、ミサトの言うとおりだぞ」

「私に対してなんか辛辣じゃないかな……レイ君?」

 

 あの場に置いて行ってしまったキリハラ姉妹がレイを見つけ、隣に並ぶ。数秒ほど無言で隣でバトルを見ていたが、ふと何を思ったのか、バッグから取り出したやや大きめのケースを取り出し、それをレイに見せる。

 

「完成したよ。私達の【冥・O】が」

「……なら……これ以上の言葉はいらないな」

「そうだね、後は―――」

 

 ―――バトルで語ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイジン杯の最中に行われた大規模バトルロワイアル。

 会場に居た少女、アスハ・カナコは、自身の新しいガンダム【アクシオンガンダム】を駆り、バトルロワイアルへ参加していた。

 

 アクシオンガンダム。

 大会で損傷したヴァンセイバーの次に彼女が作り出した可変機体。

 元にしたガンプラはイージスガンダム。改修を施したそのガンプラは赤色から白色へと変わり、その戦闘スタイルも大幅に変え、MA形態のスピードとアルミューレ・リュミエールによる突撃と防御を主軸にした高速戦闘特化。

 MS形態の四肢に内蔵したサーベルとビームガンによる白兵戦を主軸として、ほぼ全ての距離を補える万能型へと強化された。

 

「あのバカ共が~!!」

 

 イージス特有のMA形態でフィールド内を飛び回り、部員仲間二人、顧問一人、計三人のガンプラバカ三人を探す。実は彼女、本来はこのバトルロワイアルに参加するつもりは無かった。

 カナコ以外の三人がガンプラバトルを目の前にして大人しくして居る筈がない。そんなこと分かり切っていた筈なのに、彼女は動けなかったのだ。せめて大人げないバカ顧問だけは止めようと乗り込んだ彼女だが一向に見つからない。

 

『あれ、貴方は先輩とバトルした!?』

「誰!?」

 

 向かってくるファイターの攻撃を躱しながら宙域を飛んでいると、黒いガンプラがモニターに映る。

 ……学ランのようなものをなびかせたサザビーだった。

 

「はぁ!?割と本気で誰なの?!」

『チーム『イデガンジン』ガンバスターのファイター、タカマ・ノリコです!今回はサザビーこと【ディスヌフ】でバトルしていますっ!』

 

 ディスヌフって新トップをねらえに登場したバスターマシン19号?

 確かにバトルで見た彼女の戦い方を見ればディスヌフも合っているだろう。

 サザビーにディスヌフの学ランは映えるだろう。でもさ、たまには普通のガンプラが見たいんだよ!!そう内心、阿鼻叫喚の如く落ち込んでいると、モニターの端からディスヌフとは違う黒色のガンプラが猛スピードで近づいてくるのがちらりと映る。

 

 その黒いガンプラ、全体的により元の機体に近づけたその機体――否、ナガレ・リョウヤはネオ・Gマスターの剛腕をぐるぐると回しながら、ノリコのディスヌフへ接近し、声を上げる。

 

『そこのディスヌフ!!俺と勝負しろやぁぁぁぁぁ!!』

『貴方はGマスターの!?』

『あァ!?テメェガンバスターの……ッつーことはレイもここにいるっつーことかァ!!こりゃ面白くなってきたぜぇ!!』

 

 『例え先輩が居たとしても、貴方を先輩の所にはいかせない!』何故かネオ・Gマスターの前に立ちはだかったディスヌフはその手をネオ・Gマスターに向け、叫び声と間違うほどの大声と共に指からキャノン砲を発射させる。

 

『唸れッ!!バスタァァァキャノンッ!!』

『はっ、三回戦の借りを返してやるぜぇぇぇぇl!』

 

 

「え、ええ……」

 

 あっという間に割り込めない程の激闘を繰り広げだすノリコとナガレ。その様子を見てげんなりしつつ、巻き添えを喰らわない為にその場から離れるカナコ―――視界内に、常軌を逸した長さのサーベルが宇宙を飛ぶガンプラを消滅させまくっている光景が見えるけど今はスルーだ。

 あんなものを見ていて正気を保てる自信がない。

 

 何度目か分からない大きなため息を吐いたその瞬間、猛スピードでこちらに近づく機影が見えた。一旦冷静になり、MA形態のまま突き進むと敵機の姿が鮮明になる。

 

「今度はブラスタか!?」

『どこの世界に飛ばされても俺は借金地獄からは逃れられねぇ……ッ』

 

 急接近してきた白色のガンプラ(?)、ブラスタM。

 メイジン杯に参加していたガンプラの一つだった筈なのだが―――。

 

『MVPは逃しちまったが……せっかくの催しだッデータくらいは持ち帰らせて貰うぜ!!お金の為に!!』

「何言ってるのお前!?」

『こっちの話だ!!さぁてお嬢ちゃん少し俺と付き合ってもらうぜ!』

 

 やけにキャラになりきった人が、その手にあるイーグルショットを放ってくる。しかも狙いが正確だ、高速戦闘しているアクシオンガンダムについてくるのも驚きだし、何より技量がずば抜けている。

 

「クッソ……やるしかないかぁ!!」

『なんかアンタ、俺と同じ苦労人臭がするな……』

「お、おおおお前と一緒にするなし!!」

 

 実際、滅茶苦茶苦労しているのだが、認めたくないので敢えて言わない。だが状況としては油断できない追随を見せるブラスタを引き剥がせない時点で、中々にピンチだ。

 

「アクシオンなら!!」

 

 側方のスラスターを噴出させると同時に方向を転換し、銃を向けるブラスタの方を向く。

 

 イージスガンダム最大のビーム砲撃、スキュラ―――だがアンドウ・レイとのバトルで火力不足を自覚した彼女は、対スーパーロボット線の為にさらに威力を高めるべく改修を施した。

 

「アクシオンキャノン!シュート!!」

『ッ!……それを喰らうのは流石に御免被るぜ!』

 

 MA形態―――スキュラのように足を広げず、砲塔のような形状を取ったアクシオンガンダムから強烈な粒子砲撃が放たれる。

 まるでこれまでの苦労を吐き出すように放たれた黒色の粒子砲は回避したブラスタの後方、射線上のガンプラを巻き込みながら突き進み、強烈な破壊を生み出した。

 

「見たか!これが対スパロボガンプラへの対抗策!これがあればどんな装甲だって撃ち貫ける!!」

『おいおい、こりゃ居候先に良いデータを渡せるぜ……』

 

 かなりご満悦な彼女だが、周囲の反応は全く違っていた。

 

『あそこにもスパロボ機体が居るぞ……』

『やべぇ、近づきたくねぇ……』

『R-GUNじゃない?リヴァ―レじゃないみたいだけど……』

『フフフ……』

 

 カナコ自身自覚していなかった。

 破壊力と効率を重視して作ったアクシオンガンダムが、そんな感想を抱かれている事に―――。そんな反応を「ビビってる」と判断したカナコは、ようやくMA状態からMSへと変形し、両腕と一体化したビームガンをブラスタへ向ける。

 

「食らえ!」

『へっ、食い扶持の為にはなぁ!』

 

 ブラスタMとの銃撃戦が始まろうとしたその瞬間、巨大な飛行物体が彼女達の間を横切る。

 

「ッ今度は何!?」

『このデカブツは……ッ!』

『さっきの砲撃はここからか……っ』

 

 新たな介入者、青い巨大なMAを操る騎手―――ブラスタMと同じメイジン杯参加者のガンプラ、【デンドロ・シュバリアー】。

 スパロボDの主人公機、『ジェアン・シュバリアー』。

 如何なる地形にも対応できる大型機動兵器であり、刺々しい外見、巨大な刃、アンカー、スラスターが特徴的なデンドロビウムと近しい外見をしているスーパーロボット。

 

『不躾だが、俺も混ぜて貰おうか!』

『飛び入り参加か……!上等だぜ……ッ!!』

「あー、もう滅茶苦茶だよ!!」

 

 三つ巴の戦いに発展する―――筈だったのだが、武器を構えた彼らをさらなる第三者、否、物体が襲い掛かる。

 

「なっ」

『うぉっ!?』

『ッ!撃ち落とせブレードビッド!!』

 

 デンドロ・シュヴァリアーから放たれたブレードビットが、近づいて来た無線兵器―――バグを切り裂く。近づいてくるバグを全て撃ち落とし、それらが飛んできた方向を見ると―――とんでもない大きさのMA、ラフレシアが悠然と宇宙を飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人が便秘で苦しんでいる間に表彰式が終わり…………しかも、俺がチャンピオンになっていないのは……どぉーいうことだァ――――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

 ドン引きした。

 なんて迷惑過ぎる八つ当たりだ、とも思った。宇宙を遊泳するように飛ぶラフレシアは、大量のバグとテンタクラーロッドを展開し、周囲のガンプラを襲い始めた。

 

『―――カナコォ!あいつを何とかするぞぉ!!』

「ちょ、ナガレ!またそんな勝手に!?」

『でも放っておけないですよ!』

 

 ネオ・Gマスター、ディスヌフがラフレシアへと突っ込んでいく。何でそんな無鉄砲な所が似ているの……とげんなりしながら、周りを見ると既にブラスタMとデンドロ・シュヴァリアーもさっきいた場所から消え、バグとテンタクラーロッドの破壊へと向かっていた。

 

「せめてこんな時でも……普通のガンプラバトルをさせてよ――――!!」

 

 若干半泣きしながら、ラフレシアへと飛んだカナコは、腕部のビームガンと脚部に展開させたサーベルでテンタクラーロッドを切り飛ばす。

 

 周囲に居るファイターもラフレシアの迎撃へ向かったのか、次々とバグを破壊しているが肝心のラフレシア本体には攻撃は当たらない。まあ、それも時間の問題だろう。この場には選手権を勝ち抜いたファイターも沢山いるし、それを抜いても尋常じゃない実力を持つファイターだっている。

 まだ会っていない、監督がそのいい例だ。

 

 

『はっ、はははは!!落ちろぉ!!落ちろぉ!!ヒャ―――ッハッハッハッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃ、まず最初に君が落ちてちょうだい』

 

 

 

『ハへぇ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 オープン回線でそんな声が響くと同時に、今まで攻撃が通らなかったラフレシアに強烈な爆発が起こる。それも連続しての爆発、正確に各部スラスターだけを狙い炸裂したその攻撃は、一瞬でラフレシアの機動力を削ぐに至った。

 

『な、ナニィ!?』

『済まないが……そのガンプラはここでバトルするには少し大きすぎる』

 

 不可視の爆発で機動力が削がれたラフレシアを赤色の粒子ビームが貫いた。だがビームと思われたそれはまるでイデオンソードの様に上方へ動き、半壊状態のラフレシアを容易く両断させた。

 

『う、嘘だぁろぉぉぉぉぉぉぉ!?』

 

 花火の様に巨大な爆発と共に散るラフレシア。

 フィールドにいるほとんどのファイターは現れた【二機】のガンプラを見た。

 片やガンプラ学園と互角以上のバトルを繰り広げたチームのリーダーの機体。

 もう一機は最強のロボットを決める時、必ず候補に挙がる最強クラスのスーパーロボット。

 

『―――【真・冥・O】これが私の新しい冥・Oだよ。さあレイ君!ガンプラバトルをしよう!今すぐしよう!!』

 

 【グレート・ゼオライマー】

 最強最悪の性能を誇るスーパーロボットが降臨し―――。

 

『分かった分かった……まあ、せっかくの新しいジンクスのお披露目だ』

 

 GNーXⅣ type”K”『騎士(ナイト)ジンクス』。

 ジンクスⅣオリジン時に装備されていたブースターをオミット。

 その代わりに肩の背部スラスターから延びるビームの帯をマントのように翻し、騎士然としたその姿を強調させ、装備には長大化したクリアランス、加えて腰に装備された鞘に収められた実体剣を携えた、新たに生まれかわったジンクスの姿。

 ラフレシアが完全に沈黙した事を確認した彼はフィールド全体を見渡した末に傍らにいる冥・Oから少しだけ距離を取り―――。

 

 

 

 

『全力でやり合おう』

 

 

 

 

 そう言い放った。

 




ブラスタMの操縦者さんの台詞はご想像にお任せいたします。


今回は遠慮なく行かせて貰いました。
取り敢えず新しく登場した機体をまとめます。

ブラスタM(モンテーロ)
元ネタ、ブラスタ

デンドロ・シュヴァリアー(デンドロビウム)
元ネタ、ジェアン・シュヴァリアー

ディスヌフ(サザビー)
元ネタ、ディスヌフ

ネオ・Gマスター(マスターガンダム)
元ネタ、真・ゲッターロボ

真・冥・O(ジ・O)
元ネタ、グレートゼオライマー

オリジナル枠

アクシオンガンダム(イージスガンダム)
元ネタ、RーGUN

GN-XⅣtype”K” (ジンクスⅣ)
元ネタ、騎士ガンダム、ヴァイサーガ


 グレート冥・Oとグレート雷門って似てるので、真・冥・Oにしました。
 アクシオンガンダムについてはカナコが無意識に作り上げてしまったものです。つまり、知らぬうちに毒されている事に……。



※素でKnightとNightのスペル間違えていたので修正致しました。
 GN-X type”K”が正しい名前です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ下

全国編の最終回です。



 騎士ジンクス。

 ジンクスⅣオリジンの発展機。準決勝でアドウとバトルした事で大破してしまったジンクスⅣを修理するうえで、レイはある試みを考えた。

 

 それはジンクスⅣを様々な局面に適したバトルを行えるようにするというもの。

 

 これまで武装を使い捨てたり、ブースターとの合体、アームビット等の機能を付け加えたりしていたが、彼がこれから作るであろうジンクスは【ジンクスⅣ】という形にこだわらず、自由に、そして一点の特徴に突出したものを作り出す。

 

 

 

 その一体目が騎士ジンクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレートゼオライマーこと真・冥・O。

 ミサトと共に完成させたガンプラを操作した私は会場を荒らすようにバグを飛ばしまくっているラフレシアを撃沈させたその後に、レイ君のジンクスと戦うべく向かい合っていた。

 彼とのバトルを心待ちにしていた私だが、思いのほか落ち着いていた。油断できない相手だってのは理解しているし、彼は前よりも格段に強くなっていたからだ……。

 

 それに正面で粒子のマントをなびかせ、ランスを構える騎士の姿を模したジンクス、あの様相の変化が私に並々ならぬ警戒を抱かせている。マントと鞘に収まった剣がなければジンクスⅣと同じ姿に見える……が、あのレイ君が普通のガンプラなんて作るはずがない。

 

「……まずは初手」

 

 真・冥・Oの宝玉が輝く。

 クリアファンネルミサイルによる不可視の爆破攻撃。当たれば致命傷必須の攻撃、真・冥・Oの装甲の大型化によりさらに多くのファンネルを積むことに成功したファンネルミサイルが、ミサトの正確な操作によってジンクスⅣへと殺到する。

 

 しかしジンクスがとった行動は回避でも迎撃でもなかった。

 その場から動かずに左腕で背面のマントを掴みとるというものだった。

 

「それは効かん!!」

 

 左腕を大きく翻し、掴み取った赤い粒子で構成されたマントを身に包むように纏う。

 爆発と共に直撃するファンネルミサイル―――だが、マントにより阻まれその防がれてしまう。ビームマント……?いや、それにしては硬すぎる、ビームマントじゃなければ……。

 

「アシムレイトかな!!」

「さあ、な……!!」

 

 クリアファンネルを防ぎきったジンクスは爆風をその手に持つランスで薙ぎ払うと、その槍先をこちらに向けて粒子ビームを放つ。私はそれを回避せずにI・フィールドで弾き、お返しとばかりに宝玉からのビームを打ち込む。

 

 勿論それだけで済ます筈がない。

 こちらも出し惜しみは無しだ、今日は思う存分にやらせてもらおう。

 

『I・フィールドも健在か……。……ッならば!そのフィールドを貫ける攻撃を!』

 

 左手から発せられた粒子の帯でビームを防ぐと共に、ジンクスは防御に用いた左腕を大きく掲げる。

 何をするつもりだ……?無手にも見える左手に嫌な予感を感じつつも次の攻撃を繰り出そうとする私だが、次の瞬間ジンクスの手に発せられた赤色の帯が収束していることに気付く。

 

『行け!!GNフォトン・ダガー!!』

 

「はぁ!?」

 

 収束した帯が楕円状のクナイへと変わり、それを指に挟んだジンクスがこちらに凄まじい勢いで飛ばしてきた。

 

「君にしては武装が少ないと思ったらそう言う事か!」

 

 粒子を集めた拳でクナイを弾きながらも、彼のジンクスのとんでもなさ加減にドン引きする。彼にしては手持ちが少ないと思っていたけど、それは逆だった。彼の戦術の幅は依然として減っていない、使える武装も持ち運ぶ必要が無くなり身軽になっている。

 

 そしてさっき繰り出されたGNフォトン・ダガー。

 恐らく、彼の予備機Gセルフのフォトンエネルギーとアシムレイトの帯を応用した新武装。I・フィールドを容易く貫く鋭利な手裏剣―――武装を投げつける印象が強い彼にはおあつらえ向きの武装だ。

 

「だからといって私に勝てるとは限らないんだよねえ!!ミサト!『風』!」

 

「―――分かった!」

 

 私の合図と共に真・冥・Oの両肩の装甲がスライドし、砲身のような機構が覗く。これが真・冥・Oの真骨頂、八極の一極―――『風』を司る兵器、『デッド・ロン・フーン』。

 渦巻き荒れ狂う暴風が、視界内の敵機を蹂躙すべく放たれる。

 

「粒子の風……!」

 

「前の冥・Oと同じだとは思わないで欲しいな。なにせこれは私達の最高傑作なんだから!」

 

 迫り来る暴風はレイ君のジンクス、そして近くに居た他のガンプラ達をも巻き込み、巨大な竜巻を形成させる。原理はイデオンガンと同じ……威力は幾分かこちらが劣るけども、渦の力はこっちの方が強い。

 飲み込まれたら、粒子の風で切り刻まれ―――ッ。

 

「あぶな!?」

 

 ジンクスが巻き込まれた竜巻から大型のクリアランスが正確にこちら目掛けて飛んで来た。驚きつつも粒子を纏った拳でそれを弾き飛んで来た方向、ファイターの叫び声が聞こえる阿鼻叫喚の竜巻の中を見る。

 

 荒れ狂う竜巻に囚われ碌に身動きの取れない多数のガンプラの中、粒子のマントを纏ったジンクスが腰から取り出したであろう実体剣の鞘を左で持ち、まるで居合の如き構えを見せていた。

 

『オリジンシステム……!』

「……なに?」

『―――斬り裂け!』

 

 ジンクスがその剣を抜き放ち、竜巻を一閃する。それだけで竜巻が半ば程から断たれ、半月状の赤色の粒子による衝撃で拡散し、竜巻が一瞬のうちに消え去った。

 いや、実体剣の刃から放たれた赤色の粒子の帯が扇状に広がり、風の流れを断ち切ったのか。

 

「へぇ……」

 

 竜巻が消失し、周囲に機体の破片と傷ついたガンプラが漂うが、ジンクスはそれに目もくれずに左手の鞘を宙空に投げ捨て、実体剣を両手に握りしめこちら目掛けて切り込みを仕掛けて来る。

 白銀の刃には先程の様な赤い粒子の帯は無い。

 

 刺突の如く突き出される剣をくるりと反転するように回避しながら、クリアファンネルミサイルを射出する。対してジンクスは赤い光の燈った実体剣を振るい、斬撃により発生した赤い斬撃が弾幕のように展開され、クリアファンネルミサイルを切り落とす。

 

「アシムレイトの剣……?」

『いいや、俺はアシムレイトを使ってない!』

「……っ!?」

 

 こちらが繰り出した拳を実体剣で防いだジンクスを見ながら思考を巡らせる。

 彼のオリジンシステムはアシムレイトによって作動する特性だ。カミキ・セカイくんのトライバーニングもそうだし、レイ君のジンクスもそれは同じだろう。

 

『いちいち倒れてちゃ安心してバトルができないからな!!まずはそれをなんとかさせて貰った!!』

 

 考えに没頭している最中、ジンクスが再び剣を赤く発光させ切り上げる。斬撃のように放たれる粒子の帯の刃、今までにないオリジンシステムの使い方――――。

 

 余裕を持って斬撃を躱した私はある答えに辿り着く。

 

「―――そのジンクスはオリジンシステムを……?」

『そう、オリジンシステムに特化させたジンクス。アシムレイトに頼らない俺だけのガンプラだ!』

 

 パワーでは勝てないと判断したレイ君は、思い切り背後へ飛ぶ。勿論、私も追い打ちをかけようとすると彼の腕部がオリジンシステムの赤い帯を纏い高速で回転しているのが見えた。どことない悪寒を感じ私も咄嗟に後ろへ回避する。

 

『貫け!』

 

 私が後ろへ回避すると同時に、腕部が回転したジンクスの左腕が私の真・冥・Oを貫かんばかりに放たれる。赤い砲弾と化した凶悪な拳が玄武金剛弾ばりの超回転で迫って来るのを見て、自分の頬が引き攣るのを感じながらファンネルミサイルで威力を減退させながら回避する。

 

『読まれた!?何故だ!?』

「こ、この……油断も隙もない。無意識スパロボ兵器が怖すぎる……」

「姉さんにも少しは責任があるとは思うけど……」

 

 オリジンシステムの帯が引き剥がされた腕を回収した彼をドン引きしながらも見据え、ミサトのツッコミをスルーする。

 ……いや、彼だって高校生だから多少のネタ位は受け流すだろうなぁ、とは思っていたんだよ。でもここまでやってくれるのは正直ヤバすぎる。無意識再現なのが余計に性質が悪い。

 

 というより彼のジンクスは本当に騎士ジンクスなのか?

 騎士というからには騎士ガンダムをモチーフにしたのだろうが、武装がヴァイサーガ寄りだし、ロケットパンチもソウルゲイン仕様になってるし!!

 

「でもっ、楽しいなぁ!!」

 

 宝玉から放ったビームをオリジンシステムの帯で防がれながらも、これ以上ない程の笑みを浮かべる。

 まだまだこの真・冥・Oは戦える。このガンプラを作ったミサトと私にとって、自らのガンプラの強さの証明はとても喜ばしく誇らしいものだ。

 

 だからこそ―――

 

「ミサト!『月』!!」

『え、やるの?……いや姉さんがいいなら従うけど……』

 

 やや引き気味な妹の言葉に微かな疑問を抱きつつも、背部ユニットを分離させる。分離された背部ユニットが上方へ上昇すると共に腰の砲台が展開され、上昇した背部ユニットと合体し大型の砲台へと変形する。

 

 

 真・冥・O 砲撃特化形態『月』

 

 周囲を巻き込み粉々にするのが『風』とするならば、高密度の粒子砲で相手を確実に破壊するのが『月』。

 今日は本格的に真・冥・Oを動かした日だ。これはいわゆる特大の打ち上げ花火、盛大にやろうじゃないか。

 

「はははは!!」

 

 背部ユニットに予めチャージされている粒子エネルギーを一気に放つ。予め粒子が溜めているならばチャージする必要も無い、よって即座に最大の一撃が放つことができる。

 砲門に紫電が走り、青白い巨大なビームが放たれた。

 

『お前っある意味ラフレシアよりも性質が悪いぞ!!』

 

 実体剣を放り投げたジンクスは迫り来るビームに対して立ち向かう様に両腕を広げ、オリジンシステムを発動しアームビットを飛ばす。本体はその場を逃れるが、飛ばされたアームビットは赤い帯を網のように展開し、ファイター達を巻きこまんばかりに突き進むビームを食い止める。

 

『流石にこれは無理か……ッ!!』

 

 しかし『月』の威力は彼の予想を超えるモノだったのか、数秒ほどの拮抗を見せたところでオリジンシステムの『網』は突き破られ―――その射線上にいるファイター達へと向かっていく。

 

『うわぁ!!飛び火したぞおい!!』

『光がァ――――!?』

『あ、これラグナロ―――』

『メイオウ様バンザーイ!!』

 

 やばい大惨事だ。

 ……でも彼等もファイターで今はバトルロワイアルの最中、流れ弾にあって撃墜される事なんてよくあることよくあること。

 

「……」

 

 そう思いつつも「やってしまった」とばかりに頭を抑えるが、放たれた粒子砲はもう戻らない。

 

 

 

 

 

 

『そのバトル!私が介入する!!』

 

 

 

 

 

「……うん?」

 

 バトルロワイアル参加者へ迫った粒子砲は、直撃する寸前に何者かに阻まれ、切り裂かれるように拡散してしまった。

 あれほどの砲撃を防ぐ者、それほどの実力者はこの会場内で限られている。

 現れたのは赤いガンダム―――『ガンダムアメイジングレッドウォーリア』。最強の名を冠するガンプラファイター。

 

『『メイジン・カワグチ!?』』

 

『見ているだけでは物足りん!!これほどのバトルッ指をくわえて見ていられる程ッ……私は大人ではなぁぁぁぁぁぁい!!』

 

 いや大人だろ。

 というツッコミをこの場に居る全員が心の中でツッコんだ筈だ。しかしアームビットと剣をその手に戻したレイ君のジンクスは、メイジンの言葉に驚愕したように声を震わせレッドウォーリアの方へ振り向いた。

 

『メイジンとバトル……だと?ミサキ!!一時休戦だ!!』

「ええっ?!私とのバトルは!?」

『一時休戦と言った!!こんな機会逃せるか!!』

 

 まるでメイジン・カワグチのような口調で飛び出して行ったレイ君のジンクスは流れるような動作で、私の近くに漂っていたクリアランスをアームビットで回収し、そのままガンブレイドを携えたレッドウォーリアへと突撃していく。

 

『メイジン!一つ手合せを!!』

『受けよう!私に見せてみろ!君の革新をォォ―――!!』

 

「ガンプラバカか!?」

 

 若干置いてけぼりにされた私は、このやるせない思いをどうしていいか分からずに呆然とする。というより、レイ君ってバトルに関してはメイジンに近い所あるよね。

 バカじゃないけどガンプラバカって所とか、突拍子も無い事する所とか。

 

『暇そうですね』

 

 メイジンへ向かっていくジンクスを眺めていると、目の前に一体の蒼いガンプラが現れる。

 ヴァ―チェを思わせる大きな体躯と、冥・Oと似た重々しい威圧感を放つそのガンプラを見て、軽いため息を吐きながらも笑みを浮かべる。

 

「……はぁ……暇だよ。なら代わりに君が相手してくれるのかな?」

 

『ククッ、貴方のような怪物と戦うのも一興……まだまだ力不足ですがね』

 

 冥・Oと似た黄金色の宝玉の輝きと共に周囲に黒い空間を発生させた蒼い機体―――【グランゾン】を見据え、私は再び燃え出した闘志と共に、クリアファンネルミサイルを飛ばす―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイジン・カワグチとのバトル、それは俺にとってこれ以上に無い名誉な事だった。勝てるとは思わない、ただ負けるとも思っていない。相手がどんな人だって、俺はいつも通りにバトルをするだけ―――。

 

 ガンプラ学園の時と同じように……俺は何時だって挑戦者だ。

 いつだって本気でバトルしてきた、だからいつも通りに―――。

 

「トランザム!!」

『来い!レイ君!!』

 

 機体を赤色に染めたジンクスが、高速で距離を縮めたレッドウォーリアとぶつかり合う。

 圧倒的な技量とガンプラの完成度―――レッドウォーリアというシンプルなガンプラだからこそ分かる。

 こんなガンプラがあったのか。

 こんなガンプラが作れるのか。

 俺もこんな凄いガンプラを作りたい。

 

「くっ…………やっぱり……強い!!」

 

 トランザム中のジンクスでさえ上回る程の出力で圧倒してくるレッドウォーリアに劣勢に立たされても、楽しいという気持ちが抑えられない。

 精密すぎるガンブレイドからの射撃を腕部から伸ばした帯で防ぐも、一気に距離を詰められ展開した帯ごと押し出すかのように蹴りを放たれ、勢いよく後方に飛ばされる。

 

『合宿時、私がアドウ・サガ君に言った言葉を覚えているかね?』

 

「……っ、え?」

 

 休む間もなく振り下ろされたガンブレイドを受け止めたこちらに、ふとメイジンがそんな質問を投げかけてきた。

 合宿時……俺がアドウとバトルした時の話か、思えばずっと昔のような気がしてくるほど濃密な時を過ごしてきた。でも覚えている、アドウの世界に出て強者と戦いたいという言葉にメイジンは、アドウでは世界選手権のファイター達には勝てないと言い放った。

 そしてもう一つ、思い当たるものがあるとすれば……。

 

「強さだけを求めるのがガンプラじゃない……ッ、ですか!」

 

『そうだ、あの時の彼はただバトルがしたかった。勝ちすぎたが故の孤独、対等な者とのバトルに飢えていたからこそ、彼はガンプラバトルにおいて最も大切なものを忘れてしまっていた』

 

「大切なもの……」

 

『ガンプラを心の底から楽しむことをだ。だが君はそれを彼に思い出させた!ガンプラバトルを心の底から楽しいと思っている君が、バトルを通じて彼を真のファイターへと目覚めさせた!今のアドウ・サガ君ならば世界選手権へ挑戦する資格がある!そして―――君にも!』

 

 鍔迫り合いの状態のまま一旦後ろへ飛んだレッドウォーリアの右腕部の下方からバズーカが覗くと同時に放たれる。直撃はそのまま戦闘不能を意味する―――クリアランスをオリジンシステムの光で満たせ、ラフレシアを両断した長大な粒子の槍を形成し、弾頭を刺し貫く。

 

「世界選手権……興味が無いとは言いません。……ですが、今は貴方とのバトルが何より楽しい!!」

 

『……君は最初に会った時から変わらずボルケーノな少年だ……』

 

 ランスの粒子の槍を消し去り、再びメイジンへと加速をかける。

 まだ届かない、当然だ。相手は世界最強なんだから―――でも、いつか届かせてみせる。

 

 ランスを左手、剣を利き手に持ち替え後ろに流すように構え、姿勢制御に用いているマントとGN粒子の出力を上昇させ爆発的な加速と共に飛び出す。

 こちらの加速と共にレッドウォーリアも前へ進みだす。横に掲げられるガンブレイドとクリアランスがぶつかり合う―――

 

 

 

 

 

 

 

 

『待ち給え!!』

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、青色のドムがレッドウォーリアとジンクスの間に入り、ランスを盾で、ソードをヒートサーベルで受け止めた。メイジンに続いてのさらなる乱入者―――しかし、俺は一目でその正体が分かった。

 

 当然だ。

 何故ならばその『青』いドムは『青い巨星』と讃えられた卓越した技術を持つ歴戦練磨のファイターなのだから。

 

「ラル大尉!?」

『メイジン!空気を読め!』

『!?……これはラル大尉の……ドムR35?!』

 

 突如乱入してきたガンプラ、『ドムR35』ことラル大尉の操縦するガンプラがレッドウォーリアとジンクスの一撃を受け止めていた。

 

『レイ君……すまないが、メイジンの相手は私が勤めよう』

 

「ラ、ラル大尉?」

 

『君はまだここに来ることはない―――それに、君とバトルしたいファイターは沢山いる』

 

 ラル大尉の言葉に呆けてしまうがメイジンは彼の言いたいことを理解できたのだろうか、鍔迫り合いをしていたガンブレイドを引き、少し後方に下がった彼は俺の方を向き、手の平を向けてきた。

 

『―――フッ、そうかならば……この勝負預けよう!!』

 

「……え?」

 

『あ、待たんか!!』

 

  その言葉と共にドムR35とレッドウォーリアは凄まじい勢いで上昇し、壮絶すぎるバトルを始めてしまった。『なんと大人げない!』とか『子供という柄ではないだろう!』とか、その最中に馬型のガンプラに乗った黒いアストレイが「いざ、参じる!!」「駆けよトロンべ!!」と叫んで割って入り、さらに混沌を極める。

 しかし……繰り広げられているのは、フィールドを高速で駆け巡る最高峰の応酬戦。

 

 やっぱりメイジンは強かった。

 そして改めて再認識した、やっぱりあの人は俺の憧れだ……。

 

 

 

 

 

『見つけた!』

 

「!」

 

 

 こちらへ近づいてくるガンダムタイプのガンプラとGディフェンサーの改修機と思われるMA。その見覚えのある様相に目を見開きながら、正面で制止したガンプラ―――ガンダムMK2を見る。

 

「リュウトか!!」

 

『新たに改修を施したガンバインMK2……このエクスバインMK2と勝負して貰うよ!!』

 

 エクスバインに付き従う様に飛ぶ、Gディフェンサーから大型のビーム砲がパージされエクスバインの手に収まり、その砲身をこちらへ向けて来る。

 チーム『凶鳥のはばたき』のリョウト、俺と同じように改修してきたガンプラで来たか。相手にとって不足無し、こちらもランスと剣を握り直し構えようとすると、今度はリョウトの来た方向とは逆の方から大声と共に黒い二機のガンプラが近づいてきた。

 

『いいや俺が先だァ!!』

 

『待ちなさーい!!って、先輩!?』

 

「ナガレにノリコ!?お前らもか!」

 

 Gマスター……の改修機と思われる大柄なガンプラと、ノリコのディスヌフが現れる。彼らに続く様に続々とコスモ、そして他のファイター達が集まって来る。

 俺のジンクスと集まっているガンプラ達目掛け、バトルする気満々で近づいてくるガンプラ―――否、ファイター達を見て、ようやくラル大尉が伝えたかった事を理解し笑みが堪えなくなる。

 

『先輩はやらせないわ!!まずは私とコスモを倒してからきなさい!!』

『……え?俺も』

『うるせぇ!!なんだったらテメェも一緒にバトルしてもいいんだぜぇ!!』

『ちょっと待って!!ボクが最初に挑んだんだ!!』

『あー!!もう監督もバカもバカも皆好き勝手ばっかり~!!』

『メイジン何処行った!?くそ……ッ、折角のチャンスだったってのに………いや、後でサイン貰って売り払えばチャラに……?』

 

 一番近くにいる者達を筆頭にバトルを申し込んで来る。見知ったガンプラも、見知らぬガンプラも―――

 

「あぁ……これはメイジンとバトルしている場合じゃないな……」

 

 俺がメイジンと戦いたいように、俺と戦いたいファイター達も居る。

 俺と同じような挑戦者がここにはたくさんいる。そんな単純な事を忘れてしまっていた自分を恥ずかしく思う。

 

『―――レイ!!』

 

 堪え切れない笑みを漏らしている俺に声をかける一機のガンプラ。赤と白の配色、腰に携えられた一本の刀―――シアが言っていたセカイ君の新しいガンプラが真っ直ぐこちらに近づいて来た。

 

「セカイ君か」

 

『俺とバトル!ガンプラバトルをしましょう!!』

 

 モニターの隣に映し出されたセカイ君が、満面の笑顔でそう言い放ってくる。その笑顔を見て、つられるようにに口角を緩ませてしまう。

 ああ、彼はガンプラを心の底から楽しんでいる。

 選手権中でもそうだったが、シアにガンプラを作る技術を学び、自分で作りあげたガンプラを動かした彼の瞳は、眩い光で満ち溢れている。

 

「今はバトルロワイヤルだ!!やろうセカイ君!!ガンプラバトルを!!」

 

『はい!!』

 

 

 セカイ君のガンプラから視線を逸らし、近づいてくるガンプラ、目の前で喧嘩し始めたガンプラを見て声を張り上げる。

 

 

 

 

「全員まとめて面倒見てやる!!」

 

 

 

 

 そう言い放つと同時に粒子の衣を翻し飛び上がる。

 突然の飛翔に呆気にとられる面々だったが、俺の言葉を理解すると同時に好戦的な声を上げ追ってくる。

 

 あくまでバトルロワイアルなので、俺だけに攻撃が来ている訳ではない、でも無理はしたと思う。正直、あれだけの数のガンプラに粒子が保つ自信がない。

 

 それでも心の底から溢れでるワクワクが止まらなかった。

 

 背後から放たれるビームを回避しながらフィールドを見回す。

 蒼いガンプラと苛烈なバトルを繰り広げているミサキの真・冥・O。

 レッドウォーリアのSDガンダムとバトルしているGポータントとウィ二ングガンダム、そして大型の盾を両肩に装備させたガンプラ。

 レッドウォーリアとバトルしているドムR35、そして彼らに追随する勢いで食い下がる黒い馬を駆るアストレイ型のガンプラ。

 

 ――――やめられないな、こんな楽しい遊びは。

 遊びだから本気になれるし、遊びだから大人も子供も楽しめる。

 

 機体を反転させ、こちらへ向かってくるファイター達の方を向く。モニターの先には先頭を飛ぶセカイ君のガンプラがその拳を引き絞らせ接近してくるのが見える。生き生きとした彼の動きに自然と笑みを増した俺はランスと剣を構え、迎え撃つように加速をする。

 

 

『いくぞぉぉ!カミキバーニングッ!!』

 

 

「まだまだ付き合ってもらうぞ!ジンクス!!」

 

 

 ジンクスは俺のその声に呼応するように身に纏う粒子の衣を大きく広げ、宇宙(そら)を駆ける。




~完ッ~

2月から初めて……約5か月の間、長かったようで短かったです。
これで本編は終了です。
因みにジンクスのバリエーションは”K”以外に―――
type”I”
type”G”
―――の二つがあります(意味深)




一応、外伝と後日談のような何かを予定しております。
候補としては―――。

後日談『文化祭編』
   『コンサート編』
   
外伝『キョウスケ編』
  『選手権スレ』

短編『集え、始まりのもとへ』
  『100万Gの男』

 場合によっては変わってしまうかもしれませんが、とりあえずこれらを予定しています。
 今月は更新するのは難しいので来月から更新する予定です。



 では、ここまで読んでくださってありがとうございました。
 完結後も『A』STORYをよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続編
続編~コンサート1~


少し早いですが続編を始めます。
本編とは違い、オリジナルストーリーです。
続編はBF一期のガンプラ特訓とか、ジンクスの派生形とか登場させたくて書きました。




 ガンプラバトル選手権が終わり、時期は8月後半、新学期を目前に控えた俺は手早く課題を終わらせると、一人黙々とガンプラの改修作業に勤しんでいた。

 今年は本当に濃い夏休みだった。

 選手権があったり、メイジン杯があったり。学校とか夏休み明けとか大騒ぎだろうなぁ、県大会優勝で祀り上げる様に盛大に祝ってくれたからなぁ。今度は準決勝進出!!とかでかでかと垂れ幕が出されるのが目に見える……そう思うと恥ずかしさも相まって憂鬱になる。

 

「お、此処に居たのかレイ」

 

「ん?どうしたの、父さん」

 

 父、アンドウ・セイジが手紙のようなものを掲げ、大きなため息を吐いた俺の部屋に入って来る。一旦作業をやめて体を向けると、父は憮然とした表情に少しばかりの苦笑を浮かべる。

 

「夏休みなら外に出ろ。ガンプラをやるのは結構だがそれだけでは身が保たんぞ」

 

「確かに……気分転換がてら外に繰り出してみようかな……」

 

「そこでだ」

 

 散歩でも行こうかと立ち上がろうとした俺の肩を掴んだ父は、その手に持った手紙を見える様に机の上に置く。何だ、と思いそれを拾い上げると、やや洒落た手紙の表面に英語で何かが書かれていた。

 幸い、それほど難しいものではなく簡単に読めたが……。

 

「ココロネ・ヒツキのライブコンサート……?」

 

「バイトしてみないか?」

 

「………はい?」

 

「ココロネ・ヒツキは知っているか?」

 

 知らない。

 全然、知らない歌手だ。とりあえず机に置いてある携帯で名前を検索してみる。

 

「ガンダムッ娘コンテスト最優秀賞受賞者?……歌って作れるガンプラアイドルぅ?」

 

 出てきたのはVガンダムベースの改修機。人形のようにデフォルメされてはいるが、ビルダーとしての確かな実力が感じられる。しかも、この手紙にあるコンサートの内容もあるぞ……ゲストを招いてのガンプラでのパフォーマンスを行うのか……面白そうだけど……。

 

「それで、バイトって?」

 

「有事の際にガンプラバトルをすればいい」

 

「……どういうこと?」

 

「数日前、ココロネ・ヒツキの事務所に差出人不明の脅迫文が届いてな。調べた結果、それがガンプラマフィアからのものだと判明したが……奴等はコンサートになんらかの形で介入を目論んでいる。本来ならばライブコンサートは中止にするべきなのだが、ココロネ・ヒツキ自身がそれを拒否した……」

 

「ガンプラマフィア……実在したのか。それでもって悪質な……父さんは俺に何をしてほしいんだ?」

 

「うちの部署にはガンプラバトルの腕に長けるものは居るには居るが、ガンプラマフィアを相手取るには少々心許ない……そこでお前に手を貸してもらおうと考えてな、実力は私から見ても十分………それに、同い年だろうから丁度良いだろ。うん」

 

「ん?最後の方小声で聞き取れなかったんだけど……?」

 

「気にするな、後で分かる」

 

 いや、別に協力するのはやぶさかじゃないんだけど、何か嫌な予感がする。ガンプラマフィア云々じゃなくてもっと別な事で。

 

「で、どうだ?ああ、どちらにしろお金は出す。ちょっと良いホテルに泊まれて、ある程度遊べる旅行だと思えば悪くない話じゃないか?」

 

「……まあ、確かに行ってみてもいいかな。父さんがいるから危ない事にはならないだろうし」

 

「決まりだな」

 

 まあ、残りの夏休むを無為に過ごすのも勿体ないし、断る理由はないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ココロネ・ヒツキ。

 歌って作れるガンプラアイドル。

 活動開始は三年前、一年の下積みの末に出したファーストシングル「ああ、愛しきジャブロー」で大ヒットを博し一気に国民的アイドルへの道を駆け上がった少女。奇抜なれど熱い彼女のスタイルは多くの人々の心を掴み取り今も根強い人気を誇っている。

 だがしかし、ただのアイドルといえばそうでもない。彼女はアイドルであると同時にガンプラビルダーなのである。その実力はメイジン杯『ガンダムッ娘』部門にて優秀賞を誇るほどのもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 埼玉県さいたま市。

 ココロネ・ヒツキがライブコンサートを行う会場、さいたまスーパーアリーナがある街に到着した俺は取り敢えずホテルに荷物を送り、ホテルの最寄をうろついていた。

 

 父は仕事の打ち合わせですぐに会場の方へ向かってしまった。一応、何かすることはあるのかと聞くと、夜に関係者との『顔合わせ』があると言うので、それまで暇を貰った。しかしながら、不慣れな土地とさして下調べのしなかった場所でどう暇を潰していいか分からない。

 ……取り敢えず模型店を探すことにした。

 

 旅行に来てもガンプラの事を忘れられない辺り相当なものだがそんなことを気にも留めずに、彼はホテル近くの大通りに開店している模型店を見つける。

 地元と同じ位の大きさの店の中を除くと、ガンプラが鎮座する棚の隣に標準サイズのバトルシステムが置かれている。暇を潰すには丁度良いかな、そう思いショルダーバックの中にあるガンプラを一瞥してから店の中に脚を踏み入れた。

 

「いらっしゃませー」

 

 温和そうな雰囲気漂う店員らしき男性に小さくお辞儀しながら、中を見渡す。

 

「……色々あるな」

 

 ガンプラを見る為に店の奥へと進む。やはり都会は品揃えが良い、地元では予約しなければ買えないガンプラが普通に置いてあることに少しだけ感動を覚えつつも、ガンプラを物色していると先程見つけたバトルシステムで、誰かがバトルしている光景が視界に映り込む。

 

『落ちろ!!』

 

『ひゃあ!?』

 

「……おお」

 

 俄然興味が沸いたのか、バトルが見える位置にまで移動すると『ガンダムエアマスター』と『ガンイージ』がビームサーベルによる白兵戦を行っているのが見える。

 白兵戦といっても、逃げるガンイージを執拗に追いかけるガンダムエアマスターの攻撃をサーベルで防いでいるという不思議な図式……だが、サーベルを両手で持ったガンイージの動きはしっかりしている。

 

『逃げてばかりで!戦え!!』

 

『た、戦ってます戦ってます!!』

 

 MAに変形し、逃げるガンイージの前に降り立ったガンダムエアマスターはその手のバスターライフルを近距離から放つ。胸部を打ち抜く軌道を以て放たれたバスターライフル、直撃は免れない。終わりか、とレイも思ったが、……脱力するように下方に下げたサーベルを切り上げる様に盾にしたガンイージ。

 

『―――い、行きますよぉ!』

 

 容易くバスターライフルのビームを切り裂きそのまま一気に接近、バスターライフルを持つ腕と脚部を一気にサーベルを振りぬき、四肢を破壊。

 最後に身動きのできないエアマスターの頭部にサーベルを突き刺すことでバトルは終了となった。

 

 巧い、という感想を最初に抱いた。カナコのように巧みにサーベルを操るのではなく、相手に致命的な損傷を与える為の一撃を狙う―――ビームサーベルは切り裂く為の装備だが、あんな風に攻防一体の武器として使えることが何よりの利点……それを最大限に生かしての戦い方。

 

「凄いな」

 

 俄然興味が沸いたので、バトルシステムが解除され姿が露わになったファイターの方を見る。エアマスターのファイターの中学生くらいの男の子は悔しそうな表情を浮かべているが、ガンイージのファイター、ベレー帽のような帽子を被った三つ編みの少女。視線の先に居る彼女は、まるで安堵するように胸を撫で下ろしている。

 

「よ、良かった勝てた……練習した甲斐があった……っ……?」

 

 少し離れている所から見ている俺に気付いたのか、目を瞬かせるガンイージのファイター……いや少女か。相手は数秒ほどこちらから目を逸らさずジッと見た末に、ハッと何かに気付いたのか肩にかけているバッグから雑誌のようなものを取り出し開く。

 

「あ、ああああっ」

 

「あ?」

 

 こちらを見て何かを叫ぼうとしているようだが、周りを見ると咄嗟に口を両手で押さえ、こちらに足音が聞こえそうなくらいの勢いで歩み寄ってくる。

 

「ちょ、ちょっとすいませんっ」

 

「え?は?ちょ、なに?」

 

 手を掴まれ店の片隅の方へ連れて行かれる。

 何か粗相でもしてしまったのだろうか。やや鬼気迫った表情を見る限り只事ではないのは分かるけども。

 

「あ、あのイデガンジンのアンドウ・レイさんですよね……?」

 

「知ってるのか?」

 

「本物!?何でこんな……いや、それより」

 

 名前はともかく顔を知られているとは思わなかった。

 それほどテレビ受けされるような顔じゃない事は自覚しているが、どういう用件なのだろうか。

 

 そう疑問に思い、こちらを見上げる少女を見下ろしていると、突然に少女は勢いよく頭を下げてきた。

 

「あのッ、私にガンプラバトルを教えてください!!」

 

「……………………は?」

 

 見知らぬ土地にやってきた俺に対してまるで予想できなかった少女のお願いに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訳あってバトルが強くなりたい、と」

 

 見知らぬ少女からガンプラに教えを請われたその後、ゆっくりと事情を話したいと言った少女の言葉に従い店内にあるガンプラ工作ルームに入った俺は、目の前で気まずそうにしている少女にそう言い放った。

 

「……はい」

 

 どうやらのっぴきならない事情でガンプラバトルを強くなりたい、とのことなのだが。いかんせんガンプラバトルを教えてくれる人がいなく、独力で訓練していたらしい。

 でもバトルを繰り返すうちに限界を感じ、悩んでいたところに俺が現れた。

 

「……構わないんだけど。此処には一週間くらいしか滞在しないからなぁ……父さんに言われた仕事も手伝わなくちゃいけないし……」

 

「あ、空いた時間でもいいんです……今週中にできる限り強くならないと……」

 

「理由は、言えないんだろう?」

 

「……言えません。でも……すごく大事なことなんです」

 

 大事な事、か。

 ……こうも必死に頼まれると俺も断りづらい……いや、断る理由はないか。空いた時間くらい俺が自由に使ってもいいだろうし。

 

「ま、慣れない土地での出会いだ。そういう縁は大事にしなくちゃな、受けるよ。短い時間だけどよろしく」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

 人の出会いは一期一会、この出会いにも何かしらの意味があるはず。

 喜色の表情を浮かべ、作業机に乗り出してくる少女に苦笑しながらも、ずっと気になっていたことを聞くことにした。

 

「えーと、名前は?」

 

「え……?あ、ああ!すいません私ったらっ」

 

 今頃になって名前を名乗ってないことに気づき、顔を真っ赤にし座り込んでしまった。……気分の上がり下がりが激しい子だな、一定の位置から動かないミサキとは大違いだ、アイツにもこのぐらいの可愛げがあればいいんだけど……。

 本人に知られたら地味に怒られそうなことを考えていると、ようやく落ち着いた彼女がこちらに視線を向け照れくさそうに口を開いた。

 

「私、マゴコロ・サツキといいますっ。今日からよろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく。……しかしマゴコロか……アイドルのココロネ・ヒツキの名前に似てるな……」

 

 語呂というかなんというか、いや単にココロネ・ヒツキに関係する事を任されているからそう思ってしまうのかもしれないな。

 

「え、あ、あはは、に、似てますよね!!良く言われるんですよ!!あ、あはは―――!」

 

「ん、そうか……」

 

「………こ、ココロネ・ヒツキの事を知っているんですか?」

 

「……いや、最近知ったが……顔もよく知らない。でもビルダーとしての腕は凄いと思う」

 

「か、顔も……え、えぇ……」

 

 そう言うと何故か複雑そうに安堵の表情を浮かべた彼女は手元にあるコーラを一気飲みし、気持ちを切り替えるかのように握り拳を作りこちらを見た。

 ……ココロネ・ヒツキのファンなのだろうか、気をつかって褒めちぎるべきか……?

 

「そ、それじゃあ早速ガンプラバトルについて教えてください!」

 

「そ、そうか、じゃあさっきの模型屋に一旦戻ろう」

 

「はいっ!」

 

 何だか感情豊かな子だなぁ。

 元気な所とかノリコとかなり似通っている、と思いつつも意気揚々と席から立った少女の後をついていく。

 

 向かう先は勿論、バトルシステム。店員に許可を貰い、空いているバトルシステムの前にまで移動した俺とマゴコロは互いのガンプラとベースを置き、システムを起動させる。

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

「こちらこそ」

 

 プラフスキー粒子がステージを構成し、自身の周りにも操縦空間を形成させる。ステージの構成が完了すると共に自身のガンプラを発進させる。

 

「アンドウ・レイ。G-セルフ・プラス出る!」

 

 練習用の予備機、G-セルフ・プラス。

 ジンクスⅣの代わりとなるガンプラであり、G-セルフにさらなる改良を施したガンプラ。アドヴァンスドパックの亜種、スペルヴィアパックをGーセルフに取りつけた、粒子効率に特化したバランス型のガンプラ。

 装備はアドヴァンスドパックに比べると幾分か少なくなるが、非常に燃費が良く、G-セルフのフォトンエネルギーの操作を補助する役割を果たしている。

 

 ステージは高原、特に障害物の無い場所の一画に降り立たせ、周りを見渡す。

 

『アンドウさーん!』

 

「……来たか」

 

 こちらが出た方向とは逆の方からマゴコロのガンイージが出て来る。

 ビームライフルとシールドを装備しているガンイージはゆっくりと前に降り立ち、G-セルフ・プラスを見て驚いたような声を上げる。

 

『ジンクスではないんですねー』

 

「あー、流石にバレるからな……でもこれも俺の愛機だ。それなりに戦える。さ、始めよう。まずは簡単にバトルしてみよう」

 

『はい!』

 

 ゆっくりと浮き上がりガンイージから距離を取る。

 ガンイージは緊張したようにシールドとライフルを構えるも、こちらが取りだすのはサーベルのみ。本気でバトルすることが目的じゃない、あくまでマゴコロの実力を測る為のバトル。

 

「掛かってこい!」

 

『いきます!』

 

 遠慮はいらないと分かっているのか、後方に下がりながらもガンイージがビームライフルを連射してくる。だが、狙いが巧く定まっていないのか当たらない。

 

『―――避けられた!?』

 

「狙いが定まっていないだけだ!!」

 

 ブースターを噴かせ、ガンイージへの接近を試みる。

 こちらが接近してくるにもかかわらず、未だにビームを撃つのをやめないガンイージ……対処法が分からないのか?動きを追っている所を見る限り、ただ単に照準があっていないだけだ。

 

「両手で持って落ち着いて狙いを定めろ!!沢山撃っても当たらなくちゃ意味がない!」

 

『は、はぁい!!』

 

 片手から両手でビームライフルを持つように構え、狙いを定める。こういうのはまずは手応えを感じさせることが大事だ、狙いをつけやすいように直線的な軌道を描きガンイージへと迫る。

 

『撃ちますッ』

 

 トリガーが引かれ、ビームが正確にG-セルフへと放たれる。

 これで感触が掴めた筈、直撃コースにあるビームをサーベルで切り払い、スピードを落とさずにガンイージへ斬りかかる。

 

『切りはっ……あぶっ』

 

 こちらの攻撃に対し、即座にライフルを捨てたガンイージはシールドでサーベルを防ぐと同時にサーベルを引き抜き、距離を詰めたこちらに突きを放ってくる。やっぱりサーベルの扱いは他とは段違いに巧い、俺が教える余地が無い程に鋭く、急所をついてくる。

 

「っ!」

 

 突き出されたサーベルが胸部を貫くその前に、こちらの攻撃を防いでいるシールドを蹴って無理やりに距離を取らせる。シールドを蹴り飛ばされたガンイージはグラつきながらも、両手でサーベルを掲げ、こちらを一丁両断するような構えで飛び出してくる。

 

「サーベルじゃあ心許ないかッ!ならば!!」

 

 スペルヴィアブースターの翼に搭載されている二つの武装『ジャベリン』を取り出すと同時に連結させ、薙刀状にさせる。

 

「フォトンで満たす!!」

 

 ジャベリンが青色の粒子で満たされ淡い光を放つ。そしてそのまま接近してきたガンイージが振り下ろしたサーベルに合わせるようにジャベリンを振るう。

 

『ジャベリン!?』

 

「ジャベリンだ!!」

 

 火花を散らしぶつかり合うサーベルとジャベリン。パワーで劣ると判断したのかすぐさまサーベルを引いたガンイージは驚くほどの転換の速さで別方向からサーベルを繰り出す。

 

 ―――打ち合わないスタイルか……面白いが……!

 

「こいつ相手に接近戦は悪手だぞ!!」

 

『?!』

 

 ジャベリンの先端から粒子状の鞭が形成され、腕を回転させると同時にガンイージの腕に巻き付く。ジャベリンはただの接近戦の武装じゃない、中距離レンジでの攻撃もこなすことができる近接武装なのだ。

 

「崩す!」

 

『うひゃ~!?』

 

 ジャベリンの先端に形成させた粒子の鞭を引っ張り、無理やり体勢を崩す。

 小さい悲鳴と共にズデーンと転ぶガンイージに苦笑いしつつも、ジャベリンをブースターに戻す。取り敢えずのバトルは終わり、まだ数分にも満たないバトルだが、色々課題も見えてきた。

 

「大丈夫か?」

 

『はいぃ……でも流石選手権ベスト4……強い……』

 

「接近戦なら君も相当だよ。問題は射撃だ、でもそれも慣れていないが故のものだ。コツを掴めば大丈夫」

 

 ある程度腕を磨けばかなり強くなるんじゃないか?

 射撃もあれだけのアドバイスで命中させてきたし、近接戦も申し分ない。

 

『ほ、本当!私バトルできてる?!』

 

 ちゃんとバトルできている事が嬉しいのか、ガッツポーズを取るガンイージ。

 ……喜んでいる姿がノリコとコスモに重なるな。そしてガンプラで初めてバトルした時の頃を思い出す。

 

「一度、初心に帰るのも悪くないな」

 

 新しいジンクスの改修案に繋がるかもしれないな。

 初心に帰るにかけてジンクスⅠを踏襲したタイプのものを作ってみよう。type”X”って所かな?いや、アームビットに特化した6本腕のtype”A”か……それとも装甲に特化させたtype”T”か……。

 ノリコのバトルを補助する”G”は完成しているから、次に作ろうと思っている”I”を完成させたら取り掛かってみるか。

 

『あぁぁ――――!』

 

「っ!?ど、どうした!?」

 

 考えに耽っていると突然大声を上げたマゴコロのガンイージが、あわあわと手を口元に当てていた。なんだなんだどうした……?

 取り敢えず、バトルシステムを解除させ彼女の元へ近づくと、マゴコロは自身の携帯を見て顔を真っ青にしさせている。

 

「一体どうしたんだ?」

 

「わ、私、そろそろ行かなくちゃ!!」

 

「はい?」

 

「今日はありがとうございました!!また後日お願いします!!」

 

「あ、ああ」

 

 ガンイージを抱える様に持った彼女はこちらに深くお辞儀すると、早々に模型店から出て行ってしまった。かなり急いでいるようだったから止めなかったけど……。

 

「あれ、連絡先とか知らないから後日って言われても……」

 

 実質的に連絡が取れない訳だけど………ま、明日またここに来れば大丈夫か。

 ……そろそろ日も暮れて来たし、ホテルに戻ろうかな。父も帰ってきているかもしれないし。G-セルフをホルダーに戻し、模型店を出てホテルのある方向へ歩きだそうとするも、ポケットに入っている携帯に着信が入る。

 

「………父さんからか―――もしもし?……今ホテル戻る所だけど……へ?紹介したい人がいる?……駅近くのビル、―――プロダクション?―――分かった、直ぐに行く」

 

 何やらあちらの人に俺の事を紹介したいとの事で、駅近くのビルに来るように連絡してきたので、ホテルとは逆方向にある駅の方へと脚を向け歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所に1通の手紙が送られてきた。

 差出人不明の手紙の内容はコンサートの中止を要求する脅迫文。手紙の最後の空白に押された印から、警察はガンプラマフィアによる犯行だと推測を立てた。ガンプラマフィア、ガンプラを悪しき事に使う裏の組織。その派閥は多岐に渡り、汚い手から非合法な手段を講じ様々な被害を与えている犯罪組織。

 

 コンサートは中止したくない。

 でももし中止にしなかったら、コンサートを滅茶苦茶にするとも書いてある。でも……来てくれた人たちの信頼を無下にはしたくない。【ココロネ・ヒツキ】のコンサートにはガンプラによるデモンストレーションは必須、でもそのデモンストレーション中にガンプラマフィアのガンプラが襲ってこないとは限らない。

 

 でも私、マゴコロ・サツキはコンサートを中止にはしなかった。

 そこにはしょうもない意地もあったし、何よりファンの人達の信頼を裏切りたくないという思いもあったからだ。

 

 でも、正直怖い。

 操作は得意だけど、バトルなんてしたことない。

 今まで作った事しかなかったから……。

 

「ヒツキ!」

 

「はっ、はい、マネージャー」

 

「大丈夫?」

 

「……大丈夫です」

 

 大丈夫なはずがない。マフィアに狙われているのだ、どういう理由かもわからないのに。でも私が不安な所を見せてはいけない。だって他ならぬマネージャーも社員の人だって、怖い筈だから。

 だから私も頑張らなくちゃ、今週中にガンプラバトルをできるようになって、自分の身を守れるようにならなくちゃ……そうしなければ待っているのは、応援してくれる人たちの前で情けない姿を晒す私の姿。

 

「なのに、何で連絡先を交換しなかった私ぃッ」

 

 迂闊すぎるだろ。

 時間が迫っていたせいで焦っていたからという理由もあるが、なのに自分のバトルを見てくれた人、その上あの選手権ベスト4でガンプラ学園と互角に戦ったチームのリーダーだぞ。逃した魚は余りにも巨大すぎた。

 

「連絡先がどうしたの?」

 

「え、あー、ちょっとさっき会った友達に訊きそびれちゃって……」

 

「だから遅刻寸前だったのねぇ……まあでも、今日は撮影も何もないし、普段のままで大丈夫よ」

 

「す、すいません」

 

 事前に決められた時間に着くのがギリギリになってしまったので、帽子も髪も外に出る時のまま。今日、本当に大事な仕事とかなくて良かった……。

 

「謝らないで、こうして間に合ったんだから良しって事で。今度のコンサートのゲストと協力してくれる警備の人達に顔合わせをしましょうか」

 

「え?ゲストの人は全員……」

 

 脅迫文のせいで断られてしまったはずなんだけど。まさか脅迫文が来ているにも関わらず、コンサートに出てくれる人が居るのだろうか。中々肝が据わっているというかなんというか。

 マネージャーに案内され、会議が行われる広間の一室の扉の前に止まる。扉に手をかけたマネージャーが茶目っ気のある表情で―――。

 

「ヒツキも一度会ったことのある人だよ」

 

 そう言い放ち、扉を開け放った。

 やや眩しげな光に目を瞬かせながらも目を凝らすと、室内には4人の男女が居た。一人は壮年の男性と若い男、多分この二人が警備してくれるという警察の責任者の人なんだろう。どことなく貫禄がある。

 そしてもう二人は……。

 

「お久しぶりです。ヒツキさん」

 

「ミライさん!?」

 

 モデルとして活躍し、ガンプラバトル選手権でイメージガールを務めたカミキ・ミライさんじゃないか!?この人がゲストの仕事を受けてくれたの……いや、少し前に一緒に仕事をして、この人に並々ならない胆力を持っている事は知っているけど、えぇ……予想外過ぎて口が呆けたままだ……。

 マネージャーさんも「久しぶりー」とフレンドリーに手を振ってくれるけど、どう反応したらいいか分からない。

 

「で、でも脅迫文とかは……」

 

「私なら大丈夫。こう見えても私昔拳法をやっていたのっ」

 

 そう言い、茶目っぽく拳を突き出したミライさん。

 拳から風切り音のようなものが鳴った気がしたが、尊敬するモデルさんであるミライさんが武闘派だなんて、嘘だと思いたい。

 

「ね、知ってる人だったでしょ?」

 

「お願いですからそういうことは事前に行ってください……本当にビックリしました……」

 

 ある意味、どんなゲストよりも凄い人を連れて来てしまったマネージャーをジト目で睨みつつ、無言を貫いている男性二人の方に軽くお辞儀をする。

 

「コンサートをやらせて貰うココロネ・ヒツキです」

 

「私はアンドウ・セイジ、ガンプラ犯罪科の主任を任されている者です。後ろに居るのは、カクレザキ。当日の警備の方は私どもにお任せください」

 

「アンドウ……」

 

「……む?」

 

「い、いえなんでもないです」

 

 1日に同じ名字の人に会うのって何気に珍しい。

 でもこの人、何処かで見た事があるなぁ、でもガンプラ犯罪科っていうから警察の人だから……うーん。

 

「ガンプラマフィアは恐ろしく狡猾です。バトルへの強制干渉すらも躊躇なく行います、加えて手練れのガンプラファイターを何人も雇っている」

 

「躊躇なく……」

 

「だがそこが奴らの弱点ともいえる。バトルシステムへの干渉は遠隔では行う事は不可能、基本的にはシステムに接続しなければ干渉はできない―――かのヤジマ・ニールセン博士からの証言なので間違いはありません」

 

「ガンプラでのデモンストレーションを利用してガンプラマフィアの人達をおびき出そうと……?」

 

「私達も最大限のバックアップはする所存です」

 

 ―――これはいよいよ私も頑張らなくちゃいけない事になるかもしれない。

 コンサート中へ乱入されたら警察が拘束するまでの時間、バトルが巧くない私は体の良い的だ。そうならない為には私がガンプラマフィアの攻撃に耐えきれる程度に強くならなくちゃならない。

 

「……よしっ」

 

「私もそのデモンストレーションに参加します!!」

 

「へっ!?ミライさん!?」

 

 私が密かに意思を固めていると、後ろで話を聞いていたミライさんが、私の横に並び立つように歩み寄り驚愕の台詞を言った。

 案の定、アンドウさんとカクレザキさんも困惑したような表情を浮かべている。

 

「私もガンプラファイターだから……友達が困っているのは見過ごせないわ」

 

 おもむろにショルダーバックから、近年流行しているガンプラ、べアッガイの改修型のガンプラを取り出した彼女は柔らかい微笑を私に向けてくれる。

 ―――凄く良い人だ。

 ちょっと涙腺が緩みそうになり、視線を逸らすと呆れた様なため息を吐いたアンドウさん。

 

「分かりました、カミキ・ミライさんの方にもヒツキさんと同様に補助します」

 

 そこで一旦区切ったアンドウさんは、時計に目を移した後にこの場に居る全員を見渡した。

 

「それと……皆さんには言っていませんでしたが、今日は後一人、助っ人を呼んでいます」

 

「助っ人?それは貴方達のような警察の方でしょうか……?」

 

「いえ、私の倅です」

 

 その言葉にその場にいる全員が気が抜けた様に目を丸くした。

 アンドウさんの息子?何故、息子を連れてきたのだろうか……ガンプラマフィアと戦う為?いや、ガンプラマフィアがベテラン揃いのファイターが居るという事はさっき彼自身が言っていたじゃないか。

 

「あれの実力は私から見ても十分、私が警備の総括を任されている以上、もしもの時に戦える人員が必要です。特に……カミキ・ミライさんは何度か会った事がある筈です。いや、ここはインタビューで、でしょうか」

 

「あっ、もしかしてアンドウさんの息子さんって……」

 

 何かを思い出したのか、得心がいったような表情になったミライさん。彼女にその助っ人が誰なのかと聞こうとすると、それを遮るかのように会議室の扉がノックされる。

 

「あ、すいません」

 

 マネージャーが扉を開けノックした人物を見る。すると驚いたような声を上げ訪れた人物を中に招き入れる。入ってきたのは同年代の少年―――って、その様相はまるでついさっきまでバトルを教えてくれた少年と瓜二つ、というより……。

 

「あ……」

 

「父さん、場所が抽象的すぎて迷っちゃったじゃないか……って」

 

 最初にアンドウさんを、次にミライさんを、最後に私を見て表情を硬直させた彼、アンドウ・レイさんその人は、私と同じように互いを指さし、わなわなと声にならない声を上げる。

 

「おお来たか、レイ。この人がお前が護衛するアイドル、ココロネ・ヒツキさんだ。で、これが私の息子、レイだ」

 

 そしてトドメの一撃を放つかのように彼の父、アンドウ・セイジさんがそう言い放った。

 

「………は?」

 

 未だに状況が理解できない彼と私はしばらく硬直から覚めることはなかった。

 




何人かはゲストとしてアニメ本編のキャラが登場します。
BF一期でガンプラマフィアが出たんだからガンプラ犯罪科が居てもおかしくはない、きっとそう(白目)


そして―――安心してください


ちゃんと変態(スパロボ)機体出しますよ。


続きを書くので、完結から連載へ変えました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続編~コンサート2~


お待たせしました。



 ガンプラマフィアからココロネ・ヒツキのコンサートを警護する手伝い―――。

 それだけの事だったはずなのだが、まさか昼間、ガンプラバトルを教えた少女、マゴコロ・サツキがガンプラアイドル、ココロネ・ヒツキだとは思いもしなかったな。

 しかも案内された部屋には、選手権で何度かインタビューされたカミキ・ミライさんがいるし。

 

「まさか君がココロネ・ヒツキ本人だとは考えもつかなかったよ」

 

「……すいません。でも顔がバレると人が集まってきてしまうので……」

 

「いい、それくらい俺も分かってる」

 

 あの後俺達は、会議室から案内された待合室のような場所で、マゴコロと向かい合う様に机を挟んで座っていた。

 父さんとマネージャーさん方は会場の警備について話し合うとの事で別室にいるそうなので、その間何もすることがない俺達は取り敢えずの自己紹介を済ませるべく、此処に案内されたのだ。

 カミキ・ミライさんも仕事があるというので東京に帰ってしまったので、色々とどうしていいか分からない空気だ……。

 

「……それで、コンサートに使うガンプラはガンイージじゃないんだろう?」

 

「えぇ、まあ……はい」

 

 ここは無駄な話をせずに本題へ移ろう。

 彼女が俺にガンプラの教えを請いたのはコンサート中に襲撃してくるかもしれないガンプラマフィアから自分の身を守るためだ。

 ガンプラを悪用するのは俺としても許せない。

 どういう目的でコンサートを邪魔するのかは知らないが、父から任されたからには全力で協力しよう。

 

「コンテストに出店したヴィクトリーンガンダムか?」

 

「ううん、ちょっとあれは人形っぽいから別のを作ったんだ」

 

 先程マネージャーに持ってきてもらっていたバッグの中から、ガンプラを収納するピンク色のケースを取り出し、その中から一体のガンプラを優しく手に取り俺の前に立たせる。

 

 ―――素体はV2ガンダム。

 

 写真で見たヴィクトリーンガンダムがヴィクトリーガンダムを元にしたとなれば、これはその発展形。

 

「これがコンサート用に私が作ったガンプラ、名前はまだ決まってないけどね」

 

 ガンダムV2に登場する戦艦、リーンホースjrの武装を模した装備が施されたガンプラ。

 その右腕には、リーンホースを象徴するビームラムとシールドを展開する大型ビームキャノン。

 両肩には三連ビーム砲。

 両の腕の側面には、長方形型のシールド。

 背部スラスターは、元のV2よりやや大型に改修されている。

 

 ―――偏見かもしれないけど、なんともアイドルが作るとは思えないごつごつしたガンプラだ。だが、流石はコンテストで賞を貰った彼女のガンプラ、完成度が高く、これなら普通にバトルさせてもかなりの性能を発揮できるだろう。

 でもこのガンプラは―――

 

「……君の戦闘スタイルには合わないんじゃないか?」

 

 どうみても遠距離からの戦闘を想定しているようにも見える。

 原典のリーンホースjrを考えるならばビームラムも可能な筈だが、これほど重いと取り回しも難しく、一旦相手に避けられたら致命的な隙を生みかねない。

 彼女もそれを分かっていたようで、困ったように表情を鎮めた。

 

「実はこの前まで、バトルなんてしていなかったので……取り敢えず私が思う強いガンプラを作ればいいかなって……」

 

「成程……」

 

 ガンプラバトルの経験がないから、自分に合うガンプラを作る事を度外視していたという事か。

 ……それはしょうがないな。彼女とて仕事で忙しくガンプラバトルをする暇なんて無かったのだろう。むしろ平行してビルダーとして活動していたことが凄いのだ。

 

「俺から見て、君は遠距離でのバトルが駄目な訳じゃない。ただ慣れていないだけなんだ。明日時間を取れるか?」

 

「それは大丈夫です。コンサート前までは時間を空けているので」

 

「なら、明日また同じ模型店で練習しよう。プライベートモードでバトルをするから、そのガンプラを持ってきてくれ」

 

 下手にそのガンプラが見られると、面倒くさいことになりかねないからな。

 一応の用心をしておこう。普段は使わないが、プライベートモードならばバトルをしている当人以外からは誰にもバトルは見えなくなるからな。

 

「じゃ、今日の所は帰るとするよ」

 

「え?」

 

 父はまだ大事な話をしているだろうし、LINEか何かで連絡しておけば大丈夫だろう。

 

「ちょ、ちょっと待って!連絡先!連絡先を交換して!!」

 

「あ、ああ」

 

 焦りながら携帯を取り出したマゴコロに慄きつつも、こちらも携帯を取り出し連絡先を交換する。

 確かに連絡先を交換した方が練習する時間帯と場所を決める時に便利だな。

 

「それじゃあ、明日……お願いしますっ」

 

「こちらこそ」

 

 さて、とりあえずホテルに戻るか。

 マゴコロと別れの挨拶を交わし、ドアを開け外に出る―――のだが、丁度誰かが入ろうとしていたのか、その人とぶつかりそうになってしまう。

 慌てて足を止め、少し後ろに下がる。

 

「おっと」

 

「っ、すいません、えーと……カクレザキさん」

 

「いやいや、僕も済まなかったよ」

 

 父と一緒に居た同僚、カクレザキさん。

 ノックしようとしていたのか、上げていた手をゆっくりと下ろした彼は温和な笑みを浮かべながらこちらに声を掛けて来る。

 

「ん、丁度良かった、伝言があるんだ。アンドウ君とココロネ・ヒツキさんも今日の所はここまで……でも僕が伝える必要も無かったみたいだね」

 

 あははー、とのほほんと笑ったカクレザキさんは、俺とマゴコロを交互に見た後に一礼してまた何処かへ行ってしまった。

 先に切り上げて良い事を伝える為だけに来たのだろうか?………気にする事でもないか。

 

「それじゃあ今度こそ戻るとするよ」

 

「う、うんっ」

 

 ガンプラマフィアにココロネ・ヒツキか……これは予想より、面倒な事になりそうだ。

 そんな漠然とした予感をしながらも、マゴコロの居る個室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルに戻る頃には日が沈み、辺りは暗くなっていた。

 時間的に夕食時なのだが……事務所に居た父の様子を見る限り、食べるのは俺一人と考えて良いだろう。確か、此処の夕食はビュッフェ形式だった筈、時間も頃合いだし部屋に戻る前に行っておくか。

 

「3階か……」

 

 エレベーターに乗り込み3階へ上がり、ビュッフェのある店の方に移動する。

 運よく人が混む前に来ることが出来たようで、すんなり中に入ることができた。下見とかはしていなかったけど、かなり豪華そうな店だ―――って……うん?

 

『うほほぉ―――!流石一流ホテルの料理やっ!』

 

『お、お客様、他のお客様に迷惑がかかりますのでお静かに……』

 

 店に入ったその先で、見覚えのある少年が店員に注意されている光景が目に入る。

 ………というか、何で彼が此処に居るんだ?彼は大阪に居る筈なのに、何でユウマ君がいる東京ではなく埼玉県に居るのだろうか。

 視線の先で、異様なテンションで皿に乗せた料理をがっついている少年を疑問に思いながら、とりあえずの顔見知りとして会話を試みようと近づいてみる。

 近くまで来た俺を不審に思ったのか、睨み付ける様に顔を上げた少年だが、俺と目が合うとわなわなと震え、こちらを指さし勢いよく立ち上がった。

 

「……って……えぇぇ!!何でアンタがこんな場所に居るんや!?」

 

「それはこっちの台詞だよ……サカイ君……」

 

 ガンプラ心形流の使い手であり、俺達チームイデガンジンと同じく準決勝まで勝ち上がったチーム『ビルドバスターズ』の選手―――サカイ・ミナトが、何故か俺と同じホテルのビュッフェで飯を食っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ!アンタもヒツキちゃんのコンサートを見に来たってわけか!!」

 

 皿一杯に盛られた料理を口に運びながら、サカイ君は俺にそんなことを言ってきた。本当の事情を話す訳にもいかないので、俺もコンサートへ行くファンを装ったのだが……なんだろう、この踏んではいけない領域に片足を突っ込んでしまった感覚は……。

 

「いや……そうだ。君もファンなのか?」

 

「一か月前はアイドルのアの字も知らん硬派なファイターだったわいだが……ココロネ・ヒツキ、ガンプラっ娘選手権優秀賞作品、ヴィクトリーンガンダムを見てからはぐるりと価値観が変わったんや!!」

 

「へ、へぇ」

 

「最初はわれのすーぱーふみなが出ないコンテストで優勝したビルダーが、アイドルやって!?なめとんのか!!と思ったわ……でもッでもなぁ!作られたガンプラの出来はごまかしようがあらへん……ッ、あれは心血注いで作られたモンや……生半可な気持ちじゃないってことがビリビリ伝わってきたわ!」

 

「わ、分かったから静かにしてくれっ」

 

 彼女のファンになった経緯は大体分かった。

 このホテルのチケットも結構苦労して取ったみたいだ。……ユウマ君の時もそうだが、彼は特定のものになると凄い執念を発揮するな……。

 まあそこが彼がガンプラ心形流を会得している所以であるし、ビルダーとして必要な要素かもしれない。

 

「いやぁ、まさか堅物だと思ったアンタもヒツキちゃんのファンとはなぁ、親近感ってもんが沸いて来たわ!」

 

「……い、いいよね、好きだよ……歌とか……」

 

 ファーストシングルしか知らないとは口が裂けても言えない。

 この言葉にさらに嬉しそうに笑った彼は、こちらが止める暇なく矢継ぎ早に言葉を吐き出し始める。俺としては何を言われているのか分からないのでひたすらに相槌をうち、適当に話を合わせるだけ。

 

 

「おお!そうや!!そういえばわいもスーパーロボットってもんを作ってみたんや!」

 

「……ガンプラの事だよな?」

 

 スーパーロボットってなんだ。

 スーパーパイロットの亜種か何かか?

 

「……ん?それ以外に何がある?……まあとにかくットライオン3とは違う獅子のガンプラやで!」

 

「トライオン3とは別の……興味深いな、後で見せて貰ってもいいかな?」

 

「元よりそのつもりや」

 

 獅子のガンプラ、か。

 イメージとしてはバンシィかな?いや……トライオン3の例もあるから既存のガンプラに獅子を思わせる委託を施したという事も在り得る。

 どちらにしろ、サカイ君のガンプラだ……楽しみな事この上ない。

 

「レイさんの方はどうなんや?」

 

「新しいジンクスを作った。仲間の短所を補い且つ長所を際立たせることをコンセプトとしたジンクスをな」

 

「へぇ、今、見せてもらえますか?」

 

 サカイの目の色が変わった事に苦笑しつつも頷いた俺は、G-セルフ・プラスが入っているケースとは別のケースから、改修したジンクスを取り出しテーブルに置く。

 

「GN-X type”G”―――砲撃型のGN-Xであり、俺の仲間、タカマ・ノリコの……ガンバスターの為のジンクスだ」

 

 己の心を形にする流派、ガンプラ心形流を扱う意見を訊きたい。

 これからの改修案に生かせるし、彼自身の発想も柔軟で俺にとっても見習うものがある。あくまでこれは試作品のようなものなので、次の”I”への改修に役立てればいいのだが……。

 

「……ちょ、あの……これ、グレ……」

 

「……グレ?」

 

「い、いや分からないならいいんや……。……まさか無意識に?……ありえんのか?でもさっきの反応も……」

 

 どうしたのだろうか。

 俺のガンプラを見て、サカイ君が唸り始めた。どこかおかしい所でもあったのだろうか?

 首を傾げながら唸る彼を見ていると、突然にくわっと目を見開きその場で立ち上がった。

 

「―――アンドウさんッ、やっぱ今日わいのガンプラを見せるって話はなかったことにするわ!」

 

「いや、それは構わないけど……」

 

「堪忍な。アンタのガンプラを見て、わいにも色々見えてきたものがあったわ。少なくともコンサート前までには完成させたる!これはわいの連絡先や、登録よろしくな!」

 

 ビシィッと俺の前に連絡先と思われる紙切れを差し出した彼は何時の間にか空になった皿を残し店から出て行ってしまった。……何か思う所があったのだろうか。まあ、後で見せてくれるというならいつでも構わないけど。

 渡された連絡先が書かれたメモを仕舞った俺は夕食を済ますべく、止まっていた手を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサート開催の三日前になって、ようやく私、マゴコロ・サツキのガンプラ特訓の幕が上がった。

 早朝に待ち合わせたアンドウ君と開店と同時に模型店に入り、バトルシステムのプライベートモードでの特訓を開始した。

 使用ガンプラはヴィクトリーンガンダムの発展機。

 慣らしで使った事はあるガンプラだけど、いざ練習の為に使うとなれば慣れない……。

 

「君のガンプラは高威力のビームを用いるガンプラだ。だから最初は正確に狙わなくても良い、高威力はエネルギーの消費が早いというデメリットもあるけど、相手への牽制と攪乱にもなるからな」

 

「は、はい!」

 

 特に右腕に取り付けられたこの長い砲台は、ビームライフルと違ってかなり取り回しが難しく、正直私には扱いきれるか分からない代物……。

 

「君のそのガンプラは空中での移動に特化している―――射撃はあくまで相手の動きを止める牽制、本命は高機動先頭からの接近戦って所だな……」

 

「高機動からの、接近戦……」

 

 なら変形機構を付けておいた方がよかったかもしれない。

 V2ガンダムも分離状態なら変形できたからできなくはなかったんだけど……、この状態でも十分早いからしなかったんだよね……。

 

「じゃあ、今から練習用のモックを出す。君は現状出せる限りの力でそれを撃墜してくれ」

 

「分かりました……っ……!」

 

 数秒ほどすると、フィールドから練習用のモックが10体ほど出現する。その5体はオートに設定してあるのか、バラバラに飛び上がり、敵である私の方を向く。

 ―――モック自体はあまり強くはないが、数はあっちが上。

 

「初めの一発!」

 

 右腕のビーム砲をモック達が居る中心へ向け放つ。

 迫り来るビームを認識したモックはレイさんの言った通りに当たりはしないが、ちりぢりに散らばってくれた。これなら一体ずつ戦える!

 

「行くよ……ッ私のガンプラ!!」

 

 V2ガンダムの名残、翼に似たスラスターから光翼のごとくエネルギーを噴出させ空へ飛び出す。予想以上の加速に体が押し潰されそうになる錯覚を覚えるが、すぐに気を引き締め直す。

 

 まずは手短な奴から片づけなきゃ……え、えーと、落ちついて両腕でもって撃つんだよね……。

 飛び出した先に居る一体に左腕を添えたビーム砲を向け出力を絞ったビームを放つ。放たれたビームライフルほどの太さのビームはモックの正確に中心を捉え破壊した。

 

「当たった!」

 

「油断するな!近くに来てるぞ!!」

 

「は、はぁい!!」

 

 アンドウ君の声にびっくりしつつも、空中で反転し接近していた3体のモックを視界に入れる。ライフルだけじゃ間に合わない、ならッ!!

 

 

「三連ビーム砲で!!」

 

 両肩に装備された三連ビーム砲から6つのビームを一気に打ち込み、接近していた三体のモックに風穴を開ける。

 威力が強いし、一気に6発分も放たなくちゃいけないから粒子消費量が少し多い。もっと節約して撃つべきだったかな……?―――いや、考えるのは後だ……まだ6体もいる。

 でも囲まれたら、今の私じゃ対応できる自信がない。

 

「無理に戦おうとしなくていい!視野を広くして敵を把握するんだ!」

 

「視野を広く……っ!そうか!!」

 

 脚部に増設した回転型のスラスターを下方に向け思い切り上昇する。これで敵のモックに背後を取られずに済むし、6体全部のモックの位置を把握できた!

 こちらへ一丸となって迫って来る6体のモックを見据えたまま右腕のビーム砲を構え、粒子をチャージする。ただのビームじゃ6体を捉えきれないならば、まとまったビームじゃなければいい。

 

「拡散ビーム砲!行きます!!」

 

 砲口から放たれたのはビームの雨。上空から降ってきたビームの雨にモックは次々と貫かれ爆発していく。

 巨大なビームとして形を成す筈だったものを拡散させ広範囲を攻撃するものへと変えてみたもの………かなり良い感じに決まってくれた。

 

「……やった……」

 

 まだ射撃にまだ慣れていない私でも十分に扱える。粒子の消費を全く考えていなかったから結構ピンチだけど、それはもっと使っていけば配分も分かるだろう。

 胸を撫で下ろしながら機体を地上へと下ろすと、レイさんの乗っているGセルフ・プラスもやってきた。

 

「状況判断も武装選択も文句無し、凄いな本当にこの前まで初心者だったのか?正直、かなり驚いてる」

 

「アンドウ君のおかげだよ……」

 

「俺はアドバイスしただけで、操作したのは君だよ」

 

 選手権出場者であるアンドウ君に褒められて嬉しく思う反面、自分も戦う覚悟を決める。まだモックを倒した程度、アンドウ君の言っている事も、初心者の割には強いという意味だろう。

 でもそれじゃあ駄目だ。ガンプラマフィアが雇ってくるのは手練れのファイター……今の自分じゃ手も足も出ないだろう。

 

「次、お願いしますっ」

 

「……分かった、でも焦らず少しずつこなしていくことも大事だぞ」

 

 分かっているけど、どうしてもはやる気持ちを抑えられない。

 早く強くなりたい、コンサートを成功させたい―――そんな思いがぐるぐると私の中に渦巻いているのだ。

 

「さっきは遠距離での武装を主に使っていたから次はサーベルとビームラムを使ってバトルしてくれ。数は……さっきと同じ10体だ」

 

「はいッ!」

 

 一旦、ガンプラの操縦を止め、手元にあるパネルを操作しモックを出そうとするアンドウ君。十数秒ほどして、フィールドの地面に練習用のガンプラが出てくる穴が出現する。

 しかし……何か様子が違った。

 

「……あれ?」

 

 出てきたのは簡素な装備を持った練習用のモックではなく、黒いガンプラ。

 

「何で、アストレイのゴールドフレームがここに……?」

 

 『ガンダムSEED』の外伝作品に登場する金と黒のガンプラ、『ガンダムアストレイゴールドフレーム天』。その漆黒の様相は何処か刺々しい外見をしており、加えてその右腕にある『天』の主武装である複合兵装トリケロスも攻撃的にさせたようなものに変わっている。

 

「……あ、アンドウ君……」

 

 まさかアンドウ君の差し金だろうか……?

 私的にはどうみてもやばそうなガンプラにしか見えないのだけど。

 

「……あれは俺が出したんじゃない……もしかしたら、このバトルシステムの不具合……かもしれない」

 

「そうなの?」

 

 アンドウ君じゃない……?

 じゃあ、あれは勝手に出て来たという事になる。あの禍々しい外見と、その場から微塵も動かない様相からしてただのガンプラじゃないことは分かるけど……もしかして……幽、霊?

 そう考えると、途端に怖くなった。

 幽霊だけは本当に駄目なのだ、目の前にいるゴールドフレームがただの事故で出てきたガンプラだとしても、もしあれが忘れ去られたガンプラに乗り移った怨霊だったらとか、それだけで色々な想像をしてしまう程に苦手なのだ。

 

「でも、練習用のガンプラを出すのに、こんなカスタム機を出すのか?……嫌な予感がする……マゴコロ、とりあえずバトルシステムを終了させるぞ」

 

「あ、あわわ……」

 

 アンドウ君の言う通り、一旦バトルシステムを止めよう。

 そして店長さんにおはらいをお願いしておこう。ゴールドフレームに背を見せたくないので、アンドウ君がバトルシステムを停止させるまで、ずっとそちらの方を見続けていると―――

 

 ――――――。

 

「は……?」

 

 微かにゴールドフレームの目が赤く輝いた気がした。

 きっと幻覚に違いない、ストレスで疲れているんだ―――そう思った私のモニターに映るゴールドフレームの横に短く機体名が表示されていることに気が付く。

 

「マガツ……アストレイ……?」

 

 この時、私は油断していたのだろう。

 自分の作った最高傑作のガンプラでバトルで来た喜びと。

 バトルで確かな手ごたえを感じていた事。

 アンドウ君という凄いファイターが一緒に居た事。

 それと、ガンプラマフィアの襲撃はコンサートのみだと決めつけていた事。

 

 その名を呼んだその瞬間、眼前の金色のフレームに覆われた漆黒のガンプラは突如動き出し、無防備な私のガンプラへ、その右腕に装備されたトリケロスをこちらへ向けてきたのを―――。

 

『―――』

 

「マゴコロ!!」

 

「え……?」

 

 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 いきなり目の前のガンプラが動き出したら、次の瞬間には目の前にG-セルフ・プラスの背中があった。G-セルフの足元には一本の白い槍のような物体が真っ二つになって落ちていた。

 ―――いや、これはあの……マガツアストレイから射出されたランサーダートの一本だ……私に当たる寸前にアンドウ君が飛び出して切り落としてくれたんだ……。

 

「駆動系を正確に狙ってきた……練習用のガンプラじゃないな……ッ!!」

 

『―――アンドウ・レイ……』

 

「喋った……!?」

 

「何者だ!!」

 

 ボイスチェンジャーから通したような甲高い声がマガツアストレイから聞こえた。しかもアンドウ君の名前まで呼んだ……。

 G-セルフがその手に持ったライフルをマガツアストレイに向け、叫ぶも相手は無反応。

 それどころか、再び武器を構え私達の方へ接近してきた!

 

「マゴコロ、退がっていろ!!」

 

『―――計ラセテモラウ』

 

 私に叫んだ彼は、ライフルを放ちながら空高く上昇した。ライフルを苦も無く避けたマガツアストレイは私などに目もくれず、レイ君を追って空へ昇って行った。

 何が起こってるの……狙いは私じゃないの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が目的だ……ッ!!」

 

 ライフルを腰にマウントし、サーベルで正体不明のガンプラ『マガツアストレイ』が振るう右腕のトリケロスの実体剣を防ぐ。

 こちらの言葉には無反応だが……確かにこいつは喋った。つまり誰かしらが操作し、どこからか乱入してきたと考えるのが自然だろう。

 

「言葉を返す気がないなら、こちらも落とす!!」

 

 サーベルを仕舞うと同時にバックパックのジャベリンを手に取り、連結させ手首を回転させながら相手へ叩き付ける。流石の相手もジャベリンは予想外だったのか僅かな後退を見せるがすぐに立て直し、トリケロスにより攻撃を仕掛けてきた。

 

『―――中々ドウシテ……』

 

「こいつ……っ」

 

 並の相手じゃないぞ……。

 ジャベリンの軌道を読み、回避しトリケロスによる射撃を撃ってきた。

 

 それにこのマガツアストレイ……。

 ゴールドフレーム天……の改修型のガンプラだが、訓練用にしては出来が良すぎる。誰が作ったのかは分からないが、かなりの腕のビルダーが作ったものだぞこいつは……。

 まだバトルが始まって3分も経っていないが、G-セルフ・プラスでは長時間のバトルは危険かもしれない。

 

『ソレハ、邪魔ダナァ』

 

 マガツアストレイが左手を大きく広げ、振りあげる。武装の持っていない腕で何を―――と思った次の瞬間、左手の指の第二関節付近から細長いサーベルが指の一本一本から出現し、一纏めにされ手刀の如く振り下ろされた。

 

「なッ……くっ……」

 

 虚を突かれつつも咄嗟に後方へ下がり回避したものの、握っていたジャベリンは刀身からバラバラにされてしまった。

 天の弱点を巧くカバーし、尚且つ相手の虚を突く武装―――いつもなら関心するところだが、これだけのガンプラを作り、操作する相手の不可解さがより増しただけだった。

 

『―――本気ノガンプラジャナイワリニハ、ヤル。流石ハイレギュラーダ』

 

「何?」

 

『ココロネ・ヒツキノ助ッ人ナンダロウ?』

 

 ―――こいつ、ガンプラマフィアが雇ったファイターか。俺の事をイレギュラーなんて呼ぶ奴らなんてそいつら位しか思い浮かばない。

 

「どうしてコンサートの邪魔をする!」

 

『依頼デネ、ココロネ・ヒツキガ失脚シテクレルト助カル奴ラガイルカラ……ト、ダケイッテオク、勿論他ニモ目的ガアルガナ』

 

「……は?」

 

 たったそれだけの理由で、マゴコロも、コンサートを楽しみにしていたサカイ君のようなファンの楽しみを邪魔したのか。

 ―――マゴコロが頑張っている姿は、俺の大切な後輩たちの姿が大会で力の限り奮闘する姿と重なった。……だから、俺もできる限り助けようと思った。

 だが、このガンプラを操っている何者かは、そんなくだらないことで……そんな、彼女には全く関係の無い馬鹿げた理由だけで踏みにじられていいのか?

 

「システム発動!フォトンフィールド!!」

 

 G-セルフのシステムを発動し、クリアパーツから放出されたフォトンエネルギーを手に機体に纏わせる。いわばこれはGーセルフ版のオリジンシステム、灰色のG-セルフの装甲に浮き上がる様に青色のフォトンエネルギーが纏う。

 

「ここで片づける……ッ」

 

『……ホウ……』

 

 両の手にサーベルを装備し、マガツアストレイへの接近戦を仕掛ける。G-セルフ・プラスのシステムの長所は粒子の操作にある。例え、どんなに高密度のサーベルを束ねようが関係ない。それ以上のエネルギー量でぶつければ負ける道理はない!

 両手に持ったサーベルを接敵するその瞬間に、両手で握りしめ粒子量を高める。

 

「ジンクスじゃなくても……ッ!」

 

『ッ』

 

 五指から延びるサーベルと、二本の持ち手で生成されたビームサーベルが激突し、赤い火花を散らせる。

 そのサーベルはジャベリンを刻む程に切れ味に特化しているタイプのもの、束ねればより固く、より強くなるだろう……だがシステム発動中のG-セルフ・プラスが籠める二つのサーベルの粒子は―――イデオンソードと同じ原理で相乗化するッ。

 

「ハァッ!!」

 

『……押シ負ケルカ!』

 

 赤白い輝きを灯したサーベルが5つのサーベルの光を熱し切り、マガツアストレイの左腕を切り飛ばす。

 

「隙を与えずに倒す!」

 

 負荷で壊れてしまったサーベルを後方に投げ捨て、拳を引き絞る。

 フォトンエネルギーに包まれた腕が一瞬のうちに灰色から青色に変わると同時に、腕を切り落とされ体勢を崩したマガツアストレイの頭部を殴打する。

 

『―――……ッ』

 

 側面を抉る様に削りとられたマガツアストレイはこちらの攻撃に怯まずトリケロスを向けようとするが、腕と同じく青色に染まった左足で掲げられたトリケロスごと右腕を蹴り砕く。

 

「トドメだ……ッガンプラマフィア!!」

 

 最後に上方へ掲げた右手を手刀の如くマガツアストレイの首元に振り下ろした。隙も与えぬ連続攻撃に、成す術無くマガツアストレイは地面へ叩き付けられる。

 

「……システム解除……」

 

 頭部は半壊、両腕損失、首元から胸部への深い損傷、最早バトルする事すら困難な状態へ追い込んで俺はようやく落ち着きを取り戻した。

 やや乱れた呼吸を整えながら、マガツアストレイが倒れ伏している場所へ降り立つ。

 

『―――ヤルナァ……流石ハ『荒熊』ガ任セルダケアル、ソコラヘンノ奴トハ違ウ』

 

「……」

 

 まだ辛うじて動けるのか、損傷の負った首を歪めるこちらへ向けてくるマガツアストレイ。

 

『ココロネ・ヒツキハ未熟ナファイターダガ、オマエハ違ウ。ヤリガイガアルヨ、ホント二』

 

「……マゴコロ……いや、ココロネ・ヒツキのコンサートは絶対に成功させる。どんな邪魔をしようともな」

 

『出来ルカナ?』

 

「お前が本気のガンプラで来ていない事なんて知っている!でもそれでも負けない……断言する、ガンプラを悪用する奴には絶対に負けないぞ……!」

 

 ガンプラは楽しみ、遊ぶものだ……悪い事に使うなんて間違っている。それは遊ぶではなく冒涜していると言っても良い。そしてなにより、遊び半分で大勢の人達に迷惑を掛けようとしている事が許せない。

 モニター越しだが、一身にマガツアストレイを睨み付ける。すると奴は不快な笑い声を上げた。

 

『フ、フフフ……楽シミガ出……来……タ―――』

 

「……!」

 

 マガツアストレイのツインアイの光がゆっくりと消え失せたその瞬間、目の前のガンプラが自爆したのだ。爆風自体は大したことはなかったが強烈な光に目がくらみ、視界が真っ白になってしまった。

 光が明けた頃には既に目の前には爆破されたマガツアストレイの破片しか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、マガツアストレイを操作していたファイターは見つからなかった。

 あの後、警察の人達が調べたんだけど、別室にあるバトルシステムの接続機器に私達のバトルシステムへの介入した形跡は見つかったらしい。多分、そこからガンプラの操作を行っていたということが分かったけど、それ以外は全くこれといってガンプラマフィアに繋がるものは無かった。

 何時の間に逃げたのか、どうやって私とアンドウ君の訓練の事を知って襲撃した事すら分からない。

 

 現在は事務所の一室に居るけど、安全が確認できたらとりあえずは出る事が出来るらしい。でも今は外に出るとかそんな気分じゃない。

 

 自覚させられた。

 私が戦おうとしていた相手がどれだけ強く、狡猾なのかを。

 アンドウ君に教えて貰ったら、手傷位は負わせるくらいには……と思っていた自分が馬鹿みたいに思う。

 

 私は相手になるとさえ思われていなかったのだ。

 攻撃も仕掛けようともされないし、敵意さえ向けられない。

 しかもアンドウ君が言うには、あのマガツアストレイは本気のガンプラではなかったとのことだ。それはアンドウ君も同じだが、言い換えれば壮絶と思えた先程のバトルは、彼らにとっては何の事も無い普通のバトルだったという事になる。

 まだ私は弱い……戦えない……。覆せない壁が立ちはだかっているような気分だ。

 

「マゴコロ」

 

「……アンドウ君……」

 

 部屋の外で誰かに電話をしていたアンドウ君が、椅子に座り俯いている私に声を掛ける。

 一体どんな言葉が飛んでくるのだろうか、戦うべき相手の実力が分かって……足手纏いと言われてしまうのか……はたまた、自分に任せてコンサートに集中していろとかかな?

 どちらにしろ戦力外通告は免れないだろう。

 それほどまでに相手が悪すぎた。

 

「君のガンプラを正真正銘の君専用のガンプラにする」

 

「……え」

 

「今から慣れないレンジでのバトルを練習しても意味はない。だから君のガンプラを改修し、コンサートに備える」

 

「……へ……ま、待って!コンサートまであと三日だよ!?そんな時間で出来る筈がない!」

 

 仮にできたとしてもアンドウ君に多大な負担をかけてしまう。

 でもそんな私の懸念を吹き飛ばすように、彼は得意げな表情を浮かべ腕を組む。

 

「安心しろ、俺以外にもう一人のガンプラのエキスパートを呼んだ……俺が信頼する人物だし、何より君のファンだ。喜んで……というより泣いて協力してくれるだろう」

 

「ガンプラのエキスパート……?しかも泣いてって……」

 

 アンドウ君、その言い方は少し不安になるのですが……。

 

「悪い子じゃない。むしろ良い子だ……多分、君も知っている子だ」

 

「………でも、私力不足だし……」

 

「力不足も何も、まだファイターとして始まったばかりの君が力不足なのは当然だ。俺は父さんに任されたんだ、だから喜んで力を貸す……それでもってガンプラを悪用する奴を撃退する」

 

 彼の言葉を訊いて、自分がどれだけ後ろ向きだったのかが分かった。

 実力云々じゃなかった。彼にはそんなこと関係なかったのだ。だからこんな情けない自分に力を貸してくれる。

 

「私も、改修……手伝う……。ガンプラマフィアなんかに、負けたくない……」

 

 私も本当の覚悟を決めよう。

 どんな方法で邪魔しに来ても絶対に負けない心を持って、戦う覚悟を―――。

 

「そうか、なら俺は外で待ち合わせている頼もしい助っ人を連れて来る」

 

 私の言葉に少しばかりの笑みを零した後に部屋の外へ出て行った。

 

「……ん?」

 

 あれ、よく考えれば頼もしい助っ人って誰なんだろう?

 私の知っている人って言っていたけど……。

 

 




 夏休みは色々衝撃的な事とかあってあまり更新できませんでした……。

 今話で出たマガツアストレイがコンサート編のボスのようなものです。
 そして、ココロネのガンプラが(ある意味でやばい)二人によって魔改ぞ……改修されてしまいますね(白目)


 GN-XⅣ type”G”を見た時、サカイ君が口走った『グレ』がレイの無意識スパロボガンプラのヒントです。
 結構、分かりにくいので……これで分かった人は凄いです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続編~コンサート3~

お待たせしました。
更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。


 あの謎のガンプラファイターとのバトルから数日。

 俺達はマゴコロのガンプラの改修と、彼女自身のファイターとしての腕を磨くことに手を尽くした。

 既にコンサートに襲撃することは決まっているのならば、それ相応の準備ができる。加えてあのマガツアストレイの装備と動きについての対策も講じることもできたし、準備は万端とも言っていい。

 彼女が控室でコンサートの準備をしているその間、ステージの側方で会場スタッフとして様子を見守っていた。会場内は既にココロネ・ヒツキのコンサートを見に来たファンで埋め尽くされており、彼女の登場を今か今かと待ち構えていた。

 

「こんな近くでヒツキちゃんの歌う姿が見れるなんて……感激や……レイさん、ホンマありがとうなぁ……」

 

「サ、サカイ君、マゴコロとは何度も顔を合わせているんだし何も泣くことはないだろう……」

 

 今、隣で号泣しているサカイ君にも感謝だ。

 彼が居なかったら彼女のガンプラの改修も間に合わなかった。まあ、ある意味でマゴコロのガンプラと彼女の歌が彼を此処に呼び寄せたという意味で彼女の力と言ってもいいかもしれないな。

 ……でも、最初にマゴコロと顔合わせした時のサカイは凄かったな……、訝し気な様子からマゴコロを見たその瞬間、突然尻餅をついて―――

 

『あれ、おかしいねん、涙が出て来る……一つも悲しくないのにぃ……』

 

 無表情で涙を流し、マゴコロと握手を交わしていた。

 人は歓喜に満ち溢れると逆に泣いてしまうという噂を目の前で目撃してしまった瞬間だった。

 

 その後、サカイ君にも事情を話した。彼もオレと同じくガンプラを悪用する輩が許せないとのことで、快く俺達の誘いを受けてくれた。

 それからの数日はガンプラの改修と、マゴコロのガンプラの特訓に費やした。

 

「やれることは全部やった……後は奴がどう出るか、だな」

 

「もしもの時はワイも力を貸します」

 

「……相手はガンプラマフィア。君が危険に晒される必要はない。ましてや君は中学生だ」

 

「ヒツキちゃんのライブを邪魔するってだけで万死に値しますわ。それに……ワイもレイさんと同じ気持ちや、ガンプラを悪用するクソ外道を許せる程人間できていません」

 

「サカイ君……」

 

 本来はガンプラの改修にだけ手を貸してもらうつもりだったが、彼自身ガンプラマフィアについては思う所があったみたいだ。

 父さんには一応サカイ君の事は伝えておいたが、彼をいざという時の為の戦力としては数えてはいなかった。なにせ彼はまだ中学生、オレと違ってまだ幼い。だが彼が俺と一緒に戦いたいというなら―――

 

「分かった。でも、せめて顔は隠してもらうぞ。流石にカメラが入っている所で顔を晒すわけにはいかないからな」

 

 此処に来る前に父さんから渡された顔を隠す為のマスク。

 重さ的に何個か入っているようだが、中身は見ていない。父さん曰く「私のとっておきだ、きっとレイにも似合う」と言うので変なものではないのは確かだ、後でサカイ君にも一つ渡しておこう。

 

「……俺達が彼女にしてやれることは僅かだ。後は彼女がガンプラをどれだけ使いこなせるかにかかっている」

 

ヴィクトリー(victory)バルキリー(Valkyrie)ヴィクトリーン(Viktorín)の名を冠する中近接型変形ガンプラ―――V3ガンダム!!ワイとレイさんの手が入ったハイブリッドガンプラや。生半可なガンプラと侮ったら痛い目見る事間違いナシや……!」

 

 ああ、彼女を侮るのも今の内だぞガンプラマフィア。

 目標へ、ゴールへ向かって進む人間は強い。彼女を取るに足らない存在だと考えているようなら、その考えは甘い。マゴコロ・サツキは強い、ガンプラの操作だけじゃない、どんな事も諦めない強さがある。

 

 ―――そろそろコンサートが始まる時間だ。

 備え付けられた時計に目を移しながら気を引き締めていると、会場全体を照らしていた照明が消える。それと同時に隣に居たサカイ君が足元に置いていた紙袋から法被のようなものを取り出し、バッと着込んだ。

 

「サカイ君、それは……」

 

「ワイの今回の目的はヒツキちゃんの応援の為です!一人のファンとして応援させてもらいます!」

 

「お、おう」

 

 少し気合が入りすぎている気もしなくはないが、なんだか幸せそうなので何も言わないでおこう。

 やや引きながら、彼から反対側の控えの方を見れば、コンサート用の衣装に着替えたマゴコロが緊張した面持ちでやって来ているのが見えた。

 

「頑張れ……」

 

 誰にも聞こえない位の声でそう呟いた俺は、煌びやかに輝きだしたステージを前にしてより一層気を引き締める―――。

 ココロネ・ヒツキのガンプラライブが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、コンサートというものを侮っていた。

 熱狂する観客たち、ステージを彩る照明、空気を震わせるココロネ・ヒツキの声。

 その圧倒的な迫力に思わず気圧されたほどだ。

 

「これは、ファンになる気持ちも分かるな」

 

「ヒツキちゃ―――ん!!」

 

 だが、歌に心を奪われている場合ではない。次は大型バトルシステムを用いたガンプラのデモンストレーションをするのだ。恐らくガンプラマフィアが介入してくる瞬間はそこだ。

 

「あら、アンドウ君」

 

「カミキさんか」

 

 俺達の居る控えにコンサートのゲストとして呼ばれたカミキ・ミライさんがやってくる。

 彼女が来たという事は、デモンストレーションの時間がもうすぐという事だ。

 

「ミライで構わないわ。セカイとも仲が良いし、それに年も近いのだし。サカイ君もこんにちは」

 

「んぅ?……って、うぇぇえ、か、かかかかカミキ・ミライさぁぁぁん!?」

 

「あれ、言ってなかったか?カミ、じゃなくてミライさんはマゴコロのコンサートのゲストとして呼ばれているんだ」

 

「初耳ですぅ!?」

 

 ミライさんはマゴコロから聞いていたのかな?

 どちらにせよ、サカイ君が居ることを知ってみたいだ。

 俺はミライさんの方に向き、今回のコンサートでの注意をする。

 

「くれぐれも気を付けてください。ガンプラバトルができると言っても相手はガンプラマフィア、どんな手を使ってくるか分かりません」

 

「ええ、でも……私は私の仕事をします。ヒツキちゃんをよろしくね」

 

 彼女の言葉に頷く。

 すると時間なのか、スタッフの人が彼女を呼ぶ。

 返事をした彼女は、もう一度笑顔をこちらに向けると手を振ってステージの方へ飛び出していった。

 

「―――サカイ君、気を引き締めるぞ」

 

「レイさん、あんたはやっぱり凄いお人や……」

 

 何で君は俺を尊敬の眼差しで見ているんだ……サカイ君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサートは滞りなく進んだ。

 私としては何時、ガンプラマフィアが襲ってくるか気が気ではなかったけど、ここまで手を出してこなかったということは、この次の―――ガンプラを用いてのデモンストレーションで私を潰そうとしているのだろう。

 レイ君とたくさん練習して、強くなった今でも……怖い。

 

「……でも」

 

 真っ暗なステージの上で私は自分達が作り上げたガンプラを見つめる。

 V3ガンダム。それがヴィクトリーンが新しく生まれかわった姿。

 加速と方向転換の役割を担う、膝の側面に増設されたGセルフ型のスラスターと、背部に装着されたストライカー型のスラスター。

 そして、腕部に取り付けられた二つのウィングシールドと、肩に装備された二つの三連ビーム砲。

 手持ちには、ヴィクトリーンの時に使っていたメガランチャーを改良した多機能型砲塔『VR・ランチャー』。その姿は丸型の時とは違い、長方形型となり、ビームラム及びアルケインの大型ビームライフルと同形のビームソードの展開が可能になっている。

 全てが一新され、コンパクト化したV3ガンダムは、完全に私専用のガンプラとなって、今ここにいる。

 

「……」

 

 正直、かなりの高性能且つデタラメガンプラになってしまった感は否めないが、V2ガンダムの進化形というならばかなり良い線をいっていると思う。

 こんな私に、ここまでしてくれたレイ君とサカイ君には感謝の気持ちで一杯だ。

 だから……。

 

「行きます……」

 

 『目の前』のベースにV3を置き、出現した球体の操縦桿に手を乗せ深呼吸する。

 きっと奴らはやってくるだろう。

 でも、私は絶対に負けない。

 ―――瞬間、消灯していた照明に光が灯り、会場内を照らす。

 視界には一杯の人達と、広大なバトルシステム。その光景に一層の笑みを浮かべた私は力の限り声を張り上げる。

 

「StandUp!! V3!! いきます!!」

 

 広大なフィールドに私のV3は今、煌びやかに輝く粒子と共に飛び上がった。

 まず見えたのは広大な自然の中心にある巨大な湖。大型バトルシステムだけあって、凄まじい広さのフィールドを飛ぶのは凄く気持ちいい。

 さて、私の役割を果たさなくちゃ……。

 

「これが私のガンプラ!! ヴィクトリーン改め、『V3ガンダム』!! 私の大事な友達と一緒に作り上げた最高のガンプラです!!」

 

 私の声に歓声が返って来る。

 V3を停止させ、手を振らせた私は、今日の特別ゲストを紹介する。

 

「そして、今日は私のコンサートに友達が来てくれました! 皆は勿論知っているよね? ガンプラバトル選手権でイメージガールを務めたカミキ・ミライさんで―――す!!」

 

 会場がどよめくと同時に、会場に満面の笑みのミライさんが入って来る。

 彼女は大勢の人たちの前でも笑顔を絶やさずに、軽いお辞儀と共にマイクを口元に近づけた。

 

「どうもカミキ・ミライです。今日はココロネ・ヒツキちゃんのコンサートにお呼ばれしちゃいました」

 

 お呼ばれというか、来てくれたというか。

 どちらにせよ、彼女の存在は私にとって強い心の支えになったことは確かだ。

 ミライさんにはガンプラの操縦で手が離せない私の代わりに、司会を務めてくれる役割を担っている。彼女に司会を任せつつ、私は再びV3を飛ばす。

 一瞬で最高速度までに達したV3は縦横無尽に空を飛びまわる。

 

「―――っ」

 

 やっぱり凄まじい性能だ。

 でもこれはまだMS形態―――私の本命は―――、

 

「もっと速く!」

 

 V3が人型から飛行機型へと変形する。

 脚部の稼働型スラスターは後ろに移動し、背部スラスターは翼となる。

 V3ガンダムファイターモード。

 まんまマクロスだったので、そのままの名称にしちゃったけど、レイ君は『良い名前』だと言ってくれて、サカイ君は『マジかこの人』みたいな目でレイ君を見ていた。

 ……それで、なんとなくレイ君のことが分かってしまったけど……。

 ここまで来たらやるしかない。

 

「私の……」

 

 マクロスで歌手なんて、そこまでやってしまったら私のやることは決まっている。

 理解されなくても歌い続け、

 攻撃されても歌い続け、

 そしてその果てに銀河をも歌で救い、

 感情を持たないと言われる宇宙クジラをも歌わせた、あの熱い魂を持ったロッカーと同じように、私も歌う。

 

「私の歌を聞けぇぇぇぇ―――!」

 

 来るならどこからでも来いガンプラマフィア。

 私はどこにも逃げない、私は―――此処に居る!!

 

 

 

 

 

 

 

「ヒツキちゃ―――ん!!! サイッコーやぁぁぁぁ!!」

 

 マゴコロが歌い始めた。

 それに合わせて、サカイ君が奇妙な振り付けを始めたことに驚きつつも、俺はバトルシステム上方に映し出されたバトルシステム内の映像を見やる。

 ……もう文句の無い程に扱えている。

 それも当然か。彼女はガンプラが好きで、それ相応の努力をしたんだ。

 

「良い歌だな、サカイ君」

「そうでしょう!! そうでしょう!! あ、レイさんの分もあります!!」

「そ、それは遠慮しておこう……」

 

 流石にここでその法被を着るのは憚れる。他のスタッフさんの目もあることだし。

 苦笑いしつつ、押し付けられそうになった法被を押し返していると、不意にポケットの携帯が振動している事に気づく。

 確認してみると、父からの電話だった。

 

「もしもし?」

『レイ。バトルシステムのサーバーが占拠された。恐らくガンプラマフィアだろう』

「はぁ!? 確か警備がいるって……ッ」

『落ち着けレイ。システム内のサーバールームの扉が施錠されている今、そちらの干渉は避けられない』

「……」

 

 ……この落ち着き様、この状況は想定内ということか。

 なら、心配はいらないな。俺は俺の仕事をすればいいだけだ。

 

「父さんが何を考えているかは分からないけど……任せろ。こっちは俺がなんとかする」

『フ、任せたぞ』

 

 携帯を切ると、会場の方でざわめきが起こる。

 見れば、バトルシステム内に正体不明の二機のガンプラと一体のモビルアーマーが出現していた。その内の一機は重武装の『マガツアストレイ』。

 ガンプラマフィア、こぞってやってきたようだが―――

 

「やらせないぞ」

 

 突然現れたガンプラマフィアにマゴコロのV3は一瞬、動揺しつつも、一気に加速し向かってくるマガツアストレイから身を翻し振り切っているのが見える。

 だが、あのマガツアストレイ相手には些か分が悪い。

 だから―――、

 

「サカイ君、予定通りに行くぞ」

「ええ、分かってます!! ヒツキちゃんのライブを邪魔する不細工共はワイらがまとめてぶっとばしてやりましょう!!」

「その為には――」

 

 父から渡された顔を隠す覆面が入れられた袋に手を入れ、二つあるうちの一つを取り出す。

 サカイ君も同じく、もう一つを取り出し広げる。

 

「これは―――っ!?」

「な、なんやてぇ!?」

 

 こ、これを被るのか? 

 というより父は何故これを持っていた?

 困惑するが、今はそんな悩んでいる状況ではないので、俺は意を決してその覆面を被り、ステージの方へ駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 歌の最中に現れた正体不明の三体のガンプラ。

 真っ黒い機体はマガツアストレイ。

 金と黒色の配色がされているザムザザーの改修型。

 そして、真赤な配色とその手に持たれた大型ハンマーが特徴的な、装甲特化と思われるグシオンの改修型

 突然の出来事に会場の面々は困惑したようにざわざわとどよめくが、ステージ上にいるミライさんはこの事態を予想しての対応策をレイから既に聞いていた。

 

「ココロネ・ヒツキさんから皆さんへのサプライズイベント!! 今現れた三体のガンプラはヒツキちゃんのライブを妨害しようとする魔の手―――さーて、立ちはだかる強敵にガンプラアイドル。ココロネ・ヒツキは勝つことができるでしょうか!!」

 

 既に予想できた事態ならば、この襲撃さえも演目にしてしまえばいい。

 ミライさんの言葉にどよめいていた観客は一転して、熱狂したような歓声を上げる。

 しかし、一方でバトルシステム内のヒツキは、三対一という劣勢に、防戦を強いられていた。

 

「く……」

 

 マガツアストレイからの正確無比な射撃を、ギリギリ回避しながらも、ザムザザーから放たれたミサイルをサーベルで切り払う。

 

『うおらあああああ!!』

 

 しかしミサイルの煙で視界が遮られたその瞬間に、怒号と共に赤色のグシオンが凄まじい跳躍と共に巨大ハンマーを振るう。

 そのあまりの迫力に小さな悲鳴をあげながらも、ハンマーの一撃を回避し、グシオンの頭部に蹴りを入れ、地面へ叩き落とす。

 

『巧く利用されたなぁ、ココロネ・ヒツキさんよぉ』

 

 静かに息を乱していると、不意にマガツアストレイと通信が繋がる。バトル内でのプライベート回線だから会場にこの声が聞こえる事がないことに安堵しながら、その声に耳を傾ける。

 前、レイ君が戦った時のボイスチェンジャー越しの声とは違って、今度は肉声。乱暴且つ、相手を嘲るような声に眉をひそめながらも答えを返す。

 

「それが貴方の本当の口調って訳ね……」

『ああ、もう、少し戦えるようになったからって……まぁ~強気になっちゃって……』

 

 三機のガンプラに囲まれ、冷や汗を流しつつも眼前のマガツアストレイを見やる。

 基本となったアストレイゴールドフレームの金色のフレームが、全て禍々しい紫色に変えられたガンプラ。

 その装備も様変わりし、背部に装備されているマガノイクタチはノコギリクワガタの顎のように刺々しく変り果て、一見なんも装備されていないように見える両腕には、レイ君とのバトルの時に見せた指から発生するビームサーベルと、小型のビームガンが取り付けられている。

 

 そして、マガツアストレイの少し後ろに浮かんでいる、大型MAザムザザーの改修型。

 これに関してはただただ不気味という答えしかなかった。

 ザムザザーの四本のスラスターの役割を担う脚は異様な程に大型化され、それにともない胴体の方も大きくなっている。

 恐らくIフィールドを積んでいるのだろうけど、体の良い的だ。

 それとも、そのリスクを冒しても取り付けたい機能があったのだろうか?

 

 最後に、グシオン。

 ガンダム鉄血のオルフェンズに登場する敵のガンダム。

 これが一番厄介だ、とヒツキは思った。

 何せ、原典の圧倒的な防御力を誇ったグシオンをさらに装甲とスラスターを追加させ、さらに堅牢なナニかへと変わり果てている。

 例えるなら、フルクロスを纏ったグシオン。悪夢以外の何物でもない発想である。

 

「何で、こんなことをするんですか……?」

『全てはビジネスなんだよ。雇われ先のクライアントがアンタの失脚を望んでいる、ただそれだけの理由だ。後はそうだなぁ……俺達が楽しくぶっ壊せればそれでいい』

 

 分かっていたけど、この人たちはガンプラを自分達だけが楽しむ道具としか思っていない。自分本位、というだけならまだ良かった。だけど、その為に他人が一生懸命に作り上げた努力の結晶を踏みにじるような真似をして楽しむのは、絶対に許せない。

 ヒツキはVRランチャーをマガツアストレイに向け、小さく呟く。

 

「……あなただけには、負けられない」

『ハッ! 言うだけなら簡単だよなぁ。だけど悲しい事に、お前にはそれを言うだけの実力が無い』

 

 そう言うやいなや、ヒツキを囲んでいる三体のガンプラが装備を向けて来る。

 確かに今の彼女にはこの三体を相手取るほどの実力は無いに等しいだろう。だけど、そんなことで諦めるほど、私は潔い女じゃない。

 戦える限り戦ってやる。

 今一度、操縦桿を握りしめ、上方への飛翔を試みようとする。しかし、その瞬間、別方向からこの場の誰でもない第三者の一筋の光線がマガツアストレイ目掛けて放たれる。

 

『っ!?』

 

 突然の攻撃に危なげなくビームを回避したマガツ・アストレイは、ビームが飛んで来た方向を見据え狂笑をあげる。

 

『カ、カハハハハッ!! 待っていたよ!!』

 

 私もそちらを見れば、灰色のガンプラがGNロングビームライフルを構えていた。そして、その傍らには黄色いガンプラ。

 姿形は初めて見る二体のガンプラだけど、その灰色のガンプラの姿を見て私は思わず、近くのバトルシステムに立つ彼を見て、その名を呼ぶ―――

 

「レ―――ッ」

 

 が、レイ君の姿を見た瞬間、私は主に彼が被っているであろうその仮面に呆けた声を出してしまった。

 なぜなら、そこにはガンダムF91に登場する『鉄仮面』のマスクを被った高校生くらいの少年と、ガンダムwに登場する『ゼクス・マーキス』と同じ、長髪のカツラがつけられたマスクを被った中学生くらいの少年がいた。

 というより、『鉄仮面』がレイ君で『ゼクス・マーキス』がサカイ君であった。

 

「え、えええええええ!?」

 

 どういう経緯でその仮面を被る事になったのぉ!?

 衝撃が抜けきらない私にレイ君の灰色のガンプラがこちらに通信をつなげて来る。

 

「は、え……」

「ココロネ・ヒツキ、大丈夫か!!」

「え、ちょ……レ……君だ、よね?」

 

 流石にオープン回線で名を呼ぶわけにはいかないので、震える声で確認してみると、

 

「今の俺は鉄仮面先輩だ」

「鉄仮面先輩ィ!? そっちの彼はぁ!?」

「ライトニング後輩だ」

「どうもライトニングですぅッ!! 助太刀にきましたぜぇ、ココロネさぁん!!」

 

 いやちょっと待ってだからその仮面はなんなのぉ!? 顔を隠さないといけないのは分かるけど、どうしてそのキャラクターをチョイスしたの!? しかもなにその仮面キャラ同士での先輩後輩みたいなコードネーム!?

 あまりにも予想外過ぎる援軍に彼女は思い切り動揺する。

 

「これで三対三だぞ、ガンプラマフィア」

『ハハッ! これでようやく面白くなってきた。君も俺もようやく本気のガンプラで合間見えた事だしなぁ。トグサァッ! お前はそっちの黄色いやつを相手しろォ! 俺とツクモはこいつらと遊ぶとする!』

 

 赤色のグシオンにマガツアストレイがそう叫ぶ。

 どうやら、私とレイ君がザムザザーとマガツアストレイを相手にしなきゃいけないようだ。

 

「ライトニング後輩ッ!! あの赤いのは任せた!!」

「合点承知ィ!! うぉぉらぁぁ!!」

 

 レイ君の灰色のガンプラが上昇すると共に、サカイ君が操作しているであろう獅子を彷彿とさせる黄色いガンプラは、その手に持つ巨大なレンチを回転させながら、猛スピードで突進するグシオンを迎え撃った。

 サカイ君なら心配はいらない、それに見た感じあのガンプラがどのようなガンプラか、私は知っている。

 

「レ―――鉄仮面さん!!」

「行くぞココロネ、俺と君で奴を倒すぞ」

「はいッ!!」

 

 こちらまで上昇してきたレイ君は、その灰色のガンプラ……否、ジンクスをV3の隣にまで移動させ、マガツアストレイとザムザザーと向き合わせた。

 横目で彼のガンプラを見る。

 ジンクスⅣ―――だけど、その姿は大会で見たその姿とは大きく違う。

 

「鉄仮面さん、そのガンプラは……」

「フッ、今日初披露のジンクスだ」

 

 背部スラスターは大会と同じような形状のものだが、プラフスキー粒子が後ろへ流れる翼のように展開されており、まるで光の翼のようにたなびいている。

 右手にはGNロングビームライフル、左手に持たされたその身を覆う程の大型シールドの先端には彼の十八番ともいうべき武装、GNクリアランス。

 左肩部にはGNキャノンと右肩の複数の突起が見えるミサイルポッドに似た装備。

 その武装、姿に私は自然にあるロボットの名を口にする。

 

「グレイター、キン」

「……ライトニング後輩と同じことを言う。コイツの名は―――」

 

 鉄仮面先輩、レイ君は眼前の敵機にGNロングライフルを向け、言い放つ。

 

「ジンクスⅣオリジンType『G』。熱い魂を持つ俺の仲間の為に作ったガンプラだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけーそのころ、ネットではー

 

701名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あれ、おかしいな?

 ココロネ・ヒツキの生放送ライブ見てたら、突然スパロボ時空に突入したんだけど

 

702名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 所属不明のガンプラ三機。

 俺達のココロネちゃんのガンプラ

 変態仮面のガンプラ二機(なお、どちらもスパロボ)

 

703名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 私、あのジンクス見覚えあるわ

 

704名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 奇遇だな俺もだ

 

 

705名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 鉄仮面先輩……一体、どこのジンクス乗りなんだ……?

 

706名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 あんなスーパー系ジンクスを使う変態は一人しか知らないわ。

 しかも今度はジム神とザク神じゃなくて、スフィア持ち連れてきやがった。

 グシオンと殴り合うってヤバすぎだろ……。

 

707名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 なんであのジンクス乗り、俺達のココロネちゃんと一緒にバトルしてんだよぉ!!

 羨ましぃぃぃぃぃ!!

 

708名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 本当になんでいるんだろう……。

 知り合いっぽいし、ゲストとして呼ばれたんじゃないか?

 

709名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 謎のガンプラファイターとして登場したはずなのに、即座に正体看破されるとか……。

 それどこのメイジンwww

 

710名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ゲストとして呼ばれたなら、あのグシオンと殴り合っている関西弁の中学生くらいの子……。

 もしかして……トライオン3の……?。

 

711名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ……もしかして選手権スパロボ組のリーダー二人が参加しているってことか? 

 

712名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 やばい(確信)

 

713名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 本人は隠しているつもりなんだよなぁ。

 ジンクスでモロバレだけどwww

 

714名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 しっかも、またグレードアップしているしwww

 ヴァイサーガの次はグレイターキンかよwww

 一体この人はどこに向かっているんだwww

 

715名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 ジンクスⅣオリジンtype『G』って……あ(察し)

 

716名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 待って、ココロネちゃんのヴィクトリーンがマクロス仕様になっているのってまさか……。

 

717名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 今すぐココロネちゃんを隔離しろスタッフゥゥ!!

 スパロボ脳に汚染されても知らんぞぉぉぉぉ!!

 

718名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 やりやがったwww

 

719名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 いや待て、ことガンプラの技術と発想に関しては鉄仮面は凄い。

 しかも脳波コントロールできる。

 

720名前:名無しさんとガンプラ、投稿日20??/??/??(?)??:??:??.?? ID ????????

 

 とりあえず次スレはヒツキちゃん実況スレじゃなくてスパロボ実況スレに変えよう

 

 




マクロス7ダイナマイトは見る価値アリです。
私は熱気バサラの歌では、New frontier が好きです。

ジンクスⅣオリジンtype【G】のモデルはグレイターキンでした。
レイとしては近接を得意とするガンバスターのサポート機としての役割を追求した末にこのような姿になった、という感じですね。

マガツアストレイについては、ゴールドフレームとリジェネレイトガンダムの特性を合わせた感じです。
つまり、ザムザザーは―――、

仮面に関してですが、鉄仮面は完全なネタです。
サカイ君のマスクは最初はフル・フロンタルのものにしようと思いましたが、そうなると呼び名が、【全裸後輩】という酷いものになってしまいますので、ゼクス・マーキスのものと変えさせていただきました。


更新が遅れてしまった理由については活動報告の方に書かせて貰いましたので、そちらをよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。