妖夢の超人伝説-TIGA- (瞳琥珀)
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第零話前編「幻想郷、新たなる危機」

西暦2071年。地球はアラガミと呼ばれる生物の天下となっていた。彼等は一言で言ってしまえば、"食のレパートリーが広い"。人間はもちろん、コンクリートづくりのビルや核廃棄物に至るまで、何でも食べてしまう。それ故人類は今までの遺産や文明を破壊され、さらに自身も絶滅に追い込まれかけた。

 

しかし、人類は600万年前に誕生して以来、知恵と団結で自らの何倍も強い獣達にも勝ち、世界の王者に君臨するまでとなった。もちろん人類も、アラガミにただやられている訳ではなく、自らの絶滅を阻止するため、対抗策を講じた。その1つがアラガミと戦う戦士、ゴッドイーターである。彼らの活躍によってアラガミと人類の戦いは、やがて平行線に落ち着いた。

 

一方で旧日本いわゆる極東地域には人間や妖怪、神様に至るまでの最後の楽園がある。その地の名は幻想郷。昔々に、博麗大結界によって現実世界と切り離されて以来、現実世界で何があろうともここは何も変わらない。外がアラガミの世界になっても相変わらずである。しかし、そんな桃源郷も、終わりに向けてのカウントダウンが始まろうとしていた。

 

 

ここは博麗神社。幻想郷を覆う博麗大結界の中心となっている場所である。ここは今博麗霊夢が管理しており、彼女と腐れ縁の魔法使い霧雨魔理沙の溜まり場ともなっている。幻想郷に異変が起これば依頼するものの一人はいるはずなのだが、今はないので、今で寛ぐ魔理沙以外誰もいない。そこに白玉楼の庭師である魂魄妖夢が訪問する。異変とは全く関係無い目的だが。

 

「あら、いらっしゃい。…って妖夢か。」

 

「…霊夢さん。例のブツを取りに来ましたよ。」

 

「はいはい。とりあえず上がっていって。あと、分かってるわね。」

 

「…まあ、異変を解決してもらっているお礼でもありますし…。」

 

そう言って妖夢は神社の賽銭箱に7銭ほど入れる。ここに来る妖怪や実力のある人間達にとって、訪問の際に賽銭を入れるのは恒例のこととなっている。霊夢に対する哀れみの意味合いもあるが。

 

「たった7銭か…。時化てるわね。」

 

「…これでも出血サービスですよ?それに人の善意をそうやって無下にすることは無いと思います。」

 

そんな会話をしながら、妖夢は居間に通された。居間には座布団を枕代わりに寝息を立てる魔理沙の姿があった。

 

「おーい、魔理沙、来客だぞー。起きなさーい。」

 

そう言って霊夢は魔理沙の頬を強くつねる。しばらくすると「痛い、痛い。」と声を上げて魔理沙は目を覚ます。そのまま霊夢は二人を残して廊下へ消えていった。霊夢が戻ってくるまでの間、二人は近況報告も交えての雑談に暮れた。20分ほどして霊夢が戻ってきた。

 

「はい、約束のものよ。…全く少女の欲しがるものじゃ無いわよ。」

 

そう言う霊夢は妖夢のお望みの箱を抱えていた。調べたところ、ウルトラマンティガCompleteBlu-rayBoxというものらしい。数日前に境内に落ちてきたのを霊夢が拾ったのだ。霊夢にとっては無用の長物だったので人里での競売にかけようと思っていたところ、噂を聞き付けた妖夢が引き取りたいという連絡を受け、待っていたということである。

「いいじゃないですか。好きなことに少女も少年もないですよ。さて…。」

 

妖夢は霊夢から箱を受け取り、繁々と眺めた。箱は落ちてきたこともあってか角が擦れていたか、その他は綺麗に保たれていた。彼女は箱の前面、裏面、側面、挙げ句に中の小さな箱の数々にも目を通す。霊夢が横から見てみると、3つある小さな箱の中には幾つかの手を広げた大きさの円盤が入っていた。それも妖夢は丹念に見ていく。かれこれ10分ほど経ったところで、妖夢は確認を終えた。その目は水を得た魚のように輝いている。

 

「…間違いないです。取っておいてくれてありがとうございました。これはお礼です。」

 

妖夢はそう言って霊夢の手に4円を握らせた。ここでの1円は明治時代の1円で、2015年時の2万円の価値である。箱がそれほど価値があるものだったと思っていなかった霊夢は流石に動揺する。

 

「いいの?こんなに貰っちゃって。」

 

「いいですよ。当時の値段に比べれば二倍くらいの値段ですけど…。」

 

「だったら…。」

 

「でも、最近は外の世界のものは滅多に落ちてきません。増してやここまで状態の良いものはほとんど無いと言っていいでしょう。そして私はここに写っているウルトラマンティガの大ファンです。このお金でも足りないくらいですよ。」

 

そう言って妖夢は深々と頭を下げた。頭を上げると彼女は「アサギ!」と叫ぶ。すると、1つの霊魂が出現した。この霊魂の名はアサギ。生前の名は朝霧リョウヤ。享年17歳。妖夢とは最早腐れ縁の霊だ。

 

「アサギ、これを仕舞って。」

 

「おうよ。」

 

そう言うとアサギは念力で妖夢の手から箱を受け取り、呪文を唱えると、箱は跡形もなく消え去った。妖夢曰く風呂敷袋代わりの異次元空間に送ったのだという。

 

「良かったな、妖夢。ところでウルトラマンティガとかっていうのは誰から教わったんだ?」

 

魔理沙の問いに妖夢は答える。

 

「美鈴さんに教えて貰ったんです。その時は"迪迦奥特曼"っていう中国語のタイトルでしたが…。」

 

 

そんな話に話を咲かせて数十分ほどたった頃、突如庭先に衝撃が走った。三人が一斉に現場に目を向けると、砂埃が落ち着いた頃合いに庭に落ちた人、いや妖怪の姿が見えてきた。幻想郷の瓦版"文々。新聞"の編集者、射命丸文である。

 

「あややや、皆さんお騒がせして申し訳ない。今日は霊夢さんに突撃取材を敢行しま~す!」

 

「…グルメレポートかなにかの乗りで突撃取材されても困るんだけど…。で?何の取材?」

 

「おっ、では取材!…と言いたいところですが、部外者が二人ほど混ざっていますね…。どうしましょうか…。」

 

戸惑う文の姿を受けて妖夢と魔理沙は退散しようと席を立ち、庭先に向かおうとするが、霊夢はそれを手で制止する。

 

「いいわ。二人も残って。そもそもこの烏天狗は最初からあなた達を巻き込もうとしているみたいだし。」

 

「あややや、勘づかれてましたか。まあ、確かに純粋な戦闘力の強い妖怪や人間はスペルカードのバトルの普及でめっきり減ってしまって、 今はその人たちが必要という皮肉な事態に…。」

 

「勿体ぶらないで、本題に入りなさい。」

 

「あややや、短期は損気ですよ。…では本題に入ります。ズバリ、"博麗大結界の弱体化"についてです。」

 

その瞬間、時間が止まったかのようにその場が静まり返った。まださっきまでの笑顔が砂上の楼閣の如くに消えた。

 

「…え?どういうことなんだぜ?霊夢…。」

 

「…その情報は紫達にしか共有していない筈よ。どこで知ったの?」

 

「紫様に問いただした…と言いたいところですが、伊達に大結界前から生きていた訳ではありませんよ。紫様がそんな簡単に機密情報を吐くことがないのは、言うまでもありません。」

 

「じゃあ、何を根拠に…。」

 

「そうなりますよね。では…椛!」

 

その声から数秒くらいで再び庭先に衝撃が走る。砂埃が止むと、着地点と思われる場所には白狼天狗の犬走椛と、見慣れない赤毛のサングラス男が立っていた。

 

「ほう…。射命丸、取り敢えず、そこの赤毛の男は誰かしら?」

 

「ああ、この人は…。」

 

「初めまして。僕はフェンリル極東支部所属のゴッドイーター、エリック・デア=フォーデルヴァイデと言います。」

 

赤毛の男はサングラスを取って、軽くおじきをした。チャラい容姿をしながらも、その紅い瞳には数々の戦場を駆け抜けてきたと思われる気迫が感じられた。彼の右手には武器と思われる大砲が握られている。

 

「…いろいろ聞きたいことがあるから、上がってちょうだい。武器は庭に置いておいてくれると助かるわ。」

 

赤毛の男は少し躊躇の態度を見せながらも、武器を縁側に接するように地面におき、椛や文と共に神社の建物に上がる。エリックは外の世界で暴れているアラガミと言う怪物の討伐を主な生業としていると言う。外の世界には彼のような存在、ゴッドイーターがたくさんいると言う。エリックに対しての質問会のようなことが行われた後、射命丸が咳をして本題に入った。

 

彼らが言うには、エリックはしっかりと意識を保ったまま幻想郷に来たのだという。しかも博麗神社からではなく、天狗たちの寺から出てきたそうだ。博麗大結界は意志を持った物を外からも通さないし、中からも外に出さないものなので、大きな矛盾である。

 

それだけでも皆の顔を青ざめさせるには十分であるが、エリックの口から更にこれからの災厄を示唆する言葉が飛び出した。外の世界ではアラガミという怪物が暴れまわり、世界の主導権はほぼアラガミに渡ってしまっている。そのアラガミが幻想郷を狙ってか結界の周辺に集まっているということだ。

 

エリックの件を考えると、いつ彼らが幻想郷に侵攻してきてもおかしくはない。

 

「嘘でしょ……?確かに最近結界の強度が弱まっているとは思っていたけど…。」

 

「私達にはエリックさん自身と彼の証言以外に証拠はありません。信じるも信じないもあなたたちの自由です。ですが……。」

 

再び場に沈黙が訪れる。

 

 

その沈黙を破ったのは居間にいた面々ではなく、居間に突然現れた大妖怪;八雲紫だった。

 

「妖夢、こんなところにいたの!?早く白玉楼に戻って!」

 

「え?紫様、それはどういう……。」

 

「霊界に見たこともない怪物が出現したの。今藍や幽々子が応戦してるわ。今すぐ来て!」

 

「……分かりました!」

 

そう言って妖夢はアサギと共に紫の出現させた空間の隙間に入っていく。

 

「待って。紫、私も付いていくわ。異変の解決は私の役目だもの。」

 

妖夢がスキマの中に完全に入ったと同時に霊夢も入ろうとするが、紫はそれを制止する。

 

「妖夢は白玉楼の庭師だから呼びに来たのよ。貴女はここの主でしょう?」

 

「だけど…!」

 

「それに、この異変は恐らく貴女が思っているよりも厄介なものよ、多分。最後の切り札はまだ出すタイミングじゃないわ。まあ、妖夢も切り札を持っているけどね。」

 

「えっ、それはどういう……?」

 

霊夢がそれも言い終わらないうちに紫は自らが展開した空間のスキマを閉じ始める。スキマの大きさが10センチ程に成ったとき、スキマに突っ込んで来て無理矢理こじ開けようとする一組の手があった。

 

「……だれ!?」

 

「僕の名はエリック。エリック・デア=フォーデルヴァイデと言います。僕もそちらに行かせてください。」

 

「はあ?悪いけどただの人間に立ち向かえる相手じゃないのよ!?」

 

「僕はただの人間じゃない!僕はアラガミと戦う戦士;ゴッドイーターです!貴女達が対峙しているのはもしかしたらアラガミかもしれない。ならば十分、戦力になるはずです!」

 

その言葉を聞いて紫は暫く考え込む。そして閉じかけていたスキマがまた広がり始めた。他の面々は別のところに行ってしまったらしく、スキマから妖夢たちが見たのはエリックと名乗る赤毛の青年の姿だけであった。

 

「……時間がないわ。20秒で支度してちょうだい。」

 

エリックは「はい!」と答えると、持ってきた鞄などを急いで体に身につけ、庭においてある武器を持ち上げ、スキマのところまで急いだ。まずは武器を先に中に入れ、本人がその後にスキマの中に入る。そしてスキマはいよいよ閉じ、博麗神社の居間から消えた。

 

 

所は変わって、冥界内の屋敷、白玉楼の庭園。妖しい輝きを放つ霊界の月が照らす静寂な庭園に、スキマが出現した。始めに妖夢とアサギ、次にエリック、最後に紫が現れ、スキマが閉じられる。一人ごっつい武器を持っている場違いのような人物がいるが、他はいつもの霊界と変わらない。変わっているのは、西行妖の周辺で戦火が垣間見えると言うことだ。

 

「アサギ、楼観剣を。」

 

アサギは「おう。」といって、小さなスキマを出現させた。そこから桜の柄が描かれた鞘に入っている極長な太刀が出てきた。妖夢の武器である楼観剣である。妖夢はそれを受け取り、背中に背負う。

 

「幽々子様……今行きます!」

そう言って妖夢は駆け出した。アサギも後を追う。

 

道中アサギが妖夢に尋ねる。

 

「妖夢、大丈夫か?」

 

「何がですか?」

 

「これから対峙する怪物…アラガミだっけ?そいつのことだよ。エリックとかいう奴が言うには、外の世界を制してしまったっていうが…。」

 

「……恐らく外の世界にはウルトラマンみたいな超人が居なかったんですよ。故に怪物に負けた。ある意味自分達が超人を追い出したものですから、自業自得ではないでしょうか。」

 

「……凄い辛辣な物言いだな。」

 

「幻想郷に来た人や妖怪、神様は外の世界の人が追い出したも同然ですからね。でも幻想郷、しかも霊界に来ようと言うのなら容赦しません。私はウルトラマンみたいに強いと自惚れはしませんが、自らの力を最大限発揮して戦うまでです。」

 

「そうか…。そういえば、西行妖の大木には妖刀「叢雲」が刺さってたと思うけど、絶対手を出すなよ。何せあれは……。

 

「…分かってますよ。あれは幽々子様の亡骸と共に西行妖の力を封じる為の刀。それにあの刀自身も、使用者の命を吸いとる危険な代物。お父様に接触を厳禁されて以来、10年触ったこともありませんし……大丈夫ですよ。」

 

「だといいんだけどな……。」

 

「それに、知っての通り、楼観剣は刀としては最高のものです。あの刀の出番は無いでしょう。」

 

そう言っている内に妖夢達は激戦区と言うにふさわしい西行妖周辺に到着した。




紫の要請を受けて西行妖の根本に到着した妖夢たち。しかし、アラガミと呼ばれる怪物の実力は妖夢達の想像を越えるものだった。妖夢達は一体どうなるのか。

次回をお楽しみに!

注;この幻想郷では西行妖を封じるのに幽々子の死体だけではなく、妖刀「叢雲」も用いているという設定が有ります。果たして抜いてしまうと、どうなるのでしょうか。

感想もお待ちしております。


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第零話中編「封じられた大樹と封じる刀」

前回から大分間が空いてしまいました。頭の中でできてるとはいっても、実際に文章におこすのは難しいですね。


西行妖。冥界にある桜の大樹。妖夢はその開花を見たことが無いが、非常に妖しく、美しい花が咲き乱れるという。その代わり、一旦開花すると周りの生物の精気を吸収し、八雲紫ですら手がつけられない化け物になると言い伝えられている。よって、遥か昔に八雲紫と妖夢の父;魂魄妖忌が西行寺幽々子の亡骸と妖刀「叢雲」によって封印した。幽々子の亡骸と西行妖の根を貫くように妖刀「叢雲」が刺さっており、どちらかの封印が解かれてしまうと、西行妖が復活してしまうとされる。実は、妖夢は父から西行妖の守護者の役目も継承していたりする。

 

 

再び戦場と化した西行妖の周囲に視点を移そう。現在幽々子と紫の

式神の八雲藍が目の前の化け物、いやアラガミ達に対して苦戦を強いられている。幽々子の足下には使い捨てられた術符が散らばり、今も本人は術符を消費し続けている。藍の足元も同様に倒された式神のボロボロになった符で足元が覆い尽くされ、橙も含める現在戦闘中の式神も着々と数を減らし続けている。にも関わらず、アラガミ勢は一匹たりとも減っていない。これが駆けつけた妖夢とアサギが見た戦況だ。寧ろ惨状と言うべきかも知れない。

 

「幽々子様!これは……。」

 

程無くして、紫とエリックが到着し、妖夢達と同様に戦況を確認した。藍と幽々子は、妖夢、紫、エリックに前を任せ、一旦後退する。

 

早速アラガミ討伐のエキスパートの様なことをを自称するエリックは、アラガミ勢の戦力確認を始める。

 

「ふむ…。僕の華麗な分析によると、敵はオウガテイル10体、コンゴウ3体、シユウ4体か…。オードブルばかりでメインディッシュがないとは…退屈な戦いになりそうだね…。」

 

エリックは一通りアラガミ勢を見回し、確認が終わると自らの武器の大砲をアラガミ勢に向かって構える。

 

「そんな通ぶった解析はいいですが、私たちで勝てそうなんですか?」

 

「うーん、正直厳しいね。リンドウさんやサクヤさん、ソーマが居れば問題なく勝てるけど、まともに戦えるのが僕だけだからね。」

 

そう言いながらエリックはその大砲から弾を発射する。先程までと違い、アラガミ勢の中に撃ち込められた弾は前方に陣取っていた比較的小さいアラガミを一気に絶命させ、後方のアラガミ達にも甚大な傷害を与えたと見れる。その光景に妖夢を含めた他の面々は見とれるばかりである。

 

「凄い…。って、紫様や藍様、幽々子様や私の剣でもあの化け物は倒せないっていうんですか?妖怪や人間によく知れた結構な実力者ばかりですよ?」

 

エリックは妖夢の話の最中にも、アラガミ達に弾の雨を降らせており、弾が一旦切れて装填を行うようだった。しかし、大砲に弾を込めるのではなく、エリック自信が何か緑色の液体が入っている小さなボトルの中身を一気に飲み干し、直ぐに砲撃を再開させた。今の動作が装填に当たるとしか考えられないが妖夢とアサギは信じられないというような顔持ちだ。砲撃しながら先程の妖夢の質問にエリックが答える。

 

「あの特徴的な耳の人、藍さんって言うんだっけ…?紫さんの実力は分からないけど、藍さんと幽々子さんはさっきの戦いで掠り傷ひとつつけられてないじゃないか。」

 

「それはそうですが……。」

 

「ましてや君のそのちゃっちな刀ではまず無理だよ。それでアラガミを倒せるならば、僕らゴッドイーターはいらない。」

 

「……随分な言いようですね。この刀は妖怪が鍛えた刀で、この刀に斬れない物など、無いのですよ!」

 

「……じゃあ、行ってみるかい?無駄骨だろうけど。」

 

「そんなことはありません!アサギ、行きますよ!」

 

「え?おい、ちょっと待てよ、妖夢!」

 

アサギの制止も聞かず、妖夢は駆け出した。風を切る勢いで進む妖夢の前に細身の人型アラガミが立ちはだかる。妖夢は勢いのままアラガミの懐に突っ込み、楼観剣を抜刀すると、胴体を中心に残撃を浴びせ始めた。妖夢のスペルカード技、人鬼「未来永劫斬」である。何撃か浴びせて妖夢は後退する。その時妖夢は気づいた、楼観剣が激しい刃こぼれを起こしていることに。切っ先から根本に至るまで刃がボロボロになっている。妖夢の知る限りではめったに刃こぼれは起きたことはない。まして、こんな初っぱなからは想定外だ。

 

「…おい、ヤバイんじゃねえか?」

 

妖夢はアサギの問いにも答えられないほど、我ここに非ずといった表情だった。やがて彼女は力なく地面にへたり込む。

 

「…だから言っただろう?恐ろしさが分かったのなら、さっさと後ろに下がっていたまえ。」

 

その言葉を聞くと、妖夢は楼観剣を鞘に戻し、とぼとぼと後ろへ歩いていく。後を追うのはアサギともうひとつの霊魂のみであった。

 

 

「…まあ、楼観剣にも歯が立たない敵がいるってことだよ。アラガミとか言うのはエリックさんに任せて、俺達は異変の対策についてでも話そうぜ?」

 

励ましの意味を込めたアサギの言葉は、しかし妖夢には届いていないようだった。妖夢は顔を下に向け、戦場を背に、相変わらず意気消沈として歩いている。

 

「ほ、ほら、エリックさん、ゴッドイーターなら倒せるみたいなこと言ってたじゃないか。つまり、妖夢もゴッドイーターになればいいんだ!…どうやってなるのかは知らんけど。」

 

尚も妖夢の沈黙は続いた。しかし、しばらくしてようやく口を開く。

 

「…アサギならどう思います?野球なんかで今まで自分が最前線で活躍していたのに、突然戦力外通告されたら…。」

 

「それは…、がっかりするな。また辛くて、地味な練習や訓練の日々に戻るのかと…。」

 

「そうですか。貴方にはその程度のことなんですね。私には"お前は生きている価値はない。死ね。"って言われるのと同義なんですが…。」

 

「…おい、まさか自殺は止せよ。幽々子様がどんなに悲しまれる

か…。」

 

「…幽々子様にとって、戦えない私なんて…、無価値ですよ…。」

 

そこでアサギは気づく。妖夢が段々涙声になり、彼女の両頬には涙の川が流れていることに。妖夢はやがて、砂利の地面に膝をついた。

 

「…妖夢が戦いの駒としてしか、評価されていないとは思わないぞ。妖夢の作ったご飯はいつも幽々子様は高評価をしてくださるし、その他の家事だって…。」

 

「そんなこと、今は関係ないですよ。今はアラガミと戦えるかが大事です。私はこれから、幽々子様に対してなにもできず、死ぬのを待つだけでしょう…。役立たず以外の何者でもありません。」

 

「そんなことはない!何か出来ることがあるはずだ!」

 

「じゃあ、何ができるんですか!具体的に言ってくださいよ!」

 

「それは…。」

 

「絵に描いた餅のようなことを言われても慰めにも…。…え?」

 

そこで妖夢は急に頭を抱えて蹲る。

 

「おい、どうした!?妖夢!」

 

「誰ですか貴女は…!?そんなこと…、出来るわけ…!」

 

どうやら妖夢の頭の中で何かが囁いているようだ。アサギは妖夢を助けようと、彼女の頭の中にダイブしようとするが、拒絶されて出来ない。しばらく少女は頭の中の誰かと議論していたが、やがて沈黙し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…だ、大丈夫か…?妖夢…?」

 

「…そうですよね。あの剣を使うしかないですよね…。」

 

そう言って妖夢は立ち上がり、来た道を戻っていく。アサギも後を追うが、少女は途中で進路を変え、西行妖の裏側に回り込む。

 

 

西行妖の幽々子様達から見えないアングルのところには一本の日本刀が西行妖の、地面からはみ出た根に刺さっていた。その刀からは肉眼で十分確認できる、黒く禍々しいオーラが放たれている。そう、これこそ西行妖を封じる妖刀「叢雲」だ。妖夢は、自身が生涯触れることの無いと思っていた、その刀の柄を握る。その刹那、柄を握った少女の手に柄が纏う黒いオーラが包み込むように絡み付いた。そして、オーラで覆われた部位全体に、今まで体験したことのないような激痛が走る。

 

「あああああっっっ!!」

 

「…!妖夢!何をやってるんだ!」

 

「これが…あれば…アラガミに…対抗…出来ます…!幽々子様を…守れ…ます…!」

 

「いやいや!これでアラガミ倒せるか分からねえし、それを誰にも抜かせねえのが妖夢の仕事の一つだろ!?自分から破ってどうするんだよ!?」

 

「どうせ…みんな死ぬなら…変わりませんよ…。私の…足りない頭では…これが…最善策なんです…!これ以外に…幽々子様を…守れる…方法が…あるんですか…!?なら…言ってくださいよ…!今すぐ…!」

 

痛みに顔が歪み、涙が目だけでは無く鼻からも流れている妖夢の問いに、アサギは答えることが出来なかった。妖夢は痛みの中、剣を抜く手に力を込める。長い間誰も手を触れてさえもいないだけあり、中々剣は動かない。更に激痛も、剣を抜くという行為の難易度を上げていた。しばらくすると、慣れたということか、痛みが緩和されてきた。それを感じた妖夢は一層手に力を込める。次第に剣と根の接着面がぐらぐらしてきたのを少女は感じ、一気に上へ引き上げる。

 

ーー遂に妖刀「叢雲」の刀身が姿を現した。柄や鐔の部分だけでもオーラで黒くなっていたが、長刀らしき刀身は黒がもっと濃く、刀身の銀色どころか光沢すら満足に見えない。妖夢は刀身の禍々しさと闇の気迫に圧倒されていたが、それが治まると近くに落ちていた鞘に納刀し、戦場へ向かう。

 

 

少し時間を戻すと、戦場ではほぼエリックの活躍によって、戦闘は終了していた。彼の目の前には、アラガミだったものが塁々と積まれている。後ろで休息をとっていた藍や幽々子は、その光景に圧倒されるばかりだった。

 

「凄い…!」

 

「凄いじゃない、若いの!まあ私も十分若いけれどね。」

 

そう言って、紫はエリックの肩を叩く。彼の武器の銃身は戦闘終了直後にしては硝煙が上がっておらず、異様とも言える。

 

「まあ、これが華麗なるゴッドイーターの使命ですから。これからも是非宜しくお願いしますよ。」

 

エリックは紫、藍、幽々子と順に握手を交わしていった。

 

「あれ?銀髪の女の子は?」

 

「え?妖夢ったら何処に言ったのかしら?アサギも居ないし…。」

 

幽々子をはじめ、皆は妖夢を探して辺りを見回す。すると、西行妖が妖しい光を放ち始める。

 

「何だあれ?樹が、光っている…?」

 

「まさか、西行妖が…。幽々子!」

 

幽々子の方を見た紫は気づく。彼女の身体全体から光の粒子が放出していくのに。そして気のせいか、彼女の姿が段々不鮮明になってくる。

 

「あれ…?紫…、私…、消えるの…?」

 

「幽々子!しっかりして!幽々子…!」

 

紫が幽々子のもとにいこうとしたその刹那。

 

 

向かって左側、つまり先程倒したアラガミ達の死骸が塁々とする所から唸り声が聞こえてきた。それは先程のアラガミ達と明らかに違う声で、皆は怯えてそちらに振り向く。

二本角の獣がそこにはいた。ほぼ白で彩られていた身体のそれは、二足歩行になった蜥蜴の様。般若のような顔で四人を睨み、その右手は炎を纏う。

 

「何あれ…?」

 

紫がエリックに質問するが、彼の顔からは先程の余裕が消えていた。彼も見たことがない種類らしい。とりあえず"華麗に討伐"するそうだが、声が震えていて、頼りない。新たな獣、というかアラガミは4人を威圧するようにもう一度咆哮する。エリックは銃口を向けて弾を発射するが、動揺しているからか顔などの急所によく当たらない。その弾を物ともしないという様子のアラガミは、炎の拳を持ち上げた。炎が勢いを増す中、皆が此方に拳を降り下ろすだろうと思い、屈み込んだ。その刹那。

 

「ちょっと、そこの化物!この妖夢が相手です!」」

 

突然の少女らしき大声に、アラガミは振り向く。四人も見ると、そこには先程から探していた妖夢が、黒ずんだ刀を構えてアラガミへ向かっていく姿があった。

 

「妖夢ちゃん、ダメだ!君の手に負える相手じゃない!」

 

「あの刀はもしかして…。」

 

アラガミの炎の拳が少女目掛けて振り下ろされる。少女はそれを後ろに飛んでかわす。拳を振り下ろした地点は、"炎のクレーター"とも言うべき惨状になった。それに一瞬おののきつつも、少女はすぐに相手との距離を積め、刀を上に振り上げる。本当の刀身から、さらに長い緑の光の刃が伸びる。いつもと違って刀のオーラで若干黒くなっているが、少女は自らの剣技の1つ、断命剣「冥想斬」を放とうとしている。それに対し、アラガミも右の拳に再び炎を溜め始める。少女の光の刃、アラガミの拳、どちらが先か…。

 

結果は、少女が勝った。光の刃はその長い刀身でアラガミの大きな身体を一刀両断にした。顔から尻尾にかけて綺麗に切断され、拳に炎が灯ったままのアラガミは大きな音を響かせて倒れる。

 

「やった…のか?」

 

「はあ、はあ…。」

 

少女の息はまだ荒い。刀からの痛みが完全に引いていないことに加え、先程の戦いが終わったことに頭では分かっていても、身体が追い付いていないのだろう。そんな妖夢に、紫が足早に近づいてくる。

 

「はあ…、紫様…、やりましたよ…。あの化物をこの手で…。」

少女が物も言い終わらぬうちに、紫は妖夢の頬目掛けてビンタを放つ。突然の、予想外の仕打ちに、妖夢は困惑する。

 

「貴女、自分が何をしたか分かってる!?その刀は、決して抜いてはいけないものなのよ!?守護者でもあった貴女が、何をやってるの!?」

 

「で、でも!幽々子様達が助かるにはこれを使うしかなかったんです!」

 

「あら、そう。じゃあ、貴女がそれを抜いたことで、幽々子がどうなったか分かる!?」

 

そう言われて妖夢は周囲を見回すが、幽々子の姿が見当たらない。焦って周囲を走り回り、アサギにも頼んで探したが、見つからない。紫から、自分が剣を抜いて西行妖の封印を解いたことで、幽々子が消えたという風に聞かされると、妖夢は発狂して、その場に膝を落とした。

 

「そんな…。私の…せいで…、幽々子様が…。私は…、幽々子を…守りたかった…だけなのに…。」

 

妖夢の膝には涙が次々と落ち、膝を伝って地面に染み込む。

 

「妖夢…。紫様!事実だからってその言い方はあんまりです!」

 

「…幽々子と私は、それこそ彼女の生前からの付き合いなのよ。彼女の最期の願いで、妖夢の祖父の妖忌と共に作った封印を、その孫が破ったのよ…。怒らない方がおかしいわ…。」

 

「ですが…!」

 

「それに、余裕があったら、こんな大人げない怒り方はしなかったと思う。見て。西行妖を。あれは私たちが感傷に浸るのを、待ってはくれないみたいよ。」

 

妖夢とアサギは西行妖を見る。西行妖は紫色の妖しい光を放ち、その樹に伸びるかのように、幾つかの川のように流動する帯が周りを取り囲む。

 

 

その時、その樹の根元に座る一人の女性が見えた。彼女は空色の衣を身に纏い、髪は桃色。扇子に隠れて顔が見えないが、妖夢やアサギは直感する。彼女は幽々子ではないかと。

 

「ゆっ、幽々子様あああ!」

 

妖夢は涙も拭かずにその女性の元に駆けていく。アサギもついていくが、女性の扇子をずらした時の顔を見て、先程の予想が一層確信へと変わっていく。

妖夢は西行妖の根元までたどり着き、根にしがみついて登り始める。途中登りにくいところもあったが、何とか女性の元にたどり着く。

 

「幽々子様…、ごめんなさい…。でもよかった…。幽々子様が無事で…。」

 

すると、その女性は、妖夢に一言言い放った。それは二人には想像さえしていないものだった。

 

「……あなた、誰?」

 




消えたはずの幽々子にであった妖夢。しかし、幽々子は妖夢のことなど知らないという。そして、彼女と復活した西行妖による攻撃が妖夢達を襲う。その時、光の巨人の姿が…。次回もお楽しみに!

さて、前回の倍の文字数になりましたが、まだ第零話が終わりません…。しかも今回はウルトラマンも出てきませんでした…。でも大丈夫。次回には出る予定ですし、次回で第零話は終わり、本格的に物語が動き始めますから!

では改めて、次回もお楽しみに!


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第零話後編「少女の決意」

ゴッドイーター2レイジバースト発売、おめでとーう!
僕は初回特典は申し込めなかったし、今忙しくてやる余裕もないですが、今年中には絶対手に入れて、実況もやりたいという心境です…。

まあ、僕の愚痴は置いといて、本編をお楽しみください!


「…あなた、誰?」

 

「だ、誰って、私ですよ!魂魄妖夢!白玉楼の庭師で、あなたの護衛役でもある!」

 

「…庭師は妖忌じゃなかったかしら。それに私の護衛役の予定だった人も妖忌よ。一体何を言っているの?」

 

「え…?貴女の名は西行寺幽々子でしょう?でしたら…。」

 

「ええ。私は幽々子よ。でもあなたのような娘は知らないわ。」

 

「そんな…。」

 

妖夢は困惑したままその場に座り込み、やがて涙が両目から再び流れ出す。

 

「…変な娘。まるで、私がおかしなこと言っているみたいじゃない。」

 

嗚咽を漏らす妖夢を、幽々子らしき女性は冷ややかに見つめる。その時、地上では妖夢を見ていたアサギが妖夢の様子が可笑しいことに気づく。

 

「…どうしたんでしょうか?俺、ちょっと行ってきます。」

 

紫のそばに浮く霊魂;アサギは妖夢の元に向かうが、西行妖の周囲に結界らしき物が張り巡らされていて、アサギはそれに弾かれた。同時に、結界の壁が無色透明から白く濁っていき、中の様子が分からなくなっていく。その時、結界がドーム状になっているのをアサギ達は確認したが、正直いって彼らにはどうでもいいことだった。

 

「な、何で結界が…?それに、これじゃあ…。」

「ええ。妖夢が無事かどうかも分からない。エリックくん、試してみてくれる…?」

 

そう言われたエリックは大砲を構え、弾を発射する。炎のように赤い弾は結界に着弾すると、赤き光を伴ったそこそこの爆発が炸裂する。10秒も立たず、爆発による煙が収まり、着弾点が見えてきたが、傷ひとつついていない。

 

「うーん、アラガミバレットで傷ひとつ付けられないなんて…。ドームの中からオラクル反応が確認できるんだけどね…。」

 

歯軋りするエリックに、アサギは純然たる質問を投げ掛ける。

 

「…えっと、オラクル反応って、何ですか?」

 

「オラクル反応ってのは平たく言うと、敵がアラガミかどうかの指標だよ。僕のサングラスはそれを可視化できるんだ。あのドームの中に大樹の影と、人の影が一人分ある。それらがアラガミだよ。」

 

「へえ…、すごいですね、そのサングラス…。ってアラガミが二体もあの中に居るんですか!?それってヤバイんじゃ…。」

 

「うん。妖夢ちゃん、あの禍々しい剣もそこに置いていっちゃってるし…。」

 

そう言うエリックの視線の先には、地面に横たわる黒きオーラに覆われた日本刀があった。妖夢はアラガミに唯一対抗できるかもしれない手段を持たずに、ドームの中にいることを、その場に居たものは理解せざるを得なかった。

 

「…仕方ない。私が救出に行くわ。これでも"境界を操る程度の能力"を持つ大妖怪だし、本人が忘れていても、妖夢は幽々子にとって特別な娘だしね…。」

 

紫はそう言うと、結界に近づき、結界に穴を開けようと両手を触れた。その瞬間彼女の体が激しく痙攣し始める。

 

「あがががが、ででで電撃きいいい!?ゆゆゆゆ幽々子お、ななな何ででで…?」

 

そこまで言ったところで、紫はその場に倒れる。

「…紫様!」

 

アサギとエリックが駆け付けると、紫はまだ全身にわたって痙攣が続いていて、白目を剥き、口からは泡を吹いている。触れた両手は手のひらが黒く焦げている。大妖怪の往生としては、余りにも惨めである。

 

「紫様もこんなんじゃ、一体どうすればいいんだ…。」

 

アサギが頭を抱える代わりに地面に体を擦り付ける。その彼の耳に、気になる言葉が飛び込んできた。

 

「もう、彼の力を借りるしかないか…。」

 

その言葉にアサギは浮き上がって側にいるエリックを見た。エリックは自らの武器の大砲を地面に置いて、右手をズボンのポケットに突っ込む。再び取り出された右手には、妖夢が大好きだったウルトラマンティガにはよく出てきた、変身道具スパークレンスらしき物が握られていた。

 

 

 

その頃ドーム状の結界の中では…。

 

「ゆ、幽々子様…、何故…こんなことを…。」

 

妖夢の手や足、胴体には西行妖から枝が触手の様に絡み付いている。更にその枝は妖夢の身体を段々きつく締め付ける。

 

「妖夢ちゃん、って言ったっけ?私はあなたを知らないけど、私を慕ってたのなら、なってくれないかしら?尊い犠牲に…。」

 

「尊い…犠牲…?何の…ですか…?」

 

「この西行妖のよ。この樹はね、我が西行寺家の繁栄を願ったお父様が私たち子孫に残してくれたものなの。まあ、それを快く思わない人達に封印されちゃったけどね。」

 

そう言って、幽々子は西行妖の幹の肌を撫でる。それがまるで喜ばしいと言うかのように、幹の表面は放つ赤紫色の光を強弱させる。

 

「この子が復活するには、人の血が必要なの。後何人かのね。あなたはその尊い役目に選ばれたのよ?喜ばしいことじゃない。」

 

「…そんな…訳の…分からない…ことで…、私の…命を…差し出すわけには…いきません…。それに…、本当の…幽々子様は…こんなこと…しない…はずです…。目を…。覚まして…ください…!」

 

「…物分かりの悪い娘ね。あなた達の知る幽々子は、本当の私じゃないんだって。それに、人の言うことを聞かない娘はこうなるって、あなたのお母様は教えなかった?」

 

そう言うと、幽々子は袖に仕舞っていた短刀を取りだし、妖夢に詰め寄る。幽々子は一笑いすると、妖夢の左手をつかみ、左手首を短刀で切った。あまりの激痛に妖夢の身体は一回痙攣し、左手首からは暗い赤の液体が流れ出した。その液体は樹の肌に触れると、樹の肌に吸収され、樹の肌は先程のように赤紫色の光が明滅した。同じように右手首、右足首、左手首と短刀の刃で切られ、その度に妖夢は痙攣し、樹の肌は光を明滅させる。妖夢の身体からは小さな4つの滝のように血が流れだし、妖夢は貧血を起こしたのか意識が段々薄くなり、目が虚ろになってくる。

 

「うふふふ…、この樹もあなたの血で喜んでいるみたいよ。でも、まだ足りないわ…。首の頸動脈ってところを切れば、もっと出るかしらね~。」

 

「…!止めて…下さい…。幽々子様…。目を覚まして…!」

 

「まだそんなことを言ってるの。まあすぐに楽になるから、じっとしてなさい。」

 

幽々子はそう言って、妖夢の口を塞ぐ。妖夢には最早目を閉じるか開けるかくらいの選択肢しか残されていない。妖夢の首に刃が突き立てられ、刃が皮膚を切り裂こうとした、その時だった。それまで傷1つついていなかった結界の壁に、ヒビが入り始めた。ヒビは段々大きくなり、やがて果てしなく広がっているように思える壁一面に広がる。幽々子は結界の崩壊を悟ると、妖夢から離れ、何かの詠唱を始める。

 

 

 

結界の外側には、アサギと気絶している紫、そしてエリックが変身したウルトラマンティガがいた。ティガが四方からハンドスラッシュを撃ちまくったお陰で、結界に無数のヒビが入った。ヒビが全体に広がった頃、結界のドームに異変が起こった。ドームが少しずつではあるが、上へ上昇を始めたのだ。

 

「…!もう時間がない。エリック、いやティガ、頼んだぞ…!」

 

アサギの頼みにティガは大きく頷く。暫くすると、最初はドーム状だった西行妖を包む結界も、今や球形となり、上昇を続けている。その結界に身体を向けたティガは、両腕を前方で交差させ、左右に大きく広げた。彼のカラータイマーを中心に濃い紫のエネルギーらしきものが集約する。ウルトラマンティガの必殺技の1つ、ゼペリオン光線だ。

 

「チャァッ!」

 

L字に交差した腕から、白色の光線が放たれる。光線が命中した結界は激しい桜色の明滅を繰り返した後、硝子が砕けるように消滅した。

 

 

それを確認するなり、ティガば飛び上がって西行妖のもとへ向かう。西行妖に追い付いたティガが見たものは、彼を妖しげな微笑みで見つめる幽々子と、枝に拘束され四肢から流血が見られる妖夢の姿だった。ティガは妖夢への接近を試みるが、周囲の枝がティガに行かせまいと攻撃を仕掛け、更には幽々子の符の攻撃もティガを襲う。地上にこそ落ちなかったものの、高度をかなり下げられたティガのカラータイマーが赤く点滅し始める。ティガは上昇する西行妖に焦りを感じざるを得なかった。

 

 

再び上昇を続けるティガは妖夢が拘束されている箇所を見て、あるこ気がついた。先程枝と言ったが、正確には一本の大きな根に張り付くように小さな根が彼女の四肢や胴体にまとわりついている。そしてこの根が今、だらしなく下にぶら下がっていたのだ 。

 

"あの根っこごとうまく切れたら、妖夢を助けられるかもしれない。そして、加速しながら上昇する西行妖に一番相性がいいのは…。"

 

そう思ったエリック、いやティガは両腕を額のクリスタルの前で交差させ、勢いよく下へ下ろす。赤と紫、銀の模様が走った身体が、紫と銀の模様へと変わる。スカイタイプは空中戦闘に特化した形態だ。特有の高速飛行で西行妖との距離を一気に詰め、妖夢の捕まっている根に迫る。幽々子もそれに気付き符での攻撃を仕掛けてくるが、回避にも特化しているスカイタイプのティガは、ぬるぬると避けていく。そして妖夢を拘束する根を見据えると、ティガ・スカイチョップで根を切断した。妖夢を乗せた大きな根は、宙を少し舞った後、ティガの手の中に収まった。

 

ティガはこのまま追撃を加えようと一瞬思ったが、妖夢を地上に下ろすのが先決と思い、地上に降下することを選んだ。地上に着いたときには、西行妖は遥か彼方のところにあった。追跡を諦めたエリックは変身を解除し、妖夢の手当てを行う。途中妖夢が"幽々子様…幽々子様…"と譫言のように呟いているのを、アサギとエリックは痛ましい顔で見つめていた。

 

 

 

次の日、妖夢は白玉楼の寝室で目覚めた。周りには永遠亭印の輸血パックや点適用栄養剤のパック、注射器等の医療器具が散らばっている。

 

「あれ…?私…、幽々子様に殺されたはずじゃあ…?今までのは全て…夢だったのでしょうか…?」

 

「夢ではないぞ。」

 

妖夢の独り言に答えたのは、念力でお粥を運んできたアサギだった。妖夢は「ありがとうこざいます。」と言ってお粥を受け取り、口で冷ましながら口に一口ずつ運ぶ。アサギは昨日のことについて妖夢に話始めた。エリックがウルトラマンティガであることも含めて。妖夢も結界内での出来事について話し出すが、途中で妖夢の涙が頬を伝ってお粥に落ちているのに、アサギは気がついた。

 

「おい、妖夢。どうしたんだ。」

 

「何で…、幽々子様が…。うううっ…。」

 

このあと、妖夢の泣きが小一時間ほど続き、アサギは妖夢の背中に乗っかってさするくらいしか出来なかった。

 

 

 

暫くすると、紫が寝室を訪れ、アサギと妖夢をエリックの待つ居間へと誘導する。紫からは生前の幽々子のことについて、少し詳しい説明があった。幽々子の父である歌聖は、1000年前幻想郷随一の陰陽師だったらしい。しかし、彼が西行妖を用いた幻想郷転覆を企んだ為、八雲家は歌聖を含む西行寺家の一族を皆殺しにした。その時、紫は自らの友人だった幽々子の始末を命じられたと言う。

 

「そんなことがあったんですか…。紫様、幽々子様両方残酷な運命の下だったんですね…。」

 

「あの時割りきったつもりだったんだけどね…。今でも時々あの時の幽々子が夢に出てくることがあるの。本当にああしてよかったのか、今でも迷っているわ…。」

 

続いてエリックからはアラガミについての話が主になった。アラガミはオラクル細胞と言う特殊な細胞の集合体である。細胞自体がかなりの物理・化学的耐性を持っている上に、強固な細胞結合のせいで、通常の武器では全く歯が立たない。それ以外に人間が恐れている特徴は、何でも食べると言うことである。これのせいで多くの人命だけではなく、建造物など人類の貴重な文明の産物が多く失われた。このようなことを説明され、周囲には絶望感に似たものが漂った。

 

 

そこにエリックは付け加える。人類はもうアラガミと対等に戦うための力を着けていることを。それこそがエリック達ゴッドイーター。彼らは神機と言うオラクル細胞の力を受けた武器を用いて、アラガミにダメージを与え、倒す。彼らはフェンリルと言う世界的組織に属し、アラガミに襲われる人々を守っている。しかしいいことばかりと言う訳ではなく、アラガミの力を得たとはいえアラガミに喰われるリスクはきちんと存在し、アラガミの力が暴走して自身がアラガミになってしまい、殺処分された人もいると言う。

 

 

次の説明では、フェンリル極東支部に連絡してゴッドイーターを派遣して貰うので、彼らの指示に従ってフェンリル極東支部に避難してほしいと言うものだった。説明が一通り終わり、エリックが耳のインカムで通信を行う。口調から、彼の友人と話しているらしいと、妖夢は推測した。妖夢は「すみません。話したいことがあるんですが…。」と言ってエリックに話しかける。エリックは一端通信を終了させ、妖夢に向き直る。

 

「何かな?」

 

「エリックさん。私を、ゴッドイーターにしてもらえませんか?」

 

「…それは君がゴッドイーターになりたいってことかい?」

 

妖夢ははっきりと頷く。しかし、ゴッドイーターの仲間内ではゴッドイーターになってから後悔するものも少なくないというのを知るエリックにとって、素直に歓迎は出来ない。それにゴッドイーターは誰にでもなれると言う訳ではなく、適性と言うものがある。その事を妖夢にも伝えるが、彼女の意思は変わる様子はない。

 

「…何が、君をそこまで駆り立てるんだい?」

 

「…私は今まで、この刀の神話を信じてきました。この刀は一振りで妖怪10匹を倒せると言われています。ちょっと分かりにくいかもしれませんが、それだけ強いと言うことです。でも、アラガミを前にして儚く散ってしまいました。」

 

そう言って妖夢がちゃぶ台の上に置いたのは、桜模様の鞘から抜いた彼女の愛刀、楼観剣。刃がほぼ削れていて、残りの刀身も簡単に折れてしまいそうなくらい細く、ボロボロになっていた。

 

「もうこの刀で戦うことは出来ません…。でもエリックさんの話を聞いているうちに、思ったんです。その神機があれば、アラガミに対して優位に戦えるし、この世で一番強い武器ということになるじゃないですか…!」

 

「ま、まあ、そんな捉え方も出来ない訳じゃないかな?でも、神機を持って君は何と戦いたいんだい?」

 

「まあ、昨日のアラガミは勿論のことですが、私はそれを以て、幽々子様と戦いたいです。」

 

「え?でも、彼女は君にとって大切な人だろ…?紫さんやアサギ君にとっても…。それを何故…?」

 

「…結界の中で私が囚われていたとき、幽々子様は私を知らず、父の目的の為なら人殺しもいとわないということを言ってましたが、私はそれが幽々子様の本意だということに、納得出来ないんです。あの時は幽々子様とまともな話が出来ませんでしたが、次は対等の立場で幽々子様と話したい…。そして、心変わりさせたいんです!」

 

エリックはそんな妖夢の言葉を聞くと、腕を組んで考えを巡らせ始めた。安全性から言えば、彼女には他の避難民と同様に居住区へ避難してもらうのがベストだか、彼女の意を無にする訳にもいかない。彼には、妖夢がゴッドイーターになれる要素が少しでも必要で、考えを巡らせたところ、昨日西行妖の復活の引き金になった刀、妖刀「叢雲」のことを思い出した。一頭だけだか、アラガミを一撃で倒していた。

 

「あの黒い刀…妖刀「叢雲」。何処から持ってきたのかな?」

 

「えっと、入手の経緯は…。お祖父ちゃんが手に入れたものなので、詳しくは分かりませんが、昔旅の途中で手にいれたみたいです。」

 

「そうか。これはあくまで僕の推測なんだけど…、西行妖からはオラクル反応が出ていた。それを封印していたと言うことは、神機の一種である可能性が高い。それを扱えたと言うことは…。」

 

「え?と言うことは…。」

 

「君はゴッドイーターの適性があるかもしれない。勿論、確実ではないけどね。」

 

「そ、それじゃあ…! 」

 

「適性を確かめるには、適性試験を受けなきゃならない。行くんだったら、早くの支度をお願いするよ。僕の相棒も心配するだろうし。」

 

「…はい!分かりました!1時間で支度します!」

 

それから妖夢は寝室などの部屋を飛び回り、自らの荷物を居間に運んだ。家具など特別大きなものは無かったが、それでもかなりの量になったので、要らない物を元の場所に戻したり、ゴミとしていつもの集積場所に置いた。最後の意味合いの家の掃除を含め、エリックの待つ階段の前に着いたときには3時間が経過してしまっていた。エリックは「待っている間に、持っていた小説の本を一周しちゃったよ…。」と言って、不機嫌な顔をしていた。妖夢はひたすらに頭を下げ、謝罪の言葉を連続して放つ。少しすると彼は期限を直し、アサギを含めた三人は、長い階段をひたすらに駆け降りる。

 

 

 

それから数日後。妖夢はフェンリル極東支部内にある難民一次避難場所に、多くの着の身着のままの人達の中にいた。ゴッドイーターになるためには、まずフェンリルの管理する戸籍に登録し、遺伝子検査を経た後、適合試験をクリアしなければならないとエリックは説明していた。早速妖夢は戸籍登録と適性検査の手続きを行った。だが、適適性検査の結果が出るまでは4-5日ほどかかるという。エリックは、その間彼の家に泊まるように進言したが、妖夢は「家の人に悪いです。」と辞退し、その日までここで過ごすことにした。ここでは朝と夕方に配給が有り、妖夢は避難民の人と長蛇の列をつくって食料を受けとるのだか、皆避難民生活が長いのか目が虚ろ、身体も痩せていて、餓鬼と間違えるような人々ばかり。妖夢はそんな中自分だけがピンピンして彼らの食料を盗っているような罪悪感さえ覚えるが、生物の性により、妖夢はその列から離れることはしない。

 

一時間待った結果、やっと順番が回り、妖夢は配給を受けとる。急ぎ足で自分のビニールシートに帰り、配給の中身を確認すると、小さな乾パン3枚、コンソメのキューブ2つ、缶の御茶一缶が入っていた。

 

「…今日も少ないな。俺は完全な霊体だから食べなくてもいいけどさ。なあ、妖夢?」

 

「…こんなにたくさんの人に食料を届けなければならないんですから、仕方ないですよ。まあでも、たくさん食べる幽々子様にご飯とか大盛りにしていたのがまるで昨日のようです…。」

 

こんな話をアサギとしながら、妖夢は少ない食料を平らげる。数日前に適性検査の申請をし、DNAのサンプルとか言うので妖夢は髪を差し出したが、何の返答もない。妖夢の中にも、"ゴッドイーターになれない"という絶望感が漂う。かといって、今更白玉楼に戻れない。そんな妖夢に、一人の男が近づいてくる。

 

「やあ、妖夢ちゃん。元気だったかい。」

 

彼は妖夢をここまで導いたとも言える青年、エリックである。こちらではゴッドイーターであることは勿論、良いところのお坊ちゃんらしいと言うことを噂で耳にしていた。

 

「…これが元気があるように見えるのか。」

 

「…うん。数日も待たされてちゃ、当然だよね。僕の無礼を許してくれ。」

 

「…いえ、いいですよ。傷つけられたとは思ってません…。」

 

「まあ、妖夢が良ければそれでいいけど…。ところで、フォーゲルヴァイデ財閥の御曹司がこんなところに何か?」

 

「…あまりその事を言わないでくれるかな?親戚の間でも、僕がゴッドイーターになったことについて、反対の声がまだあるんだよ…。それより、今日は妖夢ちゃんにこれを渡しに来たんだ。」

 

そう言ってエリックが差し出したのは、切手の位置に竜のスタンプが押された一枚の茶封筒。竜の印はフェンリルの公式ロゴなので、これはフェンリルからの公式通知と言うことになる。

 

「…適性検査のことだと思う。開けてみて。」

 

妖夢は「はい…。」と頷き、丁寧に封筒を開ける。その紙の内容は、DNA鑑定の結果妖夢が適性検査を無事パスした、ということだった。妖夢の瞳に光が戻り、そこから雫が垂れてくる。エリックとアサギもそれを横から見た。

 

「おお…!予備検査、パスしたんだな…!おめでとう…。」

 

「ええ…。よかった…。本当に、嬉しいです…!」

 

「おめでとう。でもまだ適合検査が済んでいないから、楽観は出来ないけどね。それに…。」

 

エリックは少し俯いた。妖夢が理由を尋ねると、適合検査で過去に数えきれない人々が亡くなったという話しで、妖夢の背に悪寒を走らせた。しかし、それでも妖夢の決心自体は揺らいでいないようだった。

 

「…あれ?妖夢。封筒の中にもう一枚入ってるぞ?」

 

アサギのアドバイスで中を確かめると、確かにもう一枚入っていた。そこに書いてあったのは、今日の1100に適合検査を行うので、それまでに時間厳守で第101訓練室に来てほしい、ということだった。妖夢が辺りを見回すと、先程の配給受付の時計が、10時ちょうどをを指していた。

 

「よ、妖夢ちゃん!急がないと!第101訓練室って結構遠いよ!」

 

「え!そうなんですか!?本当に急がないと!」

妖夢は引いていたビニールシートや寝袋を急いでたたみ、それらを配給受付窓口に返却した。すぐに引き返して荷物をまとめた妖夢はアサギと共に、希望を胸に抱いて、階段を駆け上がっていく。

 




やっと第零話終わりです。長かった…。因みにここ出ててくる西行妖は、ウルトラQに出てきた植物獣みたいな扱いでOKです。次回からはもう少しプロットなんかをしっかりくんで、資料集めも積極的にやっていきたいです。

次回は第一話「ゴッドイーターの少女とウルトラマンの青年」
次回もお楽しみに!


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第一話前編「少女、ゴッドイーターになる。」

ゲーム的にはここから開始となりますね。
長らく投稿をすっぽかしておりましたが、
ゴッドイーターリザレクション発売を契機に、
投稿を再開いたしました。

(ちなみに予約版ではありませんが、発売日にリザレクション購入しました。青アリサがお気に入りですが、彼女ばかり使ってると元のアリサの出撃回数が増えないのが悩ましいところ…。)

ちなみに第一話から、前編はアラガミとの戦い、後編にウルトラマンティガによる怪獣との戦いを描こうと思っております。

それでは、本編どうぞ。




妖夢「…ふう。」

 

適合試験を無事終え、身体検査を終えて自室のベットで目覚めた妖夢は、先程右手首にはめられた腕輪を眺めていた。

 

アサギ「…妖夢、大丈夫か?さっきの適合試験、相当痛そうにしてたけど。」

 

妖夢「ええ。それは問題ないです。痛みも引きましたし。しかし、こんなにあっさりとゴッドイーターになっちゃうとは思ってもみませんでした。もう少し修行をした後になるのかと思ってたので…。」

 

アサギ「まあな…。けどウルトラマンティガでも、ダイゴは突然選ばれていきなりなった訳じゃん。その後で戦い方を段々覚えていったわけだし。これからってことじゃないか?」

 

妖夢「そうですね。まだ神機も握っただけですし、これから鍛練を重ねて…。」

 

その時、スピーカーから部屋一杯に受付の女性と思われる声のアナウンスが響き渡った。

 

アナウンス「本日着任の魂魄妖夢さん。魂魄妖夢さん。演習の準備ができましたので、第五演習場に来てください。繰り返します…。」

 

アサギ「おっ、早速来たな。」

 

妖夢「ええ。行きますか。」

 

妖夢はそのままベットから起き上がると、小さなテーブルの上にあった幽々子の写真を胸ポケットにしまい、倒れていたウルトラマンティガのスパークドールズを立て、そのまま部屋を出た。

 

 

 

数日後、妖夢はエントランスの受付前のソファーにてとある人物を待っていた。新型神機使いへの期待に違わない十分な演習成果を上げるようになった為、通常より早く実戦に出されることになったのだ。初陣ということもあって、極東支部随一のゴッドイーター雨宮リンドウが同行することになっていた。

 

アサギ「いよいよ初陣だな。気張っていけよ!」

 

妖夢「当然です!…それにしてもリンドウさんってどんな人なんでしょう?」

 

アサギ「極東支部ではそのカリスマと同行者の生還率の高さから人気があるんだってな。」

 

妖夢「ええ。いったいどんな人なんでしょうか…。」

 

そんなことを二人が話していると、エントランスの階段を降りてくる一人の男が目に留まった。彼は片目が隠れるほどの黒髪の男性だった。

 

ヒバリ「あ、リンドウさん。支部長が見かけたら、顔を見せにこいと言っていましたよ。」

 

黒髪の男性「オーケー。見かけなかったことにしといてくれ。」

 

アサギ「おっ、あの人かな?」

 

妖夢「そうみたいです…。あっ、こっちに来ます。」

 

黒髪の男性「よう、新入り。おれは雨宮リンドウ。形式上お前の上官にあたる。…が、まあめんどくさい話は省略する。とりあえず、とっとと背中を預けられるぐらいに育ってくれ、な?」

 

妖夢「は、はい!」

 

すると横から黒のショートカットの女性が割り込んできた。

 

ショートカットの女性「あ、もしかして新しい人?」

 

リンドウ「あー、今厳しい規律を叩き込んでるんだから、あっちいってなさい。サクヤ君。」

 

ショートカットの女性「了解です。上官殿。」

 

ショートカットの女性は妖夢に笑顔を見せながら手を振り、去っていった。

 

妖夢「…彼女はリンドウさんの同僚なんですかね?」

 

アサギ「ああ…そうかもな。それにしてもあの人、胸がすげぇ…。それにひきかえ…。」

 

そう呟いてアサギは妖夢の方を一瞥する。主に胸の辺りを。

 

妖夢「あ、アサギ!?わ、私はこれから大きくなるんですからねっ!」

 

リンドウ「ん?何かあったか?新入り。」

 

妖夢「あ、す、すみません。続きをどうぞ。」

 

リンドウ「あ、ああ…。まあそういうわけで、だ。早速お前には実戦に出てもらうが、今回の緒戦の任務は俺が同行する。…っと時間だ。そろそろ出発するぞ。」

 

妖夢「はい!」

 

妖夢はリンドウの後について階段をかけあがり、出撃ゲートを潜っていった。

 

 

 

それから一時間後。妖夢の初陣は意外と呆気なく終わった。任務内容はオウガテイル一体の討伐だったのだが、リンドウの支援と神機に憑依したアサギによる的確なコントロール、幾度の演習で貯まった経験が項を労したようだ。ちなみに妖夢の神機の構成はロングソード、スナイパー、シールドである。演習で様々な武器形態を体験し、選択した。

 

リンドウ「おお、新入り。中々の立ち回りだったじゃないか。」

 

妖夢「いえ。演習やリンドウさんのサポートの賜物ですよ。」

 

リンドウ「いや、でも初戦で彼処まで立ち回れるのは大したもんだ。フェンリル士官学校出身じゃないみたいだが、ゴッドイーターになる前も戦闘関係の職業だったのか?」

 

妖夢「え、ええ。要人の護衛で…。」

 

リンドウ「そうだったか。…ところで、名前をきちんと聞いてなかったな。書類で一応見てはいるんだが、教えてくれないか?」

 

妖夢「え、ええ。魂魄妖夢といいます。」

 

リンドウ「妖夢か…。これからもよろしくな。」

 

妖夢はリンドウからの握手に応じ、リンドウが呼んだ迎えのヘリを二人で待つことにした。(実際はアサギも含め三人だが。)

 

 

 

荒廃した町を眺めていて、沈黙を破ったのは妖夢だった。

 

妖夢「しかし、信じられませんね。ここが嘗て大都会の中心だったなんて…。」

 

リンドウ「ああ。この極東地域-旧日本国ーは地震が元々多い土地柄で頑丈な建物が多かったらしいが、今となっては見るべくもないな…。」

 

妖夢「外の世界がこんなことになっているなんて知らなかった…。霊夢さんや紫様は何か掴んでたのかな…。」

 

リンドウ「ん?何か言ったか?」

 

妖夢「あ、いえ…。そう言えば、あの女の人とはどういう関係なんですか?」

 

リンドウ「ああ、サクヤのことか?まあ、只の同僚だ。ちょっとだけ親密な、な。」

 

 

 

そこから再び沈黙が始まる。それを破ったのは、リンドウでも、妖夢でもなかった。

 

エリック「おっ、妖夢ちゃんじゃないか!おーい!」

 

妖夢「え!?エリックさん?」

 

エリックは黒肌に白髪のパーカーの少年と共に妖夢達のもとに歩み寄ってきた。

 

リンドウ「何だ、妖夢。エリックと知り合いだったのか。」

 

妖夢「知り合いも何も…。命の恩人といっても過言じゃないですよ!あの時はありがとうございます!」

 

エリック「礼には及ばないよ。人類のヒーローとして華麗に当然のことをしたまでさ。」

 

リンドウ「ほう?どうやったんだ?」

 

妖夢「えっとですね…。」

 

エリック「ちょっと待った。」

そう言ってエリックは妖夢に詰めより、小声で彼女の耳元に囁いた。

 

エリック「悪いんだけれど、僕があの巨人であることについては臥せてくれるかな?そう簡単に他の人に正体を知られるわけにはいかないんだ。…いいね?」

 

妖夢「は、はい…。」

 

白髪の少年「何を話してるんだ。情事だったら別のところでやってくれ。」

 

妖夢「じ、情事って…!?」

 

エリックは妖夢から一旦離れた。

 

エリック「おっ、もしかしてソーマ、妬・い・て・る?」

 

ソーマ「ば、バカ言うんじゃねえ!!」

 

妖夢「え?え!?」

 

妖夢は顔を真っ赤にして口を押さえている。

 

ソーマ「お前も真に受けるな!」

 

リンドウ「ハハハ…。任務後とはいえ同じところで出くわすとはな。そちらはどうだった?」

 

エリック「ええ。ソーマと共に、ボルクカムラン一体を華麗に葬ってきましたよ。」

 

ソーマ「お前はほとんど後方にいたがな。」

 

エリック「まあまあ。そう言えば、リンドウさん。ちょっとお願いがあるんすけど…。」

 

リンドウ「何だ?」

 

エリック「妖夢ちゃんを借りて宜しいかなと。今日家で社交パーティがあるんで、妖夢ちゃんにも参加してもらおうかと思って。家の人に彼女を紹介したいですしね。」

 

妖夢「パ、パーティ!?い、いやいや家の人に紹介だなんてすこぶる早いですし…!?それに衣装も…。」

 

エリック「大丈夫大丈夫。この僕が華麗にコーディネートしてあげるから。…で、いいっすかね?リンドウさん。」

 

リンドウ「…分かった。妖夢、行ってきな。報告は俺が済ましておくから。その代わりエリック。羽ばたいたばかりの彼女を死なすんじゃねえぞ?」

 

エリック「勿論です、リンドウさん!華麗なるゴッドイーターの名に懸けて!」

 

ソーマ「それじゃ、俺も退散するぜ。人の集まりは好きじゃねえし。俺がいるとな…。」

 

エリック「つれないなあ…。よし、じゃあ行こうか、妖夢ちゃん。」

 

妖夢「え、ち、ちょっと!?」

 

妖夢の頭の整理が追い付かないまま、エリックの力強い手は彼女を引っ張っていく。アサギも少し不満げな顔を浮かべながら、二人を追いかける。迎えと思われるヘリの音を後方に聴きながら。

 

-第一話後編へ-




妖夢の装備の詳細が明らかになってませんが、まだ決めているところなので、後程…。

さて、第一話後編でまた会いましょう!


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