鎖色の物語に彩られる100通りの生き方 (夏からの扉)
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世界で独りだけの夜に

注意書き
ここから先を読むのには、うざったくくどい文章を受け入れる精神容量が必要です。
あと、一話完結式ですが基本は打ち切り型です。問題は解決しないことも多いです。
多分百通りも書きません。
終わった後の作品は、ご自由に使っていただいても構いません。
寧ろ、誰か続きをお願いします。私が読みたいので。
それに、書く時は一声かけてください。私が読みたいので。


 

 知らない天井だ。

 僕の部屋であったはずの白色の天井は見事に消え失せ、その代わりに赤色と黒色の混ざったマーブルでアバンギャルドな天井が僕の目を刺激してきた。目に悪そうだな、とまずはそんな感想を抱いた。

 

「……知らない天井だ」

 

 口に出してみても、特に意味はない。

 僕が何故か顔見知りでない天井と見つめ合っているという事実は変わらないし、ここがどこなのかさえわかることはない。これだけ長時間見つめているのだから天井が何か答えてくれるかとも期待してみたが、返事がないところを見ると、どうやらただの天井らしい。

 ……やたらと不気味な配色なこと以外は、だが。

 

「あ、あがっ。たたた……痛っつう……」

 

 どうやら僕はベッドではなく手術台のような硬い台に寝かされていたらしく、体の節々が痛んで動かないことを強要してきた。起き上がるのにも一苦労。

 痛い時の筋肉痛のような痛みをよそに、部屋の内装を観察する。

 

 

「……………………」

 

 壁紙、床に至ってまで趣味の悪い赤黒マーブルの、赤道付近辺りに生息していそうな蛙のごとき色で埋め尽くされている。

 だが、それ以外にはない。

 今の今まで僕が寝ていた手術台のようなものこそあれど、その他にはおおよそ家具と呼べる物は存在していなかった。小説などでよく見る、『立方体の部屋』のようなものなのかもしれない。とはいえ、そこを拘るのなら色は白にしてほしかったというのが本音だと、未だ危機感を認識していない脳味噌が考え出す。

 もっと焦った方が良いだろう、と檄を飛ばしているはずの僕の心は暢気で、こんな状況でもなるようになるとしか考えていないのが見え見えだった。

 

「お、おわっ……!と、ととと。……あ゛ー、ん、ん、んん」

 

 立ち上がって、脳味噌の血液が一気に下へと下がり、僕の視界をじわじわと黒く染め上げていく。いつものことだが、どうも慣れない。確か、昔お医者様に起立性調節障害とやらだと診断されてからもう五年の付き合いなのだが、慣れないものは仕方がないのだ。のだのだ。へけっ。

 ぐりぐりと痛む首を回しながらなんとかその痛みを和らげようと、肩を揉んでみた。痛いだけで、どうも効果は見受けられそうもない。あまりにもあちこちが痛むものだから、もしかしてショッカーか何かに改造されてしまったのではないかという疑念が頭をよぎったが、ベルトを付けていない普段着だったことに一安心。

 『立方体の部屋』と表現したことから出入り口はないのかと思われるかもしれないが、別にそんなことはない。

 ドアはある。色がアレだけど。

 ついでに言うと、どうも自動ドアっぽい形状だけど。夢を壊すなよ。

 まあ、目の前に「押すな」と書かれたボタンがあったら押さざるを得ない性質である僕はホイホイと誘蛾灯に誘われた夏の虫のごとく突撃する。

 ゴッ。

 頭をぶつけた。どうも自動ドアっぽい形状をしただけのただの壁のようだった。

 この野郎、おちょくってやがる。

 びきびきと殺意の波動やら穏やかな怒りやらに目覚め始めた僕をさらにおちょくるように、うぃーんとモーターの駆動音が部屋内に響き、天井から監視カメラとスピーカーが合体したかのような機械が降りてきた。蹴り飛ばしたい。

 

『……聞こえますか?』

 

 スピーカーとカメラの合体した機械がが尋ねてくる。機械の合成音のような声だが、発音は生身の人間のそれに近い。どうもアンバランスだが、眠って起きたら不思議空間に拉致られていたというこの状況。もう何があっても驚かない自信がある。……ちなみに、フラグではない。

 

「聞こえます。突然なうえに話は変わりますが、あなたには略取及び誘拐罪の疑いがかけられています。出頭していただけますか?」とはさすがに言わずに、普通に「聞こえてますよ。ところでその声色は女性とお見受けしますが、下着の色は何色ですか?」普通とは何だったのかと言われそうな言葉を返した。

 ……違うんだ。これは別に僕が変態だということではない。

 予期しないことをされた時には、相手の意識の外側から言葉を投げかけることによって逆にこちらが主導権を握れる、そしてその時の言葉はセクハラが望ましいなんてことを近所に住んでいる無職のお兄さんが言っていた。

 

『え、は……?……ええ!?』

 

 ほら、予想通り困惑していらっしゃる。無職のお兄さんの言葉は正しかったんだ!

 ……何だか悲しくなってきた。この悲しさと言ったら、カップ焼きそばのお湯を捨てようとした時に中身まで一緒に捨ててしまった時以来のものだ。そういえば最近、どこぞの焼きそばにブラックでRXなGが入ってたらしいけど、やはりGも焼きそばは好きなのだろうか。もしそうだとするなら、屋根裏に無断で住み込んでいるゴキ夫さん(もしかしたら女かもしれない)に殺虫剤入りのものをご馳走してあげたいところだ。

 

『……こほん』わざとらしい咳払いだった。『ようこそ、「ふりだし」へ』

「……ふりだし?」

 

 相手の求めている通りのリアクションをすると共に、自分の抱いている疑問も解消させるべく、彼女(だと思われる)の言った言葉を反復する。

 

『ええ、「ふりだし」です。全ての始点。原点。未だ始まってすらいない場所』

 

 厳かに、壮大なことを言うスピーカメラ(仮)。中学生当たりの思春期の子が好みそうな言葉を駆使して僕に何かを伝えようとしているのだが、いまいち理解が及ばない。この場合はカルチャーショックとジェネレーションギャップ、どちらの言葉を使うべきだろうかと見当外れな感想が浮かんだ。

 

『そしておめでとうございます。貴方は「神」に選ばれました』

「…………………………」

 

 はて、僕はトラックで轢かれたり抽選で当たったり記念すべき云千兆人目の死者だったりしただろうかと、考えを巡らせる。しかし、いくら思い出そうとも昨日は布団に入って寝たのであり、神様の目に留まるような善行などもしていない。

 

「神に選ばれたって……僕のどんな行為を神様が見初めた言うんですか?」

『ああ、言葉が足りませんでしたね。貴方は神という人物に選ばれたのではなく、「神」という役職に収まる者として選ばれたのです』

「…………」脳内回路が蝶々結びを試み始めた。

『貴方は、今日から神様です』

「…………」ぶちぶちぶちっと小気味よくニューロンの千切れる幻聴が聞こえた。

『おめでとうございます』

「……ありがとうございます」

 

 ……よくわかんないけどつまり。

 神様始めました、みたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で」

 

 赤色の、不毛の大地と形容するのが正しいような、ごろごろとした石が転がる荒野を目的もないままざくざくと歩きながら、呟く。

 今にも落ちてきそうな空は重苦しく淀み、周囲は鎮魂歌が静かに奏でられそうなほど静まりかえっている。スタンドでも発現しないかなー、とか思いながら地面の砂を蹴飛ばすと、風に吹かれて空中浮遊を見せてくれた後に消えた。人間である僕には犬が操るべきである砂は操れないということだろう。

 

「神様……神様…………。……神様って何だ(哲学)」

 

 神様に選ばれた、とは言ってもあれから具体的な説明はされずに、前触れ無く開いた自動ドアに吸い込まれた。もっと具体的に言うと、床が動いてバランスを崩している間に強制室外退去させられた。動く床とかではなく、もう少し超常現状的な退出の仕方を考えて欲しかったと思った。

 それからずっと荒野を当てもなく彷徨っているのだが、その途中でいくら手に力を込めようとも発火現象は起きず、石ころに何かを念じてみても新しい生命は生まれなかったことは確認済みで、おそらくは神様に任命される以前とスペックはほぼ変わらず……いや、少しばかり身体のスペックは上がっているような気もするが、人間の範疇を出ない程度だ。

 どのへんがどう神様なんだよ、と両手をズボンのポケットに突っ込みながらぼやく。そういえば寝る時はパジャマに着替えたはずだったんだけど、もしかしてあのスピーカメラさんに一回脱がされたのだろうか。

 身体スペックが上がっていることも含めて、いよいよ改造人間説が真を帯びてきた気がする。

 

「……だがベルトがない。変身もできない。敵もいなければこの人間の範疇の身体能力でどう戦えと」

 

 やはり改造人間は設定的に矛盾が盛りだくさんだったようで、違うと切り捨てる……ようにして考えを打ち切る。

 事実、身体能力は上がっているわけだし。深く考えないのが得策だ。

 

 

「しっかし砂石岩以外何もないな、ここ」

 

 見渡す限りの赤色。枯れそうな草の一本か二本でも生えていれば雰囲気が出るのだが、不毛の大地という表現がこの上なく似合う。生き物が生息している分、まだ砂漠の方がマシだろう。

 

「…………おん?」

 

 果てないはずの地平線をよく見てみると、一カ所だけ色が違う。赤茶色の中に一塊だけ、泥のような沈んだ茶色がある。もしかして、湿っているのだろうか。

 駆け足で茶色の方向へと近づいてみた。茶色の部分とここでは随分と高低差があるようで、丘のように盛り上がった場所から茶色を見下ろす。

 こうして見てみると先ほどまで見えていた茶色はほんの一部分で、本当は地面一杯に広がっているのだと……うん?

 不意に、赤色の点が光った。僕の眼球がそれを捉えて。

 ぽつりぽつりと赤い点が増えた。腕は本能的な警戒心を露わにして震え。

 一面の茶色と赤色が。

 

「な、……んだかねえ。こいつら」

 

 僕が見ていた赤色。それは目玉だった。

 それらの外見を表すとするならば、『惑星のさみだれ』に出てきた泥人形と地球上に存在する、しないを含めて人間が考え得る様々な形状をした生き物と融合させたもの、と表現するのが一番適切な気がした。

 それが、地面を埋め尽くすほど存在しているのだ。軽く数千から数万はいるだろう。光景が現実離れしすぎていて、『古代中国対妖怪』みたいなB級臭溢れる駄作映画のようなものを見ている気分になってくる。

 

「話せば……わかりそうもねえ。友好種……じゃないよなあ、どう見ても」

 

 僅かながらの希望はあるにしても、奴らに付いている口はどうも話すためでなく食いちぎるためだけのそれにしか見えない。

 

「……距離は結構離れてると思うんだけど、視力も上がってるのかね……」

 

 現実逃避しか口に出ない。

 今なら、わかるからだ。嗜む程度にもゲームや小説を楽しんでいる身としては、あの言葉の意味が、これからの展開が。嫌が応にも予想できてしまう。

 

『【MISSION1】「神」としてこの地上を生物の住める環境にしろ』

 

「え、やだ」

 

 脳内で自分が生み出した幻覚に対して、素で反応してしまった。なんちゃら無双じゃないんだから、いや、無双シリーズだったとしてもここまでの物量はどうしようもないだろう。

 ウェーブのように泥人形たちが蠢き、犇めく。ゆらゆらと揺れながら、酷く現実感の薄い大行進を僕の網膜に強制的に焼き付けてきた。

 僕が目視してから、目が開いて。

 僕が目視してから、動き出して。

 ……あれ?これひょっとしてロックオンされてる?

 

「……………………」数秒の黙考。「…………」理解と「…………!」危機感の発露。

 

 すぐさま回れ右してクラウチング、右足に力を入れて飛び出す。イメージするのはカタパルト。押し出されたら最後まで全力で駆け抜けろ殺されるぞ!

 

「僕は逃げ出した!」

 

 回り込まれていないことを願う。いや、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………残念、僕の冒険はここで終わってしまった」

 

 目の前には泥人形────さっき、原住体と名付けた物質(とても生命体には見えない)が緩慢な動きでぎょろぎょろと動く目を僕の動きに合わせている。まだ少し距離があるとはいえ、接触は時間の問題だろう。

 右を見る。原住体がこちらを凝視している。

 左を見る。以下同文。

 後ろを見る。以下省略。

 どの原住体も僕を見る目は血走っていて、とても友好的な話し合いが出来そうな雰囲気にない。どちらかと言うと狩人が獲物を見る目や、小学生とかが足下の虫を見る目に近いものを感じるのは気のせいだろうか。なんというか、無意味に殺されそうな感じだ。

 目の前の、鰐の形をした背中に六つほど目のある原住体ががぱっと大きく口を開ける。普通の鰐ならばかっけーとかすっげーとか場違いな感想を抱いていたのだろうが、全身土色で顔の部分に目がなく、尻尾が大きく裂けて口を形成しているような不気味物質からは、恐怖しか抱けない。

 そして、その原住体のジェスチャーが示す意味に、攻撃以外の意思は見あたらない。

 蜥蜴を原形にした原住体が脳天の口を開く。兎をモチーフにした原住体が耳にあたる部分を鋭く尖らせる。ペンギンと思われる原住体が脇腹の爪を臨戦態勢にする。虎らしき原住体が二足歩行で腹にある大きな一つ目を見開く。ケンタロスをベースにした原住体が槍を構える。トーテムポールじゃねえのって感じの原住体が尖った体を回転させる。巨大なドラゴンの原住体が他の原住体を踏みつぶしながら迫ってくる。

 

「……死ぬな、これ」

 

 できることなら、もう少し長生きしたかったと思う。

 死んだらさっきの部屋に戻ってて、「情けない」と謂われない罵倒を受けながらも蘇生させてもらえないだろうか。もらえないよね。うん、知ってた。

 

「死ぬ前に一足掻きを……あ、駄目だこれ。足超震えてる」

 

 足や手の筋肉が無駄にビートを刻む。おそらく、二、三匹に攻撃したらそれで力尽きる感じのやつだ。

 それに、攻撃したところでダメージがあるかもわからない。相手は地面、岩タイプっぽいから、きっとノーマルな僕では碌にダメージは与えられないだろう。せめて格闘技を覚えていたら、というやつだ。通信空手でもやっておくべきだったか。

 

 

「はっはっはー……死にたくねえ……」

 

 既に確定的な死が決定しているのに原住体たちに特攻していかないのは、僕自身の生き汚さを細胞の一つ一つが反映している結果だろうと推測。心ではせめて格好良くと死に際を飾り付けることを望んでいるのだが、脳味噌がそれを拒絶している。

 わかりやすく言うと、バンジージャンプ台にいる心境だ。紐が付いてないからそれよりもずっと質は悪いけど。

 それより、こうやって囲んでじりじりにじり寄ってくるのには何か理由があるんでしょうか。僕の精神追い詰める嫌がらせにしか思えないぞ、このフォーメーション。

 やるならひと思いに……やっぱ今の無し。生きたいです。

 誰かが助けに来てくれるか、隠された力に覚醒するか。どっちかが起こんないかなー、と漫画かテレビでも見ているような気分になっている自分が暢気に思う。

 ……まあ、無理だわな。

 大きく溜息を吐いたら、深呼吸。息を、吸って、吐いて。吸って、吐いて。

 ピョンピョンと軽くジャンプ。イメージはスプリンターだ。

 覚悟完了、したわけじゃないけど。

 

「……行くか」

 

 それでも、泣き喚いてみっともなく死んでいくのは、僕のちっぽけなプライドが許さない。

 意地があるのだ、男の子には。

 そうして、格好良く宣言してやる。どこかで見た物語のように。

 

「生きてるのかどうかわかんねえけど、死ねよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 確かに小さくて弱そうな奴を殴ったつもりだった。

 だが、それにしても柔らかすぎる(・・・・・・)。それなりの手応えがあったにせよ、それこそ乾いた泥団子を殴るかの如く、原住体はボロボロと砕ける。ついでに、ある程度硬いと予想して体重をかけていた僕の体勢も前に倒れ込む。

 

「や────────べ────────」

 

 周りにはまだ大量の原住体がいる。無数の赤い目がこちらを見つめる。注目の的だぜと笑っている暇はなく、後悔している時間もないのだと気づかされた。

 前傾姿勢の体を抵抗なくそのまま倒し、ミジンコに足が生えたような原住体の目玉に指を突き刺し、バランスを取る。原住体にも痛覚があるのか、原住体は苦しそうに身悶えしている。崩れないところを見ると、特別弱点ということではなく、単に痛覚神経のようなものなのかもしれない。

 ミジンコの目玉を掴んで抉り出しながら、倒れるそいつを支点にして回し蹴りをした。兎の原住体と蛸の原住体がまとめてその体を崩したが、他の物と比べて比較的大きな蜈蚣の原住体でストップする。ちらりと目をやると、罅が入っていた。おそらく、原住体の大きさによって堅さが違うのだろう。

 

「くっそ……!」

 

 蜘蛛の原住体を踏みつけながら離脱を試みる。幸い、こいつらは動きは単調なうえに、こうも数が多いと他の原住体が邪魔になって身動きが取りづらいようだ。巨大な原住体の隙間を縫っていけば、運が良ければ脱出の可能性がほんの少しあるかもしれない。

 燃え上がれ、僕の主人公補正。主人公じゃなくても今までモブだった時のツケを払いやがれ。

 蜘蛛を踏んで飛んだその足でケンタウロスの原住体を蹴り、機動を修正。「おぅわっ!?」蹴る位置が高すぎたらしく、肩から落ちていき、「ぎっ…………!?」蟻の原住体にフライングプレス。当たり所が悪かったのか、左腕が痺れる。

 

「地面に落ちないだけ……っ、まだマシか!」

 

 押しつぶしで罅が入った蟻の原住体を踏み潰して、身を屈めつつ牛の原住体の足の間を抜ける。四足歩行の原住体は数体だけなら体当たりなども含めて強力だろうが、今この状況ではただの安全トンネルだ。

 

「がっ!?い、ぐ……!?」

 

 バッタのような原住体に、左の肩を抉られる。咄嗟に左手で払おうとしたのだが、さっきの痺れが効いていたらしくて、何故か足の関節の部分にある口で筋繊維をぶちぶちと食い千切られた。

 鋭い痛みが肩へと住み着き、僕の動きを決定的に鈍らせる。傷口が熱を帯びて焼けそうだ。

 ────だが、まだ肩口を抉られただけだ。

 体は動くし、脳内麻薬が迸っているのか、痛みも予想したよりは少ない。

 煮えたぎるような血液は傷口から噴き出しているが、失血死するような量でもない。

 

「まだ行……け────────!?」

 

 唐突に、肩に痛みが走る。神経をかき混ぜ、痛覚を寸断するような激痛。

 

「あっ……が、う、げぁっ……!?ぎ、あ、ぐが、い、ぎぐ……がああっ!?」

 

 動けない。

 肩を見ると、抉られたはずの肩が、ぐちゅりぐちゅりとと音を立てながら高速で塞がれていた(・・・・・・・・・)。傷口が肉で埋められ、修復され繋がれる筋繊維が新しく作られた皮膚の中で蠢く度に痛覚が刺激され、我慢できようのない痛みが僕を襲う。

 だから、動けない────この、周りを原住体に囲まれた状況下で、だ。

 

「ぎ、が、あああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアあああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああ!!!!???」

 

 千切られた腕から骨が新たに伸びて残っている肉を突き破り骨の欠片を残したまま肉が再構成され欠片は内部で筋繊維を切断しそれを取り出すべく肉が裂け噴き出す血液の穴を急速に分裂した細胞で埋めてその間に脇腹が抉られ臓物が赤い液体や黄色い物質と共に噴出してその穴を肉と血液が凝固して強引に塞ぎ胸を刺され心臓にまで到達しているであろう原住体の爪が体内に侵入したまま回復を開始して治ったそばから傷つけられ頭が潰されてもう痛みを感じる脳味噌もないというのに激痛は継続したままでブラックアウトした視界の中で延々と痛みだけが続き息ができなくて呼吸しようと喉を動かす度に血の味しかしない空気が口内で燻って心臓が心臓が心臓が動いていない。

 考えることもままならない血の池に沈んだ痛みの中で思う。

 

「あああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああああああああアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 誰か、助けてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぎ、あ……死……ぬかと思った。というか、実際に何回か死んでただろ。絶対心臓止まってたし」

 

 地獄すら生ぬるい惨状が終わったのは、すっかり日の落ちた夜のことだった。

 何かケンシロウを怒らせるようなことでもしたかなと、日頃の行いを振り返る。良いことをした覚えはないが、アキ少年なる人物を殺すなどの悪逆な行為をした覚えもなかった。

 暗い荒野には昼にあれほど蔓延っていた原住体は一匹もおらず、血が染み込んで赤黒く変色した地面に、僕だけが寝ころんでいる。原住体は、夜はきちんと眠るという良い子の条件を満たしていた。だが、どんな人が見ても悪いことをしているので、それぞれが相殺して普通の子ということになるだろう。

 食い散らかされていると思っていた肉塊はどうやら原住体が一つ残らず摂取したようで、骨の欠片、筋繊維の一本さえも地面には見あたらない。普通の子にしては中々行儀が良いな、原住体。

 

「……しっかし、問題だよなあ……」

 

 おそらくは奴らを殲滅するまで死ねないことが、ではない(・・・・)

 回復する際に人体の許容量を軽くオーバーした痛みが走ること、でもない(・・・・)

 原住体に食い千切られ切り裂かれ貫かれ回復で死んだ方がマシとでもいうような痛みを受けたとうのに、もう既にその痛みを忘れかけていること(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)がだ。

 喉元を過ぎて熱さを忘れたかのごとく、酷く他人事のように感じている。もしくは、思い出の中の一ページというか、思い出しても「ああ、痛かったな」の一言で終えてしまえるような。

 

「ミッション終了まで死ぬことは許されないし、狂うことも以ての外ってことだろうな……。なんかこう……うまく表現できないけど、嘘だろ承太郎って感じ」

 

 狂えない。

 それだけを抽出して見ればとても素晴らしいことのように思えてくるが、それはあくまで戦場や異世界ファンタジーなどでのことであり、魔法も使えなければそもそも仲間もいないこの状況では一切役に立たないどころか、気絶することも叶わず日が落ちるまで苦しみ続けるというデメリットしか見あたらない。

 あの痛みや苦しみは、どう考えても『死んだ方がマシ』な痛みだからだ。

 僕は、死は覚悟できてもあの痛みに対する覚悟など全くできない。

 しかも、これあいつら滅ぼすまでずっと続くんだろ?いや、無理無理。原住体少なめに見積もっても数千数万はいるぜ。おうち帰りたい。

 

「やっべ、今猛烈に自殺したい。多分回復しちゃうからやらないけど」

 

 うおー、と地面の砂を服に擦りつけながら伸びをする。そう言えば、何でか服も再生してるんだよな。服も僕の一部と見なされているのか、スピーカメラさんが気を遣ってくれたのか、どちらかだろうか。

 僕も裸族になったりゼンラーマンと呼ばれたりするのは流石に我慢ならないので、この仕様はありがたく受けとっておこう。

 今更だけど、説明役ぐらいは出てきてくれても良かったんじゃないかなと思う。

 説明無ければ力も無し、仲間も無ければ武器も無しって。ベリーハードすぎるだろ。神様に呼ばれたんなら呼ばれたでチートを……ああ、神様、僕でしたね。

 

「えい」

 

 近くにあった手頃な岩を殴る。

 手が痛い。

 

「……………………」

 

 あれだけ筋肉がぶちぶち景気よく千切れたんなら少しくらいは超回復してもいいと思うんだけれど、岩には罅一つ入っていない。

 起き上がって、走ってみる。

 

「……………………」

 

 速くなっていない。むしろ、長時間動いていなかったせいか遅くなっている気がする。……息切れしないのは、原住体から逃げ出した時から変わってないからなあ……。

 ある程度まで走ったら、その場に倒れ込んで夜空を見上げる。

 おそらくは古代か異世界かのどちらかに召喚されたのだというのに、僕が生きていた現実と全く変わらない夜空。いや、ここでは灯りがないからいくら僕が田舎に住んでたと言っても、こっちの方が綺麗か。

 

「…………くっそ」

 

 悪態は出る。涙は出てこない。心は低温で固定されたまま流れ出して、心臓の近くで型にはめられる。とくり、とくりと命の鼓動が未だに僕の体を刻んでいるのが不思議で、左胸に手を当てる。

 服に付いていた、まだ乾いていない血が手にべったりと付いた。ぬるりとした感触が気持ち悪くて、水で手を洗いたくなる。

 何で、とさえ思えなかった。

 理不尽だ、とさえ嘆けなかった。

 心の位置は常に一定で、そこから逃げだそうとしても、固定された形がそれを許そうとせずに容赦なく僕の心を閉鎖する。

 

「あああああ」

 

 きっと、今は何かを言いたかったんだと思う。

 でも、言葉は空気に触れる前に溶けて消え行き、僕にさえ聞かれないまま忘れ去られる。

 それが何故か納得いかなくて、無意味に憤って、歌を歌ってみることにした。リズムしか知らない、確か洋楽だったはずの歌だ。

 当然気が紛れるわけでもなく、ストレスを解放するように僕の声量は徐々に大きくなっていく。最後の方は、ほとんどシャウトだっただろう。

 

「……あー」

 

 理不尽に抗うだけの気力は無い。

 

「いー」

 

 仲間がこの世界のどこかにいるだなんて希望も持てない。

 

「うー……」

 

 勿論の如く、あの原住体を殲滅してやるぜといった勇気なんてこれっぽちも、だ。

 だから僕にあるのは死ぬ覚悟と格好付けを突き通す覚悟くらいのものだったんだけれど、それもこの世界では全て無為に終わる。

 もう、何も無いのだ。

 

「あ、睡眠欲も無いや」

 

 目を閉じれば眠れそうだけど、眠いわけではない。眠ろうとも思わない。

 星の光を無意味に見つめ続けて感傷に浸りたかったが、僕には生憎と美しい自然を愛でる感性が足りなかった。原住体を倒し続けてレベルを上げたら足りるだろうか。

 届かない月に向かって手を伸ばしてみる。

 当然の如く届かなかった手はへにょりと曲がり、重力に引かれるままに落ちていく。

 

「だーれーかー……」

 

 間延びした声で呟く。

「助けて」なんて言うつもりもなく、言ったところで誰かが来てくれるとも思ってはいない。

 きっと、この世界には僕一人きりだ。

 そう考えると、この星空は僕専用のようだ。贅沢だろうか、と息を吐く。

 とりあえず。

 

 今はただ、この夜が一秒でも長く続くことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 




じんぶつしょうかい

かみさま 
じさつしがんではないおとこのこ。『かくせい』や『のうりょく』ははえてこない。

すぴーかめら
こんさくのあんないにんでゆうかいはん。たぶんにんげんじゃないけどこのせっていにとくにいみはない。

げんじゅうたい
てききゃら。おおきいやつほどかたいけど、はかいりょくはどれもおなじ。ひゃくおくくらいいる。


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『幸福』と『私』の些細なる関係

「連続殺人事件、もう六人も被害出たんだってー」

「なにそれ、ヤバくなーい?」

「ヤバいヤバい。超ヤバいんだってー」

「ほんと、ご愁傷様ってゆーかー」

「しかもあれでしょ?何か最近は二件続けて女子高生殺られてるんでしょ?」

「ヤバいわー、マジヤバいわー」

「あ、今の戸部先に似てね?」

「ちょ、それ侮辱だし」

「キャハハハハハ!!」

 

 ……何が楽しくて笑っているのだろう、こいつらは。

 いつも通りの職務を終えて、六時半に差し掛かろうかという時にすれ違った女子高生たちの会話を聞いて、ふとそう思った。

 甲高く、さらに声量も大きい、耳障りな笑い声だ。もっと言うと、外見の派手さに比例して声量も増大している気がする。一番声が大きいのは、マスカラとつけまつげを気持ち悪いほどに使用した、獣の足としか思えない靴を履いた、「もうそれアフロの方がマシじゃねえの」って感じに頭を盛った頭の悪そうな女子である。

「ふっ、運が良かったな。今私が猛烈にお腹が空いてなければ殺していたぜ」とか自分のキャラを見失ってしまいそうなことを心の中で呟いた。

 女三人寄ればなんとやらと言うが、あ奴らは集まってない間どんな顔をして過ごしているのかが異様に気になる。常に騒いでいないと死んでしまう病気という無理のある設定を押し通して、一人でも劇団とか開いているのだろうか。

 あれが未来の日本を担う現代の子供達かと考えると、今の内に徹底教育という名の洗脳もどきをした方がいいのではないかと思ってくる。あれは、野に放しちゃいけないだろう。

 

「……女子高生か」

 

 なんとなく、口にする。どんな言葉だろうと、私には仕事にしか繋がらないことを考えると、私は根っからの仕事人間なのではないかと錯覚してしまいそうだ。

 私もまだ二十代前半だというのに、「若い者の考えることはわからん」とかプチ老人化してしまいそうなほど特徴的な出で立ちの五人組がのろのろと亀の歩みに例えられるような速度で動く。いつまでも消えそうにない笑い声が不快だったので、兎さんな私は歩く足を速めてみた。これでいつ「何をおっしゃる」とか言われても平気だろう。

 ……しかし、六人か。女子高生の会話を思い出す。

 日本の人口から見れば遥かに小さい数字なんだろうけれど……多いんだろうな、この数字。なにせ、殺人だ。人殺しだ。連続殺人なんて、小説の中のものだと思っている人もたくさんいるだろう。それが現実に起きているのだ。どんな数であれ、連続と頭文字が付く時点で多くないはずがない。

 とりあえず、被害者にはご冥福を祈っておこう。

 

「……………………と」

「……!す、すいません……!」

 

 曲がり角を曲がると、女の子にぶつかりそうになった。伸びた前髪が目を隠している、こう言っては何だがいじめの標的にされていそうな陰気な少女だ。先ほどの女子高生と同じ制服を着ていたことから、きっとこの娘も女子高生をやっているのだろう。

 

「え……あ、あの……すいません。え、と……すいません……」

「……………………」

 

 どうしてこの娘はこんなにも熱心に謝ってくるのだろうか。もしかして、私の見た目、そんなに怖かったりする?いくら現在定住する家がないと言っても、身だしなみには気を遣っているから浮浪者やヤの付く自由業の方には見えないと思うんだけど……。

 

「そん」「すっ、すいません!」なに謝らなくても大丈夫だ、と言おうと思ったのに逃げられてしまった。まるで私が脅しつけたようなシチュエーションに、まばたきの回数が増える。通報とか……されないよな。

 

「女子高生に声をかける事案が発生……笑えなくなってきたかもしれないな。謝る練習でもしていた方が良いかも。すいませんすいませんっと……」

 

 しかも住所不定。犯罪性がフルスロットルだ。私もこの歳で逮捕されたくはない。どの歳だろうと逮捕なんぞは経験したくないものだろうけど。

 どうでもいいことを考えながら歩いていると、蛍光色に塗られた、中途半端に派手な看板が目に入る。どうせやるのなら、先ほどの女子高生を見習って徹底的に派手にすればいいのに、とは思うが、その建物の性質上、そうもいかないのだろう。老害の皆さんやらPTAの方々に、不謹慎だとか言われそうだ。

 見上げようと首を傾けると、髪の毛が鬱陶しいことに気がついた。縛ろうと手で髪を束ねてみるが、結ぶほど長くなかったようで、髪が上手く掴めない手を、伸びをしてごまかした。

 人通りはそこそこ。変な目で見てくる人がいないよなとあたりを警戒する。

 片方の眼球のみが忙しい男と目があった。男は見ないふりをして去っていった……。

 

 

「…………なんだこれ、死ぬほど恥ずかしい」

 

 頭を押さえて空を見上げる。赤色を通り越して群青色の空に、控えめな自己主張をする看板がその文字を僅かに照らす。

 看板に書かれている文字はギルド。

 つまりは、『冒険者』を募る建物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は確か、五年ほど前だったと記憶している。

 突如として地球上に人類に敵対的な謎の生物が現れて、長ったらしい英語の名称が名付けられ、その後すぐに『モンスター』と呼ばれ、それが定着したために彼らは『モンスター』になった。

 モンスターは主に人を捕食する。増えすぎて傲った生命体への星の抑止力だとか、生物として効率化しようと一番栄えている生命体を模倣しようとデータを集めているとか、本気で言っているのか冗談なのかわからないような憶測が飛び交っているが、未だ理由はよくわかっていないらしい。

 だが、理由がどうであれ、彼らのせいで人類の生存圏が狭められているのは確かなので、人類は対抗策を持ち出した。

 その一つが冒険者。

 一般から誰でもなれる、職に溢れた人への救済にて、一攫千金もあり得る男の夢、と言ったらわかりやすいだろうか。

 冒険者にルールは少なく、あっても三つほど。

 モンスターを殺した証拠を持ってくること。

 盗みは御法度。

 何があっても自己責任。

 あとは、新種のモンスターを見つけたら金一封というのと、殺したモンスターのランクにより報酬が変わるくらいだろう。

 まあ、だいたいはゲームとかその手の創作物にあるものと似たような設定だ。年間で死んでいる人数は、その手の創作物の比ではないけれど。

 モンスターはいれど、魔法はない。故に、人々は銃を握り、剣を取る。

 それが金のためか、家族のためか、世界のためか、別に何のためかなどはおかまいなしに、モンスターが襲ってくるからという理由で特に何も考えずに戦っている者もいる。

 まあ、なんだかんだ言って、人間はこの時代に適応してきているのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのかはともかく。

でも、だからこそ。

 

『……で、現在犯人は首都圏を越えて北へと移動していると予想されます……』

「適応しきれない事態に大騒ぎする……と。……不自然じゃないんだけどね」

 

 確かに連続殺人は問題だ。だが、それよりもずっと死んでいる人数が多いはずの冒険者の真実を一切報道しないのは、なんというか、いまいち納得ができない。いや、報道なんかしたら冒険者を誰もやりたがらないのはわかるけどさ。

 

『……被害者は既に八人に達しており、警察は事態を重く見て、全国に指名手配を……』

 

 電気屋のテレビが道行く人にニュースを伝えようと奮闘するが、都会の無関心というか何というか、目に留める者はほとんどいなく、早足に過ぎ去っていく。

 かく言う私も実は熱心に見ているというわけではなく、ただ単に暇だから見ているだけなのだが。

 

『……ここ四件は、女子高生が連続して殺害されている様子を見て、専門家は模倣犯の可能性も否定できないと……』

 

 焦点をテレビの背景に合わせながら意識を奥の方に飛ばす。意識がそのままテレビに侵入してエグゼな岩男なことになったら天国だなあと暢気に考えた。ウイルスバスターは怖いが、きっと何も摂取しなくても生きていける環境がそこにはあるだろう。

 

『……犯人の素性は、目下捜査中とのことです……』

 

 ……指名手配って、素性が分からなくてもできたっけ?

 話半分も聞いていなかった耳がテレビの方向を向いて、ぼーっとしていてほとんど内容を気にせず、単語に反応するだけだった意識が半分ほど覚醒した。

 

『続いて、次のニュースです』

「あ」

 

 気になるところがすっきりしないまま次のニュースに移ってしまった。頭の中のもやもやはすっきりとしないまま、渦を巻いて脳細胞を混線させる。昔から、こういう曖昧な感じが好きじゃなかったよなあ、と青春時代を懐かしみ、自嘲。

 青春と呼べるほどご大層な物じゃなかったからなあ……。

 

「あの……」

「うん?」

 

 

 私が古き懐かしき日々の思ひ出をぽろぽろと心の汗として外側には出さずに流していると、気弱そうな女の子の声をかけられた。

 逆ナンか?とか思っている余裕は私にはなく、とりあえずは逃げることを最優先に考えてみる。足はいつでも離脱できるように踵を浮かせ、心は既に十数メートル先へと逃走を始めていた。

 私のような男に声をかけてくる女など、ろくなものじゃないと経験則で知っていた。

 美人局、宗教勧誘、保険勧誘に援助交際、さあどれだ。

 にっこりと表面的な笑みを貼り付けて、声のした方向へと振り返る。

 

 

「ど、どうも……」

「こんにちは」

 

 数日前くらいに見た気がする制服に身を包んでいる少女だった。彼女がコスプレイヤーでないなら、きっと女子高生だろう。

 意地でも光を通さないという意気込みが見える前髪は目を隠し、少しの隙間もなく額を黒色で埋め尽くしている。どうやって前を見ているのだろうかとかそんなことが思いついたが、きっとカチューシャに赤外線センサーでも付いているのだろう。……さすがに冗談だが。

 

「……………………」何か喋れよ。

「あー、私に何か用かな?」

「あ、あの!……えーと、す、すいません……!」

 

 ……どこかで会ったことがあっただろうか。妙に彼女の「すいません」の言葉が耳に引っかかり、頭の中で反芻される。女性に謝られることに興奮する性癖は持ち合わせていなかったはずだから、多分そうだと思うんだが……。

 

「冒険者とか、されていますか……?」

「……まあ、近いことはしてるかもしれないね。やってることは似てるし」

「そうですか……」

 

 目に見えて落ち込まれた。

 冒険者をしていてほしかったのか、冒険者系統の職業をしているのがまずかったのか。よくわからないが私には関係ないだろう。

 女子高生は頭を少し振って、目を露出させた。私も仕事柄、色々な目を見てきたのだが、中々お目にかかれない、強い意志を持った目だった。その意志がどんなものかは知らないが、非常に私好みの目をしていると言えよう。……いや、さすがに未成年相手に付き合うどうこう言うつもりはないけれど。

 それに、どちらかというと人間性的な問題だし。

 

「ところで、どうして私が冒険者関係の仕事をしていると?」

「えっと……その」返答に詰まられた。

 

 これには女子高生も苦笑い、というテロップが見えそうなほどの引きつった笑みだ。思わずドッキリなのかと、あたりを見回してしまう。頭の中の地球儀を回して世界を余すとこなく丸見えにする想像をかき立てながら、彼女の様子を窺う。

 おどおどした風を装っているのか素なのか、判断は付かないが長い前髪の隙間からこちらをちらちらと観察しているような雰囲気だ。

 

「……何というか、血の匂いが……」

「……匂うのか、私」

「あ、いえっ、そういうことではなくて!ふ、雰囲気?とか体運びとかが……」

 

 女子高生が必死に取り繕うが、血の匂い云々とは関係のない冒険者の特徴を上げていることから、私が匂うのはほぼ確定と見ていいだろう。

 ……一応、ホテルとかでも体は良く洗っているというのになあ。風呂にも入れる時は必ず入ってるし。

 

「……もう、いいかな」

 

 傷ついた。傷心だ。ハートブレイクホテルだ。いくら職業柄とはいえ、『臭い』というその事実だけで死にたくなる。言葉には魔力が宿っていると言うが、案外馬鹿に出来たものではないのかもしれない。

 

「いえ、失礼しました。ご協力、ありがとうございます」

「いやいや、これくらい、気にしないよ」

 

 近頃の女子高生にしては礼儀がきちんとしてるな、と感心するほどの深いお辞儀。角度にすれば六十度はありそうだ。背中に蜜柑を乗せたらよく転がるだろう。

 私が蜜柑を買うかを検討している間に、女子高生はたったったとどこかに駆けていった。何がしたかったのかはわからないが、気にするほどのことでもないだろう。

 

「……………………」

 

 あ、彼女が誰だったか、思い出した。

 初対面だね、彼女。会ったことねえや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭が痛い。吐き気もだ。

 ……いや、吐き気が痛いわけではない。私はそれができるほど愉快な人体構造をしていないし、頭痛や腹痛も痛くならない類の人種だ。

 

「……おえ」

 

 くだらないことを考えて現状を霧散させようと試みるが、どうもうまくいかない。経験値が足りないのは致し方ないにしても、まさか私がこの程度で────殺人現場に遭遇した程度でここまで気持ちが悪くなるとは思ってもいなかった。

 猛烈な死臭。鼻から侵入するそれは、私の嗅覚神経を蹂躙して脳細胞を蹴散らす。

 鮮烈な視覚情報も、臭いに相乗して私の気分を低下させる。

 

「くそ……!」

 

 九人目、だ。

 実際に殺人現場に遭遇するあたりは犯人に近づいているとも言えるが、逆に言えば近くにいても何も出来ていないのと同義だ。私の目的はあくまで捜査ではなく、犯人の無力化もしくは殺害である。死後一週間は経っていようかという死体の第一発見者を務めて喜ぶことでは断じてない。

 口の中が饐えた臭いで充たされて、喉の奥へと流れ込んでいく不快感と無力感が鼓動の速くなる胸へと詰まり、血液を固めていく。もう既に半分ほど麻痺しかけている鼻孔は呼吸を放棄しかけていて、聞いていて気持ちよくはなれない呼吸音が耳鳴りと共に私の頭蓋骨を揺らす。

 不快だ。

 不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ不快だ気にくわない気に入らない納得できない苛つきと心臓の鼓動は最高潮へと達している。

 死体の様子は腐れた人体模型だった。

 身体の半分が、皮を剥がれて脂肪や筋肉を強制的に露出させられている。更に、もう半分は臓器が生み付けられた蛆と共に自己主張をしており、露出狂でもまだ自重しているといったような惨状だ。

 目の裏の蛆が動いたのか、無機質な眼球がぐるりとこちらを睨む。

 自分の首を絞めて過呼吸になりそうな口を黙らせる。脳味噌に酸素が足りていないのか、頭の中でブロック崩しをされているような感覚に陥った。

 

「……………………ごめんなさい」

 

 死体は喋らない。

 死んでしまったのなら何も感じないし、考えることさえ出来ない。

 私は、おそらく生前は綺麗であったであろう女子高生の死体に目をやり、自己満足の言葉を吐き出す。

 

「……あなたを助けられませんでした。ですが、絶対に忘れないことを誓います」

 

 理不尽を。

 

 

「犯人は殺す」

 

 天誅裁き仇討ち、どの言葉にも当てはまらないこれはきっと、ただの八つ当たりなのだろう。正直に言えば、私の正義に合わなかった何かを許せないというただそれだけの理由だ。本来ならば私は、自らの力不足を謝る権利さえない。

 だからこの誓いは、おそらくは自らを鼓舞するためだけのものなのだろうと思っている。私が何を思ってそれをわざわざ宣言したのかは、私にも正確に言葉に表すことなどできない。自らの心を100%完全に言語化できる者などいない。

 それでも、誰だって『自分探し』くらいはできるのだ。

 

「……今から私は正義漢だ。悪を許せぬ、正義の味方だ。誰かを助けるのに理由なんていらないし、誰かを守ることが当たり前のような、絵に描いたような善人だ。誰かが傷つくくらいなら自分が傷ついた方がマシで、最高の報酬は守れた誰かの笑顔」

 

 根本からの嘘である。

 だが、それがどんな偽りだったとて、私の心のどこかにそんな一部分があるのなら、私はそれを真実へと変えることが出来る。

 その部分だけを拡大して、全てに変えることが出来る。

 

「……………………」

 

 握り拳の爪が憤怒の余剰分私の皮膚を貫く。怒りのまま噛みしめた奥歯が少し欠けて口の中を縦横無尽に転がり始めた。

 頭の中は中枢で焚き火でもしているかのごとく燃えさかっていて、義憤が渦を巻く。些か過剰に熱を帯びている脳内に水を差して冷却、警察に連絡をした。

 一通り状況を説明し終わったら、空を見上げてみた。鈍重な色をした不吉な容貌の空である。

 吐く息は黒色で、肺や気道の表面をガリガリを削っていく。

 血流は高速化して、今どこかから血を出したらたちまち失血死してしまうほどだ。

 ホルスターから銃を抜き、妙に持て余してクルクルと西部のガンマンよろしく回転させる。

 今度は、逃がさないから。そう、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生きることはどういうことなのか』と、誰かに問われたことがあった。

 その言葉を私に投げかけたのが誰だったかは思い出せないが、私がどう返答したかはしっかりと覚えていた。初恋の人の顔さえも覚えていないというのに、何故だかそれだけは覚えている。不思議なものだ。

 注釈を付けておくと、別段私はナルシストではないし、ましてや他人なんてどうでもいいと考えているような性格はしていない。ただ、その言葉だけが、私自身何気なく言ったというのに、私という人間を的確に表していた、というのが理由かもしれない。

 おそらく私の人生はそこで決まったのだろう。

 あれがなければ私は今の道を選んでいなかっただろうし、その後の苦悩と哲学を繰り返すようなこともなかったはずだ。そういう意味では、その質問をした名前も顔も思い出せない誰かに感謝か罵倒かどちらかをしてもいいのかもしれない。名前も顔も思い出せないからしようがないけれど。

 自分の言葉に感銘を受けてしまうといった痛々しい経験をした幼少期の私は、自分を包み隠さなくなった。自分が受け入れられないものと知りつつも、それをむしろ誇るようになった……というのは誇張にしても、本心を偽らずに自分を貫き通すようになった。

 それまで複雑怪奇を装っていた私の心が単純化を認めた、とも言う。

 社会や常識という器に無理に私という異物を押し込もうと頑張っていたところを、『もういいや』とばかりに投げだして好き勝手やり出したのだ。社会的に見たら、ミュージシャンになるとか言い出して勉学や就職活動を放棄するアホと何ら変わりない……周りに迷惑をかけている分それより酷いか。

 カビ臭くじめじめとした、ここに定住したいと思う輩はいくらレスホームの方々であろうといないだろうという感想が浮かぶような狭い路地を通り抜け、下手な迷路よりも入り組んだ場所へと入る。

 蜘蛛の巣は節操なしにあたりに巣を作って私の進路を妨害する。はて、前来た時もこんなんだったかなと健忘気味に過去を思い出そうと試みた。

 

「…………ん?」

 

 私の自意識過剰力がふんだんに発揮されて、背中に視線を感じる。瞼の上部に血液が集まってきそうなほど背中を反らして確認をする。旧国際的テーマパークの着ぐるみの中身ほど、誰もいない。あのテーマパーク、今はモンスターの根城になってたりするんだよなあ。アメリカの方もアウトらしいし、もしかするとモンスターは夢の国からやって来たのかもしれない。

 私の自意識過剰力が遺憾なく発揮されて若干死にたくなってきたところで、携帯端末を起動させて適当に弄りながら羞恥を掻き消す。

 

「……………………………………」

 

 ニュースの見出しで大きな文字となって踊っていた連続殺人事件は、連続女子高生殺人事件へと改名を果たして十人目の被害者がどうたらこうたらと盛り上がっていた。何の専門家なのかよくわからない方のプロファイリングで、犯人の人間像が七割の偏見ほどで築き上げられている。何を主軸にして記事の編纂をやっているのだろうかと疑問に思った。

 名目上犯人のことを非難しているようではあるが、文面からは臆面なく警察を罵倒できる嬉しさと新鮮なネタを提供する犯人への感謝が感じられた。

 ……それでいいのかとか、そんなことを思う。彼らは、明日にでも自分が殺されるかもしれないなどとは微塵も思ってはいないのだろう。当たり前だが。

 動かない左目とは対照的に、右目が忙しなくぎょろぎょろと回転を開始する。警戒しているわけではないのだが……まあ、癖のようなものか。

 臭いがきつくなってくる。

 慣れ親しんだ臭いなのと同時に、鼻が曲がりそうなほどで不快でもある。

 ……ああ、そうだ。

 この臭いが私が選んだ道の証でもあるのだ。

 例え女子高生に臭いとか言われようと、それだけは揺るぎはしない。

 

「…………とと」

 

 臭いの源泉に辿り着いて、山の彼方の空遠くの幸いでも住んでいそうな所へと飛ばしていた意識を現実に戻す。

 危うく、踏んでしまうところだった。

 

「…………あー」何か言おうとして、言葉が微妙に浮かばない。「…………何だ」

 

 冒険の書が消えてしまったくらいにはお気の毒だけど。

 

「……きみ、まだ見つかってないってさ」

 

 私は、寸刻みに解体された十一人目の被害者(・・・・・・・・・・・・・・・・・)に声をかけた。

 いくら人気のない場所を選んでやっているとはいえ、気付かれないというのはあまりにも酷いだろう。その方が私に都合が良かったとしても、だ。

 

「こんな時代だから死んでるとは思われてるかもしれないけどさ。……それでもどうなんだろうな。殺されたことに気付かれていないってのはさ」

 

 まあ、殺した本人が言うべき台詞でもないのだが。

 それでも、殺した本人が心配になってくるくらいには時間が経っているのだ。もうかれこれ二週間になろうか、死臭も尋常じゃないというのに未だ発見されていない。都会の無関心ってレベルじゃないぞ。

 と、いうわけで死体の確認も出来たし、正直ここにはもう用はないのだが……。

 

「……せっかく来たってのに何もしないってのはなあ……」

 

 だが手元には油性マジックなどないし、そもそも落書きが出来るスペースなどその死体には存在していない。どうしよう。

 

「じゃあ、殺し合いでもしていきますか?隻眼の殺人鬼さん」

 

 ……おや。せっかく目立たないように義眼入れたのに、それも無駄ですか。

 

「…………どなたで?」

「いえいえ名乗るほどもないただの国家の狗でして」

 

 聞き覚えがあるようなないような声に、振り向いた。

 

「………………………………」

 

 私の記憶が確かならば、彼女は私に向かって臭いと言った女子高生……ではないのか。国家の狗って言ってたし。

 

「…………コスプレイヤー?」

「非常勤の警察官です」

 

 彼女はそう言いながら、右手でカチューシャの乗った頭を投げ捨て……あ、カツラだったのか。長く鬱陶しい髪の毛が湿った地面に叩きつけられ、意志の強そうな目に合ったショートヘアーが露わになる。

 

「女子高生が連続して殺されているというので……まあ、囮捜査のようなものですよ」

 

 囮捜査って普通複数人でやるものではないかと言いかけたが、非常勤ってこともあるし、きっとアレがああでちょっとそうなのだろう。触れないでおくことにした。

 

「……で?射殺する前に弁明くらいは聞きますよ?」

「射殺は確定なのか」

「ええ、私が逃がさないって決めたんです。どんな方法であれ、殺すのは絶対ですよ」

「………………………………」警官が私刑とかして、いいのかよ。

「では、死ぬ前に一言、どうぞ」

 

 さて、どうしようか。

 どうやら彼女によるとここで私が死ぬことは確定事項らしい。私も多少腕が立つとはいえ、銃持ってる相手に勝てるとも思えない。

 一世一代の晴れ舞台。

 火サスで言うのなら崖の上だ。魚の子ではない。

 つまり私はここで精一杯格好を付けなくてはいけないわけだ。そう、格好を……。

 

「……………………」

「言うことがないのなら、殺しますけど」

 

 銃口は震えることなく、真っ直ぐにこちらを向いている。

 

「…………………………………………私は」

「はい?」

「……私は人を殺さずにはいられないという『サガ』を背負ってはいるが────」

 

 

「────『幸福に生きてみせる』」

 

 

「……はあ?何さ、それ」

 

 呆れと驚愕がシャッフルされたような表情で私を見る非常勤さん。どうやら、漫画はあまり読まないらしい。

 

「……いや、知らないのならいいんだ。だが、私の生は結局の所、それに集約しているんだよ。『幸福に生きる』為に『生きる』。周りにどう思われようと、私がしていることがどんなことだろうとどうだっていい。『私の世界』は『私』本人とすぐそばに転がっている『死体』だけで完結しているんだ。それ以外は全てどうでもいい」

 

 口端に調子を乗らせて滑らかに滑らせる。

 これで人生を終えるにしてもいくらかは格好が付いたし、相手が引いてくれたら逃げる隙も生まれる。悪くない演説だと思う。ジョジョ風味だったし、私も大満足だ。

 

「……………………『幸福に生きる』ねえ……。でも、どっちにしろ死んではもらいますから。……もういいですよね?」

「んん……随分と私を殺すことに拘っているようだけど、事情を伺ってもいいかな?」

 

 私の質問に、彼女が鬱陶しそうに眉をひそめる。それから、なにか思うところがあったのか、しぶしぶといった様子で話し始めた。

 

「私の中には確固たる『正義』があるんですよ。社会的に見てどうたらというものではなく、物語の中で出てくるような価値観です。あなたはそれに当てはまらなかった、ただそれだけです」

「ふぅん…………」

 

 特に理由もなく、「お前の考えは全部お見通しだぜ」みたいな目で彼女を見てみた。効果があったのか、彼女の表情が舐めたら苦そうなものへと変化した。

 

「何か……問題でも……?」

「いや、いいんだ。きみがそれでいいのなら私は何も言わないさ……」

 

 無意味に大物臭を漂わせてみた。出来れば意味のあるようなことを言いたかったのだが、私のボキャブラリーは今まで私がしてきた殺害方法に反比例するかのごとく少ないので上手い言葉が思いつかない。

 ……いや、もういいだろう。

 私が殺してきた彼ら彼女らは、言葉を発するまでもなく死んだのだ。私だけこんなに長々と喋るのは贅沢が過ぎるだろう。

 目を閉じて両手を広げ、無抵抗に喉を露出させる。

 

「……随分、諦めが良いんですね」

「殺してるんだ、そりゃあ殺されもするさ」

 

 顔が割れたんなら『植物のような人生』はとても送れそうにないし。

 ……うむ、我ながら、よくぞここまであの殺人鬼に影響を受けたと思う。やはり、幼い頃に読んだから深層心理に刻み込まれてしまったのだろうか。きっと殺人癖はそれ以前からのものだと思うけど。走馬燈とかで殺人癖の根源思い出せないだろうか。

 自分でも、この殺人癖はどこから来ているものなのかは分からなかった。

 だが、私が『幸福に生きる』為には殺人は必要なものだった。

 

「今更、後悔も何もない」

「いい覚悟ですね」

 

 彼女の持つ銃口が私の左胸に固定されて、カチャリと金属質な音が響いた。

 走馬燈は見えないし、時間の感覚は延長されていない。銃弾が私の心臓を貫通するまでの時間は、決して変わることはない。

 

「……撃ちます」

 

 ……そういえば、彼女のことを見たことがあったな。結構前に、ひたすら謝りながら髪を結ぼうとして失敗しているのを見たことがあった。

 変装した彼女に話しかけられた時に会ったことがあると思ったのは気のせいではなかったのか。

 

「         」

 

 音が聞こえる。

 胸にじわりとした熱さが広がり、遅刻した痛みは脳まで到達しない。

 最期まで、走馬燈は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 局部を隠すかのような真っ白な光が降り注いで眩しい昼間、私は公園のベンチで昼食を取っていた。サンドイッチうまうま。

 口の中に卵サラダの味が広がって、脳へとうま味を伝達する。要するに、大変好ましい味だ。出来合いのものとはいえ、最近碌に食事を取っていなかったせいか、昔食べたフォアグラよりもおいしく感じる。

 

「…………いい天気だなあ」

 

 連続殺人事件の件数が三十の大台に乗っかったのをお構いなしに、太陽は私たちを照らし続ける。まあそりゃあ、天体に人間の都合なんて知ったこっちゃないんだろうけど。

 それと同じで、私は『誰の都合も考えずに』『幸福に生きる』為だけに人を殺している。天体というよりは災害に近いが、結局は人災にしかならないんだろうなと思いを巡らせる。

 あれから私は二十二人の誰かを殺した。特に女子高生がどうたらという区別は付けずに、割と無差別に老若男女入り交じらせて殺した。

 ……よく捕まってないよな、私。モンスターが現れる前の警察だったら今頃ブタ箱行きじゃないだろうか。

 

「……まあ、我慢は体に良くないってことで」

 

 よくわからない結論を結論としてから、サンドイッチを口に放り込んでベンチから立つ。

 

「……………………そういえば、アレは良かったなあ……」

 

 私の、一番最初の殺人を思い出す。

 偽物の正義感と社会に適合するよう『強制』された自らの正義に突き動かされて、名前も知らない隻眼の殺人鬼を殺した、あの時を。

 あの時まではモンスターしか殺していなかったから、あの快感は一生忘れることが出来そうにない。

 私はもう、普通じゃなくてもいいのだ。

 逸脱していても構わないのだ。

 正義じゃなくても、悪であっても、社会不適合でも、周りにどう思われようと。

 そう。

 

「『幸福に生きる』為に」

 

 

 

 

 

 

 

 




じんぶつしょうかい

さつじんき
じょじょずきなかためのさつじんき。じょしこうせいをころしてたりゆうは『たまたまれんぞくでじょしこうせいをころしたらせけんがそういいだしたから』。
に、よんしょうのかたりべ。

ひじょうきんふけい
へんそうするときはかちゅーしゃとかつらをつける、にだいめさつじんき。
いち、さん、ごしょうかたりべ。

いんきなじょしこうせい
じつはさんしょうのひがいしゃ。

もんすたー
くうき。


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ラベンダーの香りの車椅子に乗り込み机の引き出しを開ける人類は衰退しました

これより先は、『人類は衰退しました』のネタバレ要素が含まれています。
原作既読推奨です。
サブタイは気にしないでください。


 

「どうしますです?」「どうもこうもないかと」「すべてはひしょがやったことです?」「きおくにございませぬ」「かがくのはってんにぎせいはつきものかと」「ぎせいのぎせいに?」「いちどはなってみたいものですな」「ひととはちがうおわりかた?」「あうとろーないきかた」「かちぐみやんけ」「しゃかいからあぶれたまけぐみですな」「ぐみぐみします?」「にんげんさんにおねがいして」「ぐみー」

 

 ……声が聞こえる。

 複数人数の……子供のような声が和気藹々と、統合性のない話をしているのが聞こえる。ぼんやりとした意識は覚醒と睡眠の狭間で揺れて、僕の鼓膜を心地よく揺らす声の意味を捉えない。

 こういうの、何て言ったっけ。馬耳豆腐?

 

「このにんげんさんをにんげんさんにもってけば、ほめてもらえます?」「おかしくれるかも」「ぐみー」「もってきます?」「おかしにはかえられませぬな」

 

 言葉が意識の隙間に入り込み、意識が潜水活動に入らないようにと脳味噌を持ち上げた。おかげで徐々に瞼にかけられた重力が軽減され、まどろみが目の奥から消えていった。

 

「もちはこびはどうやって?」「ちきゅうにやさしく?」「しぜんにおもねるふんいきで」「そりゅーしまでぶんかい?」「くうかんをつなげては?」「それだとかんたんすぎますな」「ぬるげーはきらわれますな」「おもしろみがほしいかんじ?」

 

 喜怒哀楽の真ん中の二文字が抜け落ちたような能天気な声が、BGMの役割から離れて脳味噌に吸収されるようになってきた。

 断片的には少しだけ、理解が及ぶ。

 

「ぼーるにしてころがします?」「ちゃんちゃんこでくるんだり」「ゆきだまにまきこむのもよろしいかと」「おおいわでぺったんこ?」「こてんてきすぎでは?」「あたらしさもひつようかもです?」「そうかも」「りゅうこうにのっかりたし」

 

 …………流行?

 覚醒した。

 

「……………………んん?」

『ぴ────────────────────────────────────っ!!??』

 

 いくつもの叫び声が重なって、鼓膜を良い具合に刺激した。声量は大きいけど決してうるさくない、良い悲鳴だと評論家気取りの脳味噌が勝手に診断する。

 そして良い悲鳴の目覚まし時計に起こされた僕は体を起こ────せない。

 なんだこれ。

 

「金縛り……じゃなくて、小さい紐っぽいので縛られてるのか。……ガリバーかよ」

 

 旅行に来たわけでもないというのにこの仕打ち。さっきまで周りにいたと思われる子供は気配すらも消え去っており、完全に放置されたような形になっている。

 

「……………………誰か助けてくれないかな」

 

 せめて、状況の説明くらいはしてほしい。助けてくれなくてもいいから、誰か何で僕がこうなってるのか説明お願いぷりーず。

 ……よく見てみれば(見れないけど)僕が寝転がっているのは、台車のような木造の車っぽい物体だということに気がついた。

 ええ、何かの弾みで転がりますよね、これ。

 僕史上未だかつてないピンチかもしれない。

 

「姐さーん!おかしなものを見つけましたー!」

「え?助手さん?おかしなものを見つけたんですか?」

 

 ピンチじゃなかったかもしれない。

 まるでご都合主義のギャグ漫画か巻き展開の三流小説かのごとく、誰かが僕を見つけてくれた。きっと、意識不明の内に見知らぬ場所で拘束されていた、というような不思議体験をしたことで主人公度が爆上がりとかしたのだろう。

 

「あのー、助けて貰えませんかー?」

 

 何の思慮もなく、相手の危険性を全く考慮に入れずに助けを求めた。

 

「……助手さん、あれ、何だと思います?」

「……自分にはちょっとわかりかねますが、台車に人が括り付けられてますね」

「……まあ、どんなに節穴な目で見たとしても台車と人でしょうね。ああ、なんというか、妖精さん絡みな予感が……。……大丈夫ですかー」

 

 初対面で悪いけど、大丈夫に見えるのかと問いたい。言わないけどさ。

 

「外傷はないようですけど……動けませんね。とりあえずこの拘束をどうにかしてくれると嬉しいです」

「あ、はい」

 

 ここでようやく少なくとも僕の知る場所ではない場所で誰とも知れぬ人物に身を任せることに危機感を覚えたのだが、完全に杞憂だったようで、普通に解放された。

 僕を助けてくれた二人組を見る。

 一人は背の高い女性。僕よりは低いけど。

 シックな服装と、ピンク色というアヴァンギャルドな髪色が素敵にミスマッチするかと思いきや、案外似合っていたりする。一見、深窓の令嬢っぽい。

 ピンク髪なのに。

 もう一人は金髪アロハの男の子。

 でも喋ってる言語はしっかり日本語だし、しかも若干江戸っ子気味。こっちはしっかりミスマッチ。

 彼は常識外だという、僕の常識にしっかりと当てはまってくれた。

 台車から降りて、久方ぶりの地上を堪能する。

 

「……助けていただき、ありがとうございます。……えーと、ここはどこでしょうか」

「え?ここはどこですかって?クスノキの里です。……もしかして、遭難者とか亡命者とかだったりします?」

「いえ、至って普通の迷子です」

 

 ……が、里って。いや、だって……え?里?いやいやいやいやいや、まさかまさか、ねえ。……でも、アレな髪色の人が日本語喋ってて、しかもここが里……。

 ……スルーの方向で。

 気にしないことにしよう。

 

「迷子……ですか。ここはお役所らしく盥回しにしたいのですが……」

「姐さん、どう考えても最終的に自分たちにお鉢が回ってきそうです」

「ですよねー、妖精さんの仕業っぽいですもんねー」

「妖精……?」

 

 妖精。妖精……ピクシー……フェアリー…………もしかして、僕を台車に拘束して、僕が起きたら耳障りの良い悲鳴を上げて去っていった子供のことだろうか。妖精、本当にいるのか……ファンタジーだな。

 スルー推薦で。

 聞かなかったことにしよう。

 

「一応職務なので聞いておきますが、何故貴方はそこにある台車のような物に縛られていたのですか?」

「寝て起きたらいつの間にか。投げっぱなしの誘拐ですかね」

「誘拐とはまた、私の手に負えないようなことを……」

 

 きっと、僕の家の資産(総額67万円)に目を付けた誰かが身代金目的で誘拐したに違いない。……冗談だと思いたいが、資産額が冗談ではない。冗談じゃねえと叫びたい。

 元の地にも色々と残してきたものはあるのだが、この新天地で新しく始めてみようとか思ってしまう額だ。バイトしようと増やした側から母親が溶かしていくし、本気でそんなことを考えてしまう。

 僕が遠い目でイラッとするほどにこやかに微笑む母親の幻覚を見ていると、ピンク髪の女性が自分の髪の毛に向かって話し始めた。

 

「……妖精さん、何か知ってますか?」

「さー?」

 

 妖精、と言うよりは、小人と称した方が自然な、体長十センチほどの小さな人が彼女の異様に長い髪の毛の中からぴょこりと出てきた。

 ……いや違う。出てきてない。スルーだスルー。

 …………見なかったことに「でもそこのにんげんさんちがうとこからきました?」するのは難しいかもしれない。超喋ってるし。

 

「違うとこって……自称迷子さんなんですから、そりゃそうなんじゃないですか?」

「にんげんさん、もわもわをとおりぬけてきたかんじ?」

「もわもわって何ですか、抽象的な」

「ぐたいてきにゆーと……じくうのひずみ?」

「時空の歪みって……」

 

 デフォルメされた体を揺らしながら、妖精が僕の価値観ではとうてい許容できかねることを軽々しく言った。そもそも妖精という生物そのものが許容し難いことだというのに、彼らはどこまで僕の精神を追い詰める気でいるのだろうか。僕の心は既に崖の上で魚の子になりかけている。

 

「おかしもてこようとしたらじこりました?」

「あららら……」

「かえれるかはうんしだいみたいな?」

「あららららら…………」

「……………………………………………………………………………」

 

 ……いや、うん。帰っても人生終了っぽいし、いいけどね……。うん。

 僕の人生、希望は前に進むしかないけど一寸先は闇で崖っぷち、みたいな。

 

「えーっと、妖精?」

「ぼくらようせい、ぴくしー。こんごともよろしくです?」

 

 どこか見知った口調で返された。この地にもそのゲームはあるのか。

 

「……ディアとか使えたりするのか……?」

「……ほいみならー……」

 

 使えるんだ。

 ていうか、その二つの違いって何があるんだ。

 

「……?姐さん、この台車、押したくなるようなボタンが付いてますよ!」

 

 えっと、助手くんだったか、アロハの彼が台車に付けられた、黄色と黒のデンジャーに塗れた模様をあしらう赤色のボタンを見つける。

 どう見ても、押してはいけないものだ。

 

「押したくなるようなボタン?……助手さん、押しちゃダメで」ポチッ。ゴゴゴゴゴゴゴゴ。「……手遅れでしたか」

 

 地響きではなけれど、強いて言うのなら噴射音ゴゴゴゴゴ。

 環境に優しくなさそうな煙モクモク。

 

 

「……妖精さん、あれは何でしょうか」

「こだいしゃ?」「かこみらいにいろんなものはこんで」「ぱしりですな」

 

 古代車、古台車……駄洒落ですか。もしあれがタイムマシンだとするならば、ここは過去か未来。どちらかというと異世界という感じなのだけど、あれは異次元にも行くことはできるのだろうか。

 というか、いつの間にか彼女の肩に乗る妖精が増えていた。注意して見ていなかったとはいえ、目線を逸らした覚えもないのだけど……。

 

「では、これはこのあとどうなりますか?」

「はっしん」「たいむとらべる」「ばっくとぅざふーちゃー?」

「じょ、助手さーん!急いでその台車から離れてー!」

 

 助手……がいるとなると、彼女は博士か何かだろうか。暫定的に博士ちゃんと呼ぶが、彼女が大声で助手くんに呼びかける。

 助手くんは博士ちゃんの言うことには非常に素直なようで、「あ、はい!今すぐに!」と、どこか接客業を思い起こすような対応で台車から離れる。彼には江戸前寿司が天職と見た。

 間一髪、彼が台車から離れた瞬間台車は急発進。ワームホールかタイムホールかよくわからないような穴を空間に開けて、僕に非現実感を残しながら穴の中に消えていった。

 博士ちゃんがこちらを申し訳なさそうに見る。

 

「あのー……もしかして、あれに乗ってどこかから来てたり……します?」

 

 あれがタイムマシンだとするのならそうだと、シンプルに首を縦に振って肯定を示す。

 

「しますよねー……。えっと、詳しい事情の説明は調停官事務所の方で祖父がしますので……付いてきてもらえますか?」

「アッハイ」

 

 いまいち脳内が加速する現実に追いつけそうにないまま、無警戒に空返事をした。

 僕の明日はプランBに似ていると、幻聴が聞こえた気がした。

 ねえよ、そんなもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調停官事務所だと案内された建物は、ローマにありそうな上部が欠けている円形闘技場の形を摸していた。よく見ると、古ぼけて見づらい字で、『クスノキ総合文化センター』と書いてある……と思う。ところどころ虫食いのように穴あき箇所があった。

 十五の夜に誰かが割ったような窓ガラスはその通気性を誇るように埃や塵を出し入れする。

 ……大丈夫なんだろうか、調停官事務所。僕の中の調停官に対する不信感が今更のように浮かび上がってくる。予算不足で、僕をダシにうんたらかんたらなわけじゃないよな。解剖とか、僕嫌だぜ。

 無言で建物の中に入る博士ちゃんと助手くんを追い、「…………」昔殺人でもあったような雰囲気の、ある意味予想通りな内装に愕然とした。靴が片方だけ転がっているのには、何か理由があったりするのだろうか。

 

「これでも大型建設物の中では傷みの少ないものなんですよ?」

 

 博士ちゃんが注釈を入れてくれたが、その言葉は大丈夫なのかよこの世界(ココ)、という結末にしか辿り着かず、不安を湧かせる。世紀末かよ。

 

「……戦争とかあったりしたんですか?」

「戦争ですか?あったりもしましたが、昔のことですよ。現在はこれといった紛争もなく、衰退期に入っています」

「……衰退?」

「ええ、衰退です。それで────」

 

 彼女が肩に乗っかっている妖精を見る。「はーあーい」うつぶせで片手を上げる妖精に思わず頬が緩む。

 

「────この妖精さんこそが、現地球人類だったりするんですよね」

「………………………………うわぁお」

 

 異世界じゃなきゃ、多分未来。うん、絶対未来。だってこいつら未来に生きているもん。

 ていうか、このちっちゃいのが人類かよ。文明は息してるのだろうか。あ、息しまくりで過呼吸気味でしたね、タイムマシンとか作ってたし。

 

「ぼくら、じんるいです?」

「……そうじゃないのかい?」

「さー?」「そうだたかも」「かのうせいはぜろじゃなし?」

 

 博士ちゃんを見る。

 

「……妖精さんは自己というものが希薄なうえに記憶も曖昧なので……」

「…………ああ、人類……元人類がこの妖精たちを新人類と定めたというわけですか」

「その通りです。人が勝手に規定した人類という役職を妖精さんの意思都合を一切考慮せずにただただ一方的に押しつけているだけです」

「お、おおう」

 

 僕、そこまで言ってないんだけど。

 深窓の令嬢っぽいという前言を撤回した方がいいだろうか、これ。

 

「……そういえば妖精さん、人見知りが激しいはずなのに逃げないんですね」

「え?妖精さんが逃げないのは何でかって?……そういえば何ででしょう。妖精さん、何でですか?」

 

 助手くんの疑問に、博士ちゃんはわざわざ反復してから疑問を横流しにする。

 

「こちらのにんげんさん、ちゅうとはんぱなそんざいですゆえ」

「中途半端な存在?」

「にんげんさんであり、にんげんさんでないかんじ?」

「……わからない」

 

 僕もわからない。人間の父親と母親から生まれた僕は人間ではないのかと少し疑ってしまうところだった。

 回転数が些か多すぎる気がしないでもない螺旋階段を昇って、古ぼけたドアを開ける。

 

「ようこそ、ここが調停官事務所です」

「……………………………………………………………………………………」

 

 銃だった。

 壁一面に銃が飾ってあった。

 逃げちゃ駄目だろうか。

 

「や、おかえり、相ぼ…………え、あ……裏切り者ォ!男……また男を連れ込んで!逆ハーレムのつもりか!リア充め……おのれ、許さん、許さんぞおおおおお!!!」

「いきなりなに言ってんですかあなたは」

 

 

 椅子に座っていた白髪の女性がこちらを見て、わなわなと震えながらフリーザ様にクリリンを殺したと聞かされた時の悟空なみに怒りを露わにしていた。白色の髪が金色になって、逆立っている幻覚が見える。銃とか持ち出さないか不安である。

 逃げちゃ駄目な理由がどこにあろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、すまなかった。少し取り乱してしまってね」

「少し…………?」

 

 白髪でショートカットの彼女────言ってることがアレだったので喪女ちゃんと(心の中で)呼ぶことにするが、彼女が少し照れたように笑いながら後頭部を掻く。あれからたっぷり数分は暴れた彼女は、どうも博士ちゃんの旧友らしく、調停官とやらとも関係ないし、ましてや後ろの銃コレクションとも関わりがないようだ。少し安心。

 

「……おじいさんは?」

「あー、博士なら留守を私に任せてどこかに出かけたようだけど……どこだったかなあ」

「留守番を部外者に任せるのってどうなんでしょう……」

「いいんじゃないのか?私もここに来る頻度はかなり多いし、もはやこの事務所の一員と言っても過言ではないな」

「過言です。仕事はどうしたんですか」

「そんなもので私を縛ろうなど甘い甘い」

「…………」

 

 博士ちゃんと喪女ちゃんのやり取りを見ながら、助手くんの用意した紅茶を啜る。僕の経済状況では中々口にすることが出来ない、上品な味だ。彼女たちの漫才をお茶菓子代わりにするとなお美味しい。

 

「助手くん、すまないけど、もう一杯頂けるかな」

「はい、気に入って頂けて良かったです」

 

 空のティーカップに、助手くんが新しく紅茶を注ぐ。

 琥珀色の香りが僕の鼻腔を刺激して心地良い。

 

「……ん、美味しい。この紅茶、何て言うんだい?」

「うーん、配給品なんで、名称は何とも……」

「はいきゅう……?」

 

 バスケットボールのこと……ではないだろう。

 おそらくは、配給。戦時中とかに食べ物や生活用品を配ってたりしたあれだろう。

 現在の人間の文明レベルが非常に気になってくるところだ。

 

「……まあ、衰退期なら仕方ないか……」

「…………?ああ、Nさんのいた時代では、まだ通貨が使われていたから、配給に馴染みがないんですか」

「そうだねー……。僕の生きてた時代は、金金金で、何をするにも金が必要だったから。配給制度があったのなんて、六、七十年は昔になるかな」

「あの、通貨って、今持っていたりしますか?」

 

 助手くんが目を輝かせながら尋ねてくる。こうも少女漫画のごとき眼球を晒されると、つい嗜虐心が芽生えて出したくなくなってくるのだが、助けてもらったし紅茶は美味しいしで、それをすると僕の良心がヤスリがけされそうなため、了承した。

 

「ちょっと待っててくれ。今出す……あれ」

 

 ポケットを探る。そしてないことに気がつく。

 

 

「……すまないね、どうやら無くしてしまったみたいだ」

 

 銀行から下ろしたばかりの虎の子の三十万が入った封筒を無くした動揺と落胆を顔に表さないように気をつけながら告げる。尚、この時点で僕は元の時代に帰るという選択肢を切り捨て、異世界のごとき未来で暮らしていくと決めた模様。

 手持ち約四十万で現代生きていけはあまりにも無理ゲーすぎて、働かなくても食っていける場所はあまりにも魅力的すぎた。

 もう寝る間を惜しんでまで働きたくないでござる。

 

「そ、そうですか……。……わ、わ」

 

 目に見えて落胆する助手くんの頭をくしゃくしゃと撫でる。慰めているようでいて、実は「こっちの方が泣きてえんだよ」という意味を込めた掌である。

 

「………………………………」

 

 ……うん?

 何故か喪女ちゃんがこちらをじっとりと湿ったような擬音が似合うような眼差しで凝視していた。心なしか頬は緩みきってよだれさえ垂れているように思える。

 なんていうか、だらしない顔だ。

 背筋に大量の虫を這わせて悪寒を味わう。厭な感じ。

 

「腐、腐腐、腐腐腐腐腐腐…………腐ははははははははははは!!!凄いぞ、まるで同類誌の中にいるようなこのシチュエーション!!!いいぞもっとやれ!!!!」

「……腐ってやがる、早すぎたんだ……」

 

 母さん、未来でも腐女子は健在でした。

 かく言う母さんも腐女子でしたね。死ね。貴重な生活費をコミケに使ってんじゃねえよ。死ね。そして実の息子を同人誌のネタにしようとするな。死ね。

 

「腐ってるって……その表現、昔からあったんですか」

 

 僕が今は過ぎ去りし過去へと怨嗟を送っていると、博士ちゃんが呆れたように呟いた。

 

「…………昔?そんなに年取ってるようには見えないけど……。ていうか、彼も目で語る系の人なんだな。……そっちの少年と違って長い付き合いでもないらしいのに、よくわかるよ、あんた」

「そうですかね?結構わかりやすいと思いますけど……」

「いえ、あの、僕の目は口ほどに物を言うわけでもなければ口が週休七日なわけでもないですからね?きちんと言葉で伝えてますよ」

「え?きちんと言葉を使って伝えてるって……?いえ、だからそれを伝えるのに言葉を使えばいいじゃないですか」

「……………………?」

 

 会話が噛み合わない。もしかしたら僕は言語を発していなくてテレパシーか何かで彼女らと会話をしているのかもしれないという思いこみをしそうになったが、口と舌が動いているのを確認できて一安心。

 もしかして、現代とは言葉の概念が違うのだろうか。

 冷静に考えて、人類が衰退したり妖精が現れたりするまでに時間の経過がどれだけあったかなんて想像も付かない。その長い時間経過の中で僕が生きていた時代と違う場所が配給と妖精だけなんてのはないだろう。

 きっと、近未来的なコミュニケーション方法があったりとかするのだろう。

 脳波とか念波的な、何かみたいな。

 

 

「……ジェネレーションギャップ、でいいのかな。世代って言うよか時代だけど」

「ジェネレーションギャップ。それなら仕方がないですね」

「私にはお前たちが何を話しているのかさっぱりわからない……」

 

 腐女子だからではないだろうか。

 いや、でも実際、この中でまともな会話ができそうにないのは喪女ちゃんのみで、博士ちゃんにも助手くんにもきちんと言葉は伝わっている。

 やはり腐女子が全ての元凶ではないのだろうか。やっぱBLはいかんな。

 

「……おや?お客が来ているのか?」

 

 ギィィと古びた木製のドアの鳴き声と共に、白衣を着た、気難しそうな白髪交じりの男性が入室する。どちらかと言うと、博士ちゃんよりも彼の方がずっと「博士」らしい。もしかすると、喪女ちゃんの言っていた「博士」が彼なのだろうか。

 

「はい、こちら、Nさんだそうです」

 

 もし彼が実際に博士だった場合、彼女の名称をどうしようか悩んでいたところ、唐突に紹介が入って脊髄反射的にお辞儀をする。

 

「彼はどうやら妖精さんの仕業でここに来てしまったらしい……えー、タイムトラベラー的な……感じだと思います。おそらく、人類の全盛期からやって来たんじゃないでしょうか」

 

 言いよどんだのは、おそらく適当な言葉が見つからなかったからだろう。

 僕も未来人の対義語とかわからんもん。古代人にしちゃ文明的すぎるし。

 

「…………っ!?それは本当かね!?」

 

 白衣さん(仮称)が僕の両肩を掴んで顔を近づける。驚愕した目玉には少年の好奇心のような光が爛々と輝いていて、何故か答えなくてはいけないような強制力に苛まれた。

 白衣さんがまだ顔を近づける。

 尚も近づける。近い近い。

 無闇に腐女子に餌を与えないでください。

 

「はあ。僕もよくわからないまま来てしまったんで、詳しいことは……」

「む、すまないな」

 

 白衣さんが僕を離す。チッという舌打ちが聞こえる。

 

「妖精さん、説明をお願いできないだろうか」

「せつめい、しますです?」

「おお、頼む」

「にんげんさんがむかしはおかしたくさんあったいうのでとりにいったです」「でもでんじはのやつもたくさんいたので」「じどうでとりにいかせたり?」「ぱしりですな」

 

 言いながら、妖精が一人僕の肩に飛び乗る。

 間抜けに開いた口が可愛らしいので、指で撫でてみた「きゃっはー」おお、癒される。

 

「うらやましき」「みわくのゆびさき?」「ごっとふぃんがーてく」

「最後のはやめてくれ」

 

 風評被害を受けそうだ。

 

「……どこまでせつめいしました?」

「パシリを作ったところまでじゃないかな」

「そーでした」「わすれるところだた」「あぶないところをにんげんさんにたすけられました?」

 

 ……大丈夫なんだろうかこの新人類。見ていて不安になってくる。

 妖精たちは僕の思考を全く意にも介さずきゃいきゃいと説明を続けた。

 

「ぱしりでおかしもってこようとしたら……まちがえました?」「やはりしゅどうにしておくべきだったかと」「えーあいがひんじゃくだったのでは?」

「ふむ……自分達は電磁波のせいで行けないから、自分達の作った物に過去にお菓子を取りに行かせたら間違って人を連れてきてしまったのか……」

「あのまま元の時代にいても残るものなんて屑以下の母親と借金くらいでしたでしょうし、問題ありませんよ」

 

 他にもあるにはあるけれど、残りそうにもないものばかりだし、最終的にはその二つに落ち着くと思う。いや、落ち着いちゃ駄目だと思うけど。それしか残りそうにないのだから仕方ないと言ったところか。

 僕の言葉に、博士ちゃんと白衣さんが苦笑いを浮かべる。助手くんはよくわかっていない、というようなリアクションだ。

 

 

「……ちなみに妖精さん、どのような方法で時間移動をしたのか聞いても良いかな?」

「こだいしゃにのせて?」「すぴりっとてきなものだけのせて?」「にくたいからひきはがしたりして」「もとにもどすあふたーけあもばんぜんだったですが、こだいしゃどっかいきましたゆえ」「ごしゅうしょうさま、みたいな?」

「……………………」

 

 助手くんのミスで帰れなくなったのだから、住居と食料くらいは彼ら調停官の方でどうにかしてくれるだろうかと、思考を巡らせる。

 養う立場から一転、養われる立場になるのか。夢のニート生活に気分が軽くなり、僕の脳味噌を空へと浮かばせようとする。

 ……うん?

 

「……スピリット的なものを肉体から引きはがすって、僕、もしかして霊体だったり?」

「かりずまいてきな」

「……ああ、入れ物は存在してるのか」

「はがさないともわもわとゆうごうしてしまうので……」「はがさずゆうごうさせないのもできますが、そりゅうしれべるでばらばら」「ぱーつなくしそう」「にくたいといっしょにういるすもやってきます?」「かんせん、かくだい」「ばいおはざーど」「かゆしうましですな」

 

 ああ……なるほど、未来なら、人体の構造も多少は変わってるでしょうし、さらに言うならウイルスや細菌は随分と変質しているだろう。

 そんな中に、未知の細菌と言って差し支えないような過去の細菌なんか持ち込んだら、パンデミックにもなる。

 たった十数年でも再興感染症が危険だというのに、時代差が付いてたらそれはもう。

 博士ちゃんが軽く溜息をつく。

 

「妖精さんの超技術で細菌を取り除くこととかは、できなかったんですか?」

「できないことはありませんが……」

「ありませんが?」

「ちょうないさいきん、しめつ?」「みとこんどりあ、じょうはつ」「ごるじたい、しぼうかくにん」「めんえききのう、ぜろになりますが」

「わーお」

 

 もうそれ死んでるよな。

 

「……あれ?お菓子目的なのに、そもそもお菓子に魂ってあるのか?」

「ないこともないような?」

「あるのか」

「あるわけでもないかも」

 

 どっちだよ。

 

「とりあえずあまいので、ふかくかんがえるべきではないかと」

「……お菓子の魂って、甘いのか」

 

 僕はまた一つ賢くなった。

 この知識、どこにも使えそうにないけど。どんな話の流れで出せというのだ。

 

「……それで、住む場所など、当てはあるのかな?」

 

 白衣さんの質問。

 待ちわびていた言葉に、あらかじめ用意していた返答を差し出す。

 

「いえ……何分来たばかりですし、とりあえず雨露を凌げる所があれば野宿でもしようかなと……」

 

 一応遠慮して謙虚を装う。相手が提案をしやすくなる……まあ、社交辞令のようなものだ。

 それに、仮に本当に野宿することになったとしても別段問題はないし。

 

「……すむばしょ、ないです?」

 

 僕の肩の妖精が、いつの間に持ってきたのか紅茶の砂糖を抱えたまま小首を傾げて僕に尋ねてきた。

 

「よろしければおつくりしますが?」

「何年かかるんだよ、それ……。犬小屋ってオチじゃないよな」

「にんじゃやしきふうみ?」「どんでんがえしつけたし」「とらっぷまんさいで」「よんかいだてのよんえるでぃーけーに?」「あそびごころもほしいですな」「うごくいえにしてみては?」「てんくうのいえとか」「さんぷんかんでよういしなくては」「らっかけいひろいんもひつようかも?」「よういすべき?」

「…………普通でいいよ。ていうか、できるの?」

「たやすいことですが?」

 

 うーん、タイムマシンを戯れで作ってしまうんなら、この程度は容易いのかなあ……。

 僕の中の常識という言葉は既に七割方崩壊しており、大体のことは受け入れる体勢が出来てしまっていた。

 寺生まれが凄いように、未来だってきっと凄いのだ。青狸型ロボットのポケットから出てくる道具ばりに何が起きたって不思議ではないのだ。

 ……そう思わないと真面目に考えるのが馬鹿らしくなってくる。

 

「……じゃあ、お願いしようかな」

「きょか、もろたー」「ごーさいん、でたー」「ふつーないえのおーだーですが」「ふつうってなに」「いっぱんてきなこと?」「はやりすたりにふりまわされぬこと?」「ふつうはじだいごとにかわりますが」「そっかー」「ではどうすべき」「ふつうすぎてはいけいにとけこむいえ、つくる?」「はいけいのひとびともつくったり?」「おもしろそうです」「たのしそー」「いっそはいけいなまちをつくってみては」「わー」「やるやるー」

 

 楽しい仲間たちがぽぽぽぽんと瞬く間に増殖してきて、きゃいきゃいと笑いながら話し合いを始めた。どうやら彼らは本人の意向は出来るだけ無視して面白さを重視していく主義のようで、僕が口を挟もうと試みても喧噪に掻き消される。

 妖精たちは僕が再び何かを言おうとする前に、ぴょこぴょこと出入り口の隙間を利用して全員出て行ってしまった。

 

「……………………」

 

 後に残されたのは僕と、僕から見ての未来人が三人に未来の腐女子が一匹。

 

「…………ああ、またとんでもないことに……」

 

 博士ちゃんが、悲壮感溢れる口調でそう呟いたのが、聞こえた。

 きっと普段から苦労してるんだろうなと、他人事のように思った。

 

 

 

 

 

                              つづくかも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続かないかも。きっとその時の気分次第で決まると思います。


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仮免ライダー

王道ヒーローモノです!!!
一度書いてみたかったのでやってみました!!!


『ギ……卑HIひHIヒヒヒ火卑ひヒヒヒヒ卑避緋卑HIHIHIHIHIひヒヒヒヒ』

「あ、あ……ああ、ああああああああああああああっっっっっ!!!!」

 

 二つの声が、街灯が壊れて月の光のみが地を照らす夜に響く。

 一つは若い女の叫び声。それも、意図して出せるような生易しいものではなく、死の危機に瀕して初めて出せるような、聞く人の鼓膜を破壊しかねない絶叫である。

 もうひとつの声は異様────いや、異常と言ってもいいようなものだった。安定しない声質に大きく上下する音程。極めつけに、編集でもしないと人間にはとても発音できないような音。

 それもそのはず、その声を発しているのは人間ではない(・・・・・・)からだ。

 頭だけ見れば、それはラフレシアの花冠を動物的に形を整えて蕩かしたものに近いだろう。表面には泥と毒液の合いの子のような液が滴っている。

 首から下を見れば、蛙と蜥蜴を組み合わせたようなフォルムをしていて、その表面は土色にどろりと溶けている。

 明らかに現存する動物とも違う、全長三メートルほどの巨体が女性を覗き込んだ。

 

「ひっ……!い、あああああああああああああ!」

 

 がぱぁ、と花弁の形をした口が開かれて、傷口を広げることのみに特化したようなギザギザとした牙が露出する。開かれた口からは生暖かく不快な息が漏れていて、びちゃりびちゃりとよだれに見える、強酸の性質を持った液体が口から垂れた。

 

『Oオオおお惡OおイIイイいいヰ威IシSOOOオオオおオおおナニくU宇宇うううう』

「あ……ああああああ…………!」

 

 足は動かない。恐怖だけでなく、化け物の酸で溶かされて、とても立ち上がることのできる状況ではないからだ。

 慣れることのない強烈な足の痛みで、這って逃げることすらままならない。

 もう逃げられない。死にたくない、死にたくない、死にたくない。厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ。こんな化け物に食われて死ぬのは、厭だ。

 まだやりたいことだってたくさんある。彼氏だってできてないし、友達とも遊び足りない。着てみたい服もあるし、今度新作のスイーツが出るのだ。それを食べない限りは、死んでも死にきれない。

 ……というか、何故私が死ななくちゃならないんだ。ふざけるな。

 恐怖は既に心を通り越して、感情の向きは理不尽への憤りへと変わる。

 だが、そうだとしても現実は何も変わらない。

 心意気一つ変わったところで絶望的な状況は覆しようがないし、立ち上がり一矢報いる為の足は既に溶けている。

 

「このっ……あが、あああああ……ぐ、ぎいいっ……!」

 

 何とか片足と両手でバランスを取って逃げようとするが、恐怖と焦燥で震える手足は思うように動かない。白い欠片を覗かせた左足からは泡のような音が聞こえるのも、彼女の逃走を邪魔する。

 ドクンドクン、傷口が鼓動を知らせる。

 負けるものか、そういくら思ってもどうにもならないのだ。

 

『意イイイIいI居依イいタDA嗚呼アあ着マAA唖アアあああああSU』

「い……嫌ああああっ……」

 

 強酸が垂れて体の至る所を溶かし、近づいてきた顔からはこちらを捕食してやろうという意思が容易に見て取れた。

 少女の顔が絶望に彩られる。

 怪物はそれを口の奥の単眼で満足そうに一瞥すると、大口を開けて迫ってきた。

 現実は、ただただ残酷だ。

 都合の良い力にも目覚めないし、思いの力でパワーアップもしない。

 奇跡なんて、起こりはしないのだ。

 

 

 

 ────────だからこれは奇跡ではない(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「…………あれ、死んでない……?」

 

 肉がぶつかるような鈍い打撃音と未だ存在している意識に、恐る恐る、目を開ける。

 瞑った目に溜まっていた涙が流れ落ちて、少し潤んだ視界から目の前が見えた。

 そこには────

 

「────間に合ったか。相棒、敵は?」

『《アインス》。問題ねえ、やっちまえ!』

「了解!」

 

 少女と怪物の間に現れた男は白いコートに黒い外殻。

 そして────まるで特撮ヒーローのような、仮面を被っていた。

 三つ叉の角は右だけが欠けたように短く、対照的に左は長い。フルフェイスのヘルメットのような形状の奥には、虫の複眼にも似た赤い目が夜の闇に光っている。

 瞬く間に、彼と怪物が戦闘を始める。

 怪物が再び大口を開けて、強酸を撒き散らしながら噛み付こうとして────

 

 

「遅え……よ!」

 

 逆に懐に突貫していった男にいなされて、背中を蹴飛ばされた。怪物が顔面から着地をして、びちょりという不快な粘液の音と怪物の悲鳴がコラボレーションする。

 そしてその隙を見逃さず、男が蹴りとパンチによる追撃をした。

 生物として────いかに怪物であろうと、生物として急所に当たる部位────喉、脊髄、肋骨の隙間を容赦なく的確に穿ち、相手が怯んだところに、更に追い打ちを仕掛ける。

 

「再生は……しないな!このまま一気に畳み掛ける!」

『奴のヨダレ、ばっちいだけじゃなく塩酸な感じだぜ!触れないよう気をつけろ!』

「あいよ!」

 

 それはヒーローの戦い方というにはあまりにも泥臭く、みっともない。

 だが。

 

「…………ヒー……ロー……?よ……かった……わた、しのヒロイ……ン力も、捨て……た、もんじゃない……かも……。……あ、し……体、も…………痛って……」

 

 それでも、救われる人はいる。

 ここにいる、至る所が溶けかけている少女だって、彼がいなければ死んでいただろう。体中がボロボロだが、まだ死んでいない。生きているのだ。

 

「さあ……トドメだ!」

 

 男が左腕を振るうと、キラキラとした青白い粒子が集まってきて、急速に物体が構成される。それは、剣だった。ただし、十キログラムくらいの重さはありそうな巨大なものではあるが。

 あろうことか彼は、それを片手だけで振り回し、怪物の喉を切り裂いた。

 鮮血が吹き出して、白いコートが鮮血色に染まる。怪物の首は半分ほど切り裂かれていて、明らかな致命傷だ。

 

「……反応は?」

『消滅、退治完了だぜ』

「そうか……」男は振り向いて、少女に駆け寄る。「大丈夫か?」「大丈夫に……ぐ、見えんのか……」「よし、生きてるから大丈夫だな」「うぎ…………このやろ……」

 

 実際、酸は少女の足以外は、筋肉の表面を多少削るだけで、時間の経過で治るようなものだったが、軽傷にはとても見えない。脇腹は軽く抉られているように内蔵が露出していて、血液はだくだくと流れ出続けている。失血死も遠くはないだろう。

 だが、それでも彼には「大丈夫」と言える確信があった。

 それは────

 

『お、始まったか』

「今日はいつもよか早い気がするな。いつもはあれだろ、退治後三分くらい待たなかったか?」

『誤差の範囲内だ、誤差誤差』

 

 世界が巻き戻る(・・・・・・・)

 怪物が暴れて壊したアスファルトは欠片一つ残さず元の形を形成する。倒れていた街路樹は外気に触れさせていた根本を地中に戻す。

 まるで怪物なんていなかったかのように、世界が怪物が居たという痕跡を消していく。

 勿論それは少女も例外ではなく、溶けて蒸発したはずの皮膚はビデオの逆再生でもしているかのように自然に修復され、破れて血に塗れた服は元通りになり、跡形もなくなったはずの足が修復された。

 

「だから、大丈夫だっつったろ?じきに忘れるから、PTSDの心配も無用だぜ」

「え……ちょ、ちょっと……!」

『ほらほら、助けてくれてありがとうを言うのも、助けなんていらなかったわよ馬鹿!ってツンデレるのも今の内だぜ?この現象は大体一分くらいで終わるからな』

 

 修正現象。

 この現象は、そう呼称されるものであった。

 それは世界からの排斥、異物の削除、痕跡の消去。

 本来ならあるはずでなかったものを再びなかったことにしようという世界の働きかけ────わかりやすく言うと、白血球のようなものである。

 いや、白血球とは少し違うだろうか。何せ実際に異物の排除を行っているのは彼ら、『概念鎧装者』なのだから。世界が行っているのは、その後始末のようなものだ。

 そしてこの修正現象、どちらかというとこちらの方が重要なのだが、記憶の消去も行う。世界にあるはずでなかった記憶は当然、あるはずでないものとして消す。

 襲われた記憶は取り留めのないものに上書きされ、多少の不自然があっても深く考える必要はないと気にされなくなる。

 この世界の()に対しては、これ以上ないほどの有効な対抗手段だ。

 

「…………名、前……教えてよ……」

 

 かろうじて声を出す。

 修正が行われて痛みが引いたとは言えど、足や身体が酸で溶ける痛みは先ほどまで味わっていたのだ。怪物が倒され緊張が溶けた今、今すぐにでも気絶していてもおかしくはない。

 それでも落ちようとする瞼と意識を限界まで稼働させて名前を尋ねる。

 彼から聞こえる謎の声の言うことから、記憶が消えるだろうということは予想できた。

 でも、だからこそ、これが彼女なりの礼の尽くし方だった。

 自分のことを助けてくれた、守ってくれた存在を。

 忘れてしまうことは耐え難かった。

 そして、その真摯な思いを理解しているからこそ、

 

「────────仮免ライダー。ブレイブリンカーだ」

 

 その一言を聞いて、スイッチが切れるかのように少女の意識が落ちる。

 それと同時に修正現象も完了して、夜には本来の静寂が取り戻されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……やっぱ名乗る時に仮免ってわざわざ言うのはどうなんだよ』

 

 仮面を付けた白コートの男が気絶した少女を背負って運んでいるという、何も知らない人間から見たら誘拐だと思われるであろう光景。中性的よりは少し男性に寄ったかのような声が突然、ブレイブリンカーに話しかけた。

 

「そりゃあ、『仮面ライダーブレイブ』なんて名乗れたらそれが一番だろうよ。でも『仮面ライダー』を名乗るにはスペックも覚悟も何もかも足りないし、何しろ俺は他のまともに戦えるような適合者が現れたらすぐにでも引退するんだから。仮免で十分さ」

 

 先ほどの戦いを見ていたらこの言葉に疑問を持つ者もいるだろう。確かにヒーローの戦い方では決してなかったが、それでも怪物を一方的に無傷で倒し、トドメは十キロほどはある巨大な剣を片手で扱ってのものだった。

 とても、弱いとは思えないだろう。

 だが、

 

『確かにお前は弱い。それもクッソ弱い。歴代最弱と言ってもいい。まともに戦ったら即死だ即死』

 

 名前をネクストという、その声は断言する。

 何を隠そう、ブレイブリンカーの通常出力は通常の『概念鎧装者』の三分の一、能力に至っては五分の一もあるかどうかわからないといった始末だ。先ほどの《アインス》と呼ばれるタイプの怪物だって、通常の鎧装者ならワンパンで片付けられるし、強酸にだって注意しなくとも何も問題はなかったのだ。

 ブレイブリンカーの身体的スペックは人間の域を出ない。

 身体全体を覆う黒い外装は動きを阻害しないように防刃ベストと防弾チョッキを合わせた程度の耐久力しかないし、白いコートは多少の衝撃吸収と酸で溶かされない程度の性能しか持ち合わせていない。

 パンチは敵を貫通はしないし、ライダーキックで敵が爆発したりもしない。

 概念鎧装者は基本、怪物────正式名称『不確定情報統合概念体』、通称鬼怪(キカイ)と戦い、そして圧倒し勝利するだけのスペックを秘めている。

 だが、例えば自衛隊が出動するのならば、ただの怪物である《アインス》や知能を持つ程度の《ツヴァイ》と呼ばれるタイプの鬼怪は対処可能でも、多くが二十メートル以上と巨大な《ドライ》や特殊な特徴や強力な能力を持つ《フィーア》には勝てない。

 人間のままでは鬼怪には勝てないのだ。

 リンカーは何度か、《ドライ》、《フィーア》と戦って勝利したことがあるのだが、本来それらの怪物と戦うことを目的とされた三分の一のスペックしかない身で勝利するのには、決して小さくない代償を払うことになった。

 だが、敵は通常の鎧装者なら無傷、あるいは軽傷で撃退可能なレベルだった。

 

それでも(・・・・)、だ。戦闘に命懸けてくれる奴なんざそうはいねえし、スペックによるゴリ押しだけじゃ倒せない奴だっている。正直言って、お前の後継者が育つまでは続けて欲しい。…………そもそも、この辺じゃあ適合者、お前以外に知らねえけどな。俺もスペックが足りないお前に鎧装者続けさせるのは心苦しいんだけどな……』

「他に誰もいないんだから仕方ねえだろ?」

 

 さも、何でもないことのように彼は言う。

 自らが血を吐き、内蔵に負担をかけ、寿命を縮めてまでして戦うことを、彼はどうでもいいことのように言う。

 スペックが低いということは、リスク無しの回復もできないということなのに、それを無視してまで戦うことを「仕方ない」で済ませてしまう。

 

「戦わなきゃどうせ死ぬんだ。死にたくないし、痛いのも辛いのも嫌だし、他人の命を背負う覚悟なんてこれっぽっちもないけど、やるしかないんだから」

 

 死にたくないのは彼の本心だ。

 痛いのは嫌だし辛いのも嫌いというのも彼の本心だ。

 それでも────人はそう簡単には割り切れない。英雄願望もないくせに、『自分より強い誰か』がいて、実際に鬼怪と戦っているというのに、嘆かず、投げ出さず、積極的に誰かに託そうともしない。それは果たして正常だと言えるのだろうか?

 ネクストは、彼のことを信用している。信頼していると言ってもいいし、人間的には好感も持っている。

 だが、それと両立して、不気味だとも思っているのだ。

 

(……どうして本当に、だな。こいつの精神構造は普通────本当にありふれたもの(・・・・・・・・・・)だっつうのに。まったく、どこをどうやったら形保ったままここまで歪ませられるかねえ)

 

 ネクストは内心溜息を吐いた。彼は本来、精神系の魔法、及び技術をほとんど持たない世界精霊(ヒーローの相棒)である。唯一出来るのが、世界精霊として必須技能の精神防壁くらいだ。だが、そんな彼でも理解できてしまうほどに、リンカーの精神は異常だったのだ。

 

『……なあ、そろそろそいつ下ろさねえ?見られたら一発で通報だぜ』

「そうは言っても、こんな夜中に女の子一人が寝てたら危ないだろうに」

『せめて変身解けよ。それならまだ兄妹か何かで通るだろ』

 

 ネクストの突っ込みに、「ああ、忘れてた」と変身を解除し、仮免ライダーであるブレイブリンカーは、フリーライターである楠紫暮(くすのきしぐれ)へと変わった。

 変身ヒーローのような容貌は野暮ったい、雑踏に埋もれてしまいそうな若者になる。

 どこにでもありそうなジーンズに、その辺探せば見つかりそうなパーカー。

 夏という季節にしてはあまりマッチしないということを除けば、普通。

 中肉中背と言うには筋肉が付いているが、普通。

 顔も普通。イケメンではない。生まれてこの方女性と付き合ったこともない。

 

「……とりあえず、警察にでも置いてった方がいいかねえ」

『そうするなら早くしろよー。嬢ちゃんが起きたら誘拐犯にジョブチェンジだ』

 

 ネクストの声は、紫暮の右腕、腕輪にも似た黒い機械から聞こえた。どうやら、彼が変身していない待機状態の時はこうしているらしい。

 

「……彼の犬養毅はこう言ったそうだ。『話せばわかる』」

『そしてこう返されたんだったな。『問答無用』』

 

 少女から見ての現状を整理しよう。

 気が付いたら意識が無くて、見覚えのない男に背負われていた。

 

 

「……事案発生」

『さよなら日常ってな。言っておくが、俺、精神操作使えねーかんな』

「そりゃないぜセニョール」

『文句なら気持ちよさそうに寝てる嬢ちゃん(セニョリータ)に言えっての』

 

 紫暮は、お礼を言うよりも自分の名前を聞いた少女を見る。きっと、あれは「憶えておいてやるよ」という意味なのだろう。ありがたいことだが、結局は修正現象によって忘れてしまうと思うと、複雑な気分になった。

 彼女が適合者だった場合は修正現象による記憶改竄の影響を受けないのだが、現実はそう甘くないことは紫暮が一番よく知っている。

 この世界が物語のような窮地に陥っていても、現実は物語のようには進まない。

 彼が少女の危機に間に合ったのだって、奇跡でも何でもなく、単にネクストの鬼怪探知とリンカーとしての人間の域を出ない範囲での筋力上昇によるものだ。

 他の鎧装者ならもっと早く────それこそ、少女が怪我を負う前に駆けつけることができたし、相手が《ドライ》以上────いや、相性が悪ければ《アインス》や《ツヴァイ》でも犠牲者を出さないことが不可能だった。

 奇跡ではなく、運が良かっただけである。

 紫暮はそう結論付けて溜息を空気中に混じらせる。

 

「…………やっべ……超びしょーじょ……はけーん…………ふひひ……」

 

 少女のおっさん的な寝言に、紫暮はまた溜息を追加発注した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼怪。

 曰く、それは世界の外側に位置する者。

 曰く、それは存在が認められなかった者。

 曰く、それは己の存在を知らしめようとする者。

 彼等にとって目的は自己の存在の証明と確立であり、人を襲い、殺すのもそれが手っ取り早く効率的だからに過ぎないという。存在が不確定な彼等は、『人を殺す』という修復しようのない傷跡を世界に残すことによりその存在を確定させていく。

 だが彼等は所詮不確定な存在だ。その存在が確固たるものになることは決してない。

 だからこそ、彼等は人を殺す。少しでも己の存在を高めようと、間違いなく存在している人間への怨嗟を口にしながら、虐殺をする。

 それでも、虐殺をすればするほど、存在が認知されればされるほど鬼怪の力は高まり、《アインス》の個体だとしても《ドライ》や《フィーア》に成り得る。修正現象は、鬼怪という存在が概念鎧装者以外に知られないための予防措置でもあるわけだ。

 一つとして同じ外見の鬼怪はおらず、同じ特徴の鬼怪もそうはいない。だからこそ相手のわからない特徴を無視できるようなスペックが鎧装者にはあるのだが────ブレイブリンカーはそれを軽々下回る。

 思わずネクストも『これどうなってんだよ』とか言ってしまうほどだ。

 それでも戦えてはいるのだが────かろうじて戦えているだけなのだ。

 現実は、残酷だ。ご都合主義にはならない。

 

「こんにちはー」

 

 はずなんだけど、と紫暮は頬を掻いた。

 殺風景な玄関に控えめながらも目立つ、朝出してまだ回収されていないゴミ袋。紫色という微妙な色合いの壁とミスマッチした、目に悪い赤色の屋根。間違うはずもなく、楠紫暮の自宅である。

 

 

「こーんーにーちーはー」

 

 ……その玄関で、留守確認よりも嫌がらせの方を主目的としているようにも見えるほどインターホンを連打する少女がいた。高橋名人を彷彿とさせるインターホンの十六連打は、少女の指先の確認を困難とさせる。

 少女の服装は、夏らしく白いワンピース……を着た上に何故か暑苦しい黒いコートを羽織って、後ろで纏めた髪の毛を無地のキャップに通していた。紫暮も大概だが、彼女も随分と季節感を無視した格好だ。

 

「……どうも」

「あ、どうも」

 

 アイサツをしないのはスゴイシツレイにあたるとコジキか何かの本で見たかな、と紫暮は思い出し、声をかけてみた。

 声を聞いても、紫暮が昨日鬼怪に襲われていたのを助けた少女だ。

 

「ブレイブリンカーって知ってる?」

 

 しかも、憶えていた。

 なんだこいつは、と紫暮が戦慄し、こんなお約束展開がよりにもよって紫暮にあるはずがない、とネクストが現実を疑い始めた。

 

「……きみはどこでその名前を?」

 

 質問を質問で返す。テストだったら0点だ。

 

「本人から直接」

「そっかー」

 

 脳内でブロック崩しをして、撃墜されていく脳細胞の欠片を目の裏に見つめて、寂寥感溢れる笑いを零す。

 適合者は、強い。

 適合者のくせに出力が足りなくて弱いリンカーの方がおかしいのだ。リンカーはあくまで代替品、本物(ヒーロー)が見つかるまでの繋ぎ役(リンカー)でしかない。

 僕の役目ももう終わりか、と紫暮が達観した笑みを浮かべる。勿論彼は進んで傷つく趣味はないし、ましてやバトルジャンキーなんかでもない。

 だが、自分のしてきたことがこうもあっさりと終わってしまうことが空しいだけだ。

 例えるならば、必死扱いて作ったドミノが一瞬のミスで終わってしまったような気分なのだろう。いや、ある意味では完成してから倒したのと同じだろうか。

 彼は、本来の目的を生きたまま達成できたのだから。

 だから、あくまで仮免ライダー。

 本物のヒーローではなく、その資格に手の届かない欠落者。

 

「……まあ、立ち話もなんだから、入ろうぜ。……ちょうど話もあるし」

「……エロ同人みたいな?」

 

 少女がボケなのか本気で言っているのかどうか曖昧な顔で言う。

 

「ねえよ。俺はどんな風に見られてるんだよ」

「男はみんな狼だってお婆ちゃんが言ってたから。満月見たら変身もするんでしょ?」

「しねえっつうの」

「え!?じゃああんた何者!?男に見えるけど女なの!?それともオカマ!?」

「うるせえ鍵開けるからさっさと入れ!」

 

 紫暮に首根っこを掴まれながら「ぎゃーさらわれるー」と冗談めいたトーンで家の中に連れ込まれる少女。これだけを見ると誘拐に見えなくもない。

 玄関から廊下に上がって、リビングのソファに少女を座らせる。何かぶつくさと文句が聞こえるが、聞こえないふりをした。

 

「インスタントで悪いけど」

 

 そう言いながら、紅茶を差し出す。少女は既に茶菓子にと出したクッキーを良く噛んで食べており、リスにも似た食べ方から、とりあえず不作法なのは理解できた。

 少女の向かい側の椅子に座った紫暮が話題を切り出す。

 

「……単刀直入に言うけどさ、あんたは昨日の夜、何があったか憶えているのか?」

 

 少女はしばらくもきゅもきゅと口を動かしていたが、しっかりと飲み込んでから、「ん、憶えてる。足が溶けたり、化け物に襲われたり、ヒーローに助けられたり。いやー、濃密な時間だった」あんなことを憶えていてもこうも平然と喋れるあたり、精神は

強固でヒーローには向いているかもしれない。

 

 

「それで、俺の家に来た理由はやっぱり……」

「うん、ここがブレイブリンカーの家だと思ったんだけど、合ってるよね?」

「……個人情報保護法はどこに行ったんだか」

「私の行動を法律ごときで縛れると思わないでよね!」

「いや、そこは縛られとけよ。法治国家の国民だろお前」

 

 テンポ良く繋がれる会話は、今日会ったばかりとは思えないほど。互いに人見知りをしない性格だっただけでなく、相性も良いのだろう。

 

 

「それで……えーと」

東雲愛莉(しののめあいり)、十七歳の現役JK。おっさんとは違うのだよ、おっさんとは!」

「言っておくが俺はまだ二十代前半だからな?おっさんって言うほどの歳じゃないから」

 

 ポリポリと頭を掻いて目を細める紫暮。流石にその程度で子供に対してキレるほど大人げないわけでもなく、愛莉の「おっさんじゃん」という声も受け流す。

 

「俺は楠紫暮、一応仮免ライダーをやっている」

「あ、やっぱあんたがブレイブリンカーだったんだ」

 

 と紫暮をじろじろと不躾に眺め、ついでとばかりに伸ばした右手で紅茶を飲んだ。「熱っ!」そして舌を火傷した。「ちゃんと冷やしといてよ」そして文句を言った。傍若無人と無遠慮を組み合わせればきっと彼女の形になるのではないかと紫暮は思った。

 ヒリヒリと痛む舌を外気で冷やしながら彼女は続ける。

 

「……で?そのブレイブリンカーが私に何の用?」

 

 さっきまでインターホンを連打していた人物と同じとは思えない。いや、確かに用があるのはこちらの方なのだが、尋ねてきた人が言う言葉でもないだろう。

 

 

「…………」

 

 しかし、誰かがやらなくてはならないこととは言えど、まだ若く、未来のある女の子に────例え傍若無人な奴であろうと、任せてしまって良いのだろうか。

 その未来を、命を。潰してしまって良いのだろうか。

 通常の鎧装者はリンカーよりもずっと強い。強いのだが────それでも、戦死は少なくないのだ。特に、まだ戦い慣れしていない時に《フィーア》の能力にやられたとか、《ツヴァイ》が人質を利用した、なんてのもある。

 良心云々ではなく、一人の大人として子供を戦いに巻き込むというのはどうなのだろうか。

 今まではさほど気にしていなかったことが気になりだして、疼く。

 迷いはその決意に罅を入れる。

 罅はどんなに小さなものであれ、裂け目を入れてその意思を割る。

 故に────────

 

「……そっちが尋ねて来たんだろうに。用を聞くのは俺の方だよ」

『お、おい!紫暮!』

「何だよネクスト、俺が(外見は)美少女と話してるのがそんなに意に食わんか」

 

 故に彼は、独りだけの戦いを続ける。

 

『そうじゃねえって!お前』「ああ、悪い。さっき出したお茶菓子お前のだったか。悪かったな」『……………………ああ、そうだ。気ぃ付けろよ』

 

 ネクストの本心としては、やはり彼女に鎧装者をやってほしかった。戦力的な意味だけでなく、リンカーの負担も考えて。

 先ほど、紫暮は『少女の未来を潰してしまって良いのだろうか』などと思っていたが、誰よりも未来を使い潰してしまっているのは紛れもなく紫暮本人である。

 しかも、未来を使い潰してまで行使する力は通常の鎧装者よりもずっと下。いつ死ぬかもわからない身だ。だから、彼女のことは確保しておきたかったのだが────紫暮がそれを拒否した。

 勿論、女子供を戦わせることはネクストにも抵抗感はある。

 だが、どう考えても戦闘要員のスペックではない自殺志願者の亜種(ブレイブリンカー)を戦わせておいて、戦えるスペックを秘めている女子供がその後ろで守られているというのは────どうも、気持ちが悪い。

 『人間の味方』としての概念の世界精霊の本能は彼の言うことに賛成する。大人が子供を守ることは自然だろう。男が女の子を守ることもだ。

 それでも、ネクストという個人はそれを否定したいと思う。

 それは紫暮への好感であったり感謝であったり────罪悪感から来るものだ。

 何とか騙し騙しやっているが、楠紫暮は七十までにはほぼ間違いなく死ぬ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。戦う度に血みどろになり、戦う度に命が削れていく。そんな彼をもう見たくはなかった。

 そう思っていても彼の意思は否定できない。彼を戦いに引きずり込んでしまったのは自分だ、彼の命の蝋燭を溶かしているのは自分だ。

 だからこそ、何も言えない。

 

「……その喋ってんのは?」

「変身アイテム」

『せめて相棒って言えやオラ』

 

 すまないという言葉は心の奥で溶かされ、混ざり合っていく。

 自分に出来ることは、紫暮が今すぐ死なないようにと未来を殺していくことぐらいだから。

 

 

 

 

 

 

 




多分続きます。
三人称って難しい……


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いつも何度でも繰り返す魔法少女まどか☆マギカ

これより先は『魔法少女まどか☆マギカ』のネタバレ要素が含まれています。




 

 

 

 

 

 

 001

 

 

 死ぬかと思った。

 僕じゃなかったら見逃しちゃう速度の鉄骨が落ちてきたが、間一髪回避。ワザマエ!

 心臓をドキドキとときめかせながらふはははこの戦い我々の勝利だとかふざけてたら何か降ってきた。感触的に、多分鉄骨。

 僕は死んだ。スイーツ(笑)。

 

 

 

 

 

 002

 

 

 死んでなかった。死ぬかと思ったパート2。

 と思ってたら時間が巻き戻っていた。具体的に言うと三月まで。

 ん、ああ、これはあれですな。死に戻り。結局死んでんじゃねえか。死因はあれだな、死亡フラグ建てちゃったからだな。

 気を付けないと、とか気を引き締めてる内に通り魔に刺されたぜ。

 傷口超熱い。

 

 

 

 

 

 003

 

 

 油断してた。

 死に戻ったなら世の中は死亡フラグに溢れてるよな。世界線だって収束するさ。ダイバージェンスメーターはどこだ。

 とりあえずあれだな。

 死ぬ恐怖ってやべえのな。

 …………慣れておく必要があるな。

 あいきゃんふら。

 

 

 

 

 

 004

 

 

 最後まで言わせろよ、とか思った。

 ともあれ自殺練習。

 今回はお風呂に浸かりながらね。

 

 

 

 

 

 005

 

 

 お風呂は良い。痛みは少ないし恐怖もどんどん麻痺してくし、ちょっと時間がかかるのを除けば最高の自殺手段だと思う。

 ……次は練炭かな。

 

 

 

 

 

 006

 

 

 練炭は駄目だ。あれは駄目なやつだ。

 とりあえず窒息系は僕には合わないことがわかった。同じ理由で毒ガス系も駄目かな。

 今日はナイフを使ってみよう。

 

 

 

 

 

 007

 

 

 今回はどんな自殺しようかなとか手をぷるぷるさせながら考えてたら異世界に迷い込んだ。何を言っているかわからねーと思うが現実は非情であるってことだろ。

 何か鋏持ったプリングルスのおっさんが追いかけてくるし。

 これは死んだ。

 

 

 

 

 

 008

 

 

 現状整理。

 化け物って本当にいるんですね!終わり。

 しかも何かたくさんいたんだけど、え、何?ループしてんのってあれ倒せってこと?

 無理やろ。

 ……とりあえず実験、ホームセンターで武器っぽいもの買って乗り込もう。

 突撃ー。

 

 

 

 

 

 009

 

 

 予定通り無事死亡。

 敵が多すぎた。何匹か切り離してもこちとら素人よ、一対多なんてできるかよ。

 諦めて学校行こう、化け物なんかスルー安定だぜ。

 というかこれが正解なんだ、ただの高校生に世界救うのとか戦闘力とか期待するなよ。

 そういうのは最低でもかめはめ波撃てるようになってからじゃないと。

 学校で睡眠を取っていると、平和が身に染みる。

 ……何かテロリスト来たんですけど。

 どういうことなの……。

 

 

 

 

 

 010

 

 

 予定調和のように撃ち殺された僕惨状。誤字ではない。

 学校なんか占拠してテロリストは何がしたかったんだろうか。中学二年生な誰かの妄想を叶えてあげようとしたのならふざけんな死ねと言いたい。

 やはり化け物と戦わないと殺しに来るのか……。

 いや、まだ可能性はある。ずっと家に引きこもってれば……!

 ……。

 …………。

 ……………………あれ、何もない。

 よし、僕は運命(弱)に勝った────

 

 ……スーパーセルって何さ。

 

 

 

 

 

 011

 

 

 戦わなければ生き残れない……!

 なお、戦っても普通に死ぬ模様。

 仕方ないね、僕一般人だし。

 というか僕一人殺すのに自然現象まで総動員してくるなよ。

 くそうと愚痴りつつ散歩。

 そして流れるように異世界へ飲み込まれる。知ってた。

 今度の異世界は青い空と洗濯物を干したくなる紐。

 スカートと生足が降ってきた。

 あ、化け物ってプリングルスのおっさんだけじゃないんすね。

 

 

 

 

 

 012

 

 

 蹴り殺されるのって痛い。今度からあそこには近付かないようにしよう。

 しかしながらと戦わないわけにもいかないので、神殺しの兵器と名高いチェーンソーを装備。これさえあれば無敵だな!(慢心)

 プリングルスのおっさんを輪切りにしてチップスターかポテトチップスにでもしてやろうと出かける。

 どうでもいいけどチェーンソーって旅行鞄にも入んないのね。

 以前と同じポイントで待機してると、予想通り異世界に飲み込まれた。

 ……え、どこだよここ。

 

 

 

 

 

 013

 

 

 前回は真っ黒な場所で頭がマインスイーパな犬に殺された。

 どいつがどこに出てくるとかは割とランダムですかそうですか。世の中クソだな。

 愚痴ってても仕方ないので装備を整えて散歩に。

 宝石っぽい石を掌に乗せながら彷徨いている怪しい女の子(巨乳)がいたが訓練された僕は巨乳にも狼狽えない。

 どちらかと言うと貧乳派です、はい。

 

 

 うろうろしてるとそのまま異世界へボッシュート。

 やあ、プリングルスのおっさん、会いたかったぜ。

 神殺しの兵器でおっさんをばったばったと切り伏せる。

 強いな、この装備。

 しばらく行くと羽が生えたアイスクリームがチリンチリンとか無駄に良い音を鳴らしながら突撃してきた。

 体当たりで転びそうになって、チェーンソーで脚を少し斬った。痛い。

 だが所詮は体当たり。

 威力は五十。悪足掻きと同程度。

 プリングルスのおっさんの方が鋏持ってる分まだ強い。

 順当に倒していくと「この先ボス部屋だからセーブしとけよ」みたいな扉がある。

 開けたら頭がドロドロしたナメクジがいた。こいつがボスか。

 でもこいついるのって今僕がいる高台の下。

 ……飛び降りれるか?

 覚悟を決めて、じゃんぷ。

 ぐしゃ。

 

 

 

 

 

 014

 

 

 まさかボスまで到達できないとは思わなんだ。

 何だこの糞ゲー。

 気分転換にとご近所のタツヤ君と遊んでいたら猫と兎を合成したような白い生き物を見つけた気がした。

 何だあれ、UMAか。

 ちなみにタツヤ君の描いた絵は三歳の領域を天元突破したものでした。

 きっと彼は将来芸術家になる。

 ループしてるから将来なんてないけどな!

 あ、ちなみに今回の死因はバナナの皮でした。せつね。

 

 

 

 

 

 015

 

 

 学校行きたくない。

 間違えた、異世界行きたくない。

 いくら倒してもレベルは上がらないし、秘められた力にも目覚めないし、そもそもクリアさせる気がないだろあのステージ配置は。

 というわけで今回も僕は鹿目家にお邪魔しています。

 ここ居心地が良いんだよね。タツヤ君は癒し。

 知久さんは優しいし、まどかちゃんは気を遣ってお菓子を出してくれるし、平和を実感できる環境だ。

 だから窓の外から誰かが除いてた気がするのも気のせいだろう、きっと。

 突き刺して抉るような視線なんて僕は感じなかった。

 学校行ったらテロリストに出くわした。

 やっぱ学校行きたくないわ。

 

 

 

 

 

 016

 

 

 ある朝、学校へ行こうとしたら玄関に女子中学生が立っていた。

 その胸は平坦であった。

 この町に珍しく真っ黒な髪色をした女子中学生はほむらちゃんという名前で、どうやらまどかちゃんの知り合いらしい。

 まどかちゃんとの関係性を聞いてきたから、素直にご近所さんですと答えておいた。

 五秒後、興味を無くして出て行った。

 あれがレズビアンというものか、恐ろしや。

 

 

 長らく異世界に行ってないのでそろそろテロっちゃう頃合いかなと学校をサボり、うろうろと町を散策する。

 青髪の娘が病院に行くのが見えた。

 そういえば、親友の思い人が天才バイオリニストか何かで、そいつが事故ったみたいなことを言っていたのを思い出す。

 そして毎回恒例異世界突入。

 今回の怪物はネズミっぽいけど、著作権には配慮してある見た目。

 でもこいつ弱い。素早いけど蹴っただけで倒せる。ついでに耳はどっちかって言うとスティッチ。

 あと何か周りにケーキあるケーキ。

 男という性別を有していながら甘党である僕はホイホイと食べてしまうのであった。

 毒入り……だと……?

 

 

 

 

 

 017

 

 

 まさかの毒物であった。

 道に落ちてる物を無闇に食べてはいけませんってことなんだね。

 タツヤ君家にて再び猫兎を発見、捕獲したらいくらになるかとか考えてる内に逃げられた。次は逃がさんぞ。

 バナナの皮は僕に何の恨みがあるんだ。

 

 

 

 

 

 018

 

 

 色々と疲れたので今回はスーパーセルが来るまで休むことにする。

 何事にも休息は必要だ。

 そう思って、ネットをカタカタ、ゲームをカチカチ。

 母親が引きこもりに理解のある人であったことをこれほどありがたいと思ったことはない。

 ふふふ、まだスーパーセルまでは時間があるし、たまには高い買い物をし。

 

 

 

 

 

 019

 

 

 てみよ……?

 アイエエエ!マキモドッタ!?マキモドッタナンデ!?

 あるぇー?僕死んでないよな、何で巻き戻ったん?それとも気付かない内に死んでしまったのだろうか。凄い鈍感だ。

 まあきっと、「安心しろ、痛みを感じる暇はない……」みたいな奴に殺されたと考えるのが妥当だろう。ひゅう、仕事人。

 

 今回もほむらちゃんが来た。二回目だ。

 レアイベントだぜひゃっはーとか思っていると、彼女が若干やつれていることに気が付く。

 まどかに近付かない方がいいわとか何とか言ってきたけど、何かふらふらしてたので、栄養失調だと見て飯を食っていくことを条件にした。

 小声でお礼を言ってきたあたり、悪いレズビアンではないのかもしれない。

 

 はいはい異世界異世界。おのれディケイド。

 今回は生足の世界。

 生足は無駄に美脚で眼福ではあるが、蹴り殺されるのって痛いんだよなあ。

 消えていく意識の途中でコスプレ少女を見た。

 プリキュアかな?

 

 

 

 

 

 020

 

 

 プリキュア……そういうのもあるのか。

 何だ別に僕何も倒さなくてもいいじゃん!

 ……とはならない。何故なら戦わなければ世界規模で僕を殺しに来るから。

 やっぱ世の中クソだな。

 叫んでみたら戸棚の上の置物が落ちてきて僕は死んだ。

 マルグリットオオオオオオオ!

 

 

 

 

 

 021

 

 

 やっぱ世界を馬鹿にするのっていくないわ。

 ほら、こう、あれだよ。

 やり直しをさせてもらってる立場だからもう少し敬意を払おうとかそんな感じ。

 べ、別にギャグみたいな理由で死ぬのが怖いわけじゃないんだからねっ!

 ……いや、やっぱバナナの皮で死ぬのは怖いわ。

 

 そしてこのテロである。

 いやーもう慣れましたわ(笑)。

 今回もこれかよと思いながらぼーっとして縛られる。

 三十分後くらいかな、射殺されんの。

 窓の外から猫兎がこっちを見ているのが見えた。未確認生物を逃がさないという決意から思わず立ち上がる。

 ちょうどいいとばかりに人質にされた。

 これは新しいパターンですよ猿渡さん!結末は変わらんがな!

 と思ったらバナナの皮で御座ったか。

 猫兎はもしかしたらバナナの皮の精なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 022

 

 

 猫兎はもう駄目だ。

 あれは見てはいけないものだったんだ。見たら最後、バナナの皮で死ぬことになる。

 それはそれとして癒しを求めて鹿目家へ。

 キャータツヤクーン。

 お茶菓子を貪り食っていると、まどかちゃんの肩に猫兎が乗っているのが見えた。

 ────バナナの皮に殺される!?

 既に「覚悟」してきている僕は素早くポケットから果物ナイフを取り出し、戸惑うまどかちゃんをよそに、自害せよランサーとばかりに綺麗に喉を突いた。

 そして倒れるように絶命。

 ああ、僕は運命(バナナの皮)に勝ったんだ────!

 ────僕は一体何と戦っていたんだ……。

 

 

 

 

 

 023

 

 

 僕は正気に戻った。いやマジで。

 何回も死んでるから目的意識が曖昧になってきるのかもわからんね。

 そして颯爽とほむらちゃん参上。

 目に涙を溜めて、何か言いたげに唇を噛みながら無言でこちらを睨んできた。

 何か怖かったので、ご飯を食べさせてお帰り頂いた。

 ご飯食べてる時もこっちを恨みがましげに睨んできてた。

 何あれ超怖い。レズビアン超怖い。

 きっと「私のまどかに近付くんじゃねえよ」とか思ってる目だよあれは。

 

 

 久しぶりにプリングルスのおっさんの世界に行く。

 十三日の金曜日な武器を持ってけばボス部屋までは楽に行けるけど、ボスと戦うまでにやっぱり潰れて死ぬことが再確認できた。

 次は遠距離武器が欲しいなあ。

 

 

 

 

 

 024

 

 

 散歩をしている最中にまどかちゃんに出会ったのでそのまま一緒に行動してみた。

 そしてまどかちゃん共々異世界に飲み込まれる。ここまでテンプレ。

 まどかちゃんが結界だとか魔女が何だとか言いだした。

 ……うん、中学生だしね、これくらいはね。

 

 ちなみに今回の怪物は人の形。下書きっぽい線が色々描いてある。

 とりあえずチェーンソーを荷物から取り出してヒャッハー。

 あら弱いぞこいつら。バッサバッサと倒せるぜ。

 まどかちゃんがドン引きしているような気がするがきっと気のせいだろう。

 

 何か地面からバリバリって門が出てきた。こいつがボスか。

 こいつが出てきたからかはわからないが、少女の声が聞こえた。

 こいつ、頭の中に直接……!

 だからといってどうということはなく、普通に門にチェーンソーをバリバリする。あんま効いてない感じ?まあ門だしな、硬いわな。

 根気良くギャルグガガガガと削っていると、雑魚が門から登場。

 悪・即・斬。

 ひゃっはーこいつ弱いぜ、作業ゲーだぜ。

 暇なので床とか見てると気になる発見が。

 あ、ゲルニカじゃんこれ。

 門からロケットパンチが飛び出してきた件について。

 

 

 

 

 

 024

 

 

 甘かった。

 ボスが何の必殺技も用意してないわけがな……うん?

 ここどこだよ、僕の部屋じゃないぜ。

 まどかちゃん、何さそのコスプレ。プリキュア?

 そしてその足下にいるのはバナナの皮の精。

 躊躇無く自決を決行。

 やっぱ目撃者がいるならバナナより自決の方が栄えるよね。

 

 

 

 

 

 025

 

 

 まったく、さっきのは何だったんだ。バグ?

 まあ、ちゃんと僕の部屋に戻ってきたし、さっきのは気にしないどくか。まどかちゃんがプリキュアだったってのも、何かの勘違いだろきっと。

 前回僕が戦ってるのをドン引きしながら黙って見てるだけだったし、戦闘能力はないなきっと。きっとかっと。

 その点トッポってすげえよな最後までチョコたっぷりだもんとか言ってたらほむらちゃん襲来。

 レアイベントにしては最近頻度が多い気がする。

 運が向いてきたのかな?

 いつものように何かを堪えるように自己紹介をした後、「あなたがいなくなって悲しむ人もいるのよ」的なことを語り出した。

 よくわかんなかったからとりあえず、帰ろうとする彼女を引き留めて恒例行事となった飯食ってけを発動。

 居心地が悪そうに黙々とご飯を食べるほむらちゃんが可愛かったです。

 

 ある日散歩をしていると例の如く異世界に突入。

 マネキンがくるくる回ってたからもしかしたら異世界じゃなくブティックかもしれなかった。

 敵キャラが見つからない。

 仕方ないのでチェーンソーでマネキンを破壊しながら進む。

 ひゃっはー。

 

 

 しばらく行ったらピンクアフロな犬がいた。

 パッションに溢れている。

 でかいし、多分こいつがボスなんだろうけど、何か気になる。

 何だろ、すっげー気になる。

 やっべ、超気になる。

 何だろう……何ていうか……。

 そう、あえて言うなら、これが友情……?

 でも殺しちゃう。慈悲はない。

 チェーンソーでぶった斬ると、素直に真っ二つになった。

 え、終わり?

 

 初めて異世界から帰還した。スコア1である。

 なんか後ろには青髪のコスプレ少女がいた。きっとプリキュアだろう。

 あ、でもプリキュアって剣使うの?マジかよ幻滅しました那珂ちゃんのファンやめます。

 ……ん、何か精神ヤバげな感じ?

 とりあえず飯だな、飯。美味い飯食えばなんとかなるって名前を懸けたくなるほど名探偵だったじっちゃんも言ってた。

 抵抗する青髪の娘をうるせー飯食わせんぞと家に連れ込む。

 人助けのためだからきっと犯罪ではないはず。

 

 

 話を聞くと、彼女はさやかちゃんという名前で、何か尽くしてきた幼馴染みが親友に寝取られたらしい。

 いや、寝取られてない。付き合うどころか告白もしてないらしい。

 でも相手の男もアレだよね、王様なみに人の心がわかってない。

 そういう時は隠さず罵倒すればええんやで。

 言ったら見返りを期待してやったと思いたくないだの正しくないことはしたくないだのうるさかったので冷蔵庫から取り出した母親の酒を彼女の口内に投入した。

 度数を見ると三十ジャスト。

 愚痴や罵倒がうるさかったのでまどかちゃんに引き取ってもらった。

 というか、まどかちゃんの親友ってさやかちゃんだったのか。

 ちなみに、酒についてはなんとか誤魔化した。

 

 そして午前一時半タンスの角に指をぶつけてそこから華麗に決まる連撃に対応できず無事死亡。

 

 

 

 

 

 026

 

 

 ボス殺しても意味ねえじゃん。

 結局死ぬんじゃねえかよ。

 ……あれ、よくよく考えたら後で生き返るんだし死んでも良くない?

 だって擬似的な不老不死ですよプロデューサーさん。

 未来がないのだってぶっちゃけもう諦めは付くし。

 もう働かなくていいんですね、やったー!

 はい、ちゃんと異世界に出社しますからタンスはやめてください……。

 

 

 

 

 

 027

 

 

 世界の殺意がヤバすぎる。

 考えてみれば、タンスでもバナナでもテロリストでもスーパーセルでも殺しに来るって何だよ、意識(サツイ)高すぎるだろ。

 

 

 散歩をしていたら石を投げられている民家を発見。

 これこれやめておきなさいと小僧共に金を握らせて浦島な気持ちに浸った。

 問題は金を握らせても約一名抵抗したことだったが、レッツチェーンソー。

 やはり話すとわかってもらえるようだった。

 いいことをすると気持ちが良い。

 

 

 良い気分で帰ろうとしたら女の子の声に呼び止められた。

 黒髪ショートカットの……また女子中学生か。

 どうやらここは彼女の大事な人の家だったらしく、何か凄い感謝されてなし崩し的にお茶することになった。

 最近、女子中学生と食事を共にすることが多い。

 

 

 そして何かよくわからんうちに愛を語られた。

 よくわかんなかったので「うん、そうだね」と適当に合わせておいた。

 そしたら呼び名が恩人から友人になった。

 若干ランクダウンした気がしないでもない。

 ちなみに名前はキリカちゃんって言うらしい。

 今度夕食に誘ってみてもいいかもしれない。

 新しいメニューを考えておこう。

 

 懐かしのプリングルスのおっさんである。

 回数を重ねる毎に熟練していった僕のチェーンソー捌きを見るがいい!

 うん、調子に乗るのいくないね。

 

 

 

 

 

 028

 

 

 まさか雑魚キャラに殺られるとは……。

 慢心、ダメ、ゼッタイ。

 癒しを求めに鹿目家に行ったら猫兎と遭遇。こいついつでもここにいるのね。

 即座にポケットからナイフを取り出し自害せ……。

 自害が遅れた……だと……?

 

 

 

 

 

 029

 

 

 いや違う、自害が遅れたんじゃない、バナナが早くなったんだ。

 そっかーバナナの皮も進化するのかー。

 ……するのか?

 

 久しぶりのほむらちゃんイベント。

 飯を食わせていくまでがテンプレ。

 だがここで異常事態発生。

 ほむらちゃんが「泊まる場所がないから泊まっていってもいいか」なんて聞いてきやがった。

 思わずいいと答えてしまった。

 僕は一体何をやっているのだろうか……。

 

 寝てたら僕の布団に潜り込んできやがった。

 いや、まさかな……とか思ってたら寝顔には涙の跡が。

 ……うん、何か辛いことでもあったんだろ。

 女子中学生が泊まる場所ないなんだよく考えたら相当なことだし。

 とりあえず、寝てる彼女の頭を撫でておいた。

 

 そしてほむらちゃんが我が家に入り浸り、母親に見つかって生暖かい視線に晒された。そういう関係じゃないんだけどなあ。

 

 ちなみに今回の死因は鉄骨。

 何気に一回目以来じゃないかね。

 

 

 

 

 

 030

 

 

 ほむらちゃんイベント再び。

 周回で何らかのイベントフラグを建てたり周を重ねる毎に何らかの欠片が集まったりしてるからか、今回もほむらちゃんは泊まってくことになった。

 若干依存の兆候が見られるのが不安だけど、多分大丈夫だろう。

 死亡リセットもあるし。

 

 散歩にたまにほむらちゃんが付いてくるようになった。

 どうでもいいけど制服着たまま付いてくるのは通報されかねないからちょっとやめてほしい。

 

 

 ハロー異世界、グッバイ僕。

 よりにもよってプリングルス世界であった。

 僕がチェーンソーでアバレンジャーしているとほむらちゃんが瞬く間に変身、瞬間移動でおっさんに風穴を空けていく。

 ほむらちゃん、プリキュアだったのか。

 

 彼女が言うには、プリキュアじゃなくて魔法少女らしい。違いがわからん。

 そしてここは異世界ではなく魔女の結界らしい。

 ……女?

 

 チェーンソーバリバリー。

 拳銃ババババン。

 恐ろしいまでの効率に早くもボス部屋に到着。

 そしてほむらちゃん落下、着地、無傷。

 僕の今までの苦労は何だったのか。

 とろけるナメクジを弾けるパイナップルと機銃でボコる。

 アワレとろけるナメクジは反応できずにネギトロめいた死体となった。コワイ!

 ……最近の魔法少女って銃器メインなんだなあ……。

 

 今日も生き残ったと思ったら通り魔にバッサリ。

 ほむらちゃんの泣き顔が印象的でした。

 ドラゴンボールで生き返るんだからそんなに泣かなくてもいいんじゃよ?

 

 

 

 

 

 031

 

 

 ううむ、死なない方法ってないのか……。

 ないよな。

 やっぱ世界ってクソだわ。

 叫んでたら階段から落ちた。

 まるで成長していない……。

 

 

 

 

 

 032

 

 

 ほむらちゃんが来ない。

 フラグ建てて欠片集めたんじゃなかったのか池田ァ!

 まあ、ランダムイベントと思って諦めよう。

 そもそもこの世界線では面識すらないわけだし、まどかちゃんのお隣さんということで顔くらいは知っててもおかしくないけどさ。

 

 鹿目家突撃からの流れるような猫兎。

 だが今までの僕とはわけが違う。

 バナナで滑る前にジャンプして、空中でナイフを取り出し、殺られる前に突き刺すッ!

 勝ったッ!ループ完!

 もう一匹出てきたんですけど……。

 

 

 

 

 

 033

 

 

 あいつ何匹もいるのかよ……。

 勝てる気がしない。

 やっぱ戦いとか駄目だな、うん。

 平和主義に目覚めたということにしておいて引きこもろう。

 いや、ほんとごめんなさい。次は会社行きますんでタンスやめてもらえますか。

 

 

 

 

 

 034

 

 

 よくあるループものなら主人公はどんどん強化されてくのに、強化どころか成長さえしないって何だこれ壊れてんじゃねえの。

 世の中クソだなって言いそうになったが流石に学習する。

 

 ふと窓から外を見るとほむらちゃんが泣きそうな表情でこちらを凝視していた。

 そして逃げていった。何ぞ。

 ……ああ、まどかちゃんか。

 タツヤ君と遊びにたまに鹿目家には行ってるからな。

 盗られないか心配だったんだろう。

 んー、でも仲良くなった娘がこっちをほぼ知らないってのはわりと堪える。

 きっついなー。

 

 同じ理由でなんとなくキリカちゃんのとこも行きにくい。

 さやかちゃん?どこに住んでるのか知らん。

 だから鹿目家へ行く。

 猫兎に会うリスクがあろうとも、それでも求めたい癒しがあるんだ────!

 だからと言って猫兎に会いたいわけではない。

 だから出てくんな。

 

 

 

 

 

 035

 

 

 危なかった、バナナの皮に先を越される所だった。

 自害が間に合って良かった……いや良くないけどさ。

 

 鹿目家は危険だ。

 仕方がないからキリカちゃんのとこで浦島ごっこでもしよう。

 浦島ロールプレイをしてたら今度はキリカちゃんじゃなく白髪の女の子が出てきた。

 ……まあ、若いのに家に石とか投げられてたらストレスも溜まるよな。

 というか、何で石投げられてんだろ。いじめ?

 塀に書かれている落書きを見る。

 汚職議員……?なるほどなー。  

 

 女子中学生と食事を共にするのは運命なのかと思ってしまう今日このごろ。

 キリカちゃんとお茶した時よりもちょっとオサレな喫茶店。

 そこで僕は若白髪ちゃん、美国オリコちゃんと言うらしいが、彼女と通常の三倍くらいオサレな感じにお茶をした。

 フレンチトーストとか頼んでしまった。

 

 取り留めもないことを話した。

 あと、彼女は宗教に興味があるのか、世界の終わりがうんたらかんたら言ってた。

 八割聞き流した。

 よくわかんないけど慰めといたら決意を固めたっぽく目を伏せていた。

 なんだろね。

 

 テロが起きた。

 いや、僕の学校じゃなく。

 学校サボって散歩してる途中にほむらちゃんの通ってる中学校からちゅどんばきゅんと異音が聞こえるので寄ってみる。

 

 あら異世界。

 だがチェーンソーだ。

 障害を気にせず進んでいく。

 

 多分最奥に到達する。

 とりあえず見えるものを確認した。

 何か叫んでるほむらちゃんに。

 赤帽子とピッチリスーツの怪物に。

 

 

 ……オリコちゃん、殺人は駄目でしょうに。

 

 

 

 

 

 036

 

 

 うむう、知り合いがテトリストだったというのは些か気分が良くない。

 テロの被害者がお隣さんだったということも僕のテンションダウンに拍車をかけていた。

 ついでに言うと、新鮮な死体見たの初めてかもしれない。

 トイレで少しだけ胃液を戻した。

 

 鹿目家はバナナ。

 美国家はテロリスト。

 ほむらちゃんは来ない。

 こうなると心情的にも引きこもるしかないわけで。

 

 スーパーセルが来た。

 どうせなら大自然の雄大さを感じて死のうと思い、外に出る。

 

 ああ。

 

 周りには炎、回転する歯車。

 逆さの胴体、頭を廻る笑い声。

 

 そうか────あれがラスボスか。

 

 

 

 

 

 037

 

 

 倒せる気がしない。

 だってでかいし、巨大だし、ビッグだもん、あれ。

 だからといって現状を甘受するとタンスが飛んでくる。

 何これ無理ゲー。

 ちなみに今回の死因はテロリスト。

 気が動転してて引き際を間違えたね。

 

 

 

 

 

 038

 

 

 あーもー何もやる気が起きねひでぶ。

 

 

 

 

 

 039

 

 

 叫ばず小声で言っても反応するのか。

 ちょっとボーダー緩すぎじゃありませんかねえ……。

 落ち込んでたらインターホンの音。

 ほむらちゃんか!と喜び勇んで行ってみたらまどかちゃんだった。

 がっかりするわけじゃないけど、ついこの間殺されてた相手の顔見るってのは変な気分になる。

 ……立ち話も何だし、とりあえず、飯食ってく?

 

 話を聞くと、キュウべえとかいう喋る動物と契約すると魔法少女になるそうだ。

 魔法少女ってのは願いと引き替えに一生戦うらしい。

 戦いたくなきゃやめときゃいいんじゃないの?

 そう言ったら複雑な顔をされた。

 解せぬ。

 

 とか思ってたら猫兎出現。

 流れるように自殺を決行……できないだと!?止められた!?

 あ、ほむらちゃんちーっす。

 何でここにいんの?

 ほむらちゃんに泣きながら怒られた。

 どうしていつもいつも命を大事にしないのとか言われた。

 解せーぬ。

 

 足下確認、バナナ無し。どうなってやがる!?

 慌てる僕に猫兎が喋る。

 ようやく接触することができたよ。

 お前、喋れるんだ。

 でも不吉だからとりあえず殺しておくことにした。

 バナナの皮の精だからね、仕方ないね。

 

 殺したら増えた。

 何を言ってるのか以下略だと思うが以下略。

 そして二体目の猫兎は一体目の死体を食べ始めた。

 キモいので殺しておいた。

 そしたら増えた。

 以下略。

 

 気が付いたらまどかちゃんがドン引いていた。

 ほむらちゃんも冷めた目で見ていた。

 やめて、僕をそんな目で見ないで!

 と、別段マゾに目覚めるわけでもなく普通に羞恥が上回る。

 なんだかなー。

 真剣にドミノで遊んでたとこ見られた気分。

 

 なんかよくわかんないけどこの猫兎がキュウべえとかいう動物らしい。

 バナナの皮の精でもないらしい。

 じゃあ今までのバナナとは一体……?

 そうか、バナナの皮とは、つまり……!

 つまり、何だろう。

 

 詳しいことは外で話そうということになり、家を出るとバナナだった。

 まさか、時間差攻撃とは……。

 

 

 

 

 

 040

 

 

 もう面倒だから逃げることにした。

 電車に乗って心地良い揺れに眠くなる。

 事故った。

 知ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何度でも繰り返す。

 きっと最良の終わり方があるはず。

 きっと最高の終わり方があるはず。

 何度でも繰り返した私の心は摩耗して擦り切れて消えてしまったけれど、ほんな一欠片くらいは残っているに違いない。

 だって、こんなにも愛しい。

 彼の心が欲しいと言わないし、彼に愛を伝えたいとも思わない。

 だから私は見ているだけでも構わない。

 「最良」があるのだと、「最高」が確かに存在するのだと、それさえ知ることができればいい。

 それを見る為だけに繰り返す。

 ああ、また駄目だった。

 心の中が絶望の色に彩られる。

 もう駄目なのではないかと諦めかけて、頭の中を怨嗟と呪詛が駆け巡る。

 けれども私はすぐにまた続きを見始める。

 微かに残る「私」の残滓から、きっと私が異常なのだろうということはわかる。

 だがそれも愛故にだ。

 私が気にするほどのことでもないだろう。

 私が例えどんな存在だったとして、私の彼への愛は変わらない。

 彼が私をどう思おうとも、私の彼への愛は変わらない。

 ああ、また駄目だった。

 もう一度。

 ああ、また駄目。

 もう一度。

 もう一度。

 もう一度。 

 もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。

 

 ああ、また駄目だった。

 けれどもきっと「最良」の終わり方に近付いている。  

 そうだ、頑張っている彼に手紙を書いてみよう。

 そうと決まったら文面はいくらでも思い浮かぶ。

 でも、ここでは一言だけ。

 

 

「 また会う日を楽しみに

 

             From Homulilly 」

 

 

 いつか、彼が「最高」を見せてくれることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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