遊戯王Otherworld (ヌル@決闘者)
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1話 邂逅の日、運命の始まり
capture1始まり


 炎上する街並み、際限なく広がる炎は、さながら火炎地獄と言ったところか。

 

「お前はここで待ってろ、俺が呼ぶまで絶対顔を出すなよ…… 俺があいつらを叩き潰して、すぐに帰ってくるからな」

 

 まだ火の手が回っていない路地裏で、一人の少年が捨てられていたタンスに話しかける。少年は別に虚言癖がある訳でも、タンスに特別愛着がある訳でもない。

 タンスの中から返答はないが、この中には彼にとって唯一の肉親たる妹がいるのだ。

 決闘盤(デュエルディスク)を付けた左腕が無意識の内に震える。無理もない、相手はこの街のチャンピオンさえ難なく下す程の実力者だ。

 ハッキリ言って勝ち目はない。

 それでも、例え勝つ確率が限りなく零に近ろうとも、逃げる事は出来ない。後ろには、守るべき存在がいるのだから。

 タンスに触れたまま数分。覚悟を決めた少年はタンスから手を離し、振り返る事もなく路地裏から飛び出した。

 

「やれ、デストーイ・ホイールソウ・ライオ。力の差を弁えぬ愚者を切り裂けっ!」

「ぐぁぁぁっっっ!!!」

 

 飛び出して数分、冷徹な死刑宣告と共に少年の断末魔の叫びが木霊する。

 それを耳にしても、少女はタンスから顔を出す事はなかった。

 兄は約束を破る事などしない。だから全てが終わった後には自分のところへ帰って来てくれる。

 そう、信じていた。信じ続けていた。信じる事で事実に変わると思っていた。

 

 街に、雨が降ってきた。それは炎上する炎を消火し、生き残ったものに破壊が終わった事を主張する。

 一人、また一人と大通りに姿を晒す。彼ら彼女らに生存の喜びを噛み締める余力も、近くの人と抱き合い感動に咽び泣く気力もない。

 むしろ、廃墟と化した街が放つ絶望的なまでの存在感、そして昨日まで当然のようにいた友を、家族を、恋人を失ったという喪失感からか、地に伏せ啜り泣く人が徐々に増えていく。

 そんな人々を、少女は虚ろな眼差しで見ていた。否、厳密には視界に入っているだけで、彼らの事など眼中にない。

 

「兄……さん……」

 

 兄は帰って来なかった。だがそれでもタンスの外に出たのは兄が自分の事を忘れたからであり、断じて信じていない訳ではない。

 そう少女は自分に言い聞かせる。

 だがそんな儚い希望を砕くように、ある物体が少女の視界に入った。入ってしまった。

 人にぶつかるかどうかなどお構い無しに少女は走る。息を切らして、全力で。そして物体の前で止まった。

 

「嘘……だ……」

 

 そこにはばら蒔かれたデッキと使い古された決闘盤が落ちていた。ライフカウンターが表示しているのは0。この数字は決闘(デュエル)において敗北を、そして時としては死をも意味する。

 見間違えるはずもない。これは兄の決闘盤だ。

 

「嘘だ……嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ……!」

 

 それでも現実を拒絶するように、少女は同じ単語を繰り返す。

 だが目の前にある決闘盤が放つ質量は、百万の言葉をも軽く凌駕する。

 そして一枚のカードに目が映る。それが、限界だった。

 決壊したダムのように感情が溢れ出し、少女は天を仰いで泣き叫ぶ。

 

 それに答えてくれるものは、いなかった……

 

 

 

 

 デュエルモンスターズ。

 それはモンスター、魔法(マジック)(トラップ)の三種類のカードを駆使して、先に勝利条件を満たすカードゲーム。

 一見シンプルに感じるルールだがその実、数千種類にも及ぶカードプールから己の目指す方向性に沿うよう四十枚少々のデッキに纏め、無限に派生する相手の策を掻い潜る必要のある複雑なゲームだ。

 ある大企業が立体映像ーーソリッドヴィジョンーー技術を利用した決闘盤を開発してから、人気が爆発。今では多くの決闘者(デュエリスト)がプロ、そしてチャンピオンを目指して日夜決闘の腕を磨いている。

 その中で誰かの教えを乞いたいと願うものが増えるのは自然な話だ。プロ決闘者養成機関ーーデュエルアカデミアーーが設立したのも、ある意味では世間が望んだ結末なのかもしれない。

 

玉露遊羽(ぎょくろゆうば)山城勤(やましろつとむ)、呼ばれた理由はなんとなく分かるよな?」

 

 向かい合うように席が置かれている職員室。外からは夕焼けが差し込み、室内はややオレンジ色に変色している。

 中年の太り気味な先生の前には生徒が二人立っていた。

 

「えぇっと……実技の点です、かね?」

 

 自信なさげに答えたのは、左で綺麗に立っていた細長い生徒。眼鏡にかからない程度に前髪を伸ばし、赤を基調とした制服に身を包む彼の名前は、山城勤。

 先生は山城の言葉を手を振って否定する。

 

「実技は問題ねぇよ。山城は平均以上だし、遊羽に至ってはラーイエロー相当の成績だよ」

「つう事は俺ら、ラーイエローに編入っすか!?」

 

 軽薄な声を出したのは山城の隣、先生の前でありながら明らかに重心を偏らせた姿勢の男。左目を隠す程に伸ばした白髪で山城と同じデザインの制服を着崩した彼が、玉露遊羽。

 先生は嘆息して右手で顔を覆った。遊羽はその動きを不審に思うと、先生が先の言葉に返答する。

 

「あぁ、俺も勧めたいよお前らの事……これがなければな」

 

 先生が左手を突き出して紙を二人に見せた。

 そこには二人の名前が書かれたテスト用紙があった。赤で書かれた点数の多くは赤点をやや下回っている。遊羽の名が書かれたものの中には、一桁のものまで存在していた。

 

「国語、英語以外はこのざまってどういう事だよ……特に遊羽。お前、せめて数学はどうにかならないのか」

「いやぁ、決闘で使うのは加減乗除までですし……」

 

 遊羽は右手で頭を掻くが、頬には冷や汗が滴っている。彼の返事に先生がため息をついたのは言うまでもない。

 

「とにかく、筆記がこのままなら、お前らずっとオシリスレッドだからな。そこは覚悟しとけよ」

「はい……」

 

 山城は自信なさげに答える。この状況ではそうするのがベターだろう。これはある種の警告なのだから。

 だがそんな山城を尻目に、遊羽は何故か快活に口を開いた。

 

「万年レッドの男がプロ……これかっこよくね? どう思います、鱈尾(たらお)先生」

 

 外から鴉の鳴き声が聞こえる。山城にはそれが遊羽を馬鹿にしているように感じられた。

 

 

 

 

「遊羽ぁ……お前よくあのタイミングであんな事言えるなぁ……」

「なんせ鱈尾先生のお墨付きだぜ、ラーイエロー相当ってな。お前こそ自信持てよ山城、そんなんじゃドローの神様とかに嫌われるぞ」

 

 夕焼けに染まる空の下、校門を潜り遊羽と山城が下校する。

 アカデミアの原形となった施設は太平洋に浮かぶ孤島をそのまま利用した大規模なものだったらしい。アカデミアが全世界に広まった現在では、自宅から通うという事が一般的だが、中には今でも寄宿舎を利用するものも多いと聞く。山城は自宅から、遊羽はマンションを借りて一人暮らしである。

 二人が談笑していると、樹の物陰から新たな人物が進路を遮るように姿を現す。

 

「わっ!」

「うおぉっ!」

「うげぇっ!」

 

 危うく転倒しそうになった山城。反射で一歩後ずさった遊羽。どちらも驚きは一瞬で、すぐに脅してきた人物に合点がいく。

 両者の総意を口にしたのは、遊羽だった。

 

「……脅かすなよ、祭」

「えへへ、驚いた?」

 

 祭と呼ばれた少女は目の前で笑顔を向ける。動きに合わせて、頭頂部にある猫耳を連想させる茶髪が揺れた。

 六条祭(ろくじょうまつり)、遊羽達と同じオシリスレッドの生徒であり、二人の友達でもある。

 

「二人ともタラちゃん先生に呼ばれてたでしょ。何話してたの?」

 

 タラちゃん先生とは女子生徒の中で広まっている鱈尾のあだ名、らしい。無論授業中にその名で呼ぶ事は皆無で、鱈尾が何か特別な反応をする事もないために女子との交友がなければその名を知る機会はない。

 興味ありげに顔を近づける祭に、遊羽は自信満々に答えた。

 

「俺らの実力はラーイエロー並だから、今度編入手続きするってさ」

「嘘っ!?」

「嘘つくな」

 

 次は祭が驚愕を顕にし、即座に山城が突っ込みを入れる。

 

「実際は筆記が酷いから無理だってさ」

「そう……」

 

 心なしか、祭のテンションが下がった気がした。二人と離れる可能性を考えたのか、それとも自分のタクティクスは二人に劣ると教師に思われたのが不服なのか。

 それをどういう意味に捉えたのか、遊羽が人一倍大きな声を出した。

 

「んな暗い顔すんなよ! とりあえずいつもの公園でやりまくろうぜ!」

 

 ニヤつく遊羽が持ち上げたのは、現行世代のアカデミア支給規格の決闘盤。

 何をするかなど、これを見せるだけで大体察しがつく。

 決闘盤を見て山城は笑い、祭も気持ちを切り替えた。

 

「そうだね。今日こそ負けないよ、遊羽」

「へへ、面白いじゃん……!」

「二人とも、私を忘れてもらっては困りますねぇ」

 

 三人の近くに一筋の風が吹く。捲り上がらないように祭はスカートを抑え、遊羽と山城は目に砂が入らないよう腕で守る。

 けたたましいサイレンの音とともに、車道を高速でバイクが走り抜けた。

 

「そこの決闘者! 指定の場所以外での決闘は許可されていない、止まりなさいっ!」

 

 三人が視線を上げると、デュエルポリス仕様のバイクとその前で散るガラの悪い男達の群れがいた。速度の差を考慮すれば、男達が次に再開するのは拘置所の中だろう。

 

「最近、取り締まりも増えたよなぁ……」

 

 不意に山城は呟いた。

 ただでさえソリッドヴィジョンのせいでスペースを取る上に、決闘の許可が下りている場所は基本超満員。増設するスペースも今の五芒(ごぼう)市にはない。結果、条令を無視してそこら中で決闘をする輩が横行し、デュエルポリスが発足されるまでに至ったのだ。

 

「ルールを守って楽しく決闘! してもらわないと、ルール守ってる私達まで悪い目で見られちゃうんだよねぇ」

「全くだ」

 

 祭の発言に遊羽は同意する。

 

 こんな下らない事を言い合いながら繰り返される毎日。それがずっと続くと思っていた。

 就職だの進路だの、そんな未来の事は知らない。今が終わらなければいい、それこそお互いのターンを繰り返して、デッキがなくなりかければ何か使って補充して、そんな端から見れば退屈な展開を楽しんで繰り返す。

 

 そうなると思っていた。今日、あの時までは。

 

 

 

 

「それじゃあまた明日ぁ」

「ちぇー、殆んど勝てなかったぁ。帰ったらデッキ調整しよ……」

「まぁ精進したまえよ、ハッハッハッ」

 

 それが落ち込む女子に対する男子の対応か。

 そう山城が突っ込む前に、祭の手が遊羽の頭を叩いていた。遊羽はオーバーなリアクションをするが、仮に本当だとしても自業自得である。

 

「いてぇなぁ、この馬鹿力っ!」

「なんですと、このチビっ!」

「いや、そろそろ帰ろうよ。二人とも……」

 

 既に夜の帳は下りており、五芒公園にももう三人しか残っていない。

 時間を思い出したのか、ハッとして祭は遊羽に背を向けた。それに習って山城も帰路につく。

 時折祭は振り返って、明日は負けないぞだの、覚えてろだの、遊羽への因縁めいた事を連呼した。

 

「あぁ、楽しかった!」

 

 遊羽は独り言を口にして、二人とは違う方角へ向かう。

 街灯によってのみ照らされた道筋は、どこか薄暗く無意識の内に恐怖を煽られる。街灯の加護下にない茂みなど、何かが飛び出して来てもおかしくない。

 そんな恐怖心を誤魔化すために、遊羽は努めて街灯の範囲内へ意識を集中した。

 突然、電気が走ったような激しい音が公園中に響く。

 

「ん? なんだ今の音……」

 

 当然そんな音が遊羽の耳に届かぬ訳がない。音の感じからして山城や祭が帰った方角とも違う、だが遠くはない。

 つられるように空気が破裂する爆音がして、遊羽は全速力で現場へ駆けた。現場へ行く途中、激しい向かい風に一瞬足が止まる。

 現場は公園の中央付近、さっきまで三人で代わる代わる決闘していた場所である。

 そこには視界を遮るように砂煙が舞っていた。十メートル先もマトモに視認する事が出来ない。

 

「なんだこりゃ……誰か、誰かいますかぁ!」

 

 遊羽は叫んだ。こんな訳の分からない現象に巻き込まれてしまえば、無事である保証はない。だから叫んだ、誰も巻き込まれていない事を祈りながら。

 

「見つけたぞ……! やれ、サウザンド・ブレードっ!」

 

 女性らしいかけ声とともに煙を裂いて遊羽の前に姿を現したのは、数え切れない程の刃を背負った銀甲冑の鎧武者。右手に握っていた一際長い刃が、躊躇いなく遊羽に向かって降り下ろされた。

 

「おわぁっ!?」

 

 右に飛ぶ事で凶刃を回避したが、驚愕は一切収まらない。

 元来、ソリッドヴィジョンはどこまでいっても立体映像。例え現実と一寸の誤差もなかろうと、実体は持たない。だから思わず回避した凶刃も現実には遊羽の身体をすり抜ける。はずであった。

 だが現実は舗装されたフィールドを破壊し、迸るエネルギーは激しい亀裂を刻み込む。

 

「嘘……だろ……!」

 

 遊羽の戦慄は当然のものだ。もはやこれソリッドヴィジョンではなく、ただの実体である。

 サウザンド・ブレードが下がり、煙の奥に潜む人物の元へ、さながら護衛の騎士のように付き従う。

 そこにいたのは一人の少女だった。薄く青みがかった短髪と恐ろしく鋭い眼差し。黒を基調とした服装こそ男を思わせるが、線の細さなどは確かに少女のものだ。そして左腕には稼働状態の初期型決闘盤があり、プレート部には一枚のカードが置かれていた。

 

「さぁこい、融合使いっ! アタシが叩き潰してやるっ!」

「はぁっ?!」

 

 何故こいつは俺が融合使いである事を……

 いや、そこではない。そもそも何故、初期型決闘盤を使い質量を持った実体化を成せる。更には何故、謎の爆音の震源地にいるのか。遊羽の中での疑問は尽きない。

 その態度に業を煮やしたのか、少女はカードをデッキに戻すとボタンを操作して遊羽の方へと伸ばす。

 すると、遊羽の決闘盤に異変が生じた。

 

「え、え? なんだよおいっ!」

 

 何の指示も出していないのに決闘盤が展開して、デッキがシャッフルされる。ライフカウンターにも4000と表示され、決闘の準備が整った。

 

「決闘しろってのか、おい……?」

「当然だ。さぁ早く起きろ、融合使いっ!」

 

 やるしかないのか……?

 遊羽は立ち上がり、構える。逃げる事が出来ないのならば、返り討ちにするしかないだろう。

 

「さぁ、いくぞっ!」

「……!」

 

 遊羽は息を飲む。覚悟を決めるために。

 

「「決闘っ!!!」」

 

 二人は同時に宣言し、戦いの幕が開かれた。




はい、ヌルです。
散々引っ張った挙げ句、決闘パートは次以降ですが、これからもこういう感じになると思います。
ご了承下さい。


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capture2遊羽VSアンノウン

異常な状況で出会った遊羽と少女。
少女は猛烈な敵意を向けると、遊羽に対して一方的に決闘を申し込んだのだった。
今、決闘の幕が上がるーー!


遊羽:LP4000 伏せ0 手札5

アンノウン:LP4000 伏せ0 手札5

 

「アタシの先攻、アタシはサウザンド・ブレードを召喚っ!」

 

H・Cサウザンド・ブレード

星4/地属性/戦士族/攻1300

 

 少女の前に先程の銀甲冑の鎧武者が再び現れた。

 

「更にカードを一枚伏せてアタシはこれでターンエンド! さぁ、こい融合使いっ!」

 

アンノウン:LP4000 伏せ1 手札3

 

 指を差し、少女は自信満々に宣言する。それが遊羽には不振に思った。

 サウザンド・ブレードの攻撃力は1300。覚えている範囲では効果も展開向きのものであり、地属性に手札から攻撃力を上昇させるカードもなかったはず。仮に伏せたのが罠だとしても、あそこまで自信満々では罠だと教えているようなものだ。

 ブラフか。まぁ、考えてもしょうがない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカード、そして手札を改めて見て最善と感じた展開を行う。

 

「俺はレスキューラビットを召喚!」

 

星4/地属性/獣族/攻300

 

 遊羽のフィールドに現れたのは、ヘルメットを被った可愛らしいウサギ。サウザンド・ブレードの放つ威圧感には遠く及ばず、事実として攻守どちらにおいても圧倒的に劣っている。

 

「レスキューラビット……だと……!」

 

 だが、このカードの恐ろしさはステータスではない。どうやらそれは少女も理解しているようだ。

 

「レスキューラビットの効果発動。このカードをゲームから除外する事でデッキから同名通常モンスター二体を特殊召喚出来る! 現れろ、ジェムナイト・ガネット!」

 

ジェムナイト・ガネット

星4/地属性/炎族/1900

 

 兎が真下に生まれた異次元の穴へ飛び込み、代わりと言わんばかりに右手に炎を纏った紅き戦士が二体姿を見せる。

 

「そして俺は手札から魔法カード、ジェムナイト・フュージョンを発動! 手札のジェムナイト・ラピスとフィールドのガネットで融合!」

 

 融合、もしくはフュージョンと名のつくカードの多くが、通常とは異なるエクストラデッキと呼ばれる場所からの召喚に関する効果を持っている。

 更に言えば、それらを用いた召喚方法にはある固有の名称を持っていた。

 

「輝ける輝石よ、今こそ混じりて新たな運命を掴み取れ! 融合召喚っ!」

 

 ガネットと比べて小柄で女性的な印象を与えるモンスターが、ガネットとともに後方に出現した渦に飲み込まれる。

 融合。その単語を聞いた瞬間、少女の表情が一層険しくなった気がした。

 

「碧き輝き放つ輝石、ジェムナイトレディ・ラピスラズリっ!」

 

星5/地属性/岩石族/攻2400

 

 ラピスとガネットが飲み込まれた渦から、新たなモンスターが生まれた。胸元に碧き輝きを放つ輝石を身につけ、巫女を連想させる服を纏うモンスターは、どこかラピスが成長したようにも思える。

 エクストラデッキのカードは消費が激しい代わりに、強烈な効果が付属されている場合が多い。このカードも同様である。

 

「ラピスラズリの効果発動。デッキ、またはエクストラデッキからジェムナイトモンスター一体を墓地に送り、特殊召喚されたモンスター一体につき500ポイントのダメージを相手に与える!」

 

 遊羽がデッキからカードを一枚墓地に送ると、ラピスラズリが地を伝う衝撃波を少女めがけて発射した。少女は決闘盤を盾にして凌ぐが、それではダメージを抑える事は出来ない。

 フィールドに存在する特殊召喚されたモンスターの数は二体、つまり少女へのダメージは1000ポイントだ。

 

アンノウン:LP3000

 

「グッ……?! 手札からガード・ペンギンの効果発動っ! ダメージを受けた時、このカードを特殊召喚し、ダメージ分ライフを回復する!」

 

星4/水属性/鳥獣族/守1800

 

 少女を庇うために、細長い盾のような装飾を身につけたペンギンが現れた。そして少女の頭上から光が降り注ぎ、ダメージを負った身体を癒やす。

 

アンノウン:LP4000

 

「お前、舐めているのか?」

「はぁ、俺はこれが最善だと思っただけだけど?」

「内容じゃない、何故ダメージを実体化させないっ?!」

 

 遊羽の思考に空白が生まれる。

 相手が当然のように言っている事が、こちらにはまるで意味が分からない。

 ダメージの実体化? なんだそれは、どこの世界の常識だ。

 

「機器の故障か、それとも……アタシ程度には使うまでもないとでも?」

「落ち着けとにかくっ! 俺にそんな力はねぇし、そんな手段は知らねぇ!」

「嘘をつくなっ!」

 

 余程興奮しているのか、少女は血眼になって遊羽の言葉を否定する。

 こうなってしまえば、もはや話し合いによる解決は不可能だろう。ならば、決闘に勝利してどうにかするしかない。

 そう考え、遊羽は決闘を再開する。

 

「バトルだ、ジェムナイトレディ・ラピスラズリでサウザンド・ブレードを攻撃!」

「グッ!」

 

 先程少女を襲ったのと同様の衝撃波がサウザンド・ブレードに迫り、全身の刃を砕きサウザンド・ブレードを吹き飛ばした。同時に粒子化し、破壊が成功した事を認識する。

 

アンノウン:LP2900

 

「更にガネットでガード・ペンギンを攻撃! いけぇぇぇ!」

 

 ガネットの燃える拳がガード・ペンギンの盾を砕き、先と同じように粒子化させた。

 そこで少女の場に伏せられたカードが表になり、両者に正体を知らせた。

 

「罠発動、ブロークン・ブロック! 自分フィールド上の攻撃力より守備力が高いモンスターが破壊された時、同名モンスターを二体デッキから特殊召喚する。こい、ガード・ペンギン!」

 

 ガネットが破壊したはずのペンギンが、次は二体になって出現した。

 だが全てのモンスターが攻撃した以上、遊羽にこれ以上どうにかする事は不可能だ。

 

「出来ればモンスターを残したくなかったが……俺はカードを一枚伏せてターンエンド! この瞬間、レスキューラビットの効果で特殊召喚されたジェムナイト・ガネットは破壊される」

 

 遊羽の宣言とともに紅き戦士が爆散し、粒子となって消滅する。

 

遊羽:LP4000 伏せ1 手札 2

アンノウン:LP2900 伏せ0 手札2

 

「アタシのターン、ドローっ!」

 

 少女はドローしたカードを確認して、望むものだったのか口角をつり上げた。

 

「アタシは手札から、強者の苦痛を発動!」

 

 強者の苦痛。相手モンスターの攻撃力をレベル×100ポイントダウンさせる厄介なカード。

 ラピスラズリのレベルは5。つまり500ポイント攻撃力が下がり、1900となる。これでは下級モンスターにも倒されかねない。

 だが少女の狙いはどうやらそこではないようで。

 

「更にアタシはフィールドのガード・ペンギン二体でオーバーレイっ!」

 

 ガード・ペンギン二体が青い光となり、遊羽と少女の間に生まれた空間に吸い込まれる。

 このような召喚方法は一つしかない。

 

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 過ぎた力を振るうものに、裁きの剣を降り下ろせ!

 No.(ナンバーズ)103神葬零嬢(しんそうれいじょう)ラグナ・ゼロっ!」

 

ランク4/水属性/天使族/攻2400

 

 フィールドに姿を現したのは、氷の剣を連想させる飾りを頭部と背中につけた浅黒い女性。両手に握る剣も同様の鋭いデザインをしている。モンスターを基点として回転する球体が二つ、これがオーバーレイユニット。エクシーズモンスターの力の源。

 頭部の右側にある数字の刻印からも、只者ではない雰囲気を遊羽に与えた。

 

「ラグナ・ゼロの効果発動、攻撃力の変化しているモンスター一体を破壊し、更にカードを一枚ドローする!」

 

 オーバーレイユニットが一つ剣に吸収され、ラグナ・ゼロがラピスラズリに迫る。

 

「ガイダンス・トゥ・フューネラルっ!」

 

 袈裟懸けに降り下ろされた剣がラピスラズリを肩から両断し、爆発させた。衝撃で近くの木々が揺れ、緑葉が舞い散った。

 遊羽はラピスラズリが破壊された事よりも、衝撃が現実に影響を及ぼしている事に驚愕を覚える。

 

「まだだ、ラグナ・ゼロでそのままダイレクトアタック!」

「なっ……あぁぁぁっっっ!!!」

 

遊羽:LP1600

 

 衝撃から顔を覆った遊羽へ、間髪入れずにもう片方の剣で切りつけた。

 勢いに負け、背後に吹き飛ばされた遊羽は、生えていた樹木に衝突して肺から息を吐き出す。背中に走る鈍痛、本当に切り裂かれたと錯覚する程の鋭い痛み。どれも本物だ。

 

「更にメインフェイズ2に、手札から火炎地獄を発動! これによりお前は1000、アタシは500ポイントのダメージを受けるっ!」

 

 更に追撃と言わんばかりに両者の周囲に火の手が回り、熱量を持って痛めつける。

 

「ぐっ……あぁぁぁっ!!!」

「うぅぅぅ……! アタシはカードを一枚伏せてターンエンド! どうだ、少しはアタシ達が受けた苦しみが理解出来たかっ?!」

 

アンノウン:LP2400 伏せ1 手札1

遊羽:LP600 伏せ1 手札2

 

「……」

 

 遊羽は衝突した木に身体を預けて立ち上がり、デッキトップに手を置く。だがこれ以上、右腕に力が入らない。

 

「どうした、怖じ気づいてサレンダーでもするつもりか?」

 

 サレンダーなどするつもりはない。だから少女からの挑発は、ある意味で遊羽には好都合であった。

 あぁ、こいつには勝って一言言ってやる。そんな意思が枯れた身体から体力を振り絞らせる。

 

「俺の……タァァァンっ!!!」

 

 ドローしたカードはモンスターカード。すかさずそれを召喚する。

 

「俺はジェムナイト・アレキサンドを召喚、効果発動! このカードをリリースする事でデッキからジェムナイト通常モンスター一体を特殊召喚するっ!」

 

 無数の宝石を身につけた戦士が粒子となり、別の戦士の姿に再集合する。

 

「さぁ、こい。俺のメインデッキ最強のモンスター、ジェムナイト・クリスタっ!」

 

 現れたのは、肩と肘から水晶を煌めかす白銀の戦士。

 メインデッキに入るジェムナイトモンスターの中では最高の攻撃力を誇り、ジェムナイトが中心である遊羽のデッキにおいても最高攻撃力である。

 しかし、

 

「詰めが甘かったな、ラグナ・ゼロの効果は相手ターンでも発動可能! やれ、ガイダンス・トゥ・フューネラル!!!」

 

 オーバーレイユニットを吸収し、先程と同様にクリスタを切り裂く。爆発、粒子化、そして相手は一ドロー。

 だがそこまでなら許容範囲だ。

 

「詰めが甘いのはどっちだろうな、俺は墓地のジェムナイト・フュージョンの効果発動!」

「墓地から発動だとっ?!」

「その通りだ、墓地に存在するジェムナイトモンスターを除外して手札に加える。俺が除外するのはジェムナイトレディ・ラピスラズリ。更に伏せていたカードを発動、装備魔法、|D・D・R《ディファレント・ディメンション・リバイバル》!」

 

 表になったカードは装備魔法。本来ならフィールドに存在するモンスターに装備して効力を発揮するものなのだが、このカードは違う。

 

「手札からジェムナイト・フュージョンを墓地に送り効果発動、除外されているラピスラズリを選択して特殊召喚! 蘇れ、ジェムナイトレディ・ラピスラズリ!」

 

星5/地属性/岩石族/攻2400→1900

 

「クッ……! だが攻撃力は1900、ラグナ・ゼロには及ばない!」

「まだまだぁ、ジェムナイト・フュージョンの効果を再び発動! 次はクリスタを除外して手札に加える。そして魔法発動、吸光融合(アブソーブ・フュージョン)! デッキのジェムナイトカードを手札へ加える。俺が加えるのは、ジェムナイト・ガネット!」

 

 少女に見せたのは先程までフィールドにいた紅き戦士。

 

「そしてジェムナイト・フュージョンを発動、素材にするのはガネット、そしてジェムナイト・オブディシア!

 輝ける輝石よ、今こそ混じりて秘めたる熱意を解き放て! 融合召喚っ!」

 

 渦に飲み込まれたのは紅き戦士と黒き戦士。そこから現れ出でるはバトルアックスを構える剛腕の戦士。

 

「紅の輝き放つ輝石、ジェムナイト・ルビーズ!」

 

星6/地属性/炎族/攻2500→1800

 

「更に融合素材となったジェムナイト・オブディシアの効果だ、墓地に存在するレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚する。戻ってこい、ジェムナイト・ガネット!」

 

星4/地属性/炎族/攻1900→1500

 

 最後に現れたのは、拳に炎を纏わせる紅き戦士。

 

「数だけ並べようとも、ラグナ・ゼロを倒せない以上意味はないぞ!」

「ラピスラズリの効果、デッキからジェムナイト・サファイアを墓地に送り、特殊召喚されたモンスター四体分、計2000ダメージを受けてもらうぞ!」

「……!」

 

アンノウン:LP400 伏せ1 手札2

 

 これで少女のライフは残り400、そして遊羽にはラグナ・ゼロを攻略する手筈が整っていた。

 

「ライフは残った、お前に成す術はないぞ。融合使い!」

「うるっせぇ。誰と勘違いしてんだが知らねぇが、俺には玉露遊羽って名前があるんだよっ!」

 

 少女の瞳には憎悪と怨唆が入り交じっている。

 大方、融合を使う誰かが原因なのだろうが、それで文句を言っているなら、お門違いもいいところだ。

 

「ルビーズの効果発動。ジェムモンスターをリリースする事でその攻撃力分、ルビーズ自身の攻撃力を上昇させる!」

「なんだとっ!!!」

「俺がリリースするのはラピスラズリだ! ギフトオブザマーダーっ!」

 

攻1800→3700

 

 ラピスラズリが光の塊となり、ルビーズが握るバトルアックスをより一層輝かせる。それは夜の闇さえも塗り潰し、少女の曇りすらも吹き飛ばす。

 勝敗は、決した。

 

「バトルだ、ジェムナイト・ルビーズでラグナ・ゼロを攻撃! アックス・スラストっ!!!」

 

 ルビーズの戦斧がラグナ・ゼロを剣ごと切り裂き、一際大きな爆発を引き起こす。

 

アンノウン:LP0

 

「な……うぁぁぁっっっ!!!」

 

 そんな、アタシが、融合使いなんかに……!

 決闘盤のライフカウンターが0を表示し、決闘の決着を両者に知らした。




どうも、ヌルです。
やっと決闘パートが書き終わりました。
なんなんだろう、大まかな流れ自体はわりとすぐに浮かんだのに、文章にすると凄い時間かかる……
最後の展開なんて、文にするとそれだけで不動性ソリティア理論ばりに頭使っているように錯覚してしまう。
なんでなんや……


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2話 災厄を安売りするもの
capture1売人


「キャッホーイっ!」

 

 五芒市の一角、崩れかけの廃工場で男はスケートボードに興じていた。左腕には違法改造された決闘盤を装備しており、蜘蛛をモチーフにしたステッカーが張られている。

 男だけではない。この廃工場内には軽く見積もっても三十は下らない数の男女がたむろしていた。あるものは決闘して、またあるものはその決闘をネタに賭博の元締め役をしている。

 本来なら既に取り壊している廃墟なのだが、こうして不良グループが根城にしてからというもの、工事関係者は怪我を負わされ、デュエルポリスでさえも撃退には至っていない。今ではグループを象徴する蜘蛛のマークが廃工場中に描かれていた。

 

「クッソ、なんでここで死者蘇生が落ちるんだよっ」

「ギャハハハッ! 日頃の行いが悪いからじゃあねぇのか……よ……?」

 

 男の言葉が止まったのは、ソリッドヴィジョンの調子が急速に悪くなっていったからだ。違法改造を施している以上、不具合が起きてもおかしくはない。しかしそれは影像がブレる程度のものが常で、影像が何かに吸い寄せられるように集合する現象は始めてだ。

 回りを見回しても、誰もブラックホールを使っている様子はない。

 多くのソリッドヴィジョンが集まり、ドス黒い球体になった時、雷鳴が轟き次元の壁が崩壊する。球体があった場所には今や、不安定な穴が生まれていた。

 

「な、なんだこりゃあ……!」

「罠発動、闇次元の解放」

 

 若い男の声が唐突に聞こえ、穴から誰かが現れた。黒のシルクハットと同色のローブを纏い、左腕には見慣れない決闘盤を装着している。

 有り体に言えば不審者。どう贔屓目に見ても、彼に好印象を持つ事は不可能だ。

 

「誰だよテメェは」

「……闇の仮面、召喚」

 

 決闘を中断された男が不審者に問いかけるが、顔が見えないように振り向くと、彼は無視して決闘盤にカードを設置する。

 側に浮かび上がった仮面を掴むと、彼は顔を隠すように装着した。

 そして問いかけた男の方を振り向き、ワンテンポ遅れて問いに答える。

 

「申し遅れました。私の名前はトゥル、ただのしがない売人に過ぎませんよ」

「あぁ、売人だぁ。だったらなんかくれんのか?」

 

 トゥルと名乗った男を囲む人物たちは、一斉に嘲笑した。その場の悪意は全てトゥルに向けられ、視線からも嘲る意思がありありと感じられる。

 すると、下っぱらしき人物が誰かを連れてトゥルの前へ姿を見せた。

 タンクトップ一枚の上半身にダメージ加工が為されたジーンズ。殴る蹴るを行う分には不足のない筋肉は、鋭い目付きと重力に逆らっている髪形と合わせて凄まじい威圧感を与える。

 

「あぁん、こいつが突然出て来やがったって奴か?」

「そ、そうです。名蜘蛛(なぐも)さん……!」

 

 隣の男に問う姿を見るまでもない。歩いてくるまでの態度だけでもこのグループのリーダーだと、トゥルは直感した。

 隣の男は怯えながらも肯定すると、そそくさと群れの中へと混ざっていく。

 

「デュエルポリスにゃあ見えねぇなぁ、何者だテメェ?」

「……」

 

 トゥルは答えない。名蜘蛛の瞳をただ凝視している。

 それが仮面越しでも理解出来て、どこか心の中までも覗かれているように錯覚したから。

 

「答えろよ、それとも、俺と話す事はねぇってか?」

 

 名蜘蛛は胸ぐらを掴み、息がかかる程に顔を近づけた。それが切っ掛けなのか、それとも何かを見抜いたのか、トゥルは声を出した。

 

「貴方、飢えていますね」

「はぁ、飢えだぁ?」

 

 一瞬の隙をつき名蜘蛛の手から逃れると、トゥルはローブに右手を突っ込んだ。

 

「力への飢え、それもかなり重症だ。このグループ内のトップ如きではコップ一杯分も潤いはしない」

 

 侮辱されたと思い外野はブーイングの嵐を向けるが、肝心の名蜘蛛は何も口にしない。

 指摘された事を心の奥底で確かに感じていたから。

 

「この市のトップ? まだ足りない。この国のトップ? ご冗談を。ならば世界? それとも宇宙? 小さい小さい、全く持って物足りない。この全世界、古今東西三千世界の決闘者を尽くねじ伏せ、それでようやく貴方は満たされる」

 

 名蜘蛛は息をするのも忘れて、トゥルの言葉を聞いている。喉が異様に乾く、暑くもないのに額から汗が流れる。

 と、やっと目当てのものを掴めたのか、トゥルは右手をローブから出し、カードを大気に晒した。

 

「さぁ、ここで取引だ」

 

 カードは三枚。

 名蜘蛛はその内一枚から、心臓の鼓動にも似た音が聞こえた。

 

 

 

 

「……眠い」

 

 遊羽はさっきから鳴り続けるチャイムの音で目を覚ました。何故横になっているのか、何故身体の節々が悲鳴を上げているのか、そもそもここはどこか。全く状況が理解出来ないため、昨日の出来事を可能な限り振り返る。

 確か昨日は公園で山城と祭と別れた後、爆発音がした方向へ行き、現場にいたエクシーズ使いの少女と無理矢理決闘させられた。戦いにこそ辛勝したが、何かを呟いて少女は遊羽から逃げ出したのだ。満身創痍の身体では追う事など出来るはずもなく、仕方なく鉛のように重い身体を引き摺ってマンションまで帰り……帰り?

 家に帰ってからの記憶がない。玄関で力尽きて眠ってしまったのだろうか。ならば鍵は?

 

「あれ? 鍵がかかってない……」

 

 ドアノブが回り、扉が開かれる。ならば樹にぶつかるわ剣にぶった切られるわして、ボロ雑巾の有り様で寝ている遊羽の姿ももちろん確認出来る訳であり、

 

「え、遊羽っ?!!」

「ちょっ、誰か救急車っ、救急車ぁ!!!」

 

 うん、俺は友達思いのいい友達を持ったよなぁ。それでもう少し冷静さと、寝起きの人への配慮が行き届けば抱き締めたくなる程に最高だったんだがなぁ。

 遊羽が苦痛を抑えて立ち上がったのは、山城が叫び祭が救急車を呼ぼうとした寸前であった。

 

 

「まるで意味が分からんぞ!」

 

 登校中、遊羽はさっきまで死んだように倒れていた理由ーー昨日の出来事ーーを包み隠さず話した。時折食パンを貪り食いながら。

 そしたら山城から開口一番で飛び出したのが、先の返事である。

 

「お前、絶対それが言いたかっただけだろ……」

「ごめんごめん。でもいくら遊羽の言葉だからってそんな簡単に信じれる話じゃないよ」

「なにせ、初期型決闘盤を使う子と決闘して、実際にダメージを受けた、って冗談にしか聞こえないもん」

 

 祭も山城の言葉に肯定的なようだ。

 確かにはい、そうですかと信じられる話題ではない。だが、遊羽としては実際に体験した事である以上、ここで嘘つき呼ばわりされるのもごめん被る。

 

「冗談にしても性質が悪過ぎるし、無駄に凝り過ぎだろアレ」

 

 言いつつ、遊羽は肩にかけたバッグから新たな食パンを口に放り込んだ。因みにこれで四個目である。

 わざわざ遅刻と空腹のリスクの元、救急車を呼びかける程慌てさせるなど悪質この上ない。そんな暇があるなら、遊羽はデッキの調整でも行っている。

 

「ん……?」

 

 突然、祭のスマフォが着信音を発した。山城と遊羽のものと同時に。三人は通行の邪魔にならないように道の隅に集まって操作して、そこでメールの内容を読んだ。

 

「なんだろう、デュエルポリスからだ」

「五芒中央公園で、原因不明の事故ぉっ?!」

「決闘スペースのコンクリートが抉れ、鋭い刃物で切り裂かれ、焼き焦げた後も確認出来るって……!」

 

 サウザンド・ブレード、ラグナ・ゼロ、火炎地獄。

 遊羽の脳裏に甦るのは、昨日の激闘。先に上げられたものは全てあの少女から遊羽に放たれた攻撃であり、場所も昨日のあの場所だ。

 

「決闘者を狙った犯行の可能性があるため、しばらくの間五芒市内の決闘スペースを全て使用禁止します……って、凄い大事じゃんっ!」

 

 祭の驚愕は当然だ。

 決闘スペースが使えないという事は決闘盤を用いた決闘が出来ないのと同意であり、決闘者からすれば死活問題と言っても過言ではない。

 

「これは不味いよね……」

「不味いなんてもんじゃねぇ……」

「これからどこで決闘しろって言うのさぁっ!」

 

 祭の悲鳴は、鳥の飛び雲一つない青空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 道化師が浅黒い女性に斬られた。それだけ見るとただの事件だが、事態はより複雑である。

 浅黒い女性の名は神葬零孃ラグナ・ゼロ。そして道化師の名は闇・道化師のペーテン。お互いにデュエルモンスターズのカードである。本来ソリッドヴィジョン以上の存在にはならないカード達、その激突が廃工場の埃を舞わせ、チェーンを揺らす。

 

「逃がさないぞ、お前っ!」

 

 薄く青みがかった短髪を揺らしてラグナ・ゼロを従えているのは、昨日遊羽を襲った少女。稼働状態の決闘盤も、当然初期型である。

 屋根がないため頭上から黄昏に照らされ、決闘盤には大小様々な傷が覗けた。

 

「おやおや、誰か特定の人物に恨みを買うような事をした覚えなど、ないのだが」

 

 芝居がかった口調で返答するのは肌を一切見せないトゥル。数瞬前までペーテンを従えていた存在だ。

 ラグナ・ゼロが刃を向けても、トゥルには動揺した様子が全くない。遮蔽物はなく、ラグナ・ゼロの速度は人が逃げ切れる程甘くはない。

 少し考えれば稚児でも分かる危機のはずなのに、それでもトゥルは態度を翻さない。

 

「ふざけるなっ。あの日、街を襲われたあの日……確かにお前はいたっ! 見間違える訳がない!」

「はて、街を襲う……あぁ、彼らと取引していた時か」

 

 トゥルは納得がいったように手を叩く。その動作は少女の怒りの沸点を振り切るには十分過ぎた。

 あの日奪われた平穏。失われた秩序。なくなった笑顔。それらが少女を駆り立てる。亡霊のようにしがみついて耳元で囁き続ける。

 許すな、と。

 

「ラグナ・ゼロっ!!!」

 

 少女の怒号に呼応して、ラグナ・ゼロは瞬時にトゥルとの距離を詰める。二人の間合いは既に剣の領域であった。

 だが割り込むように乱入してきたペーテンがトゥルを庇い、代わりにまた両断される。

 

「残念、ペーテンは除外する事でデッキから特殊召喚が可能」

 

 ペーテンの亡骸を見ると、黒い粒子となって肉体が崩壊していく。そしてトゥルが右手をかざすと、粒子が人の形を成し、派手な服装をした道化師に変貌した。

 

「しかしあの街の出来事で私に怒るのは筋違いではないかな。あれはウィークスが行った事であり、私は求められたから手を貸したに過ぎんよ」

「その結果どうなるか分からなかった、とでも言うつもりか?」

「いいや、力は所詮力だ。使うものの意思だけが善悪を区別させる。それに、売人が求められたものを渡して何が悪い」

 

 少女が再び攻撃指示を出す刹那、飢えた獣を連想させる咆哮が工場内に響き渡る。

 少女が音の発信源に顔を向けると、そこには名蜘蛛が立っていた。だがその表情は平常とは程遠い、人目で危険と言える状態である。周囲には危険度を表すように、赤い粒子が鮮血のように舞い上がっていた。

 

「なぁ、お前決闘者だろ……」

 

 深淵から反響するような、人が発したとは思えない底冷えする声色。焦点が定まっていない目で少女を捉え、震える指先で少女を指差す。

 少女は動じる事なく名蜘蛛を睨みつけるが、名蜘蛛は狂的な笑みを浮かべるばかりだ。

 

「なぁ決闘しろや。さっきアイツにカード貰ってからよぉ、力が湧いてくるっつうかよぉ、とにかく決闘しろや」

 

 この言葉は少女に向けられたものか、それともそこにはいない誰かに向けられたものか、その判断さえまともに出来ない。

 今の奴は危険だ。

 少女は即座に理解すると、素早く名蜘蛛から距離を取り、廃工場を飛び出した。

 

 

 

 

「おい祭、さっきの話は本当なのかよ」

「本当だよー。まさか遊羽、ここまで来たのに信じられないの?」

「でもこんなところに犯人がたむろしてるって、流石にガセじゃないの」

「もぉ、山城までそんな事言って……」

 

 遊羽、山城、そして祭の三人は廃棄された工場へ向けて、森林の中を歩いていた。目的は遊羽を襲った犯人、その捜索である。

 とはいえそれは社会貢献という大それたお題目ではなく、単に決闘スペースを早期解放してもらう最も手っ取り早い手段として、犯人の逮捕を目指しているだけだ。

 そしてその情報源というのが、祭が昼休みを使って調べ上げたネットの海だ。

 

「つうかここって確か、どっかの不良グループの縄張りじゃなかったか?」

「あぁ、それなら聞いた事があるよ。名蜘蛛って人がトップでデュエルポリスを何度か撃退したとか……」

「……本当、それ?」

 

 二人の話を聞き、祭の額に冷や汗が流れた。どうやら犯人の居場所は調べても、そこが元々どんな状態なのかは調べてなかったようだ。

 遊羽はため息を吐くと、反転して元来た道を戻ろうとした。

 

「こりゃ撤収でしょ」

「えぇ、ここまで来たのに撤収? どうしたの遊羽、らしくないよ」

「確かに、普段なら不良だろうと犯人だろうとぶっ飛ばす、ぐらい言う方だよ。遊羽は」

「別に……普段通りだけど」

 

 嘘だ。実際のところ、遊羽は犯人探しに乗り気ではない。厳密には、三人での捜索が、であるが。

 あの剣に斬られた時の激痛、身を焼いてくる火炎地獄。可能ならば二人にアレを味わって欲しくはない。だが少女の事自体は気になる。だから、適当な理由に託つけて二人に帰る事を促したのだが。

 

「なぁに、もうすぐそこだから。それに遊羽が倒せるくらいなんだから、三対一ならなんとかなるでしょ」

 

 そんな楽観的な事を口にし、祭は先陣を切って森林を抜け出した。山城もそれに続き、一足遅れて遊羽も外に出る。

 そこには、錆びついた廃工場があった。手入れされていない窓は割れ、天井は当然のようになくなり野晒しと大差がない。『無段グループ』と書かれた看板には、蜘蛛のエンブレムがスプレーで上書きされている。

 

「た、助けてくれぇぇぇっっっ!!!」

 

 耳をつんざく絶叫。発生源たる男は三人に急速に迫っていった。男も三人を視認したのか、先頭であった祭の足元にすがりつき、靴を舐めかねない勢いで懇願する。

 

「助けてくれ、名蜘蛛さんがおかしいんだっ!」

「え、ちょっ、とりあえず落ち着いて……!」

 

 いきなり懇願されても困る。そう祭は意思を示すと、男は息を整えて事情を話した。

 

「なんか、変な奴が名蜘蛛さんにカードを渡してからやたら決闘したがって、それで他の奴が受けたら……!」

 

 怯える男の言葉を遮るかの如く、工場から派手な音が鼓膜を震わせる。全員がそちらに顔を向け、扉に体当たりして飛び出してきた人物を確認する。

 そして遊羽が口を開いた。

 

「あの女……!」

 

 青みがかった短髪、時代遅れの初期型決闘盤、決闘を楽しんでいるとは思えない鋭い眼差し。外灯の元、照らされていた時よりもよく分かる。あの少女だ。

 遊羽は反射で駆け出した。当初の目的などではない、あの時の呟きの意味も気になる。

 

「なっ……! 何故お前がここにいるっ?!」

「うるせぇ、それはこっちの台詞だっ!」

「えっ、なになに、その人が遊羽を襲ったって……」

 

 遊羽を追って二人も少女の近くに集まる。その直後だ。

 扉が蹴破られ、少女に迫る。決闘盤を盾代わりにする事で防御して、扉から現れた存在に意識を傾ける。

 

「ひとぉり、ふたぁり、さんにぃん、お、そして四人かぁ。どうする? これで六人だが、全員纏めてバトロワすっかぁ?」

 

 遊羽を、山城を、祭を、そして一人離れていた男を順番に指差し、おどろおどろしい声を上げて名蜘蛛が現れた。

 それに祭は後退りして、山城も肝が冷える。

 

「それはいけない。流石の君も五人に結託されれば、どうしようもない。何、時間はある、順番に相手をすればいい」

 

 影が浮かび上がる。それ自体は比喩に過ぎないが、そうとしか言いようがない形で名蜘蛛の後ろから一人の男が遅れて姿を現す。

 黒衣のローブとシルクハットを身につけ、顔には闇の仮面をつけた謎の人物。全員がその場で直感した、名蜘蛛をこうしたのはこいつだと。

 

「お前を入れれば七人かぁ。ま、そうだな、あぁいいぜ、誰からでもかかってこいよぉっ!」

 

 急に興奮して名蜘蛛は吠えた。同時に左腕に装着された決闘盤の五分割されたプレート部がチェーンソーのように回転し、連結した。明らかな違法改造である。

 

「くっ、ならばアタシがっ……!」

「お前なんかに決闘させられるか、ここは俺が……!」

 

 遊羽の脳裏に甦るのは実際に激痛が伴い、周囲に被害をもたらした公園での決闘。そんなものをここで、山城と祭がいる状態でさせてなるものか。

 だが名蜘蛛は焦点が定まっていない目で二人をスルーすると、他の人へ狙いを定めた。

 

「そだな、まずはお前だぁっ!」

 

 名蜘蛛の決闘盤、正規品よりも一回り大きいデッキホルダーから鎖が放たれ、真っ直ぐに祭へと向かう。遊羽と少女が反応したが、当選間に合わない。

 金属が擦れる音を流す鎖が祭に絡みつく寸前。

 

「え?」

「なっ!」

「山……城……」

 

 山城が左腕を出して代わりに鎖へ絡みつかれた。幸いと言うべきかそれとも狙ってなのか、鎖は決闘盤を避ける形で絡まっている。

 それを見て名蜘蛛は口角を歪ませた。

 

「そこの女の方がお前ら逃げなさそうだったが、まぁいいか。言っとくが無理に外そうとしない方がいいぜぇ、お前が二度と決闘盤をはめられなくなってもいいなら話は変わるけどなぁ……!」

「やるしかないんだろ、さっさとやろうよ」

「おい山城、大丈夫かっ!」

「そいつは関係ないっ! アタシが代わりに……!」

 

 心配する二人と口を押さえるだけで何も言えない祭を手で制すると、山城は名蜘蛛へと向き直った。その目は決意で燃えている。

 そこに遊羽は違和感を感じたが、即座に頭の隅へ追いやった。

 

「勝てばいいんだよね?」

「意外とデケェ口叩くじゃあねぇか。あぁ、勝てば問題ねぇぜ、勝てればなぁっ!」

 

 一時の静寂。はち切れんばかりに膨らむ戦意、戦いの下準備は万全過ぎる程に万全。

 

「決闘っ!!!」

 

 二人が開始の宣言をすると同時に、お互いの戦意が破裂した。




どうも、二話までやたら時間がかかりました。ヌルです。
また決闘パートは次回への持ち越しです。後、前置きが妙に長いのは仕様という事で一つ。


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capture2山城VS名蜘蛛

遊羽を襲った少女を探して廃工場に向かった三人。
そこには少女、そして少女と対峙するトゥルがいた。
三人の理解を置き去りにするように廃工場を根城にしていた不良グループのリーダー、名蜘蛛が明らかに平静を失った状態で決闘を挑む。
祭を庇って決闘を受けた山城。勝つのはどちらか?


名蜘蛛:LP4000 伏せ0 手札5

山城:LP4000 伏せ0 手札5

 

「俺のタァン! 俺は手札抹殺を発動ぅ!」

 

 手札を全て捨て、その枚数だけドローする手札交換カード。

 それを初手から使うとは、余程手札が悪かったのか、はたまた墓地に送る事が利となるカードがあったのか。

 怪しみながら、山城も手札全てを墓地へと送り、代わりに五枚ドローする。

 

「ヒャハハッ、さぁっそく来やがったぜ」

 

 名蜘蛛がドローしたカードを見て、正気を疑う程に表情を歪める。そしてカードを天高くへ持ち上げ、カードの発動を高らかに宣言した。

 

「手札からフィールド魔法発動っ! 絶対の領域の元、敵対者を汝の贄に捧げん。オレイカルコスの結界っっっ!」

「え……!」

 

 山城はカードとともに天を仰ぎ、信じられないものを見たかの如くに表情を固める。

 天高くに浮かぶのは、解読不能な言語の書かれた円形の空間。それが二人を逃がさぬように降りてきて、地面に接触した瞬間に通常とは異なる六芒星を二本線で描き、全てが繋がり更なる輝きを放つ。

 

「な、なんだこりゃ……!」

 

 遊羽は思わず結界に手を伸ばし、頭を鈍器で殴られるような衝撃が走る。

 結界の外縁、そこに触れる事が出来た。結界内と外、完全に遮断されている。これでは内から助けを求める事も、外から干渉する事も不可能。

 

「そぉら、決闘を再開するぜ。俺はカードを二枚セットしてタァンエンドォっ!」

 

 名蜘蛛の目は怪しい紅の輝きを発し、額には結界と同一の紋章が浮かんでいる。

 疑うまでもない、名蜘蛛という人物の変調にはこのフィールド魔法が確実に関わっている。そして可能ならば、この決闘は短期決戦を仕掛けるべきだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを加えて、六枚を確認する。

 悪くはないが、決め手には欠ける。そもそも、山城のデッキは序盤から動けるタイプではないのだが。

 

「手札から速効魔法、アーティファクト・ムーブメントを発動! 魔法・罠カードを一枚破壊し、デッキからアーティファクトモンスターを魔法・罠ゾーンにセットする。俺から見て左のカードを破壊する!」

 

 山城が選択した伏せカードを巻き込む形で歯車が噛み合い、噛み砕くように回転した。表になったカードはリビングデッドの呼び声、手札抹殺で捨てたモンスターを蘇生させるには持ってこいのカードだ。

 

「俺が伏せるのは、アーティファクト・アイギス。そして手札からモンスターを召喚。出でよ、チューナーモンスター、カオスエンドマスター!」

「出たな、カオスエンドマスター。そのままその蜘蛛野郎をぶっ飛ばしちまえ!」

 

星3/光属性/戦士族/1500

 

 遊羽の声援とともに、白き羽根を広げて羽ばたく戦士。山城のデッキにおいて貴重な自身から動けるモンスターだ。

 もう一枚残っている伏せカードは不安だが、やるしかないだろう。

 

「バトルだ。カオスエンドマスターで名蜘蛛にダイレクトアタックっ!」

 

 カオスエンドマスターが突撃して、名蜘蛛に迫る。何もなければそれでいいが。

 

「ヒャハハッ、罠発動ぅ、スパイダー・エッグ! こいつは俺の墓地に昆虫族モンスターが三体以上いる時、ダイレクトアタックを無効にする!」

 

 やはり罠か……

 カオスエンドマスターの攻撃は蜘蛛の巣にぶら下がっている卵に防がれ、名蜘蛛にまでは届かない。

 

「さぁらぁにぃ、俺のフィールドにスパイダートークンを三体! 攻撃表示で特殊召喚する!」

 

星1/地属性/昆虫族/攻100→600

 

 攻撃を防いだ事で卵にヒビが入り、そこから三体の蜘蛛が姿を現した。

 そして額には名蜘蛛と同様、紋章が浮かんできた。

 

「おっと、言い忘れていたが、オレイカルコスの結界内では俺のモンスターは全てダークモンスター化し、攻撃力が500ポイントアップする」

「何っ?」

 

 単体ならともかく、全体強化として見れば500は決して無視出来ない変化だ。

 こんな効果がある以上、相手の場にモンスターを残す事は危険だが、これ以上山城に打てる手立てはない。

 

「……メイン2、カードを三枚伏せてターンエンド」

 

名蜘蛛:LP4000 伏せ0 手札2

山城:LP4000 伏せ4 手札2

 

「ヒャハハッ、ならば俺の……!」

 

 山城の宣言を受けて名蜘蛛が右手をデッキトップに置く。その瞬間、先程より一層強い鼓動を感じた。しかも一回だけではない。二回、三回と腕を通じて訴えかけている。

 そしてその感覚は、この場にいる全員が共有していた。ただ異なるのは、名蜘蛛以外にこれを心地よく感じる感性の人がいなかった事だ。

 

「何、これ……」

「なんだよ、なんなんだよこれ……?!」

「鼓動、誰の……?」

「この力……マズイっ!」

「タァン、ドロォォォっ!!!」

 

 全員の視線が注目する中、名蜘蛛がドローしたカードを確認せずに発言した。

 

「俺はスパイダートークン二体、そして数多の魂を生け贄に捧げ神を呼び起こすっ!」

 

 名蜘蛛の宣言とともに、空気中に赤い粒子が浮遊して引力に引かれるかの如く、彼が持つカードに集約していく。

 不意に祭が口を抑えた。

 

「どうした、祭?」

「なんだろう、吐き気がする……」

 

 それは遊羽も、そして少女も確かに感じている感覚である。

 人口密度だけが異様に高く、それでいて実際には隙間ばかり。多くの人が蠢きながら、呼吸する空気にも混ざっているようにさえ錯覚する。

 

「地に縛られし神よ、その姿を現世に現し、永遠の信仰を得よ! 地縛神(じばくしん)Uru!」

 

 名蜘蛛の背後、結界の外に流血を連想させるラインが走り、一つの地上絵を形作る。

 それは蜘蛛。ナスカに存在する地上絵と同一の形であり、あくまで点と線の世界の住民に過ぎない。

 そんな地上絵が地響きを上げて黒き立体と赤き輪郭を持ち、廃工場をも凌駕する規格外に巨大な蜘蛛が創造される。何百もの魂を無理矢理一つの器に入れ込んだ、歪で歪んだ邪な神がここに降臨した。

 

星10/闇属性/昆虫族/3000→3500

 

「当然、Uruも結界の補正を受けてダークモンスター化! 攻撃力は3500!」

 

 頭部にやはり結界の紋章が刻まれ、赤い目は凶悪なまでに輝きを発している。

 外野からでも理解出来る程に、このカードはおかしい。まして、そんな化け物と正面から敵対する山城の精神的負担は計り知れない。

 

「ト、罠発動! アーティファクトの神智(しんち)! このカードでデッキからアーティファクトモンスターを特殊召喚する!」

「ま……!」

 

 遊羽の言葉よりも早く、山城はデッキから召喚するモンスターを決めていた。この場ではあのモンスターを出すしかない。

 

「出でよ、アーティファクト・モラルタっ!」

 

星5/光属性/天使族/攻2100

 

 天から降ってきて地面に突き刺さったのは、かの英雄が使った一太刀で全てを葬る宝具の名を冠した剣。その力はデュエルモンスターズにおいても健在だ。

 

「その効果により表側表示のカード、地縛神Uruを選んで破壊するっ!」

 

 動揺を隠す努力さえ放棄して、山城は神の排除を指示した。それに従い、モラルタは独りでに宙へ浮き、直線でUruに向かう。

 選ぶという事は対象に取らないという事。つまり仮に地縛神とやらに対象耐性があろうとも一振りの元、問答無用で破壊可能だ。

 

「ハッ、手札から速効魔法発動。我が身を盾にぃ! おぉぉぉっ!」

 

名蜘蛛:LP2500

 

 雄叫びを上げる名蜘蛛から紫色の気が生まれ、モラルタの元へと伸びる。

 そしてモラルタがUruに突き刺さる寸前、気に絡め取られ切っ先が僅かに触れるばかりだ。

 

「このカードの効果はライフを1500払う事で、相手が発動した「フィールドのモンスターを破壊する効果」を持つカードの効果を無効にして」

 

 破壊する。

 名蜘蛛の紡いだ言葉を合図に伝説の宝具は、ガラクタのように崩れて壊れた。

 

「ヒャハハッ! 危ねぇ危ねぇ。危うく神を消されちまうところだったぜぇ。そして先にこいつを使わなくて良かったぜぇ、まったくよぉ……」

 

 挑発的な声色で話す名蜘蛛が見せたカードの名を、外野の遊羽が読み上げた。

 

「ハーピィの、羽箒……」

 

 相手フィールドのあらゆる魔法罠を破壊する圧倒的パワーカード。

 羽根が山城の前でヒラリと舞い、伏せられていた三枚のカードが全て表になる。その全てがモンスターカード、決してプレイングミスでも、決闘盤の誤認識でもない。

 

「アーティファクト・アイギス、アキレウス、そしてベガルタの効果発動!」

 

星5/光属性/天使族/守2500

星5/光属性/天使族/ 守2200

星5/光属性/天使族/守2100

 

 表になったカードから、二つの盾と一振りの剣が立体化する。

 これがアーティファクトの特性。魔法カード扱いとしてフィールドにセット出来、相手ターン中に破壊されるという厳しい特殊召喚条件と、それを補えるだけの効果を持ったカテゴリー。

 この破壊される事でメリット効果を発動させる特性は、先に使用したアーティファクトの神智にもあったのだが……

 

「まずアイギスの効果によりこのターン、アーティファクトは効果で破壊されず対象にも取れない。そしてアキレウスの効果で攻撃対象にも出来ない!」

 

 ベガルタの効果はこの状況では発動しても不発になるだけだ。

 とはいえ、これで神とやらがどれだけ攻撃力が高く、如何なる効果を持っていようともアーティファクトには関係ない。だが、

 

「それでもフィールドにはカオスエンドマスターがいる……」

 

 苦々しい声でそれを告げたのは、少女であった。

 アーティファクトの名を持たないモンスターには、アイギスなどの加護は受けられない。

 

「そぉら、バトルを始めようかぁ! 地縛神Uru!」

 

 名蜘蛛の宣言に、山城も覚悟して身構える。だが流石に続く言葉には理解が及ばなかった。

 

「プレイヤーにダイレクトアタックっ! ヘル・スレッドっ!」

 

 Uruの口から濁流を思わせる勢いで放たれる蜘蛛の糸。それはモンスター達を素通りして真っ直ぐに山城へ迫り、

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「山城っ!!!」

「山城君っ!!!」

「くっ……!」

 

 遊羽や祭の言葉を無視して、山城の姿を白濁の中へ飲み込んでしまう。一部始終から少女は目を背けて、両の拳を固く握った。

 やがて糸は消え去り、代わりに地面へ横たわる山城の姿が見て取れる。

 

山城:LP500

 

「どぉしたぁ、もお寝る時間かぁ? 早く起きろよ、ハリー、ハリー、ハリー!」

 

 煽る名蜘蛛。それを受けてか、または単に意識を失っていただけか、ゆっくりと山城は立ち上がった。余程体力に余裕がないのか、結界により生じた外界との壁に寄りかかった。

 立ち上がる際に外野が視界に入る。山城には笑顔を返す余裕もないが、幾度となく山城と相対していた遊羽だけは理解出来た。僅かに見えたその目から闘志の炎が未だ消えてはいない事に。

 

「ヒャハッ! そうこなくっちゃなぁ!!! 俺はタァンエンド。お前のタァンだ、精々足掻けよ!」

 

名蜘蛛:LP2500 伏せ0 手札0

山城:LP500 伏せ0 手札2




作者のヌルです。
すみません決着は次回に持ち越しです。
アーティファクトの戦略を考えるの疲れる……!


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capture3地に縛られた神

攻撃力3500のダイレクトアタッカー、地縛神Uru。発動者へ加護をもたらすオレイカルコスの結界。
それらに追い詰められ、山城のライフは風前の灯火となった。
遊羽、祭、そして少女にトゥル。
皆が見守る中、山城のターンが回ってくる。


名蜘蛛:LP2500 伏せ0 手札0

山城:LP500 伏せ0 手札2

 

 モンスターの数は間違いなく山城が有利、手札も消費し切っている名蜘蛛よりも二枚残っている山城の方が余裕がある。

 だがしかし、心理的には圧倒的に山城が押されていた。原因は結界の外、名蜘蛛の背後に君臨する一体。

 地縛神Uru。

 オレイカルコスの結界の加護を受けた、攻撃力3500のダイレクトアタッカー。実体化したナスカの地上絵。

 現状で対策が取れない以上、山城にはドローカードに全てを賭けるしか残されていない。

 

「俺のターン……ドロー……!」

 

 ドローの反動で揺れる身体を気力で抑え、手札に加えたカードを確認する。

 希望は、繋がった。

 

「魔法カード発動、一時休戦っ……!」

「あれは……!」

「次の相手ターン終了時までダメージを与えられない代わりに、お互いに一枚ドロー出来るカード……!」

 

 名蜘蛛は表情を歪めて、山城に殺意の籠った視線を向ける。

 

「けっ、時間稼ぎかよ……んな悪足掻きは止めてさっさと神の生け贄になりやがれやテメェっ!」

 

 例え神でもこの効果は無視出来ない。だからこそ、山城にとっては逆転に繋げるための布石足り得る。

 二人は改めてカードをドローした。これでダメージは与えられない、それでも山城はバトルフェイズに突入した。

 

「バトル、カオスエンドマスターでスパイダートークンを攻……!」

「おおっと、結界の効果だ。俺のフィールドに表側攻撃表示のモンスターが二体以上いる時、お前は一番攻撃力が低いモンスターを攻撃対象に出来ない! そら来いよ、つってもUruも攻撃対象にゃあ出来ねぇけどなぁ。ヒャハハッ!」

「……ならここでターンエンドだ……」

 

 名蜘蛛の挑発を意図的に無視して、山城はターンを放棄する。そして努めて頭を冷やす。

 あまりにも条理を越えた出来事が連続したせいで、一週回って今では平静だ。頭に向かっていた血が額から流れているのも関係しているのかも知れない。

 不用意な攻撃、神智の使用を焦り、その結果がこれだ。だから落ち着け、山城。

 自身に言い聞かせ、そして決闘終了まで倒れぬ覚悟で名蜘蛛を睨む。

 

「俺のタァン、ドロー……なんだぁその目は、今から逆転でもするつもりかぁ? 残念だが神はこっちについているんだぜぇ、もお諦めてサレンダーしちまいなよヒャアーハハハハハッ!」

「御託はいいから……早く続けて、よ……!」

 

 名蜘蛛の嘲笑を意に返さず、山城は進行を促した。それが再び名蜘蛛を猛らせる。

 

「だったら続けてやるよ、バトル! やれ、地縛神Uru、カオスエンドマスターを吹き飛ばせぇ、ヘル・スレッドっ!」

 

 濁流の如き蜘蛛の糸がカオスエンドマスターを飲み込み、あまりの高圧に圧殺する。

 ダメージはない。しかしそれはライフポイントへのダメージであり、衝撃という物理ダメージを抑える事は叶わない。

 

「うっ……あぁぁぁっ!!!」

「山城っ!!!」

「もう止めてぇっ!!!」

 

 一層強く壁に押し付けられ、山城は苦悶の叫びを上げる。遊羽が叫んで壁を叩くのも、祭が決闘の中断を望む声を上げるのもお構い無しに。

 それを見て少女は三歩分、結界から距離を取った。そして二人にだけ聞こえる小声で告げる。

 

「結界から離れろ……!」

 

 地の底から響くような声に遊羽が振り返ると、少女の横で今まさにサウザンド・ブレードが召喚されようとしていた。

 実体化するカード。そう、これはこの結界と同じではないか。

 そんな遊羽の気持ちに配慮する気配など微塵も見せずに、少女は召喚した戦士に指示を飛ばす。

 

「サウザンド・ブレード! このふざけた結界を破壊しろっ!」

 

 紡がれた言葉は破壊。それに答えるように、サウザンド・ブレードは得物を固く握り締め、結界目掛けて振り下ろす。

 

「危ねぇっ!」

「えっ、キャッ?!!」

 

 遊羽は今振り返った祭の元へ飛び込み、長刀の射程外へと逃れる。僅かに靴を掠り、ゴム底を数ミリ削った。

 必殺の思いで振り下ろされただろう長刀は、しかし結界を庇うように割り込んだペーテンを両断するに留まる。

 

「いけないな、決闘中の決闘者を妨害するなど。これでは決闘者などと呼べはしまい」

 

 いつの間にか、トゥルは少女と調度対になる位置に立って、勿体振った口調を向けた。その真意こそ闇の仮面に阻まれ分からないが、警告の意味を含んでいる事くらいは判断出来る。

 少女は歯噛みしてトゥルを睨みつけた。その表情は、まさしく苦虫を噛み潰したと表現するに相応しい。

 

「大、丈夫……です」

 

 掠れる山城の声が少女の耳に届く。

 

「少しは格好、つけさせて下さい、よ……!」

「女庇ってヒーローごっこかぁ? ガキかよ、ヒャハハッ! 俺はタァンエンドだぁ。さぁ逆転してみろよ、ヒーローくぅん!」

 

名蜘蛛:LP2500 伏せ0 手札2

山城:LP500 伏せ0 手札3

 

 勝利を核心して高笑いする名蜘蛛。山城にはそれが典型的なやられ役にしか感じられない。

 そう、ガキだ。友達庇ってらしくない無理をして、ボロボロでもう倒れたいのにダサいからそれが出来ない。

 皆は自分に冷静な人物像を浮かべているだろうが、実際は遊羽に負けず劣らずのガキだ。ただ自信を持てず主張をしない、それだけである。

 

「遊……羽、俺でもここから逆転、出来るよな……?」

「……何言ってんだ、出来る出来ないじゃねぇだろ。逆転しろよ! こんな訳分からん奴はぶっ飛ばして、明日も俺らと決闘しろ、負けて退場とかふざけたオチつけんじゃねぇぞっ!」

 

 鼓舞なのかそれとも挑戦状か。どちらにせよ、その言葉を待っていたと言わんばかりに山城は目を開き、壁から離れた。

 自信が湧く。友達からの声援が、地縛神とやらの放つ威圧感を凌駕する。もはや、あらゆる不安要素を持ってしても山城を縛る事は叶わない。

 

「俺のターン、ドローっ!」

 

 手札は四枚、フィールドには三体のアーティファクト。

 試していない策を試すには十分過ぎる布陣だ。

 

「墓地に存在するギャラクシーサイクロンの効果発動っ!」

「墓地から効果だと?」

「墓地発動かっ!」

「墓地から効果なんて……!」

「……!」

「なるほど……」

 

 驚愕、衝撃、感嘆、沈黙、納得。それぞれが反応を示して、山城を見いる。

 最初のターンの手札抹殺。奇しくも、この始まりは名蜘蛛が使用した魔法によってであった。

 

「このカードをゲームから除外する事で表側表示の魔法、罠カードを一枚破壊する。俺が破壊するのは……オレイカルコスの結界っ!」

 

 光を掻き消すように竜巻が舞い上がり、結界の存在が揺らいだ。

 それに呼応してUruもどこか存在が薄らいでいき、名蜘蛛は顔を地に向けた。そしてゆっくりと顔を上げる。

 その表情は、笑顔であった。

 

「バァカァかぁ、テメェはぁっ!!!」

 

 竜巻を吹き飛ばし、一段と結界が怪しい輝きを放つ。結界を通じて力を得たのか、Uruも大気を震わせるおぞましい咆哮を上げた。連動するように名蜘蛛も哄笑を凱歌の代わりとする。

 

「オォォォォォォォォォッッッ!!!」

「ヒャアアハハハハハハッッッ!!!」

「なんで、なんで結界が……?」

 

 自然と漏らした遊羽の疑問に答えたのは、外野であるはずのトゥルであった。

 

「これは惜しい。もしも、オレイカルコスの結界に一ターンに一度破壊されない効果がなければ、彼の勝ちであっただろうに……悲しいな、なんと哀れな結末か」

 

 その勿体振った口調からは、いう程嘆きの類は感じられない。代わりに呆れの感情がにじみ出ている。

 呆れの対象は誰なのか。

 それを問うものはなく、トゥル自身も答える事なく決闘は展開する。

 

「……俺はアーティファクト・アイギス、そしてアキレウスの二体でオーバーレイ!」

「レベル5でエクシーズ召喚……!」

 

 次に口を開いたのは少女だ。

 一部の例外を除けばエクシーズモンスターは、ランクが高い程ステータスが強大になっていく。なにせ素材の調達が大変なのだ、その分のリターンはあって然るべきだろう。

 そしてトゥルは遊羽達に気づかれぬように踵を返すと、右手に握る魔法カードを決闘盤にセットし、音も出さずに消滅した。

 

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 妖精の加護受けし英雄の剣よ。その輝きを永久(とわ)のものとし、裏切りの結末を書き換えろ! アーティファクト・デュランダル!」

 

ランク5/光属性/天使族/攻2400

 

 渦の底から現れたのは、モラルタやベガルタさえ凌駕する神威を帯びた剣。赤と青のラインと黄金の柄が特徴的な、英雄が担うに相応しい逸品。

 このカードこそ山城勤のエースモンスターにして、この決闘に引導を渡す一振り。

 

「ヒャハハ! 今更たかが2400のモンスター如き、神の敵じゃあねぇんだよ! 恐怖でまともに計算も出来なくなったかぁっ?!!」

「そんな事、分かってる……更に手札から死者蘇生を発動!」

 

 山城のフィールドで表になったのは、誰もが一度は聞いた事がある魔法カード。墓地に存在するありとあらゆるモンスターを復活させる輪付き十字架。

 だがUruはダイレクトアタッカー。フィールドのモンスター数など問題ではない。

 

「だぁかぁらぁ、いくら雑魚並べても神には……!」

 

 名蜘蛛の言葉が途中で止まる。それは表になったはずの死者蘇生のテキストにノイズが走ったからだ。

 思わず決闘盤を見るが違法改造されている以上、外から見ても原因は分からない。

 

「決闘盤の故障じゃない、これがアーティファクト・デュランダルの効果だ! フィールドで発動したモンスター効果、通常魔法、通常罠の効果を書き換える事が出来る! その効果は……!」

 

 相手フィールド上の魔法、罠カードを一枚選んで破壊する。

 

 書き換えられた死者蘇生のテキストには、確かにそう書かれていた。

 

「そ、それがどうした。オ、オレイカルコスの結界は破壊されないぃ!」

「一ターンに一度ならな!」

 

 狼狽する名蜘蛛の言葉など関係ない。何故なら既に先程、トゥルが確かに口にしたのだから。

 一ターンに一度破壊されない効果がなければ、と。

 

「いけ、デュランダル! リライティング・エフェクト!!!」

 

 デュランダルへ向けて死者蘇生から光線が放たれ、赤と青のラインが一層激しく輝く。そして六芒星が刻まれた大地に一閃。

 煌めく軌跡が結界の放つ怪しい輝きを凌駕して、法則が崩壊した。

 

「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 一度入った亀裂は名蜘蛛の懇願も無視して拡大していき、ガラス細工のように砕け散った。

 土地に縛られた神が、加護していた土地が崩壊した後も残れる道理はない。Uruも黒の肉体を霧散させ、始めから何もなかったかの如く消滅した。

 

「神、神、神……」

 

 名蜘蛛は茫然自失で同じ単語を繰り返す。戦意は失せているかもしれないが、サレンダーはまだ受けてはいない。

 

「ベガルタを攻撃表示に変更してバトルだ! アーティファクト・ベガルタでスパイダートークンを攻撃!」

 

 アーティファクト・ベガルタの攻撃力は1400。一方、スパイダートークンの元々の攻撃力は僅か100。

 なんら苦もなく剣は蜘蛛を両断し、爆発させた。

 

名蜘蛛:LP1200

 

 名蜘蛛は決闘などもはや関係ないと言わんばかりに体勢を崩さない。ある意味では不気味だが、山城の中に恐怖はない。

 

「これで最後だ。アーティファクト・デュランダル、ローランスラッシュ!」

 

 まるで実際に誰かが扱っているかのような軌道を描き、デュランダルが名蜘蛛も袈裟懸けに切り裂く。

 

名蜘蛛:LP0

 

 名蜘蛛が膝から崩れ落ち、敗北を告げるアラームが鳴り響いた。




どうも、作者のヌルです。
決着です。やっと決着です。ここまで長かったです。
次回こそは出来るだけ早く投稿したいですね。


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capture4舞台へ集う役者達

決闘の幕は、山城の勝利で降りた。
だがそれは終わりではなく、ようやくスタート地点へ立てる事を意味する。
超常の現象とともに……


「やった……終わった……!」

 

 決着がついた事で緊張の糸が切れたのか、山城が手札を落として膝を地につける。左腕に巻きついていた鎖は、名蜘蛛の敗北と同時に力なく地面に落ちていた。

 後少しで倒れるところを支えたのは、遊羽と祭だ。

 

「おいおい、本当に大丈夫か。山城」

「まぁ、意識を失わない程度には……」

 

 遊羽からの声かけに、顔を向けて答える山城。声は消耗しており、額には多量の汗がにじんでいた。

 祭は山城から手を離すと、彼が落としたカード風に飛ばされる前に拾う。そして三枚のカードを確認した後、すっとんきょうな声を上げた。

 

「えぇぇぇ! 残りの手札全部モンスターだったの?!!」

「あぁ、最後に引いたのが死者蘇生だったんだ……」

「それさぁ……」

「ウウウァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 遊羽が思った事を口をしようとした時、この世の終わりで聞こえるような、そんなおぞましい叫びが鼓膜を震わせる。

 三人は叫びが聞こえた方角、名蜘蛛の方を向き、そして異常な光景を目の当たりにした。

 

「アァァァァァァアアァァァァァァ!!!」

 

 仰向けになっている名蜘蛛の全身から赤黒い光が溢れ、宙に浮遊する三枚のカードに奔流となって集約していく。

 オレイカルコスの結界。地縛神Uru。スパイダー・エッグ。

 どれも山城との決闘で使用され、その効果を持って彼を苦しめたカードだ。

 

「これはどういう事だ、答え……! 奴はどこに行ったっ?!!」

 

 少女は声を荒げるが、既に仮面の男は影も形もなくここからいなくなっていた。

 仮面の男が渡したカードならば、この現象も当然知っていると判断した少女だが、肝心の仮面の男がいなければ問いただす事も不可能だ。

 そうこうしている間にも三枚のカードは名蜘蛛から何かを吸収して赤く染まり、直感的に臨界状態を連想させるまでになっている。ここから何が起こるのか、誰にも理解が及ばない。

 

「なんだお前……!」

「アタシの後ろから出るなっ!!!」

 

 だが少女だけはここから起こる最悪の事態を想定して、まだ動かない遊羽達の前で壁になった。

 少女一人を盾にするなど、まだ万全の状態である遊羽には到底許容出来る事ではないが、少女の剣幕に押されて動けない。

 限界を迎えたカードが乾いた破裂音とともに弾け、360度に隈無く赤黒い光を撒き散らす。

 

「えっ!」

「遊羽っ?!!」

 

 死を覚悟した遊羽はせめて二人は巻き込まないよう、無意識に山城と祭の盾となった。これでどうなるとも思えないが、確かに直撃するよりはましだろう。

 殺到する死。その衝撃に備えたがしかし、一向に背中へ何かが当たる感触はない。

 おそるおそる遊羽が振り返ると、少女の前に神聖さを感じさせるバリアが張られていた。注視すればバリアは半球状に広がっており、山城達の僅か後ろまでをカバーしている。

 

「ホーリーライフバリアー。これで問題はない……」

「お前……!」

 

 助けてくれたのか。

 そう口にしようとした遊羽だが、バリアの向こうの光景に言葉を失った。

 生えていた雑草は例外なく枯れ果て、廃工場は百年の時を越えたかのように劣化している。爆心地にいた名蜘蛛からは老人のように若さが欠落し、その周囲には痙攣している無数の男女が倒れ伏していた。

 

 これが決闘の結果? これが、こんな被害をばら蒔くものが決闘?

 

 遊羽が信じ、またこの世界の人々が信じてきた決闘はこんなものでは断じてない。もっと楽しく、アドリブだらけの劇に参加するような、ワクワクするもののはずだ。これは決闘ではなく、戦場にカテゴライズされるべき事象であろう。

 だが同時に、先の決闘がトリガーとなってこの現象を起こしたのも事実である。

 

「どこか、邪魔が入らない場所はあるか……」

 

 遊羽は今の言葉を発したのが少女だと気づくのに数秒。そしてその意図に気づくのに数秒の時間を要した。

 少女は話そうとしているのだ。自身の事、仮面の男の事、そして遊羽達が巻き込まれた事を。

 山城と祭と視線を合わせ、遊羽は返答する。

 その返答は、少女の期待通りのものであった。

 

 

 

 

 境界がなく、また輪郭がない空間。世界と呼ぶには曖昧過ぎて、無と呼ぶには色が鮮やか過ぎる場所。

 その名は異次元。世界と世界の狭間にある、世界になれなかった場所。

 そんなともすれば上下の感覚さえ狂ってしまう空間を、トゥルは歩いていた。

 宙に浮かんでいる状態故に、歩くという表現はもしかしたら誤りかもしれない。が、足を上げて前に出し、そして後ろ足を上げる動作を歩行以外に何と表するべきなのか。

 

「フム……」

 

 トゥルは無音で空間を叩きながら、思案にふけっていた。

 先程までいた世界は、過去にトゥルが行き来した世界と比べて平和な部類に入る。普段なら一笑の元に立ち去っていたが、今回は珍しい出来事に出会えた。

 脳裏に浮かぶのは、青みがかった短髪の少女。かつて別の世界でトゥルを目撃したもの。

 異なる世界間の移動方法を確立した世界をトゥルはまだ知らない。カードを使用した移動は未だにトゥルのみに許された特権である。

 

「過去に取引したものの横流しか……いや」

 

 口に出した事を自ら否定する。

 確かに世界間移動用のカードを取引した事はある。だが渡したのは決まって片道、ないし一往復分だ。

 まだ残りカスとなったカードを解析されたと考える方が自然だ。そしてそれなら既に異次元で邂逅を果たしているはず。ならばどうやって……

 

「まぁ、そこは別段問題ではない」

 

 商品は他にもある。商売敵が出たところで、目的の妨害さえされなければ何ら構わない。

 そう結論づけ、思考を切り換える。今はそれ以上に思慮すべき事がある。

 

「ウィークス、か」

 

 あの少女の街に侵攻した勢力。当時、トゥルの行動方針とたまたま重なったために接触を図ったが、まさか別の世界でその名を口にする必要が出るとは。

 彼らを利用する。それは悪い話ではない。

 平和な世界で効率的に取引を行う最も簡単な方法。それは敵対者を仕立てる事だ。

 今の全力では対抗出来ない、だが対抗出来なければ敗北するだけ。ならばどうする、まさか指を加えて敗北の瞬間を待つなどという事はあるまい。

 答えは一つ、力をつける。

 そして急を要する時は、当然ながら長期的な方法ではなく短絡的な方法が選ばれやすい。

 敵対者の役割に当て嵌めるなら、ウィークスは適任だろう。彼らに慈悲という概念はない。老若男女一切の区別なく、そこにいる決闘者の尽くを狩り尽くすだろう。

 そう、狩り尽くす。その一点が唯一にして最大の問題だ。

 

「あまりに一方的では話にならないが、さて……」

 

 もしもウィークスが一斉にあの世界に向かえば、ろくに抵抗する事も出来ずに機能を停止するに違いない。それこそ、少女の街と同様に。

 それはそれで困る。ある程度は拮抗してもらわなければ。

 

「闘争を煽りつつ、戦線を拮抗させる……私の腕の魅せどころ、というべきか」

 

 そうこぼすと、仮面の奥で薄く笑った。

 ウィークスの現在の動向を掴んではいないが、大方見当はついている。

 彼らが存在する世界へ向かうトゥルの足は、その脳裏が思い描く凄惨な舞台とは裏腹に軽やかであった。

 

 

 

 

 その世界は、赤かった。

 得体の知れない水晶で構築された山、遥か遠くに伺える海、頭上に広がる空さえも血の如き赤に染まっている。

 

「おい新入り、退屈だしいっちょ決闘しようぜ!」

 

 見渡す限りの赤い世界の一角、禍々しい(むくろ)を基調とした宮殿に若い少年の声が木霊した。その声色は快活で、禍根をばら蒔く根城には決して似つかわしくない。

 彼がいる間は宮殿の最深部。言わば玉座の間である。そこにはローブを身に纏った彼の他にも六人、計七人の人物がいた。

 

「……」

 

 彼が話しかけた存在は無言。ローブに隠れた姿では、表情さえ判断がつかない。

 肩を落とす彼だが、即座に別の人物に声をかけた。

 

「そうだイズミ! おい、決闘しろよ。なぁ、いいだろぉ!」

「えぇ、パスで」

「つか、決闘決闘うっせぇよボーデン。こっちは眠くてしょうがねぇんだよ」

 

 ボーデンと呼ばれた少年に苦言を呈したのは、眠け眼をこする男。目の下に刻まれたクマは深く、見た目以上にボーデンとの歳の差を感じさせる。

 二人から否定された挙げ句に文句まで言われ、いよいよ意気消沈したボーデンだが、玉座付近からの声に顔を上げた。

 

「まぁ、焦るなボーデン。私が今開発している次元跳躍システムが完成すれば、いつでも狩りのし放題だ」

 

 声の主は玉座に座する男を除けば、唯一ローブを身につけてはいなかった。代わりに白衣を纏っており、黒縁の眼鏡や切り揃えられた灰色の髪と合わせて知的な印象を他者に抱かせる。

 

「黙れよ化学者気取り。俺がしたいのは決闘であって狩りじゃあねぇ」

 

 ボーデンの口から出たのは先程までとは一転して、嫌悪に満ちたもの。

 それは狩りという表現に対してなのか、それとも化学者気取りと称される彼自身へ対してなのかは分からない。

 

「フン……表現を変えた所で、内容は変わらんがな」

「まぁまぁ、喧嘩は止して下さいよ」

 

 二人の仲裁を図ったのは、玉座に位置する男であった。言葉と同じく表情も柔和で、狩りとは無縁の人物にも見える。少年と勘違いされる程に童顔であり、触角のように後方へ伸びた二本の髪を除けば紫色のセミロングというべき髪形であろう。

 だがしかし、そのような平和主義者がこの宮殿の玉座に座する事が果たして可能か。

 

「チッ……!」

 

 ボーデン達から一歩引いた位置に立ち、今まで無言を貫いていた男が舌打ちとともに憎悪に燃える眼差しを向けた事がその疑問への回答だろう。

 そして玉座の男が座ったまま、化学者へ顔を向けた。その表情は新しい玩具を買ってもらう子供そのものだ。

 

「で、その次元跳躍システムはいつ頃完成しますか?」

「そうですね……後は移動に用いる異次元での存在定着と限定的な世界の壁の破壊、そしてカードサイズへの小型化ですね」

「なーんだ、まだ全然じゃないですか」

 

 男は大袈裟にリアクションすると、露骨に機嫌を悪くした。

 それに化学者の額に青筋が立つのもお構いなしだ。

 

「んな面倒な事するくらいなら、トゥルって奴との連絡手段でも確立して下さいよぉ」

「……いつまでも奴に依存する訳にはいきません、それでは足下を見られる」

「なんでもいいですよ。大体、彼は未だ対価を要求した事がありませんし……」

 

 男は目をつぶる。目蓋の裏にフラッシュバックしたのは、炎上する街。

 逃げ惑う人々に半ば強制的に決闘を挑む自身達。それは戦いと形容するより、確かに狩りの方がしっくりくる。戦いとは実力がある程度拮抗しなければ成立しないのだから。

 記憶があっていれば、ボーデンは自ら挑んできたもの以外に一切手を出さなかったか。

 

「勿体ない、アレをもう一度楽しみたいですねぇ……」

 

 男は独り言を漏らすと目を薄く開き、一人へ視線を向ける。

 

「そうは思いませんか、無貌(むぼう)……」

 

 視線の先には、最初にボーデンが話しかけた存在がいた。




どうも、作者のヌルです。
決闘パートは考えるまでなら楽しい。ただ文章にすると労力がおかしなレベルで上がる。
そういう意味では通常パートの方が書くのは楽に感じますね。
当然、個人差はあるのでしょうが……


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3話 始まりを語ろう
capture1語られる過去


 一筋の光も通さない曇天の闇夜、都市部の明かりだけが爛々と輝く五芒市の一角。

 賑わいからやや外れたそこに、一つの寂れたマンションが建っていた。四階建てだが全ての窓から輝きはなく、活気など遥か昔に失われた事を如実に謳っている。

 その内の一つ。最上階の窓から主の帰還を示す明かりが溢れた。

 

「ほら、ここなら問題ねぇと思うぜ」

 

 最初に部屋へ足を踏み入れたのは主たる遊羽だ。その背後には山城、祭、そして少女が立っている。

 部屋はあまり広い方ではないが、四人が座れるだけのスペースは確保されていた。そもそも、奥に置かれているテレビと部屋の中央にある机以外に何もものがない事が一因だが。

 四人は無言のままに座った。形としては右から遊羽、山城、祭、机を挟んで反対側に少女だ。

 

「それじゃあまずは……」

 

 名前でも聞こうとした遊羽だが、少女の前に突き出した掌に遮られた。

 何事かと怪しむと、少女はいきなり頭を下げた。額を床にこすりつけ、教科書に見本として載りそうな土下座のポーズを取っている。

 対応出来ていない三人の前に、少女が口を開く。

 

「玉露遊羽、山城、祭、三人とも済まなかった……! 全てはアタシが玉露遊羽を間違えて襲ったばかりに、こんな事に巻き込んでしまった……!」

 

 それは謝罪の言葉。誠心誠意、自らの行いを悔いての行為だ。

 何かを言おうにも、先に謝られてはどうしようもない。結果的に山城と祭は何かを発する事も出来ずに、ただ土下座している少女を見るしかない。

 沈黙を破ったのは、遊羽だった。

 

「俺を襲った事はもういいさ。そっちが何も考えていないチンピラならともかく、何か考えがあっての事みたいだし、反省もしている訳だし」

「だがそれでは……!」

「だがじゃねぇよ、こういうのは被害者の考え優先でいいだろ」

 

 むしろ被害者以外がとやかく口を出す方がおかしい。

 少女が自身の行いを悔いているのは、向こうから現状を話そうとした事や開口一番に謝罪をした事から明らかだ。

 ならば取り返しのつく段階だし問題ない。少なくとも、遊羽はそう考えた。

 

「お前らもそれでいいよな」

 

 言い、遊羽は左に首を回す。

 

「やられたのは遊羽だし、お前がいいなら俺もいいよ。正直、名蜘蛛の件は巻き込まれたと言われても実感わかないし」

「まぁ、二人がそう言うなら別に……」

 

 祭は何か言いたそうであったが、実際に口にしなかったという事は彼女もいいという事なのだろう。

 少女は顔を上げると三人を順番に見た。その表情はどこか呆けているようである。

 

「はい、という事でこの話は終わり! さぁ、いい加減そっちの名前教えろよ」

 

 拍手を一つし、遊羽はわざと大きな声を出して続きを促す。

 はっとした少女は、改めて自身の名を名乗った。

 

「そ、そうだな……アタシの名前は 黒木(くろき) アヤメだ」

「よろしくな、黒木。なら次は俺の番だな。前も名乗ったけど、玉露遊羽だ」

「呼ばれてたの聞いたのかもしれないけど改めて、俺は山城勤」

「……六条祭、よろしく」

 

 アヤメは意外と言える程、すんなり話を聞いている。正直なところ、第一印象が最悪であった遊羽はここまで話が成立するとは思っていなかったのだ。

 これなら聞き出せるだろう。そう遊羽は判断し、最初の疑問点を口にした。

 

「まず一ついいか?」

「あぁ、構わない」

「じゃあ、俺との決闘の後呟いていたのはなんだ? まさか、とかそんな感じの言葉が聞こえたが……」

 

 これは初めて会ったあの日からずっと、頭の中で引っかかっていた事である。状況的には違う、と続くのが妥当だが、それならそれで何が違うのか。遊羽には知る権利がある。

 遊羽の質問に対して、頬を気持ち赤く染め、恥ずかしそうにアヤメは答えた。

 

「そ、それは……勘違いだって事だ……」

「え? なんだって」

 

 だが声は消え入りそうな程に小さく、現にアヤメ以外の耳には届いていなかった。故に遊羽も耳を近づけ、聞き逃さない体勢を取る。

 

「だから……勘違い、だ……」

「ごめんもう一回言って」

「だぁかぁらぁ、アタシの勘違いだと言っているだろう!!!」

 

 同じ問答を計三回、結果としてアヤメは遊羽の耳元で大声を出して三度目の回答とした。

 遊羽は近所がいるなら間違いなく苦情を言われていただろう声によって、大きくのけぞり壁に頭をぶつける。重い音が部屋に響き、そしてぶつけた部分をさすった。

 山城と祭がその一部始終を見ている。遊羽は素早く起き上がると、息を荒げているアヤメに食いついた。

 

「お前、いきなり大声出す事はないだろ!」

「仕方ないだろ、何回言っても聞こえてないんだから!」

「だからってあんな声じゃあ、鼓膜破れるわ!」

「じゃあ一回でちゃんと聞きなさいよ!」

「聞こえる声出せよ!」

「何さ……!」

「はい、そこまで」

 

 息がかかる程に近づいた二人を遮るのは、左から視界に入った左腕。二人は同時に顔を向けると、呆れ顔の山城がそこにいた。

 

「その調子じゃあ、いつまで経っても話が終わらない。で、黒木さん、誰と遊羽を勘違いしたんですか?」

 

 山城の言う事は尤もだ。

 彼女がしたかった話は、遊羽との他愛のない会話ではないはずなのだから。

 アヤメは山城の質問に沈黙をもって回答とした。表情も遊羽と話していた時よりも暗く、口にしたくはない話題なのかもしれない。

 

「これだけは聞かなきゃならない。そうじゃないと何に巻き込まれたのか判断もつかない」

「そう、だな……」

 

 重い口を開くアヤメ。だがその言葉は誰にも予想出来ないものであった。

 

「分からないんだ……」

 

 先程とは違い、次はきちんと全員の鼓膜を震わす音量であった。それなのに、誰もまともに意味のある言葉を発する事が出来ない。

 分からない? 何が。

 そう口にする事も出来ずに数秒浪費し、そして再びアヤメが言葉を続けた。

 

「い、いや、分からないと言っても全く知らない人物という訳ではない! ただ、名前も分からない以上、どう皆に言えばいいのか……」

「お、おう、そうだな……じゃあ特徴言ってくれよ、特徴」

 

 遊羽はそう提案したが、それでもアヤメの発言は彼らの想像の遥か先であった。

 

「特徴か……デストーイという融合モンスターを扱う。今日知った事だが、ウィークスという組織に所属している……アタシが知っているのはそのくらいだ」

 

 愕然。ただその言葉でしか三人が抱いた感情を表現出来ない。

 こんな情報だけで個人を特定する事など、例え稀代の名探偵でも不可能だ。過去に食べた味だけを頼りに特定の食材を探すのにも等しい。

 特定テーマを使用する決闘者という情報はそれだけ曖昧なものである。

 

「ええっと、その人とどういう関係な訳?」

 

 思わず祭は呟いた。当然と言えば当然の疑問だ。

 これだけ曖昧な情報で探しだそうとするなど、生半可な関係ではない。それこそ個人の因縁で済む域ではなく、ほぼ確実に他者が関わっている。

 一つ迂闊な点を上げるとすれば、とても思わずで聞いていい話題ではなかったという事だろう。

 

「……」

 

 空気が変わった。刃のような、触れるもの皆傷つける鋭いものへと、アヤメを中心に。

 アヤメは喋らず、ただ目の奥に激しい炎を燃え上がらせる。

 

「アタシの住んでいた街を……兄を……奪った……!」

 

 そう語り、アヤメは己の過去を話し始める。今から一年前の、忘れる事など出来るはずのないあの日の事を。

 

 

 

 

 赤の世界。骸の宮殿。災禍の基点。

 そこに君臨する七人の魔人達は、常に顔を合わせている訳ではない。むしろ一同に介する事の方が珍しく、大抵は宮殿内で点在して、有事の際のみ集まるといった形だ。

 

「ふぁー、眠い……全く、用がないなら呼ぶなっての……」

 

 宮殿内に存在する廊下の一角に、目の下に限りなく深いクマを浮かべる男がいた。目的は自室へ戻り、一秒でも早く惰眠を貪る事だ。

 彼の部屋には複数の世界で購入した安眠グッズがあり、寝るのに困るという事はまずあり得ない。

 だが彼がそれを堪能するのは、もう少し時間を必要とするだろう。

 

「ん?」

 

 彼が何かを発見して足を止めた。それは彼の足止めを目的にするかの如く出現した、稲光の伴う虚空の穴である。

 いくらこの世界が通常とは異なるとはいえ、こんな事が日常的に起こる世界を拠点とする訳がない。そして彼はこの現象に思い当たる節があった。

 

「罠発動、異次元からの帰還」

 

 続く言葉も、そこから姿を現すだろう人物も、彼は過去に目撃している。

 

「なんでよりによって俺の前に出て来るんだ、トゥル……」

 

 彼は退屈そうに口にして、色の存在しない穴を睨みつける。

 穴から出現したのは、やはり予想通りの人物であった。

 

 

 

 

「おぉ、会いたかったですよトゥル!」

 

 玉座の男は、まるで数年来の親友にでも会ったかの如く笑顔を浮かべてトゥルに近づいた。

 トゥルもそれに握手で応じる。表情は仮面に覆われ判断がつかないが、纏う雰囲気は穏やかなものだ。

 

「チッ……解散だと思ったらこれだよ……」

 

 彼はその様子を見て、思わず愚痴る。幸いとでも言えばいいのか、デーボン達の耳には届いていなかった。

 他の連中はいいよな、来た道を戻るだけで済んだのだから。こっちはトゥルを玉座まで連れていった挙げ句、他が来るまで待つ羽目になったのだ。

 

「いや、いざ寝ようとして妨害されるよりはマシか……」

 

 一人呟く彼を置き去りにして、玉座の男はトゥルに親しげに話しかける。売人ではなく、それこそ友のように。

 

「トゥル! 早速だが頼みが……!」

「いや、まずはこちらの話を聞いて欲しい。安心したまえ、貴方の渇望と私の要望は重なる」

 

 男の言葉を遮りながら、トゥルは自らの意思を話す。

 それに違和感を感じたのは、付き添いのように男の側に立つ化学者だ。ささくれ立つような小さな違和感、喉に魚の骨が引っかかるような不快さ。

 

「一つ、ただ一つの世界に侵攻してもらいたい。もちろんこちらが移動に手を貸し、必要ならば手段を渡してもいい」

「それは願ってもない機会だ、ならばさぁ、早くカードを……!」

「少し冷静になって欲しい。重要なのはここからなのだ」

 

 再び男の言葉を遮るトゥルが手に持つのは、フィールド魔法のアイコンが刻まれたカードであった。

 

混沌空間(カオス・ゾーン) ……それが何か?」

「あの世界はどういう訳か、世界として極めて不安定なのだ。輪郭が他と比べて、アメーバのように流動している。その影響か、他の世界からも招かれざる客が来訪していた。そのような不安定な空間で貴方達が一斉に決闘を行えば、ほぼ間違いなく世界が負荷に耐えきれず、最悪の場合自壊してしまう」

 

 そうなれば、世界の内にいる存在は例外なく異次元に飲み込まれ消滅するだろう。

 言葉にこそ出さないが、トゥルが言いたいのはそういう事である。

 

「えぇ、それでも構いま……!」

「ちょっと待って欲しいな」

 

 次に男の言葉を遮ったのは、付き添いの化学者であった。男に睨まれるが、化学者は構わずにトゥルに疑問をぶつける。

 

「何故そのような危険な世界を?」

「貴方に話す必要性があるとは思えないが」

「危険な場所に向かうのだ、説明を望むくらい当然だろう」

 

 化学者の訴えは当たり前ではある。むしろ、今の話を聞いた上でなおも二つ返事で肯定出来る男の方が異常だ。

 余程隠したい事でもあるのか、トゥルは顎に手をやり暫し思考すると、観念したようにため息を一つ。そして左手を振るうといつの間にか、手品のようにカードが握られていた。

 

「仕方あるまい、貴方を黙らせるにはこれしかない。何も聞かずに協力して欲しい。協力してくれるのならば、報酬にこれを追加するのもやぶさかではない」

「おぉ、棚ぼたではないですか。どうせ貴方が一人でチマチマ研究するよりも、オリジナルをベースにパクっちまう方が遥かに手っ取り早いですし、もう断る理由がありませんねぇ」

 

 トゥルに反応した男の口から吐かれる言葉は、化学者への配慮という概念が失われた悪辣かつ純粋なものだ。

 そもそも男はこの組織の現リーダーなのだから、化学者一人の反論程度なら強権でどうとでもなるのだ。わざわざあんな事を言うまでもなく。

 

「……好きにすればいい、私は次元跳躍システムの研究が出来れさえすれば構わんよ」

 

 負け惜しみのように吐き捨てる化学者だが、庇うものは誰もいない。

 他に反対意見を口にする人物もおらず、組織としての方向性は決まったようなものである。

 

「アハハハっ! さぁ張り切って行きますかぁ、あの日以来のウィークス本格侵攻ですよ!」

 

 無邪気な、少年のような笑みとともに男は歩く。トゥルの発言を無視して、過去のあの日が脳裏をよぎる。

 奇しくもそれは、アヤメが遊羽達に彼女の世界に起きた悲劇を語るのとほぼ同時期であった。




どうも、作者のヌルです。
所謂過去編にして、動き出す物語です。
過去編といっても次で終わる予定ですけどね。
見てくれている皆さんも次回をお楽しみに。


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capture2惨劇を告げる来訪者

アヤメと玉座の男。
奪われたものと奪ったもの。
二人は同時に回想した。
悲劇の原点を、稀にみる愉悦を。


 あの日、アタシ達の街ではデュエルモンスターズの大会が行われていた。それは年に一度行われる、世界各国から決闘者が集まる大規模なものだったから、他の街の人達も大勢コロシアムに集まっていたの。アタシも超満員の中、無理をして最前列のチケットを取ったわ。

 参加者の中に、アタシの兄さんもいたから。

 

黒木 カタナシ:LP500 伏せ1 手札 0

アジマ ケン:LP400 伏せ0 手札 0

 

「いくぞ、ラグナ・ゼロで攻撃力の下がった闇より出でし絶望を攻撃!」

 

No.103神葬零嬢ラグナ・ゼロ

ランク4/水属性/天使族/攻2400

 

闇より出でし絶望

星8/闇属性/アンデット族/2800→2000

 

 兄さんのフィールドで効力を発揮していたのは強者の苦痛。オーバーレイユニットがなかったから効果は使えないけど、それでもラグナ・ゼロ自身の打点で突破可能だった。

 ラグナ・ゼロの舞うような一閃が絶望を切り裂き、中から光が溢れ出して破壊された。

 

「ぐ……うわぁぁぁっ!」

 

アジマ:LP0

 

 セーフティがつけられた立体映像は猛風とともにアジマをよろけさせ、それに合わせてスタントマン顔負けの勢いで吹き飛んだ。

 アタシ達の世界での決闘はこんなもの。勝敗よりもいかに観客を湧かせるか、それが最重視されていた。

 

『決着ぅぅぅ!!! 今大会最初の勝者は、初期型決闘盤を使う若き決闘者、黒木カタナシだぁぁぁ!!!』

 

 アナウンサーは喉が枯れんばかりに声を上げ、勝者の名を高らかに宣言する。その言葉を待っていたと歌うようにコロシアム中からの激しい歓声。

 兄さんは歓声に答えるために身体を動かしては手を振っていたわ。全観客に自らの顔を見せるために。

 

「おめでとう兄さんっ!!!」

 

 アタシも声を張り上げた。兄さんにこの声が届くように、アタシも、ここから見ていると主張するように。

 兄さんはそんなアタシを見つけると、いつものように柔和な笑みを向けてくれた。それだけでもう、どうしようもなく嬉しくて。

 

『ちょっ! お客さん、危険ですよっ!』

「え」

 

 気がついたらアタシは、フェンスから取り返しがつかなくなる程に前のめりな体勢になっていたんだ。

 天と地が反転する。景色がコロシアムから雲一つない青空へと変わる。髪を凪ぐ風。身体にかかる重力。アタシが落下していると分かったのは、フェンスで悲鳴を上げている人を見つけた時だ。

 高さは三メートル前後だけど、受け身を取れる余裕はなくて、怪我は必至な状態だから。

 

「アヤメっっっ!!!」

 

 背中に走る鈍い衝撃、舞う土埃。だけどアタシの意識は自分でも恐いくらいに鮮明だった。

 衝撃も全身ではなく、背中の一部に集中したような形。

 

「いってぇ……お前もしかして太ったか?」

「兄……さん……?」

 

 顔を右へ向けると、そこには見慣れた顔の兄さんがいた。兄さんの腕はアタシと地面の間に挟まれていて、身体を張って助けてくれたのだと、そこで理解したわ。

 直前まで危険だった反動か、無神経な質問にも思わず笑ってしまう。

 

『お客さん! 今日は皆スプラッタ映画ではなく、決闘を見に来たんですからね、最低限の安全には配慮して下さいっ!』

 

 アナウンサーからジョークを交えた注意を受ける。

 コロシアム中の視線が集中している事をようやく思い出したアタシは、顔を真っ赤にして兄さんと一緒に退場したわ。

 

 

 

 

「全く、冗談じゃ済まないぞアレは」

「し、仕方ないじゃない。兄さんの勝利で興奮してたんだから……!」

「あのなぁ……」

 

 そんな話をしたのは選手控え室。本来なら大会に出場していなかったアタシに入る資格はないのだけど、兄さんの付き添いという事で許可が下りたみたい。

 遠慮したのかそれとも偶然か、部屋の中にはアタシと兄さんの二人だけ。

 

「それより、決闘盤の調子はどう?」

「あぁ、今のところは何の問題もないな」

 

 言い、二人の視線が左腕に装着された初期型決闘盤に注がれる。

 物心がついた頃から兄さんと二人きり。親戚も現れず、今日を生きるのに必死だった。服や靴は拾いもの、食事は物乞いして恵んでもらう毎日。

 そんなアタシ達にとって、デュエルモンスターズは人並みに暮らすチャンスだった。プロになれば、スポンサーがついて莫大な賞金のかかった大会にも出場出来る。アマチュアでも定期的に開かれる非公式の大会である程度は稼げるけど、二人で暮らすには余裕があまりない。

 カードは拾うか他の人とのトレード。決闘盤はごみ捨て場に捨ててあったものを直して使用。そしてこの大会は多くの事務所も注目している、いわばプロへの登竜門。準備は万全過ぎる程に万全。

 

「最低でもベスト四にまで残れれば、半年はアパートの家賃に困らないな」

「何言ってるの、優勝するんでしょ。兄さん」

「ハハハ、当然そこが最終目標だよ。だけど、そこまでいければ、お前の分の決闘盤を買う余裕も出来るだろうなぁ、と思ってな」

 

 兄さんがそんな事を平然と口にするものだから、アタシは顔を赤くして部屋中を見回して備えつけてあるテレビを見つけて。

 

「そ、そろそろ次の試合が始まるよっ……!」

 

 端から見れば即座に照れ隠しだと分かる雑さと早口で意識をそちらに逸らした。幸い、兄さんも深く追及する事せずにテレビに映る光景へ目を向けてくれたのよ。

 テレビ越しに見える空の色は、これから起こる悲劇を暗示するように雲がかかっていっていた。

 

 

 

 

『遂に決着ぅぅぅ! 逆転に次ぐ逆転、事実上の決勝と言っても過言ではないシーソーゲームを制したのは、この街のチャンピオン、優勝候補の一角、コツヅカ イクマだぁ!』

 

 世界の壁が薄くなっているのか、外からアナウンスが聞こえる。どうやら僕が出る場所では何か大会を行っているらしい。

 隣に顔を向ける。そこには素性の分からない仮面の男、トゥルがカードを片手に立っていた。

 

「罠発動、亜空間物質転送装置」

 

 トゥルがカードをかざす。すると空間に亀裂が走り、世界の様子がより鮮明になる。そして限界を迎えた形なき壁がガラスのように砕け散った。

 外には奇異の目を向ける男が一人、唐突な出来事への影響か、見える範囲では観客の視線もここに集中している。

 全視線が集中、なんて心地いい響きだ。

 

「ハハハっ。会場の皆さんこんにちは!」

 

 気持ちが高ぶり、異次元から世界に入る途中でそんなふざけた事を口にしてみる。

 入った場所はコロシアムを連想させる造形をしていた。客席は見渡す限りの満席。こんなところで大勢に見られながら決闘出来るなんて……

 

「嫉妬しちゃいますねぇ」

 

 無意識的にそんな言葉を呟いていたらしい。視線の先にいたイクマは身構え、決闘盤を突き出す。服装は白のタンクトップにダボついたジーンズ。燃え上がるように逆立つ髪に、口を覆うスカーフにはドクロが描かれている。

 正直チャンピオンというよりもならず者の方がしっくりくる外見だ。

 

「どんな手品だか知らねぇが、ようはこれが目的だろ」

「流石はチャンピオン! 話が早いですよ」

 

 だがよく分からない理屈で登場した僕に対して決闘を挑もうとする辺り、確かに在り方はチャンピオンに相応しい。

 だから僕も心の中で称賛し、左腕を天に向け伸ばす。

 何も装着していない左腕にドス黒い綿が集まり、やがてハサミの片割れを模した決闘盤が出現する。

 

「妙な手品ばかりだな、手品師かよ」

「ハハハ、どうでしょうか」

『ちょっとそこのアナタ、何急に乱入して決闘しようとしてるんですか! スケジュールに響くんですよ。警備員さん! 早く追い出して!』

 

 しかしアナウンサーは不服なのか、乱入者である僕に対して、警備員を差し向けた。正面からは見えないが、革靴がアスファルトを叩く音が確実に近づいている。

 決闘者二人がやる気だというのに。全く、無粋な奴らだ……

 

「トゥールー、お願いしますよ」

「特別だ、認めよう」

 

 これで後ろから邪魔される心配はなくなった。心置きなくこの大舞台でイクマと決闘が出来る。

 イクマが僕に向けて右手を伸ばし、指を開く。

 

「五分だ、五分でケリつけてやる。大会進行も、それなら問題ねぇだろ!」

『で、ですがぁ……』

「クドイ!」

 

 どうやらただのマイクパフォーマンスではなく、アナウンサーを説得するための言葉でもあったらしい。

 まぁ、相手のノリに乗るのも一興。そう考え、僕も言葉を返した。親指だけ畳んだ右手とともに。

 

「なら僕は四分だ」

「おもしれぇ、やってみな!」

 

 お互いの決闘盤がデッキをシャッフルし、ライフカウンターが4000を表示する。運営側も観念したのか、大会用のモニターも連動してお互いのライフを公にした。

 

「決闘っ!」

 

 僕の言葉は自然にイクマの言葉と重なった。

 

イクマ:LP4000 伏せ0 手札5

アンノウン:LP4000 伏せ0 手札5

 

「俺のターン! 俺は暗躍のドルイド・ドリュースを召喚!」

 

星4/闇属性/魔法使い族/攻1800

 

 先行であるイクマのフィールドに現れたのは、両手に杖を持つローブを被った祭司。暗躍の名が示す通り、真意が悟られぬようにマスクで顔を覆っている。

 自ら前線に出る事なく儀式を持って兵士を支える後方職でありながら、そのステータスは十分戦闘にも耐えうるものだ。

 

「更に俺はレベル4モンスターの召喚に成功した時、手札からモンスターを特殊召喚する。現れよ、カゲトカゲ!」

 

星4/闇属性/爬虫類族/攻1100

 

 ドルイド・ドリュースの影から赤い瞳が怪しく輝き、光の元へと (うごめ)き分離する。

 正体は平面にしか感じられないトカゲ。影と同一の色合いというよりも、影から派生した存在といった方が相応しく思われた。

 

「レベル4のモンスターが二体……早速やるつもりですか?」

 

 チューナーではない同一レベルのモンスターを並べてやる事など、一つしか浮かばない。

 エクストラデッキに加える黒い枠組みのモンスター群……!

 

「へっ、分かってるじゃねぇか……俺はレベル4の暗躍のドルイド・ドリュースとカゲトカゲでオーバーレイ!」

 

 フィールドの中央に出現した渦に二体のモンスターが光となって飛び込む。そして、新星の誕生を意味する爆発。

 

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!

 地を這う光求めし一族よ、 () のものの咆哮に従い、世界を目指せ! 進軍せよ、キングレムリン!」

 

ランク4/闇属性/爬虫類族/攻2300

 

 渦の内より現れ出でるは、マントに似た白毛の皮膚をはためかせる二足の悪魔。黒き鱗は岩石の如く、被る王冠は名を象徴する。

 雄叫びが大気を震わせ、僕の肌をピリピリ刺激した。

 

「キングレムリンの効果発動! オーバーレイユニットを取り除く事でデッキから爬虫類族モンスターを手札に加える。俺が加えるのは、カメンレオン!」

 

 キングレムリンが周りを規則的に回転していたオーバーレイユニットを喰らい、先にも増して激しい雄叫びを上げる。それは (いくさ)の開幕を告げる号砲の代わりとして。

 しかし、しかしですねぇ。わざわざ開戦を告げる必要があるのか疑問ですよ。

 

「どうせ僕がすぐに勝つのに……」

『出たぁ、チャンピオンイクマ選手の万全なる布陣。闖入(ちんにゅう)者はこれを攻略出来るかぁ?!!』

 

 僕の呟きはアナウンサーの声と大声援に掻き消され、誰の耳にも残らない。

 まぁ、残ったところで関係はないですが。事実だし。

 

「更に俺はフィールドにカードを三枚伏せてターンエンド! さぁ、お前の番だ乱入者!」

 

イクマ:LP4000 伏せ3 手札1

 

 イクマから僕へとターンが移り、歓声がブーイングへ変換される。何の嫌がらせか、耳に飛び込んでくる声量は殆んど変わらない。

 

「随分とアウェイな空気ですねぇ」

「『随分とアウェイな空気ですねぇ』? 当たり前だろうが、観客はお前が俺に敗北する様を期待しているんだからな」

 

 それは酷い。僕がその要望に答える事が出来ないではないか。

 

「僕のターン、ドロー。手札から魔法カード融合徴兵を発動します。効果としてエクストラデッキにある融合モンスター、デストーイ・シザー・タイガーを見せる事で素材として記述されているカード、エッジインプ・シザーを手札に加える」

「はぁっ? デストーイィ? エッジインプゥ? なんだそら」

 

 イクマが名前を口にし、目を丸くした。初めて聞くのか、観客もどよめく。

 彼らからすれば未知のカード群、多少は盛り上がるかな。

 

「残念ながらこの効果で手札に加えたモンスター及び同名モンスターを召喚、特殊召喚出来ず効果も発動出来ないんですよ。ですから僕はファーニマル・ドッグを召喚!」

 

星4/地属性/天使族/攻1700

 

 僕のフィールドに可愛らしいぬいぐるみのような犬型モンスター。

 その愛らしさにか、子供や女性から黄色い声援が向けられた。だけど、可愛らしいだけじゃあないんだよなぁ。

 

「ファーニマル・ドッグの効果だ。手札からの召喚、特殊召喚に成功した時、同名モンスター以外のファーニマルかエッジインプ・シザーを手札に加える。ここはファーニマル・ラビットを加えようかな」

 

 ドッグの鳴き声はキングレムリンのような勇ましいものではなく、同類を呼ぶ柔らかいものだ。

 デッキから飛び出るカードを引き抜く。当然ながら要望通りのカードである。

 

「さぁて下準備は整った、イッツショータイムっ!」

 

 右手を突き上げ、指を鳴らす。乾いた音がコロシアムに響き会場を静寂に落とす。

 そして手札のカードを高らかに宣言した。

 

「魔法カード、融合を発動! 素材として手札のエッジインプ・チェーンとフィールドのドッグで融合!」

「融合だと……!」

「そうさ! 鎖に宿りし悪魔の片鱗、玩具に取り憑き災禍をもたらせ!

 融合召喚! 悪魔の依り代、縛られた羊! デストーイ・チェーン・シープ!」

 

星5/闇属性/悪魔族/攻2000

 

 ドッグの全身にチェーンが食い込み、不自然な形で膨張していく。やがて風船のように破裂して、一面を布と綿で埋めていった。

 声援を上げていた観客も思わず言葉を失う。子供のものか、ワンワン泣き叫ぶ声もした。

 かつてドッグがいた場所には、代わりに羊のぬいぐるみがあった。だが、ただのぬいぐるみではない。全身を歯車に絡まった鎖を巻きつけ、目に値するパーツがバラバラの場所を向いている。

 

「なんだその不気味なモンスター……!」

 

 ステータス以上に外見で恐怖しているのか、イクマが僅かに後ずさった。

 それを見た僕は、笑いを堪えながら口を開く。

 

「アッハハハ。何を(おそ)れる、何を(こわ)がる? 表に出さないだけで貴方達にもあるでしょう?」

 

 そう、他者と手を繋ぐ裏で笑いながら蟻を潰す子供のように。

 それは無邪気な残虐性、誰の心の内にもある感情の一つ。

 

「更に墓地へいったエッジインプ・チェーンの効果だ。デッキからデストーイカードを一枚手札に加える!」

「またサーチカードか……」

 

 イクマが悪態をつこうが関係ない。何故ならショーはまだ始まったばかり。

 エンドロールには早過ぎる。

 

「そして手札へ加えたカード、デストーイ・ファクトリーを発動! このカードは融合またはフュージョンカードを除外して、デストーイモンスターの融合召喚を行える!」

「一ターンに二度の融合召喚だとっ?!!」

 

 元来融合召喚とは最低でもモンスター二体と融合一枚、計三枚のカードを消費する召喚方法。並大抵の決闘者なら一ターンに一度、酷ければ決闘中に一度出来ればいい方だ。

 だが僕のタクティクスならどうだ。

 

「僕が素材にするのは手札のエッジインプ・シザー、そしてファーニマル・ラビットとキャットの計三枚だ!

 刃に宿りし悪魔の片鱗、玩具に取り憑き災禍をもたらせ!

 融合召喚! 悪魔の依り代、刻まれた猛虎! デストーイ・シザー・タイガー!」

 

星6/闇属性/悪魔族/攻1900

 

 三体の玩具を切り刻み、綿の奥から姿を晒したのは身体を輪切りにされ、ハサミと糸でデタラメに繋ぎ合わされた虎。

 両断された口の内から覗く眼光は、まさしく悪魔のそれだ。

 

「タイガーは効果で素材にしたカードの数だけ、フィールド上のカードを破壊出来る。その前に、ラビットとキャットの効果でファーニマル・ドッグと融合を手札に戻します。さぁて改めまして……厄介そうな貴方のバックにはご退場願おうか!」

 

 融合素材は三体、イクマが伏せたリバースカードも三枚。召喚反応はなかったとはいえ、全てがブラフとも考え難い。

 タイガーの腹から露出したハサミが伸び、イクマの眼前に一度突き刺さり、伏せられた三枚のリバースカードを豪快に引き裂いた。

 

「くっ……!」

「おやおや、ミラーフォースにリビングデット、それに昇天の黒角笛(ブラックホーン)ですか。危ない危ない、神の宣告がなくてよかったですよ」

 

 チェーンを作らない召喚方法潰しに攻撃反応、そして蘇生カードとは予想以上に綱渡りだったようだ。

 だがこれで残るは高々攻撃力2300程度の王様だけ。

 

「へっ、だがキングレムリンの攻撃力は2300! ご自慢のデストーイじゃあ届いていないぜぇ!」

「ところがですねぇ、タイガーの効果によりデストーイモンスターはデストーイとファーニマルの数につき300攻撃力を上げられます。つ・ま・り」

 

 タイガーは2500、シープは2600まで攻撃力が上昇する。

 

「さぁバトルだ。チェーン・シープよ、哀れな王様を吹き飛ばせ!」

 

 チェーン・シープの鎖で詰まった口から放たれた赤黒い怪光線は、キングレムリンを破壊してなおも収まらず、イクマのすぐ脇を通り過ぎてコロシアムの壁へ直撃した。

 

「ぐっ……なんだこの衝撃、ソリッドヴィジョンじゃねぇのかっ?!!」

 

イクマ:LP3700

 

 イクマの言葉は、コロシアム中の観客が抱いた疑問の代弁である。なにせイクマの背後の壁は、砂煙を浮かべて崩壊しているのだから。

 お遊びとしての決闘しか知らない彼らでは仕方ない事か。

 

「まだ持って下さいよぉ、次はシザー・タイガーだぁ!」

 

 シザー・タイガーが両手を伸ばすと、イクマの肩を離さないように硬く握る。

 腕を繋げるハサミが畳まれタイガーが急速度でイクマへ迫り、腹部の閉じたハサミがイクマの身体を貫いた。

 

イクマ:LP1200

 

「ぐぅあ……!」

「イヤァァァァァァっっっ!!!」

 

 イクマが肺から空気を吐き出し、観客から絶叫が連鎖する。どよめきも最大まで高まり、騒然とした。

 タイガーが離れ、イクマの身体が露になる。端から見る分には傷がない、しかし、イクマは確かに感じたのだ。身体を異物が通り抜ける激痛を。

 右膝に土をつけるが、その瞳から未だ闘志は失せていない。

 

「大丈夫ですかぁ、立てますかぁ、サレンダーでもしますかぁ。チャンピオンさぁん?」

「あぁん……?」

 

 僕からの挑発を怒気で返すと、イクマは貫かれた腹を抑えながら立ち上がった。

 こんなところで終わっては締まらないという点を考慮すれば、それだけ意思がある事は素直にありがたい。

 

「なら僕はこれでターンエンド。さぁチャンピオン、ひっくり返してみて下さいよ、この危機を!」

『イ、イクマ選手の布陣をほぼ瓦解……なんだこの決闘者、なんでこんな人が今の今まで無名だったんだぁ?!!』

 

イクマ:LP1200 伏せ0 手札1

アンノウン:LP4000 伏せ0 手札3

 

 果たしてイクマは今どれだけ状況を冷静に見れているだろうか。

 こちらには強力な融合モンスターが二体、手札も十全。一方、イクマは優秀なチューナーこそ手札にあるが、墓地を考慮すれば逆転に手は届かないはず。

 自然、デッキトップに置かれる手にも力がこもる。

 

「俺のターン……ドロォォォォォォっっっ!!!」

 

 イクマは渾身の力を込めて引いたカードを視認し、口元を吊り上げた。

 

「俺はカメンレオンを召喚っ!」

 

星4/地属性/爬虫類族/攻1600

 

 何もない空間から浮かび上がるのは、派手な装飾が施された仮面を思わせる顔のカメレオン。

 ここまでなら僕の想定内。さぁチャンピオン、ここからどうする。僕は軽く腰を落として身構えた。

 

「カメンレオンの効果だ、墓地に存在する守備力0のモンスター一体を選択して特殊召喚する。俺が釣り上げるのは、暗躍のドルイド・ドリュースだっ!」

 

 カメンレオンが舌を伸ばし、先端が地面へと消える。地面から現れた時には、ドルイド・ドリュースが舌を掴んでいた。

 再びフィールドに並ぶ二体のレベル4モンスター。だがその片割れはチューナーモンスター、ならばエクシーズではなくアレが来るか。

 

「シンクロ召喚、かな……」

「分かってるか、だが関係ねぇ。止めれるもんなら止めてみやがれっ!!!」

 

 チューナーという専用のカード、そして召喚先のモンスターと等しいレベルを必要とする召喚方法。レベルが1でもズレれば召喚出来ぬ代わりに、そのスペックは他の比ではない。

 カメンレオンが緑に輝く四つの輪となり、ドルイド・ドリュースを内に招く。そして入ったドルイド・ドリュースが四つの光球となり、輪を通過する閃光と合わさった。

 

「レベル4暗躍のドルイド・ドリュースに、レベル4のカメンレオンをチューニング!

 集いし瓦礫が新たな神話を構築する。全てを纏いて勝利を掴め! シンクロ召喚、存在を主張しろ、スクラップ・ドラゴンっ!」

 

星8/地属性/ドラゴン族/攻2800

 

 やがて閃光が形を成し、デストーイ達を上回る巨体を誇る龍となる。二ヶ所に取りつけられた排気口から蒸気を吹き出して浮遊する龍。全身を瓦礫で構築しながら、みすぼらしさどころかむしろ美しささえ持つその容姿は、一瞬で観客の心を掴む。

 

『出、出たぁぁぁ! イクマ選手のエースモンスター、スクラップ・ドラゴンっ! いけぇ、それであの闖入者を叩きのめせぇ!』

「イクマっ、イクマっ、イクマっ、イクマっ!!!」

 

 アナウンサーに煽られ、観客も盛大にイクマコールを行う。

 随分と贔屓が酷いアナウンスだ。

 

「カードを一枚セットし、スクラップ・ドラゴンの効果発動! 俺とお前のカード一枚づつを選択して破壊する。俺は今セットしたカードとお前のデストーイ・シザー・タイガーを破壊するっ!」

 

 イクマに指を差され、シザー・タイガーが驚いたように飛び上がる。

 ドラゴンが重低音のする咆哮をし、それを合図にリバースカードとシザー・タイガーを飲み込むように瓦礫が侵食した。

 

「スクラップ・ボイスっ!」

 

 イクマの言葉を合図に頭まで飲まれたシザー・タイガーとカードが限界を迎え光となる。

 これに伴い、チェーン・シープの攻撃力も弱体化して元通りの2000へ戻った。

 

「バトルフェイズ! スクラップ・ドラゴン、チェーン・シープを薙ぎ払え! スクラップ……バーストォ!」

 

 ドラゴンの口から無数の屑鉄が鉄砲水の如く迫り、然したる抵抗もなくチェーン・シープをズタズタにして破壊する。

 爆風がイクマや観客から僕の姿を覆い隠した。

 

アンノウン:LP3200

 

「先に言っておいてやる。俺が破壊したカードはスキル・プリズナー、墓地から除外する事で選択したモンスターを対象にしたモンスター効果を無効にする。例えシザー・タイガーを出そうが無駄だ!」

 

 なるほど。墓地から発動可能なカードを破壊する事で状況を有利にしたのか。

 それといい、攻撃力を上昇させているシザー・タイガーを冷静に処理した事といい、チャンピオンの称号は伊達ではない。

 そう思い、僕はゆっくりと拍手をした。

 爆煙が晴れ、イクマと観客が僕の姿を視認する。

 

「何のつもりだ、まさか、もうサレンダーするつもりじゃあねぇよなぁ?」

「まさか、素直な称賛ですよ、見事なプレイングへのね。僕でなければもっと追い込まれ、いや、下手をすれば敗北したかもしれない」

「僕でなければ、か。大した自信だな」

「当然じゃあないですかぁ!!!」

 

 そう口にして、僕は右腕を再び天へと突き伸ばす。それに呼応して、地面を突き破り鎖が金切り声を上げて浮上した。

 

「な、なんだ一体?!」

「お礼です、教えて上げますよ。デストーイ・チェーン・シープは戦闘または相手のカード効果で破壊され墓地へ送られた場合、一ターンに一度蘇生するっ!」

「一ターンに一度だとっ!!!」

 

 軋む歯車が鉄屑を撒きながら回転して、鎖が地面から巻き上げられる。

 やがてコンクリートを突き破り、焦点の合っていない目が日の目を浴びる。そして苦悶の呻き声をコロシアム中に響かせ、デストーイ・チェーン・シープが蘇った。

 

「更にこの効果で蘇ったチェーン・シープの攻撃力は800アップするっ!」

「なん……だと……!」

 

 これでチェーン・シープとスクラップ・ドラゴンの攻撃力は並んだ。そしてこちらは一ターンに一度、蘇生する。

 

「ターン……エンド……!」

 

イクマ:LP1200 伏せ0 手札0

アンノウン:LP3200 伏せ0 手札3

 

 イクマは絞り出すように口にする。

 それが当然だ、彼なら理解しているはずだ。この決闘の勝者がどちらかを。

 

「さぁ、僕のターン、ドロー。そのままバトルだ、やれ、デストーイ・チェーン・シープ! スクラップ・ドラゴンを攻撃っ!!!」

「くっ……迎え撃て、スクラップ・バーストっ!」

 

 チェーン・シープが心なしか、先程よりも強大な怪光線を放つ。スクラップ・ドラゴンも屑鉄を放つが怪光線と衝突して、両者共に爆発する。

 これでスクラップ・ドラゴンは消えた。だが!

 

「デストーイ・バックアップ!」

 

 先と同じ要領で再び蘇生するチェーン・シープ。

 これで次の攻撃を遮るものは何もない。これで最後だ!

 

「さて、もう一撃だ、チェーン・シープっ! 猿山のチャンピオンを引きずり落とせぇ!!!」

「ぐぅ……グゥアァァァッッッ!!!」

 

イクマ:LP0

 

 三度放たれた怪光線は、地面に灼熱のラインを刻みながらイクマの元へと迫り、彼の身体を宙へ浮かせる。

 ばら蒔かれたカードは紙吹雪のように最期を演出して、イクマは赤黒い光となってこの世界から消滅した。

 

「アッハハハハハハハハハァッ!!!」

 

 彼のいた場所に、決闘盤が乾いた音を立てて落下する。それを合図に僕は久々に大声を出して笑った。確か、それに合わせたかのように、青空が完全に雲で覆われていた。




どうも、ヌルです。
すみません。このままじゃ当分決闘がないと判断した結果、急遽発生した決闘パートです。そして次回も過去編です。
次、次回こそ過去編が完結するように努力する所存でございます。


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