D・スペードの人生やり直し (甚三紅)
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プロローグ

D・スペードが目を覚ましてからトリップ主が現れるまでをさっくりと。
短いのは仕様です。長いのは書けません。

やらかしてしまったので、最初とは違う文になっています。


「デイモン、大丈夫か?」

「ったく、心配させんじゃねぇ」

 

ハッと目を覚ますとこちらの顔を覗き込んでくる少年二人。自分の知る姿より随分と幼いが、私は彼らをよく知っている。

固く冷たい地面に横になっていたようで、体を起こすと背中がじんじんと熱くなる。ついでに頭も痛い。

自分は確かに存在が消滅した筈だった。なのにこのリアルな感触はいったい何なのか。

現状に混乱しつつも記憶を探ると、私ではない私の記憶が見つかる。ジョット、Gの幼なじみとしての自分の記憶だ。

どういう理屈かは知らないが、消えた筈の自分がここに引き寄せられ少年だった自分を押しつぶし乗っ取ってしまったらしい。

まぁ、今更少年の一人や二人の命程度で罪悪感などこれっぽっちも抱かないが。

 

代わる代わる二人に心配され、何故倒れていたのか理由を知る。

暴力をふるわれていた子供を私が助けた際に、自分が殴られ倒れたそうだ。

この体の持ち主は馬鹿なのだろうか。

 

それから暫くの間、流されるままジョット達と行動を共にしていて何度呆れた事か。

弱者を助けるのは確かに素晴らしいが、一人一人助けるなど効率が悪過ぎる。もっと根本的なところを解決しなければ意味がない。

しかもジョットは敵に対して甘過ぎる。もっと徹底的にやらなければああいう輩は懲りはしないというのに。

とは言え、ジョットの甘さは嫌いではない為結局許す自分も自分だと思う。許すのは個人で動いている今だけだが。

 

効率は悪いものの地道な活動により民衆はこちらの味方となり、シモンという協力者も現れた。

前回は罠にはめて殺そうとしたが、今回はそれを起こす気になれない程仲良くなった。立場や思想が違えばここまで、と思う程に。

 

いくら必死に動こうとも個人では限界がある。

強者と勘違いした者達、腐敗した政治に警察、今にも破裂しそうな程民衆の不満は高まっている。

事を起こすなら今だ。

そう思ったのは私だけではなく、シモンからジョットに自警団の設立を打診される。リーダーとして組織を率いて欲しい、と。

 

その場では答えは保留とし、話し合いの為に拠点の一つにジョット、G、私の三人で集まる事にした。

この場所は私の力…幻術によって隠されており、今の時代に見つけ出すのはほぼ不可能である。ちなみに、幻術を使う際は変わらず右目にスペードが浮かぶ。

 

「G、デイモン、オレに出来ると思うか?」

 

丸いテーブルに各々好きに座り、飲み物を用意したところでジョットが切り出した。何を、などと無粋な事は当然私もGも聞きはしない。

 

「貴方に覚悟があるのならば」

「どういう事だ?」

 

私の言葉に不思議そうな顔をする二人。この時点ではまだまだ子供なのだと、こういう時に実感する。

 

「守る、とは生半可な事では出来ないのですよ。ましてや組織となれば尚更。長となる以上、時に非情な判断もしなければいけない。そのせいで守った者達に悪魔と罵られ、石を投げつけられる事もあるでしょう。親しい者…私やGを切り捨てる必要もあるかもしれない。その覚悟が、貴方にはありますか?」

「……。…ああ、それで守れる命があるのならば」

 

目を閉じ考えていたジョットは、その瞼を開け真っ直ぐに私を見て答える。

誰よりも優しくて甘いくせに、とんだ嘘つきですね。

そこが嫌いではない、と思ってしまうのは情だろうか。

 

「まぁ何にせよ、オレもこいつもお前についていく。だから安心しろよ」

 

Gに肩を組まれ目を瞬かせ、突然の事に抗議の意味を込めて睨んでみたが笑顔で返されてしまった。

確かについていく気ではある。あるが他人に言われると微妙に恥ずかしいのは何故だろう。

こちらの気持ちを察したジョットの穏やかな微笑みはしっかりと追い打ちをかけてくれた。

 

 

それからは早かった。

すぐに自警団が設立され、ジョットをリーダーに町の住民達を守っていく。思想に共感し、協力する者は次々と増えて組織は次第に大きくなっていった。そして力に力で対抗する内にマフィアとしての顔も持ち始める。そうなると、無法者となってしまわぬよう厳しい掟が必要となり、いつしか自警団はボンゴレというマフィアとして知られるようになった。

その過程で後の守護者と呼ばれる者達も集まる。特にアラウディなどよく引き入れたものだ。流石大空だと感心する。

 

マフィアとなってもジョットの甘さは変わらなかった。ならば、取り返しのつかなくなる前に痛感して貰わなければならない。

その甘さが他人を危険にさらすのだと。

 

裏切り者が出た。

それ自体はもはや珍しい事ではない。ジョットが許しても、いつもならば私やGが速やかに始末していた。

だが今回はそれをしなかった。

アラウディは諜報部の長だけあってその重要性を理解し非難の目を向けてきたが、私は誰にも手出しはさせなかった。

その裏切り者はこちらの目論見通り恩を仇で返してくれ、組員はもとより住民やその建物に少なくない被害が出る結果となる。

ジョットはその事を酷く悔いており、始末が終わった後、あまりの落ち込みっぷりに見ていられなくなったGの誘いで三人で酒を飲んだ。

 

「設立前のデイモンの言葉を思い出したよ。時々、このボスの座が苦しく重い」

「ならば何もかも捨てて逃げればいい。後は私が引き継ぎましょう」

「耳が痛いな…」

「デイモン、お前の励ましは分かりにくいんだよ!だがまぁ、ジョット、お前はお前のやりたいようにやればいい」

 

その日を境にジョットは裏切り者や敵に容赦がなくなる。

ようやく優先順位を決めたらしい。

その反動かは知らないが、仲間…特に守護者達を溺愛し、色々と無茶ぶりをしてくるようになった。思うところはあるが敵に甘いよりはマシだ。外面用の仕草や言葉使いもしっかり躾てある。

 

このまま血なまぐさくも穏やかな日々が続いていくかと思っていた。

だが、そう上手くはいかないらしい。

 

珍しくも守護者全員がそろった会議での事だ。

急に強い光が部屋の中に満ち、一人の少女が現れた。しかもジョットの真後ろに。

すぐさま捕らえて床に叩きつける。Gは少女が動かないよう首にナイフを突きつけていた。

襲撃を受けた本人は静かにこちらのやり取りを見ている。人として多少おかしかろうが、ボスとしてそれでいい。

視線で幻術による尋問の許可を求めると、無言で頷いたので術をかける。

登場の仕方からして術者かと思ったのだが、少女は拍子抜けする程あっさりとこちらの術にかかった。

Gとのアイコンタクトの後、拘束を解いて質問を重ねると実に奇妙な答えをよこされる。

曰わく、自分は猫を助けようとして死んだ。神様に手違いだと謝られてマンガの世界にトリップしてきた。初代が好きなので初代の時代にして貰った。などなど。

これでは平成の世で読んだ異世界トリップのようではないか。舞台が今、ここである事は笑えないが、唖然としている他の者よりは状況を理解できる。暇潰しも意外なところで役に立つものだ。

 

「暗殺者ではないようですが…狂人のようだ。どうしますか?」

「頭の中身はともかく、一般人か…厄介だな」

 

難しい顔をして目の前の少女を眺めるジョット。

彼の出した答えは…。

 




※書類仕事中

ジョット「……」
G「…なぁ、ジョットがすんげー訴えてくんだけど」
デイモン「駄目です」
ジョット「………」
G「…滅茶苦茶訴えてくんだけど」
デイモン「駄目です」
ジョット「…………」
G「ったく、仕方ね」
デイモン「ジョット!G!おすわり!!」
ジョット・G「「はいっ!」」

ランポウ「なにあれすげー…猛獣使い?」


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一話

晴れと雷と。

D・スペードの個性、「ヌフフ」は使いません。ル○ンを思い出してしまい笑ってしまうからです。



落ちてきた例の女は本部預かりとなった。下手に外に出しては子供達が危ない、という判断になった為だ。

始末してしまえば楽なものを、と思いはしたがボスの決定に逆らう気はない。何より、ボンゴレと…ジョット、Gが無事ならば大した興味も湧かないのだ。好きにすればいい。

術を解いた女が連れていかれたのは人一人寝泊まりするには十分な部屋。硬いがちゃんとしたベッド、清潔なシーツ、窓もあり日差しも悪くない、更に小さいながらテーブルまである。

私とナックル(私はいざという時の為、ナックルは神父なのでいくらか落ち着くだろうという配慮だ)で連れていったのだが…

 

「倉庫なんて酷い…でも仕方ないよね、怪しいのはあたしだもん」

 

さも悲しいのを堪えて健気に笑っています、といった風な様子で言われた言葉にナックル共々眉を寄せた。

平成の世を知っている私だからこそ部屋が倉庫に見えたのも理解出来るが、この時代としては悪くない部屋なのだ。勿論我々幹部とは比べ物にはならないが。

難しい顔をしたナックルの頭の中では「神父たるもの迷える子羊は受け止めなければ」の呪文で一杯だろう。分かり易いこの男の背中を叩き意識をこちらに戻すと、彼女を部屋の中に入れて外から鍵をかける。扉を閉める前の一言も忘れない。

 

「何をどう思おうが自由ですが、命があるだけマシと思いなさい」

 

 

 

「ああいう手合いは初めてだ。神父としてまだまだ足りんな、オレは」

 

会議室に戻る途中でナックルが独り言のように漏らした。

周りに人の気配はなく、加えて術者である私が一緒だからこそあえて今口に出したと知る。

並んで歩いていた足を止めて私はナックルへと体ごと顔を向けた。

 

「何をどうやっても救えない者はいます。それが分かっているからこそ『ここ』に居るのでしょう?」

「それは…そうだが…」

「貴方が心配している事は予想がつきますし、別に迷うなとは言いませんよ」

 

この男は心配しているのだ。彼女が災いになるのではないかと。どう見てもちょっと感覚はずれているが一般人の女の子なのに、災いとなったらどうすればいいのか、とも。

私にしてみれば馬鹿馬鹿しい限りだが、前の時のジョットを思い出してしまいつい余計な事を言ってしまった。

 

「何が起ころうとも守りたいものを全力で守ればいい。その為の力を持ったのでしょう?」

 

らしくない言葉にナックルは呆気にとられた間抜けな顔をする。途端に気恥ずかしくなり早足で歩き出すと、彼は慌てて後を追いかけてきて私の顔を覗き込んで笑った。

 

「究極に分かり易いな!ああ、オレは守りたいものを全力で守る!まるで神の啓示を受けた気分だ、感謝するぞ」

 

夏の日の、眩しい晴れた青空を思わせる笑顔に私は更に足を早めた。

 

 

 

ある日の午後、庭でランポウとあの女…そう、名前は確か××○○…を見かけた。誰かと一緒ならば庭への散歩くらいは許しているが…あまりよくない話を聞いたばかりだ、姿が見えないよう細工をして二人に近づく。

二人は仲良く並んで芝生に座っていた。ランポウは年も近く話しやすい雰囲気なのだろう。

この二人に術を破られない自信があるため堂々と近づいていく。話し声が十分に聞こえてくる位置で足を止めた。

 

「戦うのが怖いなら戦わなくてもいいんだよ、無理する必要なんて全然ないじゃん!」

「で、でもGもデイモンも怖いし…」

「無理強いするなんてサイッテー!みんなランポウの事いじめすぎるってずっと思ってた。屋敷で働いてる人もそう、使用人全員に戦闘訓練の義務があるとか何様だっつーの!」

 

ボス様と幹部様ですが何か?

おっと、思わず突っ込んでしまった。

××は大きな身振り手振りでランポウに向かって喋り続ける。頭の痛くなる内容に脳が理解するのを拒否しそうだ。

幹部が揃うこの屋敷はいつ襲撃を受けてもおかしくない、自分の身を守るためにも戦闘訓練は欠かせない。そもそもそれを理解して働いている者ばかりの筈だ、自分の命に直結する事なのだから。

 

戦いたくないなら戦わなくてもいいじゃないか。逃げて何が悪い。

まずは話し合いをしよう、暴力は悪い事だ。

 

そうこの女は言い続けている。

若い連中、特に女性の中には強く賛同しボンゴレを抜けると言い出し始めた者もいる。戦闘が嫌なら別に戦わなくても構わないのだが、組織を抜けられるのは困るし危険だ。

抜けるとはすなわちボンゴレの庇護を無くすという事。敵対組織に何をされるか分からないし、下手に情報を持っていたりしたら抜けると言った人間を始末しなければいけない。

平和な平成の日本ならば間違ってはいないだろう。だがここは時代も場所も違うという事を本当の意味で××は理解していない。本気で正しい事を言っていると思い込んでいて、それが無闇に犠牲者を出していると知らずに主張し続けている。

まぁ、間違いだなどと親切にも指摘する義理も義務もないが。

 

「とにかく、嫌な事は嫌だって言っていいんだよ!仲間じゃない!もしそれでいじめられたらガツンとあたしも言ってあげるからね」

 

××は力こぶを作る真似をしながら笑顔をランポウに向け立ち上がる、尻を払い時間だからと一人で中庭から走って出ていった。

 

 

「ランポウ」

「ひゃいっ!!」

 

後ろからランポウの肩に手を置き術を解いて名を呼ぶ。面白い程体をビクつかせ裏がえった声で返事をする様子につい笑ってしまう。

 

「彼女の今の言葉、どう思いますか?」

「う…お、怒らない…?」

 

端的に問うと恐る恐るといった風にこちらの様子を窺うランポウ。薄く笑みを浮かべて頷くと、彼は体を震わせて視線を逸らしながらも口を開いた。

 

「暴力のない世界とか凄くいいと思うし素敵だと思う…逃げられるなら逃げたいんだものね。オレ様痛いのも怖いのも嫌いだし。でも…でも、逃げたら後ろにいる人達はどうなるのかな、て思うと逃げられないし逃げたくない…ジョットに恩返しもしたい、し…」

「フフ、いい答えだ。花丸を差し上げますよ」

「なっ!子供じゃないんだものね!」

 

確かにランポウは小心者で臆病者で時々…いや、結構な頻度でイライラさせられるが震えるだけの子牛ではないのだ。彼の答えにとても満足して誉めたつもりだったのだが、ランポウは拗ねてしまった。

 

「ランポウ。普段の態度がどうであろうと私達は皆、貴方が『漢』である事を知っています。だから幹部である事に誰も不満はない、もっと自信を持ちなさい」

「そんなの…、……」

 

私の言葉にぶつくさと口の中で文句を言っていたランポウは、こちらの顔を見るなりぽかんと口を開けた。

おや、私の顔に何かあるのですか?

 

「そういう顔、ずるいんだものね。…オレ様ももう行くよ、○○を長い時間一人にしたらマズいのは分かってるから」

 

ランポウは立ち上がり尻についた草を払うとのんびりとした歩調で××の行った方向へと歩き出した。

あれで戦闘時は中々に苛烈なのだから面白い。もっとも、あの雷はあまり落ちないのだが。

 




ナックル「デイモンは相変わらずつっけんどんな様を作っているが究極に優しい奴だと思う!」
ランポウ「あれで民間人とかには優しいのは否定しないけど、その優しさをオレ様にも分けて欲しいんだものね…」
ナックル「その割りには懐いているではないか」
ランポウ「……不思議と居心地悪くないから…」
ナックル「つまりランポウはデイモンが好きという事だな。オレもデイモンの事が好きだぞ!」


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二話

感想を頂いて嬉しさにヒャッハーしました、餌があると筆が進みます。

今回は雨と雲と。

苦労人になり始めたデイモン。


「あたしも日本人なんですよ!やっぱり日本食が恋しくなりますよね」

「確かにそれはあるでござる。精一杯のもてなしをして貰っているが、やはり故郷の味には敵わぬよ」

 

たまたま食堂の近くを通った時にこんな会話が聞こえてきた。××は徐々に行動範囲を増やしていっているらしいが今の所はどうでもいい。

今は雨月が相手をしているようだ、さっさと通り過ぎようとしたところで聞き捨てならない内容に足が止まる。

 

「だから材料を貰ってご飯と味噌汁と焼き魚作ってみたんですけど失敗しちゃって…食べられないの出来ちゃいました。この時代のキッチンに慣れなくて…でも何回か練習すれば美味しいの作れるようになります!その時は雨月さんにも食べさせてあげますね」

「っ…勝手に作ったのでござるか…?」

「え?仲良い使用人さんにOK貰いましたよ?」

 

…さて、まずは厨房に向かいましょうか。

戸惑う雨月の声を聞いて、彼はしっかりと問題やら何やらに気づいたらしい事がせめてもの救いだ。

 

「ああ、デイモン様。今報告に伺おうかと」

「事情は把握しています。謝罪は必要ないので対処とその被害を報告なさい」

 

厨房に入ると怒り心頭な様子で仁王立ちをしている料理長、ずらりと並んだコックに休憩中だったらしい使用人、その中心には泣きじゃくっているメイドが一人居た。

私に気づいた料理長が情けなく眉尻を下げて頭を下げようとしたのを止める。

報告を聞く限り日本産の食材といくつかの調理器具を廃棄するだけで済みそうだ。保管場所を別にしていたのが良かったが、これで雨月には日本食を出せなくなってしまった。

 

「デイモン様、申し訳ありません。私の采配ミスです。処分はいかようにも」

 

息を切らせて駆け込んできた筆頭使用人が頭を下げる。勝手に許可を出したメイドが真っ青な顔をして必死に謝ってきたが慈悲は与えられない。

 

「では罰を与えます。筆頭使用人としてその裏切り者を始末しなさい、使用人は連帯責任で死体の処理。料理人は厨房の掃除。ただし被害者ですからね、夕食の時間が遅れる事を許可します。そうそう、失敗作は責任をもって本人に食べさせるように」

「ひっ…!」

 

引きつった声と共にドサリと重い荷物が落ちるような音、仕事が早くて何よりだ。床や周りを汚さないというのも素晴らしい。

 

「早急に荷物を片付けます。それから××○○へつける者も厳選いたします」

「頼みましたよ」

 

それで私の中では終わった筈だった。

ところがその日の夜。

 

「あんな…あんなゴミを食事として出すなんて酷い…あたし、何もしてないのに」

 

見回りとして廊下を歩いていると遠くから耳障りな音が聞こえてきた。そういえばこの先には××の部屋があった筈だ。

気が進まないが足を進めない訳にはいかない、渋々足を動かすと雨月と雨月に泣きついている女が居た。こちらに気づいた雨月は困ったような笑みを浮かべて頬を掻く。困っているのならば突き放せばいいものを。

 

「何もしていない、と本気で思っているのですか?」

「ーっ何もしてない!疑われても、冷たい目を向けられてもこんなに頑張ってるのに!」

 

私の声に××は勢いよく振り向き涙を流しながら悲鳴じみた声を上げる。

雨月、あからさまにホッとしないで下さい。

××が離れた事で息を吐いた雨月を軽く睨んでみたが笑顔で返されてしまった。全く、食えない男だ。

 

「はぁ…なら私が説明してあげますよ。まず先程貴女が言ったゴミですが、勝手に貴重な食材を使い作り出したものです。その始末をするのは当たり前でしょう?そもそも厨房に入る許可は与えていない、あの使用人にそんな権限はなかったのですから。加えて許可のない人間…貴女の事ですよ、貴女が触れた物は全て捨てる羽目になりました。当然ですよね、怪しい人間が触れた物を使える筈がない。何せボスの口に直接入る物を作る場所なのですから。おかげで雨月の為の物がなくなりました」

「あ、あたしそんな危害を加えたりなんか…」

 

深い深い溜め息を吐いて面倒な説明をわざわざしてやると、××は更に涙をこぼししゃくりあげ出した。

 

「更に言うなら、貴女つきのメイドだった彼女は始末する羽目にもなりました」

「え…?」

「直接的な言葉を使わなければ理解出来ませんか?彼女は殺しました」

 

お前のせいで人が死んだ、などという言葉は善良な一般人相手だったならば絶対に雨月は止めただろう。だが今は静観している、彼女は守るべき対象ではないと判断したらしい。

 

「ひ…人殺し!!あの子はたった一人の友達だったのに!あの子を返して…返してよぉっ!!」

 

泣きわめきながら私の胸を叩く××。この女は丸きり何も理解していないし理解しようともしていない。もう一度溜め息を吐いて××の手を強く払う。

 

「何を言っているのですか?彼女は貴女のせいで死んだ。勝手な判断で重要な場所に怪しい人間を入れ、毒殺の機会を作ってしまった。更に言うなら日本の物は軽々しく手に入れられるものではないんです、幹部の為に用意した物を滅茶苦茶にした」

「滅茶苦茶にするのはあんたのくせに…」

 

言葉を途中で遮られ眉を寄せる。頬を流れる涙をそのままに憎々しげに私を睨む××。

 

「ボンゴレ本来の姿を、未来を滅茶苦茶にして、ジョットを殺そうとするくせに!!」

 

反射的に、と言っていい。右目にスペードのマークが浮かび右手に鎌の柄を握る…前に、正面から雨月に視界を塞がれ右手首を掴まれた。

 

「デイモン、今宵は月が綺麗でござる。拙者の笛と月見酒、風流でござろう?」

 

右手を掴む力は決して強くはない、穏やかな笑みを向けるこの男の手を振り払おうと思えば振り払えるが何とか堪える。

怒りからか熱を持った息をゆっくりと体から抜き雨月と視線を合わせる。

 

「それはいい、貴方の笛を独り占めですか」

「いかにも」

「ならさっさと見回りを終わらせて、酒の用意でもして待っていますよ」

 

私の目が通常に戻った事を確認した雨月は笑顔のまま頷いて手を離した。

これ以上不快な思いはごめんなので早々にこの場を立ち去る。背中から聞こえてきたものには気づかないフリをして。

 

「さて、××殿。申し訳ないが今後一切拙者に関わらないで貰いたい。狭量だが仲間を侮辱されて仲良くなど出来ぬたちでな…」

 

 

あの後、度数の高い酒をあおり美しい月を見て雨月の笛に心癒された。

雨の鎮静効果を嫌な形で体験したが、雨月の笛は見事なものだった。

 

 

 

 

「それで、いつまでアレを放置する気だい?」

「被害が表面化してきましたが、『まだ』一般人ですからね」

 

敷地内の野外訓練場でアラウディとの戦闘訓練後、汗を拭き水分を補給しながら答える。術者といえども体術も磨かなければいけない、己の身を守る為に。

 

「君かGなら始末する権限はあるんでしょ?ならさっさと始末しなよ、目障りだ」

「確かにそろそろ始末しても文句を言われない程度には被害が出ていますが…貴方も何か?」

「つきまとわれて鬱陶しい。菓子の差し入れとか手錠に触らせてくれとか…僕は馬鹿は嫌いだよ」

 

(戦闘時以外)表情があまり変わらないこの男が実に嫌そうな顔をする程に××はつきまとっているらしい。いい気味だ、と頭の片隅で思いつつもあの女は幹部をコンプリートする気なのかと溜め息を吐く。

 

「それに彼女、君の事を悪者にしたいみたいだね。極悪非道の悪人だと大きな声で喚いてる」

 

極悪非道、は否定しないが××は内部崩壊を起こしたいのだろうか?あの女が自分は悪くない、被害者だと言い続けているのは知っている。よくもまぁぬけぬけと、と思わずにはいられない。

 

「居心地のいい場所を潰されるのは腹立たしいし、何より君を侮辱され続けるのは気分がよくない」

「……そんなに疲れているのなら休んでも良いのですよ」

「どういう意味だい?」

 

この男らしからぬ言葉に思わず本気で心配してしまった。まじまじと見つめる私をどこか呆れたように見る目の前の男。

アラウディが…『あの』アラウディが私を…?ああ、それとも幻聴だろうか。最近は尻拭いばかりして疲れてる、そのせいに違いない。

一人考え込んでしまっていると急に両頬に軽いながら痛みが走る。真正面にアラウディの顔がある事からして、両手で私の両頬を叩いたらしい。

 

「君が腑抜けているとつまらない。さっさと始末してすっきりしなよ」

 

強い視線を向け言いたい事を言うと、アラウディは振り返りもせずに汗を流しに行ってしまった。

言う事は物騒だがそれは今更だ、あれは励まされた…のだろ。

 

雲は相変わらずで、少し安心したのは秘密だ。




雨月「やれやれ、××殿による被害は増える一方でござる」
アラウディ「ジョットの意見を尊重したいのは分かるけど、取り返しのつかなくなる前に動くのも側近の努めなのに…」
雨月「アラウディは本当にデイモンの事がお気に入りでござるな」
アラウディ「……」
雨月「照れずともよかろうに…拙者もあの御仁の事は好いている。実はジョットより先に助けてくれたのは彼だったのだ」
アラウディ「相変わらずのお人好しだね、敵以外には」


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エピローグと新たなプロローグ

深夜テンションのまま投稿、ぽちっとな。
出だし詐欺。

シリアス、微グロ、死ネタ。キャラからキャラに成り代わり。更に途中だけ三人称に変わります。
ここから先は更に特殊設定てんこ盛りの自己満足、読む際は覚悟を決めてどうぞ。

ジョット、G、デイモンの三人は滅茶苦茶仲が良い、という前提です。



「ルシファー・ダイヤです。初めまして」

 

ある日ジョットの執務室に呼び出された。向かった先にはジョット、G、男装女性の三人が居た。

見知らぬ女は薄い笑みを浮かべており、凄く覚えのあるような貴族服を身にまとい少々特徴的な髪型をしている。出会い頭に術をかけてきたのでひっそりと消し、ジョットとGを見てみるが術にかかっている様子はない。

…これは笑っていいのだろうか…。恐らく、この男装女性は「私の立ち位置」にいるのだろう。右目にはダイヤのマークが見える。

それにしても私の名が悪魔だから堕天使の名を使ったのだろうか…そもそも全く服装が似合っていない、体の線を隠しもせず男だと言っていたらどうしよう。いや、幻術で男に見せているのか?私の姿を?ああ、だから妙な話を聞く時があったのか…。

 

「デイモン、そろそろこっちに戻ってこい」

 

肩をGに叩かれてハッとする。椅子に座り机に両肘をついたゲ○ドウポーズをしているジョットにそろりと視線を向けると無言で首を振られた。

そうですか、逃げたら駄目ですか。

 

「彼女は…」

「おや、何度言ったら分かるんです?私は男だ」

「……、…彼はエレナ嬢の紹介でボンゴレに協力してくれる事になった」

 

ジョットとダイヤのやりとりに、無表情で私の肩に触れたままのGの手に力が入った事と、ジョットの口元が引きつった事には突っ込まないでおく。多分私も口元が引きつっているだろうから。

 

 

そんなやり取りがあったのが数週間前。

その「彼女」は今私の目の前で高らかに笑っている。そして××が庇うようにダイヤと私の間に立つ。郊外にある寂れた小屋でのやり取りだ。

私はといえば、右目は瞼ごと抉られ顔の右側は血まみれ。腹や胸には銃弾がめり込みゼイゼイと嫌な呼吸を繰り返している。懐中時計のおかげで心臓には当たらなかったが、これでは無駄に苦しさを長引かせるだけだ。痛みと失血で幻術で自分を誤魔化す事も出来ない。

 

「もう止めてよルシファーさん!確かに悪い人だけど何も殺さなくても!!」

「アッハハハハハ!!トリップ逆ハー狙いは黙ってなよ!そこの成り代わり逆ハー主を殺して私がデイモン・スペードになるんだから!」

「なっ…ここは漫画の世界じゃないんだよ!みんなこの時代を生きてるのに!」

「…私だって嫌だよ、やりたくないよ…でも原作通りにしないと未来が変わっちゃうじゃん!」

「原作なんて関係ない!!みんなみんな好きに、生きたいようにやっていいんだよ!!」

 

片や下町の人間を盾にとりここまで私を攻撃した女、片や勝手に屋敷を抜け出し私が死にかけるまで黙って見ていた女…こんな状況だというのに笑いが込み上げてくる。とんだ茶番だ。

 

「何を笑ってるの?」

「デイモン!気をしっかり持って!」

 

それぞれが好きなように声をかけてきたが、もうどうでもいい。なぜなら二人はもう終わりなのだから。

 

勢いよく吹き飛ばされた扉、ほんの僅かな間の後に響いた銃声と何かが壁に叩きつけられた音。一拍遅れて上げられた悲鳴。数人の足音と荷物を引きずるような音がして、よくやく静かになった。

 

「デイモン…すまない…すまない…っ!」

 

暖かな大空に強く抱き締められ笑みが深まる。もはや私の左目が機能する事はないが、震える声にジョットが泣きそうな顔をしているのが分かった。

前回が長く存在し過ぎたからなのだろうか。今回はやけにあっさりと終わってしまうのだな、なんてどうでもいい事が頭の中を巡る。

 

「フフ…最期が誰かの腕の中なんて、悪くないですね…」

 

吐息で笑い独り言を漏らしたのを最後に、私の意識は完全に途切れた。

 

 

 

- - - - - -

 

 

 

「ーっ…ッ…!!」

 

デイモンの体から力が抜け鼓動が感じられなくなると、ジョットは目を見開きその直後にデイモンを強く強く抱き締めた。

組織のボスとして今は涙は流せない。

その思いから血が出る程強く唇を噛みしめて耐える。

その後ろでは息を弾ませたGが立っており、衝動のまま何かを言葉にしようとして空気だけが漏れて終わった。

 

思えばデイモンとは不思議な男だった。

平民である筈なのに貴族のような立ち振る舞い、教養もあり子供の頃から交渉がやけに上手かった。ジョットもGも随分と助けられたものだ。

常に一線引いた態度をとっており、全体を見る目もある。強力な幻術の使い手で、なぜそんなものが使えるのかは誰も知らない。

謎は多かったがそんなデイモンの事が二人は大事だった。デイモンも二人を大事に思ってくれていたから余計に。

その大事な幼なじみはもういない。いなくなってしまった。殺されたのだ、あの裏切り者達に。

 

「G…見せしめを行う。ボンゴレに…オレに牙をむいたらどうなるか…思い知らせてやる…」

 

恨みや怒りを凝縮したような低い声でジョットが呟く。

Gとてデイモンは大切な幼なじみで仲間だったのだ、反対など出来る筈がない。ジョットの言葉にただ静かに頷いた。

 

 

××○○とルシファー・ダイヤは裏切り者として惨たらしく殺されあえてその事を広められる。

裏切り者は決して許さないと、見せしめにされたのだ。

その後ジョットは二代目を見つけ出しボスの座を渡して早々に引退。日本に渡り名を沢田家康と改める。

それを皮切りに他の面々も散り散りとなる。曰く、あの三人以外の下につく気はない、との事だった。

 

軸となる世界よりボンゴレは残虐性を増したが、その分身内を大切にするようになる。

ファミリーのために命を張る、それが当たり前となった。

 

 

 

それから数十年後、中国の山奥で一人の少年が目を覚ます。

体の名は風。

本来であれば後の嵐のアルコバレーノになる「筈だった」少年だ。

彼が目を覚ましたその瞬間から新たな話が始まる。

 

 

 

- - - - - -

 

 

 

「ふ、フフ…ハハハッ!なる程、巡り続けろ、という事ですか。六道骸が巡ったという六道より、余程残酷ではありませんか…?」

 

どうやら崖から落ちたらしいこの体の「持ち主」はもう居ない。

固い地面に寝転がったまま、竹林から覗く青い空に手を伸ばしたがこの手は何も掴む事はなかった。

 




補足

デイモンの並々ならぬボンゴレへの執着はあまり発揮されていません。今回は組織よりも守護者達とわいわいやる方が楽しかったからです。
指輪はひっそり全員持ってました。去る際に返してます。

この話はアンチが主軸なのでみんなでわいわいやる場面は書く予定はないです。

D・スペードとしては前の人生よりちょっぴり幸せでした。

次は別人としてスタート。


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三話

デイモンのキャラ崩壊。笑い上戸になったのはきっと娯楽に飢えていたに違いない!

中身デイモンの風リボ風。警告タグのボーイズラブが強めです。
本家本元の風成り代わりの女性の存在が出てきます。


新たな肉体の名は風というらしい。武道に命をかけていた少年で、その修行中に命を落としたのだから本望だろう。

ありがたくはないが、仮に今死んでも同じ事が繰り返されるだけな気がしてならないのでこの体を使う事にする。元々他人に憑依して存在し続けていたのだ、見知らぬ体を使う事への抵抗はない。

さて、この風少年の体は戦闘特化型らしい。私の精神は術者であるが面白いほど肉体が反応する。鍛えれば鍛えるだけ成果を上げていくのも素晴らしい。主観だが、アラウディや雲雀恭弥を凌ぐ素材ではないかと思っている。

こんなにも面白く素晴らしい原石は磨き上げたくなるというのが人の性、私はこの体を鍛える事に夢中になった。幻術は以前からそうであったように問題なく使えたためにそちらも怠りはしない。ちなみに、幻術を使う際は変わらず右目にスペードのマークが浮かぶ。

 

いくつもの大会で優勝し国内どころか世界でもトップクラスの拳法の使い手となった頃、一通の招待状が届く。

差出人は不明だが、チェッカーフェイスとかいうふざけた人物ではないかと予想される。私は夜の炎を手に入れた時に色々と知ったのだ。

なる程、その時代の最強の人間を生贄にする。確かに今の私はこと武道においてはかなり強いだろう、素手で弾丸も止められる。生贄としての資格は十分だ。

ここで私が無視してもどうせ代理が現れるのは分かりきっている為無視しても良かったが、最強とされる残りの六人に会ってみるのも面白い。特にあの晴れのアルコバレーノ、元は伊達男らしいので是非見てみたい。あのコスプレの数々を披露する大元を確認出来れば大いに笑えるだろう。

最後の依頼とやらだけは逃げる事を決めて私は指定の場所へと旅立つ事にした。格好は三つ編みのおさげに赤いカンフー服、ゆったりした服装は色々と仕込めて都合がいいのだ。

さて、名前はどうしたものか。

 

 

 

「はじめまして、風と申します」

 

私達の為に用意されたらしきとある屋敷にて、拱手をしながら集まった皆の前で挨拶をする。結局はこの体の元々の名前を名乗る事にした。その方が面倒事が少ない。

挨拶をする際軽く下げていた頭を上げて周りを見渡す。バイパーだけは素顔が分からないが、全員中々に顔がいい。審査基準に顔の造形も入っているのだろうか?

一番の目的である晴れのアルコバレーノ…リボーンのところで自然と動きが止まる。結構な美形だがこの男が例のふざけたコスプレの数々を披露するのか、鼻提灯を作ったり情報収集として虫を子分にしたりと色々と愉快な事に…。そこまで考えが及ぶと危うく大爆笑してしまいそうになり、それを抑え込むと自然と笑みが深まった。

頑張れ私の腹筋!今笑い出したら私のイメージが崩れる!!

 

個人的に壮絶な出会いを終え各々に与えられた部屋へと向かう。私の腹筋はよく持ちこたえてくれた。

部屋で遠慮なく笑おうか、と思っていると背後から声をかけられる。振り向いてみるとボルサリーノを被った死神が居た。彼を目の前にして笑ってしまわない為に今は余計な事は頭から追い出す事にする。

 

「リボーン、でしたね。どうかしましたか?」

「単刀直入に言う、さっきオレを見て笑みを深めた理由を聞きにきた。お前の考えだけが読めなかったからな」

「ああ…会いたかった人に会えたのでつい。気に障ってしまったのなら申し訳ありません」

 

警戒もあらわに間合いに入らない距離で問いかけられる。一方的ではあるが随分とピリピリした空気だ。

特に隠す必要もない為に素直に理由を話すが、私が直接会った未来の彼よりも目の前の彼は余裕がないように感じた。

 

「どういう意味で会いたかったのか、是非とも聞きてーな」

 

ぎらついた眼差しを私に向けたまま口元に笑みを作るリボーン。くっ、駄目だ…10代目候補の情報を集めた時に見たコスプレを思い出してしまった。今の彼とのギャップに気の抜けた笑みが顔に浮かぶ。

 

「フフ、そうピリピリしないで下さい。本当にただ会いたかった…もとい、一目見てみたかっただけなのですから」

 

堪えきれず漏れてしまった笑い声を誤魔化すとリボーンは毒気を抜かれた顔をし、同時に殺気のような重苦しい空気もなくなった。

この期を逃せる筈がなく軽く頭を下げて割り振られた部屋へと向かう。そこで布団を被り大笑いをしたのは私だけの秘密だ。

 

 

チェッカーフェイス…鉄の…帽子だったか仮面の男だっか…とにかく、彼からの依頼は実に楽しかった。特に中~遠距離を得意とするラル・ミルチ、リボーンと組むのが面白い。

私とてマフィアの嗜みとして銃は扱えるが、流石に本職には敵わない。まぁ、敵おうとも思わないが。

このまま運命の日まで楽しく過ごすのも悪くない。

そう思ってしまう程にここでの日々は楽しかった。

 

 

 

- - - - - -

 

 

 

風、という男は初めて会った時は油断ならない人物だと思った。

常に笑みを浮かべており穏やかな物腰と丁寧な言葉使い。一見すると優男だが、服の下は相当に鍛えられており足運びからもかなりの使い手だと分かる。

そしてこのオレに心を読ませない。

そりの合わなさそうなヴェルデさえ読めるのにこの男からだけは何も読み取れなかった。

オレを見て笑みを深める様子に警戒を一段階引き上げたが、その後あっさりと毒気を抜かれた。それもこの男の作戦の内なのだろうか。

 

 

それから日々依頼をこなす内に風の評価は最初と逆転する事になる。

誰よりも信頼出来てオレが背中を預けるに値する男。頭の回転が早く会話も楽しい、堅物かと思えばそうでなく茶目っ気もある。潔癖なようで清濁あわせて飲み込む器も持っている。

まぁ、パシリにまで優しくするのは欠点か。

 

そしてオレと風が組むのが当たり前になってきた頃にそれは起こった。

 

 

「抜ける?どういう事だ!」

「そのままの意味ですよ。私はこの依頼を受けるつもりはないし、そろそろ帰ろうかと思っています」

 

七人全員への依頼に風が突然抜けると言い出した。こいつ自ら輪を乱すなど一度もなかっただけに皆驚きを隠せない。

 

「ああ、依頼の事なら心配せずとも大丈夫ですよ。きっと私ではない『私』が現れる筈ですから」

「『私ではない私』…?」

 

いつもと変わらぬ笑みを浮かべて告げる風。こいつは一体何を知っている?

 

正直に言えば裏切られた、と思った。それ程までにこの男の事を信頼していたのだ。

衝動に身を任せ銃を抜きかけるがそれをあっさりと止められる。早撃ちを得意とするオレでも銃を抜く前に止められてはいくらなんでも撃てはしない。

目の前の風を睨みつけると困ったような、そして申し訳ないような笑みを返される。

何故お前がそんな顔をするのか。

そう思った瞬間に訪れた抗い難い眠気。気配からして他の五人は次々と眠っていっている。

皮膚を破る程に唇を噛みしめてみたが痛みは感じず眠気はますます強くなる。原因は間違いなくこの男だ。

 

「すみません。貴方がた…特に、リボーンの事は好きですよ。ただ、私は…」

 

かすむ頭と視界。最後に聞いた悲しげな声、男の右目にはスペードが浮かんで…。

 

 

 

「はじめまして、風と申します」

 

声にハッとして顔を上げる。オレはこんな訳の分からないところで寝ていたのか?今は謎の招待状により集まった七人の顔合わせの場、そんな事は有り得ない。

今はこのカンフー服を着た「女」の紹介の番だ。

特に不審な点はない。ない筈だがどうしようもない違和感にボルサリーノの下で眉を寄せた。

 

それからの日々は悪くはないものだった。依頼をこなしていくのは面白く達成感もある。だが違和感は強くなっていくばかりでカンフー服の女をどうしても「風」と呼べない。彼女に非はない、むしろいい女と言える。穏やかな物腰でありながら一本芯が通っており汚い事は許せず正義感がある、気配りもできて料理も上手い。強い母性を感じ癒しを与える存在だ。そしてその母性とは程遠いところにある力も中々のものを持っている。だがその力がふるわれる事は滅多にない、極力穏便にすまそうとする。その姿勢は庇護欲を誘った。ルーチェが守ると発言する程に。

皆…あのヴェルデでさえ彼女に夢中である。この極上ともいえる女を口説かないなど、伊達男と呼ばれる己のプライドにかけてない…筈、なのだが…。彼女はどうしようもなく違う、という思いからどうしても一線を引いてしまう。勿論女性への扱いをこのオレが間違う筈もないが。

 

嵐たる赤は守らなければいけない存在ではない、風とは己が背中を預けられる存在である筈だ。「そうでなければいけない」。

 

訳の分からない思いは彼女と過ごせば過ごす程強くなり苛立ちが募る。

 

そして運命の日。

アルコバレーノの呪いを受けたその時にオレは思い出した。

彼女があいつの言う『私ではない私』か。なる程、よく分かった。

色々とあるがまずオレはあの野郎を殴りに行く。全てはそれからだ。

 




違和感を覚えたのはリボーンのみ。
思い出したのもうっすらと覚えていなくもなかったリボーンのみです。

男としてあるまじき事と思っているがどうしても彼女の事は風とは呼べないリボーン。きっと今後もそう。
スカルなんかは勝ち誇っていますが、中身デイモンの風の方が気になるので名前を呼べない事そのものはそこまで重要度は高くありません。
でもパシリはムカつくのできっちりシメてます。


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四話

リボーンと再会。
リボーンが相当デイモンの事を気に入ってる風になりました。


無事アルコバレーノにならず運命の日を乗り越えた。

軽く調べてみるとやはり代理の嵐が現れたようだ。しかも突然に。

もっとも、もう関係はないのだ、このまま中国の山奥にこもって生活でもしようか。いや、ボンゴレがどうなったのかは大いに気になる、見に行ってもいい。決して鍛えるのに夢中になって忘れていた訳ではない。

もはや見慣れた山奥の景色を家の中から眺めつつ考えていると、家の扉が二度軽く叩かれた。

 

「はい、どな…っが!」

 

扉の外に感じるのは人の気配。こんな山奥に人とは珍しい、と思いながら扉を開けると顎に強い衝撃。脳が揺さぶられ立っていられず尻餅をつくと、低くなった目線故に衝撃の正体が判明した。

 

「やっと見つけたぞ」

 

きっちり着込まれた黒いスーツに黒いボルサリーノ、ボルサリーノの上にはカメレオンが乗っており大きな目はじっと私を見ている。

表情からは分かり難いが大層お怒りのようだ。

痛む顎をさすりながら困惑したような顔を作る。

 

「えぇと、初対面の方に「ばっくれんなよ、こっちはとっくに全部思い出してんだ」…ですよねぇ…」

 

台詞を被せられた上に銃まで抜かれ、観念して肩をすくめ息を吐き出す。いつかはバレると思っていたがこんなに早いとは予想外だ。

 

 

 

「お茶ですがどうぞ」

 

コトリと音を立ててテーブルに茶碗を置き、自分の分も置いてから向かい合わせに椅子に座りリボーンの様子を伺う。椅子に立ち精一杯茶碗に手を伸ばす姿は微笑ましく感じるが中身を知っていると笑えてくる。とはいえ、別に意地悪をした訳ではないので睨まないで欲しいのだが。

 

「私は引き際を間違えなかった。眠りと記憶は私なりの優しさです。術者である事は身を持って体験したでしょう?そういう事です」

 

相手が口を開く前に答えを先に告げると不満げな雰囲気を感じた。表情は一切変わっていない筈なのに分かり易いのは彼が気を許しているからだろうか。

 

「…お前の後釜にきた女は?」

「残念ながら詳しくは知りません。強いて言うなら世界の意志により引っ張ってこられた人間、ですかね」

「あんな体験しなけりゃ頭イカレてんのか、て言いてーな」

 

問う口調はあまり好意的なものには感じられず意外に思う。リボーンの事は、常に何人もの愛人を囲う程度には女好きだと思っていた。考えをしっかりと読まれたようでリボーンは舌打ちをして茶碗に口をつける。貴族のように跡継ぎが必要な訳でもあるまいし、女好きでなければ何人もの愛人など作らないと思うのだが。

さて、彼が意味もなく訪ねてくるとは思えないので本題を切り出す事にした。先程の答えに対する質問程度では用事にはなり得ないだろうから。

お茶で口を湿らせ今度はこちらから問いかける。

 

「それで、何か用事があって訪ねてきたのでしょう?まさか殴りにきただけではないでしょうし」

「……」

「…殴りにきただけなんですね」

「うるせー…」

 

問いに返されたのは沈黙。しかも投げやりな返事まで貰ってしまった。

決して無意味な訪問だとは言わないが、彼がたいした目的もなく訪れる程に気に入られているのだと知ると擽ったさに笑みが浮かぶ。今は亡き彼らを思い出して懐かしさに目を細めた。

 

 

「リボーン、私はイタリアに行こうと思っています。一緒にいかがですか?」

 

誘ったのは極々軽い気持ちだった。一人よりは二人の方がいい、その程度のものだ。

だがリボーンにとっては意外だったらしく大きな目を見開いて一瞬ではあるが固まる。すると彼はボルサリーノのつばで顔の上半分を隠してしまった。

 

「どういう意味なのか聞きてーな」

「一緒に移動を、という意味だったのですが…フフ、そうですね。また組んでみますか?暫くは暇なんです」

 

こちらの言葉を深読みをしたリボーンの台詞に目を瞬かせたが、折角なので更に誘ってみる。

長い沈黙の後、つばの下から覗く瞳に肯定の意を感じ口元を緩めた。

 

「私の事はスペード、とでも呼んで下さい。風の名は今は彼女のものですから」

「由来はその右目か?」

「まぁ、そんなところです」

 

 

 

リボーンとのやり取りの後、私達はイタリアへと飛び様々な依頼を受けたり時にはゆったりとした時間を過ごしたりした。目的であったボンゴレとも接触でき、私としては満足である。キャバッローネの次期ボスの家庭教師を手伝ったのもいい思い出だ。

ボンゴレと関わるようになり知ったのだが、私が知っているボンゴレよりも力を重視していたのは嬉しい誤算だった。

力がなければ何も守れない。

それをジョットが分かってくれたのが純粋に嬉しかった。私があの時、あの場所で死んだのには意味があったのだ、そう思える程に。

そういえば、風と名乗る女性が何度かリボーンを訪ねてきていたがリボーンに会わせて貰えないまま過ごしている。玄関先でいつも追い返していたし(勿論邪険になどしない)、帰る姿も邪魔されて見る事は叶わなかった。

折角なので見てみたかったのに残念だ。

 

 

そして月日は流れ、リボーンに一つの依頼がくる。

日本にいる10代目候補の家庭教師をして欲しい、というものだ。

 

「スペード、おめーも一緒にくるか?」

 

そう問いかける彼に私は…。

 




このままこのカップリングで突っ走る!
番外編でも作って二人をいちゃつかせたくなってきた。


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五話

舞台はイタリアから並盛に。
キャバッローネの家庭教師は終わってます、二人でやりました。

デイモンはスーツ着用、もしくは一般人と同じ格好してます。デイモン的に流石に日本で常にカンフー服はないな、と。


私はリボーンの誘いに乗る事にした。あわよくば10代目候補の教育に口も手も出そうと思い一緒に日本へ渡る。沢田綱吉はまだ子供なのだ、じっくり教育すればいい。

ところでリボーン、チラシをポストにって…沢田奈々といったか…彼女にしか通用しない手なのでは…?普通に沢田家光からの紹介では…ああ、駄目なんですね。そうですか。

 

初対面の沢田綱吉は…こう、言葉に言い表せない程の駄目っぷりだった。調査で知っていたとはいえ、若干ジョットに似ているだけに残念さが半端ない。リボーンが最初から力で躾たのも頷ける。私ならばもっと手酷くしてしまいそうなので黙って見ている事にした。

 

「いってー!あーもう何なんだよ!それにその後ろの人は!?」

「こいつはスペード、主に運動面で教師をして貰う。体術のスペシャリストだ」

「はじめまして」

 

話をふられたので笑顔で挨拶をしてみる。あからさまにホッとした沢田綱吉に更に笑みを深め、まずは基礎からたたき込もうと考える。理想はジョットのような動きが出来る事だ。もっとも、今の沢田綱吉では遙か遠い理想になるが長期戦は覚悟の上。少しずつ学ばせるつもりだ。

それに、リボーンが家庭教師の一人として私を数えているのならば遠慮は不要だろう。

軽い挨拶のあとリボーンと一緒に食事をご馳走になる。ああ、これは確かに美味い。

沢田家に厄介になる事を申し訳なく…思う筈もなく素直に厚意を受け取る事にした。まぁ、私はリボーンと違い成人男性の体なので食費くらいは出そうかと思っている。

 

 

 

「復活!!!死ぬ気でミールちゃんに告白する!!」

「イッツ死ぬ気タイム」

 

死ぬ気弾の効果で脱皮し走り出した沢田綱吉に言葉を失う。この体になってからくだらない事で笑うようになったがこれは笑えない。

ジョットに似ている容姿でパンツ一枚で暴走…目頭が熱くなってきて手で押さえる。あまりにもショックな光景に崩れ落ちそうだ。そもそもミールとは誰だ、好きなのは笹川京子ではないのか。また転生者なのだろうか。

 

「スペード、ツナを追いかけるぞ」

 

リボーンに促され、ひとまず嘆くのは止めて沢田綱吉を二人で追いかける。楽々と追いつき行動を眺めていると妙な違和感を感じて自然と難しい顔になった。

体が全く出来ていない事を差し引いても死ぬ気でこの程度とは…どうにもおかしい。血が薄れているとはいえ直系なのだ、初めてでももっと死ぬ気の炎は体になじむ筈。超直感も感じられない。ジョットのように未来でも見えているのか、と言いたくなる程ではなくともバイク程度避けられなければおかしい。

沢田綱吉の何かがせき止められているような、そんな違和感がある。

そんなもやもやを感じている間に目当ての人物を見つけたらしい。

茶色がかった髪に目、よく言えばかわいい系、悪く言えば特徴のあまりない平凡な少女の前に沢田綱吉が立つ。

 

「夢野みいる!」

「ほえ?」

「オレと付き合って下さい!!」

「いいよ、どこに行く?」

 

沢田綱吉の言葉に笑顔で頷く少女。

 

この少女、××○○以上に生理的に受け付けない人種だ。

 

今のやりとりでそんな言葉がぱっと頭に浮かぶ。

よほど嫌そうな空気を発していたのか踵を返す私にリボーンは何も言わなかった。

 

 

 

夢野みいる、あだ名はミール。

沢田綱吉の幼なじみで彼の想い人。

笹川京子以上に鈍感で天然、並盛中のマスコットキャラ。

口癖は「平凡な人生をまっとうするんだから!」「私は平凡なの!」。

好きなもの、平凡。

嫌いなもの、平凡を脅かすもの。美形。

一般人を装っているが、沢田綱吉がマフィアの直系である事を知っている可能性有り。

 

夢野みいるの調査書が燃えて消えていくのを眺めながら溜め息を吐く。

この私が調査不足とはとんだ失態だ。あの場を離れて直ぐに調べたとはいえ完全に後手に回るなど…。

過ぎてしまった事は仕方がない、これからどうするか、だ。

 

翌日、沢田綱吉を叩き起こし朝の運動を始める。初日なので体力測定程度に抑えたのだが予想以上に動けない事が分かった。…長期戦は覚悟の上だが勉強よりは早く何とかなると信じたい。

他の組織の者がいないか見回りを兼ねて散歩をしていると夢野みいるの姿を見つけてしまい嫌そうな顔になったのが自分でも分かった。コースを変えようとしたところで知った声が聞こえ足が止まる。

 

「気に入ったぞ、オレの」

「リボーン」

 

台詞の先が予想出来て息を吐く。外見はともかく中身はいい大人が中学生に手を出す気とは、今更犯罪者などとは言わないが少し引く。そして少々面白くない。

気持ちのまま名を呼びながら姿を現すと、リボーンはともかく夢野みいるまでハッとして体を揺らした。

 

「そんな…風がなんでこんな時期に並盛に…?」

 

呟かれた言葉に一気に警戒レベルが上がる。この体の名を知るのは私とリボーンのみ、この少女はやはり…。

リボーンも無言になり私の肩に乗る。払いのけようとした手を止められたので渋々そのままその場を離れた。

 

「同じか」

「おそらく」

「じゃあ調べても意味ねーな」

 

短いやりとりの後リボーンと別れ拠点の一つに向かう。

今の所本人の主張通り平凡な少女だ、不幸な事故にあう事もないだろう。ただし、邪魔になった時は遠くに転校して貰う事になるのは確実だ。その為の根回しをしておかなければ。

 

 

 

さて、邪魔になればと言った舌の根も乾かぬ内に、となるが邪魔だ。物凄く邪魔だ。

「獄寺隼人」「山本武」「ランボ」と、後の守護者とのやり取り中の爆発やら何やらと危険な場所になぜわざわざ関わってくるのか。

別にリボーンが巻き込んでいる訳ではない。何故か危険な場所にのこのこ現れるのだ。おまけに何らかの強制力が働いているのか転校させられない。いっそ始末してやろうかと思うがそれは最終手段だ。

まぁ、ジョットもだが「誰かを守る」時が一番力を発揮する、と考えると悪い事ばかりではない。

私は夢野みいるの事が受け付けられないが、自分の気持ちは別として使えるものは使えばいい。

 

「だから!私は平凡が好きなの!私の平凡を返せーっ!!」

 

…やはり苛つくので始末したい。

 

 

おまけの会話文

 

リボーン「さっき邪魔したのは嫉妬か?可愛いとこあるじゃねーか」

デイモン「自意識過剰もここまでくるといっそ清々しいですね」

リボーン「最近のおめーは読み易いからな、誤魔化されてはやらねーぞ」

デイモン「…ところで、いつまで肩に乗っているつもりですか」

リボーン「(いきなり話題を変える程度には恥ずかしかったか)いいじゃねーか、いたいけな赤ん坊のやる事だ」

デイモン「何がいたいけですか。私は元の姿も中身も知っているんですよ、気色悪い」

リボーン「その割りには払おうとしたのは最初の一回だけだな」

デイモン「…他人の目がありますからね、仕方なくです」

リボーン「素直じゃねーな」

 




ディーノ「なー…、リボーンってすげースパルタだけどスペードも凄いよな…オレもうボロボロなんだけど」
リボーン「その割りには元気そうじゃねーか」
ディーノ「その辺絶妙なんだよなぁ…教え方上手いし。言葉きついけど」
リボーン「あれはツンデレだ、言葉の裏まで読め。あれで可愛いやつだぞ」
ディーノ「え、なに、リボーンってスペードに本気…」
リボーン「黙って課題やれ」
ディーノ「ちょっ、銃つきつけんな!!」


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六話

途中痛い描写有り。
後半は甘々。
いつもながら捏造満載です。

雲雀と会うちょっと前くらい。


「そろそろ痛い目をみせてもいいのではありませんか?」

「落ち着け」

 

貰った部屋で紅茶を飲みながら呟くとリボーンに手を軽く叩かれる。

連日爆発物の隠蔽、他の組織の者の始末、あの苛つく女、流石にイライラが募る。特に夢野みいるは「風さん風さん」とうるさい。リボーンの面白コスプレで笑っている分まだマシか。

 

「いっその事正真正銘、嵐のアルコバレーノを呼んであげてはいかがですか?貴方達アルコバレーノのアイドルでしょう」

「オレはちげーからな」

「分かっていますよ、でなければこうしていません。…はぁ、まさか貴方に癒される日がくるとは…」

 

カップを置いてリボーンの頬を両手で包み赤ん坊の柔らかさを堪能しつつ愚痴を漏らす。自分で思っていた以上に溜まっていたようで随分と刺々しい口調になっていたのが自覚出来た。同時に赤ん坊とはいえリボーンで癒された自分に溜め息が出る、リボーンが抵抗せずされるがままな事もありつい触りまくってしまった。

ようやく落ち着いて深く息を吐き出すとリボーンとアイコンタクトをとり部屋を出る。

まだ一般人の域を出ない夢野みいるに手は出せないが、こちらに喧嘩を売ってきた者ならば話は別だろう。

 

 

 

「ふー…しっかし、何で今の並盛に風が居るんだろ。アルコバレーノになってないのもおかしいし」

 

極々普通の家の一室、何台ものパソコンに囲まれた少女が一人。私が侵入している事に全く気づかず独り言を漏らす少女に近づき一瞬で意識を刈り取り身柄を拘束する。

彼女は黒猫という名前で活動している情報屋だ。

遠くから沢田綱吉達を眺めているだけならば放っておいてやったのだが、自宅に盗聴器を仕掛けるのはいただけない。おまけに私やリボーンの事も探っている。

いや、「確認している」と言った方が正しいのか。

とにかく裏の世界にどっぷり浸かっている人間だ、いつどのような目にあいどう始末されようとも覚悟の上だろう。

 

「こんばんは」

「え…風…?ちょっ、何これ!?」

 

拠点の一つに黒猫を運び込み椅子に拘束する。わざわざ裸足にするのは手間だったが仕方がない。

目を覚ました黒猫に笑顔で挨拶をすると不思議そうな顔をした後拘束されている事に驚き暴れ出した。…ように見せかけ幻術を使って抜け出そうとしたので足の爪を二枚程飛ばして衝撃を与える。

 

「あああぁぁっ!!」

「あまり舐めた真似をしないように。最近イライラしているので加減を間違えてしまいますから」

「なっ、んで…」

「おや、質問を許可した覚えはありませんよ」

「いたああぁぁっ!!」

 

涙をぼろぼろ流しこちらを睨みつけてくる黒猫の爪を更に二枚飛ばす。たかだか爪四枚で幻術を使えなくなり顔が崩れる程に泣き出した。

世界最高峰と言われる情報屋をしているくせに痛みへの耐性が全くないようだ。先ほどの感じからして今までは幻術で無傷で切り抜けてきたのだろう。

 

「邪魔になれば消される、それを理解してこの世界に入ったのでしょう?掃除をするのは手間なので素直に吐いて下さいね」

 

青ざめ顔から出るありとあらゆる体液を出しながら震える黒猫に、私は笑顔のまま告げ早速質問を口にした。

 

聞いた話によると彼女も転生者だったそうだ。

神様とやらにこの世界に送って貰う際に特典を貰ったとか。その特典により幻術が使え、それを利用して情報屋になったと言っていた。

沢田綱吉達を傍観していたのは巻き込まれずに原作を楽しむため。沢田家に盗聴器を仕掛けたのもそんな理由だ。今が原作のどの部分なのか把握するためだと。

自分は傍観者だと言っていたが、雲雀恭弥とはしっかり繋がっており同盟のようなものを組んでいた。黒猫は傍観者ではなく傍観者きどり、だったらしい。

 

聞きたい事は全て聞きだし後始末もきっちり済ませシャワーを浴びる。もうこの世界のどこにも黒猫という情報屋とあの少女は物理的も社会的にも存在しない事になった。

黒猫もだが、彼女達は皆「死亡フラグ満載、死と隣り合わせ」などと言っていたのにまるで実感などしていなかったように見える。自分だけは大丈夫だとでも思っているようだった。

 

ああ、胸くそ悪い。

 

拠点の寝室にて、ベッドに座りながら血の臭いを消すために度数の高いアルコールをあおる。半ばやけ酒でもあるので瓶の中身はあっという間に減っていく。

そして、瓶の中身の最後の一滴をグラスに落としたところで瓶を取り上げられた。

 

「もう止めとけ」

「おや、沢田綱吉を一人にしていいんですか?」

「ビアンキがいるからな。あれで腕のいい殺し屋だ、少しくらい問題はない」

 

瓶を取り上げた正体を「見上げ」ながら笑うとグラスを持ち中身を空にする。今更呆れた視線など気にする筈もなく、表情を崩さずにサイドテーブルにグラスを置いた。

 

「彼女達はなぜやってくるのでしょうね…潰しても潰してもキリがない気がします」

 

肩を押されたので目の前の男を巻き込みベッドに背中を預ける。起き上がる事はせずに、男の、今は無粋でしかない帽子を取り上げて適当に投げると見た目よりも柔らかな髪を撫でるように頭部に触れて目を細めた。

 

「ったく、この酔っ払いが」

「ふふ、私にされるがままの貴方がいけないんですよ」

 

この男は例え愛人でも頭部を触らせないくせに自分にはあっさりと許すから、つい触れたくなる。そしてそれを知っていて好きにさせるからタチが悪い。

その特権ともいえる行為を存分に堪能して手を落とすと頬を指先で撫でられたがその指を払う気にはならなかった。

かなり酒が回ってきたらしい。黒の死神の、自分に向ける優しげな視線に擽ったさを感じながら睡魔に誘われるまま目を閉じた。




このままこのカップリングでいきます。ええ、これでいきます。
ツンドラ(ただし一人にだけデレデレ)と女王様みたくなってきた。

女子供でも敵に情け容赦はなし。なぜならそれで痛い目にあうのは自分やその周りだからです。


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七話

最後の方にちょっぴり吐く、という表現があるので注意。
一気に話が進みます。


神様とやらが与える「特典」というものはかなり厄介な代物ではないかと考える。なぜならば、特典とは与えられたものであり積み上げてきたものではないが故に見ただけでは分かり難いのだ。

例えばジョットやナックル。彼らの拳には硬いコブがあり重心の移動が抜群に上手く足運びも軽い。

リボーンやアラウディならば足音はしないし気配も薄い。加えてGなどは手が銃を握る者の手だ。

ヴェルデやルーチェはそういう意味ではほぼ一般人と同じだが、得意分野においては才能が突出しているため言葉や仕草、視線にそれが表れる。

つまり、何が言いたいかというと…

 

「ツナに怪我させたら許さないんだから!」

 

夢野みいるが実は強いとは予想外だった、という事だ。

 

話は至極簡単だ。

応接室に訪れた四人が雲雀恭弥と喧嘩になり夢野みいるがそれを撃退した。それだけだ。

もっとも、夢野みいるは勝手についてきたのであってリボーンや私が巻き込んだわけではない。「ちょっとやめなよ」などと言いながらついてきたのだ。

ちなみに私はといえば、術により他者から限りなく認識され辛いようにしている。

彼女は雲雀恭弥からの攻撃をかわし拳で反撃。トンファーでガードしつつもその衝撃を受け止めきれずに雲雀恭弥は吹き飛ばされたのだが…夢野みいるには技術もなにもない、単純な力のみで吹き飛ばしていた。

体の作りは一般的な女子中学生と変わらないのにあの力、確かに凄いが無駄が多すぎる上あれでは皮がずる剥け出血しかなり手と手首を痛めただろう。

彼女は力を使えるが使いこなせる訳ではないようだ。強い、と実力がある、は違うのだから。

 

四人とリボーンが窓から出ていくのを見送り、一歩分足をずらすと死角から上方へトンファーが通り過ぎる。その一撃では終わらず次々と襲いかかる攻撃をかわし、わずかに自分から前に出ると攻撃の主は大きく後ろに飛び退いた。

 

「やっぱり貴方が一番楽しめそうだ」

「フフ、勘は悪くない」

 

あの四人が全く気がつかなかった私に気づいた、というだけで沢田綱吉達との実力差が分かる。もっとも、この術はリボーンクラスになると全くの無意味な程度ではあるが。

トンファーを構え直し獰猛な笑みを浮かべる雲雀恭弥に笑顔を返して一瞬で距離を詰める。意識を奪う程度の力で顎に掌底を打ち込もうとしたのだが、回避しようとしたのかすれすれで顔を動かされたので思ったよりも強く入ってしまった。

当然のごとく雲雀恭弥は昏倒。彼の身体能力の高さに驚けばいいのか、自分の未熟さを嘆けばいいのか悩むところだ。

 

意識のない雲雀恭弥を放置して普通にドアから廊下に出る。大事な大事な(笑)夢野みいるが怪我をしたのだ、保健室にでも行っただろうと思い足を運ぶとやはりそこに五人はいた。

 

「ごめん、オレが弱いからミールちゃんにこんな怪我…」

「悪い、オレらがやられちまったばっかりに…」

「ちっ、情けねぇぜ。女にこんな怪我させちまって…」

「きっ、気にしないで!私がツナを守りたかっただけなの!それにこんな怪我すぐに…いたた…」

 

治療をしながら何やら青春をしている中学生と、一歩離れて彼らのやり取りを見ているリボーン。

リボーンと視線が合うとお互い何も言わずに学校を出た。

 

「どうだった」

「貴方が言うだけあってかなりの逸材ですね、今の沢田綱吉とは雲泥の差だ」

「引き入れられそうか」

「沢田綱吉が成長すればあるいは。それに、貴方が引き入れるのでしょう?」

「まぁな、ヒバリはこの先必要になる奴だ。家庭教師としてそれくらいはしてやるつもりだ」

 

リボーンは生粋のドSで鬼畜だがプロとして仕事は完遂する、その姿勢は賞賛に値する。何かを依頼するならば私とてリボーンのような信用出来る人間を選ぶだろう。

それはさておき、今日は私は鍛錬に向かいリボーンは別な用事があると言って別れ残りの時間を過ごした。

 

 

 

それから運動会があったり保育士騒動やらがあったりしたがここでも全てに夢野みいるは関わってくる。

言動が一々受け付けないが沢田綱吉は順調に強くなってきているので現状、目を瞑っている。目的は強いボンゴレの為に沢田綱吉を鍛える事なのだから。

ただし、どこかで余計な甘さを捨てて貰わなければならない。そう、ジョットのように。

ところでリボーン、ボンゴリアン・バースデーパーティーとか正気ですか?

当時は洒落とノリでやっただけのゲームなのに何故伝統になっているのか。

あの時は大抵ランポウが最下位で罰ゲームをさせられていた。そういえば、ジョットは全員同点などと言い出して全員罰ゲームをするはめになったのも良い…良い?思い出だ。罰ゲームをしない、という選択肢は存在しない。

 

 

バースデーパーティーから暫くしてディーノが日本へとやってきた。ボンゴレ10代目候補を見に来たらしい。

 

「久しぶりだな、リボーンもスペードも相変わらずで何よりだ」

「ええ、久しぶりですね。貴方も元気そうで何よりですよ」

「ちったぁボスらしくなったか?」

「ははっ、先生達に恥ずかしくないくらいにはやってるぜ」

 

昔の教え子と穏やかな会話をしていると沢田綱吉が帰ってきた。余計なおまけと一緒に。

 

「ちょっ、こんな椅子運び込むなんて何考えてんのよ!」

「…沢田家の人間以外は通さないようにした筈では?」

 

挨拶より何より先に文句とは…キンキンとうるさい声に眉を寄せロマーリオに視線を向けると直ぐに夢野みいるを外に出そうとする。迅速に行動出来るのは良い事だ。

 

「スペード、そう言うなよ。可愛い「あー!ディーノさんまで風さんを違う名前で呼ぶし!人の名前間違うなんて失礼ですよ!」……」

 

フォローに入ろうとしたディーノの言葉を夢野みいるが遮る。まだ自己紹介もしていないのに自分の名を呼ばれ、ディーノは僅かに目を細め側近二人は警戒し出した。

 

「はぁ…これでは話が進まない。女性を乱暴に扱うのは気が引けますが仕方がないですね。ついてくるな、と止められたにも関わらずついてきたあなたが悪いのですよ」

 

頭の緩い彼女に深い深い溜め息を吐くと首根っこを掴みそのまま窓から外に捨てた。下にはディーノの部下もいるし、何よりこの程度でどうにかなるような「平凡」で「普通」なか弱い女ではない。殴り込みにこないか、という方が心配なくらいだ。

 

「なっ!ミールちゃんに何すんだよ!!」

 

彼女を捨てた事に怒り食ってかかってきた沢田綱吉の足を軽く払い転がす。このやり取りはディーノもリボーンも静観するようだ。

 

「守る、と決めた者の為に怒る事が出来るのは良い点ですよ。ただし、現状を正しく理解出来ない点はマイナスだ」

「っ…!!」

「望む、望まないに関わらず既にマフィアの世界に巻き込まれている自覚はありますか?ボンゴレボス候補という自覚も。不用意な言動一つで周囲を危険にさらしてしまう…いい加減理解なさい」

「オレはマフィアになんかならない!!」

 

強い視線を真正面から受け止めながらゆっくりと言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

視線を逸らされぬままきっぱりと返された頑固な言葉に思わず笑ってしまった。

 

「望む、望まないに関わらず、と言ったでしょう。例えば今。ボス候補には聞かせられる話でも一般人が知ってはいけない会話をしていたら、彼女は消されていた。例えば、ボス候補を暗殺したい人間にとって彼女はかっこうの餌だ、利用されつくし君の命まで危なくなるかもしれない」

「そんなのオレが…」

「守る、と?今正に間違えたというのに?」

 

言い訳のしようもない状態に悔しげに奥歯を噛み俯く沢田綱吉。「スペードが強すぎるんだ」などと喚かなくなっただけ成長していて喜ばしい限りだ。

 

「危険から遠ざけてあげるのも優しさです。側で守りたいならもっと力をつけなさい。今の君はあまりにも弱すぎる」

「オレ…オレは…」

「あ、あー…スペード、そう弟分をいじめんなよ」

 

ディーノのストップに口を閉じて肩をすくめる。確かに少し急ぎすぎたかもしれない。

この場はリボーンとディーノに任せ部屋を出て階段を降りる。心配して玄関まできてみれば、案の定夢野みいるが勝手に中に入っていた。ディーノの部下達は無理矢理退けたのだろう。

 

「いくら風さんでも女の子をあんな風に投げるなんて」

「「平凡」、でいたいのでしょう?」

「ほえ?」

 

キッとこちらを睨みつけた上指を指す彼女に尋ねる。間抜けな顔と返事に最高に苛ついたがここは我慢だ。

 

「今ならまだ戻れます。これ以上関わるのならば私もマフィアの一員として扱いますよ」

「確かに平凡でいたい…けど!私はそれ以上にツナを守りたい!マフィアでも何にでもなってやるわよ!」

「そうですか…では遠慮なく」

 

何も分かっていない彼女にまた溜め息が漏れそうになる。

もっとも、これで彼女はただの一般人ではなくなったので今からする事を咎められる事はなくなった。

力が強いだけの女子中学生、という事を考慮しつつ腹に掌打を叩き込む。彼女は胃の中身をぶちまけながら玄関の石畳の上に座り込んだ。

 

「同盟ファミリーのボスへの無礼な振る舞い、その上理不尽な理由でキャバッローネの人間を攻撃。ボンゴレの立場をよほど悪くさせたいようだ」

「ぅ、え…わ、わたし、そんな…」

「そんなつもりではなかった、など言い訳にはなりませんよ。無知は罪だ、代償は己の命だけでは済まされない」

「ひっく…違う、もん…話せば…」

「そんな甘い世界ではないのですよ。今の沢田綱吉はしょせんボス「候補」、場合によっては殺されるでしょうね。他ならぬお前のせいで」

 

限りなく手加減したとはいえ、喋れるとは大したものだ。まぁ、しゃくりあげる姿は苛つきしか生まないので自然と冷たい態度になったが。

 

「そうそう、マフィアになったとちゃんと自らの口で沢田綱吉に報告するように」

 

彼の思いを踏みにじり裏切ったと、自分で言えと言い残して家を出ると、思った通り外で倒れていたディーノの部下達を介抱し移動させて口の中で笑う。

もっと思い知ればいいのだ、今日の事など序の口にもならないと。

 




リボーン「で、スペードのプレゼントは何だ」
デイモン「そうですね、キスでもして差し上げましょうか」
みいる「もー!風さんてば冗談ばっかり!」
リボーン「(ちっ、邪魔すんな)」
デイモン「(舌打ちしましたね、今)普通にコーヒー豆ですよ。後でエスプレッソでも淹れましょう」
リボーン「99点だな」
綱吉「甘っ!リボーンって女の子に甘いけどスペードには更に甘いよな!」


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八話

補足
・デイモンはディーノの家庭教師時代、XANXUSやスクアーロなどと出会っている。
・色々理由をつけ9代目から許可をもぎ取り、たまにヴァリアーの戦闘訓練に参加していた。
・今のところXANXUSが10代目に相応しい、とXANXUSとちょっと仲良くしていた。
・とはいえ、ゆりかごには関与せず。

以上が前提の上、話が進みます。



「何でミールちゃんばっかりこんな酷い目に!!」

 

キャバッローネの人間を無事全員返し、事の次第をディーノに報告する為に沢田綱吉の部屋に戻ると、扉を開けた瞬間怒鳴るような大きな声が聞こえてきた。

部屋の中には難しい顔をしたディーノとリボーン、横になり濡れタオルを額に乗せた夢野みいる、そして怒りをあらわにこちらを睨んでくる沢田綱吉がいた。

子供の癇癪に付き合う気にはなれず被害状況をディーノに報告すると、ディーノとリボーン両者の顔が難しい、から険しい、へと変化する。その変化に沢田綱吉は驚き口を噤んだ。

 

「彼らがやられたのは「まだ」一般人であった彼女です。その後、私へ「マフィアになる」と宣言した為このような形をとりました。足りなければそちらの好きなように」

「え…」

 

私の言葉に思わず、といった風に言葉を漏らした沢田綱吉に目を細める。夢野みいるはどうやら何も言わなかったらしい。

だが今はディーノが先だ。顎に手をあて考えを巡らせる彼の返事を待つ。

 

「…今回に限り、一般人にやられたのは情けねぇって事で片付けてもいい。だが、今後一切キャバッローネは夢野みいるが関わる事柄には関与しない。オレ個人も一切関わらない、交流も拒否する」

「寛大な処置、ありがとうございます」

「いいさ、先生と可愛い弟分てのは変わらねぇし。さてと、それじゃ今日は帰るとするぜ」

 

ディーノの答えにホッとして頭を下げる。沢田綱吉は納得のいかない顔をしてこちらのやり取りを見ていた。

 

「ツナ、兄貴分から忠告だ、馬鹿な身内は賢い敵より厄介だぜ。今ならなかった事に出来る、説得して「普通」に戻してやれよ」

 

そう言ってディーノ達は帰っていった。椅子を運ぶ側近二人は大変そうだ、トラックでも手配するのだろうか。

 

 

「本当ならディーノに泊まって貰って交流させようと思ってたんだが…台無しじゃねーか」

 

部屋に戻ると沢田綱吉は早速リボーンに締められる。夢野みいるはまだ寝ていた。この私にマフィアになると宣言したというのにこの体たらく、叩き出しても許されるのではないだろうか。

 

「ひとまず、沢田綱吉と交流しないという訳ではないんです。この女さえ関わらせなければ良いのでは?」

「っ…この女なんて酷い言い方するなよ!」

 

リボーンから解放され噛みついてきた彼につい冷めた目をしてしまった。今までなるべく優しくしてやったのが完全に裏目に出てしまった、この辺で躾てやらなければいけないらしい。

リボーンが私の変化に気づいたようで止めようとしてきたが無視して沢田綱吉の頭を掴み、意識を失わない程度の強さでそのまま床へ叩きつけ更に腕に力を込める。

 

「がっ!ぅ…つ…」

「いい加減になさい、こうやって私に噛みつく余裕があるなら夢野みいるをどうするか考えるべきだ。この女を生かすも殺すも君の判断にかかっているというのに」

「スペード!」

「貴方の教育方針は知っています、夢野みいるさえ居なければもっとゆっくり事を進められたでしょう。だがもうそうも言っていられない、分かっているでしょう?」

 

リボーンに咎める口調で名を呼ばれたが手を緩めず沢田綱吉を見下ろす。沢田綱吉は負の感情をあらわにこちらを睨みつけてきた。

 

「オレは…オレはマフィアにならないしミールちゃんも守ってみせる!」

 

現状を理解しようとせず馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返す彼に深い溜め息を吐き手を退かす。今の彼にもはや興味はない。

 

「リボーン、私はイタリアに戻ります。9代目と正式に契約を交わした訳ではありませんし、暫くはのんびりしてきますよ」

「…仕方ねーか…こっちはなんとかする、オレは優秀な家庭教師だからな」

 

突然のやり取りに沢田綱吉は目を白黒させている。ジョットの血縁者という事で最後の情けをかけてやる事にした。

 

「そこの女と縁を切るか、マフィアになると言った事を撤回させなさい。でないと後悔しますよ」

「ミールちゃんは大切な人なんだ、後悔なんかしない」

 

キリッとした表情で最後まで言い切った彼に笑い声が漏れる。

私にしては信じられない程の温情であったのに…馬鹿な子だ。

 

 

 

さっさと荷物をまとめてイタリアに戻る。時期的にそろそろXANXUSが目覚めた頃ではないだろうか。

彼は2代目に似て期待出来る、事の結末さえ知らなければ前回のようにXANXUSを10代目に推したいところだ。

折角なのでヴァリアーを覗きに行くと、そこで信じられない光景を目にするはめとなる。思わずヴァリアー専用の屋敷である事を何度も確認してしまった。

 

「てめぇに拒否権はねぇ。さっさとオレのものになれ」

「いくらボスさん相手でもこいつは譲れねぇなぁ!!」

「シシッ、こいつは王子のもんだって」

「この子、着飾って遊ばせて貰いたいわ~」

「美麗だ…」

「ムムッ、君なら特別に無料で助けてあげるよ」

「あーもう!俺は男だし誰のもんでもないっつーの!!マーモンはありがとな」

 

綺麗な顔をした男を幹部全員で取り合う暗殺部隊。仕事はしているようだがこれはギャグなのだろうか、滑稽さでこちらの腹筋を殺しにきているのか?

男は嫌そうな言葉を吐きつつも顔はにやけており、折角の顔が残念な事になっている。

あまりの光景に見なかった事にし、一般隊員を捕まえて詳しく事情を聞く。

曰く、ある日入隊した彼はその実力であっという間に幹部まで上り詰め、幹部を虜にしたらしい。実力主義のヴァリアーでは全員に好かれており自分もとても慕っている。という事だった。

暗殺部隊とは思えないこの弛みきったピンク色の空気、正直反吐が出そうで困る。プライベートなら好きにすればいいがここは職場ではないのか?

心底気色悪いがボンゴレの部隊だ、放っておく事は出来ない。

 

物凄く嫌々ながら先程扉を開けてしまった部屋に戻る。分かりやすい程音を立て気配を出して室内に入ったというのに誰一人気づかない。

一番外側に居たレヴィを思い切り蹴りつけると窓ガラスを突き抜け外まで飛んでいった。咄嗟に自分から飛んだ分ダメージは少ないだろう。

レヴィが飛ぶのと同時にナイフ、蹴り、幻術による精神攻撃が加えられたが全て返り討ちにして三人を床に沈める。攻撃を食らう瞬間にガードをしようとはしていた。間に合わなかったが。

三人の攻撃が効果がないと知るや否や剣による真っ直ぐな突きがきた。懐に入る事でかわすのと同時に拳で腹を殴る。やはり飛んでダメージを軽減されたが壁に激突するくらいには食らったようだ。

次いで立っていた場所に直ぐに銃弾が雨あられと降り注ぐ。が、所詮は銃弾。真っ直ぐにしか飛ばないそれを彼らの背後に回る事で避け、諸悪の根元であろう男の脇腹を蹴る。この男だけはまともに食らい骨が折れた感触がした。

蹴りの勢いをそのまま利用し最後の一人…XANXUSに突きを繰り出す。ギリギリで受け止めた事は素晴らしいが膝をついてしまうとは情けない。

とは言え、新参者以外は各々対処はしていた。見た目ほど馬鹿になった訳ではなかったようでホッとする。

 

「ごほっ…て、め…」

「新しく幹部になった者があんなに弱いとは知らず…申し訳ありません」

「んな事ぁいい!てめぇ知ってて言わなかったな!!」

 

わざとらしく申し訳なさそうな顔を作るとXANXUSはこちらを睨み、ふらつく足で立ち上がってこちらの胸ぐらを掴んできた。最近似たような出来事があったがこちらは完全に自分の力で立ち上がってきたのだ、この気概は好ましい。

知っていて、とは血筋の事だろう。確かにボンゴレリングの為にジョットの血筋は必要だ、だがその人間が組織のボスである必要はないと私は考えている。

そのためXANXUSの台詞に思わず笑ってしまい更に睨まれた。

 

「それが何か?」

「カッ消」

「ボスに必要なのは血筋ではなく資質であり力だ。ジョットの血筋など、存在さえしていればいい」

 

笑みを崩さずXANXUSの手を掴み服から離させて真っ直ぐに視線を合わせる。

暫しそうしていると、XANXUSは口の端を上げて愉快そうに笑い自ら手を引いた。

 

「分かってるじゃねぇか。おいカス鮫、そこのカスを処分しておけ!」

 

XANXUSが引いた為手を離すと、彼はスクアーロの元へと向かい蹴りによる気つけを行う。カス、と言って名も知らぬ男を指さすと豪華な椅子へと座り行儀悪くもテーブルに足を乗せた。

 

 

 

 

それから季節が変わる程の時間をヴァリアーで過ごす。人を殺した事もない中学生に負ける軟弱な暗殺部隊など不要だ、みっちりと鍛えてやっている。

そうこうしている内にリボーンから連絡がきた。沢田綱吉は反省しているのでまた来てくれ、と。

家庭教師を引き受けるかはともかく、久し振りにリボーンに会うのは悪くない。

私は再びイタリアから日本の並盛へと足を運んだ。

 

「夢野みいるは復讐者に捕まった?」

「ああ。六道骸を無理矢理助けようとしたせいでな」

 

拠点の一つにて、私が居なくなった時から今までの事をリボーンから聞く。

彼女が関わらない事にはディーノは協力してくれた、やはり交流は満足にはいかなかった、久し振りにコロネロとパシリに会った、などなど。

その中で一番驚いたのは復讐者まで出てきた事だ。

しかし、夢野みいるが捕まるとは笑える。詳しく話を聞けば実に愉快な内容だった。

夢野みいるは六道骸らに同情し、中途半端に関わったせいで一般人への被害が拡大。黒曜ランドに行ったメンバーは、沢田綱吉を含め重傷を負い全員入院。復讐者から六道骸らを無理矢理守ろうとして夢野みいる自身も捕まる。あげく沢田綱吉もペナルティーを食らう寸前までいき、キャバッローネの助力が得られず後始末が大変だった。と。

…よくまぁその程度で済んだものだ。いや…

 

「よくその程度で済ませましたね」

「今回は色々と厄介だったからな、このくらいなら手出しした内に入らねーだろ」

 

ソファに座る私の太股を枕にするリボーンの頭を労りを込めて撫でる。余程苦労したのだろう、大人しくされるがままになっている。

 

「それで、沢田綱吉は何と?」

「へなちょこやスペードの言う通りにしておけば良かった、だな。謝りたいとも言ってたぞ」

「ごめんで済んだらマフィアは要らないんですよ」

「…まぁな」

「ですが…そうですね、今後の彼次第で考えましょう」

「今はそれで充分だ」

 

会話が途切れ、本気で眠りに入るリボーンに目を細めて小さく笑う。

やはり、彼とのひとときは心地よい。




基本的にデイモン視点で話が進むので、デイモンの興味のない事(意識外の物事)は登場しません。
あくまでも基本的に、ですが、デイモンが知らない事は書かないつもりです。


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九話

ボンゴレ9代目、沢田家光をディスってます。デイモンは彼らがあまり好きではありません。
段々と「ボンゴレの為なら何をしても許される」的な考えが強くなってきています。なので沢田綱吉に対して結構酷いです。
七つのリング以外のリング、リング戦が出てきます。
安定の転生者アンチ。


「ツナを鍛えてくれねーか」

「お断りします」

 

沢田家の居間にて、リボーンの頼みを笑顔で断る。何故私がわざわざ鍛えなければいけないのか。

 

「そう言うなって!友の頼…」

 

豪快に笑い馴れ馴れしくも肩を抱こうとした沢田家光の首にナイフを突きつけてやれば、流石に引きつった顔をして手を引いた。怖いだの何だのと漏らしているのがしっかり聞こえたが当然気になどしない。

 

「バジルがいるでしょう。彼の方が適任ですよ」

 

テーブルに置かれた湯のみを手にとりお茶を口に含む。適温のそれは実に美味しくほう、と息を吐いて湯のみを手に持ったまま二人に視線をやった。

 

「なら見てるだけでいい、基礎の基礎を作った先生が居ればやる気もちげーからな」

「……。…はぁ、一つ貸しですよ」

「どっちも甘いねぇ」

 

リボーンに真剣に頼み込まれるとどうにも弱い。溜め息をついて了承すると、沢田家光が茶化してきたので二人で湯のみを投げつけた。

 

 

 

死ぬ気で絶壁を登る沢田綱吉を下から見上げる。ジョットといい沢田綱吉といい、何故こんなにも突飛な事を思いつくのか。

あの時は全員で登れなどとふざけた事を言い出して本当に困った。今ならばともかく頭脳労働派の私にやれなどと無理難題を…まぁ、Gと一緒になって止めたが。

 

「2日以内に」

「おや、そんなに時間をかける気ですか?」

 

無様に川に落ちた様子を鼻で笑い二人に近づいていく。

聞こえた言葉は、私が鍛えた部隊相手だというのに随分と余裕なものでつい口を出してしまった。

 

「スペード!2日だって無理なのに出来る訳が…」

 

相変わらずの情けない顔で喚く沢田綱吉。先程から聞いていれば無理だ無茶だ出来ないと、本当に苛々させてくれる。

苛つきの元凶に向かって踏み込むのと同時に愛用の鎌を握り首を狙って腕を振る。本気で殺す気だったのだがリボーンが間に入り沢田綱吉は後方に蹴り飛ばされて無事、リボーンは衝撃に飛ばされたものの鮮やかに着地しており彼の銃を切っただけで終わってしまった。

 

「何故止めるのですか?」

「お前が本気でツナを殺る気だからだ」

 

沢田綱吉の前で新しい銃を取り出し構えるリボーン。死の危機からか、守られた本人は真っ青な顔をして震えている。

 

「やる気のない人間に何を言っても無駄ですよ。ならばいっそ、今ここで楽にしてやるのが慈悲というものだ」

「こいつならやれる。このオレが見込んだ生徒だからな」

「嫌々やって勝てる相手だとでも?関係者全員皆殺しにされる様を見届けさせるつもりですか」

「そうならねーようにオレがいるんだぞ」

 

互いに動きはしないが殺気の強さから近くいた鳥が逃げていく。近くに隠れている沢田家光も自ら息子を助けるかリボーンに任せるか迷っているようだ。

いっその事幻術で負けた場合の未来を見せてもいいが、その時はリボーンも容赦しないだろう。彼の事は気に入っているのだ、完全な対立は避けたい。

結論が出ると渋々ながら鎌を消し去り肩をすくめて息を吐く。緩んだ空気に沢田家の二人も息を吐いたのが分かった。

 

「この場を選んだという事は、ジョットを参考にするつもりなのでしょう?ならば一日で、かかっても数分で登れるようになりなさい」

「ーっ…」

「ちなみに、無理無謀、出来ないだの吐いた瞬間に私が楽にして差し上げますよ。理解したのなら始めなさい」

「は、はいぃっ!」

 

リボーンはこちらの様子を窺っていたが、完全に手を出す気が失せた事を察したらしく沢田綱吉に死ぬ気弾を撃ち込んだ。

あのリアルチートは素の状態でこの程度軽々と登っていたのだ、死ぬ気モードで出来ない筈がない。

などと思いながら沢田綱吉を見ていると、随分と警戒した様子でリボーンが隣に並ぶ。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

ジョットに似た顔で無様な姿をさらされ苛々した。とは流石に言えない。

 

「あまりにも情けないのでつい」

「嘘じゃねーが、それだけじゃねーだろ」

 

リボーンの言葉には答えずに背中を向けて沢田家光のいる方へと歩いていく。気配は動かず同じ場所に居続けており、こちらを待っているようだ。

 

「優秀な家庭教師がついていて良かったですね」

 

声をかけながら木の陰へと回り沢田家光と対峙する。今し方私に息子を殺されかけたせいか険しい顔をしており思い切り睨みつけられた。

 

「彼は死の…永遠に失う恐怖を知らないから覚悟が足りない。業を知らないから甘い考えばかりで虫唾が走る。私は現段階ではXANXUSの方が次代に相応しいと思っています」

「だから息子を殺そうとしたのか」

「ええ。それが一番優しい道だ」

 

目の前の男の眉間に皺が寄るのとは対照的に笑みを深める。

もはやどんなに泣こうが喚こうが一般人には戻れないのだ、この先の地獄のような生を思えば苦しむ事なく一瞬で逝ける方がまだマシだろう。

 

「そもそも、沢田綱吉を殺されたくないのなら何が何でもマフィアに関わらせないべきだったんですよ。ボスの命令とはいえ従った時点でマフィアに息子を売ったも同然だ、怒る資格などありはしない。もしくは徹底的に関わらせ、身を守る術を教えるべきだった。そうすればもっとゆっくり成長出来たでしょうに」

「くっ…」

 

反論出来ずに悔しさから奥歯を噛みしめる様はいっそ笑える。この男も9代目も、優しさと甘さを履き違えているとしか思えない。

門外顧問のくせにこの体たらく。アラウディは本当に優秀だったと今更ながらに思う。

 

「…腹が立って仕方ないが、やはりこれはお前が適任だ」

 

感情を意思の力で抑え込み何やらこちらに放り投げてきたのでそれを掴み確認する。絵は私の知らないものであるが、ハーフボンゴレリングに見えるこれはいったい…。

 

「大空が道を踏み外した時、断罪する役目を持つ夜のリングだ」

 

断罪とか厨二ですか?恥ずかしい。

いや、それよりD・スペードたる私が夜とはどんな運命の悪戯だ。そもそも今の段階では存在など確認されていなかった筈だし夜のリングなどという物もなかった筈。やはり私を含む妙な転生者が多数存在するせいか。

思考に耽っている間に沢田家光は感情たっぷりに演説していたが、ヴァリアーは既に夜の守護者を選出している、という言葉以外抜けていく。役目を全う出来なかった者の言葉など聞くに値しない。

 

「引き受けてあげてもいいですよ。ヴァリアー側の守護者が気になりますからね」

 

おざなりな言葉を投げつけて沢田綱吉の元へ戻る。

ヴァリアー側の守護者は十中八九「外」から来た人間だろう。私が日本に来てから現れたのか元から居たのかは知らないが、ヴァリアーを滅茶苦茶に掻き回してくれたに違いない。

そのお礼はきっちりしなければ。

 

 

 

XANXUSと沢田綱吉の初顔合わせの際、私は遠くからやり取りを見ていた。

暗殺部隊の面々の足運び、体つき、気配の鋭さなど随分となまっているのが分かる。これでは私が鍛える前以下ではないか。

犯人はXANXUSに腰を抱かれた女だろう。きつめの顔と化粧をしたゴスロリの格好をしたそれなりの年齢の女性だ。ヴァリアーの空気はあの名も知らぬ男が居た時と同じであるのが気にくわない、完全に腑抜けている。

 

…ああ、なる程、これはここでXANXUSが勝ってしまわないよう調整された結果か。

 

どうせ変わらない道筋ならば見ていても仕方がないので自分は調べ物をし結末だけを聞く。沢田綱吉側の訓練は順調に進み雲の守護者戦までは9代目の事も含め自分が知るものと一緒だった。

そして大空戦の前に夜の守護者の対決となる。

 

久しぶりに赤いカンフー服の袖に腕を通す。折角バカ発見器のような外見をしているのだ、利用しない手はない。

並盛中に着くと全員そろっており視線が集まる中、足を進める。フィールドはグラウンド、仕掛けは見当たらない。相手方の夜の守護者は既にスタンバイしており待たされた事に不機嫌そうな顔をしている。が、こちらの姿を確認すると突然媚びを含んだ目に変わった。

 

「うっそ風じゃん!何これ、設定メチャクチャ過ぎ!でもいっか、いい男はアタシの前に跪かせるだけだし」

 

バカ発見器に引っかかったはいいがこの不愉快な生物をどうしてやろう。下品な笑い声に笑顔が消えそうだ。

 

「超死ぬ気モードのツナも好きだし、恭弥も骸もディーノも好き。アルコバレーノも元の姿はかっこよくて跪ずかせてやりたい」

 

女王様な雰囲気でも作っているつもりなのか、軽く前屈みになって唇を舐める様は正直気持ち悪い。なので加減する必要性を全く感じない。

開始の合図と共に全力で距離を詰め顔面に蹴りを叩き込む。女は防御も何もなくまともにくらい、鼻が潰れ愉快な声を上げて頭から地面に叩きつけられた。

この女は個人でリングを所持していたようでそれに炎を灯そうとしていたのだが、現実において戦隊もののお約束を守る阿呆など居る筈がない。

 

「さて、いくつか聞きたいのですがいいですか?」

 

脳震盪でも起こしているのか立ち上がれない女の頭を踏みつけてにこやかに問いかける。抵抗をしようとしたので幻術で自分の足がもぎ取られる様子を見せてやると、悲鳴を上げて足が足がと喚き出した。

少々うるさかったので首にナイフを押しつけ軽く切ってやる。すると嘘のように静かになった。

いくつか質問をし答えを聞くも、今まで聞いた内容と大した違いもなくこれ以上は無意味と知る。ヴァリアーを掻き回してくれたお礼にこの女にとっての悪夢をプレゼントし、ハーフボンゴレリングを奪い二つを合わせた。

 

「スペード…」

 

沢田綱吉側に戻ると当の本人に名前を呼ばれる。女性相手に、やら何をした、やら言わなくなった事に満足しようやく一息ついた。女性相手に容赦なく戦った事について、表情を見れば納得していないのは丸わかりだが、一方的に何だかんだと言わなくなっただけ成長したと思う。

 

「納得いかないのならばそれはそれでいいんですよ、理解さえすればいい」

 

この時代、リングは貴重なためしっかり懐に入れて早々に帰路につく。日本に戻ってからは拠点の方にいる為、少々手料理を懐かしく思った。




リボーン「……」
デイモン「何を拗ねているんですか?」
綱吉「(拗ね…えっ!?)」
デイモン「まったく、自分こそ沢田綱吉にかかりきりではありませんか。とりあえず食事に行きますよ、空腹のままは効率が悪い」
リボーン「食後は特製エスプレッソだぞ」
デイモン「はいはい」
綱吉「(スペードに抱っこされていった…あのリボーンが…)」

※リング戦に向けて修行中
※ボンゴレ大好きなデイモンが面白くないリボーン


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十話

大空戦~未来編導入部まで。
いつもながら微妙な区切りです。


さて、明日はいよいよ大空戦だ。XANXUSのおかげで沢田綱吉は中々にいい具合になってきている。

折角良い材料が揃っているのだ、少しばかり演出をしてもうちょっとくらいこちら寄りになって貰いたい。

もっとも、リボーンがいる以上幻術による誘導や誤魔化しは難しいので沢田綱吉の意思が何より必要になるのだが。

 

 

「沢田綱吉、君に聞きたい事がある」

「スペード…、…オレに答えられる事なら」

 

招集された時間の少し前、並盛中に向かおうとしていた二人に声をかける。どもらなくなった事に妙な達成感のようなものを感じて自然と笑みが深まる。

 

「大空戦は恐らく総力戦となるでしょう。その時、私の相手をした女性は脅威となる可能性が高い」

「回りくどい言い方してんじゃねーぞ」

「フフ、流石リボーン。察しがいいですね」

 

沢田綱吉の為に一から説明してみたのだがリボーンに一刀両断されてしまった。本人はまだ話が分からず不思議そうな顔をしている。

 

「彼女程度、私なら殺せる。どうしますか?」

「ど、う…って…?」

「君の守護者として戦う以上、一時的とはいえ君がボスだ。君の意思に従うという事ですよ。その上で献策しているのです、「あの女はボス、及び他の守護者の脅威となりうる。故に始末してしまう事を勧める。その為の手段として私を使え」こんなところです」

 

いきなり他人の生死の決定権を委ねられ困惑し、夢野みいるの事でも思い出したのか顔を青くする沢田綱吉。

リボーンに視線でまだ早いと咎められたが無視をして私は沢田綱吉に視線を向け続ける。

 

「ッ…オレは、例え敵でも無闇に殺すとか、そういうのは嫌だ。酷い事も、出来ればしたくない」

「それが君の…ボスとしての意思ですか?」

 

こちらの顔を直視はせずともちゃんと自分で考え、自分で答えた彼に目を細める。確認にも頷く様子は予想した通りでありとても満足だ。

 

「では、そのように」

 

 

 

明らかに怪しいリストバンドは巻くふりをして仕掛けを避ける。暗殺部隊のくせに変なところで素直なヴァリアーには笑った。

夜の守護者の彼女は高いプライドから私に手も足もでなかった事に鬼女のように怒っており実に都合がいい。大空戦が始まり毒にやられたふりをして手を抜けば、リングを奪い解毒してこちらに適度に怪我を負わせてくれた。無論、向こうも無傷にはしない。

後は適当に彼女を逃がして泳がせる。色々と激戦があったようで爆発音やら光やら賑やかな事だ。

怒った鬼女は勝利した沢田綱吉側の守護者達を次々と沈めていく。死ぬ前に助けてはいるが、その度にあえて攻撃をくらっているので流石に足元がふらついてきた。

失血と傷の痛みに息が上がる中、最後の仕上げの場面へと移る。

 

凍るXANXUSを背にこちらを愉快そうに見下ろす鬼女。

庇った事で私の血を浴び赤くなった沢田綱吉を背に膝をつく自分。

鬼女は「今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」などと言って調子に乗っているが、思い通りにいって愉快なのはこちらの方なので屈辱は感じない。

 

「沢田綱吉…今ならまだ出来る。どうしますか?」

 

鬼女に目を向けたまま後ろの「ボス」に問い掛ける。

私には沢田綱吉の表情は分からないが、長いようで短い逡巡の後、彼は私への視線を逸らさずに頷いた。

自らの意思で殺人を許容させる。目的を達成した今、目の前の女は邪魔だ。もはや加減する必要はない。

 

鬼女の最期は呆気ないものだった。こちらに突進してきた彼女の心臓にナイフを突き刺して終わり。首を飛ばすなり何なり、派手な最後も考えたのだが流石にトラウマを植え付ける気はない。

死体から夜のリングを奪いリストバンドの穴に差し込む。こういった細かな演出は必要だ。

それにしても疲れた。正直立っているのも億劫で素直に座り込む事にする。

XANXUSが実子ではないやらヴァリアー部隊の襲撃やら、そういった事は他人に任せて息を吐いた。

 

 

「スペード」

「なんですか?」

 

少し休んだ事で体力も回復した為、沢田綱吉を担いで移動している最中に突然リボーンに名を呼ばれる。沢田綱吉を私がわざわざ運んでやるのは今回の事の褒美のようなものだ。

 

「お前、手を抜いただろ。でなきゃそんなに怪我をする筈がねーからな」

「ボスの指示に従ったまでです」

「攻守共に一流のくせに何言ってやがる。攻撃出来なくても守る事は出来たろーが」

 

沈黙は肯定になるのを理解していて何も答えずに足を進めると、こちらの気持ちを察したリボーンはそれ以上何か言う事はなかった。

 

祝勝会に私が出る筈もなく、その時間は自分の傷の回復に務める。見た目は派手に血が出るよう怪我を負ったが深刻なものは何一つありはしない。

そのまま日常に戻るかと思いきや、妙な胸騒ぎを覚えリボーンに張り付く事にした。ジョット程ではないが、こういう勘は外した事がない。

 

バジルとランチアを見送る時にそれは起こる。

まさかリボーンが動けない状態にされるとは思わず、庇う事で一緒にバズーカの弾に当たってしまった。

十年後の世界は初めてだがそこは問題ではない。煙が晴れた途端に突然苦しみ出したリボーンに驚きすぐさま抱えて走り出す。

よく分からないが兎に角「外はまずい」、そう思えて仕方がない。

途中でこの世界の山本武に会えたのは幸運だった。私の存在を怪しまれたがリボーンの様子から急を要すると察したらしく地下基地へと案内して貰い、多少はリボーンの様子も落ち着いた。その後、ジャンニーニより急ピッチでリボーン用の対非73線スーツが作られる。

何もかもが順調にいき過ぎて、始めから準備されていたような気がしてならない。だいたい、リボーンが動けなくなる事からしておかしいのだ。呪いで体が縮んでいようが最高の殺し屋である事に変わりはないというのに。

だが思考に耽る暇は与えて貰えないらしい。リボーンが休む部屋の外で、この世界の山本武に刀を突きつけられた。

 

「んーで、ヒバリ似のあんたは誰だ。小僧を連れてきてくれた事は感謝するけどな」

「十年前、何度か会っていますし夜の守護者戦にも出ていた筈ですが?」

「そんな戦いはなかったぜ、嘘吐くならもっとマシな嘘にしとけよ」

「どういう事です…ここは私達がいた世界の十年後なのでは…」

 

現状を把握するには情報が足なさ過ぎて困惑する。山本武が夜の守護者戦を知らない、と言うのであれば違う未来にきたとでもいうのだろうか。

こちらの困惑具合に何か思うところがあったのか、突きつけられていた刀が引かれる。

 

「守護者とかはともかく、敵ではないみたいだな。小僧抱えてた時のあんた、すげー必死だったし。今日はゆっくり休んでくれよ。つっても、監視はさせて貰うが」

「……、…休ませて貰えるのならばありがたい。監視はどうぞご自由に」

 

監視されたところで痛くも痒くもない為山本武の言葉に頷き、案内された部屋でおさげを解き横になる。ベッドはしっかりした作りで休むには充分だ。

一体どういう事なのか、と服の上からリングを握る。私の記憶は十年前のあの日までしか存在しない、過去ならばいくらでも覚えているが未来の知識は持っていないのだ。

まぁ、こういった節目になりそうな事件にはきっと沢田綱吉らも関わってくる、というのは想像出来る。問題はその沢田綱吉らが「どの」沢田綱吉か、という事だ。

叶うならば、今の私が知る彼であればいい。そう思いながら目を閉じ今日は休む事にした。




ディーノ「落ち着けって!先生があの程度で何かなる訳ないだろ!」
リボーン「ちっ、スペードもスペードだ。あの程度、難なくかわすなり流すなり出来んだろーが」
ディーノ「(あーもう昔っからスペードの事になると面倒くせーなこの家庭教師!どの愛人より溺愛してんじゃねーか)」
リボーン「久々にオレの授業でも受けるか、へなちょこ」
ディーノ「ごめんなさい撃たないで下さい」


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十一話

今のデイモンと初代達が会うという美味しいシチュエーションは逃せませんでした。
チョイス後、初代達の力を借りようと呼び出したところにデイモンも呼ばれました。
相変わらずアニメオリジナルは見ていません。初代達の力を借りる、という設定だけお借りしています。


「そんな馬鹿な!!ボンゴレが壊滅状態など!」

 

リボーンが起きた事で事情が説明され、安全と判断された私は会議室らしき場所で山本武らに現状を詳しく聞いた。本来ならば有り得ない…あってはならない事態に反射的に机を叩き声を荒げてしまう。

落ち着けとリボーンに肩を叩かれ無意識の内に握っていた手を開くと、手のひらには爪の食い込んだ痕がついていた。

荒れ狂う感情を理性で押さえつけゆっくり息を吐き出す事で体の熱を逃がす。こんな時だからこそ、いつまでも感情的になっている訳にはいかない。

 

「失礼、取り乱しました。続きをお願いします」

 

更に感情的になってしまうのを腕を組む事で防ぎ話を聞いていく。今の今で冷静にはなりきれないが少々考える事は出来た。

ミルフィオーレファミリー、白蘭が敵というのは間違いないだろう、ボンゴレが壊滅状態なのも嘘とは思えない。だがボンゴレのボスがそう易々と暗殺などされるのだろうか。以前の沢田綱吉の甘さそのままにボスになったとしても、トップとしての教育を受ける以上暗殺を成功させるのは難しいと思われる。

あれで飲み込みは悪くないし、家庭教師としてリボーンもいるのだ。そこだけは引っかかる。

そういえば、ボンゴレ…もとい沢田綱吉らがある日を境に一気に力を伸ばした時期があった、とふと思い出す。それが、この世界を経験した結果だとしたら?だがそれだけでは匣の急成長の説明はできない。関係はある気はするのだが…。

 

「とにかく、今は門外顧問の助っ人を迎えに行くのが一番だな。小僧とスペードはここで待っててくれ」

 

そう最後に言って山本武は地下基地を出ていった。

 

部屋には私とリボーンのみが残る。時間が経つにつれて少しずつ頭が冷えてくると、ある思いが浮かぶ。

 

「リボーン」

「なんだ」

「今回、私が手を出してはいけないような気がするんです。死ぬ気の炎や匣の使い方を教える、くらいならば構わないでしょう。だが、戦いに手を出してはならない…沢田綱吉達の成長のために」

「…お前は何を知っている?」

「今回の事については何も。死ぬ気の炎の扱い方は知っていますがね」

 

チェーンを通し首から下げていたボンゴレリングを取り出して指にはめる。

灯る炎は黒くゆらめき少しばかり懐かしさを覚えた。

 

手は出さない、と言ってもそれは沢田綱吉達の戦いにであって住民を守る事には適応されない。一般市民を守るのは当然の義務だからだ。

街に出て挑発してみれば簡単にミルフィオーレが釣れた。一般人を巻き込まない、という基本も出来ていないマフィアもどきに生きる価値はない。

雑魚を始末するついでにリングを貰い炎を灯す。リングの強度さえ保てば大空以外は問題なく使えそうだ。もう少しリングを集めるとしよう。

 

地下基地に戻ると、たまたま通りがかった治療室に十年前の子供達がいた。しかも沢田綱吉は肩に怪我を負っていて、その上久しぶりに喚いており随分とタイミングが悪い時に帰ってきてしまったらしい。

 

部屋に入って大きな音が出るよう手を叩き注目を集め、沢田綱吉の前に立ち真っ直ぐに目を見つめる。

 

「所属と自分の名前を言いなさい」

「な、並盛中、2年A組沢田綱吉」

「今君がいる場所は?」

「十年後の、並盛」

 

簡単な質問を淡々と答えさせている内に少しずつ落ち着きを取り戻してきた沢田綱吉は、怪我による疲れからかベッドへと腰掛けた。

 

「ごめん、落ち着いた」

 

小さく呟いた目の前の彼に、私を見た驚きは見られず「今の私が知る沢田綱吉達」が来たのだと分かる。

これから話が進む、といった雰囲気になったところで小さいながら爆発音と共に煙が現れた。

その中心に誰かが居るのは明白であり腕を掴んでひねり上げ床へ叩きつけると、少女のような悲鳴を上げてじたばたし始める。炎が灯る気配を感じたので掴む手に力を込め痛みにより行為を無理矢理中断させた。

時間が経ち煙が晴れ捕縛した人間の正体は、並盛中の制服を着た沢田綱吉によく似た女の子だった。だからといって腕を緩めたりはしない。

 

「いったたたた!ツナ!お姉ちゃんを助けてぇ!!」

 

私の知る沢田綱吉に姉など存在しない…が、どこか別の世界では存在するのだろう。その人間がここに呼ばれたのか。

どうするのか、と視線で沢田綱吉に問い掛けると頷いたため女子を解放する。すぐさま女子は沢田綱吉に飛びつこうとしたので襟を掴んで阻止をした。

こういう役目は昔からGは抜群に上手かったのを思い出し、全く動けない獄寺隼人に溜め息が出そうになる。育った時代と環境が違うとはいえ、右腕を自称するのならばいかに自分が混乱していようが対処しなければいけないというのに…。

 

「悪いけど、オレに姉はいない。勘違いじゃないかな」

「そんな…っ、まさか違う世界?あ、わ、わたしは沢田奈津。ここじゃない世界の沢田綱吉のお姉ちゃんで、ボンゴレボス10代目なんだよ!て言うかこの手離して~!」

 

じたばたする女子に実際溜め息が出た。

私を見た反応も知りたい為に手を離すと、猿のような動きで素早く沢田綱吉の背後に回りこちらを睨んできた。

 

「この人誰?わたしの世界にこんな人いなかった」

 

今までとは違う反応に眉が上がる。彼女は違う世界であっても元々の住人なのだろうか。

今までの彼女達や彼とは違い、この小猿は幸いにも沢田綱吉に害はないように見える、ならば放置しても問題なさそうだ。

 

「…色々と面倒になりました。後は勝手にどうぞ」

 

リボーンの視線が気になったが振り返らずに部屋を出る。

もどきとはいえマフィアを相手にするのだ、汚さや痛みは敵が教えてくれるであろう今回に手を出す必要はない。そもそも、出してはいけない気がするのも変わらない。

それより構成員もいない今、ボンゴレが住民を守る余裕はないだろう。ならば私は本来の役目を果たす。

沢田綱吉にはリボーンがいるのだ、そこは安心できる。

 

 

細々した戦闘やメローネ基地への襲撃など様々な事が起こったが、私はそのどれにも関わらなかった。沢田綱吉の姉と名乗る少女も、沢田綱吉本人の意思により関わらせて貰えなかったらしい。

彼女の甘さは自分達を危険にさらすだけだ、と強固に反対したと聞いた。

 

メローネ基地襲撃後、白蘭の指示により一旦は引いたように見えたミルフィオーレだが、大きな組織の末端には馬鹿が多い。抜け駆けしようとやってくる者達を始末する為に、私は単独行動をとり続けた。

そうして暫く経ったある日の昼、ふと誰かに呼ばれたような気がして振り返る。すると視界が一気に暗くなり、敵の攻撃かと身構えた次の瞬間には神社のような場所に立っていた。

 

目の前にはジョットを筆頭に初代と呼ばれた者達。後ろには気配からして沢田綱吉ら10代目達。更にはアルコバレーノまで揃っているようだ。

 

「確保!」

 

私が逃げるより早くジョットのかけ声によりG、雨月、ナックルの三人に捕まる。そのままジョットのすぐ前まで引きずられた。

 

「お前の姿だけ見えずに心配したぞ」

「とても心配した、とは思えない仕打ちですね」

 

今の姿は全く違うというのに、私がD・スペードだと確信した様子でにこやかに手を広げて抱き締めてくるジョット。逃がさないよう捕まえたままのGを睨んでみたが無視をされる。これは知らない相手だから無視をしたのではなく、私が誰か分かっていて無視をしている。まったく、こちらの幼なじみの意見もきくべきだ。

「表情豊かなアラウディとか気持ち悪い」などと呟いたランポウに視線をやれば、慌ててナックルの後ろに隠れた。

 

「え…えーと…その…」

 

物凄く勇気を振り絞ったらしい沢田綱吉が声をかけてきたのでそちらを見ると、完全に視線を集めており少しばかり気まずい。

 

「なんだ、何も言っていないのか?」

「言う必要がなかったもので。そもそも、一目見て気づいた貴方方がおかしいんですからね」

 

雰囲気から察するに、ランポウですら私が誰なのか理解している。見た目では分からない筈なのに…まぁ、自分にも隠す気はないのだが。

べったりくっつくジョットを引き剥がし、Gの手はこちらが引き剥がす前に離れていた。今はその空気を読み過ぎるところに腹が立つ。

どうやら場の流れからして名乗らなければいけないらしい。今の自分の肉体を頭から昔の自分へと変えていく。服はフードつきのコートを羽織った時のものでいいだろう。貴族服は流石に勘弁願いたい。

完全に姿を変えきって沢田綱吉達に向き直る。

 

「初代霧の守護者、D・スペード。久しぶりですね、皆とても成長したようだ」

 

笑顔で自己紹介をしてみたが、沢田綱吉側は一様にぽかんとした間抜けな顔をしていた。

 




奈津「なにあの態度!大変な状況なのに酷い!」
リボーン「スペードは住民達を守りに行ったんだぞ、今のボンゴレじゃそこまで手が回んねーからな」
奈津「え…」
綱吉「…君、悪いけどあまり触れないでくれないかな。傷が痛むんだ」
奈津「あ…ご、ごめん…」
リボーン「今後の事を話し合う。奈津と言ったな、外に出てろ」
奈津「なっ!わたしはボンゴレ10代目で…!」
リボーン「はっきり言わないと分からねーか?邪魔だから出てけ」
奈津「酷いよリボーン…隼人や武は分かって…」
隼人「オレの10代目は沢田綱吉さんだけだ」
武「うーん、悪いけど笹川達のとこ行ってくれるか?」
奈津「ーっっ…!」


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十二話

途中から視点がデイモン→ジョットに変わります。
余裕のあるかっこいいリボーンはいません。


「ひ…酷いよ!仲間の事だまし「おめーは黙ってろ」」

 

何やら声を荒げた沢田姉を蹴りによって物理的に黙らせたリボーン。蹴りにいつも以上の鋭さを感じる。

と言うかあれもついてきたんですね、実に邪魔だ。

 

「えーと、スペードが初代霧の守護者…ごめん、どういう事?」

「平たく言えば転生です。死んだ時は満足でしたし、成仏するつもりだったのですが…」

 

代表として聞いてきた沢田綱吉に素直に事の次第を伝える。別に隠す事ではないのだ、情報を公開しても構わない。

それよりも気になるのはジョットの気配だ。今回は仲の良い状態で死に別れたので、また会えた事を嬉しいと思って貰えるのは私とて嬉しい。だがそわそわし過ぎだ、無表情に見えるよう頑張っているが気配で分かる。

キッと睨みつけると目に見えてしょんぼりしたので、それは私がジョットの前に立つ事で隠した。

 

「流石飼い主だね」

 

と呟かれたアラウディの言葉は聞こえていない。

 

「で、何故こんな状況に?説明が欲しいのは私の方なのですが」

「Ⅹ世に助けを求められたので今回に限り応える事にした。それで守護者を呼び出したのだ」

「そしてGを差し置いてでも一番に駆けつけそうなお主がおらず、とても驚いていたところでござる」

 

雨月の言葉を皮きりに、賑やかになるメンバーに頭が痛くなる。助けを求めるようにGを見れば溜め息と共に肩を叩かれた。

 

「まぁ、あいつらは諦めろ。Ⅹ世ファミリーの試験をして、それに合格したらオレ達が手を貸す約束をしたところだ」

「…ありがとうございます。ところであの後、組織はちゃんと回ったんですか?」

「………」

 

説明してくれた事は助かったが、今の彼らを見て気になった事を質問したら無言で視線を逸らされた。…今代までボンゴレは続いてきたのだ、何とかなったのだろう。多分。

 

「それで、今から試験をするのか?しねーのか?」

 

随分とイライラした声でリボーンが割り込んできた。嫉妬かと笑いたくなったが、話が全く進まないのは事実な為ジョットに視線を向ける。

こちらの言いたい事を察した彼は沢田綱吉らに向き直り真面目な空気をまとい口を開いた。

 

「ふむ、そうだな。後ほどそれぞれお前達の元へと向かわせよう」

 

流石に今試験をする訳ではなくこの場はお開きとなり、沢田綱吉達とアルコバレーノは帰っていく。

てっきりジョット達も居なくなるのかと思いきや、まだこの場に残っており首を傾げた。

 

「デイモン!」

 

名を呼ばれるのと同時に突進されてたたらを踏む。今の体は鍛えてあるのでその程度で済んだから良かったものの、以前の体ならば確実に尻餅をついていただろう。

危ないと叱ろうと口を開きかけたが、あまりにも嬉しそうな雰囲気が伝わってきて今叱るのは躊躇われた。

 

「あんな別れ方をしてずっと後悔していた…こんな形ではあるが、また会えて嬉しい」

 

苦しい程にしがみついてくる様子はまるで幼子のようで小さな怒りなど消し飛んでしまった。

仕方がない、とジョットの背中を叩くと、他の者達に微笑ましいものを見るような目を向けられどうにも気まずい。

 

「久しぶりに三人で話し合うといい。オレ達は適当に過ごすとしよう」

 

ナックルがそう言い姿を消すと、雨月、ランポウ、アラウディと三人が姿を消した。そう喋りはしなかったが、一番に居なくなりそうなアラウディが残っていたのは少しばかり意外だった。

 

「それで、もっと詳しく説明して頂けるのでしょうね」

 

強力な磁石のようにくっついてくるジョットを離すのは諦めて問うと二人は同時に頷いた。

 

十年前…元の時代に居ると聞き、まずは拠点にて腰を落ち着かせる。今更容姿程度でどうこうなる相手ではないため、このタイミングで術を解いて風の姿に戻る。

詳しく話を聞けば、ボンゴレ匣強化のために力を貸して欲しい、という事だった。

自分にはその方法などまったく分からず問いを続けると、銃弾により穴の空いた懐中時計を渡される。ジョットが私の形見として受け取っていたそうだ。

 

「実物ではないが、お前がⅩ世の守護者を認めた時にこれを介して力が与えられる。もっとも、指輪の解放に至る程の力はないのだが…」

「なるほど。それにしても、試練ではなく試験、ですか」

「ああ。彼らは既に己の行くべき道を知っている。後は気づくだけだからな」

 

必要な事を話し終えると、私の家だと認識しているからか思い思いに寛ぐ二人に懐かしさから目を細める。

暫く戦い通しだった為、このゆったりとした穏やかな時間が心地よい。

 

「さて、と…話は終わったし飲むか」

 

勝手に冷蔵庫を漁り、見事にとっておきのワインを見つけだしたGがグラスを三人分持ってきた。

 

「貴方は昔から的確に高いのを見つけ出しますよね…と言うか飲食できるのですか?」

「そこはまぁ、ほら、指輪の不思議パワーで」

「細かい事は気にするな。それに疲れているだろう?気晴らしも必要だ」

 

手際よくワインをグラスに注ぐGとのんびりとした様子のジョットの連携に息を吐き、差し出されたグラスを手にとる。

そんな私の様子にジョットは至極嬉しそうに笑った。

 

「オレとGにだけ殊更甘いのは変わらないな」

「うるさいですよ」

 

 

 

- - - - - -

 

 

 

デイモンが寝てしまうとオレとGは手持ち無沙汰になり、何となしに彼の寝顔を見つめる。

見れば見る程作りはアラウディにそっくりだ。とは言え、表情がデイモンのままなのでうっかりでも間違える事はない。仮に髪や目の色がアラウディと同じでも見分ける自信がある。

 

「ったく、髪結んだままじゃねぇか。しかも酔いつぶれるくらい疲れてんのかよ、情けない奴」

「そう言うな、オレ達の前で気が抜けたのだろう。デイモンも寝たし、少し行ってくる」

 

髪を解いたり掛ける物を持ってきたりと、甲斐甲斐しくデイモンの世話を焼き始めたGに一言断る。すると、こちらを見もせずにひらひらと手を振られた。

デイモンはオレ達に甘いが、オレ達もデイモンには甘い。

 

Ⅹ世の家は指輪の気配を探せば直ぐに見つかった。自分の部屋にいるのを確認してから姿を表すと、Ⅹ世と晴れのアルコバレーノのみがいた。これは好都合だ。

 

「えーと…今から試験、ですか?」

「いや。少し話をしにきた」

 

晴れのアルコバレーノから刺さるような視線を感じながら、緊張した面もちのⅩ世の顔を見つめる。

こうして生きているからには、ボンゴレのボスとしてデイモンもある程度は認めているのだろう。

 

「あの、話って…」

「お前の姉だと名乗る女性だが、試験には関わらせないようにした方がいい。彼女の持つ指輪も今は完全に眠っている。使わせない事だ」

 

こちらの言葉に素直に頷くⅩ世。彼は彼なりに思うところがあったのだろう、話が早くて助かる。

そして本命である晴れのアルコバレーノに向き直る。敵意むき出しで面白いが、からかっている場合ではないので自重した。

 

「嵐のアルコバレーノ…彼女をデイモンに近づけるな。幸いにも嵐はGの担当だ、デイモンが関わる必要はない」

 

神社にて呼ばれた時、デイモンはこちらに集中していて見ていなかったが、この晴れのアルコバレーノは嵐のアルコバレーノからデイモンをさり気なく隠していた。

詳細は自分には分からない。しかしこの男は色々と事情を知っている、と勘が囁く。

 

「随分と過保護じゃねーか」

「大切な者を守るのは当然だ。ではな」

 

刺々しいアルコバレーノの言葉には当たり前の事を返し、言いたい事も伝えた為にⅩ世の家を後にする。

のんびりとしていられないのは指輪の中から見ていたので知っている。ならば一番手は雨月に頼もうと気配を探り、彼は最初の神社に居ると分かったので神社へと向かった。

 

神社に着くと雅な笛の音が聞こえてきた。覚えのある音色に誘われるまま足を動かすと、森に入ったところで目的の人物を見つける。

暫し心地よい音色に身を任せて目を閉じる。この曲はデイモンが好んで聴いていたものだと気づいて自然と笑みが浮かんだ。

 

「…やはり、お主達は三人そろって笑っている方がいい」

 

曲が終わり、雨月の言葉に瞼を上げる。

オレの霧に会い欠けた場所が埋まる感覚を知った今、雨月の言葉には同意しかない。

 

「拙者への要件は察しがついているでござる。最初の試験官役、承った」

「ああ。頼んだ」

 

付き合いが長いだけあり何も言わずとも全てを察してくれた雨月に短く返す。

雨月の事だ、明日の夜には試験が始まるだろう。

 

さて、今日の用事も済んだ。早く帰らなくてはGにデイモンを独り占めされたままになってしまう。

Ⅹ世の事は期待している。だが今は彼を優先したいのだ。

二度と会えないと思っていた、大切な人に会えたのだから。




※アルコバレーノの会話

嵐「リボーンは随分と荒れていますね、彼らしくない」
雷「あのリボーンの感情を乱せる原因は気になる」
雲「どーせくだらない事だろ、エスプレッソが不味かったとか」
雨「お前は相変わらず残念な奴だな、コラ。リボーンに締められるぞ」
晴「お前らごちゃごちゃうるせー…まとめて締められてーのか」
大空「一人だけ離れて、どうかしたの?」
霧「…別に(D・スペードの姿が変わる前に見えたあれ…どうも引っかかる。何か忘れているのかい?この僕が)」


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十三話

中途半端なところですが、一回切ります。


試験を始めてから数日後、私の拠点にて初代と呼ばれる七人全員が集まり顔を突き合わせている。

狭い部屋に大の男が七人も居ると狭いしむさ苦しい。そしてそれ以上に空気が重い。

 

「今回ばかりは流石の私も再試験を求めます。彼女を排した上で、ですが」

「オレもデイモンに一票。他の者はどうだ?」

 

私とGの言葉に皆、難しい顔をしつつ是と答える。決定権を持つボスを見れば答えは是。満場一致で10代目達の再試験となった。

 

何故こんな事態になったのか、理由はとても単純である。

沢田姉が試験をことごとく邪魔してくれたのだ。

 

「ツナも皆もわたしが守る!!」

 

という訳の分からない理由で。

沢田綱吉は彼女を止めようと頑張っていたらしい、それを「風」が止め沢田姉を助けたのだと聞いた。更に風をリボーンが止めようとすれば他のアルコバレーノがそれを止める。10代目達の試験だというのにこのグダグダ具合に頭が痛くなる。しかも未来の惨状を見た上での試験妨害とは、よくまぁ時間を無駄に出来るものだ。

代わる代わる仲間に引き止められ私は直接は見ていないが、収拾がつかなくなった場面が簡単に想像がついてしまうのが何とも…。

 

「では試験の内よ…アラウディ、どこに行くつもりですか」

 

再試験の内容に移ろうとしたところでアラウディがどこかに行こうとしたのでそれを止める。

いつもの事とはいえ、相変わらずの無表情のくせに迷惑そうな雰囲気を隠そうともしない。

 

「試験の内容は決まったら教えてくれればいいよ。中身は任せる」

「本当に任せるんですか?」

「……あまり変なのは拒否するけど、それ以外ならやってもいい。僕はⅩ世がどうなろうと興味ないからね、正直試験とかどうでもいい」

 

アラウディは戻るか迷って結局は出て行った。あれで最初の頃よりはかなり協力的になっているのだ、言質もとった事だし良しとしよう。

 

「再試験、と言われてもオレ様なーんも思いつかないんだものね。元々やる気ゼロだし」

「思いつかんのはオレも一緒だな。妨害さえなければ合格にしてやりたかったのだが…」

 

ダレるランポウを起こしながら困ったように笑うナックル。妨害さえ、というのには激しく同意する。沢田姉は早々に排除してしまえば良かった。

 

「そういやお前の試験はまだだったな。何をするつもりだったんだ?」

 

ふと思い出したようにGに問いかけられそちらを向く。Gの隣にいるジョットからも同じ事を聞きたそうな気配を感じた。

 

「そうですね、幻術を使い私が用意したフィールドで自分自身と戦って貰うつもりでしたよ。私は心より力が見たい」

「なるほど…ならば全員分、その方法でいく。お前なら出来るだろう?」

「…、分かりました」

 

ジョットの言葉に一瞬詰まったが、ボスの命令と受け取り了解の意を示す。やけに判断が速かったのはまた超直感だろうか。

 

 

試験の場所として黒曜ランドを選び、昔の姿をして下見に訪れる。上手くいけば六道骸を引きずり出せるかもしれない。

林の中から黒曜組が根城としている建物を見上げていると、アラウディが背後に現れたのでそちらに視線をやる。

 

「丁度よかった、再試験は自分自身と戦って貰う事になりましたよ。雲雀恭弥をしっかり連れてきて下さい」

「…仕方ないね、それくらいなら」

 

心底面倒そうに肩をすくめられるが面倒なのはこちらの方だと言いたい。

用件は済んだというのに立ち去らないアラウディに不思議そうにしていると、相手から一歩距離を詰められた。

 

「君とジョットが一生懸命だから僕達は協力するし、ジョットは君に死んで欲しくないから一生懸命だ。けれど、僕としてはもう暫くこのままでいいと思っている」

 

いつになく饒舌な彼に目を瞬かせる。アラウディまで、まだもう少しだけ一緒に居たいと思ってくれているのは純粋に嬉しかった。

そして、彼らは既に過去のものであるのが…少しばかり寂しくなった。

 

「試験の日は?」

「明日の夜にでも」

「そう」

 

最後に短いやり取りをしてアラウディは炎となり姿を消す。

名残惜しくなる事を言うとは、本当に嫌な男だ。

 

 

そろそろ下校時間である為に並盛中へと足を向ける。沢田姉はマーモンに協力して貰い無理矢理学校に通っているという。

校門で待ち伏せしていると、沢田綱吉、獄寺隼人、ユニと一緒に沢田姉も一緒に歩いてきた。

 

「沢田奈津、話があります。ああ、Ⅹ世とユニも一緒に来なさい」

 

そろそろ私がちょっかいをかける頃だと思っていたのか、何とも言えない表情ながら沢田綱吉は頷いて返し、逆に沢田姉は面白い程うろたえている。獄寺隼人はこちらを睨んできたが子犬に吠えられたところで何とも思わない。

そしてユニは静かにこちらを見ていた。

 

場所を移動し、河川敷で子供らと向かい合う。

 

「さて、まずはユニ。彼女を元の世界に返す方法はありませんか?」

「ごめんなさい…奈津さんの世界には干渉出来ないんです」

「そうですか…。いえ、構いませんよ、聞いてみただけですから」

 

この件に関してはあまり期待していなかったので本当に構わない。あわよくば、程度だ。

申し訳なさそうなユニに対して私の態度が柔らかい事に三人は非常に驚いているが、私とて優秀な協力者相手に厳しい態度などとりはしない。

 

「沢田綱吉は、よくやっていると言えるでしょう。他の者から聞いています」

 

私の言葉にあからさまにホッとする沢田綱吉。正直力ずくで沢田姉を止めて欲しいところだが、アルコバレーノ相手では仕方ないと言える。

自称右腕は特に言う事はない。Gならば上手い事やっただろう。

 

「沢田奈津。散々言われている筈ですが、初代霧の守護者、現夜の守護者として言わせて貰います。試験の妨害は止めなさい」

「なっ…わたしはただ守りたいだけで!」

「ここは君の世界ではないのです。迷惑なのだといい加減理解しなさい」

 

全身の毛を逆立てて威嚇する子猫のように歯を剥き出しにする沢田姉。頭の痛い様子に深い深い溜め息が出る。

 

「世界が違ってもツナは可愛い弟だし、守護者だって…」

「っ…何度も言ってるだろ!オレは弟じゃないし守護者はオレの守護者だ!」

 

いつもならば黙っている事の多い沢田綱吉が、今回は声を荒げた事に少しばかり驚く。他の三人は更に驚いており彼に視線が集まった。

沢田綱吉は怒りや悲しみの入り混じった顔をして沢田姉を見ている。

切欠は私かもしれないが、ボス自ら動くのならば動く必要はないかもしれない。今は成り行きを見守る事にした。

 

「オレ達は早く未来に行かなきゃいけない、こんなところで足踏みしてる訳にはいかないんだ。今こうしてる間にも沢山の人が殺されてるかもしれない…早く白蘭を止めなきゃいけないんだ!君もあの未来を見たなら分かるだろ!?」

「それは当たり前だよ!」

「なら何でオレ達の邪魔するんだよ!」

 

流石の沢田綱吉も頭にきているらしい。彼女の独りよがりな「守る」より、今の彼の方が余程皆を守っている。

 

「邪魔なんかしてない!何で、分かってくれないの?お姉ちゃん悲しいよ…」

 

「弟」の理解が得られずさめざめと泣き始めた沢田姉。姿形が一緒ならば混同してしまうのも分かる、私がそれをよく利用していたのだから。

一方沢田綱吉は怯む事なく沢田姉を見ている。こういう時、女の涙に引かなくなったのはとても良い事だ。

 

「なに女の子を泣かせてるんですか」

 

成長を喜ばしく思っているところに乱入者が現れた。

沢田綱吉の後ろに回り、言葉と共に蹴りを放ってきた小さな物体を弾く。獄寺隼人も動こうとはしたようだが、まだまだ遅い。

弾いた物体は空中で回り華麗に地面に着地した。その後ろには、物体を止められなかった事に苦い顔をしたリボーンが続く。

 

「女の子を泣かせるなんて、どんな理由があれ駄目ですよ」

 

体勢を整えた物体…嵐のアルコバレーノは諭すような口調で話しかける。

昔の姿をしていて心底良かったと思った。




ナックル「アラウディ、何故デイモンを凝視しているのだ?」
アラウディ「観察」
ナックル「う、うむ。今更観察とは、どうした」
アラウディ「あれが死んでから特に気になってたからね。折角また会えたんだ、確認してるんだよ」
ナックル「デイモンが居なくなって気づいた、というやつか」
アラウディ「……否定はしない」


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十四話

最後の方BL成分多めです。デイモンは溺愛されてればいい。
そして終わりはあっさり。


嵐のアルコバレーノとなった彼女は一般人とは言い難いがマフィアではない、変に関わってさえこなければ特に何かするつもりはなかった。

沢田姉さえ居なければ試験に手を出す事もなかったのではないか、と思っている。

そもそも、私の身代わりをどうこうするつもりは最初からなかったのだ。何かが起こり自分が人柱とされるかもしれないのだから。

とはいえ、ここまでされたからには少しくらい口を出したい。深く巻き込むつもりはなかったが、首を突っ込んできたのは向こうだ。

 

頭の中で方針をまとめると、獄寺隼人に怒鳴られている風へこれ見よがしに溜め息をつく。

 

「どんな理由があれ、ですか…。私には、間接的とはいえ殺人者を庇う気持ちが微塵も理解出来ませんね」

「聞き捨てなりません、彼女は清廉潔白な…」

「清廉潔白?自覚していないだけでしょう。沢田奈津も、貴方も」

 

思い切り馬鹿にして笑ってやれば風と沢田姉の二人に強い視線を向けられる。

更に口を開こうとしたところで沢田姉、風の前に沢田綱吉とリボーンが立った。

 

「すまねーな…こいつにはちゃんと分からせる。アルコバレーノはこいつを甘やかし過ぎた」

「オレがちゃんと説得するよ。だから、大丈夫」

「10代目…」

「おじさま…」

 

てっきり今回も止められるかと思ったが、沢田綱吉とリボーンは私の方につくらしい。

こちらからは彼等の表情は見えない。それでも、どんな顔をしているかは想像出来た。

 

「では、任せましたよ。それから、明日の夜に黒曜ランドに守護者全員を連れて来なさい。霧の守護者の試験、及び他の守護者の再試験を行います」

「分かった」

 

あれ程怖がっていた私に対して言うのだ、沢田綱吉は沢田姉を説得してくれるだろう。リボーンは元より心配などしていない。

帰る前に必要な事を伝えると、返事は沢田綱吉がし獄寺隼人は大きく反応した。チャンスが貰えると知り、張り切り出したのが愉快だ。

 

今日の用事は全て済んだので帰る事にする。背中を向けた私に対し風や沢田姉が何か言っていたようだが、聞く価値などなさそうだった為に完全に聞こえなかった事にして帰路についた。

 

 

霧の守護者の試験と他の守護者の再試験は普通に始まり全員合格という形で終わった。沢田姉さえ関わらなければ、ここまであっさりいくらしい。

霧の守護者の試験について特に何か言う事はない。強いて言うならば六道骸を上手く引っ張り出せた、という事くらいだろうか。前の世界でクローム髑髏を自分自身だと言っていたのを利用させて貰った。

沢田綱吉を含め、全員の匣の性能が上がったところで建物の外に出る。雲雀恭弥だけは一人でさっさと帰っていった。

 

何事もなければ、と思っていても世の中そう上手くはいかないようだ。

建物を出たところで沢田姉と風が私達を待っていた。昨日の今日では嫌な予感しかしない。

 

「わたし、風さんから全部聞きました。D・スペード、お願いだからもう止めて。エレナさんはこんな事しても喜ばないよ」

 

悲痛な顔をしている沢田姉と風。こちらとしては驚けばいいのか嘲笑えばいいのか分からず思わず沢田綱吉とリボーンを見てしまった。二人とも予想外過ぎる出来事だったらしく、沢田綱吉は呆気にとられた顔をしリボーンは頭が痛そうにしている。

こちらが無言であるのをどうとったのか、泣きそうに顔を歪める沢田姉を風が慰めるように彼女の足を軽く叩く。その仕草に頷いた沢田姉は、意を決したように私を真っ直ぐ見てきた。

 

沢田姉の裏切り者やら非道やら、好き勝手に言っているのをBGMに沢田綱吉を改めて見る。向こうも何か思ったのか視線が合った。

 

「あの宇宙人相手によく説得しましたね。誉めて差し上げましょう」

「……うれしくない…」

 

しみじみとして言葉を紡ぐと心底嫌そうな顔で返事がきた。自分の事を何と言われようが痛くも痒くもないので沢田姉の言葉を聞き流す。

 

「悲しいのは分かる、それだけエレナさんが大切だったんだね。でも、ジョットを殺そうとするなんてそんなのないよ!ジョットも他のみんなも可哀想だよ!」

 

が、聞き流せるのは私に関する事だけだ。可哀想、などと酷い侮辱に目の前が真っ赤に染まる。

一瞬で沸騰した頭のまま小娘に手を伸ばすと、その手を暖かな手が掴み正面から強く抱き締められた。

 

「よーしジョット、そのままデイモンを抱き締めてろよ。こっちは直ぐに終わるぜ」

「任せろ。デイモン、大丈夫だ。オレ達は…オレは、ちゃんと分かっているから」

 

ジョットの声が聞こえてきてよくやく視界に色が戻る。冷えた指先を温める手に少しずつ落ち着いてきて、強張った体から力が抜けていった。

 

「リボーン!どういうつもりだ!」

「どうもこうも、大事なもん傷つけられて黙ってられねーだけだ」

 

多少落ち着いてきたので辺りを見回せば、ジョットは私を抱き締めていてGは沢田姉の正面に立ち頭に銃を突きつけている。アラウディは風に手錠をかけ踏みつけていて、リボーンはその彼女に銃を向けていた。そして雨月、ナックル、ランポウは10代目守護者や他のアルコバレーノを抑えている。

 

「さて、どんなデタラメ吹き込まれたか知らねぇが、死にたくなかったらその下種な口をとっとと閉じろ」

「か弱い女の子に何て事…」

「言葉だって立派な凶器だ、自業自得だよ」

 

Gの言葉に真っ先に反応した風。アラウディが踏みつける足に力を込めたのか、苦痛に顔を歪めるのがこちらから見えた。

 

「落ち着いたか?」

「…ええ。すみません、醜態をさらしました」

 

私の体から力が抜けたからかジョットの腕が緩み、そのまま両手で頬を包まれ至近距離で微笑まれた。術士たるもの常に冷静でなければいけないのに、頭に血が上るとはとんだ失態だと苦い気持ちになる。

 

「お前は相変わらずだな。だからこそ、オレ達もお前の為なら何でも出来る」

「……、…恥ずかしい人ですね」

 

ストレートに好意を伝えてくる目の前の男に何か返そうとして、結局は面白みのない言葉しか出てこなかった。

笑みを深めるジョットに内心を見透かされているようで少しばかり居心地が悪い。

 

「お前ら本当、興味ない事はとことん入ってこねぇよな」

 

そんな言葉と共にGにジョットもろとも肩を抱かれ僅かに目を開く。肩を抱かれたまま猫のように擦りよってきたGに眉を寄せ軽く叩いてみたが全く離れる様子はない。

ジョットは完全に素で触れてきたが、Gの場合はリボーンが凄い目で見ているのを理解してやっている。こういう事に関しては私などより余程質が悪い。

 

 

「貴方に任せておけば問題ないのですから、構わないでしょう?」

「まぁな」

 

宇宙人と会話(物理)をしてきた彼に言えばさらりと返される。獄寺隼人も右腕と名乗るからには、早くここまでなって欲しいものだ。

 

 

その後、一晩の間を置き私達は再び未来へと向かう事となる。

ジョット達と別れるのは名残惜しくあったが、この生を終えた時にでもまた会えるだろう。お互いに別れはあっさりしたものだった。

沢田姉や風は生きている、とだけ言っておく。

 

今回の事で一番大変だったのは、帰ってからリボーンを宥める事だった。完全にへそを曲げた彼は本当に面倒くさい。

まぁ、他人にそんな姿は見せないのだから、悪い気はしない。




綱吉「あの…Ⅰ世達のあれって…」
雨月「ああ、三人が揃うと微笑ましいでござろう?」
綱吉「微笑ましい、て言うか…(リボーンの目が怖っ!)」
ナックル「あいつらは究極に仲がいいからな!」
ランポウ「あ、アラウディが乱入した」
綱吉「そしてスペードにあしらわれてる…え、スペードって猛獣使いか何か?」


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十五話

補足
・スペード=D・スペードは普通に受け入れられた。スペードはスペードだよね、的なノリで。
・初代達と会った記憶も与えられている。

駆け足どころか疾走レベルで話が進みます。


白蘭との戦いに私はほとんど関わっていないので詳細は知らない。

ボンゴレリングの解放の為に呼ばれたくらいだ。ジョットは本当に沢田綱吉に期待しているらしい、あの形状のリングを見たのは久しぶりだ。

最後の最後にたった一人とはいえ、守る者の為に敵を殺める事も厭わないとは中々やるようになったと思う。このまま順調に成長すれば、私が膝をつく日も近いのかもしれない。今の彼ならば、ボスとして守ってもいい。

 

アルコバレーノの力と装置により過去に戻ると直ぐに白蘭を探し出して捕獲する。ボンゴレを潰す要素は早めに取り除かなければいけない。

それ以外は継承式までのんびりと過ごすつもりだ。私が関わらない以上、シモンとの争いもないだろう。あの男…シモン=コザァートがどうにかされるなど考え辛い。

 

 

「最近機嫌がいいじゃねーか」

「ええ。沢田綱吉の成長が喜ばしいので機嫌は良いですね」

 

継承式の情報により日本に入ってきた馬鹿を葬り去り、後始末を頼んだところでリボーンに問い掛けられた。今の沢田綱吉ならば少しくらい一人にしても問題ない為、こうして二人でゴミ掃除をしている。

 

「それに彼ならば、今のボンゴレについた贅肉を削ぎ落としてくれるのではないかと期待しています」

「あいつが正式に継ぐと言うのかまだ分かんねーぞ」

「継ぎますよ。今でなくとも、必ず」

 

互いの背後から不意打ちを仕掛けようとしたゴミに私はナイフを、リボーンは銃弾を打ち込みようやく今日のゴミは掃除し終えた。

 

そうして継承式が近づくにつれ色々なファミリーが日本入りする。私が知っている前のものより数は少なかったが、今はより強いマフィアと繋がりを持っているようだ。

 

少ししてシモンが並盛にきたという情報を得た。

今代のシモンがどう変わっているのか楽しみにして遠目に彼らを見にいくと、少々雰囲気がおかしい。

この世界のシモンは規模は大きくないが、正に少数精鋭と言うに相応しいファミリーだった筈だ。相応の空気を持っていたのにそれが感じられない。今の彼らから感じる雰囲気はまるで私が細工をした時のようではないか。

はっとして加藤ジュリーを見ても術の痕跡は見当たらない。完全に隠れているのかそれとも他の要因なのか、今は判断がつかない。

この事を沢田綱吉に伝えるか否か、迷うところだ。

 

 

「沢田綱吉、ジョットの友人として君に聞きたい事がある」

「はぁっ…はぁっ…、いい、けど…」

 

最近、折角身につけた動きを鈍らせないよう直接拳を合わせる鍛錬を始めた。私には遠く及ばないが悪くない動きをするようになるとは、彼の成長は凄まじい。

その鍛錬が終わった時、地面に転がり息を整えている沢田綱吉に問いかける。

 

「君は、弱者を守りたいと言ったジョットを信じてくれますか?彼は誰かを騙すなどという卑怯な事はしないと」

「どういう…」

「いえ…くだらない事を聞きました。忘れて下さい」

 

戸惑う彼に苦く笑い、汗を拭く為のタオルを投げつけて帰る事にする。少し、シモンの事を調べなければならない。

 

 

それからまた日が経ち、9代目に沢田綱吉が呼ばれたのについていく事にした。ティモッテオには一言言ってやりたい事がある。

沢田綱吉が話している間に口を出すような野暮な事はせず話が終わるのを待つ。ティモッテオの言う事は、最初に沢田綱吉にマフィアのボスをやらせようとした人間の言葉とは思えず笑いを堪えるのが大変だった。

 

「さて、何か話があるのでしょう。初代として言いたい事でも?」

 

穏やかな顔をしたまま最初に口を開いたのは9代目。リボーンは私が何かやらかさないかとこちらを窺っている。確かに私は彼が好きではないが、危害を加える程の興味もない。

 

「ボンゴレについては何も。今のボンゴレは9代目のものですからね」

「ではいったい…」

「沢田綱吉に枷をはめたのは愚かな行為だった、と言いたかっただけです」

 

言いたい事だけ言いさっさと部屋を出る。昔から超直感を使えれば、沢田綱吉にはもっと違う未来があったのかもしれないのに、と惜しく思いながら。

 

次の日の昼間近く、沢田家の様子を見にくると近くの塀に何か紙が落ちているのを見つけた。ちなみに、わざわざ沢田家を見にきたのは真っ先に狙われる場所だからだ。誰だって分かり易い拠点は襲い易いし、沢田綱吉の母など人質として価値があり過ぎる。

それはともかく、手紙は沢田綱吉宛てのようだが何故こんなところに?

そう思いながら手紙を開くと内容に焦りを覚える。今の時間は12時少し前、連絡をしている余裕はない。

 

自作自演の可能性が高いが私の知らない事が絡んでいるのだ、これが真実であるなら大変な事になる。使えるものは全て使い工場跡地に急いだ。

目的の場所に着き今代のシモンを見つけると、無事なようでホッとする。あの能力があればそう簡単にはやられない筈なのに、会ったばかりの沢田綱吉以上にヘタレなようなので万一を考えると心配だったのだ。

 

「シモン!良かった、無事だったのですね」

「え、と…貴方は…」

「ああ、すみません。私は…そうですね、シモン=コザァートの世話になった…ようなものです」

 

声を掛けながら駆け寄る私に酷く警戒したような今代のシモン。私が鉢合わせしないようにしてきた為、今が初対面なので仕方がない。

コザァートの名を出すとあからさまにホッとした彼に手紙を差し出す。すると見る間に顔が強張り泣きそうな、悲しそうな表情に変わった。

 

「悪いとは思いましたが、中を見させて貰いました。ここに書いてあるのは本当ですか?」

「…その手紙、どこで…」

「……。…沢田綱吉は知っていれば必ず「今、ここにツナ君は来なかった。見ず知らずの僕の為にきてくれて、ありがとうございました」」

 

彼の言葉と態度で自作自演であったと確信した。古里炎真は沢田綱吉を試したのだ。

沢田綱吉の事を守る為ならば、今ここで誤解を解かなければまずい。

しかし、10代目として彼らを鍛え上げる為にはシモンとぶつけた方がいい。

私は後者を選び、古里炎真の背中を見送った。

 

 

継承式当日。

やけに重い体を誤魔化し会場へと向かう。会場に近づくにつれ、頭も痛み出しますます足取りは重くなる。まるで手を出すな、とでも言われているようだ。

 

「何だとゴラ!!」

 

品のない声がしてそちらを向くと、古里炎真が殴られているところだった。体調の悪さもありイライラしてその男の腕を掴むと情けない声を出して動きが止まった。なんと軟弱な。

 

「シモンの名も知らぬ五流ファミリーがうるさいですね」

 

思った以上に冷たい声が出た。名も知らぬ男は更に情けない声を出して一目散に逃げていく。

 

「あの…ありがとうございます」

「いえ、いいんですよ」

 

おずおずと古里炎真が礼を言ってきたので軽くそれに返すと、鈴木アーデルハイトがいぶかしげに見てきたが特に思う事はない。

 

そして継承式が始まり、前の世界と同じように襲撃を受ける。

山本武の幻覚と途中ですり替わりシモンらを攻撃してみたが、リングの補助もない攻撃ではやはり弾かれてしまう。まとった術を解きはしないが膝をつかされ悔しさに顔が歪む。体調の悪さなど言い訳にもならない。

 

シモンの姿がなくなると、吐きそうな程の気持ち悪さと酷い頭痛に目の前が真っ暗になりそこで意識が途切れた。




9代目「ところでリボーン、彼との仲は進んだのかい?」
リボーン「……」
9代目「リボーンともあろう者が、と君を知る人間なら口を揃えて言いそうだ」
リボーン「うるせーぞ。あいつは色々と厄介なんだ」
9代目「ふふ、そういう事にしておこうか。それにしても、彼の外見は本当に全く変わらないね…付き合いは長い筈なのだが…」
リボーン「幻術じゃねーのは確かだ」


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十六話

継承式編の終わりは拍子抜けするほどあっさりです。最初にちょっとだけ。
10代目達は本編と同じように戦ってました。


遠い昔の懐かしい夢を見た。

初めてシモンと会った時、自警団を立ち上げた時、仲間との穏やかな日々、最期に見たジョットの泣きそうな顔。こちらの世界で手に入れたものたち。

そして、私が死んだ後に何があって前の世界と同じ道筋を辿る事になったのかを知る。

 

目を覚ますと狭い天井がまず視界に飛び込んできた、寝かされていたらしいベッドに横になったまま視線を右にずらせば窓からは海と島が見える。

今自分が居るのは、シモンの聖地と呼ばれる島の前につけてある船の中だろう。ここまで引っ張ってきたのは沢田綱吉かリボーンか、とにかくありがたい。

 

「ふ、ふふ…そこまで私の辿った道を行きたいですか。三流術士風情が」

 

動いていた犯人のあまりの滑稽っぷりに笑いが込み上げてくる。今は止めてくれるジョットも居ない、どんなに怒ろうが頭を働かせるよう気をつけなければ。

 

イレギュラーである夜のリングを指にはめて炎を灯す。場所は知っている、後はそこに飛べばいい。

 

 

「ごきげんよう、裏切り者のルシファー・ダイヤ」

 

顔も衣服もわざわざ昔の懐かしい姿に変えて、思念体となった彼女の首に鎌を軽く引っ掛ける。こちらの笑顔を見て恐怖に引きつった顔を見るに、私の事は覚えていてくれたようだ。

 

「な、なぜ…私が殺した筈なのに」

「ええ。貴方は完全完璧しっかりと、私の息の根を止めて下さいましたよ」

 

震える声で問う彼女に、あくまでも穏やかに返してやると急に勝ち誇った顔をし始めた。ころころ表情が変わる様は正直見苦しい。

 

「あはっ!私に殺される程度のく」

 

また耳障りな騒音を聞くのはうんざりなので、早々に首を跳ねると地面に落ちる前に霧となり体ごと消えた。

残り滓はどうでもいいのでさっさと背を向け、ボロボロの沢田綱吉と古里炎真に体を向ける。意識を失っている内に順調にパワーアップしたようだ。

審判をしていた筈の復讐者はもういない、死合いは終わったとして引き上げたのだろうか。

 

「もう体調はいいのか?」

 

演出をする必要がなくなり術を解いていると、リボーンが肩に乗ってきて髪に触れる。そういえば髪も結わぬまま来てしまっていた、私とした事がとんだ失態だ。

 

「まぁ、悪くはないですね。と言うか邪魔ですよ」

 

リボーンを掴んで軽く放り、髪結い紐を探したが見当たらず息を吐く。帰るまではこのままでいる他なくいっそ飛んで行こうかとすら考える。

呆気ない結末にどこか茫然としている面々を尻目に、目的は果たした為帰る事にした。沢田綱吉やらにはリボーンが気つけでも行うだろう。

 

 

継承式は完全に流れてしまったが、戦いは終わりシモンを含めた平和な日常へと帰ってきた。

時代は違えど在りし日のジョットとシモンのようで自然と目が細められる。この光景を見れば、きっとジョットも喜ぶだろう。

だからと言って教えの手を緩めたりはしない、素の状態で崖登りくらいは出来るようになって貰う。

鬼やら悪魔やら言われたが、正しく私の名は悪魔(デイモン)なので痛くも痒くもない。

 

ある日の夕方。生身の人間である以上、食事をせねばならず買い物に出かけると古里炎真が不良に囲まれているのを見つけた。

自分の行きたい方向にいたのでその様子を見ていると、こちらに気づいた不良達は怯えた顔をして逃げていく。見た目は確かにほぼ一緒なため、雲雀恭弥と勘違いしたようだ。彼による恐怖政治はこんなところでも効果を発揮するらしい。

 

「いつもありがとうございます」

「私は何もしていませんよ」

 

シモンならばしそうにない情けない表情をして頭を下げる彼に肩をすくめて商店街へ向い、後ろからついてくる気配がしても気にせずに買い物をする。が、帰る頃になっても気配は離れず軽く息を吐いて振り返り、ずっとついてきた古里炎真に目をやった。

 

「何故ついてくるんですか?」

「え、デイモンさんが居るから何となく」

 

目の前の彼は、質問にきょとんとしてさも当然のように答えてくる。

刷り込みされたヒヨコですか?

 

「そういえば、今日転校生がきたんだ。女の子なんだけど、ツナ君や僕を凄く見てて…その…」

 

若干顔を青くして身を震わせる彼の言葉に眉を寄せる。また外からの客だろうか、潰しても潰してもキリがない。

 

「…その件を詳しく話すなら、夕食をご馳走しましょう」

「行きます!」

 

即答し目を輝かせる古里炎真の姿を見ていると、段々餌付けをしているような気分になってくるのは何故なのか。

 

それはさておき、話を詳しく聞くと転校してきたのは二人らしい。片方は西洋、片方は東洋の人形のように綺麗な子だという。

 

「西洋人形の方は蛇みたいで怖いし、東洋人形の方は視線で犯されてるみたいで怖くて…」

 

なにげに酷い言いようなのは、それだけ嫌だったのだろう。

今までのパターンからして良い予感はしない。明日、学校に見にいく事に決めた。

 

「あ、東洋人形の方が『生ゴクツナ、ヤマツナ、エンツナきたー!いっそヒバツナ、ムクツナでツナ総受けキタコレ』とか呟いてたよ」

 

…暗号か何かですか?

 

 

次の日、自分で決めた通り学校へと侵入し沢田綱吉のクラスを外から眺める。以前より術を強めて使っていたが、沢田綱吉と古里炎真の二人は気がついたようだ。こういうところを見ると成長したとしみじみ思う。

東洋人形の方はボンゴレには無害そうに見え、西洋人形の方は裏の空気を感じる。しかも今日何か事を起こそうとしている雰囲気まで感じるので、仕掛けてくるかもしれない。

どうでもいいが、リボーンは今日は私に沢田綱吉を任せ銃弾の補充に行っている。弾は消耗品なので仕方ない。

 

日中は何事もなく終わり、放課後に沢田綱吉が西洋人形の方から呼び出しを受けた。

こちらに視線だけ向けてきたので頷いて返す。屋上に来てくれとはまたベタな。

西洋人形は私には気づけない程度の実力しかないようなので、沢田綱吉の少し後ろでやり取りを眺める。

可愛らしく見えるよう作られた顔で好きだの何だのと言い始める西洋人形。それを沢田綱吉が丁寧に断ると、態度が豹変しボンゴレを手に入れるなどと言いながらカッターで自分を傷つけ始めた。

あまりの変わりっぷりに沢田綱吉は思い切り引いている。

 

「あんたの居場所、無くしてやるから!きゃ」

 

今までの言動からして完全にボンゴレに対し攻撃の意思有りとみなし、叫ぼうとする彼女の口に刃が出たままのカッターを差し込み術を解く。

 

「こんにちは、お嬢さん。どこのファミリーの者か、素直に教えてくれると嬉しいのですが」

「あ…ぁ…」

「綺麗なままでいたいなら、早めに吐くのをお勧めしますよ」

 

カッターを引くのと同時に彼女の意識を奪い担ぎ上げる。自分がやられる覚悟もなく来ていそうなので、尋問は楽だろう。

担ぎ上げられた西洋人形を見て複雑そうな顔をする沢田綱吉は相変わらずだ。

 

「なるべく傷つけたりは…」

「彼女次第ですよ」

 

本当に彼女次第なのだ、軽く返し拠点へと向かう。

予想通り尋問はとても楽に終わり、元凶となったファミリーはあっさりと解体された。人身売買などをしていた事も解体の後押しとなった。

 

さて、沢田綱吉が呼び出しを受けた日、わざわざ屋上の扉前までついてきた東洋人形はどうしようか迷うところだ。

今のところ害はない。彼女はとある財閥の令嬢だが、その財閥に裏との繋がりはなかった。珍しくも清いグループらしい。

事情をある程度知っていようがボンゴレにさえちょっかいをかけなければ、一般人にこちらから何かをする事はないのだが…。




※初代達が指輪の中から10代目達を見ていたら

アラウディ「小動物に完全に懐かれたね」
ランポウ「デイモンもシモンには何か優しいし」
雨月「きっと、彼らには守ってくれる大人がいない事も関係しているのでござろう」
ナックル「そう言えば、持つ者の義務だ、と言って孤児院や教会によく寄付をしていたな」
ジョット「……。…あの飼い犬的ポジションはオレのものだったのに」
G「お前、デイモンが関わると本当に残念だな」


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十七話

Gがとても優秀な右腕だったので、デイモンは獄寺隼人に当たりがキツいです。似ているだけに余計にイライラする模様。


暫く様子を見てみたが、東洋人形の方はボンゴレに害がなさそうなので放置する事にした。

極地的に沢田綱吉にストレスを与えているようだが、学校でのみ変態親父のような視線を向けているだけなので私としては問題はない。おそらく…多分…善良な一般人に何かをする気にはなれない、妄想するだけで実行しないのならばそこは個人の自由だ。

問題ないと判断してから二、三日山にこもりみっちりと修行し直す。イメージについてくる体があるというのは本当に素晴らしいし、幻術と体術の組み合わせも楽しい。

 

期間限定ながら心行くまで修行し街に下りると突然後ろから突進されて軽く前のめりになる。気配の相手は私にとても何か言いたそうだったのであえて受けてみた。その相手は直ぐに私の前へと周り思い切り顔を近づけてくる。

 

「風、どういう事だい!この僕によくもあんな術をかけてくれたね!」

「おや、思い出してしまいましたか」

 

フードの中身が見えそうな程近づいてきた相手…マーモンに強い口調で文句を言われた。

 

場所を変えて喫茶店に入り飲み物を勧める。慰謝料の一部だ、などと言いつつ飲み物以外も容赦なく注文してくれた。赤ん坊の体に全部入るのか?という疑問はともかく、この程度ならばいくらでもどうぞ。

 

「さっきも言ったけど、よくも術なんかかけてくれたね。慰謝料をたっぷり請求してやりたいんだけど」

「今の今まで思い出さない方が悪いんですよ。現にリボーンは早々に思い出して、痛い一撃を貰ってしまいました」

「ムム…、…逃げたのかい」

「ええ。あんなあからさまに怪しい依頼など、受ける気になりませんでしたから」

「あの女は?」

「私の代わりでしょう。フフ、そろって溺愛していたではありませんか」

 

少しばかり問答をしていると注文していた物が届き、マーモンは無言でそれらを食べ始めた。

こちらから特に話す事はなく、ゆっくりと紅茶を楽しみながら目の前の相手を眺める。マーモンは彼なのか彼女なのかどちらなのだろう、などと、どうでもいい事を考えながら。

 

「ふー…今はこれで許してあげるよ」

 

注文した品を全て食べきってどこか満足げなマーモン。その小さな体のどこに入ったのか不思議なところだ。

 

「さて本題だ」

 

周りにこちらの会話が認識出来なくなるよう術をかけ、真面目な顔をして切り出した相手に僅かに目を細めて続きを促す。

 

「僕のチームに入って欲しい。僕は何としても呪いを解きたいんだ」

「どういう事ですか?」

 

詳しく話を聞けば、どうやらチェッカーフェイスはまたくだらない事を始めたようだ。

アルコバレーノ同士のバトルロワイヤル。

正確にはアルコバレーノの代理による、だが…新たな生贄を選ぶ儀式か何かではないのか?あの鉄の帽子の男は欠片も信用出来ない。

 

「あの男は『是非スペード君には参加して欲しい』なんて言っていたよ。七つの内のどこかに所属しつつも、君には特別にアルコバレーノウォッチを、てさ。おかげで完全に思い出したよ」

 

私は元々アルコバレーノ候補だったのだ、それが何の枷もない状態での参加はまずいと何かしら制限でもつけるつもりなのか。あれも目的の為ならば手段を選ばない男だろう、ますます怪しい。

 

「なるほど、話はよく分かりました。その上でお断りします」

「なっ…!」

「私が大事なのは今も昔もボンゴレのみ。ボンゴレさえ無事ならば、他の事などどうでもいい」

 

残っていた紅茶を飲み干し伝票を持って支払いを済ませる。マーモンは追いかけてはこなかった。

 

 

「スペード、オレの「お断りします」」

 

翌日、沢田綱吉の鍛錬の為に沢田家を訪れるなりリボーンにチームとやらに誘われた。それをばっさり切り捨てて沢田綱吉の指導にあたろうとすると、おさげを強く引っ張られる。今、首から悲鳴が上がった。遠慮なく引っ張ったこの男は私を殺る気なのか。

 

「…自分の力を考えて下さい、首の骨を折る気ですか?」

「そんなヤワじゃねーだろ。そんな事よりオレのチームに入れ」

「断る、と言った筈ですが」

 

リボーンに苛立ちを込めた視線を向けてみたが軽く流され、その上しっかり勧誘してきた。自分の声に呆れが滲むのが分かる。

 

「オレは今回の事でツナを更に強くするつもりだ。手伝わねーか」

 

この誘いには正直心が揺れ動いた。

沢田綱吉が更に力をつければ10代目は安泰だろう。今の段階では甘さを捨てきれないものの、マフィアというものの現実を知れば絶対に変わる。ボスとして、力を持ち過ぎて困るという事はない。

 

「……貸し一つ、ですからね」

「ああ、分かってる」

 

リボーンの思い通りにいくのは少々面白くないが、これも将来のボンゴレの為と割り切る。

それにしても、自分の呪いよりも生徒を優先させるとは家庭教師の鏡ですね。

 

リボーンからアルコバレーノウォッチを受け取ると、どこからともなく尾道という男が現れ特別ルールを説明された。

全ての戦いを通して使える時間は三分。プレゼントプリーズ、の言葉でタイマーが作動するそうだ。ようはただのタイマーであり、はっきり言って無駄としか思えない。

 

リボーンのチームとして出る、と言っても時間は限られているので気軽に戦闘には参加出来ない。加えて下手に手を出してしまえば成長の芽を潰しかねない為、ギリギリまで手を出す訳にはいかない。

更に言うならば、個人的に他のアルコバレーノには会いたくないのだ。特に嵐には。

 

「と、いう事なので私は沢田家を見ています」

「どういう事だよ!?」

 

戦闘開始の前日、作戦会議として沢田家に集まった面々に告げるとすかさず沢田綱吉から突っ込まれた。ふむ、確かに色々はしょり過ぎた。ジョットもリボーンも察してくれるのでつい言葉を省略してしまう。これは悪い癖だ、反省しなくては。

 

「最悪を考えて、て事だろ。スペードが後方を守ってくれるなら安心だぜ」

「最悪…?」

「不合格」

「いたあぁー!!」

 

ディーノがにこやかに言い、それに不思議がる沢田綱吉にリボーンの蹴りが決まる。沢田綱吉らは本格的にマフィアに関わった訳ではないのだ、分からなくても仕方ないと言えなくもない。

だが獄寺隼人まで不思議そうな顔をするのは有り得ない。Gにしごかれてしまえ。

 

「闇討ち防止、ですよ。戦闘以外いくらでもやりようはあるのですから。無関係な人間を巻き込む訳にはいかない」

 

私の言葉にぐっと詰まる子供達。理解が早くて何より。

沢田綱吉…と、その守護者はリボーンがついていれば大丈夫だろう。多少危ない目に会うかもしれないが、それ以上に成長出来る筈だ。

 

 

代理戦争一日目は(私としては)特に何事もなく終わる。

二日目の日中も何も起こらない。事態が大きく動いたのはその日の夜だった。

 

「復讐者が参加とは、また厄介な…」

 

沢田家の屋根にてチェッカーフェイスからの報告を聞く。今回の事では可能な限り楽をしたかったというのに、叶わないかもしれない。

今日はそれで終わりかと思えばそうはいかないようだ。

沢田家の庭に復讐者が現れる。とは言え、今ここには沢田家光達が居るのだ、彼らならば大丈夫だろう。

 

予想通り、ラル・ミルチ、沢田家光、バジルのコンビネーションにより復讐者は押されていく。沢田家光はあれで優秀だ、その能力は認めている。

三人と一人の戦いを眺めていると家の中で人の動きに自然と眉が寄った。明らかに庭の様子を見に行こうとしている、観戦していられるのもここまでのようだ。

 

勢いをつけて庭に降り立ち沢田家光よりも一歩早く沢田奈々に向かって放たれた鎖を掴む。同時に沢田奈々に術をかけ今見た事は忘れて貰う事にした。

 

「強引なアプローチは嫌われますよ、女性には優しくしなければ」

 

掴んだ鎖を思い切り復讐者に向かって投げつける。それに復讐者が対応している間に沢田家光が懐に潜り込み連打を浴びせ、バジルとラル・ミルチの援護が入った。

私はと言えば、ビアンキに介抱される沢田奈々の前に立ちこちらから攻撃はしない。三人でどうにか出来るのだから、どうにかすればいい。

そうこうしている内にコロネロが帰り、次いでリボーンもやってくる。アルコバレーノが来たからか、復讐者は消え去った。

 

「スペード」

「問題ありません」

「流石だな。助かった」

 

私の名を呼ぶ沢田家光の声から妻を心配する色が伝わったので短く返す。礼は素直に受け取り今日は帰る事にした。




※ディーノの家庭教師時代

デイモン「……」
リボーン「……」
ディーノ「(すげー…無言で高速で書類のやり取りしてる。あ、書類終わった)」
リボーン「行くか」
デイモン「そうですね」
ディーノ「(どこに!?え、既に打ち合わせ済み?)」

(ツーカーな仲の二人)


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十八話

終わりはいつも通りあっさりと。
途中で三人称に変わり、またデイモン視点に戻ります。
戦闘描写?なにそれ美味しいの?ていうくらい酷い。おまけ程度に考えて下さい。


沢田家光は妻に気をとられている間にボスウォッチを壊されたらしい。わざわざ私が沢田奈々を守ったというのに門外顧問が情けない。

 

三日目の戦いは私が出る事なく終わる。今回の戦いでクローム髑髏が成長したようだ、ボンゴレの守護者が強くなる様子を見られるのは存外に嬉しい。

子供達の成長とは逆に、今度はリボーンの方が問題らしい。バミューダ、というアルコバレーノに何やら色々と聞いてきたようだ。

 

「スペード…いや、風。全部知ってたのか」

「私が知っていたのは極一部ですよ。ボンゴレの為ならばともかく、世界などというものの為に死ぬ気にはならない、それだけです」

「ブレねーな、お前は」

「ふふ、ありがとうございます」

 

わざわざ私の事を「風」と呼び、問いかけるリボーンに目を細める。この男でも不安になる事があるのか、と、驚きと少しの微笑ましさを感じた。

 

「リボーン」

「何だ」

「貴方は、貴方の教え子を信じればいい」

「……」

 

我ながら、らしくない言葉を吐いた。

凝視してくるリボーンに気まずさを感じて顔を逸らす。すると、相手の空気が緩み肩に乗ってきたのでそれを払っておいた。払われてもまったく堪えた様子はないので、いくらかは気分が上昇したらしい。

 

リボーンと別れ拠点にて寛いでいると、突然の来訪者に目を瞬かせる。随分と真剣な話があるようだ。

話を切り出される前に時計を外し、声を拾わないよう細工をして改めて来訪者に目を向ける。

 

「それで、こんな時間に何の用ですか、沢田綱吉」

 

彼から話を聞き、暫し考える。タルボの妖怪爺…ごほん、タルボが言うのならば、沢田綱吉の考えも実現出来る可能性が高い。私としてもリボーンには死んで欲しくないのだ、悪くはない。

 

「そうですね、協力してもいいですよ」

「!じゃあ…!」

「ただし、君がボンゴレ10代目として私に命令するなら、ですが」

「ーっ…」

 

言葉に詰まる沢田綱吉に視線を向け続け様子を見る。覚悟の決まった目をしてわざわざ私の元に訪れたのだ、直ぐに答えを出すだろう。

 

 

沢田家に集められた面々を見て、沢田綱吉の成長を実感すると共に期待が高まる。彼は正にジョットに迫ろうとしている、ボスとして足りない部分はこれから補っていけば良い。…まぁ、迫ろうとしているだけでまだまだ届きはしないが。

 

さて、話し合い…と言うには些か微妙であるが、それぞれの役割は決まった。私は私の役目を果たせば良い。

リボーンの事は沢田綱吉にでも任せておけば解決するだろう。彼らは何だかんだと言いつつ固い絆で結ばれた相棒だ、二人で話せば事は済む。

 

予想通りリボーンを引っ張り出した沢田綱吉に内心拍手を送り、マーモンチームの偽物達と共に岩場にて待機する。手慰みに幻術で出来たトランプを切ってみたが、流石にこの程度で何かしらのペナルティーをとられる事はなかった。

少し待つとお目当ての復讐者が現れる。戦いに参加していない私の事はひとまず捨て置くらしく、中々の勢いをつけてマーモンチームに攻撃を加る。手応えのなさと中に埋められた機械を見て偽物と分かると、直ぐに他のチームの場所へ向かおうとしたのでそれを引き止めた。鬱陶しそうに見られたので笑顔を返してやる。

 

「プレゼント、プリーズ」

「…そのまま大人しくしていれば良かったものを」

 

私が合い言葉を言った為に放置する訳にはいかなくなったようで、噛ませ犬のような台詞と共に二体の人形を復讐者が取り出す。はっきり言えばとるに足らない人形遊びに付き合う気はないので、さっさとトランプを通して異空間に送らせて貰った。その事に復讐者が驚いている間に時計を壊す。戦闘をして勝てというのならばともかく、脆い時計一つ壊す程度なら容易い。

これで沢田綱吉達の負担は幾分か軽減しただろう。合い言葉でタイマーを直ぐに止め、あとはリボーン達の居る公園へと向かうだけだ。

 

公園に到着すると、丁度リボーンが呪解したところだった。

彼はいい男には違いないのだが、あの挨拶ともみ上げはどうにかならないのだろうか?そして元の姿を見れば見る程、あのコスプレの数々を思い出して笑える。

私が笑ったのを見てどこぞの赤いおさげのチビが睨んできた上、なぜ笑うのかとキャンキャンと吠え始めた。弱い犬程、というやつにしか思えないし、未来での事を都合よく忘れている鳥頭、と言いたい。

まぁ相手をするだけ時間の無駄なので、彼女の事は無視をして時計の残り時間を確認する。

少しやり合うくらいならば充分な時間が残っていた。

 

 

- - - - -

 

 

今代の嵐のアルコバレーノ、『風』と名乗る彼女は怒っていた。

こんな緊迫した状況で笑う神経が理解出来ない。最終的にツナが勝つとはいえ、笑う場面ではない筈だ。と、わざわざ教えてあげているのに、デイモンが完全に無視をするからだ。

風が更に言い募ろうとしたところでデイモンが何やら呟くと、バミューダと一気に距離を詰める。一瞬消えたように見えたそれは、ショートワープなどではなく鍛錬により身につけた歩法によるもの。

風と呼ばれる女にはいったい何が起きたのか理解出来なかった。

対してリボーン、バミューダは直ぐに反応する。デイモンが拳や蹴りで攻撃をし、それをバミューダがショートワープで避ける。だがその先にはリボーンが待ち構えており徒手にて更に攻撃を加える。銃を使わないのは何か考えがあるのだろう。

バミューダがなんとか連携の合間に腕や脚だけをワープさせ死角から攻撃しようとしても二人により尽く打ち落とされ、防がれる。互いが互いの死角を補っているのだ。

ならばと相討ちを狙っても攻撃の勢いをそのまま移動に使われ…例えばリボーンをデイモンが踏み台にしたりと…更に鋭い攻撃を受ける羽目になる。

 

今は全て避けているが、このままではいずれこちらが攻撃をまともに食らう。

 

バミューダは目に見えて焦り始めていた。

 

「圧倒的…」

 

誰かが呟いた言葉をマーモンの耳が拾い、フードの下で眉を上げた後にゆるりと口の端を上げて笑う。知らない、あるいは忘れている者達が呆然としているのが愉快だった。

 

「あの二人がそろったんだ、負ける訳ないじゃないか」

 

 

- - - - -

 

 

リボーンの元の姿による久し振りの連携の時間は直ぐに終わりを迎える。

 

「いっぺん死んでこい」

 

この台詞を最後に私達の出番は終わった。タイマーも残り時間はゼロなので丁度いい。

 

その後は沢田綱吉がバミューダを倒し、チェッカーフェイスの昔話を聞く。

二回目のこの世界でジョットから聞いた話がようやく繋がった。当時、詳しい理由は頑なに教えてくれなかったが…なる程、確かにジョットならばリングを受け取るだろう。

それにしても、そんな大事なリングをあの未来の沢田綱吉は砕いたのか。未来が荒れたのは彼にも責任があったのでは?

 

話が終わりタルボの持ってきた器に全員でありったけの炎を注ぐ。これだけでどうにかなるのならば、安いものだ。

果たして、沢田綱吉の目論見は成功しアルコバレーノのという人柱は必要なくなった。外見は小さいままだが呪いはしっかり解かれたようだ。

 

ふと、この身が全く老いないのは呪いの一部を受けていたのではないかと考える。まぁ、あと数年も経てば答えは分かるだろう。

今回の事で沢田綱吉らが成長したのならば、何よりだ。

 




※おじいちゃんと一緒

綱吉「そういえば、D・スペードって幻術使いですよね。霧だし。あんな武闘派になったのはやっぱり…」
ジョット「デイモンは元々意外と武闘派だ」
綱吉「え…」
ジョット「戦場であんな鎌を軽々振り回すんだぞ、力も結構ある」
綱吉「魔レンズは…」
ジョット「あれは補助だな。鎌もちゃんと重さがあるし、結構重い。おまけにデイモンはオレ達と同じ下町出身で警察やらとやり合っていた」
綱吉「すっごいやんちゃしてた!!」
ジョット「何を言う、あれは正当防衛だ」


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エピローグ

一気に話が進みます、原作の分はこれで終了です。

区切りが良いので一度完結。

でもまだ話は続くよ!


虹の代理戦争も終わりこれから沢田綱吉を本格的に鍛える、という時にリボーンに呼び出しを受ける。そのまま説明もされないままイタリアに行く事になり、あっという間にボンゴレ本部に連れてこられた。

おまけに今から9代目と会うらしい。いい加減説明して欲しいのだが…。

 

「急に連れてきて悪かったな、お前にも話をしておきたかったんだ」

「悪いと思うのなら説明して欲しいのですが」

「9代目が来たら話す」

 

通された応接室でようやく話したかと思えばこれとは…まったく、いくら私と言えども情報がなくては何も察せられないというのに。

少しして9代目が部屋に入ってきた。後ろにはコヨーテ…だったか、嵐の守護者が続く。彼も中々に優秀な人間だ、獄寺隼人を彼に預けてもいいかもしれない。今のままではいずれ邪魔になる、どうにか出来る内にどうにかしたい。誰彼構わず噛みつく駄犬は必要ないのだから。

 

「待たせてすまないね。貴方も一緒とは…いったいどんな風の吹き回しですかな?」

 

私達と対面する形で9代目がソファに腰を下ろす。

何故一緒かなど、私が聞きたいくらいだ。

特に答える必要を感じず出された紅茶を味わい無言を貫く。コヨーテがチラリとこちらを見てきたが、何も言わず9代目の後ろに控え続けるのを見てやはり獄寺隼人を預けようかと考える。

 

「単刀直入に言うぞ。ツナをネオ・ボンゴレⅠ世として育ててーんだ。10代目が嫌だ、つーからな、名前を変えてやる」

 

リボーンの言葉に、私を含めてリボーン以外の全員が呆気にとられた顔になる。

ああなる程、だから私も連れてきたのか。

 

「名前を、ねぇ。私個人としては構わないのだが…」

 

言葉を濁し9代目がこちらを見てきた。それにつられるようにリボーン、コヨーテも私に視線を向ける。

 

「別に名前になどこだわりはありませんよ。ジョットの意志を継ぎ、かつ、強い組織で有り続けるのなら好きにすればいい」

 

肩をすくめて軽く息を吐く。どうせジョットもボンゴレについて「栄えるも滅びるも好きにせよ」などと言うに違いない、名前程度で何か言わないだろう。

私の言葉にリボーンは一つ頷くと、また9代目へと顔を向けエスプレッソの入ったカップに口をつける。

 

「そういう訳で初代からの許可も貰った。あとは9代目からも許可を貰いてーんだ」

「時々突拍子もない事を言い出すのは相変わらずだね。少し手続きに時間がかかるが、構わないだろうか」

「ああ。頼む」

 

そうしてとんとん拍子に話は進み、許可証待ちの状態となる。優先的に処理をしてくれるらしいがやはり時間はかかるとの事だった。まぁ、それは仕方がない。

それよりも、時間がかかるのなら折角イタリアに来たのだ、少しくらい羽を伸ばしてもいいかもしれない。

 

自己鍛錬は怠らないものの、それなりにのんびりとした日々を過ごす。リボーンもしっかりと休暇を満喫しているようだ。

9代目から許可証を貰い、日本に帰る頃にはイタリアに来てから一週間が経っていた。

 

それからまた日本に渡り、リボーンは沢田綱吉の生徒就任パーティーだと子供達を誘いに行き、私はいつもとは違う拠点へと向かう。そこで自分が居ない間の情報を集め、異物がまた入り込んでいないか調べる。

今のところ、害になりそうな者は居らず安堵の息を吐いた。

 

さて、憂いもなくなったので私も沢田綱吉に会いに行くとしよう。

この私にボンゴレ10代目として命令しておきながら拒否出来るとは思わないで貰いたい。組織の名前が変わろうが構わないが、次期ボスには必ずなって貰う。

今の彼はかつて私が認めた沢田綱吉以上だ、今のところ彼より相応しい者はいない。次の長期休暇にはイタリアにでも引っ張っていこうか。

 

 

 

そして月日は瞬く間に流れていく。

 

沢田綱吉の高校受験はとにかく頑張った。私とリボーンが。次期ボスが馬鹿で阿呆のままでは組織が死ぬ、ととにかく頑張った。

その甲斐あって沢田綱吉は無事並盛高校に合格した。獄寺隼人や山本武、クローム髑髏も同じく並盛高校に合格し、一年上の笹川了平も同じ場所に通っている。

雲雀恭弥もいつの間にか高校生になっており、中学の時同様恐怖政治を行っている。

六道骸らは黒曜高校に通っているらしい。

私個人としてはマフィアの専門学校に行かせたかったが、一般人の生活を知るのも大切なためそのまま日本の高校に進むのを認めた。

…沢田綱吉の語学力が壊滅的だった事もある。高校三年間で何としてでもイタリア語と英語を叩き込まなければ。

 

 

 

また月日が流れ、イタリアの大学に通っていた沢田綱吉の卒業と同時に正式にボンゴレボスは継承された。

まだまだ甘さは残るが、不必要な甘さは次第に削ぎ落とされていくだろう。

 

アルコバレーノ達は日々成長しており、もう数年もすれば元々の姿に戻りそうだ。

私の姿も中身も全く変わらないので、どうやらこれは呪いではなかったらしい。

 

新しいボスになり暫くは騒がしいだろうが、今の沢田綱吉ならば直ぐに落ち着かせると思っている。それ程までに彼は成長した。

そうそう、名前は結局ボンゴレのままにするそうだ。獄寺隼人に妙な愛称で呼ばれるのが余程嫌だったらしい。

 

正式にボスを継ぐにあたり、沢田綱吉らは完全にイタリアに移り住む事になった。学生の内は留学、という形をとっていたのだ。

雲雀恭弥は相変わらず並盛に住むようだが、時折イタリアにも来るらしい。

今更だが私は夜の守護者のままなので10代目に思い切り関わる事になり、リボーンも何だかんだ言いつつボンゴレに腰を落ち着けたようだ。

 

 

 

一度目と違いジョット達を裏切る事なく死に、今も友のままで居る。

ただ執着するしかなかった昔と違い、生を楽しみ見る事のなかった先に存在している。

百年を越える孤独は過去の事で、今は理解者が隣に居る。

 

誰が私を二度目の人生に放り込んだかは知らないが、今生は中々に幸せ…なのではないだろうか。

この先ボンゴレがどうなるのか、実に楽しみだ。

 




※メタ発言

綱吉「うあー、ようやく終わった!10代目継いだしもういいよね!」
デイモン「おや、何を言っているんですか。今から十年後編に突入です」
綱吉「えっ!?」
リボーン「そうだぞ。おまけにまだまだ立派なボスとは言えねーからな、スペードと一緒にねっちょり鍛えてやる」
綱吉「だ、大魔王(達)からは逃げられない…!!」


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番外編1

高校生活中こんな事があった、的なSSSです。

全部で四本。
獄寺が嫌いな訳じゃないんだよ!ホントだよ!

安定のアンチもの。
あまりデイモンの出番はありません。


・実はこんな事もありました

 

 

「これ以上私を不快にさせたら…分かってる?(暗黒微笑)」

「「すみませんでしたー!!」」

 

ある日の昼休み、騒がしい教室にて何やら黒いオーラをまとう女子生徒にジャンピング土下座を披露する男子生徒達をツナ達は眺めていた。

 

「うーん、あんなに怯えるくらい怖いのかな…彼女」

「一般人にとっては怖いんじゃないですか」

「あー…まぁ、そうかもなぁ」

 

一般人であるクラスメイト達も彼女の雰囲気に飲まれ、顔を青くして震えている。

ツナはそれが不思議で仕方なかった。と同時に、既に一般人から離れている自分にちょっぴり落ち込んだ。

 

「沢田、あんた達もよ!いつもいつも騒がしくして!」

「へぇー…」

 

急に名指しで注意され驚いたが、内容に気の抜けた返事をするツナ。予想した反応と違い女子生徒は目を瞬かせた。

 

「と、とにかく、私の平穏を乱したら秘密暴露してやるんだから(ニヤリ)」

「ふーん…」

 

女子生徒が気を取り直していつもと同じように言ってみてもツナの反応は変わらない。

おかしい、ツナなら「ひいっ!ごめんなさい~!」とかなる筈なのに…。

 

「なぁ、その顔止めた方がいいぜ。女子なんだしよ」

「バカッ!そういうのは思っても言わないもんなんだよ!」

 

山本と獄寺の言葉に女子生徒は口をぱくぱくさせたかと思うと顔を真っ赤にして去っていった。

何て失礼な!絶対許さない!

と怒りで頭を一杯にしながら。

 

その日放課後、ツナ達はクラスメイトに捕まり尊敬の眼差しを向けられていた。例の彼女はいない。

 

「すげーな沢田!あいつには先輩も従ってるのに!」

「そうそう、弱味握られて言いなりになってるんだってよ」

 

ばしばしと背中を叩かれ苦笑いをするツナを見て、獄寺は不機嫌そうになるが吠えないのはコヨーテに鍛えられたからか…。

ちなみに、山本は野球部に入り部活に勤しんでいる。

 

「あはは、本当に怖い笑顔ってあんなのじゃないから」

 

そう、本当に怖いのはあんな暗黒微笑(笑)ではない。

ツナはスペードの事を思い出して若干顔色が悪くなる。

 

彼は穏やかに笑んでいるだけだった、妙なオーラなんてものも発さない。ただ、どうしようもなく自分が悪いと思っている時に的確に微笑みを向けられるのだ。

雷が落ちればまだマシなのに、穏やかに微笑まれるから逆に半端なく恐ろしい。

高校受験前に怠けていた時のあれは本当に怖かった。自分が悪いと思っていただけに余計に。

息抜きに一日中遊ぼうが怒られた事はないが、怠けるのだけは許されなかった。優秀過ぎる家庭教師二人によるスパルタ学習は本当に凄かった、おかげで今では成績上位者だが。

 

思考がずれ始めたところでツナは軽く頭を振り意識を戻す。これ以上考えてしまったら自分の精神上よろしくない、との判断だ。

 

「つーかさ、あいつにあんな態度とって大丈夫なのか?なんか弱味握られんじゃね?」

「あー…それは大丈夫だと思う」

「お、そうなのか?」

 

クラスメイトに心配され、それを擽ったく感じながら頬を掻くツナ。

 

「オレには優秀過ぎるガードが居るから」

 

むしろ、深く探ろうとしたらひっそり消されるんじゃないかな。スペードに。

 

ツナの内心など読めない獄寺は自分の事だと思い目を輝かせ、それを見たツナは更に苦笑いをもらした。

 

 

・実はこんな事もありました2

 

 

ある日の休み時間、ツナ達が廊下を歩いていると反対側から歩いてきた少女にいきなり指を指される。その先は山本へと向いていた。

 

「しつこい!僕は野球なんかやらないよ!」

 

急に訳の分からない事を言われて目を瞬かせる三人。その様子に少女はイラついた顔をして足音も荒く廊下を走っていった。

 

「どういう事?」

 

ツナの問いかけに真剣な顔をして考える山本。あまりにも真剣だったので、流石の獄寺も茶化す事はしない。

 

「もしかしたらあん時かも。チビ達と一緒に遊んでた時ボールが飛んでっちまってさ、たまたま通りがかったあいつが投げてくれたんだ。それがズバーッ!感じのスゲーいい球で、一緒に野球やろうぜ、て誘ったのな」

「それが何であんな風になんだよ」

 

山本の説明を聞き、何故あんな風に敵意剥き出しで怒鳴られるのか分からず獄寺は問いかける。

当の山本はからりと笑い

 

「分かんねー!」

 

と一言で済ませた。

 

その日からやたらと少女と会うようになり、更に山本が絡まれまくるので気味が悪くなったツナはある日スペードに尋ねた。リボーンも知っていそうだが、最近は態度が軟化してきているスペードの方が尋ね易い。

 

「ああ、彼女ですか。どうやら『自分は文化部なのに山本武に野球部にしつこく勧誘されて迷惑している』と思い込んでいるようですよ。それにしても、個人の自由とはいえ女性が高校生にもなって一人称が『僕』とは…恥ずかしくないのでしょうか」

 

スペードにより原因があっさり分かり、ツナは山本にもそれを伝えた。あまりにも飛んだ思考回路に山本すら驚く。

後日、誤解を解こうと説明してみても少女は頑なに信じず話は平行線となる。その内面倒になったツナ達は完全にスルーする事に決め、関わるのを止めてからは次第に騒がれなくなっていった。

 

 

 

・実はこんな事もありました3

 

 

獄寺は最近イライラしていた。尊敬する10代目に当たりはしないが、山本には当たるくらいにイライラしていた。

スペードの手によりコヨーテのところに放り込まれ、少しは感情のコントロールが出来るようになった筈なのにとある事のせいで台無しである。

そのある事、とは…

 

「何だ、ダメツナの腰巾着か」

 

女だというのに男子生徒の制服を着て、何かと突っかかってくる人物が居るのだ。トイレに行った帰りにばったりと会い、その瞬間息をするように吐かれた暴言に顔を歪める。

女が男の制服を着ているのは別にいい。性の問題はデリケートだ、いくらイライラしようがそこに何か言う気はない。問題は会う度に暴言を吐き見下してくるこいつの態度だ。暴言を吐かないと喋れないのか、口がもげろ。

獄寺は本当にイライラしていた。

とはいえ、以前のように反射的に言い返す事はしない。相手にしないのが一番だと今までのやり取りで理解しているからだ。まぁ、理解しているからといって腹が立たない訳ではないのだが…。

 

「なんだ、一言も言い返さないのかよ。腰抜け」

「10代目の素晴らしさを理解できねぇ奴と話す意味はねーからな」

 

カチンときて怒鳴りつけそうになる自分を必死で抑え、怒りから震える声で返すと足音も荒く獄寺は教室へと帰っていった。

 

「あー…、また彼女に絡まれたんだ」

「10代目に迷惑かけるような事はしてません!」

「大丈夫、分かってるよ」

 

鬼のような凄い形相で帰ってきた獄寺にツナは苦笑いを浮かべ、当の獄寺は右腕として相応しくない態度はとっていないと主張する。

ツナは大抵「彼」と呼ばれる男装女子を何かしらの確信を持った様子で「彼女」と呼んでいる。それにつられ獄寺も無意識の内にある程度女性として扱っているので、男装女子に関して酷い事になった事はなかった。

それを理解しているが故にツナは軽く獄寺の言葉に返す。そして獄寺はツナの言葉に10代目に信頼されている!とますますツナへの忠誠を深めるのであった。

 

ちなみに、男装女子はツナが獄寺をコントロールするための教材として扱われ、最終的には存在を完全に無視される事になる。ツナとしても獄寺の手綱はしっかりと握っておきたかったので否やはなかった。

最後の方では実は獄寺が好きで気を引きたかった、素直になれなかった、などと言っていたが、散々馬鹿にし暴言を吐くような相手に欠片でも好意などある筈がなく

 

「お前だけは絶対ねーよ、今後一切近づくな」

 

と獄寺本人にばっさりと切り捨てられた。

 

 

・実はこんな事もありました4

 

 

※リボーンは小学生くらいの大きさまで成長してます※

 

「さて、今日は食事のマナーについて学びますよ。会食ごときでなめられる訳にはいきませんからね」

「スペードってそういうの詳しいの?」

「スペードは貴族並に完璧なマナーを身につけてるぞ、しっかり学べ」

 

という事で、沢田家(居候含む)は一流と呼ばれるレストランに来ていた。

奈々をスペードが、ビアンキをリボーンがエスコートする。ツナは練習としてイーピンをエスコートしていた。

初めての事で、しかもランボもいる為に絶対に滅茶苦茶になるとの予想からレストランにはあらかじめ事情を話し個室をとってある。奈々やビアンキもそれは承知の上でエスコートの見本として付き合ってくれている。

 

結果は予想通り滅茶苦茶に終わった。

初心者用に比較的食べ易いメニューを頼んだのだが、ツナは途中で手がつる、という事までやらかしてくれた。

スペードは溜め息をつきたくなったが、初めてなのだから仕方ないとある意味諦める。イーピンがいい子だったのがせめてもの救いだろうか。

 

男性陣と女性陣に分かれた帰りの車の中、スペードを運転手として助手席にリボーン、後部座席にはツナとランボが乗っていた。

 

「うぅ…料理の味なんか分からなかった…」

「ああいう場には慣れて貰うからな」

「分かってるよ!はぁ…スペードなんて何か優雅ですらあったし、本当はどっかの貴族なんじゃ…」

「生憎と貴族とは程遠い生活でしたよ」

 

ぐったりとしているツナの言葉は真実であったが、とりあえずスペードは否定しておく。今回の生に限り嘘は言っていない。

 

「それより私としてはリボーンが微笑ましかったですね、花嫁をエスコートする子供のようで」

 

そしてそのまま笑顔でスペードが爆弾を落とす。車内の気温が一気に下がった。

 

「…確かに見た目子供なのは事実だけどな。ただ外見の事でお前に何か言われたくねーぞ、何年経とうが一切変わらねーとか妖怪か」

「不思議と老いないんですよね、鍛錬の賜物でしょうか」

 

好意を寄せる相手に思い切り子供扱いされ、気持ち口元を引きつらせながらリボーンが返す。遊ばれているのは理解していたが、何も返さない訳にはいかなかった。

一方スペードは至極楽しそうな雰囲気を隠そうともしない。嬉々としてリボーンをいじり、無事で居られるのは精神的にも肉体的にも彼のみであろう。

 

昔よりも空気が読めるようになり、黙って震えるランボを抱っこしながらツナはこう思う。

 

このリア充ども、爆発しろ!!

 




ジョット「で、実際どうなんだ?どこかの貴族のご落胤とか…」
デイモン「仮にそうだとしても、教育を受けなければ身につきませんよ?」
ジョット「だから不思議なんだろう。幼なじみとしてずっと一緒に居るが、いつ勉強した」
デイモン「四六時中一緒な訳ではないでしょう。情報は本など、ですかね」
ジョット「…嘘は言ってないが全部ではないな」
デイモン「さて、どうでしょう」
G「まぁこいつがいつ何処で勉強しようがいいじゃねぇか、それを惜しみなくオレ達に分けてくれるんだしよ」
ジョット「それはそうだが…。…分かった、もう詮索はしない。その代わりこの書類は見逃」
デイモン「駄目です」
ジョット「チッ…この作戦でもダメか」

ナックル「あいつらは何をやっておるのだ?」
アラウディ「ジョットが書類から逃げるための小芝居かな」


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十九話

十年後編スタート。

補足
・アルコバレーノは元々の姿まで成長している
・基本的にデイモンとリボーンはセット

※ツナの実子については今のところ未定


沢田綱吉が正式にボンゴレを継いで更に数年経ち、彼をボスとする事に不満を持つ者は極少数となった。ジョットのカリスマ性をもってしても完全支配など不可能である為に、よく頑張ったと言えるだろう。

沢田綱吉らの高校時代には「外」からの客が数人居たようだが、ここ数年は平和である。このまま是非とも過ごしたいところだが…そろそろ何か起きそうな気がしてならない。

その事を裏付けるように沢田綱吉は最近は落ち着かないし、リボーンも少しばかり警戒している。XANXUS、ユニも落ち着かない様子を見せていた。

ユニは未来を視れる巫女なので分からなくはない。寧ろ彼女が何かを感じたのならば、何かが起こるのは確定した事になる。

だがXANXUSまでとは…虹の代理戦争の時のような事が起こるのだろうか。

 

落ち着かないながらも数日程経ったある日。

その日は天気もよく仕事が一段落し、皆ゆったりとくつろげるような空気になっていた。嫌な予感がなければどこかに出かけ、休日を満喫したい程に良い日だった。

 

たまたま、沢田綱吉の執務室に部屋の主とリボーン、私が揃っていた時の事だ。

昔見たような光が一瞬部屋の中に溢れ、とっさに腕で目を庇う。その光の中心地に誰かが現れたので庇うのを止め、かすむ目でありながら気配だけでその人物の腕をひねり上げ床に叩きつけた。

どうせ正体はただの少女だ、目が見えずともどうとでも出来る。

 

「ひっ!い、いやあぁぁっ!」

「…命が惜しいのならその口を早く閉じなさい」

 

叩きつけた相手が悲鳴を上げ暴れるので、片手と膝を使い強めに拘束しながら後頭部に銃を突きつける。直ぐに大人しくなった相手は声からしてやはり少女らしい。

 

「スペード、あんま無茶すんじゃねぇ」

「私がこんな少女にどうにかされると?それに、仮に何かあっても貴方が居るでしょう」

 

一時とはいえ視力を捨て動いた私に対し、リボーンが呆れたように肩をすくめたのが分かる。それに軽く返せば溜め息を吐かれてしまった。

 

「いちゃつくなら外でやれよリア充ども!…それはともかく、その子は…」

 

血を吐くような叫びの後、どこか困惑したような様子が沢田綱吉から伝わってくる。ここではない未来で、同じような体験をした事でも思い出しているのだろうか。

 

「あ…あたしは…っ…!」

「スペード」

 

許可なく少女が口を開こうとしたので銃を更に押し付ける。が、沢田綱吉に咎められたので息を吐いて銃を懐にしまい、彼のお望み通り拘束を解いた。察せないフリをしても良かったが、相手はまだ無害な一般人である為に素直に従う事にする。

 

「見えてきたか?」

「ええ、少しずつ」

 

立ち上がった私の頬にリボーンが触れ、顔を覗き込んできたのが分かった。じょじょに視界に色がつき、それに合わせてぼんやりとした輪郭がはっきりとしてくる。

視力の戻った目に映る男は相変わらずのポーカーフェイスを装っているのに、雰囲気が心配するそれで思わず笑ってしまった。元の姿まで成長して更に過保護になった気がする。

 

「ごほん!で、君は何で急にあんな風に現れたの?」

「ふえ?あ、え、と…」

 

無理矢理話題を変えた沢田綱吉に更に笑いながら、突然現れた少女の話を聞く。リボーンも私から離れ、ちゃんと耳を傾けていた。

 

彼女の語った内容は昔聞いたものとほぼ一緒だった。この世界が漫画の世界だ、という事まで自分の意思で話してきた。正直に言えば、全てが作り物だと言い切られた上「キャラクター」として見られている現状は不快極まりない。無論、そんな事を顔に出したりしないが。

 

「だから、あたし別にツナの命を狙ったりとかしてない!信じて!!」

 

泣きそうな顔で必死に訴える少女の姿は実に滑稽だ。自分一人だけが悲劇のヒロインだとでも言いたいのだろうか。

 

「うーん…嘘は言ってない気がするけど…どう思う?」

「一般人である事は間違いないと思いますよ」

「怯えてんのも演技じゃなねーな」

 

 

結果、件の少女は内密で施設へと送られた。ボンゴレが援助しているちゃんとした施設だ、何事もなければ普通に成長出来るだろう。

それに、本命がまだなのにこんな些事で時間も人手も取られたくはなかった。

 

 

「10代目の隠し子…ですか?」

「正確には沢田綱吉の子だと疑われ、無理矢理連れてこられた子供、ですかね」

 

さっさと少女を送った翌日、嵐、雨、雷、そして私を含めた守護者が集められた。今し方された説明に独り言のように漏らした獄寺隼人の言葉を受け、少しばかり説明を足す。

場所は沢田綱吉の執務室、その部屋の中で彼は疲れた顔をして深い溜め息を吐いた。

 

「子供の命が惜しければ、ていう典型的なやつかな。不用意に子供を作るようなヘマをした覚えは全くないんだけど…」

「ヘマも何も沢田綱吉の子供ではありませんからね。ジョットの子孫ではあるようですが、全くの他人と言っていい」

「…何で把握してるんですか…」

 

ひきつった顔のランボに突っ込まれたが気にはしない。私は可能な限り、火種になりそうな事を把握しようとしているだけなのだから。

寧ろ私に気づかせる事なく、女性といたせるようなら逆に拍手でも贈るというものだ。

 

餌にされた少女の救出に向かったのは沢田綱吉、獄寺隼人、山本武の三人。わざわざ指定された場所に向かうとは、何の為の術士なのか。

その間にくだらない事をしてくれた組織には私とリボーン、そしてランボが向かう。リボーンには正式にボンゴレから依頼が出され、ランボは私達から色々と学べという事らしい。中々にスパルタだ。

組織が大して大きくなかった事もあり、リボーンと一緒では直ぐに壊滅状態へと追いやってしまう。まぁ、それだけ子供を人質にとられた事に頭にきたのだろう。ドン・ボンゴレを怒らせるとは馬鹿な事をしたものだ。

 

ランボのみがぐったりした状態でボンゴレ本部である屋敷に帰ると、少しばかり中の雰囲気が落ち着かない。

何事かと思い沢田綱吉らが向かったという医務室へと足を進め、目的地の扉を開けると馬鹿が三人居た。

 

「可愛いなぁ、ナツキは!パパンに何でも言っていいからね!」

「え…ちょっ…」

「ツナ、ナツキが苦しがってるだろ」

「10代目、そろそろ離して差し上げた方が…」

 

色合いが若干ジョットに似てなくもないかもしれない幼い少女。その少女をだらしない顔をして抱き締める馬鹿1(沢田綱吉)。何とかして少女を馬鹿1から離そうとする馬鹿2(山本武)。馬鹿1より少女を優先する馬鹿3(獄寺隼人)。

ヴァリアーやアルコバレーノのように強制的に魅了でもされているのだろうか。

開けたばかりの扉をそっと閉め、一緒に来ていたリボーンとランボの表情を確認する。

リボーンは頭が痛そうに顔を歪め、ランボは視線を明後日の方向に向け今の光景を見なかった事にしている。馬鹿になったのはあの三人だけらしい。

今行っても何もかもが無駄になる気がしたので、後日改めて報告する事にする。他の二人も異論はなく、その日は静かに解散し各々好きに過ごす事にした。

 

後に思う。

あの異常とも言える様子を見て、ボンゴレの害にさえならなければ誰が何を溺愛しようが構わない、と放っておいたのがいけなかったのだろうか、と。




ジョット「また直にデイモンに触れられないものだろうか…」
G「今出てったら馬に蹴られんじゃねぇの?」
アラウディ「逆に今出ていきたいね。寧ろ行く」
ジョット「よし、行くか!」
G「あーあー…」

雨月「本気で止めない辺りGも同類でござるな」
ナックル「あの三人は究極にデイモンが好きだからな!」
ランポウ「というかアラウディはいつの間に…」


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二十話

デイモンの中では

ボンゴレ=ジョット、G>他の初代、リボーン>>(越えられない壁)>>10代目達>その他>>>>(越えられない壁)>>ボンゴレの害になるもの

な感じ。特に最下位は虫以下、生きる価値無し。

補足
・連れてこられたのは幼女。
・当然転生者。転生する時に逆ハーレム属性つけられた。原作知識有り。
・デイモンの中で、ある一定の基準を下回ると名前すら呼ばなくなる。



「いい加減ナツキから離れなよ、咬み殺すよ」

「おや、そのナツキ本人が許しているのです。君にそんな事を言われる筋合いはない」

「うぅ…こわ…」

「お前らいい加減にせんか!ナツキが怯えておるではないか!」

 

三馬鹿に溺愛され日々を過ごしていた少女の元に残りの守護者が訪れ、見事に雲と霧は魅了されてしまったようだ。ただの興味程度、もしくは全く興味がなかったというに随分と強力な魅了の力だ。ここまでくると呪いの域ではないだろうか。

客間で彼女を取り合っている二人に出くわし深い溜め息を吐く。救いは笹川了平のあれは単なる庇護だという事だ、流石「兄」なだけある。

あの中に入っていく気になど当然なれず、目的地である馬鹿1(沢田綱吉)の執務室へと足を進める。あの三馬鹿は少女にうつつを抜かし段々怠け始めたので、物理的に尻を叩きに行く所なのだ。

 

「ナツキ成分が足りない…足りなくて書類なんか「頭ぶち抜かれたくなかったら手を動かせ」…はい…」

 

執務室に入ると机に突っ伏しだらけまくる馬鹿1にリボーンが銃を使い発破をかけていた。銃の中身は当然普通の実弾だろう。そしてそれで仕事をするだけまだマシな方、など笑えない。

 

「馬鹿1」

「ば…え、オレ?」

「目の前に居る君以外誰が居るんですか。馬鹿2と馬鹿3を早くなんとかなさい、幹部が仕事を放棄するなど有り得ない」

「あの二人!ナツ…」

 

かなり冷ややかな目と声になっていたのだが、馬鹿1はそれよりも少女の方が気になったらしい。

勢い良く立ち上がった彼の頭を強く掴み、意図的に優しく穏やかに笑う。それだけで馬鹿1は顔色を悪くし体を震わせた。

 

「花○薫程の握力はありませんが…実はリンゴくらいは軽く潰せるんです。試してみましょうか、君の頭で」

「ごめんなさい!仕事やります!!」

 

半泣きで馬鹿2と3を呼び出す馬鹿1。最初からそうしていればいいものを。

そうして呼び出された2と3は実に不満げだ。私のストッパー役として残ったリボーンが居なければ、出会い頭に二人に拳を叩きつけていたかもしれない。

 

「なぁツナ、こうしてる間にもヒバリと骸がナツキを独占してんだ。早く行かねぇと」

「こいつと同意見なのは癪ですが…10代目、ナツキさんを早く魔の手から救出しないと」

 

この二人は余程私を怒らせたいのだろうか。眉間にシワが寄りそうになるのを何とか堪え、腕を組む事で反射的に手が出そうになるのを我慢する。

それにしても、ボスからの呼び出しを些事と言い切り、もはや血縁とも言えないただの幼女に執着する様は異様の一言につきる。腹心の「部下」として成長していた筈の二人だからこそ余計に。

 

そういえば馬鹿1が彼女をヴァリアーに連れていった時、XANXUSに徹底的に拒まれていた。「そいつはあいつらと同じだ」と言って。

 

「とりあえず危険はないと思うから大丈夫。ボスとして二人に聞きたいんだけど、最近仕事を放棄してる理由を教えてくれないかな」

「そんなのナツキを構いたいからに決まってんだろ!ちっこい子には愛情注いでやらねーとな!」

「ナツキは天涯孤独の身なんです、誰かが側にいてやらないと」

 

言っている事は理解出来なくもない、だがそれは義務を果たした上で言っていい言葉の筈だ。

リボーンに肩を叩かれイラつきを抑える私を見て馬鹿1は表情を固くする。私を見る余裕があるのならば2と3を早くどうにかなさい。

 

「気持ちは痛い程分かるけど、幹部である二人がこれじゃあ組織として…」

「ツナはナツキとボンゴレ、どっちが大事なんだよ!?」

「ナツキさんは他人の温もりに飢えてるんです、放っておくなんて出来ません!」

「っ…いい加減にしろよ二人とも!こんなのおかし、い…」

 

二人の答えに馬鹿1…もとい、沢田綱吉が声を荒げる。その途中でハッとしたような顔をして口を押さえ、酷く困惑した様子を見せた。

彼は自力とは言い難いが、こちら側に戻ってきたらしい。その事にリボーンと二人揃ってホッとする。あのままでは危うく見切りをつけてしまう所だった。

 

「…ドン・ボンゴレとして嵐の守護者、及び雨の守護者に『命令』する。溜まった仕事を片付けない限り、彼女には近づかないように。反論は受け付けない」

「ーっ…ツナ!」

「10代目!そんな…」

「反論は受け付けない、と言った筈だよ。会いたいなら早く仕事を片付ければいい」

 

強い眼差しと言葉で馬鹿2と3の文句を封じ、かなり嫌々ながらも仕事に行かせた事に感心する。よくまぁここまで持ち直したものだ。

 

「…今さっきまでの自分を殴りたい…何あれ、彼女の事しか考えられなくなるとか呪い?」

 

机に突っ伏し頭を抱えてしまった沢田綱吉に眉を上げ、ゆったりとした足取りで近づき彼の頭を見下ろす。今の沢田綱吉にならこの話を切り出しても大丈夫だろう。

 

「君の守護者として進言します、彼女は早く遠ざけるべきだ。既に悪い方へ影響は出ていますし、雲と霧も危ない」

「…そうだね。彼女一人の為にボンゴレを壊滅に追いやる訳にはいかない。彼女自身が悪い訳じゃないんだけど…」

「異常な程ちやほやされんだ、どこか遠くにやってもそこで上手くやるだろ」

 

本来ならば側近である嵐と雨と話し合うような事をリボーンを交えて話し合う。あの二人は今は馬鹿と化し、使い物にならないので仕方がない。

 

「君が戻らなければ見切りをつける所でしたよ。最後に障害の排除くらいはしたかもしれませんが」

「もしかして、その時はリボーンもセットでいなくなったりして…」

「当たり前だ。今だってスペードが居るからここに居るだけだからな」

「…良かった…戻れて本当に良かった…!」

 

私の肩を抱いて当然と言い切るリボーンに沢田綱吉は顔を引きつらせ、とてもしみじみと呟いた後に完全に力が抜けたように机に上半身を預けた。

 

「なるべく会わないようにしたら変な力も抜けるのかな…」

「一番手っ取り早いのは始末する事でしょうね」

「……、どうしようもなくなったらそれも視野に入れる」

 

幼い子供を殺めるのは私とて気が咎める。が、あれの優先順位は極めて低い。これ以上害になるようならば、消えて貰わなければならない。

 

「あんま思い詰めんなよ、オレを頼れ」

「ええ勿論。頼りにしていますよ」

 

肩を抱いたままのリボーンに顔を覗き込まれ、ここ最近よく聞くようになった言葉をかけられる。

彼女が現れてから、一気に私の負担が増したが故の言葉だ。一人で出来る事などたかが知れているので遠慮なく頼っている。

 

「本当にごめんなさい。だから外でやれ、爆発しろ」

 

沢田綱吉から向けられる恨みのこもった台詞と眼差しを笑い、やんわりとリボーンの手を外して沢田綱吉に視線を合わせる。

 

「さて、ではまずは溜まった書類から片づけましょうか。会食や会合など、仕事はたっぷりある」

 

笑顔で目の前の彼に告げると壊れた人形のように何度も頷き、それから万年筆をとり早速手を動かし始めた。

これでもう沢田綱吉は大丈夫だろう。

 

馬鹿2と馬鹿3、雲と霧はどうするか…。近づく事が危険である以上、あまり他人を近づけたくない。

頭を悩ませながら私も自分の仕事へと、取りかかる事にした。

 




ジョット「く…外に出るには力が足りなかったか…」
ランポウ「え、これ続いちゃうの?」
ジョット「ランポウはデイモンに会いたくないのか?」
ランポウ「そりゃ会いたいけど…」
ナックル「それにしても、G、雨月、元気がないな」
G「いや…10代目の…」
雨月「うむ…あれは少々…」
アラウディ「何かしらの強制力が働いてるみたいだけど、あれじゃ犯罪だね。だってあれ恋愛感情的なもの向けてるし、何よりデイモンに負担かけてるし。馬鹿2と馬鹿3は額に土をつけてデイモンに詫びろ」
ジョット「だからこそオレ達がデイモンの側にいかなければ!」
ランポウ「本音は?」
ジョット「晴れのアルコバレーノばかり狡い。オレもデイモンといちゃつきたい」
ナックル「それは確かになぁ」


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二十一話

深夜テンションでぽちっとな。

若干シリアスからの甘々。甘い。とにかく甘い。いちゃつくデイモンとリボーンが書きたくてやった。後悔も反省もしていない。
かっこいいリボーンはいません。


程度の軽い雲と霧は衝撃にて元に戻らないか、とOHANASHIしてみたのだが大した成果は得られなかった。寧ろクローム髑髏が霧に見切りをつけそうな勢いなのが笑える。

一応馬鹿2と馬鹿3にも同じ事をしたがこちらは全く変化はなかった。

と言うか「ナツキに構われないから嫉妬か」と口を揃えて言われた事にイラついた。

そしてクローム髑髏に懐かれたのが解せない、会うと(用事や仕事がない限り)ヒヨコのようについてくる。リボーンや沢田綱吉に懐くのは理解出来るのだが…。

 

「スペード様はツンデレだと思う。言葉とか態度は素っ気ないのにやる事は凄く優しくて、沢山助けて貰った」

「うんうん、それ分かるよ。僕もデイモンさんにはずっとお世話になってるんだ」

 

ある日、沢田綱吉の様子を見に来た古里炎真とクローム髑髏がどう見ても女子会としか思えないような雰囲気で話し合っていた。内容は耳が聞く事を拒否したので覚えていない。

 

それはさておき、ボスが守護者達が元に戻る事を望んでいるので何とかしなければいけない。個人的には守護者の入れ替えをしてもいい気がしてきているが。

 

「という事なので、何か良い知恵はありませんか?」

「恭弥がなぁ…。先生にも出来ない事があるんだな」

「チッ、腑抜けてんな。ボスさんにゃ聞かせられねぇ」

 

キャバッローネの屋敷にてディーノとS・スクアーロに意見を求める。二人には事前に頼み時間を作って貰ったのだ。

何故キャバッローネの屋敷なのか?ボンゴレ本部には妖女(※誤字に非ず)が居るので二人を合わせたくないし、ヴァリアーの屋敷で穏やかな話し合いが出来るとは思わないからだ。

 

「他ならぬ先生の頼みだ、恭弥の事は任せてくれよ」

「山本なら引き受けてやってもいい、根性叩き直してやる」

「助かります」

 

快く引き受けてくれた二人に自然と笑みが浮かぶ。以前ならば何かあっても誰かを頼りはしなかったろうが、今生にて他人の手を借りる事に抵抗はない。

馬鹿2と雲が正気に戻ればそれぞれ馬鹿3と霧にぶつける事で多少は改善されるだろう。

 

「では報酬の話を。あくまでも個人的な頼みなので、私が出来る範囲…」

「ボスさんに仕事させてくれぇ。あんたの言う事なら割りと聞くからよ…」

 

報酬の話に移ると物凄く切実な顔と声でS・スクアーロが台詞を被せてきた。苦労人な雰囲気が半端なく、一気に重くなった空気にディーノも若干口元を引きつらせている。

 

「く、苦労してんだな…まぁXANXUSだから仕方ねーのか…?あー…オレは美味い飯とかがいいな。先生が一緒なら、どこ行こうが万が一も有り得ねぇしさ」

「両方とも許容範囲内ですので構いません。交渉成立という事で、それぞれお願いしますよ」

 

空気の重さを払拭するようにあえて明るい声を出すディーノ。それに乗るように直ぐに頷く、彼を見ていると泣けてくるので視線はディーノに固定した。

 

結果から言えば山本武と雲雀恭弥は正気に戻った。相当に苛烈な扱きを受けたようだが自業自得と言える。

S・スクアーロは言わずもがなであるが、温厚なディーノがあそこまでやるとは珍しい。あまりにも珍しいので思わず理由を尋ねてみると

 

「スペードの事貶されて我慢出来なかった。ぶち切れるとか何気に初体験かもしれねー…」

 

とバツの悪そうな顔をして言われた。

思っていた以上に彼に慕われていたらしい事に更に驚いた、いつそんな要素が?

 

自分の驚きは置いておき、とにかく結果を出してくれた彼らには報酬を払わなければならない。そこをケチるような真似をするなどボンゴレの名に誓って出来ない、きっちり支払った。

美味しい食事にディーノは満足したし、XANXUSには出来る仕事は可能な限りやらせた。口出し出来ない案件については流石にS・スクアーロも何も言う事はなかった。

思い切り文句を言われ壁が軽く吹き飛ぶ程度に手も出されたが、最後にはちゃんと仕事をしたXANXUSを見て涙ぐんでいた姿は見なかった事にしてやるのが情けというものだろうか。

 

妖女に近づける事をしなかったので、最後の最後に二人が落ちる、などというオチがつく事なく今回の件は綺麗に終わった。

一度正気に戻った沢田綱吉も変わらないし、元々変わる事のなかったリボーン、笹川了平、ランボもそのままだ。

どうやら元に戻った者が再び落ちる事はないようだ、ならば山本武と雲雀恭弥はもう大丈夫だろう。加えて元々変わらない者も落ちる事はないらしい。

このまま全員正気に戻るのならば、最悪の手段はとらずに済む。その事に僅かばかり安堵を覚えた。

 

問答無用で邪魔者を排除に出ない辺り、随分と丸くなったものだと自分を笑う。ジョットに続き沢田綱吉の甘さでもうつったのだろうか。

改心したつもりはないが、やたら他人に懐かれていくのが甘くなっていると言われているようでたまに落ち着かなくなる。

もっとも、そんな時は決まってリボーンがちょっかいをかけてくるので深く考える事はないのだが。

今回もそうだ、自室にて休んでいた所に不意にリボーンが訪ねてきてやけに構ってくる。そしてそれに安らぎを覚えている事に何とも言えない気持ちになった。

 

 

「自分が慕われてる事に納得いってねーのか」

 

自室の広く大きなソファにて、リボーンに後ろから抱き締められている状態で尋ねられる。いつの間にかここまで近い場所を彼に許すようになっていた事に今更ながら気がつく。…まぁ、リボーン相手ならば悪くはない。

もっとも、リボーンの方が身長があるので私の方が前だというのは非常に…非常に!不本意だ。ジョット相手ならば逆だったというのに。

 

「…そうですね、甘さ故に慕われているようで、どうにも落ち着かない」

 

長年の付き合いになるリボーン相手に隠すのは不可能と悟りあっさり心情をバラす。そもそも声色が問うものではない、これは理解していて聞いている。

 

「お前の中で優先順位が変わりつつあるんじゃねーのか?悪くない変化だと思うぞ」

「ー…この私が…ですか…?そんな馬鹿な事…」

 

リボーンの言葉に愕然とする。今の自分にとってボンゴレ以上に大切な事などない筈だ、それはリボーン相手でも変わらない。そうでなければならない。でなければ私はいったい何の為に…。

 

「スペード!」

「っ!……、…すみません…」

 

リボーンの声と強まった腕にハッとして息を飲む。今回の妖女の件も相まって大分情緒不安定になってきているようだ。だからこそのスキンシップか、と納得する。

今ここにジョットとGが居てくれれば、などと詮無い事を考える時点で危ない。暫く休暇でもとるべきだろうか。しかし、今ボンゴレを離れる訳には…。

 

「…明日出かける、暫く付き合え」

 

考え込み始めた私にそんな言葉が不意に降ってきた。スマートさのないこの男らしからぬ台詞に目を瞬かせる。と同時に何となく相手の気持ちを悟り段々と笑いが込み上げてきた。

 

「ふ…ふふ、あははっ!貴方らしくない誘い文句ですね、余裕の欠片もない!」

「うるせー…お前相手に余裕なんかあるか」

 

遠慮なくリボーンにもたれかかり笑い声を上げ視線を顔に向ける。ほんのりと色づく目尻にまた笑ってしまうと仕返しとばかりに耳を噛まれた。それを擽ったい、と笑って済ませる程に自分はリボーンを気に入っているらしい。

 

「フフ、ありがとうございます。明日はデートですね」

「ああ。明日はオレが独り占めだ」

 

笑い過ぎて私の目に滲んだ涙を拭う彼の手を感じようやく落ち着く。リボーンのおかげで暗い気持ちなど吹き飛んでしまった。

体をリボーンに預けたまま目を閉じる。感じる温もりが、酷く心地よかった。

 




ジョット「デイモンに呼ばれた!」
G「ああ、そんな気がするぜ」
アラウディ「気のせいじゃないの?」
ジョット「いいや、絶対に呼ばれた。オレの勘がそう言っている」
雨月「ジョット達は相変わらずでござるなぁ。実に和む」
ナックル「和むのは良いが、今出たら修羅場になるのではないか?」
ランポウ「オレ様もそんな気がする…」
アラウディ「……。いい雰囲気ならぶち壊さないと」
G「ちょっと待て、段々残念なイケメンになってきてるぞ」
アラウディ「君達に言われたくないね、幼なじみ馬鹿二人」
ジョット「幼なじみ馬鹿など誉め言葉だ!」


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二十二話

デイモンとリボーンがナチュラルにいちゃついてます。

補足
・幼女の中身(精神年齢)については言動から察した模様。デイモン、リボーン共に洞察力が半端ない。


よく晴れた日、中庭に用意されたテーブルで和気あいあいと妖女を囲みお茶をしているボスと幹部達。役二名程威嚇したり牽制したりしているがそれは無視をする事にする。

以前のような、異常な程彼女を溺愛し馬鹿面をさらしていた時よりは遙かにマシだ。妖女自身も中身はやけに大人びた…いや、中々の年の大人なのでそこまで酷くはない。

ぱっと見、ボスの愛娘(仮)の為に普段はあまり仲の良くない幹部達が一斉にそろった、という実に微笑ましい光景だ。

微笑ましい、筈なのだが…。

 

「ああもうランボ、クッキーこぼさないの。逃げたりしないから」

「パパ、お茶のお代わりは?」

「ほらほら、隼人と骸は喧嘩しない!」

「了平、沢山食べるのよ!」

「武…もう、それはこうするの」

「恭弥!今日は大人しくして」

 

幼女である筈なのに完全に甲斐甲斐しく世話をする母親のようだ。はっきり言って気持ち悪い。どうしようもない違和感が不快だ。

精神年齢的にきっとボス達を子供のように思っているのだろう。私とて、沢田綱吉らとは玄孫どころではない程離れているので理解出来ない、という事はない。

ないが、これは酷い。子供が背伸びをしている、という範囲を完全に越えており幹部らの威厳も何もあったものではない。

 

私とリボーン、クローム髑髏は茶会から離れた場所で皆の様子を眺めている。何だかんだ言いつつも幼い子供にはやたらと甘い沢田綱吉に無理矢理引っ張ってこられたのだ。

そして違和感満載の茶会の様子を私が幻術で誤魔化している。

 

「スペード様、やっぱり私も…」

「この程度、負担にすらならないのですから一人で十分です」

 

腕を組み難しい顔をしている私にクローム髑髏が話しかけてきた。

手助けなどかえって邪魔なのでぴしゃりとはねのけたが落ち込む様子はない。今では滅多な事ではへこたれなくなったこの娘の根性は嫌いではない。

 

「ツナは気づいてもいい筈だが、好意がある奴には途端に鈍るな」

 

妖女に甘い顔をし、やる事をそのまま受け入れる沢田綱吉を見てリボーンが溜め息を吐く。妖女の中身については当然彼も気づいており、気づかない沢田綱吉への呆れを隠しもしない。私も同意見だ。

 

「あーもうそこの三人も入る!こっちこっち!」

 

妖女がこちらに駆けてきたかと思うと上着の裾を引かれた。気安く触るなと振り払いたいところだが、見た目はいたいけな子供な為動かないだけに留める。

 

「そういう厚意の押し売りは迷惑です。止めて貰えますか」

「あ…えと…ごめんなさい…そんなつもりじゃ…。あ、クロームは」

「……」

「じゃあリボーン!」

「可愛いレディのお願いはききたいが、今は仕事中だ。わりーな」

「そっか…邪魔してごめんなさい」

 

冷ややかな私の言葉に傷ついたような顔をして妖女は手を離し、クローム髑髏ににこやかに笑いかけるも彼女は無言で私の後ろに隠れた。気を取り直してリボーンに話しかけたが当然のごとく軽くあしらわれる。

意気消沈し、とぼとぼと茶会の席に帰る姿を見てもまったく心は痛まなかった。どうやら自分は相当彼女の事が嫌いらしい。

 

「ちょっとおかしいのはあの子の方なのに、スペード様を睨むのはお門違いだと思う」

 

落ち込む妖女を慰めながらこちらを睨む馬鹿3と霧を見てクローム髑髏が呟く。ちゃんと違和感を感じているようで、霧よりも余程見込みがある。

 

「いいのですよ、それが分からない程腑抜けになってしまったのですから」

 

組んでいた腕を解き肩を竦めて笑いクローム髑髏の呟きに返すと、こちらの会話など聞こえない筈なのにあからさまにムッとした顔をした霧がこちらに歩いてきた。

 

「ここ最近、僕のクロームに対して馴れ馴れし過ぎではありませんか」

 

いきなり喧嘩腰で言われ目を瞬かせる。剣呑な雰囲気を察したのか彼の肩越しに妖女があたふたしているのが見えたが、まぁ、妖女はどうでもいい。

霧がクローム髑髏を優先し彼女の側を自らの意思で離れてきたこの状況、折角ならば利用したい。

リボーンにほんのわずかに目をやると小さく頷いたのが分かったので、笑顔を作りクローム髑髏の肩を抱き寄せた。

 

「付き合っているのですから当然でしょう。君は彼女に夢中ですし、構いませんよね?お・と・う・さん」

「誰が父ですか!?交際など許しませんよ!」

 

おそらくクローム髑髏は状況を理解していない。していないが、余計な事は口にせず驚きを顔に出さないよう必死になっている様子は実に好ましい。

 

「おやおや、本当に父親のようだ。可愛い娘を完全に放置しておいて、どの口がそう言うのやら」

「クロームは僕の分身…僕自身のようなもの。貴方にどうこう言われるのは不愉快です」

 

睨む視線には笑顔を返し、クローム髑髏の肩を抱いたまま煽っていけば面白い程に釣れる。そのまま暫く『口喧嘩』を続け、いい具合にヒートアップした所で問いかけた。

 

「では君は、そちらの彼女よりクローム髑髏が大切だと?」

「当たり前だ!クロームとナツキ、比べるまでもなくクロームが大事です!」

 

力強く言い切った後六道骸はハッと息を飲み、以前の沢田綱吉同様困惑した顔になる。

何故自分が彼女に夢中になっていたのか、分からなくなったのだろう。

 

「だ、そうですよ」

「骸様…やっと正気に戻ってくれた」

 

クローム髑髏の肩に回していた手を背中へと動かし、少しばかり押してやると彼女は一歩六道骸に近づく。そして心底安堵した笑みを浮かべた。

 

「……付き合っている、というのは」

「勿論嘘に決まっています。簡単に釣られてくれたので面白かったですよ」

「僕とした事が…屈辱だ…」

 

絞り出すような声での問いには嘲笑つきできちんと答えてやった。それに唸り歯噛みする様は本当に笑える。

 

「クローム、帰りますよ」

「はい、骸様」

 

流石に茶会になど戻る気力は無くなったらしく、どこか疲れた風にクローム髑髏に声をかける六道骸。それに直ぐに返事をした彼女は、小さくこちらに頭を下げて二人で中庭を出て行った。

 

「あと一人か」

「そうですね。ただ、彼女が一番懐いているのが自称右腕なので骨がおれそうだ」

 

こちらの事をハラハラしながら見ていた茶会メンバーは、気を取り直してまだ楽しむつもりらしい。特に無駄に妖女が張り切り馬鹿3がそれを押していた。

 

茶会の様子を眺めながら再び腕を組み、丁度いい位置まで近づいてきたリボーンに癒しを求めて軽く寄りかかる。そろそろ切り上げて欲しいのだが、と沢田綱吉に視線を送ると気づかないフリをされた。

 

「てあの二人何してんの!?リア充爆発しろっっ!!」

「任せて下さい!オレが果たして…」

 

うんざりし始めたのをあえて隠しもせず術を使い続けていると、やたら大きい声で妖女が叫び馬鹿3が続く。私とリボーンのこの距離など、何を今更。

だが妖女は不純同性交遊だの何だと騒ぎ、馬鹿3がダイナマイトを取り出した所でようやく沢田綱吉が動いて二人の頭に拳骨を落とした。その後二人に何やら言い、やっと茶会はお開きとなる。

対応が遅すぎますよ、まったく…。

 

 

 

「えーと…この大量の書類は…」

 

茶会の後、沢田綱吉の執務机にどっさりと書類を乗せ顔を引きつらせる彼に笑いかける。

 

「あんなくだらない事に私を引っ張り出してくれたお礼です」

「お礼と言うかお礼参りだよね、これ…」

「期日は明日の昼までです、頑張って下さいね」

「はい…」

 

ささやかな仕返しをしてスッキリしたので沢田綱吉の執務室を出る。そもそもあれはあの無駄な茶会さえなければ溜まらなかった筈の書類なのだ、それが分かっているから沢田綱吉も素直に頷いたのだろう。

さて、余計な事に時間をとられ色々と詰まってしまった仕事を片付けに行かなければならない。

本当に、あの妖女は余計な事ばかりしてくれる、と苦く思いながら足を進めた。




※筆者はチェスについての知識はまったくありません。

デイモン「……」
リボーン「……」
綱吉「二人とも何を…あ、チェス?」
リボーン「…ちっ、エグい手使いやがって」
デイモン「今回は私の勝ちですね」
綱吉「え…ほとんど駒動いてないんだけど…」
リボーン「読み合いで最後までいったんだ、察しろダメツナ」
綱吉「いや分からないから!」
デイモン「仕方ないですね、実際に駒を動かして差し上げますよ」
リボーン「しょうがねーな…」
綱吉「(あ、不満そうだけどリボーンも乗った。本当にスペードには甘い…てちょっ!お互い高速で駒動かしてる!うわもう終わった)」
デイモン「という訳で私の勝ちだったんですよ」
綱吉「なるほど分からん」


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二十三話

ちょっとグロい。
そしてデイモンが外道。どこの悪役ですか?
ボンゴレの残虐性を出したつもりです。

後書きはいつもと違いシリアス。シリアスな初代達を見たくない方は回避を。



「ナツキがディアマンテに浚われました。詳細は…」

 

書類仕事をしている最中、部下から上がってきた報告に手に力が入り万年筆がバキリと音を立てて折れた。一瞬目の前の人間はビクついたが、努めて冷静であろうとしている。

ディアマンテとは最近勢力を伸ばし始めた弱小グループだ。自分達はディアマンテ…ダイヤモンドに匹敵すると?実に笑える。その笑えるグループは薬や臓器密売などに手を出しており、今日馬鹿3が制圧に赴いた筈なのだが…。

 

「ナツキの護衛はどうしたのです」

「それがナツキ子飼いの影に始末されたようで…。その影も今日の戦闘により怪我を負い、嵐の守護者と共にこちらに運ばれております」

「……ご苦労。下がりなさい」

「はっ。失礼します」

 

部下が部屋から出ていくのを見送り深い溜め息を吐く。呆れて物も言えないとはこの事だろうか。

大方あの馬鹿娘は馬鹿3を一人で危険な目に合わせない!とでも思い屋敷を抜け出してついていったのだろう。そして中身は大人なんだから、などとふざけた考えの元調子に乗って人質にでもなったに違いない。更に最悪な事に自分の事は捨て置けと暴れた結果悪い方に事態は転がり、馬鹿3とその影とやらが大怪我をして帰ってきた、といったところか。

 

「本当に余計な事ばかりしてくれる…」

 

舌打ちをしたい気持ちになりながらインクで汚れた手や机を拭き、書類を始末して沢田綱吉へ報告する為に椅子から立ち上がった。

 

 

「私は彼女を見捨てますが構いませんね?外見はどうあれ中身は大人だ、相応の報いを受けるのは当然でしょう」

「けれどナツキは…」

 

沢田綱吉の執務室での遣り取り。

他に適任者が居らず私がディアマンテの殲滅に向かう事になった。ゴミは早く掃除しなければ他の所まで汚れてしまう。任務自体に否はない、ただ一つだけ条件をつけると予想通り沢田綱吉は渋った顔を見せる。

 

「君はもう『理解している筈』だ」

「ー…っ…」

 

だがそれを一刀両断すれば苦い顔をしつつも反論をしない。彼女のいったい何が悪いのか、しっかり理解しているようで何よりだ。

 

「可能な限り、でいい。ナツキを…」

「そうですね、『可能な限り』ならば引き受けましょう」

 

もはや表立って助けてくれとは言えない状況に、苦しげに告げられた言葉。その曖昧さ故に頷いて執務室を出る。

まずは影とやらを片付けてからだ。

 

手負いという事もあり影の方はあっさりと終わる。鎮痛剤がよく効いて眠っており、その間に蘇生が不可能な程度にバラしてこの影が始末した馬鹿娘の護衛だった者の友人に後始末を頼んだ。

友人を殺した張本人という事で、突然の事であったが彼らは快く引き受けてくれた。

今回の事には箝口令を敷かなかった為、それなりの早さで話は広まっている。このままならば仮に無傷であの馬鹿娘が帰ってきても、居場所などなくなるだろう。

ボンゴレは裏切り者を決して許さないのだから。

 

ボンゴレ本部を出る前の事。どこから話を聞きつけたのか…いや、リボーンならば当然とも言える早さで情報を掴み、着いてくると言ったのを断った。

戦力過多により、馬鹿娘がどうこうなる前に事が終わってしまっては困る。

珍しく渋った為かリボーンは着いてはこなかったが、終始心配そうにしていたのは擽ったかった。

 

ディアマンテの殲滅自体は楽に終わる。所詮は『グループ』という程度の規模、楽に終わらない方がおかしい。

最後の最後に残した者も、狙い通り馬鹿娘に怪我を負わせてくれた。放っておけば死に至るという素晴らしい具合だ。

 

「さて、君は何故自分がこんな目に?と思っているのでしょうね」

 

ディアマンテの本拠地である家の地下室にて。薄暗い部屋の中、うつ伏せで倒れている馬鹿娘を見下ろしながら薄く笑みを浮かべる。

彼女の太股は銃弾によって出来た傷があり、床にじわじわと血が広がり始めていた。

その後方には男の死体が一つ。彼はいい仕事をしてくれたので、苦しむ事のないよう逝かせてやった。そのおかげか死に顔は酷く安らかだ。

 

「たす、け…きた、じゃ…ない…の…?」

 

痛みから顔を歪め、息も絶え絶えといった様子で私を見上げる妖女。

私は笑みを浮かべたままでそれには答えない。答える必要性を感じない。

 

「ボンゴレは裏切り者を許さない。…と言っても、君には何の事か理解出来ないでしょうね。ですから説明して差し上げましょう」

 

まず彼女の事はドン・ボンゴレの血縁者ではないと沢田綱吉から正式に発表されている。扱いは客分だ。アルコバレーノという規格外の存在もあった為、外見と中身の差を理解し屋敷の者は彼女を成人女性としてもてなしていた。

もっとも、見た目幼児だしある程度は許されるだろう、などという浅はかな考えの元起こした数々の行動により、屋敷の者の気遣いは見事にぶち壊されたが。

まぁ、妖女の事は沢田綱吉が大事にしていたのでそこについての不満は皆、飲み込んだ。

それよりも拙かったのが彼女の影だった。彼は馬鹿娘こそが至上の主だと言ってはばからず、やれ彼女に色目を使った、やれ彼女が受けるに相応しくないもてなしだ、と使用人に喧嘩を売り暴力までふるった。おまけに沢田綱吉まで無能な父親だ、などと見当違いな言葉で罵ってくれた。

その彼を彼女はどうしたのか。

影が自分の所有物(もの)と認めた上で、強く咎める事も止める事もなかった。使用人が殴られてから軽く止めるような事を言うだけで、仕方ないなと笑うだけだった。

 

「君はせめて彼を目に見える形で罰するべきだった。使用人にも沢田綱吉にも謝罪すべきだった。ただの客分の僕風情が理不尽に暴力をふるったのだから」

「か、れは…僕じゃ…ない…!」

 

強く手を握りこちらを睨みつける妖女を嗤う。

僕でないのならば何故主と呼ばせたままでいたのか。一々訂正するでもなく、主と呼ばれそう扱われる事を受け入れていたというのに。それはつまり、彼は所有物であると認めているという事だ。

 

「決定打は彼が君の護衛…私達のファミリーを殺した事です。もはや君も彼もボンゴレの敵だ、厚意と恩を仇で返した裏切り者だと認識されています」

「え…」

「知らないなどと言わせませんよ。君が屋敷を抜け出す時に護衛の目が邪魔だと彼に言ったでしょう?護衛を殺すという方法をとりどうにかしたんですよ、彼は」

 

血が抜けている事以上に顔を青くする妖女。

彼女が本当に何も知らないのは分かりきっている。だがそれがどうした。本物の幼女ではなくいい大人なのだ、下の者のやった事は上の者が責任をとる、常識だろう。

もっとも、彼女は本当に責任をとらされるとは思っていなかったようだが。

自分は精神年齢○○歳だと言い続けていた割りに、本人こそが一番幼女の外見に甘えていたらしい。

 

「そういう訳ですから、仮にボンゴレに戻ったとしても結末は変わりませんよ」

「……」

「おや、そろそろ時間のようです。最期に理由が分かって良かったですね」

 

段々と反応が無くなってきた妖女に軽く眉を上げる。何か隠し玉でもあるかと少しばかり警戒してみたが、何もなかったようだ。

念のため完全に事切れるのを待ってから地下室を出ていき、残りの処理は部下に任せた。

 

ボンゴレ本部に戻り、沢田綱吉に彼女が死んだ事を伝える。納得いっていないのがありありと伝わってきたが、この結末について何も言わない程度には理解しているらしい。

後日、正気に戻った筈の馬鹿3が殴りかかってきたので軽く三倍返しにしてやったところ、色々とぶちまけられるも全て頭から抜けていってしまった。

操られていたかもしれないが想いは本物だった、などと私にとってはどうでもいい。物理的に尻を蹴り飛ばして仕事に戻らせた。

 

本当に、次から次へとよく来るものだ。そろそろ落ち着いてくれないかと、切に願う。

 




ジョット「Ⅹ世や晴れのアルコバレーノは何をやっている!デイモン一人にあんな…!!」
G「落ち着け!オレ達が言っても仕方ねぇだろ!」
ジョット「しかし!!」
雨月「ジョット、Gの言う通りでござる。口惜しいのは皆同じ、まずは落ち着かれよ」
ジョット「くっ…」
アラウディ「中身が大人なだけいくらかマシ、と思えばいい」
ナックル「そうだな…本当の幼子よりは、まだ救われる」
ランポウ「とは言え、デイモン一人にやらせたⅩ世達をオレ様許せないけどね」
ジョット「デイモン…くそっ、今すぐに抱き締めたいのに、何故オレの手は届かない…!」


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