SAO ~属性を操りし豪剣士~ (ALHA)
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第一話 ~始まる世界~

ども、はじめまして

ALHAと書いてアルハと申します。

この小説はチートっぽいオリ主がSAOの中に飛び込んでいくお話となっております。


尚、この小説ではソードスキルや固有名称は《》でとじさせていただきます。



「………成程ね」

 茅場晶彦のSAOデスゲーム化宣言の後、俺―――FREDは言葉を漏らした。

 

「(この世界で死んだら現実でも死に至る?上等……、俺は元々スリルだとかそういうモノを求めてこの世界に来てんだ。受けて立とうじゃん、茅場(あんた)の挑戦をよぉ)」

 俺自身特に命とかに妙な固執は一切ない。現実世界で面白みが一切感じられなくなった小学生の頃、死ねばファンタジー世界に行けるんじゃ?という考えを未だに持っている俺からしたら願いが叶ったりといった具合だ。

 

「さて、と。じゃあ行動を開始するとしようか」

 俺は周りにうじゃうじゃいるプレイヤーをかき分けひとまず広場の外へ出る。そして初期装備のスモールソードを売り両手剣《グレートソード》を買い、余ったコルでポーションを一つ買う。

 ここから目指すはホルンカの村、あの村の近くにはリトルネペントとかいうMobが出る。

 片手剣使いはこの村で受けられるリトルネペントの胚珠をとってこいとかいうクエストが必須クエとか言われているが、俺は正直必要はない。ただ経験値稼ぎするには俺にとってはもってこいの場所と、それだけだ。……まぁ胚珠は出たら出たで有効活用できるから持っておいて損はないが。

 

2時間後

 

 ホルンカの村への道中、鼠だとかイノシシと5、6回エンカウントしたが、ソードスキルの活用でほぼ一撃のもとに仕留め問題なく到着できた。そして俺の視界には数えられる程度のNPCに混じって緑のカーソルを持つ、つまりプレイヤーが一人いた。

「(へぇ、俺より先に着いてるプレイヤーがいるとは……。ああいう事態が起きたのにも関わらず俺より先にこの村へ到着するってのは中々命を顧みない奴だ)」

 まぁ俺が言えた義理じゃないが、俺だって多少の準備をしてこの村に来ている。で途中で抜かされたとかはなかったはずだから、間違いなくあの宣言の後すぐにはじまりの町を出たプレイヤーだろう。……素晴らしい行動力だことで。

 俺は自分に対して後ろを向いていた見た目少年の肩に手を置き話しかける。

「こんばんは、早い到着のようで」

「!あ、あぁ。驚いた、俺の他にもうこの村に着いている奴がいるなんて……、他のプレイヤーが来るまであと2~3時間はかかると思っていたのに」

 どうやら驚くのはお互い様だったらしい。

 

「ところで君は森の秘薬のクエストを受けるつもりかい?」

「あぁ、あれは片手剣使いには必須といってもいいくらいの重要なクエストだからね。というとあなたも?」

 やっぱり秘薬のクエストか……、だったらこのことは言っておかないとな。

「いや、俺はあのクエストはおまけだ、主の目的は別にある。故にもし森の中で俺を見かけたら即時その場から離れることをお勧めする。最悪、死ぬ可能性すらある。ま、とりあえず忠告はしたから、あとは自己責任ってことで。じゃ、また機会があったら」

「えっ、それってどういう……」

 少年が何かを言ってきていたようだったが、まぁ無視して件のクエストを受けられる家に入った。

 

 

---------------------------------------------

 

「なんだったんだ、あの人?」

 少年―――キリトは不思議に思った。なぜならこの村に来るプレイヤーのほとんどは第三層まで使えるアニールブレードが目的であり、レベリングやコル稼ぎだったら先に進んだ方が実りがいい。ベータテスターでないのなら効率のいい狩場を知らない等考えられるが、こんな早くにここに来れてる時点でその線は薄い。

 そこでキリトにある考えがよぎった。だがそれと同時にそれはあり得ないとも思った。その考えはデスゲームとなる前だったらまだしも現状でそんなことをするのは……

 

「……考えても仕方ないな」

 キリトは考えるのをやめた。自分にだってアニールブレードを手に入れるという目的がある。その目的を果たす上でさっきの男の言葉の意味を考えるのは不要と考えたからだ。

 

 そこまでを考えたところでキリトは夜の森へと足を踏み入れた。

 

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 時刻は既に8時……森に入ってから1時間。俺のレベルはあとちょっとで3に上がろうかという感じである

 俺は20匹以上ノーダメでネペントを狩っているがいかんせん効率が悪い……理由は簡単で……

「だぁああああ、さっさと実付き出ろやぁあああああ!!!!!」

 と言いながら、俺は手に持つ両手剣・の横一閃《ホリゾンタル》で目の前のネペントのゲージを削り切る。

 俺の目的は実付きの実を攻撃し、奴らを強制POPさせることだというのに、これが一向に出ない……。

 そして恐らく片手剣使いからしたら喉から手が出る程欲しいであろう《リトルネペントの胚珠》が何故か二つほどある……POP率間違えてんじゃねえのかと疑いたくなるような数字である。まぁ、俺としてもあって困るような道具ではないから良いっちゃ良いんだが。

 今更だが、よくよく考えると花付き放置しときゃ実付きになったんだよな……失敗したなこりゃ。

 

 とか考えていた時だった。

「ん?」

 急に、そして仄かに香ってきたこの匂い。

 そして、その臭気に誘われたのか俺の周りにいくつもカラー・カーソルが現れる……。

「あの少年か?それとも他の誰かか……。まぁ、んなことはどうだっていい。誰かが実付きの実を攻撃し強制POPが始まった、要するにやっと効率的なレベリングができるってこった……」

 そんなことを言っている内に俺の周りには既に数え切れないほどのカラーカーソルと共に植物どもが姿を現す。

「やってやろうじゃん。この程度で俺を倒せるとは思わないこった!」

 そう言うや否や、俺は目の前にいたリトルネペントにダッシュで近付き、奴の首目掛けて、単発斬撃《スラント》を決め、奴をポリゴン片に変える。ま、この程度のやつだったら弱点を攻撃すりゃ一撃で仕留めれるわな。

 それと同時に俺の左右にいたネペント共がウツボをぷくっと膨らませ、粘液の攻撃モーションに入る。そして攻撃モーションを見た後、振り向くと俺の斜め後ろにいた奴は蔓での攻撃に入ろうとしていた。

「よっ!」

 俺は蔓がギリギリ当たらないタイミングでその場ジャンプを決行し蔓攻撃をしようとしていたネペントの後ろに回り込む。すると、俺の眼前の光景のようになる。

 

 ネペントは俺と奴の対角線上にいたもう一匹の方へ蔓攻撃を仕掛ける事になり結果的に、仰け反る。そして、仰け反った奴の粘液は後方へ飛び別のネペントに当たる。更に、蔓攻撃を仕掛けた方は仕掛けた方でもう一匹の粘液攻撃に当たりダメージを負う。

 すると、今度はこの3匹に粘液を食らった1匹を加えた4匹で壮絶な潰し合いが始まる。

 

 俺がβ時代、効率的な経験値稼ぎのために編み出した、名付ければ《同士討ち》だ。

 やり方は至極簡単、複数の視覚以外を頼りにする連中を相手取り片方の攻撃を誘導してもう片方を攻撃させる。

 すると奴ら自身に嫌悪感―――ヘイトが溜まり仲間割れを起こす。

 俺はそれをしばらく眺め攻撃対象にされそうになったら、又同じ行動を繰り返す。それだけで奴らは勝手に瀕死になりそしてトドメを俺が刺す。

 SAOではパーティなどを組んでダメージを与え合っていると与えたダメージに比例し経験値が入る仕組みになっているが、この方法の利点は経験値が与えたダメージ分ではなく通常分ちゃんと入ることだ。

 勿論、敵が増えれば増えるほどこの方法を使うことは難しくなり、3次元的に場を支配する必要が出てくるが、β時代そこを徹底してマスターした俺にはどれだけ出てこようが相手が既知の敵である限り、ノーダメでこなす事ができる。

 

 こいつらも一回これをやってしまえばあとはひたすら避けてトドメを刺せば簡単にしかも大量に経験値を稼ぐことができる。……まぁ、目が見える相手だと中々潰しあってくれないのが唯一の欠点だけど、こいつらにそんなもんはないから気が楽だ。

「さて、そろそろトドメを刺しに……?」

 索敵に反応あり、カーソルはグリーン……プレイヤーか、しかもそれに追随するように赤いカーソル……、ネペント共に追われてると見て間違いはないな。

 俺はスキルスロットを両手剣と索敵で埋めている。理由は初期レベルアップにおいて必要なのは武器スキル一つと敵を探す索敵にほかならないからだ。武器スキルは勿論のこと、索敵は敵を探し出すに効果があるだけでなく、敵意あるハイディング能力を持つプレイヤーやMob共の急襲を防げるメリットもある。

 ちなみに索敵と同程度に人気のあるハイディングは自分にはありえない。スリルを求めてんのにわざわざそれをなくすスキルをつけるのは矛盾している。

 間もなくして、グリーンカーソルのプレイヤーが視界ギリギリに出てきた。

「……まぁ、モノのついでだ。目の前でプレイヤーが死ぬってのも胸糞悪ぃし、助けてやるとするか!」

 

 俺は潰し合っているネペント共を視界の隅に置きながらプレイヤーのほうへと駆け出す。

 プレイヤーのHPバーは緑、黄色になる寸前ってとこか、じゃああと3回程度は喰らってもHPは大丈夫だな。

 後ろからでも中心めがけて《バーチカル》あたりを叩き込めば消せるが多少余裕があるんでちょっと余計なことをする。

 助走をつけてジャンプをし奴の頭に跳び乗る。瞬間奴のタゲがブれ、目の前のプレイヤーへの攻撃を中断する。その隙に得物を頭上に上げ、思いっきり奴の頭に突き刺す。当然ソードスキルでもないので一撃とまではいかないが一気に黄色ゲージにまでHPを減らす。

 これでやつのタゲが完全にこっちに移動するが攻撃はさせねぇ。剣を引き抜き様に再びジャンプ、そして奴の首の前に来たところで弱点に向かって横一閃。俺の目論見通りプレイヤーを襲っていたネペントの一匹を片付け、残りの敵を見据えながら襲われていたプレイヤーに話しかける。

 

「よぅ、危ねえな。こんな所にこいつらの対処法を知らないガキは来るもんじゃねえぜ?」

「え?あ、あの……?」

 襲われてたプレイヤーを見るとバックラー持ちの片手剣使い、それにさっきギリギリまでカーソルが出なかったことを考えるとハイディング持ちか。

「(まぁ大体見えたな……)一つ聞く。こいつらの実を攻撃したのはお前か?」

「えっ……、あ、は、はい……」

 俺はほぼ確信を持ってそのプレイヤーに問う。そしてこいつは十中八九βテスターだと確信する。ホルンカへの道は他の主要ルートに比べると少々分かりにくい。そういう道をわざわざ通ってきたって事はその道を知っていたと見るべきだ。まぁそうなってくるとこいつらに《隠蔽》が効きにくい事を知らなかったってのも不思議な話だが、植物もどきはβテストじゃこの1層にしか出なかったから知らなかったのも分からなくはない、か。

 なので俺はそいつがβテスターだと確信を得て襲ってくる植物共をテキトーに捌きながら尋問する。

「へぇ、そうかい。だが実付きの脅威は分かってたはずなのに実を攻撃したって事は、そうさなぁ……誰かのMPKでも狙ってたか?正直に答えな!」

「は……はい!!」

「やっぱりな。まぁ、助けてやるよ。俺としては実を割ってくれたお前には割と感謝してるからな。ただしだ。お前さんがMPKしようとしていたプレイヤーの下にもこいつら捌いたら連れていきな。勿論、お前さんに拒否権はないぜ?」

 この状況で隠蔽使って逃げるのも別にアリっちゃアリだが、ちょっと考えれば分かる。これは絶対に断れないことが。もちろん死にたがりとかなら話は別だが、さっきの事からこいつらから逃げられないのは分かったはずだ。

「……分かりました」

「そう言うと思ってたよ。好きだぜ、そういう潔い態度は、さ」

「でも、もう死んじゃって……!?」

 そいつの目の前にソードスキルのライトエフェクトを過らせつつ、目の前のネペントを処理する。それ以上は言わなくていいという意味を込めて。

「つまんねえ予測してんじゃねえよ、俺はこいつらを潰したらそいつの下へ行くと決めたのさ、そいつが死んでようが死んでまいが関係ない、いいな!」

 俺は語気を強めて目の前のプレイヤーに告げるとそいつは無言で頷いた。

 

「さて、名前そういやなんて言うんだ?」

 戦ってる時、忘れてたがこいつの名前聞くの忘れてたなと思いだしつつ俺は聞いた。

「えと……コペルです」

「そうか、じゃあコペル。ちょいとそこで粘液でも落としときな。とは言ってもすぐに終わるから大して時間はないだろうけどな。」

 言うと同時に俺はネペントの群れに突っ込む。《同士討ち》を活用して複数で争ってる奴らを放っておき、1対1(サシ)の戦いに持ち込む。《両手剣》のスキルがもうちょい高かったらこんなめんどくさいことせずに済むんだが……まぁしゃあねぇわな。

 

(まぁ、そん為にも今はかったりぃ熟練度稼ぎと行こうかねぇ!)

「……セイッ!!」

 

 五分と経たずに俺とコペルの周りから敵カーソルが消える。ぶっちゃけ殆ど俺が倒したんだが、コペルも粘液を落とした後、戦線に加わっていた。奴の戦いぶりはニュービーというには勘が良すぎる。俺の見立て通りβ出身だな……

(っと、やべっ、そういうこと考察してる暇なかったわ)

 コペルの方を向き、慌てる素振りを見せずに彼に告げる。

 

「さて、じゃ、案内してもらおうか。もうひとりのプレイヤーのもとに、さ。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

キリトside

 

 コペルの置き土産であるリトルネペントの群れを俺はなるべく何も考えずに……いや、考えられずに狩っていく。

 俺はひたすらにリトルネペント達の捕食器の真下に向けて《ホリゾンタル》を的確に当てていく。

 この戦闘は既に10分は経過しようとしている。

 ここまで俺の精神が持っているのは二つの感情、死にたくない、そして本気で戦いたいというモノに支配されているからだろう。

 そして、更に戦闘を続けていると妙なことが起きた。カーソルが消えていくのだ……それもすごい勢いで。

 カーソルが消えていく原因はひとつ、誰かがこの植物たちをとんでもない精度で倒していっている。

 索敵スキルを使ってみると確かに二人ほどプレイヤーの存在がある。

 無論、コペル以外の誰かであろう、あいつは逃げた。まだ、ネペント達がウヨついているこの場に戻ってくる理由はどこにもない。

 

 だけど、その思いに反してカーソルの持ち主の一人はコペルだった。

「コペル?どうしてここへ!?」

「さっきのことは悪かった!君が僕を恨んでいるのは当然だと思うけど、今は忘れて戦闘を続けてくれ!一人、助人に来てくれた」

 キリトは正直半信半疑だったが、ここへ戻ってくるメリットは今のところ存在しない故に彼の言葉を受けて、もうひとつのカーソルの方へ目を向けると、2時間弱ほど前に会った姿を確認できた。

 

「なるほど、やっぱり君か。一度は偶然、ただし二度は必然、これから長い付き合いになるであろう君に一応自己紹介をしておこう。俺の名はフレッド、以後よろしく!」

「あ、あぁ。キリトだ」

 敵を倒す片手間に軽い自己紹介をした。

 

 そのあとの戦闘は非常にスムーズだった。

 村で会ったフレッドというプレイヤーの攻撃は一瞬で且つ粘液が武器にかからないようにし、一撃の元にリトルネペントを仕留めていく。

 コペルの方も先程迄と同じように守備的にだけど確実に敵を仕留めていった。

 二人の乱入後、戦闘は2分とかからずに終了した。

 その時、俺の聴覚に多少ズレを伴って2つの軽いファンファーレが鳴った。ひとつは俺の、もう一つはフレッドというプレイヤーから発せられていた。

「二人共おめでとう!」

「ありがと。だけど、コペル、お前なんで帰ってきた?あの場ですぐに逃げたほうが得策だったんじゃないか?俺を置いてさ。」

 俺は怒ることも忘れ、まずはそれが気になってしょうがなかった。

 

「……逃げきれなかったから、かな。途中までは僕自身もなりふり構わず逃げてたよ。だけど、リトルネペント達に追いつかれたとき、そこの人が助けてくれてね。

で、その時自分自身が恥ずかしくなってね……、この人自身もキリトのところまで案内しろって言うから連れてきたんだ」

 そう言い終えたとたん、コペルはとんでもない速さで俺に向かって土下座していた。

「さっきはごめん!!僕はどうかしてたんだと思う、けどそれは謝って許されることじゃない。でも、今の僕にはこれぐらいしかできない」

 許せる訳はない……そう考えていた。だけど、不思議とそんな感情は湧いてこなかった。

 ある種、このデスゲームと化した世界では生きるためにはこういう行動もありうる行動の一つとして思わなくてはならない、そう教えてくれたコペルを許すべきだと感じているのかもしれない。

 そして、俺は数瞬ためらいはしたがこう告げた。

「コペル、お前の心情も理解できなくはないし、死にたくないっていうのもそれは誰にでも当てはまることだと思う。本当はこんなことは絶対に許すべきじゃないけど、危険承知で助けに戻ってくれた。だからこそ、俺はお前を許す。」

「……キリト」

「だけど、二度目は絶交な」

 俺はそうにこやかに告げるとコペルは困ったような顔をして―――

 

「う、うん。そうしてくれ。」

 

―――とだけ言った。

 

「さて、話はまとまったかい?君達。」

「あぁ、あんたには礼を言わないとな、駆けつけてくれてありがとう。俺もヤバかったよ。」

「気にするこっちゃねえさ。俺の目的の中途点にあったから助けただけだしな。さて、俺はもうそろそろはじまりの街へ戻るか。」

「はじまりの街?何しに戻るんだ?」

「まぁ、野暮用さ。それとコペルとか言ったっけ」

「あ、は、はい!」

「お前もこいつやるから剣受け取ったらでいいから後ではじまりの街来い!」

 そして、渡されたアイテムを見てコペルはもちろん俺まで驚いてしまった。

「なっ、……こ、これってリトルネペントの胚珠!?こんな貴重なアイテムをどうして僕に……?」

「俺には必要ないし、ただの先行投資だとでも思っといてくれ。ただし、もし明日、はじまりの街へ来なかったら次ダンジョンで会った時、キルし兼ねないんで、そのつもりで!」

 なっ……、この人本気か!?

 デスゲーム化したこの世界で、キルし兼ねないとか立派な殺人予告じゃないか……。

「……むちゃくちゃ言いますね。……分かりました、アニールブレード受け取ったらはじまりの街に戻ります……」

 ……まぁ、コペルがあの人のいいなりになるのは、俺を見捨てたペナルティと思っておこう。だからフォローは出さない。

「それじゃ、お二方いずれまた……、コペルに関しては明日な。」

 それだけ言うと俺たちの前からさっきの戦いなんてものともしないといった感じではじまりの街へ戻っていった。




はい、今回はここまでとしときます。

小説家になろうにいた時も思いましたけど、やっぱりブログよりこっちのほうが書きやすいですね。ホッとしとりますw

さて、今回はコペル君を生かそうという小説があまりなかったもんですから、生存させました、やったネ!

今後もなるべく味方になってくれそうなキャラは極力生かしますよ。

ご意見・ご感想もビシバシ言ってやってください。

所詮自分はニュービーなので誤字・脱字や「あれ、なんかおかしくね?」という点に気づかないことが多々あるのでどしどし言っていただけると助かります。

では今回はこのへんで、ではでは


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第二話 ~ギルド結成~

なげえ、と思わず言ってしまうくらいに、今までの自分からはありえない文量になってしまった。

いつも2000字程度で一話を切っていた自分とは思えない。

さて、ちょっと遅くなりましたが第二話投稿です。


フレッドside

 

 さて、さっきのネペント達との戦闘で俺のレベルは5になった。そして何故か多めにあるリトルネペントの胚珠……コペルにやったのを含めないでも3つある。この二つの材料さえあればこれからやろうとしていることに関してはなんとかなるだろう……

 先程までの戦闘で周囲のPOPが激減したのかそうでないのか、森を出るまでは異様といっても良いくらいにMobが出現しなかった。その後、森を出て街へ戻る最中、そろそろ来るだろうと思っていた元β組と思われる奴らと何回かすれ違った。

「うっす、調子はいかがよ?」

「……え、あ、あぁ。ぼちぼち……って感じかな……ハハッ」

 しかしこんな感じの返事しか返ってこない。

 まぁ、あの宣言の後じゃ、気が萎えるのも無理ないっちゃ無理ないとは思うけど。

 ……俺みたいなお気楽者を除いては。

 

 始まりの街へ戻る最中も猪一匹と遭遇しただけで難なくここへ戻って来れたわけだが……

「武器、どうしよっかなぁ……」

 正直、この両手剣は他のこの系統の武器に比べると攻撃力が大幅に劣る。

その分武器耐久はあるし、軽いから使いやすいっちゃ使いやすいんだけど、今後も乗り切っていくには些か不安が残る。

 この村でもうひとつ買えるアイアンブレイドは攻撃力がグレートソードより少しだけ高いかわりに武器耐久が低いし重いしで、何より初期の時点でグレートソードが700コルだというのにアイアンになると1200コルも取られるのは腑に落ちない……。

「ま、保留っつーより却下だな、ホルンカの村を一つ越えた先の村「べへムート」のあのクエ受けるまではこいつを研いでいくか」

 そう、片手剣に必須のクエがあるように両手剣にもその類のクエストが存在する。少々難易度が森の秘薬と比べると高いが決して乗り切れないクエストではない……

 今の所持金はさっきの植物共を相当蹴散らしたおかげで、初期の所持金の3倍程度あるにはあるが、無駄遣いは禁物だ。

 ふとボーンブレイドの耐久値を見ると、刃こぼれなどがひどく雑魚戦でも折れてしまいかねない状態……とまでは行かなかったが、猪ですら2~3体を倒すのが限界だろう。

 

「もうちょい早めに帰ってこれてたらなぁ~」

 時刻は現在夜の11時を周り、ほとんどの店は閉まり、武器を研いでくれるところもない……。

 これじゃ仕方ねえ、とりあえず適当に宿取って寝るか……。

 

 ところが、このあと大いに時間がかかった。……宿が見つからないからである。

 まぁ、当然といえば当然か、直径一km有り、それでいて既に何百人単位でログアウトしており、更に何百人かはこの街を出ていたとして、残り9千人程は未だこの街に残っている。宿がなくなるのも頷ける……か。

 

「仕方ねえ、広場に陣取って今日のレベルアップとかでもらったポイント振りでもしているか」

 足早に広場へ向かうとパッと見でも千人は居るだろう数のプレイヤーが寝たり、すすり泣いていたりしていた。

「(……スゲエ数だな。てかこの、広場全体に漂う陰鬱な雰囲気……、どうにかならんかね?)」

 まぁ、その陰鬱な雰囲気を極力無視し、俺は広場の北端にある何のためにあるかよくわからん台の上を占拠しメニューを開く。

 スキルスロットは初期値2でたしかレベルが8の倍数の時にスロットが一つ増える仕様だった訳だからまだ増やせねえ、となるとポイントの振り分けなんだが、さっきので得たポイントが13、これを筋力敏捷の内どちらかに割り振らんといけねえのか……。

 俺はこの後あぁでもないこうでもないと試行錯誤した挙句、筋力値寄りの8:5に振り分け、目覚ましを朝7時にセットしそのまま眠りについた。

 

じりりりりりりりり!!!!

 

 自分にだけ聞こえるやかましい音と共に俺の脳が覚醒していく。

「……朝か」

 俺は目を覚ますと同時に広場の方へ目をやる。

 まだ起きてる奴は大していないが、好都合である。

 

 俺は7時に開店するこの街の中では最も早いNPCの鍛冶のところへ行き武器を研いでもらう。そして、いろいろ必要なものやポーション系を買い込み、気づいたら8時を過ぎていた。

「さすがに今からそこらの狩場に向かっても益は薄い、一時間ほどこの場で待つとするか……」

 と思ってたら、門の方から見慣れた顔が……

「はぁ…はぁ…、戻ってきたよ」

「ご苦労、コペル。さて、早速だがちょっと耳貸しな。」

 俺がコペルの耳元で今からやろうとしていること、そしてコペル自身に頼みたいことを告げると……

「……相変わらずむちゃくちゃ言うね。僕は一刻も早く先へ進みたいんだけど?」

「まぁ、そう連れない事言うなや。俺だって攻略組に入ることは決定事項なんだ。お前の目的とだって被んだろ?」

 コペルは数分唸りながら考えてたようだが、決めたようだ。

「……分かった。あんたにはどうせ逆らえそうにないし……、引き受けるよ。じゃ、早速行ってくる」

「頼んだぜ、俺もそっちに合流できるようならすぐに行くからさ」

「はいはい、期待しないで待ってますよ~」

 コペルは俺に背を向けた状態で手をヒラヒラとさせて再び門を出た。

 

「……さて、そろそろだな。」

 俺は9時になったことを知らせるチャイムが鳴り終わると同時に声を張り上げた。

「この場にいる皆々様!!!」

 突然の大音量に広場中の視線が自分に集中する。

「皆様に聞いていただきたい!思い出したくはないであろうが、昨日の茅場晶彦の発言、あれを俺は真実と思っている!!」

 その瞬間、俺を見る目が少なくなった。バカと思われたのか、現実を直視しないように耳を塞いだか……まぁ、聞く気がないやつは知らん。ほっとく。

「俺はその茅場晶彦の挑戦を受けるためにこのアインクラッドを攻略することを決めた。だが!いかんせん一人でできることには限界があるというのもまた事実だ……。よって俺は新しくギルドを立ち上げることを決めた!!とはいっても上の層にあるクエストを受けなければギルドは作れないが、めんどいので以降ギルドという!名前はまだないが目的ははっきりしている。このアインクラッド攻略はもちろん人命を第一と考え、このSAOの中で俺の知っている限りの生き抜く手段を全て教えよう。俺は幸いにもβテストを経験している、故に!その方法に関しては十分に信頼に足るはずだ。もし、信用できないのであれば、昨日の夜にその実力を証明するために狩りに出た。そしてその成果を今、ここに見せる!」

 俺はそう言いメニューを開きその中からステータスを選びビジブルのボタンを押す。そして俺はそれを広場の方へ向け見せる。一連の操作を見て俺の方へ寄ってくるプレイヤー達。

「これ以外にも俺はレアアイテムを3つ同種のものだが手に入れた!これで実力の証明にはなったと思う!」

 辺りからポツポツと上がる歓声……、まぁここまではいい、問題はこのあとだ。

 

「そして、今俺の言葉を聞いて入団する気になったら声をかけて欲しい。ただし、俺は正直に言ってここに居る全員を誘おうとは思わない。なぜなら、全員をギルドに入れるとなれば俺自身にも行動の制限がついてしまう。それは俺の目的の一つであるアインクラッド攻略の重荷になってしまうからだ。よって、俺が誘うのは子供、強いて言えば中学生程度までと限定させてもらう!」

 その瞬間、周囲にいた大人と思われるプレイヤーから「なんで子供限定なんだ!」とか「大人を差別してんじゃねえ!」だとか「理由を説明しろ!」といった罵声が響き渡るがあくまで聞き流す。

「簡単な話さ。大人は自分の考えで動き生活することが可能だ、先の見通しもできるはずだしな。だが、子供は違う。まだ、そういう能力がなく誰かが支えてやんなきゃなんねぇ。そうしなきゃ死ぬ確率が最も高いと言える。ただの好奇心で街を出て右も左も分からず殺されちまうことは容易に想像できる。そうでない奴もいるにはいるが生粋のゲーマーとか、その類だろう」

「……………」

 流石にここまで言えば黙るか……、おっとフォローを入れないとな。

 

「もちろん、だからといってこの世界で右も左も分からねえ大人を見殺しにする理由にはならねえから明日朝10時より、集まったギルドメンバーと共にこの世界での戦い方をレクチャーしてやる。これを安全圏から見学しててもいいし、参加するもそれは自由だ。ただし、このレクチャー会で行うのは基本アクションのみだ。もし、その後俺らに頼らず街を出ても、俺がそこで教える範囲では次の村までが限界だろう。その後はMob共の特性などを覚えなきゃいけないからな。単純に考えても、そんな情報を必要としないのはこの辺りだけだろうってのは想像がつくだろう?俺はギルドに入ったメンバーになら全てを教えてもいい。これから長い付き合いになる奴らだからな。それぐらいは当然だと思っている」

 今度もあたりがざわつき始めるが、これは「おいどうする?」とか周りのプレイヤーと相談してんだろうな……。

 

「俺はここで、本日夕方の6時まで待つ。それまでに集まった奴をギルドに入れようと思う。そして言い忘れたが、ギルドに入る条件として500コル支払うこととする。これは、ギルド結成後、全員投票で信頼の置けるやつに渡す。これはある種の信頼の証と思っている。お互いがお互いを信用していなきゃこんな行為はできないからな。もちろんこれは俺自身も適用する、だから……」

そう言いながら、俺はさっき雑貨屋で買った貯金箱と所持金から500コル取り出す。

その500コルを指で弾き貯金箱に納める。

「これらの条件を満たせるものだけこの場に来てくれ、今日は以上だ!!」

「…………」

 俺は言い終わると台の上にあぐらをかいて座る。

 

 正直最初の方に参入希望者が来るとは考えていない。

 まず、このレベルを見てもらっても実力の証明にはなろうが、内面の問題は解決しない。つまりは俺がその徴収した500コルを持ち逃げしてしまう可能性を考えるだろう。

 言ってしまえば、なんの保証もなしに自分の今の生命線であるコル、これの初期値の半分を取ろうというのだから、いくら相手を子供に限定したところでどうしたって胡散臭さっていうのは消えない。事実俺が逆の立場ならすぐには信用できないだろう。

 さて、時間まで何人集まることやら……。

「あの!」

「ん?」

 俺が目線を下にやると、短い髪を左右で分けた女の子が立っていた。

 

?side

 私が起きてから数分経ったあとに広場の方から大きな声が聞こえてきた。

 

 私は昨日の茅場って人が言った事が信じられなくて、これは悪い夢なんだと思ってすぐに眠った。

 そして、今目が覚めてこれが現実であるということを思い知らされてしまった……。

「あたし、どうしてここにいるんだろう……?」グスッ

 いつの間にか涙が止まらなくなってしまい、そのまましばらく惚けていた時、

「この場にいる皆々様!!!」

開けていた窓からあの大きな声が聞こえてきた。

 

「―――よって俺はギルドを新しく立ち上げ―――」

着替えを済ませて広場に出てみると、演説をしている男の人はよく見る初期装備で、そんなに人を見てはいないけど、かなり整った顔立ちの人だった。特徴を言えば、アホ毛……って言うんだっけ?髪の毛が少しはねている感じの、があることだった。

 そんなことを考えている時、あたしの耳に入ったある言葉が、衝撃的だった。

 

「―――人命を第一と考え、このSAOの中で俺の知っている限りの生き抜く手段を全て教えよう―――」

 生き抜く手段……!それは今あたしが最も知りたい事だった。

 どんな事をしたっていい、あたしはここから出てもう一度お父さんやお母さんと会いたい!

 そんな思いがあたしの中に溢れていた。

 だけど……

 

「―――ギルドに入る条件として500コル支払うこととする―――」

 その後の条件の所でどうしても戸惑いを覚えてしまった。

 だけど、生きてここを脱出したい―――、その為だったら……!

 

 台に立っている男の人の演説が終わった後、脇目もふらず駆け寄り、そして

「あの!」

「ん?」

「ギルドに……、あなたのギルドに入れてください!」

 思い切って目の前の人に言い放った。

「……おやおや、可愛らしいお嬢さんだことで。来てくれたことはありがたいが、俺の方から少しばかり質問に答えてもらってもいいかな?」

「えっ……、あ、は、はい……」

 その場の流れで、はいとか言っちゃったけどあたしに答えられる事……だよね。

「一つ。君は今の俺の演説を聞いて、来てくれたんだと思うんだけど正直に答えて欲しい。君は俺の演説を最初から最後まで聞いていたかい?」

「……さ、最初の方は聞き逃したと思いますけどギルドを立ち上げるって言ってた所からは聞いていたと思います……」

「結構。だとすると、ひとつ腑に落ちないな。君は最後の条件―――コルのことについても聞いてたはずだ。そのことについて迷いとかはなかったのかい?」

「……たしかに、ちょっと迷いました」

「じゃあ、なぜ?」

「それでも!……あたしは、現実に戻りたい!!元の世界に戻ってお父さんとお母さんに会いたい!友達とだってもっと遊びたい!だから……!」

 気づけば、あたしは必死になって目の前の人に言い寄っていた。

「……ふっ、ハハッ、なるほどね。まぁ大概はそういう理由だろうさね。だけど、ここまで語気を強めて言える奴はそうそういないだろうな。でも、俺自身が入会金紛いの500コルを持ち逃げすることだって考えられたろ?それに関してはどう思ってた訳?」

「!」

 そういえばそうだ、でも……

「今気付いたって感じだよな、その顔……。まぁいいや、だったらもt……」

「でも、それを事前に告知してくれるんだからそういう気はないんじゃないですか?」

 目の前の人は私が割り込んで入れた言葉に目を丸くしていた。そして、その硬直から解けると、

「ははっ、確かにな。……分かった。君の意志も硬いようだし、それだったら俺が拒む理由はもうどこにもないな。歓迎しよう……、おっと名前を聞くのも教えるのも忘れていたな。俺の名前はフレッド、君は?」

「はい、シリカっていいます」

「シリカちゃん……か。では、今後よろしく!」

 

フレッドside

 

 シリカちゃんが入ってからのギルド参加人数の増加は俺の予想をはるかに裏切るすごいもんだった。

 一回誰かが入ってしまえば、ということだったのかどうかは知らんが、ほんとにこの街にいる中学生以下の奴らが全員来たんじゃないか?

 貯金箱の中を確認するとまだお昼前の段階で既に50kコルを超え、まだ上がっていく。

 そろそろ打ち止めにしとかないと支障が出かねないな。

「広場にいる方々、俺が作るギルドには既に想定の100人を超え、未だ増加している。このことを踏まえ、時間を大幅に短縮してこれにて打ち切らせてもらう。

どうしてもというプレイヤーがいたら明日のレクチャーのあと俺に直談判してくれ。では、今日はこれにて!」

 俺は広場にいるプレイヤーに向けて言い放ち、ギルドに集まったプレイヤーを連れて広場を離れた。

 

「さて、俺のギルドに集まってくれた諸君。まずは礼を言う。正直こんなに早くメンバーが来てくれるとは思わなかった。ありがとう、ありがとう!」

「おい!」

「質問を受け付けよう。なんだ?」

 俺が振り向くと背は小さい……ヘタをすれば小学生と言われても気づかない子が俺を睨んでいた。

「俺はχ(カイ)、あんた一体なんで俺たちみたいな子供に限定してギルドを作ったりしたんだ?正直、大人を選んだほうがあんたの言う目的達成の為には好都合だったんじゃないか?」

「……あんたではなくフレッドと呼んでくれ。さっき言わなかったかい?このSAOの中では最も死亡率が高いのは子供だと思ったから……、ただそれだけさ」

「それだけじゃないと思ってんだけど?」

 なかなか鋭いなこの子、ちょいと理由でも聞いてみようかね。

「……確かに君の言ったようにそれだけが理由じゃない、でもそう思った理由は?」

「フレッドの演説を聞いて、ギルド結成の目的聞いてたけどアインクラッド攻略目的にすんなら大人のみを参入させて、子供はレクチャーのみにすればそれこそあんたの目的の、なるべく生存者を増やしてここを攻略するってのに効果的と思った。フレッドが言うには大人の方が使えるんだろう?」

「……さっきの演説を聞いてそう聞こえてしまったのなら謝ろう。ただ、俺としてはここの中では大人より子供の方が強いと思ってるね。」

「どうして?」

「単純な話さ。茅場も言ってたろ?「これは、ゲームであっても遊びではない」ってさ。大人より子供の方がゲーム得意そうってイメージあんだろ?そして、この世界ではセオリーってものがまだ確立されてねえ。ネット繋いで情報検索って訳にもいかねえし……。こういう場合は子供の方がゲームに適応し易いのさ」

 今言ったのは事実だ、子供のゲームに対する理解力ってのはすげえもんだ。

 俺にも9つ離れた弟がいるが、あいつのゲームに対する理解力は半端ねえ、っていうよりは興味を持ったものに対しての理解力が高いんだろうな。まぁ、あと子供を選んだのにはもう一つ理由はあるがそれは言わねえ、それを意識させてしまえば大人も子供も関係なくなっちまうからな。

「ふぅ~ん、まぁ、そういうことにしておくよ。それにその理由だったら俺も旦那を信頼できそうだ。これからよろしく」

 旦那……ねぇ、まぁ言われて悪い気分じゃねえが、手を差し出してくるコイツの顔を見た俺はその気分が吹き飛んだ。

 この人を小馬鹿にしたような顔……なにか隠してるって感づいてやがんな、腹立たしいことこの上ないが、まぁ我慢しておこう。

 

「あ、あぁ、今後とも頼むよ。……ん、決めた」

 ちょっと、この一枚上手だぜ的な顔をしたこいつを少しばかし困らせてやりたいという、俺のちょいとばかし黒い感情が反応した。

「?……何を決めたのさ?」

「カイ君、君をサブマスに任命する。」

「は……はぁああああああ!?」

 やったね、予想大的中。

 そしてこのあとも俺の予想通り反論が来たよ。

「いや、なんでだよ。そういうのってみんなで決めるもんじゃねえのかよ!」

「ふむ、じゃあ、聞いてみよう。シリカちゃん、君どう思うよ?」

「えっ、あ、あたしですか?」

 ちょっと不意を突かれた感じで慌てるシリカだったけど、そのあと少し考えたようで……

「いいと思いますよ。フレッドさんに最初に意見を言えるって結構な度胸だと思いますし」

「ちょっ、てめえ!さては旦那の差金だろ。俺が選ぶ!そこの茶髪男子!」

 そう言って、χ自身が選んだのはこの集団の中で唯一明らかに茶色って感じの男子だった。

「……言い方ひどくないかい?私にもDELTA(デルタ)って名前があるんですけど?」

 デルタというこの少年もそれがすぐに自分って分かるあたり観察力はありそうだな。

「まぁ、いいや。自分もそれでいいと思いますよ。こういう場合先陣切ってリーダーに質問できるっていうのはそれだけでリーダーの資質があるって感じですよ」

 ……俺は気づいたけど、この、いかにも優等生……相当に策士の顔持ってんな。一瞬だけ、スゲエ黒い顔してたぞ。まぁ、自分にとっては好都合。

「ま、というわけだ。納得できないなら、皆に聞いてみようか?諸君!この中でこいつがサブマスターになるのに反対する奴はいるか?!」

 案の定、誰も手を上げない。

 子供に限らず人ってもんはだいたい流れに身を任せるものだからな。

 流石に折れたようで、χ自身も―――

 

「わぁ~ったよ。このギルドのサブマス引き受けてやんよ。ただし旦那が使えないって思ったら、即刻このギルドから出てってもらうぜ?」

 

―――と軽口混ぜながらほざきやがった。

「結構。じゃ、俺はこのあと用事あるんで、真近の戦闘を体験してみたい奴いるか?」

 俺が呼びかけると、χとシリカの二人が手を挙げた。

「俺が見極めてやんよ、旦那がどのくらいできるかってのを」

「あたしも見てみたいです」

 ……まあ、予想はしてたんだけどいきなりマスターとサブマスいなくなるってどうなのよ……

 しゃあねえ、一抹の不安はあるがコイツに頼むか……

「そうかい、……じゃあ、デルタとか言ったっけ?」

「はい」

「この貯金箱は君に預けておくとしよう。大切に持っていてくれ。ギルドの大事な共通財産だからな」

「いいんですか、私なんかで?」

「あぁ、責任持てないってんなら俺らが出てってから残りで決めてくれ、あとありえないとは思うが……」

 俺は最上級に睨みを効かせて、

「持ち逃げだけとかしようとは考えるなよ、俺は裏切りという行為をこの世で最も憎んでる。それを心に留めといてくれ。それはギルドメンバー全員に言えることだ、いいね」

 

 ちょっと睨みを効かせすぎたか、デルタは若干放心気味、その隣にいるにいる女の子なんて震えてしまってるし……、まずったな。

 俺は表情を戻して、その女の子の肩に手を置き皆に告げた。

「悪ぃな。だが、ほんとにこれだけは気ィつけてくれ、俺は裏切りがあった場合、自分を制御できねえ可能性もある、っつーわけだ。だから頼むぜ、デルタ」

「……はっ、はい!分かりました。これは責任をもってお預かり致します!!」

 俺が呼びかけると、我に戻た様子で理解してくれたようだった。

「じゃ、一時、解散だ。カイ君とシリカちゃんは俺と。他は夕方七時に俺が演説していたところにもう一度集合してくれりゃ文句はねえ。OK?」

 その言葉に何人かは、はいと答えてくれたので良しとしよう。

「っとその前に、この紙に名前書いといてくれ。じゃねえと、あとが大変になっちまう」

 俺はこれまた雑貨屋で購入しておいた羊皮紙+羽ペンセットでここに居る全員の名前を紙に書き入れたのを確認し、

「じゃあ、カイ、シリカちゃん、行くよ!」

「おう!」「はい」

 二人を連れてある場所へと出発した。




はい、嫌な予感しかしませんね、もう。

ギルドメンバー初期で100人超ってどうなのよ?とか子供にしたってもうちょっと疑うだろうとかいう意見が聞こえてきそうで怖いですが、まぁご都合ってことでご勘弁を……


さて、今話からご意見にあった”間”と台本形式(といっても、一人称視点は相変わらず)を改めさせてもらいましたがいかがだったでしょうか?

異議がなければ今後もこれで通したいと思っております。

そして、原作ではなにかと不遇なシリカちゃんを出させていただきました。
リズも何とかして出したいとは思うんですけど、戦闘班じゃないからどうしてもシリカと比べると劣ってしまう気がないではないですが、何とかして出します^^;

そしてスキルスロット、これはキリト君のSAO攻略時のステータスから逆算したのですが、すると9で一つスロット増える感じなのでキリ悪いから12を最高スロット数だとして8で一つ増える仕様にしてみました。9よりは8のほうが良い……よね?

それと、読者の皆様に聞いていただきたいのですが、今後水中での戦いも視野に入れたいのですがSAOで水中ってどうなんでしょう?
本編見る限りは再現が難しいってだけで特に触れられていなかった気がするんですけども……
実際にALOでは水中戦も一応可能だってことをリーファも言っていますし。
ちょっとこれに関して読者の皆様のご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

ご意見ご感想は引き続きビシバシ言ってやってください。

では長くなりましたが、今回はこのへんで……、ではでは!


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第三話 ~べへムートの爺~

さて、第三話の投稿です。

正直、バトル描写少ないな~と思いつつも、これから精進していきます。

では、どぞ~!

今回は全部フレッドサイドで行かせてもらいます。


 今、俺はカイとシリカを連れてコペルの下に向かっている最中だ。

 数時間ほど前にあいつに頼んだ事の手伝いだ。そう、まだおそらく受注というかフラグすら立っていない始末だろう……

 そんなことを思っていると隣にいたカイが話しかけてきた。

 

「なぁ、旦那。戦いを見せるとか言ってたけど、それって俺らを守りながらできるもんなのか?」

「そこへ向かうまでは余裕だな。ま、君ら二人にはこの途中の道で戦い方を学んでもらって、これから受けるクエストには参加してもらうぜ。」

「え、あたし達も戦うんですか!?」

 これを聞いたカイはやっぱり的な顔になり、シリカは声まで上げて驚いた。

 

「ま、心配するこっちゃねえ。正直、俺ともう一人先行してもらってる奴がいるんだがその二人で十分倒せる。君らには俺が今から行うレクチャーを聞き、練習としてそのクエに挑ませる。」

 俺がそこまで言うとカイの奴がまたもあのむかつく顔をしながら俺に向かって言ってきた。

「はぁ~ん、つまり、旦那とそのもう一人がうまく隙作るからそこを俺たち二人に攻撃させようってハラか」

「半分正解、半分はずれ。君らにも隙を作ってもらうからね。具体的には俺ともう一人は分かれて班を作り、君らには一人ずつ入ってもらう。そこでスイッチの仕方を学んでもらう。」

「すいっち……ってなんですか?」

「パーティープレイの基本戦術さ。難しいことはない、ただ味方の攻撃後の隙を自分がカバーし、自分が攻撃した時は味方にカバーしてもらう、ただそれだけさ」

 

 スイッチについて二人に説明していると、ようやくMobが出やがった。とはいってもサーチ使ってるから相手は自分達に気づいてねえがな。

「二人ともストップだ。練習相手がお出ましだ」

「え!?」

「だけど見えねえぜ?」

「俺はスキルにサーチングを入れているから目の前の盛り上がってる地面の先にいるモンスターも見えるのさ。無論、あちらさんには見えてないから安心しとけ。まぁ、このあたりのスキルについても夜にたっぷりレクチャーしてやる。」

 二人が息をつくのを確認した俺は背中の両手剣を構え、ソードスキルの準備に入る。

 

「今からやるのは一撃で相手を倒せる場合に行うやり方だ。ま、弱点を突いたりなんだりしねえといけないから今はあんまり使わんほうがいいな。とは言っても、今後役に立つ方法だ、覚えておいて損はない」

 相手とのエンカウントまで残り10秒といったところか……

 俺が構えている間二人の二人の目は真剣でどういうものなのかをちゃんと見ようとしている。

 ……シリカはともかく、カイもなんだかんだ言って本気なのな。

 そんなことを思っていてもカウントはしている。

 

 ……3・2・1……0!

 心の中のカウントがゼロになった瞬間、俺は両手剣用単発突進技<ライナー>で相手へ向かう。

 見えてきた相手はフレンジー・ボアー……なんだイノシシか。

 俺はそいつに、ソードスキルの発動している今から狙いやすい弱点、眉間へ若干の補正をかけて、そのまま突っ込む。

 イノシシは今、俺に気づいて攻撃を仕掛けようとしていたがぶっちゃけ遅い。

 俺の狙いは寸分違わず、奴の攻撃前に眉間にHITし一撃でポリゴンの欠片へと変える。

「ふぅ、まぁざっとこんなもんよ。慣れてしまえば、どうということはないぜ?」

 これを聞いて緊張から解けたのか、カイは「はっ、やるじゃねえか……」と強がりを言い、シリカは拍手をしながら「すごい、すごいです!」と褒めてくれていた。カイもあのくらい素直ならまだ可愛げがあるものを……

「おい、旦那。今心の中でものすごく俺が腹立つこと考えなかったか?」

「……サア、ナニヲイッテイルヤラサッパリ」ハハッ

「なんだ、その棒読み!ザァとらしいにも程があんぞ!」

 ……ほんっと、こいつの相手の心情を読むスキル、やめてくれねえかな。

 

 この後も4回ほどイノシシとエンカウントしたけど最初の二回を俺がわざと気づかせてその場合の対処を2回に分けてじっくり教え、その後の二回を練習問題よろしく、カイとシリカに一回ずつやらせたら、目的地の「ベヘムート」に到着してしまった。

 

 ベヘムートは始まりの町ほどの規模ではないが草原の片隅にある比較的大きい街だが、迷宮区へのルートから外れている。

 故に見逃しやすい場所であるのにも関わらず、今から受けるクエ限定の一層にしては高性能の両手剣が手に入る……何とも腹立たしい設定の町だ。

 ……一見したところ、プレイヤーの姿は見えないようだが……

 まぁそんなんはいいとして俺はベータ時代の記憶を頼りにあるNPCの家へ入る。

 

 そこには予想通りNPCの爺さん一人とコペルが立っていた。

「よぅ、早めにメンバー集まったから、来たぜ!」

「あ、あぁ。フレッド、僕もそろそろこの爺さんの話を聞き終わる……」

「……予想以上にげっそりしてんな、コペル」

「そりゃそうだよ、なんでフラグ立てるだけで4時間近く時間取られなきゃなんないのさ!しかも、その話が全部この爺さんの武勇伝なんて……ぶん殴ってやろうかと思ってたさ!!」

「うひぇ~、4時間全部ジジイの武勇伝聞かされるって……」

「……よく、耐えられましたね」

 そう、このクエスト、俺が思うに一番の難所はここだと思うんだ。このクエのフラグを立てるには爺さんの4時間に及ぶ武勇伝を聞いた後にこの爺さん、老い先短いからわしの跡を継いでくれと言ってくるのだ。そしてこのジジイの跡を継ぐ資格があるか確かめるために、ちょっと先のダンジョンの普通の雑魚と比べて少し強い程度のMob狩りして来いというのだ。

 もっと言うと、この武勇伝が大したものであれば百歩……、いや千歩譲って良いにしても、どれを取っても微妙……と言いたくなるものばっかりだから聞いててうぜえと感じるのだ。

 β時の俺もこれを聞いてる最中に何度目の前のくそジジイをぶん殴りそうになったことか……

 ……えっ、どんどん爺さんに対する呼称がひどくなってる?ハハッ、そんな馬鹿な。

 俺がβ時の頃を思い出し物思いにふけっていると、コペルが一応フラグ立てに成功したようだ。

 

「おつかれ、コペル。……あとで一杯おごろう」

 俺がやつれたコペルを労いの言葉で迎えると、後ろの二人に気づいたのか、駆け寄ってくる。

「君達が、フレッドが選んできた子か。僕はコペル。とりあえずはよろしく」

「あ、はい。あたしはシリカって言います。こちらこそよろしくお願いします」

「カイだ。ちょっとコペル?だっけこっち来てくれ」

「?」

 カイがコペルを連れて部屋の隅へ行ってしまった。まぁ、どうせ呼び出したのがカイのことだ。俺の弱味か、もしくはネタ探しだろう、どっちにしろ俺の知ったことではない。

「さて、あいつら二人はほっといて先にβ時の概略だけ話しておく。」

「はい」

「平たく言ってしまえば、この町のさらに先にあるダンジョンにいる石の怪物狩ってこいっていうクエストだ。そうだな、コペル!」

「ん?あ、あぁ。間違いないよ、β時と名前も一緒だったし、おそらく、ね。」

「っつーわけだ。」

 俺がコペルに同意を得ると今度はカイから質問があった。

「要するに相手は岩の塊みたいな野郎ってわけか。だけど、それにちゃんとダメージ入るのか?相手は見た目通りに硬いんだろう?」

「確かにな、だからちょうどいい練習相手にもなる。あいつの攻撃はイノシシ共と同じだから、避けるのはそう難しくねえし硬いってことはそれだけ長く練習に充てられるってこった、ま、とはいっても5分程度ソードスキル連発してりゃ終わるさ!」

 ついでに言うと、こいつは経験値は大量に儲かる、まぁ言ってしまえばレアMobなのだが、所詮攻撃方法並びにスピードがイノシシ程度ではお話にならない。とてつもなく硬いということを除いては……

「よし、他のギルメン達にも7時には戻るって言ってあるし、さっそくダンジョンへ繰り出すとするぜ!」

「「「おぉ!!」」」

 

 おかしい、なぜここまで時間がかかった。

 まぁ、理由ははっきりしている。シリカのせいだ。

 俺らが岩の怪物の前に来るのに1時間もかかってしまった。本来ならその半分で来れるところを……

それというのもシリカの―――

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 

―――が原因だ。

 このダンジョンにももちろん岩の怪物以外にもMobは出る。それがつい昨日狩っていたリトルネペントの強化版であるラージネペント……なわけだが、彼女は植物系のグロMobが大の苦手らしく、彼女のフォローをしているうちに時間が経つわ経つわ……

 まぁおかげでシリカを除いたメンバーのレベルはいい感じに上がってってくれたから良いっちゃ良いんだが。特にカイなんかちょっとコツ教えただけで一人であの植物たちを倒し始める始末……

 と、なるとやっぱし足を引っ張っていたのが、目の前でしょぼんとしている彼女である。

「……すみません」

「ま、まぁ、しょうがないさ。人は全て得手不得手ってもんがある。俺が確認しなかったのも悪ぃしな」

「そうそう、くじけてたってしょうがないさ。挽回のチャンスだってこの後あるわけだし……」

 コペルも俺と一緒に彼女のご機嫌取りに回ってくれたおかげでなんとか戦える状態にまで戻せた。

「コホンッ、さて今見えている岩が正式名ブロッカン、通称イシ○ブテだ。依頼を受けたコペル自身があのイシ○ブテの前に行くとモンスターとしての正体を現す。じゃあ、頼むぜ、コペル!」

「了解」

 そして、コペルが岩の前に立つ。

 すると、さっきまで岩の塊だったモノが震え出し、モンスターとしての正体を現す。

 道端に落ちている石ころを3回りくらい大きくして手を付けた、某○ケモンに出てくるアレにしか見えない存在……やっぱりイシ○ブテである。

「さて、ちゃっちゃと片づけるぞ。まずはコペルとシリカちゃんでスイッチを活用してソードスキルを連発するんだ。ソードスキルを使ったらすぐさまスイッチと叫んで交代の合図を相方に出す、合図を出された方は敵の攻撃から動けない相方を守るのを第一優先にして余裕があるようなら自分のソードスキルで相手を攻撃してスイッチと叫ぶ、この繰り返しだ、カイは俺とこの作業だ、いいな!」

「言われるまでもないな」「はい!」「OK!」

 

 戦闘終了宣告時間の5分はとっくに経過し、10分が過ぎようかという時間になって石の怪物もようやくHPがイエローに到達したが、ぶっちゃけβより無茶苦茶に硬えぇえ!

 βンときは3人でこの両手剣ででも5分で粉砕できてたのに……。

 ……てか4人でスイッチしながらタコ殴りにしててこれって……耐久、間違えてんだろ!一人だったらとっくに《武器破壊(アームブラスト)》状態だぞこれ!?

「おい、旦那。5分で倒せるんじゃなかったのか!?全然HP減らねえぞ」

「るせぇ!俺も今、あまりの硬さにびっくりしてたところだよ!!」

 まぁ、そろそろカイも苛立ち始める頃だとは思ってたさ、だって俺自身も頭にキ始めてるし……

「まぁ、心配はいらないさ二人とも。この調子ならあと半分で終わるってことだからね、だろ?フレッド」

「まぁな、だけどβと比べて耐久に変化が来てるってことはこの後もなんか変化があるんじゃないのか!?」

 俺が《スラント》を使って引き斬りをしながらコペルと話してると石に変化があった。

 突然ぶるぶると震え始め、そして……飛んだ。

 大事なことなのでもう一度言おう、飛んだのだ。あの石の塊が……。もちろん石から翼が生えて飛んだとかじゃねえ、とんでもないジャンプで上空に行ったのだ。

 そして―――

「おわっ、あぶね!!」

―――カイと俺の近くめがけて押し潰しに来た。

俺は右へ、カイは左へ跳躍して逃げたが衝撃波付で危うく範囲に入るとこだった。

「旦那ぁ!マジで聞いてねえぞこんなの!?」

「俺だって初耳……ならぬ初見だよ!こんなの!!」

 この時点で気づいた。クエMobは異様な強化を施されてやがる。

 と、なると、コペルはまぁ、経験者だから適応もできる、カイも今避けて見せたからまぁ大丈夫だろう。

 問題なのは……

「シリカ!気をつけろ!こいつの衝撃波が割と広範囲だ!モーション見たらすぐに移動だ!!」

「えっ!そ、そんなこと急に言われても……!?」

 まずい!あのイシ○ブテ、もうモーション入ってやがる……、今のシリカじゃたぶんあれは躱せねえ……

「シリカ!!」

「……えっ、あ、こ、来ないでぇ!!」

 

ドッカ~ン!!!

 

「はっ?」

 

 その一瞬に起こったことを説明しよう、俺としても衝撃だった。

 イシ○ブテが迫る、シリカがやたらめったらに振り回してた片手剣のソードスキルが発動、それがイシ○ブテの下……今まで地面と接していて見えなかった部分に当たる、そのソードスキルの攻撃方向へぶっ飛ばされる、イシ○ブテのHPがイエロー入りたての所から一気にレッドへ突入……、あのくそ硬いのがシリカのほぼ初期ステータスでぶっ飛んだことも驚きだが、一瞬で大ダメージを与えたことには驚きを隠せない。……ん、待てよ。

 

「な~る、半減したら弱点露出タイプのMobって訳か。分かるまでは大変だが、分かっちまったらこっちのもんだな。コペル、仕留めるぞ!」

「OK!」

 コペルも既に察していてくれたようでソードスキルのモーションに入っている。

 今、あのイシ○ブテはシリカにぶっ飛ばされて弱点が丸見えの状態だ。これで終わらす!

「「はっ!」」

 コペルの《ホリゾンタル》、一瞬遅く入った俺自身の《アッパー》で十字型に斬られた石の怪物はその情けない姿のまま、ポリゴン片へと姿を変えた。

 この時、シリカとコペルから気味よいファンファーレが鳴り響いた。

「おめでとう二人とも。これでコペルは5のシリカは2か?」

「そうです、これでレベルが上がったんですね。」

 初のレベルアップだ。シリカ自身、相当嬉しいんだろうだな。

「……しかしマジで危なかった。こりゃ、他のMob共も下手すると強化されてる可能性考えといたほうがいいな……」

 これは多分正式版も情報屋をやってるであろう『鼠』にも言っておいたほうがいいな、少なくとも、こいつに関しては……、

 しかし、それにしても、

「シリカちゃん、今日のMVPは君だよ」

「え、でもあたし最初の植物で戸惑って……」

「いやいや、さっきフレッドも言ってたじゃないか。人はすべて得手不得手があるって。君があの時、無茶苦茶だったにしろソードスキルをあいつに当てたおかげで弱点が分かったんだから君の功績だよ」

「そうそう、ぶっちゃけ旦那より役に立ったんじゃないのか、なぁ、旦那?」

「あ、あぁ。確かにな」

 ……それを俺に聞くか、確かに訂正できるほど間違っちゃいない分YESと言わざるを得ない……、後で覚えてやがれ、あのくそガキ……

「そ、そうですか……え、えへへ。照れちゃいますね。」

 ……まぁ、シリカちゃんがご満悦気味だ。まぁ良しとしておこう。

 

「ま、でもなんにしろ、これでこの世界での戦い方は覚えられたと思う。明日のレクチャー会ではシリカとカイ、君らに出てもらって実演してもらう、いいね」

「はい!」「おぅ、任せとけ!」

「じゃ、まぁ、今日はこの後クエスト報酬を受け取って始まりの町へ帰るとしよう。時間も結構ギリギリだしな」

 俺らはこうしてダンジョンに入って一時間半後やっと森を出れた。

 

「……はぁ、まさか、クエ完了後もあの武勇伝の一端を聞かされる為に待たされるとは……」

茅場の野郎、あんなところで余計な手間加えやがって……

俺は始まりの町へ戻る最中もあのくそじじいに腹が立ってしょうがなかった。

「まぁ、あんたは目当ての両手剣が手に入った上、待ってるだけで良かったんだからまだマシでしょうが……。僕なんて計4時間半も聞かされたのに、報酬はちょっとばかし多いコルくらいだからね?」

「ま、確かにな、これであとは適当にレイドメンバーが集まれば第一層は何とかクリアはできるな」

 俺らはダンジョンから出た後、あの依頼したNPCの家に行ってクエスト完了報告をしたのだが、その完了の際に、またもあのくそ長い微妙な武勇伝の為に30分待たされ、コペルに至っては聞かされで、前のクエの影響か全員疲れながらの帰路になっていた。

 だが、新しく手に入れた……まぁ正確にはコペルから譲り受けた両手剣―――固有名〝ギルタナス″攻撃力第一層中トップクラスの、ボーンより少し重め―――を持っている俺は他のメンバーよりはまだマシと言えるだろう。特にコペルに関してはご愁傷様としか言えない……、マジでスマンかった。

「よっしゃ、今日は帰ったら始まりの町にあるレストランでディナーと行こう。俺が知ってる中で唯一妥協できる飯で乾杯と行こうじゃないか。コペルは追加でもう一つ頼んでいいぞ、いやマジで」

「あぁ、是非にそうさせてもらうよ」

 そんな話をしている内に気付いたことがあったので、隣を走ってるグロッキーな二人に話しかける。

「そういえば、お前ら、武器種それでいいのか?明日レクチャー会は2時間程度で終わるから、その後色々作業を加えても3時には終わるから余裕はあるぞ?」

「ん?あぁ、そうだな俺としては、もっとこう、派手でなおかつ威力の高い武器とかがいいな」

「あたしは……そうですね、もう少し軽い感じの武器のほうが……」

 となればシリカは短剣が相応だろうが、カイの奴はなんだ、その的を射ない意見は!?とはいっても、このゲームが初だったらそんなもんか……。

「あぁ、シリカは、だとすると短剣……ダガーがいいな。軽くて連続攻撃を主体とする武器だ。カイは、まぁ、俺の使う両手剣でもいいが、またあのクエスト受けたいか?爺さんの長話」

「うげっ、それは勘弁!ほかに良さそうなのねえのかよ?」

 もう、カイの中でもあのクエスト=爺さんの長話として話しても異議はないらしい。

まぁさすがにあれを受けるのはやだわな。俺は今度、4時間半あのNPCの前で話聞いてたら3発は殴る。

「あぁ~ん、そうだな~、じゃあ、曲刀なんてどうよ?確かβ時の噂だとエクストラに派生する類の武器種だったはずだ」

「えくすとら?なんだそれ?」

「単純に言えば、条件付きのスキルのことだ。明らかになってたのは瞑想に体術とカタナ位だったかな?でも、まぁ大概、今普通に習得できるスキルよりかは派手だと思うぜ」

 体術は俺のパーティーが習得したけどカタナはいなかった気はするな……、瞑想は微妙って事で使ってる奴見たことないし。

「へぇ、ギャンブルっぽくって面白そうだな、よし、俺は曲刀にしてエクストラスキル身につけるぜ!」

「はいはい。じゃあ、明日は二人の武器を買いに行くか、ここら辺より迷宮区の近くのクエを回したほうがいい武器が手に入るしな」

「分かりました」

「なんだ、明日クエ行くんじゃねえのか?せっかく俺の神テク見してやろうと思ったのにさ」

「はん、少し戦っただけのお前が甘っちょろいことを……、そういえばコペルは片手で……うわっ」

 反対側を見ると二人を軽く超えるグロッキーさで走ってるコペルの姿があった。

「聞く気力ないみたいですね……、魂抜けた感じで走ってますよ」

 うん、これが漫画だったらリアルに口から白い何かが出てそうだ。さっきまで普通にとは言わんでもここまでじゃなかったことを推測するにさっきの爺さんの長話って言葉でトドメ刺しちまったか?

 まぁ、いい。走れてたら問題はない。

 

「じゃあ、まあ、明日の予定も決まったことだし、さっさと町へ戻るぞ。ほかのギルメンも待ってるだろうしな」

「おぅ」「はい」「…………」

 俺が前に目を向けるとそこには街の明かりがぼんやりとながら見えていた。




コペルくんは災難、しょうがないキリトくん見捨てようとした罰だよ。

しかし、コペルくんは原作の情報が少ないから原作通りのイメージ壊さずにできない……

まぁ、一層攻略まではこの調子で更新していこうと思っておりますが、プログレッシブがまだ手元にないからちょっと遅れるかもしれませんがご勘弁を……

では今回はこのへんで、ではでは!


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第四話 ~Famiglia~

はぁ~、完成です。

今回は完全に説明回です。

まだ戦闘描写考えてたほうが楽ですね、これw

ってことで、早速第四話どうぞ!


コペルside

 

「さて、ではまずギルドの名前を決めてしまおう」

 僕が放心状態から解放された次の瞬間にはっきり聞いた言葉はこれだった。……いや、ギルド結成者として決めてないって……まぁ、あながちないとは言い切れないから困るのだが。

 僕たちはあの爺さんの町(若干語弊ありそうだけどそれ以外なんかあったっけ?)から帰ってきたときにはすでに全員集合状態だったらしいのだが、フレッドおすすめのレストランを貸し切っていざ、乾杯って時にこのギルマス様とんでもないことを言い始めたのだ。

「時にこのギルドの名前どうしよっか?」

 そりゃあ、全員ずっこけたくもなる。

 僕もそのずっこけの影響で放心状態から戻ったんだから……

 

 しかし、昨日フレッドに会うまでこのSAOをソロプレイで行こうと思っていた自分から見たら、この光景はびっくりだろう。なんせギルドを組んで尚且つ、このお偉いギルマス様の為にクエストのフラグを建てに行く始末。

 まぁあの時フレッドに会っていなかったら、僕は……

 そこまで来て僕の思考は急に絶対零度にまで下がり考えるのをやめた。やめておこう……精神衛生上もそっちのほうがいいに決まってる。

 あの僕が呼んでしまったネペントの群れを倒した次の日、つまりは今日……

 

 僕を助けてくれたフレッドから今朝呼び出されて言われたことは―――

「お前、俺の結成するギルドに入りな」

―――だ。

 そりゃ、最初は断ろうかと思ったが―――

「ちなみに、そのアニールブレードとお前を助けてやったことへの借りを踏み倒していくなら、次ダンジョンで会った時どうなるか分かってるよな?」

―――ひどい脅迫である。

 一応、この時に―――

「まぁ、強制するのは今日いっぱいまでだ。そのあとはお前の好きにしてくれて結構だ」

―――と言われはした。

 まぁ、それぐらいなら入ってもいいかと思った次の瞬間

「じゃあ、ギルマスとして命令。一人でベヘムートの両手剣のクエのフラグ建ててきてくれ♪」

 ……はっ?こいつ今何言った?あの4時間延々聞かされる爺さんの話を一人で?

 

「断る!」

 

「まぁ、それでもいいが、その場合この借りをどう返してくれるのかな?コペル君」

 くっ、人の足元見やがって!こうなったら……、やけだ!!

「あぁ、分かったさ。行ってきてやるよ!」

「よろしい、俺もはじまりの街で子供たち100人程度集まり次第何人か連れてそっち行くから多分クエMobとは一人で戦わなくていいと思うぞ?」

 百人って……、そんな小学校の友達のノリじゃあるまいし……、まぁこの人はやるって言ったらやるんだろうな。だが、それと同時に―――

 

「なんで、子供限定?」

 

―――と思った。

正直子供に限定するよりかは大人たちをかき集めたほうが戦力としてはもってこいだと思うんだが……

「なぁに、俺は子供の方が大人どもより使えるって思ってるだけさ」

「ふぅ~ん」

「じゃあ、頼んだぜ?俺もなるべく早く行くからよ!」

 

 まさか、本当に連れてきてクエスト攻略に参加させるんだもんな……。

 まぁ、僕だけだったら永久に勝負はつかなかった気がするけど。

 

「お~い、聞いとんのか、コペル?」

「ん、あ、あぁ。すまん聞いてなかった。何の話だっけ?」

「だからギルドの名前だよ!俺的には「閉塞せし異界を開けし子供たち」ってのを推してるんだがな」

 ……心の中で突っ込ませてもらおう。

 

 どこの厨二病だ!?おい!!そして妙なところでダサい。

 

 なんで、こんなのが通ろうとしてるんだ!?と周りを見て思った。

 全員とは言わずとも、半分以上が苦笑いしている。反論したいけどできないって感じか……。

 そうか、相手はまだ子供でなおかつ、生き延び方を知らない子供たちだから下手な意見が出せないのか……、でもだからといってこれはないだろ、流石に!?

 しょうがない、僕がアイデアを出さないとな……、ええと名前名前と……子供がいっぱいいる光景、それを束ねる大人(?)……、家族?お、いい感じ?でももうちょっとくらいなら格好良くしてもいいんじゃ……。

「異見がないんだったらこれで決まりかね」

 

「待った、待った。今思いついたからさ!……Famigliaなんてどうよ?」

 

「ふぁみりあ?」

「そうそう、たしかイタリア語か何かで家族って意味でさ、まさにこの雰囲気にぴったりだと思ったんだよ」

 と、あの名前で決定されそうだったので止めるために止むなくアイデア出したんだけど、僕的には非常にいい線いってると思うんだ。

 その意見に近くにいたシリカが―――

「な……中々いいんじゃないでしょうか!?あたしはすごく好きですよ!」

―――と言ってくれる。

 その声に釣られたのか周りの皆も「いいんじゃない」とか「うん、そっちの方がいいかも」という意見が多く上がってくれてる。

「何だ、お前らはそっちのほうがいいのか?まぁ、しょうがねえな。ギルマスとして皆の意見を取り入れないわけには行かねえしな……、よっしゃ、ギルド名は「Famiglia」で決定だ!!!」

 うむ、非常にいい感じに行ったな。てか、なんで今日抜けるはずのギルドの名前を僕が決めてるんだろう?ま、いっか流れに身を任せてれば……

「じゃあ、お前もサブマスね。大切な、大切なギルドの名前を決めてくれたお前が今すぐ抜けるなんてそんな馬鹿なことは言わねえよな!」

「まぁね………って、はぁ!?」

 まずいまずいまずい!流れに身を任せてたらとんでもないことが決定しそうだったのでフレッドに制止をかける。

「なんだよ?まさか、唯一無二のギルド名を決めてくれたお前が抜けちゃったら締まらねえだろ?」

「いや!だって約束だったら今日で抜けさせてくれるって言ってたじゃん!?」

「うん、そのつもりだったんだけどコペル君が必死になってギルド名決めてくれたってことはそれだけ既に愛着あるってことでしょ?」

 ……ハメられた!よくよく見ればフレッドのやつ笑ってやがる!!最初からそのつもりだったな、あんにゃろう……

「いや、流石にあの変な名前のギルドはまずかろうって思ってとりあえず意見を出しただけだからね!?」

「そうなのか?それにしては随分と時間とって考えてくれてたみたいだけど?そ・れ・に」

 フレッドが周りを見るように促す。

 ……視線・視線・視線。そして、僕が見た瞬間に周りから上がる声。

 多方は「行かないでよ」的意味の声が僕に戸惑いを覚えさせた。

 そして……

「……はぁ、分かったよ。僕の負けさ、引き受けるよ、このギルドのサブマス……」

 弱いなぁ~、自分と思いつつも周りから上がる歓声に不思議と嫌な感じはしなかった。

「お~し、では、改めて……ギルド「Famiglia」の結成を祝して!」

「「「「「乾ぱ~い!!」」」」」

 

カイside

 

「さて、宴会も終盤に差し掛かってきたところで、そろそろ作戦会議もとい生存会議に移りたいと思う。まぁ、飲み物でも飲みながら聞いてくれ!」

 旦那の言葉を聞いた瞬間に場が静まり返る。

 しかし、ここでその話するか?それに関しては文句ないけど……

 

「生存会議っつ~けど、旦那と俺とコペルとシリカが戦うって以外決めることあんのか?」

「いやいや、ギルドとしてやってくんだから、もちろんそれ以外にも必要だろう?例えば、武器の研磨とか、防具の生産とか……さ」

 な~る、俺らみたいな子供を超このギルドに入れたんは生産系スキル用か。まぁ、これは子供じゃなくてもいいけどさ。

「ということで、君らには今から戦ってみたいやつ、戦いたくないやつの二班に分かれてもらう。このレストラン貸し切ってるから有効に場を使うとしよう。前者は奥側、後者は出入口側に、そして今の気持ちで考えてくれ」

 旦那がそう言うと、まぁさっき俺が言った3人は当然の如くだったけどそれ以外にも10人以上がこっち側来たんは驚いたな。

 で、結局旦那や俺含めた19人が所謂、戦闘班志望、他が生産班になったんだけど、比率おかしいなぁ、分かってたけど。

「じゃあ、次に戦闘班は俺、コペル、カイ、シリカの4人を除いた15人で5人3組のパーティーを作ってくれ。生産班はちょっと待っといてくれ」

 

 そう言って旦那は俺らの方へやって来る。

「んで、旦那よぉ~。俺らを省いた目的は?」

「まぁ、落ち着けって。省いた俺らは戦闘班の中でも攻略優先組だ。基本的にはこの4人の内3人で最前線を攻略しに行く。そして、残った一人が5人のパーティーのリーダーとなって食料探し並びに生産組の素材集めのアシストだ。リーダーがつかないパーティーは基本待機だが安全マージン……まぁ、言ってしまえばある層のボスを除くMobの最高レベル+10程度上乗せしたレベルを持ったものならリーダーなしでもレベル上げや食料探索等々の圏外へ出ることを許すとする」

「長ったらしいな~、要するに俺らがリーダー、5人の班はグループ、で、安全取れるならグループのみで圏外出てOKってこったろ?」

「まぁ、要約してしまえばそういうこった。ここまでで質問ある奴はいるか?」

 周り見ても手上げる奴はいねえか。ま、割と丁寧だったから居はしねえか……。

「まぁ、じゃ、こっちはそんな感じで適当に決めといてくれ。生産班にも指示出さねえとだからな。決めたら解散でいいぞ」

 そう言って、旦那は出口の方へ去っていった。

 しかし、適当すぎんだろ!丁寧って言ったの取り消すわ!俺らに教えるって言ってたスキル構成とか全く教えないで行っちまったら世話ねえぜ。

 仕方ねえから知ってそうなやつ……まぁコペルだわな、に聞くか……

「なぁ、コペル?」

「なんだい?」

「旦那がスキル構成に関して全く教えてくれなかったからさ、教えてもらいたいんだけど?」

「……分かった。じゃあ……」

 そう切ると、グループ決めをしている方へ向き直って全員に聞こえるような大声で言い放った。

「とりあえず、フレッドの代わりに僕がスキルについていろいろ説明するからグループが決まり次第集まってくれ、僕もβテスターだから君らよりは知識はある!」

 このあとレストランの貸切時間ギリギリまでスキルについて色々と叩き込まれた。……コイツに説明させるととてつもなく時間をとること含めていい勉強になった。

 

 

 

?side

 

「さて、待たせて悪かった。君ら生産班にはまず「職」を決めてもらう」

「職?」

 目の前にやってきたギルドマスターのフレッド?は来るなりよくわからないことを言った。

 この世界にそんなシステムはなかったと思うけど?

「言ってしまえば、俺らのギルドが残るためのスキル決めだ。具体的に言えば鍛冶だったり料理なんかが該当だな。それを君たち自身が選んでギルドのために役立ててもらいたい」

あぁ、そういうことね。でも、職かぁ……、あたしは昔からお店を経営してみたいっていうのが夢だったけどこんなに早く夢が叶うなんてね、……まぁ現実じゃないんだけど。

 

「そして、君たちには基本は出稼ぎに出てもらうことになる。流石にギルド内に収まってるだけじゃ、生産レベルも上がりにくいからな。んでもって、ギルドの身内同士では金銭の取引は無しで武器等の製作を引き受けてもらいたい。そして、代わりにこちら戦闘班からは君らからくる素材系アイテムの採集依頼等を無料で引き受ける。ありきたりだがこのルールで通そうと思ってる。」

 まぁ、そうよね。じゃないと、ギルドとして組んでいる意味がほとんどないし……

 

「さて、では早速作業に入る。まずはスキル設定で鑑定を選んでもらう。本来初期には自分のやりたい生産系スキルにそれにあった武器スキルを選びレベルが上がり次第[鑑定]を入れるスタイルが普通だが、君らは最初の方はフィールドに出ることはない。故に商売をする上で必須と言える[鑑定]と自分のやりたい生産系のスキルを入れてもらう。ただし、今のところは[鍛冶][裁縫][料理][革細工]の4つのうちから選んでもらいたい。これはこの世界における最も需要のある生産系スキルだ。余裕が出来次第別のスキルを追加していってくれ」

 

 あたしはウィンドウを開きスキル設定[鑑定]を探しながら目の前のフレッドの話を聞く。

 あともう一つ……か。ふと目に止まったのは[鍛冶]のスキルだった。女子としてどうなの?と思わなくもなかったけど、気になってしまったものはしょうがない。 あたしがスキル設定の場所で[鍛冶]を選び終わってしばらくするとフレッドが続きを話し始めた。

 

「さて、大方は決め終わったと思う。全体で話すのはこれで終わりだ。あとは同じ職を選んだ者同士で集まりそこの代表を決めてくれ。代表になったものはそのあと俺のもとへ。それ以外は解散だ」

 

 フレッドに言われるままに[鍛冶]を選んだ子達を探して集まると、50人と他に集まっているところと比べると大分多い事となっていた。……やっぱり、女の子は少なかったみたいだ。でも、こっから代表を選ぶとなると全くの情報もないわけで……、知り合いもいないしどうするんだろう?

 

「君でいいんじゃね?」

 

 急にちょっと離れたところにいた男の子があたしの方を指差して言った。

「え!?あ、あたし?」

「だって、そうじゃん?「鍛冶選んだ人集まって」って言ってまとめたのあんたじゃん?何も情報ないんだからさ、ここはぱっと決めちゃおうよ」

 

わいわい……がやがや……

 

 周りからもあたしを後押しする意見があちこちから上がってくる。

 確かに、唯一の情報と言えるようなものがあたしが呼びかけをしたということぐらいだけど、それでも急にそんな大役任されるのもあたしには荷が重すぎると思っていた。

 だから周りに向けて言った。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!だってほかにやりたい人とかいるんじゃないの!?」

 と苦し紛れの反論を出してみたものの、この流れの中、自分を推すような勇者はいなかったようで……

「まぁまぁ、じゃあ、こうしよう。この中で、この人がリーダーとなるのに賛成の奴は手を上げよう。じゃ、手ぇ、上げ!!」

そう言った瞬間、周りのみんなは全員手を上げる……あたし以外。

「……分かったわよ!鍛冶の職長はあたしが引き受けるわ!あたしはリズベット、よろしく!!」

 半ば自棄気味に引き受けると、拍手の山が飛んできた。……あの時のコペルだっけ?って人もこういう気持ちだったんだろうなぁ~としみじみ思いながらあたしはフレッドの所へ寄って行った。

 

「ほう、鍛冶職は君が代表か、よろしく!じゃあ、代表4人が集まったとこで重役会議と行こう。まぁ、まずは軽く自己紹介と行こう」

リーダー決めが一番遅かったのはどうやら自分たち鍛冶だったらしい。

 

 軽い自己紹介のあと、会議が始まった。

「まぁ、とは言っても軽い確認作業だけだから会議と言えるもんじゃないかもしれないな。まずは君らにサブマス権限を与える。そして、君らには店を持つ権利を与える」

「店?ってことは職長以外は店を持っちゃダメなの?」

そんなんじゃ、売り物を出すことはあたしたち以外できないことになっちゃうけど?と思っていたらフレッドは苦笑しながら言った。

 

「ちょっと語弊があったな。もちろん出店だとかで売るのはありだ。俺が言うのはギルドの資産を補助にしてプレイヤーホーム……まぁ、自分の店を持つのは君ら職長に限るというのを言っているのさ。プレイヤーホームの店ってのは作業場を独占出来るだけでなく、周囲のプレイヤーからの信頼度も高くなりやすいが、プレイヤーホームだってただじゃねえ。バカみたいに高い。そこで君らにはこれ!と決めた物件に対してギルドの総コルから5割まで引いて使うことを許す。故のサブマス権限だしな。ただ、やたらに建てられてもこっちのコルにだって限界があるから職長だけの特権としてえわけよ。まぁその分君ら職長には血眼になって働いてもらうけどね。なんせ長なんだからさ」

 

 ……随分重いことを軽く言ってくれるねぇ~、この人。

 まぁ、あたしも代表になったからにはほかのみんなに負けないようには努力するつもりだったからいいけどさ。

 

「まぁ、今、長ったらしく説明したが、今日はこれにて解散だ。ほかに意見がある奴は質問をどうぞ?」

 

 このあと店に関する数点の質疑応答があって今日の会議は解散した。

 

 

 




とりあえず、ここまでが序章というより私ALHAのSAO世界の説明といった感じです。

そして、やっとリズは出せました。

え?心情も発言も大して入ってないじゃないかって?まぁ、彼女には後でたっぷり仕事あるんで今は勘弁を……。

そして、次回は時間が飛びます。レクチャー会もやろうと思ったんですけど、正直蛇足な気がしてやめました。

本編入りたいってのが本音だったりしますが、レクチャー会なんてシリカとカイがフレッドの指示に従ってMob倒すぐらいしかやることないですからね!

ということで今回はこのへんで……、ではでは!


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第五話 ~攻略会議~

第五話完成しました。

アリアはほとんど設定変更点ないからさっと流そうかなと思いましたが、フレッドが干渉してきてるからどうしようかなと思いつつ書いてみました。

では早速どぞ~


 やっとここまでこぎつけたか。

 このデスゲームが始まって既に一か月弱。犠牲者は事故によるものも含めて約1500人……まぁ、俺んところからはまだ死者は出てない。

 ようやく第一層にほど近いここトールバーナの街にて最前線のチームによる攻略会議が開かれることと相成った……のだが

 

「いや~、帰りにモンスターの大群と出会うなんてねぇ~、おかげで会議に遅刻っと」

「そんな喋ってる暇あったら、全力で走れよ旦那!」

 ここで開かれる最初の会議が本日16時よりということだったのだが、流石にそれまでの時間を只々呆けてるのもつまらないので迷宮区でMob共をひたすらポリゴン片に変えてく作業を15時くらいまでやって、さあ帰ろうって時にMob共の反乱かなんか知らんが迷宮区出るまで一匹ずつひたすらエンカウント……5メートル歩いたら確実に一匹出るような驚異の出現率の高さで俺たちが迷宮区から出ることをこれでもか!というくらいに邪魔された。

 そのおかげで会議に予定5分ほど遅れる始末となっちまった。

「まぁ、先にコペルとシリカ行かせてるから問題ねえだろ?」

「リーダーのアンタが聞かなくてどうすんだよ!最初から聞いてなきゃ質問とかもできねえだろうが!」

「おぅ、考えてるな、カイ!盲点だったわ!」

 実際、最前線の効率Mob狩りの為二人は置いてきてる。まぁ、口実会議に遅れた時の為だったんだけどまさか本当になっちまうとは……と、考えてる間になんとか広場にまでたどり着くことができた。

 

「すまねえ、ちょいと遅れた」

「もう、何やってるんですか?会議自体ちょっと遅れてるみたいでまだ始まってませんけど」

 なんだ、だったら、急ぐことなかったかと思った瞬間、パン、パンと手を叩く音が聞こえほぼ同時にいい感じの声が広場に響いた。

「はーい!それじゃ五分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっちに来ようか!」

 へぇ、あの壇上に助走なしで飛び乗るってえのは中々の筋力、敏捷値だ。

 防具や髪の染料アイテムを見るにレベルも相当に高ぇみてえだ。

 なんか、あの仕切ってるやつ見た瞬間一部ざわついたな、どうせイケメンだからだろう。

 俺も外じゃ割とイケメンって言われてたけど、騒がれないのは当然だ。

 俺の今の見た目は古ぼけた感じの白いフーデッドコートで顔まですっぽりと覆い足元までコートが伸びてる。

 このコートは今カイ以外が装備してる。シリカはまず女子ってばれると下心を出すバカどもが出るからであり、コペルは自粛の意味を込めてだそうだ。

 コペルの自粛に関しては、よぅわからんがおかげで傍から見たらフード集団だ。よくよく考えたらシュール極まりない、別の意味で騒がれてもおかしくない気がする。

 

 そんなこと考えてると壇上のソードマンはこれでもかという爽やか笑顔を浮かべて広場に向けて言ってきた。

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!オレは、《ディアベル》、職業は気持ち的に(ドンッ)《ナイト》やってます!」

 ディアベルが胸を叩き言い終わると、近くにいるプレイヤーの一団がどっと沸いて、口笛や拍手に「ほんとは《勇者》って言いてーんだろ!」だったり「この世界に《職》システムなんかねーだろ!」とかいう声が混じって聞こえてきた。

 あのディアベルってやつ中々リーダーの気質あんなぁ、一瞬でこの場にいるやつらになじむとは……

「さて、こうして最前線で活動してる、いわばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう分かると思うけど、……今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」

 ほぅ、もうそこまで攻略されてたのか。今日の俺達やコペル達も同行した昨日の迷宮区探索はカイ達のことも考えて15階程度で暴れてたから、安全を排してまでそこまで行ってたことにびっくりだ。

 

 とは言ってもこの4人のパーティーは一層の間は食材班に入れなかったので、レベルアップは万全で俺は12、コペルとカイは10、シリカは9ということになっている。

俺のレベルが飛び抜けてるのは結構な頻度で夜の狩りを楽しんでるからであり、そこにはあいつら連れてってないからだ。

 まぁ、食材班は食材班で夜な夜な15人全員でフィールドに出ているらしいと、この前はじまりの街に戻ったとき、リズが言っていた。……まぁ、こんな低い階層じゃまだPK共も沸かないだろうからあまり褒められた行為じゃねえが、一応黙認はしてる。

 一応、この一層に限っては俺とコペルで時たま、はじまりの街に戻ってお金は仕送りしてる状態だから、そんなに稼ぐ必要はねえんだけどな。

 

「一ヶ月。ここまで一ヶ月もかかったけど……それでも、オレ達は、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到着して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 ……ま、その通りだわな。

 周りも俺と同じことを思ったのか、再び喝采が起こる。

 

 俺らも拍手を壇上のナイト様に送っていると、その喝采を遮る声が聞こえた。

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 なんだなんだ?折角、いい雰囲気で会議が進もうとしてたのによぉ……。

 遮った声のせいで場は静まり、その声の主はナイト様の前に躍り出る。そいつの姿は茶髪のトゲトゲ頭しか見えねえが、嫌な予感しかしねえな。

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

 

 ヒュ~ッ、あのナイト様さすがだな。

 あの爽やか笑顔絶やさずに且つ向かいの男をなるべく刺激しないように会話を続けようとは……、俺だったらまずは一回ぶん殴ってる。

「……フン、わいは《キバオウ》ってもんや」

 名乗ると、その勇猛なネームをしたトゲヘッドは広場を眺め一瞬ある一点で止まった気がしたが、すぐに見回しを再開した。

ふと、その視線の先を追っていくとどこかで見かけたことのある、片手剣を背にしたプレイヤーがいた。

「(たしか、キリト君っつってたっけ?)」

 やっぱり、この攻略会議に来てたか。流石にレベルが高そうだ。

 

 そして、キバオウとか言うプレイヤーが広場を一回見回したあと、ドスが効いた声で言った。

「こん中に、5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや!」

「詫び?誰にだい?」

 ディアベルはあくまで静かに対応しているが、キバオウはさっきより更にドスの効いた声で憎々しげに吐き捨てた。

「はっ、決まっとるやろ!今までに死んでった千五百人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから一ヶ月で1500人も死んでしもたんや!せやろが!!」

 はぁ~ん、そういう事ね。

 俺としてはこういうことを防ぐ為にレクチャー会だの、仮ギルド結成だのやっといたんだがやっぱりそう言う奴らが湧いたか、……さっきの嫌な予感が当たっちまったな。

 そのことを受けてか、場は絶対零度のごとく冷めていた。

 ここで場を戻すために反論してもいいんだが、まあ彼の主張に若干興味があるから聞いてみようか。

「―――キバオウさん。君の言う《奴ら》っていうのはつまり、元βテスターたちの事……かな?」

「決まっとるやろ!」

 ……あいつ、なんであそこまで偉そうにふんぞり返ってんだ?俺と同じことを思ったのか、カイが隣で「あいつ、ぶん殴ったほうがいいんじゃね?」とか真顔で言ってやがった。

 

 壇上の偉そうな奴は後ろにいたディアベルを一回睨んでから、ニュービーの九千人弱をベーター共が見捨ててその後も知らんぷり、こん中にも何人かはベーター上がりどもいんだろ!

その知識使って得たコルだのアイテムだの全部吐き出さねえとお仲間ごっこには付き合えないぞ!的なことを言ってのけた。

 

 ……まぁ、言わんとしてることは分かる。

 さっきも思ったが、ホントはこういうベーターとそうでないのの確執を防ぐ為にあぁいう事しといたのに結局この展開になることは変わらんのな……

 確かに多くのベーターがニュービーを見捨てたのは事実だし、今、隣で場の成り行きを見守ってるコペルも直接聞いたわけじゃないがあの森にあんな早くいたってことはそういうベーターの一人だったであろうわけだし、実績を出せてない以上製品版からってやつの憤りは分からんでもない。

 

 だが、この場ではそうゆー事を討論しに来たわけじゃねえ!

 ここは、あくまでボス攻略会議の場だ。

 これを主軸に置くならそうゆーのを黙認、もしくはベーターに出てきてもらい情報提供を促すのが普通だ。

 こんな茶番続けるなら……、出るか。

「お前ら、出る準備しときな」

「えっ、でもちゃんと聞いておかないと……」

 シリカが反論してくるが、コイツがもうボス攻略会議じゃねえってことを説明してやろう。

「分かってないな、もうこの会議は攻略会議という名を借りたベーター吊るし上げ会場になっちまったのさ。ベーター達がこの雰囲気で出ようなんてする確率は0に等しいし、ベーターじゃなくても反論しようものなら、ベーターとして疑われちまう可能性が出てくる。今の場の空気の中そんなリスクを犯そうとする奴も、まぁいねえだろうな。つまり会議は滞りボス攻略なんて話してる場合じゃなくなったのさ。俺らはここに本気でボスを倒したいっていう気持ちで集まってる。俺らの目的が果たせない以上、ここに居るより外でレベル上げしてたほうがよっぽどマシ」

「………」

 

シリカが押し黙った代わりに今度はカイが言ってくる。

「でもさ、旦那はベーターでもレクチャー会だのギルド結成だのしたろ?それ公表しちまえばアイツ論破できんじゃね?」

「まぁな。だが証人がいねえ。確実にベーターじゃねえと証明取れたやつが俺の言ってることを100パー証明してくれるならまぁいいが、まずその証人の条件がこの場では厳しすぎる。この場で俺の発言擁護するってことは俺の第三者もしくはベーターでないと認められない可能性が極大といってもいい。つまりこの場において俺の行動を100パー証明できる可能性は著しく低ぃ……、俺はそういう論破の時間も含めてもったいねえと思ってんのよ」

「なるほど……。ま、旦那にそのつもりがないなら俺はなんにも言わねえけどよ」

「だけど、フレッド。ちょっとその考えは早計だったみたいだ」

 

 流石にもう来ないかなと思ってたコペルから急に早計発言が飛び出た。

「あん?どういうことさ?」

「ほれ、壇上」

 俺がコペルに促されて壇上を見るとそこにはキバオウに対峙する黒人風の大男が立っていた。

「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたが言いたいことはつまり、元ベータテスターたちがビギナーの面倒を見なかったから彼らがたくさん死んだ。その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな」

 ほぅ、この場でそんな発言するたァ……、なかなかに度胸あんな、見た目を裏切らず。

「そ、そうや。元ベータテスターたちが見捨てへんかったら死なずに済んだ1500人や!しかも、ほとんどが他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんや。アホテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやらコルやらを分け合うとったら、今頃は二層や三層まで突破できとったに違いないんや!!」

 お前のその情報は一体どこから来たんだ?

他のMMOの中でトップ張ってた連中って……あんた死んだ1500人と全員知り合いだったのか?それにその1500人の内にβテスターだって恐らくは含まれてんぜ?

 確認事項じゃないから何も言わんけど。

 

 まぁ、それに今はあのエギルとか言う奴が反論するだろうしな。

「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、このガイドブックはあんただってもらったろ?行く先々の村で無料配布してたからな」

……ここからじゃ見にくいが、あの特徴的な三本ヒゲは「鼠の」のマークだな。

あいつがこの製品版でも情報屋やってたのは知ってたが無料配布とは……、思い切ったものだな。

「も、貰たで。それがなんや!」

「このガイドは、オレが新しい村・町につくと必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったと思うが、情報が早すぎる、とは思わななかったのかい?」

「情報が早かったら何やっちゅうんや!?」

なるほど、つまりその情報源はβテスター達によってもたらされた、っていうことを言いたいわけね。そして、情報だけは少なくともあったということを証明し、ベーター達に対する確執を少しでも埋めようってハラかね。

 と、思ったが結論の方はどうやら違ったらしい。

 情報はあったけどたくさんのプレイヤーが死んだ、それは引くべきポイントを見誤ったからだ。だからこそ、この会議ではオレ達自身どうあるべきなのかということを考える場だ。という内容をこの広場にいるみんなに聞こえるように言い放った。

 

 そしてもう一つ……

「それに、だ。たしかこのゲームが始まったその2日後元テスターであると公言した上でフレッドというプレイヤーが最低限のこの世界での戦い方をレクチャーしたとも聞いた。そのプレイヤーがここにいるかどうか分からないが、全員の元ベータテスターたちがキバオウさんの言うアホテスターとは限らないんじゃないのかい?」

「クッ……!」

 あらら、俺の話まで飛び出たか、別に名乗りゃしないが、バレた時は別にそれでもいいけど。

 そしてその発言を助長するようにナイト様が続けた。

「キバオウさん、君の言うことも理解はできる。でもエギルさんの言うとおり、今は前を見るべき時だと思う。元ベーターテスターだって……いや、元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略のために必要なものなんだ。彼らを排除して攻略失敗ってことになったら本末転倒じゃないか」

 流石にナイト様だ。俺の言わんとしていることをこの場にいる皆に伝えてくれる。

 

 その説得に妥協点を見出したのか、キバオウというプレイヤーは折れた。

「わぁ~った。だけどナイトはん、一層を攻略したらこの件に関してはちゃんと追求させてもらうで?」

「うん、そうしてくれ」

 そしてエギルってプレイヤーと共にキバオウも近くにある席に着く。

「じゃあ、会議を続けさせてもらうよ?実は先程件のガイドブックの最新版が配布された。これには第一層のボスのことも書いてあった。」

 瞬間、広場のみんながどよめきだった。

 そりゃそうか、まだ会ってもいないボスモンスターのことをなんで?と思うやつもいれば、情報が武器のこの世界、これで攻略がグッと楽になると思う奴もいるだろう。

 

「……みんな、今はこの情報に感謝しよう。俺は正直この情報はスッゲーありがたいって思ってる。このガイドのおかげで2~3日はかかるだろうボスの偵察戦をまるごとカットできる。なんせ、ボス戦で一番被害が出る可能性があるのは偵察戦だったからさ。」

 ただ、壇上のナイト様はこの状況を良しとなかったのか、なんで?と思ったやつの疑心を潰しにかかった。

 この効果は絶大だったらしく、周りがうんうんと頷く姿が見えるから、皆の中から疑心をうまいこと拭い去る事に成功したようだった。

 そして青髪のナイト様は続けて、書いてあるボスの情報を言っていった。

 情報をまとめると、ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》武器は斧と盾で《ルインコボルド・センチネル》という金属鎧で身を固めたハルバード使いの取り巻きが3匹、これはボスのゲージが1つ減るたびに3匹ずつPOP計12匹まで出る。またボスはゲージが最後の一つになると斧と盾を捨てて、曲刀カテゴリの《湾刀》を使ってくるということだ。

 これは正直ありがたい。

 俺はベータテストの時一回としてボス戦に参加したことがない。

 βテスト開始時、俺のリアルが急用で忙しくなり、ボス攻略は遠慮してたからな。ま、その分、ボス以外の情報という面では《鼠の》と同等以上知識があるとは思ってる。

 スリルという点では情報はただのお荷物だけど、死んじまったらこの世界で何も感じられねえしな。

まぁ、ボスの見た目はさぞ恐ろしいだろうからそれで満足しておくとするか。

 するとディアベルはボスのステータスに関して大して恐ろしくはないだろうということを説明した上でパーティーを組めと言ってきた。

 まぁ、当然だろうな、レイドを組めばそれなりに死亡率を減らすことができる。

 

「はえぇ!」

俺がそう思ってる間約一分、ほぼ全員が6人のパーティーを組み終わってしまったのだ。

「なんでこういう時に限って思考にふけってんのさ?」

「仕方あるまいて。まず俺は考えなしに動くことは大してない。俺が考えずに動くときは、リアルピンチの時くらいだ。」

 まぁ、出遅れても、正直このメンバーでレイド組まずに突っ込んでもさして問題はない。

 結局、ここに居るやつら全員で突っ込むことはほぼ決定事項のようなもんだし。とか、また考えていたら、上の方から声が聞こえた。

「あの、溢れているなら俺たちと組みませんか?」

「ん?あ、あぁ。って、おぅ、キリト君じゃないか!俺さ、フレッドだ。一ヶ月ぶりになるかな?」

 俺は被ってるフードを少しずらしてキリト君に顔を見せるようにした。

「えっ、あ、久しぶり……ってことはこの中に?」

「まぁ僕もいたりするね。久しぶり、キリト……」

 ……あぁ、自粛ってこのことか?まぁ、パーティ組めなかったの俺のせいじゃないから文句言わせないけど。

 ややぎこちなく挨拶するコペルにキリト君は普段通りって感じで続けてくる。

「あぁ、久しぶり。で、どうかな?レイドは8パーティーまでだからこのままだと入れなくなるし」

「まぁその通りだわな、んじゃっ、パーティーメンバーとしてよろしく!」

 俺がそう言ってキリト君とこれまたフードをかぶったプレイヤー二人に対してパーティ申請を送り、キリト君がそれを受諾した。

「あぁ、こちらこそよろしく」

 

 このあと俺達が簡単な自己紹介を済ませているとディアベルが誘ってきた。

「お~い、君たちもこっちへ来てくれ。簡単にボスへの対策を建てたい」

「はいよ!今そっちへ行く」

 このあとディアベルの指示で最小限のパーティー入れ替え(俺らはなかった)で3部隊攻撃・壁・行動遅延に分け、役割分担をした。

 

 俺らのチームは攻撃部隊……基本は取り巻きどもの一掃をナイト様から仰せつかった。

 カイや向こうのフードプレイヤーが決まったあとに文句言っていたが、まぁどっちもキリト君が抑えてくれたからいいだろう。

 このことを決めたあと会議は終わり、翌日10時に再びここに集合することになった。

 

 俺たちは明日、ボスを攻略する!




何か大切なところの会話省いてる気がしないでもないですが、とりあえず飛ばしていきます。

この小説一体どこへ向かってるのか自分でも謎になってきました。

まぁ、おそらくキリト君は原作通りハーレムになるでしょうけどw


あ、そうそう。ディアベルとキリト君たちはまだ自己紹介してない体で話は進めていきますのであしからず。

引き続きご感想・ご意見等はビシバシお願いします。
リクエストなどもあればぜひぜひどうぞ、できる限り善処いたします。

では、今回このへんで、ではでは!


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第六話 ~第一層~

本当は日曜に上げられるかなと思っていたのですが、納得いかなかったので書き直してたら、結局本日にずれ込んじゃいました……

さて、今回はコボルド王との戦いにございます。

ではさっそくどぞ~


キリトside

 

 会議が終わった後、オレはフレッドっていうプレイヤーのグループと一緒に行動していた。

 あのリトルネペント共が湧く森での後のことを聞きたかったからだ。

「なぁ、フレッド。もしかしてあのリトルネペントたちを倒した後の野暮用っていうのは……」

「思ってる通りだと思うよ。俺はあの後、はじまりの街に行った。そして、仮ギルドを結成してベーターとしての知識を生かして、レクチャー会を開いた。今日の会議でエギルってプレイヤーの言った通りさ。それでも結構な数死んじまったみてぇだがな」

 ……オレみたいなベーター連中の中でもそうやって考えられるやつがいるなんて。

 しかも、デスゲームとなったこの世界においてそんなことできる奴なんてそうそういないと思っていたんだけどな。

「だけど、何であの会議で自分がフレッドって名乗らなかったんだ?あんたの行動証明してくれるエギルってプレイヤー居たから問題なかったんじゃないのか?」

「ん?あぁ、興味なかったし。そういうので目立つつもりはない。そのことによってパーティーが瓦解しようと結束しようと俺に興味はない以上、俺から名乗り出ることはありえない。ま、聞かれりゃ答えるが」

 なっ……!?あの森で会った時も理解しがたいこと言ってたけど、パーティーが結束するならともかく、瓦解しても構わないって……

「ちょっ、アンタ……」

 

「まぁまぁまぁ、あんたキリトって言ったか?ちょいとこっちに……」

 

 俺が文句を言おうとしたらフレッドのパーティーのカイとか言ったプレイヤーがフレッドに聞こえないようにオレを誘ってきた。

「俺も旦那とは1か月近くやってるから分かるんだけどさ、間違いなく旦那は赤ん坊の精神と一緒なんだよ。なんつーか、興味のある行動しかとらないっていうか……」

「……それって人格的に破綻来してないか?」

 つまり、あの時助けたのもオレに多少興味が湧いたからであり、でなきゃ助けには来なかったと?

「俺もそう思うんだけどな。だけど、ギルドに出してきた指示は、俺からしたら文句をつけられないくらい完璧だし、戦闘技術もしかり。俺らのフォローもなんだかんだでばっちりこなすから俺は黙認してる状態だけど。ちなみに旦那が興味を示すことはゲームを攻略することじゃねえ、ゲームを楽しむことなんだ」

 ゲームを楽しむ?このデスゲームの中で?

「どういうことだ?」

「さぁ?俺も旦那に聞いたらそう返ってきただけだし。まぁとりあえずはあんまり旦那の機嫌損ねることだけはしないでくれ。赤ん坊と一緒って言ったと思うけど、機嫌損ねると今度はしばらく何ににも興味示さなくなっちまうからよぉ。ま、戦闘面に関しては大丈夫だ。俺が保証してやるよ」

 ……まぁ、戦闘面に関しては俺もあの森での戦いを見ているから文句はない……。それにさっきは俺に興味が湧いたから助けたって思ったけど、あの人はコペルも助けてんだよな、ってことは人命に関しても良識は持っている……と思う。

 そのあと3分じっくり考えた結果……

「……はぁ。分かったよ」

「すまねえな。迷惑かける」

 

 しかし目の前のカイってやつ、できてるなぁ。まだ身長を見る限り小学生?くらいだと思うのに……

「……なぁ、キリトっつったか?あんたまさかとは思うが俺のこと小学生の癖に的な感じでなんか考えなかったか?」

 俺の顔にそう書いてあったのか、確信を持ったように聞いてくる。まずい!地雷踏んだか?

「イ、イヤ~。ソンナコト、ゼンゼンオモッテナイヨ、ウン、オモッテナイ」

「……どうせ、どうせ俺なんて小学生にしか見られない身長だよ……」

 俺のフォローがまずかったせいか、一人ブツブツ言いながら離れていってしまった。

 ……うん、これは余計にフォローするよりも放置がいいと感じた。対人スキル0のオレだが、これはなんとなく察せる。

 

フレッドside

 

翌日

 

「皆、勝とうぜ!」

 ディアベル君の発言とともに第一層フロアボスの部屋になだれ込む48人のプレイヤー。

 彼の絶妙な指示のおかげで、ボス部屋前まで難なく踏破できた俺達。

 途中、キバオウ君がキリト君に突っかかっていたみたいだが、まぁ気にするこっちゃないだろ。

 さぁて、そんなことより、どんなボスかね?設定は迷宮区にも出てきたコボルド共の王って話だが、それだとあんま期待できないんだよな……。

 

 侵入数秒後、果たして出てきたのは武装した赤い巨大な豚っぽいもんだった。事前の情報通り、武器には斧とバックラー、腰にはタルワールと思わしき武器を持っている。

 正直いい意味で期待を裏切ってほしかったんだが、さすがにこの場ではそんなことは言わねえ。

 

 この攻略戦ではA~Hの舞台で構成されるパーティーで俺らが所属するのはH部隊である。役割は単純、取り巻きどもの一掃である。

 俺は昨日のうちパーティーメンバーであるキリト君と相談してキリト君とフードのプレイヤー―――アスナと読むんだろう、昨日自己紹介は途中ディアベル君に中断されてそのままタイミングを失って彼女だけ名前は教えてもらってない、まぁ見えるんだが―――で組み、俺らの方はコペルとシリカ、カイと俺というコンビで取り巻きのセンチネルどもを本隊に近づけさせない。

 出てくるのが情報通り3匹ずつなら俺らの3グループで相対し、情報にミスがあるなら、昨日のキバオウというプレイヤー率いるE隊とポールアームを主武器とするG隊がフロアボスを相手にしつつ戦うという、取り巻きに関してはこの戦略である。

 ま、言ってしまえばおこぼれもらう感じの戦略だが、確実性求めるならばE隊やG隊はボスの方へ向かい、取り巻きは俺らに任せとけ!と俺があの会議で言っちまったもんだからこういうことになっている。

 正直、カイ、コペル、向こう側からアスナちゃんが文句たらたらだったが、俺としては最初のボス戦はカイやシリカに勉強させるつもりだったからちょうどいいと思ったんよ。

 もちろん、俺だって不満がないわけじゃないんだぜ?だけど、ギルドとしてやってくなら俺だけが楽しんでちゃ意味がない。

 これをカイやコペルに伝えてもカイの奴がまだ不満言ってやがったから―――

「まぁ、不満はあると思うが一回ボス戦というものを身近に感じる戦いも経験しといたほうがいい。俺はお前に子供の方が使えるとはいったが、恐怖耐性は経験不足と感じている。少し、慣れとけ!」

―――と言って黙らせた。

 

 しかし、俺の予想は戦いの内にほぼ杞憂だったと感じた。

 なぜって……

「おら、一匹潰したぜ!」

 カイがここに来てなぜかテンションがハイになっているせいで恐怖というものを微塵も感じさせない。

 更に言ってしまえば、カイが強い。テンションの高さゆえなせる業かどうかは知らんがここ最近の狩りの様子からは想像もできなかった的確さで取り巻きのクリティカルに確実に当てていく。

 俺が3回ソードスキルで隙を作ったあとは瀕死のセンチネルもしくはポリゴン片が残るのみとなり、瀕死の方は普通のモーションでも余裕で倒せる。

 

「(まぁ、あいつの武器も普通じゃないからっていうのもこの戦況になってる原因の一つだけどな)」

 

 今、あいつの装備している武器は略奪者という名を冠する曲刀カテゴリ《ルーター》というものだ。

 コイツは《スワンプコボルド・トラッパー》っていうMobからのドロップ品であり、ベータ時代の俺の記憶にないことから、新しく導入されたかもしくは超のつくレアドロップだったかなんだが、性能が一層時点では壊れている。

 性能も然ることながら、この《ルーター》という武器、素でクリティカルにプラスの補正がついている。

 相手の急所にHITさせ確実に命を"略奪"するっていう意味なのかね、あの武器。ちゃんと強化できれば5層ぐらいまでなら使っていけそうな……そういった類のもんだ。

 

 そうは言っても、その性能をちゃんと理解して使っているカイもすごいもんである。

なんせ、この武器手に入れるまでは俺がしたクリティカルの説明に―――

『あん?クリティカル?そんなもん狙う必要なんかないだろ。攻めて攻めて攻め通せば、Mob共を倒せることには変わりないんだからさ』

―――とか言ってたもんな。

 

「すげえな、カイ!その成長のスピードは俺でも目を見張るぜ!」

「当然だぜ?俺の進化のスピードは誰より早いぜ!!」

 俺がそのことに関して褒めると典型的な天狗になりやがった。

やっぱ褒めるべきじゃねえな、コイツは……。

 それにしても、なんだっけな?そのセリフ、どっかで聞いたことある気がするんだが……

 

 しかし、余裕だ。

 情報通りっていうのが効いてると思うが、今のところ死んだ奴はいねえし、何よりディアベル君の指示が的確すぎてツッコミどころがない。

 やっぱり、今後の攻略を背負ってくべきは彼かね。

 彼を中心として攻略を進めていけば、死傷者は最小限に抑えられるだろうな。

 

「ぼうっとしてんな、旦那!4回目来たぜ!」

「おうよ、任しとき!」

 ってかもうそんなにボスのHP減ってたんか。

 確かにそっちを見ると既にボスゲージは一段……、たしかこっからボスの攻撃パターンが変化するって話だったな、っつー事をセンチネルの武器に両手剣斬り上げ《アッパー》を当て、隙を作りながら思ってるとボスの方向からガシャンと音が鳴りそちらを見た。

 斧とバックラーがボスの手を離れている、ってこたぁこっからあの腰にあるタルワールの出番か。

 

 そろそろ締めかと思って見てると急にディアベル君が前に出てソードスキルの準備に入った。

 変だ、セオリーっていうかここまで来たら相手の隙をついて一斉攻撃の方が上等手なはずだが……

「(……あぁ、LA狙いか)」

 LA……ラストアタック・ボーナスの略だ。

 ボスのLA報酬は基本的にユニークなもので性能もそれなりに高い。

 更にボスの中でもフロアボスのLAともなれば相当に優秀性能なものがドロップすんだろうな。

 

「だ……だめだ、下がれ!!全力で後ろに跳べ――――――ッ!!」

 唐突にキリトくんが叫ぶ、瞬間俺の第六感が命じていた。

 こういうことはリアルでも何回かあった。

 仕事中にこの第六感が働いてそれの通りに行動し、救った命もある。今回もそれに従う。

 まずは両手に携えている武器を――――――投げる!

 ボスにではなく、カイのディレイを突こうとしていたセンチネルに、だ。

「おわっ、危ねえだろ、旦那!」

 カイが文句を言いつつもちゃんと腹部に剣が刺さったままのセンチネルにトドメを刺す。

 そして、次にボスとディアベル君の方向に――――――跳ぶ!

 俺の第三のスキル《跳躍》に自分の動きを同調させ移動方向にブーストをかける。

 このスキルは瞬発力、並びにジャンプ力を底上げするスキルだが、《軽業》と違って武器使用時のスキル使用はできない。

 故にソードスキルで弾くはずだったセンチネルの攻撃を筋力補正全開で投げさせてもらった。

 

 俺の予感はどうやら正しかったらしい。

 あれは《曲刀》じゃねえ、《カタナ》だ!

 見た目じゃ判別はつかなかったが、あの技は《曲刀》カテゴリに在するソードスキルじゃない。《カタナ》専用重範囲ソードスキル《旋車》という技だ。

 俺も数ヶ月前にこの技を受けているから覚えている。

 そして、こいつを受けたディアベル君以下6名がゲージ4割というところまでダメージを受けている。

 この技の厄介な点は特殊効果として、スタンも兼ねているということだ。

 さらにこの技でスタン中のディアベル君に2回目のソードスキル《浮舟》がHITする。

 ダメージは大したことねえが、コイツはコンボ開始時の技。となれば、追撃が来る筈だ。

 

「さ・せ・る・か・あぁ!!!!」

 

 3回目はさせじと俺はボス手前50センチという位置で再度《跳躍》を発動し、やつの得物の上に跳ぶ。

 そして、3回目のソードスキルが発動する寸前に俺は《跳躍》の余剰分の勢いと筋力値補正を利用して刀身を掴み軌道を虚空に移した。

 その結果、3連擊のソードスキルは何もない空を抉りディアベル君は地面に落ちた。

 

「誰か、ディアベル君……!?」

 彼を助ける為に声を出したが、それがまずかったらしい。奴の目と俺の目が……合った。……やべえ!今空中にいるんじゃろくに身動きが取れねえ!

「グァッ!!」

 俺の体はボスの拳に吹き飛ばされて近くの壁に激突した。

「っつ~、やってくれん……!?」

 目の前のクソ野郎に悪言の一つでも浴びせてやろうと思ったら光が走っていた。

「~~~~~っぶね!!」

 紙一重にそれを躱し何とか剣を取り元の体制に戻る。

 もともとディスアームの状態でコイツとやりあえるとは思っていなかったが、これはマジに死ぬって!

 

 だけど、それにちょっと興奮した自分がいたことも事実だった。

 死という現実を間近にして俺が思う感情は「恐怖」でも「怯え」でもまして「死にたくない」というものでもない、「悦楽」だ。

 だが分かった、コイツじゃ俺を満足に興奮させられやしねえ。

となればやることは一つだ。

 

「おい、ディアベル君は!?」

「大丈夫だ!数ドット残っていたから今、回復中だ!!」

 俺の問いにキリト君が答える。なら、問題はねえ、この戦いじゃ攻略組の一人が死ぬには早すぎる。……とは言ってもディアベル君がいないからか統率がなくなってきているな。

「シリカ、君はディアベル君の守護を頼む。」

「分かりました!」

 シリカとコペルが既にセンチネルどもを倒していてくれたようで、彼女がすぐに応じる。

「悪ぃ、カイ。どうやら、ちょっとボス戦を体験してもらわねぇといけねえみてぇだ。」

「ハン、だから言ったろ?俺に前置きなんていらねえんだよ。最初っからクライマックスに行かせな!」

 あぁ、分かった。

 今のセリフとさっきのセリフ……、どっかで聞いたと思ったら某特撮ヒーローの名言だ。

 

 そんなどうでもいいことを考えていると後ろからコペルの声が聞こえた。

「壁役は僕に任せてくれ。まだ、A,B隊の準備ができていない」

「OK!頼りにしてるぜ、コペルさんよ!」

 そして、カイ、コペルと共にボスのほうへ走り出す。向かい側からキリト君とアスナちゃんも走ってくる。

 俺と同じ考えに至ったってこっか。

「キリト君、考えてることは同じだと思うが、連携で奴を潰すぞ!」

「あぁ!」

 奴のタゲは前線メンバーが取っちまってんな。

 俺は、ストレージに自分の得物をしまい、跳躍でキリト君達に数秒リードをとって奴の前に躍り出る。

 そして、再び俺のストレージから武器を出すと同時に単発斬撃《スラント》を放つ。

 ボスのHPは数ドット削れただけだったが、十分目的は果たせたようだ。

「グルォ!」

「は~い、デカブツ。相手は俺がしてやんよ。かかってきな!」

 再び俺の視線と奴の血走った視線が交差した。瞬間、俺の目の前に奴の刀が振り下ろされる。だけど、遅いな。

「スイッチ!」

「おぅ!」

 俺の掛け声とともにコペルが前に出て、盾を構える。

 ガッキィーンという超絶金属衝突音を起こしたボスとコペルが一瞬固まる。そして、俺的にはその一瞬で十分。

 目の前のボスの首目がけて撃つは両手剣突進技《ライナー》。そして、俺の隣でカイが同じく首目がけて放つは曲刀系ソードスキル《リーバー》。

 二つのソードスキルは弱点である首を一気に襲い、ボスはノックバックを起こす。

「キリト君、スイッチ!」

「あぁ!」

 

 自然と俺→カイ→キリト君→アスナちゃん以下ループの形ができるのはすごいもんだ。そして危なっかしいスイッチにはすかさずコペルがバックラーでガードし、次につなげる。

 このループに危うさはなかったはずだが、ソードスキル連発ってのはそれなりに精神力を持ってかれる。

 そして、7回目のループでキリト君のパリィが失敗し、次の攻撃の用意をしていたアスナちゃんを巻き込んで吹き飛ばされる。

「やべえ!」

 俺が言ってる間にもボスのソードスキルが迫る。

「おらっ!」

 だけど、それはエギル君の両手斧系ソードスキル《ワールウインド》で防がれ、後ろからはコペルの片手剣基本突進《レイジスパイク》で突っ込んできてボスのタゲを取る。

「壁を一人じゃきついだろ!ディーラーと一緒に回復しときな!それくらいの時間はもう一組のディーラーと一緒に稼いどくぜ!」

「……すまん」

「僕もさすがにきついと思ってたからナイスタイミングだったよ、エギルさん」

「なぁに、壁が後ろで引きこもってちゃあ、商売あがったりだぜ!」

 本気でうまいタイミングで来てくれたもんだ。

 B隊が復帰してきたってことは、恐らく―――

「すまない、復帰が遅れた!」

―――ディアベル君も回復が済んだってこったな、当然。

「今度は行動ミスんないでくれよ、リーダさんよ!」

「あぁ、同じ失敗は二度もしないさ!」

 

 そのあとの戦闘は非常にスムーズだった。

 元のディアベル君の指示に戻った為に全体に士気が戻り、彼の復帰後、五分と掛からずに、俺のジャンプ斬り上げから始まる、斬り上げの斬撃と首で交差させるように水平に斬る両手剣二連撃《アッパー・グレイヴ》からキリト君のV字に切りつける片手剣二連撃《バーチカル・アーク》がボスの最後のゲージを全て屠り、獣人の王の名を冠すフロアボスは己が武器と共にポリゴン片となって、攻略隊の目の前から姿を消した。

 

 そして数秒後に現れるCongratulationの文字。

 

「「「「「「「「わぁっ!!!!」」」」」」」」

 ふぃーっ、なんとか倒したな。

 今回の攻略はちょいと危なっかしかったが、ま、無事に終わった。そんなことを思っているとディアベル君が俺の目の前に来て告げた。

「ありがとう。君のおかげで助かったよ。ええと、名前は……」

 まぁ礼を受け取るってのは慣れてたはずなんだが、改めて言われると照れるな。

 しかし、ここで自己紹介とくるか……、まぁ、偽名とか使うのは俺の主義じゃねえからな。

「あぁ、俺の名前はフレッド。昨日紹介に預かったところの、な」

「!?そうか。あなたが……。いや、実際あのボスの剣を喰らった時はもうダメかと思っていた。改めて礼を言わせてくれ」

「なぁに、こんな低層で攻略組に死者なんか出されたくないからな。特に君のような優秀なリーダー様は、ね。これからも攻略組を引っ張って行ってくれよ」

 じゃないと、俺が助けた意味の一割ほどが無駄になっちまう。

 ……え?一割って小さすぎじゃね、って?んなことはないさ。無駄はないほうがいいだろ?

 

「そうか。分かった。でも、フレッドさんも引き続きこれからの攻略よろしく頼むよ!」

「あぁ、ただし、今度は危なっかしい真似はしないでくれよ?ディアベル君に全信頼がおかれているこのメンバーを引っ張れるのはそれこそ君しかいないんだからさ。君がユニークな武具を持たなくても、ここにいるメンバーはこれからも攻略に名を連ねる常連になるんだぜ?もっと俺らを信頼してくれよ?そして、さんはいらねえよ、ディアベル」

「!?……ハハッ、参ったな。そこまでお見通し済みか。分かったよ、今度からは全メンバーを信頼して最善の手で攻略に挑まさせてもらうよ、フレッド」

「あぁ、そうしてくれ」

 さて、俺は2層に行ってギルドのメンバーたちに顔合わせしてこようかね?そんでもって祝勝会でも開くか!

 

「お前、元βテスターだろ!」

 

 唐突にそんな声が響いてきたのは俺が打ち上げ何にしようかと考えてる時だった。

 

 

 

 




やったぁ~、コペル君に引き続きディアベル君も生かしてみたよ。

まぁ、自分の最初の作品の傾向を知ってる方ならこの展開は見え見えだったか?w

となると、あの子も……(ブンブン)いやいや、なんでもないよ?

気にしなくていいからね?

さて、キリト君以下攻略組が獣人の王を倒したのも束の間、いや~な声が響いてきました。

次回どうなる!?ってことで、ではでは!


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第七話 ~信頼と疑心~

とりあえず、アリアはこれにて完結です。

もっとside分けて描写細かくしてもいいかなとは思ったのですが、まぁ、原作にオリ主介入したらこうなったよ的な話なので、まぁ三話程度に収まらせました。

では早速どぞ~




キリトside

 

「お……おおおおおおッ!!」

 オレの渾身の《バーチカル・アーク》がコボルド王の巨躯をよろめかせ、音を立ててヒビを入れ……そして、無数のポリゴン片へと王の姿を変え消し去った。

 実体なき圧力を受けて仰け反る俺の視界に【You got the Last Attack!!】という紫のシステムメッセージが、音もなく瞬いた。

 

 ボスフロアの壁を飾っていた松明が一気に鎮火し、涼し気な風が激戦の熱気を一気に吹き飛ばした。

 だけど、俺を含めそのフロアにいたものは数秒動けなかった。

 ベータテストを経験してる俺からすると、ボスの武器の変更以外のベータとの違いの存在が頭の中によぎっていたからであり、ベータを経験してない奴も未だに勝ったという実感が湧かないのか、その場に立ち尽くしている。

 と、その時、俺の右隣に立つ人の気配を感じた。振り返ると先程までの戦いで俺と一緒に戦っていたレイピア使いアスナがそこにいた。

 栗色のロングヘアをさっきから吹く涼風に揺らしながら、じっと俺を見ている。

 戦闘中にフードを取ったことで露になった彼女の顔が、これが本当に現実の容姿なのかと疑いたくなるほど美しいことに、俺は初めて気付いた。

 ぼんやりと眺める俺の視線をアスナは―――恐らく今だけだろうが―――嫌な顔一つせずに無言で受け止め続け、やがて、小さく囁いた。

「お疲れ様」

 その言葉を受け、俺はようやく事実に気づいた。第一層を―――約1500人ものプレイヤーの命を屠った―――突破したのだ。

 そして俺の認識と同時に新たなメッセージが視界に飛び込む。獲得経験値、分配されたコル、そして、ドロップアイテム。同じものを見たであろう―――正確にはドロップや経験値に差異はあろうが―――その場の全員がわぁ!!と歓声を上げる。

 この大騒ぎの中、またもや俺に近づいてくる大きな人影があった。両手斧使いのエギルだ。

「……見事な剣技だった。Congratulation!この勝利はあんたらと……」

 そう言いながら、指差す方向にいたのは先の戦いでディアベルを救い、ボスの討伐にも多大な貢献をしたフレッドの姿が彼や他のプレイヤーと共にあった。

「あぁ、たしかにそうだな。フレッドがいなければ、おそらくディアベルの命はなかったろうな……」

「なっ!?あの人がはじまりの街でレクチャー会を行ったベータテスターの……?」

「そうらしいぜ。ま、信用ならねえやつだけどな」

 なにせ、レイドパーティーが瓦解しようが構わねえとか言ってたやつだもんな、そう簡単に信頼は……できねえよな。

 戦闘面に限るなら話は別だけど。

 

「なぁ、あんた」

 俺が声の方向を向くと5人のプレイヤーの姿が見えた。たしか、ディアベルの当初から仲間だったメンバーだ。代表してシミター使いの男が話しかけてきていた。

「教えてくれ、なんであんたボスの使う技を知ってたんだ?もしあんたが最初からあの情報を伝えておけばディアベルさんはピンチに陥ることはなかったんじゃないのか?」

 多分、ディアベルに退けと言った時の事だろう。

 口調は静かだが、瞳の奥に敵意の炎が見え隠れしている。

 それが、ディアベル達が集まっている所以外に伝播し、あたりがざわめく。

「そういえばそうだよな……」「なんで……攻略本にも書いてなかったのに……」 などという声が生まれ、それが更に広がっていく。

 その質問に答えたのは意外にも、今日俺に突っかかってきたキバオウではなく彼の指揮するE隊の一人であった。キバオウは離れたところで様子を見ているようだった。

 

「オレ……オレ知ってる!!お前、元ベータテスターだろ!」

 

 そのセリフを皮切りに周りから口々に「お前、ボスの攻撃パターン全部知ってんだろ!?」「それだけじゃねえ、きっと旨いクエストや狩場も知ってんだろ!」「知ってて隠してたんだろ!正直に言えよ、この野郎!」だのの罵倒が湧いてくる。

 まずい、この流れだと決死の覚悟で情報を提供してくれたアルゴや他のベータテスターにまで、嫌悪の目を向けられるのも時間の問題だぞ!?

 

「っるっせぇぞ、てめえら!勝利で沸くならともかく、なんで罵倒の声で盛り上がってんだ!!」

 

 流石に声が響いたのか、フレッドがディアベル達を連れてこちらに近寄る。

「どうしたんだ、皆?そんなに声を荒げて」

「ディアベルさん、コイツ元ベータテスターなんですよ!コイツ知ってて隠してやがったんですよ!?」

「!?」

 ディアベルの爽やか笑顔が若干に引きつったように見えた。

 俺の推理の裏付けが取れたということか……、やっぱりディアベルは元ベータテスターであり、俺のアニールブレード+6を買取り、LAドロップを阻止しようとした張本人、それが目の前のこの男だということが。

 だけど、どうする?

 今、この場でディアベルも元ベータテスターだと言い、証明することも多分できる。

 だけど、その場合、ディアベルはこの場にいる全員からの罵倒を受け、信頼を失うことを意味する。

 その場合、次期リーダーとなるのは……誰だ?

 俺が思うに正直、ディアベルほどの指揮を出来る奴がこの場にいるとは思えない。

 フレッドはできるかもしれんが人格的に信用ならないし……

もしディアベルが指揮しない場合、この攻略のスピードや、士気はダダ下がりするすることは目に見えている。

 

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻略パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあっただろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」

「そ、それは……」

 唐突に俺を庇うように遮った声はエギルと一緒に壁を務めてたメイス使いから発せられたもので、それに押し黙るE隊のメンバー。

 だけど、シミター使いがさっき俺に向けて放った敵意の炎を、今度はむき出しにして反論した。

「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで、本当のことなんか教えるわけなかったんだ!」

 ……まずい。この流れはまずい。

 俺の思ったとおり、憎悪の目がアルゴに向いた。このままだとこの憎悪が他のベータテスターに向きかねない。だけど、どうすれば……

 

 一瞬うつむいた俺の視界には未だ開きっぱなしのシステムメッセージ、獲得経験値とコル、そしてアイテム……

 

刹那。俺の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。

 

 つまり、(・・)が情報を独占する悪の元ベータテスターであることをここに知らせればいい。

 そして、元ベータテスターが二種類……《運がいいだけの素人テスター》と《情報を独占する汚いテスター》がいることを示す。

 そうすれば、少なくともテスターであることが露見したプレイヤーでもその瞬間に新規のプレイヤーに憎悪の目を向けられることはない。

 だけど、それは即ち俺自身が前線でもう二度とギルドなりパーティーに入らず独り(ソロ)でやって行く決定打となる。

 だが、それがどうした?それで何かが変わるわけじゃない。これからも独り、これまでも独り……何も変わらないじゃないか。

 この思考中に俺の背後で、今までずっと我慢していたらしいエギルとアスナが同時に口を開いた。

「おい、お前……」「あなたね……」

 しかし俺は二人を、両手の微妙な動きで制した。

 一歩前に出ると、意図してふてぶてしい表情を作り、シミター使いの顔を冷ややかに眺める。

 肩をすくめ、出せる限りの無感情な声で告げた――――――

 

「いい加減にしろ、てめえら!!」

 

――――――つもりだった。

 いや、多分発しはした。

 だけど、それはフレッドのとてつもない大音量でかき消された。

「フレッド?」

「何だ、あんた?あんたもベータテスター側か?ディアベルさん助けてくれた時は感謝してたけど、よくよく考えたらあんたもあの技知ってたよな?ってことはあんたも……」

「黙れ!!!」

「ひっ!」

 フレッドの気迫に押されたのか僅かな悲鳴を漏らすシミター使い。

 そりゃ、怖いだろ。

 現に直接怒鳴られてる訳ではない俺でさえ相当に怖い。

「あぁ、そうさ。俺はお前が思ってる通り、ベータテスターだ。隠すことでもないしな。だが、だからこそこの空気はなんだ!?今、ここにある事実はただの一つ!犠牲者を出さずして、ここのボスを攻略し、第二層への道を開いた!なんで、この事実から特定のプレイヤーを罵倒する展開になるんだ!?」

「だってさ、それを言うならもう一つ事実があんだろ!ここに情報を隠し持ってた元ベータテスターが居たって事実がよ!」

「情報を隠し持つだぁ~?どこにそんな証拠があるか言ってみな!」

「いや、だって、ボスの武器を知ってたじゃないか!?」

「あぁ、確かに知ってたな。あの鞘から武器を抜き取った形状が曲刀じゃないってことをなぁ~」

「な、ど、どういうことだよ?」

「簡単な話さ。ここにいるキリト君はあの武器の形状を知っていた、それだけだろ知ってたのはさ?」

「うっ」

「確かに彼が元ベータテスターであることは事実だろう。だが、もし隠し通すつもりなら、なぜ、あの時叫んだ?あの時キリト君が叫ばなければおそらく俺だってディアベルの命を救うことは叶わなかったろう……。彼はあの武器の形状を見たときに情報を伝えてくれたのさ。隠していたのならなぜあの時叫んだか言ってみな。前に出てな」

 

 確かに、言ってることは事実だけどこれでアイツらが黙るとはとても……、と思っていたらやっぱりその場で発言した奴がいた。

 E隊のアイツだ。

「だけど、それだ……」

「前に出ろって言わなかったっけ?」

「!!?」

 あれ、笑ってるように見えてその実絶対笑ってない顔だ。

 ……やばい、この人ホントにおっかない。

 下手なヤ○ザよりよっぽど怖ぇ。

 この場で余裕って表情、あのカイってやつぐらいじゃないか?

ってか、確かこの人自分に興味のあることしかやらないんじゃなかったっけ?これを自分の興味でやってるとなると……S?

 アイツも可哀そうに……、今や半泣きだ。

「だ、だけど、それを逃げ口上にするためだったかもしれないじゃないか!?」

「つまり、ディアベル助けようとして叫んだ、っていう既成事実作ってそれ使って逃げようとしていたと?」

「そ、そうだ!」

「ま、当人がそれをこの状況になっても言ってない時点で彼にそんな気持ち毛頭ないことぐらい分かりそうなもんだがな」

「ウグ……ッ」

「それに、だ。この場でリーダー格を一人、自分が悪人にまでなって殺す理由はなんだ?あるなら言ってみぃ。聞いてやるぜ?」

 さすがに全員押し黙った、意見がないわけではないだろう、おそらく言いたいことは山のようにあるけれど目の前の男がそんなの許さねえといった感の空気をバリバリに放ってきてる。

 これでは黙らざるを得ない……

「ここにいる奴は、少なくとも攻略に意欲のあるプレイヤー。その筈だ。あの会議でも思っていたが、今、ベータテスター達を吊し上げてなんになる?少なくともここいる奴は誰もがテスター達の先走りを許してでも情報を提供させやすい環境を作り団結して挑むもんだろうがよ?そこにいるエギルさんがあの時ベータテスター達の吊るし上げを中断させなかったら俺はここにいなかった。はっきし言ってあんなの茶番だしな。言いたいこと分かるか?もしあの時、中断していなかったらこの戦いにギスギスした雰囲気を持ち込み、下手をすればワイプ―――壊滅の危機さえあったことを全員自覚しやがれ!!」

 ここにきていっそう迫力が増すフレッド。

 リアルでは本気でヤ○ザやってたんじゃないかと思わずにはいられない。

 

 その時、後ろからディアベルがフレッドの発言を推すように言った

「皆、確かに彼の言うとおりだ。こんなところで仲間割れをしている場合じゃないだろう?この上にはまだ99の層があるんだ。少なくとも踏破したエリアまでは彼らの知識は戦いの中でも十分に役立ってくれるはずだ。それに戦闘技術も、ね。だけど、君達のベータテスターに対する憎しみがすぐに消えるとは思ってない。ここに自分がテスターだけど言い出せない人がいるなら情報はアルゴさんをはじめとする情報屋に君達の知識を提供してもらいたい。それで今回のことは手打ちにしよう、どうかな?皆!」

 その瞬間周りから「まぁ、当事者のディアベルさんがそういうなら……」「まぁ、確かにこんなところで争ってる場合じゃないしな」等々の声が上がり、シミター使いをはじめとする俺を罵倒していたメンバーが集まり「さっきは情報を隠してるなんて疑って悪かった」「ディアベルさんに免じて今日は許してやるよ」だののセリフが上がってくる。

 そん中でも驚いたのは俺のところに、さっきまで暗黙を貫いていたキバオウが来たことだ。

「あんさん達に今日助けられたことは感謝しとる。だけどワイはやっぱりベータ上がりどもを許せん……。ワイはワイのやり方でこのゲームをクリアーしたるから、首洗って待っとけや!」

 そういってなぜか手を差し出してくるキバオウ。

 多少は俺のことも認めてくれる……ということだろうか?

 ここで拒否して空気が悪くなるのはごめんだし、握手することに文句はない。

「あ、あぁ。楽しみにしてるよ」

 

パンパンッ

 

「はーい!じゃあ、気分も戻ってきたところで仲直り……というわけじゃないけど、全員で2層の門をアクティベートしに行かないか?そして、はじまりの街にいる皆に伝えるんだ。このゲームは攻略できるってことを!」

 なるほど、今このメンバーはフルレイドで回復も皆のゲージを見る限りでは問題ないだろうし、フィールドに出ても安全だろうな。

「これに賛同してくれる人はオレについてきてくれ!」

「「「「「「「「おぉう!!!!!」」」」」」」」

 

コペルside

 

 きれいにまとめたな、フレッドのやつ。

 だけど、ベータテスター達に対する新規参入のプレイヤーの憎しみはこんなにすごかったのか……。

 でも、明らかに過激だ……、ゲームクリアがこの世界から出る唯一の方法……となればフレッドの言う通りここにいる攻略連中は我を黙らせてでもベータテスターたちを認めるべきなのに……。

 まさか、誰かが唆している?けど、誰が?プレイヤーの中に攻略を邪魔しようとする連中がいるとすれば話は通るけど、ここから解放されるにはこの城をすべて攻略しなければならないのに……。

 

「今は黙ってろ、コペル」

 唐突に僕の考えを読んできたかのように僕の考えに割り込んでくる。

「その顔だと、誰かが、新規参入のプレイヤーがベーター達を憎むように唆してるって思ってんだろ?俺もその意見には賛同だが、どこにそいつの睨みがあるか分からねえ……、そいつに睨まれるのは今のところ俺だけでいい」

「だけど、今はあんたのおかげでこういう状況に持ってこれたけど、また再燃しかねないぞ?」

「ディアベル君がいればなんとかなるだろ、彼には自分がベーターであることは黙っとけと言っておいた。彼だって攻略を目指すプレイヤーの一人だ。無用な争いを自分からする訳はないだろう」

 まあ、確かにリスクは減らすに越したことはないけど、少なくとも僕とディアベルに関してはそうだろう……

 だけど、実際問題不穏因子がいるかもってのは問題だ。

 この後の攻略に影響するんじゃ……

「……どうせ、後の攻略に影響出るとか思ってるんだろ?障害物は全部砕いていきゃ、問題ねえだろ!」

 カイ……お前まで僕の表情で心読むなよ、ってかさすがにお気楽すぎないか?

「まぁまぁ、今から気にしててもしょうがないってことですよ?」

 シリカまで……、ってかいつの間に来たのおまえらは?さっきまで先頭の方でキリト達と話してなかったっけ?

「そう、今は事を荒立てたらまずい。あくまで予測の域を出ないことに執着するのは効率的にも悪ぃし、何よりつまらねえ。人生トラブルあってこそ楽しく生きられるんだぜ?」

 それは違う、絶対だ!

 アンタは妙にスリルを追い過ぎだ、そのうち絶対ひどいことになる。

 とは言っても、確かに今ある「攻略阻止」の連中?がいる証拠は、さっきの僕が思った事以外に何もない。

 それこそさっきキリトを責めていた連中に「なんでそこまでベータテスターを恨むのか」と聞いてもいいけど問題が再燃しかねない……、ここで変な油突っ込んで爆発させたらせっかくのこの空気が一変して地獄に変わる。

 僕自身ベータテスターであることを隠しているわけだから、叩かれるという可能性も極めて高い……

 となると……

「でも、まぁ確かに物証が何一つないんじゃこの件は置いておくしかないか」

「そういうことだ、今は目立つな。物証が出てきたらその時に対応すればいい。リアルの警察だって状況証拠だけじゃ何もやらないトコだしな」

 ……いや、フレッド。

 気持ちは分からなくはないが、さすがに言いすぎじゃないか?ここにリアル警察関係者いたら総叩き喰らうぞ?

 

 そしてあのボスフロアから1km離れた(なんでこんなにボスフロアから歩かせるようなことするのかね?)ところにある第2層主街区《ウルバス》の圏内に僕達フルレイドのパーティーは足を踏み入れた。

 

 この町は、外から見るとただのテーブルマウンテンのようなずんぐりした山にしか見えないが、中はくりぬかれて、ドーム状の形をしている。

 そして目的の《転移門》は……あった。

 ベータの通り、町の中心部にある広場……そこにそれはあった。見たところはストーンヘンジ?と思わずにはいられないような石積みのアーチがそびえているだけだが、今のように近づいてみるとアーチ中央の空間がシャボンの膜が如く光の色がかすかに変わって見える。これに触れることで《転移門》がアクティベート―――有効化―――され、はじまりの街にある転移門と空間がつながる。

 

 そして全員が転移門の前に集まると、ディアベルが口を開いた。

「皆、今日はほんとに俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!ほんとはこのパーティメンバーが全員集まらなかったら今日のボス攻略は中止しようと思っていたんだ。だけど、皆が集まって……ちょっとハプニングは起きちゃったけど……けれどこのフルレイドが全員、欠けることなくここまで来れた。これはすごいことだと俺は思っている。このことを考えると、もし一人でも来なかったら……なんてのはみんなへの侮辱だったな。悪い!」

「気にすんなよ、大将!」

「俺らだって、あんたみたいな優秀なリーダーに声かけられて光栄なんだからさ!」

 口笛や笑い声に交じってディアベルを称賛する声が聞こえる中、当人も手を挙げてそれに応じる。

 さすがのリーダー気質……

「皆、この調子で第2層3層とクリアしていって、このゲーム絶対クリアしようぜ!!」

「「「「「「「「おぉおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」」

 

「じゃあ、門のアクティベートは今日のMVPである彼にお願いしようと思ってるんだけど、皆どうかな?」

 そういって(かざ)された手の先にいる人物は……

「え?俺か?」

 後ろの方で柱に身を預けていたわれらがリーダー様、フレッドだった。

「いいんじゃないか?」「賛成、賛成!」

 フレッドもやれやれといった感じで転移門の方へと歩いていくと全員に聞こえるように言い放った。

「……ここまでやってもらって逃げるってのも、性に合わねえな。じゃあ、俺からも一言。お前ら!次も必ず!全員で!この層をクリアすんぞ!!」

「「「「「「「「おぉ!!!」」」」」」」」

 そして、フレッドの手によって門はアクティベートされた。




終わった~、自分のお気楽ムード全開でお送りした今回ですが、やばい。
キバオウでさえこんな……だと!?

おかしいな、当初はこんな話じゃなかったはずなのに、気の向くまま書いてたらこんなことに……、キャラ崩壊が割と本気でひでえ……

まあともあれ、考え的には二手に分かれますよね
ベータ認める派と認めない派、とりあえずキリト君はビーターとは呼ばれない世界です。

ディアベル君助けるだけで割とこの話うまくいく気がするんですよね。

そして、出てくるレッドの影……、まぁ誰かはわかりますよねw

さてと、次回はまぁ、二層に入ってく訳ですが
二層はボス戦まで入れるか、それとも適当に必要なとこだけ入れるか……

リクございましたらメッセージでも感想にでも飛ばしてくださいませ!

ご意見・ご感想も引き続きビシバシとお願いいたします。

ではでは!


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第八話 ~体術マスター~

ちょっとずつ更新が遅れてきちゃいましたね。

でも、一週間に1回は最低でもあげようと思ってるので、これからもよろしくどうぞ。

ってことで、第八話どぞ~


今、第二層主街区はとてつもなく騒がしい。

理由は簡単、この層に俺ら攻略組以外のプレイヤーが雪崩のように転移門から現れ、カーニバルらしきものが行われているからだ。

っつってもその気持ちが分からないではない。

なにせ、一ヶ月というこの短い期間で一層での死亡者数はゆうに千を超える数だ。

はじまりの街にこもってたやつからしたら絶望しかなかったろう。

だが、その絶望は完全とは言えないが、払われ新たに攻略に意欲を沸かすものも先ほど転移門から現れたやつの中に少なからずいるみてえだ。

ちなみに俺以外の三人は皆勇者インタビュー的なとこに引っ張りだこだ。

めんどいんで俺は蹴ったが、っつ~より逃げたが。

 

ここは一層はじまりの街の中の宿屋だ。

ここは俺のギルドの仮住まいとして10日毎に千コル払って宿屋そのものを貸し切ってる状態だ。

で、なんで戻ってきたかといえば……

「よぉ、リズ。調子はどうよ?」

「あぁ、フレッド。まぁぼちぼちって言ったとこかな。アンタからもらってる鉱石をバンバン剣やら槌やらにしてるから熟練度はそろそろ100に届きそうって感じ」

「ほぅ、早いな。ほかの職長たちはやっと50到達したって感じだったのによ。まぁいいや、武器研ぎよろしく頼むよ。コペル達のも預かってきている」

 

まぁこういうことだ。

ボス戦で下がった武器の耐久値戻し兼ウチのギルドの職長達の熟練度チェックって言ったところだ。

ちなみに職長達以外は基本自由だ。

鉱石だのの素材は基本職長達以外には渡しちゃいねえ。

一点突破でできる限り早く武器だの装備だのを整えられるようにするためだったんだが、リズに関しては異様に早い。

今のところ皆やる気のようで……俺としては一ヶ月で全員50超えるか超えないかぐらいの予測だったが、何回か帰ってきてる内にそれは間違いと感じ始めた。

そん中でもリズのスピードは早いんだが……

とは言っても、前に帰ってきた時のスピードからして、だいたい彼女がそろそろ100に到達しそうだってのはなんとなく想像はついていた。

 

武器を研いでもらってる間、暇なんでリズに提案してみる。

「100に届きそう、か……そろそろ露店でも出してみるか?」

「え!露店!?」

「そう。まぁ、100くらいがいい目安だろ。そろそろ外客相手も慣れておかんと自分の店持つなんて夢のまた夢……だぜ?」

そう言いながら、俺は手に持ってるアイテムを差し出す。

「これは露店を出すリズ、お前への餞別だ。受け取りぃ」

「そうそう。さっきから思ってたんだけどそれ、何なの?」

「《ベンダーズ・カーペット》と呼ばれるアイテムだ。こいつは露店販売するなら割と必要になってくるアイテムだ。まぁ、熟練度100突破の前祝とでも思っといてくれや。」

「あたし、まだ突破はしてないんだけど?」

「だから言ったろ?前祝だって、さ。あ、ちなみにこのアイテム、ストレージには入れられないから注意しといてくれや」

「あ、だからこんなかさばる物をわざわざ持ち歩いてたのね」

「そうゆーことだ。だけど、こいつはアイテムだの装備だのを入れて持ち運ぶことができる。しかも重さはどれだけアイテム詰め込んでも重さは一緒っつー優れモンだ。有効に活用してくれや」

「分かった。じゃあ、これは受け取っておくよ。」

俺の手から《ベンダーズ・カーペット》を受け取ると、何かに気づいたように俺に聞いてくる。

「あ、……そういえばそろそろフレッド達の剣強化したほうがいいんじゃないの?結局ココの攻略はあんたに関しては何も強化しないで何とかしちゃったみたいだけど……」

「そうさなぁ。まぁ勿論、第二層攻略までには依頼はするつもりだけど俺やカイのは素材が素材だしなぁ、まぁもうチョイ集めてからにしておくよ。4人いれば何とかなるっしょ」

そう、俺が今武器強化で迷ってる原因はそこだ。

俺の両手剣《ギルタナス》やカイの《ルーター》はコペルの《アニールブレード》やシリカの《ソニック・エッジ》と比べて添加する強化素材が異様にきつい。

こいつの強化試行上限は7回、俺の理想としては(1S3H3D)狙いな訳だが、強化素材があのイシ○ブテのレア素材だったり、二層に出てくるミノタウロス型Mobから取れる《トーラスの角》と呼ばれるアイテムだったりでまだ十分な素材があるとは言い難い……

とは言っても、イシ○ブテのレア素材に関しては必要最小限のアイテムはある。

だが、勿論、素材を無駄にはしたくないのでリズの熟練度が高くなってからと思ってる。

まぁ、正直雑魚Mobどもと戦っても割ときつくなってきてるのは事実な訳だが……

 

「……あ!リズ余ってる両手剣二本程貰ってっていいか?」

「?……いいけど、性能はあんたのより相当下がるわよ?」

リズがポカンとした様子で聞いてくる。

まぁ、確かにわざわざ今持っているのより性能の劣る武器を持ち出す意味は分かりにくいだろうな。

「あぁ、ちょいと一日から三日ばかし、武器がいらない場所に出かける予定だからな。もし、リズがその間に熟練度100に到達してたら俺の剣を強化しといてくれ。素材と剣は置いていく」

そう言って、彼女の前に《丈夫さ》用強化の素材と剣を置く。

「……分かったけど、この素材は……《丈夫さ》ね。熟練度100に到達し次第強化はしておくけど、成功率は保証できないし、その用事終わってからここに持ってきても変わんないんじゃないの?」

「ま、これから手に入れるスキルの調子を確かめたいからこの両手二つでいいよ。それに成功率も問題ない。だけど、この層での強化は必須。だったら、リズの調子いいタイミング……まぁ、100突破ぐらいがちょうどいい感じだろう。ってことでよろしく!」

「はいよ。あ、カイ達の剣は持っていってね」

「うっす」

俺はリズから渡された剣を持ちホームを出て、憂鬱な2層に再度足を踏み入れた。

 

2層フィールド

 

俺は今、コペル達を連れてある場所へと向かってる。

集める時にあの騒がしい連中に見つかって、ひと悶着あったが、まぁ、巻いてきた。

 

「で、旦那よぉ。俺らは今どこへ向かってるわけだ?道ともいえない道ばっか通ってよぉ?」

「超簡単に言うとエクストラスキル獲得クエストを受ける為」

「「「なっ!?」」」

「いや、三人とも同じ反応せんでも……」

声のほうは一瞬、足を止めたみたいだけどすぐについてきたようだ。

「でも、どうしてフレッドさんがそんなことを……?」

「忘れたのかよ?俺ベーターだぜ?テストの時に見つけといたとこがあんだよ」

「あんたも暇だねぇ。こんな道ともいえない道をよくもまぁ、行ったもんだよ……」

シリカとコペルから不本意な反応をされるが、まぁ今は置いておこう。

ボス攻略参加は本サービスの時のお楽しみにとっておいたから、色々なところを探索した記憶がある。

もちろんベータと情報が違う可能性もあるが、こんな分かりにくいとこにあったクエストだったら多分変わってはいないだろう。

「あ、それとおまえら連れてきたけど、受けるか受けないかは自由だで?」

「なんだそりゃ?ここまで来たんだから受けるに決まってんじゃん?」

「まぁそりゃあ構わねえが、難易度が高すぎんだよ、……あらゆる意味においてな」

ここにいた俺以外の三人が頭にはてなマークを浮かべていたが、まぁすぐに意味は分かる。

 

 

「さて、着いた」

「本気でよく、見つけたな。こんなとこ」

「俺の好奇の趣くままに行った結果だ」

俺がカイの言葉を一刀で伏せると、なんとこんなとこに先客がいたようだ。

「まさか、こんなとこで会うとは……」

「あれ、キリトさん?なんで、顔にペイントなんか……?」

「旦那、まさかとは思うがクエストクリア、ってぇのは」

「……うん、まぁ、そういうことだ。素手で岩を壊せ、終わるまで顔にペイント。それがこのクエストだ」

先客……キリト君は今、目の前で素手で岩割の途中だった。

しかし、キリト君の顔のペイント……言ってしまえばキリえもんといったところか?相変わらずここのジジイはいい趣味している。

俺もここに来て、クエストを受けた時は偉そうなひげを書かれて困ったものだが、まぁ今回はそんなドジ(・・・・・)を踏まない

まぁ、今は先客に挨拶するとしておこう。

「よぉ、キリト君。立派なひげだことで……」

「うっ、フレッド……。よくこんなとこ見つけたな。あんまり今の姿は見られたくなかったよ」

「だろうな。今、そこでシリカは爆笑こらえてるとこだぜ?」

そう言ってやると俺の後ろで吹き出しそうになってるシリカがハッと気づいたように手を顔の前で振って取り繕う。

実際のとこ、コペルもフードの奥で笑いそうになってたんだが、まぁ黙っといてやろう。

「……ここに来たってことは、あんたもこのクエを?」

「そりゃあな。じゃなきゃ、こんな超メンドい場所までは来ねえよ」

「このクエストの内容知っていながらやるってのは、さすがってとこだよ、あんた」

キリト君の精一杯の皮肉なんだろう……、だけど、このクエストには抜け穴があることを含めて知っている俺としては馬耳東風といったところだ。

「キリト君だって知ってたからここへ来たんじゃないのか?」

「俺のほうはアルゴに教えてもらったからさ。あいつはここにはもういないけどな」

なるほど、《鼠の》の情報か……。そいや、あいつもこのクエ発見してたな。

あのひげはこのクエを途中で放り出した証だしな。

だけど、俺はそんなことにはならねえぜ、キリト君には悪ぃがな。

「フッ、そうか。だったら、まぁ、見てなよ。俺はひげを書かれずにこのクエストをクリアしてみせてやんよ」

「「「「?」」」」

まぁ、後ろの三人にも別に教えてはいないからな。

そして俺はあの忌々しいくそジジイの家に入ることにした。

 

がちゃ

 

「なぁ、どういうことさ?このクエストはひげを書かれなきゃフラグが立たねえんじゃないのか?」

俺が目の前のジジイに話しかけようとしたらカイがさっきの言葉を疑問に思ったようで話しかけてきた。

「まぁ、見てなって。あ、お前ら隠れてたほうがいいかもだぜ?巻き添え食うかもだから」

俺は一応、三人に警告を促したうえでジジイに話しかける。

「入門希望者か?」

「あぁ」

「修行の道は長く厳しいぞ?」

「問題ない」

短い問答の後、ベータ通りに小屋の外に連れ出され、キリト君のいる岩とは別の岩の前に案内される。

「汝の修業はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。為し遂げれば、汝に我が技の全てを授けよう」

「OK」

「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝には、その証を立ててもらうぞ」

そして懐から墨の瓶とでっけえ筆を取り出す。

……さてと。

 

そして目の前のひげおやじの手が動き出すその直前、俺は《跳躍》スキルを発動して後ろに大きくバック転をして筆を躱す。

「……ほぅ、主、中々やりおるのぅ。我が筆を避けたとは中々の体が作られておるようじゃな」

「そりゃどうも」

そう、これがベータ時に発見したことだ。

ここを見つけた時、俺はリアル職場仲間二人とパーティーを組んでいたのだが、その内の一人がこのクエを受けるときに、躱したらどうなるんだろうということで挑戦したところ、何とか初撃を躱すことに成功した。

まぁ、この二人は本サービスには仕事の都合上ログインできんかったみてえだがな。

そして、この後……

「ふむ、久しぶりに血が騒いできおった……、主にはわしと対決してもらおう。ルールは簡単じゃ。わしが諦めるまで、我が筆を避けてもらおう。もし先にわしが降参したら主には我が技の全てを授けよう。ただし、最後まで躱し切れなかったら、主にはこの岩を割ってもらうぞ」

「上等」

こういうフラグが立つ。

 

ただし、ジジイの筆はソードスキルさながらのスピードを持っているために躱すのは容易ではない。

そのための《跳躍》だ。

スキルにはスキルで対抗しねえとな。

あとはシステム外スキルの《見切り》をどれだけ活用できるか……だな。

ベータ時とは違うとこを見せてやんぜ。

そして、筆を構えたジジイが……跳んだ。

「……っ!」

いきなりトリッキーな……

これも俺はバック転で躱すが、ジジイの動きが異様に早い。

俺が正位置に戻った時には、すでにジジイの顔が目の前に迫っている。

だが、俺の《跳躍》もなめてもらっては困る。

さらに後ろに正位置のまま跳び、横一線に薙ぎ払われた筆の一線を躱す。

 

あの後、同じような攻防を繰り返しているが、このジジイ、腹の立つことにソードスキルさながらのスピードの癖にそのあとのディレイが一切ないというより隙がない。

俺自身の《跳躍》も別にソードスキルを発動しているわけではないから、ディレイは課せられないがマジで精神が削られる。

さすがは体術マスターといったところか……、だが俺にもジジイに対するアドバンテージがないではない。

このジジイは単発のソードスキルを常時発動しているかのような動きだが、あれは動きを先読みはしていない。

対して、俺は最初2回のバック転以外はジジイの目を見ながら動いているために、何とか動きを先読みして、《跳躍》フルブーストで躱すことができてる状態だ。

……ってか、ジジイ、てめぇスタミナありすぎだろ!

正直、このスタミナは予想外だ。

「っ!!?」

っぶね!今頭上風が切ったぜ!?幸い墨は付いていないみてえだけど、そろそろやべえな、これ。

 

と思ってると、ふと目の前のジジイの筆が止まった。

「?」

俺がはてなマークを頭に浮かべてると、ジジイがしゃべり始めた。

「見事、見事じゃ。主になら我が技の全てを授けるにふさわしい者じゃ。さぁ受け取るがよい」

そして、俺のウインドゥに無機質な機械音で表示される、獲得スキル《体術》の文字……

ヒューッ、あっっぶなかった、リアルで。

あと10分もやってたら俺の精神が先に尽きてたぜ。

 

……だが、この後、完全に気が緩みきった俺に悲劇が襲う。

「隙あり!!」

「!?」

あんな緊張が解けきった後じゃ、さすがに躱すことはできず、俺の顔に一閃……

「っな!ジジイ、てめえ、降参したじゃねえか!」

だが俺の言葉はシステムに想定された言葉だったらしくジジイが繋げてきた。

「はっはっはっ。油断大敵じゃ、弟子よ。こんな簡単に師匠越えされてはたまったもんじゃないからのぅ。まぁ老い先短い老人の軽いお遊びじゃ。すぐにその墨は落としてやろう」

……くっ、まさかこのクエにここまでの展開が設定されているとは……

試合には勝ったけど、勝負には負けたとはまさにこのことを言うのだろう、非常に悔しい。

俺の顔についた墨をジジイが自分の手ぬぐいで落とし終わると俺に最高のドヤ顔を向けて言ってきた。

「まだまだよのぅ、弟子よ。これからは油断せずに精進するとよかろうぞ、ふぁっはっは!」

……真面目に腹立つな、あんのくそジジイ。

 

俺がジジイに殴りかかろうとすると、後ろからコペルとカイに取り押さえられた。

「離せ、てめえら。俺はあのジジイを一回ぶん殴らねえと気が済まねえ!」

「まぁまぁ、落ち着きなって、フレッド。油断したあんたが悪いんだからさ」

「そうそう。それに旦那だってちゃんと目的のものは手に入れたんだろ?じゃあいいじゃねえか」

まぁ、それはそうだが、てめえらは一体なんで笑ってやがる……、まさか。

「なぁ、シリカ」

「えっ、は、はい」

シリカも笑ってやがったところを見ると……

「てめえらは俺の顔にあのジジイが書いたひげ面を見たんだな?」

「え、えと……は、はい」

「そして、そのひげはお前らにとってとっっても面白いもんだった、と?」

「……ご、ごめんなさい!とっっても面白かったです!!!」

そのセリフを皮切りに周りから、大爆笑が上がる。

それと同時に俺を拘束している手も離れる。

「最っ高だったぜ!旦那!!いつもすましてやがる旦那がまさかあんな顔になるとは思わねえもんな、普通!!」

「本当にね!あれは記録媒体があったら、たとえ超高価でも撮っておきたかったよ!!」

 

「…………」

俺は無言でウインドゥを開き、リズから預かってる両手剣を取り出す。

「!?ちょ、ちょっと落ち着けって!旦那。無言はリアルで怖ぇって!!わっ、マジで振ってきやがった!?」

「ま、待てって。リアルに落ち着け!フレッドお前、オレンジになるぞ!!」

さすがに女の子(シリカ)を攻撃するのは気が咎めたが、てめえらは別だぞ、コペル、カイ!!

 

その後、数十分ほど奴らと鬼ごっこをしたが、シリカに(笑いながらだが)止められたので、まぁあいつらがこのクエストを受けることで許すことにしてやった。

え?結果?当然無理であいつらもなかなかのひげを書かれてたから腹抱えて笑ってやったよ。

カイはベータの俺と同じ感じの偉そうなやつを、コペルは《鼠の》と同じ3本線といったところだったな。

ホントはシリカの奴も受けさせてやりたかったが、流石にこれを割らせるのはかわいそうだったので、まあやめてやった。

その代わり、あとでちゃんとバツは受けてもらうよ、ぎりぎり可能なレベルのものを一人でね。

まぁ、一回俺を怒らせたらどうなるかっていうのはこいつらに知ってもらうにはいい機会にはなったかもな、代償は大きかったけど……

 

しかし、予想外にカイが割るのに時間かかったせいで攻略が遅れたんは誤算だったな。

 

 




フレッドは怒らせると怖いですよ?

第一層を攻略後もキレてましたけど、本気で怒るとあの比ではないです。

それと、剣の強化素材はどうするか迷ったんですが、それぞれの剣固有の強化素材が必要なものとして認識しております。

最後に、ご意見・ご感想・リクエスト等々ございましたら、メッセージか感想欄に飛ばしていただければと思います。

では今回はこのへんで、ではでは!


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第九話 ~アスナとリズベット~

どんどん遅れてるよ~。

ということで最近疲れ気味のALHAでごぜえます。

自分は他の著者の方々の多くと違ってストックがないために、不定期更新になりがちですが、まぁ、暖かい目で見守っていただければ幸いです。

そして、お気に入り数が100超えました。
やったね!
これも日々この小説を読んでくださる方様々でございます。
ありがとうございます!

あんま長くても、スマートじゃないんで、とりあえず新話どうぞ~


シリカside

 

「ありゃ?あれ、キリト君か?なんだ、あんなに慌てて?」

ウルバスの街にレベリングから戻ってきた時、あたし達はすごい速さでどこかへ向かうキリトさんを見た。

ホントにどこ向かってるんだろう?

「……ちょいとつけてみっか?」

「え?でもキリトさんに悪いんじゃ……」

「構うこっちゃねえよ。面白そうだし」

……こういう時のフレッドさんってほんとにいい顔するよね、面白そうなモノ見つけた時とか。

あたしが迷う素振りを見せているとフレッドさんが悪魔のささやきをしてきた。

「じゃあ、シリカ。君はあんなに慌ててどっかへ向かう人が何をしようとしているのかまるで興味がないって言うのかい?」

「……いや、確かに気になりますけど……」

「よし、じゃあ決定だ!行くぞ、てめえら!」

「いや、だから……っ」

前言撤回、悪魔じゃなくて暴君だった。

あたしがフレッドさんを止めようとするとコペルさんとカイ君があたしの動きを手で制した。

「無駄だ。止めとき。旦那があのモード入ったら誰にも止めらんねーよ……」

「その通り。無駄にエネルギー使うだけだから諦めたほうが無難だよ」

「うぅうう……」

二人ともフレッドさんについて行っちゃったから、ここに一人残っちゃった……

「ま、待ってください~!」

 

「なんだよ、やっぱり興味あんじゃねえか」

「それは、みんなしてあたしを一人にするからじゃないですか!」

なんとか、あたしがみんなに追いついた時には、フレッドさん達はある宿屋を見つめてた。

「あそこに入ってたんですか?」

「そういうこっちゃ。さて、突撃と行くか!」

「「「はっ?」」」

さすがに急にこの展開にはなるとは思わなかったらしく、フレッドさん以外が全員呆けた声を上げた。

「Let's Go!!」

「ちょっと待て、旦那!さすがに好奇の趣くまま過ぎんだろ!!?」

カイ君の制止も無視して、既にノックも済ませた後

「キリト君、君がここにいるのは分かってる。素直に出てきたまえ!」

あっちゃー、やっちゃったよ、あの人……

カイ君はため息、コペルさんは顔に手を当て上を見ている。

その数秒後に出てくるキリトさん……、だけどちょっと様子がおかしいような……。

この後のフレッドさんの行動は早かった。

 

第一、部屋をのぞく。

第二、敏捷値全開で部屋からキリトさんを引きずり出す。

第三、あたしを呼ぶ。

 

今言った過程、終わりまで1秒かかってない……

特に第一から第二の工程は早かった、何を見たんだろう……

とりあえず呼ばれてるから行ってみよう。

 

「シリカ、とりあえず中にアスナちゃんがいる。ちょいとゴタゴタしてたから片付け手伝ってやんな」

「は、はい」

そしてフレッドさんに招かれるまま中に入ると、下着しかつけてないアスナさんがいた、……え?ってことはキリトさんとアスナさんって……

そこまで思考すると顔が熱くなってきちゃった。

「ち……違うからね!?私が寝ようと思ったらキリト君が……」

「ほぅ、まぁそのこと含めてゆっくりと聞こうじゃないか、キリト君?」

「誤解だ!俺は決してそう言う――――――」

キリトさんがなにか反論しようとしたみたいだけどフレッドさんといつの間にか来てたコペルさんに連行されて行ってしまった……

「で……、アスナさん一体どうしたんですか?」

 

アスナさんから聞くところによると、キリトさんがまず部屋に入ってきた。

その後、アスナさんの文句を聞き流して、アスナさんにストレージに入ってるアイテムを全部足元に出すボタンを押す指示をし実行したので、今の部屋の有様になっている……ということらしい。

……キリトさん、一体何したかったんだろ?

下手したら、アスナさんに《牢屋》行きにされてたかもしれなかったのに……

「ゴメンね、シリカちゃん。なんか手伝わせることになっちゃって……」

「いえ、これくらいは……いつもフレッドさんに振り回されてますし……」

「それは……大変ね。お互いに……」

二人でそこまで言うと吹き出してしまった。

 

あたしたちがそんな談笑をしながらアイテムをストレージに放り込んでいると、あたしの手に今まで触れていた感覚とは明らかに別の感触があった。

剣だ、あたしの短剣(ダガー)よりもちょっと重い、この前のボス戦の時に使ってた細剣(レイピア)があった。

当然、寝る前なのだからストレージにしまっってるだろうと思い、それもしまおうとしたら……

 

「ちょっと待って!シリカちゃん!!」

 

「え、あ、はい?」

急に敏捷値全開の勢いでこっちに来たアスナさんに今持ってた剣を渡す。

「……ど、どうして……?」

その言葉を理解することはできなかった。

 

カイside

 

「さぁて、キリト君?話してもらおうか?あの部屋で何やっていたのかを、さ」

「うっ、いや、だから誤解なんだ!俺はただ、アスナのウインドフルーレを取り戻そうとして……」

シリカがアスナの部屋に入ったあと、キリトは旦那に質問攻め(ってよりかは裁判?)にされていた。

俺に詳しいことは分からんが、どうやら女の部屋に勝手に入った挙句、アイテムを全部ぶちまけるようにアスナに指示したらしい。

キリト曰く、アスナの武器を取り戻そうとしたらしいが、どういう理屈だ、そりゃ?

俺的には正直どっちもどっちだ。

勝手に入った挙句、言い訳っぽいもんしてるキリトもキリトだし、キリトの指示に従ってるアスナもアスナだ。

 

「だから、武器の強化詐欺にあってそれをどうにかできる時間が1時間以内だったから急いでたんだって!」

「武器の強化詐欺だ?面白い、詳しく聞かせてもらおう」

強化詐欺ねぇ~、もうそんなことしでかす連中が出てきたのか、ご苦労なこって。

で、キリトに強化詐欺のことを詳しく聞こうとしたら、アスナとシリカがいる部屋のドアが開いた。

「キリト君。説明して!なんで砕けたはずのウインドフルーレが私のストレージに入っていたのかを!」

「!やっぱりあったか。ちょっと長くなるし、俺でもその仕組みを完全に理解したわけじゃないんだ。それでもいいか?」

これでキリトの無罪?と言っていいかわからねえけど、言い訳は証明されたと。

なんかつまんねえな。

「構わないわ。夜はこれからでしょ。部屋に入って。フレッドさんたちはどうする?」

「その強化詐欺に興味がある。もちろん行うという意味じゃねえがな」

「分かりました、じゃあ入ってください」

「おう、失礼するよ」

 

んなやりとりのあと、俺らがアスナの部屋に入って少し落ち着いたあと、キリトが話し始めた。

曰く、武器は何らかの方法ですり替えられた。

そして代わりの同じ武器を強化し破壊した。

すり替えられたアスナの剣はまだ所持者情報がアスナ自身にあったから所持アイテム完全オブジェクト化のコマンド実行でぶちまけた……と。

所有者情報の変更がアスナ自身が別の武器を装備するか、3600秒経つと行われるからキリトの奴が急いでいた、ということらしい。

「なるほど、それでキリトくんが真っ先にわたしの装備フィギュアを盗み見……じゃないわね、奪い見た理由や異様に急いでいた理由は分かったわ。私が他の武器を装備してしまっていないことを。なぜなら、それが第一の理由だったから……」

「そして、急いでいたのはこの強化詐欺の……言い方は悪ぃが成功するには3600秒の猶予時間が必要。その前までに《所有アイテム完全オブジェクト化》をし、自分の手元に剣を呼び出す必要があったと。それが、ほぼ裸の女性の家に上がり込んだ理由か」

それを言った瞬間、アスナが絶対零度のような視線をキリトと旦那にぶつける。

キリトは顔を背け、旦那はさっきのセリフから続いて笑っている。

 

……旦那、こうなることくらい予想できたんだから、余計なこと言うなよ、メンドイな。

しょうがねえ、話進めるか。

「なぁ、キリトよぉ。そのすり替えトリックに関してはなんか思い当たることないのか?」

「あ、あぁ。このVRMMOの世界の中ですり替えを実行するには難易度は非常に高いはずなんだ。剣を渡してからも、俺らの視界に剣は存在し続けるわけだからな、だけど……」

「だけど?」

「俺の目からあのウインドフルーレが離れたタイミングがあるんだ。ネズハがアスナから強化素材を受け取って炉にくべた瞬間から青く光り始めるまでの間だけ……長くて三秒ほどだけど。俺らが頑張って集めた素材がちゃんと炉に入ったかなぁって」

「あ、わたしもその瞬間だけ目を離してた。あなたとは違ってその光が綺麗だったからだけど……」

 

「まぁ、なんにせよ、すり替えるタイミングは炉に強化素材を入れた瞬間しかないってことだよね。だけど、そのすり替えに関してはここに居る全員心当たりがない……と。完全に手詰まりだね」

ここまでの情報をコペルがまとめ、それに追加するようにシリカも続く。

「それだけじゃないですよね?武器の破壊を確実に起こさせるようにしないとそのトリックはできないんじゃ……」

「!?それもそうだな。そんな高確率且つタイミングのいい時に武器破壊のペナが起こるとは……」

「いや、それに関しては簡単だ」

「「「「!?」」」」

俺はまぁ旦那のいつものことだから何知ってたって驚きゃしねえけど、ちょいと興味はあるな……。

「で、その仕組みは?」

「エンド品の強化。それをすれば武器破壊は100%起こる。β時代の話だけどな」

「!そうか。確かにエンド品を強化すれば、確実に武器破壊を起こせる」

「それに今思いついたが、大まかなすり替えトリックは分かった。言っちまえば、《クイックチェンジ》の応用さ」

クイックチェンジ……っつーとさっき話しに上がってたな。

武器を取り落としたときにストレージの深いとこにある替えの武器をすぐに装備できるっつー……なるほど、そゆことね。

「つまり、同種の武器をすぐ装備できる様にしとくと、すり替えが可能だってことか」

「その通り、《クイックチェンジ》にはそういう設定にすることもできるから、客が目を離した瞬間にメニュー上のボタンを押すのは造作もねえだろうな。三秒は長すぎるくらいだ」

「……しかし、フレッド。あんたよくすぐにそんなこと思いついたな。ある種感服するよ」

まぁ、普通は思うわな。

俺だって旦那の行動に驚かなくなったのはつい最近で、他人からしたら「その知識どっから来た!?」って感じだしな。

「伊達にβやってるわけじゃねえのさ。俺はボス戦のためのレベリングよりも情報収集やパズルを楽しむ事に時間を当てたからな。それらのピースをつなぎ合わせるのはリアルの職業柄、得意でね。さて、と」

フレッドがすっきりした顔になってるのでもうこの場に用はないとばかりに、立ち上がって、出て行こうとする。

「おい!?ネズハはどうするんだよ?このままだと、また繰り返すぞ?」

「知ったことじゃない。別にこの世界に警察はないに等しいんだし、俺や君らだけでそんな組織作るつもりもないし。まぁ、捕まえるのは簡単さ。こっちも武器を渡し、ネズハ自身の武器を壊させた後《クイックチェンジ》使うか、目の前で全アイテム足元にぶちまけりゃそれが証拠になる。もちろん相手が自分の持ってる武器のエンド品を持ってることが条件になるがな」

「……なるほどね。そうすれば、相手側は《クイックチェンジ》で取り戻すことはできないから、言い逃れはできない訳か」

「その通りだ、コペル。そして俺の興味はそのトリックを知ることにあるんだ。捕まえるとかは君らの判断に任せることにしよう」

 

誰も無言のことを確認すると、旦那が扉に手をかけたんで、付いて行こうとすると、何かに気づいたように声を上げた。

「あっ……、そういや、君ら武器強化しようとしてたみたいだけど、この後どうするつもりよ?」

「どうするって?」

「強化しようとしてたんろ?武器強化なしでこのままいくつもりか?ってことよ」

「それもそうね。強化はしておきたいけど、さすがにあの鍛冶屋さんに預けるのは気が引けるし……」

……まさかとは思うが、こんなとこで商売かよ。

本気で感服するわ、あんたの行動力。

そして、俺の予想通りリズの姉御を紹介し、強化(もちろん失敗の可能性あり)してもいいと持ちかけた。

素材もこっちが使わないものだったら、売ってもいいという条件も付けて。

キリトは渋ってたみたいだが、アスナは即決だった。

 

「おし、じゃあ今からはじまりの街に行くから一緒に来な。俺も主武装を受け取りに行く最中だったからさ」

「分かったわ、キリト君はどうするの?まだ悩んでるみたいだけど?」

「……そうだよな、エンド品にしなけりゃいいんだから、あと一回は強化できるんだよな。……俺も行くよ。さすがにアスナの部屋ずっといるわけにはいかないし」

「当然よ。それとあの鍛冶屋さんに関してはまた明日にしましょう。今何をすることもできないんだから」

キリトも承服したようで俺らと一緒にはじまりの街に転移した。

 

リズside

 

「さて、フレッドから依頼されてたこの剣……強化しないと」

あたしはこの剣の強化にはいまだに踏ん切りがつかなかった。

熟練度的には100を超えているけど、強化に失敗したらっていう不安がまだあたしの中にあったからだ。

でも、フレッドが帰ってくるって言ったのは今日、さすがに強化しないと……

 

預かっていた《ギルタナス》の丈夫さ(Durability)強化用の素材《ブロッカンの堅外殻》二個と五枚の《鋼鉄板》を携行炉に入れる。

丈夫さ強化を示すカラー、黄色が灯る。

「……よし!」

あたしは覚悟を決めて、携行炉に横たえる。

瞬間、手元の両手剣に炉の黄色が移り、全体を包む。

あたしは愛用の《アイアン・ハンマー》を掴み、手元の輝く刀身を叩き始める。

あたしの鍛えた剣ではないにしろ、自分に仕事を任された以上、おざなりに扱うつもりはない。

一回一回叩く時に自分の全集中力を込めて打つ。

リズミカルにカンッ、カンッと鎚を叩く音が響き15回ほどそれが鳴った時、輝きが一瞬増し、一か所に集約する。

あたしは無言で《鑑定》スキルで性能を確認する。

表示された文字は《ギルタナス+1》というもの。

「!?……うぅうう~、やった!」

勿論、《ギルタナス》の性能はDに……

「あれ?」

詳しく見ると性能の面で振られているのは丈夫さではなく鋭さ(Sharpness)になっていた……

「そんな……失敗?」

フレッドに聞いたところによると、武器強化のペナの種別は《素材ロスト》《プロパティダウン》そして、恐らく今目の前で起こった現象《プロパティチェンジ》……D用の素材を入れたのに、Sに振られてしまった。

勿論、《素材ロスト》よりかはいいけど、あたしの中でこれは失敗に等しい。

そんな落ち気味のテンションの時にあいつら(・・・・)が帰ってきた。

 

「おぅ!剣の強化終わってるか?!」

「ひゃあああああっ!」

「……こりゃ、失礼。そんな驚くとは思わんかった」

フレッドがノックもせずに部屋の中に入ってきたのだ。

勿論、フレッド達は勝手に入れる設定になっているけど、さすがにノックはしてほしい。

「いきなり入ってこないでよ!着替え中だったらどうすんのよ!」

「速攻で扉閉める」

「そういう問題じゃないでしょ!全く」

ほんとはもっと文句を言いたいけど、武器強化に失敗している以上、あんまり強く言うことはできない。

「で、剣の方どうなったよ?」

「……ごめん。チェンジが起こってDじゃなくてSに振られた」

「まぁ、仕方ねえさ。俺としてもそうなることは予測の範疇さ。ロストが起こるより数段マシだし、S強化用の《トーラスの角》を取りにいかなくて済むんだ。何の問題もねえよ」

もっと強く言われると思ったけど、なんとかなったみたいだ。

 

「あ、リズ。客連れてきたぞ。攻略組にいるアスナちゃんとキリト君だ」

彼の後ろでアスナとキリトと呼ばれるプレイヤーがお辞儀をしてきたのであたしもそれに返す。

「で、アスナちゃんは何強化すんだっけ?」

「えっと、ウインドフルーレのA強化です」

「っつーと、ウインドワスプの針か、必要なんは。おめえら何個持ってる?」

「僕は2個」

「あたしは5個です」

「俺は3個だな」

「俺自身が14持ってるから最高の成功率でできるな。まぁ、一回素材ロストにあってるから……、リズ。ウインドフルーレ+4→+5のA強化いくらかかるよ?」

「そうね、相場は2500コルって言ったところかしらね」

「となると……、まぁ素材料込でこんくらいでどうよ?」

羊皮紙に計算結果と思わしきものをアスナと呼ばれるプレイヤーに見せる。

それを承諾したのかあたしの前にトレードタブが開き3780コルが表示される

この1280コルはどうやって算出したんだろ?と思いつつ、皆から渡される《鋼鉄板》と《ウインドワスプの針》をさっきから出している携行炉に入れる。

炉の中は《正確さ》を示す青に染まり、その中にアスナっていうプレイヤーから預かったウインドフルーレを鞘から抜き、炉に入れる。

青色は刀身に移り、輝きを増す。

今度こそはという思いを込めながら、愛鎚を振り下ろしていく。

一回二回と振り下ろし、十回に届こうかという時にさっきの《ギルタナス》と同じように一瞬輝きを増す。

そして、その光が一つに集約し、先ほどより輝く刀身が手元に現れた。

この剣の持ち主が、わぁっと声を上げるが、問題はこの後……。

《鑑定》からこの武器のステータスを見る。

ウインドフルーレ+5……ここまではいい。

+5の内訳は……《4A1D》、成功……した?

しばらく実感がわかなかったけど、やっと現実を認識でき、依頼人に剣を鞘に収めて渡す。

「……《ウインドフルーレ 3A1D》を《ウインドフルーレ 4A1D》に強化完了しました。この度はあたしに剣の強化を依頼していただきありがとうございました」

ぎこちないながらも、笑ってお礼をすると依頼人が嬉々とした感じで話してきた。

「……す、すごいよ。こんな綺麗な刀身……わたし初めて見た!そうだ、自己紹介遅れちゃったね、私の名前はアスナ、これからもよろしくね!」

「う、うん。あたしはリズベット、リズって言ってくれると嬉しい、かな?よろしく……」

目の前の嬉しさ満天といった感じに押され気味になったけども、何とか自己紹介を終える。

「リズ……か。これからも剣の面倒見てくれると嬉しいんだけど……」

「は、はい。一生懸命やらせていただきます」

「そんなかしこまんなくてもいいよ!もぅ、私とは友達でしょ」

「……分かった、じゃあ、これからもあたしことリズベットに任せてよ」

 

こんなことからあたしは今日初めてお得意様を一人確保した。

勿論、全身黒づくめのキリトというお客も剣の強化に成功して、すぐにお得意様は二人となった。




原作生存ヒロイン三人組が全員知り合いましたね~

正直、今回やりたかったのはアスナとリズを原作より早めに会わせたかっただけです。

さて、この後、さっさとタイトルに合わせるべく次の話からは時間が飛びます。
もし、第二層ボス戦も書いてほしいという方がいればメッセージや感想にどうぞ。

話それるんですが、先週の土曜日なんも投稿していなかったのに急に閲覧数が増えてたのは驚きでした。

さて、最近この小説に評価をしてくれる方が増えてくれたのは嬉しい限りなのですが、評価を下さる方は低くても高くても一言を頂きたく思います。

この小説はなるべく読者の方々の意見を反映してよりよくしていきたく存じますので、低くつけられた方は《改善点》を、高くつけられた方は《良かった点》等をあげて頂きたいと思います。

できる限り、意見等は反映させ、良かった点等は次の話以降にも引き継ぎたく思いますのでご協力お願いいたします。

勿論個々の観点等が在することは存じ上げていますが、それを承知の上、改めてよろしくお願いいたします。

ご感想・ご意見も引き続きビシバシ言っていただければ、これ幸いです。

長くなりましたが、今回はこの辺で、ではでは!


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第十話 ~幻~

はい、今回は一気に飛びますよ。

といっても、まだ主題にこれっぽちも触れないという……

あと、3~4話程度で主題に触れていきたいなと思っとりますので、それまでご容赦を

では早速どぞ~!


第十二層フィールド

 

フレッドside

 

「しかし、あのクエストの内容、曖昧すぎね?」

こんなセリフを吐くのは腰に《カタナ》を差すカイだ。

つい先日、念願のエクストラである《カタナ》スキルを手に入れ、第十一層のボス戦で大暴れしLAすらも手に入れ、名実と共に、攻略組トッププレイヤーの称号を手に入れたばかりで、割とご機嫌ではある。

「とはいっても、あの二層のボス戦以来、迷宮区近くのクエストはすべて攻略して少しでもボスの情報を集めようってことになったからしょうがないって、ねぇピナ」

「きゅ~ん」

こっちはシリカだ。

第八層でたまたま会った《フェザーリドラ》をたまたま持っていたこのMobの大好物を上げたら飼いならし(テイミング)に成功し、元々攻略組の中で稀少な女子、目を引く存在が更に知名度が上がるのも無理なく、今やあのアスナちゃんと同格の有名人だ。

故に主街区にいる時は基本フードつきのケープをつけないと、歩けない状態だ。

とは言っても、ピナの存在は鬱陶しく思わないどころか、シリカにとって家族のようなものらしくピナをテイムした日はそりゃあ騒いだもんだった。

ちなみに今はコペルはいない。

ギルド全体の仕事で中間プレイヤー連れて食料探索に出かけている。

あいつも槍と盾を使うようになり、まさに(タンク)の典型に成長した。

俺自身も9層ボスのLAで得た両手剣《ブレイブ・アップ》……意味的には、「湧き上がる勇気」って感じか?のおかげで、しばらくは武器の性能には困らないので、俺らのパーティーはすぐにでもボス戦を行ってもいい状態なんだが、アスナちゃんやキバオウ、特にリーダー格のディアベルが、シリカの言う通り第二層の失態(真のボスが別にいた)の為、それ以降はなるべく全ての迷宮区近くのクエストを情報屋と共に攻略組どうしが協力して潰していこうということになったんだが、正直たりぃ~。

 

今行ってるクエストは「謎の作物食い荒しMobを駆逐せよ」っつーもので、内容はタイトルそのものなんだが目撃情報が一致しないため、情報がほぼ何一つない。

ある奴は「でかい鳥」、ある奴は「虎みたいな猛獣」、ある奴は「ウサギみたいな小動物」……と。

こんなんで探せって方がまず無理な話だ。

たまに出てくるMobも猛獣型というよりは獣人型が多く、一致しない。

故に俺含めて結構なだらけ具合になってるわけだ、俺らのモチベーションが下がるのはごく仕方ないことといえよう。

そんな時俺らの真正面からグリーンの反応をいくつか確認した。

視認できる距離に近づいた時、俺のこの世界で数少ない呼び捨てで呼び合う奴のグループと遭遇した。

 

「おぅ、ディアベルじゃねえか」

「やっぱり、フレッドか。3人パーティだから多分そんなところだろうって思ってたよ」

俺の目の前にいる青髪爽やか笑顔ことディアベルも今じゃ、《ドラゴンナイツ》というギルドの頭を張ってる。

青い布地のインナーに肩・胴・腰に金属鎧を纏い、背中に青いマントを羽織りその上に金属製のタワーシールドと片手のロングソードを背負う姿はまさに中世の騎士団の長を思わせる出で立ちだ。

「そっちも今クエスト中ってところか?」

「あぁ、と言っても今終わったところさ、あとは依頼主に報告してクエスト完了だな」

「こっちも早く終わりたいよ。俺んとこはターゲットが分からないスロータークエやってんだぜ?そろそろだれてきた……」

「それは、ご愁傷様だな。まぁ、頑張ってくれ」

「あぁ、頑張らせてもらうよ。報酬は良さそうだしな。それはそうと迷宮区のマッピングって今どんな感じよ?」

「あぁ、リンドをリーダーにして探索を進めてるけど、こっちのマッピングは最上階の70パーセントは埋まってる感じだな」

 

「もぅ、そんな進んでるのか。俺らも早く迷宮区へ行きたいもん……!?」

「!?」

 

俺とディアベルは索敵スキルを持っている。

故に近くに紫に近い赤にカーソルを確認した。

つまり俺らのレベル(ちなみに俺は27)より格上のMob……負けるとは思わねえが連れがいる状態だとめんどいな。

「ディアベル、カーソル確認したか?」

「あぁ、この層で俺たちよりもレベルが高いとなるとボス級モンスター、しかも多数なんて初めてだ。ここは引いたほうが得策だろうね。全隊静かに街へ戻る!」

「俺らもだ。ちょいとレベル的にまずいモンスターが近づいてきている。静かにそして速攻で帰んぞ!」

全員の顔に緊張感が浮かぶ。

といっても相変わらず、カイの奴は余裕そうな顔をしているから腹が立つ。

「つっても、あんたら二人がいれば大体のMobは倒しちまうだろ?最終兵器としてカタナ使いの俺がいるわけだし?」

「そうは言っても、カイ君。君が武器系統で恐らく初のエクストラスキル持ちといっても、油断は禁物だよ?実際オレのサーチングには紫がかった赤のカーソルが見えているんだ。用心するに越したことはないだろう?」

「うっ!ったく、ディアベルの旦那は頭堅ぇから苦手なんだよな、全く……」

ナイス、ディアベル!ざまぁねえな、カイの奴。

っとそんなこと考えてる場合じゃねえな、さっさと移動しねえと。

だがここで、俺の予想の上を行く事態が発生してしまった。

突如現れたグリーンカーソルが激強カーソルの方に接近しているのである。

この辺りのマップの構造上、道はこっちにつながる一本道もしくはエンカウントしそうになってるプレイヤーが進んでいる獣道とも言えないところしかないわけで……。

それを考えた直後最悪……というより予想通りの事態が起きちまった。

 

「わぁあああああああああ!!」

 

つまりはこっちの道にそのローブを被ったプレイヤーが逃げてきたわけで、必然的に俺らも

 

「に、逃げろぉおおおおおおお!!!」

 

ということになるのは仕方のないことだろう。

 この発言からおよそコンマ一秒後、フードをかぶったプレイヤーと共に巨大なキマイラのような……言ってしまえば双頭のライオンに翼が生えたMobを筆頭に、ワニみてえな鱗を持った体にコウモリの翼、鹿の角が生えたドラゴンみてえなMobや、上半身魚っぽいモノに下半身人間っつー魚人みてえのが多数と、幻獣・珍人のオンパレードが俺らとエンカウントした。

「誰だぁああああああ!!トレインしやがる奴ァああああ!!!」

「お、その声はフレッドの旦那カ?いや、この件はホントにごめんナ」

「アルゴォオオお、てめえ!俺の前に格上Mobトレインするたァいい度胸だな!!覚悟できてんだろうなぁああ!!」

 俺が《鼠の》に文句を言ってると向こうも反論してきやがった。

「オレっちだって別に悪意持ってトレインしたわけじゃないサ。クエスト終わって疲れてたトコに近くにいた敵の前に出ちまっただけダロ。あんま怒るなッテ」

「怒りたくもなるわ。ただでさえ、クエストのターゲットが分からないところでイラついてんのにこんな格上共連れてこられたらこうなるわ!……とは言っても、このままじゃ逃げ切れるか微妙だな……ディアベル!戦闘準備行けるか!?」

「ポーションとかの回復系が少ないから微妙だな……、できれば回避したい」

 ……チッ、仕方ねえ。俺一人だったらなんとかなるかね……、おし!

 急旋回して、武器をストレージにしまい、《跳躍》を発動する。

「ふ、フレッドさん!?何するつもりですか!?」

「ちょいと、タゲ取って戦ってみる!おめえらその間に逃げな!」

「旦那、それ死亡フラグ!」

「っせえ!余計なこと言ってんじゃね!」

 会話中にもジャンプで奴らの頭上に来る。

跳躍走(ホップ・ラン)!」

 叫ぶと同時に、俺は一番でけえ、キマイラの双頭の内の一つを見定める。

この跳躍走は《体術》と《跳躍》の複合スキルで《跳躍》で跳んで相手を踏みつけた場合のみ体術の《踏覇(トウバ)》をクーリングタイム無視で連続発動し、ある程度真っ直ぐに走っていく《剣術》だ。

 とりあえず上にいるときに、大体のルートを定めて、最初のライオンを踏みつけた――――――つもりだった。

 

 すり抜けたのだ、俺の体が透けたわけではなく、奴らの体が一瞬透明化したような感じがし、俺の《剣術》は地面を抉った。

「な、なんだと!」

 奴らのゲージにもちろん変化はねえ、どういうことだ。向こう側でも逃げるよりどういうことかざわめいてる感じだ。

「……待てよ。ってこたァ……」

 俺はやつらを注視する。すると奴らの足元にあるべき影がねえ、つまりは……

「こいつらはニセモンだ!」

「偽物……だと?」

「あぁ、こいつらには影がねえ。カーソルに騙されてたがよくよく考えたら変な話だ。この層で俺らよりレベルが上?まずそっからおかしい。ボス戦ですら俺ら攻略組からしたら紫に近ぇ赤になることはそうそうあるもんじゃねえ。それが、名前を見たら定冠詞がねえ、つまりはボスでもねえMob達が最前線とは言え攻略組である俺らよりレベルが上ってのはゲームバランスがおかしいどころの話じゃねえ。恐らく、セキュリティプログラムの類が検知してすぐに消去にかかるだろうさ。でも、それが行われねえ……となると、こいつらは幻であるという推測が成り立つ」

「なるほど、じゃあこのカーソルも……」

「そう、この近くで幻を見せてるMobの能力と考えられる。しかも、姿の一致しない目撃情報……俺らのターゲットの可能性が非常にたけぇ!」

「OK!じゃあさっさと倒しちまおうぜ!で、旦那そいつどこにいんのよ?」

 カイが聞いてくるが、それに俺は答えることができないので首を横に振る。

「あぁん?なんでわかんねーんだよ。旦那のレベルのサーチングに引っかかってねえってぇのかよ、そのMob」

「残念ながらな。ディアベルそっちも反応ねえよな?」

 俺は同程度のサーチングができるディアベルに答えを求めるが、あいつも首を横に振る。

「あぁ、こっちにも今見えてるやつら以外の反応はない」

「……分かった。これは恐らく俺らのクエだ。ディアベル達巻き込むわけにいかねぇし帰っててくれ。ポーションの類も少ないんだったらなおさらだ」

 俺はディアベルに俺らもろとも脱出という退路を断たせ、帰るように誘導する。俺の策がうまくいったのか、アイツはしばし悩んで言った。

「すまない。じゃあ、ここは任せるよ。全隊撤退!」

 とりあえず幻獣集団が文字通り、幻と推測した今、こいつらはお化け屋敷のお化け達となんら変わらねぇ。

 怯える奴はこの場に一人もいなかったのでディアベルたちの撤退はスムーズだった。《鼠の》も引く時に「後で情報をタダで売ってやるヨ」と言い去って行った。

 ……まぁ、後でとびきりの情報をねだってやろうと思いつつ、幻獣たちの方へ向き直る。

 まったく俺としたことが、こんな子供だましに引っかかっちまうとは情けねえ……

「カイ、シリカ!てめえら今から少し黙ってな!俺がこの辺り一帯を検索する!」

 このセリフに応じたのか、戦闘態勢に入っていた二人もとりあえず休めの状態になる。さすがにこの4か月チョイで俺の思考は分かってきたみてえだな。

もしくは、お仕置きと称する罰が怖いか、だな。

さて、と

「…………」

俺は耳を澄まし周りの……自然の音を極力取り入れる。

システム外スキル《聴音》だ。

周りの音の中に不規則なノイズを探す。

正直、幻と分かった後にすら襲ってくる幻獣たちが鬱陶しいことこの上なかったが、極力意志の外に置き、無視する。

 

1分ほど経った後、微かだが周りの規則的な自然の音に混じって不規則な音を見つけた。

ここから三メートル程離れた所、前方2時の位置……そこに微かだが、ノイズとそれに混じる妙な気配も感じた。

システム外スキル的に言えばこの気配を感じるのは最もオカルト的といわれる《超感覚(ハイパーセンス)》なんだろうな。

俺はそこに《跳躍》+敏捷値ブースト全開で突っ込む。

「Gau……」

「なっ……!?」

見た目は猫系統の猛獣の子供、ただ頭から木の枝みてぇのが生えてる……

こいつがあの幻全部作り出してたってのか?

 

俺がその猫もどきの首根っこを掴むと、その幻たちの動きが活発化した。

どうせ幻ごときなら何も出来ねえと思っていた俺の耳に響いたのは、確かな空を切る音、幻じゃ……、ない!

俺はギリギリでそれをかわし、幻だったものの攻撃は俺のすぐ後ろの地面を抉り取った。

「――――――ッ!!っぶね!」

俺は猫もどきの首根っこを掴んだまま、カイたちがいる方向へゴロゴロと転がっていきあいつらの近くに膝立ちでストレージから両手剣を出し構える。

「どういうことだ、旦那!?幻じゃなかったのか?ありゃ!?」

「あぁ、確かに途中までは確実に幻だった。攻撃が透けてたしな。だが、こいつを掴まえた瞬間から、奴らの攻撃が実体化しやがった」

待てよ?この世界では俺が見つけた《同士討ち》の如くMobがMobを攻撃可能でありゲージもちゃんと削る。

今、俺が持ってるこいつがこの幻覚の主だと仮定してなぜ今になって実体化したんだ?

勿論、幻たちは本体にダメージを与えないという設定なのかもしれないが、俺らを追い払う為なら最初から実体化していた方がよっぽど効率が良かった筈なのに……

幻を実体化させる事自体にエネルギーを消費するっつー考えもあるが、だとするとこの猫もどきは何で怯えてんだ?

今、俺に触られてることよりも、どっちかっつーと幻たちから逃げたい方が強いような……

ってぇとこいつは、幻の主じゃ……ない?

まぁ、どっちにせよ……

「逃げろ!全速力だ!!何がどうなってるか分かんねえが、たぶんずっとは実体化できねえ!だったらここは逃げて時間稼ぎ、もしくは圏内に入っちまうぞ!」

「分かりました!ピナ、敵を惑わして!」

「キュー!」

シリカの呼びかけに応じて、幻獣たちの目の前で泡ブレスを吐き、《困惑》にする。

どうやら、幻どもには効果的だったらしく、密集していたためにぶつかり合って転倒する。

「おし、ナイスだ!シリカ、ピナ!さっさと撤退だ!」

「なんだよ、旦那?こんな奴らぐらいやっちまおうぜ!」

「確かに倒せなくはないだろう。だけど、時間がかかるし、幻と戦って経験値が入るかどうかも怪しぃもんだ。あとは確実性の面で若干不安が残る」

「わぁったよ!あんたがそう言いだしたら聞かねえからな……そうと決まれば」

全員回れ右をし、そして……

「Let's Escape!」

まぁ、当然全速力ダッシュですよ、うん。

とりあえずこの猫もどきは依頼人の元に連れてくとしよう。

俺の推測っつーか、勘が正しければこいつはキーMobなんだろう。

見た目が不定のターゲット、それに関連するかのように現れたこの層で初めて出た種のこの猫もどき、無関係と見ることの方が難しい。

依頼人の元に連れてきゃ、何かが起こるだろう。

 

何分逃げたっけ、とりあえずは巻いたみてぇだな。

「しかし、旦那。なんでそいつ連れてきたんだ?置いてきちまった方が簡単に逃げられたんじゃねえのか?」

まぁ、最もだ。

だが、それと同時に愚問だな。

「カイ、おまえ、この猫もどきが今回俺らが受けているクエストと何の関係もねえと思うか?」

「思わねえな、まぁだからこそ、旦那も連れてきたんだと思ってたよ」

「だったら余計なこと言わせるなや」

「一応の確認さ」

んにゃろう、相変わらず人を食ったような顔しやがって……

さて、まあいいや。

今更ながらに考えるとあのクエスト《圏内》で受けたもんじゃなかったな。

ってえと、やっぱしこのクエはあの猫もどきを連れてくのとそのまま放置で報酬変わる類のクエストなのかと根拠もない仮定を繰り広げていると目の前にこのクエストを受けた場所が広がっていた。

 

逃げてる時に、もうこんなトコまで来ちまったのかと、思っていたら依頼者が俺の目の前に歩いてきた。

「まぁ、その子が作物を食い荒らしていたのですか?」ケラケラ

「……多分な」

依頼人こと畑で働くおばあさんの質問に答える俺だが、なんだ、あの笑い方。

クエストを受ける前までは貧相ななりではあったが、上品な笑い方する人だったのに……。

「ではその子を引き渡して頂けます?」ケラケラ

「あぁ、ほらよ」

俺は首根っこを掴んだままの猫もどきをおばあさんに引き渡す。

「ほぅほぅ、この子が……最後の一匹」クスッ

?最後の……?

どういうことかと思ったその時、おばあさんの目に気付いた。

さっきまで黒目だったのに、いつのまにか血走った赤になっている。

俺は無意識にさっきまで猫もどきを掴んでいた手を再び猫もどきに伸ばしこっちに引き寄せる。

瞬間、さっきまであいつがいた場所にはおばあさんの……いや、オオカミの顔があった。

って何!?オオカミだと!?

「ひっ!」「な、なんだありゃ!?」

驚いたのは、後ろにいる二人も同じだったらしい。

「あらあら、渡してくれたんじゃなかったの?そのライオン」

「へぇ~、こいつライオンだったのか?で、あんた何もんよ?」

「そうねぇ~、改めて自己紹介しないとねぇ~……」

言うや否や、どんどん彼女だった者の体が膨れていき衣類が全て破ける。

そして、茶色の毛に、ずんぐりとした体、生々しい牙等々、どんどんオオカミらしき体になっていく。

そしていつの間に俺の視界に映るカーソルもNPCのそれでなくMobの赤へと変貌していき、ゲージと共に名前が現れる。

 

《THE Hope Hunter Wolf》――――――若芽摘みのオオカミ

 

それが俺の目の前にいるボスの名前だった。




話的には前編になる今回。

SAO見ていて思ったことは幻だのなんだのって出てきてないんじゃ……という思いから今回のお話作ろうと思いました。

後編は今日から明日には上げられたらと思っております。

今回はこの辺で……

ご感想・ご意見等は引き続きビシバシとお願いいたします。

ではでは!


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第十一話 ~自然を操る獅子~

危ない、危ない。危うく有言不実行になるとこでした……

今回あとがきが非常に長くなりそうなので早速、後編行ってみよ~!


ヒュ~っ!まさかの展開っつーのはまさにこのことだな

流石にクエストの依頼主がそのクエストのボスMobとは思わなかった。

「で、どうすんよ?まさか、ここまで来て逃げるなんて選択肢はねえよな?」

既に戦闘態勢に入っているカイから話しかけられる。

「当然、逃げるなんて選択肢ハナっからねえぜ?シリカ行けるな?」

「大丈夫です!」

俺はシリカの準備OKの言葉を聞きながら、件のライオンを肩に乗せる。

流石にどっか行ってろってのは俺らの隙突かれて食われちまうこともあるだろうしな。

「おしっ、最初は様子見だ。少し行動パターンを……ってカイ!」

「まどろっこしいんだよ!今の俺だったら誰だって負ける気しねえぜ!!」

俺の指示を聞かずに、腰から引き抜いていたカタナ《神楽》でカイが特攻を仕掛ける。

あの技は確か《浮舟》か……、っていきなりコンボでもするつもりかよ!?

だが、そんな無鉄砲な攻撃が簡単にHITするわけはなく、あのずんぐり体からは予想もつかなかった速さで躱される。

「ちっ、見かけによらず速ぇな……っぶねぇ!」

俺がんな考察をしてるあいだに、ディレイ中のカイに攻撃が迫る。

俺は手でシリカにも合図を出し、ボスの攻撃を自分の得物で弾き、そのまま斬り上げる。

そのノックバックの一秒にも満たない隙にシリカが短剣五連撃刺突スキル《エクスラッシュ》を決め、ゲージを1割程減らす。

肥満体型なボスの見かけに因らず割とスピードタイプだな。

ってか……

「カイ!てっめえ、余計な手間かけさせんなや!《カタナ》っつーエクストラスキル持ったところで、無敵ってわけじゃねえんだぞ、んのやろう!!」

「!あ、あぁ。悪ぃ……。調子乗ってたわ」

全く、ポテンシャルはすげえはずなのに、どうして先のこと考えねえかなぁ。

まぁ、いいや。

とりあえず、相手がスピード型ならこのパーティー限定の必勝パターンがある。

「いいか!相手は敏捷型、防御は大してねえ。俺が隙つくるから、カイはその決定的な隙に《砕閃(サイセン)》当ててスタンを狙ってけ。なったらシリカも含めて総攻撃。幸い、コイツのHPは1段しかねえ。さっきの紙防御見た感じ、1回多くて2回ローテしたら終わりだ」

「おぅ!」「分かりました!」

 

痺れを切らしたように俺らへ向かって奴が突進してくる。

まず動くのは俺、突撃系単発剣術《ジェットライナー》でオオカミを狙い、そしてその攻撃は命中した。

この剣術はいわば《ライナー》の上位版といったところで、《ライナー》が予備動作を必要なのに対し、こちらにその動作は一切必要ない。

勿論、この《ソードアート・オンライン》という世界のソードスキルはそれを発動する為に予備動作を必要とする――――――が、これは相手に向かって走り出すという行為そのものが予備動作扱いとなり、ソードスキル開始までに一切の隙を生まず、対人においては相手の不意を付き、対Mobにおいては中距離……正確に言えばソードスキル有効範囲前方2mまでなら必中、5mまでなら必中とはいかずとも、高確率で仰け反り(ノックバック)を起こす。

故に、カイの先手を簡単に躱すような敏捷値だったとして、こっちに突撃中なんていうカモのような動き中、これを避けられる道理はねえ。

そして、俺の読み通り、ノックバックを起こしたオオカミにカイが柄殴りからの縦一閃《砕閃》とシリカが時間をずらした三点突きの《トライアングル》で相手のHPは半分を切りイエローに到達した。

「あんだよ、コイツ。素早ぇだけで大して強かねえじゃねえか?本気でボスかよ」

「だけど、油断は禁物って言われてるでしょう?」

「全くだ、だが次のローテで決めんぞ!」

二人して俺の言葉にうなずく。

とはいっても、冷却中の《ジェットライナー》はまだ使用不可と来てる、だったら……

俺は《アッパー・グレイヴ》で奴の首元を狙うが、当然この攻撃はよけられる。

これは技の構成上空中でソードスキルが終わるために避けられた時の隙は異様にでかい。

だが、狙いはそこだ、隙のでかい攻撃をされ、それを躱すとあいつらMobは優先的にそのディレイ中のプレイヤーを襲ってくる傾向にある。

このオオカミもその例にもれずその鋭い爪で俺の首元を狙ってくる……が、予想通り!

「スイッチ!」

「おぅよ!」

カイが俺の呼びかけとともに両者の中間に割り込む。

よくよく見れば、カイの利き手に自分の得物がない。

「おぃおぃ……」

「はん、文句はこれを見てからほざきな。《居合・崩城》!」

一瞬で、自分の腰に差す刀に手を添え、《神楽》を振り抜く。

刀が纏うライトエフェクトの軌跡が襲い掛かってくるオオカミの首元を捉える。

瞬間、クリティカル扱いとなったのか、ゲージは俺の予想を大きく上回りレッドを一気に通過し0になった。

「おし、完了!」

「見たか、俺の居合!かっけえだろ!」

「あぁはいはい、かっこよかったよ」

「棒読み感が半端ねえな!まぁいいけどよぉ、今回のボス弱すぎじゃね?俺らノーダメだぜ」

俺が適当にあしらってると、カイが尤もなことを言ってきた。

確かにスピード型にしても、ボスとしてこの弱さはおかしい。

つっても、茅場という人間がこの世界を創造した以上、そんなこともあるかと思い、踵を返した瞬間

「駄目です!後ろに反応あり!」

「なっ……ぐっ!!」

「がはっ!」

シリカの呼びかけに反応したはいいが俺とカイは回避行動が間に合わず何者かのごつい腕の直撃を受け、数メートル吹っ飛ばされ地面にたたきつけられた。

「っつ~、やってくれんな……、!?ウソだろ?まさかゲージを削りきったはずなのに、復活……、それもフルゲージでとは……」

俺の視線の先には先ほどゲージを削りきったはずのオオカミ……しかも数ドット残ってる程度ではなく、ゲージ満タンにして現れやがった。

よく見れば、姿も若干違う。

先ほどまででっぷり太ってた腹が若干引っ込み、華奢とさえいえた腕が今や何回りも大きく太くなっている。

ゲージの上に表示される名前は先程までと変わらず《THE Hope Hunter Wolf》……、入れ替わりに出てきたとは思えねえ……

「けひゃひゃ、わしの命を一つ刈り取るとはのぉ……。おかげであと二匹ほどあの子獅子を食わなならなくなってしまった。」

二匹?どういうことだ。あのライオンも関係してんのか……

「大丈夫ですか二人とも!?」

「問題ねぇ。カイも大丈夫だろ!?」

「あぁ、四割削られたが、余裕だな。けどなんだよありゃ!?俺はちゃんとゲージを削り切ったところまで見たぜ?なんで復活してんだよ!?」

それは俺が聞きたいと言いたいが、まぁ、推理に当てるとしよう。

復活と同時に姿形まで変わって俺らに攻撃……か、俺がさっき見たことはこのくらいか。

そしてさっきから俺はこいつの攻撃を躱しまくりながら、こんなことを思ってるが、正直さっきより格段に遅ぇえ!

さっきの敏捷どこ行ったって話だ。

この三人の中で最も筋力値に振ってる俺が簡単に躱せる程だ、当然カイもシリカも難なく躱していく。

……待てよ。

確か復活と同時に奴のでっぷりとした腹は縮んだ。

もっと敏捷に振られるかと思ったらそうじゃない、なぜか筋力値寄りのパラメーターに変化した。

まぁ、その脂肪……ってかデータを腕の筋肉にでも回したか?

いやいや、だからって復活できる根拠にはなんねーだろ。

となると、それより前に復活できるフラグを俺は聞いてるはずだ。

どこだ、どこで聞いている!?

 

―――ほぅほぅ、この子が……最後の一匹―――

 

―――けひゃひゃ、わしの命を一つ刈り取るとはのぉ……。おかげであと二匹ほどあの子獅子を食わなならなくなってしまった。―――

 

……そうか、そういうことか。

つまり、このオオカミはどういう理屈か知らねえが、さっきのあのライオンを食うことで命を増やしている。

あの変貌する時の、最後の(・・・)ってぇのはそういうことか。

大方、あの時ライオンを食わせていたら、このクエストは攻略不能になっただろうな。

最後のって事はコイツはあのライオンを何匹か食うことで、不死とかそのあたりの無敵に強化されるんだろう。

ってか、あのライオンどこいった!?

さっきまで俺の肩にいたはずなのに……

まぁ、いねえもん探してもしょうがねえか……

「聞け。コイツは基本一本しかゲージが表示されねえが、削り切るたびにゲージがフルで、なおかつビルド変化して復活する。だが、確実に限りはある。無限に復活できるわけじゃねえ。なら簡単だ。コイツの攻撃は復活の度に変わるが、復活直後の攻撃以外は大したことはねえ。それを確実に躱しつつ、撃退する」

「でも、不意打ちなんてどうやって躱していけば……」

「不意打ちとは言っても、復活はその場で起こる。そこにスイッチで確実に防御できる体制で一人が待機しとけば問題はねえ」

「OK!どっちにしろ倒しはするんだよな?だったら、旦那の指示に従っとくのが一番だな。やったるぜ!」

 

それから、5分ほどで2回目のHPを削り切り、3回目4回目……とHPを屠っていき、8回目のHPを削り切った時カイがつぶやいた。

「ハァッ……、ハァッ……、クソ、いつまでやらせるつもりだよ、コイツ……」

「全くだな、俺はともかくおめえらの精神的にも限界近い感じか?」

「ハァッ……、そうですね。あたし的にはあと1回ゲージ削りきれるかどうか微妙なラインです……」

ったく、序盤でゲージ9段て何事だよ!?と突っ込んでも始まんないので抑えて……

しかし色んなタイプがあんのな、攻撃だったり敏捷だったり防御だったりと……

だけど、特殊攻撃なしの直線タイプっていう共通点はちょいとヌルめだな。

さて次のタイプはどうきますかね。

その瞬間、俺らの周りに複数の赤カーソルが出現した。

……ちょっと待て!?複数だと?

俺の視界に映るのは、やせ細った8匹のオオカミ(・・)……、そうか、ここへ来る時の幻獣共や目撃情報の猛獣共はコイツが生み出してたのか……

全く……、自分で依頼しといて犯人は自分かよ、茶番もいいとこだぜ。

「ど、どうします!?流石にこの量は……」

「へん、やっと面白くなってきたぜ!さっきまでの直線軌道の攻撃なんてたるくて仕方なかったからな!」

温度差のある二人の発言を受けて、俺は正直迷った。

今、逃がすべきはシリカだ。

精神的にやばいところに来てるのは俺でも分かる。

カイもあぁは言ってるが、限界が近いのは見ただけで分かる……

とは言っても、この四面楚歌の状態二人を逃せるかどうかは微妙なとこだな。

と思ってた、その時

「GaO!」

さっきまで俺の肩に乗ってたライオンが俺の前に出てきていた。

「おい!引っ込んでろ!お前に食われると俺らにまで迷惑かかるんだよ!」

俺がライオンに逃げるよう促しても、そこをどく気配はない……、ちっ面倒な。

無理やりにでもそこをどかそうと近づくとこいつ自身が低く唸ってるのが分かった。

そして、次の瞬間……

「Gaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

うっせぇえ!耳に響く!!

これなんかのイベントか?

周りを見るとカイやシリカも耳を塞いでうずくまっている。

それは奴さんも同じで動きが止まっている。

(ボコッ……、ボコッボコッ……)

急に周りの地面が盛り上がっていく。

そして……

「木!?」

盛り上がった土から生えてくるのはどこにでもある樹木なのだが、生えてきた樹木は規則正しく、まるで街路樹のように、方向としては《圏内》に伸びていき高さも、俺の《跳躍》でぎりぎり届くかどうかというところまで生長した。

それだけではまだ終わらず、木の先端はしなっていき樹木と樹木が重なり合ってトンネルのようになっていく。

その樹木トンネルは入り口は小さくなっており大人一人がぎりぎり入るかどうかといったところか。

おそらくこのライオンが出したんだろうが、どういう意図で出したにせよ、こいつは使える。

「カイ、シリカ!てめえら、こっからそのトンネル使って逃げな!あとは俺一人で何とかする!」

「え、でも、フレッドさんだってこの数相手じゃ……」

「逃げんならあんたも、だぜ?」

「悪ぃがそれはできねえな、久しぶりにスリルってもんを感じてんだ。だけど、今消耗しきってるお前らに死なれると、そんなスリルも興醒めだよ」

「じゃあ、俺にも一枚噛ませろよ!俺なら、まだ平気だ……っがは」

まだ言い訳をしているカイを物理的に黙らせる。

ゲージ的には余裕だったので数ドット減っただけだったが、そのおかげで今のおれのカーソルはオレンジになってるだろうな。

「フレッドさん!どうして!?」

「悪ぃな……だが、ソードスキルでもない一撃を食らって気絶するんだったら精神的にもう限界ってこった。シリカ、すまねぇがカイを負ぶってこのダンジョン脱出してくれや。こいつらは俺が足止めしとっからよ」

シリカ自身も俺の言葉には反論したいんだろうが、自身の精神的疲労や、俺のさっきの行動を見て、自分が何を言っても意味がないことを悟ったんだろうな。

メニューを操作し全アイテム物体化で全てのアイテムを足元にぶちまけ、気絶したカイを負ぶる。

「……あそこまでしたからにはちゃんと帰ってきてくださいよ!フレッドさん!」

 

そして、トンネルにシリカが入ってくのを見送るとここにいるのは8匹のオオカミとライオンと俺という構図になる。

「……あとであの七めんどくさい《信用回復》のクエをやらなきゃなんねえのか?メンドイ限りだが、まぁ、仲間を殺されるよかましか。まぁそれよりも、今は目の前のことを考えるべきか」

オオカミどもは俺やライオンのほうではなくなぜかシリカたちが入って行ったトンネルをタゲしているみたいだが、さっきから紫の障壁に阻まれて一切の攻撃が通らない。

「なるほど、待っててくれたというよりは、あのトンネル壊すことに躍起になってただけか。まぁこのチャンス逃すわけにはいかねえよな。……ってことで」

あのライオンはいつの間にか俺の肩に座っている。

さっきから思ってたんだが、このライオンどういうプログラム搭載されてんだ?

まあ、ともかくさっさと屠ってクエストクリアと行きましょうか!

 

パリンっ、パリンっとオオカミどものポリゴンだけがどんどん割れていく。

全員に実体があるということは俺の十八番である《同士討ち》が使える。

視覚頼りのMobなもんだから、若干慣れるのに時間がかかったが十分ほどで残り一匹というところまで来れた。

「おのれぇ、よくもよくもよくも!我が命を……不死の夢をぉおおお!」

「よく喋るMobなこって。すぐにそんなそんな小さなこと悩まないで済むようにしてやんよ!」

不死なんて面白くもなんともないというのが俺の持論だ。

人には限り有る命があるからこそ本能的な恐怖(スリル)を楽しめるんだからよ!

ってか、今更ながら喋るMobってどうなんだろうな?

残ってるのは敏捷型の奴、さっきから突っ込むことしかやってこねえ。

余裕だな。

オオカミがさっきまでの例に漏れず突っ込んでくる、そしてそれに合わせるように、オオカミの顎めがけて単発上方蹴撃体術スキル《アッパー・カット》を放ち突進をキャンセルさせる。

この技はコンボ開始用のスキル、故にディレイは短い。

続けて俺が放つは単発重蹴撃《煌脚(コウキャク)》を首元に見舞う。

その結果オオカミの体は先ほど生えてきた《不死(イモータル)》の木に激突し紫の障壁が展開される。

この蹴りは首元から腰にかける部位に当てることで《押さえ込み(ホールド)》状態にすることができる。

本来ボス級のMobにこの攻撃は意味を成さないが、ここで問題なのは大きさ(・・・)だ。

俺は奴の首元に足を当てたまま、告げる。

「安らかに眠りぃ、《スパークギロチン》!」

左前方切り上げ、右前方切り上げ、最後に首に左からの一閃。

まるで中世の処刑法ギロチンによる断頭のように相手の両手首と頭を落とす、決めに相応しい俺の3連重撃がHITする。

その瞬間、文字通り両手首?が地面に落ち、次に頭がゴロンと胴体から切り離されどしゃっと音を立て地面に転がった。

落ちた手首と頭が最初に砕け、間もなく意識がなくなったオオカミの体が足から崩れるとそこには何も残ってはいなかった。

一応、戦闘態勢は崩さずにいたが、間もなく俺のウインドウが無言で開かれると同時に俺は確信した、勝利を!

「っつっかれた~!!」

流石に最後の8匹同時はリアルで死にそうだった。

まぁ、あれくらいじゃないと俺としては拍子抜けだけどな。

それと……

 

「お前のおかげで助かったよ、カイとシリカに変わって礼を言うよ」

「GAau♪」

肩にいるライオンにはさっき助けられたからな、主に連れを逃す的意味において。

俺がこいつの鼻を撫でていると先ほどとは別のシステムウインドウが更新されていた。

 

固有名《ネイチャー・ライア》のテイムに成功しました。

 

……ほぉ、つまりこのクエストの報酬は今のドロップ品とこのライオンな訳な。

若干飼い慣らしの意味が違う気がしないでもないが……。

となると、ずっと一緒にいるわけだから名前付けねえとな……よし!

「お前の名前は《レオン》だ。これから宜しく!!」

「GaU!」

しかし、見れば見るほどこいつライオンには見えねえんだよな……

ライオンっつったら、たてがみがあって、まさに百獣の王という風貌に相応しい姿なのにコイツはどっちかと言えば可愛いの部類に入る。

たてがみもなければ手のひらサイズの体、さっきの情報がなければ《タマ》とかつけてるだろうな、きっと。

 

――――――忘れてた。

何をって?今の俺のカーソルがオレンジだってことをさ。

さっき、普通に圏内入ろうとしたら、警備のNPCが出てきてさんざ追い掛け回されたよ。

「……俺の記憶が正しければ、さっきのオオカミ狩りの現場から数100m行った村に《信用回復》のクエストがあったはずだな、とっとと行ってさっさと片付けてくるか……、ん?」

俺の索敵に反応があった。

カーソルはグリーンって事は善良プレイヤーか、っつってもオレンジの方がまだ良かったな。

今、ここに居るのはほとんど攻略組だ。

その攻略組に俺がオレンジになったという情報をもちろんすぐに回復するつもりだがあんまし掴ませたくない……

だけど、この道を行かねえとあの村にはたどり着けねえ……、どっか隠れてるか?

その時、肩のレオンが妙に低く唸っているのが聞こえてきた。




はい、タイトルネタバレの典型ですね、正直思いつきませんでした……
まぁ~オレンジ~って名付けるよりかは良かったと思っとります。

オレンジになってしまったフレッドに迫るグリーンの影……、普通逆なんですけど、またこのライオンちゃんがなんとかしてくれるでしょう。恐らく……

そして戦闘シーン、あれ書ける人自分素直に尊敬します。
如何に、少ない文量で戦闘描写をわかりやすく読者に伝えられるか?
そこが難しいです……

それと文中でカイが《居合》とか言ってかっこつけてますが、決してユニークの《抜刀術》ではございません。単なる《カタナ》のソードスキルで初動モーションが剣を振り抜いた時の動きと一致してるだけなのでお気になさらずに……

別件ですが、年末年始の更新の予定を申し上げますと一日一回上げていきたいんですが、正直ストックないんで微妙この上ないです。現実的な目処としては2~4日には一つ上げれる……かな?といった感じです。

さっさとこの小説で自分が最もやりたいことをやっていきたいんですがその前にクォーターポイントのボスの話もあるし、小説全体の前書きで書いた《力》のスキルのこともあって……、あんま進んでない感じです。

軽い小説並の文量になってしまいましたが、ご感想・ご意見は引き続きビシバシとお願いいたします!

今回はこの辺で、ではでは!


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第十二話 ~「強くなりたい」~

やっぱり、こうなりましたね。

ってか、今回に関しては言い訳させてくだせぇ……
これ書いてる間にルーターの調子が突然悪くなり、保存を押したらネットに繋がってないという絶望的なメッセージ……
ローカルからも消え、マジで一度萎えました。

っつーわけで遅くなってしまいましたが、では、新話どぞ~


フレッドside

 

レオンが低く唸りだしたので何か異常が出たのかと思い、見るも別に苦しくって声を出してるわけではないみてぇだ。

「レオン、どうしたんだ?急に唸りだして」

「GAaaaaa!」

と思ったら突然吠え出した。

なんなんだ一体と思ったが、その時、レオンの体が急に透け始めた。

輪郭を少し残しつつも、見た目にいい黄色は周りの背景と溶け合いさっきまで黄色いカーソルが俺の視界に映っていたのに、それすらも消えている。

……そういや、こいつを見つけるのもカーソルが見えたからじゃなくて《聴音》と《超感覚》で気配を感じたからだっけ。

でも、今それをする理由は?……と思った時、俺の体にも変化が起こる。

自分も透けているのだ、レオンと同じように輪郭を少しだけ残して……

すげぇな、コイツ……、ハイディングの効果を味方にも共有させられんのか。

しかし、これは非常に助かる。

これなら、向かいから来るプレイヤー達にバレずに最速で《信用回復》のクエスト受けることができる。

 

数秒後、視界にグリーンプレイヤーの集団が入り始める。

あれは……、キバオウ君達のところか。

危ね危ね、あそこのギルド《アインクラッド解放隊》は俺の知る限り最もオレンジプレイヤーを《牢屋》送りにしてる部隊だ。

あのまま隠れてても恐らくは俺ほどではないにしろサーチングに引っかかって、また追い掛け回されるハメになってたろうな。

先頭にいるバンダナ巻いた奴が索敵を持ってたんだろう、俺がそばを通り過ぎると一瞬俺の方を見たが気のせいと思ったのかすぐに歩き出した。

俺の視界からあの部隊が消えるのを確認したあと、俺は走り始めた。

「さっさと帰らねえと、あいつら騒ぎ出すかもしれねえからな。速攻で片付ける!」

 

カイside

 

「くそったれが!旦那の野郎!」

俺はもう今日何度目になるか分からない拳を借家の壁に叩きつけていた。

別に旦那が憎い訳じゃない……、旦那のあの場の判断は絶対的に正しかった。

問題は俺の不甲斐なさだ。

たとえソードスキルを急所に当てられたからといってあの場で気絶しちまった……、それが許せねぇ!

(ダンっ!)

「もう寝たらどうだ、カイ?今、5時だぞ」

「……そういうあんたこそ寝なくていいのか?コペルさんよぉ」

「仮眠を取った。明日の狩りに影響はないよ」

「そうかい、だけど俺は寝ないぜ。旦那が帰ってくるまではな」

そんな中、もう一人の攻略班の姿も見えた。

「何だ、シリカも寝てなかったんかよ?」

「あたしだって、結果的にフレッドさんを置いてきちゃったから……、やっぱり心配だよ」

……ちっ、やっぱ待ってるだけってのは性に合わねえ!

動こうとした俺をコペルが止める。

「離せ、俺は行く」

「一人じゃ無謀ってのは分かってるだろ?フレッドがいるとしたら、十中八九最前線フィールド、それに君らの話を聞く限りじゃフレッドは《信用回復》のクエストを受注しているはずなんだろう」

信用回復のはともかく、旦那が生きて、尚且つあのクエストをクリアしてんのは間違いねえ。

意識を取り戻したあと、俺は単身であの森に入り、オオカミババァのクエストのところに行き、もうクエスト受注できないことを知った。

おそらく、旦那が依頼主=クエMobを倒したからフラグが立たなくなったんだろう。

「そんなんは分かってる。もしくたばってたら生命の碑だっけか、あそこの自分の名前に棒線が引かれる。死亡理由も添えてな。その結果旦那は生きている。だが、問題は俺がここでこんな探しに行く訳でもなく、ずっと待ってるだけっていうこの状況が許せねぇ」

「だったら稽古でもなんでもしてればよかったのにな、俺が無事だってわかってんなら尚更な」

俺が顔を上げるとそこには旦那の姿があった。

数時間前に別れた時と違うところといえば、右肩に件のクエストで旦那が捕まえたライオンが乗ってる……

「…………」

「フレッド、無事でなによりだよ」

コペルが言い出すと同時にシリカが微妙に泣きながら旦那に飛びついていった。

「良かったです。ホントに……、ホントに無事で……」

「悪ぃな、迷惑かけた。ギルメンには?」

「夜狩り行ってるっていう説明をしといた。まぁ、あんたの強さを知ってるギルメンからしたら今更になって心配する奴らはいなかったようだよ。詳細を知ってる僕らを除いてはね」

「ハハッ、それはある種寂しいな。だけどお前らには俺の予想以上に迷惑かけたようだ。すまねぇな」

「もう!二度と!あんなことしないでくださいよね!!」

「あ、あぁ。善処するとしよう」

シリカは怒らせると怖ぇな、旦那がタジタジだよ。

「……まぁ、その話は一旦置いといて。なんだい?その猫もどき」

やっぱりそれの初見はそう言うんだな……

「テイムした。一応ライオンらしい。名前はレオンだ」

「なるほど、ライオンの子供な訳ね。しかし予想以上に帰ってくるの早かったな。僕の予想だと今日の昼頃帰ってくると思ってたよ」

「……前言撤回しよう。コペルは詳細知ってても大して心配してなかったのな。まぁそいつは置いといて……、コイツの能力のおかげさ。俺がオレンジになったって知ってるのはここに居るメンバーだけだと思うぜ?」

それについて、数時間前までの俺だったら根掘り葉掘り聞いてたろうな。

それでも俺が発言しないと、動物好き兼テイマーのシリカが俺の代わりに聞いていた。

曰く、能力は《自然操作》と超高度の《隠蔽》ってことらしい。

しかし、自然操作って……ほぼ無敵じゃね?と思ったらやっぱり穴があるらしい。

成功率は相当に低めで、俺らが通ってきたらしいトンネルの一回以来成功していないらしい。

《隠蔽》に関しては分かってはいたがほぼ見抜かれることはないらしい。

「しかし、コイツの能力は俺には大して使えねぇんだよな。ほら、俺こんな性格だし?わざわざ危険度を下げるような能力はそれこそさっきみたいな緊急時以外は使わねぇだろうな」

旦那らしいっちゃ旦那らしいな……

「それより、カイ。おめぇ、俺が帰ってきてからまだ一言も喋ってなくね?どうしたんだよ?いつもだったら俺がムカつくぐらいに(なじ)ってくるのによぉ」

「……ちょっと出てくる!」

「お、おぃ!カイ!!」

俺はその言葉を受けて借家を飛び出す。

フレッドが止めようとしてたが、それも無視して、転移門の方へ駆け出す。

「転移!《タフト》!!」

 

あれから何時間狩り続けたろう。

正直覚えちゃいねえ。ひたすらにPOPするMob共を狩り続けて俺の使っていた《神楽》の耐久がそろそろ限界だと思った時だった。

「戦いすぎだ。少し休め」

後ろからフレッドの声が聞こえた。

だけど、俺はそれに振り向かずに応える。

「なんだよ、旦那。俺はあんたにとっちゃお荷物なんだ。強くなろうとして何が悪ぃんだよ?」

「……まぁ、強くなろうとするのに関しては文句はねぇよ。この世界では誰よりも強くなって死亡率は減らしてぇもんな」

「言ったろ?お荷物が嫌なだけさ。あんたもお荷物は背負いたくないだろ?それを今まで背負ってきたのは俺らに期待してたから。だけど当の俺はあんたの言うことも聞かずに敵に突っ込んで足を引っ張るわ、いざ、あんたの言うとおり動いてもすぐにバテる。あんたも俺は足手まといって思ってんじゃないのか?」

旦那はその言葉を静かに聞いていたが、やがて口を開く。

「……そうだな。確かに今のお前は足手まといだ。そんな弱腰になっているお前はな」

弱腰……だと?俺は今弱いからこそ、強くなろうとしているが、だからこそこの態度が弱腰だと!?

「カイ、今文句言おうとしてんだろ?だけど俺は訂正するつもりはねえぜ?俺が言ってるのはてめぇのその考え方だ。「俺の言うことを聞かずに突っ走る」「すぐにバテる」たしかにそうかもな。だが、子供からしたらその精神力は大したもんだ。俺はそういうことを含めて子供を俺の作るギルドに誘ったんだ。成長力とその精神力を天秤にかけた時俺はその成長力に賭けた。そして、今その賭けは俺の勝ちで幕を閉じようとしてんだ」

「ど、どういうことだよ?」

「どうもこうもねぇさ。お前のその得物……《カタナ》はどういう条件かは分からないにせよ全プレイヤー中最速で手に入れたスキルなんだぜ?おそらくは《曲刀》スキルの熟練度あたりに大きく寄与するにしても、攻略組の中にも《曲刀》使いは少なからずいる。そいつらの誰もが未だその《カタナ》スキルを習得していない状況だ。分かるだろ?やっぱし、子供の成長力並びに適応力ってのは凄ぇもんがあるってこった。それに、その精神力だってどんどん適応していく、それまで俺がカバーしてきゃ問題はねえよ」

言いたいことは分かる、けれども、俺はそのカバーされてる期間を少しでも早く抜け出したい、だからこそこんな狩りをしてるんだ。

十数時間前まではその気持ちは抑えていた。

だけど、急に抑えられなくなった、どういうことかは分からねえけど急に、だ。

俺がそう言う前にまたも旦那に見透かされたように先を越された。

「もし……、お前がその短い期間でもカバーされてるのを嫌うようならやってみるか?夜狩り?」

「夜狩り?旦那が毎日夜におおっぴらにやってる無茶なレベリングか?」

「おおっぴらって……。まぁ、そういうことだ。俺の精神力の持ちってのはリアルやβで培ったもんだ。お前がカバーされてる期間が嫌だというなら夜狩りに同行することを許そう。でも、そんな弱腰のお前を連れてっちまったら余計俺の負担が増えちまうかもな……」

「ハッ、そんなこと気にするようなら最初っからそんな提案しねえだろうが。俺にも一枚噛ませな!いつまでもあんたの後を追う俺じゃねえってとこを見してやんよ!」

「そうそう、そう来なくっちゃ。じゃあ一応今日はもう帰んな。今日夜狩りを実行するからな」

旦那の言葉に言われるままに俺は借家へと足を進めた。

 

時刻は夜の12時はとっくのとうに過ぎている。

最前線の夜は旦那が禁止していたせいで、5層を越えたあたりからフィールドに行ったことはほとんどない。

旦那自身が夜の最前線行ってるもんだから下手に行って見つかるとマジで斬りかかってくるからな。

8層で一回シリカとふざけて夜の最前線へ踏み出した時、旦那に一瞬で見つかってそりゃあ、ひどい目にあった。

詳しくは聞くな。

フロアボスなんてメじゃねえよ、あの怒気は……

「さてと、お前には今から夜狩りの基本を教える。準備はいいな?」

「おぅ!」

「うしっ!早速目の前にPOPしてくれたMobさんがいらっしゃいますから、早速屠るとしましょう、カイ、とりあえず、お前が思う夜狩りの基本を踏まえて狩ってみぃ?」

「お、おぅ」

俺は目の前に出現したゴリラみてぇなMob《ゴリアン・ストロンガー》と対峙する。

コイツは武器を持っていない故に《剣技》は使わねぇが、一撃一撃が重い。

その癖して、《剣技》ほどではないがそれに迫るスピードで攻撃してくる。

「俺はこいつの倒し方はここ数日でマスターし、それを実践しようと思ったら……

「!?」

いきなりセオリーと違う攻撃をしてきやがった。

普段なら、拳を構えて突撃系の技をしてくるが、コイツは普通に接近後に拳振り下ろしを実行してきた。

「ま、こういうことだ。昼と同じとは思わんほうがいい。基本は初見の相手と戦うって思ったほうがいいぜ」

「そういうのは早く言えよ!ってうわっ!」

しゃあねぇ、セオリー云々言ってる場合じゃねえな。

俺は刀を鞘に収め、ゴリラ野郎が間合いに入るのを待つ。

そして、一秒と経たない内にその瞬間が来た。

「!居合・崩城!」

俺の刀は赤のライトエフェクトを纏い、寸分の狂い無く、奴の弱点の首を捉えた―――筈だった。

防ぎやがった。

居合は確かに俺が勝手に言ってるだけだから防御されても別に驚きゃしねえが、問題なのはここ数日で、そんな行動一回も(・・・)取ってないっつーことだ。

「何っ!?」

「言ったろ?初見の相手と思ったほうがいいってさ。昼と夜じゃ行動パターンの根本から変わってくる。同じなのは姿だけと思ったほうがいい」

だから、そういうのはさっさと言えと……、まぁ、言ってもどうせ聞かないから戦闘に集中するか。

俺はこれでも攻略組!未知の相手って思うんだったら対処法も勿論ある!

まずは相手の行動を調べるために連続回避。

そして、調査の結果を元に、ディレイが軽い《剣技》で牽制をする。

行動パターンにカウンター的なもんがないかを確認し、なければノックバックを狙うように重い《剣技》のコンボで決める。今回の相手はさっきので分かってたがカウンターがあるみてぇで、その場合はそのカウンターを軽い攻撃で誘導し、そして……

菱光(ひしびかり)!」

俺の首から左の腹そこから左の足と腰の付け根、上へ戻り右も同様に切りつける《カタナ》の四連擊ソードスキルを相手にHITさせる。

あとはそこそこ威力の高い攻撃とディレイの小さな技の組み合わせで勝てる。

どうやら目論見は成功したみてぇだ。

最後の《砕閃》が決まり、ゴリラ野郎はポリゴン片へと姿を変えた。

「ふぅ~」

「見事って言っとこうか。だけど、分かったと思うが、行動パターンが違うだけじゃなく明らかに昼より倒しにくい。それに今はなかったが、連続POPの危険性を考えると非常に効率が悪い」

確かに……、これで昼より少しばかし多い経験値じゃ割に合わねぇ……

「そこで俺が教えるのが……、おっと客がおいでだ」

うまいことPOPが来るもんだなと思っていると、俺の前に旦那が出てきた。

「今度は俺のを見てな」

そう言うと、旦那は武器も持たずに頭付近までジャンプし、《剣技》でもねぇ拳を相手の攻撃をかわしつつあらゆる場所に打ち込んだ。

「おぃおぃ、どんなスゴ技見せてくれんのかと思ったら、HPも大して減ってねぇじゃねえかよ」

「今、自分で言って気づかんかったか?HPが大して減ってない=少しは減るってこっさ。俺は今相手のゲージしか見ずに攻撃したんだ。そして、そのゲージの減り様もな。故にクリティカルの位置を察せた」

クリティカル……か。

主武装を《カタナ》に変えてから狙ったことなんてなかったな。《ルーター》を使ってた頃はやたらめったらにクリティカル狙ってたのにな。

「お前は《剣技》に頼りすぎてる。《剣技》は優秀だが、同時に精神を多く持ってかれる。相手のクリティカルを知ることで《剣技》を使うタイミングを一点に絞れ。カウンターも取られないような一点にな。すると……」

旦那の足が青く輝く、あの構えは《煌脚》か。

「フッ!」

一瞬だった。

旦那の《跳躍》の熟練度は確かもう400は超えてたっけ?

両手剣と同等まで引き上げられた《跳躍》の瞬発は半端ではなかったようで一撃の下に敵を沈めた。

「夜はただでさえ、精神力が削られやすいんだ、生理的に眠くなるしな。だから、《剣技》は一匹に対して一撃。勿論、カイがさっき取った戦法も悪かねぇ。だが、夜慣れてない間は一点に絞ってけ。じゃねえといくら格下といえど足元掬われるぜ?」

なるほどな、今になって改めてクリティカルの重要さ学んだぜ……

「まっ、だからといって俺の行動を全真似しろって訳じゃねえ、小回りの利く技をテキトーに打ってクリティカルの位置を探り出せりゃそれでいい」

「そらそうだ。旦那のやり方真似しろって言われてもそりゃ無理ゲーだ」

 

慣れてみれば簡単なもんだな。

旦那に教わった通りのやり方は精神的疲労を感じさせずに只今5時半、実に5時間ぶっ続けで狩ってたことになるが、この夜でレベルが25→26に上がってしまった。

さっきまでの昼狩りではろくに経験値も貯まらずに、尚且つ精神疲労が半端なかったってのに……

「旦那!こんな方法があんなら、昼ん時も使えやいいのによ」

「……とは言っても《剣技》を連続で当てたほうが時間的効率はいいんだ。だから昼狩りん時はあんま使わねぇんだ。さて、そろそろ帰んぞ。明日からはこんな長居はしねえぞ、遅くて4時までだ」

「ほいよ」

旦那は詳しく言わねぇがなんとなくは察せる。

要するに、俺が子供だからだ。

俺が体術のクエストをやっていた時も夜2時には簡易寝所作って、強制的に寝させていた。

シリカも俺らが修行している間、夜の狩りに連れ出されていたらしく一時的にレベルが俺より上だったが、12時にはホームに帰されてたらしいということを本人から聞いてる。

しかし……

「旦那も心配性だよな。俺だって中学3年、ってかそろそろ高1になる予定だったんだぜ?これくらいは余裕だってのに」

「え?お前って小学生じゃなかったの?」

「…………」

旦那もやばいと思ったのか、俺にいらんフォローをしてくる。

「えっ!?いや、なんだ、ほら。そういうのも需要ある、ってゆーのか?」ハハッハハハ……

「どうせ!俺の身長は中学生には見えねえよぉおおおおお!!ちっくしょぉおおおおおおおおおお!!!」

俺は脱兎のごとくフィールドの方へ駆け出した。

 

俺が正気になって借家へ戻ったのはそれから実に24時間後のことだった。




今回はカイ君視点中心で書かせていただきました。

そして、フレッドの使い魔に関してはこんな能力です。
ただ、その特殊能力の強力さ故に戦闘能力は皆無ですので、自然操作で呼び出したオブジェクトには攻撃判定は一切ありません。
SAOの使い魔って本来戦闘能力は大してないらしいですし。

次の話は例によって飛びます。
多分、あの辺りかなぁ~、久しぶりのボス戦です。
ここまで言えばもうお分かりでしょうって事でまた次回にお会いしましょう。
引き続きご意見・ご感想はビシバシとお願いいたします。
ではでは!


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第十三話 ~嘆きの巨人~

戦闘シーンの描写難しいよ~

最近泣き言が多くなったALHAでございます。

いつもより文量少ないというのにいつもより苦戦したという、大人数での戦闘シーンは課題ですね……

では早速、新話どぞ~


25層主街区広場

 

「あのさぁ、1層の時も遅れてなかったか?フレッドさんよぉ……」

「いや~、許してくださいよ、コペルさん。決してわざとじゃないんですよ?例によって例のごとくMobPOPの嵐に巻き込まれてですね……、結晶使うんももったいなかったし」

「だったら、レオンのハイディングで隠れて来りゃよかったじゃねえか!」

「いや~、いつも肩に乗ってるだけであんま仕事させないもんだからどうしてもねぇ……」

「だからあたし言ったじゃないですか!?レオンの能力使えばこのPOP状況でも躱していけるんじゃあ?……って」

「てめっ、それは黙っとけって、……あっ」

「やっぱりテメェの巻き込まれ性格のせいじゃねえか!ただでさえ攻略会議に全時間欠席であまつさえ、先に攻略隊には出られちまってんだからな!?」

なんで、俺はコペルとカイの前で正座させられてるんだろう。

まぁ、理由は簡単だ。

攻略会議にシリカ巻き込んで遅れた。

いや、あのPOP状況だったら倒して行きたくなるって、経験値稼ぎにはもってこいなんだし……

 

例によって、コペルとカイを置いて来たんで、なんとか話の内容は聞きづてだが、理解している。

ボスの名前は《THE Smith of Scream》訳せば"叫びの鍛冶師"といったところか。

名前から分からねぇが、二つ頭の巨人らしい。

見た目から圧倒的な攻撃タイプというこの情報は偵察隊の証言。

一人がどうやら殺られたらしい。

で、生存者に聞くと武器は両手アックスを4つ……言ってしまえば某ポ○モンのカイ○キーの様に4本腕、しかも両手用武器の癖に全てを片手で操るというとんでも野郎だ。

そして、ゲージを5本中2本削ったまでだと特殊攻撃はしてこないらしい。

迷宮区周りのクエストも一応ほぼクリアしたと思われるが、どれもそいつの情報と思わしきものは存在しなかった。

この前の24層時点でボス情報自体が曖昧になってたのでもしやとは思ったが、どうやらこの先のフロアは事前のボス情報が一切ないということらしい。

あとこの層含めて76回もボス戦があるっつーのに見捨てんのが早すぎじゃありません?茅場さん……

「まぁ、後にしよう。今はいち早く先に行った攻略隊に追いつきたいし……」

「いや~、ありがたいですねぇ~。さぁ、さっさと行きましょうや」

このあと向かう途中カイとコペルにさんざん詰られたよ、シリカも苦笑するばっかりでフォロー出さねぇし……

 

25層迷宮区

 

さて、先を行っていた攻略隊を見ると……おぉおぉ、壮絶な顔ぶれ……

相変わらずソロのキリト君に、《聖竜騎連合》のリーダーを務める片手剣+タワーシールド装備のディアベルにそのサブリーダー両手斧使いのブランシュ君、《アインクラッド解放軍》のサブリーダーの片手曲刀使いのキバオウ君、そして新顔ながらポテンシャルが最も高いと俺が勝手に思ってる《血盟騎士団》その副リーダーを務めるは細剣使いのアスナちゃん、そしてそのギルドを束ねる団長ディアベルと同じ武器のヒースクリフさん(さすがに君はつけられない……)とこれまでの攻略会議ではこの内誰かは欠けてる状態だったが、ここまで揃うのはおそらく初だろうな。

しかし《軍》の人数が圧倒的だなぁ~、今回の攻略は2レイドで挑むらしいがその約7割が《軍》で構成されてる。

まぁ、20層あたりからこの光景は当たり前みてぇな感じだったけどな。

因みに軍のリーダーであるシンカー君は若手育成のため欠席だそうだ。

 

最近、有名ギルドの合併が激しく、俺んトコも何度か誘われたが全部蹴った。

リーダーの奪い合いとかめんどいし、何より良い方向には進まんだろ……

そん中でも、現在名《聖竜騎連合》と《アインクラッド解放軍》は多少なりとも良い方向へ向かうと判断したのか合併を果たした。

今回のレイドのリーダーは《軍》のキバオウ君と、同じく《軍》の一人が務めることになってるらしい。

 

そんな中、俺らが追いついてきたことをいち早く見つけてくれたんは、俺の大親友であるところのディアベルだ。

流石に隊列を崩してこっちに駆け寄ってくることはなかったが、手で挨拶をしてくれたので俺もそれに返す。

ディアベルとは一層攻略以来色んなクエを手伝い合ったりしてる仲で必然的に元《ドラゴンナイツ》のメンバーとも良好な関係だ。

っと、さっさとリーダーであるところのキバオウ君に報告しとかねぇとな、後でなんでコソコソしとったんや?とか言われたかねぇからな。

 

「すまない、キバオウ君。Famigliaの攻略隊四人今揃った。遅れたことに関してお詫び申し上げる」

「あぁ、フレッドはんか。今までのあんたの功績があるから強うは言わんけどな、もうちょい時間には注意したってや。それとあんさんらはB-7隊の遊撃チームに入ってくれや」

「……以後善処しよう。チームに関しては了承した」

遊撃チームとは言ってしまえばボス戦でのいつもの俺らの立ち位置だ。

俺ら四人の内コペルと俺がガードもこなせるダメージディーラーなので基本はカイとシリカが攻撃し俺らがブロック兼隙の小さな攻撃を当てるというスタイルが確立されつつある。

従って、無理に攻略隊の中へ入って合わせようとすると、俺らのスタイルが十分に発揮できないとのことでレイドには入れてやるが、後は勝手にしろという感じである。

一回、キバオウ君がリーダーの時に、無理に俺らを分裂させてそれぞれ固有の専門部隊へ入れて対フィールドボス戦があったが、もしあれがフロアボスなら死者が出ていたであろうひどい戦いになった。

まぁ、そんなこんなでほぼ放置状態が続いている現状というわけだ。

そして、その4人に決まってプラスされるのももう大方決まっていて

「相変わらず遅刻の癖は抜けないのか?フレッド」

「随分お偉いお役職なことで」

隊列に戻ろうとした俺に話しかけてくるこの二人、キリト君とエギル君だ。

まぁエギル君に関しては20層攻略時にアスナちゃんが血盟騎士団に入った後釜的なポジだが、ことキリト君に関しては彼が攻略欠席している時以外は1層からずっとパートナーという感じだ。

「俺自身の落ち度じゃないさ。連続POPしてくるMob共が悪ぃんだ。あんたらもどうせB-7隊だろ?まぁ、今回もよろしく頼むよ」

俺が手を差し出すと二人順に俺と握手する。

 

あれから数分カイ達と駄弁りながら俺ら2レイドの攻略部隊はフロアの目の前へ到着した。

これだったらPOPするのくらい我慢して迷宮区向かったほうが早かったんじゃね?

因みに俺らの前にPOPした連中はほとんどが軍の勢力に潰されていた。

Mobにはご愁傷様だな。

 

「行くぞ!」

これはなぜかヒースクリフさんが毎度言っている。

そっちのほうが士気が盛り上がるからということらしいが、まぁキバオウ君が「行くで!」とかいうよりは盛り上がるわな。

 

フロアの扉をくぐるとまずは暗闇、そして奥の方に光源があるようでそこだけボゥっと光っている。

そして放射状に光が届くはずなのに途中で途切れている。

簡単な話だ。

そこに今から俺らが倒すべき巨人《THE Smith of Scream》がそこにうずくまっていた。

だが、扉が開けられたと確認したのかその禍々しい出で立ちを俺らに向けた瞬間の後

「「ぶギャルァおおおおおおおおおお!!!」」

うっせぇな!

まぁ、肩にいるレオンの本気の咆哮と比べるとこっちに軍配が上がるな、さて。

「A隊攻撃準備!B隊はA隊がダメージ負ったときに回復の隙をカバーするんや!!」

キバオウ君が叫ぶがカイはとっくのとうに走り出してる。

まぁいつものことなんで、これに関してもキバオウ君は無視。

「とっとと行くぜ!《走り居合・影月》!!」

相変わらず居合という言葉を付けたがんなぁ、アイツ……

見た目通り、敏捷はほとんどなくカイの影月は当たりはしたが、流石に防御が高いな。

ソードスキル使ってHP5段ゲージの一番上が数ドット削れただけだった。

まぁあいつの目的も奴のタゲを取ることだから問題はねぇな。

さて、俺らも行くか。

「キリト君、エギル君。いつもと一緒のパターンでいきましょう。俺がカイのサポートをします。コペルはシリカと、エギル君はキリト君とで」

「「「「了解!!」」」」

 

戦闘開始後、数十分と経った。

先遣隊が与えたという2段のゲージを吹き飛ばし、残りは3段。

いつも通りのA,Bの全隊スイッチを駆使して今のところ死傷者は0、確かに力は半端ないものがある。

壁戦士を防御状態で半分削るあの攻撃力には恐れ入るが、こちとらトーシロってわけじゃねぇ。

今までのボス24戦でどういうタイミングでスイッチするかっていうのは攻略隊の中で知らない者はいない。

的確なスイッチを駆使して今までのボス戦での死傷者は0に抑えてきた。

故に

「カイ、スイッチだ!」

「おぅよ!」

カイのディレイ中、俺はリズ会心の作の両手剣《アルティマハイト》で迫る奴の斧振りおろしをガードし、そしてカウンターに近い感じで《アッパー・グレイヴ》の上位二連撃スキル《メテオ・グレイヴ》で奴の首元を十字状に叩き斬る。

単純に言ってしまえばコイツは《アッパー・グレイヴ》の斬る順序を逆にした技だ。

故にスキル終了時に宙に居ることがない。

 

そして、ゲージ3段の真ん中を過ぎた頃、奴は再び吠えた。

……って事はここから攻撃パターン変化か。

それを理解した直後、奴は後ろに大きくのけぞるような体勢になった。

別に攻撃に対してその体制を取ってねぇ……、ってことは、ブレス!

「一時、下がれ!やつの範囲攻撃が来る!」

「言われなくとも!」

キリト君がそれに応え、レイドのほぼ全員が下がったが、B軍リーダー含む《軍》の4人ほどが出遅れ、その場にとどまってしまった。

そして、俺の予想通り右の頭から赤い炎、左の頭から青い炎が吐き出され、その4人はガードする間もなく混沌とした炎に包まれた。

 

ブレスのような特殊攻撃は攻撃威力もそうだが、問題なのはその名の通りそれが持つ特殊効果だ。

2層のフロアボスの牛男が使ってきたのは麻痺効果のある雷ブレス、あれのおかげでワイプになっちまう可能性があったのは俺の中だとまだ記憶に新しい。

今回のブレスにはどんな作用があるのかと思ってブレスを見ていると、おかしなことに気づいた。

ないのだ、ゲージが……

数秒前まであった4つのほぼフルだったゲージが一切見当たらない、どころかこの世界のものには全てつくはずのカーソルさえ見えないのだ。

つまりは……

 

「一撃死……」

パーティーの誰かがそう漏らした。

「う、うわぁあああああああ!!!」

その瞬間周りから上がるのは当然悲鳴の嵐だ。

今まで、一撃のダメージとはどんなに多くてもレッドにぎりぎり届かない程度だったというのにその暗黙のルールを何事もなく破ってきたのだから当然といえば当然と言える。

ただでさえ、レイドリーダーであるキバオウ君を始めアスナちゃんやキリト君、ディアベルでさえどうすればいいのか唖然としている。

だが、ここでの滅茶苦茶な行動は破滅しか生まねぇ……

今、俺の目の前にいた軍の人間が尻尾を巻いて逃げ出そうとしていた。

ったく……

「静まれ!!馬鹿ども!!!ここでの統率の取れない行動は死を招くぞ!!」

だが、俺の言葉が既に慌てふためいている連中に結局届くはずもなく……

俺やキリト君、ディアベル達のようなその場で待機していたものを無視してジャンプで飛び越していき、そして……

 

「うぎゃ!!」

「は……が!!」

 

またもや、HPが大して減っていない逃げ出した連中のゲージを削っていった。

!? やべえやべえ、俺としたことが数瞬考えがまとまんなかったぜ……

「ひぃい!」

逃げ出した連中から短い悲鳴が上がる。

その瞬間、俺は剣をその場に突き刺しジャンプする。

その後、ボスが狙っていたプレイヤーの目の前に行き《煌脚》で振り下ろされる武器の軌道をずらし、斧は俺のすぐ横の床を叩きつける。

「キバオウ君、一時撤退を勧める。勿論さっき死んだ連中のことを思うのであれば攻略再開に俺は余念を示さねえが……」

「あ……当たり前や!ここで退却したらさっきのやつらの犠牲が無駄になってまう。壁戦士を前に置き、ディーラーたちは総攻撃。短期決戦で行くんや。さっきのブレスが来しだい壁の後ろに隠れるんや!!」

「「了解!!」」

これに答えるのは軍のメンバーでなくそれ以外のレイドメンバー達。

軍はどうやら意気地無しが多いらしいな……

しかしなるほど、一瞬で考えたにしては随分いい判断をするじゃないか。

「ちょっと待て!ここは一時撤退の方がいい!これ以上犠牲者を出すつもりか!?」

「そうよ一体何考えてるの!?」

 

キリト君とアスナちゃんが反論しようとキバオウ君に近づこうとするが、俺はそれを手で制す。

「フレッド!なんで止める!?」

「レイドのリーダーであるキバオウ君が戦闘の継続をすると決定した。ならばそれに従え!ここで余計な時間を取るよりも攻略に専念したほうが俺自身も優策と判断している」

「なぜ!?」

「見て分からねぇか?あいつはどうゆーAI与えられてるか知らねぇが惚けてた俺らに構わず、逃げ出した(・・・・・)連中を優先的に狙った。そっから推察するにコイツはこのフロアを守るというよりはプレイヤーを殺すことを優先したAIを与えられていると考えたほうが無難だ。戦闘において最も無防備な姿勢を知ってるか?それは逃走行為にほかならない。攻撃後のディレイも同率と言えるが戦闘に対する意志力という面でこっちに軍配が上がる。そんな中一斉に逃避行動起こしてみぃ?ワイプは確実だぜ?」

「「!?」」

向こうの方でもヒースクリフさんが俺と同じことを言っているのが聞こえる。

さすが、ポテンシャルNo.1!考えることが違うねぇ。

 

だが、キリト君やアスナちゃんの言う通り、ここで戦闘を継続するのは本当は結構なレベルでまずいことだ。

まぁ、仕方ねぇな。

今までボス攻略の本戦においてはただ一人の死者も出しちゃいねえ……

感覚が麻痺しようが詮無いこっちゃ。

 

そんな時、俺の横からカイが珍しく尋ねるような口調で聞いてきた。

「なぁ、旦那!アレ使っちゃダメか?」

「……まぁ構わねぇよ。こうなった以上、お前がそう来るのは折込済だし、肝心な時に使えなきゃ宝の持ち腐れだしな。許可すんよ」

「おっしゃ!じゃあ行くぜ!!」

カイがそう言うと同時に、ウインドウを操作しながら、ボスに突っ込む。

さっきまで使ってた刀をストレージにいれ、新たな得物をストレージから取り出す。

その間にも奴の斧による攻撃はカイを狙ってくるが、敏捷よりに振っている奴のステータスだったら筋力総振りと思わしきあいつの攻撃なんぞに当たる道理はねえ。

そして、ストレージからあいつの新しい得物が姿を見せる。

それは薙刀と称される武器に近い形をしているが少し違う。

刀身が二つ(・・・)あるのだ、正位置と逆位置に一つずつ。

「うおぉらぁあ!!」

「ぐるぁ!?」

姿を見せると同時に縦に4連撃エックス型に切り裂く《デュアルエックス》が決まりその勢いでボスがノックバックを起こす。

「見してやんな、お前のエクストラ第二弾。《両薙》のチカラってやつをよ!」

 

 

 




はい、どんどんカイだけがエクストラを入手していきます。

この《両薙》に関してはあとでメンバーの誰かが解説加えると思うので悪しからず。

そして課題の戦闘シーン、しかもギルメンだけでなく大多数のMobプラス原作組という状況だと何をしていけばいいかリアルで分からなくなってきますね……

ホントは予定崩してフロアボスやるのやめようかなとも思ったんですが、一度予告してしまったんで書く事に致しました。

ご感想・ご意見等ございましたらビシバシ言っていただけると助かります。
特に今回、戦闘描写が……となっておりますので、ご意見伺えたらなと思っておりますのでどうぞ、よろしくお願い致します。

今回はこの辺で、ではでは!


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第十四話 ~声~

YEAH!Happy New Year!!
ということで遅ればせながら新年明けましておめでとうございます。

原作のアニメが終わっても自分のソードアートワールドはまだ終わりませんよ!

ってことで新話どぞ~!


コペルside

 

 カイの奴、あれを使ったのか。

 あとで、嫉妬が集中しないといいんだけどな。

 1ヶ月前、カタナスキルの熟練度が400、体術スキルが257の時に発現したあいつのエクストラスキル《両薙》……両方に刀身があることでおそらく元となった武器の薙刀よりも手数が多くなる分扱いも相当に難しい。

 これが出たときに、僕は行ってないが夜の戦闘訓練ではしゃいで使って大変な目にあったらしい。

 歴史上でもあの形状の武器ってのは有名どころが存在しない。

 某有名SFでは双刃の光剣を操ってる剣士がいたらしいが所詮は創作、現実であれを使いこなすのは異様に難しい。

 何が言いたいかといえば、実用的じゃない。

 茅場晶彦はそれを何故スキルに組み込んだのか?はさておき、あれを主武装にすると決めた時から、そりゃあとんでもない時間をあれにかけてきた、だからこそ、カイのあのスキルは使い物になっていると言える。

 さっきも言ったが、扱いが難しいし使いこなせても使い手を相当なまでに選ぶ―――癖のあるエクストラの中でも超が付く程の頑固スキルだが、カイの奴はその派手さとかっこよさ何よりあれの叩き出す総ダメージに惹かれた。

 特に、あのスキルに規格化されてるソードスキルは全てが多段HIT系統で威力も半端ではなく確か熟練度300前後で5連擊超は当たり前、そのくせして攻撃力はカタナと同等というイカれた武器だ。

 今のところ戦線復帰しているフレッドと《血盟騎士団》のヒースクリフの二人の絶妙なガードに合わせてディアベルと一緒に的確なクリティカルを何遍も叩き込んで奴のHPもガリガリ削る。

 今も6連擊《ヘキサクル》がHITし、あいつの4段目のゲージをイエローに持ち込む。

 まぁ、あいつのあのスキルはカイの正確なクリティカルを斬る能力、あいつ自身の努力、そしてあいつとこの両薙というスキルの相性の三つが揃ってるからこそあれだけの活躍ができているといっていいだろうな。

 故にこの情報は危ない、出現条件も《カタナ》と《体術》という二つのエクストラを熟練度も割と必要だし、取得できても使い物になるかは微妙なところだ。

 だから、フレッドもこの情報はしばらく黙っとけって言ったんだろうな。

 

 カイの活躍を見てると隣にいるシリカも顔を見る限り戦線復帰の準備が出来てるみたいだ。

 一応、意思を聞いておく。

「シリカ怖気ついてない?」

「ちょっと怖いですけど、コペルさんやフレッドさん、カイ君も一緒ですから大丈夫です!」

 

 さっすが、フレッドが育て上げてるだけあるわ。

 あいつが子供ばかりを集めたのにはもう一つ理由がある。

 僕もつい先日知ったところだけど、それは死についての認識らしい。

 あいつ曰く「子供は死というのを認識していない可能性が大人より高く、その認識の甘さ故に好奇で身を滅ぼす事になる。だからこそ、俺は子供を集め無茶な好奇、死に対する認識を幾重のクッションを敷いた上で教え、死に直面してもすぐにはパニクらないように調教した」ということらしい。

 まぁ、言い方はともかくその効果は覿面だったみたいだ。

 おかげでさっきまでちょっと放心気味だったのにもう回復している。

 ま、僕も年下が頑張ってるのに怖気付くわけには行かないね。

「OK!それだったら僕も戦闘続行せざるを得ないね。さっきまでと行動は同じ。ただ隙を若干減らすように!大技は相手が特殊状態になったときのみで、一撃死のブレス攻撃を確実に僕が防げるように立ち回る!いいね?」

「了解です!」

 まずは数瞬早くシリカに突っ込ませる。

 僕は片手槍しかも重量級のを使ってる都合上ステータスは筋力値寄りなだけならまだしもそれに盾も持っているからどうしてもシリカと比べると遅れをとってしまうのは仕方ない。

 見れば、既にシリカはボスの前、ディアベルのスイッチに合わせて元のパートナーの一撃と一緒に攻撃を仕掛ける。

 攻撃のタイミングはナイス、だけどやつの斧にライトエフェクトが見える。

 基本的にノックバックを起こすほどの攻撃をしなければMobのソードスキルを止めることは叶わない。

 結果として、奴はノックバックを起こさず、シリカとディアベルのパートナーを攻撃する体制がもう整っている

 だけど、僕も既にガードできる位置にいる、余裕だね。

 

  ガッキぃイイン!!

 

 僕のタワーシールドが奴のソードスキルを弾き、その隙を突いてディレイが終わったディアベルが再び跳び上がり片手直剣3連斬《ホリゾンタル・トライアングル》を奴の首に与える。

 そして、その隙を僕が単発の槍術スキル《ガード・ピアース》でダメージを数ドット程度だが与える。

 

 そして、四段目も削りきり、《軍》のプレイヤーも中々復帰して来て、最後の段のゲージに突入した時だった

(やめてよぉ……)

「!?」

 何だ、今の声……、まるでアニメとかで見る地獄からの呻きのような……

「ディアベル!今何か聞こえなかったか?」

「お前もか!あぁ「助けて……」っていうこの世のものとは言えないような声色で。」

 よくよく見れば、ディアベルのパートナーだった男もシリカも訳がわからないと言わんばかりに手が止まっている。

 それだけじゃない。

 ボスの周りにいた声が聞こえたと思わしき連中も攻撃の手を休めてしまった。

 その隙をあのボスが見逃すはずもなく、一番近くにいたプレイヤー二人に斧を振りかぶった。

「「ぎゃああああああああ!!」」

 軍のプレイヤーは断末魔の叫びをあげ、その姿をポリゴン片へと姿を変えた。

 幸い、と言っちゃいけないけど、シリカもそれで動きが止まっていたからもし、タゲが彼女に向いていたらまずかったな。

「シリカも聞こえたのか?」

「は、はい。よくは聞き取れなかったけど呻きみたいな、気持ち悪い感じの……」

 やっぱり、シリカにも聞こえていたのか……

 ボス戦ではいつも初めてのことばっかりだったけど、今回は死んだプレイヤーの声が聞こえるなんていう、攻撃の意思を阻害するには十分……、いや下手すれば相手側が徹底的な防御スキルを持っているよりめんどくさいことになるぞ。

 

 そんな時、戦意を喪失した《軍》の一人がよろよろと歩いてくる。

「……ゲイル?ゲイルなのか!?」

 馬鹿野郎が!満足に回復もしてねぇのに飛び出してきて……

 僕が動こうとした寸前横からフレッドが飛び出し、そのよろよろと出てきたプレイヤーを抱きかかえ離脱し、その一瞬後斧が、二人がさっきまでいた場所の地面を抉った。

「っぶねぇだろうが!!なんで戦意喪失してる奴が無防備に飛び出してきやがった?!」

「ゲイルが……、ゲイルの声が聞こえた……。さっき炎の中に巻き込まれて死んだと思ってたあいつの声が……」

 ……おいおい、幽霊かよ、この電世界で?いやいやありえないって。

「幽霊ねぇ~、デジタルなこの世界にそんな存在はねぇだろうとは思うが、事実そんな声が聞こえてるし、それが知り合いの声ってんなら、信憑性はあるな」

「おい、フレッド。馬鹿なこと言ってないで、早く戦線に復帰しよう。ここに居ると気味が悪い……、とっとと片付けよう」

「馬鹿なことのもんか。実際この話は有りうると言っていい。もちろん幽霊云々は別にして、あの炎に巻き込まれた人間はゲージが削られるのではなく、精神がどこかへ飛ばされる。俺はやめろという言葉が聞こえた。お前さんどんな声聞こえたよ?」

「僕の方も同じ感じだね。やめてよ……っていう恨めしそうな声で……」

 今思い出しただけでもゾッとするような……僕やディアベルでさえ一回攻撃を中断してしまうようなそんな感じの声色だった。

 そんなんかんけーねーとばかりにフレッドとカイは攻撃続行していたが……

「まぁ、んなこったろうな。とすると炎に巻き込まれたプレイヤーが、あの武器に取り込まれたという仮定が成り立つ」

 はぁあっ!!?武器に取り込まれた?また突拍子もない……てかとんでもないことを。

「なんで、そんなことが言えるのさ?」

「まず、最初の異変はポリゴンが割れる音もエフェクトもせずこの世界から消えたこと。その時点では、俺も炎の爆音やエフェクトにでも紛れたのかとでも思ったが、ここまで証拠が揃うと俺の仮定も信憑性を持つ」

「証拠ってのがさっきの声って言いたいわけな?」

「そういうこっちゃ、強いて言えば、この恨めしそうな声が聞こえんのはこっちの武器とあっちの武器が直接接触した場合に限られてる。こん事から上の仮定を実証とまではいかねぇが推察できはする。付け加えて、コイツの名前って《叫びの鍛冶師》だろ?得物に敵の魂を込めて仕上げる。こういうことなんだろう、おそらくは、な」

 今でももちろん戦闘は継続しているが、あの声が聞こえるのは確かに武器どうしが接触するタイミング、甲高い音と一緒に発生しているのは事実だ。

 相変わらずこの極限状態の中、良く推察するもんだよ、この男。

「じゃあ、フレッド的には助ける方法があると?」

「言ったろ?あくまで仮定よ。俺としてはこの仮定にはもう答えは出ないと思ってる。これ以上どんな証拠が出てこようがこの仮定を実証することはできやしねぇだろう。」

 

「旦那とコペル!そんな仮定披露してんならさっさと戦線復帰しろや!ただでさえ、最大勢力だった《軍》からは2人しか無事に戦ってる奴はいねぇんだぞ!?」

 カイの発言を受けて戦場を見ると正しくその通りで、俺達が話している間に随分な数がやられていた。

 もちろん、戦闘不能を通り越してこの世界から永久退場という意味で、だ。

「感覚が麻痺しているのはこっちもだったな、いつもこんな感じで駄弁っててもディアベルの指示とカイが一人暴れしてるからなんとかなってたが、ここのボスは精神的にもダメージを与えていくもんだから無意識的に全体の士気が下がってやがる……」

 フレッドの言うことは尤もだ。

 この知り合いのものと思わしき声が潜在的な意識を刺激して皆思うように攻撃ができていない。

 もう、声の主のプレイヤーは助からないと頭では分かっていても、心の底ではどうしてもセーブがかかってしまうのはやむ無しといったところだろう。

「だけど、残りはラスト一段。《軍》の手勢がいなくなっても、僕らを始めまだ《血盟騎士団》や《聖竜騎連合》といったトップギルドの面々は撤退する気はないプレイヤーもいる。自分らだけ撤退ってのはなしだよな?」

「当然♪さっきまでと同じでお前はシリカの俺はカイのサポートに回る。Ready?」

「「GO!」」

 さっきまで戦闘続行に反対してたキリトやアスナといったプレイヤーも退くよりも倒すべきと判断を下したようで攻撃を合わしてくれている。

 もしかしたら声の主を元のプレイヤーに戻す方法もあるかもしれないが、現状そっちに関しては戻れる方法があるかさえどうかわからない状況だ。

 故に僕らは戦闘を継続することにした。

 

カイside

 

 ったく、あの二人……、やっと戦線復帰か、どうせ倒すことには違ぇねぇんだ。

 しかし、困ったもんだ、この声のせいで全体の士気が下がって俺の負担が増えちまっている。

 まぁ、そのおかげって言い方はアレだが、俺の見せ場が増えるのは俺的に大歓迎だ。

 この俺の《両薙》は攻撃のタイミングをちゃんと掴めば一人ででもボスと張り合うことができる、俺的に初めての《ユニークスキル》持ちなんじゃねぇかと思ってる。

 そしてフレッドは知ってるが、この形状に準じて防御のソードスキルって言うもんがこのスキルには存在している。

「はぁああああ!!」

 それが、今俺があのボスの火炎放射を防ぐ為に奴に突進しながら発動している柄のちょうど半分あたりを軸に回転させる《サークラー・ロール》だ。

 ボスの炎を受けたソードスキルを発動して青いライトエフェクトを放つ俺の両刀薙刀《双・龍刃(ツガイ・リュウバ)》の刀身は、燃え上がるような灼熱の色へと変わっていく。

 そして、スキル終了間際にその灼熱刃であいつの体の真ん中を通るように首の付け根までを斬りつける。

 

 《サークラー・ロール》はそのままでも十分な攻撃力と連撃の性能を持っているが、こいつの性能をフルに使うには相手のブレス攻撃に合わせたカウンターがミソだ。

 このスキルは発動からスキル終了まで10秒継続し、その間に来たブレス攻撃の特殊能力を除いた本来の攻撃力を吸って、そのまま相手を斬りつける。

 ブレスのタイミングってのはこのゲームの中だと読むのが異様に楽だからな、ボス戦のブレス攻撃なんて正にカモ、一杯攻撃してその分自分傷つけやがれって話だぜ!

「さて、お遊びも終わりにしてやんよ!旦那、サポート頼むぜ!」

「全く俺に命令するなんていい度胸だな。じゃあ……てめえら!戦闘意欲があるものだけ聞け!俺が決定的な隙作ってやるからそこを攻撃しな!キバオウ君、それでいいな?」

「!?あ、あぁ……、こうなってしもたら、もうしゃあない。ひと思いにやってくれ!」

 まぁ、言いたいことは分かる。おおかたさっきから聞こえてくるやかましい声の主を助けてぇって思ってんだろうな。

 俺だって出来れば……とは思わなくもねぇが、―――人を助けることができるのは自分の命を助けられる奴だけだ―――ってのは旦那のセリフだ。

 俺もその意見には賛成だ。

 自分を助けられねぇような力のないやつは結局自分も、そして助けようとしてる奴も救えやしねぇだろうからな。

「行くぜ!ジェット・ライナー!!」

旦那の不意打ち兼ノックバックを起こす高性能突撃技が奴の4つの斧を退け、右の首元に直撃する。

隙の瞬間を俺は逃さねぇ、ぶっ潰す!

「決めてやんぜ!《閃光裂刃覇(センコウレッジンパ)》!! 」

 俺の他にも隙を見逃さなかった攻略組の中でもトッププレイヤーと言われるキリトやアスナ、ディアベルやヒースクリフ、シリカやコペルがそれぞれの持つ威力は高ぇがディレイがでけぇ攻撃を惜しみなく使い、そして滅茶苦茶な攻略組のプレイヤーを殺したデカブツはこの世界から消え去った。

 

 




25層ボス戦はとりあえず締めます。
シリカの活躍があんまり書けないよぉ~、折角最初からこの小説に導入しているというのに……
もうちょっと伸ばしても良かったんですけど、やっぱりあの話をさっさと書きたい気持ちが先行してしまって……すんません!
そん代わり50層ボスも書く予定ですが、こっちは気合入れて書きます。
ずいぶん先になる予定ですが……

そして、カイの使う両薙という武器は私が導入してみたかった原点とも言えるシロモノです。ぶっちゃけ、豪大剣の前はこの武器使う案もありました。おかげでてんこ盛り感が半端ないですがそんまま通しますw

そして、ZHE様のご意見に従いまして、段落をつけてみましたが、自分の書き方だとあんまり段落が意味をなしてないよな……、書き方を根本的に変えんとダメですね……

ちょっと、話それるんですけど、やっぱり大物の作者様から感想頂けると書く勢いが違いますね。
以前に心弓様からご感想いただいた時もやる気半端なかったですからね。

今回はこの辺で……ではでは!


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第十五話 ~消失~

相変わらずテンションの高い低いで執筆とネタの思いつきの速度が変わるALHAでごぜえます。

今回は遂にあの娘の関与する話になっていくのですが、残念ながら彼女が出てくるのは次話になります。

それと今回間話のようなものなんで実験的に書き方を変えてみました。
前の方がよろしいという方がいれば戻します。

では早速どぞ~


フレッドside

 

 あれから二ヶ月経った。

 

 ボス戦での軍の壊滅的被害のあと、29層までフロアボス戦があったが、最大勢力であった軍の指針は組織強化となってしまった為、ボス戦には一度も出てきていない。そのおかげで26層攻略には今まで一週間というペースで攻略できていたが、2週間要してしまった。

 その後は26層攻略で慣れたのか、ウチ、聖竜騎連合、血盟騎士団に幾人かのソロプレイヤーと27層から飛び入りで参加した風林火山つーギルドが攻略組に加わり最近の戦況は再び安定化している。

 

 そして、俺らのパーティーも順調に強化されつつある。

 今日の食材班担当はカイなんで、近くにいない。あいつが食材班の時は決まって不機嫌になったり、拗ねたりするのはもうお約束なんで強くは言っていないがもうちょい美味いもん獲ってきてくれって話だ。

 ちなみにこの前獲ってきたメインディッシュが《ヴェルシャ猫の肉》、正直食う前に知りたくはなかった。これは、食べる時にレオンが下で怯えてたからこの肉何使ってんだよと聞いて発覚してしまった俺の所為なんだが……。この肉をドロップする《ヴェルシャ・キャット》ってMobはカイ達が行ったフィールドの中で最も強いと言えるやつだったからあの展開は見越しとくべきだったな。

 まぁ、だからこそ、今日奴らに行かせたのは食材が大量に報酬として設定されてる狩猟系(・・・)のクエストだ。これならカイも進んでやるだろうし、報酬の味は確認済み、今日は美味いメシ食えんだろう。

 

 で、ここは28層フィールド、今日の任務はリズ兼シリカの依頼だ。

 最近の噂だと、この28層には現状最も軽いと言われている金属《ダブライト・インゴット》が取れる洞窟がある。本来なら、一人だけ俺ら攻略班から人員割いて後は食材班のグループで当たる仕事なんだが、何分最前線から2層下の、更に割と難易度が高いダンジョンで正直攻略班一人で非常時、リズを守りきれるかという話になった時、俺ならまだしも、カイは暴れて護衛任務忘れそうだし、コペルは前科があるから却下、シリカだけだと頼りないっつか、興奮する馬鹿どもを抑える役がいない……、とゆーコトで俺ら攻略班が動くことにした。

 更に言えばこの金属は現状最も軽い金属と言われてると共に最も高性能のダガーを作れると噂される為、シリカからも行って欲しいと前々から頼まれていたんでついでに連れてきた。

 

 で、俺がそんなことを思ってると、女子二人組が俺にわざわざ聞こえるようにして、言ってきやがった。

「全く、頼んでから二週間も経ってるんですよ?リズさんが言ってくれなかったら今日も多分行ってくれなかったトコロですよ!」

「ほほぅ、フレッド。それはどういう訳かじっくり聴かせていただきたいところですなぁ~」

 ……理解した。女子は怒らせるもんじゃねぇ……、俺の被害が加速度的に増す。だけど、攻撃されたままじゃ俺の気が収まらねぇな。こっちもちょっと反撃させてもらうべく、俺はリズの方を向いて言ってやった。

「どういうことかって?そりゃあ、俺がリズを優遇してるってことさ、好きなんだぜ、お前のこと……」

「えっ!?はっ、ちょっ!」

 

 ヤッタネ、俺の策大成功。シリカはまだしもコペルまでポカーンとしてるってことは流石に俺がこんなこと言うとは思ってなかったんろうな。付き合いが長いコペルやシリカですらこうなんだ。今のリズの顔は茹で蛸さながらに真っ赤に染まってる。感情表現豊かなSAOだから蒸気ぐらい出てても良かったんじゃないかな?

 まぁそろそろネタばらしと行こうか。

「そりゃあ、そうだろう?今俺が持ってるこの剣《アルティマハイト》を鍛えてくれたのはお前なんだしさ。感謝したり優遇するのは当然だろう、……なぁんてな」

 流石に最後のフレーズを聞いたときここに居る全員状況を理解したらしく、リズはまたも顔を赤くしている。これはきっとあれだ。戸惑いの赤から羞恥と怒りの赤に変わったんだな。

 その後、女子二人にさんざそうやって女子をからかうのはよくないです的なことを言われまくったが、そんなんはリアルで何回も言われてるよ。……そういや、あいつらの病状どうなってんのかな?俺がここを出るまでは死んで欲しくないな。

 

28層東 洞窟内

 

「さて、採掘作業の開始だ。俺は索敵でこのあたりに注意を払ってるからさっさと掘ってとっとと撤収な!」

「了解」「「……」」

 俺の言葉に答えたのはコペルだけでシリカとリズはそっぽを向いて二人して同じ所を掘り始めた。……おいおい、女子二人組まだ怒ってんのかよ?

 そんな時、コペルが横からちょいちょいと突っついてきた。

「早く謝っとけよ、フレッド。こういうギスギスの中に強制的に居させられる僕の身にもなってくれよ……」

「……最初にあっちが詰ってきたから俺が反撃に出ただけだろ?俺は悪くない……って言いてぇけど確かにあの二人に篭城戦使わせたら勝てる気しねぇな……。分かったよ、後で頃合見て謝っとくよ」

 そういった俺にコペルがやれやれといった感じで反論してくる。

「今!謝っとけ。あんた、そんなこと言ってどうせ今日寝たらいつも忘れてる口だろうが!」

「俺は今日寝ねぇぜ?」

「言葉のあや……ってフレッド知ってて言ってんだろ!どうせ有耶無耶にしようと思ってんだろう?そういうのは女子には通じないぞ」

 割と力説してんなぁ~、コペルのやつ……。リアルで似たシチュに遭った経験でもあんのか?

 まぁ頼れる副官の力の入ったアドバイスもあったことだし、そろそろ本気で謝りに行くか……

 

リズside

 

 まずい、完全にドッキリって言うタイミング見失った……

 いや、あのセリフ言われた時怒ってたのは事実だし、言い方に問題がある気がしないでもないけど女心を弄ばれたのもこれまた事実。

 勿論、だからと言ってそんなことをずっと引きずりはしないけど、シリカに協力してもらってドッキリを企画した自分としてはすぐに折れてくれると思ったんだけど、予想以上に硬かった……

 

(ちょっと!リズさんいつ言うつもりなんですか!?ドッキリって!)ヒソヒソ

(ごめん、シリカ。完全に言うタイミング失った。フレッドの奴が予想以上に粘るもんだからあたしもムキになって、いつの間にか……)ヒソヒソ

「えぇ!?」

「ちょっと、シリカ!声大きいって!」

 

「なんだなんだ!大声出して。ダブライト見つかったのか?」

 しまった、あたしも大声出しちゃった。

 さすがに聞きつけたフレッドがあたし達のところに寄ってきた。

「い、いえ。まだ……」(せっかく寄ってきたんだから、この機会生かしてドッキリでした!って早く言っちゃってくださいよ!)

「そう、ちょっとそれに似たのがあっただけよ」(このタイミングで言ったってアイツに、え?何が?って顔されるだけよ。流石にそれは嫌!)

「そうか」

 

 一応バレなかったみたいだけど、本当にいつ言おうって思ってると、フレッドが何かに気づいたようにあたし達のいる部屋に繋がる唯一の通路を見、そこに向かって舌打ちをして言い捨てた。

「ちっ!空気読まねぇ奴らだ。シリカ、リズ戦闘準備!お前らの大声がMob共引き寄せちまったみてぇだな……。コペル、おめぇも戦闘準備だ。速攻でぶっ潰して採掘再開と行くぜ!」

「OK!もう整ってるよ」

 あたしとシリカも採掘用の装備から戦闘用の装備に切り替える。

「さて、とっとと終わらせるぜ?相手の数はおよそ見えるだけで15、レベル52の俺が見るカーソルの色はほぼ白の若干赤、油断せずに俺とリズ、コペルとシリカで組んで一気に片付ける、いいな!」

 全員無言でうなずく。っていってもフレッドのレベルはあたしと比べて15の差があるから大してそのカーソルの色の意味はないんじゃ……って思ってるとフレッドが話しかけてきた。

「リズ、さっきはすまねぇな。俺もデリカシーってもんがなかったよ。別にすぐに許してくれとは言わねぇけど、この戦闘中は俺の指示に従って動いてくれ」

「えっ、あ、……も、もういいわよ。少しからかうぐらいのつもりでいたから……。でも許す条件としていつもどおり完璧な指示をしてよね!」

「ふ、それくらいお安い御用だ!完璧すぎて後で感動のあまり涙を流さないように気をつけたまえよ」

 ずいぶん素直に謝ってきたもんだから、あたしもドッキリでしたって軽く言うことできなかった……。その後のフレッドのセリフでそれを言わなかったのを後悔したわ……

 それでも、フレッドの指示はいつも的確、適切っていうのはあたし達生産班の中でも有名中の有名だ。同じギルドだからっていうのもあるけど、アスナを始め攻略組の武器の面倒を見ていると、その噂は後を絶たない。裏付けるように、このゲームが始まってからの初期対応は相当に良かったと3ヶ月ほど前に来たβテスター嫌いの《軍》のお客が言っていた。

 だからこそ、それに従わない理由はどこにもない。それが本当の喧嘩中でも間違いなく従ってたと思うのに、律儀に謝ってくると、どうも調子が狂っちゃうわね。

 

 フレッドが言っていたモンスターを見て、あたし(と確実にシリカも)はシリカの依頼を断り続けた理由を悟った。

 ここは、言ってしまえば迷宮区への道には直接関与しない場所だったため、シリカも多分ここにPOPするモンスターを知らなかったんだろうな……、だって、当の本人が

「え……と、フレッドさん目の前に見えてるのって……」

と聞いているくらいだもんね。

「うむ、見たまんまだ。ナメクジだ、もっと詳しく言えば動物界軟体動物門腹足綱有肺……」

「そこまで聞いてませんよ!あんなん出るんだったら最初に言っといてくださいよ!あたしがアレ系苦手って知ってるでしょ!」

「あれ、そうだったっけ?」

 あの顔はまず間違いなく知っている。というより、シリカがあの手のヌルヌル系が苦手になった直接的原因はフレッドにある。

 このゲームが始まって一ヶ月とちよっとした時に一日フレッドとシリカが帰ってこなかった日がある。で、一日して帰ってきた時、異様にやつれたシリカを見かけたので、何があったか聞くと、「フレッドさんに橋の下に落とされて、底でヌルヌルに殺されかけました」ということらしい。まぁフレッドのことだからいつでも助けられる用意はあったんだと思うけど流石にひどくない?と抗議しに行った結果、「俺を怒らせたシリカが悪い」と一蹴された。

 詳しくはどっちも話さなかったけど、罰の一環だったらしい。だけど、それ以来シリカはヌルヌル系のモンスターがトラウマになってるらしい。

 

「そんなに嫌なら、目でも閉じて戦ってな。コペルが十分すぎるサポートしてくれるだろうさ。さて行くぞ、リズ!」

「あ、う、うん。でもあれいいの?」

「なぁ~に、リアルピンチになったら助けてやんさ。それにあいつだって攻略組の一角担ってんだ。心配するこっちゃねぇよ、それより、リズ。コイツにとどめ!」

 いつの間にかノックバックを起こしていたナメクジに向かってあたしは両手鎚系単発振り下ろしスキル《クレーター》を当て、倒す。そして、倒したと思ったら、次々と、でも的確な間を空けてフレッドがナメクジを送り込んでくる。

 毎度思うことながら、絶妙なゲージの残し具合でもある。あたしがギリギリゲージを削り切れる程度残し、あとはあたしに託すからあたしは的確にナメクジにソードスキルを当てれば、それだけで倒せてしまう上に経験値もこの方法での最大値が手に入る。

 

 あたし達の所に来た10体をあらかた片付けた後、あっちの方もなんとか終わったらしく、シリカが超速ダッシュでフレッドに文句を言っていた。

「ひどいですよ!フレッドさん!あたしにあんなの押し付けて……それに絶対知ってたでしょ、あたしがあぁいう系苦手だったって!」

「まぁ、確かに知ってるさ。だけど、別に知らなきゃ絶望的状況を引き寄せる類の情報でもなかったろうが。俺の許可なしにはお前らギルドホームから出れねぇわけだし。ついでにおめぇが食材班の時はそこに行かないようにあらかじめ決めといたしな」

「うぐっ、それはそうですけど……」

 あたし達のギルドがホームを買ったのは最前線が23層の時だ。

 このホームは特殊設定ができるらしく、戦闘班は勝手にホームの外に出ることができない様、フレッドが仕組んだらしい。あたしみたいな生産班は出稼ぎに出ることが多いからこの設定は適応されてない。

 となると、シリカのさっきの文句は却下されるかな。もしくは言い返せないで唸るか。

 この後はグダグダした挙句、彼女も黙るしかなくなってしまい、頭をガシガシと撫でられていた。

 でも、このおかげでシリカもさっきの喧嘩のふりを気兼ねすることなく話せるようになったんだから、ある種のもうけになったことだろう。

 

 その後は、モンスターがPOPすることもなく、無事目標数の《ダブライト・インゴット》を入手し、採掘場を後にした。

 

 帰路についたあたし達が雑談をしながら歩いているとコペルが唐突にフレッドに話しかけていた。

「ねぇ、フレッド?あそこの壁、なんかおかしくない?」

 コペルが指を刺したその先には確かに他の壁と比べて妙にキラキラした壁が存在していた。

「多分、宝部屋の類だろうな。しかし、困ったことにこのパーティーだと《罠解除》のスキルを持ってる奴がひとりもいない」

 そういえばそうね。あたしが動く時は基本そういうのに特化した食材班と一緒に行動するから自分は入れていないし、攻略組の中でそれを上げていたのは確かカイだったはずだから、ここに居るメンバーだとあの宝部屋と思わしき場所の探索は諦めるべきでしょうね……

「じゃあ、諦めます?」

「いや、おめえら、ここで待機してな。宝を前にして罠を恐れて手を出さねぇのは男の恥だ。だけど、確かに罠の存在も疑うべきだ。俺なら現状知られている限りの罠だったら一人ででも切り抜けられる。だから、俺が調べてくる」

「だけど、現状知られてない罠が出てきたらどうするつもりさ?」

 コペルの意見は尤もだけどここで止まるようなフレッドじゃないだろうな……

「それでも、俺だったら確実に切り抜ける。最悪レオンがいるから基本は何にでも対応できるさ!なぁレオン?」

「Gau!」

 レオンがフレッドに鼻を撫でられて嬉しそうにしながら呼びかけに応える。確かに、あの子の能力は危険回避に特化した能力だけど、成功率に若干の不安がある、とこれはカイの話。

 それを伝えてもフレッドが言うことは「大丈夫だって、それにこういう時こそスリルが味わえるじゃねぇか」だ。

 ……これは決定した、もう止めようがないってことが。

 あたし達のギルド間ではフレッドが「スリル」と言い出したら、絶対に止まらないという事は、指示が的確・適切と同じくらいの常識として知られている。

 それをあたし以外の二人も認識しているので各々がため息をついていた。

「コペル、2分して俺が出てこなかったら結晶(クリスタル)で抜けてくれ。万一という可能性もあるにはあるしな。俺の心配はしなくていい。必ず帰るからな」

「はいよ、今更フレッドを心配するようなことはないって。あんただったらゲージがゼロになっても復活してきそうな気がするよ」

 

 そう言って、フレッドはそのキラキラした壁の方へ走りだし、調べ始める。結果として、あいつ自身が思ったとおり宝部屋の類だったらしく、扉を開け入っていく。

 ここに来て心配になったらしいシリカがコペルに提案する。

「あの、今からでも一応フレッドさんに付いて行ったほうが……」

「いや、ここは指示に従った方が適切だよ。分かってるだろ?あいつの性格……思い通りにしておかないといつ機嫌損ねるかわかったもんじゃないってことをさ」

「確かにね。あの人が機嫌損ねると、1週間近く攻略にすら顔を出さなくなるしね……」

 あたしが言ったこれは事実、一回15層辺りの攻略時にカイとマジな口喧嘩をした挙句、自分の部屋に一週間引きこもってた時代があった。

 それをやられると、ギルド全体のギスギス感が半端なくなるので、できればそれは回避したい。

「でも、こうやって話してる間に既に二分経ってるんですよ?扉開けて確認したほうが……」

 ……よくよく考えれば、あたし達がフレッドを見失って既に二分は経過したと思う。

 あたしと同じことを思ったらしいコペルが確認のために、扉のほうに駆け出すとそれにシリカと一緒につられる。

「おい、フレッド。二分は経ったぞ。悪ふざけなら……えっ」

「い、いない!なんで!?」

 レオンの能力を使って隠れてることはないだろう。あれは同じギルドのメンバーにはカーソルだけは表示されるようになってるからだ。

 この部屋の形状からしても、どこかへ隠れられるはずがないし、それこそ特徴といえば部屋の真ん中にぽつんとあるトレジャーボックスくらいだ。

「ま、まさか……、そんな……」

「いや、ありえないわよ。フレッド、さっきの仕返しって言ってもこれは笑えないわよ!早く出てきなさいよ!」

 だけど、その声は部屋の壁に反射するばかり……、まさか本当に……?

「落ち着け!フレッドに言われたことをとりあえずは実践だ。まずは結晶でこのダンジョンを離脱、その後《黒鉄宮》で生存を確認するんだ。あいつが簡単に死ぬわけはないだろうしな……」

 コペルの言葉で正常な判断力を取り戻したあたしとシリカはポーチに入れておいた結晶を取り出し、そのままはじまりの街に転移した。

 




久しぶりにリズside書いてみたら言葉使いが女の子っぽくならないという……

そして、8話だか9話にあったシリカへの罰がまさにこれです。
こういうところだけ原作ってかアニメを再現せんでもと思ったのですが、フレッド怒らせてトラウマ植えつけられる程の恐怖……正直これくらいしか思いつきませんでしたw

次回、ついにやりたかったことNo.2話ですよ!
正直、次の話の内容書きたいが為にこの小説書きだしたといっても過言では……ゲフンゲフン
フレッドのスキル構成とか次話を元に作ってたりしてますからねw

さて、では今回はこの辺で……

引き続き、ご感想・ご意見等はビシバシ言っていただけると助かります。

ではでは!


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第十六話 ~落ちた場所で会うは黒猫団~

いや~、冬季休学様々ですなぁ~

でなかったらここまで書くのに1ヶ月は遅れていたでしょう。

さて、やっとこの話ですよ、正確には次に書く話を含めてですが、この話書き始められたのもこれを読んでくださる方々のおかげです。感謝感激です!!

では、第十六話どぞ~!


キリトside

 

 その日、ケイタは、遂に目標額に達したギルド資金の全額を持って、ギルドハウス向けの小さな一軒家を売りに出していた不動産仲介プレイヤーの元に出かけた。それを転移門の前で見送った後、メイサーのテツオが言った。

 

「なぁ、ケイタが家を買いに行ってる間にさ、少し稼ごうよ」

「あっ、家具を買うの?」

「じゃあ、ちょっと上の迷宮に行くか」

 稼ぎに行くのはいいけど、上の迷宮に行く?嫌な予感がした。だからこそそれより下のいつものフロアに行くように誘導したかった。だけど俺の提案は―――

 

「上なら短時間で稼げるよ」「オレ達のレベルなら安全だって」

 

―――ササマルとダッカーの二人の反論に流されてしまった。

 こうなったら、いつもどおり俺が彼らを守る。そう、いつもどおりに……

 

第27層迷宮区

 

 迷宮区では俺のレベルはもちろんのこと、俺が今いるギルド《月夜の黒猫団》も十分なレベルを持っていたため順調な狩りが続き、一時間ほどで目標額を稼ぎ上げ、帰路に着いていた。

 

「言ったろぉ、オレ達なら余裕だって!」

「もう少しで最前線へ行けるかもな」

「あったぼうよぉ!……、おっ!」

 

 俺達の目の前の壁に不思議な紋様が浮かび上がっていた。ダッカーがそれに触れると紋様は壁を構成するタイル一面に拡がり、音を立てて凹み、先程まで見えていなかった扉が新しく出現した。

 

「(隠し扉?こんなところに?)」

 

 俺が疑問に思っている間にも、扉はダッカー達の手によって開かれ、そして中にあったものは……

 

「ぉお、……トレジャーボックスだ!」

 

 おかしい!隠し通路とかならいざ知らず、宝箱(トレジャー・ボックス)だと?ここは迷宮区、俺も彼らに気付かれないようにマッピングやレベリング目的で何度か訪れているし、それは他の攻略組も同じだ。こんな場所にあったんなら、一人や二人気付かないはずはない……、これは開けるべきじゃない!

 しかし、宝箱を見つけたダッカーやササマル、テツオのテンションは高く3人して宝箱に一直線に向かっていった。

 

「ま、待て!」

「なんだよ、キリト。さっさと開けちまおうぜ?」

「その宝箱、開けるべきじゃないと思う。嫌な予感がする」

 俺なりに考えたが、咄嗟にはこれ以上の言葉は出なかった。勿論、俺が本当は攻略組でここの層を何回も来ているし、この層からトラップの難易度が一段階上がるからと言うこともできた、いや今からでも遅くはない。

 

 でもこれを言うということは、今まで本当のレベルを隠し欺いてきたことを公表する、つまり彼らとの決別を意味する。

 このギルドに入ったのは25層攻略後間もなくのことだ。あの一歩間違えれば全員死亡の危機があった戦いの後、俺は武器の素材を取りに下層に降りてレベルアップの助けにならないMobを狩って、必要素材を集め終わり、いざ帰ろうとしていた時、彼らに出会った。

 俺は見たところ非常にバランスの悪いこのパーティーを見過ごすことはできず応援に入り、彼らの手助けをした。

 その後、お礼をしたいとのリーダー・ケイタの言葉に甘んじて、俺は宴に呼ばれた。その席でレベルを聞かれた際、俺は下層荒らしと思われたくない故に自分のレベルを20も下と言ってしまった。そしてその流れで同じレベルならギルドに入ってくれないかと言われた。

 ここで断ることももちろん出来た。でも、それをしなかったのはこのアットホームな空気に惹かれていたからだ。殺伐としたこのデスゲームの中、その雰囲気は俺にとってとても心地良く、そして眩しいものだった。

 

 だからこそ、今のこの空気にまだ浸っていたいし、いざという時には俺が助けに入れば何の問題もないから俺はそれ以上強く言えなかった。

 

「大丈夫だって、臆病だなぁ、キリトは」

 俺の薄っぺらい言葉をササマルが一蹴し、ダッカーが宝箱を開けた途端、周囲の空気が変わった。アラームが鳴り響き、入ってきた扉は閉じられ、杖を持つ小人型とゴーレム型のMobが大量にPOPしてくる。

 

「トラップだ!皆脱出するんだ!」

 俺は叫んだ。

 これはアラームトラップ、今までにあったトラップの中でも最悪と言われている、攻略している層の安全マージンが取れていてもこれにハマったら生き残れないと言われるものだ。

 このトラップに初めてあったのは血盟騎士団のチームだった。その時は結晶アイテムもなく、絶望的と思われたが自分の指揮で安全を取りつつパーティー全員でMobを粗方片付け難を逃れたとアスナが言っていたのを覚えている。これはおそらくたまたま行っていた最前線より遥か下層というのも幸いしたのだろう。

 でも、この状況は違う。

 攻略組でもない彼らが安全マージンを十分に取っているとはいえ、相手の数は無数といっていい、マージンなんてあってないようなものだ。

 瞬時にそれを理解した俺はこのフロアから離脱することを勧めた、のだが……

 

「転移!タフト!!……?転移!タフト!!」

「クリスタルが、使えない……」

「クリスタル無効化エリアか」

 

 最悪だ……、まさかこんな組み合わせが存在するなんて。

 俺が……、俺がちゃんとこの層の危険性を注意していれば……俺のレベルを公表していれば、彼らを納得させられたはずなのに!

 ……後悔してる場合じゃない、彼らを守る、この層に来た時から……いや、このギルドに入った時から決めてたことだ。

 だけど、数が多い。俺が出てくるモンスターを彼らに近付けないようにしても、全方位から向かって来る敵を俺一人でどうにか出来る訳もなく……

 

「うわっ!」

「ダッカー!!……クッ!」

 ダッカーが後ろから殴られたらしく、前に倒れこむ。

 俺は彼を助けに行こうとするも無数のモンスターが邪魔をし、フォローをしに行くことができない……

 そんな間にもダッカーの周りに小人型のMobが集まりだし倒れた彼を攻撃しようとしている。

「ダッカー!!」

 俺が手を伸ばすもそれはゴーレム型の奴に邪魔をされ、思うように進めない!くそっ、このままじゃ……

 

 だが、その杖が振り下ろされる直前、上から何かが降ってきて途轍もない爆音と共に俺の視界を白煙が支配する。その直後、ポリゴンの割れる音がし、ダッカーがやられたのかと思い目を凝らすと俺の予想を嬉しい意味で裏切ってくれた。

 人影がひとつ見える。勿論、シルエットだけだが、あの影はモンスターのものではない、故にダッカーがそのイレギュラーな事態に即座に反応して、周りのモンスターを蹴散らしたと思ったのだが……違った。

 よく見れば、ダッカーは俺がはっきりと最後に見た姿勢のまま倒れている。じゃあ、あの人影は?と思って視線を上に上げると攻略組きっての異端にして実力はその中でもトップクラス……フレッドの姿があった。

 

フレッドside

 

「いや~、まさか宝箱を開けたら部屋全体の床がぱっくり割れるなんてねぇ……、正直予想外だったわ」

 という訳で10秒くらい前の俺は絶賛落下中だったという次第だ。

 

 ホントだったら空中にちゃぶ台広げて一服するというギャグ漫画でしか見られない光景を実践したいところだが、今俺がいるアインクラッドという鉄の城は一層辺り100m、俺が28層の底面から27層の底面に落ちるまでの時間は概算√20.4=4.5秒なんてことをコンマ1秒程度で考え終わるとすぐに行動に移した。

「レオン。《コール・ネイチャー》」

 コール・ネイチャー―――命名=俺―――は12層の時にカイやシリカを逃がす時にコイツが発動した《自然操作》のことだ。いかんせん成功率が低いがまぁここはコイツに任せてみよう。

 限界まで壁際に寄り、足を付け摩擦……というより俺の体術技である《煌脚》とimmortal objectと表示される紫の障壁の反発を利用し上に跳ぶ。両手剣を背負ってる為に《跳躍》は使えないが、この方法だったらそれを使わずとも、割と高めに跳べ、尚且つ今までに上がった落下スピードはキャンセルされ、またゼロからのリスタートとなる。

 そして、その間に冷静さを取り戻したレオンが吠える。と、同時に壁の一部が盛り上がり木の幹が生えてくる。

 俺はその幹に掴まり、27層底面への落下を免れた。

 

 で、現在に至る。

「いや~、助かったぜ。レオン。たまには成功するじゃないか!」

「GaAU♪」

 俺がレオンを褒めその鼻を撫でてやると嬉しいという感情表現を俺に見せてくれる。やっぱり、コイツは可愛いなぁ~。どっかの両薙使いの誰かさんとは大違いだぜ。

 

カイside

 

「はぁっくしょん!!」

「隊長、風邪っすか?」

「んなわけねぇだろ!この電脳世界で?ありえねぇって……」

 どうせどっかのリーダー様が噂してんだろ……、しかも俺が感じるこの空気は確実に悪い方の噂だ、後で締める!

 っと、集中しねぇとな。取り巻き終わったから次がクエボス、一応気を引き締めねぇとな。

「さて、てめぇら!次がボス戦だ。基本的にてめぇらは武器や盾でガードしつつ、隙を狙って攻撃。タゲは俺が取り続けてやんから、派手にぶっ放しな!」

「「「「「応!!」」」」」

 

フレッドside

 

「しかし、これからどうしたものか……。結晶使えねぇみてぇだし」

 俺は掴んだ幹によじ登り、今は幹の上であぐらをかいてる状況だ。

 さっき使ってみたが、ここは結晶無効化エリアに指定されているらしく、転移することができなかった。

 下が閉じ込め空間の可能性もあることを考えるとやっぱ上に登るしかねぇか、壁ジャンプ連続実行で。だいたい落ちた距離が落ちた時間から逆算して上から60m程度だろう。と、なると60mをジャンプで、しかも空中ジャンプができない訳だからフロアの壁と壁を蹴り続けていかねぇといけないわけか。マジ、めんでぇ……

 まぁ、レオンに頼んで階段みたいに樹木生やしてってくれたらいいんだが、成功率の低さもあるから時間めっちゃ苦茶にかかるだろう

 でもさっさと登っていかないと、あいつら騒ぎ立てるだろうしなぁ……

 

 そんな時、周囲の空気が一瞬にして変わった。アラームがけたましく鳴り響き、下から声が聞こえてきた。

「―――い―――――フト―――!」

 下に誰か居んのか……、よくよく見りゃ確かにひい、ふう、みい、と5人のパーティーか……って事は、つまり下には外へ通ずる道がある訳だな、ラッキー!

 ……って言ってる場合じゃあねえな。コイツはアラームトラップ……この層でのこのトラップとなると攻略組……俺やヒースクリフさん、ディアベル辺りだったら全然余裕で対処できるだろうが、それ以外だとかなり危険だな……

 チッ、仕方ねぇ。下に道があると教えてくれた礼に助けてやんか!

「行くぜ!レオン、しっかり肩に掴まってな!」

「!?Gauuuu……」

 レオンの表情を見るに全然予想外って感じだったと思うが関係ないな。

 

 背に負ってる両手剣=アルティマハイトをストレージにしまい、《跳躍》で出せる瞬発を生かし、目標まで一直線に跳ぶ。

 目標、黒い……黒い?奴の前方5m付近。黒って言うと彼を思い出すけど、彼がギルドに入ったり作ったりとは到底思えないから違うだろう。

 って、やべ!目標地点に黄色いマント着た奴乱入!幸い寝っ転がってんな……そのまんまの姿勢維持してくれよ!

 俺は床の方向に頭という姿勢から足を無理に床方向へ持っていき、ちょうど又の間にマント男が来るように調整して着地した。その時、マントの周りにいたMob共二匹程度を潰しポリゴン片に変えてやったが、更に二匹俺を襲おうとしやがったのでそいつらも二連撃回転蹴り《デュアル・スマッシュ》でポリゴンに変えてやる。

 うしっ、マント男にはぶつかってないな、今の俺の行動は100点と言って過言じゃないだろう。

 って、あれ?さっきの黒いやつ、真面目にキリト君じゃないか。なんで、こんなところに?しかも彼に表示されるアイコン見るに攻略組でもないギルドに入ってるし……

 

「フレッド……、どうしてここに?」

「挨拶は後回しにしよう、フッ!今は生き残りたいだろう、ハッ!」

 迫ってくるモンスターを軽くあしらいながら、俺はキリト君に提案し、それにほかのメンバーも合わせて頷く。まぁ、誰だって生き残りたいだろう。気持ちは分かる。

「じゃあ、今から言う通りにしな!セイッ!質問は受け付けねぇ!今からキリト君、君にレオンを渡すから他の奴は彼に掴まりな!全員掴んだら、合図しな!てぇやっ!」

 どうでもいいけど、会話しながら戦闘って結構疲れるのな、意気込みしながらじゃないと戦闘が続かねぇな……

 俺は肩のレオンを促してキリト君の方へ駆け出すようにし、その間、俺はモンスターが彼らに注意を向けないようにする。

 

阿呍(あん)!!』

 

 《威嚇》……パーティーに危険があった時を見越して入れておいたスキルだが、最初の本気(マジ)使用が他のギルドのために使うことになるとは……

 俺の発した声に釣られ、この部屋にいたMobが全員俺をタゲしたようだ。

 タゲされた俺は向かってくる奴らの攻撃を躱しまくる。言っちまえばこれは《同士討ち》の派生だ、既知のモンスターなら俺に死角はねぇ、まだ一層のネペント共の方が躱しにくかったぜ。まだ、《跳躍》も入れてなかった頃だしな。

 

「フレッド、全員俺に触ってる、次にどうすんだ!!」

キリト君から合図がある、それによって再び何体かがキリト君達をタゲる。

「後は何も喋るな!レオン!《隠蔽最大(ハイディング・マックス)》!!」

「GAO!!」

 再びレオンの咆哮が響く、その瞬間彼らの姿は透けていき数秒後には完全に見えなくなった。

 

 これにより、彼らをタゲしていたゴブリンみたいな奴共はターゲットを見失い、俺を再びタゲする。だが、ゴーレムみてぇな野郎は視界情報がほとんどない奴らしく、顔をこちらに向けないのと向ける奴で半々といったところだ。

 俺はそいつの元に真っ先に向かいソードスキルの《煌脚》でポリゴン片に変えてやる。若干邪魔してきた奴がいたが、《跳躍》を持つ俺としてはほとんど意味がねぇ。全く無駄なことを……

 しかし、この数相手だと時間がかかっちまうなぁ、いくらなんでも。先にやかましく鳴り響いてる宝箱を壊しちまうかと思い、そちらに向かう。だが、辿りついた俺の目にキラッと光るものが映った瞬間、俺は発動中のソードスキルの標的を宝箱の近くにいたゴブリンに変え、潰した。

 何かあるな……、しかもアラームを上に被せてるあたりなかなかのレアアイテムと見た。じゃあ取って帰るべきでしょ!

 となると、しょうがねぇ。アレ使うか……

 

「Mob共!俺の超絶技術(テク)を受けて死ねること!ありがたく思いな!!ハッ!!」

 俺はその場でジャンプを行い、後ろから迫っていたゴーレムの攻撃を躱す。そして、俺の両足が青のライトエフェクトを(まと)い《踏覇》を2回(・・)そのゴーレムに放つ。だが、そのゴーレムをポリゴン片へと変えても俺の攻撃はそれだけでは終わらず、ゴーレムを2回目に蹴った足を《跳躍》の初動と同期させて再びジャンプ、そして近くにいた雑魚を文字通り潰す。あとはそれの連続だ。

 若干敵の動きに気を付ける必要があるが《同士討ち》を得意とする俺にはこの程度、赤子の手を捻るより楽なことだ。

 

「これが、《跳躍》+《体術》の合わせ技……《無限跳躍》さ!!」

 

 

 




一話で終わんなかったなぁ~、と思いつつもここまで来ればいつも通りのフレッド無双ですww

レオンの能力戦闘向けにしようかなぁ~と思いつつ、この話の為にフレッドには全く使う意思がない危機回避系統の能力にしたっていうのはウラ話です。

ご感想・ご意見等は引き続きビシバシとお願いいたします。

今回はこの辺で……ではでは!


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第十七話 ~別れ~

さて、原作「赤鼻のトナカイ」はこれで一回区切ります。

そして、業務連絡をば……被お気に入り件数200件突破しました!!ヤッタネ!
これを読んでくださる方々にはもう感謝感激すぎて言葉が見当たりません!語彙の低さ故ですかね……

そしてもう一つ、これを機に私の処女作であるデジモンアドベンチャーの二次創作をこちらのサイトに完全移転いたしましてブログの方は閉鎖しようと思います。
できれば、そちらの方も読んでいただけたらと思います。

では、最新話どぞ~!


フレッドside

 

 無限跳躍……跳躍スキルが500、体術スキルが521の時に剣技リストに出現した複合技である。モンスターを上から踏みつけることが初動モーションとなる技で簡単に言うとジャンプし続ける&地上に着かない限りは連続でソードスキル並みの威力の踏みつけができるというチートじみた技だ。

 このソードスキルの特徴は規定された動きが存在せず、自在に跳び回り着地と離陸の時のみライトエフェクトを纏った踏みつけを喰らわす為、相手に読まれにくく、敵の攻撃を受けにくい。

 ただし、一回でも地上に着いてしまうと、ディレイが5秒、クーリングタイム10分という重い枷があり、尚且つ周囲の状況を完全に把握する必要が出てくるので使い勝手は一般的には悪いだろう。

 だが、3次元的に場を支配する―――それはすなわち《同士討ち》の原理と同じであるこの技はむしろ俺にとって最高の使い勝手の良さを誇る。

 つまり、状況把握を元に、相手の頭に着地離陸をひたすらに繰り返せばそれだけで敵が何千の軍隊であろうが、無傷且つ一人ででも殲滅できてしまうわけなのだから。

 

「ハハッ、てめえら如きじゃ俺にはカスリ傷一つさえ付けることは叶わねぇよ、雑魚ども!」

 俺もカイのことをよく戦闘マニアとか呼んでいるが、これを使ってみると戦闘が面白くて仕方ねぇ……。なんせこれを使ってる間はほぼ無敵。だけど、読み違えたらその瞬間現実でも死亡する……なんてスリル、そして爽快感。だからこそ、このソードアート・オンラインは面白ぇ。

 

 さて、まずはゴーレムっぽいやつを先にぶっ潰すとしようか。はっきし言ってこいつらにレオンのハイディング見破られると、それだけで俺の行動に無理が生じてくるからな。

 俺の筋力値補正に上積みされたこいつの威力は伊達じゃねえ、左から着地、右で離陸という確立されたスタイルのこの2擊を急所である頭に喰らえば大抵はそれだけで踏み倒すことが可能だ。

 もし倒せなくてもタゲは確実にこちらに向かい突っ込んでくる。そこを《同士討ち》にしてやれば、ヘイトは自分達の仲間に溜まり俺はその間に別のゴーレムを屠る。

 勿論、そこにはゴブリンという邪魔者が存在するが、それは大した問題にはなり得ない。理由は簡単、ボスでもないAIごときでは俺のいるところしか攻撃できねぇ、つまりは適当に攻撃をゴーレム型のやつにぶつけてやりゃ、ゴーレムは視覚情報がないために俺を攻撃しようとしていたゴブリンをタゲし、攻撃する。それでゴブリンが倒れてくれりゃ文句はないし倒れなくても、それの繰り返しでそのうち死ぬ。

 

 無限跳躍実施後5分、既にそこにはゴーレム野郎の姿は存在しなかった。あんなノロマ、そもそもが俺の熟練度500ある《跳躍》の瞬発についていけるはずもなく、宣言通り一ドットのダメージもないままゴーレムは潰し切ってやった。

 

 残るはゴブリン数匹か……おし、こっちで止めと行くか。

 俺はゴブリンどもの杖を避けながら、ストレージを開き、さっきしまった《アルティマハイト》を取り出す。

 アルティマハイト……《究極》の名を冠す両手剣。その名に恥じない攻撃力を持つ、俺達が23層でギルドホームを手に入れた時からの相棒だ。

「さて、今度は剣舞を披露するとしよう。ハッ!」

 掛け声と同時に放つ技は両手剣4連撃スキル《イナズマ》、一番近いMobに最初に突進からの《ホリゾンタル》の如き真一文字を浴びせ再び次の敵へ突進しての繰り返しを4回浴びせる。

 この技は本来、浴びせる技自体が《ホリゾンタル》なので、大した威力にはならない。

 だが、あるスキルのおかげで筋力値が高い俺の補正付きの《イナズマ》は剣の攻撃力とも相まって一撃でゴブリン共を切り伏せていく。

 そのディレイ時に後ろから敵反応……、硬直解除と同時に俺は自ら姿勢を後ろに崩し間一髪で杖による一閃を躱す。もちろんこれだけでは終わらせない。続いて放つは両手剣刺突系重攻撃技《ザ・タワー》見事に相手の腹を貫きポリゴンの欠片に変える。

 姿勢を崩したままの俺に更なる追撃が来る。これも当然受けはしねえ。俺が次に打つは回し蹴り《ブレイク・ハリケーン》名の通り、ブレイクダンスの如き動きで相手を吹き飛ばし、そのついでに崩れた姿勢をも矯正できる中々使い勝手のいいスキルだ。

 さてさて、気付きゃもうラス一か……、さっさと決めようか!

「さて、残った君にはラスト賞をあげよう!」

 例によって特殊攻撃のない単調な突進、それを俺は全力で応えてやることにした。相手に向かって走ること自体が初動のこの技《ジェットライナー》

「ぜぇやああああ!!」

 当然、俺に単身で突撃なんていう馬鹿げた行動中のあいつにこいつが決まらない道理はなく、ゴブリンの額に一撃……、それによってこの小さい部屋にPOPしたMobは全てデータの欠片も残さずに消えた。

 

キリトside

 

 凄い。素直にそう思った。あの大群を相手に一撃も受けていないというのは勿論ながら、それを前にして一切臆することなく冷静な判断を下せたフレッドの精神に……。

 ソードスキルは使う度に若干の精神力を削られる―――これはアスナにも言ったことだけど、あんな短時間で無数のソードスキルを放って見た感じ全然普通そうにしているあいつの精神力は一体どうなってんだ……

 そう思っているとフレッドが宝箱から何か赤色に輝くものを取った後こっちに寄り、同時にいつの間にか肩に乗っていたフレッドのテイムモンスターが彼の肩に移った。

「ありがとう、フレッドのおかげで助かったよ」

 俺の言葉を皮切りにダッカー、ササマル、テツオにサチとフレッドへの礼が続いた。

「まぁ、こっちも一応下に道があると教えてくれた君らへの礼とでも思っといてくれ」

 下?そういえば、この人なんで上から登場したんだ?そのことを聞くと返ってきた答えは……

「ヒーローっていうのは空からやってくるもんだろ?……っていうのは冗談で上の層からフォールトラップに引っかかって落ちてきた」

「落ちた!? 28層から!? なんで無事なんだ!?」

「俺テク」

 ……さすが攻略組きっての異端、その誰にも縛られない自由奔放さ、キレた時の阿修羅の如き怒気、攻略組の中でもトップクラスの実力者、ついでに彼がギルマスを務めるギルド《Famiglia》の名も相まって攻略組の中では「ゴッドファーザー」なるあだ名が付いている。

 

「俺も聞きたいことがあった。キリト君、君はなんで攻略組でもないそのギルドに入っているのか?疑問で仕方ないんだが」

 !? ここでその言葉を言われるとは思わなかった。その言葉に最初に反応したのはダッカーだった。

「攻略組?アンタ何言ってんのさ?なんでキリトが攻略組にいなくちゃいけないのさ?」

「? おかしなことを言うなぁ、マント君。彼は“攻略組”のキリト君だ。誰が呼び始めたか、《黒の剣士》というあだ名すらある、攻略組界隈では超の付く有名人だ。見間違えるはずがない。最近ボス戦はご無沙汰だったけどな」

「「「「!?」」」」

 俺とフレッドを除いた四人が驚きを顕にする。

 当然だ。今まで、自分たちとだいたい同じくらいのレベルだと思っていたギルドのメンバーが攻略組の一人だったとは誰も思うまい。

 だけど、サチに至っては少し得心がいったかのような顔をしている。

 俺が疑問に思った数瞬後、今度はササマルが言った。

「だけど! 俺たちがキリトと出会ったのは最前線じゃない……当時でも10層も下のダンジョンだったんだぞ、なんで攻略組が……?」

「別に大して疑問に思わないな、攻略組といえど、素材収集の為に下に降りてくることはよくある話だ」

「じゃあ……じゃあ! なんで、キリトは嘘をついてまで僕たちと一緒に居たんだ!?」

「それを俺は聞いている。で、どうなんよ、キリト君? 言っとくが、妙に悪ぶらなくていいぜ?」

 最後にテツオから疑問が飛び、フレッドが同調する。

 そもそも悪ぶるつもりは毛頭ない、だけど彼らとの関係性を保ちたかった俺の心には今までの嘘を上塗ってきた罪悪感が再びこみ上げていた。

「分かった。だけど、ケイタもいる前で全てを話すよ」

 

第11層主街区―タフト

 

 俺達が狩りから戻って借家があるタフトに戻った時、既にケイタは買い取ったギルドホームの鍵を持って転移門の前で待っていた。

「皆、良かった。いつもの狩場より上の層へ行っているから心配したよ。でも、まぁ無事でなによりだよ。……どうしたんだ? 皆顔が暗いけど何かあったのか?」

「あ、あぁ……。ここだと話しにくいんだ。まずは借家に行こう」

 俺はあえてまだ借りている状態のホームへ行こうと提案した。そっちのほうが近いし、何より俺自身がそこにいる権利はないと判断したからだ。

 

 雰囲気を察してくれたのか、ケイタはそれに関しては何も言わなかったが、後ろにいたプレイヤーに関しては気になっていたらしく、

「それはそ」

 

「あぁあああ!!思い出した!」

 

 おそらくそのことを聞こうとした直後に当の本人であるフレッドの絶叫で遮断された。

「お前、ケイタ、そうか確かにケイタだ。覚えてねぇか?はじまりの街でレクチャー会開いたフレッドだ!」

「え? ……あぁ! フレッドさん! お久しぶりです。フードで顔隠してるんで気づきませんでした」

 聞く話によると、二人はフレッドが開いたはじまりの街のレクチャー会で知り合い、フレッドが定めた参入年齢に適さなかったのでその時に色々と聞いたり聞かれたりした仲だという。

「何だ、しぶとく生き残ってたか。しかもお前がギルドの頭ねぇ……、まぁ適性は十分か。あのレクチャー会の時、お前以上に狩りについて聞いてきた奴はいなかったからなぁ」

「当然ですよ。いつ、殺されるか分からない世界なんですから……。仲間を守る身としてはあれでも足りなかったくらいなんですから」

「そうかい。だとしたら、今回はこの世界で最も生き残るために必要なことを教えなかった俺のミスだな。危うく全員死ぬところだったぜ」

「え?」

「まぁ、そういう話も結構ごたついてるから、そういう意味も含めて宿屋へ案内してくれや」

 

 この宿屋に着くまでギルドの空気は非常に重苦しいものとなっていた。事情を知らないケイタはまだマシでダッカーをはじめとするギルドメンバーに関しては言わずもがな……、そして珍しく自由気ままなフレッドですら気楽にはいなかった。

 ホームに着いてのまず第一声はフレッドがあげた。

「さて、じゃあ、説明してもらおうか? 攻略組である君がなんでこのギルドに入っているのかを、さ。今、俺もギルメンに心配かけてる身だからな、当然メッセージは送ったがね。とっとと話してくれや」

「分かった。……」

 そこから先喋ったのは、今回あった事件―――アラームトラップの件、フレッドの介入によって難は逃れた事、本当のレベルを隠していたのは下層荒らしと思われたくなかったから、次に攻略組である俺がこのギルドに入ったのはこのアットホームな空気に惹かれていたから、という旨を伝えさせてもらった。

 

 初めは暗かった雰囲気も俺が話を続けていくにつれてギルドの皆は理解してくれたみたいだった。

 初めにその暗黙を破ったのはサチだった。

「そうだったんだね。実を言うと私ね、本当はキリトがどれだけ強いか知ってたの。……たまたまメニューウインドウが開いていたからその時、後ろから覗いちゃったの。キリトがレベルの低い私たちと一緒に戦ってくれる理由は一生懸命考えたけど判らなかった。でも、そういうことだったんだね」

!? 知られていたのか、だからあの時あんな顔を……、多分それでも俺に答えを求めなかったのは俺がいつか話してくれると信じていたから……

「な、な~んだ……。それならそうと早く言ってくれればよかったのにさ。あ、僕が悪かったかな、最初に会った時にあんな聴き方しちゃったもんだから」

「そうだぜ、リーダー! 全く変にキリトに気を遣わせちまったってことじゃないか、しっかりしてくれよ!」

 ケイタの言葉にダッカーが続き、俺の言葉を良心的に受け取ってくれたみたいだ

「だから、あの時宝箱を開けないほうがいいって言ってくれたんだね。……ちょっと調子に乗ってたみたいだねオレ達……」

「そうだな、レベルだけ上がっていって、まだキリトに守られていたに過ぎなかったのにな。実際、あそこでこの人が来てくれてなかったらオレ達死んでたかもしれないんだよな」

 今更ながらゾッとする。

 恐らく、フレッドが偶々上の層から落ちてくるなんていう展開がなかったら俺はまだしも彼らを救うことはできていたのだろうか? ……おそらく無理だったろう。

 彼が戦ってる間、俺らがタゲされなかったのは彼の―――レオンとか呼ばれていたテイムモンスターのハイディングが優秀だったからだ。もし、あのモンスターがいなかったらフレッドがいたとしても何人か犠牲は出ていたろう。

「キリト、僕らとしてはこの後も君にギルドに残って欲しいと思ってる。勿論、君が良ければの話だ。僕らのレベルは君から見てとっても低いから無理にとは言わない。どうかな?」

……俺からしたら、その誘いは眩しすぎて……それに必死にすがりつきたい、だけども―――

 

「ゴメン、それはできない」

 

―――ただ一言だけ、彼らと決別の意の言葉を示した。

「……やっぱり、レベルの問題、かな?」

「それもあるかもしれない。でも、それだけじゃない。この光景はあくまでそこにいるフレッドが偶然落ちてきた、その結果としてこの光景があるんだ。ケイタ、ひとつ聞く。もし、この光景に言い方は悪いがダッカーやササマル、テツオにサチ……この四人がいなかったら君はどうしていた?」

「そ、それは……」

 彼の人格を信じていないわけじゃない、むしろ信じているからこそ、きっと俺を貶し、自分も自棄になっていたと思う。

 

 そんな時、今まで沈黙を保っていたフレッドが口を開いた。

「へぇ~、思ったより身分は弁えているのな。ここでこれからもよろしく的なことを言ってのけたらそん時はまずは一発ぶん殴ってたところだぜ?」

「フレッドさん!? 何を……」

「当たり前だろ? この世界では情報は武器だ。それを赤の他人である誰かに秘匿するってんならそれは当然だ。いつ、敵になるとも分からん奴だからな。だが、ギルドの仲間ってのは赤の他人って関係じゃねえだろ? 信頼し合ってるからこそギルドの仲間としてやっていける。確かに隠していた方が面白い情報に関しては俺自身隠すこともある。だが、死に直結するような情報は全て教えている。キリト君、君は27層より上はトラップの解除レベルが一段階上がってることを知っていたはずだ。情報が武器ということを知っている君がたとえ行かないにしてもその収集を怠るなんてことはないはずだからな」

 フレッドの言うとおりだ。俺はあの層の危険性を重々承知していた。だからこそ、あの宝箱の危険性を伝えられたはずだった。だけど、俺はそれをしなかった、俺の嘘がバレることを恐れて……

「ギルドの仲間に嘘を付くっていうのはそのメンバーを信用していないことに他ならねぇ。ギルドのメンバー全員に27層の情報をちゃんと伝えておけばあの事態は回避できていたんじゃないかな? “情報はSAO(ここ)での最大の武器”それを理解していたはずのキリト君がそれを怠ったのは君が彼らを信用してなかった、赤の他人同然としか思ってなかったんじゃないのか?」

「違う! 俺は……俺はただ……」

 

「“ただ……俺一人の力でみんなを守れる”そう言いてぇんなら君にギルドを持ったり、入ったりする資格はねぇよ。 人間独りでできることにゃ限界があるのさ。全部独りでできる? 驕りだな。そんなことを思ってんなら君は独り(ソロ)がお似合いだな」

 

「!?」

 その通りだった。一人で何でも出来る……今までそうだった、だから今回もなんとかなる、そう思っていた。……その驕りが、ここにいる皆を危険にさらした。他でもないこの俺が……

 

「……ゴメン、皆」

 俺はその場でヨロヨロと立ち上がり、部屋を出ようとした。そこを誰かの腕が引き止めた。

「キリト……」

 サチだ。あの死への恐怖から彼女が失踪した日から互いの傷を―――俺は罪悪感、彼女は死への恐怖を嘗め合うようにしていた彼女が俺のコートの裾を引っ張っていた。

 だけど、俺は「君は死なない」というその言葉すら守れなかった。

 助けたのはフレッドであり、俺じゃない……、俺はここにいちゃいけない。

「ゴメンな、サチ。君には「死なない」と言い続けたのに、俺は君を……いや、君たちを自分の驕りで殺してしまうところだった。……ここにはもういられないよ」

「キリト!」

 俺はそこから彼女の手を振りほどいて、逃げるようにそこから立ち去った。

 

サチside

 

「キリト……」

 私はどうすることもできなかった。本当は色んなことを言えた、キリトを引き止めるモノを……、だけど、咄嗟には何も出てこなかった。

 その時、もう一つ立ち上がる影があった。私たちを助けてくれたフレッドというプレイヤーだった。

 私たちを助けてくれたことには感謝している。けれど、キリトをあそこまで追い詰めたのはどうしても許せない。

「さてと、俺も戻るとしよう。仲間からさっさと帰ってこいコールがひっきりなしに来てるからな」

「フレッドさん。キリトにあそこまで言う必要はあったのか? 彼も自分の驕りは認識していたと思うんだけどな」

 私と同じことを思ったのかケイタも目の前のプレイヤーに問い詰める。心なしかいつものケイタより怒ってる感じがした。

「言う必要はあった。彼はあそこまで言わないと同じ過ちを繰り返したろうね。今回の一件で彼が失ったのはなんだと思う?」

「このギルドだろうが!なんであそこまで言ったんだよ!?」

 フレッドさんの詰問を疑問に思ったのは私だけではなかったらしくダッカーもササマルもテツオも彼に詰め寄る。

「そう。彼は今回の一件で取り返しのつかないものを何一つとして失っていない。もし、この一件で彼が君らと“死別”という意味で失っていたなら俺もあそこまでは言わなかった。だが、今回失ったものは取り返しは幸いまだつく」

「「「「「…………」」」」」

 言い返せない、私やケイタたちだったら別に彼のことをもう責めるつもりはもうない。もうこんな過ちを起こさないと私たちは思っているから。

 だけど、それは私たちとキリトが2ヶ月近く一緒にいて私たちは彼を信用しているからであり、これからもそうだと思っている。

 けれど、それは他人から見たら愚行……なのかもしれない。人を信用しすぎるってことは確かに危なくはあるかもしれない。

 それでも、私は「君は死なない」と言っていたキリトのあの目が偽物だって思いたくない。

 

「フレッドさん、確かにあなたの言うとおりだ。じゃあ、そこまで責任をもって面倒を見てくれるんだろうね?」

「俺にアフターケアーをしろ……と?」

「あなたのおかげで僕らとキリトとの確執は今や決定的なものになりつつある。でも、僕らが攻略組に入ってキリトと協力を結べる仲になったら……そしたら、また前のように戻れると思うんだ」

「理解、攻略組に恥じないレベルと情報の提供を言いたいわけか……。まぁ、俺と君の仲だ。協力は惜しまないよ。だけど、それで君のギルドのメンバーは納得するのかい? 死ななかったとはいえ、ケイタを除いた君ら4人は臨死体験をしたようなもんなんだぜ? 同意は得なくていいのか?」

 そんなの言うまでもない。私たちはキリトのおかげでここまで来れたし、キリトが初めて助けてくれたあの場所で私たちは死んでいたかもしれないんだ。

「私はケイタに賛成。確かに死ぬのは怖いよ。だけど、キリトとこんな別れ方のままっていうのはもっと嫌」

「当然、オレも、さ」「このギルドで挑むんなら怖いものなしさ」「そのとおり!」

 私たちの言葉に、フレッドさんは手を広げやれやれといった感じで言い出した。

「ハハッ、なるほど、意志は固いみたいだな。いいだろう、君らを攻略組の中でもトップクラスの実力に鍛えてやろうじゃねえか。言っとくが生半可な努力じゃ俺のシゴキにはついてけねえぜ?」

「望むところです!」「ドンときやがれ!」「上り詰めてやろうじゃん」「おうよ!」

私以外の4人が彼の挑戦を受ける意思を示した。もちろん私も―――

 

「大丈夫です!!」

 

―――キリトに追いつけるなら、なんだってやってみせる!

 




はい、当初の予定通り、黒猫団攻略組シフトアップを図ります。

さて、次は多分赤鼻のトナカイを完全に終わらせにかかります。……えぇ、ニコラスの話です。原作でもここ空きすぎだろうとか思ってたところですね。
間話入れてもいいんですけど、とっととトナカイ終わらせたいし、属性云々マジどこいったとか聞こえてきそうで……

ご感想・ご意見等あれば細かいところでもなんでもビシバシとお願いいたします。

今回はこの辺で……、ではでは!


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第十八話 ~聖夜の宴~

活動報告にてしばらく休載すると書き込んでおきましたが今日を持って復帰いたします。お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

今回もまた一気に飛びましてクリスマスです。ホントは前回と今回の間にケイタたちの修行だったりフレッドの描写について一個書いておきたいのがあったのですが、ちょっと抜かします。すいません。

てことで、新話どぞ~


「イェ~い!!メルィイイー!クリスマ~ス!!!」

「「「わぁああああああああ!!!」」」

「今日は年に一度のお祭り騒ぎで無礼講だぁあ!!派手に盛り上がってくれやぁあああ!!」

「「「おぉおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 今日は2023年のクリスマスイヴ。ギルドメンバーは勿論、俺の親友であるところのディアベルと彼率いる《()()()()()()()》の面々に月夜の黒猫団全5人、いつも生産班が世話になってるエギルや情報屋のアルゴも呼んでクリスマスパーティー兼忘年会的な物を開いている。

 ここ一ヶ月は昼はボス攻略のために前線に出ながら、夜はこの催しのために効率的なレべリングを排して食材探しの為に朝まで狩り通しっていうスケジュールをこなし、その甲斐あってS級食材の一つである《ターキー・コック》という割と最前線にいたモンスターを狩ることに成功し、S級ほどではないがメインに食べられるA級食材も人数に見合う量を確保し、もてなしは完璧だろう。……とは言っても大半はうちらのギルドなわけだが。

 

「旦那!こんなパーティー開くために俺は夜狩り出れなかったのかよ!?」

 この食材狩りの為に、面倒を起こすカイ適当な理由をつけては夜狩りに連れて行かなかった。だってコイツいると食材なんかには目もくれずに行ったフロア最強クラスのMobにしか興味示さないもんだからすぐに単独行動始めるんだぜ?連れてくだけ俺の負担が増える。

 さすがに始まってからは文句言わねぇだろうと思っていたんだが……しょうがない黙らすか。

「今日はクリスマスイヴだで?世間じゃカップルがデートしたりする日だぞ?この一時の安らぎをこんなで片付けないで欲しいな……、ほら、オメェも飲めって!」

「お、おいちょっと待てそれさk!?ン……ンぐぅ……ゴクゴクッ、ぷはっ」

 俺がカイの口を封じるのに使ってたのは《スピリタ・スプラッシュ》というあるクエストの報酬でもらえる上等な酒だ。このソードアート・オンラインには珍しく非常に酔い易い酒の一種で、慣れてる俺やエギルが飲んだところでひどく酔うということはねぇが、カイみてぇなガキが飲むと―――

「う、うめぇ……、それよこせ!ング……ング……やべ、止まんねぇ」

―――まずはこの酒を飲むのが止まらなくなる。酔い易いとか言ったが、実際現実世界で飲んだことがない奴がアレを飲むと、まずは止まらなくなる。次に顔が紅潮し出し、それでも飲むのを止められねえと最後にぶっ倒れる。フィールドでは絶対に飲ませらんないものだ。

 なんで、こんなことが分かるかといえば一回生産班の一人が夕食の席で他に多くあったジュース瓶と間違えて飲んでしまい、気づいた頃には手遅れになっていたからだ。

 カイもこの酒の魔力をもろに受けたようで、既にテーブルで暴食を始めている、酒瓶片手に持って。

 

 カイを黙らせると、テーブルの方からゆっくりした足取りでコペルとシリカが寄ってきた。

「なぁ、フレッド。あの酒って子供に飲ませる類のじゃなかった気がするんだけど?」

「それはアイツが悪い。せっかく俺がこのパーティーを企画したっていうのにそれより夜狩り行こうぜ的ニュアンスを醸したアイツがな」

「でも、あれ飲んじゃうとしばらくまともな思考働きませんよね……。このパーティーの中で暴れだしたらどうするんですか?」

「心配はない。そんなことになったら俺が気絶させる。ついでに言うともはや、あいつにそんなことできるはずがねえしな」

 俺が指さした方を見ると既に出来上がった様子でテーブルの端で伸びていた。

「それに、だ。こういう機会はあったほうがいいだろ?この世界じゃいつ死んだっておかしかねぇんだからさ。だったら生きているうちに楽しんでおこうぜ?その意図をぶち壊すカイに仕置きを与えたまでさ」

「……フレッド。せっかくお前が言った楽しい席でそういうこと言うなよ。テンション下がるよ……」ゴクッ

「全くです!」ハグハグ

 ……テーブルにあった肉だったり魚だったり酒だったりを俺の発言受けても全くのノーリアクションで体ん中入れてってるおめえらに言われても説得力の欠片もねぇな。まぁ、ここでそんなこと言っても意味はねぇからスルーするとして……

「はいはい、了解したよ。まぁ、さっきも言ったと思うが今日は騒ぎきってくれや。毎日毎日こんな催し開けるほど食材Mobは湧いてこねぇぜ?」

「当然です♪せっかくの催しなんですから今日は体力の続く限り騒ぎますよぉ~」

「ま、そうさせてもらうよ」

 ……シリカのテンションが異様に高い。酒でも飲んだか?まぁいいや。俺は俺で挨拶回りと行くか。

 

 最初に来たのはディアベル達ギルド《ドラゴンナイツ》が集まっているところだ。早速、青髪ナイトのワイングラスを持ってるディアベルを見つけ話しかける。

「よぉ、ディアベル。盛り上がってるかい?」

「あぁ、フレッド。こういう催しは歓迎さ。久方ぶりにこういう楽しい雰囲気になれたよ」グビッ

「それなら、企画した俺としては嬉しい限りだな。来年もこの季節になったら開くか」

「ハハッ、できれば来年のそれは現実で味わいたいな」

 そりゃそうだ、と二人で吹き出す。

「そういや、お前さんのトコどうなんよ?《ドラゴンナイツ》に戻って2ヶ月ぐらい経つけどよぉ?」

「まぁ、元の団員から何人か抜けたのは痛かったかな?それでも、連合の時の確執があったままよりかはよかったって思ってるよ」

 そう、ディアベルが率いる元《聖竜騎連合》副リーダーのブランシュ君と意見が合わなくなり解散した。彼はボス攻略でも異様にLAに執着し、解散する1ヶ月ほど前位からディアベルと言い合いになってるところを多々見かけていた。おかげで元あった《ドラゴンナイツ》と《セイントセーバーズ》という二つのグループに分かれたのだが、元ドラゴンナイツのメンバーから何人かがブランシュ君率いるセイントセーバーズに流れていってしまったようで、ボス戦に顔を出すのが少なくなってきたように思える。

 とは言っても、ディアベルと彼の腹心であるリンド君は未だに攻略会議にも積極的に参加してくれている。

「まっ、当人に後悔がなくて何よりだな。さて、辛気臭い話題持ち出して悪かったな。今日はそう言うこともさっぱり忘れて飲み食い騒いでくれや」

「そうさせてもらおう!このクリスマスパーティーはこの世界で最初の、そして最後のものだ。多少ハメを外しすぎても文句はないよな!みんな盛り上がっていこう!!」

「「「Yeah!」」」

 

 しかし、これがここの世界での最後のクリスマス……ねぇ。俺としては寂しいような、嬉しいような……だな。

 勿論、俺個人としての考えは永遠にこの世界で剣士として存在したい。現実には何の未練も……、いや、一つ気になってることはあるか……。だけども、それとこれを天秤にかけた時、たぶん釣り合う。と、なれば俺の意見をプラスしてここに残るに傾くか。

 逆にここを出たいというのはさっきの未練のこともあるが、俺の作ったギルドの目的“ギルドメンバーを無事にこの世界から脱出させる”を達成したい、っつーのもある。

 俺の意見っていうのを加算しても俺はどっちにするかを一瞬で決めろって言われたらすぐに答えは出せねぇだろう。まぁ、どっちに転んでもある種欲求は満たされるから俺はどっちつかず、つまり現状維持になんだろうな……

 

「ヨっ、フレッドの旦那!」

「うすっ、《鼠の》」

 俺がこの世界から真面目に解放されたいか、されたくないかと俺なりに考察していると顔の左右に3本線のメイクをした黄色の髪の、俺と同じあほ毛を持った通称《鼠》のアルゴが話しかけてきた。

「しかし、旦那がオレッチにパーティーの誘いを出してくるとは思わなかったナ」

「情報屋としてお前以上に信用できる奴なんか存在しねぇし、未発見スキルの情報とかも割と売ってもらってるからな。そのおかげでこの《アルティマハイト》も使えてるんだからな。これからもよろしく頼むよって意味で呼んだとでも思っといてくれよ」

「旦那がそう思えって言うなら従っとくヨ」

 《鼠の》が再びパーティーのテーブルに戻っていくと不意に思った。そういえば、この背にある両手剣ももう半年近い付き合いになんのか……、楽しい月日ほど時間が早く経つと思えるものはないな、全く。

 

 《アルティマハイト》……俺が持った両手剣の中でも最高の性能を誇る、名の通り“究極”の剣。これ自体を手に入れたのは最前線が第17層の時だった。

 当時、最も良質な金属が取れることが知られていた第15層にある山《サレバス》、俺は鍛冶達の全体のレベルを上げたいということもあって、第17層の攻略をサボり、俺と食材班2組、更に鍛冶職人達を総動員して、その山に籠っていたといっても過言ではないほどに採取活動に勤しんだ。そして、第18層が解放されたその日と同時に鍛冶の一人が金色に輝く、少なくとも俺が今まで見たこともないようなインゴットを入手した。

 固有名《ウーツァンライト・インゴット》―――アルゴによると未だに俺ら以外でこのインゴットを手に入れたという情報はない―――早速、俺はこのインゴットをリズに渡し両手剣に加工してもらった結果、コイツができた。基本性能はその当時の平均ステータスをあらゆる(・・・・)意味で倍どころでは済まないくらいに大きく超えていたが、その時は持つことすらできなかった。理由は簡単だ、要求筋力値がまるで足りなかったのだ……いや、足りないどころじゃねぇ。その値は∞……つまり、普通では絶対に装備すらできない代物だった。

 

 その∞の要求筋力値を持つアルティマハイトをやっと扱うことができるようになったのは第25層ボス戦直前だった。《鼠の》に幻獣パーティーをトレインされたあの時の情報一つ無料権を行使して要求筋力値を無視できるような、もしくはそれに準ずるようなスキルの詮索を彼女に依頼していたところ、第24層ボス攻略直前に連絡がきた。

 

 それが俺の持つエクストラスキル《剛力》である。

 

 これは森で彷徨ってる木こりの爺さんを無事に送り届けてくれっつーばあさんの依頼だったのだが、俺が会うNPCの爺さんはどいつもこいつも一癖二癖ある奴というジンクスでもあるのかこの爺さんも只者ではなかった。

 無事に木こりの爺さんを見つけたまではよかったんだが、背負っている木の束を持ってくれと頼まれたから背負ってみたものの馬鹿みたいに重てぇ!あんなひょろい爺さんのどこにそんな筋力があったんだっていうレベルの話だった。

 しかもそれを運搬している最中もMob共がPOPするもんだからとんでもなくめんどかったのだけは覚えてる。つってもレオンのおかげで戦闘になっちまったのは一回だけだったが。

 

 まぁ、そのめんどくささとスキルの性能を天秤にかけた時、スキルの性能に傾く事はそうそうなかったようで、このスキルの情報が出回り始めても人気のスキルという訳ではなかった。

 10層当たりで噂になってた《豪大剣》の必要スキル、と一時噂になったが誰も命は惜しいようで検証する奴もいなかった。

 アルゴあたりはその豪大剣の必要スキルと思われる3つを持つ俺が情報提供したおかげで、どう考えてもあのビルド構成じゃ突破できないクエストを含むスキルの情報は得られたみてえだが、その情報で金は取っていないらしい。

 まぁなんとなく察しはつく。自分で情報の検証を行っていないのにそんなもん売れないだろう的なとこだろう。

 

 さてはて、あと挨拶してねぇのは……と、おっ目立つ人影があるな。

 俺が近づいてくとそいつも気付いたようで俺に話しかけてきた。

「よぉ!フレッドさん。パーティー楽しませてもらってるよ!」

「それは何よりだ、エギル。それと「さん」付けはよしてくれ。シリカやアスナちゃんみたいな明らかに年下と思われるやつから言われんならまだしもだけど、あんたから言われると妙な違和感があんだ」

 これは事実。俺よりも背が高いのに「さん」を付けられるってのはどうもこそばゆい。

「あぁ、じゃあ「ダンナ」でいいか。アンタんとこの坊主も言ってんだろう?」

 “ダンナ”ねぇ……、それもどっちかといえば年上に使う言葉だろうに……。

「まぁ、めんどいからもうそれでいいや。それより最近どうよ?」

「好調さ!ダンナんトコの売却品はなかなか質が良いもんが多くてな。そろそろ、露店じゃなくてホームにでもしようかと思ってるとこよぉ!」

 

 俺んとこのギルドとエギルは今商売をしていく上で切っても切れない関係になっている。生産班の商売のノウハウを徹底的に教授してもらったり、こっちからはレアドロップを安く売ったりで全体的な収支は彼に教えてもらう以前よりかは上がってる。

 エギルんトコの店が露店からホームになれば、多少は高く売却しても問題ないだろうな……

「ダンナ、俺がホームで商売始めても今までどおりで頼むぜ。今までどおり安くもの売ってくれよ!」

「お前まで心読むようになったか!?」

 俺は自分の思っている以上に表情が読み易いらしい……、これまでで俺の顔見て読心成功した奴はこれで10は超えた。

 

 俺があまり知りたくなかった事実にショックを受けていると新しい声が攻撃を仕掛けてきた。

「ま、アンタは基本的に自分のやりたいことしかやらないからね。裏を読むなんて面倒な作業をしなくてもこれだけ付き合い長いと分かり易いなんてレベルとうに超えてるわよ」

「お前もこの機に乗じて攻撃しないでくれますかねぇ、リズベットさん……」

 くそっ、俺が劣勢と知ると間髪なく攻撃仕掛けてきやがる……、俺としてはその性格を即何とかして欲しいもんだよ……

 エギルはエギルで、リズが話しかけてきたあと「じゃな、お二人さん」とか言ってどっか行っちまうし、周囲にどうやら俺の味方はいないらしい。

 

 となればさっさと話題転換するとしよう。

「ところで、リズさんよぉ。お前が「ここしかない!」って言ったホームの使い心地はどうなんよ?」

「えぇ、もう絶好調よ!アインクラッドで初めての完全習得鍛冶師(コンプリートスミス)っていう事実もあって店の入りは中々いい感じだし、道具の方も以前の携帯式のよりか相当に使いやすくなってるわ」

 48層開放時、主街区《リンダース》で見つけたという水車小屋の風貌をした職人クラス用プレイヤーホーム、値段が高いということもあって普段は頭なんて下げねぇのにすごい勢いで土下座してきたのは記憶に新しい。俺は俺で一瞬あのリズが頭下げるなんて何事!?とか驚いたが、話聞いて納得。

 当時のギルドの総資産は30Mコル―――3千万コル、はっきし言ってその店を買うにしても大した損失にはならんかったので、勝手に使って後で報告してくれればそれでよかったのに、相談してくるあたり律儀だねぇと思う。

「まぁ、それなら結構。ギルドとしてもホーム持ちのコンプリートスミスが店やってるっていう状況は大いに歓迎だ。これからも精進してくれよ」

「了解、ってか言われるまでもないわよ」

 実際、コンプリートになった鍛冶師はリズ以外にいるという情報はまだなく、おそらくアインクラッドで唯一のコンプリートスミスであることは間違いない。

 となると、当然攻略組もしくはそれに準ずるプレイヤー達に異様な人気を誇る。まぁ、お得意様のアスナちゃんが改造したリズの容貌―――ウェイトレス風の服にベビーピンクのショートヘア―――加えては、アインクラッドでは珍しい美少女目当てっていう客も少なからずいるだろうな、うん。

 まぁ、そのおかげで割と高い筈のオーダーメイド武器も飛ぶように注文が来て食材班の負担と共に売上も相当なものになっているらしい。

 

 オーダーメイドで世話になってるっていやぁ俺の視線の先にいるグループもそうだな、月夜の黒猫団。俺の知り合いってことでリズや他の鍛冶達には相場より安く武器のメンテや制作をするようには言ってある。

 おかげで俺の無茶なレベリングに合わせた武器を難なく作れた為、彼らのレベルも攻略組と比べても遜色ない……つーか多分一介の攻略組よりかは確実にレベルは上だ。

 まぁ、夜狩りは当然連れて行ったし、昼は昼で武器のランクをわざと落として最前線付近で狩りをさせた。それにはもちろん初見のMobの対応方法だったり、これから行うであろうボス戦のレクチャー、その他諸々の最前線で生きていくための情報についての授業も含まれてる。

 当然のごとくその負担は半端ない。休む暇なんてモンはほとんど存在しないし、実際キリト君についていくっていう修羅の道から落とすためにわざと暇をなくすように特訓をつぎ込んだわけだが、それに今までついてくるとは……正直思わんかった。

 

「アイツらもよくついてきたよな……うん」

「急にどうしたんだ?フレッドさん」

 目の前を見るといつの間にかケイタがこっちに近づいていた。

「いや、よくついてこれたよな、俺のしごきに。って改めて思ってただけさ」

 俺の疑問はどうやらケイタにとっては愚問だったようで、やれやれといった感じで返される。

「……まぁ確かにきつかっったかもしれないな。だけど、キリトに追いつけるんだったらあのくらいはどうってことないよ。彼には嫌な思いをさせたまま、ギルドを抜けられちゃったからね、どこかの誰かさんのせいで」

「ほぅ、是非その誰かさんの顔を見てみたいもんだな」

 このやり取り何回目だろうな?割とレクチャー当初から言われてた気がする……、まぁ毎度の如く知らぬ存ぜぬで通してるがな。

 

 そして、挨拶回りを終えた俺がエギルやディアベルと一緒に酒を飲んで夜も更けてきた時に突如俺のメニューにメッセージ受信の報告がポップした。

「(こんな時間に?いったい誰から……?《風林火山》……クライン君か。そいや、今日は用あるとか言って断ってたな。)どれどれ、と」

『悪ぃ、キリトがクリスマスのクエMobをソロで狩ろうとしている。誰か説得してくれねぇか!?』 ……全く。あのガキ、今度は何考えてんだ?と、考えてる場合じゃねえな。

「デルタ!いるか?」

「なんでしょう?フレッドさん」

 おぉ、まさか呼んでコンマ一秒足らずで反応してくれるとは……、さすが俺の秘書。まぁ、んなことはどうでもいい。

「デルタ、ちょっと俺はこれから出かけねえといけない用事が入っちまった。ちょいとこの催しの後、引き継いどいてくれや」

「了解いたしました。お任せください」

 

 俺がデルタに引き継ぎ頼んで、戦闘準備を整えて黒猫団のメンバーに声をかけようとしたら彼らの雰囲気が違っていた。……なるほど、黒猫団にも件のメッセージが来てるみてぇだな。いつの間にかさっきまで身につけていなかった彼らの持つ限りの最高の武器を装備している。

「お前らも当然行くって言うよな。その姿を見りゃ分かるよ。じゃあ、キリト君を助けに行くとするか!」

 

「「「「「おぅ!」」」」」




というわけで現状説明回でした。

そして、ユニークの条件ラスト出しました。オリジナルエクストラスキル第二弾、名を《剛力》!詳しくはまた話の中で語っていきますがこれでユニークスキルのための布石全部揃いました。ようやく、題通りのことをしていけそうです。

さて、では今回もこのへんで
引き続き、ご感想・ご意見等ビシバシとお願いいたします。
ではでは!


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第十九話 ~PoH~

ほんとにすみませんでした!

まぁ色々ありまして、熱が冷めていました。

とりあえず、新話どぞ!


キリトside

 

「行けぇ!キリト!!ここは俺らが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ぇ!オレの前で死んだら許さねェぞ、ぜってえ許さねぇぞ!!」」

 クラインの言葉を無感動に受け止め、俺はモミの木への最後のワープゾーンへ飛び込んだ。

 時間は0時5分前。クエスト開始まで残り5分……別にこれから出てくるニコラスとかいうのにに負けるつもりは一切ない。……いや、俺自身どうしたいんだろうな、よく分からない。

 俺自身、一か月ほど前までは このクエスト自体に何ら興味は持っていなかった。だが、その一か月前、アルゴからの情報は俺のこのクエストに対する意欲を180°転換させた。

 ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえもが隠されている―――この情報を聞いたとき、既に俺はそこに死地を求めていたのかもしれない。

 黒猫団がアラームトラップに引っかかったあの日以後、俺はフレッドに言われたセリフが何度も脳裏をよぎっていた―――“情報はSAOでの最大の武器”それを理解していたはずのキリト君がそれを怠ったのは君が彼らを信用してなかった、赤の他人同然としか思ってなかったんじゃないのか?―――そのことは今でもはっきり違うと言える。けれど、俺がみんなを守れる、そんな考えが甘かった。俺は守るなんていう事を語る資格もなかった、はじまりの街でSAO新規プレイヤー約9000人を見捨てた俺には。

 だから、そのほんの僅かな償いとして蘇生アイテムはまさに恰好の免罪符だった。それを手に入れるために俺はあいつを―――殺す!!

 

 モミの木を見上げた先には2本の輝くライン、鈴の音を鳴らしながら空中を滑走する様はサンタクロースを連想させるが、そのラインから盛大に雪を蹴散らしながら落ちてきたのは赤い三角帽子や長いヒゲこそあるが人形のようにぎこちない動きをし片手に斧を構えた異形だった。

 ニコラスはクエストに沿ったセリフを口にするつもりか、長く垂らしたヒゲが若干揺れた。

「うるせぇよ」

 俺はつぶやき剣を抜くと、右足で思い切り雪を蹴った。

 

 

 

 何分戦っただろう。10分?1時間?まぁ興味はない。あの四本あるゲージを全部削りきれればあとは何だって……

 だけど、限界……か。もう、回復結晶もない。……まぁいいか、よくやったほうだと思う。強いて挙げればクラインに死ぬなとか言われてた気がするけど、そもそもひとりじゃどうあっても勝てなかったんだ。

 見ればニコラスの斧がすでに俺の視界を一杯に支配していた。観念の意を表して俺は目を瞑った。

 

 だけど不思議なことに俺が切り裂かれる瞬間はいつになっても来なかった。その代わりに金属と金属がぶつかり合った甲高い音が俺の耳に届いた。

 

 俺は再び視界を開くとそこには盾を構えた青い影がそこにはあった。視界の情報を見、それを事実として認識した時、その青い影の正体を知った。

「…サ……チ……?」

「キリト!しっかりしてよ!私たちが見てきたキリトは諦めるってことはしてなかったよ」

どうして、ここに?……いや、クラインがここに来てた時点で俺がフラグMob(ニコラス)を狙ってることは周知だったのか。

「ヒール!」

 突如別の声―――ケイタの声が響き危険域に落ちていた俺のHPが全回復する。

「全くだらしないな、キリト。一人でかっこつけてボスに挑んだのに負けたなんて笑い話にもならないよ!」

「ここは《月夜の黒猫団》全員であのサンタもどきを倒そうぜ!」

 ササマルの叱咤に続いてダッカーが協力して倒そうと提案してきてくれる。……ありがたい、正直にそう思った。

 でも、どうして?っていう気持ちがあった為に俺の行動が数瞬遅れた。サチ達の後ろに迫る凶刃に気づいた時、もう一人の《黒猫団》テツオがその斧による攻撃を片手鎚系重単発系振り上げ攻撃《グランド・アッパー》で見事に軌道をそらした。

「盛り上がるのはいいけど、油断しない!」

「悪い悪い。だけど、今の状況ならテツオが来ると思ってたさ、信頼の証って思ってよ」

 テツオの最もな発言をケイタは笑って流す。信頼……か、俺が半年ほど前にできなかったこと……なのかな。

「そう思っておくよ。まあでもとりあえずは……」

 彼らの視線が一斉にニコラスに向く。

「まずはこれを倒しちゃおう、話はそれからだ。キリト、行けるよね?話はコイツを倒してからじっくりしよう」

 

 黒猫団の介入より数分俺はこのゲームが始まって初めてとすら言える高揚感、そして安心感を得て戦っていた。

 勿論、《黒猫団》の現在のレベルがすごいものだと実感したからというのもある。数値的な話もそうだけど、戦いに対する意識からして俺のいた頃とは違う。サチは俺がいた頃に恐怖からできなかった片手直剣+盾の装備で俺のゲージを完全に削り切るはずだった一撃を数ドットのダメージで済ませていたし、奴の斧を弾いたテツオの攻撃も高位ソードスキルの一つだったはずだ。ダッカーやササマルも最前線のボス攻略で使われるような高位のソードスキルを連発して使っている。そして、中でもケイタは戦闘能力も然ることながら、仲間への指示能力が的確で俺自身それに乗っかっている状態だが、さっきまでの戦いが嘘のようにニコラスが弱く感じる。俺のHPを何度も危険域に追い込んだアイツが、だ。

 けれど、それより何より、昔みたいに黒猫団のメンバーと一緒に戦えているという状況が

俺の心を満たしている。……いや、違うな。今と昔で決定的に違うことがある。

 それは今の俺は彼らになんの隠し事もしていないということだ。勿論、過去の罪が消えたというわけじゃないけど、今の戦闘だけはその罪悪感を忘れられた。

 

 それから約十分、ケイタの指示に乗った俺と黒猫団はニコラスの4段あるゲージをラスト一本、それもレッドまで削った。

 そこにケイタが両手棍単発重攻撃《バイオレント・ノック》を奴の三角帽子を被った頭に見舞う。あの技は確か頭に当てれば確実にスタンを引き起こせる高位の棍術だ。もちろん一回食らうと耐性が付いてくる為にそう何べんも使えないが俺の記憶する限りではケイタはこの戦闘中まだ一度も使っていなかったはずだ……。ということは―――

「キリト、サチ!スイッチ!」

「了解!」「OK」

―――当然の如くスタンを起こす奴にケイタの言葉を受けた俺とサチが奴に突っ込む。

 ケイタが作った隙に俺の片手直剣用単発重攻撃《ヴォーパル・ストライク》の血色の閃光が、サチの烈火の如き閃光がニコラスの首を捉えた。その瞬間、奴は自分を構成するポリゴンを崩し、この世界から消え去った。

 

 表示されたウインドウの獲得アイテムを見ていくと目的のアイテムは果たしてその中にあった。アイテム名“還魂の聖晶石”それをオブジェクト化し能力を見る。

 

【このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して《蘇生:プレイヤー名》と発声することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができます】

 

 ……つまり、過去に死んだ者には使用できない、か。俺はその蘇生アイテムの実体を確認した後、ケイタに言った。

「ありがとう、ケイタ。おかげで助かった。……俺はここで失礼するよ」

 本当は聞きたい事なんていくらでもあった。だけど俺は一刻も早くこの場所から逃げたかった。だから、できるだけ短く礼を済ませ立ち去ろうとしたらケイタが俺の袖を掴んできた。

「待てよ、キリト!まだ何にも話してないよ。何ですぐどこかに行こうとするのさ?」

「俺は君達と居る資格はない。あの日から俺はソロでやっていくと決めたんだ。君達が俺と居たところで俺は何も提供できるものはない。それどころか、君達を再び危険な目に合わせてしまうかもしれない……、だから」

「ふざけるな!」

 俺の言葉は俺自身が黒猫団にいた頃の普段のケイタからは想像できない声で止められた。

「僕らはね、キリト。君と別れて半年、君に追い付く為にずっと頑張ってきたんだ……。でも目標だったキリトがそんな風になってるんだったら僕らの頑張りって一体なんだったのさ!?」

 

「どうして……そこまで?」

 俺はそこから逃げ出そうとしていたことも忘れて、彼らに問うた。それに応えたのはケイタではなくサチだった。

「それはあなたが私達を助けてくれたからだよ、キリト」

「俺が……君達を?」

 あぁ、最初に会ったあの時の事か……でも、ただそれだけの事でここまでしてくれるものだろうか?俺がそれを聞こうとしたところで再びサチから言葉が続けられた。

「そう、初めてキリトと会った時、私達はピンチだった。そこを助けてくれたのがキリト、あなただった。その後、私達を助けてくれたキリトはこのギルドに入ってくれて……正直嬉しかったんだよ?キリトも言ってたでしょ、私達のギルドに入ってくれたのは、アットホームな空気に惹かれたからって……。私達も同じだったんだよ?」

 同じ?どういうことだ?俺が首を微かに傾げたのを見逃さなかったサチは続けて俺に言ってきた。

「ちょっと不思議に思うかもね。でもね私達もキリトがいてくれた間、この世界に来てから初めてって言っても良いくらいに心が安らいだの。それは他のみんなも同じなんだよ?」

 サチの言葉に他の黒猫団のメンバーが全員首を縦に振り、肯定の意を示す。

「だからね、キリト。私達はもう一度あなたと一緒に居たい!その思いでこの半年を過ごしてきたの。勿論、キリトが私達のことを大嫌いだった、なんて言うんなら私達も強制はしないよ」

「そんなわけない!……言ったじゃないか、俺はこの世界に来て君らといることで安らぎを手に入れた。それなのに君たちを嫌うはずが……ないじゃないか」

「だったら!」

「でも!俺は……」

 

「同じ問答はスマートじゃないぜ、キリト」

 俺の言葉はサチ……ではなく、ダッカーの一言で遮られた。

「お前がオレらになんも提供できないって言いたいんだろ?それは違う!はっきりと断言してやるよ。サチが言ったじゃん?キリトは俺らに安らぎをくれるってさ。……だからさ、帰ってこいよ」

 

「……俺といると必ず君らを危険な目に遭わせる。そう言っても君らの気持ちは変わらないのか?」

 俺は失礼とは思いながら彼らを試すようなことを言わせてもらった。こうまで言われたなら多少はと思ったが、間髪いれずにササマルが言ってきた。

「問題じゃないよ。攻略組にいればいつも危険とは隣り合わせ。いつもキリトに頼ってばっかじゃ君に申し訳ないと思った。だからこそ、半年間オレたちは頑張ってきたんだ。ほら」

 そう言ってササマルは自分のステータスを可視化して俺に見せる。

 ……凄い。素直にそう思った。ササマルの見せてくれたステータスはニコラスの戦いの時も思ったが俺には届いていなかったが攻略組といっても差し支えないレベルにまで達していた。

 

「そうさ、もうキリトが情報を言い忘れるってポカをやらかしても今のオレ達ならキリトと同じくらいの情報があると思ってるよ。まぁキリト自身もうそんなことはしないと思うけどね」

 最後にテツオが俺に最後の逃げ道を封鎖しにかかった。

 

 それでも首を縦にふらなかった俺にケイタが最後に一言発した。

「ん~、そうだな。じゃあ、こんなのはどうかな。もしキリト君が僕らを嫌いでないなら、さっきキリトを助けた時のお返しって事で《月夜の黒猫団》に再入団してくれないかな?」

 俺はその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れた。もう俺に彼らの誘いを断るだけの理由はなくなってしまった。

「ホントに……俺が入団しても……いいのか?」

「さっきからそう言ってるよ。僕らにとってもキリトが必要なのさ、……だからどうかな?」

 そう言って俺の目の前にギルド加入へのウインドウが表示される。俺は迷いなくYESを押した。

 

 その瞬間、ドスッドスッと音が鳴りその場にいた俺を含む6人がその場に倒れふした。

 

 何が起こったのか、俺の視界の左上に表示されているHPのバーを見ると緑に点滅する枠が囲っていた。

 麻痺状態、それが俺やサチ達を襲った異変の正体だった。

 

「ぜーいん、ダウーン」

 聞いてて寒気がするような声が降ってきた。麻痺状態で大きな動きのできない体だったがなんとか顔を上げるとそこには黒づくめの三人組が俺達の目の前に立っていた。

 嘘だろ!? 黒猫団やクライン達が俺の場所を知っていたから誰が知っていても別に驚かない……だけどこのタイミングでコイツらが来るなんて……

 

「Wow……《聖騎士》の誰かが掛かると思っていたが、株急上昇中の《黒猫》に《黒の剣士》様が掛かるとはねぇ」

 

 俺の勘違いであって欲しかった。だけど、その姿、声……もう間違える要素はなかった。第二層でネズハに強化詐欺のトリックを教え、それ以外にもプレイヤー同士での殺し合いをさせようと裏で様々な工作していたプレイヤー、名前を……

 

「PoH……」

 

「フ、《黒の剣士》様も麻痺したら形無しだな……。さて、どうやって遊んだものかね」

「さっきの見てたらやっぱあれっすよ!あの黒いやつの目の前で一人ずつ殺して悔しがらせて最後に全滅エンドで!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 口調は無邪気だが言ってることが狂気じみてる。こいつはたしか……毒武器使いの“ジョニー・ブラック”……この麻痺はコイツがやったのか。

 クソっ、ニコラスを倒した後で気が緩んでいた……、気が緩んでいなければ攻撃されるまでには気づかないなんてことはなかったはずなのに……。

 

「ウッ……!?」

 俺は少しでもサチ達に少しでも近づこうと麻痺した体を微かに動かした瞬間、短剣よりも細い剣エストックの使い手“赤眼のザザ”が彼らに伸ばした手を思い切り踏んできた。

「余計なあがきは、よしな。みっともないぜ?」

「ふざ……な……」

 麻痺した体ではろくに声も出せずにただうつ伏せに転がっているだけの自分には反論すらまともにはできなかった。

 

「……そうだな。コイツには借りもあるしな。屈辱的な死を与えるっていうのには賛成だな。ジョニー、お前の意見を尊重するとしよう」

「……うっ」

 そう言いながら、うつ伏せに倒れていたサチを足で蹴ってひっくり返し、彼女は蚊の鳴くような僅かなうめき声を上げてPoHに正面を晒してしまう。

「最初はレディーファースト。こいつからどんどん殺っていくとしよう」

「や……めろ……」

「ハッ、聞こえねえな!」

 

 

バシュッ

 

 

 PoHの声を聞くと同時に俺は目を疑った。

 始めは、奴の短剣が振り下ろされサチの腹部に剣が刺さりダメージエフェクトの赤く細かいポリゴン片が見えているのかと思った。だが、細かく見ると出処は奴の肩でダメージエフェクトが発生している。それがPoHの思惑ということはないだろう。間近で見てるから分かるが、コイツ自身も何が起こったかわかってない顔だ。

 その時だった。

「おいおい。俺の前で人殺しとは随分と粋がってんじゃねえか、プーさんよ」

「!? ……なるほど、アンタか。“ゴッドファーザー”俺に殺されに来たか?」

 PoHがゴッドファーザー……フレッドの二つ名を呼ぶと同時に、サチの体が浮きPoHから距離を取るように離れた場所に移動した。そして、彼女が再び地面に着くと同時に風景が一瞬歪み、空間を裂くようにフレッドがそこから出てきた。

 

「フッ、冗談。ま、生徒の行く末を見に来ただけだ。だが、目前で殺されそうになってるんでね。こっからは俺も参戦させてもらうぜ?」

 

 

フレッドside

 

 危ない危ない、あいつらに何度も注意されてるおかげで“急いでいるときはレオンを使え”と覚えてきたな、最近。

 ニコラスは無事倒せたみたいだが、よりにもよってプーさんが出てきたか、鬱陶しいやつめ。

「フレ……ド…ん……?」

「ハロー。まだ俺とお前らの約束は果たしてないから助けに来たぜ。とりあえず君らがキリト君をギルドに誘うまでが約束の範疇だからな。……ま、ついでに言うと」

 俺はそこで言葉を切って、その場を離脱する。

 

 次の瞬間さっきまで俺らがいたところにピックのようなものが3本突き刺さっていた。

「チっ、外しちまったか」

「あの程度で俺を刺せると思うなよ。さっきの続きを言わせてもらうぜ、個人的にあの三人は俺の目的を果たす上で邪魔にしかならないからな……、あまり殺したくはないが、手加減できる相手でもないんでね。一気に仕留めさせてもらうとしよう」

「一気に、仕留める、だと?馬鹿を、言うな!こっちは、3人、お前は一人。しかも、こっちには、人質がいる……。お前の、勝ち目は、ゼロだ」

「グッ……」

 そう言いながら妙に短く言葉を切るザザという男が足元のケイタの首に刃を添える。

 

「……確かにな。だが、ホントに3対1になるかな?ヒール!」

 ポーチに入れておいた解毒結晶を出して、サチの麻痺を解除する。

 次の瞬間既に俺はそこにはいなかった。俺は《跳躍》フルブーストでザザの方へ駆け出す。

 だが、プーの野郎は俺の行動を見越してたかのようにザザと俺の間に割って入ってきやがった。

「そう簡単に思惑通り行くと思うな」

「……そうみたいだな、だが!」

 プーは既に自分の得物を俺に突き刺すような姿勢でソードスキルまで発動させている。だが、俺はその場で急停止しその突き刺すソードスキルを自分の体でいなしそのまま右手を掴み勢いに乗ったヤローを柔道の要領でそのまま地面に叩きつけた。

「ガッ……!」

 

 そして投げた後も見ずに今度こそザザに突進をかける。自分達のリーダーが地面に背をついて多少なりとも動揺していたところにタックルを決め転倒させ、《煌脚》で後方にぶっ飛ばす。

 この時点で人質の解放は済んだと言っていいだろう。ジョニー・ブラックも人質よりもプーの方へ向かったからな。

 

「ほら、人質ってのはいなくなったぜ?あと解毒結晶は俺自身ひとつ、彼らも一個ぐらいは持ってんだろ……これで実質7対3だ。それにてめえらは知らないかもしれねえが、このワープホールを出たところにセイントセーバーズと風林火山のメンバーがいざこざ起こしてる。俺自身どっちのギルドにも顔は効いてね……、危険人物のプーを倒すためとか言えば協力はしてくれると思うぜ?さぁ、攻略組数十人対あんたら3人。勝負は見えてるな、どうするよ?」

 これはある意味賭けだ。俺は以前プーに一度負けて(・・・)いる。俺のコイツに対する戦闘方法が確立していない今、あまり戦闘は起こしたくないってのが本音だ。

 戦闘になれば倒しきる自信はあるが、こっちからも相応の被害が出るだろう。それは俺とて本望ではない。

 

 約一分お互いに睨み合っていたが、どうやら俺の賭けは成功したようだ。

「…………Suck」

 プーが短く罵声をかけると同時に戦闘態勢を解除して俺に背を向ける。

「……“ゴッドファーザー”。今度、俺の前に姿を現してみろ。お前が想像する以上の最も残酷なショウ・タイムを見せてやろう」

「……それはそれは。楽しみにしておこう」

 プーの捨て台詞を適当に返し、あいつらはこの場から立ち去っていった。

 

 

「……さて、俺も帰るとするか。酒が途中だったしな」

 全員の麻痺が解けたところで俺自身も帰ろうとしたところをキリト君に止められる。

「……フレッド、助けに来てくれてありがとう」

「ふっ、礼には及ばねえな。俺は黒猫団との約束を守りに来たのであって君を助けるためじゃない。俺の役目は終わった。あとは君らの問題があるだけだ。また会おう、黒猫団の諸君」

 俺はキリト君を押しのけたが、今度は黒猫団の五人が俺の前に立っていた。

「何のつもり?」

「いや、自分たちからもお礼をって思ってね。ありがとうございました、フレッドさん」

 ……全く律儀なやつだな、ホント。

「そう思ってんだったら今後の君らの攻略行動に期待しておこう。今度こそじゃあな!」

 

 俺は再び外へ続くワープホールへ足を入れた。

 

 




さて、原作よりもちょっとだけ早めに登場させました。ラフコフメンバー。
そして、フレッドはこの世界で一度プーに負けていることをカミングアウト、この話については以後書く予定です。
そして、キリト君は黒猫団のメンバーになりました。……どうしようこれ、本気でキリト君のアスナ離れがひどくなっててる。どうやってくっつけようかなぁ……

さてこっからは言い訳タイムです。

まぁ、色々というのはお分かりになる方多いかとは思いますが、この作品がつまらないという意見を多く頂き、モチベーションとネタの思いつきがガタ落ちしてました……

実際、自分自身でもどうやったら面白くなるんだろうといろいろ考えてはいたのですが、どうしても自分の書き方では、多く頂いた意見の設定を活かすことができそうもなく……大いに悩んでおります。

アドバイス、ご感想、ご意見等々あれば細かいところでも構わないので是非に送っていただきたいと思っております。できれば、アドバイスは本気で必要としていますのでお送り頂けたら幸いです。
今回はこのへんで……、ではでは!




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第二十話 ~豪大剣~

どんどん、ネタが思いつかなくなっているALHAでございます。

ホント何週間前というレベルで投稿してませんでしたがなんとか完成しました。

では、早速新話どぞ~!


 2024年1月1日午前11時俺はいつものようにギルドの定例会議を開いた。

 

 俺らのギルドホームは入ってすぐに巨大な円卓がありそれを囲うように椅子が9脚ある。奥の椅子に俺が座り、そこから時計回りにリズを筆頭とする生産班の職長4人に俺の向かいにデルタ、そしてシリカ、コペル、カイという風に座っている。いつもなら生産班の売上だったりそれを踏まえた上での今後の方針を決めたり、各持ち場からの意見だったりを発言したりしてだいたい終わるが、俺はそれが終わるとすぐに切り出した。

 

「さて、では会議もそろそろ終わりといきたいが、今日は最後にお前らに言っておくことがある。今日の情報屋の新聞を見た奴はいるか?」

 俺の言葉に反応して、手を挙げた奴はコペルとデルタの二人だけだった。

「……そうか。OK、じゃあ知らない奴の方が多いと思うが今日の新聞にふざけた記事が載ってやがった……『レッドギルド“ラフィン・コフィン”設立』……非常にまずい事態だ」

「フレッドさん、レッドギルドっていうのは?」

 俺に質問したのは料理スキルの職長であるマリアという女子のプレイヤーだ。彼女は現実世界でも料理の心得があるらしく、ナーブギアが与える味覚パラメーターを全部自分の舌で確認し、この世界でしか出せない不思議な味を俺らに毎度提供している。クリスマスパーティーの時に用意した料理は彼女の味付けでなかなかに好評を得ていた。俺自身正直に言って美味と感じるんだが、醤油やマヨネーズがそろそろ恋しくなってきてる俺としては複雑だ。

 さて、話がずれたな、戻るか。

「“レッドギルド”こいつらが勝手にそうやって名乗ってるだけだ。単刀直入に言えば殺人ギルドのことだ」

「「「「「!?」」」」」

 まぁ、新聞を読んで知っていたコペルとデルタ、それにカイの奴は特に驚いたようでもなかったが、他がショックがあったのか相当に驚いていた。

 そんな中シリカが最初に呟いた。

「そんな……人殺しだなんて……」

「確かにな、ありえないって思いたくなるのもわかるが、事実だ。この“ラフィン・コフィン”とかいうギルド、自分達が殺人ギルドだと分からせる為に昨晩圏外に出てBBQをしていた準攻略組ギルドを……皆殺しにした。これに関しては“鼠の”が裏を取った。間違いないらしい」

 誰もが知っている、この世界で死んだら現実世界でも死ぬ、という事実。その事実を知って尚以前のMMORPGの様に殺しを働くプレイヤーがいるということに誰も驚きを隠せなかったみたいだ。

 とは言ってもここに居るのはMMORPG自体がこのソードアート・オンラインが初めてというやつばかりでそういう風に考えているのはそうはいないだろうな。

 大体は単に身近に殺人者がいる……そういう認識かね。

 オレンジのプレイヤーなら食料調達とかの時に見かけることはしばしばある。大方俺らを中層プレイヤーと勘違いし、略奪を働こうとした馬鹿どもだろうが、その度《牢獄》送りにしてやっていた。

 オレンジならばこの状況から生き延びる手段として犯罪に手を染める気持ちも分からなくはない。普通のプレイヤーはそもそもが他のプレイヤーに攻撃することすら躊躇われる。そこを狙ってHPゲージをレッドに持ち込み、金品を強奪する。大体のオレンジはそのあとは放置だ、自分自身殺人者にまでなりたくないからだろうが。

 しかし、レッドともなると考え方からしてまず違う。あいつらは殺すために殺している。殺すことこそ至上の目的になっている。

 故にそんなギルドをのさばらせておいていいわけがない……だが。

 

「ま、そんなギルド、俺と旦那で急襲かければ余裕だろ?襲ってきたら逆ボッコだ」

「俺もそうしたいのは山々なんだが、そこのギルマスが“PoH”ときてる。今の俺の実力じゃ残念だが潰すのはほぼ無理だ」

 俺の言葉に過剰に反応したのは以外にもラフコフ潰そうと提案してきたカイのやつだった。

「おいおい、マジかよ……」

「大マジだ。事実、俺はあいつに一度敗北を喫している、認めたかねぇがSAOのトップ剣士の一人ってことはまず違いない」

「…………」

 場が静まり返った。まぁ自分達のトップがそんな弱音言やぁこうにもなるか。ギルドのリーダーとしては情けない限りだが、事実を伝えなきゃなんねえ。PoHが本格的に動き始めたって事は、殺人行動にも今までより更に拍車がかかるはずだ。

 

「って事でだ。俺はしばらく一人になる。その間はお前ら圏外に出るな」

「ハッ!?ちょっと待てよ!旦那が一人になるってのも理解できねえけど、なんでその間圏外に出るなって話になんのさ?」

「まぁ、殺されかけた以外の時に俺は一度あいつと会っていてな……、そん時に恨み買ってんよ。で、俺のギルドのメンバーってバレるだけで十分に危険と言える。ってな訳で圏外へは出るな。……とは言ってもこれに納得がいかない奴が、まぁいるだろう」

 当然、カイだ。まぁ、このホームの設定で出れないようにするんは可能だがぶっちゃけた話、ギルドから脱退すればそのルールは適用できない。ここで脱退されて、挙句以前俺の仲間だったからで殺されちゃ胸糞悪いってもんじゃねえ。

「つー訳で、さっき会議始まる前にディアベルに連絡しといた。攻略組のお前ら3人に限ってはディアベル率いる攻略隊に混ぜてもらいな。アイツなら滅多にパニクらないから信頼できるし、頭もキレる。問題はないだろう」

「……でも、だったらフレッドさんも一緒に行動したらいいじゃないですか。フレッドさんが一人になる必要は……」

「大アリだ。勿論シリカの言うようにずっとドラゴンナイツと提携してやっていくっつー手もある。だが、あいつには一度苦汁をなめさせられてんだ。俺個人としてあいつは潰さねえと気が済まねぇ、っつー訳でわかってくれ」

 俺はそこに限っては強く言わせてもらった。何より自分より強い明確な敵が居ながらに退くのは俺的に絶対にありえない。

 

 それを察してくれたのかコペルがまとめに入ってくれた。

「……まぁ分かった。とりあえずはそうしよう。僕達攻略組はドラゴンナイツと提携、食材班はしばらく活動休止、で生産班は聴いてる限りだといつも通り。けれどどんな理由があっても圏外には出るな、って事で合ってる?」

「OKだ。この内容はあとで各自他のメンバーに伝えてくれや。で、メッセージは届かないことが多いと思うが緊急時は録音結晶をギルドの共有ストレージに入れろ。これに関してはフィールドに入ってようが届くから問題はないはずだ。俺もこっちはなるべく見るようにするからな。じゃ、そういうことだ、また一ヶ月後に……!」

 俺は会議を強制的に終わらせ、ホームを出た。

 

 

 

第45層迷宮区

 

 さて、じゃ、一人になったからその特権を十分に活かすとしよう。

 まずは、対PoH戦用のスタイルを確立させること。それが最優先事項だ。

 しかし、アイツと会ってから既に半年か……、腹立たしいな、さっさと過去を清算したい。

 

 

 

 そもそも、PoHとは黒猫団に稽古を付けると言った数日後に出会ってしまった。

 当然の如く俺は別にそれまでにあった過去の殺人誘導計画の犯人を追っていたわけでもなく、普通に夜狩りに出ていた。それまでと違う事といったらその時に限ってカイがいなかったことだろうか。当然といえば当然なのだが、その日は30層のボス戦があった日で流石にその後の夜狩りは精神面で消耗が激しかったので俺が外出禁止を言い渡していた。

 

 そん時会った……てか見かけたのが、攻略組の一人の男性プレイヤーだった。彼は元々軍に所属していたのだが25層の軍攻略組より脱退を受けてソロへ転向した男だった。度々、攻略会議で顔を見たことがあったので間違いはない。

 名前は……聞かなかった。俺自身、そいつに興味があったわけじゃないから声をかける意味もなかったし、あっちはあっちでレベル上げに夢中だったようで俺がいたことにはそん時は気付いた様子はなかった。

 

 故に俺としてはいつも通りの夜狩りを行っていたのだが、開始後2時間程度経った時、大人の男の悲鳴が聞こえた。

 まぁ、こんな最前線近く……てか、その日にこの層のボスが倒されたばかりだから最前線て言って問題ない上に、そんな場所で夜狩りをするような馬鹿がそうそういるわけでもなくすぐにさっき見かけた男が声の主ということには気付いた。

 悲鳴が聞こえたということは既に手遅れの可能性も考えたが、まぁそれ聞いといて何にもしないってのも見捨てた感じがして気分が悪くなることは目に見えて……仕方なく、その声の元へと急いだ。

 そして駆けつけた時、見たものこそが先ほどの男とそれを襲うPoHの姿だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「何をやっている!」

 俺が襲っている男に声をかけると別段驚いてる様子を見せることなく淡々と語ってきた。

「Wow、これはこれは。Famigliaのボスのゴッドファーザー様じゃないか。見ての通り、ゲームさ」

「オレの顔も有名になったもんだな。で、ゲーム……ってのは?」

「聞いたままさ。強い方が生き、弱い奴が死ぬ。最もeasyなゲームだ。あんたも一緒にどうだい?」

「た、助けてくれ!し、死にたくない!!」

 襲ってる方の俺のようにフードを被ってるさながら死神のような風体の男は攻略組の男を足で踏み抑えながら俺ですら寒気を覚える言葉を平然と言ってのける。

 ……ここまではっきりしたPKに会うのはこの世界に来て初めてだな。今までこの世界で生きる為にMPKやPKをやる奴は見かけた。コペルがその例だしな。だが、目的そのものが殺人になってる奴は……俺の記憶にはねえな。少なくとも姿を見せてる奴の中にはいねぇ。

 目の前にいる男は言動から明らかだ。間違いなく殺しを目的とする真正のPKだ。

「まぁ遠慮しておこう。俺としては攻略組に死なれると困る。最前線の士気に直接関わるからな。そこのプレイヤー解放してもらえるかい?」

 形式上はそう言うが、捕まってるプレイヤーのHPゲージは既にレッドに到達している。正直、あのプレイヤーが助かるとは思ってない。

 だが、俺の予想に反してそのプレイヤーはすぐに解放された。

 

「へぇ~、割と聞き分けいいじゃねえか。どうしたんだよ」

「なーに、こういうことさ!」

「ガッ!!」

 俺のもとへ這いずりながら動いた瞬間、PoHが手元に持っていたソードスキルのライトエフェクトを纏った短剣をその男に投げつけ、ゲージを削りきった。

 俺自身その男に興味を持ってなかったことに加え予想外に簡単に開放したため拍子抜けしてたこともあって瞬間的に動くことが叶わず、目の前でプレイヤーが一人死んだ。

「Youみたいのは予想外なことが起きた方が、あいつを殺す上では障害が少ないと思ってねぇ。予想は見事的中したというわけだ」

 

「なるほど。まんまとあんたの術中に嵌っちまった訳か、情けねえ話だ」

 俺はそう言って目の前で十字を切り、死んでいったプレイヤーに黙祷する。

「ん?あんたみたいのは死んだら頭に血が上るタイプとでも思ってたんだが、どうやら違うらしいな。なかなか見所がある。どうだ、俺と一緒にこの世界を引っ掻き回さないか?」

「……ま、俺自身大層な主義や目的なんてもんはサラサラねぇよ。強いて言えばこの世界を楽しむ……それしか頭ん中にはねえ。だから別にお前と組んでこの世界引っ掻き回すんもありはありだろうな」

 俺がそう告げると目の前の男は嬉々とした口調で喋りながら、俺に手を差し出す。

「だったら俺達と来い。SAO(この世界)に最高にスリリングでエキサイトなショウを起こそうぜ」

 

 俺はその言葉を聞き終えると溜息をしながら差し出された手を取ろうとして―――払う。

 

「……なんのつもりだ?」

「スリリング、エキサイト……実に興味深い言葉だ、お前とはもっと前に会いたかったよ。だが非常に残念なことに今更になってギルメンを“裏切る”ことはできねぇからな。裏切りは俺の中で最も赦しがたい事だ。あいつらはこの世界から出ることが一番の望みらしい。だとしたらギルマスである俺が一番に裏切ることはダメだろう」

 

「Suck、お前も結局はそういう奴なんだな。SAO解放を目指す一介のプレイヤーでしかないんだったら用はない、ここで……消えろ!」

 俺の言葉を聞くと目の前のやつはこれまた俺と同じように溜息をしながら寒気のするような声で俺を罵りつつ攻撃をしてきた。

「おっと、危ないな。いきなり攻撃たぁ穏やかじゃないな。だったら俺も殺す気で行かせてもらおう!」

 

 

 殺し屋と戦闘を開始して既に明け方、空が黒から白へ移り始めてきた。間違いなく、こっちに来てってか人生で初めての戦闘継続時間になってるだろうな。

 しかし、正直に言って分が悪い。俺が使うのは勿論両手剣の《アルティマハイト》対して向こうは《短剣使い》と来ている。体捌きは俺も向こうもだいたい同じくらいときてるが、こっちは力、あっちは速さ……リーチこそこちらに分はあるが必然的に俺の方が防戦を強いられている。勿論普通の短剣使いなら何ら問題はなかった。だが、相手はそれこそ攻略組級の強さ、下手したらそれ以上だ。身近にいる短剣使いことシリカだってここまでの短剣捌きはできない。

 だからと言って、こっちが一方的に分が悪いわけじゃない。俺の的確なガードであいつも決定打といえる一撃は浴びせられていない。

 

 とは言ってもそろそろ疲れたな。決めに行くか!

 俺は奴の短剣を躱すと同時に剣を奴に向かって放る。それを当然奴は避けてくるが一時的にそれは俺の次の行動の目くらましにもなる。

「どうした!自棄にでもなったか!?」

「いや、勝利への一手さ!」

 俺の剣に一瞬目を引かれた殺し屋の鳩尾に回し蹴り《デュアル・スマッシュ》をHITさせアイツを吹っ飛ばす。

「くっ、やってくれんなぁ!」

「ふ、言ってる場合か?俺の攻撃はこれから加速するぜ!」

 俺は奴に跳躍の瞬発力で迫り体術の連続攻撃を奴に浴びせようとするが、流石に奴も反応し、奴の得物で防御をする。

 と同時に、あいつは俺に反撃の蹴りを見舞おうとするが俺もそれを足で対処する。

 

 だが、それが甘かった。

 俺がそれに対処しようと目を一瞬奴の手から離した瞬間、俺の肩に不快な感じが走る。……斬られたか。

 ここで俺は自分のミスに気づいた。体術対短剣、スピードではこちらに分があるが、防御術の多様性に欠ける。

 さっきまでは両手剣で完全にガードできてた攻撃が無刀になったところで、武器による防御ができない。必然的に防御は体でいなす形を取らなければならないが、ダメージが両手剣の比ではなく多い。

 ここは仕方ない……、少々危険だが肉を切らせてでも、骨を断つ。

 俺は向かってくる奴の剣をあえてよけずに突っ込む。胸に違和感が走るが俺自身も奴に単発重撃《掌撃破》を放ち奴を前方へ吹っ飛ばす。

 俺はすかさず跳躍フルブーストで奴に特攻を仕掛ける。右手にある指5本をまとめて伸ばす。この構えはゼロ距離重撃《エンブレイザー》相手のゲージはやっとイエローになったといったところだが、首にHITさせれば俺の筋力値も加味して殺すことができる。

 

 これが決定的なミスとなった。

 

 奴は吹っ飛ばされた体を即座に戻し、俺のライトエフェクトに包まれた手刀を躱しその先にある肘を掴み、一本背負いのごとく俺を足元に転がした。

「が……はっ!?」

 投げ落とされた次の瞬間には俺の直感が危険を伝えていた。目を開けるとそこには奴の得物のどす黒い刀身が俺の視界を占領していた。

「Gaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 戦う前に茂みに隠れていたレオンから咆哮が聞こえた。この声のパターンは自然操作“ネイチャー・コール”。多分、俺と奴の間に木を生やしてくれようとしたんだろう。このネイチャー・コール成功率こそ低いがここ一番って時には失敗した試しはない。故に俺もそこで安心して次の手に出なかったのがまずかった。

 一瞬後何も起きなかった事で発動の失敗に気づいた俺は脳に右に勢いよく転がれという命令を送りアバターもそれ通りに動くはずだった。だが……

 

(動かない!?)

 

 体が思った通りに動かなかった。今までこんなことは一度もなかったというのに、だ。

 多少動きはしたがこの程度じゃ……やられる!!

 

ザシュッ

 

「がぁあああ!!」

 気合を込めできる限り自分を動かしたが、それでも足りなかったみてぇだ。左肩から先の感覚がない。先ほどの脳に命令した信号が今更になって届いたのか、俺は右に勢いよく転がっていった。その後、左肩を見ると切断面から血のように鮮やかな紅の光が漏れ出していた。部位欠損……そのアイコンが俺のゲージに現れていた。

 やべぇな……これじゃ体術を使うことはできても奴の短剣乱舞をいなすことはできやしない……、いなすことに集中しても攻撃できなきゃなんの意味もない。仕方ねぇ、不本意だが……ここは退くしかないな。俺はさっきレオンの声が聞こえた茂みの方へ後ずさりしながら奴を見据える。

「Hey、腕が片方しかなくなっちまったな?お前はそのまま四肢を全部切断しててめぇのギルドの前で晒しもんにしてやるよ。尤もその前に死んじまうだろうがな」

 悪趣味な!と思っても声には出さず、後退りを続けながらポーチの中からあるアイテムを掴む。

「結晶で逃げようとしても無駄だぜ?ゴッドファーザー。ここは結晶無効化エリア……俺がわざわざこんなところでPKをしてるのもこのエリアだからこそだしな。じゃあ、そろそろ……死んどけ!!」

「ごめん被るわ!!ハッ!!」

 死ねと言われて死ぬ奴なんざそうそういるもんじゃねえ。無論俺も()はその一人だ。ポーチからさっき掴んだアイテムを取り出し地面に投げつける。と同時にレオンがいるであろう茂みに跳びつき、俺の感通り、レオンをキャッチした。

 俺が投げたアイテムは地面とぶつかって破裂した瞬間、あたり一面を煙で覆い尽くした。煙玉、それが俺がさっきポーチから掴みだしたアイテムの正体だ。

「チッ、目くらましか……。ふざけた真似しやがって!!」

 これであいつは俺を追うことができなくなった。俺は即座に隠蔽最大をレオンに命じて茂みに身を潜めたからだ。

 そして茂みの中から奴の様子を伺うと煙が晴れた場所から殺人者の姿は消えていた。その代わり不気味な声が辺りに響き渡った。

「……まぁいい。俺はPoH、殺される覚悟ができたなら再び前に現れるがいいさ!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あぁ、クソ! 思い出しちまったらなんだか腹が立ってきた!!」

 目の前に現れていた身の丈2mぐらいはありそうな獣人《ミディア・オーク》を3連重撃《スパークギロチン》で半ば八つ当たりに近い感じで消し去る。

 

「クッ、この前の俺の失敗したところが分かっているのになんで攻略法が思いつかねぇんだ。腹立たしい!!」

 この前俺が負けた原因は分かっている。あいつ相手に両手剣ではなく体術で攻めてしまった点、そして所々にあった油断だ。

 俺はあの時確実に勝てるっつー根拠もない自信があった。だが失敗してみて分かった。あれじゃ俺はPoHに勝てない。両手剣では決定打を与えるのはほぼ無理、だからといって体術にすれば防御する術を失いジリ貧。俺の攻撃系統のスキルは主にこの二つだ。つまり、このままじゃ俺に勝ち目は……ない。

 だが、あいつ相手に付け焼刃な武器は意味ねぇ、手詰まり感が半端ない……はぁ。

 

 それに、だ。あの時以降たまに出る謎の動けなくなるバグ……感情が昂った時に出やすいみたいだが、アレも戦いの中で出たら致命的だ。つっても、それがシステム的なバグなら一介のプレイヤーでしかない俺がいくら考えてもどうしようもないこと……か、はぁ。

 

 

 そんなことを考えている俺の目の前に再びMobがPOPする。このエリアでは最強と言っても過言ではない《ネオ・サイクロプス》とは言ってもこのエリアのMobは俺の中では全部雑魚に等しい。

 このエリアに来たのはスピード系の人型Mobが出、PoHの戦闘練習できるからと踏んだんだが、どうやら当てが外れたな。

「さて、一つ目野郎。俺は今非常に腹が立っている。そんな俺の前に現れたこと、後悔させてやるぜ!」

 俺は口上の最中に迫っていた敵の拳を躱しすれ違いざまに真一文字の斬撃を当てる。俺の攻撃はそれだけでは終わらず斜めに切り上げる。それでもサイクロプスは拳で俺を叩こうとするが俺の3擊目がそれを妨害しつつ、全斬撃でAの字に斬りつける。両手剣用3連擊《スラッシュ・エース》。その瞬間、サイクロプスの両腕を体から切り離し、ポリゴン片へと変える。

 サイクロプスは悲鳴を上げながら、尚も俺に向かってくる。……はぁ、全くしょうがねぇな。潰すか!

「そんな体になってまで俺に刃向かう度胸、買ってやるぜ!はぁあ!」

 繰り出すは俺の十八番《ジェットライナー》、その剣先は奴の心臓があると思わしき場所を一突きにし、最後にデータの欠片となって消え去る。

 

 消え去ったのを確認すると俺の前にウインドウが現れる。レベルが70になったことを知らせるメッセージだ。

 そういえば最近ステータスを開くことがなかったな。たまには新しいスキルでも入れてみるか。勿論少しでもPoHに対抗できるようなモノを。

 俺がスキル選択欄からどんなものがあるかを順に見ていくと一番下にあったスキルが目に止まった。

 

 そのスキルこそ10層で噂になっていたユニークスキル《豪大剣》だった。

 

 




さて、やっと名前だけ出せました、《豪大剣》。
今回の話、詰め込み感が半端ないんですがそこはご了承願います。

次は……はい、課題の集団戦闘、五十層ボス戦になると思います。

ご感想・ご意見・アドバイス等々ありましたらぜひぜひ感想欄までお願い致します。
今回はこのへんで……ではでは!


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第二一話 ~千手の鉄塊~

あぁああああ、ネタが思いつかない!

どんどん更新速度が遅れている……

まぁ愚痴はさて置きとりあえず新話どぞ~!


キリトside

 

2024年1月31日

第50層主街区アルゲード広場

 

「では、第50層ボス攻略会議を始めます。攻略指揮は私、血盟騎士団副団長アスナとヒースクリフ団長が務めます」

「よろしく」

 

 このデスゲームが始まって一年と約二ヶ月、遂にハーフポイントか。

 2番目のクォーターポイント戦だけあって今回ボス戦に集まってくれたプレイヤーは俺達“月夜の黒猫団”含めて2レイド分、つまり96人集まっている。

 前回のクォーターポイントは“軍”が主導してその“軍”のプレイヤーの多くが命を落とした。故にそれを警戒して攻略組からも何パーティーかは攻略に参加しないと思ってたんだけどそういったところは少なかった。唯一、今までのボス戦でほぼ出席していたフレッドがいないというのを除いてはいつもどおりな感じだ。

 

 今回ボス戦を主導するKoBからヒースクリフ団長がまとめる防御部隊のA1,A2班、アスナがまとめるダメージディーラー部隊のA3,A4班、ディアベル率いるドラゴンナイツとFamigliaの攻略隊3人を加えた混成部隊のA5班に、集まったソロだったりギルドを組むまではいってなくても友達同士だったりといったグループの中でも防御に特化したプレイヤーで構成されるA6,A7班にクライン率いるギルド風林火山のA8班。

 そしてもう一レイドから今回最大規模で攻略に参加するホーリーセーバーズよりギルドマスター・ブランシュがまとめるB1,B2,B3のダメージディーラー部隊に防御部隊のB4,B5班にソロ友達連合の中でもこっちは攻撃主体のB6班、今回から新規のギルド“プロメテウス”のB7班に俺達月夜の黒猫団のB8班という構成だ。

 作戦としてはA班全体で防御且つ戦闘モーションの確認を行い、A班が回復時に全体でのスイッチ、次いでB班がその情報を元に攻撃主体の攻略を行うという手法だ。

 

 今回の相手は《THE Iron of Thousand Hands》……千手の鉄塊と言ったところか。偵察班の調べだと見た目は金属質の千手観音みたいなやつで武器や取り巻きは無し、攻撃方法はその多腕から繰り出されるラッシュ攻撃が主、バーは3段と少なめ。

 今回の偵察には二回目のクォーターポイントということもあって回避主体のメンバーで行われ死者は出さずに済んだが、逆に強いはずのボスに25層のボス時のような特殊な攻撃が当然無い訳はないだろうということでそこに若干の怖さはある。

 

「どうした、キリト?ビビってんのか?」

 と思っていたところで横から考えを中断させる声が聞こえる。

 俺が所属するギルド月夜の黒猫団のシーフことダッカーからだ。

「まぁ近い感じかな。ここ50層はハーフポイントだ。ボスも何らかの特殊能力があるべきだと俺は思ってる。だから今回は必要以上に警戒して臨んでもしすぎって事って思ってたところだよ」

 

 俺の言葉にリーダーのケイタがうんうんと頷いてつなげてきてくれた。

「確かに。僕達は25層のボス戦は聞き伝でしかないけど大変だったって話は聞いている。十中八九クォーターポイント毎に特殊なボスがいる、となればこの層でも何かあるってのは確かだと思う」

 25層ボス…叫びの鍛冶師と名付けられた今まで戦ってきた49体のボスの中でも最悪の能力を持っていた奴だ。総合ステータス的には力が強いってだけで前半は大したことないやつだと思っていた。だが、後半になってそのボス戦で死んだ者の声を使ってプレイヤーを精神的に攻撃を躊躇させるという技を使ってきた。声が聞こえるということはもしかしたら助けられるのかも?と言った誘惑に負けたプレイヤーを次々と屠り史上最大の死者数を出した、今でも寒気のするボスだった。結局そのボスを倒しても声の主達は帰って来ず、生命の碑で死亡が確認された。

「まぁそういうことなんだ。俺達はB班に所属しているからA班の動きを見てから討伐に臨めるけども、ゲージが一段減る毎に、っていうレベルで警戒して攻略するべきだと思う」

 

 黒猫団の皆が首肯すると、中央から再び声が上がった。

「では、これで攻略会議を終わります。明朝10時よりこの層のボス《THE Iron of Thousand Hands》を討伐に向かいます。各自最善の装備で挑んでください。一時解散」

 

コペルside

 

「はぁ……、あの人ホンット自由だな。一応50層攻略戦やるよってメッセ送ったら『お前らで進めててくれ。まだスタイルが確立してねぇんだ。不安だったら攻略戦サボれ』だもんな……はぁ」

 今日何度目かもう覚えていないため息を吐きながら愚痴をこぼす。今日は50層ボス攻略戦だというのに僕らがリーダー様は未だ帰ってこない。理由は今言ったとおりだ……はぁ。

「まぁフレッドさんの自由癖は今に始まったことじゃないんですけどね。でも49層ならまだしも50層までとは……」

 そうなのだ。シリカの言う通り、フレッドがギルド出てから49層のボス攻略戦もあり、その時もメッセを飛ばしたのだが、今回と似たような文章が返ってくるだけだった。まぁ、49層は特に問題ない攻略だったので気にしなかったんだが、第二のクォーターボス戦すらサボるつもりとは……

「まっ、それだけ旦那も俺らの実力信頼してるってことだろ?実際俺は超強ぇしな!」

「いい加減、その癖治したらどうだい? カイ。フレッドも似たようなトコあるからいつか言おうと思ってるんだけど、その内痛い目見るよ」

 うん、普通はそう思うよな……、まぁフレッドに関してはもう無駄だって分かってるから絶対言わないけど。カイはそういう意味の分からないトコばっかりフレッドに似てきてるからある種心配ではあるんだけど。

 

 一応、釘は刺しておくか。

「ディアベルの言うとおりだ。今回はクォーター戦……細心の注意を払って挑むべきだ」

「はいはい、何度も聞いてますよ。だけどさ、実際注意を払って戦闘しても杞憂に終わることがほとんどじゃねぇか。前のクォーター戦も大して強かなかったしさ」

 注意を払って……ってカイがそんな事してた記憶ないんだけどなぁ。大抵異様なハイテンションでフレッドと一緒にボス戦で暴れてた気がするんだけど?死者が出ても気にした様子一切なかったよな?

 しかしここまで来るとあとはフレッドと一緒だ。何を言おうとスリルだのそれが興奮するなどと言い結果、説得不可能になる。この時点で僕は説得を諦めた。ボス戦の前に余計な体力は使いたくない。

 

 非常にタイミングが良いのか悪いのか、僕達50層攻略隊はちょうどボスフロアの前に到着した。それのおかげもあってこの話を中断できたことは僕の精神的にはプラスだろう。どうせ聞き入れないんだから話を引き伸ばすだけ無駄、だけどきっかけがないと終らせづらかったからね。

 

「では、これより50層ボス“THE Iron of Thousand Hands”討伐を開始します。攻略方針としては会議で決めた通り、基本は各小隊のリーダーの指示に従って行動。まずはA隊が先行、次いでA隊回復時B隊が全体スイッチこれの繰り返しで討伐を目指します。最後に私から一言……勝って生き残りましょう!」

 アスナさんの言葉に集まったメンバーが皆頷くとそのまま彼女がボスフロアの扉を開ける。まずは僕らA隊がボスに突撃する為に構える。そして扉が開き切った瞬間、A隊総勢48名が部屋の中になだれ込む。

 

 部屋の奥、妙に銀色に輝く物体が確認できる。見た目は前情報通りというより名前の通り千手観音を模した、だけど顔がリアルの千手観音像のように穏やかなものではなく、まるで聖域を侵した侵入者に対して激怒しているかのような、正に鬼の形相と言うのが正しいだろう表情をしていた。

「行くぜ!仏様よォ!!」

 僕の横にいた筈のカイがいつの間にか消えており前を見れば、大声を出しながら突っ走っていく。……はぁ、まぁ分かってたよ。

「3班、4班!彼に続きます!1班2班は援護の準備をお願いします!」

「了解した」

「俺達も行くぜ、風林火山出陣だァ!!」

「「「おぉおおおおぉ!!!」」」

 さて、他のグループもカイに釣られて動き出してるな。僕らも行かないとサボってるって思われるな。行きますか!

「僕がカイのサポートに回る。この前と同じでコンビ組んで挑もう」

「分かった。リンド、君は僕と。シリカちゃん、君はゲイズとコンビを組んで一気に叩くよ」

「「「了解(です)!」」」

 

 この流れが終了するまでに既にカイがもうボスの前にまで移動している。あいつ自身は動かないようでフロアの奥に堂々と座っている。まぁこの世界では100m全力ダッシュしたところでカイが疲れるような事象は発生しないけど、いつもこの調子でよくもまあ注意を払ってるって言えたもんだな……、少しはサポートする方の事も考えて欲しいもんだよ……

「最初はこんなんどうよ!《サイクロン・ゲイザー》!!」

 カイの発動した剣技は仏像の足元を切り裂きそのままボスの後方まで走り抜ける。

 しかしちょっと驚いたな。ここでサイクロン・ゲイザーとは……

 あの《剣技》は頭上で武器を水平に回転させすれ違いざまに5HIT浴びせる連撃技だが威力は並の剣技程である。しかしアレの最も特筆すべき点は攻撃後の隙のなさである。攻撃後もしばらく惰力で回転し続ける武器は攻撃判定を持ち、硬直が解けるまで回り続ける。格好良くはないが優秀な技である。あいつ自身は優秀でもカッコがつかない技は基本避けるのに……多少は注意してるってのもあながち嘘じゃないっぽいな。

 僕のサポートが間に合わないと判断しての選択だろうな。

 

 いつもどおりの先制攻撃を当てもっとテンションがハイになって振り向くと思ってたカイの表情はしかし優れたものではなかった。

「……めっちゃ硬ぇな。俺の使うスキルん中でも大して威力無い技だけどよぉ……、1ドットたりとも減らねぇってのは正直予想外だわ」

 表示されているボスのゲージを見ればなるほど、確かにまだ僅かな隙間すら空いていない。……こりゃ厄介だな、今までではカイの先行アタックは大なり小なりダメージを稼ぎ同時に攻略隊に倒せる相手だと知らしめていただけに士気が若干下がってるのが雰囲気で分かる。

 

 僕はカイをサポートできる圏内に入ると、全体に呼びかけた。

「確かに硬い、だけどこういう敵は大抵どっかに弱点がある!まずはそこを探そう!それ以外は今のを見てわかったと思うけど《剣技》を使っても無駄撃ちで終わる可能性が高い!」

 思い出したくもないが一層のブロッカンしかり、この世界の硬いやつってのはどこかしらに弱点がある、あいつであれば普段は隠れてる底面だった。

 ホントはこういうのはフレッドの役目な訳だがないものねだりをしてもしょうがないので僕が全体に言う。

 この一年とちょっとの間で一応攻略組としての顔も立ってきたようで、キリトの《黒の剣士》やフレッドの《ゴッドファーザー》のような二つ名こそないが(もらおうとも思わないけど、あんな恥ずかしいの)ある程度の信頼はあったのか、見える限りでは割と頷く姿が確認できる。

 

「1、2、6、7班は前方から敵の目を引きつけつつ攻撃に参加。それ以外はなるべく敵の目に当たらないように各所を攻撃、弱点の捜索を行ってください!」

 僕の言葉を受けてなのか、隊全体の攻撃態勢を完成させたアスナさんが指令を出す。その時、僕の隣に一瞬寄り「ありがとうございます」と短くつぶやいた後、攻撃に参加していった。

 ……はっ、余計なこと考えるな!そんな暇あったら集中集中!

「ディアベル!僕とカイは前方の戦線に参加してヘイトを稼ぐ。そっちはどうする?」

 わずかに湧いた煩悩を頭の奥底にしまいこみ、近くにいたディアベルと話す。

「分かった、僕も正面に行こう。リンド、ハフナー、シリカちゃんは後方から弱点と思わしき場所を狙って突いてくれ!」

「「「分かりました(了解)!」」」

 その声を合図に僕らは各持ち場に散開する。僕はカイのサポートがあるのであいつの傍に、ディアベルは前方からの攻撃隊とは別の方向から攻撃して仏さんを錯乱するみたいだ。

 と、考えていたとき、カイから声をかけられた。

「コペル!今から派手に広範囲攻撃やるからサポ頼むぜ!」

「あ、待て……」

 ったく、ほんとに話聞かない奴だな。

 アイツがジャンプで上行って、広範囲って言うと……アレか。だったら!

 僕はカイの着地に備えて予想点より若干後方に待機する。ぎりぎりスイッチが届く距離だったら僕の負担はあるが大したことはない。

「行くぜ!《旋風独楽(つむじごま)》!!」

 カイの発動した技はジャンプで到達した所から着地まで上下広範囲に最高で十連撃を浴びせるあいつの好きそうな見た目が異様に派手な水平回転斬りだ。しかもその一つ一つが単発のカタナスキルより威力が高いというおまけ付きなので派手だけじゃなくてボス級のデカさを持つ相手なら全段HITさせられるから威力ももちろんある―――ハズだったのだが。

 

「おいおい、いいかげんにしてくれよ!全段HITでも全然効かねぇってどういう硬さしてんだ、コイツ!?」

 見れば、確かにほんのちょっと削れてはいる、だが他の攻撃部隊と合わせてやっと2,3ドット削れた程度だろう。

 

ガガガガガガっ

 

「くっ!!」

 重い!カイと奴の間に潜り込んでガードしたはいいが今までで一番衝撃が来たのは間違いない。カウンター用に利き手の槍は《剣技》の準備をしていたのに完全に潰された。一発一発がそれなりのボス並みにある上にそれが連打となるとタンクにはきついかもしれない。

 しかしカイを狙ってきてるってことはやっぱり一人一人じゃカイが一番ヘイトがあったって事。言ってしまえばまだ誰も弱点を攻撃できてないと……

 

 その時だった。

 

「Gugyaaaaaaaaa」

 目の前の怪物が自分の腕の一つを痛がる素振りを見せ、若干だがのけぞった。体勢を立て直しつつあったボスの怒れる視線の先にはディアベルの姿があった。

「皆、聞いてくれ!あいつの弱点は外殻の裂け目だ!よく見れば、あいつの拳には亀裂が入ってる場所がある。そこを的確に攻撃すればダメージを稼げる!!」

 奴のゲージを見れば一割とまではいかないにしろ確かにさっきまでの攻撃部隊の連撃をたった2,3ゲージで済ませてしまったことを考えれば明らかと言って差し支えないだろう。

 

「ダンナ、ナイスだぜ!弱点が分かっちまえばこっちのもんだぜ!」

「とは言っても、動体視力が試されそうだな。今までのボスならまだしもこいつは50層のボス、あの拳一つ一つに弱点があるって訳じゃないだろうし……、どっちにしろ調子に乗んのは早いぞ、カイ」

「わぁってるって!どうせ、ゲージが減ってきたら攻撃パターン変わるだろうって思ってんだろ。だったらそれまでは存分に殴れんじゃん?ぶっ潰すぜ!」

 

 ……まぁ確かにここでいくら言っても無駄か。じゃあ、僕もパターン変わるまではカイのサポしつつ、日頃のカイやフレッドに対する鬱憤をこの仏様にでも晴らしてもらおうかな、八つ当たり的な意味において。

「……コペル、今心の中でめっちゃ失礼なこと考えなかったか?」

「さぁ、どうだったかな?戦闘に集中してるせいでそれ以外のことなんて全然覚えてないや。もし、そう思ってるんなら目の前の仏さんにでもぶつければいいんじゃない?」

「チッ、まぁいいや。それは確かにグッドアイデアだ。じゃあ、宣言通り存分に―――」

 カイの目の前に拳が見えているが僕は動かない。あいつも迎撃態勢に入っているし、僕の目にははっきりと奴の拳に亀裂が見える。

 そして拳がカイにぶつかる瞬間両薙の刀身が光り、次の瞬間にはボスの方が大きくのけぞるという傍から見れば訳の分からない事象が発生した。

 あの技は《カウンター・ブラスト》2連重攻撃、名前から分かる通りのカウンター技だ。振りが速すぎてどういうことにってるかは定かじゃないが、弱点を的確に攻撃できなきゃあそこまでのノックバックは発生しなかっただろう異様に見極めがシビアな技だ。

 そして攻撃が終わった後にカイがこれでもかっていう程の笑顔でボスに向かって告げた。

「ぶっ潰す!」

 

 この仏さんを攻撃し始めて10分、B隊とスイッチすることもなく、最初のゲージが削れ奴が咆哮をあげた。




ちょっと中途半端かなって思ったんですけどここで一旦区切ります。

フレッドがいない中での討伐戦展開です。相変わらず集団戦闘が苦手です。まぁ、だからって他の描写が得意とかってわけじゃないんですが、中でも一番きついのがこれだと思います。

原作だとこの層にてヒースさんの《神聖剣》の件も入れないといけないわけで、難しいな……

三月中にもう一個あげたいなと思っとるんですがネタの思いつき速度が落ちに落ちている今の自分でどこまで早く書けるか本気で分かりませんが、生温かい目で見守っていただければ幸いです。

ご感想ご意見アドバイス等々ありましたらビシバシと言ってやってください。
今回はこの辺で……ではでは!


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第二二話 ~執念~

お気に入り300件突破いたしました。
とは言っても自分の分の質によっては下がる可能性もありますが、ありがとうございます。
これからも良ければ私のSAO世界を楽しんでいただければと思います。
さて、前置きはこのくらいにして新話どぞ~!


カイside

 

 ま、ゲージが少ないから予想はしてたけど、コイツは一ゲージ減る毎にパターン変えてくるヤローか……面白ぇ、このままB隊にスイッチさせないまま勝ってやんよ!

 しかしさっきから思ってたんだけど、コイツ全然動かねぇな……肩から背中にかけて生えてる腕は気持ち悪ぃくらいずっと動き続けてんが体の方は弱点突かれた仰け反りの時以外のリアクションが全くない。正直気味が悪い。

 

 他の攻撃隊が又弱点を攻撃したことでボスがノックバックを起こす。その隙にでけぇ攻撃を叩き込んでやろうと思ったが急停止をかけた。なぜって明らかにさっきまでのノックバックと度合いが違う。こいつぁノックバックの行動にカモフラージュされた……ブレス!!

 

 ホントなら吸収してそのまま大ダメージを狙いてぇが、コペルやディアベルのダンナから嫌ってほど注意しろって言われてんから一回は見させてもらうか。

「てめぇら!そいつァブレスだ!避けるかガードしねぇと危険だぞ!!」

 今の俺の脳裏にあるのは25層のボスのブレス。俺自身は別にどうってことなかったが他の奴らの戦意を大いに削ぎ落としてくれたあの特殊攻撃。今回も何かあんなと踏んで一応声はかけたがどん位聞くことか……

 攻撃態勢に移っていた連中の内、俺に近かった数人が一気に回避もしくはガードの態勢に移る。そして声が届かなかったらしい連中にも横目でそのことが見えたのか次々と攻撃態勢から移っていくが、やはり全員には伝達しきらず、ボスの目が光ると同時に奴の口から灰色のブレスが発射され、攻撃態勢に入っていた数人を巻き込んだ。

「やっぱ、ブレス攻撃だったか……今回はどんなとんでもびっくり能力がついてるやら……」

 まぁ、ウチの連中から言われてる通りただで済むってことはねぇだろう。ただ単に威力の高いブレスだったら何回もボス戦で見てるし、デパフ能力付加なんてのも割と見る。なんせ2層の時点でサンダーブレス吐いてくるような奴がいるからな。インパクト的には25層のやつの特殊能力上回ってもらわねェと面白くねぇな。

 

 んなこと思ってるとコペルが横から話してきた。

「へぇ、ちゃんと注意して戦闘してるってのもあながち嘘じゃないみたいだな。一瞬でのけぞりとブレスの初動の違いを見極めるまでならいざ知らずブレス攻撃を吸収してたたっ切ろうって考えなかったのは正直驚愕だよ」

「はん、当たり前だろ、なにせ俺だぜ?あの程度のカモフラでごまかせると思ったら大間違いだぜ。それにいくら楽しいからって死んじまったらその楽しみも減っちまうからな」

 俺が得意げに話してやるとコペルの奴は「あぁ、いつものカイで安心したよ」と失礼なことを言いつつボスの方を向いた。

 まぁそろそろ煙幕切れる頃だしブレスの効能も分かんだろ。いつまでもコペルと論争してるのもバカバカしいしな。

 

 煙が晴れかけてる所を見るとゲージは見える……って事は即死系のブレスじゃあねえ。だけど、チョイ妙だな。HPゲージはブレスの攻撃判定はとっくに終わってるはずなのにまだ緑……もっと言えば全快なんて奴のも見える。……ってぇっと特殊能力に偏ったブレスか。

 完全に視界が開けたあと、俺の目にゃ何人かのプレイヤーは確認できたが、そいつらは全員ガード状態だった。だが、問題はガードか回避ができなかったやつだ。

 プレイヤーの形はある。少なくとも前みたいなオカルトチックな能力じゃねえ。むしろ[魔法の排除された世界](SAO)だからこそ今まで見なかっただけでRPGじゃかなり一般的なデパフだ。プレイヤーの体こそあるがそこに色はない。強いて言っちまえば灰色で統一されている……そう、石化だ。

 大抵のRPGはその効果を魔法でやっちまうもんだから全然意識してなかったが、よくよく考えりゃそんなこたァなかったな。2層ボスのサンダーブレスだったり属性攻撃なんてのがあんだ。敵さんには魔法チックな攻撃があったとしても不思議はねぇわな。

 だが、50層ボスの能力としてはお粗末すぎんな。確かに麻痺なんかとは比べモンになんねぇくれえのデパフだが今の流れで弱点が分かった。一つはガード出来ちまう点、当然ガード不能ならガード体勢のやつだって石化してるはずだがそんなことはなく今も石化しちまった奴に話しかけてやがる。第二もあったんだがその可能性はすぐに潰された。

 

「ぎゃあああああ!!」

「うわぁあっ!!」

 石化しちまった奴らを心配して近寄ってきた奴らにボスの拳が連続で降り注いでいく。当然石化した奴らの近くにいたプレイヤーを襲っているのでもちろん石化したやつらにも当たっていく。

 ……っつーことは。

 

 石化したプレイヤーに拳が当たった途端、そのアバターは粉々に砕け散り数瞬後に今度はポリゴンの欠片となって消える。

「なるほど、石化の扱いは鬼畜仕様か……。一回でも石化状態で攻撃に当たればブッ壊れてゲームオーバーか。これなら25層よりムズくなったって言ってもいいかもな。

 

 だけどよ―――

「皆、聞け。石化攻撃は脅威だが、ガードしたプレイヤーには効いていない!!だったら盾を装備したプレイヤーと攻撃部隊がセットになればさほど恐るべき攻撃じゃない!取り乱すな!!むしろそっちのほうが危険だ!!」

 ダンナに俺が言いたかったこと取られちまったな。

 

 だけど、その言葉を聞いても石化というデパフを見た連中の騒ぎは収まらなかった。ダンナの影響力をもってしてこの程度じゃ俺が言ったところで効果は更に薄かったな。っと考えてる場合じゃねぇな。行くぜ!

「オラオラ!デカ物、てめぇの相手はこっちだろーが!!俺相手によそ見してんじゃ、ねえよ!!」

 

ガッキぃイイン

 

「(クッ、硬いのは相変わらずか……)」

 ボスを振り向かせようと俺が放ったソードスキルは10連撃《旋風独楽》全HITでさっきはダメージを食らわせ今回もヘイトを稼げるはずだったが、微動だにしねぇ……硬さにさらに磨きがかかったんか?

 

「チッ、これでもダメとなるとやっぱり弱点への精密攻撃が必要か……、っておい!そんなトコ突っ立ってるとやられるぞ!!」

 俺の目に止まったのは風林火山のメンバーだ。ボスはボスでそいつを狙ってるらしくブレスの準備中だ。にも関わらず動く気配がない。ったくコイツも他の奴と一緒で放心してんのかよ。

 っつっても今俺はソードスキルの硬直時間中だから動けねぇ。やられたな。

 

 だけど、現実にはそうはならなかった。ヒースの旦那が間に入ってブレスをガードしプレイヤーを守っていた。

「B隊スイッチ!!A隊は即座に後退!!戦闘の邪魔にならない所に石化したプレイヤーを発見したら連れて退避せよ!!」

 ヒースの旦那のセリフに触発された数人が行動を開始した。近くにいる放心したプレイヤーに声をかけ現実に引き戻す。次いで後を託されたB隊が部屋へなだれ込んで我先にと言わんばかりにボスを攻撃する。

 もうちょい戦いたかったが、仕方ねぇ。ここは大人しく下がるか。

 俺はちょっと離れたとこにいた件の風林火山のプレイヤーを連れてボスの部屋を出た。

 

キリトside

 

 ヒースクリフの合図と共にボスの部屋へなだれ込む。

 さっきまでの戦いで最も注意することは石化のブレス攻撃だろうな。だけど一回見た限りではブレスは直線状、的確にガードできるプレイヤーと協力しながらなら大したことはない。

 

「セイントセーバーズの諸君、我らの力を誇示する時だ!!私に続け!!」

「「「おぉおおおおおおお!!!!!」」」

 ……まるでそれ以外はおこぼれでも拾っててくださいと言わんばかりだな、ブランシュの奴。まぁあっちがそのつもりならこっちはこっちで独自に戦おう。

「ケイタ、A隊の戦いぶりを見るにディアベルの提案した戦法が有効だと思うんだが、どうする?」

 俺に振られたケイタは少し迷った後、ギルド全体に言った。

「そうだな。班は僕とテツオ、サチとキリト、ササマルとダッカーの組でいこう。皆異論は?」

 当然あるべくもないというように皆首を横に振る。俺は俺でクリスマスの時の指揮ぶりを見て心から任せられると思うし、作戦通りガードのできるサチ、テツオ、ササマルが振り分けられている、問題はない。

「よろしく、キリト」

「こっちこそ。じゃあ、行こう」

 

 A隊が残した情報によればあの異様に多い腕のどこかに亀裂がありそこが弱点。それ以外は大して攻撃が通らない、と……

 確かに戦いにくい相手かもしれないが、弱点が明確ならそれなりに戦い方もある。

 連続技に拘らず、単発技をちょっとした隙に入れていけばそれだけでもダメージは入る上に、ブレスも含め攻撃は全てが単調な直線状攻撃でガードが可能だ。

 それだけじゃなく、今は頼れるパートナーがいる隙の大きい攻撃を出してもカバーしてくれるサチ(仲間)もいる。負ける要素はない。

 

「サチ、スイッチ!」

「了解、キリト!」

 俺の《ヴォーパル・ストライク》の閃光が亀裂の位置を完全に捉え、遂にボスのHPをイエローゾーンまで追い込んだ。

 そして狙い違わずボスをタゲした俺に向かって流星群の如き拳の連撃が俺に降り注ぐが、それをサチの金属製の盾が防ぐ。流石にどちらもノーダメージとまではいかなかったが、直撃するより大幅なダメージカットでどちらも最大HPの一割ほどが減少する。そして、俺の方は更に戦闘時回復により10秒毎に350の回復があるからポーションを飲むほどのダメージじゃない。

「それ、バトルヒーリングだよね。ダメだよ、あれって熟練度上げるの危険なんでしょ?」

「まぁな。だけど、コツを掴んだら上げるのに危険は大してないさ。それにソロで攻略してた時は大ダメージを受けるなんて日常茶飯事だったからついでに習得してただけだよ。サチ達と一緒に行動してからは大して熟練度上げもしてないから次の機会にでも新しいスキルと入れ替えるさ」

「……それなら、いいけど」

 俺のHPゲージを見てたのかサチが心配そうに俺を諭す。そもそも、ボス戦、強いて言えばこのSAO、フィールドに出てしまえば安全なことなんかひとつもない気がするんだが……

 まぁ、俺自身このスキルはギルドに所属している現状必要なくなったスキルなのであくまでオマケとして付けていることを伝え、場を収める。

 

「ブレス攻撃が来る!全隊ガードもしくは回避態勢に移れ!!」

 前線にいたメンバーから通達が入る。それを聞いていた俺は攻撃終了後のサチの目の前に入り防御体制に入る。盾なしといえど各種ソードスキルの中には防御に特化した技も存在する。

 俺は自分の片手剣を目の前で回転させソードスキルを発動させる。ソードスキルのライトエフェクトも相まって光の盾を形成しブレスを防ぐ。片手剣防御剣技《チェルキオ・ディフェーザ》物理属性の攻撃には弱いがブレスのような特殊攻撃には滅法強い防御技だ。

 

 ……ちょっとまずいな。俺達B隊に俺とサチはブレスを防げたがどうしても長時間の戦闘になると連携が崩れてくる。今もブレス攻撃を躱しきれずにセイントセーバーズのメンバーが何人か石化してしまった。

 だけどその為の2大隊戦法だ。全体が疲れてきたならスイッチをすればいい。スイッチの合図は基本的には大隊長のヒースクリフかブランシュに任せられている。俺はブランシュに一回下がって戦線を立て直すように言いに行く。

「ブランシュ、一回後退だ。体勢を立て直そう」

「何を言っている!まだ部隊は戦える。戦意がないなら邪魔をするな!セイントセーバーズ諸君突撃だ!」

 

「そっちこそ何言ってるんだ!今は安全を第一に皆を引かせてA隊にスイッチし石化してしまったプレイヤーを保護するのが先決……!?」

 俺はブランシュの目を見た瞬間気づいてしまった。やつの瞳には昔の俺とある種同種の炎が宿っていた。

 ―――執念。あるものに執着しそこから離れられなくなる。理性のみでは抑え難い衝動。かつて俺もソロだった頃、蘇生アイテムを得るためにレベル上げに執着した。その結果、俺はフラグMobに殺されそうになった。

 そこを助けてくれたのが今の俺の仲間である“月夜の黒猫団”だった。彼らの献身によって俺はその執念から解放された。

 この男に執念を抱かせているのは間違いなくラストアタック・ボーナスだ。だけどその向こう側にもう一つ。この世界がゲームであること故に誰もが陥りやすい最強という名への固執。尚且つブランシュはこの世界で最強に近い存在だ。だけど、ここにいるプレイヤーに誰が最強かという質問をすれば間違いなく全員がヒースクリフと答えるだろう。

 それをブランシュ自身も認めてしまっているからこそその劣等感はとてつもないものだろう。だからこそLAに固執する。

 

「行け!力を示すのだ!!」

「うぉおおおおおお!!!」

 チッ、このままじゃ埒があかない。このままここにいても多分ブランシュは聞き入れない。どころか、俺がいないことでサチ達の負担が増えるだけだ。今の俺は他人を守るっていう大仰な事はできない。

 それに無理にスイッチをしたところでブランシュが引かないという意思表示をすれば大混戦になり余計に不利になってしまう。

 そう思った俺はその場をあとにしサチ達のもとへ向かった

 

「全く何を考えているんだ、石化したメンバーも増えてきたっていうのに引かせないなんて……」

「仕方ない、あいつ自身が撤退の意思を見せるまでなんとか持たすしかないな」

 この作戦、失敗だったかもな。ヒースクリフは冷静な判断を下せるからスイッチのタイミングもいい感じだったがもう一人のスイッチ権限者がLAに固執してこの状態のまま倒そうとしている。

 

 だけど幸いゲージは最後の段に突入して……突入して?そうだ!コイツは一段削ったらパターンが変わった。だとしたら、今回も又……

「やつの命はもはや風前の灯火!者共!突撃だァ!!」

「待て!ボスのゲージは最後の段に入った。ここは様子を見てパターンの変化に慣れてから―――」

「構うな!セイントセーバーズは無敵。俺に続け!!」

 ケイタの言葉に耳を貸す風でもなく部隊に突撃の命令を出すがなんの情報もないのに突っ込ませるは利口な判断じゃない!

 そう言ってるあいだにもセイントセーバーズはボスに近付きそれに気づいた奴も攻撃態勢に入る。

「対ブレス攻撃用意!!」

 ブランシュが言うと同時に後ろに控えていた壁仕様の数人が前に躍り出て防御姿勢を作りブレスを防ぐ。

「Gugu!?」

「ハッハッハ!我が隊に死角はない!そもそも疲労なぞあるものか!!」

 いかれてやがる!疲労があるかないかなんて火を見るより明らかだ。あんなにスイッチや高度な《剣技》を連発して疲れていない訳がない。

「死ねぇ!」

 全部で4連擊……あの技は両手斧にカテゴリーされる剣技の中でも最上の技、ダイナミック・ヴァイオレンス。両手斧はそもそも総ダメージが最も稼げる武器の一つであり弱点に当たった時のやつの脆弱さを考えればレッドまで持っていくことはたやすいだろう。だがそう簡単にいくとは到底思えない。仮にも50層つまりハーフポイントのボス、まだなにか特殊な能力があるだろう、だからこそ―――

「やめろ!そのボスにはまだ―――」

 だが、遅かった。ブランシュの一撃目は見事にボスの亀裂に閃光を散らしてHITした。

 その瞬間だった。HITした箇所から灰色の煙がブランシュを含め近くにいたプレイヤーを丸ごと飲み込んだ。

 数秒後煙が晴れるとそこにはプレイヤーの石像が出来上がっていた。




さて、自分の小説のオリキャラを窮地に持っていくのは少ないですが、次の話では原作キャラも被害に遭うと思いますよ。

フレッドの登場までにはまだ時間がかかると思います。

ご感想・ご意見は引き続きビシバシ言っていただければ幸いです。
今回、推敲する時間がそんななかったので誤字脱字が多いかなと思いますがあれば指摘して頂ければと思います。
では、今回はこの辺で……、ではでは!


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第二三話 ~煽動~

最近怖いこと……それは自分の小説に無理矛盾が生じ読者の方に迷惑をかけてしまうこと。
ということでALHAでございます。もしそういうのがあったらご報告ください。できる限り修正したいと思うので……
今回も引き続き50層ボス戦でございます。
では新話どぞ~!


キリトside

 

 馬鹿ヤローが、ブランシュのやつ……。

「A隊スイッチだ!B隊は石化したメンバーを拾ってボス部屋の外まで退避だ!」

 ケイタの声が響く。ブランシュの身に万一のことがあれば代わりのリーダーは暫定的にケイタが務めることになっていたのでこの判断は妥当だろう。

 しかし、ここでもうひとつ厄介なことが起きてしまった。ボスのゲージが先ほどブランシュの一撃で最後のゲージに到達したことで遅れて雄叫びを上げる。同時に金属質の皮膚の亀裂からパックリと中が現れ剥がれた皮膚が弾けるように飛散した。

「皆、防御だ!近くにプレイヤーの石像があったら優先的に守れ!」

 俺は叫ぶがもうその頃には手遅れになっているプレイヤーの石像も多くブランシュと一緒に突っ込んだ多くのプレイヤーは石の破片と化していた。

 

「(クッ、せめてブランシュの奴だけでも……)」

 幸いにもブランシュはまだ奇跡的に健在だった。故に俺はそれに寄ろうとした……が。

「キリト!駄目!!」

「うわっ!」

 俺の体はサチによって突き飛ばされ宙を舞った。

 何をするんだと喉まで出かけた声を、俺は彼女を見た途端に飲み込まざるを得なかった。サチの腰から下が色無き石となっているのに気付いたからだ。彼女の下半身がある所はさっきまで俺の体が存在したところ、つまりサチが俺を突き飛ばしていなかったら、俺もそこら中にある石像の仲間入りを果たしていたことだろう。

 いつもの俺ならサチの安全を確保することを最優先にした筈だった。だが、俺の心は彼女を助けようという考えの前に奴を許せないという心が先行した。

「うぉおおおおお!貴様ぁああああ!!」

「キ……リト…?」

 なぜだか分からない。だけど、今は何よりもあいつを倒したい、殺したいそんな気持ちが俺の心にフツフツと湧き上がってくる。理性ではまずサチを助けないとということは分かっている。だけど、奴に対する戦闘欲を抑えきれない。

 体を持ち上げボスに向かおうとする俺をケイタの手が制した。

「どけ!俺はアイツを!!」

 そこまで言ったところでケイタが俺の頬を叩いた。

「どうしたんだ!?キリト!!らしくないぞ!!君がパーティーメンバーより私情を優先するなんて!」

「……あ、あぁ。すまない……耄碌してたみたいだ。ありがとう、目が覚めた」

「それならいいけど……疲れてるんじゃないのか?」

「あぁ、戦闘中だから……かもな。少し後ろで休むよ。だけど、サチを運ばないと……」

「後ろは任せてくれ

 俺はブランシュの石像を運ぶのをやむなく中断し、ケイタと一緒にサチを運んでボス部屋の外へ出た。その間にも奴の金属質の皮膚が飛んできたがテツオがしんがりを務めてくれたおかげで俺らに当たることはなかった。

 破片が当たり砕けゆくブランシュの姿を後にしながら、なんで俺はあの時ボスに向かって行ってしまったのか……考えたが疑問が晴れることはなかった。

 

コペルside

 

「なんだよ、今のは……攻撃したところから石化ガスが吹き出たぞ……」

「あんなん、どうやって攻略すれば……?」

 ボス部屋の外で待っていた僕達A隊だが、マズイな……。最後の攻防でこちらの士気が落ちてしまった。ブランシュめ……余計な置き土産を……

 こうなってくると当然―――

「やだ、オレは抜けるぞ!あんなん勝てる筈がない!」

「ちょっ待って、ボクも!」

「私も抜ける!」

 各々がポーチに忍ばせておいた転移結晶で次々と転移をしていく。

「ハッ、情けねぇやつらだぜ、全く!んなんだったらハナっからこんなトコ来てんじゃねぇよ!」

 まぁ、カイの言いたいことも分からなくはないが、ある意味ではこれが普通だ。誰だって死にたくはない。一部それを否定しかねないバカもいるが、まぁあいつは例外だ。日常的にスリルを追い求めるような奴を僕は普通とは認めない。

 しかし、どうやって攻略していこうか?この段はどうやら本体を攻撃すると同時に石化ガスが吹き出し攻撃したプレイヤーとその周囲にいるプレイヤーを巻き込んで石化させる。

 この世界にはガードをしながら攻撃をするなんていうマネは一部の剣技を除いてできない。もし、そんなことが常時可能だったら皆が同じ行動をとっている。またもや例外のあいつらは除くが……

 

「A隊スイッチだ!B隊は石化したメンバーを拾ってボス部屋の外まで退避だ!」

 攻略方法が分からない内に暫定的にスイッチ権限を得たケイタから要請が入る。当然か……、むしろ遅すぎるくらいだ。少なくともブランシュが特攻決める前には本当だったらスイッチはするべきだった。

 だけどおかしい。ブランシュの奴はそれこそずっと攻略ギルドの副リーダー以上の役職を持っていた男だ。僕自身彼のことはそんなに知ってるってわけじゃないが、攻略を見る限りではあぁいう暴挙に出るような男じゃなかったはずなんだが……

「コペル! スイッチの要請が出てんだ! ノロノロしてんじゃねえよ!! シリカはもうディアベル達と一緒に出てんぞ!」

「!? あ、あぁ悪い、考え事してた」

「コペルもその辺旦那に似てきてんじゃねぇの?」

 ……やばい。指摘されると確かにそんな気が……。いやいや!そんなことはない……筈。

 

「……まずはあいつの攻撃パターン調べる為に少し防御的に戦おう」

「あぁ、あのカウンターガスや自分の外殻飛ばしてきてたやつな。それに外見からして今とさっきじゃ全然違いそうだしな」

 カイの言う通り、奴の今の見た目は金属質の殻が全て剥がれ、形や質感こそほぼ同じに見えるが腕はもう動かすことはないと言わんばかりに現実の千手観音像のような姿勢を取って固まっており、剥がれた外殻はその周囲に浮かんでいる。

「大方は予想つくけどね。多分これからの攻撃はあの外殻を飛ばし続けるんだろう。腕のラッシュこそないけどモーションが見えない分よけにくくはなったろう」

「それに石化するブレスは当然のごとく撃ってくるだろうな。こいつの代名詞を取り上げるなんてことはしねぇだろ、流石に」

 

 僕とカイの意見をまとめれば物理は外殻飛ばしオンリー、特殊攻撃は石化ブレスオンリー、カウンターとして攻撃加えたやつに石化ガスと……

「まぁあとは攻撃しながら考えるとするか、行くよカイ!」

「おうよ!」

 言うや否や、カイはボスに向かってダッシュする。……あいつ、人の話聞いてたか?

 

 しょうがない、僕もサポートできる位置まで移動しないとな。

 

(ドックン)

 

 そう思いボス部屋に足を踏み入れた瞬間、僕の心にどす黒い何かが流れ込んできた。幸いすぐに消えたので行動に支障はなかったけど……。瞬間的に攻撃意欲を増やされたような、それでいて相手を攻撃すること以外どうでもよくなってしまうようなそんな感情。

 ……まさか、ブランシュがあんな暴挙に走ったのは―――

「行くぜ!《チャージ・ミューティレーション》!!」

 相変わらず過ぎてカイじゃ判断材料に欠けるな……。あの攻撃はカイの持つソードスキルの中では唯一僕がさっき言った防御しながら攻撃する技で扇風機のように回した両薙を相手に押し付け切り刻む、尚且つ武器を回してる間は特殊攻撃無効まで付く。

 そのおかげで石化ガスの無効には成功したがHPが全然減らないところを見るとやたらめったらな防御力は健在か。

 

「チッ、しゃらくせえ!!だったらこれでも…」

「待て、カイ!今の技以外では確実に石化するぞ!!舞い上がるな!」

「!? そんなこと言ったってよ。もう技止めらんねぇよ!!」

 あのバカ!少し考えりゃこれくらい……やっぱり、そういうことか……

 ……はぁ、どっから移ったんだろうな、このお人好し。

 ソードスキルでの攻撃に入ってるカイの目の前に入り盾でガード態勢を取る。犯罪者カラーになるのくらい我慢してくれよ!

 

「ぐっ!!」

「コペル、お前何して……!?」

 ダメージは予想以上になかったな、一切無いとは。あいつ自身の発動していたソードスキルは全10連擊の《旋風独楽》、モーションから見て間違いはないが3連撃で止まっている。アイツ途中で無理矢理止めたのか。

 だが、3連発分のノックバックはもろに受け僕の体はボスの方向へと飛ばされ、そして……

「コペル、そのまま行くとまずいぞ!!」

 分かってますよ、ディアベル……、こうなること承知で僕はこの行動をとったんだから。

 僕の体はボスの体にぶつかり、予想した通り奴の体からガスを噴出させてしまった。

 

キリトside

 

「コペル!!」

 フロアの外で戦いを見ていた俺は叫ぶと同時に飛び出す。これ以上仲間がやられるのをただ見てるのは耐えられない!

 そもそも、さっきのスイッチ時から攻略人数が半減している。フルレイドでも厄介な相手であることには違いない。にも関わらず、残ってる奴らで対応しないのもおかしな話だ。

 

 煙が晴れたそこにはコペルの姿がちゃんとあった。だが盾を持っていない利き手側が完全に色をなくした石と化していた。顔はとりあえず無事なので完全に石化することはなかったと推測できるが片側が石化しているという危険な状況には変わりない。

 俺はコペルに走り寄り、抱え上げようとする。が、そうはさせないと思ってるのかどうか知らないがボスの金属片がこちらに向かって飛んでくる。

 まずい!この状態じゃコペルを今離したところでガードが間に合わない。回避はもっとありえない。それだと、最悪コペルを犠牲にしてしまう。

 仕方ない。俺は抱えてる姿勢を崩さずに金属片のある方向に背を向け、衝撃に備える。俺の防具は革防具だがHPがMAXならば一撃は耐えられると踏んでの行為だ。

 

 不快感に備えていた俺だったが、いつになっても来るべき不快感がない。その代わりに聞こえてきた音が金属と金属が衝突した時に出る音、そしてカイの声だった。

「コペル連れて外に退避してくれ!!キリト!!」

「分かった。助かったよ、カイ」

 金属片の方はカイの攻撃によって反射され、そのまま天井に音を立てぶつかったみたいだ。

 

 しかし、この戦いになってから皆どこか変だ。ブランシュの愚行といい、どこか攻撃的になってる。ヒースクリフやディアベルあたりはさっきまでの戦いとほとんど戦法は同じで変わりないように思えるが他の、今攻撃を加えているアスナまでもが若干その兆候が見える。

 そんな時抱えていたコペルから話しかけられた。

「キリト、ゴメン。迷惑かけた」

「迷惑だったら1層の時に経験済みさ。意外と無茶する奴だったんだな、お前……」

「気付いたらって感じでね……、それより聞いてくれ、キリト。アイツの能力は石化ブレス以外にもある、一言で言えば戦意の増幅だ」

 

 戦意の増幅?……!? そうか、だからあの時。

「心当たりあるって顔してるね。多分間違いないよ。僕は2度目にフロアに入った時、確かにその能力と思わしき力を受けて、一瞬ボスに特攻を仕掛けようと思った。能力が分かってるにも関わらず……だ。だからコイツの最後の段の本質は“プレイヤーの戦意を掻き立て、その攻撃を圧倒的な防御力で防ぎ、そして攻撃したプレイヤーを石化させ自分の周りに浮いてる金属片でプレイヤーを砕く”これがあいつに与えられているアルゴリズムなんだ」

 嘘だろ!俺達は基本的にボスを倒そうという意思でこの攻略に臨んでいる。大なり小なりその意識を持たずにやってる奴なんかいてたまるかって話だ。だけど、ここのボスは戦意を掻き立てその意思を増幅させ冷静な判断を鈍らせる。

 ……冗談じゃない、皆の攻略しようっていう心すらアイツにとっては俺達を倒すための武器だって言うのか!?

 ……ここまで来たけど仕方ない。これは何らかの対策を打って出直すべきだ。

 

「皆!一度退け!コイツは皆の戦意を掻き立て冷静な判断を鈍らせる!!一度出直そう!!」

 俺の言葉はここからじゃ届くかどうか微妙だったが、一部の驚愕した顔を見るになんとか数人には聞こえたみたいだ。よし、これで皆が退けばこれ以上の犠牲は……

 

「そうは行かない。我々には戦って勝ち残る他に道はない!」

 そう言ったのは他でもないレイドリーダーであるヒースクリフだった。

「何故だ!ここで退かなきゃ唯々犠牲が増えるばかりだぞ。それにさっきからボスのカウンターでくるガスを避けて大振りな技が出来てない。このままじゃジリ貧だ!!」

「そう思うのなら周りを見るといい。どれだけこの場に石像があるのかな?」

 !? 石像……そうか、この場で離脱したら石化したメンバーがどうなるかなんて一目瞭然だ。壊される。プレイヤーカーソルが出てるからまだナーブギアとの接続を保ってることには変わりない。つまり、この場で動ける俺らが全員退避したならば次に狙われるのは石化したプレイヤーしかいない。しかも今彼らはガードすることも避けることもできない。待っているのは死しかない。……だけど!!

「それでもこれ以上先頭の継続は難しいことぐらいあんただって分かるだろう!ここは今無事なプレイヤーだけでも退いたほうがいい!!」

 

「ふむ。だったら、君らは石化したプレイヤーを退避させてくれ。残っている全員で、だ。

その間の攻撃は私が引き受けよう」

「あんた一人でか?無茶だ。俺もそっちに加わる」

「いや、私一人で十分だ。君はさっきボスの能力をもろに受けて意識が一時的に飛んでいたのではないかい?」

 クッ、確かに……。だけど、あのボスの攻撃を一人で受けるなんて……

「心配してくれるのはありがたいが私には隠し玉というのがある。それを用いれば10分は持たせられるはずだ」

 

 10分持たせる……だと?仮にも50層のボスだぞ!……だけど、ここでゴネるよりあいつを信用した方がいいか。

「……あんたを信用するぞ。皆戦いを中断して石化したプレイヤーと一緒にフロアの外へ避難だ!B隊も手伝うんだ!」

「おし来た!行くぞ皆!」

「あぁ!だけどくれぐれもあいつと戦おうなんて思うなよ!その瞬間死が訪れると思え!!」

 俺はB隊にも声をかけ、それにダッカーとケイタが応じ、動けるメンバーがフロアになだれ込む。それに反応したのかボスの金属片がなだれ込んだメンバーに向かって飛んでいく。

 だが、その間に入りガードの態勢を取ったヒースクリフが飛んできた金属片を全てボスに向かって反射させていた。その金属片がボスに当たると同時にボスのゲージがガクッと減りついにレッドに到達するが、退避すると決定した今となってはどうでもいいことだ。

 しかし、盾が光っていることから間違いなくソードスキルの一つではあるはずだが、盾を使うスキルなんて聞いたことがない。気にはなるが、今はそんなのを聞いている場合じゃない。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

 一番近くにあったプレイヤーの石像を抱えて俺がフロアの外へ出る時、目の端で信じられない物を見た。

 ヒースクリフは自分一人がボスの攻撃を引き受けると言っていたからあの人がボスと戦っているのは分かる。だけど、他の血盟騎士団の一部が再び交戦しているのだ。

 

 その中で唯一女性プレイヤーの姿が確認できる。勿論アスナだ。だけど、ヒースクリフの指示を無視して攻略に当たるなんて彼女らしくもない。

「何をやっているんだ。ヒースクリフが囮を買って出ている間に石化したプレイヤーを回収して回る手筈だろう!なんでアスナ達が攻撃しているんだ!?」

 

 それを聞いたであろうアスナが振り返った時、俺は既視感を覚えた。あの時の……ブランシュの目とほぼ同じなのだ。何かに執着している、故にボスの能力に振り回されている。

 だけど、《閃光》の異名を取る程の実力を持つアスナが一体何を執着することがあるんだ?

「今がチャンスってあなたには分からないの!? 団長があのボスの攻略法を示してくれたのよ。ボスの周りに浮かんでいる金属塊を弾いてぶつければボスのHPはかなり減る。ここで退避するよりも攻撃をした方が攻略組の為になる!だから団長が囮をしてくれてる間私達は攻撃しているのよ!邪魔をしないで!!」

 ダメだ、完全に狂っている。いつも冷静沈着な判断を下し、攻略組を引っ張ってきたアスナと同一人物とは思えない。

 

 と思っていると再びボスの外殻が剥がれ、全方位に向けて放たれようとしていた。それをチャンスと見たアスナがパリィの姿勢を取って打ち返そうとする。確かにこのまま倒せれば願ったりな話だが……

 ボスの外殻は完全に剥がれ、さっきまでのスピードとは別格の速さで飛んでくる。アスナは自分に向かって飛んでくる金属片に狙いをつけて突っ込むと同時に俺はアスナの剣からライトエフェクトが出ているのに気付いた。

 

 それを見た途端俺には悪寒が走った。はっきりとは分からないけどこのまま気のせいだと錯覚したらとんでもないことになる、そんな感じが……

 気付いたらアスナの下に走り出していた。だが、遅かった。アスナに迫る金属片は俺よりも早くアスナに到達し、彼女のソードスキルを受けた。

 途端、今度はその破片からも灰色のガスが吹き出し、破片こそボスの元に飛んでいったが

ガスはそこで停滞し、アスナを包み込んだ。

 

 




おかしいな、ブランシュとアスナが同じような感じで石化するなんて……
最初は誰か庇っての方が美しいと思ったんですけど、書いてる途中で“そういえば、アスナってキリトとお昼寝イベントする前までは攻略の鬼とか言われてたんだっけ?”などということを思い出し、ボスのゲージがレッド行ってるなら能力と相まって突っ走ってしまうのではなどと考えこのような形になってしまった。後悔はしてない。

そして、これがブランシュが暴走してしまった理由です。……おかしい、ボスをこんな強くするつもりはなかったのに、ってか下手すると骨百足さんより強くなってるんじゃ……

あと、少しだけ出てきた神聖剣。圧倒的な防御の下強いって言ったらカウンター系統しか出てきませんでしたね、正直。

そして、ヒーローはまだやってこない、はよ出せという声が聞こえてきそうですねw

さて、長くなってしまったのでこの辺で締めます。
ご感想・ご意見・アドバイス等々ありましたらビシバシとお願いします。
今回はこの辺で……ではでは!


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第二四話 ~ヒーローは遅れてやってくるもんだろ?~

最近不定期でしたが、とりあえず日曜になんとか完成させていくようにしたいと思います。

さて、今回は短めですがタイトル通りあの人復活です。
じゃあ早速新話どぞ~!!




カイside

 

 ちっ、まさかアスナまでやられちまうとか……

 しかし戦意の増幅とカウンターガスねぇ。茅場もやってくれんじゃねぇか、俺みたいなプレイヤーには純粋な一撃死なんかよりもよっぽど有効的だぜ。実際、さっきコペルに入られてなかったら俺自身石化してたところだしな……、もしそこで石化してなくても奴さんの挑発でこん戦い中の石化は免れなかっただろうな。

 っと、考えてる場合じゃねぇな。とっととアスナを助けに行くか。アスナは今空中であのガスを受けた。あの高度からじゃダメージは避けられない、って事は落ちた瞬間、アイツはゲームオーバー、つまりはリアルの死だ。

 だけど、俺よりも早く動いていた影があった。キリトのやつだ。アイツは空中で石化したアスナをキャッチするとその場で回転して再び着地していた。しっかし金属片飛び交う中よくもまぁノーダメージで済んだな、俺だったら一回は喰らっちまってんな。

 

 だけど、次の攻略時どーゆー作戦で行くんだ、これ。攻略隊の要であるところのアスナは石化、ブランシュは死亡、他にもめっちゃ石化したプレイヤーがいるんだ、このまま帰ったら明日の記事には“50層ボス攻略失敗”“2回目のクォーターボス相手に攻略隊惨敗”なんてのは余裕で載っちまうだろうな。そしたら新しく攻略隊に参加希望なんてのは早々湧かねぇんじゃね。俺としてはさっき帰った連中みたいにハンパな気持ちで参加されるよかよっぽどいいがヒースの旦那達からしたらそうはいかねぇんだろうな。

 それにレッドゲージまでは攻略法が見つかってるからいいが、今のレッドゲージの奴の能力はちょいと厄介だ。ヒースのダンナが盾によるカウンターであの金属片を奴に送り返し続けてんのはいいがレッドに入るまでと違ってどこに打ち返そうがまるでHPが減らねぇ。弱点のヒビを狙おうにもそこは狙ったら狙ったでカウンターガス噴出。で、欠片打ち返そうにもそっちはそっちでパリィすればこれまた石化し、ボスはほぼノーダメ。……攻略させるつもりないだろ、絶対。

 

 おっと、またもや石化プレイヤー発見、と。うつ伏せに近い格好で倒れてたから分かんなかっ……!?

 おいおい……、ふざけんなよ?なんでガスが床一面に……!?あのガス霧散してたんじゃないのかよ……。とりあえず、俺の位置ならまだ大丈夫だったが、長期になればそんな悠長なことは言ってられねぇぞ。

 マジで茅場のヤロー、どうやって攻略させるつもりなんだよ、リアルで会ったらボッコボコにしてやる!

 しょうがねぇ、あのプレイヤーは諦めるしかねぇか……

 

 だけど、振り向いた時に嫌なものが見えた。シリカだ。あいつ、一体何であんなボスの近くに……ってかあの位置って!?

「おい、シリカ!!その位置は危険だ!!早くガスのテリトリーから出るんだ!!」

「え? !?あ、足が!」

 遅いか!見りゃ、足元の色が既にない。しかも、ボスが俺の言葉に反応したのか知らんが、ヒースの旦那を無視して俺達の方へ向く。

 チッ、メンドクセーヤローだ。コペルも今動けねぇし、ディアベル達の方も今は別んトコのプレイヤー救助してっからこっちに気づいてねぇ、シリカの方の救助も行かねぇといけねぇっつーのに……あぁもう!!

 

「オラオラ!! デカ物!! てめぇは俺がぶっ潰してやっからかかってこいや!!」

「Gua?」

 よっしゃ、こっち向いたな。あとは……

「ディアベル!! シリカが足石化しちまってて動けねぇ!! そっちは頼んだぜ!!」

「分かった。こっちは任せろ!! 君はどうするつもりだ!?」

 部屋の外にいるディアベルにシリカの救助を頼んだ後、俺はディアベルの問にしばらく応えず、移動を繰り返す。そりゃそうだ、今このフロアの床はガスが敷き詰められてる状況に等しい。盾を持っていない俺にはガスを防ぐ術が使用後隙のできるソードスキルしかねぇ。となるとステップでの回避しか選択肢がないわけで、床とボスの二つだけで手一杯っツーに、そこにディアベルの問に応えてる暇はない。

 

 そしてしばらく安全だと思える場所に着地したあと、ボスを警戒しながらさっきのディアベルの質問に応える。

「俺ん方はこいつのヘイト何とかしたあとそっちに合流する。気にすんな!!」

 っつっても、もうこっから無事に脱出する術はほぼないものとなってしまっている。なぜって部屋の唯一と言える出入り口には既にガスが充満しておりフロアの外には出ねぇのは救いだが、そこまで行くのに盾無しの俺じゃどっかで必ず石化ガスを喰うことは間違いない。

 石化しちまえば次のここのボス戦時、戦力外になるんは明白。だったら、ここで最後の段の弱点くらい探っとかねぇとなぁ!

 

 ボスがヒースの旦那のカウンターを受け大きくのけぞる。だが、あの仰け反りはフェイク、ありゃ俺の方向向きながらブレスの準備をしてやがる。だったらこっちは!

「サークラーロール!!」

 ブレスの発射タイミングは仰け反ってから5秒後に発射される。だからこそ、俺はブレスに対しての特効カウンターで一撃は防いだ……んだが。

「(おいおい、連続かよ……)」

 奴は俺の剣技の終わりを見計らったかのように次のブレスの準備をしていやがる。この剣技はガードやカウンターとして相当に優秀な能力を持っているからしてクーリングタイムは短めなものの技後の硬直時間が長ぇんだ、ヒースの旦那だって盾で防いでるから無敵であって俺を助けつつなんて芸当はさすがに無理だろ……、やられる!

 

 

「ほぅ、女の子を助けて自分は囮か。お前らしくもねぇが、中々いいねぇ、その行動」

 

 

 どっかで聞いたことがある。そんな声が聞こえたと思ったら、俺の体はふわりと浮き、次の瞬間、急加速しボスの姿が小さくなり、ブレスも俺に届くことはなかった。

 

 ハナからなんとなくは予感があった。どうせ俺らのリーダー(・・・・・・・)様はギルドメンバーのピンチに現れて英雄を気取る。そういう演出をしながら帰ってくると踏んでいた。まぁ少なくとも普通に帰ってくるなんてことは全く考えもしなかった。事実俺の危機を助ける形で帰ってきたんだから予感は当たったといっていいだろう。

 

「ちょっと、遅すぎる登場じゃねぇか?フレッド(・・・・)さんよぉ。いつまでたっても遅刻癖は抜けねぇのな」

「今回ばっかりは割と本気で急いだんだぜ?レオンの隠蔽最大で迷宮区を跳躍フルブーストの全力疾走でここまでやってきたんだからな。それに昔からよく言うだろう“英雄は遅れてやってくるもの”ってな」

 予感通り、そんなこと言ってくるだろうと思ってたさ。だけど、そんな調子で話してて俺はちょっとヤバイ事に気付く。

 

「助けてもらっといて難だけどさ、このガス触れると石化だぜ?こんままだと俺ら二人共石化でジ・エンドだぜ」

「っま、そんなこったろうと思ってたさ。そこのボスフロアの前、石像がやたら多かったからな。ま、黙って見てな」

 そう言って旦那はメニューを開きってか元から開いてたのか通常ではありえないくらいのスピードでアルティマハイトを取り出した。

「《衝風波》!!」

 そう旦那が叫ぶと同時にアルティマハイトの刀身が緑に輝く。そしてそのままガスが充満してる床に向かって旦那が剣を振るうとそこにあったはずのガスが風に吹き飛ばされたみてぇに消え何事もなかったように旦那は着地した。

 関係ねぇし、俺が言えた義理でもねぇけどよぉ、旦那も随分厨二病が進行してるよな。ゲーム開始当初なんて技の名前なんか叫ばなかったのに。

 ってかガスで見えなかったが、いつの間にかフロアの出入り口に到着していた。

 

フレッドside

 

「カイ、大丈夫か?」

「あぁ、問題ねぇ」

 フロアの外に出ると駆け寄ってきたのはディアベルだった。まぁシリカもコペルも今動けねぇからな、そらそうなるか。

「……フレッド、到着が遅すぎる。おかげで、って言ってもあんたがいたところでどうにかなったか分かんないけど被害が甚大だ」

 う~ん、厳しいね、コペルさん。しかも半身石化してる身でいうことそれ……って考えてみりゃ当然か。

「まぁ俺に対する不満は後で受けてやるから、コペル現状報告」

「……ったく。現状、ボス攻略は不可能と断定し、撤退準備中。ヒースクリフが時間を稼いでる間に石化したプレイヤーを無事なプレイヤーが救助中だけどガスが多すぎてもう助けにはいけないだろうな」

 

 レッドまで追い込んだのに撤退準備?まぁあのガスが石化以外ににどんな性能持ってるかは知らんがもったいねぇな。ここで退くのはさ。

「ふっ、だったらあとは俺に任せてもらおう。手柄取っちまうのは悪ぃからLA取りてぇ奴こん中いるか?譲ってやんよ」

 聞いていた全員が驚愕の表情で俺を見る。大方、こいつ何言ってんだ?っていうような心情だろうが信じない奴はそれで結構。

「いないなら、真面目に俺がLA取っちまうが、俺はこの反応でオメェらはそれで文句ねぇってことで認識するから後でグチグチ言うこたぁ許さねぇ?良いのか?」

 流石にそこまで言ってやると二人ほど手を挙げていた。キリト君とケイタだ。

 

「あんたには色々恩があるけどな、流石に途中から入ってきたあんたにLA譲るほど俺は人間出来ちゃいないからな」

「それにあなたがそこまで言うには何か秘策があるんでしょう?付き合いましょう」

 ふ、さすがだな。やっぱりこの二人は攻略に対する心構えが違う。キリト君はあんなこと言ってるが実際は俺を信用してのことだろう。ケイタと同じように俺がここまで言うからには何かあると踏んでるんだろう、まぁ、実際そうなんだけどな。……ん?

 

「そういや、カイはいいのかよ?こういうの一番に手挙げそうなのによ」

「ま、確かにな。だけどちょいとあいつの能力のせいで暴走しちまいそうだからな。俺はパスだ」

 実に残念そうな顔をするカイは……まぁ放っておいてあいつの能力ってのは気になるな。

「あいつはパッと見石化特化型だと思うんだが、ガス以外に攻撃方法があんのか?」

「あぁ、他には石化ブレスと見て分かると思うけどあのボスの周り浮かんでる塊を飛ばして攻撃してくる。石化してる時に攻撃受けると一撃で破壊、だからそう簡単には近づけてないのさ。さっきまではあの腕も動いてラッシュ攻撃もしてきたけど、今はあの形で固定されてる。ついでに言うと、あいつに対する戦意ってもんが増幅されるらしい」

「戦意の増幅?」

「そうなんです。それで攻撃してきたプレイヤーをカウンターガスで石化するっていうスタンスをとっていて……防御力も異常にあるんでさっきまで撤退って意志で固まってたんです」

 はは~ん、なるほどね。シリカの補足で分かったわ。ヒースクリフさんがいるにも拘わらず、撤退なんて意志で固まってたんはそういうことか。あの人いると滅多なことじゃ撤退なんて行動には出ないはずだしな……。ついでにカイが暴走しちまうってそういうことか……。

「OK。注意すべきは戦意の増幅のみ(・・)だな。それ以外はどうとでもなるな」

「の……み…?」

「そう、それ以外は完全に無効化出来るすべを俺は持っている。さて、じゃあ早速行くとしましょうかね」

 戦闘に参加する二人を含め、周囲にいる奴らが訝しげな表情をするが、そんなんは知ったこっちゃない。とっととヒースクリフさんの手助け行くとしようか。

 

「さて、と。とりあえず、お前らは部屋の外で待機だ。俺が入って合図をしたらお前ら攻撃してくれ。ガスの方はまぁ任しとけ。何とかしとく」

 言い終わると同時に二人の返事を聞かずに再び豪大剣(・・・)基本ソードスキルの衝風波を使ってガスで塞がっているフロアの出入り口に文字通りの風穴を開けてやりフロアに突入する。

 そして俺はポーチから淡い緑の結晶を取り出しながらボスの相手をしているヒースクリフさんに寄る。

「ヒースクリフさん、お疲れです。相手代わりましょう」

「ふむ、フレッド君か。しかし、部隊は撤退するのではなかったのかね?」

「いやぁ、ここまで来て撤退ってのもないでしょう。俺が遅れた分、しっかり働いてくるんであとは下がってて大丈夫ですよ」

 ヒースさんはちょいと考えたあと俺にこう返してきた。

「君がそこまで言うからには何かあるんだろう。分かった。ここは退いて君の戦い……見させてもらおう」

 

 さて、ヒースさんも下がったことだし俺の見せ場と洒落こもうか。

 しかし、帰ってきて早々奥の手を見せることになるとは思わなかったな。まぁだからってハーフポイントのボスがそんな弱くても興醒めだけどな。俺としては大して見た目が怖くないからその時点で興醒めだが、少しは俺を面白がらせてくれよ?仏さんよォ。

「疾風・開放!」

 結晶に向かって叫ぶと持っていた結晶が割れる、と同時にボスのブレスが俺に迫るが回避行動は取らない。するだけ無駄だな、あんな攻撃。

 

 間もなく俺の姿はフロアの外にいるやつからは見えなくなったのかギャーギャー喚いてる声が聞こえるが俺のアバターに変異はない。

 そして剣を振り、辺りの煙を一気に吹き飛ばして告げてやる。

「さぁてと、KILLぜ!!」




はい、まぁ今回の話のあとがきに行きたいんですけどちょっと昨日ある作品見てたら自分の思わぬミスに気づいてしまった次第なので報告をば……
ブランシュ君のことなんですけど、あれフランス語圏では女性の名前らしいですね。実はあの名前語感が割と気に入ったってだけで適当に考えた名前だったんですが、まさか実名に存在するとは思いませんでした。
って事で、彼の設定は元々ネカマ→その件で馬鹿にされないように攻略組参加→強ければそんなことで後ろ指さされる事はないはず→LAに固執ってな感じで……。できなければ各自脳内補完お願いします。あぁ、彼にまた一つ黒歴史が追加されてしまった。ホント彼踏んだり蹴ったりですね。完全に自分のせいなんですがw

さて、じゃあ本題に……
属性の秘密が明かされました。……はい、結晶です。SAOの世界で唯一と言っていいマジックアイテム、攻撃性のあるものがあってもいいのでは?という事で属性結晶なるものを勝手に想像し導入させてもらいました。
これは覚えてる人いるかどうかわかりませんが、ある話で結晶自体は手に入れています。
“あれ?じゃあ、普通に手に入るのになんでみんな使わないの?”って質問は後に小説の中で説明しますんでそれまでお待ち頂ければと思います。

今回ブランシュ君の件で随分と長くなってしまったんで、今回この辺で。
ご感想・ご意見・アドバイス・誤字等々ビシバシと言って頂けると助かります。
ではでは!


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第二五話 ~風と火と~

サブタイのうまい言い回しなかなか思いつかないっすねぇ~。
どうも、ALHAでごぜえます。
とりあえず日曜更新できて内心ホッとしとります。

さて、今回からフレッド……壊れます。
まぁどんな風にかは本編見ていただけたらいいかと思いますので早速どぞ!!


フレッドside

 

 属性結晶……武器にその結晶に対応した属性を付加し、様々なメリットを及ぼす魔法のないこの世界ならではの特殊なアイテム。故に使用者が多い……というわけでは実はない。これは属性結晶の持つデメリットの為にほかならない。

 

 一つに各属性のメリットを受けると共にその属性の持つ固有のデメリットが重いというのが挙げられる。例えば風属性の結晶「疾風結晶」を用いればメリットとして“特殊攻撃の完全無効化”を得られると同時に、“物理攻撃を受けた時ダメージの倍加”という痛いデメリットを受ける。もし、この世界が普通のゲームの世界ということであれば使用者は多かったかもしれねぇが、この世界での死=リアルでの死という状況の中ではメリットを捨ててでもなるべくデメリットは排したいと思うのは当然のことだろう。

 それともう一つプレイヤーがこの結晶を使いたがらない理由が存在する。それが武器の耐久の減少速度の増加である。これはあらゆる属性結晶に言えることで、属性結晶を用いて武器を扱ってる間は例え何もしていなくとも耐久値は減っていき、今の最前線の武器でも3分程で武器破壊を起こしてしまうほどに武器に負担をかける。実際俺のアルティマハイトも3分かそこらで破壊されてしまうだろう。そして属性結晶で減った耐久値は二度と戻らない。自分の今まで使ってきた相棒を壊してまで属性を得るというのはプレイヤーからしたらあほらしいとしか思えないだろう。

 この二つの理由からある程度のメリットと引換えにとてつもないデメリットを及ぼす属性結晶を使うプレイヤーはほぼ皆無だ。

 もうひとつ理由を挙げるのであれば、非常に手に入りにくいアイテムである故に殆ど認知されていないというのも使われない原因の一端だろう。主にこのアイテムは最悪級のトラップを被せた宝箱の中にあったり、フロアボス級の強さを誇るMobに守られていたりと入手が困難な為、そもそも一介のプレイヤーが知ることのできるようなアイテムじゃない。攻略組の中でもほんのひと握りの高レベルプレイヤーのみが存在を知ってるアイテムだ。情報屋に売ったとしてさっき言ったようなデメリットの方が強く一面には飛び出ないだろうな。

 故に運良く手に入ったとしても知らない奴は売却額に釣られて大抵は売っちまうだろうし、効果を知ってる連中なら尚更持ってても使い道のない高額アイテムをストレージに入れてわざわざ圧迫する必要はないから結局売られてしまうアイテムだった。

 

 だが、エクストラスキル“豪大剣”を手に入れた俺からしたらそんな勿体無いことはない。

 この豪大剣というスキルはこの属性結晶を使う事が前提の代物らしく、属性結晶を用いた専用のソードスキルが存在する。しかもそのソードスキルのどれもがイカれた性能を誇り、こと戦闘においては無類の強さを発揮する。

 

 そして、目の前にいるコイツは石化特化型のビルドらしいからな。特殊攻撃を防ぐ風属性のメリットはまさにコイツにとって天敵となりうる訳だ。

「さて、時間がないんだ。3分で決めさせてもらうぜ?《エア・バースト》!」

 風を纏った剣に緑のライトエフェクトが追加される。それを刀身で仰ぐように剣を振ることで前方に突風が吹く。すると部屋中のガスがボスのいる方向へ流されフロアの出入り口に穴が空く。……3分程度じゃ出入り口には戻らんだろうからして、これでキリト君とケイタが入ってこれるようになったろう。

 

 次はこれだ。

「《ウインド・カッター》!!」

 俺がX字状に剣を振ることで緑の斬撃がボスに向かって飛び、ボスにしちゃかなりゲージが減る。これが10層のNPCが言ってた遠くより敵を討つ攻撃なんだろうな。

 

 やっぱり俺の思った通りだったな。コペル達曰くコイツは防御が異様に硬い。だがそいつはあくまでSAOのプレイヤーの技の殆どが物理攻撃だったからだろう。本来であれば敵に対してどの属性が弱点かは攻撃してみるまで分からないが、大抵のゲームでは物理防御が強い奴は特殊防御に弱いっつージンクス的なもんが存在する。だから、本来の弱点も勿論存在するだろうが、コイツには特殊攻撃で攻めていけば物理で攻め続けるよりかは効率的にダメージを与えられるっつー俺の推察は正しかった訳だ。

 

 しかし、ダメージ量からして遠距離からずっと攻めててもこれじゃ3分で瀕死に追い込む事は出来んだろうな。だったら、俺のいつも通りの攻め方に変更するとしよう。……近づいて体ん中に直接属性ダメージを通す。

 

 俺が走り出すと同時に奴も迎撃しようと石化ブレスを吐いてくるが、今の俺に特殊攻撃は完全に無意味。とっとと決めようと更に加速した所、目の前に影が現れる。割と着くのが早かったなと思いつつ、俺はその影をボスと断定し新たなソードスキルの準備をしていた―――

 

 ―――次の瞬間前半身に鈍い違和感を覚えた。

「なっ!?」

 俺にぶつかってきたのはボスでもなんでもなく奴の周りに浮いてる金属塊の一つだった。それを認識した途端に俺の方めがけて次々と塊が飛んでくるがそれを俺はパリィやステップを駆使してダメージを防ぐ。

 風属性のデメリットである物理ダメージ倍加を受け、俺のHPは一気にイエローゾーンまで減っちまってた。……なるほど、これが戦意の増幅か。まあ、例の発作が来なかっただけマシだな……

 俺は一度下がってブレスによる煙の目隠しの外に出て体制を立て直す。思ったより厄介だな、あの特殊効果。実際問題として石化ブレスを目隠しにして塊を飛ばそうが、いつもの俺なら簡単に見切れてた筈だった。それができなかったのは戦意を掻き立てられ、冷静な判断を失ってた為と俺は勝手に思い、意識を再びボスに向ける。時間はあと2分、余計なことを考えてる暇はない。それまでに奴に近付いて一回ぶった斬りケイタとキリト君に繋がなければ結局、敗走しちまうことになる。あそこまで言っちまった手前そんなことは俺自身許さねぇ!!

 

 だったら、攻め方を変えるまで。あの目隠しブレスに阻まれればあの塊に当たる可能性はかなり高い。となれば、先にあの塊を除けておけばブレスを吐かれようが構う事は一切ない。

 そう思い立った俺は直接ではなく回りこむように走り出す。当然奴もそれを追ってくるが剛力を得てから一転敏捷値に極振りしている俺のスピードには叶うはずもなく10秒とかからずに後ろを取る。

 ボスはブレスが間に合わないと判断したのか、振り返りながら周りの塊を俺の方に、後ろに目がついてんじゃないかというくらいに精密に飛ばしてくるが、目隠しがなければこんなもんどうってことはない。

 “眼前のものはその豪なる刀身にて全てを粉砕す”豪大剣の前に生物以外のオブジェクトは無に等しいってことを教えてやろう。

 

「……《オール・デリート》!!」

 これはカイに感化されて俺が勝手につけたもんだ。本当の名前は知らん、てかそもそも存在しねぇだろう。

 目の前に迫ってきた塊を俺はソードスキルを発動せず(・・)に叩きつけるようにして剣とぶつける。その瞬間、その塊から紫の障壁が出るが、アルティマハイトはそれすらをもぶった斬り、二分された塊は俺の斜め後方の床と激突し、ポリゴンのかけらとなって消え失せた。

 オール・デリートと名付けたこの性能は豪大剣の基本性能であり、目玉の一つでもある。豪大剣はプレイヤーもしくは敵といったこの世界での生命体に触れられていない物体を問答無用にぶった斬り消滅させる。つまり、どういう理屈で浮いてるか知らんが奴と一切の接点を持たない塊如き姿が見えればなんのことはない。

 俺は続けて飛んでくる塊を全て一刀で斬り伏せるが、流石にそんなことをやってるとボスが振り向くには十分な時間を稼がれちまう。が、こっちもあいつがこっちを振り向いてブレスを吐くまでには全ての塊を壊すには十分だ。

 

 全ての塊を壊したはいいが、残りあと30秒……急ぐか!

「さて、年貢の納め時だぜ、ボスさんよぉ!」

 既に俺と奴の距離は5~10mって言ったとこ、時間的に大技のソードスキルは一発分しか撃てねぇだろう。だったら……!

 俺は更にボスに接近しながらアルティマハイトの刀身に人差し指と中指を当て根元から(きっさき)に向けて指をスライドさせる。これが武器を破壊する前に自発的に結晶の能力をオフにするやり方だ。だが、俺は今更アルティマハイトに対して惜しいと思ったわけでは当然なく、新たにポーチにあったもうひとつの結晶「火炎結晶」を取り出し、言い放つ。

「火炎・開放!」

 火の能力……それは相手の防御を貫通し、ダメージを与えた場合に一定時間物理攻撃以外の攻撃手段を全て封印する。それがメリットだが、デメリットも相応に厳しいものがある。

 それは発動している間、常に火を纏う為に起こる熱による自分のHPの減少である。しかもそのHPの減少は半端なスピードではなく1分で15000もの数値を削られる。単純に俺のMAXHPの4分の3を削る捨て身の属性だ。だがそれ故に叩き出すダメージは相手の防御を貫通するので風属性の比ではない。

 今の俺のHPは8000、30秒ではぎりぎり削られ切ることはないが、全身を炎の熱による不愉快な感触が身を包む。まぁんなこと言ってる場合じゃねぇな。速攻で決める!

 俺は炎を纏ったアルティマハイトを下からボスに向かって斬り付けそのまま剣を上空へ放る。それと同時に剣を放ったことにより一時的に解放される跳躍を発動し自分もボスの眼前まで跳ぶ。先に放った剣をキャッチしそのまま縦に真っ二つにする勢いで一気に地面まで斬り下ろす。今、俺の持つ最大級の攻撃力を誇る炎の豪大剣二連超重攻撃《ダイナミック・ブレイズ》、予想通りHPを1、2ドット残し、残りを消滅させる。

 本当だったらここで石化ガスが噴射されるだろうが炎の属性エフェクトによりそれら石化系統の能力は封印したんで当然出ない。

 あとは彼らの仕事だと思い、無駄と思いつつも俺は剣の炎を払う。

 

 だが奴もしつこい。さっきまで固まってた腕が動き始めその中の一つで咆哮を伴い、俺を狙うが、お前の命運は既に尽きてるんだぜ?

「はぁあああっ!!!」

 ケイタの気合の声と共に発せられた棍の一撃は奴の頭に見事HITしスタンを引き起こす。そして、スタンを引き起こしたボスに続けて放たれるは蒼白き斬撃、それがボスの腹辺りを中心に4本の線を描いた次の瞬間放射状に広がった。

 そして同時にボスは断末魔の叫びを上げ、この世界からデータの欠片も残さずに消え去り、俺の剣も同様に弾けて消えた。

 

キリトside

 

 フレッドの指示はこうだった。“俺がHPゲージを1、2ドット程度にしたらお前らで屠れ”その指示通りケイタの高確率スタン技《バイオレント・ノック》が頭に入った次の瞬間俺はボスの懐に入り4連擊《バーチカル・スクエア》を決め、何十人ものプレイヤーを殺した千手観音はポリゴンの欠片となって俺らの視界から消えていた。

 

 そして、目の前にCongratulation!!の文字が出てきたことで残っていたプレイヤーから歓声が上がった。

「やった……やったぁああああ!!」

「勝てたんだ、俺達50層のボスを倒したんだぁああ!!」

「すげぇええ!なんだったんだ今の!?」

 周りから口々にすごいだのやっただのの声が上がる中、俺自身もフレッドには驚かされた。フレッドが使っていたのは間違いなく属性結晶、武器にモンスターが使うような特殊効果を乗せるマジックアイテムだが、それと同時にデメリットとして自分の武器を破壊することになってしまう上に各属性特有のデメリットが戦闘中プレイヤーを襲う。

 俺自身一回迷宮区の宝部屋から「火炎結晶」を手に入れ使い捨ての武器で試したことがあるから分かるがあんなもん戦闘での実用性なんか一切ないし使いこなすやつがまさかいようとは思いもしなかった。

 

 そして、もう一人のMVPヒースクリフ、あれはそもそも見たことがない。さっきは戦闘中だったから皆何も言わなかったろうが、盾を使ったソードスキルなんて見たこともなければ聞いたこともない。

 俺と同じことを感じたのかディアベルがヒースクリフに問いかけた。

「ヒースクリフさん、さっき戦ってた中でのあの盾を使ったスキル。あれはなんなんです?」

「ふむ、あれはつい最近私のスキル一覧に現れたエクストラスキル“神聖剣”なるものだ。出現条件が一切分からない故、恐らくはユニークスキルの一種だと思われる」

 周囲がおぉという言葉で満たされる。ユニークスキルといえばあるプレイヤー専用のスキルと言われその性能は計り知れないと言われている代物だ。これは10層辺りでNPCが言っていたスキル……!?

「フレッド、もしかしてあんたが今使ってたスキルって……?」

「あぁ、多分考えてる通りだと思うぜ。このスキルの名前は“豪大剣”ま、あのNPCの言うことが正しければこれもユニークスキルの一つだろうな」

 こちらも再びおぉという声が上がる。さすがにこれは内容が分かってるからスキルの推察は出来た。フレッドが今戦闘で行った行為は敵を遠方から斬り付け、イモータルに設定されていたオブジェクトをシステムの障壁ごと真っ二つに切り裂く。まさにNPCの言った通りの性能な訳だしな……。

 

「あんまり、水挿したくねぇんだけどさ。気付いてる?石化したメンバーの状態異常が解けてないことに」

「えっ!?」

 フレッドの言葉を受け周囲を見渡す。……確かに、アスナみたいに完全に石化したプレイヤーは当然ながらシリカみたいにごく一部が石化したプレイヤーの石化すら解けていない。

 だけどわざわざ石化なんていう状態異常を課したということは回復手段も当然あるはず、でなければあれも即死という効果にすれば良かっただけなのだから。

 

 周囲が一転して暗い雰囲気に包まれているとヒースクリフが静かに口を開いた。

「第47層の《巨大花の森》……そこに《解除薬》なる薬を作るための素材を持つモンスターを討伐してくれというクエストがあった。そのアイテムは何かを解除するための薬だというのまでは分かるのだが詳細が分からなかった為、報酬がその《解除薬》なるアイテムのみだったクエストをまだ誰もクリアしていないらしい。もしかすると、そのアイテムは石化状態を治すためのものなのかもしれない」

 ……なんだそれ。俺自身は一回も聞いたことがないんだが、と思ってるとKoBの連中が確かにそんなクエスト見た記憶があると口々に言う。……俺が見逃していただけなのか。

 だけど、考えても始まらない。その話があるのは本当らしいし、それが本当に石化を治す為のものならこれでサチが助かる。もし、違くても十分に試す価値はある。

 

「……よし、じゃあ今日は皆疲れただろうから一回転移結晶で戻ろう。アクティベートできないのは残念だけど石化したプレイヤーをこのままにしておくこともできないし安全を帰して、な。で、その解除薬に関しては明日また50層の広場に集まって協議しよう」

 口には出さないが皆頷いてくれた為、了承はしてくれたようでポーチから次々に転移結晶を取り出す。

「転移!!アルゲード!!」

 そして、青白い光を放ちながら皆50層に転移していった。




いぇ~い、遂にやっちまったぜ!チート感バリッバリに出してしまった今回。これヤバイな、ハーフポイントのボスのめちゃめちゃ硬い一段の半分を3分でほぼ削ってしまうなんて正気の沙汰じゃない……ま、いっか。専用スキルってくらいだからこれぐらいチートしても問題ないっしょ。不死破壊はやりすぎ感あるんですけどね。

しかし、石化は倒されても解除されない……次回いい加減解決したいですw

さて業務連絡をば……このあとの展開なんですが~彼女達の恋心~と称してキリト君に対する原作とは違った出会い方をしたり、生きてらっしゃったりする原作ヒロイン達の恋心を描くルートを書こうかなと思ってるんですが、ぶっちゃけ悩んでます。一つに私ALHAは恋愛描写?何それ美味しいの?レベルで書いたことがない上に恋愛小説を読んだことがない。まぁ、だからこの小説、オリ主に対するヒロインがいないんですけどねぇ……。二つ、この話入るとオリ主であるはずのフレッドが空気になる。これってどうなんでしょう?オリ主いるのに空気になる、ぶっちゃけ駄目な気がするんですけど、できれば読者様のご意見伺えたらと思います。

例によって長くなってしまったんで今回はこのへんで……ではでは!


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第二六話 ~久方のコンビ~

まずはすいませんでした。
活動報告の方にも書いたんですが、改稿の方は延期いたしました。
本当に申し訳なかったです。
そして本日から復帰いたします。って訳で新話の方早速どぞ~!


フレッドside

 

 解除薬、それを依頼した47層のNPCが言うには体の凝りを取るものらしいんだが、……どう考えても凝りなんてレベル超えてんだろ!

  ……まぁこの際そいつは置いといて、だ。相変わらず、ヒースさんの知識の多さには驚かされる。俺自身βの頃は自分の好奇の赴くままに道ともいえぬ道を行ったりしていたもんだから人の事言えねぇかもだが、こんな最前線のこんな辺鄙な場所のクエストをよくもまぁ見つけたもんだ。まぁもしくは……っと、んなんを考えてる場合じゃねぇな。こんなのは考えても答えの出ない問題だ、もっと決定的なものがなけりゃな。

 

 で、だ。解除薬に必要な素材をドロップするMobは《マンドラゴリラ》根っこが人の形をしているとされる植物《マンドラゴラ》をモチーフにされているMobだろうがコイツは根っこの部分がゴリラの形、ってかゴリラそのものらしい。POPする時は体が地面に埋まってる状態で登場し、引き抜くと同時に奇声を上げる。その声は麻痺効果のある攻撃でほぼ確実に麻痺る。麻痺っつーのは石化ほど絶望的な状態異常じゃあねえが、治療手段がなけりゃ石化とほぼ同等の恐ろしさがある。なぜって麻痺の効果は自然治癒までにおおよそ10分かかる。そんな時間あったらバトルヒーリングでもない限り雑魚相手でも死は免れない。下手すりゃ攻撃されてる間ずっと死に対する恐怖を感じる都合上、一発で全てが台無しになる石化よりも精神的な意味で恐ろしいデバフかもな。

 でもって、その麻痺してる間にゴリラが自慢のパワーでプレイヤーが回復しない内に叩き潰す、と中層プレイヤー達じゃ若干キツそうだが俺らだったら難なく攻略できんな。

 

「お前とコンビ組むってのも久々だな。俺が留守ん間、戦闘してないから鈍ってる……なんてこたぁないよな?」

「誰に聞いてんだよ、旦那。俺がそんな大人しそうに見えんなら、リアルに戻った後、眼科行った方がいいぜ?」

 そりゃそうだ。コイツが俺に言われたからぐらいで戦闘訓練を怠けるなんて事があったら怠けてる間アインクラッドの天候は全フロアで雪になってんな。

「じゃ、まぁボチボチと《マンドラゴリラの薬根》狩りを始めるとしましょうか。一応作戦としては俺がゴリラを引っこ抜くから、お前は声を回避して潰せ。いいな?」

 

 俺はそう言いながら昨日ホームに帰ってからリズに文句を言われながら作ってもらったあるものを取り出す。それを見たカイは―――

「でっけぇえ!!」

―――だった。

 まぁ分からなくはない。なんせ刃渡りはおおよそ2m、刀身だけで俺の身の丈を軽く上回る。大人の俺の身長でさえ上回るような大剣だ。子供のカイが見たら驚くんは無理ないこったろう。

「おい!また心ん中子供とか思ったろ!? 旦那の顔見りゃ一発で分かんだからな?」

 ……うん、ここは相変わらずの通常営業か。少しは変わってくれることを願ってたんだが無駄だったか。

「まぁいいや。それも重要だけど、旦那、そのバカでけぇ剣なんだよ?」

「コイツは武器カテゴリー《豪大剣》にある固有名“ワイルド・ドラゴン”だ。日本語なら“蛮竜”ってとこかな」

「名前なんてどうでもいいんだよ!問題なのはそんなん振り回せるかっていうこったよ!」

 あぁそういうことね。全くいらねぇ心配を……

「問題ねぇよ。昨日の内に大体の確認はしといた。要求筋力値にしたって《剛力》持ってる俺には無いに等しい話だしな」

 多分《豪大剣》に属する剣ってのはこういうバカみてぇにでかい剣だからこそ条件の一つに《剛力》が必要だったんだろうな。

 

「……ってかさ。さっきから気になってたんだけどよぉ、これ例のゴリラなんじゃね?妙にでかい花なんだけどよぉ?」

 カイが俺が寄りかかってる植物を指差して指摘してくる。見ると確かに怪しそうな花ではある。件のゴリラは引っこ抜かない限り触れてもノンアクティブらしいからありえなくはない。それに索敵に反応こそないがもしかしたらレオンみたいに俺のサーチングを上回るハイディング性能を持ってるかもしれないことを考えると引っこ抜く価値はあるな。

「可能性はあるな。うしっ、カイ防御準備。出て来次第、即効で潰せ!」

「それはいいんだけどよ、旦那もオート防御あんだろ?“疾風結晶”使ったらいいんじゃね?」

「簡単に言ってくれるな。あれは一般プレイヤーに需要こそ少ないが“結晶”の名に恥じない高価なアイテムなんだ。ボス戦以外ではそうそう使えるようなシロモノじゃねぇよ」

 属性結晶の今の俺のストックはボス戦で使っちまった疾風と火炎を一つずつ除いて疾風×1、氷冷×2、大地×1、他のプレイヤーと比べたら確実に多いが雑魚に使ってられるほどホイホイ使える数はない。それにわざわざあらゆる噂を検証してやっとこさこれだけかき集めたのを雑魚に使うのはいくらなんでももったいない。

「まぁ安心しろ。基本的な属性攻撃は結晶なしでもできはするさ。雑魚なら基本技で十分屠れるだろ、両手剣スキルも使えないわけじゃあるまいし」

「はいはい、分かったよ。じゃあさっさと引っこ抜いてくれや。ぶった斬ってやっからよ!」

 

 カイに唆されて俺はゴリラのものと思わしき植物の茎を掴む。《剛力》を持ってる俺からしたらこの程度引っこ抜くのはたやすいだろうな。カイを見ると防御姿勢は既に整っている。じゃあ、行くか!

「よっこい……せぇやぁ!!」

「PigyaaaaaaaaaaaaaaaaAA!!」

 うっせぇ!!予想違わずマンドラゴリラだったんはいいけどこれヤベェ!!頭に直接大音量のデータを送り込まれてるっつーことだとは思うんだが予想以上に刺激が強ぇ……。これならボスMobの一撃食らってた方がマシとも思える違和感がしばらく続いた後、急に止んだ。カイがぶった斬ったな。

 俺はポーチに入れておいた消痺結晶を掴んで回復する。さて、俺も参戦させてもらおうか。

「行くぜ、《焼鬼(しょうき)》!!」

 豪大剣基本2連擊、焼鬼。結晶なしでも放てる炎属性を纏った剣がゴリラの体をV字に切り裂く。さすがに植物+動物、炎はよく効くようで元々3分の1程度減っていたゲージの残りを全て持って行き切傷から噴く炎が奴を構成しているポリゴンをも燃やし尽くした。

「やっぱ、炎が弱点か。ま、弱点が分かっちまえば簡単なことだわな」

「見た目も派手だし、威力も相当だな。旦那のソレ。俺もそのスキル使いたかったなぁ」

「やめとけって。おそらくユニークだろうから俺しか持ってないだろうけど、結晶使った時の不愉快さは真面目に半端ねぇぞ?」

「それでも、さ。実際結晶使わなくてもさっきの威力は出せんだろ?だったら何も問題ねぇじゃねえか」

 さすが、カイ。派手さと強さがありゃ大きめのデメリットでも背負うか。だけどさ……

「お前だってチートじみたスキル持ってんじゃねぇか《両薙》未だに誰も習得してねぇんだろう?」

「そりゃそうだけどよ。やっぱ斬撃が飛ぶってかっけぇだろ!両薙じゃ斬撃が飛ぶなんてことねぇしな……」

 まぁ確かに憧れではあるか。実際俺も子供ん時はよくアニメや漫画の超常じみた斬撃には惹かれるもんがあったってのは事実だし、弟……天馬も俺がこっち来るまではそういうのハマってたしな。

 

「で、肝心のアイテム出たのかよ?マンドラゴリラの薬根……だっけか?」

「おぉ、そういやなんであんなゴリラ倒してるのかってそんな事情だったな。さてさて、と」

 俺はメニューを開き、アイテム欄を確認する。勿論今まで手に入れたことのないアイテムだから一番下にあるだろうと欄をスクロールしていく、が。

「……ねぇな。ドロップしなかったか。ま、そんなこともあらぁな、次行くぞ、カイ」

「へぃよ。ま、一匹程度じゃ物欲センサー引っ掛かったなんてのは言えねぇな、とっとと終わらしてさっさと夜狩り行こうぜ」

 夜狩りねぇ……、俺としてはまだ中断しときたいとこなんだが、一ヶ月以上我慢させといて、再び我慢期間入ったら本気で早い内に鬱憤爆発してギルド抜けられる事態になりかねねぇな。……ま、いっか。一応俺のポーチに《大地結晶》忍ばせときゃ何の問題もねぇ訳だし。

 

 

 ……あれから何時間経ったっけ?朝の十時には開始して今俺の視界は夕焼けのオレンジに包まれている。ってことは軽く6時間は経ってる、と。

 一応、俺達はカイが最後を決める時に限っては薬根も多少は出るんだが、俺の時に限ってそれが全く出ない……俺の時だけセンサー働いてる?

「旦那、根っこいくつ集まったよ?」

「……残念ながらセンサーにリアル引っかかったようで0だよ」

「えっ、旦那それマジで言ってる?」

 流石に予想外だったのかいつもの調子で詰ることもなく素直に驚いていた。まぁそりゃそうだ。クエストのキーアイテムなので多少レア扱いされてるにしても6時間やって1個も手に入らんのは激レアなアイテムでもあるまいし……常軌を逸している。驚きの耐性が付いてきたカイといえど驚愕は必至か。

 

「まぁ、そんな分かり易い嫌な顔するな。当人であるあれが一番辟易してるところなんだから……と」

 サーチングに反応アリか。五人のカーソルはグリーン……今この辺には血盟騎士団とセイントセーバーズのリーダー死亡の為残党管理をしているドラゴンナイツのツートップギルドが急を要するということで俺ら関係者以外立ち入り禁止を設けている。まあゲームである以上リソースは限られてくるんで当然っちゃ当然の処置なワケだが、俺の記憶する限りこの解除薬のクエストに名乗りを上げていて尚且つ5人での参加は一組しか思い当たらない。

 

「あぁ、やっぱりあんたらか」

「そういうそっちこそあんたらか、さ。黒猫団諸君。君らがこんなとこまで来てるということは素材は集まったってところか?」

「えぇ、自分たちはサチの分だけで良かったんですけど多少POPに恵まれなかったみたいで今になってやっと収集完了であとは依頼人に報告するだけです」

 単純に羨ましい。俺としてもとっとと終わらせてあとは通常営業と行きたいのにドロップ率に多少どころじゃない難が出ているんで終われない……はぁ。

「羨ましい限りだな。俺らは二人分稼がないといけない上にドロップ率が恵まれてないらしくてな。俺だけだったら未だに一つも取れてない状況だよ」

「げっ。それホントかよ。ツイてないってレベルじゃなくね?」

 全く……、ダッカーの言うとおりだ。豪大剣手に入れてしまった運で他の運要素に多大なる下降効果がついちまったんじゃ……

 

「なぁ、フレッド。話からするとカイが倒した時はアイテムは出てんだよな?」

「あぁ、その通りだが……、なんか思い当たることでも?」

 俺の返しにキリト君が迷う素振りを見せた後、もしかしたらと続けてきた。

「いやな、フレッドの豪大剣って属性結晶使うってのが大前提の代物だったろう?」

「まぁそうだわな。つっても、結晶みたいなレア品こんな雑魚どもには使ってないけどな」

「そっか……、俺一回だけ「火炎結晶」使ったことあるんだけどな。その時、今まで確実にドロップをしていたMobがその時に限ってドロップしなかったことがあるんだよ。もしかとは思ったんだんだけど……、使ってないならその話はないな。忘れてくれ」

「…………あぁ、確かにその線はなさそうだな。まぁ俺らだけでもPOP率に関しては割と好調だからな。」

 俺がキリト君の推察に冷や汗を流しているのがバレたらしくカイの奴が俺の肩に……ではなく手が届く上限の高さであろうトコに手を置く。

「旦那、そこで黙るってことは何か心当たりあるな、おとなしく白状しな」

「……はい。確か一人で豪大剣の熟練度上げしてた時属性攻撃で仕留めるとドロップがなかったような……ことを思い出しました」

 訪れる静寂。そして数瞬後―――

「「「「「「はぁああああああああ……」」」」」」

―――俺を除くその場にいた全員からため息が上がった。

 

「なぁ、旦那。なんであんたキレてるときとボケてるときの落差そんなに激しいの?」

 あれから黒猫団諸君と離れた後POPしたマンドラゴリラを属性攻撃を使わず倒した結果、出ましたよ、件の根っこ。

 おかげでカイはさっきから俺を詰っている。まぁ、カイが詰りたくなると思うのも無理はないが仕方あるまい、俺自身ですらよく分からないんだし。

 

 耳にタコができるほど延々詰られていい加減反論してやろうかと思った頃、森の出入り口にいたヒースさん御一行を見つけた。彼らは森にいるプレイヤーを管理している、全員出てきたら封鎖を解除しないといけないのでまぁ当然の処置だろう。

「やぁ、ヒースさん。俺らは回収終わったぜ」

「ふむ、君にしては随分時間がかかったね。君らでラストだったよ。大方、属性攻撃で敵を倒してしまった為に問題のアイテムが出なかった、といったところかね」

「あぁ、大正解だ。俺の方はリアルラックのなさが原因だけどこのバカは調子乗って属性攻撃で決めてたんが原因だ」

 カイ、てめぇが返答してんじゃねぇよ! 他人に言われるのはスッゲェ腹立つんだわ。そしてヒースの付き添い二人! てめぇらもあぁやっぱり的な顔してんじゃねぇよ!!

 

 ……まぁいいや。今はそんなことどうでもいい。俺はできるだけカイ達に対する怒りを抑えてヒースに話しかける。

 

「ヒースさん。ちょっとこの後話があるんだが、時間は取れるかい?」

 

 

 




さて、相変わらずなフレッドとカイのコンビでした。

そしてユニークスキルホルダー二人の話し合いが次回内容です、大方の人は予想付きますかね。

そしてここからは事務報告です。
前書きでも書きましたが、本当に申し訳ない。予想以上に改稿版へのモチベーションが上がらず、一度は捨てたこの小説を続けることに相成りました。
次回以降もできればこの小説読んでいただければ嬉しいです。
今回はこのへんで、ではでは!


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第二七話 ~欲~

さて、大事件です。何が大事件かは本編見てもらえれば分かることでしょう。
では早速どぞ~


「悪かったな、なんか無理に時間を空けてもらったみてぇで」

「何気にすることはない。私も君とはいつか是非ちゃんと話してみたいと思っていた。それに50層を攻略した直後だ。別段急ぐ用もないさ」

 あの後、日を改め、ということで現在、根っこ採取の翌日俺はKoBの本部に招かれて俺とヒースクリフのみがだだっ広い部屋の中央で話している。

 相変わらず……戦闘時のみならいざ知らず、こんなお喋りの間でも隙がないというか話し相手である俺を威圧しているかのような緊張感を漂わすな、このお人は……。まぁ俺の考えてる通りならこの空気も当然か。

「まぁ、まずは互いにおめでとうといったところか。お互いに奥の手を見せる結果になったのは痛かったかな?」

「ふむ、まぁあれは仕方なかろう。仮にもハーフポイントのボスだ。むしろ我々の奥の手とあれだけの被害ですんだことは誇るべきことだろう」

 あれだけ……ねぇ。96人の攻略組が参加した50層ボス戦で攻略組屈指のギルド・セイントセーバーズのリーダー・ブランシュを含め24人の被害、つまりは4分の1も死亡した戦いの被害をそんな言葉で済ませられるのはあんただけだろうよ。

 

「で、だ。フレッド君、私に話したいことがあるとのことだったが、一体何の用だろうか?」

 ま、そうだわな、とっとと本題に入ろう。俺だってここに50層で死んで逝った奴の追悼会をしようって訳じゃねぇ。気付いた事をありのままに伝えることにしようか。

「じゃ、お言葉に甘えて。単刀直入に聞こう。ヒースクリフ、あんたは茅場晶彦か?」

「……ほぅ、なかなか面白いことを聞く。なぜそう思ったのか、参考までに聞かせてもらえないかな」

 ド直球に聞いてもポーカーフェイスか。少しくらいは怒りでも見せるかと思ってたが。まぁいい、だったら疑う理由を話していこう。

「あぁ。もとよりそのつもりだ。まず、俺はこの世界に茅場晶彦は潜り込んでいると思っていた。その理由は実に簡単だ。MMORPGじゃなくてもゲームなんてもんはそれこそ自分がやらなければ面白さなんてのは欠片もねぇ。俺にはリアルでゲーマーの弟がいるがあいつのやるゲームを見てても何ら面白みは見出せなかったが自分がプレイすれば見ただけじゃ分からなかった面白さが多少は理解できた。茅場はこの世界を作り出し観察することこそが至上の目的てなことを言っていたが、このゲームがスタートしてから現在まで約一年と少し……ただ、観察するだけってのは退屈すぎんだろ」

「なるほど、一理はあるが、それでなぜ私が疑われることになるのかな?」

「まぁ話は最後まで聞こうぜ?当然容疑者8000人の中であんたが最も怪しいと疑う理由は二つほどある。一つにあんたのそのエクストラスキル《神聖剣》だ。この世界を観察するという茅場の主目的を達成するには、まぁ一番手っ取り早いのはそれこそ外から眺めるのがそうだが、もしゲームの中でそれを達成したいのであれば絶対的な防御力を以てゲームオーバーにならないことが良策と言える。コペル達に聞いたとこによるとそのスキルは非常に防御向きな性格してんだろ?」

「なるほど。そうなると確かに君の私に対しての容疑は分からなくはない。しかし、それだけで私を疑うというのもどうかと私は思うがね」

「勿論、それだけじゃねぇ。二つにあんたのボス戦へ意欲を示したタイミングだ。アンタは20層攻略でソロとして参加し、21層の攻略あたりからKoBというギルドを作り上げ、あとは今のように攻略組の中でも最王手なギルドだ。だけど妙なんだよな、俺はそれまでもそれからも攻略組の一角として前線へ入ってきたが参加するまであんたの噂は一切聞かなかった。俺はあんたを見た瞬間からポテンシャルはおそらく俺よりも高いと思っていたのに、なんで最初から攻略組に入らなかったんだろうと疑問に思ってた。あんたの性格見るに『今まで怖かったんだけど、攻略組の活動を見て俺自身にもできることがあるんじゃ』とかはねぇと思うしな」

 俺が冗談っぽく笑うと、向こうもふふっと言って続ける。

「確かに私のガラではないが、万一という可能性もなきしにあらずではないのかな、もしかしたら今の私はただ強がってるだけで現実では引っ込み思案な大人なのかもしれない、もしかすると君のように英雄願望が強い人間なのかもしれない。現実の私自身を知る人間ならまだしも性格のことなどこの世界で初めて会った君には分かるはずはないと思うのだが」

 ……別に俺は英雄願望が強いわけじゃねぇぞ。ただ単にこの前はカイに対する言い訳で言っただけだし、ヒースクリフは知らねぇはずだが黒猫団助けた時だってたまたま上から乱入したからそれに合わせたジョークのつもりで言ってるからな。

 俺は誰に向けてかよくわからない言い訳を頭の中に押し込めて再びヒースと話す。

「まぁ、確かにそうだ。今の俺にホントのあんたを確認する術はない。だけど、あくまで疑いの根拠の一つだ。よくよく考えてみればという色の方が強いかな?そういった点でもう一つ、あんたの伝説ってのも俺が怪しいと思ってる根拠の一つだ」

「伝説?」

 自身は全く身に覚えがないといった風に首を傾げるヒースを置いて俺は説明を続ける。

「あんたのトコの団員がよく漏らしてるみたいだぜ?『団長様はHPがイエローに陥ったことは未だない』ってな。じゃあ逆の話、どうすればイエローに陥らないかと考えると……」

「なるほど、ゲーム開発者の茅場晶彦であればイエローに陥るような情報を前もって知っておりそれを回避していったと、そういうことかな?」

「まぁそういうことだ。せっかく中から観察しててもこの世界で死んじまったら意味ねぇし。ボス戦なんかで皆の目が光る中で死んだら復活なんてできないしな。だけどさ」

 俺はここで一旦区切り用意された茶を口に入れてから再び口を開く。

「50層を超えて今後戦闘は激化する傾向になるだろうが、果たして情報だけでなんとか切り抜けられるか?当然前情報を持ってるってのは一般プレイヤーからしたら相当なアドバンテージだが、知ってても避けきれない攻撃も当然あるんじゃないか?ならばそういう攻撃に対してどういう対策を打つか?簡単な話だ。圧倒的な防御力……つまりはあんたの持つスキル《神聖剣》、その能力がどんなにいかれた物でもユニークスキルという特別なスキルを冠していればプレイヤーからしたらそれを認めざるを得ないし、自分達のトップがそれを持っていれば攻略組の士気が上がる……故に俺はあんたを茅場晶彦だという結論に至った」

「…………」

 だんまり、か。まぁいいさ。俺の狙いはあくまで気付いたことを伝える。それだけなん……

「仮に今の君の言ったことが真実、つまりは私が茅場晶彦だった場合、君はどうするつもりかね?今君が言ったことは君自身の推論であり、証拠が何一つないようだったが、私が認めなかったらこれを世間に言うつもり、かな」

 へぇ、口を開いてくれるたぁ驚きだな。俺的に次口を開くときは『出て行ってくれないか?君の妄想には少し付いていけそうにないのでな』的な感じで追い返されるとでも思ってたんだが……

 俺は両手を挙げ冗談めかしてヒースの発言に答える。

「まさか!そんな馬鹿げたことしたって大抵は最強エクストラ同士が喧嘩したって思われる程度だろうよ。仮に俺の話を信じた奴が攻略組にいたらそれこそ士気に関わる。攻略を楽しみたい俺にとってそんなギスギスを攻略組全体に持ち込むなんて馬鹿げた考えは俺の頭の中に一つの塵ほどもないさ」

「だとすると、君の行動は少し理解できないな。いくらなんでも軽率すぎる。一切の確証がないまま、疑いをかけてる本人に直接連絡を取るなんていう事ほど愚かしい行動はないように思うのだが……?」

 そりゃあそうだろうよ。証拠が一切ない推理、これが商業漫画の世界だったら絶対にありえない話だ。まぁ、だけどさ……

「そんな堅い事言いなさんな。確かにあんたが茅場であればおそらく疑いを持つ俺をこの世界から強制退去させる術もあんだろうがな。俺は茅場明彦という人間を雑誌、そして始まりの日に会った時ぐらいしか接点はない。けど、それらの情報を元にたとえどんなことをやっても強制退去なんていう暴挙は恐らく取らないっていう憶測が俺にはある」

 まぁそういう暴挙に出たところで首を絞めるのはそれこそ()()()()になるわけだが……

「理由を聞いていいかな?」

 ヒースは今までの会話の中で一番興味ありげにずいっと前のめりに聞いてくる。

「当然。茅場晶彦という人間は天才ではあるが子供のような感性を持っている。世界を頭の中で創り上げその世界で冒険してみたい、誰しも子供の頃に抱いていた幻想だ。しかし普通の人間であれば幻想は幻想、大人になるにつれて現実ではありえないモノに対しての興味は薄れ現実を見、そしていつの間にかそんなことを思っていたことすら忘れていく。だが、茅場明彦は違った。あいつは子供の幻想を現実にし、そしてこのSAOの中でGMという名の神になり一般のプレイヤーができないようなこともできよう。しかし、もしそんな権限を使ってプレイヤーを排除することを主目的にするようなイカれた思想持ってるような奴だったら、この世界にいるプレイヤーはもっと死んでるぜ。それこそ大量の有益な情報を流し、その情報源に回避不能のトラップをめちゃくちゃに仕掛けるとか、な」

 

「……全く、実に感情的な推理だ。で、君は証拠も持って来ないのに私に何を求めるのかな?」

「まぁまぁ、慌てなさんなや。俺自身の目的は茅場=あんたって事をただ言いに来ただけ。ほら、俺って考えてることが顔に出やすいじゃん? で、感の良いあんたぐらいにもなると疑惑に気付いちまうかもしれない。昨日の昼くらいまでは証拠が揃ったら言いに行こうと思ってたんだが、昨日カイに考えていることが顔見でバレちまったからもうあらかじめ言っておくか的な考えになったんよ。あんただったら、たとえこの推理がハズレだったとしても気にも止めなさそうだからな。故にあんたには何も求めてなんかないから安心しな」

 

 そう言って席を立つ俺になんとも不思議そうな顔をして、ヒースが聞いてくる。

「おや、本当それだけなのかな?」

「何度も同じこと言わせんな。俺は楽しみたいだけ。うちのギルドは確かにSAOのなるべく早い開放を望んじゃいるが、俺個人の意見としては100層まで存分に楽しむっていうのが主目的だ。まぁあいつらも生きてここを出れればと思ってるのが大半だろうから問題はないだろうよ。ただ、引き止めてくれた礼に俺から一言言わせてもらおうかな」

 俺は一拍おいてこの本部に来て初めて相手を威圧するように話す。

「俺はあんたの邪魔は基本しない。だけど、あんた自身が俺の楽しみを邪魔するようなら全力で潰しに行く! ま、そういう状況にならないことを祈ってるよ」

 入ってきた扉に向かって歩き出し、それに手をかけたところでヒースのつぶやきが聞こえた。

「面白い男だな、君は」

「……ふっ」

 

 

 さて、現時刻12時30分ジャスト、フィールドに出るのもいいがカイに飽きるほど夜狩り連れてけ連れてけうるさいしなぁ。久しぶりに昼寝でもして体調でも整えるか。

 んなことを考えてると前方からグリーンカーソルが寄ってくる、……あぁアスナちゃんか。

「ハロー、ご機嫌はいかがかな?」

「……それ、私が機嫌悪いこと分かって言ってますよね?フレッドさん」

 おぉおぉ、怖い怖い。まぁ、それくらいの絶対零度の視線で接してくれた方が俺としてはスリルを楽しめるからいいもんだ。

 

 と思っていたら急にシュンと項垂れいつもの彼女からは想像できないほど弱気な感じになっていた。

「……すみません。私の愚行で迷惑をかけてしまったみたいで……」

「それは俺に言うこっちゃねぇな。俺は遅刻してボス戦に挑んだだけ。君からは何ら被害は受けてないよ。むしろ遅刻した俺が君らや50層で死んじまった奴らに詫び入れないとな」

 聞いたところによればアスナちゃんはボスの「戦意の増幅」にもろ引っ掛かり撤退中の部隊を煽動し犠牲を増やし挙句に自分も石化してしまったらしい。まぁ部隊を預かる身としては精神的に相当きついだろうな。俺自身も遅刻して犠牲増やしたようなもんだからこれでも多少は責任感じてるんだぜ?帰りに黒鉄宮に行って死んでった奴らに献花ぐらいはしてってやろうというくらいにはな。付き合いが割と長かったセイントセーバーズの奴らも大勢死んだっていうしな。

 

「まぁ今は君自身が助かっただけでも良しと思っときな。『他人を救いたくばまずは自身の命から救え』親父から教わった数少ない信用ある言葉だ。自身の命を救えもしないのに他人の命を救うなんて身の丈に合わないことはやめとけ、生きてなんぼってこった。今回君は弱かった、自分の命を救えない程にな。だが、君は生きた。運のいいことにな。攻略組にいる時点で常に死とは隣り合わせ、それは奴らも重々承知してたはずだ。だったら君が今することは死んでいった奴らに未来永劫謝り続けることじゃない、強くなれ。それこそ自身どころか今度は他人を救えるくらいにな。それが君が負うべき責任だと俺は思うぜ」

 こんなセリフを言うがこれでアスナちゃんが真の意味で立ち直るとは到底思っちゃいない。だけど、俺に彼女を完全に慰める方法なんて思いつかない。人の心を考えるなんて高等なこと俺にはできない。

 だからこそ逆に焚きつける。俺にとって彼女がここで50層での罪の意識に苛まれてリタイアなんてのは非常に困る。彼女が攻略組全体のブースターであり、彼女が意気消沈してしまえば同時に攻略組全体の士気が落ちる。当然ながらそいつは俺の望むことじゃない。

「……確かに、そうですね。私が今後何もしなければそれは死んだことと同じ。生き残った私がやるべきことではないですね。ありがとうございます」

 言葉を鵜呑みにするんなら信用もできんだけどなぁ~、顔暗いまんまだし、前みたいな覇気もないし……これ以上俺じゃどうにもなんないな。しょうがない彼に丸投げするか。

 

「フッ、どういたしまして。あぁそうそう。後でキリト君にお礼言っときなよ。彼、君が石化した後、必死(・・)で君を助けたみたいだから」

 あえて、必死の部分を強く言う。実際俺が見たわけじゃないんで脚色してある。人ってのはこういう沈んでる時、誰かに頼られてると思うと回復が早い……らしい。キリト君達攻略組が彼女を必要としている事実に気づいてくれりゃいいんだけどなぁ……

「……そうですか。時間が空きましたら」

 そう言ってアスナちゃんはさっきまで俺がいた部屋へ走り込んでいってしまった。う~ん、重症だな、ありゃ。後でキリト君にはこの前助けた礼ということでアスナちゃんの慰めを担当してもらうことにしよう。

 

 

「ずいぶん早い帰りだったな、フレッド。どうだったGM様との会合はさ」

「無事帰れてる時点で聞くこっちゃねぇな、それ。まぁ大方俺が今気づいてることは話してきたつもりだ。中々話してる時はスリリングだったぜ、いつ消されるかわからない緊張感は中々のもんだぜ」

 帰ってきて早々コペルに捕まった。俺のギルドの中でヒース=GMの憶測を教えてある一人だ。他にはデルタにも教えてある、まぁ消された時は彼らに情報垂れ流して世界を引っ掻き回してくれって言ってあったが無用な心配だったな。

「だけど、フレッド。この時点で消されてないって事は彼がGMじゃないって証明じゃないのか?」

「証明にはならんな。いろいろと不確定事項が多い。ほんとに消せる権限を持ってるのか、とか、彼が正体に勘づいていると思った程度でプレイヤーを消すような人物なのかとかな」

 しかし、さすがはコペル、この情報を知ったくらいで慌てふためいたりしないから優秀な参謀を持ったもんだ。

「まぁ、僕はフレッドに助けられてる立場だからね。SAOをちゃんと攻略して現実に返してくれるならそれで文句はないさ」

「……だからさ、人の顔見て考えてること読むのやめようぜ?しかも、それが正解だとなおさら腹が立つ」

「そりゃ仕方ない対価と思わないと。毎度毎度スリルだなんだと言って危険に突っ込む阿呆なリーダー様に毎回毎回肝を冷やしつつ静観してあげてるんだからさ」

「はいはい。ありがとさん。お前には感謝してんよ。じゃあ、俺は夜狩りに向けて久しぶりに昼寝してくるから今日は活動お休みってことで、伝えといてくれ」

 そう言って俺はまた文句を言ってきたコペルをスルーして部屋へ入ってった。




またもや、とんでもなく日にちが空いてしまった、申し訳ない。ついでに50層戦のエピローグ的話だというのにオチない……誰か文章力分けてください……

そして、大事件というのは推理が得意でもないALHAがキリト君がヒース=茅場と推理した情報を元にフレッドなりの推理を展開した挙句、一切証拠ねぇし、途中で何言ってるかわからなくなってしまったことです。……いや、訂正はしましたけどね。多分今回は輪にかけて文章の稚拙さが目立ってしまったんではないかと……
さて、本編。フレッドさんはどうしようもなくSAOの継続を願っています。これはこれでプレイヤー達に対するフレッドの嫌いな「裏切り」なんじゃと思う方いらっしゃるとは思いますが、まぁちょっとした理由も考えてますんでご容赦願います。

で、次回予告遂に本編より「圏内事件」でござぁます。いやぁ、オリジナルは文が稚拙になりやすい上に、設定も自分で考えてかないといけない(その分、オリ設定を活かせる場所でもあるんですが)ので大変ですが、元があるので多少は更新速度早められるかなといった具合です。一切執筆してませんけど……

さて引き続き、ご感想ご意見ご要望お待ちしております。じゃんじゃん持ってきちゃってください。あんまり批判があると作者の心が壊れそうになりますがそれをバネにして少しでも良き作品になるよう頑張ります。
今回はこのへんで、ではでは!


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第二八話 ~お昼寝DAYS~

最初に言っておきます。今回フレッドは出てきません。ちょっと始めてから優遇しすぎだったんで、こっからは原作主人公ことキリト君に頑張ってもらいます。……まぁすぐにフレッド優遇に戻りそうな気がしますが。
では早速新話どぞ~!!

修正完了です!ちょっと原作パクり過ぎてるなと思える部分を自分なりの表現で変えさせていただきました。


第59層・主街区

 

 ……どうしてこうなった。

 

「なんで、俺の両隣にサチとアスナが寝ているんだ……」

 

 しかも、サチに至っては俺の右手を完全にホールドして抜けようにも抜けられない。いや、抜けようと思えば抜けられないことはないが、折角サチが安らかな寝顔を浮かべているというのにそれを崩すのは俺には考えられない。

 

 当然ながらこの状況、男にとっては嬉しい気持ちで一杯だ。何の不満もない。

 だけど……だけど、だ。

 幸いにも俺たちのいる所は最前線の主街区であることは間違いないが、フィールドへ出るルートとは若干離れている。だからすぐにこの状況が見つかることはないはずだが、それも時間の問題。

 

「この状況もし人に……いや、それもそうだが情報屋なんかに知られたら……」

「『《黒の剣士》は両手に華!攻略かまけて女子プレイヤー二人を侍らせのんきに昼寝!!』って書かれそうカ?」

「そうそう、そんな風に書かれたら……」

 

 ちょっと待て、俺は今一体誰に同調した?恐る恐る特徴的な声のした頭上へ頭を向けていくと、ニヤリと笑ったこれまた特徴的な顔に三本ヒゲのペイントをしたプレイヤーがそこにはいた。

 

「いやぁ~、キー坊も中々やるナ。攻略組の中でも優秀なあーちゃんとさっちゃんを同時に口説いて一緒にお昼寝してるなんてサ!こりゃ、明日の一面はこの記事に決定だナ!」

「待て!待ってくれ、アルゴ!いや、アルゴ様!!」

 俺は必死にホールドされてない左手をアルゴのローブめがけて伸ばすが、俊敏な動きでヒョイっと躱されてしまった。

 

「そんなに暴れたり大声出すとアーちゃんもさっちゃんも起きちゃうゾ、キー坊」

「くっ……。違うんだ、アルゴ。これには深ぁーい事情があってだな」

 確かに起こしてしまうかもしれない。だが今の俺は心中穏やかじゃない。よりにもよってβテスターに関すること以外金を積めばほぼどんなことでも情報として売るアルゴにこの状況を知られてしまったのだから……。ここで引き止めなければ確実に次の攻略会議の時、晒しあげられるのは目に見えている。それだけは避けなければいけない、絶対に!

 

 俺の必死さの一部が彼女に伝わってくれたのか、彼女は笑いながら両手をヒラヒラとさせていた。

「そうだろうとは思ったヨ。キー坊みたいなヘタレが異性のプレイヤーを本気で落とそうと思ってるなンて思ってないサ。……オネーサンに正直なトコ話してみナ。事情によっては黙っててあげてもいいヨ。話さなかったら……頭のいいキー坊なら分かるよナ?」

 

 この時、俺は思った。今日は天気が最高な代わりに俺のラックが最悪な日だと。

 

 今日はギルドが休みだったこともあり、俺は攻略している最中にはできないような娯楽を求めて主街区をぶらぶらと散策していた。そして、最前線の主街区に転移した時すぐに気付いた。天気がいいな、と。

 アインクラッドではその日の天候を決めるに無数のパラメータが存在するが、その内、いくつがが良いと、大抵同数のパラメータは悪くなる。例えば晴れていても風がビュービュー吹いてその内竜巻になることもあれば、気温は暑くもなく寒くもなく、風もそんなではない。しかし、雨が降っているというような。

 だけど、今日はポカポカと過ごしやすく風は心地いい湿度を持って流れ、おまけに変な虫みたいのも現れてはいない。ホントはもっと様々なパラメータがあるのかもしれないが天気を決める大まかな《気象》《気温》《風力》《湿度》が好条件かつおかしな虫も発生してないこの天気を見せられた本日の予定ゼロの俺が―――

「……昼寝だな」

―――となるのは無理ないことだった。

 

 昼寝を開始して1時間したかしないかといった頃合。《索敵》に反応があって目を覚ます。

「何してんの?」

「ふぅ……なんだ、あんたか」

 俺の頭上には明らかに不機嫌そうな顔をした《閃光》様が立っておられた。

「攻略組のみんなが必死に迷宮区に挑んでいるのになんであんたはのんびり昼寝なんかしているのよ!ギルドのみんなはどうしてるの?」

「今日はあいにく俺らのギルドとしての攻略は休みなんだ」

「だからって、こんなところで昼寝をしなくてもいいじゃない。ギルドとしての攻略がお休みなら個人でできることに全力を尽くそうとは―――」

「今日はアインクラッドで最高の季節の、さらに最高の気象設定だ」

「はぁ?」

「こんな日にギルドは休み。そしてこの天気。もうこれは神様が俺に絶好のシチュエーションでの昼寝の機会を与えてくれてるに違いはあるまい。その機会を無駄にはできないよ」

「あなた分かっているの?こうして攻略を一日無駄にした分、現実での私たちの時間が失われていくのよ」

「そんなに生き急いでどうするのさ?攻略を適度に休むことだって俺は攻略を進めるのに重要な事だと思ってるよ」

「……」

「あんたもたまには休んだらどうだ?あんたんトコの団員がぼやいてたぜ。最近の副団長様は何かに取り憑かれたかのように攻略している。一体何があったのかってな」

「私は!もっと強くならなきゃならないの!じゃなきゃ私は……!」

「あまり思い詰めるもんじゃないさ。試しに一日だけ眠ってみれば分かるさ。この素晴らしい日に昼寝をすることの有意義さが」

 

「―――と、会話だけ抜き出したらこんなやりとりがあってな。確かに誘ったのは俺だが、本気で寝ちまうとは思ってなかったんだ!」

「ふぅ~ン。じゃあ、なんでさっちゃんまで隣で、しかもキー坊の右手をがっちり捕まえたまんま寝てるンダ?」

「そ、それは……!」

 正直、俺にも分からない。確かに俺は寝る前に索敵を発動させて近づいてくるプレイヤーがいたらアラートで知らせてくれることになっているが、同じギルドのケイタやサチに関してはアラートは鳴らない。ちなみにアルゴに気付けなかったのは単に俺の《索敵》よりも彼女の《隠蔽》のスキル値の方が高かったからだろう。

 

「そうか、キー坊は気付かない内に女性プレイヤーを眠りに誘っていたのカ……。やっぱり、明日の一面はこの記事に決定ダナ。『攻略組《黒の剣士》キリトは女性プレイヤーを気付かない内に堕とす魔性の男だった!!女性プレイヤー諸君は要警戒!!!』タイトルはこんな感じデ」

(冗談じゃない!)

 心の中で叫ぶ。もしそんなこと新聞で公表された日には俺は攻略組という枠に居れなくなる!普段チャラい男がそんな記事を書かれたとしても、むしろ自慢して社会的にもダメージは少ないだろうが、俺は違う。攻略組に会う度変な目で見られ、フィールドに出れば普段はそんなに警戒しないグリーンのプレイヤーにすらビクつかなければならない生活を送ることになる。俺、そんなことになったら自殺するかも……

 ホント腕を抑えられてなければ俺の体は自然と土下座の姿勢をしていたことであろう。

 

「へぇ、じゃあキー坊は一切誘ってるつもりはなかったって、こう主張するんだナ?」

「あ、あぁそうだ。分かってくれたんならその情報を売ったり、公表しないでくれ! ほんとにこれは事故なんだ」

「ふーん、やっぱり記事の差し替えは決定だナ。オイラが問題視してんのは気付かない内に女性プレイヤーを誘ってるとこだもんナ。じゃな、キリト(・・・)

 ……まずい。アルゴが俺のことを『キリト』と呼ぶなんて事象は今まで一度たりともない。って事はそれだけ興奮状態だってことだ。

 こうなったら、サチを起こすことになっても、物理的に止めないと……っ

(って、あれ?)

 不思議とサチに掴まれているはずの右手に重みがなかった。そして

「アルゴ!待ってあげて。キリトに非はないの!」

 俺とアルゴの前に頭を下げたサチがいた。

 

 

 サチ曰く―――

 折角のお休みなんだし、一緒に食事でもどうかなぁって思ってキリトを探してたらアスナさんと一緒に昼寝してたキリトを見つけて……で、ちょっとびっくりさせようかなぁって思ってキリトのそばにまで行って、いざ驚かせようって思ってキリトの寝顔見てたら眠くなってきて。ちょっとだけならって思ってキリトの隣に……いつの間にか寝ちゃってたみたい。

―――とのことだった。

 そして、それを聞いたアルゴは

「う~ン、またも主点がずれてるような気がするケド……しょうがない、さっちゃんに免じてここは何も見なかったことにしヨウ、感謝しなヨ。キー坊(・・・)

 本当に良かった。呼び方も戻ってるし、秘密裏にバラすというのはアルゴの性格からしたらないといってもいいだろう。これでも止まらなかったら明日、俺にはカタストロフが起きていたに違いない。今後は天気が良好でも昼寝するのは控えよう。俺には何かしらの眠気パラメータが出ているのかもしれない、うん。

 

「サチ、助かった。ありがとう」

「う、ううん。気にしないで。私も隣で寝ちゃってたのがアルゴの誤解につながったみたいだし……」

「あ、あぁ。まぁ俺も昼間に外で寝るのはしばらくは避けないとな。隣の誰かさんも俺が寝てる所見て寝ちまったみたいだしな」

 俺は左隣にいる未だ眠ったままのお嬢様を見る。しかし、あれだけの騒いでいたにも関わらず起きないというのはおそらく……

 

「疲れてる……んだろうね」

 俺の思考の続きをサチが代弁してくれた。まぁ、攻略の様子を見て分かり易い。以前の俺と同じように攻略に明け暮れていたしな、最近の彼女。だから昼寝でもしてみれば?と思ったんだが。

「第50層のハーフポイントのボス戦から……と言っても私達が参加したのは49層の戦いからだけど、何か鬼気迫る感じっていうか、やっぱり責任を感じてるのかな……?」

 第50層ボス戦、その時に彼女はボスの術中にハマり、多くの犠牲者を出した。当然死んだ24人全てが彼女のせいという訳じゃなく、その後の石像回収班が迅速に動いていたおかげでその時は2人の死者を出すに留まった。だけど、やっぱり俺と同い年ぐらいの彼女が背負うには重すぎたのかもしれない。

 その後の攻略でもユニークスキル使いのフレッドは結晶が不足しているからユニークとしての能力に頼られるのは困ると言って攻略戦にこそ顔は出すが一般の両手剣剣技しか使わないし、ヒースクリフは50層を終えた後、攻略戦はアスナに任せっきりになってしまい、更に彼女の攻略組としてのエンジンがかかっている。

 そういや、フレッドに「アスナちゃん、しっかりフォローしないとその内とんでもないことになるから、支えてやりなよ」と言われていたな。フレッド……こうなること読んでたんだったらあんたがフォローしろよ。対人スキル0の俺に何を求めてんだ、あいつは。

 

「……今日は食事は無理みたいだね。最近は減っているけどまだレッドギルドがうろついているし」

 俺が今はいないフレッドに対して虚しい反発をしているとサチが急に切り出してきた。そうか、サチも今日は食事に誘うつもりで俺んとこまで来たんだもんな。

「悪いな、アスナをこんな無防備なとこで寝させちまった俺にも責任はあるし、今日はパスだな。今度、また誘ってくれよ」

 最近はPKも《()()()()》発足当初と比べれば数は減っているが、まだギルドとして活動している以上油断はできない。近頃だと眠ってる相手の指を勝手に操作して《完全決着モード》のデュエルを仕掛けたり、担架系のアイテムにターゲットを載せ圏外に連れて行きHPをゼロにする、《睡眠PK》が横行している。どちらも殺害することのみに特化した方法で、正直奴らのそういうものを考えつく腐った根性には反吐が出る。

「うん、じゃあまた夕方に。遅れるようならメッセージちゃんと送ってね」

「あぁ、分かってる。……あ、そうそう。ちょっと聞いてもいい?」

「何、キリト?」

 俺はさっきアルゴの件でスルーしてしまったが気になることがあったので聞かせてもらった。

 

「昼寝してた時さ、俺の腕掴んでたじゃん?あれってサチが自分でやったの?」

 

 ピシッ、っと空気が凍った。いくらその類の表現が敏感なSAOだろうとここまではっきりと音が聞こえるっていうのも珍しい現象だ。……そして、それと同時にサチの地雷を踏んだことを瞬時に理解できた。

「う、うぅうううぅ~、キリトのバカぁああ!!!」

 サチは顔を真っ赤にして中央街の方に走り去ってしまった。……なにかまずいことを聞いたのだけは分かるけど、何が悪かったのか全然理解できない。俺としてはサチに寝る時に抱きつき癖があるんなら、彼女の誕生日も近いから抱き枕のアイテムをプレゼントしようと思ってたんだけど……う~ん、分からない。

 今日の教訓、サチといいアスナといいアルゴといい……女性って難しい。

 

「クシュン」

 夕暮れ時、中央街でド派手なデュエルの音が響く中アスナは可愛らしいくしゃみと共にようやく目を醒ました。もうちょっとで、黒猫団に連絡を入れるところだったのでちょうど良かったといえばちょうど良かったろう。

 

 ただ、俺個人としては彼女の実に八時間に及ぶ爆睡の結果昼飯すら食えていない。ギルドとしての行動があるならサチが簡単に弁当は用意してくれるのだが、何せ今日はオフだし、ついでに彼女自身も俺を誘って外食するつもりでいた故、当然そういうのはなかった。

 なのでせめて俺はこの状況を認識した後のあの冷徹な攻略の鬼である副団長様が、どんな表情を見せてくれるのかだけを楽しみにひたすら凝視し続けた。

 寝起きのアスナは口元からは涎、頬には葉っぱをつけて、焦点が定まってない瞳を右に左に動かした後、俺の姿を視界に捉えると途端にそのアホ面から目を見開いた。SAOの豊かな感情表現アシストにより白い肌を瞬時に赤く染め、次いで青ざめさせ、最後にもう一度赤くした。

「なっ……アン……どう………」

「おはよう、よく眠れた?」

 ミスったと思った。彼女の最後の表情はどう考えても激昂によって赤く染まっていた。自尊心が強い彼女がこんなふらついた男に寝起きの惚けた顔を見られたとあっては、彼女の心情推して知るべし。

 予想と同時に瞬時に彼女は自分の武器に手をかけ、引き抜こうとする。鬼気迫る表情にここが圏内ということも忘れ、腰を下ろしていた岩積の塀の影に隠れる。

 しかし、さすがはKoB副団長様、なんとか自制心が欲求に勝ったらしく腰の細剣を若干引き抜いたところで再び鞘に収めた。

 そして、わなわなと体全体を小刻みに震わせながら短い一言が押し出された。

「………ゴハン一回」

「……は?」

「ゴハン、何でも幾らでも一回おごる。それでチャラ。どう」

 実にありがたい申し出だ。KoBの副団長様にゴハンを奢ってもらえる機会などまさに空前絶後、後にも先にもこの一回だけだろう。

 だけど、俺も今やギルドに所属しだいたい夕飯はホームで取っている。余談だが、今のホームは俺が再入団するまで例の事件以後、一回も使っていないらしい。なぜかと問えば「ここは僕達『月夜の黒猫団』のホームだからね。欠員が出たままじゃ使う気にならなかったんだよ」と返って来た。

 という事情なので、この誘いを受けるべきか受けざるべきかと思っているとアスナのほうから声がかかった。

「別に今じゃなくてもいいわ。あなただってギルドとの兼ね合いがあるでしょうし、アポを取ってくれればいつでも」

「う~ん、それだと俺が忘れてって可能性も有りうるしなぁ……あ、じゃあこんなんどうだ。今日の夕飯うちのギルドと一緒してくれよ。うちのギルドサチ意外男所帯だし、ちょっと奴らを驚かせてみたいのさ」

「なっ!?」

 正直、よくこんな発想できたもんだと思う。俺みたいな対人スキル0の奴でも女の子誘えるぜ的なことをアピールしようかなぁという今までの俺からしたらありえない考えだろう。やはり、そういうところでSAOというゲームは俺を変えているんだろうなと思ったところで俺の考えに若干フリーズを起こしていた彼女が口を開く。

「……どちらにしても、結局多人数に見られるのは変わりないのよね……。分かった、それでいい。じゃあせめて食材ぐらい私が出すわ。料理人はいるのよね?」

「あぁ。なんでとびっきりいい食材を頼む」

 まぁ誘っているのはこちら側なのでここで彼女に手料理を頼むとか言ったら、今度こそ本当に彼女の細剣が俺の首を捉えると思われるのでここは自重しておく。

「じゃあうちのギルドがよく使ってる店が下にあるからそこに行くわ。君は転移門の前で待ってるだけでいいからね!」

「お、おぅ」

 語気に押されて、59層主街区のメインストリートを二人で歩いている。傍からはこそこそと話し声が聞こえる。大方あの二人どんな関係?というような聞いてて楽しいものでもないんでアスナに振る話を考えるが全くと言っていいほど話が思いつかない。

「ありがと」

「へっ!? あ、あぁ。今日の話か」

 いきなり声をかけられたもんだからふと素っ頓狂な声を上げてしまった。

「うん、睡眠中はどうしたって無防備になっちゃうからね。今日はガードしてくれてってのがひとつ。それと50層のボス戦の時、石になった私を助けてくれたのってキリト君だったんでしょう? だからありがとう。なんかタイミングがなかったから今まで言えなかったんだけど」

「あ、あぁ。何だ、そのこともか。別にいいのに」

 ほんとに律儀なお方だ。そんな3ヶ月も前のことを覚えていて、且つタイミングが来たんで謝るなんて。普通に俺の方は攻略組なんだから助けた助けられたは当たり前だと思ってたんだが目の前の副団長様はどうやら考えが違ったらしい。

「いいの。私がずっと気にしてたことだから。うん、なんか肩の荷も降りたしちゃっちゃっと食材買ってきちゃうね」

 

 転移したあとすぐにアスナが行きつけのお店に行ってしまったため今は転移門の前で待たされている状態だ。まぁ当然その間は手持ち無沙汰になるんで黒猫団のみんなにメッセージを送っている。

「えと、『お客さんが来るんでちょっと遅れる。料理は買っていくんで少し待っていてくれ』と」

 メッセージ送信ボタンを押し1分後返信。『了解』と。これで再びやることがなくなる。待ってる間何をしようかと思っていた。

 その時だった。

「きゃああああああああああ!!」

 どこか遠くから紛れもない恐怖の絶叫が聞こえてきたのは……。




はい、題名でお分かりでしょうけども、例のアスナとお昼寝withサチといったところですね。原作と違ったことしたいなぁと思ってサチを出すだけでもよかったんですがアルゴさんも出してみたりw
今回は多少恋愛成分絡めてみたのですがいかがだったでしょうか?彼女らの心情が伝わっているのであれば自分としては万々歳なんですが、やっぱり難しいです。

で、例によってこっからは業務連絡でごぜぇやす。
えと、まぁこれくらいの更新速度は保っていきたいんですが、まず今週全部バイトが絡んできます。正直きついかもしれません。そして来週、MH4が出ちゃうんですよ。それを友達と一週間ぐらいオールでやる可能性があります。まぁぶっちゃけると更新できないかもということです。もし、来週の今日までに更新できなかったら「あぁ、時間なかったんだな」程度に思っといてください。で、その次の日曜日まで更新できなかったら「あ、こいつゲームにはまってやがる」程度に思っといてください。
自分も再来週までに最低一話はあげたいと思っとりますが、更新が止まる可能性もあるということを頭の片隅にでも置いておいてくれれば幸いです。
引き続き、ご感想・ご意見・アドバイス等々ございましたらぜひぜひ私めにお伝えください。今回はこのへんで、ではでは!


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第二九話 ~圏内事件~

長らくお待たせいたしました。

しばらくモンハンとかモンハンとか、あとモンハンにはまっておりました。申し訳ない。

今後は活動報告に書いた通り毎週日曜交互更新を心がけるつもりです。変更があればその時は活動報告にて。では、二九話どぞ~

追記:修正完了です


キリトside

 

 突然聞こえた悲鳴に呆けていた俺の頭は急激に覚醒し、次の瞬間には駆け出していた。悲鳴の聞こえた広場へと。

 俺が全力ダッシュをして到着した頃には悲鳴を聞きつけた野次馬が既にチラホラと集まっていた。そして、その視線の先にはありえないものがあった。

 この広場の西側には教会がある。その窓から男が首にロープをくくられ宙吊りになっていた。だが、この世界でロープ等のアイテムでは首を絞めても窒息して死ぬ、なんて事はない。驚いたのはその男の胸から生えていた《短槍》の方である。

 その短槍に貫かれた胸からは血のように赤いポリゴンの欠片が今なお噴出している。つまり、未だにあの槍は《貫通継続ダメージ》によって男のHPを蝕んでいることに他ならない。

「何をぼぅっとしてるの!? あの人を助けるわよ!」

「あ、あぁ!」

 いつの間にか来ていたアスナの声でハッとして吊るされている男の方へ駆け出し、彼に向かって叫ぶ。

「早く抜けぇ!」

「!?……!」

 男は引き抜こうとしているのだが、胸に刺さっている短槍は見て取れる程に目立つ逆刺があり、思うように抜けないらしい。それだけじゃない。この圏内(・・)で貫通継続ダメージが発生するというありえない現象と刻一刻と迫るHPバーが0になるという恐怖のせいで力も思ったっ通りに出せないんだろう。

 

「(この位置なら……!)」

 俺がピックを投げてあのロープに当てる。そして、落ちてきたところを受け止め、俺が槍を抜く。そうすれば、あの男は助かるはず。だけど俺の腕はピックを取り出そうとした瞬間、硬直した。もし、狙いが逸れてあの男に当たったら? それが止めの一撃になってしまったら? それを考えると安易に投剣する事はできなかった。

「君は下で受け止めて!」

「あぁ、分かった!」

 アスナが俺の腕を見ていたからやりたいことも分かっていたんだろう、俺ができなかった理由も同時に察したのか、アスナが向きを変えて教会の方へ走っていく。

 

「がぁっ……!!」

 男が声を出す。決して胸に刺さった槍を引き抜こうと気合の声を入れたわけじゃない。彼の顔は胸ではなく右上の虚空を凝視していた。言うまでもない、自身のHPバーだ。考えている間にも男の呻く声はどんどん焦りを帯びて、そして―――

「――――――!!」

―――消えた。青いガラスが砕け散るように。消える瞬間、男は何かを叫んだ気がしたが、消滅エフェクトに紛れて何も聞き取れなかった。

 そして、男が消えた場所にはロープが垂れ下がり、命を奪った凶器は地に落ちた。

 

「どういう事なんだ……」

 教会の一室、男をぶら下げていたロープが出た部屋に今俺とアスナがいる。当然ながら犯人と思わしき人物は発見できず、ここで可能性を考えているところだ。

「普通に考えれば、《完全決着モード》のデュエルを受けて胸に槍を突き刺して首にロープを括らせて窓から放った、って考えるけど」

「だが、俺が見た限り、いや集まっていた輩にも頼んだが、ウィナー表示は見つけられなかった」

「だけど、それはありえない。あなただって分かってるわよね?」

 そう、圏内ではHPは減らない。これはこの世界での絶対のルールの一つ。死ぬか100層の頂を見るまでこの世界から出ることができないのと同じ。

 

 俺たちは顔を見合わせたまま再び沈黙した。ここで気づいたが表が騒がしくなってるみたいだ。

「うーん、やっぱり情報が足りないな。ちょっと目撃者から話を聞くしかないな」

 

 俺とアスナは教会を出て更に集まってきた野次馬に向かって叫んだ。

「すまない。この中で、この事件を最初から見ていた人がいるなら話を聞かせて欲しい」

 再びざわめきが聞こえてくるが誰も出てこない、と思ったら群衆の中から女性のプレイヤーが出てきた。

「ごめんね。恐い思いをしたばっかりなのに……」

「いえ……」

「ひょっとして最初の悲鳴は……」

「私です」

 そのあと彼女に聞いた事は、彼女の名前はヨルコ、殺されたのはカインズという男。昔同じギルドにいた為、たまに食事とかも一緒にしていた。今日もそういう事でこの57層に夕飯を一緒に食べに来ていた。ちょっと目を離したらはぐれてしまった。探していたら、悲鳴が聞こえ周りを見たらあの光景が。その時、彼の後ろに人影を見た気がする、と。

 

 情報を聞いた俺達は一人で戻るのが怖いと言った彼女をホームまで送った後、再び、今度は主街区で悩んでいた。

「話を聞いて更に分からなくなったわね。事前までヨルコさんと歩いてたとなると睡眠PKの線はないだろうし」

 確かにそうだ。となるとこの事件の真相としてありえる線は三つ。正当なデュエルによるもの、既知のスキルの組み合わせによる抜け道、もしくは未知の……アンチクリミナルを無効化できる……ん?

 

「なぁ、アスナ。この主街区って基本的に人や物を傷つけようとすれば紫の障壁がシステムガードとして出てくるよな」

「? 何を今更。当然でしょ。この主街区の中ではそれが絶対の……!? あなた、まさか!」

 アスナも俺の意図に気付いたみたいだ。この世界で紫の障壁を唯一叩き壊すことができる存在に。

「フレッドなら可能なんじゃないか?あの《豪大剣》ってスキルは《眼前の物をすべて粉砕す》るんだろ?」

「ありえない……って言いたいけど、一般に知られているスキルじゃないから私達がどうこう言える話じゃないわね。それに、あの人の性格考えると……」

 

『俺はスリル求めてんだ。だから人殺して今度は犯罪者になってやったぜ!!』

 

 う~ん、俺としてはコペルや自分を1層の時助けてもらってるし、黒猫団もかなりお世話になっているんで命に対して良識はあると思ってる、はずなんだが……。いつもスリルだ何だ言ってる人間だからこんなセリフを言ってるアイツが容易に想像できてしまう。若干俺主観のフィルターが入ってることは認めるが。

 アスナも同じ想像をしていたのか二人揃ってため息。そして彼女が切り出す。

「ねぇ、あなたはフレッドさんとフレンド登録してるのよね?」

「ん?あ、あぁ。まぁ、不本意ながら結構世話になってるからな」

 

 そこで再び彼女は考える仕草を取り、数秒後彼女はこう言った。

「申し訳ないけど、この事件の解決あなたに任せられないかしら?」

「別に構わないけど、あんたはどうすんだ?」

 珍しい事もあればあるもんだ。攻略隊で見る彼女は責任感と正義感と気が強い女性だと思っていたからこの事件の解決にも一役買うのかと思っていたんだが……

「何か手伝ってほしい事があるのなら協力はするわ。だけど、この事件が解決するまでずっと攻略に参加できないってなると話は別。私は強くならなきゃならないから……」

 その時見た彼女の顔は何かに怯えるような、そんな顔に見えた。

 

 

フレッドside

 

「なぁ、流石に安すぎねえか?」

「いいじゃないか。これでも値段は釣り上げてる方なんだぜ、ダンナ」

 エギルのヤロー、今のところ攻略組しか行かないような場所でしか採れない金属10個セットを5000コルで売れと?納得いかねぇ。だが、ギルド全体で世話になってるから他のとこへは行きにくい……それを知ってコイツは値段をできるだけ下げる……腹が立つ。

 くそ、最前線の依頼を食材班と俺で解決してその報酬としてインゴットを数個貰ったのはいいが、全部速度系のモノ、カイやシリカあたりなら使えるだろうが、既にお気に入りの武器があるから遠慮、じゃあ売りに行こうと思ったら、いい加減ボス戦ちゃんと参加しろやと他の攻略組連中にデュエルを挑まれたのを両手剣オンリーの上で瞬殺で降参させ、やっと売れると思ったら値段低い……しょうがない。

「じゃあ、いいさ。食材班の武器制作用にリズに渡しとくから!じゃあな!!」

 

 で、俺が出ていこうとすると唐突にシステム音、どうやらエギルのとこにも来たらしく二人揃ってウィンドウを開く。どうやら情報屋連合のニュースのようだ。

『圏内で殺人か?57層主街区で大勢のプレイヤーの前でプレイヤーが消滅するという事態発生!!暫く要警戒』

 圏内で?殺人?ありえないって。圏内ではデュエル以外でHPを減らすことはできない。それは、現状この世界からログアウトできないのと同じくらいの真理。覆すことはできない。

「……ダンナ、これはどう思うよ?」

「単なる見間違え。そう結論する。圏外ではデュエル以外でHPは減らせない。それは間違いない。もしウィナーウィンドウが出なかったんであれば見間違え、錯覚。それ以外考えられない」

「でも、あんたの持ってるスキルみたいに特殊な例ってのは?それこそそのスキルはイモータル設定されてる物体叩き斬れるんだろ?」

「考えられはするな。だが、おそらくその線もない。真理はそう簡単には覆らない。イモータルをぶった切れるっつーのも結構条件が厳しいし、生命体は能力じゃ斬れない」

 だが、確かにその線も考えられるな。となると、俺の豪大剣はユニークの一つであると推定されてる今、不特定多数のプレイヤーが俺を疑うことは考えるべきか。それで一々「お前、やっちまったの?」的視線はゴメンだな。まぁ、俺をちゃんと知ってくれてる人間からすれば正面にいるエギルみたいに―――

「………」

―――あるぇ、なんでそんな複雑そうな顔してはるんですか?即効で否定してくださいな。まぁ、日常的にスリル云々言ってる人間って自覚はあるからこうなるのも多少は予測できたが、俺は()になって殺人なんてするほど落ちぶれちゃいねぇよ。

「ほんとは俺には関係ねぇんだけどな……。若干面倒そうな件ではあるし、仮にそんな圏内PK技を開発されたとあっちゃギルメンにも危害が加えられることが考えられる。仕方ねぇからこの件の解決手伝ってやんよ」

「その言葉で確信した。あんたはやっぱりやってないな」

 できれば、俺が解決に乗り出すって言うまでもなくと思ったんだが……、まぁ高望みはすまい。

「じゃあてっとり早く目撃者に話を聞くとしよう。つってもなんか向こう側から情報提供者が来そうな気がする―――」

 俺の言葉が終わる刹那、再びシステム音―――メールの着信を知らせるもんだ。送り主ははキリト君。

「……やっぱり、先に情報提供者が来てくれるみたいだな」

 

黒猫団ホーム

 

「全く、急に俺を時間指定して自陣に来てくれと言って呼び出すなんて偉くなったもんだな、キリト君」

「まぁまぁ、キリトも別に他意はなかったと思うよ。とりあえずそれは置いといてフレッドさんの話を聞きたいんだ」

 彼らのホームに入って早々に不満を垂らす俺をなだめるケイタ。まぁ確かに貴重な時間費やしてここにいる以上無駄な時間は省くべきだな。

「あぁ、大体の事情は分かってる。圏内でプレイヤーが死んだっていうあれだろ。で、紫の障壁すら貫通する俺の「オールデリート」を思い付き、それについて詳しく知りたい。そんなこったろ」

「ま、まぁそういう事なんだ。協力してくれないか?」

「無論だな。じゃなかったらメールで拒否って書いて送ってるさ。……とは言っても俺が提供できる情報は大してないと思う、むしろ目撃者である君から聞くことの方が多そうだがな」

「というと?」

 キリト君はちょっと不思議そうに首をかしげるが、構わず俺は続ける。

「簡単な話だ。この能力は自らの意思で動く物体、いわばこの世界で言うところの生命体には使用不可。一言で言ってしまえば「俺の能力でプレイヤーやNPCを圏内でぶった切るなんて芸当は出来ない」っつー事だ。俺としてはむしろ君らの様な「豪大剣なら斬れるんじゃね?」という考えを持ってるプレイヤーを根絶したい。手っ取り早い方法は事件を解決、犯人(ほし)を挙げる事。ってな訳で目撃者であるキリト君に話を聞こうと思ってね」

「なるほどな。だけど、俺含めて事件を最初から見てた奴がいるわけじゃないんだ。それでも?」

「構わねぇ。最初からそんな高望みはしてねぇよ」

 

 キリト君曰く第一目撃者のヨルコという女性プレイヤーも決定的な瞬間は見ていない。悲鳴が聞こえたから行ってみたら知人であるカインズという重武装の男性プレイヤーが教会の窓から胸に短槍が突き刺さった状態でぶら下がっていた。しばらく苦悶した後ゼロ間際のHPバーを見ながら死亡エフェクトの後消滅、と。

 

「(……なるほど、想像してみると中々刺激的な光景だ。)とりあえず事件のあらましは聞いたが、そうだな。疑問点は二つ、「本当にカインズという男は死んだのか?」「なぜ、カインズは重武装をしていたのか?」この二点だな」

「一点目は今ダッカーが確認しに行ってるからそろそろ連絡は来ると思う。でも二つ目はなんでだ?」

 ……仕方ないな。キリト君の質問に答えるとしよう。

「簡単だろ。ただ食事に行くだけなのに重武装をする必要はあるまい。カインズはそのフロアで狩りをした直後とかそういうケースだったんか?」

「いや、特にそう言う事は聞いてないな。確かに言われてみればと言う方が強いけど疑問ではあるか……。でも急にデュエルを挑まれたら?俺の考えでは完全決着でのデュエルを受けてカインズ氏が負けた線が一番強い気がしてるし」

「僕も同意見だな。デュエルを挑まれれば武装をする事は当然ある話だし、圏内ではデュエル以外でHPを減らす手段はない。もし、この《圏内殺人》が事実だとしたらそれ以外に線はないと思う」

 キリト君の意見にケイタが同調する。まぁ一見筋が通るようには思える。だが。

「完全決着デュエルを挑まれカインズが敗北した。その為に武装をしていた、と君らはこう主張するか。だけどその確率は限りなく低いな」

「理由は?」

「そもカインズは食事に来てたわけだろ?なのに急にデュエルを挑む、もしくは挑まれて、それを受ける……どういう状況になったらそんないかれた行動起こすんだよ?しかもデート中の彼女を放って」

「デートって……」

「事実だろ?それに仮にデュエルを行ったとしてなぜに完全決着か?普通に《初撃決着》なら百歩譲ってデュエルを行うのは良いが、カインズとその相手が自分の命を賭してまで《完全決着》を行う理由は何か?」

 沈黙が訪れる。数秒後それを破ったのはケイタだった

「まぁ、そうなんだよ。僕達も悩んでるのはそこなんだ。わざわざデュエルを受ける意味が分からない。強いて言えばそれだけ殺したい相手が自分の目の前に現れたから、ってのが有力だと思ってる」

 ケイタの考えに俺はなるほどと思う。確かにそれならばデート中彼女を放って行くのも頷けなくはない。だがそれを考えると―――

「どんな因縁があるか気になるとこだな。まぁ君らはその線で調べるんだな。俺は別の線を当たるとするよ」

「別?何か考えがあるのか?」

「まぁな」

 キリト君が語ってくるが深くは言うつもりはない。そっちの線も十分にあり得る話だから二面作戦で行けば解決は早いだろう。

 俺は出ようとしたとこで一つ気付きキリト君に尋ねる。

「なぁ、カインズのスペル教えてくれねぇか?」

「あ、あぁ。K・A・I・N・Sだ。これはヨルコさんに確認済みだ。でも、何に使うんだ?今ダッカーの方から連絡あって確実に死亡してるってメール来たぜ」

「百聞一見。自分で確認出来る事は自分でしねぇと気がすまねぇ性質(たち)なんでね。なんか分かったらそん時は教えてくれや、んじゃっ」

 俺はそう言ってその場を後にした。

 




ってなわけで二九話終了です。


で、とりあえず圏内事件編ではアスナさん外します。彼女のファンの方申し訳ない。何故彼女が原作と違った行動したのか?まぁ見れば分かってくださる事をホント切に願います……、伝わってれば幸いです。

で、圏内事件は実際フレッドが原作に居たら真っ先に疑われと自分は思ってます。イモータル破壊できるし、何よりあのキャラ見てると、ね。

さて、またも業務連絡です。ホントはデジモンも更新したかったんですが、ちょっと時間なさそうなのでこれは来週の更新に回します、待ってて下さった方、申し訳ない。そう言う訳で来週はデジモン、再来週はSAOという風に更新して行きたいと思います。まぁどっかで急激に執筆スピード上げないと永遠に終わらない気がするので、又変更はあると思いますが、とりあえずこれ以上は遅くならないように気をつけます。

今回はこの辺で失礼いたします。ご意見・ご感想などございましたらお気軽に感想板もしくはメッセーじにて。ではでは!


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第三十話 ~果報は狩って待て~

どうも、日曜更新出来てほっとしとるALHAです。
しかし、どんどんリアルが忙しくなっていく……、しかし、この調子で書き続けられたとしても終わるのに概算2,3年はかかりそうな話。やはりどこかでスピードアップしなければ。
まぁ、そんな愚痴はともかく新話どぞ~


フレッドside

第一層 黒鉄宮

 

「(……この時間のここはやっぱりというかなんというか物悲しい気持ちになるな)」

 夜も更けるこの時間、俺が来たここ黒鉄宮は非常に鬱な気分になる。なぜか? この時間帯になるともはや人もほとんどいない上に目の前には2000以上の斜線が引かれた《生命の碑》が月の淡い光を反射して無機質な輝きを伴って迎えるからだ。さすがにこれだけの人数が死んでいるのを証拠として突きつけられたならば俺とて一抹の寂寥感というものが胸を刺す。……まぁ、すぐにそんな感情抜けていくんだが。

 

 物思いにふけるのもいいがそろそろ、捜査を開始するとしよう。つってもからくりはあらかた分かっている。圏内でデュエル以外の死亡はあり得ない。そして、キリト君の証言からデュエルでの死亡の線は限りなく薄いと結論する。普通に考えて10を裕に超える人の目を欺いてウィナー表示を隠す事なんて出来やしない。

 ならば、今回の事件で起きた現象は何か? 答えは簡単だ。死亡偽装、これ以外にない。死者が出ても、死体が残らないこの世界ならではのやり方だ。まぁその代わり目の前にある碑を欺く必要があるが、これはさほどの問題ではない。この碑には生存者は勿論死亡者も含めてこのSAOにログインしたすべてのプレイヤーの名前が載せられる。俺ならFred、カイならX(本来はXではないがアルファベット選択しかない為Xで代用したらしい)といった風に書かれているし、死亡者でも例えばブランシュならBlancheという名前の上に横線が引かれ、その横に死亡日時、死亡要因が書かれ、消される事はない。

 此処まで聞くとこいつを欺くのは不可能かと思うかもしれねぇがそんなこたぁない。ここで注意すべきは死亡日時までし書かれない点だ。つまり《年》は記載されない。例えばAという名前の奴が二人いたとする。そのAというやつの一人がある年のある日にちにモンスターに殺されたとする。そして、その翌年の同じ日にち同じ時間にもう一人のAもモンスターに殺されたとすると目の前にある碑には全くの同じ内容が記載される訳だ。

 もちろん現実問題として同ネームのプレイヤーはこの世界に存在できない。システム上でそういう事になる前にストップが入り、後からそのネームを選んだ奴は別の名前を決めなければならない。

 ここでもう一つ重要な点として、この世界のプレイヤーネームは全てアルファベットで構成されることが挙げられる。俺の名で例えれば《Fred》という名前の奴は俺一人だけだが《フレッド》という名前の奴は複数存在できるという事だ。アルファベットが完全一致しなければいいんだから《Fled》という名前の奴が居るかもしれないし、もしくは《hureddo》というやつがいるかもしれない。つまりはアルファベットを日本読みにする時、重複する名前が出てもおかしくないという事だ。

 それを考慮に入れた上で碑を見て行くと確かに《Kains》はサクラの月二十二日十八時二十七分に死んでいる。だが、もっと後ろを見て行くと《Xns》というやつが居る。カイの様にXをカイと読ませればこいつだってカインズと読める。まぁXで始まる奴は稀だろうが、か行で始まる音なら《K》は当然《C》も怪しい。

 で、頭文字から《C》《K》おまけで《Q》《X》の奴を片っ端から見て行く。

 

「(……こいつだな)」

 

 結果として《カインズ》と読めるプレイヤーは三人、内二人は死亡、生存者は《Caynz》というプレイヤーを見つけた。

 

 んでもって、肝心の死亡の瞬間に関しては簡単だ。圏内ではどうあろうがプレイヤーのHPは削られない。しかし、防具はその限りではない。プレイヤーであろうとモンスターであろうと武器防具だろうとも、消滅エフェクトっていうのはガラスが砕け散るように淡い青に光る欠片が四方に飛び散るように見える。武器防具の破壊は圏内にあるリズの工房でしょっちゅうやらかしてるからそれ自体が起こることは間違いあるまい。

 じゃあ、中の人間はどうするか。それもまた非常に簡単だ。転移結晶で離脱すればいい。転移エフェクトもまた淡い青の光によって構成されているから錯覚を狙うなら十分だろう。

 目前のプレイヤーの首には縄が掛けられており、胸にはショートスピアが突き刺さっている。そんな状況で消滅エフェクトを見せられたら転移のエフェクトなんて見えた所で《圏内で人が死んだ》と錯覚させるには充分だろうよ。

 

 この《Caynz》というやつがこの事件を仕組んだ犯人なら情報提供者であるヨルコと言うプレイヤーも共謀したことになる。犯行の動機は恐らく誰かへのメッセージ、もしくは単なる愉快犯。転移結晶という高価なアイテムまで使って観衆に死亡偽装を見せる理由が他にあるなら逆にそれは知りたいもんだ。まぁ二人に会ったことも無い俺が言えるのは事実上此処まで。後は情報通に聞くのが手っとり早いな。

 メニュータブからメッセージの欄を開く。宛先はアルゴ。

「(金は言い値でいい。一晩で《yoruko》というプレイヤーと《Caynz》というプレイヤーの関係を調べてほしい)……と」

 これで何かしらの関係が出てくれば黒、出なければ白。まぁ白だったら後はキリト君達の方に任せるとしよう。

 

「さて一段落した所で、そろそろ帰らないとカイの奴が怒り爆発状態になってるのが目に見えるな」

 夜狩りはあいつのストレス発散タイムだ。連れてかないと普段のパフォーマンスも落ちるし何より五月蝿い。

 俺は一旦捜査を切り上げ自分のホームへと足を進めた。 

 

 

「おっしゃああ!!夜狩の時間だぁ!!」

「うっせぇよ。てめぇ、今何時だと思ってやがんだ!?」

「んなんいつものこったろ?俺は最前線の夜狩の時が一番興奮する時間なんだからよぉ」

 真夜中に大声出しやがって。少しは穏便に今日の目的を伝えようと思ったが、仕方ない。ドストレートに言って落胆させよう、そうしよう。

「悪いが、今日は最前線行かないぞ」

「はぁっ!?じゃあ、何しに行くんだよ?」

「俺の素材集め手伝え。明日は攻略班と食材班は休みだ。野暮用ができて明日俺は動けねぇからな」

 まだレッドがうろついてる中、さすがに俺がついてない中での狩りは許可できない。今日みたいにディアベルのトコと合同ってんならまだ良いが流石に二日連続で頼むのは忍びない。

 

「旦那の?あんたにはそのばかでけぇ剣があんだろ。耐久値が阿呆みたいなその剣がさ」

「だけど、その耐久値も《属性解放》使えば一瞬で減っちまうからな。それに知ってんだろ?この剣は20層台の鉱物を使用してできている。にもかかわらずこのレベルの層でも実用性ある武器として使えるのは同じ鉱物を10個も使用しないといけないからだ」

 豪大剣は低いレベルの金属で作ってもずっと上の層でも使用できる武器になる。当然《豪大剣》というエクストラ専用の武器という条件のほかに同鉱物を10個使用して《圧縮金属》なるものを使う必要があるからだ。

 この《圧縮金属》は《錬金》スキルによって得られ同鉱物10個を炉にくべて生成される。ちなみにこの《圧縮金属》は他の武器にも転用可能で普通に作ったものよりも重く耐久値の高い武器になる傾向がある。一撃の威力がある《両手用》武器を使うやつは大抵一つのレア金属よりこっちをとる。そっちのほうが確立がある上に耐久値が高くなりやすいからだ。

 ただしかなり時間を取ってめんどくさいんだわ。だから前にこの《ワイルド・ドラゴン》を作ってからは、新しい剣は作らなかった。実際、これまではそれで乗り切れたからな。だが、時間があるなら強い武器に乗り換えることも重要だ。

「だったら、昼間に食材班に任せりゃ良かったろ。なんで、今素材集めとか言ってんだよ。だれるわ!」

「それでもよかったんだけどな。狙いは《ジュエル・オーガ》なんだわ」

「あぁ、それで僕らも呼び出したのか。夜狩りに連れ出すなんて何事かと思ったら……」

 《ジュエル・オーガ》……簡単に言えば宝石の角が生えた鬼だ。その角は武器に転用すると威力重視の武器になる。しかも、出現頻度が高い上にドロップ率も中々にいい。では、簡単かというとそうでもない。理由は夜限定、しかも雌雄1セットで出てくる為にスイッチを当たり前のように使ってくる。加えて攻撃力高め、巨体のくせに素早い等々中層レベルの食材班では撃滅される恐れもある。

 そこで攻略班であるコペルとシリカも連れ出したわけだ。実を言えば以前のコペルの両手槍はこの角を使った武器だった。経験があるメンバーでいけば楽になるだろ、ついでに明日休みにするんだったら食材班じゃ難しい金属を採るべきと判断しての今日の狩りタイムだ。こいつの武器だったらしばらくは新しい武器いらなくなるだろうしな。

「でも、あまりコンディションは良くないですよ?コペルさんの武器の時は夜に狩りするから昼間の狩りお休みしてた訳ですし」

「あのな、シリカ。俺ら今何レベだと思ってんのよ。少しコンディション悪いくらいで夜とはいえ最前線から10層近くも下の奴に手こずるはずねぇだろ。それにお前らはともかく俺らは夜慣れてるんだから大丈夫さ。夜明け前に俺がまだ持ってる4個と合わせて合計10個集め終わりたいからのこの編成な訳」

 

 50層を超えてもうそろそろ10層経つ。俺の予想ではそろそろ激戦が予想される。俺のヒースへの予想が正しければという仮定に基づくもんだが、GMですらもユニークスキルを披露しなければならない程の戦い。若干俺の期待も入っているが、ギルド全体のレベルアップの為に、この二人にもそろそろ夜狩りには出てもらおうと思ってる。

「まぁ、いいか。奴らだったらオレの最弱ラインの獲物ではあるな。んじゃ、さっさと行こうぜ!」

 言うや否や、23層の転移門に飛び込むカイ。相変わらず決定してからは一切迷いがない。

「俺らも行くぜ。ちなみに今日の編成は俺とシリカ、コペルとカイで組んで敵を各個撃破する。いいな!」

「げっ。僕がカイのお守りか。疲れるな、全く」

 そう言いながらカイに続く。なんだかんだ言ってちゃんとあいつの暴走を抑えながら狩りをこなすのは知ってるからあいつは夜狩りにも適応できんだろ。問題なのは……

「じゃあ、今日はよろしくお願いします!」

「あぁ、よろしく」

 目の前の竜使いことシリカだ。50層を超えたあたりから何故か攻撃の精度が落ちている気がしなくもない。今日はそれを見極めさせてもらう。場合によっては食材班に移すことも視野に入れないとな。

 

「これで5体目!!」

 シリカの、《短剣》剣技の中でも数少ない重撃技・4連撃《エターナルサイクロン》が目の前の雄のオーガの命を刈り取る。敵のHP残量を見て確実な剣技は選んでいる。だけど、50層前を最盛期だとしたらやっぱりダメージ効率が低い。当然、ダメージ自体は多いんだが、当時のレベル差を考えると効率は若干落ちている気がする。まぁ今んとこは気のせいか?レベルだから最前線から外す程じゃない。今日は適当に終わらせるか。

 

 迫りくる拳を俺はポケットに手を突っ込んだままバック転でかわす。豪大剣で相手すると勢い余って属性攻撃でとどめを刺すことになるかもしれないから体術しかも蹴りオンリーでこいつらの相手はしている。厄介とはいっても所詮は最前線から10層も離れたモンスター。夜狩りに慣れてる俺からしたら雑魚極まりない。これくらいのハンデはあってしかるべきだ。

「よっと!」

 《無限跳躍》を発動した俺は更に迫ってくる拳の上を通り奴の肘に着地する、そして再びジャンプ今度は頭に着地する。その間もこいつは俺を捕まえようと暴れ回るが大事なことを失念しているようだ。つまりそっちは1人、こっちは2人いるって事を。俺にしか興味を示さないオーガに迫る影一つ。

「はぁあ!!」

「グるッ!?」

 シリカの掛け声に気づいて目標をずらそうとしているところにさらに俺の《無限跳躍》を頭にHITさせ再びターゲットを自分へ。もうここまでくれば終わり。《短剣》スキル4連撃《インフィニット》の最後の斜め上切り上げが決まった瞬間オーガは断末魔すら上げずにデータの欠片となって消えていく。

 

「もう!ちゃんとやってくださいよ!!殆どあたしがやってるじゃないですか!?」

「そりゃ、当たり前だろ。今日のメインはシリカで俺はサポート。昼狩りでもいいっちゃいいがこれからは更に戦いが厳しくなると予想はつく。全体のレベル上げとなれば夜狩りに慣れてる俺がメインでやるよりかシリカがメインでやるべきだろう?」

「うぅー……」

 食いついてきたシリカを適当になだめ、49層の森を進む。さっきメッセージで予定数の《ジュエルオーガの角》を手に入れたからこの辺りの狩り尽くすとカイから来てたんで、合わせれば予定数は集まったな。

「角は全部手に入った今日は引き上げだ」

「……はい」

 若干膨れてるみたいだが、まぁいつもん事だ放っとこう、そうし……!?

「キィイイ!!」

「ど、どうしたの、ピナ!?」

 索敵能力を持つピナが反応したってことは間違いないみたいだ。面白そうなもんが来たな。

「シリカ。迎撃準備!中々楽しそうな奴が近くにPOPしたみてぇだ」

「た、楽しそう?」

 この49層の森には夜限定で厄介な《ジュエルオーガ》が出現するが、プレイヤーは大して脅威と見ていない。理由は今言った通り《夜限定》だからだ。こいつが怖かったら昼の内にハントを終わらせればいい。

 だが、この森にはもう一種厄介なモンスターが存在する。出る確率は稀、ただし同種のモンスターばかりを狩っていると出やすくなるという情報はある。《ジェム・タイガー》素早さがとてつもなく高く、攻撃力はそこそこ。獣型なのでソードスキルは使わないが、逆を言えば攻撃後隙のない通常攻撃がそこそこな威力、加えてとんでもない速さで繰り返される。しかも早いんで攻撃が中々当たらない。当初は厄介極まりない上に逃げることもままならないんでプレイヤーの犠牲が出たとか出ないとか。

 まぁカイも《索敵》は持ってたはずだからこっちに来んだろ。じゃあ、ここは―――

「シリカ、こいつも狩るぞ。コペルたちが来るまではお前メイン。来たらカイとシリカメインで攻略すんぞ。相手は超素早い。んで、反応速度も相当なもんだ。レベルはこっちのが上だが、油断すんなよ」

「え、えと……はい!」

(Gaaaaaaa!!)

「Gau!?」

「キュウぅ!?」

 おぉ、すっげ。遠くからの咆哮で使い魔下がらすか。

 そして、茂みから宝石のオパールのような輝きの皮膚を持つ獣が現れる。

 

 瞬間、ジェムタイガーは姿を消す。

「えっ、えっ。き、消え……!」

「(はん、この程度だったら!)」

 狙いはシリカ。分かりやすい奴だ。レベルの低いやつを先に狙うとは。シリカに迫る爪の一撃、それを俺は横から《煌脚》で迎撃する。それに気づいたようでやつも直前でバックステップ。

「消えたからって何のことはない。焦らなければ見える。短剣の強みはそいつと同じ素早い動きだ。レベルはこっちのほうが上。焦らず着実にダメージを与えてけ」

「りょ、了解です」

 さて、じゃあサポートに入ろうか。

「ちょおっと、待ったぁあああ!!」

 獣の雄たけび……、いやカイが叫びとともにこの場に乱入し、ジェムタイガーを切りつける。当然叫びながら入ってきたんでその一撃はかわされる。

「面白そうなモンスター狩ってんじゃねぇか。俺にも参加させろよ」

「先行はやめてほしいな。サポートできないじゃないか、全く」

 コペルも続けて参戦する。こいつ終わったな。

「よし、全員揃ったとこで、こいつを八つ裂きにするとしよう。カイとシリカはガンガン攻撃してけ!サポートは俺とコペルがやっとく」

「言われるまでもねぇ!!行くぜ!」

 《両薙》専用6連撃《閃光裂刃覇》小さいモンスターに集中攻撃するには向かないがソードスキルに組み込まれた動きが毎度ランダムに変化する、前方に広い攻撃範囲を持つが、それすらもあいつは躱す。しかしカイは笑っていた。

「やぁっ!」

(Ga!?)

 カイの硬直を狙ったジェムタイガーの噛みつきは後ろから唐突に放たれた短剣単発突撃《ラピッドバイト》が繰り出されたことによって阻まれ初めて奴にダメージが通る。

 そして、カウンター判定が出たことにより僅かに奴に硬直が科せられる。認識した瞬間、俺は虎の上方へジャンプし《煌脚》で《ホールド》を狙う。これは若干遅れたか、タイガーは身を翻して躱す。そこに俺の上方を閃光が走る。コペルの片手槍単発突撃《スクリュー・ピアース》だ。これはさすがに空中にいた為に躱し切れずにHIT。それに続くようにカイの6連撃《ヘキサクル》、シリカの4連撃《ファッド・エッジ》が見事HITし、ジェムタイガーはガラスのように砕け散った。

「まぁボスモンスターでもないからこんなもんか、あっけねぇの」

「そりゃあ、攻略組が4人がかりでやってんだからすぐ終わるだろうよ、かわいそうなこと言ってやんな」

 つまらなそうにつぶやくカイだが、さすがにお前の求めるレベルのがこの層で出てきたら中レべのボリュームゾーンの奴らもかわいそうだわ。

 

「うーっし。じゃあ、今ので今夜は狩り納めにしよう。今日はもうとっとと帰るか」

「えっ、マジで今日これだけなんかよ、つまんねぇの」

「そりゃそうだろ、てめぇはともかくコペルとシリカには無理言って夜狩させてんだからな。この状態で最前線は危ねぇよ、それに果報が来たみたいだからな。おめぇも寝て体調整えときゃいいじゃん?」

「わぁーったよ、じゃあ、久しぶりによく寝とくことにすんよ。だから明日の夜はちゃんと迷宮区行けよ?」

 ……明日はめんどくなりそうだな、と思いつつ俺らも主街区への門へ入った。

 

 

 朝、メールが来た音で目が覚める。差出人はアルゴ。

「(果報が来たみたいだな)」

 




さて、安定のフレッド速攻推理でした。まぁアニメやドラマの影響が多分に入ってますが、そういう職なのです。……これあと一年で公表したいな。

んで、間話として豪大剣の補足&久しぶりにシリカを出してみたり。この物語ではMOREDEBANにならないように頑張りたいのにやはりフレッドやカイに話がいってしまう。いっそのこと今作のヒロインにでもすれば出番増えるんですけどね。やはりハーレムはキリト君のものでしょう。
まぁ、次の区切りでシリカはメインにするつもりです、例の恋愛プロジェクト始動です。

で、豪大剣なんですけど、まだ隠してる情報めっさあります。てか非常に分かりづらいと思います。もし、作品を読んで「これどういうこと?」みたいなところあったら質問どうぞお寄せください。返信後すぐに修正加えて分かり易い表現に変えたいと思っておりますゆえ。

では今日はこの辺で。上記のことは勿論ご感想、ご意見等々ございましたらお寄せ下さい。ではでは!


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第三一話 ~黄金林檎~

最近投稿なくて申し訳ありません。
この話は以前投降したものの最後が気に入らなくて少し書き直したものになります。


フレッドside

 

 俺は目の前の扉をノックする。部屋の場所は1万コルふんだくった鼠のに教えてもらっているので間違いないし、恐らくはいる筈なのだが、返事はない。

「(う~ん、もうちょっと時間をおくべきだったか?)」

 現時刻6時半、人を訪ねるには早すぎるといっても過言ではなかろう。アルゴからのメールの音で起こされたのが6時、情報とコルの交換は10分とかからず終わり、この後適当に駄弁ってればよかったのだが、アルゴの奴には即行で帰られる。曰く「眠い!!」だと。依頼したのが俺だから強く出る訳にはいかず、じゃあどうしよう→突入と相成ったわけだ。

 だが、当人が出ないんじゃ出直すしかないか、と思った時だった。

「……誰、ですか?」

「(お、ラッキー)……俺はフレッドってもんだ。ここはヨルコさんの部屋で合っているかな?」

「………」

 再び、静寂が訪れる。このままじゃ埒が明かないな、ったく。

 

「《圏内殺人》それのトリックが分かった。そしてその犯行があんた(・・)が実行したってのもな」

 

 言い終えた瞬間、バタンと音を立てて開かれる戸。その向こうに居たのは暗色系の髪の女性プレイヤー1人だけだった。

「カインズという男は……いないか。まぁ、俺みたいに急に人に尋ねて来られたらアウトだもんな」

「……あなたには、もうバレてしまっているみたいですね」

「まぁな。動機含めてってわけじゃないが、トリックそのものに関しては答えは出ている。君が全くの初対面である俺に対して扉を開けた時点で確信に至ったがな。本当だったら被害を受けた俺としては直ぐに公表して疑いを晴らしたいところなんだが、あぁいう方法を取ったからには何か事情があると踏んでここに来た。もし、此処で何も喋らなければ俺は即座に世間に知らせる。事情を話し俺が納得できるものであれば、まぁ黙っててやらないことも無い。どうする?」

「……分かりました。じゃあ中に」

 顔を見るにやっぱ訳ありか。これが演技なら大した役者だよ。

 

「その前に一つ聞かせてもらっても良いですか?被害を受けたっていうのは?」

「ん?あぁ、中層のプレイヤーまで噂が広がってるかどうかしらねぇけど、俺はエクストラスキル《豪大剣》を所有している。その効果の一つにイモータルをぶった切れるって能力がある。そのせいでちょいと知り合いに犯人じゃね?って疑われた訳」

 そういうとヨルコというプレイヤーは明らかにバツが悪いような顔をして面を下げる。

「……そうでしたか。申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまったみたいで。この方法なら誰にも迷惑がかからないと思ったのですが」

「まぁ、普通ならな。じゃあ、早速答え合わせと行こうか。こんなことした理由はその後ゆっくり聞かせてもらおうか」

「分かりました」

 

 それから俺は自分の推理をヨルコに披露した。まぁ顔を見てりゃ分かる。大方当たりだ。

 持論を展開した後、俺はヨルコに向き直り、続ける。

「まぁ俺の推理はこんなトコだ、大体合ってるかな?」

「……こんなに早く解かれるとは思ってませんでした」

「だろうな。まず被害者が実は加害者でしたなんて漫画じゃあるまいし、普通は起こらないと思うのも一般人からしたら無理ない。まぁだがこの世界のルールに基づいて推理していけばここに辿り着く。『あり得ないものを排除していった結果、残った可能性がどんなに受け入れがたいものでも、それが真実』ってどっかの誰かさんが言ってたぜ、っとこんなことを話に来たんじゃなかったな。俺がここまで出張ったのはなんでこんなことをしたか?だ」

「それも実は分かってるんじゃないですか?さっき情報屋の方が私とカインズの事を調べてる人が居るけど情報を買うか?ってメールが来てましたよ」

 

 ……さすがは鼠の。こんな時でも商売は忘れないのな。俺にその事隠してたのは大方急な依頼且つ徹夜でやらされる羽目になった仕返しってとこか?

「さぁな。俺が奴に調べてもらったのはあんたとカインズに関係があるか?それと今のあんたの居場所の二点だけだ。結果知ることが出来たのはPN.yorukoとPN.caynzは今は亡きギルド《黄金林檎》に所属していた。そして今あんたがここに居るということだけだ。あぁ因みにこの情報は口止め料払ってるから暫くは公表されないぜ」

 ってか1万コルの大半がこの口止め料だ。さすがにここまで言えば鼠の……ってかどんな馬鹿だって俺が考えてる事は分かる、死亡偽装のトリックが分かるかどうかはともかく如何にしてか死んだ筈のカインズは生きており、あれは演出だったという事が判明する。

 

「分かりました。あなたには全てをお話します。フレッドさんも知っての通りだとは思いますが私とカインズは同じギルド《黄金林檎》に所属していました。攻略ギルドという訳でもなく総勢八人の、安全を第一に宿屋代と食事代だけを稼ぐギルドに所属していました」

 ふむ、この辺りの事は奴が調べてくれた事にあったな。「《黄金林檎》は中層ギルドであり崩壊するまで特段変わったところはないギルドである」と。

 

「でも、半年前、去年の秋の事でした。最前線でもない中層のサブダンジョンで狩りをしていると今までに見たことが無いモンスターに遭遇しました。黒くてすばしっこいトカゲみたいなモンスターで一目でレアモンスターだと分かりました。偶然誰かが投げた剣が当たったようでなんとかそのモンスターは狩れたんです。そしてドロップしたアイテムを見たら全員びっくり。見た目はすごい地味な指輪だったんですけど装備するだけで敏捷値が20もアップするものだったんです。そんなアイテム未だ最前線でもドロップしてないと思います」

「確かにそんなアイテム俺自身聞いたことが無いな。だが、なるほど。そのレアアイテムがギルドが消滅する原因になった訳だな」

「……どうだったんでしょう。その指輪をどうするかでギルド内で、売却して売上を分配するか、使用して普段の狩りの効率を上げるか、という話になって確かに揉めはしたんです。で、埒があかなかったので多数決にしようって事になって……結果は五対三の売却でした。そこで私を含む3人のプレイヤーも納得はしてたんです。勿論、そんなレアアイテム中層の商人さんには扱えないものだったので最前線のオークショニアさんに委託することにしたんです。私達中層のプレイヤーには最前線での相場とか情報が不足していたのでそう言った事を調べる為にグリセルダさんが最前線に一泊する予定で出かけて行ったんです。……でも、帰ってこなかったんです」

 

「たしか、殺されたんだったか?」

「……はい。未だに信じられないんです。強くて、頭がよかったあのグリセルダさんが、当時はまだ手口が広がる前だったとはいえ《睡眠PK》なんていう杜撰な手段で殺されたことが」

 繋がったな。鼠のから聞いていた最後の情報には崩壊の際にレッドが関わっていた噂があった。理由はこの事件が起きて以降《圏内PK》という手法が広がり始めたからだ。俺が推理を公開しなかったのはこれが一番大きい。最初に《圏内殺人》と聞いたときに、見間違えの線と同時に俺はレッドの犯行の線も僅かながら疑っていた。しかも、異常な殺し方を茶の間に提供するのがあいつ《PoH》のやり方だ。まぁ、結果それ自体は自殺偽装だったわけだが、収穫としてPoHの影は見れた。

 

「(となれば)……なぁ、ヨルコさん。あんた、その事件の犯人に心当たりないかい?」

 そう言うと、顔をあげて「一人だけ」と言って更に続ける。

「……私達《黄金林檎》は先ほど言った通り中層で狩りをするようなギルドだったんですが、解散後このギルドから攻略組のギルドに移った人がいました。名前はシュミット」

「シュミット?《ドラゴンナイツ》にいるあいつか?」

 あいつとは当然ながら面識はある。最初からではないがディアベルの部下でそれなりに攻略にも参加してるプレイヤーだ。タイプはガードランサー、鉄壁の守備を以てボス戦等のレイドでは壁戦士を勤めている。

 

「シュミットをご存知なのですか?」

「まぁな。攻略に出てるプレイヤーなら大抵は分かる」

 それを聞いた彼女は少し逡巡して何かを決意したかのように強い瞳で俺に頼んできた。

「シュミットに会わせて頂くことはできいないでしょうか?」

「会ってどうするかは……聞くまでもないか。確実に事件のことをシュミットに伝え半年前の事件との関連を強調する、目的はそれかい?」

「……えぇ。十中八九シュミットはあの事件に関して何かしらには関わってると思うんです。私たちのギルドが解散して以降、彼だけが大幅に実力を上げたんです。私たちはどうしても知りたいんです。グリセルダさんの事件の真相を……!」

「(……すげぇな)」

 素直にそう思う。ギルドを組む前は赤の他人だったんだろうが、中層ギルドということを考慮して長くて一年とちょっと。それだけしか一緒にいなかった人の死を悼むことはできても、親族でもない限り俺は事件解決まで漕ぎ着けようとは思わねぇだろう。……気に入った。

 

「事情の件は大方了承した。俺の方からは口外しねぇが、君らの求めるものが見つかったら君ら自身からこの事件を公表してくれ。じゃなきゃひたすら俺が迷惑を被る。そしてシュミットの件に関しては俺より適任がいる」

「適任……ですか?」

「あぁ、この件を調べてるやつは俺の他にもいる。この件は強い怨恨が引き起こしたデュエルによるものという仮定で推理している連中がな。怨恨の線で当たれば被害者と思われているカインズと繋がりのある君の所には再びその件に関して聴いてくるだろうよ。俺はちょっと顔に出やすいらしいからな。事情を全部知ってる俺よりも何も知らない第三者の方がバレる確率も激減する。そういうこったよ」

 彼女は少し迷っていたようだが、また少し考えた後、頷いた。

「分かりました。それとこの事件の真相は終わったら必ず……」

 俺はその言葉を聞いて彼女の部屋を後にした。さてと、じゃあ俺はどうしようかねぇ……

 

 鼠の情報と併せて考えると半年前のラフコフ結成前になるから馬鹿な模倣犯が睡眠PKをしたとかじゃない。イコールシュミットが犯行を犯したわけでは多分ない。急に攻略組のトップに上がってきたところを見るとなにかしらレッドに協力し利を得たのは事実だろうが、実行犯があいつだとすると《ドラゴンナイツ》にいる理由は……動向探り? ないな。

 プレイスタイルを見れば分かるが奴は自身の命第一の男だ。攻略速度を下げるレッドに賛同する意味が分からない。まぁだからレッドと分かった上で協力したんじゃないだろうな。

 それとも報酬に釣られたか? ネトゲーマーの弟曰く「この界隈でのレアアイテム争奪戦は熾烈を極める。持ってるだけでも優越感に浸れるのは言うまでもないが、そのゲームの中で頂点に立つのに持つ者と持たざる者では歴然の差」らしい。まぁだから“レア”アイテムとか言われるんだろうけど。だが、この世界で頂点なんてのは二の次だ。さっきも思ったがあくまであいつは自身の命第一だ。売って金にし、防具を強化すれば生存率は遥かに増すし、その上で攻略隊に加われば全層クリアまで多少ながら短縮できるだろう。そのまま使っても当然ながら生存率は増す。どちらにしても彼の利にはなる。

 

「(だったらやることは決まってくるな)」

 

 

第51層ランベルド

 

 てな訳でやってきたのはここ第51層新生《ドラゴンナイツ》ギルドホーム。この層は大半の場所がだだっ広い草原で構成され、50層のごみごみとした狭っ苦しい50層主街区《アルゲード》と対を成す様な構成となっている。主街区ですら遊牧民が住むような仮住居とでも呼ぶべき造りの家が多く並ぶ風景だ。その中でもドラゴンナイツのホームは一際大きく、とはいっても会議をする為のテーブルが真ん中にどんと置いてあり後は少数の部屋があるだけだ。ギルドホームとしては使いにくい事この上ないが、ギルマスのディアベルがそれでもここに固執した理由は50層での《セイントセーバーズ》の被害者の慰霊、そしてその50層を乗り越えた証としてここに決めたんだろうと思っている。

 

 来た理由は当然シュミットの反応を見る為だ。少なくとも圏内殺人の報は最前線プレイヤーには全員に行き渡っているはずだから、自分の命に執着がある彼ならば詳細も聞いている筈。何らかのアクションは起こすだろう。

 

 ホームの守衛は二人。まぁいつものメンバーなわけだが、ここは普通に話しかける。

「やぁ、ドラゴンナイツの諸君。アポはないんだがシュミットさんはおいでかな」

「あぁ、どうも。シュミットなら今日は攻略に参加すると聞いているのでしばらくすればここに来ると思いますよ。でも、急にどうしたんですか?」

「何、ちょっと聞きたい事があったんだ。まぁ今いないんなら、後で出直すわ」

「……聞きたい事ってもしかして昨日の事件の事ですか?」

 去り際にもう一人の門番が少し表情を曇らせた感じで俺に問いかけてくる。

「驚いたな。なんで分かったん?」

「そりゃ分かりますよ。昨日の事件の後、シュミットさん血相変えて僕ら含めた10人ほどで《黒猫》のキリトのトコ行って、恐喝まがいの事してたんですから。僕ら自身殆ど聞かされないまま、ブロックを手伝わされたんですよ。で、今日あなたが訪ねてきたんだったら100%なんか関係があると思うでしょう?」

 確かにそうだ。しかし、恐喝とは穏やかじゃない、あとでディアベルの方から直々に叱ってもらう事にするとして。まぁいないならいないで、ここにいる意味もそんなにないからな。

 

「まぁ、そう言う事なんだが、本人が居ないなら意味も無いからな。また後で寄らせてもらうよ、……と」

「なんだ、来てたならついでに寄っててくれても良いんじゃないか? フレッド」

「俺にも予定がある、直ぐに目的の人物に会えないならいる意味も大してないさ」

 俺が立ち去ろうと振り向くと、ディアベルの一行がホームに向かって来ていた。

「で、目的の人物というのはシュミットのことかな?」

「噂は早いもんだ。だが、ここの守衛から大抵のことは聞けたからな。もう帰ろうかと思ってたトコ……」

 そこで言葉を切りふと考える。レアアイテムの件は当然ながらギルド内だけの秘匿情報、外の人間が分かる訳はない。外の人間が知る為には偶然アイテムドロップの場に居合わせたかもしくはストーキングしていたか、はたまた内部情報提供者―スパイ―がいたかの主に三択。

 一番目はあるかもしれないが、八人もいて誰一人その存在に気付かない“偶然の”通りがかりがいるか? もし気が付いていたのであれば、さっきの話で出て来ない筈はない。

 ならば二番目は? 可能性としては低いと見るべきだろう。確かに中層の連中はレッドのターゲットになり易かろうが、八人パーティよりももっと低人数で行動している組を襲うのがベターだ。まぁ、俺も人の事言えた話じゃないが、俺とは別の意味で頭のねじが外れてるような奴らだから考えなんか分かったもんじゃないから可能性は無きしにあらず。で、そのスト―キング中にレアアイテム拾ったのを確認したからスト―キング続行……までは良いがその後ホームでの密談なんか聞こえる訳はない。“聞き耳”って線もあるが、流石にホームでの密談となるといささか目立つ。素振りでギルドリーダーが持ち出したって分かったら大したもんだ。

 ならば残るはスパイの存在、か。当然可能性としては一番高い。シュミットがそのスパイと言うのはさっきの事からも考えづらい。だとしたら―――

 

「なぁディアベルさんよぉ、ちょいと俺の企みに乗ってくんねぇ?」




本当に申し訳ありませんでした。早い内にお知らせするつもりがこんなずるずると引きずる事になってしまって……

本当は今日もう一話上げる予定でしたがちょっと推敲が間に合わないと思われるので明日この話の続きに関しては上げさせて頂きます。

まぁこの半年何があったかは多分興味ある方なんて皆無だと思わるので書きませんが、出来る限り投稿は続けさせていただく所存なので今後ともよろしく願います。

追記:急用にて月曜の投稿に関しても延期させていただきます。予告してできないとかもう……ね。
とりあえず次の日曜までに二話あげるのでそれでご勘弁を(これも守れなかったらどうしよう……)


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第三二話 ~赤の影~

誰か~、タイトル代りに考えてぇ~~!

じゃなくてすみません。ようやっと新話投稿に漕ぎつけました。
前置き長いのは嫌いなので早速どぞ~!


キリトside

 

「くそっ!」

 

 時刻は夕暮れ。今日は朝はヨルコさんから「圏内事件」を解く為にギルド「黄金林檎」が解散に至った事件について聞き、グリムロックという犯人の目星は付いたがトリックに関しては分からない。そこでアスナに頼んで昼間に歩くSAO辞書こと、ヒースクリフに今回の事件のことについて今俺が持つ情報から考えられる「圏内事件」の真相候補を聞いてもらい、全てがシステム的にあり得ない事を確認した後、今度は事件に何らかの関与をしていると思わしきシュミットに話を聞きに「聖竜連合」のある51層に行き、指輪の件に関して聞いた。 ヨルコさんから聞いた話と矛盾はなく、その場で考えてても埒が明かないので、グリセルダさんの婚約者と言うグリムロック氏の所在を聞き出そうとした。そしたら向こうも条件を出し、ヨルコさんとの対談を望んできた。圏内、しかも室内であれば流石に安全だろうとヨルコさんが滞在している部屋で話し合う事となった、までは良かった。

 ヨルコさんがシュミットに対して言いたい事を全て言ったような絶妙のタイミングで事件が起きた。窓から飛来した短刀は彼女の背中に刺さったのだ。

 一瞬何が起きたか分からなかった。だが、短刀が刺さった彼女の体が崩れ落ちたと同時に反射的に手を伸ばしたが間に合わなかった。彼女の体は窓から投げ出され地面に落ち、そして散った。

 

「そんなに自分を責めるな、キリト。僕だって迂闊だったのは事実だ」

 ケイタが言うが、俺と違う点が一点だけある。それは現場を見ているか否か、だ。俺は先日圏内殺人を直で見ているが、ケイタはそうじゃない。ケイタは現場を見ていないから“圏内は安全”というこの世界の掟を捻じ曲げた事実を理解できていなかったかもしれない。が、俺はあの時はっきりと見たんだ。圏内で人が死ぬ瞬間を。頭では理解していた筈なのに、圏内、しかも室内だから大丈夫だと高をくくって油断していた。俺のミスで彼女を殺してしまった事に相違ない。

「せめて、窓を閉めるくらいのの対処は取れた筈なんだ。いや、どころか転移結晶で安全な場所で話を聞くことだってできた筈なのに、俺は……」

「……無駄だ」

 その時、声が聞こえた方を見ると部屋の隅に場所を移したシュミットが膝を抱えてうずくまっていた。

「オレは一瞬見た。ヨルコが落ちた時向かいの屋根に立ったローブの奴を……。あのローブはリーダーが出かけるときにいつも着ていたもんだ。つまり、あれはリーダーの幽霊なのさ。ハハッ、幽霊なら何でもありだよな。アンチクリミナルコードをすり抜けて攻撃する位朝飯前なんだよ。転移結晶でどこへ飛ぼうがあいつは俺達を見てるのさ……」

 

「「……」」

 

 そんな事はないと言いたかった。が、事実そのローブの奴は俺の目の前で一人のプレイヤーを短剣で消し去っている。短剣は一発あたりの威力は低い。しかも、それを投げて使った訳だから当然与えるダメージ量は小さくなる。しかし、その条件下ですら中層プレイヤーのHPを消しさるなんていうのは圏内でダメージを与えるという事を差し引いても通常プレイヤーに出来る範囲を超えている。……どういうことなんだ? 一体。

「なぁ、あんたら。悪いが俺をホームまで送ってくれないか……。一人で帰れそうにないんだ」

 その言葉を俺達は臆病などと罵る事は出来なかった。

 

 シュミットを送り、別れ際彼から約束通りグリムロック氏がよく通っていたというレストランの場所を書いたメモを貰い、いざその場所へ行こうとしたときメッセージが入った。

「サチから、全員黒鉄宮へ? なんだこれ」

「とりあえず呼び出したからには何かあるんだろう。行ってみよう」

 

 俺らが到着した時にはまだササマルとテツオは来ていなかったが呼び出したのが緊急性のある話が高かったので先に聞く事にした。

「で、サチ。急に呼び出したのはどういうこと?」

「うん。私とダッカーはヨルコさんやカインズさん、黄金林檎のことを調べていたでしょ?それで人づてに何人かに聞いてきたんだけど、おかしいの」

「おかしいっていうと?」

「黄金林檎を知ってる人達に聞いたんだけどね。スペルが違うの、“カインズ”の。ヨルコさんに聞いていたスペルは“Kains”だったでしょ。でも、実際聞いてると、黄金林檎にいたのは“Cayns”ってプレイヤーネームの人らしいの」

 首をかしげた俺にサチが補足を入れる。続いて、ダッカーも。

「で、それを聞いた後にここにきてな。その“Cayns”ってやつのネームに横線は入ってないんだよ。つまり、黄金林檎のカインズは死んでないんだよ!」

 死んでない……?ちょっと待て。だとすると……。俺は急いで生命の碑のYの段を見ていく。

 

 すると……

「……あった」

 俺はホッとすると同時に疑問に思わざるを得なかった。彼女の話からちょくちょくパーティーは組んでいた訳だから、一字違いなら勘違いも分からなくはないが、それがハナから間違ってるのであれば、意図的に俺達に間違ったプレイヤーネームを教えたことになる。だけでなく二回目の圏内殺人も、間違いなく意図的に行われたものだ。つまり―――

「彼女とカインズはグルで、俺達を騙していた事になる訳、か」

「そういうことになるね。でも、動機はさておき、これでトリックの方は解決だね。この事件、何が一番信じられないって“圏内で人が死ぬ”この一点だけだからね。尚且つ、生命の碑のお墨付きまであってだ。恐らく、この“Kains”っていうプレイヤーは去年の圏内事件同日に貫通系のダメージで殺されたんだろうな。恐らく偶然に」

 ケイタの言葉にその場にいた黒猫団の全員がうんうんと首を縦に振り、サチが補足を付け加える。

「一応、“Kains”って人がいつ亡くなられたかについても調べたら間違いなく去年の今頃に亡くなられたって聞いたから間違いないと思う」

 当然去年の今頃に亡くなられているのなら、彼女達が真相追及の為、意図的に殺したというのはない。グリセルダさんが亡くなられたのは半年前だ。時系列が合わない。

「……要するにこの事件は2人、いや、恐らくグリムロック氏も協力しているだろうから3人か。その3人の大芝居だった訳だな」

「で、今まで言ってきたのはササマルとテツオにも言って今検証して貰ってるトコなんだ。

そろそろ……」

 

「「実験成功!」」

 

 いいタイミングで入ってきたのは当然ササマルとテツオだった。

「みんな揃ってるな? 見てな。これはさっき雑貨屋で買ってきた手袋なんだけどな。当然この圏内じゃ手袋をした右手には刺さらない。けれど圏外で貫通継続ダメージを発生させる武器を刺したまま圏内に入ると、自然に抜けるなんて事はなく刺さったまんまになるんだ。こんな具合に」

 ササマルの左手を見ると左手には白い手袋に細長い針のような武器が刺さっている。そして刺された部分からは貫通継続ダメージを表す赤いエフェクトが見える。この辺りの事はヒースクリフにも聞き出してプレイヤー自身にダメージが発生しない事は分かっている。

 と、次の瞬間付けていた手袋だけが弾け、あとには刺された生の左手だけが残っていた。

「ってな訳で、鎧が継続ダメで壊れる瞬間に転移結晶系を使えば“圏内で人が死んだ”風に見せる事は出来ると思うぜ」

 これでトリックに関しては実証も含めて完全解決だな。

 

 だとすると、動機の方は―――

「つまり、あれは犯人へのメッセージだった訳か。あんな演出をしたのは話題性を持たせる為。少なくとも“圏内殺人”なんて方法で人が死んだとしたら噂にしろ何にしろそういう事件はあったという情報は方々まで駆け巡る。そうなれば、いずれそういうオカルトな事件が起きたことは犯人の耳にも入る筈だからな。尤も、ヨルコさん達も犯人の目星は付けてたみたいだけどな」

「……シュミットか」

 あぁ、とケイタに同意する。

「事件の詳細を聞いたときに彼の名前が出てきたのもそういう事なんだろう。それに目の前でヨルコさんが刺された時のあの動揺は、昔のメンバーだったにしろ、自分があの事件で指輪売却に反対した一人だったとしても明らかに動揺がひどかったからな。何かしらには関係してたんだろう」

 

 しかしよぉ、とササマルが自らの左手に刺したピックを抜きながら意見する。

「よく出来た話だよな。グリセルダって《黄金林檎》のギルドリーダーが何らかの方法で殺された。その後、ギルドは解散になった。で、その後ある時に誰が知ったかは知らないけれどカインズと読めるプレイヤーがちょうど昨日の日付でこの事件を起こすにぴったりな貫通継続ダメージで殺されていた。そしてその事を知った昔のメンバーに協力を仰ぎ、シュミットを引きずりだせたってのはさ」

「確かにな。だけど、グリムロックさんにしてみればグリセルダさんの遺志の賜物と思ったろうさ。最愛の人を殺した犯人が昔のメンバーに協力を仰げば特定できるかもしれないって状況になったんだからさ。まぁ損得勘定抜きに協力したヨルコさん達も凄いと思うけどね」

 この事件の最大の欠点は、知り合いに生命の碑に行かれて確認されてしまえば偽装だった事はすぐに分かってしまう事だ。犯人はギルド内だけの秘密を知っていた人物、もしくはその人物に頼まれたレッドでほぼ確定だ。つまりシュミットでなくとも犯人が生命の碑を見るような事があれば一瞬でバレてしまう。そうなれば指輪の為に人を殺す様な奴だ。口封じの為に殺されることもあり得なくはないが……

「シュミットのあの様子を見る限りじゃ安心だな。犯人か、その協力者か。どちらにしろ今頃はグリセルダさんの縁の土地か墓前で許しを請うてるんじゃないか? と」

 

 メッセージ?差出人は……フレッドか。そういやあの人も捜査はしてたんだよな。一応、報告はしておかないとな。

『ハローキリト君。そろそろ事件の真相が分かった頃合いと見てちょっと君らに頼みがあるんだが――――――』

 あの人め、この書き方からしてさては結構前に事件の真相分かってたな、やられた。ったく。で、頭のいいフレッド殿からどんな頼みをされる事……!?

「どうしたの、キリト。そんなに驚いて?」

 サチが心配そうに見つめているが、正直それどころじゃない。ここに書いてあるフレッドの予測が外れてくれる事が俺としては嬉しいが、確かにその可能性はあり得る。そして奴の策に乗るのであれば、ここにいる全員を巻き込む……いや、違うな。俺は又同じミスを犯すところだった。この事について彼らに問えば問題はない。そして、誘いに乗るならば……。俺は意を決して尋ねた。

 

「……皆、聞いてくれ。……殺し合う覚悟はあるか?」

 

 

PoHside

 

「ワーン、ダウーン」

 重い音を立てて、大の男が倒れる。

 ふっ、Sからの情報は正しかったみてぇだなぁ。《竜騎士》んトコのタンク部隊の隊長がこんな場所に一人+αで来るたぁチャンスじゃあねぇか。

「まさか、こんな所で《竜騎士》様の幹部と会えるとはなぁ。さぁて、どうやって遊んでやろうか」

「ヘッド。三人もいるみたいだし、こいつとそこの二人で戦わせて勝った方だけ助けてやるゲームにしやしょうよ」

 麻痺らせた褒美にジョニーに乗ってやっても良いが……

「んな事言って、おめぇ、この前残った方も全員殺しちまったじゃねぇか」

「あぁ、言っちまったらゲームにならないじゃないすか……」

 ネタばらしをしてジョニーを黙らせて、二人組の方を向く。

「そこの二人が起こした《圏内殺人》……中々wonderfulだった。だが、死んでねぇのはよくねぇ。よくねぇよなぁ。この世界での殺人はgame and art!!! 殺しはゲームでtargetが死んで完結するart!! そいつを汚すのはよくねぇ。だから、死に損なったおめぇらをartとして! 完結させてやらなくちゃなぁ」

 二人の方へ歩き出すオレの脚を這いつくばっているタンクが掴む。……はぁ。

「お呼びじゃねぇンだよ!!」

「がはっ」

 そのタンクを後方へ蹴り飛ばす。オメェはあとまわしだ。

「ザザ……抑えときな」

「……」

 無言でザザが抑えつけるのを確認した後、再び歩み寄る。

 

 …………はぁ、又いらねぇ連中が来たみてぇだ。

(パカラっ、パカラっ!)

 こんな所には馬型のモンスターなんていねぇ。誰かが騎乗してるってこった。

 見えてきたのは馬のような影とそれに乗る黒い影が一対。あぁ、そういや解決に乗り出してるnonsenceな連中がいたなぁ。

(ヒヒ―ン!!)

「痛!」

「はん、馬から落ちるたぁ、随分恰好悪い登場だな。《黒の剣士》様よぉ」

「ほっとけ。お前こそ相変わらず悪趣味な装備だな」

「全身黒ずくめに言われちゃしまいだなぁ。で、てめぇはまさかこいつ等を助ける為に駆け付けたknight様って言うつもりか」

「まぁな。どうする? 退くってんなら見逃してやっても良いぜ」

「状況が分かってねぇみたいだな。こっちは3人でテメぇは1人。勝ち目があると思ってんのか?」

「あぁ。ここにお前が居ることも想定してさっき知り合いに声かけてここに後10分もすれば攻略組約30人が来る予定さ。さっき耐毒ポーションも飲んできたし、解毒結晶もできる限り持ってきた。あんたら3人相手でもそれくらいは耐えられるさ」

 哀れで仕方ねぇなぁ。まぁ、《黒の剣士》に仲間が30人程度加わった所でオレ達のgameは終わらねぇって事を分からしてやらないとなぁ。

「ひゃひゃひゃ。キリト、テメェ分かってねぇな。オレ等がたった3人だけだってホントに思ったのかよ?《回廊》オープン!!」

 ジョニーに預けてあった《回廊結晶》……そいつのセーブ先は俺らのアジトの一つに繋げている。

「頭!こいつら4人を血祭りにあげりゃいいんすか」

 そのアジトにゃ100人を超す部下もいる。当然回廊の先から出てくるのはそいつらだ。

「黒の、剣士。もう一度、同じ事、言ってみな。10分、耐えられる、かな」

 流石に絶句したみてぇで、中々に驚いた顔してくれるじゃねぇか。

「ハハッ、驚いたな。まさか、ここまであいつの読み通りかよ。乗って正解ってとこか」

「あん?何の話をしてやがる?」

 

 

「その話ってのは多分、俺の読みに関しての事だと思うぜプーさんよぉ」

 

 

 突然、黒の奴の後ろから声が聞こえてきた。この腹立たしい声は間違いなく……

「……《ゴッドファーザー》!!」

「はーい。俺も読みが当たって嬉しい限りだぜ。前に俺がハッタリとはいえ多数攻めの作戦を取ったから有能なプレイヤーが一人増えたら、そっちも同じく多数攻めで来ると思ってたぜ? だからさ……《回廊》オープン!!」

「!?……なるほどな」

 回廊の穴、そこから《KoB》《竜騎士》共に他何十っつー単位のプレイヤーが出てきやがった。

 

 

「レッドギルド《ラフィン・コフィン》あなた方の数々の悪行、この場で悔い改め、大人しく縛に付きなさい!」

 

 

 指揮は甘ちゃんの《閃光》か。好都合だな。だが……

 

「ご免だなぁ。それより、あんまり興味はねぇが、《ゴッドファーザー》テメェ、なんでオレ等が出てくると踏んだ?」

「簡単な事さ。まずはグリセルダが殺されたのは《圏内PK》が広がる前の話。その時点でテメェらが噛んでいるのは分かった。次に指輪の件。あれはギルド内だけの秘密だった情報だ。この時点でギルドの中に情報提供者(スパイ)がいて、そいつがオメェらに殺人を依頼した可能性がある。そいつは事件を解決しようとしていた二人を疎ましく思い消そうとしている。それで、攻略組優秀プレイヤーの位置情報を教える代わりにそいつらを消すよう依頼した。で、オメェらが出張ってくると踏んだのさ。さて、長話は俺の性に合わねぇからな。とっとと……Killぜ!」

 




後書きは長いぜ!

えぇと、まずは言い訳させて下せぇ。大量の原作コピペを生まない為にフレッドが真相を話した日のキリト君達の行動を全てダイジェストでお送りいたしました。まさか小説でダイジェスト書くと思いませんでした、申し訳ない。

なので、原作読んでない方にはこの話さっぱりかもしれません。詳細は原作8巻もしくは動画で確認して下せぇ。手抜きになって申し訳ないです。ただ、これが原作の事件最後ですので、恐らくこういう事は今後ないと思われます。

そして自分があと一つ強烈に思ったのが、PoHの地の文、難っ!!そしてこのPoH誰だ状態……
自分はホロウフラグメント持ってるのでそこに出てくる彼を参考に考えたんですが、なんかアルベリヒが混じってる気がしないでもない。

で、真、言い訳が長くなりましたが、次回は遂に対決、PoHvsフレッドと思いきやまずは前菜としてPoHの部下の有象無象vs攻略組を堪能頂ければと存じます。やっぱりメインディッシュは最後でしょ。

では次回もよろしくお願い致します。ではでは!


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第三三話 ~”殺す“ということ~

ぐぁああ、またもお待たせして誠申し訳ない。
とりあえず、愚痴はいつものごとくあとがきに書くとして新話どぞ~


フレッドside

 

 俺は周りにいる有象無象共を無視して一気にPoHとの距離を詰め、得物の《蛮竜》を振り下ろす。奴はそれに対して漆黒の刃で受け止める。噂で回ってたな。この武器の名は《友切包丁(メイトチョッパー)》現時点で最強クラスのモンスタードロップ、魔剣だ。

 だが、魔剣ってんなら俺のこれだって最強クラスの耐久力と攻撃能力を備えている。得物の差は0だ。俺にとってこの二つが最強性能なら何の問題も無い。

 二つの武器が撃ち合いその場にとてつもない轟音が響きわたる。

「はん、豪大剣とか言うスキル手に入れて随分強気になったなぁ」

「おめぇこそ、魔剣手に入れて浮かれてんじゃねぇのか?」

 その時俺に迫る影が二つ。

「ヘッドとやろうってんなら、俺らとも遊んでくれよ!」

「差し置いては、やらせない」

 あぁ、毒使いのジョニーとエストックのザザだっけ? だが、補佐なら俺にもついてるぜ?俺に迫る二つの凶器を二つの影が防ぐ。

「ハハッ、差し置いてやらせないのはテメエらだけじゃねえよ」

「代わりに僕が遊んであげるよ。うちのリーダー様はあんたらんトコのヘッドと一騎打ちを所望してるみたいだからね」

「そいつら頼んだぜ。カイ、コペル。俺らは俺らで邪魔のねぇとこへ行こうぜ」

「……チッ。まぁ乗ってやる。テメェら《Show・time》だ!!」

 俺とPoHは剣を撃ちあいながら森の奥へ向かって行った。

 

キリトside

 

 遡る事数時間前。

「こ、殺し合うって……物騒だな」

 テツオに言われるが、冗談ではなく本気だ。それを察したのか全員の顔から笑みが消える。それを確認した所で俺は続ける。

「フレッドからのメールでこの事件の背後にもしかしたらPoH……つまり、ラフィン・コフィンの存在があるかもしれないとあった。で、アイツからは俺がまずは一人で出て行ってラフコフの連中を誘い出すように依頼された。フレッド曰く『奴が一目置いている黒の剣士が出てくればPoHも隠し玉を使うだろう』ってさ。そして、その隠し玉ってのが多数の部下による物量作戦って睨んでいるらしい」

「つまり、僕らも誘われている訳だね。当然、他のギルドも参加するんだよね?」

「あぁ、KoBやドラゴンナイツを筆頭にあと二組、攻略組のギルドが参加するみたいだ。それで物量vs物量みたいな事をやるつもりらしい」

「そういう事か……。当然、キリトが行くなら俺達も行くぜ」

「そう言ってくれるのはありがたいんだ。だけど、相手はラフコフだ。あいつらは自分の命すら囮にして攻撃してくる可能性もある。その時、皆に躊躇することなく殺す事が出来るか、それを聞いているんだ。皆優しいからさ……」

 みんな押し黙る。この作戦通りに行くとして皆がラフコフの連中に後れを取るとは思っていない。なぜなら、ラフコフの連中は基本的には中層プレイヤーのレベルのそれと何ら変わりはない。

 問題なのは奴らがPKに特化している点だ。そして考えられる可能性の特攻を仕掛けてきたとき、皆は人を殺せるか? この世界でプレイヤーを無力化させるのは基本的には麻痺武器かそのステータスを発生させるスキルでデバフを起こさせるしかない。皆も一通りのバッドステータスを起こさせるスキルを持ってこそいるが、物量作戦という都合上、どうしたって冷却時間の間にどうにかしなければならない時が来る。その時、相手に偽の命乞いをされても止めを刺す覚悟が要る。言葉では言う事は出来ても、いざ実践した時に動けなかったらその瞬間待っているのは死だ。

「俺は行く。あいつらをこれ以上野放しにする事は出来ないし、奴らをどうにかする絶好の機会、逃す訳にはいかない」

 本当は人を殺すなんてしたくない。それはあくまで最終手段のつもりだが、上手い事相手をステータス異常に出来ない時は躊躇なく斬らなければならない。集団戦になるのだから俺一人のせいで他のプレイヤーを巻き添えにする事は出来ない。

「僕は行こう。キリト一人を行かせて、ギルドリーダーが出ない訳にはいかないよ」

 ケイタは付いてきてくれるという。だが、その表情には緊張からか恐怖からか汗が流れているのが見えた。だけど、ケイタは引かない。ケイタはこのギルドのリーダーとしての責任を強く感じている。だから、俺一人が戦場へ行くという状況は許せないんだ。

 それを分かりながら行くと決断した俺は卑怯だ。絶対に付いてきてくれるという確証があって一緒に地獄へ行こうって言ってるようなものだ。だからこそ、俺からは

「いいのか?」

としか言えなかった。それに対するケイタの言葉も

「あぁ」

の一言だった。

 

 だけど後の皆は

「「「「……」」」」

 そろって黙りだ。当然、その回答で俺の彼らに対する信頼は揺るぎはしない。むしろ、自分勝手な決断をした俺の誘いに伸るか反るか真剣に考えてくれる事が嬉しい。

 

「皆無理しなくていい。言い方が悪くなるけど、いざって時に躊躇して斬れなくなる事の方が俺達攻略組側にとって一番都合が悪い事態なんだ。奴らはそういう隙をついて攻撃を仕掛けてくる。奴らは何の戸惑いも無く殺しに来るだろうから……」

 そう言うと、サチがゆっくりと涙ながらに謝った。

 

 

「……ごめんね。わたし、たぶん躊躇しちゃう。だから一緒には……」

 

 

 

 結果として俺ら側から討伐のメンバーが増える事はなかった。

「悪いな、ケイタ。巻き込んじゃってさ。お前が間違いなく来るって分かってたのに……」

 ホームを出た後にそう切り出すと、ケイタは全部分かっていたかの口調で話す。

「謝らないでくれ。もし、ここでキリトを一人送りだす様な事をして万一にも帰ってこなかったら僕は後悔する。それは他のみんなも一緒だと思うけど、躊躇してキリトや他のギルドの人達に邪魔にならない決断をした彼らも立派だと思うよ」

 それは当然だ、という意味を込めて頷く。それと同時に皆に話して良かったとも。もし前の時みたいに……。いや、考えるのはよそう。ただ、一つだけ。

 

「ケイタ、最後に確認させてくれ。ホントに良いんだな?」

「……あぁ!」

 

 

「「「「「「うぉおおおぉお!!!」」」」」」

 PoHの言葉を引き金に攻略集団と殺人集団が激突する。こちらはフレッドの事前説明にあった通り《血盟騎士団》や《ドラゴンナイツ》、クライン率いる《風林火山》や《プロメテウス》が参戦しているが、相手も数十という単位のプレイヤーが突っ込んでくる。

「ヒャッハァあ!!」

「くっ!」

 さすがに対人戦に慣れているだけあってレベルや戦力で勝るはずの攻略組でも一筋縄というわけにはいかない。それでも!

「はぁあああ!!」

「!!?」

 片手剣単発高麻痺付与《デスパライズ》、威力は片手剣のスキル中最低、しかし約9割方相手を痺れさせる事ができコンボの始発点にも利用できる優秀な技だ。だが、今回は単に相手を麻痺させるその一撃をラフコフの一人に叩き込む。

 ここで持っている結晶を使って《牢屋》へ送ることもできるが、フレッドの奴から渡されているのはあくまで俺とケイタのグループで一つ。他にはKoB、ドラゴンナイツ、風林火山、プロメテウスで一つずつ、つまり合計五つ―――なんでも《属性結晶》収集の最中に手に入れた余りらしい。だが、現状《回廊結晶》の下位互換である《転移結晶》ですら貴重と言われているのにどういう集め方をしたらそんなことになるのか―――。しかし、その数でも、対して送り込まなければならない相手数30以上は多い。

 だが、迷ってる時間はない!

「ケイタ、回廊を開く一分の間にできる限り、放り込んでくれ!コリドーオープン!」

「了解、だ!!」

 《牢獄》へと続く回廊を開いた途端真正面で戦っていたケイタが棍を使って一人ラフコフメンバーを文字通り叩き込む。

 本来主街区には犯罪を起こしたとシステムに認知されたオレンジプレイヤーははじまりの町に入った瞬間、NPCの超強力なガーディアンが出てきて黒鉄宮の牢獄へと連行される。だから、回廊へ叩き込んだオレンジプレイヤーが扉が開いている1分の間に再びそこを通って戻ってくるというのはあり得ない。

 

 俺自身も麻痺にしたプレイヤーを放り込んで、次を攻撃する。ここからはスピード勝負、如何に多くのレッドをコリドーの扉に放り込めるかの勝負、だが。

「!?……やっぱり、そう来るか」

 予想はしていたが、回廊を開くと奴らは途端に俺らを無視して他の団体を襲い始めた。コリドーの制限は一分。それを過ぎてしまえば俺らのグループにはラフコフの連中を完全に無力化する術を失う。そうなれば奴らは望み通り殺しを続行できる。

 

「キリト!!その扉は捨てだ!あっちがその気ならこっちも別の扉に賭けるだけだ!!」

「ケイタ……あぁ!」

 声がしたほうを見るとケイタは既に《風林火山》の援軍に向かっていた。

 

その時だった。

 

「きゃあ‼」

声のした方を振り向くと、アスナが同じKoBに所属しているプレイヤーに襲われていた。

よくよく見ればそれだけではない。レッド討伐側として参加していたプレイヤーが次々に仲間を襲っている。

「何をやっているん……くっ‼」

「おっと、よそ見はいけねぇぜ?小僧」

 叫んだところで、凶刃を得物で防ぐ。そして愕然とした。俺を襲っていたのはレッド討伐隊として参加していた“プロメテウス”のリーダーだった。

「くっ、どうしてこんなことを!?」

「くくっ、どうして?理由なんなんざ簡単さ。PoHは言った。どうせ生きて出れる保証はない。だったら、なるべく面白くゲームをしないとってなぁ。だったらこの世界でしかできないことをやらなきゃなぁ。そいつを考えると、人を殺すなんてのは現実じゃできないだろ?だが、この世界だったらそもそも帰れるかどうかすら怪しいんだ。だったら、俺が殺そうがこのゲームが殺そうが一緒じゃねえか?あ、ガキにゃ分からねぇか」

(……狂ってる)

 正直、そうとしか思えなかった。長々と語っていた目の前の男は喋ってる間、ずっと笑い通しだった。

 ギルドリーダーの考えからして汚染されているこの状況では、他のギルドメンバーも信用はできない。つまり、プロメテウスにあった回廊結晶はもう使えない。

 

 だけでなく、最初にあった人数差は最早ない。つまりフレッドが最初に考えていた短期決戦は望めない。あいつの考えでは相手を圧倒的な物量で押して早く終わらせることで犠牲者を減らす算段だったみたいだがこうなってはどうしようもない。

 俺の“奥の手”もこと相手を殺さずに、が原則のこういう戦いでは片手剣を使った方がまだマシだ。

「……迷ってる時間はない、か。はぁああ!!」

「うぐっ」

 ヴォーパル・ストライク……血色の閃光が相手を貫く。受けた奴のHPはガクンと削られ、イエローに到達する。当然それに伴い、相手にはノックバックが発生する。

「しばらく動かないでもらうぜ」

 ノックバックの隙に、再びデスパライズの黄色い閃光が相手を切り裂く。俺は斬ったやつを放置し、次の相手を始める。

 

 数分、戦っていて展開は悪くなってきた。数の差がなかろうとこちらとあちら側ではまずレベル差もある。だが、この世界レベルでは測れないことも当然ある。その一つが戦意だ。戦う気力がなければ当然勝つことなんてありえない。当然、俺たちはレッドプレイヤーをのさばらすのはいけないと集まったメンバーだが、内裏切りが1/4程度出て、これに動揺したプレイヤーが一時的に戦意を失ったのが事実だ。だけでなく一番大きいのは殺意だ。討伐隊は、最悪レッドは殺すなんて言ってるが、現実問題ねじが外れていなければ人を殺すなんて大それたことできるはずがない。つまり危険域に追い詰められたレッドはゲリラ戦をしてくる訳だ。咄嗟に相手を殺すことに躊躇したプレイヤーから死んでいく。

 幸い、まだ俺らの方に死者は出ていないが時間の問題だ。咄嗟に最良のソードスキルを使わなければこちらが殺される。

 俺は相手の攻撃をはじきながら、クラインと背を合わせる

「クライン、そろそろ頃合いを見て、全員に合図を」

「あぁ、そうだな。だがうまいタイミングが見当たらねぇんだ。今、結晶の数も少ねぇだろ。だったらなるべく一網打尽にしたい。当然、こっちの体力の問題もあるのは分かるけどさ」

「確かになるべく多く送りたい。だけど、ちょっとした隙でもあいつらにとっては絶好の機会だ。一瞬死を直感すれば、動けなくなることだってある。まずは少しでも数を減らそう」

「……しゃあねぇな。じゃ、行くぜ!」

 クラインがレッドの一人に狙いをつけて打ち出すのは彼のスキルの中で唯一麻痺にできる単発刺突《蠍針(けっしん)》を放つ。これは俺らと風林火山だけの取り決めで、結晶を持っている方のリーダーがステータスを麻痺にできる技を放った時、全員で相手を捕獲するものだ。合図と同時に動き出す。

 

 クラインが回廊を開いている間、拘束できたプレイヤーからどんどん放り込んでいくが、動いているプレイヤーは先程と同じく逃げて行く。流石に絶対数が少ないこの状況では一人でも多く、牢屋へ送りたい、そう思ったとき、急にこちらに近づいてくる影があった。構えを取ろうとすると、その近づく影は俺の横を通り抜け、自ら回廊にダイブした。

 流石にレッドでも命が惜しくなった連中が出てきたと思ったが、男の来た方向を見た時、愕然とした。明らかに数が少ない。……いや、《回廊結晶》で《牢獄》行きにした結果としてあぁなってるだけ、な筈だ。

 

「た、助けてくれぇ!!」

 再び声を上げながら、こちらに走ってくる。見た目から最初からラフコフのメンバーとして参加した奴だったが、もうあと一撃喰らえば死ぬだろうそれを追いかける影を見た時、その影と逃げるプレイヤーの間に割り込み、声を上げた。

「何をしてるんだ!アスナ!!」

「……」

 無言の彼女の瞳には光がなかった。

 

 

アスナside

 

「クラディール、これはどういうことなの!?」

「何ですか? 簡単なことですよ。私はラフコフの人間だった。それだけのことですよ」

 その言葉を聞いた瞬間、意識を切り替える。クラディールは敵、理解していれば負けるような相手ではない。クラディールに向って剣を構えなおすと、彼は嘲笑しているようだった。

「くくく、あまり私を舐めない方がいいですよ。これでもアスナ様の剣は研究、がっ!!?」

「あなたが何を研究していたか私の知ったところではないけれど、対人戦と対Mob戦では戦い方は異なるものよ、クラディール」

 対人戦の極意は相手に恐怖を与えるように攻撃すること、理由は言うまでもなく、戦意を喪失させ、降伏させることにある。

「うわぁあ、あ、あぁ、ああ!!」

 レイピアの先端は着実に、クラディールのHPを削る。クラディールも両手剣で何とかしようとしているみたいだけど、彼が一の動きをする間に私は三の動きをこなす。隙さえ見せなければ、負けはない。

「くそっ、このアマ!? あぁっ!!」

 流石に目が慣れてきたのか回避の行動も取るようになったみたいだけど、もうおしまい。見れば、彼のHPは既にレッドに突入し、これ以上攻撃すれば間違いなく、彼は死ぬことになる。攻撃してる間、悲鳴を上げていたから死ぬのは怖い筈。

 それでも、まだ攻撃をするつもりなのか両手剣を構えてくるが、それのほぼ真中を下段から思い切り振り上げる。結果、重い金属音を鳴らして彼の武器は宙を舞い私の後方に落ちた。

「ひ、ぃいい!!わ、悪かった、俺が悪かった。大人しく《牢屋》に行く! だから許してくれ!!」

 武器を失った途端に膝を地面につけるクラディール。

(とりあえず、後は彼を《回廊結晶》で飛ばすだけ……)

 一瞬、結晶を探す為に気が反れた。武器の構えが緩んだ瞬間、彼は赤い光を纏って、足を地につけていたとは思えない猛スピードで突っ込んできた。体術スキルの……《雪崩》!

「甘ぇんだよぉお! 副団長様!!」

「くっ!」

 《雪崩》の厄介なところは、出が早く、そして相手の体制を崩すことに特化した技。お腹に当たったそれは私をその効果から漏らすことはなく少なくないダメージと《転倒》を課す。ぶれる視界でわずかに認識できたのはクラディールが自分の剣を取った姿だった。そして、耳に粘着質な声が届く。

「うひゃひゃぁ!!安心して下さい、アスナ様。あと数人ほど後を追わして差し上げますからね!!」

 ズバッと音がした。だけど、私の体はなぜかこの世界特有の斬られたという感触を感じなかった。最後に見えたのは黄色い閃光。下段からの黄のライトエフェクト……3連重攻撃《レイスター・クロー》。あれを近距離で受けて私がまだ感触があるのは不思議だった。

「アスナ、様。ご無事で……」

「……え?」

 聞き慣れた声がした。けれど声から少し遅れて目を開けた時にはそこには青いポリゴンの欠片が舞っているだけだった。

「あっ、あぁ……」

「ちっ、順番が変わっちまったか。……まぁ、いいか。さぁ、アス、なっ!!?」

 私がちゃんと意識を保てたのはここまでだった。けれど、最後にこんな声が聞こえた気がする。

 

 

「これで……あなたも、私と同じ殺人者ですね」

 

 

 

 




アニメではマザーズ・ロザリオが中盤に入ってるというのにこの小説は進みませんねぇ……

集団戦&原作キャラメインはやっぱり難しいですね。キャラ崩壊はあまりさせたくないし、戦闘してると1分の間でも膨大な分量になるから適当に切らないと冗長&皆様飽きるわで、もうね。

とはいってもアスナさんにはすごいことしちゃいましたけどね。そのことで彼女のファンの皆様方には謝らなければならない。闇落ちですよ、えぇ。だってこうでもしないと、キリト君とフラグが成立しない云々の前に接点すら薄くなっちゃうんですもの。

で、キリアスを妨害している黒猫さん達からはケイタ君以外不参加でございます。全員参加だと間違いなく身内の死者出るなと思い、キリト君に止めて頂きました。実際のところ、それでも付いてきそうなんですけどね、この世界の彼ら。

さぁて、次回はフレッド……ではなくお察しかなと思いますが、カイ&コペルvsジョニー&ザザです、はい。年内には終わらしたいな、この章。

ということでまたも長々と書いてしまいましたので、今回はこの辺で。感想お待ちしております。ではでは。


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第三四話 ~差~

ユウキぃいいいいい!!
上の絶叫は本編とは何ら関係がございませんのであしからず。

アニメも終わってしまい気付けばもう年末、……長くなりそうなのであとがきに回して今年最後のお話どぞ~


コペルside

 

「どうしたどうしたぁ!? そんな守ってばかりじゃ俺は止められないぜぇ!!?」

「……ジョニーとか言ったっけ? そういうのは事実を認識してから言った方が恥をかかないで済むよ?」

「あぁ?」

 下卑な笑みを浮かべる目の前の“毒使い”の短剣を僕は盾で防ぎながら、煽り返す。すると、機嫌が悪くなったようで、顔を見ると笑みが消えていた。

「僕はお前の攻撃を結構な間防ぎ、先に進ませてない。逆にお前は僕の防御を崩そうとするもそれができていない。違うかな?」

「……ケッ、ノリの悪ぃ奴だな。あぁ、それとも単純に暗い奴なだけか?」

「あいにく、僕の性格とそれは関係ないな。ウチのリーダーと、ある種No2はノリが良すぎるノーキンタイプでね、んなもんだから自然とノリは悪くなるのさ。これに関しての文句は僕じゃなくてフレッドにでも言うんだ、ね!」

「!?」

 ジョニーの短剣の猛襲の間隙を縫って“ね”という言葉にアクセントを入れつつ、盾の影から左の槍の突きを放つ。だが、さすがラフコフの幹部を務めてるというか、さっきから結構な隙に打ち込んだと思っても割と簡単にかわしてくれるから腹が立つ。今回も同じように後ろに下がられる。

 

「危ねぇなぁ~。だが、たしかにこれじゃ埒が明かねぇってのはよぉく分かった」

 そう言って自分の武器を後方に投げ捨てる。

「投降する気になった……って訳じゃなさそうだな」

「当たり前ぇだろ! てめぇはこれで殺す!!」

 すると、手元が素早く動いて手元に巨大なものがオブジェクト化する。

「へぇ、てっきりスピード型と思っていたが、まさか両手斧とは……」

「てめぇの防御ぶった切るにゃ十分だろ。衝撃に気ぃつけな!!」

(……この位置で構えた?)

 通常重量級武器、というよりはこの世界のほぼすべての武器において今の僕とジョニー・ブラックの位置関係のような遠距離では構えない。対人戦において構えを見せるのは相手に動きを先読みしてくださいと言っているようなもの。

(何か……!!?)

 遅かった。僕が狙いを読もうとした瞬間、その巨大な刃は黄色のライトエフェクトを纏って飛んできた。投げは威力や正確性、連撃性能が弱いが、直接斬るより意外性だけは富んでいる。寸分違わずその刃は僕の盾に当たり、先程までの短剣では考えられないような衝撃が僕を盾ごとのけぞらせる。

(しまっ……!?)

「ひゃひゃ、《投剣》じゃ両手斧は投げられないと思ったか? 甘すぎるぜぇ!!」

 僕が構え直そうとしていると、奴は既に放り投げた筈の短剣を拾って目の前に迫っていた。まずい、と思いながらも盾をめくられ、体制も崩されてる現状できることはない。

「ぐっ……!!」

「麻痺毒のおまけ付だ。有難く頂戴しな! ゆっくりいたぶってやるよ!!」

 

「……残念だけど、その要望には応えられないな!」

 がきぃいんと、鈍い金属音が響く。“毒使い”と名が通っているのに毒対策をしてこない訳はない。恐らく確実に毒にする為に体制を崩してから通常の一撃、そして連続でソードスキルを発動して叩き込む算段だったんだろう。だけど僅かに僕の反応速度が勝った結果、ダメージと麻痺は防げた。そして有難いことにもう一つ分かったことがある。

「ちっ、ガード馬鹿な上に耐毒たぁ、どんだけ弱腰なんだぁ、てめぇ! やっとヘッドのとこ行けると思ったのによぉ!!」

「弱腰とは失礼だね。せめて堅実と言ってくれないかな。それに嘘も止めることだね」

「あぁん?」

「さっき僕をゆっくりいたぶるとか言ってたね。君はPoHの所へ行こうとは思ってない、少なくとも積極的には。君の第一の目的は僕を殺すことだね?」

「聞いてやがったか。まぁ、だが、変わんねぇだろ。結局お前を殺さねぇとそこは通してもらえないんだろ?」

「まぁ、そうだけど。でも変わることもある」

 そう言ってメニューを開き、今の片手重槍、幅広の盾を外し、新しい武器を出す。槍は槍でも同種の武器より軽く細い片手槍“トライデント”三又の戟、僕の本領武器だ。

「へぇ、今まで手を抜いてたってか」

「手を抜いていた……って事はないんだけどね。二人いるノーキンに合わせるにはあっちの方がいいし、防衛戦だったら盾装備の方がいいと思っただけさ。けれど、君の主目的がここを突破することじゃないって分かったから、久し振りに僕も遊ぼうと思ってね」

「俺相手に遊べるといいけどな! だが、いいのか? てめぇもさっさとそのノーキンの手伝い行った方がいいんじゃねぇの?対人でヘッドに勝てる奴なんざこの世界にはいねぇぜ」

「……心配には及ばないな。アイツも最強には違いないからな」

 あいつの心配なんかしたところでまるで無意味なのは経験上間違いない。アイツはそもそも必勝の手があるって言って僕とカイに取り巻き二人を任せた。だったら向こうが突破目的でない以上、僕もたまには好みの武器でやらせてもらおう。

 

「そうかいそうかい。ならこっちから行くぜぇ!」

 突撃しながら、ソードスキルを使わずにランダムな位置への連続突き、ここから更にひねりは加えないだろうが、直前まで見極める。あと数センチで当たるというトコで僕は体を後ろに反らせ左足で凶刃を上へ弾く。そして残った右足で今度は体術スキル《弦月》でジョニーの顎に蹴りをしたところを僕と同じようにして躱し、僕も奴もバック転をするような形で離れたところに着地する。

 そして、今度は同時に接近し鍔迫り合いになる。

「なぁる。確かに遊ぶならそれの方がいいかもな。だけど、そんなほっせぇ武器でこいつは躱せるかな?!」

「っと!?」

 いきなり力を抜かれ、僕の体は前に倒れかける。ジョニーの方は更に地を蹴って後ろに下がる、と同時にどこにあったのかライトエフェクトを纏った大量のピックを投げつけてきた。それを認識した瞬間、倒れる勢いのまま槍を前方に突き、棒高跳びの要領で跳ぶ。それでも何発か掠めてしまったが、僕の耐毒スキルを破るには至らずそのまま後ろに回り込めた。

「今度はこっちの番だ、ね!!」

「がっ!!」

 振り向こうとしたジョニーに対して渾身の掌底突き、体術単発重撃《掌撃破(しょうげきは)》を打ち込む。相手の顎にHITしたそれは高確率でスタンを起こすが、ジョニーの状態を示すゲージに異常はない。が、予想よりもHPは減り、イエローに突入する。

「……っはぁ! 危ねぇなぁ。危うく死んじまうところだったぜ、おい! あ、それとも殺すつもりでこの程度だったか?」

「さぁ、どうかな。まぁ、あんたは今の時間は僕の肩慣らしだとでも思っとけばいいんじゃないかな?」

 口が減らないのは相変わらずだな。ノリが悪いと知って尚煽ってくる態度はある種尊敬できる。僕は適当に流すだけだが。

 

 奴のHPがイエローに落ちた。そろそろ選択をしなければならない。奴を殺すかこの場に留めるか。当然僕としては留めたいが、簡単なのは殺す方だ。先までのやり取りでそれができるのは明らかだ。アイツも全能力使ってるとは限らないが、ある種の必死感……とでも言ったらいいか、そういうのを見て取れた。レベルも攻略組前線ほどはないだろうけど、もしあれがハッタリだったら大したものだと思う。

 けれど、僕は奴に『お前なんて殺したって構わない』と、態度でハッタリをかまさなければならない。相手に察せられれば、自身の命を囮に特攻を仕掛けてくるのは明白だ。そうなれば、僕の力じゃ殺すしか道はないだろう。奴が特攻を仕掛けてきても躊躇はおそらくしない。躊躇するような性格だったら第一層の時、キリトにMPKなんて仕掛けない。

 その時だった。

 

「……ちっ」

 一瞬目を反らして、舌打ちをするジョニー。多分はメッセージ着信、あちらにとって悪い知らせみたいだな。

「てめぇ、コペルとか言ったな。いずれ殺すが、今は退却させてもらうぜ」

「そんなこと、僕が許すとでも?」

「できるさ」

 言うや否や、ジョニーの姿がおぼろげになり風景に溶け込むように消えていく。

「なるほど、《隠蔽》スキルか。けれど、それ(・・)じゃあ《索敵》のスキルを持ってない僕だって……」

 《隠蔽》はそれこそ一層の時に痛い目を見ている。もうそのスキルはないが長所短所は記憶している。その短所の内の一つに“対象が認識している状況でスキルを発動させれば看破されやすい”というもの。消えた地点を中心に探せばすぐに見つかる……筈だった。

「ジョニーの旦那!!これくらいでいいっすかぁ?」

 消えた地点より向こう側、間の抜けた声と共に現れたのは獣、獣、獣、と数えるのがバカバカしくなる様な大量のMobとそれらに追われて……じゃないな追わせている一人のグリーンプレイヤー。

 この層でよくこれだけ集めてこれたなとある種感心しながら、あれを牽引してきたプレイヤーがいた場所を見るともういない。対象が見ているといっても目の前にハイドしていない対象があれば基本そちらに行くのがMobの行動パターンだ。あくまで視覚が発達したMobに限るが。

 

 再び武器を構え、Mob集団激突数m手前でソードスキルを発動、広範囲スタン付与《トリップ・エクスバンド》5連撃。先頭を走ってきたイノシシっぽい奴を初撃のスタンで止め、3、4撃目の広範囲で一掃する。

 だが、まんまと逃げられた。流石にもみくちゃになりながら神経を集中するのは無理だったから選択は間違えてないだろうがやられたな。最後後方に走ったところを見ると本気で逃げたみたいだが……

 

(回り込まれたらシャレにならないな。アイツに怒られるという意味で)

 

 

カイside

 

「全く随分と旦那やコペルと距離を離すんだな、アイツらを舐めちゃいねぇかい? 赤眼さんよぉ」

「別に、舐めては、いないからこその、布陣だ。たっぷりと、堪能、してくれ」

 距離を離したのはサシなら必勝できる計算かと思ったんだが、別に狙いがあるのか今の俺のように考えを集中させない気か。まぁ、考えるのは性じゃねぇ。俺は目の前のコイツをぶっ倒すだけでいい。

 

「へぇ、じゃあさっそく堪能させてもらおうかぁ!!」

「!?」

 ここに来るまでに多少打ち合いはしたが当然本気なんて出しちゃいねぇ。俺のダッシュ力はアイツの予想を超えたらしく、ちぃっとは驚いた素振りを見してくれた。まぁさすが幹部といったところか、すぐに構え、そして本気での第一撃の金属音が響いた。

「くっ!」

「まさか、さっきの打ち合いで限界とか言わないでくれよ。俺はエストックの達人っつぅお前のフレコミ聞いてこっちに来てんだ。俺を楽しませてくれよ!!」

「当然、本気、じゃないが、お前を、楽しませる、つもりは、ない」

「言ってくれるねぇ、その前に殺すってか? 面白ぇ、やって見せな!!」

 瞬間に俺の両薙“ブレイク&スラッシュ”の刃に光が灯る。それを見たザザが回避は危険と判断したのか、得物に力を入れてくる。だが、俺の武器が特殊ってのを忘れてもらっちゃ困る。

 力を込めてくる武器に対して俺は刃を下げる。

「な!?」

「這い蹲ってな!」

 そして、片方の刃を下げるという事はもう片方は自然と上がってくる。体制を崩したザザに上からの鈍器の一撃を浴びせる。両薙には珍しい単発攻撃《トリックショット》ほぼ対人戦にしか使えねぇが、ミスリード狙うにゃ中々いい技だ。実際、向こうの体制を崩せた訳だし。

 対人戦且つ普通(・・)の武器ならその判断は正しいだろうな。下手に退こうとしてそれが相手の武器に速さを与えちまったら、最悪空中でソードスキルのフルコースを喰らうハメになる。

 だけど、この武器相手に常識なんざ存在しねぇ。このSAOという世界で二つの刃を扱うスキルはこれを除いて今んところ存在しない。残念だが、この前俺専用じゃねぇことが知れちまったが、それでも使いこなすに至ってんのは俺だけ。初見の武器相手にレッドの幹部様はどう対応すんのかね?

 

「おいおい、今のは挨拶代わりだぜ? 折角威力の弱い技で剣を披露してやったんだ。ここから逆転劇見してくれよ。それとも、俺を楽しませないってそういう事か?」

「減らず、口を!」

 あえてクレーターに突っ伏してた奴を追撃しないで待ってやる。結構煽ってやったから突っ込んでくると思ったら前転してその場を離脱する。そして、次の瞬間紫の煙が視界を支配した。

「……毒煙。そんなに俺と刃合わせたくないってか? 寂しいなぁ、拒絶されるとむしろ会いたくなっちまうぜ!!」

 このまま逃がしゃしねぇ、毒煙だろうがボス級のトレインだろうが、知ったこっちゃねぇ。煙に突っ込んだ瞬間俺のゲージには毒のアイコンが浮かぶがお構いなしに突き進んでいく。

「おわっ!?」

 突然、俺の足が勝手に宙に持ち上げられた。それによって俺は空中で逆さ吊りの体制になる。当然それだけで終わるわけはなく---

「いぃい!!?」

---前方から宙吊りにされてる俺に向って大量のナイフが飛んできやがった。一か八か腹に力を込めて前方に体を持ち上げる。何発か頭にもらったが体が動かなくなるとかそういうのはなかった。が、追加で別の継続ダメの毒が追加される。おかげで、さっきまで満タンだったHPが四分の一ほど減っている。

「やってくれんなぁ。ここで戦ったのもあれか、最後は罠攻めにして殺すってか?」

「レベル差は、明らか、だからな。これで、この前も、攻略組を、一人、殺した。お前も、これで、死ぬと、いい」

 そのまま紐を伝って足は拘束されたままだが、体勢は戻しながら、ザザに問う。ヤローも否定はしないといった感じに得意げに語る。

 

 その答えを聞いた瞬間に俺は冷めた。

「はぁ、ホントにつまんねぇ奴なんだな、てめぇ」

「あぁ?」

「俺はてめぇを“殺人者”で“エストックの達人”っつー肩書きを期待してたのに、実際俺のHP減らしたのはてめぇの得物じゃなく、毒、遠くからのナイフ。加えて投剣に関しては罠で拘束した上でっていうとんでもなく弱腰な姿勢、正直がっかりだ」

「なんとでも、言え。お前は、これから、死ぬ。体勢を、直した、ところで、この辺り、には、罠が、大量に、仕掛けられてる。その上で、倒せる、というなら、倒して、見せろ」

 話が切れた瞬間、再び、大量のナイフが飛んでくる。本気でこのまま押し切るつもりらしいな。

 

(そっちがその気ならこっちも遊ばずに本気でぶっ潰してやんよ!)

 

 拘束している縄を切り、地面に降り立ってナイフを躱す。量からして事前に仕掛けといたもんだろうな。なおさら腹立たしい。

 俺はメニューを開き、《罠解除》スキルをONにする。普段はOFFにしてるが、まともに刃を合わせない奴の土俵でやり合う必要はねぇ。そして、持ち物に入れておいたあるものを取り出す。

「疾風・解放!」

 俺の言葉に反応して、取り出した翠の結晶は割れ、俺の周りを風が包むと同時に両薙をやたらめったらに振り回し、毒霧を晴らす。旦那の《衝風波》が使えればこんなことしなくてもよかったんだけどな。

 霧が晴れ、上方に奴の姿を見つけ、全力のジャンプで奴に接近する。

「‼? 属性結晶、だと」

「旦那以外は使わねぇと思ったか? 別に専用ソードスキルが使えねぇのと武器の耐久が減るデメリットだけで誰も使わねぇなんてのは読み違いだぜ。それと今の俺に罠は無駄だぜ。《罠解除》発動してるからな」

「!!?」

 そのまま切りかかるも正位置のままバクステで躱される。だが、これでエンディングだ。

「楽しみたい、と言う、割には、随分、弱腰、じゃないか」

「あぁ? てめぇと一緒にしてんじゃねぇよ。俺はてめぇの軟弱な態度見て興が醒めたから全力で潰すことにしただけだぜ?さぁ、終わりだ」

「ちっ!」

 舌打ちと同時にザザは腰のエストックを手にする。

「へぇ、なんだ、そいつは飾りじゃなかったか。じゃあ、最後に達人の腕前見してもらおう、か!!」

「ぐっ!」

 言うと同時に両薙のラッシュを仕掛ける。ザザも反応して受け止めていくが、反応が遅ぇ。まぁ幹部とはいえ攻略組と真っ向勝負したらこんなもんか。ガチ戦闘じゃ、殺人集団つっても腑抜けの集まりと変わらねぇな。旦那を負かした奴がヘッドの集団っていうからどんなもんかと思えば……

 すると、俺の剣撃を無視して左手が懐にいく。

「ごちゃごちゃやってんじゃねぇ!!」

「がっ!」

 両薙専用2連撃《ポインター・スラッシュ》が奴の肘から下を掻っ攫う。威力は低いが欠損可能部位だったら、高確率で部位欠損を引き起こす。

「さて、空いてる手はなくなったし、お前のエストックも大したことなかったし、投降を認めてやってもいい。まだやるってんなら付き合いもするぜ?」

「…………」

 俺の挑発に乗りもせず、無言で剣を落とし、両手を上げる。なんだかんだ言って命第一か。

 

「最後までほんとにつまらねぇ奴だったな」

「……覚えて、おけ。《赤眼のザザ》、いつか、必ず、お前を、殺す」

「へぇ、やれるもんならいつまででも覚えててやるよ」

 




今年、全然書けなかったな。来年も不安定になりそうですし……

という事で、もう2014年も終わりです。全然目標達成できませんでした……

あれ、思ったより書くことないな。という事で皆様今年も私ALHAの小説を読んで頂きありがとうございました。来年も頑張るとしか言えませんが、お付き合いいただけたら幸いです。

来年の初めはやっとPoHvsフレッドでございます。そして、願わくはシリカのエピソードの導入もできたらといった感じです。

では皆々様、よいお年を~


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第三五話 ~決着とそれから~

まただいぶ日が空いてしまいましたね。
ちょっとリアルがごたごたしてまして、この次の話も結構空くかもしれませんがご容赦を。
では、新話どぞ~


 ひたすら続く森の中、剣と剣がぶつかり、絶え間なく金属音が響く。だが、その音の原因は9割方、プーの魔剣を俺の大剣が防いで出た音で、俺からはほとんど攻撃をしていない。30層での戦いと同じで俺が防戦一方、向こうは剣が届かずって画だが、今回は、俺は攻撃できていない訳じゃない。

 

 だが、プーとしてはこの展開は好きじゃなかったらしく適度に間を取ってとてつもなく不満げにもらした。

「Sigh、勘弁してくれよ、“ゴッドファーザー”。この前と全部、全部、ぜぇーんぶ同じじゃねぇか。俺が勝つにしたってお前ぇ、流石に退屈だ」

「そうだな、目に見える(・・・・・)部分は俺も全く同じにしか見えねぇな。だが、安心しろ。このまま同じ展開にするつもりは一切ねぇ。そろそろコレを使わしてもらおうか」

 

 俺はそう言ってポーチからくすんだ黄色の結晶を取り出してプーの奴に見せる。

「Wow、属性結晶って事ぁ、お得意の《豪大剣》のおでましかぁ?」

「安心しな、ユニークスキルを持ってないプレイヤーには《豪大剣》のスキルは使わねぇ。あくまで俺が使うのはコイツの効果のみ」

「随分、舐めてくれたもんだなぁ。俺なんかユニークスキルを使わねぇでも勝てるってか?」

「そうかもな。だが、俺の本意としてはあくまでお前とフェアにやり合おうって言ってんのよ。お前との一騎打ちなんて今後二度とない。なんせ、お前はここで終わるからな」

「はっ、そういうセリフ聞けるのも最後と思うと俺もmovingだ。but《属性結晶》はお前ぇのいうfareとは違うんじゃねぇのか?」

「お前さんのはドロップとはいえ魔剣、俺のは最高の職人が仕上げたプレイヤーメイドだが使ってる金属が低層のものだからな。その差埋めさ。……とはいえ、それで云々文句を言われるのは癪だ。ならこの結晶の情報をくれてやる。コイツは相手の武器と接触時恐ろしい速度で腐食させるシロモノだ。俺自身の武器は発動中はずっと減り続ける、が!!?」

 言い終わる寸前だった。大した距離もない上にまだ戦わないと多少油断していた。プーの剣、いや、手刀が俺の胸の中心を抉っていった。当然痛かねぇが、HPに少なくないダメージを与えていた。

「てめぇ……」

「Namely、こう戦えって言ってんだろ? 素手なら腐食する部分なんてNothing、違うか?」

「……そうだな。だが、てめぇがそいつを使えねぇなら俺自身戦いやすくなる上に不確定要素はなくなる。俺の勝ち確は揺るがねぇよ。《大地》解放!」

 

 

 一瞬後、その場に俺らはいなかった。二人同時に互いに向って駆け出し、俺は《蛮竜》を、奴はグローブをつけた拳をぶつけ合った。俺はともかく奴のHPにも殆ど変化は見られない。

「刃を直接殴ってくるたぁ、中々面白ぇ事してくれんじゃねぇか。そのグローブか、ダメージ防いでんのは」

「Sure、こいつは“ブレードクラッシャー”、拳を作ってれば、おめぇのバカみてぇにでけぇ大剣でも大抵のダメージは防いじまうシロモノだ」

 《体術》使いなら、喉から手が出るくらい欲しい逸品だろう。30層の俺にそのアイテムがありゃ戦績に黒はつかなかったろうし。尤も、今の俺はそんなちゃちなアイテムに興味はない。

 

「へぇ。だが、両手以外に剣が当たれば問題はないんだろ? それにゲージも若干減ってるぜ。ダメージカットするだけで完全に防げるわけじゃなさそうだ」

「じゃあ、さっさとcritical取ってみな!」

「っ!」

 俺の右胸に奴の左手が突き刺さる。現実なら呼吸困難にでもなりそうな勢いな打撃だが、幸いにもこの世界の仕様ではそういうことは起きない。若干そのあたりは不満があるが、今回ばかりはラッキーだ。

 プーの攻撃は当然容赦なく連続して俺を攻撃してくるが、最初にもらった一撃以外はかろうじて急所への一撃を防ぐ。俺の《蛮竜》はなぜか剣の峰に柄がついている。故に剣を逆手に持って、その柄を掴めば、防御性能は格段に上がるが、奴の攻撃も速く俺のアバターには赤い痕が刻まれる。

 

 だが、これでもヒートアップする訳にはいかない。限界を超えれば俺はまたアバターを動かせなくなる。一瞬でも隙を見せたら確実に死ぬ。全神経をフル起動して奴の致命的な攻撃を確実に避けつつも、ヒートアップできないのはもやもやするが、動かなくなった瞬間死が待っているというのは抑えきれずに多少なりとも興奮してしまう。

 

「おいおい、がっかりさせてくれるなよ。またdefenceばっかりになってるなぁ。俺を倒すって豪語してたゴッドファーザー様はどこ行ったんだ?」

「ほざいてろ、チャンスは来る。必ず……!?」

 何撃目とも知れないプーの拳をパリィした瞬間、《蛮竜》は刀身の半ばからひびが入った後、砕け散った。そこにすかさずプーの右が入り、距離を離される。

「Haha、どうやらそれがおめぇのfateらしいなぁ!lastはおめぇが震えるほど怖がってたこれでTHE・ENDだ」

 再びプーの手に《友切包丁》が握られる。そしてソードスキルのライトエフェクトを纏った刃で俺の首を取りにかかる。レッドにギリ届かない程度の俺のHPで最高性能と謳われるあれを喰らえば、間違いなく死ぬだろう。

 

 

 どうやら、俺の命運は……尽きてねぇみてぇだな。

 

 

 俺の右手は吹っ飛ばされたとき、既にポーチのあるものを掴んでいる。そしてそれを奴が繰り出す短剣が突くであろう場所に向って、突き出した。

 

 きぃいいんという音が響く。その時のプーの顔を見たら疑問府が付いた感じになってたろう。残念ながらそんな暇はなかったが、試合を終わらせるための一言は告げた。“《大地》解放”と。

 

 ポーチから取り出したのは先と同じ《大地結晶》、武器の耐久を著しく減らす能力を持つが、デメリットは他の属性結晶使用時に比べて二倍消耗が激しいというもの。それを奴の剣に使ってやった。

「まだ、クリスタル持ってやがったか!」

「そりゃな。一つだけだとてめぇの油断誘うにゃ心許なかったからな。それと、情報通のてめぇのことだ。言う必要はねぇと思うが、いくら指をスライドさせても属性は取れないぜ。発動者の俺がやらねぇ限りはな」

「あぁ、知ってるさ。次はこれを使っておめぇに罪擦り付けようと思ってたくらいだからな」

 やっぱり知ってたか。《属性結晶》は使用者のみが属性解除できる。そういう言い方をするという事は裏返せば対象の剣に触れて《属性解放》と言えばたとえ所有者と使用者が違っても発動は可能ということだ。相手にいやがらせするにゃもってこいの性能だな。

 しかし冤罪を作ろうとはいい度胸。今回の事件は俺のスキルを知らずにやってしまったから許すが、態とだったら絶対に許さねぇ、はっ倒す。

 

「こっからは俺の時間だ!?」

 俺のセリフを邪魔するように魔剣の一突きが気付いた俺の頬を掠め、連続して俺を狙ってきやがる。

「時間がないみてぇだからな、コイツの冥途の土産におめぇの首、置いてきな」

「冗談。俺がてめぇを牢獄へ送るまで死なねぇよ!」

 

 奴の連撃を掠めつつ、メニューを開き、新調したばかりの大剣を取り出す。《蛮竜》に引けを取らない大きさの刃に柄と刀身の間には鬼の顔がでんとあしらわれている。名も《オニノコワモテ》そのまんまだ。そして、それを大地に突き刺し、その陰に隠れる。

 

「OK、牢屋へぶち込む準備ができた。《豪大剣》対人戦闘のお披露目、付き合ってもらうぜ、プーさんよぉ!」

「!?」

 剣の陰から柄を持ちながら高速の蹴りを繰り出すが、それは当然ながら躱される。そして、その足めがけて今度はプーの剣が下ろされる。

 そこを俺は避けずに足を突き出したままプーのいる方向へ踵を繰り出す。俺のHPは既にレッドゾーン奴の一刃を喰らえば間違いなく死ぬ。それを知って奴も、俺の一撃を躱すつもりはねぇみたいだ。だが---

「が……はっ!?」

「見誤ったな?俺の踵蹴りの威力」

 俺の脚は奴の剣より早くプーの鳩尾にヒットし、それにより奴にはノックバックが発生する。奴からしてみりゃそんな現象が起きる筈はないと思ってたろうに。

 そういう俺は剣の柄を持ってたことで体勢を崩すことなく回転運動で元の位置へ戻る。そして、再び奴の剣の隙を狙って足による攻撃を加える。対人戦用と言ってもただそれだけのことだ。基本は剣の柄を持ちながら回転運動で回避を繰り返し、決定的な隙には体術ソードスキルを見舞う。ソードスキルを使わなくとも《剛力》のおかげで格闘のみでも十分な威力を叩き出し、急所打ちができればノックバックを望める。この戦法に気付いた時、やっと条件の3つのスキルの必要性が分かった。一つでも欠けてたら、使いづらいことこの上ないだろうな。

 

 そこからは俺の一方的展開だった。奴の剣は《大地結晶》の効果で何もしてなくとも耐久は減っていく、故に俺に攻撃を仕掛け続けて、短時間で俺の剣を壊さなければならない。が、耐久がイカれているこいつを壊すのはたとえ大地結晶の力があると言っても至難の業。だけでなく俺の蹴りの連撃を躱しながらともなると至難を通り越して無理ゲーだ。

 

 それでも耐えた方だろう。流石にレッドゲージで時間まで気にする余裕はなかったが、あまり長くない時間の後、魔剣と云われた“友切包丁”は俺の剣の刀身に当たった瞬間刃先が砕けて散った。瞬間にできた間隙、俺の脚は黄色く輝く。俺の十八番《煌脚》はプーの首に左から入ったと同時に手を柄から離し慣性のままに奴の体ごと吹っ飛び、そのまま近くの木に激突した。

「ホールドの効果があるのは知ってるよな、さぁどうするよ?」

「……shit、流石にここまでされちゃloseだな。But、忘れてねぇよな。“次に会った時、最高のショーを見せる”この言葉に嘘はねぇ。Showは、今! startした!」

「へぇ。張本人が《牢屋》へ行って何ができるのか楽しみだわ。回廊、オープン! ……あばよ!」

 抑え込んだまま、黒鉄宮へのゲートを開き、左足で開いた回廊に叩き込み、PoHはこの場から消え去った。

 

 

 

 ……すっきりしないな。結局《大地結晶》を2つ使うなんて事しちまったし、俺の本職の両手剣で決められなかった。実際やってみたらだまし討ちに近い感じになっちまったのは否めねぇ。……駄目だなぁ、どうも目先のスリルにがっついちまう。別に適当に戦ってプーに悟られないように逃がしゃこの後も面白い展開になったかもしれねぇ。まぁ、今回の討伐戦、俺が仕組んだから当人逃がすのはさすがに無しか。それに奴自身も今からショーの始まり云々言ったってこたぁ、なんかしらの準備はしてきたってこったろ。とりあえずはそれに期待、だな。

 

 

 

 

 

「おいおい、流石にプーの仕業じゃねぇとは思うが、いきなり面白い展開に遭遇できるたぁ思ってなかった」

 俺が見た光景、それは“閃光”たるアスナちゃんがなぜかキリト君と剣を交えているものだった。しかも、彼女、俺が見る限り……本気だ。キリト君はあくまで防いでるだけだな。

「なんだなんだ、仲間割れか?」

「おぅ、カイ。ザザは……って見りゃ分かるか」

 二人の対決を興味津々そうに見るカイの後ろにはザザが繋がれていた。カイは微妙にキレた感じで俺に突っかかる。

「全く、弱過ぎてお話になんなかったぜ。旦那よぉ、こんな雑魚任せやがって、どういうつもりさ」

「くっ!」

 あらら、可哀想に。見た目小学生に“弱過ぎ”だの“雑魚”だの言われて……。カイは現実に戻ったら夜道に気を付けた方がいいな。ザザの奴すげぇ眼で睨んでるぜ。

 まぁ俺自身、確かにラフコフ幹部程度じゃあカイとタメ張れるとは思ってなかったが、あくまで主目的はプーと俺の決着を付ける事と言った筈。……と言ったって納得しねぇだろうから新しい玩具をやるか。

「ソイツで不満ならあっちに混ざってくりゃ多少は満足できんじゃね?なんつっても相手は攻略の鬼ことアスナちゃんだ。何で戦ってるのかよく分かんねぇから殺すなよ?」

「おうよ!」

 待ってましたとばかりに戦場に飛び込むカイを見てやっぱガキだなと思うが、俺も目先のプライド回復のチャンスに眩んでプーを牢屋送ってるあたり人のことは言えんが。

 残る回廊は一つ、ここでこいつに使う訳にゃいかねぇが、コペルからジョニーがうろついてるって連絡来てるから目は離せねぇ。

「レオン、たまにはお遣い行ってきな」

「Gau」

 肩から飛び降りたレオンは俺からディアベルと刻まれた紙を持つと風景と同化していく。当然この紙は特別製で裏に宛名をすれば迷宮区にすらテイムモンスターが時間をかけて持っていくという、限りなく用途が限定されたシロモノだが、特定のプレイヤーを呼びつける時ってぇのはその限定的状況にあてはまるだろうな。

 

 しばらくすると、前方から彼の姿がスーッと現れ、レオンが再び俺の肩に乗る。

「こういう時はほんとに便利だな、こいつの能力。ディアベル、来てもらって悪いな。この場を制圧するんでコイツ預かっててくれや」

「了解した」

 短くそう言うとザザを不満そうに受け取る。その理由も大体は分かる。大方制圧できるなら、してからPoHを倒しに行けとか、そんな類だろ。だが、ここでそんな不平を言って時間を取る訳にもいかないから顔に出すだけにしたってトコだろう。じゃあ、さっそく期待に応えてきましょうかね!

 

「《氷結》発動」

 未だ、奴らが気付いていない状況なのでボソッと結晶を“発動”させる。

 発動は《オールデリート》や《属性スキル》と並ぶ《豪大剣》スキルのユニークな性能。効果は各属性結晶のメリット・デメリットを消し、耐久減少を抑制するというもの。これによって属性結晶を使った《豪大剣》のソードスキルメインの戦闘時間を長くできるが、今回は武器負担を考えただけのものだ。解放するまでもない。

 

 《隠蔽最大》を使って戦場のほぼ中央に来たところで氷結結晶を発動した《オニノコワモテ》を地面に突き刺す。すると、突き刺した場所から霜が降りて次第に凍り付きやがて周囲で戦っているプレイヤーの足元にまで到達すると例外なくその足を地面に縫い付けた。

 氷の豪大剣、特殊ソードスキル《アイス・グラウンド》、ボスは勿論、普通のMobの中には効かない奴もいるが、ことプレイヤーにおいては《耐凍結》とかいう超趣味スキルでもとってない限り、防御すらできない拘束技だ。

 戦闘に夢中になっていた連中も、足が凍っているという異常事態に気付くと、何が起こったか分からないといった風に慌ててくれる様は中々に面白い。

 

「おい、旦那!!俺に行かせといて凍らせようってぇのはどういう了見だ、コラ!」

 声のした方を見ると、カイが得物を地面に突き刺し、それにしがみついていた。アスナちゃんと戦っていた筈なんだが……器用なやっちゃな、全く。そんなんで回避してる奴なんてお前……とケイタもいたか。

「別に? キリト君がアスナちゃんに押され気味だから助けに行ったら? と提案したまでだ。ちょっかいを出さないとまでは言ってねぇぜ?」

「ハァ? ふざけんな! 殺すな、まで言ったら最後までやって来いって言ってるようなもんだろ!」

「……漫才はいいから早く氷を解いてくれ、フレッド。動けないってのは中々不快だ」

 それもそうだ。ヒートアップしているカイに構ってなんかられねぇな。キリト君の言うとおりさっさと事件を収めるとしよう。

 

 後ろでぎゃあぎゃあうるせぇカイは無視して最後の《回廊結晶》を取り出す。……と、その前に確認しておかなきゃな。

「アスナちゃん。君、なんであんな事してたん?」

「…………魔……か……」

「は?」

「邪魔をするから!私は守れなかった!だから!こうするしかなかったの!!」

 そのまま泣き崩れるアスナちゃんをKoBの団員が支える。攻撃されてたキリト君は何とも言えないような表情で彼女を見つめていた。

 なるほどね。詳細は分からねぇが、ラフコフ側に仲間を殺されちゃった訳ね。それも中々ショッキングな感じで。で、ねじが外れてラフコフのPKに走ったと、大方こんなとこか。となれば、彼女の処遇はKoBにでも任せるとして、とっとと正真正銘の殺人者アーンド裏切り者共を始末するか。

「さぁ、犯罪者共!!この期に及んで投降の意思がねぇ奴はこの場で告白しな。この場で冥土に送ってやるからよ」

 周囲からなんか“無茶苦茶な”とかいう思念付きの視線が来るが無視。殺すのも奴らの思惑に嵌ってると思うと腹立たしいが、この場でドンパチやられるよりかはよっぽどマシだ。

 

 流石に声は上がらなかった。まぁ、この氷の足枷は何もしなければ10分弱は持つ。動けなければレッドと言えど生意気を言う気にはならねぇか。

 その後、ディアベルを呼び、ザザを含めたラフコフ残党は俺が作った回廊を個々に恨み言を言いつつ渋々くぐっていった。

 

 

 

「今回は急な呼びかけに応じてくれてありがとう、諸君」

 俺は今回の仕掛け人として討伐班の解凍後に声を上げる。といってもここで歓声などは起こらず、見渡せば暗鬱な表情を浮かべてるのが殆どだ。その沈黙を破ったのはディアベルだった。

「……あぁ。だけどこちら側の犠牲者は僕の所から1人、KoBからも2人出ている。とても手放しでは喜べないし、何より裏切ったプレイヤーが多すぎる。被害は甚大と言わざるを得ない。……君なら犠牲者を出さずに事を運べたんじゃないのか?」

「確かにそうかもな。だが、もし初めから氷結結晶を使っていたら多分攻略組に潜り込んでいた隠れレッドは見つからなかっただろうぜ。見つけられなかった場合の将来を考えれば、予想はつくだろう? もし君らに裏切り者がいなかったとしても、それはそれで犠牲者なんて出さずに制圧できたんじゃないのか?」

 棘を感じた俺は弁明するが、納得できない故か、すすり泣く奴もいる。それでも怒声・罵声の類は上がらなかった。

 

 俺がプーと戦い始まる前に奴さん共を凍らせなかったのは、炙り出しが主な所だ。裏切り者は処分しときたかったし、放置すると最悪なケース、ボス戦の時にでも裏切られると板挟みでどちらにも対応しねぇといけねぇ。俺だけならともかくも周りがいると間違いなく死人は出るだろ。しかも、今回の犠牲者よりも大勢。それで攻略ペースを遅らせるのは御免だ。

 まぁ、結果は攻略組ですら犠牲者を出し、アスナちゃんは恐らく精神的ショックからしばらく休養、と。悪い芽摘んだら、良い芽まで摘んじまったみてぇだな。プーの時と同じでまた選択ミスったな。……ともあれ、だ。

 

「まぁ確かに犠牲は出ちまった。だが、ラフコフのリーダーPoHは俺が《牢屋》へ送った。まだ、残党がうろついてるから一安心とはいかねぇが、ラフコフ自体が食い逸れた連中が奴のカリスマと洗脳で集まってた集団だ。自然と分離してくだろうさ。じゃ、適当に解散してくれや」

 プーがあそこまで言った以上、まだ何かやらかしてくる可能性はデカいと思った方がいいだろうが、本人が消えちまった以上恐るに足らねぇ。あくまで身内に限るが。

 

 

 

 その夜のラフコフ討伐戦は一晩おいた朝新聞に載り、追悼の意を込めて殉死者の名も添えられた。しかし、その訃報は一般には霞んでしまった。

 

 “KoB副団長《閃光》アスナ、ギルド脱退”、その記事によって。

 

 

 




 ってことでプーさんにはあっさりと牢屋へ行っていただきました。まぁまだ一つや二つ波乱起こしそうですが、それはまた別のお話で……
 そしてこれを以て《圏内事件》終了。やっと次の章いけますかね。……という訳にはいかず、次は黄金林檎の方の後始末書ければいいかなと思っとります。
 というよりメインはアスナさんでしょう。原作のキリト君より彼女には深いトラウマを背負っていただきました、今後のフラグのために。まぁ、ヒロインが重度のトラウマ抱えるなんて普通だよね?

 今後も感想お待ちしております。投稿スピードは早くしたいんですが、ネタの思い付きにバラけがあり今はダウンしています、が、少なくともフェアリィ・ダンスまでは終わらせる予定ですのでそれまでお付き合いいただければと思います。ではでは!


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