仮面ライダー響鬼のその後 (Dr.mouse)
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一之巻「明日夢とあきら」
明日夢くんとあきらちゃんが上手くいけばいいなぁ、なんて妄想を膨らませて書き始めた小説です。
モッチーファンの方はごめんなさい。
昼休み、中庭のベンチに並んで腰を掛けて弁当を食べながら、安達明日夢と天美あきらは話に花を咲かせていた。
1年生の頃は、明日夢の幼馴染みの持田ひとみも一緒にいることが多かったが、2年生に進級して、明日夢とあきらが理系なのに対し、ひとみが文系の道を選んだことによって、その機会は減少していた。
「でもよかったですね、ヒビキさんと仲直りできて」
「うん、そうなんだよ。出会ったときから自慢の弟子だったとか、俺のそばにいろとか言ってもらってさぁ!いやぁ、嬉しかったっていうか安心したっていうか・・・」
明日夢はヒビキを心から尊敬しているのだと、あきらは改めて感じていた。それは自分も同じだが、それ以上に明日夢はヒビキに対して、特別な憧れを持っているようだった。
そんな明日夢がヒビキの弟子になり、そして辞めてからの1年間、2人の間には気まずい空気が漂い、会うことはなかった。
しかし、そんな関係も1週間前までのこと。明日夢は鬼にならない弟子として、ヒビキとの関係を修復したのだった。
「本当によかったです。イブキさんも心配して、私に安達くんの様子を逐一報告させてたんですから」
「えっ、そうだったの!?そっか、それは、悪いことしたな・・・」
猛士の関東支部は、ひとりひとりがまるで家族のような絆で結ばれている。それはたちばなでアルバイトをしていた頃から、鬼の弟子を辞めた今でも同じだった。
「勿論、私も心配してました。とっても・・・」
そう言った後で、あきらはあっと気づいたように頬を赤らめた。
その顔を不思議そうに明日夢が覗き込む。
「あっ、あの、つまり・・・。私も安達くんと同じ、鬼の弟子を辞めた身ですから。色々と共感できる面もあったりして・・・」
かつてあきらはイブキの弟子であり、厳しい修行の日々を送った結果、遂に鬼への変身を果たすまでとなった。
しかし、両親を奪った魔化魍への憎しみを忘れることができず、シュキの一件で自分なりに考えた結果、鬼への道を諦めたのだった。
そのおかげで、今では毎日学校に通うことができているが、それまでは休みがちだった。
学業と鬼への道との両立は難しく、諦めかけたこともあった。
しかしそんなとき、支えてくれたのはいつも明日夢だった。授業のノートをコピーしてくれた。必要であれば解説もしてくれた。
そして何より嬉しかったのが、励ましだった。あきらのことを凄い凄いと称え、辛いときにはいつも励ましてくれた。
そんな明日夢を思い出すと、何故だか目が潤んでくる。
涙に光が反射して、キラキラ光る瞳に、明日夢は動揺を隠せなかった。
男は女の涙に弱いと言うが、明日夢は特に、その典型的な例だった。
「えっ、えぇっ!?あの、俺・・・。俺、何かまずいこと言ったかな?」
「いえ、そんな・・・。フフッ」
目を丸くしてオドオドする明日夢に、あきらは思わず笑みをこぼした。
「あっ、なんだ、よかった。笑ってくれて・・・」
よくわからないが、あきらの笑顔を見て一安心する明日夢。
「フフッ、ごめんなさい。昔のことを思い出して」
こぼれかけた涙をぬぐいながら、あきらは言った。
師匠であるイブキを始め、猛士のメンバー達は自分にとても良くしてくれていると思う。
家族がいない自分にとっては、家族のような存在と呼んでも過言ではないかもしれない。
しかし、自分には友達がいなかった。
家族とともに、普通ならば当たり前に持っているはずのものを。
はっきりとした自覚は無かったが、人を寄せ付けない、いや、突き放すようなとげとげしさが、自分にはあった。
明日夢に初めて会った時も、この性格のために彼を傷つけてしまった。
鬼の修行で学校を欠席しがちなのも手伝って、あきらには友達がいなかった。
別に、友達が欲しくなかったわけではない。
ただ、自分が人とは違う、そんな意識が根強くあった。
普通に学校へ行き、放課後にはクラブ活動に参加したり、友達と寄り道をしたりする。休日には友達と映画を見て、カラオケに行って、ショッピングを楽しむ。
そんな当たり前の生活に憧れが無かったわけではない。
ただ、私は・・・。
そんな自分に初めてできた友達が、明日夢とひとみだった。
ヒビキの指示ではあるものの、明日夢は特に優しくしてくれた。
自分の性格も少しずつ丸くなってきている気がする。
自分と自分の環境が変わっていくのが、何となく嬉しかった。
「でも、私に優しくしてくれるのは嬉しいですけど、持田さんには誤解されないように気をつけてくださいね?女の子は敏感ですから」
明日夢とひとみは付き合っている。
2人の間には、何物も立ち入ることのできない絆がある。
あきらはそう思っていた。
「えっ、持田?誤解って何を・・・。ん?天美さん、何の話?」
えっ、何の話って・・・。
「えっと、だから、その・・・。他の女の子とあまり仲良くしちゃうと、持田さんに怒られちゃうんじゃ・・・」
「えっ、なんで?」
相変わらず、明日夢は不思議そうな表情をしている。
「えっ、お二人は、付き合ってるんじゃないんですか?」
「えぇっ!?」
もどかしそうな、言いにくそうな様子で放たれたあきらの言葉に、明日夢は驚きのあまりベンチから立ち上がって大声をあげた。
周りにいた他の生徒たちが一斉に自分に目を向けたのに気付き、コホンと咳払いをして、すぐに座りなおす。
「そっ、そんなんじゃないよ。俺と持田は小学生の頃からの・・・そう、幼馴染み!別に、お互いにそんなふうに思ったりはしてないけど・・・」
「えぇっ、そうだったんですか!?」
物静かなあきらが声をあげて驚くのは珍しい。
「えっ、天美さんには、そう見えてたの?」
明日夢が恐る恐る尋ねる。
「はい、わたし、てっきり・・・」
学校の内外を問わず、明日夢とひとみは仲がいい。
思春期を迎え、恋人同士でもない男女二人きりでいるのは恥ずかしいというか、気まずいと感じるようになる年頃だ。しかし、少なくとも明日夢には、その感情は無いようだった。
「そっか、そんなふうに見えてたのか・・・。でも、本当に何でもないから」
照れ隠しのように、ポリポリと右手で後頭部を書く明日夢。
そんな彼に、あきらは良かった、と胸を撫で下ろした。
しかし、すぐに、ん?と考えなおす。自分は今、なぜ安心したのだろう、と思ったからだ。
明日夢とひとみが付き合っていたら、自分に不都合でもあるのか。いや、自分はそんなに意地悪な女じゃない・・・と思う。
もしかして、私は安達くんのことを?いやいや、私に恋なんて柄じゃない・・・。
そのときだった、目の前を一人の少女が横切ろうとしたのは。
「あれ、安達くんに、あきらちゃん?」
「あっ、持田」
突然のひとみの登場に、あきらは自分でもよくわからずに、気まずさを覚えた。
「二人でご飯食べてたの?」
「ああ、そうなんだ」
「ふーん。あっ、そうだ、あきらちゃん。後で―――」
瞳がそこまで言いかけたとき、不意にあきらは立ち上がり、駆け出していた。
自分でもわけのわからない行動だった。
閲覧有難うございました。
ネットも小説も何もかもが素人です。
キャラに違和感を感じる方もいらっしゃるかとは思いますが、どうか温かく見守ってください。
ご意見・ご感想、随時お待ちしております。
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ニ之巻「あきらの気持ち」
今回もあきらの心の中に焦点を当てていきます。
「はぁ・・・」
あきらは甘味処たちばなのテーブル席に座り、頬杖をついていた。
今日の昼間、明日夢とひとみの前から突然逃げ出してしまったことを後悔していたのだった。
「どうしたの?」
「大丈夫ですか、あきらくん?」
客が少なくて暇なのか、あきらの表情を察してか、店の看板娘である立花香須実と日菜佳の姉妹が、あきらの向かいの席に着いた。
「私、わからないんです・・・」
「わからない?」
「何がですか?」
「・・・安達くんのことです」
重い口を開いて呟くように答えたあきらに、立花姉妹は顔を見合わせた。おお、いよいよそういう展開になってきたか。そういった顔だ。
「今日、安達くんと持田さんが付き合ってないって、安達くんから聞いたんです」
「うんうん」
「それでそれで?」
立花姉妹は興味津々な様子で話を促す。
「私、安心したっていうか、ホッとしたっていうか・・・。そんな気がしたんです。でも、それが何故だかわからなくて・・・」
落ち込んだ様子で溜め息を吐くあきらに、立花姉妹は口を揃えておおと唸った。
「お二人は、どうしてだと思いますか?」
「そりゃあ、恋ですよ」
うーんと考える香須実に対し、日菜佳は軽い口調でサラッと答えた。
「あきらくんは明日夢くんのことが好きだから、ひとみちゃんとの関係を知ってホッとしたんですよ」
やっぱり、か。自分でも少し考えていたことだ。
しかし、それは同時に否定していた説でもある。
「私も、そうかもしれないって思いました。でも、私は1年前まで鬼の弟子だったわけですし、普通の女の子とは違うから、恋なんて・・・」
「別にいいんじゃない?」
口を開いたのは、香須実だった。
「鬼が恋をしちゃいけないなんて、誰が決めたの?大体、アナタはもう鬼とは関係ないじゃない」
「えっと、それは・・・」
「でしょう?トドロキくんは修行中の頃から日菜佳と付き合ってたじゃない」
「姉上とイブキさんも、ね」
日菜佳の言葉に少し頬を赤らめた香須実だったが、コホンと咳払いをして元通り。
「それにしても、あきらが明日夢くんのことをねぇ・・・」
「イブキさんみたいな人がタイプなのかと思ってたんですけどねぇ」
お茶を啜る立花姉妹は、何処か嬉しそうな、複雑そうな表情をしている。
「えっ、いや、私、まだ安達くんのこと好きとか、そんなことを・・・」
立花姉妹の話の流れに違和感を感じたあきらは、慌てて言った。
「ねぇ、さっきから思ってたんだけど、どうして明日夢くんのことを好きかどうか、自分自身でわからないわけ?」
「確かに確かに」
香須実の質問に、日菜佳もうんうんと頷く。
すると、あきらは少し俯いて答えた。
「実は私、ちゃんと人を好きになったことないんです・・・」
あきらの回答に、香須実はやっぱりかと頷き、日菜佳はあちゃ~と額に手を当てた。
「あの、それってやっぱり、よくないことなんでしょうか?普通の女の子なら・・・」
まだ幼い頃に両親を魔化魍に殺されて以来、心に大きな穴を抱えて生きてきたあきら。
普通の少女ならとっくに初恋を経験している年齢に達したあきらは、そのことについて思い悩み始めていたのだ。
「確かに、あきらくんの年で恋をしたことがないのは珍しいかもしれないですけど、それって全然、いけないことじゃないと思いますよ」
日菜佳が答えた。
少数派が悪と捉えられがちな社会だが、それは必ずしも悪とは限らない。
「そうね、日菜佳の言う通りだわ。だからね、あきら。無理に明日夢くんのことを好きだと思い込む必要もないのよ?」
「えっ・・・」
香須実の言葉に、あきらは思わず顔を上げた。
「いい?人を好きになることはとってもいいことだし、その権利は鬼にも元鬼にも等しくある。でも、恋に興味があるからって、自分でもよくわからない感情を恋だと決めつけるのは、危ないわ」
安達くんのことを、好きだと思い込む・・・。
確かに、恋に興味がないわけではない。
「まだよくわからないなら、わかるまで待てばいいんですよ。今以上にもっと明日夢くんのことを知って、その上で好きかどうか判断すればいいんです」
そのとき、そんな日菜佳の言葉を聞いて、ひらめいたように香須実はポンと手を叩いた。
「よし、決めた。あきら、明日は土曜日だから、学校は休みよね?」
「えっ、ああ、はい」
「フフッ、いい?明日、明日夢くんとデートをしなさい」
「ええぇっ!?」
あきらの大きな瞳は更に大きく見開かれ、ニヤニヤした香須実と日菜佳を写した。
恋愛経験が少ないので、この作品に自信がなくなってきました(汗)
女の子の気持ち、難しいです。
是非、感想としてご指摘などいただけたら幸いです。
閲覧有難うございました。
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三之巻「二人の約束」
あきらちゃん、頑張れ!
驚きのあまり大きく見開いた目をぱちくりさせるあきらを、立花姉妹は可愛いと思う。
何故だろう。胸がドキドキして、頬が熱くなる。
それを見て、日菜佳はニヤニヤが止まらない。
「こんにちは」
そのとき、店の戸がガラガラと開いた。
「いらっしゃいま・・・あら、明日夢くん!」
来客の正体に、あきらは飲んでいた緑茶を思わずこぼしてしまう。
どうも、と頭をぺこりと下げると、明日夢の目はあきらを捕らえた。
「よかった、ここにいるんじゃないって思ってたんだ」
明日夢は鞄から取り出したプリントを手渡した。
「ホームルームのすぐ後、先生が配るの忘れてたとかで持ってきたんだ。あきらさん、急いで帰っちゃったから、貰ってないでしょ?」
明日夢はそう言って微笑みかけるが、当のあきらは立花姉妹との会話を思い出し、頬を赤らめる。
「ちょうどよかった。あきら、明日夢くんを誘いなさい」
あきらの耳元で、香須実が囁いた。
「えぇっ、そんな・・・」
「そうですよ、自分から誘わなくてどうするんですかぁ」
日菜佳がガッツポーズでエールを送ってくれる。
「おーっと、魔化魍の資料の整理の途中だったんだ」
「あ、私も洗い物しなくちゃ・・・」
いかにもわざとらしく立花姉妹は席を離れ、テーブルには明日夢とあきらだけが取り残された。
店内では老人のグループが談笑しており、時折楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「いやー、それにしても、あきらさんって大変だよねぇ」
明日夢は学校の外では、あきらのことを下の名前にさん付けで呼ぶ。
「鬼の修行で勉強できなかった分を取り戻して、今習ってる単元もよくできてるじゃない?俺なんかとても・・・」
「あの」
明日夢の言葉を遮って、あきらは口を開いた。
「え、何?」
駄目だ、話し始めたはいいが、肝心な本題を切り出せない。顔が熱い。火が出そうだ。
そこへ、日菜佳が二人の前に吉備団子とお茶を持ってやって来た。
「はい。これは私から、若いお二人へのおごりですよ~」
「あれ、日菜佳さん、洗い物は・・・」
「明日夢くん、黙って食べましょうね?」
優しい口調とは真逆の視線に、明日夢はビクッとして、慌ててお茶を啜る。
立ち去るとき、日菜佳は口を「頑張って」と動かしながら、吉備団子を指差した。
あきらは一瞬不思議そうに首を傾げたが、明日夢と吉備団子とを見比べ、何かに気づくと、思わずプッと吹き出した。
「え、何、どうしたの?俺の顔に何か?」
不思議そうに尋ねる明日夢。
かつてヒビキはその頬をマシュマロのようだと言ったが、こうして見比べると、団子にも似ている。あきらは日菜佳の言いたいことを理解した気がした。
「あの、安達くん」
あきらは恥ずかしそうに少し俯いて話している・・・ように見えたが、実は、彼女の目はハッキリと、目の前の吉備団子を捕らえていた。
大丈夫、吉備団子相手なら、デートにも誘える。
「あの、その・・・。もしよかったら、明日、一緒に何処か、遊びに行きませんか?」
言えた!
「え!?」
明日夢は驚きのあまり、口に含んだお茶を少し吹き出してしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
あきらが慌てて布巾でテーブルと明日夢の制服を拭く。
「ご、ごめん、有難う。でも、俺と?一体どこに・・・」
そのとき、明日夢の肩に香須実がポンと手を置いた。手には映画のチケットが2枚握られている。
「この映画、二人で見てきたら?イブキくんと行くつもりだったんだけど、彼も忙しいのよ」
香須実がくれたのは、学園もののラブコメ映画のチケットだった。
確かに、高校生の二人には相応しいとも言える。
「あの、どうですか、映画・・・?」
あきらが尋ねる。その目は、吉備団子ではなく、ハッキリと明日夢を捕らえていた。
「うん、俺でよければ、いいよ。病院のバイトもないし」
女の子から二人で出かけようと誘われたにも関わらず、明日夢はいつもと変わらぬ様子で頷いた。
「よかったぁ~」
ホッと胸を撫で下ろし、正していた姿勢をどっと崩してあきらは背もたれに寄りかかった。
「映画かぁ、入学前に持田と二人で行ったとき以来だなぁ。楽しみだね」
あきらの前でも、明日夢は平気でひとみの話をする。
きっと、安達くんは誰に対してもこんな感じなんだ。私も持田さんも、特別な存在なんかじゃない。
ふと横に目をやると、店の奥から「家政婦は見た」のポーズでこちらを覗き込んでいる立花姉妹が、ガッツポーズをしていた。
あきらが明日夢くんをデートに誘う回でした。
明日夢くんは師匠のヒビキさんに似て、恋愛に関しては鈍感なんじゃないかと思って書きました。出演者のインタビュー対談でも、明日夢くんは恋愛に鈍感だということが語られていたので。
さて、ここからの続き全然考えてないけど、どうしたものか・・・。
閲覧有難うございました。
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四之巻「デートの朝」
デートの日の朝って、緊張しますよね(汗)
快晴の空から射し込む陽射しに目を覚ました少女・天美あきらは、ハンドバッグの中身の点検をしていた。もうこれで三度目になる。
昨日の夕方、明日夢とのデートを取り付けた後、あきらは香須実に連れられて繁華街へと買い物に繰り出した。
そういえばと、香須実があきらの私服について考えたのである。思い返せば、香須実の記憶の中にあるあきらの私服といえば、修行の際に着るようなものばかりだったからだ。
鬼の弟子を辞めてから、休日をまるまる運動に使うこともなくなったので、多少はオシャレをするようにはなっていたが、あまり気合いを入れたおめかしはしていなかった。
まさか、修行のときと同じ服装でデートするつもりなのかと、半ば強引に香須実に連れ出されたのだった。
香須実は繁華街をまるで自分の庭であるかのように熟知しており、スタイリッシュな服の店や可愛らしい服の店、高級ブランド店からリーズナブルな庶民派の店まで、いくつもの店を梯子した。
思えばあきらはイブキの元に引き取られてから、買い物を楽しんだ経験がなかった。いつも一人か、もしくはイブキと一緒に、安い店で安い服を適当に選んで買うだけ。
だって着る場所が山や川なんだもん、オシャレしたって仕方ない。そう思っていた。
だから今、あきらはウキウキした気分でパジャマを脱ぎ、昨日香須実に買ってもらったチェック柄のワンピースに着替えた。
ワンピースを着るなんて何年ぶりだろう。少なくとも、両親を失ってからは着たことがなかった。チェックの柄も自分には新鮮に感じられて気に入っている。
同じく昨日香須実に買ってもらった靴を履き、玄関の扉を開いた。
暗かったあきらの部屋に、光がどっと射し込んだ。
「あれ、あきら?」
マンションを出てすぐのところで、あきらはイブキに出会った。
何故か目を丸くするイブキにあきらは首を傾げるが、すぐに自分の服装のせいだと気づく。
「へー、流石は香須実さんのコーディネートだ。うん、すっごく似合ってるよ」
思えば、誰かから外見を褒められるのも久々だった。
それが純粋に嬉しいことだということを、あきらは思い出す。
「フフッ、有難うございます。イブキさんも、相変わらずすっごくカッコいいですよ」
ジャージをスタイリッシュに着こなし、汗をかいているところを見ると、朝のジョギングの帰りといったところか。
「ハハッ、実はこのジャージも香須実さんに選んでもらったんだ。・・・それより、今日は大事な日なんだろ?」
イブキは両手をポンとあきらの肩に置き、ニッと笑ってみせた。
恐らく、香須実か日菜佳から事情は聞いているのだろう。
「緊張するかもしれないけど、笑顔が大切だよ?」
何故だろう。イブキには、人を落ち着かせる力がある。勇気が湧いてくる気がする。
「・・・ハイ!」
あきらはイブキの真似をしてニッと笑うと、ぺこりと一礼してから再び歩き始めた。
「もぉ、なんで起こしてくれないんだよ!?」
大切な日に限って、男は朝寝坊をする。特に、明日夢はその典型的な例だった。
「だから、起こしたわよ。アンタがベッドから出てこなかったんでしょ?」
明日夢の母・郁子が珈琲を啜りながら答える。安達家では定番の会話だ。
「もぉ~!」
明日夢は衣装ケースからパーカーを2枚引っ張り出し、郁子の前で合わせてみた。
「どっちが女の子ウケいいかな?」
「う~ん、右ね」
「じゃあ、このズボンは?」
「断然左ね」
明日夢のコーディネートを見届けた郁子は再び珈琲の入ったマグカップに口をつけ、テレビに目をやった。
しかし、すぐに目を丸くして明日夢を見る。
「アンタ、服装なんて気にしてどうしたの!?」
「別に、どうもしないけど・・・」
「何処行くの?」
「映画」
「誰と?」
「友達と」
「女の子ウケがどうとか言ってたわね。その友達、女の子でしょ。それも、ひとみちゃんじゃない」
ぎくり、あきらと出かけることがばれてもなんら問題はないはずだが、なんだか気恥ずかしい気分だ。
「うん、そうだけど・・・」
明日夢は小さく頷いた。
「アンタ、いつの間にそんなモテるようになったのよ?」
郁子は目をキラキラ輝かせながら詰め寄ってくる。
「モテるのはいいけど、ひとみちゃんにはちゃんと断ったの?」
「いや、別に持田とはそんなんじゃ・・・」
「一人の人間として言わせてもらうけどね、浮気は最低よ!?」
「だから、そんなんじゃないって!」
不機嫌そうに行ってきますと言うと、明日夢は急いで出ていった。
「ふーん、あの子がねぇ。流石、私が惚れた男の息子だわ」
待ち合わせ場所の駅。
あきらは不安そうな表情で腕時計を見ていた。
待ち合わせの時刻を過ぎて15分。
遅いなぁ、安達くん。
連絡を試みたが、電話には出ないし、メールも返信がない。
何かトラブルに巻き込まれていなければいいけれど。
不安になって、ふと空を仰いだ。
はい、明日夢くんはやっぱり大事な日に寝坊します。ヒビキさんと 出会ってもそこは変わってないのなぁ。
ここから先、本当にアイディアがないんですけど、どうしましょう・・・?
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