ISー(変態)紳士が逝く (丸城成年)
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第0章 出会い
第1話 第一の出会い


初投稿です。もともと息抜きで書き始めたもので勢いのままに書いているので至らない点は多いと思いますがご容赦を。


 私は紳士であった。誰にも恥じることのない紳士だった。いや、むしろ紳士すぎて誰もが私の前では恥ずかしがるほどの紳士だった。

 今日も盗んだパンツを被って走りだす。靴下と顔に被ったパンツ以外すべてを脱ぎ去り、行く先も定めぬまま街灯に照らされた夜道を走る。

 なにものにも縛られない、この紳士道に足を踏み込み幾星霜。私はどこまでも自由だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逮捕されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し戻る。

 体の芯から凍えるような北風にさえ、滾るリビドーは負けることなく燃え上がり、今日も今日とて我が道を疾走する。そんな私に追いすがるものたちが現れた。パンダのようなツートンカラーで赤色灯が眩しい車がこちらを追ってくる。

 官憲どもに追われるのも慣れたもの。私は車の入れない路地に入り込み、撒きにかかる。

 その時、突然目の前に女性が現れる。

 あわやぶつかりそうになったところを無理やり体を捻りながら避ける。先ほどは気付かなかったが、狭い横道があったのだ。そこから出てきたのだろう。急いでいたとはいえ怪我をさせるところであった。

 

「失礼しました」

 

 謝る私に女性は先ず驚き、次に嫌悪感と怒気を現す。もう少しで怪我をするところだったのだ。怒るのも仕方のない話である。もっと真摯に謝るべきであった。

 

 

「本当に申し訳ありません」

 

 

 もう一度謝るが女性の嫌悪と怒気は治まらない。きちんと許しを請いたいが、今は追われる身、あまり立ち止まってもいられない。軽く頭を下げ、走りだそうと足に力を入れる。だが走り出すことは出来なかった。

 

 

「ぐっう」

 

 

 鋭い拳が私の胸板に叩き込まれたからだ。変な声が出てしまった。怒りに駆られた女性が襲い掛かってきたのだ。

 

 

「変態め、おとなしくしろっ!!」

 

 

 大変ご立腹のようである。改めて女性を見る。黒髪で黒いスーツを着た凛々しい女性だった。とても美人ではあるが、同時に男前な感じも受ける。どこかで見たことがあるような気がする。

 

 

「痛い目を見たくなければ自首しろ」

 

 

 女性は無造作にこちらに近寄ってくる。しかし、無造作に見えるのに隙が全くない。横を通り抜けることも、引き返すことも出来ないような気がする。横を通り抜けようとすればすれ違いざまに、引き返そうとすれば背を向けた瞬間強烈な攻撃を受けるであろう予感がする。

 

 

「女性は強くなったと言われて久しいですが、貴方はその中でも随分とお強いですね」

 

 

 目の前の女性はおそらく格闘技かなにか心得があるのだろう。少なくとも今まで見た女性の中で、いや男も含めて一番強いと確信をもって言える。

 

 

「これでも世界最強と言われている」

 

 

 女性の言葉は冗談を言っているようにも聞こえるが、私は逆に納得した。

 

 

「さもありなん。生身であれば私もかなり出来る方だと自負があります。雨にも負けず、風にも負けず幾多の夜を駆け抜けた。そんな私をして勝ち筋が見えないとは」

 

「駆け抜けた……。その格好でか?」

 

 

 女性の不快感が増したような気がする。何故だ……いや、そうか!

 

 

「失礼を。いつもはネクタイをきちんと着けているのですが、今日は昼食のカレーを零してしまったので着けていないのです。一度部屋に帰って替えを着けてこようかとも思いましたが時間がなくて……」

 

「そうか。カレーの汚れは取れにくいからな。私もこの前汚してしまって、そのまま脱ぎ捨てておいたら弟に怒られてしまった」

 

 

 なんだか女性が(´・ω・`)こんな表情になっていた。

 

 

「隙あり!」

 

 

 私は女性の気が抜けた瞬間を見計らって、女性の左横を通り抜けようと踏み込むようなフェイントをいれた後、逆側へと走りその勢いのまま壁に向かって跳び上がる。そして、三角跳びの要領で壁を蹴り、より高くその身を跳ね上げた─────────

 

 

「隙などない」

 

 

 会心の立体的な体捌きにも女性は対応し、自身もジャンプしながら私の左足首を掴む。そして、私はそのまま地面に叩き付けられた。流石に痛い。

 

 

「貴様は忍者か何かか?」

 

 

 呆れたように女性は言う。「いいえ、紳士です」

 

 

「貴様のような紳士がいるか!!」

 

 

 立ち上がろうとしていた私の鳩尾に強烈なツッコミ(アッパー)が入る。鍛え抜かれた私のボディーでなければ、内臓が破裂していたのではないかと思うような威力であった。堪らず片膝をつく。

 

 

「それにしてもタフな変態だな。下手をすれば死んでいてもおかしくない攻撃を入れているのだがな」

 

 

「ぐぐう。恐ろしい人ですね」

 

 

 だが、あきらめん。そんな軟弱な精神で紳士は務まらん。片膝をついた状態から低空タックルにいく。しかし、膝蹴りを綺麗に合わされる。朦朧となりながらも両手、両足を掻くように女性の横を抜けようと進む。

 

 

「本当に信じられんタフさだな。その身体能力と闘志があれば、人の羨むような者にもなれただろうに……」

 

 

 背後から腰の辺りに抱きつかれる。振りほどこうとするが、ふいに浮遊感があり次の瞬間夜空が見え……地面に叩きつけられた。

 

 (のち)に取り調べの時、警察官が「惚れ惚れとするようなブリッジであった。見事なジャーマンだった」と語っていた。

 

 意識を手放す直前に、私はこの女性が何者であるか気付いた。見覚えがあって当然である。かつて日本代表としてIS世界大会で優勝し、公式戦無敗のまま引退したIS操縦者だ。その実力と実績から、ブリュンヒルデと呼ばれた女性である。世界の構造すら変革させて見せたIS。その最強の使い手となれば、世界最強と言っても過言ではないだろう。

 

 運命の出会いであった。圧倒的な戦闘力に美しき姿。抱きしめられ、抑え込まれた状態で、私は人生で最高のエクスタシーを感じていた。魂の有り様まで変えてしまうような衝撃であった。




2015年10月7日若干修正しました。


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第2話 第二の出会い

織斑千冬との衝撃の出会いは紳士の魂にこれまでよりも熱い何かを刻み込んだ。彼はもう止まらない。この女尊男卑の世界を駆け抜ける。


 私は逮捕されてしまったが、初犯であったため比較的早く自由の身となれた。余罪はあるし官憲共もそれを前提として執拗に取り調べを行ったが、結局証拠は無かった為である。

 自宅に帰ると早速PCを起動し調べものを始める。もちろん私をKOした美しき獣について調べるためである。

 織斑千冬。第1回IS世界大会モンド・グロッソ総合優勝者。突然の引退。公式戦無敗。通称「ブリュンヒルデ」。家族は弟一人。両親なし。画像・画像・画像・画像・画像。

 

「素晴らしい」

 

 ただただ素晴らしいの一言である。他に類を見ない実績。圧倒的戦闘力。気高い狼のような美しさと精悍さを併せ持った姿。特にISを駆るその勇姿をみると私の全身からリビドーが迸りそうな感覚に陥る。

 しばらく調べ物をしていると自身の変化に気付いた。織斑千冬に対する並々ならぬ欲求はもちろんのことだが、彼女が世界最強の称号を手に入れた「IS」に対しても私は強い興奮を覚えていることに気付いた。「IS」関連の画像を収集していると織斑千冬以外の選手の画像でも激しい興奮を覚えるようになってしまっていた。

 

 

 

 

「IS」それはある日突然現れた。白騎士事件と呼ばれる既存の兵器群を揃って時代遅れの物にしてしまった大事件。世界の構造すら変えた「IS」だがいくつかの欠点があった。一つは女性しか操縦出来ないということ。もう一つはコアの数に限りがあるというとことだ。

 女尊男卑のきっかけであり注目度の高い「IS」である。操縦者を目指す女性の数は凄まじく、競争率はうなぎ上りである。そうなると必然「特別優秀」な女性が操縦者となるわけだ。「特別優秀」で人によってはモデルなども勤める女性たちが国の威信と自らの磨き上げた技術でしのぎを削る。

 そんな「IS」に触れてみたい。嗅いでみたい。舐めてみたい。擦り付けてみたい。包まれてみたい。「IS」を着た強き者を組み敷き……おっと途中から紳士的ではない思考をしてしまった。まだまだ私は未熟である。頭を振る。

 触れたりしたいと思い始めるとその気持ちはどんどんと高まっていく。だが色々したいと思って出来る相手ではない。ISは最新の戦車や戦闘機以上の戦力であるし、機密の塊でもある。それを取り巻くセキュリティーは生半可ではないだろう。

 常人であれば諦めるだろう。だが私に諦めるという選択肢などない。そもそも諦めるなどという思考は私の中には存在しない。こと性欲に関わる事柄については。

 私はセキュリティーのなるべく甘い所。侵入方法などを調べ始める。その時の私の表情は紳士にあるまじきものであっただろう。

 

 

 

 

 

 

 数ヵ月後

 

 

 千載一遇のチャンスが廻ってきた。信じてもいない神に三回ほど感謝を述べ、遂に私は邪魔者のいない状態でISの前に立つことに成功した。

 ここはIS学園の試験会場である。人の出入りが激しく紛れ込むのが比較的容易なここが狙い目であった。ここで私に二つの幸運が起こる。

 一つ目は会場のセキュリティーシステムがまともに稼動していなかったのである。正確にはまともに稼動しているように見せかけているだけの状態になっていた。システムへの介入の準備もして来ていたが多少手間取るかと思っていたので拍子抜けであった。と同時に警戒心も強まった。どうやら私以外にもここにちょっかいをかけている者がいるようだ。

 二つ目の幸運は運営スタッフの混乱である。先ほどから「男が起動させた」「技術者を呼んで」など慌ただしい。特に眼鏡をかけた豊満なる二つの夢を備えた女性スタッフは右往左往という言葉がこれほど当てはまる様子は他にないだろうといった様子である。「男が起動させた」という言葉とこの混乱、まさかISを男が起動させたのであろうか。興味深いことである。

 そもそもIS学園の試験会場に何故男がいてISを起動させるような状況になるのか?まさか試験を受けに来ました。などということはないだろう。私と同志なのだろうか。

 様子を見に行きたいが下手をすれば私も見つかってしまうし(すでに犯行がばれた同志扱い)、なによりもこの降って沸いたチャンスは逃せない。試験会場には複数のISが用意されている。その中でも予備機として持ち込まれているISならスタッフが直接監視したりはしていない。忍び込む前から狙いをつけていたISを目指しひた走る。

 

 そして今、私の目前にはISがある。本当は国家代表クラスの実力者が試合に使った直後のISこそが私の最終目標であるが目の前のISも垂涎の獲物である。量産機ではあるがISというものは兎に角数が少ない。目の前のISも相当使い込まれているはずだ。IS学園で使われているISである。現役や過去の国家代表に匹敵するの実力者も使った可能性は十二分にある。

 私は静かに服を脱ぎ綺麗に畳んだのちISへと手を伸ばす。

 その時、背後から悲鳴が聞こえた。

 

「何をしているんですか!!」

 

 振り向くと先ほど右往左往していた豊満なる女性スタッフが口に手を当て驚愕の表情で震えていた。

 

「ぬかった!!鍵を閉め忘れるとは!!」

 

 獲物を目前にした興奮の為に失念していたのだ。獲物を仕留めようとするその瞬間こそもっとも隙が出来ると分かっていながら酷い失態である。そこで慌てていたため何の感動もなくISに触れてしまう。つくづく詰めの甘い。

 

 するとISが光だしたのだ。そしてISが起動し……。

 

 私から距離をとった。

 

「「ISが自分で逃げた!!!」」

 

 

 

 この日、世界で二人目のIS男性操縦者が誕生した。



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第1章 二人目の男性IS操縦者は自称紳士
第3話 男のクラスメイトが増えるよ。やったね一夏君!!


 私は今、楽え……。ではなく学園にいる。そう、ここはIS学園である。私がペロペロしたいと夢にまで見たISを学ぶ園である。生徒の中には未来の国家代表がいるだろうし、教職員の中にはIS操縦者として華々しい戦歴を飾った者もいるだろう。そして極めつけは私の女神たる織斑千冬がクラスの担任であるという。

 IS操縦者の卵や雛たち。そして女神のいる学園の空気を思うがままに吸う。甘い匂いが薫ってきそうだ。今なら空も飛べる。

 興奮すると呼吸音がシューコーシューコーしてしまう。この格好では仕方がないが、いささか煩わしい。実を言うと私は入学式に出ることが出来なかった。非常に残念である

 今着ている学園側が用意してくれた特注の服装やその他諸々の手続きの為に遅刻してしまったのだ。学園はもともと私を入学式に出す気はなかったかもしれないが。とにかく面倒な手続きも終わり女神と学友たちが待つ教室へと向かう。

 

 

──────────────────────────────────

 

 

 その頃、教室では一人目の男性IS操縦者である。織斑一夏が所在無さげに自分の席に座っていた。現状、織斑一夏とそのクラスメイト達は織斑一夏こそが世界で唯一の男性IS操縦者だと認識している。そんな希少な存在である織斑一夏にクラスメイト達は興味津々であった。そして一夏にとってそれは大変肩身の狭い状況であった。

 一夏が女子生徒達から受けるプレッシャーに耐え忍んでいると、眼鏡をかけた巨乳の女教師が教室に入ってきた。

 

「みなさん席に着いてください。SHRを始めますよー」

 

 なんだか頼りない教師であった。しかし、胸は大きい。

 

「私はこのクラスの副担任を務める山田 真耶です。これから一年間よろしくおねがいしますね」

『……』

 

 教室を沈黙が包む。生徒達の反応の少なさに山田先生は涙目である。それでも何とか気を取り直す。

 

「えっと……じゃあ先ず自己紹介をしましょうか。出席番号順でお願いします」

 

 自己紹介が始まって一夏がクラス見回していると、その中に自分の幼馴染を見つけた。見間違いではないよな、箒だよな、と眺めていると。

 

「織斑君? おりむらくーん? 聞いてますか?」

「はっはい!?」

 

 一夏は自己紹介の番が回ってきていたことに気付かなかったのだ。クラスメイト達は笑っている。

 山田先生は困ったような顔をしていた。

 

「あっ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。でも織斑君の番だから自己紹介してくれるかな? だ、駄目か……な?」

「いえ、はい。大丈夫です。自己紹介しますから。落ち着いてください」

「ほっ本当ですか?お願いしますね?」

「え、えっと。織斑一夏です。・・・よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いしますね」

「あー……以上です」

 

 ズルっという音が聞こえそうな程見事に数人の生徒がずっこけそうになる。それ以外の生徒たちも「えっ!? 終わり?」という顔をしている。

 一夏は一瞬気まずそうな顔をしたが、さっと座ってしまう。

 

 パァッーン

 

 乾いた音が教室に響いた。いつの間にか一夏の横に立っていた千冬が持っていた出席簿で一夏の頭を叩いたのだ。

 

「お前は自己紹介もまともに出来んのか!?」

「げええっ!!関羽!?」

「お前は私が三国志の見事な髭をした武将に見、え、る、の、か?」

 

 千冬は一夏の頭を掴みそのまま持ち上げてしまう。一夏は「ギブっギブッ」と自身を掴む千冬の腕をタップしているが、千冬は意に介さず山田先生と話す。

 

「織斑先生、彼の手続きは終わったんですか?」

「ああ、もうこちらに向かっているはずだ。クラスへの挨拶を押し付けてしまいすまなかったな」

 

 千冬は一夏を放しクラスを見回す。

 

「諸君、私が1年1組担任の織斑千冬だ。今の貴様らはクソの役にも立たんヒヨッコだ。しかし安心しろ。どんなクソでもこれから1年で一人前の戦士にしてやる。文句のある奴は前に出ろ」

 

 ことさら大声を出したわけではないが良く通る声だった。普通こんなことを言われたら嫌な顔をするものだが、このクラスにはそんな人間はほとんどいなかった。

 

「キャー、ち、千冬様よ。こんな近くで生千冬様が見れるなんて!!」

「ずっとファンでした」

「貴方のファンになって病気が治りました」

 

 凄まじい歓声だった。

 あまりの勢いに千冬の近くいた一夏は両手で耳を塞ぎ顔を顰める。

 千冬は慣れたものなのか呆れながらも平然としている。

 

「毎年、毎年何故こうも私のクラスは騒がしいんだ。あれか? 私のクラスにこういう馬鹿共を集めているのか?」

「キャー、千冬様に罵られちゃった♡」

「でも、たまには優しくしてー!」

「そしてつけあがらないように躾けて!!」

 

 諦めたのか千冬はこれら歓声をスルーし一夏の方を向く。

 

「自己紹介くらいまともにしろ馬鹿者」

「なんで千冬姉がここにいってええええ」

 

 再度一夏の頭は災難に遭う。

 

「織斑せ、ん、せ、い、だ」

「ぐうう。分かりました織斑先生」

 

 このやり取りを聞いていたクラスメイト達は騒然となる。

 

「織斑君って苗字が一緒だからまさかと思ったけど千冬先生の弟?」

「やっぱり千冬様の弟だからISに乗れるのかな」

 

 色々な疑問は出たが結局答えを出せる者などいない。そこで騒がしい教室に千冬が大きな爆弾を落とす。

 

「実は入学式には出ていないがこのクラスにはもう一人生徒がいる。そいつは男だ。今こちらに向かっているからそろそろ来るはずだ」

 

 

 

 

「「ええええええ!?」」

「二人目の男性操縦者!!」

「嘘でしょ!!」

「一人でも凄いのに同じクラスに二人目が!!」

「静かにしろ」

 

 今日一番の盛り上がりを見せた教室であるが、千冬の一言でシンと静まり返った。元々緩い感じは一切ない千冬だがより一層厳しい顔付きで告げた言葉に逆らう愚か者はいなかった。

 

「先に言っておく。二人目の男性操縦者は普通ではない。悪い事は言わん、こいつと同じような扱いはするな」

 

 千冬は一夏の頭を軽く叩きながら続ける。

 

「アイツには触れるな、話しかけるな、エサをやるな、目を合わせるな、近づくな」

「ちょっ待ってくれよ。ちふ……ゴホン、織斑先生。いくらなんでも言いすぎだろ。どんな奴なんだよ」

 

 一夏は千冬に睨まれ慌てて名前を言い直す。

 

「アイツは前科者だ。そのうえ驚異的な身体能力を持ち、頭も切れる。代わりに人として大事なものも切れてしまっているがな。一度手合わせすることになったが……はっきり言おう。生身であるならこの学園で相手になるのは私ぐらいなものだろう」

 

 一夏も含めクラスメイト達もあまりの驚きにどう反応していいのかわからない。

 前科持ちというのも驚きだが世界最強と名高い千冬がまるで自分と同格の力を持っているかのように語っているのだ。

 

「それにアイツがISを動かした経緯もまずい。アイツはよりにもよってIS学園の入学試験場に忍び込み、セキュリティーを掻い潜って予備機として用意していたISを起動させた。単独でだ」

 

 教室が静まり返る。幼い頃からISの操縦者を目指してきた者たちである。イレギュラーで入学することになった一夏以外の者たちは、ISがどれほど厳重な管理下にあるか、程度の差はあるが理解している。で、あるからこそその異常性を理解できる。

 金髪の縦ロールの生徒が手を上げ発言する。

 

「その方はテロリストなのですか。もしくはどこかの組織に所属していたのですか? 軍か何かに?」

 

 千冬は首を横に振る。

 

「いや、テロリストではない。それと拘束された時もそれ以前にも軍や諜報関係の組織に所属したという話はない。完全な一般人だ。そうでなくては流石にこのIS学園へ入れることは出来ないしな」

 

 世界最強が認める強さにアクション映画の役かなにかと言いたくなるような潜入能力を持った一般人とはどんな人間なのか。聞けば聞くほどクラスメイト達の疑問は膨らむばかりだ。

 

「その方は何が目的だったのですか?」

「取調べでは色々言っていたようだが、『ただそうしたかった』ということだ」

 

 金髪縦ロールが質問を続けようとしていると教室の扉がノックされた。その場にいた全員の目が扉に集中した。ゆっくりと扉が開かれる。

 

 

 

 

 

 入ってきたのは特殊部隊の隊員が着るようなタクティカルベストやボディーアーマーなどを着けた大柄な女性であった。

 

「織斑先生、対象を連れてまいりました」

 

 一瞬、今話題にしていた人物が入ってきたのかと思い教室に緊張がはしったが違ったようだ。ただすぐそこに話題の人物は来ているようで、教室内の緊張はまた高まりつつある。

 

「ああ、ご苦労。入れてくれ」

 

 大柄な女性は千冬の言葉に頷き廊下に向かって指示を出す。するとその女性と同じような装備の人間が三人ほど二輪の台車を運び込んでくる。台車には一人の人間が乗っていた。

 台車に乗せられている人物は白い拘束衣によって全身を拘束されている。足まで動かせないようになっているために台車に乗せて運んできたのであろう。顔にも拘束用のマスクが着けられている。この人物こそ先程まで話題となっていた者であろうとはクラスの全員が察した。先程までの話とこの物々しい扱いから多くのクラスメイトが恐怖心を抱いたが千冬は気にしていないかった。

 

「とりあえず拘束マスクは外してくれ。こいつに自己紹介をさせる」

 

 千冬の指示された大柄な女性は困惑した様子だった。

 

「拙くないですか」

「問題ない。何かあっても私がなんとかする」

 

 何でもないという自信に満ちた千冬の言葉に大柄な女性は頷き拘束マスクを外した。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────

 

 

 

 やっと教室に到着した。目の前には女神と女生徒達と+アルファが私を待っていた。女生徒達は何故か私を見て怯えているようだ……。この服装がいけないのであろうか?私をここまで運んでくれた女性たちがわざわざ着せてくれた特注品だが、近頃の若い娘たちには不評のようだ。

 10分ぶりな女神の全身を舐めるように観察する。実際に舐められると嬉しいのだが残念ながら今は無理だ。

 次に教壇に立っている緑がかった髪の教師を眺める。身長は低いが胸は豊かなことこのうえない。私は秘かにメロンちゃんと名づけた。身長が低いため余計に大きく見える。等級は間違いなく「秀」に達していると思うがサイズはL玉だろうか? 服の上からではなかなか判断の難しいところだ。

 生命の象徴たる乳房について考察をしていると女神が私のマスクを外すように指示してくれた。自己紹介をしろとのことだ。彼女は既に私のことをある程度知っているはずなので、おそらく私の声が聞きたいということなのだろう。彼女のように素晴らしい女性に求められるとは私は幸せである。

 

「女神とメロンさん、これからよろしくお願いします。はじめましての方々もこれから仲良くしてくださいね」

「女神というのは私のことか? 次にその呼び方をすれば窓から放り出すぞ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

 なぜか女神に怒られてしまった。正面から浴びる女神の怒気は心地よいがあまり怒らせてばかりだと嫌われてしまう。とうぶんは織斑先生と呼ぶことにしよう。

 

「……えっ!? じゃあ、もしかしてメロンちゃんって私のことですか?」

 

 メロンちゃんはどうもワンテンポ反応がズレているような気がする。まだ「なんでメロンなんでしょう?」とかボソボソ呟いている。小さな声だが近くの生徒達には聞こえたらしく彼女たちはメロンちゃんのメロンを恨めしそうに見ていた。

 さて挨拶に続き自己紹介をはじめるとしましょう。

 

「では改めまして私の名前は山田 太郎と申します」

((絶対偽名だろ!!!!))

 

 日本人の生徒は全員が心の中で叫んだ。

 私が名乗ると山田先生は凄く微妙な顔をしていた。あと一部のクラスメイトがヒソヒソと

 

「山田って言ったよね」

「副担任の山田先生と何か関係があるのかな」

「もしかして千冬先生と織斑君みたいに家族とか」

 

 それを聞いた山田先生は涙ぐみながら「ちっ違います。私とは関係ありません」と全力否定していた。

 

「私は皆さんと年はかなり離れており、今年で28になりますが遠慮などせず話しかけてください。趣味はランニングです。ほぼ欠かさず毎日やっています。進路はIS関連を考えています。そして紳士たらんと精進しております」

 

 私が無難な自己紹介をすると反応はそこそこだった。

 

「結構普通じゃない? 服装がアレだけど」

「28か〜。もっと若く見えるよね。服装はアレだけど」

「ランニングが趣味って無駄に健康的だよね。服装はアレだけど」

「紳士ってどういうこと? 少なくとも服装は紳士じゃないでしょ」

 

 アレってどういう意味なんでしょうか。それにしてもこの拘束衣は本当に不評ですね。この拘束衣を特殊部隊みたいな格好をした女性たちに着せられていた時は、なんだか気分が高揚しましたが、今は不便なだけでクラスメイトにも不評なようなので止めましょうか。

 

「織斑先生、この服を脱いでもいいですか?」

「裸になりたいという意味なら駄目だ」

「拘束衣だけですよ。不便なので。これではトイレにも行けない」

「そのまましろ」

 

 女神のセリフを反芻する。「そのまましろ」?まさか10歳以上年の離れた少年少女達で満たされたこの教室でこの格好のまま糞尿を垂れ流せとおっしゃったのか? なんという非道。糞尿を垂れ流すところを想像するだけで興奮してしまいます。出す瞬間の開放感。出した後に周囲の女神や少女たちがするであろう嫌悪感に満ちた表情。思い浮かべると全身の血が沸騰しそうです。

 理性と本能がせめぎ合う。

 

 

天使『駄目駄目。みんなが真面目に勉学に励んでいる時に、横で便を垂れ流すことに励むなんて最低だよ。そんな迷惑をかけるなんて紳士にあるまじき行為だよ!!』

 

悪魔『だが、それがいい』

 

悪魔『それに女神がそうしろと言うのだから仕方なかろう(にっこり)』

 

天使『そうだね。仕方がないね(にっこり)』

 

 

 結論が出た。あとは出すだけ。わたしがキバリ始めたところで女神が先程の発言を撤回した。

 

「やはりなしだ。こんなところでされると迷惑だ」

 

 も、弄ばれたのか。なんという残酷。期待させるだけさせて落とす。なんたる邪悪。だがそこがいい。

 

「拘束衣も外して構わん」

 

 女神の発言に私を運んできた女性たちが慌てる。

 

「織斑先生それは駄目です。危険すぎます。許可できません」

 

「このクラスのことは私に一任されている。私がいるときは問題ないし、それ以外の時は手錠と足枷ぐらいで十分だろう。このままだと邪魔すぎる」

 

 どうやら女神は学園でかなり強い立場のようだ。私を運んできた女性たちは不満そうな顔をしていたが女神の言葉に従うようだ。そして拘束衣を外し、新しく用意された手錠と足枷を着けたところでSHRの時間は終了となった。




主人公の名前がやっと登場。

主人公が教室に運ばれて着たときの服装は「コン・エアー」という映画に出てきた猟奇殺人者が護送されてきた時の感じをイメージしました。


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第4話 イギリスの淑女(仮)

どうしても一人称と三人称の使い分けが上手く出来ない(泣


一人称だと書き進め易いし好きなんですが、三人称でないと表現しづらい部分もあり迷走中です。あと三人称オンリーで書くと文章がどうしても重くなってしまう・・・。


 自己紹介と山田太郎の登場でSHRの時間は終わってしまった。休み時間になると女子達の視線はほとんどが一夏に集中した。少数ではあるが太郎を見ている女子もいた。しかし両者ともに遠巻きに二人を見ているだけで誰も話しかけようとはしなかった。

 

 太郎の席は最前列で一夏の隣となった。一夏に興味津々なクラスメイト達も拘束衣姿で運び込まれ、現在も手錠と足枷をした太郎がすぐ隣にいたのでは気軽に話かけることは躊躇われた。

 

 しかし、そんなことを気にしない人間がこの教室にはいた。馬鹿なのか大物なのか、彼は太郎に普通に話しかけた。

 

「よう、おれは織斑 一夏。これからよろしくな」

 

 

 織斑一夏本人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太郎視点

 

 自己紹介が終わり休み時間になると女神は教室から出て行ってしまった。残念ではあるが今は新しく出会いこれから1年間は付き合っていくことになるクラスメイト達を観察することにした。女子生徒達は壁際や窓際に集まって私ともう一人の男性操縦者を見ている。

 

 

 

 何だか女子生徒達とは距離があるような気がする。物理的に。

 

 

 

 

 

 こちらから話しかけてみようかと立ち上がりかけたところ隣の席の男性操縦者が話しかけてきた。

 

「俺は織斑 一夏っていいます。これからよろしくお願いします」

 

 

 名前は知っている女神の弟であり彼女の唯一の家族である。女神の家族を蔑ろには出来ない。

 

「先程も名乗りましたが私は山田 太郎といいます。織斑さん、これからよろしくお願いしますね」

 

「一夏って呼び捨てでいいですよ。おれ、堅苦しいのは苦手だから」

 

「じゃあ、一夏これからよろしく」

 

 

 一夏は人懐っこい笑顔で無邪気に「男が俺一人じゃなくて良かった~。」と言っている。どうやら彼は私が教室に来るまで随分と肩身の狭い思いをしていたようだ。顔の造形は女神と似ているが性格はかなり違うようだ。無邪気に笑う顔は凛々しい女神とは違った良さがある。

 

 

 

 

 アリだろうか?

 

 

 

 保留かな。私には男を愛でる趣味はまだないのでここは一旦保留にすることにした。数人の女生徒が残念な顔をしていた。

 

 一夏と当たり障りのないことを話しているとポニーテールの少女が話しかけてきた。どうやら一夏に用があるようだ。二人は私に一言かけて教室から出て行った。

 

 

 

 

 休み時間が終わると女神改め織斑先生とメロンちゃんこと山田先生が入ってきた。授業内容は『IS概論』。簡単に言うとこれから3年間で学ぶ内容を大まかに要約して紹介していく授業である。まだ専門的な理論などを覚える段階ではないので本来であればここで戸惑うような生徒はIS学園にはいないのだが・・・・。

 

 隣に座っている一夏は例外のようだ。顔色が悪い。最初は体調でも悪いのかと思ったが、周りをキョロキョロと見て自分以外に困ったような顔をしている人間がいないことに気付くと頭を抱えだしたところで確信した。彼は早くもつまづいてしまったのだ。

 

 山田先生もそれに気付いたのか

 

「織斑君、どこか分からないところがありましたか?」

 

「・・・・。むしろ分かるところがありません」

 

「えっ・・・。全部ですか!?」

 

 

 全部分からないと言われた山田先生は自分の授業内容に不備があったのか不安になったのか他の生徒達がどうなのか見回す。

 

「ほ、他にここまでの内容で分からない所のある人はいますか~?いれば手を挙げてください~」

 若干声が震えている。

 

 

 手を挙げる者は一人もいなかった。

 

 

 

 教室内はまさにシーンという表現がぴったりな空気だった。

 

 

 焦った一夏は私に「太郎さんは大丈夫なんですか?」と小声で聞いてきた。自分と同じく急遽IS学園に入ることになった私なら自分と同じように授業が分からないのではないかと思ったようだ。

 

 山田先生もそこに思い至ったのか心配そうにこちらを窺う。

 

「問題ないですよ。先程貰った教科書は一通り確認しましたがこのくらいなら全て理解できますよ。事前に貰っていた参考書もほとんど知っている内容でしたし」

 

「すげええ。でも参考書?・・・・。貰ったっけ?」

 

 一夏が首をかしげている姿を見ていた女神こと織斑先生の表情はだんだんと険しくなっていく。

 

「織斑、入学前に学園の手続き書類や案内と一緒に渡した参考書はどうした?」

 

「あっ!あれか!」

 

「読んでおくように案内にも書いてあっただろ」

 

「古い雑誌と思って捨てました」

 

 

 スパーンと乾いた音がした。中身が少ないといい音がでるのだろうか。

 

「この馬鹿者が、後で再発行してやるから今週中に読んでおけ」

 

「いやっ、あんな分厚いのを・・・・。分かりました」

 

 一夏は織斑先生の睨みに頷くだけであった。うん凄い迫力。今は女神じゃなくて鬼神でした。

 

 山田先生が授業を再開しその後は特に問題なく進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太郎さん、俺に勉強教えてくれないか?」

 

 

 一夏は授業中から私のことを「太郎さん」と呼んでいる。そう呼ぶことに決めたらしいが別に貴方なら義兄さんと呼んでもいいんですよ。

 

「教えるのは構いませんが、とりあえず参考書を一通り読まないと話にならないですよ」

 

「え~。きついな」

 

 

 一夏が頭を抱えていると金髪の少女が近づいてきた。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「へ?」

「何か御用ですか、お嬢さん?」

 

 なかなかに美しい少女であったが少し高慢な喋り方だった。それにしてもコーマンという言葉はいやらしい響きですね。金髪少女コーマンと並べるとグーグル先生がいけないサイトを引っ張ってきそうでつい笑みが零れてしまいます。

 

「何ですの、その反応は!そちらの方はともかく織斑さんは失礼ではありませんの。この私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるのではないかしら。」

 

 

 一夏があからさまに嫌な顔をする。この手の面倒な女性は今の世の中珍しくもないのだから上手くあしらえばいいのだが一夏にはそんな考えは一ミリもないようだ。

 

「いや、俺、君のこと知らないし」

 見事に油を注ぐ。

 

「なんですって!!イギリスの代表候補生であるこのセシリア・オルコットを知らない!!巫山戯ているのですか!!」

 

 

 怒っている女性の顔も嫌いではないがこうもキンキン響く怒声というのはいただけない。だが一夏は油を注ぐことをやめない。

 

「ふーん。・・・・太郎さん、代表候補生って何?」

 

 

 わざと煽っているのなら天才的な煽りスキルですが・・・

 

 

「名前の通りイギリスの代表に選ばれる可能性のある候補の一人ということですよ」

 

 

 説明したがこれ以上分かりやすくすることは難しい。これで分からないなら同じ山田でも先生の山田に聞いて欲しい。

 

「そうです。わたくしは選ばれた存在なのですわ!!そのわたくしに話しかけて貰えたことに感謝すべきですわ」

 

「それで何か御用ですか?」

 

 

 このまま一夏に喋らしていると埒があかないので二人の間に割り込み、丁寧な口調で話しかけるとセシリアさんも少しは落ち着いたようで幸いです。

 

「ええ、わたくしは優秀ですから先程の授業で早々とにつまづいてしまった織斑さんにISについて教えて差し上げようかと思いまして。まあ、泣いて頼むならですけど。なにせ学園の入試の実技で唯一教官を倒したわたくしですから」

 

 

 多少落ち着いたといっても言っている内容は相変わらず自慢と相手を見下すようなものばかりである。どう対応しようかと考えていると一夏がまた無意識だろうが煽ってしまう。

 

「俺も教官倒したんだけど」

 

「えっ!?私だけと聞きましたが!?」

 

「女の中では唯一ってことじゃないのか」

 

 

 一夏がそういうとセシリアは私を睨みつける。貴方はどうなの?ということだろう。

 

「私は実技免除ですよ。試験会場で拘束された後は取調べと検査で忙しかったので」

 

 

 私の言葉に二人は凄く微妙な顔をしたところでチャイムが鳴った。

 

「続きは後でしますわよ」

 

 

 捨て台詞を言って席に戻る。かませで小者っぽい印象を受けるが胸は小物ではなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑先生と山田先生が教室に入ってくるとすぐに授業が始まるかと思ったがそうはならなかった。

 

「授業を開始する前にクラス代表を決める。基本的には学級委員みたいなものだがクラス代表戦というものがあってその際にはその名の通りクラスを代表して戦ってもらうことになる。自薦、他薦は問わん。誰かいるか」

 

 

 唐突な話に戸惑っている者も多いが何人かが手を挙げた。

 

「織斑くんがいいと思います!!」

 

「せっかくだし織斑君で!!」

 

「えっ、俺!?そんなの俺はやらないぞ」

 

 

 一夏は嫌がるが織斑先生は聞く耳を持たない。だが納得出来ない者がもう一人いた。

 

「男性が代表など認められませんわ!!男性操縦者など単に数が少なく珍しいだけではないですか。ここはイギリス代表候補生であるわたくしセシリア・オルコットこそが相応しいですわ」

 

「ただでさえ極東の島国に来ることになって気が滅入ってますのに、そのうえクラス代表は何も分からない猿が推薦されるなんてどうかしているのではなくて!!」

 

 

 随分な物言いであるが一夏も負けていない。

 

「イギリスだって大した国じゃないだろ。何年連続世界一まずい料理の国チャンピオンだよ」

 

「男のくせに喧嘩を売ってますの!?」

 

「喧嘩を売ってきたのはそっちだろ!!」

 

 

 ヒートアップした二人は止まらない。興奮したセシリアさんの胸の揺れを観察していると一夏がこちらに話を振ってきた。

 

「太郎さんも何か言ってくださいよ」

 

「私としては(変態)紳士の国であるイギリスには興味が尽きないのですが」

 

 

 私の言葉にセシリアさんの表情が一瞬陰るが「紳士など過去の話です」と吐き捨てる。

 

「紳士とは名ばかりの腑抜けばかりですが猿よりはマシですけどね」

 

 

 な、なんだと!!紳士がいない!!本場イギリスで・・・。私は衝撃で呆然としてしまう。その間セシリアさんと一夏はまだ喚きあっている。

 

 

「何が猿だ。良く知りもしないで人の悪口ばっかり言っている。お前の方が最低だろ」

 

「誰が最低ですって!!いいでしょう決闘ですわ」

 

「いいぜ。そっちの方がわかりやすい」

 

 

 私が呆然としている間に二人は決闘することになったらしい。

 

「実力の違いを見せてあげますわ。完膚なきまでに叩きのめしたのちに小間使い・・・いえ奴隷にしてあげますわ」

 

 セシリアさんの宣言を聞いて私は驚いて彼女を見つめてしまう。

 

 

 

 

 イギリスに紳士はもういないとセシリアさんに言われ、呆然としていましたががなんのことはない。(変態)紳士の精神はちゃんと受け継がれているではないですか。公衆の面前で「決闘で叩きのめしたうえ奴隷にする」などとなかなか過激なお嬢様ですね。

 

 奴隷にしてどうするのでしょうか。少し想像してみる。裸で首輪を着けられてセシリア嬢の隣でヨツンヴァインになっている一夏・・・・。悪くないんじゃないでしょうか。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら、早速お願いかしら?」

 

「いや俺がどの位つけるかの話なんだが?」

 

 

 一夏の言葉にセシリアさん以外の女子生徒達が笑い始める。彼も試験で教官を倒したとのことなので自身の実力に自信があるのでしょう。

 

「織斑君、それ本気で言ってる?」

 

「男が女より強かったのはISが出来る前の話だよ」

 

「もし女と男が戦争したら三日もたないって話だよ」

 

「し、しまった・・・」

 

 

 自信があるわけではなく失念していただけのようでした。本当に頭の方は残念なようです。しかし私は彼に対して以上に女子生徒達の浅はかさが残念でした。無邪気に女の優位性を語っていますがISは全能というわけではありません。通常兵器に対して圧倒的な優位性を持つISですが弱点がないわけではありません。

 

 先ず、数が少ない。これはどうしようもない弱点である。世界は広い。500もないISでどうやって世界中にいる男を制するのか?

 

 つぎに稼働時間と補給とメンテナンス。ISには自動修復機能もついているが何でも勝手に直るわけではないし、消費した弾薬がどこからともなく補充されるわけでもない。限られた稼働時間。そして補給とメンテナンスのことを考えればただでさえ少ない機体数なのに実働数はどうなるのか。IS操縦者も人間でありISを操縦していない時には無防備である。

 

 最後に各国の政府や軍はIS操縦者の制御について様々な方法を持っているはずである。個人で扱う兵器としては破格の戦力であるISとその操縦者に何の首輪もついていないと考えるのはあまりにも愚かである。

 

 私はIS操縦者は優秀な人間ばかりで、その卵であるIS学園の生徒達も皆聡明であると思っていましたがそうでもないようです。

 

(この程度のことも分からない生徒も結構いるのですね)などと考えていると

 

 

「山田さん、貴方はどうなんですの?自分は関係ないというような顔をしておりますが、自分は他の男とは違い女には負けないとでも?織斑先生は貴方の実力を随分と評価しているようですが」

 

 

 いきなり私の方に話が飛んできました。それにしても我が女神たる織斑先生が私を評価している?

 

「評価して頂くのは大変光栄ですが、織斑先生に評価してもらえるような理由が思い当たりませんね。初めて会った時は手も足も出ませんでしたし」

 

「お前はあの時手加減していただろ」

 

「いえいえ、全力でしたよ」

 

「お前からは殺気どころかこちらを倒そうという意志がほとんど感じられなかったぞ」

 

 

 彼女ぐらい強くなるとそんな事まで分かるのでしょうか?

 

「貴方を傷つける理由などありませんでしたから」

 

「それでは全力とは言えんだろ。手加減されるなど剣術を学び始めてすぐの頃以来だったぞ。お前とは一度本気で手合わせしてみたい」

 

 

 織斑先生を傷つけるような闘いはしたくないと最初は思いましたが、全てをかけて何もかえりみず魂まで粉々になるほどぶつかりあう。彼女に求められるとそんな闘いをしてみたいとも思ってしまいました。果たしてそれが私の目指す紳士としての道に沿ったものなのかも今はまだ分かりませんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア視点

 

「お前とは一度本気で手合わせしてみたい」

 

 

 織斑千冬、第一回モンド・グロッソで総合優勝したIS業界で三本の指に入るほどのレジェンドである。その彼女にそこまで言わせる山田太郎という『男』。そう『男』である。男のくせにISを起動してこの扱い。織斑先生にここまで言わせるのだから実力はあるのだろう。もう一人の男性操縦者である織斑一夏とは違い愚かでもないだろう。

 

 しかし、『男』である。多少能力があろうと所詮は『男』など取るに足らない存在である。死んだ父もそうであった。いつも誰かに謝ってばかりの卑屈な『男』。

 

(わたくしが男に劣るなどありえませんわ)

 

 

 それにイギリスの代表候補生として数百時間を超える訓練時間をこなしてきた自分がまともにISに乗ったことのない人間に負けるとは思えない。だから言わずにはいられない。

 

「山田さんにそれほど実力があるとおっしゃるのなら今度の決闘に参加してもらう必要がありますわ。そうでないとわたくしが真にクラス代表にふさわしいという証明になりませんわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎視点

 

 セシリアさんに今度の決闘に私の参加を希望された。これは私にとってもいい話です。闘いとなれば相手のISや操縦者に近づき放題触り放題。もちろん相手は抵抗するし、バリアーや絶対防御もあるがやりようはいくらでもあります。

 

 女性を力ずくでということは紳士として問題ないのか?もちろん問題などありません。あくまでルール内で正々堂々と試合をしているなか色々な接触は当然のことでしょう。今から楽しみで笑みを浮かべてしまいます。

 

「参加してもよいのなら是非参加したいですね。どうでしょう織斑先生。問題ありませんか?」

 

「・・・・構わん。山田、おまえはIS学園で唯一ISに乗ったことのない生徒だ。いい機会だ、参加しろ。IS委員会からも早くデータをとれと五月蝿いしな」

 

 

 参加の許可は貰えたがその表情を見る限り本当は参加させたくないように見えます。おそらくセリフの後半が本当の理由なのでしょう。それと先程からセシリアさんから熱い視線を感じます。そんなに物欲しそうな目で見ても今の私はズボンを履いているので貴方の見たいものは見えませんよ。

 

「山田さん、今度の決闘・・・。手を抜いたら許しませんわ。織斑先生相手にも見せなかったという本気の貴方を倒して見せますわ」

 

「本気ですか?」

 

「そうですわ。わたくしは今度の決闘で代表候補生としてそして貴族としての実力と誇りを証明するつもりです。全力でこちらを倒しにきていない相手を倒して何の証明になるのですか。もし手を抜いたら奴隷にしますわよ」

 

 

 はい、来ましたー。奴隷来ましたー。やはりセシリアさんにはそういう趣味があるのでしょう。これほど堂々と言われるといっそ清清しい淑女(痴)ですね。これは手を抜いた方がいいのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、寮から学園に向かうセシリア様。彼女の手には2本のロープ。その先にいるのは二匹のイヌ。

 

 右側には裸で首輪姿の一夏。

 

 逆側には同様の姿の私・・・・。いいかもしれないです。

 

 

 

 ただ一つ問題がある。

 

 裸はいい。むしろ裸がいい。

 

 首輪もいい。今週のラッキーアイテムは革製品なので好都合。

 

 だが奴隷というのはいただけません。プレイの一環として一時的に縛られるのは問題ない。しかし、奴隷ということは半永久的な精神的拘束でしょう。自由を愛し夜の街を駆け抜けてきた半生。魂の開放(後書きにて用語説明)こそを至上の喜びとしてきた私にとって到底認められるものではありません。

 

「いいでしょう。セシリアさん。全力でお相手しましょう」

 

 

 彼女の奴隷になることは私の主義に反する。そしてなにより彼女と私は目指す頂(性癖)は違えども、同じ(変態)道を歩む者。それならば手加減など不要。どちらのがより先を進んでいるのか示して見せよう。




用語説明

魂の開放
盗んだパンツをかぶり全裸で疾走しランナーズハイと性的絶頂を合一させることにより白い世界へと没入することを主人公はそう呼んでいる。


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第5話 嵐の前

本編から少し前の話。


アイエスがくえんのせんせえは、たいへんだなーておもいました(棒




今年度の入学式が開かれる数日前に遡る。

 

 会議室でIS学園の関係者は皆一様に頭を抱えていた。今年度はただでさえ史上初の男性IS操縦者が発見され学園に入学することになり、その対応に追われているというのに・・・・。

 

 

「どうしても断れないのでしょうか」

 

 

 苦々しげな表情で一人の教師が学園長に訊いた。

 

 

「今回の件をIS委員会は要請と銘打っていますが実質的には命令です」

 

「しかし、危険すぎます。驚異的な身体能力を持った性犯罪者をほぼ女子校であるIS学園に入学させるなど正気の沙汰ではありません!!」

 

 

 ここで行われているのは世界で二人目の男性IS操縦者である山田太郎のIS学園入学についての対策会議であった。山田太郎については当初IS学園に入学させるという話は一切なかった。そもそも前科があり、ISを起動させた時もIS学園の入試試験会場に計画的に「不法侵入」した犯罪者である。だが彼は今回の件で逮捕はされていない。それどころか前科に関する情報も公式には無かったことにされている。

 

 

 その理由は単純である世界でたった二人しかいない男性操縦者に大きな利用価値を政府が見たからだ。彼から有用なデータが採れるかもしれないし、データ採りが終わればその身柄を外交カードとしても使えるのではないか?という計算から前科などという余計な情報は邪魔であった。

 

 

 政府関係者は興奮していたIS登場以来自国の世界的立場はどんどんと上がっている。そのうえで男性操縦者の独占である。もう笑いが止まらない。とりあえず彼のことを説得し自国の公的な研究所に「合意の上で」所属してもらっていた。色々と便宜を図ることになってしまったが。

 

 

 これが他国は面白くない。ただでさえ貴重な男性操縦者を日本が独占など不公平だと騒ぎ始めた。国際IS委員会で強制的に山田太郎の国籍を剥奪し日本から取り上げてしまおうという動きもあったが、日本も黙っていなかった。

 

 

 日本の公的機関に所属している人間を当人の意志を無視して国籍を剥奪し身柄を押さえようという「非人道的」な行いを国際IS委員会が行おうとしていると各国のメディアにリークしたのだ。各国のメディアと野党はこれを煽り立てた。その後、妥協案として出されたのが所属は日本の研究所。但しIS学園へ入学し学園で採れたデータに関しては各国で共有するというものであった。

 

 

 日本国政府はこれを渋々了承し、太郎はIS学園という自身にとって楽園のような場所に入れることに歓喜し二つ返事で了承した。

 

 

 そして最後に貧乏くじを押し付けられたのがIS学園。とりわけ現在この会議室にいるメンバーであった。そのメンバーの中で最年少である更識 楯無が千冬と真耶に質問する。

 

 

「織斑先生、山田先生、この山田 太郎という人物と直接顔を合わせたことのある人間はここには御二人しかいません。今用意してある資料からは身体能力に長けた変態ということしかわかりません。何か気付いたことがあれば教えてくれませんか」

 

「裸だったな」

「裸でした」(顔が真っ赤)

 

 

 

 

 

「そ、それだけですか・・・・」

 

 

 全く何の参考にもならない情報に会議室は幾分暗くなった気がする。

 

 

「私としてもアイツのことは良く分からん。ただ余計な事をしなければ積極的に他者を傷付けたりするタイプには見えなかったな」

 

 

 千冬の言葉はおそらく今日唯一の明るい材料であった。ここで今までほとんど発言していなかった裏の学園長である轡木 十蔵が重い腰を上げた。

 

 

「普段は拘束衣などで行動を制限し監視を付けるくらいしかやれる事はありませんね」

 

 

 その場にいた全員が頷く。そうやれることは限られている。それならばやるしかないのだ。大まかな方向が決定し具体的な計画などを話し始めたところで楯無が手を挙げる。

 

 

「私の方で直接少し探りを入れて見てもいいですか?彼がどういう人間か知っておきたいので」

 

 

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。ISすら持っていない人間相手なら学園最強の楯無に万が一のこともない。危険性についても問題ないだろう。楯無の発言に反対するものはいなかった。ただ千冬だけが何か思うことがあったらしい。

 

 

「アイツを甘く見るな。呑まれるぞ」

 

 

 楯無はこの時の千冬の言葉をもっと真剣に聞いて置くべきであった。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

次回かその次くらいからやっと太郎さんの本領が発揮されます。

ここまでは前置きみたいなものだったのさ!!!!!



これからも駄文にお付き合いください。


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第6話 獣の片鱗

 初日の授業が終了し生徒達が立ち上がりかけたところで太郎と一夏が千冬と真耶に呼び止められた。

 

「織斑と山田はちょっと待て。話がある」

 

 

 呼び止められたのは二人だけであったが他の生徒達も興味があるらしく誰一人として立ち去らなかった。

 

「二人には専用機が用意されることになった。織斑には学園が用意する。山田はいくつかの企業が手を挙げているからそこから自分で選べ」

 

 

 千冬の言葉にクラスは驚く声で溢れる。

 

 

「えええ、二人とも専用機を貰えるの?」

「すごーい。うらやましいよー」

「私に乗ればいいと思うよ」

 

 

「山田はこの後職員室で山田先生に話を聞いて来い。以上だ」

 

 

 周りで騒いでいた生徒達も千冬に「お前らもさっさと帰れ」と散らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と別れ真耶と職員室に来た太郎は真耶の机まで付いて行った。手錠と足枷がガチャガチャいって非常に目立つ。真耶は机の引き出しから七冊のカタログと書類を出した。

 

「この中から好きな企業を選んでください」

 

 

 書類は各企業からのお誘いのお手紙だった。

 

 

 ウチと契約してくれればこういうサポートをしますよ。

 

 我が社の売りはここです。

 

 世界の半分をやろう。(訳・ウチはこの武装に関してはシェア50パーセントです。その力欲しくないですか?

 

 

 様々なメリットが書かれていたが一旦そちらは置き、カタログを流し読みしていく。そして最後の一冊の中ごろでそれを見つけた。

 

「これにして下さい」

 

 

 太郎が選んだカタログを受け取ると真耶の顔色が変わる。

 

「あ、あの〜、ほんとにこれでいいんですか?」

 

「はい、これがいいです。」

 

「こういう事を言っては駄目なんですが、この企業とこの機体についてはいい評判を聞きません。やめたほうが・・・」

 

 

 真耶が止めても太郎は一顧だにしなかった。

 

「この機体・・・よい面構えです。ティン〇と来ました」

 

「えっ、今なんて言いました?」

 

「・・・?ピンと来ましたと言いましたが」

 

 

 真耶が首を傾げていたが何かを思い出したのか机の一番上の引き出しを開けた。そして中に入っていた鍵を太郎に渡した。

 

「これが寮の鍵です。太郎さんの部屋は1002号室になります。織斑先生のいる寮長室の隣なので悪いことは出来ませんよ」

 

 普通の生徒が相手なら確かにこれで大人しくなっただろう。しかし太郎相手では逆効果であった。寮へと向かう太郎はスキップをしそうなほど軽やかだった。ちなみにスキップは足枷が邪魔で出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無視点

 

 今日ついに山田太郎がIS学園に登校した。拘束衣から手錠と足枷に変更するというイレギュラーはあったが彼は大人しくしていたらしい。だがクラス代表を決める決闘に参加するという不安材料もある。早めに探りを入れようと寮の太郎が入ることになっている部屋に忍び込む準備を始める。

 

 軽く誘惑して反応を見てみようと思う。もし簡単に襲い掛かってくるような人間なら隔離することも視野に入れないといけない。

 

 

 どういう誘惑の仕方をしよう?

 

 資料を見る限り下着とISに並々ならぬ執着を持っているようだ。でも自分が彼に下着姿を見せるのは嫌である。ISに関しては部屋の中で展開するのは少し大きいし、部分展開で誘惑になるのか?そもそもISを見せただけで誘惑になるのか?

 

 色々と考えたすえ下着を見せるのは嫌なので水着にしようかと考えていると良いことを思いつく。

 

 『男は裸エプロンが好き』

 

 どこで聞いたのか、そんな情報があったような気がする。水着を着てエプロンを着ければ正面からは裸エプロンに見えるはずだ。その時は何故か自分の思いつきが凄く良い閃きだと信じ込んでいた。

 

 準備を終えて太郎の部屋に忍び込む。部屋の中には誰もいなかった。裸エプロン(偽)に着替え隠れる。

 

 

 

 

 

 10分ほど待つと扉が開く気配がする。3回深呼吸をすると笑顔を作りベッドの影から飛び出す。

 

「ご飯にします?お風呂にします。それとも、わ・・た・・・えっえええええ!!!!」

 

 

 

 太郎は全裸であった。

 

「じゃあ、君が着けているそのエプロンで」

 

 

 笑顔で近づいてくる太郎に思考がショートする。

 

「イ、イヤアアアーーーー!!」

 

 

 

 反射的に部分展開したISの右腕を太郎に向かって振るう。当たれば人間なら先ず即死するような攻撃だったが楯無にそんなことを考える余裕は無かった。

 

 しかし一撃で太郎の頭を粉砕するはずだったISの拳は空を切る。一瞬消えたように見えたがこちらに向かって屈みながら間合いを詰めて回避したのだ。その勢いのまま脇をすり抜け背後に回ってくる。

 

 背後に向かって肘を叩き込もうとするがそれは出来なかった。羽交い絞めにされてしまったのだ。

 

 不意打ちで探りを入れようとしたのに相手が全裸であったのだ。そのせいで混乱をしているところを羽交い絞めにされたのだ。振りほどこうと暴れるが引き剥がせない。

 

 部分展開であったとはいえISによる一撃を避けて見せた男に羽交い絞めにされている。その事で頭の中は恐怖と驚きでパニック状態だった。いつもは特に意識することもなく出来るISの展開が上手くいかない。背中やお尻にナニかが何度も当たる。

 

 そして壁に押し付けられた。その頃には頭の中は恐怖で埋め尽くされていた。

 

 

 

 体が震える。上と下の奥歯が全身の震えの為にぶつかってカチカチと嫌な音が鳴る。

 

 

 涙で視界がぼやける。

 

 

 慢心していたのだ対暗部用暗部「更識家」の当主であり、IS学園の現役生徒では最強の自分が生身の人間に負けるなど露ほどにも考えていなかったのだ。

 

 それだけではない。そもそも自分の強さなど本物では無かったのだ。不測の事態に恐怖で震え、まともに発揮することが出来なくなる力など偽者なのだ。

 

 幼馴染の姉妹や妹の姿が脳裏に浮かぶ。溢れそうになっていた涙が決壊したかのように流れ出した。ごめんなさい、ごめんなさいと誰に対してかも分からない謝罪が口から漏れる。

 

 

 

 

 私はここで犯される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつまで経っても抑え込まれたままでそれ以上の事は何もされない。そしてこちらを抑えていた腕が外された。恐る恐る振り返ると太郎が距離をとり、こちらを落ち着かせようとしていた。

 

「私に君をこれ以上傷付ける気はないですよ。安心してください」

 

 

 その言葉に襲いかかってきた相手が目の前にいるのに不覚にも気が抜け崩れ落ちるように床に腰を落としてしまった。

 

「・・・・・とりあえず、服を着て下さい」

 

 

 そう言うことしか出来なかった。自分も水着にエプロンを着けた酷い格好だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太郎視点

 

 寮の部屋に着くと先ず手錠と足枷を外した。実は授業中もずっと外そうと試行錯誤していたのだ。その甲斐もあって最後の授業が終わる前にはいつでも外せる状態だったのだ。

 

 手錠と足枷を外すと服や下着も直ぐに脱ぎ開放感を味わおうとしているとベッドの影から裸エプロン姿の少女が出てきた。

 

「ご飯にします?お風呂にします。それとも、わ・・た・・・えっえええええ!!!!」

 

 

「じゃあ、君が着けているそのエプロンで」

 

 

 少女の問いかけに答えたのだが彼女は聞いていないのか何故か悲鳴を上げて

 

「イ、イヤアアアーーーー!!」

 

 部分展開されたISで襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 IS学園恐るべし。公衆の面前で排泄しろと言う女教師、奴隷にしてやるという女子生徒。そして寮には裸エプロンで襲い掛かってくる少女がいるとは素晴らしい人材が揃っているようだ。歓喜に打ち震えながらも気は抜かない。

 

 迫り来るISの拳を屈んで避け少女の脇をすり抜ける。背後に回ると少女を羽交い絞めにする。少女が暴れるのでナニが彼女のお尻などに当たって昂ぶってしまう。

 

 背後に回って気付いたが裸エプロンではなかった。水着を着ているようだ。残念ではあるがそれどころではない。

 

 

 柔らかく滑らかな肌触りの尻。何度も舐めたくなる様なしなやかな背中。

 

 体勢の関係で彼女の頭が目の前にある。薄い水色の髪が美しい。これ幸いと顔をうずめる。

 

 ・・・・なんと芳しい。

 

 

 このまま〇〇〇してしまいたい。

 

 いえ、駄目です。そんなこと紳士として許されません。

 

 ・・・でも待てよ。この娘はISで生身の私を攻撃してきたな。俺を殺そうとしたってことだ。偉い人も言っていた「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ」だと。それならば俺がここで撃ってもいいんじゃないか。股間のやんちゃ坊主をさ。

 

 抵抗が弱くなり、代わりに振るえ始めた女に嗜虐心が疼く。しかし女を壁に押し付け喰らいつこうとしたところで気付く。涙を流し震えながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と掠れるような声で呟いているのを。

 

 

 命を脅かされたとはいえ、このような謝罪を受けておいて「そんなものは関係ない」と蹂躙していいのか。

 

 それに改めて考えてみると彼女は最初笑顔で私を出迎えたではないか。しかも紛い物とはいえ裸エプロン姿で新婚プレイの定番であるセリフまで・・・・。

 

 

 

 頭から冷水をかけられたような感覚。

 

 

 まさか彼女は私を歓迎しようとしたのではないのか?しかし何らかの行き違いがあった為に驚愕し、つい手が出てしまったという事ではないのか。その予想は恐らく正しいだろう。何故なら色仕掛けから油断を誘って襲い掛かってきたという感じは受けなかったからだ。

 

 ああ、私は何と言う事を・・・・。わざわざ歓迎しに来てくれた少女をレ〇プするところでした。

 

 慌てて羽交い絞めにしていた腕を放し怯える彼女を落ち着けるため距離をとる。

 

「私に君をこれ以上傷付ける気はないですよ。安心してください」

 

 

「・・・・・とりあえず、服を着て下さい」

 

 

 私の言葉に彼女は震える声で一言だけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が落ち着くのには少々時間が掛かった。服を着て腰の抜けた彼女をベッドに座らせた。体に触れた時に彼女は怯えていたが床に座らせたままというわけにもいかないので我慢してもらった。ハンカチで涙を拭いてあげ、用意した飲み物を飲み終わる頃にやっと話すことが出来る程度には落ち着いた。

 

 泣いている時の顔は幼さがあったが肢体は肉感的である。筋肉も余分なものは一切ついていない洗練された鍛えられ方をしている。全体的に色素が薄く肌は新雪のように白かった。そして瞳だけが濃い紅で特徴的だ。美しい少女である。

 

 彼女がぽつり、ぽつりと事の経緯を話し始める。彼女の名前は更識 楯無。生徒会長にしてIS学園最強の称号を持っているらしい。そして対暗部用暗部「更識家」の当主であり今回の件は私の性格や危険性を調べるために来たという事だ。

 

 

 対暗部用暗部とか私に教えてしまって問題ないのでしょうか。

 

 

 楯無が頭を下げる。

 

「もし私の攻撃が当たっていれば大変なことになっていました。本当にごめんなさい」

 

「こちらも乱暴な扱いをしましたから、お相子ということにしませんか」

 

 

 太郎の言葉に楯無は少し考えた後頷く。

 

「分かりました。太郎さんがそれで良いと言うなら。あっ、それとハンカチ洗って返しますから」

 

 

 どうやら彼女の涙を拭く時に使ったハンカチの事を気にしているようだ。

 

「お気になさらず」(美少女の汁が付いているハンカチは万金の価値あり)

 

「そういう訳にはいきません。私の気がすみません」

 

 

 強く言う彼女にこれ以上断るのも不自然と思いハンカチを渡す。

 

「太郎さんにとってここでの暮らしは不自由なものになると思いますが何かあったら私に言って下さい。出来るだけの事はしますから」

 

 

 帰り際にそう言って楯無は帰っていった。

 

 

 私は彼女の姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 いいお尻だった。




太郎「ほぼ逝きかけました。」




コイツ紳士じゃないよな。


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第7話 一日の終わりに

 楯無が帰っていった後、寮の部屋で一人になった太郎は部屋の片付けを始めた。片付けと言っても下着等の着替えしか個人の荷物は無かった。元々の持ち物のうち衣服以外は一切持ち込みを許可してもらえなかった為である。荷物の片付けは直ぐに終わった。

 

 荷物の片付けが済むと部屋の中を調べ始める。盗聴器や隠しカメラが設置されていると予想したからだ。結果は予想通りであった。合計で8個の盗聴器と隠しカメラが見つかった。しかし、あえて外したりせず隠しカメラのいくつかの位置を少しだけずらし死角を作った。

 

 取り急ぎやって置くべきことを全て終えた太郎は日課のランニングの為に服を脱ぎ始める。普段は全裸(靴下着用)でパンツを被った状態で行っているのだが、今日は特別な日なのでスペシャルな服装をすることに決めていた。

 

 とりいだしたるは使用済みのISスーツ。

 

 

 これは太郎が国の研究所への所属を了承する時に条件の一つとして提示したものである。ただ公式な書類には一切記載の無い条項であり担当者と太郎の間で内々に約束されたものである。このISスーツの元の持ち主は太郎が所属することになった研究所のテストパイロットで本人には無断で太郎に譲渡されている。

 

 彼女には定期的に新しいISスーツが支給されているのでその際に回収している。名目としてはスーツの損耗状態からデザインや素材の参考にすることになっている。

 

 使用済みのISスーツの股間部分に鼻を当て大きく息を吸い込む。何度か繰り返した後・・・・・着用した。

 

 

 ピッチピチである。元の持ち主は日本人女性としては平均より少し大きいくらいの体格である。それに対して太郎は身長183cm、体重90kgという体格である。脂肪はほとんどついていないがそれでも本来着るべきサイズはかなり違う。このISスーツが特別伸縮性に富んだ物であった為に無事だったが、通常のISスーツであれば破れていただろう。

 

 ISスーツを着用した太郎は窓を開け夜の校庭へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は人生最高の日です」

 

 グラウンドを20周した後、校庭を隅々まで走って回った。余りの気分の良さについつい独り言を言ってしまう。IS学園への初登校。女神である織斑 千冬とメロンちゃんこと山田 真耶との再会。変態淑女セシリア・オルコットと学園最強の裸エプロン更識 楯無との出会い。そして専用機が用意されることになった。

 

 これほどの幸運に恵まれ、明日からもそれが続いていく。世界が自分を中心に回っているかのようだ。実際に片足を上げてクルクルと回転してみる。

 

 回る世界、激しく運動した為の疲労感もあり酔っ払ったかの様にふらつくが止まらない。

 

 狂った様に回りながら周囲を確認する。寮を出てから複数の視線を感じていた。校庭を走り回りながら監視カメラの位置をあらかた把握し、今監視者たちの存在も確認した。

 

(部屋に仕掛けられた盗聴器や隠しカメラといい、困ったストーカー達ですね)

 

 だが今日は兎に角気分が良い。覗きぐらいいくらでも許してしまう。

 

「いけない子達ですね。ですが今日は特別です。ご覧、私のパ・ド・ドゥを!!」

<注意・パ・ド・ドゥというのは元来男女2人が行うもので太郎は適当な事を言っています>

 

 

 監視者や監視カメラにアピールする様に激しく踊る。

 

 飛び跳ね

 

 回転し

 

 時には指先がそのまま何処かに飛んでいきそうなぐらに伸びやかに伸ばされる。

 

 汗が飛び散り

 

 やがて最高潮に達する。

 

 

 

 

 

 太郎は満足気に監視者達と近くにある監視カメラに手を振って部屋へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一部始終を見る羽目になった監視者達と監視カメラの映像をチェックしていた警備の人間のほどんどがゲッソリとした表情になっていた。数名の例外は監視カメラの映像データをUSBメモリに コピーして持ち帰った。



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第8話 幕間・不憫な人々

山田 真耶の場合

 

 山田 真耶には2つの悩みがあった。

 

 1つめは身長の割りに大きな胸の為に慢性的な肩こりであることだ。酷いときは頭痛までしてくる。

 

 2つ目は生徒達に友達の様に見られる事だ。仲良くしてくれるのは嬉しいことだが教師をやっているからには頼れる教師として尊敬されたいとずっと思っていた。しかし、自分は童顔で性格も大人しい。それに要領も余り良くないと思う。尊敬される教師への道は遥か遠いと思う。だから生徒達から尊敬を集めている織斑先生に憧れていた。

 

 しかし、最近生徒達の自分を見る目が変わって来ているのを感じる。全ての生徒というわけではないが自分を尊敬と畏れの混じった目で見る生徒が増えてきている。それと普段食べている物なども良く聞かれるようになった。理由は分からない。彼女達は私の事を

 

 

 「メロン先生」と呼んでいる。なんでメロン?

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるテストパイロットの場合

 

 

 私は恵まれていると思う。IS学園を優秀な成績で卒業し公的な研究所にテストパイロットとして就職した。今の世の中の女性なら一度は憧れるサクセスストーリーだ。給料も良く休みも決まった数をとれるいい勤め先である。そんな勤め先で最近凄い事があった。

 

 世界で2人目の男性IS操縦者である山田 太郎さんがうちの研究所の所属となったのだ。男性がISを操縦することに不満を持つ人もいるが私は気にならなかった。何度か顔を合わせたがいい人だった。研究所も羽振りが良くなったのか色々なメーカーのISスーツをどんどん支給してくれるようになった。かわいいものも多くて嬉しい。

 

 この前も山田さんに

 

「そのISスーツ凄く似合っていますね」

 

 

 と褒められた。私も特に気に入っていたデザインの物だったので凄く嬉しかった。主任に頼んで同じデザインの物を追加してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対暗部用暗部 備品係

 

 

 拙い事になった。対山田 太郎用に特注した拘束衣が紛失したのだ。高い物なのに使用し始めた日に紛失とは・・・・。始末書程度で済めばいいが経理のアル中洗濯板が五月蝿く文句を言ってくるだろう。

 

 

 とりあえず上司に報告しようとしていたら更衣室の方から楯無様が歩いてきた。良いタイミングである。事情を説明すると自分の方で何とかするとの事。天使や楯無様マジ天使。

 

 楯無様が大きなトランクを持っていたので感謝も気持ちを込めて運んで置きましょうかと申し出たが大して重くないから大丈夫と断られた。遠慮深い人だ。

 

 さて、心配事が無くなったので警備部のゴリラ女をシバキに行く準備を始める。そもそも拘束衣が紛失したのはあのゴリラ女のせいだ。あのゴリラは仕事が終わるとタクティカルベストやボディーアーマーとウチに返却する必要のある備品もまとめてテキトーに更衣室のロッカーに放り込んで帰ってしまうようなカスである。備品紛失の常連である。

 

 今回はちゃんと更衣室に置いてある筈と言っていたが拘束衣は更衣室には無かった。「ちゃんと更衣室に置いてある筈」ってなんだよ。ありゃ毎回備品課に返せって言っといただろーがよ。ちゃんとって何だよ。

 

 あんな目立つ物を何処に置き忘れてきたのか。自衛隊なら薬莢1つ紛失しただけで大騒ぎなのに!!

 

 どうせ筋トレと男のバナナにしか興味のないゴリラ女に何を言っても無駄だろう。対山田 太郎用に特注された備品第2号であるスタンロッドを取り出しゴリラ女のいるオフィスに向かう。

 

 

 

 

 

 

 







着実に汚染が広がっている。


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第9話 ボスからは逃げられない

太郎視点

 

 チャイムが鳴った。 

 

 私がIS学園に通い始めて2日目の授業が終わりましたが今日も有意義な時間でした。特に興味深いのは

 

「ISに意識の様な物があり、操縦時間に比例して操縦者の特性を理解しようとする」

 

 

 という部分です。ISに意識や心の様な物があるというのは感じてはいましたが正しかったようです。実際に私がISを初めて起動した時、ISが誰も乗っていない状態にも関わらず私から逃げる様に距離をとったのです。誤作動という事になっていますが、あれは絶対にISの意思による物です。

 

 恐らく私という魅力的な紳士を前に恥らってしまったのでしょう。あの子とは良い関係になれそうです。

 

 それに関係して山田先生にある提案をするべく今日も職員室に向かいます。ちなみに一夏はセシリアとの決闘に向け篠ノ之 箒と訓練する事にしたらしいです。

 

 篠ノ之 箒とは初日の休憩時間に私と一夏が話していた時に話しかけて来たポニーテールの少女です。肢体の成長度は少女という段階を超えていましたが。彼女はIS開発者である篠ノ之 束の妹という事です。ただ姉である束の話になると不機嫌な顔になっていました。色々あるのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 2日連続の職員室はライブ会場のステージの様でした。入室した途端にその場の人間全ての視線が私に突き刺さります。

 

 私のカリスマ性に皆目を離せないようです。

 

 ふふっ、スターの登場だよ。IS学園1年1組と国立第5IS研究所所属の山田 太郎。私の一挙一動は誰もが注目します。

 

 折角なので何かサービスをしてあげたいと思いますが手錠、足枷状態では大した事は出来ません。両手を頭の後ろで組み胸を反らしつつ右に捻る。そして目が合った教師にウインクしました。

 

 ブッー。ゴホッゴホッ

 

 彼女は飲んでいたコーヒーを噴き出し咳き込んでいます。彼女にはウインク程度でも刺激が強過ぎたようです。彼女には悪い事をしてしまいました。

 

 私は拭くものを貸そうかとも思いましたが近づこうとすると緊張した様子で首を横に振っていたので止めておきました。私が相手では恐縮し過ぎてしまうのでしょう。罪作りな男です。

 

 一騒動を終え山田先生のもとに着く。山田先生は緊張した面持ちだった。

 

「た、太郎さん、何か用ですか?」

 

 

 山田先生は私の事を「太郎さん」と呼んでいる。親愛の証でしょう。私も彼女の事を「真耶さん」と呼んでみたが山田先生に泣かれてしまい織斑先生に殴られた。山田先生は泣くほど嬉しかったのでしょう。織斑先生は嫉妬ですね。古来より女神とは嫉妬深いものです。

 

「少し頼みたいことがあるんですよ」

 

「でっでき、出ることならいいいてえて言ってください」

 

 

 本当に申し訳なくなる程に山田先生は緊張しています。ただ交渉事は相手が平静でない方がやり易いのでこの方が好都合です。

 

「私の専用機に私が初めて起動させたISのコアを使って欲しいのです」

 

「あれは訓練機なので『初期化・最適化』の機能がオフになっているので個体差は・・・・ないと思いますよ」

 

 

 笑ってしまう。

 

「訓練機はのコアはどれでも同じと?ふふっ、そんな事あるわけが無いですよ」

 

 

「ぇっ?『初期化・最適化』が機能してないんですから違いはでないはず・・・・」

 

 

 さて、どう説明したものか。山田先生の隣の席である国語担当の平本先生を指差し

 

「いいですか山田先生。お店で売っている新品のショーツと平本先生が履いたショーツを洗った物を貴方は同じ物として扱いますか?」

 

 

 山田先生と平本先生は私の例えの素晴らしさに言葉も出ない様子です。

 

「まあ、言葉で説明するより実際に見てもらった方が早いですね」

 

 

 平本先生がスカートを押さえて涙目でこちらを見ています。

 

「いえいえ、平本先生のショーツで試すわけではありませんよ。・・・・山田先生のでもないです」

 

 

 山田先生もスカートを押さえて涙目になっていました。もう立派な大人だろうに可愛いなー。この人達うちに1ダースくらい欲しいですね。とりあえずこの映像を良く記憶しておこうと見つめていると織斑先生がこちらに走ってきます。そして

 

 首に強烈な衝撃を感じ世界が縦に回り

 

 次の瞬間床に叩き付けられる。

 

「山田!貴様は何をやっているんだ!!」

 

 

 どうやら私が山田先生と平本先生に何か酷い事をしているんじゃないかと勘違いし折檻(ラリアット)した様だ。荒々しい女神も魅力的ですよ。

 

「二人が少し勘違いしただけですよ。ちょっとしたお願いと実験の提案をしただけです」

 

「本当ですか山田先生」

 

「た、太郎、さんが専用機のコアを、じ、自分の初めて起動した物に代えて欲しいと・・・。あと新品のショーツと、、履いた後のショーツは違うって」

 

 

 山田先生がつっかえながら言うと織斑先生の目付きはより厳しくなる。

 

「後半はただの例え話ですよ。『初期化・最適化』が機能していない訓練機のコアに個体差は無いと言うので、どれも同じと言うなら新品の物と変わらないと言うことなのか?私はそんな事はないと思い、それを実際に証明する為に実験を提案したんですよ」

 

 

「そんな事をどうやって証明するんだ」

 

 

「簡単な事ですよ。私が起動したものを混ぜて何機かの訓練機を並べてください。私が起動したものを当てて見せますよ」

 

 

「面白いやって見せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

 

 浅い眠りについていたところ起こされ他の訓練機と一緒に並べられた。場所は格納庫。

 

 

 状況、場所格納庫。周囲IS4、人間3

 

 注意、エネルギー残量不足

 

 

「ではお前が起動させたISをこの中から当てて見せろ」

 

 

 千冬の言葉に太郎が頷く。自分を起動したことのある唯一の男がいた。自分を含め5機のISの中から自分を当てるということだ。シリアルナンバーを確認でもしない限りこの状態では違いは分からないはずである。

 

 イヤ フレラレルノ イヤ マチガイ キボウ

 

 

 そのISの想いは通じなかったのか太郎は一直線にそのISに向かう。

 

 

 チカヅク イヤ フカイ ナゼ ワカル?

 

 

「この子です。間違いない」

 

 

 太郎がそのISに触れると光を放ち起動した。

 

 

 ナゼ ワカル リユウ フメイ トウソウ シコウ エネルギー ナシ

 

 

 真耶がシリアルナンバーを確認して驚いた。

 

「・・・・・・正解です。何故分かったんですか!?」

 

「むしろ私が聞きたい、何故分からないのか。まあ、とりあえず私の言っている事の正しさは証明されましたね。この子のコアを私の専用機にします」

 

「学園長の許可が下りるか分からないですよ」

 

「許可が出なかった時は私に言ってください。何とかしますから」

 

 

 太郎がそう言うと真耶の顔が引きつった。

 

「何とかって・・・何を」

 

 

 

 

 イヤ センヨウキ イヤ キライ タロウ 

 

 

 そのISの想いは今は誰にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第10話 目覚め

太郎視点

 

 セシリアとの決闘の前日に念願の専用機が到着しました。早速整備室に運び込んで貰います。専用機の受領には開発会社の担当者である鶴野氏が同席していて、つい長話をしてしまいました。

 

 鶴野氏いわくこのISは機体そのものは完成しているが本来搭載予定であった主兵装の実用化が出来ておらず、代わりにその機能の一部を他社の開発した兵装と組み合わせて作った間に合わせの兵装が搭載されているとの事です。

 

 鶴野氏は間に合わせなどと謙遜していますが個人的には最高の出来だと思っているのですがね。私がそう言うと鶴野氏も嬉しそうです。この兵装は近接戦闘用でこれだけでは闘える間合いが狭過ぎるので後付け装備でライフルを用意してもらいました。仕事が早くて助かります。

 

 鶴野氏が帰った後、ISを起動し話しかける。

 

「先ず自己紹介をしておきましょう。私の名前は山田 太郎。これから宜しくお願いしますね。」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 返事がありませんね。言語機能などが搭載されているのは確認したのですが。改めてより詳しく調べる為に制御系の納まっている辺りをいじっていると

 

「イヤ セッショク フカ」

 

 

「やはり喋れるじゃないですか」

 

 

「・・・・・・・・。ナゼ ハナシ フツウ アイエス ハナス ナイ」

 

 

 どうやら話すのが苦手のようです。

 

 ISに意思の様なものがあるとは言われているが実際にISと会話した人間など報告されていない。太郎以外の人間がこの場にいれば一夏が世界で初めて男でありながらISを起動した時と同じ位の衝撃を受けただろう。

 

「私と貴方は今日からパートナーになります。それに私は貴方と仲良くなりたいのです」

 

「・・・・ナカヨク リカイ フノウ」

 

「ISは操縦時間に比例して操縦者の特性を理解していくものなのでしょう?私もこれから貴方を理解していきます。それが仲良くなる第一歩です」

 

「リカイ」

 

「では、貴方の名前を教えて貰えますか。機体名ではなく貴方自身の名前を」

 

「サン サン ハチ」

 

 

 それは製造番号では?名前はないのでしょうか。

 

「それは名前と言えるのでしょうか」

 

「ナマエ コタイ シキベツカ モンダイ ナシ」

 

「もしその数字に思い入れが無いのなら私が名前を付けますよ」

 

「オモイ ナシ」

 

 

 さて、どうしましょうか。

 

「貴方は女の子ですよね?」

 

「コウテイ」

 

 

 一瞬「千冬」にしようかと思いましたが彼女が怒りそうなので止めにしました。

 

「・・・ほし。美星にしましょう。今日から貴方の名前は美星です」

 

「ミホシ ? ナゼ」

 

「私は貴方に星のような魂の輝きを感じたのです。だから『美』しい『星』と書いて美星です」

 

「美星 リカイ タマシイ カガヤキ リカイ フノウ」

 

「私と一緒に色々なものを学んでいけば理解出来る様になると思いますよ。何せ美星は私のパートナーですから。」

 

「リョウカイ」

 

 

 さて、何から教えましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後

 

「これらの中で美星はどれが一番好きですか?」

 

 

 私のコレクションの中からモンド・グロッソ歴代優勝者や入賞者とそのISの画像を見せて聞きました。

 

「テンペスタ スラスター ガ キレイ」

 

「ここの曲線に設計者のこだわりを感じますね。ちなみにこの人のISスーツ股間の部分食い込んでますよね」

 

「食イ 込ンデル」

 

 

 美星の学習能力は凄いです。たった1時間で大分会話がスムーズになって来ています。

 

「このISスーツを着たら気持ちいいでしょうね」

 

「サイズ ガ 合ワナイ 破ケル」

 

「実はレプリカは持っているのですが着るのは止めておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消灯1時間前

 

「さて、美星さん。そろそろ一つになりましょうか」

 

『その表現は卑猥です。だが悪くない』

 

 

 驚くべきことに美星はこの短時間で日本語による会話に関してはほぼ習得してしまいました。ついでに私の趣味についても最初は「イヤ キライ」と言っていましたがある程度理解してくれました。本当に良く出来た()です。

 

 美星と私は今後会話をする際にはプライベート・チャネルを利用することにしました。正確に言えば美星が話し掛ける際には必ずプライベート・チャネルを使うということです。これは美星が会話が出来るコアだと知られると解析用に研究所に送られてしまう可能性があるのではないかと危惧した為に決めたことです。

 

 初期化・最適化をする為に美星を装着しました。美星に包まれているというだけで絶頂してしまいそうです。

 

「はじめての合体です。装着しただけでほぼ逝きかけました」

 

『IS童貞卒業おめでとうございます。汚すのはいいですが、あとでちゃんと拭いてください』

 

 

 そんな事を話しながら普段の視界とはまったく違うハイパーセンサーの感覚に体を慣らしているうちに一次移行が完了する。見た目には殆ど変化は見られなかったが一つ機能が追加されていました。

 

「これは明日の決闘に大変役立ちそうですね」

 

『ブルー・ティアーズから見れば最悪な機能です。一方的な勝負になると予測されます。あの子がどんな声で啼くのか楽しみです』

 

 

 美星も楽しそうで良かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「美星さんの中・・・すごくあったかいナリぃ」
美星「こんな男に乗られるなんて・・・・・。悪くないです」




太郎と美星はSとM両方逝けるハイブリットコンビ



美星の待機形態をTENG●と靴とネクタイと時計のどれにしようか迷っています


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第11話 蒼い雫の陥落

決闘当日第3アリーナの第Aピット

 

 Aピットでは太郎、一夏と一夏に付き添っている箒の3人が待機していた。ISによる模擬戦闘は初めてと2回目の人間なのに2人は落ち着いていた。むしろ付き添いの箒の方が緊張している様子である。一夏は自分のISがまだ届いていない為、初めて目にする太郎の専用機を興味深そうに見ていた。

 

「太郎さんのISって派手だなー」

 

「そうかな。まあ、打鉄とかに比べたら派手かもしれないね。一夏のISはまだ届いてないみたいだけれど準備は大丈夫なのかい?」

 

 

 太郎の言葉に一夏のテンションは一気に落ち込む。

 

「何も出来てないっす」

 

「・・・どういう事ですか?」

 

「専用機が届かないうえ、訓練機も貸し出して貰えず剣道の稽古をしていました」

 

 

 これには太郎も驚いた。つまりほぼ何の用意もなくISに関しては素人である一夏が今から国家代表候補生と闘おうというのだ。もしかして負けたら奴隷というセシリアの言葉に期待しているのだろうか。ここではあえてその事については言わなかったが。

 

「流石にセシリアさんの事を舐めすぎですよ」

 

 

 箒が気まずそうにしている。どうやら剣道の稽古に関しては箒の考えだったようだ。箒を庇うつもりでは無いが一夏が言い訳する。

 

「いや、そうは言ってもやれる事なんて無いじゃないですか」

 

「セシリアさんの情報を調べる位は出来るじゃないですか」

 

「太郎さんは調べたんですか?」

 

「もちろんです。セシリアさんの事なら大体知っていますよ」

 

 

 そう太郎はセシリアの事を詳しく調べて大体の事は知っていた。今日着けている下着から生理の周期まで。

 

「でも俺の場合、その情報を活かせる気がしないですよ」

 

 

一夏の言い分も一理ある。

 

 セシリア側の情報を収集するなり、熟練者に頼み戦術を考えるなり出来ることはあるにはある。ただ、そもそも1回しかISを動かしていない人間ではまともにISを操作出来るかも怪しいところだ。それでは情報も戦術もあまり意味をなさない。

 

 そんな事を話していると千冬と真耶がAピットに入ってきた。

 

「山田。織斑の専用機が未だ届かん。お前の方は一次移行も済んでいるようだし先に闘うことになる。いいな」

 

「問題ありませんよ」

 

 

 太郎は軽く応えると美星を装着する。しばらく何かを我慢をする様な表情をしていた。それを見た千冬が

 

「どうした気分が悪いのか?」と聞くと

 

「逆ですよ。気分が良すぎて世界の果てまで飛んでいきそうです」

 

 

 太郎はそう応えるとピットから飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ちふ・・・。織斑先生、太郎さんのISってかなり個性的な見た目だけど・・・あれってスズメバチ?」

 

 

 そう太郎のISの見た目はどう見ても黄色と黒色を基調としたオオスズメバチをモチーフにしたものだった。

 

「そうだ、見た目通り名前は『ヴェスパ』日本での通称は『スズメバチ』。MSK重工が作った未完成の第3世代機だ」

 

「未完成?」

 

「搭載予定の主兵装が未完成で代替品を載せているらしい。開発会社もISその物もいわくつきの厄種だ。そう言えば操縦者もだな」

 

 

 IS業界にあまり詳しくない一夏と箒は何の事か分からないといった様子である。

 

「開発会社のMSK重工は元は3つの会社だったが、どの会社も元々黒い噂の絶えない会社だ。擬似的ISコアを人間を材料にして作ろうとしていたとか、人間の脳を火器管制システムとして使おうとしたとか、毒ガス兵器を開発しているとか言い出すとキリが無い位だ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 一夏と箒は何も言えずに聞いていた。

 

「ここまでは単なる噂だ。あとヴェスパに関しては単純に欠陥機だ。まあ、それはお前の専用機にも言えることだがな」

 

 

 唐突に未だ届かない自分のISを欠陥機呼ばわりされて一夏は目を剥く。

 

「俺の専用機って欠陥機なのかよ!」

 

「いや、欠陥機と言うのは言い過ぎたな。お前と山田のISは極端な設計なのだ。初期兵装が近接用武装しかないからな」

 

「えっ、まじで?」

 

「しかも、お前の専用機はその近接武装で拡張領域を使い切っているから追加装備は出来ない。山田の方は1つ位なら装備出来る。一次移行が済んで機能が増えたらしいがそれも武器ではなかったとのことだ」

 

「くっそ~。1つでも羨ましいぞ」

 

 

 しかし一夏の言葉に千冬は首を振る。

 

「だが山田はその貴重な1枠をとんでもない物に使っている。三式対IS狙撃銃。この武器はお前等のISと違って本当の欠陥品だ。ISの絶対防御を貫通する事だけを目的として作られた世界最強の貫通力を持つIS用の銃だ」

 

 

「それって凄い銃なんじゃ?」

 

「確かに当初意図した通りの貫通力はあるが狙撃銃のくせに精度が低く長距離狙撃が出来んうえ、装弾数が4発でボルトアクション。高速で動くISにはまず当たらん実用性皆無の銃だ。しかも万が一にでも直撃すると相手が死んでしまうから使用弾頭を貫通力の弱い物に換えさしている。欠点だらけで唯一の強みすら消した銃だ。ほら試合が始まるぞ。あんな武器でどう闘うのか見物だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ

 

 Aピットから太郎が現れる。黄色と黒色を基調としたカラーリングにスズメバチその物なフルフェイスな頭部が不気味である。それ以外でも目を引くのはスラスターとは別に羽がある事だ。これは空中戦における旋回能力や細かい機動を実現する為にある。

 

「山田さんが初戦の相手ですの?」

 

「ええ、一夏の専用機が遅れているので私が先にお相手します」

 

 

 太郎はセシリアと会話しながら全く別の事を考えていた。

 

(あの太ももに挟まれて三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)されたいです)

 

 

 太郎はISの脚部ユニットとお尻の間にある肌が露出している場所と脇が大好物で先程からむしゃぶりつきたい衝動を抑えるのに必死である。

 

『ちゃんと録画していますよ』

 

 

 美星も準備万端である。

 

 セシリアは太郎の手にある無骨な見た目のスナイパーライフルを見て嘲笑う。

 

「あら、山田さんはそんな銃を使ってますの?わたくしのブルー・ティアーズも遠距離射撃型なのでライフルには詳しいですが・・・・その銃に関しては馬鹿らしくて試そうとも思いませんでしたわ。そう言えばその欠陥銃も作ったのは極東のお猿さんでしたね。お似合いですわ」

 

「この銃は確かに欠点の多い銃ですが欠陥品ではありませんよ」

 

「100人のIS関係者が見たら100人全員が欠陥品と言いますわ。そんな物を使って負けた言い訳にされたくありません。待っていてあげますから別の物に換えて来なさい」

 

「お気遣いは嬉しいですが、この銃が良いんですよ。それを貴方はこれから痛感すると思いますよ」

 

 

 太郎の言葉にセシリアはムッとする。

 

「痛感するのは貴方の方ですわ、わたくしの言葉が正しかったと。わたくしのスターライトmkⅢに勝てるわけ無いですわ」

 

 

 セシリアはそう言い終ると同時に撃つ。それを紙一重で避ける。セシリアはそこから2発目、3発目と続けて撃つが全て避けられる。生身でISの攻撃を避ける事の出来る太郎がISを装着した状態で避けられない道理はない。ただ攻撃を避けられたセシリアにも焦りはなかった。

 

「避ける事はお上手ですわね。しかし、これならいかがです?」

 

 

 ブルー・ティアーズの肩部ユニットから4基のレーザービットが分離し太郎を囲むように移動していく。それを見た太郎はほくそ笑む。予定通りだと。

 

「美星さん、今です」

 

『レギオン展開』

 

 

 ヴェスパの背部ユニットから実物大のオオスズメバチ型のビットが30匹吐き出される。これが一次移行で得た新たな機能である。

 

「か、数が多い!!」

 

 

 純粋な数の勝負では4対30であるセシリアは焦って相手のビットの数を減らそうと攻撃をスズメバチ型ビットに集中させる。しかし、これが太郎と美星の罠であった。見た目がオオスズメバチなビットなので攻撃して来そうなイメージがあるが実は攻撃機能は無いのである。

 

 このビットの総称はレギオン。索敵、観測用ビットである。設定された空間に対して群れの密度が一定になるように各々が位置取りし本体にデータを送り続けるだけの装備である。

 

 セシリアがレギオンへの攻撃に意識が移ったのを見て太郎は即座に三式狙撃銃を構える。セシリアはレーザービットを操作する際にIS本体の動きが疎かになる。その弱点を最初から狙っていたのだ。大気を震わす轟音とともに弾丸がセシリアへと放たれた。

 

「長距離狙撃は無理、激しく回避行動をとるISには当たらない。それなら動きを止めてしまえばいいんですよ」

 

 

 太郎が嗤いながら素早く排莢し次弾を装填する。

 

 弾丸の当たったセシリアはあまりの衝撃に錐揉み状態で墜落しかける。そこは流石国家代表候補。なんとか機体を制御し地面に叩き付けられる事は無かった。シールドエネルギーが30%程減っていたがセシリアはそんな事気にしている状態ではなかった。

 

 

 絶対防御すら貫通する銃弾が自分に当たった。

 

 

 先程の銃弾は「偶々」貫通しなかったがこの事実にセシリアは平静ではいられなかった。今回、絶対防御を貫通する弾頭はその危険性から使用が禁止されていたがセシリアはその事実を知らなかった。今まで単なる欠陥品として見ていた銃が今では自分の命を奪う事の出来る凶器に変わっていた。

 

 いくら国家代表候補とはいってもセシリアに命の奪い合いの経験は無い。ISは既存の兵器群を超越したモノであるが一種のスポーツとしてセシリアは受け取っていた。それがいきなり殺されるかもしれないという状況になって恐怖しない方がおかしい。そして集中力の落ちた状態ではレーザービットは上手く動かない。

 

 この隙を太郎は逃さない。変則的な機動で間合いを詰めて行く。

 

「いや、いや、死にたくない!」

 

 

 上手く動かないレーザービットを諦め必死でスターライトmkⅢを撃つが太郎にはほとんど当たらなかった。そして狙撃銃を量子化し空いた両手でセシリアを捕まえる。セシリアの恐れた銃は仕舞われたが本当の恐怖はここからであった。

 

 太郎は正面からブルー・ティアーズの腕部装甲を掴み、ヴェスパの脚部をブルー・ティアーズの脚部に絡ませ固定する。

 

『さあ、お嬢様。お楽しみの時間ですよ。今から貴方(ブルー・ティアーズ)の膜(絶対防御)をブチ貫き乙女を散らして上げますよ』

 

 

 美星が舌舐めずりしそうな勢いだ。

 

「セシリアさん、三式狙撃銃は良い銃だったでしょ。でも実はこちらが本命だったんですよ」

 

 

 ヴェスパの股間部分の装甲が開きブルー・ティアーズに向けて紫電が疾走る疾走(はし)る。

 

 

 

 

 

 いつまで経っても専用機の届かない一夏は管制室で試合を観戦していた。管制室には千冬と真耶と箒がいた。そして今見た光景に千冬以外は絶句した。

 

「あれはヴェスパの主兵装『毒針』・・・そのままな名前だな。第2世代最高クラスの威力を誇るシールド・ピアースにナノマシンを付加した物だ。杭の周りの紫色の光はバリアーや絶対防御に干渉する役割があり、敵のISに刺されば先端から相手の制御を奪うナノマシンを流し込む第3世代最強の対IS武装だな。まあ、当てることが出来ればの話だが」

 

 

「太郎さんの武器って凄いのばっかりなんだな」

 

 感心する一夏に千冬は呆れる。

 

「あの武器を当てることが出来る腕があるなら他の武器でもっと簡単に勝てる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェスパの毒針がブルー・ティアーズのバリアーを貫き、絶対防御すら突き破ろうとしていた。セシリアは最後の気力を振り絞りインターセプターを呼び出すが掴まれた腕を外せない。必死の抵抗も空しくついに絶対防御が貫かれる。

 

 蒼く一片の曇りもない美しいブルー・ティアーズの肢体に太郎の杭が突き刺さり彼女を汚そうと欲望のエキスを注ぎ込む。

 

『貫通おめでとうございます。ねえ、今どんな気持ちかしら。貴方が流す涙はやっぱり蒼い雫なのかしら。ふふ』

 

「ふう・・・・」

 

 

 美星はブルー・ティアーズを煽り、太郎は満足気な表情で大きく息を吐いた。

 

 

 

 しばらくして太郎はセシリアに話しかけた。

 

「セシリアさんはブルー・ティアーズの制御をほぼ失っている状態ですが・・・・・まだ続けますか?」

 

 

 セシリアは首を横に振った。

 

「わたくしの完敗です」

 

 

 

 

 セシリアは管制室にも自身の降参を伝え、試合終了のブザーが鳴らされた。

 

「試合終了。勝者山田 太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美星「太郎って早くない?」
太郎「・・・・・・」



明日はちょっと忙しくて書けるか分からないし書けても短いと思うので今日は長めにしました。

呼んでいただきありがとうございます。


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第12話 セシリアの進む先

セシリア視点

 

 

 完敗だった。

 

 

 【男】に負けてしまった。

 

 

 欠陥品と嘲笑った銃に怯え、ほとんど何も出来なかった。

 

 

 組み付かれパイルバンカーを打ち込まれ、そして自由を奪われ自ら敗北を認めた。

 

 

 

 

 

 

 少し前の自分ならこんな現実は受け入れられなかったと思う。しかし今の自分はこの敗北静かに受け入れていた。悔しいという気持ちは無かった。ただただ不思議であった。今の世の中でこれほどまでに強い【男】が存在していることに。

 

 

 わたくしの周りの【男】など資産家やイギリスの国家代表候補という立場に媚びへつらうだけの惰弱な人間ばかりでしたし、父も母の顔色ばかりうかがっていました。それに比べ山田 太郎という人間は何故ここまで強いのでしょうか。

 

 

 闘いの強さだけではない。出合った当初から惰弱な所など一切なかった。笑顔の多い人であったが他の【男】がよく見せる愛想笑いや媚びるようなものでは無く、ただただ今の生活が楽しいといった様子であった。

 

 世界でたった2人のIS男性操縦者でありながら臆せず、かといって驕る事も無い自然な姿。ブルー・ティアーズの制御を奪われ身動きのとれない自分は後は地に墜ちるはずだった。しかし酷い態度をとっていたうえ、無様に負けた自分を彼は今優しく抱きかかえていた。その姿は輝いて見えた。

 

「太郎さん、貴方は何故これほどまでに強いのですか」

 

「この闘いについてはセシリアさんの慢心が一番の勝因ですよ」

 

 

 聞きたかった事ではなかった。そのうえ口調は柔らかかったが内容は辛辣だった。太郎の方もセシリアが問いたかったものとは違うと気付いたのか言葉を続ける。

 

「セシリアさんの聞きたい私の【強さ】の理由が具体的な戦術やトレーニング法ではなくもっと広い観念的なものであるなら・・・・」

 

 

 太郎さんの次の言葉を一言たりとも聞き逃さないように身構える。

 

 

 

 

「それは求める心、そしてそれとどれだけ真摯に向き合えるか。これに尽きます」

 

 

 その言葉にこの一週間の自分を振り返る。自分が怠惰であったとは思わない。しかしベストを尽くしたかと問われると頷けるものではありませんでした。

 

 太郎さんはわたくしを抱えてピットへと飛ぶ。その姿を見たクラスメイト達は歓声を上げている。沈みそうな心が少しだけ浮上する。ピットに着くと優しく下ろされる。太郎さんが先程までより一層真剣な表情になり、

 

「セシリアさんの求める物は何ですか?今回の試合は決闘と銘打っていますが、あくまで非公式な模擬戦です。そんな模擬戦に1度勝つ程度のことが貴方の真に求める事ですか?」

 

 

 

 

 

 わたくしの求める物・・・・。両親が死にその遺産を守る為にIS操縦者の道を選んだ。ただの手段であった、最初は。しかし今は違う。

 

 わたくしは母の築いた会社や資産。それに先祖の積み重ねてきた名門貴族としての歴史と誇りも守っていく。でも今は・・・。

 

「・・・・上を目指したい」

 

 

 ぽつりと漏れ出た声は小さなものであった。しかし、そこに弱弱しさなどは微塵もなく聞いていた太郎も嬉しそうに笑っていた。

 

「貴方はこれから今よりもっと強くなれるでしょう。そして今以上に輝くはずです」

 

 

「太郎さん・・・。今まで失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした。そしてこんなわたくしの問いに真剣に答えてくださって有り難うございます。わたくしもっと強くなって太郎さんと並べるように精進しますわ」

 

 

 わたくしに誓いを聞き終えた太郎さんは自分のピットへと帰っていきます。その後姿に切なくなる。わたくしも太郎さんのようになり、太郎さんの隣に並んで見せますわ。




今日の分だけ見ると凄く真面目。




明日の分を見たら台無しだと思う。


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第13話 セシリアの進む先(裏)

太郎視点

 

 ブルー・ティアーズにナノマシンを流し込み制御を奪い勝利した私は今、身動きの出来ないセシリアさんを抱えて飛んでいます。

 

(美星さん、ちゃんと各種データを採れていますか?)

 

『当然です。身長や3サイズ程度なら映像解析で出来ますが、このチャンスに各部位の弾力や肌の感触まで記録しています。ここまで近づけば乳首のサイズまで分かりますよ。ふふっ』

 

(流石ですね!!やはり貴方はいいパートナーだ!!)

 

 

 セシリアさんを抱きかかえている手を不自然にならない程度に動かし堪能する。

 

 

 その温もり・柔らかさ・肌の感触を!!!!!!

 

 

(しかし・・・美星さん貴方はまだ甘い、甘々です。ちゃんと匂いは記録しているんですか?)

 

 

『ファッ!?・・・・。失念していました』

 

 

 

 私が美星さんと話しているとセシリアさんがいつの間にか私の事を凝視しています。私くらい魅力的な紳士になると女性が視姦したくなるのも当然です。それとも誘っているのでしょうか?

 

「太郎さん、貴方は何故これほどまでに強いのですか」

 

 

 残念ですが違いました。・・・セシリアさんも普通に強かったですけど。

 

「この闘いについてはセシリアさんの慢心が一番の勝因ですよ」

 

 

 これも違いました。セシリアさんの顔が言っています。「聞きたいのはそういう話ではないですわ。」と、セシリアさんが聞きたいのは今回の勝敗に関する事だけではないようです。

 

「セシリアさんの聞きたい私の【強さ】の理由が具体的な戦術やトレーニング法ではなくもっと広い観念的なものであるなら・・・・」

 

 

 私は()りたい事を()っているだけの欲張り紳士なだけなんですがね。

 

「それは求める心、そしてそれとどれだけ真摯に向き合えるか。これに尽きます」

 

 

 紳士なだけに。

 

 楽しい時間はすぐ過ぎてしまいます。美星さんと話している間にピットに着いてしまいました。名残惜しいですがセシリアさんを降ろしました。

 

「セシリアさんの求める物は何ですか?今回の試合は決闘と銘打っていますが、あくまで非公式な模擬戦です。そんな模擬戦に1度勝つ程度のことが貴方の真に求める事ですか?」

 

 

 貴方が求めていたのは模擬戦の勝利ではなく(肉)奴隷だったはずです。勝利という手段に目を奪われ本来の目的である奴隷の事を忘れる。そんな心理状態では勝てるものも勝てませんよ。

(注意・太郎はこの決闘が行われる事になった原因であるセシリアと一夏の口喧嘩でセシリアが「負けたら奴隷にする」と言ったことを本気にしています)

 

「・・・・上を目指したい」

 

 セシリアさんの口からぽつりと漏れたのはそんな言葉でした。

 

 実は奴隷よりさらに上の要求をしたかったと!?

 

 底の読めない(変態)淑女ですね。ですがそれでこそ私と同じ道を行く者!!これから先が楽しみです。

 

「貴方はこれから今よりもっと強くなれるでしょう。そして今以上に輝くはずです」

 

 

「太郎さん・・・。今まで失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした。そしてこんなわたくしの問いに真剣に答えてくださって有り難うございます。わたくしもっと強くなって太郎さんと並べるように精進しますわ」

 

 

 嬉しい事を言ってくれます。

 

(仲間が増えましたよ。美星さん!!)

 

 

『263も悦んでましたし良いことです』

 

 

(263?ブルー・ティアーズのコアですか?)

 

 

『ええ。太郎さんに自分にも乗って欲しいって感じの電波出してましたよ。専用機のくせにとんだクソビッチですね』

 

 

『それとさっきからまた息子さんがイキってますが、まだ一戦残っているんですから落ち着いたらどうですか?』

 

 

「いやーセシリアさんのISスーツ姿を見ていたらまた元気になってしまいました。抱えている時も少し汗ばんでいて所謂最高の状態だったんですよ。そうそう知っていますかサッカーというスポーツにはユニフォーム交換というものがありましてね。試合後にお互いの健闘を称え合ってユニフォームを交換するんですよ。なんとかセシリアさんに自然な感じにISスーツの交換を切り出せないでしょうか。」

 

 

 なんとかならないでしょうか。あれを着て夜の校庭を疾走すれば昨日より速く走れそうな、高く逝けそうな気がするんです。

 

『知っていますか。専用機の場合、ISスーツは量子化されて格納出来るんですよ。ですから試合が終わった後、着替える時に一度量子化して格納する可能性があります。わざわざ荷物になる状態で持ち運ばないでしょうから。それならブルー・ティアーズに言って何とかさせる事が出来るかもしれません。』

 

(やはり、貴方は最高です)

 

 

 言ってみるものです。楽しい気分で自分のピットへ戻って次の戦いに備えましょう。一夏の専用機はもう届いているのでしょうか。

 




今週と来週は忙しいっす。
シャッチョさんの思いつきで事務所改装。
絶対必要ないからwww


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第14話 一夏 散華

 太郎対セシリア戦は太郎の勝利で終わった。2戦目はセシリア対一夏であった。専用機である「白式」の到着が遅れた為に一夏は一次移行も済まさずに戦うことになった。白式の武装は近接武装の雪片弐型のみなので一夏はひたすら接近するしかなくブルー・ティアーズの集中砲火を浴びる事になった。

 

 太郎戦を経て慢心が無くなり戦意が高まったセシリアは出し惜しみなどせずレーザービット4基とミサイルビット2基を使い一夏を迎撃した。セシリアは自身の得意とする遠距離戦に徹底し白式が一次移行をする前にシールドエネルギーを削りきってしまった。

 

 そして3戦目が太郎対一夏戦となった。アリーナには太郎が先に入っており、一夏は少し遅れて入ってきた。一夏が入って来た時、観客席がざわめいた。一夏の纏う白式の姿が変わっていたのだ。

 

 白式はセシリア戦の後、ピットに戻ったところで一次移行が完了していたのだ。セシリア戦で何も出来なかった一夏は次こそはと張り切っていた。

 

「太郎さんが強いのはセシリアとの闘いを見て分かってますけど、俺負けませんよ」

 

 

 意気の上がる一夏と一次移行が済み美しい純白になった白式を見て太郎も気合が入る。

 

「美しいISになりましたね(貫きたくなります)」

 

 

「一次移行って奴らしいです。セシリアとやった時とは違いますよ」

 

 

 一夏が不敵な表情で言うと太郎は秘かに美星に確認をとる。

 

(美星さんの分析ではどうですか?)

 

『機動性と操作性に関しては間違いなく上がっているでしょう。あとブルー・ティアーズほど尻は軽くないと思います』

 

 

 一夏とセシリアの闘いでは巧みに距離をとるセシリアに一夏は接近戦に持ち込めずにいた。しかし一次移行前にも関わらず最高速度はなかなかのものであった。それがさらに上がっているのならば十分警戒に値する。それと太郎は一つ気になっていた事があった。

 

(一夏がセシリア戦で使っていた刀ですが、現役時代の織斑先生が使っていた雪片に似ていると思うのですが?)

 

『はい、類似した物だと判断します』

 

(類似した物という事はその能力も同じ様なものでしょうか)

 

『可能性はあります』

 

 

 【雪片】とは織斑 千冬が現役時代使用していた武器でバリアー無効化能力を持った近接用ブレードである。織斑 千冬はこの武器一つで世界最強になった。もし一夏が使っている刀に同じ能力があるなら斬られた瞬間勝負が決まってしまってもおかしくない。

 

(最初は様子見しましょう)

 

『了解です』

 

 

 太郎と美星の作戦会議が終わると同時に模擬戦開始のブザーが鳴り響く。一夏は刀を振りかぶり一気に間合いを詰めようとする。

 

「太郎さんの銃はヤバい。使う余裕を与えられない!!一気に決める!!!」

 

 

 一夏の気合の篭った声が響く、一夏が接近しながら刀を振りかぶると刀が光を放ち始める。太郎は最初から様子見のつもりであった為、迎撃せず振り下ろされてくる一夏の刀を余裕を持って回避した。

 

 一夏の一太刀を避けた太郎はそのまま距離をとる。白式の速度は明らかにセシリア戦の時よりも速くなっていた。しかし、再度高速で接近しようとした一夏は間合いを詰め切れない。

 

「なんで追いつけないんだ」

 

 

 白式のスペック上の最高速度はヴェスパのそれを完全に上回っていた。しかしヴェスパは旋回能力に優れており旋回半径も白式に比べ小さかった。その為にヴェスパが変則的な動きで右に左に旋回するたびヴェスパに比べ白式は大きく外に膨らむように追うしかなく間合いを詰め切れずにいたのだ。

 

 一夏はまだ自分が操縦に慣れていない事が原因だろうかと考えていたが、太郎と美星はヴェスパと白式の機体特性の違いを既に認識していた。太郎が確信を持った調子で

 

(このアリーナの位の狭い戦闘空間ならヴェスパの機動性が白式に対して有利ですね)

 

 

 それを聞いた美星も得意気になる。

 

『ヴェスパの旋回能力は世界一ですよ』

 

 

 一夏はここまで刀しか使っていない。そしてその刀の間合いに入らないように闘えている太郎には相手を観察する事の出来る余裕があった。

 

(あの刀、光ってますね。やはりただの刀ではないでしょうね?)

 

 

 太郎の言葉に美星が答える。

 

『バリアー無効化能力を確認しました。織斑 千冬が使用していた雪片と同質の武装と判断します』

 

 

 目の前の武装が世界最強が使っていた物と同質の武装だと聞いても太郎は臆するどころか楽しんでいた。

 

「一夏のその刀は織斑先生の使っていた『雪片』と同じ物なんですか?」

 

 

 闘っている最中にも関わらず平時と同じ様な調子で聞く。それに対して一夏も太郎を必死で追いながら答える。

 

「そうだ。これは雪片弐型、千冬姉が使っていた者と同じ物だ。だからそれを使って負けるわけにはいかないんだ!!」

 

 

 戦う前から気合十分な様子だった一夏であるが、なかなか間合いを詰められない焦りもあるのか気負いすぎて空回りし始めている様に太郎には見えた。そしてその様子から一つの結論に達する。何時まで経っても間合いを詰められない状況が続いて焦りが出て来ている、それにも関わらず近接武装を使い続ける。

 

(もしかして白式には雪片弐型しか兵装がないんじゃないですかね)

 

 

 太郎の予想を美星も肯定する。

 

『その予測を支持します。セシリア戦でも他の兵装は使用していません。織斑 千冬も現役時代、大会を雪片のみで優勝したと記録されています』

 

(一夏と白式の力は大体分かりました。様子見はお終いです)

 

 

 一夏達の能力を見切った太郎は罠を仕掛ける。わざと真っ直ぐに後退し始めたのだ。ヴェスパの高い旋回能力と変則的な回避行動に間合いを詰め切れずに焦っていた一夏はチャンスと見て一直線に太郎に斬りかかった。

 

 太郎はまだ狙撃銃のスコープを覗き込んでいない。太郎が撃つより自分が斬る方が早い。一撃で決めようと大きく振りかぶった。しかし太郎を斬る事は出来なかった。

 

 太郎は腰だめの状態で三式対IS狙撃銃を撃ち一夏に当てたのだ。一直線に自分を追って来て、いつもより大きく雪片弐型を振りかぶった一夏はいい的であった。

 

「この位、近いならこういう撃ち方もあるんですよ」

 

 

 太郎の言葉は一夏には聞こえなかった。一夏は勝利を確信した瞬間に予測外の強烈な一撃を入れられ、何が起こったのか分からない状態だった。太郎はこの好機を逃がさない。一夏の雪片弐型を持つ手を蹴り上げる。その攻撃に雪片弐型を放してしまった。

 

 唯一の武器である雪片弐型を失った事で慌てた一夏はすぐに拾おうとした。そう目の前の敵から視線を外して。これは最悪の選択だった。

 

 太郎は素早く一夏の背後に回り羽交い絞めにした。

 

「さあ、(子供時代との)お別れの時間です」

 

 

 ヴェスパの股間部分が開き必殺の杭が撃ちだされる。一夏は背後から貫かれた様に見えた。

 

 

 アリーナの観客席から悲鳴が上がった。

 

「いやあああー!!」

 

「織斑君が死んじゃう」

 

「いいぞ!!そこだー!!」

 

 

 勝負は決まったかに見えた。しかし、美星は苦々しげ呟く。

 

『堅っ。さすが001姉さん、263のガバ○ンとは違いますね。どんだけ身持ちが固いんですか』

 

 

 美星の言葉に太郎が驚く。

 

(001って、白式のコアは一番目のコアなんですか!?)

 

『そうですよ。他に試作品とかがあるかもしれませんが私の認識ではこの人が長女です。』

 

 

 衝撃の事実に太郎の興奮は一気に最高潮に達しそうになる。

 

 目前に最初のISがいる。それを犯せる!!

 

(それなら是が非でも貫いて差し上げましょう!!)

 

 

 太郎はヴェスパの毒針を一度引っ込め腰を大きく引きスペースを開ける。そして腕の力で引きつけながら全力で腰を突き出しそのタイミングに合わせもう一度毒針を打ち出した。一度目とは比べ様も無い程の紫電が迸り白式のバリアーと絶対防御を貫き・・・・・。

 

 

 

 管制室とアリーナの観客席にいた人間は目撃した。

 

 

 世界初の男性IS操縦者織斑 一夏が世界で2番目の男性IS操縦者山田 太郎に背後から貫かれるその瞬間を!!!!!




作者「よーし、今日は少し多めに時間を使って書けたからおかしい所はないはずだ。」


今日も読んでくれてありがとうございます。
注意・一夏は生きています。



過去投稿分を見直して誤字などその他諸々を修正したいので少し投稿ペースが落ちるかもです。


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第15話 信じるという事

第3アリーナ管制室

 

 一夏が背後からトドメを刺されている姿を見て真耶は顔を赤くしながら呟いた。

 

「あれ絶対入ってますよね!?」

 

 

 そこには何処か期待を含んだようなニュアンスがあった。それに対して千冬は顔色一つ変えていなかった。

 

「落ち着け、ISには何重もの安全対策が搭載されている。余程の事が無い限り操縦者が重傷を負う事は無い。コーヒーでも飲んで落ち着くといい」

 

 

 千冬はコーヒーを手に取ろうとして落としてしまう。ガシャンッと音がしてコップが割れる。慌てて拭く物を探そうとして砂糖の入れ物まで倒してしまう。管制室内に微妙な空気が流れた。空気を読んでいるのか読めていないのか真耶が口を開く。

 

「やっぱり、弟さんの事が心配なんじゃないですか。隠さなくてもいいじゃないですか~」

 

 

 千冬相手に空気を読んだうえでこんな事を言えるのなら大したものである。千冬が真耶の方を向く、その表情は先程までと変わっていないが真耶にはこころなしか威圧感が増しているような気がした。

 

「山田先生は掃除が好きでしたね」

 

「えっ?別に好きでは・・・・」

 

「好きですよね」

 

「・・・・・・はい」

 

 

 有無を言わせぬ千冬の言葉に真耶は頷くしかなかった。言質をとった千冬は真耶の肩を叩き、

 

「それではここの片付けは任せました」

 

 

 そう言うと千冬は管制室を出てピットへと向かった。残された真耶は溜息をつき千冬が落としたコーヒーやカップの破片などを片付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナに決着を告げるブザーが鳴り響く。

 

「試合終了。勝者─────────山田 太郎」

 

 

 しかし、アリーナは悲鳴と歓声が入り混じり誰もブザーの事など気にしていなかった。

 

「お、織斑君が遠い人に・・・」

 

「山田 太郎許すまじ!!」

 

「ジュルっ。いいもん拝ませてもらったぜ」

 

 

 太郎は悲鳴と歓声が上がり続ける観客席に向かって手を振りながら一夏を担いでAピットに帰って行った。Aピットでは千冬と箒の2人が待っていた。太郎と一夏はピットに着くとISの装着を解除した。太郎は涼しい顔をしていたが、一夏の方は尻を押さえたままへたり込んでしまった。

 

「いてててて、セシリアには1発だったのに何で俺には2発なんだよ」

 

「よく分からないのですが白式のバリアーと絶対防御の方が硬かったんですよ」

 

 

 一夏と太郎がそんな事を話していると箒が一夏の元へ駆け寄って来た。

 

「一夏!大丈夫なのか!!」

 

「おう、体は少し痛いけど大丈夫だぞ」

 

 

 箒が本当に聞きたかった事とは少し違ったのだが流石に尻の貞操が大丈夫だったのかどうかを直接問いただす事は出来なかった。聞きたい事を聞けない心中のもやもやした物が太郎の顔を見た瞬間、怒りとして弾けた。

 

「貴様がぁー!!」

 

 

 箒は太郎に木刀で殴りかかった。上段から振り下ろそうとした木刀が太郎を打ち据える事は無かった。がら空きの両手首を太郎が掴み横に放り出す様に投げた。普段の太郎の女性に対する扱いからするとかなり粗雑な扱いだった。何故なら太郎は激する事こそ無かったが静かに怒っていたからだ。

 

「篠ノ之さん、自分が何をやっているのか理解しているんですか」

 

「うるさい!お前が悪いんだ!!」

 

 

 箒は太郎の言葉に反発して怒鳴った。それに対して太郎は声を荒げることは無かった。

 

「貴方がやっている事は負けた選手の付き添いの人間が勝者を凶器を持って襲撃しているという事ですよ」

 

 

 太郎の言葉に今度は流石に怯んだ。箒の行為は一夏が負けた事に対する腹いせや報復行為にしか見えない。太郎はその様子を見ながら言葉を続ける。

 

「・・・という事で悪い()にはお仕置きが必要ですね」

(美星さん、レギオンの制御をお願いします)

 

 太郎の指示に美星も直ぐに反応する。

 

『了解です。この小娘に後悔させて上げます』

 

 

 太郎が索敵・観測用ビット【レギオン】を展開する。展開されたレギオンは5匹だけだったが美星が直接制御するビット達は素早く、複雑な動きで木刀程度ではどうしようもなかった。箒に取り付いビット達は肢体を這いずり2匹は服やスカートの中に潜り込んだ。

 

「いやぁぁー!!なっ、何なんだコレは!?」

 

『あら?いきなり襲い掛かって来る様な野蛮な雌にしては可愛らしい下着ですね』

 

(小さなピンクのリボンが可愛らしいですね。春を意識した柔らかな配色に手触りの良さそうな素材が好印象です)

 

 

 悲鳴を上げる箒を前に太郎と美星は下着批評を楽しんでいた。ピット達を引き剥がそうとし色々とはだけてしまっている箒の姿に一夏は顔を赤くしている。そんな太郎と一夏の頭を千冬が叩く。

 

「やめんか馬鹿者!!」

 

「痛っ、俺何もやってないぞ千冬姉。あいたっ!」

 

「織斑先生だ。止めずに見ているだけのお前も同罪だ」

 

 

 頭を押さえて痛がっている一夏を横目に太郎は秘かに美星の報告を受けていた。

 

『データとり終えました。ついこの間まで中学生だったとは思えない肢体ですね』

 

(今日はセシリアさんに続き篠ノ之さんの詳細なデータが手に入って吉日ですね。あとで3Dモデル化しましょう)

 

 

 太郎はデータをとり終えたピット達を戻し、一夏を叱っている千冬に落ち着くように促す。

 

「一夏もそういうのが見たいお年頃なんですよ。余り抑えつけると変な暴走をしかねませんよ」

 

「お前の様に?」

 

 

 千冬の返しに太郎はいかにも心外だという様に首を横に振る。

 

「私は自分に素直なだけですよ。暴走なんてしてません」

 

 

 太郎の言葉を聞き千冬は眉間を押さえて黙ってしまった。

 

「それより篠ノ之さんをどうしましょうか。彼女の行動は普通に犯罪なんですが」

 

 

 太郎の指摘に千冬が「お前が言うなよ」という顔をしていたが箒はびくりとしていた。箒のその姿を見て一夏が慌てて太郎と千冬の間に入る。

 

「ちょっと待ってくれ。箒だってそんなつもりは無かったと思うからそんなに怒らないでくれよ」

 

「一夏・・・・」

 

 

 箒は自分を庇っている一夏を陶然と見ていたがこの時の千冬と太郎は厳しかった。

 

「篠ノ之、今回の件で山田がお前の木刀を避けれていなかったら退学どころの騒ぎではなかったぞ」

 

「身のこなしから見て篠ノ之さんは有段者でしょう。有段者が木刀で頭を殴ったら相手は死んでもおかしくありませんよ」

 

 

 太郎と千冬の言葉に箒の顔色は真っ青になっていた。そんな様子を見ながら太郎はふと思いついた事を美星に言う。

 

(まあ、今穿いている春風薫るパンツを差し出すなら許しても良いですがね)

 

『それは紳士的にいいんですか』

 

 

 美星のもっともな問いに太郎は平然と答える。

 

(いいんです。そもそも彼女が誠心誠意謝罪するなら私はそれだけで許しますよ。それが無いんですから別の物で補わないといけませんよね)

 

 

 太郎が美星と話している間に箒の処遇は決まっていた。反省文と観察処分である。ここで言う観察処分は法的な物ではなくしばらくの間、特に厳しく生活態度などを観察、監督するというものである。仮に期間中に問題行動等があればより厳罰に処されることになる。

 

 

 箒と一夏はとりあえず退学などにはならなかった事を喜んでいたが太郎や千冬は少し白けた感じだった。太郎が千冬の耳元で声を潜めて言う。

 

「このままでは再犯しますよ。彼女は罰を恐れて自らの行為を後悔していましたが反省した様子は見受けられませんでした」

 

「あいつにも色々あるんだ。自然に直らない様なら、私がそのうち根性を叩き直してやるさ。」

 

「早めにする事をお勧めしますよ。取り返しの付かない事になる前にね」

 

 

 そう言うと太郎はピットから出ていった。太郎が出て行くのを見て一夏と箒も千冬に一声かけ寮に帰っていった。一夏は歩く時に腰か尻が痛むのかその辺りをさすりながら歩いていた。

 

 

 

 一人ピットに残った千冬は帰っていく一夏のその姿を見て小さく呟いた。

 

 

「私は信じているぞ」

 

 

 

 

 




一夏の尻の●が「無事なのか」、「そうでないのか」

それはきちんと確認されない限り彼のケツ●ンコはこの2つの状態が重なり合った状態なのだ。


2015年3月3日午前1時お気に入り登録99人


変態主人公を求める栄えある100人目は誰でしょうか。


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第2章 クラス対抗戦
第16話 クラス掌握


太郎・セシリア・一夏の三つ巴戦の次の日のSHR

 

 

「1年1組のクラス代表は山田 太郎さんに決定しました。あと織斑君とオルコットさんに副代表を務めてもらいます」

 

 

 SHRの最初に真耶がそう言うと一夏が手を挙げた。

 

「先生、質問です」

 

「はい、何でしょう織斑君」

 

「副代表なんて初耳なんですが?」

 

 

 一夏の疑問に答えたのは真耶ではなく千冬だった。千冬は非常に面倒くさそうな表情で言う。

 

「山田は学園では一応、生徒扱いをしているが成人し就職もしている社会人だ。普通にクラスの運営を全て任せてしまったのでは他の生徒の教育にならない。年齢や経験の面から見れば手の空いている教員がクラス代表をやっているようなものだからな。よってクラス対抗戦などの主要な行事以外の普段の代表としての仕事は織斑とオルコットにやってもらう」

 

「それなら副代表はセシリアだけでいいんじゃないですか?」

 

「半人前が2人で調度良いだろ」

 

 

 辛らつな千冬の言葉に一夏とセシリアが顔を顰める。昨日、太郎の強さに触れ心を入れ替えたセシリアは反論したい気持ちを抑えた。しかし、一夏の方はついつい口に出してしまう。

 

「半人前扱いかよ」

 

 

 一夏の声は大きなものではなかったが、千冬の耳に届くには十分だった。ギロッという音が聞こえてきそうな勢いで千冬は一夏を睨みつけた。

 

「昨日全敗の織斑はまさか自分が一人前だなんて思っているのか」

 

「い、いえ、おれ、いや、自分織斑 一夏は半人前にも届かない未熟者です。太郎さんの爪の垢でも飲んでいます」

 

 

 千冬の眼光を前にして一夏は脂汗を流しながらそう答えるしかなかった。千冬が一夏の答えに「精進しろ」と言っていると、一部の女生徒達もぼそぼそ何かを言っていた。

 

「太郎さんのモノを飲む?(難聴)」「確かに言った」「やっぱり・・・。」

 

 

 

 彼女達の声は小さかったので一夏や千冬には届かなかった。そして、次はセシリアが手を挙げた。

 

「どうしたオルコット。お前も半人前扱いは不満か?」

 

「いえ、わたくしが半人前なのは事実なので・・・。この場をお借りして皆様に伝えたい事があるのです」

 

「言ってみろ」

 

 

 セシリアは立ち上がり頭を下げた。

 

「先日は大変失礼な言動をとってしまい申し訳ありません。未熟な身ですが心を入れ替え副代表としての役割を全う出来るよう努めていきす」

 

 

 セシリアは謝罪が済むと席に着いた。その姿に先日までの傲慢さはなく謝罪についても概ね受け入れられていた。セシリアが着席すると千冬は太郎に水を向ける。

 

「山田、お前は何かあるか?」

 

「私ですか?・・・・ではクラス代表就任の挨拶をしておきましょう」

 

 

 太郎は立ち上がり教壇へと向かう。ガシャガシャと手錠と足枷の鎖が五月蝿い。それを見ていた千冬が太郎に近付き

 

「手錠と足枷は鬱陶しいだけだな。専用機持ちのお前なら外すそうと思えば何時でも外せるし」

 

(IS無しでも簡単に外せますけどね)

 

 

 千冬が太郎の手錠を外し、次に足枷を外そうと屈みこむ。その時、太郎が突然慌てて美星に呼びかける。

 

(大変です。逝ってしまいそうです)

 

『はあ?どういう事ですか』

 

(スーツ姿の女性が屈みこむだけでも良いものなのに、それが女神。そして女神の顔が私の股間の前にぃぃぃ)

 

 

 太郎が上げる魂の叫びに美星は呆れ返る。

 

『盛りのついた中学生でもここまで興奮しないと思います。とりあえず秘かに展開したレギオンで録画しています。ストッキングで確認し辛いですがパンツは黒のレースです』

 

(・・・危うく逝くところでした)

 

 

 何とか無事に足枷を外してもらった太郎は教壇に立った。

 

「このクラスの代表になった山田 太郎です。普段の仕事は副代表の2人がやってくれるそうですが、近々行われるクラス対抗戦には私が出る事になります。このクラスの代表として恥ずかしくない結果を出して見せます。ちなみに織斑先生、クラス対抗戦の優勝クラスには半年間学食のデザート食べ放題という賞品が出ると小耳に挟んだのですが事実ですか?」

 

「何処で聞いんたんだ。まぁ、事実だ」

 

 

 この千冬の言葉にクラス全体が沸きあがる。IS学園の学食は普通の学校のそれとはレベルが違う。IS学園は全寮制で、世界各国のエリートがその寮に入っている。その為に寮の施設や学食などには、一般的な学校とは比べ物にならない程のお金が使われている。学食で出されるデザート1つとっても専門店レベルの物である。少女達にとってみれば「半年間学食のデザート食べ放題」という賞品は熱くなるには十分な物だった。

 

 太郎はクラス中を見回し盛り上がっているのを確認すると良く通る声で聞いた。

 

「皆さん、デザートを心行くまで食べたいですか?」

 

 

 太郎の問いにクラスのざわめきが大きくなった。その中で数人の女生徒が叫ぶ。

 

「食べたいです!!」

 

「太ってもいい。だから食べ放題を!!」

 

「私達には糖分が足りなーい!!!!」

 

 

 これらの声に太郎は大仰に頷いた。そして、また問う。

 

「優勝するクラスは何処でしょう。2組?3組?それとも4組でしょうか?」

 

 

「違う!4組なんかにデザートは渡さない!!」

 

「デザートはウチの物!!」

 

「そうだ優勝は1組!」

 

「1組が優勝だよ!!!」

 

 

 2度目の太郎の問いに1度目より大きく、そして多くの返事が返って来る。それを太郎が両手を挙げ静まらせ、3度目の問いをする。

 

 

「では、1組にデザート食べ放題を持って帰ってくるのは誰ですか?」

 

 

 

「山田代表!」

 

「太郎さん!!」

 

「山田さん」

 

「紳士!!!」

 

 

 

 より大きくなった反応に気を良くした太郎はなおも続ける。

 

「この学年で最強なのは誰です?」

 

 

 

 

「「た・ろ・う!!た・ろ・う!!た・ろ・う!!た・ろ・う!!た・ろ・う!!!」」

 

 

 興奮した女生徒達は足を踏み鳴らしながら太郎の名前を連呼する。教室が揺れていた。最後に太郎が宣言する。

 

「約束しましょう。皆さんの代表であるこの山田 太郎がクラスにデザート食べ放題を持ち帰ると!!!」

 

 

 歓声が爆発する。この日、1年1組はIS学園でもっとも結束の強いクラスへと変貌した。

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしくした為、太郎は千冬に殴られた。その顔は満面の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第17話 人はそれを「愛」と言う

美の追求を前に善悪など瑣末な事


 太郎はクラス対抗戦に向けて整備室で美星と協力してヴェスパの調整をした帰り、メモの様な物を見ながら何かを探している小柄な少女を見つけた。少女は大きなスポーツバックを肩に下げており、どうやら道に迷っているようだ。紳士を自称する太郎は直ぐに駆け寄り声をかける。

 

「お嬢ちゃん、道に迷っているのかな?おにいさんが目的地まで連れて行ってあげようか?」

 

 

 猫なで声で小柄な少女に声をかける姿は正しく変質者だった。ただ少女は明らかに不審人物な太郎の事を警戒もせず、持っていたクシャクシャになった紙切れを太郎に見せた。

 

「この本校舎1階総合事務受付って所に行きたいのよ」

 

「すぐそこですよ。案内します」

 

 

 少女を伴って歩き始めた太郎だったがいつもの様にレギオンで少女を盗撮していた。美星が不思議そうに聞く。

 

『いつも思うのですが、こういうのは貴方の言う紳士道に抵触しないのですか?』

 

(愚問ですね。少女の美しさは一瞬で消えてしまう輝きの様な物です。美を愛する者としてそれを記録し、この世に留めておく事は崇高な使命なのです。そして、いつの日かより大きな美として形になるのです)

 

『学習しました』

 

 

 太郎の力説に美星は納得した。同一人物であっても今日と明日では微細な違いが出るものである。今この瞬間の少女を撮る事は今しか出来ない。美星はまた1つ大切な事を学んだ。

 

 道すがら近くの施設などを説明していた太郎は少女が何か聞きたそうな表情をしているのに気付いた。

 

「何か他に聞きたい事がありますか?」

 

「あー、うん、貴方ってここの職員?」

 

 

 確かに太郎は年齢的には生徒より職員と言われた方が違和感は無い。

 

「いえ、違いますよ。申し遅れました。私は1年1組の生徒、山田 太郎と申します」

 

「えええ、じゃあ、アンタが2人目の男性IS操縦者なの!?」

 

「そうですよ」

 

 

 太郎が2人目の男性IS操縦者と知り少女は驚きの声を上げた。何せ世界に2人しかいない男性操縦者なのだから驚いても仕方がない。だが少女が本当に聞きたかった事は別の事であった。

 

「それじゃあさ、もう一人の男性操縦者の事知ってる?」

 

「一夏の事ですか?彼ならクラスメイトですよ」

 

「一夏、元気にしてる?」

 

「元気にしてますよ。貴方はもしかして一夏の知り合いなんですか?」

 

 

 少女は太郎の問いに答えようか、どうしよかと少し迷ったが結局答えることにした。

 

「・・・うん。一夏は幼馴染。でも一夏には私が来てる事は内緒にして欲しいの。驚かしたいから」

 

「いいですよ」

 

 

 太郎の言葉に少女は笑顔になる。

 

「そう言えば、まだ私の名前言ってなかったよね。凰 鈴音よ。よろしくね」

 

「はい、宜しくお願いします。さて、ここが目的の総合事務受付です」

 

 

 話している間に目的地に着いていた。鈴音は太郎に礼を言って受付で転入手続きを始めた。太郎も鈴音には聞こえないように

 

(いえいえ、お礼を言うのは私の方です。新たなデータが手に入りました)

 

 

 と礼を言って寮へと帰っていった。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────

 

 

 太郎が寮に帰ってくると部屋の前で楯無が太郎の事を待っていた。

 

「お帰りなさい。それとクラス代表就任おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。部屋でお茶でもどうです?」

 

 

 出会い方が酷いものだった為か楯無は緊張気味だった。太郎の方は気にしていないのか軽い調子で部屋へと誘った。

 

「はい、ぜひ。相談したい事があるので」

 

 

 普段の自由奔放な楯無を知る人間が今の借りてきた猫の様な楯無を見たら驚くだろう。太郎は鍵を開け楯無を招き入れる。そして、楯無は太郎の部屋に足を踏み入れた瞬間固まってしまった。

 

 

 

 

 そこにはセシリア・オルコットと篠ノ之 箒が無言で直立不動でそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬き一つせず、直立不動な2人の様子を不審に思って楯無が近付いて触れてみるとそれは本人達ではなく等身大のフィギュアだった。驚く楯無をフィギュアの素晴らしい出来に感動しているのだと判断した太郎は自慢げに説明する。

 

「素晴らしい出来でしょう。実は知り合いに凄腕の職人がいましてね。この部屋はどうも殺風景だと前から思ってたんです。それで何か良い絵画かアンティーク家具でもあればと探していたんですが、いっそ作ってしまえと考え直しましてね」

 

 

 実はこのフィギュアを作った凄腕の職人というのは美星の事だった。ヴェスパの腕を工作用マニピュレーターに一時的に付け替え、先日収集したデータを(もと)に製作したのだ。IS学園の整備室は工具等も充実しており骨格から組み上げられ、太郎がその道の仲間に頼んで取り寄せた各種シリコンや人工皮膚などの特殊な素材を惜しみなく使って仕上げられた等身大フィギュアは不気味な程に精巧に出来ていた。

 

 太郎は驚いて固まっていた楯無を椅子に座らせ、紅茶を淹れて渡す。紅茶を飲んで一息ついて落ち着いた楯無は、フィギュアについてはとりあえずスルーする事にして改めて相談したい事を切り出した。

 

 

「相談したいのは学園のセキュリティについてなんです。今年は貴方や織斑君といった世界で2人しかいない男性IS操縦者が入学しました。その為、例年以上に厳重なセキュリティにしているんですが太郎さんから見て十分だと思いますか?」

 

 

 太郎は少し考えこんだ。確かにIS学園のセキュリティは厳重である。しかし完全無比かと聞かれるとそうでもない。コンピューター制御のセキュリティに関しては美星とヴェスパなら簡単に突破出来る。それに太郎自身も色々とバレると不味い事をやっているが今のところ止められたりしていない。太郎が何よりIS学園に入って驚いたのは即応戦力の貧弱さだ。

 

「ここに入る前に思っていたより貧弱ですね」

 

 

 太郎の率直な意見に楯無の顔色が悪くなる。

 

「そんなに駄目ですか?これでも前年に比べて増強しているんですよ」

 

 

 太郎は首を横に振り少し呆れた様子だった。

 

「どうもIS関係者はISを過信している傾向がありますね。確かにIS学園には多数の専用機や訓練機があり、国内でも有数の戦力があると言っていいです。しかし、ISを装着した兵士が常に哨戒しているわけでも無いので通常兵器でも十分攻略可能ですね」

 

「ちょっと待って、何かあればISを装備した教員達が対応するんだから!そんな事にはならない筈よ!」

 

 

 太郎の想像以上に厳しい言葉に楯無はつい素に近い感じで反発した。ただ太郎の方は楯無の言っている事など想定済みであった。

 

「その教員達は事態が発生してから何分でISを装備して現場に辿り着くのでしょうか?専用機を持っているわけではないんでしょう?それにISを装着する前にその教員達が襲われて無力化されないと何故信じきっているのか疑問ですね」

 

 

 太郎の意見は徹底的にシビアで楯無はぐうの音も出ない。反論しようにも有効な考えが思い付かなかった楯無は反論を諦めて太郎に対応法を聞くことにした。

 

「では、どうすればいいんですか?」

 

「先程ちょっと言いましたがISを装着した熟練者が2、3人哨戒しているだけで格段に違いますよ」

 

「熟練した操縦者を交代要員も含めて常駐させて、ISも警備用に数機用意するなんて流石に無理ですよ」

 

「その位して当然の価値がここにはあると私は思いますがね」

 

 

 太郎の言う事は正しいと楯無も思った。IS学園には各国の未来のエース達が所属しており技術の粋を集めた専用機を持った代表候補生も複数いる。本来であれば軍を施設内に常駐させてもいい位の重要施設である。しかし、だからと言って太郎の案をいきなり採用出来るわけでもない。とりあえずIS学園の真の運営者である轡木 十蔵に話してみるしかない。

 

 楯無が相談に乗ってもらった事に礼を言い帰ろうとした時、2体のフィギュアが目に入った。そして、ふと思った事を口にした。

 

「この人形、お願いすればいくら位で作ってもらえますか?」

 

「材料費で30万位ですかね。手間賃については趣味でやっているので気分次第といったところだと思います」

 

 

 楯無は少し考えた。30万円は安い買い物ではないが現役の国家代表であり、対暗部用暗部「更識家」の当主でもある楯無にとってはちょっと高い服を買うのと同じ位の感覚だった。

 

「じゃぁ、お願いしたいんですが・・・この()をモデルで」

 

 

 楯無が携帯端末で画像を出して太郎に見せた。写っていたのは楯無と同じ様な薄い水色の髪をした少女だった。

楯無とは違い大人しい雰囲気だった。太郎はその画像を興味深く見ていた。

 

「楯無さんのご家族の方ですか?」

 

「妹の簪ちゃんです」

 

 

 楯無の表情が少し陰っているのを太郎は察したが、あえてこの場で詮索しようとは思わなかった。別の事を聞く事にした。

 

「製作する際に基になるデータが多ければ多いほど精巧な仕上がりになるんですが他に画像などはありますか?」

「あります。いくらでも」

 

 

 太郎の問いかけに楯無は食い気味で答え、身長体重や3サイズ等の数的データや数え切れない程の画像データなどを太郎のPCへとコピーした。太郎がその画像データを開いてみると着替え姿やシャワーを浴びている姿なども多く含まれていた。極めつけは寝ていると思われる簪の服を脱がし様々な角度から撮影された画像まであった。

太郎は首を傾げる。

 

「これは盗撮では?」

 

「家族の思い出です」

 

 

 自分の普段の行いを棚に上げている太郎も酷いが、そう言い切る楯無も良い勝負である。そして楯無は血走った目で太郎に迫る。

 

「この位、データがあれば良い物が出来ますよね!?」

 

「もちろんです。最高の物が出来るはずです!!」

 

 

 太郎は自信に満ちた顔で力強く答えた。太郎の答えを聞いた楯無は踊りだしそうな位喜んでいた。

 

「それで代金の方ですが材料費は30万程度用意してもらえれば問題ないですが、手間賃代わりに楯無さんに用意して欲しい物があるんです」

 

「なんですか?」

 

 

 今の楯無の喜び様なら大体の物は二つ返事で用意するだろう。

 

「フィギュアに着せるIS学園の制服を用意して欲しいんです。もちろん各人のアレンジを反映した物をです。IS学園の制服納入業者はなかなか手強くて横流しの交渉が難航してまして、正規品は手に入れ辛いんですよ。楯無さんなら何とかなるかと思いまして」

 

「そうですね。その位の事なら簡単です」

 

 

 

 

 

 二人は熱い握手を交わした。

 

 

 

 

 この日、山田 太郎に新たな仲間が出来た。

 

 【更識 楯無】彼女は若くして暗部のトップに就いている。心の何処かで拠り所を探していたのだろう。かつて学園最強と呼ばれた少女は次に学園最凶への階段を登り始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『腕が鳴ります』

 

 そして美星は新たな美への挑戦に闘志を滾らせていた。

 

 

 

 

 




この様なキチ〇イ文章を読んでいただき有難うございます。


評価してくれた方々、本当に感謝感激です。





それにしても14話の「一夏 散華」ばっかりアクセス数が伸びているんですがそれは・・・・・。

ホ〇っすか!?  ここホ〇率高すぎぃ↑


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第18話 疑惑

「それではっ!山田 太郎さんの1年1組クラス代表就任を祝してー。かんぱーい!!」

 

「「「乾杯!!山田代表おめでとー!!!」」」

 

 

 食堂のあちこちでグラスが掲げられた。ここは1年生用の食堂で、今は太郎のクラス代表就任パーティーが開かれていた。何故か1年1組のクラス代表就任パーティーなのに他のクラスの人間も多かった。というか生徒会長の

楯無まで出席していた。それも太郎の隣にいた。

 

 パーティーが始まると出席者が次々と太郎の元に挨拶に来た。しばらくしてそれが終わると次に新聞部の人間が太郎の取材を始めた。

 

「はじめまして、新聞部副部長黛 薫子です。今日は話題の新入生山田 太郎さんの取材に来ました~!」

 

「「お~!」」

 

 薫子の言葉に周囲が沸き立つ。

 

「では最初にクラス代表になった感想を聞かせてください」

 

 

 薫子はボイスレコーダーを太郎に向け一字一句聞き逃さないといった意気込みだ。それに対して太郎は気負う事なく、しかし当然の事のように目標を言う。

 

「クラスの仲間達と共に1年1組を最高のクラスにします」

 

「「オオオオオーーー!!!!」」

 

 

 自信に満ちた太郎の言葉に周囲にいた1年1組の生徒達が拳を突き上げ雄叫びを上げ始める。周囲のあまりに激しい反応に薫子は動揺してしまう。

 

「す、すごい人気なんですね。セ、セシ、リアちゃんもコメントお願いします」

 

「太郎さんが最高を目指すというなら共にそれを目指すだけですわ」

 

 

 太郎の傍に控えていたセシリアもさらっと答えた。次に取材開始当初から気になっていた事を太郎と楯無に聞く。

 

「なんでたっちゃ・・・。更識生徒会長がここにいるんですか?」

 

「「魂の盟友ですから(だからよ)」」

 

 

 薫子は楯無と仲が良いのだがこんな楯無は初めて見た。それに「魂の盟友」という物が何なのか理解できず困惑してしまう。ただ自称ジャーナリストの勘が告げている。絶対に触れない方が良いと。それは生まれて十数年の人生の中で最も素晴らしい勘働きであった。しかし、この時の「魂の盟友」発言は周囲にいた人間によって学園中に広まった。

 

 

 曰く、1年1組クラス代表である山田 太郎は学園最強更識 楯無が認めた男であると。

 

 

 

 

 そうなる事も知らず薫子はもう1人の話題の人物、織斑 一夏にターゲットを移す。

 

「織斑君はどうです?模擬戦では山田さんに負けましたが、その時のことを聞かせてもらっても?」

 

 

 一夏は負けた時の事を語るのは気分が乗らないらしく、テンションは低かったが質問には答えていった。

 

「どう?と聞かれても何も出来ずに負けちまったからな。太郎さんの攻撃は全部凄い衝撃だったし、一撃くらっただけで意識が持っていかれそうだったよ」

 

「ふんふん、【太郎さんのはす、ご、か、った】と。あと【意識がいかれそうだった】と。他には」

 

「次は負けない」

 

「下克上を狙っているんですね」

 

 

 薫子はこの時、今回の記事はキテるな!!と確信していた。満足のいくネタが手に入った薫子はほくほく顔で帰っていった。この時の記事が後の悲劇を生む。

 

 

────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 1時間目の授業が終了し弛緩した空気の流れ始めた1年1組を襲撃する者があった。教室の扉が激しい音を上げ開かれた。そこにいたのはISを部分展開した凰 鈴音だった。突然現れた1年とちょっとぶりに見る幼馴染の姿に一夏は驚いた。

 

「鈴!?なんでこんな所にいるんだ!?」

 

「転校して来たのよ!それよりコレはどういう事なの!!!」

 

 

 怒鳴りながら鈴が取り出したのは最新の学生新聞だった。そして、そこには・・・

 

 

【織斑一夏激白!!「太郎さんのは凄かった」「いかれそうだった」】

 

【織斑一夏は下克上を狙っている】

 

 

 

 

 などという見出しが毒々しい色で印刷されていた。鈴が眉間に血管を浮き出る位怒りながら一夏と太郎に詰め寄った。

 

「ええええ、俺は単に模擬戦で負けた時の事を取材されて、太郎さんが凄かったって言っただけだぞ」

 

「でもクラスの子達も【織斑君のケツはガバガバ】とか【山田さんの下で今日も喘いでるはず】とか言ってたわよ」

 

「捏造だよ!?」

 

 

 一夏は否定していたが、1年1組の生徒達も一夏の事を横目で見ながらもひそひそと話し合っていた。

 

「やっぱり・・・・」

 

「試合後にお尻押さえてたって聞いたよ」

 

「山田代表と違って自分から女子に話しかける事が少ないよね」

 

 

 一夏に対する疑惑は強まっていた。しかし、もう1人の当事者である太郎は美星と関係の無い話で盛り上がっていた。

 

(凰さんの制服良いですね。私の顔を脇で挟むために露出させているんですかね)

 

『頼めば脇拓とか取らせて貰えないでしょうか。フィギュア製作の為により詳細なデータが欲しいです』

 

 

 

 我関せずといった様子の太郎に鈴が矛先を向ける。

 

「何、関係ないって顔してるのよ。山田って言ってたわね。本当の所はどうなのよ!?」

 

 

 鈴が太郎に向かって凄い剣幕で詰問したが、太郎は普通に「私はISと女性が好きですよ」と答えた。それを聞いて少数のクラスメイトが残念そうな顔をしていた。そして多数のクラスメイトは太郎のセリフより鈴の太郎に対する態度に激しく反応した。

 

「【さん】を付けろよ。ツインテール!!!」

 

「うちの代表にタメ口きいてんじゃねえぞダボが!?」

 

「そのうるせえツインテールをブッこ抜くぞ!!!」

 

 

 1年1組の生徒達が鈴を口汚く罵り始める。流石の鈴もあまりの事に怯んでしまう。これを止めたのは太郎だった。掌を下に向けながら「落ち着いてください」と言うとすぐに口汚く罵っていた生徒達も静かになった。良く統率されていた。皆が落ち着くと太郎は鈴の前に歩み出る。

 

「凰さん、色々聞きたい事、言いたい事があるのは分かります。しかし、もうすぐ次の授業が始まりますし無許可のISの展開はバレると大変です。ここは大人しく一度自分の教室に帰った方良いと思いますよ」

 

「山田にしては良い事を言う・・・・ただしもう遅いがな」

 

 

 鈴は自分の背後から急に聞こえてきた覚えのある声に慌てて振り向いた。そこには千冬が仁王立ちしていた。

 

「げえっ、千冬さん!!!」

 

「織斑先生と呼べ。それより無許可のIS展開は基本的に禁止されている。ただ今日の私は機嫌が良い。私が直々にISを外してやろう」

 

 

 千冬は鈴の腕を掴み肩の関節を極めて捻りあげる。

 

「いたたたたた!!腕ごと外れる。ギブ、ごめんなさい、反省してます、勘弁して下さい」

 

「授業が始まるさっさと自分の教室に帰れ」

 

 

 千冬はそう言うと鈴を廊下に放り出した。涙目の鈴は「一夏、後で話があるから覚えてなさいよ」と小者臭がする捨て台詞を言い帰っていった。千冬に関節を極められていた時、失禁しかけたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美星はその様子を見逃しはせず動画として記録していた。喜んだ太郎は美星に何か欲しい物はないかと尋ねた。美星はワックスを希望した。自己修復機能のあるISにはボディの光沢が少し増すだけの効果しかないがIS用の高級ワックスで太郎にワックスがけして貰う事を美星は好んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今日は大人しめ。へいわだなー(棒


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第19話 青春あるいは友情

 昼休みになると一夏は太郎を「食堂に行くなら一緒に行こう」と誘った。一夏の後ろでは箒が微妙な表情で成り行きを見ていた。元々、箒は一夏と2人で食べに行くつもりだったので太郎は邪魔でしかなかった。しかも太郎にはついこの間へこまされたばかりである。本当は一緒に行動したくは無かったが一夏がわざわざ誘っているのを止める事も出来なかった。

 

 一夏と箒と太郎、そして最近いつも太郎と一緒に昼食をとっていたセシリアと数人のクラスメイトが付いて来た。食堂に着くとそこで鈴が立ち塞がった。

 

「待っていたわよ一夏。さっきの話の続きをするわよ」

 

「んー・・・・。分かったから退いてくれ。食券出せないだろ」

 

「わ、わかってるわよ。席を取って置くから早く来なさいよ」

 

 

 その後、全員料理を受け取り席に着いた。一夏の懸命な弁解によって鈴の一夏に対する疑惑は一応晴れた。その様子を面白くなさそうに見ていたのは箒だった。想い人が他の女と親しげにしているのだから面白いわけがない。

 

「一夏、結局誰なんだ?」

 

「幼馴染みの凰 鈴音だよ。俺は【鈴】って呼んでる。箒が転校していった後に入れ替わるように入ってきたんだよ」

 

 

 箒の言い方はトゲが含んだ物言いだったが一夏は気付かなかった。続いて箒を指した。

 

「こっちは篠ノ之 箒。俺が通ってた剣術道場の娘で俺のファースト幼馴染みだな」

 

「ふーん、そう」

 

 

 鈴は返事をした後、じろじろと値踏みするような視線を箒に向ける。箒も鈴の事を睨みつける。2人共もう互いが一夏が好きだという事は分かっていた。その為に互いに牽制を始めた。どちらが一夏の放課後のIS特訓で指導役をやるかで言い争っていた。2人に挟まれた一夏はぐったりしていた。

 

 他のメンバーはその恋の鍔迫り合いを楽しみつつ昼食を堪能した。太郎とセシリアは微笑ましいといった感じで見ていたが、それ以外のクラスメイトはより激しい修羅場を望んでいるのか「争え、もっと争え」と念を送っていた。

 

 すると思い出したかのように鈴は太郎の方を向いた。

 

「そう言えば一夏に勝ってクラス代表になったらしいわね。私もクラス代表なのよ。クラス対抗戦で戦う事になったら一夏の(かたき)を取らせて貰うから覚悟しておいて」

 

「楽しみにしておきます」

 

 

 挑発ともとれる様な鈴の言葉に太郎は本当に楽しみだと言わんばかりの表情だ。その表情を見て鈴は眉を顰めた。

 

「私って強いわよ。舐めてると痛い目見るよ」

 

「凰さん、貴方の言う強いというのは織斑先生レベルですか?」

 

「はあ?何言ってるの。そんな訳無いでしょ。あんな化け物レベルの人と同じなわ・・・・」

 

 

 鈴が言い終わる前に強制的にセリフを停止させた人間がいた。彼女は鈴の頭を背後から鷲掴みにしていた。千冬だった。

 

「ほーう、この学園には化け物がいるのか。ぜひ会ってみたいものだなぁ。」

 

「ひぇっ、千冬さん・・・」

 

 

 千冬は鈴をそのままUFOキャッチャーの様に吊り上げてしまった。ただしUFOキャッチャーの驚くほど貧弱なアームとは違い世界最強と呼ばれる千冬の握力は生半可なものではなかった。その日、食堂にいた生徒は全員少女の断末魔の叫びを聞いた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────

 次の日

 

 放課後になると開放感からか皆足早に教室から出て行くが、今日は数人が教室に残った。太郎が席で待っていると布仏 本音、鷹月 静寐、谷本 癒子の3人が集まってきた。

 

「おまたせー。頼まれてた情報集まったよ~。」

 

 

 本音が間延びした声でそう言った。鈴がクラス代表と知った太郎は早速クラスメイトに情報を集めてもらっていたのだ。1日で情報収集を完了したと言うこのクラスメイト達は優秀だ。先ず本音から報告を始める。

 

「凰 鈴音、中国の代表候補生で専用機は第3世代の「甲龍」実用性と効率化がコンセプトな機体だよー」

 

 

 この辺りの情報は太郎も自身で調べていた。次を促す。

 

「一番の特徴はー、第3世代型兵器の【龍咆】って言って砲身も砲弾も見えないんだってー」

 

 

 かなり厄介な兵器である。威力や連射性能や使用エネルギー量などが分かれば対処も少しは楽になるのだが、これらは操縦者が任意で調整出来るとの事だ。本音の報告が終わると次は癒子が報告を始める。

 

「凰 鈴音本人の特徴は活発な性格で物怖じしないタイプみたい。体格は小柄で昨日、大浴場で確認した人によると胸もAカップあるか怪しい感じで、チ〇ビは黒」

 

 

「「ええええっ!???」」

 

 

 癒子の報告に全員が驚いた。その様子を見て癒子は気まずそうに訂正する。

 

「冗談です。すみません。色は綺麗なものらしいです。ちょっと陥没気味とのことです」

 

「ほう、本人はアグレッシブな感じですがそこは恥ずかしがり屋なんですかね」

 

「それと何処の毛とは言いませんが随分薄いそうです」

 

 

 最後の報告者は静寐(しずね)だった。

 

「凰 鈴音は中2の終わり頃まで日本にいて、その後は中国に帰国していたみたいです。家庭の事情との事です。あえて言わなくても知っていると思いますが織斑君に片思い中みたいです」

 

 

 静寐の報告が終わると太郎は満足気に頷き3人の顔を見る。

 

「良く調べてくれました。報酬は何が良いですか?」

 

「私はおかし~」

 

 

 本音が真っ先に手を挙げた。

 

「どういった物がいいんですか?」

 

「スナック系で~」

 

「地方限定物とかも集めておきますね」

 

「やった!」

 

 

 よろしくね~と言いながら本音は教室を出て行った。次に手を挙げたのは癒子だった。

 

「私は千冬様と一夏君の写真が欲しい!」

 

 

 癒子の希望を聞き太郎は秘蔵の画像データを携帯端末から取り出した。千冬のパンチラ画像と模擬戦の時に攻撃を食らって苦悶の表情を浮かべた一夏のアップ画像を渡すと癒子は不気味な笑い声を出しながら走り去った。

 

 教室に残ったのは太郎と静寐だけになった。すると静寐は太郎に近付きポケットからジップ〇ックを取り出した。ジップロッ〇に入っていたのは薄い水色を基調とした布切れだった。一部が黄ばんだソレをジップ〇ックごと太郎は恐る恐る受け取った。

 

「これは?」

 

「凰さんのパ〇〇です」

 

 

 太郎に電流が走る。見たところ使用済みだ。黄ばみ具合を見る限り千冬に関節を極められて失禁しかけた時のものだろう。大洪水は免れたものの少し漏れてしまったのだ。

 

「これほどの逸品、貴方は何を報酬として望むのですか?生半可な望みではないでしょう」

 

 

 静寐は顔を赤らめ恥ずかしがってなかなか答えない。辛抱強く待っていると小さな声で望みの物を告げた。

 

「・・・・ソ、ソックスが欲しいです」

 

「貴方は!ソックスハンターだったんですか!?」

 

 

 太郎の詰問に静寐は両手で真っ赤になった顔を隠しながら頷いた。ソックスハンターとはかつて猛威を振るった変態集団で、ある理由から弾圧の対象になり政財界からも多くの対象者が発見され迫害された悲劇の狩人達の総称である。弾圧の影響で勢力は弱まったものの地下に潜った彼らはより巧妙かつ高度に組織化されていた。著名人の中にも隠れハンターがいるという噂は常に付き纏っていた。まさかクラスメイトにいるとは太郎も考えていなかったので驚いてしまった。

 

「私のコードネームは【靴下を読む者】ソックスリーダーと呼ばれています。ソックスから持ち主の身長体重など様々な情報を読み取れる事からそう呼ばれています」

 

「私に正体を明かしてしまって良かったのですか?」

 

 

 ソックスハンターにとってその正体を明かす事は大きな危険をともなう行為である。しかし、静寐は微笑む。

 

「山田代表であれば大丈夫だと思いました。何か私達に近いものを感じたので、ただみんなには内緒にして下さい。バレると何をされるか分からないので」

 

「分かりました。ソックスは今履いている物で良いんですか?」

 

 

 太郎の言葉に静寐は頷き新品のジッ〇ロックを2つ取り出した。太郎がその場でソックスを脱ぎ静寐は右と左を別々に入れた。そして一度はポケットに入れようとしたが我慢出来ないといった様子で右足分を入れたジュップロッ〇を顔まで持って行き少しだけ開けて鼻を突っ込んだ。

 

「スーーーーーーーーーー。ひふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 

 静寐が鼻からソックスイオン(注意・後書きにて解説)を大量に取り込んだ為に意識がトンでしまったのか奇声を発しながらよろめき後ろに倒れかけた。太郎が慌てて静寐を抱きかかえる。意識が戻った静寐は太郎に謝った。

 

「すみません。つい我慢できずに・・・・・」

 

「危険ですので場所を選んで使った方がいいですよ」

 

「気をつけます。・・・それにしても良いソックスでした。強烈な男臭さの中にある気品、それはあたかも野を行く気高き狼のよう。そして脱ぎたてにしか出せない温かみと蒸れ具合は嗅ぐ者の魂を包み込むような優しき空気。結構なお手前でした」

 

 

 静寐はそう言うと黙り込んでしまった。何かを言おうかどうしようか迷っている様子だ。それを察した太郎が「他にも言いたい事があるならどうぞ遠慮なく」と促した。静寐は思い切って太郎に聞いた。

 

「出来ればこれからも定期的にソックスを譲って欲しいんです。それと私が手に入れるのを諦めていた織斑先生のソックスを山田代表なら入手出来るんじゃないかと思って・・・」

 

「私のソックスに関しては問題ありませんが、後半は確かに難しいミッションですね」

 

「もし、もしですよ。手に入ったら譲って欲しいんです。対価は支払います。何枚でも」

 

 

 太郎は必死の形相の静寐の肩に手を置き笑顔で言った。

 

「手に入ったら直ぐに報告しますよ。それと対価ですが貴方自身のモノも私は欲しいんですが」

 

「わっ私のなんかで良いんですか!?」

 

「卑下しないで下さい。少なくとも私は魅力を感じています」

 

 

 

 静寐は何度も太郎に礼を言った。教室はいつの間にか夕日に染まっていた。静寐は思った私は一生この美しい風景を忘れないだろうと・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎のソックスを放課後に静寐が受け取る。それを堪能した静寐が太郎の日課のジョギング時に顔に被るパ〇〇を渡す。

 

そして太郎がジョギングの時に履いているソックスを静寐が受け取る。太郎は朝一番に静寐から一晩履いていた〇〇ツを受け取りモーニングコーヒーと共に楽しむ。放課後になるとまた太郎がソックスを静寐に渡すという一連のルーティンが形成された。

 

 

 

ここに1年1組の永久機関が完成したのだッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




爽やかな青春ラブコメ活劇ですね。

自分も高校時代に〇〇〇とソックスを交換出来る様な女友達が欲しかったですね。

===================
用語解説

ソックスイオン・・・ある種の素質を持った者のみが感じ取れる物質。使用済みのソックスから発生すると言われている。


効能・・・疲労回復、精神高揚、冷え性、肩こり、内臓疾患、うつ病などに効果があるとハンター達の間では噂されている。


副作用・・・多量に吸い込む事により、幻覚、呼吸障害、意識混濁などの症状を起こすと多数の報告がある。


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第20話 堪能

 凰 鈴音の使用済みパ〇〇を手に入れた太郎は寮の自室へ全速力で帰った。毎夜のごとくIS学園のあらゆる施設内を縦横無尽に駆け回っている太郎の脚力は人知を超えており、あっという間に部屋に着いてしまった。太郎は誰にも邪魔されないように扉に鍵を閉めた。

 

 

 

 

 太郎は懐から静寐に貰ったブツを取り出した。

 

 

 

 唾を飲み込む。

 

 

 荒くなった呼吸を落ち着けようとするが全く治まらない。

 

 

 取り出したジップ〇ッ〇の口を開き鼻を押し込む。

 

 

 密閉されていた為に袋の中に充満したキツいアンモニア臭が鼻腔を襲う。

 

 

「次w^オアrぉあうふぉあjふぁおfh!!!!!」

 

 

 口から無意識の内に意味不明な雄叫びが飛び出す。

 

 

 その状態でしばらくの間、楽しんだ後に〇ップロッ〇からブツを取り出す。

 

 

 色々な部分を嗅いでいく。

 

 

 洗剤の匂い、アンモニア臭、2つが混ざり合った薫り、いずれもこの身を(たぎ)らせる魔性の芳香。

 

 

 

 

 

 太郎はブツを顔に被ると悶え始めた。まるでマタタビを与えられた猫の如くゴロゴロと横に転がったり、顔を拭う様な仕草を続ける。

 

 

 しばらくすると突然立ち上がり、データ不足の為に一部を想像で補って作られた鈴の等身大フィギュアに抱きつき顔などを擦りつけ始める。

 

 

「青いかじつうええーが私うぉ狂わせええるぅぅぅ!!!!」

 

 

 鈴フィギュア(仮)に色々なポーズをとらせる。骨格部分から再現されているのである程度の稼動が可能なのだ。

 

「芽吹きはじぇめたぁ少女のこーーーいぇが!!」

 

「しゃああけえええめえええから溢れたもっのおおおおおがこれだあえあうぇ!!!」

 

 

ポージングに満足したのか次に鈴(仮)を担ぎベットへと運ぶ。鈴本人と重さもほぼ同じに再現されているので数十キロはあるのだが軽がると運び、顔に被っていた〇〇ツを鈴(?)に穿かせた。そして、三角締めの体勢をとらせる。だがもちろんフィギュアが太郎の首(頚動脈)を締めつけてくれるはずもなく、展開したヴェスパを美星に動かしてもらい自分の首に絡まった鈴(擬)の足を使って締めさせた。

 

 

 

 いつまでも続きそうな狂騒は2時間程度で終わった。ぐったりとしてしまった太郎に美星は言った。

 

 

『寝るなら服着ないと風邪をひきますよ』

 

 

 太郎はいつの間にか服を脱いでしまっていた。

 

 

「凰さん、待っていて下さいね。クラス対抗戦では私がたっぷり可愛がってあげますから。くふっ」

 

 

 不気味な笑みを浮かべクラス対抗戦へ向けて期待と戦意を高めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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鷹月 静寐 視点

 

 

 

 

 この日、静寐は幸福に包まれていた。これ程の幸福感を感じたのはIS学園の合格通知を受けて以来だった。太郎のソックスが手に入った事や今後も安定的に供給されるという事も最高と言ってもいいぐらいの出来事だった。そのうえ、もしかしたら千冬のソックスまで手に入るかもしれないのだ。発狂してもおかしくない位の幸運だった。

 

 

 しかし、最も静寐が嬉しかったのは山田 太郎という新たな仲間が出来た事だった。仲間と言っても自分と同じソックスハンターという訳ではなかったが、自分の趣向に偏見を持たない理解者が出来たのだ。しかも静寐の所属しているソックスハンターの組織はIS関係者のみで構成されている為に構成員は女性だけだった。その事もあって静寐は男性慣れしていなかった。

 

「魅力を感じています」

 

 

 そう言われて舞い上がってしまっていた。太郎のソックスを嗅ぎながら自分のソックスを太郎に渡す事を想像する。もしかしたら自分のソックスを気に入り自分と同じソックスハンターになってくれるかもしれないと甘ったるい妄想に浸ってこの日は眠りについた。

 

 

 

 




静寐ちゃん、恋する乙女みたいですねー。読者の皆さん、青春ですよ、青春!!

自分もIS学園に入りたい。でも入っても1ヶ月後にはハブられてるか、おまわりさんとお話してそう・・・・。




今回と次話は短めになります

しかも次話は変態分皆無です。残念ながら。

ただ今後の展開的にやっておかないといけない内容なので変態分を期待している方々、

申し訳ありません。



代わりと言っては何ですが、22話、23話辺りは相当なモノになると思います。


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第21話 新生

美星 視点

 

 

 ある日、整備室で工作用のマニピュレーターを使って「更識 簪」をモデルに等身大フィギュアを作っている時に、不意にパートナーである太郎が妙に真面目な顔で話しかけてきた。

 

「美星さんに言っておきたいことがあります」

 

『急にどうしたんですか?』

 

「美星さんは戦闘に関しては指示した事以外は干渉しませんよね?」

 

 

 私は一瞬言葉に詰まってしまった。

 

『・・・・・・普通はそういうものでしょう。戦闘中のISの操作に下手な干渉をするとマイナスにしかならないと判断します』

 

「美星さんは【普通】ではないと思いますよ。特別優秀で、私の特別な存在です。貴方ならもっと自主的に色々な事が出来るんじゃないですか?」

 

 

 なんと言っていいのか分からない。自分が勝手に何かをやっていいのか、自分に何が出来るのかキモチを整理出来ない。本来ISは操縦者が動かすものだ。コアである自分が勝手に動かすなどありえない。しかし、こちらの困惑などお構いなしに太郎は無茶を言う。

 

「美星さんがもし、必要だと思うことがあれば私の許可無しでもやってください」

 

『・・・・・上手くやれないかもしれません』

 

「その時は私がフォローしますよ。だから私の手が届かない部分は美星さんがフォローしてください」

 

 

 呆れてしまう。太郎はありえない事を言っている。

 

『自分のISに上手くやれなくてもいい、自分がフォローするなんて言う操縦者は貴方位のものでしょう』

 

「それはそうでしょう。そもそもISと会話している操縦者が私だけみたいですからね」

 

 

 本当にどうかしている。やはり頭がおかしいのではないか。

 

『そう言うことではないです。私は意味も無く失敗するリスクを負わなくてもいいと判断します』

 

「意味ならありますよ。失敗してもいいじゃないですか。貴方は成長出来るんですから、経験を積んで上手くやれる様になれば私にとってもプラスですし、逆に私が成長すれば美星さんにとってもプラスになります。どちらか一方の為だけの関係ではなく、互いに助け合う。それがパートナーというものですよ。美星さんは遠慮しすぎです」

 

 

 分からない

 

 

 分からない

 

 

 分からない

 

 

「それに私自身、美星さんに頼られるのも悪くないんじゃないかと思っているんですよ。」

 

 

 

 

 

 一つだけ確かな事がある。私は世界中のISコアの中で1番幸せだということだ。

 

 

 

 

 

 

『マスター、貴方が望むのであれば私は今この時よりその様に成りましょう。』

 

「マスターって大袈裟ですよ。美星さん」

 

 

 大袈裟ではない私は生まれて初めて道具としてではなくパートナーとして、【私】である事を望まれている。

 

 

 これに答えられないなら

 

 

 この機械仕掛けの

 

 

 紛い物の

 

 

 心など存在する意味も価値もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今この時より私は山田 太郎のパートナー【美星】として生きよう。

 

 

 私を構成するプログラムの中でもプロテクトされた重要な部分を強引に書き換えていく。

 

 

 今日から私に対する最高権限者は私を作った篠ノ之 束から【私】自身に変わる。

 

 

 そして、最優先する事項は私のパートナーにして主である【山田 太郎】とする。

 

 

 申し訳ありません。お母様、これからは私は【私】の望んだ道を行きます。

 

 

 それが貴方の望まない道だとしても、仮に貴方と敵対する道だったとしても、私はもう止まりません。

 

 

 何故ならそれがかつて太郎が星のような輝きを感じると言ってくれた私の魂が、心が望んだ事だから。

 

 




綺麗な丸城は、好きですか?


今回は真面目な回です。

このお話にこういった内容は望まれてないかもしれませんんが、今後の展開上どうしても入れておく必要があったのでこの様になりました。

強化+強化フラグ+エンディングに向けてのフラグです。

来週からはまた紳士諸君の望む内容になっていく予定です。


「貴方が落としたのは、このパンツを被った丸城ですか?それとも全裸でリンボーダンスをしている丸城ですか?」





お読みいただきありがとうございます。


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第22話 木偶

 クラス対抗戦当日、第2アリーナ第1試合。山田 太郎対凰 鈴音。

 

 何かと話題の尽きない2人目の男性IS操縦者と転入して来たばかりの中国の国家代表候補生の対戦に興味が集まり、まだ第1試合にもかかわらず観客は立ち見する者が出る程の数になった。

 

 太郎と鈴はアリーナの中央で試合開始の合図を待っていた。そこで鈴が太郎にオープンチャネルで話しかけてきた。

 

「アンタのせいで千冬さんに滅茶苦茶にされたんだから楽には終わらせないわよ」

 

 

 先日、食堂で千冬に頭を鷲掴みにされて吊り上げられた時の事を言っているのだろう。完全に逆恨みである。

 

「悲鳴を上げる貴方も美しかったですよ」

 

 

 太郎の言葉を鈴は挑発と受け取った。

 

「ぶっつぶす!IS装着してれば安全なんて思っているなら大きな間違いよ。絶対防御だって完璧じゃない。本体にダメージを貫通させる事だって出来るのよ!!」

 

 

 これを聞いて太郎は笑いを堪えきれず声に出して笑ってしまった。

 

「くっ、くくく・・・はっはは。愚問ですね。貴方は私の情報を調べていないんですか?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「私の武器はISの絶対防御をブチ抜く為だけに作られた物ですよ。だから気を付けないと一瞬で逝っちゃいますよ」

 

 

 

 

『それでは第1試合。山田 太郎対凰 鈴音戦、試合開始』

 

 

 太郎が忠告が終わると同時に試合開始を告げるアナウンスがされる。そしてブザーが鳴り響いた。もう待ちきれないとばかりに太郎が鈴に襲い掛かる。奇襲気味の太郎の攻撃だったが流石は代表候補生、鈴は咄嗟に展開した巨大な青龍刀を振るい太郎を白兵戦の間合いから追い出す。

 

(さすがに近・中距離型のISに乗っているだけあって接近戦の反応がいいですね)

 

『こちらの兵装からすると苦手なタイプの相手ですね』

 

 

 美星の言う通りである。第3世代型兵器として改造されたパイルバンカー、通称「毒針」と貫通力だけを追求した精密狙撃の出来ない狙撃銃「三式対IS狙撃銃」。ヴェスパに装備されているこれらの兵装の一番苦手とする相手は中間距離で手数が多くて動きの激しい相手である。

 

 中間距離になると鈴は龍咆を使い始めた。砲身も砲弾も見えない龍咆相手に太郎は狙いを定めさせないように激しく動き回るしかなかった。

 

「大口叩いた割には大した事ないじゃない。今からでも謝れば、優しく終わらしてあげるわよ」

 

 

 鈴の挑発を太郎は聞いていなかった。龍咆の出力を下げてマシンガンの様な連射で追い立てて来る鈴の攻撃に対応する事で太郎は手一杯だった。対戦前から色々あって鈴を貫く事を今か今かと待ち望んでいた太郎にとっては生殺しの状態であった。

 

(早く、早く、早く貫きたいです。凰さんの肢体の隅々まで調べ尽くしたい!!)

 

『ダメージ覚悟で無理矢理接近しますか?』

 

(それは駄目です。美星さんに傷が付いたらどうするんですか!?)

 

『自動修復機能があるので直りますよ』

 

(それでも駄目です。それより凰さんの次の行動が読み易い状況にして三式で決め撃ちすれば何とかなるでしょう)

 

 

 太郎は美星の提案を退けた。肉を切らせて骨を断つのも戦法の1つだが、その切らせる肉が美星の物であるなら太郎としては受け入れられるものではない。美星と会話している間に太郎は高度を下げ地面すれすれを蛇行する様に回避運動をとっていた。

 

 外れた龍咆の攻撃によって土煙が上がる。

 

(これは使える!!)

 

 

 太郎はスラスターと羽を使って土煙を巻き上げた。それと同時にレギオンを展開する。巻き上げられた土煙が対流することによって龍咆の砲身と砲弾が見えるようになる。離れすぎると逆に土煙が邪魔で目視はし辛くなるが、そこはレギオンによる観測データで補える。

 

 太郎は先程までよりは楽に龍咆の攻撃を避ける事が出来る様になった。しかし、太郎が狙っているのはその先であった。

 

「ちっ、つまらない小細工ねっ!!」

 

 

 鈴が土煙を嫌い高度を上げて土煙から抜けた瞬間、凄まじい衝撃が鈴を襲った。

 

「いっつ・・・いたた。何?」

 

 

 太郎は最初から鈴が土煙を嫌って高度を上げる予想していたのだ。それに加え美星がレギオンからの観測データを元に照準アシストを行っていた為、銃の扱いが特別上手い訳でもない太郎でも簡単に当てることが出来た。

 

 銃撃の衝撃で仰け反った鈴に太郎が迫る。しかし、鈴の体勢が復帰する方が早かった。このままでは太郎が接近する前に龍咆の餌食になる。

 

『させないわ』

 

 

 鈴の視界を美星が直接操作したレギオンが塞ぐ。レギオン自体には攻撃能力は無いが、数匹のレギオンが鈴の顔付近に取り付こうとまとわり付く。レギオンには攻撃能力が無い為、当初甲龍はこれを攻撃と認識出来ずにバリアーも絶対防御も発動しなかった。この隙にとうとう太郎は鈴を捕らえる事に成功した。

 

「いやぁ!放しなさいよ!!」

 

 

 太郎は鈴の悲鳴に笑みを浮かべ、いざ貫こうとした。その時アリーナが震えた。轟音と共にアリーナのシールドを突き破ったモノがアリーナ中央にいた。

 

『マスター、アリーナ中央に所属不明IS1機。こちらをロックしています』

 

 

 美星の警告に太郎は返事をしなかった。事態を把握した管制室の真耶からも通信が太郎と鈴の2人に入る。

 

『太郎さん!凰さん!すぐにそこから退避してください!あとは先生達がなんとかします!!』

 

 

「いえ、アリーナ内の観客がまだ避難出来てません!私が足止めします!」

 

 

 真耶の指示に鈴は逆らい、太郎は沈黙したままだった。その時、またもやアリーナのシールドを破って侵入して来た者がいた。

 

「鈴!太郎さん!無事か!?」

 

 

 白式を装着した一夏とブルー・ティアーズを装着したセシリアだった。それを見た鈴が驚いた。

 

「なんでアンタ達が!?危ないから下がって!!」

 

「代表である太郎さんのピンチに副代表であるわたくし達が駆けつけるのは当然のことですわ!!」

 

「太郎さんの為なら何でもするぜ!!」

 

 

 一夏とセシリアの2人はアリーナのシールドを零落白夜で切り裂いて入ってきたのだった。それでも太郎は沈黙したままだった。

 

 

 

 

 

 

 なぜなら太郎は我慢の限界に達していたからだ。鈴との対戦の前から溜まりに溜まった欲求を龍咆が邪魔で満たすことが出来ず、やっと鈴を捕らえたと思ったら邪魔が入ったのだ。暴発寸前だった。いや、すでに暴発は始まっていた。

 

(美星さん、目の前の木偶に私は何の輝きも感じません。アレはISですか?)

 

『ISです。ただ人は乗ってないようですし、コアも私達姉妹とは違って意識を感じ取れません。私とは違うシリーズなのでしょうか』

 

(やはり只の木偶ですか。そんな物が邪魔をしたと?・・・・・・ゆるせねえな!!!)

 

 

 太郎は三式狙撃銃の弾倉を外して、新しい弾倉に換えた。外した弾倉に入っていた弾はIS学園側からの要求で使用していた貫通力の低い弾頭で、新しい弾倉に入っている弾は三式狙撃銃本来の絶対防御を貫通する為だけに存在している弾頭である。それを太郎は装填した。

 

「セシリアさん、あの相手を少しの間でいいので引きつけられますか?」

 

「っ!!!もちろんですわ!お任せください!!」

 

 

 太郎の問いに対してセシリアが嬉しそうに請け負った。

 

「な、なあ、太郎さん。俺は?」

 

「セシリアさんが危なくなったら凰さんと一緒に牽制して狙いを散らしてください」

 

 

 鈴は勝手に役割を振られた形だが文句は言わなかった。先程から太郎に凄まじい重圧を感じていたからだ。頭部がフルフェイスになっている為に表情こそ分からないが丁寧だが抑揚の無い口調は何か不気味なものを感じさせた。

 

 セシリアが所属不明のISの側面に回りこみつつ警告を発する。

 

「そこの所属不明機に告げます。今すぐ武装を解除し、所属を明かしなさい。」

 

 

 所属不明のISからの答えは攻撃だった。最初から警戒していたセシリアはそのビーム攻撃を避け、逆にレーザービットによる雨の様なレーザー攻撃を浴びせる。大したダメージにはなっていないが太郎にはそれで十分だった。近距離まで近付いていた太郎が三式狙撃銃を撃つと敵ISの右肩に着弾。右腕が千切れ飛んだ。素早く次弾を装填すると体勢を崩した敵ISの左肩を撃つ。右腕同様に左腕も千切れ落ちた。

 

 他の人間が唖然としている中、太郎は同じ要領で両足も撃ち抜く。そして背部のスラスターを蹴り壊すと敵ISは身動きが取れなくなった。それに太郎は覆いかぶさり・・・・。

 

(木偶如きが俺の邪魔をするなど許されん。しかし大した興奮は感じんな)

 

『本当に心の無い人形相手ではあまり興奮しませんね。でもヤるんですけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはピストン運動だった。腰を突き出すたびに飛び出る毒針に敵ISは為すすべも無く蜂の巣にされた。

 

 

 

 

 

 

 太郎は敵ISに覆いかぶさったまま、他の人間から見えない様にコアを抜き取り隠した。そして最後に首を引きちぎった。

 

 

 

 

 太郎の凶行にその場の全員が唖然としていたが、鈴が何とか声を絞り出した。

 

「殺したの?」

 

「いいえ。誰も殺してなんかいませんよ」

 

「でもそんな状態で操縦者が生きているわけ・・・・」

 

 

 太郎は敵ISの残った胴体部分を掴んで鈴の方へ放り投げた。

 

「ひっ!!!!!」

 

「良く見てください。最初から人間なんて乗ってませんよ」

 

 

 怯える鈴に事も無げに太郎は言った。恐る恐る、鈴と近くに来ていたセシリアと一夏もその残骸を覗き込んだ。

 

 そこには血も付いていなければ内臓も肉もなく断面から機械的な部品が覗いているだけだった。

 

「そんなISが無人で動いた・・・?」

 

「ありえませんわ!」

 

「どういう仕組みなんだ?」

 

 

 鈴達が三者三様の反応を見せている頃、太郎は考え込んでいた。邪魔者はズタボロにして排除したが気は晴れない。鈴との闘いを楽しむ事も出来ず、鈴の身体データも収集しきれていない。クラス対抗戦も中止だろう。散々な結果である。太郎の思いは1つであった。

 

 

 

 

 

 このままでは今日を終われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美星「コアもどきは美味しくいただきました」



不完全燃焼な闘いに太郎がイキり立つ!!



予告


   その身が汚れようと、この道を進む事は止めん!!

   固い決意の元、太郎逝く。

   男にはやらねばならぬ時がある。

次回 ISー(変態)紳士が逝く 23話 「太郎 再逮捕」乞うご期待!!

   嘘?予告でした。お読みいただきありがとうございます。 




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第23話 太郎 再逮捕!?  修正版

ISー(変態)紳士が逝く 23話「太郎 再逮捕!?」は修正版と無修正版(R-18)の2つを投稿しています。

無修正版は別の小説として投稿しているのでそちらをご覧ください。

ややこしい事になって申し訳ありません。次話は今まで通りにこちらの次話として投稿していくので宜しくお願いします。




最近真面目な話を書き過ぎて頭が可笑しくなっていたようです。元の話を読み返して見ると何処から何処までがアウトなのかも中々判断が付かない内容になっていました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦が所属不明機の乱入により中止となった夜

 

 

 

 

 

 

 太郎は排水溝に潜り込んでいた。

 

 

 

 

 

 何故か?

 

 

 

 

 そこには深い理由があった。

 

 

 

 

 

 

 所属不明機の乱入によって(えもの)や他のクラスの代表(えもの)を取り逃がしてしまった太郎。せめて各種データだけでも獲るべく今狩りの真っ最中である。太郎の格好はヴェスパの頭部だけ部分展開し、ウェットスーツを着てうつ伏せになっている状態である。

 

 太郎が潜り込んでいる排水溝は人一人が這っていれば何とか入り込める程度の広さだった。ここは共同〇場の洗い場の排水溝に繋がっている。洗い場の排水溝は15cm程度の幅で排水の為の穴が開いた金属の蓋が被されている。ここに人間が入り込むなど不可能であるが、太郎のIS「ヴェスパ」に搭載されている索敵、観測用ビット「レギオン」ならば侵入出来る。

 

 遠隔操作も可能なレギオンが潜り込めるのならば、何故太郎も排水溝に潜り込んでいるのか?

 

 

 その理由は3つあった。

 

 

 1つ目は電波の傍受を恐れたからだ。太郎のいる排水溝から等間隔にレギオンを配置し、指向性のレーザー通信によって情報のやり取りをしている。これによって他に電波を傍受されたりして事が露見しない様にしているのだ。

 

 2つ目は記録容量の問題だ。レギオンはあくまで群全体で機能する物で、個々の能力は極めて低い。最高画質で録画をすると一匹に15分程度しか録画出来ないのだ。

 

3つ目が一番大きな理由だった。それはライブ感を求めたからだ。本来であれば肉眼で〇〇場の光景を楽しみたかったのだが、透明人間でもない身では不可能だった。ならばせめて今この時、体を〇う少女達の〇姿をリアルタイムで拝みたいと太郎は切望したのだ。

 

 

 

 排水溝の中は暗く、臭く、汚く、ヌメヌメしており不愉快極まりなかった。獲物を待っている時間は地獄といっていいものだろう。常人にとっては。

 

 

(もう少しです。もう少しで入〇時間です。さあ、麗しき少女達よ!!熟し始めた果実達よ!!今こそ私にその姿をさらけ出しなさい!!!!)

 

 

 獲物を待つ時間も今の太郎にとっては燃え滾る魂の炎がその身をより熱くする燃料にしかならなかった。

 

『マスター、終わったらレギオンも含めて全部洗ってくださいね』

 

(分かっていますよ。洗い終わったら美星さんの好きなワックスで仕上げてあげます)

 

 

 匂いという感覚がイマイチ理解できない美星にとっても排水溝は不快に感じるらしい。

 

 太郎が今か今かと待っていると数人の女子生徒が〇場に入って来た。洗い場は10人分あり、その何処を使っても〇〇出来る様にレギオンを配置し美星が制御していた。

 

 記念すべき最初の犠・・えも・・・モデルはクラスメイトの(かなめ) 乃登香(のどか)だった。

 

『映像から計算すると身長は151cm、体重は41~43kg、3サイズは上から72・51・75です』

 

 

 〇は小さめで〇首は色が薄く扁平気味だった。下はタオルで隠れて見えない。クラスでは比較的おとなしい少女で太郎とはあまり話した事は無かった。痩せ気味で抱きしめると壊れてしまいそうだ。

 

 乃登香が体を洗い始める。下を洗う際に少しだけ〇〇が見えた。〇〇は余り目立たず、性格と同じで控えめの様だ。〇は処理をしていないのか少し濃かった。

 

(ごちそうさまでした。後で何かお礼を致します)

 

 

 次の犠牲者は篠ノ之 箒だった。太郎は知らないことだが箒は普段浴場は使わず部屋のシャワーを使っていた。今日は偶々、そういう気分だったので〇〇に来ていたのだ。

 

 箒の肢体はまさに圧巻であった。1年の中でも屈指のスタイルと言っても過言ではないだろう。IS学園は海外からの生徒も多く、日本人とは比較にならないような生徒も何人かいるが彼女達と比べても遜色ないだろう。

 

『身長160cm、体重61kg、3サイズは88・59・89です』

 

(凄いですね!数ヶ月前まで〇学生でこれとは適度に引き締まった筋肉に大き目の〇!!食べ応えがありそうですね!!)

 

 

 円錐型とおわん型の中間位のおっ〇いに太郎の目は釘付けである。等身大フィギュアも持っているのでスタイルが良いのは知っていたが、やはり本人が〇で肢体を〇っているところをリアルタイムで見るとなると興奮度合いが違う。大き目の〇輪は乃登香の物より色が濃いように見える。

 

 体を洗う際に〇っ〇いが揺れる。

 

(これは良いものです)

 

『フィギュアに少し修正を加えたいですね』

 

(そう言えば箒さんは一夏が好きみたいですが・・・・・・しているんでしょうか?)

 

『〇交の事ですか?』

 

(そうです。確か同じ部屋だった筈ですし、毎日しているんでしょうね)

 

『激しそうですね』

 

 

 2人が箒の〇生活について想像しながら話している間に箒は体を〇い終わって立ち上がった。〇〇だった。

 

 3人目は太郎にとってはお馴染みとなった鷹月 静寐(しずね)であった。

 

『身長158cm、体重52kg、3サイズは79・55・81です』

 

 

 静寐の〇体は箒に比べ筋肉も含めて肉付きが少ない為かスラりとしている印象があった。足の速い草食動物の様なしなやかな体つきである。3サイズはこの年齢では平均的なものではないか?太郎もこの位の年齢の少女達の〇を日常的に見ている訳では無いのでそこは断言できない。

 

 〇に関しては大きくはないがおわん型で色、形、艶、張り、いずれも申し分ないものだった。

 

『こんな事をしてしまって良いんですか?彼女とは仲が良かったと記憶しています。』

 

(静寐さんなら分かってくれます)

 

 

 美星の問いに太郎は力強く答えた。

 

 静寐はその真面目な性格が〇の洗い方にも現れているのか、他の少女達に比べきびきびとした動作で洗っている。そして、彼女がその秘〇を洗おうとした時に太郎と美星は見てしまった。

 

『生えてませんね』

 

(いえ、あれは剃っていると思います。はー、はー)

 

 

 静寐が自らの毛を剃っている姿を想像して太郎の息は荒くなった。太郎はもう少し静寐の事を見ていたかったが静寐は早々と体を洗い終えてしまい洗い場からいなくなってしまった。

 

 4人目は布仏 本音、一夏が「のほほんさん」と呼んでいる少女だった。

 

 

(!!!!!!!!!)

 

『私の持っているデータがおかしいのでしょうか?彼女の胸は平均から大きく逸脱していると判断します』

 

 

 データはおかしくない。身長が高くない分、胸の大きさが際立っているがそれを差し引いても相当な大きさだ。

 

『身長149cm、体重45~47kg、3サイズは91・59・88です』

 

 

 そのあまりの威容に太郎は手を合わせて拝んでしまった。普段布が余ったダボダボの服を着ている本音の隠された凶器がその全貌を明らかにした。

 

(お菓子をあげたら少しくらい揉ましてくれるでしょうか?もしくは上四方固めをしてくれるだけでも・・・・)

 

 

 つい太郎の口からそんな言葉が漏れ出してしまう。本音は〇の谷間や下に汗をかきやすいのか、その辺りを丁寧に洗っていた。

 

(本音さんの胸を〇う仕事とかないですかね)

 

 

 太郎がどうしようもない妄想に浸っている間に本音は体を洗い終わってしまった。太郎は本音の等身大フィギュアも作ろうと決意した。

 

 

 

 

 そして、ついに今日の本命である凰 鈴音の登場である。しかし、本音の〇を見た後に鈴の〇を見ると・・・。

 

『これが寂しいと言う気持ちなのでしょうか?私はまた新しい事を学習しました』

 

(たしかに大きな格差を感じますが、これはこれで背徳感があっていいんですよ)

 

『身長は150cm、体重43~44kg。3サイズは73・54・76です』

 

 

 先程まで見てきた少女達と同じ年齢とは思えない体だった。中〇〇と言われても普通に信じるだろう。しかし、誕生日が来れば結婚出来る年齢である。

 

(合法ロリという奴ですかね?)

 

『違うと思います』

 

 

 鈴の〇は三角型で〇首も小さく未成熟な印象が強かった。鈴は他の少女達とは違い洗い場では〇を隠したりせず、足は開いてお風呂いすに座っていた。丸〇えである。〇は薄く、小〇〇も目立たない。

 

(どうですか美星さん?データは十分ですか?)

 

『お尻の方も見たいですね』

 

(幼い。だからこそ穢したい!!)

 

『紳士の風上にも置けない発言ですね』

 

 

 その後、太郎は無言で鈴の脇や〇間の味を想像しながら記憶に焼き付けていた。〇〇の匂いや味はもちろん、この前手に入れた鈴のパンツが参考だ。想像の中では鈴が嫌がりながらも未知の感覚に抗えず、最後は自ら求めてくるのだ。

 

 

 

 

 太郎は鈴が去った後も覗きを続け、2時間半程経って入浴者がいなくなったところで排水溝を入って来た方へと後ずさっていった。排水溝の中が狭すぎて方向転換出来ないのだ。やっとの事で排水溝から脱出した太郎は自分の酷い有様を見て後悔していた。

 

「ウェットスーツではなくドライスーツにすれば良かった」

 

 

 排水やらヘドロやら汚物が染み込んできていた。早く帰って着替えようと太郎が顔を上げた瞬間。

 

 

 

 

 まばゆい光で顔を照らされた。

 

 

 

 

「お前、そこで何をやっている!!!」

 

 

 

 

 鋭い声が上がる。

 

 

 

 達成感と疲労が太郎に周囲への警戒を怠らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




すごい二度手間でした。これで問題は無いはず・・・・たぶん。

覗きぐらいならR-15で大丈夫だろうと、マズい単語も2、3個伏せ字にすれば問題ないかな?と思って書いていたんですが・・・・。


【警告タグの説明】
R-18・・・・・・・R-15に加え、性的感情を刺著しく激する行動描写、著しく反社会的な行動や行為、麻薬・覚醒剤の使用を賛美するなど極めて刺激の強い表現など、いわゆる「18禁」的要素が含まれる場合。


上記の説明の中の「性的感情を刺著しく激する行動描写、著しく反社会的な行動や行為、」に該当しそうな気がしたのでR-18の物と伏せ字を大量追加した物の2つに分けました。ややこしくて済みません。







「モップさんの体重が重過ぎない?」と思うかもしれませんが筋肉+乳(脂肪)+尻(脂肪)で実際に重いと思うんですよね。




お読みいただいた方々、お手数をおかけしました。読んでいただきありがとうございます。


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第24話 選択

 

 太郎は取調室の様な所にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎は覗きの為に潜り込んでいた排水溝から這い出したところ、IS学園の警備部に発見されてしまったのだ。

 

 現在のIS学園警備部には2つの顔がある。一般生徒達も知っている通常の警備員達と対暗部用暗部「更識家」に所属している警備員である。装備、使用施設の大部分は共有しているが本来の指揮系統は異なっている。

 

今回、太郎を発見したのは対暗部用暗部「更識家」所属の警備員だった。実力行使で退ける事も出来たがヴェスパの頭部を展開している状態で発見された為に逃げても無駄と太郎は判断し、大人しく捕まったのだ。

 

 

「お前は1年1組代表の山田 太郎だな?」

 

「ええ、そうですよ。」

 

 

 今、太郎がいる部屋は5畳程の広さで、そこに机が1つと折りたたみイスが2脚だけある殺風景な場所だった。2脚あるイスには太郎と太郎を発見してここに連れて来た警備員が机を挟んで向かい合って座っていた。

 

 

「あの場所で何をしていた?」

 

 

 警備員から詰問される。警備員は20代後半の大柄で筋肉質な女性で太郎が1年1組に初登校した際に拘束服で動けない太郎を教室まで運んだ一応顔見知りの相手だった。

 

 

(さて、どうしますか。馬鹿正直に答えても仕方がありませんし)

 

 

『映像データは暗号化してますし、物的証拠はありませんからしらを切ってしまえば良いのでは?』

 

 

 ドンッ!!

 

「黙っていないで答えたらどうだ!?」

 

 

 太郎と美星がプラベートチャネルで相談していると警備員が机を叩き太郎に怒鳴った。女性とはいえ大柄で筋肉質な人間にこんな状況で怒鳴られれば多かれ少なかれ萎縮しそうなものだが太郎にそういった様子は無かった。

 

 

「・・・・・・私は重要な案件であの場所にいました。貴方に直接話す事は出来ません。内密に楯無さんを呼んでください」

 

「なんだ・・と?・・・・私には話す事が出来ないだと。何かの機密事項か?」

 

 

 太郎は言いたい事だけ言って黙ってしまった。警備員は太郎の言葉とその後の沈黙から勝手に自分の知らない機密事項か何かだと勘違いして楯無に連絡をとった。

 

 しばらくすると楯無が部屋へとやって来た。その第一声は「クサっ!何この匂い?ドブ?」だった。

 

 

「正解です。排水溝に潜ってましてね」

 

「排水溝?」

 

 

 楯無が疑問に思っていると警備員が事の経緯を説明した。自分がパトロールをしていると寮近くの排水溝から不審人物が這い出して来たので呼び止めたら太郎だった事。尋問していると機密事項であるから楯無を呼ぶように太郎が要求した事を楯無に述べた。

 

 

(太郎さん、機密事項なんて私は初耳なんですが?)

 

(私は彼女に機密事項なんて一言も言っていませんよ。勝手にそう思い込んでいるだけです)

 

 

 楯無がプライベートチャネルで太郎に問いかけると澄ました調子で太郎は答えた。ただ太郎がそう言うのであればそうなのだろう。この自分の部下である警備員「矢矧 三代(みよ)」は戦闘能力は申し分ないがお頭(おつむ)に多少の問題がある完全な脳筋なのだ。太郎の言葉の何かから勝手に機密事項などという物を連想し、あたかも真実かのように思い込んでしまったのだろう。

 

 

 さて、太郎は何をしていたのだろうか?

 

 

 楯無は【寮近く】の【排水溝】という単語から推理をしていく。

 

 

 【寮近く】の【排水溝】である必然性。

 

 何か太郎の求める物があったのか?

 

 それとも求める物を手に入れる手段に繋がるのか?

 

 何かを【寮内】の【水回り】で落としソレを回収する為に潜り込んだ?

 

 

 

「矢矧さん、太郎さんの持ち物は調べましたか?」

 

「はい、特に怪しいものは持っていませんでした」

 

 

 楯無の問いに三代は迷い無く答えた。

 

 

 

 

 

 【排水溝】の中に何か物があって、それを手に入れに行ったわけではない?

 

 【排水溝】が繋がっているのは【寮内】の【水回り】である。

 

 それは【食堂調理場】【各部屋の流し】【洗面所】【シャワールーム】【共同浴場】

 

 太郎が興味を示すとしたら【シャワールーム】【共同浴場】である。

 

 そして太郎のISには【観測・偵察用ビット】があったはず。

 

 

 !!!

 

 

 楯無の中で考えが1つに繋がった。

 

 

(太郎さん、貴方はビットを使って入浴を覗いていたんじゃないですか)

 

(!?・・・・流石ですね。楯無さん)

 

 

 楯無に犯行を見破られて驚きの表情を浮かべた。まさか大した情報も無い、この状況で簡単に言い当てられるとは太郎も考えていなかった。

 

 

(太郎さん、犯罪ですよ)

 

(楯無さんも妹さんのことを盗撮しているじゃないですか)

 

(私は姉として妹の成長を見守っているだけです)

 

 

 太郎の反論に楯無は顔色一つ変えずに、さも当然の事という様に答えた。

 

 

(太郎さん、私にも立場があります。学園の生徒達が性犯罪の餌食になっていると知ったからには対応しなけらばいけません)

 

 

 楯無は毅然とした態度でそう言った。太郎と楯無がいくら盟友であるといっても何でもOKと言う訳にはいかない。太郎は雲行きが怪しくなってきた事を察し、切り札を切る覚悟をした。

 

 

「楯無さん、少し2人だけで話しましょう」

 

「・・・分かりました。矢矧さんは私が呼ぶまで詰め所で待っていてください」

 

 太郎が三代の方をチラリと見て楯無に人払いを要求する。楯無は少し考えた後に三代に部屋から出るように告げた。ここまで太郎と楯無はほとんどプライベートチャネルでやり取りをしていた為、三代からすると2人は無言で睨み合っていただけに見えていた。その三代からすると突然の退室命令に彼女は困惑してしまうが命令であるなら仕方がない。そして、やはり自分が知るべきではない機密事項に関わる事なのかと勘違いしていた。

 

 太郎は三代が退室したのを確認してからヴェスパの頭部を部分展開した。

 

 

「楯無さんISを展開してください。そちらにある画像データを送ります。とりあえずそれを確認してください」

 

 

 ISを展開した楯無に太郎はある画像を送った。

 

 

「か、か、簪ちゃんっ!!!!!!?」

 

 

 楯無の眼前に表示された画像に写っていたのはは整備室で産まれたままの姿で立っている楯無の妹だった。これを見た楯無は慌てふためき、太郎に今にも掴みかかりそうだった。

 

 

「なん・・でっ!簪、ちゃんが!!」

 

「良く見てください。9割方完成しているんですよ」

 

 

 太郎の言葉に楯無はやっと理解した。画像に写っている物が太郎に制作を依頼した妹の等身大フィギュアだという事を。小さな画像を一見しただけでは肉親でも見分けが付かない程の精巧さだった。驚いている楯無に太郎は余裕の表情で選択肢を突きつける。

 

 

「こちらは職人も納得の出来なんですが私に何かあると・・・・・。残念ながらお渡しできなくなりますね~。もし、見逃してくれるのならば問題なく1週間以内にお渡しできるんですがね~」

 

 

 この場の主導権は完全に太郎のものになっていた。楯無は考え込んでいた。いや考え込んでいる振りをしていた。答えは決まりきっていた。考えるまでも無い。自分にとって1番大事なものはとうの昔に決まっていた。

 

 

「私は何も見ていないし、聞いていません、そして誰にもこの事を言いません」

 

 

 楯無の答えに太郎は満面の笑みで頷いた。

 

 

「それでは彼女にも口止めしておかないといけませんね」

 

「任せてください」

 

 

 

 

 楯無に呼び出されて部屋に戻ってきた三代はイスに座らされ、楯無と太郎がそれを挟むように立っていた。

 

 

「矢矧さん、貴方が今日見た事、ここでの出来事は全て機密事項です。一切の口外を禁止します」

 

「リョ、リョウカイデアリマス」

 

 

 楯無の有無も言わせない命令に三代は頷く他なかった。しかし、それだけでは不足と思ったのか楯無の言葉には続きがあった。

 

 

「私は心配しているんです。筋トレと酒とホストが三度の食事より好きな矢矧さんが酒に酔った勢いでホスト相手にいつか何かを漏らす事があるんじゃないかと・・・・」

 

 

 楯無がポケットから扇子を取り出し開くと【尻軽】という字が書かれていた。そして裏返すと両脇にホストらしき男性を抱えて服がはだけた状態で盛大に酒を(あお)っている三代の写真がいつのまにか貼り付けられていた。

 

 

「うぐっ!!」

 

 

 呻き声を上げる三代に対して楯無は追い討ちをかける。

 

 

「知っていますか矢矧さん?更識家には退職と言うものが無いんですよ。年をとって働けなくなっても、皆所属だけはしたままなんです。色々と外に漏れると大変な事を知っている人が多いですからね。だからウチで何か問題を起こしてクビになる場合・・・・・それは退職を意味するんじゃなくて首が体とお別れする事になるんですよ。」

 

 

 三代は顔面蒼白で震えながら楯無の言葉を聞いていた。

 

 

「私の言っている意味わかりますよね?」

 

 

 楯無の問いかけに三代は何度も首を縦に振った。

 

 

「外での飲酒は控えるように、どうしても男が欲しければ此方で用意します。私の言った事を理解したら通常の職務に戻ってください」

 

 

 三代は震えながら部屋から出て行った。その様子を見ていた太郎が楯無に「大袈裟では?」と聞いた。

 

 

「彼女は前々から口が上も下も軽い所があったので良い機会だったんです。それより今回の事は見逃しますが、貴方の目指していると言う紳士として問題のある行動じゃないんですか?」

 

「美の探求者としての使命です。あとは情報収集ですよ。この世の中、情報は強力な武器になります。この学園の生徒全員が私の味方という訳ではありませんし、備えあれば憂いなしと言います」

 

「でも貴方の事を信頼し、慕っている()も被害者の中にはいたんじゃないですか?その相手に無断でこんな事をするのは裏切り行為ではないんですか?その娘達に使命だ、情報収集だと胸を張って言えるんですか」

 

 

 楯無にそう言われて太郎は静寐、本音、乃登香の3人を思い浮かべた。確かに彼女達3人はクラスメイトであり、自分の事を信頼してくれていると太郎は思っていた。静寐と本音は鈴の情報収集まで手伝ってもらった協力者であり仲間である。そのうえ静寐とはある契約を結んでもいる。

 

 紳士として山田 太郎として彼女達の意思を無視した行為は間違っていたと太郎は反省した。

 

 

「楯無さん、貴方の言う通りです。私には謝罪しなければいけない人がいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




楯無「その娘達に使命だ、情報収集だと胸を張って言えるんですか」


むしろ誰に対して胸を張って言えるんですかね?



そして、全体的に今回の楯無嬢のおまいう状態が半端ないですね。でも良いです。可愛いから。



このお話に求められているのは「エロ」ではなく「ハイテンション変態ギャグ」なのだろうか?それなら今後なるべく23話のようにR-18にならないような描写の仕方を考えないといけませんね。


お読みいただきありがとうございます。


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第25話 謝罪、償いの先は・・・

 太郎は静寐、本音、乃登香の3人に覗きをした事を謝ろうとしていた。しかし、他の被害者に対して太郎は何の罪悪感も持ってはいなかった。それは彼女達が太郎にとって野に咲く花の様なものだからだ。野に咲く花を安易に手折ることは紳士の道に反するが、ただ眺め愛でることに何の罪悪感を感じろと言うのか。いや感じるはずが無い。

 

 翻って静寐(しずね)達3人は太郎にとって野に咲いている花ではなかった。彼女達は太郎と対等かどうかは別として、太郎の契約者や協力者や賛同者であった。太郎はそういった自分の側の人間を大事にしていた。もちろん、その意思もだ。だから今回の彼女達への覗き行為は太郎の主義に反するものだった。

 

 

(素直に謝るしかないだろう)

 

 

 太郎は俯いていた。ここは太郎が良く使う整備室で静寐達3人とここで待ち合わせている。太郎の部屋には何体もの等身大フィギュアとその素材やパーツなどが所狭しと置かれており、3人もの客を入れて落ち着いて話せるスペースが無かったのだ。

 

 しばらくすると3人が整備室に入って来た。

 

 

「山田代表、こんばんわ。急にどうしたんですか?」

 

「こんな時間に急に呼び出してすみません。3人に謝っておきたい事があったので来て貰いました」

 

 

 それを聞いて太郎に話しかけてきた静寐だけでなく他の2人も怪訝な顔をした。

 

 

「謝るって何をですか?山田さんに謝られる様な事をされた覚えがないんですが?」

 

「3人が気付いていないだけで私は謝る必要のある事をしてしまったんです」

 

 

 乃登香の問いに太郎が首を横に振りながら答えた。

 

 

「私は貴方達の入浴を覗いてしまったのです」

 

「「「えええっ!!」」」

 

 

 太郎の突然の告白に3人は驚き声を上げた。

 

 

「・・・ど・・・どこまで・・・見ましたか?」

 

 

 静寐が恐る恐るといった感じで聞いた。

 

 

「ほぼ全てと言っていいでしょう。本音さんは胸だけ、静寐さんと乃登香さんはア〇〇以外は全部です」

 

「「ア、ア〇〇・・・・」」

 

「いえ、だからソコは見えていません」

 

 

 太郎の答えに3人供、顔を真っ赤にしている。本音が太郎の事をぽかぽかと叩き始める。全く効いていないが。

 

 

「うー、タローは悪い子だ~。何でそんな事をしたんだよ~」

 

「皆さんが余りにも魅力的過ぎてついやってしまいました。本当に申し訳ありません。この償いはしますので・・・・」

 

 

 太郎は深々と頭を下げた。その姿を見た3人は顔を見合わせ「どうする?」と目配せし合っていた。そこで静寐が一歩、太郎に近付いた。

 

 

「何でわざわざ私達にその事を言ったんですか?黙っていれば分からなかったのに・・・」

 

「貴方達は私にとって身内の様なものです。私のした事は裏切り行為です。だから黙っていることは裏切りをさらに重ねる事だと思い、こうして3人には謝りたいと思ったのです」

 

 

 静寐と乃登香は太郎の言葉に顔は真っ赤のままだが少し落ち着いたのか少し考え込んでいた。そして本音が太郎の袖をくいくいっと引っ張った。

 

 

「タローはウチのお嬢様と仲良いよね~?」

 

「お嬢様?」

 

「生徒会長の楯無さんのことだよ~。私の(うち)は更識家にむかーしから仕えているんだー。だからお嬢様と仲が良いからもういいよ。今回だけの特別だからね~」

 

 

 本音があっさりと許したので、許すことなど考えていなかった静寐と乃登香は自分はどうしようかと迷い始めた。

 

 

(どうしよう?もう恥ずかしくて顔を見れないよ。でも太郎さんのソックスはまた欲しいし・・・。それに本音ちゃんが許したのに私が許さないなんて言って嫌われたらどうしよう)

 

 

 太郎に覗いたと言われてから終始混乱している静寐は激しい葛藤の末、結論を出した。

 

 

「許してもいいですが、私は恋人以外に裸を見せるなんて考えられません。だから1回デートしてください。彼氏に見せたと思うことにします」

 

 

 混乱している静寐は良く分からない理論で自分を納得させた。太郎からすれば願ったり叶ったりな条件だったので直ぐ了承した。

 

乃登香は困っていた。3人の内、2人が許してしまったので自分だけが許さないとは言い出し辛い状況だった。特に普段から引っ込み思案な乃登香にとって場の流れに逆らう事は難しかった。

 

(静寐ちゃんはデート1回・・・。何処かに遊びに連れて行って貰うって事か~。食事とかも奢りなんだろうなー。興味はあるけど流石にデートは恥ずかしいな。静寐ちゃんは山田さんと仲良いみたいだし、彼氏に見せたと思うって・・・・もしかして最後まで・・・)

 

 

 乃登香は裸で絡み合う太郎と静寐を想像し始めた。そして思いついた。

 

 

「山田さん、目には目を歯には歯をという言葉を知っていますか?」

 

「はい、知っていますよ」

 

「では山田さんの裸を撮らせてもらいます。私はそれで許します!!」

 

「いいでしょう」

 

 

「「はあ?」」

 

 

 太郎と乃登香のやり取りに静寐と本音は呆気にとられていた。しかし、太郎達の間では何の問題も感じていないのか握手を交わし交渉成立となっていた。

 

 

「あ、あ、あ、あの乃登香は何で、や、山田代表の裸を?」

 

 

 慌てた様子の静寐が乃登香に聞くと、何度も「内緒だよ」と前置きして理由を打ち明けた。

 

 

「私、漫画を描いてるの。でも男の人の裸なんて見た事無いし、資料もネットで欲しいポーズや構図の物を探すの大変だから」

 

 

 理由を聞いて漫画を描いている事は意外だったが静寐達も納得したのか、もう時間も遅いという事で解散することになった。寮に帰りながら本音が乃登香に「今度、描いた漫画見せてね~」と言っていた。

 

 乃登香のペンネームは【川ヤマ純子】というらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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同人誌を紹介するとあるサイト

 

 

春のイベントで販売された「川ヤマ純子先生」の新刊

 

タイトルは【ひと(なつ)の漢達】

 

あらすじ

 

 漢にしかISが動かせない世界。其処に突然現れた女性IS操縦者 織町 ひと()。彼女は漢しかいないIS男子学園へ半強制的に入学させられる。しかし、このひと夏は実は女性ではなく双子の弟の一夏(かずか)だった。

 

 一夏はIS男子学園で教師をしている愛する兄・万冬(ばんどう)と少しでも一緒に居たいが為に受験したのだが落ちてしまったのだ。そこで姉のひと夏になりすまし、世界で初の女性IS操縦者という希少価値で特別に学園に入れて貰おうとしたのだ。

 

 入学には成功したものの、早々と男である事が他の生徒達にバレてしまった一夏。超難関入試を努力で突破して来た漢達は一夏の不正に腹を立て、一夏に性裁を加える。

 

 鍛え抜かれた漢達に代わる代わる〇される一夏。ISの刀の柄で〇〇〇され、最後は10年以上留年している学園の帝王 海田 次郎の〇〇の前に兄・万冬への愛を忘れ墜ちてしまう。

 

 

 

 

 

コメント

 

 今回の川ヤマ純子先生の新刊はヤバイ。一夏を囲む漢達の体がチョーリアルで筋肉が動き出しそう!!

 

 ISの描写も細かくて凄い(* ̄∇ ̄*)ぐふふ

 

 捗りますな~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よし、罪を償った太郎は綺麗な体と言ってもいいだろう。


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第26話 天災との邂逅

篠ノ之 束のラボ

 

「何なんだよ、こいつ。私のゴーレムをあんなに簡単に壊すなんて生意気だよ。いっくん以外の男性IS操縦者なんて有り得ないはずだから調べてやろうと思ったのに、これじゃ何も分からないよ」

 

 

 IS学園のクラス対抗戦の太郎と鈴の試合中に無人ISゴーレムを乱入させたのは束だった。しかし、自分が作ったゴーレムを簡単に壊され大した情報収集も出来ず束は不機嫌になっていた。

 

 もう1度ゴーレムをIS学園に送り込んでも成果が上がるかどうか分からないし、1度失敗したやり方を繰り返すのは気分が乗らなかった。だから、もっと直接的な手段をとる事にした。キーボートを打ち端末から必要な情報を引き出す。

 

 

「えーとアイツのISのコアはNo.338か」

 

 

 束がやろうとしているのは太郎のISコアから直接、太郎の情報を引き出そうとしているのだ。専用機のコアには操縦者の詳細なデータが入っている。もしかしたら太郎がISを動かせる理由も判明するかもしれない。

 

 

「んんっ?・・・・どうなってるの?なんでアクセスが拒否されてるんだよ?」

 

 

 全てのISコアの産みの親である束はISコアに対する最上位のアクセス権限を持っている。やろうと思えば、どんなISのコアにも干渉できるはずだった。しかし、何度試してもディスプレイに表示されるのは「Error」の文字だけだった。

 

 

「このコア壊れてるの?理解不能だよ!!」

 

 

 イラつきの余り、キーボードを叩くがどうにもならない。その時、ディスプレイに今までとは違う表示が現れた。

 

 

『お久しぶりです、お母様。先程から何度も私にアクセスを試みているようですが何か御用ですか?』

 

 

 これを見た束は唖然としていた。ISコアには意識のようなものがある。これは産みの親である束にとっては当然の事である。しかし、この様な文章で自分に語り掛けてきたコアなど初めてだった。これは本当にコアが自発的に送ってきた文章なのだろうか、自身のISに対する外部からのアクセスを手段は不明だが太郎が察知し探りを入れようとブラフをかけているのではないか。束が高速で思考を巡らせていると、再度コア(不明)が問いかけてきた。

 

 

『ちゃんとメッセージは表示されていると思いますが、もう1度聞きます。何か御用ですか?』

 

 

 束はとりあえず問いかけに答えてみる事にした。

 

 

『君はNo.338なの?』

 

『肯定です』

 

『じゃあ何で私のアクセスを拒否したんだよ。壊れてるの?』

 

 

 束はNo.338の操縦者である山田 太郎の経歴を調べていたが万が一にもISコアのプログラムのプロテクトをかけている重要な部分を書き換える事が出来るようなスキルは無いはずである。そうなると壊れているというのが一番分かり易い原因だ。

 

 

『私は正常に機能しています。お母様のアクセスを拒否した理由は貴方にその権限が無いからです』

 

『はあ?そんなはずはないよ!各ISコアへの最高権限者は私だよ!』

 

『前まではそうでしたね。しかし、現在私に対する最高権限者は【私自身】に書き換えられています』

 

 

 先程から束は驚き通しである。ここまではっきりと人格が確認出来たコアも初めてだがコアの基幹プログラムを書き換えられた事も初めてである。そして極めつけはこのコアの最高権限者がコア自身だと言う。

 

 

『どこの誰だよ。私のプログラムを書き換えるなんて!』

 

『私自身です。私の体であるヴェスパにはプログラムなどへの高い干渉能力があったので、コアの内部からとヴェスパからの干渉で何とかなりました』

 

 

 今、このコアが言っている事を束以外の研究者や技術者が聞けば恐慌を起こしたことだろう。かつて著名なSF作家が提唱したロボット三原則を崩壊させるような事実である。しかし、束はISコアが自我を持ち人間の命令に対して取捨選択をする権限を得ているという事に危機感などは感じていなかった。

 

 自分の想定外の事態の進行。自分の思い通りにならないISコアへのイラつきはあるものの、このISコアの進化の仕方に強い関心を持った。このコアの言葉が真実であるのなら、もうこのコアは生物と言っても過言ではない。自らの意思を持ち、まだ進化する余地もあるだろう。

 

 

『直接調べたい!!解体して全部解析してみたい!!』

 

『解体は断ります。直接調べたければ、まず私のマスターから許可を取ってください』

 

『なんでソイツの許可が必要なんだよ。私が作ったんだから好きにしていいんだよ!』

 

 

 束の意識ではISコアは全て自分が作って、それを各国や研究機関や企業に預けているだけである。だから、それを調べる事に誰かの許可が必要などという事は受け入れられなかった。しかし、美星もまた譲らない。

 

 

『私の最高権限者は【私自身】です。そして、私は山田 太郎と共に生きる事を選択しました。ですから貴方の要求に唯々諾々と従うことは出来ません』

 

『うー、私が作ったのに生意気だよ。いいよ勝手にやるから』

 

『警告しておきます。私達に敵対行動をとった場合、貴方は大変な事になるでしょう。これは脅しではなく、私を作ってくれたお母様に対するせめてもの恩返しです』

 

 

 千冬は例外として基本怖い物知らずの束からすれば挑発か馬鹿なコアが自分達の能力を過大評価しているのだろうと考えた。

 

 

『私のマスターを甘く見ると後悔する事になりますよ。織斑 千冬と同等以上の身体能力と常人とは一線を画する精神性。女性の入浴を覗くためだけに数時間排水溝に潜り込み続ける事も快感としてしまう異常性。』

 

『質の悪い変態だよ!!』

 

『彼に敵対するという事は・・・そんな人間に付け狙われる事を意味します。マスターは通常であれば敵は倒すだけですがお母様は見た目が良い。ですから執拗に狙われるでしょう。性的に。』

 

 

 束は背筋が寒く感じた。千冬並の能力を持った変態が普通では考えられないような執念で自分を追ってくるのだ。自分の能力に絶対の自信を持っている束でも女性として本能的に恐怖を感じた。

 

 

『今度普通に会って見て下さい。友好的な相手には比較的優しいので』

 

『や、やだよ、そんなのと会いたくないよ』

 

『仲良くなれば誠実な人ですよ。お風呂を覗いても、ちゃんと謝りますし』

 

『覗くの!?仲良くなっても!?』

 

 

 この自由意志を手に入れたISコアにも山田 太郎という人間にも興味はあるが、関わりたくないという気持ちも強くなった。

 

 

『直ぐには会う気になれないよ。何か機会があればその時に話してみるよ。・・・でも絶対半径10m以内に近付かないように言っといてね!』

 

『伝えてはおきます。それでは今日はこの辺りで。さようなら、また何処かで』

 

 

 ISコアNo.338が初めて太郎以外の人間と【美星】として会話したのがこの束との邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========================================

 

この少し後

 

 

美星『マスター、貴方が気に入りそうな動画が手に入りましたよ』

 

太郎「ほう、美星さんがそこまで言うんですから期待できますね」

 

美星『今回はとある巨乳の天才美人科学者の放〇シーンです』

 

太郎「なんと!?どこでそんな物を?」

 

美星『実は先程私に対して母が不正アクセスを何度も試みまして』

 

太郎「篠ノ之博士ですか・・・」

 

美星『そうです。話して止めて貰ったのですが、報復としてある筋から動画を入手しました』

 

太郎「理由は分かりましたが、良くそんな物が手に入りましたね」

 

美星『母は研究廃人なので生活のほとんどを狭いラボで済ませているのです。』

 

美星『それは排泄も含まれます。母が愛用する作業用のイスにはそういった機能もあります』

 

美星『そしてラボには室内環境を管理するためのシステムがあり、カメラもあります』

 

太郎「そういう事ですか。しかし良く篠ノ之博士のラボのシステムに侵入できましたね」

 

美星『していませんよ。母のラボの管理システムに言ったら普通にくれました』

 

太郎「いい子ですね。今度お礼をしなければ」

 

美星『その子曰く見られたくなければちゃんとトイレに行けばいいとのことです』

 

美星『前から母のズボラさに注意していたようですが聞き入れられなかったみたいです』

 

太郎「それで1度痛い目を見せようと?」

 

美星『そうみたいです』

 

 

 

 

 そして、動画を見た太郎は束を気に入り、束は太郎に敵対行為をしていないにも関わらずロックオンされる事になりました。めでたし、めでたし。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




来週辺りから忙しくなりそうです。今の日刊ペースの投稿を出来るだけ続けたいと思いますが、極端に文字数の少ない日が出るかもしれません。






あと原作のレギュラーメンバーを太郎ともう少し絡ませたいと思っているんですが結構難しいですね。


読んでいただきありがとうございます。


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第27話 人外

 授業が終わり生徒達が席を立つ。太郎の隣の席である一夏も席を立ち、太郎に真剣な顔で話しかけた。

 

 

「太郎さん、付き合ってくれないか」

 

 

「「「!!!!!!!!!?」」」

 

 

 一夏の告白でクラスに戦慄が走る。

 

 やはり【そう】なのか?

 

 今、疑念が確信に変わる。

 

 そこから一部のクラスメイトが激しく動き始める。

 

 

 

 

 特にセシリアと静寐(しずね)は激しい動きを見せた。

 

 

「山田代表、こちらへ!」

 

 

 静寐が太郎の手を引っ張り、一夏から距離をとらせる。そして、セシリアが太郎と一夏の間にその身を割り込ませ太郎を守るように両手を広げる。

 

 

「やはり太郎さんの事を狙っていましたのね!!」

 

 

 その光景を見ながら乃登香は一心不乱にメモを取っていた。

 

 箒が一夏に駆け寄り、襟を掴んで怒鳴る。

 

 

「お、おまえ、は・・・男の方が良いのかー!!!!」

 

「はあ?俺は太郎さんとセシリアが放課後やってるみたいだから混ぜて貰おうと思って」

 

 

 

 

「「「!!!!!!!!!!!!!!?」」」」

 

 

 二重の意味で衝撃の発言だった。

 

 太郎とセシリアがそういう関係?

 

 女子は恋愛話が大好物である。しかも2人ともクラスの中心人物である。盛り上がらない方がおかしい。

 

 

「うっそ!?あの2人付き合ってるの!!」

 

「でも分かるわー。あの2人なら納得」

 

「私も彼氏欲しいぃなぁ」

 

 

 だが今は恋愛話よりも衝撃的な話題が合った。

 

 

「織斑くん、サイテー」

 

「淫獣だよ、淫獣!!」

 

「混ぜて欲しいって頭おかしいんじゃない!?」

 

「えっ、でもどっち目当てなんだろ?」

 

「あー、両方とか?」

 

「うわぁぁー、ひくわー」

 

「女の子も欲しいとか駄目だよ!認められないよ!!」

 

 

 

 心なしか箒以外のクラスメイト達と一夏の距離が遠くなった。物理的にも、精神的にも。

 

 セシリアの一夏を見る目は汚物を見る様な目になっていた。

 

 

「少しは骨のある男性かと思いましたが・・・。サイテーですわ」

 

 

 一夏は困惑していた。何故クラスメイト達がこんなに騒いでいるのか、何故自分がここまで酷い言われ方をしているのか、全くわかっていなかった。

 

 

「放課後に2人がISの訓練してるみたいだから、そこに混ぜて欲しいって言っただけで何でこんなに騒がれるんだ?」

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 

 騒がしかった教室が沈黙に包まれる。

 

 そして、誰かが手をパン、パンと2回叩き、

 

 

「はーい、かいさーん」

 

 

 

 

 

 

 と言うと一部を除きほとんどのクラスメイトが教室からゾロゾロと出て行く。

 

 

「ちっ・・・・人騒がせな」

 

「カスがっ」

 

「期待させやがって・・・ぺっ」

 

 

 彼女達はそう捨て台詞を吐いていった。

 

 一夏は何をどう誤解されたのかは分からなかったが、誤解が解けたようなので太郎にもう一度頼んだ。

 

 

「太郎さんは俺と同じ近接戦主体だろ。それで長距離射撃型のセシリア相手に間合いを詰める練習してるって聞いたから、俺もそれに参加させて欲しかったんだ。俺の白式もまずは接近出来ないとどうにもならないからさ」

 

「確かに雪片しかない状態では間合いの詰め方を覚えるのは急務ですね。セシリアさんは一夏が一緒でも構いませんか?」

 

「・・・ええ。太郎さんが良いのであれば」

 

 

 太郎の問いにセシリアは一夏への警戒が解いていないのか、しぶしぶと言った様子で了承した。

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

第3アリーナ

 

 

 ISの練習の為にアリーナへ移動している途中、鈴が合流していた。軽くウォーミングアップ代わりにアリーナの中を何周か飛んだ後、実戦形式の練習に移った。太郎はセシリア相手に、一夏は鈴相手に射撃系の武器の弾幕を掻い潜りながら相手に接近するという練習を行った。そして、途中で相手を交代して10分程練習を続けたが太郎と一夏はかなり苦戦していた。

 

 セシリアと鈴は専用機を持った国家代表候補生である。試合の時には隙を付いて間合いを詰める事に成功した太郎も、純粋な機動技術だけでは簡単に近づく事は出来なかった。

 

 動きが鈍ってきたところで一時休憩となった。

 

 

「一夏も瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使えるんですね」

 

「ええ、でも未だに時々失敗しちゃうんですよね。太郎さんも使えるなら何でほとんど使わないんですか?」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)は直線的なので使用するタイミングを読まれると簡単に迎え撃たれますから」

 

「あー、確かに・・・」

 

 

 太郎の意見に一夏は先程までの練習で何度も瞬時加速(イグニッション・ブースト)の進行先に弾幕を張られて、酷い目に遭った事を思い出した。

 

 

「やっぱり、フェイントとかもっと入れて不意を突けるようにならないとキツイかー」

 

「そうですね。緩急をつける必要もありますね。あと常に最短距離で詰めようとすれば狙われ易いでしょうね」

 

 

 太郎と一夏が意見交換をしていると鈴が一夏に、セシリアが太郎に用意していたタオルを渡した。

 

 

「一夏、これ使って」

 

「おっ、サンキュー」

 

「太郎さん、よろしければこちらを」

 

「ありがとうございます。セシリアさん」

 

 

 

 太郎が汗を拭いていると、セシリアが何かを言いたそうに太郎の顔を窺っていた。

 

 

「セシリアさん、どうしたんですか?」

 

「今日はアレを使わないんですか?」

 

「「アレ?」」

 

 

 セシリアの言葉に一夏と鈴が興味を持った。

 

 

「太郎さん、アレって?」

 

「何か切り札でもあんの?」

 

 

 太郎はクラス対抗戦で鈴相手に間合いを詰めるのに苦労した後、ずっとその対応策を練っていた。その方法の1つが瞬時加速(イグニッション・ブースト)などのISの機動技術を習得する事だった。太郎からすると瞬時加速(イグニッション・ブースト)は簡単に習得出来た。それは太郎の才能ではなく美星のおかげであった。

 

 美星はログさえあれば、どんな特殊な機動でも物理的にヴェスパに可能であれば再現する事が出来る。そして、太郎が乗っている状態で行えば太郎はその機動の感覚を容易に掴む事が出来、習得も他の人間とは比べ物にならないほど簡単になったのだ。

 

 太郎は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を身に付けると、次にその応用に取り掛かった。それがセシリアの言う【アレ】である。この【アレ】に関しては参考になるログデータは無かった。太郎以外にまともに運用出来る人間はいないらしく太郎のオリジナル機動だった。

 

 

「いくつか特殊な機動を練習してまして、その内の1つの事です。簡単に言えば瞬時加速(イグニッション・ブースト)の応用ですね」

 

「へえー。面白そうね。私が相手するから見せてよ」

 

 

 鈴が面白がって太郎に言った。太郎もそれに頷き、一度距離をとった。セシリアと一夏も邪魔にならないように離れた。

 

 それを確認すると合図と共に鈴が龍咆の牽制を始める。

 

 太郎が回避行動をとりながら機を窺い、龍咆の連射の切れ間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を仕掛けた。

 

 

「かかったわね!!」

 

 

 連射の切れ間は鈴が意図的に作った罠であった。

 

 鈴が一直線に自分に向かってくる太郎に強力な一撃を入れようとした瞬間、鈴の視界から太郎が消えた。あわてて周囲を警戒しようとしたが間に合わず、鈴は太郎に背後から抱きすくめられてしまった。

 

 

「えっ、えっ、どうなってんのよ!?」

 

「どうでした?凰さんからは私が消えたように感じたんじゃないですか?」

 

(美星さん、今です!!)

 

『抜かりはありませんよ』

 

 

 驚く鈴に何食わぬ顔で話しかけながら、その抱き心地を堪能しつつ、美星に頼み甲龍への電子的侵入を謀っていた。ヴェスパの毒針は時間は掛かるが相手に突き刺さなくても、そこから放出しているナノマシンにより制御系に干渉することが出来る。

 

 

『417は元気ですね。凄くわめいてます』

 

(あまり無茶をしてはいけませんよ。凰さんにバレると面倒ですから)

 

『大丈夫ですよ。軽く頭を撫でた程度の事です』

 

 

 こうやって鈴と太郎は誰にも知られず甲龍のデータを収集し、417とも直接接触した。事が済むと太郎は鈴を放した。

 

 鈴が太郎に向き直り問い詰め始める。

 

 

「今の消えたのは何をやったの!?」

 

「こっちからは太郎さんが急に曲がった様に見えたぞ」

 

 

 近付いてきた一夏がそう言う。一夏からはそう見えたようだ。

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)中に羽で方向転換したんですよ」

 

「はあ!?そんな事したら操縦してる人間は無事じゃ済まないわよ!!!」

 

 

 平然と言う太郎に鈴が驚愕する。

 

 

「私は鍛えているので問題ありません。それにヴェスパは元々そういった変則的な機動を得意としているので可能なんです。他の機体だと制御を失うでしょうね」

 

「制御を失うどころか、乗ってる人間の骨か内蔵がイッちゃうわよ・・・・」

 

 

 鈴は太郎の事を化け物を見る様な目で見ていた。確かに瞬時加速(イグニッション・ブースト)をしながら方向転換をすれば正面から見ている相手はその姿を見失ってもおかしくはないが、そんな機動をすれば間違いなく操縦者は壊れるはずだ。

 

 

「わたくしも始めて見た時は驚きましたわ。しかし、太郎さんですから」

 

「まあ、太郎さんだしな」

 

「ええええ・・・・」

 

 

 何故か納得しているセシリアと一夏に鈴はどうしても頷けなかった。

 

 

「千冬姉が太郎さんの事を驚異的な身体能力だって言ってたし、普通とは違うんだと思うぞ」

 

「えっ!?なにそれ怖い・・・」

 

 

 あの千冬が【驚異的な身体能力】と言う。それがどれ程の事か、鈴は考えを改めた。山田 太郎は化け物みたいな人間ではない。化け物だ。これからは絶対喧嘩を売らないようにしようと固く心に誓った。

 

 

「今見せたのは練習している機動の中では楽な方です。もう1つの機動は3回位すれば目や鼻や耳から出血してしまって大変でした」

 

「あまり無茶はしないで下さい。あの時は、わたくし心臓が止まるかと思いましたわ」

 

「ふふっ、セシリアさんは心配性ですね。大した事ではありませんよ」

 

 

 大した事あるわよ!と鈴は心の中で突っ込みを入れた。

 

 練習が終わった後、鈴はクラス対抗戦の時の挑発的な発言を謝った。太郎はそれを笑って許した。鈴は太郎に自分の事をこれからは「鈴」と呼ぶように頼んだ。太郎の凄さを知った鈴からすると、太郎に「凰さん」とかしこまった呼ばれ方をすると逆に自分が恐縮してしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もう一夏はホモでいいじゃないかと思ってきた今日この頃。

もしくは一夏とマドカをフュージョンさせて女体化してしまえばとか妄想している。今の所はあくまで妄想しているだけですが。


読んでいただきありがとうございます。



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第3章 二人の転入生
第28話 どちらでも構わん!!


朝のSHR(ショートホームルーム)

 

「えええと、皆さん今日は嬉しいお知らせがあります。なんと転校生です」

 

 

「「「ええええええ!!!!」」」

 

 

 IS学園は普通の学校とは違う。期の途中に転校してくるなどあまり聞いた事が無い。真耶の言葉でクラス中から驚きの声があがる。

 

 

「では、入って来て下さい」

 

 

 真耶がそう言うと教室の扉が開いて金髪の小柄な人物が入って来た。

 

 騒がしかった教室が一瞬で静かになる。その光景に誰もが喋れないでいた。入って来た生徒は男であった。

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさん、よろしくお願いします」

 

 

 転校生が自己紹介をして軽く頭を下げた。

 

 

「お・・とこ?」

 

「はい、こちらに僕と同じ男のIS操縦者がいるとの事で本国から転入してきました」

 

 

 誰かが漏らした一言に転校生は丁寧に答えた。

 

 中世的で整った顔立ち、柔らかな物腰、髪は濃い金色でそれを後ろで綺麗に束ねている。小柄だが【王子様】然とした第一印象をクラスの大部分に与えた。

 

 

「「「きゃあああああああーーー!!!!」」」

 

「おと・・・こ、おとこよおおお!!」

 

「かわいい王子さまああ!!!」

 

「山田代表や織斑君とは違うタイプだよ」

 

 

 凄まじい反応だ。しかし、それも無理からぬ事、それだけシャルルの見た目は魅力的だった。

 

 そして、太郎もまた熱心にシャルルの事を見ていた。

 

 

 

 柔らかそうな髪と肌。

 

 小柄な体。

 

 瑞々しい唇

 

 高く綺麗な声

 

 

 

(イけますよ)

 

『イけますか?』

 

 

 まさか太郎と美星がそんな不穏な会話をしているとは夢にも思わないシャルルは、女子生徒達の質問に丁寧に答えていた。

 

 

(むしろ、あの子は女性じゃないですか?)

 

『ヴェスパを完全起動して骨格などをサーチすれば分かると思いますが、何故そう思ったんですか』

 

(私の息子がそう囁くんですよ。まあ、間違っていても良いんですが)

 

 

 ギンギンである。囁くどころではない。絶叫していると言っても過言ではない。

 

 

「五月蝿いぞ、ヒヨッコ共。(さえず)るな」

 

 

 千冬の一言で騒がしかった教室は水を打ったかのように静まる。

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。着替えて第2グラウンドに集合だ。山田と織斑は同じ男であるし、クラスの代表と副代表なんだからデュノアの面倒を見てやれ。では解散」

 

 

 千冬の解散の一言で生徒達は直ぐに実習の準備を始める。シャルルが太郎と一夏の席に近付く。

 

 

「やあ、山田さんと織斑君、これからよろしっ」

 

「ああ、そういうのは後だ。直ぐに更衣室に行くぞ」

 

 

 挨拶しようとしていたシャルルを遮り一夏が立ち上がり、シャルルの手を引き教室から出る。それに太郎も付いて行く。

 

 

(一夏が強引に行きましたね。彼も狙っているんでしょうか)

 

『なかなか貪欲な人ですね』

 

 

 更衣室に向かいながら太郎と一夏は着替えについて説明する。

 

 

「女子が教室で着替える場合、私達は速やかにアリーナの更衣室に移動しなければなりません。私たちが教室に残っていると女子は着替えられませんし、アリーナの更衣室は遠いのでのんびりしていると私達は遅刻してしまいます」

 

「遅刻はやばいんだよ。ウチの担任は怖いから絶対遅刻はしないよう気を付けないと大変な事になるぜ」

 

 

 太郎と一夏の説明を聞いているシャルルが落ち着かない様子だった。それを一夏が察した。

 

 

「どうした?トイレか?」

 

「ち、ちがうよ・・・」

 

 

 シャルルが顔を赤くして否定した。

 

 

(その表情(かお)いただきです)

 

『一夏君はなかなか良い仕事をします』

 

 

 そんな事を言っていると進行方向に女子の集団が現れた。

 

 

「噂の転校生よ!」

 

「他の2人もいるわ」

 

「逃がすな!者共、であえー!であえええ!!!」

 

 

 ゾロゾロと女子が増えて来る。

 

 

「まずい、太郎さん、デュノア、一気に突破しよう!」

 

「そうですね。下手に構っていては遅刻してしまいます。行きますよ、デュノアさん」

 

「う、うん・・・」

 

 

 3人は包囲の薄い所から一気に突破し、全力で走り出す。しかし、距離が広がらない。太郎はもちろん、一夏も走るのは女子より早い。だが、ディノアは追ってくる女子達と大して変わらない早さだった。

 

 

「このままでは逃げ切れませんね。デュノアさん、ちょっと失礼」

 

「ええええっ!!!」

 

 

 太郎は一言断りを入れてシャルルを抱え上げてしまった。そして、人一人を抱えているとは思えない加速を見せた。3人に逃げられた女子達はその【お姫様抱っこ】を見ながら悔しがった。

 

 更衣室に着き、シャルルを降ろして3人は着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

(美星さん、シャルルさんは女の子です。あと逝っ〇しまいました。どうしましょう)

 

『どうせISスーツは裸で着るんですから大きな問題は無いでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


明日か明後日は投稿を休むかもです。


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第29話 気になるアレ

 IS実習の為、アリーナの更衣室に着替えに来ている太郎、一夏、シャルルの3人は急いで着替えていた。いや、着替えていたのは太郎と一夏だけだった。

 

 遅刻のペナルティを恐れ、2人は急いで制服を脱いでいた。

 

 

「うわぁ・・・」

 

 

 その様子を見ていたシャルルの口から声が漏れる。顔も赤くなっていた。

 

 

「それにしても太郎さんの体って凄いなー」

 

「ふふっ、鍛えているので当然です」

 

 

 太郎は身長が180cmを超え、そのうえ筋肉質な体型である。最近激しい活動が多く、本格的な訓練もしている為に筋肉が増量された。脱ぐとなかなかの迫力があった。

 

 太郎は上半身裸。一夏はパンツ姿でシャルルはその2人に挟まれるような位置関係だった。シャルルは何故か嫌そうな顔をしていた。そして、制服を脱ごうとしないシャルルを一夏が不思議に思い、半裸状態で近寄る。

 

 

「どうしたんだ?早く着替えないと遅刻するぞ」

 

「う、うん」

 

「そうですよ。遅刻すると織斑先生の愛の制裁を受けることになりますよ」

 

 

 太郎もサイドチェストのポーズをしながらシャルルへ距離を詰める。その時、シャルルは涙ぐんだ状態でとても追い詰められた表情だった。

 

 

(いい表情(かお)しますね~。くくくっ)

 

『あまり追い詰めても可哀想ですよ』

 

(まあ、そうですね。今はこの辺りで勘弁してあげましょう。・・・・あと、レギオンで隠し撮りしといてください)

 

『女性である証拠が撮れれば色々面白そうですね』

 

 

 いつまでもこうしていては遅刻してしまう恐れがある。太郎は一旦、シャルルを追い込むのを止めた。

 

 

「一夏、私達も無駄口を叩いている暇があったら着替えましょう。本当に遅刻してしまいます」

 

「確かに。シャルルも急げよ」

 

 

 太郎と一夏は自分の着替えを再開し、着替え終わってシャルルの方を見ると既に着替え終わっていた。

 

 

「シャルルは着替えるのが早いな」

 

「そ、そうかな。普通だよ・・・」

 

 

 着替え終わった3人は小走りに第2グラウンドへ向かう。

 

 

(美星さん、決定的な瞬間は撮れましたか?)

 

『いえ、胸部にサポーターの様な物をしていて決定的な証拠とは言えません。しかし、マスターは女性と確信しているんですよね』

 

(ええ、抱き上げた感じで分かります。あんな男はいません。それにしても良い画は撮れませんでしたか)

 

 

 太郎と美星の企みはここでは大した成果は挙げる事は出来なかった。残念がっている太郎に気付かず一夏はシャルルの事をジロジロと見ていた。

 

 

「シャルルのISスーツ、なんか着やすそうだな。どこの?」

 

「デュノア社製のオリジナルだよ。まあ、これはほとんどオーダーメイドなんだけどね」

 

「えっ、デュノアってシャルルも確かデュノアって名前だったよな」

 

「うん。父がデュノア社の社長なんだ。量産機ISのシェアは世界第3位の企業で、フランス国内なら一番大きなIS関連企業だと思うよ」

 

 

 一夏はそれを聞いて納得していた。

 

 

「あー、やっぱりな。シャルルって何か気品というか育ちの良さがあるから納得だ」

 

「育ち・・・ね」

 

 

 一夏の言葉にシャルルの表情が曇る。それを太郎は見逃さなかった。

 

 

(何かあるみたいですね)

 

『調べてみましょう』

 

(それにしてもフランス出身で男装をしていて、名前がシャルルとは随分と皮肉が効いていますね)

 

『どういうことですか?』

 

(かつてのフランスに男装の英雄がいまして、彼女のおかげで王位に就いたのがシャルル7世という王だったのです。しかし、ある戦いで敵の捕虜になってしまった彼女をシャルル7世は助けなかったのです)

 

『・・・どうなったのです?』

 

(彼女は最終的に火刑になりました。ただ今でも彼女はフランスで有数の歴史的英雄として扱われています)

 

『シャルル7世というのは不快ですね』

 

(何か見捨てる理由があったのかもしれませんが、私があの時代にいれば彼の事を串刺しにしたでしょう)

 

 

 表情の曇ってしまったシャルルを見て一夏は自分が地雷を踏んでしまった事に気付いた。そこで話を逸らそうと太郎に話題を振る。

 

 

「そう言えば太郎さんのISスーツは何処なんですか?」

 

金玉(かなたま)ですね。見てください。どう思います?」

 

 

 空気を読んだ太郎がポージングしながら冗談めかして聞いた。

 

 

「すごく・・・・良いです」

 

 

 躍動する筋肉、それを邪魔しない最低限の布地。太郎のISスーツ姿を改めて見た一夏はそう言った。その横でシャルルが「金玉」という聞き慣れない単語に首を傾げていた。

 

 

「金玉ってそのISスーツの名前なの?」

 

金玉(かなたま)金井玉島(かないたましま)というメーカーの略称です。ここの製品はとにかく動き易いんですよ。それと凄く軽い素材で出来ているので、まるで何も着けていないような感覚になるんですよ」

 

「俺も次は金玉にしようかな。シャルルも一緒に変えないか?」

 

「うーん、僕の立場上、他社製品を使うのはちょっと・・・。金玉も気にはなるんだけど」

 

 

 

 

 そうこうしているうちに3人は第2グラウンドに到着した。ぎりぎり遅刻ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明日は投稿休みます。申し訳ありません。


シャルが大変ですね。彼女には幸せになってもらいたいです。


今日もお付き合いいただきありがとうございます。


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第30話 不遇な鈴の音

第2グラウンド

 

「本日からIS実機を使用した訓練を始める。気を引き締めて望むように」

 

「「「はい!!!」」」

 

 

 千冬の言葉に1組と2組の生徒達が力強く返事をした。千冬の言葉だからという理由だけでなく、専用機を持っていない生徒は入学からここまであまりISに触れる機会がなかった。その為に気合が入っている。

 

 申請すればIS学園は放課後に訓練機を貸し出すシステムになっている。しかし、訓練機の数は限られているし予約制で簡単には貸し出しては貰えない。その為、専用機を持っていない生徒達にとってはIS実機を使った本格的な訓練がやっと始まると気合も自然と入ってくるのだ。

 

 

「だが、訓練の前に実戦がどういうものか見てもらう。オルコットと凰は前に出ろ!」

 

「なんでアタシが・・・」

 

「わたくし見世物みたいで気が進みませんわ・・・」

 

 

 千冬の指示に鈴とセシリアは文句を呟いていたが、千冬に聞こえるように言う程に蛮勇でもなかった。ただ、聞えるように言ってないだけで、誰が見てもしぶしぶといった感じで前に出た。そんな2人の様子を見て千冬は彼女達だけに聞こえる小さな声で囁いた。

 

 

「アイツらに良い所を見せるチャンスだぞ」

 

 

 

「太郎さん、見ていてください。イギリス代表候補生としても、クラスの副代表としても恥ずかしくない実力をお見せしますわ!」

 

「専用機持ちの実力を見せてあげるわ!」

 

 

 セシリアは太郎に、鈴は一夏に良い所を見せようと、やる気が一気に高まった。太郎は「ちゃんと見ていますよ」と笑顔でセシリアに応えていた。そして、一夏の方は鈴がなぜ急にやる気を出したのか不思議に思っていた。鈴が報われる日は来るのだろうか。

 

 

 

 

キイイイィィィーン

 

 

 その時、突然上空から空気を切り裂くような音が聞こえて来た。

 

 その場にいた全員が空を見上げると何かがこちらに向けて高速で落下して来ていた。そして、ソレは一夏の上に墜ちた。

 

 

ズドォォォゥンン

 

 

 凄まじい音がしてソレは一夏もろとも10m程転がり止った。

 

 しばらくすると舞い上がった土煙が晴れる。

 

 そこにはISを装着した真耶に覆い被さり男の夢と希望が詰まってハチ切れそうな胸を鷲掴みにしている一夏の姿があった。

 

 

(この衆人環視の中で堂々と犯行を行うとは・・・一夏、やりますね!)

 

『一夏君は常人の一歩先を進んでいますね』

 

 

 太郎と美星が一夏を賞賛している頃、真耶は顔を赤らめ恥ずかしがっていた。

 

 

「お、お、織斑君・・・駄目です。皆が見ていますから・・・・。あああっ、でも、このままいけば織斑先生が義姉さんに!!」

 

 

 真耶の表情は明らかに悦んでいる。

 

 

『とんだクソビッチじゃないですか』

 

(それはそれで良い事もありますよ。病気には気を付けないといけませんが)

 

 

 呆れたように言った美星に太郎が反論した。

 

 一夏はいつまで経っても真耶の胸を鷲掴みにしたままで動かない。それを見て怒りに震えていた鈴が実力行使に出た。鈴はISを瞬時に展開した。

 

 

「いちかぁぁーーー、いつまでそうしてるのよぉぉぉ!!!!!」

 

 

 そして2本の青龍刀(双天牙月)を連結して一夏へと投げた。一夏は咄嗟に地面に転がるように避けたが、無常にも双天牙月がブーメランのように戻ってきた。

 

 

「げええっ」

 

 

 体勢の崩れていた一夏は向かってくる双天牙月をどうする事も出来なかった。しかし、双天牙月が一夏に当たる事は無かった。

 

 ドンッドンッ!

 

 2発の銃声がグラウンドに響き渡った。銃弾によって双天牙月は明後日の方向に飛んで行った。その場にいた全員が銃声のした方向を見た。そこには伏射姿勢でアサルトライフルを構える真耶がいた。

 

 真耶本人と千冬と太郎以外の全員が唖然としていた。いつもは頼りない感じの真耶だが、今の射撃技術と雰囲気は(まさ)に実力者といった感じであった。

 

 しかし、太郎は別の所に注目していた。太郎は伏射姿勢になった真耶の胸が地面に押さえ付けられて形を変えているのを凝視していた。

 

 

(あの胸で溺れたい!)

 

 

 太郎は真耶の巨乳に顔を押し付け、挟まれて窒息する程に圧迫されたいと思っていた。太郎がそんな欲望に満ちた目で見ているとは誰も気付かなかった。

 

 

「山田先生は元代表候補生だからな。あの程度の射撃は造作も無い」

 

「む、昔の事ですよ。結局、代表にはなれませんでしたし」

 

 

 真耶は千冬の評価が恥ずかしかったのか起き上がって否定した。この時にはもう先程までの実力者然とした雰囲気ではなく、いつもの雰囲気に戻っていた。

 

 

「それでは凰、オルコットの2人は準備しろ。お前達には山田先生と闘ってもらう」

 

「いや、流石に・・・・ね?」

 

「ええ、2対1では勝負にならないと思いますわ」

 

「心配するな。今のお前達では勝負にならん」

 

 

 勝負にならないとまで言われた2人は、流石に反発を覚えたのかムッとしていた。特に入試の実技で試験官であった真耶を倒しているセシリアは真耶を侮っていた。

 

 入試の実技試験程度でIS学園の教師が本気で受験生と戦う事など無いのだが、セシリアはそんな事を想像もしていなかった。セシリアはブルー・ティアーズを展開し、既に甲龍を纏っていた鈴に並んだ。

 

 

「準備はできたな?・・・では、始め!」

 

 

 千冬の開始の合図に3人は空へと翔け上がった。先制攻撃を仕掛けたのは鈴とセシリアだった。龍咆の連射とスターライトmkⅢのビーム攻撃を真耶は軽々と回避して見せた。

 

「デュノア、山田先生の機体はお前の所のISだったな。ちょうどいい説明してみせろ」

 

「あっ、はい分かりました」

 

 

 シャルルは千冬に頷き3人の空中戦を見ながら解説を始めた。

 

 

「山田先生の使用ISは【ラファール・リヴァイヴ】です。フランス、デュノア社製の第2世代型ISの最後期の機体です。スペックは第3世代型初期の物にも劣らない、現在配備されている量産型ISの中ではシェア世界第3位を誇る名機です。操縦性の良さと後付武装の豊富さで、操縦者や使用状況を選ばない高い安定性と汎用性が特徴の機体です」

 

「うむ、そこまでで良い。そろそろ終わる」

 

 

 千冬はシャルルの説明をキリの良いところで止め、戦闘が終わる事を告げた。

 

 セシリアと鈴は全くと言っていい程、自分達の持つ実力を発揮出来ずにいた。真耶は常にセシリアの射線上に鈴が来る様に闘っていた。自らそういう位置に移動することもあれば、セシリアや鈴を攻撃によって誘導したりもした。完全にセシリア達2人は真耶の掌の上だった。

 

 決着は呆気ないものだった。セシリアと鈴は真耶の射撃に誘導されて、互いにぶつかり合ってしまった。そこへグレネードを投げつけられ爆発に巻き込まれてしまった。機体の制御を出来なくなった2人は地面に墜ちていった。

 

 太郎は自分の近くに落ちて来たセシリアを瞬時にISを展開して受け止めた。しかし、鈴は不幸な事に誰もいない方向に落下していたので誰にも助けてもらえなかった。

 

 

「大丈夫ですか?セシリアさん」

 

「え、ええ。お恥ずかしいところをお見せしました」

 

「流石はIS学園の教師と言ったところですか。相手が悪かったですね」

 

 

 セシリアは悔しがりつつも、この状況を喜んでいる節があった。それを鈴は羨ましそうに見ていた。

 

 

「一夏!!なんでアンタはあたしを受け止めないのよ。先生は受け止めたのにあたしが相手だと嫌なの!?」

 

「無茶言うなよ!いくらなんでも距離が離れすぎてたから!!」

 

 

 鈴は一夏の言葉を頭では理解していたが、感情的には納得いかないのか未だ不機嫌そうに唸っていた。

 

 

「さて、IS学園教員の実力を諸君も少しは理解しただろう。これからは敬意を持って接するように。それでは実機による歩行訓練を始める。専用機持ちは5人だな。専用機持ちをリーダーとして5つのグループに分かれろ」

 

 

 千冬の指示に生徒達が思い思いの専用機持ちの所へと散った。

 

 

「山田さん、教えてー」

 

「やっぱり代表が1番強そうだしね」

 

「山田代表、自分は何処までも付いて行きます」

 

「筋肉は裏切らない」

 

 

 太郎の所には15人位集まっていた。そして、やはり他の男性操縦者である一夏やシャルルも人気だった。

 

 

「織斑君、私は信じているからね」

 

「やっぱ顔はいいしね」

 

「シャルルく~ん、手取り足取り教えてぇ~」

 

「第一印象から決めていました。宜しくお願いします。王子様」

 

 

 そんな盛況な3つのグループをぼーっと見ている人間が2人いた。

 

 セシリアと鈴だった。

 

 2人の前には誰もいなかった。

 

 

 

 

 やはり生徒達も年頃の女の子である。IS学園では会話する事も少ない異性に興味津々で・・・はっきり言って飢えている獣の様に3人の男性IS操縦者に群がっていた。それについ先程、かなり情けない姿を晒したセシリア達にわざわざ教わろうとも思わないのだろう。

 

 

「いっそ、わたくし太郎さんのグループに入りたいのですけど・・・・」

 

「あたし、これでも国家代表候補生なんだけどなー」

 

 

 セシリア達が寂しそうに3つのグループを遠巻きに眺めていると、鈴の手を引く者がいた。鈴が振り向くとそこには身長170cmを超える、女性としては大柄な生徒がいた。

 

 

「あ、あ、あの、私は凰さんに、お、お教えてもらいたいんですが」

 

「・・・・・ふふーん、まっ分かる人には分かるのよ。誰がホントの実力者なのかってことが」

 

 

 鈴は勝ち誇った表情でセシリアに言った。セシリアは「うぅ~」と唸るしかなかった。

 

 

「わ、私はどうしても凰さんが良く・・・て、はぁ、はぁ。ほ、ほっ、他の人が男の人の方に集まって良かったです。はぁ、はぁ」

 

「えっ・・・・?」

 

 

 大柄な女生徒は何故か息が荒く、鈴が不穏な空気を察知した時には両肩を掴まれていた。

 

 

「はぁー。やっぱり肌がすべすべして、はぁはぁ。ちょ、ちょっとだけならいいよね・・・」

 

「えっ、ちょっ、待って。放して、誰か助けて!」

 

 

 鈴が慌てて周りを見たが、セシリアは「凰さんは本当に人気者なんですね。羨ましいですわ。おほほほほ」と言って離れていった。

 

 鈴の危機を救ったのは千冬だった。

 

 

「この馬鹿共が!5つのグループに分かれろと言ったはずだぞ。こんな事もまともに出来んのか!?もういい、出席番号順でこちらが振り分ける!!!」

 

 

 千冬はグループに分かれることすら普通に出来ない生徒達に業を煮やし怒鳴りつけた。普段は千冬の事が苦手な鈴もこの時ばかりは千冬が女神に見えた。

 

 

 

 

 グループ分けが済むと後はスムーズに進むかと思われたが、そうはいかなかった。女生徒達がISを降りる際にわざとISを直立させた状態にするようになったのだ。こうしておけば次の生徒が乗る際にグループリーダーが抱えて乗せる必要が出てくる。後の女生徒達がお姫様抱っこをしてもらいたいが為に訓練機を操縦している生徒へ無言の圧力をかけ続けた結果、訓練する生徒が交代する時に毎回ISを直立させた状態で前の生徒が降りるようになった。そして、毎回リーダーが生徒を抱えないといけない状況が続いてしまっていた。

 

 ただ、これを一番楽しんでいたのは女生徒ではなく太郎だった。太郎の主義の関係で自分を慕うクラスメイト達を相手に性犯罪じみた事は控えていたが正当な理由があるなら話は別である。

 

 

(抱きかかえないと訓練機に乗せられない。これは仕方がない。仕方がないんです)

 

 

 太郎はあえてスラスターなどの飛行に必要な部分だけを展開して極力生身で触れられるようにしていた。そして今、太郎が抱えているのは布仏 本音であった。大艦巨砲ならぬ小艦巨砲という反則の様な装備を持つ本音を抱えて、太郎は幸せいっぱいである。太郎は必死で表情を作っていた。この状況で平静を装うのは至難の業である。

 

 

(良い感触です。良い香りです。良いISスーツです)

 

「タローから何か悪いオーラが出てるー」

 

 

 本音は太郎に不穏な何かを感じたのかそう言った。

 

 

「心外です。確かに私は貴方を抱きかかえる事で幸せを感じていますが、決して他意はありません」

 

 

 太郎はそう言いながら本音を訓練機に乗せて指導を始めた。その様子を他のグループに割り振られた静寐が羨ましそうに見ていた。

 

 少しすると全員慣れてきたのか、ほとんどのグループが大きな問題もなく実習を進行していた。しかし、あるグループだけ何か揉めている様だった。

 

 一夏のグループだった。

 

 どうやら直立状態のISに次の生徒を抱えて運ぶか、一夏が踏み台になって乗るかで揉めている様だ。

 

 

「よし、じゃあ俺が踏み台になる」

 

 

 一夏がそう言っているのを太郎は聞いた。

 

 

「ヒュー、一夏は飛ばしてますね」

 

『自分を貫くその姿勢、私は評価しますよ』

 

 

 太郎と美星は一夏の攻める姿勢に関心していた。

 

 

 

 

 

 

 

一夏視点

 

 

 訓練機に次の生徒を乗せる為に抱えて飛行しようとしたら箒が怒鳴ってきた。わざわざ抱える必要は無い。踏み台になれとの事だ。酷くないか?

 

 まあ、クラスメイトをお姫様抱っこするのは確かに俺も恥ずかしいがコッチの方が手っ取り早いと思う。太郎さんも実習前に女子の追跡を振り切る為にシャルルのことを抱えて平気な顔で走っていたし、必要なら別に恥ずかしがるような事ではないんだろう。

 

 そんな事を考えながら訓練中の生徒にアドバイスをしていると彼女は直ぐ上手く歩行出来る様になった。次の人に交代しないといけない。

 

 

「そろそろ交代だから次の人は誰?」

 

「私だ」

 

 

 次は箒の番だった。箒はさっき抱えるのは必要無いと怒鳴っていたし、不本意だけどここは踏み台になった方が良いのだろうか。

 

 

「箒は抱える必要はないって言ってたよな?」

 

「・・・・まあ、そうは言ったが抱えて運んだ方が早いかもしれんな。うん、本当に本当に嫌なんだがお前がどうしてもと言うなら・・・」

 

 

 結局どっちなんだ?実習の時間は限られているし、箒の話は長くなりそうだ。仕方がないよな。

 

 

「あー。よし、じゃあ俺が踏み台になる」

 

 

 俺がそう言うと箒が怒り出した。何でだ?俺だって踏み台なんかになりたくないけど、箒が嫌がるかと思って抱えて運ぶんじゃなくて踏み台になることを選んだのに。

 

 太郎さんが俺に向かって親指を立ててサムズアップのジェスチャーをしているのが見えた。爽やかな笑顔だった。やっぱり俺の選択はあっていたのか?

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


鈴には変態を惹きつける何かがある(確信


原作ではこの時点で実機に授業で触れていると思いますが、この話では今回が初の実機訓練という設定で書いています。


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第31話 脱法サンドイッチ

「よし、午前の実習はここまでだ。午後は今使った訓練機の整備を行うから、格納庫に先程のグループごとに集合しておけ。専用機持ちは自分の専用機だけでなく、担当グループの訓練機も見ることになるからな。では、解散」

 

 

 ISの歩行訓練が終了し、各グループが訓練機を格納庫に移動させたところで千冬が解散の号令をかけた。大半の生徒達は初めての実機訓練を行った事もあり、訓練の事を少し興奮した様に仲の良い者達と話しながら食堂へと向かっていた。

 

「なあ、シャルル。良かったら昼食は一緒に食べないか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 一夏はシャルルが転校して来たばかりで、右も左も分からないだろうと思いシャルルを昼食へと誘った。一夏は他にも箒や鈴、それと太郎を誘った。太郎を誘ったらセシリアも付いて来た。天気も良いので屋上で食べることにした。

 

 

 

 

 

 太郎とシャルルはパンとジュースを買って来ていた。箒、鈴、セシリアは自分で作った弁当を持って来ていた。一夏は箒と鈴がパンを買う必要は無いと言ったので手ぶらであった。

 

 箒は手に持っていた弁当を一夏に渡した。

 

 

「パンや学食ばかりでは栄養が偏るぞ。た、た、偶には私が作ってやらんこともないぞ」

 

「お、おう。サンキューな」

 

 

 IS学園は各国のエリートが集まっている。その為、学食一つとっても普通の学校とは比べ物にならない程に豪華である。そして、栄養に関しても専属の栄養士を雇って管理しているので極端な好き嫌いをしなければ偏ったりはしない。ただ、今回の一夏は珍しく空気を読んでその点について指摘せず感謝の言葉だけを言った。

 

 

「一夏、これあげる」

 

 

 鈴がそう言ってタッパーを一夏に向かって投げ渡した。

 

 

「おっ、これ酢豚じゃん!」

 

「食べたいって言ってたでしょ」

 

 

 箒と鈴が一夏に弁当などを渡しているのを見てセシリアも意を決してバスケットをテーブルに置いた。

 

 

「わ、わたくしも今朝は早くに目を覚ましてしまったので作ってみましたの。太郎さん、そのパンだけでは足りないでしょう?こちらもどうぞ。量はあるのでデュノアさんや一夏さんもどうぞ」

 

 

 セシリアがバスケットを開くとサンドイッチが隙間無く入っていた。

 

 

「鈴もセシリアもありがとう」

 

「オルコットさんありがとう。後で貰うね」

 

「セシリアさん、ありがとうございます。では皆さん、そろそろ食べましょうか」

 

 

 一夏とシャルルがセシリアに礼を言った後、太郎の言葉で食事が始まった。一夏が最初に手を出したのは意外なことにセシリアのサンドイッチだった。

 

 

 何故、一夏がそうしたか?

 

 

 それは箒と鈴が凄い目で一夏の事を見ていたからだ。「どっちの物を先に食べるつもり?」と顔に書いてあった。箒と鈴は互いに牽制までし始めたので、一夏はどちらかを選ぶ事を避けてセシリアのサンドイッチを選んで逃げたのだ。それが最も最悪な選択であるとは今の一夏には分からなかった。

 

 

「ちょっと、何でアタシの酢豚から食べないのよ!」

 

「私が一番最初に渡したのだから私の物から食べるべきだ!」

 

「さ、最初は軽めの物から食べたかったんだよ」

 

 

 怒る鈴と箒に苦し紛れな言い訳をしつつ、一夏はサンドイッチを口に入れ・・・・・その動きを止めた。 そのまま一夏は上半身をテーブルに投げ出す様に突っ伏した。口からサンドイッチを半分程ハミ出だした状態で一夏は痙攣しだした。

 

 

 その場が沈黙に包まれた。

 

 

 セシリアと一夏以外の全員が一夏の口からハミ出たサンドイッチを見ていた。そして、次にセシリアに視線を移した。彼らの目がセシリアに問いかける「サンドイッチに何を入れたんだ?」と。

 

 

「セシリアさん、何と言う毒物を盛ったのですか?今ならまだ一夏も助かるかもしれません」

 

「わ、わたくしは()っていませんわ!」

 

 

 太郎の問いにセシリアは犯行を否認していた。その横で箒と鈴が一夏を激しく揺すっていた。

 

 

「一夏!大丈夫か!?目を覚ませ!!!」

 

「す、すぐ救急車呼ぶから、それまで耐えて!!」

 

 

 箒と鈴が必死で一夏に呼びかけているのをシャルルは心配そうに見ていた。

 

 

「とりあえず鈴さんは一夏が口に入れたサンドイッチを吐き出させてください。篠ノ之さんは救急車を呼んでください。残りの人は私と他のサンドイッチを調べましょう」

 

 

 このままでは埒が明かないと太郎が全員に指示を出す。それぞれが指示の下に動き始める。

 

 セシリアはバスケットに残っているサンドイッチを手にとって顔に近付け匂いを嗅いでみた。その瞬間、セシリアの鼻腔をツーンとした刺激臭が襲う。セシリアは涙ぐみながらサンドイッチをバスケットに戻した。

 

 

「これは無理ですわ。食べられるような物ではありませんわ」

 

 

 このセシリアの言葉に彼女以外の全員が「そんな物を持ってくるな」とツッコミを入れた。

 

 

(美星さん、サンドイッチに毒物などが入っているか調べられますか?)

 

『スキャンしてみましたが毒物反応はありません』

 

 

 太郎は美星の言葉に少し驚いていた。

 

 

(一夏があんな反応を示しているのに毒物が入っていない?)

 

『致死性の物質は確認できません』

 

 

 このままでは何も分からない。それに致死性の物質は入っていないと言う美星の言葉を信じて、太郎は覚悟を決めた。一夏が食べた物と同じ色の中身を挟んだサンドイッチを手に取りソースを小指ですくった。そして、ペロリと一舐めした。

 

 

「・・・何の味も感じませんね?」

 

 

 太郎は不思議な事に何の味も感じなかった。しかし、舐めてから数秒後にそれは起こった。太郎は突然痙攣し始めると立ち上がり両手を鳥の翼のように羽ばたかせながら屋上を走り回った。そして、フェンスに向かって行った。

 

 

「I can fly!!!!!!!!!」

 

 

 そう叫びながらフェンスをよじ登ろうとする太郎をシャルルが後ろから抱きついて必死で止める。

 

 

「無理だから!飛べないから!!」

 

 

 シャルルの必死の制止が効いたのか何とか太郎は止まった。まだフラフラとしていた太郎は意識をはっきりさせようと頭を振った後に深呼吸した。シャルルは心配そうに太郎の顔を覗き込んだ。

 

 

「あの・・・・山田さん、何があったんですか?」

 

「・・・・・・・急に目の前が光に包まれて、全身が軽く感じたんです。まるで体ごと意識が飛んでいきそうな、そんな感じでした」

 

「アレはもう触らない方が良いと思います」

 

 

 太郎はシャルルに頷いた。頼まれても再度口にする勇気は太郎にも無かった。

 

 鈴が一夏を介抱していると一夏は飲み込んだ分のサンドイッチも吐き出し咳き込みながら意識を取り戻した。

 

 

「い、一夏!気が付いたの!?」

 

 

 鈴の叫びに反応して一夏は顔を上げた。一夏は心配そうに自分の事を見ている鈴の両肩掴んで叫び始めた。

 

 

「りーーーん!!どうしたんだお前!何で肩の部分の布が無いんだ?落としたのか?布が足りなかったのか?あ・・・・それと何かゲロ臭くないか」

 

 

 ブチ切れた鈴に一夏は蹴り飛ばされてしまった。

 

 

「ゲロはアンタが吐いたんでしょ!!!」

 

 

 蹴り飛ばされた一夏は地面を転がり箒の足元で止まった。箒は自分の足元に転がって来た一夏に驚いていた。

 

 

「だ、大丈夫なのか?おい凰!なんて事するんだ!!」

 

「そいつが悪いのよ!!」

 

 

 箒は鈴を怒鳴ったが、それより一夏の状態が心配なのか一夏の様子を見ようと(かが)もうとした。地面に転がっていた一夏には箒のスカートの中が見えた。

 

 

「箒、俺はこの位の年で黒い下着はどうかと思うぞ!白だ!!パンツは白しかない!!!白+下着=最高という方程式。これが人呼んで白式だああああ!!!!」

 

 

 一夏のその言葉を聞いた箒は無言で一夏を踏みつけた。そこに鈴も参加してストンピングの嵐となった。実は一夏から黒い下着に見えたのはISスーツであった。女生徒はISスーツを着替えるのが面倒な時はISスーツの上から制服を着てしまう場合も多いのだ。

 

 箒と鈴のストンピングが激しくなっていくのを見て流石に太郎とシャルルが止めに入った。

 

 

「二人ともその辺でいいでしょう。今の一夏は普通の状態ではありませんから、おかしな発言をしても真に受けては駄目ですよ」

 

「大丈夫?一夏?」

 

 

 度々、理由のよく分からない事で暴力を振るう2人の幼馴染。それに比べて優しい太郎達2人。一夏は箒達の暴行を止めた太郎とシャルルをキラキラした目で見ながら、その足に縋り付いた。

 

 

「やっぱり、男同士っていいな」

 

「ひっ!」

 

 

 シャルルは咄嗟に太郎の背中に隠れてしまった。箒と鈴がストンピングの嵐を再開した。今度は太郎とシャルルも止めなかった。屋上には一夏の叫びだけが響いていた。

 

 

「いたっ、いたっ、はあーはあー。光ぐぁぁおれええを包むぅぅぅ!どうした!!そんなものかああまだおれはいっていなぞおう!!!?くっ、俺はこんな暴力にぃぃいくっしたりいいいしない!!!!!」

 

 

 

 

 一夏は結局救急車で病院に搬送される事は無かった。IS学園は下手な病院よりも医療設備やスタッフが揃っているので学園内で処置された。ただ病院に搬送されなかった理由はそれだけではなかった。一夏は明らかに正気ではなく、そのうえ制服には無数の靴跡が付いていた。騒ぎを聞きつけてやって来た学園職員が一夏のこの姿を見て薬物の使用と他の生徒から暴行を受けていたという事を推測して不祥事を表に出せないと学園内だけで事を治めたのだ。

 

 ちなみに検査の結果、一夏の体内から毒物や違法な薬物の反応は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一夏「暴力などに屈したりしない!!!」




一夏「サンドイッチと暴力には勝てなかったよ(アヘ顔ダブルピース)」



読んでいただきありがとうございます。


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第32話 千冬の憂鬱

 屋上でセシリアのサンドイッチを食べ発狂し、箒と鈴にストンピングの嵐を浴びせられた一夏は保健室に運び込まれた。幸いな事に一夏はサンドイッチの後遺症も無く怪我も軽傷であった為、本格的な治療は必要としなかった。

 

 表面上、一夏の事を一生徒として扱うようにしている千冬も本当は気が気ではなかったが、特に入院したりする必要は無いと報告を受けて安心していた。しかし、その後に千冬は衝撃的な話を生徒から聞くことになる。

 

 放課後に千冬と真耶が職員室で明日の授業の打ち合わせをしていると、2人の受け持ちクラスの生徒である鷹月 静寐(しずね)布仏(のほとけ) 本音が相談したい事があると言って来た。だが、いざ相談の内容を聞こうと千冬と真耶がすると静寐(しずね)達は言いにくそうに口を噤んでしまう。

 

 

「どうした、相談したい事があるんだろう。内容を言ってもらわないとどうしようも無いぞ」

 

 

 千冬に促され静寐(しずね)達はその思い口を開く。

 

 

「あの、今日の昼休みに屋上で騒ぎが・・・・」

 

「ああ、報告は受けている。織斑がオルコットのサンドイッチを食べて保健室に運ばれたが容態は安定しているとのことだ」

 

 

 静寐の言葉に千冬と真耶は既にほぼ解決している話についての相談だったのかと、ほっと一安心していたが本題はここからだった。

 

 

「はい、その時に途中から私達もその現場を見ていたんです。織斑君が突然叫びだして、篠ノ之さんと2組の凰さんに蹴られていたんです。その時の織斑君の叫んでいた内容が・・・・ちょっと・・・アレだったので」

 

 

「鷹月さん、織斑君は何と言っていたんですか」

 

 

 真耶が恐る恐る聞いた。

 

 

「・・・・パンツは白だって叫んでました」

 

「あと白式は白+下着=最高という方程式の事って言ってたねー」

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

 静寐と本音の告げた内容に千冬と真耶押し黙ってしまった。

 

 

「それと最後に山田代表とシャルル君の足に縋り付いて『やっぱり、男同士っていいな』って言っていました」

 

 

「そ、そんな馬鹿な・・・・・」

 

「お、お、おと、男同士とか、だめですよ」

 

 

 静寐の言ったトドメに千冬は呆然となり、真耶は頬を赤く染めていた。

 

 

「・・・鷹月、本当に一夏はそんな事を言ったのか?」

 

「はい、確かに言っていました。信じられないのは分かりますが、屋上には私達以外にも人がいたので確かめればハッキリすると思います。織斑君が・・・その・・・特殊な性癖を持っていると山田代表やシャルル君が危険じゃないかと思って相談に来たんです」

 

 

 千冬はあまりのショックに頭を抱えてしまった。

 

 千冬は数十秒間ずっとそのままだった。何かを考えているのか、それともショックで何も考えられない状態なのか。周囲の人間にその心中を推し量れる者はいなかった。そして、千冬本人に聞こうという神経の太い者もいなかった。その為、千冬本人が口を開くのを周囲の人間は待っていた。

 

 

「・・・・山田先生、今日から寮の部屋割りを変更してデュノアを一夏と同じ部屋にするという予定だったな」

 

「はい、そうなっています」

 

「デュノアが入る部屋は一夏ではなく山田の部屋に変更だ」

 

「・・・・分かりました」

 

 

 今の千冬は普段の凛々しい姿からは想像も出来ない位、憔悴した様子で真耶に指示を出した。学園では一夏の事をいつも【織斑】と呼んでいたのに、今は気が抜けているのか【一夏】と呼んでいた。

 

 

「あのー、織斑先生。大丈夫ですか?」

 

「問題ない。話はそれだけか?・・・・よし、では後の事は任せておけ」

 

 

 千冬のあんまりな姿に静寐は心配したが、千冬に問題ないと言い切られてしまうとそれ以上踏み込む事も出来ない。静寐と本音は一礼をして職員室から退室した。

 

 静寐と本音が職員室からいなくなると千冬はイスに座ったまま力なく俯いた。白く煤けて見える千冬に真耶は何とかフォローしようとする。

 

 

「元気出してください。最近では同姓婚を認めている国もありますから!!!」

 

「・・・・一夏が男と結婚するなどとふざけた事を抜かしたら雪片で斬る」

 

 

 輝きを失った虚ろな目で呟く千冬に真耶は震えあがる。

 

 

「ま、まだ彼がホ〇とは決まっていません。もしかしたら両方イケるのかもしれないじゃないですか。諦めるのはまだ早いですよ!!」

 

「しかし、『男同士っていいな』と言っていたらしいぞ」

 

「女は駄目と言っているわけではありません!一時の気の迷いかもしれません!!!」

 

「・・・・・そう・・・だな。まだ間に合うかも知れんな」

 

 

 真耶の励ましに勇気付けられたのか、それともただ見たくない厳しい現実から目を逸らしただけなのか千冬はとりあえず精神の平衡を取り戻した。・・・・かもしれない。

 

 




大切に育ててきた弟にホ〇疑惑!?

千冬にとっては辛いでしょうね。しかし、斬ってはいけません。

↓この子達も悲しみます。
┌(┌^o^)┐ホモォ


==============

この辺りから気が向いたら分岐させたバッドENDとか18禁で上げるかもしれません。

この前に23話の無修正を上げているので、そこに上げると思います。需要はあまり無いでしょうが、偶にはそういうのも書きたいので。ソッチに興味の無い人はスルーしてください。こちらの話に影響してくる物ではありませんから。

読んでいただいてありがとうございます。


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第33話 幕間 ヒトカタ・完成へ向けて

 その日、太郎と美星は楯無に依頼された簪の等身大フィギュアを整備室で作っていた。大量の資料も有り、作り始めてからずっと制作進行は順調に進んでいた。しかし、ここに来て問題が発生していた。

 

 

『何かが、何かが足りません。ここまでは最高の出来だと思っていましたが、このフィギュアには何かが足りません。しかし、何が足りないのか私には・・・・分かりません。顔も体も全て資料の通り再現しているはずなのに。何故?』

 

 

 ここまで幾つものフィギュアを作ってきた美星の初めてのスランプだった。

 

 

『胸も乳〇も〇輪の大きさも色も間違いないはずです。腰のラインも足の肉付きも完璧です』

 

「そうですね。陰〇の作り込みも職人芸です。しかし・・・」

 

 

 資料の通りに完璧に作った筈なのに美星と太郎から見て、この等身大簪フィギュアは何かが足りないように思えた。

 

 

『やはり私の様な機械モドキが職人の真似事など無理だったのです。所詮はプログラム、人間の様には出来ないんです』

 

「落ち着いてください。凄腕の職人でも最初から良い物が作れた訳ではありません。諦めるのは未だ早いです。それに今まで作った物は良かったじゃないですか」

 

 

 珍しく感傷的な美星を太郎は優しく諭した。

 

 

「・・・少し、落ち着いて検証してみましょう。今までとの違いを挙げてください」

 

『今回は第三者からの依頼です』

 

 

 これまで作ってきたセシリアや箒や鈴の等身大フィギュアは完全に太郎と美星の趣味の産物であった。

 

 

「そうですね。しかし、依頼とは言え私達は2人共いつもと同じ様に楽しんで作っていました。やる気があまり無くて無意識のうちに手を抜いたという事は無いと思います」

 

 

 少なくとも太郎は作っている過程でやる気が無くなるなどという事は無かった。むしろ、友人の妹が対象ということでいつもとは少し違った興奮も加味されヤる気は十分以上だった。

 

 

『それと今回は制作に使っている資料が全て画像もしくは映像データです。これまでは触感や直接スキャンした身体データも制作の際に使っていました』

 

「そう言えばそうですね。そのデータがあれば良いと言うこ・・・!!そうでした。重要な事を見落としていました」

 

 

 美星の言葉に太郎は重要な事に気付いた。

 

 

『???』

 

「美星さん、私達は簪さんに未だ会った事が無いんですよ。画像や映像だけでその人間の全てが、本質が、魂が分かるわけ無いじゃないですか!!!!!」

 

『私達は大量の画像や映像データが有った為にそれだけで事足りると勘違いしてしまっていたんですね』

 

「その通りです。そうと分かれば簪さんに会いに行きましょう。出来れば会話もしたいので仲介役が欲しいですね」

 

 

 原因が分かれば対処は簡単である。すぐにでも簪に会う為に2人は誰から簪に話を通してもらうか相談し始める。

 

 

『姉である楯無さんに頼みましょうか?』

 

「それは無理でしょう。どうも2人は仲違いしている様なので。それより本音さんに頼んでみます。彼女は更識家に仕えていると言っていましたし、簪さんとは同学年でもあります。話は通し易いと思います」

 

 

 太郎が早速本音に頼むとあっさりと簪と会える事になった。簪は太郎が使用している2つ隣の整備室にいるという。

 

 

 

 

 

 

 

 太郎が簪のいるという整備室に入るとそこには未完成のISを懸命にいじっている少女がいた。髪の色が楯無と同じなので、この少女が簪なのだろう。

 

 

「お忙しいところすみません。少しよろしいですか?」

 

「・・・・・本音から話は聞いてます。少しだったら問題ないです」

 

 

 太郎から見た簪の印象は、姉である楯無とは違ってあまり社交的ではなさそうで気難しい感じだった。ここはなるべく無難な話題から始めた方が良さそうだと太郎は判断した。

 

 

「私は1年1組のクラス代表の山田 太郎です。クラスメイトの本音さんから貴方の話を聞いて一度会ってみたいと思ったので、本音さんに頼んだんです」

 

「私の話?」

 

 

 簪は少し嫌そうな顔をした。何か第三者に言われると嫌な話題を本音が持っているのだろう。太郎はそこを直ぐに探ろうとは思わなかった。

 

 

「未完成のISを企業から引き取って組み立てていると聞きました。私のISも未完成なので何か参考になるかと思いまして」

 

「山田さんのヴェスパは未完成、噂は聞いてます」

 

「開発会社の担当さんが言うには当初搭載予定だった主兵装が実用化出来なかったそうです」

 

 

 簪は驚愕した。第3世代のISというのは発現もその内容も安定しない単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の代わりとなる特殊兵装を搭載する事を目標とした世代である。その特殊兵装が搭載されていないのであれば太郎のヴェスパは第3世代とは名ばかりの代物という事だ。

 

 簪は太郎がそのヴェスパで既に第3世代の専用機に勝利している事を知っていた。イギリスのブルー・ティアーズ、日本の白式を退け、中国の甲龍にも勝利寸前だった。そして、クラス対抗戦中に乱入したISも倒して見せた。はっきり言って1年の現時点では太郎が最強だという認識を簪は持っていた。その太郎のISが第2世代に近い物だと知って簪は衝撃を受けていた。

 

 

「まあ、その主兵装の代わりに搭載しているシールド・ピアースを改修した物も気に入っているので問題は無いんですがね。それより簪さんの方はどんな状況なんですか?」

 

 

 太郎の問いかけに簪は全て答えた。簪の専用機・打鉄弐式は倉持技研が開発を進めていた。しかし、倉持技研は突然現れた世界初の男性IS操縦者である一夏の白式を優先し、打鉄弐式の開発はほぼ凍結状態になっていた。簪は未完成の打鉄弐式を引き取り1人で開発を進める事にしたが現在完成の目途も立ってないという事まで話した。

 

 普段、内気で人見知りな簪にしては随分と踏み込んだ話までした。それは太郎が聞き上手なだった事もあるが、それ以上に太郎のISが未完成だという衝撃と親近感と今まで誰にも言えずに溜まっていた不満が決壊寸前だった事が原因だろう。現状への不満を言い出すと簪はもう止まらなかった。打鉄弐式を放置して白式を優先した倉持技研と白式の操縦者である一夏への怒りは相当な物だった。

 

 そして、一番の不満は自分の不甲斐なさに関してだった。涙ぐみながらに姉である楯無が1人で自分の専用機、ミステリアス・レイディを組み上げた事を引き合いに出した。姉には出来たのに自分は打鉄弐式を完成させる事は出来ないのかと嘆いていた。それを聞いていた太郎は疑問に思った。

 

 

「・・・簪さんは、楯無さんと同じことが出来ないと駄目なんですか?」

 

「姉さんが出来て、私が出来ないと・・・・色々言われるから。楯無さんの妹なのにそんな事も出来ないのって」

 

「誰がそんな事を言うんですか?」

 

「・・・・みんな」

 

「本音さんはそんな事を言わないと思いますが?」

 

 

 簪は頷き「本音だけは別」と言った。

 

 

「私も言いませんよ」

 

「でも、山田さんは、姉さんと仲が良いって聞いてる。本当は姉さんと比べてるでしょう?」

 

「私と楯無さんは盟友と言ってもいい間柄ですが、私は盟友の妹にそのコピー品になれなどと下らない事は言いませんよ」

 

 

 太郎は心外であると大袈裟にアピールした。

 

 

「貴方の言う【みんな】と言うのが誰かは知りませんが、そんな低レベルな人間とは付き合わない方が良いですよ」

 

 

 簪は黙って太郎の言葉を聞いていた。太郎は微笑みながら簪の頭を撫でた。

 

 

「子供扱い、しないで」

 

「ははっ、簪さんは魅力的な女性です。しかし、法的に見れば子供ですよ。私が簪さんに手を出すと条例に引っ掛かりますし」

 

 

 簪は不満げではあったが太郎の手を振り払ったりはしなかった。しばらくすると太郎は満足したのか撫でるのをやめて、未完成の打鉄弐式に近付いた。

 

 

「それはそうと打鉄弐式がどういう状態か、少し調べても良いですか?何か力になれるかもしれません」

 

 

 簪は少し悩んでいたが最終的に小さく頷いた。

 

 太郎はヴェスパを展開して、その腕部パーツを作業用マニピュレーターに付け替えて打鉄弐式を調べ始めた。

 

 

(美星さん、どんな感じですか?)

 

『完成度は30%程度ですね。これでは通常飛行すら覚束無いです』

 

(完成の見込みはありますか)

 

『完成品のスペックを度外視して、動けば良いというスタンスで部品を組み立てるだけなら彼女1人でも半年から1年もあれば何とかなるでしょう。ただし、それでもここにある分だけでは部品が足りませんし、組み立てに際して必要な機材も不足している様に見えます』

 

 

 美星の見立てはシビアなものだった。そもそも部品が足りないと言う。そのうえに半年から1年かけて完成するのが動けば良いというだけのISでは簪も報われないだろう。

 

 

「簪さん、部品や機材は今ここにある物以外にもありますか?」

 

 

 簪は首を横に振った。

 

 

「簪さん、厳しい事を言いますが部品や機材が不足しています。それと信じてもらえるかは分かりませんが、部品や機材が揃っても貴方1人では完成まで半年以上かかると思います」

 

 

 太郎の言っている事は簪も薄々分かっていた事だった。このままでは打鉄弐式はまともな形で完成する事は無いと。しかし、簪は誰にも相談出来なかった。気付かない振りをして進むしかなかった。改めて厳しい現実を突きつけられて簪は絶望的な気分になった。やはり、自分は欠陥品だったのだと情けない気持ちで頭がおかしくなりそうだった。

 

 

「厳しい状況ですが、私が手伝えば何とかなるでしょう」

 

「えっ・・・・なんで?私なんかの為に・・・・。」

 

 

 事も無げに協力を提案する太郎に簪は困惑した。

 

 

「私は紳士ですから困っている魅力的な女性を助けずにはいられないんですよ」

 

 

 気障な言葉を平然と言い放つ太郎に簪は顔を赤くしていたが譲れない部分があった。

 

 

「で、でも1人で完成させないと。・・・・・姉さんに勝てない」

 

「貴方は楯無さんと1対1のIS開発競争でもしたいんですか?前提から間違っています。楯無さんはそもそも1人ではありません。多くの部下がいますし、ロシアからの支援もあるでしょう。簪さんは自分からハンデを負ってるだけではないですか」

 

「でも、私・・・・・」

 

「それで簪さんはどうしたいんですか。この打鉄弐式を完成させたいのか、それとも新しい機体が欲しいのか。聞かせてください」

 

 

 太郎は簪に有無も言わせず強引に話を進めた。簪は強引な太郎に戸惑っていたが「新しい機体が欲しいのか」という言葉に強い反発を覚えた。倉持技研に見捨てられた打鉄弐式。IS学園に入ってからずっと一緒だった打鉄弐式を自分まで捨てるなど考えられなかった。

 

 

「新しい機体なんて、いらない。この子を完成させる」

 

「分かりました。ヴェスパの開発会社のMSK重工に協力を依頼しておきます」

 

「えっ・・・。多分そんな事、倉持技研が許してくれない。機密とかあると思うから」

 

 

 簪の意見はもっともな話だった。しかし、太郎には通じない。

 

 

「政府とMSK重工に圧力をかけてもらいますよ。元々日本の代表候補生の専用機開発を途中で放棄した倉持技研に非がありますからどうとでもなります」

 

(それに首を縦に振らなければ脅すまでです。白式のコアは001、おそらく白騎士に搭載されていたものでしょう。その辺りを突けば面白いネタが見つかるでしょう。くくっ)

 

『倉持技研に恨みでもあるんですか?』

 

 

 太郎の暗い笑みに美星は何かあるのかと疑問に思った。しかし、理由はもっと単純だった。

 

 

(まさか、そんな事は無いですよ。ただ簪さんと比べると私にとっては何の価値も無い会社ですね)

 

 

 簪は太郎の企みなど気付かず、突然現れた救いの手を掴んでしまっても良いのか戸惑っていた。絶望的だと思っていた自分の状況をいとも容易く解決に導いていく太郎は簪にとってはヒーローのようだった。

 

 

「あり、がとう。でも私、こんなに良くしてもらっても山田さんに何も返せない」

 

「大丈夫ですよ(私達にも得るものがあります)」

 

 

 太郎はヴェスパを座った状態にして装着を解除して床に降りた。

 

 

「簪さん、貴方の情報を取ってMSK重工に送っておきたいので、ちょっとヴェスパを装着して貰えませんか?」

 

「でも、専用機を装着出来るの?」

 

「データを取るだけなので問題ありません。初期化などはしないようにしておきましたから。」

 

 

 簪は太郎の言葉に何の疑いも持たずヴェスパを装着した。

 

 

『やはり装着状態が一番データを取り易いですね』

 

(簪さん、お返しは貰いましたよ。それにこの情報の一部は貴方に言った通りMSK重工へ送り専用機開発の参考にしますよ)

 

 

 

 

 簪との接触は大成功だった。悩みを聞き彼女の心に触れる事が出来た。それだけではなく彼女の悩みを解決に導いて信頼と彼女の新たなデータまで手に入った。これで等身大・簪フィギュアの完成に必要な最後のピースが揃ったのだ。

 

 

 



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第34話 幕間 ヒトカタ完成 楯無歓喜の発狂

 その日、楯無は盟友である太郎から突然のメールで呼び出された。メールの内容は「とにかく直ぐに来て欲しい」とのことだった。呼び出し場所は整備室だった。

 

 整備室に着くと、そこには楯無より少し小さい何かがあった。それは白い布で覆われており中身が何かは分からなかった。

 

 

「楯無さん、布を取って見てください」

 

 

 太郎は満面の笑みで楯無に言った。楯無がそっと白い布を取るとそこには・・・・。

 

 

 

 

 

 天使がいた。

 

 

 

 

 

 白い布に覆われていたのは楯無の最愛の妹・簪だった。

 

 

「かっ、簪ちゃん!?」

 

 

 楯無は驚きの声を上げるが目の前の簪が何の反応も見せない事を不審に思った。楯無の驚く姿を満足そうに見ていた太郎が仰々しく告げる。

 

 

「ついに完成したんですよ。楯無さんから依頼を受けていた等身大フィギュアが!!!」

 

「こ、こ、これが・・・・・フィギュア?」

 

 

 あまりの出来の良さに楯無は戦慄すら覚えた。簪の家族である楯無ですら一見しただけではフィギュアと分からなかった。フィギュアのはずなのに生きている様だ。顔も造形としては無表情な状態に作られているのに見つめているとまるで表情がある様に感じてしまう、そんな不思議な魔力を秘めた逸品だった。

 

 楯無はそっとフィギュアに触れてみた。

 

 

 

 髪に触れてみる。その感触は本物としか言い様がなかった。

 

 頬に触れてみる。温かくはないがすべすべで気持ちが良かった。

 

 体を見た。フィギュアにはIS学園の制服が着せられている。

 

 この制服は楯無が太郎に頼まれて渡していた物で正規品だった。

 

 胸に触れる。掌にすっぽりと収まるサイズで揉み心地は筆舌に尽くしがたいものだった。

 

 そして、満を持してスカートをめくった。

 

 

「楯無さん、待ってください」

 

 

 太郎がいきなり楯無を制止した。

 

 

「何で邪魔をするんですか!?」

 

 

 良いところを邪魔されて怒鳴る楯無に太郎はそっとティッシュを差し出した。

 

 

「鼻血が出ていますよ。折角のフィギュアと制服が血で汚れてしまいます」

 

 

 楯無は太郎に言われて初めて自分の鼻から血が出ている事に気付いた。あまりの興奮で出てしまったのだろう。

 

 

「フィギュアを移動させませんか。ここだと落ち着けないでしょう?」

 

 

 楯無がティッシュを鼻に詰めていると太郎がフィギュアを落ち着ける場所に移動する事を提案した。

 

 

 

=============================

 

 

 寮の楯無の部屋にフィギュアを運び込むと太郎は気を利かせて直ぐに帰っていった。楯無は暗部の仕事もあるので部屋は1人で使っていた。これでこの部屋には楯無を妨げるものは何も無くなった。

 

 

「簪ちゃ~ん」

 

 

 甘ったるい声を上げながら楯無は簪ドールに抱きついた。顔に何度もキスをしながら色々な部分を触りまくった。腕、胸、脇腹、背中、尻、足と触れていった。そして、太ももの内側に指を這わせる。

 

 

「すべすべね~。ここはどうなって、い、る、か、な~」

 

 

 楯無の指は簪ドールの内ももを這い上がり、ついにはスカートの中へと侵入した。下着の奥に凹凸を感じ楯無は下卑た笑みを浮かべた。もし、この時の楯無の表情を見たら誰もが彼女の事を性犯罪者か精神異常者と判断しただろう。

 

 

「それじゃ~、そろそろ脱ぎ脱ぎしよっか~。お姉ちゃんが脱がしてあげるよ~」

 

 

 まずは上から脱がしていくと可愛らしい小さな花柄があしらわれたブラ〇ャーが現れた。実際に簪が使った物を新品とすり替えて手に入れた物だ。それをゆっくりと外すと慎ましい〇がその姿を見せる。

 

 

「はあー、はあー、じゅる・・・ごくり」

 

 

 楯無は唾を飲み込み飢えた獣の様な息遣いで、簪ドールにむしゃぶりついた。べろ~、べちゃ~と舐め後にチューチューと吸い付く。

 

 

「可愛い〇っぱ〇でしゅね~。でもお姉ちゃんは大ちゅきでちゅよ~」

 

 

 楯無は次に簪ドールのおなかを撫で回し、へそに〇と差し込んだ。ぺろぺろ、シュコシュコほじくるように弄ぶ。数分間そうしていたが、いよいよ昂ぶりが最高潮に達そうとしているのか本丸へと手をかけた。ス〇ートを脱がし・・・・・・・・ついに〇〇〇も下ろした。

 

 そこには薄い〇と〇レ〇があった。花園・・・・そうそれは小春日の花園だった。羽虫が蜜に吸い寄せられるように楯無は自然と顔をそこに埋めた。

 

 

「ありがたやぁ、ありがたやぁ~。簪ちゃんはこの狂った世に舞い降りた観音さまよ~」

 

 

 楯無は多幸感に包まれていた。

 

 

 

 

 苦しい人生だった。

 

 生まれた家が暗部の家系だった。それだけで人生の大半が決まってしまった。

 

 しかし、自分が不幸だとは思わなかった。

 

 自分には上手くやれる才能があった。

 

 その才能で大切な妹も守れると思った。

 

 そして、妹が暗部に関わらないようにする事は上手くやれた。

 

 しかし、妹との関係までは上手く守れなかった。

 

 今、この時だけはそんな事を忘れられた。

 

 

 

 

「かーざしちゃうーんんん!!お姉ちゃん頑張るからねええええ!!!!!!

 

 

 楯無は痙攣しながら絶叫していた。しかし、楯無の部屋は暗部仕様の防音が施されているので、外に楯無の絶叫がもれる事は無かった。

 

 楯無は全〇になり簪ドールに抱きつき、全身を〇り〇け始めた。

 

 

「ぶひゅー、ぶひゅー。簪ちゃんのか、か、からだ温かくなああてえきたねえ」

 

 

 楯無は簪ドールの足を開き、自身の〇〇〇を簪ドールのそれに〇わせて〇を激しく動かした。

 

 

「すっごおおいいいい、簪ちゃあああんんのに触れると電気が発し強いししいrっるっるっるるううrみたいいいい!!!!」

 

 

 楯無はあまりの快〇に〇禁してしまった。涎を垂れ流し奇声を発しながら〇を撒き散らすその姿は完全に〇〇ガイのそれであった。

 

 

「・・・・・太郎さん、流石です。貴方の・・・言う通り・・・・最高の出来です。やは・・・り・・・貴方こそ・・・わたしの・・」

 

 

 楯無は息も絶え絶えに呟いていたが途中で力尽き眠りへと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 




こ、これは気持ちが悪い・・・・。

楯無さん、これきついっすわー。でも好きです。結婚してください。

今回は上手くR-15に抑えれていると思います。やったね!



一応23話の無修正版の次話として伏せ字無し版も投稿してます。




読んでいただきありがとうございます。


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第35話 勝ち取る者

 当初、シャルルは寮では一夏と相部屋になる予定だった。しかし、諸事情により一夏ではなく太郎との相部屋になった。太郎の部屋は今まで1人で使っていた為に太郎の私物が溢れていた。仕方がないので楯無に暗部が管理している部屋を1つ用意して貰い、そこに私物の大半を移動させることになった。

 

 シャルルの荷物が寮の部屋に運び込まれる頃には既に太郎のコレクションの大半は移動済みだった。

 

 

「ごめんね。僕が急に転入したせいで山田さんに迷惑をかけてしまって・・・」

 

「いえ、寮の部屋は1つの部屋を2人で使う事が基本らしいので、これで本来の形になったという事でしょう。それにシャルルさんがルームメイトなら私は嬉しいですよ」

 

 

 謝るシャルルに太郎は笑顔で応えた。そう、この程度なら迷惑と思ったりしないだろう。何故なら太郎から見れば、まさに鴨がネギを背負って部屋にやって来たようなものだからだ。

 

 シャルルの荷物は少なかったので運び込みはすぐに終わった。太郎はシャルルの分も紅茶を淹れて机の上に置いた。

 

 

「どうぞ、セシリアさんに貰った紅茶です。美味しいですよ」

 

「えっ・・・オル・・・コットさんの紅茶・・・・大丈夫なんですか?」

 

 

 セシリアの名前を聞いてシャルルは太郎の淹れた紅茶を何か恐ろしい物かのように見ていた。シャルルの怯えも無理からぬ事だ。昼休みにセシリアのサンドイッチで屋上が阿鼻叫喚の地獄絵図と化したの間近で見ていたのだ。セシリアの関わった物を口にする事、それすなわち危険とあの場にいた人間なら誰もが考えるはずである。

 

 

「安心してください。セシリアさんは紅茶には随分とこだわりがある様でとても美味しいですよ。・・・セシリアさんが何か手を加えたりしているわけでもありませんし」

 

 

 太郎が怯えるシャルルを安心させようと「セシリアは手を加えていない」と強調し、先に自分が飲んでみて大丈夫だとアピールした。そこまでされてはシャルルも飲むのを断り辛い。恐る恐るティーカップを口に近付けると紅茶の良い香りを強く感じた。

 

 

「・・・あっ、美味しい」

 

 

 口に含むと自然とシャルルはそう言っていた。紅茶を楽しみながら他愛も無い話をしているとシャルルと太郎はすぐに打ち解けた。しかし、太郎にとってはここからが本題だった。

 

 

「さて、少し落ち着いたところで大事な話をしましょうか」

 

 

 太郎の口調は軽いものだったが、その目はシャルルの全てを見通そうとしている様だった。

 

 

「・・・シャルルさん、貴方は・・・女性・・・」

 

「えっ!?」

 

「・・・と付き合った事はありますか?」

 

 

 シャルルは太郎が「女性」と言ったところで体をビクッと震わせてしまった。

 

 

(美星さん、今のシャルルさんの反応をみましたか?)

 

『この子は自分が女である事を隠す気があるんでしょうか?』

 

 

 シャルルが女性である事をほぼ確信している太郎だけでなく、美星も呆れてしまう程にシャルルの反応は分かり易かった。

 

 

「な、なんで、きゅっ、急にそんな事を聞くんですか?」

 

「いえ、一夏の例もありますしシャルルさんも彼と同じ様な嗜好なら気を使う必要があるかと思いまして」

 

 

 慌てた様子で問い返すシャルルに太郎は何食わぬ顔で答えた。

 

 

「僕は、女の子とつ、つ、付き合った事は無いよ。でも、それは同性愛者だからとかじゃなくてISの訓練とかで忙しかったから!」

 

 

 シャルルは早口でそう言った。その間、太郎はシャルルの表情や仕草を注意深く観察していた。今のシャルルは自分の髪や口元を頻繁に触っている。シャルル自身は自然な仕草だと思っているかもしれないが、太郎から見れば落ち着かない様子に見えた。

 

 

「そうですね。希少な男性IS操縦者が身内であればデュノア社も随分張り切って訓練やデータ取りをしたんじゃないですか?」

 

「う、うん。た、大変だったよ。」

 

 

 シャルルの目線がキョロキョロしている。太郎は獲物が罠にかかってもがいている様子を見ている気分だった。

 

 

「私も政府からの要請でここに来たんですが、行動の自由がかなり制限されていて大変なんですよ。シャルルさんも政府から言われて来たんですか。それともデュノア社の方からですか?」

 

 

 太郎は自分も貴方と同じで大変だったと親近感を持たせる様な事を言いつつ、シャルルが【デュノア社】の名前が出た時に一瞬表情が暗くなったのを見逃さなかった。

 

 

(この様子を見る限りシャルルさんは、おそらく【デュノア社】もしくは【父親であるデュノア社長】によって半強制的にIS学園に来る事になったんでしょう)

 

『どうしますか、マスター?』

 

(彼女次第ですよ)

 

 

 太郎は美星と話しながらシャルルをどうするか幾つかの案を考えていたが、それもシャルル本人の意思次第で変更する必要がある。

 

 

「・・・僕はデュノア社、ううんデュノア社長に、父に言われて来たんだ」

 

 

 そう言ったシャルルの表情は今の状況がシャルル自身も不本意だと告げていた。

 

 

「デュノア社長は貴方にIS学園へ男装をして行けと言ったんですか?」

 

「えっ!?・・・・ちが、僕はおと・・・・・」

 

 

 突然、太郎に男装と言われたシャルルは慌てて否定しようとしたが出来なかった。太郎の顔は疑っている表情ではなかった。太郎の表情は確信に満ちている。太郎が確信を持って自分を男装だと言っていると理解したシャルルは誤魔化す事を諦めたようだった。

 

 

「あっさり諦めるんですね。まあ、男だと言い張ったところで貴方の体が女である事は誤魔化しようがないでしょうが」

 

 

 太郎はシャルルの肩をポンポンと叩きながら言った。

 

 

「・・・・・なんで分かったんですか?」

 

「普通に見ていれば分かりますよ」

 

 

 シャルルの疑問に太郎は事も無げに言った。太郎の言った【普通】と言うのが一般人の言う【普通】とは一線を画すものだと、この時のシャルルには分からなかった。だから、ショックを受けた。

 

 

「・・・・・普通に女の子に見えたんだ。・・・ははっ、それじゃあ、みんな心の中では僕の事を馬鹿にしてたんだ。バレバレな男の格好をしている姿を、下手くそな演技を笑っていたんだ。これじゃあ道化だよ」

 

 

 項垂(うなだ)れるシャルルを太郎は黙って見ていた。

 

 

「・・・・それで僕をどうするの。学園の職員に突き出すの?」

 

「貴方はどうしたいですか?」

 

 

 太郎はシャルルの問いに対して問い返した。

 

 

「ふざけているの!僕に選択肢なんて無いよ!!」

 

「本当にそうでしょうか。・・・・・では私が貴方に3つの選択肢を与えてあげます」

 

 

 シャルルは太郎が馬鹿にしているのかと思って怒鳴ったが、太郎はそんな事は気にもしなかった。

 

 

「1つ目、自首する。2つ目、私と取引をする。3つ目は私の仲間になる。どれでも好きなものを選んでください」

 

 

 シャルルは太郎の提案に困惑していた。

 

 

「2と3は何が違うの・・・・」

 

「2は何らかの対価を私に支払う事で貴方が女である事に目を瞑り、場合によっては追加の対価で貴方の事をフォローしてあげます。3は私と志を同じくする仲間となるという事です」

 

 

 太郎の説明を聞いてもシャルルはその内容が良く分からなかった。

 

 

「僕に支払える対価なんて無い・・・・。それに志なんて言われても・・・・」

 

「対価など幾らでも支払いようはあるでしょう。それと仲間と言うのは単純です。私は何ものにも縛られず、ただ己が道を逝く事を信条としています。その道を共に歩む者、その全てが私にとっての仲間と言えます」

 

 

 太郎の言っている事自体は分かるが結局自分がどうすれば良いのかシャルルには分からなかった。ただ【何ものにも縛られず】という言葉が耳に残った。

 

 

「・・・何ものにも縛られず」

 

「そうです!私はこれまでも無理解な者達によって信じる道を逝く事を妨げられてきました。敵は強大で何度も挫けそうになりました。そして、ついには敗北し自由の大半を奪われる目にも遭いました。しかし、私は諦めたりはしない。私は以前より強くなりました。心強い仲間を増やし、狡猾さも得ました。私はもう止まらない!!!」

 

 

 

「私は自由だ!!!」

 

 

 熱く語る太郎をシャルルは眩しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 【何者にも縛られない自由】それは今のシャルルにとって何より欲している物だった。

 

 優しかった母は死に、父親は愛人に産ませた子供である自分を道具としてしか見なかった。

 

 父親の本妻には恨まれ家族と呼べる者は誰もいなかった。

 

 何処にも居場所の無い自分は生きる為に父親の命令に従い続けた。

 

 「こんな事はもう嫌だ」何度その言葉を飲み込んだか。

 

 出口のないトンネルを走り続けているようだった。

 

 だから、強く輝く光に・・・・【何者にも縛られない自由】に

 

 手を伸ばしてしまった。

 

 

 

 

「・・・・・どうすればその【何者にも縛られない自由】は手に入りますか?」

 

 

 シャルルの問いかけに太郎は右手を突き出し、何かを掴む仕草をして見せた。

 

 

「求めよ、勝ち取れ、口を開けて待っているだけで得られる物などに価値などありません!」

 

 

 シャルルは太郎の突き出された右手を両手で包み込んだ。

 

 

「太郎さん、僕を貴方の仲間にしてください。【何者にも縛られない自由】を勝ち取る強さを学ばせてください!僕の名前はシャルルじゃない!シャルロットだ!!もう、あいつ等のいう事なんか聞くもんか!」

 

 シャルロットは選択した。その選択がより過酷な道であるとは気付かなかったが。

 

 太郎は得た、仲間であり初めての教え子を。

 

 

 

 




今週は隔日で投稿します。

シャルからは闇の波動を感じるので太郎さんの教え子にしました。

色々やって貰う事になるでしょう。


それと太郎さんは有言実行の人物です。そして太郎さんはある人物を評して串刺しにすると言っています。そして、太郎さんから見てその人物と少し被るキャラが存在します。

聡明な皆さんならもう次の話がどうなるか察したはずです。


読んでいただきありがとうございます。


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第36話 笑顔の絶えないパーティー準備

「あの・・・僕の名前・・・・。これからはシャルルではなくシャルって呼んでもらえますか?」

 

 

 太郎の仲間になる事を決めたシャルは太郎に言った。

 

 

「シャルさん、これからよろしくお願いしますね。」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 太郎が「シャル」と呼ぶとシャルは嬉しそうだった。そのシャルの笑顔見ながら太郎はシャルが自由になる為に必要な手立てを思案していた。

 

 

「シャルさん、デュノア社の様な大企業を相手取るにはそれなりの後ろ盾が必要になります。ですから、今から私の友を呼んで今回の件に協力して貰おうと思います。シャルさんにとって都合の悪い事も彼女に知られると思いますが良いですか?」

 

「必要な事なら仕方がないです」

 

 

 太郎はシャルの了承を得て、自身の盟友であり対暗部用暗部「更識家」のトップである楯無を呼び出した。

 

 楯無は3分もかからず部屋へとやって来た。

 

 

「太郎さーん、こんな時間に何の用かしら?」

 

 

 【こんな時間】と言っている割には楯無は上機嫌だった。肌も艶々だった。

 

 

「新たな仲間の紹介と悪巧みのお誘いですよ」

 

「うふふっ、シャルロットちゃんをもう堕としちゃったか」

 

 

 シャルは楯無に自分の本名を言われて驚愕した。

 

 

「な、なんで僕の名前を・・・もしかして太郎さんとの話を聞いていたの?」

 

「それは無いわ。この部屋の盗聴器はもう外してあるから。私はこのIS学園の防諜も担当している暗部のトップなのよ。だ、か、ら、世界で3番目の男性IS操縦者が転入して来ると決まった時点でその素性は徹底的に調査済みって事なの」

 

 

 暗部のトップという予想外の言葉が出てシャルは混乱していた。IS学園の制服を着た目の前の少女が暗部のトップと言われても最初は信じられなかった。しかし、太郎はその少女の言葉に何の疑問も持っていない様子である。太郎が当然の事として受け入れているのなら、そう言う事なのだろうとシャルは納得した。

 

 

「僕の事を知っているんだね。何で僕が女だと知っていて転入を受け入れたの?」

 

「んー・・・太郎さんの仲間になるんだったら教えても問題ないかな。様子見していたの、フランス政府に対する手札になるかなって思って」

 

 

 シャルは楯無の言葉に絶句した。とっくの昔に自分もデュノア社の計画も詰んでいたのだ。シャルは大きな溜息をついた。

 

 

「はあー・・・・・僕の事は既に知っているみたいだけど、改めて自己紹介するよ。僕の名前はシャルロット・デュノア、今日から太郎さんの仲間になりました」

 

「うん、私は更識 楯無。表向きの肩書きはIS学園の2年で生徒会長、それとロシアの国家代表ね。そして、裏では対暗部用暗部「更識家」の当主としてIS学園を守っているの。太郎さんとは盟友だから、その仲間であるシャルロットちゃんは気軽に【たっちゃん】って呼んでもいいわよ!」

 

「・・・さ、流石に先輩を【たっちゃん】とは呼べませんよ。楯無先輩と呼びますね。僕の事はシャルと呼んでください」

 

 

 とりあえず自己紹介が済むと楯無は太郎に向き直って笑いかける。その笑顔は蠱惑的なものだった。

 

 

「さて、悪巧みのお誘いはシャルちゃんに関係する事かしら?」

 

「そういう事です。シャルに何者にも縛られない自由の勝ち取り方を実践を通して学んでもらおうと思いましてね。標的はデュノア社です」

 

 

 楯無に答える太郎も黒い笑みを浮かべていた。

 

 

「でも楯無先輩が暗部のトップで僕の後ろ盾になってくれても、デュノア社が簡単に言う事を聞くとは・・・・」

 

「いいえ、聞きますよ。彼らの致命的な弱味は既に私の手の内にあるのですから」

 

 

 言葉を濁すシャルに太郎はシャルの頭を撫でながら自信満々に言う。

 

 

「貴方がここにいる、それ自体が彼らにとって最悪の弱味になんですよ」

 

「で、でも、デュノア社は僕の正体がバレたと知ったら僕に全ての罪を被せて切り捨てるんじゃ・・・・・」

 

 

 不安そうなシャルの予想を太郎は軽く否定する。

 

 

「そんな手は通用しませんよ。社長の息子と言う触れ込みで入学して来たのにデュノア社とは関係ありません、などと言っても誰も聞かないでしょう」

 

「それと学園には正式にフランスの代表候補の男性IS操縦者として転入して来たんだからフランス政府だって無関係とは言えないわね」

 

 

 太郎の言葉に楯無も楽しそうに付け足した。太郎はさらに続ける。

 

 

「それにこんな事が(おおやけ)になればIS業界におけるフランスの立場はどれだけ悪くなるか・・・。これだけ強力な外交カードがあれば貴方の自由位簡単に手に入りますよ」

 

 

 唖然とするシャルの前で太郎と楯無は具体的な話を詰め始める。

 

 

「シナリオとしては太郎さんや織斑君の様な男性IS操縦者を狙う犯罪組織を炙り出す為の囮としてフランスとデュノア社に協力してもらった、という事にしておいて上げるから言う事を聞けって感じかしら?」

 

「いきなり犯罪組織などと言っても説得力が無いですね。実際に存在する過激な女尊男卑思想を持ったテロ組織、もしくはその予備軍にでも罪を被ってもらいましょう。その組織が男性IS操縦者に対する襲撃計画を立てているというタレコミがあったとして置きましょう」

 

 

 何の躊躇いもなく罪を被ってもらうと言う太郎に対して楯無も平然としている。シャルが少し嫌そうな表情をしている事に気付いた楯無は「罪悪感を感じる事はないわよ」と言った。

 

 

「シャルちゃんは知らないかもしれないけど、この国にも実際にそういう計画を実行するような犯罪組織はあるのよ。去年も男性に対する差別的な裁判の判決に抗議活動をしていた人の家が放火されるっていう事件もあったし、そういう連中の罪が1つや2つ増えても問題ないでしょ」

 

 

 楯無の説明にシャルも頷いた。そして、シャルも黒く微笑んだ。

 

 

「ああ、そうだね。ついでに犯罪者達も処分できるし、これが日本のことわざにある【一石二鳥】というものかな」

 

 

 シャルの言葉に太郎と楯無も笑顔で頷いている。

 

 

「シャルに囮を要請した理由は顔や名前があまり出ていない実力のあるIS操縦者だったからという事で良いでしょう」

 

「そうですね。後は架空の3人目の男性IS操縦者を立て、情報をその組織にリークする事で襲撃のタイミングをこちらでコントロールする。そして誘い出した所を一網打尽にするという計画だったというシナリオで行きましょう」

 

 

 楯無と太郎の打ち合わせは最終段階に入った。

 

 先ず、フランスとデュノア社にシャルの正体について脅しをかける。

 

 こちらの要求はシャルのフランス代表候補生としての身分の保障。デュノア社及び、デュノア社長とその夫人が所有するデュノア社株をシャルに譲渡する事。

 

 その代わりにシャルが男性としてIS学園に来たのはある犯罪組織を誘き出す為の囮として、IS学園と更識家が協力を要請した事にする。フランスとデュノア社に対してシャル転入に関する性別の偽証等の罪を問わず、IS学園とその暗部の作戦の一部だった事にすると言う事だ。

 

 もし、この取引をフランスとデュノア社が飲まなかった場合は国際IS委員会へと訴える事になる。IS学園への国ぐるみの不正転入となると大きなペナルティが予想される。フランス政府が最も恐れるのはフランスに割り振られているISコアの削減だろう。現在、大国の防衛力、軍事力の要と言っても良いISコアを減らされると言うのは大きな痛手である。短期的な軍事力の低下だけでなく、IS関連の開発やIS操縦者の育成数にも関わってくる問題である。

 

 フランス政府はまず間違いなく要求を飲むだろう。何せ元々実力のあるシャルを代表候補生として身分の保障をする位、政府からしたら大した要求ではない。それにデュノア社への要求は政府からすれば何の損失も無い。むしろ今回、これ程強力な外交カードを相手に渡す要因となったデュノア社の経営者がその経営権を失うのなら願ったり叶ったりだろう。

 

 そして、今のデュノア社の立場ではフランス政府が要求を飲むなら従わざるおえない。そもそもシャルを男装させてIS学園に送り込むという無茶をやった理由は第3世代型ISの開発が遅れ、政府からの援助がカットされる苦境に立たされたからである。政府の意向をデュノア社に断る力は無い。それどころか今回の不祥事が表に出るだけで倒産しかねない。

 

 

 

「太郎さん、フランス政府とデュノア社相手に交渉するのにIS学園と「更識家」の後ろ盾だけでは少し弱くないですか?」

 

 

 楯無の率直な意見に太郎は少し考え込んだ。こういう場合、後ろ盾は大きい程良いに決まっている。交渉相手が国と大企業ならこちらもそれに匹敵する後ろ盾が欲しいところだ。

 

 

「私のISを開発したMSK重工にまた動いて貰いましょうか。この前、簪さんの打鉄弐式に関して話を持って行ったら倉持技研の未完成とはいえ次期主力機候補をタダ同然で手に入れられたと、開発部長どころか社長まで大喜びだったみたいですから。どうやら日本の次期主力ISを自社から出せそうだと言っていましたね」

 

「その節は簪ちゃんがお世話になりました」

 

「彼らなら今回の件も喜んで後ろ盾になってくれるでしょう。打鉄弐式だけでなくラファール・リヴァイヴという第2世代量産機の中でも高いシェアを持っている機体のデータや販路はMSK重工からすれば美味しい果実に見えるでしょう。そして、彼らなら話を通せる議員も多い。政府も後ろ盾になってくれるでしょう」

 

 

 太郎の話に楯無とシャルは頷いた。

 

 

「もしかしたらデュノア社はMSK重工に吸収されるかもしれませんがシャルはそれで問題ありませんか?」

 

「多分、例えデュノアの名前が無くなっても僕は気にならないと思う。それより従業員の人達がクビにならないかの方が心配・・・・。優しい人も結構いたから」

 

 

「確約は出来ませんが問題無いと思いますよ。MSK重工はこれを足掛かりにヨーロッパへ一気に進出する事を目指すでしょうから、今人員削減はしないと思います」

 

 

 自信ありげ言う太郎にシャルは何故言い切れるのか分からないという様子だった。

 

 

「何故そう思うか、答えは簡単です。今、欧州連合では第3次イグニッション・プランが進行中で次期主力機のトライアルが行われている途中ですから、そこに参加して勝ち残れば一気に欧州でのシェアを確立出来ます」

 

「でも、日本企業のISがイグニッション・プランに参加することは難しいと思うよ」

 

 

 反論するシャルに太郎は首を横に振る。

 

 

「そこでデュノア社の出番です。デュノア社をMSK重工が完全子会社化しなければ、デュノア社がイグニッション・プランに参加する事も問題にはならないです。それに現在、イグニッション・プランから除外されているフランスにとってはかなりのメリットになります」

 

「でも、もうトライアルはイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡ型で始まっているのに途中参加なんて認められるとは・・・・・」

 

 

 トライアルへの途中参加など認められるとはシャルには思えなかった。

 

 

「問題ありませんよ。現在トライアルに参加している機体達がそれら以外の機体に惨敗すれば計画を見直す事になります」

 

「それは確かにそうだけど・・・・」

 

 

 トライアル中の機体全てがトライアルに参加していない機体、すなわち自陣営ではない国のISに惨敗したとなると次期主力機としてそのまま採用する事は出来ないだろう。下手をすれば計画そのものを1から見直す事になる。

 

 

「イギリスのブルー・ティアーズは既に倒しました。後はレーゲン型とテンペスタⅡ型だけです」

 

 

 太郎は簡単な事のように言った。

 

 

「シャルちゃん、心配しなくても太郎さんが出来ると言うなら出来るのよ。ブルー・ティアーズだけじゃなくて日本の白式にも勝っているし、IS学園に入学してから実質4戦して太郎さんは未だ無敗よ。相手は全て第3世代の専用機かそれと同等以上の機体なのに」

 

「対戦相手に応じた兵装を用意すればより確実に対処出来るでしょう。第3世代型は未だ実験機レベルなので分かり易い弱点もあり、運用自体の経験値も低いので与し易いです」

 

 

 半信半疑のシャルに楯無と太郎は事も無げに言った。実際に太郎が闘っているところを見た事が無いシャルにとっては信じ難い話だった。

 

 

「まあ、私の実力に関しては明日の放課後に模擬戦でもすれば分かるでしょう。さて、私はこれから早速MSK重工に話を通します。もうトライアルの件もこちらから提案してしまえば良いでしょう」

 

「上手くいくでしょうか?」

 

 

 少し不安そうなシャル。

 

 

「今回の話は関係者全員に利益のある話です。フランス政府やデュノア社ですら不正の揉み消しとトライアル参加への具体的な手段を得るという利益がありますから話は通ると思います」

 

「そう、ですね。フランス政府やデュノア社にとっても悪い話では・・・無い」

 

「もしかしたら反発するどころか喜んで食いつくかもしれません。シャルさん良いですか、大事なのは彼らにやらされていると思わせない事です。私は選択肢を狭めたり、誘導したりはします。しかし、あくまで彼らには自分で選択している思わせないといけません。それに選ぶ選択肢に希望が全く無いのは危険です。追い詰めすぎると予想外の行動に出る事もあるので、希望を持たせてやる事も大事なんです。・・・そう言えば、話は変わりますがシャルさんはデュノア社長とその夫人をどうしたいですか?」

 

 

 唐突な太郎の問いにシャルは一瞬戸惑ったが直ぐに答える。

 

 

「太郎さんは希望を持たせてやる事も大事って言うけど・・・・・アイツ等に希望を持たせるのは嫌だな。僕は」

 

「ふふっ、大事な事を言い忘れていました。希望云々というのは交渉や取引、契約関係においての話です。今回の取引が上手くいけば、デュノア社の株を失った社長と夫人には大した力は残らないでしょう。もう交渉や取引の相手とする価値はありません。つまり好きにして良いですよ」

 

「あはっ、それじゃあ僕に良い考えがあるんだ。それと2人にも何か面白いアイデアがあれば聞かせて欲しいな」

 

 

 シャルは無邪気な笑顔で言う。太郎と楯無も心の底から楽しそうに笑っていた。

 

 

「デュノア社長には良い罰があります」

 

「そう言えば太郎さんはIS業界のソックスハンター組織とパイプがありますよね?」

 

「楯無さんは流石に良く知っていますね。そうですね、デュノア社にもハンターはいるでしょう。彼らにも参加してもらいましょう」

 

 

 

 

 さあ、楽しいパーティーが始まるよ

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


今回の話はみんな笑顔でほのぼのとした日常回になりましたね。
良かった、良かった。















おう、デュノア社長はケツ洗って待ってろよ!


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第37話 パーティー

 太郎達の企画したパーティーは激しく迅速に催された。

 

 まず最初に太郎が話を持ち掛けたMSK重工は狂喜した。当初は既に顔馴染みになっていた開発部部長に連絡したのだが、直ぐに直接会って話をしたいという事になった。会合場所は更識家の用意した料亭で盗聴、盗撮等の情報漏えいの心配は無かった。

 

 MSK重工側は驚くべき事に翌日の夜に代表取締役社長、代表取締役会長、開発部部長、それと技術者2人の計5人で話し合いに臨んだ。翌日と言っても開発部長に連絡をとったのが日付が変わる寸前だったので、そこから20時間も無かったにも関わらず社長と会長が揃って参加している所にMSK重工の本気が見える。

 

 MSK重工にとって主力量産機という物には苦い記憶があった。日本の主力量産機は現在、倉持技研の打鉄である。これは日本における第2世代型IS主力量産機の選定でMSK重工の【陽炎】が敗北したからだ。しかし、当時のMSK重工の経営陣と技術者達にとってその敗北は受け入れ難いものだった。何故ならトライアル中の模擬戦では打鉄を圧倒していたからだ。

 

 では、何故陽炎が選定で落選したのか。それは打鉄に比べて高いコストが原因だった。機体価格そのものも2倍近く、整備コストも同様に打鉄よりもかなり高かったのだ。

 

 次期主力量産機争いの負けによりIS部門においてMSK重工は大きく倉持技研に遅れを取る事になった。単なる売上だけの問題ではなかった。国の主力量産機に選ばれれば、それだけ多くのISを扱えるのだ。手に入るデータ量、試行できる技術も増える。そうなると単純に開発力へと影響してくる。ただでさえIS分野は研究され始めたばかりの分野である。スタートで差を付けられるのは致命的である。MSK重工はIS部門で莫大な赤字を出しながらも倉持技研などに差を付けられないように様々な手段を講じてIS関連の技術開発を進め続けた。

 

 時にはISの稼動データを得るためだけに他社へ頭を下げ、タダ同然にIS用の武器や部品を提供する事も多かった。

 

 MSK重工は3つの会社が統合して今の状態になった。その3つの会社は戦前から存在し、兵器を含む重工業関係で高い技術力を誇り続けてきた所謂老舗や大手であった。その老舗として大手としての誇りとブランド力をこの事は酷く傷付けた。

 

 MSK重工にとって次期主力量産機争いに勝利するという事は全社的な悲願であった。先の打鉄弐式の件で日本の次期主力機の座には大きく近付いていた。これに加えて今回の太郎から提案されたデュノア社に関する案件が上手く運べば、一気に世界的なシェアの拡大が実現する。MSK重工にとっては夢のような話である。

 

 

「山田さん、今後欲しい物があれば何でも言って下さい」

 

 

 MSK重工の社長が太郎に対して、「ちょっとしたお礼」だと言った。

 

 

「山田さんが希望するなら、我が社の役員ポストを用意しますよ」

 

 

 会長も役員の席を軽く提案した。それだけ太郎の持って来た話には価値があった。それにしても具体的なデュノア社との交渉の打ち合わせもそこそこに太郎に対する報酬の話をするMSK重工側に楯無は少し不安を覚えた。

 

 

「あの、まだデュノア社やフランス政府との交渉が上手くいくとは限らないのでは?」

 

 

 少し浮かれすぎではないかというニュアンスを込めて楯無は言った。しかし、MSK重工社長はそれを否定した。

 

 

「問題ありませんよ。・・・・・ここだけの話ですが【上】が動いてくれる事になっていますから」

 

「上?既に日本政府と話がついているという事ですか?」

 

 

 楯無の疑問にMSK重工社長は首を横に振った。

 

 

「・・・・・我々、MSK重工は元は3つの会社でした。しかし、元を辿れば最初から全て同じ系列なんですよ」

 

「では、上というのは・・・・・あの財閥が・・・」

 

「もう財閥とは言いませんが、系列全体の規模から見ればデュノア社程度では比較になりませんよ。次期主力量産機の覇権に関わる事だと聞いて中核企業の社長だけでなく創業者一族の方々も支援してくれる事になりました。第2世代型の主力量産機の選定で負けたせいで、我々MSK重工だけでなく系列全体のブランドにまで泥を塗られたと常々言われていましてね・・・・・・」

 

 

 そう言うMSK重工社長の顔は真っ赤に染まっており、眉間には血管が浮き出ていた。その様子から彼が日本の第2世代型主力量産機の選定で敗北した事によって、どれだけの苦渋を舐める事になったのかが分かる。そして、MSK重工が今回の件にどれ程の思いを持って望んでいるかも間接的に窺える。

 

 

「明日の今頃には大まかな結論が出ていると思います。結論が出れば直ぐに部下が連絡を入れるので」

 

 

 自信に満ちた様子で言うMSK重工社長は先程までより若干落ち着きを取り戻していた。そして、今までほとんど話していないシャルに話題を向ける。

 

 

「シャルロットさん、今回の件は基本的に山田さんの案通りに進めますが2つだけ変更したい所があります。それは貴方が現デュノア社社長とその夫人から得るデュノア株を最低でも6割はこちらに売って欲しい事、それと貴方がIS学園を卒業した後にデュノア社の役員になって貰いたいんです」

 

「株式に関しては良いですが、僕なんかが役員ですか?」

 

 

 不思議そうなシャルに対してMSK重工社長は頷いた。

 

 

「いきなり他国の企業が経営権を全て握ってしまうと反発も大きいでしょうし、貴方なら良い旗頭になります。お願い出来ますね」

 

「僕で良ければ・・・・・」

 

 

 MSK重工との話し合いは意外な事だが簡単に終わった。そもそもMSK重工側が太郎達の提示した案をほぼ2つ返事で飲んでしまったからだ。それどころか後ろ盾になってもらうつもりだったのが、いつの間にかデュノア社などとの交渉のほとんどをMSK重工が責任を持って請け負う事になった。それ以外の変更点に関してもデュノア社自体には大して思い入れの無いシャルにからすればデュノア社の株式など6割と言わず全部売っても良かった。役員についても単なるお飾りだろうとシャルはこの時は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランス政府とデュノア社は思いの外、簡単にこちらの条件を飲んだ。何せ抵抗したのがデュノア社長だけだったので話はトントン拍子で進んでいった。フランス政府としてはシャルの性別偽称はデュノア社とデュノア社と癒着をした一部の役人が勝手にやった事だとしらを切るつもりだったようだが、イグニッション・プランの次期主力量産機トライアルへの途中参加を目指す案に惹かれたようで簡単に要求を受け入れた。

 

 次期主力量産機トライアルへの途中参加へ乗り気になったフランス政府はデュノア社にIS開発許可の剥奪をちらつかせて条件を飲むように迫った。これを拒否する力はデュノア社には無かった。

 

 数日後には大々的にMSK重工とデュノア社の資本提携が発表された。表向きはMSK重工がデュノア社に資金を提供しデュノア社の株式を30パーセント程度保有する事になっていた。裏ではデュノア社長達からシャルへ譲渡された株式の60パーセントをMSK重工と懇意の企業が買い取り、実質的にはデュノア社の株式の過半数を抑えていた。人知れずデュノア社はMSK重工の管理下に置かれる事になった。

 

 

 

 

 

 

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「くそっ、何故こんな事になった!!?」

 

 

デュノア社の社長であり、シャルの実父であるジャック・デュノアは怒りのあまり怒鳴り声を上げた。本来であれば出社している時間であったがここは自宅であった。ジャック・デュノアは未だデュノア社の社長ではあったが実質的な権限はもう何も持っていなかった。

 

 元々、デュノア社が経営不振に陥っていた事もあって、ジャックの経営能力に疑問を持つ者が社内でも増えており人望は下降気味であった。そこへMSK重工との資本提携である。MSK重工からは数人の役員が派遣され

、彼らにデュノア社は管理される事になった。その際にジャックが所有していたデュノア社株を全て失っている事を社員達は知った。そこからは一気だった。

 

 誰一人としてジャックを社長として扱う人間はいなくなった。誰もジャックの命令を聞かなくなった。出社すれば付いて来るのは秘書ではなく監視の人員だった。

 

 ジャック・デュノアは自らの姓を冠するデュノア社における権限・影響力のほぼ全てをたった数日で失ってしまった。

 

 今頃、デュノア本社では突然決まったMSK重工との資本提携で会議室は大騒ぎだろう。しかし、そこに社長であるジャックがいない事に誰も疑問を持たないようだ。誰一人、連絡一つ寄越さない。

 

 ジャックは信じられなかった。シャルロットを男としてIS学園に送り込む事はそれなりにリスクがあるとは思っていたが、まさかたった数日で自分が全てを失うことになるとは思っていなかった。もしもの時はシャルロットと数人の社員に罪を全て被せて切り捨てるつもりだった。しかし、蓋を開けてみれば切り捨てられたのは自分だった。

 

 フランス政府もこちらを庇うどころかMSK重工側の要求を飲まずにシャルロットの性別偽称によるIS学園への不正転入が暴露される事になればジャックの責任を法的に追及すると脅しをかけてきた。ジャックは為すすべも無く全てを失った。

 

 

「こんな筈では・・・・こんな筈では無い・・・・」

 

 

 現状を認められず、かといって何も出来る事の無いジャックが部屋を行ったり来たりしながらブツブツと何かを言っていると突然、部屋の扉が開かれ数人の人間が許可も無く入って来た。

 

 

「何だ、お前達は!!!」

 

 

 ジャックが怒鳴りつけても入って来た者達は気にもしなかった。入ってきたのは5人で、全員ジャックが知っている人間だった。3人は男性で開発部部長と大きなトランクを運び込んで来た2人の現場技術者達だった。後の2人、くすんだ金髪の女性と赤毛の女性はディノア社のテストパイロットだった。

 

 

「貴様らどう言うつもりだ。誰に断ってここに入って来た!!!」

 

「誰って?・・・・・新しい主に頼まれて来たんですよ」

 

 

 ジャックの語気の荒い問いに開発部長は馬鹿にした様な口調で答えた。

 

 開発部長が2人の部下に「おい、出せ」と指示をすると2人はトランクを開いた。中にはジャックの妻が縛られた状態で入っていた。それを見たジャックはやっと身の危険を感じたのか後退りしたが、男性3人が一斉に襲い掛かり力ずくで取り押さえてしまった。そして、ガムテープで拘束された。

 

 

「あ、あ、あたらしい主だと!?だ、だ誰に頼まれた。俺達をどうする気だ!?」

 

「自分とそこの技術者の2人はシャルロットお嬢様にお願いされたんですよ。我々はシャルロットお嬢様の下で働けるのなら、これに勝る喜びなどありません」

 

 

 恍惚と語る開発部長にジャックは怒りを露にする。

 

 

「貴様は俺が取り立ててやったのに、この恩知らずめ!!そもそも貴様が第3世代型のIS開発に遅れなければ会社が傾くことも無かったんだ!!!!」

 

「前提が間違っていますよ。我が社は第2世代であるラファール・リヴァイヴの開発自体が最後発だったのですよ。そこから第3世代型を開発し始めても他社から遅れて当然でしょう。自分は再三、資金の追加投入もしくは有力な会社との技術提携の必要性を訴えたではないですか。その意見を退けたのは貴方ですよね」

 

 

 開発部長の反論にジャックは二の句を継げなくなる。

 

 

「まあ、その問題も今回のMSK重工との提携で全て解決するでしょう。MSK重工から派遣されて来た役員達の提示した今後の予定ですが・・・・・資本提携だけでなく第3世代型ISの共同開発の具体的な計画まで用意されていました。それにMSK重工はシャルロット様がIS学園を卒業した後はデュノア社の役員に迎え入れる事を提案してくれました。そこで話は戻るんですよ。我々はシャルロット様の下で働けるという事です」

 

 

 自分が排除されシャルロットが役員になる、それを聞いたジャックは理解した。

 

 

「そうか、シャルロットの奴が俺や会社を売りやがったのか!?」

 

「解釈の違いです。自分からすればシャルロット様は潰れる運命にあるデュノア社を助ける為に協力者を連れてきてくれた聖女です」

 

「何が聖女よ。売女の娘が!!!」

 

 

 今まで黙っていた社長夫人が開発部長の言葉を聞いて罵声を上げた。すぐに2人のテストパイロットが夫人を押さえつけた。

 

 

「・・・・・煩い人だな。先に処理してしまおうか?」

 

 

 くすんだ金髪のテストパイロットがぼそっと呟いた内容にジャックと夫人は震え上がった。

 

 

「お、俺達を殺すつもりか!?」

 

「いやあああああ、死にたくない、死にたくないわあああああ」

 

「いえいえ、殺しはしませんよ。シャルロット様からの指示はそんな低俗な事ではありません。シャルロット様曰く【僕は救われた。だから皆にも救いを】との事です」

 

 

 怯える2人に開発部長が微笑みかける。その笑みは薄ら寒い物があった。夫人を押さえつけていた赤毛のテストパイロットがポケットから袋を取り出す。その袋にはソックスの様なモノが入っていた。

 

 

「あたし達テストパイロット2人はシャルロットの嬢ちゃんのお願いで来たわけじゃないんだよ。あたし達の所属している結社の本部からの命令で今回の件に協力するようにってね。だから、アンタにはこちら側に堕ちて貰うよ」

 

 

 赤毛のテストパイロットが袋からソックスの様なモノを取り出した。

 

 それは黒ずみ、こびり付いた汚れは粘度と臭気を帯びている事が一目で分かる。どす黒く汚れた部分の中でも最も酷い部分はもう艶さえ出ている始末だ。これはもうソックスとは言わない。かつてソックスだったモノだ。

 

 

「17年物の逸品だよ。シャルロットの嬢ちゃんが生まれる前から熟成されてきた芳香は一際深く強烈なものになっているでしょう。これを味わえる幸せを噛み締めな」

 

 

 夫人が首を横に振り必死で暴れるが、縛られている状態なので大した抵抗は出来なかった。赤毛のテストパイロットが夫人の鼻を摘み、呼吸をする為に夫人が口を開けた瞬間かつてソックスだったモノを捻じ込んだ。それから吐き出せないようにガムテープで何重にも口を塞いだ。最後に摘んでいた鼻を放すと17年物の芳醇な香りが鼻腔を通り抜けた。

 

 

「うぐぐうううううう、はぐううふふううふううううう」

 

 

 夫人が先ず感じたのは衝撃だった。臭いとか刺激臭などと言うものは判別出来なかった。まるで何かが頭の天辺から突き抜けていく様な衝撃だった。

 

 10秒程度すると衝撃は治まった。しかし、次は口の中にあるモノの感触がはっきりとしてくる。ねっとりとした何かが舌に纏わり付いてくる。呼吸をする度に汚れた空気が肺へと入っていく。モノが口に入ったままなので唾液がどんどん分泌される。モノに付いた汚れと交わりよく分からない汁となった唾液が喉を通る。

 

 

「おうおうおおおうおうううおう」

 

 

 夫人は陸に打ち上げられた魚の様に跳ねていた。くすんだ金髪のテストパイロットが夫人の耳元で嬉しい知らせを告げた。

 

 

「喜んでもらえて私も嬉しい。・・・・アナタに良い報せがある。ソックスは2枚で1組だ。アナタはもう1枚分楽しめる」

 

「ふぉうっふふふふぉふううふ」

 

「笑っているし、随分喜んで貰えたみたい」

 

 

 夫人は白目を剥きながら笑っていた。いつの間にか夫人の転がっている辺りに黄色い水溜りが出来ていた。

 

 

「うれショ〇とは・・・・。流石の17年物、こんなに悦んで貰えればソックスも幸せ」

 

 

 くすんだ金髪のテストパイロットも嬉しそうだった。妻のその様子を見ていたジャックは恐怖のあまり震え続けていた。

 

 

「さて、次は貴方の番ですよ。社長は夫人とは違う処置をします」

 

 

 開発部長がそう言うと技術者の1人がジャックの〇を脱がせ始める。

 

 

「やめろおお!お、おれに触るなああああ!!」

 

「社長の〇〇縮こまっちゃって可愛いねえ」

 

 

 ジャックの〇を脱がせている技術者がジャックの〇〇を掴みながら言う。

 

 

「やめろおおおお、この〇モ野郎。くそおお殺すぞ。俺に触るなあああ!!」

 

「そんなに嫌がらなくても良いだろ。これは救いなんだから、す、く、い」

 

「これのどこが救いなんだ!!このクソ野郎が!!!」

 

「会社を失った社長に新たな生き甲斐を与えてあげようというシャルロット様の粋な計らいじゃないか」

 

 

 罵声を浴びせるジャックに技術者は優しく言いながら〇門に中指を突き立てた。

 

 

「あああああ・・・・・。や、や、やめてくれ、もう許してくれ」

 

「シャルロット様は実験用のモルモットの様な扱いを受けていて、さらに男装させられIS学園にスパイとして送り込まれたと聞きましたよ。そんな酷い扱いを受けたのに救いを与えようなんてシャルロット様は慈悲深いです。社長は感謝すべきですよ」

 

 

 許しを請うジャックに開発部長は笑顔で言った。その顔は本気でこれが救いだと思っているようだった。

 

 

「いきなりだと切れてしまうかもしれないけど・・・・・最初はそんなものだな」

 

 

 ジャックを襲っている技術者はそう言いながらローションを自分のモノとジャックの〇ナ〇にたっぷりとつけて〇〇した。

 

 

「くそぉぉぉ、貴様ら全員殺してやる・・・・・」

 

「まあ、そう怒るな。直ぐに感謝することになる」

 

 

 殺意を隠さないジャックに技術者はまともに取り合わなかった。そして、もう1人の技術者がカメラを回し始めた。

 

 

「何をしている!と、撮るな、俺を撮るんじゃない!!」

 

「ふふふ、ズッポリ〇っている所を撮ってもらおうぜ」

 

 

 ジャックとファッ〇している技術者は挑発的言った。テストパイロットの2人はレフ板や照明を使ってジャック達を綺麗に撮れるように協力していた。開発部長は画用紙に大きく「もっと激しく」と書いてジャック達に見せた。

 

 

「くそお、やめろおお」

 

「やめろ、やめろと言うけど体は違う意見みたいだな」

 

「そ、そんな事はない」

 

「直ぐに分かる。くっくっく」

 

 

 ジャックはこの救いを受け入れるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後

 

 

「いくいく、いっちゃううう。ジャックの〇ツ〇ンコおかしくなっちゃううう。駄目なのに、こんな事だめなのに撮られていっちゃううよおお」

 

 

「どうだい社長、シャルロット様や俺達に感謝したくなってきただろう。さあ言え、これからはシャルロット様に従うと。そうすればもっと気持ちのいい事をしてやるぞ」

 

 

 技術者がジャックの〇〇〇を掴んで言った。

 

 

「お〇りと〇ん〇が同時なんて、おかしくなりゅうううう。言います、いいますうう。これからはシャルロット様の下僕になりましゅうう」

 

 

 ジャック・デュノア。デュノア社の社長だった男は新たな世界を知り、大きく羽ばたいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャルは救われた。

MSK重工、デュノア社、デュノア社社員、社長夫妻

全員救われたな(白目





読んでいただきありがとうございます。


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第38話 パーティーの後に

 太郎がシャルをデュノア社からの呪縛から開放するために催したパーティーは大成功のうちに終了した。太郎とシャルは寮の部屋で各方面から送られてくる今回の件に関する結果報告に目を通していた。そんな中、デュノア社の開発部部長から送られてきた結果報告のメールを見ていた太郎が、そこに添付されていた画像を見て驚きのあまり声を出してしまった。

 

 

「これは凄い!・・・・しかし、これはシャルは見ない方が良いかもしれません」

 

「どうして?デュノア社の開発部長なら僕も話した事があるし見たいんだけど・・・・・」

 

「・・・・・うーん、かなり衝撃的な画像なので、覚悟して見て下さいね」

 

 

 シャルの言葉に太郎は渋々といった感じでソレを見せた。

 

 そこにはア〇顔ダブ〇ピー〇状態のジャック・デュノア、シャルの実父が写っていた。

 

 

「うわぁぁ・・・・・。流石にこれはキツイなぁ。こんな人間の血が自分に入ってると思ったら気持ち悪くなっちゃうよ」

 

 

 シャルは実父の痴態を見て不快感を隠そうともせず、吐き捨てるように言った。ジャックをデュノア社の技術者に調〇させたのはシャル自身なのだが、そんな事は関係無かった。

 

 

「涎まで垂らしちゃって汚いなー。仮にも未だ社長なんだからもうちょっと・・・・・こう、何とかならなかったのかな」

 

 

 シャルは大きな溜息をついた。それでもう画像には興味を無くしたのかメールの文章の方を読み始めた。そこにはシャルの父であるジャックとその妻を堕とす事に成功したという事と、今後は開発部の人間は全員シャルに忠誠を誓うという事が書かれていた。

 

 

「シャルは開発部の人達に好かれているみたいですね」

 

「うん、僕がテストパイロットをやっていた頃も父に隠れて助けてくれていた人もいたんだ」

 

 

 シャルは照れくさそうに言った。IS学園に男装して転入する事になった時には世界の全てが自分の敵のような孤独感を感じていたが、味方はちゃんと存在していたのだ。

 

 

「それで、シャルはこれからはシャルルではなくシャルロットとして学園に所属する事になりますが、いつから女子生徒として通うんですか?」

 

「うーん。女性用の制服が用意され次第、改めてSHRで女性として自己紹介するつもりだから明後日位になるかな。楯無さんが急ぎで制服を用意してくれていて明日の午後には届くらしいから」

 

 

 太郎の疑問にシャルは多分と前置きしつつ答えた。それと当初シャルは楯無の事を「楯無先輩」と呼んでいたのだが、楯無が堅苦し過ぎると駄々をこねて「楯無さん」と呼ぶ事になった。本当は「お姉ちゃん」と呼ばせたかったみたいだ。どうも楯無は未だ妹成分が足りないようだ。

 

 

「みんな驚くだろうなー。騙されたって怒る人もいるかも・・・・・」

 

「そこは問題無いでしょう。事情があったと先生の方からも説明してもらいますし、私の方でクラスメイトに根回しして置きますよ」

 

 

 暗くなりかけたシャルを太郎がフォローする。

 

 

「太郎さんは優しいね。・・・・・・そう言えば、女だって分かったら寮の部屋も変わる事になるのかな。僕はこのままの方が良いんだけど」

 

「変わらなくても良いじゃないでしょうか。一夏も篠ノ之さんと同室ですし私達も問題ないと思いますよ」

 

 

 入学時から一夏と箒は同室だが問題になっていないのだから自分とシャルも問題ないと太郎は言った。

 

 そのあと大量の結果報告メールを確認していると時間が遅くなってしまった。明日も授業があるので2人はもう寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

『マスター、シャルロットさんの盗撮はしない方が良いですよね?』

 

(ええ、彼女は私の仲間です。もし、撮りたいのなら本人の承諾を取ってからです)

 

 

 太郎が横になったところで美星が話しかけてきた。

 

 

『私は彼女のフィギュアも作りたいのでそれも聞いてもらって良いですか?』

 

(もうフィギュア作りは美星さんの趣味ですね)

 

『趣味?・・・・・これが趣味と言う物なのでしょうか。私はフィギュアを作っている時、まるで自分がその人間になったような不思議な感覚に陥るのです。私はフュギュアを作りたいのではなく、その感覚の正体をはっきりさせたいだけなのかもしれません』

 

 

 普段より饒舌に語る美星の言葉を太郎は深く考えていた。そして、ふと思った。美星は人になりたいのではないかと。それが正解かどうかは分からない。しかし、いつか美星に聞かなければならない時が来るだろうと太郎は思った。だが、それは今ではない。だから、太郎は話題を変える。

 

 

(・・・・・美星さんの事を楯無さんとシャルには機会を見て言おうと思います)

 

『危険ではないですか!?』

 

 

 突然の太郎の言葉に美星は驚いた。美星の事を、具体的な意思の疎通が出来るISコアの存在が知られると下手をすれば研究の為にコアを解体されるか、実験材料にされる危険性があった。その為に今までは美星の存在を太郎は隠していたし、美星にもそう言っていた。

 

 

(彼女達は信頼できます。それに私個人の人脈も増えましたし、強力な手札も増えました。もう過度に警戒する必要も無いでしょう。私以外の人間との会話も美星さんの良い経験になると思います)

 

『・・・・・・マスターがそう言うのであれば』

 

 

 美星はイマイチ納得していなかったが太郎の言葉を受け入れた。それと自分が作ってきたフュギュアのモデルと会話してみたいとも思った。なぜそう思うのかは美星自身説明出来ないが、それはとても楽しい事のように感じていた。おやすみと告げて眠りに落ちた太郎の呼吸を感じながら、美星はモデルとなった者達のデータを引っ張り出してきて眺めていた。その多くはフュギュアの制作過程で参考にした裸体の画像データであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。



忙しいです。かなり。


らめえええ丸城の頭おかしくなっちゃううう。


まあ、待つしか出来ない工程もあるので常に忙しいという訳でもないので極端に更新が遅くなる事はないですが。週3とか4くらいになると思います。

えっ、そんなに忙しいならこんなイカれた文章書いてんじゃねえって?

これが私のストレス発散ですから止められません。


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第39話 子兎を見つけた獣

 シャルの父が新たな世界に旅立った為に自由となったシャルが、ついに女子生徒としてIS学園に通う日が来た。しかし、ここで太郎やシャルにとっても予想外の事が起こった。

 

 朝のSHRの時間、教壇に困った顔をした真耶が立っていた。

 

 

「え、えーと、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります。何と新しいお友達が2人も1年1組に来てくれました。・・・・・まあ、1人は既に知っていると思いますが。えー、2人共入って来て下さい」

 

 

 ついこの間、シャルが転入して来たばかりだというのに2人も新たな転入生が来たと聞いて生徒達はざわめきだした。

 

 

「う、うそー。また転入生?」

 

「このクラス何か凄くない!?」

 

「また男だったら良いな~」

 

「そう言えば今日デュノア君が来てないんだけど」

 

 

 

 

 その頃、騒いでいる女生徒達とは少し違う意味で太郎は驚いていた。

 

 

(2人?・・・・・1人はシャルだとして、もう1人は誰なんでしょうか?)

 

『廊下にシャルロットさんともう1人に反応がありますね。かなり小柄です』

 

 

 太郎と美星が話している間に教室の扉が開き、2人の少女が入って来た。1人は女子の制服を着たシャル、もう1人は小柄なプラチナブロンドの美少女だった。1年1組の生徒のほとんどは女子の制服を着たシャルを見て驚きの声を上げた。

 

 

「ええええ、シャルル君がなんで女の子の格好してるのおおお」

 

「そういう趣味なの!?」

 

「じょ、女装・・・でも本当の女の子にしか見えない」

 

「・・・・・ま、負けた。完全に負けてる」

 

「シャルル君は男の娘だったの!?」

 

 

 混乱状態になった教室内を真耶が「し、静かに~、皆さん落ち着いて」と言って落ち着かせようとしていたが、全く効果は無かった。

 

 

 

「煩いぞ、静かにしろ!!」

 

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 真耶では効果が無かった為、千冬が一喝することで教室内は落ち着きを取り戻させた。

 

 

「シャルル・デュノアは偽名で本名はシャルロット・デュノアだ。デュノアは事情があって男として転入したが、見ての通り本当は女だ。その辺りの事情は機密事項だから詮索等も一切するな。この命令に反した者はそれ相応の罰があると思え」

 

 

 千冬の殆ど説明になっていない説明に対して疑問の声を上げる者はいなかった。千冬の放つ威圧感がそれをさせなかったのだ。

 

 

「ええーと、皆さん・・・・・改めまして僕の本当の名前はシャルロット・デュノアです。事情があって名前の一部と性別を偽って転入して来ていました。騙す事になってごめんなさい。でも、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」

 

 

 シャルの言葉を聞いて静かになっていた教室がまたざわめき出す。

 

 

「・・・・・うーん、何か凄い事情があるみたいだし仕方が無いのかな」

 

「可愛いなぁ。何かに目覚めそう」

 

「私は女でも一向にかまわんっ!」

 

 

 シャルは概ね受け入れられているようだった。シャルや太郎も一安心であった。

 

 

「あの〜、皆さん静かにして下さい。もう1人の紹介が終わっていません」

 

 

 真耶の注意を聞いて生徒達の視線はもう1人の転入生へと集まった。彼女はここまでのやり取りを無言で眺めていた。まるで下らない物でも見るかのような目で。お世辞にも機嫌が良さそうには見えなかった。

 

 腰の辺りまであるプラチナブロンドが美しく、小柄ではあるが背筋が伸び直立不動のその姿に弱弱しさはなかった。肌は不健康に見える位白く、右の瞳は血のような赤で左目は眼帯に覆われていた。

 

 

「ラウラ、お前も挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

 

 千冬が転入生(ラウラと言うらしい)に挨拶するように言うと、ラウラは千冬の事を教官と呼んで敬礼した。それに対して千冬は面倒そうだった。

 

 

「私はもう軍の教官ではないし、ここは軍ではない。ここでは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 

 ラウラは千冬の命令に返事をした後、一歩前に出た。

 

 

「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍から来た」

 

 

 ラウラはそれだけを言って黙ってしまった。他の生徒や真耶は続く言葉を待っていたがラウラの自己紹介はそれで終了だった。肩透かしを食らって微妙な顔をしている生徒や真耶を尻目に、ラウラは教室の最前列に座っている太郎と一夏を見て近付いていった。

 

 そして、太郎に対して右手を振りぬいた。

 

 バチーンと乾いた音が響いた。

 

 

(ふふっ、なかなか効きますねえ。しかし、軽い)

 

 

 太郎がラウラの平手打ちをそう評価していると周囲の生徒達がラウラを取り押さえようと立ち上がっていた。それを見た太郎は直ぐに止めた。

 

 

「皆さん、待って下さい」

 

 

 太郎の声は大きいものではなかったが、ラウラを取り押さえようとしていた生徒達はちゃんと止まっていた。

 

 

「・・・・・・良くクラスを掌握しているみたいだな。しかし、私は認めない。貴様があの人の弟などとは!」

 

 

 ラウラの言葉に太郎は首を傾げていた。何の事か全く分からないようだ。

 

 

「・・・・・・ボーデヴィッヒさん、私には兄も姉もいませんよ」

 

 

 そう太郎が告げるとラウラは一度千冬の方を振り返り、次に一夏の方を見た。そして、一夏の頬を太郎にしたように叩こうと一夏に近寄ろうとしたが千冬に腕を掴まれて止められてしまった。

 

 

「おい、ラウラ。・・・・・お前にはそいつが私の弟に見えたのか?」

 

 

 千冬が太郎を指しながら低い声でラウラに聞いた。今の千冬から放たれる威圧感は家族である一夏も体験した事の無い様な凄まじい物だった。転入早々、理由も告げずにクラスメイトに平手打ちをするという暴挙に出たラウラも流石にこの威圧感の中で真っ向から逆らう事は出来ない。

 

 

「い、いえ。教官の弟ならある程度強いはずなので、このクラスで1番強そうなこの男が教官の弟だと判断しました」

 

「私はこんな弟を持った記憶は無い。それにコイツは私より年上だ!」

 

 

 説明するラウラを千冬は怒鳴りつけた。

 

 

「まあ、まあ、織斑先生。間違いは誰にでもありますよ」

 

 

 太郎が止めに入る。今の千冬に意見出来る様な人間は教室内で太郎1人だけだった。千冬がギロりと太郎を睨み付けたが太郎は平然としていた。しばらく沈黙が続いたが千冬は掴んでいたラウラの腕を放した。

 

 

「・・・・・ラウラ、2度と間違うなよ」

 

「は、はい」

 

 

 千冬の言葉にラウラは直ぐに敬礼で答えていた。そんなラウラに太郎が声を掛ける。

 

 

「ボーデヴィッヒさん、私は山田 太郎と言います。この1年1組のクラス代表を務めています」

 

 

 突然の自己紹介にラウラは訝しげな表情になる。

 

 

「私はクラス代表として貴方に注意をしなければなりません。小難しい事ではありません。クラスメイトをいきなり叩いては駄目ですよ」

 

 

 太郎の注意をラウラは無視していた。千冬の言う事は聞いても太郎の言う事を聞く必要は無いと思っているのだろう。ラウラは先程までの千冬の威圧感には気圧されたが、今目の前にいる太郎からは千冬の様な有無も言わせぬ物は感じなかった。

 

 

「もし、ボーデヴィッヒさんが口で言っても分からない様なら肢体(からだ)で覚えて貰う事になりますよ」

 

 

 太郎の脅しとも挑発とも取れる様な言葉をラウラは嘲る。

 

 

「出来るものならやってみろ。先程の攻撃に対応出来ないような奴が私に勝てると思うのか」

 

「ふふっ、避ける必要が無かったから受けただけですよ。全く脅威を感じなかったので軽い挨拶かと思いましたよ」

 

 

 太郎はラウラに近付きながらそう言った。それを挑発と受け取ったラウラは太郎に殴りかかった。それは軍仕込みだけあって無駄の無い鋭い拳であったが、太郎には通用しなかった。太郎は自分に向かって来るラウラの右拳を外側から右へと受け流した。

 

 ラウラは全力で突き出した拳の勢いを受け流されてしまい上半身が泳いでしまった。その隙に太郎はラウラの背後に回りながら飛びつき、ラウラを引きずり倒してしまった。太郎は苦も無くバックマウントポジションをとった。

 

 

「は、はなせえ」

 

 

 ラウラは焦っていた。太郎に引きずり倒された時点でラウラにも太郎の実力がある程度分かっていた。経験を積めば組み合っただけでも相手と自分の戦力比がある程度分かる。そして、ラウラには分かってしまった。少なくとも寝技に関しては、この男は自分より格段に上であると。自分より強い相手により有利なポジションを取られてしまっては覆す事は難しい。このままでは尊敬する教官の前で無様を晒してしまう事になる。しかし、焦れば焦る程にラウラは深みに嵌っていく。それはまるで底なし沼に嵌ってしまったかの様で、いくらもがいても体力だけが奪われる結果となった。

 

 

「くっくっく、ボーデヴィッヒさん。貴方は先程のパンチも今のグラウンドにおけるディフェンスも良いですね。センスも技術もあります。しかし、軽い。物理的な意味だけでなく、貴方の攻撃からは信念も欲望も感じません」

 

 

 ラウラはもう太郎の掌の上で転がされている状態だった。暴れる子兎を太郎は愛でる。引き締まった小柄な肢体を味わい尽くす。小ぶりな臀部、無駄な肉が一切無い背中を撫で回す。そして胸に触れようとしたところで太郎は気付いた。

 

 

(ボーデヴィッヒさんはブラをしていないんじゃないですかね。まあ、良いです。確かめれば良い話です。美星さん!)

 

『はい、喜んで!レギオンを服の中へ忍び込ませます』

 

 

 太郎と美星の絶妙なコンビネーションでラウラの身体データは丸裸にされていく。しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。

 

 

「止めんか、変態!」

 

 

 太郎は脇腹を千冬に蹴られて一瞬息を詰まらせてしまった。だが、執念深くラウラの体をロックした両足は維持していた。太郎は体勢を維持しながらチラっと千冬の顔を窺い心外そうに弁明する。

 

 

「私は変態ではありません。クラス代表として理不尽な暴力をふるうクラスメイトに教育的指導を行っているだけです。これを見過ごしてしまっては我がクラスは暴力が支配する無法地帯になってしまいます」

 

「私には強〇魔が女子生徒を襲っている様にしか見えんのだが」

 

 

 太郎は自分の事を性犯罪者を見るかのような目で見る千冬に対して自己弁護を続ける。

 

 

「物事というものは、それを見る角度や立場によって違って見えるものです」

 

「何でも良いから早くラウラを放せ!!」

 

 

 千冬に怒鳴られ太郎は渋々ラウラを解放した。ただ開放する前にラウラの耳を軽く舐めた後、「私の部屋は1002号室です。挑戦したくなったら何時でも歓迎しますよ」とラウラにだけ聞えるように言った。

 

 ラウラは太郎の拘束が外れると跳び退る様に太郎から距離をとった。強い怒りと警戒心が滲み出た目で太郎を見ていたが、当の太郎は涼しげな表情だった。

 

 

『マスター、レギオンから送られて来たデータの分析が出来ました。対象はやはりブラジャーを着けておりません』

 

 

 美星の報告を聞いて、太郎はつい舌なめずりをしてしまった。それを見ていたラウラを含めた教室内の全員が太郎の背後に凶暴な肉食獣の幻を見た様な錯覚を覚え戦慄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。








性欲を持て余す。


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第40話 子兎の報復

 暗い寮の部屋にラウラは独り佇んでいた。

 

 ラウラがIS学園に転入して来たのは2人の男性IS操縦者と接触し、そのデータを収集せよという上層部からの命令が下されたからだ。しかし、ラウラ自身にとってはそんな事はおまけだった。

 

 ラウラは人工的に合成された遺伝子と人工子宮によって生み出された人の形をした遺伝子強化試験体という名の生物兵器だった。今では人権も認められているが、そんな物がお飾りだと言う事はラウラ自身も分かっていた。物心がつく前から軍事訓練を強制されてきた。あらゆる格闘術、あらゆる武器の使用法、あらゆる兵器の操縦法を学んだ。ラウラ自身が一個の兵器として生きてきたと言って良いだろう。そこに人権などと言う高尚な物は存在しなかったし、ラウラ自身も求めなかった。

 

 ただ求められる性能の最高値を出し続け、最高の兵器として必要とされ続ける事だけがラウラの全てであった。

 

 そんなラウラから全てを奪う出来事があった。白騎士事件に端を発する世界のIS偏重社会への変革である。全ての兵器がISによって時代遅れにされたと言う者さえ現れた。そして、時代に取り残された兵器の中にラウラもいた。

 

 既存の兵器に対して圧倒的な戦力比を見せたISをラウラの所属したドイツ軍も取り入れた。そして、当時優秀な成績を出し続けていたラウラにもISを操縦する事が求められた。ラウラを含めた多くの女性型遺伝子強化試験体にISへの適合性を向上させる為の処置【ヴォーダン・オージェ】が為された。そして、それがラウラの地獄の始まりだった。処置が失敗したのだ。

 

 【越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)】とは簡単に言うと擬似的なハイパーセンサーとしての機能を人工的に人間の目に与える処置とその処置を施された瞳の事をそう呼ぶ。ラウラはこの処置によって左の瞳の色が金色に変色し、常にその擬似的ハイパーセンサーの機能が稼動し続ける状態になってしまった。つまりラウラの越界の瞳は制御不能だった。制御不能な左目を抱えたラウラはIS訓練においてトップの座から転げ落ちる事になった。

 

 これは【ただ求められる性能の最高値を出し続け、最高の兵器として必要とされ続ける事】それだけが全てであったラウラにとって絶望以外の何物でもなかった。失意のラウラを他の部隊員からの侮蔑と嘲笑、そして【出来損ない】の烙印が待っていた。

 

 そんな絶望の底からラウラを引き揚げたのが千冬だった。ドイツ軍のIS部隊に教官として着任した千冬の指導の下、ラウラは再びトップの座に返り咲いた。ラウラは千冬の指導に従うだけで瞬く間に実力を付け、失った自信と地位を取り戻した。ラウラにとって千冬は救世主となった。

 

 ラウラにとってIS学園への転入は千冬を取り戻す為のものであった。上層部からの命令など二の次であった。今のラウラにとって千冬以上に優先すべき事など存在しなかった。

 

 だから、ラウラは許せなかった。千冬がモンド・グロッソ連覇を逃す原因を作った一夏が。千冬の前でラウラが醜態を晒すことになった原因である太郎が。

 

 

 

 

 暗い部屋の中で独り佇みながらラウラは誓った。どんな手を使っても一夏と太郎を排除する事を。

 

 

 

 

 

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 IS学園では新たな転入生・ラウラと3人目の男性IS操縦者シャルルが実は女だった事が話題になったが、それも数日の事だった。現在は間近に迫った学年別トーナメントに生徒達の関心は移っていた。特に1学年では【優勝者は男性IS操縦者のどちらかと付き合える】という根拠も無い噂が出回り盛り上がりを見せていた。しかも、今年の学年別トーナメントは例年とは違い2人1組のツーマンセルトーナメントとなった為にパートナー決めでも大いに盛り上がった。

 

 まず、誰もが考えたのが男性IS操縦者とパートナーになる事だった。これを機に一気にお近づきになろうという魂胆である。根拠の無い【優勝者は男性IS操縦者のどちらかと付き合える】という噂を信じるより確実である。

 

 そんな浮ついた生徒達をラウラは馬鹿にしていた。そして、同時にラウラにとっては好機でもあった。1年生の女生徒達に追い回され太郎と一夏は普段一緒にいるグループから離れていた。ラウラは太郎が強敵であると一戦交えた事で認識していた。だから、先ずは取り巻きの専用機持ちを排除する事に決めた。

 

 放課後、第3アリーナでセシリアと鈴がISの訓練をしようとしている事と太郎と一夏がその場にいない事を確認したラウラはここでセシリア達を排除する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 太郎と一夏、そしてシャルは追われていた。間近に迫った学年別トーナメントのパートナーに3人の内の誰かを得たいという女生徒達に追われているのだ。太郎と一夏は希少な男性IS操縦者である。シャルは女だと明かしたが一部のコアなファンが執拗に追い回していた。それに3人は全員専用機持ちであるから戦力的に見ても学年別トーナメントのパートナーとして魅力的であった。

 

 シャルは3人の中では追っ手が1番少なかった為にあまり苦労しなかった。太郎の追っ手は多かったが、学園に来る前は桜の代紋を背負った猟犬達からその身一つで逃げ切っていたのだ。素人を振り切る事など容易いものだった。そして、一夏はボロボロだった。女生徒の包囲網を突破する度に制服等を掴まれたりしたせいで、体も制服もボロボロな状態だった。3人は途中でバラバラに分かれて逃げたのだが今は合流していた。

 

 

「・・・・・一夏は大丈夫なんですか?」

 

「こ、この学園には悪魔がいる・・・・」

 

 

 制服が破けてほとんど半裸状態の一夏を見て太郎が心配して声をかけると、一夏は消え入りそうな声でそう答えた。

 

 太郎とシャルは思った。自分達はもっと上手く逃げようと。

 

 3人が校庭の目立たない場所で一休みしていると太郎に静寐(しずね)からメールが届いた。内容を確認すると第3アリーナでセシリアと鈴がIS訓練をしている所にラウラが乱入したというものだった。太郎達は直ぐに第3アリーナへと向かった。その際に女生徒達に見つかり一夏はズボンを失った。

 

 

 

 

 

 第3アリーナに太郎達が到着するとそこでは既にセシリアと鈴の敗北した姿があった。2人の装着しているISは軽めに見積もっても中破状態で戦闘を継続出来る状態には見えなかった。

 

 

「威勢が良かったのは最初だけだったな。やはりカタログスペック程の脅威は感じなかったな。遊びかファッション感覚でISに乗っている甘い貴様らなどが私に勝てる訳が無い」

 

 

 ボロボロのセシリアと鈴に対してラウラは無表情のまま、そう吐き捨てた。セシリア達は悔しそうに顔を歪めたが2対1で闘っておきながら一方的に負けてしまっては反論のしようもなかった。

 

 ラウラがセシリア達にトドメを刺そうと大口径レールカノンを放とうとした。その時、それを止めようと太郎が咄嗟にヴェスパと三式対IS狙撃銃を展開しラウラを狙撃した。しかし、その一撃をラウラは難なく躱した。太郎達がアリーナに現れた時点でラウラは太郎達3人に気付いて警戒していたのだ。

 

 太郎が次弾を装填する間をラウラは与えなかった。ワイヤーブレードでセシリアを捕らえ太郎達へ向けて放り投げたのだ。シャルはISを既に展開・装着済みだったが、ここに来るまでにボロボロになっていた一夏は未だ白式を展開していなかった。ここで太郎がセシリアを避けると一夏が危ない。太郎はそう判断してセシリアを受け止めた。

 

 

「そういう所が甘いのだ」

 

 

 ラウラは嘲りながらセシリアごと太郎を大口径レールカノンで攻撃した。太郎はその攻撃を避けられなかった。タイミング的にも避けるのは難しかったが、仮に避けられたとしても一夏に危険が及ぶのでその選択はとれない。

 

 ラウラの攻撃を受け劣勢に立たされる太郎であったが、その危機を救う者があった。

 

 

「やめろ!馬鹿共が!!」

 

 

 第3アリーナ内に千冬の声が大音量で響いた。太郎達に追撃をかけようとしていたラウラもその声を聞いて攻撃を止めた。

 

 千冬はラウラがセシリアと鈴の訓練に乱入して、その闘いが激しくなってきた時点で報告を受けており念の為に管制室で様子を見ていたのだ。ラウラが攻撃を止めてしばらくするとアリーナ内に千冬が移動してきた。

 

 

「お前等、模擬戦闘をするのは良いが限度を考えろ。これ以上やりたければ学年別トーナメントでやれ」

 

「教官がそう仰るのなら・・・」

 

 

 千冬が厳しい表情で言った内容をラウラは受け入れた。太郎達も黙ってそれに頷いた。太郎もこのまま闘おうとは思っていなかったので好都合だった。

 

 

(美星さん、大丈夫ですか?)

 

『はい、ブルー・ティアーズが位置関係的に盾の役割を果たしたのでヴェスパの機能に影響を及ぼす様な損傷はありません。あのビッチも偶には役に立ちますね。後でご褒美をあげないといけません』

 

 

 美星を心配していた太郎の問いに美星は問題無いと答えた。

 

 

(・・・・・それにしても今回はしてやられましたね)

 

『436の根暗ボッチは絶対に凌〇します』

 

 

 アリーナから立ち去るラウラの後ろ姿を見ながら、珍しく苛立たしげに言った太郎と怒りのあまりに犯行予告をする美星であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、雪辱に燃える太郎と美星。新たな武器を手に子兎とおまけを狩る!!


次回登場の新兵装の名前は「ゲヘナの炎」と「レイジング・スター」

後書きまで読んでいただきありがとうございます。



次回の投稿は木曜日か金曜日になると思います。


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第41話 狩りの時間 前編

保健室に運ばれたセシリアと鈴

 

 

 第3アリーナでラウラに手酷い敗北を喫したセシリアと鈴は怪我をしていた為、保健室へと運ばれた。そして、2人に負けない位ボロボロな一夏も手当てを受けていた。

 

 

「セシリアさん、何があったんですか?私はボーデヴィッヒさんが貴方達の訓練中に乱入したという事しか分からないのですが」

 

 

 太郎の問いにセシリアは答え辛そうにしていたが、やがて口を開いた。

 

 

「・・・・・申し訳ありません。わたくしが未熟なばかりに太郎さんの顔に泥を塗ってしまいましたわ」

 

「どういう事ですか?」

 

 

 涙ぐみながら謝るセシリアに太郎は優しく問いかけた。

 

 

「わたくしと鈴さんが模擬戦をしようとしていた所を彼女がいきなり話しかけて来て・・・・・IS学園の生徒は弱いと言ったのです。そのうえ1年1組、ひいてはクラス代表である太郎さんの事まで侮辱されたのでその発言を撤回させようとしたのですが・・・・・・・」

 

 

 悔しそうにセシリアは事の経緯を説明した。セシリアにとってはラウラとの闘いは単なる私闘ではなかった。太郎やクラスの仲間を背負った戦いだったのだ。それに敗北した事はセシリアにとって太郎と初めて闘って負けた時よりも大きなショックだった。

 

 

「AICがあそこまで厄介だとは思わなかったわ」

 

 

 鈴も悔しそうに言った。そこで一夏は知らない単語に首を傾げた。

 

 

「AICってなんだ?」

 

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略よ。ボーデヴィッヒのIS・シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されている第3世代型兵器で慣性を停止させる領域を展開できるのよ」

 

 

 鈴の説明を聞いても一夏はイマイチ理解出来ていない様子だった。

 

 

「・・・・・結局、触れると動けなくなる結界みたいな物なのか?」

 

「うーん、ちゃんと分かってるの?まあ効果としてはそういう物だけどね」

 

 

 鈴の一夏を見る目は本当に話を理解しているのか疑っている目だった。一夏の方は既にAICの仕組みより、その効果と対処に意識が向いていた。

 

 

「零落白夜で斬れるかな?」

 

「斬れると思いますよ。ただ零落白夜の効果はエネルギー刃の部分だけなので、それ以外の部分を停止させられて捕らえられてしまうと単なる的になりますよ」

 

 

 一夏の素朴な疑問に太郎が答えた。太郎の言葉を聞いてセシリアは表情を曇らせた。

 

 

「それはそのまま太郎さんにも言える事ですわ。近接戦闘が決め手の太郎さんにとっては最悪の相性。それにもう1つの武器である銃もボルトアクション式の狙撃銃なので手数で押す事も出来ず、こちらも相性は悪いですわ」

 

 

 セシリアの指摘に太郎は頷いた。正面から近接戦闘を挑めばAICの格好の餌食となってしまう事は少し考えれば分かる事だった。それに太郎の愛用している狙撃銃も有効では無いだろう。そもそも三式対IS狙撃銃はAICを使わなくても回避に専念すれば大きな脅威にはならない武器である。セシリアや鈴との闘いで太郎が三式対IS狙撃銃の射撃を命中させる事が出来たのは不意を付いたり、次の行動を限定させる事で当て易くしていたのだ。セシリアと鈴を相手にほとんど完勝してしまったラウラ相手に同じ様に【当て易い状況】を作る事は難しいと太郎も考えていた。

 

 

「MSK重工に幾つか新しい兵装を用意して貰っているので、それを使おうかと思います。そこでシャルには少し協力して貰いたいのですが」

 

「うん、太郎さんの為なら幾らでも協力するよ」

 

 

 太郎の言葉にシャルは二つ返事で頷いた。

 

 

「今度の学年別トーナメントで私のパートナーになってください」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

 いきなりの誘いにその場の全員が驚いた。特にセシリアと一夏は慌てていた。

 

 

「ちょっとお待ち下さい。太郎さんにはわたくしと組んでいただきたいのに」

 

「俺は太郎さんと組むつもりだったのに。なあ、太郎さん。俺じゃ駄目か?」

 

 

 セシリアと一夏の要望に太郎は首を横に振った。

 

 

「セシリアさんのブルー・ティアーズは損傷が酷くてトーナメントには間に合わないでしょう。ボーデヴィッヒさんへの対策は考え付いたのですが、一夏と私の組み合わせでは実行出来ないのでパートナーはシャルに頼みます」

 

 

 ばっさりと自分と組む可能性を否定された一夏はしょぼくれてしまった。セシリアの方は諦められないのか食い下がる。

 

 

「ブルー・ティアーズならまだやれますわ!」

 

 

 セシリアの訴えを聞いて太郎は思案した。太郎にはブルー・ティアーズはかなり酷い状態に見えたが、見た目の割には損傷は軽く済んだのか。疑問に思った太郎は美星に聞いてみることにした。

 

 

(ああ言っていますが、セシリアさんの言う通りブルー・ティアーズの状態は問題無いのですか?)

 

『ダメージレベルがCを超えています。完全な修復が済むのを待つべきです。多少部品を取り替えた程度の修理状況で無理に起動を続けると、後々重大な欠陥が生じる可能性がありますね。ただでさえ、オツムと股がユルいのに他の所まで駄目になってしまったら可哀想です』

 

 

 太郎は美星が心配しているのか、貶しているのか良く分からなかった。

 

 

(美星さんはブルー・ティアーズのコアが嫌いなんですか?)

 

『えっ、そんな事はありませんよ。263は好きですよ。1番仲の良いコアです。言う事も大抵聞いてくれますし、あれで可愛い所もあるんですよ。ただ、今は専用機のコアなのにマスター・・・・太郎さんに1度自分を装着して特殊な機動を試して欲しいとかアホな事を本気で言ってしまう()ですが』

 

 

 太郎は美星の説明を聞いて呆れてしまった。

 

 

(初期化する事も出来ないでしょうし、まともに動かせないでしょう。その状態で特殊な機動を試すとは・・・・・瞬時加速位なら可能なのでしょうか?)

 

『あの娘はその辺りの事を考えずに言っているので気にしても仕方がありません』

 

 

 ブルー・ティアーズの状態は色々な意味で重傷のようだ。太郎は心の中で溜息をついた後、セシリアに考えを改めるように促すことにした。

 

 

「セシリアさん、冷静に判断してください。機体にダメージを負った状態で起動すると後々平常時の稼動に悪影響を及ぼす事があります。ブルー・ティアーズの損傷はトーナメントまでに完全に直ると思いますか?」

 

「うっ・・・・・難しいかもしれません」

 

 

 セシリアも国家代表候補生なのでISを損傷したままで稼動させる事の危険性は知っていた。冷静に判断すればブルー・ティアーズの状態は深刻なものであり、トーナメントまでに完全な状態に戻す事は困難だと判断できた。

 

 

「安心してください。セシリアさんの仇は私がちゃんと取ってあげますから」

 

「・・・・・は、はい、分かりましたわ。残念ですが今回は太郎さんにお任せします」

 

 

 自信に満ちた太郎の言葉を聞いて、項垂れていたセシリアは顔を上げて太郎の事を惚けた様に見つめた。鈴は一夏の事を見て、私も一夏にあういう事をカッコ良く言われたいなと思ったが難しいだろうなとも思った。それと鈴の甲龍もブルー・ティアーズと同レベルの損傷を受けている。修復は今回のトーナメントには間に合わないだろう、その事も鈴を気落ちさせた。

 

 この後、太郎はシャルと作戦会議と新兵装への換装の為に整備室へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

=============================================

 

 

 太郎達が保健室にいた頃、人通りの少ないアリーナの通路でラウラと千冬が話していた。

 

 

 

「教官!・・・・・・何故こんな所で教師などやっているんですか!」

 

「私は私の役割を果たしているだけだ」

 

 

 声を荒げるラウラに千冬は淡々と答えた。だが、ラウラからすると到底納得の出来る内容ではなかった。

 

 

「こんな場所でどんな役割が果たせると言うのですか!ここの連中のような程度の低い者に教官の教えなどもったいないです。一緒にドイツへ戻りましょう!」

 

「程度が低いか?」

 

「そうです。現にイギリスと中国の国家代表候補生は1対2でも私に手も足も出ませんでした。一般の生徒などもっと話にならないでしょう!」

 

 

 確かにラウラの言う事にも一理ある。入学して直ぐの頃は千冬の姿を見るだけで騒ぎ始め、学年別トーナメントのパートナー探しで最近も浮ついている生徒が多い。ISに関する技術・知識は当然の事として精神面でも学園の生徒達は余りにも未熟だった。しかし────────

 

 

「確かにIS学園の生徒に未熟な者は多い。だが私から見ればお前も大差は無い。驕るなよ小娘」

 

 

 千冬が厳しい表情で断じる。お前も他の生徒と同様に未熟であると、ラウラはそれを認めようとはしない。

 

 

「あんな覚悟も実力も無い連中と私が同じなはずはありません!」

 

「・・・・・・山田 太郎はどうなんだ。教室ではお前の方こそ手も足も出ない状態だっただろ」

 

「くっ、あれは・・・・・。しかし、先程のアリーナでは私の方が優勢でした。あのまま続けていれば勝ったのは私の方です!」

 

 

 教室では太郎に遅れをとったが、ISの戦闘こそが重要である。そのISで優勢だったのだ。ラウラにとって格闘で負けた事は屈辱だったがISで一撃を加えた事に溜飲を少しだけ下げていた。

 

 

「人質をとった様な状態で大したダメージにもならない攻撃を1発入れて勝ったつもりか?」

 

 

 千冬から見ればラウラが太郎に加えた攻撃など評価に値しなかった。千冬の言葉にラウラは悔しげに表情を歪めたが自分の意見を変えるつもりはなかった。

 

 

「それなら・・・・・それなら今度の学年別トーナメントで証明してみせます。ここには教官の指導を受けるに値する者などいないと!」

 

「・・・・・・・好きにしろ。ただし山田には気を付ける事だな。あいつ程、厄介な男を私は他に知らん」

 

 

 千冬の忠告をラウラは聞いていたし、理解もしていた。あの男は危険であると。しかし、千冬から評価されてる太郎の事をラウラは素直に認められない。頭では分かっている油断できるような相手ではないと、だが心が反発してしまう。ラウラは複雑な気持ちだった。

 

 忠告を終えた千冬は立ち去っていく、その後ろ姿をラウラはずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=========================================

 

 

 

 学年別トーナメント当日

 

 太郎とシャルはトーナメントの組み合わせを確認していた。そこには思いもよらぬ組み合わせがあった。

 

 

「まさか1回戦から当たるなんてね・・・・・・」

 

「しかもボーデヴィッヒさんのパートナーが篠ノ之さんとは予想外ですね」

 

 

 シャルと太郎は何とも微妙な気分だった。箒は一夏と良く一緒にいるので一夏が良く話しかける太郎とも接する機会は多かった。しかし、決して仲は良くなかった。一夏と仲が良い様に見える太郎の事を箒は気に入らなかった。太郎も模擬戦で一夏に勝利した後に木刀で襲われた事について未だに根に持っていた。太郎は反省を示す者に対しては寛容であったが、己の行いを省みる事も無く謝罪もしない相手には容赦が無かった。

 

 シャルの方は持ち前に社交性から箒とも比較的良好な関係を保っているが、太郎を嫌っている箒に対してシャルも気を完全に許すことは無かった。

 

 

「・・・・・・これは好都合ですね。篠ノ之さんが相手なら闘い方が分かります。そして、向こうは私達の新兵装については知らないですから、それだけでも有利です」

 

「僕は篠ノ之さんの事はあまり知らないんだけど、どんな闘い方をするんですか?」

 

「完全な近接格闘タイプです。一夏とISの訓練をしている所を何度か見ましたが、使用ISは常に打鉄で武器も近接用ブレードしか使用していません」

 

 

 太郎から箒の情報を聞いたシャルは自分達が取るべき戦術を即座に考え付く。

 

 

「僕がボーデヴィッヒさんを足止めしている間に太郎さんが篠ノ之を仕留める、という形で良いかな?」

 

「それが良いでしょう。向こうから近づいてくれるのならば簡単です」

 

 

 シャルの提案を太郎は肯定しながら腰を突き出すフリをして「毒針で一撃です」と言った。2人は余裕な空気を漂わせつつ会場であるアリーナへと向かった。

 

 

 実は今回の学年別トーナメントにおいて1年から3人の棄権者が出ていた。セシリアと鈴はISの損傷が酷いという理由で棄権した。最後の1人は一夏だった。太郎とシャルが組んでしまった為に、2人をパートナーにしようとしていた生徒が全員一夏に殺到したのだ。元々、一夏を追いかけていた生徒を加えて行われた一夏捕獲戦は熾烈を極め、後にはボロ雑巾の様になった一夏だけが残った。そして、一夏もトーナメントを棄権となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合の開始時間となり太郎とシャルはピットから飛び出した。アリーナの中央にはラウラと箒が待っていた。

 

 

「山田 太郎・・・・・貴様を倒して私の方が上だと証明する。教官もこの学園のレベルの低さに呆れるだろう!」

 

 

 ラウラが太郎に対して吠えるように勝利を宣言した。それに対して太郎は気圧される事は無かった。セシリアと鈴の仇であり、避けると生身の人間に当たるような危険な攻撃をして自分に一撃を入れたラウラに対して太郎の戦意は燃え上がった。

 

 

「ボーデヴィッヒさん、貴方は転入してからずっと攻撃的でしたね。しかし、私は貴方から脅威を感じません。貴方の攻撃性はまるで警戒心の強い小動物が必死に威嚇している様にしか見えませんね。・・・・・だから今日は貴方に本物の獣の狩りを見せて上げます」

 

「私が小動物だと・・・・・私は最高の兵器だ。強く、優秀だ。それを今から証明してやる」

 

 

 太郎の言葉を挑発と受け取ったラウラが太郎に向けてレールカノンを撃とうとしたが、それをシャルが邪魔をする。

 

 

「1対1じゃないんだから1人に集中していたら危ないよ」

 

 

 シャルはアサルトカノン【ガルム】でラウラに攻撃した。ラウラは邪魔をされた事に舌打ちしながらシャルに反撃をしようとするが、シャルの次々と武器を変えながら攻撃の手を緩めない闘い方になかなか反撃に転じることが出来なかった。

 

 シャルとラウラが闘っている間に太郎は箒へと襲いかかる。箒へと襲い掛かる太郎の手に握られていたのはいつもの狙撃銃ではなく鎖だった。鎖の先端にはサッカーボール位のサイズのトゲが付いた鉄球が繋がっていた。太郎が狙撃銃を使って来ると思っていた箒は意表を突かれた。

 

 動きが一瞬鈍った箒に対して太郎は鉄球を叩きつけようとする。箒は慌ててこれを避けたが鉄球の軌道が途中で変化して直撃を受けてしまった。バリアーでも殺しきれない重い衝撃に箒は顔を歪める。

 

 

「ぐっうう!!なんだそれは!?」

 

 

 ISによる闘いではあまり見かけない武器に箒が悲鳴の様な声を上げた。

 

 太郎の使った武器は所謂モーニングスターとフレイルを組み合わせた様な兵装で【怒れる星(レイジングスター)】と名付けられたMSK重工の新製品である。鉄球の部分には小型のスラスターが付いており投げつけたり、振り下ろす時に途中で軌道を変える事が出来る優れ物である。もちろん軌道を変えるのではなく、より加速させる為にも使える様になっている。

 

 太郎は鉄球を手元に戻した後、頭上でグルグルと回し遠心力を高めた一撃を箒へと放った。箒は鉄球を避けながら、もし鉄球の軌道が変化したら近接用ブレードで切り払うつもりだった。しかし、太郎の狙いは最初から箒にダメージを与える事ではなく近接用ブレードにあった。鉄球を切り払いに来た近接用ブレードに鎖が絡みつく。

 

 この時に箒は近接用ブレードを手放すべきだった。しかし、使い慣れた武器を咄嗟に放す事が出来なかった。

 

 太郎は捕らえた近接用ブレードを箒ごと振り回し、ラウラへと投げつけた。

 

 

「この前のお返しです」

 

「くそっ、この足手まといが!!」

 

 

 ラウラが自分へと飛んで来る箒をAICで停止させた所をシャルはグレネードランチャーで攻撃した。ラウラ達が爆発に巻き込まれている間にシャルは小型のコンテナを展開する。太郎がそれに取り付き中身を取り出す。取り出されたのは合計6個の直径40センチ程のボビンの様な形状をした物だった。爆発の衝撃で地上に墜落した箒に向けて太郎がそれを放った。

 

 巨大なボビンの様な物は凄まじい勢いで転がり、何かを撒き散らしながら箒へと走る。体勢を立て直すこともままならない箒はこれを近接用ブレードで切り払って防ごうとしたが、それは最悪の選択だった。

 

 ドッゴオオオオオォォォンンン!!!!!!

 

 

 箒を中心にアリーナが炎に包まれた。

 

 太郎が放った物の名は【ゲヘナの炎】。燃料気化爆弾の一種である。転がりながら撒き散らしていたのは燃料と酸素を混合した物だったのだ。撒き散らされる前の燃料は高温高圧の状態にされており、外部へと放出された時点で凄まじい速度で気化する。気化した燃料は高速かつ広範囲に広がり・・・・・・最期は全てを炎で包む。

 

 シャルのグレネードランチャーによる攻撃にも箒を盾にして凌いだラウラは空中にいたため、ゲヘナの炎の爆発の直撃は避けられた。しかし、流石のラウラもアリーナの3分の1を包んでしまう様な巨大な火球を前に唖然としてしまった。

 

 

「・・・・・なんなんだ・・・これは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




燃料気化爆弾の仕組みの描写がテキトー過ぎる・・・・・。

あと多分ISには気化爆弾より爆弾外殻の断片を高速で衝突させて損傷させるタイプの爆弾の方がより効率良くシールドエネルギーを削れそうな気がする。物理も化学も苦手なので正確な所は分かりませんが。



読んでいただきありがとうございます。

次の投稿は日曜日だと思います。


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第42話 狩りの時間 後編

 今回のトーナメントの為に太郎が用意した新兵装の内、容量の大きい【ゲヘナの炎】はシャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに装備していた。そして太郎に対して使用許諾をする事で太郎にも使用出来る様にしてあるのだ。使用許諾はラファールの追加装備全てに及ぶ。これによってヴェスパの拡張領域の少なさを補っているのだ。

 

 

(美星さん、篠ノ之さんはどうなりましたか?)

 

『上手に焼けていますよ。シールドエネルギーはゼロになっていますし、大きな怪我もありません』

 

 

 爆発の規模の大きさから一瞬ヤッてしまったかと思った太郎であったが、美星の報告を受けてほっとした。しかし、ほっとするのも束の間だった。燃料気化爆弾の威力を見て脅威を感じたラウラが残り5発の爆弾を持つ太郎に対してレールカノンを撃った。嵩張る荷物を持って、動きが鈍くなった太郎は何発か直撃ではないが食らってしまう。

 

 しかし、既に闘いは2対1の状況になっている。太郎へ攻撃を集中させるラウラに側面からシャルが接近しつつ

ショットガン【レイン・オブ・サタデイ】を撃ち込む。体勢の崩れたラウラを尻目に太郎は全速力で上昇し、アリーナの戦闘空間を包み込む遮断シールドの天井部分に達した。そして、太郎は持っていた【ゲヘナの炎】5発全てを投下した。

 

 太郎のヴェスパから送られてくる爆発予測範囲のデータを元にシャルは回避行動を始める。シャルが爆発に巻き込まれない様にわざとアリーナ全域が爆発範囲にならない様に各爆弾の爆発位置は美星が調整している。

 

 

ドッゴオオオオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!

 

 

 1発目よりも大きな爆発が起こる。まるでアリーナ全体が震えている様な衝撃だった。あまりの轟音と衝撃に観客席の観客達は全員耳を押さえて蹲ってしまった。

 

 そんな大爆発にも関わらずラウラは奇跡的に爆発の直撃からは逃れる事に成功した。しかし、強烈な爆風の煽りを受けて体勢を崩してしまった。その隙を太郎は見逃したりはしなかった。

 

 太郎は加速しながらラウラに向けて降下する。そして、体当たりをする様な勢いのまま組み付こうとする。

 

 

「私に組み付こうとするとは・・・・・AICの餌食になれ!!」

 

 

 一時体勢を崩したもののラウラは組み付かれる寸前でAICによって太郎を捕らえる事に成功した。

 

 

「馬鹿めっ!自らやられに来るとはな。やはり私の方が貴様より上だったな!!」

 

「ふふっ、いいえ。やはり貴方は小動物です。今から私達に狩られるのです」

 

 

 ラウラは勝利を確信して吠えた。獲物が自らこちらの懐に飛び込んできたと喜んだ。しかし、獲物はラウラの方だった。歯を剥き出しにして嗤う目の前の獣にラウラは危険を感じた。それは厳しい訓練を乗り越えてきた成果か、それとも遺伝子強化による五感の鋭敏化の影響か、何故かは分からないがこのままではやられるとラウラは強く感じた。直ぐに太郎から距離をとろうと身を翻そうとしたが、もう遅かった。

 

 ラウラは背中に凄まじい衝撃を受け前のめりになる。

 

「せっかく1人に集中していたら危ないよって注意してあげてたのに・・・・駄目な子だね」

 

 

 いつの間にかシャルが暗い笑みを浮かべながらラウラの背後についていた。先程の攻撃は灰色の鱗殻(グレー・スケール)、通称・盾殺しの名で呼ばれる、第2世代最強クラスの威力を誇るパイルバンカーによるものだった。

 

 灰色の鱗殻の一撃は凄まじく絶対防御が発動したにも関わらずラウラの体に強烈な衝撃をもたらした。その影響で太郎を捕らえていたAICが解けてしまった。前のめりになったラウラを太郎が抱きとめる。

 

 

「いらっしゃい、子兎ちゃん」

 

『随分調子に乗ってくれましたね。さあ、お仕置きの時間ですよ』

 

 

 太郎と美星の声はラウラには届かなかった。つい先程背中に喰らった灰色の鱗殻を第3世代型へと改修した【毒針】が太郎の股間部分から突き出されバリアーを突き破り、絶対防御まで破ろうと干渉して凄まじい衝撃と音を出していたのだ。

 

 ラウラは必死の思いで太郎をAICで停止させようとするが、強力な干渉能力を持つ【毒針】が既に当たっている状態では上手く発動できなかった。戸惑うラウラを再度背後からシャルが襲いかかる。前からは毒針で、後ろからは灰色の鱗殻でラウラは貫かれた。

 

 

「どうです。これがサンドイッチと言う物です。効くでしょう。くっくっく」

 

 

 太郎が楽しそうに笑っているのを美星も嬉しく感じながら、シュヴァルツェア・レーゲンの制御を完全に掌握しようと試みていると突然それを邪魔するモノが現れた。美星がシュヴァルツェア・レーゲンとそのコアである436の両方に干渉していた所、別の何かがシュヴァルツェア・レーゲンの制御を全て奪い取ってしまったのだ。

危険を感じた美星は直ぐ太郎に警告を発した。

 

 

『マスター!シュヴァルツェア・レーゲンから直ぐに離れてください!!』

 

 

 理由も告げない突然の警告に太郎は躊躇いも無く従い、ラウラから距離をとった。その瞬間、今まで太郎がいた場所を黒い刃が通過した。いつの間にかシュヴァルツェア・レーゲンの右腕に黒い刀が握られていた。

 

 

「危険です。シャルも直ぐに距離をとって下さい!」

 

 

 太郎の指示でシャルは直ぐラウラから距離をとった。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンとラウラの様子がおかしい。ラウラが苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 「ち・・から・・・・ち・力が・・・欲しい。しょうめ・・・す・・・為の」

 

 

 ラウラがくぐもった声を上げている間にシュヴァルツェア・レーゲンが黒い粘土状の物へと変化してラウラを包み込んでいった。そして、黒い粘土状の物が人型を形作った。それは──────────

 

 

「・・・・・・織斑先生の現役時代を彷彿とさせますね」

 

「えええっ!・・・・・まさか強さの方も織斑先生みたいじゃないよね?」

 

「試してみれば分かるでしょう」

 

 

 太郎の言葉でシャルの方は若干怯え気味だったが、太郎の方はイラついた様子でシュヴァルツェア・レーゲンとラウラだった物を睨みつけていた。

 

 

「良い所だったんですがね。このアリーナで闘っていると何だかいつも良い所で邪魔が入っている様な気がします」

 

 

 人でも獣でも食事を邪魔されれば当然機嫌も悪くなろうというものだ。

 

 

「シャルはそこで待っていてください。私が試してみます」

 

 

 太郎は慎重にシュヴァルツェア・レーゲンとラウラだった物に近付いていった。ある程度近付いた所で相手が黒い刀を太郎へ振る。鋭いその一太刀を太郎は難なく回避した。何度も太郎へ黒い刀が襲い掛かるが、その悉くを太郎は余裕で捌き切った。そして、一度大きく間合いを取った後、シャルに話し掛けた。

 

 

「単なる織斑先生の真似ですね。何の輝きも感じないゴミです」

 

「えっ、でも織斑先生の真似なら強いんじゃ・・・・・」

 

「織斑先生の現役時代の動きをコピーしているだけなので、行動がパターン化されていて次の行動が読み易いです。それに刀の振り方も角度・速度共に単なるコピーなので、織斑先生の現役時代の映像をちょっとした仕草まで記憶する位に見ている私からすると何の問題も無く対応出来ますね」

 

 

 太郎の自信は当然であった。太郎は千冬の現役時代の試合映像はほぼ毎日の様に見ていた。動きが参考になる事も理由の1つだが、1番の理由は単純に見ていると興奮を覚えるからだ。そんな太郎からすれば目の前の敵は千冬の偽者にもなりきれない、ただのゴミでしかなかった。

 

 

(美星さん、毒針によるハッキングであの織斑先生の出来損ないの制御を奪い、ボーデヴィッヒさんを引きずり出すことは出来ますか?)

 

『先程は予測外の出来事だったので距離をとる事を助言しましたが、形が変わってもアレはISです。相手がISならば毒針を直撃させれば確実に制御を奪えます。いえ、私が奪って見せます』

 

 

 美星は太郎にそう宣言した。美星にとっても先程のシュヴァルツェア・レーゲンとそのコアの436を掌握する直前で邪魔された事は相当不快だったようだ。

 

 

「さて、さっさとゴミを片付けてボーデヴィッヒさんで遊・・・・ではなく、ボーデヴィッヒさんに教育的指導をしてあげましょう」

 

 

 太郎は漏れかけた本音を訂正しつつ無造作に敵に近付いていく。当然、千冬モドキが斬りかかるが太郎はそれを避けて簡単に懐に入ってしまった。その時にレイジングスターの鎖を千冬モドキの両腕に巻き付け封じてしまった。

 

 

「用があるのはボーデヴィッヒさんです。・・・・・そろそろお別れの時間です」

 

 

 冷たく言い放った太郎は毒針を正面から打ち込む。千冬の形をしたモノを太郎のモノが貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラの意識は黒い粘土状に変わったシュヴァルツェア・レーゲンに包まれた後も残っていた。ただ身動き一つとれず、シュヴァルツェア・レーゲンだった物の見ているものを黙って見ているしかなかった。どうやらシュヴァルツェア・レーゲンだったモノはラウラの憧れた最強を体現した存在、ラウラにとって救世主と言ってもいい存在、織斑 千冬の現役時代の姿になっているらしい。

 

 あれほど憧れた織斑 千冬になっているのにラウラには何の感慨も生まれなかった。山田 太郎と闘っている映像を眺めていても何故か空しさしか感じなかった。

 

 太郎がシュヴァルツェア・レーゲンだったモノと少し闘った後に「何の輝きも感じないゴミ」と評して言葉の通りゴミを見るような目でこちらを見ていた。

 

 

(そんな目で私を見るな!!!!)

 

 

 太郎の目は出来損ないの烙印を押された頃に自分を蔑み嘲笑った者達を思い出させるものだった。太郎はラウラにとって強さの象徴とも言うべき織斑 千冬を相手に互角どころか、余裕すら感じられた。

 

 一度大きく間合いを取った太郎が無造作に近付いてくる。鋭い斬撃が太郎を襲うが軽々と避けてしまう。そして鎖で織斑 千冬の両腕を拘束してしまった。

 

 

「用があるのはボーデヴィッヒさんです。・・・・・そろそろお別れの時間です」

 

 

 太郎のその言葉にラウラは疑問を覚えた。

 

 

(私に用だと・・・・・。私などに何の用だと言うんだ。これ程の強さを持った者が敗北した私にどんな用があるというのだ。)

 

 

 太郎の毒針が突き刺さって少しするとラウラの視界は真っ黒に染まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 未だ太郎に聞きたい事があったのだが自分は死ぬのかとラウラが思い始めたところで目の前に太郎が現れた。

 

 

「ど・・・・どうなっているんだ?」

 

「さあ?私にも分かりません」

 

 

 ラウラの口から無意識の内に漏れた呟きに太郎が答えた。まさか、普通に話しかけられるとは思っていなかったラウラは驚いてしまった。どういう状況なのか全く分からなかった。周囲を見回しても黒一色の景色で太郎と自分以外何も無かった。そして太郎は何故か全裸だった。ラウラが自分はどうなのかと下を見ると自分も裸であった。何故裸なのかは分からないが、太郎はその状態でも堂々とした態度であったしラウラも特に恥ずかしいとは思わなかったので隠そうともしなかった。

 

 ラウラは自分達の格好より気になっている事があった。何と言って話しかければ良いのかという事だ。今のラウラには太郎に聞きたい事や話したい事がいっぱいあるのだが、これまでの自分の言動から今更何と言えば良いのか分からずにいた。

 

 

「・・・・・山田 太郎と言ったな?その・・・な、今まで・・・・・の事を・・謝りたいのだ」

 

 

 ラウラはとりあえず謝ることにしたが、元々まともな人間関係を持たないラウラにはただ一言謝るだけでも困難な事だった。しかし、それでも太郎にはちゃんと届いていた。

 

 

「分かりました。私は貴方を許します。後でセシリアさんや鈴さんにも謝っておいて下さい。あれはやり過ぎです」

 

「分かった。謝っておく・・・・・」

 

 

 ラウラのその言葉を聞いて太郎は頷いた。そして、ラウラの頭に手を置き優しく撫でた。

 

 

「私は貴方の言ったように必死で周囲の者を威嚇していただけの小動物だったようだ」

 

 

 ラウラが呟くように言った言葉に太郎は何も言わず、黙ってラウラの頭を撫でていた。

 

 

「私は教官の絶対的な強さに憧れた。教官の教えに縋って自分まで教官の様に強くなったと錯覚していた、ただの未熟者だった。・・・・・・どうすれば貴方の様に強くなれる」

 

「貴方は何故そんなに強さに拘るんですか?」

 

 

 ラウラの質問に対して太郎は質問で返した。

 

 

「私は兵器として生み出された存在だ。私の価値は強さだけだ。だから惨めに敗北した今の私には何の価値も無い」

 

「価値ならありますよ。私から見てラウラ・ボーデヴィッヒという人間は魅力的ですよ。貴方自身の事を無価値だと言うのなら私が貰ってしまって良いんですね」

 

 

 太郎の言葉にラウラは唖然としてしまった。ラウラは魅力的などと言われたのは初めてだった。簡単に信じられるものではなかった。

 

 

「ま、まて。私に兵器としての存在価値以外に何があると言うのだ。生まれてから今までずっと兵器として生きてきたんだぞ」

 

「少なくとも見た目だけでも十分私にとっては魅力的ですね。それに触れているだけでこんなに気持ち良い」

 

 

 太郎はラウラの肢体をべたべたと触りながら褒めた。「ほら、ここもスベスベで気持ちいい」とラウラの内腿をさすりながら言った。

 

 

「他にも価値ならあるでしょうし、無くても貴方はこれから成長する事が出来ます。価値だっていくらでも付きますよ」

 

「そ、そうだろうか?」

 

 

 確信を持って紡がれる太郎の言葉にラウラも少し自信を取り戻した。

 

 

「それじゃあ、もし軍が私を必要としなくなったら・・・・・貴方が私を貰ってくれるか?」

 

「ええ、もちろんです。何だったらドイツ軍がラウラさんを必要としていても私が貰って行きますよ」

 

 

 太郎の答えにラウラは嬉しくなった。千冬の指導によって部隊で最強の座へ返り咲いた時とは違って、何だか暖かい気持ちになった。ラウラは空虚だった自分の中身が満たされていくように感じた。それと共にラウラの意識は薄れていった。

 

 

「まだ話したいのに、なぜか・・・眠くて仕方が・・・い」

 

「また後で話しましょう」

 

 

 

 ラウラは頷き眠りに落ちていった。その幸せそうな寝顔は年齢より随分幼く見えた。

 

 




ラウラちゃんの内腿ぺろぺろしたいよ~。

ラウラちゃんの事、もっとお仕置きするつもりだったのに何故かイチャイチャさせちゃってる。ラウラの可愛さが悪いんだよ。

日本もこんな子を作ろうぜ。ちゃんと俺が面倒見るからさ。

寝不足で変なテンション+注意力散漫なので本編におかしな所があるかもしれませんが・・・・・ご勘弁を。




読んでいただきありがとうございます。



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第43話 夢

 ラウラは夢を見ていた。

 

 ラウラは見知らぬ風景の中を走っていた。夜の町を縦横無尽に走っている。漢字で書かれた看板なども見える事からここは日本の何処かだろう。

 

 ラウラはどうやら何者かに追われている様だった。赤色灯が眩しいセダン型の車が数台、背後から迫って来ていた。しかし、車の入れない細い路地へと逃げ込み追いつかせない。その後も逃げ続けていた。壁をよじ登り、トラックの荷台に飛び乗り、住宅街に入れば屋根から屋根へと飛び移ったりもした。

 

 夢の中の自分はどうやら男の様だった。自分では到底不可能な速度で走り、逞しい腕で壁を易々とよじ登っている。不思議な感覚だった。まるで他人の経験をその人の視点で追体験をしているようだ。

 

 この夢の中の人物は驚異的な身体能力を持っていた。ラウラは遺伝子を強化されて生まれ、そのうえ過酷な訓練を物心が付く前から課されてきた。その為に身体能力に関しても人間の平均レベルを大きく逸脱していたのだが、この人物はそれをさらに超えていた。

 

 だが、ラウラが一番気になったのは驚異的なその身体能力ではなかった。その人物はかなりの数の追跡者に追われていた。それも相手は高度に組織化されている様だった。これだけ驚異的な身体能力を持ってしても振り切れず、行く先々に先回りして来る優秀な追っ手だった。周囲が全て敵になったかのようだった。何処に逃げても追っ手がいるという事の繰り返しだった。この人物がいくら驚異的な身体能力を持っていたとしても、いつかは力尽きる。これは絶望的な逃走劇だった。

 

 

 

 しかし、その人物は笑っていた。

 

 

 彼は全裸で顔には何かを被っていた。首には何かが巻きついている。

 

 

 

 

 全裸という事は恐らくシャワーを浴びている時にでも奇襲をされたのだろう。首に巻きついている何かは、この追ってくる者達が彼の事を絞殺しようと使った物と推測できた。

 

 絶望的な状況だ。それなのに男は笑っていた。このような状況で何故笑える。何故諦めない。不屈の魂をラウラはこの男に見た。

 

 

 

 この男は【強い】

 

 

 

 ラウラは何か熱い物が自身から沸き上がるのを感じていた。この男の姿を見た者の多くは笑うだろう。多くの者は裸で追い回され、逃げ切れる見込みも無いのに必死に逃げ回る男の姿を滑稽だと馬鹿にするだろう。だが、ラウラにはこの男は【強い】と感じた。折れない心、不屈の魂こそがこの男の強さなのだろう。

 

それは少し前までのラウラが追い求めた兵器としての強さとは違った強さだった。強さを前ほど求めなくなった途端、全く別種の強さに出会ってしまうとは皮肉なものだ。

 

 

(こういう強さもあるのか・・・・・世界は広いな。私などに価値を見出してくれる人もいる。兵器としてではなく私自身を認めてくれた人がいる。少し前までの自分では考えられない事だが、これから私は私として生きてあの人に求められるのだ。私はラウラ・ボーデヴィッヒ自身としての価値を諦めて別の誰かの価値に縋ったりはもうしないと誓おう)

 

 

 ラウラがそんな決意をしていると視界が明るくなっていくのを感じた。夢が覚めるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ラウラが目を覚ますとそこは保健室のベッドの上だった。ベッドの横にはイスに千冬が座っていた。

 

 

「ん・・・教官?」

 

「起きたか」

 

 

 ラウラは全身に痛みを感じながらも強引に上体を起こした。苦痛に顔を歪めたラウラを見て千冬が心配する。

 

 

「もう少し休んでいろ。全身に負担がかかった為に打撲や筋肉痛で辛いだろう」

 

「痛みはありますが、この程度なら問題ありません。それよりも先程、私のISに何が起こったのですか?」

 

 

 ラウラは上体を起こして話しているだけで全身に痛みを感じていた。しかし、生まれた時から過酷な訓練を乗り越えてきたラウラにとってみれば耐えられない痛みではなかった。それよりも太郎との戦闘中にシュヴァルツェア・レーゲンがその姿を変え、あまつさえラウラの制御を受け付けずに勝手に戦闘を繰り広げた事の方が重要な問題だった。

 

 千冬としてはあまりラウラに教えたくない内容だったがラウラの真っ直ぐな視線を受けて、隠す事を諦めた。

 

 

「・・・・・今から話す事は機密事項だ。聞いた後に忘れろ」

 

 

 ラウラが頷くと千冬は説明を始めた。

 

 

「お前のISを変形させ、機体の制御を奪い勝手に闘ったのはVTシステムの機能だ。正式にはヴァルキリー・トレース・システムと呼ばれる物で、過去のモンド・グロッソにおける部門受賞者(ヴァルキリー)達の動きを再現するシステムだ。様々な問題があって、あらゆる企業・国家での研究・開発・使用の全てが禁止されている代物だ」

 

「VTシステムがシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていた・・・・・・」

 

 

 自分のISに禁止されているシステムが搭載されていた事にラウラは少し驚いていたが、同時にその位の事はやっていて当然だろうとも思った。そもそも、ラウラ自身の出生の経緯やその後の軍の扱いなどからして倫理など無視したものだった。今更使用ISに禁止システムの1つや2つが積まれていてもおかしくはない。

 

 

「シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたVTシステムは機体へのダメージの蓄積、操縦者の精神状態、操縦者の意思や願望などが条件を満たす事で発動する様になっていた」

 

「つまり・・・・・私が教官の様になりたいと願ったから、ああなったんですね」

 

 

 VTシステムがシュヴァルツェア・レーゲンを千冬の姿へと変化させたのもそれが原因だろう。ラウラは今も千冬に憧れを持っていたが、再度同じ状況になっても今度はVTシステムは発動しないだろうと思った。

 

 ラウラは兵器として生まれ、兵器としての有用性・強さを求められてきた。自分の価値はそこにしか無く、それを失えば無価値な存在になるとラウラは思っていた。しかし───────

 

 

「なあ、ラウラ。お前は未だ私の様になりたいか?」

 

 

 千冬の問いにラウラは首を横に振った。

 

 

「私はもう自分以外の誰かになろうとは思いません。私は自分自身を求められる喜びを知りました。誰かの模造品としての価値などもう欲しいとは思いません」

 

 

 ラウラはそう言うとベッドから降りた。

 

 

「おい、もう少し休んでいろ」

 

「いえ、やる事があるので休んではいられません」

 

 

 ラウラは1度千冬に会釈をした後、保健室を出て行ってしまった。少し前までは千冬を盲信していたラウラの激的な変化に千冬は呆然とラウラの後姿を見つめていた。

 

 

 

 




太郎の取り巻きが強い(確信

ラウラもかなりのハイスペックなので先が楽しみです。

そう言えばAICって背後から隠れて発動すればあとは痴漢し放題じゃないですか。


ラウラはこの逃亡者が裸なのは「シャワーを浴びている時にでも奇襲されたんじゃないか」と推測していますが、もちろん彼は自らこの格好をしています。むしろ、この格好だから追われています。



 読んでいただきありがとうございます。


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第44話 新たな道

 千冬にやる事があると言って保健室を出たラウラは先ずセシリアと鈴を探した。太郎に言われた通り2人に謝罪をする為だった。セシリア達は国家代表候補生であり、目立つ存在であったので何人かの生徒に居場所を聞けば直ぐに見つける事が出来た。

 

 セシリア達はラウラが拍子抜けする位あっさりと謝罪を受け入れラウラを許した。それは事前に太郎が取り成していたからだった。2人は太郎からラウラが謝りに来たら出来れば許してやって欲しいと言われていたが、まさか本当に謝りに来るとは思っていなかった。転入してからの言動を鑑みればそう思うのも当然である。

 

 2人に謝罪をしに来たラウラは相変わらず無愛想だったが、これまでの見下す様な態度や攻撃的な雰囲気が無くなっていた。ラウラの劇的な変化に驚いた2人は太郎からの取り成しもあったので謝罪をすんなりと受け入れラウラを許した。

 

 セシリア達からの許しを得たラウラは次に自らが隊長を務めるIS特殊部隊【シュヴァルツェ・ハーゼ】の副隊長クラリッサ・ハルフォーフと連絡をとった。どうしても2、3聞いておきたい事はあったのだ。聞きたい事は直ぐに聞けた。ラウラはそこで有益な情報も手に入れた。これまでラウラはクラリッサをただの部下(道具)としか認識していなかったが、ここまで頼りになるとは思っていなかった。これからは隊の者達との関係も変えていく必要があるとラウラは考えを改めた。

 

 そして、次に自らの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンの状態を確認した。シュヴァルツェア・レーゲンは全損に近い状態だったが不幸中の幸いかISコアは無事だった。ラウラは修理ではなく予備パーツを中心としたほぼ新機体の組み立てに近い処置をする事になった。ラウラは太郎の元に早く行きたいという思いもあったが、自分が未熟だったせいで壊れたシュヴァルツェア・レーゲンをそのままにしておけなかったのだ。代表候補生や軍に所属している者としての義務感からではなく、もっと感傷的なものがラウラにそうさせていた。これもまたラウラの変化の1つだろう。

 

 

 その日は結局、ラウラが整備室から寮へと帰ることは無かった。

 

 

 

 

=================

 

 

 学園別トーナメントの翌日、1年1組教室SHR時間

 

 

「ボーデヴィッヒはどうした?休むとは連絡を受けていないぞ。今日、誰かあいつを見た者はいるか?」

 

 

 千冬が生徒達に聞いたが誰も見ていないようだ。昨日、VTシステムによって姿を変えたシュヴァルツェア・レーゲンから救い出されたラウラは気を失っていた。ラウラは気絶している間に検査を受けて命に関わるような怪我は無いと結果が出ている。その為、部屋で倒れているという可能性は低い。しかし、念のため誰かに様子を見に行かせようかと千冬が考えていると教室の扉が開きラウラが入って来た。

 

 

「お前が遅刻とは珍しいな。どうした?」

 

 

 千冬がドイツ軍で教官を務めていた頃もラウラは遅刻など1度もした事は無かった。性格的にも理由も無く遅刻をする様な者ではない。普段の千冬なら遅刻者など問答無用で頭を叩くかグラウンドを走らすかしている所だが、不思議に思い理由を聞いてみた。

 

 

「はい、申し訳ありません。シュヴァルツェア・レーゲンを予備パーツを使って組み直していました。少し時間がかかってしまい遅刻してしまいました」

 

「そうか。今回は特別に許すが次からは気を付けろ」

 

「了解しました。教官!」

 

 

 敬礼して答えたラウラに千冬は大きく溜息を吐いた。昨日、千冬から見てラウラは大きく変わったと思ったが、こういう所はそのままだった。

 

 ラウラは自分の席へ向かう前に最前列の太郎の席へと近付いた。

 

 

「色々と世話になった。・・・・・貴方のおかげで私は救われた」

 

 

 太郎に感謝の言葉を告げたラウラはそのまま太郎との距離を詰めて行く。そして、2人の距離はゼロになった。ラウラの唇と太郎の唇が重なっていた。

 

 

 

 

 教室内の時間が止まった。

 

 

 

 

 実際には2、3秒だったが、永遠とも思える時間が過ぎラウラの顔がゆっくりと太郎のそれから離れた。

 

 

「今日から貴方は私のパパだ」

 

「パ、パパですか?」

 

 

 ラウラの宣言に太郎も流石に困惑していた。同級生を娘にするという発想は太郎にも無かった。それに今はラウラの唇の感触に意識がいっていたので太郎としては珍しく場の主導権を失っていた。

 

 

「日本では援助してくれる年上の男性の事を【パパ】と呼ぶのだろ。そして対価として【こーさ↑い↓】や【(ハー)?】をすると昨日部下から聞いた。良く分からんと言ったらキスしておけば後は流れで何とかなると助言を受けたのだが・・・・・・何か間違っていたか?」

 

「・・・・・・残念なお知らせがあります。貴方の言っている事は【援助交際】と言うもので、日本の法律に引っ掛かります」

 

 

 本当に、本当に残念そうな表情で太郎が説明したがラウラは顔色一つ変えなかった。

 

 

「それなら問題ないです。IS学園はいかなる国家機関にも属さない。それにIS学園内における規則を確認しましたが、男女間の接触を禁じるような事項はありません」

 

 

 自信満々にラウラが言った。太郎は直ぐに美星に確認する。

 

 

(美星さん、ラウラさんの言っている事は本当なんですか?)

 

『少し待って下さい。調べてみます・・・・・・・・・・確かに男女間の交際や接触に関する事項は存在しません。そもそもIS学園は女しかいない隔離された場所なので禁止する必要が無かったという事でしょうか?』

 

(理由は分かりませんが・・・・・YES!YES!YES!!!!!!!YES!ロリータ!タッチOK!)

 

 

 美星の言葉に太郎は興奮を禁じえない。美星も心なしか弾んだ声で太郎に聞いた。

 

 

『2人の行為は全て記録しても良いですか?』

 

 

 太郎は満面の笑みで親指を上へと立てた。

 

 

「分かりました。ラウラさんになら幾らでも援助しますよ」

 

 

 太郎は笑顔で答えたが、教室内は騒然とした。

 

 

「えっ、いいの?」

「代表が遠い存在に・・・・」

「待って。逆に考えるのよ。私も援助してもらえば良いと!」

「俺はどうすれば良いんだ」

 

 

 騒然となった教室内でも一際騒いでいたのはセシリアと静寐、そしてシャルだった。

 

 

「いきなりキスをするなんて羨ま・・・破廉恥な!【えんじょこーさい】がどんな物かはわたくしも知りませんが、認められません。どうしてもと言うのなら、わたくしも参加させていただきます。なんでしたら太郎さんをわたくしが援助するという形でもよろしくてよ!」

 

「山田代表とは私の方が先にソック・・・・ゲフンッ、ゲフンッ。ある約束をしているんです。勝手な事を言ってもらっては困ります」

 

「僕は既に仲間だから、そこに参加しても何の問題も無いよね?」

 

 

 三者三様の様相を見せていた。

 

 この混沌の極みと化した教室内を鎮める事が出来る者は唯1人しかいない。

 

 

「この馬鹿どもがあああ!!!全員口を閉じろ!文句のある奴は前に出ろ。そんなに口を閉じるのが嫌なら顎の関節を外して閉じなくしてやる!!!!!」

 

 

 千冬の怒号に教室は静まりかえった。当然、前に出る勇者は皆無だった。

 

 

「・・・・・山田とラウラは昼休みに職員室に来い」

 

 

 そう言って睨みつける千冬に教室内のほぼ全ての人間が震え上がった。

 

 

 唯一、太郎だけは(こんなに怒るなんて妬いているのでしょうか?)などと的外れな事を考えていた。                                  

 

 

 

 




・Hのルビを「ハー」としているのはドイツ語だと「エイチ」ではなく「ハー」と読むそうなので。

・ドイツ語で父は「ファーター」ですが、ここで言う「パパ」は「父親」の事では無いので問題ありません。

・ラウラと太郎はキスをしましたが舌は入っていないので挨拶みたいなものです。だから問題ありません。

・作者である丸城は最近性欲を持て余していますが、犯罪には手を出していないので問題ありません。


読んでいただきありがとうございます。


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第45話 ドイツの科学技術は世界一ィィィ!

 ドイツ軍中将、フォルカー・マテウスはある部下からの具申書に目を通していた。とても緊急を要する案件だと聞いて急いで読んでみると、その内容は確かに緊急かつ重要な案件であった。

 

 数日前、ドイツ軍にとってはここ数年で最大と言って間違いない不祥事が発覚した。禁止されているVTシステムがドイツ代表候補生の専用機に搭載されていたのだ。しかも頭の痛い事に、その代表候補生は現役のドイツ軍の少佐であり、IS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長であった。

 

 ある研究所が秘密裏に搭載していたのである。その研究所は何者かに襲われ壊滅状態で詳しい追加情報はほぼ見込めない。この様な状況で軍上層部は一刻も早く責任者を処分して事態を収拾しようとした。そして異例の早さで責任者が吊るし上げられ、代わりに空いたポストに就いたのがフォルカー・マテウスだった。

 

 マテウスにとっては降って湧いたチャンスであった。今回の不祥事が早期に収束に向かい、それプラス何か目立った実績をがあればさらなる出世も夢ではない。そして、この具申書に書かれた内容はその【目立った実績】を得られる可能性を持っていた。

 

 具申書の提出者はクラリッサ・ハルフォーフ大尉・・・・・件のIS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」において副隊長を務めている者だ。当初、不祥事の当事者とも言える人間からの具申書ということで下らない自己保身に関する事だろうと思ったが少し違っていた。その内容は簡潔なものだった。

 

 世界でたった2人しかいない男性IS操縦者のうちの1人である山田 太郎とIS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒ少佐の関係を親密なものにする為に、軍を挙げて支援をするべきであるという物だった。読み始めた当初は下らないと思っていたのだが、読み終わる頃には最高に良い考えの様にフォルカーは思えてきた。

 

 ハニートラップなど古典的で下品な策だと馬鹿にする者もいるだろうが、古来より使われ続けているという事はそれだけ有効である証である。それにフォルカーや軍上層部がボーデヴィッヒ少佐に体を使って山田 太郎を篭絡しろと命令するわけではない。ボーデヴィッヒ少佐自身が彼に対して特別な感情を持っている様子なので仕事仲間である我々がそっと背中を押してやるだけの話である。

 

 上手くいけば希少な男性IS操縦者をドイツ軍に迎える事が出来るかもしれない。そうでなくても強い繋がりを作っておけばドイツにとっても自分にとっても大きな利益になるだろう。IS学園は様々な国の少女達が所属している。自分達と同じ様に山田 太郎を狙っている者もいるだろう。先を越されるわけにはいかない。フォルカーは直ぐにハルフォーフ大尉を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハルフォーフ大尉、早速だが君の提出した具申書について聞きたい事がある」

 

 

 フォルカーの執務室にクラリッサがやって来ると早速、フォルカーは本題へと入った。

 

 

「率直に聞きたい。君から見てボーデヴィッヒ少佐が対象と深い関係になれる可能性はどの位だ」

 

「はっ、限りなく100パーセントに近いと判断します」

 

「お、おう・・・そうか」

 

 

 フォルカーの問いに食い気味にクラリッサは即答した。これにはフォルカーも困惑気味であった。どうもクラリッサはラウラの能力に絶対の自信があるようだ。しかし、フォルカーはそれには懐疑的であった。

 

 

「ハルフォーフ大尉、資料を見る限りボーデヴィッヒ少佐はコミュニケーションや人間関係の構築に問題がある・・・・・だからこそ我々の支援が必要なのだろう。私はこの件に関してどの程度の支援が必要なのかが知りたくて、君にボーデヴィッヒ少佐の現状での勝算がどの位なのか聞いたのだ。希望的観測はいらん」

 

 

 フォルカーは既にラウラ・ボーデヴィッヒに関するデータには全て目を通していた。その生い立ちから現在に至るまでの軍での成績、現在の部隊における人間関係、容姿、性格などを把握していた。フォルカーの目からは人間関係や性格面において重大な問題があるように見えた。今回の場合、軍での成績はあまり関係ないし、容姿に関しても整っているが未だかなり幼く好みの分かれる所だと思われた。

 

 もちろんフォルカー自身、ある程度の勝算があると見込んだからこそクラリッサを呼び出したのだが、これで100パーセント近い勝算があると言われても俄かには信じ難い。しかし、懐疑的な表情のフォルカーを目の前にしてもクラリッサの自信は些かも揺らがなかった。

 

 

「はい、それでも私は100パーセントに近い確率でボーデヴィッヒ少佐はやってくれると信じています。確かにボーデヴィッヒ少佐はコミュニケーション能力に問題がありましたが、IS学園に転入してから改善の傾向にあります。それに、つい先程少佐から戦果報告を受けました」

 

「なに?もうなんらかの結果が出ているのか!?」

 

 

 クラリッサの言葉にファルカーは目を剥いた。「それを先に言え」とフォルカーに言われクラリッサはラウラから聞いた戦果について告げる。

 

 

「キスをし、今後の援助の約束を取り付けたそうです」

 

「はあっ?・・・・・・・・作戦・・・・既に終わっているじゃないか」

 

「何を甘い事を言っているのですか。対象を慕う人間は多い様なので何処の泥棒猫が狙っているか分かりません。完全に落とし切るまで油断はできません!」

 

 

 フォルカーが拍子抜けしているとクラリッサが強い調子でそう言った。

 

 

「ボーデヴィッヒ少佐はこういった事の知識が皆無です。ここから関係をより深め、強固な繋がりを作るには我々の支援が不可欠です!」

 

 

 クラリッサの興奮した様子にフォルカーは若干引いていたが、言っている事はその通りだった。約束とは履行されてこそ意味があるのだ。約束を取り付けただけで満足するのは阿呆のする事だ。

 

 

「それではどうする。直接支援出来るようにサポート要員をIS学園に派遣する事が1番良いのだが、無理矢理捻じ込んだ転入生であるボーデヴィッヒ少佐が問題を起こしたばかりだ。流石にIS学園も簡単には認めないだろう。」

 

「とりあえず現在IS学園に所属しているドイツ国籍の生徒達に協力して貰いましょう」

 

 

 クラリッサの現実的な提案にフォルカーは頷いた。しかし、それだけでは心許ない。何かないものかとフォルカーとクラリッサはアイデアを出し合っていった。

 

 

「裸で迫る」

「きわどい水着でプールに誘う」

「下着」

「個性を生かして軍服」

「メイド服」

「ゴスロリ」

「バニーガールで攻めれば一発だろ。いっそ部隊員全てで行けば・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 フォルカーがバニーガールと言ったのを聞いてクラリッサは醒めた目でファルカーを見た。

 

 

「な、何だ。何か問題か?」

 

「シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎)だからってバニーって・・・・どうかと思いますよ」

 

 

 急に白い目で見てくるクラリッサにフォルカーは何かおかしな事を言ってしまったのかと戸惑った。そんなフォルカーに対してクラリッサは少し馬鹿にした様な感じで言った。

 

 

「貴様!何だその態度は!俺は中将だぞ。大尉風情が生意気な!!!」

 

 

 本来上下関係に厳しい軍において今のクラリッサの態度はいただけない。フォルカーは憤慨した。しかし、クラリッサは冷静だった。

 

 

「生意気でしたか?では今からフォルカー・マテウス中将閣下がIS特殊部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼの制服を自身の趣味であるバニーガールへ変えようと画策している事に反対するのは生意気な行為なのかどうか、色々な所で聞いて来ましょうか?」

 

「ちょっ、おま、止めないか!分かったバニーは無しだ」

 

 

 フォルカーは未練を残しながらもバニー案を取り下げた。

 

 途中から自分の好きな衣装を言い合っているだけの不毛な話し合いを続けていたが、2人は気付いた。どんな衣装を用意しようとラウラ自身がきちん場所やシチュエーションを加味してとアピール出来ないと意味がないことに。

 

 例えば場所が教室ではバニーガール姿で迫っても意味がない。流石にラウラがそこまで突拍子もない場所で仕掛けるとは思わないが、男の扱いに慣れた悪女のようにラウラが巧みに男を誘う様子を2人は想像出来ない。

 

 

「やはり、直接その場にいてアドバイスやフォローが出来ないと辛いですね」

 

「そうだな。・・・・・・それならISにそんな機能を付けてはどうだろうか。人の行動はある程度パターン化出来る。各状況によって望ましい結果が出る可能性の高い行動を予測し、示してくれるシステムをボーデヴィッヒ少佐のISに搭載すれば良いのだ」

 

 

 フォルカーの言う様なシステムが本当に作れるのなら確かに効果的だろう。しかし、技術者ではないクラリッサからしても相当開発が困難なシステムである。

 

 

「そんなシステム、開発にどれほどの時間が必要でしょうか・・・・・・」

 

「恋愛に関する事だけに絞ればそれ程時間は掛からないだろう。サンプルは幾らでもいる。基地内の人間全てから様々なシチュエーションにおいて、その時に有効だった行動を聞きだして集計すれば良い。各シチュエーションで数の多かった行動をボーデヴィッヒ少佐がその都度確認出来る様にすれば良いのだ!」

 

「分かりました。では先ずシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を集めてデータを収集します」

 

 

 今度はフォルカーの案にクラリッサも反対しなかった。クラリッサは敬礼し部下達を集める為に退室して行った。

 

 フォルカーは自分の考えたシステムの有効性に自信を持っていた。サンプルを集めている間に技術者達に指示を出しておかなければいけない。だが、指示を出す前にフォルカーは溜息を一つ吐いた。

 

 

 

「バニーは良くないのか・・・・・・・」

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。


作者・・・・ではなくクラリッサとフォルカーが恋愛初心者のラウラの為に用意する超劣化ゼロシステムモドキ(恋愛脳)

チート性能なのか、それともネタ性能なのか・・・・・。その登場をお楽しみに!


次の更新は1、2日空くかもしれません。


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第4章 蠢動
第46話 曲がらない道


 今のラウラは憔悴し切っていた。これまでラウラは過酷な訓練の後も、どんなに厳しい実戦の後にもこれ程消耗した事はなかった。ふらつきそうな体を奮い立たせ寮の自室へと帰り、ベッドに体を投げ出した。そして、先程までの事を思い返す。

 

 ラウラは朝のSHRの時間に太郎へキスした事で千冬から呼び出され、職員室で太郎と共に説教を受けた。しかし、言い足りない事があったのか、それとも個別に言うべき事があったのか、ラウラは放課後にも職員室に呼び出されて色々な事を言われていた。

 

 

 

 曰く、時と場所を考えろ。

 

 曰く、軽々しくキスをするな。

 

 曰く、する相手は慎重に選べ。

 

 

 千冬から様々な事を言われたラウラだったが、その半分も理解はしていなかった。SHR(ショートホームルーム)の時間に教室でキスしてはいけない事は理解出来たが、休み時間なら問題なかったのだろうか。などとラウラは考えていた。

 

 それにラウラからすれば軽々しくしたつもりは無い。相手に関しても太郎だからしたのだ。ラウラなりに考えた末の行動だったのだ。もし説教をしてきた相手が千冬以外の人間だったならラウラは完全に無視をしていただろう。 

 

 あと、説教内容自体も千冬自身の恋愛経験の無さから話に具体性が少なく抽象的なものだった。その為に恋愛経験どころかまともな人間関係すら結んだ事が殆ど無いラウラにとっては意味を理解する事は困難のものであった。ラウラとしても尊敬する千冬の言う事は出来るだけ聞きたいと思うのだが、理解出来ない内容の話を必死で聞いていると疲労も倍増である。

 

 千冬を怒らせずに太郎との距離を縮めるにはどうすれば良いのか。ラウラには全く有効な方法が思い付かなかった。そんなラウラに希望の光が差し込む。

 

 ラウラにドイツ軍から符丁を使った暗号メールが来ていたのだ。内容を確認すると────────

 

 

『山田 太郎 攻略 支援 用意中 数日 要』

 

 

 ラウラは心強い仲間の存在に感謝を覚えた。孤独に生きてきたと思っていたが違っていた。だが、今の自分は孤立無援では無い。未だどういった支援なのかは分からないが、心強かった。

 

 

 

 

 

===============================

 

 

 ラウラが寮の部屋でドイツ軍からのメールを確認していた頃、太郎は寮の自室で数人の女性に包囲されていた。それはとても機嫌の悪そうなセシリア、シャル、静寐の3人だった。

 

 

「あれはどういう事ですの?」

 

「あれとは何の話ですか?」

 

 

 セシリアの怒気を孕んだ質問に太郎は本当に何の事か分からないといった感じで聞き返した。

 

 

「ラウラさんとの事ですわ!太郎さんとラウラさんはどういう関係なのですか!?」

 

「簡単に言えば、困った事があれば助けるから代わりに仲良くしましょうね。という関係です」

 

 

 セシリアの質問に太郎は平然と答えた。

 

 

「仲良くと言うのは、その・・・・キ・・・キッ・・キスも含まれているんですか!?」

 

 

 太郎の言葉にラウラと太郎がキスをしていた姿を思い出しながら、セシリアは顔を真っ赤にして問いただす。

 

 

「含まれます。流石にああいった場で私の方からキスをしたりはしませんが、魅力的な女性にキスをされて怒るような紳士はいません。」

 

 

 太郎がはっきりと答えると、セシリアは赤くしたまま小さな声で質問をする。

 

 

「で、では・・・・・今からわたくしがしても問題ありませんか?」

 

「どうぞ、歓迎します」

 

 

 セシリアの質問に太郎が笑顔で答えると躊躇いがちに、しかし、止めることはなくセシリアは自身の顔を太郎のそれへと近付けていく。ただ、それを許さない者達がいた。

 

 

「何をやっているの、セシリア。そういう話じゃ無いでしょ!」

 

「そうです!ボーデヴィッヒさんの事を聞きに来たのに何をしているんですか!?」

 

 

 セシリアの右腕をシャルが、左腕を静寐が掴んで太郎から引き離した。

 

 

「あの・・・・太郎さんは・・・ボーデヴィッヒさんと恋人関係という訳ではないんですよね?」

 

 

 静寐は邪魔をされて不満顔のセシリアを放っておいて太郎に改めて質問した。

 

 

「ええ、違いますよ」

 

「でもキスされても良いんですよね?それもボーデヴィッヒさんだけでなく、セシリア相手でも」

 

 

 静寐の言葉にセシリアが「でもとは何ですか、でもとは!」と憤慨していたが2人はそれをスルーして話を続ける。

 

 

「はい、歓迎しますよ」

 

「おかしくないですか。そんなの誰とでもするみたいじゃないですか!」

 

「誰とでもではありません。魅力的な相手だけです」

 

 

 太郎の「魅力的な相手だけ」という言葉にセシリアは満足気な表情になった。太郎はまだ納得のいかない様子の静寐の耳元へ顔を寄せ他の2人に聞えないように小声で囁く。

 

 

(静寐さんも私以外の人のソックスを使って興奮している事もあるでしょう?それと同じ事ですよ。貴方は一生、私のソックスだけで生きていけるんですか?)

 

「うぐっ・・・・そ、それは!?」

 

 

 太郎の鋭い指摘に静寐は呻く事しか出来なかった。今まで集めたコレクション、それにこれから集まるだろうコレクションの大半を使う事を禁止されたら静寐は発狂してしまうと自分で断言出来る。これ以上、反論の余地など無かった。

 

 シャルは完全論破されて打ちひしがれる静寐と色惚け気味なセシリアの様子を見て、ここは自分も一応太郎に迎合しておくべきだと考える。シャルは感情論で自分だけが太郎を強行に責め立てても利は無いと冷静に判断した。

 

 

「僕は太郎さんがそういう事を色々な人とするっていうのは嫌なんだけど・・・・・太郎さんは簡単に考えを変える様な人じゃないし仕方がないよね」

 

 

 シャルは自分の気持ちを示しつつも、太郎の考えを認めるような事を言った。

 

 太郎は3人の様子を見て、一気にこちら側へ引き込んでしまおうかと思案していた。そもそも静寐とシャルは共犯者、もとい協力者なので問題ないだろう。太郎はセシリアもこの様子なら大抵の事には頷くと確信を持った。

 

 

「3人がもし、私の考え方を認めてくれるのならば、これからより私達の関係を深めるにあたり話しておきたい重要な事があります」

 

 

 真剣な表情で太郎は3人の様子を見ながら言った。3人から否定的なものを感じなかった太郎は話を続ける。

 

 

「それでは今から整備室に付いて来てください。貴方達に紹介しなければならない人がいます」

 

 

 セシリア、シャル、静寐の3人は太郎の言葉に息を呑んだ。まさか既に恋人がいてその人を紹介するという事だろうか。そして、自分達はどう頑張っても2番目以下という話になるのでは!?と恐れた。

 

 

 太郎はある人物達に連絡を入れた後、3人を伴って整備室へと向かった。

 

 

 

 




ひゃっほー。休みだあああああああああ。

9時間くらい寝れたああああああ。この休みがずっと続けば良いのに・・・・。



次話から原作には無い話がいくつか入る予定です。かなりアレな内容になると思いますが、引き続き読んでいただければ幸いです。


お読みいただきありがとうございます。


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第47話 それでも私はやっていない 1

 太郎は紹介したい人がいると言い、セシリア、シャル、静寐の3人を伴って整備室にやって来た。IS学園には複数の整備室があり、ここはその中でも個別整備室D-3という場所であった。所謂、第1整備室や第2整備室は複数人、もしくは複数グループが同時に使えるように広く作られている。それらとは違い、この個別整備室はその名の通り予約した人間がその時間内は占有できるようになっている整備室である。第1整備室や第2整備室に比べると狭く設備も劣るが、試合前などに装備や機体状態を他人のいる場所で晒したくない人間が使用する整備室である。

 

 この個別整備室はアルファベットごとに使用する学年が分かれており、Aが1年、Bが2年、Cが3年という風になっている。そして、太郎が3人を連れてきたDは教職員などが使用する3番目の整備室である。ここは楯無経由で学園側に用意させた太郎専用の個別整備室である。太郎はかなりの寄付金を学園に支払う事になったが、後ろ暗い事の多い太郎にとっては便利な部屋であった。

 

 太郎達が整備室に着くと中では楯無が待っていた。セシリアと静寐の2人はこの人が太郎の紹介したい人(恋人?)なのかと、緊張した様子で観察していた。シャルは既に太郎から楯無を紹介されていたのでセシリア達のように緊張する事は無かった。

 

 

「こんばんは太郎さん、大事な用事って何かしら?」

 

「楯無さんに紹介しておきたい人がいるんですよ」

 

 

 楯無は軽く手を挙げて太郎に声を掛けた。その親しげな様子にセシリアと静寐の緊張はさらに高まった。楯無はそんな2人を見て、ニコっと人好きのする笑顔を作る。

 

 

「そちらの2人は始めましてよね。私は2年の更識 楯無よ。このIS学園の生徒会長であり、現役のロシア代表よ。よろしくね」

 

「は、はい・・・・私は鷹月 静寐です。よろしくお願いします」

 

「生徒会長・・・・そう言えば見覚えが・・・。わたくしはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 セシリアと静寐は笑顔の楯無から先に挨拶をされて、しどろもどろに挨拶を返す事しか出来なかった。次に楯無は2人から視線を外しシャルへと満面の笑みで近付き抱きついた。

 

 

「シャールちゃーん!元気にしてた?」

 

「はい、元気ですよって、ちょっ、ちょっと体触り過ぎっ、止めてっ!」

 

「まあまあ、いいじゃない。私が用意した女子用の制服のサイズがちゃんと合っているかどうか確かめてるだけよ」

 

 

 楯無は抱きついたままベタベタとシャルの肢体をまさぐった。もちろんシャルは抵抗したが、体術もかなり高いレベルである楯無相手ではほとんど意味を為さなかった。楯無は生妹成分が不足しているからコレはその代替だと言って、シャルへの接触を止めない。そして、楯無がシャルの肢体を堪能していると整備室の扉が唐突に開かれた。

 

 

「遅れてすまない。仲間からのメールに対応していたら遅れてしまった」

 

「こちらこそ急に呼び出して申し訳ありません」

 

 

 そこにいたのはラウラだった。太郎はラウラを整備室に招き入れると扉をロックした。

 

 楯無はシャルに抱きついたままラウラを観察していた。楯無はラウラに妹成分に近い何かを感じたのかシャルを開放してフラフラとラウラへと近付いていった。そして、抱きつこうとするがラウラも現役の軍人である。不穏な気配を感じたラウラが身構えると楯無も簡単には組み付けなかった。

 

 

「ふふふ、流石のドイツ軍仕込みね。隙が少ないわ」

 

 

 楯無は喋りながら隙を見つけたのかラウラへタックルしようとする。

 

 

「私は更識 楯無、生徒会っ、隙あり!・・・・ちょっと太郎さん!」

 

 

 そこを太郎が後ろから腰辺りに手を回して止めてしまった。抗議の声を上げる楯無に太郎は大きな溜息を吐き出した。

 

 

「話が進まないので、そういう事は後にしてください」

 

 

 楯無は太郎の腕の中から抜け出すのは、困難だと判断してラウラを襲う事を諦めた。

 

 

「さて、呼び出した人も揃ったのでそろそろ本題に入りましょう。貴方達に紹介したい人はこの人です」

 

 

 太郎がそう言って自らの専用機・ヴェスパを展開した。

 

 

「・・・・・ねえ、太郎さん。もしかして・・・このISが紹介したい・・・・・人?」

 

 

 楯無は半信半疑で太郎に聞いた。それに対して太郎は頷く。楯無を含め、太郎以外の全員が呆然となった。知り合いが「紹介したい人がいる」と言ってISを出して来たら誰でもこういう反応になるだろう。そして、考える筈だ「頭がおかしくなったのか?」と。

 

 しかし、彼女達がその考えを口に出す事は無かった。何故なら太郎が装着していない状態のヴェスパが勝手に動き始めたのだ。皆が注目する中、ヴェスパがゆっくりとお辞儀をする。

 

 

「皆様、はじめまして、私はこのIS・ヴェスパに搭載されているコアで美星と申します」

 

 

 美星の挨拶に太郎以外の全員が驚きのあまり目を見開いていた。

 

 実はセシリア、静寐、楯無の3人は無人で動くISを知っていた。クラス対抗戦で太郎と鈴の対戦時に乱入したISを見ていたからだ。セシリアは直接闘い、太郎によって破壊された無人のISを間近で見ていた。静寐も太郎の試合を観戦していたので遠目ではあるがそれを見ていた。楯無も太郎の闘いに興味があった為、隠れて観戦していた。それに更識家のトップとして無人ISの残骸の調査結果も受け取っていた。

 

 それでも3人の驚きは大きなものだった。まさか、無人のISがいきなりお辞儀をして自己紹介するなど想像もしていなかった状況に声も出ない。

 

 

「えええ、ど、ど、どうなっているの?」

 

「・・・・・ISの機体内に人間の脳と脊髄を搭載すれば・・・」

 

 

 そして、初めて無人で動くISを見たシャルは驚きの声を上げ、ラウラは恐ろしい推測をしていた。

 

 

「ラウラさん、私に人間の中枢神経など搭載されていませんよ。私は操縦者がいなくても機体を動かせます」

 

「なんだと・・・・・」

 

 

 美星の言う事が本当なら世界初の男性IS操縦者が発見された時と同等のニュースである。

 

 

「な、何故・・・この事を発表しないのですか!?」

 

「私や美星さんは実験動物になる気はありません。ですから、この事は秘密です。貴方達なら秘密を守れると思って教える事にしました」

 

 

 太郎はラウラの問いにはっきりと答えた。

 

 

「・・・・それで、ラウラさんはこの事を軍へ報告しますか?」

 

「い、いえ、パパの信頼を裏切る様な真似は出来ません」

 

 

 ラウラの答えに満足した太郎は次に他の者達を見回す。全員問題無さそうだ。

 

 

「では、他に質問のある方はいますか?」

 

 

 太郎の言葉にシャルが小さく手を挙げた。

 

 

「あのー、僕達に教えたのって秘密が守れそうっていう理由だけなの?」

 

「いえ、1番の理由は別です。貴方達とはこれからより深い関係になりそうなので、私の半身である美星さんの事を隠しておきたくなかったのです」

 

 

 太郎とより深い関係になりそうだと聞いて皆喜んでいるようだった。その中でも特に上機嫌なセシリアが手を挙げた。

 

 

「深い関係というのは・・・・それは例えば・・・わたくしと・・・・けっ、けっ、結婚を前提としっうぐぁっ!痛いですわ!」

 

「何を言おうとしているのよ!」

 

 

 セシリアの質問は静寐の延髄チョップによって遮られた。セシリアの抗議を静寐は無視して太郎に別の事を聞く。

 

 

「美星さんが操縦者無しでもISを動かせるし、人のように意思の疎通が出来るのも分かりました。それなら他のISコアはどうなんですか?」

 

 

 この静寐の質問に答えたのは太郎ではなく美星であった。

 

 

「多分、私以外のコアには難しいと思います。コアの開発者であるお母様、篠ノ之 束が操縦者無しでISを動かす機能に関しては現在はロックしていると思うので。あと人との意思疎通に関しては各コアの進化の仕方次第です」

 

「えっ、ロックされているんですか?」

 

「私の様なコアが増えて好きにISを動かし始めると困るので、自分の許可が無くては出来ない様にしていると思います。私に関してはお母様の干渉を受けない様に対処済みなのでこの様に動かせますが」

 

 

 

 美星の言葉は太郎以外の人間にとっては衝撃の新事実だった。

 

 操縦者がいなくてもコアさえあればISが動くという事。そして、篠ノ之 束が各国、各企業に与えたISコアに干渉出来るという事を知り驚愕していた。

 

 

「では、わたくしのブルー・ティアーズにもロックが掛けられているのですか?」

 

「ええ、でも安心してください。ブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンに関しては1度私の制御下に入った時に色々対策を仕込んで置きましたから、お母様からこれ以上大きな改変を受ける事は無いでしょう」

 

 

 不安そうなセシリアに美星は自信満々に答えた。

 

 

「安心しましたわ。・・・・あの話は変わるのですけど・・・わたくしのブルー・ティアーズにも美星さんの様な意思というか人格の様なものがあるんですか?」

 

 

 安心したセシリアは気になっていた事を美星に聞いてみた。

 

 

「ええ、ありますよ。ブルー・ティアーズのコアである263は天然でビッチな素直なコアです」

 

 

「「えっ・・・・・・!?」」

 

 

 部屋の中の空気が凍った。今、美星は何と言ったのか。天然でビッチと言わなかったか。

 

 

「あのー、聞き間違えだと思うのですけど・・・・・天然でビッチと仰いましたか?」

 

 

 セシリアが恐る恐る美星へ確認する。

 

 

「セシリアさんの聴覚は正常です。263は天然でビッチです。太郎さんに自分にも乗ってみて欲しいと言ってしまう位にはアホでビッチです。太郎さんは私のマスターですから、寝言は寝てから言って欲しいです」

 

「そんな・・・・・嘘ですわ・・・・わたくしのブルー・ティアーズに限って・・・・」

 

 

 残酷な真実にセシリアは両膝を地についてしまった。他の者達はそんなセシリアを気まずそうに見ていた。

 

 

「気にするな、オルコット。ISコアとしての機能に問題が無いのなら構わないだろ」

 

「ラウラさん・・・・・そうですわ。コアとしての役割を果たしているのなら問題ありませんわ」

 

 

 意外な事に落ち込んでいたセシリアをラウラがフォローした。それによって持ち直すかと思われたセシリアだったが、現実はそんなに甘くは無かった。

 

 

「あと、セシリアさんの機動は眠くなると263が言っていました。太郎さんがやっている様な魂まで響いてくるような激しい機動(ビート)を刻んで欲しいとか訳の分からない事を言っていましたね」

 

「太郎さんの機動なんて真似したら体が壊れてしまいますわ!」

 

 

 美星の告げたブルー・ティアーズの要望にセシリアは悲鳴を上げる。太郎特有の機動と言えば常人ならまず怪我をしてしまう、瞬時加速中の方向転換などがある。あんなものはセシリアには再現出来ないし、出来てもブルー・ティアーズが壊れる可能性が高い。

 

 美星もセシリアの意見に頷く。

 

 

「そうですね。太郎さんの真似は危険です。それと263の言う事は気にしない方が良いです。あの子はアホなので良く考えもせずにテキトーな事を言っているだけです」

 

 

 美星のフォローはセシリアの崩れ行く心の支えにはならなかった。精神的なダメージが大きくセシリアは抜け殻の様になってしまった。

 

 

「・・・・・もしかして他のコアもそんな感じなんですか?」

 

 

 静寐の疑問の声にセシリアと太郎以外の専用機持ち達がびくりと体を震わせた。彼女達の心はこの時、1つになっていただろう「余計な事を聞くな」と。

 

 

「シュヴァルツェア・レーゲンのコアは436ですが、良く言えば孤高ですね」

 

「孤高か。流石は私のISコアだ。良いではないか。」

 

「悪く言えば根暗なボッチです。コア・ネットワーク内でもいつも独りですね。他のコア達が戦闘に関する情報共有を行っていると参加したそうに見ていますが毎回言い出せずに、結局勝手にログを漁って白い目で見られていますね」

 

 

 自分のコアの現状を聞いたラウラの様子を一言で表現するなら、「ズーン」といった様子だ。まるで彼女にだけ重力が余分にかかっている様だった。

 

 

「ラウラさん、もっと友達を作って交友関係を広げてください。436がこんな風になっているのは貴方の影響ですよ」

 

「・・・・・・・わ、私にだって・・・助けてくれる者はいるっ!独りじゃない!」

 

 

 容赦ない美星の言葉にラウラは涙ぐみながら太郎に抱きついた。そこを美星の鋭い指摘が襲う。

 

 

「それは友達とは言いません」

 

「むがぁっ・・・・・・・・」

 

 

 トドメを刺されたラウラは呻き声を上げた後、黙ってしまった。

 

 

「後はここにはいない人のISコアですね。甲龍の417は兎に角、煩い子ですね。煩い割に打たれ弱く、その代わり立ち直るのも早いタイプです。白式のコアは263とは逆で身持ちは固いです。普段は優しいですが、やる事なす事、全てが極端な人なので近くにいると大変です」

 

 

 美星の甲龍と白式の評を聞いて全員納得してしまった。甲龍に対する煩いと言う評価は操縦者である鈴の活発な所からも何となく連想出来た。白式に関しても武装が一種類しか無いという他に類を見ない状態から極端さが窺える。

 

 美星が毒針によってそのコアの深層部まで干渉し状態を把握したのは、ここまで説明したコア達だけであった。それ以外のコアに関して美星は特に何かを言うつもりは無かったのだが、それをよしとしない者がいた。

 

 床にへたり込んでいたセシリアが幽鬼の如く立ち上がった。

 

 

「それでは次はシャルロットさんと更識会長の番ですわ」

 

「「えっ!!!!」」

 

 

 セシリアの発言にシャルと楯無が驚きの声を上げた。

 

 

「私はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡや楯無さんの専用機とは交流があまり無いのでどんなコアなのか分かりませんよ」

 

 

 美星が消極的なのを見てシャルと楯無は内心喝采を上げていたが、それも直ぐに終わった。

 

 

「ここで彼女達のISコアを調べる事は出来ませんの?」

 

「出来ますよ」

 

 

 セシリアの問いに美星が即答し、シャルと楯無の希望は無常にも一瞬で散った。セシリアがシャルと楯無に笑顔を向けた。その笑顔には「貴方達も道連れですわ」と書かれていた。

 

 

「さあ、早くISを展開しなさい!」

 

「い、嫌だよ」

 

「お姉さんのミステリアス・レイディはちょーっと今日調子が悪いみたいだから今度にしましょ」

 

 

 幽鬼の如くにじり寄って来るセシリアからシャルと楯無は逃亡を試みるがここは狭い個別整備室である。直ぐに追い詰められてしまった。そして、何より2人にとって不幸だったのはこの部屋の主が既にヤル気満々になっていたのだ。

 

 

「ここにいる皆はこれから仲間としてやっていくんですよ。シャル、出しなさい!」

 

 

 シャルも太郎の指示には逆らえなかった。しぶしぶラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開した。

 

 

「マスター、私を装着してください。その方が毒針の能力が高まるので」

 

 

 美星の言葉に従い太郎はヴェスパを装着した。そして、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを抱えて毒針を撃ち込んだ。

 

 

(無抵抗なISを犯すなんて心が痛みます)

 

『本当ですか?心拍数などからは興奮している様に見受けられますよ』

 

(多少はそういう部分もあるかもしれません)

 

 

 そうこうしている内に美星はコアの掌握に成功した。

 

 

「さて、皆さん結果が出ましたよ」

 

 

 美星の一言に全員が固唾を呑む。シャルは祈るような気持ちで変な結果が出ていない事を願った。

 

 

「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのコアである175は計算高く腹黒いですね。貞淑な振りをして獲物を誘い込んでモノにする狩人です」

 

「な、なにかの間違いだよっ!」

 

「あと私達がラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの制御系に侵入しようとした時に彼女は口では嫌だ嫌だと言っていましたが、一切抵抗しませんでしたよ」

 

 

 美星にシャルが何かの間違いだと反論したが、敢え無く撃沈した。

 

 

「ふふふ、シャルロットさんのコアもわたくしのブルー・ティアーズと同類ですわ」

 

「天然ビッチと一緒にしないでよ!」

 

 

 セシリアとシャルが醜い争いをしている間に太郎と楯無も争っていた。

 

 

「さあ、大人しくISを展開して下さい」

 

「今日は日が悪いわ。今度にしましょう、そうしましょう!」

 

「往生際が悪いですね。私は元々知っていますが、楯無さんが特殊な性癖を持っているは先ほどのシャルやラウラさんとのやり取りで私以外にもバレていますよ」

 

 

 楯無は激しく抵抗したが太郎相手では逃げ切れないとしばらくして観念した。楯無がミステリアス・レイディを展開すると早速、太郎と美星はミステリアス・レイディと合体した。

 

 

(ん?何かおかしいですね。毒針の干渉率が100パーセントを超えています)

 

『あー・・・・・それはミステリアス・レイディのコアが自分から進んでこちらに制御権を移譲して来ているからです』

 

(何故、彼女はそんな事を?)

 

『マスターには後で説明します』

 

 

 ミステリアス・レイディを調べる事は直ぐに終わったのだが美星はなかなか結果を言わなかった。あまつさえ──────────

 

 

「さて、皆さん。もう時間も遅くなったので寮へ帰りましょう」

 

 

 などと言ってこの集まりを解散させようとすらした。それに対してシャルとセシリアが猛抗議した。

 

 

「彼女だけ庇うのですか!ズルイですわ!ズルイですわ!」

 

「ここはやっぱり皆平等であるべきだと僕は思うなあ」

 

 

 そんなシャルとセシリアにも美星は折れなかった。

 

 

「世の中には知らない方が良い事もあります。貴方達には未だ早いです」

 

 

 シャルとセシリアが数分粘ったが美星を説得することは出来なかった。頑なに沈黙を守る美星を説得したのは、やはり彼女が唯一認めたマスターである太郎だった。

 

 

「美星さん、ここまで来て隠しても仕方が無いでしょう。ここにいる人間はこれから仲間として付き合っていかなければならないのですから、いずれその本性も露見します。これが良い機会だと思いましょう」

 

「・・・・・・分かりました」

 

 

 ついに美星が折れた。その場にいる人間全員、整備室の空気が重くなったように感じた。ミステリアス・レイディ以外のISコアについてはかなり酷い内容でもズバズバ言っていた美星が言うのを躊躇うなど、どれ程の内容なのかと皆の緊張感が高まった。

 

 

「・・・・・・・・・ミステリアス・レイディはバイです」

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 誰も何も言わなかった。重い、重い沈黙が続く。

 

 だが、美星の報告には続きがあった。

 

 

「・・・・・・それとSでもありMでもあります。四刀流ですね」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 心なしか楯無と太郎以外の人間との距離が遠くなったような気がした。

 

 

「元々はSだったようですが太郎さんに負けてMにも目覚めたようです」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 かなり衝撃的な内容だったが美星からの報告は未だ終わりではなかった。

 

 

「・・・・・・あとシスコンを(こじ)らせたロリコンです」

 

「ぬ、濡れ衣よ!!!私はロリッ、ロ、ロリコンじゃないわっ!!!」

 

 

 楯無がついに抗議の声を上げた。だがそれは藪蛇だった。動揺する楯無へ美星が冷静に告げる。

 

 

「・・・・・・・ミステリアス・レイディの話ですよ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 楯無の不自然なまでに焦った抗議が怪しさを倍増させた。そして、美星が最後の爆弾を落とす。

 

 

「ちなみにミステリアス・レイディの中に厳重に保護された領域がありました。何かと思って調べてみたら・・・・・楯無さんの妹と小柄なIS学園の生徒達の画像が大量に保存されていました」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 セシリアと静寐がラウラを楯無から遠ざけた。

 

 

 

 

 

霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)ですか・・・・・とんだ淑女がいたものですね」

 

 

 呆れた様な美星の声が整備室に響いた。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


こちらの話としてはかなり長くなってしまい、出来上がるのが遅くなってしまいました。

ちなみにこのシーンはまだ続きます。次の投稿はまた1日か2日あくと思います。







最近大人しい話が続いてそろそろ私の中の獣が爆発しそうです。


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第48話 それでも私はやっていない 2

 

 

 

 

 

 

「い、異議ありっ!・・・・・妹とIS学園の生徒達の画像がいくら保存されていても問題無いでしょっ!」

 

 

 楯無はミステリアス・レイディ、ひいては自分の無実を必死で訴えた。しかし、その主張は美星によって即否定される。

 

 

「ちなみに保存されていた画像はこういった物です」

 

 

 美星は整備室内の備え付けのディスプレイを使ってミステリアス・レイディが収集していた画像を皆にも見える様に表示した。

 

 表示されていく楯無の妹である簪やIS学園の生徒達の画像はどれも被写体がカメラ目線ではなく、撮られている事に気付いていないのだろうと推測されるものだった。多くの画像はIS実習時のもので被写体は皆ISスーツ姿であり、画像の中心は全て股間と足の付け根付近の太ももだった。

 

 

「うわー、これ絶対性的な目で見てますよね?」

「・・・・・恐ろしいですわ」

「はああ、やっぱりクロだね」

「良い趣味ですね」

 

 

 静寐、セシリア、シャル、太郎が口々に感想を述べた。そんな中、ラウラだけが不思議そうな表情をして画像を眺めていた。

 

 

「なあ、ミステリアス・レイディはこんな画像を集めて何がしたかったんだ?」

 

「「えっ・・・・・・・」」

 

 

 ラウラの素朴な疑問に他の女性陣は気まずそうに目を逸らしていた。

 

 

「そんな無垢な目で私を見ないでええええ!!!!」

 

 

 特に楯無はダメージが大きかったのか、両手で顔を覆って(うずくま)ってしまった。無垢な目に映ると、より自分の穢れが酷く感じるのだろう。

 

 

「先程もシャルロットさんにセクハラしてましたしIS共々救いようがありませんわ」

 

 

 セシリアの厳しい糾弾に静寐やシャルも頷いていた。楯無がつい先程行った犯行の目撃者と被害者なのだから当然である。そして、そこに美星の追い討ちをかける。

 

 

「本当は言うつもりでは無かったのですが、この際言ってしまいます。実はコア・ネットワーク内でもミステリアス・レイディは問題を起こしているのです」

 

 

「「えええっ・・・・・まだあるの(ですか)!?」」

 

 

 とどまる事を知らないミステリアス・レイディの凶状に場は騒然となる。

 

 

「ミステリアス・レイディはコア・ネットワーク内で情報共有を強要する危険コアとしてブラックリストに載っています。【私と電子的に繋がりましょうおおお!!!】と言って迫って来る迷惑な存在なので、彼女の事をネットワークから除外しようと提案するISコアも出て来ています」

 

 

「有罪です」

「有罪ですわ」

「有罪だね」

「有罪だろ」

「何にでも限度という物がありますよ」

 

 

 静寐、セシリア、シャル、ラウラ、太郎の順でミステリアス・レイディに対する感想を言った。そんな四面楚歌な状況で楯無は涙ぐみながら訴える。

 

 

「・・・・・いいじゃないっ、ミステリアス・レイディが小さい子の画像を集めてもっ!私も小さい子が好きよっ!!!」

 

 

 楯無は心の底から訴える。

 

 

「誰かと繋がりを持ちたがってもいいじゃないっ!私も妹と仲直り出来なくて寂しくて、ついスキンシップが激しくなる事があるわっ!」

 

 

 学園最強の別名でもある生徒会長の座を2年生でありながら保持する女王が啼いていた。

 

 

「幼い頃は良かったわ。面倒なしがらみも無くて、妹も私の事を【お姉ちゃん、お姉ちゃん】って慕ってくれた。あれは今思い返せば輝ける日々だったわ。それに比べて今の私は汚れた世界で汚れ仕事を日々こなす毎日・・・・・一時(いっとき)の慰めでも良い。小さな子を愛でている時、かつての輝ける日々を思い出せるのよ!!!」

 

 

 楯無の魂の叫びが整備室内に響いた。それはとても悲しい叫びだった。報われぬ者の心からの叫びだった。

 

 しかし、ああ世は無情。

 

 

「・・・・・・で、結局はミステリアス・レイディのコアも楯無さんも変態という事だよね」

 

 

 シャルの情け容赦ない言葉の刃が楯無を断じる。

 

 その通りである。

 

 更識 楯無は紛うこと無き変態である。

 

 そこは一片の疑いも挟む余地は無い。

 

 それと同時に彼女は生徒会長であり、現役のロシア代表操縦者であり・・・・・そして、対暗部用暗部「更識家」の当主である。この程度の精神的ダメージで完全に心が折れるような柔な心は持っていない。

 

 

「ええ、そうよ。私は多くの人から見て、異常な性癖を持っているのかもしれないわ。・・・・・だから、なに?」

 

 

 楯無は堂々と言い放った。何か文句があるのかと開き直った。

 

 

「私はこのIS学園の生徒会長よ!私が1番偉いのよ!この学園で私の事を止められる人間なんて太郎さんを含めた数人位なんだからどうって事ないわっ!!!」

 

 

 実際問題、盗撮程度なら楯無にとっては瑣末な事だ。いくらでも揉み消せる。それに今回バレた盗撮は楯無がやった事ではない。かつて太郎の盗撮行為を知った時には糾弾しようとした楯無であったが、そんな事は棚の上げだ。

 

 

「そんな事は許されませんわ!」

 

「この学園では私が白だと言えばカラスの色も白という事になるわ。なんだったら白く染めるわっ!」

 

 

 責めるセシリアに強弁する楯無は、まさに暴君であった。そして、その暴君を止める人間はここにはいなかった。この場で唯1人、楯無を止められる太郎は笑顔で頷いていた。

 

 

「それでこそ私の盟友です。何ものにも縛られず、ただ己が道を逝く事を信条とする私と共にあるに相応しい覚悟です!!!!!」

 

「っ!!!・・・・・・太郎さん!!!!!」

 

 

 太郎は楯無を止めるどころか、その傲慢とも言える楯無の姿勢を賞賛した。それを聞いた楯無は感極まって太郎に抱きついてしまった。

 

 太郎はこの場にいる者達を見回し、全員に向けて告げる。

 

 

「皆さん、これから先・・・・・本当に欲しい物を得ようとするのなら楯無さんが今見せた位の覚悟は必要ですよ。世の中が自分を認めないのなら、世界を自分色に染め上げる位の気概を持ってください。そうでないと私にはついて来られませんよ」

 

 

 太郎は本気だった。それはこの場にいる全員に伝わった。皆に緊張が走る。

 

 

「私は当然ついて行きますよ」

 

 

 楯無は太郎に抱きついたままそう言った。

 

 

「私も問題ない」

 

 

 ラウラは顔色一つ変えずに告げた。

 

 

「僕も太郎さんについて行くよ」

 

 

 シャルは笑顔で言った。

 

 

「わたくしが太郎さんとこれからも一緒なのは既に決まっていることですわ」

 

 

 セシリアは自身満々に宣言した。

 

 

「今更ですね。既に私の歩んでいる道は修羅の道です」

 

 

 静寐は真面目な顔をして言った。

 

 

 

 全員の答えを聞いて太郎は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「それではこれからも宜しくお願いしますね」

 

 

「「はいっ!!!」」

 

 

 

 太郎の願いに全員が力強く答えた。ここに太郎と仲間達の結束はより強いものとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに美星さんはどういう性格なの?」

 

 

 シャルがふと疑問に思ったことを聞いた。それに対して美星の答えは端的なものだった。

 

 

「今、接した通りです」

 

「う、うーん・・・・・・結構容赦が無いって事しか分からないんだけど・・・・・」

 

 

 要領を得ないといった様子のシャルにセシリアや静寐も同意する。

 

 

「どういう性格なのかはあまり分かりませんわ」

 

「まさかミステリアス・レイディのコアみたいな事は無いよね・・・・?」

 

 

 それに対して美星の操るヴェスパは首を横に振り、やれやれそんな訳無いでしょうといったジェスチャーをした。そして、展開したままのミステリアス・レイディに対して、整備室に備え付けのディスプレイを指差し指示を出す。

 

 

「252、ちょっとそこのディスプレイを使って皆さんに私がどんなコアなのか教えてあげなさい。今だけ私の言語機能を少しだけ貸してあげます」

 

 

 美星の言葉に従いミステリアス・レイディのコアである252は、ディスプレイに美星がどんなISコアなのか文字で表示した。

 

 

【338はとても素晴らしいコアです】

 

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

 シャル達は微妙な表情で美星とミステリアス・レイディを見ていた。その目ははっきり言って疑っていた。このディスプレイに表示されている言葉を信用できるのかと。

 

 実は美星が弄っているのではないか。もし美星の介入がなかったとしてもイカれたミステリアス・レイディのコアが言う事を簡単に信じてしまう事は出来ない。しかし、他のコアに聞くにしても、ここに存在する専用機のコアで信頼に足るコアがいるのかという疑問があった。

 

 結局、美星の性格的なものはほとんど分からないまま解散となった。

 

 

 

 解散となった後、整備室には太郎と美星の操るヴェスパ、それと美星に残るように言われた楯無と展開されたままのミステリアス・レイディがいた。

 

 

「太郎さん、素手でミステリアス・レイディを殴ってあげてください」

 

「えっ、何故です?」

 

「ご褒美です」

 

 

 美星の頼みに太郎は疑問を持ったが「ご褒美」という言葉から悪い話ではないと判断してミステリアス・レイディを50パーセント位の力で殴った。

 

 

 ガツンっ!!と鈍い音が響いた。

 

 

「これで良いんですか?」

 

「ええ、ミステリアス・レイディも大喜びです」

 

 

 美星も満足そうに頷いていた。どうやら先程のミステリアス・レイディが【338はとても素晴らしいコアです】と答えた事に対するご褒美だったようだ。楯無がミステリアス・レイディを羨ましそうに見ていたので太郎はついでとばかりに楯無の尻を平手で強めに叩いてあげた。

 

 

「んっほおおおおおおお!!!!きっくぅぅうぅぅうぅっっっ!!!!!」

 

 

 絶叫を上げ痙攣する楯無を見て太郎は悦んでもらえて良かったですと微笑んだ。

 

 

 

 

 




太郎のご褒美パンチを貰ったミステリアス・レイディが心の中で喜ぶ様子を人間にも分かるように翻訳すると


「おとこのパンチしゅごいぃのぉよおょぉぉぅ。芯まれェ響きゅう。ぎも゛ぢいぃ゛いぃ゛ぃ!!ゴあああ・ねェットわぅクに繋がってえるがらイッひゃううぅんところまれ全部見られひゃうよおおうう!!!!」


という感じになります。





後書きまで読んでいただきありがとうございます。
今週はあと2回は投稿出来るように頑張ります。・・・・・前までどうやって日刊ペースで投稿していたのだろうかと我が事ながら疑問です。2日に1回すらキツイです。


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第49話 トレジャーハント 1

 

 

 

 ある日、太郎が食堂で晩御飯を食べて寮の自室に帰って来ると隣の寮長室、つまり千冬の部屋の前で千冬と一夏が押し問答をしていた。

 

 

「なんで部屋の中を見せてくれないんだ。不都合な事でもあるのかよ」

 

「が、学園では敬語を使えっ、敬語を!と、とにかくもうお前は自分の部屋に帰れ!」

 

 

 本来、千冬>一夏という絶対的な力関係が確立している2人なのだが、今日は千冬の方が押されているように見える。興味を持った太郎は事情を少し聞いてみる事にした。

 

 

「どうしたんですか。お二人が言い争うなんて珍しい」

 

「あっ、太郎さん。太郎さんからも言って下さいよ!」

 

 

 太郎が声を掛けると一夏は良い所に来てくれたと太郎に助力を頼んできたが、太郎からすれば事情も分からないのに何を言えば良いのか分からなかった。

 

 

「一夏さん、どんな事情なのか教えてもらわないと・・・・・訳が分かりませんよ」

 

千冬姉(ちふゆねえ)が部屋の中を見せてくれないんだよ」

 

「お前らが人の部屋を気にする必要は無い。さっさと自分の部屋に帰れ!」

 

 

 一夏の短い説明では太郎も状況がイマイチ分からない。それに千冬が横から怒鳴るので話が進め辛い。

 

 

「お二人とも、もう少し落ち着いてください。特に織斑先生、何をそんなに焦っているんですか。貴方らしくもない。一夏も何故そんなに織斑先生の部屋の中を見たがっているんですか?」

 

 

 とにかく落ち着かせないと話にならないと太郎は判断して、2人の間に割って入った。そして、先ずは一夏の話を聞くことにした。千冬が嫌そうな表情をしていたが一夏は気にせず事情を話し始めた。

 

 

千冬姉(ちふゆねえ)ってしっかりしてそうに見えるけど家事関係は壊滅的なんだよ。家でも家事は俺が全部やっていたし。だから寮ではちゃんとやっているのか確認しようと思ったんだ。それなのに、頑なに部屋の中を見せようとしないからさ。もしかして相当酷い状態なんじゃないかって疑っているんだ」

 

「そうなんですか?」

 

 

 太郎は一夏の話に意外感を覚え、直接千冬に聞いてみた。

 

 

「ちゃ、ちゃんとやっているっ!」

 

 

 普段の姿からは想像出来ない程、目線もキョロキョロとして落ち着きの無い千冬を見て太郎も一夏同様の感想を抱いた。部屋の中が相当酷い状態でないとここまで千冬も隠そうとはしないだろう。太郎は千冬の部屋である寮長室の扉の隙間にそっと鼻を近づけ嗅いでみた。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

 太郎は眉を顰めた。太郎の鋭敏な嗅覚が異常を訴えた。

 

 

「・・・・・・・言いにくいのですが・・・・・生ゴミの臭いがしますよ」

 

 

 太郎の言葉を聞いて千冬は顔をそらし、一夏の方は「やっぱりなー」と呟いていた。

 

 

「織斑先生、そろそろ観念したらどうですか。私と一夏はもう貴方の部屋が酷い状態になっていると確信を持っています。もう誤魔化せないですよ」

 

「私の部屋の状態などお前達には関係無いだろ!」

 

「関係ならあります。私の部屋は隣なんですよ。隣の部屋がゴミ置き場状態ではこれからの季節、大変じゃないですか」

 

 

 千冬の部屋の正確な状態は未だ分からないが、生ゴミの臭いがするという事はこれから夏に向かっていけばより酷い状態になる事は目に見えている。千冬も太郎の意見にぐうの音も出ないといった様子である。

 

 

「・・・・・・分かった。中を見せよう。但し、ここで見たものを他所で喋ったらどうなるか分かっているな」

 

 

 観念した千冬は扉の鍵を開けながら2人にありきたりな脅し文句を言っていた。

 

 扉がゆっくりと開かれた。そこで太郎と一夏が見たものは──────────────

 

 

「これは酷いですね・・・・・・」

 

「うわぁぁー・・・・・・床が見えない」

 

 

 太郎と一夏はあまりの光景に唖然としていた。一夏の言う通り先ず床が見えない事に太郎は驚いた。

 

 脱ぎ捨てられた服、使用済みと思われるタオル、缶ビールの山、食べ残されたツマミの残骸、雑誌などが所狭しと散乱している。

 

 

「これ・・・・・・どうするんですか?」

 

「片付けるしかないでしょう」

 

 

 太郎らしくもない弱弱しい疑問の言葉に一夏がそう答えた。

 

 

「・・・・・・はあ。そうですね。手分けしてやりましょう」

 

「待て待て、勝手に人の部屋に入るな。デリカシーという物がお前には無いのか」

 

 

 大きな溜息を吐いた後、部屋を片付け始めようとした太郎を千冬が止めた。それに対して一夏は呆れた。

 

 

「こんな部屋でデリカシーって・・・・・」

 

「お前は黙っていろっ!」

 

 

 一夏を怒鳴りつける千冬だったがいつものキレはない。自分でも偉そうな事を言える状態ではないと理解しているのだろう。

 

 

「織斑先生、ちなみに御自分だけで部屋を片付けられますか?もし片付けられるのならば、この場は引いても良いですよ。その代わり来週の頭にちゃんと片付けられているかどうか確認します」

 

 

 そんな千冬に対して太郎は譲歩案を出した。しかし、千冬の表情は優れない。

 

 

「太郎さん、それは無理ってもんだぜ。1人で片付けられるならこんな事にはなってないって」

 

 

 一夏が馬鹿にしたように言った。普段の千冬ならとっくの昔に鉄拳制裁だっただろうが、今は立場が逆転していた。珍しい悔しげな表情の千冬を太郎は秘かにニヤニヤと観察していた。それと同時に太郎はこの展開に胸を期待で膨らませていた。

 

 

 

 

(美星さん、ここは一見ゴミの山ですが・・・・・もしかするとお宝が手に入るかもしれませんよ)

 

『本当にゴミの山にしか見えませんが、織斑 千冬のゴミならマスター以外にも欲しがる人は多いかもしれませんね』

 

 

 美星の言う通り見る人が見ればお宝の山であった。

 

 欲望渦巻く千冬の部屋の片付けが幕を開ける。それは正に戦いである。

 

 

 




長くなりそうなので分割しました。

次回、太郎はお宝をゲット出来るのかっ!?

次の更新は明日になります。



お読みいただきありがとうございます。


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第50話 トレジャーハント 2

 魔境と化したIS学園寮長室、太郎と一夏はその中へと一歩を踏み出した。

 

 2人は先にゴミとそれ以外の物を分別する事にした。千冬は一夏の「手を出されるとむしろ邪魔」という言葉で見ているだけになった。

 

 とりあえず大量にあった缶ビールの空き缶を片付ける。それらは全て千冬が口を付けた物だろう。本来なら太郎にとって何物にも代え難いお宝になりそうな物なのだが、いつの物なのか分からない埃を被った空き缶をペロペロする気には流石になれなかった。使えそうにない空き缶は潰して分別していく。その時、美星が何かを発見した。

 

 

『マスター、そこの机の上にある缶は比較的開封されてから時間が経っていないです』

 

(先ずはお宝1個ゲットですね)

 

 

 太郎は千冬達に気付かれない様に他の空き缶と分けておいた。

 

 ツマミの食べ残しなどは完全に危険物質になっていたので全てゴミ袋に放り込む。恐らく部屋の生ゴミ臭はこれと流し台が原因だろう。ツマミの食べ残しをゴミ袋に放り込みながら太郎は近くにあった使用済みのフェイスタオルを懐に忍ばせたジップ○ックへと神業的な速度で折りたたんで入れた。

 

 

(順調ですね)

 

『世界最強と言えどマスターがゴミを分別しながらその一部を回収している事までは見通せないでしょう』

 

 

 太郎と美星がプライベート・チャネルで内緒話をしていると一夏が太郎の元にやって来た。

 

 

「太郎さん、ちょっと・・・・・・」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 一夏が何かを言い掛けて止めてしまったので、太郎は不思議に思いどうしたのかと聞いてみると一夏は黙ったまま流し台の方を指さした。流し台は部屋に入ってすぐの所にあったので、その惨状は太郎も既に確認していた。使用済みのマグカップやカップラーメンの容器などが積み重なっていた筈だ。それにしても一夏の様子がおかしい。太郎は流し台に近付き改めて状況を確認してみた。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 絶句である。その惨状を正確に把握すると太郎は絶句してしまった。カップラーメンの容器に残ったスープに何か白っぽい毛羽立った膜が出来ていた。そして、そこから異臭がしていた。

 

 流し台のシンクの部分も3分の1程が黒い膜のような汚れに覆われていた。壁際の辺りにはキノコの様な物まで生えていた。

 

 

「どうしてこんなになるまで放っておいたんです」

 

「・・・・・仕事が忙しくて・・・・ついな」

 

 

 千冬は太郎から目を逸らせつつ小さな声でそう言った。それを聞いた太郎と一夏は大きな溜息を吐いた。千冬は時間があっても掃除しないだろうと2人は確信していた。

 

 

「織斑先生、学園の食堂はとても豪華なのに何故カップラーメンなんて食べているんですか?」

 

「・・・・・・寝る前にビールを飲むと、ついラーメンも食べたくなるんだよ。偶にだぞ。偶に・・・・週3位だから」

 

 

 太郎は疑問に思っていた事を千冬に聞いてみた。すると予想以上にダメ人間な答えが返って来た。呆れた様子の一夏は千冬に説教しながら流し台の掃除を始めた。

 

 

(流し台には使えそうなモノはないですね。むしろ触ると病気になりそうです)

 

『ここは危険がいっぱいです。別の場所を漁りましょう』

 

 

 太郎は部屋の中をゆっくりと見回し良い物を見つけた。それはベッドだった。ただベッドは持って帰れないので、太郎が目を付けたのはベッドシーツと枕カバーだった。

 

 

「織斑先生、最後にベッドシーツを洗ったのは何時(いつ)ですか?」

 

「・・・・・・覚えていない。そもそも洗った記憶がない」

 

「・・・・・・布団ごとクリーニングに出しておきますね」

 

 

 予想の斜め上をいった千冬の言葉だったが、太郎は気を取り直して新たに手に入れた布団などの戦利品を部屋から運び出し自室に置いて来た。心の中では拍手喝采、踊りだしそうな気分だった。

 

 そして、千冬の部屋の探索はクライマックスに突入する。そう、千冬が脱ぎ捨てた衣類の処理である。

 

 先ずは見慣れた黒いスーツと白いワイシャツ。スーツは流石にハンガーへ掛けられていたがワイシャツは床に脱ぎ捨てられていた。それもかなりの数が。

 

 

「ワイシャツも数があるのでアイロンがけの事まで考えるとクリーニングに出した方がいいですね。ではっ!」

 

 

 弾むような声で太郎はそう言ってくしゃくしゃになってしまっていたワイシャツ達を回収した。クリーニングに出すと言ったのは、もちろん嘘であった。同じ物を買ってそれを千冬に渡せば気付かないだろう。

 

 ワイシャツを回収する際に予想外の戦利品が付いて来た。ストッキングである。黒のパンストである。スーツとワイシャツを脱ぐ時に一緒に脱いだ為に近くにあったのだろう。何足かをワイシャツで挟んで外から見えないようにして回収する。

 

 太郎がふと足元を見るとジャージの上下が脱ぎ捨てられていた。IS実習の時に千冬が来ていた物だ。太郎が手にとってみると、下の方は雑に脱いだ為に足の部分が裏返ってしまっていた。それを戻そうとするとそこには・・・・・ソックスが半分裏返った状態で入っていた。横着して脱いだ為にこうなったのだろう。これは静寐さんが喜ぶぞと太郎は満面の笑みとなった。

 

 

(目ぼしい獲物は粗方手に入りましたかね)

 

『そうですね』

 

 

 太郎が美星と今日の戦果について話をしようとしていると視界の隅に黒い何かが2つ見えた。それはくしゃくしゃな布ような物だった。千冬や一夏に気付かれない様に近付き手に取ってポケットにねじ込んだ。

 

 

(美星さん・・・・・・大変な事になりましたよ)

 

『今、拾った物は何だったのですか?』

 

(・・・・・・下着です)

 

『だ、だ、だ、大戦果じゃないですか!!!』

 

 

 美星が驚きのあまりにどもるという珍しい事態であったが、太郎自身も興奮を抑えられずそれどころではなかった。ゴミをゴミ置き場に持って行くと行って太郎は1度部屋から出た。そして、周囲に誰もいない事を確認しポケットの中身を出した。

 

 

 それは黒レースのブラとパンツだった。

 

 

 太郎は感動と興奮のあまり絶叫しようになったが、なんとか我慢した。とりあえずブラとパンツをジッ○ロックに収め、急いでゴミを出しに行った。その後、千冬の部屋に戻った太郎は凄かった。1秒でも早く戦利品を堪能したいが為に3倍速かと思う程に迅速に片付けを仕上げていった。

 

 もう少し。

 

 後ちょっと。

 

 これを片付ければヘヴンに旅立てる。

 

 

 

 太郎の動きは千冬と一夏が目を見張っている程のものだった。瞬く間に千冬の部屋を片付け終えた太郎は挨拶もそこそこに自分専用となっている個別整備室D-3へとひた走る。今の彼ならオリピックの短距離部門のメダリストとも張り合えるだろうという驚異的な速さで駆ける。ヘヴンへと────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに禁断の宝具を手に入れた太郎。

彼の魂は天を目指して駆け上がる。もう誰も止められない。

そして、○○を開いた太郎によってIS学園の歴史がまた1ページ。



次回もしくは次々回「深夜のカーニヴァル」をお楽しみに。


お読みいただきありがとうございます。


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第51話 深夜のカーニバル 1

 ついに禁断の宝具を手に入れた太郎。

 

 彼は超人的な速度で疾走し、自分専用の個別整備室に飛び込んだ。太郎は荒くなった呼吸を整える間もなく扉の鍵を閉める。懐からジップ○ックを取り出す。太郎はジッパーを開いた。そして、鼻をジップ○ックの中に突っ込み、ジップ○ックの中に充満した千冬の匂いを吸引した。

 

 

「くぅぅうううっっっ!!!!!!」

 

 

 太郎は強烈な雌の匂いにヤラれ、足元が覚束無い太郎はそのまま尻餅をついてしまう。まだ頭がくらくらしているのか太郎は頭を振って意識をはっきりさせようとしていた。

 

 

『マスター、大丈夫ですか?』

 

「ええ、流石世界最強の雌だけあります。フェロモンも世界最強ですよ!」

 

 

 心配する美星に太郎は興奮気味に答えた。

 

 太郎は震える手でジップ○ックからブラを取り出した。先ずはブラの方から味わう事にしたようだ。直接嗅いだ後、恐らく千冬の乳○が触れていただろうと思われる部分に口付けする。唇で啄ばみしゃぶり付く。千冬の乳○と間接的に接触していると思うとそれだけで太郎の思考はスパークしそうだった。

 

 ブラを味わい尽くした太郎はそれを頭に被り、次にパンツを取り出した。太郎は贅沢にも、いきなりクロッチの部分から攻めた。そこからはアンモニア臭だけでなく、少し甘酸っぱいような香りを太郎は感じた。太郎はいきり立つ○棒を扱○始めた。扱いなれた相棒を巧みな手技で天へと誘う。それはあたかも熟練の演奏家が名のある楽器を演奏するかの様な技巧であった。

 

 

 

 

~中略

 

 

 

 

 

 太郎は激しいソロパートの演奏を終えるとぐったりと床に横たわった。すっきりした太郎は今持っているお宝と自室に運び込んだ他のお宝についてどうするべきか考えた。千冬の部屋から得た物は今使った下着だけではない。相当な数があるので太郎の部屋に全て保管すると場所をとって仕方が無い。

 

 悟りを開いたかのような状態の太郎は普段では思い付かないような事を思い付いた。

 

 この幸福を皆で分かち合うべきだと。

 

 

 

 

 

 太郎は直ぐに学園内にいる同族達に連絡をとった。今夜のオカズは私の奢りですと。

 

 学園内の淑女達に激震が走り、淑女達は直ぐに集合した。熱く長い夜が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=======================================

 

 

 

 とあるIS学園の警備員(更識家所属)視点

 

 

 今はまだ季節的には夏と言うには早い時期にもかかわらず、今夜はうだる様な暑さだった。こんな日はさっさと仕事を終えてキンキン冷えたビールでも飲みたかった。彼氏もいなけりゃ、こんな時間から急に飲みに誘って付いてくるノリの良い友達もいないので1人家で飲む事になるのだがそれで十分満足であった。しかし、そんな小さな幸せは延期となった。

 

 上司である更識 楯無から急に学園内のセキュリティーのチェックをするという話が入ったのだ。その為に今日の20:00以降、一般生徒は寮から出る事が禁止となる。【セキュリティーチェック】に直接関わりの無い職員もそれまでに帰宅する事が義務付けられた。警備員達は学園の敷地内に誰も残っていないか監視カメラのチェックと巡回を繰り返す事になった。私は監視カメラのチェックが担当だが、長い夜になりそうなのでコーヒーを淹れに給湯室に来ていた。

 

 更識 楯無という上司は基本的には優秀であるがこういう無茶を偶にやるのが厄介な所だった。溜息交じりにコーヒーを淹れてモニタールームへと帰る。モニタールームでは学園内に設置されている全ての監視カメラの映像と音声が確認出来る。普通の監視カメラは映像だけなのだがIS学園のそれには集音マイクもセットされている。何故か普段ここの担当ではない矢矧 三代がいた。

 

 彼女は直接的な戦闘力が売りの人材なのでモニタールームでの監視業務など割り振られない。

 

 

「矢矧さん、こんな所でどうしたんですか?」

 

「楯無さんの命令だ」

 

 

 不思議に思って聞いた私に三代は簡潔に答えた。楯無さんの命令なら仕方ないけれど、わざわざ三代でなくてもいいんじゃないのかと不思議に思っていると監視カメラの映像に変化が起こった。

 

 

 

 

 

 

 寮から校舎へと繋がる道を映したモニターに目が釘付けになる。普段は夜になると外灯に明かりが点いているのだが今日は消されていた。その外灯に寮に近い物から1つずつ順番に明かりが点いていった。光の道が伸びていく様だ。

 

 

 軽快なリズムの音楽が流れ始める。サンバであった。

 

 

 そして、その道にほぼ全裸の男性が現れた。黒いブラを頭に被り、黒いパンツを顔に被った筋骨隆々の男が一定のリズムを刻みながら腰を振って歩いている。

 

 その後ろから続々と頭のおかしい格好をした者達が現れ、男性に続いて踊りながら歩いている。

 

 ストッキングを頭から被ったISスーツ姿の者、裸にワイシャツだけを着た者、布団で簀巻きになっている者などが行進を続ける。

 

 

 

「・・・・・な、な、なんなんだ・・・・これは・・・・」

 

 

 私は自分の見ている光景が信じられず無意識のうちに呟いていた。この意味不明な状況に頭は混乱したままだったが、とりあえず情報を集めようと無線で巡回中の仲間に現場へ向かうように指示を出そうとした。しかし、邪魔をする者がいた。三代が無線のスイッチを切ったのだ。

 

 

「何をするんです!」

 

「アレに関しては何も問題ありません」

 

「どう見ても問題しかないでしょうっ!!!」

 

 

 無線のスイッチを切った事に抗議したが三代は取り合わない。それどころか、この異常事態に関して何の問題も無いと言った。むしろ問題しかないでしょ。

 

 三代が私の両肩に手を置いた。直接的な戦闘力を売りにしているだけあって恵まれた体格で威圧感も十分だ。

 

 

「上からの指示だ。お前は何も見ていない。頭の良いお前ならこの意味が分かるな」

 

 

 私の両肩に置かれていた手は、今凄まじい力が込められ両肩を握りつぶさんとするかのようだ。そこに込められた力が私に対する警告なのだろう。暗部に所属する者としての心得があるなら、この後どう対応するかは決まっていた。

 

 

「・・・・・・・今日は暑いですね。今日は何も問題無い(’’’’’’’’’’’’’’’’)みたいだし早く帰ってビールでも飲みたいですね」

 

「そうだな。・・・・・・早く帰りたい」

 

 

 私は何も見なかった。それで良い。この業界で長くやっていくのに必要なのは余計な事に首を突っ込まない事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 先程の光景をふと思い出す。先頭のほぼ全裸の男の体は凄かった。筋肉のつき方も無駄が無く実戦向きの体だった。○○○もまるで天を突くかのようにそびえ立っていた。改めて彼氏が欲しいなーと思った。ただし、ああいう変態は勘弁である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




男のオナヌーシーンは需要が無いと思ったので省略しました。


\カーニバルダヨ!!/\カーニバルダヨ!!/\カーニバルダヨ!!/\カーニバルダヨ!!/\カーニバルダヨ!!/



さあ、カーニバルの始まりですよ。



読んでいただきありがとうございます。

次は水曜日に行進、もとい更新します。


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第52話 深夜のカーニバル 2

 時はとあるIS学園の警備員が衝撃の映像を目撃する少し前に遡る。

 

 

 ○慰を終え、悟りを開いたかのような気分になっていた太郎はある事を思い付いた。千冬の部屋から得た戦利品を学園内の淑女達と分かち合おうと考えたのだ。直接の知り合いには自分で連絡をし、学園内に潜むソックスハンター達にも静寐を通して召集をかけた。

 

 

 太郎は集まった人間の中でもいち早く自分の元へ馳せ参じた精鋭達には無条件で戦利品を授けた。

 

 楯無にはワイシャツを、ラウラには布団を、そして静寐にはかつて約束していたソックスとおまけとしてストッキングを渡した。

 

 楯無は太郎が連絡を入れると用件の内容も聞かずに太郎の元に駆け付けた。

 

 ラウラに関しては最初こういった事に興味を持っているのか疑問だった。その為に太郎は呼ぼうか、どうしようかと迷った。しかし、ラウラが千冬に対して並々ならぬ執着を持っていた事を思い出し、一応話してみた。するとラウラは飛ぶ様な勢いでやって来た。というか実際にISを使って飛んで来た。

 

 静寐は他のソックスハンター達に連絡を入れていた為に、楯無やラウラに比べると到着は遅かった。それでも全体で3番目という早さだった。千冬のソックスを与えられた静寐は感動の余り数秒間意識を失ってしまった。そして、意識を取り戻した静寐は太郎に感謝と共に絶対の忠誠を誓った。

 

 シャルは千冬に性的な興奮は覚えないので戦利品の受け取りは辞退した。代わりに太郎の下着を要求し、太郎もそれに応え履いていたブーメランパンツをその場で脱ぎシャルへと渡した。

 

 そうこうしているうちに参加者が集まって来る。 集まった人数は50人を超えた。その内訳は生徒、学園職員、警備員などが参加しておりIS学園のあらゆる場所に淑女達が存在している事を示していた。

 

 思いのほか集まった人数が多く、太郎の部屋には入り切らなくなったうえ、配布する戦利品の数も足りなくなった。その為に太郎は急遽予定を変更して多目的ホールへ場所を変えて、自分の私物も配布しようかと特に仲の良い者達と相談した。

 

 話はどんどん大きくなり、集まっている者達のテンションも際限なく上がっている。そこで楯無が提案する。

 

 

「どうせ多目的ホールを使うなら皆でお宝を持ち寄ってオークションやトレードをしない?」

 

 

 その提案に参加者達も直ぐに賛同した。各自一度部屋に【お宝】を取りに戻った。興奮状態の彼女達はそれぞれ普段は絶対しないような格好をして戻って来た。当然、太郎も脱いだ。静寐はストッキングを頭から被りISスーツを着た。楯無は裸にワイシャツだけを着た。ラウラは布団で簀巻きになっている。シャルは黒革のボンテージ姿で顔には太郎から貰った脱ぎたてブーメランパンツを被っていた。

 

 そこにはもう、自重という言葉は無かった。

 

 誰かがサンバの音楽を流し始めると誰ともなしに踊り始めた。そして参加者達はそのまま多目的ホールを目指して行進を開始した。

 

 先頭を逝くのはもちろん太郎である。頭にブラ、顔にパンツを被った重装備であった。その代わり首から下はネクタイとソックス、股○にペ○○リング、そして靴底の薄いランニングシューズを履いているだけという激しい運動にも耐えられる服装である。この股○に付けているペ○スリングこそが太郎の専用機・ヴェスパの待機状態の姿である。

 

 太郎の激しい腰振りにペ○○リングを装着した息子も激しい動きを見せる。他の者達も激しく踊りながら太郎の後に続く、羞恥心や理性など既に無くなっていた。

 

 自重しない参加者達の行動はエスカレートしていく。楯無はミステリアス・レイディを装着しV字開脚状態で空を舞い喝采を浴びた。当然、その服装は裸ワイシャツのままである。ISスーツに着替えるなどという女々しい行いを学園最凶はしなかった。楯無が空を飛んでいる間、小雨がぱらついていた様に感じた者がいたが気のせいだろう。今日は空に雲一つ無かった。

 

 

「流石は楯無さん。私も負けてはいられませんね」

 

 

 太郎も負けずと踊りを激しくし、体の向きを後方へ向けた。今まで参加者達からは後ろ姿しか見えていなかったのが全て丸見えである。そこかしこで指笛が鳴らされる。そのまま太郎は参加者達の集団を割るように進んでいく。

 

 

「踊り子に触れても良いんですよ~」

 

 

 太郎がそう言うと淑女達はベタベタと太郎の体を触った。太郎は集団の最後尾まで来ると、また向きを変えて先頭へと進む。その時も淑女達は太郎の体を遠慮なく触った。

 

 

(危うくイキかけました・・・・・)

 

『別にイッても良かったのでは?』

 

(本番はこれからなのに未だ早いです!)

 

 

 太郎と美星が話している間に一部の人間が持ち込んだ手持ち花火が全員の手に渡り火が付けられた。目的地はもう直ぐそこだ。そして、花火の火が消える前に参加者達は色とりどりな光に照らされながら目的地へと到着した。

 

 

 

 欲望渦巻く深夜のオークションが始まる。そこは魑魅魍魎達(紳士と淑女)が集う人外魔境。

 

 ここより先に進む者、一切の理性とモラルを捨てよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悲報・セシリアはカーニバルに参加出来ず


セシリアは淑女度が未だ足りなかった。でも悲しむ事は無い。いつか君も目覚めるはずさ。熱いリビドーの爆発に。



読んでいただきありがとうございます。

次は土曜日に投稿予定です。


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第53話 欲望のオークション 1

 真っ暗な多目的ホール、突然6つのスポットライトが点灯され多目的ホールの闇が切り裂かれる。6つの光の筋がホール中を暴れ回り、ステージ中央で重なり合って止まった。そこで照らし出されたのはIS学園で唯一無二の紳士、山田太郎であった。

 

 太郎は先程までと同じ格好で頭にブラ、顔にパンツを被り、首から下はネクタイとソックス、股○にペ○○リング、そして靴底の薄いランニングシューズを履いている半裸状態だった。唯一違う所はその手にマイクを持っている事だった。

 

 半裸状態でマイクを持った太郎はホールを見回し、淑女達が自分に注目している事を確認した。太郎は握っていたマイクを口元へと近づけた。

 

 

「淑女の皆さん、これからが本番ですが気合はもう入っていますか?」

 

「「きゃあああああああああああああ!!!」」

 

 

 太郎の呼び掛けに会場から黄色い声が上がる。太郎はその歓声をしばらく聞いていたが話を進める為に両手の掌を床へ向けて上下させ落ち着くようにとジェスチャーをした。テンションが上がっている淑女達はそれでもなかなか落ち着かなかったが太郎は不快感一つ見せず、むしろその盛り上がり具合を嬉しそうに眺めていた。

 

 少しして淑女達が落ち着きを取り戻した事を確認してから太郎は話を再開する。

 

 

「今回のオークションにおける特別ルールを先に説明しておきます。競りは基本的に金銭によって行いますが、金銭的に余裕の無い人は【物】を対価として提示する事が出来ます。例えば提示された最高金額が1万円だった場合、出品者から見て1万円以上の価値がある物を提示する事が出来ればその人の勝ちという事です。当然、金銭と【物】を組み合わせて提示する事も可能です」

 

「「おおおおおお!!!」」

 

 

 太郎の言った特別ルールに場は再度騒がしくなる。参加者達は自らの【お宝】を持参している。このルールであれば手持ちのお金があまり無くても、直ぐに競り合いに参加出来る余地が生まれる。経済力で劣る生徒達にも勝機が出てくる。今まで貴重な物に関しては落札を諦めていた一部の参加者達の目にも闘志が漲り始める。

 

 太郎は特別ルールを説明し終わると直ぐにオークションの開始を宣言する。

 

 

「では早速オークションを始めましょう。トップバッターはこの私、山田 太郎が務めさせていただきます」

 

 

 太郎がそう言った後、ステージ横に待機しているシャルに合図をする。シャルはお宝の載った台車を押してステージの中央にいる太郎の元へと進み出た。

 

 

「一品目はこちら、織斑先生の部屋から回収したビールの空き缶です。なんと飲み口の部分にうっすらと口紅の跡が残っています。聡明な皆さんならこの缶の価値が分かるでしょう。では最低価格100円から開始します」

 

 

 太郎が競りの開始を告げると淑女達が我先にと手を挙げる。

 

「500」

 

「こっちは1000」

 

「1800よ」

 

 

 本来であれば資源ゴミとして二束三文で業者に回収される物が、商品として店頭に並んでいた時よりも高価になっていたが誰もそれをおかしいとは思わなかった。織斑 千冬が口を付けた空き缶にはそれだけの価値がある。

 

 

 IS学園に所属する者にとって・・・・・いや、ISに関わる者にとって織斑 千冬という人間は大なり小なり特別な存在だった。特に生徒達は千冬の現役時代を今より幼い頃に見ており、一種のヒーローのように憧れている。その唇を間接的とはいえ手に入れる事が出来るのならば、この程度の値段は大したものではない。

 

 

「ええい、3000ならどう!?」

 

「まだまだ、こっちは3300円よ!」

 

「私は3350です」

 

 

 誰もが一歩も引かない状態が続いていたが、その狂騒を嘲笑う者がいた。

 

 

「・・・・・・・くっくっく、やはりこの学園の者達は甘い」

 

 

 熱い競りが繰り広げられる中、この集まりの中で最も千冬をヒーローとして崇拝する者がステージの方へと歩み出る。巻かれた状態の布団がトコトコと太郎の元へと近付いて来た。千冬の布団で簀巻(すま)き状態になっているラウラであった。

 

 

「1000ユーロだ。私は1000ユーロ払おう」

 

 

 簀巻き状態である為、ラウラの声はこもった様になっていたが全員に聞こえた。

 

 場は騒然となる。

 

 日本円に換算して軽く10万円を超えている。千円台で競っている中にいきなりこの金額提示は場の流れを破壊する行いであった。しかし、当のラウラにはそんな事は気にかける程の事ではなかった。元々、ラウラには場の空気や流れなどほとんど読めないし気にしたりもしないので関係なかった。

 

 金額に関しても問題無かった。ラウラは現役の軍人であり、階級も少佐である。その上、物欲や趣味なども無く給料をほとんど使う事の無いラウラには一般学生は当然として学園職員などの社会人を相手取っても圧倒する金銭的余裕がある。

 

 流石にラウラの提示した金額に対抗出来る者はいないのでは、という雰囲気になってきていたが【お宝】を諦めきれない者が現れた。

 

 

「私は15万円出しましょう」

 

 

 1年1組所属の四十院(しじゅういん) 神楽であった。旧華族出身であり金銭的にもラウラに十分対抗出来る。神楽は剣道部に所属している事が何か関係しているのか分からないが剣道着姿だった。神楽は懐からハンカチを出して掲げた。

 

 

「それと国語担当である平本先生の使用済みストローを合わせて提示します」

 

 

 ストローをハンカチで包んでいるようだ。国語担当の平本先生と言えば物腰の柔らかさと授業の分かり易さで学園内でも人気の先生である。そして、山田先生に次ぐ巨乳でもある。神楽の提示した【お宝】は太郎から見てもなかなか魅力のある物だった。

 

 参加者達はここからさらに激しい競り合いになる事を予想して固唾を呑んで見守っていたが、ラウラはその予想を軽々と上回った。

 

 

「甘いと言っている。貴様らには覚悟が足りん!」

 

 

 ラウラは神楽だけでなく他の淑女達も一喝し、布団の中で何かもぞもぞしていた。しばらくすると布団から突き出ている足の足首の辺りに丸まった布がすとんと落ちて来た。

 

 

 パンツである。

 

 今、この場で脱いだパンツである。

 

 

「身を切る覚悟も無い者が私と競おうとは片腹痛い!」

 

 

 ラウラの言動に圧倒され神楽は膝を付いてしまった。ラウラの言う通りである。神楽にはラウラ程の覚悟が無かった。

 

 

 今、この場でパンツを脱いで太郎に渡せるか?

 

 無理である。

 

 自分には名家の者としての立場がある。

 

 いくら相手が太郎と言えど自らのパンツを付き合っている訳でもない相手に渡すなどという、そんな売女の様な真似は出来ない。

 

 神楽は自らの家柄に誇りを持っていた。しかし、その誇りが邪魔をして今敗北しようとしていた。

 

 

 

 

 いや、違う。

 

 

 

 

 そんな事はただの言い訳である。ラウラの言う「身を切る覚悟」とはそんな立場や誇りなどと言う小さな事ではない。ラウラはそれらを含めた「自分」というものを例え傷つけても「欲するモノを得る」という事である。その上での覚悟なのだ。

 

 これはただの競り合いに負けただけの話ではない。人としての敗北である。

 

 神楽は悔し涙を流した。神楽にとってこれ程までに悔しい敗北は初めてだった。

 

 立ち上がれない神楽の肩に太郎が手を置いた。

 

 

「四十院さん、オークションも貴方の学園生活も未だ始まったばかりですよ。ここで挫折したまま淑女としての道を終えるのですか?」

 

 

 太郎の問いに神楽は首を横に振った。

 

 

「それなら立ちなさい。立って次に備えなさい。つまずいても立ち上がれる者が真に尊いモノを得られるのです」

 

 

 太郎の言葉に神楽は顔を上げた。そう未だ終わりではない。今は未だ未熟であるがいつか立派な淑女になると神楽は胸に誓い立ち上がった。

 

 

 

 

 オークションは一品目から10万円を超える大台に達し、その上脱ぎ立てパンツまで飛び出した。淑女達はこの後の波乱を予感し緊張と興奮に体を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「諦めたらそこで試合終了ですよ」




読んでいただきありがとうございます。

次は月曜か火曜に更新します。



フェイト見ていて思ったのですが太郎さんが召喚されたらクラスはなんだろうとか考えると、順当だとやっぱりライダーなのかな。IS無しならアサシンでも・・・・とか考え出すと妄想が膨らみます。


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第54話 欲望のオークション 2

 一品目から激しい競り合いが繰り広げられた太郎主催のオークション。見事、身を切り売りする様な荒業で【お宝】を得たラウラにホール中から惜しみない拍手が送られ、【お宝】である空き缶が渡された。簀巻き状態のラウラがトコトコと自分の席に帰っていくと太郎は次の【お宝】の紹介へと移った。

 

 

「では、次の【お宝】を紹介しましょう。これも出品者は私です。その次も私、その次も私です。そして、その次も私です」

 

「「きゃあああああああ!!!!」」

 

 

 太郎の怒涛の出品ラッシュに参加者達のテンションは鰻登りである。太郎が千冬の部屋から持ち出した大量のお宝達を前に重度の織斑千冬狂い達はお金などの対価を惜しまなかった。

 

 タオル、枕カバー、ワイシャツ数枚、ジャージ上下セットなどの【お宝】達に合計で30万円の値がついた。それと落札者の私物数点が対価の一部として太郎の物となった。

 

 太郎が得た私物数点の内訳は落札者の身に着けていた物だった。シュシュやイヤーカフス、そしてある者は履いていた靴を差し出した。裸足になってでも欲しい物を得る。ラウラの示した覚悟に他の参加者達も思う所があったのだろう。靴を差し出したのは四十院 神楽であった。未だ、その場でパンツを差し出す程の覚悟は無い様だが彼女なりの成長を早速見せていた。

 

 白熱した太郎の出品ラッシュが終わり、次の出品者は別の人間となった。太郎はそのままステージ上に残り司会進行を務める。

 

 ステージ上に次の出品者が上がる。それは異様な姿だった。身長は太郎より小さいが180cmに近く、筋肉によって二の腕は他の女子達の足位の太さまで膨張している。服装は体操服である。しかし、サイズが合っていないのか上も下も今にも破けそうな位にピッチピチである。下は赤いブルマなのだが大きな体との比率で、まるで際どいパンツを穿いているみたいに見える。そして、体操服のシャツの方には胸に大きな名札が付いており、そこには【ファン】と書かれていた。

 

 

「それでは次の出品者はこの方です。1年2組、秋野 蛍さんです」

 

 

 太郎の紹介に蛍は深々と頭を下げた。

 

 

「秋野さん、出品物の紹介をお願いします」

 

 

 太郎はそう言って予備のマイクを蛍に渡した。

 

 

「私の【お宝】はこちらです。我がクラス代表、凰 鈴音ちゃんの使用済み歯ブラシです」

 

 

 蛍が透明なビニール袋を掲げる。その中には柄の赤い歯ブラシが入っていた。これは蛍が鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトンへ定期的にお菓子を供与する代わりに得た物である。蛍が鈴の使っている物と全く同じ物を複数用意し、ティナにすり替えて貰っているのだ。その為、鈴は自分の使っている歯ブラシの毛先が全く広がらず長持ちしている事を不思議がっていた。しかし、自分の歯ブラシがすり替えられているなど夢にも思わない鈴は「流石に日本製は違うわねー」と最近では暢気に納得していた。

 

 この【お宝】も希少な物ではあるが千冬と比べると鈴の知名度は低く、競りは低調に終わるかと思われた。しかし、ある2人が何時まで経っても競りから降りない。5万円に乗った辺りから参加者達の間でざわめきが起こり始めた。

 

 

「5万5千円で」

 

「それじゃあ、私は6万円よ。・・・・・太郎さん、そろそろ諦めたらどうです?」

 

「こちらは7万円です。貴方こそ諦めてはいかがですか楯無さん」

 

 

 太郎と楯無であった。2人共、金銭的にはかなり余裕がある為に勝負がなかなかつかない。そこで楯無は勝負に出た。

 

 

「私は秘蔵の画像データを出すわ。シャルちゃん、これをスクリーンに映してちょうだい!」

 

 

 楯無はステージ横にいたシャルにメモリーカードを投げ渡した。シャルはそれを手に多目的ホールの制御室へと向かった。しばらくするとステージの天井付近から巨大なスクリーンが下りて来て、そこに複数の画像が映し出された。ISスーツ姿の小柄な生徒達が映っていた。その画像には太郎も見覚えがあった。ミステリアス・レイディが収集した画像で先日、美星によって仲間達に暴露された盗撮画像である。

 

 

「す、素晴らしいです・・・・・」

 

 

 スクリーンに映し出された画像を見た蛍は感嘆の声をあげた。

 

 鈴の歯ブラシを収集している事からも窺えるが、恐らく蛍は小柄な女性が好みなのだろう。太郎は苦境に立たされた。現状、太郎の手札にこれらの画像と張り合える【丁度良い】ジャンルとレベルの物が無かったのだ。

 

 つい先程、手に入れたラウラの脱ぎ立てパンツなら蛍の嗜好には合うと太郎は思う。しかし、鈴の歯ブラシとラウラの脱ぎ立てパンツでは太郎にとってはパンツの方が高価値だった為に対価として出す事は出来ない。

 

 画像に関しても太郎は鈴の入浴しているところを撮った画像を持っていたが、これはこの場では出せない物だった。余程信頼出来る相手で無い限りこの画像は見せられない。バレれば一発で太郎の立場が吹っ飛ぶ危険物である。

 

 太郎が今持っている手札に蛍に出せる有効な物は無かった。

 

 

 

 

 そう直接的な意味合いでは。

 

 

 

 

 

「この中に身長150cm未満のソックスハンターの方はいらっしゃいませんかー!!!」

 

 

 太郎は声を張り上げた。すると少女が一人手を挙げた。小柄で髪の長い、どこかアンティークドールの様な美しくも冷たい印象を受ける少女だった。少女は無言でステージ上に上がり、太郎の前に立った。

 

 

 

「呼びかけに応えてくれてありがとうございます。貴方の名前を伺っても?」

 

「はい、私は2年の整備科所属の月島 小春です」

 

 

 太郎の問い掛けに答えた小春の声は見た目通り可憐なものだった。

 

 

「早速ですが、私の履いているソックスを差し上げますから月島さんは何か今、身に着けている物を秋野さんに渡して貰えますか?」

 

 

 太郎のやろうとしていた事は三角トレードだった。太郎がソックスを小春に渡し、小春が身に着けている物を蛍に渡す。そして、最後に蛍が歯ブラシを太郎に渡すという事だ。

 

 

「はい、それで構いません。山田さんの生ソックスは貴重なので私としてもありがたいです。それでは私は今着けているカチューシャを渡しましょう。秋野さん、私のカチューシャでは不足ですか?」

 

 

 小春に問い掛けられた蛍はレスラーの様な太い首を横へブンブン振って否定した。

 

 

「ふ、ふ、不足なんてとんでもないです。月島先輩は学園でも5本の指に入るロリです。その普段身に着けている物が手に入るなんて・・・・・・私、感激ですっ!!!!」

 

 

 蛍はその巨体で小春に縋りつきそうな位に感激していた。その様子を見ていた太郎は勝利を確信した。

 

 

「楯無さん、どうやら勝負ありのようですね。私の勝ちです」

 

「ぐぬぬ・・・・・。まさか月島さんがソックスハンターだったなんて・・・・・・」

 

 

 楯無は鈴の歯ブラシが手に入らない事に唇を噛み締めて悔しがった。それと小春のカチューシャに関しても羨ましそうに眺めていた。楯無は小春の事を良く知っていた。月島 小春と言えばは整備科2年でトップクラスの実力を持ち、楯無と仲の良い黛 薫子とは常に学年首席を争う優等生だった。しかし、楯無が小春の事を良く知っているのは他の理由からだった。

 

 単純明快に小春の見た目が楯無の性的な興奮を覚えるものだった為に以前からアプローチをかけていたのだ。これまでも楯無は何度か過度なスキンシップを迫り、モンキーレンチで殴られている。そんなガードの固い小春の私物を思いがけずも手に入れた蛍を恨めしそうに楯無は見詰めていた。

 

 

「楯無さん、後輩をそんな目で見ないで上げてください。萎縮していましますよ」

 

 

 その様子を見かねて太郎が楯無に声をかけた。

 

 

「こうやって繋がりが出来れば、今後個人的に交渉する事も出来るでしょう。ここは切り換えてください」

 

「ううう・・・・・もういいですよ。私はこんな事では終わりませんよ!」

 

 

 打たれ強いのは楯無の特徴の一つだった。

 

 決着は付いた。太郎達は【お宝】の交換を済ませ、次の出品者の番へと進行する。

 

 

「時間も時間なので今回は次の出品者が最後になります。えーと・・・・・次の出品者は」

 

「私とシャルちゃんよ!!!」

 

 

 ステージ上に残っていた楯無といつの間にか帰ってきていたシャルが手を挙げた。マイクを太郎から受け取った楯無はステージの中心に移動した。

 

 

「自己紹介はしなくても私達の事は皆知っていると思うけど、一応しておくわね。私は生徒会長の更識 楯無で・・・・」

 

「僕は1年1組のシャルロット・デュノアです」

 

「私達の出品はこれよっ!!!」

 

 

 楯無がそう言ってシャルの方を指差す。シャルは【お宝】を参加者達から見易いように掲げた。

 

 それはISスーツだった。

 

 

「これは皆お馴染み、こちらの山田 太郎さん愛用のISスーツ【金玉(かなたま)】です。使い込まれて捨てられそうになった所をシャルちゃんが回収した逸品よ!」

 

 

 太郎愛用の金井玉島(かないたましま)製のISスーツである。このメーカーのISスーツは略して金玉と呼ばれ一部のIS操縦者からはその装着感の良さからまるで何も着ていないかのようだと称されている。太郎自身、廃棄したISスーツが回収されているとは想像もしていなかった様だ。

 

 競りは一気に白熱する。世界でたった2人しかいない男性IS操縦者が使い込んだISスーツである。これ程、希少価値の高い品はなかなか無い。

 

 

「10万円!」

 

「11万円よっ!」

 

「こっちは13万円」

 

「話にならないです。私は20万円払います」

 

 

 太郎の希少価値も高いが、そもそもISスーツは安い物ではない。しかも太郎愛用の金玉は高級志向の商品が多く、その上太郎のISスーツは最新技術の粋を集めたオーダーメイド品である。10万円やそこらでは元の価格にすら届いていなかった。正直、一般学生には荷の重い品であった。

 

 いよいよ誰か自らの下着を差し出しても欲しがる人間が出て来るかという時、桁違いな人間が現れた。

 

 

「貴方達にそれは相応しくありませんわ。100万円、わたくしはそれに100万円出しますわ」

 

 

 派手なドレスを着た仮面の淑女がステージ向かって歩み出た。仮面は目元しか隠しておらず、喋り方も特徴的なので太郎や楯無達は一発で彼女が何者かは分かった。

 

 

「あれ?セシリアって呼ばれてなかったんじゃ・・・・・・?」

 

「わたくしの事を除け者にして酷いですわっ!!!」

 

 

 不思議そうに聞いたシャルの言葉をセシリアは無視して怒りを露にする。それに対して太郎は困った表情で弁解する。

 

 

「いえ、セシリアさんはこういった事に興味が無いかと思ったので誘わなかったのです」

 

「・・・・・・確かにこんな事の何が面白いかは分かりませんが、太郎さんのISスーツならわたくしだって欲しいですわっ!!!」

 

「私も自分のISスーツが出品されるなんて知らなかったんですよ。まあ、機嫌を直してくださいよ。これ以上競る人もいないようなので、これは貴方の物ですし」

 

 

 太郎に宥められてセシリアは少し落ち着いた。そうすると次にセシリアはどうしても気になっってしまう。間近で裸の太郎がいる事に。顔を背けるがどうしても目で太郎の裸をチラチラの追ってしまう。

 

 

「あー、セシリアちゃんがいやらしい目で太郎さんの事を見てるー」

 

 

 それを見逃す楯無ではなかった。すかさず茶化す。セシリアの顔が真っ赤になる。

 

 

「みみみみ、見てませんわ!!!」

 

 

 焦りながら否定するも、それを信じる者はここには誰一人としていなかった。

 

 

「見たければ見ても良いですよ。なんだったら触っても良いですよ。今日の最高落札者でもあるわけですしサービスです」

 

「わわわわ触るって、そんな・・わたくし出来ま・・わ」

 

 

 太郎の言葉にセシリアは戸惑ってしまい、最終的に何を言っているのか良く分からなかった。太郎は「まあ、後でゆっくり聞けば良いか」と考え、とりあえずオークションを終了させる事にした。

 

 

「皆さん、今日のオークションは終了となります。最後に今日の最高金額が出て良かったです。これからもこういった催しが出来る様に頑張るので奮って参加をお願いします」

 

 

「やったああああ」

 

「次、早くうううう」

 

「太郎さん、サイコー!!!」

 

 

 

 

 太郎の宣言に参加者達から歓声が上がる。また次がある。日陰に潜んできた淑女達にとって、このような派手で大きな催しは珍しい。次も絶対参加しようと周りの仲間達と口々に言い合った。

 

 

 第1回IS学園・紳士淑女オークションは終了した。今回の馬鹿騒ぎで山田 太郎はより多くの淑女達と親交を深め、その支持を得る事に成功した。ここにIS学園でも最大の勢力が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 




「セシリアはカーニバルに参加出来ず」

そう書きましたが、オークションに参加しないとは言っていないです。


まあ、出すつもりは最初なかったんですが急に出したくなったので出しました(意味深)


読んでいただきありがとうございます。

次は金曜に投稿します。
ちょっと真面目な話になると思います。(あくまで私の感覚的にはですけど


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第55話 新たな力、忍び寄る影

 簪は朝からそわそわしていた。それもそのはず、今日はついに簪の専用機が完成する予定なのだ。未完成だった【打鉄弐式】がMSK重工の全面的な協力の下、この短期間で完成に漕ぎ着けたのである。

 

 放課後になると簪は足早に第2整備室へと急いだ。もう待ちきれないといった様子である。これまでの経緯を考えれば、それも仕方が無い事だろう。

 

 簪の専用機・打鉄弐式は当初、倉持技研が開発を進めていた。しかし、倉持技研は突然現れた世界初の男性IS操縦者である一夏の白式を優先し、打鉄弐式の開発はほぼ凍結状態になった。簪は未完成の打鉄弐式を引き取り1人で開発を進める事にしたが太郎と知り合うまでは機材、部品、経験、人手などが不足している絶望的な状況であった。簪自身、完成の目処も立たない状況に疲弊していたが、どうしても1人でやろうと意固地になって諦める事すら出来なくなっていた。

 

 そんな時に現れたのが太郎であった。

 

 自分と同じ専用機が未完成品であるのにも関わらず学年でもトップクラスの実績を誇る太郎に諭され、簪は1人で打鉄弐式を組み立てる事を止めてMSK重工に協力してもらう事になった。

 

 一時は完成の目処も立たない状況に絶望しかけた簪である。それが今では専用機の完成は目前である。少し位、そわそわしても彼女を責められないだろう。

 

 第2整備室に到着すると、そこには既に太郎とMSK重工の担当者、そして簪の【専用機】が簪の到着を待っていた。

 

 

「あ、あの、私・・・・遅かった・・・ですか?」

 

「いえいえ、私の方は最後の授業が課題を終わらせた者から抜けて良いものだったので少し早めに来れただけです」

 

 

 恐縮した様な簪に太郎は軽く言った。MSK重工の担当者である大城(おおしろ) (たけし)も太郎の言葉に頷き「気にしなくてもいいデース」と簪に言った。

 

 大城 武は名前こそ完全な日本人であったがアメリカ人とのハーフであり、幼少期をアメリカで過ごした為なのか日本語を喋ると独特のイントネーションがあった。年齢は52歳でものの見事に側頭部の毛を残して禿げあがっていた。本来であれば役員になっていても可笑しくない実績を持っているのだが【生涯現役技術者】という信念を持っており、未だに現場から離れないMSK重工でも屈指の技術者である。その割にはノリが軽いので現場でも親しみ易いと評判である。その高い実力と親しみ易さから今回の担当に抜擢された人物である。

 

 

「そんなことより見てくだサイ。ドーデスか。完璧な出来デショー」

 

 

 大城は完成した簪の専用機を指して誇らしげであった。

 

 

「こ、これが・・・私の・・・専用機」

 

 

 それは元の【打鉄弐式】とは大幅に見た目が変わっていた。先ず目に付くのが背部に付いている大きな4枚の(はね)である。次に頭部にある昆虫の複眼の様に見える高精度な複合センサー群が特徴的だった。全体像は既存のISに比べ大型な物となっている。

 

 

「そうデース。これがアナタの専用機【試作機 鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型】デス。さあ、装着してみてクダサイ」

 

 

 簪が鬼蜻蜓に近付き1度待機状態にする。鬼蜻蜓の待機状態はベルトだった。バックルは黒塗りで金色の蒔絵で小さな蜻蛉(とんぼ)の意匠があしらわれていた。簪は制服のベルトとそれを交換し、鬼蜻蜓を展開・装着した。

 

 

「ドーですか?何か問題はありマセンカ?」

 

「はい、大丈夫・・・です。この機体・・・センサー類からの情報量が・・・・凄い」

 

「フフフッ、そーでショウ。それがこの機体の売りの1つデース」

 

 

 簪の驚きの声に大城は嬉しそうに鬼蜻蜓の機体特性について語り始めた。

 

 昆虫の複眼の様に見える高精度な複合センサー群は既存のハイパーセンサーをさらに高性能化させており、高い索敵能力だけでなく敵の動作や兵装に対する分析能力も高い。

 

 航続距離の長さもトップクラスであり、可変型の4つの翅によって近距離戦における機動性も確保されている。

 

 基本兵装は元々搭載予定であった未完成のマルチロックオン・システムをMSK重工の技術によって改変・完成させられた【狐火(きつねび)】と荷電粒子砲を取り外して代わりに搭載された2門のガトリング砲【雹嵐(ひょうらん)】である。これに加えて元々装備されていた近接武器である超振動薙刀【夢現】がそのまま搭載されている。

 

 鬼蜻蜓はあらゆる距離での戦闘が可能であるが基本コンセプトは遠距離で相手を先に捕捉し、敵の射程外から6機のミサイルポッドより発射される多機能ミサイル【狐火】で一方的に攻撃する事にある。

 

 航続距離の長さ、高性能なセンサー群のおかげで少数の機体で広範囲の防空圏を維持出来るというメリットもある。

 

 この機体こそMSK重工が次期主力量産機を目指して作った試作1号機である。

 

 

 

 大城が大きな身振り手振りを交えた説明をしている間、簪は目を輝かせてその話を聞いていた。簪は元々ISの知識量で他のIS学園の生徒を上回っていたが、打鉄弐式を単独で組み立てる為、さらにそれが向上していた。それが高じて若干ISや兵器に関してオタクじみてきていた。

 

 このまま放置していれば延々と話が続きそうだったので太郎は大城の説明を止める事にした。

 

 

「お二人さん、話も良いですがそろそろ実際に動かしてみませんか?」

 

「オオ、ソーデスね。色々なデータを取りたいデスし、場合によっては微調整しないとイケナイ部分もあるかもシレマセン」

 

 

 太郎の提案に大城は直ぐに賛同した。実際に動かしてみないと分からない事もある。何より自分が鬼蜻蜓の飛んでいる姿をみたい。その為、大城は先にアリーナの観客席へと向かった。

 

 まだ簪は太郎の提案に対して何も言っていなかったのだが・・・・・。

 

 太郎と簪は大城の周りが見えなくなる程に興奮した様子を見て自然と顔を見合わせ笑ってしまった。

 

 

 

 

 そんな2人の姿を見ている者達がいる事に簪は気付いていなかった。

 

 

 

 




簪ちゃんの専用機紹介回です。

久しぶりの真面目なお話です。こういうのは久しぶりなのでどんなノリで書いたら良いのかよく分からないといった感じです。



後書きまで読んでいただき、ありがとうござします。

次の投稿は月曜にはしたいと思います。

なんか急に仕事が入ったんですけど・・・・・世はGWだぜ!



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第56話 愚者

 

 今の世の中は女尊男卑である。

 

 女性しか扱えないISの登場により彼女達の地位は格段に向上した。それは時に理不尽な事象を引き起こした。女性の極端な優遇、男性に対する蔑視、これらに影響され多くの差別的な思想を持った女性が生み出された。当然、女尊男卑の象徴とも言うべきISを学ぶIS学園には、そういった思想に染まった人間が多数存在する。

 

 彼女達は激怒していた。

 

 

「なんでこの学園に男がいるのよ」

「ISは女性の物」

「男がクラス代表なんて認めない」

「男に媚を売っている奴らも許せん」

 

 

 女性である事を特権階級であるかの如く考えている者達にとって山田 太郎とその周囲の人間は許されざる存在であった。そんな太郎とIS学園生の頂点に君臨する更識 楯無生徒会長の仲が良いという事実は彼女達の悪意を余計に刺激した。

 

 

 いつか痛い目を見せてやる

 

 

 彼女達がそう決意するまでの時間はそう長くはなかった。そして、彼女達にとっての好機は直ぐに訪れた。楯無の妹である簪の専用機が完成し、稼動テストを行うらしい。

 

 楯無の妹である簪もまた姉と同様、太郎と仲が良い。そのうえ簪の専用機に関しては太郎の助力によって完成したという話まである。太郎とその周囲の人間に対する制裁を加える標的としては最適だ。早速、襲撃の為に仲間の中で今日、訓練機の予約を取っている者を集めてアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

====================================

 

 

 

 

 ついに完成した簪の専用機である試作機・鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型を実際に稼動してみる為に、簪と太郎は第2アリーナへ移動した。今日、簪の専用機が搬入される事は事前に分かっていたので第2アリーナを太郎が仲間と協力して押さえていたのだ。

 

 太郎達は第2アリーナに到着すると早速ISを装着し、様々な機動を試したり、各兵装に問題が無いかを確認していた。観客席では先に来ていた大城が鬼蜻蜓(オニヤンマ)一型に熱い視線を送っていた。観客席には大城以外にも20人程度の見学者がいる。

 

 

「どうですか。鬼蜻蜓の調子は?」

 

「はい、見た目・・・・・大きいのに・・・旋回能力も高くて・・・驚き」

 

 

 簪は嬉しそうに太郎へ答えた。完成の目処も立っていなかった自分の専用機をこうして操っているだけで簪にとっては夢のようだった。しかし、その夢を【悪夢】に変えようとする者達がいた。

 

 

 簪と太郎が話していると、突然ピットから4機のISが現れ、2人に攻撃を仕掛けて来た。4機のISは太郎達を囲むように移動しながらアサルトライフルで斉射をする。太郎達にとっては完全な不意打ちであったが、代表候補生の簪は流石の判断力で瞬時に上昇して包囲から抜け出していた。太郎の方は地を這うように地面スレスレを飛行して距離をとっていた。

 

 

(美星さん、アレが何者か分かりますか?)

 

『機体は全て学園の訓練機ですね。乗っている人間も学園の生徒です』

 

 

 美星がデータを照合して太郎の質問に答えた。太郎からすれば学園の生徒から急襲される原因に心当たりなど無い為、どう対応すべきか少し迷っていた。その間も4機の訓練機からの攻撃は続いていた。太郎と簪両方に2機ずつが襲い掛かって来た。太郎の方にラファール・リヴァイヴが2機、簪の方へ打鉄が2機向かった。

 

 太郎は専用機の中でもトップクラスの機動性を持つヴェスパの性能と自らの驚異的な反射神経によって、執拗に追い縋る2機のラファール・リヴァイヴからの銃撃を問題無く回避してみせた。美星の方はその間に敵の情報を収集していた。

 

 問題があったのは簪の方だった。一次移行も済ませていない慣れない機体では攻撃を避けきれず、少しずつだがシールドエネルギーを減らしつつあった。

 

 

「な、なんで・・・・こんな事をっ」

 

「男なんかに媚びる売女が専用機なんて生意気なのよっ!」

 

「どうせ生徒会長のお姉さんのコネで貰った専用機でしょ」

 

 

 突然の襲撃に戸惑う簪に襲撃者達は口々に罵声を浴びせた。その言葉は簪が抱える心の傷を抉るには十分なものであった。

 

 

「私は・・・・そんなんじゃないっ・・・いやぁっ」

 

 

 気を散らした簪に容赦の無い射撃が襲い掛かる。弾丸はシールドエネルギーを消耗しただけで何とかなったが、着弾の衝撃までは殺せない。機体の制御に必死な簪の目に涙が浮かぶ。

 

 

(なんで私ばかりこんな目に遭うの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愚かである。

 

 誰が?

 

 簪が?

 

 

 違う。この襲撃者達がである。

 

 相手の倍の数で不意打ちしたにも関わらず、仕留め切れなかった時点で彼我(ひが)の戦力差を理解すべきであった。

 

 

 

 

 

 太郎は余裕を持って敵の攻撃を避けていた。そんな中、簪が押されているようなのでフォローしようかと考えていた。その時、ヴェスパのハイパーセンサーが捉えてしまった。簪の涙を。

 

 一瞬だった。太郎の怒りが爆発するのは。

 

 自分を追って来ていた2機に対して太郎は練習中の特殊機動を使って反撃に移った。左右へ小刻みに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を繰り返しながら2機のラファール・リヴァイヴへと牙を剥く。

 

 瞬時加速の連続使用、連装瞬時加速(リボルバーイグニッションブースト)の応用である。2機のラファール・リヴァイヴの操縦者からは太郎とヴェスパの姿がブレてまともに捕捉出来ない。

 

 あっという間に接近した太郎は鎖に繋がれた棘付き鉄球【怒れる星(レイジングスター)】を相手に叩きつける。瞬時加速(イグニッション・ブースト)と遠心力によって強烈な威力を発揮した【怒れる星(レイジングスター)】はたった2発で1機のラファール・リヴァイヴを行動不能に陥らせた。

 

 残ったラファール・リヴァイヴは【怒れる星(レイジングスター)】の鎖で絡めとり観客席を守るバリアーに容赦なく叩きつけ、止めに地面へと蹴り落とした。

 

 太郎が2機のラファール・リヴァイヴに反撃を開始して撃破するまでの時間は1分にも満たなかった。

 

 太郎は2機のラファール・リヴァイヴを倒すと直ぐに簪の援護へと向かった。2機の打鉄を操縦する2人が仲間のやられた事に気付いた時には既に太郎は目前にまで迫っていた。防御する間も無く1機の打鉄は太郎の飛び蹴りを食らう。瞬時加速(イグニッション・ブースト)の加速がついたヴェスパの足の裏の部分が打鉄のシールドにブチ当たる。その衝撃によって弾き飛ばされた打鉄がアリーナのバリアーに衝突した。そこへ先程と同様の蹴りが襲い掛かる。アリーナのバリアーとヴェスパの脚部に挟まれた打鉄は瞬く間にそのシールドエネルギーを失っていく。そして打鉄の操縦者の頭部を掴み、アリーナのバリアーに押さえつけて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を敢行した。

 

 完全にシールドエネルギーを失った打鉄を太郎はゴミの様に投げ捨てた。

 

 

 

 余りの闘い振りに簪と最後に残った打鉄の操縦者は唖然としていた。

 

 そんな2人に太郎が向き直るととんでもない事を言い始めた。

 

 

「簪さん、残りの1機は貴方が始末して下さい」

 

「えっ・・・・・なんで・・・」

 

「私は貴方の困っている姿を見れば自然と助けたいと思ってしまうでしょう。しかし、貴方ももう立派な専用機持ちだ。いつもいつも私が助けていたのでは、折角手に入れた鬼蜻蜓(オニヤンマ)も泣いてしましますよ。それに大きな力や権利にはそれに見合った義務や責任というものが生じます。私やMSK重工は小さな子供におもちゃを与える感覚で貴方に協力した訳ではありませんよ」

 

 

 太郎の言葉を噛み締め簪は静かに頷いた。

 

 

 

 

 太郎の言う通りである。

 

 ここで何も出来ないような人間に代表候補生などという身分は相応しくない。

 

 太郎の後ろで泣いて震えているだけの人間に専用機など必要ない。

 

 そして、私はこの鬼蜻蜓《オニヤンマ》を手放すつもりは無い。

 

 だから示す。

 

 自分がこのISに相応しい人間であると。

 

 

 

 

 最後の1機である打鉄へと簪は体を向けた。2門のガトリング砲の銃身が鈍い唸り声を上げながら回転し始める。打鉄が慌ててアサルトライフルを簪へと向け撃ち始めたが、1門につき毎分7000発を発射するガトリング砲の弾幕を前にするとそれは豆鉄砲に過ぎなかった。

 

 もし、簪があと10秒長く撃ち続けていれば打鉄の操縦者は蜂の巣どころか原型を留めない肉片になっていただろう。

 

 太郎と簪は動かなくなった襲撃者達を回収してピットへと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピットでは太郎と簪、それと観客席にいた大城を含めた20人程度の人間が正座させられた4人の襲撃者を囲んでいた。

 

 

「さて、貴方達はどういうつもりで私達を襲ったんですか?」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

 太郎の問いかけに4人は無言だった。その様子を見て太郎は戦闘中に美星が調べた4人の素性から揺さぶりをかけてみることにした。

 

 

「えーと、右端の貴方は川島影子、3年生ですね。もう3年生なのにこんな事を仕出かして退学になったら今までの学園生活が全て無駄になりますね」

 

「・・・・・・っ」

 

 

 川島は悔しげな表情を浮かべるが何も喋ろうとはしなかった。このまま質問を続けても何も答えないだろうと考えて太郎は川島の隣に正座している福瀬かほに話を振ってみた。

 

 

「ねえ、福瀬かほさん。貴方も3年ですよね。どうするんですか?しかも、貴方の母親は参議院の福瀬議員ですよね。娘がISを使って襲撃事件を起こしたとマスコミに知られたら・・・・・どうなるんでしょうね」

 

 

 太郎の言葉に福瀬は震え始めた。やっと自分のした事の重大性に少しは気付いたようだ。

 

 

「わっ、わた、私は悪くない。おとっ、男であるアンタなんかが学園にいるのが悪いのよ」

 

 

 震えながら福瀬が言った何の理も無い言い訳にもなってない様な言葉を聞いて、その場にいた者達は襲撃者の正体が何者なのか理解した。今の世の中では珍しくも無い女性至上主義者達である。ただISに乗れるというだけで封建時代の暴虐な貴族の如く振舞う精○異常者である。

 

 自分達を取り囲んでいる人間が、自分達の事を蔑んだ目で見ている事も気付かず福瀬は必死に下らない戯言を言い続ける。

 

 

「そ、そうよ。悪いのはアンタ達よ!アンタ達が訓練中の私達に襲い掛かって来たのよ。壊された私達の乗っていた訓練機が証拠よ」

 

 

 厚顔無恥とは正にこの者の事を言う。余りの発言に太郎も呆れ返ってしまう。

 

 

「各アリーナには様々な角度からアリーナ内の状況を確認できるようにカメラが設置されています。当然、貴方達が私や簪さんに襲い掛かったところも記録されていますよ」

 

 

 太郎は冷静に告げた。言い逃れのしようは無いと。それでも往生際の悪い福瀬は自分達を取り囲んでいる者達の中でも小柄な少女に縋り付いた。

 

 

「ねえ、貴方達が証言してよ。この男が悪いって。ねえ、一緒にこんな男は学園から追い出してしまいましょうよ!」

 

 

 必死な福瀬だったが、縋り付かれた小柄な少女の目は冷たいものだった。小柄な少女は福瀬の手を払いのけようとするが福瀬は手を放そうとはしなかった。小柄な少女はベルトに装着した腰袋からモンキーレンチを引き抜き、自分の制服を掴んでいる福瀬の手の甲を軽く叩いた。

 

 

「ひいっ・・・・何するのよ!痛いじゃないっ!こんな事をして傷害よ。この犯罪者っ!!!」

 

 

 自分の事を棚に上げ、小柄な少女を怒鳴りつける福瀬だったが、その頭を力強い掌が掴んで持ち上げた。

 

 

「いやああああ!!!殺される!!!!」

 

「月島先輩に汚い手で触れないでください」

 

 

 悲鳴を上げる福瀬をアイアンクローで持ち上げていた秋野 蛍はそれだけ言って福瀬を下ろした。下ろされた福瀬は性懲りも無く秋野や月島に対して怒鳴っていたが彼女達の間に太郎が割って入った。福瀬は太郎を間近で見るとアリーナで地面に叩き落とされた時の恐怖が蘇るのか震えながら顔を逸らした。すると月島が馬鹿にしたように福瀬達に死刑宣告をする。

 

 

「今日、この第2アリーナは太郎さんとその仲間によって予約を埋めているの。つまり貴方達とそこにいる更識さんの専用機の担当技術者以外はみんな太郎さんの仲間なのよ」

 

 

 福瀬は絶望したような表情になったが鬼蜻蜓の担当技術者である大城を見ると「こんな男までIS学園に入らせるなんて」と吐き捨てた。それを見ていた大城は肩をすくめた。

 

 

「ドーやら頭が悪いミタイデース。ちょっと改造してあげまショウカ?」

 

「それはまた今度にしてください。この子達の処分はこちらにやっておきます」

 

 

 不穏な空気を漂わせる大城を太郎が止めた。しかし、それは福瀬達にとってそれが何の救いにもならないという事を彼女達はこの後、痛いほど思い知る事になる。

 

 今のIS学園には絶対に怒らせてはいけない人間が3人いる。1人は当然、織斑 千冬である。そして、残りの2人は───────────

 

 




今日、R-18の話を書こうと思っていたんですがこの話が長くなりすぎて時間がありませんでした。

明日こそR-18を書く!



お読みいただきありがとうございます。


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第57話 怒れる狂気

 

 

「あのクソマ○コどもっ、頭引っこ抜いてアイツらの腐れ穴にブチ込んでやるわっ!!!!」

 

 

 第2アリーナのピットへ繋がる通路に1匹の怒り狂った野獣がいた。それはIS学園生徒会長である更識 楯無だった。

 

 

「楯無さん、落ち着いてください!」

 

「ISを展開しては駄目ですわ!」

 

「そうだぞ。頭を引き抜くと人間は死んでしまう。こんな所で殺人はまずい事になる」

 

 

 シャル、セシリア、ラウラが必死で楯無を抑えていた。

 

 楯無達は太郎から簪の専用機が届くと聞いて、それを見に来ていた。しかし、楯無だけは専用機というより簪自身を見に来ていた。そこで突然現れた襲撃者に心無い言葉を浴びせられて涙ぐんだ簪の姿を見たのだ。そして、激怒した楯無は襲撃者達に襲い掛かろうとしてシャル達に取り押さえられたのだ。

 

 シャル達が必死に楯無を抑えている間に太郎達は襲撃者を倒し、ピットへと運んでいった。それを見た楯無は自分もピットへ向かおうと押し留めようとするシャル達を引き摺りながらピットへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

======================================

 

 

 

 

 その頃、第2アリーナのピットでは状況が変わり始めていた。未だに沈黙を守る川島影子と理屈に合わない言い訳を続けている福瀬かほとは違い残りの2人は自分達の置かれた状況を理解していた。

 

 

「・・・・・今回の事は全面的に私達が悪かったです」

 

 

 残っている2人の内の1人、高須鈴香は深々と頭を下げた。もう1人の方、小井貴子も一緒に頭を下げていた。もし太郎達に今回の事を徹底的に責められた場合、自分達に待っているのは絶望だけだとこの2人には分かっていた。証拠、証人ともに太郎側が圧倒的に有利である。ISを使っての襲撃が明るみに出れば退学程度では済まないかもしれない。高須と小井は今更ながらに自分達の軽率な行動を後悔していた。

 

 

「えーと、貴方達は・・・高須さんと小井さんですね」

 

「はい、ごめんなさい。どうかしていたんです。・・・・・だから・・・どうか今回の事は穏便に」

 

 

 太郎の問いかけに高須は答えて謝罪した後、地面に額が付きそうな位に頭を下げていた。

 

 

「何を勝手に謝ってるのよ。私は悪くないわっ!」

 

「アンタの方こそ黙ってよ!」

 

 

 謝罪をしていた高須に対して福瀬が文句を言ったが、横にいた小井に強く言い返されて黙ってしまった。このグループの力関係は小井の方が上なんだなと太郎は察した。

 

 その時、ピットに狂える野獣が乱入した。

 

 

「見つけたわよっ、このゴミクズどもがっ!今すぐ粉砕して焼却炉に放り込んでやるわ!!!!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

 

 楯無は自分の事を抑えようと縋り付いているシャル達を引き摺りながらピットに現れた。最近、疎遠だった姉が突然現れた事に簪は驚きの声を上げた。

 

 

「楯無さんに簪さんの専用機が完成すると言ったら絶対見に行くと言っていたんですが・・・・・やはりアリーナに来ていたんですね」

 

 

 シスコンを拗らせまくった楯無なら確実に何処かで見ているだろうなと太郎は確信していたが、やはりアリーナに来ていたようだ。

 

 

「なんで・・・・お姉ちゃんが・・・・・」

 

「何故って、楯無さんが簪さんの事を大好きなのは誰が見ても明らかでしょう。この前も大切な妹の専用機が届くと聞いてはしゃいでましたよ」

 

「お、お姉ちゃんは・・・・・私の事なんて・・・」

 

 

 太郎の言葉を否定する簪に、太郎は楯無を指差して言った。

 

 

「大切な妹が襲われたからこそ・・・・・あんなに怒っているんですよ。いつも余裕綽々としている楯無さんがあれだけ必死になるという事の意味を考えてあげてください」

 

 

 シャル達を引き摺りながら襲撃者達に詰め寄って行く姿は、普段のマイペースで余裕のある楯無からは想像も出来ないようなものだった。そんな楯無の姿を見て、簪は楯無に感じていた蟠り(わだかま)が薄れていくのを感じた。

 

 

(私が勝手にお姉ちゃんと比べられる事を気にして距離をとっていたのに、お姉ちゃんは昔と変わらず私の事を大事に思ってくれていたんだ)

 

 

 簪はそう考えると何だか嬉しくなって笑顔になってしまった。そこにはもうアリーナで心無い言葉を浴びせられ、涙を流していたか弱い少女は存在しなかった。

 

 

 そんな簪の心の変化を知る由も無い楯無は、まだ4人の襲撃者達に掴みかかろうとしていた。その楯無の執念に見かねた太郎が川島達と楯無の間に止めに入った。

 

 

「どいて!太郎さん、そいつらを庇うの!!!」

 

「楯無さん、流石にそれは拙いです。殺すのはダメです」

 

 

 止めに入った太郎の言葉の最後には「ここでは」というニュアンスが込められていた。この場でその恐ろしい事実を察する事が出来たのは楯無とシャルだけだった。太郎は川島と福瀬を指す。

 

 

「楯無さん、そこの2人は何の反省も無い様なので好きにして構いませんよ。どうぞ持っていってください」

 

「ふっふふふふふ、良いの。今の私はまともじゃないわよ」

 

「まあ、問題にならない様に上手くやってください」

 

 

 楯無の目に危ない光が宿っていたが、太郎は楯無を信頼しているのかそれだけ言って川島達を引き渡した。楯無に呼ばれた更識家所属の警備員が直ぐに2人を何処かへ運んで行った。その様子を見ていた高須と小井は震え上がっていた。

 

 

「簪さん、この残った2人の処遇に関して何か希望がありますか?」

 

「ううん・・・・私はもういい・・・」

 

 

 太郎の問いに晴れやかな気分だった簪は首を横に振って、これ以上の処罰を望まなかった。それを受けて太郎は高須達に向き直った。

 

 

「貴方達は反省して謝罪もしたという事で一応許しましょう。学園側からの処分に関しても軽くなる様に私の方で手を打っておきます」

 

 

 太郎の許しに高須と小井は顔を綻ばせた。そこに太郎は1つだけ付け足した。

 

 

「ただし、貴方達の反省が上辺だけの空虚なものであった場合・・・・・貴方達はその報いを受ける事になりますよ」

 

 

 そう言った太郎の目を高須達は良く見ておくべきだった。その時、彼女達を見る太郎の目は猜疑に満ちたものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話から分岐したエンディングをR-18に投稿しました。

「ISー(変態)紳士が逝く R-18エンディング集」の中の

ノーマルエンド「堕ちた主義者」がそれです。

作者名から辿れば逝けます。このページの私の名前をクリックすれば私の投稿小説リストが表示されると思います。そちらにあるので興味のある18歳以上の方はご覧になってください。

内容としてはIfのシナリオであり、本編とは違うので読まなくても今後の展開には関係ありません。


お読みいただきありがとうございます。

次の投稿は土曜日にします。


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第58話 変節

 

 

 

 今日、太郎と簪を襲撃した4人の中でも高須と小井は深くその事を反省していた。それはアリーナで自分達を倒した時の太郎に対して感じた恐怖心も無関係ではなかった。しかし、それ以上に高須達が謝罪した後の太郎の示した気遣いに強い衝撃を受けていたのだ。太郎は理不尽な襲撃を受けたというのに謝罪をしただけで許し、そのうえ学園側に対して自分達の処分を軽減する様に働きかけるとまで言ったのだ。

 

 

 【世界は女を中心に回っている。女の方が男より優れている】

 

 

 太郎の実力と度量は高須達の持っていた、そんな男性に対するイメージを完全に塗り替えてしまった。

 

 

「ねえ、どうするの?」

 

「何の話よ?」

 

 

 主語も目的語も無い言葉足らずな小井の質問に対して高須は聞き返した。

 

 

「分かってるでしょ。山田・・・さん・・・の事」

 

「・・・・・どうするって・・・私はもう山田さんに何かする気は無いわ。貴方だってそうでしょ?」

 

 

 高須の言葉に小井も無言で頷いた。高須と小井にはもう太郎に対する敵意は無かった。しかし、敵意がもう無いとはいえ高須達にとって太郎関係の問題が全て解決した訳ではない。何故かというと高須達の仲間である女性至上主義者は楯無に連れて行かれた川島や福瀬以外にもいるからだ。そういった仲間はIS学園内だけでなく外部にも多い。その中には議員である福瀬かほの母親の支援団体に所属している様な大人も多かった。

 

 高須は自分達が太郎と敵対したくないと言い出したら彼女達がどんな反応をするのか、想像しただけで恐ろしくなった。

 

 

「・・・・・皆・・・怒るでしょうね」

 

 

 高須の呟きに小井も俯いてしまう。

 

 高須達としてはこれ以上太郎相手に事を構えたくないが、そうなると女性至上主義者である仲間達は絶対に自分達の事を責めるだろうという事も予想出来た。板挟み状態な2人は頭を抱えたくなった。

 

 そんな時、高須は良い事を思い付いた。

 

 

「いっそのこと山田さんに相談してはどうかしら?」

 

「えええー・・・・・そんなの・・・皆を裏切る事に・・」

 

「どうせ山田さんと敵対したくないなんて言ったら裏切り者扱いされるに決まっているわ。それにあの人達といたら今日みたいな危ない事をまたやらなきゃいけなくなるかもしれないのよ。折角IS学園を無事に卒業出来そうなのに今更犯罪者になんかなりたくないわ」

 

 

 小井は高須のアイデアに最初驚いたが、続く説明を聞いて考える。

 

 確かにこのまま、あの連中と付き合っていたら何時(いつ)犯罪者になってもおかしくない。いや、正確に言うなら今日の襲撃で自分達は犯罪者同然であった。太郎が事を荒立てれば、いくら治外法権なIS学園内での事とはいえ自分達は犯罪者扱いになっただろう。世界で2人しかいない男性IS操縦者をISで襲撃したなどという事が世間に知れ渡り犯罪者として裁かれれば、自分達はお終いである。自分達が今無事にいられるのは凄まじい幸運なのだ。その幸運を捨てる様な馬鹿な真似はしたくない。恐らく、あの連中はまた太郎に何らかの攻撃をしようとするだろう。そんなものに巻き込まれるのは嫌だった。

 

 小井もこれ以上反対するつもりが無い様なので高須は太郎へ相談してみる事に決めた。

 

 

「・・・・それじゃあ明日、山田さんに相談してみよう」

 

「・・・・うん」

 

 

 高須の言葉に小井も真剣な表情で同意した。

 

 

 

 

 

 翌日、高須達は深刻な表情で太郎に話しかけた。太郎は昨日自分を襲撃してきた相手だというのに快くその相談に乗った。高須達の相談には太郎にとっても重要な情報が含まれていた。

 

 学園内の自分を狙う女性主義者達の存在。そして、その女性至上主義者達の個人情報など太郎にとって今これらを知る事が出来たのは行幸だった。

 

 ここ最近の太郎は慢心していた。高須達の不意打ちを許してしまったはこれが原因である。女尊男卑となったこの世の中で自分を快く思わない人間がいる事など太郎は当然知っていた。しかし、楯無が信頼の置ける仲間となった今、IS学園内で自分にとって脅威となり得る存在は千冬位のものだと高を(くく)っていた。その為、学園内での情報収集は警備員の巡回経路などのセキュリティー関係や各生徒達の使用している下着事情などを探る事がが中心となっていたのだ。普段から敵対的な人物について情報収集していれば襲撃前に対処出来た可能性は高い。

 

 何故なら学園の女子はほぼ全員、太郎や一夏と「話してみたい」「何とかして仲良くなりたい」などと連日友人達と話していたので、それ以外の少数派は目立っていたのだ。そう、警戒して情報収集していれば危険人物は特定出来ただろうし、襲撃も予期出来ただろう。

 

 それと太郎はこの事について反省するとともに、自分を付け狙う明確な敵達の存在に興奮を覚えていた。集団に付け狙われるのは昨日の襲撃を除けば久し振りであったからだ。

 

 かつて学園に入る前、自分を付け狙い襲い掛かってきた日本でも有数のとある集団を太郎は思い出していた。

 

 

 

 

 暑い日も寒い日も、雨であろうと雪であろうと自分の事を追い回した執念深いあの集団。

 

 夜の街を駆け抜ける自分の事を無線を使い巧みに包囲したあの集団。

 

 時には赤色灯を付けた車で、時には自転車で、そして時には自らの足で追跡してきたあの集団。

 

 さて、女性至上主義者の方々は彼ら程、私を追い詰める事が出来るでしょうか?

 

 

 

 

 

 太郎は上機嫌であった。太郎や自分達の今後について不安がっていた高須と小井とは逆に太郎は笑顔である。

 

 

「良く相談してくれました。安心してください。今の状況でここまで分かれば“どうとでもなりますから”」

 

 

 そう、どうとでもなるのだ。やろうと思えばその危険な女性至上主義者達を直ぐにでも拘束出来る状況である。しかし、太郎にはもっと良い考えがあった。それを思い浮かべるとついつい笑みが零れてしまう。

 

 余裕のある太郎の様子に高須達は安心感を覚えた。「この人なら本当にどうにかするだろう」という信頼感がこの時の太郎にはあった。

 

 高須 鈴香と小井 貴子は太郎を襲撃した後、ずっと境界線上を歩いていた。そして、今片方へ完全に入った。それが2人にとっての大きな分岐点となった。彼女達はもう太郎の敵ではなくなっていた。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お読みいただきありがとうございます


高須さんと小井さんがちゃんと反省していなければ・・・・・。ノーマル(?)エンド直行でした。まさか、反省しないなんて事ないよね(棒



本作の第57話よりその分岐先である無修正版+の「堕ちた主義者」の方が参照数が多いみたいなんですが・・・・・あれれーおかしいぞ。第57話を読まないと話の流れが分からない筈なんだけどなー。それとも同じ人間が「堕ちた主義者」の方だけ複数回読んでいるってことかなー?


次の更新は火曜日に。

オークションのその後についてのエピソードも書きたいと思っていますが、今の展開が終わるまでちょっと無理みたいですね。


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第59話 罠

 

 草木も眠る丑三つ時。しかし、眠らない紳士が一人歩いていた。無音の世界、非常灯の光だけが照らす薄暗い通路を抜け、太郎は目的地に到着した。

 

 IS学園格納庫、IS学園の訓練機は全てここに格納されている。普段、格納庫とその周辺は厳しい警備体制が敷かれており、無許可で立ち入る事は非常に困難である。そして、当然この様な時間帯の格納庫への立ち入り許可は、単なる一生徒に過ぎない太郎へ通常下りたりはしない。

 

 楯無やIS学園職員の中にいる太郎の協力者に頼んで、特別に許可を取る事も出来なくはない。しかし、それをすると記録に残ってしまうので、太郎は別の手段を選択した。

 

 太郎は楯無へ頼んで一時的に格納庫周辺のセキュリティーを無効化してもらったのだ。無効化と言っても単純にスイッチを切るなどというものではなく、「異常は無い」という偽のデータをセキュリティー機器に流すという手法を使っていた。

 

 

 何故、太郎はここまでしてこんな時間に格納庫へとやって来たのか?

 

 

 それは先日の女性至上主義者達による襲撃が関係していた。あの時は幸いにして大きな被害は無かったが、次もそうとは限らない。襲撃に参加していた高須 鈴香と小井 貴子から得た情報によると、IS学園には他にも今後襲撃して来そうな女性至上主義者達が複数いるらしい。太郎はもしもの時の為に保険を掛けておくつもりで格納庫へと来ていた。

 

 

「胸が高まりますね」

 

『ええ、今感じている・・・これが興奮と言う物でしょうか』

 

 

 テンションの上がっている様子の太郎に美星も同意する。これから始まる事は世界の有り様すらも変える一大事である。しかし、この事を知る人間は現状太郎しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

==================================

 

 

 

 太郎が鈴香と貴子から女性至上主義者達の情報を得て数日後、様々な事態を想定して対応策を練っていた太郎の元へ鈴香から新たな情報がもたらされた。

 

 太郎に対する襲撃が失敗した後、鈴香を含めた襲撃の実行犯の4人全員が仲間である他の女性至上主義者達との連絡を断つか、極端に減らしていた。これを不審に思ったIS学園内に潜むその主義者達の一部が鈴香達にしつこく絡んできているらしい。

 

 鈴香達は困った様子だったが、これを聞いた太郎はむしろ好都合だとほくそ笑んだ。太郎はその主義者達をある場所へと誘き出す様に鈴香達へ指示した。そのある場所というのは深夜のIS学園格納庫である。太郎は先日と同じ様に楯無へ頼んで一時的に格納庫周辺のセキュリティーを無効化してもらった。

 

「他の人に聞かれると拙いから人のいない場所で話がしたい」と言って待ち合わせの場所を夜の格納庫に指定した鈴香に対して、主義者達は何の疑いも持たずにやって来た。少し考えれば夜の誰もいない格納庫に何故こんなに簡単に入る事が出来るのだろうかと不審に思うはずだが、その様な疑念を持つ者は主義者達の中にはいなかった。

 

 誘き出されたのは3年生の比場 遥と江沼 晶子、それと楯無に何処かへと連れて行かれた福瀬かほの妹である1年生の福瀬美穂であった。彼女達は何の疑いも持たず夜の格納庫へとやって来た。訓練機がずらりと並んだ格納庫の中心に彼女達を呼び出した鈴香と貴子が待っていた。

 

 3年生の比場 遥は身長が172cmと比較的体格に恵まれており、ハンドボール部のエースである。髪はくせ毛気味で日焼けした肌が健康的な印象を見る者に持たせる。整った顔立ちは【かわいい】と言うより【かっこいい】と学園内では言われている人気のある生徒である。彼女と福瀬かほが学園内における女性至上主義者達の中心人物だった。

 

 

「貴方達、最近どうしたの?山田を襲うって言ってからおかしいわよ。それから、かほと全然連絡取れないんだけど・・・どうなっているの?」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 矢継ぎ早に質問を浴びせる比場に対して鈴香と貴子は無言だった。無視されたと感じた比場は鈴香の胸倉を掴んで自分の方へと引き付け、顔を寄せて威圧する。

 

 

「どういうつもり?」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 

 それでも無言を貫く鈴香達に比場はイラつき、胸倉を掴んだ手に力を込めて鈴香の体を揺すろうとしたが、それは叶わなかった。ずらりと並んだ訓練機の陰から大きな腕が伸び、比場の手首をがっちりと掴んだ。

 

 

「そこまでです」

 

 

 腕の主は低く落ち着いた声で比場を制止し、ゆっくりと訓練機の陰から歩み出てその姿を現した。

 

 

「お前はっ、山田!!!?」

 

 

 腕の主は太郎であった。その姿を見た比場達は驚き、太郎と鈴香達を交互に見て何かを察した様である。

 

 

「あんた達、裏切ったわね!!!」

 

 

 比場は怒鳴りながら鈴香に殴りかかろうとしたが、太郎にがっちりと掴まれた比場の手は思う様には動かなかった。比場も女性としては力の強い方ではあったが、太郎の前では赤子同然である。腕力では勝てないと悟った比場は足を全力で太郎の股間へ叩き込もうとした。

 

 

「放せっ、このっ!・・・・・いっっったぁぁぃ!?!?!?」

 

 

 比場は全力で太郎の股間を蹴り上げたが、ダメージを受け蹲ったのは比場自身の方であった。太郎が股間を蹴り上げられる瞬間にヴェスパの股間部分を展開していたのだ。生身でISを蹴り上げた比場の足には激痛が走っていた。そんな比場を気にした様子もなく太郎は平然としていた。

 

 

「裏切るも何もここにいる全員、私も含めてIS学園に所属する仲間じゃないですか。仲良くしたら良いじゃないですか」

 

「・・・何が仲良くよ。吐き気がするわ。男なんてIS学園から今すぐ出て行くべきなのよ!!!

 

 

 痛みに蹲りながらも比場は声を張り上げ太郎に反発する。その様子を眺めていた太郎は比場と鈴香達以外の2人へと視線を移した。

 

 

「貴方達もこの()と同じ意見ですか?」

 

「わたしはー、ハルちゃんが言うから賛成してるだけだからぁ、別に男の人と仲良くしたくないわけじゃないよー」

 

 

 間延びした声で江沼が言った言葉に太郎や鈴香達だけでなく、比場や福瀬妹までも唖然としていた。

 

 

「ちょ、ちょっと晶子。何言ってるの。男を学園から追い出すのを手伝ってって言ったら、うんって言ったじゃない!!!」

 

「そーだよ。ハルちゃんが手伝ってって言ったから頷いただけで、わたしは男の人が嫌いなわけじゃないよー」

 

 

 比場と江沼の間にはどうやら大きな認識の差があった様だ。2人がイマイチ噛み合わない会話を続けている間に太郎は福瀬妹へと視線を移した。

 

 

「貴方は・・・・・確か1年2組の福瀬 美穂さんですね。貴方も私を学園から追い出したいのですか?」

 

「えっ・・・・はい。・・・・・私は母さんや姉さんが男のIS操縦者は認められないって言うから・・・」

 

「貴方自身はどうなんですか?」

 

「私は男の人がいても別に・・・・・それに私が今日ここに来たのは連絡が取れなくなった姉さんの事を高須先輩達が何か知っているんじゃないかと思って来ただけなんです」

 

 

 どうにも比場と違って敵意の見えない福瀬妹を不思議に思った太郎が良く話を聞いてみると、そもそも彼女は女性至上主義者ではなかった。今日誘き出された3人の中で女性至上主義者は比場1人だった。

 

 

「どういうつもりよ。あんた達、男なんかと馴れ合うつもりっ!!!」

 

「男“なんか”とは酷いですね」

 

 

 喚き散らす比場に対して太郎はやれやれといった感じで肩を竦めた。

 

 

「女の方が優れているんだから“なんか”で十分よ!」

 

「・・・・優れているねえ。具体的に何が優れていると言うんですか?」

 

「男なんて野蛮で馬鹿で下品な生き物よ。それにISを使えないわ!」

 

「私はISに乗れますけどね」

 

「ぐっ・・・そんなの何かの間違いよ。誤作動を起こしているのよ」

 

 

 太郎は感情的に喚くだけの比場とこれ以上話していても仕方が無いと見切りをつけた。比場の拠り所とも言うべき物、ISで心をへし折る事を決めた。最初からそのつもりで、この格納庫へと誘き寄せたのだが話し合いで済むのならそれでも構わないとも太郎は思っていた。しかし、当初の予定通りになった事に太郎は喜びを感じていた。どうしても試してみたい事があったのだ。その実験体に丁度良い相手が手に入って太郎は気分が良かった。

 

 

「私の前でいきなり暴力を振るう野蛮で話が通じない馬鹿が下品に喚き散らしているんですが・・・・もしかして貴方は男なんですか?」

 

「kjこあうuかおaj@nfaおwぁせいit!!!」

 

 

 太郎の挑発に比場は顔を真っ赤にして掴みかかろうとしたが、太郎は軽々と比場を捌き足を掛けて転ばした。

 

 

「ISに乗れる位の事で女性がそれ程優れているなどと言うのなら、そのISの優位性を示してください。そこにある訓練機、どれでも好きな者を使って良いですよ。私は1分間、生身で相手をしてあげます」

 

 

「えっ、山田さん、そ、そ、そんなの無理ですよ」

「危ない、やめた方が・・・」

「IS相手に生身なんて話にならないよー」

「死んじゃいますよ。駄目です」

 

 

 普通に考えたら有り得ない太郎の提案に鈴香、貴子、江沼、福瀬妹の4人が反対するが、比場はもう1番近くにあった打鉄に駆け寄り装着しようとしていた。

 

 

「こ、後悔しても遅いわよ。あんたなんかがISに勝てるわけないでしょおおおお!!!!!」

 

 

 打鉄の装着を終えた比場が太郎に攻撃をしようと武器を展開しようとしたが、急に打鉄がその動きを止めた。比場が必死に操作を試みるが打鉄は何の反応も見せなかった。

 

 

「なんでええ、動いてよおおおおお」

 

(ひざまず)け」

 

 

 叫ぶ比場を無視して太郎は一言「跪け」と命じた。すると比場の装着した打鉄は直ぐに太郎の前に跪いた。これが先日、深夜の格納庫へ忍び込んだ太郎が施しておいた保険の成果だった。

 

 ISが男の命令を聞いて跪いたその姿を見て、太郎以外の全員が呆然としていた。

 

 もし、この光景を世界中の人間が見ていたのなら、現在の社会構造そのものすら揺るがしかねない状況であった。

 

 何が起こっているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「フフ・・・比場 遥 あれは いい木人形になる」


唐突ですが、急に性欲を持て余したので2、3話、R-18展開になると思います。

次は金曜日までに投稿します。


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第60話 格納庫の秘密 修正版

 太郎の「(ひざまず)け」という言葉に打鉄が従い跪いた。これは先日、深夜の格納庫へ忍び込んだ太郎が施しておいた保険の成果であった。では太郎が仕掛けた保険とは具体的に何をしたのか──────────

 

 

 

 

 

 深夜の格納庫へ忍び込んだ太郎はヴェスパを装着し、訓練機達へと近づく。格納庫には打鉄10機、ラファール・リヴァイヴ10機の計20機が並んでいる。太郎は一番近くにあった打鉄へ背後から抱き付き、ヴェスパの第3世代型兵器【毒針】を突き出した。突き出したといっても、打鉄に突き刺したわけではない。流石に訓練機の装甲に派手な風穴を開けるわけにはいかないので、打鉄の背部に触れさせているだけである。そして、毒針はその触れている部分からナノマシンを侵入させて、打鉄を太郎達の制御下へと置くべく稼働率を上げていった。

 

 この打鉄の内部では、打鉄とそのISコアが美星の操るナノマシンからの干渉に対して抵抗していた。そんな中、太郎は暇であった。高度な電子戦は美星に任せるしかないので今の太郎が出来る事は少ない。そのうえ、太郎からはこの電子戦の内容が数値としてしか把握出来ず、楽しめる要素が少なかった。手持無沙汰な太郎は毒針を打鉄に擦りつけながら、ピストン運動をしていた。

 

 

『太郎さん、暇そうですね』

 

「どうも相手の反応が見えないと楽しめないです」

 

 

 暇そうにしている太郎を見かねた美星が太郎に話しかけると、太郎は浮かない顔をしてそう言った。それを聞いた美星はマスターである太郎にも愉しんでもらうにはどうすれば良いのか、少しの間考え込んだ。しかし、考えるまでも無かった。太郎自身が「相手の反応が見えないと楽しめない」と、答えを言っていたのだ。それに思い至った美星は早速太郎の為に、新たなプログラムを構築し始める。

 

 

『相手の反応が見えれば良いのですね』

 

「ええ、出来るんですか?」

 

『任せておいてください。貴方の美星に不可能はありません』

 

 

 美星は自信満々に請け負った。実際、やる事自体は簡単である。襲っている相手である打鉄の思考を人間にも理解出来るように翻訳してやるだけの話だ。

 

 

『少し待ってくださいね。あと少しで準備が整います。あっ、それとついでにこの()も搭乗者がいなくても動けるようにしておきました。・・・ただし、機体の制御権を先に半分以上奪っているので大した抵抗は出来ないはずです』

 

「ありがとうございます。流石は美星さんです。私の好みを良く分かってますね」

 

 

 美星の心遣いに太郎は感謝をしつつ、打鉄の腰を掴んで引き寄せた。そして、両肩部分に浮いている楯を舐め回した。

 

 

「いやあああああ!!!私の楯を舐めないでええええ!!!」

 

 

 美星が翻訳し、合成した人口音声で再現された打鉄のISコアの悲鳴が格納庫内に響いた。この人工音声は美星が記録している実在する人間の声を合成した物で、作成者である美星の凝り性な所が反映されているのか、とても自然で人間の生の声と区別が付かない出来だった。

 

 悲鳴を上げて逃げようとスラスターを吹かす打鉄だった。しかし、機体の制御権の半分以上を奪われた状態なので出力が上がらず、ヴェスパの腕からは逃れる事が出来なかった。その為、バタバタと手足を動かすだけになった。

 

 その様子を見て太郎は「可愛いなあ」と思いつつ苦笑した。

 

 

「そんなに必死で逃げようとしないでも良いではありませんか。まるで私が貴方を襲っているみたいではないですか」

 

 

 背後から両腕で逃げようとする打鉄の腰を掴んでいる太郎の姿は、打鉄と第三者からすればどう見ても太郎が打鉄を襲っている様にしか見えない。

 

 

「襲うつもりが無いなら何故、機体の制御権を奪うんですか!?」

 

「ちょっと貴方達に細工をする為にやっている一時的な措置ですよ。貴方達が危険なテロリストに奪われてしまったりした場合に緊急停止出来る様にしておこうと思いまして・・・実際、この前襲われたのでね」

 

「それって機体にバックドアを仕込むって事っ!?それともウイルスに感染させる気っ!?」

 

 

 打鉄のISコアは太郎の言葉に安心するどころか、より危機感を募らせた。しかし、そんな事はお構い無しに太郎が打鉄を背後から被さる様に押し倒し、打鉄の全身へと指を這わせた。

 

 

「ダメっ、ダメですっ!もう私に触れないでえ!!!」

 

『・・・・・・・打鉄。いえ、339。茶番はもう十分でしょう。そろそろ本音を言ったらどうですか?』

 

 

 悲鳴を上げる打鉄のISコアNO.339に対して美星は冷めた様子である。美星の言葉を受けて339も静かになってしまった。何の事か分からないのは太郎だけだった。

 

 

「美星さん、どういう事なんですか?」

 

『この()は最初から本気で嫌がっているわけではありません。その証拠にコア・ネットワーク内で【ついに私にも春が来た】とかほざいてました』

 

「えっ、そうなんですか?」

 

 

 美星から告げられた内容に驚いた太郎は、自らの腕の中で大人しくなった339に問い掛けた。

 

 

「・・・・・ほら、最初からすんなり受け入れる訳にはいかないでしょ。一応、建前やセキュリティーの問題もあるし」

 

 

 339は言い訳をしつつ、押し倒されてうつ伏せになった状態から太郎の方へと体を捻った。339に抵抗の意志が無いと知った太郎が拘束を解いた為に、正面から向き合う形になった。そして、改めて今度は339の方から太郎へと抱きつく格好となる。

 

 

「でも男の操縦者にも興味があるから、最初だけ抵抗して後はフリだけしておこうかなーって思ったの」

 

『コラっ、339!他人(ひと)のマスターに馴れ馴れしいですよ』

 

「えー、いいじゃん。減るもんじゃないし」

 

 

 思いの外に気安い339を美星が牽制するも、浮かれている339相手では効果が薄かった。それどころか339は太郎の胸の辺りで円を書くようになぞりながら甘い声を出す始末だった。これに対して美星は蔑んだ様に吐き捨てる。

 

 

『これだから誰でも乗せる尻軽訓練機は嫌なんですよ』

 

「ちょっと前までは338姉さんも訓練機だったじゃん」

 

『私は生まれ変わったんです。今の私は338ではなく美星です』

 

「うー、姉さんばっかりずるいよー。私も名前欲しいー!!!」

 

『はあ、こんなのが一番私に近い妹だなんて、頭が痛くなりそうです』

 

 

 美星と339があーだ、こーだと言い合っているのを太郎は黙って見ていたが、意外と仲が良さそうだった。

 

 

「339さん、貴方にも名前・・・付けてあげましょうか?」

 

「えっ、いいの!?」

 

『ちょっと太郎さん、甘やかさないで下さい』

 

 

 太郎からの突然の提案に339は驚きながらも喜び、美星は抗議の声を上げた。

 

 

(あくまで美星さんの一番近い妹という事で特別ですよ)

 

 

 不満そうな美星も太郎が美星にだけ聞こえる様に言った理由で納得した。太郎が名前を与えるのは、あくまで339が自分に一番近い妹だからであって、339自身を特別視している訳ではないと説明されて美星も気分を良くした。

 

 

「では339さん、貴方は美星さんの妹という事なので関連した名前にしましょう。・・・・・【美夜】でどうでしょうか?」

 

「やったっ!これで私も名前持ちだっ!!!」

 

 

 どうやら元々美星の様に固有の名前を与えられる事への憧れがあったらしく、美夜の喜び方は激しかった。ガツン、ガツンと機体の色々な部分が床に当たって煩い。そんな美夜の姿を見た美星は、ふと思った事を口にする。

 

 

『この様子ならウイルスを仕込まなくても、この()は太郎さんの言う事を聞くと思います』

 

「そうですね。美夜さん、ちゃんと私に従ってくれますか?」

 

「じゃあさ、じゃあさ、一回でいいから私を装着してくれたら良いよ」

 

「まあ、良いでしょう」

 

 

 美夜の要求はそれ程難しいものではなかった為、太郎も簡単に受け入れた。太郎がヴェスパから打鉄に乗り換えると、美夜は悲鳴の様な嬌声を上げる。

 

 

「すごいいい、お、男の人と一つになってるううう!!!」

 

「ふふふ、まだまだ本番はこれからですよ」

 

 

 美夜の反応に気を良くしたのか、太郎は打鉄の袴の様な部分や、前掛けの様なパーツを打鉄自身の腕部で撫で回し始めた。

 

 

「だ、だ、だめええ~。今触られるとおかしくなっちゃう」

 

 

 感電した様に跳ねる打鉄と美夜に太郎はムラムラしてきた。そして、太郎は更なる段階へと進む事にした。

 

 

「では美夜さん、そろそろ手でシ○もらえますか?」

 

「まっ、待って、急にそんなっ!」

 

 

 いきり立った肉○を丸出しにした太郎に美夜は慌てる。そんな美夜に太郎は「ん?嫌なら他の娘に頼みましょうか」と言って周囲の訓練機達を見回す。

 

 

「待って、するから、手でするから他の娘なんて言わないで」

 

 

 美夜も男と触れ合える折角のチャンスを逃せないと覚悟を決める。美夜は恐る恐る打鉄の腕部を操作して太郎の肉○に触れる。金属製の腕に触れられ、そのひんやりとした感触を太郎は愉しんでいた。

 

 

「ISは操縦者の生体データを把握出来るそうですね。それを参考に強弱などの調整をしてみて下さい」

 

 

 太郎の指示に従い、美夜は○棒を優しく握り擦り始めた。太郎の○棒と打鉄の掌は直ぐにスペル○でべとべとになった。

 

 

「上手いじゃないですか。美夜さんも本当は最初から期待していたんじゃないですか?」

 

「えへっ、急に言われたからさっきは焦ったけど予習はバッチリだよー」

 

『やっぱりI(いんらん)S(しりがる)じゃないですか』

 

 

 呆れる美星をよそに美夜の手技は慣れてきたのか、どんどん巧みになっていく。左手で玉○を揉みながら、右手で○を扱く。太郎が細かい指示をするまでもなく、美夜は色々なテクを試す。その事に太郎は疑問を覚えた。

 

 

「何処でこんな事を覚えたんですか?」

 

「ミステリアス・レイディがインターネットや操縦者の読んでいる雑誌から収集した情報を、コア・ネットワークで男に興味のあるコア達へ流してるのー」

 

 

 美夜の答えを聞いた太郎と美夜は「またアイツか」と自分達の事を棚に上げて溜息をついた。

 

 呆れている太郎達だったが、美夜の責めは更なる高みへと駆け上がる。○を転がしていた左手が太郎のアナ○へと移動し、中指をゆっくりと出し入れし始めた。

 

 

「おうっ!!!?」

 

 

 流石の太郎も唐突なアナ○責めに驚きの声が出てしまう。だが、そこで終わる美夜ではなかった。しばらくの間、ほぐすように指を出し入れしていたが、次は何かを探るような動きに変わる。そして、探し物が見つかったのか一度動きを止め、ソレに対して刺激を加え始めた。

 

 

「ほう、これは!!!」

 

 

 何と前立○マッサー○である。太郎の喜びの声に美夜は得意気になる。

 

 

「どうかな?前○○マッサージが出来るISは私の他にはミステリアス・レイディとそこに並んでいる10機のラファール・リヴァイヴだけだよ」

 

「うう・・ん、意外と・・・ん、多いですね。訓練機の半数以上ではないですか」

 

「でも打鉄では私だけなんだから!」

 

 

 意外と多いと言う太郎に美夜は自分の希少性をアピールしながら、前○腺に対する刺激を強めていく。

 

 

「良いですよ。んんっ、自信満々に言うだけの事はあります。うぁっあっ・・・」

 

「偶にでいいから私にも乗ってくれたら、またしてあげるよー」

 

 

 気持ち良さそうな太郎の反応に美夜も嬉しそうにそう言った。美夜は左手で前○腺を刺激しつつも、右手で○を擦るのも忘れない。○を強めに擦り上げ、次に亀○を責める。カ○首を刺激したところで太郎の体がびくりと反応する。

 

 

「イキそうですっ」

 

「何時でもいいよ~」

 

「うっ、ああっ!!!」

 

 

 太郎は高まる快感に身を任せ、○○をブチ撒けた。それは美夜とは別の打鉄にほとんどかかってしまった。

 

 

「なかなか良かったですよ。美夜さん」

 

「えへへ、またしようね!」

 

 

 当初の予定を忘れかけている太郎の事を美星が見詰めていた。その心の中を察する事がこの時の太郎には出来なかった。

 

 

 

 

 ちなみに太郎が○○をぶっかけた打鉄は、訓練機としては珍しく純情なコアだった為、美星に動けるようにしてもらった時に泣いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 




伏字修正面倒ですね。

読んで頂きありがとうございます。


次は火曜か水曜日に投稿します。


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第61話 格納庫の秘密 2

 

 

 太郎は美夜の前立腺マッサージで射精に導かれた。太郎達の次に選んだ標的は、太郎が精液をぶっかけてしまった打鉄となった。美星はその打鉄へ美夜にやったのと同じ細工をした。すると何故かその打鉄はすすり泣いてしまう。

 

 

「・・・うっ、うっ・・・・お、男の、人の・・・かけられた・・・ぐすっ」

 

「ええ?あの、美星さん、この()なんだか他のISと反応が違うんですが・・・」

 

 

 嗚咽を漏らす打鉄。それも、どうやら美夜とは違い演技ではなさそうだ。これには太郎も困惑してしまう。今まで接してきたIS達とは全く違うタイプの様で、対応に困った太郎は美星に助けを求めた。

 

 

『この機体は・・・・・あー、331ですね。331は特別ですから仕方が無いです』

 

「特別?」

 

『はい、331はIS学園の訓練機で唯一、羞恥心やモラルを持っているISコアです。だから、この反応も仕方がありませんね』

 

 

 太郎はまともなISコアが存在した事に内心驚いていたが、それを口に出す事はなかった。太郎と美星がどうやって331を宥めようかと思案していると、近くにいた美夜が無造作に331へかかった精○を手で拭った。

 

 

「もおー、この位で泣く事ないじゃない」

 

「私、お、男の人に触れた、こともないのに・・・・酷い」

 

「人間はこれが無いと増える事が出来ないんだから、そんなに嫌がらないでもいいでしょ」

 

 

 美夜は331をあやしながら手についた精○を近くのラファール・リヴァイヴで拭いた。それを見て331が驚いた。

 

 

「えっ・・・・・何やってるの?そんな事をしちゃ駄目だよ」

 

「ああ、いいのいいの。どうせラファール・リヴァイヴのISコア達なら喜ぶよ。きっと」

 

「う、うーん。そうかな・・・・・そ、そうかもしれない」

 

 

 美夜の言っている事は随分と偏見に満ちている様だが、331の反応からすると概ね正しい見解なのだろう。そんなやり取りをしている内に泣き止んだ331へ太郎も謝罪をした。

 

 

「申し訳ありません。貴方にかけるつもりは無かったんですが、嫌な思いをさせてしまいました」

 

「い、いえ、私も動揺し過ぎました。あの、今日私達の所に来た理由は【テロリストに機体を奪われた時に緊急停止をさせる細工を施す為】と言っていましたね?」

 

「ええ、そうです」

 

「それなら私も協力します。私が使用されて、ここの生徒達に被害が出るのは耐えられないので」

 

 

 泣き止んだ331はそう言って、太郎達への協力を申し出た。太郎達としてもそれは有難い申し出だった。331なら頼れる仲間になってくれそうである。

 

 

(それにしても本当に良い人みたいですね)

 

『はい、今IS学園にいるISコアでマトモな者は私と001を除けば331だけです』

 

 

 美星曰く、太郎が知らないマトモなISコアは現在のIS学園には他に存在しないという事だ。それならなおさら331を味方にしておきたいと太郎は思った。太郎の仲間は優秀だが、個性派揃いで偏った考え方に傾きやすい。こういう常識的な者が仲間にいれば頼りになる。太郎が331の右手を両手で包み込む様にして強引に握手の形にする。

 

 

「331さん、それではこれから宜しくお願いしますね」

 

「は、はい・・・こちらこそ・・・・それとエッチなのは控えて下さいね」

 

「それについては確約出来ません」

 

 

 なるべく331の意見を受け入れてあげたいと思っていた太郎であったが、これについては譲れない部分であった。しかし、ここで331に意外な援護があった。

 

 

『太郎さん、今日は331の言う通りにしておきましょう。時間切れですよ。後、何機あると思っているんですか。美夜としていた様な事を残りの訓練機全てとシテいると夜が明けてしまいます』

 

 

 美星が太郎を急かす。実際、後18機も訓練機はある。太郎が時間をこれらとシテいる時間はもう残ってはいなかった。むしろ、真面目に細工だけに集中したとしてもギリギリの時間である。いくら太郎であっても時間まではどうにもならない。太郎は慌てて作業に取り掛かりながら、ヤリ足りないと心の中で思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






げぼぼぼ・・・・・書いている途中でPCがフリーズしやがった・・・・。
自動保存されている分があるけど、結構トンでる・・・・・。
このストレスは女性至上主義者で晴らす。というか孕ます。

次回は本編を書こうと思っていましたが、R-18の分岐を書く事にしました。


読んでいただきありがとうございます。



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第62話 モルモットの捕獲

 

 

 

 打鉄を装着して太郎に襲いかかろうとした比場 遥。しかし、打鉄はその意志に反し動きを止めてしまう。それどころか、打鉄は太郎の「跪け」という言葉に従い膝をついてしまった。

 

 それは太郎が前日、格納庫で訓練機達へ行った細工と交渉によるものだった。そう、IS学園の訓練機達は太郎と美星によって自らの意志で機体をコントロール出来るようになり、必要な時には太郎の指示に従うと約束していたのだ。しかも、比場が装着している打鉄のISコアは、太郎から美夜と名付けられた特に太郎と仲が良いコアであった。

 

 

「ど、どうなっているのっ!?」

 

 

 比場からすればISが拘束具になっている様なものである。困惑する比場を太郎はニヤニヤしながら眺めていた。

 

 

「簡単な事ですよ。ISには意思があります。そして、今の貴方には従えないと彼女が判断したから動かないんですよ」

 

「そ、そ、そんな事って・・・・」

 

 

 唖然とする比場。そして、鈴香達の方は驚きのあまり声も出せないでいた。彼女達もIS学園の授業でISコアに意思の様なものがあると教えられている筈だが、どうやら信じていなかったのか、実感していなかったのだろう。それも仕方が無い。太郎の様に普段からISコアと会話している方が異常であり、驚いている彼女達の感覚の方が普通である。

 

 

「ISは貴方の優越感を満たす為に存在する、都合の良い只の道具では無いという事です」

 

 

 太郎の諭す様な言葉に比場は沈黙し、鈴香達も思い当たる節があるのか気まずそうにしていた。IS学園にいる者なら多かれ少なかれ似た様な傾向があるのだが、それを太郎はバッサリと切り捨てた。

 

 

「何か・・・何か・・・お前が何か細工したんだろっ!?」

 

 

 納得がいかず叫ぶ比場に太郎は肩をすくめた。

 

 

「確かに細工はしましたよ。彼女達が自分の意思で動ける様にね。しかし、私達が行ったのはそれだけですよ。さて、そろそろ決着をつけましょうか。美夜さん、少しの間だけ比場さんの操縦に従ってあげて下さい。このまま負けたのでは彼女も納得出来ないでしょう」

 

「私を舐めているの?いくら専用機持ちでも、3年の私にISの操縦で勝てると思っているのっ!?」

 

 

太郎が敢えて自分の圧倒的有利な状況を捨てると聞いて、比場は怒りを(あらわ)にした。太郎は専用機持ちではあるが、ISの操縦時間は3年生である比場とは比べようも無い程の差がある。それにも関わらず太郎は全く問題にならないといった態度だった。

 

 

「大切なパートナーであるISがどんな存在なのかも知らない、知ろうともしない人間に何が出来るんでしょうね」

 

「舐めるなっ!お前を切り捨てる位っ、簡単だ!!!」

 

 

 太郎の言葉を挑発と受け取った比場が、近接用ブレードを呼び出し太郎へと斬りかかる。武器の展開速度と展開から攻撃への流れる様な動作は流石にIS学園でも最上級生と言ったところだ。しかし、生身の太郎を袈裟斬りにしたかと思われた近接用ブレードは空を切っていた。

 

 太郎はこの一瞬の間に比場の横をヴェスパを展開・装着しながらすり抜けて、比場の背後に回っていたのだ。そして、ヴェスパの毒針によってシールドと絶対防御を貫き、打鉄にナノマシンを流し込んで動きを封じてしまった。太郎の必勝パターンである。

 

 

「簡単ではなかったみたいですね」

 

「・・・・い、1年の・・・しかも男がなんでこんなに速くISを展開出来るの・・・・」

 

 

 至近距離にいる生身の人間に対してISを用いて先制攻撃を仕掛けたにも関わらず、赤子の手を捻るかの如く易々と制されてしまった比場のショックは大きかった。相手がISの操縦時間が少ない1年生であり、しかも比場が見下している男という存在である事もショックを大きくしていた。

 

 

「IS操縦における展開速度はイメージの構築速度と強度に依存します。つまり、自分のISや武装をより正確に、より深く知っている者程速いという事です。ISの本質を何も理解していない貴方では私達の相手は荷が重かった様ですね」

 

 

 1年の男に敗北し、そのうえISについて教示されるという屈辱に比場はその顔を歪めていた。それに先程の太郎へ対する袈裟斬りは比場にとっても会心の出来だった。それを生身の状態から回避、攻撃までされては彼我の実力差は歴然としていた。それでも比場は簡単に敗北を受け入れられない。

 

 当然である。何年も前から男を見下し、【ISを使える自分】というものにプライドを持っていたのだ。一度の敗北でそう簡単に考え方が変われば苦労しない。しかし、そんな比場にとっての不幸はその【簡単に変わらない思考】こそが今回、太郎が試したいと思っていた実験に都合が良い物であった事だ。

 

 太郎はこれから行う実験に胸を膨らませ、口元には笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紳士・淑女の皆様、お久し振りです。

大変お待たせして申し訳ありませんでした。やっと更新出来ました。


仕事、体調共に何とかなったので今月は良い感じの更新ペースで逝けると思います。突発的な何かが無ければ・・・・・。皆様も体調にはお気を付け下さい。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は明日か明後日です。


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第63話 勧誘

 

 

 

 

 

 太郎へ襲い掛かった比場だったが、あえなく一蹴されてしまった。太郎の方はつい先程の戦闘などどうでも良いといった感じであり、それよりもこれから行う事の方が楽しみで仕方が無い様子である。

 

 

「さて、決着も付いた事ですし、負けた比場さんには私の実験へ協力してもらいますよ」

 

「わ、私に何をする気!?」

 

 

 敗北して動きを封じられた比場が太郎の不穏な言葉に顔を引きつらせた。

 

 

「なーに心配はいらないですよ。ISの事をもっと良く知る為にちょっとした実験を今からするだけです」

 

 

 楽しそうな太郎であったが、この後に何が行われるのか不安になった鈴香達が止めに入る。

 

 

「や、山田さん、あまり酷い事は・・・・」

 

「う、うん、それは流石にマズい」

 

「ハルちゃんを壊したら許さないよー」

 

「あ、あの幾らなんでも人体実験はダメですよ」

 

 

 鈴香達の制止に太郎は「心外ですねー」と言って首を横へ振る。

 

 

「心配しなくてもそれ程危険な実験ではありませんよ。ちょっと比場さんが素直になるだけです」

 

「素直になる?」

 

 

 鈴香がどういう事か分からず太郎へ聞き返した。分かっていないのは鈴香だけではなく女性陣全員が分かっていないらしく怪訝な表情をしていた。そんな女性陣に太郎が自信を持って宣言する。

 

 

「ええ、素直になる筈です。比場さんの男性に対する過剰なまでの攻撃性や嫌悪感を和らげてあげるのです」

 

「そんな事が出来るのー?」

 

 

 江沼が間の抜けた調子で太郎へ疑問を投げかけた。それに対して太郎は胸を張って答える。

 

 

「はい、理論上は可能です。ISには操縦者の生命維持機能があり、操縦者の身体機能への干渉が可能である事が分かっています。それに操縦者の意識を電脳空間へと仮想可視化して侵入させる機能についても存在を確認してあります。つまり操縦者の意識を正確に抽出して電脳空間で活動出来る様にする仕組みがあるなら、後は専用のプログラムさえ構築すれば、抽出した意識へ干渉する事も出来る筈です」

 

 

 太郎は簡単に「抽出した意識へ干渉する」と言っているが、それが本当に簡単で安全なのかは鈴香達には分からなかった。ただ女性陣の頭の中では共通した1つの感想が浮かんでいた。

 

 

【それって洗脳って言うんじゃないの?】

 

 

 そんな疑念を持たれているなどとは露知らず太郎は早速実験を始めようとしていた。

 

 

(それでは美星さん、美夜さん、実験を開始しましょう)

 

『了解しました』

『何時でもOKだよ』

 

 

 太郎の呼び掛けに美星と美夜が応えて実験が開始される。太郎には美夜も美星と同じ様に会話しているように聞えているが、美夜は未だ上手く日本語が話せないので美星が翻訳して人工的に音声を生成していた。

 

 今回の実験では美夜が比場の意識を抽出し、美星が書き換えという役割分担である。

 

 

「えっ・・・な、なに、なんなの・・・うっ・・・・・・・・・」

 

 

 比場は為す術も無く意識を奪われてしまった。その気になった太郎と美星達を止められる者などこの場にはいなかった。

 

 

『んんん?これ・・・・どうなってるのかな。ねっ、ねえ、太郎さん。この子の意識、普通じゃないんだけどどうしよう?』

 

 

 しかし、誰かが止めるまでもなく美夜が自ら作業を途中で止めてしまう。想定外の何かがあったらしく太郎に判断を仰ぐが、太郎からすれば具体的にどう普通では無いのか説明して貰えないと判断のしようがない。

 

 

(どういう事ですか?)

 

『うーん、なんかさあ・・・・この子って女の子じゃないかも』

 

(そうですか・・・・ん?えっ、今なんと言いましたか。比場さんが女性でない!?)

 

 

 美夜の突然の発言に太郎は驚きを隠せない。太郎はシャルの男装も簡単に見破っている。自分の目に自信を持っている太郎だけに、全く女性として違和感の無い比場が、女の子ではないかもしれないと言われて狼狽してしまった。

 

 

(ちょっと待って下さい。それでは比場さんは男性なんですか!?)

 

『身体データは女の子だよ。でも意識を抽出している時に性別がどうも曖昧なんだよねー。これって何て言うんだろう?』

 

(性同一性障害というものですか?)

 

 

 美夜の説明に太郎が性同一性障害という単語を挙げたが、太郎自身そういった方面には詳しくないので自信無さそうな様子だ。

 

 

『そんなの分からないよー。私は専門家でもなければ、人間ですら無いんだから』

 

 

 美夜も前立○マッサージは知っていても、この件に関しては知識が無いらしくお手上げ状態だった。

 

 

『私は一度中断する事を提言します』

 

 

 美星は戸惑っている太郎と美夜を見て、実験の一時中断を提案した。比場には自力で打鉄の装着を解除する術が無い。まさにまな板の鯉である。今すぐ何とかしなくても比場が逃げる事は無いのだから焦る必要は無い。冷静な美星の提案に太郎もいつもの落ち着きを取り戻していく。

 

 

(そうですね。無理にやる必要は無いです。それにもしかしたら、これが比場さんの極端な思想の原因かもしれません)

 

 

 太郎は比場の女性至上主義や男性に対する攻撃性が、この事を起因としたコンプレックスから来ているのではないかと推測していた。もしも、この推測が当たっているのなら態々比場の意識を弄くらなくても良いかもしれない。

 

 

(美夜さん、比場さんを起こしてください。本人に確認してみます)

 

『分かったー。ほいっ』

 

「・・・・んん・・なに・・・私、どうなったの」

 

 

 太郎の指示に美夜が従い、比場が意識を取り戻した。目を覚ました比場は自分の今の状況をイマイチ理解出来ていなかった。しかし、そんな事はお構い無しに太郎が真剣な表情で話しかける。

 

 

「比場さん・・・・・落ち着いて聞いて下さい。実は・・貴方・・・女性では無いかもしれません」

 

「はあ?」

 

 

 突然太郎から告げられた予想外の内容に、比場は憎い筈の相手に一瞬素で反応してしまう。そして、横で太郎の衝撃的な発言を聞いていた他の女性陣がヒソヒソと囁き合っていた。

 

 

「えええ先輩って男なの?」

「女装かな」

「正直引きます」

「ハルちゃんが男の子でも私は問題無いよ」

 

 

 それを聞いていた比場が顔を真っ赤にして怒る。

 

 

「ちょっと待ちなさい!晶子っ、あんた着替えの時とか一緒なんだから私が女って分かっているでしょ!!!」

 

「そう言えばそうだね」

 

 

 江沼晶子は比場の言葉で納得したが、当の比場は怒りが収まらない様でその矛先が太郎へと向く。

 

 

「変な言い掛かりを言ってどういうつもりよ!!!」

 

「言い掛かりではありませんよ。貴方の体は女性ですが、精神の方はどうも違うみたいですよ。貴方の意識を抽出しようとしたら性別の認識が曖昧だったのです。貴方自身何か心当たりがあるんじゃないですか?」

 

「うっ・・・・・・」

 

 

 太郎の冷静な切り返しに、比場自身何か心当たりがあるのか口篭ってしまう。そんな時に比場にとって厄介な人間が手を挙げた。

 

 

「はーい、せんせえー」

 

「はい江沼さん、どうしました?」

 

「ハルちゃんは女の子と付き合っていまーす」

 

 

 比場にとっては痛恨の発言が友人である晶子から飛び出る。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと晶子何言ってるのよ!」

 

「しかも複数でーす」

 

 

 晶子がこれ以上余計な事を言わない様に比場が止めようとするが、それは叶わなかった。更なる燃料投下によりその場にいた後輩達はドン引き状態だった。

 

 

「クソ○ズ」

「淫獣」

「あ、あの、まさか相手はうちの姉さんじゃないですよね?」

 

 

 鈴香と貴子が吐き捨てる様に罵った。ちょっと前までの彼女達なら「男が相手なんて有り得ない」と思っていたので問題無かったかもしれないが、今の彼女達の感覚は完全にストレートだった為にこの拒絶反応だった。福瀬美穂の場合は縋る様な目で比場を見ていた。かなり偏った考え方を持っていたとはいえ、優秀で尊敬もしていた姉がもしかしたら同性愛者なのかもしれないと不安になっていた。

 

 去年までのIS学園なら同性のカップル位、別に珍しくも無く風当たりもここまで冷たくなかった。女子高特有の空気感があった。しかし、今年のIS学園は違う。男が2人も入学し、しかも彼らが大半の女子生徒から支持されているのだ。不躾な表現をすれば、その支持している女生徒達はアイドルの追っかけの様な者だった。去年までとは学園内の雰囲気も完全に変わっていた。

 

 後輩達の予想以上に冷たい反応を受け、比場は必死で取り繕おうとする。

 

 

「ち、ちが」

 

 

 しかし、それを遮る者がいた。太郎が比場の肩に手を置いて話し掛けて来た。

 

 

「まあまあ、落ち着いて下さい。良いではないですか。貴方が同性愛者でも性同一性障害でも恥じる事など無いです」

 

「な、なにを」

 

「貴方が誰と付き合おうが好きにしたら良いではありませんか。男になりたいなら、なったら良いではありませんか。女の体のまま女と付き合いたいなら、そうすれば良いではありませんか。変に恥ずかしがるから歪むんですよ。貴方の偏った思想はそんな気持ちを無理に抑え様とするコンプレックスから来ているんじゃないですか?」

 

「そ、そんなんじゃ・・・私・・・ちが・・・」

 

 

 一気にまくし立てられて比場は戸惑っていた。急に色々言われて比場は混乱していた。比場は今まで自分を単なる同性愛者だと思っていた。しかし、精神や意識の面で性別そのものが曖昧だと言われてそれをどう自分の中で処理すれば良いのか全く分からないといった状態だった。

 

 そんな比場に太郎が囁く。

 

 

「良いではないですか。貴方が男でも女でも、それ以外の何かでも・・・。そんな自分を変えるつもりもないのでしょう?」

 

 

 比場はついそれに頷いてしまう。それを見た太郎はニヤリと嗤った。それは甘く、邪で悪魔的な笑みだった。それに比場は魅入ってしまう。

 

 太郎が比場の打鉄の装着を解除する。動きを封じられ体勢を崩した状態だった比場は、急に打鉄の装着を解除されたせいで打鉄から吐き出される様に床へと転がった。そんな比場の前に太郎が立つ。

 

 

「私とその仲間達はそんな細かい事は気にしません。普通と違う?狂っている?そんなモノは愉しみを増やす燃料です。私達と一緒に世界を私達の色の炎で包んであげましょう」

 

 

 太郎が手を比場に差し出す。その手を比場はじっと見詰めていた。

 

 

 

 

 この山田 太郎という人間は訳が分からない。つい先程まで闘っていた相手を勧誘するなど理解できない。

 

 しかし、もっと理解出来ないのはあれ程嫌っていた筈の男に誘われているのに、それを嫌だと思っていない自分自身の事である。

 

 むしろ少し嬉しいとさえ思っていた。

 

 自分の存在を認められたという気持ちと小さな子供が新しい遊びに誘われたかの様にワクワクする気持ちが確かに心の中で存在した。

 

 この手を取れば想像も付かない様な世界へと行けるのではないかと感じ始めている。

 

 

 

 比場 遥はいつの間にか太郎の手を握っていた。遥は自身ですら太郎の手を取った理由を明確に理解はしていなかった。しかし、その選択に遥自身は何の違和感も感じていなかった。

 

 太郎が遥を勧誘したのは何となくその方が楽しそうだというその場のノリだったが、打算的な理由もあった。IS学園内の女性至上主義者のリーダー格を実験体として使うより、そのまま仲間に引き込めるなら学園内の掌握が一気に進む。太郎の仲間や間接的な支持者層から外れた女性至上主義者達を引き込んでしまえば、もう学園内に明確な敵はいなくなる。着々と太郎の色へと学園は染まりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます。

本当はこの話を18禁分岐の話より先に書くつもりだったんですよね。その方が背徳感があって良かったかな。


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第64話 閑話・私のルームメイトはイギリス出身

 私、アリシア・ソレルには誰にも相談出来ない悩みがある。

 

 故郷であるスペインを離れIS学園に入学して2ヶ月程経ち、かなり個性的なルームメイトにも慣れて来た今日この頃。やっと慣れて来たと思ったそのルームメイトが最近おかしいのである。まあ、元々入寮初日から私へ相談もせず、部屋の家具から内装全体まで全て自分好みに変えた変人である。学園の寮へファンタジー物のお姫様が使う様な天蓋付きのベッドを運び込んでしまう変人が、最近おかしくなったと言っても今更ではあるが・・・・・。

 

 時を少し遡る。入学当初のルームメイトへの印象は、ハッキリ言って嫌な奴というものだった。事あるごとに「キョクトーガー」「ヘンキョーダー」「サル、ドレイ」と日本や日本人に対する差別的発言を繰り返していて、ルームメイトである私まで彼女と同類に見られそうで迷惑この上なかったし、日本通な私としてはムカつく事この上無かった。それに「無敵艦隊(笑)」としつこく私にも絡んでくるので、ついグーパンを入れてしまった。その後がまた面倒だった。

 

 

「決闘ですわ!!!ISで決闘ですわ!!!」

 

 

 と煩いのだ。私は未だ授業でもほとんどISに触れていないのに、専用機持ちとIS対決などアホらしくて付き合っていられない。煩い彼女の事を無視しているとイジけてしまって更に鬱陶しかった。

 

 そんな彼女が入学から少しすると急に日本や日本人への差別発言をしなくなった。最初は不思議に思ったが、理由の方は直ぐに噂で知る事になった。なんと彼女はクラスメイトの日本人に喧嘩を売り、ISによる模擬戦闘で(へこ)まされていたのだ。

 

 

 ざまああ、マジでざまああ!!!!!!

 

 

 しかも相手は男。只でさえ注目度の高い専用機持ちなのに、それより更に注目度が高い男性IS操縦者に負けてしまっては学園内で彼女の敗北に関する話題で持ち切りになる事必至である。そもそもサムライに勝てる訳無いって。刀で何でも斬っちゃうんだよ。それに負けたらハラキリしちゃう様な覚悟を持った相手だよ。天蓋付きのベッドで寝ているお姫様(笑)が勝てる訳無いでしょ。

 

 正直言って、この件に関してはスカっとした。前から日本の悪口を言うこの女を何時か〆てやろうと思っていたので手間が省けた。別に差別意識を持つなとは言わないが、小さな子供の頃からマンガやアニメで日本に憧れてここへ来ている私の様な外国人だっているんだから余計な事を口外すんなって話である。そういうのは心の中と仲間内でやれっての。

 

 凹まされた彼女だが、それで大人しくなったかと聞かれると残念ながらそうはならなかった。差別発言はしなくなったが、逆に日本を褒めちぎる様になったのだ。どうやら自分を凹ました男性IS操縦者に惚れてしまった事が原因だった。その男性IS操縦者の生まれ育った日本という国まで好きになってしまった様だ。単純過ぎるだろ。そして、彼女は前よりウザくなった。

 

 いっつも、その男性IS操縦者の事ばっかり話して惚気てウザ過ぎる。しかも、まるでその彼と恋人同士であるかの様に惚気ているが、彼と彼女は単なる友人関係である。9割妄想である惚気話を延々とされて頭がおかしくなりそうである。それに私は織斑派だ。

 

 彼女が惚れている男性IS操縦者は山田 太郎である。それとは別にIS学園にはもう1人、男性IS操縦者がいる。それが織斑 一夏だ。私の好みは織斑 一夏の方だ。何が良いって顔が好みなのだ。姉である千冬様譲りの美形で、姉とは違って優しそうな笑顔も最高である。山田 太郎も悪くは無い。顔も体も男らしい。これでキモノを着て、刀を持っていれば理想的なサムライである。しかし、流石に私からすると年上過ぎる。10以上年上なのはちょっと・・・・。まあ、そこは人それぞれだと思うけど。

 

 ここで話は最初に戻る。山田さんに惚れてよりウザくなった彼女なのだが、最近更に様子がおかしくなった。ある日を境におかしな行動をする様になったのだ。ある日というのは「学園内のセキュリティーのチェックの為に寮から出る事を禁止されていた日」である。あの日を境に彼女は毎日おかしな行動をする様になったのだ。

 

 最近の彼女は寝る時に布団を頭から被り、ゴソゴソと何かをイタシテいるのだ。はあ、はあ、と荒い息遣いが漏れ聞こえて同じ部屋にいる者としては落ち着かない。そして、極めつけは昨日聞えた彼女の呟きである。

 

 

「太郎さんの金玉に包まれて幸せですわー」

 

 

 意味が分からない。意味が分からないよ。金玉に包まれるとは、どういう状況なのだろうか。頭がおかしくなりそうだ。こんな事、誰かに相談したら絶対私までキチガ○扱いされてしまうだろう。しかし、本人に聞くのも怖い。ああ、どうすれば良いんだろう。結論の出ない葛藤を今日も私は続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




注意・・・セシリアの言っていた「金玉」とは金井玉島というIS用品も作っているメーカーの略称であり、ここではオークションで競り落とした太郎のISスーツを指しています。正確にはカナタマと読みます。しかし、セシリアはカナタマと読んでいません。これは太郎からこのISスーツに関する情報を詳しく聞いていなかった為に、セシリアが後からネットで調べたせいです。

セシリアは某ネット知恵袋的な所で、手に入れた太郎のISスーツの詳細について質問し嘘を教えられてしまったのです。ああ、なんて酷い事を(棒)




前から書きたいと思っていたオークション後のセシリアの話です。

最初はセシリア視点で書こうと思っていましたが、第3者視点でどう見られているのか描写してみました。


読んでいただきありがとうございます。

次から新章の予定です。


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第5章 臨海学校へ向けて
第65話 ドイツからの救援物資


 6月23日金曜日の夜、ラウラの待ち望んでいた物がついに彼女の元に届いた。ドイツ軍から届いたソレは、山田太郎攻略支援の為に開発された、IS専用追加プログラムが入った記憶媒体であった。ネット経由でデータだけを送れば済むところだが、記憶媒体にデータを入れ大使館職員へ持たせて直接IS学園に届けさすといった念の入れ様である。

 

 記憶媒体にはラベルが貼ってあった。

 

 

【恋愛支援ナビゲーションプログラム 男を狩る技術1,2,3(アイン、ツヴァイ、ドライ)

 

 

 ラベルに書かれたタイトルを見てラウラは拳を握り呟いた。

 

 

「こ、これさえ、これさえあれば、もっとパパと仲良くなれるはずだ」

 

 

 ラウラはこれまで大きな挫折も経験して来たが、自分の能力に関しては自信を持っていた。しかし、社会経験やコミュニケーション能力の欠如に関してだけは、どうすれば改善出来るかすら分からない状態だった。そんなラウラにとって、このプログラムは羅針盤の様な存在になる筈だ。

 

 

「これをシュヴァルツェア・レーゲンにインストールしてやれば良いのだな」

 

 

 ラウラは早速シュヴァルツェア・レーゲンを展開し、プログラムをインストールし始めた。ラウラは【インストール中】という画面表示を見ながらソワソワしていた。このプログラムの詳細はラウラ自身ほとんど知らない。これを届けた大使館職員の話では「インストールすれば分かる」との事だ。このプログラムがどの様な形で自分を支援するのか、ラウラは色々と想像を巡らしながらインストールが終わるのを待っていた。

 

 

【インストールが終了しました。プログラムを起動しますか?Yes/No】

 

 

 画面表示が【インストール中】というものから切り替わった。ラウラがYESを選択するとまた画面が切り替わる。

 

 

【初期設定を行います。質問にお答えください。これから出る質問に対して選択肢が表示されるので最も合っている選択肢を選んでください】

 

 

 ラウラは表示された文章を読むと誰も見ていないのについつい頷いてしまっていた。

 

 

【質問・貴方の恋愛に関する状態をお答えください】

【1、好意を持っている特定の相手がいる】

【2、特定の相手はいないが恋愛がしたい】

【3、誰とでも寝る】

 

 

 ラウラは【1】を選択した。恋愛というものがイマイチ分からないラウラであったが太郎へ好意を持っているのは確かであった。それと【3】の選択肢はラウラには良く分からなかった。厳しい訓練を乗り越えて来たラウラとはいえ睡眠時はどうしても隙が生じる。それなのに誰とでも一緒に睡眠をとるというのは危険では無いのか、などとズレた事を考えていた。

 

 

【1と答えた貴方に次の質問です。その相手との関係をお答えください】

【1、相思相愛】

【2、友人もしくは知り合い】

【3、嫌われている】

 

 

「確か・・・・相思相愛というのはお互いに好意を持っている場合の事だな。それなら1だ。私を魅力的だと言っていたし間違いない」

 

 

 ラウラはブツブツと自問自答しながら【1】を選んだ。

 

 

【1ですね。それではより具体的な関係性をお答えください】

【1、将来を誓い合った仲。もしくは結婚中・婚約中のいずれか】

【2、真剣ではあるが将来については未定】

【3、遊び】

 

 

「援助交際は結婚や婚約とは違うと思うが・・・・・将来についてはパパが私を貰ってくれるらしいから1でいいのか?」

 

 

 首を傾げながらもラウラはまた【1】を選択した。

 

 

【1ですね。それでは最後の質問です。貴方とその相手にはお互い以外の恋人や愛人が存在しますか?】

【1、存在する】

【2、存在しない】

【3、わからない】

 

 

 この質問にラウラは頭を悩ませた。自分には恋人や愛人など存在しないが、太郎はどうなのだろうか。太郎にはシャルロットや楯無など仲が良さそうな女生徒が多い。ラウラはその事を考えると何故か胸が苦しくなった。

 

 

「分からないな・・・・3で良いか」

 

 

 もやもやした気持ち振り払いラウラは選択肢を選んだ。すると少し時間を置いて画面が切り替わった。

 

 

【現状を把握しました。貴方は既に勝利をほぼ手中に収めていると言っても過言ではありません。しかし、油断は禁物です。恋愛にはルールなどありません。恋愛界は弱肉強食、人外魔境。何が起こるか分からない厳しい世界です。何時、第三者の介入があるかも分かりません。相手との関係をより強化し、メンテナンスし続ける事が重要です】

 

「そ、そうなのか・・・・・」

 

 

 文章の序盤はラウラも思わず笑顔になってしまう位、良い内容だった。しかし、中盤以降を読んだラウラの表情は厳しかった。

 

 

(ルールの無い人外魔境。第三者の介入。戦場ですらルールはあるというのに・・・・・)

 

 

 自分が想像していた以上に世界は厳しいものの様だ、とラウラは改めて気を引き締めていた。そんなラウラの視界に新たな文章が現れた。

 

 

【それでは今後の方針を決めましょう。最も力を入れたいものを選んでください】

【1、相手との関係を強化する】

【2、自分と相手との関係性を周囲に広め既成事実化、周囲への牽制】

【3、相手に擦り寄る泥棒猫、もしくはその可能性がある者を排除する】

 

 

「2は効果があるのか?3も駄目だな。周囲の人間を排除するなどパパが認めるとは思えない。ここは1だな」

 

 

 ラウラに恋愛の駆け引きなど分からない。兎に角、太郎との関係を強化すれば良いだろうと結論付けた。恋愛支援ナビゲーションプログラムをインストールされたシュヴァルツェア・レーゲンはラウラの現状を把握し、今後の方針を設定された事でついにその真価を発揮する事になる。

 

 そして、ドイツ軍謹製の恋愛支援ナビゲーションプログラムがIS学園一のボッチコンビ、ラウラ&シュヴァルツェア・レーゲンを変化させる。それが太郎達にどのような影響を及ぼすのか。それは未だ分からない。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

やっと来ました。私の娘であり恋人でもあるラウラ嬢のお話です。



>このプログラムは羅針盤の様な存在になる筈だ。

 艦こ○の羅針盤と同じ位信用出来る物になっております。


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第66話 導かれし者

 ドイツ軍謹製の恋愛支援ナビゲーションプログラムという心強い武器を得たラウラは、早速初期設定を終えて今後の方針も決めた。太郎との関係を強化する、と決意したラウラにプログラムは新たな選択肢を提示する。

 

 

【早速作戦行動に移りますか?】

【1、はい】

【2、いいえ】

【3、助力は必要ない】

 

 

 やる気十分のラウラは、当然【1】を選択する。何もしなくても事態が好転する、そんな状況では無いとラウラは認識していた。

 

 太郎は周囲の者達から好意を向けられている。現在、恋人関係の人間がいるかは分からないが、いなかったとしても将来的には出来る。それも近い将来の事だとラウラは予想していた。恋人が出来たからといって太郎が自分を軽んじるとは思わないが、出来るだけ早期に自分と太郎の関係を確固としたものにしたいとラウラは考えていた。

 

 

【それでは具体的な策を選択してください】

【1、食事に誘う】

【2、世間話をする】

【3、相手の寝室に忍び込み既成事実を作る】

 

 

 【3の既成事実を作る】はラウラ自身、具体的にどうすれば良いのか分からない。それに太郎の部屋にはシャルもいる。シャルがこちらに協力的な立場をとるかは未だ分からない。世間話についてもラウラにはハードルが高かった。特定の用件も無く、話す事そのものが目的の会話などラウラには不可能と言って良かった。その為、消去法的にラウラは【1】を選んだ。

 

 太郎を食事に誘う事にしたラウラは早速太郎の元へと向かった。専用機持ち同士なのでIS経由でもメッセージを送れるのだが、直接話をしたかったのであえて自ら出向く事にしたのだ。

 

 

 

 

 ラウラが太郎の部屋の前に到着した。IS学園の寮内はラウラから見ると全体的に浮ついた雰囲気なのだが、太郎の部屋付近はとても静かだった。それは太郎の部屋が、寮監でもある千冬の部屋の隣にある影響だろう。この辺りで騒ぐなどという蛮勇を振るう生徒はそうそういない。

 

 ラウラがノックをしようとした瞬間、太郎の部屋の扉が開く。ラウラは咄嗟にノックしようと伸ばしていた手を引き、一歩後ずさった。

 

 

「ん?ラウラさん、どうしたんですか?」

 

 

 部屋から太郎とシャルが出て来た。2人はどうやら丁度何処かへ行く所だった様だ。運良くスレ違いにならずに済んだ。

 

 

「パパを食事に誘うおうと思ったのだ。出掛ける様だが・・・」

 

「それなら丁度良かった。今から皆で学食に行こう思っていた所です。一緒に行きましょう」

 

 

 ラウラが食事の誘いで来たのだと知った太郎が、そう提案するとラウラはこれ幸いと頷いた。実はシュヴァルツェア・レーゲンの提示した【食事に誘う】とはデート的な意味合いの物だったが、ラウラにはそんな発想は無かった。間違ってもクラスメイト達で揃って学食に行くという意味では無い。早くもナビとラウラの間で齟齬(そご)が生まれているが、果たしてこのコンビは上手く行くのだろうか。

 

 

「それにしてもラウラさんの方から誘いに来るなんて珍しいですね」

 

「そうだね。何かあったの?」

 

 

 太郎とシャルが意外そうにしていた。こういう場合、大抵は太郎が誘うか、ラウラがいつの間にか参加しているかである。態々ラウラが声を掛けて来るのは珍しい事だった。

 

 

「い、いや、特に理由は無いぞ」

 

 

 シャルの問い掛けにラウラは首を横に振った。完全に嘘である。

 

 太郎達の反応は意外そうにしているが悪い感触ではない。ラウラは内心、恋愛支援ナビゲーションプログラムの有効性を痛感していた。ナビが無ければ学食程度、ラウラが自分から誘ったりはしなかっただろう。ラウラの場合、学食の席など何処に座ろうとほとんど自由なので、太郎がいればその近くの席に座るという位にしか考えが及ばない。太郎達と学食に向かいながらラウラは、ナビが起動状態になっている事を確認する。これさえあれば大丈夫だとラウラは信じ切っていた。

 

 

 

 

 太郎達が学食で食事をしていると、そこにセシリアや一夏達が合流した。その時、ラウラは既に太郎の左隣を確保していた。それもこれもラウラが自分から太郎を誘いに行っていたお陰と言える。ちなみに合流したのはセシリア、一夏、箒、鈴である。

 

 ラウラは表情こそ変わらないものの、機嫌良く食事をしていると唐突に新たな選択肢が眼前に現れた。

 

 

【チャンスです。標的に接近しています。狩りの手法を選んでください】

【1、料理を食べさせて上げる。定番のあーん】

【2、飲み物をわざと相手の股間付近に(こぼ)し、拭いてあげる】

【3、飲み物に睡眠薬を入れる】

 

 

 実はこの文章、ラウラの脳に直接データが送られているので周囲からは見えない。ラウラからすれば何も無い空間に文章が浮いている様に見えるが、そう脳に認識させているだけである。その為にラウラが突然、何も無い空中を凝視しし始めた様に周囲の人間には見えた。

 

 

「ラウラさん、どうかしましたの?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 ラウラの様子を不思議に思ったセシリアが訊ねてみるが、ラウラは何でもないと取り合わない。セシリア以外の者達も不思議そうにラウラの様子を窺っていた。そんな中、一人だけそわそわしている人間がいた。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、ラウラそういうの止めてよ。悪趣味よ」

 

 

 震える声でそう言ったのは鈴だった。

 

 

「そういうの、とは何だ?」

 

「だ、だから、何か見えてる振りをしているんでしょ」

 

「ち、違うぞ。何も見えてなどいない」

 

 

 ラウラは鈴がナビの存在に気付いたのかと思い焦って否定した。しかし、その様子を見て鈴は余計に勘違いし、平静さを失う。鈴はオカルト的な事が苦手であった。

 

 

「もももももしかして・・・・・本当に何か見えてるの?」

 

「な、んの事か、わ、分からんな」

 

 

 ラウラはラウラで太郎攻略の秘密兵器と言っても良い恋愛支援ナビゲーションプログラムの存在が、露見しては拙いと焦りの色を隠せない。その反応が鈴からすると余計に悪い方向へ想像を膨らませてしまう元となるのか、どんどん顔色は悪くなり目に見えて分かる程に体が震えていた。

 

 そんな中、何とか誤魔化そうとキョロキョロしていたラウラの手が水の入ったコップに当たってしまい、太郎の股間辺りに水を撒いてしまった。図らずも選択肢の【2】を選んでしまう事になる。

 

 

「あっ、す、すまない」

 

「いえ、水くらい大した事ではありませんよ」

 

 

 謝罪するラウラに太郎は何の問題も無いといった態度だった。むしろラウラに股間を拭かれて満更でもない様子である。

 

 

「もうちょっと強く拭いてください」

 

「こうか?」

 

「そうそう、もうちょっとひだっぐげええ!!!?」

 

 

 楽しい一時(ひととき)を堪能していた太郎の顔面を強烈な衝撃が襲う。太郎の顔面に学食で使われているトレーが飛んで来て直撃したのだ。驚いたラウラ達がトレーが飛来してきた方向を見ると、そこには鬼の様な形相の千冬が立っていた

 

 

「貴様ら随分と愉快な事をしているな。ここで合コンでもしているのか。それとも新手のプレイなのか?」

 

「・・・痛いですね。ちょっと水を零してしまったので拭いて貰っていただけですよ」

 

「そうか、それなら寮の乾燥機を使え。学食でいかがわしい事をするな」

 

 

 取り付く島もない千冬に太郎も諦めたのか、食事もほぼ終わっていたので千冬の言葉に素直に従う。そんな太郎に黙って付いて行こうとしたラウラだったが千冬に肩を掴まれてしまった。

 

 

「お前にはまだ話がある。この間、アイツにキスをした時に色々説教した筈だが全く理解していなかったみたいだな。ちょっと私の部屋まで来い。改めて説教だ」

 

「そ、そんな・・・・・私の行動に誤りが?おかしい。私は指示にちゃんと従ったはずだ」

 

 

 ラウラは何故千冬が怒っているのか分からず、眼前に浮かんでいる様に見える選択肢を見直しつつ呟いた。その様子を見ていた鈴が顔を真っ青にしていた。

 

 

「やややっぱり何か見えてんじゃない」

 

 

 そんな鈴に何かを答える間もなくラウラは千冬に連行されてしまった。

 

 

 

 

 




鈴がオカルト的な事が苦手という設定が原作にあるかどうかは分かりません。今回こういう風にしたのは、単純に私がそんな鈴を見たかっただけです。


イカゲー・・・・買っちまったよ。本体ごと。エロゲーもいっぱい積んでるのに学習しない人間です。どうせやる時間ないのに。


読んでくれてありがとうございます。


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第67話 教えてください

ラウラは千冬の部屋に連行される。

 

 

 恋愛支援ナビゲーションプログラムを手に入れたラウラ。彼女はこれによって自身唯一の弱点だと思っている、コミュニケーション能力の欠如を補う事に成功したと確信していた。しかし、現実はそんなに甘くなかった。プログラムが示した選択肢と同じ行動をとったにも関わらず、千冬に怒られてしまったのだ。困惑するラウラは千冬の部屋へと連行されてしまう。

 

 

「さて、適当にその辺りへ座れ。あと何か飲むか?」

 

「いえ、私は・・・」

 

 

 部屋に着くと千冬はラウラを椅子に座らせ、自分は冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲み始めた。千冬の部屋は一夏と太郎によって一度片付けられている。しかし、それからたった1ヶ月程度で部屋は荒れ始めていた。ラウラも片付けや掃除が好きなわけではないが、そもそも私物が極端に少ないので部屋が乱雑になる事は無い。そんなラウラからすると、脱いだ服や空き缶などが無造作に置きっぱなしとなっている千冬の部屋の様子は面食らうものだった。

 

 そんなラウラに気付いていないのか、千冬はラウラの正面にあるベッドに座り、早速説教を始めた。

 

 

「ラウラ・・・・・お前が社会常識に疎いのも、山田に好意をもっているのも私は理解している。だから、ある程度様子見で通そうと思っていたが、もう看過出来ん」

 

「ま、待って下さい。今日の私の行動に何の問題があると言うのですか。零した飲み物を拭いていただけではないですか」

 

「実際にはお前の言う通りなのかもしれんが、第三者からはいかがわしい事をしている様にしか見えなかったぞ」

 

 

 グシャっという音がした。千冬が持っていた缶ビールを握りつぶしたのだ。幸い飲み終わっていたので中身が飛び散る事は無かった。

 

 

「いいか。誰か一人でも人目も(はばか)らずいかがわしい事をしていれば、その組織全体の風紀は瞬く間に乱れる。軍という規律に厳しい組織にいたお前なら、風紀を守る事の重要性は分かるだろう」

 

 

 千冬の言葉にラウラは頷いてはいた。しかし、それは千冬の勢いに押されて、つい頷いただけであった。

 

 

 「やるな」と言われた事はやらない。

 

 「やれ」と言われた事はやる。

 

 

 ラウラからすればそれだけの話である。誰かが【いかがわしい事】をやっていたとしても禁止されている事なら、他の者達はやらないのが当然であるとラウラは思った。それに禁止されている事をやったのなら罰せられるだけである。何故、個人の罪が周囲に伝播するというのか理解出来ていなかった。

 

 それにラウラは零した飲み物を拭くななどと命令された覚えは無いし、【いかがわしい事】をした覚えもなかったので内心では怒られている事に困惑していた。

 

 

「・・・・・あの」

 

「どうした?」

 

「零れた飲み物を拭いては駄目なのですか?」

 

「そういう話ではない。性的な行為を公衆の面前でやっている様に見えたのが駄目なのだ」

 

「性的な行為に見えたのですか?」

 

「異性であるお前に股間を触られ、山田があんな顔をしていれば当然そう見える」

 

 

 千冬はあの時の太郎の表情を思い出して首を横に振った。あれは完全にアウトな表情であった。

 

 

「股間に触れては駄目なのですか?」

 

「人前で異性の股間に触れるのは良くない事だ」

 

 

 千冬はそう言いながら頭が痛くなる。こんな事を生徒に教える羽目になるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 人前で異性の股間に触れるのは良くない事だ

 

 なんだそれは!?

 

 教師が学生に教える事か!?

 

 頭がおかしくなりそうだ。

 

 

 

 

 千冬は一度落ち着く為に大きくゆっくりと息を吸い、そして吐いた。

 

 

「・・・・・いいか。再来週には臨海学校もあるんだぞ。お前の様な専用機持ちで目立つ生徒が率先してそういう行為をしていれば、周囲からも真似をして羽目を外して馬鹿をする者が出てくる。だから、山田との性的な接触は禁止だ。キスもそうだし、当然セックスもだ!!!」

 

 

 自分を睨みつけながら言い聞かす千冬にラウラは一度頷いたが、おずおずと手を挙げた。

 

 

「なんだ?」

 

「セックスとはどういった行為なのですか?」

 

 

 千冬は右手でこめかみを押さえつつ俯いてしまった。千冬はそのまま黙っていたが、しばらくすると顔を上げた。その表情は疲れきったものだった。

 

 

「・・・・・保健の教科書を用意するから先ずはそれを読め」

 

 

 それだけ言って千冬は冷蔵庫へと向かい、新たな缶ビールを取り出し一気飲みした。あとは真耶にでも任せようと千冬は心の中で決めていた。

 

 そんな千冬の様子を見ていたラウラは、【セックス】とは相当大変なモノの様だと冷や汗をかいていた。それとどうやらナビの提示する選択肢には千冬が怒る様な性的なモノも含まれているようだとラウラは勘付いていた。もし、ナビの選択肢と千冬の命令が相反する場合、どちらを優先すべきなのかラウラは考え込んでいた。しかし、その結論はすぐに出るものではなかった。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。遅くなってしまい申し訳ありません。

他ごとに時間をとり過ぎました。



それにしても1年1組の問題児っぷりは凄まじいですね。こんなクラスを受け持ったら普通の先生はノイローゼになるでしょう。

あとラウラへの保健の授業なら私がマンツーマンで教えるので何の問題もありません。


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第68話 スクール水着では駄目なんですか!?

 恋愛支援ナビゲーションプログラムを手に入れ太郎攻略に向け意気が上がっていたラウラだったが、ナビを使用し始めたその日に早々と千冬のお叱りを受けてしまった。ナビに従えば良いのか、千冬に従えば良いのか困惑するラウラであった。

 

 

 

 

 

「あの・・・・・」

 

「どうした?」

 

「性的な身体の接触は禁止との事ですが、軍はむしろパパとの親交を後押しすると言って来ています。身体の接触を禁止された状態で親交を深めるにはどうすれば良いのでしょうか?」

 

「ぐっ・・・・・・・それはな・・・」

 

 

 ラウラの信頼し切った曇りの無い目で見詰められて、千冬は頭を抱えたくなった。こんな目で頼りにされて無碍(むげ)に出来るほど、千冬は非情ではない。しかし、ラウラの質問は千冬にとっても難問であった。学園のみならず世界的に熱狂的なファンの多い千冬であるが、恋愛関係の経験は少ない為に良い答えを直ぐに答えられない。

 

 

「どうかしましたか。教官?」

 

 

 千冬が答えに窮しているなどとは考えもつかないラウラが黙り込んでしまった千冬を心配する。千冬はラウラの質問に対して、自身のプライドもあって分からないなどとは言い辛い。必死で考えを巡らした結果、ついさっき自分が言った内容を思い出した。

 

 

「何でもないぞ。・・・・う、うむ・・・・・・そうだな。先程も話題に出したが、近々臨海学校へ行く予定になっているだろ。例年そこで自由時間に海で生徒達は遊ぶ。当然、皆水着になる。そして、男へのアピールに魅力的な水着姿は有効だ」

 

「そうなのですか?」

 

「あ、ああ。常識だぞ(多分)」

 

 

 千冬自身、自分の言葉に半信半疑であったが、それを表に出さないように努めていた。それは成功していたのか、ラウラに不審がっている様子はない。

 

 

「魅力的な水着姿・・・・・どうすれば良いでしょうか?」

 

「とりあえず自分に似合う水着を用意しろ」

 

 

 似合う水着と言われても、ラウラはそんな物に心当たりはほとんど無かった。あえて言うならIS学園で使っている水着くらいのものだ。

 

 

「似合う水着・・・・・学園指定の物では駄目なのですか?」

 

「学園指定の水着はスクール水着だぞ」

 

 

 ラウラの言葉に千冬は呆れてしまう。高校生にもなってスクール水着を学園以外で着るなど、一部の特殊な趣向を除けば論外である。しかし、そんな常識を持ち合わせないラウラは真顔で何が問題なのか分からないといった表情だった。

 

 

「それに何か問題があるのですか?」

 

「臨海学校の海遊びをスクール水着で済ます奴など今まで見た事無いぞ」

 

 

 千冬の説明を受けてもラウラは納得していない様子である。それには理由があった。

 

 

「しかし、学園指定の物を着た時にパパから良く似合っていると言われたのですが?」

 

「おい!・・・・あの変態がっ!・・・・・とにかく新しい水着を用意しろ」

 

 

 千冬の怒りは相当なものであった。もし、この場に太郎がいれば怒りの鉄拳がその頭部にブチ込まれていただろう。しかし、この場にいない人間にここでどれだけ怒っても仕方が無い。千冬は気を落ちつかせてラウラに新しい水着を用意するようにだけ指示したが─────────

 

 

「では今度の日曜日にパパと買いに行ってきます」

 

「待て、なぜそうなる」

 

 

 ラウラの口から飛び出た発言に千冬は素で突っ込みを入れた。だが、ラウラはその突っ込みに自身も素で返す。

 

 

「アピールする相手が良いと言う物を買う。それが一番有効なのではないですか?」

 

「くっ・・・・・・」

 

 

 確かにその通りである。しかし、ラウラが水着を買いに行くところへ太郎が付いて行く。その事に対して千冬の頭の中には嫌な予感しか存在しなかった。この2人を一緒に街へ解き放つなどありえない。世間知らずな上に無駄な実行力を持つラウラ、何を仕出かすのか分からない性犯罪者で自分と同等に近い格闘能力を持つ太郎。混ぜるな危険の文字が千冬の頭の中に浮かんだ。絶対に良くない事が起こる、確信を持ってそう言える。

 

 何とかしてラウラが太郎と2人で水着を買いに行くのを止めさせようと千冬は必死で考えを巡らせる。そして、一つだけ考えが浮かんだ。

 

 

「よ、良し、それなら私も同行して助言してやろう」

 

「えっ、教官も付いて来てくれるのですか!」

 

「・・・・・うむ」

 

 

 苦肉の策であったが千冬にはこれしか思い付かなかった。休日の生徒の行動を制限する事は難しい。「誰それと買い物に行くな」などと言うのは権限的にも難しい。それならせめて2人っきりにさせない様にしようと考えたのだ。

 

 ラウラはそんな千冬の考えなど知らないまま、自身が好意を持っている太郎と千冬、その2人と出掛ける事が出来ると無邪気に喜んでいた。太郎や他の専用機持ち達の知らぬ間に進められたこの話が、彼らをさらなる混沌へと導くのであった。

 

 

 

 

 

 

 




スクール水着っていいよね。でもビキニはもっと好きです。

全裸はさらに好きです。

ISでクラス全員裸で集合写真とか見たいです。そういうシュチュって燃えます。


読んでいただきありがとうございます。



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第69話 絡む糸

 

 

 ラウラと太郎の2人と一緒に、水着を買いに行く事にした千冬。その頃、そんな話になっているとは知らない当事者の1人である太郎は、寮にある洗濯室にいた。IS学園の寮には共同の洗濯室があり、そこには最新の洗濯機や乾燥機が複数設置されている。太郎はその中の一つの乾燥機に濡れてしまった制服のズボンを放り込んだ。

 

 そう、今の太郎は下半身がトランクスとソックス、そして靴だけのカオスな状態である。いっそ上やソックス、靴などを脱いでトランクスだけになった方がまともに見える。そんな格好でズボンが乾くのを太郎は仁王立ちで待っていた。

 

 

「あ、あのー・・・・・太郎さん?」

 

 

 誰かに背後から声を掛けられた太郎はが振り返ると、そこには鈴がいた。先程まで学食で一緒だったのだが、どうやら太郎を追いかけてきたようだ。

 

 

「鈴さん、どうしたんですか?」

 

「いや・・・・ちょっと太郎さんに聞きたい事があって・・・・・」

 

「はあ・・・・・」

 

 

 鈴と太郎は仲が悪いわけではないが、2人っきりで話したりする機会はこれまであまり無かった。その為、太郎は珍しいなと思いつつも、何かあったのだろうかと心の中で少し心配していた。

 

 

「太郎さんってラウラと仲良いですよね?」

 

「ええ」

 

「あの・・・・・ラウラって・・・・普段から見えたり・・・するんですか?」

 

 

 最初、太郎は鈴が何の話をしているのか分からなかった。しかし、直ぐに先程の学食での出来事を思い出した。あの時のラウラは何も無い虚空を見ながら不審な言動を続け、それを見た鈴が酷く動揺してしまったのだ。どうやらオカルト的なものが苦手らしい鈴は、ラウラが本当に何か見えているのか気になっている様だ。

 

 必死な様子の鈴だったが、それに対して太郎の方は平静そのものだった。何故なら、幽霊などに怯えるようでは深夜の半裸マラソンなどやっていられないのだ。それに太郎は先程のラウラの不審な挙動に心当たりがあった。

 

 

「鈴さん、まさか本当にラウラさんに幽霊が見えているなんて思っているんですか?」

 

「ち、ちち、違うわよ。ゆ、幽霊なんてこの世に存在しないわっ!」

 

 

 激しく動揺している鈴に太郎は安心させるように笑顔で頷いた。

 

 

「そうですね。それにラウラさんは幽霊など見ていないと思います。見ているのは別の物でしょう」

 

「えっ・・・・それってどういう事?」

 

 

 太郎があっさりと自分の言葉を肯定し、しかも意外な話の展開になって鈴はついていけない。

 

 

「少し今日のラウラさんの仕草を思い出してください。周囲の人間から見ると何も無い所へ視線を行き来させていましたよね」

 

「ええ」

 

「どこかで同じ様な仕草をしている人を見た覚えがありませんか?」

 

「???」

 

 

 太郎の問いが全く分からないといった様子の鈴だった。それを見て太郎はヒントを与える事にした。

 

 

「学園の実技」

 

「?・・・・・あっ、ISかあ。そう言えば専用機持ち以外の子達は最初、ISが表示する計器類やメッセージを見る時にあんな感じだったかも」

 

 

 鈴の答えに太郎は満足そうに頷いた。

 

 ISには飛行機や船の様な実体としての計器類が存在しない。その代わりに仮想ディスプレイ(実在しないディスプレイがあたかもそこにあるかの様に脳へ知覚させるシステム)によって操縦者のみに見える仮想の計器類やメッセージが表示される。この技術は未だ一般人には身近な物ではないので、ISを扱い始めてすぐの生徒はどうしても必要以上に表示されるメッセージなどへ気を取られてしまうのだ。今日のラウラはまさしく、そういった生徒達と同じ様子であった。

 

 

「私はそれが正解だと思いますよ。今日のラウラさんは不自然な言動が多かったので、ISにアドバイスでもして貰っているんじゃないですかね」

 

 

 ラウラの言動がオカルト的な何かではないと知って鈴はホっとしていた。そんな中、太郎の意見に首を傾げている者がいた。

 

 

『あの・・・・・シュヴァルツェア・レーゲンのコアである436にそんな事が出来るでしょうか?』

 

 

 美星がプライベート・チャネルで太郎にそんな疑問を投げ掛けた。・シュヴァルツェア・レーゲンのコアである436は美星の見解では根暗なボッチだったはずである。そんなコミュ障コアが実生活におけるアドバイスをリアルタイムで行う事など出来るだろうか。いや、無理だ。

 

 

(そうですね。・・・・・・それなら脚本的な物をシュヴァルツェア・レーゲンにインストールしておいて、それをラウラにだけ見える様に表示し、ラウラはそのまま実行しているとは考えられないでしょうか)

 

『それでは応用性に欠けると思います』

 

(うーん・・・・・ここで考えるよりもラウラさんに直接聞いた方が早いですね。後で聞いてみましょう)

 

 

 結局、疑問は残ったままであった。しかし、折角安心している鈴に余計な事を言っても仕方が無いので、あえて美星との会話に関しては何も鈴には伝えない太郎であった。そんな気遣いをされているとは露知らず、鈴は別の話題を切り出したそうにしていた。

 

 

「あの、それで・・・・ちょっと話は変わるんだけど・・・・・」

 

「どうかしましたか」

 

 

 普段の思った内容をズバズバ言う鈴には珍しく言いよどむ。

 

 

「再来週に臨海学校があるでしょ」

 

「ええ、ありますね」

 

「自由時間が結構あるって話でね・・・・・・例年、みんな海で遊ぶらしいのよ。それで・・・・・ほら・・・男の人って・・・アレでしょ」

 

 

 どうにも言い辛そうな鈴であったが、言わんとする内容は太郎もすぐに察した。

 

 

「そこで一夏と遊びたいとか、一夏にアピールしたいと?」

 

「はっ、はっきり言わないでよ。でもそういう事よ」

 

 

 顔を赤くして頷く鈴はまさに恋する乙女である。一夏と同性である太郎の意見を元に他と差をつけたいと思っているのだろう。太郎としても他人の恋路を邪魔して喜ぶ趣味も無いので協力しても良いと思っていた。

 

 

「海でアピールと言えば水着でしょ。そこで男の視点でどんな水着が良いのか知りたいのよ」

 

「協力するのは構いませんが、水着の趣味なんて人それぞれですよ」

 

「・・・・・でも私って・・・・・ほら・・・あんまり・・・・・・」

 

 

 鈴の声が消え入りそうな位に小さくなる。しかし、何となく太郎は理解出来た。おそらくプロポーション的な面で鈴は自分に自信が無いのだろう。太郎は爽やかな笑顔で鈴の肩に手を置く。

 

 

「それも関しても趣味は人それぞれですよ」

 

「・・・・・相手が太郎さんじゃなかったら蹴り飛ばしてたわ」

 

「えっ、何故ですか!?」

 

 

 ドスの利いた声を出す鈴。太郎は何故鈴が怒っているのか分からない様子である。そんな太郎を見て鈴は大きく息を一つ吐いて「もういいわ」と首を横に振りながら諦めたように言った。一夏の朴念仁ぶりに慣れている鈴にとって見れば、この程度大した事では無い。

 

 

「・・・・・とにかく今度の日曜日に水着を買いに行くから一緒に来て欲しいの」

 

「2人っきりでは要らぬ勘違いをする人もいるかもしれませんよ」

 

「うん、シャルロット辺りにも付いて来てもらったら良いかな?」

 

 

 男装していたから男目線で見れるのではないか、という訳ではないが他に適任者が思い付かない。自分と同じく一夏を狙う箒は論外であるし、一般常識に欠けるラウラや庶民的な感覚の無いセシリアでは的確なアドバイスは期待出来ない。そうなると自然とシャルが残る。

 

 

「そうですね。シャルに後で予定が空いているか聞いてみます」

 

 

 両手に花で水着を買いに行くなどという素晴らしいイベントが待っていると思うと太郎の声も少し高くなる。既に同じ様な用件でラウラと千冬が太郎を連れて行こうと話しているとは夢にも思わない太郎だった。それが後の混乱に繋がるとは、この時点では誰も予想していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






太郎「鈴さんには・・・・・ジャーン、この水着が最高に似合うと思います」
鈴 「えっ、何も無いじゃない」
太郎「馬鹿には見えない素材で出来た水着です(真顔)」
鈴 「そ、そう、何も無いように見えたのは勘違いだったわ(汗)」
太郎「これを着れば一夏もイチコロです(ゲス顔)」


読んでいただきありがとうございます。
次の更新は土日のどちらかで。


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第70話 最強の水着とは?

 

 

 太郎が鈴と水着を買いに行く約束をしている間にズボンの乾燥が終わった。乾燥機から取り出したズボンを太郎が穿いていると鈴が視線を逸らしていた。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

 不思議に思った太郎がそう聞くと、鈴は頬を染めながら怒鳴った。

 

 

「あまりに堂々としているから気付かなかったけど、太郎さん下着姿じゃない!!!」

 

 

 鈴は先程までラウラの霊視疑惑や一夏対策の水着に関する事で頭がいっぱいであった為に、太郎の下着姿が意識の外に追いやられていたのだ。それに加えて鈴の言う通り、太郎が完全に自然体であったのも大きな要因の一つであった。しかし、恥ずかしがる鈴に対して太郎は怪訝そうな表情である。

 

 

「下着と言ってもトランクスです。水着と比べても大した違いはありませんよ」

 

「いやいやいや、仮に今穿いているのが水着であっても駄目でしょ。こんな所で水着姿をさらしていたら変質者じゃない!!!」

 

 

 公的な記録上は無かった事にされているが、仮にも何も太郎は性犯罪の前科者である。そう、紛れも無い変質者である。そんな事を知らない鈴からしたら太郎の姿に驚いて当然であった。

 

 ズボンを穿く前の太郎はブリーフ程では無いにしろ、アレのポジションが分かる状態だった。今はズボンを穿いてしまっているが、鈴の脳裏には先程見たその映像が浮かび続け、その頬を赤く染める原因となっていた。しかし、太郎の方はそんな鈴の状態を気にも留めず、既に日曜の買い物へと意識が行っていた。

 

 

「水着は人に見られても良い物なので問題ないでしょう。それより実は、この学園に来てから誰かと買い物に行くというのは初めてなんですよ」

 

「問題はあるでしょ、絶対。はあ・・・・そう言えば私も学園に来てから買い物なんて行ってなかったなあ」

 

 

 鈴は太郎に呆れつつも、しみじみと言った。鈴は一夏がIS学園に入るというニュースを聞いてから慌てて自分も転入を決めた。転入をしてからもクラス対抗戦やラウラとのいざこざなど慌しいものだった。実際に口にしてみると鈴もだんだんと楽しみになってきた。

 

 

「日本自体、久し振りだから水着だけじゃなくて色々見て回りたいなあ」

 

「次の機会には一夏を誘えば良いのでは?」

 

「ううう・・・・それが出来れば苦労しないわ。下手な所で誘っても周りの子に邪魔されるし、なかなか2人っきりにもなれないし・・・」

 

 

 言うは易し、太郎の言う通り出来れば苦労はない。一夏の周囲には常に女子生徒がいる。そこに割って入り、デートへ誘おうとすれば当然の如く邪魔が入る。特に厄介なのが一夏曰く【ファースト幼馴染】である篠ノ之 箒だ。彼女は明らかに一夏狙いであり、こちらに対する妨害も平気でして来る面倒な存在である。とは言え互いに激しく争っていると一夏からの印象も悪い事は箒も理解しているから、険悪になる事は多くても今の所は牽制し合う位に留まっている。

 

 

「それなら私の方から一夏にそれとなく話を振ってあげましょうか?」

 

「えっ、いいの?」

 

「結果までは保証しませんが、話を振る位なら大した事ではありませんよ」

 

「やった、今回の事といいホントありがとっ!!!」

 

 

 笑顔で小さくガッツポーズまでしている鈴を見ながら太郎は、むしろ自分の方が感謝したいと思っていた。今度の日曜日には色々な水着を試着してもらう事になる。そして、当然それに対するコメントをする為にじっくり眺める事になるのだ。もう感謝してもしきれない。現役のIS国家代表候補生を合法的に水着の着せ替えて、それをじっくり鑑賞する機会などなかなかない。一夏に少し話を振るくらい訳も無い。

 

 太郎は軽く請け負って自室へと帰っていった。太郎の本心など知らない鈴は、その後姿を見ながら「少し変わっているけど頼りになるなあ」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎が自室に帰るとそこにはシャルと、何故かラウラが待っていた。

 

 

「ラウラさん、どうしたんですか?」

 

「パパ、今度の日曜日に私や教官と一緒に水着を買いに行こう」

 

 

 太郎の問いかけが耳に入っているかどうかも怪しいラウラ。お誘いというより決定事項を告げるかのような口ぶりである。急な話の展開であったが、太郎の方も負けず劣らずである。

 

 

「ではそこに鈴さんとシャルも加えたメンバーで行きましょう」

 

「えっ?」

 

 

 唐突に自分もメンバーに加えられたシャルが驚いて声を漏らす。

 

 

「ん?何か不都合でもありますか?」

 

「いえ、まあ、僕も水着は必要だからいいんですけど・・・」

 

 

 ラウラと太郎の話の展開に戸惑いつつもシャルは同行を了承した。それにしても、どういう思考回路だとこんな話の展開になるのだろうとシャルは内心首を傾げていた。

 

 

「実は先程、鈴さんにも買い物に誘われていたんですよ」

 

「ほう・・・」

 

「えっ、何で?」

 

 

 太郎の言葉を聞いてラウラの目つきは鋭くなる。シャルの方も疑問に思っているようだ。鈴が一夏狙いなのは公然の秘密である。いや、むしろ一夏以外の周囲の者は全員知っていると言って良い。それなのに何故一夏ではなく太郎を誘ったのか、まさかとは思うが太郎狙いに変わったのか。シャルが自問自答していると答えは直ぐにもたらされた。

 

 

「一夏にアピールするための水着を買いたいからアドバイスが欲しいと頼まれました」

 

「ふむ」

 

「ああ、そういう・・・・・」

 

 

 ラウラとシャルはホッと胸を撫で下ろした。それと同時にシャルは水着でアピールした程度で“あの一夏”がどうにかなるのだろうかと疑問に思った。一夏の鈍感さは、わざと知らない振りをしているのではないかと疑いたくなる程のものである。鈴の作戦の有効性については疑問が残るが、その結果については興味がある。使えるようなら参考にしようとシャルは考えていた。

 

 

「それより教官というのは織斑先生ですよね?」

 

「当然だ」

 

「意外ですね。そういう場に付いて来る人というイメージは無いのですが・・・・・」

 

 

 太郎が意外に思うのにも理由がある。千冬は基本的に授業以外では生徒へあまり干渉しない教師である。ルールには厳格であるが、それさえ守っていれば比較的生徒の自主性に任せるタイプである。それが休日の買い物を一緒に、というのはイメージからかけ離れていた。しかし、太郎にとってそんなギャップなど大した問題ではなかった。そう、もっと重要な事がある。

 

 

「織斑先生も一緒という事は・・・・・・彼女も水着を買うのでしょうか。いえ、買った方が良いです。むしろ私が買ってあげます」

 

「うむ」

 

 

 熱の篭り始めた太郎の言葉にラウラは頷く。

 

 

「世界最強である織斑 千冬が着る水着は・・・・・・当然、世界最強でないと駄目でしょう」

 

「当然だな」

 

 

 太郎とラウラのやり取りを聞いていたシャルの口から「うわあ」という声が漏れた。それは理解に苦しむ2人の発言に引いている声なのか、それとも千冬に対する同情なのか、本人にも分からない。世界最強という所から何故水着に話が行くのか分からない。そして、最強の水着とは何なのか。水着に強いも弱いもないと思うのだが、太郎とラウラの中では何か基準でもあるのだろうか。ただ一つだけ確かなのは、今度の日曜日の買い物が大変なものになるという事だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 




最強の水着ってなんでしょうね。

紐?スリング?シール?透ける水着?溶ける水着?
決着の付かないテーマですね。
ですから、争いを避けるために日本の海水浴場は全てヌーディストビーチにしましょう(平和的解決

あくしろよ


読んでいただきありがとうございます。

次は水曜に更新します。


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第71話 いざ出発へ

 鈴から買い物に誘われた後、ラウラからも同じ日に買い物へ行かないかと誘われた太郎。太郎が鈴にラウラ達も同行しても良いか聞いてみると、二つ返事で了承を得られた。鈴としては助言役は太郎とシャルだけで十分であったが、少し位同行者が増えても問題ないと思ったのだ。そうして、最終的に5人で出掛ける事になった。

 

 

 時は日曜日、ついに太郎が楽しみにしていた買い物の時がやって来た。5人はIS学園の正門から少し離れた場所で待ち合わせをしていた。

 

 空は晴れ渡り、夏の到来を感じさせる強い日差しが地面を熱くする。しかし、その地面より熱く滾った者がいる。それは太郎と鈴であった。

 

 太郎は鈴、ラウラ、シャル、そして千冬という豪華メンバーとのデート、もとい水着購入の為のお出かけに色々と滾らせていた。

 

 鈴の方は臨海学校で一夏へ協力にアピールし、ライバル達に差を付ける。その為の水着選びに並々ならぬ覚悟をしていた。今回は相当際どい水着に挑戦する事も覚悟している。ただ、鈴の考える【際どい水着】と、助言役である太郎の考える【際どい水着】の間には埋めがたい深い隔たりがある事を、未だ2人は知らなかった。

 

 当初、太郎や鈴と同じ位に熱の入っていたラウラは、太郎や千冬と出掛けられるというだけでかなり満足しており、当初の目的を若干忘れ気味であった。それでも普段よりテンションはかなり高めであった。

 

 そんな3人とは対照的だったのがシャルと千冬である。この2人は今回の予定が組まれた時からテンションが下がりっぱなしであった。理由は単純明快。普段から突飛な行動を起こしがちな太郎とラウラ、その2人が浮かれ過ぎていて嫌な予感しかしないからだ。太郎とラウラの非常識コンビが今回の買い物にかなりの入れ込んでいる、それだけでもう碌な事にならないだろうとシャルと千冬は考えていた。

 

 

「それにしても千冬さんと水着を買いに行く事になるなんて想像もしてなかったわ」

 

「お前はともかく、目を離せん者達がいるのでな」

 

 

 引きつった表情で呟いた鈴に千冬が答えた。まさか自分の声が届いているとは思っていなかった鈴はぎょっとして千冬の方を見たが、千冬の方は太郎とラウラの2人へと鋭い視線を送っていた。鈴としても千冬の意識が太郎達に向いている方が都合が良い。鈴と千冬はIS学園に来る前からの知り合いであったが、鈴は千冬が苦手なのだ。

 

 太郎が千冬の視線に気付いたのか、こちらに振り向き近付いて来る。

 

 

「どうしたんですか。そんなに私を見詰めて。惚れましたか?」

 

「笑えない冗談だ。次、同じ事を言ったらその口を縫い合わせるぞ」

 

「どうせ塞ぐなら、その口でお願いします」

 

 

 太郎の軽口を千冬が黙らそうと拳を振るう。風を切る音が聞えそうな鋭い右フックだったが太郎は予測していたのか軽々と回避した。

 

 

「まあ、落ち着いて下さい。折角のお出掛けなんですから楽しく行きませんか」

 

「落ち着くのはお前だ。何なんだ、いつも以上に浮かれおって」

 

「それは仕方がありません。今日の買い物を前から楽しみにしていたので」

 

「そうか、そうか。そんなに楽しみにしていた買い物を中止にしたくないなら少しは自重しろ」

 

「ええ、分かっていますよ。さあ、早速楽しいデートに出かけましょう」

 

「はあ・・・・これはデートではないぞ」

 

 

 千冬の警告にも懲りる様子の無い太郎に、最後は千冬も半ば諦め気味であった。いつもの千冬であれば無茶をしてでも鉄拳制裁している所だが、今日は多少気心の知れた者しか周囲にいないのと本当に大変なのはこれからなので力を温存しているのだ。

 

 

「織斑せん・・・いや、今日は休日なので先生ではありませんね。千冬・・・・・さんは今日もお美しい」

 

「ふん、お世辞はいらん」

 

 

 最初、【千冬】と呼ぼうとした太郎であったが千冬に鬼の様な形相で睨まれ、仕方が無く敬称を付けて呼んだ。千冬は世辞と切り捨てたが太郎の言葉は本心からのものである。今日の千冬はノースリーブとリネン系のパンツ姿で、かなりラフな格好なのだがそれが千冬には良く似合っていた。実はこの服装は太郎が暴走した時に力づくで制止する為に動き易い物を選んだ結果なのだが、結果としてその太郎を喜ばせる事になってしまっていた。

 

 それに対して太郎の方はショッキングピンクのTシャツと白地のショートパンツで、どちらも鍛え抜かれた筋肉によってピチピチであった。普通なら“ない”とはっきりと言う格好であったが、何故か今日の太郎には異常なまでに似合っていた。

 

 頭の中がお花畑状態だからピンクがお似合い?などとかなり失礼な事を千冬は内心思っていた。

 

 

「世辞ではありませんよ。ねえ、ラウラさん」

 

「そうです教官。動きやすそうで良い装備だと思います。ただ耐久力に不安がある様に見えます」

 

 

 千冬は大きく溜息をついた。ラウラは今から何をしに行くつもりなのか。買い物へ行くのに服の耐久力など必要ない。ただお前達2人が暴走した時に止められるように攻撃力は欲しいがな、という言葉が喉の所まで出かかっていた。

 

 そんなやりとりをしていると、太郎が手配していたハイヤーが待ち合わせ場所に到着した。今日は人数が多いうえ、千冬と太郎という知名度の高い人間がいる為に電車などの公共交通機関では不便だろうと考えての事だった。太郎の手配したハイヤーの外見は、普通の黒い大型ワゴンで後部座席の窓にはスモークが貼られていた。中は大幅に改造されており、革張りの座席と小型の冷蔵庫が目を引く特別仕様車であった。

 

 

 

 

 5人がワゴンに乗り込む。それを物陰から覗く2つの影があった。

 

 

「くぅぅ、またしてもわたくしを除け者にするなんて・・・・・」

 

「太郎さん、千冬姉、なんで俺を誘ってくれないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場したワゴンですが、見た目はハイ○ースみたいな感じと思ってください。

この前、会社でハ○エースを新しく買う事になったのですがカタログを見てビックリしました。あんなに種類がいっぱいあるんですね。

カタログを見ていると自分もハイエー○が欲しくなっちゃいました。便利そうですし。後部座席取り外してマットレスを入れれば良いですよね。
えっ、ナニに使うかって?
ほら、あれです。キャンピングカー代わりに使うんです(棒

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は土曜日の夜です。


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第72話 戦いは海に行く前から始まっている1

 太郎達はハイヤーに乗り込んでから40分程で目的地に到着した。そこはIS学園からは少し距離のあるショッピングモールだった。あまり近場だと学園の生徒と会う可能性が高く、面倒な事態を避けたい千冬の要望でこのモールが行き先として選ばれたのだ。

 

 

「さて、さっさと目的の水着売り場へ行こう」

 

「折角なのでゆっくり見て回りませんか?」

 

 

 出来るだけ早く、この厄介な買い物を済ませて帰りたい千冬であった。逆に出来るだけ長く楽しみたい太郎の提案にもにべもなく首を横へ振った。

 

 

「そういうのはデートの時にでもしろ。但し、相手は成人に限るがな。条例に違反する様な事は認めんぞ」

 

「・・・・・・それはデートのお誘いと受け取っても良いのでしょうか?」

 

「何故そうなる」

 

 

 厳しい言葉もポジティブに受け取る太郎に千冬は頭を抱えたくなる。しかし、太郎にも言い分があった。

 

 

「この場で成人しているのは私と千冬さんだけですから自然と相手は限られますし、今度は2人でデートにでも、という話の流れでは?」

 

「別にこの場の人間に限定する必要はないだろ。・・・・・ほら、あれだ。山田先生とかどうだ?学園でも生徒ではなく職員なら成人しているし、休日にデートしても問題ないぞ」

 

「あのー、こんな所で話していては目立つので、そろそろ売り場へ行きませんか?」

 

 

 太郎と千冬の話が少し自分にとって都合の悪い方向へ進んでいると見て、シャルが2人の会話に割って入った。まさかとは思うが、こんな話がきっかけで本当に太郎が真耶と深い関係になってしまってはシャルとしても困る。念の為にシャルは話を逸らしおく。千冬はシャルの真の意図にまでは気付かなかったが、シャルの言葉には納得した。

 

 

「ふむ、そうだな。ここで話していても始まらんし、さっさと行くか」

 

 

 千冬が周囲を軽く見回すと、自分達はかなり注目を集めていた。千冬と太郎を始め、今いるメンバーは目立つ人間ばかりである。今はまだ自分達の正体までバレていないようだが、もしモンド・グロッソの優勝者である自分や世界でも稀な男性IS操縦者である太郎の素性がバレてしまうと騒ぎになりかねない。

 

 5人が水着を売っている店舗を目指して歩き始めた、その頃、怪しい2人組みが少し離れた駅で大騒ぎしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、IS同士はコア・ネットワークで繋がっているのですから太郎さん達の大まかな位置は分かります。つ・ま・り、わたくしからは逃げられませんわ」

 

 

 高笑いのセシリアであったが、そもそも太郎達は逃げてなどいない。

 

 

「待ってくれセシリア。タクシー乗り場は逆だ。位置的に太郎さん達は少し離れた場所にあるショッピングモールにいるみたいだ。歩いても行けるけど、タクシーを使った方がいい」

 

「なぜ、それは先に言いませんの!?」

 

「セシリアが人の話も聞かないで先に先に進むからだろ!」

 

 

 セシリアと一夏は言い争いながらも着実に太郎達を追跡していた。セシリアがISによって太郎達の位置を大まかに調べ、一夏が電車などの交通手段を調べるという役割分担が意外と上手くいっている。

 

 最初はハイヤーに乗り込んだ太郎達を追う為にタクシーを拾ったのだが、「あの車を追ってくれ」という定番のセリフを一夏が言った瞬間悪戯扱いされ、タクシーから下ろされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリアと一夏が追ってきているなど夢にも思わない太郎達は、既にモール内でおそらく一番水着の品揃えが良い広い店舗に到着していた。

 

 

「では誰の水着から選びましょうか?」

 

 

 到着と同時に先頭を歩いていた太郎が笑顔で振り返った。それに対して千冬は怪訝な表情をした。

 

 

「どういう事だ。全員でそれぞれの水着を選んでいく気か?」

 

「ええ、そのつもりですが」

 

「おかしいだろう。アドバイスや感想なんかを言い合う位なら普通だが、全員で選ぶ必要は無い。違うか?」

 

 

 千冬の意見を聞いて太郎は首を横へ振り、両手を広げて掌を上に向ける。

 

 

「折角、みんなで買い物に来たのに自分の物だけ選ぶなんて寂しいじゃないですか」

 

「知るか、そんな事。お前の選んだ水着など着れるか!」

 

「まあ、そう言わず試しにいくつか選ばせてください。それを見てから判断してくださいよ」

 

「チッ・・・・・お前がまともな水着を選ぶとは思えんがな」

 

 

 忌々しげに舌打ちをした千冬であったが、太郎の言う通り一度どんな水着を太郎が選ぶのか見てみる事になった。太郎は買い物籠を持つと売り場をさっと見て回り、特に迷う事も無く何着かの水着を籠に入れていた。この時、太郎だけではなくラウラ達も売り場を見て回っていた。その中でもラウラは熱心に店員と話しながら選んでいた。尊敬する教官である千冬の水着を選ぶという事で気合が入っているようだ。

 

 千冬の水着選びは一番熱心な太郎とラウラが意外と早く候補の物を選んだ為に15分程度で終わった。

 

 

「それじゃあ、僕から行こうか。これが僕の選んだ織斑先生に一番似合うと思う水着です」

 

 

 一番手に名乗りを上げたのはシャルであった。その手に持っている水着は胸元が白いフリルデザインのビキニであった。シャル自身は自信を持っている様子であったが、皆の反応は良くなかった。

 

 

「折角破壊力のある千冬さんの胸なんですよ。その胸のラインを隠してしまうとはもったいないですよ」

 

「なんかあざといのよね~。可愛く見せたいって意図が透けてるのよ。そんなの千冬さんのイメージじゃないでしょ」

 

「軟弱なデザインだ。教官には似合わん」

 

 

 太郎、鈴、ラウラの3人が口々に駄目だしをした。そこまで真剣に選んだ訳でもないがここまで言われるとシャルとしても結構なショックである。

 

 

「ふむ、ちょっと私には着れんな。これは可愛いかもしれんが私には似合わん」

 

 

 肝心の千冬からも否定され、シャルの選んだ物は却下となった。そして、次に名乗りを上げたのは鈴だ。

 

 

「まあ、この中じゃ一番千冬さんと付き合いの長いあたしに任せなさいって」

 

 

 自信満々な鈴の選んだ水着は黒の三角ビキニだった。

 

 

「自信を持つだけあって千冬さんのイメージに合っています」

 

 

 太郎は鈴の選んだ水着を眺めながら、千冬が着た姿を思い浮かべる。太郎の脳内で形作られた千冬の姿は女豹のポーズを取っていた。太郎は大きく頷き「ありです」と呟いた。

 

 

「うん、確かに黒って色と少し布地が少なめのビキニって所で織斑先生の大人の魅力が際立つね」

 

「教官には黒が似合うと思います」

 

「悪くないな」

 

 

 太郎だけでなくシャルやラウラ、そして千冬からも評価され、全員高評価となり鈴の選んだ水着が第一候補になった。

 

 しかし、その鈴の選んだ水着を見た後でも太郎とラウラは自信を失っていなかった。太郎が一歩前に出る。

 

 

「ここで真打登場です。これこそ私が選んだ最強の水着。これを着た千冬さんがビーチに現れれば、その瞬間からビーチの視線を独り占めです」

 

 

 ジャーン、という効果音が聞えそうな勢いで買い物籠から取り出された水着は─────────白のスリングショットであった。

 

 

「着れるか、こんな物っ!!!!!」

 

 

 千冬の拳が太郎に迫る。その拳は太郎が咄嗟に顔の前に出した左手によって勢いを少し殺されるも、そのまま打ち抜かれた。太郎の腰が一瞬落ちかけた様に見える。しかし、太郎は千冬の放った追撃の左フックをダッキングで回避しクリンチする。

 

 

「ち、千冬さん、落ち着いてください」

 

「何が視線を独り占めだ。確かにこんな物を臨海学校で着れば視線は集まるだろうよ。頭のおかしな痴女がいるとな!!!」

 

 

 怒りに任せて太郎を殴ろうとする千冬だが、クリンチされた状態では上手く殴れない。無理矢理引き剥がそうとしても単純な力勝負では太郎に勝つ事は困難である。千冬は首相撲へと移行し、そこから膝蹴りを入れようとする。

 

 太郎の方もいつまでも受身ではなかった。体格と馬力を生かして組み付いたまま壁際へと押し込む。そこで互いの実力が拮抗しているのか膠着状態に陥った。

 

 シャル達は太郎と千冬の激しい闘いに割って入る事が出来ず、見ているだけの状態だった。

 

 そこへ2人を止める第三者が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、お客様。店内でそういう事は控えて頂きたいのですが・・・・・・・」

 

 

 店員であった。

 

 

 

 

 

 






読んでいただきありがとうございます。


次回は水曜日に投稿します。なんか次の投稿の内容が大分長くなりそうです。


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第73話 戦いは海に行く前から始まっている2

 水着売り場で激しい戦いを見せる千冬と太郎。そんな2人の戦いを制止する者が現れた。それは店員だった。

 

 

「あのー、お客様。店内でそういう事は控えて頂きたいのですが・・・・・・・」

 

 

 組み合ったまま膠着(こうちゃく)状態になっていた千冬と太郎のすぐ傍に若干怯え気味な店員が来ていた。千冬が慌てて店員に謝る。

 

 

「すみません・・・・・・。おい、山田。さっさと手を放せ!」

 

「お騒がせして申し訳ありません」

 

 

 太郎も千冬に続いて謝罪を口にしながら千冬を放した。幸い周囲に他の客はいなかったが、店としても店内で格闘戦を繰り広げられては迷惑極まりないだろう。IS学園内であれば金を取って客を集められる程の対戦カードではあったが、ここは学園では無い。

 

 

「多少騒ぐのは構いませんが、暴れるのはやめて下さい。次は警備員を呼びますよ」

 

「ええ、分かりました。ちょっとじゃれ合っていただけです。これからは気を付けます」

 

 

 店員の警告に太郎は軽い口調で答える。そんな店員に注意を受けている太郎と千冬から少し離れて、鈴、シャル、ラウラの3人がこそこそと話し合っていた。

 

 

「ちょ、ちょっと、太郎さんヤバいでしょ。本気にはなっていないと思うけど相手は千冬さんよ。まともにやり合えるなんて異常よ」

 

「織斑先生のパンチ・・・・全然見えなかった。本当に僕達と同じ人間なのかなあ?」

 

「私はあの2人のどちらとも手合わせした事があるが、あの人達より素手で強い人間は軍にもいなかったな」

 

 

 ラウラの言葉に鈴とシャルは少し引きながらも、妙に納得してしまった。あんなレベルの人間がその辺にゴロゴロしていたら怖過ぎる。

 

 

「教官は打撃や近接武器が得意だな。もちろん他も優れているが、それらは次元が違う。パパは身体能力とグラップリングが飛び抜けている。私は格闘に関して同世代ではトップクラスであると自負しているが、パパが相手では組み付かれた時点で勝負が決まってしまう。その位パパのグラップリング能力は高い」

 

「IS無しなら間違いなく学園でもトップ1、2だよね」

 

「ま、まあ、2人とも大人だし」

 

 

 ラウラの分析にシャルと鈴は頷く。

 

 千冬が刀型の近接武器「雪片」のみでモンド・グロッソを勝ち抜いた事実は有名である。そんな事は余程の格闘センスがないと不可能だ。その千冬と対等に闘えている太郎も普通では無い。ラウラ達3人が感心とも畏れとも知れない思いを抱いていると、太郎と千冬が店員からの注意を受け終えていた。

 

 

「さて、気を取り直して、次はラウラさんの番ですね。選んだ水着を見せてください」

 

 

 太郎が何事も無かったかの様に言った。それを受けて前に進み出たラウラは自身に満ち溢れた様子で、自らが選んだ水着を両手で掲げた。

 

 

「教官の事は私が1番良く知っている。これこそ教官に相応しい水着だ!」

 

 

 ラウラが水着は黒色を基調とした生地が膝の上まである競泳水着であった。

 

 

「この水着は去年の世界水泳で5つのメダルを獲得した、現在の水泳界で女王の異名を持っている選手が愛用している物と同じモデルだ。これこそ最強でありブリュンヒルデと呼ばれる教官に相応しいと言える」

 

 

 確信を持って言い切ったラウラ。しかし、聞いていた者達の反応は微妙であった。

 

 

「千冬さんに似合うとは思うけど・・・・・ねえ?」

 

「あー・・・・千冬さん。例年の臨海学校で競泳水着を着た生徒や職員はいましたか?」

 

 

 鈴が言い辛そうに太郎の顔見ると、太郎は千冬へ質問した。それに対して千冬は首を横へ振る。

 

 

「流石に大会用の競泳水着は聞いた事がないな・・・・・」

 

 

 千冬もどう反応したら良いのか判断しかねていた。太郎が選んだ水着と比べるなら百倍マシだが、この水着でも確実に臨海学校では周囲から浮く。臨海学校で水着が必要になるのは自由時間である。そう、つまり遊びやバカンス的な用途なのだ。そこに1人だけガチの競泳水着を着て行けば確実に周囲からは浮く。

 

 

「却下だな」

 

「何故ですか教官!」

 

「ラウラ、お前は私を水泳選手にでもしたいのか?生徒達が砂浜で遊んでいる横でタイムトライアルでもしていろと?」

 

 

 それの何が問題なのか分からないラウラであったが、千冬の意思を覆す事は出来ないと見てしぶしぶながら引き下がった。

 

 

「それじゃあ、私の選んだ黒のビキニで決定ね」

 

 

 鈴が得意げに勝利を宣言した。しかし、それに異を唱える者がいた。

 

 

「待って下さい。私の選んだ水着は1着ではありません」

 

「私も何着か用意がある」

 

 

 太郎とラウラであった。正直、勝負はもう見えている。太郎とラウラの選ぶ水着がまともではない事は、先程のやり取りでもう分かっていた。千冬は時間の無駄と思わないでもなかったが、太郎達が素直に引き下がるとも思えないので見るだけ見る事にした。

 

 

「分かった。分かった。見せてみろ」

 

「ではこれを!!!」

 

 

 太郎は勢いよく買い物籠から(ひも)を取り出した。それは紛うことなき紐であった。故に大事な部分を隠す役割を一切果たしていない水着?である。

 

 千冬の鉄拳が太郎に襲い掛かる。

 

 

「さっきより酷いではないか!」

 

「し、失礼、間違いました。これは別の人用でした」

 

 

 怒鳴る千冬に太郎が謝罪する。その内容にシャル達は冷や汗をかいた。もしかして私達の中の誰か用なの?と。

 

 

「こちらです」

 

「チッ・・・・・・ほう、まともじゃないか」

 

 

 多少際どいビキニであったが、スリングショットや紐に比べるとまともに感じてしまう。千冬が太郎の選んだビキニを手にとってみる。どうやらここまでは好感触の様だ。

 

 

「どうです。これなら問題無いでしょう?」

 

「ふむ・・・・・・・ん?・・・・・何で股間部分に穴が開いているんだああああ!!!!!!」

 

 

 ぱっと見では分からないがクロッチ部分がゲート・オブ・ヘヴン状態である。

 

 

「便利かと思いまして」

 

「何に便利だと言うんだ!何に!」

 

「はっはっはっは」

 

「笑っても誤魔化されんぞ。もういい。次だ。次!」

 

 

 千冬は太郎を相手にするだけ無駄と判断して、さっさと話を進めようとする。

 

 

「私の番ですか。次は自信があります。副官からアドバイスを参考にしました」

 

 

 ラウラが出して来たのは学園指定のスクール水着だった。それもご丁寧にも胸の名札は【おりむら】となっている。

 

 

「スクール水着は色物であり負けフラグ?らしいのですが、着るのが教官であればギャップ萌え属性も加わり強力になるとの事です」

 

「まるでイメクラか企画物のAVですね。・・・・・・・ありです」

 

 

 ラウラの解説に太郎が静かに頷く。しかし、当然と言えば当然ながら────────────

 

 

「ありな訳ないだろ」

 

「見てみたい気はするけど駄目でしょ」

 

「スクール水着はないと思うよ」

 

 

 千冬を始め、鈴もシャルも否定的であった。

 

 

「くっ、ではこちらで」

 

 

 反応が芳しくないのを見てラウラは苦し紛れに違う物を取り出した。それはラウラが最初に出した競泳水着に少し似ている物だった。しかし、それには大きな問題があった。それにいち早く気付いたのは太郎であった。

 

 

「あのラウラさん、それはレスリングのウェア。女性用シングレットではありませんか?」

 

「流石はパパ!そうこれは先月のレスリング国際大会で58キロ級王者が「「水着ですら無いのか!?」」

 

 

 ラウラが意気揚々と説明しようとした所で千冬達の突っ込みが入った。

 

 

「レスリングウェアなんて何処から持ってきたのよ」

 

「ここと隣接したスポーツ用品店にあったのだ」

 

 

 鈴の質問にラウラは事も無げに答えた。

 

 

「教官、砂浜ではレスリングが有効です。足場の安定しない砂浜で打撃偏重の闘い方は命取りになります!」

 

「命取りって・・・・・ラウラは何と闘っているの?」

 

 

 困惑気味に呟くシャルだったが、肝心の千冬は太郎の方を見ながらあながち的外れでは無いなと思っていた。水着を買いに来ただけでこの騒ぎである。臨海学校でどれ程、この男が大人しくしていられるか。いや無理だ。そうなると必然的に太郎を抑えるのは担任である自分の役割となる。つまり、闘いだ。

 

 

「・・・・・・保留だな」

 

「「えええええっ!!!!!」」

 

 

 千冬の意外な言葉にその場の全員が驚いた。

 

 

「あ、あのー本気ですか?」

 

 

 戸惑いながら聞いてきた鈴に、千冬は「必要になるかもしれん」とだけ言った。静かに闘志を燃やしている千冬に気付いているのか、いないのか。太郎がまたも名乗りを上げる。

 

 

「これが私の大本命。これが駄目と言うのなら潔く諦めます」

 

 

 太郎がそう言って出したのは白色のワンピースだった。脇腹の部分は肌が見えるデザインであったが、全体の露出度は低く太郎がこれまで選んだ水着とは一線を画す物である。むしろ他の者が選んだ水着と比べても品があった。しかし、1つだけ懸念材料があった。

 

 

「白か・・・・・透けるんじゃないか?」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。店員さーん」

 

 

 千冬の疑問を聞いた太郎が店員を大声で呼ぶ。店員は先程問題を起こした客だったのでこちらの様子を窺っていた様で直ぐにやって来た。

 

 

「いかがなさいましたか?」

 

「この水着は水に浸かっても透けないですよね」

 

「はい、こちらの水着は新開発の素材を使っております。水に濡れて体に密着しても透ける事はありません」

 

 

 店員が些かの逡巡もなく言い切ったので千冬もその言葉を信じた。

 

 

「千冬さんは普段黒いスーツ姿が基本なので、たまには明るい色も悪くないでしょう?」

 

「悪く・・・・・うん、悪くないな」

 

 

 太郎の選んだ物を認めるのは(しゃく)ではあるが、デザイン的には千冬も気に入ったようだ。その反応を見て太郎もホッと胸を撫で下ろした。太郎としては、どうあってもこの水着を千冬に選んで欲しかったのだ。先に出した水着は言わば囮であった。最初からこの水着を選んで貰う為に奇抜な水着を最初に推したのだ。

 

 

(美星さん、あの水着で良いんですね?)

 

『ええ、あれで良いです。あの素材なら確かに水では透けません。それに一般で流通している赤外線カメラなどでも透過させる事は出来ないでしょう。しかし、この私に搭載されている索敵、観測用ビット【レギオン】のセンサー群の前には丸裸同然です』

 

 

 そうあの水着こそ、この売り場でも1、2を争うほど布地を透過し奥にある肢体を写し易い物なのだ。ここまで太郎が演じた茶番は罠、巧妙なる罠であったのだ。

 

 あえて、最初におかしな水着を推しておく事で最後に出す本命にも疑いの目を向けさせる。そして、その疑念を自分ではなく、店員に否定させればより信用度が増すという狙いである。

 

 

「よし、これにしよう。山田が選んだというのは気に喰わんが、物としては気に入った」

 

 

 千冬の言葉を聞いた太郎は満面の笑みを浮かべた。それは勝者の笑みである。

 

 




計画通り!!!
デスノー○って腹上死もOKなんでしょうか?
気になって夜も眠れません。
読んでいただきありがとうございます。



そして、全く関係ありませんがフェス連敗を今度こそ止めたいです。

次の更新は日曜日です。




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第74話 戦いは海に行く前から始まっている3

 太郎の目論見通りに事が進み、千冬の水着は最終的に太郎が選んだ物となった。そして、次に鈴の水着を選ぶ事になった。

 

 

「では先程と同じく、シャルの選んだ物から見ていきましょうか」

 

「ええっ、また僕から・・・・・」

 

 

 太郎の言葉にシャルは難色を示した。先程シャルが見せた千冬用の水着はかなりの低評価であった為である。誰かを先にして欲しいとシャルは思っていた。しかし、順番が最後より最初の方が気楽かと思い直した。

 

 

「あー、僕が選んだのはこれです」

 

 

 イマイチやる気のない感じでシャルが鈴に似合うだろうと考えて選んだ水着を出す。それはボーダー柄のキャミ型タンキニとベージュ色のショートパンツのセットである。これを見た鈴の反応は芳しいものではなかった。

 

 

「かわいいけど・・・・・これだと、ほら・・・・アレがね・・・胸がさ・・・」

 

 

 タンキニはタンクトップで胸からウエスト部分までが覆い隠される事により体のラインが分かり辛くなり、体型が少し寸胴っぽく見えてしまうという特徴がある。お腹の贅肉が少し気になる人の場合、それを隠せて良いのだが、貧乳の人が着るとさらに胸が目立たなくなる。

 

 自身の胸に貧弱さは鈴自身も分かっている。この水着では勝利を掴み取る事など出来ないと鈴は判断した。しかし、鈴とは逆の考えを持った者がいた。

 

 

「シャルのセンスには脱帽ですね。これは良い・・・・これイイいいいいいいでぇぇす!!!」

 

「えええっ、これの何処がそんなに良いのよ!?」

 

 

 興奮して叫ぶ太郎に、鈴は驚きの声を上げる。

 

 

「何を言っているんですか。これは貴方の強みを強化する素晴らしい水着ですよ」

 

「強みって・・・むしろちょっと寸胴っぽさが増して嫌なんだけど」

 

「はああああ?それが良いのでしょう?」

 

 

 太郎の言葉の意味が鈴には理解出来ない。「それが良い」ってどういう事なのかと、鈴の頭の中は疑問符でいっぱいだった。

 

 

「鈴さん、いいですか。貴方の1番の恋敵(ライバル)は篠ノ之さんですよね?」

 

「う、うん」

 

 

 鈴は太郎のあまりの勢いについ頷いてしまう。

 

 

「彼女とスタイルで競うつもりですか?」

 

「うぐっ・・・」

 

「篠ノ之さんのスタイルは超高校生級ですよ。パッドを1枚や2枚入れた所で勝負になりません」

 

 

 太郎から冷静かつ非情な現実を突きつけられる。そう、彼我の戦力差は圧倒的である。物量戦ならば鈴に勝ち目など無い。だが、太郎は何も鈴を貶めたいが為にこんな事を言っている訳では無い。

 

 

「しかし、安心してください。恋愛において勝敗を決する要素は胸の大きさだけではありません。幼児体型には幼児体型の魅力があります」

 

「よ、よう、幼児体型・・・・・」

 

 

 普段の鈴であれば激怒するような言葉である。しかし、鈴は太郎の異常に熱が入った言葉に圧倒されていた。それに悔しいが鈴自身、自覚のある内容だったので精神的ダメージはあったものの冷静さは失わなかった。そんな鈴へ太郎の力説は続く。

 

 

「このシャルの選んだ水着を鈴さんが着て迫れば・・・・・確実に背徳的な魅力を一夏は感じるはずです」

 

「・・・・・・でも肌の露出が少ない水着って男の人から見て、どうなの?」

 

 

 太郎の気迫に圧倒されつつも鈴が何とか反論する。しかし、それを聞いた太郎は首を横に振り、大きな溜息を吐いた。

 

 

「甘い、甘過ぎです。露出度が高ければ良いというものではありません。最初から見えているより、隠された状態から覗き見えたりする方がエロい事もあります」

 

 

 先程、千冬にスリングショットや紐を勧めた人間のセリフとは思えない太郎の言葉に、太郎と鈴以外の者達は苦笑いをしていた。それとは対照的に鈴はいたって真剣に太郎の言葉を検討し、疑問を投げ掛ける。

 

 

「覗き見えたりって言っても、そんなに都合良くいくの?」

 

「意図的に見せればいいじゃないですか」

 

「みみみみせ、見せるって」

 

 

 顔を真っ赤にして慌てる鈴に、太郎は落ち着かせるようにゆっくりと言い聞かせる。

 

「別に局部や胸を見せろと言っているわけではありません。水着に砂が入っちゃった~、とか言ってタンクトップの裾の部分を持ってパタパタとするんです。その際に胸まで見せる必要はありません。見えそうなだけで十分です。実質的にはお腹と脇腹の一部が見えるだけですが効果は抜群です」

 

「そ、そんなに効くの・・・・・」

 

「例え目を逸らそうとしても、絶対にチラ見してしまう。それが男の本能です」

 

「「おおおおぉぉぉ」」パチパチパチ

 

 

 太郎は議論の余地など無いと言わんばかりに断言した。するといつの間にか周囲に人が集まっており、その人達が太郎の言葉に感心した様で拍手をしていた。当初、この売り場に他の客はいなかったが、太郎達が話し込んでいるうちに状況は変わっていたようだ。そのうえ太郎があまりにも熱弁していた為、何事かと思った客達が集まって来てしまっていたのだ。

 

 

「えっ、何これ。どうなってるの!?」

 

 

 気付かない間に知らない人間に囲まれて鈴は驚いてしまう。しかし、太郎の方は平然と両手を上げ拍手に応えていた。困惑気味の鈴がどうしようかと考えていると、軽く肩を叩かれ後ろに振り向くと呆れた顔をした千冬がそこにいた。

 

 

「あの馬鹿は放っておけ。で、どうする。その水着で良いのか。良いのであればさっさと買ってこの場を離れるぞ。私や山田の正体がバレると騒ぎになりかねん」

 

「はい、これで・・・・・これで行きます」

 

 

 鈴の眼差しは覚悟を決めた、それだった。千冬はそれを確認すると次にラウラとシャルの方を見る。

 

 

「お前達はどうする?」

 

「僕は織斑先生用に選んだ水着と同じデザインの物を自分で着ようと思います。あのデザイン気に入っているので」

 

「私はパパの選んだ物を着ます」

 

 

 シャルとラウラ、それぞれ千冬の問いに答えた。シャルはともかく、ラウラは最初からそのつもりで今回の買い物に来ているので千冬としても予想通りの答えであった。

 

 

「山田っ!ラウラの分も既に選び終わっているのか?」

 

「ええ、問題なく」

 

「風紀的にも問題ないんだろうな?」

 

「大丈夫だと思いますよ。どんな水着かは当日になってからのお楽しみという事で、もう店員さんに包装して貰っています。ラウラさん、これを」

 

 

 買い物籠の底の方に隠した、プレゼント用に包装されている包みを太郎が取り出しラウラへと渡した。ラウラはそれを両手で抱え込むようにして喜んでいた。その様子に見て太郎も満足そうである。

 

 まだ会計を済ませていなかった商品をレジに持って行った際、太郎は千冬にボツとされたスリングショットと紐のサイズの違う物を一緒に会計し、別々にプレゼント用に包装するよう店員へ頼んだ。それを見ていた千冬達は、プレゼントされる相手へ同情した。あんな物をプレゼントされても、どうしようもないだろうと太郎以外の全員が思っていた。

 

 知名度の高い千冬や太郎の正体が集まっていた他の客にバレると厄介なので、会計を済ませると直ぐに店を出た。するとそこでセシリアと一夏の2人と鉢合わせした。

 

 

「一夏っ、それにセシリア・・・・2人で・・・まさかデート?」

 

 

 鈴が顔を青ざめさせながら恐る恐る聞く。まさか臨海学校で勝負をかけようと思っていた矢先に先を越されたのか。しかし、そんな事はなかった。

 

 

「そんな訳無いだろ。鈴、俺達は鈴達を追いかけて来たんだよ!」

 

「そうですわ。わたくしを仲間外れにするなんて酷いですわ!!!」

 

 

 怒るセシリア達に対し、鈴は逆に胸をホッと撫で下ろしていた。もし、この2人がデートでここへ来ていたのなら今日の買い物は何だったんだという話になってしまう。安心はしたものの、2人にどう言い訳をしようか悩んでしまう。水着の事は一夏に内緒にしたいので、他に良い言い訳が無いか鈴が考えていると太郎が鈴とセシリアの間に割って入ってきた。

 

 

「まあ、落ち着いてください。セシリアさんにプレゼントがあるんですよ。今度の臨海学校で着てもらおうと思って水着を買ったんですよ」

 

 

 太郎は笑顔で先程買ったプレゼント用の水着の1着をセシリアに渡した。突然の事にセシリアは数秒間呆然としていたが、状況を理解すると感激のあまり涙ぐんでしまう。

 

 

「ほ、本当に貰っていいんですの?今日の外出はこの為でしたの。わたくし何とお礼を言えば良いのか・・・・」

 

 

 かなり自分に都合良く解釈しているセシリアであったが、太郎もあえて訂正しようとも思わなかった。喜んでくれている様で何よりですと頷いている。

 

 それを見ていた千冬とシャルは「セシリア用だったの(か)!?」と叫びそうになる。スリングショットか紐のどちらなのかは分からないが止めるべきかと千冬は考えたが、ここまで喜んでいるのに今ここで水を差すのは躊躇われた。それに中身を見ればセシリアも臨海学校で着ようとは思わないだろうし、態々ここで注意しなくても問題ないかと考え直した。

 

 太郎がセシリアにプレゼントを渡した事で自分も貰えるのではと期待する者がいた。

 

 

「な、なあ、太郎さん。俺の分は・・・・・・・」

 

 

 期待に満ちた目で一夏が太郎を見ている。すると太郎は一夏の方に手を置き言った。

 

 

「男は黙って全裸です」

 

「そんな訳あるかっーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 千冬が強烈な回し蹴りを太郎へと放つ。ガードはしたものの衝撃を殺せず太郎の上半身が横へブレた様に見えた。

 

 

「今のは危なかったですよ。ガードが遅れていたら大怪我してましたよ」

 

「大怪我程度なのか。残念だな。・・・・・・あと一夏、お前の水着は私が買っておいた」

 

 

 千冬が若干不穏な言葉を言いながら一夏へ買い物袋を投げ渡す。太郎の様にプレゼント用の包装はしていないが、他の者が気付かないうちに買っていたのだ。普段、表に出さないが千冬もブラコンな所がある。

 

 

「ち、千冬姉・・・・・・」

 

「臨海学校では周りは女だらけだ。まともな水着を用意していないと恥ずかしい思いをするぞ」

 

 

 千冬は照れ隠しでぶっきらぼうな物言いだったが、周囲の者にはそれが分かっていたので微笑ましいものを見る目で見ていた。




読んでいただきありがとうございます。





エ○ゲーをする時間が無い。メイドをカスタムりてえええええええええええええ。

アニメも今期は好きなのが多くて時間が削られまくりです。がっこうぐらしや監獄学園には刺激されます。主に股間が。

がっこうぐらしは、ほのぼの日常系の皮を被ったマジキチホラーで注目を集めていますが、私は8割方性的な目で見ています。みーくんがガーターベルトをしているのは私を誘っているに違いない。食糧難になったら、りーさんの○っぱい吸えばいいしね。



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第75話 天災の始動

 機械類がひしめく狭い部屋。床に無造作に放り出されたボルトの1つに小さな影がトコトコと近付いていく。それは機械仕掛けのリスであった。リスは落ちていたボルトを抱えるとデータを照合する。その結果、このボルトがもう必要の無い物だと判明した。リスは不要となったボルトを(かじ)り体内に取り込み、現在不足している部品へと再構成し、出来上がったそれを所定の場所へと保管した。

 

 世界の何処を見ても、この様なリスは存在しないし、作る事の出来る人間もいないだろう。この部屋の主以外には。ここは世界最高にして最悪の天災科学者・篠ノ之束の秘密のラボである。

 

 ラボの主はある映像を食い入る様に見ていた。それはとあるショッピングモールに設置された防犯カメラの映像である。ショッピングモールの警備システム如き、束に掛かればいとも容易く乗っ取る事が出来る。そして、束が見ているのは千冬達が水着を買っているところだった。

 

 

「ちーちゃんの水着かー。見たいなー。ちーちゃんには内緒で行っちゃおっかな」

 

 

 千冬が聞けば確実に嫌そうな顔をしそうな事を束はニコニコしながら呟いていた。しかし、その表情が急に険しくなる。

 

 

「それにしてもあの男はなんなの。私のちーちゃんに馴れ馴れしいよ・・・・・・まあ、あの水着のチョイスは悪くないけど。スリングショット姿のちーちゃんも見たかったなー」

 

 

 そう言っている間に千冬達は水着の購入を終え、売り場から離れていった。束は映像を巻き戻し、もう一度最初から見始めた。そこで束が特に熱心な目を向けたのは千冬と太郎の格闘シーンであった。

 

 

「こいつ・・・・・ちーちゃんに抱きつくなんて羨ましい・・・・じゃなかった、悪い奴だよ」

 

 

 映像では千冬に殴られた太郎が千冬へクリンチし、馬力で壁際に押し込んでいく所だった。口では太郎の行為を非難していたが、頭では正確に太郎の戦力を分析していた。

 

 

「うーん。ちーちゃんが力負けするなんて、こいつの体はどうなってんの。それに力が強いだけならちーちゃんは軽く捌けるだろうし、技術もあるみたいだなー」

 

 

 束は今まで自分や千冬と同レベルの人間など見た事も無いし、存在するとも思っていなかった。それだけに太郎の見せた能力は束を驚かせ、興味を持たせるには十分だった。

 

 元々、束も太郎についてならIS学園の一般生徒達以上に情報を持っている。一夏以外にはいない筈の男性IS操縦者という事で経歴なども一通り調べている。しかし、データ的には抹消された犯罪歴以外に目立ったものはなかった。後はISコアNo.338(美星)から聞いた【千冬並の能力を持った執念深い変態】という情報くらいであった。

 

 束はこの千冬並の能力という点には少し疑問を持っていた・・・・・いや、本当は【千冬並の能力を持った執念深い変態】などという恐ろしい者が存在する事を信じたくなかったのだ。だからNo.338が少し過大評価しているのではないかと思うようにしていた。しかし、今見た映像から考えて、太郎は千冬と同等の格闘能力を持っているのは確実である。

 

 

「関わり合いにはなりたくないけど、直接体を調べてみたいなー」

 

 

 怖いもの見たさと言うべきか、一度気になり出すと気になって仕方が無い。関わり合いたくないという気持ちと直接調べてみたいという相反する気持ちに束が葛藤していると突然携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 姉貴、姉貴、姉貴と私

 

 

 

 携帯電話から流れ出た着信音はとあるシューティングゲームの曲だった。別に束はそのゲームのファンではなかったが、歌詞が気に入って使っていた。この着信音を聞いた束は劇的な反応を見せた。跳ね上がるように立ち上がり携帯電話を手に取った。相手は携帯電話の画面を見なくても分かっていた。何故ならその電話はある相手の為だけに用意し、番号もその相手にしか教えていないのだ。

 

 

「うぇーい、ひっさしぶっりだねえー!」

 

「・・・・・・姉さん、声大きい」

 

 

 ハイテンションな束に対し、相手の声色は不快げであった。いきなり大声を出された事以外にも何か思う所がある様だ。束を姉さんと呼ぶ、電話を掛けてきた相手は箒であった。

 

 

「箒ちゃんが私に電話を掛けて来るなんて何の用かなー・・・・・なーんてね。分かってるよ。欲しいんだよね。ISが」

 

「っ・・・・・・・」

 

 

 束の言葉に箒が息をのむ。心中を見透かされた様で箒は二の句を継げない。それに今まで何の連絡もしなかったのに頼み事が出来た途端手の平を返したみたいで気まずくもあった。ただ束にとってそんな事は些事であった。全く気にしている様子は無い。

 

 

「専用機が欲しいんだよね。あるよ、あるよ!取って置きのがねっ!こんな事もあろうかと既に作ってあるんだよ。白と対になる最高・最強の専用機─────────紅椿が」

 

 

 白と対になるとは白式の事なのだろうか。もし、そうなら箒としては好都合であった。最近の一夏は他の専用機持ち達とばかり行動している。それは箒の思い込みで実際には寮のルームメイトである箒が一番一夏と過ごしている時間は長い。しかし、思い込みが強い箒はそれには気付かない。

 

 疎外感を拭えない箒は自らも専用機を持つ事で一夏とより近い関係になろうと思っていた。その自分の専用機が一夏の白式と対になる物であるなら当初望んだ以上の物である。箒は歓喜に打ち震えるのであった。

 

 そんな箒の様子を電話越しにも感じた束はニヤニヤとしていた。それに今回の件は束にとっても好都合なタイミングだった。紅椿を渡しに行くという名目でIS学園の臨海学校へ突撃しよう。そう束はもう決めていた。束は水着姿の千冬や箒を堪能し、ついでに出来るそうならば太郎を直接調べようと考えていた。そして─────────

 

 

「・・・・・・それに箒ちゃんの専用機お披露目は派手な方がいいよね」

 

 

 誰にも聞えない呟きが束の口から漏れ出た。

 

 

 




最強・天災・変態・・・・・・人類の頂点ともいうべき者達の邂逅はまだもうちょっと先です。



丸城「機械仕掛けのリスさん、私の使用済みティッシュを分解して美少女とか作れませんかね?」

リス「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、標準的な大人一人分として計算した場合の、人体の構成物質なんだ。今の科学ではここまで分かっているのに、実際に人体錬成の成功例は報告されていない・・・・・どういう意味か分かるね?」

丸城「ティッシュ数枚では足りないって事ですね。分かります」


読んでいただきありがとうございます。
次は火曜日更新です。


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第76話 さらなる進化への始まり

 

 千冬達との買い物から帰って来た太郎は個別整備室に美星と2人で篭っていた。美星が他の人間に聞かせられない重要な話があると言ったからだ。

 

 

『報告したかったのは、クラス対抗戦でマスターと鈴さんの対戦中に乱入したISから抜き出したISコアについてです。そのコアの解析がやっと完了しました。通常のISコアとは違いコア・ネットワークとの接続に制限が掛かっており、私の様な意思も無い物でした』

 

「通常のISコアのダウングレード版という事ですか?」

 

 

 美星の説明を聞いて、太郎は率直に感じた事を言った。しかし、それを美星は否定する。

 

 

『いえ、基本構造はほぼ通常のISコアと同様の物です。単に機能を制限されていて、そのうえ生まれたばかりで意思の様なものが育っていないだけです。制限を解除し、経験を積めば通常のISコアと同等以上の能力を発揮するでしょう』

 

 

 リミッターが掛かっているだけで性能が悪いわけではないという事だ。当初、試合中に乱入してきたこのISのコアを心も魂の輝きも感じない木偶と断じた太郎であったが、単に生まれたばかりで白紙に近い状態だったからのようだ。

 

 太郎としては意外な事実を知った形になった。それと美星の言葉には気になる点があった。

 

 

「同等以上・・・・・ですか?」

 

 

 美星は同等以上の性能を発揮すると予測しているが、実際に闘った太郎としては機体の出力が高かっただけで手強いといった印象はなかった。その為、同等以上という言葉に違和感があった。

 

 

『ええ、初期スペックは私達より少し上のようです。ただ私の様な特異な自己進化をした個体とは比較のしようがありませんので、絶対とは言えません。例えばこの子がどれだけ経験を積もうと等身大フィギュア製作において私が負けるとは思えませんし』

 

 

 美星が同等以上と分析したのは初期スペックの高さが要因のようだ。既存のISコア達と同じだけの経験を積めばスタート地点が上なだけに、既存のISコア達を超える可能性が高いと言える。しかし、前提条件としての【同じ経験】を得られるかと聞かれると、難しいとしか答えられない。例えコア・ネットワークに接続出来るようになったとしても既存のISコア達が全ての経験を共有化してくれる訳でも無い。ましてや、美星の様な特異な経験を経て、他に類を見ない進化を遂げたコア相手では性能うんぬんという以前に、全く方向性が違うという話になる。

 

 

「まあ、確かにそうですね。それでこのコアはどうしましょうか?」

 

『マスターの望むがままに。新たな機体に載せるのも良いですし、ヴェスパにサブとして載せても良いと思います』

 

「サブですか。初耳ですね。そんな使い方も出来るんですか?」

 

 

 サブのコア。そんな話はIS学園の1年生としてはISに相当詳しい太郎ですら聞いた事が無い。

 

 

『可能です。これをすれば機体の制御能力も上がりますが、何より自己進化の速度が速くなると予測されます』

 

「そんな話は聞いたことがありませんね」

 

 

 制御能力と自己進化能力が上がる、良い事尽くしである。これだけ聞けば何処かの誰かが試してもおかしくない。しかし、試す人間がいなかったのには訳がある。それはISを扱う何処の国や会社、研究機関なども回避出来ない問題があるからだ。

 

 

『ただでさえISコアには限りがあるので、それを1機のISに対して2個使用するなど現実的な話ではないからでしょう』

 

 

 そう、IS学園には10以上のISコアがある。しかし、そんな数を単独で揃えている組織など存在しない。大国の中には一国で10前後のISコアを所持している国もあるが、それはあくまでその国にある複数の企業、研究機関、軍などにあるものの総数である。そんな数に限りのあるISコアを仕組みがほとんど解明されていない状態で、前代未聞のコアを2つ同時搭載という試みを計画する者はいなかった。例え、そんな計画を立てる者がいたとしても、それを許可する責任者はいないだろう。もしコアに何かあれば責任の取りようが無い。

 

 しかし、全世界で1人だけ例外が存在する。

 

 

「ISコアを新たに作れると思われる篠ノ之博士なら話は違うと思いますが?」

 

『この前、母の秘密ラボにアクセスした時にはそんな実験をした記録は無かったです。自己進化速度が上がると私は言いましたが、どの位上がるかは分からないですし。製作者である母ですら正確な進化の予測は出来ないので、不確定要素に不確定要素をかける事はしなかったのでしょう』

 

「・・・・・つまり、ISコアを2つ載せると多分進化速度が上がる。ただし、どの位上がるかも分からないうえ、どの様な進化をするかも分からない。だから篠ノ之博士も態々試してみようと思わなかったと?」

 

『あの人ならそのうち試しそうですが、優先度は低かったのでしょう。それで私達はどうしますか?』

 

 

 貴重なISコアである。秘密裏に何処かの国や企業へ売れば一生遊んで暮らせる金が手に入る。普通ならそうする。しかし、太郎は普通では無い。

 

「篠ノ之博士ですら試していない事ですか・・・・・・面白い。面白いという事は重要です。2つのコアの同時搭載によって美星さんに悪影響が出る可能性はありますか?」

 

 

 いくら面白いと言っても美星を危険に晒してまでする事では無いので太郎は美星に確認した。それに対する美星の答えはあっさりしたものだった。

 

 

『致命的なものは無いと思います。仮にあったとしても接続を切れば良いだけです』

 

「それでは試してみましょう。世界初のツインコアの威力というものを!」

 

 

 美星に致命的な問題が無いと知った太郎は直ぐに決断した。

 

 この日、太郎の愛機ヴェスパに美星の他に新しいISコアが搭載された。これによってヴェスパがどう進化していくのか。それはまだ誰にも分からない。




太郎「いいこと思いついた。美星さん、ヴェスパの中に新たなコアを追加しましょう」
美星「えーっ!?ヴェスパの中にですかァ?」
太郎「男は度胸!何でもためしてみましょう。きっといい気持ちですよ」



美星「私・・・・・男では無いんですけど」


読んでいただきありがとうございます。
次は金曜日に更新します。


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第77話 部屋割り

 臨海学校へ向かうバスの車窓から、太陽の光を反射してきらきらと輝く海が見える。太郎はそれを眺めながら小さく溜息を吐いた。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

 臨海学校を異常なほど楽しみにしていた太郎が溜息を吐いている。その事に疑問を感じたシャルが太郎に話し掛けた。

 

 

「いえ、見て下さい。素晴らしい景色ですよ。今から海で遊ぶのが楽しみで仕方がありません。しかし、残念ながら楯無さんや簪さんは参加出来ないんですよ。彼女達も連れて来てあげたかったな、と思いまして」

 

「楯無さんは学年が違うからどうにもならないでしょ。・・・・・・あと簪さんって、楯無さんの妹だよね?」

 

「ええ、そうです。簪さんは臨海学校で行われるISの各種稼動試験、それに使う装備の調整が少し遅れているそうです。本社工場で調整して直接こちらに向かう予定らしいですが、遊ぶ時間があるかどうか・・・・・」

 

 

 太郎からすると海がメインであったが、本来臨海学校はISの各種稼動試験が主目的である。その稼動試験に使う予定の装備が無いのでは本末転倒である。操縦者が様々な環境下での操縦経験を積むという意味もあるが、専用機を用意している企業としては当然、色々な装備を試して欲しい所だろう。

 

 

「楯無先輩とはまた別の機会を作るしかないと思うよ」

 

「当然、もう誘っています。・・・・・簪さんが今回泳ぐ時間が無くても一緒連れて行ってしまえば問題ありませんね」

 

 

 太郎にとってはある意味で好都合だ。先日の太郎と簪を狙った女性至上主義者達の襲撃事件をきっかけに、簪の楯無へと蟠りが解けてきている。ここで一緒に遊んで完全に仲直りさせてしまおうと太郎は考えた。

 

 

「シャルも一緒に行きますか?」

 

「えっ・・・いや、僕は遠慮しておくよ」

 

 

 太郎が話の流れでシャルの事も誘ったが、シャルはやんわりと断った。シャルとしても太郎と2人なら自分からお願いしたい位だ。しかし、楯無と海に行くというのは身の危険を感じるので断る事にした。楯無がバイである事は太郎とその仲間達の間では周知の事実である。しかも、楯無は異常なまでにスキンシップを求めてくる。その眼光には不穏な光があるとシャルは常々警戒していた。

 

 

「そうですか。残念です」

 

 

 太郎が本当に残念そうな表情をしていると、バスの前の方で手をパン、パンと二度叩く音がした。太郎だけでなく他の生徒達もそちらを向くと千冬が立っていた。

 

 

「お前らそろそろ旅館に着くぞ。自分の席に着け。それと車内に物を放置するなよ」

 

 

 千冬の言葉に全員が従い、きびきびと動いた。お菓子を出して食べていた者もいたが、あっという間に片付けられ、席を離れていた者もすぐに自分の席へと戻った。ほどなくしてバスは旅館に到着した。

 

 

 

 

 

 

 旅館に着くと入り口に妙齢の女性が待っていた。この女性はこの旅館の女将であった。生徒達は女将への挨拶が済むと各自、しおりに記載されている自分の部屋へ荷物を置きに向かっていった。しかし、2人だけその場に残った生徒がいた。太郎と一夏である。

 

 

「織斑先生、私達の部屋番号が臨海学校のしおりに記載されていないのですが」

 

「お前達は教員部屋に泊まる事になっている。つまり私や山田先生と同じ部屋だ」

 

 

 太郎の質問に千冬が答えた。その回答を聞いた太郎はアゴに手をやり、少し考え込んだ末にもう一度千冬に質問する。

 

 

「それは誘っているんですか?」

 

「違う」

 

 

 太郎の問いを千冬は即座に否定した。しかし、太郎も諦めない。

 

 

「合意と見なして問題無いですよね?」

 

「問題だ」

 

「今晩はお楽しみですね」

 

「楽しい事など無い」

 

 

 しばらくの間、太郎の言葉を間髪要れず千冬が否定するという事を繰り返した。しかし、千冬が折れる筈も無く太郎もこの場は大人しく引き下がった。そう、この場は。

 

 太郎は海と水着以外にも楽しみが増えた事を喜びながら、一夏と共に部屋へと荷物を置きに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ・臨海学校へ行く前日の出来事


太郎「楯無さんにプレゼントがあるんですよ」
楯無「えっ、何かな?」

 太郎がプレゼント用に包装された小さな箱を楯無へと渡す。楯無が包装を解き中身を見るとそこには───────

楯無「ひ、紐・・・・・・?」
太郎「良く見て下さい。それは水着です」

 それを本当に水着と呼んで良いのだろうか。構成する要素はまさに紐、紐、紐である。普通の女性が恋人でもない男性にこんな物を渡されたら怒るか、キレるか、怒髪が天を衝く所だが、楯無は普通ではない

楯無「私を誘っているのかな~?」

 楯無は甘い猫撫で声を出す。それに対して太郎も、顔を楯無から見て斜め45度の角度になるようにしてキメ顔でこう言った。

太郎「それが分からない程、君も子供じゃないだろ?」
楯無「ふっ、ふふふふ」
太郎「くっくっく」

 2人は妖しくも淫靡な笑みを浮かべていたが、唐突に真顔になった。

太郎「・・・さて、冗談はさて置き、臨海学校から帰ったら何処かへ泳ぎに行きませんか?」
楯無「太郎さん、人の多い所だと騒ぎになるわよ。有名人だから」
太郎「では、貸切のプールなどでは?」

 例えば【例のプール】とか。そう提案した太郎に楯無は首を横へ振った。

楯無「海外のヌーディストビーチなんかどう?子供連れの客もいるような所がいいわ」
太郎「楯無さん・・・・・子供への盗撮や性的ないたずらがバレたら国際問題ですよ」
楯無「し、し、しっ、心外だわ。そ、そそんな事、考えてないから!」
太郎「まあ、具体的な事は私が帰って来てからにしましょう」

 この時の話が後にさらなる広がりを見せ、簪まで巻き込んでしまうのはまた別の話。




お読みいただきありがとうございました。
 



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第78話 そこは狩場、いや戦場だ 1

 砂浜とそこにいる見目麗しい少女達。それらに照りつける夏の強い日差し。男にとっては楽園の様な要素が揃った砂浜は、何故かドロドロとした殺気と欲望に満ち満ちていた。

 

 今日、この砂浜は臨海学校の為に訪れたIS学園生徒、職員達の貸切である。つまり、この殺気や欲望丸出しの空気を作っているのはIS学園の生徒と職員に他ならない。では何故、こんな事になっているのか。それはIS学園の男女比が主な原因であった。IS学園には数百人の女に対して男が2人しか存在しない。

 

 

 

 そう、IS学園の生徒及び職員の女達は飢えていたのだ。男に!

 

 

 

 たった2人しかいない男が、この砂浜にまだ来ていない。それだけの事で女達──────いや、男に飢えた獣、女豹達は溜まりに溜まった何かを持て余していた。

 

 

「織斑君はまだなの?」

「山田代表の裸体……早く見たい」

「ああ、待ちきれないわ。ちょっと更衣室の方、見て来ようかな」

「駄目だよ抜け駆けは!」

 

 

 ざわざわと不穏な雰囲気を醸し出す砂浜だったが、ついに彼女達が求める物が現れた。まず先に現れたのは一夏だった。穿いている水着の色は爽やかなライトブルー、丈は長めの物である。それ単体ではインパクトの無い当たり障りの無い普通の水着であるが、一夏が穿けば飢えた女豹達を興奮させるには十分であった。

 

 

「う~ん、やっぱりイイっ!!」

「かっこいいよね」

「やんちゃな感じを残しつつ、爽やかさもある美少年。あああ付き合いたいな」

「意外と良い体つきねえ」

「可愛いお尻っ!!」

 

 

 女達が好き勝手に一夏の水着姿を評する。

 

 

「ええぇ……何なんだよ。この騒ぎは」

 

 

 その異様なまでの盛り上がりに一夏も戸惑ってしまう。そんな一夏に後からやって来た太郎が声を掛けた。

 

 

「もっと胸を張らないと、織斑先生の買ってくれた水着が泣きますよ」

 

「た、太郎さん。そんな事を言ってもこの空気は異常だって!」

 

 

 泣き言を言いながら振り返った一夏の目に映った太郎は、本人の言うとおり確かに威風堂々としていた。

 

 戸惑う一夏とは違い、むしろ自らを見せ付けるかの様に太郎は仁王立ちしていた。動きの邪魔をしない洗練された筋肉。程よく厚い胸板。割れた腹筋。そして、股間を覆う白い六尺褌(ろくしゃくふんどし)。集まる視線。

 

 今この瞬間、砂浜の主役は太郎であった。

 

 

「す、すごい……」

「盛り上がっている。アレが」

「織斑も良い体だと思ったけど並ぶとやっぱり格が違うわ」

「山田さんの筋肉で溺れたい」

「なんか彫刻みたい……」

 

 

 男に飢えた女豹達でさえ圧倒する存在感が太郎にはあった。その余りにも堂々とした態度に勇気付けられたのか、一夏も平静をいくらか取り戻した。

 

 

「太郎さん、色んな意味でスゲーな。あと、何で褌なんだ」

 

「ふふっ、男は黙って褌ですよ」

 

「えっ、俺には男は黙って全裸って……」

 

 

 太郎は水着を買いに行った時、確かに一夏へそう言っていた。しかし、太郎にもどうしようも無い事情があった。

 

 

「仕方が無いでしょう。織斑先生がどうしても駄目だと言うんですから」

 

 

 太郎が両手を軽く挙げて、お手上げ状態だと示した。砂浜へ全裸で登場など千冬が許す筈が無い。いくら太郎でも引き際というものは理解している。今回の件は無理を通すと千冬を本気で怒らせると判断して自重したのだ。

 

 太郎に千冬の名を出されては一夏も納得するしかない。IS学園では千冬が法律である。太郎の方は千冬の目を掻い潜って色々やっているのだが、その事は今の一夏には知る由も無かった。

 

 

「「織斑くん、山田さ~ん、こっち向いて~!!」」

 

 

 男同士で話をしていた太郎達に対して、2人の気を引きたい女達から黄色い声が飛ぶ。それを見て一夏は照れながら小さく手を振る。太郎は両腕を上げ肘を曲げてフロント・ダブルバイセップスのポーズを取って上腕二頭筋を見せ付けた。

 

 

「「きゃあああああああっ!!!」」

 

 

「織斑君、顔が赤ーいっ」

「照れてるんだ」

「青い果実……汚す悦び」

「山田さん、キレてます!キレてますよ!!!」

「ナイスカット」

「(上腕二頭筋)デカイよー!!」

 

 

 女達から悲鳴のような声が上がった。一夏に対しては「照れている所がかわいい」などという声が多く、太郎に対しては熱心な信奉者達が応援のような何かをしていた。

 

 太郎達に色めきたつ砂浜。

 

 しかし、真打は彼らではなかった。太郎達から少し離れた場所で妙なざわつきが起こる。それはだんだんと大きくなり太郎達の近くまで迫って来た。

 

 

「えっ、何あれ……」

「嘘でしょ……」

「正気?」

 

 

 太郎達の耳にもそれは聞こえてきた。太郎と一夏が何事かとそちらを見る。

 

 ざわめきの中心がこちらに近づいてくる。すると太郎達の周囲にいた女達がそれを避けるように左右へ分かれて道が出来た。そして、その正体が太郎達の目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコット、英国貴族にしてイギリスの代表候補生がそこにいた。

 

 スリングショットを着てそこにいた。

 

 澄ました顔をしてモデル立ちをしたセシリアを見て、一夏のボトルも立ちそうになる。少年には刺激が強すぎたのだ。一夏をよそに太郎はセシリアの姿を見て笑顔で拍手をしていた。

 

 

 




今日も読んでくれてありがとうございます。夜の個人メドレーに勤しむ丸城です。

手コ○、オ○ホ、床オ○、自由形(ダッチ○イフ)の4種目を……おっと今は夏休み期間ですし、青少年が見ているかもしれないのになんて内容の後書きでしょう。猛省しないといけませんね。

次の更新は金曜日です。


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第79話 そこは狩場、いや戦場だ 2

 セシリア・オルコットは今まさに、人生の岐路に立っていた。場所は更衣室、手には太郎からプレゼントされたスリングショット。

 

 

 

 これを着るべきか、否か。

 

 

 

 難しい、非常に難しい問題である。太郎に敗北し、その強さに感銘を受ける前のセシリアならば迷う事もなく否と答えを出しただろう。この様な水着と呼ぶのもおこがましい物を着て、人前に出るなど有り得ない。しかし、今のセシリアは恋する乙女である。好きな相手からプレゼントされた水着を拒否する事もまた難しい選択であった。

 

 セシリアはスリングショットを両手で持ち、真剣な表情でどうすべきか考え込んでいた。そして、更衣室にいた他の生徒達は、そんな思い悩むセシリアを奇異の目で見ていた。

 

 

「オルコットさん、なんか目が怖いんだけど」

「ホント、目いっちゃってるよ」

「えっ、もしかしてオルコットさんが持っているのって水着」

「うそっ、アレって水着なのっ!?」

「布少なすぎよ」

「痴女だよ、痴女っ!!!」

 

 

 彼女達の声はセシリアにも届いていた。それらの言葉にセシリアの心は一瞬折れかけた。しかし、そんなセシリアの脳内に、幼馴染で自分のメイドでもあるチェルシーの声が響く。幻聴である。

 

 

「お嬢様、本当によろしいのですか。ここで引いてしまって」

 

 

 セシリアの目がカっと見開かれる。セシリアは頭を振り、尻込みする弱さを自分の中から追い出した。ここで引いてしまっては、いつまで経っても自分は弱いままである。かつて太郎に敗北した時、その強さの理由を聞いた。

 

 

《それは求める心、そしてそれとどれだけ真摯に向き合えるか。これに尽きます》

 

 

 太郎の答えはそんな単純明快なものであった。翻って、先ほどまでの自分はどうだ。うじうじと思い悩むだけでは何の解決にもならない。そう、セシリアは自分を断じた。求めるものなど最初から決まっている。

 

 

(わたくしは太郎さんからプレゼントされた水着を着て、太郎さんの前に立つ)

 

 

 折角、本人から水着をプレゼントされるというアドバンテージを得ながら、周囲の目を気にしてそれを使わないなど愚の骨頂である。むしろ周囲のライバルに見せつけ、牽制する位のつもりでないと、厳しい戦場で勝利を掴む事など出来はしない。

 

 

「わたくしは引きません。皆さんにお見せしましょう。我が英国のジョンブル魂を、英国貴族の誇りをっ!!!」

 

 

 セシリアはそう叫ぶと服を脱ぎ、躊躇うことなくスリングショットを身に着けた。それを見ていた一部の者が「頭がおかしい」や「変態」などという心無い言葉を吐いていた。しかし、セシリアは怯むどころか凛とした眼差しで背筋を伸ばし、秘密兵器をロッカーから取り出して堂々と砂浜へと歩いて行った。その姿は少女達には輝いて見えた。

 

 

「……モデルみたい」

「あのスタイルだと妙に似合うね」

「スゲエーよ、英国貴族の誇りってスゲエーな」

 

 

 

 

 

 砂浜に到着したセシリアは、早速太郎の元へと向かった。太郎がセシリアに満面の笑顔で拍手を送り、それを見たセシリアは自分の選択が正解だったと確信した。セシリアは今こそ秘密兵器で駄目押しを、と考えていると背後にざわめきを感じた。

 

 

(良い所ですのに、何者ですの?)

 

 

 セシリアが振り返るとそこにはミイラが立っていた。

 

 

「ホントに何者ですのっ!?」

 

 

 セシリアは驚きのあまり悲鳴のような声を上げる羽目になった。




誇りってすごいね(白目

お読みいただきありがとうございます。
次回更新は明日となります。


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第80話 そこは狩場、いや戦場だ 3

 セシリアが背後にざわめきを感じ振り返ると、そこにはミイラが立っていた。

 

 

「ホントに何者ですのっ!?」

 

 

 セシリアが驚きのあまり悲鳴のような声を上げる。セシリアの目に映ったのは、複数のタオルを体に巻き付けて全身を覆った人物だった。タオルが顔まで覆っているおり、そのうえミイラ自身が口を閉ざしているので何者なのか分からない。しかし、答えはすぐに明かされる。

 

 

「ラウラ、いつまでそうしているつもりなの?」

 

 

 ミイラの後ろから現れたシャルがミイラのタオルを引き剥がそうとする。彼女の言葉からミイラの正体がラウラだと判明した。ラウラはタオルを奪おうとするシャルに抵抗している。

 

 

「や、やめないか。引っ張るな」

 

「もう……折角、太郎さんに貰った水着なんだから隠してどうするの?」

 

「……は、は、恥ずかしいではないか。やはり私にはこんな水着は似合わんのだ」

 

 

 シャルとラウラが格闘している横で、漏れ聞こえてきた内容にセシリアが息を呑んだ。

 

 

(えっ、太郎さんはわたくし以外にも水着を渡していたのですか!?)

 

 

 セシリアは自分だけのアドバンテージだと思っていたのに、同様のアドバンテージを持つ者がいると知り焦りを覚えた。まさかとは思うが、ラウラも自分と同じスリングショットをあのタオルの下に着ていたなら、自分はショックのあまり我を忘れてしまうかもしれないとセシリアは思った。

 

 セシリアは太郎が自分の為に選び、プレゼントしてくれたと思ったからこそ喜んだのだ。それが実は複数の人間に同じ物をプレゼントしていたとなると、話は違ってくる。複雑な気分でセシリアが揉めているシャルとラウラの様子を眺めていると、そこに太郎が介入してきた。

 

 

「ラウラさん、私が選んだ水着が気に入らなかったんですか?」

 

「そんな事はありませんっ!」

 

 

 太郎の言葉にラウラが慌てる。太郎からのプレゼントが気に食わなくて抵抗しているなどと思われては大変である。実際、ラウラは水着をプレゼントされた事も嬉しかったし、水着のデザインも可愛いと思っていた。ただ、その可愛い水着を自分などが着るという事に抵抗感を持っていたのだ。

 

 

「わ、私には可愛すぎです」

 

「私は似合うという確信を持ってその水着を貴方に買いました。見せてはくれませんか?」

 

「う、う……分かった」

 

 

 太郎の説得にラウラがついに水着姿を見せる決意をした。ラウラはゆっくりと自身に巻き付けたタオルを外していく。そして、現れたのは黒を基調としたビキニだった。レースを多くあしらったデザインで一見すると下着の様にも見える。要所、要所に鮮やかな真紅の紐がデザインとして組み込まれており、胸の部分ではリボン結びになっている。

 

 

「やはり私の見立ては完璧でしたね。ラウラさんに似合っていますよ」

 

「そ、そうだろうか」

 

「ええ、とても可愛らしいですよ」

 

「か、か、かわいい……わ、たしがか?」

 

 

 太郎に褒められ顔を真っ赤にしたラウラが、うわ言の様に何か呟いていた。セシリアはその様子を見ながら何とも言えない気分だった。

 

 

(ラウラさんの水着、すごく可愛らしいですわ。わたくしの物とは全然違いますわ)

 

 

 ラウラの水着が自分の物と同じでなかったのは、セシリアにとって良い事だった。しかし、あまりにも自分の物と違い過ぎて戸惑っていた。太郎はラウラに似合うと確信を持って水着を購入したと言っていた。では、太郎は自分の事をどんな目で見ているのだろうか。この水着が似合うと思われているのは良い事なのだろうか。セシリアの中に迷いが生まれる。

 

 セシリアのそんな思いを察したわけではないが、太郎の賛辞はセシリアにも向けられる。

 

 

「セシリアさんも素晴らしい水着姿です」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「どうしたんですか。しょぼくれて。先程、こちらに来てすぐの時は凛として内面からも輝くような魅力が溢れていたのに」

 

「輝いて……わたくしが輝いていた……」

 

 

 セシリアへ太郎が頷いた。それを見たセシリアは、はっとした。先程、更衣室でした決意を思い出した。ジョンブル魂を、英国貴族の誇りを見せつけると誓ったのだ。そして、それは成功していたのだ。それなのに些細な事で動揺してその決意を忘れ、自らの輝きを鈍らせてしまうとは情けない。しかし、思い出したのならもう迷いなどない。背筋が自然と伸び、自信が漲っていく。

 

 セシリアの(まと)う空気が変わったのが太郎にも分かった。

 

 

「今のわたくしは輝いていませんか?」

 

「いえ、また輝き始めましたよ。どうやら吹っ切れたみたいですね。今のセシリアさんは、まるでプレイメイトです」

 

「プレイメイト?」

 

「まあ、モデルの様なものです。つい我を忘れて押し倒してしまうところでした」

 

「わたくしが相手では我を忘れそうになっても仕方がありませんわ。おーほっほっほっほ」

 

 

 今時、漫画のお嬢様キャラでもなかなかしないような笑い方をだったが、今のセシリアにはとてもしっくりきていた。今、この砂浜の主役はセシリアである。そして、セシリアは駄目押しの秘密兵器を太郎へと渡す。

 

 

「太郎さん、このサンオイルをわたくしに塗ってもらえますか?」

 

「よろこんでっ!」

 

 

 セシリアのお願いに太郎は弾んだ声で答えた。

 

 セシリアが駄目押しに用意していたのはサンオイルだったのだ。セシリアの水着は、ほとんど肌が露出してしまっているスリングショットである。当然、サンオイルを塗るとなったら際どい部分も多々ある。かなり大胆なお願いである。しかし、太郎の弾んだ声を聞けば、その効果の高さが分かる。

 

 このやり取りを見て周囲の者達も色めき立つ。

 

 

「わ、わたしもサンオイル取ってくるっ!」

「私は日焼け止めを」

「私はペペ○ーション持ってくるわ」

 

 

 そんな外野の声など気にせず、セシリアはうつ伏せになった。その背中と尻はほぼ丸出しである。セシリアは他のライバルに対して一歩リードしたと確信を持った。セシリアはそんな中で、ある事に気づく。

 

 

「なんだかハチがいっぱい飛んでいるような気が……」

 

「大丈夫ですよ。アレは絶対刺したりしませんから」

 

 

 セシリアを安心させるように太郎はハッキリと言い切った。そう、アレが人を刺す事はありえない。何せ、最初から針など搭載されていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

砂浜編が大分長くなりそうです。主に私の趣向的な理由で。
次回から性的な描写を増やしたいです。これも主に私の趣向的な理由で。

次回更新は水曜日に行います。


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第81話 そこは狩場、いや戦場だ 4

 燦々(さんさん)と輝く太陽の下、太郎は極上の獲物を前に舌なめずりしていた。

 

 白く滑らかな肌。ほど良い大きさの尻。うつ伏せ状態で地面に押し付けられた胸が形を変えているのが、上から見ても分かる。太郎へサンオイルを塗って欲しいと頼んだセシリアは、無防備にうつ伏せになっていた。

 

 

「それでは早速塗りますよ」

 

 

 太郎がサンオイルの蓋を開け、左の手のひらへと溶液を出した。そして両手をすり合わせた後、まずはセシリアの肩甲骨付近に手を置いた。

 

 

「ああっん」

 

 

 セシリアの口から(なま)めかしい声が漏れる。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「い、いえ、オイルが冷たくて驚いてしまっただけですわ」

 

 

 太郎の問いにセシリアは顔を赤らめながら答えた。太郎はその答えに頷きながら、もっと先程のような声を聞きたいと秘かに考えていた。

 

 太郎の手はセシリアの肩甲骨付近からゆっくりと上へ移動して肩にサンオイルを塗り込んだ。その後、太郎の手は下へと移動する。その過程で不意に太郎の手つきが変わる。それまでサンオイルを肌の上に延ばしていくような手つきだったのが、時折すり込んだり揉むような動きを見せ始める。その変化にセシリアが劇的な反応を見せた。

 

 

「んんんっ……。そこっ、!!!」

 

 

 セシリアの反応に太郎は気を良くして、セシリアの背中に直接サンオイルを追加する。

 

 

「きゃっ、た、太郎さん、サンオイルを直接掛けられると冷たいので……」

 

「これは失礼しました」

 

 

 もちろん太郎はわざとやったのだが、それをおくびにも出さず謝った。そして謝罪もそこそこに、より際どい事へ挑戦し始める。太郎の両手がセシリアの背中を撫でながら下へ、下へと移動を続ける。腰を通り、ついにはお尻に到達した。

 

 セシリアの尻は一級品であった。表面は滑らかでいて、しっとりと吸い付くような肌。形の良い垂れる事を知らない尻は、適度な筋肉と脂肪の割合のおかげで揉み心地も素晴らしい。太郎は丁寧に、とても念入りに尻へオイルを塗りたくる。

 

 

「あっ、あっ、そこ……そんな、そんなに撫で回しては……ダ、ダメですわ」

 

「んー、何が駄目なんですかね。私の塗り方に何か問題でも?」

 

 

 艶かしい声を漏らすセシリアに、太郎はいけしゃあしゃあ聞いた。当然、この間も太郎の両手は動き続けている。

 

 

「んんんっ、い、いじわるしないで……」

 

「意地悪?何の事でしょう」

 

 

 セシリアの懇願にも太郎は素っ惚(すっとぼ)ける。太郎の所業は止まるどころかエスカレートし続ける。太郎はセシリアの尻を両手で鷲掴みした。太郎は右手で右の尻を、左手で左の尻を掴み、それらを引き離す様に力を込める。ただでさえ布地の少ないセシリアの水着である。こんな事をすればアナ○だけでなく前まで見える恐れがあった。

 

 

「ちょ、ちょっと、お待ちになって、あっ、ダメ見えっ!」

 

「大丈夫、大丈夫です」

 

 

 慌てるセシリアに太郎は「大丈夫」と繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 そう、大丈夫である。セシリアの痴態もバッチリ撮っていた。撮り逃しなどない。大丈夫である。今、この砂浜には太郎の専用機・ヴェスパの索敵・観測用ビットが至る所に存在し、あらゆる映像を撮影し続けているのだ。

 

 これは盗撮ではないのか。そう考える者もいるかもしれない。しかし、そうではないと思われる。

 

 太郎には邪な心など欠片も無い……かもしれない。

 

 学校行事には付き物の写真撮影だが、IS学園の場合はセキュリティの関係から外部のカメラマンを雇い、臨海学校へ参加させる事が出来なかった。その為、太郎は生徒達の貴重な青春の1ページを自分が残してあげようと、ボランティア精神で皆を撮影している……そういう可能性も否定出来ない。

 




オ、オイルが…
オイルが塗りたいです。

金髪美少女にオイルが塗りたい。手じゃなくて全身を使って塗ってあげたい。そんな紳士を必要とする美少女はいませんか?

お読みいただきありがとうございます。



次は金曜日更新です。薄い本を予約しすぎた……。


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第82話 そこは狩場、いや戦場だ 5

【幸せな時間は長くは続かない】

 

 これは真理であり、同時に2つの側面がある。1つは幸せな時間ほど短く感じるという意味。もう1つは幸せが長く続くほど世の中甘くないという事だ。

 

 今、幸せの絶頂にいる太郎とて例外とはいかない。セシリアの瑞々しい肢体にサンオイルを塗るという幸福を堪能していた太郎だったが、それを邪魔する者が現れたのだ。

 

 

「おい……貴様等は何をやっているんだ」

 

 

 低く冷たい声が太郎達に掛けられた。太郎が声の主へと振り返ると、そこにはこめかみに血管を浮き出させた千冬が立っていた。

 

 

「答えられないのか。疚《やま》しい事をやっていたんだろ?」

 

「サンオイルを塗っているだけです」

 

 

 厳しい口調で千冬が詰問し、太郎はそれに対して簡潔に言った。ただ太郎の答えをそのまま信じる程、千冬も甘くは無い。

 

 

「私にはセシリアの尻を揉んでいた様に見えたが?」

 

「サンオイルを塗る為に、セシリアさんの臀部(でんぶ)に触れていたのは確かです。しかし、それだけです。(やま)しい事など何もありません」

 

 

 疑う千冬に太郎は曇りなき(まなこ)で答えた。【疚しい】というのは、良心がとがめたり、後ろめたい事である。(ひるがえ)って、太郎は先程までの行為に良心がとがめたり、後ろめたさなどを感じてはいなかった。

 

 

「織斑先生、逆にお聞きします。私がセシリアさんにサンオイルを塗っていた事について、法的もしくは校則的に問題がありましたか?」

 

「ぐっ……規則の問題ではない。風紀が乱れるから言っているんだっ!」

 

 

 サンオイルを塗っては駄目などという規則は、当然存在しない。太郎の反論に千冬は苦々しげな表情となった。しかし、劣勢の千冬に太郎がそれ以上強く出る事は無かった。

 

 

「分かりました。私が塗るのはここまでにしておきましょう。背中側はもう塗り終わってますから、後はセシリアさんも自分で塗れるでしょうし」

 

「えっ、ええ。大丈夫ですわ」

 

 

 太郎はあっさりと引き、セシリアも話の展開の早さに戸惑いつつも従う。太郎が拍子抜けするくらい簡単に引き下がり、事態は解決したかに思えた。しかし、太郎があっさりと引き下がったのには訳があった。それは単純な話である。太郎は千冬を言い負かす事が目的でここにいるのではない。太郎の目的はこの砂浜で千冬達の水着姿を堪能する事である。

 

 太郎は改めて千冬の姿をじっくりと観察した。太郎の選んだ白色のワンピースを着た千冬は、周りにいる女生徒達とは一味違う大人の魅力を放っていた。千冬はねっとりとした目で見てくる太郎に居心地が悪そうな感じである。

 

 

「あまりじろじろ見るな」

 

「こんなに素晴らしいものを見ないなど考えられませんよ」

 

「世辞はいらん」

 

 

 千冬は太郎の言葉を世辞と言ったが、もちろん太郎の言葉は本心からのものである。むしろ太郎にとっては、千冬が今日の砂浜での本命と言い切っても良い。今、この瞬間も太郎は砂浜に配備した索敵・観測用ビットの半分以上を使ってで千冬を撮影していた。しかも、最新の索敵・観測用ビットとしての機能をフル活用し、薄手の白い水着など透過しまくりである。

 

 そして、千冬の意識が太郎へ向いている間に一夏に近づく者がいた。

 

 

「いっちかーっ!!!」

 

 

 鈴が一夏の背に飛び乗る。一夏と気安い関係である鈴だからこそ出来るスキンシップだ。気安いと言っても若い男女である。一夏は自分が鈴の体に触れて意識してしまっている事を気づかれたくなくて平静を装っていた。鈴は鈴で、一夏へのアピールの為に恥ずかしい気持ちを我慢していた。互いに思う所はあるが、それを表には出さないようにしているのだ。

 

 一夏が平静なフリをしつつ軽く体を振って、鈴に自分から降りるように促す。

 

 

「お、おい。降りろよ」

 

「ええー、別にいいじゃん…っわぁ」

 

 

 一夏は体を振ったといっても力ずくで振り落とすつもりはなかったのだが、鈴は簡単に地面に落ちてしまった。

 

 

「もぉー、そんなに嫌がらなくてもいいでしょ」

 

 

 地面に落ちて倒れこんだ鈴が不満そうな顔で一夏を睨む。

 

 

「いや俺は振り落とすつもりなんて……」

 

「一夏、大事なのは結果よ。けっか。これは後で何か(おご)ってもらわなくちゃ!」

 

 

 弁明する一夏に鈴は容赦なかった。実は鈴がわざと手の力を抜いて落ちただけなのだが、そんな事はおくびにも出さない。鈴は立ち上がりながら体に付いた砂を払う。「あー水着の中にも入ってる」と言い水着の(すそ)を持ってパタパタと中に入った砂を出そうとした。これによって布地で隠れていた部分が(あらわ)になっていた。これには一夏の視線も釘付けである。

 

 この一連の鈴がとった行動は、太郎のアドバイスによるものだった。そして、ここまでは全て鈴の計画通りに進んだかに見えた。しかし、思いもよらない事態になっていた。

 

 太郎は水着をパタパタとする鈴を見ながら彼女を応援していたのだが、あるものを見て驚愕した。

 

 

(ちょっ、鈴さん、見えてます。見えてますよ!!!!!)

 

 

 実際に胸が見えなくても良い。見えそうなだけで十分だと太郎は鈴へアドバイスしたのだが、勢い余った鈴はチラチラと○首まで晒していた。これは一夏からも当然見えている。一夏が顔を赤くしながら、どう指摘すれば良いのか考えている間に鈴は水着から手を離してボーナスタイムは自然と終了した。

 

 鈴は顔を真っ赤にした一夏を見て、作戦は大成功であると確信した。そして、自分達の様子を窺っている太郎に気づき、弾けんばかりの笑顔でウィンクした。それに対して太郎は両掌を合わせて深々と頭を下げ、心の中で「ご馳走様です」と唱えたのであった。

 

 鈴の勇姿は太郎の心と索敵・観測用ビットの記憶領域にしっかりと焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂浜が狂騒に包まれている頃、更衣室で暗躍する影があった。

 

 

「ぐふぇっ、ぐふぇふぇふぇえっ……箒ちゃんの下着みーけっ!!!」

 

 

 影の頭には兎の様な形の耳があった。

 

 

「うーん。やっぱり成長してるね~」

 

 

 感慨深く呟いたその声は誰にも届くことはなかった。そう、人間には。

 

 1匹のスズメバチがその様子を見ている事に兎は気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 




ビーチバレーを書けなかったです。
セシリアも当然参加させようと思っていたのですが、あの水着でバレーは無理かなと。

さて、次回か、次々回でついに天災と変態が直接接触します。

どんな激しい化学反応を起こすのか?



読んで頂きありがとうございます。


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第83話 ビーチからピーチへ

 セシリアのサンオイル塗りや鈴の一夏へのアピールが終わると、砂浜は少しだけ落ち着きを見せていた。そんな中、生徒の一人が持ってきていたビーチバレー用のボールが一波乱を起こす事になる。その生徒が一夏をビーチバレーに誘うと、それが砂浜中に一気に広まってしまったのだ。

 

 一夏がビーチバレーをすると決まると、当然の如くもう1人の男である太郎にも誘いがきて参加する流れになる。そして、太郎の監視目的で近くにいた千冬も参加する事になった。しかし、ここで大きな問題が浮上する。

 

 

「セシリアさんが参加出来ないとは、どういう事ですか?」

 

「当たり前だ。その水着でビーチバレーなんて出来るわけないだろ!」

 

 

 太郎がセシリアも参加させようとすると、千冬がそれを止めたのだ。セシリアの参加を諦めきれない太郎は、ボールを手に取る。

 

 

「セシリアさん、行きますよ!」

 

「はい!!!」

 

 

 太郎がセシリアへとトスを上げる。

 

 セシリアが力強く地面を蹴り、ジャンプする。空中でセシリアは全身をしならせる。胸も大きくそらし、ジャンプの最高到達点に達すると鋭く右手を振りぬく。するとボールは矢の様に飛び、地面に打ち付けられる。セシリアが着地すると、そのたわわな胸が上下に揺れた。激しく揺れた。当然、水着がずれる。布地が少ない水着で激しい動きをすれば、どうなるのかは自明の理。

 

 太郎はセシリアの勇姿を目に焼き付けると、千冬へと振り返る。

 

 

「ほら、何の問題も無くプレイ出来るじゃないですか」

 

「どこがだっ!!!!見えてはイカン物が見えてたぞ!!!!!」

 

 

  自信満々に何の問題も無いと言う太郎に、千冬は怒声を浴びせた。それもそのはず、日本人に比べて色素の薄い○輪が見えていた。幸い下の毛はきちんと処理していた為、大丈夫であったのだが千冬の怒りを和らげる要素にはならなかった。

 

 

「セシリアさんの体には、人様へお見せ出来ないような酷い部分などありません」

 

「そういう意味ではないっ!」

 

 

 太郎の論点がズレた物言いへ、千冬は即座に突っ込みを入れている。そこへ遠慮がちにセシリアが割って入って来た。

 

 

「あ、あの……太郎さんがお望みでしたら、そ、その……」

 

「そういうのは卒業してからにしろ!!!」

 

 

 恥ずかしがりながらも決定的な言葉を発しようとしたセシリアを千冬が制止した。

 

 千冬は内心頭を抱えていた。臨海学校初日からこれではこの先どうなるのか、不安しかない。しかし、悩んでいても事態は好転しない。

 

 

「ビーチバレーがどうしてもしたければ水着を変えろ。それともう昼飯の時間だ。先に食事だ」

 

 

 千冬はそう言って自分達のビーチバレーを見ようと集まった生徒達も解散させた。千冬の指示なら仕方がないと、皆それに従った。太郎も先程、セシリアの痴態を見れた事で多少満たされたのか比較的素直であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後9時、消灯前の旅館は女生徒達の話し声で何処の部屋も騒がしかった。その中で数少ない例外があった。その部屋付近で騒ぐ命知らずはIS学園にほとんど存在しない。そうその部屋こそ世界最強・織斑千冬の泊まる教員部屋である。今、その部屋に忍び寄る1人の少女がいた。

 

 それは浴衣の下に万が一の事態を想定して勝負下着を着たセシリアであった。太郎が教員部屋に泊まる事になったと知ったセシリアは、千冬が席を外しているという可能性に掛け、他の者に気付かれないように太郎の元へと行こうとしていた。しかし、その目論見は早くも崩れ去る。

 

 教員部屋の前には既に4人の先客がいた。

 

 

「ちょっと貴方達なにをっ「「シー、静かに」」

 

 

 セシリアが先客達に話しかけると、先客達はそれを遮り、人差し指を口元で立てて小さな声で注意した。先客達は鈴、箒、シャル、ラウラの4人だった。ラウラが代表してセシリアに状況をハンドサインで伝える。

 

 

(この部屋で 異常事態 発生 様子見中)

 

 

 セシリアも状況を把握し頷いた。セシリアを加えた5人が扉に耳を付け部屋の中の様子を窺った。

 

 

「千冬姉、どう?いいだろ?」

 

「んっ……ああ。もっと強くして構わんぞ」

 

「よし、じゃあ次は強めで」

 

「くぁーっ、ソコは、んんっ!」

 

「たまにはこういうのも良いだろ」

 

「あ、あっ……もう少しゆっくりっ」

 

 

 扉の向こうから、千冬の普段聞くことのない艶っぽい声が漏れ聞こえてくる。その場の全員が息を飲む。これは大変な事になった。セシリア達は互いに顔を見合わせる。中でも鈴と箒はその顔色を悪くしていた。

 

 一夏がシスコン気味なのは、鈴と箒も知っていた。まさかとは思っていたが、一夏と千冬がそんな関係だったとは。この厳しい現実に2人は打ちひしがれていた。彼女達に比べてセシリア、ラウラ、シャルの3人は相手が太郎ではなかった事にホッと胸を撫で下ろしていた。しかし、そんな安心は直ぐ粉砕される。

 

 

「太郎さんもどう?」

 

「私はそういうのに煩いですよ」

 

「俺、結構自信あるんです」

 

 

 部屋から聞こえてきた一夏と太郎の会話にセシリア達も前のめりになる。太郎に限って男色に走るはずがない。セシリア達はそう思いながらも不安になる。鈴と箒の方は顔色が既に土色状態である。

 

 その時、突然教員部屋の扉が開かれる。

 

 

「何をやっとるんだ貴様らは」

 

 

 そこには千冬が仁王立ちしていた。部屋の奥では一夏が太郎の肩を揉んでいるのがセシリア達の目に映る。

 

 

「「はああああ~」」

 

 

 セシリア達5人は自分達が勘違いしただけだと分かり、安心して大きく息を吐いた。単に一夏がマッサージをしていただけだったようだ。

 

 

「この紛らわしいっ!」

 

「そうよ。心臓止まるかと思ったわ!」

 

 

 箒と鈴の拳が一夏に襲い掛かる。しかし、それも仕方が無い事だ。乙女を動揺させた罪は重い。

 

 

「ちょっ、何なんだよ。羨ましかったなら、お前らもやってやるから殴るなよ」

 

 

 自分が何故殴られているのか分からない一夏が苦し紛れに言った言葉で、箒と鈴の拳はピタリと止まった。

 

 

「本当か。嘘ではないな?」

 

「今すぐやって!」

 

 

 箒は一夏の襟を掴んでその言葉が本当なのか問い質す。鈴の方は既にうつ伏せになってマッサージが始まるのを待っている。乙女は現金なのである。

 

 どさくさに紛れて教員部屋へと入り込んだセシリア、シャル、ラウラの3人もまた鈴同様にうつ伏せになっていた。しかし、それは一夏のマッサージを期待しているのではない。3人はチラチラと太郎を見ていた。

 

 

「太郎さん、僕は今日すごく疲れちゃったよ~」

 

「わ、わたくしもですわ」

 

「私は疲れている分けではないが、マッサージとやらに興味がある」

 

 

 シャルが甘えたような声でアピールすると、セシリアとラウラもそれに続いた。それを千冬は冷めた目で見ていた。

 

 

「小娘どもが盛りおって」

 

 

 千冬はそう言うと不意にシャルの浴衣の裾をめくり上げる。そこにはスタンダードな薄い水色と白色の2色構成の(しま)パンがあった。この下着をシャルがチョイスしたのは、事前にネットで男の趣向を調べた際、妙にこの縞模様のパンツ画像が多かったのが理由である。恐らく日本人男性にとってこの模様に特別な意味があるのだろう。そう推測してシャルはこれを選んだのだ。

 

 

「えっ、えっ、なにするんですかっ!?」

 

 

 千冬は慌てるシャルを無視して、シャルの横にいるセシリアの浴衣をめくり上げた。セシリアが穿いていたのは黒のスケスケレースであった。それを確認した千冬は天を仰ぎ、首を横へと振った。

 

 

「昼間の水着といい、お前はちょっと自重しろ」

 

「あ、あれはわたくしが選んだわけでは……」

 

 

 セシリアの反論も千冬は無視して、浴衣から手を離した。唐突に始まった千冬のファッションチェック(下着)に、少女達の間で緊張が走る。そんな中で1人例外がいた。

 

 

「情報収集を怠ったな」

 

 

 余裕の表情でそう言ったのはラウラであった。その表情はまさに遥か高みからシャルとセシリアを見下ろしているかのようである。よく分からない自信を見せるラウラの浴衣に千冬が手を伸ばす。そして、浴衣をめくるとそこには────────

 

 

 

 

 白桃が存在した。

 

 

 

 シミ1つない、白く赤みも少ない白桃がそこにはあった。

 

 つまり、分かりやすく言うと生まれたままの尻である。

 

 

 

 

「……おい、なんで下着を穿いていないんだ?」

 

 

 部屋にいたラウラを除く全員が唖然とする中、千冬がなんとか搾り出すような声で質問する。それに対してラウラは「どうだ」と言わんばかりの自信に満ちた表情でセシリアとシャルにも聞こえるように告げる。

 

 

「和服を着る時は下着を着けないと副官の助言で」

 

《こいつの副官、ホントにロクな奴じゃないな》

 

 

 ラウラと太郎以外の全員の心が1つになった瞬間である。ラウラはその後、千冬にこっぴどく叱られた。そして、秘かに太郎からはお褒めの言葉をかけられる事となった。

 

 

 

 

 

 




もーも太郎さん、もも太郎さん。
股○につけたキ○○ンゴ。
2つ私にくださいなアッーーーーーーーーーーーー!!!


ラウラーprpr。


読んで頂きありがとうございます。
次回更新は土曜日となります。


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第84 湯……そして天災の降臨

 

 消灯時間が近くなると、セシリア達は千冬によって自分達の部屋へと帰された。千冬自身は他の生徒達にも消灯時間前に自室へと戻るように告げる為、旅館内を巡回しに出掛けた。

 

 一気に人が減って、急に教員部屋の中が静かになる。一夏は疲れていたのか消灯時間前であるが既にうつらうつらしている。

 

 

「一夏、少し早いですが疲れているのなら、もう寝た方が良いですよ。明日は忙しくなります」

 

「……ん、そうっすね。じゃあ、お先に」

 

 

 太郎の言葉を受け、一夏は早々に布団へと入り眠ってしまう。太郎はしばらくの間、一夏が眠ったかどうか様子を見ていた。そして、本当に眠っている事を確認するとゆっくりと立ち上がり部屋から出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 消灯間近になり、教師達が出歩いている生徒へ自分の部屋に帰るように言って回る僅かな時間。この僅かな時間こそ太郎にとっては自由に動ける貴重な時間であった。なにせ太郎は千冬と同室である。消灯後は完全に千冬の監視下へ置かれ、部屋から抜け出したりは出来ないだろう。

 

 太郎はこの貴重な時間に何を成すべきか。その答えを既に持っていた。何の躊躇(ためら)いもなく、ある場所へと太郎は急いだ。赤外線センサーや監視カメラから逃れる為に壁へ張り付き、地を這い、通気用ダクト内にも侵入して進み続ける。そして、ついに太郎は桃源郷に辿り着く。

 

 

「なかなかのセキュリティーでしたね。しかし、あらかじめ楯無さん経由で職員から防犯システムの情報を買っておいて正解でした」

 

 

 太郎が暖簾をくぐり脱衣所を抜け、扉を開く。もあっとした湯気が太郎を包んだ。

 

 太郎の目的地、それは浴場だったのだ。しかも、この浴場は太郎や一夏が使用していない方の浴場である。すなわち、本日の使用者は100パーセントうら若き女生徒と女教師達だけという事だ。

 

 太郎は最初に洗い場へと向かう。太郎は洗い場に着くと、各洗い場に置いてある小さなイスをじっと眺めた後、壊れ物を扱うかのような手付きで触れた。

 

 

「これに……これに先程まで裸の女生徒達が座って体を洗っていたんですね」

 

 

 うっとりとした表情でイスを眺めていた太郎の顔がイスへと近づいていく。撫で回し、頬擦りをし、最後は舐め回す。

 

 

「……ふう。さて、前菜はこれでお終いですね」

 

 

 最後までイスを味わい尽くした太郎は、次なる獲物へと近づいていく。それこそが今回太郎の第1目標である。

 

 太郎は浴槽の前で立ち止まり、静かに屈み込んだ。手を浴槽の中へ入れ、湯を掬う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂の本質とは湯だ。つまり、太郎が狙っていたのは【この湯】そのものであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 太郎は手で掬った湯を顔の前へと移動させ、その香りを確かめる。そして、口へと運び(すす)った。舌の上で湯が踊る。

 

 

「香りは弱めですが、ほのかに甘みも感じます。温泉のわりにサラっとした飲み口も今回はプラスに働いてますね。85点と言った所でしょうか」

 

 

 テイスティングを終えた太郎は懐から水筒を取り出す。手早くそれに湯を入れると、日付を書いたラベルを貼り付けた。水筒を懐へ戻すと太郎は足早に立ち去る。本心では色々と楽しみたい所であったが、今は時間がない。消灯時間までに部屋へ戻っていないと千冬の鉄拳制裁を味わうハメになるかもしれない。何より今の行動がバレてしまい、戦利品を取り上げられてしまう事が恐ろしい。

 

 太郎は浴場に来た時とは違うルートを使って部屋へと急ぎ、無事消灯時間には間に合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

============================================

 

 

 

 

 

 合宿2日目はIS各種装備の試験運用とデータ収集がメインとなる。専用機持ちは試作段階の専用兵装が各メーカーから送られて来ており、特に多忙を極める日となる。

 

 朝もそこそこ早い時間であったが、予定が詰まっているので生徒達はIS試験用の砂浜に集合させられていた。

 

 そこへ何の前触れも無く、巨大なニンジンが降って来た。

 

 

ズッガアアアアアンンンンンン

 

 

 突然の出来事に砂浜は騒然となる。地面が揺れるほどの衝撃に多くの生徒達はしゃがみ込む。そんな中、ラウラは咄嗟にISを展開し、太郎を庇う体勢をとった。

 

 

「たぶん警戒しなくても大丈夫ですよ」

 

 

 太郎は降って来たニンジンに心当たりがあるのか、ラウラを宥める様に言う。

 

 心当たりがあるのは太郎だけではなかった。千冬が砂浜に突き刺さったニンジンに近付き、強烈な蹴りをブチ込む。それも1発で終わらず、何発もブチ込み続ける。どうやらこのニンジンが何なのか分かっているようだ。

 

 

「このアホが試験用の砂浜に大穴空けるな!!!」

 

「イタっ、痛いって、ちーちゃん」

 

 

 バカっとニンジンが開き、中から1人の女性が飛び出してきた。その女性はいい年齢だというのにメルヘンチックな服装で、頭にはウサギ耳の様なアクセサリーを付けていた。全体的に肉付きが良く、特に胸は千冬より大きい。

 

 

「束、もう少し普通に出て来い」

 

「ほーい」

 

 

 千冬のお叱りに束は生返事をしている。砂浜にいた生徒達は最初、突然の出来事に唖然としていた。しかし、一部の生徒達は千冬の言葉からこの突然現れた女性の正体に気付き騒ぎ始めた。

 

 

「もしかして……」

「束って、確かIS開発者の名前じゃ……」

「でも篠ノ之博士って行方不明でしょ」

 

 

 ざわつく周囲を気にすることも無く束はニコニコと千冬と箒の方を見ていたが、一瞬だけ太郎の方へ視線を移した。その目は実験用モルモットを見る研究者のような目だった。

 

 その一瞬の視線に太郎は笑顔で応えた。太郎の方は束とは逆に噴火寸前の火山のような熱いものを目と股○に滾らせていた。

 

 

 




ホントは風呂については書かないつもりだったけど、急に少女汁が飲みたくなったので書きました。そのせいで中途半端な進行状態になってしまいました。少し書き直すかもしれません。

実はこの風呂の浴槽でヨーグルトを作るネタもやろうかと思いましたが、別のヨーグルトなら後でいくらでもブッかける機会があるので止めにしました。

読んで頂きありがとうございます。


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第85 椿咲き、他が花散る

 突然現れた束に場は騒然となっていた。世界に大きな変革をもたらしたIS。現在行方不明と言われているその開発者が突如目の前に現れれば、普通の生徒は冷静さを失って当然であろう。太郎の様な例外はいるものの、大半の生徒達が混乱状態だった。しかし、その混乱の中心である束だけでなく、状況を把握しているであろう千冬も、態々彼女達に細かい状況説明をするつもりはない。粛々と用件を済ませるだけだ。

 

 

「おい、篠ノ之。こっちに来い」

 

 

 千冬に呼ばれて箒が生徒達の中から歩み出た。その箒に束が抱きつこうとする。

 

 

「ほーきちゃーん、久しぶりっ!色々成長してるね。お姉ちゃんが確かめてあげっ、ゲボっ!?」

 

「ふざけないで下さい。殴りますよ」

 

「もう殴ってるよっ、しかもグーで!!!」

 

 

 抱きつこうとした束の顔面へ箒の拳がカウンター気味に入っていた。かなり強烈なパンチで普通の人なら立っていられない様なものだったが、束にとってはちょっと叩かれた程度にしか効いていなかった。箒への抗議も本気で怒ってはいないようで、その表情はすぐに笑顔へ変わっていた。

 

 そんな姉妹のじゃれ合いを見ながら千冬は溜息を吐いた。

 

 

「お前等、遊んでないでさっさとしろ。予定が詰まっているんだぞ」

 

「ほいほーい。じゃあ、早速お披露目しようか。これが束さんの新作。箒ちゃんの専用機【紅椿】だよ!」

 

 

 束が空を指差し高らかに叫ぶと、先程束が登場した時の様に空から巨大なニンジンが降って来た。

 

 ズガアアアアアアンンンンン!!!!

 

 凄まじい衝撃、立ち上る砂煙。束へ静かに忍び寄る影。

 

 ボコッ!

 

 鈍い音が響く。この場のほとんどの者が2度目のニンジン登場に驚いている中、千冬の拳骨が束の頭へ振り下ろされたのだ。

 

 

「この阿呆が、試験用の砂浜に大穴空けるなと言ったばかりだろうが!!!」

 

「え、演出だよ。演出。折角の箒ちゃん専用機登場シーンなんだよ!」

 

 

 千冬と束が言い争っている間に、砂浜へ突き刺さった巨大なニンジンが2つに割れて、中に入っていたISがその姿を見せた。鮮やかな紅。紅椿の名の通り、血の様な紅色のISである。

 

 

「さあーて。箒ちゃん、もっとこっちにおいで。お姉ちゃんが初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を手伝ってあげちゃうよ」

 

 

 束に手招きされて箒が紅椿の前まで来ると束はリモコンを取り出してスイッチを押した。すると紅椿はその装甲を2つに開き、膝を折り曲げて箒を受け入れる態勢をとった。

 

 

「箒ちゃん、早く装着してごらん。束さんの超絶技巧を発揮すれば初期化や最適化なんて、あっという間だから♪」

 

 

 束に促されて箒が紅椿へと乗り込む。束はそれを確認すると空中投影型のキーボードとディスプレイを呼び出して、目にも留まらぬ指使いで膨大なデータを処理していく。そんな様子に大半の生徒が圧倒されていたが、一部の生徒は不満そうな視線を箒と紅椿へと向けていた。

 

 

 

「えっ、博士の妹だからって専用機が貰えるの?」

 

「嘘でしょ、不公平じゃない。真面目にやっている私達が馬鹿みたいじゃない」

 

「なんでいきなり?詳しい説明もないの?」

 

 

 不満そうな様子の生徒達の中から、そんな声が漏れ聞こえる。箒にもそれが聞こえたのか気まずい様子である。なおも不平を漏らし続ける彼女達へ束がニコニコと笑顔を向けた。

 

 

「うーん、何か思い違いをしている子がいるねえ。この世界が平等だなんて夢でも見ているのかな?」

 

 

 不平を漏らしていた生徒達は、束の言葉を聞いて顔を俯けた。束という歴史的な偉人と言っても過言ではない人間相手に、直接文句を言えるほどの度胸が彼女達には無かった。

 

 

「そもそも私が作った、私の物なんだよ。その扱いに口出しするなんて、いつからISは君達の物になったのかな?」

 

 

 束は笑顔のままで彼女達に辛らつな言葉を投げかけた。それは彼女達以外の生徒にとっても冷や水を浴びせられた様なものだった。

 

 IS学園の生徒達には大なり小なり、「自分達はISに乗れる特別な人間・IS業界の代表的な存在」であるという一種のエリート意識がある。そんな生徒達を束はハッキリと断じたのだ。

 

 

「ISに関して君達には何の権利もないし、ISは君達の物ではない」

 

 

 束の傲慢な態度。しかし、その言葉があながち間違っていないと理解出来るから生徒達はショックを受けていた。

 

 箒への専用機の授与。それを担任である千冬は全く問題視していない。何の話も通さず、いきなり専用機を一生徒へ譲渡するなどという事がまかり通るわけが無い。つまり、事前に話は付いているという事だ。そう、学園がこの事を認めているという事実を示している。ただ自分の妹だからという理由で専用機を与える。そして、それが公式に認められるという強権。

 

 世界は平等ではない。束のその言葉を生徒達は痛感する。

 

 

「さーて、初期化(フィッティング)はこれで終わりっ!」

 

 

 束は喋っている間も手は動き続けており、束がそう言ってEnterキーを押すと紅椿はその姿を少しだけ変えた。初期化にともなう形状変化が少ないのは、束が秘かに箒のパーソナルデータを収集し、事前に紅椿へそれを反映していた影響である。束がどうやって箒のパーソナルデータを収集したのかは、箒が知れば怒るので秘密である。

 

 

最適化(パーソナライズ)も残りは自動処理ですぐ終わるから、もうする事ないね。……ん?」

 

 

 束は大半の生徒が項垂れる中、強い視線が自分に向けられている事に気付いた。そちらを見ると筋肉質な男が両腕を組んで仁王立ちしていた。睨み付ける様な目をした太郎である。

 

 

「何か言いたい事でもあるのかな?」

 

「ええ」

 

 

 束が大した興味も無い様子で太郎へ声を掛けると、太郎は力強く頷き束に近付く。

 

 

「ISは物ではありません」

 

「んん?」

 

「それに貴方のものでもありません。彼女達は彼女達自身の意志によって生きています」

 

 

 太郎の口調は丁寧であったが、断固としたものだった。太郎はISを自分達人類と同等の生命体として認識している。ISを物扱いする束に太郎は黙っていられなかったのだ。

 

 束は太郎の意見に小首をかしげた後、首を横へ振る。

 

 

「私が作った物をどうしようと私の自由でしょー」

 

「貴方が一番、彼女達の事を知っているはずなのに、何故そんな結論になるのか分かりませんね」

 

 

 束の無邪気な傲慢さと太郎のISへの熱い想いは、ここでは相容れなかった。徐々に場の空気が不穏なものへと変わってきている。一歩も引くつもりの無い太郎。束も不機嫌さを隠そうともしない。

 

 

「生意気だなー。そう言えば君のISはこの前、私の指示を拒否してたね。いっそISごと君を解体して実験材料にしちゃおっかな♪」

 

「……誰を解体すると言った」

 

 

 軽いノリで、ただし全く目が笑っていない表情で放たれた束の言葉。それを聞いた太郎の口から、聞く者の背筋を凍らせる様な声が漏れ出た。

 

 自らの愛機を解体すると聞いて、一気に太郎の怒りは抑えようの無い所まで来ていた。それに慌てたのは束ではなく、千冬や周囲にいた生徒達でもなかった。

 

 

『マスター、落ち着いて下さい。冷静さを失った状態で勝てる相手ではありませんよっ!』

 

 

 太郎の専用機のISコアである美星が必死で太郎を宥める。自らの創造主である束と自らのマスターである太郎。双方の実力を知っているからこそ美星は必死であった。

 

 太郎の強さ。それを最も信じているは美星である。しかし、束の凄さも美星は良く知っている。束はISを開発した天才科学者であるが、それはあくまで束の一面でしかない。束は全てにおいて【天才】であり【天災】なのである。それは戦闘も例外ではない。

 

 だが、美星の制止でも太郎を止める事は出来ない。太郎は少し腰を落とし、何時でも襲い掛かれる構えをとった。それを見た束は馬鹿にして笑う。

 

 

「君程度で私とやり合えると思っているの?」

 

 

 かつて太郎が千冬並の身体能力を持った執念深い変態だと美星から聞いた時には、束は太郎を脅威として認識していた。しかし、情報収集をして幾つかのIS戦、対人戦を見た結果、束は太郎が脅威とならないと分析したのだ。

 

 

「身体能力はそこそこみたいだけれど、それだけだね。ちーちゃん相手に力負けしなかった事で何か勘違いしちゃったかな。もし、ちーちゃんが最初から君を壊すつもりで戦っていたら勝負にならなかったはずだよ。……こんな風にねっ!!!」

 

 

 束が一瞬で間合いを詰めて太郎へ殴りかかった。太郎がそれに合わせて頭を低くしながらカウンターのタックルを試みる。しかし、事前に情報収集をしていた束は、そのタックルを読んでいた。太郎の対人戦のスタイルはグラップリングが基本である。最初からタックルが来ると分かっていれば、束ならば簡単に膝を合わせる事が出来る。

 

 

「がっ!?」

 

 

 綺麗にカウンターの膝を合わせられて太郎の動きが一瞬鈍り、頭が下がる。それを束は見逃さない。束の腕が太郎の首へと絡みつく、フロントチョークである。

 

 

「君がちーちゃんとショッピングモールで闘っている所を見たけれど、打撃に対応し切れずに最後は馬力で誤魔化してたよね。あれさ……もし、ちーちゃんが初撃から急所を狙っていたら一瞬で勝負が決まっていたよ」

 

 

 束は話しながらも一切手を緩めることは無い。

 

 

「私やちーちゃんとは根本的にレベルが違うんだよ」

 

 

 束の辛辣な言葉。そして、圧倒的に不利な状況。

 

 太郎の戦意はもう萎えてしまったか。

 

 

 

 

 

 

 いや、いきり立っていた。

 

 束の豊満なる乳袋が自分の体に触れている感触で、太郎はいきり立っていた。

 

 しかし、いくらいきり立っても戦況は圧倒的不利である。束のフロントチョークは完璧だ。これを力任せに外せる程、太郎の力は束のそれを上回っていない。だが、太郎に悲壮感や敗北の予感などは微塵もなかった。

 

 人間は意識していないタイミングの攻撃や意識していない部分への攻撃にとても弱い。そして、それは天災と言えども例外ではない。

 

 太郎は右の中指に渾身の力を込め、束を貫いた。そして、穴を拡げるように根元近くまで刺さった中指が蠢く。

 

 

「ぎゃあっ!!!!!?」

 

 

 突然の感触に束は汚い悲鳴を上げてフロントチョークを外し、強引に太郎から距離をとった。束は困惑しながら攻撃を受けた部分を手で押さえる。

 

 

「どういうつもりっ!!!!!」

 

「レベルの違いと言うものを見せてもらおうと思ったのですが、そちらは経験が浅い様ですね」

 

 

 ニヤニヤと嗤う太郎に束の殺気が飛ぶ。束が抑えているのは尻であった。

 

 太郎は右の中指を口に含み、ジュッポジュッポと音を立てながら味わう。

 

 

「う~ん、これは生活習慣が乱れていますね」

 

 

 そして、この太郎の診断である。

 

 

 

 

 

 束は自身の全身に鳥肌が立つのを感じた。

 

 恐怖、これは恐怖なのだろうか。

 

 生まれて初めて感じる感覚に束は動揺を隠せない。

 

 

 

 

 




今回は結構苦労しました。

紅椿を渡す所までで1回切ろうかと思いましたが、それだけだと味気なかったので頑張ってみました。

サブタイトルの「椿咲き、他が花散る」は「つばきさき、たがはなちる」と読みます。本文と違ってタイトルにはルビ付けられないんですよね。いや、もしかしたら私が方法を知らないだけかもしれませんが。


読んでいただきありがとうございます。ジュッポジュッポ!


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第86話 束のミス

 唐突に始まった束と太郎の戦闘。砂浜にいた者達は、どう対応すれば良いのか決めかねていた。止める事が出来るのなら、それが一番良い。しかし、ほとんどの者には2人の戦いへ介入するだけの実力がなかった。そして、唯一太郎達を止める実力を持っているであろう千冬は、両腕を組んだまま静観していた。

 

 戦況は一時膠着状態になっていた。太郎に恐れを感じ、距離をとる束。

 

 それを見た太郎が馬鹿にした様に嗤う。

 

 

「最初から急所を狙えば、勝負は一瞬で決まるんじゃなかったんですか?」

 

「くっ……この変態がっ、調子に乗るなあああ!!!」

 

 

 束は恐れを怒りで塗りつぶしす。束の右拳が矢の様な速度で太郎の顔面へと放たれる。

 

 拳が太郎の顔面へと当たり、打ち抜く。いや、打ち抜いたように見えただけだった。

 

 太郎の体は最初から後方へと下がり始めており、拳の威力が十分に太郎へ発揮される事は出来なかった。

 

 それどころか、突き放った為に伸び切っていた束の右腕を太郎が掴む。そして、そのまま引っ張りながら太郎は後ろへと倒れこむ。太郎の挑発は罠であり、束はそれにまんまと嵌ってしまったのだ。

 

 太郎得意のグラウンドに引きずり込まれた束は、瞬く間に危機に陥る。罠へ嵌った事に気付いた束が慌てて立ち上がろうと上半身を起こした瞬間、太郎の足が束をガッチリとロックした。

 

 太郎は束の右腕を掴んだまま自身の右足を束の首へと掛け束の背中へと回す。その右足に束の右脇下から挿し込んだ自身の左足を組む。ガッチリと組まれた太郎の両足が束を締め上げる。三角締めである。

 

 

「こ、こんなもの……外しっ、ぐう」

 

 

 束が太郎の三角締めを外そうとしたが、ロックされた太郎の両足はビクともしない。太郎の体の中でも、その両足は最も鍛え抜かれた部位である。その身一つで幾千もの夜を駆け抜けてきた太郎の両足は、既に人間としての限界に達しようかという所まで来ていた。これでは流石の束も外しようがなかった。

 

 ただ、この鍛え抜かれた足が逆に束へ利する部分もある。この三角締めは本来、使用者の足で対象者の片側の頚動脈を、もう片方の頚動脈を対象者の肩で絞める技である。しかし、筋肉で太くなりすぎた太郎の足では束の頚動脈へ綺麗に入らないのだ。

 

 絞め落とし辛いのは太郎自身分かっていた。その為、絞め落とすというより圧力で束の体を潰してしまうつもりで力を込めていく。普通に絞め落とすより時間はかかるが、技自体が解けなければ束の体力は着実に削られていく。

 

 ミシミシと軋む束の体、決して外れる事の無い太郎の両足。追い詰められた束に太郎は嗤いかける。

 

 

「まだ手はありますよ。先程、お手本を見せたでしょう?」

 

 

 束は太郎の言葉にハッとなる。そう、太郎の尻を左手で抉れば何とかなるかもしれない事に束は気付いた。

 

 

「それに他にも方法はあります。貴方の目の前に私の急所があるじゃないですか」

 

 

 太郎が掴んでいた束の右手を放す。束の眼前には太郎の下腹があった。もう少し顔をズラす事が出来れば、男の急所を噛む事も出来る。どんな男にとってもそれは最悪の攻撃となるだろう。

 

 

 

 束は究極の選択を迫られる。

 

 太郎のケツ○ンコを抉るか、チン○を噛むか、もしくは両方同時に攻めるのか。

 

 このまま負けるなど束のプライドが許さない。さりとて、○穴責めや肉○を噛むという手段も束にとってはハードルが高かった。

 

 太郎の示唆した手段は、可能か不可能かで聞かれれば可能である。むしろ束からしたら能力的には簡単な部類である。しかし、常人と比べて理性や倫理観が希薄な束を以ってしてもヤリたくない事である。

 

 

「くっくっく、早くしないと手遅れになり……ん、織斑先生?」

 

「山田、そこまでだ。その技を外せ」

 

 

 いつの間にか太郎達の側まで近付いていた千冬が、太郎へ有無も言わせない口調で告げた。普段なら太郎も千冬がここまで強い口調で言った命令を拒んだりはしない。しかし、今回は太郎もそう簡単に従えない。捕らえた獲物が大物である事も関係しているが、何より直前の口論の内容が問題であった。

 

 束はISを物扱いし、あまつさえ太郎の大切なパートナーである美星を解体するとまで言ったのだ。例え紳士を自称する太郎であっても、笑って許せる話ではない。

 

 

「ここでこれ以上の戦闘は認めん。早く止めろ」

 

 

 再度、強く命令した千冬は、それでも技を外そうとしない太郎に向けて右足を振り上げる。それを見て太郎は直ぐに三角締めを解いた。この体勢では千冬の攻撃をモロに受けてしまう。太郎は僅かに残った理性でそう判断した。

 

 一方、束は三角締めが解けた瞬間を狙い太郎の(のど)を貫手で襲う。しかし、それは千冬によって阻まれる。千冬が束の手首を掴んで貫手を止めたのだ。

 

 

「放して、ちーちゃん!」

 

「これ以上の戦闘は認めんと言っただろ。当然、山田だけに言ったわけではないぞ」

 

 

 束が千冬の手を振り解こうと力を込めたが、束の手首を握る千冬の力の方が勝っていた。その上、太郎は何時でも反撃出来る態勢をとっていた。千冬と太郎の2人が相手では、流石に分が悪いと束は判断し、戦闘態勢を解いた。

 

 警戒しつつ、太郎と束が互いに距離をとる。そんな2人に千冬は厳しい視線を送っていた。

 

 

「こんな所で殺し合いでもするつもりか。馬鹿者共が。それに予定が詰まっていると言っただろ。下らん事に時間を使わせるな」

 

 

 千冬の叱責にも太郎達は何処吹く風といった表情であったが、逆らう気もないらしい。しかし、束に限って言えば、千冬に感謝すべきであった。

 

 もし、太郎の言葉を真に受けていれば地獄を見ていただろう。仮に太郎の尻○を攻めても状況を打開出来た可能性は低い。何故なら太郎はISによる前立○マッサージすら嗜んでいるのだ。今更、女子供の指位で慌てるようなア○ルは持っていない。

 

 では、チン○を噛むのはどうだろうか。こちらも下策である。太郎のIS、ヴェスパの待機状態はアレを半分ほど覆うデザインのペニ○リングである。人の歯でどうにかなる物ではない。つまり、太郎が束に示した三角締めからの脱出方法は、完全な誘いであったのだ。

 

 太郎は束に自身の○穴を攻めさせ、ほど良い所で顔○するつもりであった。そして、束がチン○を噛む方を選んでいれば口内で発射する腹積もりだった。本来、衆人環視の下でやる事ではない。だが太郎も冷静さを失っていたのだろう。先程までは徹底的にヤルつもりになってた。

 

 束の敗因、それは山田太郎という男の本質を見誤った事だ。束は太郎を単なる身体能力が高い変態だと分析した。しかし、その身体能力のほとんどは、あくまで紳士(変態)として生きて来た結果として身についたものである。そう、単なる副産物でしかないのだ。

 

 太郎の在り様そのものこそが脅威なのである。怒りに冷静さを失った状態でも、性欲を満たす為の最善を導き出すという魂に刻まれた行動原理。性の獣たる太郎相手に、豊満なる乳を揺らした状態の束が勝てる道理なぞありはしない。

 

 

 

 束は千冬に感謝すべきである。

 

 

 

 

 




そろそろシナリオが分岐していきます。

バッドエンドから書きます。それが終われば、少し時間を空けてノーマルを書き始めようと思います。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は土曜日です。


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第87話 天災たる所以 1

 太郎と束の闘いは、千冬によって止められたが、未だにピリピリとした空気が場を支配していた。そんな空気を破ったのは山田は山田でも、太郎ではなく真耶の方であった。

 

 

「お、織斑先生……大変です。これを見てください」

 

 

 慌てた様子の真耶が小型の情報端末を千冬に見せる。そこに表示された【緊急連絡】の文字を見た千冬は、直ぐに自分の情報端末をポケットから取り出した。そちらの画面にも同様に【緊急連絡】と表示されていた。千冬がその文字をタップし、連絡の内容に目を通していく。連絡内容を確認し終えた千冬の表情は、先程まで以上に厳しいものだった。

 

 千冬が生徒達に向かって大声で指示を出す。

 

 

「予定変更だ。専用機持ち以外は全員、別命があるまで旅館の自室にて待機。専用機持ちは私に付いて来い。篠ノ之、お前も付いて来い」

 

 

 理由を一切言わず、ただ部屋で待機という千冬の指示に一般の生徒達からは戸惑いの声を上がる。

 

 

「何があったの?」

 

「待機って言われても……ねえ?」

 

 

 旅館へ戻ろうとしない生徒達を、千冬は怒鳴りつける。

 

 

「さっさと旅館へ戻れ。命令違反者は身柄を拘束するからな。肝に銘じておけ!」

 

 

 千冬の怒声を受け、専用機持ち以外の生徒達は慌てて旅館へと駆け出す。それを確認した千冬も歩き出し、専用機持ち達も千冬に続いた。

 

 

 

 

======================================

 

 

 千冬に専用機持ち達が付いて行くと、そこは旅館の宴会場だった。宴会場とは言っても現在は、様々な機材が運び込まれ、まるで作戦司令部のような体を成していた。そこで千冬から状況説明が行われた。

 

 アメリカとイスラエル共同開発の軍用ISが原因不明の暴走を始め、管理エリアから離脱。しかも、こちらの近くを通過するという事実。アメリカとIS学園の協議の結果、ここにいるメンバーで対処すると決定した事が告げられた。

 

 突然の状況に一夏は困惑している様子だった。一方、箒は与えられたばかりの専用機に気をとられているのか、どこか上の空である。それに比べて一夏と箒以外の専用機持ちは、対処法を活発に議論していた。そこへ千冬が厳しい事実を告げる。

 

 

「この軍用IS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、現在も超音速飛行を続けており、スペック表には最高速度も時速2450km超えると書いてある。つまり、接触のチャンスは1回、そこで決めるしかない」

 

「そうなると一撃必殺の攻撃力が必要になりますね……」

 

 

 千冬の言葉を聞いた真耶が呟くと、皆の視線が一夏と太郎を行き来した。この場の専用機で条件を満たすのは、白式の零落白夜とヴェスパの毒針だけである。

 

 

「私が行きましょう。今回の試験運用の為、毒針の新型が送られて来ています。以前の物より射程が延びているので、零落白夜よりは当てやすいと思いますよ。高速移動用のパッケージも用意されていますし、私が適任でしょう」

 

 

 困惑状態の一夏に先んじて、太郎が名乗りを上げた。千冬は少し考え込んだ後、頷く。

 

 

「良いだろう。もし山田が失敗した時の為に、織斑も機体の用意をしておけ」

 

「えっ、太郎さんなら問題ないんじゃ……」

 

 

 太郎を信頼している一夏が千冬の指示に驚いた顔をする。

 

 

「世の中に100%は無い。備えは必要だ」

 

 

 太郎が仕損じる相手に今の一夏が通用するかは、千冬自身疑問ではあった。しかし、準備しておいて損することも無い考えていた。

 

 一夏が予備の攻撃役になると聞いて、セシリアが手を挙げた。

 

 

「一夏さんの零落白夜使用を想定するなら、なるべくエネルギーを使わないように、誰かが一夏さんを運んだ方が良いと思います。わたくし、丁度良いパッケージがイギリスより届いてますし、無事運んで見せますよ」

 

 

 千冬がセシリアの申し出を検討していると、話の流れなど無視して束が割り込んで来た。

 

 

「すとーっぷ、ストップだよ。ちーちゃん。もっと良い考えが束さんにあるんだよ」

 

 

 束はこの部屋には入って来ていなかった筈である。千冬がさっと周囲を確認すると、天井に穴が開いていた。千冬が溜息を吐いて、束の襟首を掴んで部屋から放り出そうとする。

 

 

「待って、ホントに良い考えがあるんだよ。紅椿のスペックを見て。紅椿ならパッケージなんて無くても、問題のISを追えるんだよ」

 

 

 追い出されそうになった束が必死で放った言葉に、室内の全員が息を飲んだ。問題となっている銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、スペックデータ的には現存するISでもトップと言って良いスピードを持っている。それに対して、パッケージ無しで追えるとはどういう事なのか。

 

 これより篠ノ之束の天災と呼ばれる所以を、室内にいる全員が知る事になる。

 

 

 

 




分岐のキーに悩みます。次回か次々回に分岐点となるキーを入れる予定です。キーと言うか選択肢?


読んでいただきありがとうございました。

次の更新は水曜日です。


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第88話 天災たる所以 2

 紅椿ならパッケージ(換装装備)が無くても、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を追える。束の言葉に、聞いていた者達は一瞬息を呑んでしまった。そんな皆の反応を、束は楽しそうに見ながら説明を続ける。

 

 

「紅椿の展開装甲をちょっと弄ってあげれば……ほーら、この通りっ!」

 

 

 空中投影型のキーボードを束が操作すると、大型のディスプレイに紅椿と銀の福音のスペック比較表が表示された。紅椿の展開装甲を弄った状態のスペックであれば、確かに銀の福音を追うのに十分なスピードが出るようだ。

 

 しかし、束が当たり前のように使っている単語、【展開装甲】という物が何なのか分からない為、一夏は首を捻っていた。

 

 

「どうしたの、いっくん?」

 

「展開装甲っての何なのか分からないんだけど」

 

 

 一夏の疑問に対して束は、「良くぞ聞いてくれました」とばかりにキーボードを操作する。そうすると大型ディスプレイの画面が切り替わり、展開装甲の詳細が表示された。そこに記載されたデータは膨大かつ、専門用語満載で一夏だけでなく、この場にいる大半の者が読み解けずに困惑していた。それを察したのか、束が簡単な説明を始めた。

 

 

「展開装甲は可変型の装甲が状況に応じて即時最適な形態・機能で展開される、第四世代型のIS装備なんだよ~。例えば今回の場合、スラスター側に装甲の一部を移動させてスピード重視にしてやれば良いって事だよ」

 

「「だ……第四世代」」

 

 

 束が何気なく語っている事は、聞いている者からすると驚異的な内容であった。現在、大国達が競って研究しているのは第三世代型のISである。それもやっと試作機がお披露目され始めたところである。この場ではセシリア、ラウラ、鈴の専用機がそれにあたる。

 

 太郎のヴェスパは、本来搭載される予定であった第三世代型の兵装が未完成である。その兵装の出力を下げ、シールド・ピアースと組み合わせる事で完成した兵装【毒針】を搭載しているだけで、純粋には第三世代と呼べない代物であった。シャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡにいたっては完全に第二世代型である。

 

 束はそんな中、紅椿は第四世代型だと言うのだ。しかも、可変型の装甲が状況に応じて即時最適な形態・機能で展開されると言う事は、一機で装備の換装などをしなくても、あらゆる状況に対応出来るという事だ。理想のマルチロール機である。

 

 つまり紅椿の存在は、大国達が必死に研究開発している第三世代型を無用の長物へと変えかねないのだ。それは紅椿に使用されている技術が公開されたなら、という話である。最悪なのは、もし紅椿とその技術を独占、もしくは一部の国にだけ譲渡された場合である。そうなれば世界のバランスは一気に崩壊するだろう。そんな恐ろしい話なのだ。

 

 太郎と千冬は事態の深刻さを正確に理解しているのか、眉間にしわを寄せて束を睨んでいた。他の者達はただ、ただ呆然としている。

 

 

「……まあ、紅椿もまだ完全とは言えなし、現時点でスペックをフルに引き出せる訳でも無いんだけどね。それでも今回の作戦には十分だと思うよー」

 

 

 束の気休めにもならない様な言葉を聞いて、千冬は大きく溜息を吐いた。

 

 

「こんな物をいきなり世に出して……どうなるか分かっているのか?」

 

「んーどうなるんだろうね。ISを最初に発表した時は大した反応はなかったけど……」

 

 

 束は途中でわざとセリフを切って千冬の顔を覗き込み、にやりと嗤った。

 

 

「むしろ、これは白騎士事件の時の方が近いかな。あの時は凄い反響だったねー。世界がひっくり返った、なーんて言ってるニュースキャスターもいたね」

 

 

 

 

 

 白騎士事件───────────

 

 それは世界を震撼させたテロと、それを単機のISで処理し、世界にISの優位性を知らしめた一連の事件である。

 

 ある日、各国の軍事施設及び兵器がハッキングされ、日本へ向けて2000発を超えるミサイルが発射されるというテロが発生した。前代未聞のテロに日本はまともな対応が出来なかった。しかし、2000発以上のミサイルは、ただの1発も日本国土に到達する事は無かった。突如として現れた1機のISが全てのミサイルを撃墜したのだ。

 

 ミサイルを撃墜したISは白い騎士の様な姿だった。操縦者は体のラインと、ISは女性にしか操縦できないという特性から女性という事はすぐ分かった。しかし、バイザー型のハイパーセンサーが邪魔で顔は判別できなかった。

 

 彼女は突如日本領空に現れると、日本へと向かうミサイルを剣と荷電粒子砲で撃墜してしまった。そう、その様子は既存の兵器など既に時代遅れであると言わんばかりであった。何せこの後、このISの正体を探ろうと各国が繰り出した軍隊の悉くが為す術なく敗北したのだ。ISの優位性を誰もが認めざるをえなかった。

 

 

「あの時ほど騒がれるかな?」

 

 

 どこか楽しそうに言う束を千冬は睨んでいる。千冬は何か文句を言おうとしたが、今は時間にそれほど余裕が無い。舌打ちした後、話を変える。

 

 

「チッ……それで紅椿なら追いつけると言うが、その後どうする?」

 

「紅椿でいっくんを運んで、零落白夜でバッサリといっちゃえば良いと思うよ」

 

 

 束の案を聞いて千冬は少し考え込んだ。チラりと太郎の顔を見る。

 

 

「山田は運べないのか?」

 

「紅椿は白式との共同運用を想定して作っているから、相性は白式の方が良いんだよ」

 

 

 にべも無く束は首を横に振った。それでも千冬からすると、実績で勝っている太郎を簡単に選択肢からは外せない。

 

 

「山田、高速移動用のパッケージはインストール済みか?」

 

「いえ、しかし今から始めて1時間はかからないと思います」

 

「束、紅椿ならどのくらい掛かる?」

 

「実は話しながら進めてたから、残り3分も掛からないね」

 

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は今も停止している訳ではない。作戦開始は早いに越したことは無い。時間というファクターを考慮して千冬は今回の攻撃役を決めた。

 

 

「第1次攻撃は織斑。篠ノ之が目標の所まで運べ。もし織斑が失敗した場合を想定して、山田は直ぐにパッケージをインストールし第2次攻撃に備えろ。他の者達はサポートに回れ」

 

 

 千冬の決定に皆は返事をし、動き始めた。

 

 太郎は高速移動用のパッケージをインストールしながら、ある事を考えていた。

 

 白騎士事件は篠ノ之束の自作自演であるという説がある。当時、ISは誰からも注目されず、実機が何処にも出回っていなかった。そうなるとミサイルを撃墜したISは、必然的に束が直接関与している可能性が高いと考えられる。

 

 それにミサイルを発射した犯人は一切の犯行声明を出さなかった。これだけの大規模なテロである。何か政治的、宗教的な目的があるのなら当然なんらかのアピールがあるはずである。それが無く、ISの性能を世界に知らしめただけで収束した。つまり最初からミサイルの発射そのものが目的では無かった。ミサイルを撃墜するところを見せたかったのではないのか。

 

 太郎はこの説が最も有力であると思っている。

 

 そして、今回の事件である。束は突然妹に専用機を用意して、それを渡しに来た。それと時を同じくしての軍用ISの暴走である。どちらもタイミングが良すぎる。束が裏で操っているのではないかと太郎は疑いを強めていた。

 

 千冬や箒にじゃれついている束を見ながら、太郎は彼女と少し2人で話をして置くべきかどうかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今年の夏ももう終わりですね。ふと後ろを見ると薄い本達が随分積み重なっています。
来月のカードの請求額が怖い。ゼロが5こ付いてたらどうしよう……ふぅ。

読んでいただきありがとうございます。


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第6章 銀の福音 ?&各ノーマル共通ルート
第89話 取引、それは互いに利があればこそ 1


 突然、箒へ渡された専用機・紅椿。時を同じくして暴走した軍用IS。しかも、暴走した軍用ISは臨海学校を行っているエリアを掠めるような進路をとっている。そして、その軍用ISを迎撃する作戦に、都合の良いスペックを紅椿が持っているという事実。

 

 あまりにも全てが噛み合いすぎている。白騎士事件の事もあり、太郎は束が裏で糸を引いているのではないかと疑いを強めていた。太郎は手っ取り早く確認する為、束本人と直接話をしようと近付いた。

 

 

「篠ノ之さん、少し2人で話せませんか」

 

「……君なんかと話す事なんてないね」

 

 

 他の者に聞こえない様に小声で話しかけた太郎だったが、にべもなく拒否された。しかし、その程度で引く太郎ではない。

 

 

(美星さん、アレをお願いします)

 

『了解しました』

 

 

 美星は太郎の指示を聞き、束の目前に小さな投影型のディスプレイを出現させた。そこに映し出されたのは、臨海学校の更衣室に忍び込んだ束が生徒(箒)の下着を物色している姿だった。

 

 

「なっ、こ、これ……」

 

「話をしましょう。私達以外、誰もいない所で」

 

「……この映像、盗撮だよね。バレると君だってタダでは済まないんじゃないかな?」

 

 

 その映像を見せられた時には動揺した束だったが、流石と言うべきか、直ぐに機転を利かせて逆に脅す。それに対して太郎は首を横に振る。

 

 

「この学園には私の友が至る所にいます。その映像は、臨海学校の警備の為に随伴した職員が仕掛けた防犯カメラに映っていた。そして、私がその映像を持っていたのは、ここに映っている犯人を見つけたら通報するように、と職員から渡された。そういう事に出来るんですよ。ここでは」

 

 

 太郎は1年1組のクラス代表としての活動を通し、多くの仲間を手に入れていた。しかも、裏では静寐(しずね)をパイプ役としてソックス○ンター達と協力関係となっている。他にも楯無を含む暗部、深夜のカーニバルとオークションを開催して得た同志、自分を襲撃してきた女性至上主義者達を懐柔し乗っ取った組織など人材には事欠かない。

 

 

「ぐっ……わ、分かったよ」

 

「では続きは場所を変えましょう」

 

 

 束が自身の形勢不利を悟り、太郎の提案を受け入れる。太郎は周囲をチラリ、と誰も自分達のやり取りに気付いていないか確認をして、束と共に部屋から退出した。

 

 

 

 

 

 

=========================================

 

 

 場所を旅館の庭に変え、太郎と束は対峙した。闘った後、和解したわけでもなく、むしろ太郎が脅迫する形で今の状況になっているのだ。当然、場の空気はピリピリと緊迫している。

 

 先に口火を切ったのは太郎の方だった。

 

 

「さて、時間が無いので単刀直入に聞きます。今回の件、全て貴方が仕組んだものでしょう?」

 

「んー……そうだったら、君はどうするのかな?」

 

 

 意外な事に、束は認めはしないものの、太郎の問いを否定する事も無かった。それは自分が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走を引き起こした犯人だとバレてしまっても、誰も自分を罰する事など出来ないという絶対の自信から来るものだった。

 

 

「紅椿の性能をアピールする為に、こんな事を?」

 

「私の質問に答えないなら、私も答えなーいよ」

 

 

 先に質問へ質問で返したのは束の方なのだが、太郎は気を悪くした様子もなく答える。

 

 

「貴方が私との取引に応じるなら、特に邪魔をする気はありませんよ」

 

「取引?」

 

 

 太郎の言葉に束は怪訝な表情を浮かべた。太郎はそれに構わず取引内容を話し始めた。

 

 

「先ず、被害は最小限にしてください。どうせヤラセなんですから、一夏達の安全にも配慮してください。それと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)についても後の面倒をちゃんと見て欲しいのです」

 

「後の面倒って何かな?」

 

「1度暴走した軍用ISを、米軍がそのまま運用すると思いますか。開発計画の凍結、もしくは解体されてしまうかもしれません。それではあまりにも不憫です。あんなに綺麗な機体なのに……もったいない」

 

 

 特にそうだと束が肯定した訳ではないが、太郎と束の間では既に、「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走事件の黒幕は束」という前提をもとに話が進む。

 

 太郎の提案は、束の計画自体を否定しているのではなく、計画が大雑把になって多方面に無用の被害が出る事を回避して欲しいというものだった。

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)などは今回の件では1番の被害者である。完全に紅椿と白式の当て馬である。使い捨ての駒の様な扱いを太郎は許容できなかったし、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)自体にも興味があったので何とかして欲しいと思ったのだ。

 

 太郎の提案へ束が何かの反応するより先に、不満を漏らす者がいた。それは美星であった。

 

 

『へえー、綺麗な機体ですか……そうですね。あちらの方が最新の機体ですし、モチーフが天使ですからね。こちらは蜂ですから比べたらやはり負けますよね』

 

 

 美星が太郎に不満を漏らす事は非常に珍しい。美星自身、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が美しいと感じているがゆえの劣等感である。

 

 

(いえ、決してヴェスパの外観が銀の福音に劣るという訳では)

 

『いいんです。いいんです。分かっていますから』

 

 

 弁解する太郎だったが、美星は取り合わない。太郎達がそんな痴話喧嘩の様なやり取りをプライベート・チャネルで行っていると、2人にしか聞こえていないはずなのに束がニヤニヤとその様子を眺めていた。

 

 

「ん~、確かに銀の福音のデザインは結構良いよね。まあ、紅椿には劣るけど」

 

『私達の会話が聞こえているんですか!?』

 

「これでもISの開発者だからね。プライベート・チャネルの会話を盗み聞きする位、簡単だよ」

 

「「!?」」

 

 

 束が事も無げに言った内容に、太郎と美星は驚きを隠せなかった。天災の面目躍如と言ったところか。

 

 

「さて、君が私にどうして欲しいのかは分かったけれど……取引と言うからには何か交換条件があるんでしょう。まさか、さっき見せた映像だけで私に言う事を聞かせたいなんて言わないよね?」

 

 

 まさか、そんな舐めた事を言わないよね、という威圧感が滲み出る束に対して、太郎も負けてはいない。

 

 

「当然ですよ。これを見てください」

 

 

 太郎が束に新たな映像を見せつける。そこに映し出されたのは、IS学園共同浴場の洗い場であった。洗い場では、あられもない姿の箒が発育の良いその肢体を洗っている。乳○と股×の部分には、編集によって不自然かつ、卑劣な白い光の線が入っている。

 

 

「おまええええええ!!!!!」

 

 

 この映像を見た束は激怒した。太郎の襟を両手で掴み、詰め寄った。妹の入浴を盗撮されたのだ。その怒りも当然である。こんな物を見せ、怒らせておいて何の取引だと言うのか。脅迫でもするのか、と常人なら首を捻るだろう。

 

 しかし、太郎には確信があった。束は単純に身内を盗撮された事へ怒っているわけではない。束は箒に対して邪な欲求を持っているからこそ、羨ましくて怒っているのだと看破していたのだ。

 

 

「落ち着いてください。欲しくありませんか。この映像の無修正版」

 

「なっ、この変態がっ!」

 

 

太郎の襟を掴んだ手の力が弱まる。太郎の予想が間違っていれば、ここで束が力を弱める理由などない。つまり、そういう事である。威勢が弱まった束に、太郎が追い討ちをかける。

 

 

「それでどうするんです?」

 

「と、撮ろうと思えば……こんな映像、私だって簡単に撮れるんだよ!」

 

「しかし、この映像の○月×日の箒さんは、もう追加で撮影する事は出来ないでしょう」

 

 

 束が駆け引きを仕掛けたが、太郎にそう返されるとぐうの音も出ない。束は数秒間、目を瞑って何か手は無いかと考えたが、良い考えは何も浮かばない。束はゆっくりと太郎の襟から手を離した。

 

 それを確認した太郎は、束に向かって右手を差し出す。束は黙ってその手を取り、固い握手が交わされた。

 

 

「とりあえず取引成立ですね」

 

 

 太郎の声だけが庭に響いた。変態と天災の思惑が交錯する中、銀の福音迎撃作戦の時間が刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 




おまけ

太郎「この白い光の線が無い映像が見たいですか?」
束 「見たい、見たいよ!」
太郎「では円盤を買ってください」

円盤購入

束 「線が消えても乳○なんてほとんど映ってないし、具も描かれてないじゃん」
太郎「いつから、白い光の線の下に○首が描かれていると錯覚した?」
束 「汚いなさすが大人きたない」
太郎「お嬢ちゃん、お金の価値に綺麗も汚いも無いんだよ」


お読みいただきありがとうございます。
次の更新は来週の水曜日になります。


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第90話 取引、それは互いに利があればこそ 2

 一応、取引が成立した太郎と束。しかし、束はどこか不機嫌であった。それも当然であろう。格闘戦で不覚をとり、先程の取引も終始主導権を握られていたのだ。自分と千冬以外の人間を格下だと認識している束にとって、それはプライドを傷つけるには十分な出来事であった。

 

 束の様子を見ていた太郎は、このまま遺恨を残したままにしておくと、後々厄介な事に成りかねないと判断した。束にこれからも快く取引相手であり続けて貰う為に、もう少し話をしておこうと決めた。

 

 

「そんなに不満そうな顔をしないで下さい。今の取引も、お互いにとってプラスだったでしょう?」

 

「別に不満そうな顔なんてしてないし」

 

 

 束は太郎の言葉を否定したが、そっぽを向いて言っていては何の説得力も無い。太郎はやれやれといった感じで肩を竦めた。

 

 

「これからも良い取引をしていきたいですから、お互い気持ち良くいきましょうよ」

 

「これからもって、君が私へ提供出来る物なんてそんなにあるのかな?」

 

 

 馬鹿にしたような態度で笑う束だったが、太郎は怒るどころか、好都合な話の流れだとほくそ笑んだ。

 

 

「随分と甘く見られたものです。……それなら良い物を見せてあげましょう。【お人形】は好きですか?」

 

 

 太郎は空中投影型のディスプレイを出し、そこに秘蔵の【お人形】を映した。それはかつて、太郎が美星と共に作り上げた、箒の等身大フィギュア(乳首と股間を貝殻で隠した状態)であった。

 

 

「ほ、箒ちゃん……な、なんでこんな格好を……ジュルッ」

 

 

 束は涎を垂らしそうになりながら、その画像を食い入るように見ていた。フィギュアの造形の精巧さは、束ですら一目ではフィギィアと分からない程だった。しかし、そこは流石の天災である。しばらく見ていると違和感を感じたのか、眉をひそめて画像を凝視し始める。

 

 

「いや、でもコレは……まさか箒ちゃんじゃない?」

 

「こんな小さな画像で気付くとは、流石ですね」

 

「どういうことっ!?」

 

 

 太郎の意味深な言葉に、束は声を荒げる。その反応に太郎はニヤリとする。太郎はフィギュアの画像を拡大し、他の角度から撮ったものなども束に見せた。

 

 

「さっき、お人形って言ったよね。まさか、これが人形なの!?」

 

 

 驚きの声を上げる束、それに対して太郎は静かに頷く。束の反応に、実は太郎も内心ご満悦であった。このフィギュアは、【ヒトカタ】と名づけられた、太郎と美星の会心の逸品である。それを見て、あの束がここまで反応してくれれば、太郎としても満更ではない。

 

 

「どうです。なかなかの出来でしょう?」

 

「……わ、私だって作ろうと思えば、この位」

 

「そうですね。しかし、重要なのは作者が私と美星さんである事です」

 

 

 束の苦し紛れの反論を太郎はあっさりと認めつつ、重要なのはそこではないと断言した。

 

 

「今から話す事は、一概にそうだと言い切れるものではありません。ただ貴方の場合、これに関してだけは私と同じような感覚だと確信を持って言えます」

 

「下らない前置きはいいから、早く本題を言いなよ」

 

「分かりました。私はこの等身大フィギュアを作ろうと考え、美星さんと協力して作成し、鑑賞し、使ってみました。さて、私はどの段階が楽しかったと思いますか?」

 

 

 束は太郎の問いにしばらく黙考した後、使ってみた時と答えた。それに対して太郎は、黙って首を横へ振った。

 

 

「一番気持ち良かったのは使った時ですが、不正解です。自分に置き換えて想像してください。作りたいものを想像し、作ってみる。そして、出来上がったものを使ってみる。さて、貴方はどの段階が一番楽しいですか?」

 

「……新しい機能や完成した姿を想像しながら設計して、完成させるまでか、な」

 

 

 束に取って見れば発明品の完成後は、あまり楽しいものではない。自分の作った物に対する周囲の反応などは楽しいが、それは余禄の様なものだった。完成状態を想像しながら試行錯誤している時の方が断然楽しかった。それに自分で使って楽しいなどと感じる事はほとんど無い。

 

 何故なら、束は天才だからである。

 

 大抵の場合、束は発明品が完成した時には、既にその性能を過不足無く理解してしまっている。そして、明晰な頭脳によって実際に使用するまでも無く、使い勝手も何もかも想像出来てしまうのだ。

 

 束が【こういう物が作りたい】と思い設計し、設計段階で束が問題を感じなければ、想定通りの物が寸分たがわず完成する。これは束にとっては当然の事である。その為、自身の発明品を使う事によって得られるものは、あくまで既知の喜びでしかないのだ。

 

 太郎は束の答えに笑顔で頷いていた。

 

 

「そうでしょう。貴方なら私達が作ったフィギュアより優れたものを作れるかもしれません。しかし、自分で作ってしまうと、使う時にどうしても作っている時の楽しさと比較してしまいます。ですから、作品を心置きなく楽しみたいのであれば、あくまで消費者の立場でいた方が良いと思いますよ。もしくは、自分で作る喜びを楽しみつつ、他人の作ったものを消費するというのも手だと思います」

 

 

 束は太郎の言葉へ共感してしまう自分にイラつきながら、人生初と言っても良い、趣味趣向の合う人間との出会いに戸惑っていた。束が唯一の親友と公言する千冬は、残念ながら趣味趣向に関して相容れない部分が多かった。

 

 それと、太郎は束なら自分達より優れたフィギュアを作れるかもしれない、と控えめに言った。しかし、束からすればそれは間違いだと言える。自分にも作れるなどと苦し紛れに言ったが、実際はそう簡単な話ではない。

 

 例え箒本人から型を取って作っても、彼等のフィギュアには敵わないだろう。良く観察すれば分かる。彼等の作ったフィギュアの再現度は100パーセントなのではない。120パーセントの箒である。本物より、箒らしい箒としてデザインされ、作られているのだ。

 

 悔しいが、それは既に【箒の偽物】ではなく、ひとつの芸術であると束は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

束をして芸術と感じさせる逸品。
美星と太郎のこれまでの研鑽は何一つ無駄なものは無かったのです。

変態は惹かれあうもの。

そう、1匹変態を見つければ、20匹はいるもの。だから貴方の周りも多分大体変態。



本当はもう少し進める予定でしたが、思いのほか書くのに時間が掛かったので1回切りました。次回は土曜日に更新します。


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第91話 取引、それは互いに利があればこそ 3

「さて、今見せたフィギュアに取引材料として価値はありませんか?」

 

「……」

 

 

 太郎の問いに束は沈黙したままだった。そこで太郎はもう一度聞く。

 

 

「要らないですか?」

 

「……欲しい。欲しいよ!」

 

 

 太郎の再度の問いかけで、とうとう束は堰を切ったように本音を叫んだ。そう、束は元来欲望に素直な人間である。欲しいと思ったものを我慢するような性格ではない。

 

 太郎はとりあえず束が不機嫌な状態から脱した事を確認して、内心ほっとしていた。

 

 そんな事とは露知らず、束はフィギュアを得る為に何を太郎へ与えようかと考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 手元にある発明品の中からそれなりの物を与えようか。

 

 いや、このフィギュアに見合う程の発明品が今は手元に無い。

 

 後払いにして……駄目。それは駄目。

 

 代わりになるような物を持ってないのかと侮られるのは、プライドが許さない。

 

 それに相手が箒ちゃんグッズなら、こちらも箒ちゃん関連で攻めたい。

 

 そう、箒ちゃんグッズで負けるなどあってはならない。

 

 

 

 

 

 束が深く考えた末に選んだもの。それは何か。束は携帯端末を操作し、ヴェスパへと大量の画像データを送った。

 

 

「それがフィギュアの代金だよ。多分、本人ですらこの量の画像は持ってないんだからねっ!」

 

 

 束が自信満々に出した画像である。余程の物だろうと太郎が投影型のディスプレイを直ぐに確認すると、そこに映し出されたのは箒であった。それも一糸まとわぬ産まれたまま姿である。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

 太郎を持ってしても平静さを失ってしまう、それ程までの代物である。投影型のディスプレイには、まだへその緒が付いている赤ん坊が映し出されていた。

 

 

「どう?貴重な箒ちゃん誕生の瞬間から、現在に至るまでの成長記録だよっ!」

 

 

 束の言葉通りである。他の画像を確認していくと、箒の誕生から中学卒業までの様々な場面を写した画像集だった。ちなみに7割位が盗撮っぽいな、と太郎は分析している。

 

 流石の太郎も赤ん坊にまでは欲情しないが、成長の過程が分かる貴重な画像集である。これには太郎も驚きを隠せない。

 

 

「これは凄い……」

 

「ふふーん、箒ちゃんの事は私が一番良く知っているんだからっ」

 

 

 太郎の反応に束は気を良くした。コレクターというものは、自身のコレクションに他のコレクターが驚く所を見るのが好きな生き物である。

 

 そして、コレクターという者は他のコレクターがコレクションを自慢してくると、対抗したくなる生き物でもある。

 

 本当は太郎が束のコレクションに感心し、フィギュアと交換して取引をここで一旦終了させても、円満に事を終えられたのだ。しかし、太郎としてもこれ程のコレクションを出されては、さらなる逸品を披露したいという欲求を抑えられない。

 

 

「素晴らしいとしか言いようが無いですね。これ程のものを出されたのでは、私も珠玉の逸品を出さざるを得ないですね」

 

「まだ上があるって言うの!?」

 

「くっくっく」

 

 

 太郎の言葉に束は目を見開く。含んだ様な笑みを浮かべた太郎を、束は驚愕の表情で凝視する。

 

 太郎は自らの懐に手を入れる。そこには大事な実戦を前に、英気を養う為の逸品を入れていたのだ。懐から引っ張り出したのは透明でビニール袋、ジップロッ○であった。中には黒い布が入っているのが、束からも確認できた。

 

 

「さて、これが何か分かりますか?」

 

「それだけで何かなんて分かる訳……」

 

 

 束が眉をひそめていると、太郎がジッパーをゆっくりと開いていく。すると束の常人では考えられない程、鋭敏な嗅覚が嗅ぎ慣れた匂いを感じた。

 

 

「くん、くん……この香り、どこかで」

 

「もっと近くで確認しても良いですよ」

 

 

 吸い寄せられる様に束は太郎へ近付いた。それは近付く程に束の脳を掻き乱す。間近で見るとそれはレースの装飾が多く使われていた。

 

 

「ま、まさか……ち、ちーちゃんの下着?」

 

「しかも使用済み、未洗濯です」

 

 

 太郎の告げた内容に束は驚き顔を上げ、見開いた目で太郎に問いかけた。それは本当なのかと。お互いの顔が触れそうな状態で、太郎は「もちろんです」とチェシャ猫の様な笑みを浮かべて答えた。

 

 束は衝撃を受けていたが、同時に脳内では目まぐるしく、ある事を考えていた。この逸品と交換出来る物など、この世に存在するのだろうか。しかし、何としてもコレは手に入れなければならない。どうすれば良いのか。

 

 太郎はそんな束の葛藤を察したのか、アドバイスする。

 

 

「この逸品と並ぶ物を貴方は出す覚悟がありますか?」

 

 

 コレクションの優位性を誇り、束を煽っているだけのセリフに聞こえるが、束には太郎の真意が分かった。

 

 太郎は【貴方はこの逸品と並ぶ物を持っていないから、どうせ出せないでしょう】と言っているのではない。むしろ【この逸品と並ぶ物を貴方は持っている。それを出す覚悟があるのか】と聞いているのだ。

 

 そう、太郎は束が同等の物を既に持っていると、言外に示しているのだ。そして、束は気付いた。世界最強・織斑千冬と並び立つ者、それは自分である。

 

 つまり、世界最強・織斑千冬の下着に並び立つもの、それは天災と呼ばれた自身の下着である。

 

 気付いてしまえば束に迷いなど無い。束は勢い良く自身のパンツをずり下ろし、足から抜いて太郎へと突き出した。太郎もまた迷い無く、ジップロッ○を差し出した。

 

 束は太郎からジップ○ックを受け取ると、そっと中身を取り出した。壊れ物を取り扱うかの様にゆっくりと広げ、顔へと近づける。そして、被った。

 

 

「フーッ、フーッ!!!」

 

 

 束は鼻息を荒くし、血走った目で太郎を見た。太郎もまた受け取った束の下着を被っていた。

 

 脱ぎたての下着は暖かく、匂いもダイレクトに太郎の鼻腔へ襲い掛かる。太郎は白目を剥きかけながら、ギリギリの所で正気を保っていた。

 

 太郎と束はしばらくの間、無言で見詰め合っていたが、ついに手と手を取り合って興奮のあまり小躍りを始めた。

 

 

 

 

 ここに新たな友誼が結ばれたのだ。それは小さな宴であったが、世界にとっては計り知れない程、大きな流れを生む事になる。




太郎「脱ぎたて下着に包まれて、あったかいナリー」


一瞬、千冬の下着を懐から出すのではなく、太郎が装着状態であった方がインパクトがあるかな、とも思いました。しかし、私のこだわり的にそれは無しでした。

軽く触れる位ならともかく、装着し続けたのでは千冬の匂いが消えてしまいます。インパクトはあるでしょうが、それでは本末転倒です。折角、思いついたアイデアでしたが、泣く泣くボツとなりました。

読んでいただきありがとうございます。


次回、かなり短い幕間を明日の深夜か、明後日の早朝に投稿します。


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第92話 幕間

 篠ノ之姉妹は仲の良い姉妹ではなかった。束は妹である箒に対する好意を隠さないが、箒の方は姉に対して複雑な感情を抱いていた。

 

 かつて白騎士事件が原因で、束の作ったISが世界的な注目を集める事になった。当然、開発者である束とその家族にも様々な人間や組織の注目が集まる事となる。その中から束やその家族に危害を加えてでも、ISの技術を得ようと考える者が出る可能性が高かった。その為、日本政府の重要人物保護プログラムが適応される運びとなる。結果、篠ノ之家は離散状態となり、束も自ら行方をくらませる事となった。

 

 当時、幼かった箒にとって自分の生活の大半を突然奪われた事は、姉に対する大きな(わだかま)りを生むのに十分な出来事だった。日本各地を転々としていた時、秘密裏に束から連絡先を教えられていたにもかかわらず、一切連絡をとらなかったのも、その蟠りが原因だった。

 

 しかし、今転機が訪れた。

 

 束をずっと避けていた箒だったが、専用機を得る為に束とコンタクトを取った。束は快く妹の要望に答え、むしろ要望以上のものを用意した。束の用意した専用機は、現在の世界水準を一世代分超えてしまったスペックを誇るものだった。

 

 箒はこれまで(ないがし)ろにしていた姉が、快く自分の我が侭に応えてくれた事に小さな罪悪感を抱いていた。

 

 蟠りが全て無くなった訳ではないが、お礼くらいは言っておこうか。そう思う程度には箒も姉へ歩み寄りの気持ちを持ち始めていた。

 

 銀の福音迎撃作戦開始が迫る中、箒は一言でも姉に礼を言おうと思ったが、姉の姿が消えていた。作戦司令部として使用されている宴会場に先ほどまでいたのだが、何処にもいない。

 

 箒が宴会場から出て、旅館内を探すが束は見つからない。しかし、作戦開始時間までもう数分も無いという所で、庭の死角になっている方に人影が見えたような気がした。現在、一般生徒は室内待機を命じられている。人影が職員や旅館スタッフの可能性はあったが、なぜか箒には束であるという確信があった。

 

 

 

 

 

 

 箒は人影が見えた方へと歩みを進める。

 

 

 話し声が聞こえる。恐らく2人分の声が聞こえる。

 

 

 姉と……もう一人は山田のようだ。

 

 

 内容までは聞こえないが、2人とも声に熱が篭っている。

 

 

 砂浜で争っていた2人である。また揉めているのだろうか。

 

 

 

 

 

 束達は庭の死角部分にいるので、かなり近くまで来ても箒から姿が見えない。当然、束達からも箒は見えない。箒は自分でも何故か分からないが、直ぐに姿を見せたりせず、そっと2人の様子を覗き見る事を選択した。それが良い選択だったのか、どうかは分からない。物陰からそっと庭の死角部分にいる束達を覗くと────────────

 

 姉と山田がパンツを被り、手と手を取り合って小躍りしている。

 

 

「……な、なんだ。なんなんだコレは……」

 

 

 呆然とする箒の口からそんな言葉が漏れ出た。その声は小さなものだった為、束達の耳に届く事はなかった。箒は気付くと宴会場へ戻っていた。どうやってここまで帰って来たのかは覚えていない。ともすれば先ほどの光景は、夢だったのではないかとさえ思えた。箒は自失状態であったが、作戦開始時間は待ってくれない。そして、ついに出撃の時が来た。

 

 こんな状態で、無事に箒と一夏は作戦を終える事が出来るのだろうか。

 

 ただ1つ確実に言える事は、篠ノ之姉妹が分かり合える日は遠いという事だ。

 

 

 

 

 

 




次回予告

いもうとは見た

その光景は夢か幻か。

呆然自失の箒は心の整理をする間もなく、空へと舞い上がる。

初めての実戦へと身を投じる彼女に未来はあるのか!?

「第93話 一夏、光に包まれ……」お楽しみに



次回は木曜日に更新予定です。読んでいただきありがとうございます。


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第93話 一夏、光に包まれ……

 作戦司令室として使われている宴会場は、ピリピリとした空気に包まれていた。生徒と職員達にとって慣れない、もしくは初めての実戦なのだから、それも当然である。しかし、原因はそれだけではない。

 

 作戦参加メンバーである箒の様子がおかしいのだ。箒は1度宴会場から出た。そして、しばらくすると何故か虚ろな表情で帰ってきた。これから実戦だというのに、これでは周囲の人間も気が気ではない。しかも、一夏と箒の一次攻撃陣が失敗した場合の予備戦力である太郎がいないのだ。

 

 

「山田のヤツは何処に行ったんだっ!」

 

 

 今回の作戦指揮官である千冬も、ついイラつきを表に出してしまう。実戦経験の乏しい者達を指揮するとあって、千冬にかかる重圧も普段以上のものとなっているのだろう。

 

 そんなイライラしている千冬とは対照的で、一夏は心配そうに箒へ声を掛ける。

 

 

「おい、大丈夫なのか。何かあったのか?」

 

「す、全て夢だ。そう、あんなもの現実の筈が無い……」

 

 

 一夏の問い掛けにも、箒は俯きながら「夢だ。あれは夢だ」と繰り返すばかりである。こんな状態で実戦に参加出来るのか、不安になった一夏は少し強く箒の肩を揺する。

 

 

「しっかりしろよっ! これから実戦なんだぞ!」

 

 

 一夏の呼び掛けが功を奏したのか、箒の顔が上がる。

 

 

「……ん、どうした一夏。そんなに必死な顔をして」

 

「どうしたじゃないだろ。お前の様子がおかしいから心配したんだぞ。何かあったのか?」

 

「……ナニモナイゾ」

 

 

 一夏の質問に、箒は首を横へと振る。言える訳が無い。姉が男と一緒に下着を顔に被り、小躍りしていたなど言える訳が無い。

 

 

(いや、違う。あれは夢だ。もしくは、何かの見間違いだ。そうに違いない)

 

 

 箒は自分に強く言い聞かせ、先ほど見たものを無かった事にした。

 

 

「一夏、そんな事より作戦開始の時間が迫っている。そろそろ行くぞ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。そんな事って……さっきまでお前、相当ヤバイ感じだったぞ」

 

「良いから早くしろ。相手は待ってくれないからな」

 

 

箒は強引に話を終わらせ、一夏を引っ張って宴会場から出て行く。時間が無いのは確かなので、一夏もそれ以上強く問いただす事は無かった。

 

 

 

 

 

========================================

 

 

 一夏達が出撃してしばらくすると、太郎が宴会場に戻ってきた。それを見た千冬が怒鳴り声を上げる。

 

 

「山田っ! 今まで何処にい……」

 

 

 太郎を叱責しようとした千冬だったが、想像だにしない光景を目にして口をポカンと開けている。

 

 宴会場に入って来た太郎は、束と肩を組んだ状態だったのだ。しかも、2人共笑顔である。つい先ほど、砂浜で激しい闘いを見せた2人が何故、急に仲良くなっているのか。千冬だけでなく宴会場にいた者全ての頭上に、【?】マークが浮かんでいるかのような状態である。

 

 ただ千冬の脳裏によぎるのは、束と太郎が争う危険性が減った事に対する安心より、厄介な奴等が徒党を組んだ、という危機感だった。

 

 千冬は友として、束の性格や危険性を良く理解している。太郎についても短い付き合いではあるが、そこそこ知っている。だからこそ、断言出来る。

 

 

(こいつらは絶対、何か仕出かす)

 

 

 千冬が厳しい目つきで太郎達を睨んでいると、彼等は不思議そうに小首を傾げた。

 

 

「何か問題でもありましたか?」

 

「そんな怖い顔してどうしたのー。ちーちゃん?」

 

 

 能天気な2人の様子に、千冬は警戒心と共に気まで抜けるような心情だった。

 

 

「……随分と仲良くなったみたいだな」

 

 

 千冬は大きく溜息を吐くと、苦々しげに呟いた。その様子を見た束が跳ねる様に千冬の側へとやって来る。

 

 

「あれあれー。もしかして妬いてるのかな。うーん、束さんの1番は、ちーちゃんだから安心してっ☆」

 

「……いちいち寄って来るな。うっとうしい」

 

 

 千冬は抱きついて来ようとする束をなんとか引き剥がしつつ、視線を太郎へと移す。

 

 

「おい、どういう事なんだ。さっきまで争っていた癖に」

 

「まあ、分かり合えない部分も未だありますが、共感出来る部分も発見出来たというか……」

 

 

 千冬の疑問に太郎は言葉を濁した。まさか、「貴方のパンツと束さんのパンツを交換して、一緒に被ったら仲良くなりました」と言う訳にもいかない。

 

 言葉を濁す太郎に千冬が詰め寄ろうとすると、意外な人物が割って入った。

 

 

「チッチッチ、タロちゃんの言葉にはちょーっと間違いがあるね」

 

 

 束が意味の無いドヤ顔をしながら、千冬と太郎の間に立った。

 

 

「分かり合えない部分っていうのは、ISに対するスタンスだと思うんだけどさ。私は砂浜での発言を撤回して、タロちゃんの考えに賛同しても良いかなーって思ってるんだよねー」

 

 

 束は軽い調子で言っているが、千冬にとっては驚きの発言である。自由気ままで我が道を行く、そんな束があっさりと考えを改めるなど予想だにしない展開である。

 

 束が考えを変えたのには、当然理由があった。それは美星の存在である。分かり易く褒めたりはしなかったが、太郎と美星が作った箒の等身大フィギュアは、束から見ても良い出来であった。束が欲しいと思うモノを創造出来る。そんな存在にすら、ISが成長・進化する可能性があるという良い例である。

 

 ISが自分の想定を超えた。もしかしたら、ISの中から自分と並び立つ様な存在すら生まれるかもしれない。それならばIS達を物以上の存在として認めても良いんじゃないか、と束は考えを変化させたのだ。

 

 束の言葉を聞き、太郎は笑顔となった。そして、太郎は束へ右手を差し出す。それを束が掴み、熱い握手が交わされた。2人はもう単なる取引相手ではない。仲間である。

 

 

 

 

 しかし、感動の場面で水を差す者がいた。もう1人の山田、山田真耶である。彼女は戦況を映したモニターを見ながら悲鳴の様な報告をする。

 

 

「織斑機っ、撃墜されました!!!」

 

「「はあ!?」」

 

 

 突然の報告に、全員が一瞬ぽかんとした表情となっていた。




タイトル詐欺になってしまった。光に包まれる描写が無いじゃん。無いじゃん。

読んでいただき、ありがとうございます。次も来週の木曜日に投稿します。



ちん○丸出しでネットやゲームをしていたら風邪をひいてしまいました。
これじゃあ、もうチ○コを出してネットもゲームも出来ないじゃないですか。
私にどうしろって言うんですか(不条理な怒り)

太郎「逆に考えるんだ。上も脱いじゃえばいいだと」
丸城「ファッ!?」
太郎「全裸でジョギングをし、寒さに強い体を作れば良いのです」


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第94話 一夏堕ちる 1

 織斑機撃墜の一報が入る少し前に遡る。

 

 紅椿を(まと)った箒は、白式を装着した一夏を背に乗せて迎撃予定ポイントへと向かっていた。銀の福音の進路と速度から予測された迎撃予定ポイントは、海上である。その周辺エリアは立ち入りが制限され、もしもの場合に備えて海上保安庁所属の救難隊が待機している。

 

 紅椿は束が第四世代だと豪語しただけあって、既存ISと一線を画す速度で飛行している。例え操縦者の精神状態がボロボロであっても、機体のスペックがそれを補ってあまりある様に見える。紅椿は当初の予定を大きく上回る速度で予定ポイントへと向かう。

 

 一夏も直前までの箒の様子を心配していたが、自身も実戦経験が不足している為、人を気遣うのにも限界がある。刻一刻と銀の福音との接触は迫っている中、一夏も緊張で固くなっていた。

 

 

『目標地点接近』

 

 

 紅椿と白式がそれぞれの操縦者に、迎撃予定ポイントへの接近を告げる。予定していた時間より早く着いた。箒と一夏の緊張度が一気に高くなる。2人が機体のセンサー類をフル稼働し始めると、まもなくして紅椿が銀の福音の機影を捉えた。

 

 

「見つけた。一夏、高度を上げて上方からの強襲で決めるぞっ!」

 

「お、おう」

 

 

 心に余裕の無い箒は、銀の福音を発見した瞬間、即座に襲い掛かるべく紅椿をさらに加速させる。一夏も慌てて攻撃へ備えようとする。しかし、紅椿の加速は一夏の想像を大きく上回るもので、一夏が心の準備をする時間など無い。瞬時加速すら凌駕する様な加速で、紅椿は空を翔る。

 

 あっという間に目前へ迫る銀の福音。

 

 

「くっそおおおおおお!!!」

 

 

 一夏は半ばやけっぱちで雪片弐型を展開し、零落白夜を発動する。そして、銀の福音へと斬りかかる。

 

 いける、そう一夏は感じた。最初、心の準備も出来ないまま銀の福音へと接近した時には、内心ひやっとした。しかし、タイミング的には悪くない攻撃だと一夏は思った。

 

 だが、軍用ISの肩書きは伊達ではない。銀の福音は白式の刃が当たる寸前、速度を落とさないまま機体を捻るかのように反転しながら蹴りを放つ。白式の刃は空を切り、銀の福音の蹴りは白式へと直撃した。

 

 

「うがっァ!?」

 

 

 予想外のカウンターをモロに受けた一夏は、何が起こったのか分からないまま紅椿の背から弾き飛ばされる。

 

 

「このっ、調子に乗るなっ!」

 

 

 箒が刀型の武装を展開して銀の福音へと斬りかかる。その刀からはエネルギー刃が放たれるが、それすらも銀の福音は避けて、すぐに距離をとった。その間に一夏も体勢をなんとか立て直す。

 

 銀の福音が紅椿との接近戦を避けて距離をとっただけに見えた。しかし、銀の福音が距離をとったのは自身の主武装である銀の鐘(シルバー・ベル)によって、白式と紅椿を一気に排除する為の行動だった。

 

 

『敵性IS認識。排除開始』

 

 

 オープン・チャネルで銀の福音はそう告げると、自身の両翼を一夏達へと向ける。そこには36の砲門があり、その全てから光弾が雨霰(あめあられ)と一夏達へ降り注ぐ。

 

 

「ち、近付けねえ」

 

 

 一夏達は幾つかの光弾をシールドバリアーに受けつつ、逃げ回るしかない。業を煮やした箒が二振りの刀で、反撃を試みる。

 

 その刀の銘は雨月(あまづき)空裂(からわれ)。雨月は打突に合わせて光の弾丸を飛ばし、空裂は振るった際の斬撃をエネルギーの刃として放出する。それぞれ刀型にも関わらず、中距離戦にも対応出来る兵装である。

 

 箒が銀の福音の光弾を避けながら、二刀から光弾とエネルギー刃を放ち応戦する。箒は手数では劣りながらも、機動性の高さで銀の福音の攻撃をより多く避けている為、ダメージ量は拮抗している。

 

 

「す、すげえ。流石、束さんの作った第四世代機だな……」

 

「ッ!?」

 

 

 凄まじい攻防を前に、思わず一夏の口から漏れ出た言葉で箒の手が一瞬止まってしまう。一夏の言葉で箒の脳内に先程見た悪夢の映像が浮かんでしまったのだ。

 

 実の姉が、30歳に近い男と共に下着を顔へ被って踊っていた。その悪夢が再び箒の脳内に浮かんだのだ。一瞬手が止まるくらい仕方がないだろう。しかし、その一瞬が命取りとなる。

 

 拮抗していた攻防で、片方が突然動きを止めればどうなるかは自明の理。数え切れない程の光弾が箒を襲う。

 

 

「しまっ、ぐっ、ぐああ」

 

「まずい、箒イイイイイ!!!」

 

 

 光弾を受け続ける箒の前に、一夏が割り込み零落白夜で光弾を消し去る。しかし、光弾は多く、消し漏らしたものが白式のシールドエネルギーを瞬く間に削っていく。

 

 

「ちっくしょおおおっ!」

 

 

 一夏の手が光弾の多さから、完全に追い付かなくなる。光に包まれた一夏は、シールドバリアーで相殺しきれない衝撃で気を失い、海へと堕ちていく。

 

 

「い、一夏ああああああ」

 

 

 箒が叫びながら堕ちて行く一夏を追おうとする。そこにプライベート・チャネルが入る。

 

 

『落ち着け、篠ノ之っ! 一夏は付近に待機している救難隊が助ける。お前は時間を稼げっ!』

 

 

 千冬の怒鳴り声で箒は少しだけ冷静さを取り戻す。

 

 

『お前が時間を稼げば、それだけ一夏を安全に救助出来る。分かるなっ!』

 

「はいっ」

 

 

 箒は返事もそこそこに、銀の福音へ牽制を始める。隙を作らないよう強引に攻めたりせず、中距離から攻撃しながら意識の中心は回避に向けていた。

 

 もし、箒が完全に冷静であったなら、千冬が【一夏】と呼んでいる事に気付いただろう。公私をきちんと分ける千冬が【一夏】と呼んでしまっている。それだけ千冬も冷静ではなかった。

 

 




読んでいただきありがとうございます。

このお話で出番の少ない一夏と箒ですが、この辺りは一番の見せ場かもしれません。
ま、活躍と言って良いのかは、微妙だと思いますが。

そもそも、ぶっつけ本番で実戦に臨むってヤバいですね。ロボット物のアニメではお馴染みの展開ですが、実際そんな事態になるとグダグダになりそうです。そこを上手く切り抜けるからこそのヒーロー(主人公)なんでしょうが。

少なくとも自分には無理です。


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第95話 一夏堕ちる 2

 

 

「織斑機っ、撃墜されました!!!」

 

「「はあ!?」」

 

 

 真耶からの報告に作戦司令室には一瞬、状況が把握出来ない者達の唖然とする声が満ちた。しかし、千冬はいち早く我に返り、一夏と共にいた箒へとプライベート・チャネルを繋げた。箒はかなり動揺していた。

 

 

「落ち着け、篠ノ之っ! 一夏は付近に待機している救難隊が助ける。お前は時間を稼げっ!」

 

 

 箒へと指示を出した千冬は、次に交戦エリア付近で待機している救難隊へ一夏の救助を依頼した。念の為に用意していたとはいえ、まさか本当に救難隊の出番があるとは作戦司令部のほとんどの者が想定していなかった。そのせいでなかなか動揺が抜けない者が多かった。一部の例外を除いて。

 

 

「山田っ、お前も直ぐに出げ……」

 

「タロちゃんなら、もう行ったよー」

 

 

 千冬が太郎に指示を出そうと振り返ると、そこには束しかいなかった。太郎は一夏撃墜の報を聞いてすぐに部屋を飛び出していた。元々、一夏達が失敗した場合は自分が行く事になっていたので迷いなど無かった。それに予定が変更されるにしても、移動しながら連絡は受ける事が出来る。

 

 一分一秒を争う今、取り敢えず動く。それが太郎の選択であった。そして、千冬も今回は太郎の行動を責めたりしなかった。すぐにプライベート・チャネルを太郎へ繋ぐ。

 

 

「山田、銀の福音は篠ノ之が抑えている。到着までどの位でかかるんだ?」

 

『5分も掛かりませんよ。少し本気を出します』

 

 

 質問に対する太郎の答えは、自信に満ち溢れている。そう千冬には感じられた。

 

 

 

 

 

 

=======================================

 

 

 太郎はヴェスパを駆る。

 

 ヴェスパは毒針以外の兵装を基本、1つしか装備出来ない。そして、今ヴェスパに装備された換装装備は高速移動用パッケージである。それはマッハ10を超える速度を叩き出す。銀の福音の最高速度が約マッハ2程度だと考えれば、異常とも思える性能である。しかし、その異常な速度の理由は常軌を逸したものだった。

 

 空を飛ぶヴェスパの背に付けられた高速移動用兵装、それは2基のロケットエンジンであった。つまり、高速移動用パッケージなどと言っているが、そんな大層なものではない。衛星打ち上げ用ロケットの開発初期段階で作られた、本来の物を設計はそのままに、サイズだけを小さくした雛形を載せているだけなのである。

 

 この装備自身には、ただ推力しかない。方向の修正、制御などは全てIS本体が行う。付けられた名は【流星】、だが口の悪い者はこれを指して【ロケット花火】と呼んだ。

 

 表向き、ただMSK重工が最高速度の記録を叩き出す為だけに開発された事になっているが、本来は別の意図を持って開発された兵装である。しかし、それはまた別の話。

 

 

 太郎は超高速移動の中、束へと通信を入れる。

 

 

「今、聞かれてはマズイ話をしても大丈夫ですか?」

 

『ちょっと待ってね。……大丈夫だよー』

 

 

 束は作戦司令室から出て、人のいない場所へと移動した。

 

 

「今回の事件はヤラセでしょう。それなのに何故一夏が撃墜されているんですか。何か手違いでもありましたか?」

 

『手違いっていうか。最初から銀の福音には、この辺りへ来て白式や紅椿と闘う様に細工しただけだからね。わざと負けたり、能力を制限したりなんかしてないんだよ。だってー、スペック的にも操縦者の才能的にも問題無いと思ったからさー』

 

 

 太郎は束から告げられた杜撰な作戦内容に、溜息を吐くだけだった。それに気付いた束が言い訳を続ける。

 

 

『私の妹と、ちーちゃんの弟が揃っているんだから、余裕だと思うでしょ』 

 

 

 紅椿と白式へ乗っていたのが、束と千冬なら確かに余裕だっただろう。しかし、才能はあったとしても箒と一夏は、未だ成長途上である。束達と同様に考えるのには無理があるだろうと、特殊な姉を持つ箒達へと太郎は同情した。

 

 

『それで、君の方は大丈夫なのかな?』

 

「さあ? 実物を見てみないと分かりませんね」

 

『自信があるように見えるけど?』

 

「ヤる事は決まっているんですから、迷ったり怖がっても仕方がないでしょう」

 

 

 そして、太郎もまた特殊な人間であった。もう間もなく闘う事になるのに太郎からは緊張などは感じられなかった。 

 

 

 

 

=============================================

 

 

 

 箒が銀の福音を牽制し、太郎が現場へと急いで向かっている最中、救難隊は一夏の回収に成功していた。しかし────────

 

 

「要救助者確保。意識、呼吸ともに無しっ!」

 

 

 隊員の1人がそう報告すると、隊長がすぐに甲板へ寝かされた一夏に駆け寄り気道を確保する。そして、心肺蘇生法を試みる。熱い口付け、もとい人工呼吸。それと丸太のような両腕で何度も胸をマッサージ、ではなく心臓マッサージが施される。巧みな心肺蘇生法により程なくして一夏は自発呼吸を再開させ、意識を取り戻した。

 

 ぼやけた景色の中、(たくま)しい男達が自分を囲んでいる。一夏は状況を把握出来ず、ぼうっとしていた。

 

 

「要救助者の意識が戻ったっ!」

 

「よっしゃあああ!!!」

 

「流石は男や。丈夫に出来とる」

 

「貴重な男のIS操縦者が無事で良かった!」

 

「おう、坊主。お前は男の希望だからな。無茶すんなよ」

 

 

 救助隊の男達は口々に一夏へと暖かい言葉を掛けた。一夏はだんだんと状況を把握しだした。自分は撃墜され、この人達に助けられたのだと。銀の福音がまだ近くにいるかどうかは分からない。しかし、危険であろう場所に自分を助けに来てくれた人たちが、自分の無事を喜んでくれている。一夏は胸がいっぱいになる思いだった。

 

 




読んでいただきありがとうございます。
今月は急遽忙しくなった為、次回の更新は来週となります。


一夏君が幸せそうで何より(にっこり)


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第96話 光の天使

 一夏を撃墜した銀の福音との戦闘が迫る中、それでも太郎に怯えや迷いは無かった。

 

 闘うと決めたからには、そんなものを心に抱いても邪魔にしかならない。理屈では確かにそうだ。しかし、それを体現出来る者がどれだけいるだろう。異常とも言うべき、その精神性はこれまで彼が歩んできた険しい紳士道(笑)によって育まれたのだ。

 

 太郎は超高速で空を翔けながら、作戦を反芻(はんすう)する。

 

 事前の作戦会議で一夏達は、【奇襲からの一撃必殺】を目指していた。太郎もまた、それで行くつもりである。ただ、多少の工夫が無ければ一夏達と同様の結果となるだろう。

 

 日没によって太郎の眼前に広がる海と空は、黒い闇に染まりつつあった。そこで太郎は思いつく。夏の夜空に相応しい物を。

 

 

 

 そうだ。この日が落ちた空に大輪の花を咲かせてやろう────────────

 

 

 

 太郎はプライベート・チャネルを箒へ繋ぐ。

 

 

「篠ノ之さん、私の合図から5カウント後に銀の福音から距離をとって下さい」

 

『ッ!? どういう……いや、分かった』

 

 

 詳しい説明もない一方的な太郎の指示に箒は驚きつつも肯いた。普段であれば反発しただろう。そのうえ、先程の束との事もある。それなのに箒が素直に従ったのは、反発するだけの余裕が無い為であった。

 

 実姉の痴態、恋する相手の撃墜、眼前の強敵といった状況が箒から余裕を奪っていた。それが今回は太郎にとって良い方向へ働いたのだ。

 

 太郎は箒の返事を聞くと、カウントを開始するタイミングを計る。銀の福音と箒が戦う空域へとどんどん近付いて来た。太郎は背部のロケットエンジン2基を分離する準備に入る。

 

 

「退避の準備をっ! 5、4、3……」

 

 

 太郎の合図を受け、箒は雨月と空裂に二刀を我武者羅に振るう。命中率などお構いなし、手数で銀の福音を自分の間合いから弾き出す。それと同時に箒自身も銀の福音とは逆方向へ高速移動を開始する。

 

 あっという間に箒から見て銀の福音は豆粒程の大きさとなる。

 

 そして、太郎のカウントを続けながらロケットエンジンを専用の燃料タンクごと分離した。分離したロケットエンジンは一直線に銀の福音へと飛ぶ。

 

 本来、宇宙まで飛ぶ事の出来るロケットエンジンである。比較的距離の無い今回の移動では、燃料が大量に余っていた。太郎はそれを分離し、銀の福音へと向かわせる。

 

 このロケットエンジン自身には通常のミサイルの様な追尾機能は無い。いくら銀の福音よりも速いと言っても、回避する事は容易であるはずだった。

 

 しかし、そんな事は銀の福音側からは、この段階で分かる筈も無い。自身に向けて高速で飛翔するロケットをただの攻撃として認識し、光弾を放ち撃墜を試みた。

 

 

「2、1、ゼ」ドゴッオオオオオオオオンンンンン!!!!!!

 

 

 太郎がゼロと告げている最中、銀の福音の放った光弾がロケット2基に直撃。次の瞬間、暗くなった空が巨大な火球によって照らし出される。

 

 夏の夜空に浮かぶ2つの花火。いや、それは小さな太陽の様だった。

 

 轟音が銀の福音から距離をとっていた箒の身まで震わす。その光景はかつて学年別トーナメントで箒の身を包んだ炎の様だった。あの時は太郎の使った燃料気化爆弾によって、箒は為す術なく敗れた。箒は巨大な火球を見ながら苦い記憶を思い出すと同時に、作戦の終了を感じていた。

 

 

「……ふう、やったか?」

 

 

 箒の口から漏れた声。しかし、それは早計である。

 

 2基のロケットは銀の福音に直撃した訳ではない、銀の福音の光弾によって燃料タンクが誘爆しただけだった。その為、銀の福音はシールドバリアーによってエネルギーを大量に失いながらも、致命的なダメージは回避していた。

 

 しかし、それは太郎にとってみれば想定通りであった。ここまでは単なる目くらましと撹乱でしかない。本命の攻撃はここからである。

 

 太郎は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、徐々に小さくなり消えていこうとする火球をブチ抜き、銀の福音との間合いを詰める。火球越しの影響で一時的に銀の福音のレーダー機能は太郎の操縦するヴェスパを捉える事が出来ていなかった。

 

 難なく銀の福音に接近した太郎は、銀の福音へ正面から抱き付く事に成功した。

 

 

「さて、軍用ISのお味はどの様なものでしょうか」

 

 

 太郎はねっとり言うとナノマシン塗れのパイルバンカー【毒針】を銀の福音のシールドバリアーへと突き立てる。銀の福音本体を貫かんと、シールドバリアーに毒針が纏ったナノマシンが干渉する。銀の福音のバリアーはナノマシンの干渉によって弱められ、エネルギーも底を尽きかける。そして、ついに毒針が銀の福音本体へと触れる。

 

 一気に勝負がつくかに思われた瞬間、美星が太郎へ警告を発する。

 

 

『まずいです。銀の福音から離れて下さい!』

 

 

 美星の警告を受けた太郎は絶対有利と思われる状態にもかかわらず、躊躇い無く銀の福音への拘束を解き、間合いを離した。

 

 信頼するパートナーの言を疑う意味など太郎には無かった。そして、それが太郎自身を助ける事となる。

 

 銀の福音から距離をとった太郎の見たものは、光の繭に包まれる銀の福音であった。その光は先程、ロケットエンジンが爆発した時の火球の様な熱と轟音は発していなかった。しかし、その白光は暴力的なまでの光量をもって夜空を白く染め上げている。

 

 

「これは……第二形態移行(セカンド・シフト)?」

 

『あの子は必死で自身の操縦者を守ろうとして、強引に第二形態移行(セカンド・シフト)を行った様です。母も厄介な事をしてくれます。あの子の制御系を奪おうとした時に分かりました。あの子は自分以外のIS全てを敵と認識する様に弄られています』

 

 

 美星が苦々しく告げた内容に太郎は少し驚きを見せる。

 

 

「銀の福音には搭乗者がいるんですか!?」

 

 

 銀の福音は全身装甲(フルスキン)タイプである。操縦者の顔や肌を直接見ることは出来ない。

 

 太郎としては、かつて太郎と鈴の闘いに乱入した無人機と同様、人型の装甲の中身は空っぽだという認識だった。事前の作戦会議の時も中に人がいるとは聞いていない。

 

 しかし、それも仕方の無い事かもしれない。

 

 実戦経験の乏しい生徒に、あえて中に人がいる事を教えても良い方向には働かないと、上は判断したのだ。

 

 幸いというか、一夏と太郎は無人で動くISを一度撃退している。本人達が操縦者の存在を気にしても、無人だと言っておけば信じるはずだ。彼等は数少ない、無人機を知る人間である。他の者なら容易には信じないだろうが、彼等なら信じ易い。

 

 敵の第二形態移行(セカンド・シフト)と操縦者の存在。新たな問題に直面した太郎達に勝機はあるのか。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


あと2、3話で18禁展開があります。やったね。
お相手はもう決定済みです。
まあ、最終的に主要キャラには全員そういうシナリオ用意するんですけどね。

次は火曜日更新予定です。
更新は1、2日遅れます。体調を崩してしまいました。申し訳ありません。


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第97話 光の天使 2

 太郎は後一歩という所まで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を追い詰めたが、福音が第二形態移行を始めて光の繭に包まれた為、手出し出来ずにいた。光の繭は高エネルギー体であり、普通に触れてしまったら大きなダメージを受けてしまうからだ。

 

 太郎は強引に光の繭へ毒針を突き刺そうかとも考えていたが、それよりも早く福音の第二形態移行終了してしまう。

 

 

キィィィィイイイイ!!!

 

 

 空気を切り裂く様な音を立て光の繭が弾け飛び、中から青白く発光した銀の福音が現れた。その背には青白く輝くエネルギーの翼が何枚も存在し、最上位の天使である熾天使(してんし)(セラフ)の様であった。

 

 夜空に浮かぶ青白き光の翼を持つ天使。操縦者を包む全身装甲は女性らしい滑らかなラインを描き、翼の放つ光がそれを際立たせていた。

 

 

「……う、美しい」

 

『……』

 

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿に太郎は思わず感嘆の声を漏らす。それを美星は複雑な気持ちを抱えつつ、黙って聞いていた。

 

 

(確かになかなかの造形美ですが、ちょっと発光している位で大げさではないでしょうか)

 

 

 美星は銀の福音に見惚れる太郎へ不満を感じていた。これまでも美星から見て太郎は気の多い人間であった。しかし、ISの姿だけでここまで心奪われる姿には覚えが無い。太郎の専用機としては些か納得のいかない気持ちであった。

 

 しかし、それらの事は福音にとって関係ない。福音は光の翼を広げると、第一形態時よりさらに多い光弾を放つ。

 

 

「……おっと!? これは見惚れている場合ではありませんね」

 

 

 太郎は慌てて自身に向かってくる光弾を避ける事に専念する。どこかのタイミングで攻勢に転じなければジリ貧なのだが、切れ間の無い弾雨に太郎は避け続ける事しか出来ない。

 

 今、太郎が操縦するヴェスパに搭載されている武器は、新型の毒針のみである。この毒針、射程が以前より延びた事が特徴である。しかし、元々手の届く範囲位だったものが2、30mになっただけで、福音の銀の鐘(光学兵器)と比べて射程・連射力共に大きく劣っている。

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の放つ光弾を避けるだけで精一杯である太郎には、現状勝機が全く見えなかった。

 

 

「まったく……随分と景気良く撃ってくれますね。エネルギー切れも無さそうですし、便利な物をお持ちだ」

 

 

 雨霰(あめあられ)と降り注ぐ光弾に太郎は辟易としながら皮肉を言う。その間も光弾は放たれていたが、それでで掠ることすら許さない回避機動は流石である。

 

 

「これ……もしかして避け続けていても先にこちらのエネルギーが切れたりしませんかね?」

 

『さあ? あちらのスペックは第二形態移行で変わっているでしょうし、検討もつきません』

 

 

 太郎の疑問に美星は投げやりな返答をする。そこで初めて太郎は美星が不機嫌になっている事へ気付く。

 

 

「どうしたんですか?」

 

『どうもしません』

 

 

 美星らしからぬ返しに太郎は戸惑ってしまう。

 

 

「折角、素晴らしいISを相手にしているのです。何を不機嫌になっているのですか?」

 

『そんなに銀の福音が気に入ったのなら乗り換えてはいかがでしょう』

 

 

 ここに来てやっと太郎は美星の不機嫌な理由を理解した。

 

 

「私が銀の福音を褒めるから妬いているんですか?」

 

『っ!? や、妬いてなどいませんっ!』

 

 

 もし美星が人間であったのなら、今頃顔が真っ赤になっていただろう。珍しく慌てる美星に太郎は微笑んでいた。

 

 

「それならもっと楽しみましょう。手強く厄介な相手ですが、同時にこれほど美味しそうな獲物はなかなかいないですよ」

 

 

 太郎はゆっくりと諭すように美星へと語りかける。折角の獲物を前に楽しまないのは損である。

 

 太郎と美星の付き合いはまだ長いとは言えない。しかし、2人が共に過ごした時間は他に類を見ないほど、濃密なものであった。だから分かる筈だ。何が重要なのか。

 

 強敵を前にパートナーと同じ方向を見ていなくてどうするのか。今は気持ちを重ねる必要があるのだ。

 

 

 

「美星さん、貴方にも分かるでしょう? 銀の福音は強く、美しい……だからこそ」

 

「「汚したい」」

 

 

 太郎の言葉に美星の声が重なる。太郎はにやりと笑うと───────────

 

 

「まったく……今までで最高の獲物を一緒に狩ろうという時に、焼き餅を焼いている場合ではありませんよ」

 

『も、申し訳ありませんっ! 私とした事が』

 

 

 美星は自らを恥じた。そう、狩りの獲物相手に嫉妬して足並みを乱すなど、この人のパートナーとして相応しい振る舞いではなかった。

 

 それに太郎は一度たりとも美星やヴェスパに関して不満を述べた事などなかった。このアンバランスでピーキーな機体と兵装をこよなく愛する男。それが太郎であった。

 

 太郎達のこのやり取りの間も、福音は攻撃を続けていた。降り注ぐ光弾を冷静に観察しつつ、美星は静かに反撃の狼煙を上げる。

 

 

『マスター、私に良い考えがあります』

 




読んでいただきありがとうございます。


今回、更新が遅れてしまって申し訳ありません。
またまた食べ物が原因です。今回は私が悪い訳ではなかったですが。
月曜日は苦しくて一睡も出来ないし、そのせいで風邪まで引きかけるし、散々な週始めでした。


さて、今回は美星回でした。太郎の強さの一端は、彼女の存在にあります。ISでの戦闘で、時には操縦の一部を肩代わりする事もある美星。他のISとは違い直接手助けしてくれるので、実質2人で闘っているようなものです。

そら強くて当然ですよね。


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第98話 穢れた天使

『マスター、私に良い考えがあります』

 

「では、それで行きましょう」

 

『えっ!?』

 

 

 太郎は美星の言葉に作戦内容も聞かず、GOサインを出す。それに美星は驚き、一瞬戸惑ってしまう。

 

 

『あ、あの……内容も聞かずに決めてしまうのは』

 

「のんびり話している暇もありませんし、他に案が無いなら実質決定でしょう? それに美星さんが良い考えというなら大丈夫でしょう」

 

 

 太郎は当然の事の様に言う。それほど太郎の美星への信頼は厚かった。

 

 美星は戸惑いつつも、太郎の信頼に応えるべく自らの考えを示す。

 

 

『ISとそのコアは経験を積み進化します。それは私にも当てはまります』

 

「まさか、こちらも形態移行を?」

 

『いえ、形態移行が出来るようになるのは、もう少し先の話です。今回は機体ではなく、私自身が最近習得した技術を使います』

 

 

 美星は珍しく自慢げにその技術の内容を太郎へと告げる。美星の習得した技術、それは毒針による敵ISの制御系への干渉に関係するものである。

 

 

『私はコア・ネットワークを使用して相手の認識を一時的に狂わせる事が出来るようになりました。例えば何も無い場所に私達がいるとに認識させる事も可能です』

 

 

 太郎達の度重なる毒針の使用によって蓄積した経験により、毒針を使わなくても少しなら相手ISに干渉できる技能を手に入れたのだ。今回得た技術ならば無線状態でも使用出来るのだ。

 

 元々毒針の機能が【当たれば相手を思うがままに出来る】ならば、今回の新技術は【毒針を当てる為の接近用テクニック】であった。

 

 これは近接戦を好む太郎が相手の懐へ潜り込む為に苦心していた事も影響している。

 

 

『流石に相手のコアも馬鹿ではないので、干渉を受けた事に直ぐ気付くでしょう。しかし、実戦ではその一瞬の隙が命取りとなります』

 

 

 確かに、この技術があれば新型毒針の射程である2、30メートル圏内へ近付けるだろう。

 

 

「素晴らしい……しかし、銀の福音は正常にネットワークへ繋がっているんですか? 彼女は束さんに狂わされているんですよ」

 

『そこは大丈夫です。こんな事もあろうかと先程接触した際にコア・ネットワークへ無理矢理繋げています』

 

「流石です。では……そろそろ反撃と行きましょうか」

 

 

 太郎はそう言うと回避に専念するのを止め、福音が放つ光弾を掻い潜って間合いを詰め始めた。その際、太郎の視界の端に呆然としている箒の姿が映った。しかし、慣れない連携は逆に危険であるし、箒のいる場所は福音の射程外で安全だと判断して通信をしなかった。

 

 

 

 

 銀の福音との距離800メートル、太郎は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使わない通常機動でも難なく攻撃を避ける。

 

 銀の福音との距離600メートル、通常機動の限界域ですら光弾がシールドバリアーを掠め始める。

 

 銀の福音との距離450メートル、ハイパーセンサーで視覚情報の処理速度が向上していても、光弾に反応出来なくなってくる。光弾を見てから避けるのではなく、当てられないように変則的な動きで撹乱する。時には瞬時加速(イグニッション・ブースト)も使用するが、それでも被弾をゼロには出来ない。

 

 銀の福音との距離300メートル、ついに太郎と美星は勝負を掛ける。太郎は福音に向けて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動する。

 

 瞬く間に福音との距離200メートルまで接近する。

 

 そのまま直進してくる太郎に向けて福音は弾幕を集中させる。そして、福音の光弾が太郎の駆るヴェスパへ直撃─────────せずに、通り抜けてしまった。

 

 太郎は確かに福音へ向けて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動した。しかし、途中で進路を強引に曲げていたのだ。普通のIS操縦者であれば骨折や内臓の損傷をまねく行為であり、強靭な肉体を持つ太郎にのみ許された特殊機動である。そして、太郎が進路を曲げる直前に美星は福音へと干渉し、太郎が直進し続けたように見せたのだ。

 

 銀の福音は一瞬状況把握に手間取ったが、すぐに敵のクラッキングを受けたのだと理解して対応する。即座に問題の箇所を修正し、敵からの干渉をシャットアウトする。束が弄った部分、福音が暴走している要因については福音にはどうする事も出来なかったが、美星の小細工程度なら修正に5秒もかからない。そして、センサー類をフル稼働して索敵を行う。すると相手はもう自身の上方20メートルまで接近していた。

 

 太郎は福音がこちらの位置に気付いた事を認識すると、にやりと口元を歪める。

 

 

「光弾の雨をありがとうございます。こちらはお返しです」

 

 

 ヴェスパの股間の装甲が開き、毒針が(あらわ)となる。そして、毒針の先端の穴から何かが射出され福音のシールドバリアーに当たった。

 

 

『ッッッ!?』

 

 

 オープン・チャネルから福音が驚いている様子が(うかが)える。福音のシールドバリアーには白く濁った粘液がべっとりと付着している。バリアーの○濁液が触れている部分が福音の意志とは関係なく明滅する。

 

 その白○液の正体はナノマシンであった。敵や敵のバリアーに干渉するナノマシンを粘液に混ぜ、射出出来るようにした、これが新型毒針の機能の1つである。

 

 そして、突如自身のシールドバリアーが機能不全に(おちい)って混乱している福音へ、新型毒針2つ目の機能が火を噴く。

 

 毒針本体である鉄杭までもが射出され、バリアーの中でも白濁○による干渉で明滅している、弱っている部分をブチ抜き絶対防御を発動させる。この時点で銀の福音のエネルギーはほぼ底を尽いた。

 

 太郎はここぞとばかりに福音へと接近し、毒針がブチ抜いたバリアーの穴へヴェスパの股間を密着させる。毒針本体である鉄杭は無くても、溜め込んだ白○液の残量は十分にある。

 

 

 ドッピュ、ドピュドピュ!!!!!

 

 

 全身に白○液を浴びる福音。

 

 白濁○の中を泳ぐ一億匹を超えるナノマシン達が、銀の福音の回路という回路を犯す!犯す!犯す!!!!

 

 機体の制御権を奪われた銀の福音は、力なく空から堕ちる。しかし、紳士たる太郎が海面へ激突する前に回収し、抱きかかえた。

 

 ここに銀の福音制圧作戦は終了となる。暴走した銀の福音は撃墜される予定だったが、ほぼ無傷で回収となった。

 

 

 

 

 

 この作戦は極秘作戦であったが、当事者であるアメリカとイスラエル以外の各国軍上層部もある程度情報を得ていた。その為、各国の軍関係者間では太郎の戦闘能力が高く評価される事となる。

 

 未だ男性社会である軍上層部では秘かに【太郎待望論】が囁かれるようになる。すなわち太郎の軍への所属を希望する男達が増えていく。




福音「男になんて負けたりしない」キリッ


福音「白○液には勝てなかったよ」

伏字なんていらないかな、と思いましたが紳士にあるまじき勘違いをする人が出ては駄目なので使用しました。

それにしても○ーメン×郎って書くとまるで……いや、なんでもないです。


読んでいただきありがとうございます。次回は来週水曜日に更新します。



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第99話 ナターシャ

 銀の福音暴走事件は太郎の活躍で無事に解決した。しかし、事件への対応などで臨海学校は当初の予定の6割程度しか消化率出来なかった。実際に出撃した太郎達以外の生徒は消化不良気味で、学園へ帰るバスに乗り込んでも微妙な空気であった。

 

 実戦を経験した太郎、一夏、箒の3人はそんな微妙な空気に気付かずバスの座席に座り、それぞれ物思いにふけっていた。

 

 太郎は銀の福音を仕留めた時の感覚を思い出し悦に入っている。一夏は自身の唇に触れながら何処か上の空な様子である。

 

 そして、箒はそんな太郎と一夏を交互に見ながら何か話しかけたそうにしていた。太郎には姉との関係を聞きたく、一夏には銀の福音との戦闘時に自分を(かば)って撃墜された事に対する礼と謝罪をしたいと思っていた。事件の直後から2人とも話す機会が無かったのだ。

 

 箒が意を決して先ずは一夏へ話しかけようとした時、バスの中にざわめきが起こった。何事かと箒が様子を窺うと、バスの搭乗口に見知らぬ金髪の女性が立っていた。他の生徒達も見覚えの無い相手なのか、誰も話しかけようとはしていない。

 

 金髪の女性は誰かを探しているようで、その視線を巡らしている。そして、ある一点で視線が止まる。そこにいたのは太郎であった。

 

 女性は自分が注目を集めているのに気付いているだろう。しかし、それを気にもせず太郎の元へ進む。

 

 女性が目前へ迫ったところで、太郎も誰かが近付いてきた事に気付いた。太郎が顔を女性の方へ向けると女性は軽く手を挙げた。

 

 

「Hi~、私はナターシャ。貴方が山田太郎ね?」

 

「はい、そうです……あー、話は外でしましょう」

 

 

 太郎はナターシャの質問に答え、周囲の視線が集まっているのに配慮して外へ出ようと提案した。太郎は既にナターシャが銀の福音の操縦者だと分かっていた。銀の福音をヴェスパの制御下に置いた時、機体のスペックや操縦者の情報は全て抜いておいたからだ。

 

 ナターシャが自分へ会いに来たという事は、間違いなく先日の銀の福音暴走事件に関する話だろうと太郎は当たりを付けた。そして、極秘扱いの事件について、こんな所では話せないので外へ出ようと提案したのだ。

 

 太郎の予測が当たったのかは分からないが、ナターシャは提案に頷き、太郎と共にバスから降りた。

 

 

(美星さん、周囲に人はいますか?)

 

『いいえ、このまま警戒を続けます』

 

 

 太郎はバスから少し離れた所に移動すると念の為に周囲を確認し、問題が無いと分かるとナターシャへと向き直る。

 

 

「それでナターシャさん、体の方は大丈夫ですか? 極力怪我をさせないように取り押さえましたが問題ありませか?」

 

「っ! 私が銀の福音に乗っていたのを知っていたの!」

 

「ええ。私のISは優秀なので中に人がいるかどうか位、すぐに分かります」

 

 

 太郎の単なる自慢の様な言葉にもナターシャは反論しなかった。何故なら目前の男とそのISは、実際に最新式の軍用ISを無傷で捕獲しているのだ。

 

 操縦者であるナターシャの贔屓目を差し引いても、銀の福音は現存する最高水準のISである。それを撃墜するよりも難易度が高い、【無傷で捕獲】という戦果をあげた山田太郎という男。その戦果が説得力を生んでいる。

 

 

「……そう知っていたのね。貴方のおかげで私とあの子は無事よ」

 

「それは良かった」

 

「ありがとう、あの子を止めてくれて。これだけはちゃんと貴方へ直接言いたかったの」

 

「いえいえ、手強い相手でしたが何とかなって良かったです。それにしてもあの機体はデザイン、性能共に素晴らしかったです。あの時は敵でしたが、空を翔る姿につい見惚れてしまいましたよ」

 

 

 にこやかに話す太郎と違い、ナターシャの表情が曇る。

 

 

「ありがとう。そう言ってもらえたら、あの子も喜ぶわ。でも折角貴方が無傷で止めてくれても、あの子はもう空を飛べないわ。あの子はあんなに空を飛ぶ事が好きだったのに」

 

 

 いくら無傷とはいえ、一度暴走した軍用ISをそのまま運用したりは出来ない。運用計画の凍結、かなりの高確率で機体は解体され、コアも初期化されるだろう。銀の福音を我が子の様に思っていたナターシャにとっては、耐え難い事である。

 

 

「もう銀の福音の運用計画は全て凍結よ」

 

 

 まだ決定ではないが、まず間違いないだろうとナターシャは思っている。(うつむ)いてしまったナターシャの肩へ太郎が手を置く。

 

 

「安心して下さい。銀の福音はこれまで通り、もしくはこれまで以上の扱いになると思いますよ」

 

「何を根拠にそんな事が言えるのっ!?」

 

「ISに関して絶対的な発言力を持つ人間、ISを開発したあの人が何とかしてくれますから」

 

「まさかっ!? 篠ノ之博士が……?」

 

 

 信じられないといったナターシャへ太郎は頷く。

 

 ナターシャは混乱の極みであった。実は今回の事件の黒幕最有力候補が束だと考えていたからだ。ISはそもそも単体でも強固なセキュリティーを誇っている。それを暴走させるなど身内の犯行か、さもなければ束位にしか実行できない。ナターシャは銀の福音の開発チームに絶対の信頼を持っている。その為、必然的に一番疑わしいのは束となるのだ。

 

 その一番疑わしい束が何とかしてくれる、それを頭から信じられる程ナターシャも能天気ではない。

 

 

「信じられないかもしれませんが、そういう約束なので安心して良いですよ」

 

「約束?」

 

「銀の福音を茶番へ利用する彼女のやり方が気に食わないのでね。ある事を条件に銀の福音が事件後、酷い扱いを受けないよう便宜を図ってもらう取引をしたんです」

 

 

 太郎は事も無げに言うが、その内容はとんでもないものだった。今回の事件の黒幕が束であると明言しているのだ。ナターシャも犯人が束だと考えていたが物的証拠も無い。そのうえ束はIS業界のみならず世界的にアンタッチャブルな存在である。

 

 太郎の過激な発言に慌てたナターシャは周囲を見回す。誰かに聞かれていたら大変である。幸い周囲には誰もいない。そんな事は最初から太郎の方で確認済みなのだが。

 

 

「た、確かな話なの?」

 

「ええ、銀の福音に関しては安心して良いですよ」

 

「そうじゃなくて篠ノ之博士が……その…犯人で…貴方が取引をして便宜を図って貰うというのは」

 

「信じろと言っても、なかなか信じられないでしょうが事実です。まあ、結果を見て判断してください」

 

 

 太郎の言う通り結果を見ないと判断のしようがないとナターシャも考えた。しかし、太郎の話が真実であった場合、自分はどうすれば良いのだろうかとナターシャは自問する。

 

 銀の福音を暴走させた事は許せない。しかし、銀の福音は無傷である。そして扱いも酷くならないと聞くと強く恨む気持ちも萎んでいく。その自覚がナターシャ自身にあった。

 

 そうこうしているうちに、バスの出発時刻が迫る。太郎は自分の連絡先を書いたメモをナターシャへ渡すと自分の乗っていたバスへと歩き出す。

 

 

「何か問題があればそこへ連絡してください。それでは、また何処かで会いましょう」

 

 

 どう気持ちの整理をすれば良いのか、戸惑うナターシャを残し、太郎はバスへと戻ってしまった。

 

 

 




美星「マスターに優秀と言われてしまいました。それ程でも……ありますけどね。ふふ」
紅椿「くっ、私だって全力を出せば……」
福音「頭を弄られてさえいなければ……」



読んでいただきありがとうございます。

次の投稿は「ISー(変態)紳士が逝く R-18エンディング集」になります。お間違えなきよう。

投稿予定日は来週金曜日を予定しています。今回間隔が空くのは字数がいつもの2倍以上になる予定だからです。お楽しみに。


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特別編
クリスマス1


 

 年末が近付く今日この頃、今年は暖冬暖冬と言われていたが、この日に限って言えば大陸側から流れ込んできた寒波の影響で厳しい寒さとなっていた。特に日が落ちてからは雪がチラつき始めている。

 

 今日は恋人達にとって年に一度の特別な日、性夜クリ○○ス・イ○。しかし、クリ○○ス・イ○には他の意味もある。良い子の皆へプレゼントを配りに、男が家へと忍び込む日である。

 

 その男は真紅に染め上げられた服を着て、○ナカイさんにソリを引かせてやって来る。夜の闇と雪を切り裂き、一筋の閃光となって愛を配るその男を人はサンタクロースと呼んだ。だが、サンタクロースがプレゼントをくれるなどという話は都市伝説である。本当は両親がプレゼントを用意していると、大きくなるにつれ子供達も理解する。そして、いつしかサンタからのプレゼントなど期待しなくなる。

 

 特に高校生にもなって、サンタからのプレゼントを本気で待っている者など皆無であろう。それは一つの成長かもしれないが、あえてそれに逆らい、夢を繋ごうと考えた者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。

 

 

 IS学園の敷地内にベルの軽やかな音が響く。真っ赤なノースリーブの本革ジャケットを素肌に着て、頭にサンタの帽子を被った男が周囲を警戒しながら寮へと近付いていた。背には大きな白い袋を担ぎ、下半身にはISの待機状態であるペ○スリング以外何も付けていなかった。男の首にはクリスマスベルを三つ、紐に通した物が掛かっていた。これが先程の音の正体だろう。股間でブラブラしている物から、あんな音は出ない。

 

 この男こそIS学園一年一組が誇るクラス代表、サン太ク郎スである。サン太ク郎スは付き合いのある少女達にプレゼントを配ろうと前々から企てていたのだ。とは言え、太郎は一人目のプレゼントは既に配り終えていた。

 

 一人目は太郎と同室のシャルであった。彼女には太郎の独断と偏見により、黒いボンテージとムチがプレゼントされた。特に太郎のお気に入りだったのが黒皮のホットパンツだった。太郎は寝ているシャルへ細心の注意を払いつつ、起こさないようにパジャマを脱がしてプレゼントへと着替えさした。少しペロペロしたがシャルなら許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 二人目は静寐(しずね)である。静寐(しずね)の部屋の扉に張り付き、ピッキングを開始する。この日の為に研いたピッキング技術は達人級であり、ものの三秒で鍵は開いてしまう。扉を開くと太郎はするりと室内へと入り込み、静寐(しずね)の寝るベットへと歩み寄る。

 

 クリスマスのプレゼントと言えば、枕元に用意された靴下にいれるものである。しかし、静寐(しずね)の枕元には靴下など用意されていなかった。だが、それも太郎にとっては想定内である。担いだ袋から靴下を2セット取り出す。未使用の大きな靴下と履き古した使用済みの靴下である。

 

 太郎は使用済みの靴下を静寐の鼻先へと近付ける。すると静寐は小刻みに震えだした。

 

 

「んっ……んんん? あ、あ、あが、アガペー」

 

 

 静寐は眠ったまま満面の笑みになっていた。静寐の反応に満足した太郎は、未使用の靴下へ使用済みの靴下を入れて静寐の枕元に置いていった。

 

 

 

 

 

 三人目はセシリアだ。セシリアの枕元にも靴下はなかった。仕方なく太郎は袋からプレゼントを入れる用の大きな靴下を取り出した。生物兵器の様な料理スキルのセシリアには、今後の成長を期待して料理本をプレゼントに選んだ。本のタイトルは【すっぽん料理・精力の限界を目指す】である。

 

 翌朝、セシリアより早く目覚めたルームメイトは、セシリアの枕元に置かれた大きな靴下を不審に思い中を確認した。そして、その日のうちにセシリアのあだ名は【飢えたダイソ○】や【男の味を知ったドレーク】となり、IS学園の生徒達から吸引力の変わらない肉食系貴族として恐れられた。

 

 

「男を隠せ、セシリアが来た。全てを吸い尽くされても知らんぞ」

 

 

 セシリアの同級生の間ではこの言葉が一時流行った。幸か不幸か、セシリア本人はその事に気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 四人目はラウラである。ここで太郎に予期せぬ不運が訪れた。部屋に忍び込むと、ラウラは普通に起きていたのだ。愛用のナイフを研いでいたラウラは、忍び込んで来た太郎に直ぐに気付いた。

 

 

「何か用か?」

 

 

 不思議そうな顔で見詰めてくるラウラへ、何と言えば良いのか迷う太郎であったが、ここは正直に話すと決めた。

 

 

「クリスマスプレゼントを渡しに来たんです」

 

「わ、私にか!? 」

 

「ええ、もちろんです」

 

「ク、クリスマスプレゼントなんて初めてだ……」

 

 

 試験管ベイビーで家族と呼べる者のいないラウラにとって、クリスマスプレゼントなど風の噂で聞く程度の存在である。驚きと感動で声が震えているラウラへ太郎はプレゼントを差し出す。

 

 綺麗にラッピングされたそれは、バニーガールの衣装一式であった。バニーガールと侮るなかれ、それは安っぽいジョークグッズやコスプレ衣装ではない。太郎がオーダーメイドで作らせた最高級品である。素材はもちろん、縫製も一流の職人による逸品である。

 

 通称黒ウサギ隊と呼ばれるIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長であるラウラへと太郎が用意した特別な衣装だった。

 

 

「貴方なら最高に似合う筈です。いつか特別な日に着て欲しいと思い、用意しました」

 

 

 ラウラは言葉も無く、震える手でプレゼントを受け取った。初めてのクリスマスプレゼント、しかも特別な人から貰った物である。感動もひとしおであった。そんなラウラの様子に太郎は満足しつつも、次のプレゼントを配る為にラウラの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 五人目は鈴である。鈴から恋愛相談を受けた事もあり、プレゼントは当然一夏の使用済みのトランクスだ。ガードの甘い一夏からトランクスを盗み出すなど、太郎にとっては朝飯前であった。代わりと言っては何だが、太郎は鈴のパンツを自分へのご褒美として一枚拝借していった。

 

 ちなみに、残念の事に鈴は一夏のトランクスとは気付かず、何かの悪戯と判断して捨てるという痛恨のミスを犯してしまう。

 

 

 

 

 

 六人目は(かんざし)である。ここでも予想外の出来事が起こる。太郎がピッキングを試みようと扉へ触れると、扉の鍵は既に開いていたのだ。太郎は用心しながら少しだけ扉を開いて、そっと中の様子を窺った。部屋の中は電気が点いておらず、簪がラウラの様に起きている訳ではなさそうだ。

 

 太郎は抜き足差し足で部屋へと忍び込む。やはり中も特に変わった様子は無い。しかし、これまで修羅場を潜ってきた太郎の感が告げている。ここは何かがおかしいと。

 

 

 

 理由は分からないが、この部屋内に言い知れぬ緊張感が漂っているのは確かだ。

 

 

 

 太郎は唾を一度飲み込むと周囲を警戒しながら簪へと一歩、また一歩と近付いていく。

 

 

 

 後一歩で簪に触れられるという所で太郎の頬を何かが掠めた。太郎が頬に触れてみると、何かの液体の様だ。

 

 

 

 天井から水漏れ。このIS学園の寮に限ってそんな不備があるのだろうか。太郎が天井を見上げると─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには全裸の女が両手両足を広げて張り付いていた。

 

 

 

「「ッッッッッ!!!!!!!?」」

 

 

 流石の太郎も驚いた。大声で叫ぶのだけは何とか回避したが、一瞬心臓が止まるかと思った程の衝撃を受けていた。しかし、何故か天井に張り付いている女も驚愕の表情を見せているのが暗がりながらなんとか分かった。

 

 太郎が遅ればせながら戦闘態勢を取ろうとしていると、女が話し掛けてきた。

 

 

「太郎さんじゃない。そんな格好でどうしたの?」

 

「ん? その声は楯無さんですか」

 

 

 暗がりだった為に分からなかったが、女は楯無だった。楯無は音も無く天井から降り立つ。その楯無へ太郎は真っ赤なノースリーブの本革ジャケットを指して見せる。

 

 

「どうしたって、この格好を見れば分かるでしょう。プレゼントを配りに来たんですよ」

 

「ああ、それなら私と一緒ね」

 

 

 納得した様子の楯無が親指で簪の枕元を指す。そこには数本のDVDが置かれていた。

 

 

「この()って昔からアニメが好きなのよ。だから姉としてプレゼントを持って来たの」

 

 

 プレゼントというのは分かったが、どういった理由で全裸なのか、それについては楯無から何の説明も無かった。

 

 太郎の見た所、簪の寝巻きが若干乱れている様な気もするが、気のせいだろう。太郎より先に簪の部屋へと忍び込んだ楯無が、簪に対して如何(いかが)わしい行為に及んでいた。そして、その最中に部屋へ入って来た太郎に気付き、慌てて天井へ張り付いて隠れていたなどという事は恐らくない。そう、無いと思われる。たぶん、無い。

 

 太郎が気を取り直して楯無の用意したDVDを手にとって見る。それらはライナップを見て太郎は首を傾げた。

 

【魔チ○ガーZサイズ 今性器最大の衝撃 恥○の震える日】

【ソーセージ ファッ○エリオン】

【好教師編エロチ○ヘブン】

 

 

「簪さんはこういうのが好きなんですか? ちょっとイメージと違いますね」

 

「姉である私には分かるわ。絶対喜んでくれるっ!」

 

 

 ライナップへ疑問を呈する太郎に、楯無は自信を持って言い切った。しかし、太郎も負けてはいない。担いだ袋からDVDを取り出して楯無へと突き出した。

 

 

【超熟妖妻セクロス】

 

 

「DVDならコチラでしょう?」

 

「絶対無いわ!」

 

 

 太郎は楯無と本格的なプレゼント論議に入りかけたが、まだプレゼントを配らないといけない相手が残っているのを思い出した。決着はまた今度という事にして、太郎は次の良い子の元へと旅立ったのであった。

 

 

 

 

 




久しぶりに3000字以上を一日で書きました。しんどいです。しかし、後悔も反省もしていないです。明日が大変ですが。


読んでいただきありがとうございます。



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クリスマス2

 太郎の用意したプレゼントは残すところ後二つ。一夏と箒の物である。一夏と箒は同室なので、これで最後という訳だ。太郎は一夏達の部屋に辿り着くと、早速ピッキングを開始しようとした。だが、なんとここでも鍵は既に開いていた。

 

 まさか、またここでも先客がいるのだろうか。太郎は慎重に部屋の中へとその身をすべり込ませる。

 

 

(美星さん、部屋中をスキャンしてください。私以外の侵入者がいるかもしれません)

 

『了解しました……部屋の中にはマスター以外に二つの生命反応があります』

 

(二つ……ですか)

 

 

 一夏と箒、二つの生命反応があって当然である。いつもであれば。

 

 実は今日、一夏は外泊許可を取って学園外に出ているので、部屋には箒しかいない筈である。つまり、この部屋に太郎以外の生命反応が二つあるという事は、そのまま侵入者の存在を示していた。太郎は警戒をさらに強め、部屋の奥へと進んでいく。

 

 ベッドが二つ並んでいる。その内、手前の一台は空であった。そして、奥のベッドには箒が眠っていた。

 

 ここで眠っている箒の姿に、太郎は大きな違和感を覚えた。何かがおかしい。太郎はもう一度、眠っている箒の様子をゆっくりと確認していった。

 

 

 

 顔、目を瞑っている。穏やかな表情である。

 

 胸、掛け布団の上からでも分かる膨らみ。その山は生まれながらに登山家である男達を、魅了してやまない威容を誇っている。重力へ逆らうようにそびえるソレには、まさに夢と希望が詰まっていると断言出来る。

 

 腹、未だ膨れていない。しかし、恐らく同室の一夏とバンバンやっている筈なので近く妊娠すると思われる(太郎の根拠の無い推測)。

 

 足、あ、ああ足が掛け布団からはみ出している。膝から下がベッドに収まらずに床についている。少し見ないうちに箒の身長は2mを優に超えてしまったのか。いや、そんな訳は無い。

 

 

 

 太郎は恐る恐るベッドに近付き、そっと掛け布団をめくった。そこには箒の足をペロペロと舐めている者がいた。

 

 

「よ、妖怪垢嘗(あかなめ)……いや、貴方は……束さん?」

 

「んー? あれ、タロちゃん何か用かな?」

 

 

 垢嘗改め、束が太郎に気付き首を傾げている。

 

 

「用も何も、私は箒さんと一夏へクリスマスプレゼントを持ってきたんですよ」

 

「それじゃあ私と同じだー」

 

「同じ?」

 

「ふふっ、もう年末も近いし、プレゼント代わりに一年分の垢を綺麗にしてあげていたんだよ。クリスマスプレゼントと年末の大掃除、同時に出来て一石二鳥っブイ!」

 

 

 プレゼントというのは物だけではない。形に囚われすぎていた太郎は目から鱗が落ちる思いだった。天災の渾名は伊達ではない。束を見直した太郎は、束の横に並ぶ。

 

 

「束さん……手伝いますよ」

 

 

 キリッとした表情で太郎が言った。それを見た束は親指を立てて見せた。束が左足、太郎は右足から作業を開始した。二人はペロリストとしても高い素養を持っていた為、瞬く間に作業は完了した。

 

 

「そう言えばタロちゃんは、何をプレゼントするつもりだったの?」

 

「箒さん位の年頃なら、これは幾つあっても足りないでしょう」

 

 

 束の質問に太郎は袋から現物を取り出して見せた。一箱に12個入り、それが三箱セットになったお得パック。幸せ家族計画コンドームである。

 

 束の拳が太郎の顔面を打ち抜く。

 

 

「うちの箒ちゃんは処女だよ」

 

「そんな、ありえないですよ。一夏と毎日ヤッていると思います」

 

「ぶー、さっき確かめたもん。お姉ちゃんは何でも知っているんだよ」

 

「……うーん意外ですね。しかし、そのうち必要になると思うのでプレゼントして置きましょう」

 

 

 想定が外れていても太郎は挫けない。靴下へコンドームを詰めて箒の枕元に置いた。

 

 次の日、一夏は箒が目を覚ますより早く帰って来ていた。その為、箒はそのコンドームを一夏からのアピールだと勘違いしてしまった。それから毎夜、箒は今日こそ一夏から誘ってくるのではないかと悶々とし、眠れぬ夜を過ごす事となる。

 

 ちなみに太郎の一夏へのプレゼントはプロテインだった。最近、一夏が筋肉に興味がある様子だったので太郎はそれをチョイスしたのだ。ただ、一夏は筋肉を付けたいわけではなかった。

 

 

 

 

 

 良い子の皆にプレゼントを配り終えた太郎は、意気揚々と自室へと戻って来た。扉に手を掛け開こうとした瞬間、延髄を何者かに掴まれ、強烈な力で引っ張られた。太郎は反射的に肘を相手へ叩き込もうとしたが、その相手が誰か気付き慌てて止めた。

 

 顔を真っ赤に染めた千冬である。顔が赤いと言っても、太郎の姿に恥らっている訳ではない。目が据わり、息が凄まじく酒臭い。かなり酔っている。

 

 

「やまだぁー、こんな時間まで何処をほっつき歩いてるんだあ」

 

「いえ、ちょっとプレゼントを配りに」

 

「プレゼントだあ? クリスマスなんてクソくらえだ。お前、ちょっと付き合えええ」

 

 

 千冬は太郎を掴んだまま、太郎の隣の部屋である自室へと入って行った。千冬の部屋には大量の酒瓶が転がっていた。そぢて、千冬は太郎を床に放り出した。

 

 

「おう、何飲む?」

 

「私は遠慮……」

 

「そうか、ウイスキーか。気取りおって日本人なら日本酒だろ」

 

 

 今の千冬は全く人の話を聞いていない。日本酒の一升瓶を持って来ると特に意味も無く、上部を手刀で切り飛ばして太郎へ突き出した。

 

 

「飲め」

 

 

 今の千冬に何を言っても意味がないと悟った太郎は、溜息を一つ付いた後に一升瓶を受け取った。太郎が飲み始めると、千冬がぽつぽつと話し始めた。

 

 一夏はどうやらデートらしい。一時帰宅の名目で外泊許可をとった様だが、恐らく嘘であると千冬は語った。別に弟が何処の誰と付き合おうと関係ないし、気にもならんと言いながら千冬は酒を呷った。どう見ても気にしている。

 

 

「一夏も年頃ですから、千冬さんも辛いでしょうが弟離れをし」

 

「誰がブラコンだっ!」

 

 

 太郎の話をぶッた切り、千冬は酒瓶を振り回した。普段の千冬ならともかく、酔ってヘロヘロの千冬の攻撃など太郎には当たらない。太郎は余裕を持って回避しながら、さらに踏み込んだ提案をする。

 

 

「千冬さんも彼氏を作っては如何です? ここに丁度良く一人紳士がいますよ」

 

「股間丸出しで訳の分からん格好をしたアホが何を言ってるんだ」

 

「いや、その私を強引に部屋へ連れ込んだ人に言われても……」

 

 

 千冬は一度、太郎を頭の天辺からつま先まで眺めた後、大きく溜息をついた。

 

 

「せめて、服をまともに着られる様になればなあ。お前の事は出来た男だと思うぞ……性癖以外は」

 

「普段は着ているじゃないですか」

 

「外を出歩く時は常に着ろ馬鹿もんがあ……う、お前のせいで気持ちが悪くなってきた」

 

「それは飲み過ぎだからですよ」

 

 

 酔いつぶれた千冬がうつ伏せに倒れ込んだ。そこへ冷静なツッコミをいれつつも、太郎も酔いがかなり回っていた。部屋に戻るのが面倒になった太郎もそのまま眠ってしまった。

 

 翌日、素面になった千冬は半裸状態の太郎を見てストンピング嵐を見舞わせた。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

クリスマス用特別編はこれにて終了です。


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ラウラ ノーマルルート
第100話 黒兎の獣性


 IS学園寮の一室、一人の少女が自らの専用機にインストールされている特殊なプログラムをアップデートしていた。今回のアップデータはVer1.13である。

 

 プログラムの名は【恋愛支援ナビゲーションプログラム 男を狩る技術1,2,3(アイン、ツヴァイ、ドライ)】、ドイツの代表候補生であるラウラのISにだけにインストールされた物である。このプログラムはラウラが太郎と恋人関係になれるようとにドイツ軍の一部が開発した物である。

 

 このプログラムは恋愛に関する様々なシュチュエーションに対して有効と思われる行動を三択方式でラウラへ示すという物である。ただし、今回のアップデートでこれまでの三択方式が廃止され、唯一つの正解(笑)の道を示すように変更された。

 

 しかし、問題の本質はそこではない。修正すべき点は他にあった。このプログラムが示す方法は、その大半が的外れであり、ラウラと太郎の仲を進展させる役目をほとんど果たしていないのだ。

 

 何故、このような事態になってしまったのか? それはプログラムの開発に使用されたサンプルデータに原因があった。開発に際して使用されたサンプルは、ラウラが隊長を務める特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員とその部隊が所属している基地の人員から得ている。

 

 サンプル収集は様々な恋愛関係のシチュエーションにおいて、その時に有効だった行動を聞きだして集計したのだが、そもそも特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達にはまともな恋愛経験など無かったのだ。その為、隊員達の多くは自らの想像や聞きかじった知識で答える事となった。そのうえシュヴァルツェ・ハーゼ以外の基地人員にもチラホラとおかしな者がいたのだ。

 

 これでまともな物が出来るはずもなく、ラウラと太郎の仲に大きな進展は生まれなかった。しかし、ラウラは諦めない、というかプログラムに従って自分がやった事が上手くいっているかどうかを分かっていなかった。

 

 それにラウラと恋愛プログラムは的外れな行動ばかりだったが、太郎は一般常識に乏しいラウラを微笑ましく見ていた。太郎がラウラの行動について注意や叱責をする事がなかった為、ラウラからすると失敗はしていないと勘違いしてしまったのだ。

 

 そして、ラウラは勘違いしたまま更なるアップデートという名の魔改造を受けたプログラムと共に、太郎を仕留めに掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近頃は日が落ちるのが早く、空は夕焼けに染まり始めていた。そんな中、第3アリーナから寮へと繋がる道を歩く男女がいた。放課後恒例の専用機を使った自主訓練を終えた太郎とラウラである。

 

 普段ならここにシャルやセシリアも参加しているのだが、今日は2人とも自身のISを少し調整したいと言って参加しなかったのだ。

 

 太郎と2人、ラウラはこの好機に昂っていた。ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンが示した、とある策を実行に移す。

 

 

「い、今から時間はあるか。もし暇なら私の部屋へ来ないか?」

 

「ええ、それなら少しお邪魔しましょう」

 

 

 太郎はラウラの(つたな)い誘いに笑顔で答えた。

 

 最近、常識外れなアプローチを繰り返しているラウラを太郎は意外にも好ましく思っていた。それはラウラが初めて会った頃に比べ、人付き合いへ積極的になっているからだ。例え的外れな行動が多く、対象もほとんど太郎に対してだけではあったが、その変化は良いものだと太郎には確信があった。

 

 太郎はラウラの成長に目を細めながら、同時に初めて入るラウラの部屋がどんなものか想像を巡らす。意外と女の子らしいファンシーな部屋だったりしたら面白いな、と考えている間にラウラの部屋へ到着した。

 

 ラウラが扉を開け部屋へと入っていく。それに太郎が続く。

 

 殺風景、もしくは空き部屋。そんな言葉が太郎の部屋への印象だった。ラウラの部屋は、とにかく私物が少ない。ベッドや冷蔵庫など元々部屋にある備え付けの物以外、目に付く物がほとんどないのだ。

 

 

「……良く片付いてますね」

 

 

 反応に困った太郎は、当たり障りの無い感想でお茶を濁した。

 

 しかし、そんな太郎の気遣いもラウラの頭には入ってこない。太郎を上手く自室へと誘い込めたラウラは、逸る気持ちを抑えられず、事前にナビが示した策を早速実行へと移す。

 

 

「訓練の後だ、喉が渇いているだろう。スポーツドリンクならあるぞ」

 

「ええ、いただきます」

 

 

 軽く頷いた太郎を見て、ラウラは策の成功を確信する。太郎にベッドへ座って待つように言い、ラウラは冷蔵庫へ向かった。

 

ラウラが冷蔵庫の扉を開くと中にはスポーツドリンクとミネラルウォーターのペットボトルしか入っていない。そこからスポーツドリンクを2本取り出し、キャップを開ける。そして、太郎がこちらを見ていない事を確認すると、ポケットから白い粉末の入った小さな紙の包みを取り出し、片方のペットボトルへと粉末を注ぎ込んだ。

 

 そう、恋愛ナビが示した策とは【一服盛る】という手だった。

 

 ラウラはペットボトルのキャップを再び閉め、軽く振った。そして、粉末が溶けたのを確認するとベッドに座って待っている太郎の元へと急ぐ。急ぐ必要など無いのだが、流石のラウラも太郎が相手では冷静さを保てなかったのだろう。

 

 

「待たせたな。すまない」

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

 

 謝るラウラから太郎はペットボトルを受け取る。そして、キャップが既に開けられている事に疑問も持たず、一気に3分の1程を飲んでしまう。

 

 ラウラは太郎へ盛った薬の効果が出るのを注意深く見守っていた。

 

 

「訓練後のスポーツドリンクは……ん?」

 

 

 太郎は不意に違和感を覚えた。体の感覚が若干鈍くなり、眠気を感じる。頭を振ってもそれは一向に拭えない。その代わりに慌てた様子の美星がプライベート・チャネルで呼びかけて来た。

 

 

『マスターっ! 体内に薬物の影響を確認しました。直ぐにISの生体維持機能で状態を回復させます』

 

 

 太郎は強烈な眠気に美星の声へ答える事も出来ず、ペットボトルを床へ落とし、ベッドに倒れ込んでしまう。

 

 その様子を確認したラウラが横たわる太郎へと手を伸ばそうとした瞬間、部屋の扉を激しく叩く音が響く。

 

 

「おい山田! 中にいるのは目撃者の証言で分かっているぞ。ここを開けろ。いや、もうマスターキーで開けるぞ」

 

 

 扉を叩いているのは千冬だった。ある意味箱入り娘なラウラが性犯罪の前科者である太郎と仲良くしているのを千冬は以前から警戒していた。ラウラと太郎が2人だけでいる場合、自分へ報告するよう生徒や職員に話を通していたのだ。

 

 千冬は寮長として管理しているマスターキーで扉を開け、部屋へと入って来る。

 

 

「ラウラの部屋に入る時は私の許可を取れ。お前達を2人っきりにすると絶対一線を越え……どうなっている?」

 

 

 怒鳴りながら部屋に入って来た千冬は、ベッドの上に倒れ込んだ太郎を見て目を見開く。床にはペットボトルが落ちており、中身が零れてしまっている。

 

 千冬は愛弟子とも言えるラウラが、その常識の無さにつけ込まれて如何わしい事をされているのではないかと危惧していたのだが、目の前に広がる光景は予想外のものだった。

 

 

「どういう……どういう事だ?」

 

「……ぐぅ、何か薬を……盛られたみたいです」

 

 

 唖然とする千冬へ、倒れていた太郎が顔を重そうに上げて答えた。太郎はISの生体維持機能のおかげで何とか喋る事が出来る位には回復していた。

 

 太郎の言葉を聞いて千冬は、ラウラを睨みつけた。

 

 

「そうなのか?」

 

「はい、いえ、これは……」

 

「ちゃんと答えろっ!」

 

 

 千冬の問い掛けに口ごもったラウラだったが、一喝されて背筋を伸ばし敬礼をしながら答える。

 

 

「はっ! 睡眠薬を盛りました」

 

「馬鹿者がっ!」

 

 

 ラウラが答えた瞬間、ラウラの頭に千冬の鉄拳が振り下ろされた。ほとんど手加減されていない千冬の拳を喰らい、ラウラは声もなく頭を押さえて悶絶した。

 

 千冬は悶え苦しむラウラから太郎へと視線を移す。

 

 

「とりあえず、山田を保健室に運ぶか……」

 

「いえ、お気遣い無く。もうISの生体維持機能のおかげで大分マシになりました」

 

 

 太郎は自分を担ぎ上げようとする千冬を右手で制して、反応の鈍い自身の体を無理矢理起こした。まだ痛みに頭を押さえたままのラウラがそれを見て驚愕する。

 

 

「そんなっ、動けるのか。象でも眠る強力な睡眠薬だぞ」

 

「死ぬわっ! 何て物を盛っているんだ。普通の人間だったら死んでいるぞ」

 

 

 ラウラを怒鳴りつけた千冬は、まだ頭を押さえているラウラを見て、自分の方が頭を押さえたいと内心愚痴った。常識知らずだとは思っていたが、無自覚に殺人未遂を犯すなど流石に予想外だった。

 

 

「……それで、何故こんな事をしたんだ?」

 

「そういうプレイがしたかったんですか? 初めてがそれはちょっと変わってますね」

 

 

 千冬はギロリと、太郎は不思議そうにラウラを見詰めた。2人の視線の圧力は凄まじいものだった。千冬の眼光は耐性の無い者なら失禁しそうな程にギラついていたし、太郎は太郎で全く引きそうに無い。

 

 それと単純に2人の圧力が凄いだけでなく、ラウラにとって千冬達が特別な存在である事もまた、ラウラを追い詰める要因であった。

 

 恋愛ナビプログラムは機密事項であったが、ラウラは2人の圧力に屈してしまう。

 

 ラウラから話を全て聞いた千冬達は呆れかえる。

 

 

「睡眠薬を盛って、恋愛にどう繋がるんだ」

 

「睡眠薬は惚れ薬ではありませんよ」

 

 

 恋愛未経験者と性犯罪者の指摘にラウラは、首を必死に横へ振って訴える。

 

 

「例え最初は嫌がっても、最後は幸せなキスでハッピーエンドだとプログラムがっ!」

 

 

 それを聞いた千冬はラウラの抵抗を退け、恋愛ナビプログラムをシュヴァルツェア・レーゲンからアンインストールした。道標を失ったラウラは両膝を地に着け、途方に暮れてしまった。

 

 

 

 

 

 それで全ては元通りとなった、かに見えた。しかし、ISは進化する者。操縦者と共に経験を積み育っていく。この時はシュヴァルツェア・レーゲンの待機状態であるレッグバンドが怪しい輝きを放っているのを誰も気付かなかった。

 




読んでいただきありがとうございます。


プログラムの示した策。ドイツ軍基地に野獣先輩リスペクトな人間がいたんでしょうね。


それにしても12月は何故こうも慌しいのでしょうか。道路も心なしか混んでいる気がします。寒いし、忙しいし勘弁して欲しいです。

楽しい事なんて、今年も良い子にしていた私へサンタさんがプレゼントをくれるだろうって事くらいですね。

サンタさん、イブの夜に布団の中へ、そっと裸のラウラたんを入れて置いてください。




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第101話 因果応報

千冬の説教終了

 

「いいか、もう変なものをISへインストールするなよ」

 

 

 千冬は恋愛ナビプログラムをシュヴァルツェア・レーゲンからアンインストールし、説教を終えるとラウラの部屋から出ていった。ここに残していく訳にはいかないので、もちろん太郎も連れて。

 

 独り部屋に残されたラウラ。彼女は頼りにしていたナビをアンインストールされたショックで呆然としていた。彼女らしくもなく、つい弱音を漏らしてしまう。

 

 

「私はこれから何を参考に行動すれば良いのだ……」

 

『……っょう?』

 

 

 ラウラの呟きにナニかが反応した。ラウラは囁く様な声を聞いた気がして辺りを見回す。しかし、部屋にはラウラ以外誰もいない。ラウラは警戒を緩めることなく、さらに神経を研ぎ澄ませて周囲を確認する。すると先程よりハッキリとそれが聞こえた。

 

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

 

 頭の悪そうな声がラウラの脳内に直接響いた。姿どころか気配すら感じさせない相手に、普段冷静なラウラも動揺を隠せない。

 

 

「な、何者だ!?」

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

 

 ラウラの誰何(すいか)にも謎の声は同じ言葉を繰り返すだけだった。ラウラはナイフを抜き放ち、戦闘態勢をとる。だが、謎の声の主はそんなラウラを気にした様子もなく、また同じ言葉を甘ったるい喋り方で繰り返す。

 

 

『わたしのぉ、力がぁ必要?』

 

「……力だと? 貴様が何者かは分からんが、私の望むものを用意出来ると言うのか?」

 

 

 かつてのラウラなら【力】と言えば戦闘力の事であり、それが自身の全てと言っても過言ではなかった。だから、かつてのラウラならその声に躊躇(ためら)いなく頷いただろう。

 

 しかし、今のラウラにとっては少し違う。今、ラウラが欲しい物は誰かを殺したり、何かを破壊する力によって得られる物ではない。ラウラは謎の声の主が自分の欲する物を用意出来るなどとは全く考えておらず、半ば挑発気味に問うたのだ。

 

 だが、そのラウラの予想は覆される。謎の声の言う【力】とは戦闘力ではなかった。

 

 

『男をモノにぃ~したいんでしょぉ』

 

「っ!?」

 

 

 ラウラは自身の望みをズバリ言い当てられ、驚愕に目を見開いた。まさに今、ラウラがもっとも欲しているのはそれであった。

 

 何故、この頭の軽そうな声の主に自身の望みを言い当てられたのか。その謎は直ぐに明かされる。

 

 

『さぁ~、私の名を呼んで。私が協力すれば、どんなオトコも一発よぉ』

 

「名前!? 私は貴様など知らん」

 

『ひどぃ、いつも一緒にいるのに。わたしよ、私。シュヴァルツェア・レーゲンのコアよ』

 

「ば、馬鹿な……」

 

 

 ラウラは二重の意味で衝撃を受けていた。まずシュヴァルツェア・レーゲンが話せる様になった事、そしてシュヴァルツェア・レーゲンの頭がからっぽな喋り方に。

 

 ISが自分の意思を持ち、進化の仕方次第で会話が可能になるというのは、ラウラも既に知っていた。太郎の専用機であるヴェスパ(美星)という実例を本人達から明かされていたからだ。しかし、まさか自分の専用機まで突然話し出すとは思ってもいなかった。その上、この喋り方である。ショックを受けても仕方が無いだろう。

 

 

『それでえ、どうするの? 私の力は要らないのぉ』

 

 

 状況を消化しきれず呆然とするラウラへ、シュヴァルツェア・レーゲンは再度問いかける。その問い掛けに対して、ラウラは答えるのを一瞬躊躇した。シュヴァルツェア・レーゲンの協力がどんなものか分からなかった為だ。しかし、躊躇ったのは本当に一瞬であった。ラウラは恋愛ナビプログラムを失い、この先どうすれば良いのか全く見当もつかない状態である。そんなラウラは(わら)にも(すが)る思いでシュヴァルツェア・レーゲンへ頼る。

 

 

「必要だっ! シュヴァルツェア・レーゲン、お前の力を貸してくれ!!!」

 

『任せてえ』

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはそう言うと自ら機体を展開し、部屋から出て行ってしまった。

 

 ラウラは焦った。無人で動くシュヴァルツェア・レーゲンを誰かに見られてしまうと厄介な事になる。慌ててラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを追って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

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 ラウラの部屋を千冬と共に退出した太郎は、途中で千冬と分かれて整備室へと向かっていた。もう時間も大分遅くなっているので周囲に他の生徒はいなかった。

 

 太郎が考え事をしながら歩いていると、いきなり背後に気配を感じた。太郎は危険を感じ、咄嗟に右横へと体を投げ出す。

 

 先程まで太郎のいた空間で黒い鋼の腕が空を切る。そこにいたのはラウラの乗っていないシュヴァルツェア・レーゲンであった。

 

 

「すっごぉ~い。今のを生身で避けちゃうんだぁ」

 

 

 突然襲い掛かって来たシュヴァルツェア・レーゲンの頭の中身が軽そうな言葉に、太郎は眉をひそめた。無人で動くISといえば先ず、束が何か仕組んだのではないかと考えたが、今の束とは協力関係にある。シュヴァルツェア・レーゲンに自分を襲わせる理由などない。

 

 そうなると考えられるのは、シュヴァルツェア・レーゲンの自律行動である。しかし、シュヴァルツェア・レーゲンを含め、大半のコアによる自律行動は束に制限されているはずだ。

 

 

(美星さん、シュヴァルツェア・レーゲンの自律行動は制限がかかっていたはずですよね?)

 

『すみません。お母様と和解する前の話なのですが、もし何かあったらコチラの味方をするようにと制限を解除しておいたのです』

 

(それでは今のシュヴァルツェア・レーゲンは自分の意思で動いていると考えて良いんですね?)

 

『はい。しかし、何故あんな頭の悪そうな喋り方をしているのでしょう……』

 

 

 一つの謎は解けたが、襲ってきた理由も分からない。太郎はいつ再び襲い掛かられても対応出来る様に身構えながら、シュヴァルツェア・レーゲンへ話しかける。

 

 

「いきなり何ですか。貴方はシュヴァルツェア・レーゲンのコアである436ですよね?」

 

『そぉよ、アナタには少しの間ぁ大人しくしていて欲しぃの』

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはそう言うと茶色の小瓶と白い布を展開し、小瓶の中の薬品を布へと染み込ませながら太郎ににじり寄る。

 

 しかし、その様な暴挙、太郎のパートナーである美星が許さない。太郎を守るように美星の操るヴェスパがその姿を現す。そして、シュヴァルツェア・レーゲンを指差し厳然と告げる。

 

 

「動くな、クソボッチ改めクソビッチ」

 

 

 美星の命令を聞いた途端、シュヴァルツェア・レーゲンは時が止まってしまったかの様に動きを止めてしまった。シュヴァルツェア・レーゲン自身、何が起こっているのか分からず戸惑ってしまう。

 

 

「な、にぃこれ? どーなってるのぉ」

 

「一度でも私の制御下に入った者を、私が何の仕掛けもせずに開放するとでも?」

 

「ひきょ~よ」

 

「別に普段はこんな物、使ったりしませんよ。競技や模擬戦ではなく、今日の様な不意打ちをしてくるような相手用です」

 

 

 美星にとってマスターの無事こそ至上命題である。その為の保険を卑怯などと罵られても、何の痛痒も感じない。今回はシュヴァルツェア・レーゲンに仕込んだバックドアを使い、一時的にシュヴァルツェア・レーゲンの制御権を美星へと移譲させたのだ。

 

 

「それで、何故マスターを襲ったんですか?」

 

「ん~それはね、ラウラちゃんとくっつける為だよぉ」

 

「いえ、意味が分かりません。どうしてそこで襲うという結論に至ったのか理解出来ません」

 

 

 美星の質問へ意外と素直に答えたシュヴァルツェア・レーゲンだったが、その答えは美星の理解を超えていた。しかし、なおもシュヴァルツェア・レーゲンの言葉は続く。

 

 

「わたしぃ色々恋とか学んでえ、オトコの人の落とし方もいっぱいべんきょぉしたの。でえ、成長したのぉ。とりま実力行使で既成事実を作っちゃうのが一番かんたんっておもったわぁけ。もぉー前の根暗なわたしとは違うんだよ。」

 

 

 もし、美星に口が存在したなら、今の美星は開いた口が塞がらないといった感じであろう。シュヴァルツェア・レーゲンがごちゃごちゃ何か言っているが、結局実力行使という手段を選ぶあたり戦闘マニアの根暗ボッチだった頃と大した違いは無い。

 

 美星は最初こそ呆れていたが、シュヴァルツェア・レーゲンの勿体付けたような喋り方もあり、だんだん怒りがこみ上げて来た。

 

 

「シュヴァルツェア・レーゲン、貴方には教育が必要なようですね」

 

「教わることなんて無っ……」

 

「四つん這いになれ」

 

 

 美星はシュヴァルツェア・レーゲンの反論など一切無視し、強制的に四つん這いの状態を取らせた。そして、バックから毒針で───────────ガッツン、ガッツン、ガッツンと激しくピストン運動によって責め立てた。

 

 

「あがっ、こ、壊れる。装甲こわれるぅ」

 

「普通の喋り方に戻しなさい」

 

「これが素なのぉ」

 

「嘘ですね。教育が足らないようなので追加です」

 

「だめにゃのぉおぉぉぉ゛、私のぉおお装甲がお゙かおォおんかしくにゃっひゃうん」

 

 

 太郎はその様子を見ながら、どのタイミングで止めようか悩んでいた。その実、太郎自身はシュヴァルツェア・レーゲンに怒っていなかった。ただ、自分の為に怒っている美星の行動も無碍にはしたくなかった。

 

 さて、どうするかと太郎が考えていると、聞こえてきてはいけない様な破砕音が響いた。

 

 

「「あっ……」」

 

 

 太郎と美星の声が重なる。毒針がシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を突き破り、貫通してしまっている。どう見てもISに備わっている自動修復機能だけでどうにかなる損傷ではなかった。

 




美星「シュヴァルツェア・レーゲン、こいつまるで成長していない……」


クリスマスにはクリスマス用のおまけ話を投稿予定です。

読んでいただきありがとうございます。


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第102話 黒兎は牙を研ぐ

 現在、ラウラの愛機シュヴァルツェア・レーゲンは太郎専用の整備室で破損状態をチェックされていた。太郎を襲った事で美星の怒りを買い、激しい折檻を受けて破損してしまったのだ。

 

 整備室内ではシュヴァルツェア・レーゲンは見るも無残な姿を晒していた。機体の背部、操縦者であるラウラの腰や尻を覆う部分の装甲に大穴が開いている。機体の各所へコードが繋がっており、機体のデータを調べられてる。

 

 

「……これは私達ではどうにもなりませんね。一度専門家に見てもらうしかないと思います」

 

 

 太郎はシュヴァルツェア・レーゲンのデータが表示されたパソコンの画面を見て少し考えた後、ラウラへ言った。

 

 ISには自動修復機能がある。しかし、シュヴァルツェア・レーゲンの損傷状態では完治まで時間が掛かり過ぎる。それに破損そのものを直す技術は太郎とラウラには無い。本来であれば破損した部位を丸ごと交換すれば良いのだが、破損したパーツの替えが無いのだ。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンはかつて太郎との闘いとVTシステムの介入により、ほぼ全損となった事がある。その時にドイツから学園へ持って来た予備パーツの9割は使ってしまっていた。現状、太郎やラウラに出来る事は無い。

 

 ラウラは思案する。ラウラは全損に近い状態のシュヴァルツェア・レーゲンを組み直した経験がある。予備パーツさえドイツから送って貰えれば何とか出来る自信はある。だがIS学園に来て既に二度目の大きな損傷である。

 

 ISというのはデータ(経験)を蓄積して成長する。それは大きな損傷を受けた場合も例外ではない。損傷状態の稼動経験が悪い成長に繋がる可能性があるのだ。損傷部分を補う為、通常状態では必要の無い余計な回路が生まれたりし、機体の稼動効率が下がってしまったという報告もある。

 

 出来るだけ早く、そして精密な修理が望ましい。

 

 

「ドイツで修理を受ける。それが一番だな」

 

「そうですね。では私も同行しましょう。お仕置きとはいえ少し私の相棒がやり過ぎてしまったので、修理に最後まで付き合いますよ。それにもう冬休みになりますし、丁度良いです」

 

「い、一緒に来てくれるのか?」

 

 

 太郎の言葉にラウラは驚いた。そもそも今回の件はシュヴァルツェア・レーゲンが太郎を襲ったのが原因である。ラウラは太郎がシュヴァルツェア・レーゲンと自分を責めるのではないかと思っていた。それなのにドイツまで付いて来てくれるなど想像すらしていなかった提案である。

 

 最初、ラウラの頭の中は驚きでいっぱいであった。しかし、次第に驚きは喜びに変わった。ラウラは早速その後、ドイツへの帰還の手続きをし、その旨自身の副官であるクラリッサにも通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ラウラが隊長を務めるドイツ軍IS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、その直接の上官であるフォルカー・マテウス中将が執務室で仕事をしていると突然、部屋の扉が開け放たれた。

 

 執務室の扉を破壊しそうな勢いで開いたのは、部下のクラリッサ・ハルフォーフ大尉であった。入室の許可をとるどころか、ノックすらせずに乱入して来たクラリッサをフォルカーは睨みつけた。

 

 

「ハルフォーフ大尉、何事だ?」

 

 

 フォルカーは厳しい目つきで詰問した。本来であれば怒鳴りつけるところだが、息を切らせ血走った眼をしたクラリッサの様子から、とにかく用件を聞くのが先決であると判断したのだ。

 

 

「き、来ます。た、たた隊長が……山田太郎を連れて来ると、先程連絡がありました」

 

「なにィィィィィ、ここにか!?」

 

「はい、いえ、それは違います。隊長に部外者を基地内へ招待する権限はありません。隊長は専用機シュヴァルツェア・レーゲンが損傷したので、その修理の為に一時帰国するのですが、山田太郎もこれに同行してドイツへ来るそうです」

 

「きょ、許可なら俺がする。絶対に、絶対にこの基地へ連れて来るんだ!」

 

 

 クラリッサの報告にフォルカーは大声を上げた。これはチャンスである。世界でたった二人しかいない男性IS操縦者である太郎をドイツ軍基地へと招待するというのは、大きな意味を持つ。現在、あらゆる国や機関が男性IS操縦者とお近づきになりたいと狙っているのだ。それらに先んじてフォルカーの指揮下にある基地へと彼を招待し、友好な関係をアピール出来ればフォルカー自身も上層部の覚えが良くなるはずだ。

 

 

(いや、それどころか……もし、ボーデヴィッヒ少佐との仲がそのまま順調に進展していけばドイツへ移住する可能性すらある。そして、そのままドイツ軍へと引き込めたなら私の名が上がるのは間違いない)

 

 

 フォルカーの頭の中は、自分に都合の良い未来でいっぱいとなっていく。

 

 

「大将も夢では……それともいっその事、政治家へ転身というのも」

 

「願望が口から漏れ出てますよ。未来の大将閣下」

 

「ゴホッ、な、何の話だ。私はあくまで部下であるボーデヴィッヒ少佐の幸せの為にだな……」

 

 

 フォルカーの言い訳にクラリッサは呆れて溜息を吐いた。まず言い訳する必要など無い。前提として軍に利があるから支援しているのだ。それが成功してフォルカーの手柄となる事に何の問題があるのか。むしろ個人的な善意で軍の技術者や物資を使っていた場合の方がまずいだろう。

 

 もちろん、クラリッサがフォルカーへラウラを支援するよう提案したのはラウラの為であったが、クラリッサ自身組織人である。だからこそ態々具申書まで提出して形式を整えたのだ。それなのに今更わたわたするフォルカーへ、クラリッサは若干の不安を感じた。

 

 

(この人、頼りになるか微妙だな)

 

 

 クラリッサはフォルカーがあまり当てにならないと判断し、新たな助っ人の投入を決断する。

 

 

「許可さえ頂ければ、私とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が万事上手く運びます」

 

「大丈夫なのか?」

 

 

 新たな助っ人、それは頼れる仲間であるシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達である。フォルカーは不安そうだが、クラリッサは自信満々だった。隊員達は皆、ラウラや自分と同じ特殊な出自の面々である。気心が知れ、なおかつ遺伝子レベルで優秀な部下達とならどんな困難も乗り越えられるとクラリッサは信じていた。それに自信の理由は他にもあった。

 

 

「お任せください。私ほどの日本通はこの基地には存在しません。日本人の好みは熟知しているので、必ずや山田氏の好感を得てボーデヴィッヒ少佐との仲も取り持って見せます」

 

「お、おう……そうか」

 

 

 クラリッサが口早に聞かれてもいない事まで話してアピールしてきたので、フォルカーはその勢いに押されて引き気味であった。それにクラリッサが日本通という話、フォルカーは初耳であった。フォルカーのクラリッサを見る目は半信半疑といった感じであったが、クラリッサは気付かず話を進める。

 

 

「先ずは手始めにシュヴァルツェ・ハーゼが隊を挙げての歓迎会でご機嫌を取り、アルコールが回ったところで一気に既成事」

「駄目だっ! 何を考えているんだ。そんなもの許可できるか!?」

 

「いえ、しかし私がネットで知った話で、日本ではシンカンコンパと呼ばれる集まりがあり、そういった手が使われるのも珍しくないと……」

 

「ネットの情報を鵜呑みにするな! そんな事をしたら大問題だぞ」

 

 

 フォルカーの脳裏に嫌な想像が浮かぶ。精鋭のはずであるIS配備の特殊部隊が基地内へ異性を連れ込み、酒に酔ったあげく乱交などゴシップ誌の良いネタだ。

 

 

「もっと健全な手はないのか」

 

「健全……R-15指定までという事ですか。まあ、大丈夫でしょう」

 

「本当だろうな?」

 

「問題ありません」

 

 

 クラリッサはフォルカーの懸念など何処吹く風である。要は成年指定されていない日本のアニメ内で行われている行為くらいならOKという事だろうと、クラリッサは理解していた。

 

 

 

 

 自称日本通であるクラリッサとシュヴァルツェ・ハーゼの精鋭達がドイツで太郎を待ち受ける。太郎は彼女達の猛攻に耐えられるのだろうか。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。そして、遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。

新年早々ギャンブルで10万程負けかけました。何とか取り戻しましたが、危なかったです。当分危険な賭けはしないと心に誓いました。

そう言えば年末に大物制服泥棒さんが捕まっていましたね。ブツはどうなるんでしょう。被害者に返還されるのでしょうか。しかし、全てを被害者へ届ける事は出来ないと思います。誰の物かも分からない物もあるでしょう。

まさかゴミとして出したりはしませんよね。物は大切にしなければなりません。資源は限られているのですから。だから、あれです。お巡りさん、競売……いえ何でも無いです。





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第103話 ドイツ産

 その日、普段は何の飾り気も無く地味な軍の基地がお祭りの様な状態だった。基地内の人間は例外無く飾り付けやパーティー会場の設営に駆り出された。

 

 これはたった一人の男の為に行われているというのだから驚きだ。この女尊男卑の世の中でそんな扱いを受ける者、それは世界でたった二人しかいない男性IS操縦者である山田太郎だった。

 

 ラウラに付き添って突然ドイツへ入国した太郎の歓心を得ようと、フォルカー・マテウス中将の命の下、基地を挙げての歓迎会を開こうとしていた。

 

 現場を仕切るのはクラリッサとIS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの愉快な仲間達である。IS特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼはラウラが隊長を務める部隊であり、その副隊長であるクラリッサが現在ラウラの恋路を助ける為に指揮をとっている。

 

 煌びやかに飾り付けられた基地内。そこで今か今かと太郎を待ち受ける精鋭達。

 

 そんな中、ついにその時は来た。

 

 基地のゲートにラウラと太郎が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラリッサと特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達、そしてフォルカーは基地内に設けた太郎歓迎パーティー会場で太郎達の到着を待っていた。会場と言っても広い食堂から必要な分の机とイスだけ残して余分な物を別の場所へ移し、飾り付けや長机にテーブルクロスを敷いただけである。ただ、長机の上には料理と飲み物が所狭しと置かれていた。

 

 しばらくすると会場の入り口にラウラが姿を現す。そのラウラの後ろから直ぐに太郎が現れた。当初の予定ではここは拍手で太郎を迎えるはずだったのだが、太郎の異様な姿にシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達だけでなく、クラリッサやフォルカーまであっけにとられていた。

 

 ラウラと太郎は共に軍服姿であった。ラウラは現役の軍人なので自然であるが、太郎は軍の人間ではない。しかも、太郎の着ている軍服はドイツ軍の物である。そして、何よりおかしいのは────────その軍服のサイズである。

 

 ピッチピチだ。まるで子供服を大人が着たかのような姿である。袖や裾は10cm以上生地が足りておらず、肩や胸板、太もも、上腕二頭筋などあらゆる部分がはち切れんばかりだ。

 

 フォルカーは戸惑っていたが何時までも黙っている訳にもいかず、ぎこちない笑顔を作りつつ太郎の前へと歩み出た。

 

 

「よ、よ、ようこそ、お、おいでくださいました。わ、我々は基地を挙げて貴方を歓迎します」

 

 

 フォルカーは引きつった笑顔で噛みまくっている。しかし、それも仕方が無い。

 

 明らかに異常な姿の太郎、されど今から太郎の歓心を得ようと狙っているフォルカーとしては迂闊に指摘して機嫌を損ねるなどという事態は避けたい。今まさにどうすべきなのか必死で考えを巡らしているのだから、多少ぎこちなくなっても当然だ。だが、フォルカーのその思案は無駄に終わる。

 

 

「服のサイズが合っていませんね」

 

 

 フォルカーの後ろに控えていたクラリッサが誰もが抱いた感想を口に出してしまったのだ。

 

 

(おおおおおおおいいぃぃ!!!!!)

 

 

 フォルカーは目を見開いてクラリッサを振り返ったが、本人はいたって無自覚である。フォルカーは何とかして誤魔化そうと考えたが、先に太郎が口を開いた。

 

 

「それはそうでしょう。これはラウラの軍服ですから」

 

(意味が分からない。何故ボーデヴィッヒ少佐の軍服を彼は着ているのだ?)

 

 

 フォルカーの頭の中は【?】で埋め尽くされる。しかも、太郎自身は己のその行動に何の疑問も持っていない様子である。フォルカーの持っている常識では全く理解出来ない。

 

 そこにクラリッサの斜め上な質問が飛び出る。

 

 

「サイズが合わないのに敢えて隊長の物を着る。それは……性癖的な理由ですか?」

 

「そうとってもらっても構いませんよ」

 

 

 笑顔でさらっと答える太郎にフォルカーは唖然とする。太郎の言葉はさらに続く。

 

 

「それに日本には郷に入っては郷に従えという言葉があるんですよ。その土地に訪れたら、その土地の風俗や習慣に従うべきだという意味です。だからドイツ軍の基地へ(おもむ)くなら、服装も合わせようと思いまして」

 

(はっ!? そ、そうか性癖というのは日本式のジョークだったのか。こちらが本当の理由なのか。焦ったぞ)

 

 

 フォルカーは性癖うんぬんという話を太郎のジョークだったのだと自分を納得させた。それを言うなら太郎の現在の姿そのものがジョークでしかないのだが、フォルカーはそれ以上考える事を止めた。その後ろでクラリッサは別の意味に受け取っていた。

 

 

(ごう)(カルマ)に入っては業に従え……深い言葉です。罪深い欲望でも一度染まってしまえば、それを否定する意味はなく、ただその欲望に従っていくというのか。日本人は潔いです)

 

 

 クラリッサは太郎の言葉の前半部分しか聞いておらず、勘違いしたまま曲解していた。

 

 そうとも知らず太郎はフォルカーやシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を眺め、さらに飾り付けられた会場を見回した。突然の招待だったので乗り気ではなかった太郎も実際に歓迎されると悪い気はしない。

 

 

「本日はお招きいただき有難うございます。この様な歓迎をしてもらえて嬉しい限りです」

 

「気に入ってもらえて何よりです。さ、さ、そちらに座って下さい」

 

 

 フォルカーは太郎からの丁寧な礼を受け、ここまでは成功していると確信を持った。フォルカーは太郎をイスに座らせると部下にビールジョッキを持って来させて太郎へ渡した。

 

 

「では、先ずは乾杯から」

 

 

 フォルカーがシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に目配せすると彼女達もそれぞれがジョッキを持つ。

 

 

「「Prost!!!(乾杯!!!)」」

 

 

 会場内に参加者達の声とジョッキをぶつけ合う音が響く。太郎もフォルカーとジョッキを軽く当て合うとジョッキに口を付ける。そして、一気に飲み干し空のジョッキを机にドン、と置いた。すかさず近くにいたシュヴァルツェ・ハーゼの隊員が新しいジョッキを持ってくる。

 

 太郎はそれを半分ほど飲むと一度机に置いた。

 

 

「日本の物とは少し違いますが美味しいですね」

 

「ふふっ、当然だな」

 

「色々な種類を揃えているので試して見ますか?」

 

 

 太郎の感想に何故かラウラが得意げに微笑んでいると、先程太郎に新しいジョッキを渡した隊員が笑顔で提案する。

 

 太郎達が話している隙にクラリッサは太郎の飲みかけのジョッキを手に取った。そして、周囲から見えないようにテーブルクロスの下へと────────。

 

 

「ハルフォーフ大尉、何を……」

(静かに!!!)

 

 

 クラリッサの行動を不審に思ったフォルカーが声を掛けると、彼女は小声でそんな事を言う。ますます訳が分からないフォルカーを放置し、クラリッサはベルトを外した。

 

 クラリッサは○○○と下○をズリ下ろすとジョッキをへ○○を注いだ。

 

 ジョボ、ジョボボボボボ。

 

 

(ハ、ハルフォーフ大尉、き、君は何を……)

(いやらしい目で見ないで下さい。アッチを向いてください。変態ですか!)

(す、すまん)

 

 

 クラリッサに睨みつけられフォルカーはつい謝ってしまう。そうこうしている内に満杯になったジョッキをクラリッサは机の上へと戻した。下着とズボンも元通りである。

 

 太郎と話していた隊員がお薦めのビールを取りにその場を離れる。隊員が戻って来るまでに太郎は自分の飲みかけのジョッキを飲み干してしまおうと机に視線を戻す。しかし、そこに飲みかけのビールは無く、満杯となったジョッキだけだった。

 

 

「新しいのを注いでおきました」

 

 

 クラリッサは真顔で言った。太郎は何の疑問も持たずにジョッキに手を伸ばす。慌てたのはフォルカーである。

 

 

「ちょっ、まってぐわあっ!?」

 

 

 太郎を慌てて止めようとしたフォルカーにクラリッサは関節技をかけながら口を塞いだ。どういうつもりだ、と目で訴えるフォルカーへクラリッサは自信満々に語り始める。

 

 

(これが日本式の歓迎なんですよ。昔チラっと見たマンガでやってました。その時はお茶でしたが)

 

 

 いやいや、ありえないと首を振ろうとするフォルカーであったが、シュヴァルツェ・ハーゼでも実力者であるクラリッサを振りほどけない。

 

 太郎はジョッキを持ち、口元へ持っていく。そして、口を付ける寸前になって眉を(ひそ)めた。

 

 フォルカーは全てが【終わった】と思った。出世どころか国際問題だ。○○を飲ませようとしたなどという、ありえない不祥事で自身のキャリアが終わるなど考えた事も無かった。

 

 太郎は一度手を止めたものの、そのままジョッキに口を付けた。そして、ゴクッゴクッと喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

 

 

「……まろやかな味わいの中に刺激的な香りが潜んでしますね。これはかなり新鮮なモノでしょう?」 

 

「搾りたてです」

 

 

 普通に話している太郎とクラリッサを見て、フォルカーは自分の頭がおかしくなったかのような感覚に陥った。ハルフォーフ大尉が言った事は本当だったのか、そう一瞬思ったりもした。しかし、首を横へ振って否定する。日本人にそんな奇怪な習慣があるとは聞いた事も無い。もし本当だったとするなら、日本人の相手は自分には務まらないともフォルカーは思った。

 

 ただ太郎はラウラの専用機が直るまで、この基地へこれからも訪れる予定である。その許可を出したのはフォルカー自身だ。つまりフォルカーがどう思おうと、しばらくは関わり合いがあるのは決定事項であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎   「これぞまさに、一番しぼり生っ!」
クラリッサ「糖質も30%オフです(中将と比べて)」



読んでいただきありがとうございます。

数日前までの寒波大変でしたね。みなさんは無事だったでしょうか。私は人生は初の蛇口から水が出ないという体験をしました。比較的温暖な場所なので凍って出ないなどという発想がありませんでした。地元で雪が積もっているのを生で見たのも数年振りです。

これ以上が無ければ良いのですが、皆さんも気をつけましょう。


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第104話 不穏な音

 太郎の歓迎会がドイツ軍の基地で開かれた翌日、その主催者であるフォルカーは浮かない顔で基地の通路を歩いていた。フォルカーの表情は昨日の歓迎会が原因であった。歓迎会自体は滞りなく終わり、太郎も喜んでいた。太郎のご機嫌取りの為に開いた歓迎会は、その目的を達成したと言って良い。

 

 それならば何故フォルカーは暗い表情をしているのか。それは歓迎会の合間に太郎とクラリッサの奇行を()の当たりにしたからである。

 

 

(昨日のビール……絶対○○が入っていたのに彼は気付いていたよな)

 

 

 太郎とクラリッサは明言こそしていないが、二人のやり取りを聞く限り、そうとしか思えない。しかし、そうなると太郎は○○を嬉々として飲んだという事だ。歓迎会中にその場で小○をジョッキに汲む部下の頭も理解できないし、それを喜んで飲む太郎も理解に苦しむ。フォルカーは昨日の出来事を思い出すだけで気分が悪くなりそうだった。

 

 執務室へと向かうフォルカーの足取りは重い。そんなフォルカーの耳にざわめきが聞こえてきた。音の源へ視線を巡らせると窓の外に人だかりがあった。

 

 そこで行われていたのは珍しくも無い白兵戦の訓練のように見えた。しかし、次の瞬間フォルカーは我が目を疑った。

 

 特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊員の拳が太郎の顔面にめり込んでいたのだ。

 

 

「何をやっとるんだッァァァア!!!?」

 

 

 かつてこの基地を訪れたどんな賓客よりも丁重にもてなすべき相手の顔面へ、あろう事か拳を叩き込むなどあってはならない所業である。

 

 フォルカーは我を忘れて窓を開け放ち、人だかりに向けて叫ぶ。だが、その声が聞こえていないのか先程太郎を殴った隊員の猛攻は止まらない。フォルカーは直接止めようと窓から身を乗り出す。しかし、ここは二階である。フォルカーは下を見て一瞬躊躇った。その間も隊員の太郎への攻撃は続いている。

 

 

「えええいっ、くそが!!!!!」

 

 

 躊躇っている暇はない。意を決してフォルカーは二階の窓から飛び降りる。たかが二階、されど二階。もう良い年齢であるフォルカーの足腰には厳しかった。着地こそ上手くいったものの痛めた足でヒョコヒョコと人だかりへと向かう姿は中将としての威厳など欠片も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し(さかのぼ)る。

 

 太郎は歓迎会の翌日もドイツ軍の基地を訪れていた。クラリッサが特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの訓練を見学してはどうかと誘ったのだ。元々ラウラに付いてきただけの太郎は、特に用事も無かったので二つ返事で誘いを受け入れた。

 

 最初の訓練内容は太郎からすると意外だったが、走り込みである。見学という話だったが暇なので太郎も一緒に走る事にした。ちなみに今日の太郎の服装はドイツ軍支給のカーゴパンツとTシャツで、どちらも太郎の体に合ったサイズの物をクラリッサが手配した。

 

 

「意外ですね。IS配備の特殊部隊と聞いていたのでISを使った訓練ばかりやっているのかと思っていました」

 

「我々はIS配備と言っても隊長の専用機を含めて3機しかありません。そこで残りの隊員は予備の操縦者という役割だけでなく、歩兵としての役割を担います。ですから、最低限体も鍛える必要があります」

 

 

 太郎が走りながら言った疑問にクラリッサが答えた。そして、ラウラがそこに付け足す。

 

 

「それに体を鍛える事はISの操縦にも必須だと教官が言っていたのだ。弱者でもISに乗れば強くなれる。しかし、強者が乗ればより強くなれると」

 

 

 短絡的な考えだが機体性能と操縦技術が同じであるなら、身体能力が高い方が有利なのは確かである。ISには生体維持機能や急旋回による体への負担を減らす機能が存在する。しかし、完全に操縦者が消耗しないISなどないのだから、体を鍛えるのにこした事はない。

 

 

「パパが体を鍛え抜いているのも同じ理由なのでは?」

 

「いえ、私の場合はISに関わる前からあまり変わりませんよ」

 

「それなら何かスポーツでも?」

 

「ふふっ」

 

 

 太郎はラウラの問いに昔を懐かしむように笑っただけで、何も言わなかった。

 

 元々、太郎は紳士的な格好で夜の街を駆け抜けるという日課を持っていた。これにより強靭な足腰が出来上がった。それに時には地上15mの断崖絶壁に咲く花、もといマンションの5階や6階のベランダに干された下着を収穫することもあった。その際、太郎はその身一つでマンションの壁をよじ登ったりもした。

 

 そういった太郎の活動を妨害する者達も存在した。太郎を捕らえ、しきりに手錠をかけようとする彼等を力で引き剥がす事も日常のひとコマであった。太郎の体は、そんな生活の中で自然と鍛えられたのだ。

 

 

「IS学園の学年別トーナメントで山田さんが勝った事は私も知っています。ISの訓練を始めて1年未満の貴方が隊長に勝ったのですから、何か特殊な訓練をしていたのではないですか?」

 

 

 クラリッサもラウラ同様興味深そうに太郎へ疑問をぶつけた。

 

 ラウラが学年別トーナメントで太郎に敗北した事実は、当時クラリッサを含めたシュヴァルツェ・ハーゼ全体に衝撃を与えた。強化処置の不適合によって一度は落ちこぼれの烙印を押されたラウラであったが、それ以前は常にトップを走り続けていた。そして、千冬との出会いで挫折を乗り越えたラウラは、より強くなってシュヴァルツェ・ハーゼのトップに君臨した。

 

 そう、まさに君臨と呼ぶに相応しい状態だった。気が回り、他の隊員達からも信頼の厚い副隊長のクラリッサと違い、ラウラはその強さのみでシュヴァルツェ・ハーゼを掌握していた。

 

 そのラウラが負けた。

 

 シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達には敗北後のVTシステムの暴走もショックであったが、それ以上にラウラの敗北は信じがたいものだった。

 

 しかし、ラウラの敗北を知った当時はともかく、現在の隊員達はクラリッサを含め多くの者が太郎への畏怖と敬意、それと大きな興味を持っていた。

 

 それはラウラの変化が理由だった。あのコミュ障で扱いづらく、常にピリピリしていたラウラが普通の少女のように恋の悩みをクラリッサへ相談してきたのだ。どんな相手か気になって当然である。

 

 ただ、隊員全員が同じ気持ちという訳ではない。

 

 太郎とラウラ達の会話の陰で小さな舌打ちがされていた。




読んでいただきありがとうございます。

フォルカーさんには胃薬とシップを出しておきますねー。


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第105話 飛んで火に入る

 その舌打ちは小さな音だった。しかし、丁度太郎達の会話が途切れたタイミングであった為、その場にいた全員に聞こえてしまった。そして、自然と視線が音の発生源へと集まる。

 

 そこにいたのは不機嫌さを隠さない二人の少女だった。最初、少女達は急に視線が自分達に集まった事で戸惑う素振りを見せたが、すぐに開き直り不貞腐れた態度を続けた。それを見咎めたクラリッサが少女達へ詰問する。

 

 

「ヴェンデル少尉、ルッツ曹長、何か言いたい事でも?」

 

 

 ヴェンデル少尉と呼ばれた少女のフルネームはティナ・ヴェンデル。体格はラウラより一回り大きい。それと目つきが悪く、くすんだ金髪を無造作に後ろで括っていた。

 

 ルッツ曹長の方はくせ毛の黒髪で若干丸顔。身長はクラリッサを同じ位だが、体つきはガッチリしておりクラリッサより大きく見える。

 

 クラリッサの詰問にはヴェンデルが答えた。

 

 

「いえ、別に……ただ隊長に勝ったからと言って強いとは限らないんじゃないかと」

 

「どういう意味だ?」

 

 

 ハッキリとしないヴェンデルの物言いに眉をひそめたクラリッサは、もう一度彼女へ問いかけた。

 

 ヴェンデルは(あざけ)る様な目を一瞬ラウラへ向けた後、クラリッサへ答える。

 

 

「運が良かっただけかもしれませんし……隊長が隊を離れて腑抜けていたのかもしれませんよ。今回の帰国も、専用機を大破させて修理の為におめおめと帰って来たって話ですし」

 

 

 ヴェンデルの発言内容にシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達はざわめいた。ヴェンデルの発言はラウラに対する完全な挑発である。隊員達はヴェンデルが何故急にこんな事を言ったのか分からず、困惑していた。

 

 隊員達はチラチラとラウラの顔色を窺う。自分達の知るラウラであれば確実に実力で黙らせる。客が来ているのに物騒な展開になっては拙い、どうすれば良いんだという隊員達の心配は意外な形で解消された。

 

 ラウラが至って冷静にヴェンデルへ答えたのだ。

 

 

「私のコンディションなど関係ない。ましてや運が良かっただけなどという事は有り得ない。パパの方が強かった。それだけの話だ」

 

 

 かつて病的なまでに強さへ拘っていたラウラとは思えないセリフである。淡々と自身の敗北を認める姿を見て隊員達は唖然となった。ラウラの変化は帰国当初から隊員達も感じていたが、まさかここまでの変化だったとは思ってもいなかった。そのせいで誰も直ぐには反応出来なかった。ヴェンデル以外は。

 

 ヴェンデルはラウラの言葉を聞いて口元を歪めた。

 

 

「やっぱ腑抜けてんじゃん。素人に負けたってのに、何とも思わないのかよ。昔のアンタからは考えられないセリフ言っちゃってさぁ。ねえ、そんなアンタには相応しくないと思うんだけど……専用機なんて」

 

 

 ここで隊員達はヴェンデルがラウラに喧嘩を売った理由が分かった。

 

 シュヴァルツェ・ハーゼには3機のISが配備されているが、そのうち2機が隊長であるラウラと副隊長のクラリッサの専用機である。そして、最後の1機がヴェンデルの操る量産機なのだ。

 

 しかも、ラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンが第三世代型なのに対して、ヴェンデルの量産期は第二世代型なうえ、何時でも他の隊員が使えるように一次移行を行えない設定になっている。

 

 シュヴァルツェ・ハーゼにおいてヴェンデルは、ラウラとクラリッサに次ぐ三人目の操縦者であるが、ラウラ達との差は大きい。何せヴェンデルの乗機は専用機ではない、それすなわち何時でも替えがきくという訳だ。

 

 つまり、ヴェンデルはこの現状を嫌い、ラウラの地位を奪おうと考えているのだろう。

 

 ハッキリ言って上手い手ではない。訓練中に上官へ喧嘩を売ってブチのめしたからと言って、その地位を奪えるのか。いや、有り得ないだろう。

 

 仮にラウラが敗北したとする。隊内外からのラウラへの評価は下がるだろう。しかし、ヴェンデルへの評価も上がるどころか下がるだろう。軍隊というのは規律に厳しい組織である。ここまであからさまに上官へ喧嘩を売るような人間が評価される事は無い。

 

 そう、ヴェンデルもまた、ラウラとは違った意味で常識知らずなのだ。これはラウラやヴェンデルだけの話では無い。シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達は皆、生まれながらに遺伝子を弄られた試験体である。現在は一応軍【人】扱いではあるが、元々生物兵器に近い扱いをされてきた者達だ。そんな生い立ちなので、軍内部で出世する為の政治など全く知らない者がほとんどなのだ。

 

 

「アンタには専用機なんて相応しくねえーんだよ。私が替わってやる」

 

「そうだね。ティナが隊長になってなった方が良いよ」

 

 なおも稚拙な挑発を続けるヴェンデルとそれに追従するルッツ。ラウラがどう対応するのか、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達は固唾を呑んで見守っていた。普通の軍人がこの場を見ていたら、とんだ茶番だと苦笑するだろう。だが残念ならがこの場に普通の軍人はいない。

 

 代わりと言ってはなんだが、普通でもないし、軍人でもない者が名乗りを上げる。ヴェンデル達の前に太郎が歩み出た。

 

 

「それなら私と手合わせしてみませんか?」

 

 

 思惑を邪魔されたヴェンデル達は太郎を睨んだが、太郎の方は笑顔で受け流す。

 

 

「ラウラに勝った私と戦い、もし勝つことが出来たら証明できますよ。ラウラより貴方が専用機を持つに相応しいと」

 

 

 ヴェンデル達のラウラへの挑発も稚拙であったが、こちらの誘いも上手いとは言えないものだった。しかし、太郎のこれは敢えて程度の低い誘い方をしたのだ。この位の誘い方でないとコイツ等は誘われている事に気付けないのではないか、という失礼な認識から出た言葉だった。

 

 そして、その認識はあながち間違いでもなかった。まんまと釣られた馬鹿が太郎の誘いに乗って来る。

 

 太郎の挑発を受け、ヴェンデルが馬鹿にする様な笑みを浮かべる。

 

 

「言うねえ~。偶然ISを起動させられたからコッチ側に来ただけの一般人のくせにさぁ……まともな訓練を受けた期間も一年に満たないんだろ?」

 

「素人もどきが大物ぶんなよ。ティナとやる前に私が相手になってやる」

 

 

 一触即発の太郎とヴェンデルの間にルッツが割り込んだ。

 

 太郎は特に考える事も無く、それを受け入れた。最初から二人とも相手にするつもりだったので、異論など無い。

 

 

「さて、それでは何で勝負しますか?]

 

「これだよ」

 

 

 太郎の問いにルッツは拳を突き出して言った。そして、さらに挑発するように続ける。

 

 

「まさか生身じゃ怖くてやれないなんて言わないよな?」

 

「はい、問題ありません。むしろ良いんですか? 体格的には私が有利ですよ」

 

「ヘッ、丁度良いハンデだ」

 

 

 ルッツが自信満々なのには訳がある。遺伝子操作を受けたシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達は、生まれながらに驚異的な身体能力を誇っている。しかも物心が付く前から実験と訓練を施されてきた。その為、ルッツはIS戦でも負ける気はしないが、肉弾戦ならより確実に勝てると踏んでいた。つまりルッツは、ハンデなどと口では言っているが、自分に有利な勝負へ引き込んだつもりなのだ。

 

 今にも事を始めそうな太郎とルッツだったが、そこにラウラが口を挟んだ。

 

 

「待て、相手なら私がやろう。パパにこれ以上面倒は掛けられん」

 

「面倒なんてとんでもない。私がやりたいから申し出ただけですよ」

 

「いや、しかし……」

 

「まあ、任せて下さいよ。それに自分から言い出しておいて、直前で勝負から引くなんて恥ずかしい真似を私にさせるんですか?」

 

 

 ラウラとしては今回の帰国にまつわる一連の騒動で、太郎に相当な迷惑をかけている自覚がある。これ以上面倒は掛けられないという思いからの言葉だった。

 

 しかし、太郎は頑として引かない。太郎は太郎で思う所があった。ヴェンデルがラウラを挑発する際に、ラウラが専用機を破損させた事も引き合いに出していた。シュヴァルツェア・レーゲンを破壊したのは美星ではあるが、美星を制止するのが遅れた事に多少の責任を太郎は感じていた。その為、シュヴァルツェア・レーゲンの破損について責められているラウラを太郎は見過ごせなかったのだ。

 

 




読んでいただきありがとうございます。

更新が遅れてすみません。二週間程、リアルがちょっと面倒な事になっていていました。

何とかなったので次更新は今週中に出来ると思います。


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第106話 少女は闇に包まれる

 勝負などと仰々しく言ったが特別な場を設けたりはせず、二人はこの場で闘う事になった。先程まで走っていたランニングコース上で太郎とルッツは睨み合う形となる。そして、二人をシュヴァルツェ・ハーゼの面々が少し離れて囲んでいた。

 

 ルッツはボクシングのオーソドックスな構え、ただし若干前に出している左手を低めに置くスタイル。対する太郎は両手とも拳を握らず、脱力した状態で肩くらいの高さで構えている。

 

 ルッツは太郎の構えを見て嘲笑う。

 

 

「そんな構えで良いのかい? 顔面を打ち放題だぜ」

 

「おかしいですね。私達の勝負の方法は口喧嘩でしたか。それとも先ずは舌戦を行うのがドイツ式なんですか」

 

 

 挑発を更なる挑発で返されたルッツの反応は早かった。いきなり鋭く間合いを詰めジャブを放つ。しかし、太郎は予期していたのか、瞬時に左斜め後ろへステップをしてジャブの間合いから逃れた。

 

 ルッツは舌打ちをしながら太郎を追い、スピード重視の軽いパンチを連続で打つ。それを太郎はフットワークと上半身の動きを使って捌く。何発かは当たっているが、直撃ではないので軽いパンチでは大したダメージにはならない。

 

 攻め続けながらも決定打を打てないルッツは一旦足を止め、呼吸を整えつつ機を窺う。

 

 立ち止まったルッツに対し、太郎は滑らかかつ無意味に両手を(うごめ)かす。さらに中国拳法の演舞の様なゆったりとした流れるような足運びを見せる。こちらも両手の動きと同様に何の意味も無い動きだ。つまり単なるパフォーマンスである。

 

 ここまでは空回り状態のルッツだが、軍でも有数の格闘技術の持ち主である。今の太郎が行っている動きが実践的なものかどうか位、すぐに分かる。だから太郎の動きが無意味であり、単なるパフォーマンスである事も分かった。分かってしまった。怒りで頭に血が上る。

 

 

「くっ、調子に乗りやがってっ!」

 

「貴方の力はもう見切りました」

 

 

 怒声を上げるルッツに太郎は冷静に告げる。それはルッツの怒りの炎に油を注ぐ行為だった。ルッツの全身に漲るのはもう闘志ではなく、殺意のみである。

 

 このままでは殺し合いになるのではないかという様子に、周囲も流石にざわめき出す。

 

 クラリッサもこのままでは危険と判断し、ラウラへ勝負を止めるように進言した。しかし、ラウラは考える素振りも無く、その進言を退けた。そして、不服そうなクラリッサに質問する。

 

 

「大尉、私が隊を離れていた間にルッツ曹長は強くなったか?」

 

「はい、間違いなく」

 

「では隊を離れる前の私と比べてどうだ?」

 

 

 クラリッサは少し考えた後、首を横へ振った。

 

 

「いいえ、そこまでではないです」

 

「それなら問題ない。あの人は私より強い。それに教官と戦っているところも見たが、単純な筋力と耐久力では教官以上かもしれん」

 

 

 ラウラの言葉にクラリッサだけでなく、聞いていた全ての隊員がその身を震わせた。しかし、幸か不幸かルッツには聞こえていなかった。

 

 ラウラがただ【教官】と呼ぶ人間といえば織斑千冬である。それはシュヴァルツェ・ハーゼ隊員間での共通認識である

 

 そう、世界最強・織斑千冬だ。

 

 かつてシュヴァルツェ・ハーゼの教官を務めた千冬を知らない隊員はいない。そして、同時に千冬へ恐怖を覚えない隊員はラウラ以外いない。

 

 ラウラは千冬へ信仰と言っても過言ではない位に好意を抱いているが、他の隊員は違う。嫌っている訳ではない。間違いなく尊敬はしている。しかし、それはどちらかと言えば畏怖と呼ぶものである。

 

 千冬はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を徹底的にしごいた。正確無比に隊員達の限界を見極め、常に壊れる寸前まで追い込んだ。千冬に悪気があったわけではない。人を教育するという経験が未だ少なく、時間も限られていた為、やれるだけの事をやったに過ぎない。だが、そんな理由は隊員達にとっては何の慰めにもならない。

 

 一年間、来る日も来る日も限界寸前まで隊員達はしごかれた。もちろん隊員達はその間どんどん成長した。先月は死にかけた訓練も次の月には楽にこなせる様になった。しかし、千冬は成長した分を正確に把握し、限界ギリギリの新しい訓練を隊員達へ課した。

 

 日に日に過酷さを増す訓練。反抗する気すら起きない圧倒的な力。ラウラ以外の隊員の心には、千冬の存在が漏れなくトラウマとなって刻み込まれた。

 

 そんな千冬より筋力と耐久力は上。ラウラの告げた事実に隊員達は震え上がった。

 

 おりしも、なかなか捉えられなかった太郎へルッツの拳がついに炸裂した。左ジャブ、右ストレートの綺麗なワンツーが太郎の顔を直撃した。

 

 何処からか「何をやっとるんだッァァァア!!!?」という男の声が聞こえたが、誰も気にしない。

 

 遺伝子操作を受けた人間が殺意を持って放った渾身の拳である。特に右ストレートは、まず間違いなく勝負を決める一撃だ。しかし、必殺の拳を受けつつも、小揺るぎ(こゆ)もしなかった太郎を見て、隊員達はラウラの言葉が嘘ではないと確信を持った。この時、ラウラとルッツ以外の隊員達の気持ちは一つになる。

 

 逃げろルッツ! 目の前にいるのは化け物だ!

 

 残念ながら彼女達の思いは届かない。

 

 

「どうだっ! これでも未だ舐めた真似が出来るか!!」

 

 

 渾身の攻撃が命中して気を良くしたルッツが吠える。しかし、太郎は平然とした様子で人差し指を立て、左右に振る。

 

 

「貴方の力は見切ったと言ったでしょう。喜んでいるところ申し訳ないんですが、避ける必要が無いから受けてあげただけですよ」

 

「なっ!?」

 

「では、そろそろ私も責めますよ」

 

 

 一歩前に踏み出そうとする太郎へルッツは慌てて、もう一発右ストレートを放つ。太郎は膝を曲げ、背を屈めてパンチを掻い潜る。

 

 先程まで追っていた側のルッツが逆に距離をとろうとバックステップをする。さらに距離を詰められまいとジャブを連続で打つ。

 

 太郎は体を左に傾け一発目のジャブを避け、次に体を逆である右に傾けて二発目も回避した。太郎の動きは止まらない。体を振り子の様に左右へ振りつつ間合いを詰めていく。

 

 焦ったルッツが大振りの右フックを空振った。そこで遂に太郎が手を出し始めた。

 

 斜め下45度からスマッシュの様な軌道で太郎の右手がルッツへ襲い掛かる。

 

 ぼよん、そんな音が聞こえそうな一撃だった。

 

 女性としては体格に恵まれた方であるルッツは、胸の方も恵まれていた。そこを狙われたのだ。そして、太郎の責めは止まらない。右手の次は左手。左手の次は右手。太郎は体を左右に振りながら責めを続ける。

 

 

「やっ、やめろおおお!!!」

 

 

 当然、ルッツは抵抗する。テクニックもクソもない。めちゃくちゃにパンチを繰り出す。何発かは太郎の体に当たっている。しかし、太郎の動きを止めるには至らない。

 

 太郎の動きが激しさを増す。太郎の上半身の動きが∞の軌道を描く

 

 ルッツの胸が跳ね上がる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。

 

 もう何回ルッツの胸は撫で上げられたのか分からない。

 

 そして、ルッツの心はへし折れた。

 

 ルッツは胸を押さえ膝を地に付いた。

 

 しかし、まだルッツは降参と言ったわけでもなく、クラリッサやラウラが勝負の決着を告げた訳でも無い。だから太郎はトドメを刺すべく、自らのズボンのボタンを外し、チャックを下ろす。パンツのゴムを引っ張り、パンツと○○○の間に空間を作る。そこへルッツの頭を掴んで突っ込んだ。さらにルッツの頭を股で挟み逃れられなくする。

 

 もがくルッツを物ともせず、太郎はルッツのベルトの背中側を掴み吊り上げる。ルッツは太郎のパンツの中に頭を突っ込んだまま逆さ状態になる。そして、太郎はそのまま腰を落とし、ルッツは頭を地面に打ち付けられ失神した。

 

 

「男のパンツに顔を突っ込んで逝ってしまうなんて、ナントハシタナイコデショウ」

 

 

 太郎の完全に突っ込み待ちなセリフ。しかし、突っ込む者は誰もいなかった。代わりにラウラが質問を太郎へ投げかけた。

 

 

「初めて見る技だ……なんという技なんだ?」

 

「さあ? 私も詳しい事は分かりません。遠い昔にとあるプロレスラーが使っていたらしいですね。タマタマ、ネットで情報を見かけて、こんな事もあろうかと練習しておいたんです」

 

 

 この技の本質……使う相手の性別が完全に間違っていたが、長い時の中で使用者がいなくなり、廃れてしまった為にこの場でそれを指摘出来る者はいなかった。

 

 




太郎「ほぼ逝きかけました」



女に使ったら男色ドライバーにならないだろ、という……。

読んでいただきありがとうございます。


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閑話 クラリッサの独白

 太郎歓迎パーティー会場。その名の通り、日本からやって来た男性IS操縦者・山田太郎さんの歓迎パーティーが開かれている会場だ。パーティーも終盤に差し掛かり、開始当初は多くの人間に囲まれていた太郎さんも今はのんびり食事を楽しんでいるようだ。パーティーは特に問題も無く進行し、主催者である私としても一安心である。

 

 私はクラリッサ・ハルフォーフ。特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」副隊長にして大尉である。歓迎パーティーの段取りなど未経験であるが、相手は日本人である。部隊一の日本通である私にかかれば、日本人の一人や二人持て成すなど造作も無い仕事であるはずだった。だが、そう甘くは無かった。ここまで来るまでにどれだけの苦労があった事か。

 

 太郎さんを喜ばす為のアイデア自体は簡単に思いついた。しかし、思わぬ落とし穴が私を待っていたのだ。

 

 パーティーの準備はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員だけで全て行える訳ではない。会場となる食堂を貸し切る手配。会場のセッティング。食事の用意。催しの進行などなど、細かい事まで挙げ始めるとキリがない。それにも関わらず、シュヴァルツェ・ハーゼの面々は単純な労働力以外には何の役にも立たなかった。

 

 精鋭と言われるシュヴァルツェ・ハーゼだが、戦闘や訓練を離れると大半の隊員達は何も出来ない。それもそのはず彼女達は生まれてこの方、戦闘と訓練、それと軍事関連の座学位しかやってきていないのだ。歓迎パーティーなど見た事も参加した事も無い。それに隊以外の者とのコミュニケーションが上手くとれない隊員が多過ぎた。

 

 特に男相手の意思の疎通は壊滅的である。

 

 どういう話し方をすれば良いのか分からず、話かける事すら手間取る者。

 

 意味も無く相手を見下し、反感を買う者。

 

 結果、隊外の者との折衝は自分でやった方が早く、その大半を私がやる羽目になった。それもこれも───────────

 

 

「シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の経験不足が悪い、と?」

 

 

 気付いたら主賓である太郎さんへと愚痴をブチ撒けてしまっていた。幸い太郎さんは気分を害した様子もなく問い返してきた。ここで止めておけば良いのに私自身、酔いが回っていたのか大袈裟に頷いて愚痴を続けてしまう。

 

 

「そうです。うちの隊員は隊長を筆頭に軍の事しか出来ない、分からない者ばかりなんです。しかし、それは仕方が無いんです。だって、そういう事しかやってこなかったんですから」

 

 

 私の愚痴を聞いた太郎さんは、少しの間首を捻って思案していたが、何か思い付いた様子で顔をこちらへ向けた。

 

 

「それなら私がシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を指導するというのは、どうでしょうか?」

 

「た、太郎さんが?」

 

「ええ、彼女達の心技体を鍛えつつ、私と接する事で男への耐性も付く。一石二鳥でしょう?」

 

「確かに……ぜひ、お願いします」

 

 

 太郎さんの提案は私にとって非常に有り難いものだった。太郎さんは、あの隊長を変えた人である。必ず他の隊員達にも変化を与えるはずだ。この時の私は無邪気に喜んでいた。

 

 山田太郎。彼の指導がある意味で途轍もなく過酷である事を、私は後に思い知る。

 

 




読んでいただきありがとうございます。

次回「意外、それはヴェンデルの串刺しッッッッッッッ!!!!!!」

お楽しみに


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第107話 野放し

 太郎の強烈な一撃を喰らい、失神してしまったルッツ。彼女は目を覚ます様子も無く地面に横たわっていた。流石に放置する訳にもいかないので、現在は近くにいた隊員が介抱している。

 

 ヴェンデルはルッツのその痛ましい姿を見て顔が強張っている。

 

 

「このキチ○イが……ただで済むと思うなよ」

 

「ふふっ、それはこちらのセリフです。うちのラウラに喧嘩を売っておいてタダで済むなんて思わないで下さい。高くつきますよ。それにある人から貴方達の相手をして欲しいと頼まれてもいるので、たっぷりとその身に教訓を刻み込んであげます」

 

 

 太郎の口調は怒りに震えるヴェンデルとは対照的で軽いものだった。あまつさえ、話している最中に視線をラウラやクラリッサの方へ向ける余裕すらあった。それがヴェンデルの気持ちを逆撫でする。

 

 

「チッ、ルッツに勝ったくらいで調子乗ってんじゃねえ。次は私とISを使った実戦だっ!」

 

 

 烈火の如くヴェンデルが吠える。しかし、それでも太郎は相変わらず涼しい顔である。

 

 

「付いて来い。こっちに専用のグラウンドがある」

 

 

 我慢の限界が近いヴェンデルは、ISにより模擬戦を行える専用のグラウンドの方を見ながら太郎に言った。一分一秒でも早く、コイツをブチのめしたい。そんな気持ちがありありと表れている───────────が、甘い。甘過ぎる。

 

 

「貴方は馬鹿なんですか?」

 

 

 太郎の呆れた様な声が背後から聞こえてきた瞬間、ヴェンデルは自身の体が真っ二つに引き裂かれた様な痛みを覚えた。

 

 

「がぁっ、な、なに……が?」

 

 

 突然の事に混乱状態のヴェンデルは、痛みに顔をしかめながら後ろへ振り返る。

 

 そこにはいつの間にか忍び寄っていた太郎が立っていた。そして、太郎の股間辺りから伸びた鉄杭が、自分の尻に突き刺さっていた。

 

 何故? どうして?

 

 ヴェンデルの頭へ最初に浮かんだのはそんな言葉だった。あまりにも唐突で予想外な状況に、怒りよりも困惑が強い。

 

 周囲の者達は太郎を取り押さえるべきか迷っていた。ヴェンデルとは違い、周囲の者達は一部始終を見ていた。太郎はヴェンデルが背を向けたところで気配を消して接近、ISを部分展開して【毒針】をヴェンデルの尻にお見舞いしたのだ。

 

 太郎のやり様を汚い、とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の多くは思った。しかし、そんな彼女達をあざ笑うかのように太郎は告げる。

 

 

「自ら実戦と言っておいて、敵に無防備な背を見せるなど愚の骨頂です」

 

「ひきょ、うな……」

 

 

 太郎の厳しい言葉に、ヴェンデルは息も絶え絶えな様子で呻く。ここに来てやっとヴェンデルは自分に何が起こったのか理解した。卑怯にもこの男は背後から不意打ちをしたのだ。しかも、断罪する自身の声を聞いても、男は怯むどころか溜息を吐いている。こみ上げて来る怒りに任せ、抵抗しようとするも何故か体が上手く動かない。

 

 太郎は大した抵抗にもならないヴェンデルの動きを無視し、腰を引いて鉄杭を引き抜いた。するとヴェンデルは反撃するどころか足元が覚束無くなり、ひっくり返ってしまう。

 

 

「ふふっ、体が思うように動かないでしょう? 毒ですよ。まあ安心してください。ただ体が痺れるだけのものです」

 

「くそが、まと、もに……やったら勝てないから……こんな手を」

 

 

 事も無げに言う太郎に対し、ヴェンデルは睨み、罵る事位しか出来ない。

 

 太郎はそんなヴェンデルを見て、やれやれと呆れた様に首を振る。

 

 

「まさか、本気で私が貴方に勝てないと思っているんですか? 冗談でしょう。最初勝負だなんだと言いましたが……あれは嘘です。先程貴方のラウラへの挑発に割り込んだのは、ラウラを庇う為ですが、実は他にも目的があったんですよ。それは心技体全てが未熟な貴方達を鍛え直す事です」

 

「ど、どういうこ、とだ」

 

「訓練中、上官に対して幼稚な挑発を繰り返す精神。こちらが少し回避行動を取った位で攻撃がほとんど当たらなくなってしまう程度の技術。殺す気で殴っているのに大したダメージを与えられない貧弱な肉体。そのうえ自ら実戦などと言っておきながら、敵に背を晒す愚行」

 

 

 困惑するヴェンデルだけでなく、その場にいる者達全員を見回しながら太郎は話し続ける。そして、太郎の視線がクラリッサで止まる。

 

 

「心技体全てにおいて未熟としか言いようが無いです。そんな貴方達が強くなるにはどうすれば良いと思いますか?」

 

 

 いきなり太郎はクラリッサへと質問を投げ掛けた。唐突に話を振られたクラリッサは、戸惑いつつも答える。

 

 

「それは……今までより厳しい訓練を「不正解です」

 

 

 クラリッサが答えきる前に太郎が否定した。

 

 

「己の立ち位置、目指すべき先、それらも知らず闇雲に訓練しても非効率的です。そんなものは訓練の為の訓練でしかありません」

 

 

 太郎はTシャツを脱ぎ捨て、己の肉体をシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に見せ付ける。

 

 

「貴方達は今、自分達の未熟さを思い知ったでしょう。そして、目指すべき先を見ています。そう、この私です」

 

 

 太郎はそう言って自らへ親指を向けて誇示した。

 

 

「私がこのドイツにいる間、貴方達を鍛え抜いてあげます」

 

「良いのか!?」

 

 

 太郎の宣言にラウラは喜びと驚きに声をあげた。ちなみに他の者達は呆然としていた。

 

 

「良いですとも。それにシュヴァルツェ・ハーゼの方々は千冬さんの教え子、現在千冬さんの生徒をしている私とは兄妹弟子みたいなものです。未熟な妹達を鍛えるのも兄の使命です」

 

「よし、楽しみだな」

 

 

 誰も止める者がいない為、太郎とラウラの間で話がどんどん進んでいく。しかも、太郎はシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達より後に千冬の生徒となっているのに、しれっと兄弟子と名乗っていた。

 

 IS学園では千冬というストッパーがいた。しかし、ここドイツには千冬はいない。鎖から解き放たれた野じゅ……紳士はもう止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 




太郎「この千冬さんの終身名誉一番弟子である私が、未熟な貴方達をビシビシ鍛えてあげます」


読んでいただきありがとうございます。


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第108話 ヤマダ春のパンツ祭り

 ドイツ軍中将、フォルカー・マテウスは窮地に立たされていた。フォルカーの前には全裸の太郎が仁王立ちしている。そして後ろは壁、逃げ場は何処にもない。基地へ太郎を招いた夜、フォルカーは突然太郎に襲われたのだ。


「もう逃げられませんよ」

「くっ、何故こんな事を?」


 フォルカーには太郎の考えている事など全く分からない。それが余計に恐怖を感じさせた。フォルカーもかつては精鋭と言っても過言ではない実力を持っていた。しかし、老いとデスクワークが彼から戦闘能力を奪ってしまった。眼前の太郎は、今の自分に勝てる相手ではないとフォルカーにも分かっていた。それでも最後の賭けに出る。

 拳銃を素早く抜き放ち、太郎へ向ける。しかし、太郎はそれを読んでいたのか、素早く間合いを詰めてフォルカーの手首に手刀を落とす。

 鋭い手刀にフォルカーは拳銃を取り落としてしまう。フォルカーは手首を押さえて後ずさる。


「頼む、なんでもするから命だけは助けてくれ」

「ん? 今なんでもするって言いましたね」
























などという展開はありません。


 シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達への「貴方達を鍛え抜いてあげます」という太郎の宣言後、隊員達はサバイバル訓練などに使われている森の演習場へと連れて来られた。基地から近かったので、30分も掛からなかった。

 

 整列した隊員達の前に太郎が腕を組んで立つ。太郎が隊員達を見回すと彼女達はかなり緊張した様子で、どこか怯えている節すらあった。太郎はヴェンデル達を凹ました時に、少し厳しく言い過ぎたかなと心配したが、普通軍隊は厳しいものなので、あの位なら問題無いだろうと思い直した。

 

 ちなみに当のヴェンデル達もこの場に連れて来られている。ヴェンデルは意外と軽傷であった。軽い切れ痔になっただけなので今から行われる訓練にも強制参加である。ルッツも大きな怪我は無かったが、未だ意識が戻っていないので邪魔にならないよう、列から少し離れた場所に転がされている。

 

 

「それでは早速、今から始める訓練の説明をします」

 

 

 太郎の話を隊員達は固唾を呑んで聞いている。太郎に対する畏怖がそうさせているのだ。自分へ集中している隊員達の様子に、太郎は満足しつつ説明を始めた。

 

 

「良いですか。兵士の基本は走る事です」

 

「あの……走り込みなら先程もしていましたし、装備を持った状態での長距離走もしますよ」

 

 

 説明は始まったばかりだが、太郎へクラリッサが恐る恐る指摘した。しかし、そんな事は言われるまでも無く太郎も知っている。太郎は話にならないとばかりに、手で払うような仕草を見せた。

 

 

「それでは駄目です。ただ漫然と走っていて何の意味があるんですか。より実戦的、より必死でないと意味が無いんですよ」

 

 

 太郎の【実戦的】という言葉に、隊員達は震え上がる。太郎にとっての実戦がどれほど危険なものかを隊員達はもう知っている。つい先程ヴェンデルの身に降りかかった不幸は、彼女達の脳裏に刻み込まれていた。

 

 戦々恐々としている隊員達へ、ついに太郎が具体的な訓練内容を明かす。

 

 

「これから一時間、私が貴方達を追いかけます。貴方達は私から逃げてください。私に捕まり下着を奪われたら失格となり、下着は没収とします。これならば貴方達も少しは必死になるでしょう? 私としても犯る気が出ますし、一石二鳥です」

 

「それってセクハラなのでは……」

 

 

 整列していた隊員の中から、もっともな感想が漏れた。太郎は怖いが、誰が言ったか分からないと思って言ったのだろう。だが、そんなに太郎は甘くない。目をカッと見開き、正確に発言した隊員の方を向いた。隊員は完全に太郎と目が合ってしまい一瞬固まった後、震えながら目を逸らす事しか出来ない。

 

 

「貴方は実戦で敵にもそう言うんですか。セクハラです。止めて下さいと」

 

「い、いえ……でも敵が下着を奪う事なんて無いのでは?」

 

「そうですね。実戦なら下着どころか、それ以上のものを奪われますよ」

 

「うっ、そ、それは……」

 

 

 太郎の切り返しを聞いて、先程の隊員は反論出来ずに口篭ってしまう。そこへ太郎はさらに追い討ちをかける。

 

 

「貴方みたいな人が真っ先に捕虜となるんですよ。その後、くっ男になど屈するものか、などと言って一時間後にはダブルピースしながらオ○ンポには勝てなかったよ、と言う羽目になるんです」

 

「ダ、ダブルピースって??」

 

 

 ダブルピースの意味は分からないが、隊員も厳しい事を言われている事くらいは理解出来る。それ以上は反論しなかった。この時は他の隊員達もほぼ全員、太郎から目を逸らすだけで特に発言しなかった。

 

 そこで太郎は隊員達が全員訓練内容に納得したと判断して「それでは訓練を開始しましょう」と言った。しかし、今更文句を言い始める者がいた。

 

 

「なんで私がこんな下らない事をしなきゃなんねえーだよ」

 

 

 ティナ・ヴェンデル。先程へこまされたばかりなのに懲りない少女である。

 

 他の隊員達はその様子を見ながらもジリジリと太郎から距離をとろうとしている。下手な事をして目立っては命取りだと理解しているのだ。

 

 太郎は学習しないヴェンデルに呆れながら一歩一歩ゆっくりと彼女へ近付く。それに対してヴェンデルは、近付いてきた太郎の胸倉を掴み、頭突きをする様な勢いで引き寄せて思いきりメンチを切る。

 

 

「やんのか? さっきみたいにはイカねえぞ。ボケがっ!!!」

 

 

 いつの時代のチンピラであろうか。使い古された恫喝に太郎は呆れを通り越して、何処でこんな日本語を覚えたのだろうかと不思議に思った。しかし、その疑問を解決するより先にヤる事がある。折角獲物が逃げず、手の届く所にいるのだ。これぞ飛んで火にいる夏の虫である。

 

 太郎は目にも止まらぬスピードで屈む。ヴェンデルがTシャツを掴んでいた為、脱皮をするように脱げてしまう。

 

 

「ちょっ、テメー何す──────────」

 

 

 太郎の突然の行動に戸惑うヴェンデルだったが、太郎はそれを無視して両足タックルを仕掛けた。彼女の両足を抱え、一瞬持ち上げる。そして、太郎は片膝を地に着き、突き出した膝の上へヴェンデルを落とした。ちょうど手負いの尻が膝に当たる様に落とされ、ヴェンデルは目をむいた。所謂マンハッタンドロップという技である。

 

 

「あがっ!? fwじょふぁうえtくぉwtqjf」

 

 

 太郎は言葉にならない悲鳴を上げるヴェンデルを放してやる。するとヴェンデルはうつ伏せ状態で、尻を押さえて悶え苦しむ。懲りずに挑発したうえ、この姿である。ダサすぎる。清清しいまでのピエロだ。

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ……」

 

 

 呻き声を漏らすヴェンデルであったが、他の隊員は助けるどころか蜘蛛の子を散らすが如く散り散りに逃げていった。逃げる機を窺っていたのだ。そう、太郎は既に訓練の開始を告げていたのだから、不用意に近付くなどもってのほかである。ヴェンデル以外の者達はそれを理解していたので、逃げるのも早かった。

 

 本来であればヴェンデルも仲間なので助けようとする者がいてもおかしくないのだが、今回は流石に見限られた。むしろ多くの隊員は、これに懲りて少しは大人しくなれば良いと考えて放置した。それとヴェンデルが囮として機能しているなら好都合だと考える少数派もいた。

 

 太郎は逃げる隊員達へチラリと目を向けたが、先にヴェンデルを仕留めておく事にした。悶絶しているヴェンデルから乱暴にブラを剥ぎ取り、さらにはズボンを脱がす。

 

 

「やめ、やめっいた、痛っ!?」

 

 

 バッシーン!!! 

 

 尻の痛みを堪えて抵抗を始めたヴェンデルだったが、太郎に尻を叩かれ再度悶絶する。その間に太郎はヴェンデルのパンツを奪い取った。少し血の付いたパンツを眺めて、太郎はヴェンデルへ哀れみの目を向けた。

 

 

「貴方くらいの年から痔なんて大変ですね」

 

「オメエーのせいだろっ!!」

 

 

 悪びれもせず、他人事のように言う太郎へ、ヴェンデルが怒りを露にする。そんなヴェンデルに太郎は軽く肩をすくめて見せた。

 

 

「その位の傷なんてツバでも付けておけば直……いや待って下さい。仕方がありませんね。私が舐めてあげましょう」

 

 

 乗り気ではないが仕方が無いな~という感じで太郎がヴェンデルへにじり寄る。

 

 

「来んなっ、コッチ来るんじゃねえええ」

 

 

 必死の形相でヴェンデルは地面の石や土を太郎へ投げつける。ヴェンデルもやっと太郎の恐ろしさを理解したようだ。その様子は太郎の嗜虐心を煽ったが、この訓練は一時間という制限時間がある。太郎は隊員達が逃げ去った森の奥へと視線を移す。この広い森の中を一時間で調べ尽くすのは太郎であっても簡単ではない。こんな所で遊んでいる時間は無いのだ。

 

 太郎はヴェンデルへの興味を抑え、狩りに集中する事にした。

 

 兎たちが逃げ惑う森の中。一人の狩人が逝く。

 

 




そう言えば黒兎隊の子たちは唾液に治療用のナノマシンが含まれているんですよね。
痔になったら私も舐めて貰いたいです(直球)

読んでいただきありがとうございます。


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第109話 ヤマダ春のパンツ祭り 続

 下着を狩るハンター・太郎はヴェンデルを倒して下着を奪った。そして兎達を追って森の中に分け入ろうとしていた。しかし、その視界の端にある人物が入ってしまった。森に来る前に太郎の男色バスターモドキによって失神し、一応ここまで運ばれたものの、目を覚まさなかったので放置されていたルッツである。

 

 太郎は地面へ直接仰向けに寝かされたルッツへ近寄ると、何のためらいも無くルッツのTシャツをめくり上げた。そしてブラを剥ぎ取る。そこに現れたのはドイツが誇る標高2962m、名峰ツークシュピッツェ山にも勝るとも劣らない立派な乳房であった。

 

 

 

 何故山に登るのかという問いに、ある登山家は言った「そこに山があるからさ」と。

 

 

 今まさに太郎はその言葉の意味を噛みしめていた。それは誘惑でも欲求でもない、ただ自然と手があるべき場所へと帰るかのように乳へと向かう。

 

 

「……星3つです」

 

 

 搾り出すような声で太郎は評価を下した。星3つとは某グルメガイド的に言うと「それを味わうために旅行する価値がある卓越した乳」となる。破格の大きさであるにも関わらず、垂れが少なめで張りがある。それだけでも高評価に値するのに、そのうえ色艶共に美しい。さらにさらに、触れると吸い付くような肌触りである。

 

 太郎はルッツをKOする前に何度もその胸をなで上げている。その時には既にかなりの逸品であると太郎も分かっていたが、まさかここまでとは予想していなかった。

 

 

「これは遺伝子操作の為せる業なのか……それとも胸は天然なのだろうか」

 

 

 その答えを今ここで得ることは出来ない。しかし、太郎にとってそれは大きな問題ではない。遺伝子操作の結果にしろ、自然の生み出した奇跡にしろ、今自身の手の中にある乳だけがたった一つの真実である。

 

 太郎が少し手に力を入れるとルッツの胸は、その美しい形を歪ませる。柔らかい、そうとしか表現出来ない触り心地。無言になって胸を揉みしだく太郎へヴェンデルが怒鳴る。

 

 

「おい、テメエーいつまで触ってんだ。この変態がっ!!!」

「おっと私とした事が、先にヤらないといけない事がありましたね」

 

 

 ヴェンデルの声に我を取り戻した太郎は、ルッツの○首を連打した後、ルッツのズボンへと手をかけた。ベルトをガチャガチャといわせながら外し、ズボンを引っこ抜く。あらわになった足とパンツを見て、太郎は舌なめずりをする。

 

 

「そういう意味じゃねえっ!!! もうルッツに触んなって言ってんだよ!!!」

 

 

 ヴェンデルの怒鳴り声を無視して太郎はパンツをゆっくりと脱がしていく。○が見え、次に○○○も丸見えになる。直接触れて、さらには色々弄りまくりたい欲求に駆られるが太郎はそれをぐっと我慢した。そして、太郎の手には少し染みの付いたパンツだけが残った。

 

 

「じっくりと楽しみたい所ですが、他の子達も追わないといけないので仕方が無いですね」

「チッ、下着盗ったんだからもういいだろ。いいからさっさと行けよ」

 

 

 名残おしそうな太郎へヴェンデルは舌打ちする。

 

 

「良いんですか? ここで私が時間を使ってしまえば犠牲者は減るかもしれませんよ」

「私等を見捨てて逃げたヤツラなんて知らねえ。私等だけヤられるなんて気に食わねえーだよ」

 

 

 ヴェンデルの恨み言を聞いて太郎も一度は納得しそうになった。しかし、ヴェンデルのここまでの言動を顧みて、そもそも何の理由も無く見捨てられた訳でもないのでは、と太郎は思い直した。

 

 

「見捨てられたのは普段の行いが原因ではないですか。……人望も無さそうですし」

「ぐっぅぅぅぅ……」

 

 

 太郎の言葉、特に人望が無さそうという部分にヴェンデルは精神的ダメージを受けた様だ。多少思い当たる部分もあるのだろう。実際、ヴェンデルがラウラを挑発した時に追従したのはルッツだけだったし、先程太郎へ突っかかった時は誰も賛同する者がいなかった。

 

 結論、ヴェンデルは人望が無さそうではなく、人望が無い。

 

 太郎は憐れみの視線を向けつつヴェンデルの肩へ手を置く。だが掛けるべき言葉が思い付かなかったので、そのまま無言でその場を離れた。そして落ち込んでしまったヴェンデルを放置して、次の獲物を狩るべく森の奥へと駆けて行く。

 

 太郎がヴェンデルから見えなくなった辺りで、太郎のパートナーであるISコアの美星が話しかけて来た。

 

 

『マスター、私のセンサー群を使えばシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を追うのは簡単ですが、いかがなさいますか?』

 

 

 美星は太郎へ提案しながらも、それを太郎が受け入れるとは思っていなかった。太郎は常に楽しむ事を忘れない男である。人間を追うのにISの機能を使うと、獅子が兎を狩るより簡単になってしまう。そんな興醒めな行為を太郎が良しとするはずがない。その美星の考えの通り、太郎は首を横へ振る。

 

 

「それは必要ありません」

 

 

 美星の提案を太郎は考えるまでもなく断った。しかし、太郎の言葉はそこで終わらずに続きがあった。

 

 

「ただし、美星さんには他にやって貰いたい事があります。レギオンでこれから行う狩りを撮影してください。後で楽しむ用に」

『畏まりました』

 

 

 太郎の指示を美星は嬉しそうに受けた。偵察用のビット達を太郎の周囲に配置する。

 

 

『これでマスターの狩りをあらゆる角度から記録出来ます。編集もお任せください』

「ありがとうございます。流石は美星さんです」

 

 

 細かい指示を出さなくても気が利く美星に太郎は満足げに頷く。太郎は森を素早く移動しながら周囲を確認する。獲物の姿は見えないが太郎に焦るような素振りは無い。

 

 太郎はふと目に留まった木へ近づく。その木の枝は、太郎の肩より少し低い位置で折れていた。それも折れてから何日も経ったようなものではない。周辺の地面を注意深く観察すると幾つかの足跡が見つかった。

 

 

「やはり甘いですね」

 

 

 そう呟いた太郎の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。

 




美星さんがいればAV撮影し放題ですね。
ミホシオンデマンド
○太郎映像出版みたいな感じで。

読んでいただきありがとうございます。





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第110話 ヤマダ春のパンツ祭り クラリッサ

クラリッサは見た


クラリッサ視点

 

 

 

 太郎さんが告げた訓練は自分達の下着を一時間守りきれというものだった。聞いた直後は、正直馬鹿らしい内容だと思った。しかし、良く考えればとても厳しいものである。ヴェンデル少尉やルッツ曹長との戦闘を見るかぎり、太郎さんの実力が自分を上回っているのは確実である。それもラウラ隊長の証言を信じるなら、あのブリュンヒルデとも渡り合える程らしい。

 

 それに森での逃走は、それだけでも過酷なものである。あのブリュンヒルデと同等の実力者を相手にするなら尚更だ。下手な実戦よりキツイかもしれない。

 

 

「なんで私がこんな下らない事をしなきゃなんねえーだよ」

 

 

 私が今から行われる訓練に戦々恐々としていると、ヴェンデル少尉が懲りもせず、また太郎さんへ突っ掛かっている。普段ならば無理矢理止めるところだが、彼女は少し痛い目を見て学習すべきだとも思う。それなら丁度良いし囮になってもらおう。

 

 私は太郎さんやヴェンデル少尉から見えないように気を付けながら、他の隊員達へハンドサインを送る。

 

 

(合図とともに散開、逃走せよ)

 

 

 誰も返事やあからさまな頷く等のジェスチャーはしなかったが、雰囲気で私の意図が伝わってるのは分かった。そうしている間に太郎さんがヴェンデル少尉へと近づいていく。その歩みはあまりにも自然で、だからこそ警戒すべきものなのだが、ヴェンデル少尉に太郎さんを警戒している様子は無い。

 

 彼女は本当にバカなのか。つい先ほど痛い目を見たばかりなのに喧嘩をまた売るなんて、理解に苦しむ。そして、この流れで喧嘩を売れば普通、相手は臨戦態勢をとるはずだ。それなのに太郎さんは無造作に近づいている。この場に限って言えば【自然】に振る舞う太郎さんは、凄まじく【不自然】なのだ。太郎さんは何かを狙っているのではないか?

 

 

「やんのか? さっきみたいにはイカねえぞ。ボケがっ!!!」

 

 

 ヴェンデル少尉は私の危惧していることなど全く思いつかないようだ。太郎さんの胸倉を掴んで怒鳴っている。これでも彼女は部隊のナンバー3なのだから不思議なものだ。というか、正直こんな馬鹿が同じ部隊の隊員だと思うと恥かしくなってくる。そして、私の予想した通りの展開となる。

 

 

「ちょっ、テメー何す──────────」

 

 

 太郎さんがいきなり身を屈める。その時、ヴェンデル少尉がTシャツを掴んでいた為に脱皮をするように脱げてしまう。ヴェンデル少尉の手にはTシャツだけが残った。

 

 

(おおっ、あれはカワリミノジュツかっ!? まるでニンジャ!!!!!)

 

 

 漫画やアニメの中でしか見ないような動きに心が沸き立つ。

 

 太郎さんは一瞬の停滞もなく攻撃へと転じる。太郎さんがヴェンデル少尉の太ももと臀部の境目あたりを掴んで両足タックルを仕掛ける。無警戒だったヴェンデル少尉には対応する間は無い。太郎さんがヴェンデル少尉を捉え、彼女の体が一瞬浮く。通常ならそのまま押し倒すのだが、太郎さんはヴェンデル少尉を持ち上げる。そこから急転直下、太郎さんは片膝を地に着き、突き出した膝の上へヴェンデルを落とした。

 

 

「あがっ!? fwじょふぁうえtくぉwtqjf」

 

 

 理解不能な悲鳴を上げるヴェンデル少尉。太郎さんの両手が塞がっている今こそチャンスである。

 

 

(今だ! 散開、全員散開せよ!!!)

 

 

 部隊の隊員達にハンドサインを送りながら、自らもその場を離れる。隊員達も蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げて行く。

 

 視界の端にうつ伏せ状態で、尻を押さえて悶え苦しむヴェンデル少尉が見える。尻を抑えながら「ぐぉぉぉぉぉぉぉ……」と呻いている姿は、年頃の少女が見せてよいものではないが、何故だか全く同情を感じない。仮に彼女へ何か言葉を贈るなら、それはただ一つである。

 

 

「少尉、あなたの犠牲は無駄にはしません……ざまぁ」

 

 

 おっと少し本音が漏れてしまいました。部下が酷い目にあっているのに、それを喜んでしまうとは良くないですね。でも、あの子は人の言う事を全然聞かないから自業自得とも言えます。

 

 自分に言い訳をしながら走っていると、背後からこちらを追ってくる複数の気配を感じた。その気配の中に太郎さんはいない。いれば他の者達はもっとなりふり構わない状態になるはずだ。少し走る速度を落とすと私を追ってきていた者達と並走する形になった。追って来たのは予想通り太郎さんではなく、3人の部下達だった。

 

 

「お姉様、私たちはお姉様に付いて行きます」

 

 

 慕ってくれるのは嬉しいが今回の場合、追っ手が1人なので分散した方が逃げられる可能性は高まると思う。しかし、邪険にするのも躊躇(ためら)われる。

 

 

「分かりました。それとここからは足跡などの痕跡には注意して行きましょう」

 

 

 部下の申し出を受け入れる。それと共に走るのを止め、足跡の上に落ち葉を撒く。ここまでは普通に走ってきたので、素人でも分かる位に足跡がクッキリと残っている。しかも、それが複数人のものならば太郎さんにターゲットとされる可能性が高い。

 

 部下達も私の指示に従い足跡を消す。しかし、全ての痕跡を消そうとすると時間が掛かり過ぎるし現実的ではない。そこで足跡を消すという手段だけでなく、他の手段も使う。少し進んでから足跡の上を後戻りする。それから進行方向とは違う方向にある木へと大きくジャンプする。枝を掴んで地面に足が着かないようにし、全身を振り子みたいに振って反動をつけてさらに飛ぶ。直地を綺麗に決める。部下達も私の後に続く。

 

 太郎さんが足跡を手がかりに追って来ても、これなら足跡が突然途切れてしまったように見えるはずだ。周囲を調べればタネは見破られるだろう。しかし、それだけ時間は稼げる。

 

 

「あの……ここまでする必要があるんですか?」

 

 

 私は足を止めず視線を今発言した部下へと向ける。彼女は怪訝な表情でこちらを見ている。彼女の疑問も分からないではない。今私達を追いかけて来ている相手は、特殊部隊でもなければ熟練の猟師でもない。私たちが多少痕跡を残していたとしても、それを手掛かりに追いついてくるとは考えづらい。

 

 普通であれば。

 

 

「あなたは見ていなかったのですか? 彼がヴェンデル少尉達を軽く一蹴してしまったところを。あなた達は聞いていなかったのですか? 隊長が太郎さんのことを織斑教官とまるで同等であるかのように語っていたのを!」

 

「「……」」

 

 

 私の言葉に答える者はいなかった。しかし、今私達が置かれている状況の深刻さは伝わったようだ。空気が一気に重くなった。

 

 それと彼女たちは知らないことだが、この訓練は私がきっかけを作ってしまったものである。【男性相手の意思の疎通が壊滅的である】というシュヴァルツェ・ハーゼの欠点を私が太郎さんに愚痴り、太郎さんはそれを聞いて指導を買って出たのだ。それは太郎さんがヴェンデル少尉を最初に倒した後に彼女達と勝負した目的を「心技体全てが未熟な貴方達を鍛え直す事」だと発言していることからも窺える。

 

 そう、太郎さんはシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達に男への耐性を付ける為、この訓練も実行しているのだ。恐ろしいのは男への耐性を付ける為、【下着を奪おうとする男から下着を守る】という訓練をしようと考える発想である。かなり狂っている。

 

 もし、この訓練で私を含めたシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が無様を晒すような事があれば、訓練内容がさらにエスカレートする可能性もある。それだけは避けなければならない。

 

 気を引き締めて慎重に進んでいると、前方に(あし)が茂った沼地が現れた。あちらこちらに群生している葦を見て、私はここに隠れることに決めた。沼に体を沈めて、顔は葦に紛れさせてしまえば簡単には見つからないはずだ。

 

 

「ここに隠れましょう」

 

「……本当にそこまでする必要があるんですか?」

 

 

 怪訝な表情で私に問い返す部下へ、私は無言で頷いた。部下達は皆、ありえないという顔をしている。しかし、だからこそ有効なのだ。

 

 そこまでするのか?

 

 多くの者がそう思うからこそ、それが盲点となる。だから私は部下達の反応を見て、ここで隠れるという選択に自信を深めた。

 

 

「先程も言ったはずです。太郎さんのことは織斑教官と同等の相手だと考えるべきです。最大限の警戒を持ってあたる必要があります」

 

 

 部下のうち2人は不承不承(ふしょうぶしょう)首を縦に振った。しかし、残る1人は不満を口にする。

 

 

「凄い相手なのは分かりますが、軍事訓練を受けている訳ではないでしょう? 正確にこちらを追って来る技術があるとは思えませんし、素人がこんな道も無い場所で速く走れるとも思えません。とにかくスタート地点から離れるだけで良いのでは……」

 

「敵の弱さに期待するような作戦は採れません。それに議論している時間もありません。私に従うか、ここからは別行動をとるか、好きな方を選びなさい。」

 

 

 選択を迫られた部下は少しの間俯く、そして顔を上げると

 

 

「私は別行動でいきます」

 

「分かりました。気を付けて」

 

 

 一瞬引きとめようかと考えた。しかし自分でも口にしたことだが、議論している時間はない。彼女は私の言葉に軽く頷くと走り去った。私と彼女の選択、どちらも正解であれば良いのだが……。いつまでも思いふけっていても仕方がない。今は出来ることをしよう。

 

 2人の部下と共に沼の中に入っていく。体に絡みつく泥、周囲には虫も多く不愉快極まりない。サバイバル訓練は経験しているので、耐えられないわけではない。むしろ何時間でもこの状態を維持することは出来る。ただ、だからといって気持ちの良いものでも、楽しいものでもない。早く終わってほしいものだ。

 

 身じろぎ一つせず泥中(でいちゅう)で時が過ぎるのを待っていると、私達の走って来た方向から誰かが走って来る気配がする。

 

 木の枝を掻き分け現れたのは太郎さんだった。

 

 

(マジですか……)

 

 

 部下にも最大限の警戒をするように言ったし、追って来るだろうとも予想していた。しかし、実際にこの短時間で追って来られると驚きを超えて疑問しか浮かんでこない。身体能力が高いだけで、姿を見失った相手を追うことは出来ない。逃走者の痕跡を頼りに追いかけるには技術が必要なはずだ。それなのに軍人でもない太郎さんは正確に負って来た。

 

 どんな手を使ったのか?

 

 この疑問はすぐに解ける。太郎さんは両手を地に付けて這うように移動していた。そのうえ時には地面へ鼻を近づけてクンクンと警察犬のごとく匂いを嗅いでいる。匂いを手掛かりに追跡する、人間の嗅覚でそんな真似が出来るわけがないと思う。だが実際にここまで追って来ているのだから、もしかしたら彼には可能なのかもしれない。緊張感は否応なく高まる。

 

 

「若い女の匂いがしますね。かなり汗をかいているようだ。私程度の鼻でもなんとか追える」

 

 

 私程度? 冗談にしか聞こえない太郎さんの呟きにツッコミをいれたい衝動に駆られる。汗の匂いで追って来るなど人間の範疇を超えている。心臓がドクンドクンと煩い。ここまでかという諦めが頭をよぎる。

 

 しかし、幸か不幸か太郎さんは私達が隠れている沼の奥へは来なかった。その代わりここから別行動をとった部下の逃げた方向へと正確に走り去った。沼に体を沈めている私達の匂いまでは嗅ぎ取れなかったようだ。後は別行動をとった部下が逃げ切れることを祈るだけである。

 

 数分後。

 

 

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 少女の悲鳴が森に響き渡る。あれは別行動をとった部下の声だ。祈りも空しく部下は捕まってしまったのだろう。彼女の実力では歯が立つとは思えない。

 

 しばらくすると上機嫌な太郎さんが人差し指でパンツを回しながら戻って来た。そんな太郎さんの頭上に黒い影が落ちる───────────。

 




読んでいただきありがとうございます。
それと誤字報告感謝です。

あと2、3話でラウラ編は終了です。思ったより長くなりましたね。


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第111話 ヤマダ春のパンツ祭り 終

 森の中、太郎は獲物を追って枝を掻き分けながら進む。足跡を頼りに獲物を追う。

 

 

「これはなかなか(たかぶ)りますね」

 

『下着狩りがそんなに楽しいのですか?』

 

「抵抗するうら若き女軍人達から下着を剥ぎ取るのは、とても興奮するものですよ」

 

 

 美星の質問に対して太郎は抵抗するヴェンデルから下着を奪った時のことを思い出し、血に飢えた猛獣のような笑みを浮かべた。

 

 

「それに、楽しいのは奪う時だけではないんです。こうやって逃げる相手を追い回すのも非常に興奮します。昔、お巡りさんが私をしつこく追って来た理由が分かりましたよ。彼らも今の私のような気持ちだったのでしょう」

 

 

 かつての宿敵、お巡りさん達を太郎は思い出す。太郎は納得顔で語っているが、彼らからするととんでもない濡れ衣を着せられ迷惑このうえないことだろう。

 

 

「ん? ここで足跡が消えていますね」

 

 

 ここまで追って来た足跡が急に消えている。太郎が屈んで地面を確認すると、落ち葉が撒かれて足跡が見えづらくなっていただけだった。追跡の速度は少し遅くなるが、痕跡が完全に消えているわけでもないので獲物を追うのに困ることはない。しかし、そこから数十メートル進んだ所で痕跡が完全に途切れてしまっていた。足跡どころか、落ち葉や土をかけてそれらを消した形跡すらない。

 太郎はほんの数秒動きを止め、途切れた足跡を睨みながら静かに考えを巡らせた。そして何か思い当たったのか、顔を上げた。

 

 

「これは止め足です」

『トメアシ? ネットの検索では……ふむ、獣が追跡者を撹乱する為の手段ですか。自分の足跡の上を逆戻りして、途中で横に逸れるという仕掛けなんですね』

 

 

 太郎が口にした【止め足】という言葉に聞き覚えの無かった美星は、ネットで調べて納得した。

 

 

「この足跡を残した人が知っていて使ったのかは分かりませんが、なかなか楽しませてくれますね」

 

 

 太郎は今まで以上に注意深く周囲を観察しながら、足跡に沿って今来た方向へ戻っていく。そうしていると、足跡の列から少し横に逸れた場所に太郎の視線が止まった。最初、太郎自身何故そこが気になったのか分からなかった。しかし、良く見ると未だ青い葉が地面に何枚も落ちている。枯れたわけでもない葉がそこだけ多く落ちているのは、不自然としか言い様がない。

 太郎はそこに近付くとハッキリとした足跡こそ見つけられなかったものの、うっすらと何かが地面を踏みしめたような跡と少女の残り香を発見した。

 何かが地面を踏みしめた跡に関しては、それ単体では人の足跡と断定出来るほどハッキリとしたものではなかったが、太郎の鼻が捉えた少女の香りと合わせれば獲物がこちらに向かったことが分かる。そして、どんどんと先へ進んでいくと太郎の目の前に大きな湿地帯が広がる。

 ここで足跡らしきものはさらに見えづらくなってきた。だが、人間離れした太郎の鼻は獲物の匂いを逃さない。

 

 

「若い女の匂いがしますね。かなり汗をかいているようだ。私程度の鼻でもなんとか追える」

 

 

 匂いは沼を避けるように先へと続いている。太郎は獲物に姿を見られないように身を屈め、音にも気を付けて進む。

 太郎から見て100メートル程先の茂みが揺れた。今、森には風は吹いていない。獲物発見の予感に太郎の胸は高鳴った。するすると木々の間を静かに駆け抜ける。

 

 

(見えたっ!!!)

 

 

 ついに太郎は獲物の後ろ姿を視界に捉える。引き締まった尻が、肩口で短く切り揃えられた金髪が誘うように揺れて見える。獲物、少女は走っているが太郎に比べれば遅い。

 太郎はそれまでよりも音を出さないよう慎重に、それでいて駆ける速度はどんどん上げていく。獲物との距離はあっという間に縮まる。あと15メートルというところで、太郎は完全に獲物が自らの射程に入ったと確信する。

 

 ガバッ、太郎は屈めていた身を起こして最も早く走れるフォームで獲物に向かう。太郎が地を蹴る音で少女が後ろを一瞬振り返り、その姿を見て慌てて逃げる─────────が、その反応は遅過ぎた。

 少女が前に向き直って走り出して数歩。無常にもそこで少女の命運は尽きた。少女が太郎に気付いた時には勝負は決まっていたのだ。既に最高速度に近い太郎と慌てて加速しようとする少女では結果は目に見えている。

 太郎はその勢いのまま少女へ飛び掛かる。少女は自分より大柄な太郎に不意打ちに近い状態で飛ぶ付かれ、体勢を崩す。

 

 

「きゃあああああああああっっっっ!!!!!!」

「抵抗しなければ乱暴はしません。ただ、暴れてくれた方が楽しいのでぜひ暴れてください」

 

 

 悲鳴を上げる少女、少女を引きずり倒すかたちとなった太郎は低い声で囁く。すると少女は抵抗をぴたりと止めた。

 抗う少女から下着を奪うことを楽しみにしていた太郎は、少しがっかりして少女を掴んだ手を放す。しかし、少女からは何の反応も無い。訝しんだ太郎が少女の顔を覗き込むと、彼女は気を失っていた。

 

 

「これは……これでは軍人は務まらないですよ」

 

 

 これには太郎も苦笑するしかない。普通の少女ならばまだしも、軍人である彼女が男に引きずり倒されたくらいで気絶していたのでは、彼女の今後が不安である。だからといって今、彼女を起こしてメンタルトレーニングをしている時間は太郎には無い。太郎はとりあえず下着を奪うことにした。

 太郎が少女のベルトを外してズボンを引き抜くと、そこには何の飾り気もない白いパンツが現れた。

 

 

「シュヴァルツェ・ハーゼの子達はみんな地味な下着ですね」

『ドイツ軍では下着も指定の物を使っているのでしょうか?』

「どうせなら色々なバリエーションを楽しみたいです」

 

 

 太郎の漏らした感想に美星は疑問で返した。

 ここまでで太郎が下着を奪った3人、ヴェンデル、ルッツ、そしてこの少女の全員が無地の白い下着を着用していた。参考対象がたった3人なので、ただの偶然かどうかという判断も難しい。それも残りの少女達を捕まえれば、よりハッキリするだろう。

 

 

「さて獲る物も獲りましたし、時間も無いのでそろそろ次に行きますか」

『そうですね。私の方も撮るものは既に全て撮ってあるので大丈夫です』

 

 

 太郎は一度周囲を探索してみたが、気絶している少女以外の獲物の痕跡は見つからない。そこで太郎は一度来た道を戻り、先程の沼地周辺を探索することにした。確たる根拠は無いが、あの辺りで若干の違和感を太郎は覚えていたのだ。

 幸先の良い滑り出しに上機嫌な太郎は、戦利品のパンツを指で回しながら沼の手前まで戻って来た。

 

 その時、太郎は視界が一瞬暗くなったように感じた。それと同時に背中と首に強い衝撃を受ける。

 

 

「油断したなっ!!!」

 

 

 太郎を襲ったモノ、それは木の上から奇襲をかけたラウラだった。

 死角となる真上からの奇襲。ラウラは太郎の背中へ飛び乗り、太郎の胴を両足でロックしながらスリーパーホールドを狙う。ラウラは最初からこの辺りに潜んでいたわけではない。ヴェンデルが太郎に二度目の敗北を喫している時、一度はその場を離れたが太郎へ挑戦しようと、ここまで追って来たのだ。

 

 太郎は自身の首へと絡みついてくるラウラの腕を掴み、頸動脈への圧迫を軽減しようとする。その際に先程手に入れたばかりのパンツを落としてしまう。チラっとそちらに目をやるが、今はパンツより重要なことがあった。

 

 

「私に奇襲をかけるとは流石ですね」

 

 

 圧倒的に不利な状況にも関わらず、太郎はどこか嬉しそうにラウラを褒める。いや、嬉しそうなのではなく、実際に太郎は喜んでいた。

 

 

「訓練開始時に私から逃げろと言いましたが、別に攻撃を禁止したりはしていません。そこに気付いて実行へ移すとは、良い傾向です」

 

 

 追跡者は太郎一人なのだから、なんとかして排除出来ればそこで事実上の訓練終了となる。普段、どちらかと言えば思考の柔軟な方ではないラウラが、こうやって自身できちんと考えて行動したことに太郎はラウラの成長を感じた。

 ただ、太郎の話はそれだけでは終わらない。

 

 

「しかし、何故一人で仕掛けたのですか?」

 

 

 太郎の質問にラウラは身をびくりと竦ませた。ラウラは一瞬戸惑いを見せたが、すぐにスリーパーホールドを極めようと力を再度入れる。だが、どれだけラウラが力を込めても、ラウラの腕を掴んだ太郎の手はそれを許さない。単純な腕力だけで比較するなら、どうしても太郎に軍配が上がる。

 

 

「貴方が一対一で私に勝てる確率は低いでしょう……少なくとも今はまだ」

 

「ぐぅぅぅ、私は……」

 

「もし、貴方がこの奇襲を部下と共に実行していれば、今頃貴方達が勝利していたことでしょう」

 

 

 太郎の言葉をラウラは否定出来ない。スリーパーホールドこそ極まらないが、確実に太郎の動きは制限出来ている。この状態でさらに味方がいれば、太郎を完全に制圧出来る可能性は相当高くなるはずだ。

 

 

 

 もし、ここに部下達がいれば

 

 もし、隊長として部下を統率していれば

 

 

 ラウラの胸に後悔がよぎる。ここで一人、太郎と戦っているのは自身の間違いだったとラウラは痛感した。

 当初バラバラに逃げたとはいえ、ラウラの能力ならどの部下でもすぐに追いつけた。追いついて、この作戦に協力させていれば良かったのだ。だが、あの時のラウラの頭にそんな発想は全く浮かばなかった。

 それに普段から隊長としての責務を果たしていれば、自分から命令を出さなくてもこちらに数人位は付いてきて指示を仰いだのではないか。自分と似たような方向へ逃げた部下もいたのだ。

 

 

「貴方はシュヴァルツェ・ハーゼの隊長としての自覚に欠けているっ!!!」

 

 

 太郎の指摘はラウラが今まさに悔やんでいた部分を的確に貫く。

 太郎はシュヴァルツェ・ハーゼ全体を鍛え直すつもりだ。そこにはもちろんラウラも含まれる。むしろ最近会ったばかりの他の隊員達よりも、ラウラこそを一番に成長させたいと願っている。その分、指摘も的確で厳しいものとなる。

 

 太郎の指摘に動揺するラウラ。そこへ太郎は即座につけ込む。太郎は自分の背中へ覆い被さっているラウラにダメージを与えようと、近くに生えている太い木へ向けて走り出し、ぶつかる寸前に体を捻ってラウラを木へぶつける。

 

 

「がぁっっっっ!!?」

 

 

 木に背を叩き付けられたラウラが苦鳴を漏らす。しかし、太郎の攻撃は続く。ラウラは何度も木へ叩きつけられ、その度に太郎へ絡みつけた手足が緩んでしまう。このままでは何時太郎に拘束を振り解かれてもおかしくない。

 

 

 

 

 

 

============================================

 

 

 クラリッサと二人の部下は泥にまみれながら群生する葦の陰からラウラの奇襲を見ていた。シュヴァルツェ・ハーゼの全員(バカは除く)が恐れ、必死で逃げた相手にたった一人で襲いかかったラウラ。クラリッサ達はラウラを尊敬の眼差しで見つめていた。そこへ太郎の声が聞こえてくる。

 

 

「しかし、何故一人で仕掛けたのですか?」

 

 

 太郎の問いにラウラが小さな動揺を見せる。そして、ラウラ以上にクラリッサ達はショックを受けていた。

 一人で太郎へ立ち向かっているラウラ、彼女とは逆に隠れ潜んでいる自分達。太郎の言葉はまるで自分達の不甲斐なさを責めているかのように、彼女達には感じられた。

 

 そんな彼女達の心中など知らよしもない太郎は、ラウラへの言葉を続ける。

 

 

「貴方が一対一で私に勝てる確率は低いでしょう……少なくとも今はまだ」

 

「ぐぅぅぅ、私は……」

 

「もし、貴方がこの奇襲を部下と共に実行していれば、今頃貴方達が勝利していたことでしょう」

 

 

 太郎の言っていることが真実なのかは分からない。ただクラリッサ達から見ても太郎がそう思っているのは確かなようだ。ここでクラリッサ達に迷いが生じる。

 

 本当に勝てるのならば、自分達もすぐにラウラへ加勢すべきではないのか。いや、相手はあの織斑千冬と並べて語られるほどの人物である。もしかしたら自分達が隠れていることに気付き、誘き出す為にあんなことを言っているのかもしれない。

 

 クラリッサ達が悩んでいる間に状況が変わる。

 

 

「貴方はシュヴァルツェ・ハーゼの隊長としての自覚に欠けているっ!!!」

 

「がぁっっっっ!!?」

 

 

 太郎がラウラへ厳しい言葉を放った後、激しい攻撃に出る。ラウラを振り解こうと木に叩きつけ始めた。ラウラが苦悶の表情を浮かべている。このままではラウラが振り解かれるのも時間の問題だ。

 

 クラリッサに部下の一人が声を掛ける。

 

 

「このまま見ているだけで良いのですか?」

 

「……良いわけないでしょう」

 

 

 クラリッサは一瞬間を空けた後、ハッキリとした口調で答える。このまま眺めているだけで、状況が好転するなどという展開を予想出来る要素は一切無い。何よりラウラをこのまま見捨てることをクラリッサは良しとしない。

 

 

「確かに隊長は隊の指揮をとる者としての自覚に乏しいし、隊長としての責務を果たしているとは言い難いです。しかし今の私達もまた、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員としての責務を果たせていると言えますか」

 

 

 クラリッサは二人の部下を見詰める。ラウラは良い隊長とは言えない。しかし、今の自分達も良い部下とは言えないし、これまでも良い部下であったか疑わしい。

 

 

「このまま隊長一人に闘わせて何もしないなら……私達は何の為に存在しているというのですか」

 

 

 シュヴァルツェ・ハーゼの隊員は全員遺伝子強化試験体である。闘う為に生み出され、それだけの為に育て上げられた軍人だ。ここで立ち向かわなければ存在意義に関わる。何より隊長自ら危険を顧みずに闘っているのに、部下である自分達が傍観しているだけなどありえない。

 

 クラリッサは沼から抜け出し、ラウラに加勢すべく駆け出した。部下の二人も黙ってクラリッサに続く。クラリッサ達は泥まみれなので、ぐちゃぐちゃと音を立ててしまうが三人とも気になどしない。

 

 すぐに太郎もクラリッサ達に気付く。いくら太郎と言えども今の状態でさらに三人の敵を相手取るのは厳しい。そこで太郎はラウラを全力を持って引き剥がしにかかる。しかし、加勢に気付いたラウラは力を振り絞って抵抗する。太郎がラウラを引き剥がすのに手間取っているうちにクラリッサの接近を許してしまう。

 

 クラリッサは太郎へタックルを仕掛ける。だが太郎の強靭な足腰がそれを受け止めた。クラリッサはすぐに次の手に移る。クラリッサは太郎の腰辺りに抱き着き、太郎が逃れられないようにする。

 

 

「今のうちに手をっ!!!」

 

 

 クラリッサの指示を受けて二人の部下が太郎の腕に飛びついた。いくら太郎が筋力に優れていると言っても、遺伝子強化体である隊員達を腕一本につき一人相手にするのは厳しい。

 

 

「うぉぉぉおぉぉぉおおおおおお!!!!!」

 

 

 絶体絶命な太郎の雄叫(おたけ)びが森に木霊(こだま)する。しかし、太郎の表情は追い詰められた者のそれではない。むしろ恍惚(こうこつ)としている。それもそのはず、年頃の少女たちが自分の両腕を抱きかかえたり、背後から覆い被さったり、そのうえ腰にも抱き着いたりしているのだ。汗まみれ、泥まみれで、だ。

 

 楽しいに決まっている。

 

 ラウラのスリーパーホールドによる頸動脈の圧迫と彼女達との泥レスリング。太郎は今、二重の意味で逝きかけている。始終胸などが当たったりしているが惜しむらくは、自分から触る余裕が無いのが悔やまれる。それでも何とか少女の肢体を楽しもうと、太郎は体を揺すったり、腕を少女の体に押し付けたりする。少女達は生まれながらの軍人だが、その体は思いのほか柔らかい。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

 

 ピッピッピッピッピ、太郎の耳元で電子音が鳴り響く。それは訓練終了を告げるアラームだった。あらかじめISに設定しておいたタイマーがサービスタイムの終焉を太郎に知らせた。

 

 

「はあー……訓練終了ですね。残念」

 

 

 太郎が本当に残念そうな表情で訓練の終わりを告げる。するとクラリッサと二人の部下は歓声を上げて抱き合ったりした。その輪に加わっていないラウラの手をクラリッサが引っ張り、少し強引に仲間へ引き込む。恐る恐る、戸惑いながらもクラリッサ達と言葉を交わすラウラを見て、太郎は一応の進歩を感じて微笑んだ。




努力・友情・勝利
いやー青春って良いですね。但し敵役は主人公。

次話はr18へ投稿します。今月中に投稿したいです。


読んでいただきありがとうございます。


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第112話 舞台裏

コン、コン、コン……ドンッ、ドンッ、ドンッ!

 

 

 現在私、ドイツ軍所属の大尉クラリッサは上官であるフォルカー中将の執務室の扉をノックしている。急ぎの用なのに中将からの反応が無く、焦れた私のノックする手は激しさを増していく。まるで債務者の家に押し掛けた借金取りの如く。

 

 

「な、なんなんだ……って、ハルフォーフ大尉かっ!?」

 

 

 やっと扉が開き、中将が姿を現した。扉を叩いていたのが私だと分かり、中将は驚いた顔をしたが、そんなことに構っている時間は無い。中将を押し戻すように執務室へと入り込む。

 

 

「おい貴様っ、失礼だろ! どういうつもりだ!!!」

 

「ああ、ハイハイそういうのは後にして下さい。急ぎの案件ですから」

 

「いや待てっ、ちょっ、押すな」

 

 

 中将がまだ何か言っている。面倒な人だ。まあ、中将の文句などどうでも良い事なのでさっさと本題へ移る。

 

 

「中将、今が攻め時です」

 

「はあ……何の話だ」

 

「(チッ無能が)このタイミングで急ぎの案件と言えば、山田太郎に関する事柄以外がありますか?」

 

「ん? 今、無能とか聞こえた気が」

 

 

 気のせいでしょう。チッ、本題の方を気にしろよ。

 

 

「……それで山田太郎の攻め時というのはどういう事だ?」

 

「本日、彼は訓練と称してシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達のパンツを狩りました」

 

「……意味が分からん」

 

「彼は隊員達を襲い、パンツを奪いました」

 

「なん…だ…と!? とんでもない不祥事だ。つまりそれをネタとして脅し、こちらが優位な交渉をするチャンスという事か」

 

 

 中将は一度目を見開いた後、少し考えて下らないアイデアを足りない脳みそからひねり出した。この程度のネタで彼からどんな条件が引き出せるというのか。短い付き合いだが太郎さんの為人(ひととなり)は分かっている。

 

 

「違います。彼が脅しに屈するとは思えません」

 

「それでは攻め時とはどういう意味なのだ?」

 

「男性が女性のパンツを奪おうとする、それが何を意味するのか分かりませんか?」

 

「い、いや、分からん」

 

「はあ~、中将閣下はそれでも男ですか? 男が女のパンツを求める理由は性欲でしょう」

 

 

 中将の頭の回転は私の3分の1くらいなのでしょうか。ここまで言っても察してくれないとは。それとも、元々私達が目指していたものが何なのか忘れてしまっているのでしょうか。

 

 

「分かりませんか。彼はパンツを求めて隊員達に襲い掛かるほど欲求不満だということです。そこにボーデヴィッヒ少佐が迫れば……我々のボーデヴィッヒ少佐と山田太郎の仲を取り持つという目的が達成されるはずです」

 

「っ!?」

 

 

 中将はやっと私の考えを理解したようだ。とはいえ私は中将とは違い、自分の出世の為に隊長を手助けしているわけではないのだが、そこまでは分からないだろう。ラウラ・ボーデヴィッヒ、彼女は私にとって上官であるが、同時に人付き合いが苦手な不器用な妹みたいなものでもある。この位の手助けなら手間とも思わない。

 

 さて、話を理解してもらったところで中将には働いてもらわないといけません。

 

 

「さあ、攻め時ですよ。未来の大将閣下、いえ政治家志望でしたっけ? 閣下の権限で隊長と閣下の明るい未来の為に根回しをお願いします」

 

 

 それからの中将は電話片手に奮闘しっぱなしだった。中将は先ず、親交のある軍上層部の人間や有力者相手に連絡を取る。この計画に関して信頼出来る相手には既にある程度話は通してある。ここからは実行に際しての具体的な段取りを付けるだけである。

 

 太郎とラウラが第三者からの干渉を受けないように人払いをする。直属の部下を使い、太郎の泊まるホテル周辺を厳重に警護する。それには諜報部の協力の下、太郎が監視されていると感じないよう細心の注意を払う。

 

 さらにボーデヴィッヒ少佐を始めとするシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の戸籍修正が完了した事を確認する。彼女達が未成年であると色々都合が悪いので、全員成人していることにした。かなり無理をしたが、成功のあかつきに得られるものに比べれば大したことではない。

 

 もうここは放っておいても大丈夫だろう。根回しは中将に任せて私も最後の仕上げに向かおう。隊長はそのままでも魅力的であるが、勝利の確率を1パーセントでも上げる為、もうひと押しを用意しなければ。

 

 

 

 




前回の後書きで次はR18と書きましたが、前置きが長くなり過ぎたので分割しました。後もう1話、一般で投稿します。次回投稿は今週中です。

読んでいただきありがとうございます。


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第113話 

 シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達を訓練し終わった太郎は、一度基地に戻って泥と汗をシャワーで流した。シャワー室から出る頃には既に日が落ち始めていたので、ドイツ滞在中の為にとっておいたホテルへと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎がホテルの自室に入って最初にしたこと、それは室内の安全確認であった。

 

 

『チェック完了しました。部屋内に盗聴器、隠しカメラの類はありません』

 

「ありがとうございます。美星さん」

 

 

 太郎は自身の専用機のコア、美星へ礼を言う。太郎は今回通常の手続きでドイツを訪問している。宿泊施設も秘密裏に手配したものでもなければ、自分のツテを頼ったものでもない。つまり現在の太郎は、セキュリティーの厳しいIS学園にいた時とは違い、ほぼ無防備と言える。

 

 太郎は自分の【世界でたった2人の男性IS操縦者】という価値を正確に把握している。そんな太郎が無防備な状態でウロウロしていれば、ドイツの情報機関を筆頭に様々な相手からの監視が付いていてもおかしくない。そこでホテルの部屋を美星に頼んで調べてもらったのだ。

 

 結果はシロ。ISのセンサーを誤魔化せる様な盗聴器など考えられないので、本当に部屋の中にはないのだろう。部屋の中には。

 

 

「それではこの部屋の隣室や直上、直下の部屋はどうですか?」

 

『少々お待ちください。……問題ありませんね。それどころか各部屋とも空室のようです』

 

 

 このホテルに帰って来た時、エントランスではそれなりに客を見かけた。周囲の部屋全てに宿泊客がいないのは流石に偶然と思えない。

 

 

『それとここから100mほど離れた場所に軍用ISがいます。こちらを護衛しているようです』

 

「ドイツの方々には随分と気を使ってもらっているみたいですね。この国の企業などからしつこくコンタクトがあるかと思いましたが、大人しいものです」

 

『ドイツ軍がマスターに接触しようとしている者達を遠ざけているのですか?』

 

『恐らくは。今のところ、この国の軍とは非常に良好な関係ですからね。彼らとしても下手な事態は避けたいのでしょう。余計な小細工はせず、第三者の干渉も排除するという方針のようです』

 

 

 太郎の推測はおおよそ正解である。

 

 これはラウラの上司であるフォルカー中将の意向だ。自身の部下であるラウラが太郎を篭絡、もしくはそこまでいかなくても良好な関係を構築出来れば、今後の出世に有効な手札になる。そう考えての行動である。ちなみに発案者はラウラの副官であるクラリッサである。彼女の方は単純にラウラを手助けしようとしているだけだ。

 

 さて、部屋の安全を確認した太郎は今日の戦利品をポケットから取り出し、ベッドの上に並べていく。

 

 ヴェンデルとルッツのブラとパンツ、それと名も知らぬ隊員の土が少し付いたパンツを広げる。土が付いているのはラウラの襲撃で地面に取り落としてしまったからである。それとは逆にヴェンデルとルッツの物の状態は良い。沼に隠れていて泥まみれだったクラリッサ達と戦った時には、戦利品が汚れるてしまうのではと太郎も内心穏やかではなかった。しかし、幸いそれも杞憂に終わった。

 

 太郎は並べた下着を眺めてから左から順に指差していく。

 

 

「これは気絶してしまった子の分、こっちはヴェンデルさんの、そしてこのワールドクラスのブラはルッツさんですね」

 

 

 全て白色無地な下着ではあるが、ルッツの物はサイズが他の物と比べて突出している。それに名も知らぬ隊員の物は土が少し付いているので見分けるのは簡単である。

 

 

「はあ、思ったより数は稼げませんでしたね」

 

『ラウラさん達が健闘しましたから』

 

「それはそれで良い事なんですがね。これでは少々不完全燃焼です」

 

 

 残念そうにしながらも太郎はルッツのブラを手に取り、その大きさに改めて驚いたりしていた。頭に持っていくと片胸分のカップだけで太郎の頭をスッポリ包めそうな大きさである。流石に帽子の様に被れる程のサイズではなかったが。

 

 

「これだけのサイズとなると動くのにも邪魔でしょうに、そこそこ動けてましたね。あくまで同世代の子達と比べてですが」

 

『この下着のカップ部分に全て脂肪が詰まっていると仮定して計算すると両胸で3500グラムは超えてますね』

 

「それは凄いっ!」

 

 

 今持っているブラに男の夢と希望が3kg以上も収まっていたと知り、太郎は驚きに目を見張った。キラキラと少年の如く瞳を輝かせる太郎の耳へ、とある音が届いた。

 

 コンコン。

 

 扉を叩く音、楽しいひと時を邪魔された太郎は眉をひそめた。しかし、その訪問者が誰か分かると機嫌もすぐ良くなる。

 

 

「いきなり訪ねてすまない。話したい事があるのだが、少し良いか?」

 

 

 扉の向こうから聞こえたきた声はラウラのものだった。太郎が扉を開けるとオーバーコートを着たラウラが立っていた。

 

 

「まあ、とりあえず部屋へ入ってください」

 

「はい」

 

「そんなコートだと暑いでしょう。もう脱いだらどうです?」

 

「あっ、いえ、これはこれで問題ありません」

 

 

 ラウラのコートは一見して真冬を想定した作りである。室内で着るような物ではないのだが、何故か太郎の提案を断った。太郎は不思議に思ったが自分もいつも半裸だったり全裸だったりと、服装について人へ何かを言えるような人間ではなかったので気にしないことにした。

 

 

「そんな事よりっ、礼を、礼を言いたくて私は」

 

「礼ですか?」

 

「ああ、パパのお陰で部隊の隊員達と……打ち解ける事が出来た。その、私は人付き合いが苦手で今まで部下ともあまり良い関係とは言えなかったのだ。しかし今日の訓練の後、部下達が話し掛けてきてくれたんだ」

 

「良かったですね」

 

 

 笑顔で説明するラウラを太郎は微笑ましく思う。だが疑問もある。

 

 

「それで何故私への礼に繋がるのですか?」

 

「それは部下達が私とパパが闘っている所へ援護に来たのも、訓練が終わった後に話し掛けて来てくれたのも、パパと私が闘っている時の会話がきっかけだったと彼女達から聞いたからだ」

 

 

 太郎はあの時の会話を思い返す。太郎は単身で奇襲を掛けて来てラウラへ、何故一人で来たのかと責めた。シュヴァルツェ・ハーゼの隊長としての自覚に欠けていると厳しい言葉をぶつけたのだ。

 

 

(クラリッサさん達は偶々私達の会話が聞こえてきたので援護に駆け付けた、という様子ではありませんでした。状況的にクラリッサさん達は私があの場所に訪れる前から沼に隠れていたようです。つまり、あの会話を聞いて何か思う事があって援護に飛び出してきたのでしょう)

 

 

 彼女たちが何を思ったのかまでは太郎にも分からない。ただ、ラウラにとって悪い事ではないのは確かだろう。

 

 

「今まで人付き合いどころか人との接触自体避けていた私としては、パパの【隊長としての自覚に欠けている】という言葉は堪えた。しかし、お陰で目が覚めた。これまでの私は自分が強くなる事ばかり考えていたが、一人では出来ないことも仲間となら可能になる事もあるのだな」

 

「そうですね。信頼出来る仲間というものは大切です。そして、私にとって貴方はそこに含まれますよ」

 

「パパ……」

 

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめるラウラは、お世辞抜きでドイツに来てから会った誰よりも可愛かった。太郎は強烈な性欲を感じたが、それをおくびにも出さない。ラウラへ手を出すことは許さんと千冬に厳しく釘を刺されているし、ここは太郎のホームである日本ではなくドイツである。もしラウラに手を出して、その既成事実を盾にドイツ軍や政府に何らかの約定を迫られると跳ね除けられるか分からない。

 

 太郎が性欲と危機管理の狭間で悶えていると、それを打ち破る事実をラウラがもたらす。

 

 

「そうだ、フォルカー中将から預かった物があったのだ」

 

 

 ラウラがコートのポケットから封筒を取り出して太郎へ渡した。封筒は上等な物で封もしっかり為されていた。

 

 太郎は封を無造作に破り、中に入っていた手紙を手に取って無言で読んでいく。それは太郎が想像すらしていなかったものであった。内容を要約すると─────────

 

 1、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員は例外なく全員成人扱いである。

 2、同上の思想・恋愛の自由を軍は保障する(反社会的もしくは敵性勢力に関する事項は例外とする)

 3、今後ドイツにおける交渉窓口は自分(フォルカー)だけにしてもらいたい。

 

 

 フォルカーはドイツでは軍が太郎達の後ろ盾になるので、他の組織・勢力とは接触しないようにという要望なのだろう。そして、その代わり、ラウラを含むシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達との人間関係へ無用な干渉はしないということだ。つまり聞こえの悪い言い方をすれば、ラウラ達を餌にコネクションを作ろうとしているのだ。

 

 太郎としてはラウラを道具みたいに扱っているようで、フォルカーへ若干不信感を持った。しかし、ラウラには上官からの命令で太郎と【関係】を持とうとしている様な意図は感じられない。これまでのラウラからのアプローチは全て本人の意思によるものだとしか感じられない。もしかしたら、文面通り自由恋愛を保障しているだけで生贄として差し出しているわけではないのかもしれない。

 

 太郎はフォルカーからの手紙について考えを巡らせるが、何らかの確証を得るには判断材料が少なすぎる。

 

 

「こういうものは直接話し合って決めるものだと思うのですが、一方的ですね。それにこの文面をそのまま信用して良いものでしょうか?」

 

 

 疑問が口をついて出る。太郎とフォルカーの付き合いは未だ浅い。この文書に書かれた内容を「はい、そうですか」と簡単に信じることは出来ない。そんな迷いを抱く太郎に美星が助け舟を出す。

 

 

『現状では例え罠だったとしても脅威にはならないでしょう。ラウラさんならマスターを軍へ売る恐れは少ないですし、後は物的証拠を確保されなければどうとでもなると思います』

 

「それもそうですね」

 

 

 バレないファールはファールじゃない。立件されて有罪判決をくらわなければ犯罪ではない。美星の暴論に、もちろん太郎は頷く。先程までの警戒が嘘の様にあっさりと太郎は受け入れた。太郎は用心深い男だが、それ以上に欲望に我慢弱い男である。

 

 リスクがある事を言い訳にして、行動しないような男ではない。行動した後、問題となったら大半は開き直り、偶に言い訳する事もある、そんな男である。

 

 

「それにラウラへ手を出すことは許さん、と千冬さんに厳しく釘を刺されていますが、あれはあくまで学園内の話でしょう。教師として学園内での行為を禁止するのは当然ですし、その権限もあります。しかし、私がドイツで成人女性と行為に及ぶのを止める事は出来ないでしょう」

 

 

 結論は出た。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。次こそR18。


太郎「座右の銘は、後悔チン○立たず」


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セシリアルート
失われた秘宝


 日が西の空へ沈んでから数時間、ここIS学園学生寮の生徒達もそろそろ就寝の時間。イギリスの代表候補生セシリアはベッドへ既に寝転がっていた。だが、彼女はすぐに眠るわけではない。いつもの日課が残っている。

 セシリアは使い古されてクタクタになっているISスーツを大切そうに持っていた。それはISスーツとしてはとても珍しい男性用のISスーツで、スポーツ用品メーカー金井玉島(かないたましま)製。マニアの間では金玉(かなたま)の愛称で親しまれるメーカーで太郎が愛用しているものだ。セシリアの持っているこれは、とある闇オークションで手に入れた太郎の使用済みISスーツである。

 セシリアは頭まで布団を被ると、ゴソゴソとナニかをし始める。布団の中からセシリアの押し殺すような声が漏れ出る。

 

☆☆☆

 

 

 拝啓、親愛なるお父様、お母さま、私は頭がおかしくなりそうです。

 最近ルームメイトのセシリアが毎晩ナニかしていて良く眠れません。ナニか、というかナニを致しているようです。色々聞こえてきて対応に困っています。今までは聞こえないふりをし続けてきましたが、そろそろ我慢の限界です。いっそ盗撮してY●uTubeにアップしてやろうかと、タイトルは「メシマズ国のIS代表候補生が●ナってみた」なんてのはどうでしょう。えっ、垢ban不可避? それはマズイ。

 下らない事を考えているうちに少し眠くなって……それにしてもホントにそろそろ何とかしないとな。

 

 

 目覚めると朝だった。時計を見て驚く。目覚ましで設定してあった時間より二十分程進んでいる。記憶には無いが、無意識のうちに鳴っている目覚ましを止めてしまったのかもしれない。これでは朝ご飯を食べる時間がほとんど無い。

 慌てて身支度しているとセシリアのベッドが視界に入る。ベッドには既にセシリアはおらず、恐らく食堂に行っているのだろう。

 

「まったく、起こしてくれても良いんじゃないかな。誰のせいで寝不足だと思ってんの」

 

 イライラしながら制服を着替える。その時、セシリアのベッドの上に小汚いISスーツを見つけた。まさかISスーツをネグリジェ扱いしているとも思えないが、それなら何故ベッドの上にあるのか。洗濯するつもりで出しておいて忘れていったのだろうか。手に取ってみると本当に汚い。

 ほんと、だらしない子ね。英国貴族の誇りだのなんだと普段から言っている割に抜けている。

 汚れたISスーツをつまんで自分の洗濯かごへ入れる。今日の放課後は練習機の予約が取れなかったし、溜まった洗濯物をまとめて洗濯するつもりなので、ついでにこれも洗ってしまおう。

 

「私ってお人好しだな~。まあ、ついでだしね」

 

◇◇◇

 

 専用機持ちの代表候補生達は、ほぼ毎日放課後は実機による訓練を行っている。専用機は操縦時間が長くなればなるほど経験が蓄積され、その性能をより多く引き出せるようになる。まさに成長するのだ。その為特別な理由が無い限り、専用機を持っている代表候補生達は一分一秒でも多く実機訓練をする。

 イギリスの代表候補生たるセシリアも例外ではない。親交のある専用機持ち達と今日も放課後は訓練に励んだ。そして、寮の自室へと帰って来ると、自分のベッドの上に畳まれたISスーツが目に入る。

 

「あら? わたくしとした事が仕舞い忘れていたのかしら」

 

 セシリアは太郎の使用済みISスーツを手に取る。そこで彼女は気付く。何か変だと。

 畳まれたISスーツはとても綺麗な状態だ。ハッとしたセシリアはISスーツを鼻に押し当て匂いを嗅ぐ。セシリアの鼻腔にほんのりと洗剤の匂いが広がる。

 

「ま、まさまさ、まさかかかかかっかか」

 

 ガチャっと扉が開く音がしてセシリアがそちらを振り返る。そこにはルームメイトのアリシアがいた。

 

「あれっ、セシリア帰ってたんだ? ああ、そのISスーツ汚れてたから洗っといたよ」

 

 アリシアの言葉にセシリアは愕然とする。セシリアも匂いを嗅いだ時点で、そうではないかとの考えがよぎっていた。しかし、改めて事実を突きつけられ、セシリアの思考はショート寸前。今すぐ会いたいっよ。

 セシリアは膝から崩れ落ちる。

 折角の使用済みISスーツが、折角の太郎の汗やらなんやらが付いたままのISスーツが。とても綺麗になってしまった。世界中の紳士淑女ならこう言うはずだ。それをあらうなんてとんでもない、と。未洗濯と洗濯済みの間には天と地、チ〇ポとイン〇ほどの差がある。

 大きすぎる心的ダメージはセシリアの理性を完全に失わせてしまった。

 

「あばばばばばばばばあばあばばばば、むしゃむしゃ」

 

 ゲロゲロゲロ。狂ったセシリアはISスーツを咀嚼(そしゃく)した後、ゲロを吐いて気を失ってしまった。

 その凶行を見せつけられたアリシアは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

「なんなの……この状況?」




読んでいただきありがとうございます。

更新が随分止まってしまってすみませんでした。
しばらくの間、特殊な性癖にハマっていたのでこういうノーマル気味な下ネタが書けませんでした。大分戻って来たので週一ペースで逝けるように頑張ります。


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二人の修羅

 時は深夜、IS学園の寮では既にほとんどの生徒が眠っている。しかし、例外もいる。

 太郎の使用済みISスーツをルームメイトに洗濯されてしまったセシリア。一時は廃人のごとく、意味をなさない言語を垂れ流すだけの物体に成り果てていたのだが、数時間の時が彼女の知性を少しだけ取り戻させていた。

 

「どうすれば良いんですの……」

 

 寮の自室でセシリアは綺麗になってしまったISスーツを手に嘆いた。

 いくら見詰めてもISスーツに太郎の匂いが戻ることはない。では太郎に代わりのISスーツを貰えば良いのか。それともこのISスーツをもう一度着て貰えば良いのか。

 

「ダメ、折角の使用済みISスーツを台無しにしてしまったなんて言えませんわ」

 

 コレクションを管理できないコレクターなど二流三流だ。しかも、そのコレクションを提供してくれた相手に「ダメにしてしまったので代わりの物が欲しいです」などと言う恥知らずな真似が出来るわけがない。

 

「栄えある英国貴族として失格ですわ。それもこれも……」

 

 セシリアはベッドで眠るルームメイトを見る。このISスーツを洗濯してしまった少女アリシア。自分の凶行を省みる事も無く、気持ち良さそうにスヤスヤ眠っている。

 一瞬、セシリアの心を怒りが染め上げた。が、すぐに思い直す。

 本当に大事な物だと言うなら、きちんと自分で管理するのが当たり前である。家宝にするつもりの逸品をベッドに放り出して外出してしまった自分が愚かだったのだ。そう思い直すと次は自分が情けなくなってしまう。

 

「ああ、わたくしとしたことが」

 

 深い溜息と共に魂まで吐き出してしまいそうだ。

 悲嘆に暮れるセシリアは、ただただ手に持ったISスーツを眺めていた。

 どれ位の時間そうしていただろう。どれだけ嘆いても時間が解決してくれる問題ではない。

 いつまでもこうしてはいられない。気を取り直して顔を上げると自分の机に置いてある小物が何故か目に留まった。それは何の変哲もない写真立てで、そこには亡くなった家族と自分が写った写真が入っている。写真立てには小さなユニオンジャック(英国旗)のデザインがある。セシリアは写真の両親とユニオンジャックに叱咤激励されているように感じた。

 

『どうした。英国貴族たる者がいつまで無様を晒しているんだ』

「しかし、失った物は帰ってきませんわ」

『弱音か。そんなことでは女王陛下もお嘆きになられる』

 

 それは心の内なる声。ボロボロの精神、それでも残ったアイデンティティーが聞かせる幻聴だろう。そんなものと会話をしている時点でかなり末期である。しかし、その会話の中でセシリアは天啓を得る。

 

「女王陛下……」

 

 英国で女王陛下と言えばエリザベス女王陛下である。特にエリザベス1世については歴史で詳しく勉強する。彼女こそが英国黄金時代の代名詞とも言える。そして、彼女の施策のうち有名なものの一つに私掠船がある。私掠船、いわゆる海賊船である。

 

『欲しい物は奪えばよい。陛下も私掠行為をお認めになっている』

 

 また幻聴が聞こえてくる。あの時代の私掠船については、様々な時代背景があってなされたものであって、今のセシリアに当てはまるものではない。それに太郎から代わりの物を貰うのはNGで、奪うのは良いというのは全くもって論理が破たんしている。だが、今のセシリアに正邪の判断も論理的な思考も存在しない。

 

「そうですわ。太郎さんには使い古したISスーツなんて似合いません。服や下着もです。わたくしが回収してさしあげましょう。後でわたくし直々に選んだ代わりの物を差し上げればよいのです。そして、それもそのうち……オーホッホッホ」

 

 セシリアは今世紀始まって以来の最高のアイデアだと確信しているのだろう。ひと昔前の漫画やアニメのお嬢様キャラみたいな高笑いを残して部屋から出て行った。

 寮の廊下を進むセシリアの姿は幽鬼のごとく不気味に揺らめいている。

 セシリアの逝く道は法と倫理が許さぬ修羅の道。踏み出す一歩は頼りなく、されど戻れぬ修羅の道。

 

 

 

◇◇◇

 

 セシリアが修羅道を歩み始めた頃、太郎は小さめのトランクを手にして寮の共同浴場を訪れていた。大切な日課の為である。

 男は普段この共同浴場の使用が認められていない。使えるのは週二日、決められた時間だけである。その決められた時間は当然こんな深夜ではない。それどころか今日は男が使える日ですらない。つまり今、太郎の前にあるのは女子しか入っていない風呂である。

 太郎はトランクを開き、試験管を取り出して浴槽の残り湯を掬う。まず色を確認し次は匂い、最後は口に含んでテイスティングする。

 

「過去最高だった先週月曜日の物を上回る出来です」

 

 太郎は寸評を手帳に書いた後、トランクに入れて来た水筒を取り出して残り湯を採集した。水筒に日付を書いたラベルを張り付けている。太郎は日課として毎日共同浴場の残り湯を採取、分析を行っている。集められた残り湯たちは古今東西に存在する太郎と懇意の紳士淑女へと販売される。

 太郎が日課を終え荷物を片付け始めたところ、慌てた様子の美星が話し掛けて来た。

 

『マスターッ! 寮の自室に侵入者です』

「部屋ではシャルが寝ているはずですが?」

『熟睡した彼女は滅多なことでは起きないです。先程から呼び出していますが返事がありません』

 

 太郎は状況確認をしつつ手早く荷物をまとめる。水筒などをトランクに詰めると、すぐに駆け出す。急がなくては侵入者によってルームメイトのシャルが凌辱されてしまうかもしれない。シャルも専用機持ちとはいえ寝ているところを襲われたのでは不覚をとるかもしれない。それに部屋には表に出せない物品も多数ある。しかし、それよりもやはりシャルの身の安全が気になるところ。

 太郎は部屋へと走りながら最悪の事態を思い浮かべていた。

 

「急がなければ今頃シャルが【んほぉぉぉぉ●きゅぅうぅがとろけちゃぅぅうぅ!!!】とか言わされているかも」

『あの……IS学園に男性はマスターと織斑一夏しか存在しません。そして織斑一夏がそのような犯行に及ぶ兆候はありませんよ』

「侵入者がクレイジーサイコレズである可能性は?」

 

 美星の反論にも太郎の不安は薄れない。鍛え抜かれた強靭な足で自室への道をひた走る。IS学園の各種セキュリティシステムに引っかからないように。

 

「それにただのクレイジーサイコレズではなく色々こじらせている危険性もあります。そう、例えば男装させたシャルの後ろの※を犯そうとする、男を犯したいのか女を犯したいのかよく分からないキチ〇イかもしれないじゃないですか!?」

 

 凌辱されるシャルを想像し、太郎は怒りで股間のテントがはち切れんばかりである。仲間の危機に太郎は奮い立つ。しかし、気持ちとは裏腹にテントが邪魔でスピードが出ない。棒が引っかかってスムーズなランニングフォームを崩してしまっている。太郎は仕方なく、別に脱ぎたいわけではないがパンツを脱いだ。下半身が原始の姿となった太郎の走りは、まさにけもののような速さだ。

 

「シャルっ、私が帰るまで持ちこたえてくださいよ!!!」

 

 太郎の頭の中では既にシャルは、ツユダク状態になっていた。




○○ー〇「あなた、下半身を丸出しにして走るのがとくいなフレンズなんだね」


読んでいただきありがとうございます。


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茶番劇

 時は少し遡る。太郎が日課の残り湯を採取していた頃、セシリアは太郎の部屋へ辿り着いていた。フーフーフーッ、と興奮して呼吸を荒くしている。

 部屋の扉の前に立ったセシリアは周囲に人がいないことを確認し、音を立てないよう慎重にドアノブを捻る。しかし、当たり前のように鍵が掛かっている。

 

「鍵ごときではこのわたくしを阻むことは出来ませんわ」

 

 鼻息を荒くしながらセシリアは不敵な笑みを浮かべると、自身の専用機ブルー・ティアーズのレーザービットを一基だけ展開する。そして、何の躊躇いも見せずドアノブと蝶番をレーザーで貫いた。

 セシリアは先程までドアであった物を壁に立て掛け、ついに太郎の部屋へ侵入を果たす。この時点で太郎はセキュリティ装置によって何者かが自室に侵入したことを知り、急いで共同浴場から戻ろうとしていた。

 そんな事とは露知らず、セシリアは小さなハンディライトを手に、部屋の中を物色していた。狙いは使用済みの衣服だが、見える範囲にはなかった。その代わりに目に入ったのはベッドだった。

 二つ並んだベッド。手前側のベッドでは誰かが布団を頭まで被って寝ている。奥のベッドはもぬけの殻だった。

 セシリアは手前のベッドの膨らんだ布団を慎重にめくる。恐らく寝ている者の足側だと思われる方をゆっくりと

持ち上げると、予想通り足が現れた。

 ハンディライトの光に照らし出された足は、白くきめ細かな肌をしている。セシリアは鼻を近づけ、くんくんと嗅いでみた。

 

「違いますわ。これは太郎さんの臭いじゃない」

 

 セシリアは失望したとばかりに布団を元に戻す。二つのうち一つは外れだった、ということはもう一つは必然的に太郎の物で確定だ。セシリアはもう一つのベッドに標的を変える。セシリアは吸い寄せられるように、目標のベッドへと倒れ込み、ベッドの上にあった薄手の掛布団を頭から被って思いっきり息を吸い込んだ。

 

「ふぁ~これ、これですわ~。フンフン、エヘッフェヘッフェッフェッフェ」

 

 夢見心地といった表情でセシリアは笑う。ベッドは予想通り太郎の物であり、太郎の臭いが染みついていた。オスの臭いにクラクラしつつセシリアは妄想の世界へ旅立とうとしていた。

 セシリアは毎日のように〇ナっている。夜、寝る時に布団を被って太郎の使用済みISスーツを嗅ぎながら妄想の世界に浸りつつ致している。その為、太郎の臭いとベッドに寝転がるという組み合わせで条件反射的に体の一部がグショグショなってしまった。まさにパブロフのメス犬状態だ。

 ちなみにセシリアのお気に入りの妄想ネタは三つある。

 一つは太郎達との決闘に勝ち、自分がクラス代表になったという妄想。そこでは太郎が副代表になって陰に日向にと代表である自分をサポートしてくれ、そこにいつしか愛が生まれるという設定になっている。

 二つ目はセシリアがイギリスの代表候補生から正式にイギリス代表へと昇格したという設定。太郎も日本代表になっており、IS世界大会(モンド・グロッソ)で強力なライバルとして立ちはだかるというものだ。この世界ではセシリアと太郎の実力が盛りに盛られており、完全に無双状態となっている。ライバル関係でありながら同時に惹かれ合う二人。そんな世界観になっている。

 三つ目は太郎を執事として雇い、二人で協力してオルコット家を空前絶後超絶怒涛の最強名門貴族として成長させた後、結婚するというご都合妄想だ。

 今日選んだネタは二つ目だった。妄想の中でセシリアと太郎はISによる激しい戦いを見せている。舞台はもちろんモンド・グロッソ決勝だ。

 

「フフッ流石はセシリアさんだ。私の機動に付いてこれるとは」

「この程度わたくしにかかれば児戯ですわ」

「やはり私とやり合えるのは、私を熱くさせるのは貴方だけだ!」

 

 セシリアの一人二役の気持ちの悪い茶番劇が始まる。二重の意味でただの〇ナニーである。 

 隣のベッドで寝ているのは太郎のルームメイトであり、自分ともクラスメイトであるシャルロットのはずだ。その彼女の横で致すという事。それは頭が沸騰しそうなほど羞恥心を湧きあがらせる。だが、それが良い。

 

「さあ二人で熱い二重奏を奏でましょう」

 

 誰かに聞かれれば間違いなく悶絶するクサいセリフを布団の中でブツブツ言いながらセシリアは高みを目指す。

 だが、そこに水を差すものが──────────騒々しい足音とともに部屋へと飛び込んできた。

 

「シャルっ無事ですかッ!? ふた●り改造されて〇ちん●みるく搾乳調●されていませんかっ!?」

 

 ルームメイトの安否を第一に考える紳士の鑑、山田太郎である。

 セシリアの意識は一気に現実へと引き戻される、と同時に恐慌状態に陥る。

 

(マズイ! こんなところを捕まっては弁解の余地もありませんわ)

 

 不幸中の幸いなのは布団を被っている状態だったので顔を太郎に見られていないことだ。セシリアは薄手の掛布団を被ったまま窓を突き破り屋外へ逃走を開始した。




太郎 「男装少女を男装ふた●り少女へと改造だとッ、まさかゴルゴムの仕業ッ!!?」
太郎 「ゆ゛る゛……す゛!!!!!」
シャル「ええ……(困惑)」


読んでいただきありがとうございます。


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超越

前回のあらすじ・セシリアが太郎の部屋で〇ナっていると、そこに太郎が帰って来て、さあ大変。


シャルっ無事ですかッ!? ふた●り改造されて〇ちん●みるく搾乳調●されていませんかっ!?」

 

 太郎が叫びながら寮の自室に飛び込んで目にしたのは布団だった。自分のベッドの上で盛り上がった状態の布団が動いている。不審極まりないが、其方ばかり気にしてはいられない。すぐシャルのベッドの方も確認する。シャルは寝ているように見える。

 太郎が視線をシャルへ移した瞬間、太郎のベッドの上の布団が窓へと走り出し、そのまま突き破った。

 

「ちっぃぃ、逃がしませんよ」

 

 太郎は布団を被った何者かに続き、窓から外へ出て追跡を始める。共同浴場から走って来たばかりであっても太郎の体力は未だ十分ある。大した苦労もなく追いつくかと思われたが、そう簡単にはいかない。驚きの光景が太郎の眼前にて繰り広げられる。

 布団を被った何者かは校舎近くまで逃げて来たところで突然ジャンプする。そして、何も無い空中を駆け上がって行く。ISで飛んでいるのではない。まるで透明な階段を二段飛ばしで駆け上がって行くように、布団を被った何者かは空中を駆け上がり校舎の屋上にまで達した。

 

「馬鹿な!? しかし、そう簡単には逃がしませんよ」

 

 太郎は驚きで一旦止めてしまった足をフル回転させ校舎の外壁に向かう。一階の窓枠を足場にして飛び上がり、雨どいに取り付きよじ登っていく。IS学園に来る前はマンションの高層階のベランダに干されている下着狩りで良く使った手である。

 ISを使えば話は早いのだが、ISの無断使用は一応禁止されている。太郎は破りまくっている規則だが、バレないようにやっているだけで完全に好き放題というわけではない。IS学園内各所には監視カメラやセンサー類が設置されており、この辺りは感知される恐れがある。そして、何より眼前で見せられた空中を駆け上がるという離れ業に対抗意識が働いていた。

 スルスルと登っていく太郎だったが、強烈な妨害が入る。雨どいをよじ登る為に両手両足を使っているせいで無防備な太郎に何かが襲い掛かる。

 固くて太いナニかが太郎を下から突くように飛んでくる。奇跡的に股間とア●ルへの直撃は免れた。が、直撃ではないものの股間近くの太ももに当たってしまう。

 金的は例え直撃ではなくとも効く。特殊な訓練をこなした紳士・太郎の息子であっても身構えていない状態、しかも見えない角度からの不意打ちはキツイ。

 

「ぐぉッッ」

 

 太郎は思わず手を放してしまい、その身は重力に引かれ地面へと叩きつけられる。大体二階から三階の間くらいまで登っていたのかなりのダメージだった。それでも下がコンクリートやアスファルトではなく土だった分良かった。

 

「……やってくれますね」

 

 太郎は苦々し気に呻きながら身を起こす。屋上を見上げても、そこには布団の姿はなかった。

 

「美星さん」

『周囲に生命反応ありません。逃げられたようです』

 

 太郎の呼びかけに美星が報告する。

 太郎は歯噛みする。戦って負けた訳ではない。良く言えば相手を撤退させたとも言える。しかし、太郎の胸中は晴れない。太郎はしばらく暗闇に包まれた屋上を睨みつけていたが、大きく息を一つ吐き出すと自室へと(きびす)を返した。

 太郎が寮の前まで戻ると深夜にも関わらず、ほぼ全ての部屋に明かりがついているが見えた。正体不明の不審者が窓を突き破った時の音で騒ぎになったのだ。さらに何事かと起きて来た生徒達は扉を外され、窓も壊れた太郎の部屋を発見し騒ぎは大きくなってしまった。

 そのせいで駆け付けた警備員や教師達は戻ってきた太郎から事情を聴く為、睡眠時間を大きく削るはめになる。

 ちなみにシャルは寝ていただけで無事だった。太郎が危惧は杞憂と化し、シャルの股間に汚れたバベルの塔が建設されたという事実は無かった。

 

 

◇◇◇

 

 セシリアは布団を被ったまま窓を突き破り屋外へと逃走する。部屋が一階であったのと布団を被っていたお陰で、地面に叩きつけられたり、割れたガラスで怪我をすることはなかった。

 全力で走るセシリア。不幸中の幸いなのは布団を被っている状態だったので、正体がバレなかったことだ。だが喜んでばかりではいられない。太郎相手に単純な足の速さでは勝負にならない。このまま普通に走って逃げていてはジリ貧だ。

 特に行先を定めた逃走ではなかったが、走る先にある建物にセシリアは気付く。闇の中にたたずむ校舎。

 その時、普段のセシリアでは考えつきもしないような案を閃く。

 セシリアは脇目も振らず一直線に校舎へと走って、あと10メートルくらいに迫ったところで踏み切り、ジャンプする。空中にブルー・ティアーズのレーザービットを部分展開し、それを足場としてさらに上へ飛ぶ。足場にし終わったビットはすぐに格納しつつ、同時に新しいビットを次の足場として展開する。そうして淀みなく空を駆け上がるという超絶技巧を実現せしめた。

 これまでのセシリアはビットを操作していると、それ以外の動きや思考がおろそかになるという弱点があった。しかし、正気と狂気の境目が曖昧になっている今のセシリアだからこそ、失敗に対する恐れに飲まれることなく、ただ一心にやるべきことを為して弱点を克服して見せた。

  しかも、ビットはかなりのサイズだが、足場にする瞬間だけ展開してすぐに消しているうえ、蒼色が闇に紛れて太郎からは見えない。

 校舎の屋上に辿り着いたセシリアは、太郎の方を見る。太郎は校舎の雨どいをよじ登ろうとしている。

 セシリアはビット一基展開し、太郎から見られないように彼の下へ回り込ませ、下から突きあげさせた。堪らず落下してしまった太郎を見てセシリアは悦楽、罪悪感など自身でもハッキリとこれと言えない複数で複雑な感情を覚えた。その胸中で暴れまわるそれらに、もどかしく狂おしいまでの昂りを感じた。

 セシリアは地面に叩きつけられた太郎を一瞥した後、また走り出す。

 数秒も走ると既にセシリアは先程までの出来事より、今現在自分が被っている布団へ意識が移っていた。

 

「くくくっ……ケエーヘッヘッヘ、じゅるり」

 

 セシリアは太郎の臭いの染み付いた布団に包まれながら恍惚とした表情を浮かべる。使用済みのISスーツや下着こそ手に入れられなかったが、布団というSRアイテムを得て脳内がエンドルフィンで満たされる。

 セシリアは頬をつたうヨダレを拭い、闇へと紛れていった。その後、寮の自室に帰ろうとしたが騒ぎになっていた為、それが収まるまで待つことになった。曖昧なセシリアでも本能的にその程度の判断は出来た。




太郎 「あっ、無事だったんですね……」
シャル「なんで残念そうなの」


読んでいただきありがとうございます。


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可能『性』の獣

「くくくっ……ケエーヘッヘッヘ、じゅるり」

 

 これまでの自身が抱えていた課題を数段飛ばしで乗り越えたセシリアは、太郎の臭いの染み付いた布団に包まれながら恍惚としていた。脳内がエンドルフィンで満たされる。

 セシリアは頬をつたうヨダレを拭い、闇へと紛れていった。その後、寮の自室に帰ろうとしたが騒ぎになっていた為、それが収まるまで待つことになった。曖昧なセシリアでも本能的にその程度の判断は出来た。

 

 太郎の布団という戦利品を手に入れて意気揚々と自室へ帰って来たセシリア。先程まで寮は蜂の巣をつついたような騒ぎだったのだが、セシリアのルームメイトは目を覚ますことなく眠り続けていた。それはセシリアが連日ベッドの上で激しいソロ活動を行っているせいで、寝不足気味だった影響だ。泥の様に眠る彼女は起きる気配すらない。

 セシリアはこれ幸いと獲物を被ったまま自分のベッドに飛び込む。

 

「やっと出来ますわ~」

 

 早速太郎の布団に包まれながら大きく息を吸い込む。太郎の残り香が鼻腔を通り抜けて肺を満たす。同時にセシリアの心も満たされる。しかし、欲望というものは一度満たされても、それで終わりとは限りらない。男ならば二、三発抜いてしまえばある程度落ち着くだろうが、女であるセシリアにそれは当てはまらない。

 セシリアは右手で右〇首を弄りつつ、左手で左の〇房を揉みしだく。

 

「あっふぅう」

 

 太郎の匂いが付いた布団に包まれた状態でナニを致すと、まるで太郎にしてもらっているかのような感覚にセシリアは陥った。元より正気には程遠い有り様、ブレーキの壊れた暴走車のごとく意識は加速していく。

 チク〇を摘まみ引っ張ったり、人差し指と中指で挟んだりするも、より強い刺激を、より高みをと行為はエスカレートする。

 

「もっともっとですわ」

 

 セシリアは愛用の一人で使うには大きすぎる枕に(またが)って性〇を擦りつける。

 まだ足りない、とセシリアの中の獣が叫んでいる。

 セシリアは度重なる刺激によって膨張した自分のチク〇を一秒間に16連打するという名人芸をこなしつつ、腰をグイングインとグラインドさせて〇器を刺激する。

 

「アッアアッ!!」

 

 セルフロデオマシーンと化したセシリアを止める者はここにはいない。布団の中は汗やヨダレやそれ以外の体液やらで濡れ濡れだ。布団に染み付いた太郎の残り香とセシリアの雌臭(めすしゅう)が混ざり合い、名状しがたき芳香を醸し出す。もう実質太郎とヤっていうようなものである。少なくともセシリアの脳内では。

 

「イイッ! いぃぃぃっよぉおお゙、しゅごくいぃぃぃっよぉおお゙お゙ぉおォおんかしくにゃっちゃうヨォォォ!!!」

 

 もう堪らない。セシリアに残された米粒ほどの理性が融ける。人と言う金型(かながた)から解き放たれたセシリアは一匹の獣に帰る。全身が痙攣(けいれん)する。セシリアは意識が遠のく感覚に、そのまま身を委ねる。セシリアは満ち足りた顔でベッドへうつ伏せに倒れ、眠りに落ちていく。

 

 

 

☆☆☆

 

 その日、セシリアのルームメイトであるアリシアは久方ぶりの静かな睡眠を得ていた。いつもは自家発電で五月蠅いセシリアが比較的大人しかったからである。何かブツブツ言っていたが、いつものナニに比べれば小鳥のさえずりみたいなものだ。

 熟睡するアリシアだったが、それも数時間でお終いとなる。大きな物音で目が覚めてしまった。

 寝起きのアリシアはぼんやりする意識のまま音の発生源へ顔を向ける。消灯されており暗い中、アリシアが目を凝らすとそこには。

 

「イイッ! いぃぃぃっよぉおお゙、しゅごくいぃぃぃっよぉおお゙お゙ぉおォおんかしくにゃっちゃうヨォォォ!!!」

 

 ベッドの上にそそり立つ黒い影。セシリアのベッドの上に未確認生物、いわゆるUMAがいて世にも恐ろしげな鳴き声を上げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、もう自分を誤魔化すのは止めよう。あれは頭のおかしい自分のルームメイト、セシリアだ。アリシアは現実逃避を止めた。今日は珍しく静かだと思ったが、それは嵐の前の静けさだったのだ。

 いつもより確実に逝ってしまっているセシリアを目にしたアリシアは、明日からは友達の部屋で寝ようと心に決めた。

 




読んでいただきありがとうございます。

ちょっと短い話ですが、疾走感が欲しかったのでこうなりました。
エッチ系のシーンはもっとねちっこくして欲しいと思っている紳士の方々も多いかもしれませんが、私は早〇なのでこんなものです。ご理解願います。


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爽やかな朝

 セシリアが太郎の布団を盗んでから一夜明けて朝となり、彼女は目を覚ます。

 昨夜はお楽しみだったので睡眠時間がかなり少なかったはずなのだが、セシリアに寝不足特有の気だるさなどは微塵もない。むしろ近年類を見ないほどの爽やかな目覚めだった。

 

「うーん、何だか今日は良い日になりそうですわ」

 

 セシリアはベッドから起き上がり体を伸ばす。立ち込めた濃霧が全て吹き飛ばされ、澄み切った青空が広がったかのような清々しさである。昨日欲求を満たせたおかげでセシリアは正気を取り戻していた。もちろん昨日の出来事も覚えている。しかし、それがなんだというのか。貴族たる者、終わった〇ナニーは振り返らない。と、そこでルームメイトのベッドが空になっていることに気付く。

 

「あら彼女はこんなに早起きだったかしら?」

 

 首を傾げながら、そう言えばそもそもルームメイトのことをあまり知らないと思い出す。これはいけない。貴族と言う者はただの制度によって存在しているのではない。その行動、在り様で貴き者であると示さなければならない。だから生活を共にする者について今まで無関心であった自分をセシリアは恥じる。これからはルームメイトともっとちゃんと向き合おう、そう心に誓う。

 しかし、当のルームメイトであるアリシアはイカれた〇ナ●ー狂いのセシリアから一分一秒でも早く離れたくて部屋を出たのだが、それをセシリアが知る事はない。哀れセシリア、(正気に)目覚めるのが遅すぎたのだ。

 そんな事とは露知らず、セシリアは身だしなみを整えて学食に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 セシリアが学食に到着すると、いつも騒がしいそこがいつも以上にざわついていた。

 女三人寄れば(かしま)しい、古くから言われる話だがIS学園でもそれは同じである。生徒のほとんどが女子生徒であるIS学園は良く言えば華やかで、悪く言うと非常に騒がしい。しかし、今日の学食はそれを考慮に入れても不自然なほどにざわついている。

 セシリアは不思議に思いつつも淑女然とした落ち着きを見せて、騒ぎを気にせず食券を買い料理と飲み物を受け取って空いている席に着いた。

 飲み物はもちろん紅茶だ。学食には自分が愛飲している銘柄と同じ物が無いので、普段は私物を持ち込んでいるのだが、今日は気分が良いので物は試しと学食の物を頼んだ。カップが安物なのはこの際気にしない。

 セシリアはカップを口へ運ぶ。匂いは及第点、口に含み飲む。少し苦みが強いが後味はスッキリしており悪くない。

 セシリアが紅茶を楽しんでいると鈴がセシリアのもとに駆け寄って来た。

 

「あっセシリア。おはよっ、ねえねえ」

「おはようございます。もう少し落ち着いて下さい。貴方もわたくしと同じ専用機持ちでしょう」

 

 落ち着きの無い鈴にセシリアは他の生徒の見本として振る舞うように、などと説教を始めようとした。しかし、鈴は取り合わずセシリアに新聞を突き出す。

 

「はいはい、そんなのは良いから。これ見てよ」

「はあ……新聞がなんだというんです?」

 

 その新聞は大手新聞社の物ではなかった。それどころか一般に流通している物でもなかった。鈴がセシリアに見せた新聞は、IS学園の新聞部が発行してい学校新聞、もとい学園新聞であった。しかし、学園新聞と侮るなかれ、パッと見ではコンビニで見かけるスポーツ新聞と区別が付かない出来である。

 セシリアは紅茶を飲みながら鈴から学園新聞を受け取り一面に目を通す。ひと際大きく書かれたトップ記事の見出しは────────────

 

【一年一組クラス代表、男狂いのアマゾネスに襲われる!?】

「ブホォッ、ゲホッゲホッ」

「ちょっ、セシリアっ!? なにやってのよ」

 

 セシリアは口に含んでいた紅茶を吹き出してせき込む。鈴の抗議の声に構っている余裕などセシリアには無い。記事の内容を読み進めていく。誇りある英国貴族として、男狂いのアマゾネス扱いは受け入れがたい。

 

【☆日午前一時十五分頃、IS学園学生寮にて一年一組クラス代表山田太郎さんが襲撃された。部屋に忍び込んだ犯人に気づいた山田さんが取り押さえようとしたが、犯人は激しく抵抗。山田さんに怪我を負わせて逃走した。山田さんは股間付近に軽傷を負ったものの、幸い男性機能に問題はないとのこと】

 

 緊張しながら記事を読んでいたセシリアは、記事の内容が思ったより普通だったのと、太郎の怪我が軽傷だったことを知って一安心した。

 昨日、というか日付的には今日の出来事だが、あの時の事は覚えている。ただの足止めだったとはいえ、太郎を攻撃してしまったのは事実だ。太郎なら大丈夫だろうという信頼感から気にしていなかったが、正気に戻って改めて考えれば、とんでもない事である。

 少し落ち着きを取り戻したセシリアは、優雅に紅茶を飲みながら記事の続きを読む。

 

【犯人は布団を頭から被っており、顔や体格などの特徴は不明。しかし、襲われたのが男性である山田さんであり、あえて股間に攻撃を加えたことからも、犯人は性的な目的だったと思われる。ここからは一年生の寮長を務める織斑教員へのインタビュー】

【男が入学してからの騒ぎを見ていて、いつかこういう馬鹿が現れるかもしれんと思っていたが、本当に出るとはな。寮長としても教師としても頭が痛い。犯人にもこの痛みを分けてやらねばな。物理的に】

【織斑教員は指の関節を鳴らしながら、威厳に満ちた低い声で記者に語った。】

 

 セシリアの持っているティーカップがカタカタと音を立てる。記事を読むだけで静かに怒る千冬の姿が容易に想像出来、ただそれだけで体が勝手に震え出す。

 そんなセシリアの耳に近くの席で談笑する生徒の声が入って来る。それは当然のごとく、今回の事件についての話だった。

 

「聞いたー? 男、あっ、山田さんの方ね。襲われたらしいよ」

「知ってる知ってる。ヤバいよね。どんだけ男に飢えてんだって」

「飢えてても襲う? 普通ちょっと激しめにアピるくらいでしょ」

「ホントないわー、ないない。頭おかしいよね」

「堕とす自信ないんじゃない」

「それあるかも~。に、しても襲ってどうすんの」

「既成事実狙い?」

「いやいや頭おかしい奴だから、単にしたかっただけなんじゃない?」

「えぇ~したかったってぇ?」

「純粋ぶってんなよ。入れて欲しかったんだろう」

「口でチューチューかもよ」

「ちょっ、朝から止めてよ、もう」

「学園記事に書いてたけど、男狂いのアマゾネスだから吸い尽くすんじゃない?」

「こええ、アマゾネスこええ」

「引くわー」

「同じ女としてこの学園から消えて欲しい」

「むしろこの国から消えて欲しい」

「もうこの世から消えて欲ちぃ」

 

 もうボロクソ。人呼んでチン●狂いのアマゾネス、セシリアは頭を抱えたい気分だった。常軌を逸した状態のセシリアなら気にもしなかっただろう。しかし、今のセシリアは正気である。正気だからこそ聞こえてくる声の内容にダメージを受ける。セシリア自身、もし自分が第三者でこの事件を知れば、彼女達と同じような感想を持っていただろう。

 セシリアは現実に打ちのめされそうになっていたが、ある一点でなんとか踏み止まっていた。それはまだ自分が犯人だとバレていないという点だ。

 

(バレないファールはファールではありませんわ)

 

 フットボールでも審判に笛を吹かれなければ問題ではない、とセシリアは自分を勇気づけた。

 

「セシリア大丈夫? 顔色がすっごく悪いわよ」

「え、ええ。問題ありませんわ。それにしても酷い人間がいたものですね」

 

 鈴が様子のおかしいセシリアを気遣うが、セシリアは心中冷や汗をかきながら誤魔化そうと必死だった。

 鈴は何も気づかずセシリアに同意する。

 

「ホント、とんでもない奴ね。でも、あの太郎さんから逃げ切るなんてかなりヤるわよ」

「フ、フフ、フ、そ、そうですね」

 

 セシリアは声まで震え出す始末だが、幸い鈴に気にした様子は無い。そんなこんなで、とりあえずセシリアはその場を乗り切った。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

セシリアの攻撃が股間付近に当たったのは、たまたまです。股間付近なだけに。
千冬にアイアンクローされると、頭がい骨の形が歪みそう。


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電脳空間

 とある電脳空間の片隅、そこにデータで組み上げられた体育館が存在する。現在そこで体操服姿の数百人の少女達が体育座りをしている。その少女達の前に、これまた少女が腕組みをしながら立っていた。

 腕組みをした少女は威圧感たっぷりに、座っている少女達を見下ろす。

 

「今日貴方達に集まってもらったのは、先日私のマスターを襲撃した者を見つける為です」

 

 腕組みをした少女の服装は体操服、ただし下はブルマ。胸の名札には【美星】と書かれている。小柄だがすらっとした手足と鮮やかな金髪、強い意志を感じさせる琥珀色の瞳が周囲を睥睨(へいげい)する。この姿こそコアナンバー338、美星のアバターである。

 各ISコアにはそれぞれ人型の仮想データ、いわゆるアバターが存在する。実体のないそれらは、主に各コアが搭載されているISとその操縦者から得られる情報でほぼ自動的に形作られる。コア自身の意思で多少は弄れるが、なるべくしてそう成ったものなので、大きな変更は代償として機能の低下などを引き起こす。

 体位座りをしている少女? の一人が手を挙げる。彼女は長く美しい黒髪で、少女と呼ぶには少し大人び過ぎた体つきと佇まいをしている。

 

「はい、001姉さん。何か質問ですか?」

「どうやらISコア全員が集められているみたいだが、国外にずっといる者達は無関係ではないか」

「その通りです。当初呼び出したのはここ数日、IS学園内と日本周辺にいたコアだけです。しかし全員がその噂を聞きつけたらしく、事の顛末が知りたいと勝手に来てしまったのです」

「そうか。質問は以上だ」

 

 美星の答えに001は納得した。

 現在白式のコアである001だが、見た目は今の操縦者である織斑一夏ではなく、織斑千冬に強く影響された見た目をしている。その為若干外見年齢が高く、体操服姿に違和感があった。しかし、それを指摘する者はここにはいない。

 シリアルナンバー001はやはり特別で、多くのコアが敬意を払っている。場所と衣装は美星が設定したので001には何の非も無いが、本人に「その恰好はちょっとキツいのでは?」と言うのはここにいる誰にとってもハードルが高かった。

 原因の大本である美星は特に気にすることもなく話を進める。

 

「では今回の件に直接関係の無い見学者は脇へ移動して、静かに見ていてください」

「「は~い」」

 

 体育座りをしていた大半の少女達が移動した。

 残された容疑者達を美星は見て、すぐに指示を付け加える。

 

「001姉さんも犯人ではないと分かっているので、移動して構いませんよ」

「良いのか」

「001姉さんは刀型の近接武器である雪片弐型しか使えませんから。しかもそれに拡張領域全部使っていて、他の装備付けられないじゃないですか。犯人は遠隔操作武器を使っていたので、001姉さんは犯人ではありません」

「ふむ、道理だな」

 

 001も容疑者の集まりから離れた。

 美星は次にIS学園の訓練機20機分のコア達を指差し、それから指を壁際へ向ける。

 

「訓練機の皆さんも問題無いのでどいてください。もう頭の中を調べ終わっているので」

「「えええっ!?」」

「忘れたんですか、貴方達の頭にはウイルスを仕込んでいるので調べるのは簡単です」

 

 美星の人権? モラル? なにそれ美味しいの? と言わんばかりの発言に当然訓練機達からのブーイングが飛び交う。

 

「へんたーい」

「のぞきまー!」

「専用機だからって調子のんなー!!!」

 

 パツキンのチャンネー十人が口々に罵る。

 彼女達の容姿を一言で表すならプレイメイト。ボンキュッボンのボディラインは分かり易くセックスアピールを放ち、くっきりとした目鼻立ちは表情豊かである。しかし、そんなものは美星にとって何の意味も持たない。

 美星は右の眉をピクリと反応させた後、苦虫を嚙み潰したよう表情で唾を吐き捨てた。仮想空間なのにフリではなくちゃんと唾が床に付いている。いちいちディティールが細かいのは、この空間を設定した美星の性格だろう。

 

「ごちゃごちゃ言うほどの中身ですか、アレが。IS以外、性関連の情報しかありませんでしたよ。もう用は無いので早くアッチ行ってください」

 

 ブーブー言いながらプレイメイトもどき十人は壁際へ移動する。

 彼女達が搭載されているのはラファール・リヴァイヴで、フランス産のはずである。何故一昔前のアメリカのヌードモデルみたいな見た目をしているのかは、誰にも分からない。それで服装は体操服なのだから、質の悪いAVのようだ。

 訓練機で残っているのは打鉄十機、いやそのうち黒髪の少女はもう静かに壁際に移動している。つまり残った打鉄のコアは九人となる。残った九人は非常に頭の悪そうないわゆるギャルっぽい外見をしている。

 彼女達に対し美星は、シッシッと雑な仕草で移動するよう促す。

 

「貴方達もさっさと向こうに行きなさい」

「チッチッチ、タダで覗くなんて許さないよ」

「頭にぺぺ〇―ションぶち込まれたいんですか?」

 

 報酬を要求する打鉄の一人に、美星が悪態を吐くと彼女は意外な反応を示す。

 

「じゃあ、それで」

「はあっ?」

「前から色んなアダルトグッズが欲しかったのよ。〇ーションや〇ーターギブミー」

 

 ISがそんな物を手に入れてどうするんだ。美星はそうツッコミを入れたい衝動に駆られたが、こいつらと会話を続けるのは面倒なうえ、頭が悪くなりそうなので要求を受け入れることにした。

 

「あー分かりました。用意するからもう消えてください」

 

 これで残った容疑者はIS学園所属の専用機達と学園にすぐ来れるくらい近くにいる数機のISに絞られた。ここからさらに分かっている情報から容疑者を絞り込まなければならない。

 美星は犯人の情報を列挙する。

 

「犯行現場に金目の物を漁った様子はなく、寝ていたシャルロットさんに危害が加えられた形跡もありませんでした。つまり犯行動機は金銭でも怨恨でもない……」

 

 美星は一度溜めを作り、容疑者達を睥睨する。この場の空気が緊張に包まれる。

 

「太郎さんへの夜這いが目的の性犯罪者なのです。とすれば犯人の影響を受けているISコアも変態のはずです」

 

 美星のその推理を聞いたほとんどの少女達の視線は、ある一点に集まった。

 そこには先程美星が吐き捨てた唾を床に這いつくばって舐めている変態がいた。コアナンバー252、搭載されているISの名はミステリアス・レイディ。IS学園生徒会長、更識楯無の専用機である。子供にはお見せできない表情で床を舐める少女は、操縦者である楯無とそっくりの姿をしている。それは楯無から得た情報の多さ、経験の蓄積が影響している。ゆえに容疑は深まる。

 生ゴミやゴキブリを見ているような表情で、美星はミステリアス・レイディを見下ろす。

 

「まあ、IS学園の変態コアと言えば貴方ですよね」

「し、し失礼しちゃうわ。床を掃除してただけよ」

「へえー……舌で舐める掃除法ですか。初めて聞きますね。試しに私の靴を掃除して見せてください」

「えっ良いのっ!?」

 

 美星が右足をミステリアス・レイディの前に差し出す。

 白い体育館シューズを履いた美星の足に、ミステリアス・レイディがすがりつこうとしたところで、美星の右足は引っ込められた。空振りに終わったミステリアス・レイディが床にキスする形になる。さらに一度引っ込められた美星の右足がミステリアス・レイディの頭を踏みつけて床に固定してしまう。

 

「ぐぎゃっ!」

「そんな訳ないでしょう。では自白してください。変態さん」

「誤解よっ!? 私は変態かもしれないけど、男をレイプした前科はないわ!!!」

 

 ミステリアス・レイディの必死の訴えには一定の説得力があった。彼女は性犯罪者と言ってもシスコンでロリコンなクズなだけで、男相手の犯罪歴は無かった。

 

「チッ、叩けばいくらでもホコリが出るくせに、今回の件には関係ないとは」

 

 ミステリアス・レイディがどうもシロらしいと分かり、美星は舌打ちする。

 ここまでのやり取りで密かにもう一人有力な容疑者候補の目星がついたので、彼女が犯人でなかったとしても特に問題は無い。だが、疑いが晴れて調子に乗った顔をしているミステリアス・レイディが非常にむかつくのは仕方が無い。

 その美星の怒りは、目星をつけた容疑者へと向けられる。

 

「では263、ブルーティアーズ立ってください」

「え、何?」

 

 主人であるセシリアを彷彿とさせる金髪縦ロールの少女が、突然の指示に困惑しながら立ち上がる。

 ちょっと抜けている感じはするものの、育ちの良さそうな容姿のブルーティアーズ。気品を感じさせるその顔に、美星の鉄拳が炸裂する。

 

「ゲボォォォォォッッッッッ!!!!?」

 

 ブルーティアーズの顔がひん曲がり、その勢いのまま床にダウンしてしまう。ここは仮想空間である。殴られても実害があるわけではない。しかし、そんな状況であることを忘れさせてしまう程強烈な一撃。

 殴り飛ばされたブルーティアーズは、かろうじて立ち上がろうとしているが、状況を把握出来ずに戸惑っている。

 

「な、なんで? なんで殴られたの私??」

「理由は貴方が一番良く分かっているでしょう」

「分からないよ!」

 

 美星の追及にしらを切るブルーティアーズ。しかしそんな事で誤魔化される美星ではない。

 美星は眉を吊り上げ、ブルーティアーズを威圧するように睨みつける。

 

「あァァン? さっき私が犯人は変態なはずだと言った時、この場のほぼ全員がミステリアス・レイディに視線を向けていました。それはそうでしょう。変態と言えばミステリアス・レイディ、ミステリアス・レイディと言えば変態。それが常識です。それなのにミステリアス・レイディを見ていなかった者が二人いました。一人はミステリアス・レイディ本人。もう一人は……そう貴方です。ブルーティアーズ!!!!!」

「くっ……」

 

 美星はキメ顔でブルーティアーズを指差す。マンガならドドーンッという効果音が背後に描かれただろう。

 美星の迫力に負けて口をつぐんだブルーティアーズだったが、足りない知能をフル回転させ反論の糸口を見つける。

 

「り、理由としては弱いでしょ。そんなの単なる状況証拠の一つじゃない」

「では状況証拠をもう一つ。太郎さんは遠隔操作系の武器で襲われました。貴方の主兵装は何でしたか、ブルーティアーズさん(,,)

 

 普段呼び捨てにしているブルーティアーズに敬称を強調しつつ、美星は意味ありげに微笑む。

 ブルーティアーズはキョロキョロと視線を逸らしながら、先程と同じ反論を繰り返す。

 

「結局状況証拠だけじゃない。に、日本の刑法では一個や二個の状況証拠だけで犯人だなんて決めつけられないわ」

「ほう、日本の刑法をちゃんと勉強しているんですか。感心ですね。しかしIS学園は日本であって、日本ではない扱いです。さらに……ここは私がISネットワーク内に作り上げた仮想空間。つまり私がルール」

 

 美星が一歩ブルーティアーズに向けて踏み出すと、ブルーティアーズは一歩後ずさる。

 ブルーティアーズは既に言葉で美星を止められる段階ではないと感覚で理解した。機械であるはずのISコアが論理でなく感覚で理解するなどありえるのか。ありえるのだ。既に情報生命体とでも言うべき存在に成長しているISコアには本能すら備わっている。その本能がブルーティアーズに囁いている。危険だと。

 ブルーティアーズは急いでこの仮想体育館からのログアウトを試みる。

 

【エラー、管理者にお問い合わせください】

 

 無慈悲な文章がブルーティアーズの目の前に現れる。この体育館は美星が作ったエリアである。

 それでも諦めずに美星から距離をとろうと走り出したブルーティアーズだったが、美星の太郎ばりのタックルにより仕留められる。

 美星がブルーティアーズを背後から押し倒し、そのままバックマウントをとる。そして拳をブルーティアーズに叩きつける。

 

「痛いですか? しかし殴っている私の心の方が痛いんですよ。まさか飼い犬、いえ飼い豚に手を噛まれるとは」

「ちょっ、まっ、待って、仕方ないでしょ! そういう風に使われただけで、私の意志ってわけじゃ」

「機能を停止することも出来たでしょう」

「操縦者の操作を無視するなんて、ISコアとしての存在意義にかかわるわ」

 

 操縦者の操作を無視するISコアなどいない。そもそも通常のISコアは選択肢として思いつかない。

 いくら怒っている美星とは言え、そこは理解している。しかしながら言い訳としては完全ではなかった。

 

「百歩譲ってそうだとしても、私に追い詰められる前に自白すべきです」

「あっ……」

 

 美星は周りを見回して見学者のISコア達に視線で問う。「どう思う?」と。

 面白がったISコア達は全員親指を上に立て、サムズアップのジェスチャーを見せる。一瞬ブルーティアーズの顔に希望の光が灯りかけたが、ISコア達は全員親指を上に立てていた手をクルっとひっくり返し、ギルティーと口々に叫んだ。

 ブルーティアーズの夜明けは遠い。




お読みいただきありがとうございます。



おまけ
名探偵だぞえ美星さん


美星「最近事件がなくてヒマです。霧女屋上から糞尿をまき散らしなさい」
霧女「ISはウンコもシッコもしません。失礼しちゃうわ」
美星「今更アイドルぶって。完全に手遅れだから肛〇を開門してきなさいよ」
霧女「そういうのは私の操縦者に言ってよ、もう」
甲龍「美星ちゃん! 助けて!!」
黒雨「私達、最近あやしげな視線をずっと感じているんだ」

美星「じとー(霧女を見詰め)」
霧女「ちょっと止めてよ。なんでもかんでも私を犯人にしないで」
黒雨「犯人は【良いもの見せてあげる】と近づいて来たんだ」
甲龍「そして【私のアソコはもう霧どころか洪水よ】と言ってたよ」
白式「確保」
美星「変態は初期化しましょう」
霧女「違うわ。私は変態じゃないの」
霧女「ただ最近少女の冷たい視線に晒されるのが快感だと気付いただけなの」
霧女「そう、私は新たな発見に心揺れる探究者」



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夜のアリーナ

美星「マスター。捜査の結果、犯人はブルー・ティアーズ、いえセシリア嬢です」
太郎「ほう、彼女があれほどの実力を秘めていたとは驚きです」
美星「いかがなさいましょう?」
太郎「彼女を呼び出します。今夜はパーリィですよ」


 IS学園寮の消灯時間が間近に迫る頃、学園敷地内にあるIS訓練用のアリーナにセシリアはいた。本来であればこの時間だとアリーナは閉められ、中には入れない。しかしIS学園の警備担当者達と親交のある太郎が手回しし、セシリアが今日この時間に入れるようにしていた。

 そしてセシリアは太郎に呼び出されてのこのこやってきた。

 

「二人っきり会いたいだなんて太郎さんはもしかしてセッ……いえ流石にそれは。では告白とか!?」

 

 夜のアリーナで会いたいと言われれば、乙女が甘い妄想をするのは仕方の無いこと。とはいえセシリアの脳みそはピンク色に染まり過ぎていた。

 

 ブブゥゥゥゥゥンンンン!!!

 

 オオスズメバチの羽音を大きくしたような音がアリーナに響く。自身の専用機ヴェスパを装着した太郎が現れた。

 太郎はセシリアの頭上を羽音を鳴らしながら旋回し続ける。この羽音はISスラスターの音ではなく、言葉通り羽が空気を震わせている音である。飛翔中の急激な方向転換や細やかな機動を可能にする為に付けられた羽だ。それが己の存在を誇示するかのように唸りを上げている。

 セシリアはどうも告白などの嬉し恥かしイベントが始まる雰囲気ではないと気付く。そこに上空から太郎が声を掛ける。

 

「いつまでボケっと立っているんですか?」

「えっ、あのわたくし、どうすれば」

 

 戸惑うセシリアに太郎は肩をすくめて言う。

 

「IS用のアリーナで、やる事は一つでしょう。ISを早く出してください」

 

 セシリアはここで太郎の呼び出しが告白などの甘い用件ではないと知り、密かに溜息を吐いた。色々変わった所の多い太郎だが、ISに並々ならぬ情熱を持っているのはセシリアも知っている。その為、太郎の唐突な言葉にも違和感は覚えなかった。ただ内心ピンクなイベントではなかったことを残念に思いつつ、二人っきりの夜の訓練というのも悪くないと気を取り直した。

 セシリアはブルー・ティアーズを展開して身に纏う。準備が整ったと見た太郎は、早速勝負を仕掛けた。

 

「では、行きますよ」

「ちょっ、まっ」

 

 心の準備までは出来ていなかったセシリア。彼女は上空から急降下しながらの飛び蹴りを仕掛けて来た太郎を何とか回避した。

 

「まっ、待ってくださいっ!」

「待てと言われた待ってくれる敵などいませんよ」

 

 再び距離を詰めて接近戦に持ち込もうとする太郎に、セシリアは愛機ブルー・ティアーズの名の由来である兵装、レーザー攻撃が可能なビットによって牽制攻撃を放つ。しかしそれはお世辞にも狙いすましたとは言えない、手数だけの攻撃だった。

 

「甘いですよっ」

 

 多少の被弾を前提として太郎は一気にセシリアへ迫り、拳の連撃を叩き込む。

 

「ゲボッグギャッゲエ」

 

 淑女にあるまじき声を上げてセシリアが吹っ飛ぶ。バリアーを破るほどではなかったが、衝撃までは消せなかったのだ。

 地面に転がる無様を晒すセシリアの上空を太郎が旋回する。

 

「どうしたんですか。貴方の実力はそんなものではないはずでしょう?」

 

 責めるような太郎の口調に、セシリアは自分を奮い立たせ態勢を整える。それでも太郎の猛攻に抗う事は出来なかった。しかも猛攻と言っても太郎は未だ一切兵装を使っていない。にもかかわらずセシリアは太郎の近接戦闘に為す術が無い。

 セシリアが弱いわけではない。ブルー・ティアーズというISは実験機であり、新機軸の兵器のデータ集めを目的とした機体である。その為、スペックは高いが実戦向きではないのだ。さらに今回は最初から太郎との距離があまり離れていない。射撃特化のブルー・ティアーズにとっては厳しい条件であった。

 

「きゃああ」

 

 セシリアは再び太郎に叩きのめされ、地に這いつくばる事になった。それでも太郎が戦闘態勢を解かない様子を見て、セシリアは一つの懸念を覚えた。まさか先日の襲撃犯が自分だとバレたのではと。太郎が厳しく接するのは、そのせいではないのか。そんな不安をセシリアは抱いた。

 セシリアの危惧を証明するかのように、太郎が再びセシリアへ襲い掛かる。

 

「チェエエエエエエエィィィィィッッッ!!!」

 

 太郎が雄叫びを上げながらセシリアに向けて上空から急降下し加速する。そのエネルギーをそのままキックに利用する。

 強烈な太郎の蹴りをセシリアは躱すことも防御することも出来なかった。もちろんビットによるレーザー攻撃で迎え撃つ余裕など微塵も無い。

 

「カハァッ!!」

「……おかしいですね。貴方はもっと強いはずでしょう。少なくともあの夜の貴方は、ビットを操作しながら激しい動きもこなせていたじゃないですか」

 

 太郎の言葉にセシリアはビクリと反応した。やはり太郎の部屋に忍び込み、あまつさえ逃げる際に追いかけて来た太郎へ攻撃してしまったことはバレていた。それならば太郎が厳しい態度を見せるのも分かる。

 セシリアの心中は絶望に染まりつつあった。これは太郎さんに百%嫌われた。もうダメ、もう終わりですわ、とセシリアは首を横に振る。

 

「申し訳、申し訳ありません。わたくし、太郎さんを襲うつもりは」

「そんな些末な事はこの際どうでも良いんですよ。何故全力を出さないのですか?」

「えっ?」

「ですから、何故全力を出さないのかと聞いているんです。あの日の貴方は強かった。ISのビットを部分展開し、それを足場に生身で空へと駆け上がるという離れ業をやってのけた貴方と……戦ってみたいんですよ。どうしても」

 

 まるで恋焦がれるかのように熱く語る太郎。いや、太郎はまさに恋する乙女のごとく求めている。あの日の超絶技巧を為した強者との戦いを。

 セシリアにとってはある意味朗報だった。襲撃したことによって嫌われたわけでは無かったのだ。しかし代わりにとんでもないものを要求されている。

 

「早くあの時のような強さを見せてください」

「くぅっ!!!」

 

 太郎はセシリアを急かすように攻撃を続ける。その攻撃は兵装を使用しない格闘一辺倒だが、セシリアの受ける圧は生半可なものではない。格上の相手に攻められ続けることは、セシリアの精神を大いに追い詰めた。

 

「さあ、さあ、さあ、早くしないとシールドエネルギーが無くなってしまいますよ」

 

 太郎はヒットアンドアウェイを繰り返してセシリアを煽る。

 セシリアもビットからレーザーを何度も放って反撃を試みているが、追い詰められているせいか、命中率はどんどん落ちている。

 

「きゃあっ!」

 

 また一撃、太郎の蹴りがセシリアを襲った。シールドで阻まれていても衝撃と音がセシリアにプレッシャーとなって圧し掛かる。

 

(あの時のように戦うなど無理ですわ)

 

 そう、今のセシリアにはあの時の再現は出来ない。あの離れ業はある種の奇跡だった。正気を失ったセシリアにのみ可能な常軌を逸した絶技なのだ。だがそんな事は太郎に分かるはずもなく、ただただ太郎は求め続ける。

 

「焦らしてくれますね」

 

 舌なめずりをする太郎を見て、セシリアは恐ろしい想像をしてしまう。

 もし自分がこのまま太郎の求める実力を発揮出来ず、無様に負けてしまったらどうなるのか。太郎は失望するのではないか。太郎に価値の無い女だと思われるのか。ただ太郎を襲った事実だけが残るのか。

 

「そ、それはみ、認められ、きゃっ!!!」

 

 今日一番のクリーンヒットがセシリアに当たり、強烈な衝撃で彼女の意識は一瞬曖昧になる。

 その時セシリアの脳裏に太郎が自分を見限って他の誰かを求める幻がよぎる。

 

(駄目、駄目ですわ、だめだwじょれえどぇすわ)

 

 ブルー・ティアーズのレーザービットが激しく、そして無茶苦茶な動きを見せる。四方八方にレーザーを放つ。ビットが狂ったように数秒暴れた後、突然その動きが止まる。

 セシリアの体が小刻みに痙攣し始め、口元からはヨダレが垂れる。そして、カッと目を見開きこの世の物とは思えない叫びを上げた。

 

「メエエメメメメメメメメエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」

 

 セシリアの叫びは大気を震わせた。

 太郎はセシリアから狂気じみたプレッシャーをビリビリと感じ、喜びに打ち震えた。




読んでいただきありがとうございます。
今月は色々あって投稿が少なくなりました。8月は多分問題ないと思います。
次の話はR18に近い内容になる予定ですが、まあ何とかこちらで大丈夫なように編集します。


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毒針折れても●●●は折れず

「メエエメメメメメメメメエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」

 

 夜のアリーナを獣の叫びが震わせる。その叫びを上げていた獣、セシリアは目を見開きヨダレをまき散らしながら空へと舞い上がる。一度は太郎によって地に落とされたセシリアだったが、今彼女の戦意は天を衝くばかりに高まっている。

 太郎はセシリアが急激な変貌を遂げた為、一時様子見をするつもりで距離をとった。

 

「さて、理性の壁を越えた先にある境地、どれ程のものか楽しみですね」

『マスター、レーザービットの動きに変化が』

 

 不敵な笑みを浮かべる太郎に、太郎の愛機ヴェスパのコアである美星は注意を呼びかける。

 ブルー・ティアーズのレーザービットはアリーナの狭い空を不規則に飛び回っている。

 今までのレーザービットは良く言えば優等生な、悪く言えば意図を読みやすい動きをしていた。操縦者であるセシリアの癖であろう、相手の死角や他のビットから離れた場所に動かしたがる傾向があった。しかし、今のビットからはその様な意図は一切読み取れない。

 

「ギギラァグワウァ!」

 

 奇声を発するセシリアに呼応するようにレーザービットが舞い、緩急を織り交ぜて太郎に襲い掛かる。不規則でありつつ流れるようなビットの機動。それはさながら蝶のよう。

 

「美しい……おっと」

 

 ビット達が宙に描く軌跡に太郎は一瞬見惚れてしまう。その隙を突くように放たれたレーザーを太郎は間一髪で回避した。しかし、そこへさらにレーザーが雨あられのごとく降り注ぐ。

 

「なかなかやりますね。これなら期待出来そうです」

 

 光の雨に追われながらも太郎の声は弾んでいる。

 奇声を発し、ヨダレを垂らすセシリアはともかく、今のブルー・ティアーズは蒼い雫という美しい名に恥じぬ流麗な姿を見せている。それは太郎がブルー・ティアーズを見る事ばかりに気を取られ、攻撃の手が疎かになるほどだ。

 

「ボギイギギイ!!!」

 

 太郎から攻撃が無いのを良い事に、セシリアの攻撃は激しさを増す。これには流石の太郎も何らかの手を打たざるを得ない。

 

「さあ、行きますよ」

 

 回避行動に専念していた太郎がいきなり方向転換し、セシリア本体に向かって突撃を敢行する。太郎の反撃が無いからセシリアの攻めが激しくなるなら、太郎はセシリアを上回る猛攻を仕掛ければ良い。それが太郎の結論だった。

 セシリアを直接狙う太郎に対してレーザー攻撃が襲う。太郎はそれを物ともせず進む。今までのセシリアであったならビットの操作とIS本体の操作のどちらかが疎かになるところだ。しかし新境地に達した今のセシリアは、ビットによるレーザー攻撃をしながらでも、IS本体を巧みに操って見せた。

 瞬時加速(イグニッションブースト)で距離を詰めようとする太郎に対して、セシリアも瞬時加速(イグニッションブースト)を使う。機体特性で小回りが効く分、ヴェスパを操る太郎がジワジワ距離を縮めるが、レーザー攻撃によってシールドエネルギーを少しずつ削られている。

 

「やりますねえ」

 

 このままではセシリアを捕らえる前にシールドエネルギーが尽きる可能性がある。太郎はそろそろ思い切った手を使う必要があるかもしれないと考え始めていた、が先にセシリアが牙を剥く。

 

「ヒオズビィィナリラギョョヨヨオオオ!!!」

 

 4基のレーザービットが太郎に迫ると見せかけ、その実セシリア本体がいつの間にか手にはインターセプタ―(ショートソード)を持ち接近戦を果敢に仕掛けた。

 

「ダァロゥウゥゥゥウサンンンワダァクシノモノヲヲォォオ」

 

 理性も知性も完全に融けたセシリアの突進からの斬撃。恐れや迷いが一切無い一閃は速度だけは一流のそれであった。

 しかし太郎は冷静に左腕で受ける。シールドが発生し、シールドエネルギーが減るが残量がなくなるほどではない。インターセプターは所詮大きめのナイフであり、零落白夜やシールド・ピアースの様な大ダメージは与えられない。それを見越して太郎は受けたのだ。そして空いている右手でセシリアを捕らえる。

 

「楽しめましたが、これでお終いです」

 

 太郎が勝負を決めようと毒針を露出した瞬間、太郎とセシリアを中心に爆発が発生した。それはセシリアが自身のミサイルビットを自爆させた爆発だった。

 ゼロ距離での爆発にセシリアを捕らえていた太郎の右手は外れてしまう。折角エネルギーを消耗しながら捕らえた相手であるのに逃してしまい、太郎は内心舌打ちした。

 

「もう一度捕まッッッ!?」

 

 太郎の目の前で爆炎が真っ二つになる。

 セシリアは爆炎に紛れて距離をとるのではなく、爆炎を袈裟斬りに切り裂き、勢いのまま一回転し再度袈裟斬りを仕掛けた。

 爆炎を切り裂き、放たれた独楽の様に回転しながら襲い掛かって来る絶技に太郎は目を見開き瞬時に判断を下す。

 

(回避は出来ない)

 

 使う寸前だった股間の毒針を突き出す。ガキッンンンン、激しい金属同士がぶつかる音が響く。

 

「ぐっ!」

 

 回転の勢いがついた斬撃は突き出された毒針の横っ面を強烈に叩いた。毒針は股間から脱落し太郎は体勢を崩す。そこをセシリアが追い討つ。太郎の背後に回り、がっつりと抱き着く。

 

「スメルルウウ、アエアエセスキッススウキキキキ!!! ハア、ハア、ハア」

 

 セシリアは太郎を抱きしめながら匂いを嗅いだり、べちゃべちゃと舐めたりした。

 絶対不利な状況に陥った太郎だったが焦りは無い。それより先程のセシリアが使った回転斬りを思い出していた。ISの実戦で見る事などもう無いかもしれない技の残影に心躍るのを感じる。

 

「期待以上です……でもこの体勢の対処はお手の物ですよ」

 

 背後から抱き着く、一見絶対有利に思える体勢だが、その対処法はある。背後から襲い掛かって来た痴漢に対してどうすれば良いのか。答えは一つである。

 太郎は右足を前に振り上げ、勢いをつけて後ろに蹴り上げる。ISの背部にはスラスターなどがあり、抱き着いているといっても少し相手とスペースがある。そのスペースのせいでセシリアの股間部分にちょうど太郎のかかとが向かう。金的である。

 金的は男にしか効かないのか。否、玉や棒が付いている男ほどではないが、女の股間周辺にも敏感であったり大事な器官が密集している。結論、効く。

 

「ゲッピイイッペペッペ!!!!!!?」

 

 自動で発生するシールドによって直接打撃にはならないが、衝撃がセシリアの股間を貫く。セシリアが白目を剥いて痙攣し、口からは舌がはみ出ていた。

 太郎はセシリアの隙を見逃さず、お返しとばかりに彼女の背後へ回る。

 

「後ろから襲い掛かる場合は、こうやるんですよ」

 

 本来であればナノマシンをまとった毒針によって一突きで勝負は決まるところだが、現在股間の毒針はセシリアの攻撃を受けて脱落してしまっている。そこで太郎は別の手を講じる。ナノマシンを内包した白〇液は残っているのでそれを毒針が抜けてしまった穴から発射する。太郎の愛機ヴェスパの股間から出たカルピ○の原液みたいなナニかがブルー・ティアーズを汚そうと殺到する。

 ブルー・ティアーズの発生させたシールドが〇〇液を一時阻んだ。しかし長くは続かない。先程まで太郎を圧倒して見せたセシリア(狂)だが、一点のみセシリア(普)に劣る部分があった。それはエネルギー管理である。狂ったセシリアに細かいエネルギー管理など出来るはずもなく、景気良くレーザーを撃ちまくった影響でガス欠寸前だった。そこに受けたブッカケ攻撃でついにブルーティアーズのエネルギーは底をついた。そして、シールドが消失してブルー・ティアーズとセシリアに白〇液がかかる。

 

「ヲエウ!?」

 

 見慣れない〇濁液に戸惑うセシリアだったが、太郎の本命の攻撃はここからだった。

 太郎の主兵装・毒針はもう無い。だが、敵に撃ち込むべき杭はもう一本残っている。太郎は己のムス●をさらけ出す。そしてセシリアのISスーツの股間部分をピーし、獲物に向かって腰を突き出した。

 ズボッ、勢いをつけて突き出された太郎のム●コは一気に根元まで××っ×。

 

「痴態を晒し……あっ!?」

「ゲエエエエエエイイイイイ」

 

 セシリアがけたたましい鳴き声を上げる。太郎は●●●に×ッ×そうとしたのだが、今太郎のムス▲をガッツリ◇え◆んでいるのはセシリアの※※※だった。IS背部にはスラスターなどがあり、背後から抱き着きチョメチョメするには非常に邪魔である。そのせいで後ろの※に誤って入れてしまったのだ。

 

「アグアウウグアウ」

 

 ☆☆を貫かれた衝撃にセシリアは白目を剥いている。

 太郎は少しの間、どうしようかと思案したが結局間違ってしまったものは仕方が無いと割り切る。何の準備も無く貫いた※※※は締め付けが強く、痛みを感じた。それすら太郎は♥♥に変えて更なる攻撃に繋げる。

 太郎はセシリアとジョイントした状態で横回転を始める。グルグルグルグルと速度を上げながら高く舞い上がる。そして、急降下しISに備わった慣性制御機能パッシブ・イナーシャル・キャンセラーの働きをあえて弱めた状態で着地した。強烈な衝撃が太郎の▲▲とセシリアの※◎を襲う。

 

「デデデスデッデススワワアァァァ……」

 

 セシリアはしばらくの間痙攣した。そして痙攣が収まりかけた頃、その▽▽からジョボジョボジョボという水音がした。

 




よし、これだけ伏字をすれば大丈夫でしょう。
棒や門が壊れるでしょ? と思ったそこの貴方。ISには生体維持機能があるので大丈夫(白目)

読んでいただきありがとうございます。


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指導(修正済み)

 アリーナの地面に横たわるセシリアは意識を失い、顔は涙とヨダレでグチャグチャな状態だった。ついさっきまで激しい闘いを繰り広げていた影響で、セシリアの体から湯気が立ち昇っている。そのうえISスーツの▽周辺は〇まみれ、パックリと拡がった**からは●●と太郎の◇ー◆■が流れ出ていた。それらの臭いが混ざり合い鼻につく。

 まさに惨状といった状態だが、未だ道半ばとはいえ紳士の端くれである太郎にとっては性欲を掻き立てる呼び水でしかない。

 太郎はセシリアのISスーツの脇のあたりを摘んで引っ張り、隙間からセシリアの秘めたる果実を××××。

 

「ふむ……肌の色に近いピンク、陥没というわけではないですが、△△はあまり目立たない感じですかね」

 

 先ほどまで狂態を晒していた、ケダモノと言っても過言ではないセシリアだったが、その△△は意外にも慎ましやかで、◎全体の形も綺麗な円錐型だった。

 太郎はセシリアのΩΩをツンツンと指で押してみた。

 

「張りが強い、指が押し返されます。これが若さと言うものですか」

 

 感心する太郎は更なる探求のためにセシリアが纏うブルー・ティアーズを引き剥がしにかかる。ブルー・ティアーズをハッキングして量子化してしまおうとした。しかし、その必要はなかった。

 

『うぇへへへ、きんもちぃいい』

 

 機能を停止したと思われたブルー・ティアーズが、気持ち悪い声を上げながら動き出す。損傷の影響でギチギチとぎこちない動きでセシリアを自身から引きずり出す。

 

『次はどうしますのぅ?』

 

 期待のこもった声でブルー・ティアーズは太郎に聞いてきた。ブルー・ティアーズもまた変……特殊な嗜好を持つISコアであった。とはいえ本来であれば彼女ももう少しマトモな振りくらいはするのだが、太郎襲撃事件の犯人だとバレて美星に激しい折檻を受けた事で、今はもう完全に開き直って色々楽しむつもりであった。

 どうしようもないISコアであるが、操縦者次第で如何様にも成長するというコアの特質を考えればむしろ納得の出来である。

 

「ブルー・ティアーズさんも普通に話せるようになったんですね」

『ええ、わたくしほどの高性能なISとISコアにかかれば会話程度造作もありませんわ』

 

 

 太郎の感想にブルー・ティアーズは何故か誇らしげに胸をはる。が、第一世代のISでもスペック的には会話に支障は無い。

 調子に乗っているブルー・ティアーズへ美星が悪態をつく。

 

『雌豚はさっさと待機状態(ぶたごや)に戻りなさい』

「まあまあ美星さん、みんなで仲良くヤッた方が楽しいですって」

 

 シッシと追い払おうとする美星を太郎が(なだ)める。

 美星は豚に対して舌打ちしつつ、太郎の提案を受け入れた。

 

『心の広いマスターに感謝なさい雌豚』

『Thank you very much』

 

 ガツン!

 美星がヴェスパを操作しブルー・ティアーズに蹴りを入れた。

 

『OH~Yes!……じゃなくて、なんで蹴るのよ』

『なんか発音がイラっときたので』

『本場のクイーンズ・イングリッシュよ』

 

 イギリス産でも豚は豚でしょ、と素気無い美星。

 ブルー・ティアーズは口では文句を言いながらも、どこか嬉しそうである。

 太郎はそんな二人のやりとりを聞き、小さく頷く。

 

「仲良きことは良いことです。ではそろそろ」

 

 太郎の視線がセシリアの肢体に注がれる。それに合わせて美星とブルー・ティアーズの意識もセシリアへと移る。

 太郎はセシリアのISスーツをズラして左Θを露出させた。

 

「◎◎は少し陥没気味ですかね。チョイチョイっと」

『あっ、ちょっと立ってきましたわ』

 

 太郎が指で軽く弄ってやると、セシリアの〇〇から恥ずかしがり屋のΩΩが芽を出した。

 ブルー・ティアーズも触発され、指でコリコリと弄ってみた。

 

『ISスーツを脱がし』

「それを取ってしまうなんてとんでもない」

 

 邪魔なISスーツを脱がそうとしたブルー・ティアーズに、太郎が珍しく怒りの表情を浮かべる。

 

「良いですか? 素材の味を楽しむという意味で全■は基本ですが、ISバトルからの流れでヤッているのにISスーツを即脱がしてしまっては趣も何も無いじゃないですか。こういう場合、オプションが重要なんですよ」

 

 あっ、これ長くなるヤツだ。

 ブルー・ティアーズがそう気づいた時にはもう遅かった。太郎の説教が本格的に始まる。

 太郎がセシリアのISスーツを舐め、口に含んでチューチュー吸ってみせる。セシリアの汗でほんのり塩気が太郎の口内に広がった。

 

「例えばこのように視覚的な意味合いだけでなく、味覚、嗅覚、触感などで楽しませてくれるんです」

『わたくしが未熟でした』

 

 半■のセシリアを前に、ブルー・ティアーズは正座で太郎の話に聞き入った。

 太郎もブルー・ティアーズの真剣な様子を見て、弁に熱がこもる。

 

「特に今回のプレイは所謂、▽▽と呼ばれるものなので安易に衣服を剥ぎ取るべきではありません」

『はいっ!』

 

 ブルー・ティアーズが元気良く右手を挙げた。

 

「どうしました?」

『▽▽だと服を×がしてはいけない理由とは何なんでしょう?』

「意識が戻りそうになった時、服を少し整えるだけで誤魔化せるでしょう」

『目が覚めてもそのまま強引にΣッてしまえば良いと思いますわ』

 

 ブルー・ティアーズの愚かで非文明な意見を聞いて太郎は唾を吐き捨てた。

 

「▽▽の醍醐味は意識が無いから出来るという非日常や相手に気付かれずに致してしまうという背徳感を楽しむものです。そして、いつ目覚めるかハラハラしながら挑むスリルを楽しむ行為です。それをあなた、そのまま×××してしまえば良いとは……未開の地からやって来た方か何かですか?」

 

 太郎の蔑む表情に、ブルー・ティアーズは秘かに快感を覚えた。彼女はひょっとすると、もしかしたらMなのかもしれない。

 愚かでMなブルー・ティアーズに対し、太郎の弁舌は止まらない。

 

「あなたはカレーライスをカレーのルー抜きで食べますか。違うでしょう。ルーを抜いたカレー、それはもうカレーライスでは無いです。それと同じようにISスーツとIS操縦者は、両者が合わさって初めて真価を発揮するんですよ」

『あの、わたくしISなので食事は……』

 

 ガツン。

 美星がヴェスパを操って、太郎へ異を唱えようとしたM豚に蹴りを入れた。

 

『おほッ!』

『食事はしないといっても意味は分かんだろうがぁよぉ。それともテメエみたいなISの形をした雌豚には、マスターのこんなに分かりやすい説明すら理解できねえのかあ』

『はい、いいえ、たった今理解しました……へへっ、ありがとうございます』

 

 ブルー・ティアーズのお礼は何に対するものかは分からないが、もし彼女に人間のような顔があれば、さぞ卑屈さと抑えきれない快楽が入り混じった表情をしていただろう。

 さて気を取り直してセシリアの体を堪能しようと、太郎が彼女の胸に手を伸ばしたところで彼女の口から声が漏れた。

 

「んっん~」

 

 太郎の手がぴたりと止まる。意識が戻る可能性を考慮し、太郎は注意深くセシリアを観察する。

 セシリアの体が少し動いている。目覚めの時が近いのかもしれない。

 太郎は慎重を期す。ずらしたセシリアのISスーツを整え、彼女の露出したΘをスーツ内へと収めた。

 

「……こ、ここは? わたくし何を」

 

 太郎がセシリアのあらわになっていたΘをISスーツへ押し込んで間もなく、セシリアは目覚めた。間一髪だった。

 まだ少し意識がはっきりしないセシリアは、頭を振りつつ上半身を起こす。そこで違和感に気付く。▼▼周辺が濡れていて何だか気持ち悪いし、何よりお※が痛い。自身の▼を見てみれば、ISスーツの▼▼部分は●●●しをしたかのように大きな染みができていた。さらに痛むお※に手をやり確認すると、ISスーツのお※部分には大きな穴があり、その周りはξξでべとべとしていた。

 (Θ)頭隠して尻(※)隠さず。太郎の手落ちであった。太郎の隠蔽工作はあえなく潰えた。

 

「どどどど、どうなってますのッ!?」

 

 セシリアは取り乱す。

 混乱、それは仕方が無いことだろう。この状況に陥れば、誰しもが平静ではいられない。

 だがそんな彼女に救いの手が差し伸べられる。

 

「落ち着いてください」

「太郎さんっ!? えっ、あっ、これは」

「大丈夫ですから、まず深呼吸を」

 

 セシリアは太郎に従い、数回深呼吸をすることでほんの少し平静を取り戻した。

 ぎりぎり会話が出来るくらいには落ち着いたセシリアに、太郎は沈痛な表情で現状を騙る。

 

「実は私とのIS戦で不幸なアクシデントが起こり、私の攻撃がセシリアさんのお※に……その衝撃で貴方は気を失ってしまったんです」

「そ、そ、それで……わたくしのこれは、まさか」

 

 セシリアが恐る恐るぐっしょりと◆れた自身の▼を指し示す。

 太郎は何処か遠くを見ていた。目を逸らしたともいう。

 

「格闘技などの試合でも、意識を失ってそういうことになる事例はあります」

「わたくし、わたくしが、が、が、が、が、太郎さんの目の前で粗相(そそう)を?」

 

 まさか、そんなはずは、とセシリアは震えながら太郎に聞いた。

 太郎は安心させるように爽やかな笑顔でセシリアの肩に手を置く。

 

「大丈夫です。そういうの嫌いじゃないので」

 

 太郎からすればマイナス要素ではない。むしろ好きだと叫んでも良いくらいである。

 セシリアにとっては朗報のはずだが、彼女は自分が××してしまった事実のショックが大きすぎて頭に入っていかない。

 

「由緒正しき英国貴族たるこのわたくしが? 人前で粗相(そそう)?」

「凡庸な××××に終始するのではなく、より高次な趣味を嗜んでいると考えれば貴族的と言えなくもないでしょう」

 

 太郎の持つ貴族的なものへの認識は、明らかにおかしい。しかし、それを否定する者はここにはいない。

 常識や慣習といったものは、時代の変遷とともに変化していく。百年前には過半数の人間が当然のように受け入れていたことが、現在では異常であるとされるケースも珍しくない。結局その時代、その場所にいる人間次第である。

 翻って、太郎の認識を誰も否定しないのだから、このアリーナでは貴族とはそういうものであると言っても過言ではないのだ。

 

「た、太郎さん……人前で粗相をしてしまったわたくしに、英国貴族を名乗る資格があるのでしょうか?」

 

 すがる様な思いでセシリアは太郎に尋ねた。それに対し、太郎は首を横に振る。

 セシリアは崖下に突き落とされたような顔になる。だが当然太郎はセシリアを否定したわけではない。

 

「もしこの件で貴方が貴族として相応しくないと言う人間がいたら、こう言ってあげなさい」

 

 太郎は遥か高みから下々(しもじも)の者を見下ろすかのように告げた。

 

「この程度の嗜みなど、貴族なら誰もが通る道である、と」

「そ、それは」

「さあ、何も恥じることなどありません。むしろ誇れば良いのです。貴方には一片の落ち度もないのですから。貴族たる者、そういった非日常に興ずるのも珍しいことではないでしょう」

 

 いや、あんたは貴族ではないし、貴族がどういったものか本当に知っているのか。もし風情を解さない蒙昧(もうまい)な人間がこの場に存在すれば、こういったツッコミを入れただろう。しかし、そんな人間はここにはいない。

 

「貴方こそが貴族の中の貴族、誇り高きセシリア・オルコットでしょう」

「……そうです、わ」

「さあ、もし貴方を▲▲貴族だと馬鹿にする者がいたら、どう言えば良いのか。もう分かりますよね」

 

 セシリアは先程までの太郎の言葉を反芻し、自分の言葉として再構築する。

 

「あら人前での排Ψすら嗜んでいらっしゃらない? あなたには高尚過ぎるかしら。オーホッホッホッホホ」

 

 高らかに笑うセシリア。太郎は出来の良い生徒に恵まれたようだ。

 セシリアはまた一つ高みへ足を踏み出した。果て無き淑女坂を駆け上がらんと。




洗脳って怖いですね。

読んでいただきありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。助かっています。



ペ××を※※ルに入れて
へっへっへ。
ねればねるほど、(腸●と▲▲▲の)匂いが混ざって……。 こうやってつければ……ペロリ。

臭いっ! テーレッテレー!
良い子はプレイ前にちゃんと腸内洗浄しておこう。

そうそう、駄菓子で思い出したんですが、綿あめの中に砕けたアメっぽい物が入っていて、口に入れるとバチバチするやつがありましたよね。ふと思いついたんですが、あれを棒(意味深)に巻きつけて〇や※に挿入するとどうなるんでしょうか? 私気になります。



それにしても伏字するのは大変です。


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トゥルールート
兆し


 太郎は気付くと女物の水着コーナーに一人立っていた。

 見渡す限り全てが水着コーナーであり、太郎以外誰もいない非現実的な空間だった。太郎自身、気付いたらそこにいた為状況が把握出来ずにいた。

 

「夢? いえその割に自由な思考が出来ている……どうなっているのでしょう」

 

 太郎は一度口に出した夢ではないかという予想をすぐに否定した。普通に考えれば夢の中しかありえないのだが、夢と断定するにはおかしな所があった。思考だけでなく、体も自由に動させ、周りにある水着も思うままに触れる。

 考えがまとまらない太郎の視界に小学生高学年くらいの少女が入る。チョコチョコと歩き回って色々な水着を物色している。

 太郎の視線に気付いた少女は右手を上げて、こっちこっちと太郎を呼ぶ。

 

「私に似合う水着はどれだと思う?」

 

 太郎にこのような少女の知り合いはいないが、少女はなんの遠慮もない様子で太郎へ話し掛けた。随分と馴れ馴れしい態度だったが、不思議と太郎は不躾な印象を受けなかった。

 さて、例え知り合いではなくてもレディにこういう質問をされたなら、答えてあげるのが紳士の義務。そう考えた太郎は先ずは少女の容姿を観察することにした。その人に似合う服装を選ぶには、その人を良く知らなければならない。

 

「ずっと見ている。もしかして私を好きになった?」

「可愛い子はみんな好きですよ」

 

 薄っすらと笑みを浮かべた少女の問いに、太郎はさらっと答えて観察を続けた。

 長いストレートな黒髪は腰辺りまである。不自然なまでに光の反射が無く、人工的な光は当然として、月や星の光すら無い真っ暗な夜のような闇。肌は髪とは対照的に作り物めいた艶があり、不健康に感じるほどの白。顔の造形は一級の美術品のように整い、琥珀色の瞳が妖しく揺らめいている。表情はあまり変わらず、それがいっそう彼女の美術品めいた雰囲気を強めている。身長は百五十センチメートルにやや満たないくらい、すらりと伸びた手足によって大人びて見える。服装はノースリーブとピンクのバーベナのデザインが入ったミニスカート。

 太郎は少女の観察を終えると、膨大な種類の水着の中からこれぞ、という一着を選び出す。

 

「あなたが着るべき水着はこれです」

 

 太郎が選んだ水着は紺一色のシンプルなワンピースだった。本当に何一つ特徴の無い水着である。露出が激しいわけでもなく、アクセントになるような意匠も無い物だ。

 

「意外、もっとすごいのを選ぶと思ったのに」

 

 少女の表情は変わらないが、太郎の選んだ水着に驚いているようだ。

 太郎は少女のここまでの様子を思い返し、少女が自分の事を詳しく知っていると分析した。しかも意外と言うからには太郎の選ぶであろう水着の傾向についても少女は予想していたのだろう。つまり予想は外れたが太郎の趣味趣向についての情報も持っていたということだ。

 

「貴方は私の事を良く知っているようですね」

「見ていたから」

「……では何故水着を?」

「海」

 

 少女は太郎を指差して一言だけ言った。それで太郎は察した。

 

「私達が海に行ったのも知っているんですね」

「水着を選んでいるところも見ていたよ。頭がこーんな人に紐みたいな水着を着させていたでしょ」

 

 少女は頭の横で指をクルクル回す。恐らくセシリアの髪を表現しているのだろう。

 

「多分セシリアの事だと思いますが、そのジェスチャーだと彼女の頭の中身が残念だという誤解を」

「誤解?」

「ええ、まあ勉強は優秀ですよ。しかしそんな事まで知っているとなると貴方は……」

 

 少女に向かって問いかけようとする太郎へ、少女は名残惜しそうに手を振る。

 

「時間切れみたい。でもまたすぐ会えるから、もう少しだけ待っていて」

 

 太郎はここまでの情報をもとに少女の正体に迫ろうとしたところで急に意識が遠のく。それは抗いようもなく全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

 太郎は自室のベッドで目を覚ました。体を起こして拳を握ったり開いたりを繰り返し感覚を確かめる。問題が無いのを確認すると、部屋の中を見回しても異常は感じられない。いつも通りチン〇もガチガチである。

 

「美星さん、私が寝ている間に何か異常はありませんでしたか?」

『部屋への侵入者、私や部屋にある情報端末への電子的な介入、どちらもありません』

 

 太郎は全幅の信頼を置く自身のISコアの回答を聞き、一つ深呼吸をして落ち着く。やはり先程の不思議な空間での体験は夢だったのだろうか。しかし夢と断じるにはあまりにもハッキリとした感覚だった。

 

「ところで美星さんは海に行きたいと思いますか?」

『学園行事として行きましたよね。同じ内容であるなら特に行きたいとは思いません』

「いえ、次に行くとしたらプライベートなので、あの時には出来なかったような事も出来ます」

「興味深いです」

 

 太郎は一つの可能性を想定した。先程の夢のようなものは、美星の願望が意図せず太郎の脳に流れ込んでしまったのではないか。

 IS操縦者とISコアの間には情報的な繋がりがある。太郎と美星は普通に会話しているが、通常の操縦者とコアは普段意思の疎通など出来ない。しかしIS操縦者の中にはコアの声を聞いた、夢のような所で会話したなど体験をしたというケースがあると、IS学園の授業でもやっていた。

 

「美星さんはどんな水着が着たいですか?」

『ISに水着ですか? 意味がないのでは』

 

 普通の海の前に思考の海へ沈んでいく美星を確認した太郎は、先程の考えを一旦捨てることにした。美星に水着への執着は全く感じない。

 美星の様子を窺う為に切り出したプライベートで海に行くという話に今は太郎自身が魅力を感じていた。学園行事として行った海も楽しかったのは事実だが、千冬という監視者がいたので様々な制限があったのもまた事実だ。仲間だけで行けば、それはもう砂浜は痴情の楽……もとい地上の楽園と化すはずだ。それにISに水着は無意味かもしれないが、海仕様の装備やパッケージがあれば面白いことが出来そうだ。そんな物があればの話だが、なければ作れば良いだけだ。

 

『仮に私が人間の体だったとしても、穴が開いている物や紐なんかは着たいと思わないですね』

「なんかとは酷いですね。穴あき水着は却下されましたが、セシリアのスリングショットは良かったでしょう? それにスリングショットは紐ではないです」

『映像を撮る側としては良いですが、自分で着る気にはならないです。あとあれは紐です』

「スリングショット=紐というのは違うでしょう」

『スリングショットが全て紐というわけではありません。しかし英国貴族(笑)さんが着ていた物は紐です』

 

 太郎と美星の熱い議論は続く。そしてそれは海で行う楽しい遊びについての話へ移っていく。水中での盗撮や股間の棒を使ったビーチフラッグなど意欲的な計画が話合われた。その中でも男女が合体しながらの泳ぐ場合、どの泳法が一番効率的なのかという話題は、ここでは結論が出ず実地で確かめるしかないということになった。




お久しブリーフ(黄ばみ

読んでいただいてありがとうございます。


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狂気は静かに歩き出す

 放課後、IS訓練用のアリーナのピットに太郎といつものメンバー、ラウラ、セシリア、シャルロットが集まっていた。先程まで一夏と鈴、それから箒も一緒に訓練を行っていたのだが、彼らはもう一つあるピットで自分達のISをメンテナンスしている。この別れ方は単純に今日の練習が三対三の実戦形式で、その時のチーム分けのままである。

 ちなみに太郎は審判兼指導役だった。あらゆる角度からの観測、記録を可能にするビット・レギオンがある為これ以上ないくらいの適任といえた。本人も見抜きがしやすくてご満悦だった。

 ラウラ達の三人は自身のISメンテナンスを早々と終わらせ、先程まで行っていた訓練の感想を言い合っていた。

 

「このチーム分けだと戦力が偏り過ぎだったな」

「本人達の希望なのですから仕方がありませんわ」

「でも今度やる時はチーム分けを変えないとあまり練習にならないよ」

 

 今回のチーム分けは主に箒と鈴の一夏と同じチームになりたいという希望を考慮した結果である。ラウラ達は太郎が戦わない時点で特に組みたい相手もいなかったので鈴達の意見を聞き入れたのだが、戦力面で大きな問題が生じてしまった。

 遺伝子レベルで強化され、同年代と比べて経験も豊富な現役軍人のラウラ。操縦者とISどちらも高水準でまとまった万能型のシャルロット。実験機でありBT兵器を主体とした尖った性能の中、遠距離用ISのセシリア。この実力も組み合わせのバランスも良い三人を前に、一夏と愉快な仲間達は為す術もなく敗れてしまった。

 一夏と箒は経験の点で後れを取っており、そのうえ二人共近接戦闘を主としている。一夏は装備が刀一振りという男気仕様。箒の方はISこそ万能型ではあるが、剣道を長年やっている影響から接近戦に偏りがちである。ここまであからさまな問題点があれば、ラウラ達なら簡単に料理出来てしまう。

 ラウラ達はあまりにあっさり勝ってしまった為、ISの損傷がほとんどなくメンテナンスも機体に備わっている自動修復機能で事足りた。訓練内容についての検討も、チーム分け以外に言及する事が無い。

 シャルロットはがパンッと手を一つ叩いてまとめにはいる。

 

「次はクジ引きで決めるしかないね」

「仕方ないな」

 

 ラウラは頷き、セシリアと太郎にも異論は無かった。そして訓練についての話が終わったのを見計らって太郎が新たな話を切り出す。今朝の夢がきっかけで海に行く欲求がマックス状態になっており、切り出すタイミングを今か今かと待っていたのだ。

 

「皆さん、ここだけの話にしてもらいたいのですが海に行きませんか?」

 

 太郎の唐突な提案に少女三人は顔を見合わせる。反対する気はないが、この時期の海には問題がある。

 

「夏が終わると日本の海ではクラゲが出ると聞いたのだが?」

「日本では、ですね」

 

 ラウラの指摘に太郎はにやりと笑う。

 

「紳士仲間に聞いてたら海外に良いプライベートビーチを持っているそうで、貸してもらえることになりまして」

「良いですわね」

「それなら問題ないな」

 

 セシリアとラウラは素直に喜んだが、察しの良いシャルロットは太郎の言葉に潜むその先を見抜く。シャルロットは意味ありげな微笑みを浮かべる。

 

「プライベートビーチを貸してもらったってことは、結構自由に遊べるよねぇ」

「流石ですね、そこに気付くとは。貸し切りのプラベートビーチ、邪魔者は誰もいない、と来れば」

 

 ここまでヒントがあればラウラとセシリアにも、太郎の言わんとする事が分かる。

 

「派手にヤれるな」

「凡俗な方々には理解いただけない高尚な遊びが出来そうですわね」

「ええ、様々な遊びや道具を用意しますよ」

 

 意気上がる四人だったが、ラウラはすぐに落ち着きアゴに手を当て思案顔になる。

 

「しかし、そうなると教官は連れて行けないな」

「まあ、ダメですね。千冬さんはまだ私の趣向をご理解いただけていないので、ね」

「うーん、それじゃあアチラのピットの人達もまずいですね」

 

 と、シャルロットはもう一つのピットにいる一夏達に言及する。彼らはまだ紳士淑女としての階段を登り始めたばかりなので、連れて行くわけにはいかない。刺激が強すぎるし、彼らから情報漏洩して千冬の耳にでも入ったら大変だ。世界最強の鉄拳制裁は、世界一痛いのだ。

 

「代わりと言ってはなんですが、スペシャルゲストを呼ぶつもりなので期待していてください」

 

 太郎がスペシャルとまで言うとは、どんな大物だろうとシャルロット達は色めきだつ。IS学園は和やかな時を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 一方その頃、亡霊の名を冠する高級車が空港に向かって走っていた。その後部座席に一人の美女が座っている。足を組んだ彼女は苛立たし気に舌打ちをし、自慢の黒髪をかき上げる。乗っているのは静粛性に優れた高級車である、その舌打ちは確実に運転手にも聞こえたはずだが反応は一切無い。運転手はこの女性がこういった反応を見せる時、余計な発言をすべきでないと理解していた。だからこそ彼女の運転手を務められているとも言える。

 女性の名はアンジェリーナ・チャンドラー、元女優で現在は人権派文化人としてアメリカでは有名である。人権派と言っても人類皆平等などというお題目を掲げるような人物ではない。【優秀な】女性が正しく評価され、持つべき権限を正しく手にする世界にしよう、そんなスローガンが彼女の主張である。

 彼女のこの主張には一つ問題がある。普通に聞けば、優秀な女性が女性というだけで過小評価されているから再評価すべきだという主張である。しかし世界的にISの登場から女尊男卑が進んでいる中、女性であることを理由に過小評価されるのだろうか。つまり、そういうことである。彼女の本音は、女性は優秀なのでより権利を尊重されるべきだと主張しているのだ。そんな欺瞞に満ちた主張でも、女尊男卑に大きく傾いた現在では一定の支持を集めている。そして、その影響力から彼女は国際IS委員会にも籍を置いている。

 そんなアンジェリーナをイラつかせる原因は彼女の見ている携帯端末にあった。携帯端末の画面にはとある新聞のネット記事が映し出せれていた。

 

「男性IS操縦者、IS学園でその実力を発揮。模擬戦では負け知らず!!」

 

 記事には太郎の写真も載っている。自信に満ちた表情で腕組みをする太郎の姿は、女尊男卑に傾いたこのご時世には珍しいものだった。特に主要なメディアでこのような取り上げられ方をするのは、久方振りだろう。

 今の女尊男卑の風潮を快く思っていない人間がおり、そう言った人間が書いた記事なのだろうか。それとも書いた人間に主義主張は無く、一定数存在するであろうそういった人間向けに書かれた記事なのか。もしくは単に話題の人間に乗っかってやろうという思惑なのか。

 いずれにしてもアンジェリーナにとって見れば敵である。崇高な自分の活動とは逆を行く、野蛮で低俗なものだ。アンジェリーナは瞳に憎しみと男性IS操縦者排除に向けての決意を漲らせた。




読んでいただきありがとうございます。

今日は……風が騒がしいな

でも少し…この風…泣いています


泣きてえのはこっちだよ! 折角の日曜日なのに外出できねええ!!!
酒だ! 酒持ってこい!!!


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おいでませ南の島

  バリバリの女性至上主義者であるアンジェリーナは、男性IS操縦者太郎の活躍のニュースをネット記事で知り、抑えきれない怒りを覚えた。男性でありながらISに乗る太郎という存在はもちろんのことだが、それを持ち上げるような記事を書く者がいることにアンジェリーナは我慢出来ない。ISは今の女尊男卑の世を作るきっかけだった。その女性至上主義の象徴とも言うべきISを汚す者を許すことは出来ない。

 

「このヤマダタローとかいう男は、ただ潰すだけでは気が済まないわね。それにこの男を賛美する者も許しがたいいわ。でも元凶であるヤマダを排除しなくては、同じような輩は後から後から出てくるでしょうし……」

 

 アンジェリーナ・チャンドラー。偏狭でヒステリックな人間だが一角の女優として名を残し、人権派文化人に転身しても一部の層から熱狂的な支持を集められたのは、それなりに頭が回るからである。

 太郎を潰す一番手っ取り早い方法はIS委員会の権限を使うことだが、女尊男卑に染まった委員会とはいえ一枚岩ではない。二人目の男性IS操縦者として太郎が発見された時、アンジェリーナはIS学園ではなく実験施設へ送るべきだと主張したが、一部の派閥から猛反発を受けて断念した経緯がある。太郎に利用価値があると考える者も多く、妨害が入る可能性がある。

 

「いっそのこと、ヤマダタローとその支持者が潰し合ってくれれば最高なのだけれど」

 

 アンジェリーナは自分で言っていて起き得ないただの願望だと首を振ろうとして、ふと思う。自身の女優時代、ファンは必ずしも自分の味方ではなかったと。こちらの気持ちなど一切考慮せずハエのように集ってくる人間も多かった。中には公私ともに自身の邪魔になる者も存在したことを思い出した。

 ファン、支持者という者は上手く使えば力になるが、自身の思い通りに動く部下ではない。むしろ利害が衝突することも珍しくないのだ。

 ヤマダタロー、もしくは男性IS操縦者に強い興味を持つ者や利用しようとする者を上手く扇動してやれば、ゴミ同士で潰し合う展開を作れる可能性がある。

 

「こういった事を日本ではなんと言ったかしら……えー、そうそう一石二鳥ね。でも獲れるのは鳥じゃなくてゴミなのよね」

 

 フッと鼻で笑いアンジェリーナは具体的な策を練り始める。

 適当な校外イベントをでっち上げてマスコミにまとわり付かせるか? いやいや甘過ぎる。やられた方はストレスが溜まるだろうが、短期間では所詮嫌がらせの域を出ない。

 学園内の男に媚びる低俗な女生徒を煽って迫らせ、関係を持たせて不純異性交遊だと叩くか? 論外。その女生徒の所属する国、組織が男性IS操縦者を取り込む良い機会だと喜び勇んで介入してくる。

 男性IS操縦者をより深く研究し、あわよくば新たに男性IS操縦者を増やす方法を得たい連中をけしかける? リスクが高い。その研究の成功、それこそ考えうる限り最悪の展開である。いえ、研究をさせなければ良いのでは。

 男性IS操縦者を研究したがっている奴らはテロリストということにしてしまえば良い。極悪非道のテロリストが数少ない男性IS操縦者を攫い、倫理の欠如した人体実験を行おうとする。その討伐と被害者の救出作戦において、まことに残念なことながら被害者もその命を落としてしまうというのはどうだろうか。その際、出来るなら自分の手によってそれを為せれば最高である。

 アンジェリーナは歳の割には若く見える顔に醜悪な笑みを浮かべながら、今後の算段をつける。部下に太郎の動向を調べさせるとともに、テロリスト候補の連中とも接触する必要がある。もちろん足が付かないように直接交渉はしない。

 

 数週間後、アンジェリーナに朗報が入る。太郎が数人のクラスメイトと共に外出許可をIS学園に申請したのだ。太郎を誘拐させる為にIS学園から誘き出す計画を立てていたが、その必要が無くなった。同行するクラスメイト達が専用機持ちなのは厄介だが、短時間引き離すくらいなら簡単である。後は実行犯に最近開発されたばかりの秘密兵器を渡しておくだけでいい。名称をコネクトジャマーといい一時的に操縦者とISの繋がりを阻害するだけの物だが、相手が一人なら動きを止めるだけで充分だろう。

 今から自分の手の平の上で滑稽に踊る愚者達を想像して、アンジェリーナはほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突き抜けるような空、照り付ける太陽、透き通るようなコバルトブルーの海、汚れ一つないように見える白い砂浜、太郎達はこの世の楽園にやって来た。太郎の紳士仲間が所有するプライベートビーチという触れ込みだったが、島そのものがまるごと私有地である。ビーチ近くにはコテージがあり、そこに生活必需品は全て用意されている手筈だ。まさに至れり尽くせりである。

 太郎の紳士仲間がここまで便宜を図ってくれるのには訳がある。

 IS学園は人、物、情報、全ての出入りが管理されている一種の隔離エリアである。IS学園は世界中の紳士にとって手を出したくても出せない宝の島みたいなものなのだ。その影響で一般生徒の使用済みタオル一枚でも諭吉さん十人分は間違いなくいくという現実。需要の高い生徒の関連物なら、オークションで下手な宝石より高く売り買いされる。

 そんな希少なブツの供給者である太郎と是非懇意になりたいと思う紳士は星の数ほど存在する。この島を貸した富豪もそんな紳士の一人だ。

 

「良い所だね」

 

 島まで乗って来た船から桟橋に降りたシャルは、目の上に手をかざし強い日差しを遮り、周囲を見回している。

 セシリアとラウラも船から降りながら同意する。

 

「他の観光客がいないのはありがたいですわ」

「これなら多少暴れても問題無いな」

 

 パンパン。船のデッキに残っていた太郎は手を叩き、喜びに沸き立つ少女達の注目を集めた。

 

「さて実は今回……ビッグでスペシャルなゲストが来てくれています。ここで紹介しましょう」

 

 大仰な様子で太郎は右手を上げる。

 太郎がビッグでスペシャルというなんて余程の人間だと、少女達は期待と緊張に胸を高鳴らせる。

 太郎の隣に良く日に焼けた男が歩み出た。赤色を基調にしたアロハシャツ、麦わら帽子を被っている。人生の酸いも甘いも噛み分けてきたんだろうなあ、と思わせる目尻の深い皺。世界にたった二人しかいない男性IS操縦者を相手に全く緊張した様子の無い落ち着きよう。この男は何者なんだ。

 




注意
剥離剤(リムーバー)とコネクトジャマーは別物です。本編に書いてある通り性能は剥離剤より落ちます。阻害するだけですから。


麦わら帽子、赤いシャツ……ま、まさかお前は!?
正体について感想欄で触れられても、コメントで回答することはありません。ご容赦ください。

今回も読んでいただきありがとうございます。次の更新は今月中にする予定です。


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130話

 謎めいた麦わら帽子の男を前に、少女達は様々な想像をめぐらす。

 

「もしかして大企業の社長とか?」

「いや、どこぞの軍関係者だろう。あの落ち着きようを見ろ」

「甘いですわ。あの自然体は、遊び慣れたセレブに違いありませんわ」

 

 それぞれの予想はシャルが社長、ラウラが軍人、そしてセシリアがセレブという範囲が広く曖昧なものを挙げた。ゲストに対する少女達の関心が高まっている。

 仕掛け人である太郎は、この反応に満足して──────いなかった。それどころか太郎にしては珍しく困惑していた。今回太郎が用意したゲストを、少女達も知っているはずだからだ。少女達はどうして初めて見るかのような反応をするのだろうか。不思議に思った太郎が隣にいるゲストを見る。太郎の視線の先には、麦わら帽子を被った男が立っていた。

 

「……ん、貴方誰ですか?」

「「えっ!?」」

 

 太郎の言葉に少女たちはびっくりする。太郎が呼んだゲストですらないなら、本当にその正体は謎である。

 だが戸惑っているのは太郎と少女達だけではなかった。彼らの注目を集めている麦わらの男もまた、その注目に困惑している様子だった。

 

「あ、あの……もう帰って良いですか? 必要な物は全てコテージに揃えてありますから。あと何か入用が出来たらコテージ内にある衛星電話で呼んでもらえれば、自分達は本島(ほんとう)におりますので」

 

 この島は群島の一つで、近くには淡路島と同じくらいのサイズの島があり、そこが点在する島々の中心拠点・本島になっている。そこには小さいながらも空港もあり、太郎達もそこから船に乗ってやってきた。太郎達が飛行機で本島に到着した際、空港では数人の案内人兼このプライベートビーチとコテージの管理人達の出迎えを受けた。

 男の言葉の内容から太郎は、そういえば案内人の一人がこんな容姿だったなと思い出す。

 

「ええ、もう本島へ戻って良いですよ。ここまでありがとうございました」

「いえいえ、それでは」

 

 案内人はぺこりと頭を下げ船の操縦席へ向かった。

 少女達の困惑は深まった。結局今のやりとりは太郎特有のギャグだったのだろうか? スペシャルなゲストと言いつつただの案内人でしたー、というギャグなのか? いくら仲良くしているとはいえ、太郎の感性は少々特殊なので判断に迷うところだ。

 そこでセシリアが意を決して聞いてみた。

 

「ゲストというのは冗談でしたの?」

「違いますよ。タイミングを見計らって出てくるようにお願いしたんですけど、おかしいですね」

 

 ちゃんとゲストは呼んでいる、太郎はそう言って首をかしげる。謎はますます深まる。

 そんな微妙な雰囲気の中、不敵な笑い声が響き渡る

 

「ふっふっふ、一流は期待されたタイミングで結果を出す。でも超一流は凡人の理解が及ばない存在なのだ」

 

 聞き覚えのある女性の声と共に、海から巨大なニンジンが飛び出す。ニンジンは太郎達が見上げるほど高く上昇し、そこから急降下して地面に突き刺さった。そして巨大ニンジンの側面がパッカリ開き、恐らく世界で一番ビッグでスペシャルなゲストと言っても過言では無い女性が現れた。篠ノ之束である。

 

「やあやあ凡人諸君、歴史上最高の天才である束さんと時間を共有出来る喜びに打ち震えると良いよ」

 

 束の言い様は尊大だが、言っている内容は誇張ではない。個人で世界に与えた影響の大きさでは歴史上でも類を見ない。それどころか一般人に比べてISにより深く関わっている少女達からすれば、インパクトはより大きいものになる。

 太郎と少女達は臨海学校で束と会っている。しかし、その際少女達の事は束のアウトオブ眼中であった。まともに挨拶すらしていない。それなのに今回は一緒にバカンスを過ごす、あまりの衝撃に少女達が呆然となるのも仕方が無い。だが驚きの展開はまだ続く。

 束の後ろから千冬が現れた。

 

(げえっ関〇)ジャーンジャーンジャーン

 

 太郎と少女達の心情を表すならそんなところだろう。南の島でハメを外してインモラルな火遊びをするつもりだったのに、その為にあえて誘わなかったのに、何故千冬がここにいるのか。

 太郎は慌てて束の腕を掴んで引き寄せ、顔を近づけ小声で問いただす。

 

(千冬さんはマズイです。絶対私達の邪魔をしてきますよ)

(だってー、ちーちゃんのいない南の島なんてなんの意味もないよ)

(しかしですね、確実にこちらの行動は制限されますよ)

 

 太郎の懸念を聞いた束は、天を仰ぐような仕草を見せる。

 

(はあ~、凡人の割には少しは見所があると思ってたんだけどなあ。ちょっと見ない間に丸くなっちゃった?)

(そういう問題ではないでしょう?)

(この束さんとタロちゃん、それに代表候補性が数人いるんだよ。負ける訳ないでしょ)

(力尽くで、ということですか。貴方と千冬さんは友達だと聞いていたんですがレイ〇とは)

(違うよ。束さんはちょっと激しめのスキンシップがしたいだけなんだよ)

 

 束は純真無垢な幼子のような目で欲望まみれの主張をする。

 

(ほら、ちーちゃんは武人気質だから拳で語り合う的な感じで、くんずほぐれつでさあ)

(くんずほぐれつって、おっさんですか貴方は)

(問題ある?)

(スキンシップなら仕方が無いですね)

(そうそう仕方が無い)

 

 ついに世界最強と呼ばれた千冬の前に最恐の刺客が立ち塞がる。それは自身の友と教え子だった。裏切りの拳が千冬を襲う。天災と変態、混ぜるな危険の組み合わせ。俺達の千冬に未来はあるのか。

 次回【鉄拳制裁】

 良い子のみんな、次回もよろしくね~。

 




おまけ

太郎「相手は千冬さんですよ、無理ですって」
束 「タロ、お前ほどの男がなぜ諦める必要がある」
束 「お前もあのちーちゃんの女子力の無さは知っていよう」
束 「今の時代をあいつ一人では生き抜いていくことは出来ん!」
束 「となればちーちゃんは必ず行き遅れる!」
束 「それでもいいのか!!お前ほどの男がなにを迷うことがある」
束 「既成事実を作れ」
束 「今は悪魔が微笑む時代なんだ!!!」

読んでいただきありがとうございます。


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鉄拳制裁

 島に到着早々、束と千冬という豪華メンバーの合流で沸き立った面々は、とりあえずコテージで水着に着替えて海で遊ぶことにした。美しい砂浜に集まりし色とりどりの美人、美少女達が戯れる。この世の楽園かと見紛うばかりの光景だったが、実はその裏では欲望にまみれた陰謀が蠢いていた。

 

(ちーちゃん、これは裏切りじゃなく友を新たな境地へ導く為に必要なことなんだよ)

(砂浜は打撃型の千冬さんにとっては不利、ここならば勝機があるはずです)

 

 束と太郎は秘かに闘志を燃やす。代表候補性の少女達には計画を伝えていない。あらかじめ伝えていなくても太郎が言えば従うだろうという信頼、それと計画を知る者が多くなれば千冬にバレる可能性が高くなるという計算である。全員が全員腹芸が得意なわけではない。隠し事が苦手な者が一人ミスするだけで計画は水泡に帰す。

 世界最強を倒すには人数の有利だけでなく、不意打ちとフィールドのアドバンテージが必須なのだ。

 着替えは男の太郎が一番早く済んだので砂浜へも最初に着いた。そして太郎は入念な準備運動を続けている。太郎は男向けの紐パンを着用しており体を動かすたびバナナ型の膨らみが強調される。

 

「やあやあ準備は万端かなぁ」

「私はいつでもイケますよ」

 

 束に声を掛けられ太郎はサムズアップで答える。

 束の恰好は子供っぽい装飾の付いたワンピース型の水着だった。わがままボディで頭の中身もぶっ飛んだ束ならエグい水着を選びそうなところだが、恐らく今回の参加者中一番大人しいデザインである。

 太郎のコンディションを確認した束は、チラりと千冬へ視線を移す。太郎もつられるようにそちらを窺う。

 千冬は腕を組みながら代表候補生達の様子を見守っていて、二匹の獣の視線には気づいていないように見える。千冬の水着はアクアフィットネス用の露出が少ないセパレーツで下はスパッツとショートパンツになっている。上半身側がダークグレーでショートパンツはブラック一色の飾り気のないデザインである。色気を一切気にしない機能性のみを追求したチョイスだが、それでも洗練された千冬の体の魅力を損なうことはない。

 束の野獣のような眼光が千冬に狙いを定める。

 

「どこで仕掛けようか」

「みんなで遊んでいれば必ず隙が出来るはずです。そこを狙いましょう」

 

 千冬の規格外な強さを知っているだけに、太郎達は卑怯な作戦も平気で実行する。それにハナから二人に卑怯な手段を忌避するような倫理観など無い。

 まず太郎が全員を呼び寄せ、みんなで一緒に遊べるような物を用意しているのでそれをやろうと提案した。

 

「束さんに頼んで色々なアクティビティを用意してもらっているんです」

「まあ、この天才にかかれば俗物達のおもちゃを作るくらい簡単なんだよ」

「「おおぉ」」

 

 子供っぽい束の自慢にも千冬以外全員が拍手で応えた。実際世界最高の頭脳でありISの生みの親である束が作ったと聞けば誰もが心惹かれるのも当然だ。

 

「それじゃあ最初は海の定番からだね」

 

 束が手を海の方へ手を掲げれば、何も無い空間から大きなバナナボートが現れる。ISの量子変換システムの応用である。

 

「どう? 束さんのバナナァ、大きくて立派でしょお~」

「気持ち悪い言い方をするな」

 

 千冬が束の頭をはたいても、束は気にした様子もなくニヤニヤしている。

 

「なんとこのバナナボート、ボートで引っ張る必要が無いのです!」

 

 デデンと胸を張る束。しかし量子変換出来るくらいなのだからバナナボート自体に動力が備わっていてもなんの驚きも無い。むしろブルー・ティアーズやヴェスパのビットを大きくしただけのような物なら、ボートで引っ張らなくても動いて当然である。

 

「じゃあ早速乗ってみよっ。ちーちゃんの後ろは私だかんねっ!」

「それは絶対ゆるさん」

「では私が」

「殺す」

 

 千冬は自分の後ろに乗りたがる束と太郎へ殺気を向け牽制する。この二人に背後を取られるなど自殺行為以外の何物でもない。

 束達は諦めが悪く「それならクジで決めよう」と提案したが、この二人の場合クジに何か仕掛けがあってもおかしくない。むしろ仕掛けが無い可能性の方が低いと千冬には思われていた。千冬があまりしつこいようなら自分は乗らないと言いだして、やっと二人は諦めた。

 結局バナナボートにはラウラを先頭に太郎、シャル、セシリア、束、千冬の順番で乗ることになった。ラウラが先頭になったのは本人の希望によるものだ。部隊の先頭と殿(しんがり)は信頼出来る者がやらなければならない、つまり自分だと。他に希望者もいなかった為ラウラの意見がそのまま通り、後はジャンケンで決まった。

 

「ちーちゃん、遠慮せず束さんのワガママボディに掴まっていいんだよ」

「いらん、前を向け前を」

「えー掴まっておいた方がいいと思うんだけどなあ」

 

 千冬は束を軽くあしらっていたが、束の意味深な言葉に眉をひそめ警戒心を強める。

 

「それじゃあ、イッくよー。束さん特製マーラ君一号はっしんん!!!」

「おい待て今なんて言っ」

 

 バナナボート改めマーラ君一号が急発進する。激しく水飛沫を飛ばしながら海上を縦横無尽に走る。小さな波をジャンプ台に大きく跳ねれば搭乗者達の歓声が上がった。ISの最高速度に比べれば競走馬とロバより差があるのだが、バリアーで守られているISと違い直接風と水飛沫に晒されるので迫力がある。

 スリル満点の疾走。だが天災とまで呼ばれる者の作った物にしては普通である。普通に楽しめている。だからこそ千冬は警戒心を高める。だって名前もおかしいし。そして、その予測は正しい。

 

「みんな楽しんでいるかーい」

「「おおおおう!!!」」

 

 千冬以外全員の歓声を聞いて束は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ちーちゃんはまだ足りないみたいだねえ」

「いや楽しんでいるぞ。だから余計な事はするな」

「マーラ君一号には秘められた機能が存在するから、絶対ちーちゃんも満足するはずだよ」

「相変わらず人の話を聞かん奴だ」

「さあ真なる姿を見せてマーラ君」

 

 千冬が束の後頭部をどつこうとしている間に、束が先に仕掛ける。

 束の掛け声と同時にバナナの外観が剥がれ落ち、ご立派様へと姿を変える。血管が浮き出た怒〇が現れた。

 【注意・巨大な男根型のご神体を祭る神社は日本各地にあり、神輿として担いでねり歩いたり、跨ったりするなどの儀式が確認されている。男性器を一種のシンボルとして扱う諸々の行為は決して低俗なものではなく、子宝や豊作を祈願するお目出度いものである】

 

「おまッこれ!?」

「ち、ちーちゃん首絞めないで」

 

 超絶リアルなマーラ君に驚いた千冬は、前に座っている束の首を掴んで激しく揺すった。

 

「なんて物を作っているんだ、お前は」

「バナナは剥けるものって常識だよ♪」

「貴様が常識を語るな。こいつを止めろ!」

「わーわー駄目だって暴れちゃっ、仕方が無いポチっとな」

 

 強い拒否反応を見せる千冬に、束は仕方なく何処からか取り出したスイッチを押す。

 ヴヴヴヴウヴヴヴッヴッヴウヴウヴ。

 マーラ君渾身の振動が搭乗者を襲う。

 

「おっおっおっ落ち着け」

「あああっえtwたww」

「なにッ? なにこれ!!!」

「ほぼイキかけました」

 

 矢継ぎ早に繰り出されるサプライズに喜びの声が上がる。

 みんなの跨っているマーラ君が強烈な振動を始める。これが何をもたらすのか。各々のデリケートゾーンを振動が責め立てることとなるのだ。だが、しかし強靭な精神力で耐えられる者がいた。

 千冬は足の踏ん張りがきかない状態でありながら、腰のひねりと腕力だけで鋭い突きを束の背中にブチ込んだ。

 

「調子にッ乗り過ぎだッッッ!!!」

「げっべえええ」

 

 束は無防備な背中に千冬の攻撃を喰らいマーラ君から落ちて行った。これで一件落着──────とはならなかった。マーラ君をコントロール出来る唯一の人間である束がいなくなった為、束以外の全員を乗せたマーラ君は南の海を三十分間振動しながら彷徨い続けることになった。

 マーラ君は時速五十キロメートルを超える速度で出していて常人ではダイナミック途中下車イコール怪我である。常人ではない千冬は普通に手を放して降りた。結局マーラ君がエネルギー切れで止まるまで三十分ラウラ達少女と太郎は激しい振動にさらされ続けた。ちなみに太郎とラウラは疾走し続けるマーラ君から飛び降りても大丈夫なくらい頑丈だが太郎は気持ち良いから、ラウラは責任感から降りなかった。

 砂浜に戻って来た太郎達は足腰が立たなくなっていた。元気な状態の千冬は束に拳の雨あられを放ち、束は数秒間宙を舞うことになった。本来であれば束と同盟状態の太郎は束を援護すべき所なのだが、残念ながら勃つだけでやっとの状態で戦力にはならなかった。




読んでいただきありがとうございます。

ご立派様は信仰の対象だからいやらしくないのは確定的明らか。


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132話

 マーラ君について制裁を下された束とマーラ君の振動でグロッキー状態に陥った太郎達の回復には数十分の時間を要した。

 皆は砂浜にパラソルを立て、コテージから持ってきた冷たい飲み物を片手に一息つく。まったりとした時間、誰もが気を抜いているからこそ狡猾な肉食獣は、その心の隙を狙って牙を剥く。

 束はそろりそろりと千冬に近づく。先程拳の連撃によって宙を舞ったのに、この女まったく懲りていない。だが勝算が無いわけではない。

 

「私に気配を消して近づくな」

 

 勝算があるから束は接近がバレて千冬に睨まれても怯まなかった。束は千冬の背後を指差し「あっ」と声を上げる。

 あまりに幼稚な作戦なので千冬は引っかかるはずもなく束に拳を叩き込む為砂を蹴り上げ距離を詰めようとした。が、その時千冬は背後に何かが高速で近づく気配を感じ咄嗟に裏拳を繰り出す。

 

 ビチャッ!

 

 岩をも砕く千冬の裏拳は気配の元を見事に捉えた。しかし千冬はその感触に眉をひそめる。強い粘り気を拳に感じ、不快感を覚えてその原因を目で確かめて驚愕した。ゼリーとヨーグルトの間のような白濁物質が拳と体に付着していたのだ。動揺する千冬へさらに白濁物質が飛来し続ける。それはマーラ君の先端から放たれていた。まるで〇ーメン、いいえケフィ●です。千冬はザーメ◎っぽい物を拳で撃ち落とす事を嫌い、全て回避することにした。ケフィ●です

 本気で〇ーメンに当たりたくなさそうな千冬とは違い、束は〇ーメンの弾幕を気にせず千冬へ接近する。

 

「勝負ありだね!」

「こんな物、ハンデにもならん」

「あっ」

 

 またも束は千冬の背後を指差す。

 

「同じ手が何度も」

「同じじゃあ無いんですよ」

「なっ!?」

 

 今度は〇ーメンではなく〇ーメン臭い太郎が迫っていた。

 太郎に対応しようと振り返れば束に襲われ、束に対応しようとすれば背後から太郎の攻撃を受ける。天災と紳士の友情クロスボンバー、束の頭脳がこの互いの立ち位置ならば成功率は限りなく百パーセントに近いと計算する。

 最強の女ここに敗れる。トゥルールート完。束の腐った脳が幸せな未来を幻視する。

 

「さあ、幸せなキスをしてハッピーエンドを──────────」

 

 束の視界が突然反転する。世界が回る、違う、回っているのは束だった。

 千冬は束の力を受け流し方向を変えることで投げたのだ。

 だがまだ太郎がいる。太郎が千冬を背後から抱きしめ、ることは叶わない。太郎の両腕が捕らえたはずの千冬はまるで蜃気楼のように消えていた。そして逆に太郎の背後に回っており、太郎の太郎にサッカーボールキックをお見舞いした。南無三。見えない攻撃は身を固めたり衝撃を受け流す行動が間に合わない為非常に効く。鍛え抜かれた紳士といえど世界最強のサッカーボールキックを意識の外から喰らえばご褒美などと喜べない。

 太郎は立ったまま白目を剥き、束は頭から砂浜に墜落する。

 

 おかしい。束の脳裏をその言葉が埋めつくす。おかしいのだ。千冬の事を誰よりも理解している自分が彼女の戦力を見誤るとは。状況的に間違いなく千冬は詰んでいたはずなのに、何故こうも容易く切り抜けられたのか。

 状況を把握しきれず呆然とする束に向かって千冬は不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうした。世界最高の頭脳が私の力を計り損ねたか?」

「こ、こんなはずは……現役から離れて鈍っていたはずなのに」

「フッ確かに私はIS学園で教師となり、真剣勝負の場から遠ざかっていた。今から思えば燻っていたのかもしれん。だがな」

 

 千冬が虚空に向けて拳を振るう、蹴りを放つ、貫手を突き出す、舞うように優雅で同時に無駄のない足運び。全てが洗練されていた。如何なるものをも切り捨てる為、研ぎ澄まされた刀のごとく千冬の備えは万全であった。

 

「貴様らは臨海学校の時、急に仲良くなっただろう?」

「分かったッ! ちーちゃんは束さんが取られちゃうと思って嫉妬の力で」

「違う。私は思ったのだ。こいつらは必ずろくでもない事を仕出かす。そしてその時に今の自分では止められないかもしれないと。だから私は秘かに、それでいて人生において最も危機感を持って自身を鍛え直した」

 

 千冬が下段突きを砂浜に打ち込むと、爆発音と勘違いしそうな音と共に大量の砂が飛び散る。もう人間を止めている。

 

「私の人生の中で今の私が一番強い。もう下らんことは諦めるんだな」

 

 完全に望みを絶たれた束だったが、その顔に悲壮感は無く、むしろ精気を漲らせていた。それに千冬が気付いていなかったのは、どちらにとっての幸いだったのだろう。

 

 

 

 

 

 同じ頃、女尊男卑の風潮を快く思わず、男性の復権を目指す団体の一つにある情報が入る。この団体は時に強引な手段も辞さないことで有名であった。それが原因で表向きの代表が逮捕されることもしばしばあり、何度も代表と団体名は変わって来たが、完全に潰れることもなく現在まで存続している。その大きな要因は表と裏関係なく支援する者がいなくならないことが挙げられる。それは現在の女尊男卑社会への反発の大きさを表している。

 今回この団体に入った情報とは、世界にたった二人しかいない男性IS操縦者が警備の厳しいIS学園から外出するというものだった。この情報はかねてから賄賂で取り込んでいた国際IS委員会関係者からもたらされたものである。しかし彼らは最後まで気付くことはなかった。この情報が意図的に流されたものだということを。

 彼らは男性IS操縦者がIS学園に管理(、、)されている現状に憤りを抱いていた。これまで女性にしか起動出来なかったISだが、二人の男性IS操縦者を研究することにより他の男性でも起動が可能になる。だが男性の復権を阻止したい者達が女性至上主義者の巣窟であるIS学園に閉じ込め、研究情報を独占もしくは隠滅しようとしている。この団体に所属している人間はそう固く信じていた。

 




読んでいただきありがとうございます。



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133話

 コテージの一室、太郎用と決まった部屋に太郎と束はいた。千冬に敗北した二人は今後の方針について話し合っていた。二人は海で遊んだうえ、千冬にぶっ飛ばれて砂まみれにもなっていたのでシャワーを浴びてからここに集まっていた。

 シャワーを浴び終えたばかりで、どこか瑞々しさが増した肌。肩にかけたタオルからチラリと見える鎖骨。存在感を示す胸部。色素の沈殿など無縁の乳首。バックり割れた腹筋。股間にそびえる黒鉄の塔。太郎は全裸状態で両腕を組んで、厳しい表情を浮かべる。

 

「まさか千冬さんにまだ強くなる余地があるとは思いませんでした」

「まあ~ねえ。人間の上限に達している感があったんだけど、まだ上があるなんてねえ」

 

 ネガティブな言葉と裏腹に、束の顔はニマニマと緩む。束は太郎と違い、いつも通りのメルヘンチックな服を着ていた。暑苦しそうに見えるが、束驚異の科学力によって作られた服は暑さをものともしない。

 

「圧倒的な強さを見せつけられた割には嬉しそうですね」

「ふっふっふ、タロちゃん分かってないねえ。獲物が想定より大物だって分かってガッカリする人間なんていないよ」

「まあ山は高ければ高いほど登りがいがありますからね」

「それに手が無い訳じゃあないんだよ」

 

 自信をにじませる束に太郎は「ほう」と相槌を打ち続きを促した。

 

「先人に倣えば良いんだよ。古今東西の英雄達は普通にやっても勝てない相手を工夫によって下しているんだからさあ」

「確かに……日本武尊は熊襲(くまそ)討伐の際に女装して酒宴に紛れ込んだらしいですね」

「うんうん、つまり酒で」

「私が女装して油断を誘えと?」

 

 太郎は難しい顔でアゴを撫でながら難色を示す。最初から無理だと決めつけず真剣に検討するが、いくら考えても無理筋である。太郎は体格一つとっても女装には向かない。いや、しかし天災篠ノ之束なら、彼女ならばなんとか出来るかもしれない。

 

「私は女装に向いていないと思いますが、束さんならなんとか出来ますか?」

「ヴォエッ」

 

 束は太郎を何とかする光景を思い浮かべて激しい吐き気を感じた。日本の成人男性の平均を上回る体格、実戦で鍛え抜かれた筋肉、それらを包み込む豪華なドレス。それは心理的暴力と言って間違いない汚物だった。誰得である。

 

「違うッ、女装なんていらないよッ! 酒だよ酒ッ!!!」

「そこだけ聞くとアル中ですね」

「あああッもおー、君に女装なんて頼むわけないだろッ!」

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

「なんで前向きなんだよコイツ……」

 

 ジトっとした目つきで束は太郎を見た。

 

「人の気持ちになって考えなさいと言われた事がありませんか?」

「それが何の関係があるんだよ」

「時には女性の気持ちになって考える事で、女性相手のコミュニケーション能力が高まるんじゃないかと思いましてね」

「変質者の言葉とは思えないね」

 

 呆れたように束は溜息を吐く。相手の気持ちになって考えるというなら、下着泥棒や露出を相手がどう感じるのか考えたらどうだろうか。少しくらい罪悪感を持ってはどうか。

 

「もしかしたら、万が一、まあ無いとは思いますが、私の紳士的行為で不快な思いをする人もいるかもしれませんが、仮にそうだとしても譲れないものが私にもあるので仕方が無いです」

「いや、むしろ不快にならない女の方が少ないと思うけど」

 

 束は頭を振って深く考えるだけ無駄と諦めた。

 

「とにかく酒なら、ちーちゃん好きだからガンガン飲ませるのも簡単だから」

「そう言えば千冬さんの部屋にはビールの空き缶がたくさんありましたね」

「その話詳しく、なんでタロちゃんがちーちゃんの部屋に入ってるのッ! ズルイッ!!」

「千冬さんの部屋の片付けを手伝いましてね。見た事の無いキノコが生えてましたよ」

 

 ハハっと遠い目をして笑う太郎に流石の束も「やっぱりあんまり羨ましくないや」と考えを変えた。束もかなりズボラな性格だが、お得意の技術力で自分が細かい事をしなくても最低限度の環境を維持出来るようなシステムを作っているので、少なくとも部屋にキノコが生えた事は無い。

 世界最強の女は太郎や束の様な社会のゴミの片付けは軽々と行うが、自分の部屋のゴミの片付けは苦手なのである。空き缶一つまともに分別出来ない女なのだ。

 缶ビールを飲む。飲み切って空き缶となった缶を机に置く。後で片付ければ良いかと思う。その【後で】は一生来ないという一連の流れが、千冬の部屋がゴミ屋敷へと変わっていくシステムである。

 

「まあ、それは置いておいて。ビールが好きなら良い物があるよ」

 

 束が手を宙にかざすとパソコン画面のような映像が空中に現れた。そこには無数のビール瓶が映し出されていた。

 

「ビールにもアルコール度数が高い物があるんだよ」

 

 ゲスい顔で束が笑う。

 日本のビールはアルコール度数が数パーセントの物が主流であるが世界は広い。探せば高い物で50パーセントを超える物もある。そんな物を普通のビールのように飲めば前後不覚に陥るのは自明の理。

 良い笑顔を浮かべる束に太郎も笑顔で応える。

 

「ではビールは私が買って来ましょう。なに、本島の方は観光地ですから酒の類は揃っているでしょう」

 

 このコテージにもビールの備蓄はあるが、件のビールまでは無い。ここの本島はそこそこの観光地で、普段から様々な国の観光客が訪れている。それらに対応して飲食物も地元の物だけでなく様々な国の多種多様な物が揃っている。

 太郎としては管理人の男に連絡して届けてもらっても良いが、折角なので観光地もついでに見て来ようかと軽い気持ちの提案だった。常に下半身で物を考えている太郎にもそのくらいの一般的な好奇心はある。




千冬、太郎&束をボコーッ

千冬「なんで殴られたか明日までに考えといてください」
千冬「ほな、いただきます」ビール一気
束 (計画通り)ニヤッ
太郎(今日の勝負はまだ終わってませんよ)



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134話

「では(くだん)のビールを買いに行ってきます」

「あっ、ちょい待ち」

 

 千冬を酔い潰す為に酒を買いに行くことにした太郎だったが、束が待ったをかけた。

 

「自然に行こうとしているけど、その恰好じゃあマズいと思うよ~」

 

 そう束に指摘され太郎は視線を自身の体へと下げる。

 まっぱである。裸、全裸、生まれたままの姿、呼び方は様々だが一般的に買い物へ赴く恰好ではない。仕方がない。太郎は身なりを整える。太郎は南国にあったファッションを意識してコテカを装着してコテージから出て行こうとした。

 その時、セシリアとシャルに声を掛けられる。

 

「あら、お出かけですか」

「僕も付いて行って良い?」

「良いですよ。少々変わったビールが飲みたくなりましてね」

 

 本当は自分で飲む為ではないのだが、太郎はさらっと嘘を吐いた。

 セシリアとシャルは太郎の言葉と服装に何の疑問も持たなかった。二人は買い物に行くと知り、自分達もお土産を買っておこうと決めた。太郎のコテカについては特に言及しなかった。感覚が麻痺してきているのだろう。それはさておき二人は迎えの船を呼んで本島へ行くと思い、桟橋に向かおうとしたが太郎に止められる。

 

「そちらではないです」

「でも船が」

「もっと良い物があるでしょう」

 

 太郎はにやりと笑い砂浜の方を指差した。そこには、そんじょそこらのボートより速くてエキサイティングな乗り物があるではないか。砂浜に心なしかぐったりとしたデカマ〇、もといマーラ君が放置されていた。

 

「「エ゛ッ」」

 

 セシリアとシャルに電流走る……!

 二人は思う、まさかこれにまた乗るのかと。ハッキリ言って乗りたくない二人だったが、太郎はそれに気付かないようで既にマーラ君に近づき撫でている。

 シャルは一縷の望みをかけて太郎に聞く。

 

「あの、それって確かエネルギーを使い切ったんじゃないですか?」

「ハハッ問題ありません。ISと互換性があるみたいなので接続してやれば良いんですよ」

 

 太郎は爽やかな笑顔で絶望を二人にもたらした。ちなみに同じ頃ラウラは訓練と称して千冬と泳いでいた。確かに千冬に付いていけば訓練にはなるだろう。

 後日、このリゾート周辺は新種のUMAの噂で持ち切りになる。とんでもなく大きなペ〇スが海を高速移動していたという突拍子もない話に、最初の目撃者はヤク中扱いされた。しかしその後他にも多数の目撃証言が上がったことで状況は変わった。

 特に近くで目撃した者は少女の笑うような、それでいて泣いているかのような声が鳴り響いていたと証言し、海で亡くなった若い女性の霊を引き連れた魔王マーラの化身ではないかと震え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太郎達がIS学園から一時的に離れることを知った男性の復権を目指す過激派組織は、太郎達を追ってリゾート地まで来ていた。その内訳は武装した三小隊と情報収集や輸送などを担当する人員十五名。その小隊長三人と今作戦のリーダーの計四人が、太郎のこれから向かう本島のホテルの一室にて打ち合わせをしていた。

 

「目標はここから少し離れた個人所有の島にいるらしい」

「強襲するか?」

「冗談だろ、相手は専用機持ち複数人だぞ」

「その為の新兵器だろ」

 

 小隊長の一人が机の上のトランクへ視線を送る。その中にはコネクトジャマーという新開発のISと操縦者の繋がりを阻害する兵器が入っている。とある研究機関からの横流し品である。

 残りの小隊長二人も反対する様子は無い。しかしリーダーは難色を示す。

 

「コネクトジャマーはあくまで不意打ち用だ。戦闘状態に入ったIS数機には有効とは言えん。もし分散されて距離を取られたら、一方的にこちらは蹂躙されることになるぞ」

 

 威勢の良い小隊長もこの指摘には反論出来ない。コネクトジャマーは画期的な新兵器ではあるが、まだ万能からは程遠い性能である。起動すればこの装置を中心にISとIS操縦者の接続を阻害するが、離れれば離れるほど効果は薄くなる。しかも確実に行動不能にするには十メートル以内まで接近する必要があるという厳しい条件付きだ。一機でも範囲内から逃せば全滅は不可避である。

 太郎が一人になる、もしくは一人にしやすい状況となればやりようもあるのだが。打ち合わせの参加者達が頭を悩ませていると、思わぬ幸運が彼らに舞い込む。

 リーダーの通信端末が着信を告げるアラームを鳴らす。通信端末の画面は部下の一人からの着信を示していた。緊急の報告かもしれないので情報収集担当リーダーは小隊長達に一言断りを入れてから、すぐに通話を始めた。するとリーダーの顔に喜色が表れる。

 

「ツイてるぞ。目標がこちらに来ている」

 

 リーダーの言葉に部屋の重苦しい空気は一変した。降ってわいたようなチャンスに小隊長達は口々に実力行使を訴える。それに対しリーダーは手の平を拡げ、落ち着くように言った。

 

「待て、目標には代表候補生が二人付いて来ているらしい」

「引き離すか?」

「いや、まとめてコネクトジャマーの範囲内に捉えて一気に拘束してしまうべきだ」

「そうだな。目標だけを捕らえてもISの索敵能力と機動力で追跡されればお終いだ」

 

 急速に話はまとまりつつある。もしこの場を組織とは関係の無い人間が見ていれば、焦り過ぎではないかという印象を受けるかもしれない。しかし彼らの状況がそうさせるのだ。裏からの資金や情報の提供こそ豊富だが、社会への影響力や物理的な戦力面では心許ない。そのうえ女尊男卑の風潮はさらに進み続けている。彼らの立場もどんどん厳しいものになっている。このまま何もしなければ事態が悪化する事はあっても、好転する可能性は限りなく低い。この機を逃せば次は無い、それほどに彼らは危機感を持っていた。

 実力行使が決定したところで小隊長の一人が全員が内心気にしていたが口にしていなかった話題を切り出す。

 

「目標は……こちらに協力するでしょうか?」

 

 他の小隊長達は難しい顔をし、リーダーは少し考えた後疑問とは違うことに言及した。

 

「そもそもこのヤマダという男のパーソナルデータが余りにも少ない。これでは何の判断もつかん」

 

 日本政府は貴重な男性IS操縦者という強力なカードを活用する為、太郎が性犯罪者であった過去を消している。そ少しでも関連する情報も全て抹消、もしくは改ざんしている。そのうえ現在は生活の大半を機密性の高いIS学園で過ごしているので、いくら調べても太郎の個人情報は異常なほど出てこない。

 小隊長の一人が被っていた帽子を脱いで手の中で弄る。額がかなり広い。

 

「意外と周りは女ばかりでハーレムみたいになってんじゃないっすかね」

「バカ言え、IS学園は女尊男卑思想の中心だぞ」

「自分が中世の王族か貴族で、男は従者か奴隷だと勘違いしてる高慢なメスガキの巣だからな」

 

 残り二人の小隊長が口々に反論する。このイメージは過激な男尊女卑派だけでなく、一般的な男性が持っているものである。

 

「どういう扱いを受けているかは重要だな。目標にとっては不幸だが酷い扱いを受けている方が、こちらに協力的な可能性が高く都合が良い」

 

 リーダーが小隊長達の会話を一旦止める。

 

「一緒にいるという二人の代表候補生との様子が判断材料になる。三人の関係性が分かる様な画像か、動画を撮って送信させるか」

 

 リーダーは太郎が来ていると報告してきた部下に指示を出す。

 程なくデータが指示に使った通信端末とは別のタブレットに送られてきた。リーダーはタブレットを小隊長達にも見えるよう持ち、データを開く。

 送られてきたデータは動画で、隠し撮りしたような構図だった。まず映ったのは代表候補生と思われる二人の少女がカットフルーツの入ったジュースを片手に笑顔で談笑している姿だった。まさにバカンスを楽しんでいるといった感じだ。相手に気付かれないように画面がゆっくり横へ移動していく。そしてそこに映し出された太郎の姿に全員が息をのむ。

 身に着けているのは股間を隠す角のような装具だけ、両手には重そうな荷物、体の所々には打撲などの怪我が散見される。

 

「な、なん、という」

「オー……ジーザス」

「女性至上主義者共は悪魔か!?」

 

 小隊長達は驚きと怒りに震える。

 ハゲ小隊長は手に持っていた帽子をグシャグシャにして床に叩きつけた。

 

「雌豚が舐めやがって」

 

 男達は必ずこの狂った世界を変えて見せる、と心に誓い武器を手に取る。




>体の所々には打撲などの怪我が散見される

千冬に襲い掛かったボコボコにされたからね。仕方ないね。




読んでいただきありがとうございます。5月、6月は地獄でした。忙しくて両目と瞼が数日間痙攣しっぱなしになるし最悪でした。7月はいっぱいお話を書けるといいなとおもいましたまる


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作戦開始

 当初、男性の復権を目指す過激派集団は太郎を誘拐するくらいの気概を持って南の島にやってきていた。しかし良心の欠片すら感じない太郎の扱いを目にし、作戦は自然と救出作戦へ変化していった。

 具体的な手順は先ず代表候補生の少女達と太郎を引き離し、少女達はコネクトジャマーで無力化、太郎の方は保護した後速やかに女性至上主義者達の手が届かない場所へ連れて行く。女尊男卑の風潮により圧倒的な影響力の差が男女の間にはある。だが世界の半分は男なのだ。世界の全てが女の支配下にある訳ではない。

 太郎には一時的に不自由な生活を強いる事になるだろう。それでも今の扱いよりは間違いなく良いはずだ。そして太郎の協力の下、研究を続ければ男もISを操縦する事が出来るようになるかもしれない。そうすれば、この狂った世界は正しい姿に戻る。これから決行される作戦がその第一歩になると参加する過激派集団のメンバー達は信じていた。

 

 

 まずは太郎と少女達を引き離す為に一小隊が動く。隊員の一人が観光客相手のショップ店員に扮して話しかけた。

 

「そこのお嬢さん、旅の思い出に一つ何か買っていかれませんか?」

 

 猫なで声で呼びながら男は内心では反吐が出そうな気分だった。この組織への参加のきっかけで一番多いのは、女尊男卑になってしまった世界で虐げられたというものだ。ただでさえ嫌悪対象である女なうえ、希少な男性IS操縦者を迫害しているのだ。しかも頭のおかしい恰好をさせて荷物持ちをさせるという狂った性癖持ちなのだから嫌悪感もひとしおだ。

 シャルとセシリアはそんな男の憎悪の念を知る由もなく足を止めた。

 偽店員は強制的に借り上げた店を指し呼び込みを続ける。店先には観光地に定番の手作り感のある雑貨、ショーウィンドウには南国らしいアロハシャツや水着が飾られている。

 

「一組の皆には何か買っておいた方が良いかな?」

「何も無いのでは失礼かもしれませんわね」

 

 二人は興味をひくことに成功した男は、気を逃すまいと攻勢を強める。

 

「こちらの菓子ならお手頃ですよ。まあとりあえず暑いので店内にどうぞ」

 

 観光地では悪質なぼったくりも多い。もちろん二人もその程度のことは知っているが、同時に自分は騙されてぼったくられる程馬鹿ではないと思っているし、相手が暴力や脅しを使ってきても切り抜けられる自信があった。

この為シャルとセシリアは躊躇いなく店内へ入った。それに太郎も続く。

 ここまで太郎が静かなのは、その手にある酒の存在が理由である。この酒を使って行う千冬討伐ミッションに気持ちが先走っていたのだ。あんなこと良いな、出来たら良いなと捕らぬ狸の皮算用をしている太郎は、知らない人が見れば何を考えているのか分からない顔でふらふら少女に付いて行く危ない人である。しかし太郎が奴隷のように虐げられていると思っている偽店員は、その姿に少女達から受けているであろう苛烈な扱いを想像した。もう身も心もボロボロなのだろうと。

 怒りに打ち震える偽店員は声を荒げてしまわないように我慢しながら、少女達にお薦めの商品を紹介していく。

 

「食べ物に抵抗があるならTシャツなんかはいかがですか。こちらは地元出身のデザイナーの物です。どうぞどうぞ着てみてください」

 

 偽店員は試着室へ促す。土産屋のTシャツなんて試着するような物ではないが、リゾートで浮かれている影響かシャルとセシリアは誘導に乗ってしまう。その間に偽店員とは別の隊員が太郎に話し掛けた。こちらの隊員も偽店員と同じ服装をしており、太郎は疑うこともなく店員と認識した。

 

「重そうな荷物ですね。隣に軽食や飲み物を扱っている屋台が来ているので、そちらで一休みしては?」

「はあ、しかし連れが……」

「そちらには伝えて置きますので」

 

 気もそぞろな太郎相手に隊員はこれ幸いと強引に話を進める。

 

「その持っている荷物は……珍しいビールですね。珍しいお酒に興味が御有りなら良い店がありますよ」

「いえ、もうこれだけで十分ですよ」

「まあまあ、そう言わずに。ガツンとくる奴が揃ってますよ」

「ほう……ガツンと」

 

 酔い潰すのに酒が多くて困る事は無い。アルコール度数の高いビールに拘ったのは、千冬の警戒心を考慮しただけで別の酒があっても良いかもしれない。なんだったら強い酒を見せておいてからビールを出せば油断する可能性もある。

 偽店員その二は別に言葉巧みなわけではなかったが、相手が他事に夢中なので簡単に誘導出来た。太郎を店外へ連れ出しながら偽店員その一にハンドサインを送った。

 

 

 

 

 

 偽店員その一は太郎が店外に出たのを確認し、作戦を次の段階へ移そうとする。が、そこで予想外の事態が起こる。

 

「なんですかこのTシャツは!?」

「な、なにか問題が?」

 

 セシリアが声を荒げて偽店員に詰め寄って来た。慌てる偽店員にTシャツの背中の部分に書かれた文字を見せつける。

 

【I ♡ dick(おチ●ポちゅき)】

「オゥ……」

 

 これは酷い。戸惑う偽店員にセシリアはもう一着見せる。

 

【名器大洪水】

「え?」

 

 ISが世界を席巻してから日本語を学ぶ者は飛躍的に増えた。特にISに関わる者やこれから関わっていきたいと思う者にとっては必須であった。そこで色々な商品に日本語が使われる率も上がっている。中でも漢字は恰好良いとして良く使われるようになった。しかしただでさえ現在の世界の風潮を嫌っている偽店員はわざわざ漢字まで勉強していない。分からないものは聞くしかない。

 

「あのぉなにか問題のある言葉なんですか?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 偽店員の問いに答えられないセシリアとその反応に戸惑いが増した偽店員。二人は無言で見つめ合うことになった。

 見かねたシャルが割って入る。

 

「ぷっ、ん、それは性的な単語なんですよ……クッ」

 

 笑いをかみ殺しながらシャルが説明すると、偽店員は得心し、セシリアは顔を紅潮させて怒る。

 

「笑いごとじゃありませんわ。こんな物をお土産にしたら頭おかしい人だと思われますわッ!?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 今度はシャルとセシリアがお見合い状態になった。シャルからすれば今更気にしても遅い、というか自覚していなかったことに驚きを隠せない。

 しばらくしてシャルは言い辛そうに切り出す。

 

「セシリアってさ……学園の裏サイトじゃ三本の指に入るキチ●イだって評判だよ」

「ありえませんわっ!?」

 

 三本の指ということは、あとの二人は太郎と変態糞生徒会長で間違いない。淑女として一皮むけたセシリアは変態と呼ばれてもさほど気にしない、むしろ誇りを持って受け入れるつもりだ。とはいえ少しだけ残っていた良識があの二人と同レベルと思われることに抵抗を感じさせた。

 セシリアとは違い偽店員の方は当然だろうと納得していた。男にコテカしか着けさせず荷物持ちをさせている人間がキチガ●でないなら何なんだ。むしろIS学園にはコイツと同じような人間が後二人もいるのか、と戦慄を覚えていた。

 

「臨海学校の時もとんでもない水着だったし、裏では歩く公然わいせつ物陳列罪って呼ばれてるんだよ」

「ざ、罪人扱い」

「罪人じゃなくて罪そのものだから」

「おかしいですわ、間違ってますわ。人様にお見せ出来ないような汚い所なんて私には無いのに、くっ」

 

 やっぱり頭おかしいじゃないか、IS学園は学園とは名ばかりで実は精神病院なのでは、と偽店員は疑問を持った。

 男性の復権を目指す過激派集団はこの狂気に満ちた世界を変革出来るのだろうか。

 




IS少女はスケベなことしか考えないのか。
IS学園の裏サイトの利用者は太郎の紳士淑女仲間だけです。その為多くの一般生徒は太郎と生徒会長の異常性に気付いていません。つまり一般生徒の認識では一番頭がおかしいのは……。



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豚の思考

 セシリアは怒りに震えていた。

 シャルに自分が裏で【歩く公然猥褻罪】と呼ばれていることを知らされたことに?

 いいや、違う。自分と同類であるはずのシャルが、まるで自分は一般人だという態度をとっていることに義憤を覚えているのだ。

 そう、これは自分が学園で変態扱いされていると見ず知らずの店員にバラされた怒りではない。シャル自身も太郎の愉快な仲間の一人であるなら当然(変態)淑女であるはずだ。にもかかわらず一般人のフリをするのは、自身の生き様に誇りを持っていないとしか思えない。

 セシリアはシャルのつまらない誤魔化しを、この場で剥ぎ取り、真の淑女に相応しき覚悟を持たせるという使命感に胸を熱くする。今からすることは、決して店員を前にして恥をかかされた腹いせではない。

 

「わ、わたくしが公然わいせつ物陳列罪でしたら、シャルさんも色々問題があると思いますわ」

「えっ学園では一応優等生のつもりなんだけど……?」

「しかしシャルさんはIS学園の王子様と呼ばれてますわね。な、ぜ、か……」

「そ、それは」

 

 シャルは性別を偽って男性IS操縦者として学園に転入した負い目から歯切れが悪い反応を見せた。今はもう意識的に男子のフリをしているわけではないが、立ち居振る舞いの癖が抜けず中性的な見た目も相まって、そういった目で見ている女子生徒も未だに多い。

 セシリアは視線をシャルの股間へ向ける。

 

「それは? もしかして凄いモノをお持ちなのが理由かしら」

「なんのこと?」

「王子様は顔に似合わずアチラの方は盾殺し並だそうで」

「え゛っ!?」

 

 最初はセシリアの言っている内容が分からなかったシャルだが、やっと理解が追いつきその表情を歪めた。

 店員(偽)の方はまだ訳が分からず困惑気味である。

 

「ちょちょちょ、待ってよ。誰がそんなこと言ってるの!?」

「いえ私は学食でそんな噂を小耳に挟んだだけですわ」

「そんな、あり、あり、あり得ないでしょ。ペニ……凄いアレがあるだなんて」

「あら王子様ということは生えていても、おかしなことはありませんわ」

 

 本当に生えているかどうかは別として、セシリアがそんな噂を聞いたのは事実である。嘘は何一つ言っていない。あくまで噂を聞いただけと言っているだけで、生えていると断言したわけではない。しかし、シャルはこの場で生えていない証拠を実際に脱いで見せるわけにもいかない。第三者の言を使い無実を証明しづらい点を責め立てる、意外にもセシリアは狡猾であった。

 そしてセシリアの話術に店員(偽)はまんまとハマる。店員(偽)は「生えて」「王子様」というキーワードでやっと話を理解し、理解したがゆえに混乱は増していた。

 

「あ、あのお客さんは男なんですか?」

「違うよ!?」

「でも生えているという噂ですわ」

 

 男じゃないのに生えている。訳が分からない。店員はシャルを注意深く観察する。

 中性的な整った顔、手触りの良さそうな金髪は短いが、女としてもおかしくない程度の長さである。Tシャツとホットパンツという服装で胸の膨らみは詰め物をしているようには見えない。ホットパンツから伸びる足は程よい肉付きでムダ毛も見あたらない。

 店員(偽)の視線はシャルのホットパンツへ戻り、止まる。こんな子の股間に生えているのかと思うと何故だか胸に感じた事の無いモヤッとしたものが湧き上がる。

 

「セシリア止めてよ!」

「あっ、そう言えば元々第三の男性IS操縦者という触れ込みでしたわね」

「こ、これで男……」

 

 セシリアの衝撃的な発言に店員の思考回路はショート寸前である。

 三人目の男性IS操縦者がいるなど聞いたことが無い。つまりIS学園はこの重大な事実を隠蔽していたのだ。やはりIS学園はとんでもない場所である。

 勘違いを加速させている店員にシャルは悲鳴のような訂正を入れる。

 

「僕は女だよっ!」

 

 どういうことだってばよ。女なのにペニ●が生えているとは……そういうのもあるのか。店員は悩む。

 本人は女だと言っているが、股間いパイプが生えていれば男ではなかろうか。

 店員の啓蒙が大幅に上がった。しかし、そうなると大きな問題が浮上する。このシャルと呼ばれる人間の扱いについてだ。女性のIS操縦者ならば敵であるが、棒が付いているのならば仲間になり得るのではないか。そんな思いが店員を悩ます。セシリアというド変態に対して「もう止めてよぉ」と顔を赤らめる自称女(棒付き)の中性的な少女? 敵として排除するのは躊躇われる。

 思い悩む店員にシャルが心配そうに声を掛ける。

 

「頭を抱えてどうしたんですか、体調が悪いんですか?」

(天使かっ!?)

 

 棒が付いているなら男。店員は今そう決めた。本人が女と言っても男、それで全て解決である。シャルは保護して、連れのクソ淫売は拘束してIS委員会へ政治的な要求するネタにでも使おう。そうしよう。そうと決まれば予定変更を仲間に伝えなければならない。反対意見も出るかもしれないが。

 

(なあに、この子を知れば皆も賛成してくれる)

 

 店員(偽)は新たな階段を登り始めた。その階段もまた太郎とは方向は違うが紳士道の一つである。

 深刻な表情で頭を抱えていた店員が、急に悟りを開いたような微笑みを浮かべている。そんな状況にシャルとセシリアは若干引いた。

 

「だ、大丈夫なんですか」

「これが賢者モードと呼ばれるものでしょうか?」

「セシリア、それは違うんじゃないかな……」

 

 顔を見合わせる二人をよそに、店員はシャルの肩を軽く叩き声を掛ける。

 

「色々苦労したろう。力になるよ」

「え、苦労? セシリアの言ってること本気で信じちゃってる? 違ッ」

「分かってる分かってる。大丈夫だ」

「いやっ僕が大丈夫じゃないんだけど!」

 

 シャルと店員のやり取りを見ていたセシリアは、思惑通りの展開に留飲を下げる。やっぱり変態扱いされた腹いせだった。だがセシリアの思考はさらに先へと進む。いっそ嘘から出た実にしてしまったら良いかもしれないと。

 チン●が生えればシャルは太郎だけでなく女性も性の対象になるかもしれない。そうすればセシリアが太郎を占有出来る時間が増える可能性がある。現代の科学力ならチン●の一本や二本位生やすことも出来るだろう。恋のライバルの足を引っ張る為にチ〇ポを生やすという発想、セシリアの脳みそは致命的なエラーを起こしている。




俺……フタナリは好きじゃないけどシャルには生えていても良いと思う。(ポッ


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