八幡「765プロ?」 (N@NO)
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こうして彼の物語が始まる。

初投稿ですので温かく見てもらえるとありがたいです。
では、短いですがどうぞ。



▼(追加)1話、少し修正させてもらいました。これからちょっとずつ前の話を修正していこうと思います。



アイドルは俺とは住む世界が違う。

 

テレビをつければそこにいて、不特定多数の者たちに元気を与える。

 

見ているだけで心が満たされあたたかくなる。

 

しかし、彼女らはテレビや雑誌の中で見ることが多く、コンサートなんかに行けない俺からしてみれば二次元と何ら変わりはないのだ。

 

 

逆説的にアイドルが二次元なのであれば、漫画やアニメを見て心が満たされるのもおかしなことはなく、別に俺がかがみんで心が満たされようが、「キモオタ乙」などと言われる筋合いはないのである。

 

 

 

結論を言おう、俺とアイドルは住む世界、いや、住む次元が違うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「それが……、どうしてこうなった……」

 

 

 

 

 

 

時を遡り2週間前。

俺はいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。

奉仕部でいつも通り依頼人が来ることなく俺や雪ノ下は読書。

 

今日、由比ヶ浜は三浦たちとパンケーキを食いにいっているらしい。

 

…てか、パンケーキって何だよ。ホットケーキと何が違うんだ。それに、何、あのクリームのペガサス昇天盛り。

ギャルなの?ギャルでしたね…あーしさん…。

 

 

 

雪ノ下「依頼も来ないようだし今日はもう終わりにするわ。そこの…比き…ヒキガエル君だったかしら?あなたも帰ったらどうかしら?」

 

奉仕部部長である雪ノ下が壁にかかっている時計を見ながらそう告げる。

 

八幡「おい、雪ノ下。いい加減俺の名前をわざと間違えるのはやめろ。俺が小学生の頃思い出しちゃうだろうが」

 

因みに途中からヒキが抜けてカエルになっていた。おい、誰だよめんどくさくなってんの。比企谷要素0じゃねーか。もう誰だかわかんねーよ。

 

八幡「まぁ、時間も時間だし俺も帰るわ。小町が待ってるだろうしな」

 

それに今日は竜宮小町がWステに出るからな。帰って録画の準備をしなくては。

 

雪ノ下「そう。なら私は鍵を平塚先生に返して来るから早く部室から出なさい」

 

そう言うと雪ノ下は革のカバーを着けた文庫本を机の上に置き鞄を取ると教室の外へと出ていった。

 

八幡「へーへー」

 

おれも自分の鞄に読んでいたラノベをしまい教室の外へと出る。

いやぁ、ほんとラノベっていいよね。

 

 

 

 

 

 

竜宮小町楽しみだな。べ、別にグループ名に小町が入ってるから好きなわけじゃないんだからね。とか下らないことを考えながら帰っていると急に誰かに声をかけられる。

 

やべ。そんなに俺ニヤけてたか?通報されちゃうの?

 

そんな不安を蹴り飛ばすかのような良い声でその誰かは話してくる。

 

「うん。君!いい目をしているねー!」

 

八幡「…はぁ?」

 

自慢じゃないが俺の目はそれなりに腐っていると評判だし、俺も自負してたんだがな…。

 

てか、誰だよ。あんた。顔が影で全く見えないとかどーなってんの?

 

「いやぁ、気に入ったよ。君、アイドルをプロデュースしてみないかい?」

 

八幡「……はぇぃ?」

 

何を言っているのか全く理解することができず変な声がこぼれてしまう

 

 

遂に俺は目だけじゃなくて耳も腐ってきたのかもしれない。

噂の難聴系主人公?になっちゃうの?これから奉仕部じゃなくて友達作る部活に入っちゃうの?

 

「私はこういうものだ。おっと、会議に間に合わない。君、後でここに連絡をしたまえ。詳しく話そうじゃないか」

 

八幡「」ボウゼン

 

そう顔の黒いおっさんが言い、名刺を俺に渡すと腕時計を確認してそのまま歩いていく。

少し離れたところでおっさんが振り返り少し大きな声で忘れていたらしい用件を聞いてくる。

 

社長「あぁ、君の名前を聞いてなかったね!なんて名前かな?」

 

八幡「…ひ、比企谷でしゅ」

 

二人の間に距離があるためこっちも少し声を張らなくてはいけない。

普段あまり大きな声を出すことのない俺は自己紹介ですら噛んでしまう。

 

社長「比企谷君か。ふむ、それでは頼んだよ」

 

 

え、ちょ………

 

そう言い残し謎のおっさんは街中へと消えていった。

 

 

 

 

えぇ?




次の投稿は多分2日後になると思います。キャラのこれじゃない感は許してください。感想や、意見があればお願いします。


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きっと誰しも悩みを抱える。

▼(追加)2話少し修正しました


小町「それで?お兄ちゃん。小町知らない人に声かけたらいけないって言ったよね?」

 

あ、あれ?小町さん?なんで怒ってらっしゃるの?

家に帰ってきて千葉テレビを見ながら小町にさっきあったおっさんの話をしたらなぜか怒られる俺

 

小町「全く。お兄ちゃんが話しかけたら通報されちゃうでしょ。そんなことされたらご近所さんに噂されて困るよ。小町が」

 

八幡「おい、なんで通報されるんだよ。てか、話しかけたんじゃない。かけられたんだ。ほれ、なんか名刺渡してきて連絡しろって。すぐどっか行っちゃったけどな」

 

無駄に文句を言われるのも嫌だったから先程受け取った名刺を小町に渡す。

うけとった名刺を小町がまじまじとみている。

うむ、ちゃんと勘違いをこれでなくせよ

 

小町「えーと、どれどれ?……え、ちょ、お兄ちゃん!これ、ほんと?」

 

八幡「だからそーだっ 小町「えぇー!」て」

 

小町「これは、ヤバイよお兄ちゃん!765プロだよ!765プロ!」

 

八幡「は?」

 

小町「これは、お兄ちゃんがスカウt…されるわけないか。んー、それじゃあなんだろ?」

 

八幡「おい、なんでスカウトされないのがあたりまえなんだよ。いや、無いだろうけど…」

 

プロデュースとか言ってた気がするが面倒だから小町には黙っとくか。

 

小町「まぁ、電話してみたらいいよねっ。果報は急げ。だよ!お兄ちゃん!」

 

八幡「そこは、寝て待てだろうが…」

ほんとにこの子受験生なのかしら。お兄ちゃん不安だわ。

 

八幡「てか、なんにせよ連絡する気はねーよ。どうせ面倒なことだろ。俺は必要ないことはするつもりはないんだよ」

 

小町「ふーん。まぁ、お兄ちゃんらしいね」

 

八幡「ほれ、小町。Wステ始まるぞ」

 

小町「アイアイサー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小町「お兄ちゃん!小町は勉強で疲れているのです!だからお兄ちゃんは小町を東京に連れていかないと行けないのです!」

 

八幡「唐突に何だよ。Wステは?」

 

小町「それは昨日の夜でしょ?今は土曜日だよ」

 

八幡「まじかよ…てか、千葉じゃだめなのか?ららぽとかイオンとかあるし」

 

小町「それじゃー、ダメなんだよー。これだからゴミィちゃんは…。小町は東京に行きたいのです!」

 

何だよ。ららぽとかイオンとかいいじゃん。

幕張のイオンとか超でけーし。

 

八幡「分かったよ。でも、金はないからな。財布に400円しかない」

 

小町「それは高校生としてどうなの…。まぁ、いいや。それじゃあしっかりした格好にしてね!東京だから!」

 

 

あー、あれな。東京は千葉に住んでても都会って感じだしな。ちょっと緊張するのは分かる。

 

駅とか東京特別ルールとかありそうで、びくびくするしな。

 

でもな、おばさん。電車待ち並んでんのに割り込んでくんなよ。それくらい間違っているのは俺でもわかるぞ…。

 

 

 

 

 

 

八幡「で、小町。ここはなんだ?定食でも食べたいのか?」

 

小町に連れられて来たのはたるき亭とか言う定食屋。うん、まぁ、たしかに、うまそうだな。だけどね小町。お兄ちゃんお金ないっていったはずなんだけれどね。

 

 

 

小町「あー、違う違う。その上だよ!お兄ちゃん!」

 

八幡「あ?その上って……。え?765?」

まじか。765プロってこんなとこなの?影薄すぎて気づかなかったわ。というか、

八幡「小町。なんで765プロに?俺連絡してねーし関わってないぞ?」

 

小町「それは小町が連絡しました。」ドヤッ

 

このガキィ。

 

 

 

「あら、もしかしてあなたが比企谷君?」

 

八幡「は、はぁ」

 

なんだ?今、たるき亭からでてきた美人な人に話しかけられたぞ?なんで俺の名前しってんの?

 

小鳥「あぁ!やっぱり!社長から話は聞いてます。聞いてた通りの目ですね!私は765プロの音無小鳥です。どうぞ二人とも、こちらです」

 

 

おい、ちょっと待て。聞いていた通りの目ってあの社長俺のことをなんて伝えてやがるんだよ。

 

 

小町「あ、ごめんなさいー。小町はちょーっと欲しいものがあるから5時間くらい買い物するので、お兄ちゃんは気にせずそのまま話を聞いてていいよ。」

 

小鳥「あら、そうなの?それじゃあ比企谷君。どうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「で、どーして平塚先生がいるんですかね?」

 

音無さんにつれられて事務所にはいると平塚先生がソファでコーヒーを飲んでいた。

 

平塚「なに、君の妹から連絡があってね。それに私は遂に比企谷が働く気になってくれて嬉しいのだよ」

 

八幡「いや、俺は働くとは言ってないし。俺の意見は無視されるんすか…。てか、平塚先生今日は婚か…」

 

ブンッ

 

八幡「」

 

平塚「次は当てるぞ。」

 

八幡「は、はい。」

 

 

 

 

 

社長「おぉ、比企谷君来てくれたね!君にプロデューサーをしてもらいたいんだ。どうかね。受けてもらえないかね?」

 

八幡「え、いや、でも俺学校あるし」

 

平塚「その点は私が何とかしよう。一年間だけならなんとかなるだろう。それに比企谷、このような体験は普通は出来ないよ。今後に役立つかもしれないのだから受けてみたらどうだ?」

 

八幡「…というかなんで俺なんですか?」

 

社長「君の目は真実を見ている目をしているからね。僕は長くこの仕事をしているから、それくらいは分かるよ」

 

八幡「……さいですか」

 

平塚「まぁ、君次第だ。どうする?」

 

 

 

いつもの俺なら絶対に働かないと決めているから断るのだ。

たが、なぜかわからないのだがこの仕事を受けたいと思ってしまった。

 

 

八幡「……分かりました。…やります。だけど、プロデュースなんて俺したことないですよ」

 

小学生のころ自分をプロデュースしたらクラス全員にドン引きされたしな。

 

社長「そうか!ありがとう。プロデュースに関しては律子君や音無君に教えてもらいながらするといい。きっと君ならすぐできるだろう」

 

八幡「…うす」

 

平塚「幸いもうすぐ夏休みだ。そのときにじっくり教えてもらうといい。それから、プロデュースについては雪ノ下や由比ヶ浜にもちゃんと伝えるんだぞ」

 

八幡「な、なんであいつらにまで」

 

平塚「君は奉仕部の部員だろうが。これから部活に出にくくなるのだろうからな、きちんと報告をするべきだよ。それに…何も言わずに来なくなったら彼女らも心配するだろうしね」

 

八幡「あいつらが俺のことを心配なんてしないと思いますけどね」

 

なんなら喜ばれることもあり得る。あいつら最近ゆりゆりし始めてきたからな。

 

 

平塚「そんなことはないと思うがね」

 

 

こうして俺のアイドルプロデュースの道が始まったのである。

 

打ちきりにならねーかな。

 

 

 

 

 

 

 

アイドルたちとの顔合わせや打ち合わせは夏休みに入ってからとのことらしい。どうやらアイドルも学校にいくらしい。正直驚きだ。アイドルが同じクラスにいるなんてことが俺には想像できないからな。

 

夏休みから仕事が始まるらしいのでそれまでは存分に休もう。

 

 

 

 

由比ヶ浜たちには早めに伝えておいた方がいいと平塚先生に言われたから昼休みのうちに由比ヶ浜に二人に話があるから放課後部室にいてくれと話を通しておく

 

 

 

 

由比ヶ浜「ねーねー、ゆきのん。ヒッキーから話があるとか言ってたけど、なにかな?」

 

雪ノ下「さぁ?分からないわ。部活に来なくなるとかじゃないかしら。それだと私的にはありがたいのだけれども」

 

由比ヶ浜「えぇー!ヒッキー来なくなるの?」

 

雪ノ下「た、例えばの話よ。由比ヶ浜さん。それに彼が来なくなったら平塚先生が黙っていないと思うし」

 

由比ヶ浜「そ、そーだよね!」

 

 

 

 

なにやら二人が話し込んでいて入りにくかったのだが意を決してドアを開く

 

八幡「うーす」

 

由比ヶ浜「あ、ヒッキー来た!それで?ヒッキー、話ってなに??」

 

よほど気になっていたのか由比ヶ浜がいきなり本題持ち出してきた

 

八幡「あー。それなんだが、これからしばらく部活に出られそうにないから休む」

 

由比ヶ浜「え」

 

とたんに由比ヶ浜の顔から笑みが消える

 

雪ノ下「比企谷君、冗談は顔だけにしてくれないかしら。只でさえその目なのにこれ以上何を求めるのかしら?」

 

八幡「おい。人を最低なやつみたいにいうなよ。それからな、雪ノ下これは本当だ」

 

由比ヶ浜「ヒッキーはなんでこれなくなるの?」

 

ジッと由比ヶ浜が俺のことをにらむ

 

睨むなよ…由比ヶ浜。悪いことした気になるじゃねーか。

 

自分でも突拍子に伝えすぎたことを反省し、事の始まりから彼女たちに説明をはじめる

 

 

 

八幡「…と言うわけだ」

 

由比ヶ浜「えぇー!ということは、ヒッキーが765プロのプロデューサーになるの!?!?」

 

八幡「おい。声がでかいぞ、由比ヶ浜」

 

由比ヶ浜「あ、ごめん」

 

雪ノ下「それで、平塚先生はなんて?」

 

八幡「やってみるといい、だとさ」

 

雪ノ下「そう」

 

雪ノ下が目をそらし外を見つめる。

 

由比ヶ浜「そっかー、ヒッキーがプロデューサー、ねー。どうしてやろうって思ったの?ヒッキーならそういうの断ると思うんだけど」

 

八幡「さぁな。…何となく、だよ」

 

雪ノ下「由比ヶ浜さん。比企谷君は女の子と触れあう機会がないから合法的に可愛い女の子たちと関われるプロデューサーを選んだのよ。」

 

由比ヶ浜「えっ!?ヒッキーの変態ッ。バカッ」

 

八幡「そんな事実は確認されてないし、そんなつもりもない。それに由比ヶ浜。よく考えて見ろ。俺だぞ?」

 

由比ヶ浜「あっ……ヒッキー。アイドルに嫌われないようにね」アワレミ

 

八幡「自分で言っておいてだが、ムカつくな」

 

雪ノ下「由比ヶ浜さん、そこの変態プロデューサーは放って置きましょう」

 

八幡「変態じゃねーっつーの。まぁ、そういうわけで、休ませてもらうわ」

 

雪ノ下「そう」

 

八幡「おう」

 

雪ノ下が猫のブックカバーをかけた本をとり読み始めたので俺も持ってきていたラノベをよむことにした。

 

由比ヶ浜は携帯でなにやらピコピコしながら時折俺や雪ノ下に話を振ってくるのだ。

 

こうしていつも通りに部活が終わり帰る用意をしていると由比ヶ浜に声をかけられる

 

由比ヶ浜「ヒッキー、今度アイドル紹介してね!」

 

八幡「いや、それはわからんが…。まぁ、その、適当に連絡はする。一応、部員、だしな」

 

雪ノ下「そうね。一応、ね」

 

由比ヶ浜「うん!待ってるね!ヒッキー、頑張って!」

 

八幡「ん。それじゃ、俺は帰るわ」

 

そう言い残し俺は部室をあとにした。

 

 

 

 

 

ン,アレハハチマンデハナイカ,オーイハチマン。ハチマン?キコエテオルノダロウ?

 

ウルセーヨザイモクザ。オレハモウカエルンダヨ。

 

ワレノシンサクヲヨンデホシイノダガ。

 

ヤダ。イソガシイ。

 

ハ,ハチマーーン。

 

 

 

 

 

 




アイドルは次に出てきます。

感想、意見よろしくお願いします。


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彼、彼女らは歩き始める。

▼(追加)3話少し修正しました


小町「お兄ちゃん、お兄ちゃん!今日から頑張ってね」

 

八幡「おー」

 

小町が応援してくれているのだがネクタイをしめるのに格闘しているため適当な返事になってしまう

 

小町「それに!小町が選んであげたスーツだから、元気100倍だね!」

 

八幡「はいはい、そーだな。んじゃ、行ってくるわ」

 

なんとか結び終え鞄を手に持ち玄関を出る

 

今まで制服だったからかスーツに違和感を感じるが、小町が選んでくれたからか割りとこの服は気に入っている。

 

正直、俺は服には特にこだわりもなく着れればいいと思っている。

どうしてリア充達はあんなに服を気にするんだろうな。周りの目なんて気にする必要無いだろう。

 

まぁ、俺の場合、俺の服なんて誰も見てないから周りの目が無いんだけどな。なんなら俺の存在自体がないまである。

 

 

何それ悲しい。

 

 

 

 

 

少し見慣れてきたたるき亭とかいてある定食屋の横の階段を上がりドアを開けた

 

八幡「こんにちは」

 

小鳥「あら、比企谷君、おはようございます!」

 

おはようって音無さん。もう昼なんですけど…。

 

小鳥「ふふっ。この業界では挨拶は基本おはよう、なんですよ」

 

俺何もいってないんすけど…何この人エスパーなの?私、エスパーですから。とか言っちゃうの?

 

八幡「そうなんですか。…おはようございます」

 

小鳥「社長がそこの部屋で待ってますよ」

 

音無さんに言われる通りに隣の社長室に向かいドアをノックすると返事が帰ってきたので中に入る

 

社長「おぉ、比企谷君。おはよう。早速だがアイドルが全員揃ったら君を紹介をしようと思っているから何か自己紹介でも考えておいてくれたまえ」

 

八幡「じ、自己紹介ですか…」

 

俺の中では自己紹介ってトラウマしかないんだよな。

 

クラス替えの時とかに自己紹介させられるがあれはボッチの俺からするとかなりきつい。

 

何がきついかって、先生の「名前と部活、それと何か一言言っていこう。」とか言う謎の制限。

何か一言って言うわりに、よろしくお願いします。とかにすると「え、それだけ?」とか。

 

別に俺は何も言うことないし誰も俺の話なんて聞きたくないだろうが。察しろ。

 

 

 

だが、第一印象はかなり重要なのは間違いないだろう。ハロー効果ってのがあるくらいだ。一応、プロデュースをするわけだから悪印象を与えてはならない。

 

さらに俺には高校1年の入学の時に事故って完全に孤立した前科があるからな。

今回は事故って引かれたりしないといいんだけどな…。

 

さぁ、どうしようかな。

 

 

 

やるからにはちゃんとやらないといけないしな。

働かない、って決めてたが受けてしまったのだから、迷惑をかけない程度には働かないとな。

 

 

 

 

 

 

……何で俺はこの仕事を受けたんだろうな。

 

 

 

 

 

社長「んー。皆揃ったね?私から発表があるんだよ」

 

春香「発表?」

 

やよい「なんでしょーか?」

 

千早「もしかして、新しい仕事かしら?歌の仕事だといいのだけれど。」

 

亜美「ねぇ、りっちゃん」

 

真美「発表って何なのー?」

 

律子「さぁ?私にも何か分からないわ」

 

アイドルが全員揃っているのをみると本当にアイドル事務所であることを実感させられる。

ほら、あの人とか三浦さんじゃないすか。

 

ガヤガヤ

 

オッホン

社長「ついにこの765プロに新しいプロデューサーが入ることになったんだよ」

 

律子「つ、ついに他のプロデューサーが来たんですね!最近私だけではどうにもならなくなってきていたから」ホッ

 

ワーワー キャーキャー

 

伊織「それで?新しいプロデューサーってのはどこにいるのかしら?この伊織ちゃんをしっかりプロデュースできる人なんでしょうね?」

 

真「あ、僕もどんな人なのか気になります!」

 

小鳥「ふふっ、新しいプロデューサーは今日来てるわよ」

 

真「ほんとですか!早く見てみたいなぁ」

 

社長「いやぁ、と言うかここにいる彼が新しいプロデューサーなんだけれどもね…」

 

「「「「え…」」」」

 

一同が驚愕の声をあげ、社長が指差した俺を一斉にみる

 

春香「き、気がつかなかった」

 

貴音「真、私も気付きませんでした」

 

響「じ、自分もだぞ。気配が感じられなかったぞ」

 

 

あー、やっぱり気付かれてなかったのね。

また、俺空気になってるのかと思っちゃったわ。危うく悲しくて帰るところだった。

 

 

いや、空気になってたね。

 

 

八幡「ひ、比企谷八幡です。これからよ、よろしくお願いひます」

 

 

…。

やらかした。

 

 

 

 

雪歩「お、お、お、お」

 

八幡「え?」

 

雪歩「男の人ですぅ。私穴掘って埋まってますぅ」

 

そういうとその女の子はどこからともなくスコップを取りだし穴を掘ろうとする

 

春香「わわっ雪歩っ。事務所に穴掘っちゃだめだよぉーー」

 

真「雪歩、男の人が苦手で。別にプロデューサーが嫌いとかじゃないですから気にしないでください」

 

 

焦った。

初発で嫌われたのかと思ったわ。

しかし、男が苦手なのか。

 

 

やよい「ミキちゃん起きてください。新しいプロデューサーさんですよっ」

 

美希「ミキまだ眠いの。お休みなの」

 

ワーギャーワーギャー

 

 

何と言うか、こうしてみるとアイドルも普通の女子と何らかわりがないな。

由比ヶ浜や三浦もこんな感じだった、と思う。

 

 

 

 

あずさ「プロデューサーさんお若いですね。高校生でも通じますよ」

 

春香「あ、私もそう思います!」

 

八幡「え、あ、お、俺高校生です…」

 

 

 

 

「「「えぇーー!」」」

 

 

 

 

律子「あなた高校生だったの…。若いと思ってはいたけど、疲れた目をしてたからてっきり社会人なのかと…」

 

 

やっぱり目がダメなんですね…。

なんかもうこの扱いなれてきたけど。

 

 

春香「ということはプロデューサーと私たち同年代ってことになるんですか?」

 

小鳥「そうですね」

 

伊織「でも、高校生なんかでプロデューサーなんてできるのかしら?無理があるんじゃない?」

 

社長「いや、彼なら大丈夫だよ。なにせ、私が見込んだ人だからね」

 

(((それは大丈夫なのかな(かしら)。)))

 

 

 

 

 

社長「と言うことでこれからよろしく頼むよ。比企谷くん。」

 

と言うことで俺は無事…アイドルのプロデューサーになりましたとさ。まる

 

 

 

 

 

亜美「それでー?兄ちゃんの推してる765プロのアイドルは誰なのかなー?」ニヤニヤ

 

真美「現役高校生の意見が知りたいですなー」

 

双子のアイドル、双海真美、亜美が質問をしてくる

 

八幡「え、あぁ。そーだな、まぁ竜宮小町だな」

 

やよい「やっぱり竜宮小町なんですねー。そんな気はしてたけれど残念ですぅ」

 

伊織「当然よ。この伊織ちゃんがリーダーなんだからっ。にひひっ」

 

春香「でも、なんで個人じゃなくて竜宮小町なんですか?」

 

 

八幡「いや、その」

 

「「「その?」」」

 

八幡「ユニット名に俺の妹の名前…小町が入ってるからな」

 

真「うわぁ…。プロデューサーはシスコンなんですね…」ヒキッ

 

響「そういうのも…自分はいいと思うぞ?」

 

おい、引くなよ。千葉の兄妹は仲がいいんだよ。妹と結婚式をあげてない俺はまだセーフ。

 

てか、妹と結婚式とかアウトだろ。あの兄貴なに考えてんだよ。かわいいからって限度があるだろ。

 

いや、小町と結婚…。悪くないな。

 

 

 

悪いですね

 

 

律子「それじゃあプロデューサー、仕事についての話を」

 

秋月さんに呼ばれ応接室へと向かう

音無さんと秋月さんからプロデュースについて、みっちり指導された。

要約するとメインはアイドル達の仕事を取ってくることと仕事やレッスンの送迎といったところだ。

 

律子「今までは車だったんだけれど」

 

八幡「俺、免許もって無いですし」

 

そこについては高校生である俺には対処しようがない。

今から免許をとったとしても誰かをのせられるようになるのには時間がかかってしまうだろう

 

律子「まぁ、タクシーや電車を使ってね」

 

八幡「うす」

 

小鳥「ちゃんとそのときに領収書を受けとるのを忘れないで下さいね!」

 

音無さんはお金に関してかなりうるさい感じだな。もらい忘れないようにしないと後が面倒くさそう。気を付けよう。

 

どことなく平塚先生と同じオーラを感じるのはきっと気のせいだろう。

 

 

社長「それから、これがアイドル達のプロフィールだよ。目を通しておきたまえ。彼女らについて知っておかないとならないからね」

 

八幡「ありがとうございます」

 

社長からプロフィールの入ったファイルを受け取る

 

 

とりあえず言われたことはやろう。

言われたことすら出来ないのか。とか、これだからゆとりは。とか思われたくないしな。

 

プロフィールに目を通しながら今後どうしていくか考えているとあることに気づいた。

 

仕事が来ないのこれが原因じゃね?

 

 

 

八幡「…あの音無さん」

 

小鳥「あら、どうかしましたか?プロデューサー」

 

さっきから思っていたがまだプロデューサー呼びされるのに慣れないな。

比企谷って呼ばれるのも慣れてないけど。

 

八幡「お願いがあるんですが…」

 

 




キャラのこれじゃない感はお許しを。

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つまり彼女は気付き始める。

▼(追加)4話少し修正しました


律子「なるほど。確かにそれもあるかもしれませんね。だけれど事務所のお金が…」

 

小鳥「でも、長い目で見たら必要経費ですよ!」

 

律子「うーん、そうねぇ」カタタタ

 

な、なんか眼鏡がすごいことになってるぞ…。

 

律子「そうですね。プロデューサー、その件お願いしますね。明後日には出来ると思いますよ」

 

八幡「ありがとうございます」

 

律子「あなた才能あるのね、初めてのプロデュースだとは思えないわ」

 

秋月さんがそう誉めてくれる。

 

八幡「そーですかね?誰でも思い付くと思いますよ。」

 

だが、本当に大したことじゃない。

簡単なことだ。アイドルが仕事を貰うために一番大切なものは何か?それを考えただけだ。

 

 

アイドル業に大切なもの

 

 

 

 

 

 

それは… 印象だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うわけでスタジオに来たわけだが。

 

 

 

響「自分、どんな服着るか迷うぞ!」

 

春香「そうだね。どんなのがいいかなー?」

 

やよい「うっうー!やっぱり目立つのがいいですよねぇー!」

 

スタジオに来たは良いもののまとまらず、各々ではしゃいでしまっていた。

 

とりあえず俺の話を聞いてくれよ…。

 

千早「プロデューサー、どうしてまた宣材写真をとるんですか?」

 

貴音「私たちは一度写真はとったのですが」

 

困っていたところに二人が質問をしてくる。えっと、たしか如月と四条だったか。

 

八幡「あぁ、それは知っている。だが、初期の宣材写真はまだイメージが決まってなかったから普通の写真になっていたからな。一部を除くが…」

 

社長に見せてもらった宣材写真のなかには半目で写ったものや着ぐるみを着て撮ったもの何かもあり、なんというか働く気あるの?コイツら?と俺ですら思ってしまうものだった。

 

亜美「洗剤?」

 

真美「写真?洗うの?」

 

如月と四条に説明していると双子のアイドル、双海真美、亜美が話に入ってきた。

ちなみに…コイツらが着ぐるみを着ていたわけだ

 

八幡「宣材写真のことだよ。アイドルの仕事は基本的に最初は書類審査だろ。そのときに重要なのが写真だ。イメージにあってるやつが欲しいだろうからな。だから各々自分のイメージにあわせて取り直すことにしたんだよ」

 

なんだかんだと説明していたらアイドルたち全員が俺の話を聞くように集まってきてくれていた。

一応プロだから働く気はあるみたいだ。

アマチュアな俺は働く気はないけどな。

 

伊織「まぁ、あんたにしてはよく考えてるじゃない。頭いいの?」

 

八幡「割とな。それじゃあ、早速自分達の個性が出せるよう考えて着替えてきてくれ」

 

そう告げるとそれぞれ衣装を見に向かっていった。

 

× × ×

 

やよい「自分の個性が出せる格好ですかー。どんな格好でしょうか?」

 

亜美「要は自分が着たい格好をすればいいんだよ!」

 

伊織「そうね。皆は何が着たいのかしら?」

 

真美「真実はー、この前はおサルさんで皆あまりビックリしなかったから、今度はくまで驚かせる!がおー」

 

亜美「亜美は天丼!おいしそーでしょ?」

 

やよい「えっと、私は、私は」

 

亜美「やよいっちはステーキにしなよ!」

 

やよい「す、ステーキ!美味しそうですぅ」

 

伊織「…もう、くまでも天丼でもステーキでもなんでも来なさいよっ!」

 

 

皆がどんなのを選んでいるのか見て回っていると恐ろしい言葉が聞こえてきた。

なんか、あいつら趣旨まちがえてねーか?

 

八幡「なぁ、お前たち、衣装はそういうのじゃなくてもっとh…」

 

不安になり声をかけようとすると双海たちが歓声をあげる

 

「「「わぁー。」」」

 

八幡「ん?」

 

やよい「あずささんきれいですぅ」

 

真美「大人ってかんじだねっ」

 

律子「んー、でももう少し明るい色の方がいいですかね?」

 

あずさ「そうですか?私太って見えませんか?」

 

律子「全然大丈夫ですよ!ねぇ?プロデューサー?」

 

急に秋月さんにそう振られる。女の人の服がどうとかは俺にはよくわからねーんだけど…

 

八幡「…えっと」

 

律子「あずささん、こっちの色もいけますよね!」

 

八幡「そ、そうですね、多分。…いいんじゃないんですか?」

 

亜美「スカートもう少し短くしようか」

 

真美「もっと胸を寄せればなぁ」

 

八幡「ちょ、おい、お前ら…」

 

亜美 真美「「きゃーーっ。」」

 

伊織「なによっ、鼻の下伸ばしちゃって。」

 

八幡「伸ばしてねーよ」

 

…伸びてなかったよね。八幡、ソンナコトシナイ。

 

 

 

 

 

やよい「でもあずささんすてきだよねー」

 

伊織「そ、そうね。…そうだわ!私たちに足りなかったのは大人の色気よ!」

 

「「「おぉー!!」」」

 

やよい「大人の色気ですかぁ?」

 

亜美 真実「「ボンッキュッボンッだよっ!やよいっち!」」

 

やよい「は、はぁ。」

 

伊織「とにかく!私たちもやるわよ!」

 

「「「おお!!」」」

 

 

秋月さんとこのあとの段取りを話して戻ってくるとまた何やら話し込んでいるのが見えた。

 

さっきの話し合いといいあいつら本当に大丈夫なんだろうか…。

 

 

 

 

暫くして天海の撮影が始まりそれを遠目から見ていると水瀬に声をかけられた。

 

伊織「待たせたわねっ」

 

八幡「お前ら……」

 

やっと来たか、と振り返ると…はぁ…。

化粧濃すぎだし何だよその胸。詰めてる感が満載すぎる。服とかなんで破れてるんだよ…。

 

伊織「あら?刺激が強すぎたかしら?」

 

亜美「うーん!兄ちゃんの気持ちも分かるよ!」

 

何やら盛大な勘違いをしているようで、その哀れとも言える格好を自慢のように振る舞っている。

 

八幡「いや、お前たちなに考えてんだよ…」

 

「「「えっ?」」」

 

八幡「時間がないんだ。遊んでる暇なんて無いぞ」

 

伊織「ちょっと、何がダメだって言うのよ!」

 

 

八幡「はぁ。とにかく色々とダメだろ…。化粧落とせ」

 

化粧落としのペーパーを全員に渡し濃い化粧を落とさせる。

 

やよい「うぅー」

 

亜美「ちぇー」

 

真美「せっかく大人の色気だしたのにー」

 

何やら不満のようだったがあれじゃあ秋月さんに何て言われてしまうのやら。

宣材写真の取り直しの意味がなくなる

 

八幡「化粧落ちたか?いいか、お前たちは個性というのを履き違えてるんだよ。」

 

伊織「じゃあ、個性ってなんなのよ?」

 

八幡「そ、それは」

 

改めて個性って聞かれると答えるのに困るな…。個性…か。

 

 

少し考えてみるか。

 

雪ノ下は氷の女王だが、その仮面の下には優しさがある。そして何より自分を曲げない強さがある。

 

 

由比ヶ浜はバカだがそのキャラで周りの空気をよくすることができる。他人の変化にも気づくことができる。

 

 

 

材木座の個性は…中二病だな。あと、うざい。

 

 

 

戸塚は…可愛いな。

あれ?俺どうして戸塚をアイドルにしなかったんだろう。今からでも間に合うかな?

 

 

 

真美「ちょっと兄ちゃん!」

 

八幡「あ、えっと。なんだっけ?」

 

亜美「個性だよっ!」

 

戸塚のことを考えていたら少し旅に出てしまった。いかんいかん。

 

八幡「あぁ、個性だったな。個性ってのはよくわかんねーけど自分らしさをだすことなんじゃねーの?誰かのを真似たところでそれは誰かの個性でしかない。自分は自分の良いところを見つけてそこをアピールする。そういうのがアイドルに必要なものなんじゃないか?」

 

やよい「自分の良さ、ですか?」

 

八幡「俺とか、ほら、イケメンだし、頭いいし、妹思いで優しいし?良いとこしかないな」

 

伊織「どこがよっ。このバカプロデューサー。目は腐ってるし、シスコンなだけじゃないっ」

 

やよい「個性ってつくるものじゃなくて見つけるものなんですね。私にも見つけられますかぁ?」

 

もうそのキャラが十分な個性だと思うんだが。

 

亜美「亜美は真美の良いところをしってるよー!」

 

真美「真美も亜美の良いところをしってるよー!」

 

八幡「なら、二人で話し合って決めたらどうだ?お互いがお互いのことをよくしってんだろ?」

 

亜美 真美「「そっか。そーだよねっ」」

 

亜美「兄ちゃん!亜美たち着替えてくるね!」

 

八幡「おう。行ってこい。」

 

伊織「…いいなぁ」ボソッ

 

息ぴったりな双海姉妹を見ながら水瀬がそう呟く

 

八幡「どした」

 

伊織「な、なんでもないわよっ。ただ…あの二人には自分をよく知っている人がいて良いなって思っただけよ」

 

 

なるほど

 

そういうことか

 

 

八幡「なぁ、水瀬。いつものウサギはどーしたんだ?」

 

やよい「あ!そういえば伊織ちゃんシャルルちゃんといつも一緒ですね!」

 

俺の問いに高槻も反応する

 

八幡「今日はシャルルは留守番なのか?」

 

俺の質問で気づいたのか、まわりを見渡しソファーにあるのに気づいた水瀬は、寝転がっているウサギのぬいぐるみを取りに行き胸にかかえながらそれに答える

 

伊織「……。そ、そうよ。ちょっと留守番してもらってただけなんだからっ。」

 

そんな話をしていると向こうから衣装をきた星井がこちらに向かってくる

 

美希「あれ?でこちゃんその衣装で撮るの?」

 

伊織「ち、ちがうわよ。それと、でこちゃん言うなっ。」

 

美希「だよねー。ミキね、その服ぜーんぜんでこちゃんに似合ってないと思うの」

 

伊織「…」

 

ツギノヒトー

 

美希「あ、いってくるのー」

 

 

 

暫く星井の撮影を見ていると水瀬が口を開いた

 

伊織「ねぇ、プロデューサー」

 

八幡「ん、なんだ?」

 

伊織「私、この子と撮るわ」

 

八幡「ん、そうか。いいんじゃねーの?そいつは水瀬のことを良く知ってくれているだろ?」

 

伊織「そうよっ。待ってなさい、とってもキュートな伊織ちゃんを見せてあげるんだからっ。にひひっ」

 

やよい「うっうー。私も着替えてきますね!」

 

そう俺に告げ二人は更衣室へと走っていった

 

 

星井の撮影が終わり、如月の撮影に入ったのだが何だか良いのが撮れないのか何度かカメラマンと如月が話し合っていた。

休憩に入ったので、少し撮影場所に近づくと如月が俺に気付きこちらに来る

 

千早「あの、プロデューサー」

 

八幡「どうした?如月」

 

千早「私、カメラマンさんに笑顔が不自然だ。って言われちゃって」

 

 

 

まじか。奇遇だな俺もよく言われるぞ、

不気味だって。

 

アイドルの如月と同じことを言われる俺、

 

アイドルになれるんじゃね。

 

いや、なってだれが得すんだよ…。てかなれねーよ。

 

 

 

八幡「あー、ちょっと笑ってみてくれるか?」

 

千早「はい」

 

あー。うん。これはまた、すごいな。

これが原因で何度も話し合っていたのか

 

八幡「如月。無理に笑う必要はないんじゃないか。普段どおりで撮るのじゃだめか?」

 

千早「それでいいんですか?出来るなら私は最善を尽くすべきだと思うのですが」

 

八幡「まぁ、一理あるな。だがな、如月」ニマァ

 

そう言って俺は如月に全力で笑って見せる

 

八幡「今のどう思う?」

 

千早「…不自然すぎる笑顔でした。いつものプロデューサーの顔の方がまだいいです」

 

と、かなりな感じで如月に引かれた。

まだって、おい。普段もダメみたいな感じかよ。

 

八幡「……だろ?つまりそういうことだよ。何も無理に笑顔をする必要なんてないんだ。猫かぶったところでそれは本当の自分じゃない、そんなのは他人同然だ。なにせ、作ってるんだからな。確かに誰かの顔を伺って態度を変えるなんてのも必要な時もある。だが、これは写真だ。偽りのない自分を撮ってもらった方がいいんじゃねーの?」

 

千早「…なるほど。そうですね。少しプロデューサーのいっていることがわかったような気がします。」

 

 

…如月を見ていると誰かとなんか被るな。

 

 

あいつほど毒舌じゃねーけどな。

 

 

 

 

 

 

 




意見、感想よろしくお願いします。


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だから彼は働かざるを得ない。

クールデイイネー

ハイ,オッケーデース

アリガトウゴザイマシター

 

カメラマンとのやり取りが聞こえてくる。

どうやら如月も無事とり終わったようだな。

如月の方を眺めていると背中を平手で叩かれたような痛みが走った。

 

八幡「痛っ。って、水瀬。どした?」

 

伊織「ねぇ、この服…どう?」

 

振り返ると先程とは見違えるような格好をした水瀬がウサギを抱えて立っていた。

 

八幡「お、おう。その、悪くないんじゃ、ないですか?」

 

伊織「ふふっ。……あっ、い、良いのはいつも通りよ」

 

八幡「…さいですか」

 

◇ ◇ ◇

 

律子「やよいー、どうするか決めたー?」

 

やよい「服がいつもとおんなじだとダメかなーって」

 

あずさ「まぁ、やよいちゃんその服じゃ嫌なの?」

 

やよい「い、嫌なんかじゃないです。この服お母さんがアップリケつけてくれて。お気に入りなんです!」

 

あずさ「ならいいんじゃないかしら?それにそのパーカーのオレンジ、やよいちゃんによく似合ってるわよ」

 

やよい「本当ですか!うっうー。嬉しいですぅ!」

 

更衣室の方から高槻の声が聞こえてきていた。

 

八幡「…高槻も決まったみたいだな」

 

伊織「そうね」

 

 

伊織「…いつも通り、いい感じ」ボソッ

 

こうして今回の写真撮影はなんとか無事に終わったのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

八幡「はぁ、やっと事務所に帰ってこられた…」

 

小鳥「お疲れ様です、プロデューサー。コーヒーです」

 

音無さんがコーヒーをワークデスクに置いてくれる。

なんかワークデスクって響き働けと言われているみたいで嫌だな。いや、言われてるんだけど。

 

八幡「あ、ありがとうございます。なんとか写真撮れて良かったですよ」

 

ワイワイ ガヤガヤ

フーン

ナ,ナニヨ

ウウン,ベツニ

 

律子「うん。写真、まずまずでしょ」

 

小鳥「まずまずどころか見違えるくらいイメージアップですよ!」

 

律子「ふっふっふ。これなら次のオーディション」

 

小鳥律子「「いけるっ!」」

 

この金の亡者たちめ…。

 

やよい「プロデューサーさーん」

 

金の亡者二人を呆れてみていると突然高槻に声をかけられた。

 

八幡「ん?どした?」

 

やよい「善沢さんにみんなの写真ほめられちゃいましたー!」

 

因みに善沢さんはライターさんだ。

 

八幡「まぁ、頑張って撮ったからな」

 

やよい「楽しかったね!伊織ちゃん!」

 

伊織「そうね」

 

やよい「あの、プロデューサー」

 

八幡「ん?」

 

やよい「手をあげてもらっていいですか?」

 

八幡「え、ああ。こうか?」

 

やよい「ほら、伊織ちゃんも」

 

伊織「う、うん」

 

やよい「うっうー。いきますよぉー!ハイターッチ!」

パシッ

イエイッ

 

事務所に三人の手のひらを合わさる音が響く。

 

なんだよ。

…恥ずかしいじゃねーか。

 

でも、まぁ、こういうのも悪くは…ないか。

 

◇ ◇ ◇

 

あれから数日たった。写真の効果があったのか竜宮以外のメンバーの仕事も段々と入るようになり、765プロ全体が次第に忙しくなってきた。アイドルたちはこれから更に忙しくなるだろう。

 

そして、俺はと言うと…

 

 

仕事、マジで辛い。

 

アイドル達を仕事場につれていったり現場の監督らに挨拶にまわったりとここ数日忙しくなっていた。

仕事がこなかったとはいえこれを一人でやっていた秋月さん、すげぇな。俺と年大して変わらないのに。

戸部風にいうと、秋月さんマジリスペクト。

 

んで、このあとはなにするんだったっけな。

 

八幡「…午後から天海と我那覇のレッスンか」

 

昼までいくらか時間もあるし少し休憩でもするか。

冷蔵庫にちゃんと奴を入れておいたからな。えーっと、マックスコーヒーっと。

 

カシュッ ゴクッ

 

この喉に絡み付く甘さが何とも言えないよな。そーいえば、最近スチール缶からアルミ缶になったのには驚いたな。

 

ガチャッ

 

春香「あ、プロデューサーさん、おはようございます!」

 

八幡「おう」

 

春香「プロデューサーさん、なに飲んでるんですか?」

 

八幡「これか?マックスコーヒーだよ」

 

春香「コーヒーって大人って感じがしますよねっ」

 

八幡「これは甘いやつだけどな。飲んでみるか?」

 

春香「え、あ、えぇと、」///

 

八幡「冷蔵庫にまだ何本か入ってるぞ?」

 

春香「…なんだ。それじゃあ1ついただきますねっ」

 

あっぶねー。これ、俺じゃなかったら天海√突入してたとこだよ。

てか、アイドルと間接キスとか事務所的にアウトだろ。

 

 

春香「うわっ、あっまーい」

 

八幡「だろ?」

 

春香「あ、そうだ。プロデューサーさんスマホでしたよね?」

 

天海が突然思い付いたようにそう訊いてきた。

 

八幡「ん?そうだけど」

 

春香「でしたらLINE教えてくれませんか?」

 

八幡「…俺LINEやってないぞ」

 

春香「…え。それじゃあどうやって友達と連絡とるんですか?」キョトン

 

天海の悪意のない純粋な質問なだけに辛いな。

LINEか。

連絡先登録するだけでともだちになれるって聞いて一度わくわくしていれたんだが、あれ電話帳に電話番号入ってないとともだちかも、がでてこないらしく、結局ともだち二人(内企業2)しかできなかったから消したんだよな…。

 

 

八幡「…連絡をとる友達がいないもんでな」

 

春香「あ…。…なんか、すみません」

 

八幡「いや、謝るな。余計むなしくなる。普通に連絡先でいいか?」

 

春香「はいっ。えっと赤外線は…使えないですね」

 

八幡「悪いが直接打ってくれ。」

 

春香「わかりました。えっと…。よしっ。ありがとうございました」

 

八幡「おー」

 

響「はいさーい」

 

春香「響ちゃん、おはよう」

 

八幡「我那覇も来たようだし、そろそろ出たほうがいいな」

 

春香「そうですね。私、準備してきますね」

 

◇ ◇ ◇

 

ということで天海と我那覇のレッスンに同行しているんだが…

 

正直、見ててもよくわからんな。俺からダンスについて言うことなんて出来ないし、歌もよくわからん。

 

音無さんが言うにはレッスンのときにはトレーナーの人とどういうイメージで練習をしたり表現をしたりするかを話し合ったりするとは言われたが…。

 

 

今日見た限りだと、天海はダンスは標準、歌は少し苦手な感じだな。我那覇はダンスが得意、歌は標準、といったところか。

やはりこういうのは得意なものを伸ばしつつ、苦手も埋めていく、ってのが定石なんだろうな。

 

二人を見ながら色々と考えているとレッスンは終わったようで二人とも帰る用意を始めていた。

 

八幡「おつかれさん」

 

春香「ありがとうございます。あの、私どうでしたか?」

 

響「自分もどうだった??」

 

八幡「あー。天海は歌をもう少し頑張ったらいいんじゃないか?我那覇はダンスがいい感じだな」

 

とりあえず先程思っていたことを告げる

 

春香「うぅ、がんばります」

 

響「自分ももっと上手くなるよう頑張るぞ!」

 

八幡「んじゃ、帰るか」

 

春香 響「「はーい」」

 

二人を無事事務所に送り届け、今日の仕事は終わった。

 

小鳥「お疲れ様です。プロデューサー」

 

八幡「お疲れ様です」

 

小鳥「どうです?慣れてきましたか?」

 

八幡「まぁ、何となく。だけどまだレッスンに対する意見とかアドバイスとかはよくわからないですね」

 

小鳥「ふふっ。そのうち慣れてきますよ」

 

八幡「仕事をするのが慣れてくるってのは俺的にはあまり好ましく無いですけどね」

 

小鳥「そんなこといってプロデューサー真面目じゃないですか。皆のことよく見てるし」

 

八幡「任された仕事はやらないといけないですからね。それに、あいつらの未来もかかってると思うと真面目にやらざるを得ませんよ」

 

小鳥「頑張ってください。あ、プロデューサー。このあと仕事入ってないですよね?」

 

八幡「ないですけど、」

 

小鳥「それじゃあ、ご飯食べに行きましょう。奢りますよ!」

 

八幡「いいですけど、奢って貰うのはちょっと…」

 

小鳥「大丈夫ですよ。私年上ですし」

 

八幡「いえ、俺は養われる気はあるけど施しを受ける気はないんで」

 

小鳥「わ、私には違いが分からないわ…」

 

八幡「そういう訳で自分の分は自分で払います。今、お金には困ってませんし」

 

小鳥「そうですか。それじゃあ、どこに行きましょうか」

 

八幡「俺はどこでもいいですよ」

 

小鳥「なら、私いいお店知ってるんですよ!」

 

◇ ◇ ◇

 

八幡「ここですか」

 

小鳥「はい。ここです!」

 

音無さんに連れられ中野に到着。しばらく歩いて着いたのがラーメン屋。

なるほど、ここか。

 

小鳥「やっぱり混んでますねー」

 

八幡「まぁ、名店ですしね」

 

小鳥「あら?プロデューサーはここに来たことはあるんですか?」

 

八幡「ここのじゃなくて、千葉の所ですけどね」

 

小鳥「そういえば千葉にも店舗出てましたね」

 

ここのラーメンは脂こってり系じゃなくあっさり系で魚介和風ラーメンで有名だ。最近ミシュランにも登録されたらしいな。

べ、別に重巡洋艦じゃないんだからね。

 

八幡「でも、意外でした。音無さんラーメン屋とか行くんですね」

 

小鳥「ピヨッ!?わ、私だってラーメン位食べにいきますよ」

 

八幡「やはり、どこか平塚先生に似てるな…。…独身なとことか」ボソッ

 

平塚「ほぅ?比企谷、言うようになったじゃないか」

 

小鳥「プロデューサー、言ってはいけないことはあるんですよ?」

 

八幡「ご、ごめんなさい。…って、え?平塚先生どうしてここに?」

 

平塚「音無さんにお呼ばれしてな。ちょうど私もラーメンが食べたかった所だったので来させてもらったのだよ」

 

小鳥「平塚先生とは連絡取り合ってるんですよ」

 

平塚「比企谷が迷惑をかけてないか気になるものでな」

 

八幡「先生はおれのかーちゃんかよ…」

 

平塚「わ、私はまだそんな年齢じゃないっ。これからなんだっ」

 

小鳥「そうですよっ。まだまだこれからですっ!」

 

八幡「そ、そうですね。頑張ってください」

 

誰か早くこの二人を貰ってやってくれ。

 




意見、感想よろしくお願いします。
次回更新はすこし遅くなるかもしれません。


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なぜか彼の携帯は鳴る。

音無さん、平塚先生と駅で別れたあと俺は地元千葉へと帰るため電車を乗り継いでいた。

 

東京から千葉に入り見慣れた景色になっていくのを帰宅ラッシュでぎゅうぎゅうになった電車内から眺めている。

 

痴漢に間違われないように両手はつり革だ。ここ重要。

 

アイドルのプロデューサーが痴漢をするなんて事件があったら洒落にならないからな。いや、本当まじで。

事務所のアイドル達に手を出してるんじゃないかとか噂になると困るからな。

痴漢ダメ、絶対。

 

無事地元の駅に到着しなだれのような人ゴミをかき分け改札を抜け自宅へ向かっていると普段はうんともすんとも言わない俺のスマホが鳴った。

メールか。小町かな、アマゾンかな、スパムかな。小町だといいな。いや、小町であれ。

 

八幡「よっと。ん?」

_____________________________________________

From天海春香

To比企谷八幡

Titleこんばんは

プロデューサーさん、こんばんは。春香です。

さっき連絡先交換したのでメールしてみました!

私達のために頑張ってくれてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!(*^^*)

 

 

あと、ダンス頑張ります!

_____________________________________________

 

天海はいい子だなぁ。シミジミ

雪ノ下の言うような下心なんてものは無いが、やはりアイドルからメールが来ていると考えると少し嬉しいものがあるな。うん。

 

_____________________________________________

Fromプロデューサー

To天海春香

Title無題

今日もお疲れ様。

これからも沢山仕事持ってくるから天海もがんばってくれ。

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

 

八幡「ただいま。」

 

小町「お、お兄ちゃん、お帰り。遅かったねー。」

 

八幡「おー。平塚先生たちとラーメン食いに行ってたからな。」

 

小町「あー、そういえばメールきてたね。小町すっかり忘れてたよ。」

 

八幡「おい。忘れるなよ。」

 

小町「お兄ちゃん、明日も仕事?」

 

八幡「明日は休みだ。だが、平塚先生に高校に来いって呼ばれた。せっかくの休みなのに…。」

 

小町「おつかれー。」棒)

 

八幡「まぁ、そんなわけで明日も家にいないな。」

 

小町「そっかー。お兄ちゃん、頑張ってねー」棒)

 

八幡「おう。てか、お前さっきから返事が棒読みで全く感情こもってねーよ。」

 

小町「てへっ。」

 

なにこいつ、殴りてぇ。

 

~アーイマーイサンセンチッ ソリャプニッテコトカイ チョッ~♪

 

小町「おりょ?珍しいね、お兄ちゃんのケータイが鳴るなんて。」

 

八幡「ほっとけ。えっと、天海か。」

 

小町「…ほうほう。お兄ちゃんもやりますなぁ。」

 

八幡「何の事だよ。」

 

小町「お兄ちゃんがアイドルとメールをするなんて日がくるなんて…小町は感激です。」

 

八幡「事務連絡だよ事務連絡。それとあまりそういうことをむやみに言うなよ。こういう業界は色々とめんどくさいんだよ。」

 

小町「あー、スキャンダルねー。好きだもんね、マスコミ。」

 

八幡「あぁ、だからそこんとこはよろしく頼むぞ。」

 

小町「りょーかいです!じゃ、小町はそろそろ勉強するね~。」

 

八幡「おー、頑張れ。」

 

天海のメールは…

 

_____________________________________________

From天海春香

To比企谷八幡

Title遅くにすみません

 

プロデューサーさん。

響ちゃんもプロデューサーさんの連絡先が欲しいって言ってるんですけど、教えてあげてもいいですか?

 

 

_____________________________________________

 

 

_____________________________________________

Fromプロデューサー

To天海春香

Title無題

ああ、構わないぞ。

 

_____________________________________________

 

さて、風呂でも入って疲れを癒すとするか。

 

 

風呂からあがり冷蔵庫にストックされているはずであろうマックスコーヒーを取りにリビングに向かう。

 

リビングに入るとカマクラがソファで横になっている親父の腹の上で丸くなっていた。息苦しそうにしている親父を横目にコーヒーを取り出すとカマクラが親父の腹を踏みこみこっちにやってきた。

 

相変わらずのぶっきらぼうな顔つきでフンスフンスと食いもんを寄越せと言わんばかりに鼻息を鳴らしてくる。

 

比企谷家のカーストでは俺と親父はカマクラ以下らしい。

 

ったく、こいつは飯の時くらいしか俺の方に寄ってこないあたりどっかのリア充たちを彷彿させるな。

 

普段は全く関わってこないくせになにか向こうが欲しいものがあると寄ってくる。まじなんなんだよ、野球部の長谷川。

 

八幡「ほれ。」

 

とりあえずカマクラにはにぼしを与え、即自室にダッシュ。

別にカマクラの相手をするのが面倒だったのではない。

 

放っておけばまた親父に苦しみを与えられるってのも考えてない。

 

 

部屋に戻ると俺のスマホに通知がきていた。本日3度目のメール。俺の携帯にメールがこんなに沢山くる日が来るとはな。

 

_____________________________________________

From我那覇響

To比企谷八幡

Title我那覇響だぞ!

 

プロデューサー!こんばんは

我那覇響だぞ。登録しておいて欲しいぞ。

 

今日はレッスンについてくれてありがとう!これからも自分頑張るから見ててね!(•ө•)

 

_____________________________________________

 

_____________________________________________

From比企谷八幡

To我那覇響

Title無題

登録しておいたぞ。

これからも頑張ってくれ。俺も仕事が貰えるよう頑張る。

 

_____________________________________________

 

 

俺も、プロデューサーとして出来る限りのことはしてやらないとな。

 

 




お気に入り100件越えありがとうございます!これからも頑張って続けていきます。

今回は八幡とアイドルのメールをやってみました。
意見、感想よろしくお願いします。


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いつもの彼らは変わらない。

 

 

響にメールを返した後、疲れが溜まっていたのか寝落ちしてしまったらしく気がつくと朝の8時。

机で寝てしまったため体の節々が痛い。

 

幸い平塚先生に来るように言われた時間まではまだ時間があるようなのでゆっくりと飯でも食べることにした。

 

小町「へぇー、ふむふむ。あ、お兄ちゃんおはよ。」

 

八幡「おう。」

 

リビングに行くと先に来ていた小町が雑誌を読みながら朝食なう。

てか、小町。お前はその雑誌のどこに共感してるんだよ、偏差値25くらいじゃねーか?

 

八幡「小町、ほっぺについてるぞ。」

 

小町「え、ジャムってる?」

 

八幡「ジャムるの使い方間違ってるだろ。お前の口は自動装填の拳銃かよ。」

 

小町「?お兄ちゃんって時々ワケわかんないこと言うよね。」

 

八幡「その言葉、そっくりそのままお前に返してや…ブフォッ」

 

小町「それ片付けといてー!」

 

八幡「ったく。」

 

…さっさと朝食くって学校にいくか。

 

 

平塚先生の用事はプロデュース活動に関する書類を書くといったものだった。一応、アルバイトという形らしく色々と手続きをしないといけないらしい。

 

平塚先生から解放されたのが昼前。

ちょうど腹が減ってきていた所だったからサイゼにいくことにした。

 

サイゼは千葉の誇るファミレスだ。因みにサイゼの1号店は本八幡にあった。高校生にやさしい値段、そしてドリンクバー。店員からしてみたら迷惑かもしれないがあそこで長居するのは悪くない。

 

高校から一番近いサイゼに直行すること10分。サイゼに到着。さて、今日は何を食べようか、と考えていると聞きなれた声が聞こえてきた。あれは…雪ノ下と由比ヶ浜。それから…戸塚!!

大方、夏休みの宿題に励んでいるのだろう。

 

 

雪ノ下「では、現代文から出題。風が吹けば?」

 

由比ヶ浜「んー、……京葉線が止まる?」

 

訂正。ただの千葉県横断ウルトラクイズだった。しかも由比ヶ浜、正しくは「最近は止まらずに徐行運転が多い」だ。

 

雪ノ下「…不正解。では、次の問題。地理より出題。千葉県の名産を2つ答えよ。」

 

これは千葉県民からしてみればラッキー問題だ。さすがの由比ヶ浜もこれなら余裕だろう。

真剣な顔つきをした由比ヶ浜の口がゆっくりと動き、

 

由比ヶ浜「みそぴーと、…ゆでぴー?」

 

八幡「おい。落花生しかねぇのかよ、この県には。」

 

あまりのバカ加減に思わず突っ込んでしまった。

 

由比ヶ浜「うわぁ!…あ、ヒッキー!久しぶり!!」

 

戸塚「八幡っ!久しぶりだね!」

 

八幡「おう。久しぶりだな!戸塚っ!」

 

由比ヶ浜「ちょっと、私のこと無視するなだし!」

 

雪ノ下「あら、比企谷くん。まだ捕まってなかったのね。」

 

八幡「雪ノ下、久しぶりあったにもかかわらずいきなり罵倒かよ。それに、俺はやましいことはなにもしていない。それから、由比ヶ浜。お前は千葉県民としてもう一度千葉について勉強しなおせ。今のはサービス問題だろ。」

 

雪ノ下「別にサービス問題ではないと思うのだけれど。それなら比企谷くん。千葉県の名産を2つ答えよ。」

 

八幡「正解は『千葉の名物、祭りと躍り』だ。」

 

雪ノ下「名産って言ったでしょ。だいたい千葉音頭の歌詞なんて誰も知らないわよ…。」

 

いや、知ってるじゃないですか。雪ノ下さん。

 

雪ノ下「それで?どうなの、仕事は?」

 

戸塚「あれ?八幡バイトでもしてるの?」

 

八幡「あー、戸塚には伝えてなかったな。俺今、765プロのプロデューサーやってんだわ。」

 

戸塚「えっ、八幡すごいねっ!」

 

この笑顔がまぶしいっ。

 

八幡「仕事はぼちぼちってとこだな。」

 

戸塚「そっかぁ。八幡がんばってね!あ、八幡はなに頼む?」

 

八幡「そうだな、ミラノ風ドリアと辛味チキンとドリンクバーにするか。」ピンポーン

 

 

八幡「それで、お前らはこんなとこでなにしてたんだ?」

 

由比ヶ浜「みんなで集まって夏休みの課題終わらせよーって。ヒッキーは?」

 

八幡「俺は平塚先生に学校呼び出されて、その帰りだ。」

 

由比ヶ浜「そっかー。ねえねえヒッキー、アイドルのみんなはどんな感じ??やっぱり、その、かわいい?」

 

八幡「ん、あ、まぁ、かわいいな。テレビとはまた違った感じだけど。」

 

由比ヶ浜「うぅ。やっぱりそうだよね。…このままだとヒッキーと…」ボソボソ

 

八幡「何かいったか?由比ヶ浜。」

 

由比ヶ浜「いや、何でもないよ!何でもない!ヒッキーは今日は仕事ないの?」

 

八幡「ああ、久々の休みだな。」

 

由比ヶ浜「それじゃあ、皆で遊びにいこーう!」

 

八幡「いや、いかねぇよ。折角の休みなのに。」

 

由比ヶ浜「えー、いいじゃーん。ねぇ?ゆきのん。」

 

雪ノ下「ちょっと、由比ヶ浜さん。くっつきすぎじゃないかしら?」

 

戸塚「ねぇねぇ八幡。僕も皆で遊びにいきたいな?」

 

八幡「よし行くぞ。お前達、早く準備をするんだ。今すぐ遊ぶぞ。」

 

由比ヶ浜「いや、まだ料理来てないし。」

 

雪ノ下「私はまだ行くとは言ってないのだけれど…」

 

 

~その日の夜~

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From☆★ゆい☆★

To比企谷八幡

Title無題

おつかれ~ヾ(⌒(ノ'ω')ノ

ヒッキー、これからもお仕事頑張ってね!ヾ(´∇`)ノ

 

あ、今度サインとか貰ってきて欲しいな!(´。・v・。`)

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From比企谷八幡

To由比ヶ浜結衣

Title無題

おつかれ。サインはもし貰えたら貰ってくる。

 

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From☆★ゆい☆★

To比企谷八幡

Title無題

サイン楽しみにしてるね(*´∇`*)

それと…何でヒッキー怒ってんの(´・ω・)?

 

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From比企谷八幡

To由比ヶ浜結衣

Title無題

は?別に怒ってねぇよ。

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From☆★ゆい☆★

To比企谷八幡

Title無題

絵文字とか顔文字とか使わないと怒ってるようにみえるじゃん!(`・ω・´)

 

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From比企谷八幡

To由比ヶ浜結衣

Title無題

どこの文化だよそれ。古代エジプト人かよ。

俺はそんなヒエログリフは使わねぇよ。

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From☆★ゆい☆★

To比企谷八幡

Title無題

ヒエログリフ?(@_@)?

 

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From比企谷八幡

To由比ヶ浜結衣

Title無題

一学期の世界史でやっただろ……

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今回は俺ガイルサイドでした。
意見、感想よろしくお願いします。


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そして彼女は彼を頼る。

 

 

普段と変わりのないいつも通りの朝を迎え事務所にいく準備をしていた。

 

今までの俺だったら絶対寝ている時間だ。我が社畜精神に乾杯。

 

そんな訳で家族を起こさないよう静かに準備、朝食を済ませなにも言わずに家を出発。やだ、俺できる男みたい。

 

朝早いにも関わらずアブラゼミの鳴く声が住宅街に響き夏の暑さを感じさせる。セミは一生の大半を土のなかで過ごしほんの少しだけ外へと出て一夏騒いで消えていく。

 

今の業界はセミのようなものでデビューまでは長く準備をしたにも関わらず少し流行ったと思ったらいつの間にかテレビで見なくなってしまう。

 

だから俺が、彼女達がセミとならないよう頑張らないといけないんだろうな。

 

そんなことを考えながら本日も比企谷八幡、出勤であります。

 

 

八幡「おはようございます。」ガチャ

 

小鳥「プロデューサー、おはようございます。」

 

伊織「全く、どーして私があんな風に扱われるのよっ。」

 

八幡「朝からあいつどーしたんですか?」

 

小鳥「昨日伊織ちゃんのお家に取材があったらしくて。その時に伊織ちゃんも出たらしいのだけれどアイドルって知られてなかったみたいなの。」

 

八幡「あー、水瀬財閥への取材だったのか。」

 

小鳥「はい。それで伊織ちゃん朝からずっとあんな感じで機嫌悪くて。」

 

八幡「はぁ。なぁ、水瀬。これからもっと頑張っていけばいいだろ?俺も出来る限り協力してやるから。」

 

伊織「竜宮小町のプロデューサーは律子でしょ。あんたなんて関係ないじゃないっ。」

 

八幡「うぐっ。お、俺も同じ事務所のプロデューサーとしてだな…。」

 

伊織「あんたのアドバイスなんていらないわよっ。もしこの伊織ちゃんに頼りにして欲しいんだったらもっと頑張りなさいよね。」

 

八幡「…はぁ。」

 

アーイマーイサンセンチッ ソリャプニッテコトカイ チョッ~♪

 

八幡「ん?メールか?あー、音無さん、天海が遅延で少し遅れるそうです。」

 

小鳥「はーい。分かりましたー。」

 

伊織「ねぇ、…春香とメールしてるの?」

 

八幡「ん?まぁ、メールと言うか業務連絡みたいなもんだがな。」

 

伊織「アドレス。」

 

八幡「は?」

 

伊織「メールアドレス教えなさいって言ってるのよ。」

 

八幡「いや、伝わんねーよ。ほれ。」

 

伊織「私が打つのね…。はい、登録できたわよ。この伊織ちゃんのアドレスが貰えて良かったわね。」

 

八幡「…お、おう。まぁ、何かあったら連絡してくれ。」

 

やよい「おはよーございまーす!」ガチャ

 

八幡「おはよう。」

 

小鳥「おはようございます。」

 

伊織「あ、やよい。おはよう。ねぇ聞いてよ。」

ナンデスカー?

コノイオリチャンノコトヲネ…

ソウナンデスカー

 

 

美希「おはようなのー。」ガチャ

 

真「おはようございます!」

 

小鳥「おはようございます。プロデューサー。」

 

八幡「あー、はい。二人とも来たな。じゃあ行くか。」

 

美希「いってくるのー。」

 

真「いってきます。」

 

小鳥「はーい。あら?やよいちゃんご機嫌ね。」

 

やよい「はい!今日伊織ちゃんと響ちゃんがうちに来ることになったんです!」

 

小鳥「あら、良かったわね。」

 

律子「おはようございます。」ガチャ

 

やよい「おはようございますー。」

 

律子「伊織いるわね。それじゃあ行くわよ。」

 

伊織「はーい。それじゃあ、二人共。あとでね。」

 

やよい「うっうー!いってらっしゃいですー!」

 

響「いってらっしゃーい!」

 

小鳥「さて、私も頑張るとしますか。」

 

 

 

美希と真を引き連れ駅へ向かっている。

今日はこの二人が雑誌の撮影が入っているためスタジオまで引率するといった感じだ。

 

端からみればかわいい女の子を二人連れている男に見えるらしく周りの男の目がいたい。俺も普段こんな感じなのか。もうするのは止めよう。

 

電車に乗ると夏休みだからかこの微妙な時間帯でも席が埋まるくらいの乗車率だ。運良く席が2人分空いていたので二人を座らせる。

 

事務所の最寄り駅から5駅離れたスタジオなので大して時間がかかるわけではないが席があいてるのに女の子を立たせておくってのは悪いからな。

 

美希「へぇー、プロデューサーって意外に気を使えるんだね。」

 

八幡「なんだよ、意外って。俺は超気を使えるぞ。こっちくんな、とか話しかけるな、とか言われなくても察するからな。」

 

美希「それは何か違うと思うの。」

 

真「はは…。でも、プロデューサーありがとうございます。別に立っていても良かったのに。」

 

八幡「まぁ、これから二人は撮影だからな。少しでも疲れていい顔が出来ないと困るしな。」

 

美希「そんなことしなくても、ミキはいつでもいい顔ができるの。」

 

八幡「念には念を、だよ。とはいっても次で降りるんだけどな。」

 

 

 

 

八幡「それではよろしくお願いします。」

 

美希 真「「よろしくお願いします!」」

 

カメラマン「はい、よろしくねー。」

 

ソレジャア マズハミキチャンカライコウカ

ハイナノー

 

 

真「プロデューサー。」

 

八幡「ん、どした?」

 

真「僕が撮るまでまだ時間がありそうなので。プロデューサーって学校ではどんな感じなんですか?」

 

八幡「基本ボッチだな。一人で登校して一人で昼飯食って一人で帰る。」

 

真「うわぁ…。じゃ、じゃあ部活とかは?」

 

八幡「部活は…一応入ってる。」

 

真「なんの部活ですか?」

 

八幡「菊地は何だと思う?」

 

真「え。えーと、プロデューサーは…文芸部とかですかね?」

 

八幡「ほう、その心は?」

 

真「え、えと。プロデューサーたくさん本読んでそうじゃないですか。」

 

八幡「はずれだ。」

 

真「降参です。何部ですか?」

 

八幡「奉仕部っつう部活。」

 

真「奉仕部ですか?具体的に何を?」

 

なんか、ここまでテンプレっつーか雪ノ下とのやり取りと全く同じだな。まぁ、意図的にやってるんですけどね。

 

八幡「困っているものに解決の策を与える部活だな。飢えている人に魚を与えるのではなく取り方を教える、みたいな感じだ。」

 

これまた雪ノ下のセリフだ。

 

真「なんだか深そうな部活ですね。」

 

八幡「別になんてことはねーよ。実際菊地のいうとおり本読んでるだけだったりするしな。」

 

真「部員は何人いるんですか?」

 

八幡「俺を入れて3人。」

 

真「もしかするとプロデューサー以外女の子だったりしますか?」

 

八幡「…まぁ。」

 

真「プロデューサーって事務所でも女の子にかこまれていますけど部活でもなんですね。」

 

八幡「おい。変な言い方するなよ。別にそういうような奴等じゃねーよ。」

 

真「ふぅーん。あ、プロデューサー!連絡先交換しましょうよ。」

 

八幡「ん、あぁ。ほれ。」

 

真「僕が打つんですね。プロデューサー、流石にこれからも連絡先とか交換するだろうからアプリ入れたらどうですか?」

 

八幡「あー、…そのうちな。」

 

真「その言葉言ってやってる人見ませんけどね。」

 

ばれたか。

 

美希「真ちゃーん。終わったよー!」

 

真「あ、うん。いまいくー!それじゃプロデューサー、いってきます。」

 

八幡「おう。」

 

オネガイシマース

ハーイ

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

やよい「伊織ちゃーん。こっちですよー。」

 

伊織「ごめんね遅れて、取材おしちゃって。」

 

やよい「大丈夫ですよー!それじゃあ買い出しにいきましょー!」

 

響「自分も沖縄料理を振る舞いたいぞー。」

 

やよい「うっうー!それは楽しみですー。」

 

 

 

 

伊織「こんなにモヤシをかってどうするの?」

 

やよい「今日はモヤシ祭りですよー!」

 

伊織「なんだかパッとしないお祭りね…。」

 

やよい「着きましたよー。ここが私のお家です。」

 

響「おぉ、二階建てだそ!」

 

やよい「ただいまー。いい子にしてたー?」

 

「「「「おかえりー」」」」

 

長介「あれ?その人たちは?」

 

やよい「同じアイドルの友達だよ。」

 

伊織「水瀬伊織よ、よろしくね。」

 

響「我那覇響だぞ!よろしく!」

 

やよい「それじゃあ私準備してくるからー。」

 

~しばらくして~

 

やよい「皆ー、できたよー。」

 

伊織「本当にモヤシだけね。」

 

やよい「モヤシだけでもすっごく美味しいんだよー。」

 

「「「「うんうん。」」」」

 

やよい「それじゃー、モヤシ祭り開催~。」

 

「「「いただきまーす。」」」

 

モグモグパクパク

 

響「んまー。」

 

やよい「あれー?伊織ちゃん。食べないとなくなっちゃうよー?」

 

伊織「た、たべるわよ…。」ジッ

ハムッ

伊織「んんー、おいしい!意外といけるじゃない!」

 

やよい「まだあるからたくさん食べてねー!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

オツカレサマデシター

これで今日の仕事は終わりだ。撮影は特に問題もなく星井も菊地もいい写真が撮れていたとおもう。

それにスタジオの人達に挨拶やお礼も忘れずにしたしな。

 

俺も段々と仕事に慣れてきたが、いいんだか悪いんだか…。

 

美希「今日はたくさん写真撮ったのー。」

 

真「そうだね。いい写真沢山とれてたと思うよ。ね?プロデューサー。」

 

八幡「あぁ、そうだな。良かったと思…」

 

アーイマーイサンセンチッ ソリャプニッテコトカイ チョッ~♪

八幡「すまん、メールだ。…水瀬?……悪い、用事ができたから先に二人で事務所にかえれるか?」

 

真「はい、大丈夫です。」

 

美希「それじゃ、プロデューサー。ばいばい」

 

真「お疲れさまです。」

 

八幡「あぁ、おつかれ。」

 

 

 

 

 

_____________________________________________

From水瀬伊織

To比企谷八幡

Title緊急

今日響とやよいの家でご飯をご馳走になってたんだけれど、やよいの弟の長介くんがけんかしちゃって家出しちゃったの。

今響とやよいが探しているのだけれどまだ見つからないみたいだからプロデューサーにも手伝って欲しいのだけれど。

 

____________________________________________




少し展開が早すぎるかな…。

意見、感想よろしくお願いします。


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しかし彼にラブコメは似合わない。

 

 

ピロリロリンピロリロリン

伊織「もしもし?」

 

八幡「あ、水瀬か?今向かっているがどういう状況なのか具体的に説明を頼む。」

 

伊織「具体的にって…。メールにかいた通りよ。長介くんが今から2時間ぐらい前に怒って家出ていっちゃって、それでまだ見つかってないの。」

 

八幡「そうか。長介くんの特長というか…情報は?」

 

伊織「小学校高学年くらいかしら?身長は150㎝くらい。長介くん、お姉ちゃんなんて嫌いだって言って出ていったけど、本当はお姉ちゃん思いのいい子よ。」

 

八幡「分かった。少し考えてみるから、またあとでれんらくする。」

 

伊織「分かったわ。」ピッ

 

 

伊織「…この伊織ちゃんが頼ってあげたんだから見つけなさいよね。」ボソッ

 

 

水瀬からの情報を整理すると長介くんは小5、6くらい…。高槻とのけんかで家出をしたが本当はお姉ちゃん思いのやつ…。高槻と我那覇が探しているがまだ見つからない…。

 

どこだ?どこにいく?家族との喧嘩の時に家出をして向かう場所は。高槻も予想できる範囲のところは探しているだろう。

それでも見つかっていない。

 

…。お姉ちゃん思いのいい子…。高槻と喧嘩…。小学5、6年…。

 

もしかすると、長介くんは…。

 

 

 

 

ピロリロリンピロリロリン

伊織「もしもし。」

 

八幡「水瀬、もしかすると長介くんは家出をしていないかもしれない。」

 

伊織「はぁ?あんたはバカなの?家を出ていったっていったじゃないっ。」

 

八幡「…言い方が悪かった。長介くんは家の敷地からは出ていないということだ。」

 

伊織「それはさっきと何が違…。あっ。」

 

八幡「あぁ、もしかすると長介くんは家の敷地のどこかにいるのかもしれない。どこか隠れられそうな場所はないか?」

 

伊織「隠れられそうな…。あったわ。物置小屋が。」

 

八幡「じゃあ、そこを調べてみてくれ。」

 

伊織「分かったわ。」

 

ガチャ

長介「あ…。」

 

伊織「見つけたっ。」

 

八幡「そうか。良かった。そろそろそっちに着く。響たちには俺が連絡するからそっちは頼む。」

 

伊織「えぇ。わかったわ。」ピッ

 

長介「どうして俺がここにいるって分かったの?」

 

伊織「私達の、普段頼りないプロデューサーが考えついたのよ。それに私もお兄様たちと喧嘩したときはよく物置に隠れたわ。」

 

長介「そうなんだ。一緒だね。俺だってやよい姉の役にたちたくて頑張ってるのに、どうしてわかってもらえないんだよ…。ねぇ、お姉ちゃんなら俺のこの気持ちわかるよね?」

 

伊織「全然分からないわ。」

 

長介「え…。」

 

伊織「あんた、やよいに自分の事をわかって欲しいんでしょ?だったらこそこそ隠れずにぶつかっていくしかないじゃない。少なくとも私はあなたみたいに自分の気持ちを伝えずに逃げたりなんてしないわ。正々堂々ぶつかって自分の気持ちを伝えて…。だから私はアイドルになったの。お兄様たちに、私だってやれば出来るんだって見せつけてやるのよっ。」

 

長介「…。」

 

伊織「やよいはねどんなときでもにこにこ笑って頑張っているの。家の仕事がたいへんだー、なんて一度も漏らしたことないわ。それがやよいのプライドなの。あんたにもプライドがあるのなら正々堂々と自分の気持ちをお姉ちゃんに伝えなさい。そして頼ってもらえるようになるのよ。」

 

長介「プライドって…。」

 

伊織「胸はって前を向けってこと。それに……やっぱり男の人、は頼れる人の方がかっこいいしね。」ニコッ

 

チョースケー

バタバタ

 

やよい「長介ー。良かったー。グスン良かったー。」グスン

 

長介「ごめん。…ごめんなさい。やよい姉ちゃん…」グスン

 

ウワーン

チョースケー ヤヨイネェー

 

 

 

響「やっぱり姉弟っていいなぁー。自分も久しぶりに兄貴たちに連絡でもしようかな。」

 

伊織「私はしないわよ。トップアイドルになるまで意地でもするもんですか。」

 

伊織「…ねぇ?プロデューサー。」

 

八幡「なんだ?」

 

伊織「その、一応。…ありがと。」

 

八幡「大したことはしてないけどな。」

 

伊織「ちょっとは役に立つじゃない…。」

 

八幡「で、デレただと。」

 

伊織「ちょっ、何いってんのよ。全然そんなんじゃないわっ。ちょっと役に立ったくらいで調子にのって。あんたは頼りないんだからもっと頑張りなさいっ。そしたら、また、頼ってあげなくも…ないから。」

 

八幡「…さいですか。」

 

響「プロデューサーがんばれぇー。あ、そういえばどうしてプロデューサーは長介くんの居場所が分かったんだ?」

 

八幡「あー。大体小学5、6年が家出で行くところなんて限られてるだろ?高槻にもいくつか候補が思い付いていただろうしな。だが、それでも見つからなかった。となると考えられるのは敷地内だ。特に長介は高槻と喧嘩してから出ていったんだろ?意見のくい違い、伝わらない思い。そういうのがあるときは理解してもらえない苛立ちから逃げるが、それを相手に理解してもらいたいってのもあって誰かに見つけて欲しい。だから見つけてもらえる場所に隠れた。そうじゃないかっておもったんだよ。」

 

響「ほぇー。プロデューサーは良くそれだけの情報から思い付くなぁ。自分全然わからなかったぞ。」

 

八幡「まぁ、俺も、そういうのは分からなくもないからな…。」

 

伊織「ふぅーん。」

 

八幡「なんだよ、水瀬。」

 

伊織「別に。それから私のことは水瀬じゃなく、伊織って呼びなさい。」

 

八幡「は?なんで。」

 

伊織「水瀬ってお父様やお兄様たちとおなじでしょ?私は私。だから、特別に下の名前で呼ばせてあげるわ。」

 

響「だったら自分も下の名前がいいぞ!我那覇って呼び慣れてないし。」

 

八幡「我那覇まで…。おい、水瀬それは…」

 

伊織「伊織。」ビシッ

 

八幡「うっ…い、伊織。」

 

伊織「うん。よろしい。」ニコッ

 

八幡「何様だよ…。」

 

響「プロデューサー!自分も自分も!」

 

八幡「はぁ…。ほれ…響、伊織、帰るぞ。」

 

伊織 「えぇ。」

響「はーい。」

 

ったく。女の子の名前を下で呼ぶのって抵抗があるんだがな…。恥ずかしいってのもあるが「なに彼氏面してんの?」とか思われるんじゃないかと心配になる。

 

というか、下の名前どころか上の名前すら今まであまり呼ぶことなかった俺に下で呼ばせるとか、どこか俺のプロデュースはまちがってるんじゃねーの。

 

 

 

 

 

 

 




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ひとり彼女は抱え込む。

 

時間というものは不思議なもので忙しい時には短く感じ暇な時には長く感じるものである。

 

そして人は何かを行っているときにやりがいを感じ、逆になにもせずにぼーっとしていることをもったいないと感じるのだ。

 

しかし、なにもせずにぼーっとしていることは悪いことなのであろうか。

 

何もしない、ということが存在するからこそ何かをしている時の充実感を得ることができるのであり、何かをする、しない、の境界を引くことができるのではないだろうか。

 

逆説的に何もしていないということはこれから何かをすることができるということであるのだ。

 

 

 

結論 休みがほしいです。

 

 

 

 

プロデューサーという仕事をほとんど休みなく続け、気がつくと夏休みが半分過ぎようとしている。

 

うわ、私の休みすくなすぎ!?

 

これはもう夏休みって名前から夏仕事に変えた方がいいんじゃないかってレベル。

 

そして追い討ちをかけるがごとく事務所のクーラーが故障。

今事務所は地獄のようになっている。この状況が辛いのは俺だけではないらしく音無さんや秋月さんもまいっているのか最近元気がないような気もする。

 

亜美「りっちゃーん、あついよぉ。」

 

真美「溶けてアイスになっちゃうよぉー。」

 

律子「二人とも我慢しなさい。事務所のクーラー壊れちゃってるんだから。」

 

伊織「そうは言っても、これは暑すぎるわよ…。」

 

あずさ「それじゃあ、アイスでも買ってきましょうか。」

 

亜美「わーい、亜美もいくー。」

 

真美「真美もー。」

 

あずさ「では、少し行ってきますね。」ガチャ

 

小鳥「はい、いってらっしゃい。」

 

伊織「ねぇ、あんたプロデューサーでしょ?クーラーなんとかしなさいよ!」

 

八幡「いや、無茶言うなよ…。無理に決まってんだろ。」

 

伊織「はぁ、どうせ暑いんだったら海にでも行って暑さを感じたいわ…。」

 

律子「それができるならいいんだけれどね…。」ハァ

 

社長「やあやあ、君たち。だいぶ暑さでまいってるようだね。」

 

律子「そうなんですよ、社長。」

 

社長「そんな君たちにいいお知らせがあるよ。」

 

伊織「いい知らせ?」

 

社長「あぁ、明日アイドル全員で海に行ってもらおう。」

 

律子「海に行ってきていいんですか?」

 

社長「ん?あぁ、そうだよ。」

 

伊織「やったぁ!」

 

あずさ「ただいまー」ガチャ

 

伊織「あずさ!明日みんなで海に行くのよ!」

 

あずさ「あら、まぁ。」

 

亜美「え!ほんと!?」

 

真美「わーい!いっぱい遊ぼー!」

 

伊織「明日が楽しみねっ。」

 

ワイワイ ワチャワチャ

 

社長「それで比企谷くん。ちょっとこっちに来てくれたまえ。」ガチャ

 

八幡「はい、なんですか?」

 

 

 

 

 

伊織「それで?言い訳くらい聞いてあげるけど?」

 

社長の言う通り765プロのメンバー全員で海へとやって来た。

 

海に着くまでは全員わちゃわちゃして楽しそうにしていたのだが、着いた後俺が一言言ったらこの状況だ。

 

中学のときからだが俺が話した瞬間教室がしんとなるんだよな。

 

俺の一言の威力すてき!委員長のちょっとそこ静かにして!より全然威力が高いぜ。主に俺の精神へだが。

 

八幡「いや、俺は何も悪くないし嘘も言っていない。俺は明日は全員で海にいくから用意をしてくれ、としかいってないだろ?」

 

伊織「言い残す言葉はそれだけかしら?」

 

八幡「ま、まて伊織、話せばわかる。あんなに全員がはしゃいでる状態で海に行くのは仕事でーす。とか言えるかよ。コミュ障なめるな。」

 

伊織「全く、期待して損しt…」

 

真「え?今さりげなくプロデューサー伊織のこと下の名前で呼ばなかった!?」

 

真美「もしかして、二人ってそういう関係なのかなー?」

 

春香「えー、全然気がつかなかったよー。」

 

伊織「ば、ばか違うわよ。これは全然そういうのじゃなく…」

 

響「自分も下の名前でよんでもらってるぞー?」

 

亜美「これは兄ちゃんの二股疑惑!!」

 

あずさ「あらあら。」

 

律子「プロデューサー?すこーしお話しがあるんですけど?」

 

八幡(あかん)

 

伊織「だから、全然違うわよ!こんなのと恋人なんかになるわけないでしょ!!」

 

響「自分たちが下の名前でよんでほしいって言っただけだよ。」

 

春香「なんだぁ。」

 

律子「そうならそうと早く言ってください。プロデューサー。」

 

八幡「す、すいません。」

 

律子「まぁ、いいです。それじゃあプロデューサー改めて仕事の説明を。」

 

八幡「あー、さっきも言ったが今日は海に遊びにきたわけじゃなく、真夏のビーチライブの仕事だ。衣装は持ってきてるからそれに着替えてくれ。スケジュールは着替えてから説明する。」

 

貴音「ぷろでゅーさーが朝積んでいたのはばーべきゅーせっとではなく衣装だったのですね…。」

 

八幡「期待させてすまん。」

 

やよい「ちょっと残念ですぅ。」

 

律子「ほーら、いつまでも悄気てないでライブの準備するわよー。」

 

ハーイ。

 

 

八幡「皆揃ったか?」

 

春香「はい!大丈夫ですよ!」

 

八幡「それじゃあライブのスケジュールを伝えるぞ…」

 

…コレコレデツギハコレダ

 

ソノツギハダレデスカ

 

ツギハホシイノコレダナ…

 

八幡「…という流れでよろしく頼む。それじゃあ各自準備をしておいてくれ。」

 

「「「はーい。」」」

 

 

 

八幡「如月、どうかしたのか?」

 

千早「いえ、別に…。」

 

八幡「その…悪かったな、遊べると思わせてしまって。」

 

千早「いえ、それは別に。水着だとより…」ボソボソ

 

八幡「?悪い、聞こえなかった。」

 

千早「…私は歌が歌えるので嬉しいです。プロデューサー、気にしないでください。」

 

八幡「そうか。」

 

律子「プロデューサー、こっち来てもらえますか?」

 

八幡「あ、はい。今いきます。それじゃあ如月、がんばれよ。」

 

千早「はい。」

 

 

 

 

真「それにしても今日ライブだなんてびっくりだよね。」

 

雪歩「そうだねー。」

 

春香「でも、ライブ楽しみだよね!」

 

真「うん、頑張ろう!」

 

オッチャン「あのー、このスピーカー何処にもっていけばいいですか?」

 

雪歩「ひっ」

 

オッチャン「?」

 

春香「あ、そのスピーカーはそこのライトの隣で~~」

 

オッチャン「了解でーす。」

 

真「雪歩、大丈夫?」

 

雪歩「う、うん。ごめんね。急にだったからちょっとびっくりしただけ。」

 

真「そっか。それじゃ、僕たちも準備始めようか。」

 

春香「そうだね。」

 

雪歩「うん。」

 

 

 

海特有の潮のにおいをのせた海風が夏の陽射しで熱くなった身体にふきつく。

 

ステージの準備は既に終わり、段々と観覧席へ見物客が増えてきているのをステージ裏から確認すると裏にある控え室へと足をはこんだ。

 

八幡「もう幾らかお客が集まってる来てるぞ。

準備は大丈夫か?」

 

美希「大丈夫なのー。」

 

響「こっちも大丈夫だぞ。」

 

八幡「そうか。それじゃあそろそろステージ裏に頼む。」

 

「「「はーい。」」」

 

律子「さっきはびっくりしましたけど、大丈夫そうですね。」

 

八幡「何もないといいんですけどね。」

 

 

ソロソロカイエンシマース

 

小鳥「舞子海水浴場にご来場の皆さん!これから765プロ、真夏のビーチライブを開催します!どうぞ最後までお楽しみ下さい。進行は音無小鳥が担当します。それでは、最初はサニー!」

 

~~夏が来るよ 夏が来るよ

今年も始まるよ

夏が来るよ 夏が来るよ

いっせーのいってみましょ Hi~~♪

 

オニイサン「かわいー!」

 

雪歩「はうっ」ビクッ

 

真(雪歩…!)

 

伊織(何やってんのよ!?)

 

雪歩(きょ、曲だけに集中して…)~♪

 

八幡「…。」

 

 

~~~~~~~

 

小鳥「本日は765プロ真夏のビーチライブをご覧いただきありがとうございました。これからも765プロ一同がんばっていきますので、応援よろしくお願いします!」

 

 

春香「おつかれー。」

 

貴音「お疲れ様です。」

 

美希「ライブ楽しかったのー。」

 

あずさ「皆盛り上がってたわねー。」

 

伊織「この伊織ちゃんがいたら盛り上がらないわけがないでしょ。」

 

ワチャワチャワチャワチャ

 

雪歩「…」

 

真「どうしたの雪歩?」

 

雪歩「途中、男の人にびっくりしちゃって…」

 

真「あ、あれか…。別に大丈夫だったよ、あの後は普通に続けられたと思うし。」

 

雪歩「…うん。」

 

 

 

 

律子「暗くなってきたしそろそろ帰りますか。」

 

八幡「あ、あの実はですね。社長が皆でゆっくりしてこい、って旅館を押さえてくれてて…」

 

小鳥「と、言うことは…」

 

美希「お泊まりなの~!」

 

春香「あ、だから着替えだったんですね。」

 

八幡「ああ。一応社長がサプライズにしてくれって昨日頼まれてな。」

 

小鳥「最近忙しかったからありがたいですね。」

 

律子「今日は社長に甘えてゆっくり休ませてもらいましょう。」

 

ワーイ

オトマリダー

 

雪歩「…」

 

春香「ほら行こう、雪歩!」

 

雪歩「…うん。」

 

 

 

八幡「…」

 

 




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すこし彼らの夏は変わっている。

 

 

海水浴場から10分ほどの所に今晩俺達が泊まる旅館があった。

海岸が近くにあり窓から東京湾が一望できるそうだ。

 

俺を除く14名は椿の間、そして俺は檜の間に泊まることになった。

ここでもぼっちなあたり俺はプロのぼっちらしい。というかこの状況でぼっちにならない方が問題であり、事件なのだが…。

 

音無さんの話だと夕飯を食べた後に砂浜にでて花火をやるらしい。

その間に俺は温泉にでも行くか。ここの温泉は疲労回復、肩凝り腰痛にきくらしいからな。

 

と予定を立てていたのだが…

 

春香「プロデューサーさん!行きますよー!」

 

八幡「いや、俺は別にい…」

 

小鳥「いいじゃないですか、プロデューサー。せっかくのお泊まりなんですから皆で楽しみましょうよ。」

 

律子「そうですよ、早く諦めた方がいいですよ、どうせいくことになるんですから。」

 

八幡「はぁ。それじゃあ、今から準備すんで、先いっててください。」

 

 

 

真「あ、プロデューサー!こっちですよ。」

 

伊織「あんなこといってたからあのまま来ないのかと思ってたわ。」

 

八幡「それも考えたんだがな。その後がより面倒な気がしたんでな。」

 

律子「それじゃあ、始めるわよー。」

 

ワーイ

コッチモヒヲクダサーイ

キャー

リョウテモチナノー

ジブンモー

 

 

小鳥「プロデューサーはやらないんですか?」

 

八幡「…俺にああいう派手なのは似合わないんで。音無さんこそいいんですか?」

 

小鳥「私こういうの見ている方が好きなんですよね。なんででしょうね。」

 

これはあれだな。おばあちゃんの、私は見ているだけで満足だよ、的なあれだな。音無さんそんな歳じゃないんだけどな。

 

日は完全に落ち、月明かりと僅かな街灯が照らしている海岸で花火をしている彼女達をしばらく音無さんと見ていた。

 

手持ち花火を持ち振り回したりしている彼女達の姿がこの暗い世界でひときわ輝いて見えたのはきっと周りが真っ暗だったせいなのだろう。

 

だけれど、その光は何処か俺の心を照らしいている、そんな気がした。

 

 

伊織「ねぇ、あんたはやらないの?」

 

八幡「俺には似合わないからな。」

 

伊織「ふぅん。じゃあ、これならいいわね。」

 

そういって伊織が取り出したのは線香花火。まだ誰もやっていなかったらしくセロハンテープで封をされている袋から少し苦戦して花火を取りだし俺に渡してきた。

 

伊織「はい。あと、小鳥さんも。」

 

小鳥「ありがとうございます。」

 

八幡「なんでこれならいいんだよ。」

 

伊織「別に。何となくそう思ったのよ。」

 

パチパチ。耳を澄ませないと周りの声や波の音でかきけされてしまいそうな儚い音を鳴らす線香花火の光が3人を照らしている。

 

小鳥「あ。私が、一番早く落ちちゃいましたね。それじゃあ私は少し社長へのお土産に皆の写真を撮ってきますね。」タッタッタッ

 

 

伊織「ねぇ。」

 

八幡「なんだ?」

 

伊織「さっきは文句言って悪かったわ。幾らあんたが悪いとは言っても仕事だったもの。それにステージに立てたことお客に喜んでもらえたこと嬉しかったわ。」

 

八幡「…そうか。俺もお客さんが盛り上がっていて良いステージになっていたと思う。」

 

伊織「ありがと…。」

 

八幡「…」

 

伊織「…あんたはどうしてプロデューサーになろうと思ったの?」

 

八幡「…何でだろうな。俺にもよくわからん。」

 

伊織「ふふっ、なによそれ。変なの。まぁ良いわ、これからもよろしく。」タッタッタッ

 

伊織が皆のところへと戻っていくのをその場から見送りながら残った線香花火に一人、火を付ける。

 

線香花火の火花の音がパチパチとどこかうるさく耳に残った。

 

 

 

亜美「温泉だよー、温泉!」

 

真美「いい湯だねぇー。」

 

春香「ここの温泉美容効果があるんだって!」

 

美希「社長に感謝なの~。」バイン

 

春香「千早ちゃん、どうかしたの?」

 

千早「い、いえ、何でもないわ。」

 

貴音「広いですね。」バイン

 

あずさ「ほんとねぇー。気持ち良さそうだわ。」バイン

 

千早「くっ」

 

春香「?」

 

カポン

 

 

真「良いお湯だったね。」

 

雪歩「私久しぶりの温泉だったなぁ。」

 

律子「そろそろ寝る準備しなさいよ。」

 

亜美「ちっち。りっちゃんまだだよ!」

 

律子「え?」

 

真美「夏の夜と言ったらあれをやるしかないでしょ!そう」

 

亜美 真美「「怪談だよ!!」」

 

真美「ってことで兄ちゃんを呼んでくるねー。」

 

春香「何でプロデューサーさんも?」

 

亜美「そりゃあ、怖い話沢山知ってそうじゃん?」

 

真「確かに…。理由は分からないけどそんな感じするね。」

 

 

八幡「…でここに連れてこられた訳か。」

 

亜美「うんうん。」

 

真美「とびきりのやつよろしくね!」

 

響「じ、自分全然怖くなんてないぞ!」

 

美希「怖い話ちょっと楽しみなの~。」

 

八幡「はぁ、それじゃあ。去年のこんくらいの時期だったかな。夏休みも折り返しだったから掃除を夜にしていたんだ。今思えばそのときどこかいつもと様子が違った気がするな。掃除がだいぶ終わってあとはベットの下だけになったんだ。そこで掃除をしようと下を覗き込んだら…」

 

「「「ゴクリ」」」

 

八幡「…TATSUYAのレンタルCDが出てきたんだよ。」

 

小鳥「イヤーー。怖い、怖すぎるわ。」

 

春香「なんか、違う意味の怖さですね。」

 

雪歩「今のなら大丈夫そう。」

 

真「まぁ、今のは特定の人にしか分からないしね。」

 

真美「兄ちゃん、真美はそういうのが聞きたいんじゃないよぉ。」

 

亜美「ホラーがいいよー、ホラー。」

 

八幡「いや、いまの充分怖いだろ。」

 

美希「全然怖くないよー。」

 

伊織「あんたたいしたことないじゃない。」

 

八幡「ほう。良いだろう。とっておきのやつを披露してやるよ。」

 

 

八幡「ここに来る途中の山道に歩道橋がかかっていたのに気づいた奴はいるか?」

 

律子「あ、私運転していたときに見ましたよ。なんでこんなとこにあるのかなって思ったけど。」

 

八幡「そう秋月さんの言う通りその歩道橋はとてもおかしなところにあるんだ。どこがおかしいのかというとガードレールの外と外をつなぐ歩道橋なんだ。」

 

美希「ん?よくわからないんだけど歩道橋って普通道路を渡るためにあるから別におかしなところはないんじゃないの?」

 

八幡「ああ。普通なら、な。だがそこの歩道橋のガードレールの外に歩道はなくましてや人が通る場所ですらないんだよ。」

 

律子「そういえばそうだったかも…。」

 

八幡「じゃあ、なんでそんなところに歩道橋があるのか、ってことになるがこれには深い訳がある。昔あそこで事故が多発していたんだ。しかも理由は全て同じで白い服を着た女の人が急に飛び出してきた、ということだ。だがどんなに警察が調べてもその引いてしまったという女の人は見つからず最初は単なる見間違えによる事故として処理された。しかし明らかにその付近で事故が多発していたためおかしいと思った一人の警官が知人のいわゆる霊媒師っていう人に頼んで現場を見てもらったんだ。その霊媒師が言うにはそこの場所は霊の通り道だったらしい。どうにかできないかその警官が聞いたら霊媒師は上手くいくか分からないが歩道橋を作ってみたらどうだ?と言った。まぁ、確かに霊が歩道橋をわざわざ使うのかっていう話になるがそれでもやらないよりはましだということであそこに歩道橋が建てられたんだ。以来あの場所では事故は起こっていない。」

 

真美「…い、意外に怖い…。」

 

亜美「あ、亜美達そこ通ってきたんだよね…。」

 

律子「…というかそこを通らないと明日帰れないんだけれど…。」

 

伊織「…べ、別に怖くないわ。こんなの作り話よ。」

 

雪歩「で、でも怖いよぉ。」

 

真「大丈夫だよ、雪歩。もう事故は起こっていないんだし。」

 

春香「そうだよね。」

 

八幡「この話には続きがあってな、その歩道橋のしたを通るときはじめは誰も見えないんだが通ったあと後ろを振り向くと白い服を着た人がその歩道橋を渡っているのが見えるらしい。今日来るから気になって昨日調べてみたんだがいまだに目撃情報が絶えないみたいだな。」

 

雪歩「はぅぅぅ。」

 

響「こ、こわくないぞ。怖くなんて…。」

 

やよい「うぅ。怖くてトイレにいけないですぅ。」

 

春香「やよい、一緒についてってあげるから行こ?」

 

やよい「春香さん、ありがとうございます。」

 

律子「ほ、ほら皆。そろそろ寝るわよ、プロデューサーも自分の部屋に戻って下さい。」

 

八幡「あ、はい。」

 

あずさ「怖かったわねぇ。」

 

美希「ミキ、ちょっと帰りに見てみたい気もするの。」

 

雪歩「や、やめなよぉ。見えたら大変だよ。」

 

響「そ、そうだぞ。やめた方がいいぞ。」

 

春香「千早ちゃんは怖くなかった?」

 

千早「少し怖かったけど伊織のいうように作り話だろうし…。」

 

春香「まぁ、そうだろうねー。」

 

千早「私、トイレに行ってくるわ。先に寝てて。」

 

春香「あ、うん。いってらっしゃい。」

 

 

ガチャ ジャーーー

 

千早(はぁ、プロデューサーの話を聞いたせいで一人だと少し怖いわね…。まぁ、別に幽霊なんて本当にいるわけないし…)

 

ガサッ

 

千早「ひっ。」バッ

 

千早「なにもいない…よね。」

 

トコトコ ガサッ

千早「ひっ」バッ

 

千早「…い、いやぁぁあ」ダッ

 

ガチャ

 

八幡「は、え?如月!?」

 

ギュウゥゥゥゥ

 

よし、落ち着け八幡。ゆっくりと三行で何が起こったか説明しよう。そうすれば何があったか理解できるぞ。

 

叫び声がしたと思ったら

千早が急に俺の部屋に入ってきて

抱きつかれた。

 

だめだ、全然わけわかんねぇよ。

 

八幡「おい。如月どした?」

 

千早「うぅ、プロデューサー。さっき後ろに黒い影が…。」ナミダメ ウワメヅカイ

 

八幡「うぐっ。お、落ち着け。大丈夫だから。」

 

如月に抱きつかれたままどれくらい時間がたったのだろうか。1分かもしれないし1時間かもしれない。

 

八幡「落ち着いたか?」

 

千早「はい。すみません、取り乱して。」

 

八幡「いや、俺が怖い話したあとだったしな。部屋に一緒にいってやるから。立てるか?」

 

千早「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

 

律子「あ、千早戻ってきたわ。」

 

八幡「んじゃ、早く寝ろよ。」

 

千早「ありがとうございました。」

 

八幡「気にすんな。」

 

律子「何かあったの、千早?」

 

千早「///」

 

律子「?」

 

 

 

こうして俺たちの夏の長い夜が更けていった。




全然怖い話じゃなくてごめんなさい。知ってる話がこれくらいだったもので…。

意見、感想よろしくお願いします。


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たとえばこんなバースデー

 

次の日何事もなく事務所に帰ってくることができた。一応例の歩道橋で振り向いて見たが白い服の人は見えなかった。見えなかったんだ。うん。見えてません。

 

 

律子「無事に着きましたね。」

 

八幡「秋月さん、お疲れ様です。」

 

社長「やあやあ、皆おかえり。」

 

美希「ただいまなの~。」

 

やよい「楽しかったですー!」

 

社長「それはよかった。君達も良い気分転換になったかね?」

 

律子「はい、温泉も気持ちよかったです。」

 

小鳥「日頃の疲れがとれましたよ。ありがとうございました、社長。」

 

社長「うんうん。事務所のクーラーもなおったことだしこれから頑張ってくれたまえ。」

 

八幡「はい。」

 

社長「それでは、今日は皆仕事は入ってないから帰宅するといい。」

 

 

春香「それじゃあ、また明日!」ノシ

 

小鳥「おつかれさまー。」

 

律子「私達はどうしましょうか。」

 

小鳥「おなかもすいてきましたしたるき亭にでも行きますか?」

 

社長「いいね。」

 

律子「そうですね。プロデューサーもどうですか?」

 

八幡「それじゃあ、俺も。」

 

小鳥「プロデューサーさんはたるき亭初めてですよね。ここ美味しいんですよ!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

社長「比企谷くん、どうだったかね。」

 

八幡「安いのにうまいですね。」

 

社長「そうだろう、そうだろう。」

 

小鳥「そのうち全メニュー制覇できますよ。」

 

八幡「マジですか。」

 

小鳥「私は2週間でできました。」

 

八幡「oh…」

 

律子「それができるのは小鳥さんだけでしょうけどね。それではお疲れ様でした。」

 

小鳥「お疲れ様でした。」

 

八幡「それじゃあ、俺も帰ります。お疲れ様でした。」

 

小鳥「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」

 

八幡「うす。」

 

 

炎天下の中荷物の詰まったキャリーバッグを転がしながら家に帰るため駅に向かう。

途中何度か道端の石ころにキャリーバッグがつまづき止まることがあったが予定していた電車には間に合いそうだ。

改札を通るためバッグの中から定期を探していると、ケータイが鳴った。

 

_____________________________________________

From水瀬伊織

To比企谷八幡

Title無題

今から駅前の876カフェに来られる?

_____________________________________________

 

_____________________________________________

From比企谷八幡

To水瀬伊織

Title無題

大丈夫だ。

今から向かう。

_____________________________________________

 

伊織からの呼び出しか。

 

改札からさっき通った道へ戻りカフェへと向かう。876カフェはここの改札から少ししたとこにあるのでさほど時間はかからないだろう。

 

5分ほどで876カフェに着き、入ると765プロのアイドル全員がいた。

 

八幡「どうした?」

 

伊織「遅いわよ。」

 

八幡「そんな時間かかってねーだろ…。それでなんかあったのか?」

 

伊織「あんた今日何日だか覚えてる?」

 

八幡「は?8月8日だろ?」

 

伊織「そうね。」

 

八幡「それがどうかしたのか?」

 

春香「…。あ、あれ?」

 

やよい「…日にち間違ってたのかな?」ヒソヒソ

 

真美「…でも、りっちゃんからのメールだと8月8日だよ。」ヒソヒソ

 

千早「…もしかして誕生日ってこと忘れてるとか?」ヒソヒソ

 

亜美「…さすがにそんなことはないんじゃ…」ヒソヒソ

 

八幡「なぁ、何しゃべってんだ?」

 

雪歩「き、今日はプロデューサーさんの誕生日じゃないんですか?」

 

八幡「は?…あ、そうだな。」

 

(((やっぱりわすれてたー)))

 

春香「今日はプロデューサーさんの誕生日って聞いたので誕生会やろうって皆で企画してたんです。」

 

響「日頃自分たちお世話になってたからなー。」

 

真「いつもありがとうございます、プロデューサー。」

 

亜美「急に前日がお泊まりになっちゃって焦ったけどねー。」

 

八幡「そんな俺がこの仕事してから大して日もたってないのに…」

 

真美「いいんだよー、そういうのはー。」

 

あずさ「それに誕生日は皆で祝った方がうれしいでしょ?」

 

貴音「けぇきも皆で食べた方がおいしいです。」

 

八幡「お、おう。」

 

伊織「はい、これ。誕生日おめでとう。」

 

「「「おめでとうございます!」」」

 

八幡「…おう。これ開けていいか?」

 

伊織「あんたのなんだから勝手に開ければいいでしょ。」

 

八幡「…腕時計か。」

 

伊織「皆で選んだのよ。」

 

美希「誕生日プレゼントをあげようって皆に声かけたのはでこちゃんだけどねー。」

 

伊織「ちょ、美希っ!」

 

八幡「ありがとな、伊織。」

 

伊織「別に…。」

 

 

 

 

春香「それじゃあケーキ食べましょう!」

 

千早「そうね。」

 

やよい「うっうー!おいしそーです!」

 

亜美「兄ちゃん今の気持ちはどう?」

 

真美「アイドルに囲まれながらの誕生日はなかなか経験できないよ!」

 

八幡「あー、そうだな。というか家族以外から誕生日プレゼント貰ったの初めてだわ。」

 

更に言うなら最近は親すらプレゼントをくれないがな。まぁ、現金貰えるからいいけど。

 

真「それじゃあ、僕たちが初めてなんですね!」

 

八幡「まあ、そうなるな。」

 

ワイワイ

ガヤガヤ

 

真美「あ、そーだ!兄ちゃん!」

 

八幡「あ?」

 

真美「メアド教えてよー。」

 

亜美「あー!亜美もー。」

 

八幡「ほれ、QRコード。」

 

真美「ほいほい。」

 

亜美「ぽちぽち。」

 

真「あ、プロデューサーさんアプリいれたんですね!」

 

八幡「ん、まぁあった方が便利そうだったしな。」

 

真「ふふっ。」

 

春香「?」

 

美希「ミキのも登録してー。」

 

ア,ワタシノモー

コッチモー

キャハハウフフ

 

全く、こんな誕生日が来ることがあるなんて思いもしなかったな。

人生ってよくわかんねーな。

 




短くてごめんなさいっ

意見、感想よろしくお願いします。


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彼はふと立ち止まる。

 

 

八幡「おはようございます。」

 

小鳥「おはようございます。」

 

八幡「まだ、誰も来てないですか?」

 

小鳥「そうですね。プロデューサーが一番ですよ。」

 

俺が今日は一番、というかここんとのずっと一番。

 

でも、いつも音無さんがいるのに1番っておかしくね?

てか、音無さんは家に帰ることがあるの?いつもいるんですけど。

そんな疑問はきっと永遠に俺の胸のなかにしまわれ彼女に聞くことはないのだろう。

聞いたらいけない、触れてはいけない、そんな気がするんです。

 

 

小鳥「今日は雪歩ちゃんの付き添いですか?」

 

八幡「あ、はい。そうですね。」

 

小鳥「そろそろ、雪歩ちゃんの男の人が苦手なのをなおさないといけないですよね。」

 

八幡「少なくとも仕事に影響しない程度にはならないとそろそろ支障がでるかもしれないですね。」

 

小鳥「私たちもずっと何とかしようとしてきたんですけど…変わらなくて…。」

 

八幡「まぁ、そんなに簡単に変われるようなものではないでしょうし。」

 

小鳥「そうですね…。」

 

八幡「まぁこっちでも何か考えてみます。」

 

小鳥「お願いしますね。」

 

オハヨウゴザイマスゥー

 

小鳥「あ、雪歩ちゃん来たみたいですよ。」

 

八幡「それではいってきます。」

 

小鳥「はい、いってらっしゃい。」

 

ハギワラモウイケルカ?

プ,プロデューサーサン…ダイジョウブデス

 

 

 

小鳥「頑張ってくださいね…比企谷くん。」ボソッ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

カメラマン男「もうちょっと笑顔でー」パシャパシャ

 

雪歩「はうぅ。」

 

八幡(さて、これはどうするべきか…)

 

 

 

雪歩「…おつかれさまですぅ。」

 

八幡「あぁ、おつかれ。」

 

雪歩「今日もダメでした…。」

 

八幡「なぁ、萩原。」

 

雪歩「なんですか?プロデューサーさん。」

 

八幡「萩原は、その、男が苦手なのをなおしたいのか?」

 

雪歩「…はい。私もアイドルですから…。男の人になれないと…。」

 

八幡「…そうか。」

 

雪歩「…はい。」

 

八幡「萩原明後日OFFだったよな?」

 

雪歩「えっと、そうですね。」

 

八幡「会って欲しいやつがいるんだ。その日に事務所に来てもらえるか?」

 

雪歩「?わかりました。」

 

 

ピッピッ

八幡「あ、由比ヶ浜か?ちょっと頼みたいことがあるんだが…」

 

 

 

 

他のやつらに聞いた話だと萩原の男嫌いは父親が過保護なせいで男に慣れていないってのが原因らしい。

 

全く…父親ってなんでこうも娘を溺愛するんだろうな。

 

まぁ萩原は男が嫌いなのではなく苦手であるということがわかった。

 

つまり萩原が男が苦手じゃなくせば良い訳だ。

 

そのために男と関わればいいわけなのだがその肝心の男と対面するといつもの有り様になってしまう。

 

しかし俺はそれを解決することができる男を知っている。……あいつは男でいいのかな?

 

そう。マイエンジェル

 

八幡「戸塚だ。」

 

戸塚「は、はじめまして、戸塚彩加です。」

 

小鳥「プロデューサーが言っていた子ですね。」

 

八幡「はい。」

 

伊織「そ、そのひととあんたはどんな関係なのよ。」

 

八幡「あ?」チラ

 

戸塚「?」キラキラ

 

八幡「天使だな。」

 

伊織「!?」

 

春香「ねぇ、もしかしてあの人ってプロデューサーさんの彼女とかなんじゃ…。」ヒソヒソ

 

千早「え…。で、でもプロデューサー彼女がいるみたいなことは言っていなかったし…。」ヒソヒソ

 

やよい「でも、天使っていってましたよー。」ヒソヒソ

 

八幡「じゃあ、戸塚。適当に皆と話でもしておいてくれ。」

 

雪歩「あ、あのプロデューサーさん?」

 

八幡「ん、どした?」

 

雪歩「…いえ、なんでもないですぅ。」

 

オトナシサン、レイノケンナンデスケド

ア,ハイハイ、アレデスネ エットアレハー

 

伊織「ねぇ、あなたはプロデューサーと同じ学校なの?」

 

戸塚「うん、そうだよ。八幡とは同じクラスなんだ。」

 

伊織「は、はちっ…。」

 

春香「ねえ、千早ちゃん。今戸塚さん八幡ってよんでたよ!?下の名前で!」ヒソヒソ

 

千早「こ、これはそろそろ認めざるを得なくなってきたわね。」ヒソヒソ

 

戸塚「僕、765プロの人達と会えて感激です。八幡がプロデューサーなんですよね。」

 

春香「はい、そうですよ。」

 

伊織「私のプロデューサーは律子だけどね。」

 

戸塚「なら、安心ですね。八幡はすごく頼りになるから。」

 

春香「すっごいプロデューサーのこと信頼してるよ、これはもうあれだよね!?」ヒソヒソ

 

千早「…。」

 

雪歩「あ、あの、戸塚さん。お茶です。」

 

戸塚「ありがとうございます。わぁ、このお茶おいしいですね!」

 

雪歩「はい!そうなんですよ、このお茶は~」

 

ワイワイ キャピキャピ

 

八幡「ずいぶん打ち解けたようだな。」

 

春香「ちょっと盛り上がっちゃって。」

 

八幡「そうか、それはよかった。」

 

伊織「ねぇ。」

 

八幡「ん?」

 

伊織「その、戸塚さんってあんたの彼女なの?」

 

八幡「はぁ?なにいってんだよ伊織。そんなわけあるか。」

 

伊織「あ、あら、そうなの?」

 

戸塚「あはは、僕と八幡は付き合えないよ~。」

 

伊織「そ、そうよね、こんな目が腐った男なんて誰も好んで付き合わないわよね。」

 

戸塚「はは、そんなことはないと思うけどね。」

 

八幡「おい、伊織。状況確認とみせかけて俺を貶すのやめろよ…。それからな、戸塚は男だ。」

 

千早「え?」

 

八幡「いや、だから男なんだって。」

 

やよい「何言ってるんですかープロデューサー。嘘つかなくていいですよ。」

 

戸塚「あ、あの。僕、男の子です。」

 

春香 伊織 「「えぇーー!?」」

 

雪歩「う、嘘…。」

 

八幡「はぁ、だからな、萩原の男が苦手なのをなんとかするために呼んだんだっていっただろ。」

 

雪歩「あっ…。」

 

春香「そういえば雪歩男の人だったのになんともなかったね。」

 

八幡「萩原の男が苦手なはずなのに何ともなかっただろ。戸塚はそんなに男っぽくないってのもあるがそう構えてなければ萩原は平気になってきているんだよ。だからそう深刻に考え過ぎるなよ。少しずつかもしれないけど成長してるんだ。」

 

やよい「よかったですねー!」

 

春香「やったね!雪歩!」

 

雪歩「はい!」

 

千早 伊織「…。」

 

ワーイ

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

千早「あのプロデューサー。」

 

八幡「どうした?如月に伊織。」

 

伊織「さっきのは別に雪歩が男の人が苦手じゃなくなってきたわけじゃないんじゃないの?」

 

千早「きっと戸塚さんを女の子だって思っていたからですよね。」

 

八幡「あぁ、そうだろうな。」

 

伊織「だったらっ」

 

八幡「だけどただ騙したわけじゃねーよ。」

 

千早「どういうことですか。」

 

八幡「萩原は男にたいして考えすぎているってのがあるんだよ。俺らからしたらたかが男、だけどあいつからしたら怖い男、なんだと思う。思い込みってやつもそれに加わるんだろうな。そして思い込みは考え方一つで変えることができる。」

 

千早「それがさっきの嘘ですか。」

 

八幡「あぁ。」

 

伊織「でも、そんなのは結局は解決になってないじゃない。」

 

八幡「いいんだよ、別にそれでも。俺はただきっかけを作っただけだ。そのあとはお前たちが支えていってやってくれ。」

 

伊織「でも…。」

 

八幡「別に俺は後を丸投げにするつもりはねーよ。なにかあったら俺も協力する。だから」

 

千早「プロデューサーが雪歩のことを考えてしたのはわかりました。でも…それでも、私はもっと別のきっかけがあったはずだと思います。…失礼します。」

 

伊織「あ、千早…。」

 

八幡「…。」

 

伊織「あんたの考えは分からなくもないわ。けど…これから何かするときはちゃんと誰かに相談してからのほうがいいと思うわよ。律子や小鳥さんもいるんだし。」

 

八幡「…あぁ。」

 

伊織「私も帰るわね。」

 

八幡「…」

 

バタン

 

 

小鳥「どうぞ、プロデューサーさん。」

 

八幡「…音無さん、ありがとうございます。」

 

小鳥「プロデューサーさんがしたことが悪いことだったとは私は思いませんよ。実際私達が何もできなかったことの解決のきっかけを作ったことはすごいと思います。」

 

八幡「…でも俺は…。」

 

小鳥「きっとあの子たちも頭では分かっているんです。けれども理想を求めてしまうんですよ。」

 

八幡「…俺もあいつらに言われて、もしかしたら別の方法があるのかもしれないとか考えてしまったんですよ。」

 

小鳥「…。」

 

八幡「俺が出来るのはあれしかなかった、そう思っていたんです。」

 

小鳥「ふふっ、ひとつ良いことを学べましたね。」

 

八幡「え?」

 

小鳥「誰かに相談すると何か他の案が浮かぶってことですよ。プロデューサーさんは頑張ってます、それは私が保証します。でもひとりで抱え込まないでください。私はだてに20チョメチョメ年生きてないんですよ、相談くらいのれますよ!」

 

八幡「…ありがとうございます。音無さん。」

 




遅くなってごめんなさい。

それからお気に入り登録200越えありがとうございます。
これからもよろしくおねがいします!


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それでも彼は歩き続ける。

 

 

憂鬱だ。

 

どんなに憂鬱で仕事にいきたくなくても行かなくてはいけないのが世間の常識であり、サボるようならクビになってしまうのがおちだ。

 

自分に厳しく、苦しいのは自分だけじゃない、周りだって辛いんだ。そう言い聞かせ働いている人も多いのだろう。

 

しかし、他の人たちが辛いからってどうして自分まで辛い思いをしないといけないのだろうか。

うちはうち。よそはよそ。かあちゃんに言われなかったのかよ、社会人。

 

そんな下らないことを考えているのに気づいたらスーツを着て出発する準備ができてしまっているあたりに自分が社畜への道を進んでいることに若干、というかかなり嫌になりながらも俺は事務所へと足をはこんだ。

 

 

 

 

八幡「…おはようございます。」

 

千早「ぷ、プロデューサー。…おはようございます。」

 

小鳥「おはようございます!」

 

昨日まで俺が一番だったはずなのに、なんで今日に限って先に如月がいるんだよ…。

 

今度運命の神様にあったら絶対ぶん殴る。

 

大体こんな選択じゃエンディングは見えないし、なんなら神のみじゃなく誰もが知るような展開になる。バッドエンドが見えたぞっ。

 

八幡「…。」

 

千早「…。」

 

八幡「…。」

 

千早「…あのプロデューサー。」

 

八幡「な、なんだ?如月。」

 

千早「昨日はすみませんでしたっ。」バッ

 

八幡「いや、昨日のは俺も考えが甘かったのかm…」

 

千早「いえ、私が感情的になりすぎてしまっただけです。プロデューサーのしたことは良いことではないですが私たちができなかった雪歩の苦手の克服のきっかけをつくることはできてると思います。」

 

八幡「誰にも相談しないでやった俺も悪い。すまなかった。」

 

小鳥「お互いきちんと思いを伝えることが出来ましたねー。千早ちゃんなんて朝早く来て私と謝る練s…」

 

千早「ちょ、ちょっと小鳥さん!!なにいってるんですか!」

 

小鳥「あら、ごめんなさいね。」

 

八幡「…。」

 

千早「…ち、ちがいますからね。小鳥さんがいったことはなんでもないですから。それよりプロデューサー、早く仕事に行きましょう。遅れてしまいますよ。」タッタッタッ

 

八幡「お、おう。」

 

小鳥「うふふ、いってらっしゃい。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

八幡「お疲れさん。」

 

千早「お疲れ様です。」

 

八幡「如月は歌が好きなんだっけか?」

 

千早「はい。」

 

八幡「その、悪いな。まだちゃんとした歌の仕事を持ってこれなくて。」

 

千早「…。」

 

八幡「な、なんだよ。」

 

千早「プロデューサーって意外と考えてるんだなと驚いたんですよ。」

 

八幡「失礼な。俺は凄く他人のこと考えてるぞ。俺が話しかけると迷惑になるだろうから教室では一人静かにしてるからな。」

 

千早「それはプロデューサーが友達がいないからじゃないんですか…?」

 

八幡「…そうとも考えられるかもな。」

 

千早「プロデューサーこのあとも仕事入ってましたよね、私はここで大丈夫ですから。」

 

八幡「そうか、悪いな。気をつけて帰れよ。」

 

千早「はい。お疲れ様でした。」

 

 

 

 

八幡「戻りました。」ガチャ

 

小鳥「あ、お疲れさまです。プロデューサーさん。」

 

八幡「お疲れさまです、音無さん。」

 

小鳥「今日はどうでしたか?」

 

八幡「まぁ…。」

 

小鳥「ふふっ。…あ、そうでした!このあと貴音さんの付き添いですよね?」

 

八幡「はい。」

 

小鳥「でしたら、帰りに事務所までよってください。貴音さんに渡したい物があるんです。」

 

八幡「はぁ、分かりました。では、そろそろなので。」

 

小鳥「はい。いってらっしゃい。」

 

 

 

 

八幡「四条、悪い待たせたか?」

 

貴音「いえ、私も先程来たところでした。」

 

八幡「そうか。ほれ、切符だ。」

 

貴音「それでは参りましょうか。」

 

 

 

 

八幡「なぁ、四条。萩原のことなんだが。」

 

貴音「プロデューサー殿がしたことは間違っても正しくもないと私は思います。」

 

八幡「間違っても正しくもないのか?」

 

貴音「はい。」

 

八幡「どういうことだ?」

 

貴音「それは私の口からは言えません。プロデューサー殿自身が見つけなくてはなりません。」

 

八幡「なぁ、四条…。お前本当に俺と同い年なのか?」

 

貴音「それは秘密です。ふふっ。」

 

四条はそう言うとこの続きはもう言わない、というかのように俺の前を歩き始める。

 

何故彼女が俺に解を教えないのかは今の俺に理解することはできない。

 

俺の前を歩いている彼女が遠くへ行ってしまわないよう少し歩調を早め彼女を追いていかれないよう付いていくのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

八幡「おつかれさん。」

 

貴音「はい、お疲れ様です。」

 

八幡「予定より大分早く終わったな。」

 

貴音「そうですね。これも日頃の練習の成果でしょう。」

 

八幡「そうかもな。レッスンも最近きつくなってきているみたいだしな。」

 

貴音「まこと、竜宮小町に追い付けるよう皆も全力でがんばっているのです。」

 

八幡「そうか。」

 

グゥーー

 

八幡「…。」

 

貴音「…。」

 

八幡「なぁ、四条。撮影が予定より早く終わって音無さんとの待ち合わせにまだ時間があるからラーメンでも食いにいくか?」

 

貴音「らぁめん。是非とも行きましょう。」

 

八幡「千葉駅も近いことだし、俺のおすすめの店つれてってやるよ。」

 

貴音「それは楽しみですね。」

 

千葉駅を目指し二駅電車に揺られること10分。

やってきました我らの千葉駅。

 

改札を抜け千葉の中心部へと足を運ぶ。

大通りを左に曲がり道なりで進むこと3分。目指す店のオレンジ色の看板が見えてくる。

俺と四条はその看板の下、地下へと階段を下りていく。

 

貴音「ここは。」

 

八幡「ここは千葉の代表的なラーメン屋だな。背油がすごいこってりラーメンだ。」

 

ラッセー

 

券売機へといき俺は迷わず醤油ラーメンを押す。

 

八幡「四条はどうする?」

 

貴音「私も醤油らぁめんでおねがいします。」

 

八幡「あいよ。」

 

四条の分の食券も買い丁度あいたカウンターに座る。

 

八幡「ギタギタで。」

 

貴音「私もギタギタで、あと麺は固めでお願いします。」

 

八幡「…。」

 

貴音「どうかなさりましたか?」

 

八幡「いや、四条もラーメン屋とか行くんだなぁって。」

 

貴音「私はらぁめんは大好物ですよ。よく一人で行きます。」

 

八幡「そうなのか、珍しいな。」

 

ショウユノギタギタノオキャクサマー、ショウユノメンカタギタギタノオキャクサマー。

 

八幡 貴音「「いただきます。」」

 

 

 

 

貴音「まこと、美味しいらぁめんを教えていただきありがとうございました。」

 

八幡「おう。そういえば何で四条は音無さんに呼ばれてるんだ?何か渡すものがあるとか言ってたけれど。」

 

貴音「秘密です。」

 

八幡「…さいですか。」

 

貴音「はい。」

 

八幡「まぁ、いいや。そんじゃ、事務所に帰るか。」

 

 

 

八幡「お疲れ様です。」ガチャ

 

小鳥「お疲れ様ですプロデューサーさん。」

 

貴音「お疲れ様です。」

 

小鳥「あ、貴音さん。例のあれ届きましたよー。」

 

貴音「ありがとうございます。」

 

八幡「??」

 

小鳥「それからプロデューサーさん、社長が明日朝いつもよりはやくくるようにって。何か話したいことがあるみたいで。」

 

八幡「まじですか。これが俗に言う呼び出しとか言うやつなのか…。なにかやらかしたっけなボソッ」

 

小鳥「ふふ、そういうのじゃないと思いますよ。プロデューサーさんは頑張っていますし。何か新しい企画でも持ってきたんじゃないですかね?」

 

八幡「だと良いですけどね。」

 

小鳥「そういえば千早ちゃんとは大丈夫そうですか?」

 

八幡「まぁ、なんとか。」

 

小鳥「それはよかったです。これからも皆と仲良くお願いしますね。」

 

 

 

皆と仲良く…か。

 

 

 

八幡「…うす。」

 




更新おそくなってすみませんー 

意見、感想よろしくお願いします。



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彼女たちは踊りだす。

 

 

気がつくと、時がたつのは早いもので夏休みも終わりを迎えようとしていた。

 

高校生の夏休みなんてものは入る前にあれをやろう、これをやろう、などと2ヶ月じゃ収まりきらないようなものを心をうきうきさせながら計画し、いざ夏休みにはいるとまだ8月入ったばかりだし平気だろう。まだ2週間もある、でも暑いな。あと一週間かー、何かできるだろ。え、あしたから学校!?なにもしてねーよ。と計画だけして実行しないものだ。

 

こういう俺も去年は夏休み何しようと悩み、楽しんだものだった。

 

今年は忙しくてそんなことを考える暇さえなかったからな。まぁ、別にそれが嫌だったわけではないのだが。

 

つまり何が言いたいのかというとだ。

 

長期の計画なんてものは暇な時にしか思い浮かばないものであり、忙しすぎるとそもそも計画自体しようがなくなるものだ。したがって計画ができるのならまだやれる、諦めちゃダメだ。

 

 

 

どうして今俺がこんなことをいっているのかというと今がめちゃくちゃ忙しいからだ。

 

さかのぼること3日前…。

 

 

 

 

八幡「おはようございます。」ガチャ

 

社長「おぉ、比企谷くんおはよう。」

 

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん。」

 

八幡「その、話って。」

 

社長「あぁ、その事なんだがね。遂に765プロのライブが決まったんだよ!」

 

八幡「ま、マジですか。あ、すみません。本当ですか?」

 

社長「まぁ、メインは竜宮小町になるのだけれどもね。うん、765プロ全員で団結して成功させようじゃないか。」

 

八幡「うす。」

 

小鳥「プロデューサーさん。これから忙しくなりますよー。」

 

八幡「…それでライブやるのはいつ頃なんですか?」

 

小鳥「10月の末頃ですね。」

 

八幡「結構近いですね。」

 

小鳥「そうですねー。新曲もありますしみんなも大変になるかとおもいます。」

 

八幡「新しい曲あるんですか?」

 

小鳥「はい、竜宮小町以外のメンバーでの曲になりますね。」

 

八幡「竜宮以外ですか。」

 

社長「うむ。これを機会にファンの人々に彼女らの良さに気づいてもらおうと思ってね。」

 

小鳥「つまり、このライブは765プロの未来をかけたライブになるってことです。」

 

八幡「この事は秋月さんは知っているんですか?」

 

社長「うむ。律子くんには昨夜伝えたよ。竜宮小町も抜かされないよう頑張ると気合いがはいっていたよ。」

 

八幡「そうですか。」

 

社長「明日、アイドルのみんな集まったら発表することにしよう。比企谷くん、これからとても大変になると思うががんばってくれたまえ。」

 

八幡「うす。」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「えーっと、全員いるか?」

 

春香「はい、竜宮小町以外のメンバーは全員いますよ!」

 

八幡「そうか。」

 

真美「なになにー?に➡ちゃんから話があるんでしょー?」

 

八幡「俺も昨日社長に言われたばかりで詳しくは把握していないんだが、」

 

美希「プロデューサー、そういう堅苦しいのはいいの。」

 

真「み、美希!ぷ、プロデューサー続けてください。」

 

八幡「ああ、まぁ、率直に言うと…。」

 

「「「いうと?」」」

 

八幡「765プロ感謝祭のライブが決まったんだよ。」

 

「「「へぇー」」」

 

あ、あれ?へぇー、で済んじゃう様なことだったの?

 

少し嬉しくて昨日あまり寝つけなかった俺がバカみたいじゃねえか。

 

 

春香「え?」

 

千早「あれ?」

 

「「「ら、ライブーー!!!?」」」

 

いや、反応おせぇよ。危うく穴掘って埋まるところだったぞ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

海老名「んん!?どこかでホモのにおいがっ」ブハッ

 

三浦「ちょ、ひな、擬態しろしー。ほらちーんして。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんか寒気がしたのは気のせいなのだろう。

 

 

真「ほ、本当ですか?プロデューサー。」

 

八幡「ああ、詳しい話はもう少しあとになるが、開催日は10月の末頃になると思っておいてくれ。」

 

響「プロデューサーがためてたわりにあまりにしれっと言うから癖で流しちゃったぞ。」

 

八幡「おい、なんでだよ。普段は俺の言葉流してるみたいじゃねーかよ。」

 

真美「だって、に➡ちゃんの話ひねくれてるんだもん。」

 

春香「あはは…。」

 

真「い、いやぁー、それにしてもライブかぁ。緊張してきたなぁ。」

 

雪歩「うぅ、私大丈夫かなぁ。」

 

貴音「皆で力を合わせればきっとなんとかなりますよ。」

 

やよい「うっうー!楽しみですぅ!」

 

八幡「まぁ、メインは竜宮小町になっちゃうんだけれどな。」

 

響「なんくるないさー。自分頑張って竜宮小町に負けないくらいめだてるようにするさー。」

 

真美「うんうん。真美だって亜美に負けないよう頑張るよー!」

 

 

 

 

美希「ふーん、ライブで頑張れば律子…さんにアピールできるよね。ボソッ」

 

 

 

 

八幡「それから、今回のライブで披露する新曲があるんだが。」

 

「「「わぁーー!新曲!」」」

 

八幡「まだ完全版って訳じゃないんだけどな。」ピッ

 

~~♪

 

「「「うわぁーー!」」」

 

 

 

~~♪

 

八幡「これからライブに向けてのレッスンとかでより忙しくなってくと思うが、そのなんだ、頑張って、くれ。」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

 

 

トレーナー「はい、そこっ!ずれないように!」

 

 

タッタッタッタッ

 

やよい「あっ。」ドサッ

 

トレーナー「ストップー。大丈夫?」

 

やよい「は、はい。」

 

トレーナー「高槻さん、移動遅れないで。」

 

やよい「すみません。」

 

トレーナー「萩原さんもよ。出だしずっと遅れてるわ。」

 

雪歩「す、すみません。」

 

響「さっきからなかなか進まないぞー。」

 

トレーナー「我那覇さんも。走りすぎ。」

 

響「うえっ。」

 

トレーナー「星井さんと菊地さんもよ。」

 

美希「…ミキもっと早く踊れるのに。」

 

雪歩「あっ…。」

 

真「ま、まあ、先ずは皆で合わせるところからだよ。」

 

トレーナー「それじゃあもう一回さっきのところからね。」

 

「「「はいっ。」」」

 

八幡「…。」

 

~~♪

 

ドサッ

 

春香「あ、雪歩っ。」

 

真「大丈夫?」

 

雪歩「は、はい。」ハァハァ

 

トレーナー「一旦休憩をいれましょうか。」

 

雪歩「ハァハァ」

 

やよい「うぅ。」

 

 

トレーナー「どうします?部分的に難易度を下げた方が…」

 

八幡「あ、えっと、そうですね…どうしましょうか。」

 

 

美希「ミキそれは反対なの。」

 

八幡「…星井。」

 

美希「それだと全力のライブって言えなくなっちゃうでしょ。だからレベルを落とすのは反応なの。」

 

八幡「…だが、今のままだとだな…」

 

響「自分だってレベルは落としたくないぞ。…でも。」

 

真美「ゆきぴょんとやよいっち結構無理してるっぽいよね…。」

 

やよい「うっうー、」

 

雪歩「…ごめんなさい。」

 

「……」

 

春香「大丈夫!まだまだこれからだよ!そのためのこの練習なんだし。」

 

千早「そうね。決めるのはもう少し頑張ってからでもいいんじゃないかしら。」

 

真「うん、そうだね。」

 

八幡「…。」

 

貴音「プロデューサー殿。」

 

八幡「…そうだな。しばらくはこのままで。…い、いいですかね?」

 

トレーナー「そうですね、まだ始めたばかりですしね。それじゃあチーム分けをしてフォローしながら頑張りましょうか。」

 

「「「はいっ。」」」

 

真「雪歩は僕と貴音で。」

 

貴音「えぇ。」

 

雪歩「お、おねがいしますぅ。」

 

響「自分はやよいにつくぞ!真美も手伝ってくれるよね。」

 

真美「アイアイサー!」

 

やよい「うっうー!がんばりますぅ!」

 

春香「二人ともファイト!」

 

美希「春香はミキと千早さんで教えるの。」

 

春香「うぇ?」

 

千早「後半所々ずれてきちゃってるから。気を付けて。」

 

春香「…は、はい///おねがい、します。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

歌トレーナー「はい、それじゃあ皆!最初からもう一度!」

 

~~♪

 

歌トレーナー「はいっ。」

 

かがやいたぁーすぅーてぇーじぃーにたぁ~♪

 

歌トレーナー「す、ストップストップ。天海さん。」

 

春香「は、はい。」

 

かがやいた~~♪

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「「「はぁ。」」」

 

真「さすがに疲れたね。」

 

響「こんな調子で大丈夫かなぁ?」

 

雪歩 やよい「「うぅ。」」

 

春香「はいっ。やよい、雪歩!」アメチャンダヨー

 

やよい「うわぁー、ありがとうございますぅ。」

 

雪歩「あ、ありがとう。」

 

春香「疲れたときは甘いものだよね!」

 

千早「そういえば同じようなことをプロデューサーもいってたような…。」

 

真美「あー!言ってた言ってた!「疲れたときはMAXコーヒーが効くんだよ。キリッ」どう?」

 

美希「プロデューサーはもっと目が腐った魚みたいな目なのー!」

 

アハハハハ

 

キャーキャー

 

 

~物陰~

八幡「悪かったな、目が腐ってて。」

 

盗み聞きしてた俺が言えたことじゃないが。

…まぁ、あいつらなら大丈夫そうだな。

 

それよりも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……明日から忙しすぎて俺が大丈夫そうじゃないな。早くかえって小町に会いたい。




お気に入り300ありがとうございます!これからも頑張るのでよろしくお願いします。

意見、感想よろしくお願いします。


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そういうわけで比企谷八幡はもどかしい。

 

 

レッスンを仕事の合間を見つけては彼女らは集まってやっていた。一人一人が真剣に取り組んでいたのだが、あまり変化がないまま夏休みが終わりを迎えてしまう。

 

春香「夏休みは今日で最後だけどこれからも皆頑張ろうね!」

 

真「明日から学校かぁ。」

 

やよい「そうなるともっと忙しくなっちゃうし、練習大丈夫かなぁ。」

 

真美「やよいっち、弱気じゃダメだよ。きっとなんとかなるよー!」

 

春香「そうだよ、やよい。」

 

やよい「真美ちゃん、春香さん…。はい、がんばりますっ!」

 

八幡「そんじゃ、明日は各自学校が終わり次第来てくれ。」

 

千早「はい、分かりました。」

 

伊織「ねえ、あんたも学校にいくの?」

 

八幡「あ?行きたくねーけど行かないと単位落とすからな。」

 

伊織「そう。」

 

美希「プロデューサーって学校行ってたんだねー。ミキしらなかったのー。」

 

何それ、俺不登校児だと思われてたの?流石の俺もちょっと傷つく…。

 

でも行っても行かなくても元々いないみたいなもんだから問題ないでしょ?って言われたら反論できない辺り俺の存在のなさが…って

 

いや、ダメだ!行かないと戸塚に会えん。

 

そうだよ、俺は戸塚に会うために学校にいってるんだ、行かないわけがないだろ。

 

美希「またプロデューサーへんな顔してるのー。」

 

八幡「なっ。」

 

春香「み、ミキ!失礼だよっ。」

 

真美「そうだよ、ミキミキ。かわいそうじゃん。」

 

八幡「天海、真美…。」シミジミ

 

真美「プロデューサーの両親が。」

 

八幡「…。天海、真美、俺の感動を返してくれ…。」

 

真美「てへっ。」

 

春香「わ、私はそんなつもりじゃ、」アセアセ

 

アハハ

 

ワーワー

 

キャーキャー

 

そんなこんなで俺の高校2年の夏休みは終わった。

 

…結局全然夏休みじゃなかった。

 

 

 

 

結衣「あっ!ヒッキー!」タッタッタッ

 

八幡「ん?」

 

結衣「やっはろー!学校来たんだ!」

 

八幡「来ちゃダメだったんですか…。」

 

結衣「あ、ちがっ、そういう意味でいった訳じゃないよ。」アセアセ

 

八幡「あー、そう。よかったわ。」

 

昨日の今日でそんなに学校来ないやつだと思われてんのかと思っちゃったわ。ヒッキー呼ばれてるし。

 

結衣「ヒッキー、部活こられるの?」

 

八幡「いや、キツいだろうな。今日も終わり次第行かないとならねーから。」

 

結衣「そっかー、夏休みにあったこと話したかったんだけど。じゃあいつか時間ができた時にでも顔だしてよ。ゆきのんも楽しみに待ってると思うから!」

 

八幡「いや、それはねーだろ。雪ノ下なら多分、『あら、まだ捕まってなかったのね、オタ谷くん。あなたが手を出す前に捕まえてしまった方がいいのかしら?』とか言うに決まってる。」

 

結衣「ゆきのんそんなこと言わないし。てか、ちょっと似ててキモいんだけど。」

 

八幡「まぁ、雪ノ下によろしく伝えといてくれ。」

 

結衣「うん!まかせて!」

 

戸塚「あ、八幡!おはよ!」

 

八幡「戸塚!元気だったか?」

 

結衣「なんかあたしのときと態度がちがくてムカつくー。」

 

八幡「どうして由比ヶ浜と戸塚を同じように対応するとおもってるんだよ。」

 

結衣「ううー。(´;ω;`)」

 

戸塚「うん、元気だったよ。八幡は最近どう?」

 

八幡「色々としないといけないことが多くて死にそう。」

 

戸塚「そっかー、八幡無理しないでね?」

 

八幡「ああ。」

 

 

ガラララ

 

平塚「それではホームルームを始めるぞ。」

 

戸塚「あ。じゃあ八幡またあとで。」

 

八幡「おう。」

 

平塚「皆夏休みはどうだったかね?まあそれぞれ色々なことがあったとおもうが夏休み明けだからといって怠けずしっかりとーーー…」ペラペラ

 

平塚先生もああしてれば普通のいい教師なんだけどな。普段があんなんだからな。

 

平塚「…ーーーそれから、このあとは文化祭についての話し合いだ。しっかり話し合うように。以上。それから、比企谷。君は私と一緒に職員室にきたまえ。」

 

こ、心を読まれた!?

 

 

 

逆らったら死ぬのは分かっているからしかたなしに平塚先生の言う通りに着いていくのだが結局向こうに着いてから殴られるんだったら行っても行かなくても変わらないんじゃないかと思うのは気のせいだろう。

 

平塚「そこに座りたまえ。何で呼ばれたか見当がついてるだろう?」

 

八幡「い、いやぁー、何のことだか…。」

 

平塚「比企谷…。」

 

八幡「すみません、殴らないでください。」

 

平塚「まぁいい。君のプロデューサーをする件についてだが…」

 

八幡「え、そっちですか?」

 

平塚「ほかに何があるんだ。というか比企谷もしかすると何か失礼なことを考えていなかったか?」

 

八幡「いえ、特に。」

 

平塚「…全く。ともかく、プロデューサー業が大変だろうが出来るだけ学校には来るようにしてくれ。出席数が足らないのはさすがにどうにもしようがないんでね。」

 

八幡「まぁ、アイドルたちも基本的に学校にいってるから無理ではないとおもいますけど。」

 

平塚「うむ。どうしても外せないときは私に連絡するといい。すこしくらいならどうにかしてみせるさ。」

 

やだ、平塚先生カッコいい。しずかっこいい。

 

平塚「一応君の今までの出席数のデータを渡しておくから。何のためかはここでは言えないが。」

 

八幡「あー、ありがとうございます。」

 

平塚「それから比企谷。」

 

八幡「はい?」

 

平塚「部活にもたまには顔を出すといい。由比ヶ浜や雪ノ下が待ってるだろうからな。」

 

八幡「それは由比ヶ浜に言われましたよ。」

 

平塚「そうか。余計なお節介だったようだな。」

 

八幡「年寄りのお節介ってやつですね。」

 

平塚「私はまだそんな歳じゃないっ。」ドンッ

 

八幡「ゴフッ」バタ

 

平塚「全く。」

 

八幡「…でも、俺がいない方があいつら的にはいいんじゃないんですかね。」

 

平塚「ほう、どうしてそう思うのかね。」

 

八幡「いつも百合百合してるじゃないですか。」

 

平塚「はは、確かにな。けれども比企谷。彼女らは君がいたときの方が楽しそうだよ。」

 

八幡「気のせいですよ。」

 

平塚「そうかもしれないな。比企谷、もうクラスに戻っていいぞ。」

 

八幡「うす、失礼します。」

 

 

平塚先生から受け取ったプリントを手にクラスへと向かう。

他の生徒たちはすでに話し合いを始めてるため廊下には俺以外には誰もいない。

 

そういや、学校に来たの久しぶりだな。夏休みは部活に行くことはなかったし。

 

普段見ていた景色と変わってしまっているのを眺めながら俺はそう思った。

いつもなら気にもとめなかったであろう景色の変化に何故か心が引かれたのだ。

 

 

まぁ、そんなことを言う俺もリア充たちからしたら気にもとめないような景色の一部なんだけどな。

 

教室に戻ると俺らのクラスは文化祭でなにをやるのか話し合っていた。

既にクラスの文化祭の実行委員が決まったらしくクラス委員ではなく葉山と相模が進行をしている。

 

別に俺は何をすることになろうがあまり関係はないので頬杖をつきながら話し合いを眺めていることにした。どうせ意見は聞き入れられないし。

 

 

 

 

葉山「それじゃあうちのクラスの出し物はミュージカルでいいかな?」

 

オー

 

葉山がしきっていたお陰か特に揉めることもなくあっさりとやることが決まってしまう。

 

どんな演劇をやるかアイデアを募った結果、一つの作品が候補に上がった。

 

へぇ、星の王子さまか…。意外とセンスあるじゃねーか。

読んだことはなくとも名前くらいなら誰もが聞いたことがあると思う。カレーの王子さまは関連商品だと思われがちだが違うので要注意な。

 

高校生がやるなら演目として選ぶにふさわしい世界的名作といっても過言ではないだろう。

 

劇ならば特に俺が関わらなくても問題はあまりないだろう。ライブのことがあるからあんまり関われないしな。

 

 

 

放課後もクラスで脚本をどうするかなど話し合っているのを尻目に俺は学校を後にした。

 

この時間なら他のやつらより早く着きそうだな。乗換アプリでそう確認していると後ろから不意に声をかけられる。

 

結衣「ヒッキー、もう帰っちゃうの?」

 

八幡「ああ、早く行かないといけないんでな。」

 

結衣「そっか。あのさ…」

 

八幡「ん?」

 

結衣「ううん、何でもない。がんばってね、ヒッキー。」

 

八幡「ああ、お疲れさん。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

オツカレー

 

キョウモツカレタノー

 

ジブンハヘイキダゾー

 

 

八幡「うーむ。」

 

春香「どうしたんですか、プロデューサーさん。」

 

八幡「…このままでも大丈夫なのか考えてた。」

 

春香「ごめんなさい、いつまでも出来なくて…。」

 

八幡「あ、いや、悪い。そういう意味でいったんじゃねーんだ。ただ、皆練習でうまく踊れるために必死になりすぎてる気がしてな。」

 

春香「?それはいけないことなんですか?」

 

八幡「悪いことじゃないな。だけどこのままで良いわけでもない。」

 

しかし特に何か思い付くわけでもないんだよな。

このままじゃダメだ。それだけしか分からないことに俺の力不足が感じられるな。

 

真「春香、プロデューサー、どうかしたの?」

 

春香「あ、真。なんかねプロデューサーさんが皆が練習でうまく踊れることに必死になりすぎてる気がするって。」

 

真「んー、僕にはよく分からないですけど、プロデューサー。困ったときは一人で考えるより誰かとかんがえたりするといいですよ。小鳥さんとか律子さんとかいますし。」

 

八幡「…そうだな。」

 

春香「それじゃあ、プロデューサーさん。お疲れさまでした。」

 

八幡「ああ、お疲れ。」

 

 

 

 

 

八幡「音無さん、相談があるんですが。」

 




遅くなってごめんなさい。月に一回は更新できるようがんばります。

感想や意見よろしくお願いします。


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そんなこんなで彼の計画が始まる。

 

小鳥「なるほど。それじゃあプロデューサーさんは皆がこのまま練習していたらダメだ、って思っている、ということであってますか?」

 

八幡「まぁ、言い方に違いはあるかも知れませんが言いたいことはそういうことです。」

 

小鳥「そうですか。それじゃあ一緒に考えてみましょうか。あ、コーヒーでも入れますね。」

 

八幡「すみません。」

 

小鳥「はい、どうぞ。」コトッ

 

八幡「ありがとうございます。」

 

小鳥「それでは、プロデューサーさんはいつからそう思い始めたんですか?」

 

八幡「二、三日前くらいからすかね、多分。ライブが決まったってなったとき辺りの練習のときにはかんじてなかったです。」

 

小鳥「んー、皆は上手くなってないんですか?」

 

八幡「いや、そういうわけじゃないけど…。皆確かに少しずつ上達してます。だけど…。」

 

小鳥「何かがダメ。ってことですよね。」

 

八幡「只の俺の勘違いかもしれないって思ってるんですけど菊地に音無さんとか秋月さんとかに相談してみろって。…どうなんすかね。俺が感じていることが分からないことを相談したところでって思うんですけど。」

 

小鳥「プロデューサーさん、そんなことはないですよ。一人で考えてもわからないときっていうのは視野が狭くなっていることが多いんです。そういうときはどんなに考えても思い付きません。だけど誰かにその事を相談することで少し離れたところから問題を見つめることができるんです。そうしたときに、ふと答えが見つかったりするですよ。」

 

八幡「…。」

 

小鳥「じゃあ一人でやることは悪いことなのか。って思いましたか?」

 

八幡「は?」

 

小鳥「ふふっ、そんな感じの顔でしたよ。」

 

八幡「あー、すんません。俺今までそういう風なことを経験したことなかったんで。」ガシガシ

 

小鳥「私も一人で抱え込んじゃうこと、よくありましたよ。」フフッ

 

八幡「音無さんがですか?」

 

小鳥「そうですよ。私だって普通の人です。悩むことも分からないこともたくさんあります。大人も子どももその点に関してはそんなに違いはないんですよ。ただ、それに対処できる方法を知っているかどうかのちがいなんです。」

 

八幡「まぁ、それは分からなくもないですね。」

 

小鳥「私ね、困ってたときにアイドルの皆に相談したんです。そうしたら自分がとーっても悩んでいたことだったのにあっという間に解決しちゃったんですよ。あー、なんだこんなに簡単なことだったのか、って。その簡単なことが一人じゃ導けなかったんですよ。」

 

八幡「…。」

 

小鳥「一人でやることは悪いことじゃないです。一人で出来るのならそれに越したことはありません。でも、もし一人で行き詰まったなら時には誰かを頼ってもいいんじゃないですか。」

 

八幡「…。」

 

俺は音無さんの言うことに答えることが出来なかった。

 

音無さんの言っていることが間違っていると思っているとかそういうことではなく、その"誰か"を頼るということにどこか違和感を感じたのだ。

 

自分の悩みを自分のことをよく知らないやつに話して、協力する。そんなリア充みたいなことが想像できないのだ。

自分の事をよく知らないやつに話して、それで、たったそれだけで、俺の事を分かった気になられるのが嫌なのだ。

 

 

返事ができず、少しの間事務所に静寂が訪れた。

 

時計の秒針が振れる音だけが部屋に響き渡る。

 

クーラーの運転音が僅かに聞こえる。

 

セミの鳴き声が窓の外から聞こえてくる。

 

こうしているとまるで問題なんて無かったかのように時間が過ぎていく。

 

カチッ カチッ カチッ カチッ

 

そんな静寂の中、音無さんはもう一言俺にアドバイスをくれた。

 

小鳥「プロデューサーさん。頼るのはだれかじゃなくていいんですよ。プロデューサーさんが信頼してる人にすればいいんです。」

 

…カチッ…カチッ… ……

 

八幡「…音無さん、ありがとうございます。」

 

誰かじゃなくて、'' '' を頼る。

 

音無さんの言葉で何かが掴めそうな、何かに少し近づいたような、そんな気がした。

 

小鳥「なーんて、こんなかっこいいこといってますけど、結局プロデューサーさんの思ってるダメなことってのがわかってませんねー。」

 

八幡「あー、そういえばそれを相談してたんですよね。」

 

小鳥「もぅ、プロデューサーさん。しっかりしてくださいよ!」

 

八幡「す、すみません。」

 

小鳥「…あ、そうだ。この前行った夏のライブの動画みてみますか?何か分かるかもしれませんよ。」

 

八幡「そうですね、あ、俺がやります。」

 

音無さんからDVDを受け取りデッキにセットする。

 

 

しばらくするとDVDが再生され少し前のライブの映像が表示される。

 

 

テレビ「……水浴場にご来場の皆さん!これから765プロ、真夏のビーチライブを開催します!どうぞ最後までお楽しみ下さい。進行は音無小鳥が担当します。それでは、最初はサニー!」

 

小鳥「なんか、自分の声がテレビからするって恥ずかしいですね。」

 

八幡「え? あ、あぁ、そうですね。」

 

俺の声がテレビから聞こえてきたことがないので一瞬判断出来なかったわ。

つーか母ちゃん、なんで小町のときにはビデオカメラ持ってくのに俺の時には持ってこないんですかね。

いや、別にとってほしいとかそういう訳じゃねーんだけど。

 

そんなことを考えているとアイドル達が歌っているところが一人づつズームされる。

 

本当に楽しそうに歌ってるな。見てるこっちも元気がもらえる気がする。

 

あくまで気がするだけなんだけど。

 

 

小鳥「みんな楽しそうですねー。」

 

八幡「そうですね。…あ。」

 

小鳥「どうかしたんですか?プロデューサーさん。」

 

八幡「楽しそう…だ。」

 

小鳥「……はい?」

 

やめてください、音無さん。なんだこいつって目でこっちを見つめないで。

 

八幡「いや、変なわけとかじゃなくてですね。俺がずっと突っかかっていたことですよ。あいつら、今あまり楽しそうじゃないんだ、って。歌って踊れるようになるってことだけにしか目が向いてないんですよ。」

 

小鳥「なんだかよくわかりませんけど、けど、思い付いたんですよね。」

 

八幡「はい。どうするかは俺の方で考えてみます。」

 

 

小鳥「…そうですか、頑張ってください。」

 

 

八幡「…それから…困ったときは…ちゃんと誰がじゃなくて、… …相談します。」

 

小鳥「はい!そうしてくださいね。」

 

くそっ、慣れないことはするべきじゃねーな。

 

 

~ーーーーーーーーーーーーーーー~

 

 

 

 

はぁ、結局昨日一日中考えたがあまりいい案が思い付かなかった。

 

俺が感じていたつっかえの原因は分かった。

 

だが、それにどう対処したらよいのかというのはそれはそれでまた難しい問題なのだ。

 

考えすぎたせいか頭が冴えてしまい夜あまり寝付けず軽いオールみたいになっちゃったし…。

 

しかも今ごろになって程よい眠気が襲ってくるとか…。

 

 

眠気と疲労であまりさえない頭に糖分を送るため学校へ行く途中、赤いフォルムの自販機でMAXコーヒーを買い一気に飲む。喉に絡み付くような甘みが疲れた体に染み渡る。

 

さて、今日も頑張るか。

 

空になったアルミ缶をゴミ箱に捨て、再び学校へと向かう。

 

…徹夜あけで学校とか、最近社蓄精神が身に付いてきたする。

 

 

 

徹夜のせいか1限の途中辺りで寝落ちしてしまい気がつくと目の前に平塚先生。

 

はい、死亡フラグが立ちました!

凶器はバナナの皮かな…。

 

八幡「いや、あの、先生。これはちがくてですね…。」

 

平塚「そうか、違うのか。」

 

にっこりと笑みをつくったままそう告げる平塚先生。その少しも変わらない笑顔が逆に怖いです。

 

平塚「ぶっ壊すほどッ シュートッ!」ドシン

 

八幡「ぐはっ…。」ガクッ

ジョジョかよ。しかもこれシュートじゃなくてパンチだし。いや、おれもジョセフ好きだけどさ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

平塚「さて、言い訳を聞こうか。」

 

平塚先生に授業終了後そのまま職員室に連行され、いつもの席につかされる。

というか職員室にいつもの席があるとかどんだけ俺は問題児なんだよ。

 

職員室で事情を知っている平塚先生に嘘をつく必要もないのでこれまでの事を伝える。

 

平塚「そうか、大変なんだな。」

 

八幡「はい、そうなんですよ。」

 

平塚「だけどそれは私の授業を寝てていい理由にはならないよ。」

 

八幡「…さーせん。」

 

平塚「…全く、1限から4限まで寝続けるとは…。今後気を付けるように。」

 

八幡「うす。」

 

平塚「あぁ、そうだ。それから昼食は奉仕部でとりたまえ。」

 

八幡「え、なんでですか?てか、あいつらいるし。」

 

平塚「私の授業を寝てた罰さ。ともかくちゃんと行くように。」

 

八幡「…はい。」

 

平塚先生にそういわれてしまい仕方なく教室に戻り、昼食のパンが入ったコンビニの袋を持ち奉仕部へと向かう。

 

…デモサーユキノン…

…ダケド…カシラ?

アーソーカモ…

 

奉仕部の近くに来るとうっすらと彼女らの声が聞こえてくる。

この空間に俺が入れと言うのか…。

いや、何もおかしいことはない。ただ自分の部活の部室に昼休みにいくだけだ。平気だ…。平気だよね?

 

どんどんドーナツどーんといこう。

 

よし。

 

彼女らのキャハハウフフでマリアさまが見てそうな空間の扉を自分で自分を励まし開くのだった。

 




うぅ、なんか八幡のキャラがぶれぶれだ…。難しいです…。
感想、意見よろしくお願いします。


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いつも彼の案は無謀である。

 

 

 

俺が教室に入るとピタリと音がやむ。

 

そして教室の中の生徒らの目線が俺に集まる。

いや、生徒らといっても部員である雪ノ下と由比ヶ浜二人の、なのだが。

 

少しして由比ヶ浜は驚いた様子で俺に話しかけてくる。

 

結衣「ひ、ヒッキー!?ど、どうしたの、急に部室に来て。」

 

八幡「平塚先生に部室にいけって言われたんだよ。なんでだか理由は知らんけど。」

 

雪乃「それは平塚先生の教室で浮いてしまっている比企谷君への気遣いなのではないかしら。」

 

八幡「うるせーよ。というか昼飯では教室で浮いてない。俺はいつもひとりでベストプレイスにいって飯を食うからな。」

 

雪乃「昼食では、ね。」フッ

 

含みのある笑顔をする雪ノ下。

 

結衣「い、いや、大丈夫だよ!全然大丈夫!ヒッキーのこと皆そんなに気にしてないよ!」

 

八幡「俺のことなんて興味ないですもんね。」

 

結衣「え、あ、いや、それは…。」

 

雪乃「優しさは時に残酷ね。」

 

そうそう、優しさは時に残酷。

 

でも、俺、雪ノ下さんに優しくしてもらった記憶がないんですけど。

というか残酷なことしかないような気がするんですけど。

全く、どうして残酷は時に優しさにならないのかね。

 

優しさは時に残酷ってのは必要条件なんでしょうか?

 

いや、数学出来ないから必要条件がなんだったのかよくわかんないんだけどな。

 

雪乃「それで、いつまでそこに突っ立っているつもりなのかしら?案山子谷くん。」クスッ

 

八幡「いや、別に俺カラスを追っ払ったりしねーから。」ガラッ

 

そう言いながらも雪ノ下に言われた通り、たちっぱなしもあれなので'いつもの'席に座る。

 

雪ノ下と由比ヶ浜も'いつもの'席に座って弁当を広げていた。さっき食べ始めたのか分からないがどちらの弁当も対して手をつけられていない。

 

二人の方をなんとなく見ていると雪ノ下がこちらをチラチラと見ているのに気がつく。

 

八幡「…どうかしたのか?」

 

雪乃「…そ、その、ひ、久しぶりね。」

 

八幡「…おう、久しぶり、だな。」

 

そういうのは最初に言うべきなんじゃないでしょうか。開口一番に罵倒はよくないと思います。

 

 

でも、少し恥ずかしがりながら言う雪ノ下は可愛かったです。

 

俺がそう返事を返してから、誰も口を開かず少し気まずい空間が出来上がる。

敢えて言わせてもらえば、教室が俺の一言で急に静かになるあれではなく、何を話したらいいかわからなくて黙ってしまう方のあれだ。

 

何もしないでただ黙っているのもあれなので、コンビニの袋からナイスなスティックを取りだし袋をあけて食べようとするとこの空気に耐えられなかったのか、由比ヶ浜が口を開く。

 

結衣「あ、あのさっ、ヒッキーは夏休みどうだったの?」

 

八幡「大体仕事だったな。レッスンとか撮影とかの同行で大変だった。」

 

結衣「へ、へぇー。それじゃあ、どっかに遊びに行ったりはしなかったの?」

 

八幡「いや、特には…、あー、一応海には行った。まぁ、それも仕事だったけど。」

 

結衣「へ、へぇー、海かぁー…。 …アイドルの女の子達と海とか、これはヤバイかも…。」ボソッ

 

由比ヶ浜が何か言っていたがあまり聞こえなかったが、特に問題はないだろう。

 

雪乃「アイドル達は無事だったのかしら?比企谷君に襲われたりしてないといいのだけれど。」

 

八幡「するかよ。プロデューサーがアイドルに手を出したらダメだろ。」

 

ふと、如月のことが頭に浮かんだがあれは手を出した訳じゃない。俺からはなにもしてない。うん。

 

 

雪乃「…そうよね。比企谷君にそんなことする甲斐性は無いものね。」

 

そう言われると反論したくなってしまうのが男なのだろう、何故か反論してしまった。

 

今思えばこのとき俺はどうかしていたに違いない。

 

…いや、一度いってみたかっただけだけだ。

 

八幡「まぁ、そのまま一泊したんだけどな。」

 

結衣「え、ちょ、ヒッキー!それどういうこと!?」

 

雪乃「詳しく説明してもらえるかしら。ひきがやくん?」ニッコリ

 

こ、怖いよ。目が笑ってないよ。

 

八幡「そ、そんなことよりお前らの方は夏休みどうだったんだよ。」

 

苦し紛れに話題を変えようとする。これ以上はまずい。主に俺の命が。

 

結衣「あー、話題変えないでよー。」ブー

 

雪乃「はぁ、後で詳しく聞かせてもらうわよ。」

 

八幡「あ、あぁ。」

 

適当な逃げだったが、なんとか延命出来たようだ。

そしてこのまま忘れてもらえるとうれしいです。

 

結衣「奉仕部でね、合宿に行ったんだ。千葉村に。」

 

八幡「千葉村に何しに行ったんだよ、合宿ったってそんなことするような内容の部活じゃねーじゃねーか。」

 

雪乃「平塚先生からの課題よ。小学生たちの林間学校のサポートをすること。」

 

八幡「へぇ、そーいうのも奉仕部の範疇なのか。二人だけか?」

 

結衣「ううん、葉山くん、優美子、ひな、それから戸部っちもいたかな。」

 

八幡「は?奉仕部の合宿じゃなかったのか?」

 

雪乃「これも平塚先生よ。私たちだけにやらせたら贔屓になるからと内申を餌に募集していたらしいわ。」

 

さすが平塚先生。おおかた自分に持ってこられた仕事を生徒に手伝わせてやろうっていう考えだろう。

 

結衣「でね、林間学校で皆からハブられちゃってた女の子がいたの。」

 

八幡「そーいうの小学生でもあるもんなんだな。」

 

雪乃「…小学生も高校生も変わらないわ。等しく人間なのだから。」

 

八幡「…確かにな。」

思い返せば俺も小学生のころからハブられてたわ。

 

結衣「それをなんとかしてあげよー、ってなったんだけど…。」

 

由比ヶ浜の顔から察するにあまり良い結果にはならなかったのだろう。

 

八幡「そっちも色々とあったんだな。」

 

結衣「…うん。」

 

その小学生の女の子が少しかわいそうに思えたのだが、俺がその場にいたとしてもきっとなにもでになかったであろうから、俺からは特にこれ以上はいわなかった。

 

暗い話をしたせいか再び教室に沈黙が訪れようとした。

 

そういや、もうひとつ聞きたいことがあったのだ。

 

沈黙となる前に俺はもうひとつ彼女らに質問をした。

 

八幡「…そういや、さっき俺が来る前になんの話してたんだ?やけに真剣そうだったけど。」

 

結衣「あー、えっとね、さっき話してたのは文化祭の話だよ。」

 

由比ヶ浜の顔がさっきより少し明るくなる。

 

八幡「文化祭?」

 

結衣「うん。ゆきのん副委員長やってるの。」

 

八幡「そういうのやらなそうだけどな。」チラッ

 

雪乃「…それは別にいいでしょう。それで、地域枠の参加が少なくてステージの時間に空きができてしまっててどうするか、由比ヶ浜さんと話してたのよ。」

 

八幡「ステージの…空き…。」

 

結衣「うん、あまり良い案が思い付かなくってさー。私はゆきのんとバンドやったらどうって言ったんだけどさ。ヒッキー何か案あったりする?」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、その案が採用されることは永遠にないわ。」

 

そうピシャリと雪ノ下が由比ヶ浜の案を否定するが、俺的にはちょっと二人の出てるバンド見てみたい気もする。

 

八幡「それで、どのくらいの時間空いてるんだ?」

 

雪乃「30分位ね。予定していた団体数より3つ少ないの。」

 

八幡「…」

 

 

30分の文化祭のステージか。

 

多少の失敗してもノリでなんとかなるし何よりプレッシャーも少ないだろう。

 

もしかするとこれが問題の解決に繋がるかもしれない。これはライブをする楽しみをあいつらに思い出させるにはもってこいの機会だ。

 

でも、そんな簡単に出来るもんなのかな、手続きとか大変そうだな…。

 

 

八幡「なぁ、雪ノ下。その地域参加の日程っていつだ?」

 

雪乃「9月12日だけれど…何か案があるのかしら?」

 

9月12日か。

予定を確認するために手帳をとりだしスケジュールの確認する。

 

俺の担当するアイドル達はライブの為のレッスンしか入っていない。

 

よし。

 

八幡「あぁ、とびきりのやつを用意してやるよ。」

 

結衣「…うわぁ、ヒッキーすごい自信だね。」

 

雪乃「あ、あなたまさか…。」

 

結衣「ん?」キョトン

 

雪ノ下が不安そうにこちらを見つめ、由比ヶ浜は不思議そうにこちらを見つめる。

 

俺が何をしようとしてるか分かっていない由比ヶ浜のために俺はこう告げる。

 

 

 

 

 

 

八幡「あぁ、そのステージで765プロのミニライブをやる。」

 

俺はキメ顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

こう言ったあとに言うのもあれだけど…これ、俺が決めてもいいのか?

 

あとで高木社長とか平塚先生とかに確認しないとな…。

 

 




残念ながらルミルミの出番は無さそうです…。ごめんねルミルミ…

意見、感想よろしくお願いします。


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期待、不安、そして文化祭。

 

 

その後文化祭がどうだとか夏祭りがどうだったとか由比ヶ浜と雪ノ下が話していると、昼休みの終わりを告げるチャイムがなりそのまま解散となった。

 

雪乃「それじゃあ、私はあっちだから。」

 

結衣「うん!またあとでね、ゆきのん。」

 

雪乃「それと比企谷君、さっきの件だけど詳しく決まったらまた話してもらえるかしら。」

 

八幡「ん。まぁ、さっきあんな感じに言ったけどまだ出来るかどうかは微妙だからな。あんまり期待しすぎないで待っといてくれ。」

 

雪乃「ふふ、わかったわ。それじゃあね、由比ヶ浜さん。」

 

おい、俺にはねーのかよ…。

 

 

 

 

結衣「ねぇ、ヒッキー?」

 

先を歩いていた俺の横に少し小走りで来た由比ヶ浜の方を向きながら返事を返す。

 

八幡「なんだよ。」

 

結衣「ヒッキー、ちょっと変わったね。」

 

そういうと由比ヶ浜は少し微笑んだ。

 

それはバカにしたような感じではなく、どこか優しさを感じさせるような笑みだった。

 

そんな由比ヶ浜をみて頬が熱くなるのを感じたのでそっぽを向きながらとりあえず答える。

 

八幡「…そうか?別にそんなことはないと思うが。」

 

結衣「ううん、変わったよ。プロデューサーになってからなんか頼りになるというかさ。」

 

八幡「まぁ、頼りがいがないと専業主夫になるのは無理だからな。頼りになるのは必然だな。」

 

結衣「プロデューサーになったのに、まだその夢諦めてなかったんだ!?」

 

諦めるわけねーだろ、働いたら負けだ。

働いたからこそ分かることだ。

 

そんなことを話していると2Fの教室が見えてくる。

 

教室から出てきた三浦がこちらから向かっている由比ヶ浜に気付き、手をふっているのも見える。

 

優美子「あ、ゆいー。ちょ、聞いてよー。姫菜がさぁー。」

 

由比ヶ浜がちらりとこちらを見つめる。

 

八幡「ほれ、呼ばれてんぞ。」

 

結衣「うん。それじゃ、ね、ヒッキー。えー、なになにー?」タッタッタ

 

由比ヶ浜はそう告げると三浦の方へと向かった。

 

俺は教室の後ろにあるごみ箱に、さっき食ったパンの袋が入ったコンビニの袋を捨てるために後ろの扉へと向かう。

そして扉を開けようとすると、なぜか勝手に開いた。

 

いつから自動になったのかしら、なんて思いながら正面を見ると葉山がそこに立っている。

 

葉山「あ、ヒキタニくん。」

 

八幡「お、おう。」

 

ヒキタニくんって誰ですか。いや、返事返しちゃったけどさ…。

 

葉山「頑張ってね。」

 

八幡「は?」

 

葉山は不意にそう一言だけ告げると教室の外のロッカーへと教科書をとりに行ってしまう。

 

一人教室の入口に取り残される俺。

 

葉山は何のことを言ってたんだ?

何を頑張るんだ?

 

俺は葉山の謎の発言について考えながら自分の席に着き先生が来るのを待つ。

 

 

って、葉山のせいでゴミ捨て忘れたじゃねーか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

最後の授業はロングホームルームで文化祭についての配役決めをするようだ。

海老名さんが描いてきたシナリオを配ったあと、またまた海老名さんが大体の配役を考えてきたらしく、カカッとチョークを鳴らしながら名前を書いていく。

 

「いやだぁ!」「地理学者だけはやりたくねぇよ!」「どーして俺が蛇なんだよぉ!」

 

その度に各地からクラスの男子の絶望の声が聞こえてくる。

そんな地獄絵図が教室にひろがっていく。

 

流石にこれは選ばれていく奴等に同情してしまう。

 

そしてメインキャストの発表である。

 

王子様:葉山

 

まぁ、妥当だろう。俺もそうなるであろうことは予測出来ていたし、誰もがそう思っていたにちがいない。

女子たちもキャーキャー騒いでいる。

 

しかしどうだろうか。

 

海老名さんがぼく"の欄に名前を書いていくと見覚えのあるかたちになっていく。

 

こんなこと誰が想像できてのだろうか。

 

ぼく:比企谷

 

八幡「いや、むりだって…。」

 

見た瞬間にそう漏らしてしまう。

というか、明らかにミスキャスティングだろう。

それを耳ざとく聞いていた海老名さんが驚愕の表情をつくる。

 

姫菜「え!?でも、葉山×ヒキタニは薄い本ならマストバイだよ!?というかマストゲイだよ!」

 

何いっちゃってるですか、この人。頭おかしくなっちゃったのかしら?

 

姫菜「やさぐれたかんじの飛行士を王子様が純粋無垢な温かい言葉で巧みに攻める!これがこの作品の魅力じゃない!」

 

いや、そんな作品じゃねーだろ。テグジュペリに怒られるぞ。

 

八幡「い、いや、悪いけど俺私的な用事で忙しくて無理そうなんだわ。」

 

葉山「そ、そうか。演劇だと稽古とか必要になるからそれだと現実的じゃないな。」

 

ナイスフォローだ、葉山。だけどなんで少し嬉しそうに言うんだよ。

 

姫菜「そっか…。残念。」

 

葉山「そう、だからさ、一度全体的に考え直した方がいいんじゃないか?……王子さま役とか。」

 

それが目的か、こいつ…。

しかし葉山がそう言い終わらないうちに海老名さんは書き直す。

 

王子さま:戸塚

ぼく:葉山

 

姫菜「まぁ、やさぐれ感は減るけどこんなところかな?」

 

葉山「俺は結局出ないといけないんだな…。」

 

姫菜「お、そのやさぐれてる感じ、いいねー。」

 

がくりと肩をおろす葉山。

葉山はどうでもいいが、戸塚を王子さまに選ぶとはなかなか良いセンスをしているな、海老名さん。

 

戸塚は自分が選ばれるとはおもってなかったのか不安そうにこちらをみる。

 

戸塚「僕で大丈夫なのかなぁ、星の王子さま読んだことないんだけど、」

 

八幡「なら、おれが原作貸してやろうか?参考になるだろうし。」

 

戸塚「え、いいの!ありがと、八幡!」

 

このとき初めて読書が好きでよかったとおもった。

 

キーンコーンカーン

 

幸せを感じながら最後の授業は終わったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

今日の仕事は事務所だけですむので制服のまま学校から事務所に直接向かうことにした。

 

まずは社長や音無さんに事情を説明して許可を貰わなくてはならない。

 

事務所につき、ドアを開ける。

 

八幡「おはようございます。」ガチャ

 

小鳥「はい、おはようございま…」

 

音無さんがこちらを目を大きく開きながら呆然としていた。

 

八幡「あ、あの、音無さん?」

 

小鳥「…あっ、ご、ごめんなさいね。制服姿ははじめてだったもので。…ギャップってすごいな…。」ボソッ

 

八幡「はぁ…?えっと音無さん、社長今いますか?」

 

小鳥「はい、いますよ。」

 

八幡「少し相談があるんで社長と一緒にいいですかね?」

 

小鳥「わかりました、ちょっと待っててくださいね。」

 

そう言ったあと音無さんは社長室へ行き何やら話をしている。

 

音無さんを待っている間自分の席に荷物をおき整理をしていると社長から声をかけられた。

 

社長「待たせたね、それじゃあ相談とやらをしてもらおうか。」

 

八幡「はい。」

 

社長室に行き俺は社長に今まで感じていたこと、彼女らの練習のこと、そして文化祭のライブについてのことを話した。

その間社長も音無さんも特に言葉を挟むことなく聞いていた。

 

社長「そうかそうか。しっかりと彼女たちのことを考えているようじゃないか。うん。彼女たちのことは君に任せるよ。君は彼女らのプロデューサーだからね。」

 

八幡「あ、ありがとうございます!」

 

八幡「それで、その文化祭の件なんですけど、学校の行事なのでそんなに予算がないと思うんです。だから今回のライブを依頼というかたちではなくライブの練習場所の提供という形にしたいんですけど、大丈夫ですかね?」

 

小鳥「彼女たちの為でもあるからその点については大丈夫ですよ。万全の体制で出来るわけでもないですし。」

 

社長「そうだね。これをうちのアイドルたちのファンにきっかけにできると良いね。それから、足りない機材はこちらのを使って構わないよ。」

 

八幡「ありがとうございます。」

 

小鳥「これから学校側とも打ち合わせなどしないといけないですね。」

 

八幡「それに関しては俺がやります。ある程度まとまったら事務所で具体的な打ち合わせをしようかと。」

 

社長「うむ。では、日付が決まったら教えてくれたまえ。頑張るんだよ、比企谷君。」

 

八幡「うす。」

 

小鳥「アイドルの子達にはいつ伝えますか?」

 

八幡「明日伝えようかと。明日学校である程度話をしてくるのでやる曲なんかもそのときに。」

 

小鳥「そうですか、わかりました。頑張ってくださいね。」

 

社長達との相談はそこで終わり、俺は今後の予定を考えるため自分の席についた。

 

暫く仕事をしていると天海と菊地が事務所に来る。

 

春香「おはようございます!…え?」

 

真「どうしたの?はる…か…。」

 

二人とも入ってくるなりこちらを見ながら固まっている。

 

八幡「どーしたんだよ。」

 

俺の声に二人ははっとし、慌てて答える。

 

春香「プロデューサーの制服姿初めてみたなーって。」

 

真「プロデューサーいつもスーツだから学生って感じしないですし。今日はどうして制服なんですか?」

 

八幡「いや、ちょっと急ぎの用があったからな。」

というのも、社長達との会話を他のやつらにはまだ知られてくなかったのでいつもより急いで来たのだ。

中途半端な情報だけ流れるのは面倒だからな。

 

春香「へぇー、そうなんですか。なんかラッキーだね、真。」

 

真「うん、そうだね。言ったら他のみんなも驚くだろうねー。」

 

八幡「というか、今日は練習ないだろ?なんか用事でもあるのか?」

 

春香「なんか、ここに来ないと落ち着かなくて。」

 

真「それに、僕部活とかやってないのでやることもないですから。」

 

八幡「そうか。」

 

ふと、今やっていることで思い付く。

 

八幡「なぁ、二人とも。好きな自分達の歌って何だ?」

 

文化祭のライブのための曲を考えていたのだが丁度困っていたのだ。

 

春香「え!?えっとー、なんだろう?」

 

真「急に言われるとなぁ…。」

 

春香「あ!」

 

真「何か思い付いた?」

 

春香「うん、 「The world is all one !!」です! 」

 

真「あ、いいね!僕もその歌好きだよ!」

 

なるほど、確かに。

 

そのあともライブの参考に二人に色々と質問をさせてもらった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

真「でも、なんでプロデューサーあんなこと聞いてきたんだろうね?」

 

春香「さぁ?」




次投稿するのは7月になると思います…。

意見、感想よろしくお願いします!


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文化祭への準備。

天海と菊地に色々聞いたお陰でいくらかどんな曲をやるか絞れてきた。

 

ノートパソコンと向き合いながら今後の予定や計画を打ち込んでいく。

 

いくら文化祭でやるライブだとしても有名なものでないと盛り上がらない可能性もある。

 

もしそんなことにでもなれば彼女たちは傷ついてしまうだろうし、なによりそれだと本来の目的が達成することはかなわないだろう。

 

その辺も考えねーとな。

 

ふと時計に目を向けるとパソコンに向かってから短針が60°回転している。

 

あ、僕細かいところは気にしないんで。

的なことをメガネのオタクくんが言ってた。

 

八幡「はぁ、少し休憩でもするか」

 

コーヒーをいれるためにリビングへと向かう。

 

キッチンでお湯を沸かそうとやかんに水をいれていると、勉強をしていたらしい小町が降りてきた。

 

小町「あ、お兄ちゃん、小町の分もよろしくー」

 

八幡「コーヒーでいいのか?」

 

小町「うんー」

 

インスタントコーヒーと砂糖を二つのマグカップに入れ、沸いた水を注ぐ。そこに一つには牛乳を、もう一つには練乳を入れる。

 

八幡「ほれ」

 

牛乳を入れた方を小町に渡す。

もちろん練乳のはぼくのです。

 

小町「ん、ありがと」

 

リビングで二人してフーフーしながらコーヒーを飲み始める。

 

うちの兄妹はどちらも猫舌だ。

なんか最近猫舌は舌の使い方がどうのこうのってやってたけど、言われた程度で治せるなら猫舌やってねーっつーの。

 

ズズーっと甘いコーヒーを飲んでいると小町がポツリと言葉をもらす。

 

小町「…小町、大丈夫かなぁ…」

 

八幡「小町にしては珍しく弱気だな」

 

小町「お兄ちゃんとはちがって小町は繊細なんですー、だから珍しくもなんともないですー」

 

八幡「いや、俺の方が繊細だろ。女子に陰口言われただけで一晩寝込む自信あるぞ」

 

小町「大丈夫だよ。陰口何て言われないよ」

 

そう、小町が俺のことを慰め?てくれる。

 

小町「誰もお兄ちゃんことなんて見てないから」

 

慰めてくれてなかった。

 

八幡「…そんなんしってるっつーの。…まぁ小町」

 

小町「なに?」

 

八幡「勉強してて不安になるって言うのはいいことなんじゃねーの?」

 

俺がそう言うと小町はなに言ってんのコイツ?的な目でこちらを見てくるので、それに答えるように続ける。

 

八幡「不安がでてくるってのは勉強してるからこそ出てくるんだよ。んで、その不安を消す為には勉強するしかない。そしたらまた不安がでる。そんな悪循環みたいなもんなんだよ、勉強なんてやつは。麻薬と一緒だ。そのうちやらないと不安になってやると心が落ち着くようになるさ」

 

小町「そ、それはいやだなぁ。というかお兄ちゃん、そんなことになったことないでしょ?」

 

八幡「…まぁ、ないけど」

 

小町「お兄ちゃん頭だけはいいからなぁー。羨ましいよぉー」

 

そう言う小町に俺だって影で努力はしているんだ、と言おうとすると小町が更に言葉を続けた。

 

小町「でも、小町も同じ学校行けるようにお兄ちゃんより頑張る」

 

小町の目にはやる気で満ちていた。

 

八幡「そーか、頑張れよ」

 

小町「うん。お兄ちゃんもね」

 

コーヒーを飲み干したマグカップを洗ったあと小町は自分の部屋へと戻っていった。

 

八幡「…ふぅ。もうちょい進めておくか」

 

俺も自室へと向かい文化祭の計画を練るのだった。

 

 

 

 

翌日、いつもより少しばかり早めに家を出てた。

 

チャリを漕ぎながら心地よい風を体一杯にうける。

いつもより少し早い時間というだけで普段見る景色と異なる。

登校している生徒の数も普段より少なくすいすいチャリを進めることができる。

こんなにも時間で景色は変わるんだな、なんて思いながら学校へとチャリを漕ぎ進めた。

 

普段より早めに学校に来たには訳がある。

昨日、というか今日完成させた文化祭765プロライブの企画書を平塚先生にみせ、今後についてや、開催の準備なんかについて話をしたかったからだ。

 

職員室へと行き平塚先生を呼ぶ。

 

平塚「比企谷じゃないか、どうしたんだ?こんなに朝早くに」

 

八幡「先生に少し話があって。ここだと話しにくいんで部室でもいいですか?」

 

俺の顔をみて、真面目な話だと察したのかわかったと一言告げついてきてくれた。

 

奉仕部に入り俺はいつもの席、平塚先生は依頼人が座る席にすわった。

 

八幡「それでですね…」

 

俺は事のはじめから平塚先生に伝えた。

 

平塚「なるほど、話はわかった。だけど比企谷。この案が学校側に断られる可能性を考えなかったのかね。随分と計画だけはしてきたようだが」

 

平塚先生に言われて一番重要なことに気づかされる。そうだった、いくら765プロが良かろうが雪ノ下達が良かろうが、最終決定は学校側にあるのだ。

 

俺が苦虫を潰したような顔をしていると平塚先生は顔を緩ませる。

 

平塚「今回の件はやることに関しては問題はないよ。今後については765プロ側と相談しながら進めよう。比企谷。次はこういうミスに気を付けたまえ」

 

八幡「…すいません。それからもうひとつ頼みがあるんですけど、この件に関して情報が漏れないようにしたいんです」

 

平塚「それは秘密に計画を進めたいということでいいのかな」

 

八幡「はい、情報が流れたとき文化祭に他のファンとかが押し寄せたりすると学校的にも面倒なことになるだろうし何より何が起こるか分からなくなるんで」

 

学校でライブをするというのは、ライブ会場でライブをするのとは異なり安全対策なんかがおろそかになるだろう。それに乗じて変な輩が出て来る可能性は否定できない。

 

平塚「確かにそうだな。…うむ。では、校長と教頭、それから厚木先生にだけつたえるということでもいいかね?流石に私だけしか知らないというのは問題なのでね」

 

八幡「はい、それなら大丈夫だと」

 

平塚「ちゃんと先生方には理由を伝えて秘密にしてもらえるのう頼んでおくよ。まぁ、あの人たちはそういうのを漏らすような人たちではないと思うがね」

 

八幡「おねがいします」

 

平塚「生徒の方は君がなんとかしたまえ、頼れる奴等がいるだろう?」

 

八幡「…うす」

 

平塚「それじゃあ私は職員室に戻るよ」

 

八幡「よろしくお願いします」

 

…次はあいつらか

 

 

午前中の授業を終え教室の外で由比ヶ浜が出てくるのを待つ。

まぁ、あれだ、教室で待たないのは俺なりの気遣いってやつで下手に関わりすぎると変に勘ぐられるからな。

 

 

少しして教室から由比ヶ浜が出てきた。

 

結衣「あれ?ヒッキーどうしたの?」

 

八幡「お前を待ってたんだろうが…」

 

結衣「へ、へぇ。ヒッキーあたしのこと待っててくれたんだ…」テレテレ

 

八幡「また急に行って嫌な顔されるのもやだしな」

 

結衣「べ、別に嫌な顔してないし!」

 

八幡「どーでもいいけど早くいくぞ、時間が無くなる」

 

結衣「あ、ちょ、待ってよヒッキー」

 

奉仕部へとそのまま直行しドアを開ける。

 

八幡「うーす」

 

結衣「やっはろー」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、こんにちは。後ろにゾンビがついてきてしまっているけど大丈夫?」

 

八幡「おい、誰がゾンビだよ」

 

雪乃「あら、気がつかなかったわ、ごめんなさいね。ゾンビ君」

 

八幡「いや、全然謝る気ねーだろ、お前」

 

"これはゾンビですか。いいえ、比企谷です"

が始まっちゃうところだったわ。

なにそれ一周回って見てみたい。

 

雪乃「それで、あなたがここに来たってことは例の件が決まったのかしら?」

 

俺と由比ヶ浜が'いつもの'席に座ると雪ノ下がそうきりだす。

 

八幡「あぁ、事務所のほうと学校の方には許可がとれた。平塚先生もあとは生徒たちでやってくれだとさ」

 

雪乃「そう。それではこれから打ち合わせなどしないといけないわね」

 

八幡「その事なんだが、765プロがライブをすることを秘密にすることは出来ないか?できれは奉仕部内だけで進めたいんだが」

 

結衣「え、どゆこと?だって765プロが来るって分かったらみんなすごい盛り上がると思うし人も沢山来ると思うよ?」

 

八幡「それがダメなんだ。その事が校内中に知れ渡ると外部からファンが押し寄せる可能性があるだろ。只でさえ文化祭の警備なんてのはちょろ甘なんだ。何かあってからじゃ遅いからな」

 

結衣「あ、そっか。」

 

雪乃「そうね、比企谷君のような輩が沢山押し寄せたらそれこそバイオハザードね」

 

八幡「だから俺をゾンビ扱いするのはやめろって…」

 

雪乃「まぁ、秘密にすることは無理ではないわ。相模さんには上手く伝えておくわ」

 

八幡「そうか、ありがたい」

 

雪乃「ただ…ただあと一人には伝えないといけないでしょうね。これを秘密にするためにも」

 

八幡「…誰に伝えんだ?」

 

材木座?ないな。秘密にすることに役に立たないだろう。戸塚…も伝えたいけど伝えるメリットはないな…。

 

…誰?

 

雪乃「葉山君には伝えることになるけどいいかしら?」

 

八幡「葉山?どうして葉山なんだ?」

 

結衣「あー、葉山くんイベント係のリーダーなんだよ」

 

八幡「なるほど、葉山らしいな」

 

葉山は葉山で自分がそういうことで求められていることを自覚してんのな。さすがイケメン。

 

八幡「まぁ、葉山なら秘密を漏らしたりしねーだろうからいいんじゃねーの?」

 

雪乃「そう。なら彼に伝えておくわ、それともあなたがつたえる?」

 

八幡「いや、雪ノ下が伝えておいてくれ」

 

雪乃「わかったわ。それから、765プロ側と打ち合わせとかは出来るのかしら?」

 

八幡「そうだな、平塚先生が打ち合わせするときに一緒に来てもらえるか?」

 

結衣「え、あたしもいっていいの?」

 

八幡「いいんじゃねーの?雪ノ下がいいのなら」

 

雪乃「えぇ、構わないわ」

 

結衣「やったー、アイドルに会える?」

 

八幡「いや、そんときにいるかどうかは分からねーし。」

 

結衣「むー。会えるといいなぁ」

 

八幡「打ち合わせ早い方がいいよな?」

 

雪乃「えぇ、そうしてもらえるとこちらとしては助かるわ。けどあまり事務所に迷惑はかけられないし…」

 

八幡「平塚先生と事務所に聞いとくから放課後にいつやるか伝えるわ」

 

雪乃「そう、ありがとう」

 

一通り雪ノ下達と話し合いが済んだところで昼休みの終わりが近づいていることを告げる予鈴がなった。

 

結衣「あ、そろそろ戻らないと」

 

雪乃「そうね、鍵は私が返しておくから」

 

八幡「いや、今日は俺がいくわ。平塚先生に聞いておきたいしな」

 

雪乃「そう、ならおねがいするわ」

 

八幡「あぁ」

 

雪ノ下から部室の鍵を受け取り走りながら職員室へと向かう。

 

職員室で平塚先生を呼ぼうとしたときら丁度平塚先生が出てくるところだった。

 

八幡「あ、平塚先生。部室の鍵を」

 

平塚「おや、珍しいな比企谷が返しに来るなんて」

 

八幡「さっき聞きそびれたことがあったんで。打ち合わせの件なんすけどいつがいいとかありますか?」

 

平塚「私は今週は放課後ならいつでも大丈夫だよ」

 

八幡「そうすか、分かりました。日にち決まったら伝えますんで」

 

平塚「あぁ、頼んだよ」

 

 

これであとは小鳥さんだけか。

 

ちらりと腕時計を見ると次の授業まで5分もなかったので、後で連絡することにして教室へと戻った。

 

 

休み時間の間に小鳥さんにメールをして確認すると明日でもいいとのことだったから明日の放課後にいくと伝える。

 

 

 

八幡「由比ヶ浜」

 

結衣「ん、なに?」

 

八幡「打ち合わせ明日の放課後に決まったから雪ノ下にも伝えておいてくれ」

 

結衣「えぇ!?明日!?」

 

八幡「ちょ、声でけーよ」

 

結衣「あ、ごめん…うぅ、緊張するなぁ」

 

八幡「とにかく頼んだぞ」

 

結衣「うん、明日楽しみにしてるね!」

 

由比ヶ浜はそう笑顔で告げる。

 

 

いや、だからいるかどうかは分からないんだって…。

 

 

 

 

というか、もしいたらあいつらとアイドルらを会わせることになるのか…

 

 

はぁ、何も起きない事を願おう…。

 

 

 




7月6日5時です。765です。はい、これがやりたかっただけです。
お気に入り登録500超えありがとうございます。
これからもがんばって更新していきたいと思います。
意見、感想よろしくお願いします。


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部員とアイドル。

 

 

結衣「うわー、東京だよ、ゆきのん!東京!」

 

雪乃「ええ、わかってるわ、わかってるから由比ヶ浜さん。もう少し大人しくしてくれないかしら」

 

結衣「あ、ごめん…」

 

平塚「うわー、東京だぞ、比企谷!東京!」

 

八幡「いや、先生。流石にそれはきついんじゃないすか?…主に年齢的にっ…て、ちょ、グーはダメです、グーは」

 

というかこんな公衆の面前で生徒殴ろうとするなよ…一応あんた教師だろうが…

 

平塚「…こほん。冗談はこのくらいにしておいて」

 

八幡「冗談じゃなかっただろ」

 

雪乃「ええ、声が本気だったわね」

 

結衣「ひ、平塚先生、まだ大丈夫ですよ!」

 

慌てて由比ヶ浜がフォローにはいる

 

平塚「まだ…ね。そういってるうちに、もう手遅れ、になるのかぁ…」

 

やばい、先生が自分の世界に入り込んだぞ…。

 

八幡「先生。早く行きたいんでいいすか?」

 

平塚「あ、あぁ、そうだな。…うぅ、最近生徒のあたりがきついような…」

 

雪ノ下たちを765プロの事務所へと連れていく。

普段一人で歩いていく時とは違うので歩く早さに気を使う。

 

これはプロデューサーになってから身につけた業。

というか毎日が一人だったから他人に歩くとき気を使うとかやらないから。だから知らなかった俺は悪くない。

毎日がアローン。

 

強いて言えば靴を踏まないように気を付けるくらい。あれ、マジいたい。

 

平塚先生が俺の隣を歩き、その後ろを雪ノ下と由比ヶ浜がついてくる。

 

そういや、先生は何度か事務所に来てるのか

 

平塚「いやー、音無さんに会うの久しぶりで楽しみだなぁ」

 

八幡「先生。一応仕事ですから飲みに行くのはなしですよ」

 

平塚「ふっ、大丈夫だよ」

 

流石に先生もその辺は弁えているようだ

仮にもこの人も大人だしn

 

平塚「今日は用事があるから早めに帰宅する、と校長に伝えてあるからね。私のこれは仕事じゃない」

 

弁えていなかった

 

八幡「いや、それ有りなんすか?」

 

平塚「昔からこう言うだろう?バレなきゃセーフ、だ」

 

ニヤリと笑う平塚先生。

ほんともう、ダメだなこの人…

平塚先生と謎のやり取りをしているとたるき亭が見えてくる。

 

八幡「そろそろ着くぞ」

 

結衣「うー、どきどきしてきたぁ」

 

雪乃「えぇ、わかったから、わかったから静かにしてちょうだい」

 

結衣「なんかゆきのんヒドい!?」

 

八幡「ヒドイのはお前の声量だよ、バカ。ほれここだ」

 

そう俺が言うと二人はたるき亭とかいてある文字を読んだあと不信そうに俺の方をみる。

 

結衣「ここ、たるき亭って書いてあるよ?」

 

八幡「あぁ、そうだな。事務所は上だ、上」

 

結衣「うえ?」

 

そう俺が言うと二人はたるき亭の少し上を見つめ由比ヶ浜が驚きの声をあげる。

 

結衣「え!?ここなの!?」

 

八幡「もうその流れはやったからいいから」

 

何度も同じやり取りをやるのは面倒なので由比ヶ浜を無視して階段をのぼりドアをあける。

 

八幡「おはようございます」

 

小鳥「あ、プロデューサーさん、おはようございます」

 

音無さんが振り返りこちらに歩いてくる。

 

八幡「例の話ってもうできますか?」

 

小鳥「大丈夫ですよ、私社長呼んできますね」

 

結衣「ゆきのん、本当にヒッキープロデューサーなんだね」

 

雪乃「そうね」

 

八幡「おい、そこ、信じてなかったのかよ」

 

結衣「なんというかさ、改めて実感した?みたいな?」

 

あはは、と由比ヶ浜が言ったことを濁すように笑う。

 

八幡「よくわかんねーけど早く始めるぞ」

 

 

社長、音無さんに、机を挟んで由比ヶ浜、雪ノ下、平塚先生、俺の順で座る。

本来なら俺は向こう側にいるべきなのだろうが今回は総武高として依頼しているというかたちで来ているので一応総武高側に座った。

 

社長「それじゃあキミ、始めてくれたまえ」

 

八幡「はい、今回の総武高校での765プロのライブについてですが…」

 

× × ×

 

八幡「…以上が俺の方で考えた事なんですけど何か質問とかありますか?」

 

一通り俺の中での考えを伝え、周りの様子を見る。

社長、音無さん、平塚先生は特にないと首を振り伝えてくれた。

由比ヶ浜がほへーみたいな感じになっている一方雪ノ下は顎に指を当て何か考えているようだ。

 

しばらくして雪ノ下が口を開く

 

雪乃「そうね、音響の機材などの使用できるかの確認、それと設置なんかはいつ行ったらいいのかしら?それから彼女たちの体育館への入り方をどうするかが不明だったわ。地域発表が始まるまえに情報が漏れてしまっては秘密にする意味が半減するわ」

 

流石雪ノ下だな、詳しく話したとはいえ一度でこんだけの反応ができるとは。

 

八幡「機材の確認は音無さんに付いてきてもらって予定のあう日に。あ、音無さんお願いしても大丈夫ですか?」

 

小鳥「えぇ、大丈夫よ」

 

社長「その間事務所は私にまかせたまえ」

 

八幡「ありがとうございます。機材の持ち込みは前日の準備で大丈夫だろう。アイドル達の入場は…どうするか…」

 

そこまでは想定出来ていなかった。

 

さて、どうするかと顎に指を当てて考えてみる。

 

平塚「体育館の裏口をつかえばなんとかなるんじゃないか?彼処は駐車場からだから人目に付きにくい。始まる直前に入れば噂も最小限に押さえられるだろう」

 

行き詰まりかけていたところで平塚先生が意見を出してくれた。そういえば俺あんまり体育館とか詳しくないんだよね。まず、体育館使う機会ないし。あそこはバスケ部の領地。ちなみにグラウンドはサッカー部な。

 

八幡「平塚先生、先生みたいっすね」

 

平塚「…比企谷、私は教師なんだが?」

 

平塚先生がこめかみをピクピクさせながら腕を上げる

 

ちょ、先生、暴力反対!暴力変態!

 

社長「ところで比企谷くん」

 

寸前のところで社長が助けてくれる。

平塚先生も社長が話を始めたので流石に拳を下ろしてくれた

 

社長「当日歌う曲は決まってるのかね?そろそろ全員に伝えた方が言いと思うのだが」

 

八幡「曲はもう決まってるんでこの話し合いが終わったら伝えようと思います」

 

これに、ここまで空気だった由比ヶ浜が息を吹き返したかのように反応した

 

結衣「ヒッキー、当日は全員きてくれるの?」

 

目をキラキラさせながら俺に顔を近づけてくる。

ちょ、近い近い、良い匂い。

 

八幡「竜宮小町は予定が合わなかったからいけないんだが、竜宮以外は全員行ける、と思う」

 

結衣「あー、そっかー、竜宮小町見られないのかぁ。ちょっと残念」

 

雪乃「由比ヶ浜さん、プロのアイドル11人も文化祭によべることだけでも凄いのよ。これ以上求めるのは失礼だわ」

 

結衣「あ、うぅ、すみません」

 

小鳥「いえいえ、気にしないで。面白いものも聞けたし」

 

音無さんがニヤリと笑う。なにこの人、こんな人だったっけ?

 

八幡「そんじゃあ次は機材の確認する日程を…」

 

そこまでいったところで急に社長室のドアが開く。

 

伊織「ちょっと、皆なにやってるのよ。ノックしても全然返事してくれないし」

 

い、伊織…まじかよ、予定より早く来やがったのか。

 

伊織「全く私がせっかく来たのに誰もいないなんて…ってあら、会議中だったかしら、ごめんなさい」

 

由比ヶ浜や雪ノ下の方を見ながら伊織が謝りドアを締めようとしたとき由比ヶ浜が目を見開きながら口を動かす

 

結衣「い…」

 

い?

 

結衣「いおりんだぁ!」

 

社長室全体に由比ヶ浜のバカデカイ声が響く。

 

伊織「い、いおりん!?」

 

八幡「おい、馬鹿」

 

雪乃「由比ヶ浜さん落ち着きなさい」

 

結衣「あ…、また、ごめんなさい」

 

伊織が何が起こったのか理解できずにあたふたしていたので中に入れて話し合いの内容を伝えてやった。

 

伊織「なるほどね、文化祭かぁ、私も行きたかったなぁ」

 

八幡「伊織は仕事が入ってたんだからしょうがないだろ」

 

 

雪乃「…伊織」ボソッ

 

 

八幡「そんで、こいつが雪ノ下、こっちの馬鹿が由比ヶ浜だ。平塚先生は…」

 

伊織「知ってるわ、たまに来てるから」

 

平塚「おぉ!そうか!いやー、嬉しいなぁー、人気アイドルに名前を覚えてもらえてたなんて」

 

にこにこしながらいっている辺り本当に嬉しいんだろう。この人所々子供っぽいところがあるからな

 

雪乃「よろしく、水瀬さん」

 

結衣「よ、よろしくお、お願いします!」

 

伊織「こちらこそよろしくお願いします…ねぇ、プロデューサー?」

 

奉仕部ふたりの自己紹介を終えると伊織がこちらを見ながらなにか言いにくそうにしている

 

八幡「どうかしたのか?」

 

伊織「え、えっと。…もしかしてどっちかがプロデューサーのか、彼女だったりするの?」

 

結衣「ぜ、全然そんなんじゃないよ!只の部員だよ!」

 

俺が返事するまえに由比ヶ浜が全力で否定する。やだー、そんなの分かってるからそこまで全力で否定することないじゃないですかー。

 

ちょっと全力で傷つくだろうが。

 

それに続くように雪ノ下も

雪乃「えぇ、全くそんなのではないわ。私が上司で彼がしたっぱよ」

全力で苛めにきた。

 

雪乃「そういえば水瀬さん、この男に何かセクハラされたりしてないかしら?」

 

八幡「おい。してないから、お前どんだけ俺のこと疑ってんだよ」

 

伊織「そうねー、特にはないわ」

 

雪乃「そう、もしなにかあったらすぐに連絡してちょうだい。私が彼を滅ぼしておいてあげるわ」

 

八幡「…滅ぼすって…」

 

物騒な時代になったものです。

 

八幡「そんなことより日程の確認しねーと」

 

雪乃「そうだったわね、ごめんなさい」

 

社長「いやいや、気にしないでくれたまえ」

 

小鳥「そうねー、この日とかは大丈夫?」

 

雪乃「はい、この日なら委員会的には大丈夫です。あの、平塚先生」

 

平塚「うむ、この日か。大丈夫だ、校長に話をつけておくよ」

 

雪乃「ありがとうございます。ではこの日にお願いします」

 

小鳥「はーい」

 

社長「うむ。これで大体は決まったかな」

 

八幡「そうですね。大丈夫だと思います。それじゃあそろそろ…」

 

と言いかけたところで事務所のドアが思いっきり開かれた。

 

真「おはようございます!」

 

雪歩「おはようございますぅ」

 

あー、もう、面倒なことになりそうだ…

 

小鳥「おはようございます、二人とも」

 

真「はい!って、あれ?プロデューサー、その人たちは?」

 

雪歩「わぁ、きれいな人たちですぅ」

 

結衣「き、きれいだなんて、ふへぇー」

 

雪歩にきれいといわれて嬉しかったのか由比ヶ浜が頬を緩ませる。確かにアイドルにきれい、とかかわいいとか言われるのは嬉しいだろうな。なんなら俺も言われてみたい。

 

無理だろうけど。

 

八幡「…菊地にはこの前話したと思うが奉仕部の部員だよ」

 

真「あぁ、例の部活の人たちですね!あれ?でもなんで?」

 

八幡「詳しくはまた後で話すが、大まかに言うとお前らに俺の学校の文化祭でミニライブをしてもらおうと思っている」

 

雪歩「ら、ライブですか?で、でもまだ私たちの方のライブの準備も完璧じゃないのに…」

 

八幡「今回のライブはその練習も兼ねてるんだ」

 

真「へぇ」

 

八幡「どうせこの調子だと他のやつらもくるんだろうし…全員揃ったら詳しくはなす」

 

真「あ、あの、僕菊地真です」

 

雪歩「わ、わたしは萩原雪歩です」

 

雪乃「私は雪ノ下雪乃よ、それでこっちが」

 

結衣「由比ヶ浜結衣です!わぁ、真くんも雪歩ちゃんもかわいいなぁ」

 

真「え!僕かわいい…ですか?かっこいいじゃなくて」

 

結衣「え、はい。かわいいです!」

 

真「へへ、ありがとうございます。いやー、でも本当に二人ともかわいいですね、プロデューサーはこんなかわいい二人と一緒に部活してるんですね」

 

結衣「か、かわいいかぁ、ふへへ」

 

またまた由比ヶ浜が頬を緩ませる

 

伊織「ほんとよ、それでいてアイドルのプロデューサーだなんてとんだ女たらしね」

 

八幡「人聞きの悪いことをいうなよ、大体女たらしとかはイケイケのリア充(笑)にいうべきだろ。俺はそんなことはしない」

 

結衣「…むぅ」

 

雪乃「そんなことできない、の間違いじゃないかしら?」

 

八幡「うっせ」

 

結衣「伊織ちゃん」

 

伊織「なにかしら?」

 

ワイワイガヤガヤ

 

なんだか途中から俺をほっぽりだしてガールズトーク?が始まる。でも、平塚先生。そこに入ろうとするとまた辛い思いするとおもうぞ…

 

小鳥「なんだか盛り上がってますね」

 

八幡「…音無さん。もう止めるのもあれなんで全員くるまで待ちますよ。それで全員につたえようかと」

 

小鳥「そうですね。あ、プロデューサーさん、コーヒー飲みますか?」

 

八幡「お願いします、砂糖多目で」

 

小鳥「わかってますよ」

 

 

× × ×

 

 

音無さんに淹れてもらったコーヒーをのみながら今後の予定を整理しているうちに全員集まったようだ。

 

話し込んでいた由比ヶ浜たちに声をかけ、今回の文化祭についての話をはじめる、

 

 

 

 

八幡「……というわけだ。文化祭でやってもらう曲は全部来月のライブの曲のなかから選んでいるからその点は気にしなくて大丈夫だ」

 

春香「文化祭かぁ、楽しみだなぁ」

 

真美「そうだねー、はるるん。たこ焼きに焼きそば、あとあとお化け屋敷とか!」

 

亜美「うー、真美だけずるいよぉ、亜美もいきたかったぁー」

 

八幡「今回文化祭を見るような時間はないからな」

 

やよい「そうなんですかー、お祭りたのしみだったのに残念ですー」

 

伊織「やよい、今度私といきましょ、ね?」

 

あずさ「みんな、私たちの分もたのしんできてね」

 

 

響「プロデューサーの学校かぁー」

 

貴音「千葉、でしたね。らぁめん、またたべにいきたいものです」

 

律子「みんなー、そろそろレッスンに行く時間だから準備しておいてよ」

 

雪乃「それじゃあ私たちはそろそろ帰ります」

 

八幡「あー、俺はレッスンみていくことにするから先に帰っててくれ。道分かるか?」

 

雪ノ下、方向音痴だった気がするんだが

 

結衣「あたしにまかせて!ちゃんと覚えてるから!」

 

雪乃「平塚先生もいるのだし大丈夫よ」

 

八幡「いや、あの人音無さんと飲みに行くつもりだからダメだろ」

 

平塚「なに、まだ時間があるから送っていくさ」

 

八幡「そうですか、じゃあ頼みます」

 

結衣「今日はありがとうございましたー!」

 

雪乃「文化祭、よろしくお願いします」

 

春香「はい!任せてください!」

 

亜美「はるるん、はりきってるねー」

 

春香「ライブ、楽しみだからね」

 

八幡「んじゃ、おつかれさん」

 

雪ノ下と由比ヶ浜が平塚先生に続いて事務所を出ていく。ドアが閉まるのを見送ったあとコーヒーに手を伸ばす

 

春香「二人とも美人だったねー」

 

真「やっぱりそうだよね、僕もそう思ったよ」

 

あずさ「もしかしてどちらかプロデューサーさんの彼女さんですか?」

 

伊織「違うわよ」

 

真美「あれれー?なんでいおりんが答えるのー?」

 

亜美「まさかー?」

 

伊織「ばっ、そんなんじゃないわよっ!さっき気になって本人に聞いたら違うってはっきりいってたのよ」

 

亜美「なーんだ、つまらないのー」

 

真美「とみせかせて実はプロデューサーあのふたりのどっちかが好きだったりするのかなー?」

 

ここまで完全に蚊帳の外だったのに急に話を俺に振ってくる。

戸部かっつーの、やっべーわ!

 

ずっと手に持っていただけのマグカップを机に置く

 

八幡「…そんなんじゃねぇよ。あいつらはそういうのじゃないんだ…」

 

全員の視線が一斉に俺に集まり、音がやむ。

 

いや、視線が集まってるのかは確かじゃない。

俺は今、顔を背けてるのだから、そう感じたというだけだ。

 

そう、あいつらはそういう相手じゃないんだ。

 

 

あいつらは…奉仕部は……

 

 

 

 




アイマスライブ10thがありデレマス2期?が始まり最近アイマスいっぱいですね。
まだまだ夏はこれからですので皆さん体調にお気をつけくださいませ。
意見、感想よろしくお願いします!


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彼は二度振り返る。

 

小鳥「これでよしっと」

 

最後の音響機材の確認が終わり音無さんが体育館の放送室から出てくる

 

八幡「すみません、全部やってもらっちゃって。俺そういうの全然わからなくて」

 

実際俺が音響機材なんかを確認できればわざわざ音無さんが総武高にこなくてもよかったのだが、生憎俺はそういうのに疎い為手伝ってもらった、というかやってもらった。

 

小鳥「気にしないでください。会場の下見も兼ねてますから」

 

八幡「ありがとうございます」

 

小鳥「それにしても高校の体育館ってこんなに広かったのね」

 

ステージから体育館全体を見渡しながら音無さんがそう言う。

 

八幡「そうですか?こんなもんじゃないですか、まぁ、他の高校の体育館を見たことがないんでよくわからないんですけど」

 

小鳥「んー、私の記憶の中ではもう少し小さかったイメージだったんですよ」

 

音無さんが持ってきた道具を片付け始めたので俺もそれを手伝う。

静かな体育館に道具を片付けるカチャカチャという音が響く。

今この体育館には俺と音無さんしかいない。というのも765プロのミニライブは秘密裏ということで平塚先生が部活が終わったあとに作業ができるよう手配してくれたのだ。

 

八幡「まぁ、記憶なんてものは曖昧ですから」

 

片付ける手を止めずに俺はそう呟いた。

 

 

道具を全てまとめ終えると、体育館裏に停めてあるワゴン車へとそれを運んだ。

最後の荷物を運び終えワゴン車のドアを閉める。

 

小鳥「それじゃあ平塚さんのところに行きましょうか」

 

八幡「そうですね」

 

体育館の鍵が閉まっていることを確認し体育館を後にした。

 

平塚先生に作業が終わったことを告げるため俺と音無さんは生徒のいない敷地を通り職員室へと向かう。

 

普段は開いている校舎の扉も放課後の今では鍵が掛かっているため先生たちが通る為に開けてある職員玄関までは校舎の外から行かなくてはならない。

 

まだ夏のジメっとした暑さの外は日が落ちているとはいえ、普段冷房の効いた部屋で生活している俺には辛いものがある。それは音無さんもおなじなのか、まだ暑いですね。なんて話をしている。

 

職員玄関を通り職員室へ平塚先生を呼ぶと少しして荷物を持った平塚先生が出てきた。

 

平塚「お疲れさまです、音無さん」

 

小鳥「平塚さんもお疲れさまです。機材の確認は終わりました。後は前日の準備で大丈夫だと思います」

 

平塚「そうですか、ありがとうございます」

 

こうして二人を見ていると仕事ができる女性達、という感じで格好いいなと感じる。

 

平塚「それじゃあ…」

 

小鳥「行きますか!」

 

これさえなければ、だが。

 

平塚先生らに連れられ近くにあるラーメン屋に向かう。

俺は音無さんの運転するワゴン車に乗せてもらう。

時間を確認するために腕時計を見るとそろそろ8時をまわるところだった。夕飯はいらないと小町に伝えてあるが、一応メールを送っておく。

少しして目当てのラーメン屋の近くのコインパーキングに車を停め俺たちはラーメン屋に並んだ。

なんか、このメンバーで飯を食うときって大抵ラーメンな気がするんだが。いや、ラーメン好きだからいいんだけどさ。

因みに今回は平塚先生がおすすめの家系ラーメンだった

 

ラーメンを食った後平塚先生と別れ、音無さんに稲毛駅まで送ってもらった。

 

八幡「音無さん、今日はありがとうございました。駅まで送ってもらっちゃって」

 

小鳥「いいのよ。プロデューサーさん、文化祭盛り上げましょうね!」

 

八幡「はい」

 

俺は音無さんがロータリーから出るまで車を見つめていた。

 

× × ×

 

翌朝学校に行くと部室に雪ノ下の姿が見当たらなかった。

ここ数日、朝早くに学校に来て部室で文化祭の作業をしているのだ。

いつもは雪ノ下が既に来ていたので鍵が開いていたが今は開いていない。

 

今日は俺の方が早くついたのだろうか、そう思いながら職員室へ部室の鍵を取りに向かった。

 

平塚「比企谷」

 

職員室で平塚先生を呼ぶとやけに神妙な顔で出てくる

 

八幡「あの、部室の鍵を」

 

そう簡潔に告げようとしたのだが平塚先生の言葉で遮られる

 

平塚「雪ノ下なんだが、今日は体調を崩したので休むと連絡があった」

 

雪ノ下が体調不良…

体力が無かったりするがあいつは自分の体調管理なんかはしっかりできる奴だ。

 

そんな雪ノ下が何故体調不良を

 

平塚「ここのところ委員会の方が忙しかったからな。無理がたたったのだろう」

 

その一言に俺は返事が出来なかった。

 

俺は雪ノ下の状況を知らなかった。

委員会が今どうであるなどは全く考慮せず、雪ノ下に765プロのライブの準備を手伝ってもらっていたのだ。

 

いや、彼女が文化祭の副委員長をしているのは知っていた。珍しいことをするものだ、と思ったのは今でも覚えている。

 

覚えているのに分かっていなかったのだ。

 

そう後悔にかられていると平塚先生が俺の肩に手をあてる。

 

平塚「比企谷、自分をあまり攻めるな。私もあの子の無理を知っていながら止めなかったんだ。君だけが悪い訳じゃない」

 

そう声をかけてくれるがそんなのは只の言い訳であることは俺が一番わかっていた。

 

彼女に必要以上の仕事をさせていたのは紛れもなく俺自身なのだ。

 

八幡「はい」

 

思いとは裏腹のてきとうな返事を返し、鍵を受けとり部室に戻る。

雪ノ下の居ない部室に居心地の悪さを感じながらも俺はやる予定だった仕事を片付けていくのだった。

 

集中すると時間が過ぎるのは早いもので気がつくと予鈴がなっている。部室の鍵を返してから教室に行くには時間が少し余りそうだったので、気持ちを落ち着かせるために自販機へと足を運ぶ。お茶を片手に持ちながら平塚先生に鍵を返しに行き教室に戻ると、ちょうど登校してきたであろう由比ヶ浜が見える。あいつにも雪ノ下のことを話しておいた方がいいだろう。

 

八幡「由比ヶ浜」

 

結衣「うわっ」

 

後ろから声をかけたせいか俺が声をかけたせいかは分からないが由比ヶ浜が変な声をあげる。

 

結衣「なんだヒッキーか、どしたの?」

 

振り返り俺だということに気付いて足を止めてくれる。

 

八幡「雪ノ下が今日休んでいるの知ってるか」

 

結衣「……え、そう、なの?」

 

八幡「体調崩しているらしい」

 

由比ヶ浜は驚いたように息をのむ。別に体調を崩す何て事は誰にでもある。しかし、雪ノ下が独り暮らしであることなどを考慮すると不安になるのだろう。

 

結衣「あたし、放課後にゆきのんの家行ってみる」

 

由比ヶ浜ならそう言うだろうと思っていた。

 

八幡「そうか、それじゃあ頼む」

 

授業の開始を知らせるチャイムがなり俺たちは急いで教室へと向かった。

 

× × ×

 

昼休みになり購買に昼飯を買いに行くために教室を出ようとしたところで由比ヶ浜に呼び止められた。

 

結衣「ヒッキー、ゆきのんのことで話があるの。お昼買ったら部室これる?鍵は私が行くから」

 

八幡「あぁ」

 

結衣「じゃあ、あとでね」

 

そう言うと由比ヶ浜は職員室の方向へと走っていった。

 

購買でかったパンを持ちながら、自販機でカフェオレを二つ買う。

 

奉仕部の部室は外から見れば普段と何一つ変わらない。

 

少し重いドアを開け俺は教室のなかへと入っていった。

 

カフェオレを1つ由比ヶ浜に渡し、話を始める。

 

結衣「ゆきのんが文化祭の副委員長をやってるのはヒッキーも知っているよね」

 

八幡「あぁ」

 

結衣「実はね、はじめはゆきのん副委員長やってなかったの。さがみんが補佐をしてって依頼したからなんだ」

 

さがみん?誰だそれ。

カフェオレのプルトップを引き上げ缶を開けた。

 

俺が誰だか理解してないのに気づいたのか由比ヶ浜が教えてくれる。

 

結衣「はぁ、同じクラスの相模南ちゃんだよ。文化祭委員長なの」

 

文化祭委員長からの依頼で副委員長になったのか

 

結衣「それでゆきのんが補佐をしてたんだけど、何て言うかさ、ゆきのんって完璧じゃん?だから文化祭の仕事を大体一人で仕切っちゃったらしくてさ」

 

雪ノ下なら不可能ではないことは容易に予想出来るがその事に俺は少し違和感を覚えた。

 

結衣「それから、かな?隼人君に聞いた話だから詳しくは分からないんだけど、さがみんが準備が進んでるからクラスも出ようって言い出して次第に委員に出る人が減ってっちゃったらしくて」

 

八幡「そりゃあ、委員に望んでなったわけじゃない奴も多いだろうからそうなるだろうな」

 

一人休み始めたらまた一人、それが連鎖し多くのやつが休む。割れ窓理論って奴だな。

 

結衣「それで、さがみんもうちのクラスにいること多くなってさ」

 

八幡「は?いや、あいつ文化祭委員長なんだろ?」

 

結衣「うん…。でも、ゆきのんがそれでもできちゃうから…」

 

相模も相模なのだが雪ノ下も、らしくない。

 

八幡「それで無理がたたったってことか。誰かその現状に対してなにか言わなかったのかよ」

 

結衣「うーん、そこまではわからないかな。私も委員なわけじゃないし」

 

由比ヶ浜が申し訳なさそうにする

 

八幡「いや、すまん」

 

そう謝り、俺はカフェオレを一口啜る。

あ、やっぱりMAXコーヒーと比べると苦いな

 

八幡「つまり、俺が知らない間に雪ノ下が相模から依頼を受けていたってことだよな」

 

結衣「うん、多分体調を崩しちゃったのはそれが原因じゃないかなって思ったから…ヒッキーにはつたえとかなきゃって」

 

反射的に目線をそらしてしまう

 

八幡「いや、別に俺に伝えなくてもいいだろ」

 

結衣「そうかもだけど……でも、部活の事はちゃんと知らせておこうかなって」

 

八幡「…そうか」

 

結衣「ねぇ、ヒッキー」

 

由比ヶ浜は俺の渡したカフェオレの缶を手の中

で転がしながらそう呟く

 

結衣「…あたしと一緒にゆきのんの家行ってくれる?」

 

間をとるように俺はもう一口カフェオレを啜った。

 

八幡「別に俺が行かなくてもいいだろ」

 

結衣「また、そうやって…」ボソッ

 

結衣「あたしだけじゃゆきのん会ってくれないかもしれないし」

 

八幡「そんなことはないだろ」

 

雪ノ下も由比ヶ浜がわざわざ家にまで来たら追い返すようなことはするまい。

 

結衣「…それに、あたし一人だけだとちょっと不安というか…」

 

相変わらず由比ヶ浜は手の中で缶を転がしている。

 

八幡「…まぁ、俺も少し雪ノ下に言いたい事があるから」

 

由比ヶ浜は嬉しそうにこちらを振り返る。

 

結衣「ありがと、ヒッキー」

 

そう言うと由比ヶ浜はカフェオレを開け一口のみ、弁当を食べ始めたので俺も購買のパンを食べる。

 

俺も、由比ヶ浜もなにも言わずに昼飯を食べ静かな空間が少し寂しく感じられた。

 




なんだか全然文化祭が始まらないのですが…
アイマスキャラはもうしばらくお待ちくださいませ

意見、感想よろしくお願いします!


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彼は彼女に語りかける。

放課後、由比ヶ浜に連れられ雪ノ下の家に向かう。

雪ノ下の住むマンションは付近でも高級ということで知られているタワーマンションだ。

セキュリティも厳重なので簡単に入ることは出来ない。

 

八幡「ここで呼び出しができるのか」

 

結衣「あたしに任せて」

 

そう言うと由比ヶ浜はエントランスから雪ノ下の部屋に呼び出しをかける。

二人きりのエントランスにインターホンを鳴らす音が二、三度響いた。

しかし、雪ノ下が出ることはなかった。

 

八幡「居留守…か」

 

結衣「なら、いいんだけれど…もし、本当に出られないくらい具合が悪かったら」

 

いつもなら馬鹿か、と笑い飛ばしていたところだが、とてもそんな気分にはなれなかった。

最後にもう一度、と俺が同じように呼び出しをかける。

四度目のベルが鳴る。

するとスピーカーからザッと音がし返事が返ってきた。

 

雪乃『…はい』

 

三度目の正直ならぬ四度目にして雪ノ下雪乃は俺達の呼び掛けに答えた。

 

× × ×

 

雪ノ下にエントランスを開けてもらいエレベーターで彼女の部屋の階まで上がった。

先ほどまで呼び出しをかけていた部屋の前にいき、由比ヶ浜がインターホンを鳴らした。

少しして遠慮がちに固そうな金属でできたドアが開く。

雪ノ下は少し大きめのセーターを着て髪をひとつに結わいていた。

 

雪乃「…どうぞ、あがって」

 

由比ヶ浜を先にいれ、後から雪ノ下の家に入る。

雪ノ下が一人ですんでいるらしいこの部屋は部屋が3つほどあり、廊下を進んだ先には間接照明のともるリビングダイニングがあった。

…ここに一人か。羨ましい

 

俺と由比ヶ浜は雪ノ下に案内されるままに廊下を進みリビングへと通された。

リビングには小さなガラスのテーブルの上にノートパソコンが置かれ、脇にはファイルなどの書類が重ねられている。

今日も仕事をしていたのだろうか。

 

雪乃「そこにかけてちょうだい」

 

二人掛のソファをすすめられ俺と由比ヶ浜はそれにしたがった。

雪ノ下はそっとかべによりかかった。

 

雪乃「それで、話ってなにかしら」

 

結衣「…ゆきのんが今日学校休んでるってヒッキーに聞いて大丈夫かなって」

 

雪乃「ええ、問題ないわ。少し具合が悪かっただけだから、しっかり進められるところは進めているわ」

 

それは具合が大丈夫なのか、文化祭の仕事が大丈夫なのか…どちらともとれるような…曖昧な返事だった。

 

結衣「ゆきのん、最近頑張りすぎじゃん?…えっとだからさ、もう少し休んだ方が…」

 

由比ヶ浜が言い切る前に雪ノ下が答える。

 

雪乃「別に大したことじゃないわ、私は自分が出来ることをできる範囲でやっているだけだもの。だから…」

 

八幡「だから、なんだ?」

 

まるで少し前の自分を見ているようで、あのときの情けない俺のようで、言いようもない思いが胸を詰まらせる。

 

八幡「だから、一人で大丈夫だっていうのか?」

 

雪ノ下の方は向かずに、高層からみえる千葉の夜景を見つめながらそう呟く。

 

雪乃「…そうよ、これまでもそうしてきたの。だからいつも通りにやっていくのよ」

 

八幡「これまではそれでなんとかなってきたかもな」

 

雪乃「ええ。…あなただって同じでしょ、あなたも私と同じように一人でやってきたのだから…」

 

少し焦ったような口調で俺に同意を求めてくる。

そうだな。もし、これが1ヶ月前の俺だったのならば一人で何が悪い、今まで一人だったやつを否定するんじゃねぇ。なんて言ったのだろう。

 

だけど……

 

 

八幡「同じだっただろうな。だけど…今は違う。プロデューサーになって分かったことがあるんだよ。一人で出来るのは素晴らしい。だけれど誰かを頼ることで、一度、自分を客観的に見ることで見えてくる別の"こたえ"があるってことだ」

 

恥ずかしさなんて今はどうでもいい。

前の俺と同じ状況になっている、コイツを何とかしてやりたかった。

 

雪乃「…もし、もしそれが正しいとしても、私には頼れる誰かなんて」

 

結衣「いるよ。誰かじゃなくていい。私たちを頼ってくれて、いいんだよ。私たちは同じ奉仕部で、友達でしょ?」

 

雪乃「…由比ヶ浜さん」

 

結衣「えへへっ」

 

雪乃「…その男は友達と認識してはいなかっつのだけれど」

 

結衣「ちがうんだ!?」

 

そういや、友達じゃねーな。初めに断られていたし。

でも、こうしてまた雪ノ下が微笑んで、由比ヶ浜がバカをする。そんな場所が戻ってきた気がする。

 

 

結衣「くしゅん」

 

雪乃「あ、ごめんなさい。お茶も出さずに。今出すわ」

 

結衣「あ、あたしやるよ!」

 

雪乃「いえ、本当に大丈夫よ。一日やすんで体調も良くなったから」

 

どうやら体調も大丈夫らしいな。

 

雪ノ下が淹れてくれた紅茶をフーフーしながら冷ましていると由比ヶ浜がこういい出した。

 

結衣「ヒッキー、なんだかゆきのんのプロデューサーみたいだったね」

 

八幡「そんなことねーだろ」

 

雪乃「そうよ、こんな男に私をプロデュースなんて出来ないわ」

 

八幡「へっ、言っとけ」

 

結衣「あたしも、いつかプロデュースしてほしいなぁ」

 

ふと先ほどのことを思い出すとかなり恥ずかしいことをいっていた気がする。

頑張って冷ましていた紅茶を一気に飲み干した。

 

八幡「じゃ、俺帰るから」

 

玄関へと行き靴を履いていると由比ヶ浜がかけてきた。

 

結衣「あ、あたしも帰るね」

 

靴を履こうとした由比ヶ浜の首筋を雪ノ下がそっと触れた。

 

雪乃「由比ヶ浜さん」

 

結衣「は、はい!?」

 

いきなりのことで思わず敬語になっている由比ヶ浜。

 

雪乃「その……。今すぐは難しいけれど……いつか、いつかきっとあなたを頼らせてもらうわ。だから、ありがとう」

 

結衣「ゆきのん…」

 

雪乃「比企谷くんも…その、ありがとう」

 

振り返ることはせず俺はそのまま重いドアを開けた。

 

八幡「おう」

 

別に顔が赤くなっていた訳なんかではない。

 

八幡「由比ヶ浜、あとよろしく」

 

そう言い残し俺は静かにドアを閉めた。

悪いがあとは任せた。

火照った頬を冷やす海からの夜風が気持ちよかった。

× × ×

時は流れ、今日は文化祭二日前だ。

体調不良もあのあと治り復帰した雪ノ下を筆頭に文化祭の準備は進んでいき、学校は文化祭ムード一色となっていた。

由比ヶ浜は三浦たちとクラスの準備に励んでいた。クラスにいても特にする事のなかった俺はライブの為の確認をするために体育館などを見て回っていた。

大体の確認が終わり自販機へ飲み物を買いに行くと、ちょうど休憩に入ったらしい戸塚と葉山が出てきた。

 

戸塚「あ、はちまん!」

 

八幡「おぉ、戸塚!…と葉山」

 

葉山「おまけみたいだな、まぁいいけど」

 

いや、みたいじゃなくおまけだ。

 

戸塚「はちまんも休憩?」

 

八幡「…まぁそんなとこだ」

 

戸塚「文化祭。頑張ろうね!」

 

満面の笑顔の戸塚。

この笑顔のためならいくらでも働ける。

× × ×

八幡「と言うわけで、以上が当日の動きだ。衣装の着替えは先に此方でしてから来てくれ」

 

春香「はい!わかりました」

 

文化祭のライブの手取りを全員に改めて説明した。

 

真「うー、もう文化祭かぁ。僕、もうわくわくしてきました!」

 

やよい「うっうー!私もですー!」

 

真美「真美も準備ばっちしだよ→」

 

八幡「それと音無さん、明日18時に体育館の方に機材の持ち込みお願いします」

 

小鳥「はい!任せてくださいね」

 

文化祭に向けての準備は出来た。

あとはライブを成功させてやるだけだ。

 

それが、こいつらのために必要なことで、俺にできる最大限の事だ。

 




更新が遅くなって大変申し訳ないです。
言い訳になるんですが夏休みもシルバーウィークも全然休みがなかった!…ごめんなさい、言い訳ですね。
最近やっと風邪も治り投稿させていただきました。
これからもよろしくお願いします。
意見、感想待っています。



アイドル出すとかいってちょろっとで申し訳ないです。


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今まさに総武高はフェスティバっている。

ドアを開くと残暑を感じさせない冷たい風が吹いている。今年の夏と秋の境目はキッパリしていて完全に夏は過ぎ去っていた。

玄関の前に置かれている自転車の鍵を解除し目の前の道まで転がした。

ペダルを踏み込む度に加速する自転車は冷たい風を全面に受けている。ギィギィと軋む音を上げながら自転車は季節外れの熱気を帯びることになるであろう所へと向かっていった。

◇ ◇ ◇

丸1日をかけた前日準備でも間に合わなかった団体も多く朝早くからクラスの生徒が集まりせっせと装飾に励んでいる。

2Fのクラスも例外ではなく海老名さんの怒涛の叫び声を中心とし最後の装飾や演劇の確認が行われている。

 

そして特に役職もない俺は海老名さんの指示通りに道具の確認をしていた。

えっと、ゾウ、バオバブ、サーベル、活火山…っておい、どんだけ小道具作り込んでるんだよ。活火山とか出番ないだろ。

そんな無駄に凝った小道具を確認しているとふと演劇組の声が聞こえてきた。

振り返ると王子さまの格好をした戸塚と薔薇の格好をしたやつが見える。

 

戸塚「きみたちはまだ、いてもいなくても、おんなじだ」

 

ああ、あの場面か…。

ステージを見つめながら俺は胸の奥がざわめくのを感じていた。

 

戸塚「きみたちは美しい。でもそれは外見だけで、中身は空っぽだね」

 

そう薔薇にむかって言うと戸塚がこちらの方を向き言葉を続ける

 

戸塚「きみたちのためには死ねない。もちろんぼくのバラだって…」

 

俺は戸塚から目を背け元の自分の作業を再開する。レンチとスパナを整理しながら頭のなかではさっきの場面の続きが流れていた。

"だって彼女は僕のバラだもの"、昔読んだときには気にも止めなかったその台詞がよぎり、その言葉に込められた意味を改めて考えるのだった。

◇ ◇ ◇

暗闇の中、生徒たちのざわめきが響く。一つ一つはきっと意味のある言葉だったのであろうが聞こえてくるのは意味のなさない雑音のみだった。遮光カーテンによって外からの光は差し込まず、今体育館で光っているものと言えば非常口の明かりや生徒の携帯電話の光程度の頼りないちっぽけな光でしかない。

俺は畜光材を含んだ分針を見つめがら出口付近から開会式が始まるのを待っていた。

秒針が刻むにつれざわめきが1つ、また1つとやんでいきついにはしんと静まり返った。

唾を飲む音すら隣に聞こえそうなほどに。

まぁ、隣にはコフーコフーいいながら汗かいてる奴がいるのだが。

カチッと分針が刻まれた瞬間、止まっていた時が動き出すようにステージ上に目が眩むほどの光が爆ぜた。それから一瞬の間をおきマイクのキンッという音とともに耳をつんざくほどの声が飛ぶ。

 

「おまえらぁ、ぶんかしてるかぁー!?」

「うぉぉぉぉお!!」

 

突如現れたお下げの女生徒が叫ぶと一斉に生徒がそれに反応し怒号をかえす。

 

「千葉の名物ぅ、踊りとぉーー?」

「まつりぃぃぃぃぃい!」

「同じアホなら、おどらにゃーー?」

「シンガッソーーー!」

 

お下げの女生徒の謎のコール&レスポンスに会場は一気に熱狂する。

というか、今のスローガンなのかよ。だれだよ、考えたやつ。

そして間をおかず爆音で流れるダンスミュージック。

明日はここにあいつらが立つのか。

かっこよく踊るダンス部の連中を見ながらそう思った。

◇ ◇ ◇

オープニングセレモニーが終わりクラスの最終チェックが始まる。海老名さんがまたもや怒号をあげ、三浦は一人一人に声をかけていく。言っていることはひどいのだが、緊張はほどけそうだ。

やることがない俺はさも働いてるかのように振る舞うため「なるほど、うーん」とか呟きながら教室の出入り口をうろうろしていたら海老名さんに捕まり受付を任された。

座っているだけでいいとかまじ夢ジョブ。

プロデューサーをしたからこそわかるこの仕事の楽っぷりだ。

壁に立て掛けてあったパイプ椅子と長机を組み立てそこに座る。座ると必然的に目の前が見えるわけでそこには公演スケジュールがでかでかと書かれたポスターが掲示されている。

こんな所にあるのだから俺なんかより目立つわけでわざわざ俺に聞いてくる奴もいないだろう。

開場まであと5分。することもなくただパイプ椅子に身を委ね、すこしまえの眩いステージを振り返っていると2Fの教室がまた一段とガヤガヤしだしたので何事かと一寸だけ覗いてみる。

 

戸部「よっしゃ!円陣組もうぜ!」

 

戸部がそう言うと皆なんだかんだと文句をいいながら円が形作られていく。

 

戸部「やっぱ海老名さん仕切んないと始まらないっしょ!ほら、センター来ようぜ!」

 

円なのだからセンターなんて存在しないだろ。と思ったが戸部が示すのは自分のとなり。

いつから戸部が円のセンターになったのだろうか。てかお前がセンターとか2Fで総選挙したら明らかにお前にはならねーだろ。

戸部にならうように三浦が海老名さんの腕を引く。

 

三浦「ほら、海老名。真ん中行きな」

 

ドンと押したその先はセンターもドセンターの円の中心。皆が海老名さんを囲うような形になっている。

なるほど、それならセンターですね。

なぜか戸部が悔しそうにしていたのかは謎だが…。

俺と海老名さんを除く全員が円陣を組みおわると、ちらっと由比ヶ浜がこちらを振り向いた。

首をふって否定するとむーっと不機嫌そうな顔をされた。

俺が教室の外から教室の中心で円陣を組むクラスの奴等を見つめるなか海老名さんが声をかける。そして皆がそれに続いて叫ぶ。

その完成された円陣を外から見るのは案外悪いものではなかった。

◇ ◇ ◇

2Fの出し物ミュージカル星の王子さまは人気御礼で満員御礼になるほどの人気っぷりを見せた。"ぼく"である葉山を見ようと集まった女子、知り合いが面白おかしい格好を一目見ようと集まった男子、なにやら海老名さんと同じ空気をまとった御腐人様方、しまいには厚木や鶴見先生まで来ていた。

総武高校のなかでも中々の人気だったのではないか、と部外者(2F在住)の俺が感じたくらいだ。

明日はより多い来客が見こまれるため海老名さん指導のもとクラスメイト達は今日の反省を生かして改善すべく、一日目終了後に残って作業を続けている。

そんな青春をしている2Fの生徒たちを横目に俺は体育館へと向かった。

◇ ◇ ◇

誰もいない体育館は熱く賑わっている校舎内と比べ肌寒い。半日前にオープニングセレモリーをしていたとは思えないほど静まり返った館内にはシューズのゴムが擦れる音だけが反響している。

ついに、明日か、そう思うと自分が立つわけでもないのに口が乾くのを感じた。

柄にもなく緊張してるのか。

これまでライブを経験してこなかったわけではない。もっと大量のファンがいる会場のライブだって経験してきた。

しかし、自分が企画したライブをするのはこれが初めてで、そしてなによりこのライブの本当の目的は文化祭を盛り上げることではなく彼女達に前に進んでもらうためなのだ。

失敗してはいけない、否、失敗させてはいけない。失敗してしまうのは仕方が無いことだろう。だが失敗してしまうのとさせてしまうのでは訳が違う。

絶対に成功させてやろう。

× × ×

ガチンと体育館に備え付けられた大時計が6時を指した。

ふぅ、と俺のはいた息が体育館でこだまする。

明日のライブを思い浮かべ俺は体育館をあとにした。

 

雪乃「もう用事はすんだのかしら」

 

体育館からの帰り道で雪ノ下から声をかけられる。雪ノ下たちはこれから準備なのか文化祭委員がゾロゾロとこちらへと向かってきていた。雪ノ下が葉山に先にいくよう促すとそれに続いてゾロゾロと音をたてながら委員たちは体育館へと飲まれていく。

 

雪乃「これで聞かれる心配はないでしょう」

 

八幡「あぁ、終わったよ。あとは明日になるだけだ」

 

雪乃「そう。ならよかったわ」

 

八幡「こっちを気にするよりお前の方が忙しいんじゃないのか」

 

雪乃「忙しいわ。けれどあなたに任せておいて明日失敗されてはこちらとしても困るもの。例え嫌でも職務を全うするために聞くしかないのよ」

 

八幡「そんな嫌なのかよ…。あいつらのためだからな、ちゃんとやったに決まってるだろ」

 

雪乃「…そう」

 

すこし雪ノ下の顔を伏せた気がした。

 

八幡「どうかしたのか」

 

雪乃「…何でもないわ、それじゃあ私は行くわ」

八幡「そうか、おつかれさん」

 

雪ノ下が先程の行列と同じ通路をたどり体育館へと歩いくのを見届け、俺もまた教室へと歩き始めた。

 

 

雪乃「…すこし彼女達が羨ましいわ」

 

そんな雪ノ下の弱々しい言葉は八幡には届かず、薄暗い空に向かって溶けていくだけだった。

◇ ◇ ◇

そしてついに文化祭二日目を迎えた。

二日目である文化祭は一日目とは異なり一般公開となり、ご近所さんやら他校の生徒やら受験志望者やらと来客が沢山やって来るのだ。土曜日なのでお休みの人もおおく、文化祭は賑わいを見せていた。

どこか内輪ノリで軽い雰囲気だった昨日とはことなりその分だけトラブルが起こることも増えるだろう。

会場内での事件を防ぐため保険衛生の当番と男性体育教師とが一組となり、二つある校門の前で受付をしているので、そうそう変なヤツが来ることもないだろう。

765プロのメンバーがくるまではまだ時間があるのでいく宛もない俺は校内をぶらぶらっと回っていた。

二階から三階へ上がったところで、飛びかかってきたような衝撃を背中に受ける。

ぐうぇ、カエルが潰れたかのような声が喉から鳴る。小学生のころ蛙と呼ばれてたのは伊達ではなかったらしい。

 

「お兄ちゃん!」

 

振り向くと小町が俺の背中に抱きついていた。

八幡「おお、小町」

 

小町「久々の再会でハグ…これ小町的にポイント高い?」

 

なぜな疑問系なのが気になる。

 

八幡「久々ってほどでもねーだろ、朝に顔会わせたし」

 

ノンノンと指をふり小町がそれを否定する

 

小町「会わせただけでしょ?最近お兄ちゃん帰り遅くて話せなかったし。ほら久々でしょ?」

 

思い返せば確かにここんところ事務所によってから家に帰っていたから帰りも遅く、疲労のために風呂に入ったらバタンキューしていたのだった。

 

八幡「なら、久々だな」

 

小町「うんうん」

 

小町を背中から引き剥がし崩れた制服を着なおす。小町も小町で乱れたセーラー服の襟を直していた。

 

八幡「一人か?」

 

小町「うん、だってお兄ちゃん見に来ただけだし…建前上は」

 

ライブを内緒にしてくれと頼んだことを気にしてくれたのか後半は俺にだけ聞こえるようにそっと呟いた。

 

小町「お兄ちゃんこそ一人でいいの?」

 

準備はいいのか?ということなのだろう。

 

八幡「あぁ、まだ少し時間がある」

 

小町「そっか……およ?あ、じゃあ小町もあとで見に行くから。ちょっとみたいのあるから。ではでは~」

 

急に何かを思い付いたかのように足早に去っていく。わざわざ三階まで上げって来たはずなのに何故か二階へと降りていってしまった。

 

八幡「お、おう」

 

聞こえるわけもないのに、そんな間抜けな返事をしてしまう。

 

 

それにしても不思議な妹である。

周りと協調性があるのだが、あれで意外と単独行動を好んだりもするのだ。名付けて次世代ハイブリッドぼっち。下の子特有の上の失敗をしっかりと学んでいるのだ。まぁ兄がこんななのだから比較されても気が楽だろう。だがもし俺が超優秀なエリートだったなら周りは小町をどうみるのだろうか。

身内や近くにいる人が優秀だったなら人はそれと比べてしまうのではないだろうか。

ちょっとしたモヤモヤを感じながら小町のいなくなった背中を擦った。

◇ ◇ ◇

ステージから体育館をみるとまだ開始前だと言うのに結構な数の人が集まっていた。ざわざわとした歓声を前に、雪ノ下がこちらにやってくる。

 

雪乃「そろそろ時間ね」

 

八幡「あぁ、もうすぐ着くって連絡も来た」

 

10を越えるマイクのチェックをしながら俺はそう答える。もうすぐ始まるのだ。

 

「あ、雪ノ下さん。ちょうどよかった」

 

舞台袖から眼鏡をかけた文化祭委員と思われる人が寄ってくる。

 

「椅子足りなくなっちゃって」

 

雪乃「そう、わかったわ。そっちにいくわ。比企谷くん」

 

八幡「あぁわかってる、そっちも頑張ってくれ」

× × ×

携帯のバイブが震えるのを感じ体育館の裏口の扉を開ける。少し離れたところに見慣れたワゴン車が止まっているのが見える。

 

小鳥「プロデューサーさん。こっちの準備は万端です。そっちはどうですか?」

 

八幡「音響チェック終わりました。あとは始まるのを待つだけです」

 

小鳥「そうですか、お疲れさまです」

 

八幡「いや、まだ始まってもいない…大変なのはこれからですよ」

 

小鳥「そうですね。頑張りましょう」

 

ワゴン車の助手席に乗り込む。

中には衣装に着替えたアイドル達がスタンバっている。

 

真美「兄ちゃん!準備はどう?」

 

八幡「こっちはもう終わったよ。お前達こそ大丈夫か?」

 

真美「もちのろんですよ」

 

真「気合い入ってますよ!」

 

千早「声の準備も向こうでちゃんとしてきました」

 

八幡「そうか」

 

こちらを見つめる全員の顔を一度見回す。皆目にはやる気が溢れている。

 

八幡「もうすぐライブが始まる。俺たちの番は5番だから2番目の団体が終わったら体育館に入るぞ」

 

春香「わかりました」

 

八幡「なにも起こらないように俺と音無さんが見守っている。もしものときは指示したように落ち着いて対処してくれ」

 

雪歩「わかりました」

 

八幡「それから…」

 

もう一度全員の顔を見回す。

 

ーーきっと大丈夫だ…ーー

 

八幡「会場を盛り上げて…楽しんで来てくれ」

 

「「「「はいっ!!!」」」」

 

遂に総武高校文化祭ライブが始まる。

 




遂に文化祭ライブまできました。長かったですね。
それからUA90000、お気に入り700超えありがとうございます。これからも頑張らせていただきまする。
次話ですが年内に更新できたらなぁ、と思っています。
更新が遅くて申し訳ないですが、よかったらこれからもよろしくお願いします。
意見、感想お待ちしております。どしどし書いてくださいね←


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だが、彼に彼女の思いは届かない。

アイドルたちに話をしたあと一人体育館内へと戻ると、薄暗いステージ脇には眩いほどの光が差し込んでいた。

総武校生徒側の出演者のメインである葉山率いるバンドチームが叫び声のような歓声を浴びている。一部の生徒はステージに乗り上がらんばかりに身体をバンドに近づけていた。まぁ、葉山たちのバンドならこれくらいの盛り上がりは当たり前だろう。

 

文化祭でテンションの上がった生徒が危険なことをしないよう舞台袖から文化祭委員が注意しているのも見える。

なにも起こらなければ…。

喉に渇きを感じ、先程購入したお茶を口に含んだ。

 

雪乃「これが終わったら一度幕を閉めて葉山君がトークで少し時間を取ってくれるからそのうちに準備を」

 

急に声をかけられ危うくお茶を溢しそうになる。

 

八幡「っぶね。いきなり声かけんなよ、雪ノ下。びっくりするだろうが」

 

雪乃「ちゃんと声かけたわよ、聞こえなかったかしら?もしかして緊張でもしてるの?」

 

八幡「…。はっ、別に俺が出る訳じゃねぇんだ、あいつらが緊張してるのなら兎も角、俺が緊張するわけねーだろ」

 

雪乃「…そう。そういうことにしておいてあげるわ」

 

やけに恩着せがましくそう言うと雪ノ下は委員に呼ばれ奥に向かっていった。

 

◇ ◇ ◇

葉山たちの演奏が終わり幕が閉められた。

それを確認するとアイドル達を体育館裏から中に入れるため呼びに向かう。

 

八幡「音無さん、出番です」

 

小鳥「分かりました。皆頑張ってね!」

 

舞台袖に上がるとアイドルに気づいた委員が軽く驚きの声をあげた。

竜宮小町ほど有名ではないがたまにTVに出たりしていたので知っている人は知っているのだろう。

キャーキャー言っているのを無視し全員に用意してあったピンマイクを渡す。

 

真美「うぅー、ドキドキしてきたぁ」

 

雪歩「が、がんばろうね」

 

真「最初は美希達だよね」

 

美希「そうなの。ちゃーんと盛り上げておいてあげるの」

 

春香「よーし、じゃあ皆いつものやろっか」

 

そう天海が言うと全員が円陣をくみ、中心に手を添える。

 

春香「765プロー」

「「「ふぁいとー!!」」」

 

外に聞こえないように気を付けているのか小さめな声だったが、気持ちはしっかりしているようだ。

準備はしてきた。

 

あとは生徒が予想通りに動くか、だ。

 

◇ ◇ ◇

 

葉山「これで俺たちの発表は終わりです。本来ならここで終わりなんですけど、今年は特別ゲストが来ています!」

 

「「おぉぉ!!?」」

 

葉山「それでは特別ゲスト!765プロの皆さん!お願いします!」

 

葉山の声と共に暗幕へとサーチライトが向けられる。

またそれと同時に館内にざわめきが広がった。

 

「え、765プロって?」

「お前知らねーのかよ、竜宮小町の所属プロダクションだろ」

「うそっ、私竜宮小町のファンなんだけど!!」

「あずささんみられるのか!?」

 

ざわめきからわずかに聞き取れるその内容はどれも竜宮小町を指すもので他のメンバーの内容は聞こえてこない。

ちらりと横にいる音無さんを見ると悔しそうに握り拳を作っている。

 

小鳥「いつか…いつか、ここでライブがあったことを彼らの自慢になるように頑張りましょうね」

 

八幡「そうですね…でもまぁ、」

 

音無さんが驚いたような顔をしながら振り返った。

 

八幡「このライブが終わった頃には自慢話になってますよ」

 

~ ~ ~

 

幕が開きサーチライトがアイドルたちを照らす。皆がその姿を見ようと立ったり、跳ねたりしているのがステージ脇からも確認できた。プロのアイドルが学校に来ているということで盛り上がりを見せていた。

そして、

 

「あれ?竜宮小町いなくね?」

 

タイミング悪く一瞬静まり返ったときに発せられたその言葉が館内に響く。

そいつが発した波紋が広がろうとしたそのときだった。

 

美希「みんなー、文化祭、たのしんでるーー?」

 

星井が予定にはなかった台詞を叫んだ。

咄嗟の出来事に周りの反応が一瞬遅れ、それに答える返事はまばらだった。

他のメンバーたちも星井の行為に驚いた目に見えるような行動はしていないものの驚いた様子は何となく感じ取れる。

 

美希「元気ないなぁー、楽しんでないのー?まぁ、竜宮小町が来たと思った人たちもいるもんね」

 

その言葉に罪悪感を感じたのか少し目線をずらしている人たちもちらほら見える。

それはステージに立つ彼女たちからも見えただろう。

そして一瞬の間をあけ

 

美希「…でもね、765プロは竜宮小町だけじゃないってとこ、見せてあげるのっ。ミュージックスタート!!」

 

そう星井が告げ、両サイドに置かれたスピーカーから流れた曲は

 

雪乃「SMOKY THRYLL… 」

 

突然の声に振り返るとそこには雪ノ下が立っていた。

 

八幡「雪ノ下…用事は片付いたのか?」

 

雪乃「えぇ、…いま打てる手は打っておいたわ。それより比企谷くん、どうしてこの曲を?」

 

八幡「高校生なんてのは単純なんだよ」

 

× × ×

 

八幡「総武高でのライブの曲なんだが、一番目の曲は、星井、如月、真美。その三人でSMOKY THRYLLだ」

 

そう言うと全員驚いた反応を見せた。まぁ、そりゃあ自分達の曲じゃないのを言われたらびっくりするだろうが。

 

真「す、SMOKY THRYLLをやるんですか!? 」

 

八幡「あぁ。今さらだが三人とも歌えるよな?」

 

事務所のファイルでそれぞれの歌える曲を確認していたのだが一応確認のために聞く。

 

真美「んっふっふ~。真美と亜美はお互いの曲は全部うたえるよん」

 

美希「もちろんミキも歌えるよ」

 

千早「た、確かに私も歌えますが…でも、どうして SMOKY THRYLLなんですか? 」

 

如月は納得がいかない様子でそう訊いてくる

 

八幡「…厳しいことを言うことになるから、覚悟して聞いてほしいんだが」

 

千早「はい」

 

八幡「まだお前たちは竜宮小町と比べたら知名度はない。だから765プロのライブと聞いて高校生が思い浮かべるのは殆どが竜宮小町だろう。そんな中、竜宮小町がいないってのが分かったら落胆するだろうな」

 

春香「分かってはいたけど改めて言われると辛いなぁ」

 

千早「それがどう SMOKY THRYLLに繋がるんですか 」

 

八幡「高校生なんて単純なんだよ、手のひらなんてすぐに返しやがる。竜宮小町が居ないってのが分かって落胆したやつらの心を SMOKY THRYLLで掴む。様はきっかけ作りのための SMOKY THRYLLだ 」

 

千早「つまり竜宮小町だけじゃないんだ、というのを示すために竜宮小町の力を使うと言うことですよね」

 

八幡「まぁ、言い方が悪いがそう言うことだ」

 

千早「…そうですか。……分かりました、やるからには全力で頑張ります」

 

八幡「あぁ、頼む。この掴みが最重要といっても過言じゃないからな」

 

八幡「それで二番目なんだが…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1:SMOKY THRYLL 星井、如月、真美

2:乙女よ大志を抱け‼ 天海

3:エージェント夜を往く 菊地

4:フラワーガール 四条

5:Kosmos,Cosmos 萩原

6:TRIAL DANCE 我那覇

7:キラメキラリ 高槻

(2~7はメドレー形式)

8:The world is all one‼ 全員

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

× × ×

 

雪乃「…そう」

 

雪ノ下に説明を終えると彼女はそう呟いた。

 

雪乃「…貴方はこのライブを盛り上げる事はよく考えているけど、彼女の…彼女たちの事はあまり見えていないのね」

 

あいつらのことが見えていない?

それがどういうことか聞き返そうとした瞬間会場がワァっと盛り上がった。

驚いて振り返ると、どうやら SMOKY THRYLLのサビにはいったらしい。有名なフレーズが流れ何となく知っているという層も盛り上がったようだ。

 

その盛り上がりに気をとられ俺は完全に雪ノ下に先程の呟いた言葉に質問するタイミングを逃した。

 

俺がこの言葉にどんな思いが込められていたのかを知ったのはずっとあとだった。

 

美希「みんなー、ありがとなのー」

 

千早「次はメドレーです」

 

真美「にいちゃん、ねえちゃんたちー、たのしんでってよね!」

 

イェーーーイ

 

SMOKY THRYLLがおわり歓声がワッと沸く。

星井たちが此方に帰ってきたのと同時に音無さんの合図で委員がメドレーの音源をかけ始める。

明るい感じのメロディーが流れるのを確認し星井たちと入れ替わるように天海が出る。

 

春香「それじゃあいってきますね」

 

千早「がんばって」

 

春香「うん!」

 

天海がステージに出ると先程と変わらぬ大きさの声量が会場に響いた。

 

この調子なら大丈夫そうだな

 

 

おとめよーたいしをいだーけ~♪

ゆめみてーすてきーになれ~♪

 

~~~~~~~~

 

八幡「おつかれさん」

 

SMOKY THRYLLを歌い上げ帰ってきた3人にタオルを渡す。

 

真美「ありがとー」

 

千早「ちゃんと盛り上がりましたね」

 

美希「ねぇねぇ、ミキ竜宮小町みたいに輝いてた?」

 

八幡「ん?あぁ、ちゃんと輝いてたよ」

 

流石プロ、とだけあって先程までの生徒のバンドとは空気が違っていた。俺からみてそうだったのだから、はじめて生でみたアイドルのステージなら間違いなく輝いてみえていただろう。

 

美希「やったのー」

 

そう言うと星井は嬉しそうに手をあげた。

 

八幡「お前達まだ最後に曲残ってるんだから気ぬくなよ」

 

真美「わかってるよん」

 

一曲目がおわった彼女たちに声をかけたあと、舞台袖でじっと見守っている音無さんのところへと向かう。

俺に気づいた音無さんが小さな声で囁いた。

 

小鳥「プロデューサーさん、掴みは巧くいきましたね」

 

八幡「そうですね」

 

俺もそれにならって声を潜めて返す。滅多なことでもなければ外に聞こえることもないだろうが念には念をいれておくのが俺流。

なんなら雑念や無念なんかもいれるまである。

 

小鳥「春香ちゃんもしっかり歌えているし」

 

真「うぅ、緊張してきたぁ」

 

袖から客席側を改めてみて緊張したらしく菊地が緊張を解こうとピョンピョン跳ねだした。

ジャンプとともにピョンピョン動くアホ毛を見つめていると猫の気持ちがわからなくもない気がする。にゃーお

 

そんな菊地の肩を音無さんがトントンと叩いた。

 

小鳥「落ち着いて、ね」

 

真「はい、頑張ってきます」

 

そう言うと乙女よ大志を抱けからエージェント夜を往くのイントロへと変わるタイミングで菊地はステージへと駆け出した。

 

◇ ◇ ◇

 

SMOKY THRYLLを歌った三人のお陰でライブは完全に温まっていたため、順調に進んでいった。

そして

 

八幡「最後は全員曲だ。最後まで全力で楽しませてきてくれ」

 

「「「「はいっ」」」」

 

次の曲が始まるのです。




皆さん、お久しぶりです。何とか年内に更新出来ましたね。(少し内容が薄いのはきっと気のせい)

そんなことより今日は特別な日ですね。
そうです!雪歩の誕生日!寧ろそれ以外何もないですね!
間に合ってよかったです。
更新はこれで今年最後になると思います。1年間見てくださっている方々、ありがとうございます。来年も是非よろしくお願い致します。

意見、感想よろしくお願いします。


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こうして、それぞれの舞台が再び開く。

 

 

最後の曲が終わり会場がワッと沸く。

最初は竜宮がいない、などとぼやいていた奴等も今はそんな発言は忘れてしまったかのようにはしゃいでいた。

最後にアイドル全員が横一列にならび、なんやかんやとトークをし、765プロをアピールをしてもらう。

こういった場でも少しでもファンが増えてくれたら、といった狙いもあった。

 

春香「ありがとうございましたー!」

 

小鳥「以上、765プロ総武高校文化祭特別ライブでした。これからも765プロの応援をよろしくお願いします」

 

葉山とMCを変わった音無さんの言葉で俺達のパフォーマンスは幕を閉じた。

ステージの幕が脇にいた委員たちによって閉められていく。その隙間からアイドルたちを名残惜しそうに覗いているのがこちらから見えた。

 

八幡「無事、成功…か」

 

小鳥「お疲れさまでした、プロデューサーさん」

 

八幡「はい、お疲れさまでした、音無さん」

 

 

ステージ脇に戻ってきた笑顔の溢れているアイドルたちを見て、ライブが終わったことを実感する。

 

八幡「お疲れさん」

 

「「「「おつかれさまでした!」」」」

 

ライブが終わりホッとしたところで、やけに周りが慌ただしいのに気がついた。見てみると雪ノ下を中心に委員たちがせわしなく行き来している。

 

そういえばさっきも何かあった感じだったな…

 

音無さんに少し離れると伝え、雪ノ下の所へと向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

八幡「なんかあったのか?」

 

ぽわぽわした雰囲気の先輩とスマホを見つめている雪ノ下に声をかけると、ハッとした表情で雪ノ下が尋ねてきた。

 

雪乃「相模さんがいないのよ…あなたは知らない?」

 

そう問われて周りを見回してみるが、思えば確かにその姿は大分前から見かけていない。

 

八幡「いないとまずいのか?」

 

そう聞いたところで、俺と雪ノ下が話をしていたのに気がついた由比ヶ浜がパタパタと寄ってきた。

 

結衣「どったの?」

 

雪乃「相模さんが見当たらないのよ」

 

結衣「うーん、あたしも見てないなぁ…。いないと困るの?」

 

雪乃「えぇ」

 

ねぇ、雪ノ下さん?その質問俺がさっきしたんだけど?

 

そんな俺のつっこみに気付くこともなく雪ノ下は腕を組み、次の手を考えている。

 

八幡「放送とかは入れたのか?」

 

雪乃「えぇ、765プロのライブ前に…けれど」

 

連絡はない…か。

 

雪ノ下の言葉は続かなかったがその意を理解したのか由比ヶ浜は携帯を取りだし誰かに電話をかけはじめた。雪ノ下は再び思考モードへと入ろうとしたとき雪ノ下の名をよぶ声がした。

 

雪乃「…平塚先生」

 

よほど急いできたのか白衣と髪が乱れてた平塚先生がステージ脇の扉から入ってきた。

 

平塚「先程の放送で我々教師陣も事態の大体はは予想がついている。見つければ連絡が来ると思うが…」

 

だが、そう言う平塚先生の顔は渋い。察するにあまり期待は出来ないのだろう。

そうこうしているうちに経っていく時間とともに事態の深刻さも増している。

 

雪乃「このままだとエンディングセレモニーが…」

 

めぐり「どうしよう…」

 

フワフワした雰囲気の先輩も困ったように雪ノ下の言葉に俯いた。

二人の暗い表情を気にかけて由比ヶ浜が問いかけた。

 

結衣「さがみん…やっぱりいないとまずい?」

 

雪乃「えぇ。挨拶、総評、賞の発表。挨拶や総評なら代役はできるのだけれど、優秀賞と地域賞の結果を知っているのは相模さんだけなの…」

 

八幡「じゃあ賞の発表は後日に回すか?」

 

俺がそう言うと雪ノ下はこくりと頷く。だが、表情は厳しいままだ。

 

雪乃「でも、それは最悪の場合ね。地域賞はここで発表しないとあまり意味はないでしょうし」

 

たしか今年から始めた地域賞だ。新たな賞を作った第一回目から後日発表ではちょっと様にならない。

 

つまり、相模をなんとかしてさがしだす必要がある。

だが、連絡もとれず足取りもつかめていない。

万事休すのこの状況に誰もが諦めかけたとき、ある男がこちらに来た。

 

葉山「どうかした?」

 

この不穏な空気を感じたのか、進行の葉山がいつもの様子で問いかけてくる。

 

めぐり「あ、相模さんに連絡がつかなくて…」

 

めぐめぐした雰囲気の先輩が葉山に事情を説明する。すると葉山はすぐに動いた。

 

葉山「副委員長、プログラムの変更をお願いしたい。もう一曲追加でやらせてくれないか?あまり時間もないみたいだし口頭確認でいいよね」

 

雪乃「そんなこと…できるの?」

 

予想もしなかった葉山の行動に雪ノ下の返しが遅れる。

 

葉山「優美子。もう一曲弾きながら歌える?」

 

三浦「え?もう一曲?いや、無理無理無理、無理だし!今チョーテンパってるし」

 

先程の番を終えてからステージの脇のベンチで休んでいたところに急に話をふられ三浦は素でビックリしていた。

 

葉山「頼むよ」

 

そう葉山に微笑みかけられ、何度かうぅーと悩みながらもギターに手を伸ばしたあたり、やっぱりイケメンは正義なんですね、と感じる。

 

雪乃「三浦さん、ありがとう」

 

三浦「べつにあんたのためにやるわけじゃないんだから…隼人に頼まれなきゃやらないし」

 

そう言い残すとくるっと踵を返し戸部や大岡、大和に声をかけ颯爽とステージへと向かう。

765プロのライブのために片付けてしまったドラムやアンプをせっせとステージへ運んだり、スポットライトの係が定位置へ移動したり、係りのやつらが慌ただしく幕の閉まったステージを行き来する。

その間にも葉山は携帯でなにか操作をしている。恐らくSNS等で情報の収集を呼び掛けているのだろう。

 

そんな葉山を見ているとつんつんと腰をつつかれた気がした。

 

八幡「ん?」

 

真美「ねぇ、兄ちゃんどかしたの?」

 

振り返るとそこには真美だけでなく他のメンバーたちも不安そうにこちらを見つめていた。

 

八幡「うちの委員長が見つからないらしくてな、まぁ大丈夫だ。そっちは先に車に戻っておいてくれ」

 

少し雪ノ下たちから離れ彼女らにだけ聞こえるようにそう囁く。

あくまで今回は765プロに依頼をしたという形をとり、俺が765プロのプロデューサーであることは一部を除いて伏せている。

今ここで周りに知られるわけにもいかないのだ。

 

真美「…」

 

本当に大丈夫なのか?と言う目でこちらを見つめながらも真美はメンバーの元へ戻っていった。

大丈夫ではないのだが、今ここで彼女たちに出来ることなんてないだろう。相模を探すにも顔も分からないのでは探しようがない。

 

雪ノ下達のところへ戻ると丁度葉山が連絡などが一段落したようでふっと息を吐いた。

 

雪乃「感謝するわ」

 

葉山「気にしないでくれ。だけど、これからステージをやっても稼げて10分だ。それまでに見つけないと…」

 

雪乃「ええ…」

 

「「……」」

 

10分で相模を探しだし連れてくる。放送をしたり、教師が探しても見つからないのだ。何処か人が来ないような場所で隠れているのだろう。

そんなやつを10分で見つけ出すなんてほとんど不可能に近い。

 

結衣「あ、あたしもさがみんのことさがすよ」

 

八幡「闇雲にさがしたって見つからねーよ。それより最悪の事態にもそろそろ備えないとならないぞ、雪ノ下」

 

雪乃「…えぇ、わかっているわ」

 

そう答えながらも何かを考えている様子で顎に指を当てている。

そしてなにかを決心したのかこちらを真正面から見据え

 

雪乃「もうあt…」

 

春香「あ、あのっ、私たちにも追加でステージをやらせてもらえませんかっ」

 

天海に言葉を遮られた。

 

雪ノ下は後に言葉は続けなかった。否、続けられなかった。想像してなかった言葉に誰もが唖然とした。

何とか言葉を捻りだし天海に聞く。

 

八幡「…どうして」

 

春香「皆さんが困っていると言うことだったので私たちにも何か出来ないかと思って。私たちも出ればもう少し時間稼げますよね?」

 

八幡「それは、そうかもしれないが…」

 

今回用意してあるうちの曲は全部さっきのライブで使っている。

 

八幡「…曲はどうしますか?」

 

春香「あっ…それは…えっと」

 

天海も考えていなかったようであたふたする。

 

結衣「あ、あの、それならあたしたちと一緒にやりませんか」

 

八幡「一緒ってお前、アイドルと一緒に歌うのか?」

 

由比ヶ浜が違う、と言うように首をふる。

 

結衣「あたしとゆきのんでメロディー弾くから歌って欲しいの」

 

由比ヶ浜と…雪ノ下が?いや、でもそりゃ雪ノ下が断るんじゃ…

 

雪乃「…比企谷くん。もうあと15分で見つけられる?」

 

結衣「ゆきのん!」

 

八幡「わからん、としか言いようがないが…。本当に雪ノ下がやるのか?」

 

雪乃「えぇ、私も天海さんに遮られる前にその事を提案しようとしたのよ。もちろん彼女たちと一緒にとは思っていなかったけれど」

 

春香「あ、あはは。ごめんなさい」

 

これからの流れを決めるため765プロのアイドルをこちらに呼び、話を再開する。

 

八幡「曲は?」

 

雪乃「Bitter Bitter Sweet、この曲を歌える人たちでお願いしたいのですが」

 

確か、一寸前に流行った曲…だった気がする。

 

春香「その曲ならみんな大丈夫です、前にレッスンの練習曲でやったりしたんで」

 

雪乃「そう、ならよかった。メロディーがギターとキーボードだけ、というのが残念だけれど、この際仕方ないわ」

 

すると、ふむ、と後ろで聞いていた平塚先生がこちらに来る。

 

平塚「私がベースをやろう。その曲は昔陽乃とやった曲だから、まだ弾けると思う」

 

雪ノ下はこくりと頷く。

 

雪乃「平塚先生、ありがとうございます。765プロの皆さん、それでよろしくお願いします」

 

「「「「わかりました!」」」」

 

こうして急遽奉仕部+765プロのチームが結成された。

その姿を見届け、俺はすっとステージ裏から体育館の出口へと続く扉へと向かい、静かに行動を開始する。

 

「「比企谷くん(さん)」「プロd…あっ」」

 

誰かが俺の名前を呼び、誰かがプロデューサーと言いかける。

 

その声向こうから見えないよう微笑み、言葉は返さず、適当に手を上げそのまま体育館を出る。

 

ステージの輝く舞台はあいつらがいる。

あのスポットライトが当たるステージは俺の舞台じゃない。

この裏方こそ俺の舞台だ。

 

 

影からささえる、プロデューサーとしての立ち位置だ。

 

◇ ◇ ◇

 

足早に高校の中心へと向かいながら高速で思考を開始する。 刻々と進む腕時計の針を睨みながら 相模という人物を探すためにあらゆる判断材料と経験を照らし合わせ数多ある選択肢を潰していく。相模はなにがしたくて委員長になったのか。そして相模はなにがしたくて隠れているのか……

20分という限られた時間では精々1箇所、無理をして2箇所まわれるかどうか。削れるだけ削った選択肢ではその枠組みのなかだけでは回るのは不可能だ。

もうひとつのサンプルを得るため携帯電話を取り出した。

 

『我だ』

 

ノーコール出でやがった。伊達に暇潰しにスマホを弄っていないな。と称賛したいところだがそんなことをする時間すら今は惜しい

 

八幡「材木座、お前学校で一人の時どこにいる?」

 

『なんだ藪からスティックに。我は常に身を隠す為、アンチバリアを構築し』

 

八幡「急いでるんだ、ふざけるなら切る」

 

『あぁ、まてまてまて待っておねがいっ。保健室かベランダだ、それから図書室。あとは特別棟の屋上だ』

 

材木座からの情報を自分の削った選択肢と照らし合わせる。…特別棟の屋上…か?

 

『誰か探しておるのか?』

 

八幡「あぁ、実行委員長だ」

 

『ふむ、あのおなごか。よし、我も手伝おうぞ』

 

八幡「さんきゅー、材木座は新校舎の方頼む」

 

『我にまかせろぅ!』

 

材木座からの情報を得、特別棟の方へと最短距離を突っ走る。たしか前に聞いた話だと屋上を締める鍵が壊れてるってあったな。

特別棟の屋上へと続く階段は文化祭の荷物置き場になっていて容易には駆け上がれない。時間が過ぎ去っていくのをもどかしく感じながら道を塞ぐ物を退かしていく。

屋上へと上へ上へと上がるにつれ荷物や資材が減っていく。

やがて終点、開けた踊り場へとでた。

そしてこの扉の向こうに…

 

壊れた南京錠を外し、立て付けの悪いドアを開く。ぎっと、錆び付いた音がした。

 

海風が体に吹き付け、青い空が広がる。

その視界の下に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相模は居なかった。

 

 

 




今回、というか文化祭の残りは俺ガイル成分が強くなりそうです。文化祭編は残り2回位でしょうか?原作と違うこの展開をしっかり閉められるよう頑張ります。

意見、感想よろしくお願いします。



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そして比企谷八幡は考える。

相模がいない。

ただそれだけだった。

誰もいない、いつかのような屋上は無情にも身体に海風を吹き付けるだけ。

その事実を認識した俺は南京錠を掛け直すこともせず、階段を飛ばし飛ばしで駆け降りる。

 

クソッ、よく考えたら相模が屋上にいたらなら南京錠かけられねーじゃねーかっ…。

 

今はそんな後悔に頭を使う余裕なんてない。すぐさま思考を残りの候補の検索にかけるが、確信を持てるような場所は思い浮かばない。

腕時計を見ると残り時間は10分を切ろうとしていた。

このままだと……

 

顔を上げ周りを見渡す。エンディングセレモニーが近いためか周りに生徒は見えず確認できるのは誰かが捨てたパンフレットや缶など。流石に視認できる範囲に相模を見つけることはできない。

場所を変えるため正面を見直すと目の前を青みがかった髪の少女が通りかかった。

 

 

八幡「…かわさきっ」

 

突然名前を呼ばれた為かビクッと体を揺らし周りを見渡す姿はかわいかったです。

俺に気付いた川崎が立ち止まってくれたので、そこへ駆けていく。

 

沙希「あんた、なんでそんな急いでんの?」

 

八幡「お前、相模をどっかでみたか?」

 

沙希「は?いきなり何なの?」

 

八幡「いいから」

 

残り時間の少なさのために焦りがでて声が荒くなってしまう。

 

沙希「そ、そんな、怒んなくても…」

 

つり目の川崎が涙目になっておろおろし始める。

八幡「わるい、ちょっと急いでて。別に怒ってないんだ」

 

沙希「そ、そうなんだ。ならいいんだけど…」

 

八幡「それより相模をみたか?」

 

沙希「相模ってウチのクラスの相模?ならさっきテニスコートが見えるほうの校舎裏らへんにいるのを見たけど」

 

あっちの校舎裏だと材木座が見つけてる可能性はほぼないだろうな。全く検討違いのところを俺たちは探してたって訳か…

 

沙希「それがなんなわけ?」

 

聞いたきりで黙りこくっていた俺を怪訝に思ったのか川崎が問いかけてくる。が、それより早く俺の足は動き出していた。

ただ急いでいてもこの貴重な情報の礼くらいは言っておかないとな。

 

八幡「サンキュー!愛してるぜ川崎ッ!」

 

そう言い捨てて全力で校舎裏…俺のベストプレイスへと走る。

 

少し進んだとこで、後ろから絶叫が聞こえた気がした。

 

◇ ◇ ◇

 

今まで何度も来た場所につくと階段のところで校舎に背を向けて相模が座っていた。

足音に気づき振り返った相模の表情は、驚き、そして落胆へと変わっていく?そりゃあそうだろう。相模が見つけてほしかったのは俺なんかじゃないはずだ。むしろ俺になんかには見つかりたくもない、のかもしれない。

そんな相模に近づき、用件のみを簡潔に伝える。

 

八幡「エンディングセレモニーが始まるから戻れ」

 

すると相模が立ち上がり不快げに眉をひそめた。

 

相模「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」

 

そうぶっきらぼうに言うと顔を背けた。俺とは会話はしない、という意思表示であるかの様に。

 

八幡「そういうわけにもいかないんだ。色々と事情があるらしくお前がいないと始まらないらしい」

 

下手な言い訳をしているな、と自分でも感じながら相模を説得しようとする。すると相模が顔を上げ再びぶっきらぼうに言い放つ。

 

相模「もう開始時間とっくにすぎてんじゃないの」

 

コイツ、その事を知っていてあえてここにいて更に俺の説得にも耳を貸さないのか。ふざけてんじゃねえよ、と言いたくなる衝動をなんとか腹の底へと沈め、出来るだけ落ち着いた声を出す。

 

八幡「本来なら、な。なんとか時間を稼いでんだよ。だから」

 

相模「ふーん。誰がそれをやっているの」

 

相模は目を合わせようとせずに髪を弄っている。

 

八幡「…ん、そうだな。三浦とか…雪ノ下たちが」

 

相模「じゃあ雪ノ下さんに代わりにやってもらえばいいじゃん。あの人はなんでもできるんだからさ」

 

八幡「そういう問題じゃないだろ。お前の持ってる集計の結果とかが必要なんだよ」

 

相模「じゃあそれだけ持っていけばいいでしょ!!!」

 

怒鳴り散らす相模を前に一瞬本気で持っていってやろうかと思ったのだがなんとか思いとどまる。こんなやり方をするために俺が来た訳じゃない。なにより雪ノ下はこんなことは望まないはずだ。それは彼女のこれまでの行為を否定することになる。

こんな風に相模とやりとりしている間に時間はどんどん過ぎ去っていく。

 

俺にはなぜ相模が文化祭委員長をやろうとした理由がわからない。それがわからないままには俺に行動しようがない。

俺には…コイツに望む言葉はないも言えない…。この場面で俺に何ができる…?

 

七面倒なことを言っている相模への苛立ちで拳を強く握りしめた。

その時相模がポツリとあることをもらした。

 

相模「雪ノ下さんはいいよね…才能があって、努力しないでもなんでもできて」

 

は?

 

一瞬相模が何を言ったのか本気で理解できなかった。雪ノ下が努力しない?

才能があるのは認める。何でもできるのも認める。だが、努力しない、というのは理解できない。その言葉は一緒に仕事をしてきた雪ノ下の何を見て言えるのか。

 

八幡「ちげぇよ」

 

相模「は?」

 

八幡「雪ノ下は努力しないで何でもできるわけじゃねーよ」

 

無意識のうちにそう言っていた。

 

相模「何言ってんの?だって実際あの人はなんでもこなしていたじゃないっ。私なんかよりずっと有能でっ、だから雪ノ下さんに任せればいいじゃないっ」

 

相模の文化祭委員長という立場からの逃げは雪ノ下という有能な人物からの逃避だったのだろうか。それじゃあ何のためにコイツは委員長になって、わざわざ奉仕部に依頼をした?

 

八幡「お前はなんで委員長なんてやろうとしたんだ?」

 

相模「そんなのあんたに関係ないじゃないッ」

 

八幡「そうだろうな、関係ない」

 

相模「だからっ」

 

だからなんだ?帰れ、か?まぁ、そう言われても帰るつもりはないがな。俺としても見逃せない理由がある

 

八幡「お前、努力したのか?」

 

相模「な、何言ってんのよ、意味わかんない」

 

俺の発言に明らかに動揺を見せる。まぁ、唐突な内容だし意味がわからないと言われてもしょうがない、が、この場合相模は何を言われたのか理解しているだろう。

 

八幡「お前が委員長としての仕事をサボっている間に雪ノ下がどれだけその分働いたと思ってるんだ?お前からしてみれば何でもできてしまう雪ノ下が凄くて自分は何もすることがない、みたいに感じてるみてーだが、そいつはちげーよ」

 

相模「…」

 

八幡「周りから見れば雪ノ下が頑張って仕事をしているのにお前はただ仕事をほっぽりだしてるだけだ。雪ノ下が才能だけで何でもできる?ふざけんなよ、そんなわけあるか。あいつが裏でどんだけ努力をしているのか知らないだけだろ」

 

そうだ。雪ノ下に限ったことじゃない。765プロのあいつらだってそうだ。ファンに見せている1面は本当に1面で、その輝かしい華やかな1面を見せるためにどんだけの思いと努力が隠れているのか。それがわからないような奴に彼女達のことなんて理解できない。

 

その事だけは俺が何としても守らなければならない。

 

なぜなら

 

俺がプロデューサーで、彼女たちのその努力を一番近くで見ているのだから。

 

 

八幡「相模。お前のその意地はただの言い訳でしかねーんだよ」

 

本当は相模も気付いているんだろう。自分が今どういうことをしているかだなんて。ただ意地になっているだけで、ただ自尊心を守りたいだけで…。

だから俺が、俺のやり方で、俺のプロデューサーとして学んだことで…コイツに言ってやらなきゃならない。

 

八幡「自分が今できることを理解しろ。それがお前の立場としてしないといけない最低限のことだ」

 

相模「…」

 

八幡「…早く戻れよ」

 

少しの静寂が訪れる。相模は黙って下を向き両手でスマホを握りしめている。

やっぱり、俺じゃあ無理…か。

 

そう思ったとき

 

葉山「探したよ、ここにいたんだね」

 

俺には出来ない最後の一押しができる奴が来た。

 




更新遅くなって申し訳ないです。
総武高校の校舎配置が見付からず適当になってしまっているのでその辺はご了承ください。
多分次で文化祭編終わると思います。アイドルマスター側の出番、暫しお待ちを。

感想、意見よろしくお願いします。


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ついに文化祭は終わりを告げる。

 

 

葉山「探したよ、ここにいたんだね」

 

後ろから爽やかな声を発した男を確認するために振り返る。いや、確認するまでもなく葉山だとは分かってはいた。

額には汗を浮かべ、首にはマフラータオルをかけている。恐らく自分の番を終え、雪ノ下達に繋いだあとそのまま急いで来たのだろう。

葉山の後ろにいる女子二人に見覚えはないがここに来ているということは相模の友達だろうか

 

相模「葉山くん…、それに二人も…」

 

相模が先程までとは全く違う表情でそっと呟き、顔を背けた。

おそらくは本来相模が望んで、期待していたであろう展開だ。

 

葉山「連絡が取れなかったから心配したよ。SNSで呼び掛けたらこっちにいくのを見たって人がいてね」

 

そう言うと葉山は相模へと近づいた。

相手の気持ちを理解した上で、さりげなく誘導する、葉山だからこそできるテクニック。

 

葉山「そろそろエンディングセレモニーが始まるから戻ろう?」

 

何故ここにいるかはあえて聞かない。相手が行動しやすいように、誘導をかけ優しく微笑みかける。

だが、そこまでしても相模は動こうとはしない。

 

相模「いや…でも…うち、皆に迷惑かけたし」

 

葉山「大丈夫さ、今からならまだ間に合うよ」

 

「そうだよ!」

 

「皆心配しているんだからー」

 

葉山に付いてきた女子二人も相模への説得へと移り三人体制で相模に向かい合う。

だが、まだ相模の心を動かすには足りない。

 

相模「今さらうちが戻ってもできることなんて…」

 

「そんなことないよ!皆待ってるんだから」

 

「ね?一緒にいこ?」

 

そんな女子たちのやり取りを優しく見守っている葉山だったが、一瞬視線が腕時計へと向かった。

あいつもまた焦っているのだ。

 

葉山「そうだよ、皆相模さんのために頑張っているんだ」

 

もう一押しを言うがそれでも相模の態度は頑なのままだ。相模の足は先ほどの位置からほとんど動かず、動いているのは時間だけ。ただ刻々とタイムリミットが削られていく。

葉山がきても結果は変わらなかった。相模が求めているものを渡せなかったのか。いや、それは満たせただろう。こんな、ドラマのような展開をきっと相模は望んでいたのだろう。

じゃあ、何がダメだったのか。他に何を求めているのか。

多分相模にも、もうわからないのだろう。引くに引けない状況。現状を理解しているからこそ、いまこの現実から逃れようとしている。

なら、相模を動かすにはどうする。

無理やり引っ張るか?Noだ。俺と葉山だけならそれも考えられたが、女子が二人いるとなれば話は別だ。止めに入られ、より時間をロスするのは明らかだ。

だが、このまま説得を続けてもらちが明かないのは明らかだろう。

なら、どうするか。俺の立場としては、何ができるか。

俺、比企谷八幡として。そして、プロデューサーとして。

 

 

…それならば、これしかないだろう。

 

 

俺は相模と葉山を見据える。葉山たちは相変わらず相模を励ましながら、少しでも進めようと優しい言葉をかけ続けていた。

 

葉山「大丈夫だから、戻ろう」

 

相模「うち、最低だ…」

 

相模が自己嫌悪の言葉を漏らした。タイミングは、ここだ。

 

八幡「はぁー…。こんな茶番、何の意味があるんだよ」

 

優しい言葉は止まり、啜り泣く声も止まり、そして全員の視線が一斉に俺に刺さる。そうだ、それでいい。

 

八幡「葉山。お前もお人好しだよな。自分の仕事を放った奴をわざわざ優しく迎えにきたんだ。他人に迷惑をかけていることを理解している奴に、大丈夫さ、だなんて言葉俺ならかけられないね。だってそうだろ?相模は、そんなことないよ、とか大丈夫だよ、とかそんな言葉をかけて欲しいだけなんだろ。本気で迷惑をかけている自覚があるならこんな事を…」

 

葉山「比企谷ッッッ‼」

 

先程までとは違った声色で続きを制す。普段と違う葉山の声に一瞬音がやんだ。

 

八幡「…んだよ」

 

葉山「…もういいよ。十分だ」

 

葉山は俺にだけ聞こえる声でそう言った。

 

葉山「…早く戻ろう」

 

相模たちの方に目をやると、二人が咽び泣く相模を介抱しながら此方にまで聞こえるように声をかけていた。

 

「あんな奴の言うこと気にしなくていいよ」

「そうだよ、わかったような口きいてさ」

「大体、誰あいつ。ひどくない?」

「知らない、なにあれ」

 

そして相模は友人二人に囲まれ護送されるようにこの場を去っていく。

三人がいなくなり、葉山と俺だけがこの場に残った。

 

葉山「…正直、俺だけじゃどうにもならなかった」

 

三人の声が聞こえなくなった辺りで葉山がそう溢した。

 

八幡「…そんなことねえだろうよ、お前ならなんとかできただろうさ」

 

実際、あのまま三人で説得を続けていればいつかは相模が折れただろう。

 

葉山「…でも、もっとかかっただろうね」

 

だが、それでは時間に間に合わなかった。だから俺が相模に逃げを強要した。現状から逃げるための理由を作ってやった。この場にいたくない。そう思わせた。これは比企谷八幡としての行動だ。

そして同時に相模に挫折と憎悪を与えた。失敗を人前で示し、そして憎悪として切っ掛けを与えた。これがプロデューサーとしての行動。相模が余程の頑固者でない限り葉山がくる前に言ったことくらいは頭の隅には残っているだろう。それをちゃんと理解していたのならば、あいつはもう一度やり直すチャンスくらいなら得られるだろう。もし、それができないのならば、それまでだ。俺は相模のプロデューサーじゃあない。

 

葉山「それでも…俺は君のやり方は好きになれないよ」

 

そう悲しげに言い残すと、葉山は走って今は見えなくなった三人を追いかけた。

 

八幡「…はっ」

 

溜まった息を短く吐き出した。

 

材木座に「解決」とだけ短いメールを送り、重い足を動かした。

 

◇ ◇ ◇

 

体育館に近づくにつれ、騒がしさがはっきりするようになってくる。

重い金属製の厚い扉を開ければ熱気と曲と歓声が流れ出る。

踊るように回るサーチライト。上から吊るされたミラーボールはいくつもの光線をバラバラに散らしている。

そしてステージに立つのは見慣れた顔の女子。少し前まで俺と同じ場所に立って話をしていた奴らだ。眩しいくらいに照らされたステージで輝く彼女らは笑顔で楽しそうに歌っている。

それを体育館が揺れんばかりの声援を送る観客。ライブをこういう形で見るのはこれで二回目か…。

きっと明るい向こうから暗くて一番後ろにいる俺のことなんて見えやしないだろう。

後ろの余った空間へと身を流し、壁に体重を預ける。

長かった文化祭の最後のステージだ。これで、すべてが終わる。本来の目的もこれなら果たせただろう。

少し離れた位置からもう一度彼女らを見つめた。

 

 

あの眩しいステージに俺は立てないけれど

 

この狂ったような観客にまざれないけれど

 

1人で一番後ろで見ているけれど

 

きっと俺はこの光景を忘れないだろう。

 

◇ ◇ ◇

 

こうして、俺らの文化祭が終わりを告げた。




遅くなりました。申し訳ないです( ̄0 ̄;)
一応これで文化祭編は区切りとなります。やっとメインのライブの方に入れます。
意見、感想がありましたら宜しくお願いします。


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彼は彼女とすれ違う。

×××

 

父さんに連れて来られた会場の座席番号は後ろも後ろ。一番後ろだった。

 

八幡「なんだよ、一番後ろとか全然見えないじゃん」

 

そう独り言を漏らした、つもりだった。

 

少女「あ、君もそう思うの?あたしもそう思ったんだ。きっと向こうからじゃあたしたちのことなんてみえないんだろうなって」

 

不意に、隣の席の女の子に話しかけられた。独り言が聞こえていたのだろう。話しかけてきた女の子の見た目は僕と同じくらいだ。

 

八幡「え、あ、うん。そうだね」

 

少女「君もこのグループ好きなの?」

 

八幡「僕は父さんに連れられてきただけであまり知らないんだ」

 

少女「そうなんだ。あたしはね、好きなんだ。かわいくて、キラキラしているの。いつか、いつかあたしもあそこに立ちたいんだ」

 

少女の目はステージのライトを反射しキラキラと輝いていた。

 

八幡「それって…」

 

続きを言う前にライブの始まりを告げる花火が鳴る。父さん、グッズ買いにいってる間にライブ始まってるぞ…。

 

最後尾のここからでも分かるほどのきらびやかな衣装を身に纏ったアイドルたちがステージに表れ、トークを始める。そして、

 

「後ろの人もちゃーんと見えてるからねー!」

 

そう言ったのだ。

 

少女「ねぇ!聞いた?ちゃんと見えてるんだって!」

 

八幡「ほんとに見えてるかはわからないじゃん」

 

少女「あ、そうか…。でも、実際どうなんだろうなぁ…。あ、そう言えばあたし名前言ってなかったね。あたしはねーーーだよ、君は?」

 

八幡「僕は、比企谷…八幡」

 

×××

 

懐かしい夢を見た。

これはいつだっただろうか。

まだ小学生くらいの俺は親父に、あるアイドルのライブにつれていかれた。なんのアイドルだったかは覚えていない。完全に親父の趣味だ。俺をつれていくためと言う言い訳を母ちゃんにしていたのは覚えている。

そうだ、このときのライブも一番後ろだった。こんなところからじゃ、向こうからは見えないだろ、と思った。

でも、その向こうにいるアイドルが「後ろの人もちゃんとみえているからね」って言ったっけか?

確か、その時隣には、女の子がいたような…。名前聞いたんだよな。何て名前だっただろうか。

彼女はアイドルになれたのだろうか…。

 

◇ ◇ ◇

 

文化祭も終わり、本番のライブに向け一層練習が厳しくなってきた。彼女らは今夜も遅くまでスタジオで練習に励んでいる。

俺は、と言うとダンスや歌のレッスンに関しては特に何か出来るわけでもなくただ突っ立って彼女らを見守ることくらいしかしてないが。

 

トレーナー「なんだか、萩原さんと高槻さん、最近動き良くなってきましたね。何かあったんですか?」

 

レッスンを眺めていた俺にトレーナーさんがこそっと話しかけてきた。そう言えば言ってなかったんだっけか。

 

八幡「文化祭ライブをしたのは知ってますよね」

 

トレーナー「えぇ。あ、なるほど、経験を踏んで少し成長したのね」

 

八幡「まぁ、それもあるでしょうけど。本当の目的は違うんです」

 

トレーナー「それは何かしら?」

 

八幡「あいつらに何で練習をしているのか気づいてもらう為ですよ」

 

トレーナー「えーっと、それは本番のライブのためよね?」

 

八幡「そうですね。そして、ライブのためはどういう事か。それを伝えたかったんです」

 

トレーナー「なるほど、そういうことね。凄いわね、あなた。確かにそれが練習する目的ね。でも、それは当たり前すぎて逆に忘れがちになる。本当にあなた只の高校生なの?」

 

八幡「只の高校生っすよ」

 

まぁ、只の高校生じゃなくて、ボッチの高校生なんですけどね。

 

トレーナー「じゃあ、彼女たちはそれに気づけたのね」

 

八幡「実際に伝えたわけじゃないんで気づいてるかどうかは確かじゃないですけどね。単に上手くなっただけかもしれないですし」

 

トレーナー「ふふっ、そうかしらね」

 

◇ ◇ ◇

 

真美「ふひー」

 

真「終わったー。今日も疲れたなぁ」

 

八幡「おつかれさん」

 

やよい「あ、プロデューサー、お疲れ様ですー」

 

春香「段々出来るようになってきましたよ!この調子で頑張りますね!」

 

美希「ミキも竜宮小町になれるように頑張るの!」

 

八幡「そうか、頑張れよ」

 

雪歩「あ、あのプロデューサーさん」

 

八幡「ん?」

 

雪歩「私、あのライブで分かったんです。何のために練習を頑張るのか」

 

顔を上げ、しっかりとこちらを見つめ続けた。

 

雪歩「私たちが頑張るのはライブを成功させるため、そうずっと考えてたんです。でも、本当は違った。来てくれるファンの皆さんに楽しんでもらえるために頑張るんだって」

 

なんだ、ちゃんと伝わってたか。

 

雪歩「ありがとうございました」

 

八幡「いや、礼を言われるようなことはしてねーよ。それは萩原、お前が自分で気付けたんだろ」

 

雪歩「でも、そのきっかけを作ってくれたのはプロデューサーさんです。きっとあれがなかったら私はこの事に気づけなかったと思うんです。だから…ありがとうございます」

 

八幡「そ、そうか。まぁ、よかったな」

 

こうも率直に言われるとこっぱずかしいな。まぁ、でも、これでライブへの布石はだいたい打てただろう。

 

あとはこのまま順調に行ってくれれば大丈夫だろう。

 

◇ ◇ ◇

 

星井がレッスンに来なくなった。

その知らせを聞いたのは順調になってきてからまもなくだった。

 

最初は只の風邪かなんかだと思ったのだが、レッスンを休むのが数日続いている。

 

最近何かあったか、と記憶を探ったが特に思いつかない。最近の星井は調子も良く、ライブに向けメンバーのなかでも一段と気合いが入っていたはずだった。

 

スマホを取りだし、唯一の手がかりの星井からのメールを開く。

 

 

…うそつき(><)

 

 

そう一言だけ書かれたメール。

何度も連絡をしたが一向に返信は帰ってこない。何度開いたか分からないこのメールを閉じ、星井美希のいなくなった練習に目を向けた。

 

春香「美希、最近どうしたんだろうね」

 

雪歩「体調崩しちゃったのかなぁ」

 

やよい「心配ですー」

 

春香「もうすぐライブなのに大丈夫なのかなぁ」

 

他のメンバーも星井を気にしているようでそんな話が聞こえてきた。準備体操をしながら、どこか不安げな様子が伝わってくる。

 

通知の来ないスマホを握りしめならが、そんな彼女たちを見ていると、入り口で秋月さんが俺を呼びにきた。

 

レッスンスタジオから出て少し離れた場所に来ると秋月さんは立ち止まった。

 

律子「美希来てないんですか?」

 

やはり星井の件か。

 

八幡「はい。メールはきたんですが…」

 

律子「どんな?」

 

八幡「それがよく意味がわからなくてですね…。うそつきって一言だけ」

 

律子「もしかして…」

 

八幡「何か思い当たることがあるんですか?」

 

律子「えぇ、実は…」

 

◇ ◇ ◇

 

うそつきってそういうことだったのか。

秋月さんから星井について聞き、やっと気づいた。

あいつは竜宮小町みたいになりたかったのではなく、竜宮小町になりたかった、ということに。

それを俺が知らなかった為の食い違い…か。

何とも言えない思いを胸に重いスタジオの扉を開けた。

 

扉を開けるとアイドル達が皆一斉に集まった。星井のことが本当に気になっているんだな。

 

「「プロデューサー!」」

 

真「あの、美希と連絡とれましたか?」

 

八幡「いや、まだだ」

 

雪歩「どうしたんだろ…心配になるよね」

 

真美「みきみき、どうしたんだろ」

 

美希を不安に思う気持ちがでて少しざわつく。星井のやつ、ライブ前だってのに…

 

千早「私たちが騒いだって仕方がない気がするわ」

 

ピタリとざわつきが止まる。

 

八幡「如月…」

 

千早「美希には美希の事情があると思うの。だから、私たちがするべき事はライブに向けて集中することじゃないのかしら」

 

「「あぁ…」」

 

如月に皆の視線が集まる。そして、

 

貴音「そうですね、雪歩もやよいも良くなってきたとはいえ、まだまだすることはありますし」

 

「「は、はい!」」

 

八幡「みんな、如月たちの言うとおり星井の事は俺にまかせてくれないか」

 

「「はいっ!」」

 

真「それじゃあ、先生くるまで…」

 

俺が何とかしなくては…。




こんばんは。シンデレラ4th見事外れたN@NOです。
文化祭が終わってライブ編に入ります。俺ガイル勢がどう関わるか、上手く出来るといいです。

意見、感想よろしくお願いします。


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彼は振り返り、歩み寄る。

 

星井が来なくなった原因が判明してから既に二日が経過したが、いまだに星井に連絡がつかなかった。

 

何度もメールや電話を送ってはいるのだが、それに対する反応はない。

こうしているうちにもライブは日に日に近づいてきている。星井以外のメンバーたちは星井の欠席を気にしつつも、如月や四条のフォローが入りながら練習に励んでいた。今はまだ何とかなっているが、いつこの状況が壊れるともわからなかった。

 

もう一度星井に電話してみるか。

 

スマホを開き、その中から星井美希の文字を探す。二十数人しか登録されていない電話帳からはすぐ見つかった。一瞬の間を置き星井美希の名前を押し、電話をかける。

ワンコール、ツーコール。今回も出ないか…、と一瞬頭をよぎったときコール音がぷつりと途切れた。

 

八幡「…ッ、星井か!」

 

美希「…そうだよ、プロデューサー。それで、何の用?」

 

八幡「今、お前どこにいるんだよ」

 

美希「お前じゃなくて、美希にはちゃんと美希って名前があるの」

 

八幡「…すまん。それで、星井、今どこにいるんだ?」

 

美希「お魚屋さん」

 

八幡「魚屋?夕飯の買い物か?」

 

美希「そんなのプロデューサーには関係ないの」

 

八幡「まあ、確かに関係ないけどな。でも星井。どうして練習に来ないんだ?」

 

美希「美希、やる気なくなっちゃったの」

 

八幡「それは竜宮小町に入れないからか?」

 

美希「プロデューサーは美希も頑張れば竜宮小町になれるって言ったの」

 

八幡「…悪い。そういう意味だとは思っていなかった。それに関してはすまない」

 

美希「もういいよ。やる気なくなっちゃたし」

 

八幡「何言ってんだ、もうライブまで時間がないんだぞ。それは、お前だけの問題じゃない。ほかの奴らにだって迷惑がかかるんだ。いいか、星井。明日からはちゃんと来てだな…」

 

美希「行きたくないの」

 

八幡「って、おい…。言ったそばからかよ。だからな…」

 

美希「バイバイ」

 

八幡「星井ッ!」

 

とっさの呼びかけのあと、ツーツーと無機質な音だけが流れる。

やっとつながった星井との電話はわずか1分ほどで途切れ、何の手がかりも残すことなく途切れた。

 

星井が話しを聞かないならどうしようもないだろうが。ふいに沸き上がった苛立ちに拳を固めたが、その行く先は定めず、行き場をなくした思いはゆっくりと宙で霧散した。

 

八幡「星井の奴…」

 

小鳥「今の言い方、美希ちゃんかわいそうじゃないですか?」

 

振り返ると先ほどまで作業をしていた音無さんがこちらにやってきた。

 

八幡「…音無さん」

 

小鳥「美希ちゃん、竜宮小町に入れないってわかってショックだったと思うんです」

 

八幡「でも、この時期に休むなんてあまりにも自分勝手じゃ…」

 

小鳥「プロデューサーさん。美希ちゃんはまだ15歳の女の子なんです。頭ではわかっていても感情的に動いちゃうこともあるんです」

 

その言葉にはっとさせられる。

最近あいつらのプロとしての面を見続けていたせいかそういったことをあまり考えなくなっていた。確かにそうだ。大人びて見えているが星井は小町と同い年だ。

 

小町がいらついているときなんかは特にあんな感じだ。

 

まあ、そのぷりぷりいらついている小町がまたかわいくて、何言われてもお兄ちゃん許しちゃう!

 

小鳥「プロデューサーさんと二つしか年が離れていませんがこの時期の二年というのは大きいんですよ」

 

八幡「…すみません、音無さん。なんか、らしくもなくあんなことしてしまって」

 

あぁ、そうだ。本当にらしくない。ほんの三か月前にはこんなことは考えもしなかっただろう。

比企谷八幡はこういうことをする人間ではない。それは自分が一番分かっている。いや、いたはずだ。

 

何かの気の迷いでプロデュ―サーになって、彼女たちへの責任感だけでここまでやってきたのだ。さっきのだって、あれは俺の嫌いな意見の押しつけじゃないか。

……本当に俺らしくないな。

× × ×

今日の練習は午後からということもあり、空いた午前中の暇な時間をつぶすため駅前の百円セールを行っていたドーナツ屋に入った。

いつもの通りオールドファッションとゴールデンチョコを取り、コーヒーを注文する。

一階で食べてもいいのだが、道路側に面した壁がガラス張りになっているためなんとなく落ち着かないので二階へと上がる。

二階に上がると一階と同じようにガラス張りの壁に外向きのカウンター席と、それとは別にテーブル席がいくつか並んでいる。

一通り見まわし大して人がいないことを確認し、奥のテーブル席に座る。

カバンから文庫本を取り出し、しおりが挟まっているところを探す。

最近ほとんど読む時間がなかったためどこに挟まっていたのか思い出せない。

パーッとページを流しているとしおりが滑り落ち、斜め前のテーブル席のほうへ滑っていった。

しおりを拾おうと立ち上がると、聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。

 

結衣「あれ、ヒッキー?」

 

八幡「由比ヶ浜、それに雪ノ下…」

 

そこには由比ヶ浜と雪ノ下がドーナツを挟んで向かい合って座っていた。

 

八幡「なんでお前らこんなとこに」

 

雪乃「別に私たちがどこにいようと私達の勝手でしょう。あなたこそどうしてここにいるのかしら。なぜ私たちがここにいるの知ってたの?ストーカー?」

 

八幡「ちげーよ…。どうしたらそうなるんだよ、たまたま寄っただけだ」

 

雪乃「そう」

 

八幡「んで、何してんの?」

 

結衣「えっとね、この後ゆきのんと買い物行くんだけどまだ開いてないから、それまでの時間つぶし」

 

八幡「そか、そんじゃ」

 

そう言い、テーブルのそばに落ちていたしおりを拾い自分の席に戻ろうとすると、

 

結衣「あ、そうだヒッキー。最近どうなの?話聞かせてよ」

 

八幡「特になんもねえよ」

 

自分にそんなつもりはなかったのだが、とっさに嘘をついた。

 

雪乃「嘘ね」

 

雪ノ下のその一言にドキリと、そして胸の奥をえぐられるような感じがした。

 

八幡「…なんでわかったんだよ」

 

雪乃「…」

 

結衣「…」

 

それに対する答えはなく、ただ二人が驚いたような顔をしてこちらを見つめていた。

 

八幡「おい」

 

結衣「あ、ご、ごめん。でもさ、ヒッキーどうしたの?」

 

八幡「どういうことだよ」

 

雪乃「普段のあなたならこんな誘導引っ掛からないでしょう」

 

八幡「…あっ」

 

誘導尋問うまいな、雪ノ下。

 

結衣「何か、大変なことでもあったの?」

 

由比ヶ浜が不安そうにこちらを見つめる。

 

八幡「…いや、だから…」

 

雪乃「そう、あなたが話す気がないのならそれでいいわ」

 

こちらを見ずにそういうと雪ノ下はコーヒーを口に運んだ。そして由比ヶ浜は慌てながら雪ノ下と俺を交互にみて、

 

結衣「でも、何かあったなら相談してほしいな。同じ部活の…なんだし」

 

髪の毛をくるくるといじりながらそっぽを向く。

結衣「ね?ほら、ヒッキー。ドーナツとかもってこっち来なよ」

 

由比ヶ浜が席を雪ノ下のほうに移動すると、俺の席を指さしてそう言った。

君たちがこっちに来るという選択肢はないのですか…。

×××

雪乃「そう、大体のことは分かったわ」

 

結衣「美希ちゃん、ショックだったんだろうね」

 

星井が今の状況に至った経緯を話し終えたときには、コーヒーがなくなっていた。

 

結衣「あ、あたしコーヒーお代わりもらってくるね。二人の分も、さ」

 

雪乃「ありがとう、由比ヶ浜さん」

 

八幡「悪い」

 

カップを手渡し、一階へと降りていく由比ヶ浜をなんとなく見送る。

 

雪乃「それで、まだあなたの考えを聞いていないのだけれども」

 

八幡「考え?」

 

雪乃「えぇ、あなたはどうすれば美希さんが戻ってきてくれると考えているのかしら」

 

八幡「それは…」

 

言葉が続かない。何も出てこなかった。何とかしなくてはならない。それは分かっていた。最近は星井にどうすればいいか悩んでいた。なのに。

 

雪乃「あなた、何もわかっていないのね」

八幡「分かっていないってどういうことだよ」

 

自分でも驚くような苛立ちのこもった声が出た。が、雪ノ下はそれに臆することなく、

 

雪乃「言葉の通りよ。あなたはなぜ美希さんが練習に来なくなったのかちゃんとわかっていないのよ」

 

八幡「…悪い。そう、なんだろうな。本当にあいつのことをわかっていたならこうなる前に何とか出来たんだろうな」

 

結衣「ヒッキー」

 

下を向いている間に由比ヶ浜が戻ってきていたらしい。顔を上げると机には人数分のコーヒーが入ったカップと端にトレーが置かれていた。

 

結衣「なんだかヒッキー、らしくないよ」

 

らしくない、か。

 

八幡「そうかもな、そもそも俺にプロデューサ―なんて向いてなかったのかもな」

 

雪乃「あなたn…」

 

結衣「そんなことないよッ!ヒッキーはちゃんとプロデューサーしてたよ。だって、いつもアイドル達のために頑張ってたじゃん。あたし…それが、少しうらやましくて…。だから、ヒッキーがそんなこと言っちゃダメなんだよ」

 

そう叫んだ由比ヶ浜の目がうっすらと赤くなっていた。

 

雪乃「それで、あなたはこのままその死んだ魚の顔をして事務所に行くのかしら」

 

はッ…今の俺は死んだ魚の目じゃなくて顔なのかよ。そこまでひどくなっていたのか。

八幡「雪ノ下、由比ヶ浜。俺に力を貸してくれ」

 




まず初めに更新が非常に遅くなってしまったことを心よりお詫び申し上げます。今後につきましては、もう少し更新頻度を上げられるよう努めさせていただきます。

はい、本当に遅くなってすみませんでした。
更新を待ってくださっていた皆さま方、お待たせいたしました。ここからライブ終了まで出来る限り期間を広く開けずに進ませたいと思います。

感想、意見よろしくお願いします。


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一方通行の終着点。

「それでは、情報整理から始めようかしら」

「それは、さっき話したじゃねーか」

「いいえ、事実確認のための整理ではないわ。今度の整理は、あなたの認識の整理、

よ」

「…認識?」

つまり、雪ノ下が言いたいことは、俺の中での認識がずれている、ということなのだろうか。確かに、そのきらいはあるかもしれないが自覚がないことには修正のしようがない。

「ヒッキー、どうして美希ちゃんは竜宮小町に入りたかったんだと思う?」

俺の思考を読んだかのように由比ヶ浜が問う。

なぜ、星井は竜宮小町に入りたかったのか。いや、違う。なぜ、星井は竜宮小町に入らなくてはいけない、という考えに至ったかだ。竜宮小町に求めたもの…。それは、

「輝きたかった、からか?」

「輝き?えっと、竜宮小町じゃないと輝けない、なんてことはないと思うけど…」

「いえ、そうではないのではないかしら。その考えに至るきっかけがあるのでしょう、比企谷君」

「あぁ、星井は竜宮小町に入れなければ、輝けない、と言っていた。ここから考えるに、竜宮小町に対する負けを感じていた可能性がある」

「負けって…。美希ちゃん文化祭の時もすごく輝いてたのに」

「えぇ。でも、世間の目はどうかしら?文化祭の時に、765プロと聞いて、そして竜宮小町は出ないと聞いた後の生徒たち…いえ、観客の態度はどうだったかしら」

「それは…」

たとえ、個人がどんなに努力をしようとも、どんなに才能にあふれようとも、世間に認められなければ、それが輝くことはない。だが、ひとたび人気が出れば周りの見る目が変わる。全く同じことをしているのに、ブレイク前と後では、人の集まりが変わるなんてのはざらだ。残念ながら、これが現実で、そしてこの業界の厳しさでもあるのだろう。

「…星井は、どこかでそれを悟ったのか」

「そうね…、そして比企谷君。あなたもその一端を担っているのよ」

「それは、どういう意味でだ?」

「そのままの意味よ。あなたも星井さんが、竜宮小町以外のメンバーが、竜宮小町には勝てないと思っていた、ということよ」

俺も、あいつらが竜宮小町には勝てないと思っていた、のか?

「それは…あるかもね」

ここまで聞き専になっていた由比ヶ浜がカップを置いて、口を開いた。

「ヒッキーさ、文化祭のライブの時、美希ちゃんたち三人にSMOKY THRILLを歌ってもらったでしょ。それは、なんで?」

「それは、観客の心をつかむきっかけとしてだな」

「そこなんだよ、ヒッキー。そのきっかけに竜宮小町の力を借りちゃ駄目だったんだよ」

「…」

「あなたの本来の目的は何だったのかしら?実戦経験を積ませることかしら。それならば達成できたでしょうね」

ここまで言われれば、さすがの俺だって気づく。本来ならば、もっと早い段階で気づくべきだった事に。結局のところ、俺の本来の目的は果たすことはできなかったということだろう。本来の目的、それはアイドル達に自信をもってもらうこと。竜宮小町がいなくても、大丈夫だという自信だ。その自信をつけるために竜宮小町に頼った、これでは本末転倒だ。

「…如月は気づいていたのかもな」

自分の考えた通りになると思って、これが最善の策だと思って。だが、それは俺の考えた中のみでの話だった。それならば、どうするべきなのか。

腹は決まった。

「情報整理はできたようね。なら、早くいった方がいいのではなくて?」

「あれ?ゆきのん、もう終わりでいいの?」

「えぇ。なぜなら奉仕部は」

 

「魚を与えるのではなく、釣り方を教える。だろ」

一度思い知ったことを忘れるなんて、材木座を馬鹿にはできないな。

 

×××

 

ドーナツ屋を出て、雪ノ下達と別れた後、電話を掛ける。

腕時計へ目をやると予定している電車の出発時刻には、まだ時間がある。

「…もしもし」

「星井。話がしたい、今どこにいる?」

「ミキはプロデューサーと話なんてないから、わざわざ教えたりしないの」

「…だろうな。じゃあ、俺が星井のいるところに向かえば話を聞いてくれるか?」

「もし、そんなことできたら、プロデューサーは変態さんなの」

星井の声が少し明るくなる。

「なんとでも言いやがれ。悪口には慣れている」

こんなの毒舌女王に比べたら、犬に噛まれるくらいだ。

何それ、結構いて―じゃねーか。

「ふーん。まぁ、来られるのなら…だけどね」

「あぁ、待ってろよ」

ツーツー、と無機質な電子音が流れる。電話帳を再度開き765プロの事務所へ電話を掛ける。

2コール目できれいな声の受け答えの定型文が聞こえてくる。いつもなら最後まで聞くところだが今回は、ふざけている暇はない。

「音無さん、比企谷です」

「あら、プロデューサーさん。こんにちは。どうかしましたか」

「申し訳ないんですが、今日の天海たちの送迎変わってもらえませんか」

「えぇ、それは構いませんが、なにかあったんですか」

「はい、星井を、星井美希を連れ戻しに行ってきます」

「そうですか。プロデューサーさん、美希ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」

「はい」

音無さん、優しすぎるだろ。仕事を急にほっぽり出すようなやつにこんな対応をしてくれるなんて。

 

×××

 

「…よくミキがここにいるってわかったね、プロデューサー」

「まぁな」

星井がいたのは熱帯魚ショップ。色とりどりの様々なサカナたちが、いろいろな水槽の中を泳いでいる。星井がみていた水槽には、黄色のベタが泳いでいた。

「サカナ、好きなのか」

「そんなに。でも、見ていると落ち着くの」

「そうか」

星井は立ち上がると出口のほうへ向かう。

「ここじゃ、話しづらいから別のとこいこ」

 

星井についていくと、公園の中の池にかかった橋の近くで立ち止まった。

池には、鴨が一羽泳いでいる。

先ほどの人込みは嘘のように消え、自然の音だけが聞こえてくる。

暫くの間、それを楽しむかのように星井は池をのぞき込んでいた。

「ミキの家はね、パパもママも、ミキのやりたいことをしなさい。っていってくれてね。それでね、ミキも、それでいいと思ってたの」

「まぁ、どこの家も娘はかわいいんだろ。うちも小町にはめちゃくちゃ甘いぞ、俺には厳しいのに」

「それは、プロデューサーだからでしょ。でもね、最近それも違うのかなって。つらいこととか、苦しいことがあってもドキドキするようなことがしたいって思うようになったの」

「そうか。なら、最近星井がドキドキしたことはなんだ?」

「竜宮小町!ミキね、竜宮小町に入ったら、今よりもっとキラキラでドキドキすると…、あ、でも…なれないんだもんね」

星井の笑顔がだんだんと消え、また先ほどまでと同じ態勢になる。

「ミキ、どうすればもっとドキドキできるのかな」

耳をすましていなければ聞き取れないような声量で、自然の音にかき消されてしまいそうな声で、ぽつりとつぶやく。

「そんなの、アイドルになればいいだろ」

「でも、竜宮小町に入れなければ、あのおっきいステージで、かわいい衣装をきて、かっこいいダンスを踊れないの」

「文化祭、どうだった?」

「…楽しかったよ」

まだ、星井は池を見つめ続けている。

「ドキドキもしたし、わくわくもしたよ。キラキラできたと思うよ。でも、でも、竜宮じゃないと仕事こないもん」

声色が強まる。やはり、星井は分かっていたのだろう。人気がすべてであることを。

だが、だからこそ

「今まではそうかもしれない。だが、これからはそれが変わる。今度のライブで星井達の実力を見せつける。そしたら、今まで気づかなかった奴らもその魅力に気づくだろ。そうすれば」

「みんな見ないよ。どうせ、竜宮小町をみに来ているんだもん」

「もし、そうだとしたら社長はこんなライブは組まないと思うぞ。星井たちが、竜宮に負けず劣らずの実力を持っていると知っているからこそ、このライブを組んだはずだ」

ちらりと大きな瞳でこちらを見つめる。先ほどよりかはその瞳に希望の光があるよう

に見えなくもない。

「かわいい衣装は?」

「竜宮に負けないくらいの衣装がもう届いてるぞ」

「じゃあ、ミキが歌詞を忘れたら助けてくれる?」

「俺がステージに出てきてもいいならな」

「それは最悪なの」

最悪とか言うなよ、本気なの伝わってるからね。まぁ、本気で出る気はないんだけどさ。

「星井、俺はこれからも間違ったことをすることになるかもしれん。だが、これだけは保障する。お前たち全員、輝けるアイドルになるだろうよ。人間観察が趣味の俺が言うんだ、まちがいない」

「なんだか、今日のプロデューサー変なの。ちょっとキモいの」

「悪かったな」

これでもかっこいい言葉選んでるつもりなんだよ。

「じゃあ、プロデューサー、これだけは約束して。ミキのこと、竜宮小町みたいなキラキラ輝ける素敵なアイドルにしてね」

「あぁ」

「あ、あと、もう絶対嘘つかないこと」

「わかった、約束しよう」

「じゃあ、ミキ頑張ろうかな。また、アイドルやるの!」

 

頑張れば報われる、努力は裏切らない。そんなことは、ありえない。頑張ったって、どんなに努力したって報われないことはある。だが、努力していないやつが成功できるほど甘くはない。なら、俺は努力ができるよう協力しよう。それが輝く世界へと続いているのなら。

 

 




遅くなりました。今度こそ、今度こそは間隔を開けることなく更新したいと…思います…本当です。。
意見、感想よろしくお願いします。

あ、形式を変えました。賛否あればそれもお願いします。


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彼女は戻り、彼は人を探す。

「ごめんなさいなの」

 

約1週間ぶりに事務所に姿を見せた星井の第一声だ。俺がフォローに入りながら皆に説明をしよう、と提案したのだが自分でできると断られた。決して俺が役に立たないから断られたわけではない。これが彼女なりの誠意なのだ、…と信じたい。

 

さて、問題はこれに対する765プロのほかのメンバーの反応。おそらく、もめるようなことはないだろうという判断をしたからこそ、星井一人に任せたのだが。まぁ、もしもの時は音無さんが何とかしてくれるだろう。

俺には無理、はちまんわかってる。

 

「ミキ、ちょっとやる気なくなっちゃってたの…でも、ミキね」

「ちょ、ちょっと美希、そんな、私たち別に気にしてないし」

「そうですよ。美希さん」

 

天海や高槻らがフォローを入れる中、

 

「謝ってなんてほしくない」

 

千早の一言で一瞬空気が凍り付いた。とっさに音無さんがフォローを入れようとしたが、それを制止する。大丈夫ですよ、そう目で訴えると音無さんに伝わったのかうなずき返してくれた。

 

「ち、千早ちゃん」

「…それよりも今は後れを取り戻したいの。プロとして、ライブを成功させたい」

「うん、ミキ頑張る!絶対成功させるの!」

 

張りつめていた空気が解け、何人からか安堵の息が漏れた。

 

「音無さん、さっきは耐えてくれてありがとうございました」

「いいえ、あの子たちを信じたプロデューサーさんが正しかったですよ。あそこで私が行かなくても、ちゃんとできたんですから。美希ちゃん、戻ってきてくれてよかったですね」

「はい。…まぁ、本当にやばくなったら音無さんが何とかしてくれるって信じてたんで」

「せっかく少しかっこよかったのに、その言葉が残念ですね」

 

皆が美希の周りに集まりがやがやし始めると事務所の扉が開いた。

 

「あれ、ミキミキだ!」

「あんた何やってたのよ~!」

 

竜宮メンバーが仕事を終えてちょうど帰ってきたようだ。

余計騒がしくなった事務所がどこか懐かしく思える。

 

「全員揃いましたね」

 

満面の笑みを浮かべた秋月さんのその言葉に、張りつめていた気持ちがようやく緩んだ気がした。

 

「ねえ、プロデューサー」

 

彼女らの様子を離れて眺めていた俺に伊織が近づいてくる。

 

「あんた、どうやってミキを説得したの?あの子結構頑固だとおもうんだけど」

「なに、そこはあれだ。俺のあふれる人徳と人柄で、くるりんぱって感じだよ」

「くるりんぱ、って何よ。変な冗談は置いといて。どうなの」

 

え、くるりんぱ、知らないの?もしかしてローカル言語?あおなじみとか使わない感じ?ヤダ、恥ずかしい。

 

「まぁ、秘密だ」

 

ここで正直に話すと恥ずかしさで死ねるので。伊織、お前は俺の夜を枕に向かって叫ぶ時間に変えるようなひどい子じゃないもんね?信じてるよ。

 

「はぁ、まあいいわ。ミキを連れ戻してきたのは事実なのだし。…その、意外とやるじゃない」

「…まあな」

「それだけよ」

 

伊織は長い髪を手で梳き、ミキのいるグループに合流しに向かった。

もしかしてこれをわざわざ言うために?なんてお決まり展開はさすがにないだろうが、褒められてうれしくないほど捻くれてもないのでありがたく言葉を受け取っておく。

窓際から、俺に与えられた席に座り、マイノートパソコンを開く。もちろん、コースターにはマッカンが置かれている。夕暮れが日に日に早まる今日、本番まであと少し。星井が戻ってきた。これで抱えていた問題はなくなった。あとは本番までの準備をしっかりと積むだけだ。

俺も出来る限りは頑張りますか。

 

×××

 

「関係者チケット…ですか」

「はい。プロデューサーさんが招待したい人数を教えてもらえれば用意しますよ」

 

関係者チケットか。誰か呼ぶ奴がいたかと脳内検索をかける。小町は来たがるだろうしなぁ。

あとあいつらに声をかけないわけにもいかないだろう。

世話になったからには対価がいるってのは鉄則だし。

あ、あと戸塚。戸塚にも世話になってるし、今後も世話されたい。何なら、戸塚をステージに出すまである。

あの笑顔が世界に届けば戦争は一夜にしてなくなるだろう。

 

「あ、あの、プロデューサーさん?」

 

はっ、と音無さんの声で我に返る。戸塚の笑顔はやっぱり独り占めしたいよな。

 

「なーに変な顔してんのよ」

「い、伊織。…ごほん、ちょっと世界平和について考えていてだな」

 

嘘は言ってない、嘘は。

 

「馬鹿なこと言ってないで、で、誰呼ぶか決めたの」

「小町と奉仕部関連のやつらの予定だ、なんだかんだで世話になってるからな」

「そうですね。あ、平塚さんの席は私が声かけたので大丈夫ですよ」

 

ほんと平塚先生と音無さん仲いいな。これがスタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う原理なのかね。

 

「伊織は誰呼ぶんだ?」

「…私は。…まだ、考えているわ」

 

視線を外し、一瞬悲しそうな顔をみせる。

 

「そうか。まぁ、なんかあれば話なら聞くぞ。一応俺もプロデューサーなわけだしな」

「そうね、いちおうあんたもプロデューサーだものね。本当に困ったら相談するわ、だから」

「あぁ、わかったよ」

 

わざわざ、そのあとは聞かない。誰にも簡単に踏み入ってほしくない話もあるものだ。だからこそ、俺は踏み入らない。ただ、あの一瞬見せた伊織のあの顔が、少し頭に残った。

 

「ぴ、ぴよぉ。私も相談に乗れるのに…私空気みたいです…」

 

×××

 

「と、いうわけなんだが来るか?」

 

場面は変わり、奉仕部部室。あれこれ考えたが、まずはこいつらに話しておかないといけない気がした。誘う相手も大していないのだから、考えることも大してないだろうが、と自分に突っ込みを入れながらもあれこれ考えちゃう。伊達にボッチはやっていないのだ。

 

「行きたい行きたい!というか絶対行く!ね、ゆきのん」

「そうね、文化祭でお世話になったのだし見に行くのが良識ある人としてn」

「雪ノ下、お前そんなこと言いながら純粋に楽しみなんじゃないのか」

「あなたなにを根拠にそんな訳の分からないことを」

「あ、ヒッキーも思った?あたしもね、ライブの話聞いたときに、あ、ゆきのんすごくうれしそうだなって思ったの!」

 

こほん、と一拍おき雪ノ下が由比ヶ浜から顔をこちらに向き替える。

 

「とにかく、それで引き立てや君。私たちのほかに誰か声をかけたのかしら」

「おい、引き立て役とか言うなよ。本当にそうなんだから傷つくだろうが。あとは、戸塚に声をかける予定だ」

 

はぁ、と由比ヶ浜。

 

「ほんとヒッキー彩ちゃん好きだよね」

「戸塚にも萩原の件で世話になったからな」

 

あと、個人的に話すきっかけが欲しい、なんて口が裂けても言えんがそんな魅力的な戸塚はマジ天使。やっぱり戸塚もアイドル目指していくべきだと八幡思うよ。

 

「いい加減その顔をやめてくれるかしら」

 

…やっぱり、戸塚のかわいさは俺だけが知っていればそれでいいよね。

 

昼休み後の5限の体育の授業。グラウンドが使えないため、普段とは異なり体育館でバスケとバドミントン、二つに分かれて行われていた。

夏は終わった、と世間では言われているのだが、残暑のせいで秋の涼しさなどひとかけらも見えない太陽の下から逃れられるため多くの生徒が喜んでいた。

かくいう俺もその一人。

というか炎天下でつらいうえに、打席に立った時のあの両チームの盛り上がりに欠けるあの微妙な空気を感じないといけないとかどんな罰ゲームだよ。

 

さて、個人競技のバドミントンを選んだはいいものの、これ思ってたより壁打ち難しいな。

 

「はちまん」

 

テニスの時とは異なった軌道を描くシャトルに苦戦していると、天界からの呼び声がかかった。

その美しい声の元を見るため振り返るとそこにはまごうことなき羽をまとった天使…ではなく戸塚がラケットとシャトルを両手に持ち立っていた。

 

「戸塚か、どした」

「えっと、一緒にやらない?」

 

小首をかしげる動作を加えられたその破壊力。これほどまでにyoutuberでなかったことを悔やんだ日はないだろう。ビデオを回していなかったことは残念だが、ちゃんと心のメモリーに刻んでおこう。

 

「あぁ、いいぞ」

 

ぽん、ぽんと気の抜けた音が俺と戸塚の間を何度も往復する。臨時の種目変更のため大した説明もなく好きに打ってろ、と体育教師に丸投げされたためお互いに正しいフォームとは言い難く、別のコートにいるバドミントン部の堀山がここぞとばかりに張り切りながら打っている球と比べるとへなへな感が増して見えた。

 

「あはは、やっぱりテニスとは違うね。面も小さいしさ。思ってるようにいかないや」

「まぁ、人生もそんなもんだろ。思っているよりも大したことなかったり、うまくいかなかったりなんてざらだ」

 

カンと当てそこない、俺が打ったシャトルは大きくネットの上を行く軌道を描いた。

 

「えいっ」

 

パシッと先ほどまでより高音のはじける音とともに俺の足元にシャトルが転がる。

 

「でも、ほら。練習したらうまくいくこともあるよ」

「…たしかにそうみたいだな」

 

そういいながら転がったシャトルを拾い上げた。

 

「ふぅ、体育館でもやっぱ暑いね」

 

ぽんぽんとあまり激しく動いていなかったが汗が止まらない。誰だよ、日陰だから涼しいとか言ったやつ。完全に蒸し風呂だろ、これ。

体育館の壁に倒れこむようにして、もたれかかると隣に戸塚が腰を下ろした。

 

「やっぱり八幡運動神経いいんだね。変なとこに打っちゃってもちゃんと返してくれるし」

「そんなことはないと思うがな。あー、そうだ。戸塚、再来週765プロのライブがあるんだが来ないか」

「行きたい!…のはやまやまなんだけど生憎その日ちょうど大会なんだよね」

 

がっくり、と漫画ならば擬音がつくのではないかというくらいに肩を落とす戸塚に目を奪われていると

 

「話は聞かせてもらったぞぉ、はちまぁぁん」

「うぉっ、びっくりした、なんだ材木座か」

「八幡!我も、我もいきたいぞライブぅ」

 

材木座のせいか周りの気温が上昇した気がする。暑苦しいことこの上ない。

 

「あつい、離れろ材木座」

「我はな、この前の文化祭のステージでミキミキのファンになってしまったのだ。あの輝く彼女をもう一度生で見られる機会。逃しはしなぁい!」

 

星井のファンか、材木座にしては珍しいな。

 

「二次元の嫁で十分なのかと思ってた」

「それとこれとは全く別問題だ」

「それじゃ、材木座君。僕の代わりにみんなのこと応援してきてね」

「我に任せろぉ」

 

そんなこんなで戸塚の代わりに材木座が来ることになった。

ライブまで二週間。その時間はあわただしく過ぎ去っていった。




半年ぶりでしょうか。こんばんは、お久しぶりです。
かなり放置してしまいました。
反省しています。なので、今年中にライブ終了させたいと考えてます。大丈夫です。きっと終わります。
次話投稿も極力早くするので気長に待っていてください。
意見、感想よろしくお願いします。


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ARE YOU READY?

晴天。それが、雲一つない空を指すものだとすれば今は晴天といえるだろう。

 

普段あまり目にすることのない夜明け前の暗黒。窓を開ければ身震いするほど冷えた風が吹きいる。予想以上に冷たい風が眠気を吹き飛ばす。まだ暖かさを保っている布団をひっくり返し、折りたたむ。こうして暖かさを取り除いておかないと布団の誘惑に負ける恐れがあるのだから、布団は恐ろしい。世の眠気と戦う者たちの天敵といっても過言ではないだろう。

 

自室の扉を開けると、いつもより3時間ほど早く起きているため、当然ながら家族は皆寝静まっている。衣擦れの音がやたら大きく聞こえ、普段なら気にも留めない物音に対していちいちビクつく。自分が出す音を最もよく感じることができる、そんな静寂。

 

こんな静寂が俺は嫌いではない。

 

親父たちを起こさぬよう物音をたてぬよう階段を下ると、リビングから光がこぼれていた。

 

誰か昨日消し忘れたのかしら、と思いながら扉を開けるとキッチンに小町が立っていた。

 

「おっ、おはよ!おにーちゃん」

 

「おう、はやいな。勉強か?」

 

今日ライブに行くから、その分早く起きて勉強とはなんとできた妹なのだろうか、と感心したところで

 

「ううん、流石に勉強のためにこんな早くに起きないよ、おにーちゃん」

 

といった具合で俺の感心を打ち壊したかと思えば、おにーちゃんに朝ご飯作るために早く起きたと聞いて、流石は世界の妹小町なだけある、と深く感謝した。

 

「どうせ、コンビニのパンとかで済まそうとしてたんでしょ」

 

「あぁ。わざわざ自分一人のためだけに作るのも面倒だしな」

 

ほい、と小町から焼き立てのベーコンエッグがのった皿を受け取りテーブルへと運ぶ。

 

「まぁ、小町も自分だけのために朝ご飯作るのはちょいと面倒だもん」

 

でも、と小町はご飯を茶碗に装いながら言葉を続ける。

 

「今日はお兄ちゃんと小町の二人分の朝ご飯だから面倒ではなかったよ。あ、いまの小町的に超ポイント高い?」

 

本当に小町はよくできた妹である。一家に一人は欲しい妹№1だな。

 

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「うん、頑張ってね。小町も後で行くから」

 

「おう、チケット忘れるなよ。あと道に迷ったら交番に」

 

「大丈夫だって。千葉駅で雪乃さんたちと待ち合わせして一緒に行くから」

 

心配しすぎだ、とばかりに手を振る。まぁ、雪ノ下達と一緒に行くから道に迷わないかと聞かれれば微妙なところだが、由比ヶ浜もいるだろうし大丈夫だろう。

 

財布、携帯、腕時計、身だしなみを玄関の姿鏡で確認し、冷たいドアノブを下ろした。

 

先ほどまでは暗黒だった世界は、一変し東の空がオレンジに輝いていた。ちなみに夜明けに西から日が昇るのはバカボンの世界な。

 

 

× × ×

 

 

ライブ会場に予定より30分ほど早く到着した。

 

今日、ここであいつらがステージに立つ。下見で何度か来ている会場が、そう考えただけで普段と違う顔を見せる。

 

別に俺が出るわけでもないのに足がすくむ。

 

そうじゃない、俺がこんなんじゃ駄目だ。そう言い聞かせ、関係者専用入り口に向かった。

 

 

「いやぁ、絶好のライブ日和だね!」

 

楽屋の窓から青空を見上げていると社長が喜々として言った。

 

「そうですね、まぁ西の方には台風が来ているらしいのでそれがちょいと心配ですけどね」

 

「うむ、だが直撃にならず本当に良かった。しかしなんだなぁ、こうして念願のライブにこぎつけてうれしい限り。いやはや感無量だよ」

 

隣に立つ社長も空を見上げながら言葉を弾ませた。

 

「今日が彼女らの羽ばたくための第一歩になりますからね」

 

「お、比企谷くん。かっこいいこと言うじゃないか!おっと、そろそろアイドル諸君も来る頃かな」

 

そろそろ小町も家を出る頃か。

 

ちらりと腕時計を確認すると、予定の集合時間の10分前を指していた。

 

「律子くんたちのほうはどうなっているのかね」

 

「あの4人は収録先から直接ここに来ることになっていたかと」

 

収録後にライブと律子さんに聞かされ、人気アイドルの忙しさに驚いたのは言うまでもない。人気の芸能人が日本中を毎日行き来していることなぞ、活動範囲が基本千葉な俺からすると想像もつかない。だって、千葉で何でもそろうんだもの、しょうがない。

 

高木社長と楽屋に設置されたテレビを見ながら話しているとガチャリとドアの開く音とともに声のそろったあいさつが聞こえた。

 

「おはよう、今日も頑張れよ」

 

「はい!」

 

 

会場には、たくさんの関係者の人が出入りし、あれよあれよという間にフラワースタンドや機材などが並べられられていく。文化祭の準備の少し浮足立った感じはなく、プロの準備というものに対し素直に感動する。

 

ライブ関係者には、スタッフTシャツが配られており、一目でわかるようになっていた。かく言う俺もTシャツをもらっているのだが、普段からの慣れた格好のほうが落ち着くので家に保管してある。ああいうTシャツって部屋着にもってこいだからな。

 

ステージの機材の最終確認のために舞台袖に行くと、モニターに響や菊地が映っていた。なんだかすごいはしゃいでる、やだかわいい。

 

「あのー、ここで大丈夫ですか?」

 

「あ、はい、大丈夫です」

 

手に持った配置書とにらめっこをしながらもなんとか一通り機材の配置確認を終えた。

 

飲み物でも買いに行こうかと扉に手をかけたところでステージ上からぼんやりと客席を見上げる星井が目にはいった。

 

「どした?」

 

「ミキ、きらきらできるかな」

 

こちらを振り向くことなく、そのままそうこぼした。

 

「さあな」

 

「もう、そういう時は大丈夫だよ、とか声かけるもんじゃないの?」

 

すこし頬を膨らませ振り返る。その拍子に跳ねた星井の明るい髪色は、スポットライトによって照らされ、光を纏っている。

 

「適当な励ましはいらないと思っているからな。それに、星井もそんな聞こえのいい言葉が欲しかったわけじゃないだろ」

 

「うん…」

 

「お前次第だよ。キラキラできると自分を信じるかどうかだ。そうすりゃ、みんなお前がキラキラしているって感じるんじゃないのか。…少なくとも知りあいに一人、文化祭の時のお前がキラキラしていてよかった、ってやつはいたぞ。それと、自分が楽しむ、これも忘れんなよ、おにーさんとの約束な」

 

「ふーん、そっか。うん、わかったの」

 

本当に分かったのかそうでないのか微妙な返事をして、星井はステージの中央へと歩いて行く。その姿に先ほどまでの影はなく、ライトを集めたかのような錯覚を感じた。

 

曖昧三センチとぷにっとした感じの曲、つまり俺の携帯の着信音なわけだが、流れた。普段あまりなることのないスマホちゃんを取り出し、応答する。

 

「もしもし」

 

「あ、プロデューサーさんですか、あのですね、台風のせいで新幹線が運休になってしまって」

 

西側に接近していた台風の影響か。こっちはまだ晴れているが、この調子だと夜にはこっちにも影響が出てくるかもしれんな。

 

「大丈夫そうなんですか」

 

「とにかく、動いている電車を乗り継いで急いで向かいます。リハには間に合わせるので」

 

「わかりました、気を付けてきてください」

 

秋月さんはそう言っていたが、新幹線も止まっているとなると、電車も止まる可能性もあるだろう。念を入れて社長に相談しておくか。

 

 

「台風で竜宮小町の到着が予定より遅れるらしい。だが、リハーサルには間に合うといっていたからスケジュールはそのままで行くつもりだ」

 

竜宮小町の到着が遅れていると聞き、少し皆の顔に不安が浮かぶ。

 

「みんな、今のうちにおなかに何か入れておいてね」

 

「ありがとうございます」

 

それを感じていたのか、音無さんがしっかりとフォローを入れてくれる。

 

すこしほぐれたかもしれないが、まだ動揺は残っているように感じられた

 

「律子さんたち間に合うかなぁ」

 

萩原がそう不安を漏らした。うつむいているため顔は見えないがきっと不安気であるに違いない。

 

「雪歩。世の中には言霊というものがあります。めったなことは口にしない方がよいと思いますよ」

 

四条にそういわれ慌てて口を押える萩原。

 

「それに、亜美からだいじょーぶだってメールもきたし大丈夫だよ!」

 

真美の見せる携帯の画面を皆が一様に覗き込む。

 

そして、きっと大丈夫だろう、そう自分たちに言い聞かせるように彼女らはそれぞれの準備を再開する。

 

 

不安が渦巻き宙を舞う。

 

部屋の空気は重く、これから始まるライブを待つアイドルの楽屋の雰囲気とはとても言えない。

 

だが、そんな状況に構うことなく時間は刻一刻と過ぎていく。

 

ここで気の利いた言葉を言えるのがデキるプロデューサーなのだろうが、生憎俺はそんなスキルは持っていない。

 

下手なことを言って彼女らを余計心配させるのはよくないだろう。いや、別に言いたくないわけじゃないよ、けど四条も口は災いの元っていってたし。なんて一人問答をしていると、社長がひっそりとこちらにやってくる。

 

「うぉほん、比企谷君、少しいいかね」

 

 

× × ×

 

 

もしかしたら…、そんな嫌な予感が的中してしまった。リハーサルが始まる10分ほど前に秋月さんからその知らせは届いた。頼りにしていた電車も運転の見合わせにより再稼働の目途が立たず、リハーサルどころかライブの開始にも間に合いそうにない、と。

 

最悪の状況になってしまったな。真っ暗な画面のスマホを握りしめながら、エントランスへと走った。

 

開場時間が過ぎ、多くのファンが会場内へ流れ込んでくる。きっとこの行列のどこかに小町たちも混じっているのだろう、そんなことを思いながら会場の外に目をやる。

 

予想より台風の進行が速いのか先ほどまでは青空が垣間見えていた空は、今ではすっかりと鈍雲に覆われていた。

 

現在、竜宮メンバーは秋月さんがレンタカーを借り、こちらに向かう予定らしいが到着予定時刻は交通渋滞によって開演時間を大幅に過ぎていた。

 

 

物販に並ぶ人たちは、竜宮小町のグッズを皆当然のように買っていく。つまりそれだけの人数が竜宮小町を見に来ているというわけである。これで、竜宮小町が出られません、では大きな問題となり、今後の765プロに大きな影響を与えかねない。

 

しかし、現実的に考えて開演時間に間に合うことはない。仮に、遅れてきたとして竜宮以外のメンバーでそれまで持たせるにはセットリストを大幅に変更しなければならない。セトリ変更による会場のセットの変更も加味すれば、開演時間を遅らせるほか手はないだろう。急な変更を行うにはぎりぎりの人員しかいない今、絶望的な状況としか言えなかった。

 

手に持ったスマホが振動した。画面を見るや否や通話状態にし、耳に近づける。

 

「比企谷くん、会場に入ったのだけれども、私たちはどこへ向かえばいいのかしら」

 




お久しぶりです。
毎度お待たせしてすみません。
こんどこそは時間をあけずに!投稿したいと思っております。
また、評価の際、どこが良かったか、もしくはどこが悪いのかを書いてくださると助かります。
意見、感想よろしくお願いします。


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ARE YOU READY?-2

 

控室のキャパぎりぎりの人数が中央の長机を囲むように立っていた。

雪ノ下からの電話を受けた後、すぐに合流してアイドル達とは別の控室に社長らとともに集まってもらった。

あらかじめ社長に、秋月さんからの最初の連絡が来た時に雪ノ下達に協力を頼むかもしれない、と伝えておいてよかったな。

彼女らを関係者以外立ち入り禁止域に連れてくるときに材木座が不審者に間違えられて危うく余計な時間を食うところだった。

 

 

「なるほどね、状況は分かったわ。そうなると、うかうかしている時間はないわね」

 

現状を簡潔にまとめて、雪ノ下達に告げた。

 

「すまないねぇ、いざとなれば私の手品で場をつなごう」

 

と社長もおどけてみせるが、実際の顔色はよくない。

 

「音無さん。開演時間は最大でどのくらいまで遅らせられますか」

 

予定されていた進行表を片手にボールペンを走らせながら雪ノ下が問う。

 

「会場の借りている時間も考慮して、最大で30分ですね。これ以上になると会場的にも、また見に来てくださっているファンの方々的にも厳しいでしょうね」

 

30分の開演時間の先延ばし。だが、それでも竜宮小町は開始時間には間に合わないだろう。

 

「では、30分の延期を私は伝えてきますね」

 

「私も手伝おう」

 

「よろしくお願いします」

 

音無さんと社長が行っている間にも、出来る限りのことを進めなくてはならない。

 

そのために、何をしないといけないのか。常に重要なのは情報整理。

これも、プロデューサー業をやってきて学んだことの一つ。

 

「セトリの変更、か」

 

ただ単に竜宮小町が歌う曲を後ろに回せばいいわけではない。

竜宮が抜けることによってメンバーが足りなくなる曲や、連続で歌わなければならないメンバーが出てくると体力的に厳しいところもあるだろう。

 

「そうね、比企谷君、あなたは誰が何を歌えるのかわかるの?」

 

少ない情報だけで俺と同じ考えにまで頭が回るとは、流石雪ノ下といっていいだろう。

 

「ちゃんと覚えている。じゃあ、俺と雪ノ下でセトリの再編成を。由比ヶ浜は…」

 

「あたし、そういう難しそうなのは厳しいから、楽屋でアイドルのみんなのお手伝いに行くよ」

 

あたし、そういうのは割と得意だから。そう言って由比ヶ浜は楽屋のほうに向かった。

 

「頼んだ。…あー、あと、材木座は」

 

静かに端で縮こまっていた材木座が話を振られて、途端に大きくなる。

 

「なんでも頼んでくれていいのだぞ、ハチマン!」

 

「パソコン持ってきてるか?」

 

「うむ、もちのろんであろう」

 

けぷこむ、けぷこむ、とわざとらしい咳ばらいを二拍入れての返事。

どうせライトノベル(笑)のプロットだか草案だかを作るために常日頃から持ち歩いているのだろうが今はそんな中二病に感謝しよう。

 

「お兄ちゃん」

 

材木座をこき使おうとしたところで、小町に呼ばれ振り返る。

小町は少し申し訳なさそうな顔をしながら、

 

「小町は、ここにいても邪魔になるだろうから、客席からみんなのことを応援してるね。それが小町に出来る最大限の助けだと思うし。あ、今の小町的にポイント高い?」

 

「すまん。多分もうそろそろ平塚先生も来るだろうから、一緒に頼む」

 

「うん、小町頼まれました」

 

ビシッと敬礼を決めると、足早に控室から出ていった。

 

「ふむ、彼女にも思うものがあるのだろう」

 

「うるせーよ、お前に言われなくてもそれくらいわかってる」

 

隣の材木座を軽くどつきながら、今の言葉を思い返す。

 

小町の気持ちに気づけないほどお兄ちゃんレベルは低くない。むしろ、何を考えているかなんて5回に1回はあたるレベルで気づける。

 

まぁ、それは気づいているといっていいかどうかのレベルなのだが、それでもこれだけは確信できるのだ。

 

「ライブ成功させてね」

 

妹に応援されて、それに応えない兄などいない。

それに、もともと全力を尽くしてこのライブを成功させるつもりだったのだから、予定に変更はない。

使えるものはすべて使って、格好悪くとももがきあがいて、成功させる。

 

これが今の俺のモットー。

 

 

「そういうことだから、材木座。死ぬほど働いてくれな」

 

「…やっぱ我、帰っちゃダメ?」

 

 

× × ×

 

 

「この最初の4曲分の変更はしない方がよさそうね」

 

「今からやってごたつくよか、残りを変更した方が賢明だろうな」

 

ライブ開始まで20分を切り、これ以上のアクシデントがあれば途端に崩れおりそうなほどの状態を寸でのところで維持していた。

俺と雪ノ下を含むセトリ変更組、由比ヶ浜がフォローに回っている楽屋、開演準備に走り回る音無さん、高木社長。あと、ぶつぶつと部屋の隅のテーブルでパソコンと向き合う材木座。

 

各々が支え合う状況。

 

「前にもこんなことあったな」

 

「そうね、あの時はどこかの誰かさんがいろいろとやらかしていたと聞いたのだけれども」

 

口は開けど、お互いに手を止めない総計二十数曲の並べ替え。

 

「あの時の最善手があれだっただけで、いつもあんなことしているわけじゃないだろ」

 

「どうかしらね。このスタ→トスタ→は真美さんでいいのかしら」

 

「あぁ、大丈夫だ。あの双子は、互いの曲全部できるようにしているらしいし」

 

入れ替わって出てもみんな気づかないっしょ、とか恐ろしいことを言って秋月さんに怒られていたが。

 

「そう、わかったわ」

 

確認を終えた資料を雪ノ下のほうに置いた後、そっと腕時計で時間を確認し顔を上げると雪ノ下と目が合う。

 

「残りは私がやっておくから、あなたは彼女たちのもとへ行きなさい。一応プロデューサーなのでしょう」

 

「一応は余計だがな。…まぁ、サンキューな」

 

「良いから早くいってきなさい」

 

雪ノ下のその声を背に、アイドル達のいる舞台裏へと廊下を駆け抜けた。

 

たかだか400mほどの距離を走っただけで息が切れるとは情けない、が間に合った。

呼吸を整えながら彼女らのもとに近づく。

 

「プロデューサー!」

 

「悪い、待たせたな」

 

「あの、竜宮小町のみんなは」

 

と、天海が聞くが、皆の顔を見れば気になっているのは一人だけではないようだ。

 

「さすがに今ここに間に合うのは無理だが、時間内には間に合いそうだ。だから、それまで竜宮が抜けている分の休憩時間が短くなるが頑張ってくれ」

 

「やっぱり、竜宮小町の皆さんがいないとお客さんたちがっかりしちゃうかなぁ」

 

高槻の懸念をほかの何名かも考えたようで、それぞれの思いが小声ながらも漏れ、かすかなざわめきとなる。

 

ここはプロデューサーらしく励ましの言葉を、と思ったとき星井が手を挙げた。

 

「…っと、星井どうぞ」

 

「ミキね、竜宮小町じゃなきゃキラキラ輝けないと思ってたんだ」

止めに入ろうかと口を開くと、星井が大丈夫だから、と目で伝えてきたのでそれに従う。

 

「でもね、そうでもないかも、って思うことが最近何回かあったの。プロデューサーの学校の文化祭の時なんて特にそうなの。みんな覚えてる?あの時もこんな感じだったの」

 

あの時と似ているのは俺たち奉仕部側だけじゃなかった。そう、彼女たちも似たような状況を経験していたのだ。

 

「そうね、あの時も竜宮小町がいなかったのよね」

 

如月は目を閉じ、そこにあの時の情景を思い浮かべているようにつぶやいた。

 

「まぁ、今回みたいに慌ただしくはなかったけどね→」

 

「ミキはね、竜宮小町に負けないくらいキラキラしたいの。それでね、それはみんなも同じだといいなって思うの」

 

「そうだね、なんか弱気になってたけど、765プロには竜宮小町だけじゃないってところガツンと見せつけないとね」

 

俺がフォローするまでもなく、星井が皆の士気を高めた。プロデューサーとしての役割奪われちゃっているあたり、実は星井の方がプロデューサーの向いている可能性があるし、何なら俺がプロデューサー向いてない可能性まである。

少しでも励まそうと走ってきたにも関わらず、まだ二、三言しか話してないし。

だが、まぁこれはこれでいいのだ。彼女たちはきっとこれからもお互いに支え合って成長していくのだろう。

そこに俺がいなくとも、最終目標はトップアイドル。終着点が同じならば経緯は関係ない。

 

そのためにもまずは…。

 

「気合も入ったところでそろそろ開演だ。自分は信じろよ」

 

「ん?プロデューサー、そこは自分を信じろ、なんじゃないのか?」

 

甘いな、響。自分は、ということで限定の意味を持たせて、それ以外は信じられないという意味を待たせているんだ。

 

うわぁ、と力説をドン引きしているような顔を皆がしている気がするがきっと気のせい。

 

「私は765プロのみんなを信じてますよ」

 

背後から透き通った声が聞こえた。

 

「小鳥さん!」

 

「音無さん、大丈夫そうですか?」

 

「えぇ、とりあえずの準備は終わりました。あとは竜宮小町のみんながくるまで私たちで頑張るだけですよ」

 

そうか、間に合ったのか。

 

「いいか、客は竜宮小町を見に来ている、これは事実だろう。だが、そんなのはお前たちには関係ない。お前たちの魅力に気づいていない客をファンに変えるために全力でやる。765プロは竜宮だけじゃないことを示すんだ」

 

ちょっと熱が入って普段言わないようなことを言った気がしなくもないが、アイドル達の顔は先ほどまでと見違えるほどよくなったのだからいいだろう。夜に枕を抱えて叫べばいいだけだ。

 

 

大変お待たせしました、という音無さんのアナウンスが流れ始める。

 

「行ってこい」

 

全員の顔を一瞥し、送り出す。統一された返事には、かつてないほどの気持ちがこもっているように感じる。

 

光り輝くステージへと駆け抜けていくアイドル。

 

何度見ても慣れることはないであろうこの光景に謎の高揚感と既視感を覚える。

だが、そのデジャビュに対して記憶を呼び起こすことなく終わった。

その原因である雪ノ下雪乃は肩で息をしながら、先ほどまで俺と作業をしていた紙を片手にこちらに近づいてくる。

 

 

 

「どうした、雪ノ下」

 

「比企谷君、…このままだとセットリストが崩れかねないわ」

 




こんばんは。雪歩の誕生日になんとか間に合いました。
次回の更新は年明けになります。皆様、良いお年を!

意見、感想よろしくお願いします。


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そして、彼女たちはきらめくステージへ

「まずは場所を変えましょう。ここだと彼女らに余計な心配をかけるかもしれないから。彼女たちは…、今はステージに集中するべきでしょう」

 

袖脇から見える天海たちの方に目線を向け、うなずく。

 

雪ノ下の様子を見るに簡単に済むような話でもなさそうだ。ならば、ここは雪ノ下の言う通り移動した方がよいだろう。

 

「音無さん、そういうわけなのですみませんが少し外します。状況が分かり次第連絡するので」

 

そばで聞いていた音無さんは、こっちの方は任せてくださいとサムズアップとともに頼もしい返事を返してくれる。

 

「音無さん。問題のある部分はセットリストの後半なので、今のところは予定通りの進行でお願いします」

 

雪ノ下はそう言って頭を下げると、先ほど入ってきた方へと小走りで向かう。

 

少し前に駆け抜けた廊下を逆戻りしながら、雪ノ下に現状を問う。

 

「Day of the futureとマリオネットの心が連続していたことを見落としていたの」

 

Day of the futureとマリオネットの心か…。

 

どちらも星井がメインボーカルを務める曲に加え、ダンスも激しく連続で続けるのは確かに厳しい曲だ。

 

「そこの間に別の誰かの曲を挟むことはできないのか?」

 

「いろいろと考えてみたのだけれど移動やスタミナを考えると、変えても今度は変えた方が同じような状況になることになるわ」

 

楽屋に着き、机の上に散乱した紙を手に取りそれをこちらに渡す。

 

試行錯誤した痕跡が見える紙を見ながら、変更の余地がないか探すが雪ノ下と同じ結論に至る。

 

「そうなるとどちらかの曲を外すしかないんじゃないか?」

 

「…そうね。けれどそれで竜宮小町の到着時間まで持つかどうかが」

 

たかが一曲、されど一曲。一曲やるとやらないの違いが今この場面で、その後にどう響くことになるか予測ができない。

 

「材木座、どうなりそうだ?」

 

「ふむ、さきの到着予想時刻と良くも悪くもあまり変化はない。少しでも早くつけるよう我も全力で取り組むが、どうなることやら」

 

部屋の隅にいた材木座が、こちらに目もくれずにパソコンと向かい合いながら返事をする。

 

材木座に頼んでいる作業は、普通なら緊張しまくるレベルの責任重大なものなのだがそれを感じさせないのは、材木座本来の図太さなのか、はたまた忙しすぎてその事実すら気づいていないのか。

 

何にせよ、今後が材木座にかかっていることは間違いない。

 

今度なりたけでもおごってやろう。

 

 

控室のモニターで、全体曲の後のMCが終わった様子を確認し、

 

「ともかく、まずはあいつらに確認しないとな。どちらを抜くにしても、俺らだけで決めるのもあれだろう」

 

「そうね。ちょうど星井さんたちは一度こちらに戻ってくるようね」

 

とりあえずのこちらの意見をまとめ、あとは星井らに決めてもらおう。どちらを選ぶかはわからないが、これが最善手だ、とこの時は思っていた。

 

隣の楽屋に入ろうとドアノブに手をかけたところで中の喧騒に気づく。

 

「おい、どうかし…」

 

中に入ると、戻ってきたアイドル達が慌ただしく各場所で行き来しており、フォローに回っている由比ヶ浜の手が間にあっていない状況だった。

 

「比企谷君、今はこの状況を何とかしましょうか」

 

 

× × ×

 

 

「ふーん、わかったの」

 

何とか各トラブルを治め、当初の目的である曲について一通り説明した。

 

しかし、話を聞いた周りの焦りに対し、当の本人にはその様子が見られない。

 

「星井、本当に分かっているのか?あれならもう一度説明するが」

 

「プロデューサー、ミキなの」

 

「すまん、…美希。それで」

 

鋭利な視線と冷気を隣から感じ、わずかにたじろぐ。

 

「やっとここまで来たんだもん。どこまでいけるのか、試してみたいの」

 

今までにない真剣な目に、美希の感情が垣間見える。

 

「ミキやってみてもいいかな」

 

「ッ無理だよ!」「そうだよ、ただでさえ後半ミキの出番多いのに」

 

両曲のダンスの激しさを知る響と菊地、だからこそ、これがいかに無謀なことなのかわかってしまう。

 

だが、それでも、簡単な気持ちで美希がこの言葉を言ったわけではないのが俺には、美希の思いを聞いた俺にはなんとなくわかってしまう。

 

「やれるのか」

 

「わかんない、でもミキやってみたい、試してみたいの」

 

なら、俺が兎や角いう権利はない。

 

「響、菊地、美希のフォローバックダンサーで頼めるか」

 

「比企谷君ッ」

 

そうだよな、雪ノ下。普通なら、何も知らなければそう思うよな。

 

「良いの?ミキ失敗しちゃうかもしれないよ」

 

だけど、

 

「そんときゃ、みんながフォローするさ。それに、美希。ステージできらきらしたいんだろ。ならお前の全力、観客にぶつけてくるといい」

 

美希の願いをかなえるのがプロデューサーの仕事だと、俺は思う。

 

ガチャリという音に皆が一斉に扉に注目した。

 

「お疲れー…って、みんなどうしたの」

 

「春香、お疲れ様。そうね、美希が今日頑張るっていう話よ」

 

そういいながら如月が美希の方を向き微笑む。

 

「千早さん!」

 

「春香、そっちはどうだった?」

 

うーん、とタオルで顔の汗をぬぐいながら、

 

「あんまり盛り上げられなかったかなぁ。やっぱりお客さん、竜宮小町待ってるから…」

 

「そう…」

 

頭でわかっていたことを改めて言葉にされると少しくるものがあるな。

 

「私達だけじゃ、やっぱり厳しいのかなぁ」

 

「雪歩ちゃん!大丈夫だよ」

 

「由比ヶ浜さん」

 

四条のメイクとヘアスタイルの手伝いをしていた由比ヶ浜が、作業は止めずに言葉を続ける。

 

「あのね、あたし文化祭でみんなを見たときすごく感動したんだ。周りのみんなもそうだったと思う。言っちゃえばさ…ごめんね、みんなのこと知らなかった人が多かったと思う。けれどもあたしたちの心にみんなの思いは届いていたんだ。それは、まぎれもなくみんなの実力だと思う。えっと、なんて言えばいいのかな、他の人を感動させることは誰にでもできることじゃないよ。自分を表現して、それで他人に認めてもらうのはすごく難しいと思う。そして、みんなはあの時、それができてたよ。それは紛れもなく、みんながアイドルだってことで…えっと、その」

 

溢れる思いを言葉に出来ずにうーん、とこめかみを指で押さえる。

 

「アイドルである自信をもって欲しい、か」

 

「うん!そう、そういうことだよ、ヒッキー!…やっぱ言葉にするとうまく伝わらないなぁ」

 

「そんなことはないと思うぞ」

 

そういって後ろを顎で指す。

 

アイドル達の顔には活気が戻り、先ほどの不安気な様子は微塵も見えない。

 

「結衣さん、ありがとうございます。大丈夫です、ちゃんと伝わりました」

 

ねぇみんな、と天海。

 

「私たちは今何ができるかじゃなくて、私たちが何を届けたいのか。それを考えるべきだと思うの。私たちはずっと大勢の前でこうして歌うために頑張ってきたんだよ。ちょっとくらい不格好だっていいじゃない。会場の隅から隅まで私たちの思い伝えられるように頑張ろうよ。思いをステージで伝える、それが私たちアイドルだもん」

 

「そうだな、今は自分たちが焦ったってしょうがないよね」

 

「うん。それにきっと僕たちより伊織達のほうがもっと焦ってるよね」

 

「だから、全力で私たちの歌を届けよう」

 

「「「うん」」」

 

 

由比ヶ浜と天海の言葉により全員の決意が固まったようで、その後のスタ→トスタ→、思い出をありがとう、NextLife、フラワーガールと続く各々のステージで最高の形を出せていた。

 

 

しかしながら、会場の盛り上がりはいまいち上がらない状況に対し、俺は拳を握りしめることしかできなかった。

 

 

× × ×

 

 

「会場の雰囲気はどうかしら」

 

「…雪ノ下か」

 

振り返ると袖着けた関係者腕章をつけた雪ノ下が足音を立てずにこちらに近づいてくる。

 

文字に起こせば、スニークスキルマックスなのかと勘違いしそうな状況だな。

 

なんて思いながら腕章を注視していると、そのことに気づいたのか、紛らわしくないように音無さんにもらったのよ、と答えた。

 

「それから、あなたがそんな顔をしていたらプロデューサー失格よ」

 

「この顔はデフォだから、諦めてくれ」

 

「そういう意味で言っているのではないわ。いえ、その意味も含むのだけれども」

 

おい。

 

「そうではなく、悔しそうな顔はしない方がいいといっているのよ」

 

その言葉に何も返せないでいると雪ノ下は続けた。

 

「悔しい思いをしているのはあなただけではなく、彼女たちもよ。なら、あなたも腐ってもプロデューサーならば、すべきことくらいすぐにわかるでしょう」

 

腐っているのは目だけで十分でしょう、と追い打ちも忘れない。

 

「堂々としなさい。何も間違ってはいないのだから」

 

間違っていない、か。

 

それが何を指したものなのかは俺の予想と一致しているのだろう。

 

だからこそ俺はあえてそれを聞くようなことはしないし、雪ノ下もしない。

 

 

ステージには普段とは見違えるほどの雰囲気を纏った萩原が歌っている。

 

力強く、しかしながら繊細でしなやかなダンスを菊地が魅せている。

 

その光景を目に焼き付けるようにじっと見つめる。

 

「まだまだ、ミキたちじゃ竜宮小町には勝てないってことだよね」

 

再び後ろを取られ、声を掛けられるまで気づかなかった。

 

これは俺の察知能力が笊なのか、彼女らのスニークがやたらすごいのか。

 

「星井さん…」

 

「ううん、雪乃さん。ミキたちもちゃんとわかってるよ。でも大丈夫なの」

 

それは、と訝しげに理由を聞く雪ノ下。推測がつかなかったのか、小首を傾げる仕草もあいまり、思わず俺の方がドキッとする。

 

「だって、プロデューサーがミキを、ミキたちを竜宮小町みたいにキラキラさせてくれるって約束してくれたからね」

 

こちらに振り向きパチッとウインクを決める美希の仕草に再び心拍数が上昇する。

 

なんだか今日は様々なことに振り回されているな。

 

「そう、なら大丈夫ね。そこの男は嘘も虚言も妄想も吐くけれど、やるといったことはきちんと守るから。まぁ、そのやり方が褒められたものではないのだけれども」

 

「フフッ、それ結衣さんも同じこと言ってたの」

 

雪ノ下はそう、と顔を美希からそらしながら返事を返す。

 

そんなやり取りを見ていると拍手の音が聞こえ、萩原と菊地が手を振りながらこちらとは反対側へと掃けていくのを確認する。

 

 

「それじゃあ、プロデューサー。行ってくるね」

 

自信に満ちた星井の顔。まるでサンタに貰ったプレゼントをワクワクしながら、期待に胸を膨らませて今に開けようとしているかのような雰囲気。

 

そんな美希にかける言葉は一つだけ。

 

「おう、行ってこい」

 

 

 

「みんな―、盛り上がってるー?」

 

会場中に響き渡る美希の元気な声とは対照的に、会場の観客の反応はまばらなものであった。

 

「みんな、竜宮小町が出てこないからって退屈になってるって感じだねぇ。あのね、台風で竜宮小町の三人はここに来るのが遅れちゃってるんだ」

 

美希の包み隠さない正直な告白に、会場内にどよめきが連鎖する。竜宮は来ないのか?そんな声もちらほらと聞こえてくる。

 

「ぶっぶー。でもちゃーんと来るから心配ないの。でね、ミキたちも竜宮小町がくるまで、同じくらい、ううん負けないくらい頑張っちゃうから、ちゃんと見ていてよね」

 

 

同時になりだすイントロに、先ほどまでの会場の雰囲気が一転する。

 

先ほどまでの騒めきは一瞬にして飲み込まれ、息をするのすら忘れるほどの煌き。

 

あっけに取られた会場の、まるで止まっていた時が動き出したかのように、一斉に歓声が沸き今度は静寂を飲み込む。

 

これが星井美希の全力か。

 

才能がある奴だとは思っていたが、能力と意識が合致するとここまでになるとは。

 

「凄いわね、彼女」

 

「ああいうのが才能の塊ってやつなんだろうな」

 

俺の知るもう一人の才能の塊に向けてそう言う。

 

「正直羨ましいわね」

 

一瞬目の端に映った表情に思わず雪ノ下の顔を覗きこんだときには、既にいつもの表情に戻っていた。

 

今の表情は、単なる羨望かそれとも別の意味を含むのか。それを俺が知る由もなく、またその考えの続きをすることもなく、思考は美希への歓声に移り変わった。

 

「美希、苦しそうね」

 

「如月か。ここが踏ん張りどころだな」

 

またまた音もなく現れたアイドルには既に慣れ、難なく返事をする。

 

如月の見つめる先では、肩で息をする美希の後ろに響と菊地がスタンバイをしている。

 

そして、ステージ裏の合図とともに二曲目が流れだす。

 

「私、美希が急に来なくなったとき少し怒っていたんです」

 

突然の告白に面を食らう。

 

「なんて自分勝手なんだろうって。でも、それは少し違ったのかもしれません。私にはアイドルは歌を歌うための手段でしかないけれど、美希にはちゃんと理想のアイドル像があって、美希なりにちゃんと悩んでいたのかなって、今日の美希を見ていて思ったんです」

 

「あいつに理想のアイドル像があるのはその通りだと思う。だが一つ間違っているところがあるな」

 

それは、如月の言葉を遮るように続ける。

 

「如月にとってアイドルは歌う手段でしかない、というのは違うと思うぞ。別にアイドルみんながみんな歌って踊ってきゃぴきゃぴしている必要はないんだよ。誰もアイドルが何なのかなんて決められない。だから、如月が思うアイドルになればいい」

 

「でも私には歌しかありません」

 

「会場に感動を届ける歌だろ、そいつもアイドルの立派な武器だ。俺なんか、腐った目と屁理屈ばかりの口しかないぞ」

 

「…一応参考にさせていただきます」

 

如月はこう言っているが、如月にだってアイドルである理由があるのだろう。その理由をいつ本人から聞くことができるかはわからないが、もし知ることができたのならば…。

 

「美希、あと少しよ…」

 

最後のワンフレーズを全身で歌い切り、会場の声援が沸き上がる。

 

そして響と真、美希がそれぞれ反対側のステージ脇へと手を振りながらはけていく。

 

観客席からの死角となる場所に入った時には美希の体は左右にふらつき今にも倒れそうだった。

 

次の曲の如月がステージの方へと向かい、そして美希の前で一度歩みを止める。

 

「凄かったわ、美希。今度は私の番ね」

 

そう言い残し、光り輝く世界へと向かう如月を見送った美希はふと笑みを浮かべ、そして膝から崩れおちる。

 

慌てて支えに入ると美希の火照った柔らかいからだと女の子特有の甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 

いかん、思考をしっかりと保て比企谷八幡。

 

「おい、美希大丈夫か」

 

「ミキちゃんとやれたの、ステージすっごくきらきらで。ねぇ、ミキもキラキラしてた?」

 

肩で息をしながら、立っているのも支えられてやっとの状態。

 

「あぁ、キラキラしてたぞ」

 

そんな美希が何よりも輝いて見えた。

 

「えへへ」

 

ステージで歌う如月の声がやけに透き通って聞こえた。

 

 

× × ×

 

 

美希によってボルテージの上がった会場の熱気は落ちることなく、そして

 

「はちまぁん!!あと十分もすれば到着するぞ!!」

 

普段ならむさ苦しいセリフが今この状況でどんなに嬉しいか。

 

「らしいぞ」

 

気合を入れるために円陣を組んでいたアイドルらは各々喜びを表し、感情を共有する。

 

「よーし、それじゃあ皆いい?」

 

「竜宮小町が」

 

「来るまで」

 

「私たち」

 

「歌って」

 

「踊って」

 

「最後まで」

 

「力いっぱい」

 

「がんばるの~」

 

「行くよ、765プロ~」

 

「「「「ファイト―!」」」」

 

 

歓声にあふれる会場の、光り輝くステージに立つ9人のアイドル。

 

 

この努力の結果が報われる瞬間から俺は目を一時も離さない。

 

 

限りなく広いアリーナに彼女たちの歌声が高く、遠く響いた。




お久し振りです。
普段なら2回に分けるくらいの文量なのですが、中途半端なところでひくのも良くないかと思い最後までと。
それにしても今回は大分ミキ回ですね。最早主人公なまであります。(笑)

次回は、今回視点の当てられていなかった竜宮古町、由比ヶ浜、そして材木座は何をしていたかに焦点を当て普段と違った感じになる予定です。

感想、意見よろしくお願いします。


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材木座義輝は悩み、そして決意する。/不安はやがて信頼へと変わる。

材木座義輝は悩んでいた。

 

今日、ライブに行くことになっていた。そこまではよかった。問題は同伴者たちである。

 

比企谷八幡という友人から、受け取った関係者チケットは、彼のほかに三人いる。

 

そして、その座席は連番。コミュニケーション能力皆無ともいえる彼が、顔は知っているとはいえまともに話したことのない女子三人とともにライブを見るハードルの高さを比企谷八幡ならばわかってくれるだろうが、残念なことに八幡はこのような状況になることを失念していた。

 

「…腹くくるしかないのか」

 

これも星井美希ちゃんを、また生で見るため。そう自分に言い聞かせ、サイリウムの入ったポーチを背負った。

 

× × ×

 

集合場所はライブ会場の最寄り駅。材木座には知らされていないが、雪ノ下一同は千葉駅で集合してからここに来ることになっていた。もちろん、彼が千葉駅に集合してここまで一緒にくるほうがつらいのでこれに関して何ら問題はなかった。あるとするならば、彼女らとの連絡手段が八幡を介してでしかないことであり、当日の八幡の忙しさを考えれば連絡手段がないといっても過言ではなかった。

 

まぁ、合流できなければ一人で入ればいいからな。

 

幸いチケットは各自持っているため万一合流できなかったり、はぐれたりしたとしても中に入ることができる。

 

なので、別にここで彼女らと待ち合わせする必要はないのだが、それに彼が気づいたのはライブが終わった後だった。

 

「材木座…君だったかしら、ごめんなさい。待たせてしまったようね」

 

ふいに声を掛けられ、一瞬身構えた後、声の主が雪ノ下であることに気が付き心を落ち着かせて返答した。

 

「い、い、いま来た、我もさっき着いたところなので…大丈ぶで…す」

 

八幡がいないと、どうにも会話がしづらいな。

 

心の中で八幡を恨みながら、先行く三人組の斜め後ろについていく形をとる。

 

あえて真後ろに位置取らないことで、ストーキングをしていると勘違いされないための自衛法。

 

八幡が習得している体育の時の二人組を作る際の対処法同様の、ボッチの彼らが生活していくうえで身に着けた悲しいスキルである。

 

「あたし実はこういうライブっていうの初めてなんだ」

 

「小町はお父さんに連れられて一度だけ行ったことがあるらしいんですけど、小さかったからその記憶ないんですよね。雪乃さんはどうです?」

 

そう二人に振られると、前を歩く黒髪の少女は少し考える仕草をし、

 

「そうね、アイドル…というジャンルではないけれども、ライブならばミュージカルや歌舞伎などは見たことがあるわね」

 

歌舞伎とアイドルのライブを同列に語っていいものなのか、と一人心で突っ込みを入れていると、ピンク髪の少女が急に振り向いた。

 

「材木座、材木…座君はどう?」

 

まさか自分に会話を振られるとは思っていなかったため一瞬思考が停止するが、何とか返事をすることに成功する。

 

「自分…我は何度か行ったことがあるが、こんなに大きい規模のものではなく」

 

地下アイドルライブだ、なんて続けて果たして伝わるだろうか。

 

「そっかー。じゃあ、初めてはあたしだけかー」

 

言葉を止めてしまったが、行間を読んだのか、ピンク髪の少女は何事もなく話をつづけた。

 

「楽しみだなー」

 

「そうね」

 

「はい!」

 

不特定の人へ当てた言葉には反応しない。期待するだけ、無駄なのだから。

 

だけど、その言葉には、一人心の中で同意した。

 

× × ×

 

「比企谷くん、会場に入ったのだけれども、私たちはどこへ向かえばいいのかしら」

 

会場の入り口付近にて、検査を終えた後チケットを片手に黒髪の少女が八幡へと連絡を取っていた。関係者席のチケットはすでに持っているので、このまま八幡と合流しなくても何ら問題はないのだが、一応の連絡はしておこうとのこと。

 

「…それは、大丈夫…ではなさそうね。何か手伝えることがあるかしら」

 

深刻そうな声に思わず、スマホから顔を上げてしまう。

 

「ええ、わかったわ。すぐそばの自販機の、ええ。そこで待ってるわ」

 

「どしたの、ゆきのん」

 

「それは、あとで話すわ。ここだと人が多すぎるわ。ついてきてちょうだい」

 

そういいながら4番ゲートはこちら、と書かれた看板の指示に従って黒髪の少女は歩いていく。

 

我は、行かなくてもいいのかな。行っても邪魔になるだろうしな。ふと、中学の頃の苦い記憶の蓋を開けかけたが、弾んだ声にそれは遮られた。

 

「材木座さんも行きますよ。お兄ちゃんを手伝いに」

 

そう呼び掛けてくれたのは、八幡の妹君。さすがは、八幡の妹といったところか?

 

「うむ、すぐに行こう」

 

スマホをポケットに放り込み、彼女らを追いかけた。

 

 

「おう、こっちだ」

 

そういいながら手を振る八幡は、見慣れないスーツに包まれていた。

 

「状況はまだみんなに伝えてないのだけれど」

 

「そうか。まぁ、あそこじゃ人が多すぎるからな、配慮助かる」

 

こっちだ、ついてきてくれ。と八幡が先導し、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開く。

 

我も皆に続いて、扉をくぐろうとしたところで警備員の人に呼び止められてしまったのは、結構ショックだった。

 

× × ×

 

「そういうことだから、材木座。死ぬほど働いてくれな」

 

「…やっぱ我、帰っちゃダメ?」

 

八幡から、大体の事情を聴き、そして役割を確認する。

 

「つまり、我が、竜宮小町の全員を無事に間に合わせるようここからナビゲーションをする、ということでいいのか、八幡よ」

 

「大体そんなところだ、準備ができたらお前のスマホであいつらに電話を掛けるから、急いでくれ」

 

「う、うむ。だが、そんなこと我のスマホでしていいのか?」

 

パソコンを開きながら、思わず尋ねてしまう。

 

「悪用すんなよ、これでもある程度の信頼はしているから頼んでいるんだ」

 

おもわぬ言葉に作業する手が止まる。そうか、信頼か。

 

その言葉は中学の時にかけられた言葉とは、重みが違った。

 

なら、その期待に答えなくては。共に戦場を生き抜く戦友として。

 

「我に任せろ」

 

道路交通情報と気象情報、それからSNSを八幡の持ってきたPCにそれぞれ表示し、同時に確認できるように設定をする。

 

「よし、できたぞ、八幡」

 

かつてないほどの集中力は、材木座義輝のコミュ力を上昇させた。

 

その後、家についてから自分の担っていた役割のことの重大さに気づき枕に向かって叫ぶことになることを彼はまだ知らない。

 

 

~材木座義輝は悩み、そして決意する。 fin ~

 

 

「ちょっと、律子。どうにかならないの?」

 

おでこがチャームポイントの少女がそう叫びました。

 

それもそのはずです。

 

あと2時間もすれば、自分たちが出なくてはならないライブが始まってしまいます。

 

それなのに、先ほどから不運という不運に見舞われ、今レンタカー屋さんにいるのですから。

 

「伊織ちゃん、律子さんも最善を尽くしているわ。私たちが焦ってもかえって問題になるわ」

 

そう冷静な判断をするショートカットのお姉さんの顔も、言葉とは裏腹に顔色は優れません。

 

「りっちゃーん。亜美たち、間に合わないのかなぁ」

 

右側にちょこんとサイドテールのある少女は、今にも泣きだしそうです。

 

スマホを握りしめ、先ほどから何度も時間を確認していますが、無情にも時は進むばかりでした。

 

「大丈夫よ、これで車が借りられるから、高速を使えばぎりぎりになるけれど間に合うわ」

 

先ほどから呼ばれていた律子という少女も焦りの表情です。

 

確かに、このまま何事もなく行けば間に合う距離なのですが、不運なことに台風によって高速道路は普段より混雑していました。

 

ですから、最悪間に合わない可能性もあるのですがそんなことは口が裂けても言えません。

 

というよりも何としてでも彼女らを会場まで送り届けなくては、プロデューサーとして彼女たちに面目が立ちません。

 

本当はもっと混雑状況を知りたいのだけれども…。

 

律子は悩みます。

 

それこそ一分一秒が惜しい状況なのですから、悩む時間ですらもったいないでしょう。

 

そんなときです。おでこがチャームポイントな少女、伊織のスマホが鳴りました。

 

「こんな時に誰よ。それに、知らない番号だし…」

 

このまま切ってしまっていたら物語は変わってしまっていたことでしょう。しかし、そんなことは許しません。

 

「…もしもし」

 

伊織は、恐る恐るスマホを耳元に近づけました。

 

「よかった。俺だ、比企谷だ」

 

そうです。もう一人の765プロのプロデューサーの比企谷八幡です。

 

思わぬ連絡に一瞬心が躍りますがさすが人気アイドル、心をおちつかせ、話を聞きます。

 

要約すると話の内容はこうでした。

 

今から伊織の携帯のGPSによる位置情報をもとに材木座という少年が、所謂道案内をしてくれる。焦らず、事故なく向かってほしい、と。

 

律子からすれば願ってもない朗報でした。

 

「ありがとうございます、プロデューサー殿」

 

これは、材木座に合わせたわけではなく、元々の呼び方です。

 

配車されたファミリーカーに急いで乗り込み、律子がハンドルを握ります。

 

スピーカーモードに変更されたスマホに向けて、

 

「それじゃあ、材木座君、よろしくお願いしますね」

 

と律子。

 

『うむ!我に任せろ』

 

思わぬ声に、後ろに座る三人は顔を見合わせてしまいました。

 

× × ×

 

『次のインターで降りて、そこからは下道で行こう』

 

「でも、」

 

律子の戸惑いは当然でした。何故なら、すいているとは行かないまでも、まだ十分な速度で走るくらいの車間です。

 

更にその次のインターで降りたほうが早く着くように思えます。

 

ですが、材木座は次で降りるという指示をしてきました。

 

『このまま更に次のインターに行くと、降りるギリギリのところで渋滞に巻き込まれる。それよりも、そのひとつ前で降りて下道のルートで行ったほうが早く着くだろう』

 

「なるほど。了解です、材木座君」

 

「おぉー、ショーグンやるぅ」

 

『ふっ、かの大戦の指揮に比べたらこれくらいできて当然よぉ』

 

普通の人ならば引いてしまうような、材木座の設定にも、きちんと乗ってあげていました。

 

そんな中一人浮かない顔をしている少女が一人。

 

「…もう、ライブ始まっちゃってるのよね」

 

その一言で車内が少しシンとなりました。ゴォーという高速道路特有の単調な音がやけに耳に残ります。

 

「大切な時に、その場にいられないだなんて…何がトップアイドルよ」

 

悲痛な心からの叫び。それは、少女の竜宮小町というユニットのリーダーであるという責任感。人気ユニットであるという重圧。様々な思いがこもっていました。

 

「そうね、伊織ちゃん。だけれど、今他のみんなが私たちのために、頑張ってくれているわ。それは不安かしら」

 

「あずさ…。そうよね。うん。これくらいで弱気になってちゃだめだわ」

 

「うん、うん。そうだよ、いおりん。それに見てこれ」

 

そう言って亜美が隣の二人に見えるようにスマホを向けます。

 

「真美からね!えっと…なんて書いてあるの?これ」

 

「ミキミキ達チョー頑張って会場を盛り上げようとしてるって」

 

「そう、あの美希が」

 

なにせ、長い付き合いなのです。いつも寝てばかりだった美希の成長に、こみ上げてくるものがありました。

 

「ショーグン。あとどれくらいでそっちに着くかな」

 

『そうだな、大体30分といったところか』

 

「あと30分で着くの?」

 

これはうれしい誤算でした。律子が当初予定していた時刻よりも30分ほど早い到着です。

 

思っているよりこの男、できるようです。

 

「さすがはプロデューサー殿の友達、といったところかしら」

 

ケプコムケプコムとわざとらしい咳払い。

 

『我とあいつはそのようなぬるい関係ではないが。うむ、あやつも今必死になって頑張っているからな。なら、我もそれに応えなくては剣豪将軍の名が聞いてあきれてしまうわ』

 

剣豪将軍が道案内となんの関係があるのかは、まったくわかりませんが、それでも、なんとなくいい話をしていることは伝わりました。

 

「プロデューサーさんの事信頼しているんですね」

 

『あいつは自己評価の低い男だからな、誰かが支えてやらんとどこまでも自己犠牲をつづけてしまう。それに、勿論そちらもあやつのことは信頼しておるのだろう』

 

あずさは周りを見渡します。三人はそれに答えるように微笑みかけます。

 

「えぇ、もちろん」

 

× × ×

 

「さぁ、あんた達行くわよ」

 

スタッフが指示する方向へ、四人は全力で会場に駆け込みます。

 

なんと、到着予定より更に10分も早い到着です。

 

だんだんと他のメンバーたちの歌声が大きくなってくることに、思わず頬が緩みます。

 

そして舞台袖へと続くドアを開いて、

 

「ねぇ、みんなは?今どうなっているの?」

 

息を整えながら顔を上げると、比企谷八幡が笑みを浮かべながら、サムズアップで答えます。

 

舞台袖から竜宮小町の三人がそおっと覗き込むと、オレンジの燃えるような光の海に囲まれる仲間の姿が目に映ります。

 

そして、曲を終えたメンバーがこちらに気づいたようです。

 

「あぁ、伊織達間に合ったぞ…」

 

「何泣いてんの!響」

 

「泣いちゃ、だめだよ」

 

そういう真と春香も涙声です。

 

ステージに立つみんなの張りつめた気持ちが一斉にあふれ出していました。

 

「あとは任せてくださいね。さぁ、準備するわよ!こっちも負けてられないんだから」

 

 

 

「みんなー!お待たせ―!」

 

「竜宮小町も負けずにやっちゃうよー!」

 

「それじゃあ一曲目…」

 

「「「SMOKY THRILL」」」

 

一斉に沸く会場。竜宮小町の三人のことを、こんなに遅れても待っていてくれたファンの声援。

 

それに応えるように、彼女たちも全力を尽くしました。

 

× × ×

 

無事にライブを終え、高揚感にあふれる三人は皆の待っている控室へと駆け込みます。

 

「みんな!」

 

大きくドアを開くとそこには全力を出し切り、疲れ果て熟睡する仲間たちの姿。

 

「しー」

 

小鳥が口元に人差し指を立てるジェスチャーをします。

 

「…まぁ」

 

「みんな…、お疲れ様!」

 

 

~不安はやがて信頼へと変わる。 fin ~

 




皆様、お久しぶりです。
今回は普段と違った書き方をしているので、読みづらかったり、なにかあったりしているかも知れませんが、あとがきを読んでいる時点できっと読みおわっていると思うので、なにも言いません。
もし何かあれば感想で、読みやすかった/読みにくかったを教えて頂けると幸いです。

今回は材木座と竜宮編でした。こんなに材木座にコミュ力があるのかは不明ですが、きっとあるのでしょう。

それでは長くなりましたが、また次話をお待ちいただければと思います。

感想、意見等よろしくお願いします!


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ついに、世界は変わり始める。

 

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。

 

故人曰く、月日や年は旅人のように永遠に続いていくものらしい。

一大イベント後だというのに世間の雰囲気は何も変わらない。少しの高揚感を胸に、少しの消失感を胸にしたところで、日常は何もなかったかのように、普段の顔を見せていた。

こうして何気なく日々が流れていくのだろう。

あの感動も、あの歓声も、こうやって人々の心の中に降り積もる記憶の中に埋もれていってしまうのだろうか。

柄にもなくセンチメンタルになった自分に思わず笑う。

 

「変わった、…んだろうな」

 

呟きは誰に聞かれるのでもなく消えていく。

勿論周りには誰もいなかった。アスファルトで舗装された道は一層寒さを引き立てる。

この前まで青々としていた街路樹は赤く景色を染め変えていた。 

 

× × ×

 

「あれ、ヒッキーだ。やっはろー」

 

冷えきった引き戸を閉めると廊下の冷気が消え、部室の暖かい空気に思わずほっとする。

 

「おー、お疲れさん」

 

なぜ人は挨拶でお疲れをいうのだろうか、などどうでもいいことが頭をよぎるがこれについて考察する暇は一言で遮られた。

 

「あなた、ここに来る暇なんてあるの?」

 

予想もしない言葉に雪ノ下の顔を見ると、罵倒として掛けた言葉ではなく純粋な疑問を持っている顔だった。

 

「どういうことだ?765プロのほうなら、今日はライブが終わって一日休みだが」

「そなの?でもさ、ほらこれ」

 

そういう由比ヶ浜が手にもつ携帯の画面をこちらに見せる。

 

「なんだよ……、これまじか」

「まじだし。あたしも朝見たときびっくりしたよ」

「こういった現象は現代ならではなのでしょうけれど、プロデューサーならばこういった面にも目を向けるべきね」

「バズるってやつだよね!これでみんな人気になるんじゃない?」

 

由比ヶ浜のもつ形態の液晶には765プロに関連したSNSの呟きや記事が羅列されている。

記事の多くは竜宮小町を挙げたものが多いが、それでもいくつかはほかのメンバーを取り上げているものもあった。

呟きに関しては各メンバーのファンが増えているようだ。

それはまさに

 

「なんだか、みんな昨日のライブの余韻にまだまだ浸っているって感じだよね」

「そうね。でも、どこかのお馬鹿さんも一緒になって浸っているようではだめね」

 

そういうと二人がこちらを一瞥する。

湧き上がるよくわからない感情を胸に押し込み、彼女たちの視線から逃れるように振り返る。

 

「悪い、用事を思い出した」

「それはたいへんだ!」

「そうね、用事はきちんと済ませてからくるべきね」

 

殆ど演技のような言葉を背に受け、扉に手をかけたところで動きを止めた。

何だか最近自分らしくない行動が増えてきた気がするな。

意を決して振り返り、二人を見る。

 

「昨日は、その、いろいろと助かった。…ありがとう」

 

雪ノ下と由比ヶ浜は少し驚いた表情をしてから、向かい合い、そして少しうれしそうに微笑みながら、

 

「「どういたしまして」」

 

綺麗なハモりを聞かせた声に背中を押されるように足を踏み出した。

 

× × ×

 

総武高からチャリを飛ばして、JR稲毛駅へ。

総武高からならば、稲毛海岸駅のほうが近いのだが、乗り換えや路線の都合から稲毛駅のほうが事務所に行きやすい。

 

自転車を駐輪場に止め、改札へと足早に向かうと、ちょうどあと3分で横須賀行の快速が到着するようだ。

人の流れに身を任せ、改札を抜け3番線から電車に乗り込む。

 

日に日に太陽が沈むのが早くなり、まだ16時回ったくらいなのだが千葉と東京を繋ぐ総武線線を揺れ進む快速電車の窓には西日が差しこんでいる。

 

車両のドアの手すりに体を預け、スマホを見るふりをしながら先日のライブを思い起こした。

 

アクシデントによって竜宮小町がライブに遅刻をするというイレギュラーに対して、最初は動揺し、苦しい状況に陥ったが見事に竜宮小町を抜きにしても会場のボルテージを上げ切ったアイドル達。

ターニングポイントは美希のマイクパフォーマンスと曲であったと記事や呟きで多く取り上げられていた。

 

しかし、実際あの状況にもっていくには決して美希一人でできたことではなく、765プロのアイドル達全員の団結と信頼によるものだとプロデューサーとしてはっきりと言える。俺が何を手助けせずとも彼女たちは互いに手を取り合って立ち上がった。

 

そんな彼女たちの姿が何よりも輝いて見えた。

 

それでは、俺はプロデューサーとして何ができたのだろうか。

 

正直プロデューサーとして彼女たちに何かをしてあげられたかと問われると、何もしていないというのが正しい気がしてくるのだ。

全員が不安になっているときに支えていたのは音無さんと由比ヶ浜だったし、プログラムを組みなおしてくれたのは大部分が雪ノ下や音響関連のスタッフさんたちだ。

一番の功労者といっても過言ではない材木座は、俺の想定以上の働きをしてくれていた。

 

そして何より、あのライブを盛り上げたのはアイドル達とそれを応援してくれたファンの人たちだ。

否、それでいいのだろう。結局、比企谷八幡という人間は矢面に立って何かをすることは向いていない。何のことでもない、他でもない俺が一番知っている。

胸の奥にこみ上げる違和感を押し出すように肺から空気を絞り出す。

 

ハッというため息のような音が電車の音にかき消されるとともに、今までなら抱くはずのなかった感情が薄れていった。

 

× × ×

 

事務所に着くと、休日となっていたはずだったが、既に4人のアイドルが来て談笑していた。

聞けば、あのライブを境に街中で声を掛けられるようになったらしい。

そのせいもあってか天海と菊地は手にキャップを持っていた。

 

「変装が必要になってくると、なんだか芸能人って感じがするね」

「いや、春香。僕たちはアイドルなんだし芸能人でしょ」

 

そういうと菊地はキャップをかぶり直して、マスクをつける。

 

「ほら、僕はこんな感じに帽子を深くかぶって、マスクをしてるよ。こうすれば気づかれないよ」

「それに最近は街中でもマスクをしている人が増えたから、マスクをしていてもあまり違和感がないもんね」

 

と萩原はお茶を入れながら同意する。どうやら、変装をして事務所に来たのは菊地だけではなかったらしい。

 

「まぁ、それだけ世間に認知してもらえたということだろ。大変かもしれんが、アイドルとしては誇ってもいいんじゃないか」

「そうですよね!あたしたちアイドルとして、また一歩進めた気がします」

「あ、プロデューサーさん、来てたんですね」

 

衝立の死角になって見えていなかった音無さんがホワイトボードのマーカーを片手に、衝立からひょっこりと現れる。

 

「小鳥さん、いくらプロデューサーがあれだからって、さすがに今日はいないはずみたいな反応するのは可哀そうですよ」

「おい、菊地。その反応のほうが俺を傷つけるのに気づけ」

 

音無さんは、あはは、と絶妙に受け流し

 

「そんなつもりじゃなかったのよ、真ちゃん。そうじゃなくて今日は皆もお休みだと思うけど、それはプロデューサーさんもそうだったの」

 

ん?

一斉に四人の目線が集中する。この仕事を始めて慣れてきたと思っていたが、アイドルをするくらい顔が整っている歳の近い女の子たちに見つめられるという状況にたじろいだ。

 

「な、なんだよ。しかも如月まで」

 

加えて、ソファで一人読書をして、話に入っていなかった如月までも驚いた顔をしてこちらを見つめているのだから余計に困惑する。

 

「ねぇ、みんな。私たち今日お休みだったけど、どうして事務所に来たの?」

 

そう言って含み笑みを浮かべる天海。

 

「それは、SNSとかで昨日のライブのことが取り上げられたり、街でも声を掛けられたりするようになって少しうれしくて…ここに来ればみんなと共感できる…から…あ!」

 

答えている途中で何かに気づいたのか萩原、如月と互いに顔を見合わせる。

 

「つまりどういうことだよ」

 

先ほど天海がしていた含み笑いが移った菊地と音無さんが小声で互いの想像の答え合わせをして、ひと呼吸。そして

 

「つまり、プロデューサーも僕たちが注目され始めて嬉しくなって事務所に来ちゃったってことですよね!」

「なっ。別にそういう…」

 

つもりではなかった。と言えば嘘になるだろう。

だが、何というか、俺の薄っぺらい自尊心が虚勢を催促する。

 

「たまたま近くを通りかかったから、顔を出しただけだ。それ以上もそれ以下でもない」

「そういうことにしておきますね」

 

あ、そうだ、と音無さん。

 

「見てください!これ全部今日決まったお仕事なんですよ」

 

そういって指さす先のホワイトボードには、ひと月の半分ほどが黒くなっており、この間までの文字通りのホワイトボードとは打って変わった表情だった。

仕事の予定では各スケジュール、そして下にアイドルたちの名前。

それも、先月の予定の半分ほどが竜宮小町のユニットのみであったことを考えると、天海や萩原たちの魅力が世間に対して存分に伝わったのだろう。

 

「昨日の今日でずいぶんと来ましたね」

「この中の三分の一くらいはもともと決まっていた竜宮小町の仕事なんですけどね。でも、一日でこんなにオファーが来たのは初めてですよ」

「そうですね」

 

ソファに座るアイドル達も同じ気持ちなのだろう。どこかくすぐったいような、けれど確かに嬉しい、というのが見て伝わってくる。

 

「竜宮小町にはまだまだ追いつけていないけれど」

「けれど、私たちも少しは竜宮小町のみんなに近づけた気がしますぅ」

「えぇ、そうね。この調子でいけば、段々みんなのしたい仕事が増えていきそうですね」

 

音無さんの言葉に如月が少しばかり頬を緩ませた気がした。

 




すっっごくお久しぶりでごめんなさい。ドゲザァ
やっと続きが投稿できました。
内容自体は前から書いてあったんですけど、なんか違うな、と書いたり消したりしていて、進みが遅かったです。言い訳ごめんなさい。

今後は、変わり始めた世界、ということで765プロが段々と有名になっていく編に入ります。
ということは、どこか961影が見えてくるかもしれません。

それでは、次回は早く投稿できるよう頑張ります(n回目)。


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たまには、こんな休日があるのも悪くない。

 

場所が変わり、新宿駅。

千葉駅も工事が終わりだいぶ栄えた感じが出ているが、それとはまた一つ違った感じを見せている。

 

高校から事務所に向かう時や営業の引率で行くときにも新宿駅を使うことがなかったため、実は初新宿駅だったりする。

迷路やダンジョンとして名高い新宿駅のその構造は、地方から出てきた人たちを困らせるだけでなく、純粋な首都圏民すらも迷わせるという。

つまり、どういうことかと言うと、

 

「…完全に迷子だな」

 

東京に来ることすら、今までほぼなく千葉県のみで完結していた俺に、この最難関ダンジョンの一つである新宿駅は早かったらしい。

 

音無さんに頼まれたものを買いに行こうとしたところで、事務所に集まっていたアイドル達にも必要なものを買ってきていいですよ。という音無さんの一声で、どうせなら一緒に、とアイドル達と新宿まで来たのだが、この通り一人はぐれてしまっていた。

 

取り合えず、天海にラインを送っておいたのだが、向こうがいつ通知に気づくかわからんからな。

 

「仕方ない、返事が来るまで、頼まれていたものでも買いに行くか」

 

事前情報と、駅の各地点に設置されている夥しい量の情報を何とかかき分け、新南口を抜ける。改札を出ると、どこかで見たような景色が広がる。

 

なんというか、東京も千葉も栄えているところは大体似たような景色しているんだよな。

SOGAとか高岬屋とか、あとは…ドンキ?

 

新宿にはもっと別の独自の店があるんだ、と由比ヶ浜あたりにいろいろと言われそうだが、正直男子高校生のファッションなどに興味のないものからしてみれば、それは背景と同じで目につかない。

 

洋服屋や美容院よりも、男子高校生は各地域特有のラーメン屋に心を躍らせるのだ。

 

実は今向かっている場所も、男なら少し心がときめく店。

改札を抜け、少し歩いたところのデパートの8階。

緑地に、人差し指で何かを指さす特有のデザイン。

 

そう。東急ハンドだ。

ステーショナリーコーナーひとつとっても、このワクワク感。

別に必要ないのだが、無駄にギミックやマルチツールが組み込まれているものを見ると、なぜか欲しくなってしまう。

 

折角来たわけだし、頼まれていたものとは別で、俺も何か買おうかしら。

新発売、とでかでかとPOPの掲げられた商品に手を伸ばそうとした瞬間、ポケットの中のスマホが震えた。

画面に表示された通知は、天海。

どうやら、こっちのことを探してくれていたらしい。

こういうところが団体行動ができないやつ、と言われる所以なのかもしれない。

申し訳なさ半分、にこっちは音無さんに頼まれていた用事を済ませてくから、そっちは自分たちに必要なものを見て回っているよう返信を送る。

ちなみに残りの半分は不明。大体バッファリンと一緒。

 

これで、心おきなく買い物の続きができる。

 

スマホをしまうと、先ほど目に留まっていた多機能ボールペンに手を伸ばした。

 

♦ ♦ ♦

 

~天海春香side~

 

「プロデューサーさん、音無さんに頼まれてたもの一人で買ってるって」

 

新宿駅構内でプロデューサーさんを探しながら、駅ナカのお店をウィンドウショッピングしていると先ほど送ったメッセージに対する返信がすぐに来た。

どうやら、こちらが駅を探しているときには既に改札を抜けた後だったらしい。

 

「えー、なんだよ、せっかくこっちが探していたのに」

 

野球帽を被った真が少し不満げに唇を尖らせた。

 

「まぁ、私たちもすぐにラインに気づけなかったから、仕方ないよ」

 

そう言うと真がそれもそうか、と納得した様子を見せる。

実は、最初にプロデューサーさんとはぐれたことに気づいたのは真だった。

もしかしたら、真もプロデューサーさんのことを?

 

「って、“も”ってどういうことだろ」

 

たはは、と意味もなく声を出してよく分からない気持ちを濁す。

 

「どうしたの、春香」

「ううん、何でもないよ、千早ちゃん」

「でもなんか、はぐれても気にせず一人で買い物を続けちゃうなんて、プロデューサーさんらしいといえばらしいよね」

 

そう言うのは雪歩。

淡い色のペレー帽にマスクを着けているが、どことなく雪歩の優しい雰囲気が出ており、少し離れたとこからでも私たちからすればすぐに雪歩だとわかる。

 

「もしかして、私たち変装してるから、プロデューサーさん見失っちゃったとかあるのかな」

 

ふと、浮かんだ考え。

まさか、とは思うけれど、プロデューサーさんだから、と言われると納得してしまうような微妙なラインの発想。

 

「うーん、春香も微妙なところをつくなぁ。YesともNoとも言えないんだよな」

「真ちゃん、さすがにそれはないんじゃないかなぁ。だって、千早さんは変装していなんだし」

 

雪歩の目線の先にいる千早ちゃんは、確かに特に何もしていない。

カーディガンを羽織り、細めのジーンズ。

シンプルなコーデだが、千早ちゃんはスタイルが良いためスタイリッシュに見えるのだから、流石はアイドルだな、と思う。

 

「ともかく、プロデューサーが言うように、私たちは私たちで目的を済ませましょうか」

「そうだね」

 

折角の新宿だし、あまり難しいことを考えていてもつまらないよね。

よーし、今日はいいアイテム見つけるぞー!

 

× × ×

 

場所が移って雑貨屋さん。

やっぱり、こういうところに来ると少し心がワクワクする。

なんというのだろう。小さいころ、髪留め一つを選ぶのにじっくりいろいろと見比べているときに近い何かがやっぱり心のどこかに残っているのかもしれない。

 

「あ、見てよこれ。こういうのってまだあるんだなぁ」

 

そういう真の指さす先には、かわいらしいクマがプリントされた自己紹介カードがおかれていた。

 

「確かに懐かしいね、私もみんなに配ってたなぁ」

「春香ちゃんは配るほうだったんだ。私は、いつも渡されて書くほうだったなぁ」

「僕も書いてって頼まれるほうが多かったかな。というか、すごい量書いてた記憶があるよ」

「それは、真ちゃんがかっこいいからだよ」

「えー、そんなことないって」

 

何だか、こういう話をするのは久しぶりな気がする。

最近はライブのことがあって、それどころじゃなかったからかな。

こんな時間もたまにはいいよね。

 

「千早ちゃんは?配ってた?それとも貰ってた?」

「私は…」

 

先ほどまでうつむいていた千早ちゃんは一瞬顔を上げるが、言葉とともに再び目線が落ちていく。

どうしたんだろ、千早ちゃん。

 

「私は…、そういうことには、あまり興味がなかったから」

「そっか」

「そう言えば春香ちゃん、何か変装用によさそうなものはあった?」

 

あまり触れてほしくなさそうにしているのを察した雪歩が話題を変えるようボールを投げてくれる。

 

「そうだなぁ。ちょっといいなって思っていたのは、眼鏡かな。ほら、どう?」

 

そういって近くの回るスタンドにかけられた大量の眼鏡の中から、よさげな黒縁眼鏡を手に取りかけてみる。

 

「お、いいんじゃない?」

「そかな?」

 

ちょっと得意げに眼鏡をクイッと上げる。

 

「うーん、でも、まだ春香ちゃんてわかるよね。やっぱりそのリボンが」

「え」

「それ外したら?一気に誰だかわからなくなるよ」

「ヒドイッ!?」

 

流石にそれは言いすぎじゃないだろうか?

確かにトレードマークは頭のリボンだけれども。

 

「ごめん、ごめん。冗談だよ、春香」

「もう、真ったら」

「それじゃあ、帽子はどうかしら?リボンも死角になって見えづらいだろうし」

「それはナイスアイデアだね、千早ちゃん!ヒドイこという雪歩と真とは大違いだよ」

 

悪かったって、と謝る二人がお詫びに、と少し歩いたところにあるお店で帽子を選んでくれた。

「どう?」

「うん、似合ってるわ」

「かわいい、春香ちゃん」

 

みんなの反応は上々だ。

鏡にうつる淡い色のキャスケット。

うん、確かに似合っている。

 

「えへへ、じゃあ、これにしよ」

 

ついでに黒縁眼鏡も買っておこうかな。

 

♦ ♦ ♦

 

~比企谷八幡side~

 

少し時間をかけすぎてしまっただろうか。

時計を見ると、先ほど天海に返信した時刻から大体一時間ほど経過していた。

思っていたよりも、音無さんに頼まれていた品が多く、5階6階へと行き来をしながら買い物をしなくてはならなかった。

 

だが、一通りそろったし、自分の気になったものも物色できたので良しとしよう。

まさかDr.Gripの新作シャープペンシルが出ているとは。

使うのが今から楽しみだ。

 

あいつらもそろそろ買い物が終わったころだろうか。

先ほど同様に天海にラインを送ると、すぐに既読の通知がつく。

どうやら、今は洋服を見ているらしい。

送られてきたURLをタップすると彼女らの現在地と思われる場所が地図アプリで表示される。

ここからだと5分ほどの距離だった。

 

待たせるのも悪いし、少し急ぎますかね。

 

× × ×

 

送られてきた店の前につくと、それっぽい三人組が更衣室付近にいた。

ガーリーな服がメインのこの店は、男性客が一人で来るのは珍しいのか少し店員に不審な目で見られる。

まぁ、不審な目でみられるのは今に始まったことではない。

小町との買い物で培った彼女らの知り合いというオーラを出しながら意を決して店に入る。

いらっしゃいませ、という牽制が背中をついたが、同時に萩原がこちらに気づいてくれたので、店員の警戒が解かれる。

 

「わるい、助かった」

「いえ、男の人だけだとここは居心地が悪いですよね」

 

そういえばここには三人しかいない。

如月はどこに行ったのだろうか。

そう萩原に尋ねようとしたとき、更衣室のカーテンが開かれた。

 

「ぷ、プロデューサー!?」

 

カーテンの先にはツインテールにリボンフリフリのガーリッシュな洋服に身を包まれた如月が立っていた。

 

「ち、違うんですっ」

 

いいなー、と羨ましそうな菊地とやり切った顔をしている天海とこの反応をしている如月を見るからには、そういうことなのだろう。

ふむ、まぁ、一応女子の洋服を見たのだし、プロデューサーとして一言言わないとな。

精一杯のほほえみを浮かべながら、

うう、と恥ずかしそうにこちらを上目遣いで見つめる如月にむけて、

 

「今度、こういう感じの衣装を着られる仕事探してくる」

「プロデューサーッ!」

 

さっきの語調とは異なった言葉が店いっぱいに響いた。

なんかその顔、腹が立ちますね、という菊地の言葉なんて聞こえなかった。

 

 




お疲れ様です。
昨日2年ぶり近くに更新したのにもう更新ですよ。
びっくりですね。(おまいう)

次はいつになるか不明ですが、できる限り早く更新できるよう頑張ります。

感想、意見、アドバイス等励みになりますので、是非ともよろしくお願いいたします。

それでは。


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CHANGIN‘ OUR WORLD.

 

『男子、三日会わざれば刮目して見よ』

 

確か、三国志だっただろうか。そんな言葉があった気がする。

 

男の子は成長が早いから、三日の間に大きく成長をする時がある、みたいなニュアンスだろうが、これは別に男子に限った話ではないのだろう。

現に、目の前のアイドル一同の顔立ちはわずか二、三日会わなかっただけなのにこんなに変わっている。

まぁ、実際に物理的に見た目が変わっているのもあるのかもしれないが、それでもこんな景色を見ることは、プロデューサーになってから初めてのことなのだ。

これくらいの動揺はさせてほしい。

 

今、765プロ一同がいるのは都内の撮影スタジオ。

見るからに高そうなカメラにテレビで見たことある、といった感じのグリーンバックシート。その両端には俺の身長を優に超える照明スタンド。

 

あのライブからたくさんのことが変わった。

その中でも一番の変化が、仕事が増えたことだろう。

今回は、久しぶりの全員が集まっての仕事だ。

各メンバーがそれぞれ異なった果物の衣装を着ての撮影。内容は週刊誌TVちゃんの特集だ。

 

いつも一緒にいるから忘れそうになるのだが、彼女たちはアイドル。

何を着てもかわいく見えるし、少しきわどい衣装は目に悪い。

だから、うちの学生が着たらキテレツな格好も、アイドルが着ると様になるのだから不思議だ。

 

「これ以上俺の目を悪くさせないでほしいんだがな」

「何一人でぶつぶつ言ってんのよ」

 

階段から降りてきたのは桃の衣装を身にまとった伊織。

 

「伊織か。ほう、似合ってるじゃないか」

「そ、それはどうもっ。ちょっと子供っぽい気がしなくもないんだけれどもね」

「そんなことないと思うぞ」

 

伊織は15歳だし、間違いなく年相応だろう。

ということは小町が着ても年相応なわけだし、いつか小町にも着せてみたい。

 

「えへへ」

 

そういうと何故か恥ずかしそうにしながら喜ぶ伊織。

そんなに年相応の格好がうれしかったのだろうか。

少し不思議に思って伊織を見つめると視界の上端から、ダダダと激しい音を立てながらメロンの衣装に身を包んだ美希が階段を駆け下りてきた。

 

「ねえ、ハニー?ミキも似合ってる?」

「だから、ハニーはやめてくれって何度も言っているだろうが」

 

これも変わったことの一つだろう。

 

ライブが終わってから、美希はなぜか俺のことをハニー呼びするようになった。

正直、こういう場でそういう呼び方をされるといろいろと誤解を生みかねないから、何度もやめるよう美希には伝えているのだが、改善の兆しは見られない。

 

ふぇぇ、ハチマンには、最近の女の子の気持ちはさっぱりだよぉ。

 

「ねぇ。似合ってる?」

「あぁ、似合ってる似合ってる、世界一かわいいよ」

「やったなのー」

「ちょっと美希!あたしが話してたでしょ!?」

 

ぷりぷりと桃の帽子を被った伊織が怒る。

ぷりぷりと桃ってなんか似ている気がするのは何故だろう。

 

「あれ、でこちゃんいたの?」

「でこちゃんゆーな!」

 

そんな二人の言い争いもすっかり見慣れた景色となった。

なんというか、美希の竜宮への対抗心というか焦りがなくなったのも、その一端だろう

 

「そろそろ撮影開始だろ。ふたりとも適当に切り上げて準備しとけよ」

「はーいなの」

「もう、あんたはてきとうすぎるのよ」

 

変わったところもあれば、変わらないものもある。

 

「こういう何気ないおしゃべりは変わらないですね、プロデューサー殿」

「秋月さん。お疲れ様です」

「お疲れ様です、プロデューサー殿」

 

あのライブ以降も竜宮小町は順調に売れており、今ではメディアに引っ張りだこの状況だ。

それをプロデュースしている秋月さんは、敏腕プロデューサーといえるほどの働きっぷりで、毎日忙しそうにしている。

ほかのアイドル達も売れ始めてきているのだから、未来の自分を見ている気がしてならないのがうれしいような、悲しいような。

 

「あ、そうだ。打ち合わせのことで少しスケジュール調整したいんですけど」

「あ、はい」

 

手帳を取り出し、半分ほど黒く埋まったカレンダーを開く。

基本的に765プロ関連のことしか書くことがないので、だいぶ仕事が増えた証でもある。

着実に社畜への道を歩み進めている証でもあるが。

 

「この日のミーティングには私が出るので」

「こっちのほうを俺が出たらいいですかね」

「えぇ、お願いします。芳澤さん、またうちのこと記事に書いてくれていますよ」

「おぉ、なんかこうしてみると改めてすごさを実感しますね」

 

芳澤さんは、765プロの1stライブのことを記事に取り上げてくれた記者の方で、以前から何かと気をかけてくれていた人だ。なんでも、高木社長の古い友人だとかなんとか。

 

秋月さんから手渡された雑誌を折り目のついたところで開くと、一面にこの前発売となったアルバム『765pro ALLSTARS』の特集が組まれていた。

竜宮小町だけでなく、ほかのメンバーの良いところにバランスよく触れてくれていることからも芳澤さんの敏腕っぷりが伝わる。

 

「なんだか、うちは周りの人に恵まれていますよね」

「でも、それもみんなの力あってこそですよ」

 

秋月さんがうれしそうにそう言うと、にっこりとほほ笑んだ。

 

「あ、もうTVちゃんの撮影が始まる時間ですね、行きましょうか」

 

765プロの快進撃。

今、まさにうちのプロダクションはノリに乗っていた。

 

× × ×

 

「「「えええーーーー!?」」」

「レギュラー番組?」

「しかも生放送!?」

「あぁ、前々から話をしていた企画がようやく通ってな。日曜午後の1時間枠が丸々765プロ出ずっぱりになる感じだ」

 

ほぇえ、と皆口をそろえながら、目を見開く。

日曜午後の一時間なんて多くの人が目にする時間帯だ。

この番組がこれからの765プロの一進に一役買ってくれるだろう。

 

「歌のコーナーもあるんですね」

「あぁ、前回の1stライブを見てくれたディレクターさんが是非に、と言ってくれてな」

「なかなか見る目があるの」

「まこと、うれしい限りです」

 

この番組では、それぞれのアイドル達にコーナーを受け持ってもらうことになっている。

その企画を順々に伝えていく。

 

「そして、この番組のメインMCが天海、如月、星井の三人だ。進行役頼んだぞ」

「え、わ、私ですか?」

「あぁ。特に天海、よろしくな」

 

あたふたする天海に対して、如月が不安がちに、

 

「私、話すのはそんなに得意じゃないから、もしもの時は助けてね、春香」

「う、うん。任せてよ、千早ちゃん」

「なんか、生放送で春香が転ぶ姿が目に浮かぶわね」

「もう、伊織。あまり春香をいじめないの」

 

あのね、春香、と秋月さんが一呼吸置く。

 

「メインMCは、社長と私とプロデューサー殿との三人で決めたの」

「どうして、私たちなんですか?」

 

不安げに天海が尋ねる。

 

「それぞれ思いは違うかもしれないけれど。私は、それぞれタイプの違う三人だから選んだのよ」

「タイプの…ちがう…」

「ね→ね→。ほかにはどんなことやるの→?」

「気になりますなぁ」

 

亜美と真美に急かされ、仕方なく机に企画書を置き、全体に見えるようにしながら話を続ける。

 

「他には、こんな感じにだな……」

 

「やっと解放された」

「お疲れ様です、プロデューサーさん。これ、冷蔵庫に入っていたやつですけれど」

 

天海から、黄色でおなじみのマッカンを手渡される。

マッカンの在庫は買いだめしてあるので、まだまだ潤沢にあるはずだ。

 

「お、サンキュー」

「…あのですね」

 

少し神妙な顔つきの天海が俺の座るソファの横に少しだけ間をあけて腰を下ろす。

えっと、と言ってから体感ではかなりの時間がたった気がする。

 

なんだろう、ドキドキと変な汗が止まらない。

 

担当とはいえ、年頃の女の子にこの距離に座られるといろいろと困ることが多いな。

ゴホン、と咳ばらいをして、気づかれないよう、もう少し天海から距離をとる。

 

「どした」

 

何でもないような風を装いつつ、天海に続きを促す。

 

「あ、あの。…その、どうしてプロデューサーさんは私のことをメインMCに推してくれたんですか?」

「自信ないのか?」

「どうだろう…、一人だったら不安でいっぱいかもしれません。でも、みんながいるから」

「それでいいんだよ。大体一人で何でもできる奴なんてそうそういないもんだ。あの雪ノ下だって苦手なことがあるんだ」

「え、そうなんですか?雪ノ下さん、完璧そうに見えますけど」

 

天海は心底驚いた表情を見せる。

 

「俺もこの前までは一人が最強だと信じて疑わなかった。けれど、どうしても一人だけじゃどうにもならない時がある。この前のライブだってそうだ。お前たちアイドルだけじゃなく、社長や音無さん、スタッフの人、そして奉仕部の奴らがいたりして、たくさんの人たちに支えられて成功しただろ」

「はい」

「そうやっていろんな人に支えられて人は成長していくらしい」

「何だか、最初のころのプロデューサーさんなら言わなそうな言葉がたくさんですね」

 

かもな、と苦笑いで返す。

 

「ちゃんと天海たちが頑張っていることを知っているからな。俺は、別に努力している奴は嫌いじゃない。寧ろ好きなほうだ」

「…好きな、ほう」

「努力は人を裏切るかもしれないが、成功した人は皆努力しているもんだ。本当はあの委員長にいろいろ言ってやりたかったんだがな」

 

俺はあいつのプロデューサーなんかじゃないからな。

 

「ま、ほかに天海を推した理由があるとすれば、個人的に天海と話していると安心するというか、気疲れしないというか。そういう雰囲気がテレビを通して視聴者に伝わってほしいと思ったり、なんなり…」

 

やだ、ちょっと最近調子がいいからって調子に乗りすぎて変なことまで話しちゃった気がする。やーだー。ヤダ過ぎて山田になるわね。

ならねーよ。

 

「そっか。そういう風にプロデューサーさんに思ってもらえていたんだ」

 

羞恥心で悶えている俺とは裏腹に満足そうな表情を見せる天海。

まぁ、俺の黒歴史一つで一人のアイドルが笑顔になるもんなら安いか。

 

「私、メインMC頑張りますね。プロデューサーさんっ」

 




...甜花...頑張った!

なんだかんだで、無事投稿できました。
次はいつになるかは不明ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

感想、意見、アドバイス等よろしくお願いします!


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不思議と、比企谷八幡は笑みをこぼす。

 

「そういえば、もうすぐじゃない?765プロが表紙のザ・テレビちゃん!」

 

由比ヶ浜が目を輝かせる。

由比ヶ浜や平塚先生が持ち込んでいる765プロが取り上げられた雑誌は段々と増え、今では棚を一列埋めるほどまでとなっている。

 

「そういえば、もうそんな時期か」

「そういうのって普通は事務所に見本誌が届くものじゃないの?」

「そのはずなんだけどな。でも、見た記憶がないんだよな」

「ヒッキー、見落としちゃってるんじゃないの?最近忙しそうにしているしさ」

 

はい、と由比ヶ浜が4冊のノートを渡す。

 

「これ、この前休んでた分のノートね。ゆきのんにも手伝ってもらって、重要なところまとめてあるから」

「…時間があるときに目を通しておいてちょうだい。部員の成績が悪いと、部長の責任になりかねないから」

 

そういう雪ノ下の視線は明後日の方向を向いている。

 

「もう、ゆきのん照れちゃってー。ヒッキーがお仕事に集中できるように、ってゆきのん結構はりきってたじゃん」

「ゆ、由比ヶ浜さん」

 

きゃっきゃ、うふふとはいかぬまでは行かないが、俺がいない間に随分仲良くなっている気がする。

別に嫉妬をしているわけではない。断じて違う。

受け取った数学のノートをペラペラとめくると、数学が苦手の俺にも分かるよう途中式や仮定が丁寧にまとめられており、かなりの時間をかけてくれたことが分かる。

 

「別にあなたのためだけではないわ。こうやってまとめれば自分の学習状況の復習にもつながるし、それにアイドルの皆さんだって同じ学年の人もいるでしょうし」

「そうか、さんきゅーな」

「どいたまー」

 

気の抜ける返事をする由比ヶ浜と、そっぽを向きながらも頷く雪ノ下に感謝をしながら、ノートを丁寧にカバンにしまいこむ。

腕時計を見ると、もうそろそろ学校を出たほうがよさそうな時刻だった。

 

「それじゃ、そろそろ行くわ」

「うん、今日も頑張ってね。あ、あと、TVちゃんしっかり確認しといてよね」

「あいよ」

 

そう言葉を部室に残し、戸を閉める。

開けっ放しの窓から、風が廊下へと駆け抜けた。

 

 

× × ×

 

「ねぇ、これってどういうこと!?」

 

無造作に事務所の扉が開け放たれる。

顔を上げると見るからに不機嫌な伊織が目に映った。

伊織は周りのやつらの挨拶に反応することなく、一直線に俺のデスクへ雑誌を叩きつける。

見れば、ザ・テレビちゃん。

今週発売の雑誌。

表紙は前回撮ったうちの事務所の集合写真…だった、はずだ。

 

「は?これ…どういうことだ」

 

それなのに、この雑誌は明らかにうちが表紙ではない。

小町が見ていた番組で見たことがある。男性アイドルユニット、ジュピター。

予定より、一週間ずれたのだろうか。いや、それにしてはテーマが似すぎている。

その証拠に、男三人の手にはそれぞれ果物が収まっている。

伊織の不穏な様子を見ていた事務所にいた他のアイドルたちが、次第にわらわらと集まってくる。

 

「これはどういうことでしょうか」

「今週じゃなかったのかしら」

「いや、流石にテーマが似すぎている。それに変更の連絡は来ていなかったはずです」

 

様子を見ていた秋月さんに視線を向け、確認をとる。

 

「えぇ、来ていませんね。だけど、見本誌も来ていなかったんですよね」

「こんなことってあるのでしょうか?」

 

あるのだろうか?正直この業界のことは、秋月さんや音無さんのほうが詳しいし、なんならこの中で一番詳しくないまである。

だが、それを言ったところでなんの進展も得ない。

 

「なんかダメだったのかなぁ」

 

亜美がボソッと言葉をこぼす。それに釣られて萩原が涙ぐむ。

 

「やっぱり私の表情が暗かったとか、うぅ」

「大丈夫よ、雪歩ちゃん」

「そうだよ、だってあれ、みんな凄くイケてたもん」

「プロデューサーさん、あの」

「あぁ、確認とってみる」

 

確か、テレビちゃんの編集の連絡先は交換した名刺から連絡帳に移してあったはずだ。

番号を逐一確認しながら入力し、スリーコール。

 

『はい、ザ・テレビちゃん編集部です』

「もしもし、765プロのものですが」

~…

 

要約する必要もないくらいの短い会話で、無理やり電話を切られてしまう。

申し訳ない、だが、自分の役職ではどうしようもない、という一点張りで新たな情報は得られなかった。

 

× × ×

 

「そんな」「何でですか」

芳澤さんから聞かされた話に、一同がざわつく。

 

「私が調べた限り961プロの黒井社長が裏で手をまわしたのは間違いない」

「圧力か」

 

それを聞いた高木社長が苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべる。

 

「圧力?なんで961プロが?」

「まだ君たちには話していなかったな」

 

目の端に移る音無さんが一瞬悲しげな顔をした気がした。

高木社長が腕を組みなおす。

 

「961プロの黒井社長と私は旧知の仲でね。一緒に仕事をしていたこともあったんだよ。そのあたりのことは、芳澤君もよく知っている」

 

芳澤さんは火のついていない煙草を咥えたまま、頷く。

複雑そうな顔をした二人から察するに、あまり良い思い出ではないらしい。

 

「黒井社長と私は、同じころこの業界に入ったんだよ」

 

黒井社長と高木社長は同じ芸能事務所のプロデューサーとしてしのぎを削っていた。

あるときを境に、互いのアイドルの方針で黒井社長と意見がぶつかるようになっていく。

次第に、黒井社長のやり方が目に余るようになっていく。

話し合いをするも、相容れず、結果袂を分かつことになったことを高木社長は語った。

 

「黒井社長はアイドルを売るためなら、どんなことでもする人だからね」

「でも、どうして私たち765プロを叩くんですか?」

 

秋月さんの最もな疑問に、芳澤さんが頷く。

 

「出る杭は打たれるということだな。まぁ、黒井社長の目に留まるほど君たちが急成長したということだね」

 

そこまで話すと、ようやく芳澤さんは煙草に火をつけ、紫煙を浮かべた。

 

「ひどい…。こんな汚い真似をするなんて」

「言い換えれば、これは黒井社長からの宣戦布告ということですかね」

「そういうことになるのかな。しかし、彼は今の我々が面と向かってやりあえる相手ではない」

 

結局、権力がものを言う世界。病院ドラマさながら、暗い部屋でワイングラス片手にリクライニングチェアで踏ん反りがえってる男が脳内再生される。

毎度、ことある毎にメロンでも差し入れすればいいのだろうか。

 

「それじゃあ、僕たち、これからもこういうことがまたあるってことですか」

「うぅ、そんな怖い人に狙われるなんてこわすぎますぅ」

「結局、世の中大きい事務所が強いってことなんだね」

「何だかへこんじゃうよね」

 

真美と亜美が核心をつく。

 

「まぁ、世の中そういうもんだ」

「ちょっと、あんたがそんなこと言ってどうすんのよ」

 

伊織が立ち上がる。

 

「あたし、我慢できない」

「どうする気だ?」

「向こうがその気ならこっちにだって考えがあるわ」

「…水瀬財閥の力を使うのか?」

「えぇ」

 

少し席を外れて、スマホを取り出しポパピプペ。

険しい顔で手を動かす。

 

「本当にいいのか?」

「何よ、どういうことよ」

「…今まで、水瀬財閥の水瀬伊織であることを嫌がっていなかったか」

「でも」

「いいから落ち着け」

 

伊織の口が真一文字に閉じられる。

そんな風に睨まないでくれ、悪いことをしている気分になるだろ。

 

「でも、にーちゃん。最初に汚い手を使ったのはあっちでしょ」

「そうだよ。目には目を歯にはニーハオって言うじゃん」

「真美。それを言うなら歯には歯を、では?」

「あ、うん。それ」

 

双海姉妹が過激なことを言うが、どこか同じようなことをみんな感じているようで、不安気な顔を浮かべている。

 

「プロデューサー。では、このまま泣き寝入りをするわけですか?」

 

普段あまり感情を出さない如月の表情も、どこか憂いを帯びている。

 

「いや、泣き寝入りはしない。だが仕返しもしない」

「じゃあ、黒井社長にはどうするんですか?黙って引き下がるんですか」

 

菊地が叫ぶ。

 

「そんなの嫌よ。せっかくみんなで撮ったのに」

 

伊織の抱えるうさちゃんが震える。

今まで竜宮小町としての仕事は来ていた伊織にとって、久しぶりに765プロ全員でした大きな仕事。だからこそ、思い入れもあったのだろう。

そして、それは伊織に限った話ではない。

765プロ全員が思い入れのある仕事を横から取られたのだ。

だから、頭ではわかっていても心では納得できないのだろう。

伊織の言葉を皮切りに、全員の感情が一斉に溢れ、各々黒井社長への苦言を漏らした。

 

「ちょっと…。皆、落ち着きなさい」

 

興奮した何人かは秋月さんの静止も耳に入っていない。

天海や萩原も周りを止めようとするが、ヒートアップは止まらない。

 

「あんた、負けたまま引き下がるつもり?」

 

伊織の言葉で事務所の空気がしん、とする。

負けたまま、か。

その言葉に思わず笑みがこぼれてしまう。

やってないことを理不尽に押し付けられる、今まで積み上げてきたものを崩される。

どんなに頑張っても結局はカースト。

お前はこうだ、のレッテルを張られ、役割を決めつけられる。

そんな理不尽な世界。

学校は社会の縮図とはよく言ったものだと実感する。

 

「ぷ、プロデューサー?」

 

遂に頭がおかしくなったのかと思われたのか、如月が不安げに問う。

大丈夫だ、別に頭がおかしくなったわけじゃない。

 

「いいか、よく聞け。なんで黒井社長がこんなことをしたか、さっき芳澤さんが言ってたことをよく思い出してみろ」

 

先ほどまでバラバラだった皆の視線が芳澤さんへと集まる。

当の本人は少し興味あり気な、楽しそうな表情を浮かべている。

 

「えっと、出る杭は打たれる…」

「それと、私たちが急成長したから目に留まったって」

「その通りだ、萩原。天海」

 

すると二人はえへへ、と少し恥ずかし気にはにかんだ。何それ、かわいい。

 

「つまり、プロデューサーは僕たちが成長した証だから、いいだろって言いたいんですか?」

「いや、それは違う。もちろん成長した一つの証であるところは否定しないが」

「じゃあ、どういうことなのさ、プロデューサー」

「響。どうして出る杭は打たれると思う?」

「え?それは、邪魔だから?」

「まぁ、極論を言ってしまえばその通りだが」

 

意外と響、辛辣な言い方するんだな。

その矛先が俺に来たら耐えられる気がしない。

だが?と食い入るように全員の注目が集まる。

 

「杭が出ていたら、けがをするだろ」

「「はっはっは」」

 

は?というアイドルが出してはいけないような声の中に、高木社長と芳澤さんの笑い声がこだまする。

 

「いやぁ、流石は私が見込んだだけのことはある」

「前から感じていたが、やはり君はずいぶん変わった視点を持っているようだ」

 

何人かは俺の言葉の意味を理解したようだが、中学組など顔に?を浮かべている。

 

「つまり、彼はこう言ってるんだよ。君たちは十分、黒井社長にけがを負わせるくらい成長している、とね」

 

「えー、それにーちゃん褒めてるの?箪笥の角に小指ぶつけると痛いみたいなレベルじゃない?」

「でも、まぁ、なんかそういうところにーちゃんらしいよね」

 

そういえば、気づかなかったがいつのまにか双海姉妹からの呼ばれ方がにーちゃんに統一されていた。

まぁ、俺は世界の妹である小町のお兄ちゃんだから、実質世界の兄なまであるからな、いや、流石にキモイか。

何はともあれ、少しは落ち着いてくれただろうか。

 

「けど、結局打たれちゃケガもさせられないじゃない」

「そうだよ、プロデューサー。結局僕たちは負けたまま我慢するしかないの?」

 

思っていたより冷静に返されてしまったな。

さて、どうしたものか。と思っていると美希が前に出てくる。

 

「負けてないよ」

「え?」

「ミキたち負けたわけじゃないって思うな。だって、この写真ぜーんぜんイケてないもん」

 

そういってジュピターが表紙の雑誌を指さす。

 

「ミキたちのがチョーかわいく撮れてたもん。ね、ハニー?」

「そうだな。それに、なんかこういうイケてる男たちは自分がかっこいいことに胡坐をかいている気がしてあんまり好かんな」

「なにそれ、あんた只の僻みじゃない」

「まあな。んで、伊織はどう思ってんだ?負けてんのか、これに」

「そ、それは私たちのほうが良いに決まってるじゃない」

 

伊織は自信満々にそう答える。

他の面々も、あれ良かったよねと口を揃える。

 

「なら、卑怯な手をお前たちが使う必要はない。十分765プロは961プロの脅威足りえている。今回は勝負をさせてもらえなかったが、その点は秋月さんや俺のプロデューサーや社長や音無さんが必ず勝負の場を作る」

「えぇ、そうですね。そこが私たちプロデューサーの仕事ですからね」

「だから、お前たちアイドルは今まで通り、頑張ってくれ」

 

全員の顔を見回す。

頷く者やまだ少し納得のいかない様子の者。

それぞれ、何かしら思うところがあるに違いない。

 

だから、

 

「それに...」

 

俺が、

 

「俺がこのままやられて大人しくしているほど、性格が良いわけないだろ」

「え?プロデューサー殿?」

 

アイドルたちには聞こえない程度の小声に、秋月さんが慌てて、こちらに振り返る。

 

みんなの不満は預かって、きちんと耳揃えて黒井社長に返してやらないとな。

まぁ、今はせいぜいその地位で踏ん反りがえってるといいさ。

捻くれ具合なら俺だって負けていない。

 

この時の俺の顔が今日一楽しそうにしていて不気味だったと後日秋月さんにこっそり言われてへこんだのは言うまでもない。

 




今回も何とか時間をそんなに空けずに投稿できてよかったです。

これから、青春欺瞞野郎シリーズと交互に投稿してくことになると思います。
頑張ってGW中に両方更新したいですね。

ご意見、ご感想およびアドバイスよろしくお願いします。


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ようやく、次のステージが始まる。

 

比企谷八幡の朝は遅い。

たいてい目を覚ました時には、両親は出社しているし、なんなら小町も家を出ているまである。

リビングには、ラップのかけられた冷めたトーストと目玉焼きが置かれている。

冷蔵庫から牛乳を取り出しグラスに注ぎ、一気に煽った。

そして、もう一度牛乳を注ぎなおして、遅めの朝食を始める。

壁に掛かった時計の針を確認して一息。

ここまでが、比企谷八幡の優雅なモーニングルーティン。

 

え?9時?

学校、遅刻じゃん。

 

× × ×

 

というか、何だよモーニングルーティンって。

他人の朝の支度など見て何が面白いのだろうか。

どうせ、撮影用に張り切って普段しないことまで取り込んで、いつもこのフレッシュジュースをジューサーミキサーにかけて作ってるんですぅ。とかやってるに違いない。

 

とはいえ、そんなことをいう俺のような奴は視聴ターゲットには含まれていないのも知ってる。ぴえん。

 

「つまり、君のモーニングルーティンには授業に遅刻して、こう詭弁垂れるのが含まれているということかね」

 

目の前には、額に青筋を浮かべている平塚先生。

乱雑に積み上げられた書類の反面、几帳面に並べられたボトルキャップフィギュアが平塚先生を物語っている。

事の流れは、こうだ。

 

昨晩、生っすか!の企画として挙がった、今はやりのモーニングルーティンをそれぞれ撮ってみようという案について、いろいろ調べていたのだ。

正直、俺個人としてはあまり気が乗らないというか、面白さが分からないのだが、女性からは人気のコンテンツらしい、ということが何となく分かったし、モーニングルーティンを深夜に複数見るもんでもないということも分かった。

 

そして、その余波として俺の平塚先生への遅刻の言い訳にモーニングルーティンが組み込まれた、というわけだ。

覚えた用語をすぐ使いたくなっちゃうお年頃なのだろう。

てへぺろ。

 

いや、てへぺろは古いか。

 

「君が最近忙しくなったことは知っているし、そこは素直に頑張っていると認めよう。だが、音無さんから、早めに帰宅はさせていると聞いているよ。大方、モーニングルーティーンとやらを調べているうちに別の動画を見始めて、そのルーティンにはまったのだろう」

 

何やら上手いこと言ったような顔をしているが何も掛かっていない。

だが、指摘はおおむね正解だ。

包丁を研ぐ動画とか、ひたすら穴釣りをする動画って何故か見始めると止まらないんだよなぁ。

 

「反省はしています。…改善はできるかわかりませんが」

 

最後は聞き取れるか否か程度の音量。

それを見ていた平塚先生は机に置いた肘下ろして、本日何度目かわからないため息をついた。

 

× × ×

 

「へぇ、モーニングルーティンかぁ。僕は結構いいと思うけどな」

「やっぱり?俺もそう思ってた。戸塚もそう思うよな」

「おい、ハチマン!?さっきと言ってること違くない?手のひらクルーもびっくりの具合よ」

「何を言ってるんだ、材木座。俺はさっきからいいよなって」

「いや、お主さっきまで意識高い系の意識上げる動画ってディスってたですし、おすし」

 

ですし、おすしとか多分いまの高校生知らねえだろ。

ぬるぽって言ってもガッて返さんだろうし。

 

それに手のひらは返すものってプロデューサーになってからしっかり学んだ処世術だ。

大抵のことはこれでやり過ごせる。

というか、俺プロデューサーになってから得た技術の大半がその場をやり過ごす技な気がするのは何故だろう。そのうち場つなぎの手品とか教えられそう。

 

「でもさ、意識を上げるっていうのはいいことだと思うよ」

 

そう言うのは、ラブリーマイエンジェル戸塚。屈託の無い笑顔は世界を救う。

 

「うむぅ、戸塚氏がそういうと反論するのも憚れるな。まぁ、確かにカップルのイチャコラモーニングルーティンは腹立つが、アイドルのモーニングルーティンなら、新たな一面を売り出すのにつながるかもしれんしな」

「だよね!こういうお手入れしてるとか、こういうもの食べてるんだ、とか知れるもんね」

「たしかに、そういったメリットもあるな。何というか男の俺らからしたら盲点なところだよな」

 

ふむふむ、と汗を額に浮かべながら材木座が頷く。

その材木座だが、以前、竜宮小町をナビしたことが相当うれしかったらしく、最近は交通情報を調べているらしい。

こうやって鉄オタが増えていくのかもしれない。

 

「ちょっと、八幡。僕も男の子なんだけれど」

「あ、いや、悪いそういうつもりじゃなかった」

 

ぷくぅと頬を膨らませる戸塚まじかわ。あの、自分、写真一枚いいっすか。

 

「そういえば、萩原さん今度舞台出るんだっけ?」

「あぁ、コゼットの恋人な。ミュージカルだから、歌にダンス、それから芝居と稽古が大変だとぼやいてたよ」

「わぁ、大変そうだね。けど、きっと萩原さんなら大丈夫だよね」

「ほむほむ、戸塚殿は萩原雪歩ちゃん推し、と」

「あはは、まぁ、そんなところかな」

 

材木座の言葉を濁すように笑う。

だが、ミュージカルの情報を得ているということはそれなりに調べていたのだろう。

 

「戸塚、よかったら舞台のチケット用意しておくか?関係者席今ならとれると思うが」

 

ううん、大丈夫。と戸塚が前髪を揺らす。

 

「ちゃんと前売り券買ってあるからさ」

「そうか」

「それに、一ファンとしてしっかりと応援したいからね」

 

まっすぐに微笑む戸塚がまぶしい。関係者席で費用浮いてわっほい、とか思ってた自分が恥ずかしい。

 

「いや、八幡はガッチリ関係者だからいいんじゃない?僕はさ、なんというか」

「そうだぞ、八幡。推しにつぎ込むのもファンの役目。しっかりと声高々に応援せんとな」

「そうそう、ちゃんと貢献したいんだよ」

 

そんな二人の言葉に思わず笑みが零れる。

 

「さんきゅーな」

「えへへ」

「それほどでもないわ…。あ、ところで今度出る美希ちゃんのセカンド写真集にサイン貰えない?」

「おい」

 

頼むよ、ハチエモーンと喚く材木座と、それを見て笑う戸塚。

まぁ、何だかんだ、良い奴らなんだよな。

というか、戸塚は天使、異議は認めん。

 

× × ×

 

「プロデューサーさん、みんなに撮ってきて貰ったモーニングルーティンの動画がそろったので一緒に見ませんか?テレビに出せないようなところとか、住所などの情報が漏れていないかの確認作業も含めて!」

 

まるで、子供がサンタクロースからプレゼントを貰ったかのようなワクワク具合の音無さんに、半ば強制的にソファに座らされ、765プロアイドルたちのモーニングルーティンが流れ始める。

 

「さぁさぁ。あ、こちらどうぞ」

「はぁ、どうも」

 

そういって手渡されたのはマックスコーヒー。

まぁ、俺が買ったやつだけどな。

どうせ、いつかチェックしないといけなかったから丁度良かった。

 

練乳の甘さが広がったコーヒーをちびちびとやりながらパソコンが接続されたテレビを見る。

どうやら、最初は響のモーニングルーティンのようだ。

 

◇ ◇ ◇

 

「はいさい!我那覇響のモーニングルーティンだぞ。自分は朝起きたらまず、こんな風に家族のみんなのご飯をつくってるんだ!あ、こら、いぬ美、まだだぞ!」

 

始まりは、キッチン。どうやら寝起きスタートではないらしい。

俺が見ていた動画とかだと朝起きる場面からだったりしていたのだが。

 

「流石にアイドルですからね、寝起きはNGです。それに、ああいうのって半分くらいやらせ寝起きですよ」

「え、そうなんですか」

「そりゃあ、メイクばっちりで起きる人はいませんからね」

 

なんか世界の闇を覗いてしまった気がする。

そんなこんなで、動画は続いた。

 

◇ ◇ ◇

 

「どうやら、千早ちゃんのも大丈夫そうですね」

「えぇ、というか、如月の動画に関しては部屋に物がなさ過ぎてそういった次元の話じゃなかったですけどね」

 

動画に映された如月のモーニングルーティンは、簡素というか、うん、まぁ。

 

「如月のは、正直あれくらいのが可愛げがあっていいのかもしれないですね」

「そうですよ。あれは、あれでいいんですよ」

 

ガタン、と音無さんの話の途中に音が鳴った気がしたが、音無さんは気にした様子を見せていない。

 

「ん、気のせいか」

 

× × ×

 

「最後の春香ちゃんも問題なさそうですし、あとは律子さんと社長にもう一度見てもらって、番組に送りましょうか」

「そうですね」

 

天海のモーニングルーティンも問題なく終わりに向かい、最後に別れの挨拶をしてビデオカメラに手を伸ばすため画面いっぱいにアップになる。

別に悪いことをしているわけではないのだが、このシーンは毎度少し見てはいけないものを見ている感じがするんだよな。

これで終わりだな、ととっくに空になった缶を握りつぶして捨てに行こうと席を立つ。

あれ、という音無さんの声に振り返ると映像がまだ続いている。

ガサゴソとビデオカメラを触る音がしたから、もう終わりかと思ったんだがな。

 

「まだ、続きがあるみたいですね…って、プロデューサーさん!これ、見ちゃダメな奴です!!!」

「え?」

 

どんなドラマでも、見ちゃダメ!って慌てた瞬間に見なかったシーンが無いように、コナンで来ちゃだめだ!って言った瞬間には部屋に入っているように。

比企谷八幡もその類に漏れず、幸か不幸かばっちり目に入ってしまったのだ。

 

ビデオの録画を切り忘れたまま、着替えを始める天海の姿が。

 

そして、どんな物語も不幸が重なるように。

 

「おはよーございまーす」

 

元気いっぱいの挨拶。

普段なら何の問題もない天海の挨拶。

 

「あ、プロデューサーさんもう来て…た…え、」

 

天海の視界には、音無さんと俺が何故か天海の着替えをテレビで見ていたのがうつったことだろう。

そうだよな、女の子が出てくる物語なんだ。

こういう展開もあるに決まってるよな。

やるじゃん、ラブコメ(?)の神様。

 

その瞬間、天海の絶叫とともに俺の意識が途切れた。

 

薄れゆく意識のなかで一言。

 

 

 

―――やはり俺の...はまちがっている。

 




めっちゃ最終回感がありますが、まだ続きます(笑)

いわゆる三部完!みたいなノリです。


次から何事もなかったように始まることでしょう。
ガタンの音の正体は誰なんですかね。

ラブコメになるのでしょうか。

分からないことだらけですが、続きを気長にお待ちいただければ幸いです。

ご意見、ご感想およびアドバイスよろしくお願いします。

それでは。


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きっと彼女らは自分の足で歩いていく。

 

きっとどんなに経験してもこの空気に慣れることはないのだろう。

ライブ本番前のかすかに冷えた手元にはスケジュールなどが書き込まれた資料。

自分が出るわけでもないのに、同等かそれ以上に緊張してしまう。

そして、そんな緊張を感じていないかのようなアイドルが俺の隣に一人。

 

「ハニー、やっぱりおにぎりの具は神秘だと思うの」

「だから、ハニーはやめろって言ってるだろ」

 

楽屋で食べたおにぎりの具に対してこれだけ楽しそうに語るのは美希くらいではなかろうか。とはいえ、本番前のこの緊張溢れる中に平常心でいられるという点が美希の強みとも言える。

 

ファーストライブ以降、765プロはこれまでとは打って変わって仕事が舞い降り、誰かしら仕事に出るように変わった。まだ、それぞれが非常に忙しいというほどではないのだが、プロデューサーが二人しかいないうちでは、俺と秋月さんがほぼ毎日誰かに引率する形となっている。とは言うものの竜宮のほうが出演数が多いため、秋月さんが基本竜宮担当といった感じだ。

 

765プロの多くは学生のため仕事が放課後に多く入るおかげで、何とかやれているという状況。

今日は星井のライブのあと千早の歌の収録に向かうとなかなかに忙しいスケジュールだった。だが、不思議とこの忙しさが心地良いのだから、やはり俺は社畜の適正があるらしい。

 

そろそろスタンバイお願いします。とイヤモニが流れる。

 

「緊張は大丈夫そうか?美希」

「うん、平気だよ。それよりも早くあそこで歌いたいってカンジ」

「美希ちゃん、頑張ってね」

「ありがとなの、あずささん。行ってくるの!」

 

同じ現場の竜宮小町の面々がそばに来る。

 

「ミキ、流石ね」

「なんだ、伊織。気づいてたのか」

「あんたね、流石にアイドルなめんな、って感じよ」

「そーだよ、にーちゃん。亜美たちだって焦ってるんだから」

「そうねぇ、美希ちゃんが歌ったとたん空気が変わったみたいになるものね」

「…悔しいけど、あれは美希には敵わないって思うわ」

 

そんなこともないと思いつつも特に口に出さない。ハチマン空気読める子、イイコダヨ。

確かに、ファーストライブを経て一番成長したのは美希だろう。

空気を変える、流れを自分に持っていくことに関してはピカイチ。

これから、もっと注目されていくに違いない。

ふむ、やっぱりあの件について社長に相談してみたほうが良いだろう。

 

会場いっぱいの視線を浴びる星井美希はキラキラと楽しそうに輝いている。

ま、大丈夫そうだな。

「秋月さん、すみません。途中になってしまうんですが収録のほうに向かうので、あとはよろしくお願いします」

「任されました、プロデューサー殿」

 

会場から出る瞬間、湧き上がる歓声に背中を押された気がした。

 

× × ×

 

「どうした?如月」

 

美希のライブ会場から場所が変わって収録現場。

隣には微妙な顔をした如月が一人。いや、如月が二人、三人いたらそれはそれで怖いのだが。

 

「いえ、別になんでもありません」

「あー、そうか?まぁ、何か気になることでもあれば早めに言ってくれよな」

 

何故か俺は、本日三回目となるやり取りを繰り返していた。

乙女心は難しいとはこのことだろうか?

やけに難しい顔をしている如月は口を真一文字に結び、先ほどからこちらをちらりと見たり、かと思えば避けたりを繰り返している。何か気に食わぬことがあるのだろうか。

 

ことの始まりは収録現場に行く前に駅前で待ち合わせをしたところからだった。

 

・・・

 

駅前留学のポスターがやたらと掲示された駅は、人はまばらで、普段の騒然とした雰囲気とはまた違った顔を見せていた。買い物帰りの夫婦ややけに距離の近い男女が多いことが、今日は世間的には休日であると実感させる。

 

世間は休日だが俺はせこせこと働いているのだから、休日とはいったい何なのだろうか、と言葉の定義に揺らぎを感じていると、これまた普段見かけることのない容姿の整った少女がこちらに向かってくるのに気づく。

これまでの俺なら壺や絵画などを売りつけられるのではないかと警戒していたところだが、今の俺は一味違うぜ…多分。

 

「すみません、プロデューサー。少し電車が遅延していて」

「いや、気にすんな。そういうのも考慮して少し早くに集合にしてるからな、如月」

「そうですか」

 

できるプロデューサーだろう?エッヘンみたいにどや顔していたつもりなんだが普通にスルーされたな…。そんなに顔芸へたくそだったか?

うんともすんとも、くっ…とも言わない如月はスンと澄ました顔で隣に並ぶ。

アイドルと言えばプリンセスなキュート属性を思い浮かべがちだが、如月のような整った顔のフェアリーなクール属性もやはり良い。

 

「なにか私の顔についていますか?」

「目と鼻と口がついているな」

「そうですか」

 

定番のボケにすら反応しないとはさすが如月。よし、楽しく話せなかったな!

 

「それよりも、歌の仕事というのは本当ですか?」

 

如月のさきほどまでのその辺のゴミを見るような目に、少しアイドルらしい光が差し込んだ。

 

「お、おう。本当だ。とは言っても大きな仕事ではないんだが」

「いえ、歌の仕事に大きいも小さいも関係ありません」

「そうだな。これから少しずつ如月のやりたかったことができるようになっていくと思う…多分、きっと」

「なんでそんなに曖昧なんですか」

 

ジトっとした目つき。悪くない。

 

「確実とは言えんからな。また、黒井社長が何かを仕掛けてくるかもしれんし。それに」

「それに?」

 

――― 少しのことでも彼女らと嘘の約束はしたくない

 

なんてらしくない言葉は口にしない。

 

「あー、続きは特になかったわ」

「変なプロデューサー。まぁ、変なのは元からですね」

「おい」

 

少し前までならこんな軽口をいうような関係を想像すらできなかったのだから、なんともまぁ、さもありなむ。

収録現場へと足を向けつつ続いた、そんな実りの無い会話のやり取りが目の前の赤信号とともに止まった。

止めたのはププッと耳を刺すような何とも形容しがたい嫌な音。点滅する青信号を無理に渡った男へ向けたクラクションだろうか。

 

鳴らされた当の本人は気にする素振も見せず前を歩く友人らしき人物とのおしゃべりに夢中である。これだから最近の若者は…、と言われるんだぞと思ったのだが、別に若者に限らずとも老若男女行う人間はするのだろう。かく言う俺も交通事故とは悪縁がある。

 

お得意の一人脳内おしゃべりにふけっていると、隣に並んでいた如月が一歩下がったのに気づく。

 

「どした」

「いえ、道路に近いと危ないと思って…。ぷ、プロデューサーも一歩下がってください」

 

そう言い終わる前に袖を引かれる。その情景がふと昔の記憶の小町と重なった。

そういや小町も同じようなこと言ってたな。ま、二度も交通事故にあってたら心配の一つや二つするものだろう。

少なくとも小町が事故に合いそうになったら、また身を挺してでも守るだろう。

 

「用心するに越したことはないな。何せあの黒井社長に狙われたアイドル事務所のプロデューサーだ、いつ何されるか予想もつかん」

「…はぁ、もうそれでいいので、しゃんとしてください」

 

あきれ顔の如月は顔が良いので、余計に罪悪感が増す。

何というか、如月のあきれ顔は雪ノ下の表情に被るんだよなぁ。

本人たちには口が裂けても言わないけどな。

 

順調にフラグを立てつつ、歩みも進め、駅を出てから10分ほどで目的のスタジオに到着した。

 

「あ、あの」

 

よーし、これからおっさんばかりのむさ苦しくて居心地の悪い現場でハチマン頑張るぞー、と入る前の気合を集中させていたのだが、如月も一緒にやりたくなったのだろうか。全集中の呼吸は勿論、波紋の呼吸もマスター(履修済)の俺にかかれば現場に入る勇気だってきっと出てくる。

 

ねーちゃん、あしたっていまさッ!

 

「ありがとうございます」

「え?」

 

突然の感謝の言葉にたじろぐ。まだ勇気の出し方は教えていないのだが。

腐った目を見開いて如月の表情を見ると、どうやら冗談やふざけの雰囲気ではないようだ。

 

「前に歌の仕事がしたいって言ったの覚えていますか」

「ああ、そりゃあな」

「だからそのお礼です」

「あの時は俺の力不足で仕事を持ってこられなかっただけだし、今回だってライブで如月が頑張ったからきた仕事だ。別に俺はなにもしていない」

「でも」

 

まだいい足りなさそうな如月の言葉を手で遮る。

これ以上続くと背中のむず痒さに耐えられん。

 

「まだ、初めの一歩みたいなもんだ。こっからだろ」

「…はい」

「ま、そんなに気負わず、いつも通りに頑張ってくれ」

「プロデューサーは私がこれからもっと歌えると思いますか?」

「そんなの当たり前だろ。“ずっと隣で見守っててやるよ。”ま、見てるだけしかできないかもだが」

 

なーんちゃって、というボケをかましたのだが、やはり如月とのボケの相性が良くないらしい。駅前のときの無反応とは反応は違えど笑ってくれない。何となく頬に赤みが出てるあたり共感性羞恥させてしまったかもしれん。

恥ずかし。共感性羞恥の無限ループ。

 

「…よ、よろしくお願いします」

消え入るような返事を俯きながら如月が返す。

 

そこまで恥ずかしいボケだったのだろうか。

まぁ、存在自体が恥ずかしいとまで小町に言われた俺からすればただの致命傷。

気持ちを切り替えるべく、なるべく明るい声色でいこう。

 

「よし、そろそろ行くぞ。先方さん待たせちゃ悪い」

「…はい」

 

いまいち嚙み合わない会話を切り上げ、重い両開きの扉を押した。

 

・・・

 

ふむ、事の始まりを回顧してもこうなった原因はいまいち思い当たらない。

 

それにもうすぐ収録の本番だ。きっと歌に対する緊張とかそんなところだ。

難しい顔をしていたら、歌も上手く歌えなかろう。

 

「あー、なんだ。如月。なんか思うことがあるのかもしれんが、気持ちを切り替えていこう。そんな顔してたら歌にまでのっちまうぞ」

 

ぱっと目を見開いたかと思うと、その一瞬で顔つきが引き締まる。

その姿は彼女がプロなのだと改めて実感させた。

 

「すみません、プロデューサー。でも、もう大丈夫です」

「みたいだな」

 

それじゃあ、そろそろ本番入りまーす、とスタッフの間延びした声が聞こえる。

如月は小さく頷き、席を立つ。

そして、ふーっと一つ息を吐きだし、振りむいた。

 

「プロデューサー、行ってきます」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

本日二度目の送り出し。そんなやり取りに思わず口の端が上がる。

美希も如月も頼もしくなった。

俺が何かしたわけじゃないし、何かできるとも驕ってもいない。

だから、

 

少しでも自信をもって送り出して、そして出迎えられるよう俺の出来る範囲で尽力していこう。

 

それくらいなら、夢を見てもいいだろう。

 

 




お久しぶりです(小声)

すぐ上げるとか就活が終わったら上げるとか色々言ってましたが、言い訳はしません。
お待たせして申し訳ありません(汗)

なるべく早く続きが書けるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


話は変わりまして、今回のお話ですが美希と千早のリンク回みたいな感じになっています。ところどころ似た表現に気づかれた方も多いと思います!
伏線(自称)もちりばめたので少し予想をしながら今後も読んでいただけるとより一層楽しめるかと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました。
感想や意見等いただけるとモチベーションになります。よろしくお願いします!



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やがて彼らは古の都に足を運ぶ。

世代を超えて愛される。そんなキャッチコピーに目に留まる。

竜の魔王から世界の半分をくれてやるという甘い誘惑に乗った勇者はすべての記憶をなくし、再び徒労の旅に出ることになる。ちょっとした好奇心で押したそのボタンに幾数もの愚者たちが後悔したに違いない。

そんな勇者も愚者もⅡが出たら再びの世界に心を躍らせ、Ⅺとなった今も多くの人々が次を待ちわびているのだろう。

かく言う俺もその一人。Ⅷが出た時にはもうほぼこれ実写だろ?と技術の進歩に心を奪われていた幼い俺も、今やⅪを見てもうほぼこれ実写だろを繰り返しているあたり…いや、精神年齢全然変わってねーな、全然大人になってない気もしてきた。

かがくのちからってすげー。

 

大きく掲げられた看板が整然と立ち並ぶ駅のホームはどこか浮足立つ空気を感じさせる。

ホームという言葉は一緒であれど、在来線のホームと新幹線のホーム。唯一違うとすれば移動距離とその速度だが、これから遠くに出かけるという雰囲気が気持ちをそうさせているのだろうか。

少なくとも、一介の高校生からしてみれば新幹線に乗って京都に行くことは一大イベントと言っても差し支えないだろう。

でも、素直に喜べないもやもやが心の隅にあるのはなぜなのか。

 

「はぁ」

 

これが仕事じゃなければなぁ。

そんな葛藤に苦しむ俺の隣には、四条貴音がいくつもの駅弁を手に携えていた。

 

 

「新幹線の中で食べるこの駅弁というものは格別ですね。きっとこれを事務所で食べるとまた違った味がするのでしょう」

「景色を見つつの駅弁ならわかるが、まだ都内じゃねえか」

 

乗車してからわずか5分ほど。袋には既に2つの駅弁ガラが入れられていた。

東京駅の駅弁屋で買い集めたらしいその駅弁らは多種多様で、牛肉どまん中やシウマイ弁当、鳥づくし弁当など東京以外の駅弁が積み重ねられている。

それにしてもよく食べるな。こんなに飯を食っていても体形が全くといって変わらないのだから不思議極まりない。摂取した栄養の行先でもコントロールできるのだろうか。先日も天海が、貴音さんが羨ましいとボヤいていたが、きっと由比ヶ浜や雪ノ下も同じことを言うに違いない。どっちの方で、かはあえて言わないが。

 

「それであなた様。これから、どのようなすけじゅーるなのでしょうか」

 

四条の問いに答えるよう視線を手元に戻す。

 

「あー、そうだな。まずは京都駅で取材班と合流して銀閣寺の方に向かうらしい。紅葉シーズンのぎりぎり直前ってのとド平日ってのもあって人も最盛期よりは幾分マシ、だそうだ」

 

雑誌の特集『古都 京の都秋を旅する』というテーマらしく、そのモデルとしての白羽の矢が立ったのが四条だった。京都で育った背景と四条という名前が相まってベストなモデルだと是非にと声が掛かったらしい。

紅葉シーズンをテーマにしたものだが、その最盛期より早いタイミングで撮影。聞くところによると、真っ赤に染まった紅葉のベストな写真は昨年のものを使うらしく、今回は一部紅葉したところを上手く隠すように撮影をしてモデルを交えた写真を用意するのだとか。

確かにその年の紅葉に合わせていたら発売に間に合わないのだから、世の中上手いこと見せているのだと素直に感心をした。

 

「そんで、そのエリアでの撮影を一通り終えたら、次は永観堂に移動。んで、最後が清水寺にいって撮影は終了。こまごましたのは省略しているが、大まかな移動はそんなところだ」

「なるほど。祇園・東山のほうのえりあが中心なのですね。天神さんの方へは今回は参らないのは少しばかし残念です」

「天神さん?…あぁ、北野天満宮か。確か菅原道真公を祀っていて…学問の神様だったか?四条は何か願いごとでもあったのか」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、昔おじいさまに連れて行ってもらった思い出があり、懐かしく思ったので」

「なるほどな、二日目は予備日だから特に何もなければ行ってみるか」

「あなた様、まことですか。それはありがとうございます、是非に」

 

柔らかな表情の四条はそう言うと、7つ目の空になった駅弁を慣れた手つきで袋に入れ、その口をきゅっとしめた。

 

× × ×

 

はいオッケーでーす。

ふむ、実に良く通る声だ。俺の声より5倍は良く通るに違いない。というか、俺に限らずオタクは大体そう。オタクの人ってみんなそうですよねって涙目で言われるレベル。

プロデューサーとしての業務はほぼ同伴している荷物持ちと言っても差し支えないほどに順調に撮影が進んでいた。仕事がないことは上手くいっている証拠、便りがないのもよい証拠。

きっと中学のころ送ったメールに返信が未だないのも、元気だからなのだろう。

シーズン前とは言え、ここは京都でしかも清水寺。

紅葉は少ないが十分見ごたえのある景色に魅了される。

都会のビル群とは異なる重厚さを感じさせる木造建築にどこか懐かしさを覚え、自分が日本人であることを自覚させた。

四条を見ると、二寧坂の土産店での撮影を終え、本日のすべての予定が無事遂行されたようだった。

 

「おつかれさん」

「はい、あなた様もありがとうございました」

「プロデューサーなんて言いながらただの荷物持ちしていただけだけどな」

「いえ、そんなことありません。私はちゃんとあなた様がいろいろなところで気配りをなさっていたことに気づいていますよ」

「さいですか」

 

ふふ、と微笑む四条から目をそらすと京の都に沈む夕日がやけに目に染みた。

 

「それであなた様」

「ん?」

 

四条のやけに神妙な顔に思わず背筋を伸ばす。

 

「夕ご飯は何を食べましょうか」

 

ドンガラガッシャン、8時だったら間違いなくそう鳴ったに違いない。

 

 

結局夕ご飯はスタッフの方おすすめのところに足を運び、きんし丼を食べた。

ふっくらと焼き上げられたうなぎとそれを覆う艶やか玉子が互いの良さを引き立てあって大変美味だった。まぁ、うなぎということもあって普通の高校生なら二の足を踏むような価格だが、こちとら馬車馬のごとく働いているから資金には困らなかった。

 

「あなた様が払わなくても大丈夫でしたのに」

「別に気にすんな、使い道も少ないからこれくらい払わせてくれ」

「それでは、ごちそうさまでした」

「あいよ」

「時折、あなた様のほうが年上かと思ってしまいます」

 

横を歩く四条が笑った。

最初は全員に対して敬語を使っていたのだが、そのうち堅苦しいだの壁があるだの色々難癖をつけられてアイドルに対しては敬語なしという謎の制約をつけられたのだ。因みにそれならば、お互いにため口でという提案は一蹴されている。

 

「だといいんだけどな。正直この業界にいると自分がいかに幼くて軟弱かを実感するよ」

 

業界の猛者たちがあの手この手でやり取りをしている世界。ただの学生である比企谷八幡などただの素人。猛者からすればカモでしかないだろう。

それでも社長や音無さん、秋月さんらの助けがあって何とかやっている。

力不足ばかりを実感し、何か役に立てているのかと自問してばかりの日々。

 

「大丈夫です。春香や雪歩などあなた様と同じ齢ですが、この業界でやっていけています」

「それとこれとはまた話が違う気もするんだが」

「それに、本当にあなた様が力不足だとしたら社長や音無さんが付くと思うのです。今こうして私とあなた様の二人きりでこの地にいることこそ、信頼の証です」

「そうか」

「そうです」

 

アイドルとプロデューサー。その関係がどのような形が理想かは分からない。

だけど、今隣にいる四条との歩幅が同じなのは確かだった。

 

× × ×

 

早朝。

やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる 雲のほそくたなびきたる。

まったくもって春ではないのだが、京都の夜明けと言えばこのフレーズが浮かぶ人も多いだろう。別に京都である必要もないのだが、やはりオタク。聖地って聞けば大体巡礼しておきたくなってしまうもの。

さて、どうしてこんなに朝早く起きたのか。発端は昨晩の四条だった。

 

深夜にお腹が減ったかららぁめんを食べに行きたいと言って聞かなかった。四条ならもしや、とは一瞬頭をよぎったのだが、アイドルが深夜にラーメンを食べることを許すプロデューサーがどこにいるのだと心の中の秋月さんに突っ込まれて正気を取り戻した。

しかし、深夜にラーメンが食べたくなる気持ちは分からなくもない。時刻は1時、開いてなくはないだろうが…と悩んでいたところである事実を思い出す。

 

「四条、我慢だ」

「うぅ、あなた様のいけず...」

「深夜のラーメンは流石に俺も許可だせん」

 

涙目上目遣いの美女に懇願される機会など人生においてあり得ないのだが、ここは厳しくプロデューサーらしく。

 

「だが」

「だが?」

「早朝のラーメンは世間的に禁止されていない!あと5時間、5時間耐えて早朝ラーメンに行くぞ」

 

涙目上目遣いの美女に懇願される機会など人生においてあり得ないのだから、ここは比企谷八幡らしく屁理屈をこねていこう。

 

場面は戻って早朝。京都駅のわきへとのびる橋を渡った先に二つのラーメン屋が並列している。時刻は6時5分前。

開店前だというのに店先には5人ほどの列が既にできていた。

第一旭と言えば京都のラーメンを語るのに外せない筆頭。隣に並ぶ新福菜館は黒いスープで有名でこちらも名店。

 

「早朝からやっている名店がある京都、最高すぎる」

「まこと、私は知りませんでした。らぁめんと言えば昼頃に開くものだとばかり」

 

朝にラーメンと聞いて重いと思う人もいるかもしれないが、ここ第一旭は澄んだしょうゆベースのスープが特徴のラーメンで、あっさり系。あとひくスープがもう一口もう一口とはしが止まらないうまさとデフォルトで大量のチャーシューが乗せられた、まさにザ・ラーメンと言えるだろう。つまりどういうことかというと、

 

「うまかった」

「まこと美味でした」

 

朝から特性ラーメン大盛りを2杯食べる女性に店員さんも驚きの表情を浮かべていた。

そんなことを気にせずおいしそうに食べる四条を見ると連れてこられてよかったと思う。

 

「そんじゃ、このまま行きますか」

「こんな朝からどちらへ」

「昨日約束しただろ。何事もなく終わったら北野天満宮に行くって」

 

京都駅のバスターミナルからバスに揺られること30分北野天満宮前駅で降り、少し歩くと開けたロータリーのような場所。すぐに大きな石製の鳥居が門を構えているのが目に入る。鳥居の扁額には天満宮と立派な文字が掲げられ、その両端には天満宮を見守るように狛犬の阿形、吽形が座っている。

 

「町のなかに急にこんな大きい神社が出てくると、なんというか驚くよな」

「そうでしょうか?私はこういう土地で育ったので神社が近くにある生活が当たり前だったのでそこまで違和感がないのですが」

「あぁ、そういえばそうか」

「それに東京でも浅草などでは同じように町中にお寺や神社がありますゆえ」

「じゃあ、俺があんま意識したことなかったってだけなのかもな」

 

日常生活で寺や神社を気にして生きている男子高校生などほとんどいないだろう。実際、身近にある神社なんて稲毛浅間神社くらいしか知らんし。

育った環境によって世界の見え方が異なっているのだろう。寧ろ世界を同じようにみている人間に出会うほうが難しいのだ。同じ高校の同じ学生でも雪ノ下や由比ヶ浜とはものの考え方が異なるときもあるし、葉山や材木座、それに戸塚とだって感性は違う。

100人見れば100人の感想がきっとあるのだ。

 

「みなが違う意見や感想を持つことは当然のことです。そして、私たちアイドルは時にいろいろな言葉に励まされ、時に傷つくこともあるのでしょう。ですから、あなた様にそばにいてほしいのです。あなた様は私たちと一緒にその言葉を喜び、悲しみ、そして悩んでくださいます。あなた様はそれを誰にでもできることと切り捨ててしまいますが、そんなことはありません。あなた様のその優しい心に私たちはいつも支えられているのです」

「四条…」

「ですから、これからも何卒よろしくお願い申し上げます。プロデューサー」

「お前らが思っているほど、俺は役に立たないとは思うのだが、その、まぁ…いや、そこまで言われてグジグジ言うのもなんか違うか。改めてになるが、こちらこそよろしく頼む」

「はい」

 

見える景色はみんな違う。では、俺はどんなふうに見えているのだろう。

 

× × ×

 

「プロデューサー殿、京都はいかがでしたか?」

 

お土産の阿闍梨餅を手渡すと秋月さんがそう聞いてきた。

 

「そうですね、やっぱり日本人なんだなって実感しました」

「あぁ、分かります。なんていうか遺伝子レベルでそういう良さが刷り込まれている気がしますよね。懐かしい、って思っちゃいます。別に京都に住んでいたり和式の家に住んでいたりするわけでもないのに」

「不思議ですよね。人によって見えている景色は違うのに種族というか枠というか、日本人が感じるものは似ているんですね」

「小さい頃から昔ながらと言えば、といった情景描写が刷り込まれているのかもしれませんね。ほら、よくテレビとかであるじゃないですか。和を感じるとか」

 

日本昔ばなしや時代劇なんかもその一助なのかもしれない。

 

「あれ、そういえばプロデューサー殿もうすぐ修学旅行じゃなかったでしたっけ。小鳥さんがスケジュール調整しないとって言ってましたけど」

「あー、言われてみればもうそんな時期か。確か、再来週あたりでしたね」

「どこ行かれるんですか?」

「えーっと…あっ」

 

忙しいと予定を忘れがちなんて言うけれど、どうやら本当らしい。

四条と京都駅を出発するときには暫く来る機会はないなんて思い、やたらとお土産を買いこんだのだ。道理でお土産を渡した小町の顔が芳しくなかったわけだ。なぜなら

 

「また京都に行きますね…はは」

 

修学旅行先は京都。

欲しかった土産物はほぼコンプ。

よし、楽しくなってきたな。

 




いつも読んでいただきありがとうございます。
あとがきまで読んでいるかたがどれほどいるか分かりませんが、これを読んでいるあなたにいつも感謝しております。
今回は貴音さんと故郷(諸説あり)の京都編でした。アニメ版の貴音さんってミステリアスで最強キャラ感ありますけど、意外とお茶目でとてもかわいいですよね。

次回から修学旅行編に入るのですが、そこまで深くやる予定ではないです。極力原作やアニメ見ていなくても分かるよう心掛けますが、細かいところはかなり省く予定なのであしからず。

意見や感想が励みになりますので、気軽に書いていただけると嬉しいです。
それでは、また次話でお会いできれば


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意外と彼のラブコメは外れない。

 

日が傾くのがだいぶ早くなったな、と西日を避けるように椅子の位置を少しずらす。

久方振りの奉仕部部室は特に変わらず、雪ノ下と由比ヶ浜が談笑している。

普段と少し違うとすれば、目の前のカップに入った液体が紅茶ではなく緑茶であることくらい。

このまえの京都収録のお土産で買ってきた生八つ橋を部室にもっていくと、雪ノ下が慣れた手つきで緑茶を注いでくれた。というか急須まで備えているとか本格的に放課後ティーパーティー。

何だかんだと高校には通っているのだが、放課後はそのまま事務所に直行することが多かったからか、この席に座るのも久しぶりに感じる。

 

「それにしてもヒッキー、これから京都に修学旅行で行くってのに仕事で先に一回行っちゃうなんてツイてないね」

「いや、ツイてないかどうかはよくわからんが。まぁ、別にいいさ。京都は嫌いじゃないし、何なら結構好きなまである」

「意外ね、あなた伝統や格式といったものはゴミみたいに扱うのだと思っていたのだけれど」

「そりゃ、わけわからん伝統(笑)的な無意味なルールはゴミみたいなもんだと思っているがな。日本史と国語が好きな文系男子からしてみれば、京都はある種の聖地だからな」

 

四条と仕事でまわった場所もそこまで多くなかったし、それにあれはほぼ日帰りの弾丸旅行のようなものだった。

 

「そのうちまた一人でいくだろうな」

「これからみんなでいくのに!?」

「ばっか、おまえ。修学旅行なんて行きたいところいけるようなもんじゃないだろ。それにああいうところは一人のほうが余韻に浸れるからその方が逆にいいんだよ」

「一人旅って寂しくないかな…」

 

どん引きというよりは心からそう思っているような言葉。

みんなと仲良くワイワイすることに慣れている由比ヶ浜からすれば、悪気があって言っているのではないだろう。

しかし、雪ノ下のほうは俺の意見に賛成らしく、ふむと頷いていた。

 

「そうでもないでしょう。ああいう場所でこそ一人で行った方がじっくりと回れるし、楽しいと思うけれど」

「そうそう、自由に自分の行きたいところにかけたい時間を使うことができるしな。うるせぇ高校生たちと龍安寺の石庭とか見ていたら、庭石拾い上げてそいつの頭をかち割りかねんからな」

「流石にそれは…世界遺産なのだからしないけれど」

 

雪ノ下がものすごくどん引いていた。だが、世界遺産じゃなかったらしちゃうのかよ。

こいつコナンに出たら歴史的価値を守るために事件起こしちゃうタイプの犯人だな。

 

「そういえば、貴音さんの出る雑誌って京都特集なんでしょ。それ修学旅行の参考にならないかな」

「残念だが、発売は修学旅行二日目だな。事務所のほうには献本としてもうすぐ来るだろうが流石に私用で持ち出すわけにもいかん」

「そっかー、残念。あ、でもでも、ヒッキーも同じところ行ってきたんだし、何かおすすめの場所とか食べ物とか聞いてきたんじゃない?」

「まぁ、そりゃいくつか聞いてはいたが、ターゲット層が少し上だからな。学生には微妙に手が出づらい価格帯が多いな。手ごろな奴は大体他の情報誌やサイトに載っているだろうし」

 

というか、最近の情報って大体インターネットで調べたらなんでもわかっちゃう。ゲームの攻略とかまさにそれ。攻略本を買って、ドット絵でしか表現されていなかったキャラクターのイラストデザインを見てワクワクする小学生はもう絶滅危惧種だろう。けど、本からしか得られない成分ってのがきっとあるんだよなぁ。

 

「そういや何故か旅行雑誌って未だに売れているんだよな。もちろん売り上げは落ちているのかもしれんが少なくともゲームの攻略本よりは見かける」

「ゲームの攻略本が何なのかはいまいちよく分からないけど。るるぶとかはさ、繰り返しどこでも見られるってのがいいんじゃないかな」

「そういうもんなのか?少し調べりゃおんなじようなサイトがいくつも見つかるだろ」

「だからこそなのよ、比企谷君。調べていて良いなと思った情報を改めて見ようとしても見つからないことって多いのよ。類似のサイトが多いからどのサイトで見たのかが曖昧になってしまうし。それに旅行と言えばこれ、という形式というものもあるでしょう」

「お、おう。なるほどな、よーく伝わったわ」

 

るるぶの重要性についてやたらと熱く語る雪ノ下の手元にはしっかりと京都版るるぶが握られていた。

× × ×

 

トントンと控えめに扉を叩き、海老名姫菜がやって来た。

何やら依頼があるらしく、由比ヶ浜の正面にあるパイプ椅子に腰をかけている。

 

「ひなが来るなんて珍しいね、どしたん」

「とべっちのことで、ちょっと相談があって…」

「と、ととととべっち!?な、なになに!?」

 

かちゃんと陶器がぶつかる音が響く。驚き目を向けると、どうやら雪ノ下が急須と湯呑をぶつけたらしく、湯呑の縁を撫でていた。

由比ヶ浜の異様のくらいつきに驚いたのだろうか。

雪ノ下が海老名さんの正面にお茶を置く。

準備はできたとばかりに、俺たちの視線が集中すると、海老名さんは頬を赤く染めて口を開いた。

 

「そ、その、い、言いづらいんだけれど…」

 

それはまるで、告白を口にするような乙女の仕草。ソースはギャルゲ。大体この後、指摘されるのは服が乱れているだのなんだので、告白ではないまでがテンプレ。

ということは、この海老名さんの動作もきっと告白ではないはず。

というか、もし告白だとしたら、俺が絶対に許さない。別にどっちにも興味はないが他人が幸せになることにはやたら過敏なのは陰キャのサガ。それはもうゾンビヒキガヤサガ、もといゾンビヒキガヤチバ。

 

「とべっちがさ…」

「とべっちが!?」

 

先を急かす由比ヶ浜の超反応に海老名さんも覚悟を決めたらしく、すっと息を吸うと、かっと目を見開きありのままの感情をぶん投げた。

 

「とべっち、最近、隼人君と仲良くしすぎているっぽくて、大岡君と大和君がフラストレーション!けど、私はもっと四人の爛れた関係が見たいのに!これじゃあ修学旅行でこの絶妙な関係性が崩壊目前だよ!」

 

だよ!だよ!よ!よ…。

静かな部室に反響する海老名さんの魂の叫びは俺たちに有無を言わせず、ただ虚空を見つめることしかできない。

いちはやく虚空から戻った由比ヶ浜が一同の頭に浮かぶ問いを投げかけた。

 

「え、えっとつまりどういうこと?」

「最近とべっち隼人君と意味ありげに目を合わせていることが多いじゃない?それにグループ分けも何故か不自然だったし」

「グループが不自然?修学旅行のか?確か4人グループとかだったから葉山、戸部、大岡、大和の4人じゃねーのか」

「んん?当事者が何を言っているの」

「は?」

 

ぐいと海老名さんが気持ち近づく。

 

「隼人君ととべっちはヒキタニくんの班でしょ。それに戸塚君。はっ、もしかして星の王子さまの再公演!?王子を二人のぼくが取り合う中でキツネがそのすきを狙って!?きましたわーー」

「ひなとりあえず落ち着いて」

 

1人で盛り上がっている海老名さんの興奮をなだめる由比ヶ浜との話の中で大体の依頼の全貌をつかむ。グループの雰囲気が普段と違うらしく、違ったままより元の関係性が良いとのことだった。

 

「今まで通り楽しくやりたいもん」

 

今日初めて海老名さんから発せられたのではないかという腐臭や邪気を感じさせない純真な言葉。それだけに海老名さんの言葉の裏が嫌に気になる。

 

「それじゃあ、私はそろそろ行くね。あ、そうだヒキタニくん」

 

立ち上がった海老名さんが続けた。

 

「文化祭の活躍隼人君から聞いたよ。だからさ…ヒキタニくん、よろしくね」

 

その言葉で確信した。海老名さんの言葉には別の意味がある。

プロデューサーをしていて言われる2種類の『よろしく』という言葉。1つは純粋な依頼やお願いとして。

そしてもう1つが

『意味わかってるよね?』という念押しの裏のあるよろしく。

 

何度も言われているうちに自然と判別がつくようになったものだ。

 

そして、海老名さんの最後のよろしくはまさしく後者のよろしくだった。

 

× × ×

 

「そんで?」

「それでっていきなり何のことかしら。日本語には主語と述部が存在するのだけれど、あなたの母国語の場合違うのかしら」

「なーんで急に毒舌になるんだよ。そりゃあさっきの海老名さんの事だよ。由比ヶ浜はともかく雪ノ下まで動揺していただろ、だから何かあったのかって意味で聞いた、おけ?」

「ちょ、ヒッキーあたしはともかくってどゆことだし」

「はぁ、そうね。由比ヶ浜さんはともかく、私も動揺が出てしまっていたのは反省するわ」

「ゆきのん!?」

 

ひとしきり由比ヶ浜をからかった後、本題に話を戻す。

 

「で、説明してもらえるか」

「そうね。今すぐに説明するのは難しいと思うわ。話の内容は戸部君のことについてなのだけれどもその依頼内容が彼のプライバシーにかかわるものだから安易に他人に知らせるのは好ましくないわ。一度彼に確認を取って了承を得次第説明するわ」

「まぁ、その言い回しとさっきの海老名さんのこと踏まえるとその相談内容も何となく想像がつくが、そういうことならわかった。だけど、仮に戸部が了承しなかったらどうすんだ」

 

恐らく戸部の恋愛相談のようなものだろうが、クラスの男子まして俺に知られたくないと思うのは至極当然のことのように思われる。いや、案外どうでもいいから知られても大丈夫説もあるか?

 

「もし、彼が比企谷くんに伝えることを拒んだら、今回の件はお断りするわ」

「は?一度引き受けた依頼を断んのか?」

「全部員の了承を得ずに引き受けてしまった依頼だから仕方ないわ。それに」

「そうだね、ゆきのん」

 

雪ノ下と由比ヶ浜が意味ありげに顔を見合わせた。

 

「部員が一人仲間はずれなのは面白くないでしょ」

 




いつも読んでくださりありがとうございます。
今回のお話は京都編へのつなぎなので物語的にはそんなに進まず、ごめんなさい。
次話もなるべく間隔があかないよう頑張りますが、そんなに期待しないでください。ここまで6年も掛けてる遅筆マンなのでそこはご承知おきを...

京都のお話以降は2人くらいのアイドルとのお話やってその後はアニメのメインストーリーの軸に戻ろうかと思ってます。もしこのアイドルとの絡みはどうしても見たいって言うのがあれば是非教えてください。

それでは次話でお会いできるのを楽しみにしております。


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ふたたび彼は古の都に足を運ぶ。

 

「意外とあっさり了承したわね」

「あはは…まぁ戸部っち隼人君のこと信頼しすぎなとこあるし」

 

あのあと戸部の依頼内容を部内で共有してよいか確認を取ったところすぐにOKメールが届いた。どうやら、メールを送ったとき葉山が隣にいたらしく、奉仕部に依頼しているのだから共有しないと協力は困難だと言われたそうだ。

正直そのまま依頼をキャンセルとかしてくれてもよかったのだが、戸部の決心は揺らがなかったらしい。

 

「ま、こっちができることなんて限られてんだろ」

 

戸部の依頼内容は海老名さんへの告白のサポート。少しでも成功率を上げたいらしく、あの手この手を裏からまわして欲しいとのこと。他人の恋路など興味はないし、寧ろ儚く散ってしまえばよいと思うが、依頼とあっては仕方がない。

 

「修学旅行で告白とか雰囲気にのまれすぎてんだろ」

「えー、でもそういうのも良くない?憧れのシチュの一つだと思うんだけど」

「非日常感の浮かれ気分から正常な判断ができない状態で付き合ったとして長く続くとは思わないけれどね」

「もーっ、ゆきのんもヒッキーもロマンが足りないよ」

「現実的と言ってくれ。んで、どうやって告白のサポートをするつもりなんだ」

 

雪ノ下がカラフルな付箋で彩られたるるぶを手に取る。

 

「戸部君からの正しい依頼内容は『修学旅行で海老名さんとより親密になりたい』というものなのだけれど…。実際あの様子だと告白まで考えているようだし、そこを念頭に考えると最終日の夜が決行日になるのが妥当かしら」

「だね!それまでの自由行動の間に二人の距離を少しでも縮めることができたらいいんじゃないかな」

 

雪ノ下の発言に由比ヶ浜が乗っかる。なんなら、るるぶを持つ雪ノ下を上からかぶさるようにのぞき込んでいるから、由比ヶ浜のあれも雪ノ下の頭に乗っかっている。

雪ノ下の不服そうな表情が、どこか如月に被って見えたがきっと気のせいだろう。というか、気のせいにしないといろんな方面からやられかねない。

 

「って、戸部からの依頼は告白の補助とかじゃなかったのか」

「ええ、あくまで少しでも修学旅行中に親密になれるよう手伝ってくれっていう内容ね」

「じゃあ、別に告白させなくてもいいんじゃねーの?」

 

うーん、と由比ヶ浜。

 

「でも、戸部っちは告白するつもりらしいから、言い間違えたというか言葉のあれってやつじゃないの」

「由比ヶ浜さん、それを言うなら言葉の綾よ。でも、そうね。比企谷君の言う通り、奉仕部への依頼内容は親密度向上なのだから依頼以上の行動は考えたほうがいいかもしれないわ」

「それに海老名さんの件もあるしな」

 

どゆこと?と由比ヶ浜が小首を傾げる。

それに続くように雪ノ下もこちらを見た。

 

「海老名さんの依頼内容だよ」

「ひなの依頼内容?あの隼人君ととべっち以外の男子とも仲良くしてほしいってやつ?」

「表面上のやつはそんなこと言ってたな」

「表面上ってことは本当の依頼は違うということかしら、比企谷君」

「だろうな。というか、あの内容だけならわざわざ奉仕部に依頼しに来る必要はないだろ。そうなれば、何か別の意味が含まれているのは間違いない」

「確かに海老名さんがわざわざ奉仕部に依頼しに来たにしてはいまいち要領を得なかったものね。でも、そうだとした場合海老名さんの本当の依頼内容は何かしら」

 

雪ノ下の指が顎にそっと添えられる。

そして、どゆこと?と由比ヶ浜は再度小首を傾げた。

 

「海老名さんは奉仕部に来たのは今回初めてだ。材木座のようにわざわざ雑談をしに来たとも思えん。それに依頼があると初めにいっていたことを踏まえれば、その内容に何かしらの意図があることは明らかだ。由比ヶ浜から見て最近海老名さんの変わった様子とか何かないのか」

「なるほんねー。けど、ひなの変わった様子かぁ。正直、ひなってスキがないというか自分の弱いところは見せないような気がするんだよね。だからこれと言って特にないかも」

「それじゃあ最近なにか相談に繋がるような出来事とかはなかったか?これは別に海老名さんに関わらず、由比ヶ浜だったらもしくは人によってはみたいな内容でいいんだが」

 

比企谷君、ヒッキー。

雪ノ下と由比ヶ浜の声が重なりお互い顔を見合わせる。

 

「そうだとするなら、きっとそれは修学旅行の班決めだよ」

 

× × ×

 

先日、四条と降り立った新幹線のホームとは雰囲気が打って変わり、ホームには騒然とした生徒たちのいかにも修学旅行行きますっ!といった浮足立った気配に満ち溢れていた。総武高校以外の生徒たちも多く見られ、先ほどから何種類もの制服とすれ違っていた。

隣に立つ由比ヶ浜もその類に漏れず、しっかりと浮かれているらしくその両手には大量のお菓子やら飲み物やらが詰め込まれたコンビニ袋が握られている。

 

「流石に浮かれすぎじゃねーの」

「そんなことないよ、ヒッキー!せっかくの修学旅行、しかも京都だよ。これを楽しまなくて何を楽しむのさ!」

「どうせなら一人で行っての現地集合とかのが良かった」

「あーもー、ヒッキーすぐそういうこと言う!」

「ハチマン、お待たせ!」

 

天使の呼び声にばっと振り返ると左手にはキャリーケース、右手にはお菓子が詰め込まれたコンビニ袋を携えた戸塚が右手を掲げながらこちらに近づいてくる。

 

「大丈夫だ、全然待ってないぞ」

「ありがと、ハチマン。新幹線の中で食べるお菓子選んでたら遅くなっちゃってさ」

「なるほどな、大事だよなそういうの。うんうん」

「ちょ、ヒッキー、あたしのときと反応全然違うじゃん」

「まぁ、そういうこともあるよな、うんうん」

「てかヒッキーもテンションおかしいし、修学旅行ウキウキじゃん」

 

1人の京都はいつでもいけるが、戸塚と一緒に京都旅行って考えたら、胸がどきどきして息がくるしくなっちゃう。ドキッこういうのが恋なの!?

ちがうか、違うな。違うことにしておこう。後ろにいる海老名さんの眼鏡がきらっと光った気がするし。

 

「とりあえず、海老名さんの様子はそんな変わってなさそうだな」

「うん、あれからそういう話にはならないようにあたしも気を付けてたし、大丈夫だと思うよ。それにしても、ヒッキーあれでいいの?なんかとべっちに悪くない?」

 

由比ヶ浜が葉山にやたらと絡んでいる戸部のほうに視線を投げながら苦笑いする。

 

「悪くないだろ、まっとうに依頼を遂行するだけだ」

「まぁ、ひなの依頼の可能性も考えたら今はあの作戦が一番なんだよね、ゆきのんも賛成していたし」

「ま、そういうことだ。だから依頼のことはそんなに気にせず素直に京都を楽しめ」

「…、だねっ!」

 

★ ★ ★

 

遡ること一週間前。

 

「とべっちの告白を手伝わない?」

「あぁ、海老名さんからの依頼を改めて考えてそれが一番いいんじゃねえかなって思ってな」

「意外ね」

 

そう口にした雪ノ下が口元を緩ませた。

 

「どういうことだ、そんなに依頼内容を改めて考えたのが変か?」

「いいえ、そこでは…いえ、それも意外といえばそうね。あれだけ労働は嫌だと言っていた男が、プロデューサーになってからはずいぶん労働に意欲的になったわ。よかったわね、社畜ヶ谷くん」

「おい、んで何が意外なんだ」

「あなたがそういうことを私たちに相談してきたとこよ。特にそういう悪だくみの類は一人で抱え込んで一人で背負おうとしていたでしょ」

「確かに、ヒッキー最初そういうこと多かったよね。文化祭とかさ」

「今回は必要だと思ったから情報共有しただけだ。たまたまだろ」

「ううん、そんなことないと思う。やっぱ、ヒッキーちょっとずつだけど変わっていってるよ」

 

由比ヶ浜が微笑む。

 

「プロデューサー、大変だろうけどあたしに手伝えることがあったら何でも言ってよね」

「あー…まぁ手伝えることがあったら、な」

「うん、それでいいよ」

「それで、比企谷君。戸部君の告白を手伝わないというのは」

「あぁ。戸部からの正しい依頼内容は『修学旅行で海老名さんとより親密になりたい』だったな」

 

ええ、と雪ノ下。

 

「だから、それに関しては努めよう。だが、告白を成功させたいとか告白までしたいとは依頼されていない。だから告白に関しては手伝わない。なんなら場合によっては阻止しても良いと思っている」

「そ、阻止!?手伝わないってのは分からなくもないけど、なんでそこまでするの?」

「それが、海老名さんの依頼内容ってことね」

「そういうことだ。海老名さんのあの遠回しな依頼は戸部の依頼と関連付けて考えると意味が通る部分が出てくる」

「なるほど。『最近とべっちの様子がおかしい』と『今まで通り楽しくやりたいもん』とい言うのはそういうことだったのね」

「あくまで予想でしかないが、現状両方の依頼達成に向けては、戸部の告白はさせないというのが妥当なところじゃないかと思う」

「そうね。確かに戸部君からは告白に関しては匂わせてはいたものの直接口にはしていなかったのだから理にはかなっていると思うわ」

「なるほどー、確かにグループ内でそういうのあるとギクシャクするよね」

 

わかるわかる、と頷く由比ヶ浜を雪ノ下が微妙な表情で見つめた。

こほん、と一呼吸おく。

 

「だから、それとなく二人が一緒になるくらいの手伝いでいいんじゃねえか。由比ヶ浜もあのグループが変な感じになるの嫌だろうし」

「えへへ、ありがと。ヒッキー」

「やっぱり、あなた変わったわよ。少し気持ち悪いわ」

「あはは、確かに気使えすぎててヒッキーっぽくないかも」

 

そういう二人の表情はやけに明るい。

 

「言っとけ。とりあえずそういうことでOKか」

「「OK」「了解」」

 

プロデューサーというキグルミに包まれた比企谷八幡。

中身がおっさんでもキグルミならば女子にちやほやされて囲われる。

では、そのキグルミをはがれた時いったいどんな反応をされるのだろうか。

 

それとも、そのキグルミのまま死ぬのだろうか。

 

 




書けば書くほど、話が進まないのは何故でしょうか
予定ではもっとスムーズに終わるはずなのに...

Pしている八幡はPヘッド被ってるのかってくらいキャラ違う気がしますけど、きっとそういうことだと補正しておいてください。

間あかないよう頑張るので、ご意見ご感想よろしくお願いします。  


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