東京喰種√S (torachin)
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終わりの始まり編
激戦、そして


「……ここはV14。ここから先、《喰種》を通す事は出来ない。君は……」

 

そう言うと、有馬は黒のアタッシュケースのクインケ《ナルカミ》を展開させる。有馬が持つクインケの一つ、赫子にも関わらずまるで雷のような形状をしている。

 

「14(これ)以上進めない」

 

左目を貫かれ、大ダメージを負った僕は有馬に対して恐怖以外の感情を抱く事が出来なかった。その瞬間、僕の頭の中にはある考えしか頭に浮かばなかった。

 

 

 

(逃げよう……逃げるしかない!)

 

 

 

このまま突っ込んでも殺されるだけだ。店長を助けるためにも今は……今だけは逃げるしかない!

 

「はじれ…」

 

僕は有馬を攪乱させようと走った。その速度は常人ならついて来れない筈のスピードだ。

 

しかし、有馬はそれに容易く対処した。ナルカミが再び起動し、命を容易に刈り取るであろう雷が僕を襲う。

 

「っあああああああああ!!!!」

 

かろうじて体をひねり、これを回避する。雷は僕の背中をかすめた。かすめただけ……にも関わらず背中に鋭い痛みが走る。傷口からは血は流れていない。僕の治癒力? いや、治癒力のおかげならダメージは0に等しいはず。

 

視線を動かすと傷口が熱で焼けていた。かすめただけでコレ、危うく死ぬ所だった。その一つの状況がより僕を恐怖へと陥れた。

 

逃げる事すらこの人の前では無理なのか? いや、まだだ!

 

「……ありまぁあああああああ!」

 

走って駄目なら、赫子でクインケを壊す! 相手は人間だ、そうすれば……!

 

 

1,2,3…………

 

 

4本ッ!!

 

 

出現させた4本の赫子を巧みに動かし、ナルカミの動きをまずは封じる。そしてその後、ナルカミを破壊すればいい!

 

が、僕の怒涛の攻撃は有馬に容易く避けられる。

 

「!?」

 

クインケで防ぐ必要も……ないってことか!?

 

「………………」

 

有馬は無言でナルカミをこちらに向けた。攻撃モーションに入ったままの僕はその攻撃を容易に躱した有馬からすれば格好の的。

 

一瞬だった。『ドッ』という鈍い音が三連続で聞こえ、そして遅れてやってきた痛みが僕の腹部を襲った。

 

「ゲハッ!!!」

 

雷は僕の腹を3カ所貫いていた。あまりのダメージでその場に倒れてしまう。 

 

僕は…死ぬのか? ここまでか…………

 

 

『カネキ!』

 

 

「!!!」

 

頭の中でみんなの声がした。

 

 

…………トーカちゃん……ヒデ、ヒナミちゃん、ヨモさん、店長、皆…………

 

そうだ、帰るんだ。店長を助けて、店をやり直して、またあそこに集まって楽しい日々を取り戻すんだ。死ぬわけにはいかないんだ。

 

 

けど、だからといって……ただ逃げても捕まるだけだ。この人に全力でぶつかるしか……

 

 

 

暴走したっていい。僕を傷つけてもいい。

 

 

だから、もう一度僕に力を貸してください……

 

 

「リゼさん」

 

パキッ

 

 

 

 

「……ムカデ、か」

 

暴走する喰種の力にすべてを委ねたカネキは、半赫者となり有馬をじっと見つめる。

 

「だ…だる…ま……だ…だりま…………」

 

既に正気を失っているカネキに敵味方の区別はつかない。それでも本能が叫ぶのだろう。目の前にいる有馬を無視するという選択肢はなく敵と見なし、臨戦態勢にはいっている。

 

「これで最後だ。来たまえ、カネキケン」

 

「有馬ぁあああああああ貴将ぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

カネキの不気味な赫子が有馬を襲う。が、有馬の目の前に現れた『何か』がそれを防いだ。有馬が所有するもう一つのクインケ《IXA》だ。ナルカミを有馬が持つ矛というならば、IXAは有馬が持つ盾だった。しかし……

 

「……!」

 

IXAの防御壁にヒビが入ったのを有馬は見過ごさなかった。ただ本能の赴くままに戦うカネキはそれに気づいてはいないだろう。カネキは構わず攻撃を続ける。

 

「ああああああああああああ!!!! ま…ままままま……まだ戦えるっ、戦えるううううううううう!!!!!」

 

「…………」(このままだとIXAが砕かれる。やむを得まい)

 

有馬はIXAの隙間からナルカミを突き出した。一点に集約されたエネルギーはIXAを砕こうと攻撃を集中させているカネキの視界には入っていなかった。

 

「カネキくん、サヨナラだ」

 

バチチチチチチチ!!!

 

激しく鋭い音を立てながらナルカミから発せられたその音は伸びていきカネキの耳に届く。と、同時にナルカミから発せられた雷は再びカネキを今度はしっかりと確実に全身を貫くのだった。

 

「ぐへあ!!!」

 

意識が一気に奪われそうになる。だがそうなる前にカウンター……出来なかった。一瞬の攻撃でカネキの全ての赫子は切り落とされていた。

 

「あ……ああ…ああああぁ…………………」

 

何も出来ないまま、あの男の前で無力のまま、薄れゆく意識の中にいるあの笑顔全てに謝りながら、カネキは水の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「トーカ、ここで少し休むぞ」

 

「…………」

 

トーカと四方は人目のつかない川辺で夜を過ごしていた。20区が立ち入り禁止となってからもう4時間である。他の仲間がどうなったかも分からないままここまで逃げてきて、トーカは仲間が心配で仕方が無かった。特に……

 

「また…一人で突っ込んでないわよね……バカカネキ…」

 

トーカが一人で川を見つめている中、四方は火をおこしていた。そこらからかき集めた落ち葉や枝をまとめて、持っていたマッチで火をつける。辺りはさっきまで、真っ暗だった川も流れてくる木やゴミが見えるほど明るくなった。

 

トーカはそれを気にする事無く、ただずっと川を見つめてる。その間、トーカの中の時間は止まっていた。何も考えず、何も感じず……

 

「……っ! え…………?」

 

が、トーカはそれを目にした瞬間立ち上がった。そして目を凝らすと、黒い服を身にまとった誰かが川から流れてきた。そしてそこから漂う匂いは……鉄臭い血の匂い。

 

「!」

 

トーカは迷わず川に飛び込んだ。

 

「!? おい、トーカ!」

 

四方の声など耳に届かず、泳ぎ続け、流れてきた男性の腕をつかんだ。そして、そのままその男の腕を強引に引っ張って岸まで戻る。

 

「ぷはっ! ハアハアハアハア……」

 

岸に上がり、彼の手首の脈を測る。……生きてる。それだけでもう一安心だ。そしてトーカは彼の髪を拭いてやり、顔も拭こうと、彼を仰向けにしてやり……

 

 

「え……?」

 

驚愕した。何故なら、左目は無いとはいえ、その白髪に整った髪に顔は間違いなく……

 

 

 

「カネキ………?」




感想、意見、お待ちしています


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目覚め

「う…うん………?」

 

ここは……僕は……そうだ、あそこで戦っていて……あれ? それにしては寝心地が良い……寝心地? ここは? 何が? どうなって?

 

何がどうなっているか分からず目を開けてみる。すると電灯の明かりが目に入り、思わず眩しくて目を細めてしまう。電灯……あそこにそんなものあったっけ?

 

上半身だけ起こして辺りを見渡してみる。そこでようやくここが部屋の仕組みからしてホテルの一室ということを理解する。

 

僕……生きてたんだ。

 

体の節々が痛み、口の中は甘い血の味がする。左目もなんだか熱くて、視界もぼやけている。

 

でも何故だろう……起きたばかりだからか、誰と戦っていたのかその結末はどうなったのか、どうして僕がここにいるのか理解できない。

 

「僕は…一体……」

 

「カネキ!?」

 

「!」

 

声のした方を振り向くと、そこには思いがけもしない人がいた。

 

「と……トーカちゃん!?」

 

トーカちゃんに会うのは僕が最後に『あんていく』に戻った日以来だ。トーカちゃんがこっちに向かって歩いてくる。

 

そして、ただでさえ混乱しているというのに、この後、僕はさらに混乱する事になった。

 

ぎゅっ

 

「え!?」

 

トーカちゃんは僕を抱きしめてきた。

 

「馬鹿、また無茶して……」

 

「………………」

 

ああ……そうだ、僕は店長を助けに行ったんだっけ。ぼーっとしていた頭がだんだん覚めてきた。記憶の最後は僕が『あの人(リゼさん)』の力を借りた所で途切れている。

 

「いつも一人でどうにかしようと……あんたのそういうとこ嫌い」

 

そうか。トーカちゃん、僕のことずっと心配してくれていたんだ。迷惑かけてばかりいる僕の事を……思えば、あんていくを抜ける前も抜けた後もトーカちゃんに迷惑かける事が多かったな。

 

「ごめんね、トーカちゃん」

 

僕はどうしたらいいか分からなかったけど、震えてるトーカちゃんを抱きしめ返した。すると一瞬、ビクリとトーカちゃんは震えたけどすぐに強く抱きしめてきた。これでいい……のかな?

 

「…………お前ら、目が覚めて早々何やってるんだ?」

 

「「!?」」

 

再び声のする方を振り向くと、そこには

 

「よ……ヨモさん!?」

 

僕は驚きのあまり変な声を上げてしまう。

 

「で、俺はどうすればいいんだ? お前が起きた事に驚けばいいのか? それともさっきの状況について驚けばいいか?」

 

「…………」

 

トーカちゃん、顔真っ赤だ。まぁ、それも仕方ないかな。多分、僕も今そんな感じだから。

 

って…………

 

「あ……あの、ここは?」

 

「……とりあえず話は飯を食ってからだ」

 

 

 

 

 

その後、僕たちは食事を済まし(当然だがホテルのレストランには行かず、ヨモさんが手に入れてきた人肉)、ホテルの部屋でゆっくりと時間を過ごす。誰も口を開こうとしない。

 

まず……何で3人だけ? 他の皆は?

 

どうして彼らは僕に説明してくれないんだ? その理由を僕は予想できた。だからこそ先程から沈黙を保っているのだ。だが、それじゃダメだ……

 

「ヨモさん……店長は?」

 

ヨモさんは黙って新聞を閉じ、しばらく沈黙した後、答えた。

 

「さらわれた」

 

「だ……誰に?」

 

「《隻眼の梟》だ」

 

「ッ!?」

 

予想は……的中した。そんな……じゃあ僕の頑張りは何だったんだ? せっかく死にそうになりながらも戦ったのに……あっ!

 

「じ…じゃあ、古間さんは! 入見さんは?」

 

「分からん。が、多分あの状況の中じゃ……お前だって生きているのが不思議な状況だぞ」

 

そうか……僕はその場をゆっくりと立ち上がる。

 

「どこへ行く?」

 

「…………街の方に。情報を集めてきます」

 

 

 

 

 

「あいつ、また一人で突っ込む気だぞ」

 

「!」

 

四方の確率の高い一言にトーカは反応する。確かに放っておけば、カネキはまたCCGだろうとアオギリだろうと乗り込んでいくだろう。

 

「研はいつも誰かを救おうと自分を犠牲にしている……そんな生き方、誰一人望んでないのにな」

 

「……カネキにも言ったんですけど、カネキはきっと私たちのためでもあるけど、自分のためにも戦ってるんです」

 

「?」

 

「親を失って、一人になって、仲間が出来て……また一人になるのが怖かったんだと思う。だから……あいつは強いんだ」

 

四方は黙ってトーカの話を聞いていた。そして、少し考えてからトーカを見つめて話し始めた。

 

「俺は最初、店長に言われてカネキを見てきた。そうやって見ていくうちに俺はカネキの動きが気になって仕方が無かった。あいつはいつだって誰かのために戦わなくちゃいけなかった。だがカネキのために力になってやれることはなかった」

 

 

「だけど、お前ならカネキを救ってやれる。きっと今いるメンバーの中でカネキとうまく話せるのは俺でも西尾でも誰でもない。お前だけなんだ」

 

「!」




中途半端ですがここで終わりますw 
四方さんって、相手の名前を呼ぶ時どうなんですかね?
『研』と『トーカ』、『ウタ』くらいしか分からんww
ぜひ、教えてください。


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新たな道

20区

 

「…………」

 

「おい、『あんていく』って知ってるか? あそこ喰種がやっていた店らしいぜ」

 

「マジで!? それでそいつらは駆逐されたのか?」

 

「いや、何か行方不明らしいぜ」

 

 

 

 

「隻眼じゃない《梟》、あの隻眼の梟にさらわれたんだとよ」

 

「えー! 梟ってどっちも強いよね? 戦ったら目立つよね。いつそんなことが?」

 

「いや、この間の……」

 

 

 

 

情報を調べに色んな所に行ったけど、古間さんと入見さんの行方は結局分からなかった。だけど、どこでもあんていくの話題や店長が隻眼の梟にさらわれた話題で持ち切りだった。

 

こんな筈じゃなかった。もちろん、店長を助ける事は簡単じゃないと分かっていた。でも、ここまでたくさんの仲間を失うとは……誰一人助けられないとは思わなかった。

 

僕は…僕はこれからどうすれば……

 

急に目の前の景色がボンヤリとし始めた。何も考えられない……ただ大切なものを失ったことによる喪失感だけが僕の中で満たされていく。

 

「カネキ!」

 

「!」

 

振り返るとトーカちゃんがいた。……同じだ。あの日と同じ横断橋、あの日と同じ夕暮れ、この前と全く同じ状況だ。

 

「………………」

 

「………………」

 

無言の状態が続く。どう話しかけようか考えてしまう。

 

…違う。……違う違う。

 

頭の中で思いつくだけの話しかけ方を挙げてみるがどれも違う。なんて言えばいいか……分からなかった。

 

『……トーカちゃん。…《あんていく》で店長と話したよ』

 

あの時はこう言ったんだったな。その後、店長が自分の過去を話してくれたこと、戻ってこいと言われたことをトーカちゃんに伝えた。「それで?」と聞かれて「分からない」と答えた。

 

同じだ。どうすればいいか僕はもう……

 

「……あんたはこれからどうするの?」

 

そう考え込んでいるとトーカちゃんが僕の悩みを見透かしたかのようにそう質問した。答えはーー

 

「……分からない。だけど店長についての情報をもっと集めて、もっと力をつけて、そして……」

 

「店長のために戦う?」

 

「うん。僕はもう誰も失いたくないから」

 

もう僕にはこれしかなかった。そんな僕の答えを聞いてトーカちゃんの顔が歪んだ。

 

「でも……」

 

「分かってる。これは店長のためじゃない。僕の……ただの自己満足にすぎないよ。だからこそ、誰にも僕は止められない」

 

親指で人差し指の関節を鳴らす。

 

バキッ

 

この時の音は心無しか、いつもより不気味に聞こえた。

 

「……四方さんに伝えておいて。ホテルで淹れてくれたコーヒー、美味しかったですって」

 

僕はこの場を立ち去ろうとした。けど、

 

「!?」

 

トーカちゃんが僕の腕を強くつかんで放さなかった。

 

「トーカちゃん……?」

 

「……もう戦わなくていいよ」

 

「!」

 

その時、僕は気づいた。トーカちゃんが泣いている事に。

 

「もうやめてよ。全部どうにかしなくていいから、自分を追いつめなくていいから、私を……皆を見てよ」

 

「!!!」

 

 

僕はなんてことを……皆を助けているようで、僕は皆を見ていなかった。トーカちゃんを一人にしないって言ったのに、ヒデとは顔すら会わせなかったし、あんていくの皆に会って話す事もしなかったし、ヒナミちゃんをよく一人にして寂しい思いにさせたし、万丈さんたちと一緒に暮らしながらもいつも話す事はアオギリの事ばかりで……

 

僕は皆の事なんて気にしていなかったんだ……

 

そう、母さんが僕の事を見ているようで、実際には仕事ばかりで僕の事を見なかったように。

 

「あんたは一体……どうしたいの?」

 

僕は…僕は…………

 

「僕は皆と一緒にいたい。皆とこれから色んな事をして思い出を作って、あの頃の……何でもなかった頃のあんていくの頃の僕に戻りたい……もう、戦いたくない」

 

気づけば僕も一緒になって泣いていた。その時流した涙は僕の心を洗い流していった。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか」

 

「はい、しばらくは四方さんが新しく始める喫茶店で色んな人と関わっていきたいと思います」

 

「ああ、それがいい」

 

僕がこれからの事を四方さんに伝えると、四方さんは笑顔で僕の意見に賛成してくれた。四方さんにこの事を伝えてからホテルを出るとそこにはトーカちゃんがいた。

 

「話は終わったの?」

 

「うん。四方さんも賛成してくれたよ。ま、というわけで早速、あのときの僕に戻ってみよう! ウタさんのマスクの店もいいけど今日は他の所にも行ってみたいな」

 

「……案内はウチかよ」

 

「ハハ………(汗)、よろしく」

 

「フフッ」

 

「?」

 

その時、トーカちゃんは急に笑い始めた。

 

「いや、あんたがそうやって笑うの『あんていく』以来だなって……」

 

ああ、そういえばそうっだけ。誰かの前でこうやって笑う事は滅多になかったもんな。

 

「うん、そうだね」

 

「じゃあ、行くか。アンタのおごりで」

 

「……………………………」

 

この感じも久しぶりだな。

 

 

トーカちゃん、これからは絶対に君を一人にしないよ。




序章終了!

次回から日常編を交えつつ、戦闘シーンも入れていきたいと思います。

感想や活動報告の所でアドバイスくれると嬉しいです!

また活動報告で亜門について、アンケート行っています! ぜひ!


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景虎編
なぞの感情


口から砂をはきながらご覧くださいww


「言葉遣いが変わった?」

 

「はい……」

 

この日、トーカは四方にある相談をしていた。

 

「あの……おかしな事言うと思うんですけど、カネキに対する言葉が変わったなって。自分でも無意識のうちに……『てめえ』って言葉も使わなくなったし……あいつといる時だけ…………」

 

本当に訳が分からない。こうなる前兆はなかったし、最近カネキと何かあったわけでもないのに……

 

「で、それの何がいけないんだ?」

 

「え?」

 

「別に言葉遣いが変わっただけならそれでいいだろ」

 

「で……でも………………」

 

四方さんはそこで話を中途半端に切り上げて、新しい喫茶店の経営予定を立てに部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

「え〜〜〜〜〜!? それ、絶対アレだよ!」

 

「だから、あれって何だよ!」

 

トーカはその後、依子に電話で同じ相談をしたら何やら興奮しているようだ。依子……携帯電話で連絡先を交換していたこともあり、あの戦いの後で再び連絡を取り合うことができたのだ。

 

って、というか依子の言う『あれ』が分かれば苦労しないんだけど……

 

「そっか〜、トーカちゃん前から怪しかったもんね〜」

 

「な……何だよ、依子!」

 

「トーカちゃん! これからも応援してるからね! 彼氏さんとうまくやってね!」

 

………………………………………は?

 

「はああああああああああ!? イヤイヤイヤイヤ、何で私があんな奴!」

 

「ごまかさなくていいのに……あ、バイトの時間じゃん! ゴメンねトーカちゃん、また連絡するから!」

 

「お……おい!」

 

…………彼氏!? あいつが!?

 

 

 

 

 

 

その後、トーカは一人で部屋に戻り勉強を始めた。ホテルでの生活はもう終わり、今はカネキが昔、月山経由で手に入れた物件で暮らしている。当のカネキは未だにホテル生活らしいが……

 

(って、何で私はあいつの事考えてんだ!?) 

 

「誰がカネキと……」

 

「僕がどうかした?」

 

後ろから急に気配がするのと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「…………んな!」

 

反射的に右手でカネキを殴ろうとしてしまう。が、「おっと。危ないなぁ」と容易く避けられてしまう。昔は弱々しかったくせに……少し悲しくなってしまう。

 

「……あんた、いつの間に!?」

 

「今さっきだよ。ここのスペアキーは持ってるし。ここどうかな? 気に入った?」

 

「う……うん」

 

カネキは「そっか」と笑顔を浮かべた。

 

急に現れたかと思うとコイツは……調子狂うな。

 

そして私が再び勉強をし始めると、何故かカネキは私の勉強している様子を後ろから観察し始めた。

 

「何したんだよ!?」

 

「え……勉強してるかどうか見てるだけだけど?」

 

「そんなの見りゃ分かる! 用が済んだなら帰れよ!」

 

「帰っても何もすることないし……来たばかりだしゆっくりさせてもらえないかな」

 

……ホント調子狂う。

 

「……もう好きにしなよ」

 

「ありがとう。じゃあ何もしないのもアレだしコーヒーでも淹れてあげ…………ん? ここ出来ないの?」

 

カネキは後ろから問題集のある問題を指さしてきた。

 

「え?」

 

カネキが言った問題は上井大学の数学の過去問だった。数学Ⅱの……ナンタラ法を使って解く問題だっけ。

 

「これは……分かんないからとばした。依子も分かんないって言うし」

 

「……僕で良ければ教えようか?」

 

「え?」

 

「分かんなかったら困るでしょ?」

 

「それはそうだけど……」

 

「でしょ? 僕、時間ならあるから。これはまず、この式をxで……」

 

と、勝手に解説を始めるカネキ。とはいえ、大学の合否がかかっているのだ。私も思わず聞き逃すまいと慌ててペンを握る。

 

流石、元上井大学生というべきか、カネキの説明は本当に分かりやすかった。ちなみにこの問題は『ナンタラ法』ではなく『微分法』を使って解く物だったらしい。

 

「……で、こうなる」

 

「アンタ、偉いんだね」

 

「……いやまぁ、上井大学には合格したしね」

 

「自分で言うな」

 

カネキは「ハハハ(汗)」と笑っていた。

 

コイツが彼氏なら受験勉強も楽で……って、私は何考えてんだ!?

 

勝手な想像をして、勝手に動揺して、ペンを握りつぶしてしまう。

 

「ト…トーカちゃん?」

 

「! もうあんたも帰れ!!!!」

 

 

 

 

カネキは何がなんだか分からないまま夜空を見上げる。

「…………怒らせちゃったかな?」

 

 

この時、トーカは知らなかった。自分の身に危険が迫りつつあることを……



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景虎

「ありがとうございました!」

 

トーカちゃんが精算を済ましたお客さんを笑顔で送り届ける。懐かしいな、この感じ……

 

そう、今日は『あんていく』に代わって出来た喫茶店『:re』の開店日。にも関わらず足を運んでくれるお客さんが多く、忙しくて大変だ。だけど、そのぶんやり甲斐があって楽しい。

 

四方さんはずっとカウンターでコーヒーや料理を作ってる。その顔はいつも通りポーカーフェイス……なのだが時折見せるその顔はいつもと比べて嬉しそうだ。

 

「カネキ、早く運んで!」

 

「あっ、ゴメン!」

 

 

 

「あんた全然駄目。お客さんへの気配り、スピード……全部駄目ッ!」

 

「うっ、ごめんなさい……」

 

今まで休んでいたツケが回ってきたのか、コーヒーを運ぶテーブルを間違えたり、テーブルを拭く時間が長かったり……皆の足を引っ張ってしまった。

 

「これから慣れていけば良い」

 

四方さんが優しくフォローしてくれる……が、

 

「四方さん、甘やかさないでください! カネキ、今から練習するぞ」

 

トーカちゃんが僕に優しくしてくれるはずなど無かった。

 

「えっ!? トーカちゃん、受験勉強は……」

 

「今度、アンタに全部教えてもらうから良い!」

 

と、トーカちゃんにテーブルの方へ無理矢理引っ張られていく時だった。

 

 

「ほー、ええ店やないか」

 

 

「「!」」

 

見慣れない僕と同い年くらいの男性が『CLOSE』と掛けられた看板を無視して入ってきた。目つき、態度は悪そうだけど、スーツなどを着て見た目はお坊ちゃんといった感じだ。

 

そして……染み付いた血の匂い。この人は喰種か。

 

「お前は……」

 

「久しぶりやな、ヨモ」

 

四方さんの知り合い? 彼は一体?

 

「あの、お店はもう閉まってるんですけど」

 

そこでトーカちゃんは話に割り込んできた。彼を店から追い出したいようだけど……僕の練習を邪魔されたくないらしい。

 

「まぁ、固いこと言うなや。わいは少し話をしにきただけや」

 

「いや、でも……」

 

と、トーカちゃんが困惑した様子で話を進めようとしたときだった。空気が一変した。背筋が凍り付くほどの威圧感を僕らを襲う。その威圧感は目の前にある男によって発せられたものだった。

 

「うるさい女やな……」

 

苛立った様子で彼はトーカちゃんの胸ぐらを掴み壁に叩き付けた。

 

「うっ!」

 

「ちょっと話するだけ言うとるやろ」

 

その光景を見て、当然、僕は冷静でいられなかった。静かに彼の後ろに回り込む。

 

「あの……」

 

「あ? なん……!?」

 

僕は躊躇せず彼の顔面めがけて蹴りを放った。だけど、当たる寸前の所でかわされる。この喰種、かなりの反応速度だ。相当の手練れだとすぐにわかる。

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

 

トーカちゃんはようやく解放されて地面に倒れ込んだ。

 

「何や、お前?」

 

怒りに満ちたのか彼は赫眼でこちらを睨みつけ、僕に詰め寄ってきた。僕も負けじと前に一歩進み、睨み返す。

 

「トーカちゃんに手を出すな」

 

僕と彼の間で睨み合いが続く。

 

(どうする? 赫子で押さえつけるか? それとも……)

 

と、考えていると……

 

「虎、その辺にしておけ。研、お前も殺気を押さえろ」

 

四方さんは慌てる様子もなく、僕たちを制した。

 

「四方さん!?」

 

「チッ、まぁヨモが言うならしゃあないなぁ」

 

彼も四方さんの一言で落ち着きを取り戻した。四方さんは僕とトーカちゃんを見て話し始める。

 

「コイツは『桐生 景虎』。芳村さんの知り合いだ」

 

四方さんの……知り合い?

 

「そーゆことや。よろしくな……えーっと?」

 

「カネキです」

 

景虎が伸ばしてきた手を僕は握り返した。が、僕と景虎との間の空気は変わらない。彼の目から好意というものは一切感じられない。トーカちゃんも彼を快く思ってないみたいで睨みつけている。

 

「ところでヨモ、功善はどこや?」

 

 

「!?」

 

 

(功善!? 何でこの人が店長のあの名前を知ってるんだ!?)

 

 

「芳村さんならもういない」

 

「は? どこや?」

 

2人は淡々とした様子で話し続ける。

 

「隻眼の梟にさらわれたんだ。もうどこにいるか分からない」

 

「梟? アオギリのか……奴らのアジトはようけあるしな。それが本当なら確かにどこにおるかもう分からんなぁ。にしてもあの爺さん、とうとう消えたんか。老いぼれとはいえ梟の名で恐れられとるのに……つまらんなぁ」

 

「!!」

 

店長のことを言いたいだけ言って……!

 

怒りに身を任せて景虎に歩み寄ろうとした時、

 

「研!」

 

「!」

 

また四方さんに止められた。何で四方さんはこの人の肩を……どうしてこの人と知り合いなんだ。

 

「お前ももう帰れ、虎。これ以上、店でやるなら……」

 

「分かった分かった、もう帰るわ」

 

と、景虎は「ほな、また」と言い残してその場を去っていった。

 

 

 

 

景虎……芳村さんのことを知っている謎の男か。




関西弁、下手くそですみません……

こんな感じで物語進んで良いか、感想・活動報告で意見お待ちしています。


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失踪

注意 2/14 0:20に最初の方の会話で『あの女』となってましたが正しくは『あの男』でした。修正は完了していますが、これで勘違いされた方、すみませんでした



???????

 

「いいか? 狙いはあの男だぞ」

 

「おう。にしても、あいつはどこで油売ってやがる?」

 

「あいつはやるべきことはやる男だ。仕事をしてくれればそれでいい。それより、分かってるな?

 

               『V』に忠義を尽くせ                」

 

 

 

 

 

「四方さん」

 

僕はティーカップとお皿を洗いながら、コーヒー豆を挽いている四方さんに話しかける。

 

「この前の景虎って人とはどういう関係なんですか?」

 

「俺もあいつのことは詳しく知らん。だが、芳村さんの知り合いみたいでよく話しにきてた」

 

「知り合い…ですか。四方さんは『功善』という名前は……?」

 

四方さんはそこで一瞬、手を休めて僕を見た。そしてこちらを見つめながらまた手を動かし始めた。

 

「『功善』=芳村さんってことだけな。 …研、芳村さん、いや……………」

 

 

「『功善』について、これ以上知らない方が身のためだぞ」

 

 

「……え?」

 

そして四方さんは挽いた豆を取り出し、袋に入れて棚にしまうと

 

「少し空ける。明日の仕込みを終わらせておけ」

 

と、注文していた物を取りに出かけていった。僕はその後も皿洗い、ケーキの下ごしらえなどをこなしていたけど時計を何度もチラ見していた。

 

 

「遅いな、トーカちゃん」

 

学校の友達と図書館で勉強してから来る、と言っていたのに店は10分前に閉まってその後もやってくる気配がない。間に合わないと思って帰ったのか、と考えたけどトーカちゃんの性格から考えてそれはあり得ない。遅れてでもやって来て、来ないにしても電話の一本はかけてくる筈なのに……

 

「…………」

 

僕は最低限の仕事をこなしてから、店を出た。

 

 

 

 

しばらく探したけど、トーカちゃんは見当たらない。トーカちゃんの言っていた図書館にも家にも足を運んでみたけど、どこにもいない。

 

「一体どこに……?」

 

ポケットの中から聞き慣れた音が流れた。ポケットの中から携帯電話を取り出す。『非通知』それを見た瞬間、胸騒ぎがした。覚悟を決めて、電話に出た。

 

「……もしもし」

 

「やぁ、カネキ君。初めまして、あなたは私を知らないでしょうが私はあなたを知っている」

 

声はエフェクトが誰が喋っているのかは愚か、男性か女性かすらも分からない。

 

「私はあなたとお話がしたいのです。といっても、これはお願いというよりは命令ですけどね。……あなたと一緒にいた女の子を預かっています。6区のビルにあるヘリポート、そこでお待ちしてますよ」

 

「……分かりました。でも、覚悟していてくださいね?」

 

 

「いまからそちらに行く僕は『優しい人間』の金木じゃなくて、『獰猛な喰種』のカネキですから」

 

 

久しぶりだな。僕はマスクを取り出して、顔に装着する。

 

「……待っててね、トーカちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

「功善はおらんし、ターゲットを始末せなアカンし……はぁ、面倒いのぉ」

 

その頃、景虎は裏道を一人で歩いていた。

 

「トーカって女に、カネキ…か」

 

この前の出来事を思い出しながら。興味の無いことはすぐに忘れる彼だがそんな彼でもその時の出来事は鮮明に覚えていた。

 

(カネキとかいう奴、中々強かったなぁ。何よりあの女のあの態度……嫌いじゃない、むしろ好みドストレートや)

 

と、考えている時だった。誰かが近くで電話をしていた。

 

『やぁ、カネキ君。初めまして』

 

(カネキ? コイツ、誰や?)

 

『あなたと一緒にいた女の子を預かっています』

 

(……………………………)




展開が訳分からなくてすみません(汗



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道化師の玩具(ピエロのおもちゃ)

一日に(正確には次の日だが)2本は大変だww


「……ここか」

 

6区の高層ビル『ハイテンド』、CCGが昔使っていたビルらしいが、今はもう屋上にあるヘリポートくらいしか利用されておらず、中はたびたび喰種の巣窟と化している。

 

(トーカちゃん……)

 

赫子を使ってビルを一気に駆け上がる。上に近づくほど、ある匂いが漂ってくる。血と男の加齢臭、そして香水。嫌な予感がしつつも屋上まで登りきった。

 

「お待ちしていました、カネキさん」

 

そこには鼠のマスクを被った喰種が待っていた。おそらくコイツがリーダーで電話をかけて来た奴だ。

 

「トーカちゃんは無事ですか?」

 

「ご安心を、ちょうど下で可愛がられてますよ」

 

下をちらりと見る。他の喰種と比べて苦手だけど耳を澄ますと、確かにトーカちゃんの声がする。

 

「という事は、あなた達を倒せば会えるという訳ですね」

 

パキッ 

 

左目が熱くなっていく。感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。

 

「……何だよ」

 

そのとき、鼠のマスク喰種はエフェクトのかかった震えた声で呟いた。

 

「もっと悔しがれよ、悲しそうに顔を歪ませろよ」

 

「?」

 

「そんなんじゃあ、あの人が喜ばないだろうがぁああああああ!」

 

「!?」

 

声を荒げて、鼠はこっちに突っ込んできた。赫子は尾赫で、僕をとらえようと高速で動く。何度避けても、どこまでも追いかけてくる。

 

ポールで絡まさせようと回り込むが……

 

「甘ぇよ!!」

 

「!!」

 

赫子はポールをへし折り、地面へと落下させた。地上では悲鳴やクラクションで大騒ぎになってる。

 

(逃げ切るのは無理か。それなら……)

 

僕は奴の尾赫をギリギリまで引き寄せて……躱した。

 

「おっ!?」

 

(ココ!)

 

そして赫子で尾赫を叩き付けて断ち切ろうとした。

 

「馬鹿が! なめんな!」

 

「!」

 

が、奴の赫子はバネのようにしなって僕の赫子を受け止めた。そして絡み付いて僕をとらえた。

 

「ぐっ!」

 

(思ったより力が強い…!)

 

「捕まえて……からのぉ!」

 

鼠は不適に笑いながらさらに赫子を出現させる。その数……9本。

 

「いくぜぇ!」

 

そして9本もの赫子が僕に一気に襲いかかった。赫子は何度も何度も僕の体を殴りつけてくる。

 

「ハハハハハハハ!! 突いて突いて突いて!!!」

 

なるほど、トーカちゃんを攫うだけある。コイツは強い、けど……

 

 

パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! パシッ!

 

「よし、捕まえた」

 

両手、両足、気づかれないように出現させていた赫子で全ての赫子を掴んだ。今度は僕が鼠に不気味な笑みを浮かべた。マスクで分からないだろうけど、左目だけで僕の表情を読み取ったのか、体がブルっと震えた。

 

「な、何っ!?」

 

掴んだ赫子を見つめる。高速で何度も襲いかかる赫子……まるで『ナルカミ』の様だ。でも…………

 

「これなら、有馬貴将のクインケの方が早いね」

 

「あ、有馬?」

 

鼠は何の事か分かってないみたいだが、関係ない。

 

「君、自分にいたずらしてくる相手をどうやったら黙らせられるか知ってる? 一番手っ取り早いのはね、痛い思いをさせるんだよ。それも自分にやられた方法でね」

 

「!!」

 

そう言って、僕は鼠の赫子を全て引きちぎった。血の飛び散るような不気味な音を立てながら、9本の赫子は地面に転がり落ちる。

 

「う……うわぁ!」

 

一旦、後ろに下がろうとバックステップをするが……

 

「逃がさないよ」

 

捕まえられている赫子で鼠を引っ張り返す。鼠は勢いにつられて宙を舞う。

 

「1、2、3、4、5……6!!」

 

そして今出している赫子全部で鼠の体を連続で貫いた。

 

「ぎゃあああああ! ぶげっ! がひっ!」

 

鼠はそのまま地面に落下して倒れた。

 

「ぼ……僕が負けた。だけど……これで…いい。僕は彼らの《玩具(おもちゃ)》」

 

「…………」

 

僕はそれを黙って何も思わず聞いていたが、

 

 

「最後に笑うのは《道化師(ピエロ)》」

 

 

「!?」

 

《ピエロ》!? 3区で活動していた喰種集団! 何で彼らの名前が……

 

 

「見つけたでぇ……」

 

「!」

 

後ろから声が聞こえた。

 

「どこにおるか、探し取ったらこんな近くにおったとはなぁ……」

 

振り向くと、ある人物に抱きかかえられたトーカちゃんが目に入った。

 

「! トーカちゃん!!!」

 

そして僕はその人の顔を見てさらに驚いた。

 

「!?」

 

何でこいつがこんな所に!?

 

「ムカデ……いや、カネキ!!!!!!!!!」

 

 

 

桐生 景虎!!!!




次回、、または次次回で《景虎編》最終回!

月山が現れて、カネキ達を巻き込んでいく《月山編》を意識して作ってみました。

感想、お待ちしています。


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カネキと景虎

お詫び 

編集ミスで文章がおかしくなっていました。九時五分に修正完了しました。大変申し訳ございませんでした。


「まさかおまえが《ムカデ》やったとはな」

 

《ムカデ》、CCGが僕に使う呼称の一つだ。『眼帯の喰種』『隻眼の喰種』時には『半端野郎』、色んな呼ばれ方をされるけど、喰種が僕をムカデと呼ぶ事は少ない。

 

「僕を知っているんですね」

 

僕をムカデと呼ぶ人たちの共通点は、僕を排除したいという事だ。

 

僕は少し前までアオギリを倒す事しか考えていなかったから、景虎に恨まれたりするような事はした覚えは無いし、する余裕は無かった。

 

つまり、景虎はどこかの喰種組織に所属しているという事だ。

 

「情報は権力のある所に集まるからな」

 

やはり、今のいい方だと景虎はどこかに所属しているんだ。アオギリじゃなければ……一体?

 

「何を考えとるんや? さしずめ、わいがどこの喰種組織に属しているのか、ってとこか」

 

「!」

 

やっぱりこの人、鋭い。

 

「まぁ、お前じゃ分からんとこや。わいの組織は言うならば『影』、表舞台にはおらん」

 

「?」

 

影? 暗躍している喰種組織? そんな組織……

 

(……………………!!! まさか…もしかして!)

 

僕がそれを思いついたと同時に、景虎はまた話し始めた。

 

「つまり、権力の大きい所に何もかも集まるんや。情報だけやない、使える駒も……」

 

景虎は抱きかかえているトーカちゃんを見せつけるように揺らす。

 

「女もな」

 

「!」

 

今度こそ僕は怒りに身を任せて、景虎に突っ込んでいく。始めから全力。6本の赫子で景虎を叩き付け……

 

「怖いのぉ……」

 

「!?」

 

ところが、景虎は僕の赫子を受け止めた。彼はすでに気絶しているトーカちゃんを地面におろし、両目は赫眼となっていて、赫子を出していた。

 

「冗談やないか」

 

彼の赫子は腰から出ていて表面はまるで鱗のようだ。僕と同じ《鱗赫》、数は4本で僕より少ない筈なのに……

 

「6本……さすが、噂通りの強さやな。けど……」

 

「!?」

 

景虎は赫子で僕を容易く空中に投げ飛ばした。僕の赫子を受け止めて、さらには投げ飛ばした、力だけならあっちの方が上だ。なら、ヤモリと同じだ。

 

「舐めるなぁ!」

 

手数で押し切る! 6本の赫子を巧みに操って、景虎の赫子の攻撃を防御していく。どんな喰種にも隙はある。例えば、4本の赫子全てで僕を攻撃しようとした時……

 

(ここだ!)

 

「アカンでぇ、カネキ」

 

「!?」

 

その時、景虎の赫子の軌道が変わった。1本の赫子が僕の腰めがけて猛スピードで突っ込んできた。次の瞬間、赫子の感覚が無くなった。奴の赫子が僕の赫子を全部断ち切ったんだ。

 

さらに残った3本の赫子で僕を思いっきり切り裂く。そして人間では考えられないほどの血が噴き出した。

 

「がはっ!!」

 

「『舐めんなぁ』、それ勝負で負ける奴が言う台詞やで」

 

僕は地面に倒れ込む。ダメージがでかすぎる! 回復する気配はない。亜門さんの時と同じだ。

 

しかも、この爪痕みたいな傷……思い出した!!

 

 

SSレート《猛虎》!

 

赫子一つでビルを倒壊させる喰種随一の力を持つ強力な喰種だ。『ある一つの事件』でのみしか確認されていないにも関わらず、その時にSSレートとして指定された喰種。

 

この傷跡も……彼の赫子が残す特徴的な傷跡。

 

「あ……あぁ……」

 

意識が薄れていく……肉…食べなきゃ…回復できない……死んでしまう

 

「どうしたぁ? アレ使ってもいいんやで。何やっけ? 《半赫者》? アレつかえや」

 

……駄目だ。あの力は自分で制御できない。あの力を使っていいのは……有馬との戦いみたいな時だけじゃないと、僕はまた人を傷つけてしまう。それに……

 

 

「僕は人を……見失わない!!」

 

 

そう決めたんだ。でも、それじゃあ僕の大切な人たちは守れない。

 

だから『:re』で働いて僕はある結論に達した。

 

 

「そういうのを綺麗事って……」

 

「だけどね」

 

「?」

 

自分の心境が変わっていくのが分かる。

 

「あの日から……あの人(リゼさん)と話してヤモリと戦ったあの日から、僕は戦いに快楽を覚えたんだ」

 

そう、ヤモリの時も喰種レストランの時も……

 

「だけど、亜門さんや有馬貴将、CCGの人たちと戦う時はそれが無かった。その時、僕は気づいたんだ。『僕の中の喰種』は戦う事を好むんじゃない、自分の気に入らない奴を倒す事が楽しかったんだ」

 

「お前、まさか……」

 

「気に入らないんだよ……僕の仲間を…居場所を奪う奴は容赦しない……」

 

トーカちゃんを汚い目で見るお前も……

 

 

「邪魔なんだよ!!」

 

 

(芳村さん、あなたの言う通りでした。僕は『人間』と『喰種』、二つの世界に居場所を持てる存在。『人』であり『喰種』だ。『人』としての僕は皆と楽しくふれあって、孤独で苦しんでいたりする人たちを助けるために存在して、『喰種』としての僕はそれに必要な邪魔な芽を摘むための存在だ)

 

 

(今……『喰種』になる時だ)




覚醒ではありませんが、カネキが自分の生き方、自分の存在についてこういった結論に辿り着いた所で今回は終了です。

最終回近くの(あんていくに戻ると決め、CCGに突撃していくまでの少しの間)精神的に『人間としての正常さ』と『喰種としての異常さ』を残したカネキが僕は一番好きで、この小説ではそんなカネキを書いていこうと決めていたので、敵がどうあれ僕の書きたかったカネキが完成しました(何言ってんだ、僕?w)

このカネキについて意見、感想お待ちしています。というか、意見こないとドンドンめちゃくちゃになりそうww

次回、『景虎編』完結、少し長めになります。


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ムカデと虎と……

お詫び

前話の冒頭部分が編集ミスで消えていました。修正しましたので、まだ読まれてない方はそちらからお読みいただけると幸いです。すみませんでした


「……邪魔か。で、俺を排除するんか? 言っておくが、今のお前じゃ無理やで」

 

景虎は余裕そうに言った。

 

「悪いがわいは今のお前を過小評価しておるで。同じ『SSレート』とはいえ、お前の場合それは《ムカデ》の力を発揮した場合や。今のお前じゃあせいぜいSレートってとこやろ。わいは違う。わいは《赫者》なんて力使わずにこの力や。お前とは格が違う」

 

確かにこの人は強い。僕にここまでダメージを与えて、彼はまだ無傷なんだから。けど、

 

「それがどうかしました?」

 

「は?」

 

「確かに今のままでは勝てない。なら、話は簡単ですよね」

 

僕は景虎を見据えた。

 

 

「限界を超えればいい」

 

 

今の僕じゃあ、最近食べていない事もありさっきのが限界だ。その限界を超えて、彼に勝つ。

 

「喰種は種を喰らい生きながらえる。喰えば喰うほど力をつける」

 

「……! お前、まさか…………」

 

僕は最後の力を振り絞って、油断していた景虎に飛びかかった。そして、肩に思いっきり噛みつき……彼を喰らった。そしてまた一口、また……もう一度…………

 

「どけや!!」

 

が、そこで振り払われてしまう。だけどこれだけ食べれば……傷は回復していき、力が溢れてくる。

 

「コイツ、やりよった……マジか!?」

 

僕の腰から赫子が次々と現れる。

 

「喰った栄養を回復に使って、残りを赫子に全部使い回しよった!!!」

 

僕は食べて得た栄養をすぐに赫子などに使った。普通の喰種は空腹をさけるために栄養は蓄え続ける。彼らが栄養を多く使うタイミングは傷を回復する時と赫子を使う時だ。

 

そう、僕は今文字通り、限界を超えた。自分の腰を見てみる。

 

「20本…といったところか」

 

自分の赫子の数を確認して、景虎に攻撃を仕掛けた。さすがの景虎も怯んで防御体制に入る。4本の赫子で受け止めようと試みるが……

 

「無駄だよ」

 

「ぐっ!」

 

20という圧倒的な数に押され、地面に叩き付けられた。景虎は怒りの形相でこっちを睨みつけている。

 

「はっ! 馬鹿が、今ので分かったで、お前に勝つための方法が。確かにお前相手にこの赫子の数では勝てない、なら話は簡単や。その赫子をさっきみたいに剥げばええ」

 

自然と不気味な笑みが顔に浮かんで景虎を見つめる。

 

「剥いでみろよ」

 

中指で人差し指を押す。 パキッ

 

景虎は赫子を凄まじいスピードで動かし、僕の赫子を剥ごうとする。だけど、僕の赫子は景虎を叩き、殴り、攻撃を防ぐ。

 

「がああああああ!!!!」

 

景虎も怒りに任せて奮闘するが、僕に一撃も攻撃を加える事は出来ない。少しずつ赫子を断ち切られていくが、それでも景虎は僕に直接攻撃を浴びせる事は無かった……

 

 

 

 

「あ…ああ…………………」

 

5分にも及ぶ戦いの末、景虎は遂に倒れた。骨折や筋肉は断裂していてもはや一歩も動けない状況だろう。

 

「……止めだ」

 

と、赫子で彼を串刺しにしようとした時だった。

 

「おい、あいつ倒れてんぞ!」

 

「はっ! ざまぁみろ!」

 

「!」

 

後ろで急に声がした。振り向くと三人の男がいた。『あいつ』って言ったという事はこの人達も仲間か。どうする?

 

「お? やる気?」

 

「来いよ、ガキ」

 

と、二人がやる気を見せた時だった。

 

「やめとけ」

 

初めてもう一人が声を発した。

 

「コイツ一人で景虎をここまでやったんだ。今戦ったら、俺たちも相当な深手を負う」

 

「け、けど……」

 

「分かってる。忠義を尽くす事は大事だ。だが、冷静になれ。コイツを殺るチャンスはいくらでもある」

 

と、リーダーらしき人は景虎を抱えてこっちを見つめた。そして……

 

 

「また会おう、Vに仇なす者よ」

 

 

「!!!」

 

『V』、タタラが言っていた『奴ら』……

 

『チッ……って事は……本当にリゼは消されたのか。さすがに奴ら手が早いな』

 

『奴ら』というのは『V』? でも、実際リゼさんを事故に巻き込んだのは…ピエロの男……。

 

「っ!」

 

駄目だ。考えれば考えるほど訳が分からなくなる。とりあえず、ここから去ろう。もう白鳩が来てもおかしくない。と、トーカちゃんを抱きかかえて帰ろうとした時だった。

 

「?」

 

足下に何か落ちている。拾ってみるとそれはUSBメモリだった。落ちていた場所を考えると景虎の物だ。

 

(これを見れば『V』のしようとする事が分かるかも)

 

僕はそれをポケットに入れて、屋上の端まで歩く。そこに倒れているのは鼠マスクの喰種。

 

(道化師(ピエロ)…か)

 

 

 

 

 

 

「あー!! ピーちゃんやられちゃった!」

 

「どうしたの、ロマ?」

 

「うう、カネキ様が生きているって聞いてカネキ様の仲間を攫わせたんですけど……」

 

「攫った仲間から連絡が無い? そりゃそうよ、あなたカネキくん舐めすぎよ。何せ、あの有馬から生きて帰る事が出来たんだから」

 

「まっ! ピーちゃんの代わりなら他にもいるからいいけど!」

 

「本当、あなたってヤモリと似て最低(クール)ね。女だけど……」

 

「まっ! 『最後に笑うのは道化師(ピエロ)』ってことで!」

 

 

 

 

 

「……ん? ううん…………」

 

「! トーカちゃん、起きた?」

 

トーカちゃんを抱えたまま家まで送っていた時、トーカちゃんは目が覚めた。

 

「カネキ……ってアンタ何してんのよ!」

 

「え? 鼠マスクの喰種に攫われて気絶していたから、助けに行って……」

 

「にしても、運び方ってもんがあるでしょ!!」

 

助けてあげたのに、トーカちゃんは顔を真っ赤にして怒ってる。でも、それでこそトーカちゃんっぽくていいんだけど……

 

「まぁ、その…ありがと」

 

「! ……トーカちゃんは僕が守るからね」

 

「はぁ! ば…バカ! そんな恥ずかしい事、さらっと言うな!」

 

ま…また怒られちゃった…………

 

 

 

 

「……という事なんですが、このUSBの中を見たいんです」

 

「あのさ、お前生きてるんだったら仲間に連絡入れるもんじゃねえの? それをお前、急に現れてUSBを調べろってどういう事だ?」

 

「すみません」

 

「まっ、久しぶりだな。三ヶ月ぶりって言った所か、カネキ?」

 

と、西尾先輩は顔をそらして呟いた。今日は何の連絡もなしに西尾先輩の所にやって来て、お願いをしに来たから怒られても当然か。

 

「で、貸してみろ」

 

「は…はい」

 

西尾先輩にUSBを渡すと、それをパソコンに差し込み、パソコンを操作し始める。

 

「……よっと! おらよ」

 

「ありがとうございます」

 

僕はパソコンを受け取り、情報を探っていく。先輩も気になるのか、後ろから覗き込んでいる。内容は新メンバーについて今月の資金…など必要ない情報ばかりだ。

 

だけど、ファイルの後半にきた時だった。

 

 

『……旧メンバーだった功善の生存を直ちに…………』

 

 

「…え?」

 

「え…どうかしたか?」

 

「功善は…店長の事です」

 

「はぁ!? あのじいさんの名前があるって事はじいさんは元『V』ってことか?」

 

芳村さん、あなたは一体……

 

「! おい、ファイルが!」

 

「!?」

 

と、考えている間に何故かファイルの内容が削除され始めていた。

 

「な…何で!?」

 

「重要な内容が書かれた物だからな、多分指定のパソン以外で閲覧した場合、自動で削除するように仕組んだんだろう。早く読んでしまえ!」

 

慌てて再びマウスをスクロールして情報を探るも、目立った事は書かれていない。けど、情報が消される瞬間にそれは目に入った。

 

 

『……4月2日にドイツで予定されている嘉納の講演会……』

 

 

 

 

 

「で、情報とやらは得られたのか?」

 

「はい。決定的な」

 

ドイツで開かれる嘉納の講演会……嘉納と出会える絶好の機会だ。嘉納、あなたに聞きたい事は山ほどある。ドイツで待ってろ……

 

「あっ、それと西尾先輩」

 

「あ?」

 

「新しくお店、始めたんです。『:re』っていう……人手不足なんですよね……(苦笑)また良ければ来てみませんか?」

 

「…………まぁ、人手不足なら顔出してやっか」

 

と、面倒くさそうに西尾先輩は呟くも少し嬉しそうにしていた。

 

「ありがとうございます」

 

「って、お前何処いくんだ? こっちじゃねえのか?」

 

「いえ、トーカちゃんの所にいかないと……」

 

「……ああ、そうか」

 

「はい」

 

そう、一週間後に始まるんだ。トーカちゃんの闘い『大学入試』が……




と、ここで景虎編は完結です。

そして、まさかの次回は『センター試験編』!? あっ、誤解の無いように言っておきますが戦闘シーンもあります! そしてそろそろあの人を召還します!



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アオギリ/捜査官奪還編
プロローグ


墓地にて

 

「亜門上等がいなくなって三ヶ月になるが、私も今日から彼と同じ『上等捜査官』だ。……彼は死んだ、そのはずなのに何でだろうな? 私の勘がこう言っているんだ」

 

 

「彼はまだ生きているとな」

 

そう『真戸 呉緒』の墓に語りかけているのはその娘『真戸 暁』であった。

 

 

 

 

 

「だぁ!!! くそ! 覚えらんねえ!!」

 

「と…トーカちゃん、おちつ……」

 

「試験まで後6日だぞ! 落ち着けるかよ! センターも合格最低点だし……だぁああああああ!!!!」

 

と、トーカはずっとこの調子で勉強を見てくれているカネキにまで苛立ちをぶつけている。

 

「な……なら、ご褒美を考えてみたら? 『合格したらおいしい物食べる!』みたいな」

 

「……そういうのはもう考えている」

 

「あっ、そうなの? なら、その目標に向かって頑張ろ!」

 

「………んで」

 

「え? 何て?」

 

「な…何でもない! ちょっと集中してくる!!」

 

と、トーカは部屋から出て行く。そして廊下でポケットに入れていた紙を見つめる。

 

(そうだ。私は合格したら……)

 

 

 

 

「……何で僕はトーカちゃんを怒らせちゃうんだろうなぁ?」

 

と、次に教える問題を問題を見ていた時だった。ポケットから携帯のバイブレーションが鳴った。取り出してみると、正直言って無視したくなる人の名前があったけどこの人の性格上、僕が電話に出るまで電話をかけ続けるだろう。諦めて、電話の応答ボタンを押した。

 

「もしも……」

 

「ああああああああああああああ! カネキくうううううううううん!!! また君の声が聞けるなんて……トレビアンンンンンンン!!!!!」

 

「……月山さん、電話きっていいですか?」

 

「ノン、君には伝えたい事があるんだ……君が知りたい事についての情報をね。ここでは言えないから後で6区に来てもらえないかな?」

 

「…………」

 

「カネキ君? って、バンジョイくん何を!? ……………あー、カネキ? 俺だ、万丈だ。月山なら心配ねえ、俺やジロ達がいる。ほんじゃ、待ってるぜ」

 

万丈さん達に月山さんか、しばらく会っていなかったけど全員相変わらずだったな。月山さん……

 

『僕がァ!!!! カネキ君を喰べるのを邪魔するのはカネキくんでも許さない! 許可しないィ!!!!!』

 

やっぱり裏があったけど、月山さんは僕のために動いてくれていた人だ。信用してもいいだろう。仮に僕を喰おうとした時は……僕が月山さんを…………

 

「カネキ、あんた何怖い顔してんだよ?」

 

「トーカちゃん、戻ってたんだ。よし、それじゃあ続きからだね。この文章は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこれを伝えんのか?」

 

「分かってないね、バンジョイくん。この情報とカネキが生み出す新たなマリアージュを……」

 

机の上にある書類には……

 

『アオギリ 捜査官運送計画 

 運送人物 三等捜査官 管………………

 

 

      上等捜査官 亜門 鋼太郎』

 

 




大体、今回の話のテーマが見えた所で終了です。

ようやく月山と万丈達とそして、亜門さんを登場させる事が出来ました!

亜門さんはどうなるのか? カネキはどうするのか? トーカちゃんは合格するのか!?

お楽しみに!


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追い込み

「……亜門さん」

 

昨日、月山さんに見せられた情報は衝撃的なものだった。アオギリが梟討伐戦の時に拉致したCCGの捜査官達を一斉に実験場まで運送する計画。

 

しかもそこには亜門さんの名前もあった。

 

「……おい、カネキ?」

 

あのとき、暴走した赫者の力で亜門さんを傷つけて、それが原因で亜門さんが捕まったのだとすればそれは僕の責任だ。僕が必ず亜門さんを……

 

「おい! カネキ」

 

「! な、何トーカちゃん?」

 

「しっかりしてよ……時間がないんだから……」

 

「ご、ゴメン。で、次は?」

 

 

 

 

 

 

???????

 

暗く、寒く、狭い牢屋の中で亜門は倒れていた。いつ自分が何をされ、生きていられるかどうかも分からないまま……

 

(篠原さん、政道、什造、暁……俺は…………)

 

「よぉ、のっぽ!」

 

その時、一人の喰種が亜門に近づいて来た。それは嘉納の屋敷で出会ったナキだった。

 

「お前は……」

 

「おおおお、あの時はよくもやってくれたなぁ! あの『クンイケ』とかいうチンケな道具で俺を切り裂いて……」

 

「『クインケ』を馬鹿にするな。そのチンケな道具にやられたのは誰だ?」

 

と、亜門はナキを睨みつけて言い返した。

 

「なっ!! てめえぇ!!」

 

と、ナキが亜門を殴り飛ばそうとした時だった。

 

「おい、ナキ! てめぇ、誰の許可で実験体に手出していいって言われたんだ? あぁ?」

 

ナキの背後から一人の少年が現れた。

 

「げっ!? アヤト!」

 

「さっさと、コイツらを運ぶ準備に取りかかれよ」

 

と、言われナキは不満をあらわにしながらもその場を去っていった。

 

(ナキとかいう喰種が俺をどこかに運ぶのか? 殺されるのか?)

 

「おい」

 

「!」

 

考えていた亜門にアヤトが話しかけてくる。

 

「俺は今回の件に反対している。……アンタをここから逃がしてやりたいと考えている」

 

「!?」

 

「もう、この計画の情報はどこかに流してある。後はその情報を見た奴と……てめえの生きる意志次第だ」

 

と言うと、アヤトはその場からゆっくりと立ち去っていった。亜門はその後ろ姿をしばらくの間、見続けていた。

 

(……『眼帯』といいアイツといい……………喰種は一体、何を考えているんだ? 喰種は一体何が目的なんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

トーカちゃんの受験は3日後、アオギリの計画も3日後。それまでに出来る事と言えば、アオギリの計画の内容を細かい所まで覚えること。そしてトーカちゃんの分からない所の問題解決だ。

 

今は西尾先輩が見てくれているけど、しばらくしたら先輩は大学にいかないと行けない。そうなったら、次は僕の番だ。

 

(戦いまで後3日か……)

 

トーカちゃんと僕は全く違うものを相手に3日後、戦わないといけない。

 

「よし!」



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闘いの始まり

「……ここだね」

 

「う……うん」

 

トーカちゃんは上井大学の前でずっと校舎を眺めている。それは上井大学の校舎が綺麗だ、という感動じゃない事くらいは僕にも分かる。

 

「緊張してるの?」

 

「! し…してない!!」

 

「………………」

 

西尾先輩が言っていたことを思い出す。

 

『アイツの事だからな……お前がいない間もアイツは緊張とか恥ずかしさとか悩みとか全部隠してきたからな……カネキ、お前なら鋭いから分かるはずだ。そういうのちゃんと見抜いてサポートしてやれよ』

 

……絶対に緊張してるな。

 

「大丈夫だよ、過去問、英単語、数学の問題集とかやれる事はやったんだ。後は……」

 

『運だよ』、僕はそう言おうとした。

 

『運なんて存在しない。単なる状況と状況の組み合わせ』

 

リザさんはそう言ってたな。確かにそうかもしれない。

 

「……トーカちゃんのやる気とどんな問題か次第だよ」

 

トーカちゃんはそれを聞いて、もう一度校舎を見つめる。そしてまた僕を見た。

 

「……あんたがいて良かったよ」

 

「そんな今から死ぬ人みたいな事言わなくても……」

 

 

「いってきます」

 

 

「うん。いってらっしゃい」

 

僕は笑顔でトーカちゃんを送り出した。そして、ポケットの中から電話が鳴った。

 

 

「……いってきます」

 

 

 

 

 

「カネキ、持ち場にはついたか?」

 

「うん」

 

「よし、じゃあヒナミちゃんに電話して指示を待つんだ」

 

ヒナミちゃん……か、しばらく会っていなかったな。これが終わったら、またどこかに連れて行ってあげようかな?

 

そう考えながら、万丈さんとの会話を終わらせてヒナミちゃんに電話をかける。

 

「……もしもし、お兄ちゃん!」

 

「ヒナミちゃん、久しぶり。ゆっくり話がしたいんだけど、それはまた今度でいいかな?」

 

「うん! もうアオギリの車は見張ってるよ、お兄ちゃんのいる場所も音で分かる」

 

相変わらずヒナミちゃんの能力は凄いな。僕はこういうのはてんで駄目だから、ヒナミちゃんに教えてもらおうかな?

 

「お兄ちゃん、車はもう近くまで来てる。合図するからそのタイミングで飛び降りて」

 

「うん」

 

「4、3、2、1…今!」

 

ヒナミちゃんが叫んだと同時に電話を切って、15階もあるビルから僕は飛び降りた。さっきまで点のように見えていた人も車もハッキリ見えてくる。

 

だけどその光景は異様だった。高速道路を走っているのは5台の輸送車と周りには人が……喰種が走っているだけだ。間違いない、あれがアオギリの車だ。僕はその車を止めるように赫子を道路に叩き付けた。

 

「な、なんだ!?」

 

「何かが落ちてきたぞ!!」

 

周りにいた見張り達は動揺している。

 

「……彼らは僕がもらう」

 

そう言ってまず見張りの喰種を片付ける。叩き付けて、赫子で殴り飛ばして、あるいは喉笛に噛み付いて……

 

「『共喰い』も慣れてきてそんなにマズイとは思わなかったけど、やっぱり根が腐った喰種の肉はまずいな」

 

「ば……化け物か、お前は!!」

 

「うん、『喰種』である僕も……君たちもね」

 

そう言って最後の喰種を片付けた。そして中にいる人たちを助けるために警察に電話をしようとした時だった。

 

「ゴガッ!!」

 

「!?」

 

右から猛烈なタックルが向かってきて、躱す余裕など無くクリーンヒットした。『ミシミシ』と何かがきしむ音がして、そのまま吹っ飛ばされて1台の車にぶつかる。

 

「うううう……ぐっ!」

 

(あばらが折れた……少し休まないと…………)

 

「オラっ!!」

 

「!」

 

と、車の横で倒れていると見覚えのある赫子と声が僕に迫ってきた。慌ててそれをギリギリの所で躱す。そして地面に足をついた瞬間、横腹に痛みが走る。

 

「っ!」

 

(クソッ! 回復がまだ……どうして…………?)

 

顔を上げるとそこにはマスクをつけたでかい図体の喰種が2体とナキがいた。




中途半端ですがここまで!


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覚醒/新たな力

注意 オリジナル要素が入ってきます。


さっきのタックルはでかい図体のうちの一人だろう。多分、パワーなら万丈さん以上だ。

 

「よぉ、兄貴の仇の『白髪野郎』!!」

 

どうやらあれが僕の呼び方のようだ。と、考えている場合じゃない。早く怪我を治さないと……

 

「骨が綺麗に折れたなぁ。だけど、それ治んないぜ。なにせタタラさんと『マッドサイエントス』が開発した…………えっと?」

 

「ガゴゴ」

 

「そうそう! 『Rc抑制剤』を注入したんだ。効果は薄いから赫子は抑えられねぇが、回復能力なら止めれる何かこう……すげぇやつだ!」(何で『ガゴゴ』で通じたかは、ご想像にお任せします)

 

「!?」

 

Rc抑制剤!? 嘉納はそんな物まで自作しているのか! マズイ、低い防御力を回復力で補っていた僕にそれはかなりマズイ!

 

「怪我して痛いまま苦しんで……兄貴にあの世で会ってこい!!」

 

と、ナキの赫子で殴り飛ばされる。

 

「ぐはっ!!」

 

また車にぶつかり、車ごと一緒に倒れる。

 

 

 

 

 

 

「? 扉が……」

 

突然の衝撃で目を覚ました亜門は車の外に出る。そこで亜門が目にしたのは、昨日自分に話しかけてきた喰種と彼の側近かと思われる2人の喰種、そして……

 

「眼帯…?」

 

(何故、お前がここに? アオギリのいる場所に何でお前はいつも現れる?)

 

だが、眼帯の喰種はすでにボロボロでナキに殴られ続けている。

 

「早くくたばれよ! 死ぬのが怖いか! なんとか言ってみろよ!!」

 

「……僕は死ねない。まだやらないといけない事があるんだ」

 

 

「亜門さんを助けるまで……死ねない!!!」

 

 

「!?」

 

(俺を……助ける!? 眼帯、お前はそのためだけにここで戦って、傷ついているのか?)

 

 

 

 

 

と言っても、体はボロボロで赫子を出す体力も残っていない。

 

「大体、お前の力なんて何もねぇんだよ! 元人間が手に入れた喰種の力は……お前の力じゃねえよ!」

 

……確かにこの力はリゼさんのだ。僕のじゃない。だから僕は今、僕の力だけで君を倒す。

 

「アオギリは僕に取って目障りの存在……」

 

 

「お前も消えろよ」

 

 

その時、僕の指先に熱い感覚が現れた。僕の両手は赫子と同じ色に染まっていく。

 

「? 何だ、手品かぁ?」

 

分からない……これは一体? と考えながら、ナキに手を触れた。すると……

 

「熱っつ!!!! ……どうなってんだよ、その両手から出てる変な液体は!!」

 

そんなに力を込めて殴ってもいないのにダメージを与える事が出来た。これは……?

 

いつのまにか手は赤黒い色から、黒に近い紫色に変化している。

 

この力なら……

 

「や……やめろ! その手で俺に触れるなぁ!!!!!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

僕は全ての力を振り絞って、ナキの体を貫いた。 グシュ、と何かが溶ける様な音、或いは腐る様な音がした。

 

「ぎゃあああああああああ!!!! 痛てぇええええええ!! 痛てぇよ、兄貴ぃぃぃぃ!!!!」

 

ナキはその場でジタバタと暴れながら、転がる。2人の喰種はその様子を見て、ナキを担いでどこかに消えていった。その姿を見届けて、僕の意識も薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「…………まさか」

 

眼帯の喰種の近くに駆け寄って、亜門は彼を見つめながら考える。

 

(あれは喰種の中でも一部しか使えない力、《赫熾》。あれが篠原さんが言っていた……)

 

 

 

『いやー、赫者の『梟』2人に加えて、『ムカデ』まで出てくるんだもんな。こりゃ《赫熾》が出てもおかしくないねぇ』

 

『赫熾……? それは一体?』

 

『《赫熾》またの名を《赫紋》。Rc細胞を体のあらゆる部位から噴出すると同時に、Rc細胞の形質を変化させる日本では珍しい喰種の力さ』

 

『形質を……変化させる?』

 

『分かりやすい例で言うなら……有馬の『ナルカミ』見た事あるだろ? あれは羽赫と『雷』の赫熾のハイブリッドのクインケさ』

 

『! そんな物が……』

 

『実際に雷に変化させるんじゃないよ。あくまで『雷に似たもの』、だけど実際の雷と何ら変わらないよ。他にも炎や水といった物が確認されているね。海外では100人に1人、その力に目覚めると言われているが日本ではさらに少ない。まぁ、その分『赫者』は多いと言われてるけどね(苦笑)』

 

 

 

(あのナキが一撃で……赫熾か…………)

 

とその時、サイレンが聞こえてきた。それはこっちに向かってきている。CCG或いは警察だ。どちらにせよ、亜門達は保護されて……

 

「!」

 

と同時に亜門は気づいた。それではここにいる自分たちを助けようとした喰種『眼帯』はどうなるんだ、と。間違いなく、捕まる。さらに赫者で赫熾の力も持ってるとなれば、確実に駆逐される。

 

「…………これで借りはなしだぞ」

 

亜門は眼帯の喰種を誰の目にもつかない山へと落とした。眼帯の力なら傷を回復して生き延びられるだろう、と

 

 

 

 

 

 

「研?」

 

その三時間後の午前3時、カネキは四方に発見された。

 

 

 



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第2章 エピローグ1

『終わりの始まり』は零章扱いという事で、2章のエピローグです!


「トーカちゃん、ごめん。勝手な事したのは本当に……」

 

「うるさい、黙れ」

 

昨日からずっと謝ってるのに、トーカちゃんはずっと僕に対してこの調子だ。原因はまた自分1人で無茶してアオギリに向かっていったからだそうだ。

 

「お前、本当に馬鹿だよな」

 

西尾先輩が笑いながら話しかけてくる。

 

「すみません。でも、今回ばかりは本当に時間がなくて……」

 

「ああ、それは分かってる。だから四方さんもお前を一発なぐって終わりにしてくれたんだろう」

 

「…………」

 

昨日、目が覚めたと同時に四方さんに何でこんな事をしたのか聞かれた。僕はそれに対して、正直に答えて……平手打ちをされた。『お前には芳村さんの言いたかった事がまだ分からないのか』と言い残されて……

 

「僕、駄目ですね」

 

「本当だよな、何回同じ事を繰り返すのかって感じだ」

 

「……………」

 

「平和な世界で暮らしたくないならそれでいい。が、そうじゃないんだろ?」

 

「「!」」

 

西尾先輩と話していると、コーヒーカップを磨きながら四方さんが話しかけてきた。

 

「平和な世界で暮らすために戦う……それも1人で。お前に今、必要なのは『力』じゃない。『心の支え』だ」

 

心の支え……僕は西尾先輩を無意識のうちに見つめていた。先輩には貴美さんが、芳村さんに憂那さんがいた。二人ともそれで変わる事が出来たんだ。西尾先輩はもうあれから人を殺していない。

 

……僕はリゼさんがいたから変わってしまった。喰種になって、喰種を受け入れて……僕は彼女のおかげで強くなれた。そんな彼女も……ヤモリのあの時から悪夢にしか出てこない存在になった。

 

確かにそうかもしれない。ヒデがそうだった様に……

 

 

ヒデ、今どうしているんだろう?

 

 

 

 

 

「亜門さん! お見舞いにきましたよ!」

 

「おぉ、永近か。久しぶりだな!」

 

亜門は今、梟戦で傷ついたCCGの人たちが入院している病院にいる。もちろん、彼も入院している身だ。

 

「……腕、大丈夫なんすか?」

 

「! これは……」

 

(眼帯の赫者、アイツはあれを制御しきれていない)

 

「事故さ。……不運によるな」

 

涙を流している眼帯、『もう喰べたくない』と苦しむ眼帯が頭の中に浮かぶ。不運、喰種として生きていくしか無い彼の不運。

 

「寂しくなりましたね」

 

「ああ」

 

この戦いで亜門は多くの人を失った。篠原さんは昏睡状態、滝沢は未だ行方不明、亜門はそれを知った日、病室で涙が涸れるまで泣き続けたという。

 

 

「俺もこの腕じゃ、引退かもしれんな」

 

 

「そんな!?」

 

「だが、俺は見届けたい」

 

「え?」

 

(眼帯……お前の生き様を)

 

 

 

 

 

そして、上井大学の合格発表日……




後は2章の終わりに向けてのエピローグ祭りじゃ!!

亜門のCCG人生、トーカちゃんの合格発表、カネキのこれから……語っていくぜぇ!


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第2章 エピローグ2

「……………………」

 

「……………………」

 

「お兄ちゃん」

 

「何、ヒナミちゃん?」

 

ヒナミちゃんは僕の耳元でひそひそと話す。

 

「何で、お姉ちゃんもお兄ちゃんも黙ってるの?」

 

「……大学の合格発表で緊張しているんだよ。それに僕、トーカちゃんを怒らせちゃったから」

 

トーカちゃんの顔はとても不安そうだ。だけど、僕がトーカちゃんを見ているのに気づくと黙ってそっぽを向かれる。その顔を見るからに不機嫌そうでまだ怒ってるみたいだ。

 

 

「こんな感じでトーカちゃんを祝う祝う事できるかなぁ……」

 

 

 

 

そして掲示板の前に着いた。既にたくさんの人たちがいる。本来は前までいかないと見えないんだけど……

 

「じゃ、ヒナミちゃんお願い」

 

「うん」

 

僕たちにはヒナミちゃんがいる。僕はヒナミちゃんを担いであげる。もちろんこの状態で『そ〜れ飛行機』なんて遊んであげる訳じゃない。ヒナミちゃんの視力を生かして掲示板の番号を調べてもらう。当然、バレない様にサングラスをかけている。

 

「…………」

 

「…………」

 

僕とトーカちゃんの間に緊張が走る。そして、ヒナミちゃんは何も言わずにずっと険しい顔で掲示板を見つめていた。視線は左端から右へと移動していく。

 

 

 

「あ……あった! あったよ! お姉ちゃん!!!」

 

「「!!!」」

 

わざわざ前に行かないためにヒナミちゃんを呼んだというのに、本当かどうか確かめずにはいられなくて人混みを避けて、ヒナミちゃんが指差した方に向かう。そこにはトーカちゃんの受験番号が記載されていた……

 

「やった……やったやった!!!」

 

トーカちゃんは嬉しそうにガッツポーズをしている。

 

(良かったね、トーカちゃん)

 

僕はヒナミちゃんに耳元で話しかける。

 

「じゃあ、後はお願い、ヒナミちゃん」

 

「え? お兄ちゃんは?」

 

「……僕は先に帰ってるよ。四方さん達に報告しないと行けないし」

 

「でも、お姉ちゃんに……」

 

「トーカちゃん、まだ僕に怒ってるだろうから……」

 

と言った瞬間、ヒナミちゃんは僕を引っぱり人混みから脱出した。

 

「ひ、ヒナミちゃん?」

 

「本当にお姉ちゃんが帰ってほしいって考えてると思う?」

 

「!」

 

ヒナミちゃんは真剣に僕に問いかけてくる。

 

「お姉ちゃん、確かに怒ってるかもしれないけど、このままお兄ちゃんが帰ると多分、傷つくよ」

 

「…………」

 

「四方さん達にはヒナミが伝えるから、ね?」

 

「うん……じゃあお願いしていいかな?」

 

「うん!」

 

そしてヒナミちゃんは『:re』に走っていった。

 

(ありがとう、ヒナミちゃん)

 

もしかしたら僕よりしっかりしてるんじゃないかと思って、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「何1人で笑ってんのよアンタ」

 

「!」

 

いつの間にかトーカちゃんが後ろにいた。さっきまでの笑顔はどこかにいったのか、またいつものクールなトーカちゃんに戻ってる。

 

「合格おめでとう、トーカちゃん」

 

「……何で祝ってくれるの?」

 

「…………え?」

 

トーカちゃんは少し戸惑った様子で聞いてきた。僕はその状況に少し混乱してしまう。

 

「さっきまでしつこく怒っていた私に何で祝ってくれるの?」

 

「……あの、勝手に解釈していたら悪いんだけど……友達って……トーカちゃんと僕っていつもそんな感じじゃない?」

 

「! そうね……そんな感じだっけ、いつも」

 

何かを懐かしむ様な感じでトーカちゃんはぽつりと呟いた。僕もトーカちゃんとの色々な思い出を懐かしんでみる。たくさん笑って、たくさん怒られて、たくさん謝って……

 

「トーカちゃん、ゴメンね。いつも無茶ばっかりして」

 

僕は何度目か分からない『ゴメンね』をトーカちゃんに言った。

 

「……これで最後にしてね」

 

トーカちゃんもようやく僕に笑顔を向けて、許してくれた。

 

「じゃ! アンタに合格祝いで何か奢ってもらおうかな」

 

「えっ!?」

 

「色々、行きたい所もあるし」

 

「はぁ……(苦笑) ……うん、行こうか! 財布の許す限り」

 

 

 

 

 

「………………」

 

(どうしてこうなった?)

 

亜門鋼太郎はベッドで冷や汗をかいている。何故なら、今彼の目の前には『有馬貴将(特等捜査官)』と『和修吉時(喰種対策局 局長)』がいるからだ。

 

「そう、緊張しないでくれ亜門くん。今日は有馬くんが君に話があるだけだから」

 

(だから緊張するんですよ!)

 

「亜門、君の活躍は聞いたよ。君が今までどういう状況だったのかもね……」

 

亜門は黙っておくことしか出来ない。

 

「君の腕のことも。そして君が『喰種捜査官としてこの腕でどうやっていく』と言っているのもね」

 

「……片腕が無くては喰種とも渡り合えないかもしれませんし…………」

 

「『喰種捜査官は手足をもがれても戦え』、だったね」

 

「! ……はい」

 

「でも、たしかにその腕では喰種と戦う上で不便だ。そこでだ、アラタを………………………」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜、たくさん買ったなぁ」

 

「そうだね」

 

そのうちの10個くらいがぬいぐるみというのには驚かされたけど……

 

「ねぇ、少し寄っていきたい場所があるんだけど……」

 

「?」

 

 

 

 

「うわぁ、綺麗だね」

 

「でしょ、私のお気に入りの場所」

 

夜の景色がとても綺麗に見えるマンションの屋上からの眺め……壁を駆け上ったから不法侵入になっちゃうのかな?

 

「ここ、ヒナミにも見せたし、店長にも紹介したんだ」

 

「へぇ……」

 

「アンタもいつか連れてこようって考えてた」

 

……トーカちゃんは夜空をずっと眺めている。

 

「ヒナミも四方さんも今はいないけど古間さんも入見さんも店長もついでにクソ錦も……カネキも私にとって大切な人」

 

「………………」

 

「でも、アンタは他の人とは違う。何でもそつなくこなせるからいざというとき頼りになるし、優しいし……」

 

「!」

 

僕、トーカちゃんにそう思われていたんだ。なんだか嬉しくなってしまう。

 

「私はアンタのこと怒ったりとかしてしまうけど、なんだかんだで頼りにしてんのよ」

 

(心の支え……か)

 

前から僕は気になってた。僕は皆のことをどう思ってるんだろうって。

 

「トーカちゃん、最初に君に出会った時、僕の口に人肉を無理矢理つめこんできたよね」

 

「なっ! まぁ……懐かしいな」

 

「いつも僕は君に怒られてばっかりだった」

 

「それはアンタが無茶したりへまするから……!」

 

「だけど、そんなことを思い出すたびに、理不尽に怒られたりする度に、不思議と僕はそれをトーカちゃんらしいと思えるんだ」

 

「!」

 

 

 

 

「僕にとってトーカちゃんは大切な……特別な人だ。まるで家族みたいに思えた。僕はトーカちゃんが……好きなのかもしれない」

 

 

「!!!」




亜門さんのエピローグはここまで! 次回の登場までお待ちください!

カネキはどうなるのか!?


それにしても、掲示板で合格発表って昔ながらって感じになるんですかね? 東大は今もやってるとかやってないとか……


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運命へと向かう戦い

(でも僕は……)

 

 

「トーカちゃんの事は好き……本当の家族だとも思ってる……これは本当なんだ」

 

「カネキ……」

 

✳︎

 

(トーカ視点)

 

私だってそうだ。いつからだろう? カネキを仲間だと思い始めたのは?

 

最初は軟弱でウザい奴としか思ってなかったのに、カネキがアオギリにさらわれた時、真っ先に助けに行くと言ったのは私だった……

 

『1人にしないで……」

 

母さんもいなくて、父さんもある日消えて、アヤトはアオギリに入って私は一人ぼっちだった。『あんていく』に入ってからもそれは変わらなかった。寂しかったんだ……怖かったんだ、また1人になるのが

 

そんな時………

 

 

『しないよ』

 

 

アイツはそう言ってくれた。その時から私にはカネキしかいない、そう思うようになったんだ。

 

 

だから今の言葉はとても嬉しい。

 

「カネキ……私も…………アンタが」

 

 

「でも、僕は君と付き合えない……」

 

 

「……え?」

 

その時、カネキは確かにそう言った。カネキのその言葉は私を突き飛ばす様な言い方だった。

 

「どういうことよ?」

 

「……僕と一緒にいたら、後からが辛いだけなんだ」

 

「は?」

 

「トーカちゃん、聞いて。僕は4月からドイツに行くんだ。嘉納の講演会に参加するために……その後、僕はしばらく日本に戻らない」

 

「!?」

 

「日本にアオギリがある様に、海外にもそんな喰種組織が存在する。海外にいる喰種に僕1人じゃ太刀打ちできないけど……ドイツにいるある喰種組織から連絡が来たんだ。僕はそこに所属して他の喰種を倒す」

 

「……ふざけんな! :reはどうすんの!? またアンタ1人で……」

 

「……仲間はいるよ。今度は1人じゃない」

 

そんな事言いながらも、どうせまた1人で敵陣に突撃していくのは目に見えている。それなら、

 

「…………なら私も!」

 

「駄目」

 

カネキはハッキリそう言った。

 

「君を巻き込むわけにはいかない。それに君にもしもの事があったら……」

 

「ハッキリ言えよ。私がいると足手まといなんだろ?」

 

「!」

 

「アンタがあんていくを出て行った時も、ヒナミや月山は連れて行って私は連れて行かなかった。それは私が弱いと思ってるからだろ?」

 

「足手まといとは思っていないよ。ただ、君を傷つけたくないんだ」

 

 

「……そこまで言うなら、私と戦え!!」

 

 

「え!?」

 

自分を犠牲にしたり、自分だけ戦ったりする……アイツはそれでいいと思ってる。

 

「カネキ、前にも言ったよね。私、アンタのそういうところ嫌い」

 

「…………君とは戦えないよ」

 

「黙れ!」

 

 

 

✳︎

 

「!?」

 

トーカちゃんはそう言うと、僕に殴りかかってきた。トーカちゃんに躊躇はない。本気で僕を……倒す気だ!

 



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ぶつかる思い

ご無沙汰です……

大まかなストーリーが決まっても、書くの難しいですね(汗

言い訳はここまで! どうぞ!

後、今回は神視点です。


トーカは赫子を出してカネキに攻撃を仕掛けるが、カネキはただ攻撃を避けたり防御するだけで、全く手を出さない。

 

「トーカちゃん、やめよう。こんなこと……」

 

「うっさい!」

 

トーカの赫子の勢いが増していく。

 

「アンタが私を心配してくれる様に私もアンタが心配なんだって何で気がつかないんだよ!」

 

「……知ってるよ」

 

「!」

 

「四方さんもヒナミちゃんも……皆、僕のことを心配してくれているのは知ってる。でも、皆は…トーカちゃんは巻き込みたくないんだ」

 

カネキは頭の中で過去の出来事を思い返した。……カネキは誰よりも大切な人が失われる悲しみを知っていた。大切な人をこの手で傷つける事だってあった。

 

「僕が皆の盾になる。僕が皆の刃になる。僕が……」

 

「だから、アンタのそういう所が嫌いなんだよっ! クソカネキ!!!!」

 

射撃された赫子は見事にカネキに被弾し、カネキが怯む。

 

「がっ! ぐっ!」

 

「仲間を自分1人で守る、とかそんな甘い事考えてんの? 自分を漫画のヒーローとかに置き換えているわけ?」

 

「!」

 

「悲劇を経験したからこそ人の不幸を見たくない、だから自分を犠牲にして皆のために戦う正義の主人公みたいに…………」

 

「そんなわけないだろっ!!」

 

「!?」

 

カネキは叫んだ。

 

「漫画に出てくる正義の主人公? そんなのなれるならなりたいよ! 皆を守っていきたいよ! でも、僕は……《喰種》だ。……この世界にいる事が罪の存在だ。この世界の悪だ」

 

「……………………」

 

「この世界は間違っている。それを変えようとするために頑張ってるんだ。そんな……すべてを解決できる様なヒーローになれるならなりたいさ」

 

「……出来ないからこそ戦わないといけない時もあるんだ! 私と戦え!!」

 

トーカはカネキに高速で接近してきた。

 

「私だって何もしてこなかったわけじゃない。赫子ならアンタの方が上かもしれないけど……」

 

トーカはカネキの足を払い、思いっきり殴り飛ばした。

 

「うがっ!」

 

「色んな人たちに訓練してもらっているんだ。体術なら負けない」

 

カネキは殴り飛ばされた瞬間をもう一度思い出していた。

 

(あれは間違いない。今でも思い出す……)

 

『遅いぞ、童(わっぱ)!! 拿ッッ!!!』

 

(威力はまるで違うけど、あれは……鯱の!)

 

「ぐっ……」

 

(体が痺れる……思う様に動かない)

 

カネキはゆっくりとふらつきながら立ち上がった。

 

「強くなったんだね……トーカちゃん」

 

トーカは何も言わず、カネキをじっと見つめる。

 

「でも……負けられないな。今回ばかりは…………」

 

カネキは口から吹き出た血を拭って、赫子を出現させた。

 

「トーカちゃん、君を巻き込まないためにも」

 

「やってみな!」

 

トーカが猛烈な勢いでカネキに突っ込み、カネキは3本の赫子を盾の様に構えた。カネキが見切れないほどの速度で動く相手に最初から『躱してカウンター』という選択肢はカネキには無い。

 

勝負はトーカのこの一撃で決まるのだ。

 

「だあああああああああああああ!!!!!」

 

「っ!」

 

とてつもない衝撃がカネキを襲う。脳も激しく揺れて意識が混濁する。その状況にカネキは防衛反応が働き、通常の戦闘の時の様にもう1本の赫子でトーカを殴り飛ばした。

 

「……!!」

 

「あっ! トーカちゃん!」

 

カネキが気づいたときにはトーカは建物から落下していた。15階もある建物から手負いの状態でちゃんと着陸できなかったら、喰種といえども大事態だ。慌ててカネキはトーカを追って飛び降りた。そして落下しながらもトーカをなんとか掴んだ。

 

「よし……後は……………!?」

 

そのとき、トーカがカネキを思いっきり抱きしめてきた。もちろんこの状況で愛情表現なんてわけは無い。

 

「この下、実はマンションのプールなんだ」

 

「!?」

 

トーカはそこで満面の笑みをカネキに向けた。

 

「一緒に泳ご?」

 

「……ああ、騙された」

 

カネキは観念し、困った様な顔で笑い、そして……

 

 

ザッパーーーーン!!!!!

 

 

カネキを襲った衝撃はいとも容易くカネキの意識を刈り取った。




はい、微妙な決着ですみません(汗

かといって、トーカちゃんが実力でカネキに勝つのは何だし……

何で鯱の技が出たかは、まだ秘密なのだ〜


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第2章 エピローグ3

「うっ……ああああああああぁぁ!! に……にぐ…………俺の肉!」

 

痛みに涙を流しながら、肉を頬張るナキ。

 

喰種は喰べることで回復や赫子に使うRc細胞を取り入れる。つまり喰べれば大抵の傷は治るのだ。

 

だが………………

 

「……うっ! ぎゃああああああああぁぁ!! やっぱ痛てぇ!! チクショー! 治んねぇぇ〜!!!」

 

ナキの傷ついた部分は濃淡な紫色で染まっていた。

 

 

 

✳︎

 

「……あれが?」

 

「そう。あの子、また喰種としての高みを登ったみたいだね〜」

 

タタラとエトは苦しんでいるナキを遠目に見ながら話し合っている。

 

「まさかあのリゼ持ちがここまで強くなるとはな……やはり捨てるべきではなかったか…………錯誤(失敗した)」

 

「うん、赫熾まで使うんだもんね」

 

「だが、あれは炎でも雷でもないな」

 

「…………なんだろうね、アレ?」

 

 

 

✳︎

 

「くしゅん!」

 

「カネキ、風邪?」

 

「いや、そんな事はないと思うんだけどなぁ……」

 

僕とトーカちゃんは一緒に歩いて:reに向かっている。昨日、トーカちゃんと派手な喧嘩をしたとは思えない状況だ。

 

あの後…………

 

 

「カネキ、起きた?」

 

目を覚ますと、僕はマンションの屋上で寝ていてトーカちゃんは横で寝そべっていた。

 

「……僕、どれくらい気を失ってた?」

 

「いっても、5分くらいよ」

 

(5分って結構な時間じゃ……)

 

「そうか、負けちゃったんだ…僕」

 

だけど……トーカちゃんの強さを目の当たりにしたからかどうかは分からないけど、不思議とトーカちゃんを連れて行くことに抵抗は覚えなかった。

 

「カネキ、私だってアンタが大切、傷ついて欲しくない。それでも、アンタが戦いに身を置くって言うなら、私にも手伝わせなさいよ」

 

「……うん、今日からそうさせてもらうよ、トーカちゃん」

 

 

 

「ドイツに行く話だけど、トーカちゃんは大学があるしなぁ……」

 

「あっ」

 

トーカちゃんはそこで初めて気づいたのか唖然としてしまう。

 

「まぁ、僕は大事な件が終わってもしばらく残るだろうけど……トーカちゃんはちゃんと日本に帰ってよ」

 

「………………」

 

「もちろん、早めに約束を終わらせて帰ってくるから」

 

『約束』、ドイツの喰種組織に嘉納の件で協力する条件として提示された指令

 

『《END》を探す者を倒し、《END》を捕らえろ』

 

ENDと呼ばれる誰かの事を僕は知らない。ドイツにいる喰種の可能性は高いけど……

 

「カネキ、死んだらマジで恨む。というか、後を追ってあの世で殴る」

 

………目が本気なんですけど

 

「うん、死なないよ。君を1人には絶対にしない」

 

 

 

 

 

 

?「この崩れていく世界の崩壊を止めるには歪んだ物を取り払うしか無い。世界が僕を認めないのなら僕はこの世界を……世界に存在するもの全てを否定する。次は……ドイツ、『嘉納 明博』か」




中途半端な終わり方ですみません。

次回からドイツですね。

何でドイツにしたかというと、クインケを作った時の話でも色々と原作でドイツというワードが登場したからです。

感想、特に意見、お待ちしてます。


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新天地『ドイツ』/世界の終わり《END》編
それぞれの動き


先に謝ります。

オリキャラ思いつかなかったので某アニメ(ラノベ)の彼を登場させました。しかも、今後も準レギュラーとしてやっていきます(>_<)

意見、お待ちしております。




CCG本局

 

「あっ、亜門さん! 復帰おめでとうございます!!」

 

「ああ、ありがとう」

 

亜門はあれから代わりの右腕を手に入れて、職場に復帰する事が出来た。さらに……

 

と、話があると局長から呼び出しを受けて向かっていると、廊下に10人くらい捜査官が立っていた。そして近くまで行くと……

 

「亜門《准特等》! ご苦労様です!」

 

敬礼し、わざわざ扉まで開けてくれた。亜門は梟戦での戦績、右腕の消失もあり、一階級昇進していたのだ。

 

「!? お……おう、わざわざすまないな」

 

(こ……こういうのは慣れんな)

 

と、部屋に入ると……

 

「亜門くん、わざわざ呼び出してすまないな」

 

「いえ、そんな事……って、アキラに什造?」

 

局長のデスクの前には、とても懐かしいメンバーが2人いた。

 

「! あ……亜門さん、どうもです………」

 

「久しぶりだな、そして退院おめでとう亜門上……いや准特等」

 

「ああ、元気にしてたか?」

 

心無しか、什造は元気がなさそうだ。

 

「何で、お前たちが?」

 

「彼らがコンビだからだよ」

 

「…………何っ!?」

 

「? 聞いていなかったのか?」

 

アキラが上等捜査官、什造が一等捜査官としか、聞いていなかった亜門にとって驚きの知らせだった。

 

と、局長は咳払いで自分に視線を戻させた。

 

「さて、雑談もここまで。わざわざ呼び出したのには理由があるんだ」

 

局長は封筒を取り出し、デスクに置いた。開けてみろ、と手を差し出したので中を見てみると、飛行機のチケットだった。

 

「……バカンスですか?」

 

「黙れ、アキラ」

 

(アキラの冗談も久しぶりだな)

 

「嘉納については聞いているな?」

 

「はい、確か喰種を作っていると」

 

「その嘉納がドイツで講演会を行うらしい」

 

「「「!」」」

 

全員に緊張感が走った。

 

 

「ここまで言えば分かるね? 有馬が梟と24区の件で外せない今、君たちにしか出来ない事だ。

 

              何としてでも、嘉納を捕らえろ」

 

 

 

 

 

「やあ、カネキくん!!! 昨日は良く寝れたかな?」

 

到着して待っていたのは、月山さんだった。昨日から近くの高級ホテルに泊めてもらい、寝心地も最高だった。

 

「ええ、おかげさまで」

 

「……ウチは無視かよ」

 

「ノン、もちろん君の事も忘れてないよ霧嶋さん。君の鋭い瞳、熱い心(ハート)もまた……僕の心を刺激するッッ!!!!!!」

 

「やっぱ、ほっといて」

 

と、話しながらも小さな飛行場で僕たちはドイツに向かう準備をしている。

 

「それにしても、小型ジェット機って……」

 

「これを買うのはさすがに苦労したよ」

 

「わざわざすみません」

 

「いやいや、カネキくんのためなら何でもするさ!(長く生きてもらって、満足してもらって、僕の物になってくれないとねぇ……)」

 

月山さんには感謝こそしてるけど、いつ裏切られるか分からない。いつでも対応する様にしておかないと……

 

「カネキくん、いつでも行けるよ」

 

「だってさ」

 

「うん」

 

 

「行こうか、ドイツに」

 

 

 

 

「それとだ、亜門くん」

 

「はい?」

 

「君の新しいパートナーが決まった」

 

「!」

 

そういえば、アキラが上位捜査官になったという事は新しいパートナーに変わるってことだったな。

 

「紹介するよ、入りたまえ」

 

「は……はい!」

 

と、後ろの扉から……

 

「「「!?」」」

 

1人の『少年』が入ってきた。

 

「有馬くん、鈴谷くん以来の総議長の推薦入局だ」

 

「「なっ!?」」

 

俺とアキラは驚きを隠せていない。什造もこの位の年で推薦を受けたという。という事は、逸材の捜査官という事か?

 

 

「桐ヶ谷 和人(きりがや かずと)三等捜査官です! 今日から亜門准特等の元で捜査について学ばせていただきたいと思います! よろしくおねがいします……」




再三申し上げます。

本当にすみません……オリキャラが思いつかなかったです……

まぁ、こういうのもアリかな、甘えてしまう自分もいるww この人が分からない方のためでも、分かる様に話は進めていくのでご安心を!

感想、意見、お待ちしています!


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《Analyze》

グダグダな話ですが、良ければお付き合いください


「ここがドイツか……」

 

亜門は初めてのドイツに感銘を受け、周りを見渡していた。その隣には、

 

「うわっ、綺麗な場所だ」

 

と、新しいパートナー『桐ヶ谷 和人』がいて、同じくドイツの景色に感動していた。

 

「その……桐ヶ谷もドイツは初めてか?」

 

「あっ、ええ。というか、外国に行く事自体……」

 

「そうか、CCGに入る前は?」

 

「……えっと、まぁ色々と」

 

その表情は笑顔、といっても苦笑だった。この時点で亜門はいくつか気づいていた。

 

まず、彼には人には知られたくない辛い過去がある事。

 

そして、彼は他人と関わるのが苦手だと言う事。

 

(アキラとは違う意味で心を開いてくれないな。さて、どうしたものか……)

 

 

 

 

 

「本当にこんな所に?」

 

僕たちは今、地図に従ってギリギリ人が通れそうな裏道を体をよじらせて通っていた。

 

「うん、そのはずなんだけど」

 

ドイツに着いてすぐに僕たちは『例の場所』へと向かっていた。月山さんはしばらくドイツに残るようでいつの間にかホテルへと向かってしまった。その時、何故か僕の事を心配そうな表情で何度も見つめていたけど……

 

(あれは一体?)

 

「! ここだ」

 

と、考えているうちに例の場所に着いた。そこには下水道へとつながるはしごがある。それはどう見ても手作りで今にも壊れそうだ。

 

「ゲェ……ここかよ」

 

トーカちゃんが言うことも分かる。何故なら既にそこは悪臭で満ちているからだ。確かにこんな所、誰も近づかないだろうけど、

 

「行くしかないね」

 

と、先に僕ははしごを使って降りていく。もしも下に厄介な奴がいたら排除しないと……と懸念していたが幸い人の気配はしない。

 

「うぅ……」

 

トーカちゃんは鼻をつまみながらはしごに足を掛けた。ゆっくりと一段ずつ……

 

バキッ!

 

「えっ!? うわぁ!」

 

「トーカちゃん!?」

 

その時、はしごがとうとう壊れてトーカちゃんが落ちてきた。慌てて赫子を出してトーカちゃんを間一髪で受け止めて抱きかかえた。

 

「あっぶないなぁ」

 

はしごは水にぷかぷかと浮かんでいる。あのまま落ちていたら、トーカちゃんもあそこに……

 

「臭そうとか考えたろ」

 

「…………」

 

トーカちゃん、僕相手には読心術が使えるらしいです。

 

「……まぁ、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

それからトーカちゃんをおろして周りを見渡してみると

 

「!」

 

色の違う不自然な壁がすぐ近くにある。ゆっくりと近づくと何かが動いている音がする。それに触れてみると

 

「「!?」」

 

壁は柔らかくなり、色は真っ赤に染まり、裂けて、奥へと続く道が現れた。その壁の見た目は何処からどう見ても赫子だった。

 

「これが……」

 

「うん、クインケ開発に関わったドイツの技術……」

 

(嘉納の屋敷を思い出すな)

 

と、一歩踏み込んだ瞬間

 

「! トーカちゃん後ろ!!」

 

「は……? ! チッ!」

 

後ろから誰かが襲ってきた。トーカちゃんは赫子で射撃するけど避けられる。僕も隙を見つけて赫子で叩き付けようとするけど

 

「!?」

 

空中で急に加速した。トーカちゃんはさらに攻撃を仕掛けるけど、相手の動きは速くて当たらない。

 

「羽赫か……なら」

 

そこで4本の鱗赫で片方の道を塞いで、さらにそのまま前へと突撃する。

 

「!?」

 

相手は慌ててバックするが、

 

「トーカちゃん、今」

 

「うっせぇ、分かってるつー……」

 

トーカちゃんはその隙に相手の背中に回り込み、羽赫の高速スピードで、

 

「の!」

 

蹴り飛ばし、さらに壁に叩き付けた。

 

「ぐはっ!」

 

そのまま、声からして男である襲撃者は倒れた。多分、最後の一撃で腕を折ったな。これで抵抗は出来ないだろう。

 

「さて、それではお聞きしますが……何で僕たちを…………」

 

 

「Mob stop(モブ、やめろ)」

 

 

「「!」」

 

すると建物の奥から誰かがやって来た。トーカちゃんは警戒し赫子をもう一度出現させたが、それを制する。

 

何故なら、この声は僕の知っている人だからだ。

 

「カネキくん、来てもらってから早々、迷惑かけてゴメンね。彼も悪気は無かったんだ」

 

そして顔がハッキリと分かる所まで彼は近づいてきた。

 

 

「喰種組織《Analyse》へようこそ、カネキくんと綺麗なお嬢さん」

 

 

『この男:『神山 透』、SSレート・?赫、日本で活動していた喰種』

 

 

 



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昂進

そういえば、あの話の結末を書いてなかったので中盤辺りに。

また、アンケートにご協力お願いします!


 

ドイツに来る少し前にカネキは:reで明日の仕込みと食器洗いをしながらある事を考えていた。

 

(嘉納をドイツで捕らえる。僕みたいな人をこれ以上増やさないためにも……)

 

その思いはカネキが正義の心を持つ復讐でもあり、悲劇の主人公である事を表す心持ちであった。リゼはそこまで憎めなくとも、嘉納を恨むには十分すぎる理由があった。

 

そしてカネキはある事を懸念していた。

 

(嘉納はアオギリのカード。そしてアオギリは梟……店長を手に入れた。この2つのピースが組み合わされば? 嘉納が店長で喰種を作っていたら?)

 

最悪の組み合わせ。カネキは理解していた。だからこそ嘉納を絶対に捕まえて、店長を取り返さないと行けない事も分かっていた。

 

(でも、今回は1人で突っ込んでどうこうなる問題じゃない。月山さんはついてきてくれるとは言ってるけどそれでも足りない。もっと……それでこそアオギリの様な組織で挑まないと……)

 

そのとき、カネキに1本のメールは届いた。今回のドイツ戦での支えとなる1本のメールがーー

 

 

 

「嘉納とENDの確保は絶対だ。今後のためにもね」

 

僕とトーカちゃんは神山さんと数日後に向けての話し合いをしていた。月山さんはこの場にはいないけど、今回月山さんは撤退する場所の確保、雑魚の殲滅が任務だから心配は無用だった。

 

ただ、問題は……

 

「本気ですか? トーカちゃんに殿を任せるって……」

 

そう、今回の作戦は僕と神山さんが嘉納を追い、残りの精鋭メンバーでドイツの喰種捜査官たちを足止めさせて僕たちの作戦に支障をなくす事だった。そのメンバーの1人がトーカちゃん。しかもトーカちゃんを精鋭メンバーのリーダーにするとまで言い始めたのだ。つまり、いざとなるとトーカちゃんは……

 

「大丈夫、トーカさんの実力はさっき見たけどかなり高いものだったよ。それにドイツの喰種捜査官は日本と比べて箱持ち(クインケ)が少ないしね」

 

それでも僕はトーカちゃんの事が心配で仕方がなかった。

 

「分かりました。ただ1つだけ言っておきます。これはあくまで同盟関係であってあなたを仲間とは思っていません。トーカちゃんが死ぬ様な事があれば……」

 

 

「僕があなたを殺す」

 

 

その場にいる全員に緊張が走った。殺気が漏れたのだろうけどそんな事は関係ない。そのまま神山さんを睨み続けていると

 

「うん。僕も自分の不甲斐なさで誰かが傷つくものなら、もとより責任は取るつもりだから」

 

彼はごく自然に笑顔を浮かべながら答えた。そのとき、僕は確信した。

 

(この人は僕より強いな、力も……精神(こころ)も)

 

「すみません、強い言い方してしまって」

 

「ううん、仲間を失う時の辛さは知っているから……」

 

 

 

 

「トーカちゃん、気に入られてるんだね」

 

「え?」

 

「カネキくんに」

 

神山さんは私に急にそう話しかけてきた。

 

「い、いえ、そんなことないですよ。アイツ、いつも急に私の前からいなくなって……」

 

「いや、僕には分かるよ。彼の中にはいつも君がいて、君が彼の支えになってるんだって」

 

不思議な気分だった。彼の勝手な解釈。それは分かっていたけど、彼のその言い方は確信に近いものだったから。

 

「あっ、ごめん。変な事言ってしまって。信じられないかもしれないけど……」

 

 

「僕、他人(ひと)の心の中を見るのが得意なんだ」

 

 

「え?」

 

ますます意味が分からなくなってしまった。そして私が混乱しているのが分かったのだろうか、神山さんは

 

「あぁ! ゴメン! 意味分からないよね! さっきのは気にしなくていいから!」

 

「……ぷっ。ハハハハ!」

 

それを見ていて私は思わず笑ってしまった。その慌て方がカネキに似ていたから。

 

「な……なんですか?」

 

その言い方もカネキに似ていた。

 

「いえ、何でも……」

 

彼とは仲良く出来そうだった。

 

「で、話戻すけど……カネキくんとは付き合ってるの?」

 

「はぁ!?」

 

さっきまでは気に入られてるとかの話だったのにいきなりぶっとんだのは気のせいではない。

 

「いや、いつも仲良くしてるからって思って……」

 

 

「いえ、今はまだ……」

 

 

 

 

『トーカちゃん、あんな話の後で悪いけど……トーカちゃん、付き合うのはもう少し待ってからにしてもらえないかな?』

 

『え!? 何だよ、それ!』

 

『勝手なわがままかもしれないけど全て元通りに……昔のあんていくの様な頃に戻るまでは待ってほしいんだ』

 

 

 

 

その気持ちは私にも分かった。だからこそ私はそれを了承した。今は、カネキにとって大事な人、それで良かった。今は……

 

 

 

 

 

「ENDかぁ」

 

僕は神山さんに渡された資料を見ていた。

 

『END 性別? 年齢? 赫子?』

 

 

『レート Z(全国指名手配喰種 下位捜査官は見つけ次第、速やかに撤退せよ)』

 

 

 

*  

 

(そして……)

 

「亜門准特等、ドイツの喰種対策局がお呼びだ」

 

「ああ、遂に来たか。この作戦でどんな風に抜擢されるかだな。アキラ、気を引き締めろよ」

 

「無論だ」

 

 

 

(歯車は……)

 

「……この匂い。会ってみたいとは思っていたけどまさかここで会うなんてね。まぁ僕がENDだったら敵か……でも、初めましてだね、カネキくん」

 

 

「君と会って、ゆっくり話がしたいな」

 

 

 

「いよいよか、私についてくる喰種はどれだけいるかな? エトさん」

 

「んー、どうだろうね? ところで今回の護衛はどうするの、嘉納さん?」

 

「フフフ、タロちゃんコース200体と一般作150体、そして私の成功作と最高傑作を1体ずつって感じだね」

 

「へぇ! って事はあの子達を!?」

 

「ああ、さて準備はいいね? 《オウル》、それと《カネキくん》」

 

 

 

「ああ」

 

「早くしろ、腹減ってんだ」

 

(……動き出す)




最後のは分かる人には分かる。(カネキくんはオリジナルです)

感想でのネタバレはご遠慮ください。

また、感想のは他にも、『活動報告』にてアンケート2にご協力よろしくお願いします!!! 続きが迷って書けません!!


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快心

ちょいと引っ張るために、急遽考えた駄作ですw

:reの設定を繋げていきたいと思っていたし、やるなら今だ! とぶち込みましたwww

また、後書きの方でも書かせていただきますが、活動報告で行っている今後の話のためのアンケートにご協力お願い致します。


「カネキ、これ」

 

と、神山さんが渡してきたのは珍しい形をしたマスクだった。見た目も複雑な上に材料に金などを使っている辺りから高級な特注品だろう。

 

「?」

 

「今回の講演会では互いの素性を晒さないために共通のマスクをつけるのが義務なんだ。同時にこのマスクが入場券みたいなものさ」

 

「! なるほどね」

 

以前から気になっていたことがあった。今回のこの講演会に参加するための方法は何なのか、ということだ。調べてみたけど、チケット制でもないし顔を調べられるわけでもなかった。

 

答えは喰種が使っているこのマスクというわけだ。よく考えられてるな……ん?

 

「でも、このマスクはどうやって?」

 

 

「それは知らない方がいいかな?」

 

 

……その時の、神山さんの言い方から僕はすべてを理解した。

 

 

 

 

✳︎

 

「これをつけて当日、講演会に侵入して嘉納を捕らえるのが、俺たちの任務だ」

 

「はい」

 

「……趣味が悪いな。喰種のマスクというのは」

 

「…………」

 

桐ヶ谷もアキラもそれぞれ反応するが、相変わらず什造は静かなままだ。

 

「何か質問はあるか?」

 

「侵入して、捜査官が嘉納を捕らえようとすれば必ず修羅場になる。その時、私たちはどうする?」

 

「嘉納の確保は基本、ドイツの捜査官が担当する。俺たちはその場に残った喰種の殲滅が任務だ。それが終わり次第、嘉納の追跡を始める」

 

と、ここまで話して、俺は1番伝えたかったことを話し始めた。

 

「いいか? 俺のやり方としては……絶対に1人で動くな。何があってもドイツの捜査官とでもいいから2人以上で行動しろ。いいな」

 

そう言うと、全員何かしら考えてその場で俯いた。

 

「ああ。もう滝沢の様なことは繰り返してはいけないしな」

 

滝沢……俺もアオギリに捕まっていたが、滝沢の姿は確認できなかった。

 

滝沢は始末されたのか、それとも……

 

 

 

話し合いが終わった後、そのままホテルに戻って備えようと思っていた時だった。

 

「あの……亜門さん」

 

「? 什造か」

 

そう言えば、最近元気がなかったな。何か悩みでもあるなら聞いてやりたいんだが……

 

「どうした?」

 

「……篠原さんのこと」

 

「!」

 

篠原さん……俺が知らない間に梟との戦いが原因で未だに意識不明……この事は今になっても心の傷は癒えない。

 

「僕がもっとしっかりしていれば……亜門さんがあの時言っていたこと今になって分かりました」

 

『篠原さんに何かあればお前は必ず後悔することになる』

 

『しませんよ? 僕は“そういうの”何とも思いません。だから大丈夫です』

 

アレか。什造に元気がない理由は、自分のせいで師を失った喪失感とその責任というわけか……

 

「什造、俺も昔、自分のせいで師を失った。それを誰か(アキラ)に責められることもあった」

 

「…………」

 

「あの時、俺に足りなかったのは『力』だ。そして、お前には『仲間を思う気持ち』が足りなかった。だが、お前は俺と違って『力』はある」

 

 

「今のお前に反省や後悔は必要だ。だけどいつまでもクヨクヨしてたんじゃ始まらない。お前の『これから』を皆に……篠原さんに見せてやれ」

 

 

什造がその時、何を思っていたのかは俺が知る由もない。だが、きっと大丈夫だろう。

 

什造の目はこれからを見ていたから……

 

 

 

 

追伸

 

「亜門さ〜ん! 今日から心を入れ替えてきました〜!!」

 

「「!?」」

 

(什造、心を入れ替えるのは良いことだが…………髪を染めたのはどういう意味だ?)

 

鈴屋 什造 一等捜査官、髪を黒に染めました。

 




快心は『改心』とかけました……なんつって

√A最終回。途中までは正直言って何だこの作品(特にコクリア編)と思っていたけど……最終回、賛否両論かと思いますが、僕は良かったと思います。ストーリーどうこう以前に感動させられました。途中で画質が悪くなったと思ったら自分の涙だったり……(ええ、下手ですよ。こういうシャレ!怒)皆さんはどの様な感想をお持ちですか? ぜひ、感想の方で教えてください。

http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=67439&uid=87476

また上のリンクにて、『この人の生存ルート』などのアンケートを行っています(コピペでとべる筈、テスト済みです)。ご協力お願いします。


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会場

『ざわざわざわざわ』

 

「ここが講演会の会場?」

 

アキラは来た道を振り返る。そして何かを考えているのか、エレベーターを凝視している。

 

「街の片隅にあるせいぜい12階程度だった建物の『管理室』にあったエレベーターで降りた『地下20階』が会場……この上も相当酷いことに使われているんだろうなぁ」

 

確かにおかしな話だ。建物に入った瞬間、同じマスクをつけた男性に言われるままに歩いていった先が関係者以外立ち入り禁止の管理室でそこにあったエレベーターで移動する。

 

「さしずめ、喰種の溜まり場だな」

 

「ここにいるの全部、喰種です?」

 

「いや、ドイツの捜査官もまぎれている。それに嘉納のように喰種の研究を行っている研究員……喰種側の人間もいるだろう」

 

「………………」

 

(桐ヶ谷……)

 

 

 

 

「…………」

 

「皆がホテルで話してる中、1人で食事か?」

 

「! 亜門さん…」

 

桐ヶ谷は近場の安いレストランで1人で黙々と食事をしていた。と、そこへ客だと勘違いしたのかすたすたと店員が近づいてきた。

 

「え? あ……こ、これください……」

 

日本人の悪い癖、そしてドイツ語が喋れないのが災いし、断りきれずメニューに載っていたボウルいっぱいのサラダを指差して頼んでしまった……

 

「で、お前は何を頼んだんだ?」

 

見てみると、バケットにコンソメスープにステーキに……

 

 

「!?」

 

 

「……桐ヶ谷、これは何だ?」

 

「え、ああ! カエルの日干しです。カリカリしててウマいんですよ、これが」

 

「カエル!?」

 

まさか今回の班の中で一番真面目そうなコイツがこんなゲテモノ好きだったとは……

 

「一口どうです?」

 

「いらん!」

 

「そういわずに、ゲテモノ程ウマいって言うじゃないですか」

 

「…………」

 

(これも部下とのコミュニケーションの1つか……)

 

覚悟を決めて、カエルを1つ摘む。

 

「おお、中々にこれは……」

 

「触った感想を言って、皿に戻そうとしてますね」

 

…バレた。これはもう食べる以外の選択肢はないな。

 

「い……いただきます」

 

 

 

 

「何故、こんな物がウマいんだ」

 

結果、これは相当うまい食べ物だった。甘くもあり塩辛くもある、決して普通の食べ物では体験できない味だった。

 

「だから、ゲテモノ程ウマい物はないんですって。これもスカベンジトードの肉によく……!」

 

「?」

 

スカベンジトード? 全く聞いたことのない動物の名前だぞ?

 

「……ごちそうさまでした」

 

すると、桐ヶ谷は急に元気をなくしてその場を立ち上がった。

 

「ま、待て! 桐ヶ谷」

 

「?」

 

「俺は元々、お前と話をしようとここに来たんだ。今日のカエルの話のとき、お前はいつも異常に元気だった。なのにお前は俺たちの前でそれを見せようとしない。それは何でなんだ?」

 

 

「俺が経験した2年が亜門さん達とは違う世界だからです」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

そのまま桐ヶ谷は立ち去ってしまった。あの時言った意味は一体?

 

「亜門准特等、どうする?」

 

「あ、ああ。なるべく上にあがろう」

 

「了解です」

 

「あー、什造。エレベーターに向かってるが、俺の言う上はこの階の上の所にある観客席のことだぞ」

 

そして俺は上にあがりながら、あることを思い出していた。ドイツの喰種捜査官に言われた(もちろん、通訳者経由だが)ことを

 

 

『調査によれば我々が嘉納を捕らえようとするように、喰種にもそんな動きが見られる。一応、注意しておけ』

 

 

(いや、そんなまさかな。そんなことする喰種がいるわけ……)

 

 

 

 

 

 

「準備は良いね、カネキくん?」

 

「うん、いつでも」

 



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《END(終焉)》

お久しぶりです。続きやっていきます。


「皆は僕たちが突撃するのと同時に下へ行ってね。カネキくんは僕と一緒に」

 

…………周りを見渡せば、喰種ばかり。それもどう考えても、正しい道で生きてきていない喰種だ。こんな喰種がいる限り、喰種が捜査官に襲われる日々に終わりは来ないだろう。

 

「カネキくん、僕たちはそろそろ……」

 

「ええ、お願いします」

 

そして、月山さんと数名は脱出地点の確保に向かうために地下の出口へと向かっていた。神山さん曰く『もし襲撃あった場合に喰種が逃げる逃走経路』へと。

 

そこを抑えれば、脱出は簡単になる。そうすれば、皆生きて……

 

「ご来場の皆様、お待たせ致しました! 講演の準備が整いましたので、開演したいと思います!」

 

「!」

 

司会者は日本語でそう話し、数秒後に様々な言語の翻訳が始まった。

 

「そろそろだね」

 

「…………」

 

「それでは登場していただきます。 《元CCG解剖医》にして、現在かの喰種組織《アオギリ幹部》の地位を得て喰種の研究を行っているーー嘉納 明博!!」

 

盛大な拍手に包まれて嘉納がステージに現れた。その顔は当然と言わんばかりの勝ち誇った顔。見れば見るほど、憎悪の感情がわいてくる。

 

「皆さん、今日はわざわざここまで足を運んでいただいてありがとうございます。今日は私の研究の成果、私の目指す世界について語っていこうと思います」

 

 

 

「まず、皆さんは自分自身についてどの様に考えてますか? この世界についてどのように考えていますか?」

 

 

「そして誰がこの世界を……喰種と人間が存在する世界に……世界を閉じ込める『鳥籠』を作ったのかご存知ですか?」

 

 

「私はそれを知った。そしてそれを壊す方法も……」

 

 

「皆に聞きたい! この世界の頂点に立つ存在は!?」

 

 

『喰種(グール)!!!』

 

 

「他社を喰らい強くなるのは!?」

 

 

『喰種(グール)!!!』

 

 

「そう! この世界を壊すためには頂点に立つ《喰種》が必要不可欠なんだ! 特に人間と喰種の血が混ざることで誕生した《隻眼の喰種》がね!」

 

 

「そのために私はあらゆるものを犠牲にした。しかし実験の成功率は上がらなかった。……少し前まではね」

 

 

 

「紹介しよう! 私の作り上げた最高傑作たちだ!」

 

 

 

アキラ「なっ!?」

 

亜門「馬鹿な……」

 

董香「何だよ……これ?」

 

カネキ「嘉納ッ……!」

 

 

 

現れたのはおびただしい数の《隻眼の喰種》、それを見た全員は息を詰まらせるしかなかった。一体、どれだけの人間を犠牲にしたら……捕われている芳村さんを苦しませたら…………

 

 

「これが私の実験の成果であり、これからの世界の可能性だ!!」

 

 

ピリリリリリリ

 

「!」(電話?)

 

「はい?」

 

「カネキくん、問題が起きた! すぐ神山くんに替わってもらえないかい!?」

 

「……神山さん、月山さんです」

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

「大問題だよ。脱出地点に着いたら、そこにいた警備の人は全滅していて……しかもそこにいた喰種に僕たちも分断させられちゃって……ほぼ壊滅状態だよ。僕も今そっちに逃げているところさ」

 

「どんな奴ですか?」

 

「黒いフードを被った黒髪の男としか……」

 

「まさか……そんな……あいつがそんなに早く……!」

 

 

「神山さん?」

 

「計画を変更する。皆、聞いてくれ。僕とカネキくんは今から嘉納を攫う。皆はそれにあわせて地上まで脱出する」

 

「じゃあ、私たちは下で時間を稼がなくてもいいの? 急にどうしたんですか?」

 

「奴が……目覚めた…………」

 

「「?」」

 

 

そして、空気が変わったのはその時だった。そして僕たちの体にも変化が起きた。

 

「!?」

 

急に心臓が早く脈を打ち始めた。その早さは自分の体が堪えられない程だ。思わずその場にうずくまってしまう。トーカちゃんもそれ以外の全員も。

 

「く……苦しい」

 

「奴の膨大な力……Rc細胞のエネルギーが体から溢れ出ているんだ」

 

「誰……ですか? それは?」

 

 

 

「《END》」

 

 

 

神山さんがその喰種の名前を口にした瞬間、壁を突き破って現れたのは、高層ビルすらも容易く破壊できるであろうサイズの鱗赫。

 

体が慣れてきて、起き上がりその光景を見た僕はただ唖然とするしかなかった。

 

「なっ………」

 

「あれがENDだよ」

 

 

 

 

 

 

嘉納「来たね。120年間、他者を喰らい続けることで無敵の存在と化した喰種(化け物)、少し前まで喰種の本能を封じ込めて大人しく過ごしていたと聞いたが……私を殺しにきたか」

 

 

END「この世界にあなたは……ここにいる腐った喰種は必要ない!」

 

 

 

 

 

 

 




混乱する話の内容すみません 汗

近いうちに、更新しますのでお待ちを


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人類最強と喰種最強

ENDについての伝記感覚で書きました。


疑問に思ったら、感想にて  汗


その喰種が初めて確認されたのは70年も前、まだCCGは設立されておらず、自衛隊が喰種の討伐をしており、クインケの技術が完成していない時代だった。

 

1人の隊員はその現場を発見し、その光景はおびただしい数の死体、それはほとんどが喰い尽くされてあり、残っているのは骨と彼らが身につけていた衣服のみだった。周りの損壊痕からして、その全てが喰種の死体だったという。そしてその骨の山の上で座り込んでいたのは10代の少年。

 

返り血まみれで口の周りには血がたっぷりついてあったという。その光景にその捜査官は恐れ、その男に語りかけた。

 

『お前が喰ったのか?』と。

 

『こんなにマズイもの、食べる種族なんて《喰種》以外いないさ』喰種はそう言ったという。

 

男がその喰種に戦闘を仕掛ける前に、その喰種は赫子で高く飛び上がり消えていった。

 

後日、その喰種は今で言うA級にレート制定され、討伐対象となったが、彼がその後姿を見せることはなかったという。

 

 

 

だが30年後、CCGが設立され、クインケの技術が完成した時。その喰種は再び男と出会った。

 

しかし、妙であったと当時の者たちは言う。その喰種は10代の少年にしか見えなかったのだ。もちろん、発見した隊員は過ぎた年の分、しわもできて、髭も生えた。しかし、その喰種は全く成長していなかった。

 

しかしそんな変化は男にとってどうでも良かった。相手が喰種、それだけで十分だった。男はその時、CCG最強の捜査官と言われていた。自分が捜査官で相手が喰種、戦う理由はそれだけで充分だ。

 

そして、30年ぶりの再会と同時にその捜査官率いる班と1人の喰種の闘いは始まった。

 

 

だが、戦ってすぐ捜査官側には予想もできなかった事態が起こった。その喰種の喰種の赫子は30メートルを超える大きさ、単純に考えても《赫者》以上の赫子を持っていたのだ。姿は成長してなくとも、彼の持つ力は成長していたのだ。

 

班は全滅するも、班長であるその男だけは戦い続け、数分ごとに次々と増援は送り込まれ、戦う時間が長引くにつれレートはSにSSに……そしてSSS級へと変化していった。

 

 

 

 

そして、数時間にも及ぶ戦闘は………男による赫包への一撃で幕を閉じた。首から下の体の左半分は切り裂かれて、血は噴き出した。が、その喰種はその瞬間、最後の力を振り絞り、地面を破壊して逃げた。

 

 

 

この事件の死傷者は1000人を超え、全世界に類を見ない被害、戦闘であったという。

 

そして、このENDを一時的とはいえ討伐した男こそ、現在、CCG総議長を務める『和修 常吉』である。

 

 

 

そして、通常の喰種なら即死する筈の傷を負ってもなお、生きており逃亡したその喰種は世界初の『Z級』にレート認定され、『彼が訪れた土地に終焉を与える』という意を込めて『END』という名が与えられた。

 

 

『和修 常吉』はこう告げている。

 

『あの傷を完全に癒すのに喰種であっても数十年はかかる。その間に奴を仕留めなければ……我々、人類の負けは確定するだろう』

 

………と。



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巡り合わせ

投稿できず、溜め書きしてあった物を投稿しました。

1日に3本も……これは1、2週間くらい間が空くな……


数分前

 

「嘉納が連れて行かれる前に急ぐよ!」

 

神山さんは僕を連れて、下へと飛び降りた。

 

「トーカちゃん、早く逃げて!」

 

 

 

 

「ちっ!」

 

しかし、カネキたちが奥へと逃げた嘉納を追って姿を消してすぐに、ドイツの捜査官は一気に突撃し、ここは戦場と化してしまった。ENDと呼ばれる喰種もいつの間にか、赫子で現場をボロボロにしてきえた。

 

「とにかく、ウチも早く逃げないと……!」

 

 

 

 

「クソッ、キリがない!」

 

亜門は『ドウジマ・改』と修復された『クラ』の2つを使ってひたすら喰種を倒し続ける。ほとんどがせいぜいB級の喰種、だがやはり数に押されてしまう。

 

「駄目だ! 少し下がるぞ!」

 

「だが、こんなに押されていたんじゃ、追撃を受けるだけだぞ!」

 

「!」

 

アキラの言う通りだ。このままではどうしようもない。こうなったら、俺がクラを一体化させて薙ぎ払うか? いや、それでも倒しきれない……

 

「隙を作ればいいんですか? 了解……」

 

そのとき、什造の右足が音を立てて変化した。膝から縦に分かれたのだ。

 

(義足!?)

 

そして膝の内部分から、大量のナイフが出現し……

 

「です!!」

 

そのナイフを什造は器用に投げ飛ばしたり、切り付けたりし、大量の喰種にダメージを与えた。これで後ろに下がる余裕ができた。

 

「いいぞ、このまま体制を立て直す!」

 

 

 

 

「このまま行けば、嘉納に追いつける!」

 

「……嘉納!」

 

と、ずっと先に続く廊下を走り続けていると

 

「「!」」

 

1人の喰種がそこで待っていた。

 

「そこをどけ!!」

 

僕は躊躇なく、赫子を振り下ろした……が、

 

「カネキケン、お前を待っていた」

 

男は容易く僕の攻撃をかわした。そんな彼を見て、僕は気づいた。僕と同じ白髪、隻眼、目つきの鋭さーー僕と瓜二つだ。

 

「通してくれそうもないですね」

 

「カネキくん!」

 

「先に行ってください。倒してすぐに向かいます」

 

そう言うと、神山さんは頷いて奥へと消えていった。

 

「……嘉納の実験体か」

 

「実験体であり、彼の最高傑作でもある」

 

……僕と違って、嘉納を恨んでいる素振りはない。

 

「君は?」

 

 

「お前だよ、カネキ」

 

 

「ふざけるな……」

 

 

 

 

 

「しまった、亜門准特等と分かれてしまったな」

 

「どうするです?」

 

アキラと什造は二人で喰種を片っ端から倒していた。とはいっても、先ほどよりもその数はかなり減っていた。何故なら……

 

「……鈴屋一等、不思議に思わないか?」

 

「?」

 

「あれほどいた喰種が私たちを狙わずに、ドイツの捜査官を攻撃し始めた。まるで、そう命じられたかのように」

 

「誰かがそう言ったということです?」

 

「さぁな、誰だかは知らんが……………」

 

 

 

「俺だよ」

 

 

 

そう言いながら現れた男はすぐ近くにいた捜査官二人の頭をもぎ取った。

 

「おぉ、もぎたてのパイナップルみてえだな……」

 

「「!?」」

 

そして男は頭にかじりついた。生々しい音を立てながら、笑顔で肉をほおばる。

 

「おいしいすごくおいしい」

 

アキラは驚愕した。その喰種の力でも喰べる光景でもなく……

 

 

「………滝澤?」

 

 

 

 

 

(しまった、アキラと分かれてしまった! 気づけば、桐ヶ谷もいない……クソッ!)

 

亜門はクラをメインに喰種を倒し続ける。

 

(それにしても俺たちに襲いかかる喰種が減った様な……)

 

と、思ったその時だった。亜門の前に1人の少女が走ってきた。彼女は下を向いて走っているが、マスクをつけていた。

 

「! 喰種か」

 

亜門はその前にすかさず立ちふさがる。

 

「ここは通さんぞ」

 

すると、その喰種は舌打ちをして亜門を睨みつけた。それは…白いウサギのマスク。

 

「お前は……」

 

そして、その喰種は赫子を出現させた。その赫子を亜門は見たことがあった。左から巨大な赫子が出ているのに対し右は未発達の赫子。

 

亜門は全てを理解した。

 

「そうか。そういう事か。ラビットは二体いた。一匹が最近暴れている『黒ラビット』。そしてお前が……真戸さんを殺した………」

 

 

 

「ラビッットォォォオッッ!!!!」

 

 

 

 

(過去をつなぐように、運命は訪れ、戦いは始まる……)

 




同期であるアキラと滝澤、師を殺された亜門と董香、ここでぶつけておきたいと思っていました。原作で起きないかな、という組み合わせでもあります。


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正義の右腕

「…………アキラに什造か。懐かしいなぁ。それに」

 

 

「ウマそうな匂い!」

 

 

「随分、様子が変わりましたねぇ、政道? あなたも人間、やめたですか?」

 

「お前も髪を染めて……真面目っぽくなったじゃねえか。マトモな人間らしくなったな」

 

滝澤の髪は白く染まり、さらには隻眼で、面影はほとんど無くなってしまっていた。

 

「人間は捨てたんじゃない、生まれ変わったんだ。この世界の住人になるべくな」

 

「………………」

 

「ちょっと前まではさんざん俺を馬鹿にしてくれたよなぁ、アキラ? 今はどっちの方が上だ? 当然、俺だ!」

 

什造は『13's ジェイソン』を構え、滝澤へと対抗する……が、

 

「……真戸さん?」

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

(この捜査官どこかで…………)

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

亜門の『ドウジマ・改』は凄まじい勢いで董香を襲うが、董香も羽赫を利用した爆発的なスピードで逃げる。クインケ本体を避けても、周りから出てくる赫子が不規則かつ対象を狙う厄介なクインケだった。

 

「そこどけよ!」

 

「そうもいかん。俺が真戸さんの元パートナーで、貴様がラビットなら!!」

 

(! 前に殺した捜査官といた……あの時は箱を持っていなかったけど…………)

 

 

(このままじゃ……)

 

 

「らしくないねぇ!!」

 

「「!?」」

 

そこへ現れたのは、おなじみのマスクをつけた月山だった。

 

「美食屋!?」 (ラビットの他に何故、日本の喰種が?)

 

「つき……てめぇが何でここに!?」

 

「何を idiot(バカなことを)、君たちが苦戦している事を知っていて、助けに行かないわけないじゃないか。それより早くここを出てカネキくんを助けに行かないとッ!」

 

(どうせ、カネキを助けるついでに私を助けようとしてるくせに)

 

「……2人なら使わざるを得んな」

 

亜門の右腕が防護服を破って露出される。その腕は什造の様な機械仕掛けの義手ではなかった。

 

「なっ……」

 

「どう見ても人間の腕じゃないね」

 

 

バキキキキ

 

『甲赫/アラタ revison』

 

 

(篠原さん、あなたの意志は俺が引き継ぎますッ)

 

「赫子の腕……」

 

「人間が喰種の武器を手に入れる……マズイかもね」

 

「何が?」

 

「クインケは赫子の形を一定に保つ事で、人間が自在にかつ長期間使う事ができる。その分、赫包が持つRc値によって強くも弱くもなる。どんなに強い喰種でもその値によってはクインケが弱くなってしまう。でも、彼は違う。赫包の一部を体に内蔵している、つまり『赫子そのものを腕に取り付けている』。喰種の強さ=クインケと考えた方がいい」

 

亜門はクラを収納し、『ドウジマ・改』を左手に持ち替えて突っ込んだ。

 

(まずはラビットから)

 

董香をドウジマで牽制し、遠ざける。だが、その隙に月山が横から攻撃を仕掛けた。

 

「がら空きだね」

 

「!」

 

月山が赫子で攻撃しようとした時、亜門は右腕を構えた。が、

 

「おーっと、その右腕で何かしてくるのは知ってるよ」

 

月山は赫子を最大限強化し、防御姿勢を取る。甲赫の防御を破るのは容易くない。

 

(よしっ! ナイス月山! この隙にウチが……)

 

「それが…………」

 

亜門の右腕の装甲の隙間が緋色に灯り、煙を発し、Rc細胞が噴出され……

 

「「!?」」

 

 

「どうしたぁぁああああ!!!!!」

 

 

何かが爆発したかの様な轟音を轟かせながら、月山に強烈な一撃を与えた。しかも月山の赫子は一瞬で砕かれてしまった。

 

数十メートル先の壁まで吹き飛ばされてしまう月山。

 

「ウソ……だろ」

 

亜門は地行博士から移植を受けた後の説明を思い返していた。

 

『君の右肩には小さいがアラタの赫包が移植されている。君の意志に応え、右腕はアラタの一部と化す。その防御力が高いのはもちろん、生み出すエネルギーは『アラタ・弐<Proto>』と同等だ。つまり君の右腕は……』

 

 

『赫者の右腕だ』

 

 

亜門の右眼は少し違うが、赫眼となっていた。

 

(これがアラタ……眼帯の時と同じ力。体への負担はあるがまだまだいけるな)

 

 

 

「おい、しっかりしやがれ!」

 

「……霧嶋さん、今のうちに逃げよう」

 

「はぁ!?」

 

「あの右腕とやり合うには、堅い赫子がないと無理だ。少し体制を立て直そう」

 

「でも、カネキが」

 

「分かってる。だからこそ体制を立て直してから、助けに行くんだよ。君も僕が来る前に、猛スピードで動きすぎてスタミナ切れでしょ」

 

「!」

 

「それに大丈夫だよ、カネキくんは…………」

 

 

 

 

『強いから』

 

「これが親父の最高傑作? 笑えないギャグだ」

 

 

カネキはカネキ(改)によって全身血だらけで首を絞められて気絶していた。

 

が、カネキの体の一部が不気味に変化し始めていた。そして……あの人の声が…………

 

『…………カネキくん』

 

 

(本物を超える強さ、数分の間に何が起きた? そしてカネキに変化が!?)




次回は、カネキvsカネキ(真)の省略された場面を。そして………


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絶望

数分前

 

「……ところで君は」

 

「?」

 

戦いの最中であるにも関わらず、僕を名乗る喰種はその場に腰掛けて、嘉納が逃げていった先を遠い物を見るかのように見つめていた。

 

「僕と君、どっちが親父の最高傑作だと思う?」

 

……親父、嘉納のことか。

 

「僕は嘉納の作品なんかじゃない。僕は僕、金木研だ」

 

「ハハッ、出たカネキの癖」

 

「な、何を……」

 

不覚にも動揺してしまう。

 

「君の心の弱さだよ。君はいつも自分に都合の悪いことがあれば、『違う』『そんな筈はない』『助けて』って、逃げるように考える。そうヤモリの時だって、……いや違うか。それ以前の問題だ」

 

 

「あの日の悲劇、『半喰種』になったあれから、君は未だに自分の悲劇を受け入れられていないんだ」

 

 

「………黙れ」

 

「自分は『金木』という存在……でもあるし事実、嘉納に作られた存在である。そして喰種に襲われ、アオギリに攫われ、拷問され……それはあの時のお前が弱かったからだ。だけど受け入れたと思えば、お前はアジトで親父と対面した時、誰のせいにした?」

 

「黙れ……黙れ」

 

「全部、親父のせいだ。それがお前の弱い所」

 

(違う……違う。違う違う違う僕はカネキケン上井大学に通ってた1人の学生違う僕は弱くない僕は強者だ僕は弱くない僕が皆を守るんだ僕が僕がぼくがぼくがぼくが)

 

頭の中で僕は一生懸命、突きつけられた現実を否定した。自分は強者で皆を守る存在だと。

 

「ああああああああああああ!!!!!」

 

赫子を出現させて、謎の喰種を迎え撃つが、落ち着いてーー否、容易く赫子を薙ぎ払われて対処される。

 

「僕と君と……後もう一人いるけど、その中で親父の最高傑作を決めるとしたら?」

 

 

「当然、僕だ」

 

 

彼はそう言って、不適に笑って、僕(リゼさん)の赫子を出現させた。

 

 

 

 

 

 

「ん? 誰からだ?」

 

ピッ

 

「ああ、エトさんか」

 

「講演会はどんな感じ? って、電話から聞こえてくる音から察するにもう始まっちゃ様だね」

 

「フフフ、有名人は大変だよ」

 

「ところであの2人はどこなの? 置いていっていいの?」

 

「何、心配いらないさ。滝澤くんは流石、アカデミーを次席で卒業しただけある。身体能力なら新しいカネキくんより上だし、何より赫子との相性ばっちりだ」

 

「へぇ」

 

「まぁ、カネキくんも彼に劣らないけどね。身体能力、格闘術といった点では劣るけど、彼には強さへの執着があり、彼の赫子は特別だからね……」

 

 

 

 

 

カネキが赫子を弾きとばた。彼もこれには驚いたのか、カネキに驚きの表情を向けた。

 

(いける!)

 

そしてカネキがその隙に再び攻撃しようとした時だった。

 

 

ドドドドドドドド

 

 

突然、胴体に衝撃が走った直後、それは激痛へと変わり、カネキの足を止めた。

 

「が……なん……だ…?」

 

カネキが下を見れば、そこには『羽赫』の赫子が深々と刺さっていた。そのダメージは大きく、回復が間に合わず、血がどんどん出てくる。

 

「お前と同じ赫子、赫者(梟)の赫子、この2つを併せ持つ僕こそ、親父の最高傑作であり、最強なんだ!」

 

そこでカネキの意識は薄れ始めた。体が後ろへと傾く。が、倒れることをその喰種は許さず、カネキの首を掴み、絞めた。

 

「ガハッ!」

 

「これで証明された。かつての最高傑作に俺は勝った。つまり俺が『カネキ』だ」

 

 

「弱いお前なんて誰も必要としていない。お前はもう用済みなんだよ」

 

 

意識を失いかけていたカネキだが、今の言葉だけはハッキリと聞き取った。

 

(僕が……必要とされていない?)

 

 

カネキは気がつくと、ヤモリの拷問の時と同じように自分の作った精神世界にいた。だが、そこにリゼは何故かいなかった。が、そこには董香とヒナミがいた。

 

「トーカちゃん、ヒナミちゃん!」

 

何故、ここにいるのかは分からないがカネキにとって2人は大切な人だった。

 

カネキは2人に歩み寄る。が、董香とヒナミは振り返って離れていく。カネキがどんなに速く走っても、それ以上の速度で2人は離れていく。

 

「待って、トーカちゃん! ヒナミちゃん!」

 

すると董香は叫ぶカネキに一言呟いた。

 

「カネキ、もう大丈夫だから」

 

それはカネキがいなくてもいい、という一種の拒絶であった。

 

「そんな……」

 

そして、また後ろに誰かが現れた。振り向くと、ヒデがいた。

 

「ヒデッ!」

 

今度は親友のヒデの元に歩み寄ろうとした時だった。

 

 

「もういいよ、カネキ。今までありがとう」

 

 

「え?」

 

 

「この世界を正そうとしてきたのに、皆を…俺たちを守れないお前は、この世界に必要ないから」

 

 

ヒデがそう言った瞬間、カネキの周りに今までに出会い、友好的な関係を作り上げた人たちが現れた。

 

「カネキ、ありがとな」「もういいんだ」「ゆっくり休んでくれ」「大丈夫だから」

 

その言葉一つ一つがカネキの心を傷つけた。

 

 

「やめてよ。お願いだよ。皆、僕を見て……僕を1人にしないで。こんなことになるくらいなら死んだ方がマシだよ」

 

 

『なら、少し休めばいいじゃない』

 

「!?」

 

急にどこからか分からないが声がした。

 

『大丈夫よ、あなたは私で、私はあなたなんだから』

 

「誰!?」

 

『どうだっていいじゃない、そんなこと。ねぇ、カネキくんおいで』

 

(ああ、そうだ。そんなことはどうだっていい。こんな辛い思いをするのはもう嫌だ。弱いと思われたっていい。少し……休もう)

 

僕はその優しい声に誘われるかのように眠りへと陥りそうになる。そして、意識が消え失せる寸前、急に僕の足下は柔らかくなり、僕はそのまま意識という名の湖に沈んだ。そして、入れ替わるように誰かが僕の意識に表出化した。

 

『リゼ……さん?』

 

 

 

 

 

一方、アキラたちの方では事態が急変していた。

 

「……何だよ、つまんねえな。アキラ」

 

滝澤はアキラの目の前で棒立ちしていた。そんな余裕を見せる理由は、彼がアキラの異変に気づいたからだ。

 

「斬ってみろよ、なぁ」

 

「……出来ない」

 

 

「私にかつての同期だった……仲間だったお前を殺すことなんか出来る筈がない!」

 

 

そう、アキラも1人の人間だ。仲間を想うアキラに同期だった滝澤にクインケを向けることなど出来なかった。

 

「くだらない理由だな」

 

滝澤はアキラにとどめを刺そうと、赫子を向ける。が、什造がそれを阻もうと滝澤に攻撃を仕掛けてきた。『13's ジェイソン』のギミックにより出現した赫子が滝澤の胴体をかする。

 

「痛てぇな、おい」

 

「させません」

 

滝澤は自分の血を舐めて、什造を見て不気味な笑みを浮かべた。

 

「チッ、やっぱ先にお前を倒すか」

 

「やってみてくださいよ」

 

 

「じゃ、そうさせてもらうわ」

 

 

滝澤は人間ではあり得ない速度の蹴りを什造の右足に当てた。

 

「なっ!」

 

「義足で良かったな、右足(ニヤッ)」

 

そして当然、右足の義足はその衝撃に堪えられず、鈍い音を立てて壊れてしまった。什造は地面に叩き付けられる。

 

「あうっ!」

 

「さぁて、アキラ。どこから壊してほしい?」

 

アキラは何も答えず、什造は必死に地面を這いずるが、もう間に合わない。そして滝澤が赫子を構えた時だった。

 

 

ドシャ

 

 

滝澤の赫子が地面に転がった。当然、斬ったのはアキラでも什造でもなかった。

 

「待たせてすみません、二人とも。後は俺に任せてくれ」

 

「おっと……赫子が斬られちまった。お前、面白そうだな」

 

駆けつけた青年は既に展開させてあった2本のクインケを背中の鞘から抜いた。

 

「お前の相手は俺だ」

 

「…桐ヶ谷……三等」

 

 

『桐ヶ谷 和人』『クインケ 羽赫/リパルサー 羽赫/エリュシオン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着がつき、気絶したカネキを壁に叩き付けて、謎の喰種はその場から離れようとしていた。彼はカネキに勝利したことに昂揚していた……が、

 

 

『ペンチで……………指を……』

 

バキッ

 

「!?」

 

『芽ぇ……摘まなきゃ………俺? 私? 僕、僕が皆を守るからぁ』

 

「馬鹿な……!」

 

彼は慌てて後ろを振り向いた。すると、壁に叩き付けられ、瓦礫の上で倒れている筈のカネキの姿がそこにはなく、代わりに後ろから気配がした。

 

「なっ!?」

 

そして彼は背後にいた何者かによって吹き飛ばされた。慌てて受け身を取り、顔を上げるとそこにいたのは……

 

「ここで目覚めたのか……噂通り『ムカデ』みたいだな」

 

 

喰種 CCG名称『ムカデ』 赫子/鱗赫 赫者/発達率70%

 

 

『さぁ、仕上げに私に喰べさせて?』

 

(キリト参戦! カネキ改vs赫者、勝つのはどっち!?)




ようやくキリトが出せたけど、どうやって書こうか考え中。

クインケ名はそのままのわけにはいかないし、アレンジしました〜♪


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憤懣

 

講演会会場

 

「おい、他の喰種はどうなってる?」

 

「だいぶ追い込んでる。残ってるのは逃げ足の速いのと強い奴のどっちかだ」

 

ドイツ語でそんなやり取りをしている捜査官は既に講演会が行われていたフロアのほとんどを制圧し、退路を塞いでいた。残ったほとんどの喰種は地下15階近くまで逃げている。

 

「よし、俺たちも上に………」

 

と、残りの捜査官数十名が階段に向かおうとした瞬間、急に壁が崩れ1人が受け身をとりながら飛ばされてきた。肋骨が折れているのか体からみしみしと軋む様な音が出ている。それはさっきまでカネキを追いつめていたはずのもう1人のカネキだった。

 

「せ……隻眼だ!」

 

「!」 (捜査官……いい所にいた。滝澤は?)

 

その喰種は耳を澄ませた。そう遠くない位置から羽赫特有の音が響く。

 

(あの馬鹿……まだこんな所にいるのか!? ……いや、ここは滝澤を無視して上に逃げるか。こんな捜査官でも時間稼ぎにはなる)

 

そして彼は天井を崩しながら、逃げていった。

 

「逃げたぞ!」

 

「手負いの状態だ! 追……」

 

その時、

 

 

ビキキキキキキキキキキ

 

 

不気味な赫子の音、そして何かが高速で動き風を切る音が捜査官たちの耳に届いた。

 

「な……何だ?」

 

 

『だめ……だめだ…………この人たち…駄目だってッ』

 

 

そう言いながら、現れたのはカネキだった。ムカデの様な赫子は以前よりRc細胞が多いのか、長く、しなり、早く、伸びる。

 

「こいつ、赫者だ…!」

 

「だが、全身は赫子に包まれていない。俺たちでもやれる。応戦しろ!」

 

一斉にカネキを銃弾が襲う。が、カネキはそれを見てニヤリと笑うと、

 

 

ゾルルルルルルル

 

 

ムカデの様な赫子を壁に向かって飛ばし、突き刺した。

 

「!?」

 

そして、

 

『ケハッ!』

 

赫子に引っ張られて、まるでワイヤーが巻き取られるかの様に高速で壁へと移動した。それを何度も繰り返し、捜査官たちの頭上を飛び交う。以前壁を走って移動していた時と比べ、段違いの早さだった。

 

「なっ!? 早すぎる!」

 

「狙いが定まらない!」

 

 

『不味そうな人ばっかり……さっきの、さっきの喰種どこぉ?』

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

一方、カネキたちが戦っている所からそう遠くないあの場所では……

 

「いい、いいよ! 全然、攻撃が当たらねぇ!! こういうのだよ! こういう奴と俺は戦いたかったんだ!!」

 

「そうか、だが俺にはそう時間が無いんだ……早いところ終わらせてもらうぜ!」

 

桐ヶ谷捜査官は2本のクインケを持って、滝澤へと突っ込んでいく。

 

 

 

「早いです……ね」

 

「ああ、有馬特等殿よりパワーは劣るが、彼以上の反応速度を持っている」

 

二人は異次元とも言える彼らの戦いを見届けるしか無かった。

 

 

 

(このクインケっていう武器、軽いな。だけど、このクインケの力なら……)

 

桐ヶ谷捜査官は何か思いつき、『リパルサー』を背中に収める。そして、残ったクインケを構えた。

 

「《片手剣2連技》……」

 

(? 何だ?)

 

突然、桐ヶ谷捜査官のクインケの一つ『エリュシオン』が輝きを放つ。そしてまるでクインケが獲物を襲う生き物の様に滝澤へと襲いかかった。そしてクインケを左から右へ、続いて右から左へ素早く水平にそれも連続で振るう。

 

が、

 

「!?」 (何だ、クインケが左右同時に!?)

 

滝澤にはそれが、左右から同時に薙ぎ払っているようにしか見えず、回避もままならないまま腹を切り裂かれた。

 

「ぐおっ!!」

 

 

「《スネークバイト》」

 

 

(救世主の1撃! 英雄(桐ヶ谷)の戦いと悲劇のヒーロー(カネキ)の戦いの行方は!?)

 



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悲劇

始めに

最後の投稿から約9ヶ月……お待たせして申し訳ありませんでした!!
公的な問題、私事でこのサイトにアクセスする暇すらありませんでした(涙
今後はこのような長期休暇をとる際はお知らせをしておきたいと思います。
そして長らく更新をしていなかったにも関わらず、多くの方がこのお話をお気に入り登録してくれていることについてはいくら感謝してもしきれません。今後もこの物語にお付き合いしていただければ幸いです。

では、引き続き東京喰種√Sをお楽しみください。


「ハハハ……ハハハハハハハハ!!!! は……早過ぎだろ、それ!!」

 

「た…倒れない!?」

 

最高の一撃、の筈だった。しかし、現に滝澤は倒れていない。絶望が三人を襲う。

 

「……鈴屋一等。今の一撃は?」

 

「はい。間違いなく決まってたです。そして喰らえば終わりと言っても良い程の一撃でした。政道には梟と同じ回復力と再生力がありますねぇ」

 

「そうか」

 

アキラは確信した。この勝負が長引くことはない、と。滝澤の攻撃はことごとく桐ヶ谷に躱し続けられる。だが、当たればそこで勝負は終わる。

一方で桐ヶ谷の攻撃は速く火力もある。滝澤はその攻撃に耐えている。が、滝澤もあれほどの一撃を何度も喰らい続けれないだろう。

 

滝澤が攻撃を当てるのが先か? 桐ヶ谷の連撃が滝澤の体力を削り取るのが先か?

 

そしてそのことに2人は気づいていた。だからこそ2人は躊躇せず、ぶつかり合った。

 

 

「「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」」

 

 

桐ヶ谷は滝澤の攻撃を躱すかクインケで受け流す。滝澤はクインケの攻撃を受けながらも攻撃を続ける。

 

「どうした? さっきより攻撃が軽いぞ?」

 

「お前こそ動きが鈍ってるぜ!」

 

お互いの挑発と攻撃が続く。2人の言う通り、滝澤はさっきから躱せる攻撃も蓄積されたダメージの影響か浅いものの喰らい続けてる。一方の桐ヶ谷もさっきの一撃の様な大技をなぜか出さないでいる。

 

「おい! もう一回さっきの技出してみろよ! ああ、そうか! もう限界かな!?」

 

「……限界?」

 

その時、エリュシオンが再び輝きを放つ。

 

「! やっべぇ……」

 

と言いつつも、笑顔がこぼれる滝澤。それはまだ余裕、ということを意味してた。

 

(これを喰らっても余裕でいられるか? 片手剣突進技)

 

桐ヶ谷はバックステップと同時に滝澤に突っ込んだ。

 

「誰が限界って?」

 

滝澤も負けじと赫子発現させるが、突進と共に繰り出された突きを防ぐことは出来ない。

 

「《レイジスパイク》」

 

滝澤は思わず、膝をつく。力が抜け倒れ込む状態になり、自然と右手がエリュシオンに引っ掛かる。桐ヶ谷はそれを見て勝利を確信した。クインケを背中の鞘に収納しようとする。が、エリュシオンがピクリとも動かない。

 

「! 何だ?」

 

エリュシオンの刀身に視線が動く。そこには傷だらけの右手が血管が浮かび上がる程の力で握りしめられていた。

 

「耐えたぜ」

 

「なっ!」

 

「へへへ……お前のその技には弱点がある。それはクインケを利用した超高速の攻撃、それが仇になってお前の体への負担がデカい。まぁ、それは我慢すればどうにでもなる。そしてもう一つ!!」

 

 

「技を出した直後、お前の筋肉が衝撃のあまり痙攣を起こしている。今から俺はお前を蹴りとばす。ピンチってことくらい分かるだろ? 避けてみろよ?」

 

「ッ!!」

 

「避けられねぇよなぁ! その痙攣は数秒間は続く!!」

 

滝澤は満面の笑みを浮かべ、桐ヶ谷に向かって舌を出した。

 

「俺の勝ちだ」

 

滝澤はエリュシオンを投げとばし、そして什造の義足を破壊した時以上の威力で桐ヶ谷を蹴飛ばした。骨が砕け、内臓や血管が破壊される音が両者の耳に聞こえた。桐ヶ谷は嘉納がいたステージ上まで飛ばされていった。

 

 

「桐ヶ谷三等!!」

 

「ッ!」

 

鈴屋がクインケを構えるが、それを察していたかのように赫子が鈴屋を襲う。当然、滝澤のものだ。鈴屋は再びその場で倒れてしまう。

 

「ハハハハハハハ!! 逃がすかよ!」

 

滝澤がアキラを睨みつけた。その時、ほとんどの喰種の始末を終えたドイツの捜査官が一気に襲いかかる。

 

「あ?」

 

「sterben!!!(死ね!)」

 

「よせ!!!!!」

 

アキラの叫びが響いた直後、滝澤の赫子は正確にドイツ捜査官の首元を貫いた。

 

「おッホホホォ!!! !? ガハッ!」

 

滝澤は甲高く笑ったかと思うとその場で吐血した。

 

「内臓が……久方ぶりだな。ここまでやられたの」

 

滝澤はその場に座り込む。

 

「少し休むか。どうせアイツら逃げられねぇし」

 

 

 

「ぐっ!」「強すぎる」「これが赫者」

 

捜査官は一瞬でやられ、その場に倒れ込む。

 

「ケハハハハ!!!」

 

カネキはその光景に思わず笑みがこぼれる。が、倒れ込んだ捜査官のうち数名は立ち上がり武器を手にする。

 

「……捜査官たるもの死ぬまで喰種とーー」

 

 

「逃げろォォォ!!!!!」

 

 

その時、悲鳴が聞こえた。その場にいた全員が辺りを見渡す。カネキも思わず反応してしまう。が、反応したのは声にではなく……

 

 

寒気。視覚できるほどの寒気が全員を襲った。突風のようにフロア全体を寒気が支配したかと思うと捜査官は息をひき取った。

 

「……またか」

 

声の主がカネキの前に姿を現す。フードを被った黒髪の少年。カネキはジッと彼を見つめる。少年は捜査官たちを見下ろす。そして1人、目を開けたまま息をひき取った捜査官を見つけるとその場に座り込んだ。

 

「ごめん……名前も知らない1人の男よ。僕が君に与えたのは恐怖とーー終焉(END)だけだ……」

 

彼にそっと触れ、目を閉じさせる。そして少年はカネキを見ると、フードを外した。外見はなんら変わらない普通の少年だった。

 

「君が恨むのは愛? 友? 繋がり? 運命?」

 

「ううううう〜ん? 君はだぁれ? 美味しそう……」

 

「フフフ。やめておいた方が良いよ、僕はこの世で一番マズイ存在と自負してるからね、色んな意味で。……僕と対峙できる人に出会ったのはいつ以来かな?」

 

 

「出来ればちゃんとした出会い方が良かったんだけど……初めましてカネキくん。僕は《END》だ」

 

「…………」

 

「そう、そのまま大人しくしててね。『君を殺したくない』少し話があるんだ」

 

 

(倒れる救世主! 悲劇の少年の前に現れた謎の少年)



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深紅

「ま…だ…!」

 

「無駄にあがくな……内臓を潰したうえに肋骨も砕いたんだ。呼吸すらままならねぇよ」

 

「ハァハァ、ハァ…ハァハッ」

 

滝澤の言う通り、桐ヶ谷の呼吸は徐々に乱れていく。視界がぼやけ、色が失われていく。しかし桐ヶ谷はある一点を見続けその方向に手を伸ばし続けた。

 

「ア…キラ…さ……す…や……さ…ん」

 

全く聞き取れない2人の名前。

 

『………………アスナ』

 

言葉に出すことは出来なかったもののその人物の名前を心の中で呟いて桐ヶ谷は静かに目を閉じた。

 

 

「ぐっ…………」

 

アキラは倒れた什造の体を抱えて外に逃げ出そうとする。しかしこのホールの広さはかなりのもので会場はおろか部屋から逃げ出すのも困難であった。

 

その時、什造の手に力が入る。アキラは什造の顔を覗き込んだ。視点が定まってないが意識はなんとか取り戻した様だ。

 

「……置いて…」

 

什造は薄れいく意識の中でポツリと呟いた。

 

「! 馬鹿なことを言うな!!」

 

什造はアキラの手を振りほどこうとするも傷を負った体ではそれすらも不可能であった。

 

滝澤は自分の傷の具合を見ながらケタケタと笑い出す。

 

「へへ……傷が癒えるまであと30秒ってとこか?」

 

「! クソッ!」

 

アキラは歩調を早めるが、少しくらい速くなったところでどうにもならない。滝澤はあがいている小動物を見るかの如く不敵な笑みを浮かべる。

 

「あと10秒♪」

 

するとアキラは足を止めずに滝澤を見た。

 

「この数ヶ月でお前の身に何があったかは知らない……が、お前の顔を見ればどれだけ辛い目にあったか分かる」

 

「……………………」

 

「だけどこの数ヶ月……いや、出会ってから数年間ーー」

 

 

「私は……本当に……今までお前のことを"かけがえのない仲間"だと思ってた!!!!!!」

 

 

アキラは大粒の涙をこぼしながらそう叫んだ。滝澤は無表情でそれを眺める。

 

「……お前が人前で涙を流すとこなんて見たことねぇな。俺もお前を仲間だと思ってたし今でもお前は俺の中で特別な存在だ」

 

 

「だから喰われろよ」

 

 

滝澤は無慈悲な言葉をぶつけ、アキラに向かっていった。

 

 

 

 

「これは……報いなのか?『あの世界』なら俺は最強の勇者ーー皆を……『君』を自分の力で助け出せると思い込んでーー俺には何の力もないのに…………」

 

心の中で懺悔する桐ヶ谷。意識を失っている桐ヶ谷の目から涙がこぼれる。

 

気づけば桐ヶ谷はある部屋にいた。誰もが持つ心の中の世界だ。桐ヶ谷はその部屋で充塞する後悔、自分の無力さを呪う感情に押しつぶされていた。

 

再び立ち上がろうとするとその感情が邪魔をする。刃物で貫かれた様な痛みが全身に走る。それは心の傷だった。

 

 

(……逃げ出すのか?)

 

「!」

 

その時、誰かが桐ヶ谷に語りかけた。

 

(逃げ出すのか?)

 

「そうじゃない、現実を認識するんだ」

 

(屈服するのか?)

 

「仕方ないじゃないか……俺はただの人間でアイツは喰種だ。俺と奴の力の差は歴然としている」

 

「それは《あの戦い》を汚す言葉だ」

 

すると語りかけていた人物が桐ヶ谷の前に現れた。

 

「え?」

 

「私に定められたシステムーー常識を上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた我々の戦いを……」

 

「! お前!」

 

 

(立ちたまえ……キリトくん!)

 

そしてその人物は再び桐ヶ谷の前から姿を消した。気づけば心の中で桐ヶ谷を縛るものは消えていた。

 

桐ヶ谷の頭の中に過去の出来事がーー失われた2年間が思い浮かぶ。

 

(キリト…キリトよぉ! お前は…お前は生きろよ! 最後まで生きろよ、生きてくれ!!)

 

(……私にとって君は暗い向こうでいつも私を照らしてくれた星みたいなものだったよ。じゃあね、キリト。君とあえて、一緒にいられてほんとによかった。ありがとう。さようなら)

 

(わたしは帰りたい。だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから

 

帰る時は二人一緒だよ

 

…わたしも。わたしも、絶対に君を守る。これから永遠に守り続けるから   

 

わたし、幸せだった。和人君と会えて、一緒に暮らせて、今まで生きてきた中で一番幸せだったよ。ありがとう……愛しています……)

 

 

「くっ!」

 

負けられない、皆のためにも! 皆の意志が俺を支えてくれる限り…この命がある限り!!!

 

 

「う……おおおおおおおッ!!!」

 

「「!?」」

 

桐ヶ谷の叫びに驚く2人。滝澤は思わず足を止めてしまう。

 

「うおっ! 凄ぇ! 生きてやがったぜ!!」

 

桐ヶ谷は背中のクインケ《リパルサー》を抜く。

 

(もうアレを使うしか……)

 

桐ヶ谷は肩の高さでクインケを構える。剣を担ぐ様なそのモーションでクインケを持つ右腕をグッと引き締める。左手は前にかざし、右手を弓のように引く。その初期モーションをクインケが検知し異様な音を発する。地行博士の言葉が頭の中で流れる。

 

 

『君のクインケ《エリュシオン》と《リパルサー》はハッキリ言って他のクインケと比べると何の特徴もないただの剣の様な形状だ。だけどこのクインケには他にはないギミックを加えてある。

 

それは使用者の準備動作(初期モーション)を検知することで決められた攻撃動作を発動するというものだ。その際に瞬間Rc値をコントロールすることで他のクインケではなし得ない一撃必殺と言ってもいい威力を持つ攻撃を可能とする。瞬間Rc値の量に従ってクインケは様々な色に輝く。まさに必殺技だ。

 

ただ二つ、注意しておくよ。一つはこのギミックは発動することでクインケが自動操作になる。君はクインケの動きに合わせて体を動かす、というより体を振り回される形になる。その速度、威力は普通にクインケを振るより大きく上回る。つまり人間では不可能な動きを可能とする、使えばそのリスクはデカい。多用は避けてくれ。

 

そしてもう一つ。知っての通り、このシステムは『君がこの二年間で経験した技』を基に作られている。ただ……その中に再現は出来たもののとても実戦で使える様なものじゃないのが含まれてるんだ。その『3つの技』は絶対に使わないこと!! 使えば五体満足でいられるか分からないよ。そのうちの1つがーー』

 

 

戦況を一撃で決め得る威力、刀身の長さが1m弱のクインケとは思えない程のリーチの長さを持つ片手剣単発技、《ヴォーパル・ストライク》

 

大型のクインケでも鳴らない様なジェットエンジンじみた金属質の轟音が発生する。そしてクインケは劫火よりもずっと深い深紅の閃光を放つ。

 

前後に大きく開いた両足で、思いっきり地面を蹴る。その加速を回転力に変え、右腕を大きく突き出した。

 

(なっ!? 馬鹿か! 距離は数十メートルはある。届くはずがない!)

 

アキラは驚愕の表情で桐ヶ谷を見た。滝澤も余裕の表情で「終わったな」と呟く。

 

が…………

 

 

「オオオオオオオッ!!!!」

 

桐ヶ谷の全力の雄叫びに応えるように深紅の輝きが爆発したかのように光量を増した。それと同時にクインケの動きも加速する。

 

「なっ!?」

 

距離約40メートル。それをレースカーと見間違う程のスピードで滝澤に迫ってくる。先に見た2つの技、西洋の剣術がベースなのか動きに華麗さがあった。しかしこの技にそんなものはない。ただただ人を貫くためだけに鍛え上げられた残虐な技だった。今までとは違う様子に興奮する滝澤。

 

「オッほぉぉ!!! マジかッッ!!!!」

 

滝澤は赫子を展開、羽赫の力を利用したブーストで桐ヶ谷を迎え撃つ。そして羽赫を硬化、ブレード化してクインケに叩き付けた。

 

 

ぶつかり合い火花が散ると、あっけなく滝澤の赫子は破壊され左胸を大きく貫かれた。

 

「おじゃああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

滝澤は大きく転がっていき動かなくなる。しかし桐ヶ谷は悔しそうな表情を浮かべた。

 

(! 軌道を逸らされたっ!!)

 

とどめを刺し損ねた後悔を胸に抱きながら、再び目を閉じる。アキラは什造を床に寝かせ、桐ヶ谷の元に駆け寄る。そして彼の腹部のダメージを見て思わず口を押さえる。まるで萎んだ風船のように腹部が陥没してしまっている。肋骨はおろか内臓すらも危険な状態だ。アキラは近くで倒れていた捜査官の無線機を奪い取るように手に取る。

 

「だ……誰か医療班を!! 急げ!!!!」

 

アキラがそう叫んでいたときだった。

 

「いたいよいたいよ〜」

 

「!」

 

滝澤は起き上がり傷の再生を始めた。恐ろしいその再生力は瞬く間に組織を再生する。

 

(わ…私がトドメを……今ならーー)

 

 

「はああああああああああ!!!!!!」

 

「!?」

 

すると今度は頭を地面に思いっきり叩き付け始めた。何がどうなっているか分からないアキラは怯えて滝澤から離れる。

 

「ハぐがが..もどれもどれ…もういいってヴぁ……がががが」

 

そして

 

「俺は喰ってない!!俺は喰ってないいいい!!!」

 

そう言い残して滝澤は天井をぶち破りどこかへと消えていった。

 

 

(滝澤……お前は………………)




決着!

ということで何やら重い過去がある桐ヶ谷さんの話はまた今度!

あとはEND、カネキ(改)、亜門ですねw さてまだ書くことたくさんあるな……


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運命の決戦相手

一方、カネキとENDのいる場所では……

 

「あ……ああああぁ!!」

 

カネキの体に異常が起き始めていた。ムカデの様な赫子が不気味な音を立てながらうごめき始めたのだ。カネキは頭を抱えて苦しみ始める。

 

「! Rc細胞が変異している」

 

「私の!! 俺の!! 肉ッッ!!!」

 

「……2つのRc細胞が暴走してるのか。このままだと肉体が保たない。カネキくん、辛かっただろうね」

 

ENDは同情するようにカネキを見つめる。が、暴走状態のカネキにそんなことは関係なかった。

 

「歪んでるよぉ!! …俺? …私? 僕……僕僕僕僕も君も皆ぁッ!!」

 

カネキがENDに襲いかかるが、紙一重で躱す。しかしENDの表情に焦りは見られない。その表情は先ほどと同じ悲しい顔だった。

 

「君をこんな姿にしてしまった……それは僕の責任もある。僕はもう誰も傷つけたくないのに…だからこそ僕を殺してくれる存在が欲しかった」

 

「ハァハァ!! 肉ゥ!!」

 

カネキの呼吸は乱れ始め、口からは血が吹き出る。

 

(カネキくんの体の限界が近いな……)

 

「だけど僕を殺せる存在は限られてる。僕を殺したければ世界を恨み、呪い、否定し強くならなければならない。世界に否定され続け生き続けた僕に平和ボケした存在が勝てるはずがない。……君だよカネキくん、君には僕を殺す資格がある」

 

その時、再びENDから何か不穏な雰囲気が生まれる。それは先の捜査官の命を奪ったものよりずっと重く苦しいものだった。本能が叫んだのかカネキもENDから離れる。

 

「何とでも言うがいい。悪魔? 卑劣? 姑息? それでも僕は死にたい……死ななければならないんだ。だから君に死なれたら困るんだ、カネキくん」

 

そしてENDはカネキに急接近してーー

 

顔を近づけ、カネキに初めて優しい笑顔を浮かべた。

 

「だから生きろ。カネキ、この世の全てがお前を否定しようとーー

 

 

「僕はお前を愛してる」 「!?」

 

 

我に一瞬返り、カネキはENDの瞳を見つめた。それはかつて優しい視線を送ってくれた……母の視線と瓜二つだった。

 

「ぐっ!! ああああああああああぁ!!!」

 

しかしまたすぐに体の苦しみに耐えられず、暴走を始めてしまう。

 

「カネキくん……ENDを憎め、恨め。もとより僕は君の敵だ。だけど辛いときでも心配しないでいい。カネキ、僕はお前をずっと見ている」

 

そしてENDは再び悲しそうな表情を浮かべる。そして目を閉じ、何かを思う。そして次の瞬間、怒りに満ちた表情を見せた。

 

「いつだって世界を狂わす存在がいる。それが誰かの人生を狂わすことを承知の上で……嘉納、君には罰を与える。見るがいい、これがENDの見せるーー」

 

    

                   《終焉!!!!!》

 

 

「……? 地震かい!?」

 

「にしては強すぎだろ! 月山、早くここを抜けるぞ!!」

 

「地震か? ……ッ!」

 

(右腕が……アラタの様子がおかしい)

 

「……そうか。そこまで私が憎いか。END」

 

 

 

「滅びるがいい、ENDの名の下に!!」

 

次の瞬間、会場のあらゆる場所から大樹が……否、それと見間違う程巨大な赫子が出現した。

 

世界樹が世界を造るものであるならこの赫子はそれと対なる存在、世界を滅ぼし得るものであった。

 

会場は崩れ落ち、全ての喰種・人間が地下数十階まで落下していった。それと共に巨大な瓦礫も落下する。あちこちで爆発が起こり、火の手が上がる。

 

自分の赫子に掴まるENDは落ちていく人々、火の海と化した最下層を見下ろす。その瞳は氷のように冷たいものであった。そしてENDは赫子を収束しどこかへと消えていった。

 

(また会おう、カネキケン)

 

 

「クソッ! 何がどうなっている!?」

 

亜門は炎をアラタの右腕で振り払いながら、先へと進む。

 

(落下の時にクインケを……一体どこに? いや、それより……)

 

「アキラッ!! 什造ォ!! 桐ヶ谷ァ!!」

 

亜門は必死に叫びながら炎の中を進み続ける。

 

するとその目の前に2人の人影が現れた。

 

 

「wait! wait! wait!!!(待て待て待て!!!) 霧嶋さん、本当にこの人たち連れて行くの!?」

 

「だって放っておくわけにはいかないでしょ!」

 

トーカと月山はまだ息のあった捜査官3人を抱えて走る。

 

「全く……君たちあんていくはいつも甘い」

 

(が、たまにはそれも……いや、それがいい)

 

そして炎の向こうに人影が見える。それは……

 

「ーーWhat the bad joke…(悪い冗談だ…)」

 

「クソ……」

 

 

「美食屋……ラビットォ…!!」

 

亜門は右腕を構え、トーカも赫子を出現させた。

 

 

 

「ぐ……ガハッ! ハァハァ!!」

 

炎の海の中にいるカネキは生きていた。が、赫子の暴走に体が限界を迎えている。口から血が止まらない。

 

そして……

 

「……チッ! 不良品の分際でッ……まだ生きていやがったのか」

 

「! 見ぃつけたアァ!!!!」

 

再びカネキ達は対峙した。そして2人の赫子がぶつかり合うのはほぼ同時であった。

 

「いい加減死ねよ!!」

 

「ケハハハハァ!!!」




あと数話でEND編終了の予定です。
思ったより長くなってしまったこのストーリー……ENDの重傷っぷり(病名:中二病)……最後までお付き合いいただければ幸いです。

感想、意見はもちろんのこと『リクエスト』お待ちしております!


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赫悟

長くなってしまったので投稿が少し遅れてしまいました。
それに長い分、文章もいつも以上に下手くそだし、細かく書くべきシーンも簡潔に終わってるかも……ですがこれ以上、投稿を遅らせるわけにはいかないということで投稿します。本当に申し訳ないです!!(涙


会場が崩れ落ち、火の海に包まれ、多くの人々の命が奪われた今もあらゆる場所で戦いは続く。しかしある戦いはもはや勝負と言えるものではなかった。

 

「がはぁ!」

 

勝ち目はなかった。

 

片やSSレートに認定を受けた時より凶暴さが増している赫者、片やその赫子と赫者《梟》の赫子を移植されたにすぎない喰種との戦い。

 

彼が嘉納から聞いた話ではカネキという男は《リゼ》の赫子を与えられたにすぎなかったが、他のリゼの赫子を持つ者とは違いその力を使いこなし、赫者にまで成り上がった。カネキは喰種としての高みを登り詰め、他からも《眼帯》《ムカデ》と恐れられ、自分が自分であると証明するものを手に入れた。それは『名』であり『肩書き』であり『看板』であった。

 

 

しかし彼にはそれがなかった。

 

本人も分かっていた。移植されてもそれは他人に与えられた力にすぎない。その性能を十二分に発揮出来てはいない。

 

それでも新たなカネキを名乗る彼はカネキに向かっては殴られ、弾かれ、貫かれ……暴走しているカネキに手も足も出なかった。しかし彼はそれでも闘志を剥き出しにして戦いを続けた。

 

(負けられねぇ!! お前を殺し、超えてーー)

 

「俺は"俺"になるッ!!!」

 

普通なら誰もが気になるその叫び、カネキの耳には届かず暴走は進みさらに赫子の量を増やした。

 

「俺は……私は……僕わあああああぁ!!!!!!!」

 

ムカデの様な不気味な赫子が再び、カネキを名乗る喰種を襲う。そしてその赫子はカネキの体を蝕み続けていた…………

 

「……俺の仲間だ。離せ」

 

亜門は怒りを押さえながら話した。トーカたちもここで亜門を相手にしたくはない、断る理由もなく静かに彼らを地面に置いた。亜門が攻撃してこない様子を見て月山は咳払いをして亜門の注意を惹いた。

 

「さてここで一つ提案があるんだが、僕たちはここが完全に燃えてしまう前に早く逃げなきゃならない。あなたもこの人たちを病院に連れてかなきゃならないわけだが……どうだろう? ここは僕たちを見逃してもらえないだろうか?」

 

月山は最もな理由を並べて交渉に乗り出した。亜門もアキラたちをこのまま見殺しにするわけにはいかない。「フーッ」とため息をついた後、今まで以上に真剣な表情を浮かべた。

 

「いいだろう」

 

 

「ただしお前が俺の仲間を連れて脱出し病院に連れて行け。もう1人……ラビット、お前は俺と戦え」

 

 

「「!?」」

 

予想外の返答に2人は驚きを隠しきれない。月山は慌てて話し始める。

 

「ま、待ちたまえ! いいのかい? ここで僕が彼らを連れて逃げても殺してしまうかもしれないよ?」

 

脅迫じみた発言をするも亜門が慌てる素振りを見せることはない。そして何かを語ろうとしたその時だった。

 

「フン……舐めるなよ、クズが」

 

「!」

 

その時、意識を取り戻したアキラは月山を睨みながら語りかけた。その両足は爆発の時に傷を負っていてとても歩けるものではない。

 

「その時は私が相手をしてやろう。あのガスをまた吸えば……どうなるか分かるな? 無線の1本でどこからでも捜査官はやって来るぞ」

 

「クッ!」

 

ガス、月山の頭には一つしか思い浮かばなかった。それは嘉納の研究所で吸ってしまった『CRcガス』確かにアレを吸えば面倒なことになる。

 

亜門は緊張の面持ちで2人の会話を聞いていた。

 

(よし、俺の代わりにアキラがハッタリをかけた。あの様子だとアイツは信じ込んでいるな)

 

CRcガス、成分比など未だ調整中の兵器。それは何度も持ち出せる程の物ではない。だが、そんな事情を知らない喰種だからこそこの駆け引きは都合のいい嘘ーー武器になりえた。

 

亜門は視線をトーカに移す。トーカと亜門の視線が合う。

 

「……行けよ、月山」

 

「霧嶋さん!?」

 

「大丈夫、逃げるだけなら何とでもなる。それにあいつは今、クインケを持ってない。あの腕だけなら……」

 

トーカの覚悟は揺るがなかった。月山はそれを理解し、2人を抱え上げアキラに肩を貸した。

 

「分かってるな? 少しでおかしなことをすれば……」

 

「ああ、君も間違ってここで使わないでくれよ。そんなことしたら力が抜けて、僕たち皆あの世行きだ」

 

月山は捜査官3人を連れて会場を脱出する逃げ道を探しにいった。

 

 

(……って『逃げる』とはいったものの、そう簡単にはいかないよな。とりあえず、腕か足を折って、先のことはそれから考えよう。大丈夫、相手は生身の人間だ)

 

「……眼帯といい貴様といいアイツ(ドナート)といい、俺はつくづく喰種に縁があるな。もっとも縁は縁でも『悪』の方だが」

 

そう言って亜門は右腕のクインケを起動させる。

 

「さぁ、終わらせよう。ラビット」

 

(終わらせてくれ!!)

 

亜門はトーカに突っ込んだ。トーカも迎え撃つ体勢をとり、地面を強く蹴った。トーカの左足と亜門の右腕がぶつかりあう。

 

「チッ!」(やっぱ硬いな……砕くのは無理か)

 

その後もお互いの攻撃はぶつかりあう。必死の形相で畳み掛ける亜門。一方、トーカも平然とした顔をするウサギのマスクの下で驚きを隠せないでいた。

 

(コイツ、どんな鍛え方してんだ!? 喰種の攻撃を生身で受け止めるって普通じゃねぇぞ!)

 

そう、亜門は素手でトーカの攻撃を捌いていたのだ。普通なら喰種の攻撃はパンチでも当たれば骨折しかねない威力だ。それだけ喰種の筋力、生み出す運動エネルギーはデカいのだ。

 

亜門は生身での攻防を続けながら、今は亡き真戸呉緒との会話を思い出していた。

 

 

『……亜門くん』

 

『はい?』

 

『身体能力で劣る人間がいかにして喰種に勝つか、君は体力と筋力の鍛錬は欠かせないと言った。私は君を誰よりも間近で見てきたが君なら出来るかもしれないね』

 

『?』

 

『グールの生み出す運動エネルギーはヒトの4~7倍と言われているが常人の数倍のパワーを発揮できる人間であれば理論上生身でもグールに対抗できる。……ただそれが可能な人間はほんの一握りーー全人類の0.01%にも満たないであろうが』

 

『真戸さん……私を何だと思ってるんです?』

 

『なに……私は君を評価しているのさ。ヒトは才能を持って生まれてくる。だが生涯でその才能を開花できるとは限らない。私は才能より才能を開花するための努力を評価するタイプでね…………』

 

日々の鍛錬で鍛えられてきた筋肉、しかしオーバーワークのあまり亜門の筋肉には本人も気づかないうちにダメージを負っていた。

 

そして右腕に加工された赫包、クインケが移植されたことで喰種が元来持つ回復能力からほど遠いものの高い回復力を得た亜門の肉体ーー筋肉は修復、増強されたのだ。

 

そして赫包を埋め込まれた亜門の肉体はわずかではあるが喰種に近づいていたのだ。

 

 

「ラビットオオォ!!!」

 

叫びとともにトーカの鳩尾(みぞおち)に亜門の左拳が直撃する。クインケではない方の拳。だが十分な威力だった。それを証明するかのようにトーカのマスクから血が滴った。

 

「げぼっ!」(コイツ本当に人間かよ…クインケじゃない方の腕で!)

 

 

亜門はその後も息を切らせながらも攻撃を続ける。トーカは今の一撃で動きが鈍くなっている。

 

「お前さえいなければ…………」

 

その時、亜門はトーカに語りかけた。

 

「?」

 

 

「お前たちさえいなければ……失うことはなかった!! 父・母、親の虚像、仲間、そして師も! 貴様らがこの世界の平和を壊しているんだッ!」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

その叫びはトーカの中の時間を止めた。そう錯覚させる程、トーカに衝撃を与えた一言だった。

 

(失う? なんだよ……なに被害者面してんだよ。 私だってただアンタらに奪われてきた。父さんも涼子さんも店長も古間さんに入見さんも!! 皆、私の周りから消えてしまう。アイツらのせいで……)

 

「う…うわああああああああ!!」

 

怒りのあまり暴走する赫子。今まではうまく発現しなかった右の羽赫もうねりをあげている。その赫子の放つ異様なオーラに亜門は思わず立ちすくんでしまう。

 

「なっ!? 赫子が……」

 

(コイツらが憎い! 全部、憎い!! 人間がーー)

 

『トーカちゃん!』

 

そのとき、頭の中で聞き慣れた自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「!」

 

(あ、違う…依子は…特別だ。でも依子も私の正体知ったら私の前から消えちゃうのかな? イヤだ! 依子…クラスメイト、そんな大切な繋がりを切りたくない。でも、コイツらは……人間は私たちから何もかも奪うんだ)

 

トーカの頭に同じアパートに住んでいたおばあちゃんの顔が思い浮かぶ。今まで優しく接してくれていた彼女もトーカ達が喰種と知った途端、手のひらを返した。『平和』『繋がり』『人間との共存』全てを奪われた。そんな人間の中に依子といったクラスメイトも存在する。

 

「私にどうしろっていうのよ……?」

 

「?」(闘志が…消えた?)

 

亜門はトーカの様子に困惑する。が、すぐに拳を握りしめ直す。

 

(この矛盾した関係をどう受け止めればいいんだよ…! 私は誰を憎んで、何を守らなきゃいけないんだ!? カネキ、アンタなら一体…………)

 

「うおおおおお!!!」

 

「! しまっ………」

 

トーカが思い詰める中、亜門は警戒態勢から攻撃に転じた。闘志があろうがなかろうが亜門にとってトーカの赫子が脅威であることには変わりなかった。トーカは赫子で受け止めることも躱すこともせず、亜門の攻撃を正面からマトモに喰らう。

 

床に叩き付けられてもトーカは反撃に転じようとしない。そんなトーカに亜門は今度こそ『右腕』を構えた。

 

(大切な人を奪われた憎しみは消えない。私はコイツらが憎い。でも依子に憎しみなんて感情はないし、依子もきっとそうだ。依子を巻き込みたくない、これは私とコイツらのーー)

 

「!」

 

その時トーカは目を見開いた。それと共にトーカの赫子が背丈を大きく超える程、大きくなる。亜門は驚いて距離をとった。

 

「……ようやく本気になったか」

 

 

(人間と喰種……憎みあう存在、だから私たちは何かを奪われ、アイツらから何かを奪い続けるんだ。それは相手も同じ。これが続く限り、私たちは奪われ続ける。なら答えは簡単だ。

 

『奪わなければいい。こんな無駄な争いを終わらせればいい』

 

たったそれだけのこと。店長は喰種と人間の架け橋のために『あんていく』を作ったんだ。20区の喰種が奪わないために……争いを生まないために! だったらその理想を私が引き継げばいい!)

 

「悪いけど死ねないんだよ、私は!」

 

死ねば、まず間違いなくカネキが復讐に走るはずだ。そうすればまた憎しみの連鎖が始まる。だからこそトーカは今、ここで絶対に死ぬ訳にもいかなかった。

 

 

トーカは体を低く身構える。その体勢はーー鯱(しゃち)と瓜二つの構えだった。

 

「俺も……死ねないな」

 

アキラ、什造、また大切な仲間を残して消えるわけにはいかない。

 

そして桐ヶ谷、亜門はあの時見逃さなかった。彼が腹部に負っていた大きな傷を……もしかしたら彼は死ぬかもしれない。が、そんなネガティブに考えてはいけない。

 

(桐ヶ谷、俺はお前を上司として褒めてやらなければならない。よく戦った、と。そして謝らなければいけない。新人のお前をこんな目に遭わせたのは俺の責任だ。いや、それ以前に俺はお前の過去にあえて触れようとしなかった。それはお前を気遣ったからじゃない。……不安だったんだ、俺があんな顔をするお前の助けになれるのか……だからこそ俺はお前に聞きたいことが、伝えなければならないことが山ほどあるッ! とりあえずこの作戦が終わったらーー)

 

 

(2人で一緒に飯でも食いながら語り合いたいものだな)

 

 

亜門も右腕のクインケを稼働させる。赫子が蠢くたびに地面が、空気が振動する。

 

お互い、今できる最高の技を繰り出そうとしていた。そして地面を蹴ったのも同時だった。

 

 

「ラビットオオォォ!!!!!!!!!!!!!」

 

「はあああああぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

亜門の右拳が突き出される。トーカはその軌道を読んで体を傾ける。が、クインケの能力で突き出された拳が突如、あり得ない速度で加速した。赫者の拳がトーカを頭の上から殴りつけた。トーカは頭から床に叩き付けられ、床も岩盤を貫く勢いで崩れていく。クインケが返り血によってさらに紅く染まる。

 

(やったか…!?)

 

亜門はトーカの様子をうかがう。トーカは力が抜けたかのようにピクリとも動かない。と、思ったが次の瞬間トーカは右足で倒れ込むのを踏ん張り、とんでもないスピードで体勢を立て直した。

 

「な……!」

 

体を傾けた時、トーカは僅かではあるが赫子を放出し後頭部への直撃は避けていたのだ。でなければ、頭は果実のようにつぶれていたであろう。とは言うものの赫者の一撃、トーカも気を失いかけていた。が、そうさせなかったのは『死ねない』という覚悟からきた意志の強さだった。

 

「おらあああああ!!!!!!」

 

羽赫をさらに放出し加速する。その動きは亜門からは消えたようにしか見えなかった。が、次の瞬間トーカは亜門の懐にはいっていた。亜門の顔が驚愕に包まれたのは、トーカの鋭い膝蹴りが決まったのとほぼ同時であった。その速度は見切れない程の速さーー鯱の正拳となんら変わらないものであった。

 

 

そして2人は同時に倒れ込んだ。




残るは2人のカネキ! ですが、この深い因縁のある2人の話はまだ終わらないかもしれないのだ。


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真実へ

「カァ!」

 

カネキの咆哮と共に赫子が槍の雨のようにもう一人のカネキを襲う。それを羽赫の加速を使って避け続けるが、いつの間にか数十本にも増えている赫子から逃げ切ることは不可能だ。

 

「ケハハハハハハ!! はい、あんよが上手! あんよが上手! 私を喜ばせてぇ! 私、俺に! 喰わせろおぉ!!!」

 

記憶の断片を再現するかのようにカネキの人格、態度が次々と変化していく。

 

「キチガイ野郎ォ……いい加減くたばれよ!!」

 

しかし、相手もただやられるだけの喰種ではなかった。地面に仕込んでおいた燐赫を突き出しカネキの無防備だった腹部を切り裂いた。

 

「あ」

 

カネキは呆然と傷を見つめる。その傷は瞬時に再生を始めた。効いていないという様子だ。かと、思うと…………

 

「ガハッ!」

 

「!」

 

今度は先ほどとは比べ物にならないほどの吐血をした。

 

「あ…あぁ……」

 

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!」

 

 

「チッ! 何だコイツ、今更傷が痛んできたのか!?」

 

「駄目………いや、僕のからーー俺の! 私の! ……違う! 僕のだぁあああ!!!」

 

頭を抱えながらその場に倒れこんでしまう。数本の赫子がカネキの体を包み込んだ。依然、他の赫子は攻撃ーー否、破壊活動を続ける。一向にもう一人のカネキに攻撃は当たらないが、周りの壁や残った天井を破壊し瓦礫の雨を降り注がせる。

 

「肉、にく、ニクニクウウゥ!!」

 

カネキはある匂いを察して駆け出した。

 

 

「……結局、自分を見失ったのかよ」

 

残されたもう一人のカネキはカネキの破壊した後を見つめながら考える。

 

(もうカネキの意識は残されていない。残っているのは『自分が喰種ではなく人間の金木でありたい』という感情のみだ。それがかろうじてカネキという人格の一部を残している、がーー)

 

 

(もがき苦しんでいるあの人格(カネキ)以外は、全て他の何かだ。さしずめ移植されたリゼやこれまで自分が喰ってきた喰種をコントロール出来てなかったんだろう。それが守るべき人を傷つけるトリガーになっちまうとはな、皮肉だな『劣化版』よ)

 

*やがてカネキがたどり着いた場所は……

 

「アンタ……カネキ…なの?」

 

さっきまで死闘を繰り広げ倒れていたトーカの元だった。もちろん亜門もその場にいるが気を失って倒れている。カネキの眼中にはトーカしかいない。

 

「…………」

 

「何、どうしたの?」

 

カネキはそっとトーカに赫子を向けた。

 

「え!? どうしたんだよ、カネキ!?」

 

「無駄さ」

 

「!」

 

その時、後を追ってきたもう一人のカネキが話し始めた。

 

「コイツはもうあんたの知ってるカネキじゃない。秘めた力…っていうの? それを解放した結果がこれさ。皮肉だよな、誰かを守ろうと手に入れた力がこんなことになるなんてさ」

 

カネキに同情するような口ぶり、だが悲しんでいるわけではない。不敵な笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいるようにも見える。

 

「なるほど…喰うのね、私を」

 

トーカは納得した様子でカネキを改めて見つめる。その表情は怒りに満ちている。

 

「それがアンタの望んだ道で、力になれるならいいけど……」

 

 

「あの日、泣きながら私に救いを求めて『喰種』になることを拒んだテメェがそんな似合わないことすんじゃねぇよ!!」

 

 

トーカの言葉はカネキの動きを止めた。しかしカネキの表情は引きつったように動かないままだ。そして……

 

「……そんな『夢』もう置いてきた」

 

「……え?」

 

次の瞬間、カネキはーー

 

遡ること数分前、

 

『な……で』

 

カネキの意識の中でカネキを乗っ取ったはずのリゼが誰かに赫子で締め上げられていた。力が少し緩まった瞬間、その人物は尋ねた。

 

『ハァハァ……あなた本当に『カネキ』…くん?』

 

 

「さぁ、どうですかね?」

 

 

さらに遡り……

 

『母さん、見てみて!!』

 

『あら、綺麗に描けたわね』

 

小さい頃のカネキが花の絵を描いて母親に自慢げに見せていた。その光景を優しい笑顔で見つめる一人の少年。赫子が暴走していたその頃、カネキは意識の奥底で昔の自分を見ていた。しかしやがてその表情は憎悪の表情へと変わり、自分の腕でその思い出を振り払った。思い出は霧のように消えてしまった。

 

 

(休めば頭がスッキリとしてくる。不鮮明だった記憶もハッキリしたものになる)

 

(僕が見てきたものは偽りだらけだった)

 

 

カネキが次に見たものはーー

 

 

『お母さん、ごめんね、ごめんね』

 

 

自分の母親に何度も何度も殴られている幼い頃の自分自身の姿。カネキはそれをただジッと見ていた。

 

 

(理想の母親、僕の記憶がそう『上書き』していたこと自体が僕の失敗だった)




トーカに話しかけたのは誰? そして『夢』とは? カネキの『失敗』とは? 

次回カネキの生い立ちが明らかに、そしてもう後戻りはできなくなる……


次回、章は終わりませんが物語としては大きな節目を迎えます!


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ぼく よく だいすきなひとに ぶたれたね。

 

必死に母親に殴られながら謝る幼い頃のカネキ。

 

これが自分の本当の母親。カネキは冷たい眼で幼い頃の自分と母親を見つめてる。

 

(あぁそうだ。これが僕の弱さの始まり)

 

カネキは振り返ってまた別の記憶を見つめる。

 

 

『あなたの母親は『優しくて立派な人』……本当にそうかしら?』

 

『……どういう意味?』

 

 

ヤモリの拷問を受けた影響でリゼが自分の精神に現れた時のことだ。

このリゼは僕が生み出した虚像に過ぎない。言い換えれば、僕の全てを知っていたのだーー自分に嘘をつき続けていた僕よりも。

 

 

 

母さんが死んだあの後……

カネキの記憶に思い浮かぶのは優しい母親の姿……と

 

パチン パチン

『お母さんごめんなさい。もう欲しがりません。ごめんなさい……』

(違う……)

 

浮かんでくるのは殴られていた自分の姿ばかりだった。

(違う違う違うチガウチガウチガウチガウチガウ、こんなの僕のお母さんじゃない)

 

(どうしよう……僕の中の理想のお母さんが壊れていく)

 

(やだ、僕の優しい母さん。消えて欲しくない、僕だけの母さん!)

 

 

【麻痺性構音障害(ショックで声が出なくなる)、記憶喪失、人間の心は酷く脆い。人間の精神的なダメージは心だけでなく体にも影響を及ぼしてしまう】

 

(ヤダヤダヤダヤダヤダ……ヤ、ダ)

 

【しかし稀に脳はそれを防ごうと働くことがある。それはーーエピソード記憶の変換。単語のように繰り返し記憶するものと違い、1回の出来事(すなわち、エピソード)で記憶する、例えば運命の人との出会い、大切な人との死別、これは何度も起きるわけではない。しかしその様な印象的な出来事はシッカリと記憶されている。これがエピソード記憶である】

 

一時の出来事であるにも関わらず人々の頭の中に残り続け、後の自分に大きな影響を与えることとなる記憶。当時、まだ幼く現実を直視出来なかったカネキにこの記憶はーー邪魔でしかなかった。

 

 

(だから僕はこの記憶を『捻じ曲げたんだ』自分の意志と関係なく……それは僕が本当の意味で弱かったから)

 

 

現実を受け入れることのできない僕のまま成長していき、あの事件に巻き込まれた。あれは悲劇なんかじゃない……

 

 

               ーー《運命》だったんだ

 

 

受け入れろ。喰種であることを。自分が弱かったことを。自分が出来なかったことを。

 

それを乗り越えろ。そうする度に僕は強くなれる。

 

運命は変えられる……でも弱かったら何もできない。僕が強ければ店長たちを助けられた。強ければあの時、万丈さんを……今だってトーカちゃんを危険にさらすこともなかった。

 

 

「もう…逃げない」

 

 

僕の未来は僕が決める。僕の大切な人は僕が守る。他でもない自分のために。だからーー

 

 

「…僕の身体は僕のものだ」

 

 

意識という湖に沈んでいた僕は赫子で僕の意識に表出化していた人物を引き摺り下ろすように貫き振り下ろした。

 

リゼさんは驚いた様子でこっちを見ている。いつも僕に…どんな意味であれ笑顔を見せていたあの人が見せた初めての顔だった。

 

「リゼさん、あなたは僕の一部です。だから僕に話しかけたりするのは構いませんがーー」

 

 

「お前の様なゴミと僕を重ねるな。僕は僕だ」

 

 

そして僕はリゼさんを蹴り落とす様にして湖を抜け出そうとした。するとリゼさんは叫び始めた。

 

「嫌だ! カネキくん、コッチを見て! あなたの強さの源がここにはあるのよ!! カネキクゥン!!!」

 

これがリゼさんの本性だった。今なら分かる、リゼさんは甘い言葉で僕に擦り寄り僕を利用したにすぎなかった。『生きるというのは他者を喰らうこと』リゼさんは僕を喰おうとしていたのだ、そして僕は喰われかけた。

 

「あなたを生み出してしまったのは弱かった僕のせい、あなたをここまでつけあがらせてしまったのも弱かった僕のせい。だから……」

 

カネキは暗い意識の底を見つめた。

 

「『一緒』に堕ちろよ」

 

リゼさんと僕に何かを叫び続けている『弱かった僕自身』を一瞥して僕は戻って行った。

 

 

「夢はいつか終わる。そしてもう終わりにしなきゃいけない。もう僕は人間じゃない。人間ではいられない。あの時、弱かった僕では……僕はーー喰種だ」

 

カネキはトーカが負っていた傷の深い脇の部分を軽く殴った。トーカはカネキの腕を強く掴み、弱々しい瞳でカネキを見つめる。

 

「な…んで」

 

そう言い残すとトーカはその場に崩れ落ちた。カネキはそのまま立ち上がり、先ほどまで対峙していた喰種を睨みつける。

 

「舐められたものだな。赫者になって有利になり、そんで調子に乗って元に戻りやがったのか?」

 

「そうじゃないことは君も分かってるはずだよ」

 

「!」

 

「さっきまでの僕は僕じゃない。よくある言い方をすれば僕はどうかしていた」

 

それを聞いて不敵な笑みを浮かべるもう一人のカネキ。

 

「面白いこと言うな。そんじゃ続けようぜ、戦いを」

 

「いや、その必要はないよ」

 

「は?」

 

 

「意味がないんだよ、この戦いに。君はさっきから僕と比較するようなことばかり言ってるけど筋違いなんだよ。僕は君じゃないし、君は僕にはなれない。君は僕と違うんだ、そんなことしても意味はない」

 

「意味はあるさ」

 

「!」

 

「……少し落ち着かせてもらうよ。昔話がしたくてね。僕の父さんは医者でね臓器手術のスペシャリストだったんだ。テレビで紹介されるほどの凄い人だった。そんなある日、すぐに心臓移植をしないと死んでしまう患者がやってきた。勿論、その手術も父さんがやった。そしてその患者さんは偶然にも有名企業の社長だったんだ。父さんは大きな名誉を手にするはずだった。

 

だけど手柄は院長の息子に全部奪われた。息子が手術したことになったんだよ。これだけならまだいいさ。だけどあの手術で行われた悪事が問題になったんだ。移植を待っている患者はいくらでもいる、つまり移植手術を受けるにも順番待ちがあるんだよ。だけどその順番を無視してあの手術が行われたことが発覚した。それでどうなったと思う? 報告書に『あの手術を元々、担当する予定だった俺の父さんの独断による決定事項』って院長が書きやがったんだ。抗議しようにも相手の院長は医療界の元トップと言ってもいい人間、無理だったんだよ。そして父さんは自殺した」

 

「……………」

 

「その後、母さんも後追い自殺。僕は一人になってしまった。しかも何人もの移植待ちの患者の命をないがしろにした親父の息子として周囲から冷たい目を向けられた。父さんは本当に医者としての能力が高い人だった。だけど名誉、名、肩書き、看板、それらを持ったあのクソ家族には勝てなかった。

 

だからこそ僕には…俺にはいるんだよ。アンタみたいな喰種の高みにいる奴の肩書き、看板がな」

 

カネキは黙って聞いていたが、冷たい目で彼を見つめながら口を開いた。

 

「そんなくだらないものの為にこんなことしてるの?」

 

「持っているお前には分からないだろうよ。だけど持ってない奴はそんなくだらないものの為に必死に足掻かないといけない奴もいるんだよ」

 

「……その名誉やら看板は自分で作るものだよ。しかも作ろうとして出来るものじゃない。その人がやってきた行為に対して後からついて出来るものだ。君のように誰かの名誉を奪ったり、結びつけても意味はないんだよ。それに名誉や看板は誰かを利用して作るものじゃない」

 

「何とでも言え。全てを持ってたお前には分からないさ。それに意味はあるのさ。これからな……」

 

カネキは静かに自分の赫子を出現させた。その赫子はさっきより不気味な雰囲気を放っている。

 

「どうやらこの戦いにも少しは意味があったようだね……君の名誉とか看板とか、そういうのは確かに僕には分からないよ。それに僕にそんなものはいらない。だけど僕にも譲れないものがある。自分が存在する証明となるものーー『金木研』は一人でいい」

 

「珍しく意見があったな」

 

「終わりにしよう。このくだらない事件も……このくだらない戦いも!」

 

カネキともう一人のカネキの赫子がぶつかり合ったのはほぼ同時だった。




次回、最後の戦いが完結!


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堕討

長らくお待たせしました……体調はすこぶるーー悪いッス! 同僚にもこの作品を楽しみに読んでる方にもご迷惑をお掛けしました(何かちょこっと書いては休むって、某マンガの作者みたいだw)


ドイツ15:30

 

日本22:30

 

:reは閉店し店にいるのは四方1人、明日に向けての仕込みを淡々とこなす。コーヒー豆を挽いて紙のパックに詰め店の棚に並べていく。カネキやトーカが不在で、錦の当番が今日じゃないこの日は営業から明日の仕込みまで全て四方が行っていた。

 

そしてまた一つパックを棚に並べようとした時、四方は動きを止めた。棚にはもう尋常じゃ無い量のパックが並んでいたのである。後ろのミルをチラッと見ると、あと数回はパックに詰めれる程の豆がまだ残ってる。しかしそれは作業中に全く関係のないことを考えていた四方の配分ミスだった、普通ならこんな大量の豆を挽くことはないのである。

 

(…次で最後にするか)

 

らしくない自分のミスに表情にこそ表れないが疑問を抱きつつ、ミルに手をかける。しかしまたすぐに別のことを考え始めてしまう。

 

それはつい先日までここで楽しそうに働いていたカネキとトーカのことだった。

 

「………………!」

 

その時、四方の手が止まった。ミルの中で豆がつまったようだ。ミルが壊れない程度の力で無理やりハンドルを回していく。するとバキッと音を立ててたくさんの豆が飛び出た。そしてつまっていた豆は小さな破片を残してテーブルまで飛んでいった。

 

四方は溢れた豆をミルの中に戻し、飛んでいった豆を取りにテーブルまで歩み寄る。そして豆を拾い上げた時だった。

 

(……カネキ)

 

その豆は異様だった。他のような薄い茶色ではなく、エスプレッソに向いている焦げ茶色、そんな力強い色をしていながら豆の形は普通とは全く違う、少し力を込めれば粉々に砕けてしまいそうなそんな形。

 

そんな豆からは強い意志を持ちながらも背中はいつも寂しそうにしていたカネキの姿が想像できたのである。今のように1人で頑張りすぎるあまり身も心もボロボロになっていくカネキを。

 

四方は感じていた。あんていく襲撃戦の後、昏睡状態から目覚めたカネキ、あの時からしばらく経つがカネキの不安定な部分が少し目立つようになってきた、と。少し目を離した今、次に会う時はもうあの時のカネキではなくなっているかもしれないという不安が四方を襲っていた。

 

 

 

「ウラッ!」

 

「…………!」

 

赫子がぶつかり合った直後、何故か赫子が思い通りに動かず吹き飛ばされるカネキ。瓦礫の中へ突っ込んでいく。

 

「……立てよ」

 

その呼びかけに応じたわけではないが、カネキはすぐに立ち上がる。その時、もう1人のカネキは何かに気づいた。

 

「…………」

 

カネキも気づいたようで自分の髪を見つめる。赤黒い不気味な色の髪だった。

 

(……アイツが突っ込んだのは大量の喰種の死体が瓦礫によって埋もれていた場所、それでか)

 

もう1人のカネキは気にすることなく構える。そしてカネキも髪色を気にすることなく赫子を再び構える。

 

「いいのか、そんな髪で……イメチェンってやつ? そんなんで急に強くなって勝てると思ってんのか?」

 

と、もう1人のカネキの赫子が興奮のあまり唸りをあげたように見えた時だった。カネキの赫子が少しずつ肥大化していく。

 

「!」

 

もう1人のカネキが慌てて距離を取る判断をしている中、カネキは自分の赫子の動きを確認する。

 

(あぁ、こんな感じか……)

 

そしてカネキは上半身だけをダランと下に垂らす体制に変える。体から力を抜いた態勢で視線だけはもう1人のカネキをジッと見ている。

「何なんだ……!」

それを見て苛立つもう1人のカネキ。しかし苛立ちの対象はカネキにではなく自分自身だった。

(全身から力を抜いているアイツは格好の的のはず……だがーー)

 

(アイツの視線、気迫から分かる。一歩でも動けば……殺られる)

 

もう1人のカネキは見逃すはずがなかった。カネキの背後で不気味に蠢く赫子を。赫子からは紫色の蒸気のようなものが発生している。それが幻覚であればよいが、この空間から感じる空気からその蒸気が赫子から発生してる異常な何かというのは間違いなかった。

 

肌がヒリヒリと痛む。間違いなくこの気体のせいだが、だとしたらあの気体は一体何か? 疑問が、戦いから生まれる緊張感がもう1人のカネキを襲う。そのプレッシャーから一歩も動けない。

 

「……分かったでしょ? 君は僕に勝てない。どんなに暗示したとしても君は僕になれないんだよ」

「う……るせぇ!」

怒り、その場の勢い、恐怖に任せて地を蹴る。そんな単調な攻撃は容易に回避される。

 

しかし彼はカネキに不敵な笑みを浮かべた。鱗赫でカネキを締め上げ、羽赫をカネキに向けて構える。赫者《梟》の赫子、その威力はもう知っている。それを全弾命中する形で受けた場合……最悪、死ぬ可能性がある。

 

絶体絶命のピンチ、もう1人のカネキは笑顔を見せていたがその表情はすぐに恐怖へと一変する。

 

カネキは泣き喚きも、諦めの表情も、困惑もしなかった。さっきと変わらぬ無表情で彼を見つめ続けた。しかしその赫眼は鋭い目つきをしていたのだ。しかも彼を見ているようで見ていない。

 

死ぬつもりはない、死ぬわけがない、そう確信した目。そして何かをやり遂げようとする意志のある目だった。

 

「……その目がムカつくんだよ! 余裕かました様なその目がッ!!!」

 

(何が違う! むしろ俺の方が凄いハズ……なのに俺はコイツにーー)

 

苛立ちを力へと変える。カネキを締め上げてた鱗赫に力が入る。しかしピクリとも動かない。カネキは苦しそうにする素振りを見せるどころかさっきと全く変わらぬ様子だ。もう1人のカネキに焦りの色が見え始める。ならば、と羽赫を発射態勢にした時だった。

 

カネキの赫子が爆発する様な勢いで展開した。もう1人のカネキの鱗赫は破壊されるほどの勢いで吹き飛んだ。

 

「クソが…!」

 

羽赫を勢い任せに全て発射、その範囲・スピードは流石としか言いようがないものだった。そして土煙で見えないものの確実に命中したと認識できる音が聞こえてきた。

 

今度こそ勝利を確信し勝ち誇る様な笑顔を見せる。しかし土煙から躍り出る様に現れたのは狐の尾ーーと見間違うほどしっかりした形を持つ赫子、鱗赫。カネキはその赫子に足を乗せる形で現れた。

 

(なのに……何でコイツに勝てない!)

 

「あの赫子で防いだのか……『俺』の羽赫を…しかも1本で……」

 

 

「君のじゃない」

 

 

「ッ!」

 

「どれだけ自分に言い聞かせようが、それは嘉納に与えられた力に過ぎない。いい加減認めたら? 嘘つき野郎」

 

「るせぇ!」

 

もう1人のカネキは羽赫のブーストで動き続け撹乱する様に仕向ける。が、カネキは見切っていた。

 

「嘘が明るみになった時、それは人の動きを鈍らせる。例えそれが相手ではなく自分への嘘でも」

 

「なっ!?」

 

飛んでいた彼の下に潜り込みバク転する勢いで宙返り、赫子で腹部を貫いた。胸より下、即死する部位ではないが十分なダメージを与えられる攻撃。

 

カネキは赫子を収め、トーカそして亜門を抱えて脱出しようとする。それを見て激怒するもう1人のカネキ。

 

「ざけんな! 何も言わずに消えるのかよ。勝ち誇りやがって。こんな傷すぐに……」

 

そこで口を閉ざす。そしてゆっくりと自分の腹部を見つめる。

 

ーー治っていない

 

貫かれた傷跡には紫色の血の様なものが付着している。

 

「な…で……ゴハァ!」

 

「僕のRc細胞は他の人とは違う。日々の食事を《共喰い》のみで過ごしてきた僕の身体はある時から大きく変わってしまった。自分自身さえも蝕んでしまう厄介なものに」

 

「?」

 

「赫紋、Rc細胞を別のものに形質変化させる……僕のは少し変わってるけど」

 

「触れたもの全てを蝕む《侵食》それが僕の赫紋だよ」

 

 

「な……」(俺はコイツの足下にも及んでなかった、というのかよ)

 

毒のように体を蝕むRc細胞。もう1人のカネキの意識はどんどん薄れていく。しかしそこで何か思い出したように、もう1人のカネキは力を振り絞り倒れまいとする。

 

「待て! その前! 最初に戦った時から暴走してお前は急激に力をつけた……それはこの戦いの最中に赫紋を身につけたというこーー」

 

「何言ってるの?」

 

「?」

 

 

「侵食、それが僕の力と言ったよね?」

 

 

今度はカネキが不気味な笑みを浮かべてそう言った。顔にも血が付着し、髪色が赤黒いカネキ。その赤黒い髪は血が付着したにしては綺麗に染まった髪色だった。

 

(まさか……自分を…………?)

 

 

「リゼさんが僕の中に現れるたびに僕は強くなれた……自分を犠牲にして。でももうリゼさんは僕の中にはいない。精神(こころ)が蝕まれた僕だけが残った」

 

 

「強くなるには……邪魔な芽を摘むには躊躇しない非情な心が必要だ」

 

 

「何でだろう……もう君の前でも非情になれそうだ」

 

もう1人のカネキは全身が麻痺するような恐怖に襲われる。しかし自分を見つめる少年は先ほどと同じ何も感じない冷たい瞳のままだ。

 

「でもーーくだらない嘘つきを1人殺したところで何にもならない。もう2度とその名前で僕の前に現れるな」

 

(コイツ……蝕まれていたのか自分の力にーーだがコイツはその力さえも喰ったんだ。全てを犠牲にして……今まで培ったものを蝕んで…………)

 

ようやく気付いたカネキの強さ、狂気。そこで彼は力尽きた。

 

 

 

 

カネキは建物を脱出しながら、自分の髪を撫でた。〈血〉ではない、地毛が赤黒く染まっている。強すぎるRc細胞の影響だった。

 

(芳村さん……僕はあなたの言うような立派な存在として生きたかった)

 

カネキはトーカを見つめながら歩みを止めない。

 

(残念ながら僕はそうじゃなかったみたいです。店長、世の中は綺麗事では通らない。

 

僕は最低ですか? クズ野郎ですか?

 

 

それでも構わない……僕の目的が果たせるのなら)

 

 

良くか悪くか、この戦いで目的・自分の存在意義・力に飲まれ、自分の弱さであり強さでもあった《人間》を失ったカネキだった。

 

 

 

???

「まさか……君が私を助けてくれるとは、ね。てっきり殺されるのかとーー」

 

「ハハハ、つまらない冗談を……殺してやりたいさ今すぐにでも。でもそうはいかないからこうやって生かしてやってるんですよ」

 

「……どんな気持ちだい?

 

喰種を生み出した我々《嘉納》を利用しなければならない今の心境は?」

 

「我々? あなたは人工の喰種を造ることに成功したに過ぎない、あなたもクズ野郎だが『あんな奴ら』に比べたらカワイイもんだ」

 

「……こんな状況だが君のことが心配だよ、カネキくんにどう誤魔化す気だねーー

 

 

神山くん?」



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After-カネキ

「………………」

 

あれから数日が経つ。話しても話しきれないほど色んなことがあったはずなのに頭の中は不気味と思えるほどスッキリしている。

 

「カネキくん」

 

後ろから月山さんが歩み寄ってくる。その表情は僕に向ける顔としては珍しく心配そうな表情だ。

 

「月山さん……どうしました?」

 

「どうしました、じゃないだろう。霧嶋さんとはアレで良かったのかい? 君らしくもない」

 

「……やっぱりバレますかね? 僕、相変わらず嘘が下手だなぁ」

 

思わず苦笑いをしてしまう。これは今までのように何かを隠すための笑顔ではなく本心だ。それを月山さんも感じ取っているのだろう。僕に同情するのかのような視線を向けてくる。

 

 

 

「……残るんだな」

 

「うん。ここでやり残したことがあるし、それに仮にも神山さんに協力するという約束で来てるんだからね」

 

トーカちゃんとアジトで最後の会話をかわす。その様子を月山さんはそれを遠くから見てきている。会話もバッチリ聞こえているだろうけど気にすることはない。

 

「本当は離れたくないし、危なっかしいアンタを近くで見張っていたい」

 

「けど大学に戻らないと。せっかく頑張って合格したんだし」

 

トーカは少し残念そうに「そうだな」と悲しそうな表情を俯くことで隠し、月山さんは眉をピクリと動かす。が、真剣な表情のままこちらを見つめたままだ。

 

「それにしてもこっちでも大変な目に巻き込まれるってカネキ、相当運が悪いな」

 

「そうだね」

 

「私まで巻き込まれるって……まぁくっついて来たのはあたしだけど」

 

「ゴメンね」

 

素っ気ない会話が続く。いや、僕がそうさせているのか。もっと会話を広げられるかもしれないのにあえてそうしてないのかもしれない。

 

「カネキ、戻れそうになったら連絡くれよ。休んだ日の分、しっかりと働いてもらうんだからな。四方さんにもよろしく伝えといてやるよ」

 

「う〜ん、それは困るなぁ」

 

と、苦笑いを浮かべるがそこでトーカは何かに気づいた素振りを見せる。そうかと思えば、今度はさっき以上に悲しそうな表情を今度は隠さずこっちを向いたまま見せつける。

 

「…………もう時間だよ」

 

そう言ってトーカちゃんの背中を押しアジトの外に出る。万が一のために付き添うAnalyzeの喰種がトーカを見て「時間か」といった様子で立ち上がる。

 

「全部片付いたらすぐに戻るからね」

 

「……うん。待ってる」

 

そう言ってトーカは喰種に連れられて、日本へと戻っていくのであった。

 

 

 

「会話もあまり乗り気じゃなかったし、別れを惜しむ様子も見せない……紳士として言わせてもらうけどカネキくん、レディに対してアレは失礼だよ」

 

月山さんは顔をしかめながら話す。僕は振り返り、月山さんの目を見て答えた。

 

「逆ですよ、月山さん」

 

「!?」

 

 

「大切な人ーー仲間ーーそういった理由を並べて僕は現実に向き合えてなかった。僕がするべきことは一つ、負の連鎖を止めること。自分の問題を大切な人のためにと、さも『誰かのために』と理由をつけて自分の問題を捻じ曲げてきた。大切な人がいなくたって僕は前に進める。逆にいると目的が眩んでしまう。

 

今の僕に必要なのは目的のための協力であって目的を果たすための『心の支え』じゃない」

 

月山さんは驚くべき光景を見たかのように立ちすくみ、体を震わせていた。僕が変わったことに驚いてるんだろうか?

 

「……………」

 

 

そうじゃない。僕が変わったんじゃない。歪んだこの世界で生きるためにーー歪んだこの世界が僕を変えたんだ。




強くならないといけない、自分は弱かった。それじゃあ駄目だ、とあの事件の戦闘中にカネキが考えて辿り着いた状態がコレでした。自分自身へのプレッシャーや責任感、正義感によって心が崩壊した、いったところです。

更新ペースは遅めですが、よろしければ次回もお楽しみください


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キリト

「……行きましょう、月山さん。彼らのことを考え続けても何も始まらない」

 

カネキはそう言って歩き始めた。

 

「…………君が目指しているのは……本当にその姿なのかい? カネキくん」

 

 

 

見えるのは病室の白い天井と伸ばした自分の右腕だけ。自分の力では起き上がることが出来ず、普段からずっと天井を見て過ごす日々だ。

 

「………………眠れないんだ」

 

俺は聞こえるはずのない『彼女』に語りかける。病室に来てから……否、『あの時』から一度も熟睡出来た試しがない。疲れは当然溜まっている。眠気に何度も襲われた。それでも彼は寝ることが……眠ることを許されなかった。

 

オウルとの交戦の際にできた腹の傷は未だに癒えない。そして、胸にずっとある痛み……大きく空いた心の穴はポッカリと空いたままだ。

 

「君を守れなかったあの日から、俺は……他人(ひと)を守れるか不安で仕方がないんだ。失ったものを考えると……俺はーー」

 

「天井に誰かいるのか?」

「!」

 

首を右に傾けると病室の扉を開け、誰かが入ってきていた。

 

「相当疲れてるようだな、桐ヶ谷」

「! 亜門さん」

 

自分ほどではないが、体の色んな箇所に包帯を巻いて右眼に眼帯をつけている亜門准特等。自分も怪我をしているのに部下である俺の見舞いに来てくれるとは……本当に尊敬できる上司だ。

 

「俺なら大丈夫ですのに……亜門さんも身体を痛めているのでは?」

 

「そう言いたいが、この右腕のおかげで治癒力が上がっていてな。ほとんど擦り傷程度の怪我にまで回復してるよ。傷口から感染したらいけないから、と医者がうるさくて大袈裟な包帯を巻かれているが」

 

「眼帯は……?」

 

「一般人が見たらエラいことになるからな」

 

俺はその言葉で眼帯をつけている理由を理解した。

亜門さんは人間だ。だがその体はもう人間じゃなくなり始めていた。真戸さんからそう聞いていた。

 

「待ってろ、いま起こしてやる」

 

亜門さんはそう言ってベッドのハンドルを回し始めた。少しずつ上半身が起き上がり始める。怪我のせいで1人でこんな簡単なこともできない。情けなくて思わず自嘲気味に笑ってしてしまう。

 

「すみません、亜門さん」

 

「気にすることはないさ。お前のその体はお前があそこで命を懸けて戦った結果のものだ」

 

 

「でも……『また』守れなかった」

「……………」

 

俺は静かにそう呟いた。

 

「もう誰も殺させやしない。皆を守ってみせるとそう誓っていた。だけど、俺はあの日から何も変わっていない……このままじゃ俺はまた誰も守れない」

 

亜門さんは黙ってこっちを見て聞いていた。そして険しい顔で聞いていたかと思うと急に微笑み語り始めた。

 

「疲れているようだな、普段無口で心を開かなかったお前が俺に心に抱えていることをぶつけるなんてな」

 

「え……あ」

 

そうだ。俺は何を考えているんだ。こんな事を他人にペラペラと……余計な心配をかけさせて……『自分は悲劇の主人公です、同情してください』と言わんばかりに話しまくって……

 

「クソ……何で」

 

 

「相当辛かったんだろうな……『キリト』」

 

「!?」

 

キリト、その言葉が俺の胸に突き刺さり衝撃を与えた。

 

 

 

桐ヶ谷ーーキリトは驚いた様子でこちらを見る。

「どうして……あなたがそれを……」

 

「悪いな、桐ヶ谷。お前の過去について少し調べさせてもらった」

 

 

「《あの世界》で数々の挫折や困難を乗り越えて戦い続けた《黒の剣士》キリトという男、そして彼が失った大切な人物『アスナ』について」







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黒の剣士

「キリト、桐ヶ谷和人という少年ーーお前が《あの世界》で名乗っていた名だ」

 

 

CCGが最も欲してるもの。それは喰種を特定するための設備でも、喰種についてより詳しく知るための情報でも、SレートやSSレートの喰種から作られる高性能クインケでもない。

 

『CCG最強の男、有馬貴将を超える捜査官』それがCCGが最も欲してる戦力であった。

 

しかし有馬貴将のような天才を見つけ、その天才を短時間で育て上げることは非常に困難であった。ある人物が一つの方法を思いつくまではーー

 

『喰種と同等の脅威が蔓延る仮想空間を作り、そこに不特定多数の一般人をログインさせ、そこから有馬貴将を超えられる捜査官を見つけ出す』

 

こうして計画は始まった。普通の喰種のデータはもちろん、有馬貴将の戦闘データ、有馬貴将が倒した喰種のデータを収集し、それを基に人々の目の前に現れる敵を再現。

 

現実ではあり得ない強大な敵が現れる。しかしその世界に銃や魔法といったものは存在しない。その仮想空間に存在するのは剣・盾・斧といった防具や武器、その装備を扱うための技術など生きていくうえで必要な最低限の力だけだった。

 

それが……

 

 

「【Sword Art Online】通称SAOだった」

 

「…………」

 

桐ヶ谷は黙って俺の話を聞き続ける。

 

「多くの人々がそんな目的があるとも知らずにその世界に飛び込んでいった。何故ならそれが『仮想世界で行われる遊戯、すなわちゲーム』だと思い込んでいたからだ」

 

そう、これは有馬貴将に近い捜査官を探し出すための計画。もしそれが、ただ恐怖に満ちた敵が襲いかかってきて、そんな敵に対して必要最低限の装備のみで戦う実験プロジェクトだったら誰が参加したがるだろうか?

 

そこで思いついたのがゲームという発想だった。そんな世界をゲームとして再現できれば興味を持った多くのプレイヤーがこの計画に参加してくれる。多くの人々が世界中から仮想世界にログインすればその数は万に近い数になる。それだけ多くのデータが集まるということだ。

 

 

「そして計画は順調に進行していた。SAOというゲーム、もとい計画はβテストの段階で多くのプレイヤーが参加。その中に桐ヶ谷、お前もいた」

 

「……はい」

 

 

「その段階ですでにプレイヤーのデータも収集され始め、計画は順調と思えた。

 

が、その時点で計画が大きく歪んでることに世間はもちろん、CCG内部の人間も気づくことはなかった」

 

 

問題が発覚したのはSAOが正式に開始されたその日だった。SAOにログインした多くのプレイヤーがSAOという世界から脱出不可能に、そしてその世界での死は『仮想』ではなく『現実』となった。

 

当然、オンラインゲームには『ゲームの世界に入る、ログイン』があれば『ゲームの世界から抜け出す、ログアウト』というものが存在した。しかしこのゲームに存在したのは『ログイン』のみ、地獄への片道切符だけだった。

 

ただでさえ、仮想空間に囚われるという最悪な状況だというのにもう一つ最悪な問題が残っていた。それが『死』である。

この仮想空間内で死亡すると、仮想空間にログインするための機械に『仮想空間で死亡した』という情報が入力される。その情報が入力されると同時に『夢の仮想空間に誘う機械』は『死へと誘う殺人機械』へと変貌した。ナーヴギアと呼ばれるその機械はプレイヤーが仮装空間で死亡した信号を受信すると同時にプレイヤーの脳を破壊した。脱出不可能である恐怖の仮装空間からの解放、しかしそれは現実世界からのログアウトも意味する死刑宣告だった。

 

 

 

「当然、CCGもこれは予想外の出来事だった。まさかCCGきっての天才科学者でありSAOを作った人間がこんな細工をしているなんて誰も気づかなかったからな」

 

茅場晶彦、天才物理科学者にしてSAOを作り上げた天才ゲームデザイナー。CCGの計画を実行するためにそのゲーム、仮想空間を作る責任者となった彼はその世界をデスゲームへと変貌させた。

 

後に彼の研究室から見つかったある書類の裏にはこんな言葉が書かれていたという。

 

『やり直しが効く、絶望から簡単に抜け出せる、死という恐怖が存在しない世界などリアルとはいえない』

 

 

彼は自分の作っていた異世界に、あろうことかその世界を現実に近づける理想を抱いてしまっており、その異世界を私物化し、恐怖に満ちた世界に自分ごと人々を閉じ込めたのだった。

 

 

「これが数年前に世界中でニュースとなったSAO事件の語られることのない真相だ」

 

「ええ、CCGはあくまでデータの提供のみ。事件の元凶はそのゲームメーカー『アーガス』のゲームデザイナー茅場晶彦ということで処理され、アーガスは賠償金など莫大な負債を抱えて解散。事件の元凶である茅場晶彦は未だに行方不明」

 

「ああ、だが茅場晶彦はとうの昔に死んでいる。SAO事件を解決させたキリトいう少年の手によって」

 

 

このデスゲームから脱出する方法はただ一つ。死ぬかゲームをクリアする、すなわちラスボスを倒すことであった。そしてそのラスボスこそ茅場晶彦本人であった。ゲームの攻略を進め、そのラスボスと一騎討ちで勝負を挑み、彼を倒した人物こそキリトであった。

 

総プレイヤー人数1万超え、死者4000人以上という大事件は終焉を迎えた。

 

「が、全ての人間がハッピーエンドでは終わらなかった」

 

「………………」

 

「絶望に満ちたゲーム内で心の許せるパートナーと出会った人数も少なくない。キリトと呼ばれるプレイヤーもその1人だった。彼はゲーム内である人物とゲームのシステム上の話ではあるが『結婚』をしている。その人物が『アスナ』」

 

「…………ッ!」

 

「そしてアスナと呼ばれる少女はゲームクリア後、仮想空間に囚われている間に収容されていた病室から他のプレイヤーと共に行方不明となった。プレイヤーが仮想空間に囚われていた期間は数年にも及ぶ。その間、現実の体はピクリとも動かない。当然、筋肉はマトモに歩くこともままならないほどに衰える。そこを狙った集団拉致事件。

 

そして違う病院に収容されていたキリトはこの事件に巻き込まれることはなかった。そしてお前は……」

 

「確かに」

 

桐ヶ谷は突然口を開いた。

 

「?」

 

「………確かにあの世界は偽物だったのかもしれない。あの世界で食べた物、戦った敵、美しい景色ーー全部この世界に存在しないもの。だけど、あの世界で出会った人との繋がり、あの世界で得た経験だけは偽物じゃない」

 

「…………」

 

「今も覚えてる。俺の隣で浮かべてくれたあの笑顔、俺を満足させてくれたあの料理……2人で一緒に笑ったり泣いたりした。……顔は知ってるのに……まだ現実で会ったこともないんですよね」

 

涙を堪えながら亜門に見せたぎこちない苦笑い。その顔はすぐに任務開始前と同じ、またはそれ以上に引き締まった表情となった。

 

 

「俺はまだあの世界に囚われたままだ。もう1度アスナに会って、あの世界で過ごした日々について語り合う。仮想空間じゃなくてこの世界で。その時ようやく俺は現実に帰ってこれる。

 

あの世界に忘れたものを取り戻してから」




最近、小説投稿していなくて気づかなかったのですがこの作品の1〜3話のアクセス数が1万を突破しました!!本当にありがとうございます。

またこの作品の評価をしてくれる方もいてくれて嬉しかったです! 高い評価をしてくれてる中に3以下で評価されている方もいます。そう評価された方の中でプロフィールに『文章が下手くそだと思う人は3以下の評価をする』と書かれてあり、これはまだまだ自分の執筆力が拙すぎる良い証拠だと思っています。何がいけないのか気づかせてくれるとてもいいアドバイスでした。高く評価してくれた方、厳しく評価されてくれた方、ありがとうございます! 楽しんでくれてる方もどんどん「この文章こうした方がいい」とアドバイスしてくれると励みになります
もっと色んな方に出来るだけ楽しんで読んでいただけるようレベルアップしていきたいと思います。と、言いながら投稿頻度がかなり少なくて申し訳ありません。これからも「アップできる時にアップしていく」スタイルをとっていきたいと思うのでよろしくお願いします


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