ブラック・ブレット 夜の海と蓮の華 (神流朝海)
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春先のこと

前から書きたかったブラック・ブレットの二次です。
問題児、黙示録アリス、ソードアートを書いていますが、どうしても書きたかったので、書いてみました。
受験が終わり次第、バンバン投稿しようと思いますので、もう少し待っていただけるとうれしいです。

では、ブラック・ブレット 夜の海と蓮の華、スタートです。


春先。

夕刻のあかね色に染まった空の下、住んでいる部屋の隣の部屋の出入り口・・・もとい玄関前で見たことないおじさんが・・・警察だろうか。が、線の細い少年を脅していた。

「あぁん?お前が俺達の応援に駆けつけた『民警』だぁ?馬鹿も休み休み言え。まだガキじゃねぇか!」

ド迫力の顔を近づけられた少年は、覇気の瞳で視線を斜めに逸らし、ぼんやりと空を見ていた。

そして、もう帰りたい、と思っているのか、ぼやく。

「んなこと言われても仕方ねぇだろ。俺が応援に来た民警だよ。『天童民間警備会社』の里見蓮太郎だ。ちゃんと拳銃もライセンスも持っている」

見ていても退く気配がないことを知った私は、通路に陣取っている警官に話しかける。

「あの、お取り込み中悪いのですが、私、家に入ってもいいでしょうか?」

「ん?この部屋に住んでいるのか?」

蓮太郎、と名乗った人物が聞いてくる。見たところ高校生くらいだろうか・・・あれ?

「もしかして、勾田高校に通ってますか?」

「ん?ああ、そうだけど・・・って君も勾田高校の制服着てるな。で、質問の答えは?」

「ああ、いえ、その部屋の隣ですよ。・・・同業者なら大丈夫ですね。はやくガストレア倒しちゃってください。里見君」

「おう、わかった。・・・は?同業者?それになんでそんな呼び方?」

里見君の「おう、わかった」の声を聞き、扉を開けて部屋に入った。

 

「はぁ・・・私ってついてないなぁ」

ドアを開け、リビングに入ると、そのリビングの半分はダンボール箱で埋まっていた。

なんと、今回で三度目の引越しである。

前の二回のも、ガストレアによって隣の部屋や上の部屋が壊されたりして、引越しをしたのだ。

今回も、だ。

「あ~あ。ほんとついてない」

「さっきからついてないついてないしか言ってないね」

「あ、ごめんね。待たせちゃって」

「ううん。別にいいよ。いつものことだし」

「あはは、以後気をつけます、と」

「ふむ、そうしなさい。というくだらない会話はここまでにして、晩御飯つくろ?」

「そうだね。何にする?月夜」

「う~ん・・・」

私が買ってきた食材を見ながら月夜がうなる。

「もやしに・・・お肉に・・・・・・・」

ご飯の内容を決めるのは、いつも月夜の仕事だ。

私は適当なものを買ってくるだけだ。

「う~ん。よし!決めた。今日は野菜炒めにしよう」

「了解。じゃ、作り始めるとしますか」

 

IP序列234位。

「神流式抜刀術」免許皆伝という実力を持っている、神流海夜(しんりゅう みよ)

その海夜のイニシエーターで、モデル・マンティスの影ノ月夜(かげの つきよ)

2人は野菜炒めを作るために、せっせと準備を始めて間もなく、

ドガッ!という隣の部屋の扉が蹴破られる音。

「ああ・・・やっぱ先に引っ越す?平和に食事はしたいな」

「・・・そうだね。いくら私と海夜で序列234位っていっても、食事くらい平和にしたいし」

 

急いで荷物を片付け、たくさんのダンボール箱をもって、その借りていた部屋をでた。

もうすでに借りているアパートに向かい、歩いている途中、

 

「―――蓮・太・郎・の・薄・情・者・めぇぇぇぃ」

 

大声で怒鳴る声が聞こえて、私と月夜は足を止めた。

「あれは“呪われた子供たち”ですね。見たところイニシエーターのようですけど」

「だよね。しかも蓮太郎って・・・」

里見君、イニシエーター無しでガストレアと戦闘したかったの?いた方が絶対安全なのに。

そのまま通り過ぎようとしたら、その里見君のイニシエーターらしき少女に、ある男が近づいてきた。

「あれは―――」

「ガストレアに・・・なりますね」

「ちょっと荷物見てて!私、いってくる」

「はい。あの程度で怪我したり、あの子に怪我させたりしたら、怒りますからね?」

「あはは、万が一にもそれはない!」

愛刀を腰に差し、蓮太郎のイニシエーターに向かって走る。

なにやら、その男と少女がしゃべり、少女が頷く。

そして、あの男が、ガストレアに変わる。実にあっさりと、人間の形がなくなる。

いつ見ても、これだけは慣れない。

「「ガストレア―――モデル・スパイダーステージ1を確認。これより戦闘に入る!・・・え(は)?」

「広い十字路の角から現れたのは、里見君だった。

「もうここまで来たの!?」

「なんであんたがいるんだ!?とりあえずこいつを―――ぐあああああッ」

突然蓮太郎が叫びを上げる。

理由は、里見君のイニシエーターであろう少女の放った蹴りが、里見君の股間に食い込んだからだ。

里見君は股間を押さえたまま膝をつき、そのまま地面に額をつける。

・・・きっと私には理解できない痛みが彼を襲っているのだろう。

だが、それでも里見君は歯を食いしばって顔を上げる。

「あの・・・大丈夫?」

「ここ蹴られて大丈夫なわけないでしょ・・」

「妾を自転車から放り出しておいて、よくもぬけぬけと妾の前に顔をだせたな」

「お、怒ってんのかよ?」

「え?そんなことあったの?それは里見君が悪いんじゃ・・・?」

「当たり前だ。全部蓮太郎が悪い・・・え?誰だ?」

「この子里見君のイニシエーターだよね?」

「ああ、そうだ。藍原延殊。モデル・ラビットの俺のイニシエーターだ」

「私は神流海夜。私も民警だよ。私のイニシエーターは・・・と置いてきたままだった。月夜、こっちにおいで」

「・・・あの、荷物は?」

「持ってきて」

「・・・・はぁ」

ため息をつきながらも、月夜が荷物を持って近づいてきた。

ダンボール箱が上に十個積んである。

「で、この子が私のイニシエーターの影ノ月夜。モデル・マンティスだよ」

 

その時、私たちの会話に割り込むように銃声が轟いた。遅れて現場に着いた、おそらく警部であろう人物の手には、硝煙をあげるリボルバー拳銃が握られている。

「おい、お前ら。敵を放って自己紹介か?仕事しろ民警!」

「はいはい。あ、あとガストレアに撃つなら普通の弾じゃなくてバラニウム製のやつにしてよね」

ガストレアを見ていたなら、よくわかる変化が見られた。

警部の撃った弾は、産まれて間もないガストレアの皮膚を貫いたが、今はその部分が再生している。

ガストレア、という生物は、バラニウムという金属でしか倒せない。

もしくは一瞬で跡形もなく吹っ飛ばすとか?

そういうことをしないといけない。

 

「里見君!警部さ―――」

私が里見君に指示をだそうとした時、すでに彼は動いていた。

警部さんに向かって。そのまま体当たりをして、警部の上体を倒す。

巨大蜘蛛が低い姿勢でジャンプし、2人がたったいまいいたところを通り抜けていった。

「あはは、里見君って結構やるんだね」

愛刀を持って、ガストレアに近づく。

「おい、バカ、離れろ!」

「あはは、里見君、心配してくれてるの?それはうれしいな」

私は笑いながらも、真剣に構える。

 

迫ってくるガストレアの動きをよく見て、居合いを解き放つ。

 

「神流式抜刀術 二の型一番、『夜明け』」

 

神流式抜刀術の二の型は、居合いの型。

刀を抜いた瞬間に斬りつけ、一刀両断する初歩的な抜刀術。

 

「ふぅ。終わった」

「いやいや、終わってねぇだろ。まだ元気に動いてるじゃねぇか」

いつのまにか里見君が私の隣に来ていた。

銃をガストレアに向けたまま。

「ううん。終わったよ」

「終わりましたよ。里見さんには見えなかったんですか?」

「見えたもなにも・・・は?」

 

突然ガストレアの動きが止まったかと思うと、ガストレアが真っ二つにされて、倒れた。

いや、まじで?木更さんみたいな人だな。

「むちゃくちゃ斬った跡きれいなんだけど」

「そりゃもちろん。私が斬ったんだから」

さも当然という様に返してくる。

「私の名前、神流海夜なんだけど。聞いたことない?」

「神流海夜・・・?聞いたことないな・・・」

「あ、そうなんだ。ま、お互いがんばろうね」

「おう、会社はどこに所属してるんだ?」

「え?会社になんて属してないよ?」

「は?民警なんだろ?仕事は?」

「いや、私のとこには個別に依頼が来るし」

「・・・は?それってどうい―――」

「蓮太郎!今度月夜の家に遊びに行ってもいいのか?」

「え、もうそんなに仲良くなったの?」

「延珠、それは俺じゃなくて神流に聞けよ」

「え、私?別にいいよ。これから家に荷物置きに行くんだけど、一緒に行く?」

「あの、さっきから警部さんがこっちを見てるんですけど」

 

月夜の一言で、思い出す。

「そうだ、延珠。お前、形象破壊起こす前に被害者と話していたけど、何か言ってたか?」

延珠が神妙な顔で、頷く。

「うん、妻と子供によろしく伝えてくれって言ってたな」

「そうか・・・ガストレア倒したの神流だけど、どう報告するんだ?」

「じゃあ、里見君の手柄でいいよ。別に生活に困ってるわけじゃないし。引越し業者を使わないのはいつもだし」

「そうか、わかった。ごめんな。横取りみたいなことして」

「いやいや、気にしなくていいよ」

その言葉を聞いて、時計を見る。姿勢を正し、警部に敬礼する。

「二〇三一年、四月二十八日一六三〇、イニシエーター藍原延珠とプロモーター里見蓮太郎。ガストレアを排除しました」

「ご苦労。民警の諸君」

警部も同じく敬礼をする。

この場の最高責任者だ。一応報告をしておかないと。

 

が、そこで月夜が思い出したかのように言う。

「あ、そういえば、海夜。もやし買ってきてたけど、今日タイムセールだからその時買えばよかったのに」

「だってそこまでするほど貧乏じゃないでしょ。だってまだ講座に××億円あるし」

そんな爆弾発言を海夜がしたのだが、蓮太郎には聞こえていなかったようだ。

そもそも預金××億円など、どうやったらたまるのだろうか・・・?

そんな大金があれば、一々ぼろいアパートに住まなくてもいいだろうに・・・

 

「え?・・・ああッ」

蓮太郎は慌ててポケットから今日の折込チラシを取り出す。

蓮太郎の顔から、血の気が引いていく。

「えっと・・・大丈夫?」

血の気が引く理由は、なんとなくわかった気がするけど、一応聞いてみる。

けど、私の問いには答えを返さず、走り出す。

「お、おいもう行くのか?」

「ああ!また仕事あったら回せよな」

「ところでなんでそんなに急いで―――」

「もやしが一袋六円なんだよ!!」

・・・・やっぱり。

 

走り去っていく後ろ姿と、その後ろをじゃれつく子犬のようについていく後ろ姿を見ながら、警部が言った。

「もやし・・・だと?」

「あはは、あの2人、お金に余裕がないみたいで」

「主任、無事でしたか?」

声のした方に振り返ると、警部さんの部下らしき人たちがいた。

その部下らしき人たちは、死んでいるガストレアを見ると、言った。

「あいつら、新米みたいですけど、使えそうですね」

「さぁな。それより『IP序列』聞くの忘れたな」

「で、あなたは?あなたも民警のようですが」

「あ、私?私は神流海夜。で、イニシエーターの影ノ月夜。IP序列は、234位」

「なっ!本当にか?」

警部が驚きの声で聞いてくる。

「そうだよ・・・ん、なに?月夜」

「海夜、そろそろ行かないと。大家さんにも挨拶とかしないといけないし」

「あ!そうだった。ではこれで・・・っと忘れてた。ガストレア退治の報酬は?里見君に渡しとくから、頂戴」

「あ、ああ、これだ」

警部が差し出した封筒を取り、ダッシュで家に向かった。

・・・もちろん。たくさんのダンボール箱を持って。

 

「あの2人、234位って本当ですかね・・・?」

「・・・確かに、あの剣術はすごかった。だが、こんなところにそんな序列が高い奴がいるのか・・・?」

「何者なんでしょうね・・・彼女たち」

「・・・さあな。俺にはわからん」

「あ、煙草ですか?」

「いいだろう?あいつが助けてくれなかったらなかった命だ」

 

警部は久しぶりの煙草に火をつける。

煙草をすっている間、ずっと、眺めていたのは、聳え立つバラニウムでできたモノリスだった。




どうでしたでしょうか?
わかりやすいように書けていればいいのですが・・・

オリ主は神流海夜と影ノ月夜です。
今後もよろしくお願いします。

読んでくれてありがとうございました。
問題とかありましたら感想までお願いします。
感想書いてくれたらうれしいです


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お隣さんと天童民間警備会社

こんにちわ。
受験まであと三週間!
という日に書いている今日この頃。
海夜「勉強したほうがいいんじゃない?」
・・・・・・
海夜「まぁ、私達の物語が進むなら別にいいんだけど~」
・・・・・・
勉強はもちろんやってますよ。これ書く前に2時間やりました。
書き終わった後も2時間する予定です。

はぁ~。はやく入試終わらんかなぁ。


では、どうぞ



―――引越しと大家さんへの挨拶を終え、料理を作り始める。

「別にぼろいとこにこなくてもいいじゃないですか」

「はいはい、そういうことは言わない、月夜。別に豪華な環境に慣れてないし、私はこっちの方が好きだし」

「まぁ、私も豪華よりこっちのほうがいいですけど・・・」

「じゃあ、いいじゃん。あ、そうだ。お隣さんに挨拶に行かないと」

これもすでに三回目である。まぁ、別に問題ないけど。

持ってきたダンボール箱の一つを持って、お隣さんの部屋の前に行く。

 

「あの、すみません。隣に引っ越してきたものですが」

「あ、ああ。は?引越しとかあったっ・・・け!?」

「あ、はい。さっき・・・え!?」

扉を開けたのは、里見君だった。

「え、ちょ、え?」

「な、なんでここに?」

「いや、それはこっちのセリフなんだけど」

「いや、俺のセリフだろ」

「まぁ、いいや。はいこれ」

「ん、さんきゅ・・・!?これは・・・?」

「うどんだよ。トッピングも入ってる」

「・・・ありがとうございます!」

「蓮太郎、誰か来たのか?」

「ああ、お隣さんだ。ほら、こんなにうどん貰ったぞ!」

「やったぁ!・・・あれ?さっき会った人だ!月夜は?」

里見君のイニシエーターである藍原延珠・・・これからは延珠ちゃんって呼ぼうかな。

「ああ、ごめんね。延珠ちゃん。今ごはん作ってる最中だったから、月夜は部屋なんだ。・・・で、なんで服着てないの?」

「あ!お前、まだ服着てなかったのかよ!?」

「え、里見君ってそういう趣味?」

「いや待て!違う!断じて違うからな!」

「蓮太郎、そんなことより月夜のところ行っていいか?」

「そんなことじゃねぇ!いや、ほんとにマジで違うからな!」

「あはは、冗談だよ。ごめんね延珠ちゃん。また今度ね」

「ああ、なんつーか、ありがとな」

「いえいえ。これからもよろしくお願いします」

 

最後に一礼して、自分の部屋に戻る。

「ずいぶん楽しそうでしたね」

「うん。ほんと偶然。よかったね、月夜。いつでも延珠ちゃんに会えるよ」

「はい。声でわかりました」

そう言いながら、月夜が少し微笑む。

これは本物の笑顔だ。

それがわかるようになるまで、1年もかかった。

会ったばかりの頃は、おとなしい、というのが第一印象だった。

めずらしいな、と思いながら、一緒に生活をしていた。

けど、それは1年前に変わった。

1年まえのある日、あることに気づいて、月夜をよく見るようになった。

そしてわかったのが、月夜が周囲の空気にあわせて笑っている、ということだった。

でも、私と一緒にすごしていく中で、月夜は変わっていった。

少しずつではあるが、本物の笑顔を見せてくれるようにもなった。

「あ、そこのお皿取ってください。作り終わりましたよ」

「はいは~い」

 

少し前に聞いたのだけど、海夜は幼い頃、家族全員が何者かに襲撃され、殺された時に、右目と脳の一部を銃弾に貫かれ、瀕死の重傷を負った。

そして、病院に運び込まれ、手術を受けた。執刀医の名は、室戸菫医師。当時計画されていた『新人類創造計画』の最高責任者だった。

右目も脳の一部もバラニウム製の義眼、義臓で補った、と言っていた。

もちろん、私たち“呪われた子供たち”にも性格はある。

でも、海夜はその一部が欠けている。

時には、今のようにまったりな性格になったり、クラスをまとめる学級委員みたいになったり・・・と性格がころころと変わっている。

本人は無意識のようで、そのことには気づいてないけど。

けど、私はこの人に救われた。

たくさんの暴力や虐待を受けてきた私は、人を信じる、ということができなくなってしまっていた。

海夜に出会わなければ、きっと、そのままだっただろう。

今は少しかわりつつあるのが、自分でもわかる。

そしてなにより、今が楽しい。

だから、

「いただきま~す」

「いただきます」

この人についていくのだと、決めたんだ。

 

―――――

 

食事を終えて片づけをしていると、隣の部屋から大きな声が聞こえてくる。

「元気ですね。お2人とも」

「あはは、そうだね~。・・・明日も学校あるし、早く寝ようか」

「そうですね」

私も海夜も布団に入る。

海夜はすぐに眠ってしまった。

その、自分のプロモーターの寝顔を見て、小さく笑ってしまう。

そして、考えてしまう。

「いつか、この人ともお別れなんですね・・・」

私たち“呪われた子供たち”には。「体内侵食率」という避けられない壁がある。

侵食が遅いだけで、いつかは私もあの男性のようになるのだ。

それが何日後、何年後になるかはわからない。でも、

「できるならずっと、この人と一緒にすごしていたいな」

そう、思う。

 

 

―――――

「・・・てください・・・起きてください」

「・・・ぇ?ああ、おはよ、月夜」

「おはようございます。朝ごはんは作ってありますから、早く食べてくださいね。でないと遅刻しますよ?」

遅刻しますよ。という言葉に、私は時計を見る。

「・・・え?うそ!?もうこんな時間!?」

「これでも結構起こそうとしたんですよ?」

「うっ・・・まぁけど、ありがと。早く食べて行かなきゃ!」

 

・・・数十分後・・・

 

「ごちそうさま!じゃ、行ってきます!」

「はい、行ってらっしゃい」

ガチャッと勢いよくドアを開けて飛び出すと、

「うぉ!?あっぶねぇ」

「あ、ごめんね里見君。それとおはよ」

開けたドアが通路を通っていたらしい里見君にぶつかりかかった。

「大丈夫だけど・・・って延珠!学校遅れるぞ!」

「ま、待つのじゃ蓮太郎!」

「あ、よかったらタクシー乗ってく?」

「・・・え?いまなんつった?」

聞こえなかったのかな?もう一回言ってみる。

「よかったら、タクシー乗ってく?」

「い、いいのか?」

「ん?なんで?」

「いや、タクシー代は?」

「ああ、いいよいいよ。さっきのお詫びってことで。ほら、行くよ」

「あ、ああ。すまないな。よし、延珠、行くぞ」

「わかったのだ!」

階段を下りているとき、気になったことを話した。

「延珠ちゃんを学校に通わせてるの?」

「ああ、そうだ。もちろん延珠が“呪われた子供たち”であることは伝えてない」

「大丈夫なの?」

「今は友達もたくさんできてるって延珠が言ってたし、たぶん大丈夫だ」

「じゃ―――」

「蓮太郎!海夜!はやく来るのじゃ!」

「あ、おい。昨日会った人を呼び捨てにするなよ」

「え?別にいいよ?」

「いいのかよ・・・じゃあすまないけど今日は頼む」

「うん、いいよ」

そこで、アパートの前に停まっているタクシーについた。

私はタクシー会社と、毎回同じ人、そして決まった時間にここに来るように契約をしている。

そのタクシーに乗り込む。すると、いつもの運転手が声をかけてくる。

「おはよう、神流さん。今日はお連れさんがいらっしゃるんですね」

「うん。いつもありがとね」

「いえいえ、これも仕事ですから。ところで、彼氏さんですか?」

「ち、違いますよ!」

「はは、そうですか。では、どちらまで?」

「里見君も延珠ちゃんもはやく乗って、で、どこに向かえばいいの?」

「え、じゃあ、お邪魔します。延珠の通ってる学校は勾田高校のニつ隣の小学校だ」

「了解しました。里見さん、ですね?もしかして神流さんの彼氏さんですか?」

「・・・は?違いますけど」

「そうだぞ!蓮太郎の恋人は妾なのだ」

「ば、バカ!そんな誤解を招くようないいかたをするなと言ってるだろ!」

「・・・では、里見さんは保護者、なのですか?」

「・・・ああ、延珠の親とは顔見知りで、亡くなってから俺が引き取ったんだ」

「・・・そうですか。すみません。そんなことを思い出させてしまって」

 

それから少し時間がたち、小学校前まで来た。

勾田高校はそのニつ隣なので、そこから歩いていくことにした。

タクシーを先に下りた延珠ちゃんが、私と里見君が下りるのを待ってから、言った。

「よし、じゃあ妾は勉学に励んでくるぞ。しばしの別れだが、妾がいなくとも泣くなよ」

里見君はその言葉を聞いて、ニつ隣の勾田高校を見て、呆れながらため息をついた。

私は呆れるんじゃなくて驚いているんだけど・・・里見君にとってはいつものことなんだろうか?

「・・・おい延珠。たった何時間か別々に行動するだけなのに、その挨拶は大袈裟すぎねぇか?」

「そ、そうだよ延珠ちゃん。たった数時間だよ?」

「いや、どうせなら二十四時間一緒にいたい。そうだ蓮太郎。妾のクラスに編入してこないか?ホラお主、頭がそんなによろしくないだろう?この際だから小学校からやり直せ」

「・・お前って藪から棒にとんでもないこと言うよな。いたわれよ俺のプライド」

「むぅ、じゃあ妾が六年後高校二年生になるまで留年して待っていろ。これが最終譲歩だ。文句あるまい」

「ぷっ、あははは。だってよ?がんばって、里見君」

「・・・それはどういう意味のがんばれだ?今の俺には留年するようにがんばれとしか聞こえないんだが」

「さあねぇ~~」

「ぬぅぅ!蓮太郎と一緒のクラスになりた~~い!」

「ま、まあそれはわかった。ところで延珠。学校内でのことだが―――」

「・・・わかっている。決して妾が“呪われた子供たち”だとバレないよう、クラスでは最大の配慮をしている」

延珠ちゃんの瞳が、冷たいような、寂しいような瞳になった。

「・・・そうか。ならいいんだけどよ・・・スマン」

「・・・じゃあ、行ってくるのだ!」

「ああ、行ってこい」

里見君が声をかけるときには、小学校に向かって延珠ちゃんは歩き始めていた。

 

「じゃ、私たちも行こうか」

「おう、待たせちまってわるいな」

それからまた歩き出す。

それから教室につくまで仕事のこととかを話した。

「ああ・・・神流?なんで俺と一緒のクラスに来てんだ?」

「え?だって私、このクラスだもん」

「そうなのか・・・は?・・・そいつは知らなかった」

「あはは、いっつも寝たり、人のこと無視したりしてるもんね」

「あ、おはよう。海夜・・・ってちょっときてきて」

級友から声がかかる。

「あ、おはよ。ん?なになに?じゃあ、里見君、また後で」

「お、おう」

そう里見君に言ってから、級友のところへ向かう。

そしてその級友が言ってくる。

「ちょ、ちょっと、なんで仲良さ気に話してるのよ?あの人、クラス一番の嫌われ者でしょ?」

「え?仲良さ気に話してるわけじゃないんだけど」

「いや、でもあいつと関わると仲間はずれにされるかもよ?」

「それこそ、里見君は悪い人じゃないし、私は周りからどう思われようとどうでもいいんだけどね」

 

・・・・なんか少し失礼な会話が聞こえてくるのは俺の気のせいだろうか?

まぁ別にクラスのやつに好かれようなんて思ってないし、仲良くする気も無いが。

とりあえずはこれから始まる国語の授業、数学の授業を寝てすごしたら、その後どうすっか?

そして本鈴のチャイムがなる。

さて、寝るか。今日も退屈な一日になるのだろうか。

考えるのもめんどくさいな。よし、寝よう。

――――――――

次に俺が起きたのは休み時間のときだった。

起きると、小動物系の学級委員の女が、おずおずと1人だけ提出していないアンケートの催促にきたが、無視したら泣きそうな表情で帰っていった。

「あはは、今のはちょっとひどいんじゃない?」

「・・ああ、神流か。別に。いつも通りだ」

「なんでそんなに人を避けてるの?」

「・・・それを言うならなんで俺に構ってんだ?周りからなんか言われんぞ」

「別に?私は周りの意見なんて気にしないから。ただ単に集団に入ってるだけだし」

「いや、それでもな・・・っとすまん、電話だ」

里見君が携帯を取り出して電話にでる。

ちょうどそのとき、私の携帯も鳴った。相手は、

「はいもしもし。私に直接聖天子様から電話とは、なにか急の依頼ですか?」

「はい。海夜さん、至急防衛省まで来てください。そこまで急がなくていいですが、なるべくはやくお願いします。依頼内容を話すだけなので、イニシエーターと一緒でなくてもいいです」

「わかりました。これから向かいます」

ピッと通話終了ボタンを押す。

いや~国家元首様相手に電話を切るとか、なかなかできないよね。

そして今私の目の前・・・里見君の真後ろには、ミワ女の制服を着た胸の大きい生徒が立っていた。

・・・・いいなぁ。私なんかまだまだなんだけど・・・

という悔しい思いを心の隅っこなやり、その生徒に聞く。

「で、あなたが天童民間警備会社の社長さんですよね?」

「え?里見君、誰?この人」

「初めまして。私は神流海夜といいます。あなたとは一度手合わせしたいと思っているんですけど、どうですか?天童木更さん」

「な、なんで私の名前を知ってるの!?里見君、話した?」

「い、いや、俺は話してない」

「調べさせて頂きましたよ。それくらいのことは簡単に調べられるアクセスキーを持ってるんで」

「・・・え?それって、結構序列が高いんじゃ・・・?」

「まぁ、そうですね。ということで、今度手合わせお願いしますよ。タクシー呼びましたから、はやく行きましょう。聖天子様が待っています」

今度はどんな依頼なんだろう?

この前は護衛だったけど。

あれ、なんで2人とも止まったままなの?

「・・?行かないんですか?」

「・・いや、行くけどよ」

「あなたにも聖天子様から連絡が来たの?」

「はい、ありましたけど。さっき電話で。ほら、はやく行きますよ。タクシーが待ってます」

私は未だ唖然としている2人の手を引いて教室を出て、校門前に着く。

ちょこっと前から思ってたんだけど、

「このリムジン、木更さんが呼んだんですか?」

「え?ええ、そうよ」

「私、タクシー呼んだ意味ありましたかね?」

「もちろん意味あったわ。だってこのリムジンに乗るとお金とられるもん」

「イタ電掛けたのかよッ?」

「大丈夫よ里見君。ちゃんと鼻つまんで偽名使ったから」

「そういう問題かよ・・・」

 

そのままリムジンを通り過ぎ、(木更さんは何故かリムジンに乗り込んだようなパントマイムをやっていたけど)タクシーに乗る。

そしてそのまま防衛省までタクシーで移動する。

―――――

「今さらだけど、延珠は呼ばないでよかったのか?」

「戦いになるわけじゃないの。むしろ延珠ちゃんには眠くなるような話よ」

「うん。私も依頼内容を伝えるだけだからイニシエーターは来なくてもいいよって言われた」

「ああなるほど」

「私も詳しくは聞かされてないわ。とにかく来い、だからね。役人は嫌い。東京エリアを守っている民警に、仕事をくれてやってるだけありがたいと思えとか、真顔で言うもの」

「じゃあ、今回の依頼、断ればよかったじゃねぇか」

木更さんが里見君の顔をちらっと見ると、肩をすくめた。

・・・あ、そうだ。忘れてた。

「まさか私たちみたいな弱小は、仕事を回さないと仄めかされれば従うしかないわ」

「あの、忘れてたんですけど、はい、これ。警部さんから貰っておいた報酬です」

2人が時が止まったかのように静止する。

・・・え?大丈夫ですか?

「あ、あ、ありがとう!神流さん!」

「ま、まじでか。さんきゅ。神流!」

「ねぇ神流さん、会社入ってないんでしょ?うちの会社に入らない?」

「え?そうですね・・・それもおもしろそうでいいかもしれません。じゃ、私天童民間警備会社に入ろうかな」

「ありがとう!大歓迎よ!里見君、これで二組目よ!もう少しきつい依頼も受けられるわ!」

「そ、そりゃよかったな木更さん。神流、ほんとにいいのか?うちは貧乏だぞ?」

「ええ、問題ありません。楽しく過ごせれば、それでいいです。あ、そうだ。月夜を木更さんに紹介しないと」

「その月夜っていう娘は神流さんのイニシエーターよね?」

「うん。今度会社に行くときに一緒に連れて行くよ」

「お、そろそろ着いたみたいだぞ。防衛省」

 

里見君のその言葉で会話はとまり、タクシーのドアが開く。

着いたのは、防衛省。

あ、そうだ。一応口頭だけでも入社したんだから天童民間警備会社だと名乗るべきだろうか?

いや、それだと私の報酬が一回全部会社に入るんじゃ?

ま、いいか。給料もらえるし。

民警になってから初めて、会社に就くことになった。

今回の依頼はなんだろうか?

私を呼び出すほどの、私に直接聖天子様が電話を掛けてくるようなこと。

危険じゃなければいいけど・・・。

「さあて、行くか」

「そうね。行きましょう」

「はいは~い」

 

でも、里見君なら、大丈夫だろう。

なぜだか、そんな気がする。




と、いうことで天童民間警備会社に入社しました。
月夜の影が薄いことに少し焦っています。
いや、入れれるところが少ないんですよ?
次話は蛭子影胤と蛭子小比奈が登場するところ辺りでしょうか。
考え中です。

読んでくれてありがとうございました。
問題とかありましたら感想までお願いします。
感想くれたらうれしいです。


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依頼の内容

こんにちわ

やったぁ。倍率がほんの少し下がった!!
まぁ、でもほんの少しなんですけどね。

とくにここに書くこともないので、

では、どうぞ


「木更さん、こいつは・・・」

「ウチだけが呼ばれたわけではないだろうと思っていたけど、さすがにこんなに同業の人間が招かれているとは思わなかったわ」

「・・・へぇ」

 

里見君と木更さんの話を聞き流し、私は部屋に入る。

すると、殺気のこもった視線が私に向く。・・・まだまだじゃん。

「おいおい、最近の民警の質はどうなってんよ。ガキまで民警ごっこかよ。部屋ぁ間違ってんじゃないか?社会科見学なら黙って回れ右しろや」

「あはは、あなた、おもしろいこと言うね。黙って回れ右するのはあなただと思うな~」

「あぁ?」

「え?聞こえなかった?いい加減黙れうるさいんだよって言ったんだけど」

「これはこれは。最近のガキは大人に対する礼儀もなってないのか?それとも―――喧嘩売ってんのか?」

「あはは、いいね、それ。やろうよ。喧嘩」

「ちょ、おい神流。今ここでやりあうなって」

「そうよ神流さん。こんなのに構っちゃだめよ」

「おいクソアマ、今なんつったよ!」

「やめたまえ将監!」

 

横槍を入れてきたのは里見君と木更さんだけでなかった。

卓の一つに腰掛けていた彼の雇い主と思われる人物だ。

「おい、そりゃねぇだろ三ヶ島さん!」

「いい加減にしろ。この建物で流血沙汰なんて起こされたら困るのは我々だ。この私に従えないなら、いますぐここから出て行け!」

将監と呼ばれた男は、キロリと私と一瞥すると「へいへい」と言って引き下がった。

と思ったら、今度は彼の雇い主が両手を広げながらこちらにやってきた。

「そこの君、すまないね。あいつは短期でいけない」

「いえいえ。別に私は気にしてませんけど。むしろ少しやりたかったです」

 

そう適当に流し、席に座るべく足を進める。

が、そこでまた、将監がつっかかってくる。

「おい待てよ。お前の席はあっちだろ」

「え?そっちって、木更さんたちの方かな?」

「そこ以外にどこがあるってんだよ」

「あはは、残念ながら、私はそこなんだよね」

私は一番上の席の空席を指差しながら言う。

・・・聖天子様、別にそこじゃなくてよかったんだけど・・・・

ということはさておき、椅子に座る。

 

「おいテメェ。ふざけてんのか?」

「私はなにもふざけてないよ?ここが私の席だし」

事実、置いてあるプレートには「神流海晴様」と書いてある。他は会社名なのに、私だけ名前で。

「んだとこの―――」

さらになにか言おうとしたとき、部屋の扉が開き、制服を着た禿頭の人が部屋に入ってきた。

その瞬間、私や木更さんを含む社長クラスの全員が立ち上がり――かけたところで、それをその男が手を振って着席を促す。

遠くて階級章がが見えないけど、たぶん幕僚クラスの自衛官だろう。

 

「本日集まってもらったのは他でもない、諸君ら民警に依頼がある。依頼は政府からのものと思ってもらって構わない・・・ふむ。空席一、か」

 

見れば、確かに里見君たちの六つ隣、『大瀬フューチャーコーポレーション様』という三角プレートの席だけが空だ。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち、退席していただきたい。依頼を聞いた場合もう断ることができないことを先に言っておく」

 

その言葉に席を立つものはいない。

まぁ、そもそも席を立つ人なんていないと思うけどね。

 

「よろしい、では辞退はなしということでよろしいか?」

 

その男が念を押すように全員を順番に見渡すと、「説明はこの方に行ってもらう」と言って身を引いた。

この方って誰?と思っていると突然正面の奥の特大パネルに1人の少女が大写しになる。

 

『ごきげんよう。みなさん』

 

木更さんや社長さんが一斉に立ち上がる。もちろん、私も例外じゃない。

なにせ相手は国家元首。この東京エリアを統べる超偉人なのだ。

後ろについているのはおそらく天童菊之丞だろう。・・・あれ?木更さんと苗字一緒だね。

ま、そんなことはさておき、いつもは友達みたいに聖天子様に接してる私だけど、今は依頼する側とされる側。それなりの態度をしないと。

 

『どうぞ皆様、楽にしてください』

 

その声を聞いて、座る、という人はいない。いや、いたら私、友達になるよ。

だけど残念ながら、私の友達は増えないようだ。

 

『神流さん、急な呼びかけにも関わらず、ありがとうございます。皆様方も、急なお呼び出しに応じてくださり、ありがとうございます』

 

その、聖天子様の言葉に、全員が「は?」という顔で私のほうを向く。

えっと・・・いま驚くところあった?

 

『では、私から説明します。といっても、依頼自体はシンプルです。民警のみなさんに依頼するのは、昨日東京エリアに侵入して感染者を1人出した感染源ガストレアの排除です。もう一つは、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』

 

・・・?ケース?

パネルに別ウィンドウが開かれると、ジュラルミンシルバーのスーツケースのフォトがポップアップする。

横に現れた数字は成功報酬だろう。

その値段を見て今度こそ周囲の空気に困惑が混じるのがわかった。

そこに、先ほどの社長さん、三ヶ島さんがすっと手を上げる。

 

「質問よろしいでしょうか。ケースはガストレアが飲み込んでいる、もしくは巻き込まれていると見ていいわけですか?」

『その通りです』

 

巻き込まれる、っていうのは、ガストレアになるときに所持していた物質がガストレアの皮膚などに巻き込まれ癒着してしまう現象のことだ。

こうなったら、そのガストレアを倒さなければ、取り出せない。

「感染源ガストレアの形状と種類、いまどこに潜伏しているかについて政府はなにか情報をつかんでいるのでしょうか?」

『残念ながらそれについては不明です』

「回収するケースの中には何が入っているか聞いてもよろしいでしょうか?」

今度は木更さんが挙手をした。

ざわりと周囲の社長がざわめき立つのがわかる。

それは、私も聞きたいことだった。

 

『おや、あなたは?』

「天童木更と申します」

聖天子様は少し驚いた表情になった。

後ろにいる人と苗字が一緒だったからかな。

『―――お噂は聞いております。それにしても、妙な質問をなさいますね天童社長。それは依頼人のプライバシーにあたるので当然お答えできません』

「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝型を持っているという常識に照らすなら、感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。その程度の敵ならウチのプロモーター1人でも倒せます

 

と言い切ってから不安げな瞳で里見君を見て「多分ですけど・・・」と付け加えた。

多分って、確証ないんだ・・・。

木更さんは続ける。

「問題はなぜそんな簡単な依頼を破格の依頼料で―――しかも民警のトップクラスの人間たちに依頼するのか腑に落ちません。ならば、値段に見合った危険がそのケースの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」

『それは知る必要のないことでは?』

「かもしれません。しかし、あくまでそちらが手札を伏せたままならば、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

『―――ここで席を立つと、ペナルティがありますよ』

「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員を危険に晒すわけにはいきませんので」

 

肌がぴりぴりするほどの沈黙が降りる中、正直、私は驚いていた。

さっき、政府絡みの依頼は断れないと言っていたはずなのに。

なにか言おうかなと思って口を開きかけたその瞬間、私はその存在に気づいた。

そいつは部屋中に響き渡るほどのけたたましい笑い声で笑っていた。

 

「『誰です(誰?)』」

「私だ」

 

たぶん、私の「誰?」という発言の意味と、聖天子様の「誰です」という発言の意味は違うのだろう。

私は笑い声を上げたのは誰か?ではなく、あなたは誰ですか?という意味を込めて言ったけど。

そしてその声の主に全員の視線が集まる。

視線が向いている先は、先ほどまで空席だった大瀬社長の席。

そこには、仮面、シルクハット、燕尾服の怪人が、卓に両足を投げ出して座っていた。

中でも、里見君が一番驚いていた。

「お前は・・・そんな馬鹿なッ」

「里見君、知り合いなの?」

「・・・あぁ、前の一緒にやったガストレアの時に、ちょっとな」

『名乗りなさい』

「これは失礼」

 

いや、失礼もなにも土足で卓に上がってる時点でどうかと思うけど。

・・・いやいや、土足じゃなかったらいいとかそういうことじゃないからね?

その男はシルクハットを取って体を二つに折り畳んで礼をする。

 

 

「私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。端的に言うと私は君達の敵だ」

「うそ・・・?蛭子・・・影胤?」

「お、お前ッ―――」

「フフフ、元気だったかい里見くん。我が新しき友よ」

「どっから入って来やがった!」

「フフフ、その答えに関しては、正面から、堂々と―――と答えるのが正しいだろうね。もっとも、小うるさいハエみたいなのが突っかかってきたので何匹か殺させたけどね。おおそうだ、ちょうどいいタイミングなので私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」

「はい、パパ」

 

俺が振り向くよりも速く、俺と木更さんの脇を少女が歩き去っていった。

それにぞっとする・・・いつからそこにいた?

ウェーブ状の短髪、フリル付きの黒いワンピース。腰の後ろに交差して差している二本の鞘は、長さからいっておそらく小太刀。

「うんしょっと」と言って手をつき足を上げ、難儀しながら卓の上にのぼると、少女は影胤の横に来てスカートをつまんで辞儀をする。

 

「蛭子小比奈、十歳」

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

・・・イニシエーター?この男・・・民警なのか?

 

ガキィイイイイイイ!!

 

俺の思考を斬ったのは、刀と刀の打ち合う音だった。

「・・・は?」

その場にいた全員・・・いや、正確には神流と影胤と小比奈を除く全員が驚いた。

打ち合った刀の持ち主は、神流と小比奈だった。

 

「・・・残念。やっぱイニシエーターいたら無理、か」

「パパァ、こいつ、強い」

その小比奈の言葉に、影胤は言った。

「そうだな。少し力を出してもいいぞ」

「やったぁ!パパ、ありがと!!」

「おい神―――」

 

再びガキィイイ!と刀と刀が打ち合わされる音。周りにいた人は手出しできなかった。俺も、木更さんも、IP序列1584位の将監さえも、介入できなかった。

その打ち合いは続く。やがて、影胤が口を開いた。

「・・・君、名前は?」

そう影胤が問うと、小比奈が止まる。小比奈が止まると、神流も止ま・・・りはしなかった。

 

「神流式抜刀術一の型四番 獅子閃光」

・・・速い。速すぎる。俺なら、絶対に捌けない。

それほどの速さだ。

「・・・なるほど。君は神流の生き残りだったか」

「っく・・・きゃあ!」

「大丈夫か神流!?」

神流は、なにかの力によって、弾き飛ばされ、壁にぶつかって止まる。

壁にはひびが入っていた。

 

「くはっ・・・大丈夫」

「そう、なのか?しかしさっきの神流を弾き飛ばしたあれは―――」

「斥力フィールドだよ里見くん。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいるがね」

「バリア・・・だと!?」

「で、君の名前は?小比奈の二刀を一本の刀で捌ききり、さらにカウンターまでかけるとは、なかなかやるね。神流くん、名前を教えてくれないか?」

「神流海夜、だよ。それはどうも。で、なんで人の命散らしてまでここに来たの?」

神流は、かはっと咳き込みながらも、影胤に問う。

 

「なに、今日は挨拶だよ。私もこのレースに参加することを伝えておきたくてね」

「エントリー?なんのこと?」

「『七星の遺産』は我々らが頂くと言っているんだ」

「七星の遺産?・・・七星村の・・・?」

「おやおや、君たちはそんなことも知らされずに依頼を受けさせられようとしていたんだね、可哀想に。君らがいうジュラルミンケースの中身だよ」

一瞬、影胤が神流の方を見て、言った。

「昨日、お前があの部屋にいたのは―――」

「うんその通り。私も感染源ガストレアを追ってあの部屋に入ったんだが、肝心の奴はどこかに消えてるしぐずぐずしてたら窓を割って警官隊が突入してくるしね。ビックリしちゃったから殺しちゃった。ヒヒ、ヒヒヒヒヒ」

 

仮面を押さえながら喉の奥で笑う影胤に、憎悪を覚えた。

「貴様・・・」

影胤は両手を大きく広げ、卓の上で回転した。

 

「諸君ッ、ルールの確認をしようじゃないか!私と君たち、どちらが先に感染源ガストレアを見つけ出して七星の遺産を手に入れられるかの勝負といこう。七星の遺産はガストレアの体内に取り込まれているだろうから、手に入れるには感染源ガストレアを殺せばいい。掛け金は君たちの命でいかが?

「影胤・・・!」

「そうだ。ついでだから名乗っておこう里見くん、私は元陸上自衛隊第七八七―――」

「機械化特殊部隊『新人類創造計画』の、蛭子影胤。あってるでしょ?」

神流が影胤の言葉を遮って、言う。

その言葉に、三ヶ島が驚く。

「・・・ガストレア戦争が生み出した対ガストレア用特殊部隊?実在するわけが・・・」

「信じる信じないは君の勝手だよ。まあなにかね里見くん?つまり私はあの時まったく本気じゃなかったのだよ。悪いね。それにしても、神流くん。よく知っているね」

「そりゃ、ね。私のレベルのアクセスキーがあったら、それくらいの危険人物、把握できるよ」

 

影胤はそう言って俺の前まで音もなくやってくると、マジックショーさながらに白い布を自分の掌にかぶせ、三つ数えて取り去る。

するとそこには赤いリボンがあしらわれた箱が現れた。卓の上に置くと、俺の肩に手を置く。

「君にプレゼントだ。ではこの辺でおいとまさせてもらうよ。絶望したまえ民警諸君。滅亡の日は近い。いくよ小比奈」

「はい、パパ」

 

2人は悠然と窓まで歩いていくと、窓を割り、ごくごく自然な動作で窓から飛び降りた。




なぜ影胤が神流という名前を知っていたのかは後ほど書くとして・・・
影胤がいいたかったことは大体言えていると思います。
やっぱり月夜の出番今ないね。
月夜「はぁ・・・私、小比奈とやりたかったです」
そ、それはごめんね。
いつか今度やらせるから、今は少し待っていてください。

読んでくれてありがとうございました。
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だらだらとした夕方

こんにちわ。

今回、久しぶりに月夜の登場です。

少し短い気もするかもです。

では、どうぞ



「・・・はぁ」

「「「「「・・・・・」」」」」

 

誰もしゃべらない。

誰も動こうとしない。

ここは私が動くか。

 

「それでは、依頼は蛭子影胤よりもはやくジュラルミンケースを確保すること。以上でいいですか?菊之丞殿、聖天子様」

『それで以上だ』

「天童閣下ッ!新人類創造計画はッ―――あの男がいっていたことは本当なのですか?」

『答える必要はない』

 

質問をしたのは、三ヶ島さんだ。

 

あれ?そのことについては私も少ししゃべったはずだけど・・・?

ま、いいか。いちいち聞かれるのはめんどうだし。

 

「大変だ!しゃ、社長があああああッ!」

 

会議室に飛び込んできた男が、金切り声を上げる。

あの人は・・・たぶん、今日会議に欠席した大瀬社長にいつもくっついていたノッポさんだ。

だけど、その表情は険しい。なにかあったのだろうか?

 

「社長が自宅で殺された!し、死体の首がどこにもない!」

 

私を含め、全員の視線が里見君の手前に置かれた箱に向けられた。

箱の一辺は三十センチほど。

 

・・・・・このサイズなら、人の首は入る・・・・・

 

里見君が震える手でゆっくりとリボンを解く。

そして、蓋を持ち上げる。

 

―――しばらくそれと対面した後、蓋をゆっくりと下ろす。

 

「・・・ぁの野郎ぉッ!」

『静粛にッ!』

 

聖天子様の澄んだ声に、里見君は怒りの表情のまま、ゆっくり顔を上げる。

 

『事態は尋常ならざる方向へと向かっています。ケース奪取を企むあの男より先に、ケースを回収してください。でなければ大変なことが起こります』

「中にはいっているものがどういうものなのか、説明していただけますよね?」

『・・いいでしょう。ケースの中に入っているのは七星の遺産。邪悪な人間が悪用すればモノリスの結界を破壊し、東京エリアに“大絶滅”を引き起こす封印指定物です』

 

 

 

―――――

・・・・・

それから木更さんと里見君たちと別れ、家に帰った。

 

「たっだいま~~!」

「あ、お帰り。あれ、早かったですね」

「うん。また依頼きたよ~。今度は七星の遺産の回収だって」

「あ、え、そうなんだ」

 

・・・え?

 

「え?七星の遺産の回収・・?」

「うん。回収」

「えっと、もう少し詳しく」

「だから、―――――・・・とこういうわけなの」

「あぁ、わかりました」

 

ようはそのガストレアを排除して、ケースを蛭子影胤よりも早く確保すればいいわけか。

となると、「お~い?」問題はガストレアの「お~い??」居場所だけど・・・

 

「・・・なにか用ですか?今考え事をしてたんですけど?」

「あはは?そこまで慎重な敬語って、もしかして怒ってます?」

「・・・そうですね。少し怒ってるかもですね」

「も~まぁまぁそう怒らないでよ~」

 

・・・毎度思うけど頭を抱えたくなる。

これではどっちが年上で年下なのかまったくわからない。

まぁ、でも、

 

「はいはい。じゃ、そろそろ夕方だから夕飯の準備しましょうか」

「は~い!私は何をすればいい~?」

 

これがいつもの日常だ。

冷蔵庫を開けて、中の食品を見る。

確か昨日買ってきたのがまだあったから、それを・・・・

 

「・・・・・・」

「・・?どうしたの~?」

 

パタン、と冷蔵庫の扉を閉めて、言う。

 

「買出し、行こうか」

「へ?うん!りょ~かい!」

 

バッグと財布を持って、デパートに向かった。

 

なぜ、買出しに行くのか。

答えは簡単。

冷蔵庫の中に私の好きなものが入っていなかったからだ。

好きなもの、というのは・・・プリンだ。

 

我が儘、なんて言われるかもしれないけれど、こればかりはしょうがない。

私だって普通の小さい女の子だもん。

 

それに、

 

「今のこの人の相手、疲れるなぁ」

「お~い!早く早く~!」

 

笑顔で手招きする海夜。

ため息をつきながらついていく月夜。

 

傍から見れば、どちらがプロモーターなのかイニシエーターなのか、よくわからない光景だ。(精神的に)

 

・・・早く性格変わってくれないかなぁ。

 

 

少し時間はすぎて。

 

プリンを買い終わってデパートを出ようとすると、見知った後姿があることに気づく。

 

「あ、蓮太郎さん、延珠さんじゃないですか?」

「ん?ああ、月夜か。お前も買い物か?」

「おぉ~月夜!そうだ!月夜にも後で天誅ガールズを見せてやるぞ!」

「あ、はい。え?天誅ガールズってなんですか?」

「やっほ~蓮太郎くん~!」

「は?うぉお!?」

「「あ・・」」

 

突然のことに驚く。

なにに驚いたのかというと、

 

「な、おい、神流。なんでお前は俺に抱きついてんだ?」

「ん~?だめだった?」

「いや、その、だめじゃないけど―――」

「「けど?」」

「うぉおおおい!ちょっと待て延珠!こんなとこで蹴りかま―――」

 

それからいろいろ、ほんとにいろいろあった。

 

まず、蓮太郎さんが延珠の蹴りで吹っ飛ぶし、蹴りが入る前に海夜を蓮太郎さんから離して、その後吹っ飛ばされた蓮太郎さんを受け止める・・・など、結構大変だった。この数秒。

その後は、延珠から蓮太郎さんへの説教が10分くらい・・・

内容は、「なんで妾以外の女とくっついておるのじゃ!」とか「聞いておるのか蓮太郎!」というものがほとんどだった。

そして説教から逃れることが出来た蓮太郎さんが私に話しかけてきた。

 

「ふぅ。やっと説教から開放された」

「ふふふ、お疲れ様です」

「それはそうと、なぁ月夜。神流、少しおかしくないか?」

「・・・どの辺がですか?」

「いや、あの、なんつーか、今日の依頼の話の時と性格っていうか人格っていうか、それが変わってるっていうか」

「その通りです」

「だよな。・・・は?」

「ですから、その通りです。海夜は性格がころころ変わるんです」

「性格がころころ変わる?」

「・・・これは、この話は蓮太郎さんが信用に値する人物だと判断したので、話します。海夜は小さい頃、家族が殺されました。誰かの差し金によるものだったそうです。その時、左目と脳の一部が銃弾によって損傷を受けたんです」

「な!?それって―――」

「海夜は、一緒に逃げていた兄によって病院に運び込まれました。そしてすぐに集中治療室に運び込まれました。執刀医の名は、室戸菫」

「・・・はあ!!?」

「当時、『新人類創造計画』の最高責任者であった室戸菫医師でした。そして、海夜は『新人類創造計画』の一人として、治療をうけました。海夜が持つのは、左目の義眼に埋め込まれたスパコンと、それと連携する人間の感情・性格を創る部分の役割をしている脳にあるスパコンです」

「な・・・」

「海夜は、最高まで演算能力を高めれば、4000分の1秒の世界を見ることができます」

「よ、4000分の1!?」

「あ、すみません。話が逸れてきましたね。ようは、海夜の性格・人格はころころと変わるんです」

「・・あ、ああ。それはわかった。じゃあ、どれが本物の神流の人格なんだ?」

「それは私にもわかりません。1年と長い間過ごしてきましたが、私にはよくわかりません」

「そうなのか。じゃ―――」

「蓮太郎くん~!そろそろ帰ろ?」

「え?は?ちょっと待て神流!ストップ!月夜、頼む助けてくれ!」

「蓮太郎さんも結構大変なんですね」

 

また蹴りを放とうとする延珠を抑え、やれやれと頭を抱えながらため息をつく。

蓮太郎さんもやれやれとため息をつきながら、手をつかませる。

 

その蓮太郎さんと海夜を傍から見れば、恋人同士に見える。

それが気にくわないようで、延珠はもっと暴れだそうとするが、

 

「ふふ、離しませんよ?」

「は、離すのだ!蓮太郎ッ!」

「あのなぁ。俺も苦労してんだっつの」

「あはは、蓮太郎くんは渡さないぞ~!延珠ちゃん!」

「わ、妾こそ蓮太郎は渡さないのだ!」

「はいはい。とりあえず、このまま帰りましょうか。いいですよね?蓮太郎さん」

「あ、ああ。(こんなとこ木更さんに見られたらなんていわれるか・・・)」

「ん?なにかいった?蓮太郎くん」

「ん、ああいや、別に」

「じゃあ、いこ!」

 

そのまま、蓮太郎さんの手を引っ張って海夜がアパートに向かって走り出す。

私もどうにか延珠ちゃんを抑えながらその後について走る。

 

ここまであんな風に笑っているのをみるのは、あんな風な無邪気な笑顔をみるのは久しぶりだ。

 

私は、あの顔が、あの笑顔が本物の海夜なんだと思う。

さっきは答えられなかったけど、今は答えられる。





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呪われた子供たち

こんにちわ。

今回いつもより少しだけ長くなっています。

では、どうぞ


私、延珠、蓮太郎、海夜と並んで歩いて帰っているとき、通りの向こうに人だかりが出来ていることに気づいた。

いったいなんだろうと首をかしげた瞬間、向こうのほうから怒鳴り声が聞こえてきた。

関わるのを面倒だと思ったのか、蓮太郎さんが言う。

 

「延珠、神流、月夜、少し遠回りになるけど反対から帰―――」

「―――そいつを捕まえろぉお!」

 

悲鳴のような蛮声が響き渡るのと、人垣がが破れて一人の少女が飛び出すのはほとんど同時だった。

その少女は立ちふさがるような位置にいた私たちを見て、はっと立ち止まる。

服装は革ベルトのデニムスカートに白のチュニック。

一目で『外周区』に住んでいる子供だとわかった。

そして私たちをワインレッドの紅い目で見ていた。

つまり、私と同じ『呪われた子供たち』

 

長い睨み合いを終わらせたのは、後ろから伸びてきた無数の手だった。

大の大人たちがその背に手を掛け荒々しく押し潰すと、こちらにまで骨の軋む音が聞こえてくる。

 

「放せぇ!」

 

「ねぇ。やめなよ」

 

視線が、一斉に声の主、つまりは私に集まる。

 

「その娘がなにかしたの?」

「どうしたもこうしたもねぇよッ!このガキが盗みをやらかして、声をかけた警備員を、力を使って半殺しにしたんだ!」

「そうですか。で?」

 

場がシン・・・と静まる。

 

「・・・なんだぁ?子供だからって子供の肩を持つってのか?」

「じゃあ、聞きますけど、盗みをやらかして警備員を半殺しにしたら、こんな風に捕らえられるんですか?」

「こいつは『呪われた子供たち』だ!人間ですらないバケモノだ。そいつが人間様に手ぇ出してんだ。当たりまえだろ」

「・・・はぁ。そのあなたのいう人間様とは、誰のことなんでしょうかね。少なくとも、あなたはその人間に含まれてないんでしょうね」

「んだとてめぇ!」

「貴様等いったいなにをやっている!」

 

その時、観衆を割ってがたいのいい警官が入ってきた。

蓮太郎さんの方を見ると、蓮太郎さんは私を見て驚いていた。

海夜はまだあのゆるい性格なので、戦力にはならないでしょう。

そしてその警官は、無理やりおさえられていた少女をみると、「ああ」と小さく呟き、少女を立たせると、あろうことか周りの人間に状況を聞かずに彼女の手に手錠を嵌めた。

 

「・・・え?」

 

あまりのことに、少し唖然とした。

警官は、彼女が何をしたのか、なんの罪を犯したのか、把握できていなかったでしょ・・・?

 

「・・・くっ、蓮太郎さん。海夜をお願いします」

「おい、待―――」

 

私はパトカーの後を追って、走り出した。

 

 

 

「うそ・・・?なんで警察署にも派出所にもいかないの・・?」

 

パトカーが入り去る前に小型発信機をパトカーにつけてその後を追っているのだが、今パトカーが向かっている方向には、警察所どころか、派出所さえなかった。

どんどん外周区に近くなっていっている。

 

「月夜、乗れ!」

「蓮太郎さん!?・・わかりました」

 

そこに現れたのは原付に乗って走っている蓮太郎さんだった。

どうしてここに?

 

「パトカーは2ブロック先の廃ビルの前に止まっています」

「わかった。いいか、さっきのようなことはすんなよ」

「どういうことですか?」

「一人でしようとするな。俺は・・・俺はあのとき相談されても動けなかっただろうが、とりあえずは相談しろ。いいな?」

「・・・はい。すみませんでした」

 

そして近くまで来ると少しずつブレーキをかけ、音を立てないように近づく。

辺りはシンと静まりかえり、感じれる範囲に人影はいない。警官二人とあの少女を除いては。

 

「こっちです。来てください」

「お、おう」

 

 

俺と月夜が壊れた鉄柵をくぐったところで声が聞こえてくる。

ゆっくりとその声に近づきながら壁に背をつける。

ゆっくりと顔を角からだすと、こちらに背をむけた状態で二人の警官がいた。

その警官の手には拳銃。

そこから離れた場所に、鉄柵を背に立たされた、先ほどの少女がたたずんでいる。

 

「すみません。行きます」

「おい、待て!」

 

月夜が腰に差した刀を構えながら、歩き出す。

 

「ねぇ。あなたは警官なの?」

「誰だてめ―――」

 

ザシュッッ・・・

 

と、何かが斬れる音がする。

 

そして、ゴトッ・・・という鈍い音。

 

「お、おい!?どうし―――」

 

そして再びザシュッッという音。

 

そしてまた、ゴトッという鈍い音。

 

月夜・・・?なにやってんだ・・?

 

「おい・・・月夜。なにやってんだ?」

「え?なにって、彼女を助けただけですよ?もう大丈夫だからね」

「ひっ・・・あ、ありがとう・・・ございます」

 

当たり前のように、「彼女を助けただけです」と、月夜は言った。

月夜の近くには、先ほどまで立っていた警官の頭と体が二つずつ、落ちている。

そんな風にあっさりと、人を殺す月夜は・・・今までどんな生活をしてきたんだ・・?

 

 

それからその少女を外周区まで送り届けたあと、帰路に着いた。

彼女は足と足首を骨折していたため、病院に向かったのだが、どこの病院からも拒否された。

理由は、彼女が『呪われた子供たち』であるから。

・・・くそ。なにが『呪われた子供たち』だ。

彼らは、ただ産まれてきただけなのに、迫害や差別を受け続ける。

 

「・・・私、初めて知りました」

「・・・?何をだ?」

「警察官って、人は守るけど、私たちのことは守ってくれないんですね。今日のことでそれがよくわかりました」

「・・・・・・」

 

俺はなにも、言うことができなかった。

 

「・・・さて、もうこんな時間になってしまいました。病院めぐりをしていて結構時間を食いましたね」

「・・ああ、もう深夜二時、か」

 

やがて八畳一間の我が茅屋が見えてきた。

明かりはついていない。

その我が家の隣の部屋にも、明かりは点っていない。

延珠がこんな夜更けまで起きているはずがないのは当然なのだが、もしかしたらと心の中で期待していたので一抹の寂しさを感じる。

それにしても神流がもう寝てるとは。

イニシエーターをほっぽりだすようなタイプには見えないんだが・・・

 

「お疲れのようだね。里見くん」

 

反射的に拳銃をドロウし、声の方に向ける。

ゆっくりと後ろを向くと、こちらにも拳銃が突きつけられていた。

カスタム元はベレッタ拳銃だろう、上部にガスポートがついた接近戦用のマズルスパイク。

同じく銃口の跳ね上がりを抑制するための大型スタビライザーには格納式の銃剣アタッチメント。

長く伸びたエクステンションの多弾倉マガジン。

スライド左側面の一行刻印『尊厳ある生を』、右側面『然らずんば殉教者としての死を』。

グリップに埋め込まれた邪心クトゥルフを象ったメダリオン。

銃のいたるところにおびただしい量のトゲトゲしたスパイクがついている。

そして、それを握っているのは―――

 

「随分悪趣味な銃だな、蛭子影胤」

「ヒヒ、こんばんわ里見くん」

「え?蛭子影胤・・?」

「ちょ、待てつ―――」

 

月夜が腰に差した刀を抜き、斬りつける。

 

ガキィィィイ!

 

あの時と同じような刀がぶつかり合う音。

 

「パパァ、こいつも強いよ」

「蛭子・・小比奈」

「よく知っているね。私のイニシエーターにして娘だ」

「私は影ノ月夜。神流海夜のイニシエーター」

「ヒヒヒ、これは驚いた。君は海夜くんのイニシエーターだったか」

「蛭子影胤・・・何の用だ?」

「実は話をしにきたのさ。そろそろ銃を降ろしてくれないかね」

「断る」

「やれやれ」

 

影胤はパチンと指を鳴らす。

 

「―――小比奈、邪魔な右腕を切り落とせ」

「はいパパ」

 

 

反射的に背後に跳躍すると、風きり音と共に俺がいた箇所にすさまじい速さの斬撃が走る。

だが、俺の前で小比奈の漆黒の刀は止まった。

 

「ちょっと遊びましょうよ。最近手ごたえのある相手がいなかったからさ」

「やだ。今はパパの言ったことをやる」

「ちょっと邪魔をしないでもらえるかね?月夜くん」

 

影胤がパチンと指を鳴らす。

あれは―――

 

「離れろ月夜!」

「え?・・!はい」

 

よし、これで月夜は大丈―――

 

「あはは、よそ見してたら右手、落ちるけど?」

 

まず、やられ―――

俺は思わず目を瞑った。

だが次の瞬間、

 

ギィン!

 

という音がして二つの塊が空中で激突すると、擦過音を立てながら吹き飛ばされる。

驚きの声は両者から上がった。

 

「蹴れなかった?」

「えっ、斬れなかった?」

「延珠ッ!」

「蓮太郎ッ!あいつら何者だ」

「敵だ」

「あはは、敵?じゃあ私も斬りたいな」

「海夜・・・まあましなほうですか」

 

延珠に神流まで。

神流の性格っていうか人格、また変わったな。

 

「おやおや、なんだか戦うような空気になってきたじゃないか。戦うかい?」

 

戦えば、もしかしたらあのペアに勝てるのかもしれない。

だが、それはここで今、戦うということだ。

もしあいつが本気なんてだしたら、この辺の住宅街はひとたまりもない。

だからここは、あいつの話を聞くのが最善手だ。

構えていた拳銃を降ろしながら言う。

 

「早く用件を言えよボケ。こっちは眠い上に来週の小テストの勉強までしなきゃいけねぇんだ」

 

影胤は仮面の奥でクツクツと笑うと拳銃をホルスターにしまい、月をバックに鷹揚に手を広げた。

 

「海夜くんも来てくれたことだし、単刀直入に言おう。。里見くん、海夜くん、私の仲間にならないか?」

「なッ、んだと?」

「あはは、それはまた随分な勧誘だね」

「実は最初見たときから君たちのことがなぜか好きになってしまってね。殺すには惜しいと思っていた。無論、海夜くんは私を殺せるだろうが。こちらにつくなら、君たちに危害は加えない」

「・・・仮にも俺は民警だ」

「じゃあ、私も民警だから、ちょっとパスかな」

「民警だから、なんだね?私も元民警だ。残念ながらこれから東京エリアには大絶滅の嵐が吹き荒れる。現在私には強力な後援者がいる。私の味方につくなら金も、女も、力も、好きなものを好きなだけ与えよう」

「・・・・・」

「私は別にいらないよ。まだ貯金があるし」

「そうか。君たちはこの理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?東京エリアの有り方は間違っている。そう思ったことは、一度もないかね?」

 

その言葉に、今まで見てきた子供たちが浮かぶ。

『呪われた子供たち』だったために、周囲から迫害され、自我が壊れてしまった少女。

『呪われた子供たち』だったために、親から暴行を受け、捨てられた少女。

『呪われた子供たち』だったために、いじめの標的にされ、何人もの人から暴力を受けた少女。

 

『呪われた子供たち』だから、だからなんだ?

今まで何度もそう思ってきた。

理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?

そりゃ、あるさ。

こんな世の中を変えてやりたいと思うさ。

 

「聞くところによると、君は経済的にあまり裕福な暮らしをしていないそうだね」

 

影胤はどこからか取り出したアタッシュケースを足でこちらに滑らせてきた。

アタッシュケースは俺の前まで来ると止まり、蓋が跳ね上がる。

中には札束がつまっていた。

 

「これは私からのほんの気持ちだ。君はそこの延珠ちゃんを人間のフリをして学校に通わせているようだね。なぜそんなことをする?彼女達は既存のホモ・サピエンスを超えた次世代の人間の形だ。―――大絶滅を経たあと生き残るのは我々力あるものだ。私につけ、里見蓮太郎、神流海夜」

 

俺は力の限りアタッシュケースを蹴り返し、ケースに向かって三発発砲した。

ケースが跳ね、札束に穴が空き、うち何枚かがひらひらと舞う。

 

「里見君がそういう答えなら、私も」

 

トン、と札束に黒いナイフが突き刺さる。

影胤はしばらくの間穴のあいたアタッシュケースを見つめていた。

 

「・・・君たちは大きな過ちを犯したよ、里見くん、海夜くん」

「過ちだとッ?俺に過ちがあったとすれば、最初にあったときお前を殺しておかなかったことだ、蛭子影胤!」

「過ち、ねぇ。私はみんなが笑っていられる選択をしただけだよ」

「くだらん!あくまで依頼を遂行しようというのか。君たちがいくら奴等に奉仕したところで、奴等は君たちを、何度でも裏切る」

「・・・いいよ。それでも、これが今の最善だから」

 

神流が影胤を見る。

俺も影胤を見る。

影胤も俺と神流を見る。

 

どれくらい経っただろうか、発砲音を聞きつけて遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「フン、水入りだ里見くん、海夜くん。こういうやりくちはあまり趣味ではないが・・・明日学校に行ってみるといい。里見くんもそろそろ現実を見るんだ」

 

影胤は小さく捨て台詞を呟くと、大きく後ろに跳んで闇に溶けた。

影胤が消えたほうをじっとみながら、延珠に、月夜に問う。

 

「あっちのイニシエーター。二人はどう見る?」

「強い、おそろしくな」

「手ごたえのある相手です」

「勝てるか?」

「わからない」

「本気をだせば」

「・・・そうか」

 

去り際に言ったあの言葉。

俺にはあの言葉が重く、消しがたいものとして残っていた。

 




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一人じゃない夜

こんにちわ。

今回のサブタイトルは原作を知らない方にはまったくわからないものです。すみません。
気がつくと春休みもあと約一週間・・・時間ってすぎるのが速い・・・

では、どうぞ


「それ―――本当かよッ?」

 

里見君が携帯電話を手に勢いよく立ち上がった。

私もその他の雑談をしていた生徒達もびっくりして里見君を見る。

 

「ど、どうかしたの?里見君」

「あ、ああッ。延珠が―――」

 

そこまで言うと、里見君は走って教室を出て行ってしまった。

延珠ちゃんに何かあったの・・・?

 

「ごめんね。今日は早退するから先生に伝えておいて」

「え、ちょっと海夜?」

 

友達にそれだけ言って、私も教室を出た。

 

そしてそのまま二軒隣にある勾田小学校まで走る。

 

昇降口で急いでスリッパに履き替え、里見君の後を追って職員室に行く。

 

里見君は一人の教師と話をしていた。

 

「どういうことなんだよアンタッ。延珠は本当に―――ッ」

「ちょっと落ち着いて里見君。何があったの?」

 

私の問いに、里見君ではなく教師が答える。

 

「藍原さんが『呪われた子供たち』という噂がどこからともなく立ちまして。給食の頃には、藍原さんに対する・・・その・・・嫌がらせのようなものが始まりまして」

「そんな・・・延珠ちゃんは否定しなかったのですか?」

 

教師は下を向きながらしきりに額にハンカチを当て始めた。

それがなによりの答えだった。

 

「里見さん。あなたはいままで『呪われた子供たち』ということを、黙って藍原さんを通学させていましたね」

「事前に言えば、アンタらは理由をつけて延珠の入学を断ったんじゃねぇのかよッ?」

 

その里見君の言葉に、教師は視線を外した。

その通り、ということだ。

『呪われた子供たち』ということで差別され、小学校にさえ通えない。

なんで・・・彼女達が差別を受ける?

彼女達は、ただ、生まれてきただけなのに。

 

「藍原さんはショックを受けていたようなので早退させました。こんなことを言えた義理ではないのですが、一緒にいてあげてくれませんか?里見さん」

 

 

それから、私と里見君は家に帰った。

もちろん、延珠ちゃんに会うためだ。

しかし、延珠ちゃんはいなかった。

それどころか、月夜もいなかった。

 

「・・・え?月夜?いないの?」

 

いつもなら、「お帰り」とか「早かったですね」とか絶対に言ってくるのに。

急いで月夜の携帯に電話をかける。

 

「・・・はい。もしもし」

「あ、よかった。月夜、今どこにいる?」

「・・今は延珠さんの後を追っているのですが・・・見失ってしまいました。何かあったんですか?」

「・・・うん。延珠ちゃんを最後に見たのはどこ?」

「第三十九区です」

「わかったよ。ありがと」

 

そう言って電話を切る。

 

「里見君。もしかして延珠ちゃんは三十九区の出身?」

「・・・・ああ、そうだ」

「月夜が延珠ちゃんを追ってて、最後に見たのが三十九区だったんだけど―――」

「本当か!?・・・でも、あいつは、延珠は戻ってくるかも・・いや、今日行くべきか・・?だがもう時間が・・」

「明日にしよ?延珠ちゃんももしかしたら戻ってくるかもしれないし。それに無理したらだめだよ?そんな里見君をみたら延珠ちゃんだって悲しむよ」

「・・・そうか。すまないな、神流」

「うん。そうと決まったら晩ご飯、なににする?」

「・・・・今はそんな気分じゃない」

「あ、じゃあカレーかな。さぁて作るぞ!」

 

 

・・・なんで、神流はこんなに明るいのだろう。

本気で延珠のことを心配してくれていて、それでいて、こんなにも明るい。

いつもの俺なら、確実にキレていた。

延珠がこんな大変なときに、明るく接してくる。

はっきり言って前の俺なら確実にキレていた。

だが、俺はキレてない。

それどころか、少し嬉しい、と感じている。

・・・どうしてだ?

 

暗かった空気が、少しずつ明るくなっていく。

どうしてだ?

 

 

神流のおかげでパニックには陥らず、今やるべきことが見えてきた。

まず延珠の携帯に電話をかけた。

だが繋がらない。どうやら電源を切っているようだった。

次はメールを送った。

 

それから一時間くらい待ったが、返事は返ってこなかった。

 

 

 

「返事を返さなくていいんですか?延珠」

「・・・すまないな、月夜。海夜に嘘を言ってもらって」

「いいえ。友達が困っているときには助ける、というのがあたりまえですから」

「・・・そうか。ありがとうなのだ、月夜」

「それで、これからどこへ向かうんですか?」

「いや、な」

 

延珠がマンホールの蓋を持ち上げて、中に入るように促す。

 

中に入るとそこは温かかった。

 

「・・ここは?」

「ここは排水管。マンホールチルドレンが住んでいるところだ」

「おや、どうかしましたか?二人とも」

 

私たちの前に現れたのは眼鏡をかけた優しそうな老人だった。

 

「あの、あなたは?」

「私は松崎、といいます。この子たちの面倒を見ている者です」

「・・・あなたは優しいのですね」

「いえ、そんなことはありませんよ。世の中にはたくさんこの子たちがいるのに、私が見ていられるのはほんの少しの子供たちなのですから」

「いいえ、あなたは優しい人です。例え少しの子供たちだけでも助けるのなら、それは優しい人だと私は思います」

「・・・君は随分と大人びているね」

「・・?そうですか?私は友達以外と話す時はいつもこの口調なのですが。というか延珠、ここに来たけどなにをするの?」

 

 

 

「カレーできたぞぉ!」

「・・・すまないな。なにからなにまで」

「ううん、別にお隣さんなんだからいいじゃん。あ、お皿取って里見君」

「あ、ああ」

 

お皿を渡す。

ちなみにカレーを作る、なんて材料はウチにはなかったので、海夜がほぼ全部家から持ってきてくれたのだ。

 

「いただきます!」

「・・いただきます」

 

静かにご飯を食べる。

延珠は・・・温かいご飯を食べれているのだろうか?

 

「さあどうだろうね?私はたぶん食べれてるんじゃないかな?と思う。それに月夜もまだ帰ってこない。私の予想では、たぶん月夜も延珠ちゃんと一緒にいるんじゃないかな」

「・・・・・」

 

そうか、と小さく呟いた。

特に話すことがない。

・・・・・いや、あった。

 

「なぁ神流。『新人類創造計画』って知ってるよな?」

「うん。知ってるよ?影胤はその計画によってあんな力を手に入れたわけだし」

「神流は・・・何を持ってるんだ?」

「・・・月夜が話した?」

「ああ」

「そっか、じゃあ隠さなくていいね。私のは『二二式黒膂石義眼』と『二三式黒膂石義脳』。まあフルで使ったことはないんだけどね」

「・・・俺も話そうと思う」

 

立ち上がり、バラニウムの義手義足を出す。

 

「・・・里見君も『新人類創造計画』の一人だったの!?」

「ああ。十年前、ちょっと、な」

「・・・使ったことは?」

「ない」

「そう・・・でも影胤との戦いはその力を使わないと勝てないわよ。あいつに生身でいって勝てる確率は里見君の技量では0%。これは私の演算結果。わかった?」

「・・・ああ」

 

俺よりも高度な演算領域を持っている神流が言うのだ。

その演算結果はあっているのだろう。

 

「ま、でも大丈夫だよ。私がいればなんとかなる!」

 

と神流はピースをこちらに突き出してきながら言う。

 

「・・・、それはありがたいな」

「でしょ?だから今は食べて食べて!明日は延珠ちゃんを探すぞ!そして見つけた後、問題のガストレアを斬りに行くぞ!」

「お、おう」

 

 

その後ご飯を食べ終わり、片づけを終えると、

 

 

「じゃあお休み~蓮太郎君」

「おう、お休み・・・じゃねぇ!!なんで俺の家で寝るんだ!お前ん家隣だろ!」

「えぇ~そんな細かいこと気にしないでよ~」

「細かくねぇ!!」

「私は気にしないよ~」

「俺がするわ!」

「もぉ~蓮太郎君、別にいいじゃん~」

「よくねぇ!!」

「まぁまぁ、じゃあお休み~」

「あ、おいこら待て!寝るな!神流!」

 

スースーと寝息をたて始めた神流の肩を揺するが、一向に起きない・・・

 

「まじかよ・・・俺どこで寝るの?」

「私の隣で寝ればいいじゃん~」

「は!?起きてたのか!」

「・・・・・・」

「寝言か!!?」

「あはは、そんなわけないでしょ~?」

「・・・わかったわかった。俺台所で寝っから、神流はそっちで寝とけ」

 

まったく。なんで俺はこの年で女と一緒に布団に入らなきゃいけんのだ。

少し寒いが、たまにはこれもよしとするか。

 

「え~?じゃあ私もそっちで寝るよ~」

「・・・・・・」

「・・・だめなの?」

「だめもなにも、俺は男、お前は女なんだが」

「うん。それがどうかしたの?」

 

・・・・もう無理だ。

相手するの疲れた・・・

月夜はすげぇな。

毎日こんなことしてんのか。

 

あ、そういえば、この前

 

「海夜の相手をするとき・・・の注意点、といいますか、そういうことを教えておこうと思います」

「おお、それは助かる。で、どんなのだ?」

 

ということで、月夜に教えてもらったのだ。

 

俺のこと里見君、と呼ぶときはまぁ普通の女子なんだそうだ(まぁってなんだよ)

このときは特に注意することなく友達として接すればいいらしい。

 

蓮太郎君、と呼ぶときはゆるい、すべての物事にゆるい女子なんだそうだ。

このときは前のデパートからの帰りみたいに海夜の言うことを聞けば静まる、というか静かになるらしい。

 

里見君、と真面目に呼ぶときは何かを斬りたがっているとき。

 

なにも呼ばず目だけで合図するときは本気を出しているときなんだそうだ。

 

重要そうな部分しか覚えてないから、なんか曖昧だな・・・

 

とりあえずはこの神流は言うことを聞けば静まる。

 

 

・・・・・それって俺が神流と一緒に寝るってことか・・・?

 

いやいやいや、ちょっと待て!

今の文誤解を招くからやめろ作者!

 

(はいはい、そんな発言しな~い)

 

・・・くッ。

 

「わあったよ。俺もそっちで寝るからさっさと眠ってくれ」

「ほんと!?うん!一緒に寝よ~」

 

内心ドキドキしながら布団に入る。

延珠は枕を使っていない(俺の腕を枕にしている)ため、枕は一つしかない。

つまり自然的に背中を合わせるか向き合うかの態勢にならなければならない。

もちろん俺は背中を合わせる方を選択したのだが、

 

「ど~ん!」

「は!?ちょ、おい神流!」

「放さないもんね~」

 

神流は向き合うという選択をしてしまったようだ。

そして突然後ろから抱きつかれた。

いやそんな冷静に状況を伝えてる場合じゃねぇよ!

 

神流の木更さんほどではないが大きなむ・・・そんなこと考えてる場合じゃねぇよ!

 

「・・・くッ」

「放さないっていったでしょ~?」

「・・抜けられねぇ・・・!」

「ほ~ら、寝るよ?お休み~」

 

そしてすぐに寝付いてしまった。

 

「ったく、俺はお前に抱き枕にされたせいで寝れねぇよ」

「・・・・・」

 

返事は返ってこない。本当に寝たのだろう。

 

「・・・まじかよ」

 

神流が寝てからも、抜け出すことはできなかった。

 

「・・・・あぁッ。緊張して寝れねぇ」

 

その時、ピコンッ、と携帯がメールを受信した音が聞こえた。

 

「!?延珠からか?」

 

携帯を開き、メール欄を見る。

 

そこには新着メッセージが一件あります。

と表示されていた。

 

そのメッセージを開く。

 

開いた瞬間、少し涙が出てきそうになった。

 

『蓮太郎へ 

   妾は・・・妾は大丈夫なのだ。

               延珠』

 

と、そのメールには書かれてあった。

 

「延珠・・・よかった・・・」

 

連絡を取れて、本当によかった・・・。

 

「・・・いつ帰るかは書かれてない、か。明日は三十九区をしらみつぶしに探すか」

 

 

延珠からメールが来て安心したのか、蓮太郎は気が抜けたかのように眠りに着いた。




読んでくれてありがとうございました。

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外周区第三十九区

こんにちわ。

自分が書いている作品は進行速度が遅いのですが、その辺は理解していただけたらと思います。

では、どうぞ


ぱらぱら、という何かを叩く音ような音と、チン、というちょくちょく聞く音が聞こえ、俺はゆっくりと目を開けた。

ぼんやりとした視界に最初に映ったのは、いつも見ている茶色い天井だった。

 

「あつっ」

 

という、声がし、その声ではっと目が覚める。

すぐに台所を振り向くと、

 

「あ、おはよ、里見君」

「お、おう、おはよう神流」

 

延珠が帰ってきたのでは、と一瞬思ってしまったが、そうではなかった。

落胆の表情が表に出たのは、自分でもわかる。

窓を見ると、雨滴で景色が歪んでいる。

さきほどのぱらぱらの正体はこれだったか。

 

「はい、朝ごはん。簡単に食パンと牛乳だよ」

「ああ、すまないな」

 

無言のまま、神流が準備してくれた朝ごはんをすぐに食べ終わり、延珠を探す準備を始める。

 

 

「じゃ、私もシャワー浴びてくるね」

「ああ・・・つき合わせてすまないな」

「いやいや、これからも仲良くお願いしますよ?」

 

 

笑いながら神流は自分の家へと戻っていった。

 

 

神流がいなくなると、この部屋にいるのは俺一人なんだな、と強く感じた。

その、今は一人しかいない部屋を見回すと、青い、コバルトブルーの薬液が入った注射器が目につく。

延珠が投薬を欠かしているのに気づき、悲しくなった。

体内侵食率は一日二日でどうにかなるものではないが、長期間放置すれば徐々に体内侵食率が上がっていく。

 

「・・・・・くッ」

 

注射器を拾い上げ、頭を抱える。

毎日のように小学校に送り迎えをして、アパートに帰れば料理をせがむ延珠がいた。

延珠は一々料理を辛口批評するので、作りがいがあった。

そんな日常が突然壊れた。

立ち上がり、広すぎる八畳一間をもう一度見回す。

 

「・・・一人じゃ広すぎるぞ、延珠」

 

今着ている制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。

熱い慈雨が全身を叩き、強張った全身をほぐしていく。

シャワーから上がる頃には、ほぼ本調子に近かった。

 

「これも、神流のおかげ、か。後でちゃんと礼を言っとかないとな」

 

携帯電話の中に延珠の顔がアップで映っている画像が残っているのを確かめてから、財布を持って外に出ようとする。

そこで、ふといくら入っていたかと財布を開いて、思わず笑ってしまった。

帰りは徒歩になるかもしれないが、かまうものか。

 

 

「里見君~、まだ?」

「神流お前、女のくせに準備早んだな」

「え、里見君、女をなんだと思ってるの?」

「いや、俺は散々待たされたから女は全部そういうやつだと」

「ふふっ、それはどうかな?里見君がそこまで言えるなら、もう大丈夫だね」

「・・・・ありがとな。行くぞ、神流」

「どういたしまして。うん、里見君」

 

駅まで走り、電車に乗る。

そして終点で降りる。

休日の早朝とあってか、乗り口も出口も閑散としていた。

傘を差し、遠くにモノリスを見ながら、迷わず外周区に向かい、歩を進めた。

 

モノリスによって人間とガストレアの住む境界が決まって早十年経つ。

大戦によって無傷のまま残ったのは東京都だけだった。

隣接していた神奈川県、千葉県、埼玉県はモノリスによって県が千切れてしまっている。

これらを統合して東京都から東京エリアに改称、四十三区制としてのはいまから九年前のことだった。

元東京都中心部から近い順に番号が振られていき、(聖居があるのは第一区である)、国境線に近づくほど、番号がかさんでいく。

これから向かう外周区の第三十九区は、モノリスと接している国境線区域であり、同時に誰もが住みたがらない廃都だ。

 

 

 

徐々に人気がなくなっていき、不可思議なものが発見され始める。

人のものとは思えないほど大きい足跡。

血がこびりついて落ちなくなった椅子。

ガラスが砕けた4WDの車内は赤錆が湧いたように真っ赤になっていて、クッションのところからは得体の知れない謎の植物が生い茂っている。

緊急で敷設された掲示板には、色とりどりの紙が何層にわたって貼り付けられていた。

家族へ向けた知らせや、この子を探していますという紙とそれに添付された写真。

友達への知らせなど、数多の紙が貼り付けられていた。

これは、戦時中離れ離れになった人たちが再開するために設けた掲示板だ。

中継基地局を破壊されて、携帯電話はただのゴミになってしまった。

ここも、戦火に巻き込まれた地域なのだろう。

 

進むにつれて、どんどん視界が開けてくる。

倒壊した建物と半壊した建物ばかりになってきたからだ。

その中で、新設された一際大きな工場がある。

あれらは、地熱、火力、水力、風力、太陽光などの各種発電施設、そして原子力発電所だ。

元々日本は四方を海に囲まれていて、海風が強い。

それに、世界の火山の約一割ぐらいがこの日本にある。

つまり、地熱も利用でき、複雑な地形だから高低差もあり、水力も使うことが出来る。

今、二〇三一年現在は、太陽光発電の効率が飛躍的に進歩し、四十一区には試運転段階だけどトカマク式核融合炉も設立されている。

中央の電力はほぼ、外周区でまかなわれている。

しかし、

 

「・・・政府って、何なんだろう」

「・・・・・」

 

綺麗に舗装されたアスファルトの道路と、その脇に立っている建物の残骸を見ながら、小さく呟く。

こういう手の災害が起こったとき、最初に復旧されるのは物資を運ぶための道路。

次にライフラインの肝ともいえる水の確保に始まって、どんどん衣食住を充実させていくはずだ。

だけど、復興は未だに進んでいない。

これは政府に復興する意思がないんじゃないか?

 

外周区が必要とされている主な用途は、危険な原子力発電所を運営するための場所。

エリア中央で出たゴミの捨て場。

ミラクルシードと呼ばれる、小面積で大量収穫が見込める遺伝子改良の種を蒔く。

の三つだ。

その三つのいずれも、ここに住んでいる住人への配慮は、一切無い。

 

そんなことを考えている間にも、モノリスはだいぶ大きく見えるようになってきた。

モノリスに近づくほど人は少なくなるのだが、少し前から複数の視線が私たちを見ているのがわかる。

そのまま歩き続けると、ある一つのマンホールの前で里見君が立ち止まった。

そして、ニ、三回ノックする。

 

「・・・?誰かそこに住んでるの?」

「ああ、マンホールチルドレンっていわれてる」

 

すると蓋が重い音を上げて持ち上がり、「なにー?」という舌足らずな声と共に中から年端もいかない女の子が顔をだす。

七歳くらいかな?きょとんといてこちらを覗き込んでいる。

彼女の瞳は赤かった。

 

「人捜してんだけど、いいか?」

「けーさつの方ですか?わたしたちに、立ち退く意思はありませんですので。のでので」

「いや違ぇよ、警察じゃねぇ」

「じゃあじゃあ、せーはんざいしゃの方ですか?」

「ぷっ・・・」

「おい神流、笑うなよ・・・俺は性犯罪者でもねぇよ」

「じゃあお引取りくださいですので」

 

マンホールの蓋がばたんと閉じ、里見君は少しの間固まった。

いや、私はその光景を見て声を殺して笑いながら転げまわってたんだけどね。

尚も転げまわっていると、我に帰ったらしい里見君が叩くようにマンホールをノックする。

 

「しつこいせーはんざいしゃは嫌いですッ!」

「ぷっ・・・あははははは!!」

「待て待て待て!どうして警察と性犯罪者の二択しか用意されていないんだよ!そして神流、お前も笑うのこらえろよッ!そしてお前はいまどうして俺を性犯罪者だと断定しやがった!」

「あなたのお顔を拝見してそー思いました次第ですので」

「あははははは!!!わ、私、も、もう無理!」

 

あははは、もう無理。

もう、あれだね。ちょっとは我慢してたけどこれは我慢できないでしょ。

 

「この・・・おい神流!」

「あはは、はは、な、なに?」

「ところで、なにかごよーでしょうか?」

「はぁ・・・・民警だ。この子を捜してる、会わなかったか?」

 

あはは、なんかため息つかれちゃったけど。

里見君はため息を私に?ついてから、携帯電話と民警手帳をその少女に見せる。

少女はライセンスと携帯電話に映されているであろう延珠ちゃんの写真を見比べたあと、「知りません」と言った。

 

「一応他の人にも聞いてみたいんだけど、大人の人、誰かいねぇか?」

「じゃあ長老になりますので、呼んできますので、中でお待ちくださいですので」

「あ、ああ・・・」

 

ということで、私たちは下水道に降りていった。

ようやく私も笑いの地獄から復帰し、まともに話せるようになった。

中は以外に広く、思ったより清潔そうだった。

少し歩くと、少女が「ここでお待ちくださいですので」といって、ひょこひょこと奥の方へ行ってしまった。

 

「いや、久しぶりにあんなに笑ったよ、里見君」

「俺は笑えねぇよ」

「私は笑えたよ~」

「性犯罪者呼ばわりされた俺の身にもなってくれよ」

「私は男の子じゃないからわかりませ~ん」

「お前なぁ・・・」

 

その時だ。

カツンカツンと奥の方からゆっくりと足音が近づいてきたのは。

その足音の主は男性で、背は低く(成人男性と比べれば)、頭は白髪だが、背はまがっていない。

眼鏡を掛けていて、知的な印象さえ受ける。

底部にクッションラバーがついた撞木杖を突いているが、長老というにはまだまだ若い。

 

「お二人は随分と仲が良さそうですね」

「・・・ふふっ、そうですか?」

「おい神流。なんで俺の顔を一回見たんだ?」

「あはは、いや、別に?」

「まあいい。里見蓮太郎だ」

 

里見君が民警手帳を見せながらいう。

優しそうな人だ。

もし、延珠ちゃんと月夜が昨日ここに来たのならば、きっと優しく迎えてくれただろう。

 

それに、里見君が否定しなかったのもちょっと嬉しい。

 

延珠ちゃんと月夜は今、どこにいるのかな?




読んでくれてありがとうございました。


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延珠ちゃんの行方

こんにちわ。
お久しぶりです。
ようやく1ページ書き終わったので、投稿しました。
原作の蓮太郎の性格とここの蓮太郎の性格が少し変わったかもしれないですが、まぁ、あまり気にしないでください。(つっこみが増えただけ)

お待たせしました。

では、どうぞ



「アンタがさっきの変なのが言ってた長老か?」

「ああ、長老は愛称ですよ、はは。松崎といいます。いや、私も驚きました、マリアが『右手が警察で左手が性犯罪者の人と、性犯罪者に捕まっている女の人が来た』と言っていたので、ちょっと驚きましたよ」

「えーと、念のために言っておきますけど、私は捕まっていませんよ?」

「否定するのそこだけかよ!?俺が性犯罪者だってことも否定してくれていいだろう!?」

「えー、あははは。まあそんなことは置いといて、どうですか?この娘来ませんでしたか?」

 

話が逸れかけたから、元に戻そう。

おそらく松崎さんはここに自発的に住んでいるのだろう。

身なりは綺麗ではないが、ホームレスではないと思うから、おそらくそうだ。

彼も『奪われた世代』なのに。

松崎さんは私の問いに少し考えるようなそぶりをしてから、首を横にふった。

 

「・・・来ていません。残念ですが、知りませんな」

「「そう(です)か」」

 

まあ、こんなにすぐ見つかるわけないか。

 

「わかりました。ありがとうございました」

「ああ、時間を取って悪かったな」

 

もちろんこれくらいじゃへこたれないよ!

延珠ちゃんも月夜も見つけないとね。

私と里見君が一礼して去ろうとしたとき、引き止めるように杖がこちらに伸ばされた。

 

「これからどこへ?」

「三十九区をくまなく。こいつの故郷なんで。見つかるまで探してみるよ」

「見たところ、あなたは相棒に逃げられたプロモーターのようだ」

 

里見君は、何も言わなかった。

・・・いや、言葉がでてこなかったのかもしれない。

里見君の視線が泳ぐ。

それだけで松崎さんには伝わってしまったらしい。

 

「この子でなくともよいのではないですか?」

「なに・・・?」

「ああいう子たちの面倒を見てると自然と詳しくなってしまうのですが、別に民系のペアで性格の不一致など珍しいことではないはずです。ペアの解消または志望の場合、IISOに連絡して新しいイニシエーターと契約を結べばいい。IP序列は一旦大きく下がりますが、再び実績を上げて返り咲くのも、あなたの年齢ならそう難しくはないはずだ」

「俺はイニシエーターだとかプロモーターだとか、そんなの抜きで延珠を探しに来てんだ。アンタはいい奴で感謝もしている。その上で言わせてくれ。―――――何も知らねぇくせに偉そうに語んじゃねぇよッ!」

 

その里見君の声の迫力に、私も松崎さんも驚いた。

松崎さんは目を見開いて、杖を落とすほどだった。

チッと小さく舌打ちする音が里見君から聞こえた。

 

「・・・悪い。怒鳴るつもりじゃなかったんだ。もう行くよ。じゃあな」

 

そう言って、里見君は歩いて行ってしまった。

 

「・・すみません。ありがとうございました」

「・・・いえ、私も怒らせてしまったようで、すみませんでした」

 

走って私も里見君の後を追う。

 

 

 

松崎は、その二人の後姿を愛おしげに眺めてからおもむろに振り向いて、後ろの闇に向かって声を上げた。

 

「聞いてたんだろ。良い青年じゃないか。このまま本当に見送ってよかったのかい?お譲ちゃん」

「ほんとによかったんですか?延珠」

「・・・・・」

 

後ろの闇から出てきたのは、紅い髪の女の子と、刀を携えた女の子だった。

 

 

 

・・・・・

―――――

 

 

翌日。

私はバラニウム義脳と義眼の定期点検のために、菫先生のいる大学病院にいた。

もちろん、学校は欠席にしてもらっている。

 

「しかしまぁ、君もたいしたもんだねぇ」

「え?どういうことですか?」

「いや、ねぇ。まだ試作段階だった二三式バラニウム義脳とニニ式バラニウム義眼をちゃんと操作できてるってことさ」

「ん~、フルで使ったことはないんですけどね」

「二二式は蓮太郎君が持っている二一式義眼の演算能力を引き上げたものだ。つまり、それだけ脳に負担がかかる。君には二三式義脳があるから少しは軽減されるだろうが、それでもかなり危険だ」

「菫先生がそこまでいうなら相当なんでしょうね」

「・・・あぁそうそう、また朝海君が来たよ」

「兄さんが!?いつですか!?今どこに!?」

「っとまぁ落ち着きたまえ。しかし朝海君はおもしろいねぇ。実に興味深い。今度実験に付き合うよう海夜君から言っておいてくれないだろうか?」

「だめです!兄さんはたった一人しかいない『神流式陰陽術』の継承者なんですから!」

 

 

私の兄さん、神流朝海(しんりゅう あさうみ)は、『神流式陰陽術』という陰陽術を使える家族でただ一人の人だった。

ちなみに兄さんも民警で、IP序列は19位と、私なんか足元にも及ばないくらい高い。

この陰陽術を使うには才能っていうのが必要で、努力してもできないものなんだ。

父さんも昔使えたらしいんだけど、兄さんが生まれた時から使えなくなっちゃったんだって。

才能が親から子へ受け継がれていってるらしい。

兄さんはまだ19歳で、結婚もしてないし、もちろんのこと子供もいない・・・と思う。

だから、まだ陰陽術を使えるはずだった。

そういえば、兄さんのイニシエーター見たことないなあ。

 

 

「そういわなくてもいいだろう?一医者として、一研究者として、是非」

「是非、じゃないですよ!」

「先生、いるか?」

 

 

その時、扉が声と共に開かれた。

もちろん、声でその主はわかったのだが。

 

「やあ、里見君」

「先生、・・?今日は休みじゃなかったのかよ、神流」

「あぁ、うん。義眼と義脳の定期点検をしにきたんだよ」

「あぁ、やっぱそれほどのスペックになると定期点検がいるのか」

「いやいや蓮太郎君、定期点検とは名ばかりで、義脳にどのような変化があるかを見るために来てもらっているんだけどね」

「義脳に変化・・・?どういうことだ?」

「それは月夜ちゃんから既に聞いてるのではないのかな」

「・・・そうか」

「え?なになに?月夜が何か言ったの?」

「いや、なんでもねぇ」

「まぁなにもないところだが自由にくつろいでくれたまえ」

 

ものすごく気になるんだけど。

ピピッピピッピピと機械が音をだし、スキャン結果が出される。

それを見て、菫先生が声をあげた。

 

「これは・・・!」

「・・?どうしたんですか、菫先生?」

「想像以上、というか、今までのデータを基に解析するとこんなことには・・・海夜君、最近なにか変わったことはあったかい?」

「あの、だからどうしたんですか?」

「・・君には、君の義脳には、もう立派に人格が宿っている」

「「・・・え?(は?)」」

「いやはや、これはすごい。蓮太郎君の『俺のハーレム計画の概要がまとまったぞ』という話なんかよりも、なん兆倍、いや、比較にならないほどすごいことだ」

「嘘つくな!俺はそんな話してねぇ!」

「うわぁ、ものすごい計画だね」

「信じるなよ!」

「あはは、うん、信じてないよ」

 

けれど、最近私になにかあっただろうか?

特にこれといって思い当たる事はないんだけどなぁ。

あ、強いていうのなら、里見君に出会ったこととか?

 

「ああそうだ、蓮太郎君。さっき君の後援者が来ていたぞ」

 

菫先生の言葉に、蓮太郎君がそわそわと首を左右させ、周りを見た。

・・・なんか嫌ってるっぽいね。

 

「あいつが来てたのか?」

「うん、なかなか不機嫌だったぞ。最近、生徒会室に遊びに来てくれないから教室に会いに行くのにいっつも不在でつまらないってな」

「鉢合わせないように逃げてっからな」

「・・あれ、もしかして里見君の後援者って司馬重工なの?」

「ああ、そうだ。確かにありがたいとは思ってるんだが・・・」

「蓮太郎君はどうしてまた学校のアイドルから逃げるんだい?」

「そりゃ多少は、か、可愛いと思うけどよ、それはみんなあいつの本性知らねぇからだよ。あの女、感極まると学校でマグナムオートぶっ放すんだぜ」

「えぇー、あの人そんなに恐い人だったんだ・・ねぇ、里見君。あの人と私ってどっちが可愛いと思う?」

 

 

 

・・・・俺にそれを言えと・・?

・・まずは整理しようか。

あくまで客観的に見た(客観的が重要だからな)容姿は、神流の方がかわいいと思う。

木更さんとは違って巨・・・んん、じゃないが、それでも、顔もかわいいし、スタイルもとてもいいと思う。

あの女は・・・まぁ、本性を知らないやつからしてみれば相当かわいいと思う。

だが、知ってしまった俺にしては、あのかわいさの裏に鬼の様な一面があることも知っているため、正直、あのかわいさは俺にとって凶器でしかない。

 

「俺は、神流の方がかわいいと思うけどな・・・」

「へ!?やった、ありがと、里見君」

「は?俺声に出してたか?」

「それはもう、蓮太郎君が幼女を誘拐したときの様な大声で―――」

「誘拐なんてしねぇよ!てか話の腰を折るな先生!」

 

クックックと、悪役染みた笑いを漏らすこの地下室の女王は、天変地異が起こってもここにいて、奇妙な笑みを浮かべながら俺を迎えるんだろうな。

なんとなくそんな気がする。

・・・この笑いと先生が話す内容を聞いていると、そう思う。

・・・・・いや待て待て。俺は今日ここに相談があって来たはずなんだが。

 

「先生悪い・・・実は今日は相談があって来たんだ」

 

彼女は書類を机に置くと、備え付けのコーヒーサーバーの下に耐熱ビーカーを三つ出してから、おもむろにふむと言った。

 

「何があった?話してみろ」

「あ、先生、私の分はいいですよ。そろそろ帰らないと」

「そうかい?だがしかしビーカーは三つでいい。なぜなら蓮太郎君が二杯飲むからね」

「そんなに飲まねぇよ!」

「はいはい、わかってるよ。じゃあね、里見君。はやく見つかったらいいね」

「・・・ああ」

 

 

私はそう言って、地下室を出た。

 

といっても、特に行くところはないので、とりあえず家に戻る。

 

「たっだいま~」

 

玄関の扉を開け、そう元気に言う。

もちろん、いつもなら

 

「あ、お帰り、海夜」

 

と、こんな風にお帰りを言ってくれる人がいるのだ・・・が!?

 

「え!?ちょ、月夜!?なんでここにいるの!?延珠ちゃんと一緒じゃなかったの!?」

「え、なんで一緒にいたことが・・・?」

「いや、そりゃ、普通そう考えるよ?」

「・・・海夜は馬と鹿だと思っていたから」

「ちょっとまって!?私そんなにバカじゃないよ!」

「そうですか。・・延珠は学校に向かいました」

「そう・・・え?学校に向かった!?」

「はい。学校に向かいました」

「ちょ、行くよ!月夜!」

 

私が月夜の手を引っ張って勾田小学校に向かおうとしたとき、携帯がピロリロリンッと、着信の音がなる。

相手は、木更さんだった。

 

「もしもし?」

「あ、よかった。今、月夜ちゃんといる?」

「え、あ、うん。今家の前。これから勾田小学校に向かおうと思っていたとこ。どうして?」

「あら、ちょうどよかったわ。すぐに勾田小学校に、“装備を整えて”行って!例のガストレアの居場所がわかったの!ヘリを飛ばすからそれに乗ってね!」

「うん。わかった。装備していく」

 

ピッと通話終了ボタンを押し、月夜に言う。

 

「月夜、あのガストレアの居場所がわかったって。装備を整えて勾小学校に集合するって。わかった?」

「はい、わかりました」

 

月夜がトコトコと部屋の中に入っていき、刀を3本持って戻ってきた。

一本は、兄が月夜のために造った『切れ味が落ちない、バラニウムでできた刀』

もう一本は、兄が月夜のために造った『絶対に欠けない、バラニウムでできた刀』

最後の一本は、兄さんが私のために造った『超バラニウムと、兄さんの陰陽術でできた刀』

兄さんがつけた名前は、

1本目が『清流刀』、2本目が『神樹刀』、3本目が『神流刀』。

 

月夜が腰に2本、刀を差し、私も左腰に1本、刀を差す。

 

「さて、装備は万端。行こうか」

「はい」

 

 

私は少しの不安を覚えながら、勾田小学校へと向かい走った。




読んでくれてありがとうございました。

今回もあまり内容が進みませんでした・・・。
次回は、たぶん、小学校のところから、ガストレアを発見し、影胤と会うところぐらいでしょうか。たぶんその辺のはずです。

何か問題とかありましたら感想までお願いします。
感想書いてくれたら嬉しいです。


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『呪われた子供たち』とは……?

えぇっと、どうも!こんにちは!
神流朝海です!
長らく書いていませんでした!
ほんとすみません。私にも宿題やら部活やら応募するための小説とかとかがあるのです……。
そして超短いです。
長いのを書こうとすると、先延ばし、先延ばしとなってしまうので、これからはこんな量で書いていきます。すみません。

ではでは、どうぞ



私が学校についたときには、すでに昇降口には人だかりができていた。

ふたりの言い争う人間を囲んで、ドーナツ状の人垣が出来ていた。

私の横を、何人かの生徒が通る。

その会話は、

 

「なにどうしたの?」「ほら三組の子いたでしょ。あの子、実はガストレアウィルスの保菌者だったんだって」「うそー、あの子に触れられたことあるかも。どうしよう」「私前から嫌いだったよー。なんかちょっとナマイキだったしー」

 

延珠ちゃんに対する嫌悪の会話だった。

ひっぱたきなるような衝動を、手を握り締めることによって押さえ、言い争いが起こっているドーナツ状の人垣に近づく。

二人とも大声で叫んでいるが、その展開は一方的だった。

少年とおぼしき声が叫ぶと、周りはエールのようにざわめき、少女が叫ぶと、批難がましい沈黙が降りた。

一方的な拒絶。反論しても、誰も聴く者がおらず、その意見は弾かれる。

その光景に、私がとうとう耐えられなくなったとき、その輪の中に入っていった少女が言った。

 

「あなたたちは、なぜこんなことをするんですか? してなにになるんですか?」

「んだよ、こいつのお友達かよ。なら離れたほうがいいぞ。こいつ、ガストレアウィルス持ってるからな」

「はい、そうですが、なにか? あなたは触れられただけで、近くにいるだけでそのウィルスに感染するとでも思ってるんですか? ばかばかしい。そんなのはありえない。学校の授業で習わないのですか」

「それがなんだよ!? いつガストレアになって俺たちを殺すかもしれないやつの近くになんていれるわけねぇーだろ!」

そーだそーだ!

と、周りがその言葉に乗っかる。

私もその輪の中に入ろうとしたとき、月夜の発言に驚いて、その足が止まった。

 

「ガストレアウィルス感染者だから、なんだというのですか? あなたがたを、親を、家族をガストレアから守っているのは、聖天子様じゃない。軍でもない。私たち民警なの! ……それがわからないんだったら、もういい。私はなにも言わない。延珠の友達だった人も、“たかだが”それくらいのこともわからなかったんだというだけ。そんな人が友達を名乗る資格なんていない。私は延珠がガストレアウィルスに感染していようがしていまいが、友達でいる。外から見てるだけの人に延珠をどうこういう資格なんてない。あるとすれば、延珠と言い争っていたあなただけ。でも、私たちは同じ子供。そんなくだらないことで、時間を無駄にするのはもったいない。……いいですか? これ以上は延珠が攻撃されていると見なし、守るために武力行使をします」

「ちょ、ストップ月夜!」

 

ちょっと危なくなってきたのでストップ。

月夜は、本当に延珠ちゃんのことを考えてくれてるんだね。

一同の視線が私に向く。

 

「私からも言わせてもらうよ。私たちは民警。エリア内外で起きるガストレア事件を解決する組織の一員。彼女達は、『呪われた子供たち』は、無理やりとはいかないけど、ほぼ強制的に戦場に駆り出されている。君達は、それをどうとも思わない? 例えば君」

 

延珠ちゃんと言い争っていた少年を指差し、問う。

差された彼は突然のことに驚いているようだった。

 

「あなたは、ガストレアを倒すために戦場に来いといわれたら、行くのかな?」

「行くわけねぇだろ!なんのために民警と軍があるんだよ!」

「そう、行かない。例え、君が延珠ちゃんみたいに特殊な力を持っていたとしても、絶対にいかない。でも、延珠ちゃんは戦場に行く。理由はわかる? ……いや、そういう『呪われた子供たち』がどういう気持ちで戦っているか、考えたことある? そりゃ個人によって変わるけど、延珠ちゃんの場合は、『友達をガストレアから守るため』だよ。どう? そこの柱に隠れてるあなたは、これを聞いてどう思う?」

 

答えは返ってこない。おそらくこの場で意見を言うのが怖いのだろう。

だがもう、答えを待つ時間はなくなった。

「延珠!」

「ッ! 蓮太郎!」

 

ほらね、もう私の出番は終了だ。

里見君が息を切らせながら走ってきて、飛び込む延珠を抱きかかえた。

里見君は、落胆している表情と、よかった、という表情が交じり合っていた。

 

「ありがとな、神流、月夜。延珠、もう行こうか」

「もう、戻れないのだな……」

 

里見君は、延珠ちゃんのまた溜まりかけた涙を指でぬぐい、微笑んで見せた。

里見君も言いたいことはあっただろうに、ごめんね。私たちが全部言っちゃった。

 

「さ、退場の時くらい胸張んぞ」

「でも、教室にまだ鞄が」

「そんなもん、どうでもいいじゃねぇか」

「う、うむ! そうだなッ! 行くぞッ、月夜、海晴!」

 

延珠ちゃんは、袖で今にも零れそうな涙を拭って、快活そうに振舞った。

なら、私たちもあわせなきゃね。

 

「うん。じゃあ行こうか、延珠ちゃん」

「はい、そうですね。ちょうど“お迎え”が来ましたし」

 

遠くからかすかに聞こえる、ブロロロロロという、ローター音が聞こえてくる。

その機体は、精白に青い染め抜き。中央には、杖に巻きついた一匹の蛇が描かれている、医神アスクレピオスの徽章。

……お迎えってこれ呼んだの!?

あれ、でも木更さんってお金、そんなに持ってたっけ?

あれを呼ぶなんて、そこそこお金かかるよね?

私たちの目の前に降り立ったドクターヘリに、その場にいた人たちは唖然としていた。

 




え~と、前書きに書いたとおりの短さです。
いろんな都合上、この様な形で連載していきます!
まだまだよろしくね!

問題とかありましたら感想まで!
なくても感想ほしいです!
今後の励みになります!
読んでくれてありがとうございました!


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ヘリから飛び降りて

どうもっ、こんにちは!
問題児の方でコラボっているので、こちらが遅れてしまいました。
前回と同じく、短いです。
コツコツ書いていくので、お付き合いお願いします!

では、どうぞ



ヘリが飛び立ってしばらくして急に雨脚が強くなってきて、窓の外は豪雨になっていた。

里見君は助手席、私たちは本来患者が乗るスペースに座っている。

沈黙の中、最初に口を開いたのは操縦士。

 

「あれはなんでしょうか?」

 

操縦士が指差す方向は、下。私たちのいる後ろの席からは見えない位置だ。

里見君が目を凝らし窓に額をくっつける。

 

「クモのパラシュート……チクショウそういうことか、操縦士さん追ってくれ」

「君にはあれが……のかッ?」

 

……あれ、眠い。一日中里見君の看病してたから疲れてるのかな?

看病といっても、ただの針治療だけどね。

前にちょっとだけかじったことがあって、疲労回復のツボとか覚えてるのが役に立った。

いやぁ、私って多才だね♪ さすがに眠気には勝てないけど……。

 

「……海夜、大丈夫?」

「……ふぇ!? な、なにが?」

 

今のは寝てないからね!?

まぁでも月夜にはお見通しのようだ。

じゃあここは月夜に任せて、おや――

 

すみ、と続けようとした瞬間、突然鉄板をぶち抜いたような暴力的な音と共に、機体が大きく振られる。

寝かけていた私は、その衝撃に耐えられず、頭を操縦席とここを隔てている壁に勢いよくぶつけてしまった。

……いったい!? え!? 今の、なに?

 

「待て延珠!」

「待ってください延珠! 私も!」

 

里見君と月夜の声がヘリの中で響く……いや月夜の声は外から。

今さっきのショックで完全に起きた私は、やっと状況を理解したのと、里見君が操縦士に指示を出すのとは、同時だった。

 

「高度下げて! 早く!」

「ビニール紐でよければあったよ!」

 

何かないかと辺りを見回すと、小脇に置かれた荷造り用のビニール紐が目につく。

さっきの衝撃でもう私起きたよ!

まだまだ頭痛いけど!

ビニール紐をあるだけ取り出して、二重にして座席の一部にくくりつけ、それを引っ張って何度か強度を確認する。

うん、これくらいなら大丈夫かな。

即席ロープを延珠ちゃんが開けた扉から垂らし、その扉の前まで行くと、思ったより高い高度に一瞬眩暈がした。

いくら私でも、怖いものくらいあるんだよ?

 

「落ちても俺が受け止めるから安心しろよ」

 

いつのまにか隣に来ていた里見君がそう言う。

しかしその声は少し震えていて。

 

「あはは、頼りにしてるよ? ……さあ行こうか」

 

意を決し、ロープに手を掛ける。

雨に濡れたビニール紐は、思ったより滑りやすかった。

先に下りた里見君が止まりかけたとき、私の耳にもヒュオンと聞こえるほどの突風が紐を大きく、強く揺らす。

 

「……っ! 里見君!」

 

私が叫んだときにはもう遅かった。

里見君の手からロープは離れ、彼は空中に投げ出される。

地面につく寸前に姿勢を正し、足から着地した里見君を見て、安心した。

 

「……大丈夫だよね? 着地したとき四回転ぐらいしたけど、ちゃんと生きてるよね?」

 

数秒経ち、里見君が起き上がると、私に、ヘリに弱々しく手を振る。

それに安堵してしまって、先ほどと同じような、いや、ビュオン! と聞こえるほどの突風が来たことに気づくのが遅れた。

 

「えっ、ちょ……まっ……」

 

油断しきっていた私は、あっさりとロープに見放され、宙を舞う。

即座に義眼と義脳を使って演算を開始する。

結果は、もし助けがない場合、“生存確率0%”。

その演算結果に驚くが、まぁそれもそうか。

私は里見君みたいに身体強くないし。

一秒が、一分、一時間とすごく長く感じる。

地面まで、3、2、1――

 

「――ふんぬッ……!」

 

一瞬身体の落下がストップし、また始まる。

そのまま地面を里見君と一緒に三回転くらいして、ようやく止まった。

 

「よし、無事着地!」

「いやいやいや、無事じゃねぇっての……」

「受け止めてくれてありがとねっ」

 

私が演算結果に驚いたのは、里見君が助けてくれる確率が100%だったからなんだ。

この世に絶対なんてないと思ってたけど、絶対ってあるんだね。

 

「ちょっとまだ身体痛いけど、月夜たちのところに行く……?」

「あぁ、少し急ぐか」

 

背の高い常緑樹の帳の向こうから、断続的に戦闘音が響いてきていた。

枝に手をつきながら視界を遮る小高い丘を登っていくと、眼下では戦闘が繰り広げられていた。

一方は毒がありそうな牙を開き威嚇しながらレイピアのように鋭い細い八本足を巧みに操って突きかかるモデル・スパイダーのガストレア。

だけど、灼熱色の眼をした延珠ちゃんと月夜は、ガストレアのあらゆる動きを見切っていた。

延珠ちゃんは巧みに繰り出される刺突をくぐり、神速でガストレアの懐に潜り込むと、鉄槌の如き蹴りを真上に蹴り上げる。

蹴りを喰らったガストレアは上空十メートルまで吹き飛び、空中で月夜の二刀によって捌かれた。

ガストレアの体は大きくぶつ切りにされ、地面にボタボタと音をたてて落ちていく。

 

「……月夜もすげぇんだな」

「ふふっ、そりゃあ、私のイニシエーターですから」

 

私も月夜のスキルはすごいと思う。

小太刀ではなく、刀を二本とも使うのだ。

月夜の刀は私のと比べると少し短いけど、それは身長が違うからだ。

普通、二刀流なら、小太刀二本か、刀と小太刀を一本ずつ持つ。

 

「……こればかりは兄さんに感謝感謝だよね」

「蓮太郎! 倒したぞ! 妾たちが一番乗りだ」

 

延珠ちゃんが私たちに気づくと、両手をぶんぶん振ってこちらを見ている。

月夜も刀についた血を掃い、鞘に戻すと、こちらに小さく手を振ってくる。

あんなに大人っぽい月夜が、だ。

やっぱり同年代の子と一緒にいるからかな。

私も月夜を小学校に通わせてあげればよかった。

 

「行くか、神流」

「そうだね、里見君」

 

私たちも手を振って、延珠ちゃんたちに近づいていった。

 




今回も短かったですね、すみません。
最近書く時間が減ってきて、結構困ってますw
でも、これは更新していきたいので、これからもお付き合いお願いしますっ!

読んでくれてありがとうございました。
感想書いてくれたら嬉しいです


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彼を探して

どうもっ、こんにちは!
今回も書いてきます!
最近ブラック・ブレット書くのにはまりすぎて、問題児があまり進んでおりません……。
でも、それでもこれを書いておきたいんですっ!

では、どうぞ



「無茶すんなよッ。お前がヤケになったかと思って俺は――」

 

里見君が近づきながら延珠ちゃんの肩に手を置くと、延珠ちゃんは顔をしかめた。

怪我、したのかな?

 

「……どこか怪我したのか?」

「い、痛くないぞ! ちょっと左足を捻っただけだ。一時間もすれば治る」

 

そんなやりとりに微笑みながらも、それを邪魔すまいと今回のターゲットであるジュラルミンケースを探す。

画像で見たときはいまいち大きさがわからなかったけど、その大きさは一抱えほどある。

そのケースの持ち手には長い手錠がくくりつけられていた。おそらく、決して離すまいとガストレア化する前の被害者がつけていたものだろう。

 

思考にふけっていた私を叩いたのは、なるべく聞きたくない、そして会いたくない相手の声だった。

 

「ヒヒ、ご苦労だったね里見くん、神流くん」

「えっ」

 

驚きつつも振り向きざまに刀を抜くが、斥力フィールドによって妨げられる。

くっ、さすがにこれだけの力じゃたりない。

 

「くっ……きゃあ!」

 

力で押し負け、私はあの時と同じように吹き飛ばされる。

私の攻撃力だけじゃ限界があるかも……

 

「神流ッ! くそ、蛭子影胤ぇ!」

 

里見君が声を荒げ、パシュンパシュンと音をたてるのが聞こえる。

おそらく拳銃を発砲したんだろう。

吹き飛ばされた私は、背後の木にはあたらず、寸前にふわっと受け止められ、運動エネルギーが急速になくなっていく。

 

「大丈夫ですか? 海夜」

「あはは、ありがと月夜」

 

月夜に礼をいい、影胤のほうを振り返る。

瞬間、右側から、ガキィイ! というバラニウムを打ち合う音が聞こえた。

延珠ちゃん……足を怪我してるはずなのに。

その奥で、里見君が影胤を戦っている。

 

「天童式戦闘術一の型八番――『焔火扇』ッ!」

 

里見君の突き出した拳は、青白いバリアに激突し、ベクトルをそらされ、空を切る。

私も刀を差しなおし、月夜に延珠ちゃんの支援をするように頼んでから里見君の支援に向かおうとしたそのとき、パンパンパン! と弾が拳銃から放たれる音がした。

里見君のほうを振り返ると、影胤が至近距離で里見君の肩を――

 

「里見君ッ!」

 

悲鳴の様な叫びを上げながら私は走った。

走りながら居合いの構えを取り、放つ。

 

「神流式抜刀術二の型三番――『白夜』ッ!」

 

白夜は、フェイクを何重にも重ねて放つ居合い斬り。

普通の人なら、何本もの居合いがほぼ同時に飛んでくる感覚だろう。

本当の刃は一太刀だけで、他はすべて残像とフェイク。

並みの人ならば、フェイクだけで斬られたと錯覚し、本当に斬られたように細胞がダメージを受けるほどの剣戟。

しかしその一撃も、影胤の肩の肉を切り裂いたまでで、骨までには至らなかった。

里見君をかばうように立ち、もう一度構える。

 

「これほどまでとは……。君達にひとつ、私の技を見せよう。『マキシマム・ペイン』!」

 

突如、影胤を覆っていた斥力フィールドが大きく膨らみ、私たちにめがけて殺到する。

避けようと後ろに二歩下がるが、突然の背中への衝撃に驚いた。

 

「えっ……岩ッ?」

 

それはもう、私の背丈をゆうに越えるほどの大きさだ。

ジャンプしてもギリギリとどくかどうかの。

すぐに横に飛びのこうとするが、里見君が後ろに……。

迫り来る斥力フィールドになんとか刀で押さえ込もうとがんばるけど、無理。力が足りない……。

次の瞬間突然力が大きくなり、私は抑えきれなくなって吹き飛ばされた。

 

「あっ……」

「神流ッ!」

 

 

頭を打ったのか、神流がぐったりと崩れ落ちる。

……強い。

あの神流が負けた。序列157位というのはやはり伊達ではない。

強すぎる、ここまでとは。

俺と影胤の単純な戦闘能力の差に延珠の足の負傷、神流の気絶。

延珠は主に月夜のサポート。月夜は小比奈と同等ぐらいだろうか。

その状況を見て、俺は冷徹で一番合理的戦術をはじき出す。

 

「逃げろ、延珠。月夜も、神流を連れて、逃げろ」

 

延珠が眼を見開き、首を振る。

 

「嫌だ!」

 

月夜は、俺と神流、延珠を交互に見回している。

その瞳は驚きの色で、しかし、冷静そうな眼だった。

 

「……わかりました」

 

月夜がそう言い、二刀で小比奈を遠くに弾いて、神流のところへすぐ行き、抱える。

延珠の背後で小比奈が刺突の構えを取るのを見て、延珠の足下へ一発発砲する。

延珠は反射的に大きく跳び、悲しそうな顔をして奥の茂みに消えた。

こちらを見ていた月夜に、延珠を頼む、と眼で合図すると月夜は、

 

「……延珠のいる病院で待ってます」

 

そう言って走り出した。

延珠の後を追って。

 

「パパ! 延珠と月夜逃げた! 斬りたい! 追いたい!」

「駄目だ我が娘よ。他の民警と合流されたら面倒なことになる。きけんだろうそれに彼女達も強い。彼女の足が完治したら危険だろう。さぁ、仕事を済ませようか」

 

小比奈がこちらをキロリと睨んだかと思うと、次の瞬間に視界から消えていた。

直後、腹に強烈な衝撃。

腹を見ると、黒いバラニウムでできた小太刀が日本、突き出ている。

それを実感するのに、数秒かかった。

 

「弱いくせに! 弱いくせに! 弱いくせに!」

 

血を吐きながらも裏拳で小比奈を振り払い、XDを連射しながら退去し始める。

一発撃つごとに反動が傷にさわり何度も意識が飛びそうになるのを堪え、走る。

だが、それは走るに入るのかというくらいだった。、

足が、腕が、体が、動かない。

視界が滲み、雨に体温が奪われていく。

寒い、凍えそうだ。

こんな時、神流がいてくれたらな……。

気絶した神流を心配しながら、木々の帳を掻き分けていくと、開けた場所に出た。

そこは増水した川だった。

とても泳いで渡れる川ではない。

ましてやこの傷だ。

河の突端に立ち、ゆっくりと振り返ると小比奈と影胤、そしてカスタムベレッタの銃口がこちらを向いていた。

サー、とホワイトノイズめいた雨音が、静かに耳に入る。

……そうか、ここで終わるのか。

延珠、木更さん、月夜……そして神流、ゴメンなさい。

 

「……なにか言い残すことは、死にゆく友よ」

 

俺は血を吐きながらも、少し笑って、

 

「地獄に……落ちろ」

「おやすみ」

 

 

パパパパパン!

 

銃の音が微かに聞こえ、私は目が覚めた。

体を動かしてるわけじゃないのに、景色が右から左へとすぎていく。

 

「……海夜、起きましたか?」

「里見君は……?」

「…………」

 

月夜が何も言わず走り続ける。

その無言が、なによりの答えだった。

 

「降ろして!」

「……はい」

 

月夜にそう言うと、おとなしく止まった。

延珠ちゃんがいないのは、先に行ったのかまだ戦っているのか。

後者はまずない。月夜がここにいるのだから、それはありえない。

 

「月夜は延珠ちゃんのところへ。足怪我してるからね」

「……、わかりました」

 

何かいいたそうな感じだったが、すぐに頷き、走っていく。

月夜は、それが正しいと思ったことはすぐにそれをやるタイプだ。

きっと、逃げろ、というのは里見君が指示したのだろう。

私もすぐ走り出す。今銃声がした方へと。

私のみたところ、里見君のXDは、フルオートじゃない……。

木々の帳を「神流刀」で斬り裂きながら走り抜けると、開けた場所にでた。

そこには、9mmパラベラム弾の空薬莢が散乱し血のあとが点々と河の突端へと向かって――

 

「……うそ、でしょ?」

 

おそらく人が立っていたであろうその場所には、血の跡と、拳銃が落ちていた。

その拳銃の名称は――――スプリングフィールドXD。

まぎれもない、彼の銃だった。

無意識のうちに義脳が演算を開始し、1秒が1時間に見えるほどの速度で演算が進められる。

発砲音がしてからここまでかかった時間、川の流れる速度、落下時間etcすべての情報を洗い出し、今彼が、蓮太郎君が流れているであろう地点を導き出すまで、わずかコンマ1秒。

 

「私の足で――400メートル先なら!」

 

蓮太郎君のXDを拾い、走り出す。

今までで一番速く走った。

50秒もせずに400メートル先に着き、蓮太郎君を探す。

此処に車でにまた雨がひどくなり、川の水も少しながら増えてきている。

焦る思考とは裏腹に、サーサーと雨音が耳を通り過ぎていく。

どこ? この辺りのはずなのに……!

 

「……、見つけた!」

 

刀を置く間もなく川に飛び込み、なんとか助けようとする。

 

「起きて……起きてよ!」

 

寒さで手先が麻痺してきて、呼吸してるかどうかが確認できない……

体も冷たく、顔色は悪いなんてものじゃない……

蓮太郎君が目を開けない……

それが不安を駆り立て、後ろに迫る岩に気づくのが遅れた。

 

「……!?」

 

気づいたときには、もう避けられなかった。

川の流れは速く、そんなにすぐ移動できるものじゃない。

蓮太郎君にダメージがいかないように抱きしめて岩に背を向け、

 

「きゃあ………」

 

そのまま気を失って流された。

 

 

 

「式、二人を助けなさい」

 

人形の形をした紙が、川に向かって飛び込み、二人を川から助け出す。

一人は傷だらけで、出血の量がひどい。

一人は背骨にひびが入っている。

 

「はぁ。無茶するから……。神流式陰陽術ニ系統三番『治癒ノ子(チユノコ)』」

 

二枚の紙が光を放ちながら二人の体にしみこんでいく。

体の表面の傷がふさがり、骨のひびが少しずつなくなっていく。

これで大丈夫かと一息つき、彼は近くに腰を下ろす。

 

「近くにガストレアも影胤もいなかったのサ」

「そうか。ありがとう」

「いやいや、これも君のためならなんともないのサ」

 

腰と足に黒い暗器を差し、両手にも暗器を持ちながら笑う少女に、彼はありがとうと礼を言った。

彼は魔法使いが着るようなローブらしきものを着ており、少女は動きやすいTシャツに上から軽いカーディガン、動きの妨げにならないくらいのスカートをはいている。

 

「さぁ、じゃあ帰ろうか」

「そうなのサ。二人を病院に届けて、さっさと家に帰るのサ」

「式、この二人を病院へ」

 

式に二人を託し、別の式に乗って家に向かう。

 

「たまには運動をしないと、妹をおんぶできなくなっちゃうのサ」

「うるさいぞ。それくらいの筋力はある」

 

彼は苦笑いをして反論する。

尚笑顔な少女は笑いながら彼にしゃべりかける。

 

彼らは雨の降る中、濡れることなく空を飛んで帰った。

 




今回は少しばかり長くなりました。
次回は、少し先……になりそうです。
問題児のコラボを投稿したあとですかね。
続きは考えてあるので、私のモチベーション次第といったところでしょうかw

読んでくれてありがとうございました。
問題など、感想まで!
感想書いてくれたら嬉しいです!


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過去の記憶

こんばんは
五ヶ月ぶり、でしょうか……
長らくお待たせしてしまいました。
申し訳ありません。
パソコンを触れられる機会がたくさんあればいいんですが……

ではでは、どうぞ


ガタガタとうるさい騒音と共に、蓮太郎の頬が何者かに叩かれる。

誰かが、俺の名前を呼んでいる。

難儀しながら眼を開けると、天井を蛍光灯が次々にスライドしていき、視界の端に白い服を着た救急救命士らしき人が見える。

どうやらストレッチャーで救急病院に運ばれているらしい。

口の中には際限なく鉄くさい血の味が広がって呼吸できない。

肺に血が入ったのか、死ぬほど苦しい。

『大丈夫ですから』『すぐに助かりますから』と唱えながらストレッチャーを押す救急救命士の空言が耳から耳に抜けていく。

大きな音を立てて手術室の一番奥に体当たりすると、緑色の手術衣を着た一人の女医が俺を覗き込んだ。

その体つきは骨と皮ばかりになっており、眼球のある部分にある落ち窪んだ瞳だけが爛々と輝いていた。

首を横に傾け、手術室に据えられた鏡を見た瞬間、叫びそうになった。

右手右足が千切れており、左目が抉られていた。

その奥には、―――右目が抉れていて、頭部の一部がなくなっている少女がいた。

 

……そうか、これは昔の―――

 

女医は両手に持ったペラ紙を、死にかけの俺に突きつける。

 

『やあ、里見蓮太郎君だね、はじめまして、そしてもうすぐさようなら。私が左の手に持っているのは死亡診断書だ。あと五分もすれば、私がこちらに一筆入れて手続きを終え、君は速やかに戸籍から抹消される。そして右手に持っているのは、契約書だ。こちらは君の命を助けられるが、君には命以外のすべてを差し出してもらう。選べ。左腕で差すだけでいい。君の隣に寝ている少女は先ほど私の右手を選んだがね。考える時間はもうない。彼女の手術に移らねばならないからだ。意味がわかるね?』

 

そう、いつもこの夢で、この時先生はこう言う。

だから俺は、何度も夢の中で、俺がしてきたことをする。

馬鹿みたいに手が震えて口からあふれた血がストレッチャーを汚した。

ふと、天童菊之丞の言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『死にたくなければ生きろ、蓮太郎』

 

そして隣から、

 

『がんばれ! 私もがんばるからっ!』

 

と声が。

もちろん幻聴かもしれない。

それでも、その声に励まされて腕をあげる。

もう首を傾けるほどの力はなかった。

馬鹿みたいに白くなった手で片一方を差すと、女医は「いい子だ」と言って満足そうに微笑んだ。

俺はそこで、目の前が真っ暗になった。

 

 

―――――

 

 

『急げ! 早く運ぶんだ!』

『駄目だ! 間に合わない!』

『間に合わせるんだ! 神流家の生き残りの一人なんだぞ!?』

 

ストレッチャーを押しながら討論しているのは救急救命士。

たまに夢に見る、私が菫先生の手術を受ける直前の出来事だ。

そしてそこで、ある女医から声がかかった。

 

『その娘はセクション22に運びなさい。私が手術する』

『ッ、はい! わかりました!』

 

ガタンと扉に体当たりし、手術室に入る。

そして先ほどの女医が私を上から覗き込んで言った。

 

『やあ、神流海夜ちゃんだね、はじめまして、君のことは神流君から聞いているよ。私が左の手に持っているのが契約書。こちらは君の命を助けられるが、君には人類のための実験の被験者となってもらう。右の手にもっているのも、契約書。こちらも君の命を助けられるが、君には人類のために実験の被験者となってもらう。さあ、選びなさい。といっても、両方おなじなのだが。手で差すだけでいい。それとも、第三の選択肢、死亡診断書というのもあるが、君はどうするかい?』

 

手を持ち上げるだけで鋭い痛みが眼と頭を襲う。

それでも私は生きたかった。

体から血が抜けていくせいか、とても冷たくなった手をどうにか動かし、右の方を差した。

 

『いい娘だ』

 

女医はそう言って満足そうに微笑んだ。

直後、私が乗ったストレッチャーが入ってきたドアがガタンと開き、カラカラと音をたてながら、なにかが近づいてきた。

それはストレッチャーで、上には誰か…………――

そこで私の意識は途絶えた。

 

 

――――――

 

 

「起きて? お姉ちゃん」

 

聞こえてきたのは、妹の声だった。

目をゆっくりとあけると、そこは真っ白な空間で、そう離れていない場所に、妹が立っている。

優しそうな、心が和むような声。間違いなく妹の、“空夜(そらよ)”の声だった。

 

「……空夜? どうして、空夜がここに?」

「もぉ、やだなぁお姉ちゃん。まだ死んじゃいけないんだよ?」

 

私の問いには答えず、妹はにっこりと笑顔でそう言った。

“月夜”と同じ笑顔で、そう言った。

突然、真っ白だった空間に真っ黒な亀裂が走る。

ピシ、ピシと音をたてながら、白がはがれていく。

 

「待って! 空夜!」

「ごめんね、お姉ちゃん。まだ、一緒にいることはできないんだ。また会おうね!」

 

壊れていく空間と共に、空夜の姿が徐々に光のかけらとなって消えていく。

そうして、視界が真っ黒に染まった瞬間、体にふわりとした感触のものが触れる。

それがベッドで、私はその上に寝ているとわかったとき、がばっと布団を跳ね除けながら、

 

「空夜!……」

「っ……!?」

 

そう、妹の名前を叫ばずにはいられなかった。

私の妹は……空夜は、あの時の襲撃で――死んだはずなんだ。

 

「海夜ちゃん、大丈夫?」

 

木更が驚きながらも声をかける。

今海夜が寝ているのは、病院のベッドで、もちろん個室である。

木更は蓮太郎と海夜の病室を行ったりきたりしていて、二人とも治療が終わってから起きるまで、そうしていた。

 

「え? あぁ、うん、大丈夫」

 

今のは体大丈夫? って意味だよね? 頭大丈夫? って聞かれたわけじゃないよね?

でもそんなことより、そんなどうでもいいことより、

 

「蓮太郎君はッ!? 死んでないよね!?」

「お、落ち着いて海夜ちゃん。里見君は生きてるわ。まだ意識は戻ってないけど、ちゃんと生きてるわ。あなたのおかげよ」

「よかった……ほんとに、よかった……」

 

頬をなにかが伝う感覚に、自分でも少し驚く。

よかった……ちゃんと救えたんだ。

 

「海夜ちゃんは大丈夫よ。骨折とかのひどい傷はないから。女の子なんだから、もっと体に傷をつけないよう努力しなさいっ」

「……うん、わかってる。ありがと」

 

それはそれとして……海夜ちゃん!?

私いつから木更さんにそう呼ばれるようになったっけ?

それは別にいいんだけど、そうなると木更さんの呼び方も考えなきゃ。

ん~、そうだ!

 

「ねぇきさらん、私どれくらい眠ってた?」

「その“きさらん”って私のことかしら?」

「もちろん! 他に誰がいる? 蓮太郎君でもないし、延珠ちゃんでもないし、月夜でもないよね? それにきさらんも私の子と海夜ちゃんって呼んだからいいじゃんっ」

「わ、私は社長だからいいのよ! これまでどおり木更さんって呼びなさい! ……病院から連絡があったの。『天童民間警備会社の社員さんらしき人が運ばれてきた』ってね。もう六時間になるわ」

 

うん、きさらんって美人だから少し照れた仕草するとかわいいよね。

主におっきなナニカがゆらゆら揺れてさ……きさらんって、女の子にとっては強敵でしかないよね……。

それはさておき、

 

「えぇ~、女の子同士あだ名で呼び合おうよ~。……そっか。もう六時間か」

「そ、それはまた今度ね! でも、よかった、本当に心配したのよ? だって――――」

 

きさらんは現況について詳しく説明してくれた。

影胤たちがステージⅤを呼び出すため未踏査領域に逃亡したということ。

“七星の遺産”のことは私のアクセスキーレベルがあればそこそこ調べられるから、知っていた。

聖天子様からも聞いてたしね。

……もうすぐあれが、ゾディアックガストレアが、来ちゃうのか……

あれ、

 

「きさらん、月夜は?」

「月夜ちゃんはね、さっき政府の役人さんが来て、その人達についていったわ。聖天子様からの命令だとかで」

 

木更がそこまで言うと、計ったかのように、ピピピッ、ピピピッと私の携帯が鳴る。

私が起き上がって取ろうとすると、きさらんがそれを止めて携帯を取ってくれた。

さすがきさらん、美人な上に優しいね。

ありがと、と言ってから携帯を受け取る。

電話の相手は、聖天子様だった。

 

『お怪我の方は大丈夫? 海夜』

 

聖天子様から海夜と呼ばれるときは、友達としてのとき。

だから自然に口調が崩れた。

 

『うん、おかげさまでね。ありがと、心配してくれて。私はこんなんじゃ死なないよ』

『ほんとに心配したんですよ? 無事でよかった……。さて、神流さん、目を覚ましてすぐに悪いのですが、任務を与えます』

 

聖天子様が私を神流と呼ぶときは、仕事の話のとき。

だから自然と、態度と口調は、依頼する側とされる側になる。

 

『神流さん、蛭子影胤追撃作戦が始まります。多数の民警が参加する史上最大の作戦です。病み上がりで申し訳ありませんが、私はあなたにこの作戦に参加してほしいと思っています。すでに月夜さんには民警のグループに特別枠として参加させてあります』

『月夜が……すぐに私も行けということですか?』

『申し訳ありません。そういうことになります。』

『……兄さんは、来るのですか?』

『朝海さんについては、まだ連絡が取れていません』

『そう、ですか……。わかりました。私は蓮太郎君が回復し次第、参加します』

『わかりました。月夜さんにはそう伝えておきますね』

 

はぁ……。

私は電話を切り、小さくため息をつく。

兄さん、どこにいるんだろう?

最後に兄に会ったのは、いや、見たのは、あの時……襲撃の日だっただろうか。

 

「何度も思うけど、海夜ちゃんってやっぱりすごいわよね」

「え? なにが?」

「聖天子様とお友達ってところよ。どこか名のある家の生まれだったりするの?」

 

その木更さんの問いに、答えようかどうか、一瞬迷う。

そして迷った末、

 

「ううん? さぁて私の生まれはどういったものでしょう? 調べてみる?」

「いいえ、やめておくわ。社員の個人情報すべて握ろうって思ってるわけじゃないしね」

 

ていうか、みんな知らないと思うけど、聖天子様は結構きさくで、優しくて、気が回るいい娘なんだよ?

ちょっと天然が入ってるかもだけど。

そんな笑い話をしてると、急激に眠気が襲ってきた。

バフンと音をたててベッドに倒れこむ。

うん、やっぱりふかふかベッドは気持ちいいね。

 

「ちょ、海夜ちゃん大丈夫!?」

「ふぁ……うん、おやすみ」

 

私はゆっくりと眠りに落ちた。

次に目を覚ましたのは、近くから大きな声が聞こえてきたときだった。

 

「百三十四位ッ!」

 

病室内にその声が響いたときに、私は目を覚ました。

百三十四位……?

学校での成績かな?

うちの学校、一学年百六十人だから、結構下のほうだね。

ん? ……この声、

 

「蓮太郎君!?」

「っ神流! 大丈夫だったか? すまなかった、俺を助けるためにお前に怪我させちまって……」

「……かった。よかった!」

 

海夜は蓮太郎の顔を見て瞳に涙を浮かべながら、もういつもの制服姿に戻っている蓮太郎に、思いっきり抱きついた。

よかった、ほんとによかったと、心の中で何度もそう言いながら。

 




どうでしたでしょうか?
すぐに投稿できればいいのですが……
次も待っていてください!

感想など書いてくれると嬉しいです!


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