とある幻想の異世界物語 (キノ0421)
しおりを挟む

プロローグ

えー、どうもみとぅーです。
復帰作()な訳ですがほぼ処女作です

文の書き方もわからないし地の文なんて…くっ!

書いてるうちに上手くなりまぁす(白目)


1話

 

「へぇ、オティヌスね、北欧神話の主神オーディンの別名だったな」

 

逆廻十六夜は上条当麻の肩に乗るオティヌスをじっと見つめる、さながら品定めをするかのように。

 

「ほぅ、良く知ってるな。見た目に反して博識なんだな」

 

「ヤハハ、こう見えて知的派なんでね。それに、そんな小さいのにどうやって生きてるか気になるしな」

 

口だけが笑う、十六夜の目は尚もオティヌスを見る。

 

「企業秘密だ」

 

それだけを言うと、後はもう何も言わないぞと言わんばかりに口を閉じた。するとその様子を見ていた飛鳥と耀がオティヌスを見つめる。

 

「それ私も気になる、貴女は本当に人間なの?」

 

「……。妖精?」

 

「先程も言われた通り私は普通に生きている、だが妖精か…それが一番近いかもな」

 

一度は人間と言われ納得したが、妖精と呼ばれると何か思う節があるのか顎に手を当て目を伏せる。だがそんなことを許すはずもない理解者がいる。

 

「オティヌスは普通に生きている。妖精じゃないさ」

 

そう強く言い上条の瞳には優しくも強い意志があった。

 

「…そうだな、私は人間だよ」

 

上条の言葉に頬を少し赤くし口元が緩む。それを隠すように帽子を深く被った。その2人をみてこれ以上追求するのは野暮だと思ったのかオティヌスについて聞かなくなった。

 

 

 

 

「(うわぁ…、あの1人…いえ2人(?)を除いて問題児ばかりみたいですねぇ…)」

 

湖に落ちてきた5人を見ていたうさ耳のついた少女は物陰に隠れながら陰鬱そうに重くため息を吐いた。だが少女が一つ気になってることがあった。

 

「(しかし黒うさぎが呼んだのは確か3人だけのはず、あのツンツンヘアーの方々は一体…。なんならかの手違いがあったのでしょうか?…いえ、だとしてもあの3人は人類最高峰のギフト所持者らしいですし、どうしても入って貰わないと黒ウサギは、黒ウサギは…ッ!)」

 

 

 

十六夜は周りを見回して苛立たしげに言う。

 

「それでだ。呼び出されたはいいんだけど、何で誰もいねぇんだよ。この場合、紹介状に書かれてた『箱庭』の事を説明する人間が居るんじゃねぇのか」

 

「そうね、なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

「(全くもってその通りですけど、黒ウサギが出て行くタイミングが無いんです。)」

 

密やかに突っ込みを入れる、パニックとかになってれば飛び出して状況説明なりしやすいのだが、ここまで落ち着いてられると出るタイミングを測れるわけもない。

 

「(悩んでも仕方ないですね、腹を括りますか)」

 

これ以上待たせると罵倒をあびせられまる可能性がある、出て行こうにもタイミングが必要なのである。そんな事を悩んでるうちに上条が疑問に思ってたことを言う。

 

「なぁ、さっきも言ってたけど紹介状って何の事だ?上条さんはそんなの受け取ってないんでせうが」

 

そう、この上条当麻には十六夜や飛鳥、耀に届いたという手紙が来ていなかった。

 

「はぁ?お前も手紙を貰ってここに来たんじゃねぇのか?」

 

十六夜の疑問はもっともである、此処にいる上条以外が手紙を貰い、とある招待状を読んでこの世界に来たのだから。

 

「いや俺はそんなの知らないぞ、知り合いからの頼まれ事を聞いてる途中で気を失って、気が付いたら此処にいたしな」

 

上条の言葉に嘘はないと、十六夜は表情を見て判断するが納得はいかなかった。

 

「ふぅん、訳ありってことか。じゃあその辺も含めてそこに隠れてる奴から聞いてみるか?」

 

物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたのように飛び跳ねる。

 

「なんだ貴方もか気づいてたの」

 

「当然、かくれんぼは負けなしだぜ?」

 

「…風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「敵意がないし、その招待状を送った人なんじゃね」

 

「……へぇ面白いなお前ら」

 

軽薄ながらも何処か楽しげにわらう十六夜、目は笑ってないが。十六夜と飛鳥と耀は理不尽な招集に加え上空に呼び出された腹いせに殺気が籠った冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。あまりの視線に耐えられなくなったのか黒ウサギが飛び出てくる。

 

「や、やだなぁ、そんな狼みたいに怖い顔をされると黒ウサギは死んじゃいますよ?えぇウサギは往来孤独と狼には滅法弱い生き物なのです。そんな脆弱な黒ウサギに免じてここはひとつ穏便に御話を聞いていただけないでしょうか?」

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

「ウサギ…?」

「こいつがか…」

 

「あっは、取り付く暇もないございませんね (肝っ玉は及第点、ツンツンヘアーと小人さんは何か無駄な事を考えてるようですが、この状況でNOと言える勝ち気は買いです。問題児ばかりなのは難点ですが)」

 

両手をあげて降参のポーズとる黒ウサギ、しかしその目は冷静に問題児達を値踏みしていた。それに黒ウサギはおどけつつも、どう接するか考えを張り巡らせている。おもむろに耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ちうさ耳を根っこから鷲掴みして。

 

「えい」

 

「ふぎゃ!」

 

思いっきり引っ張ってた。

 

「ちょっとお待ちを!触るのならいざ知らず、まさか初対面で黒ウサギの素敵耳を引っ張るとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心のなせる業」

 

可愛らしくドヤ顔をする耀、だがしかしうさ耳を引っ張るのは止めない。

 

「その好奇心を別の所に注いで下さい!」

 

「このうさ耳本物なのか?面白そうだな」

 

今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「じゃあ私も」

 

さらに耀と交代で飛鳥が左へとうさ耳を掴み左右に引っ張られた黒ウサギは助けを求める目で上条をみるが。

 

「おい人間、右手で迂闊に触るなよ、そしてあいつの近くに寄れ」

 

「わかってるよ、つか触りたいだけかよ!」

 

現実は非情だった。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!!」

 

黒ウサギは言葉にならないような悲鳴をあげ、その絶叫は近隣に木霊した。

 

そしてオティヌスは大変満足気な顔をしていた

 

「っ!?ありえないの、ありえないのですよ!?まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはこのような状況をいうに違いないのデス」

 

「おい人間、あいつの耳で遊ぶぞ」

「遊ばないでください!」

 

「わかった、まぁサラサラしてて気持ちよかったしずっと触りたい感触ってやつか」

 

半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは必死にツッコミを入れた。

 

「しかも勝手に了承しないで下さい!黒ウサギの素敵耳を褒められるのは嬉しいデスが!」

 

「おいおい勝手に話を進めるなよ、こいつの耳は皆もんだろ?」

 

「いい加減にして下さい!話をさせて下さい!」

 

自慢の耳を褒められて嬉しいのか頬を赤らめる黒ウサギだが、十六夜も場を乱すので強制的に話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。みな海岸に座り込み、3人は彼女の話を《聞くだけ聞こう》という程度には耳を傾けている

 

「わかったから、いいから話を始めろよ」

 

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて。

 

「それではいいですか、皆様方。定例文で言いますよ?さぁ言います!ようこそ『箱庭の世界』へ!我々は皆様の様にギフトを与えられたものたちが参加が許される"ギフトゲーム"への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚しました!ここまでよろしいですか?」

 

「ギフトゲーム?」

 

「YES!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様方は普通の人間ではございません!ほの特異な力は神羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます」

 

「嫌だ」

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの主催者《ホスト》が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「……。主催者って誰?」

 

「様々ですね。修羅神仏が試練と称し開催させるものや、コミュニティの力を誇示するため独自で開催する者達もございます。中には凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょうが、見返りは大きいです。主催者次第で新たな恩恵≪ギフト≫を手にするのも夢ではありません。ただギフトを掛けた戦いで負ければご自身の才能を失われるのもあしからず」

 

黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔だが黒い影をみせる。

 

「質問いいか?」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げる、ずっとしていた軽薄な笑顔が無くなったことに気づいた黒ウサギは構えるように聞き返す。

 

「どういった質問です?ルールですか?ゲームの事ですか?」

「そんなものどうでもいい腹の底からな」

 

十六夜は黒ウサギから視線を外し他の人を見まわし、天幕によって覆われた年に向ける。

彼は何もかも見下すような視線で一言。

 

「この世界は…面白いか?」

 

飛鳥と耀は返事を待つ。彼らの招待状にはこう書かれていた。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い。』と、それに見合うだけの物があるかが重要だった。

 

「YES!ギフトゲームは人を超えた者たちが参加できる新魔の遊戯。箱庭の世界は面白いと、黒ウサギが保証します!」

 

「俺も質問なんだけど"白夜叉"って知ってるか」

 

「えぇ、知ってますよ。でも何で白夜叉様を知っているんですか?」

 

「あぁ、知り合いに教えてもらってね」

 

「むむっ、何やら訳ありの模様ですね…、どのみち白夜叉様には会う予定でしたのでその時でよろしいでしょうか?」

 

「そうしてくれると助かるよ、それと上条さんは普通の高校生だからな」

 

「お前のような奴が普通なわけあるか」

 

上条が自分は普通と言ったが、あえて言わせてもらう上条当麻もまた『人類最高峰のギフト所持者』と。

 




如何でしたか?

誤字脱字の指摘や文をこうするなどのアドバイス随時受け付けております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話

サブタイトルな訳ですが決して思いつかなかったとかではなくてだな!

とりあえず一話を投稿しますけど…

第2話は4日後に投稿予定です


「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

ジン坊ちゃんと呼ばれる、ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴の少年。外門前の街道から来る黒ウサギは意気揚々とジンに連れて来た人達をみせる。

 

「おかえり、黒ウサギ。そちらの女性2人と男性ひとりが?」

 

クルリと振り返る黒ウサギ。

そしてカチンと固まる、そう本来なら女子2人と男子2人と小人1人がいるはずが、振り返った先には男子が1人足りなかった、そう逆廻十六夜が。

 

「…え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?目つきが悪くて、口が悪くて、全身から"問題児!"ってオーラを放っている人が居たはずかなんですが」

 

「あぁ、十六夜君のこと?彼なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ"と言って駆け出していったわ。あっちの方に」

 

飛鳥が指を指すのは上空4000mからみえた断崖絶壁。

呆然とする黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて3人に問いただす。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」

 

「"止めてくれるなよ"と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!」

 

「十六夜の目がとてもワクワクしてたからつい止められなくて」

 

「ああいうのをギャップって言うんだろうな」

 

「あぁもう!実は面倒くさかっただけでしょう?」

 

「「「「うん」」」」

 

ガクリと倒れる黒ウサギ。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい、まさかこんな問題児しかいないなんて嫌がらせにも程がある。

 

「え、人形が喋った!?い、いえ、そんなことよりも大変です!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣がいるはずです!」

 

「幻獣?」

 

「はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。あれは人間では太刀打ち出来ません!」

 

「てことはペガサスとかもいるのか!?」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?…斬新?」

 

「冗談を言ってる場合じゃありません!」

 

3人が冗談を言うのでジンは必死に事の重大さを訴えるが効果はなかった。

 

「はぁ…、私が問題児を捕まえに参ります。ジン坊ちゃんはこの御方達をご案内お願いしてもよろしいでしょうか?あの問題児には"箱庭の貴族"と謳われるウサギを馬鹿にしたことを骨の髄まで後悔させてやります!」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

外門めがけて空中高く飛び上がり外門脇にあった彫像を次々と駆け上がる。

 

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

黒ウサギは淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしてた門柱に亀裂を入れる。弾丸のように飛び去り、あっという間に視界から消え去った。

 

「箱庭の兎は随分と速く跳べるのね、素直に感心するわ」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属を力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です」

 

「黒ウサギって速いな。なんか聖人と似てる」

 

ふと上条が呟く、聖人。それは上条の世界において絶大な力を持つ者達、絶大な身体能力にくわえ幸運ともはや何でもありの人達である。

 

「……聖人って何?」

 

「確か神の子だっけか、それと似た身体的特徴や魔術的記号を持つ人間だったかな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!貴方の世界には聖人が存在していたのですか!?」

 

ジンが慌てて聞きに入る、それもそのはず神の子などこの箱庭ですら珍しい。

 

「まぁな、つっても世界に20人くらいしか居ないらしいけど」

 

「どんな世界だったんですか…」

 

「そっちの話もきになるけど、とりあえず黒ウサギも堪能してって言ってたし、箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくれるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんのお名前は?」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介をする。飛鳥達はそれにならい一礼した。

 

「久遠飛鳥よ、そこで猫を抱えてるのが」

 

「春日部耀」

 

「俺が上条当麻、こっちはオティヌス。小さいけど人間だからな」

 

「さ、それじゃあ箱庭にはいりましょう。まずは軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

飛鳥はジンの手を取り胸を踊らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。

 

「……外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

都市を覆う天幕を上空から見た時、彼らに箱庭の街並みは見えなかっな。だというのに都市の空には太陽が現している。

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

飛鳥は眉毛をピクリとあげ皮肉そうにいう。

 

「この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、いますけど」

 

「…そう」

 

「(吸血鬼か…、姫神が居なくてよかったぁ)」

 

何とも複雑そうにする飛鳥と神妙な顔をする上条達が居た。街を歩いていると噴水広場に目を向ける。そこには白く清潔感漂う洒落たカフェが幾つもあった。

 

「お勧めのお店はあるのかしら?」

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので…、よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

5人と1匹は近くにあった6本の傷がある旗を掲げるカフェに座る。

 

「いらっしゃいませー!ご注文はどうしますか?」

 

注文をとるために元気よく猫耳の少女が飛び出てきた。

 

「えーと、紅茶を3つと、緑茶を1つ。あと軽食にこのティーセットのを4つ」

 

「あと出来たら人形サイズのコップも貰えないか?」

 

『ネコマンマを!』

 

猫であるはずの三毛猫が注文をする、普通の店ならここでスルーをされてしまう。が此処は箱庭そんな常識は通用しない。

 

「ティーセットを4つとおままごとセット1つとネコマンマ1つですね」

 

三毛猫の言葉は通じてしまう。

ん?と上条達は不可解そうに首を傾げる。対照的に耀はとても驚いていた。

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここらちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

 

猫耳娘は長い尻尾をフリフリ揺らしながら店内に戻る、それを耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「…箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

『来てよかったなお嬢。』

 

「春日部さ、そうやって笑ってる方が良いな、無表情の時より全然いい」

 

「…そ、そう。あまりそういうの言われた事無いからわからない」

 

上条の言葉に頬を染める、普段無表情な耀にとって父以外に初めて笑顔を褒められて戸惑いながらも嬉しそうにする。

 

「ちょ、ちょっと待って、貴女もしかしてネコと会話ができるの?」

 

珍しく動揺している飛鳥に、耀はコクリと頷く。

 

「…うん、生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「そりゃあスゲーな、てことは野鳥とかライオンとかでも話できるのか?」

 

「うん、きっと出来…るかな?ええと鳥とは話したことはあったけど…ペンギンがいけたからきっと大丈夫」

 

「ペンギン!?」

 

「う、うん。水族館で知り合ったり他にはイルカたちとも友達」

 

耀の言葉に皆が驚いた、なぜなら鳥ならまだ出会う機会が数多とあるがペンギンなどと会話してるとは思ってもいなかった。

 

「し、しかし全てとの種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁は大きいですからね」

 

「確かに外国人と会話が出来ないだけで溝ができるからな」

 

「はい、箱庭の創始者の眷属である黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることは出来ないはずです」

 

「そう…、春日部さんは素敵な力があるのね、羨ましいわ」

飛鳥は空を見ながら何か恨むような目をしていた。

 

「久遠さんは?」

 

「飛鳥でいいわよ。よろしくね春日部さん」

 

「俺も気軽に上条でいいからな、よろしく」

 

「う、うん。飛鳥と上条はどんな力を持っているの?」

 

「私は酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ"名無しの権兵衛"のリーダー、ジン君じゃあ無いですか」

 

品の無い上品ぶった声が人を呼ぶ。振り返ると2mを超えた巨体にピチピチのタキシードで包む変な男が居た。ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

「僕らのコミュニティは"ノーネーム"です。"フォレス・ガロ"のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ」

 

ガルドと呼ばれる巨躯のガチムチタキシードは皆が座るテーブルに強引に割って入る、元々4人が座っていたのでガルドが割入り、かなり窮屈になっていた。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼、私はコミュニティ"六百六十六のケモノ"の傘下である」

 

「烏合の衆の」

 

「リーダーをしています、ってマテやゴラァ!誰が烏合の衆だ小僧!口謹めや小僧ォ…紳士である俺にも聞き逃せない言葉はあるんだぜ?」

 

ジンに横槍を入れられガルドは怒鳴り激変する。口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りと共にジンを睨む。

 

「今やこの外門付近を荒らす獣にしか見えませんよ」

 

「ハッ、過去の栄光にすがってばかりの奴が。今、自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できんのか?このノーネーム風情が」

 

「ふ、2人とも分かったから口喧嘩は辞めてくれいないか?」

 

険悪な2人を遮るように会話に入り、上条はジンを宥める。

 

「す、すいません…つい熱くなってしまいした」

 

「事情はよくわからないけど、仲が悪いことは分かったわ。ねぇジン君、ガルドが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況を説明していただける?」

 

飛鳥が鋭く睨む、しかしそれはガルドではなくジンに向けられた物だった。

 

「そ、それは……わかりました、説明します。僕たちのコミュニティは数年前まではこの東区画の中でもかなり大きいコミュニティでした」

 

ジンは言葉に詰まるが、何とかこの状況を打破するため本当の事を語ることにした。

 

「あら、意外ね」

 

「もちろんリーダーは別人でしたけど。僕とは比べようがない位凄い人だったんです。人類最高の記録を持っていました。だけど…それがたった一夜で滅ぼされました。この箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

ジンは涙を目に溜めながらも、辛いはずなのに言葉を言い続ける。

 

「天災…?そんなんで大きなコミュニティが潰れちまうのかよ?」

 

上条はそんなジンを見ていられなり、ましてや滅ぼされたとのことだ黙ってられるはずもない。

 

「いいえ、彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災ー俗に"魔王"と呼ばれる者達です」

 

 

 




大田がホームラン!!

開幕スタメン期待やで!!

カンケイナイコトスイマセン

ではまた

誤字脱字等

文章のアドバイス

地の文の書き方とか随時受け付けております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

おくれまして大変申し訳ありません…

次回はまだ未定です(完成してない)

そして改めて思ったレティシアかわえぇーよ


「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

ジン坊ちゃんと呼ばれる、ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴の少年、外門前の街道から来る黒ウサギは意気揚々とジンに連れて来た人達をみせる

 

「おかえり、黒ウサギ。そちらの女性2人と男性ひとりが?」

 

クルリと振り返る黒ウサギ

そしてカチンと固まる、そう本来なら女子2人と男子2人と小人1人がいるはずが、振り返った先には男子が1人足りなかった、そう逆廻十六夜が

 

「…え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?目つきが悪くて、口が悪くて、全身から"問題児!"ってオーラを放っている人が居たはずかなんですが」

 

「あぁ、十六夜君のこと?彼なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ"と言って駆け出していったわ。あっちの方に」

 

飛鳥が指を指すのは上空4000mからみえた断崖絶壁

呆然とする黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて3人に問いただす

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」

 

「"止めてくれるなよ"と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!」

 

「十六夜の目がとてもワクワクしてたからつい止められなくて」

 

「ああいうのをギャップって言うんだろうな」

 

「あぁもう!実は面倒くさかっただけでしょう?」

 

「「「「うん」」」」

 

ガクリと倒れる黒ウサギ。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい、まさかこんな問題児しかいないなんて嫌がらせにも程がある

 

「え、人形が喋った!?い、いえ、そんなことよりも大変です!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされていている幻獣がいるはずです!」

 

「幻獣?」

 

「はい、ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。あれは人間では太刀打ち出来ません!」

 

「てことはペガサスとかもいるのか!?」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?…斬新?」

 

「冗談を言ってる場合じゃありません!」

 

3人が冗談を言うのでジンは必死に事の重大さを訴えるが効果はなかった

 

「はぁ…、私が問題児を捕まえに参ります。ジン坊ちゃんはこの御方達をご案内お願いしてもよろしいでしょうか?あの問題児には"箱庭の貴族"と謳われるウサギを馬鹿にしたことを骨の髄まで後悔させてやります!」

 

「わかった」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

外門めがけて空中高く飛び上がり外門脇にあった彫像を次々と駆け上がる

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

黒ウサギは淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしてた門柱に亀裂を入れる。弾丸のように飛び去り、あっという間に視界から消え去った

 

「箱庭の兎は随分と速く跳べるのね、素直に感心するわ」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属を力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です」

 

「黒ウサギって速いな。なんか聖人と似てる」

 

ふと上条が呟く、聖人。それは上条の世界において絶大な力を持つ者達、絶大な身体能力にくわえ幸運ともはや何でもありの人達である

 

「……聖人って何?」

 

「確か神の子だっけか、それと似た身体的特徴や魔術的記号を持つ人間だったかな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!貴方の世界には聖人が存在していたのですか!?」

 

ジンが慌てて聞きに入る、それもそのはず神の子などこの箱庭ですら珍しいのだから

 

「まぁな、つっても世界に20人くらいしか居ないらしいけど」

 

「どんな世界だったんですか…」

 

「そっちの話もきになるけど、とりあえず黒ウサギも堪能してって言ってたし、箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくれるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんのお名前は?」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介をする。飛鳥達はそれにならい一礼した

 

「久遠飛鳥よ、そこで猫を抱えてるのが」

 

「春日部耀」

 

「俺が上条当麻、こっちはオティヌス。小さいけど人間だからな」

 

「さ、それじゃあ箱庭にはいりましょう。まずは軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

飛鳥はジンの手を取り胸を踊らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった

 

「……外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

都市を覆う天幕を上空から見た時、彼らに箱庭の街並みは見えなかっな。だというのに都市の空には太陽が現している

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

飛鳥は眉毛をピクリとあげ皮肉そうにいう

 

「この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、いますけど」

 

「…そう」

 

「(吸血鬼か…、姫神が居なくてよかったぁ。)」

 

何とも複雑そうにする飛鳥と神妙な顔をする上条達が居た、街を歩いていると噴水広場に目を向ける。そこには白く清潔感漂う洒落たカフェが幾つもあった

 

「お勧めのお店はあるのかしら?」

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので…、よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

5人と1匹は近くにあった6本の傷がある旗を掲げるカフェに座る

 

「いらっしゃいませー!ご注文はどうしますか?」

 

注文をとるために元気よく猫耳の少女が飛び出てきた

 

「えーと、紅茶を3つと、緑茶を1つ。あと軽食にこのティーセットのを4つ」

 

「あと出来たら人形サイズのコップも貰えないか?」

 

『ネコマンマを!』

 

猫であるはずの三毛猫が注文をする、普通の店ならここでスルーをされてしまう。が此処は箱庭そんな常識は通用しない

 

「ティーセットを4つとおままごとセット1つとネコマンマ1つですね」

 

三毛猫の言葉は通じてしまう

ん?と上条達は不可解そうに首を傾げる。対照的に耀はとても驚いていた

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここらちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

 

猫耳娘は長い尻尾をフリフリ揺らしながら店内に戻る、それを耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた

 

「…箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

『来てよかったなお嬢。』

 

「春日部さ、そうやって笑ってる方が良いな、無表情の時より全然可愛いぞ」

 

「…そ、そう。あまりそういうの言われた事無いからわからない」

 

上条の言葉に頬を染める、普段無表情な耀にとって父以外に初めて笑顔を褒められて戸惑いながらも嬉しそうにする

 

「ちょ、ちょっと待って、貴女もしかしてネコと会話ができるの?」

 

珍しく動揺している飛鳥に、耀はコクリと頷く。

 

「…うん、生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「そりゃあスゲーな、てことは野鳥とかライオンとかでも話できるのか?」

 

「うん、きっと出来…るかな?ええと鳥とは話したことはあったけど…ペンギンがいけたからきっと大丈夫」

 

「ペンギン!?」

 

「う、うん。水族館で知り合ったり他にはイルカたちとも友達」

 

耀の言葉に皆が驚いた、なぜなら鳥ならまだ出会う機会が数多とあるがペンギンなどと会話してるとは思ってもいなかった

 

「し、しかし全てとの種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁は大きいですからね」

 

「確かに外国人と会話が出来ないだけで溝ができるからな」

 

「はい、箱庭の創始者の眷属である黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることは出来ないはずです」

 

「そう…、春日部さんは素敵な力があるのね、羨ましいわ」

飛鳥は空を見ながら何か恨むような目をしていた

 

「久遠さんは?」

 

「飛鳥でいいわよ。よろしくね春日部さん」

 

「俺も気軽に上条でいいからな、よろしく」

 

「う、うん。飛鳥と上条はどんな力を持っているの?」

 

「私は酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ"名無しの権兵衛"のリーダー、ジン君じゃあ無いですか」

 

品の無い上品ぶった声が人を呼ぶ。振り返ると2mを超えた巨体にピチピチのタキシードで包む変な男が居た。ジンは顔を顰めて男に返事をする

 

「僕らのコミュニティは"ノーネーム"です。"フォレス・ガロ"のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ」

 

ガルドと呼ばれる巨躯のガチムチタキシードは皆が座るテーブルに強引に割って入る、元々4人が座っていたのでガルドが割入り、かなり窮屈になっていた

 

「失礼ですけど、同席を求めるならまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼、私はコミュニティ"六百六十六のケモノ"の傘下である」

 

「烏合の衆の」

 

「リーダーをしています、ってマテやゴラァ!誰が烏合の衆だ小僧!口謹めや小僧ォ…紳士である俺にも聞き逃せない言葉はあるんだぜ?」

 

ジンに横槍を入れられガルドは怒鳴り激変する。口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りと共にジンを睨む

 

「今やこの外門付近を荒らす獣にしか見えませんよ」

 

「ハッ、過去の栄光にすがってばかりの奴が。今、自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できんのか?このノーネーム風情が」

 

「2人とも分かったから口喧嘩は辞めてくれいないか?」

 

険悪な2人を遮るように会話に入り、上条はジンを宥める

 

「す、すいません…つい熱くなってしまいした」

 

「事情はよくわからないけど、仲が悪いことは分かったわ。ねぇジン君、ガルドが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況を説明していただける?」

 

飛鳥が鋭く睨む、しかしそれはガルドではなくジンに向けられた物だった

 

「そ、それは……わかりました、説明します。僕たちのコミュニティは数年前まではこの東区画の中でもかなり大きいコミュニティでした」

 

ジンは言葉に詰まるものの何とかこの状況を打破するため本当の事を語ることにした

 

「あら意外ね」

 

「もちろんリーダーは別人でしたけどね。僕とは比べようがない位凄い人だったんです。人類最高の記録を持っていましたし。だけど…それがたった一夜で滅ぼされました。この箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

ジンは涙を目に溜めながらも、辛いはずなのに言葉を言い続ける

 

「天災…?そんなんで大きなコミュニティが潰れちまうのかよ!?」

 

上条はそんなジンを見ていられなり、ましてや滅ぼされたとのことだ黙ってられるはずもない

 

「いいえ、彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災ー俗に"魔王"と呼ばれる者達です」

 

 

 




いやね、本当はお昼に投稿しようと思ってたんですよ。ただ予想外に日光が気持ちよくて寝てただけなんですよ。


…俺は悪くねぇ!!

あー、早くとある吸血鬼とかだしたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

いやぁ、ここんとこ文化祭やらバイトやらで睡眠時間を削って書いてるせいかいつもギリギリに起きる笑

だれか俺に小説を書く時間を!

では続きをどうぞ。短くてすみません


第3話

 

「なるほどね、大体理解したわ。つまり"魔王"というのはこの世界で特権階級を振り回す神様等を指し、ジン君のコミュニティは彼らのおもちゃとして潰された。そういう事?」

 

噴水広場のテラスで説明を聞いた上条達は出されたカップ片手に反復する。

オティヌスのカップは上条が用意してもらった人形用のカップに紅茶を淹れてもらっている。

 

「そうですレディ。神仏というのは古来から生意気な人間が大好きですから。愛しすぎて使い物にならなくなるのはよくあることですよ」

 

ガルドは両手を大きく広げ皮肉げに笑う。

 

「名も、旗印も、主力陣の全てを失い。残ったのは居住区画の土地だけです。もしもこの時にコミュニティを建て直していたなら、今までの名誉も誇りも失墜して名無しになるなんてことは無かったはずです。それに比べ私のコミュニティは何度も両者合意の上でコミュニティを賭けてギフトゲームを行い、それに勝ち続けています」

 

ピチピチに張っているタキシードを破きそうな品の無い顔で笑い、ジンとコミュニティをあざ笑う。

それをジンは顔を真っ赤にして両手を握り締めながら俯くことしか出来なかった。

 

「単刀直入にいいます。もしよろしければ私のコミュニティに来ませんか?」

 

突然の問いに俯いていたジンがテーブルを叩いて抗議する。

 

「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

それをガルドは獰猛な瞳で睨み返す。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェがちゃんと新しくコミュニティを建てていれば最低限の人材はコミュニティに残っていただろうが。それを我が儘で追い込んでおいて、よくもまぁ異世界から強引に人材を呼び出したもんだな」

 

「そ……それは…、でも強引ではありません!ちゃんと本人の承諾を得て召喚してます!」

 

そう手紙には"その才能を試すことを望むのなら"と書いてある。つまり飛鳥と十六夜、耀はいずれもそれを望んだのだから強引ではない。

 

「チッ、だが強引ではないにしろ何も知らない相手なら騙すのは容易いとでも思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら…こっちも箱庭の住人として考えがあるぜ」

 

先程見せた獣の瞳で、またジンを睨み僅かに怯む。

 

「で、どうですか?誇りも旗も何もない"ノーネーム"と栄誉ある私のコミュニティ、どっちに入りたいですか?」

 

「結構よ。ジン君のコミュニティで私は間に合ってるもの」

 

その言葉にガルドは目を丸くする、飛鳥は何事もなかったかのように紅茶をのみ耀と上条達に話し掛ける。

 

「春日部さんはどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はその世界に友達を作りに来ただけだから」

 

「あら意外。じゃあ私が友達1号に立候補していいかしら?それと上条君とオティヌスちゃんはどうするの?」

 

飛鳥は髪を指で回しながら問う。口にしたのが恥ずかしかったのだろう。

 

「…俺は知り合いにある事を頼まれてるから、今ここでジンのコミュニティに入ることは出来ないかなぁ」

 

「私はコイツに着いて行くだけだ、それ以外ないからな。それとちゃんはやめろ、オティヌスでいい」

 

上条にはある知り合いからの頼みごとがある。それは彼としては絶対に守りたいもの、今の上条にとって2番目に高いの優先順位だった。

オティヌスは上条と共に居るのが彼女に与えられた罰なのだから、それ以外はあるはずもない。

 

「そう…残念ね。もしその頼まれ事が終わったら私達の所にきてみない?」

 

飛鳥は残念そうに顔を沈めるが、すぐに別の案を提示する。

 

「もちろん、それと春日部の友達第2号は上条さんって事でいいか?」

 

上条は笑顔で返事をした、それを聞き飛鳥は口元が笑った。耀はというと無言のまま考えた後、小さく笑い頷く。

 

「…うん。飛鳥と上条は私の知る女の子や男の子と違うから大丈夫」

 

耀の膝の上で泣いているように見える三毛猫。そしてジン達をそっちのけで盛り上がる4人。ガルドは相手にされてないのが堪えたのか顔を引きつらせたが、それでも取り繕い問う。

 

「し、失礼ですが理由を教えてもらっても?そこのウニ坊主みたいな理由があるのですかね?」

 

「だから、間に合ってるのよ。春日部さんも私もどちらでも構わない。そうよね?」

 

「うん」

 

飛鳥達の答えに眉間に皺を寄せて我慢するガルド、今ここで怒り狂いでもしたら完全に交渉が終わってしまうから。

 

「私は裕福な家庭も、約束された将来も全て支払って箱庭に来たのよ?それを小さな地域を支配してるだけの組織の末端として迎え入れてやる、なんて自身の身の丈を知らないようなエセ虎紳士に何か言われたところで、私は入ります!なんて言うと思うのかしら?」

 

「お……お言葉ですがレディ」

 

「黙りなさい」

 

飛鳥の発言に何か言おうとしたが、ガルドの口に不自然な形で勢いよく閉じて黙りこむ。

 

「……‼︎?……‼︎?」

 

ガルドは混乱し、口を開けようともがくが、全く声が出ない。

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方から聞かなければいけないことがあるのだもの。そこに座って、私の質問に答え続けなさい」

 

飛鳥の言葉に力が宿り、今度は椅子に勢いよく座り込む。テーブルに座っていた上条達は驚くも静観していた。

しかし、今のガルドは手足の自由がなく抵抗すら出来なくなっていた。

その様子を見て驚いた店員が急いで駆け寄る。

 

「お、お客さん!店内での喧嘩は」

 

「ちょうどいいわ。猫の店員さんも聞いててって欲しいの」

 

店員は訳も分からず首を傾げるが、飛鳥は気にせずそのまま続ける。

 

「貴方は両者合意の上でギフトゲームを行い勝ったらしいけども、コミュニティを賭けにすることなんてあるのかしら?ねぇジン君」

 

「やむを得ない場合の時は稀に。でもコミュニティの存続をかけてゲームをするということはほとんどありません」

 

これには猫耳の店員も隣で頷いていた。

 

「そうよね、そんな事ここに来たばかりの私ですらわかるわ。ねぇ、なんで貴方はそんな事ができるのか教えてくださる?」

 

ガルドは飛鳥の言葉に何とか反抗しようするが、その抵抗虚しく悲鳴を上げそうな顔をしながら言葉を紡ぐ。そして周りの人達も異変に気付き始める。久遠飛鳥の言葉には絶対遵守なのだと。

 

「強制させる方法は色々あるが、簡単なのは相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫させること」

 

ピクリと飛鳥の眉が動くが表情や言葉に出さない。だが彼女からは嫌悪感が滲み出てた。今までの事には無関心だった耀でさえ不快そうに目を細める。

 

 

「…‼︎」

 

そして上条は今に飛びかかろうと立ち上がりガルドに敵意を向ける。

 

「上条君、怒るのはわかるけど少し待っててくれない?今は私が質問をしているの」

 

飛鳥はそれを冷静に受け止め流す、しかしそれだけでは上条の納得がいかない。

 

「だけど…!」

 

「人間、まだ静かにしていろ」

 

暴走しそうな上条をオティヌスが制し、悪態をつきながらも椅子に座る。

 

「小物らしい堅実な手ですね。けどそんな手使っても裏切られないのかしら?」

 

「子供を人質にとってある」

 

「…そう。ますます外道ね。そらでその子供たちは何処に幽閉されてるのかしら?」

 

「もう殺した」

 

その言葉に空気が凍りついた。

ジンも、店員も、耀も、飛鳥も、上条も耳を疑った、オティヌスただ一人静かにガルドをみつめる。

 

「なん…だと」

 

上条は目を見開き固まった。

ガルドは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。

 

「初めて拉致した時は泣き声が五月蝿くて思わず殺した。それ以降はやめようとしたが泣き声がやはり五月蝿くて殺した。だからもう連れてこられたガキは全部まとめて食った」

 

「テメェ…、ふざけん」

 

予想だにしていない事に上条は今度こそ殴ろうとする。

 

「だから落ち着け人間、こんな奴に何か言ったて何も変わらない。私も今すぐに消しとばしたい、我慢してくれ」

 

オティヌスはまた止める。上条は彼女の言葉に頭を冷やし座る。

 

「…わかったよ」

 

「といっても、もう聞くことなんてないんだけどね。ここまでの外道とはそうそう出会えなくてよ。それと今の発言で箱庭の法でこの外道を裁くことはできないのかしら?」

 

飛鳥の冷ややかな視線に慌ててジンは否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭ですら珍しいです。が厳しいです。これらの行為はもちろん違法ですが、裁かれる前に彼が箱庭の外に逃げれば、それまでです」

 

それは裁きとも言える、逃げたとしてもリーダーを失った烏合の衆のコミュニティは瓦解するのは目に見えてる。

しかし飛鳥はそれでは満足できない。

 

「そう、なら仕方ないわ」

 

苛立したしげに指を鳴らす。それが合図なのかガルドを縛っていた力はなくなり、体に自由が戻る。それに気付いたガルドは怒り狂いテーブルを砕く。

 

「この小娘共ガァァァァァァァァァ‼︎」

 

雄叫びと共に体を激変させた。タキシードは膨張する背中で弾け飛ぶ、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かぶ。

 

「俺の上に誰がいるのかわかってんだろうなァ?箱庭の第六六六外門を守る魔王だぞ‼︎俺に喧嘩を売るってことはその魔王にもけん」

 

「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」

 

そしてまたガルドの口は勢いよく閉じ黙る。しかし身体の自由は奪われていない、怒り狂うガルドは太い豪腕を振り上げ飛鳥に襲いかかる。

 

「……ッ‼︎」

 

「させるかよ」

 

しかし2人の横に入る、上条は飛鳥の前に立ち盾になろうとする。

 

「喧嘩はダメ」

 

前に出ていた耀はガルドの腕を掴み押さえつけた。

 

「ギッ…!」

 

「マジかよ…」

 

少女の細腕には似合わない力に驚く上条とガルド。しかし飛鳥だけは楽しそうに笑う。

 

「さてガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようが知りません。それはジン君も同じでしょう。彼の最終目標はコミュニティを潰した"打倒魔王"だもの」

 

その言葉にジンは息を呑む。魔王という名前が出た時は怖くなったジンだが、自分達の目標を飛鳥に問われ我に帰る。そして確固とした意思をもった瞳でガルドをみつめる。

 

「…はい。僕の最終目標は魔王を倒し誇りと仲間達を取り戻すこと。そんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。貴方には破滅しかないのよ?」

 

耀に組み伏せられたガルドは身動きができず地に伏せている。

それを飛鳥は足先でガルドの顎を上げ悪戯っぽい笑顔で話をきりだす。

 

「だけど私はそれだけじゃ満足できない。貴方のような外道はズタボロになって後悔することね。そこで皆に提案なのだけど。もちろん上条君も含んでるわよ」

 

足先を離し、今度は綺麗な指でガルドの顎を掴み。

 

「私達とギフトゲームをしましょう。貴方の"フォレス・ガロ"存続と私達"ノーネーム"の誇りと魂を賭けて、ね」

日が暮れた頃に噴水広場にて黒ウサギ達と上条達は合流し、話を聞いた黒ウサギは案の定ウサ耳を逆手てて怒り、嵐のような説教と質問があった。

 

「ですから…、ってきいているんですか!?」

 

「「「「ムシャクシャしてやった、反省をするつもりはない」」」」

 

まるで口裏を合わせたかのように言う。もちろん上条もガルドの事に関して反省なんてする気はなかった。

 

「黙っらっしゃい‼︎‼︎」

 

それに怒ったのか黒ウサギは大声で叫ぶ。それをニヤニヤと笑いながら見てた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねぇか。見境なくやったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、これで得られるのはただの自己満足ですよ?」

黒ウサギが見せてきたのは"契約書類≪ギアスロール≫"そこには参加者≪プレイヤー≫が勝利した時は、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後コミュニティを解散するというものだった。これは時間を掛ければ必ず立証できるものだった。

 

「まぁ確かに勝ったとしても箱庭の法の下で裁かれるだけで、それ以上のメリットもない。負けたとしたらガルドの罪を黙秘する、つまりは俺たちはこれ以上奴の事に首は出せなくなる。デメリットの方が大きいなこりゃ」

 

それでも、と上条は十六夜の言葉に食ってかかる。

 

「黒ウサギには悪いけど、これは一刻も早くどうにかしたい。それが自己満足だとしてもだよ。それに今取り逃したら、いつか狙ってくるかもしれないからな」

 

「それにね、私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しされる事が許せないの」

 

2人の同調する姿勢をみて、黒ウサギは諦めたかのように頷いた。

 

「はぁ~…。仕方のない人達です。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。それにガルド程度なら十六夜さんが1人いれば楽勝でしょう」

 

十六夜だけで充分というのは正当な評価で彼等は"世界の果て"で蛇神を薙ぎ倒したからだ、しかしとうの本人達はと言えば。

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす2人。

 

「上条さん的には女の子にでてほしくないんだけどなぁ」

「嫌だ」

 

「即答かよ!」

 

上条の発言に即答で拒否する耀。

 

「だ、駄目ですよ!ちゃんとコミュニティの仲間なんですから協力しないと」

 

そんなカオスな空間に黒ウサギは慌てて止めに入る。

 

「それは違うぞ、黒ウサギ。これは俺が売った喧嘩だ。そしてアイツはそれを買ったんだ。なのに他の人に手を借りるってのはな」

 

「俺じゃなくて、私達でしょ?それと女性だから出させないのは差別じゃなくて?」

 

「…。あぁ、もう好きにしてくださぁい!」

 

丸一日振り回され疲れきった黒ウサギにはもうツッコミを返す気力はなくなっていた。

得るものも無ければ、失うものもないゲーム。どうにでもなれと黒ウサギは空を見上げる。

 




さてここで問題だ。

次の話だが全くもってアイディアが出てこない…。おてぃちゃん助けて…。まぁ原因もオティヌスちゃんなんだけどさ笑
相変わらずの駄文ですみません!

誤字脱字などあったらお知らせください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

どうもいつも夜遅くに投稿すみません…

さてとやっと白夜叉だせる…
はやくレティシry

もし小ネタでこんなのが見たいとあるなら要望下さい!
後書きに載せます


黒ウサギは椅子から立ち上がり、横にあった何かの苗を大事そうに抱き上げる。咳払いをした黒ウサギは気を取り直し。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するため色々調べていたのでしたけれど…、とある人達のせいで今日はお流れとなってしまいました。また後日歓迎させていたします!」

 

「いいわよ、無理しなくて。私たちのコミュニティってがけっぷちなんでしょ?」

 

飛鳥の言葉に驚く黒ウサギ、ジンの顔を見ると申し訳なさそうに俯いてるのを見て、自分たちの事情が知られたのだと悟る。

 

「申し訳ございません。皆さんを騙すのは心苦しかったんですが、黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「その事はもういいだろ、ここにいる皆は怒ってないっての。飛鳥と春日部もそうだろ?」

 

「そうよ、組織の基準なんてどうでもよかったもの」

 

その言葉を聞いてすこしホッとする黒ウサギ、そして耀の顔を恐る恐る伺う。耀は無関心のまま首を振る。

 

「私もコミュニティがどうの、というのはべつにどうでもいいけど…あ、けど」

 

耀の呟きにジンはテーブルに身を乗り出して問う。

 

「僕らに出来ることなら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ毎食3食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

ジンの表情が固まる、箱庭では水は手に入りにくく、お風呂は一種の贅沢品なのだ。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんが大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これならお風呂も余裕で入れますよ!」

 

その言葉にジンも耀も明るくなる、その様子を見て上条は安心したのか少し笑った。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日の様に入れたけど、場所が変われば文化も違うものね。理不尽に湖へ投げ出されたからお風呂には入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免だ」

 

「上条さんとしては命があっただけでも儲けもんなんだけどな」

 

召喚された上条達の責めるような視線に怖気づくが、目を逸らしながら話題を変える。

 

「あはは…、それは黒ウサギの責任外の事ですよ。それとジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"で皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。水樹のこともありますし」

 

”サウザンドアイズ”は箱庭全域に精通する巨大商業コミュニティでコミュニティのメンバーは何か特殊な”瞳”を持っている。

上条達は首を傾げ聞き直す。

 

「ギフト鑑定ってのはなんだ?」

 

「ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力を把握していたほうが引き出せる力は大きくなります。皆さんも自分の力がどいったものか気になるでしょう?」

 

同意を求めようとするが、皆は複雑そうな表情になる、何か思う事もあるのだろう。そして黒ウサギ一行はサウザンドアイズ支部に向かう、日が暮れて月と街灯ランプに照らされている桃色の花が散り新芽と青葉を飛鳥は不思議そうに眺めつぶやく。

 

「桜の木…ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしく無いだろ」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

「冬の始め頃じゃねーのか?」

 

あまりにも話が噛み合わないので、また首を傾げる。黒ウサギは笑って説明をする。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス」

 

「へぇ、パラレルワールドってやつか?」

 

「正しくは立体交差平行世界論、これを説明すると長いので、そろそろ着きますのでまたの機会に」

 

看板を下げる割烹着の女性店員に黒ウサギは滑り込みでストップをかけようとする。

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はいたしてません」

 

が努力虚しく散った。黒ウサギは悔しそうに店員を睨む。

 

「まだ閉店時間5分前なんだからどうにか出来ないのか?」

 

「本来なら断固お断りなんですが…"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺うので、コミュニティの名前を」

 

店員が少し考え冷めた声で対応しようとするが。

 

「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィィ!」

 

店内から爆走してくる着物風の服を着る真っ白い髪の少女にフライングボディーアタック(もしくは抱きつく)され少女と共に空中4回転半して街道の向こうの水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーー!」

 

水に落ちた音がし、上条達は目を丸くするが、十六夜だけは真面目な顔をしてる。

 

「おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

店員は頭を抱えながら十六夜が言い終わる前に言い切る。吹き飛んだ黒ウサギは襲った白髪幼女に顔を埋めて擦りつけた。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女なこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感しておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホホフホルホフホ!オホホ、オホオホオホホホホホホ!!やっぱり黒ウサギの胸が一番よのう!ほれ、ほれほれ!!ここか?ここがええのか!!」

 

スリスリスリとやめそうにもない白夜叉と呼ばれる幼女、その名前に上条は反応すると同時にある人を思い出した。

 

「(そういや白井もこんな感じだったなぁ。)」

 

「し、白夜叉様!ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは白夜叉を引き剥がし頭を掴んで投げつける、クルクルと回転する幼女を十六夜は足で流した。

 

「パス」

 

「え…ゴハァ!ふ、不幸だ…」

 

「お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足でパスするとは何様だ!」

 

現実逃避をしていた上条は突然の物体に反応できず、そのままお腹にダイレクトアタックをされる。

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

何も無かったかの様に自己紹介をする十六夜。

 

「いいから早く退いてくれ…」

 

そしてずっと足場にされる上条と巻き込まれたオティヌスは呟く。

 

「私まで飛ばされたではないか」

 

あまりの出来事に呆気にとられていた飛鳥は思い出したかのように話し掛ける。

 

「で、貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。依頼ならお主の胸を生揉みで引き受けるぞ」

 

「それでは売上が伸びません、ボスが怒りますよ?」

 

どこまでも冷静な店員は釘をさす、濡れても全く気にしてない白夜叉は上条達を見回して笑う。

 

「ふふん、お前達が黒ウサギの新しい同志か。しかし1人多いのではないか?まぁいい、それよりコイツらが来たということは、遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるのですか!」

 

怒る黒ウサギだが、どこまで本気かわからない白夜叉は笑う。

 

「俺は別に黒ウサギに直接呼ばれた訳じゃないぞ、白夜叉に用があって同行してるだけだよ」

 

「む、そうかの。話があるなら店内で聞こう」

 

5人と1匹は個室というにはやや広い和室に入り腰を下ろす。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構える"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ」

 

耀が首を傾げ問う

 

「ずっと気になってたんだけど、その外門って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです。因みに私達のコミュニティは一番外側の七桁の外門ですね」

 

黒ウサギが上空から見た箱庭の図を描く、その図を見た4人は口をそろえる。

 

「……超巨大玉ねぎ?」

 

「超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな、どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

うん、頷きあう3人だったが

 

「…なんか目玉焼きみたいだな」

 

「「「え?」」」

 

上条の答えを聞いて皆が目を丸くする。

 

「いや、目玉焼きは一番外側が薄いだろ?んで黄身に近づけば白身も分厚くなって、黄身になると濃厚なるからさ」

 

身も蓋もない感想に黒ウサギは肩を落とすが、白夜叉は笑いながら頷く。

 

「ふふ、面白いことに例えよる。しかし分かりやすいのはバームクーヘンか。箱庭は東西南北の4つの区切りの東側にあるのが此処だ。外は無法地帯でなコミュニティに属していないものの、強力なギフトをもった者達が住んでるぞ。その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑いながら水樹の苗に視線を向ける。

 

「して誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?」

 

「この水樹は十六夜さんが蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ!」

 

自慢げに黒ウサギいうと、白夜叉は声を上げ驚く。

 

「なんと⁉︎クリアではなく直接とな!」

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、彼奴に神格を与えたのはこの私だぞ」

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。

 

「へぇ、じゃあオマエはヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の”階級支配者”だぞ。この東側で並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

最強の主催者。

その言葉に十六夜、飛鳥、耀の3人は目を輝かす。

 

「最強ねぇ、そりゃ景気のいい話だし、手間も省ける」

 

「えぇ、そうね。貴女のゲームさえクリアすれば、私たちのコミュニティは東側で最強って事でいいのよね?」

 

「…千載一遇のチャンス」

 

3人の剥き出しの闘争心に白夜叉は高らかと笑う。

 

「抜け目ない童達だ、依頼しに来ておきながら、私に挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御3人様!?」

 

「おい、止めておけって!」

 

慌てる黒ウサギと上条を白夜叉が制す。

 

「よいよ黒ウサギ。私も飢えていた所じゃし。それとウニ頭、お主は私に挑まないのか?」

 

4人のなかでただ一人だけ勝負を挑まない上条を不思議に思い問う。

 

「…いや、俺は白夜叉と話をしに来たからな。争う必要も無いだろ?それにいくら馬鹿な上条さんでもヤバイ奴くらい分かる」

 

長年の経験からか、この白夜叉という幼女のヤバさに気付く、白夜叉はそれを見て笑う、そして裾からカードを取り出し、さらに壮絶な笑みを見せる。

 

「うむ、結構。見極めは大事だしの。さて、お主らが望むのは"挑戦"かもしくは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"決闘"か?」

 

刹那、皆の視界に爆発的な変化が起きた。視界は意味を無くし、気付けば白い雪原と凍る湖畔、そして水平に太陽が廻る世界だった。

 

「…なっ…⁉︎」

 

余りの異常さに上条達は息を呑む、遠く薄明の空にあるのは緩やかに世界を水平に廻る白い太陽のみ。まるでかつてのオティヌスの様に世界を創り出したかのように。

 

「白い太陽か……なるほどな」

 

ただオティヌスは冷静に周りを観察し、少し考え。あることに辿り着く。上条はというと、あの時と同じ様な反応をした。唖然としてる上条達に白夜叉は今一度問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は”白き夜の魔王”――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への”挑戦”か? それとも対等な”決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。幼女の笑みとは思えぬ凄みに後ずさりをする。オティヌスはそんな彼女を見ながらいう。

 

「白夜と夜叉。水平に廻る太陽や土地は貴様を表現してるんだろう?」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私の持つゲーム盤の1つだ。して返答は?挑戦か、決闘か?」

 

白夜叉が両手を広げると、薄明の太陽が晒される、しばしの、静寂の後十六夜は諦めたかのように笑い挙手する。

 

「参った。やられたよ。降参だ」

 

「つまり試練を選ぶとな?」

 

「あぁ、今回は試されてやるよ。魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てる物言いに白夜叉は堪えきれず笑い飛ばす。

 

「くく、して残りの童達も同じか?」

 

「えぇ。私も、ためされてあげてもいいわよ」

 

「右に同じ」

 

苦虫も潰した表情で返事をする、一連の流れを見た黒ウサギは胸をなで下ろす。

 

「も、もうお互いにもう少し相手を選んでください!! 階層支配者に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます!! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何? じゃあ元魔王ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

悪戯っぽく笑う白夜叉に肩を落とす3人。その時、彼方にある山脈から叫び声が聞こえる。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「今の…、とてもじゃないが普通の鳥とかの鳴き声じゃないぞ⁉︎」

 

湖畔の向こう側から鷲の翼と獅子の下半身をもつ獣を見て、耀は驚きと歓喜のこもった声を上げる。

 

「嘘…本物⁉︎」

 

「さて肝心の試練だがの。おんしらには"力""知恵""勇気"の何れかを比べ合い、背に跨り湖畔を舞うことが出来ればクリアという事にしようか」

 

白夜叉がカードを取り出す、すると虚空から主催者権限にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

 

『ギフトゲーム名"鷲獅子の手綱"

 

・プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

 

・クリア条件

グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う

・クリア方法

"力""知恵""勇気"の何れかでグリフォンに認められる

・敗北条件

降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

"サウザンドアイズ"印』

 

 

 




え?白夜叉が変態すぎるって?

こんなもんやろ(すっとぼけ

あぁ〜、操折とオティちゃんかわいいんじゃ(*^◯^*)

3月12日が待ち遠しい…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小ネタ

適当に思いついたので投下しますw




小ネタ

 

「おい」

 

「なんだよ、オティちゃん」

 

「いや、別に用がある訳と言う訳では無いんだが。…ただ」

 

「言っておくけど、これで良かったんだからな?」

 

「…お前はエスパーにでもなったのか?」

 

「これでもオティちゃんの"理解者"なんでせうよ。これ以上の選択肢はきっと無かったと思う。」

 

「それでも私はお前に救われる価値など」

 

「誰かを救うのにそんなのないだろ。俺だって救われてるんだからおあいこさまって所で。」

 

「…本当に馬鹿だなお前は。」

 

「どうせ上条さんは馬鹿ですよ。」

 

「いつか後悔するぞ?私を救ったことを。」

 

「後悔なんてするもんかよ。何があっても絶対にしない。」

 

「どっちが先に折れるか勝負するか?」

 

「それなら上条さんの勝ちだな。」

 

「何でそう言い切れる。」

 

「10億年以上オティちゃんの弄りに耐え抜いた俺が、今更そんな事で根を上げるかよ。」

 

「……ふふ、また私の負けのようだな。」

 

「あぁ、そうだな。そうだ!」

 

「ん?なんだ人間。」

 

「いや少し暇だし散歩でもするか?」

 

「全く仕方ないな。それとオティちゃんはやめろ!」

 

 

小ネタ2

 

 

「おい、人間。」

 

「はいはい、醤油と。」

 

「すまない。」

 

 

 

 

 

「なぁオティちゃん。」

 

「砂糖と卵が無かったぞ。」

 

「サンキュー、メモ無くしたから焦ったよ。」

 

 

 

「人間。」

 

「お風呂上がりは水が欲しいんだろ?用意しとくから春日部と入っちまえ。」

 

「すまない。」

 

「なぁ上条とオティヌスってテレパシーでも使ってるのか?」

 

「唐突にどうした、十六夜らしくもない。」

 

「…………いや、お前ら。なんでそんなんで会話が成立してるんだよ。」

 

「何でって言われてもなぁ。」

 

「普通の事だ。」

 

「いや明らか普通じゃないだろ!」

 

「まぁ1つ言えるとしたら。」

 

「したら?」

 

「理解者だからかな?」

 

「…ごちそーさん」

 

小ネタ3

 

「おい人間!!」

 

「なんだよ?」

 

「いい加減アイツラとお風呂入るのは流石に堪えるものがあるぞ!?」

 

「アイツラって…。あぁ春日部達のことか。」

 

「事かじゃない!アイツラ隙あらば人を人形みたいに弄るからに…!」

 

「落ち着けって、かといって上条さんと一緒にって訳にもいかないだろ?」

 

「私はそれでも構わない!所詮この身だ、まさか発情する訳でもないだろう?」

 

「あのなぁ…、あっそうだ!」

 

「何か案があるのか!?」

 

「レティシアに頼もう!」

 

「は?」

 

「いやレティシアがメイドの務めと言ってさ上条さんの入浴中に何度も来るから任せればいけるんじゃね?」

 

「はぁ…、異世界に来てもお前は変わらないな。」

 

 




え、短い?小ネタだし許してね!☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

お気に入り100人突破!!いやぁ嬉しいねぇ!これからも頑張っていきやす!
そして
少し遅れて申し訳ない…

いやパワポケが悪い、俺は悪くねぇ!

…言い訳はこのへんにして、どうぞ!


5話

 

「してウニ頭、私に用があったのだろ?あの小娘が終わるまで話を聞いてやるぞ」

 

ギフトゲームに参加していない上条に白夜叉が問いただす。

 

「…オッレルスって言えばわかるか?」

 

「…っ!なるほどな、あやつの知り合いか」

 

オッレルスと何かあったのか、白夜叉は一瞬、眉毛をピクリと動かす。

 

「まぁな、オッレルスから、ある女の子を助けてやってくれって言われたんだよ」

 

「というとおんしはあやつ以上の使い手なのか?」

 

「まさか、上条さんとオッレルスじゃ天と地の差があるっての」

 

「ふむ、話はわかった。アイツの助けたい女の子っては」

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!?」

 

突如黒ウサギと飛鳥が大声をあげる。何事かと思い白夜叉と上条は飛鳥の方を見ると、十六夜が2人を制していた。

 

「騒がしいのぅ、一体何事だ?」

 

話の邪魔をされて少し不機嫌なのか眉を寄せる。

 

「グリフォンが誇りを賭ける代わりに春日部さんは自分の命を賭けるって…」

 

飛鳥の話を聞く限りでは耀はグリフォンとも会話をし、今に至るらしい。

 

「ほぅ、つまり、あの小娘はグリフォンと会話をして命まで賭けたとな」

 

「アイツ…、戻ってきたら一言言わないと」

 

その事を聞いた上条は少し怒っていた。自分の命を省みない行動を許せなかったのだろう。上条自身いつも命懸けの毎日を過ごしているので説得力はないが。

 

「今、言わないのか?」

 

「言ったとして止めるくらいなら、最初から命なんて賭けるはずないからな」

 

確かにと、今言えば立ち止まるかもしれない。耳を貸すかもしれない。だけどそれだけだ。上条の言う通り命を賭けるなんて軽々しく言うなんて出来ないと、たった半日だが一緒に過ごした少女に対する印象である。それを十六夜は軽薄な笑みを浮かべヤハハと笑う。

 

「やっぱ面白いな、お前」

 

「そりゃ、どーも」

 

「してウニ頭」

 

会話の途中で止めていたので、その続きをしようと白夜叉は声をかける。

 

「ウニ頭じゃなくて俺の名前は上条当麻だからな」

 

「これは失礼した。上条よ、お主への頼みごとなんだが、黒ウサギのコミュニティに入ってはくれぬか?」

 

白夜叉の頼み事は至って簡単なものだった、コミュニティに入れ。たったそれだけ。

 

「それだけでいいのか?もっとこう命懸けの任務とかじゃなくて」

 

上条自身、もっと危険事かと思っていた。何せ一瞬で世界を創り出せる程の者が頼む事だ、魔王を退治しろだの、世界を敵にしろだの、そんな事を考えていたのでコミュニティに入れと、的が外れた上条は軽く拍子抜けをしていた。

 

「いや、そうではない。黒ウサギ達を、あのコミュニティを助けてやってほしい」

 

コミュニティを…、それはつまり今の崖っぷちに瀕してる、黒ウサギが所属している"ノーネーム"を復興させろと言うことだ。

 

「わかった、絶対に助けてやるよ」

 

時間がかかる、そんな事はわかるはず、学園都市に自分の事を待ってくれている少女もいる、その事を考えると早く帰りたくなるのもわかる。だけど今は理解者であるオティヌスの、何より自分の命の恩人であるオッレルスの頼みを優先しなきゃいけない。あのオッレルスが頭を下げてまで頼んできたことだ、断れるはずもない。

 

「オッレルスが認めたんだろう?なら安心して任せられるよ」

 

白夜叉は少女らしい笑みを浮かべる。それに少しだけ上条は見惚れてしまった。

 

「随分と信頼してんだなオッレルスの事を」

 

「まぁな。色々と話はしたい所だが時間切れだよ、小娘が戻ってきたぞ」

 

 

耀がグリフォンの手綱をに握りしめながら此方へと向かって来た。グリフォンは、これが最後の試練と言わんばかりに旋回を繰り返し、更には地平ギリギリまで急降下し振り回す。湖畔の中心まで疾走し、耀の勝利が決定した瞬間 春日部耀の手から手綱が外れた。

 

「春日部!?」

 

それを見ていた上条は走り出す、十六夜が止めようとするが。

 

「待て!まだ終わってない!」

 

「そんなこと知るか!」

 

そんな事で止まる上条当麻ではない。急いで耀が落ちる地点まで走る、が耀は体を翻し、慣性を殺して耀の落下速度は落ちていき、遂には湖畔に着地しようとする。耀は空を疾走していた感動で周りは見えていなかったのか何かを踏みつけてしまう。

 

「…え、まっフギャ!?」

 

いくら落下速度が落ちたとはいえ顔面を踏まれてはどうしようもない。

 

「あっ、ごめん」

 

「ふ、不幸だ…」

 

踏みつけたことに気付いたのか謝る、そのまま寝転ぶ上条。そのコントを無視し十六夜は耀に近づく。

 

「やっぱりな、お前のギフトは生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

あいも変わらない軽薄な笑み、それにムカついたのか声音で耀が返す。

 

「…違う。これは友達になった証。けどいつから知ってたの?」

 

「ただの推測だよ」

 

十六夜からの視線を避けると今度は白夜叉が近寄ってくる。

 

「いやはや大したもんだ。このゲームはおんしの勝利だの。ところでお主のギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげ」

 

「ほほぅ、よかったらその木彫りをみけてはくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた木彫りを白夜叉に渡す。木彫りの模様を見ると急に顔を顰める、上条達も顔をのぞかせて見る。

 

「俺にはただの複雑な模様にしか見えないな」

 

「…いや人間、これはかなり凄いぞ」

 

白夜叉だけではなくオティヌスも顔を顰める。隣にいる十六夜も神妙な顔をしているのを見ると、只事ではないと思ったのか上条はオティヌスに聞き直す。

 

「どういうことだ?」

 

「これは」

 

「おそらく…これは系統樹だろうが、これは凄い‼︎本当に凄いぞ‼︎これが人造なら、これを作ったのは稀代の大天才だぞ!」

 

説明しようとオティヌスは口を開くが、白夜叉の声でそれをかき消してしまう。

 

「そ、そんなに凄いのか?」

 

「系統樹は簡単に言えば、生き物と進化の系譜を示す図の事だ」

 

突然、大きな声ではしゃぐ白夜叉に体を引いてしまう上条、オティヌスはさっきは邪魔されたが、今度はしっかり上条に説明する。

 

「うむ、それを小娘の父親が表現したいもののセンスが成したのだかな、うぬぬ、凄い。凄いぞ。お主させよければ買い取りたいくらいだの!」

 

「ダメ」

 

耀はあっさり断わって木彫りを取り上げる、白夜叉はお気に入りのオモチャを取り上げられた子供のようにしょんぼりする。

 

「人間は絶対にアレには触るなよ」

 

「…わかってるよ」

 

上条の右手には"幻想殺し"がある。下手に触ってしまえば壊してしまい、耀の大切なものを奪ってしまうから、今思えば先程、上条は耀のために駆けつけようとしたが、もしあの時触れてしまったらと思うと身震いをする

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

「それはわからん。詳しく知りたいなら鑑定士に頼むしかない、それも上層の腕のいい鑑定士じゃなければ不可能だろう」

 

「え、白夜叉様でも鑑定は出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

鑑定のお願いと聞いて白夜叉は気まずそうな顔をする。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところだの」

 

白夜叉はゲームの報酬として依頼を無料で引き受けるつもりだったのだろうが、困ったように髪を掻き上げる。急に上条達の顔を見つめる

 

「…ふむ…うむ、ここにいる皆ともに素養が高いのはわかる。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握してる?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ 」

 

「以下同文」

 

「右手にしかない」

 

「もう力はほぼ無い」

 

「うおおおおい?!ギフトを教えたくないのはわかるが右手だけだのほぼないだの、それだけでは話にならんわ!」

 

「別に鑑定とかいらねぇよ。値札を貼られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリ拒絶する十六夜に同意するように頷く飛鳥と耀、上条とオティヌスはなんて説明したらいいか考えていた、困り果て頭を掻く白夜叉は、突如ニヤリと笑う

 

「ふむ、何にせよ。試練をクリアしたおんしらと我が友人の客には"恩恵"を与えねばならん。ちょいと贅沢だが、これをやろう」

 

白夜叉がパンパンと鳴らすと、5人の眼前に光り輝くカードが現れる

 

コバルトブルーのカードは逆廻十六夜 ギフトカード "正体不明"≪コード・アンノウン≫

 

ワインレッドのカードは久遠飛鳥 ギフトカード"威光"

 

パールエメラルドのカードは春日部耀 ギフトカード"生命の目録"≪ゲノム・ツリー≫ "ノーフォーマー"

 

シルバーグレイのカードは上条当麻 " "≪ノーネーム≫

 

暗黒色のカードはオティヌス "旅路を終えしもの"≪ガングレリ≫

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る、上条はもちろん左手で。黒ウサギは驚いたような顔でカードを覗き込む

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「お給料?」

 

「違います!というか息が合いすぎです⁉︎ギフトを収納できる超高価なカードなんですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「あーもーそうです。超素敵アイテムなんです!!」

 

黒ウサギに叱られながらもカードを珍しそうに見る、オティヌスだけは何かを考えるような表情をしていた

 

「本来ならコミュニティの名と旗も記されるのだが、おんしらは"ノーネーム"だからの。少々味気ないが文句はいうなよ」

 

「おい、夜叉」

 

「なんだ、それと私は白夜叉だぞ?小人風情が」

 

オティヌスは白夜叉を夜叉と呼んだ。それに機嫌を悪くしたのかオティヌスを睨みつける

 

「そうか、それは失礼したな。私にはお前が白くは見えなかったのでな。質問は私をギフトとしてカードの一部として収納は出来るのか?」

 

「出来なくはないが、おんし自身がギフトとでもいうのか?」

 

オティヌスの質問に白夜叉は少し混乱する、人間をギフトカードに収納出来るなどと聞いたことないからだ

 

「そんな感じだ、それにその方が都合がいい」

 

「変わっとるな。さて、そのギフトカードは正式名称を"ラプラスの紙片"即ち全知の一端だ」

 

これ以上追求するのはまた時間がかかると感じたのか話題を変える

 

「へぇ、じゃあ俺のはレアケースなんだ」

 

何事かと白夜叉はカードを覗き込む。ヤハハと笑う十六夜とは対照に、白夜叉の表情は激変した

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

白夜叉はすぐに十六夜のカードを取り上げる。その雰囲気は尋常ではなく、真剣な眼差しでカードを見つめる白夜叉は呟く

 

「正体不明だと?全知であるラプラスの紙片がエラーを起こすなど」

 

さらに上条のギフトカードにも何かあるのか白夜叉に見せる

 

「じゃあ上条さんのはエラーが起きたんでせうか?」

 

「…ありえん。正体不明でもありえないのに" "≪ノーネーム≫だと?正体不明ならまだラプラスの紙片にエラーが起きてと納得できる、が≪ノーネーム≫なんて聞いたことないぞ!上条と言ったな、自分の力が何なのか把握しておるのか?」

 

上条のギフトカードを受け取るが、白夜叉の表情は不可解とばかり顔を顰める

 

「把握とまではいかないけど、俺の右手はあらゆる異能を打ち消す事が出来る。それが神のご加護だとしてもな」

 

「あらゆる異能だと…?単一の能力に特化してならわかるが、全ての能力を無効化するなんて…。アイツが選んだだけということはあるというわけか」

 

修羅神仏が集うこの箱庭において無効化するギフトなど対して珍しくもない。だが全てのギフトを無効化するなんて、ましてや神様の加護も無効化できるギフトなんて白夜叉は聞いたこともなかった。

 

上条達は暖簾の下げられた店前に移動し、一礼した

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むのだもの」

 

「あぁ、吐いた唾を飲み込むなんて、格好つかねぇからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「お前らは少しは自重しろよ!」

 

余りにも傍若無人なので突っ込みを入れる

 

「「「ムリ」」」

 

あっさり否定されガクリと肩を落とす、それを無視して白夜叉は黒ウサギ達を見る

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ、その時は上条お前も挑戦してもらうからな?」

 

「ゲッ、マジかよ…」

 

白夜叉の言葉に後ずさりをする、あんな事を出来る化物と戦うのは人生で一度だけでいいと言わんばかりの表情だった

 

「それはそうと上条くん、白夜叉に用があったのではないのかしら?」

 

「あぁ、その事はもういいよ。だから約束の通りコミュニティに入る事にするよ」

 

飛鳥は思い出したかのように聞くが、上条の用とは黒ウサギのコミュニティに入ることだから結果は変わらなかった

 

「そっ、それならいいわ。改めてよろしくね」

 

「おぅ、よろしく頼むよ。オティヌスも仲良くするだぞ?」

 

「私はお前がいれば何処だっていいんだがな」

 

この様子を見ていた白夜叉は2人に割って入る

 

「ふと、思ったのだが、そのオティヌスという小人はもしや…主神オーディンなのか?」

 

オーディンは北欧神話の主神にして、戦争と死の神でもある。ここ箱庭では北欧神話は没落しており神々は行方が分からなくなっていた

 

「…いや、私はオーディンなどではないよ」

 

「そうか…、ギフトネームがオーディンのに似ておったのでな。こちらの勘違いならすまない」

 

「別に気にはしていない」

 

魔神オティヌスはもう居ない、箱庭と関係あるかどうかわからないが、もうあの魔神は居ないのだから答える必要もなかった。因みにオティヌスの"旅路を終えしもの"はオーディンの旅路に疲れたものと酷似していたので白夜叉は僅かな可能性ながらも気になってのか質問したのだろう

 

白夜叉と別れ、噴水広場を越えて半刻ほも歩いた後"ノーネーム"の居住区画の門前に着いた

 

「この中に我々のコミュニティがございます。しかし本拠地は入口から暫く歩くので御容赦下さい。この辺りはまだ戦いの名残がありますので」

 

「名残?噂の魔王様との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災の傷跡、見せてもらおうかしら」

 

黒ウサギは傷跡を見せることに躊躇いつつも門を開ける。すると乾ききった風が吹き抜け、視界には廃墟が一面に広がる。それ以外何もなかった

 

「何だよ、これ…」

 

街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑む、オティヌスと十六夜は目を細める、上条は俯き拳を握りしめる

 

「…おい黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは、何百年前だ?」

 

「僅か3年でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで。この風化した街並みがたったの3年前だと?」

 

この街並みは、まるで数百年は過ぎて滅んだように崩れている

 

「普通の壊れ方じゃないな…、何がどうなったら、ここまで酷くなるんだよ」

 

上条でさえ見ただけで普通じゃないと思わせる。飛鳥と耀も複雑そうな感想を述べる

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間が消えたみたいじゃない」

 

「…生き物の気配が全くない。整備もされない人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

オティヌスは目を瞑り述べる

 

「まさに天災といったところか」

 

「魔王とのゲームはそれ程、未知の戦いなのです」

 

そう、これが魔王。

 

これ程の事を成し遂げるのが天災。

 

それを目の当たりにした十六夜は瞳を輝かせ笑いながら呟く

 

「魔王か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか!」

 

上条は拳から力を抜き、その瞳は怒りに満ちながらも、自分がする事を見据えていた

 

 

 




おかしい、文字数がだんだんと増えてる…

まぁいいよね!(白目

感想や小ネタのネタとかどんどんください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

どうも、こんばんは。

なんと、なんとぉぉぉぉぉぉぉ

自分の小説が日間ランキング39位にランキングしてました!!驚きましたよ。えぇ、しかも一時期とはいえ評価がオレンジに!今は黄色に下がりましたけどびっくりしまたよ。前回はお気に入り100人で喜んでいたのに今では200人を越えています!これも皆さんのお陰様です!
しかし本当に嬉しいです。こんな駄文と文章力がない自分の小説がランキング入りするんですもの。人間とは欲が出るものでまたランキング入りしたいと願望がでるものですね。なのでこれからも評価してもらえるよう頑張りたいと思います!

今度また記念として小ネタと挿絵を入れたいと思います!
一部訂正しました


6話

 

上条達は廃墟を抜けて、外装が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。上条達はそのまま居住区を素通りし、水樹を設置する苗を貯水池に設置するのを見に行くと、そこにはジンとコミュニティのメンバーなのか子供達が水路を掃除していた

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調っています!」

 

「ご苦労様ですジン坊ちゃん 皆も掃除を手伝ってましたか?」

 

賑やかに騒ぎながらも黒ウサギの元に集まっていく

 

「黒ウサのねーちゃんおかえり!」

 

「眠たいけどお掃除頑張ったよー!」

 

「ねぇねげ、新しい人達ってだれだれ!」

 

「強いの?カッコいい?可愛い??」

 

「YES!とても強く可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね。といってもここに居るのは1/6位しか居ないですけどね。」

 

黒ウサギが合図をすると子供達は一斉に横一列に並ぶ。数は20人前後だろう。中には猫耳や狐耳の子供もいた

 

「(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)」

 

「(実際に目の当たりすると想像以上に多いわ。これで1/6ですって?)」

 

「(私、子供苦手なのに大丈夫かなぁ。)」

 

「(こんだけ多いと食費とか馬鹿になんねーだろうな。)」

 

「(…嫌な予感がする、子供が苦手だからか?)」

 

5人はそれぞれの感想を心の中で述べる、これから共に生活するので悪態をつくわけないいかない

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、オティヌスさん、上条当麻さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのはギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者は彼等の生活を支え、時には身を粉にして尽くさねばなりません。」

 

「あら、別にそんなの必要ないわよ。もっとフランクにしてくれても」

 

「駄目です、それでは組織は成り立ちません。」

 

飛鳥の提案を、黒ウサギは厳しい声音で断わる

 

「流石に厳しすぎないか?」

 

「いいえ、コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのです、これは箱庭の世界で生きててく以上避ける事が出来ない掟。今のうちから甘やかしては将来の為になりませんから。」

 

「…そう。」

 

黒ウサギはこれ以上、何を言われても聞きませんと言わんばかりに飛鳥を黙らせる

 

「此処に居るのは子供達の中でも年長組にあたります。ゲームには出られないものの、獣のギフトを持っている子もおります。用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。皆もそれでいいですよね?」

 

「「「「「よろしくお願いします‼︎‼︎」」」」」

 

耳鳴りがするほどの大きな声で子供達が叫ぶ

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか。」

 

「そ、そうね。」

 

「雰囲気が明るそうでよかった。春日部もそう思うだろ?」

 

「う、うん。」

 

ヤハハと笑う十六夜に、元気な子供をみて微笑む上条、飛鳥と耀はなんとも言えない顔をしていた

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!水樹を植えましょう!」

 

「あいよ。」

 

長年使われてない水路だが骨格はまだ残っている。しかし所々には砂利などがあった。流石に全て掃除するのは無理があったのだろう

 

「この水樹だと全ての水路を埋めるのは不可能なので、本拠の屋敷と別館の水路だけにしましょう。こちらは皆で川の水を汲んできたときに時々使ってきたので問題ありません。」

 

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶの?」

 

苗を植える準備をする黒ウサギに代わりジンと子供達が答えた

 

「そうですよ!みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました。」

 

「半分くらいはコケてなくなちゃうんだよねー。」

 

「いままで頑張って来たんだ、偉いな。」

 

上条は子供達の頭を撫でる、今まで褒められる事は黒ウサギにしかされたなかったので嬉しいのか尻尾を振る

 

「…大変なのね。」

 

質問をした飛鳥は表情を落としていた、箱庭なのだからもっと幻想的なものを期待していたのだろう

 

「それでは苗の紐を解いて張ります!十六夜さんと上条さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

「「へーい。」」

 

十六夜と上条が貯水池に降りようとする、すると黒ウサギがオティヌスを呼び止める

 

「あっ、オティヌスさん。」

 

「なんだ?」

 

「あの…少し濡れますので私が預かってもよろしいでしょうか?」

 

基本無口なのか子供達とは会話は全くせず上条の肩に座る彼女。流石に何度も濡れるのは嫌なのか即答した

 

「仕方ないか。私としても、これ以上は濡れたくはないからな。」

 

ひょこと上条の肩から黒ウサギの手に飛び移る

 

「上条さんは濡れてもいいのかよ…。」

 

「メソメソするな。私だって人間のせいで何度落ちたと思ってる?それとも」

 

「はい、すみません。大人しく濡れてきます。」

 

2人の漫才を見てた黒ウサギは苦笑いをする、十六夜は先に降りて上条を待っていた。オティヌスを預けた上条はすぐに降りて水門を開ける

 

黒ウサギは苗の紐を解く。すると根を包んでいた布から水が激流となり貯水池を埋める

 

「ちょ、少しはマテやゴラァ‼︎流石にこれ以上は濡れたくねぇぞオイ!」

 

「何が少しだよ!思いっきし激流じゃねーか!」

 

十六夜は慌てて石垣まで跳躍するが、そんな人間離れな事など上条には出来るはずもない

 

「オイィィ、なに自分だけ助かってんだよ!上条さんにはそんなちょう」

 

そんな事を言ってる間に激流は上条を襲う、抵抗することも出来ずに流されていく

 

「ガボッゴホッ不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁゲボッ。」

 

水門を勢いよく潜る激流と上条は水路を満たしていく。

 

「…とりあえずアイツ助けてくるか。」

 

「…よろしく頼む。」

 

可哀想に思ったのか十六夜は屋敷に伸びる水路を辿っていく

 

 

 

屋敷に着く頃には月が真上に登り、屋敷を照らしていた。月明かりで見えるがホテルのように巨大である

 

「ふ、不幸だ…。」

 

「まぁ…気を落とすなよ。不幸なんて今更の事だろ?」

 

「納得いかねぇ…。」

 

びしょ濡れの上条がふて腐れるがオティヌスはそれをなだめる

 

「遠目から見ても大きいけど、近くでみると一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「本当は伝統などがあるんですけど、今は好きなところを使っていただいて結構でございます。」

 

「あそこには誰が住んでるんだ?」

 

上条は屋敷の脇にある建物を指差す

 

「あれは子供達の館です。本来の用途は別なんですが、警備の問題でみんな此処に住んでます。」

 

上条達は自室を物色し、貴賓室で集まっていた、黒ウサギは大浴場の掃除に出向いていた

 

『お嬢…ワシも風呂に入らないとアカンか?』

 

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと。」

 

『後生じゃ、風呂だけは勘弁してくれ!』

 

かなり嫌なのか、三毛猫は耀の腕から抜け出し走り去る、それを追いかねるように耀も部屋から出る

 

「あっ!ごめん、お風呂には先に入ってて三毛猫を捕まえてくる。」

 

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!って春日部さんは?」

 

耀とすれ違いに黒ウサギが入ってくる、耀が居ないので周りを見回している

 

「三毛猫と鬼ごっこだとよ。」

 

「黒ウサギも先に入ってましょ。」

 

十六夜が簡単に説明すると、飛鳥は黒ウサギの肩を叩く。上条が何かを思い出す

 

「おい、オティヌス。」

 

「…どうしてもか?」

 

話しかけられただけで何かを察する、がその表情は暗かった

 

「どうしてもだよ。黒ウサギー。」

 

「はい、何でございましょう?」

 

有無を言わせず、黒ウサギを呼ぶ

 

「コイツのことも頼めるか?流石に一緒に入るわけにはいかないからな。」

 

「待て、私はまだ許可してないぞ!?兎も掴み取るんじゃない!」

 

「YES!任されました!ささっ、オティヌスさんも行きましょう 」

 

オティヌスも一応女性なので、流石に一緒に入るのはマズイと思ったのか黒ウサギに押し付ける。黒ウサギは嬉々としてそれを了承した、オティヌスは黒ウサギの手の中でジタバタするが抵抗虚しく連れ去れていく

 

「にんげぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。」

 

「さてと。」

 

黒ウサギ達がお風呂に向かい、しばらくすると十六夜は立ち上がる

 

「何処か行くのか?」

 

「ん?あぁ散歩だよ。言っておくが付いてくんなよ。」

 

何事かと思い話しかける、散歩だと言われて上条は微妙な顔をする

 

「こんな夜中にかよ。つっても野郎との散歩に付いていくかよ。」

 

「ハハッ、言えてるな。」

 

上条の言葉に笑い、十六夜は貴賓室を後にする

 

 

突如、爆発音が鳴り響く。貴賓室でゆっくりしてた上条は驚くも警戒心を最大限に高めながら周りを伺う、音源が別館の方からだと確認すると、すぐに屋敷を出て別館に向かう。

 

別館の前に行くと十六夜が立っていた。その手には石ころが握られており、クレーターがそこらに出来ていた。別館から慌てて出てきたジンが十六夜に問う

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「侵入者っぽいぞ。例の"フォレス・ガロ"じゃねぇか?」

 

「あの爆発音は十六夜がやったのか?」

 

「まぁな。」

 

2人の質問に答えながらも十六夜の視線の先は木陰にむかってる。そこには黒い人影と瓦礫が散っていた。辛うじて意識がある者が立ち上がる

 

「な、なんというデタラメな力…!」

 

「あぁ、これならガルドの奴とのゲームに勝てるかもしれない!」

 

「こいつら…。」

 

侵入者には敵意はなく、上条は何かに気付く。十六夜は侵入者に歩み寄り声をかける

 

「なんだお前ら、人間じゃねぇのか。」

 

侵入者の姿は犬耳を持つ者、長い体毛と爪を持つ者、爬虫類のような瞳を持つ者

 

「我々は獣のギフトを持つ者。しかし格が低いため、こんな中途半端な変幻しかできない。」

 

「へぇ…で、何か話をしたくて襲わなかったんだろ?ほれ、さっさと話せ。」

 

十六夜だけがにこやかにしている。上条も、ジンも何かを察したのか黙りながら悲しげな表情をする。侵入者達は目配せをした後、頭を下げた

 

「恥を忍んで頼む!我々の、いや魔王の傘下であるフォレス・ガロを叩き潰してほしい!」

 

「嫌だね。」

 

侵入者の言葉を簡単にひと蹴りする。その言葉を聞いた上条は拳を力任せに握っていた、ジンは憂鬱そうに俯いていた

 

「言っておくが人質なら、もうこの世にいねぇから。はいこの話題終了。」

 

「十六夜さん!」

 

俯いていたジンだが、あまりの物言いに慌てて割って入る、しかし十六夜は冷たい声音で接する。上条は険しい表情をしていた

 

「隠す必要あるのかよ。明日には知れ渡る事だろ?」

 

「それにジン、殺されてきた人質を攫っていたのは誰か…わかるだろ。」

 

ジンは振り返る。もし人質を救うために、人質を攫っていくという悪循環なら、この人達も人質を殺したと言ってもいいだろう

 

「そ、それでは本当に人質は?」

 

「…はい。ガルドは攫った人達を、その日に殺していたそうです。」

 

「そんな……。」

 

「クソッ…。」

 

侵入者達は項垂れる、今まで何のために悪さをしていたのか。救うために手を汚したのに救うどころか罪を重ねるだけだったのだから 。上条は何にもしてなやれない自分にムカついた

 

先ほどまで背を向けていた十六夜は振り返り、悪戯をする子供のような笑顔で近寄る

 

「(俺に口裏をあわせろ。)」

 

「は?」

 

口裏をあわせろ、とだけ伝えて今度は侵入者達に近寄る。何かわからないまま上条は十六夜の近くに立つ

 

「お前達、ガルドとフォレス・ガロが憎いか?叩き潰されて欲しいか?」

 

「あ、当たり前だ!俺達はアイツらの所為で今まで散々な目にあってきた!」

 

十六夜が肘で上条をつつく、上条に何とかコイツらを炊きつけろ、と小声で言う。急にそんなことを言われる上条だが言いたいことはあった

 

「それでお前達はガルドに挑んだのか?打倒しようとしたのか?自分に力が無いって決めつけて、他人に任せるのか?」

 

唇を噛み締める。挑戦なぞ最初に挑まれた時しかしてないからだ。何も言い返せなくなる、1人は言い訳をするかのように口を開く

 

「あ、アイツらは魔王の傘下だぞ!?格だって遥かに奴らが上だ。いや仮に勝てたとしても魔王につけられたら」

 

「その"魔王"を倒す為のコミュニティがあるとしたら?」

 

目を丸くして顔を上げる侵入者と、ジンと上条。十六夜がジンの肩を抱き寄せる

 

「このジン坊ちゃんが、魔王を倒すためのコミュニティを作るといっているんだ。」

 

「なっ!?」

 

上条達と侵入者達は驚愕していた

 

「人質のことは残念だった。だけど安心していい。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前達の仇を取ってくれる!その後も心配しなくていいぞ!なぜなら俺達のジン=ラッセルが"魔王"を倒すために立ち上がったのだから!」

 

「おぉ!」

 

後ろでは上条がもがいているジンの口を塞いでいる。大げさに言う十六夜、それに希望を見る侵入者達。

 

「さぁ、コミュニティに帰るんだ!そして仲間に言いふらせ!俺達のジン=ラッセルが"魔王"を倒してくれると!」

 

「わ、わかった!明日は頑張ってくれよ!」

 

ジンが何か言いたそうにするが、上条が口を塞いでるため何も言えないまま侵入者達は帰る、居なくなったのを確認すると解放され四つん這いになり呆然とするジンだった

 

「上条、お前は先に風呂に入ってろ。俺は御チビと話があるから。」

 

「へーい。」

 

呆然とするジンを無視して屋敷に帰る上条と十六夜、ジンは我に帰り十六夜を追いかける

 

上条が屋敷に戻るとお風呂から上がったのか黒ウサギ達が廊下を歩いていた

 

「あら、上条くんじゃない。」

 

「もう上がったのか。…オティヌスは?」

 

「あー、彼女なら」

 

飛鳥が何かを言おうとすると飛鳥の肩から屍となっていたオティヌスが起き上がる

 

「人間…、私はコイツらとは2度と一緒にお風呂に入りたくない。」

 

「駄目だぞ、上条さんと一緒に入るのは色々と問題があるから我慢してくれよな。」

 

とてつもない殺気が上条に向けられるがスルーする。風呂場で何があったから聞かないほうがいいと悟ったのか、これ以上話を詮索するのはやめた

 

「んじゃ、上条さんも風呂に入ってくるよ。春日部はまだ猫を?」

 

「YES 先程も廊下ですれ違ったので、まだ猫さんを探していると思います。」

 

「そうか、じゃ先に入るから春日部に会ったら言っといてくれないか?」

 

「わかりました!」

 

「ではおやすみなさい。オティヌスちゃんは上条くんの部屋に置いておくから。」

 

「おう、おやすみ。」

 

上条と黒ウサギ達はそのまま別れる。飛鳥と黒ウサギは部屋に向かい、上条は浴場に向かう

 

 

 

上条は大浴場で体を洗い流し、湯に浸かり人心地をつく。寛ぎながら天井みる、箱庭の天幕と同じなのか満天の星空が透けて見えた

 

「綺麗だな…、学園都市だとこんな星空は見れないな。」

 

学園都市に居た時はゆっくり星空を見るなんて暇はなかった、毎日が忙しく戦闘に明け暮れていたからもあるだろうし、記憶がないため星空をゆっくり見るなんて初めてだった。

 

夜空を見ながら寛いでいると大浴場の扉が開く音がする、十六夜かなと扉を見るとタオルを巻いた春日部がいた

 

「…え?」

 

春日部は驚くも何も言わないが恥ずかしいのか頬を染める

 

「す、すみませんしたー!今あがります!」

 

まさか耀が入ってくるなんて思ってもいなかった上条、すぐにお風呂から上がろうと立とうとするが、無口だった耀が口を開く

 

「…別に気にしてない。タオルを巻いているし。上条も入ったばかりなんでしょ?」

 

「確かに入ったばかりだけど、流石に男女が一緒ってのは」

 

何か言う上条の事を無視して髪を軽く洗いお風呂に浸かる。すると三毛猫がニャーニャーと鳴きだす

 

『お嬢!男との混浴なんて認めないぞ!』

 

「三毛猫は少し黙ってて。」

 

三毛猫が何か言ったのか、耀はそのまま黙らせる

 

「春日部って本当に猫と話せるだな。」

 

その様子を見ていた上条が耀に話しかける、もちろん後ろを向きながら

 

「うん。」

 

「羨ましいな。上条さんも1度は動物と話してみたいもんだよ。」

 

表情は見えないが笑いながら言う上条に疑問を抱く耀

 

「上条は怖くないの?」

 

「ん、何がだ?」

 

いきなりの質問に首を傾げる

 

「私が動物と話しているのが。」

 

「あー、最初はビビったけど、上条さんが居た所には春日部より変な奴らとか沢山いたからな。」

 

「…そうなの?」

 

今度は耀が首を傾げる。自慢ではないが自分なりに周りから見たら変人だと自覚をしていた耀にとって意外な言葉だった

 

「まぁな、何かあるたびに噛み付く奴や、電撃を飛ばす奴、ツンデレな妹みたいな奴も居たからな。」

 

「何それ、上条って変な人に好かれるんだね。」

 

「だから春日部なんて可愛いもんだよ。」

 

可愛いと言われて春日部は顔を赤くする

 

「上条みたいな人に会ったのは初めて。今までは気色悪いとばかり言われていたから。十六夜はちょっと違うけど。」

 

『お嬢…。』

 

なんでこんな話題にしたのか春日部自身もわからなかった、ただ上条になら話してもいいと耀は思った、三毛猫もこんな春日部は見た事ないのか驚いていた

 

「そうか?さっきも言ったけど動物と話せるなんて上条さん羨ましいと思うよ。それに今日の試練だってカッコよかったしな。」

 

今まで耀は自分の力を恐れられたり。気色の悪い娘や、電波娘と蔑まれてきた。だけどそんな自分を褒めてくれる、耀は振り返り上条の背中を見る。上条の背中はそこらじゅうに傷が出来ていた。どうやったらそこまで傷だらけになるのか不思議に思ったが今聞くとのぼせそうなので、また別の機会に聞くことにした

 

「じゃあ私はもう上がるね。」

 

『お嬢、良かったな。此処にはお嬢の事を分かってくれる人が沢山いて。』

 

「うん、本当に此処に来て良かった。」

 

三毛猫を抱えながら立ち上がろうとする、が不幸にも足を滑らしたのか耀は上条の方に倒れこむ

 

「あっ。」

 

「え、フゴッ。かぼっ!?」

 

耀の声に振り向くと上条の視線の先には白い素肌が一面に広がる、一瞬だったので何が起きたのかわからない上条だがお湯の中に押される、口や鼻にお湯が入り込むものだから必死にもがくと手が慎ましくも柔らかい何かを掴む

 

「ひゃ!?」

 

耀から可愛らしい声がする、そんなのを気にはしていられない上条は手を動かす。柔らかくて気持ちいいのでずっと掴んでいたくなるが、溺れながらも上条の思考がある事に辿り着く。急いで上条は脱出する

 

「…変態。」

 

「す、すみませんでしたぁぁぁぁ。」

 

耀は自分の胸を押さえながら上条を睨みつける。自分のしでかした事に気付いた上条は水中土下座を試みる。

 

「…貸しだから。」

 

それだけ言い耀は溺れている三毛猫を拾い脱衣所まではしりさる。上条は何かされると構えたが、何もないので再び夜空を見て落ち着き

 

「…上がるか。」

 

 

今起きたことは後日ちゃんと謝るとして、明日は最初のギフトゲームだ、気を引き締める。そのまま黒ウサギから貰ったパジャマに着替える。何であるのかは聞かないで欲しい

 

自室に着くとオティヌスがベット上で立ち、睨んでいた

 

「オイ。」

 

ドスを効かせた声で上条に声をかけるが

 

「明日は大変だろうし、もう寝るぞ。」

 

当然のごとく無視する、今ここで無視しないと長くなりそうだと直感で思った

 

「って、人の話をだな!本気で寝ようとするなっ!」

 

オティヌスが怒鳴ってるが上条は色々あったので疲れたのか直ぐに寝た。久しぶりのベットは心地よかった

 




感想や評価など心待ちにしております。
春休み中なのですぐに続きを投稿できると思います!

挿絵何描こうかなぁ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小ネタ2

新刊昨日発売だったのか…!

これは読まなくてはry
先に挿絵に7話を書かないとな…

今回は小ネタです。
ネタが浮かぶけどレティシアがいないぃぃぃぃぃ
早くルイオスくんをゲンコロしないと…


小ネタ2

 

6話のその後

 

廊下を歩く、少女と三毛猫

 

『お嬢!あっしはアイツを許してないぜ、お嬢の身体を…弄るなんて…!』

 

「…その事については何も言わないで。流石に恥ずかしいから。」

 

『ニャ!?すまないお嬢…。』

 

「ううん、それに上条と話せて良かった。」

 

『あれさえ無ければ、かなり良かったんだけど二ァ。』

 

「でも貸しは作ったけど…、何しよう?」

 

『無難に買い物とか、ギフトゲームに付いてくるってのはつまらにゃいしなぁ。』

 

話が聞こえたのか飛鳥が現れた

 

「あら、春日部さんじゃない。どうしたのかしら?顔が赤いわよ、それに笑っているけども。」

 

「…少しのぼせただけ。それと笑っていない」

 

「え?確か上条君が先に入っていたけど、十六夜君から聞かなかったの?」

 

「…え?」

 

「上条君が先に入ったのを、春日部さんに伝えてねって言っておいたのだけれど、その様子だと聞いてないみたいね。」

 

「…聞いてないけど、別に何もなかった。」

 

「え、そうなのかしら?なら上条君とは擦れ違いになったのかしら。それなら良かったのだけれど。」

 

「うん、何も無かった。裸なんて見られてもない。胸も揉まれてないから。」

 

「…本当に何もなかったのね?」

 

「………もちろん。」

 

「まぁいいわ。それはそうと明日は頑張りましょ。」

 

「…うん。頑張る。」

 

「それじゃ、おやすみなさい。」

 

「おやすみ。」

 

飛鳥が立ち去り、見えなくなる

 

「…十六夜には今度お仕置きしないと。」

 

 

 

 

飛鳥と上条

 

「上条君じゃない。」

 

「ん、飛鳥か。どうしたんだ?昼寝にでも来たのか?」

 

「確かに日向日和で、草木もあるけど地面に寝るのは抵抗があるわね。」

 

「だろうな。飛鳥ってもろお嬢様そうだしな。何処ぞのビリビリと違って。」

 

「…ビリビリ?」

 

「あぁ、前の世界の知り合いなんだけど、そいつ一応はお嬢様学校に居るだけど。お嬢様ってよりジャジャ馬だったし、飛鳥みたいなお嬢様は初めて見たよ。」

 

「私だって好きでお嬢様してるわけじゃないのよ?本当は庭で昼寝なんて事もしてみたいけどプライドが許さないだけ。」

 

「なんだそりゃ。だったら何でここに来たんだよ。」

 

「……。」

 

「ん?どうした?」

 

「…暇なのよ。だから話し相手が欲しかっただけ。」

 

「春日部とか十六夜はどうした?」

 

「今はギフトゲームをしているらしいわ。」

 

「黒ウサギは?」

 

「子供達のお世話。」

 

「となると。」

 

「残りは貴方だけなのよ。」

 

「なーるほど。」

 

「てことだから、とことん暇つぶしさせて貰うわよ?」

 

「俺にできる範囲ならどーんと来いってんだ。」

 

「ふふっ、覚悟してよね?」

 

「(私も居るんだがな。)」

 

 

 

お風呂にて

 

「オティヌスさんの服はどうしましょう?」

 

「別に私はこれでいい。」

 

「…それは女としてどうなのかしら。」

 

「これしかないのだから仕方あるまい。」

 

「あっ!いい事思いつきました!!

 

「どうかしたの、黒ウサギ。」

 

「嫌な予感しかしないんだが。」

 

「まぁまぁ、続きはお風呂に浸かってからにしませんか 」

 

 

 

「で、兎の案とは何だ。」

 

「こほん。ドールハウスのお人形の服とかどうでしょう!」

 

「は?」

 

「良いわね、確かにオティヌスちゃんの身長と合いわね。」

 

「私は絶対に着ないぞ。フリフリが付いている服なんか着れるか。」

 

「あんな露出している服を着ている時点でアウトよ。」

 

「そ、それに上条さんも喜ぶと思いますよ?!」

 

「…………………考えておこう。」

 

「「(ちょろい。)」」

 

因みにオティヌスは桶をお風呂代わりにしています

 

十六夜と上条

 

「なぁ、上条。」

 

「なんでそうか。」

 

「お前のその傷、どうやったらそんな身体中に出来るんだよ。」

 

「うーん、別にたいした事はしてないけど?」

 

「たいした事してなかったら、そんなに傷は出来ねーよ。」

 

「といってもなぁ。俺が勝手に首を突っ込んで入院しての繰り返しだし。」

 

「因みに聞いておくが入院は何回してんだ?」

 

「数えてねーよ。」

 

「…へぇ。」

 

「言っておくがいつもいつも入院ばかりして家計は火の車になるから本当は入院したくもねーんだよ!」

 

「そこは興味ねぇが。それだけ戦ってきたって訳だろ?」

 

「いや、まぁそうだけどさ。」

 

「流石は白夜叉の知り合いが寄越したってだけはありそうだな。」

 

「上条さんは別に凄くもなんともないふつうの」

 

「嘘だな。普通?馬鹿言うなよ、普通の高校生なら入院も繰り返さないし傷も出来ない。それに雰囲気が違いすぎる。」

 

「雰囲気?」

 

「あぁ、明らかに戦闘慣れしているようだし。面白そうだし、ヤリ合おうぜ。」

 

「十六夜と喧嘩でもしたら負けるのが目に見えてるじゃねーか!絶対に嫌だっーの!」

 

「ちっ、つまらねぇ。」

 

「つまらなくて結構だよ!」

 

「まぁ気が向いたら殺りあおうぜ。」

 

「その時は絶対にこないだろうけどな。」

 

「ハハッ、期待してるぜ?」

 

 

上条と耀

 

「…お腹すいた。」

 

「食堂で駄々を捏ねても黒ウサギと子供達は今は農場だぞ?」

 

「…お腹すいた。」

 

「そんなに見つめられても勝手に食材を使うわけにはいかないから。」

 

「お腹すいた。」

 

「近づいてくんなよ!近いから!」

 

「お な か す い た 。」

 

「わかったよ!作ればいいんでしょ!?ちょっと待ってろよ、期待はすんなよ!?」

 

「…。」←ガッツポーズ

 

 

 

「ほれ、春日部は自分でつくれないのか?」

 

「…作れるけど面倒。」

 

「自分で作れるなら作れよ…。」

 

 

「…ごちそうさま、美味しかったよ。」

 

「お粗末さまで。」

 

「…オティヌスは?」

 

「あー、アイツは飛鳥と黒ウサギで服を買いに行ってるとか。」

 

「…服?」

 

「飛鳥があんな露出している服を女が着るのは許せないって。」

 

「…オティヌスって痴女なの?」

 

「違うからね!?色々と理由があって、あの格好してんだよ。」

 

「そう。」

 

「聞いてきた割には興味なさそうだなオイ!」

 

「…今度は私が上条にご飯を作ってあげる。」

 

「マジで!?」

 

「う、うん。」

 

「楽しみにしとくよ。」

 

「期待しててね。」

 

「おう!」

 




一つべ、別に上条さんをハーレム化なんて事は目指してません。えぇ、ただ上条さんが男前なのがいけない。うん

あとオリキャラが出るかもしれません…、正直出したくないんですけど出さないと上条さんか辛いです…、学園都市で苦労してんだからいいですよね…?

挿絵ですが6話に貼る予定をしています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

えー、前回投稿した7話ですが、あれを訂正して再投稿させていただきます。

すでに見た読者さん大変申し訳ありません

今後ともよろしくお願いします


7話

 

上条達は"フォレス・ガロ"のコミュニティの居住区を向かう

 

「あ、皆さん!見えてきました…けど。」

 

黒ウサギは目を疑った。居住区が森のように生い茂っていたからだ。ツタの絡む門をさすりながら耀は呟く

 

「…。ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ。」

 

「いや、おかしいです。此処は普通の居住区だったはず…、それにこの木々はまさか⁉︎」

 

ジンは木に手を当てる。その樹枝はまるで生き物のように脈を打つ。

 

「"鬼化"してる?まさか…。」

 

「ジン、ここに"契約書類"が貼ってあるぞ。」

 

上条は声をあげ指を指す。そこには羊皮紙があり、今回のゲーム内容が記されていた

 

『ギフトゲーム名"ハンティング"

 

・プレイヤー一覧

上条 当麻

春日部 耀

久遠 飛鳥

ジン=ラッセル

・クリア条件

ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐

・クリア方法

ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。

指定武器以外は"契約"によってガルド=ガスパーを気付ける事は不可能。

・敗北条件

降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武器

ゲームテリトリーにて配置。

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

"フォレス・ガロ"印』

 

「ガルドの身をクリア条件に指定武器で打倒!?」

 

「こ、これはマズイです!」

 

ジンと黒ウサギは出された条件に驚く、それに疑問を持った上条が問いつめる

 

「そんなにまずいのか?ゲーム自体は簡単そうだけど。」

 

「確かにゲームの内容自体は簡単です。しかし問題はルールです。このルールだと飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ない事になります!」

 

ギフトが効かない、その言葉に飛鳥は顔を顰める

 

「…どういうこと?」

 

「ギフトではなく"契約"によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません!彼は自分の命をクリア条件に組み込む事で御二人の力を克服したのです!」

 

上条は己の右手を見つめながら呟く

 

「じゃあ俺の右手でも…。」

 

「上条さんのギフトでもダメージは与えられても傷はつけれないと思います。」

 

呟きに対して黒ウサギは顔を俯かせながら答える。

 

「やっぱり俺の右手でも駄目なのか。それと何でオティヌスの名前が無いんだよ、ガルドの奴、書き忘れたのか?」

 

上条は自分の力が通用しないかもしれないと確認すると、契約書類にオティヌスの名前が無いので不思議に思った

 

「いや、それは私がギフト扱いになっているからだと思うぞ。」

 

「は?」

 

「流石にこの体で人間にまとわりつくには不便で邪魔だろう、ならいっそのことギフトカードになった方が効率がいい。」

 

突然の告白に驚く上条。あくまでオティヌスは人だと言ってきたのだが、彼女がギフトカードになるなんてことになったら、彼女は人間だ、なんて言えなくなってしまう

 

「つまりギフトカードになってサポートするんですか?」

 

「そのつもりだ。全く、都合の良いことだ。」

 

黒ウサギは何か知っているのかオティヌスをみつめる。それに答えるかの様にオティヌスは口元に笑みをうかべる。

これは彼女が考えたのだ、それを否定することなんて上条にはできなかった

 

「…じゃあ頼むぞ。オティヌス。」

 

「任せろ、人間。」

 

だから上条は、この元魔神に任せる。不満はいくらでもあるが上条は渋々頷く。頷く事が分かっていたのかオティヌスは上条にだけ笑顔を見せてギフトカードの中に入った

 

門を開けて突入する、光を遮るほどの木々はとても居住区があった所とは思えなかった。レンガの家は巨大な根により崩壊していた。既に人が通れる道は殆どなく、道を掻き分けながら進んでいく。いつ奇襲がくるか分からない中、警戒していた耀が呟く

 

「大丈夫。近くには誰もいない、匂いでわかる。」

 

「そんな事まで分かるんだな。」

 

「春日部さんは犬にもお友達が?」

 

「うん。20匹くらい。」

 

耀は獣の友人が多いほど強くなるため五感では十六夜以上にある

 

「詳しい位置はわかりますか?」

 

「それはわからない。でも風下にいるのに匂いがないのだから、何処かの建物に潜んでる可能性は高いと思う。」

 

「ではまず森を散策しましょう。」

 

4人は散策を始める、所々に家屋があるが枝や根に食い破れていた。とても昨日まで人が住んでいたとは思えなかった。たった一晩でここまでの森を作ったガルドに油断出来ない状況だった

 

「しかし何もないな。そっちは見つかったか?」

 

「いえ、何も見当たらないし。武器もヒントもないわ」

 

「春日部はどうだ?」

 

上条と飛鳥とジンは散策をしていたが、耀はギフトを使い高い樹に登っている

 

「見つけた。」

 

「本当か?!」

 

耀は樹から飛び降りレンガの残骸がある街路を指差す

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、目で確認した。」

 

耀の瞳は猛禽類をおもわせるような金色の瞳で指差す方向を見ていた

 

「流石だな、その力も頼りにするぜ。」

 

「鷹の友達もいるのね。けど春日部さんが居なくなって、友達は皆悲しんでるんじゃない?」

 

「そ、それを言われると少し辛い。」

 

「(友達か…、まぁ土御門の事だし、わかってくれるだろ。)」

飛鳥の言葉に耀は肩を落とすが、飛鳥は苦笑いし慰めるように叩く。そして4人は警戒しつつも本拠の館に向かう

 

 

 

 

「これが本拠の館か、随分と酷いものだな。」

 

館に着いたが、館の扉は取り払われ、窓ガラスは砕かれ、塗装もツタで剥がされていた

 

「ガルドは2階に居た。入っても大丈夫。

 

内装も家具も倒され壊れていた。ここまで酷いとある疑問が浮かぶ

 

「本当にこの森や舞台は彼が作ったのかしら?」

 

「…分かりません。けど舞台を作るのなら代理は頼めますから。…鬼化していたし、もしかして。」

 

ジンの最後の呟きは小声で、誰も聞いてはいなかった

ガルドは自身の自己顕示の為に建てた館を、ここまで壊すだろうか。

 

「森は虎のテリトリー。有利な舞台を用意したのは奇襲のため…でもなかった。それが理由なら隠れる意味がない。それに館を破壊する必要なんてない。」

 

「わからないわ。ただ普通じゃなそうだけど。」

 

今の状況に慎重になり、小さな違和感でさえも見過ごせなかった

 

「…俺が1人で行く。」

 

突然の上条の提案に皆が驚く、皆が揃っていて1人で行くなんて考えられてなかった

 

「ど、どうしてですか?僕だって足手まといには!」

 

「そうよ、いくらアイツにギフトが効かないからって、それは無いんじゃない?」

 

いきなりの提案にジンと飛鳥は憤っていた、飛鳥に関しては怒りすらあった

 

「皆で突っ込んでもしもの事があったら大変だろ?それに飛鳥だってギフトが無かったら普通の女の子なんだしさ。」

 

「なっ!?納得がいかないわ!」

 

「納得してくれ、ジンを守る奴も必要だしな。」

 

上条の言葉に反論しようにもバッサリ切られてしまい、飛鳥は唇を噛みしめる。ジンは置いていかれることが前提とされ俯いていた

 

「…私は普通じゃない。上条よりも力は強いから付いていく。」

 

耀は1人で進もうとする上条に詰め寄る

 

「無口でコミュ障なだけじゃねーか。それ以外は普通だよ。」

 

耀のおでこを指でつつく、突かれたことでよろめくが、それでも見つめ直す

 

「それでもついて行く。」

 

「大丈夫、偵察がてらヒントを探すだけだから。心配すんなって。じゃ俺は行くから留守番頼んだぞ!」

 

何とかしてついていこうとするが、上条は適当に理由をつけて走り2階に向かう、それを耀は見送るしかできなかった

 

「…バカ。」

 

2階に向かう途中、オティヌスがカードから元の姿に戻り肩に乗る。

 

「良かったのか、人間。」

 

「良かったんだよ。それにアイツは俺が殴らないと気がすまないからな。」

 

「お前がそれでいいのなら、もう何も言わないさ。」

 

オティヌスは色々言いたいことはあったが、しかし今の上条何を言っても無駄だと知っているので何も言わなかった

 

2階に着き周りを見ると大きな扉を見つける、上条は直感でガルドがいるとわかった

 

「ありがとう、っと此処にいるな。」

 

「みたいだな、さてと私はカードの中に戻るとするよ。」

 

「そうしてくれ、それじゃ行くぞ!」

 

戦闘になると邪魔になるのでオティヌスはカードの中に戻る、扉を開けると銀色の十字剣を背に虎の化け物が叫びをあげる

 

「ギ…GEEEEEEEYAAAAaaaaa‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

その叫び声は一階で散策をしていた3人にも聞こえていた

 

「今の…ごめん、やっぱり私も行く。飛鳥とジンは退路をお願い。」

 

今の叫び声は普通じゃない、1人で行った上条が心配なのか耀も飛び出してしまった

 

「あっ、ちょっと!全くなんなのよ、もう!」

 

「クッ…。」

 

突然行ってしまった耀を止めることはできずにもどかしくなる飛鳥、ジンはというと何も出来ない自分に悔しさを感じていた

 

階段を上がる耀、見た限り普通の状態じゃないことなどわかっていた。だから耀は皆で行こうとした、だけど上条は1人で行しまう、言いたい事は色々とあった

 

「(やっぱり1人で行くのは駄目…!)」

 

 

 

 

ガルドと思わしき虎は地面を抉りながら突っ込んでくる。豪腕が上条に向け振るわれる。突然の攻撃だが上条はそれを横に飛び込み避ける

 

上条は傷はつけられなくても、ダメージが与えられるのならと殴りかかる

 

攻撃を完全に避けられたことによっ

てガルドは上条の攻撃を避けれずにあたる、しかし屈強な肉体を持つガルドにとっては軽かった

 

ガルドは反撃に噛みつこうと接近するが、また避けられる。思考能力がなくてもこのままだと埒があかないと気付き、ガルドは脚を使い部屋の壁を蹴り縦横無尽に動き回り攻撃する

 

突然、ガルドの動きが変わり戸惑う上条だが横からくる豪腕をなんとかしゃがみこんで避け、ガルドの顎を殴る。

スピードがついた分、今までよりもダメージが通ったのか動きが止まる

 

上条は動きの止まった隙を見て左手で銀色の十字剣を掴み、ガルドと対峙する

 

ジリジリ、とお互いに様子を見合い、静寂の時が流れる。それを破ったのはガルドでも上条でも無かった

 

「上条!」

 

春日部耀だった、しかし勢いよく扉を開けて飛び出して来たが耀の目の前にはガルドが居た

 

ガルドは迷わずに耀に攻撃するため跳躍する。避けられないと思い、目を瞑り腕を組んで防ごうとするが、衝撃が来ない。不思議に思い目を開けると

 

右手でガルドの豪腕を防いでいる上条当麻がいた。爪が腕に食い込んで血が絶え間なく出ている、上条は腕を払い左手で持つ十字剣で斬りかかるが避けられる

 

「か、かみじょ」

 

「待ってろって言っただろうが!!」

 

右手を押さえながらも怒鳴る、こうなっては右手はまともに使えない。左手にある剣は使い慣れないため当てられるかどうか怪しい

 

「とにかく今は、その剣で応戦するぞ。」

 

耀に無理やり剣を渡す、ガルドは上条に追撃するように腕を振るう。負傷しているはずの上条はギリギリの所で避ける、反撃として右手で殴ろうとするが、痛みで腕が上がらない。上条は反撃を諦め再び攻撃を避ける

 

耀は何とか2人の攻防に混ざろうとするが入れない、それもそのはずで戦闘が初めての耀にとって入れる訳もなかった。しかし剣を受け取り、唯一の攻撃手段を持っているのは耀だけ。自分が何とかしないといけない、隙を見て剣を刺そうとするが、もし上条に当たったらと思い踏み込めなかった

 

上条も避けるのには限界がある、腕を負傷し、反撃も出来ないでいたので防戦一方。しかも体力が何時まで続くかわからないでいた。耀が剣を使って攻撃を出来るように隙を作らないといけない。焦り始める上条、ガルドが噛みつこうと口を開き襲いかかる、上条はガルドの跳躍によって砕けた石を持ち、それを口に押し込んだ

 

ガルドは口に石を押し込まれるも噛み砕く、そしてまた上条に襲いかかる。耀は石を噛み砕く、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 

ガルドの腹を突き刺し、引き抜く。そして脚の健を斬り払う。これであそこまでの跳躍とスピードはでなくなる

一気に畳み掛けようとするが、ガルドは駄々をこねる子供みたいに腕を振り回す。その姿は負けたくない、負けたくないと言っているかのようだった

 

「何でだよ…、お前だって大切な人に死なれる悲しみくらい知っているはずだろ。何で他人の大切な誰かを殺せるんだよ。お前が何かを守る為に必死こいてたかもしれない、だけど本当にそれしか無かったのかよ!いや他にもあったはずだろうが!」

 

ガルドは悲痛な叫びをしながら突進をしてくるが、今まで以上の速さもキレもない。そんなガルドの攻撃は当たるわけもなく、上条の右手が深く突き刺さる、右手で殴ったせいか出血が更に酷くなり、とうとう立っていられなくなったのか膝から崩れ落ちる

 

横から耀の声が聞こえるが、何を言っているのかわからないまま倒れる上条

 

 

 

 

 

ゲーム終了を告げるかのように、鬼化した木々が消えていった。それを見ていた十六夜と黒ウサギは走り出す

 

「おい、そんなに急ぐ必要あるかよ。」

 

「はい…!黒ウサギの聞き間違いじゃなければ、上条さんは右手は重傷をしていて出血も酷いようです…、それに上条さんはギフトを使っての直接治療は出来ないんですよ?」

 

2人は持ち前の足を生かし上条達の元に駆けつける

 

「黒ウサギ!こっちです、上条さんがかなり血を流しています。」

 

駆けつけると耀は上条を抱え黒ウサギに渡した

 

「私がコミュニティまで運びます!あそこなら治療器具が揃ってますから。皆様は十六夜さんと合流してから帰って来て下さい。」

 

「わかったよ。」

 

ジンは頷く、黒ウサギは上条を抱えると、右手に触れさせないように全速力で工房に向かう

 

「全く、無茶しすぎですよ、右手で触れないように固定させます。」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

大変遅れて申し訳ない…

続きをどうぞ!

今更ですが感想をくれる人、評価をしてくれる方々ありがとうございます!


8話

 

"ノーネーム"本拠地の屋敷にある、上条の部屋で飛鳥は上条に問い詰めていた、その表情は一見笑顔だが目が笑っていなかった。上条は目を背けながら汗を流す

 

「…で、言いたいことはあるかしら?か み じ ょ う 君 」

 

「ナニモゴザイマセン。」

 

「…そう、なら反省しなさい。貴方がやってる事は、確かに立派だと思うわ。でもそれだと、仲間である意味がない。そこんところ覚えておいてね。」

 

「へーい。」

 

飛鳥は自分だけ置いてぼりにされた上に事にムカついていたが、反省するき無しの上条に呆れていた

 

「そういえばガルドはどうなった?」

 

「…死んだわ。」

 

「そっ…か。」

 

上条が倒れた後に耀が銀色の十字剣でガルドの心臓を刺し殺しゲームはクリアされた。上条もそれ以外の方法が無い事は分かっていたが悔しそうに俯く

 

「別に貴方が憤る事はないのよ。」

 

「あぁ。」

 

夜になり星が輝く夜空を窓から覗いていた。目を合わさないあたり無理しているのがわかったが何も言わない事にし部屋を後にする飛鳥

 

飛鳥の後ろにいた耀は申し訳無さそうにし謝る

 

「…ごめんなさい。」

 

「何で春日部が謝るんだよ?」

 

突然の謝罪にキョトンとする

 

「私のせいで怪我を。」

 

「はぁ?俺が勝手に突っ込んで怪我したんだから関係ねーよ。」

 

耀はガルドとの戦いに不用意に戦闘に混じり攻撃を庇われた時のことを気にしていた、しかし上条はそんな小さい事は気にもしていなかった

 

「でも」

 

「大丈夫だって、何も無いから。上条さんはもうピンピンしてるし!」

 

何か言おうとする耀だが、上条はそれを遮り、もう傷は平気と言わんばかりに腕を回す

 

「…ありがとう。」

 

そんな上条を見て、可笑しかったのか笑顔でお礼を言い部屋を出る、すると入れ違いで十六夜が入ってくる。あいも変わらない軽薄な笑みで歩み寄る

 

「で、本当の所はどうなんだ?」

 

「十六夜か…正直なところ痛くてしょうがないよ。」

 

十六夜に嘘をついてもバレると思い、仕方なく話しながら腕を抑える

 

「そっちじゃねぇよ。ガルドの事だ。」

 

しかし十六夜は怪我の事ではなく、ガルドを殺そうとしなかった事が気になる様だった

 

「…。」

 

「別に殺したくなかった。っていう美談は好きだぜ?だけど、それが可哀想だったからとか、同情したからだったら止めろ。理由がどうあれ命懸けのゲームを仕掛けたアイツに失礼だ。」

 

上条は無言で目を逸らす、十六夜は軽薄な笑みをやめ、殺意ある視線を上条に向ける。彼は命を懸けてまでゲームに挑んだガルドを多少なりとも評価していた。ただの外道かと思っていたが、そこまで出来るとは思っていなかったからだ。しかし上条の殺そうとしない姿勢に不快だった。話を聞く限り上条は右腕に傷を受けたがガルドを殺せる立場にあったのに、それをしなかった。怖気ついたのか知らないが十六夜にとって関係なかった

 

「別に…、俺はそんな事なんて考えてねぇよ。」

 

上条もそんな深い所までは考えておらず、ただガルドを救いたかった。ただそれだけだった。2人の間に気まずい空気が生まれる。しかし扉をノックする音がし、それを壊す。入ってきたのは黒ウサギだった、寝ていた上条を気遣ったのか、水を持ってきていた

 

「失礼します。上条さん具合の方はどうですか?」

 

「もう平気だよ、明日からでもギフトゲームは参加出来そうだ。」

 

心配する黒ウサギだが、上条は先程耀に見せたように腕を回す。黒ウサギはその姿を見て安心したのか胸を撫で下ろす

 

「なら良かったです…、しかし無茶はしすぎないで下さいよ!」

 

「わかってるよ。」

 

「「(絶対にわかってないな。)」」

 

今回のように無茶されては困るので注意するが、短い付き合いながらも上条当麻が素直に言う事を聞くとは思えなかった2人である

 

「ほう、そいつがオッレルスが呼んだという上条当麻か。」

 

3人は窓に振り向く、すると窓のガラスを叩き、にこやかに笑う金髪の少女が浮いていた。黒ウサギは飛び上がって驚き窓に駆け寄る

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよせ、今の私は物と呼ばれる身分。"箱庭の貴族"ともあろうものが、物に敬意を払うとなっては笑われるぞ。」

 

黒ウサギが錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながらも上条の部屋に入る。美しい金色の髪をリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を思わせるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩とは思えない位に幼かった

 

「こんな場所からですまない。ジンには見つからずに黒ウサギや上条当麻と会ってみたかっだ。」

 

「そ、そうでしたか、すぐにお茶を入れるので少々お待ち下さい!」

 

久しぶりに"ノーネーム"の仲間である彼女と会えたことが嬉しかったのか、黒ウサギはスキップしながら茶室に向かう

 

上条はレティシアが、オッレルスを知っている事が気になったのかレティシアに質問する

 

「レティシア…、お前もオッレルスの知り合いなのか?」

 

「まぁな、といっても避けられていたがな。」

 

レティシアはまた苦笑いをしながら、窓を見る。十六夜からの奇妙な視線に気付き首を傾げる

 

「私の顔に何かついているか?」

 

「別に。前評判通りの美人…いや美少女か。単に目の保養に鑑賞してた。」

 

十六夜からしてみれば真剣に答えたが、レティシアはその回答が可笑しかったのか口元を押さえながら笑いを噛み殺し、上品に装った

 

「なるほど、君が十六夜か。白夜叉からは話は聞いている。しかし鑑賞するなら黒ウサギにしたまえ。あれは私とは違う可愛さがあるぞ。」

 

「あれは愛玩動物なんだから、弄ってナンボだろ、上条もそう思うだろ?」

 

「「否定しない。」」

 

「否定してください!」

 

「ほぅ、話がわかるじゃないか。」

 

紅茶のティーセットを持ってきた黒ウサギが怒りながら机に置く。愉快そうに笑みを浮かべるレティシアを椅子に座らせ、紅茶を注ぐ際も黒ウサギは不機嫌な顔をしていた

 

「分からないで下さい!レティシア様に比べると世の女性の殆どが鑑賞無価値になります!黒ウサギだって」

 

「いや、全く負けちゃいないぜ?違う方向性で美人なのは否定しねぇよ。それに好みでいえば黒ウサギの方が断然タイプだからな。」

 

「そ、そうですか。」

 

十六夜から不意打ちの言葉に頬とウサ耳をが紅くする

 

「なんだ2人は逢引の途中だったのか?」

 

「滅相もございません!どのようなご用件ですか?」

 

慌てて話題を戻す。レティシアは他人に所有されている身分。その彼女が主の命もなく来たという事は、相当のリスクを負ってこの場に来ているのだろう

 

「なに用件といっても新生コミュニティがどの程度の力をもっているのか、それを見に来たんだ。それと上条当麻には謝らないといけないな。私のせいで君を傷つけてしまったからな。」

 

その言葉に上条達は気付く、鬼化していた木々やガルドは彼女のものなだった。

 

「…そうか、お前が。」

 

「察しが良いな。」

 

上条は立ち上がりレティシアをまだ完治していない腕で叩く、黒ウサギは突然の事に驚き上条を止めようとするが十六夜は無言で抑えさせた

 

「ッ!ふふっ、叩かれても文句は言えないな。」

 

叩かれたレティシアは、痛そうに頬を押さえ俯く

 

「チゲェよ…。俺はただガルド=ガスパーに謝って欲しいだけだ。」

 

しかし上条は悲しそうな表情でレティシアに訴えかける

 

「何…?」

 

こんな事を言われると思ってもいなかったのか、キョトンとするが上条は言葉をやめない

 

「確かにアイツは外道だよ。だけど、それだけで死んでいい理由にはならねぇ!もし鬼化していなければ結末だって違ったはずだ!」

 

「…確かにアイツが送ってくるだけのことはあるということか。」

 

レティシアは驚きながらも納得する、オッレルスが何故この少年を送ってきた理由が。上条は再びベットに座り、十六夜が何か思ったのか呟く

 

「吸血鬼か…なるほど、だから金髪美少女設定なのか。」

 

「あぁ…。」

 

「は?」

 

「え?」

 

「いや、いい。流してくれ。」

 

十六夜は手を振り続きを促す、上条だけが頷いていた

 

「で、何でレティシアはあんな事したんだよ。」

 

「…黒ウサギ達が"ノーネーム"の再建すると聞いた時は、愚かな事をと憤り、そしてコミュニティを解散するように説得するためチャンスを得た時、ある事を聞いた。神格級のギフト保持者と、私の知り合いが送り出した者が、黒ウサギの同志としてコミュニティに参加したとな。」

 

黒ウサギの視線は上条と十六夜に移る、レティシアは恐らく白夜叉にでも聞いたのだろう

 

「そこで私は試したくなった。新人達が本当にコミュニティを救えるだけの人材かどうか。」

 

「結果は?」

 

黒ウサギは真剣な眼差しでに問う。レティシアは苦笑しながら首を振る

 

「ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実、君は怪我してるし判断に困る。…足を運んで来たはいいが、さて。私はお前達に何と言葉をかければいいのか。」

 

自分でも胸の内を理解できないのか苦笑する、上条はそんな彼女を見つめる

 

「違うな。レティシアは黒ウサギ達が自立した組織としてやっていける姿を見て安心したかったんだろ?」

 

「…あぁ、そうかもしれない。」

 

上条の言葉に頷く、レティシアの目的は達成されずに終わった、飛鳥や耀の才能は素晴らしい。しかしまだダイヤモンドの原石のように荒い。上条は庇った為とはいえ怪我している、これでは安心して託すにはいかない。

 

しかし上条はそんな彼女に対し笑みを浮かべる

 

「そんな不安、俺が無くしてやるよ。

 

「何?」

 

「俺と勝負しよう、レティシア。」

 

上条は立ち上がる、レティシアは一瞬唖然とするが、すぐに弾けるように笑い声を上げ、涙目になりながらも立ち上がる

 

「ふふ、面白い。それは思いつかなんだ。だが実にわかりやすい。あぁ、初めからそうしていればよかったなぁ。では試させてもらうよ、上条当麻。」

 

「ち、ちょっと御2人様?!」

 

「ルールはどうする?」

 

「時間があまりないからな、私の攻撃を全て受け切ったら君の勝ちでいい。」

 

「わかった。」

 

笑みを交わした2人は中庭に場所を移す、屋敷から20mほど離れた所で向かい合う

 

「もう話を聞いてください!」

 

「まぁ、いいじゃねぇか黒ウサギ。アイツと元魔王様の実力も見たかったしな。」

 

窓に身を乗せながら怒鳴る黒ウサギをあやす十六夜

 

「し、しかし!」

 

「いいから、見てろって。」

 

十六夜はニヤニヤしながら2人を見る、その顔はとても楽しそうだった

 

上条とレティシアは地と天に位置していた

 

「うげっ、空を飛ぶのかよ。」

 

「あぁ。なんだ、制空権を支配されるのは不満か?」

 

「別にいいけどさ。」

 

翼を広げ空を飛ぶレティシア、その手には金と紅と黒のコントラストで彩られているギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になり叫ぶ

 

「レティシア様⁉︎そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。一方的とはいえ、これは決闘だぞ。」

 

ギフトカードが輝き、長柄の武具が顕現する。その武具は投擲用のランスへと姿を変え、掲げる

 

「ふっ!」

 

レティシアは呼吸を整え、翼を広げる。全身を使い槍を打ち出すと、その衝撃で空気中に視認できるほどの巨大な波紋が広がる。放たれた槍は一直線に上条に落下していく、流星の如く大気を揺らして舞い落ちる。レティシアは槍を再び顕現させ何度も放つ。普通の人間なら反応すら出来ないような速度の槍の雨を降らせる。槍を出しきりレティシアは肩で息をしながらも地上を見る。土煙を上げ上条が立っていた所は見えずにいた。終わったと確信し、レティシアはそのまま地上に降りた、あっさり勝負がついたことに溜息をつく。

 

「期待していたが、こんなものか。」

 

オッレルスが送ってきたので、もしかしてと思ったが、今の攻撃を防げないようでは話にならない。肩を落とし落胆し、屋敷に戻ろうとする

 

「誰が…こんなものだって?」

 

レティシアは振り向くと土煙が舞う中から現れたのは服に汚れているが、傷一つ無い上条当麻がいた

 

「あれを無傷で避けたのか…⁉︎」

 

苦笑が漏れる、オッレルスが送ってきた少年を期待外れなんて言った自分を恥じる。そして同時に安堵もする

 

「レティシア様!」

 

「く、黒ウサギ!何を!」

 

窓から飛び出た黒ウサギがレティシアの手に握られていたギフトカードを掠め取った

 

「ギフトネーム"純潔の吸血鬼"…やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない。」

 

「っ…!」

 

さっと目を背けるレティシア。黒ウサギと同じく窓から歩み寄る十六夜は呆れたような表情をしていた

 

「なんだよ。もしかして元魔王のギフトは吸血鬼しか残ってねぇのか?」

 

「…はい。武具は多少残してありますが、自身の恩恵は。」

 

上条も服の誇りを払い落としながら近寄りながら肩を落とす

 

「そんな状態でも、あんなにヤバいのかよ…。」

 

「傷を一つも付けないで、よく言えるな。」

 

あの攻撃は今の状態の自分が出せる全力だった。それを無傷で避けられたのでため息をつく

 

「あれは俺が運よく避けれたにすぎねぇよ。」

 

「運良くか…。」

 

レティシアは運で避けたとは到底思えず、納得していなかった

 

「それはそうとレティシア様、詳しい話をきかせてもらえますか?」

 

「それは…。」

 

黒ウサギが話題を戻し詰め寄る、レティシアは口を閉ざしたまま俯く

 

「まぁ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ。」

 

「…そうですね。」

 

黒ウサギとレティシアは沈鬱そうに頷く。中庭から屋敷に戻ろうとするが異変が起きる。レティシアは顔を上げると同時に遠方から褐色の光が4人に差し込み、叫ぶ

 

「あの光…、ゴーゴンの威光⁉︎まずい、見つかった!」

 

ゴーゴンの威光と聞いただけで今まで黙っていたオティヌスが叫ぶ

 

「人間!」

 

「わかってる!」

 

上条も嫌な予感がしたのか、3人を庇う為に前に立ち塞がり右手を光の方向へと突き出す、するとガラスが壊れる音が鳴り響き光が消える

 

光が差し込んだ方角から、翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士風の男達が大挙して押し寄せる

 

「ば、馬鹿な!石化の光を浴びたのに何故!?」

 

騎士の1人が驚くように叫ぶ。石化の光、つまりはゴーゴンの威光は光を浴びた者を石に変える。それを浴びておきながら誰も石化してないのだから驚くのも無理もない

 

「構わん!そのまま連行しろ!」

 

「しかし、これでは捕獲は厳しいかと!」

 

「だが連れて行かなければ我等の首が飛ぶぞ!」

 

指揮をしている騎士が強行しようとするが部下の一人がそれを止め、騎士達はどうしたらいいか混乱していた

 

「驚いた、ゴーゴンの威光を無効化したのか?」

 

レティシアは騎士達を無視し、ゴーゴンの威光を無効化した上条に驚愕していた

 

「まぁな、何ともないか?」

 

「お陰様でな、助かったよ。」

 

「しかしどうすればいいんこれ。」

 

石化を防いだのは良いが騎士達は空を飛んでいて、レティシアの反応から見るに彼女を所有しているコミュニティだと推測するが、こで下手に手を出すと、それこそ大事になる

 

「えぇい!無理矢理にでも連れ出せ!」

 

「ゴーゴンの威光を無効にしたとはいえ、たかが下層に本拠を構える"名無し"だ、我ら"ペルセウス"の敵ではない!」

 

騎士達のリーダーなのか、周りの騎士に指示をする。すると騎士の1人が周りの士気を上げようとする

 

しかし黒ウサギにとって、その発言は無視できずに激昂した

 

「こ、この…!不法侵入に加え、こちらに攻撃しようだなんて、非礼を詫びる一言もないのですが⁉︎」

 

激昂する黒ウサギを"ペルセウス"の男達は鼻で笑う

 

「ふん、下層の"名無し"に礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ!身の程を知れ。」

 

「なっ…なんですって…!」

 

黒ウサギから勘忍袋が切れる音がする。レティシアを捕獲するために無差別に石化しようたしたり、コミュニティを侮辱され、黒ウサギの沸点は振りきれる

 

「フン。戦うというのか?」

 

「恥知らず共め、我らが御旗の下に成敗してくれるわ!」

 

「愚かな"名無し"など相手になるわけないだろうが!」

 

口々に罵る騎士達。彼らはゴーゴンの旗印を誇らしげに大きく掲げると、百は超えているであろう軍勢は陣形を取るように広がる。

しかし黒ウサギは今までに見せたことのない物騒な笑顔で罵り返す

 

「ふ、ふふ。いい度胸です!多少は名のあるギフトで武装しているようですが、そんなので強くなった気でいるのですか?」

 

「何⁉︎」

 

今度は騎士達は怒声をあげる。黒ウサギは黒髪を緋色に変え威嚇する。臨戦態勢になっている黒ウサギを上条は鎮めようとする

 

「黒ウサギも落ち着けって!」

 

「ありえない…ありえないですよ。落ち着く?えぇ、無理です。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた"月の兎"をこれほどまで怒らせるなんて!」

 

しかし黒ウサギはそれを無視し、ギフトカードを取り出し掲げると刹那、まるで雷鳴なような爆音が周囲一帯に鳴り響かせ、掲げた右手には閃光に輝く槍が顕現していた、それを見た兵士達がどよめく

 

「雷鳴と共に現れるギフト…、ま、まさかインドラの武具⁉︎そんな話はルイオス様から聞いてないぞ!」

 

「本物のはずがない!どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

稲妻が走る槍を逆手に構える

 

「その目で真贋を見極められないのなら、その身で確かめるがいいでしょう!」

 

インドラの槍を黒ウサギは騎士達に向かって撃ちだそうすると、十六夜がウサ耳を引っ張る

 

「てい。」

 

「フギャ!」

 

するとすっぽ抜けたインドラの槍は雷鳴と共に騎士達とは違う方向に飛び、箱庭の天井に着弾する

 

「お ち つ け よ!白夜叉と問題を起こしてどうする、つか俺が我慢してやっているのに、1人でお楽しみとはどういう了見だオイ。」

 

「フギャア‼︎⁉︎って怒るところそこなんですか⁉︎」

 

十六夜はリズミカルにウサ耳を引っ張る、それを見ていた上条が呆れたように話しかける

 

「黒ウサギもじゃれていないで、これからどうするか考えないとだな。」

 

「これがじゃれているように見えますか⁉︎それより今はあの無礼者共に天誅を」

 

「アイツラなら帰ったぞ。」

 

「え?って逃げ足速すぎでしょう!」

 

衝撃の事実にびっくりしながらも空を見ると、騎士の軍団は綺麗さっぱり居なくなっていた。軍団の様子を見ていたレティシアは冷静に答える

 

「いや、ハデスの兜のレプリカで不可視になっているだけだ。」

 

「マジかよ。箱庭は広いな、空飛ぶ靴やハデスの兜なんて実在してるんだもんな。」

 

レティシアは"ペルセウス"に所有されていたのでギフトの詳細を知っていた、それに感慨深く頷く十六夜を黒ウサギは睨め付ける。このままだと険悪な雰囲気が立ち込めるので上条は黒ウサギを落ち着かせるため諭す

 

「黒ウサギも怒るのはわかるけど今はやめとけって。"ノーネーム"と"ペルセウス"で揉めたくないだろ?」

 

「そ、それはそうですが。」

 

「レティシアに詳しい話をしてもらいたい所だけど…これは使えるな。」

 

本来なら事の発端であるレティシアに色々聞きたい所だが、十六夜は何か思いついたのか軽薄な笑みを浮かべる

 

「他の連中も呼んで来い。上条はレティシアとお留守番だ。」

 

「何でだよ、俺も行くぞ?」

 

留守番と言われ不満なのか上条は十六夜に問いただす

 

「レティシアを護衛する奴が必要だからな。」

 

「レティシアも連れて行かないのか?」

 

何故レティシアも待機しなければならないのか気になり再び質問する

 

「こいつが来たら意味がねぇからな。」

 

詳細を言わない十六夜に、レティシアを守るという名目で上条も諦めさせる。するの今度は黒ウサギが質問する

 

「何処に行くんですか?」

 

「白夜叉の所だ。」

 

そういい十六夜と黒ウサギ、耀、飛鳥、ジンは白夜叉のいる"サウザンドアイズ"に向かう

 

 

 

留守番してろと言われた2人は上条の自室にいた、上条とレティシアはベットに座り並んでいた

 

「白夜叉から面白い奴だときいていたのだが、本当に面白いな。」

 

「面白いって、なんか酷くないか?」

 

レティシアは上品に片手で口を押さえながらも微笑する

 

「これでも褒めているんだぞ。私の攻撃をいとも容易く避けられたのは初めてだぞ。」

 

「容易くないからな⁉︎あんなの普通は死ぬからな⁉︎」

 

上条からしてみれば一発でも当たれない状況にいて、なんとか躱したのに、それを容易くと言われてはたまったものではなかった

 

「そう言われても説得力がないな。それにゴーゴンの威光も無効化していたな、あれはどうやった?」

 

「あぁ、俺はあらゆる異能…いやギフトを打ち消す事が出来るんだよ。」

 

「あらゆるギフトで打ち消すだと?」

 

打ち消すという言葉を聞き、手を顎に当てて考え込む

 

「あぁ、それが神のご加護であってもだ。」

 

「神の加護?それが本当なら凄いな。」

 

「まぁ、そのせいで上条さんは不幸なんだけどなぁ…。」

 

ベットに寝っころがり右手を見つめ溜息をつく、その様子を見ていたレティシアが笑う

 

「ふふ、本当面白いな。しかし黒ウサギ達が帰ってくるまで暇だな。」

 

暇を持て余す2人はいかに時間を潰すか考えた

 

「そうだ、君の話を聞かせてもらえないか?」

 

「あまり面白くはないぞ?」

 

「時間はあるしいいだろ。」

 

「それもそうか。あれは」

 

上条は身体を起こし自分の事を少し語りながら、黒ウサギ達の帰りを待つのだった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小ネタ3

えー今回も大変遅れて申し訳ありませんorz

言い訳はと言いますと…

書き溜めていたメモ帳のデータが消えた事と、学校の方が忙しくなったのが原因です…

今日か明日には続きを投稿できそうなので待っていてください

ではどうぞ!


キャラ崩壊注意

 

家計は火の車

 

"ノーネーム"屋敷 談話室にて

 

黒ウサギ「はぁ。」

 

上条「どうしたんだ、黒ウサギ?」

 

黒ウサギ「上条さんですか…、いえ何でもありません。」

 

上条「あんな深い溜息ついて何もないわけ無いだろ。」

 

黒ウサギ「うっ、………実は昨日のパーティとかやってたら路銀の方が…。」

 

上条「家計が火の車って訳か。」

 

黒ウサギ「申し訳ありません。」

 

上条「いや黒ウサギのせいじゃねぇよ。」

 

黒ウサギ「あはは…、そう言ってくれると助かります。」

 

上条「まぁな、これでも上条さんも家計と戦ってきたからな。」

 

黒ウサギ「むっ…黒ウサギもこの100以上いるコミュニティを支えきたんですよ?そんじょそこらの家計と違いますよ?」

 

「「…。」」

 

上条「いーや、うちの方が大変だね!暴食シスターさんと繰り返される入院費で家計が回らないんだぞ⁉︎特に暴食シスターときたら一食だけでも米が何キロも減るからな!」

 

黒ウサギ「黒ウサギだって家計のために、この衣装を着なければならないんですよ⁉︎それに子供達の世話だって大変なんですよ⁉︎」

 

上条「ファミレスとか行ってみろ、あの白い悪魔は本当に人間なのか、ってなるくらい食うんだからな⁉︎レシート見たときの恐怖といったら…!」

 

黒ウサギ「上条さんはまだらくですよ。白夜叉様の相手をすると本当に疲れるんですからね⁉︎会うたびに体を弄られるんですよ⁉︎」

 

上条「痛くない分まだマシじゃねーか!上条さんだってガブガブモンスターと、ビリビリ少女に、機動聖人と数えたらキリがねーぞ‼︎」

 

「「ぐぬぬ」」

 

黒ウサギ「こ、今回は引き分けとして。今度たっぷりと黒ウサギの苦労話を聞かせてあげます!」

 

上条「いいぜ、上条さんの不幸話に度肝を抜かすといい!」

 

十六夜「オティヌス、コイツ等は何をしているんだ?」

 

オティヌス「聞くだけ無駄だよ。くだらないだけだからな。」

 

続く…?

 

 

休養も大事

 

"ノーネーム" 庭にて

 

上条「……。」

 

オティヌス「……。」

 

上条「なぁ。」

 

オティヌス「私に言われても困る。」

 

上条「まだ何も言ってねーだろ!」

 

オティヌス「どうせ、暇だ。とか言うんだろ?」

 

上条「いやそうだけどさ。」

 

オティヌス「そんなに暇なら、ギフトゲームでもしたらどうだ?」

 

上条「面倒くさい。」

 

オティヌス「…他の奴はどうした?」

 

上条「ギフトゲーム。」

 

オティヌス「…。」

 

上条「イタッ、痛いから!つつくの止めて!ほら春日部と、レティシアが右腕が治るまで大人しくしろとか言うからさ!」

 

オティヌス「最初からそう言え。」

 

上条「悪かったよ。」

 

オティヌス「ふん。…人間は気にならないのか。」

 

上条「何がだ?」

 

オティヌス「学園都市の事は気にならないのか?」

 

上条「……気にならない。って言ったら嘘になる。インデックスや土御門、バードウェイ、神裂、御坂、一方通行、おせわになった奴らが今何しているのか、とか元気にしてるかなとか色々と考る時はある。」

 

オティヌス「戻りたいとは思わないのか?」

 

上条「…わからない。正直に今の暮らしも凄い充実している。問題児ばかりだけど、此処は確かに楽しい。黒ウサギや、このコミュニティもまだまだ助けられてないからな。…だけどあっちにもやり残した事は沢山ある。」

 

オティヌス「本当にいいのか?禁書目録を連れてきても良かったとは思うが。」

 

上条「いや。これは俺とオティヌスの償いでもあるんだ、それにインデックスは関係ないし、巻き込みたくない。」

 

オティヌス「そんなもんか。」

 

上条「そんなもんだよ。」

 

 

 

上条「暇だし、昼寝でもするか?」

 

オティヌス「私は構わない。」

 

上条「なんか最近寝てばかりだな。」

 

オティヌス「普段が寝てないだけだろ。」

 

上条「それもそうか。」

 

上条「おやすみ、オティヌス。」

 

オティヌス「あぁ、おやすみ。」

 

 

義妹…?

 

"ノーネーム"屋敷付近にて

 

「上条お兄ちゃん!」

 

上条「…え?」

 

「…?」

 

上条「い、いや。お兄ちゃんってのは?」

 

「だめですか…?」

 

か「うぐっ……はぁ、いいでせうよ。」

 

「やったー!ありがとう、上条お兄ちゃん‼︎」

 

上条「…悪い気はしないもんだな。」

 

オティヌス「ロリコン。」

 

上条「ちげぇからな!?ただ土御門の気持ちが少しだけわかった気がするだけだから!」

 

オティヌス「それはもうアウトだと思うが。」

 

上条「…子供が好きなだけだから。」

 

オティヌス「言い換えても、もう遅いぞ?」

 

上条「土御門が近くに居たせいで感覚が狂ったに違いない!」

 

耀「…2人で何の話をしているの?」

 

オティヌス「人間がロリコンになっただけだから気にするな。」

 

耀「…。」

 

上条「やめて!露骨に距離を取らないで!」

 

耀「…冗談。」

 

上条「分かりづらいわ!」

 

 

 

デルタフォース

 

"サウザンドアイズ"支店にて

 

白夜叉「おんしらの好みのタイプは何かの?」

 

上条「いきなり呼び出しといて、何なんだよ。しかもオティヌスを置いてこいとかさ。」

 

十六夜「何だよ、面白い事が始まるって聞いてすっ飛んできたのにさ。」

 

白夜叉「まぁまぁ、何もこんな話をするために、おんしらを呼んだのではないぞ?」

 

上条「じゃあ何なんだよ。」

 

白夜叉「他でもない………。黒ウサギの新衣装の話だ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

上条「帰ってい」

 

十六夜「詳しく聞こうか。」

 

上条「おい。」

 

白夜叉「黒ウサギのあの衣装も、もう長い。私が追求するエロを極限にまで出してしまったからに、他の衣装が霞んでしまう。しかし‼︎おんしらという存在が来た時にピキーンと来た。コイツ等となら今の衣装よりももっと完成度を高くできると‼︎私一人では到達できない領域をおんしらといれば、神すらも超えられる!さぁ一緒に語り尽くそうぞ!」

 

上条「かえっ」

 

十六夜「イイねぇ、イイねぇ…最ッ高だぜ!あぁ、畜生がッ!先程の発言は取り消す。よく俺達を呼んでくれた。ここにいる戦力なら白夜叉がいう神ですなら生温い!」

 

上条「俺を無視す」

 

白夜叉「それに当たり、おんしらの好みのタイプを聞いておこうと思った訳だの。」

 

十六夜「なるほど、此処で意見を出し合い互いが互いを切磋琢磨するってことか。」

 

白夜叉「そういう事だ。」

 

十六夜「だったら俺は断然、黒ウサギだな。」

 

白夜叉「ほぅ、理由は?」

 

十六夜「お嬢様の発育も良いが…黒ウサギのアレは凄すぎるだろ。」

 

白夜叉「ふっ、あれはいいものだ。触り心地、依存性、黒ウサギの反応…全てのレベルが高い!あれは唆る!」

 

ガシッ

 

白夜叉「ふっ、やはりおんしとは分かり合えそうだ。」

 

十六夜「ハハ、白夜叉と握手をする日が来るなんてな。」

 

上条「一つ言っておく。貧乳はステータスだ!希少価値なんだよ‼︎」

 

「「うわぁ…。」」

 

上条「…帰っていいか?」

 

「「駄目」」

 

上条「はぁ…。」

 

白夜叉「それでおんしの好みのタイプを聞かせて貰おう。」

 

十六夜「さっさと言った方が楽になるぞ。」

 

上条「寮の管理人のお姉さんが至高に決まっている。」

 

白夜叉「ふむ、お姉さんときたか。」

 

十六夜「年上好きかよ、貧乳は何処行った。」

 

上条「何か悪いのかよ!それに貧乳はあくまでもステータスの一つだからな⁉︎」

 

白夜叉「黒ウサギでは駄目なのか?」

 

上条「あー、黒ウサギだと何かお姉さんというより、お母さんって感じがするからなぁ。」

 

「「あー。」」

 

上条「春日部はお姉さんっていうより、守ってあげたくなるし。飛鳥は知り合いの言葉遣いを丁寧にした感じで何か違う。レティシアは確かにお姉さんっぽいけど、見た目が幼すぎる。黒ウサギはさっきも言ったけどお母さんみたいでな。」

 

十六夜「じゃあ、具体的にどういったのがタイプなんだよ。」

 

上条「全てを受け入れて包んでくれる、その包容力。体の疲れを癒してくれる、聖母のような笑顔。それがいいんじゃないか!」

 

「「うわぁ…。」」

 

上条「お前らに年上お姉さんの素晴らしさを教えてやる!今日は帰れないと思え!」

 

白夜叉「話が逸れてしまったが、その事も含めて朝まで語り合おうか。」

 

数時間たち朝

 

「「「こ、これだ‼︎」」」

 

白夜叉「やはりおんしらに頼んで正解だったの。これほどまでに完成されているのは、中々にお目にかかれないぞ!」

 

十六夜「ハハッ、徹夜した甲斐があったもんだ。」

 

上条「ここまで来たらとことん付き合ってやる…!今から帰って黒ウサギに着させてやる。」

 

 

 

 

 

 

"ノーネーム" 屋敷 談話室

 

「「「黒ウサギィィィィィィィィィィィィ‼︎‼︎‼︎」」」

 

黒ウサギ「な、何でございますか⁉︎」

 

白夜叉「新しい衣装を持ってきたぞーーー!」

 

黒ウサギ「いりません!というか上条さんに十六夜さんも、昨日は何処にいたのですか?」

 

「「白夜叉の所。」」

 

黒ウサギ「何しに行ったんです⁉︎」

 

上条「ふっふっふ、聞いて驚け!」

 

十六夜「見て驚け!」

 

白夜叉「我ら3人は共に知識を出し合い、そして黒ウサギの新たなる衣装が出来上がったのだ!」

 

黒ウサギ「何をくだら」

 

上条「くだらなくねぇ!この服にはな、俺達3人の血と涙の結晶で出来ているんだぞ‼︎」

 

十六夜「そうだ!俺達でデザインを決め一から作ったオーダーメイドだぞ、ありがたく着てもらうぜ!」

 

白夜叉「グヘヘ、黒ウサギ…覚悟ぉぉぉぉぉ‼︎」

 

黒ウサギ「ば、馬鹿なんですか⁉︎」

 

「「「問答無用‼︎‼︎」」」

 

黒ウサギ「こっちに来ないで下さい!」

 

上条「逃げるな!クソ、はやすぎるだろ⁉︎」」

 

十六夜「俺に任せろ!」

 

上条「頼んだ‼︎」

 

オティヌス「で、何を頼んだんだ?」

 

上条「そりゃ決まってるだろ、黒ウサギの新しい…。」

 

耀「新しい…何?」

 

上条「こ、これは白夜叉が」

 

飛鳥「白夜叉?何処にも居ないじゃない。」

 

上条「え…。」

 

オティヌス「何をしているのかと思えば…。」

 

耀「…詳しい話は部屋で聞くから。」

 

上条「……逃げるが勝ち!」

 

耀「逃げられると思う?」

 

オティヌス「人間の行動パターンなら私が把握していないとでも?」

 

飛鳥「私の出番ないじゃない。」

 

オティヌス「観念するんだな。」

 

上条「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」




今後ヒロインの事とか聞かれると思うんですが、禁書のようにダブルヒロインにしていこうかなと思います。因みに誰になるかは内緒です(遠い目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

本編は約3週間ぶりとかいうていたらく。

しかも明後日と言っておきながら普通に約束を破るというアホの所業

誠に申し訳ありません

次回は出来るだけ早めにしたいと思います!


9話

 

星が綺麗に輝き、満月が箱庭を照らす

 

"ノーネーム"の屋敷にある上条の部屋には黒ウサギ達は白夜叉の下から戻り、その詳細を上条とレティシアに教えるため部屋の扉に手を掛けドアノブをあげる

 

「失礼します。上条さ」

 

扉を開けて部屋に入ると黒ウサギはあまりの光景に目を疑った。敬愛するコミュニティの先輩が箱庭に来て1週間も経ってない少年と寄り添いながら寝ていたからである

 

「これは一体…何が起きたんでしょう?」

 

黒ウサギは飛鳥の方に振り向きながらも、驚きを隠せきれないのかウサ耳がピンと立っていた

 

「知らないわよ、腕枕までして随分仲良くなってるわね。」

 

そう上条の左腕はレティシアの枕となっていた、折りたたまれている為か上条の胸元にレティシアがいた

飛鳥は1度だけため息を吐いて頭を抑える。それを十六夜は横からヤハハと笑いながら上条もレティシアを見る

 

「美少女と添い寝か羨ましいもんだぜ。」

 

「…起こす?」

 

耀はいつも通りの無表情だったが、まさか上条達が寝ているとは思わなかったので結果報告をするために起こそうとするが、黒ウサギはそれを止める

 

「もう遅いですから明日にしませんか?」

 

上条はガルドとの戦いの傷も癒えないまま、レティシアと勝負したのだ、疲れるのも無理はない

 

「そうね、でも私達が交渉していた時も寝てたと思うとアレだけどね。」

 

黒ウサギ達が白夜叉の下に行った理由、それは"ペルセウス"と交渉するためだった。すると十六夜が何か思いついたのか、ニヤリと口元が笑う

 

「少し悪戯してやるか。」

 

「いいわね、それでどうする?」

 

「どうせなら起きた時に2人とも驚くやつがいいな。」

 

悪魔のような笑みを浮かべ2人はどうするか話し合う

 

「(レティシア様…申し訳ありません。黒ウサギにはこの問題児達を止める事は出来ません。)」

 

黒ウサギは、そんな2人を見て何かを悟ったかのような目でレティシア達が寝ているベット見る。春日部は面白くないのか、既に上条の部屋に居なかった

 

「そうね…、これなんてどう?」

 

飛鳥がとった行動は上条とレティシアを抱きしめさせるような体制にさせた。深く眠っていたのか起きる気配はなかった

 

「これなら起きた時の反応が楽しみだな。」

 

十六夜はヤハハと笑う、2人の声が大きかったのか、オティヌスが上条のベットの中から出てきた、そして呆れながらも注意をする

 

「全く悪戯もいいが程々にしてくれ。」

 

「何だよ、オティヌスは起きてたのか。」

 

「これでは寝床を確保するのが難しいんでな。」

 

本当ならば彼女もさっさも寝たい所なのだが上条とレティシアが一緒に寝ていてる為に場所が殆ど無かった

 

「ハハッ、そりゃそうか。」

 

十六夜はオティヌスの小言を軽く笑い飛ばし気に留めなかった

 

「それに、五月蝿くされると眠ろうにも眠れない。」

 

「御主人が起きるから静かにしろって所か?」

 

「そんな所だ。どうせ明日も早いのだろう?寝なくていいのか。」

 

オティヌスは真夜中に部屋を訪れた黒ウサギ達には何かあるなと思い寝るよう促した

 

「「「はーい。」」」

 

 

 

レティシアが目を開けると、目の前にあるのは白いシャツと、シャツからかすかに見える鎖骨が見えた

 

「ん…ん⁉︎」

 

突然の光景に驚いくレティシアだが、次に抱きしめられていることに気付く

 

「(確か…話をしていたが、黒ウサギ達が遅いから先に寝たのは覚えている。だが今のこの状況は一体何が起こったって言うんだ⁉︎)」

 

レティシアは上条に覆われる様にに抱きしめられていた

 

「…もう逃がさないぞ」

 

「(寝言…?ふぎゅ⁉︎)」

 

上条が寝言を言いながら、レティシアを強く抱きしめる。男に抱きしめられたのは初めてのレティシアは対処法などわかるはずもなかった

 

「(ま、まずい。こんな所を黒ウサギに見られては)」

 

今のレティシアは顔を真っ赤にしていた。なんとか頭を少し動かし扉に目を向ける。そこには可愛らしいうさ耳が見えた

 

「……………ムフ。」

 

「(黒ウサギィィィィィィ!何だその目は⁉︎見てないで助けろ!)」

 

黒ウサギは扉を少しだけ開け、片目を覗かせている。しかし、その目は敬愛する先輩に向ける目ではなかった

 

「(ムフフ。まさかレティシア様があのような顔をするとは…。上条さんもきっちりホールドしてますし、起こすのは後にして、ギリギリまで放置しますか。)」

 

本来なら上条達を起こし、昨日何があったかを聞きたい所だったが、あれでは無理と判断して部屋を去った

 

「(なっ⁉︎黒ウサギめ放置するきか⁉︎どうすればいい………そういえば誰かとこんな風に寝たのは何時ぶりかな。暖かいな…脱けだせそうにないし寝るか。)」

 

レティシアは抜け出す事を諦めて目を閉じる、上条から伝わる暖かさに頬を緩めながら眠る

 

 

 

 

外から鳥のさえずりが聞こえ、それにより上条が目を覚ます。昨日はガルドと戦い、レティシアの猛攻を避けたせいか疲れも溜まり、すぐに眠った上条だが、ある違和感に気づく

 

「……え?」

 

上条の胸元には可愛い寝息をたてながら眠っているレティシアがいた。レティシアに腕枕をし、さらに抱きしめている。学園都市にいる第1位でさえ顔が真っ青になる状況にいた

 

「(待て待て待て待て!上条さんは何でレティシアを抱きしめているんだ⁉︎てか左腕が枕にされてるし!落ち着け……いい匂い、じゃねーよ!)」

 

状況を確認する為に何とかして周りを見渡す。すると扉が少し開いていることに気づく。誰か居るのかと思い見ると十六夜が覗いていた。なぜ覗いているかは置いといて、上条はこの状況を打破するべく十六夜に助けも求めるような視線を送る

 

「(十六夜!お前なら助けてくれるよな!)」

 

十六夜が軽薄な笑みを浮かべて、右手の親指を立て、それを口を動かす。

 

「(や く と く 。 知るかよ!いや確かにいい匂いするけども!)」

 

十六夜の口パクをなんとか読み取る、上条は役得と言われ気にしないようにするが、レティシアの髪からはとてもいい匂いがして悶々とする。髪の匂いに気を取られていると、既に十六夜は扉から居なくなっていた

しかし今度は、耀が覗きに来る

 

「…。」

 

覗いていた耀は上条たちを見て、遠い目をし立ち去るのであった

 

「(無視かよ!何だよ今の、これだから上条は、みたいな表情すんなよ!そして立ち去るのはえーよ‼︎そうだ、右手さえ動ければ!」

 

上条は左腕が枕にされ、右手は抱きしめている。左腕は後回しにし、まずは右手を起こさないように取ろうとする

 

「ん…」

 

しかし運悪く、上条の右手はレティシアの脇に挟まっており、取ろうとして脇をくすぐってしまった

 

「(脇ィィィィィィ‼︎レティシアも変な声出すなよ!頼むから‼︎)」

 

上条が右手を取ろうと動かするとレティシアの脇にあたってしまう

 

「(マズイ、早くしないとレティシアが起きちまう。何とかしないと。」

 

度重なる右手の猛攻により、ついにレティシアの目が覚めてしまう、上条とレティシアの目が合う

 

「「え?」」

 

見つめ合う2人、上条からは汗が大量に出る

 

「(起きちゃったぁぁぁァァァ!)」

 

「(…そういえば抱きしめられていたんだったな。)」

 

両者共に考える事は全く別だった。上条はどうにしかして、この最悪な状況を打破するか考える。レティシアは少しの恥ずかしさはあるもの冷静でいた、このままでも良いと感じている程だった

 

「す、すみませんでしたぁぁぁ‼︎」

 

上条の行動は速かった、レティシアが目で追えない速度でベットから降り土下座をしていた

 

「⁉︎」

 

突然の土下座により驚くレティシア。

 

「いや、だって目が覚めたらレティシアを抱き締めているとか、どう考えてもアウトだろ!」

 

「あぁ…私は気にはしていないから。」

 

しかし話きいてないのか頭を下げ続ける上条は何故か粛清を待っている様にも見えた

 

「とか言ってビリビリとか、ガブリとかされるんだろ⁉︎あぁ、不幸だぁぁぁぁ。」

 

「い、いやそ」

 

レティシアがなだめようとするが、上条の耳には届かずにいた。すると騒ぎが聞こえたのか黒ウサギが入ってきた

 

「おや、もう起きたのですか?」

 

「…黒ウサギか。」

 

黒ウサギを見て目を細めるレティシア、上条は黒ウサギに気づかず、ひたすら土下座をしていた

 

「レティシア様おはようございます。お食事とお茶の用意は出来ていますよ。」

 

「あぁ、おはよう。食事後に話があるんだがいいか?」

 

黒ウサギは何事もなかった様に話しかけるが、レティシアは朝の事を恨んでいるのか笑顔ではいるが、全く笑っているようにはみえなかった

 

「え、大変ありがたいんですが、えんり」

 

黒ウサギは朝の事を思い出したらしく、目を逸らしながら部屋から出ようとするが、レティシアに止められてしまう

 

「まぁ、遠慮するなよ。な?」

 

「ハイ。」

 

「それと土下座はもういいから食事にしないか。」

 

黒ウサギと話をつけたレティシアは、いまだに土下座をしている上条を少し呆れる

 

「許してくれるのか…?」

 

上条はおそるおそる顔をあげて様子を伺う

 

「今回は黒ウサギ達に非がありそうだからな。なぁ黒ウサギ?」

 

「ソンナコトハナイデス。」

 

上条の隣で正座している黒ウサギは小刻みに震えながら答える

 

「やっと起きたか。」

 

「十六夜…何でさっき無視したんだよ⁉︎」

 

十六夜が部屋に入ってくる、上条は十六夜をみて朝の事を思い出したのか立ち上がり詰め寄る

 

「その話はもういいだろ。良いニュースがあるから飯食ったら談話室に来いよ。」

 

「良いニュース?はぁ、わかったよ。」

 

自由奔放な十六夜に上条は肩を落とす

 

 

 

上条とレティシアは食事を取り、談話室に入る、談話室には十六夜、ジン、飛鳥、耀、黒ウサギと"ノーネーム"の主力陣が集まっていた

 

「で、良いニュースって何だ?」

 

椅子に座り、黒ウサギが淹れてくれたお茶をすする

 

「"ペルセウス"とギフトゲームをする事になりました。」

 

「ゴホッ!ゴホッ⁉︎それの何処が良いニュースなんだよ⁉︎」

 

ジンの言葉に飲んでいたお茶を喉まらせる

 

「まぁ、話を最後まで聞け。ゲームに勝てたらレティシアは自由の身になるんだぞ?」

 

「ゲームの報酬って訳かよ。」

 

上条の顔が険しくなる

 

「レティシアは"ペルセウス"の所有物扱いだからな。」

 

「…話はわかったよ。それで何時やるんだ?」

 

レティシアの扱い納得がいかない上条は、自分を無理やり納得させる

 

「今日。」

 

「は?」

 

「これから"ペルセウス"に乗り込むんだよ。」

 

「はぁぁぁぁ⁉︎」

 

十六夜は口元に笑みを浮かべ立ち上がる。扉の前に立ちドアノブを握ると振り返り告げる

 

「今あっちは準備で大忙しだろうよ。それがチャンスでもあるけどな。あぁ、それと負けたら黒ウサギとお嬢様とお前が"ペルセウス"に移ることになるから。」

 

最後に重要な事を言い残し部屋を出る。黒ウサギ達も部屋を出るが上条だけが残り頭を抱える

 

「……不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 "FAIRYALE in PERSEUS"

 

・プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

上条 当麻

久遠 飛鳥

春日部 耀

・"ノーネーム"ゲームマスター

ジン=ラッセル

・"ペルセウス"ゲームマスター

ルイオス=ペルセウス

・クリア条件

ホスト側のゲームマスターを打倒

・敗北条件

プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

プレイヤー側のゲームマスターの失格

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

・舞台詳細,ルール

ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の最奥から出てはならない

ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない

プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う

失格となった挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ペルセウス"はギフトゲームに参加します

"ペルセウス"印』

 

契約書類に承諾した直後、五人の視界は間を置かずに光へと呑まれた

 

そして契約書類により上条達は強制移動させられる

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろって事か?まぁ寝てる訳無いと思うが。」

 

白亜の宮殿を見上げ、十六夜は興奮しているのか、いつもの軽薄な笑みとは違う。本気で楽しみにしている、このゲームを。箱庭に来てからの大規模なギフトゲーム、それが楽しみなんだろう

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずです。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。しかし黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です。」

 

黒ウサギは人差し指を立てて説明する。今回のギフトゲームは、ギリシャ神話にあるペルセウスの伝説の一部をかたどったものだ

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。ジンくんが見つかったら、私たちの負け。ならこのゲームには大きく分けて3つの役割分担が必要になるわ。」

 

飛鳥の隣にいる耀が頷く。本来ならこのゲームは大多数の人員で攻略するゲーム。少なくても10人単位で挑むものだが、それを5人で挑まなければいけないとなると役割分担は必須となる

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割。」

 

「春日部は鼻が利くし、耳も目もいい。不可視の敵は任せてもいいか?」

 

上条の提案に十六夜が続く

 

「飛鳥には悪いけど囮の方をお願いできるか?」

 

「…別にいいわよ。」

 

飛鳥は囮に選ばれる理由はわかってるつもりだか、不満そうな声で頷く

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒すのは上条さんと十六夜さんにお願いします。」

 

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、上条は多人数にも索敵にもできない、正直に言って相性が悪すぎる。だったらルイオスに挑む時の人員として使うしかないからな。」

 

上条の右手は確かに使える、が今回のゲームには相性が悪い。右手では索敵も大人数の相手をするには余りにも不向きだからだ。

 

「えぇ、今回は譲ってあげる。ただし負けたら承知しないから。」

 

黒ウサギは神妙そうな顔である事を口にする

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。相手が慢心している間に倒せねば、厳しい戦いになるでしょう。」

 

5人の目が一斉に黒ウサギにしゅうちゆする。上条が黒ウサギに質問をする

 

「ルイオスってそんなに強いのか?」

 

「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし推測が外れてなければ彼のギフトは」

 

「「アルゴルの悪魔だろ?」」

 

十六夜とオティヌスが同時に答える

 

「へぇ、オティヌスにも分かるのか。」

 

「言っておくが、この世に私が知らない事は殆どないぞ?」

 

互いに睨み合うが、十六夜は笑っていた

 

「へぇ、流石に名前は伊達じゃないって事だな。」

黒ウサギだけがは驚愕していた

 

「御二人は箱庭の星々の秘密に?」

 

「まぁな。昨日の内に白夜叉から機材を借りて星を観測しただけだけどな。」

 

「神話を齧ってさえいれば誰にだってわかることだろ?」

 

オティヌスも上条の肩に乗りながら自慢げな顔をする。黒ウサギはそんな2人を見て笑う

 

「オティヌスさんはともかく、十六夜さんは知能派でございます?」

 

「何を今更。俺だって生粋の知能派だぞ。部屋の扉だって、ドアノブを回さずに開けられるぞ。」

 

「………。参考までに、方法をおききしても?」

 

冷ややかな視線で黒ウサギは見つめる。十六夜はそれに応えるように笑い門の前に立つ

 

「そんなの…こうやって開けるにしまってんだろッ!」

 

轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった

 

 

飛鳥と二手に分かれた上条達は、息を殺しながら進んでいた。耀は耳を澄まして周囲の気配を探る

 

「飛鳥…心配だな。」

 

飛鳥は1人で宮殿を破壊しながら騎士達の囮をしている、上条も飛鳥が適任だとはわかる、しかし十六夜や、耀とは違い身体能力は普通の人間以下である彼女、もしものことがあると考えてしまう

 

「お嬢様なら大丈夫だろ。それとも上条が代わりにあの人数を相手にするか?」

 

「それが出来たら苦労してねぇよ。」

 

「情けねぇな。」

 

「うっせ。」

 

先頭に立っていた耀が、小声ながらも話している2人とジンに視線を向ける。耀が振り返った事で2人は会話をすぐに止める

 

「人が来る。皆は隠れて。」

 

緊張した声で警告をする。腰を落とし、まるで狩りをする獣のように奇襲を仕掛ける

 

「な、なんだ⁉︎」

 

突然襲われたので驚愕する騎士だが、すぐさま耀が後頭部を強打し、失神する。すると何かが倒れこむ音がし、何も無かった廊下から騎士の姿が現れる。騎士の近くには少し凹んだ兜があった

 

「この兜で間違いなさそう。」

 

「上条が兜を被っても無意味となると護衛を叩く必要があるな。」

 

十六夜が兜を拾い上げる。

仮に兜を人数分集めたとしても、上条の右手がある限り不可視のギフトは無効にされるため、透明化をしている敵を叩く必要が出てくる。その事を愚痴る十六夜だが、上条は特に気には止めていなかった

 

「それに関しては上条さんにではなく、右手に文句言ってくれ。」

 

「俺と春日部で透明の奴を叩くしかないか。」

 

透明になる兜は1つしかないため、1人で敵を叩きたいところだが、だが1人だと効率が悪く飛鳥もいつまで持つかわからない

 

「こんなとこで手間取ってられないしな。春日部には悪いけど」

 

「気にしなくていい。」

 

首を横に振る。敵を叩くとなれば派手に動くことが必要となる、それを実行してしまうと失格になってしまう、十六夜か耀で戦力的にどちらかを残すとなると答えは明白だった

 

「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでも2人には感謝しているぞ。今回はソロで攻略出来そうにないし。」

 

「だから気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから。」

 

耀は平淡な声で、断言する

 

「おう、上条に埋め合わせさせるから任せろ。…御チビは隠れとけ。死んでも見つかるな。」

 

「はい。」

 

さらっと埋め合わせを上条は自分に押し付けられ、文句を言いたくなった

 

「…埋め合わせの件については後で問い詰めるとして、ジンは俺が守るから安心しろ。」

 

「任せたからな。」

 

兜を被った十六夜の姿が消える

そして耀と、姿が見えない十六夜も宮殿の物陰から飛び出していった

 

「いたぞ!名無しの娘だ!」

 

「これで敵の残りは3人だ!」

 

「よし、その娘を捕らえろ!人質にして残りを炙り出せ!」

 

耀に襲いかかろうとする騎士達。それを宮殿の外まで殴り飛ばす

 

「これで春日部も失格か…。」

 

「大丈夫でしょうか…。」

 

上条と人は物陰から2人の様子を見ている。探知役の2人がいなくなったため上条は最大限にまで警戒心を高める

 

「十六夜も春日部も強いからな。大丈夫だと…ッ!」

 

瞬間、上条は腰を落とし物陰の奥に行こうとする

 

「どうし」

 

「しっ!」

 

話しかけてきたジンの口を抑える。足音も何も聞こえなかった、しかし上条は何かが居ると予感した。すると耀が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてた

 

「(春日部が吹き飛ばされた⁉︎あの2人でも感知出来ないのか?)」

 

「恐らく本物のハデスの兜だろうな。」

 

前触れもなく吹き飛ばされた耀を見て耀の五感と、あの十六夜が近くまで人間を感知出来ないのは不自然だった、上条は何故と思考する

心でも読んだかのようにオティヌスがギフトから実体になり、上条の考えていた答えを教える

 

 

「レプリカとどんな差があるんだ?」

 

「簡単に言うと姿だけでなく、完全なる気配消失をする。中々に厄介な代物だな。」

 

ギリシャ神話でペルセウスが受けた恩恵。神仏でさえ感知できない不可視のギフトを騎士は託されていた

 

「本当に厄介だな。」

 

「さてお喋りも此処までだ、いつ敵が出てくるか分からんからな。」

 

「助かったよ。」

 

オティヌスはギフトカードの中に戻る

物陰に隠れていても、見つかるのは時間の問題。見つかった時は何としてでもジンを逃がす準備だけはしていたが、爆音が起きた

耀は十六夜に肩を借りながら上条達の所に戻ってきた

 

「どうやら無事倒したみたいだな。」

 

「まぁな、だけど春日部が少し負傷してるから、あまり無理はできない。」

 

上条は耀の方を見る、足が赤く腫れていた

 

「…私は大丈夫。護衛も全員倒したから先に行って。」

 

肩で息をする耀を見て、強がって見せているのがバレバレだった

 

「ありがとうな。」

 

「別に、埋め合わせはしてもらうから。」

 

耀は壁にもたれかかり、こんな時でも表情を崩さないようにする

 

「やっぱり俺がしないといけないのか…。」

 

「今の所、何もしてないし妥当だろ。」

 

「うぐっ、わかったよ。」

 

今の所、飛鳥は囮、十六夜と耀は不可視の相手を蹴散らした。上条だけが何もやっておらず、ジンの護衛だけで納得せざるを得なかった

 

 

あの後、耀は体力を回復するためその場に残った。上条と十六夜とジンは白亜の宮殿を進み最上階に着く。最上階は天井はなく、とても簡素な造りだった

 

「十六夜さん、上条さん、ジン坊ちゃん…!」

 

最上階で待っていた黒ウサギは安堵したようにため息をもらす

 

上空には上条達を見下ろす人物がいた

 

「ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと。」

 

ルイオス=ペルセウス

このギフトゲームのゲームマスターである彼はロングブーツからは光り輝く翼があった、その翼を羽ばたかせ上条達の前に降り立つ

 

「何はともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階は。ゲームマスターとして相手しましょう。…この台詞を言うのって初めてかも。」

 

それは全て騎士達のおかげであった。しかし突然のゲームにロクな準備できずにいたのだ、もし万全の状態ならまた結果は変わったであろう

 

「突然の決闘だからな、勘弁してやれよ。」

 

「ふん、名無し風情を僕の前に来させた時点で重罪さ。」

 

ルイオスの翼がもう一度羽ばたく。彼はギフトカードを取り出し、光と共に炎の弓を取り出す

 

「お前みたいな、仲間を大切にしない奴なんかには絶対に負けねぇよ。」

 

上条は拳を握る、目の前の敵を倒す為に

 

「たかが名無しに何が出来るっていうんだ。」

 

そういい弓を引き放つ

普通の弓の軌道とはかけ離れていた、それはまるで蛇が獲物を狩る為に近づくかのようにだった

上条はそれを右手で壊す

 

「へぇ、たかがレプリカだけど、石化の光を無効化したのは本当のようだね、いい商品になりそうだ。」

 

上条を品定めするかのように矢を放ち、打ち消したのを見ると笑う

黒ウサギは炎の弓のギフトをまて顔色が変わる

 

「…炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりはない、という事でしょうか?」

 

「当然、空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。」

 

小馬鹿にするように上空に舞い上がる。首にかかるチョーカーを外し、付属している装飾を掲げる

 

「メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま"ペルセウス"の敗北になる。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろう?」

 

ルイオスの掲げた装飾が光り始める。十六夜と上条は臨戦態勢をとる

 

光が強くなり、ルイオスは叫ぶ

 

「目覚めろ "アルゴールの魔王"‼︎」

 

光は褐色になり、上条達の視界を染める

白亜の宮殿に甲高い声が響く

 

「ra……Ra、GEEEEEYAAAAAaaaaa‼︎‼︎」

 

それは、人の言語ではなかった。現れた女は身体中に拘束具と捕縛用のベルトが巻かれていた。女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立て叫ぶ。両腕の拘束具をひきちぎり、更に絶叫をあげる

 

「ra、GYAAAAAaaa‼︎」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ、黒ウサギ!」

 

耳を抑えていた黒ウサギは、十六夜の声に反応できず硬直してしまう。

舌打ちをし、十六夜は黒ウサギ抱きかかえ飛び退く

上条はジンを庇うように前に立ち、右手を上空に構え巨大な岩塊に触れると、岩から白い靄が漂うが直ぐに消えた

 

「…‼︎へぇ、石化のさせた物でさえ無効化するんだ。ますます価値があがるね。」

 

アルゴールはこのギフトゲームの為に用意された世界に対して石化の光を放ったのだ

 

「まぁ、今頃は君らのお仲間も部下も全員石になっているだろうさ。無能達にはいい体罰だろ?」

 

不敵に笑うルイオス。なんも防御もしていない十六夜と黒ウサギが石にならなかったのはルイオスがそうならないように調整したからだろう

 

上条は雲を打ち消すと、十六夜に近づき声を掛ける

 

「俺はルイオスを叩く、十六夜はアルゴールを頼めるか?」

 

「いいのか?アルゴールじゃなくて。」

 

上条の提案は、十六夜にはありがたい話だが、相性的に見れば上条がアルゴールと戦い時間を稼ぎ、十六夜がその間にルイオスを叩くのが手っ取り早い。しかし上条はそれを許さない

 

「俺はアイツを殴らないと気がすまなねぇからな。」

 

「そっ、じゃあ俺は楽しませて貰おうかな。」

 

十六夜からすれば邪魔者がいない状態で元・魔王と戦う事ことが出来るので異論はなかった

 

「ん、話し合いは終わりかい?どのみちアルゴールにやられるんだから無駄だろうけど。」

 

「テメェの相手は俺だ。」

 

上条は足を一歩踏み出し前に出し、その目はルイオスをはっきりと捉えていた

 

「はっ。話聞いてなかったの?君たちのあいてはアルゴールがするの。それに空も飛べなければ身体能力も凡人。そんな名無しの君に僕の相手が務まるかな?」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、かかって来いよ三下。」

 

挑発するルイオスを、それを挑発で返され表情が変わる

 

「僕が三下…だと?名無し風情のくせに…‼︎後悔するなよ!僕が相手をしてやる。アルゴール‼︎お前はさっさと、そいつを潰して援護しろ。」

 

「RaAAaaa!!LaAAAA!!!」

 

ルイオスはさらに上空に飛び、炎の弓を連続で引き放つ。蛇のように蛇行する軌跡の炎の矢を上条は右手一本で凌ぐ。攻撃を塞がれたのを見ると再び矢を放つ、しかし上条に弓が届くことはなかった。

 

「チッ、使えない。お前なんか空を飛ばなくても倒せるんだよ!」

 

ルイオスは無駄を悟ったのか、弓をしまい。"星霊殺し"のギフトを付与された鎌のギフト・ハルパーを手に取り、空を舞いながら上条に接近するが、轟音が響く。隣ではアルゴールがねじ伏せられ、十六夜は獰猛に笑いながら腹を踏みつけていた

 

「GYAAAAAAaaaaa!!」

 

「なっ、アルゴール‼︎」

 

アルゴールが一方的にやられているのを見て明らかに動揺をするルイオス。その隙を見て上条は跳躍する

 

「よそ見すんじゃねぇ!」

 

上条の右ストレートがルイオスの顔面に沈む

 

「ガッ!」

 

殴られた衝撃で地面に打ち付けられる、その衝撃で周りの石が砕ける。しかしルイオスはすぐに立ち上がり空に飛び距離を取る。上条は追撃が出来ない為に立ち尽くすしかない。そこにアルゴールを一方的に殴打していた十六夜が近づいてきた

 

「何だよ、追撃しないのかよ」

 

「空を飛ばれたら何も出来ないんだよ。」

 

十六夜は自分が相手をしてもいいがと考えたが、それだとつまらないと、自分の考えを却下する。どうするかと考えていると、あることを思い出す

 

「上条。」

 

十六夜は愉快に笑いながら上条の肩に手を置く。手を置かれた上条は沈鬱な表情をする

 

「嫌な予感しかしないのは何故。」

 

そんな上条を無視して、十六夜は上条を持ち上げ

 

「飛んで行きやがれー‼︎」

 

投げ飛ばした

 

「やっぱりかぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

十六夜が投げた方向にはルイオスが浮かんでいた。ルイオスは突然飛んできた何かに反応できなかった。投げ飛ばされた上条はなんとかルイオスの足を掴む。すると翼が生えていたロングブーツがガラスが砕ける音と共に散っていく

 

「なっ、ブーツが壊された⁉︎」

 

ロングブーツを破壊されたことにより、空に浮かぶことができなくなったルイオスは落ちていく

 

「へ、ちょっと待て。これって結局落ちるじゃねぇかァァァァァァ⁉︎」

 

上条は落下していく中でルイオスを下敷きにする形で衝撃を和らげ、すぐさまに立ち上がり距離を取る。地面に叩きつけられたルイオスは肩で息をした。そこにアルゴールがルイオスと重なるように再び叩きつけられる

 

「ガッ!」

 

「Gya…!」

 

2つの呻き声。主に暴れているのは十六夜だが、ギフトを壊された事に動揺が隠せなかった

 

「クソッ…名無しの癖に!アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!もう商品とかどうでもいい殺せ!」

 

歌うような不協和音が世界に響く。途端に白亜の宮殿が黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。しかし上条は申し訳無さそうに頬を掻いていた

 

「…なんか可哀想なんだけどいいのかな?」

 

「気にするな。」

 

「んじゃ遠慮なく。」

 

上条は脈打つ宮殿に触る。それだけで宮殿の悪魔化が解かれた

 

「は?」

 

あまりの事に声が出ないルイオス。十六夜はまだ遊び足りない子供のように声をかけた

 

「おい、ゲームマスター。まさかこれで終わりじゃないよな?」

 

ルイオスは屈辱で顔を歪ませる。初めての公式なゲームとはいえ、ここまで一方的に押されるなど、考えもしなかっただろう。何代をも受け継がれてきた、伝統ある"ペルセウス"が名無しである"ノーネーム"に完敗するなど許されない。そんなルイオスは悔しい表情から一変、凶悪な笑顔を見せる

 

「も、もういい。終わらせろ‼︎アルゴール。」

 

石化のギフトを解放する。先程はルイオスが遊び心で上条達を光の干渉外にまで外したが、今度はそうはいかない。星霊・アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ。これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。天地に全てを光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。それを十六夜は瞳を伏せて後ろに振り向く

 

「俺が出る幕でもねぇな。」

 

入れ替わりに上条が前に立ち、神様の御加護でさえも無効する、その右手で褐色の光を薙ぎはらう

 

光は右手に触れた瞬間に全て消えていく。褐色の光で埋め尽くされた空は、綺麗な星空に戻る

 

「ば、馬鹿な⁉︎せ、星霊のギフトだぞ⁉︎」

 

レプリカの石化の光を無効にする、それならまだわかる。所詮はレプリカ、紛い物だから無効にするギフトはあってもおかしくはない。靴を破壊された。それも考えらなくはなかった、装備品を無効化するギフトなら聞いたことはある。宮殿の悪魔化を強制解除した、呪いに特化したギフトを持っているならわかる。しかし星霊であるアルゴールの、オリジナルの石化の光を無効にするなど聞いたことない

 

「さぁ、続けようぜゲームマスターさん。」

 

軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの膝をつき戦意はほとんど枯れてい。そんなルイオスを見て黒ウサギはため息まじりに割って入る

 

「十六夜さん。残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」

 

「何?」

 

「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。ルイオス様は、星霊を支配するには未熟すぎるのです。」

 

「っ⁉︎」

 

ルイオスの戦意がない瞳から灼熱の憤怒が宿る。今すぐにでも殺しにかかろうとする眼光を放つルイオスだが否定しないのは黒ウサギの言葉が真実だからだろう

 

「ハッ、所詮は七光りと弱体化した元・魔王様って事か。」

 

ルイオスは十六夜の七光りという言葉は聞き流すことができなかった

 

「うるさい…名無しのお前等に何がわかる‼︎親が偉大?知るか‼︎僕だって一生懸命にやったさ!それなのに周りの奴らは親父と比較した挙句、七光りや、"ペルセウス"も落ち目だなんて言われた、僕の気持ちなんか分かるものか!」

 

ルイオスは初めて胸の内に溜めていた想いを吐き出す。そんな彼に上条は近づくわ

 

「だから人身売買にまで手をつけて、コミュニティを無理やり大きくしようとしたのか?」

 

ルイオスはその憤怒の瞳を上条に向ける

 

「あぁ、そうさ!七光りと蔑まれるなら、親父の時よりコミュニティを大きくしようとした。それの何処が悪いっていうんだ!人身売買の何がいけない、立派なビジネスだろ!箱庭に来たばかりの奴が何もわからないくせに…!」

 

ルイオスは立ち上がり思い出す、自分の敗北はコミュニティの負けだということを。今まで積み重ねてきた事が一気に無駄になる、それだけは許されなかった。汚い手を使ってまで今の地位を維持している、もし名無しのコミュニティである"ノーネーム"に負けるなんてことがあると、その地位が一気に崩れてしまう

 

「僕は負ける訳にはいかないんだ‼︎‼︎ペルセウスの為にも、僕自身の為にも‼︎アルゴール、お前はあの金髪を殺れ!俺はアイツを殺る!」

 

「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!!!!!」

 

アルゴールは十六夜に対して真っ向対決を挑む、勝てないとわかっていたとしても。ルイオスは上条に向かって駆け出す、その手にはハルパーが握られていた

 

「お前だって真面目にやってたんじねぇか、何で諦めるんだよ。七光りとか呼ばれるんだったら、ちゃんとした方法で見返せばいいじゃねぇか!人身売買なんて事して、大きくしても周りはお前を認めるのかよ⁉︎違うだろ!そんな事したって誰も認めたりしない!だったら、お前が誰もが納得できるやり方で認めさせてみろよ!」

 

上条も駆ける

 

右手を振りあげる

 

「うるさぁぁぁぁぁぁい‼︎」

 

ハルパーと右拳がぶつかり合う、ルイオスの手は弾かれハルパーは砕ける

上条は右拳を握り直し、ルイオスの顔面を捉える。殴られたルイオスは吹き飛び、そのまま動かなかった

 

ギフトゲーム "FAIRYALE in PERSEUS"は終わりを告げる

 

 

上条達はコミュニティに戻る。そこではレティシアが静かに帰りを待っていた。しかし、そんなレティシアに十六夜、飛鳥、耀の3人は口を揃えて言う

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん。」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「…え?」

 

突然の提案に呆れ声しか出ない上条、ジン、黒ウサギ、そしてレティシア

 

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したの私達だけじゃない?貴方達はホントにくっ付いただけだったもの。」

 

「うん。私なんて殴られたり、石になったりした。」

 

「それに挑戦権だって、俺が取っただろ。上条はレティシアを石化の光から守ったり、ルイオスを倒したから所有権を等分すると、2:2:3:3で話はついた!」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達は⁉︎」

 

「いや、そんな話は聞いてねーよ⁉︎」

 

上条と黒ウサギはツッコミを入れるどころではなく混乱していた

 

「話していなかったからな。」

 

十六夜は上条に向かって右手の親指を立てて、ドッキリ大成功!と言わんばかりのドヤ顔をしていた。だが当事者であるレティシアだけが冷静だった

 

「ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。正式にコミュニティを帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき中にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか。」

 

「れ、レティシア様⁉︎」

 

黒ウサギは今までにないくらい焦っていた。まさか尊敬していた先輩がメイドになるなんて夢にも思わなかったからだ。飛鳥は言うと既に持ってきてたメイド服をレティシアに渡す

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。これからよろしく、レティシア。」

 

「よろしく…いや、主従なのだから『よらしくお願いします。』のほうがいいかな?」

 

「あまり無理しなくていいんだぞ?」

 

上条はもう何も言う気力はなく、流れに身を任せることにした

 

「そ、そうか。…いや、そうですか?んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ。」

 

ヤハハと笑う十六夜。すっかり打ち解けたごにんをかみて、黒ウサギは肩を落とすしかなかった

 

 

 

 

"ペルセウス"との決闘から翌日の夜

上条はレティシアの部屋を訪れていた

 

「レティシア、ちょっといいか?」

 

「主殿か、どうかしたのか?」

 

「いや、俺と接する時はメイドみたいにしなくていいから。」

 

「ん、どういう意味だ?」

 

上条の言葉に首を傾げる

 

「折角、仲間になれたんだから普段通りに接してくれよ。」

 

上条としてはレティシアとは語り合った(何とは言わない)仲なのでメイドとして接しられるのは違和感しかなかった

 

「しかし、これは私が主殿達に恩義を感じているからやっているのだぞ?」

 

レティシアとしても自分を助けてくれた上条達に恩を感じ、メイドはそれを返すためにと自分で納得してやってる。しかも所有権が"ノーネーム"に移っただけなので命令を聞かないといけない。確かにメイド業は未だに慣れないが、これも命令なので仕方ないと割り切っていた

 

「じゃあ主として命令。俺といる時くらいメイドの事は無しにしてくれ。」

 

「……んっ、ふむ。主殿の命令とあらば従うしかないか。全く主殿も物好きだな。」

 

所有者の1人である上条に命令されては従うしかないと諦める

 

「あと主殿はやめてくれ。名前なら好きに呼んでいいから。それに物好きじゃなくて、メイド好きの友人に知られたら殺されそうで嫌なんだよ。」

 

上条の脳裏に浮かぶグラサンアロハの親友。もしバレでもしたら地の果てまで追ってきそうで怖かった

 

「では親しみを込めて、当麻と呼ばせてもらう。」

 

「おう、改めてよろしくな。」

 

上条とレティシアは改めて握手をする

 

「あぁ。よろしく、当麻。もうパーティが始まるから行くとするか。」

 

「おう、しかしパーティ用に作られたメイド衣装なんてあるもんだな。」

 

そういいながらレティシアのメイド服を触る。彼女の服は普段着る普通のメイド服ではなく、なんらかの礼装が施されたメイド服だった。そんな事を知らない上条は右手で触ってしまった

 

レティシアのメイド服が弾ける。慎ましい胸を隠す黒のブラジャーと黒のパンツが上条の目の前に晒されていた

 

「あっ……。」

 

やってしまった、しかし後悔するには遅かった。既にメイド服はただの布の切れ端となり原型などなかった

 

「なっ……⁉︎」

 

突然の裸にされたレティシアは顔を真っ赤にする

 

「レティシア様、しつれ」

 

タイミングが悪かったとしか言えない、黒ウサギが上条と全裸のレティシアが向かい合っているのを見て

 

「………イシマシタ。」

 

何事もなかったかのように扉を締め、部屋を後にする

 

「ふ、ふこ」

 

「不幸なのは私だからな⁉︎」

 

その後上条がどうなったのかは語るまでもない




なんと今回は15000文字…分割にすればもっと早く投稿できたじゃん!!

あほや!!
誤字脱字は随時見つけ次第修正したいと思います泣

2015/04/14
誤字訂正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

どうも1週間半ぶりです!
最近遅くて申し訳ないです…。
進級して落ち着くまでこのペースだと思います(白目

次はゴールデンウィークくらい…
そして今回から独自設定ネタを入れてますので…。何が質問や意見とかあったらいってください


レティシアをほぼ全裸にしてしまった上条。

あの後、黒ウサギは誰にも言わなかったが、上条をみる視線だけは冷たく変わった。

祝勝パーティが始まるとレティシアの服装が先程と異なり疑問に思った問題児達。すると十六夜だけは何が起こったか気付いたのか腹を抱えて笑っていた

上条とレティシアは気まずくなりそうになったが、十六夜に気付かれたことを察したのか、下手すると耀にもバレてしまうと思い、2人で協力して、その場をしのぐ事にした。因みに飛鳥はというと、メイド姿のレティシアを見てはしゃいでいた

 

上条が破壊してしまった服は、黒ウサギに強制的に協力してもらい、礼装としての効力はないが、服としては問題なく着れるように修繕した

 

パーティが終わり、上条はオティヌスから激しく説教されていた

上条を床で正座させ、オティヌスはベットの上に立っていた。しかしオティヌスの表情はとても穏やかなものではなかった

 

「いいか、その右手は箱庭だと危険なのを忘れるなよ。」

 

上条の右手は貴重な装飾品や装備品などを問答無用で壊してしまう。今回のように、何かしらの恩恵が付与された服でもビリビリに引き裂いてしまう

その事を何回も言われ聞き飽きたのか上条は両手をあげ

 

「わかったよ…オティちゃん。」

 

変な略称で呼ばれたオティヌスはその事を含め、反省する気が無いの上条を見て激昂する

 

「だから人間!その呼び方は止めろと何回もいっているだろ⁉︎それに怒られている立場って忘れたのか⁉︎」

 

オティヌスは拳を握りながら怒るが、上条からみたらその姿も可愛いく見えた。そして上条は正座をやめあぐらをかく

 

「えー、でもしっくり来るんだもん。」

 

「もんとか言うな!気色悪いぞ⁉︎」

 

語尾にもんを付けた上条に軽く鳥肌が立つオティヌスだが、自分と他の者の扱いに差があると気付く

 

「私の扱い本当に酷くないか?」

 

「え?」

 

「え?じゃない!寝る場所だって、同じでいつ潰されるかわかったもんじゃない‼︎」

 

説教してたが唐突に愚痴を言いはじめる。現在オティヌスのプライベートゾーンは学園都市に居た頃と違いお菓子の箱の家すらないため皆無なのである。寝るときも上条の枕の横で寝てるが、寝返りをうつだけで潰される可能性すらある

 

「えー。じゃあどうすればいいんだよ。」

 

「…ドールハウスだ。」

 

「はい?」

 

「ドールハウスがいい!あれなら私だけのプライベート空間もできるし、何より私に似合っている!」

 

学園都市のTVで見た、あのドールハウス。全てが職人の手で作られた為にとても高額で上条は手が出せずにいた

 

「いや、無理だろ。」

 

「何が無理だと言うんだ?」

 

「"ノーネーム"の財政的にオティヌスのドールハウスを買う余裕はねぇ!」

 

しかし"ノーネーム"の経済状況も芳しくはない。それはかつての上条家のように厳しかった、オティヌスの為だけにドールハウスは買えるはずもなかった

 

「ふっ、それはどうかな。ここは箱庭だぞ?それこそ、たかがドールハウスが報酬になっているギフトゲームだってあるに決まってるだろ?」

 

「いや、そうかもだけど。…わかったよ。」

 

「言ったな?言質はとったぞ。」

 

もしギフトゲームでドールハウスが報酬に出てたのならば、上条が必ず挑戦するという約束をした

 

「へいへい。もう夜も遅いし寝るぞ。」

 

「わかっている。ふふっ、楽しみにしておくからな。」

 

オティヌスは何か企んでいるかのように笑い上条の枕の横に寝たのであった

 

 

 

 

いつものように鳥がさえずるなかで、廊下からドタバタとした音がする。そして上条の部屋の扉が乱雑に開けられ十六夜が入ってくる。何事かと思い起き上がるが十六夜は背後に回り、腰回りに手を回して

 

「おーい、上条!さっさと起きやがれ‼︎」

 

ブリッジをするかのように後方に反り返りながら投げ飛ばした

 

「ふごっ⁉︎」

 

「今から出掛けるぞ。さっさと支度済ませろ。」

 

投げ飛ばしてすぐに部屋を出ようとする十六夜だが、上条も立ち上がり肩に手を置き十六夜を呼び止める

 

「いきなりジャーマンスープッレクスを極めておいてなんだよ!」

 

「あっ、それと黒ウサギとレティシアにバレないうちに行くぞ。」

 

十六夜は軽く上条の手を払い部屋を出る

 

「何なんだよ一体…。」

 

「もう少し静かにしててくれないか…。私はまだ眠い。」

 

「とりあえず置いていくからな?」

 

そして上条もオティヌスを放置し部屋を出るのであった

 

黒ウサギとレティシアは荒れ果てた見渡す限り荒廃としている大地にたたんずんでいた。しかし、そこはかつての"ノーネーム"が農園区として数々の食物などを育てた姿はもはや跡形もなかった

2人はそんな大地を見て悲しげに黄昏れていたが本拠に続く道の向こうから何かが走ってくる

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃーーーーん‼︎た、大変ーーーー!」

 

叫び声に振り向く2人。割烹着姿の年長組の1人、狐耳と2尾を待つ、狐娘のリリが泣きそうな顔で走ってきた

 

「リリ、どうかしたのですか⁉︎」

 

「実は飛鳥様が十六夜様と耀様と上条お兄ちゃんを連れて…あ、こ、これ、手紙!」

 

パタパタと落ち着きのない動きでリリは黒ウサギに手紙を渡す

レティシアはリリが上条をお兄ちゃん呼びしてることに疑問を抱いていた

 

「上条お兄ちゃん…?」

 

『黒ウサギへ。

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴方も後から必ず来ること。あとレティシアともね。オティヌスはまだ寝てるだろうから起こして連れて来なさいよ。

私達に祭のことを意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合

4人ともコミュニティを脱退します。死ぬ気で探してね。応援してるわ。

P/Sジン君は道案内に連れて行きます。』

 

「………。」

 

「………?」

 

たっぷりと黙り込む

黒ウサギは手紙を持つ手を震わせ悲鳴のような声を上げた

 

「な…何を言っちゃってんですかあの問題児様方あああああ‼︎‼︎」

 

黒ウサギの絶叫は一帯に響き渡る

急いで本拠に戻り、談話室に入ると、そこにはオティヌスがいた

 

「今叫び声が聞こえたが何かあったのか?」

 

黒ウサギは肩で息をしながらすぐに別の部屋に向かう

その姿をみたオティヌスは奇怪なものを見るような目をしていた、レティシアは何が起きたか事情を説明する

 

「オティヌスか。実はだな」

 

 

 

 

「んで、今から何処に行くんだよ。」

 

現在上条、十六夜、飛鳥、耀、ジンの5人は居住区を主発し、よく訪れる噴水広場にあるカフェにまで来ていた

カフェで陣取っていた上条だが、動こうとしない十六夜に質問をする

 

「北。」

 

「頼むからもっと具体的に頼む。」

 

しかし帰ってきたのは北の一言だった。そんな十六夜に頭を下げながら頼み込む上条

 

「北側で様々なギフトゲームが開催されたり、色んな種族が作った美術工芸品の展覧会、さらに北側の"階層支配者"が主催する大祭が予定されているんだよ。」

 

「えっ、美術工芸品…?」

 

美術工芸品という単語に上条はあることを思い出す

ドールハウスも美術工芸品の一部なんではないかと。もしやオティヌスは知っていたのかと気になってしまう

 

「…それがどうかした?」

 

「い、いや何でもない。それで、北側までどのくらいかかるんだ?」

 

「それは我等のリーダーが知ってるんじゃないか?」

 

上条が十六夜に問うが、十六夜はジンに問い直した

にやけながら見下ろす十六夜。ジンは大きくため息をつき、天を仰ぐ。その目を何処か遠くを見ていた

 

「時間というより距離で言えば98000Kmはかかりますよ。」

 

「「「「うわぁ。」」」」

 

4人同時に、様々な声音で。

嬉々とした、唖然とした、平淡とした、呆然な声をあげた

 

黒ウサギは子供達を使い、コミュニティの中を捜索に当たらせた。レティシアはオティヌスを肩に乗せながら周辺を飛び回り探し回った。捜索が終わり一度集合する黒ウサギ達は各々の報告に入る

 

「食堂にはいなかったよ!」

 

「部屋は全部見てきた!」

 

「屋敷の周辺にもいなかったぞ。」

 

オティヌスは何かを思い出したのか会話に割って入る

 

「そういえば人間なら外に出かけるとか言っていたぞ。」

 

「何故それを早く言わない!」

 

外に出ているとなれば今までの捜索の時間が無駄となってしまった。その事に軽く怒るレティシアだが、オティヌスも言い訳をするかのように叫ぶ

 

「仕方ないだろ⁉︎私も眠かったし、あまり覚えていなかったんだよ。」

 

レティシアは言い争っても仕方ないと踏ん切りをつけ、指示を出す

 

「外か…。黒ウサギは外門へ急げ!もしかしたらあの事がバレたのかもしれん。私は"サウザンドアイズ"の支店へ行く。」

 

「わかりました!あの問題児様方…!許さないのですよーッ!」

 

髪を淡い緋色に染め、屋敷の外に出て爆走するのであった

 

 

 

「いくらなんでも遠すぎるでしょう⁉︎」

 

あまりにも現実味のない数字に抗議する飛鳥

 

ジンは負けじと叫び返す

 

「えぇ、遠いですよ‼︎だから止めようって言ったじゃないですか‼︎‼︎」

 

飛鳥は少し落ち着き、足を組み直し再提案する

 

「そう。なら外門と外門を繋いでもらうことは出来ないの?」

 

しかしジンはこの提案にも顔を難しくした

 

「それはもしかして"境界門"<アストラルゲート>の事ですか?なら断固却下です!あれの起動させるには金貨1枚はかかるんですよ⁉︎この場にいる人数だけでも5枚はかかるんですよ!」

 

ジンに反対されら苦々しいかおで黙り込む飛鳥達

その様子を見て上条はあることに気づく

 

「もしかして、計画も立てずに出掛けようとしたのか?」

 

「まぁ、ニュアンスは少し違うがそんな感じだ。」

 

無計画で出掛けた事に唖然とする上条。しかし十六夜達が行きたがってるのを見てある提案をする

 

「全く…そんなに行きたいなら、招待状を寄越した奴の所にでも押しかけたらいいんじゃねぇか?」

 

「「「それだ!」」」

 

「え?」

 

3人は勢い良く立ち上がり上条の事を指差す

 

「黒ウサギ達にあんな手紙を残して引けるものですか!行くわよ、さっさと行くわよ!」

 

「おう!こうなったら駄目で元々!"サウザンドアイズ"に乗り込むぞゴラァ!」

 

「行くぞコラ。」

 

ヤハハとハイテンションに笑いながら十六夜はジンを掴み走り、飛鳥もそれに続く。耀はそれに続き、その場のノリで声を出す

 

その場に取り残された上条はお代だけを置き、十六夜達を追いかける

 

「えっ、お前ら黒ウサギにどんな手紙を残したんだよ⁉︎そんな話きいてねーぞ‼︎」

 

ジンはダボダボのローブに首を絞められながらか細い声を出す

 

「不幸で…す。」

 

5人は噴水広場を抜け"サウザンドアイズ"の支店の前で止まる。店前を掃除していた割烹着を着た女性店員に一礼され

 

「お帰り下さい。」

 

「いきなりそれは酷くないか?」

 

門前払いを受けていた

どうやら"ノーネーム"の面子はこの店員に嫌われているそうだ

 

「そう。じゃあ御邪魔します。」

 

飛鳥達はそれを無視し店に入ろうとする。しかし店員は大の字となって立ち塞がり、竹ぼうきを十六夜に向けて叫ぶ

 

「うちのお店は、"ノーネーム"御断りです!オーナーが居る時にで」

 

 

「やっふぉおおおおあおお!ようやく来おったか小僧どもおおおお!」

 

どこからか叫び声が聞こえ、白夜叉が扉を開け突進してきた。ズドンと鈍い音と共に上条とぶつかる

 

「だから何で俺に突進する必要が…。」

 

そういい力尽きる上条。白夜叉は立ち上がる、すると耀が何事も無かったかのように近づき招待状を白夜叉に見せる

 

「招待、ありがと。だけどどうやって北側に行くのかわからなくて。」

 

「よいよい。全部わかっておる。まずは店の中に入れ。…秘密裏に話しておきたい事もあるしな。」

 

目を細める白夜叉。上条を除く問題児達は悪戯っぽく笑い店に入る

 

 

残された上条はというと、流石に可哀想と思われたのか女性店員に担がれた後に起こされた

 

白夜叉はその幼い顔には似合わない厳しい表情を浮かべ、煙管で紅塗りの灰吹きを叩いてとう

 

「本題の前にまず、1つ問いたい。"フォレス・ガロ"のいっけんいこう、おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだが…真か?」

 

「あぁ、その話なら本当よ。」

 

飛鳥が正座したまま首肯する。白夜叉が小さく頷くと、視線をジンに移す

 

「ジンよ。それはコミュニティのトップとしての方針か?」

 

「はい。名と旗印を奪われたコミュニティの存在を手早く広めるには、これが一番いい方法がと思いました。」

 

ジンの返答に、白夜叉の視線はより鋭くなる

 

「リスクは承知の上なのだな?」

 

「覚悟の上です。」

 

「無関係な魔王と敵対するかもしれん。それでもか?」

 

「それこそ望むところだ。倒した魔王を隷属させ、より強大な魔王に挑む打倒魔王を掲げたコミュニティ。どうだカッコいいだろ?」

 

そこ問いに、そばで控えていた十六夜が不敵な笑みで答える

 

「…ふむ。」

 

茶化して笑う十六夜だが、その目は笑っていない

白夜叉は2人の言い分を噛み砕くように瞳を閉じ、しばし瞑想した後、呆れた笑みを浮かぶ

 

「そこまで考えてのことならばよい。これ以上の世話は老婆心というものだろう。 」

 

「ま、そういうことだ。それで本題はなんだよ。」

 

「うむ。実はその"打倒魔王"を掲げたコミュニティり東のフロアマスターから正式に頼みたい事がある。此度の共同祭典に、ついてだ。よろしいか、ジン殿?」

 

いつものように接する言葉ではなく。一つの組織の長同士として言い改める白夜叉。そのことにジンは嬉しいのか顔を明るくし答える

 

「は、はい!謹んで承ります!」

 

「さて、では何処から話そうかの。」

 

中庭に目を向けた後、ふと何かを思い出したかのように話し始める

 

「あぁ、そうだ。北のフロアマスターの一角が世代交代をしたのを知っておるかの?」

 

「そうなのか?」

 

「うむ。急病で引退だとか。まぁ亜龍にしては高齢だからのぉ。寄る年波には勝てなかったと見える。此度の祭は新たなフロアマスターである、火龍の誕生祭でな。」

 

「「龍?」」

 

「龍か…。」

 

キラリと光る期待の眼差しを十六夜と耀がみせる。

いつの間にか部屋に入ってきていた上条は右腕を見て何かを考えていた。白夜叉は十六夜と耀の眼差しに苦笑いしつつ説明を続ける

 

「五桁・五四五四五外門な本拠を構える、"サラマンドラ"のコミュニティ。それが北のマスターの一角だ。その、新たな党首は末娘である、ジンと同い年のサンドラが火龍を襲名した。」

 

サンドラと名前に反応したジンは首を傾げ、二度ほど瞬く。次の瞬間、ジンは驚嘆の声を上げ身を乗り出した

 

「叉、サンドラが⁉︎え、ちょ、ちょっと待ってください!彼女はまだ11歳ですよ⁉︎」

 

「あら、ジン君だって11歳で私達のリーダーじゃない。」

 

「それはそうですけど。いえ、だけど」

 

「なんだ?まさか御チビの恋人か?」

 

「み、違っ、違います!失礼なことを言うのは止めてください‼︎」

 

茶化す十六夜と飛鳥を怒鳴り返すジン

上条はジンと歳が変わらない少女が白夜叉と同じ立場なことに驚いていた

耀は関心がないのか続きを促す

 

「フロアマスターの党首が、そんな年端もいかない少女なのか。」

 

「それで、私達に何をして欲しいの?」

 

「そう急かすな。実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその若さ故、東のマスターである私に共同の主催者を依頼来てきたのだ。」

 

「それはわかった。んで、俺達に頼みたい事ってのはなんだ?」

 

「あぁ、それはだな。」

 

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

 

話をしようとする白夜叉を、耀がハッと気がついたような仕草で止める

 

「ん?んん、そうだな。まだ色々と手続き等と説明をしないといけんからの。小一時間はかかるかの。」

 

「それはまずいかも。…黒ウサギ達に追いつかれる。」

 

他の問題児とジンもそのことに気が付く。1時間も悠長にしていたら黒ウサギ達に見つかってしまう

ジンは咄嗟に立ち上がり

 

「し、白夜叉様!どうかこのまま」

 

「ジン君!黙りなさい!」

 

ガチンと勢い良く下顎を閉じる。飛鳥のギフトが働いたのだろう。

いきなりギフトを使った飛鳥に驚く上条。十六夜はその隙に白夜叉に催促する

 

「お、おい。飛鳥⁉︎」

 

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

 

「む、むぅ。別に構わんが、何か急用か?というか、内容を聞かず受諾してよいのか?」

 

「構わねぇから早く!上条にも事情は追々話すし何より、その方が面白い!俺が保証する!」

 

「そうか。面白いか。いやいや、それは大事だ!娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方ないのぅ?」

 

白夜叉の悪戯っぽい横顔に、声にならない叫びをあげるジン。上条は何がどうなっているのかわからず置いてけぼりになっていた。そして白夜叉は両手を前に出しパンパンと手を叩く

 

「 ふむ。これでよし。望み通り、北側に着いたぞ。」

 

たったそれだけで北側に着いた

 

「「「「…は?」」」」

 

その場にいた全員が素っ頓狂な声をあげる。無理もない、980000kmという馬鹿げた距離を一瞬で移動したと言うのだから

しかしそんな事を気には止めない問題児の3人は店の外へ走り出していた。しかし上条はその場に留まっていた

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は瞬間移動とか出来ないはずだ!」

 

上条当麻の右手に宿る幻想殺しは上条が対象になるのなら全てを打ち消してしまう。つまり瞬間移動や治癒など全ての効力は上条には効果はない

なのに白夜叉はそれを無視し移動させたのだ

 

「なに簡単なことよ。おんしではなく、箱庭を動かしているからの。」

 

つまりかつてオティヌスがやったように、上条当麻ではなく箱庭を動かしたのだ。しかも寸分の狂いもなく。その事実に上条は驚愕した

 

「…やっぱ凄いんだな。白夜叉は。」

 

「当たり前だ。伊達に最強の階層支配者と名乗っておるからの。」

 

いつまでもこない上条に痺れを切らした十六夜を掴み外に出る

 

「オイ!上条も早く来いよ!」

 

「わかったから引っ張るなよ!」

 

外に出るとそこには北側の街が一帯が見えていた

遠目からでもわかる程に色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊や、ゴシック調の尖塔群のアーチと、2つの外門が一体となった凱旋門。朱色の暖かな光で照らす巨大なペンダントライト。あまりの光景に上条達は目を奪われていた

 

「へぇ…!980000Kmも離れているだけあって、東とは随分と文化様式が違うんだな。歩くキャンドルスタンドなんて見れるとは思わなかったぜ。」

 

「俺達の住む地域とここまで違うんだな。」

 

「おんしらの住む外門が特別寂れておるだけであって、他の外門に行けば東側も良いところは沢山あるわい。」

 

北側ばかり褒められて悔しいのか、東側にもこれに負けないくらい素晴らしい所はあると無い胸を自慢げに張る

ワクワクが止まらないのか、飛鳥は美しい街並みを指して訴える

 

「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」

 

「あぁ、構わんよ。続きは夜にしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ。」

 

着物の袖から取り出したゲームのチラシ。4人が覗き込もうとする

 

「見ィつけた…のですよおおおおおおおおおお!」

 

絶叫と爆音と共に現れたのは

我らが同士・黒ウサギだった

 

「ふ、ふひ、フフフフフ…!ようォォォやく見つけたのですよ、問題児様方‼︎」

 

淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振りまく黒ウサギ

怒り狂う黒ウサギは仁王と言われても違和感は無かった

鬼ごっこをしていた十六夜、飛鳥、耀の中で真っ先に動けたのは十六夜だけだった

 

「逃げるぞッ!」

 

「逃がすかッ!」

 

「え、ちょっと、」

 

「何が起こってるんだよ…。」

 

「私が知るわけなかろう。」

 

十六夜は隣にいた飛鳥を抱きかかえ、飛び降りる。上条と白夜叉は状況を把握しきれずに、ただ突っ立ていた。耀は旋風を巻き上げて空にいげようとするが、遅かった。黒ウサギはジャンプし耀のブーツを握りしめる

 

「わ、わわ。」

 

「耀さん、捕まえたのです‼︎もう逃がしません‼︎‼︎」

 

何処か壊れているのか不気味に笑う黒ウサギ。耀を抱き寄せ、耳元に囁く

 

「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフフフ、後覚悟シテクダサイネ 」

 

「りょ、了解ッ‼︎」

 

反論をしようにも、恐怖がそれを許さなかった。着地した黒ウサギは白夜叉と上条目掛けて耀を投げつける

 

「きゃ!」

 

「「グボハァ⁉︎」」

 

「お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは些か礼儀を欠いておらんか⁉︎コレでも私は東側のフロアマス」

 

「耀さんをお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 

「ぬっ…そ、そうか。よく分からんが頑張れ黒ウサギ。」

 

聞く耳を持たずに叫ぶ黒ウサギ。白夜叉は見たことのない様子の黒ウサギに勢いで頷いてしまう

 

「はい!」

 

そしていまだに倒れている上条と耀。何故こうなったのかを知っているであろう耀に問い詰ようとする

 

「…で、説明してくれるんだよな。春日部?」

 

「…その前に手を退けて欲しい。」

 

上条は耀のお尻を鷲掴みにしていたのだった。寸分の狂いもなく掴み取っていた

 

「えっ…。あっ、すみませんでしたぁ‼︎」

 

その後、土下座をした上条は1度白夜叉の部屋に戻り、耀から事情を聞くと、上条は一度溜息をした後右手で軽く耀の頭を叩く

 

「痛い…。」

 

叩かれた耀は頭に手を置く

 

「自業自得だ。流石にやりすぎだろ。」

 

「ふふ、おんしららしい悪戯だ。小僧の言う通り、ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

 

「それは…うん。少しだけ私も思った。だ、だけど、黒ウサギだって悪い。お金が無いことを説明してくれれば、私達だってこんな強硬手段に出たりしないもの。」

 

「俺に何も言わなかったのは反対されると思ったからか?」

 

「…うん。上条だし。でも1人だけ仲間外れは嫌だから。」

 

上条の事だから邪魔するのはわかっていた十六夜はどうするべきかと迷っていたが、内緒にして連れて行こうと十六夜に話を持ちかけたのは耀だった

 

「そっか。でも今回ばかりは反省しないとな。これから先も、こんなんだと信頼も何もないぞ?」

 

「うっ…。でも私達に何も言わなかったのも信頼の無い証拠。黒ウサギも少しは焦ればいい。」

 

珍しく拗ねたように言う耀。2人の会話を傍目で見ていた白夜叉は笑っていた。上条が信頼という言葉を言う時、なぜか納得をせざるを得ない説得力を耀は不思議に思った

 

「そういえば、大きなギフトゲームがあるって言っていたけど、ホント?」

 

「本当だとも。特におんしに出場して欲しいゲームがある。」

「私?」

 

お菓子を頬張り、リスのように頬を膨らませていた耀は、小首を傾げる

白夜叉は先程のチラシを上条と耀に見せた

 

『ギフトゲーム名"造物主達の決闘"

・参加資格、及び概要

・参加者は創作系のギフトを所持。

・サポートとして、1名までの同伴を許可。

・決闘内容はその都度変化。

・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

・授与される恩恵に関して

・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

"サウザンドアイズ"印

"サラマンドラ"印』

 

「…?創作系のギフト?」

 

「うむ。人造、神造、霊造、星造を問わず、製作者が存在するギフトのことだ。"生命の目録"は技術・美術共に優れておる。その木彫りに宿る"恩恵"ならば、力試しのカードも勝ち抜けられると思うのだが。」

 

「そうかな?」

 

「うむ。サポーター役としてはジンでも良かったのだが、そうだな…おんし出てみないか?」

 

上条は突然の指名に驚く、創作系のギフトなど上条は持っているはずもないのに誘われたことに。耀は隣でゲームに出るか悩んでいた

 

「え、俺?」

 

「他に誰もおらんだろ。」

 

「いやいや!上条さん創作系のギフトなんて持ってねぇよ⁉︎」

 

「別にギフトを持っていなくとも、参加するなら私のギフトを貸してやらんでもない。それに、おんしの右手の事なら問題なく使えるからの。身体の一部がギフトなら参加資格には問題ないぞ。」

 

そういい着物の袖からは耀のギフトと同じようなペンダントが出された

 

「そ、そういう事なら参加するよ。」

 

あながち普通のギフトゲームに興味があった上条はチャンスと思い参加を決心する

隣で悩んでいた耀は、思い立ったかのように質問をする

 

「ね、白夜叉。」

 

「なにかな?」

 

「その優勝したら貰える恩恵で…黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

幼くも端正な顔を小首に掲げる耀。それをみた白夜叉は、温かく優しい笑みで頷いた。それは上条も同じだった

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのならの。」

 

「そっか。それなら、出場してみる。上条も頼りにしてるから。」

 

小さく頷く。サポーターが上条なら不安は無いと、笑う。白夜叉は優しく笑う耀を見てニヤリと口元に笑みを浮かべる

 

「おう。春日部の為にも優勝しないとな。」

 

上条も黒ウサギと耀が仲直りするためにと気合いを入れる。そして2人は軽く拳を合わせる

 

「…ありがとう。」

 

「ふふ、若いのぅ。」

 

少し頬を赤くしながらお礼をする耀。白夜叉はそんな2人を見てニヤニヤしていた

 




というとこで上条が移動できるのは白夜叉経由のみとなっております。

不憫だ…扱いにくい…

いつか外門の設定も変えるかも…
え?オティちゃんが空気だって?
ソンナコトハナイヨ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

どうもお久しぶり
ゴールデンウイーク中に間に合ってよかった…よかった

次回も出来る限りはやく投稿できるよう頑張ります!


 

巨大で真っ赤な境界壁を削り出すように造られた宮殿はゲーム会場として使われていた。現在は上条と耀が、そこでギフトゲームに参加しており、舞台上では決勝枠に残るために争われていた

 

上条と耀の対戦相手は自動人形、石垣の巨人だった

しかし上条はというと耀の一歩後ろに下がり戦闘を傍観していた。しっかりと上条の首周りには白濁とした色の石が埋め込まれたネックレスがぶら下がっていた

 

「(これ…俺必要だったのかぁ?)」

「これで…終わり!」

 

鷲獅子から受け取ったギフトで旋風を操る耀は、石垣の巨人の背後に飛翔し、頭部を蹴り崩す。加えて自分の体重を像へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒す。石垣の巨人が倒れると同時に、割れんばかりの観衆の声が聞こえた

宮殿の上から見ていた白夜叉が手を叩くと、観衆の声が一斉に止む

白夜叉はバルコニーから笑いかけ、耀と上条、一般参加者に声を掛ける

 

「最後の勝者は"ノーネーム"出身

の春日部耀、上条当麻に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。ルールはもう一人の"主催者"にして、今回の祭典の主賓から説明を願おう。」

 

白夜叉が振り返り、その場の中心をある人物に譲る

その人は深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を幾重にも着飾った少女がいた

彼女は龍の純血種

星界龍王の龍角を継承した、新たな"階層支配者"

炎の龍紋を掲げる"サラマンドラ"の幼き党首・サンドラが王座から立ち上がる。鈴の音のような凜とした声音で挨拶をする

 

「御紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎えることができました。然したる事故もなく、信仰の協力下さった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧下さい。」

 

観衆が招待状を手に取る

 

『ギフトゲーム名"創造主達の決闘"

 

・決勝参加コミュニティ

・ゲームマスター・"サラマンドラ"

・プレイヤー・"ウィル・オ・ウィスプ"

・プレイヤー・"ラッテンフェンガー"

・プレイヤー・"ノーネーム"

・決勝ゲームルール

・登録されたギフト保持者はお互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う

・ギフトを十全と扱うため、1人まで補佐が許される

・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事

・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝

・優勝者はゲームマスターと対峙

・授与される恩恵に関して

・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します

"サウザンドアイズ"印

"サラマンドラ"印』

 

これにて本日の大祭は御開きとなった。

 

ギフトゲームが終わり、上条と耀はサウザンドアイズ旧支店へと向かった。何故かというと白夜叉自身のご厚意もあるのだが、頼み事について詳しく話をしたいとの事で入ろうとしたら、いつもの割烹着を着た店員に風呂に入るよう言われた

風呂場に行くと、先客がいるのか服が乱雑に脱ぎ捨てられており、見知った学ランがあった。まさかと思いいざ扉を開けると、金髪の少年が湯船でくつろいでいた

 

「あれ、やっぱり十六夜だったのか。」

 

十六夜は上条の声に反応し振り返る、上条は十六夜の隣に浸かる

 

「ん?上条か。そうだ、白夜叉から聞いたぞ、春日部とギフトゲーム出ているらしいな。」

 

「とは言っても俺の出番なんて殆ど無いし、春日部だけでも良かったかも。」

 

初戦だけ上条が前線に出て相手に触れただけで壊したが、あまりにもあっけないのと耀が楽しめないとのことで、耀から戦闘を自粛するように言われ、それ以降は耀が前線に出てゲームを行うようになった

十六夜からしてみれば、出ているだけで羨ましかった、途中で耀を無視し参加すればいいと思ったからである。だけどそれは別に黒ウサギとの鬼ごっこがつまらなかったというわけではない

こんなにもあっさりと行くものなら上条は自分の必要性を感ぜずにいた。耀に向けていった言葉が今更恥ずかしくなってきたのである

 

「そんな事はないと思うぞ?特に春日部の場合は。」

 

「どういう意味だ?」

 

「そこは自分で考えろ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

「ハハッ。これからわかることになるさ。」

 

十六夜は人一倍そういう事に鋭かったため、当の本人が気付いてないのに半ばあきれていた

 

「お、おう。てか、お前も北側まで来て問題を起こしてんじゃねーよ⁉︎」

 

十六夜は黒ウサギとの鬼ごっこ中に建物を倒壊させた。幸い怪我人は居なかったものの、"サラマンドラ"からは厳重注意された

 

「あれは黒ウサギが悪い。反省もしない。」

 

「少し大人しくは出来ねぇのか?」

 

「無理。」

 

「この会話、前にもした事のあるような…。」

 

上条は頭を抱えながらため息をつく

 

「気のせいだろ。俺はそろそろ上がるがどうする?」

 

上条と十六夜は今日起きた事を談笑しながら温泉をくつろいだ

 

「んじゃ、俺も上がるとするかな。」

 

 

 

2人はお風呂をあがり、着替え来賓室に向う。そこには先に上がっていた飛鳥達がいた。飛鳥達は旧支店にある備え付けの薄い浴衣を消えおり、首筋からは桃色の肌を見せていた

十六夜はそれを見た瞬間に、その場にいる女性陣の浴衣姿を鑑賞した

 

「…おぉ。コレはなかなかいい眺めだ。そうは思わないか上条?」

 

「わかりたくない。」

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥと流れ落ちる様は視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあう」

 

スパァーン‼︎

ハリセンが十六夜の頭を襲った、それは耳まで赤くした飛鳥と黒ウサギの物だった

 

「変態しかいないのかこのコミュニティは⁉︎」

 

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ‼︎」

 

レティシアは暴走する飛鳥と黒ウサギを止めようとはせずに上条に近寄り、少し顔を紅くしていた

 

「…当麻もそう思うのか?」

 

「お、俺?個人的にはれてぃ」

 

いつも皆の前では主殿や、上条としか呼んでいなかったレティシアが急に下の名前で上条を呼んだことを問題児達が聞き逃すわけもなかった

 

「「「「当麻…だと⁉︎」」」」

 

「へ…?それがどうしたんだよ?」

 

「い、いやこれはだな⁉︎というか他の主殿達にも下の名前で呼んでいる時だってあるだろ⁉︎」

 

いつも

というか2人の時は大概に当麻と呼ばれていた上条は不思議に思わなかったが、レティシアは皆がいることを忘れて呼んでしまった事に動揺を隠せずにいた

 

いままで無関心だった春日部は、レティシアが上条を下の名前で呼んだ瞬間からレティシアと上条をただ黙って見ていた

 

「いや。今の発音は俺達の名前を呼ぶ時とは、明らかに感情の入れ方が違う。」

 

十六夜や、飛鳥、耀と問題児達にも下の名前で呼んでいることは上条だって知っている。しかし十六夜は上条が下の名前で呼ばれていなかったことに少しだけ気になっていた

何故上条だけ?と考えた事もあった。しかし今のを見て十六夜はある事を確信していた

 

「お、同じだからな⁉︎」

 

「まさか既にレティシアを…こやつできる…!」

 

「…やはり御2人はそういう間柄に。」

 

それは白夜叉や、黒ウサギも同じだったらしい。黒ウサギに至ってはレティシアがほぼ裸になり、上条と接近していた時から気になっていた

レティシアは必死に1人で否定はしているが皆の耳には届いていなかった

 

「え…名前で呼んではいけないのかしら?」

 

「違う、お嬢様。そうじゃないんだ。」

 

「?」

 

飛鳥は何も気づいていなく十六夜達が騒いでいる理由がわからなかった

それは上条も同様で、軽く暴れそうになっているレティシアをなだめながらあることを質問していた

 

「なぁレティシア。十六夜達は何を騒いでいるんだ…?」

 

「私が知るか‼︎」

 

「…私が空気なのは今に始まった事ではないが流石に泣くぞ?」

 

オティヌスは来賓室の机にぽつりと立っていたが、レティシアの事でも話に入れずにいた

 

その後、何とか落ち着いたレティシアは頭を冷やしてくるといい来賓室を離れた。店員も頭を抑えながら出て行った

 

今はレティシアを除く"ノーネーム"のメンバーと、白夜叉、そして飛鳥の手の中に居るトンガリ帽子の精霊がこの場にいる

白夜叉は来賓室の席の中心に陣取り、両肘をテーブルに載せ今まで聞かせたことのない真剣な声音で話す

 

「それでは皆のものよ。今から第1回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません。」

 

「始めます。」

 

「始めませんっ!」

 

「それならエロ可愛くじゃなく、寮母のお姉さん風な衣装がいいと思う!」

 

白夜叉の提案に悪ノリする十六夜に、速攻で流れを断うとする黒ウサギだが、上条はさらに悪ノリを始める。お姉さんと聞き耀は自分の胸を抑えていた

 

「いい加減に」

 

悪ノリが続き黒ウサギが止めようとするが十六夜と白夜叉によって無意味に終わる

 

「わかってねぇな。黒ウサギスタイルの良さを露出してこそ発揮させるだろ!」

 

「そうじゃ!あの手の服装は黒ウサギには似合わん。ならば胸を強調させ、美脚をださないと意味はない!寮母の素晴らしさも分かる。先日おんしと語り合ったからの。だが!それ故に!黒ウサギには例のレースで編んだシースルーの黒いビスチェスカートを」

 

「いい加減にして下さい上条さんも十六夜さんも‼︎話が進みません!」

 

「着ます。」

 

「着ません!」

 

いちいち悪ノリをする十六夜達にキレた黒ウサギはウサ耳を逆立て怒る

白夜叉は黒ウサギに怒られたからなのか、本題に移る

 

「少し騒ぎ過ぎたかの。ま、衣装の話は横に置いてだな。実は明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ。」

 

「あやや。それはまた唐突でございますね。何か理由でも?」

 

「うむ。おんしらが起こした騒ぎで"月の兎"が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。こうなると出さないわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。もちろん報酬も用意しよう。」

 

なるほど、と納得する一同

 

「分かりました。明日のゲーム審判・進行は黒ウサギが承ります。」

 

「うむ感謝するぞ。」

 

一方で胸を抑えていた耀が何か思い出したかのように白夜叉に尋ねる

 

「白夜叉。私達が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

 

「すまんがそれは教えられん。"主催者"がそれを語るのはフェアではなかろう?教えてられるのはコミュニティの名前までだ。」

 

白夜叉はパチンと指を鳴らす。すると羊皮紙が現れ、そこには相手コミュニティの名前が並べられていた。飛鳥はその名前を見て目を開き驚く

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"に"ラッテンフェンガー"ですって?」

 

「うむ。この2つは珍しい事に六桁の外門、1つ上の階層からの参加でな。格上と思って良い。覚悟はしておいた方がいいぞ。」

 

白夜叉の真剣な忠告に、コクリと頷く耀と上条。しかし今まで出番がほとんど無かった上条は気合が入っていた

 

「大丈夫だって。もしもの時は俺が春日部の事をサポートするだけだよ。」

 

「うむ。"主催者"が言う言葉ではないが期待しておるぞ。」

 

上条の言葉に頼もしさを感じた白夜叉は笑顔で頷く。耀も隣で静かに笑っていた

一方の十六夜とオティヌスは、"契約書類"を睨みながら十六夜は物騒に笑い、オティヌスはただ黙っていた

 

「"ラッテンフェンガー"って事は"ネズミ捕り道化"<ラッテンフェンガー>のコミュニティか。なら明日の敵はさしずめ、ハーメルンの吹き笛道化だったりするのか?」

 

え?と飛鳥があげるが、白夜叉と黒ウサギの声に消された

 

「ハ、"ハーメルンの笛吹き"ですか⁉︎」

 

「まて、どういう事だ小僧。詳しく話を聞かせろ。」

 

ふなりの驚愕の声に、思わず瞬きする十六夜。白夜叉は幾分声のトーンを下げ、質問をする

 

「あぁ、すまんの。最近召喚されなおんしら知らんのも無理はないか。"ハーメルンの笛吹き"とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ。」

 

「何?」

 

「魔王のコミュニティ名は"幻想魔道書群"<グリムグリモワール>。全200編以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出した、召喚士が統べた脅威なコミュニティだったもの」

 

「へぇ。」

 

十六夜の瞳に鋭い光が宿る、オティヌスは幻想魔道書群という単語に反応し何かかんがえるかのように帽子を深くかぶり直した

 

「けどその魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはず。…しかし十六夜の話が本当だとすると。」

 

黒ウサギの緊張した顔は、もし魔王が現れるかもという警戒してのとのだった。

十六夜はしばし考え、今まで話についてこれなかったジンの頭を掴む

 

「なるほど、状況は把握した。そういうことなら我らが御チビ様にご説明願おうか。」

 

「え?あ、はい。」

 

一同の視線がジンに集まる。突然の話題に振られている表情が固まっていたが、その後ジンはハーメルの笛吹きはグリム童話の一編にあり、その内容を話した

 

「ふーむ。"ネズミ捕り道化"と"ハーメルンの笛吹き"かとなると、滅んだ魔王の残党が火龍誕生祭に忍んでおる可能性がたかくなってきたのぅ。」

 

「参加者が主催者権限を持ち込むことが出来ない以上、その路線がとても有力になってきます。」

 

「うん?なんだそれ、初耳だぞ。」

 

「おぉ、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。」

 

白夜叉が指を振ると光り輝く羊皮紙が現れら誕生祭の諸事項を記してあった

十六夜はそれを手に取り、小さく頷く

 

「"参加者以外はゲーム内に入れない"、"参加者は主催者権限を使用できない"か。確かにこのルールなら魔王が襲って来ても"主催者権限"を使うのは不可能だな。」

 

「うむ。まぁ押さえる所は押さえたつもりだ。」

 

十六夜は納得したように頷く

しかし上条は何も言えないような寒気が背筋に走る。まるで何かを警戒するかのように

 

「(何だ?確かに白夜叉が作ったルールは抜け目がない。だけど何か見落としている気がしてならない。…恐らくオティヌスも何か考えているはずだし、後で聞いてみるか。)」

 

そして会議は終わり、上条とオティヌスは自室に戻る。扉を閉め、オティヌスを備え付けの机に置くと上条はベットに座り真剣な眼差しで問いかけた

 

 

「オティヌス。」

 

「言いたい事はわかる。やはり人間も何か感じていたか。」

 

オティヌスも話しかけられるのが分かっていたのか、あの諸事項について話し合う

 

「まぁな。だけど、あの白夜叉が考えて設けたルールだ。他に抜け目があるとは考えられないんだよな。」

 

恐らく"魔神"だった頃のオティヌスより力を持っている白夜叉に対して不信感は微塵もなかった

 

「何にせよ、この世界の知識が浅い私達が考えても仕方ないだろ?明日は決勝なんだろ?早く寝たらどうだ。」

 

オティヌスはというと、違和感があるがそこまで気には止めずにベットに入る

 

「あぁ。」

 

上条もベットに入るがその顔に安心した様子はなかった

 

 

 

 

会場の割れるような歓声の中、"ノーネーム"一同は運営側の特別席に腰をかけていた。十六夜の隣では珍しく落ち着きのない飛鳥かわそわそわの大会の進行を見守っている

 

「どうしたお嬢様。落ち着きがないぞ。」

 

「…昨日の話を聞いて心配しない方がおかしいわ。相手は格上なのでしょう?」

 

「うむ。"ウィル・オ・ウィスプ"と"ラッテンフェンガー" 両コミュニティ共に本拠を六桁の外門に構えるコミュニティ。通常は下位の外門のゲームには参加しないものだが、フロアマスターから得るギフトを欲して来たのだろう。一筋縄ではいかんだろうな。」

 

「そう。…白夜叉から見て、春日部さん達に優勝の目は?」

 

「ない。」

「ある。」

 

即答する白夜叉とオティヌス。しかしその返答は正反対だった。その事に白夜叉は瞳を細くしオティヌスに問いかける

 

「ほぅ。理由を聞かせてもらおうかな?」

 

オティヌスも瞳を鋭くし返答する

 

「お前こそ、その目は節穴か?あの小娘だけなら優勝は無いが、人間が居るとなれば話は別だぞ。」

 

オティヌスの返答に目を丸くした白夜叉はニヤニヤと笑いながらも納得する

 

飛鳥はいつまでも返答が来ないので視線を会場に戻す

 

「あいも変わらない信頼感だの。」

 

「生憎、私にはそれしか無いからな。」

 

それしかないと言うオティヌスに、白夜叉の顔つきが戻る

 

「そうかの。ならセコンドにでも行ったらどうだ?」

 

「…そんなのがあったのか?」

 

「話を最後まで聞いて無かったのか。」

 

昨日の会議ではセコンドに着くのはレティシアとジンで決まっていたが、オティヌスは諸事項について考えていたため聞いていなかった

 

「まぁいい。それで何処にある?」

 

「良くはないからの。後ろの通路に扉があるだろ?その扉は下にまで繋がっておる。下に行ったらレティシア達が待機しておるだろう。」

 

「助かる。」

 

そういいオティヌスは白夜叉の椅子から飛び降り、扉まで歩いて行った

 

「…さてと私も黒ウサギを視姦することに集中するかの。」

 

耀と上条は観客席からは見えない舞台袖にいた。セコンドについたジンとレティシアは、次の対戦相手の情報を確認していた

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"に関して、僕が知っている事は以上です。参考になればいいのですが。」

 

「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから。」

 

何処かの国のキャッチフレーズのような返答に苦笑いするジン

 

「何も知らないで突っ込むより、少しでも知識があって突っ込むのとは訳が違うからな。助かったよ。」

 

上条はジンの頭に手を置く、ジンは照れたのか、褒められて嬉しいのか口元が少し笑っていた

その傍にいたレティシアが注意を促す

 

「相手は格上だ。2人とも油断をしないように。」

 

「大丈夫。問題ないよ。」

 

「俺も出来る限りサポートするから。」

 

「…うん。頼りにしている。」

 

上条の言葉に頷き、拳を合わせる2人

舞台の真ん中では黒ウサギが入場口から迎え入れるように両手を広げた

 

『それでは入場していただきましょう!第1ゲームのプレイヤー・"ノーネーム"の春日部耀、上条当麻のペアと、"ウィル・オ・ウィスプ"の、アーシャ=イグニファトゥスです!」

 

通路から舞台に続く道に出る

その瞬間、耀めがけて高速で駆ける火の玉が迫ってきた

 

「YAッFUFUFUUUUUuuuu‼︎」

 

「わっ!」

 

しかし、それは上条の右手によって防がれる

 

「出会い頭に挑発とは随分とひでぇことするなオイ。」

 

火の玉を消されたことにより目の前にいるわツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを着た少女は驚いていた

 

「なっ⁉︎火の玉が消された⁉︎そのペンダントがギフトって所か?まぁいいや。」

 

少女の隣には轟々と燃え盛るランプと、実態のない浅黒い布の服。人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭のお化けがいた

このカボチャのお化けが耀めがけて火の玉を出したと上条は判断した

 

「YAッFUFUFUUUUuuu‼︎」

 

「"ノーネーム"のくせに私達"ウィル・オ・ウィスプ"より先に紹介されたり、ジャックの炎消すなんて生意気だっつの。」

 

対戦相手である少女は、栄えある舞台に"ノーネーム"が立つことに不満に思っていた

 

『せ、正位置に戻りなさいアーシャ=イグニファトゥス!あとコール前の挑発行為は控えるように!』

 

「はいはーい。」

 

小馬鹿にしたような仕草と声音で上条達と距離を取る。上条と耀はアーシャと呼ばれる少女と、ジャックと呼ばれるカボチャを気にもとめず、バルコニーにいる飛鳥達に向けて手を振っていた

 

「大した自信だねーオイ。私とジャック を無視して客とホストに愛想ふるってか?何?私達に対する挑発ですか?」

 

「うん。」

 

眉間に皺を寄せ、唇を尖らせるアーシャ。効果は抜群だ

 

「春日部もこんなお子様を相手にする事ないぞ?」

 

「お、お子様だと⁉︎」

 

上条の一言により一層、頭にきたのかうつむきながら体を震わせる

黒ウサギもそのやりとりを見て、大丈夫と判断したのか、宮殿のバルコニーに手を向ける

 

『それでは第一ゲームの開幕前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆様はどうかご静聴の程を。』

 

「うむ。協力感謝するぞ。私は何分、見ての通りのお子様体型なのでな。大きな声を出すのは苦手なのだ。さて、それではゲームの舞台についてだが…そうだの。招待状を見て欲しい、そこにナンバーは書いておらんか?。」

 

観客は一斉に招待状を取り出す

 

「ではそこに書かれているナンバーが、我々ホストの出身外門"サウザンドアイズ"の334番となっている者はおらんかの?おるのであれば招待状を掲げ、コミュニティの名を叫んでおくれ。」

 

その言葉にざわざわと観客がどよめき始める。するとバルコニーから真正面の観客席で、樹霊の少年が掲げていた

 

「こ、ここにあります!"アンダーウッド"のコミュニティが334番の招待状を持っています!」

 

歓声が上がる、白夜叉はニコリと笑い、バルコニーから姿を消し、次の瞬間には少年の前に立っていた

 

「ふふ。おめでとう、"アンダーウッド"の樹霊の童よ。後に記念品でも届けさせてもらおうかの。よろしければ旗印を拝見してもよろしいかな?」

 

白夜叉は"アンダーウッド"の旗印を見て微笑み、バルコニーに戻っていた

 

「今しがた、決勝の舞台は決定した。それでは皆のもの、御手を拝借。」

 

白夜叉が両手を前に出す。観客もそれに倣い両手を前に出す。パンと会場一致で柏手1つ

 

それで世界は変わる

 

変化は一瞬で劇的だった。それだけで今までいた世界から、今の舞台へと上書きした。それも上条の右手の影響を受けずに。これには上条と耀も覚えがあった

 

「春日部、これは。」

 

「うん。多分だけど白夜叉のだと思う。」

 

周りを満たすと樹木の上にいた。しかし周り一帯が樹木に囲まれていた

 

「この樹…ううん。地面だけじゃない。此処、樹の根に囲まれた場所?」

 

上下左右、その全てが樹木の根に囲まれている大空洞だった。なぜ根だとわかったというと、耀の嗅覚により土の匂いを嗅ぎ取ったからである

 

「あらあらそりゃあどうも教えてくれてありがとよ。そっか、ここは根の中なのねー。」

 

「別にお前達に教えたわけじゃないけどな。」

 

アーシャには無関心な耀、耀の代わりに答える上条だが、アーシャは苛立ったのかジャックと共に臨戦態勢に入るが、それを耀が制す

 

「まだゲームは始まっていない。」

 

「はぁ?何言って。」

 

「勝利条件も敗北条件も提示されていない。これでどうやってギフトゲームをするの?」

 

さらに苛立つアーシャだが耀の言い分に正当性を感じたのか、呆れたかのように空洞を見回す

 

「しっかし、流石は星霊様ねー。私ら木っ端悪魔とは比べ物にならねぇわ。こんなヘンテコなゲーム盤まで持ってるんだもん。」

 

「それは多分…違う。」

 

「ああん?」

 

耀はアーシャの答えには答えず首だけを振る

上条は根を右手で触るが消えない事を確認していた

突如、空洞に亀裂が入る

亀裂から出てきたのは黒ウサギだった。黒ウサギは"契約書類"を振りかざし、内容を読み上げる

 

『ギフトゲーム名"アンダーウッドの迷路"

・勝利条件

一,プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

二,対戦プレイヤーのギフトを破壊。

三,対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合。

・敗北条件

一,対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

二,上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』

 

「審判権限の名において。以上が両者不可侵である事を、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。ここに、ゲームの開始を宣言します。」

 

黒ウサギの宣誓が終わる。それがゲーム開始のコールだった

黒ウサギが説明している間に上条はたった一つしかない道に立っていた

 

「迷路の脱出か…。春日部、先に行ってろ。こいつらは俺が相手しとくから。」

 

耀は小さく頷き、走る。2人の連携にアーシャは一瞬対応が遅れ、耀をみすみす行かせてしまう

そうなれば上条は1人でアーシャとジャックを相手にしなければならない

 

「へぇ…。とことん舐めてくれちゃってるのね。名無しの分際で!焼き払えジャック!」

「YAッFUUUUUUUuuuuuuu‼︎」

 

1人で充分だと遠まわしに言われ、とうとうアーシャの堪忍袋が切れる。左手を翳し、ジャックの右手に下げられたランタンとカボチャ頭から溢れた悪魔の業火が根を焼き払いながら上条を襲う

 

しかし上条は右手を前に出す

それだけで炎が一瞬に消え去った

 

「炎が消された⁉︎」

 

2度もジャックの業火を消されたことにアーシャは驚きを隠せなかった

 

「悪いけど此処は通さないぞ。」

 

「くそ!3発撃ちこむぞ!ジャック!」

 

いつまでも此処でじっとしていたら勝負にもならない。焦り始めるアーシャは再び左手を翳す。次にジャックがランタンで先程より勢いの増した業火を三本放つ

 

しかし上条は自分に当たる炎だけを確実に消し、避ける。残った業火は後ろにある根に当たり燃える

 

「な…⁉︎」

 

絶句するアーシャ。今の攻撃を避けたとなるといくら炎を増しても結果は変わらないことを察し歯噛みする

 

「くそ、やべぇぞジャック…!このままじゃ負けちまう!」

 

「Yaho…!」

 

アーシャは諦めたかのようにため息を吐く

 

「くそったれ。悔しいがこのツンツン頭はアンタに任せるよ。本気でやっちゃって、ジャックさん。」

 

「わかりました。」

 

「ッ⁉︎」

 

突然目の前に現れたジャックに驚く上条

ジャックの真っ白な手が上条を凪ぎ払おうとするが、上条は腕を交差させ何とか耐える

 

「さ、早く行きなさいアーシャ。このお坊ちゃんは私が相手します。」

 

「悪いねジャックさん。」

 

アーシャは返事をし、そのまま通路に走り抜ける

ジャックはランタンから篝火を溢す

その僅かな火は樹の根を瞬く間に飲み込み、轟々と燃え盛る炎の壁となった。先程の業火とは比べ物にならない熱量に上条さある事をおもいだす

 

「なるほどな。お前は」

 

「はい。私は生と死の境界に顕現せし大悪魔!ウィラ=ザ=イグニファトゥス制作の大傑作!それが私、世界最古のカボチャお化け…ジャック・オー・ランタンでございます 」

 

ヤホホ〜と笑うジャックだが、上条の顔にも笑みがこぼれる

 

「だけど悪いな、このゲームは俺達の勝ちだ。」

 

「…理由をお聞きしても?」

 

上条の言葉にピタリと笑うのをやめる

 

「春日部のギフトさえあれば、この迷路なんてすぐにクリア出来るからな。」

 

「なら貴方を倒して彼女に追いつけばいい話です。」

 

耀のギフトの正体がわからないジャックだが、目の前にいる少年の瞳を見て嘘じゃないと判断する

本当なら少年を残し追いかけてもいいのだが、ジャックは思った

 

それはつまらない。と

 

「そう簡単にやられるほど俺は甘くないぞ?」

 

ジャックが己が旗印を誇るように腕を広げ轟々と燃え盛る炎の背にし叫ぶ

 

「ヤホホ 聖人ペテロに烙印を押されし不死の怪物。このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」

 

「不死の相手なんて、こちとら慣れっこだ!せいぜい時間を稼がせてもらうぜ!」

 

ジャックが今までのとは比べる必要のないくらいの業火を上条に放つ

しかし上条はそれを右手で払うことによって防ぐ

 

「なるほど…。厄介なギフトですね。その右手は、一体どんな仕組みなんでしょうか?」

 

「答える義理はない。」

 

ジャックはこの短時間の戦闘の間に上条のギフトは右手にあり、ペンダントではないと見抜く

 

「…ヤホホ。楽しくなってきましたねぇ‼︎」

 

2人を分けるように亀裂が入る

 

「残念。時間切れだ。」

 

『勝者、春日部耀‼︎』

 

会場が砕け散り、ゲームを終了の宣言する

耀を探しているのか周りを見渡す上条に、ジャックは問う

 

「…改めて、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

声をかけられた上条は振り向き左手を差し出す

 

「"ノーネーム"上条当麻だ。よろしくな。」

 

「えぇ。次こそ貴方を倒してみせます。」

 

ジャックの穏やかな声とは似合わない、その笑顔はとても怖かった

 

「はは…お手柔らかに頼む。」

 

戦うことがないようにと望みながらも

握手をしていると耀がものすごいスピードで近付く

 

「上条!」

 

「どうした春日部?」

 

上条は耀の叫び声と焦りように驚く。軽く肩で息をしている耀は空を指差す

 

「上を見て。」

 

上を見ると雨のように撒かれている黒い封書

 

「ん?…あれは。黒い"契約書類"か?」

 

ジャックは素早く"契約書類"を手に取り読み上げる。内容をみたジャックの顔はカボチャ頭には似合わない険しい表情をしていた

 

「ヤホホ。これは…全く笑えませんね。」

 

『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIM』

 

数多の黒い封書が舞い落ちる中、静まり返った舞台会場

観客の1人が叫び声をあげる

 

「魔王が…魔王が現れたぞオオオォォォォォ‼︎‼︎」

 

 

その封書は魔王が襲来のお知らせであった




感想や評価待っております

もし小ネタなどこんなのやってほしいとあれば小ネタの回で入れたいと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

どうも2週間ぶりです
最近忙しくて更新できませんでした…

しかーしもうすぐお気に入りが400人を突破します!
これをきに小ネタと13話を同じタイミングで投稿しようと思います

テスト前?シリマセン
課題?シリマセン


12話

 

『ギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"

・プレイヤー一覧

・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

・ホスト側 勝利条件

・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

・プレイヤー側 勝利条件

一、ゲームマスターを打倒

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

"グリムグリモワール・ハーメルン"印』

 

舞台上にいた上条と春日部はその"契約書類"を理解するのに数秒かかった

 

魔王が現れた

 

行動を起こす前に本陣営のバルコニーに異変が起こる。突如として黒い風が吹き荒れる

何人かが此方に吹き飛ばされるのがわかった。飛鳥を抱きかかえて着地した十六夜がいた。状況を確認するために上条は十六夜に近付く。十六夜は上条に声を掛けられた事により振り向く

 

「十六夜!」

 

「あぁ、魔王が現れた。…そういうことでいんだよな。黒ウサギ?」

 

「はい。」

 

黒ウサギが真剣な表情で頷くと、メンバー全員に緊張が走る

舞台周囲の観客は大混乱に陥っていた。しかしそんな中でも十六夜は軽薄な笑みを浮かべていた。しかし瞳には余裕などなく、真剣な瞳をしていた

上条も頭の中で整理をつける、これはゲームではないと。いつでも戦えるように拳を握る

 

「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子はないんだな?」

 

「Yes。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません。」

 

「だけど連中は現にゲームを仕掛けてきたんだぞ?」

 

「そこを考えるのは後回しだ。今は迎え撃つ事が先決だ。けど全員では迎え撃つのは具合が悪い。それに"サラマンドラ"の連中も気になる。」

 

「では黒ウサギがサンドラ様を捜しに行きます。その間は十六夜さんとレティシア様の2人で魔王に備えてください。ジン坊ちゃん達は」

 

「いや、俺も魔王の所に行く。」

 

上条が魔王の所に行きたがるのはわかってはいた。それは飛鳥や耀も同じなのだから、しかし2人は黒ウサギの提案には不満はあれど、白夜叉がゲームマスターと明記されているため、仕方なく納得していた

しかし上条はそれだとマズイと考える

 

「白夜叉に護衛が必要なのもわかるけど春日部、飛鳥、俺がいると過大戦力すぎる。」

 

これは自惚れではない。上条が飛鳥と耀の実力を知っているから言えることなのだから。護衛に手を回しすぎて攻めが緩んではいけないと考えたからだ

 

「し、しかし…。」

 

黒ウサギは不安だった。相手は魔王だ。自分のコミュニティを潰した存在なのだから

 

「大丈夫。心配はいらない。」

 

しかし上条の瞳を見ると何故か今まであった不安が消えた。この男なら必ず帰ってくる。あの時みたいにはならないと

 

「…わかりました。では上条さんを含めた3人で魔王に備えてください。ジン坊ちゃん達は白夜叉様をお願いします。」

 

「分かった。」

 

皆が頷く。飛鳥は不満なのか十六夜が宥めていた

 

「お待ちください。」

 

皆が声の方向に振り向く。そこには同じく舞台にあがっていた"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャとジャックがいた

 

「おおよその話はわかりました。魔王を迎え撃つというなら我々"ウィル・オ・ウィスプ"も協力しましょう。いいですねアーシャ。」

 

「う、うん。頑張る。」

 

前触れもなく魔王のゲームに巻き込まれたアーシャは、緊張しながら頷く

 

「では御2人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を探し、指示を仰ぎましょう。」

 

一同は視線を交わし頷き合い、各々の役目を果たすため走り出す

逃げていた観客が悲鳴をあげたのは、その直後だった

 

「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」

 

上空に見える人影が落下してくる

十六夜は見るや否や両拳を強く叩き、上条さんとレティシアに向かって叫ぶ

 

「んじゃ行くか!黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのはお前らに任せた!」

 

「「了解!」」

 

レティシアと上条が返事をする。十六夜は身体を伏せ、舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した

 

上条は白くデカイ的に向かって走り出し、振り向きながら叫ぶ。レティシアとそれに続く

 

「春日部!白夜叉の言葉任せたぞ!」

 

耀は驚いたかのように目を開き、そしていつもより強く返事をした

 

「…‼︎わかった!」

 

上条とレティシアは落下してきた陶器のような巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と対峙していた

上条は巨兵と少女を見比べる

 

「レティシア…あのデカイが魔王だと思うか?」

 

「無いな。可能性があるとすれば隣にいる女の方がまだある。」

 

レティシアは過去に魔王をしていた事もある。いくら小さい少女だからといって油断はできなかった

オティヌスはいつの間にかに上条の肩に乗っており静かに観察していた

 

「斑模様…さしずめハーメルンの笛吹き男…いや女と言ったところか。あと」

 

グリム童話ハーメルンの笛吹きには、斑模様の鼠取りが笛を吹き鼠をおびき寄せるという話がある。その斑模様のワンピースを着た少女をオティヌスはハーメルンの笛吹きではないかと考察する

そこにゆっくりと地上に降りた少女はゆっくりと右腕をあげる

 

「別に考察するのは構わないけど、ぼんやりしてると死ぬわよ?」

 

「BRUUUUUUUM‼︎」

 

巨兵は全身にある風穴を使い、空気を吸い込むと四方八方に大気の渦を造りあげようとする

しかし上条は右手上空に向かってあげる

それだけで渦は霧散し、無風状態になる。その事に少女は少し意外そうにし上条を見る

 

「あら、シュトロムの渦が消されちゃった。」

 

そしてオティヌスは先ほどの攻撃を見てある事を発見する

 

「ふむ。嵐に笛吹き女か…。残りはヴェーザー川、ネズミと言った所か?」

 

少女は沈黙し、口元に薄く笑みがこぼれる

 

「…へぇ。貴方達、面白いわ。生かしておいてあげる。シュトロム下がってていいわよ。私が生け捕りにするわ。」

 

そういいシュトロムと呼ばれる陶器のような巨兵は行動を停止させる

しかしその隙をレティシアが見逃さなかった。翼を畳み、急加速して少女の懐に攻め込む

 

「油断していて平気か?」

 

不敵に笑うレティシア。金と黒で装飾されたギフトカードから長柄の槍を取り出し、疾風の如き一刺しで少女の胸を貫こうとする

 

「やったか⁉︎」

 

「やってないわ。」

 

抑揚のない声で返す。レティシアの突き出した槍は少女の身体を持ち上げただけに留まり、槍の先端は胸元で拉げていた

斑の少女は無造作に槍を掴んでレティシアを引き寄せると、その手から黒い風を発生させてレティシアを捕縛する

それはレティシアの知識にもない、不気味な風だった

影のように漆黒でもなく、嵐のように荒々しくなく、熱風のように熱いわけでもない

ただ黒く、温く、不気味な風

うごめく様に生物的な黒い風は、徐々にレティシアの意識を蝕んでいく

斑模様の少女はレティシアの胸倉と顎を掴み薄い微笑を浮かべた

 

「痛かった。凄く痛かった。だけど許してあげる。貴方もいい手駒になりそう。」

 

くすりと笑う少女。黒い風はレティシアを蝕むように全身に覆おうとする

 

「レティシア‼︎」

 

上条が少女を右手で殴ろうとする。少女はレティシアを離し距離をとる。すかさず拘束されていたレティシアを抱きかかえる

拘束していた黒い風は右手で触れるとガラスを砕く音を立てながら霧散していく

レティシアは無くなりかける意識を無理矢理に起こしながら片膝をついて蹲る

 

「すまない…助かった。」

 

一方少女は先程から口元に笑みを浮かべながら上条を観察していた

別段、足が速いわけでもない、先ほどの拳だって回避する程のものでもない。注目したのはシュトロムの渦を消し、自分の黒い風を消したそのギフトに興味が湧いていた

 

「女の子を殴ろうなんて失礼ね。」

 

「気遣って欲しいのかよ。」

 

「いたいけな少女に気遣いできないなんて、紳士失格よ?」

 

「お生憎様、紳士なんて目指した事ないんでね。」

 

上条と斑模様の少女

2人は視線を交わしながら次の一手を考える。動こうとしたのは少女の方だった

 

しかし紅い閃光がシュトロムを撃ち抜く

 

「BRUUUUUUUM‼︎」

 

撃ち抜いた中心から溶解する陶器の巨兵。焼き爛れた巨兵はその場に崩れ落ちる

少女は動きを止め、天を仰ぐ

 

「…ようやく現れたのね。」

 

上空にある光

それは轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた、北側の"主催者権限"サンドラが龍を模した炎を身に纏い見下ろしていた

 

「待っていたわ。逃げられたのではと心配していたところよ。」

 

「目的は何ですか、ハーメルンの魔王。」

 

「あぁ、それ違うわ。さっきの妖精さんも勘違いしてるみたいだけど、私のギフトネームの正式名称は"黒死斑の魔王"<ブラック・パーチャー>よ。」

 

「…24代目"火龍"サンドラ。」

 

「自己紹介ありがと。目的は言わずともわかるでしょう?太陽の主権者である白夜叉の身柄と、星界龍王の遺骨。つまりは貴方が付けてる龍角が欲しいの。」

 

軽い口調でサンドラの龍角を指差す

 

「…なるほど。魔王と名乗るだけあって、流石にふてぶてしい。だけど、このような無体、秩序の守護者は決して見過ごさない。我らの御旗の下、必ず誅してみせる。」

 

「そう。素敵ね、フロアマスター。」

 

轟々と荒ぶる火龍の炎を、黒々とした不気味な暴風で受け止める

2つの衝撃波により境界壁を照らすペンダントライトがその余波で砕け

上条はレティシアを庇いながら何とか堪える

オティヌスは上条の肩でしがみつきながらもあることに気づく

 

「斑模様の服装に、ギフト名が"黒死斑の魔王"。そしてグリム童話ハーメルンの笛吹き…まさか、奴の正体は」

 

「何かわかったのか⁉︎」

 

オティヌスの発言によりサンドラと斑模様の少女の攻撃が止め、オティヌスに注目が集まる

 

「…私がだれだかわかったのね。だけど、もう遅いわ。」

 

「どういう意味ですか⁉︎」

 

再び構えるサンドラだが、突如として激しい雷鳴が鳴り響いた

 

「⁉︎…雷か?」

 

上空から黒ウサギの声が音響装置を使っているかのように響く

 

『"審判権限"の発動が受理されました!これよりギフトゲーム"THE PIED PIPER of HAMELIN"を一時中断し、審議結果を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備を移行してください!繰り返します…』

 

そして立ち去ろうとする少女だが、一度立ち止まり振り向く

 

「ふふっ、そこの妖精さん。お名前を聞いてもいいかしら?」

 

「答える必要はない。」

 

「冷たいのね。」

 

くすりと笑い黒い風を周囲に撒き散らし、霧散する頃には姿がなかった

上条は一息をつき空に浮いているサンドラに話しかける

 

「サンドラだっけか?とりあえず何処に集まればいいんだ。」

 

「大祭運営本陣です。ついて来てください。」

 

「わかった。レティシア立てるか?」

 

サンドラは少し急ぐように本部の方に向かって飛行していく

 

「…少し厳しいが問題ない。」

 

「キツイならキツイって、そう言えよ。」

 

ふらふらと何とか立とうとするレティシアを見てられなかったのか上条は無理やりおんぶする

 

「ちょ⁉︎何をする⁉︎」

 

抜け出そうと足をジタバタしようにもそれをする力すら今のレティシアには残っていない

 

「何って、歩くのが辛いんだろ?無理はすんなって。」

 

「しかし、これは中々に…。」

 

頬を赤くしながらも何か思い抵抗をするのをやめた

 

「早く来てください!時間はあまりないのです!」

 

「わかった!」

 

上条が大祭運営本陣に着き、真っ先にレティシアを隔離部屋まで行き寝かせようとしたのだが、既にレティシアは眠っていたため上条は部屋を出た

大祭運営本陣にある大広間

宮殿内に集められた"ノーネーム"一同と、その他の参加者達。負傷者もいるなかで上条は周りを見渡すと、見慣れた兎耳が見えたので、そこに向かい走り出す

 

「十六夜!黒ウサギ!」

 

「上条さん!無事でしたか‼︎」

 

「まぁな。だけどレティシアは敵の攻撃の影響であまり動けない。そっちは?」

 

「それ以上にヤバイな。春日部が"ラッテン"の攻撃で動くことすらままならない。それにお嬢様は…多分に敵に捕まった。」

 

その報告を聞き上条は静かに拳を握る

オティヌスは黙る上条の代わりにあることを報告する

 

「そうか…。そうだ、魔王の正体がわかったぞ。」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「魔王のギフトは"黒死斑の魔王"。童話ハーメルンの笛吹きでは斑模様の道化が黒死病の伝染させたという。つまりは黒死病のによる悪魔と捉えていいだろう。」

 

黒死病の悪魔と聞き黒ウサギの耳が飛び跳ねる

十六夜は自分の考えが概ねあっていたのか頷く

 

「まぁ、そうなるよな。」

 

「正体はわかっても、あの夜叉が封印されている理由まではわからない。すまない。」

 

「いや、敵の正体を掴んだだけでも優秀だと思うぜ。」

 

大広間の扉が開く。扉から入ってきたのはサンドラとマンドラの2人だった。サンドラは緊張した面持ちで参加者に向けて告げる

 

「今より魔王との審判会議に向かいます。同行者は4名です。まずは"箱庭の貴族"である、黒ウサギ。"サラマンドラ"からはマンドラ。その他に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者が居るのならば協力して欲しい。誰か立候補は居ませんか?」

 

参加者の中にどよめきが広がる。これは童話の類で知られている範囲が狭すぎたせいもある。何しろグリム童話ハーメルンの笛吹きを詳しく知る人物など、余程の文学者か、限りない知識欲を持つものだけだからだ

十六夜は横目でオティヌスみる

 

「オティヌスにも行かせた方がいいんだろうが…。」

 

今回、会議に参加できるのは4人までとなっている。黒ウサギ、サンドラは確定として他の枠が2つしか空いていない状況では十六夜のある計画が進行させ辛くなる

 

「私に気を使う必要は無い。どうせ例の宣伝がしたいのだろ。」

 

例の宣伝とは前に白夜叉にも言った"打倒魔王"を掲げるコミュニティのリーダーがジン=ラッセルであることを広めたいためであるからだ

 

「まぁな。じゃ遠慮なく。」

 

オティヌスの了承を得ると十六夜は躊躇わずにジンの首根っこを掴み

 

「ハーメルンの笛吹きについてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ!」

 

「…は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん⁉︎」

 

突然声を上げ、自分を持ち上げたことに驚くジン

オティヌスは十六夜がジンを捲し立てるのを見て上条に話しかける

 

「後はこいつ等に任せるとしよう。」

 

「いいのか?」

 

「私が居なくても、あの小僧が居ればことたりるからな。」

 

「…それじゃ春日部とレティシアの容態でも見にいくか。」

 

オティヌスはジンと十六夜の知識は相当な物だと知っていた。それはあの2人がよくコミュニティの図書室で本を何回も読み返し、いつ来るのかもわからない魔王に対抗するために。だからこそ信頼もできる

 

そして上条達は"サラマンドラ"から用意された隔離部屋に向かう

先にレティシアの部屋に行ったが寝ている筈のレティシアが居なかったため耀の部屋に行くことにした

耀はラッテンの攻撃から体調を崩したらしい

 

「そういえば黒死病ってどんな病気なんだ?」

 

ハーメルンに笛吹きにも出てくる黒死病

黒死病の事は小萌先生から聞いた事はある上条だが、もちろん詳しい事など覚えているはずもなかった

 

「14世紀にヨーロッパで流行し、当時の人口の3割の命を奪った病気だ。発症すると全身に黒い痣ができることから黒死病と呼ばれ、ペストとも呼ばれている。」

 

「さっきも言ってたけどハーメルンの笛吹きと黒死病って関係あるのか?」

 

「ハーメルンの笛吹きは斑模様の服装をした男が、ネズミを操った笛を吹き鳴らし子供130人を誘拐し殺したと言われる。その殺害方法には諸説あるが黒死病が有力説となっている。ネズミ等のげっ歯類に感染し、人間に伝染したのではないかと言われているからな。」

 

14世紀に起きた実際にある事件を元にし、作られたのが今のハーメルンの笛吹きの元の話の一部でもある

 

「ん?じゃあ、どうやって白夜叉を封印したんだ?」

 

そう。黒死病と白夜叉

どういう繋がりで封印したのか。これがわからず黒ウサギは審判会議を開いたのだと推測した

 

「だからそれがわからないんだろ…。恐らく先ほどの審判会議は白夜叉の封印に不正があるのではないか?と抗議するためのものだろう。」

 

「白夜叉って太陽の運行者だっけか。太陽とハーメルンの笛吹きって関係性があるのか…?」

 

「クッ、何かが頭に引っかかるんだが。もう少しで何か出てきそうなのに。」

 

「まっ、いま考えてても仕方ないだろ。」

 

2人が耀の部屋の前に着き、扉の前に立つ

 

「入るぞ。」

 

入る前に一言だけ言いドアノブに手をかける

 

『えっ、ちょ…⁉︎」

 

耀の声が聞こえたが時はすでに遅い

 

「…あっ。」

 

目の前には上半身裸の耀がメイド衣装のレティシアに汗を拭いてもらっていた

すぐさま扉を閉める上条

肩からは魔神の時のようなプレッシャーを放つオティヌスがいた

 

「おい人間。」

 

「何も言うな。俺は何も見てない。」

 

目を閉じ何も考えないようにする上条だが、扉からメイド衣装のレティシアが笑顔で上条に問いつめる

 

「…主殿。何をしている?」

 

「か、春日部が倒れたっていうから様子を見に来ただけです。はい。」

 

肩と正面からくるプレッシャーに押し潰されるように正座する上条

 

「そうか。抵抗も出来ない耀を狙ってきたのか。」

 

「違うからね⁉︎というかレティシアは大丈夫なのかよ?」

 

「お陰様でな。まだ本調子とはいかないがな。」

 

ベットに運ばれたあとレティシアは身体が動く事を確認して服装を変え、本陣の大広間に行こうとしたが廊下で倒れている耀を見つけ看護しているとの事だった

そして扉の前で正座している上条の前にいつもの服装を着た耀が現れた。顔は真っ赤で汗が流れ落ちている。さらに立ってはいるもののすぐにでも倒れそうだった

 

「…着替えたよ。上条も次からはノックしてね。」

 

「ご、ごめんなさい。ってふらふらじゃないか‼︎」

 

土下座をしお咎めがない事に違和感がある上条だが、耀もそんな事を考えられるほどの余裕はなかった

上条が顔を上げると、足から崩れそうになる耀。それを上条は受け止め、ベットまで運ぶ

上条も備え付けの椅子に座る

 

「大…丈夫。さっきもレティシアに身体を拭いてもらっていただけだし。」

 

「体調悪いんだろ?だったら横になってろよ。」

 

「…ごめん。」

 

「謝るよりも」

 

耀は上条から顔を逸らす

今にも泣き出しそうな声を出しながら

 

「ううん…。私は飛鳥を置いて逃げた。私がちゃんとしていれば飛鳥を守れた。」

 

「それこそ春日部のせいじゃない。むしろ俺のせいだ。俺が残っていれば」

 

上条の言葉を遮るように起き上がり俯く

 

「それだって違う。上条は私達を信じて行ったのに、飛鳥達を守らないといけなかったのに…私はそれに応えられなかった。だから私が悪い。」

 

全てを自分1人でやろうとする耀の言葉に上条はつい熱が入ってしまう

 

「春日部だけで全てを守ろうとするなよ!周りには飛鳥やジンだっていたじゃないか。」

 

上条が叫んだせいか、耀も叫び返す

胸に手を当て上条の方へ振り向き、苦しそうにしながらも叫ぶ

 

「あの時は逃げるのが精一杯だった!他に手が無かった‼︎私の力が足りなかったから‼︎」

 

「違うだろ⁉︎大会だって春日部の力で優勝出来たんじゃねぇか‼︎ペルセウスの時だって春日部が居なかったら負けてた!自分の事を過小評価しすぎだ‼︎」

 

「違う‼︎私だけじゃ何もできなかった!あれは上条が居たから私は優勝できた‼︎」

 

2人の叫ぶ声がさらに勢いを増し、2人とも譲る気がないのを見兼ねたのかレティシアが仲裁しようとする

 

「やめないか2人共。今喧嘩しても何も解決はしないし、耀の体調が悪くなる一方だぞ。」

 

「ッ…悪い。熱くなりすぎた。春日部もゆっくり身体を休めろよ。」

 

上条は椅子から立ち上がり部屋を去る。それに続くかのようにレティシアも部屋をでる

 

「私も失礼するよ。また後で来るからな。」

 

1人になった耀は横になる、瞼を閉じ寝ようとする、耀の瞳からは雫が溢れていた

 

「…うん。」

 

耀の部屋を出て廊下を歩く上条を追いかけるレティシア

 

「当麻…。いくら耀が悪いと言っても」

 

「あぁ、分かってる。分ってるよ…!」

 

自分が言ったことの浅はかさに気づく。耀は強くない。肉体的、精神的にまいっている耀に追い打ちをかけるようなことをした自分を殴りたいとさえ思った

沈黙が続き、気まずくなったのかレティシアはある事を思い出し話しかける

 

「そういえば審判会議はどうなったのだ?」

 

「騒ぎ声とかも聞こえないし、まだ続いているんじゃないか?」

 

レティシアは耀から聞いた事をつぶやく

 

「白夜叉が参加条件に満たしていないから行動を制限している…か。」

 

その呟きにより上条はある事に気付く

 

「オティヌス、ハーメルンの笛吹きには太陽の事なんて書かれているのか?」

 

「私の記憶ではそのようなことは一切ない。」

 

「黒死病自体には何もないのか?」

 

「当麻…これはハーメルンの笛吹きのギフトゲームであって、黒死病そのものとは関係性が薄いと思うのだが。」

 

「…黒死病そのもの……そうか、そうか。ふふっ、わかったぞ。」

 

上条の一言により、オティヌスの足りなかった何かに気づき、不敵に笑い出す

 

「本当か⁉︎」

 

「人間のお陰だよ。いいか。そもそも私達は大きな誤解をしていた。あのペストとやらは自分の事をハーメルンの魔王などとは言ってなかった。」

 

「あぁ、確かに自分の事を"黒死斑の魔王"って…」

 

「おかしいとは思わないか?普通ならハーメルンの魔王ではなくても、他に何か言うはずだ。しかし奴は自分を"黒死斑の魔王"としか言っていない。つまり奴はハーメルンの笛吹きとは全く無縁の、太陽が氷河期に入り、太陽の力が弱くなり、14世紀以降に約8000万の命を奪った黒死病…ペストそのものだ。」

 

「つまり白夜叉が封印されたのは…」

 

「太陽の力が弱くなる氷河期の影響だろうな。」

 

「それじゃあ、今やってる審判会議は…。」

 

「無意味だ。」

 

その言葉は衝撃だった。今あそこで十六夜達が頑張っているのは無意味だと

レティシアは過去に審判会議に携わったことがある。つまりこの事の重大さを知るのも彼女だけだった

 

「それが本当だとすれば、無意味どころかマズイ事になるぞ⁉︎下手したら此方が不利になってしまう!」

 

「どういう意味だ?」

 

「今回の審判会議、此方がいちゃもんをつけたみたいなものだ。それを黙って見過ごすほど奴等も馬鹿じゃない。」

 

「今から止めに行くのは?」

 

「無駄だ。審判会議が始まった時点で奴等の思惑に見事嵌められた。」

 

だからあの時、審判会議が発令されたのにもかかわらず余裕だったのかと上条も納得がいく

 

「始まってしまったものは仕方ない。なら私達は出来る限りの対策を考えればいい。」

 

大広間の方からどよめきが聞こえ始める

 

「どうやら終わったみたいだな。」

 

オティヌスは手を顎に当て、少し悩んだが、すぐに手を外しレティシアに向かって話しかける

 

「吸血鬼。悪いがこの事をあの不良にでも教えてくれないか?」

 

「別に構わないが。当麻達は行かないのか?」

 

「結果は見えている。詳しい報告は後で聞くとして、今は少しでも対策を考えたくてな。」

 

オティヌスからするとレティシアの言うことが本当なら此方にハンデがついてるのは明白だったからだ

 

「了解した。…耀とは早めに仲直りするんだぞ?」

 

痛いところを突かれ、頭を掻く上条

 

「…わかってるよ。」

 

レティシアが立ち去るとオティヌスは廊下の窓枠に移り上条と向き合う

 

「人間…。先は魔王の正体が黒死病だといったよな。」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「厳密に言うと少し違う。そうだな…。そもそも何でアイツは魔王となったのか、それがわかるか?」

 

「たしか白夜叉の身柄と、サンドラの龍角だっけか。」

 

「そうだ。では質問を変える。何でアイツは白夜叉の身柄を望んだと思う。」

 

「それは…白夜叉と何かしら因縁があるから?」

 

「正解だ。いいかよく聞けよ。奴は」

 

 

 

 

審判会議によるハンデにより1週間の待機命令があったが、その間に十六夜と人の活躍によりゲーム攻略の糸口は見えた

そして今日でその1週間が過ぎようとしていた。あと数分もすればまた魔王との戦いが再開される

上条は大祭運営本陣なら離れた所にいた

 

「本当によかったのか?癪だが吸血鬼にでも。」

 

「いや。これは俺がやりたいと決めたことだからな。他の奴らを巻き込みたくない。」

 

右手を見つめる。今回やるべきことは決まっていた

倒すべき相手も、救いたい奴らも

そんな上条をオティヌスは心配そうに見つめる

 

「やれやれ…別に人間のその癖が悪いとは言わない、せめて何かやる時は私には相談しろよ?」

 

「当たり前だろ。」

 

上条のその言葉に自然と口元が緩くなる

 

「ならいいんだがな。」

 

ゲーム再開の合図は激しい地鳴りと共に起きた

境界壁から削り出された宮殿は光に飲まれる。あまりの眩しさに目を瞑る上条だが、目を開けると先程の景色は跡形もなく、見渡すと木造の街並みに姿を変え、パステルカラーの建造物が一帯を覆っていた

しかし上条とオティヌスは変わり果てた街並みを前にしても冷静だった

 

「…始まったようだな。」

 

「あぁ。行くぞ。」

 

上条は走り出す

あるところを目指し

 

これはゲームが再開される少し前、美術展、出展会場。魔王側本陣営

 

斑模様のワンピースを着た少女はある手紙を読んでいた

そこにラッテンと呼ばれる女が後ろから物珍しそうに話しかけきた

 

「マスターマスター。その手紙はどうしたんですかー?」

 

「街に置いてあったのよ。」

 

ラッテンに続くように軍服を着たヴェーザーが苦笑しながらも興味津々だった

 

「何だよそれ、果たし状か?」

 

「…ふふっ。ただのダンスのお誘いよ。」

 

「マスターはモテますね それで何人と踊るんです?」

 

「1人と1匹よ。」

 

ラッテンは一瞬戸惑い固まった、この少女が嘘をつくはずもないとわかっていたからだ

 

「え…?またまたお冗談を。でもそんなマスターも可愛いですよ 」

 

「そんなの罠に決まっている。止めておいたほうがいいぜマスター。」

 

少女はくすりと笑う

 

「…いえ。彼にも興味が湧いたわ。殺さずに私のペットにするわ。貴方との死の舞踏を楽しみにしてるわ。」

 

手紙を黒い風で飛ばす。少女は振り向く。見据えるはプレイヤー側運営本陣のある方角

 

 

 

 

魔王との戦いは最終局面へ移る

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

お待たせしました!


お気に入り400人突破ー!
いぇい!
嬉しい!

今後も増えるよう頑張ります
小ネタは明日の夜疲れてなかったら投稿します!

今回はオリジナル要素、オリジナル展開が強目となっております
小ネタのアイディアとかくれてもいいんだよ…(小声


ゲームが再開されるほんの少し前、黒ウサギはある人物を探すため大祭運営本陣を見回っていた

そこに1人で外を眺めている十六夜が居たので黒ウサギは話しかける

 

「十六夜さん、上条さんを見ませんでした?」

 

黒ウサギが探していたのは上条当麻だった。ゲームが始まる前に打ち合わせなどしたかった彼女だが、肝心の上条が居なくこうして探し回っていた

 

「上条?いや見ていないな…。どうかしたのか?」

 

「それが昨日の夜から誰も見ていないらしんですよ。」

 

「昨日…確か散歩するとかいって出て行ってたな。」

 

十六夜が見たのは、夜に外に出ようとしていた上条とオティヌスだった。決戦前夜に何処に行くのか気になった十六夜は話しかけたが、上条は散歩してくるといい出掛けたのだ。十六夜はその時はあまり気にしていなかったが考えてみるとおかしな点ばかりだった

しかし十六夜は上条達の事を考えるのをやめた

 

「散歩で帰ってこないなんて…。もしや魔王に…」

 

黒ウサギの脳裏に浮かぶ可能性をバッサリと十六夜は切り捨てる

 

「それはない。ルールにも互いに相互不可侵にしてるから何かあればルール違反になる。」

 

「では一体…。」

 

「今は考えるのはやめよう。もうすぐゲームが始まる。そうなるとゲームクリアを目指すのが先決だ。」

 

十六夜が上条達の事に対して重要性がなかったからだ。別段あの2人が居なくても作戦は成り立つ、人手が少なくなるのは痛いが緊急事態というわけでもない

十六夜が懸念するのはゲームからの逃亡だけ。あの2人に限ってそれはないと考えるが、十六夜は可能性として頭に入れていた

 

「…そうですね。では十六夜さんも手筈通りにお願いします。」

 

「ハッ、わかってるよ。そっちこそ俺が来るまでにくたばるんじゃねぇぞ。」

 

「Yes!お任せください。」

 

黒ウサギ胸に手を当てる。その瞳には覚悟で満ち溢れていた

 

そしてゲームが再開される。再開の合図は激しい地鳴りと共に訪れた

 

黒ウサギはサンドラと共に魔王であるペストを探すため街中を飛び回っていた

黒ウサギの耳は特殊でプレイヤー側になると直径1km以内の情報が全て集まってくようになっていた

なので1km内に何も無かったら移動し即座に情報を集め敵の位置を探っていた

 

「黒ウサギ。どう何か情報は見つかった?」

 

「駄目です…。ここ一帯にはペストは居ません。」

 

「そうですか。…一体何処に隠れているのんですかね。」

 

首を傾げながらも常に周囲を警戒する黒ウサギ、その素敵耳にある情報が上書きされる

 

「ッ‼︎」

 

黒ウサギは情報がきた方角に振り返る。そこには1km離れているというのにはっきりと目視できる巨大な陶器いた

 

「敵…!あれはシュトロム⁉︎」

 

そう敵はシュトロム。サンドラが倒したと言っていたが、陶器だけあって一体だけでは無かったようだ

シュトロム自体そこまでの力はない。黒ウサギもそこはわかっていた、しかし目の前にいるシュトロムは、明らかに違った

そう陶器の巨兵は軍勢をなしていた

その数は数十体、陣形を組み強烈な渦巻きと瓦礫を黒ウサギとサンドラめがけて放つ

 

「何ですか、この数は⁉︎」

 

「BRUUUUUUUM!!」

 

サンドラが回避しつつ接近しシュトロムを溶かす。しかし一体倒したところで別のシュトロムが反撃とばかりに瓦礫と烈風を放つ

それを回避するため一度下がる

 

「これではキリがないッ‼︎」

 

「時間が無いというのに…‼︎」

 

このゲームに設けられた時間は24時間。雑魚の軍勢を相手に割く時間は2人にはなかった

 

「黒ウサギ!とりあえずはコイツラを一掃しよ!」

 

「わかりました…‼︎」

 

1秒でも早く魔王を倒すために黒ウサギとサンドラはシュトロムと対峙していく

 

上条はある場所に向かって走り出していた

ふと上条の頭に休戦1日目にオティヌスと話したことを思い出す

 

審判会議の様子を見るためレティシアと別れ、上条とオティヌスは部屋に戻っていた

 

「奴は黒死病によって死んだ霊の群衆が1つになったものだと私は考えている。」

 

「つまりはペストは黒死病じゃなくて…」

 

「そう。8000万の死霊群の代表って所だろうな。」

 

オティヌスが目をつけたのは黒死病の最盛期と、ハーメルンの元の話の年代だった

ハーメルンの碑文が書かれたのが1284年

しかし黒死病が流行りだし、太陽が氷河期に入ったのが14世紀以降、つまりは1350年以降だった。2つの年代がどこからみても合致しない

さらに目をつけたのがペストの目的の1つである白夜叉の身柄引き渡しだった

単なる黒死病の悪魔なら白夜叉の身柄を欲しがる必要などなかったからだ、そこでオティヌスある可能性にいきついた

ペストは8000万の人を殺した黒死病の悪魔ではなく、8000万人もの死者の軍勢ではないかと

 

「だ、だったら白夜叉の身柄を求めたのは…‼︎」

 

「太陽に復讐する為だろうな。黒死病もそうだが、14世紀以降に氷河期に入った太陽のせいで飢餓や黒死病が流行り8000万もの人が犠牲になった。夜叉はそんな太陽の主権を持っている。」

 

ペストの目的が太陽の運行者である白夜叉なら、やることは復讐しかないとふんだのだ

復讐と聞き上条の脳裏にはある人達が浮かび上がった

 

エリスの復讐をする為に学園都市に攻め込んだシェリー=クロムウェル

 

科学によって殺された弟の為に学園都市に復讐しにきた前方のヴェント

 

グレムリンを裏切ったオティヌスに復讐しようとしたマリアン=スリンゲナイヤー

 

他にも沢山の復讐者と上条は対峙してきた。しかし復讐しようとした者は皆悲しい顔ばかりしていた

ペストもその1人だった

だったら止めなくてはいけないと上条は衝動に駆られる

 

「だからって…。だからって復讐は駄目だ!絶対に‼︎」

 

「このままいくと奴は必ず倒される。無論、お前の手を借りずともな。だが人間はどうする?人間は奴をどうしたい?」

 

オティヌスは上条が介入しなくとも、このゲームは勝てると確信していた。十六夜とジンがいればすぐにでも謎は解かれる。そうなればペストは倒されるしかない

しかし十六夜はペストの事情など知っていようが関係なしに倒してしまう。そうなればペストは復讐者として消えてしまう

そんなの上条にとって許されるはずもなかった

 

「俺は…ペストを助けたい。」

 

「理由を聞こうか。」

 

オティヌスはわかっていたかのように笑い、上条に聞き返す。上条はその質問に少しふてくされる

 

「わかってるくせに。」

 

「…いいから答えろ。」

 

「…理由なんてどうでもいいくせに。俺はただアイツを…ペストを助けたいと思ったからだ。そこに深い理由なんかない。」

 

オティヌスはその答えを聞くと両手を広げやれやれとため息をつく

 

「本当に人間のソレは呆れを通り越して尊敬するよ。」

 

「そ、そうか?」

 

「そうだ。…ふむ。となると奴と一対一の状況にする必要があるな。あの兎達から見つからずに入れる場所がこの街にあるか…。」

 

もし街中で戦闘が起きてしまうと黒ウサギや十六夜の邪魔が入ってしまう。そうなるとペストは倒されてしまう。つまりペストを助けるためには黒ウサギ達の介入が難しい場所でなければいけなかった

一対一にしようにも、この街にそのような場所があるとは考えにくかった

場所のことについて考えていた上条はある事を思い出す

 

「…なぁ、思ったんだけどさ。白夜叉みたいに舞台を変える可能性ってのは無いのか?」

 

魔王ともなれば白夜叉みたいに舞台など変えること位出来そうだと上条は考えた。

 

「舞台を変えるか…出来るなら最初からするんじゃないか?」

 

それはオティヌスも考えた。しかし何故にゲーム開始時からそうしなかったのか疑問に浮かぶ。最初から舞台を変えたほうが黒ウサギ達も動揺も含め有利になるのにも関わらず

 

「いや、そうとも限らないだろ。例えば舞台を変えて、そこから正体がバレるからとか、そういった理由があるんじゃないのか?」

 

「…なるほど。確かにそれなら筋が通る。となると、もし舞台が変わるとなれば14世紀以降の街になるな。」

 

「確かハーメルンの笛吹きでは子供達が死んだっていう洞窟があるんだよな。」

 

「確かにあるが、それがどうした?」

 

「…その洞窟さ多分だけど舞台に現れる。そこにペストを呼び出す。」

 

ペストが黒死病によって死んだ者の集合体なら、その所縁ある場所も残すと考えた。ハーメルの笛吹きでは子供達は洞窟に連れ去られた説もあった。なら可能性として低くはないと上条は考えた

 

「しかしどうやって呼び出すのだ?素直に来てくれるとは思えないが…。」

 

場所が決まったとなると後はどうやって一対一にするかだった

数分間悩んだ末に上条が出したのはとてもアナログな方法だった

 

「…手紙でも書くか。」

 

「は?」

 

突拍子な事に目を丸くするオティヌスだが、上条は妙案を思い浮かんだとばかりに得意顔をする

 

「手紙を書いて、出来る限り敵の陣地の方に置く。」

 

「果たし状ということか。い、いいんじゃないか?」

 

呼び出す方法は決まったが上条には手紙を書いたことなど殆ど無かった

 

「問題はどう書くか…。」

 

「私も手伝うから安心しろ。」

 

「おう!助かるよ。」

 

こうして休戦中の4日間を手紙に費やし、再開前夜に手紙を置いていった

 

そのまま上条は場所を変え夜が更けるのを待ち、ゲームが再開されると同時に舞台が変わり予想が当たったことで洞窟に向かって走り出したのであった

一度上条は手紙を置いた場所に確認しに行ったが何処にも無かったので、読んだと確信していた

 

「あそこに手紙が無かったって事は奴等は読んだと考えるべきだな。本当に来ると思うか?」

 

「来る。ペストは必ず来る。」

 

「そうか。…洞窟はどこにあるのかわかっているのか?」

 

「さっき見えたんだけど東の方の街並みが途中で途絶えていたから

多分そこだと思う。」

 

手紙を探している最中に高い建物に登り周りを見渡していた上条は、東の方角にいくと建物も、草も生えていない14世紀の街並みにはとてもあっていない洞窟が遠くに見えていた

 

「ならいい。」

 

そして走ること数分間

上条とオティヌスの目の前には山みたいに盛り上がり一つだけ穴が空く洞窟があった

そこを進んでいくが洞窟の道なりには丁寧に炎で照らされていた

奥に進むと広い空洞がありそこに小さな少女がいた

 

「待たせたみたいだな。」

 

「まさか本当に来るなんてね。それにしてもよくこの舞台がわかったわね。誰が解いたの?」

 

少女は斑模様のワンピースをきたペストだった。ペストは上条達を見ると少し驚いたかのように目を開き、次にクスリと笑い始めた

 

「細かい謎解きはあの不良と小僧がやってくれたのだが。この事を予測していたのはコイツだよ。」

 

「意外。てっきりジン=ラッセルか、貴女かと思っていたのに。」

 

「人間は見掛けによらず頭は切れるからな。」

 

「ふふっ。それで私を呼び出してどうするつもりかしら?こんな狭い洞窟で幼い少女と…何をするつもりかしら?」

 

ペストはからかうように笑うが、上条は笑いはしなかった。その瞳はしっかりとペストを捉えていた

 

「止めろよ…。」

 

「もしかしてギフトゲームの事を言ってるの?なら諦めなさい。私は」

 

「復讐なんてやめろよ。」

 

「ッ…‼︎何だ、そこまでわかってるのね。」

 

復讐という単語に反応したペストはふざけた態度をやめる

 

「たとえ復讐しても何も変わらない。」

 

「貴方にそんな事を言われる筋合いはない。」

 

「そんなに太陽が憎いのか?」

 

上条の瞳には悲しさと怒りが混じっていた

ペストは上条の質問に対し、何もないはずの洞窟の上を見上げる

 

「憎いわ。だって当たり前でしょ。私を含め8000万の命を奪った原因は太陽なのよ?」

 

視線を上条に移す。するとペストの表情は段々と険しくなる

 

「貴方には聞こえないでしょうけど。私には8000万の人々の怨念の声が聞こえるの。毎日…毎日よ。憎き太陽に復讐せよってね。もううんざりよ。まっ、貴方にはわからないでしょうけど。」

 

ペストは険しい表情をしていたが、一瞬だけ哀愁を帯びた顔を見せたが 、上条に向き合うとその表情は消えていた

 

「だから私は終わらせる。黒死病を世界に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源…私達を見殺しにした怠惰な太陽に復讐して終わらせるの。」

 

上条は声を震わせながら問いかける

 

「何だよそれ…そんなのは可笑しいだろ!」

 

「…お喋りもここまでね。」

 

そういい、ペストの袖の中から黒い不気味な風を上条に向ける、最初にあった時の風とは質が違いすぎると上条は感じた

あれは触れてはいけないと本能で察っする

しかし本能が警戒している名にも関わらず上条はそれを無視し前に進む

 

「本当にお前は復讐なんてしたいのかよ‼︎答えろペスト‼︎お前は一体どうしたいんだ⁉︎」

 

上条は死霊の群衆ペストにではなく、1人の少女ペストに問いかける

しかしペストにはその声は届いてなどいなかった

 

「先に忠告するわ。この風は触れただけでその命に死を運ぶ風よ。死にたくなかったら頑張って避けることね。」

 

純粋な死の呪い

触れることすら許されないその風を上条は右手で薙ぎ払う

ペストは必殺に近い、死の恩恵をあたえるギフトすら避けもせずに退けられ動揺が走る

 

 

「お前は本当にそれでいいのか⁉︎それしか道はないのかよ!他にも道はあるはずだ!考える事を放棄するな‼︎」

 

上条はペストとの距離を詰めるためゆっくりと歩く。ペストは近付けないために死の風を上条に向けるが右手で全て霧散させられてしまう

 

「うるさいッ!さっきから聞いていれば酷い言い様ね。貴方には関係ないでしょ!」

 

上条の声が届く、ペストは上条を黙らせるために叫び返す

 

「あぁ、関係ないな。だけど俺とお前が出会った時点で他人じゃないし、俺は知ってしまったからな。」

 

「そんなのは屁理屈よ。魔王である私に通じるとでも思ってるの?」

 

「思ってる。」

 

上条の真っ直ぐな言葉にペストはとうとう動揺を隠しきれずにたじろいでいた。唇をかしめながらも声を震わせながらペストは上条に質問する

 

「じゃあ何。貴方が私を助けてくれるとでも言うの?」

 

「当たり前だ。」

 

ペストはその言葉に目を見開く

 

「く、口先だけなら何とでも言えるわ。」

 

後ろに下がりながらも四方八方に風を放つ

 

「いいや、助けてやる。お前が嫌だとって言ったとしても、俺はお前を助ける。」

 

それら全てを上条は右手で受けきる

そらみたペストはとうとうは風を放つのをやめる

 

「な、何よそれ。そんなのただのワガママじゃない!」

 

「そうだ。これは俺のワガママだ!俺がお前を助けたいから助ける。嫌だと言ったとしても関係ない、黙って助けられろ‼︎」

 

上条の声が頭に響くと同時にペストの頭には死霊の声が聞こえてくる

『復讐しろ

太陽の味方をする全ての者を殺せ

そうすることでしかお前は救われない』

耳を塞いでも死霊の声は聞こえてくる

もううんざりだった、魔王として召喚された時から聞こえる声に、聞こえなくなるのは眠る時だけ。こんな事ヴェーザーやラッテンに言ってもどうにかなるものではないと知っていた。だから無責任に助けるなどと言う上条に腹が立った

 

「貴方に救われるほど、私は弱くない‼︎覚悟が違うのよ、私はどんなことをしても太陽に復讐しないといけないの!」

 

死の呪いが効かないのなら、とペストは上条の懐に入り込み、蹴りを入れる

まさか直接くるとは思っていなかった上条は反応が遅れてしまい、もろにペストの蹴り受けてしまう

壁に叩きつけられることで肺に入っていた酸素が全て吐き出された

だが、それだけでは上条は倒れない。立ち上がりペストに言葉をかける

 

「だっ…たらなんでお前は俺を生かしたんだ。今の攻撃だって、その気になれば俺なんてすぐに死んでいていた。手駒が欲しいとか、理由つけてるだけで」

 

立ち上がる上条に今度は拳を腹に決める。身体がくの字に曲がり、胃から何かが出てきそうになるが無理矢理に押し戻す

 

「いい加減にして。私は白夜叉に復讐した後の事を考えていただけよ。殺そうと思えば殺す。」

 

それでと倒れない上条はペストの腕を掴む

 

「そうかよ。だったら何で自分から死のうとしてるとしているんだよ。」

 

「私が死のうと…?そんなこと」

 

「してるじゃないか。どうせ俺が呼ばなかったら黒ウサギ達と真っ向から戦うつもりだったんだろ?逃げもせず、隠れようともせずに。」

 

上条の言葉により、ペストの中でなにかが壊れそうになる

ペストは掴まれた腕を何とか振り払い距離を取る

 

「ッ…だとしたら何?私はあの兎とサンドラとかいうフロアマスターを相手にしても負ける気がしないだけ。」

 

「本当にそう思っているのか?お前は」

 

ぐらりと上条が膝をつく、呼吸が荒くなり黒い斑点が全身に浮かんでくる。それをみたペストは安堵した

 

「黒死病…」

 

「えぇ、そうよ。最初の攻撃に仕込んで置いたの。死の呪いは消せても、病原体までは消せないようね。」

 

距離を取っていたペストだが、上条に近寄り見下す

 

「貴方もいい加減に諦めたら。今ならまだ助かるかもしれないわよ?」

 

「誰が諦めるかよ。途中で諦めるなら最初から此処には居ない。」

 

なんとか立ち上がろうとする上条だが、力が入らないのか足が震える

 

「そう…。なら望み通り殺してあげる。」

 

「お前にはまだ誰かを心配するだけの優しさがあるじゃねぇか!そんな優しい奴が復讐なんてしちゃいけない!本当はお前だって復讐なんてしたくないんだろ⁉︎」

 

上条は立ち上がりペストに問いかける

ペストの中で壊れかけてものに亀裂釜はいる

自分の何かが壊れそうになるのを気付かないふりをして抑える

 

「黙りなさい。」

 

ペストは上条の声を聞こうとしない。いや聞きたくなかった

もはや立つ事が精一杯の上条を蹴とばす。壁にめり込み、悲痛な声が洞窟に響く

 

「殺す。貴方は殺すわ。じっくりと虐めてから殺す。」

壁にめり込む上条をいたぶるためペストはゆっくりと歩く。手を伸ばし上条を掴もうとするペストと上条の間に雷撃が割ってはいる

 

「やっと見つけましたよ!」

 

それは黒ウサギの手に握られた疑似神格・金剛杵によって止められる

ペストは視線を上条から黒ウサギの方へ向ける

そこには黒ウサギ、サンドラ、途中で合流したのかレティシアと十六夜が戦闘態勢をとり構えていた

4対1の状況にも関わらずペストは悠然と構える

 

「随分と遅かったのね。」

 

レティシアはペストの横で壁をめり込み、全身がボロボロの上条を見つけ駆け寄ろうとする

 

「ッ⁉︎当麻⁉︎大丈夫か⁉︎今助けに」

 

「来るな‼︎」

 

しかし上条はそれを止める。壁から抜け出し黒ウサギとペストの間に割って入る

頭や腕からは大量に血を流し、服からも血が滲んでいた

そんな状態の上条に来るなと言われ混乱するレティシア

 

「え…。」

 

上条は振り返りレティシアに向かって笑顔を見せる。しかしその姿はとても痛々しかった

再び上条はペストと向き合う

 

「俺なら大丈夫だ。それにコイツは俺1人でやっつけるから手を出さないでくれ。」

 

「そ、そうはいきません!魔王を見つけたのなら即座にでも倒さないと…‼︎」

 

上条の言葉にサンドラが反論する

 

「いいから‼︎手を出さないでくれ。」

 

上条がだらりと下がる左腕の代わりに右腕で通せんぼをするかのように立ちふさがる

 

「さっきから聞いてれば。随分と愉快な事言ってんじゃねぇか。」

 

十六夜は上条が初めて聞いてもわかるくらいイラついているのがわかった。しかし上条はそんなことより十六夜の腕が気になった

 

「十六夜…。お前その腕」

 

十六夜の右腕はボロボロで肉が内側から弾け、拳も砕かれて

十六夜は左腕をパタパタと振るう

 

「ハハッ、これでも今のお前よりかは元気だぜ。それと手柄の独り占めは頂けないな。」

 

「悪りぃな。手柄が欲しいならジンにでもやるよ。」

 

「それは当たり前として、1人で楽しんでんなよ。俺も混ぜろ。」

 

左腕をグリグリと回しまだ戦えるとアピールする

 

「それは出来ない。」

 

「駄目です!上条さんだってボロボロじゃないですか⁉︎それにその黒い斑点…黒死病にだってかかってるじゃないですか‼︎」

 

しかし上条は拒絶する

仲間との共闘を。十六夜達が信頼できないからではない、彼等の力は強力すぎると考えてた

 

「俺なら大丈夫。だからここは俺に譲ってくれ。」

 

黒ウサギ達は黙るしかなかった

上条はフラフラになりながらもペストだけを見据える

しかし"ノーネーム"ならまだしも"サラマンドラ"ましてや"階級支配者"のサンドラは黙らずに前に進む

 

「そんな状態で言われても説得力なんてありません。魔王は私達が倒します。」

 

好機と思ったのか黒ウサギもサンドラに続くように歩き出す

 

「上条さん、訳は後で詳しく聞かせて貰いますからね。」

 

徐々に上条に近寄る2人

しかし地面から黒い刃が飛び出し、洞窟の穴が塞がる

上条との間に壁を黒い壁ができる

サンドラは咄嗟に後ろに下がる、黒ウサギも一緒に下がり後ろに振り向く

 

「レティシア様⁉︎」

 

そう黒い刃を出したのは他でもないレティシアだった

レティシアの影は刃まで伸びており、それが無尽蔵に刃となっていた

黒ウサギの叫びを無視し上条近寄り話しかける

 

「そんなにボロボロになりながらも、これは当麻がやりたいことなのか?」

 

「あぁ。」

 

「そうか。なら思う存分やるといいさ。」

 

レティシアは上条を笑顔で送り出す

 

「レティシアありがとう。」

 

上条もそれに応えるように笑いペストの方へ歩く

レティシアは振り返る、上条当麻という主人の為に

本当なら止めたい、今すぐにでも変わってやりたい。しかしメイドが主人の命令に反するのは間違っている、なら従うしかない

勿論、理由はそれだけではない

 

「当たり前だ、なんたって私は当麻のメイドだからな。」

 

「俺達のだろ。」

 

面白くなさそうに指摘をする十六夜、レティシアはそれに軽く笑い槍を手に構える

 

「そうだったな。それは失礼した…がここを通りたいのなら私が全力で相手になるが?」

 

「はぁ…別に相手するにはいいんだけどよ、冷めた。上条がどうするか見てやるよ。」

 

「黒ウサギはどうする?」

 

「レティシア様に刃を向けることなど私に出来るわけがありません…。」

 

十六夜は近くにあった石に座る

黒ウサギが仲間と戦うはずもなくただ俯く

 

「すまないな。」

 

「……。」

 

サンドラは納得がいかずにいた、目の前に敵が、魔王がいるのに見てるだけしかできない

それだと何のために"階級支配者"になったのかわからずにいた

 

上条とペストは再び対峙する

ペストの顔には焦りはなく、待ち構えていた

 

「いいの?別に皆で来てもいいのよ。」

 

「わざわざ待っててくれたのか。ありがとう。あとお前とは俺1人で戦いたい。」

 

「…後悔しても遅いわよ。」

 

上条は踏み込みペストに殴りかかろうするが、いとも容易く回避される

そしてカウンターに回し蹴りをするが、何とか左腕を使い防御する。そこからは上条は防戦一方で攻め込む余地すらなかった

 

上条の様子に見かねたのかサンドラが十六夜に訴えかける

 

「やっぱりあの人だけじゃ駄目です!私達も」

 

「黙って見てろ。これは上条の戦いだ。」

 

それを十六夜は制す、視線は上条達をずっと捉えたまま

 

「しかし、これではあの人が死んでしまいますよ⁉︎」

 

「頼む、今回は見届けてくれ。」

 

叫ぶサンドラにレティシアが頭を下げながらお願いをする

 

「何でですか…、何で皆さんは仲間が傷ついているのを黙って見過ごせるんですか‼︎」

 

サンドラは混乱していた

相手は魔王、それなのに1人で戦う上条にも

それを黙って見過ごす"ノーネーム"の人達にも

 

「別に黙って見てる訳じゃない。ただ俺は上条の戦いを見たいだけだ。本当にやばそうになったら無理にでも行くさ。」

 

「そんなのおかしいです‼︎あの人は今すぐ治療しないといけない位の怪我をしてるんですよ⁉︎それなのに何で止めないんですか‼︎」

 

サンドラの叫びは止まらない、むしろどんどんと激しくなっていく

そんなサンドラの肩に手がおかれる

 

「それは違うぞ。私は信頼してるから止めないんだ。当麻は俺に任せろといった、なら任せてみるのが筋じゃないか?」

 

「私にはわかりません…。あの人がそんなに信頼できる人なら私だって任さます。だけど、現にあの人は一方的にやられてるじゃないですか!」

 

手の平から血がにじみ出るほどまでら握る

今もなお上条は防戦一方で反撃どころか、徐々に傷が増えていくばかりだった

しかし十六夜の顔にはいつもの軽薄な笑みがこぼれていた

 

「それはどうかな。」

 

 

 

 

防戦一方だった上条はペストの攻撃を回避するしかなかった

その中でペストの蹴りを右手で掴む

 

「確かにお前がやってることは間違ってないかもしれない。」

 

ペストは上条の言葉に目を鋭くしながら驚く

 

「…貴方の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったわ。」

 

「だけど、その不幸は押し付けちゃいけない。ペスト、お前は自分の不幸を受け入れられず、他人まで巻き込もうとしているだけだ!そんな事はしちゃいけない‼︎」

 

ペストは上条の腕を払い睨む

 

「それの何処が悪いのよ。考えてみなさい。普通の女の子が友達と元気に遊んでいただけなのに、突然身体中に黒い斑点ができて苦しくて、でも周りは助けてくれない。友達も親すらも私から遠ざかったわ。そんな理不尽ある?いいえ、無いわよ。太陽が私達を見捨てなかったら生きてたかもしれない。こんな事しないで、普通の暮らしをしていたかもしれない。私はね、そんな理不尽な理由で死んでいった人達の願いを背負ってるの。その願いを叶えるために私は復讐しないといけないの。」

 

ペストは拳を握る、己の願いを叶えるために

 

「そんなの間違っている!確かにお前は不幸だよ。話を聞くだけで同情しちまうくらい。だけど本当にそれしかないのか?復讐以外にも方法があったかもしれないだろ⁉︎周りの声に惑わされるなよ。声が聞こえるなら耳を塞げ!誰も頼れないなら俺を頼れ!そんな不幸、俺が全部消してやる‼︎」

 

上条も拳を握る、不幸な少女を助けるために

 

「それが本当だとしてら嬉しいわよ。でももう遅いの。貴方の後ろの人達の様子を見る限り、ヴェーザーとラッテンは消えたいみたいね。だとしたら魔王として立ち上げた、あの人達の為にも、私の為にも、私が簡単にやられるわけにいかない‼︎‼︎」

 

覚悟を決める

ペストは上条を倒し、魔王としての意地を見せるため

上条はペストを救うために、不幸から逃げ回る少女のために拳を握る

上条とペストは右拳を掲げる

 

「いいぜ、そんな方法でしか自分を救えないのなら

 

まずは

そのふざけた幻想をぶち壊す!」

 

拳が届いたのは上条だった

上条の右拳はペストの顔面を貫く、それと共に何か砕ける音がした、しかしそんな事今の上条には関係なかった

 

「俺の勝ちだ。」

 

倒れ伏すペストは目を閉じ右手で顔を隠していた

今まで聞こえていた騒音はもう無くなっていた

 

「えぇ、そして私の負けね。あぁ。これで本当に帰る場所もなくなっちゃたな。」

 

涙を流すペストだがその表情は柔らかいものだった

倒れるペストに上条は右手を差し伸べる

 

「なら俺達のコミュニティ来ればいい。"ノーネーム"の皆ならきっとお前だって受け入れるはすだ。」

 

ペストは上条の手を取ろうとするが引いてしまう

 

「…私みたいな魔王が入ってもいいのかしら?」

 

「もうゲームは終わったんだろ?ならお前は魔王でもなんでもない。ただの女の子だろ。」

 

「何よそれ。やっぱりおかしいわ、貴方。」

 

体力が尽きたのか倒れたまま目を瞑るペスト

 

「おかしい…か。そんなの…知ってい…る……よ。」

 

上条も緊張の糸が切れたのかそのまま倒れる

レティシアはそれを見ると同時に黒ウサギに指示を出す

 

「当麻‼︎急いで医務室へ行くぞ‼︎」

 

「は、はい!私は先に行って治療の準備をします!」

 

「頼んだ‼︎」

 

黒ウサギは急いで振り返り跳躍する

レティシアも翼を広げ上条に駆け寄る

 

「レティ…シア…?」

 

「あぁ、そうだよ。だけど今は喋るな。」

 

そして上条を抱きかかえる

全身からの出血が酷かった、打撲ともしかしたら骨折してるかもしれない箇所が数箇所もあった

それでも上条は自分ではなくペストの心配をした

 

「ペストを…アイツはもう魔王じゃ…。」

 

「わかってる。わかってるからもう喋るな!」

 

右手が触れないようにレティシアは上条を連れ去る

上条の姿が見えなくなるとサンドラは静かにペストの元に近寄り炎を出すが、それを十六夜肩に手を置きとめる

 

「サンドラ、やめとけ。」

 

「しかし、魔王はまだ!」

 

「さっき上条が言ってたろ。アイツはもう魔王じゃない。」

 

サンドラは振り返り十六夜に怒鳴る

 

「元魔王な事に変わりはありません。もしかしたらまた襲ってくるかもしれません!」

 

「それはもっともだが、ペストを攻撃するってんなら、うちに対する宣戦布告ってことでいいのか?ペストはもう"ノーネーム"が隷属させることに決まっている。なら仲間を守るのは普通だよな?」

 

十六夜は今のサンドラを見下しながら薄ら笑いをする

 

「まだ決まってもいないのに、よく言えますね。」

 

「決めたのは上条だけどな。文句ならアイツに言え。」

 

依然としてサンドラの表情は暗く、険しいものだった

 

「…納得がいきません。」

 

「納得してくれ。とりあえずは今後の処遇は話し合うとして今殺すのは間違っている。」

 

サンドラは押し黙り、ペストから離れそのまま出口の方へと歩き出す

 

「…魔王は任せます。私は先に本陣に戻ります。」

 

サンドラの足音が消え、居なくなったのを確認すると十六夜はペストに声をかける

 

「もういいぞ。」

 

パチリと目を開けるペスト

 

「あら、気付いていたのね。」

 

「バレバレだ。でだ、本当のところ何で降参なんかしたんだ?」

 

「別に、私じゃ彼に勝てないと思ったからよ。」

 

「…そうかよ。そういう事にしとく。」

 

 

 

 

 

 

そしてゲームはクリアされた

 

上条が目を覚ましたのはその翌日だった

全身が包帯で巻かれていたが、上条は大袈裟だと思い外そうとしたらレティシアから怒られたので大人しく着けていた

 

上条とレティシアは白夜叉に呼び出された

呼び出され内容だがそれは

 

「ペストの教育係をおんしら2人にお願いしたい。」

 

上条とレティシアの目が丸くなる

どうやら1ヶ月の間、元魔王のペストを白夜叉の下で調教してから"ノーネーム"に引き渡すことになったらしいのだが、白夜叉も暇ではない

その白夜叉の代わりにレティシアと上条が調教もとい教育係として呼び出されたのだった

レティシアはメイドについて

上条はペストがもし反乱したら押さえつける役目

レティシアはまだしも、上条は自分の役割について疑問しかなかったが渋々承諾した

 

そして1ヶ月の時が経つ

 




もし文におかしな点がありましたらご指摘の方お願いします

自分でも確認はしているのですが見落としている可能性もあるので…見つけ次第訂正するつもりです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小ネタ4

どうも1日?ぶりです

久しぶりの小ネタということで書きたいことは沢山ありましたが、本編の補足も含んだため少し薄くなっております…

これからも息抜きに小ネタを投稿しますのでよろしくお願いします


覗き見

 

ルイオスとの祝勝会のパーティ最中

会場から少し離れた場所に上条とレティシア向かい合っていた。

ただし上条は見事に綺麗な土下座をしながらだが。

 

「いや本当にごめんなさい」

 

「今回は何とか凌げたからいいが…。まさか私の裸体を見られることになるとはな」

 

「み、見えてなかったから!」

 

「見えてないということは、見ようとしたのだな?」

 

「……。黙秘権を行使する」

 

「肯定と受け取っておく。本来なら私も言いたいことはあるのだが今は楽しもう。折角のパーティだし、楽しまないのは損だ」

 

「慈悲の心、ありがとうございます」

 

深々と土下座をする上条。それをみて可笑しかったのかレティシアは大爆笑してしまう。

数分笑ったレティシアは息を整える。

 

「ふふっ。あー笑った笑った。ルイオスと対峙した時の勇ましい姿はどうした?」

 

「うぐっ…。土下座したら許してくれるかな…と」

 

「何だ、そんな事を気にしていたのか。もう気にするな、起きた事は仕方ないからな。さてと、随分と時間が経ってしまったな。また戻らないとなると疑われてしまうな」

 

立ち上がろうとする上条の視線の先にいるのは十六夜に並んで座っている黒ウサギがいた。

 

「そうだな。…ん?」

 

「どうした?」

 

「いや十六夜と黒ウサギが仲良さそうにしてるからさ」

 

「ほぅ。黒ウサギと十六夜か。少し近寄るぞ」

 

「ラジャー」

 

上条とレティシアは十六夜と黒ウサギ、2人の声がギリギリ聞こえる位置まで接近しようとするがレティシアはそれをとめる。

 

「これ以上は気づかれる…」

 

「了解」

 

2人は終始仲良さそうに話をしていた

 

 

「しかし…これはなかなかにいいものを見てしまったな」

 

レティシアの顔が笑みに変わる。

ただしその表情は普段のとは違ってた。

 

「そうだな…。これは」

 

「「面白いことになりそうだ!」」

 

「これで黒ウサギをいじ…弄るネタが増えたな」

 

「いい直せてないぞ。しかし…ふふ、これは白夜叉にでも報告しとくか」

 

「その時、黒ウサギはどんな反応するんだろうな」

 

「きっと弄りがいのあるだろうよ」

 

「それは楽しそうでございますね 」

 

「あぁ。楽しみでしょうがないな」

 

「さてと明日にでも…」

 

振り返る上条とレティシア。

2人の目の前には阿修羅を思わせる程の怒気を発する黒ウサギがいた。

再び上条とレティシアは向き直す。

 

「「………」」

 

「何しているのデスか?」

 

「すまない、当麻!」

 

そういいレティシアは翼を広げ屋敷の方へ消えていった。

それに続こうと上条も走ろうとする。

 

「え?あっレティシア⁉︎逃げるなら」

 

「何処に行くつもりですか?上条さん?」

 

しかし黒ウサギは上条の肩を掴み、それを許さない

 

「ふ、不こ」

 

「覗き見しといて不幸とは言わせんよ‼︎このお馬鹿ぁぁぁぁぁ!」

 

黒ウサギの手には疑似神格・金剛杵が握られており上条はそれに振り回されることになった

 

「不幸だぁぁぁぁぁ!」

 

今日も上条の叫び声は箱庭の夜空に響くのであった。

 

 

これも立派な教育

 

上条は目を覚ます。

見慣れない天井に違和感を覚える。

 

「此処は…」

 

上条は起き上がろうとする、しかし胸部や頭に激しい痛みが走る。起き上がるのをあきらめら寝転がろうとする上条は膝あたりから重みを感じた。なんとか上半身を使い動かす。

そして上条の視界に入ったのは膝の上で寝息を立てている耀だった。

 

「春日部…?」

 

「…………。…ッ⁉︎」

 

耀は上条の声で起きるが、耀は上条を見た途端、普段のマイペースな耀からは考えられない速度で部屋を立ち去った。

 

「…え」

 

突然の出来事に頭を回す、上条は考えるのをやめベットに横になり痛みが引くのを待っていた。

数分間後、ドダバタと廊下を走る音が聞こえる。

扉を開け入ってきたのはレティシアだった。

 

「起きたのか当麻。体の具合はどうだ?」

 

上条は再び全身を動作確認でもするかなように動かす。全部終わったのか頷く。

 

「頭や胸以外はそこまで痛くはない。今日にでもギフトゲームに出られる」

 

「そうか。それは頼もしいがギフトゲームには参加させないからな」

 

その言葉を聞きレティシアは安心したのか胸を撫で下ろす。

 

「しかし今から白夜叉の所に行くから着いて来てくれないか?」

 

「白夜叉の所にか?別にいいけど」

 

「怪我も治っていないのにすまないな」

 

「このくらいなら大丈夫。それで白夜叉が呼んでいるんだろ?ならさっさと行こうぜ」

 

上条はベットから起き上がる、所々痛みが走るが気にしないようにした。

 

「あぁ」

 

場所は"サウザンドアイズ"支部。白夜叉の部屋に変わる。

 

「まず今回はよくやってくれた。"階級支配者"である私から礼を言わせてもらう」

 

「別に俺は俺がやりたいことをやっただけだよ。これからはペストがどうやって自分で立ち上がるかだよ。それが難しいなら俺の肩くらい貸すけどな」

 

「おんしは本当に面白い。普通は敵にそこまでの事はしてやらん。箱庭で敗れた者の末路など想像もつくだろうに」

 

「今のペストは敵じゃないしな。それに約束もしたし」

 

「約束…?まぁいい。本題に入るが私がおんしを呼び出したのは他でもない、ペストの事についてだ」

 

白夜叉はキセルを一度叩く。

 

「それでペストはどうなった?」

 

「元魔王のペストは"ノーネーム"に変な事をさせない為、こちらで1ヶ月の間教育もとい調教してから"ノーネーム"に渡す予定となっておる」

 

「そうか…よかった」

 

力が抜けるように座り込む上条。

白夜叉の部屋にある扉が勢いよく開けられる。

 

「白夜叉!これは一体どういうつもりかしら⁉︎」

 

勢いよく登場したのはペストの服装はあの時の服に白を基調とし、黒の水玉模様のフリルをつけた服を着ていた。

ペストは怒鳴った後に上条とレティシアがこの部屋にいることに気付く、顔を真っ赤にし怒鳴る

 

「何で貴方達がここに居るのよ⁉︎」

 

「丁度いい。レティシアにはペストに家事全般を教えてやってほしい。上条にはペストの抑え役として1ヶ月の間、私が居ない時は面倒を見てほしい」

 

「お、おう」

 

「そういう事なら任せろ。ペストを立派なメイドにしてやろう」

 

「私を置いて話を進めないでくれる⁉︎」

 

「それでだが相談なのだが…ペストの衣装を見てどう思う」

 

「どうって…。前のに比べると明るくていいんじゃないか? 」

 

「メイドになるのなら…もう少し可愛い服にしたいところだな」

 

「レティシアはわかっておるの‼︎そう、これでも充分によい。しかし!それではつまらないくての。こうしておんし達のチカラを」

 

「何よそれ⁉︎用は単なる着せ替え人形になれって事じゃない!私は絶対に嫌よ‼︎」

 

白夜叉が手を叩く。すると周りに服がどっさりと現れる。

 

「無駄じゃよ。おんしはもう私の手の中におる。拒否するのもまた一興だが…その時はもっと酷い事が待っておるぞ」

 

「か、上条といったわよね。私を助けてくれるんでしょ?なら今がその時よ、今すぐこの変態から私を助けなさいよ‼︎」

 

「…すまん。俺に白夜叉を止めるだけの力は無いんだ。だから今は大人しくしててくれないか?な?」

 

「貴方も私を使って遊びたいだけじゃない!」

 

ビシッと、上条を指差すが、それが今のペストにとって最後の抵抗だった。

白夜叉を筆頭にレティシアと上条は沢山ある衣装の山からペストに似合うであろう品物を探す。

 

「当麻これなんかいいんじゃないか?」

 

レティシアが手に持ったのは白をベースに斑模様、スカートにはフリルのワンピースだった。

 

「へぇー、随分と可愛い服まであるんだな。俺はこれだな」

 

上条が手に持ったのは白と青がベース、スカートにはフリルがついておりご丁寧にエプロンとカチューシャまで着いていた

 

「なんかメイド服って感じがしてしっくりきたんだよな」

 

上条が手に持ったの服は確かにペストに着させるメイド服としてはこれ以上に無いくらい物だった。

 

「おんしにしては中々いいセンスをしておるの」

 

「そうか、メイドという前提条件を忘れていた。私も衰えたな」

 

「だから!人の話を聞きなさぁぁぁぁぁい‼︎」

 

「よし!それでは上条が選んだ服に決定とするかの!勿論、ペストには他の服を沢山着てもらうがな」

 

「(土御門ありがとう。お前に見せてもらったメイド服大百科のおかけだよ)」

 

心の中で今は会えない親友に礼を言う上条。

 

「何で私が…私が…」

 

1人泣くペストであった。

 

 

 

仲直り…?

 

ペストとのゲームが終わり、誕生祭も盛り上がる中、朝食が置かれた机の上で浮かない顔をしてる人物がいた。

 

「…はぁ」

 

「春日部さんどうかしたの?さっきから元気がないけれども」

 

「ううん。何でもない」

 

「何でもないで通ると思ってるの。ここ3日貴女ずっとため息ばかりついているわよ」

 

「本当に大丈夫だから。ありがとう、心配してくれて」

 

そういい耀は朝食をしっかりと完食し食堂を後にする。

耀とすれ違うようにレティシアが入ってくる。

 

「あっ、レティシア。ちょうどいいわ、少し時間貰えるかしら」

 

「む。飛鳥か、どうかしたのか」

 

「レティシアは最近の春日部さんの様子をどう思う?」

 

「ふむ…しいていうなら誰かさんと喧嘩して、仲直りがまだできてない。それで不安にでもなっているのだろう」

 

「随分と詳しいのね…」

 

「まぁな。しかしまだ仲直りしてないとはな。あの主殿には困ったものだ」

 

「もしかして春日部さんと喧嘩したのって…上条くん?」

 

「正解だ」

 

「…そう。なら私にいい案があるわ。レティシアは上条くんを自分の部屋に呼び出しておいて。私は春日部さんを」

 

「そういうことなら任せておけ」

 

2人の笑みはお世辞でも綺麗なものとは言えなかった。

 

上条は自室のベットでゆっくりとしていた。

オティヌスは朝から白夜叉の所に出かけており、今この部屋にいるのは上条だけ。

やる事もなく二度寝でもしようと目を瞑る、しかし扉からノックをする音が聞こえる。

 

「当麻入るぞ。すまないが後で私の部屋に来てくれないか?」

 

「レティシアの部屋に?別にいいけど、また何でだ?」

 

「そうか。あの事で少し打ち合わせしたくてな」

 

「そういう事ならわかったよ。」

 

「私は後で行くから先に部屋に入っててくれ」

 

そういいレティシアは部屋から去る

あの事とはペスト教育の件だと上条は考えた。どうせ教育するなら十六夜達には内緒にと2人で決めていた。

 

上条は言われた通りレティシアの部屋に着く。誕生祭の間だけ借りている部屋なので特に珍しい物は何もなかった。

しばらくすると扉が開かれる、レティシアが来たのかと思い扉の方へ目を向けるとレティシアではなく耀が入ってきた。

目が合い固まる2人だが、耀は振り返り部屋から出ようとするがその前にレティシアと思われる人物が耀を押し無理やり部屋に入れさせる。そして扉が閉められる。

 

「上条くんに春日部さんもいい加減仲直りしなさい。子供みたいに意地なんて張らずによ」

 

「仲直りするまでこの部屋から出さないからな。それだけは覚悟しておけよ」

 

唖然とする上条と耀。

沈黙が流れていたが先に口を開くのは上条だった。

 

「体はもう平気なのか?」

 

耀はギフトゲーム中黒死病に感染しており、とても高い高熱と頭痛にうなされていたので上条としても心配で気が気でなかった。

 

「…うん」

 

再び訪れる沈黙。

今度それを破ったのは耀だった。

 

「上条。この前はごめん。あれは私が悪いのに」

 

「そんなの気にしてねぇよ。あれは俺も悪かった。だからさ許してくれないか?」

 

「うん。許してあげる。だから上条も私を許してくれる?」

 

「あぁ、許すよ。そもそも気になんか止めてないから」

 

頭を掻く上条だがある事を思い出す。

 

「そうだ、春日部」

 

「…何?」

 

「優勝おめでとう。あれは春日部が居たから優勝できた。その事を忘れないでほしい」

 

「…わかった。上条も優勝おめでとう。上条が居なかったら私も優勝なんて出来なかったよ」

 

お互いに優勝を祝い握手をする。

春日部は"生命の目録"によって身体のいろいろを補っている。しかし上条が触れても幻想殺しが発動しなかった。なぜ発動しないか、それは春日部の内臓や骨に直接"生命の目録"がいっているためである

 

「お腹が空いたし、祭りにでも行くか?」

 

「…賛成。私もお腹が空いた」

 

支度をするためにレティシアの部屋から出る。

廊下には誰もいないが上条は声を出す。

 

「という事だから今から出掛けてくるよ」

 

「案外早かったわね」

 

「必死にやっていた私達が馬鹿みたいだな」

 

「えぇ、そうよね」

 

レティシアと飛鳥は祭りに向かう上条と耀を見送くった

 

耀のくいっぷりに上条はあの白い悪魔を思い出したのは言うまでもない

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

どうもお久しぶりです

最近就活や課題に追われ書くスペースが遅く…元から遅いか笑
最近感想が増えてめちゃくちゃ嬉しいです!

それと問題児第2部…
この物語が続くとしたらどうなることやら


 

"黒死斑の魔王"との戦いから1ヶ月。

上条達は今後の活動方針を話し合うため、本拠の大広間に集まっていた。

大広間の中心に置かれた長机には上座からジン=ラッセル、逆廻十六夜、久遠飛鳥、上条当麻、春日部耀(オティヌス)、黒ウサギ、メイドのレティシア、そして年長組の筆頭に選ばれた狐娘のリリが座っている。

"ノーネーム"では会議の際、コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式である。

十六夜が次席にいるのは、水源の確保、同士の奪還など、様々な戦果を挙げているためだ。

上条が何故4番目にいるかというと、魔王を単独撃破をしたはいいが、あれは自分のわがままだからという理由でその戦果を拒否したためであり、飛鳥はディーンを使い農場の人手不足を解消したのが戦果として大きかった為である。

そしてリーダーでもあり旗頭であるジンだが、ガチガチに緊張した面持ちで上座に座っていた。

十六夜はそんなジンを見てヤハハと笑ってからかう。

 

「どうした?俺よりいい位置に座ってるのに随分と気分が悪そうじゃねぇか」

 

「だ、だって、旗本の席ですよ?緊張して当たり前じゃないですかっ」

 

自分のローブを掴み反論するジン。しかしそれだけではない。

十六夜みたいな戦果をあげてない自分に引け目を感じていた。

 

「あのなぁ、御チビ。俺達の戦果は全て"ジン=ラッセル"の名前に集約されて名刺代わりとして広がる。そのお前が上座に座らないでどうするんだよ」

 

「Yes!事実この1ヶ月で届いたギフトゲームの招待状は、全てジン坊ちゃんの名前でとどいております!」

 

黒ウサギが机に広げて見せたのは、それぞれ違うコミュニティから送られてきた招待状だった。

 

「苦節3年…とうとう我らのコミュニティにも、招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!だから堂々と胸張って上座にお座りくださいな!」

 

黒ウサギはいつも以上にはしゃぐ。

対照的にジンは、さっきより思いつめたように俯く。

 

「だけど、それは」

 

ジンが呟く前に、飛鳥の急かすような声が遮る。

 

「それで?今日集まった理由は、その招待状についた話し合うためなのかしら?」

 

「は、はい。それも勿論あります。ですがその前に、お伝えしたい事があり集まってもらいました。…リリ、報告をお願い」

 

「う、うん。頑張る」

 

リリは割烹着のすそをととのえて立ち上がり、背筋を伸ばして現状報告を始めた。

 

「1ヶ月前に十六夜様達が戦った"黒死斑の魔王"が、推定5桁の魔王に認定されたからです。"階級支配者"に依頼されて戦ったこともあり、規定報酬の桁が跳ね上がったと白夜叉様からご報告がありました。これでしばらくは皆お腹一杯食べられます!」

 

2尾を振りながらはにかんで喜ぶリリ。

隣に座っていたレティシアは眉をひそめ、そっとたしなめる。

 

「リリ。はしたないことは言うのはやめなさい」

 

「あ、す、すみませんっ」

 

リリは狐耳を真っ赤にして俯いた。

自慢の2尾もパタパタと大慌てである。

 

「推定5桁ということは、本拠を持たないコミュニティだったの?」

 

「は、はい。本来ならたった3人のコミュニティが5桁に認定されることはそうないみたいですけど、"黒死斑の魔王"が神霊だったことやゲーム難度も考慮したということらしいです」

 

本拠を持たない。

その言葉に上条はある事を思い出す。

 

それは白夜叉の部屋で教育をしている最中の事。

いつも通り白夜叉に着せ替え人形にされ、その後レティシアから家事や炊事などを教え込まれていた。それらの休憩中の事だった

 

「ペスト…いくらなんでも酷過ぎやしないか。これなら上条さんでも余裕でこなせるぞ?」

 

「うるさいわね…。私には帰る家がなかったから料理や洗濯なんてやったことなかったのよ。私は魔王になるために召喚されたのだから、そういうのには縁が無かったのよ」

 

「じゃあ魔王の時は誰が家事とかやってたんだ?」

 

上条からしてみれば、あのメンバーは誰も家事をするタイプとは到底見えずにいた。

しかしペストの口から出た言葉は上条の予想を裏切った。

 

「家事とかは全部ヴェーザーよ。まぁ家が無かったから家事と言っても、まともにやってなかったけど」

 

予想もしてない人物が家事をしていた為、思わずずっこける上条。

 

「とりあえずは卵焼きを焦がさない所から始めないとな。あと洗濯も課題はたくさんあるからな」

 

「わ、わかってるわよ!見てなさい、今に卵焼きくらい完璧に作って見せるから!」

 

「へいへい。期待しないで待っとくよ」

 

そう言い笑う上条、ペストそれを見て不満があったが何も言わなかった

 

 

上条にとってこの1ヶ月はとても平和な物だった。

そんな平和な毎日に違和感こそあれど、それを拒むことはない。

ペストの教育が主で、特に大きなゲームに参加することもなかったため怪我もしなかった。

初めて過ごした平穏の日々の思い出に浸っていると、話を聞いていないのがレティシアにバレたのか影で突かれる。

 

「つまり主人達には、農園の特区に相応しい苗や牧畜を手に入れて欲しいのだ」

 

「牧畜って、山羊や牛のような?」

 

「そうだ。都合がいいことに、南側の"龍角を持つ鷲獅子<ドラコ・グライフ>"連盟から収穫祭の招待状が届いている。連盟主催ということもあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう。中には種牛や希少種の苗を賭けるものも出てくるはず。コミュニティの組織力を高めるに、これ以上ない機会だ」

 

話を聞いていなかった上条だがとりあえず苗などを手に入れればいいと解釈する。

黒ウサギは"龍角を持つ鷲獅子"の印璽が押された招待状を開いて内容を簡単に説明する。

 

「今回の招待状は前夜祭から参加を求められたものです。しかも旅費と宿泊費は"主催者"が請け負うという"ノーネーム"の身分では考えられない破格のVIP待遇!場所も"アンダーウッド"といって境界壁に負けないほどの迫力がある大樹と美しい河川の舞台!皆さんが喜ぶとこは間違いございません!」

 

黒ウサギが胸を張って紹介する。彼女がここまで強く勧めてくるのは非常に珍しい。

問題児達は顔を見合わせる

 

「黒ウサギがそこまで言うのは珍しいな。これは期待するしかないな。何たって"箱庭の貴族"なんだし。…十六夜もそう思わないか?」

 

「そうだな"箱庭の貴族"の太鼓判だぜ?それは壮大な舞台なんだろうな…お嬢様はどう思う?」

 

「そんなの当たり前じゃない。だってあの"箱庭の貴族"がこれほど推している場所よ。目も眩むぐらい神秘的な場所に違いないわ。…そうよね、春日部さん?」

 

「うん。これでガッカリな場所なら…黒ウサギはこれから、"箱庭の貴族(笑)"だね」

 

「"箱庭の貴族(笑)"!⁉︎な、なんですかそのお馬鹿っぽいボンボン貴族のネーミングは⁉︎我々"月の兎"は由緒正しい貞潔で献身的な貴族でございますっ!」

 

「献身的な貴族っていうのが胡散臭いけどな」

 

十六夜はヤハハと笑い黒ウサギをからかうと、黒ウサギは拗ねたのか頬を膨らませてそっぽを向いた。

上条達のやりとりに苦笑いを浮かべたジンはコホンとわざとらしく咳払いして一同の注目を集める。

 

「しかし1つだけ問題があります」

 

「問題?」

 

「はい。この収穫祭ですが、20日ほど開催される予定で、前夜祭を入れれば25日。約1ヶ月にもなります。この規模のゲームはそう無いですし最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力が居ないのはよくありません。そこでレティシアさんと共に1人か2人ほど」

 

「「「嫌だ」」」

 

即答だった。上条を除く問題児達3人はあまり前のことを言ったかのように平然とした顔でジンを見返す。

ジンは上条に救いを求めるような表情で見つめる。

 

「俺が残るにしても、白夜叉に用事があるから5日間ずっと残れる訳じゃないからなぁ」

 

ジンは少し俯き、そしてテーブルに乗り出す。

 

「でしたらせめて日数を絞らせてくれませんか?」

 

「というと?」

 

「前夜祭を2人、オープニングセレモニーからの1週間を4人。残りの日数を3人のプランでどうでしょうか?」

 

しばし顔を見合わせた後、耀が質問を返す。

 

「そのプランだと、1人だけ全部参加できることになるよね。それはどうやって決めるの?」

 

「俺はオープニングセレモニーが終わってからでいい、でそうなると2人になるんじゃないか?」

 

上条だって祭を楽しみたいし、できるだけ長く居たい。だけどそれで喧嘩になるのならと辞退しようとするが十六夜がそれを止める。

 

「別にそれでもいいが、どうせなら上条、春日部、お嬢様、俺でゲームをして決めるってのはどうだ?」

 

「ゲーム?」

 

「あら、面白そうじゃない。どんなゲームをするの?」

 

「そうだな…"前夜祭までに、最も多くの戦果を挙げた者が勝者"ってのはどうだ?期間までの実績を比べて、収穫祭で戦果を挙げられる人材を優先する。…これなら不平不満はないだろ?」

 

十六夜の提案に上条、飛鳥、ようが見合わせる。

3人は頷きあって承諾する。

 

「わかったわ。それでいきましょう」

 

「うん。…絶対に負けない」

 

「…本当は俺だって祭なら出来る限り最後まで居たいからな。手加減はしないぞ」

 

不敵な笑みを見せる飛鳥、珍しくやる気の耀、ヤハハと軽薄な笑みを浮かべる十六夜。それと対峙する上条。

こうして問題児4人は、"龍角を持つ鷲獅子"主催の収穫祭参加を掛けてゲームを開始したのだった。

 

会議が終わり、各々部屋に帰ろうとするが上条と耀は黒ウサギに呼び止められる。

 

「上条さん、春日部さん、少しよろしいでしょうか?」

 

「…何?」

 

「実はですね、2人宛に招待状が送られてきたんですよ!」

 

「俺と春日部にか?差出人はだれなんだよ」

 

「なんと"ウィル・オ・ウィスプ"からなんですよ!」

 

上条と耀宛に招待状が来たのがそんなに嬉しかったのか、まるで自分の事みたいに喜ぶ黒ウサギ。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"…あのジャックが居るコミュニティだったよな?何でまた俺たちに招待状を送ってきたんだ」

 

「何でも春日部さんに火龍誕生祭のお返しをしたいそうです」

 

「…私に?」

 

耀は名前を呼ばれたのが意外なのか首を傾げる。

 

「Yes。アーシャ=イグニファストさんが春日部さんに物凄く対抗心を抱いていると聞きました」

 

「あぁ、あの娘か。よかったなライバルが出来て」

 

春日部は複雑そうにし、話を進めようとする。

 

「いつやるの?」

 

「明後日にでも白夜叉様が案内してくれるそうです」

 

「…そう。ありがとう黒ウサギ」

 

明後日にやるのならそれまで他に戦果を集めなくてはと足早に大広間を後にする。

残った上条も続くように出る。

ギルドを出ようとすると後ろから話し掛けられる。

 

「上条。」

 

話し掛けてきたのは十六夜だった。屋敷の上で上条が来るのを待ち構えていた。

 

「何だ十六夜か。どうした」

 

「最近、白夜叉の所に行ってるが、何しているんだ?」

 

「あー…内緒ってことで、それじゃ、十六夜も頑張れよ!」

 

ペストの事は十六夜達には言わないようにと、白夜叉に言われていた上条は逃げるように走り去った。

呆気に取られた十六夜は見送るしか出来なかった。

 

場所は"サウザンドアイズ"支店に変わる。

上条が店に近づこうとすると、いつも通りに竹箒で掃除をしている割烹着を着た店員と目が合う。

 

「今日もですか」

 

「今日もだよ」

 

「レティシアさんなら既に来ています。中に入ってください」

 

ここに十六夜や他の人達が居たらそのまま入店させて貰えなかっただろう。上条は毎日でないにしろ結構な頻度で来ているため、その度に通せんぼだのしていては面倒な為、割烹着の店員はレティシアと上条は基本は何も言わずに見送ることにしている。

上条もそれがわかっているため、そそくさと店内に入る。そして白夜叉の部屋へと向かう。

 

「来おったか」

 

テーブルを中心とし、白夜叉とペスト、レティシアがお茶を飲みながらくつろいでいた。

 

「遅かったな。何かしていたのか?」

 

「黒ウサギに呼び止められてな。明日"ウィル・オ・ウィスプ"とギフトゲームすることになったんだよ」

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"とギフトゲームを?」

 

「その事なら私が代わりに説明しよう」

 

レティシアの質問を上条の代わりに白夜叉が答える。片手で広げていた扇子を甲高い音を鳴らし閉じる。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャ=イグニファストが、春日部耀に再戦を申し込むので私に案内役にと頼まれての。」

 

しかし招待状には上条の名前もあった、なぜ再戦するのに必要のない自分もと、疑問が浮かんだ上条は白夜叉に質問する

 

「それじゃ俺は何のために呼ばれたんだ?春日部だけなら俺は必要ないだろ」

 

「ジャックがおんしの事が気になるらしくての、一緒に来るといいとの事だ」

 

「俺に…?そういう事ならいいけどよ」

 

「うむ。では今日も始めるとするかの」

 

そういい皆の視線がペストに集まる、煎餅を食っていたペストは軽く項垂れる。

 

「もう始まるのね…」

 

「今日は何をするんだ?」

 

「本来ならメイドとしての教育を終えて卒業してもいいのだがの…」

 

口を閉ざしペストを横目で見る白夜叉の表情はなんともいえずにいた。

それを見たペストは睨み返す

 

「な、何よ」

 

「掃除や洗濯は全く問題ない。しかし料理がな」

 

白夜叉の言葉が不服なのかペストは拗ねたように白夜叉から顔を背ける。

 

「私にだって得手不得手くらいはあるわよ。それに料理は食えればいいのよ」

 

「お前なぁ…だからと言って苦手なままでいいのかよ?」

 

ペストは上条の言葉に対し立ち上がり、部屋から出ようと扉まで向かう。

 

「…別にこのままにするつもりはないわ。それといつまでも私が苦手なままだと思わない事ね。…そうね、何か作ってあげるわよ」

 

そういい部屋を出たペストは、先程まで自信が無かったような表情だったが、しかし今は何かを決意し覚悟を決めた表情をしていた。

 

「急にやる気を出してどうしたんだ…」

 

「私が知るわけなかろう。しかしあやつがやる気を出すのも珍しいもんだの」

 

「あの自信…もしかして1人で練習していたのかもな」

 

「練習ならしていたがのぉ…」

 

3人ともペストの行動に驚きつつも、期待して料理ができるのを待った。

レティシアは上条の事を観察しているとある事に気づく。

 

「主殿。そういえばオティヌスはどうした?先程の会議にも出ていなかったようだが」

 

「あぁ。オティヌスなら居るけど、ずっと寝てるよ。興味がない、ってそれからずっとカードになったまま」

 

「随分と便利に使っているようだの…」

 

白夜叉はオティヌスの使い方に少し呆れ、苦笑いをしていた。

その後、ペストの料理が出来るまでくだらない雑談をした。

数十分も飽きもせず話していると扉からノックをする音が聞こえ、そのまま扉は開かれた。

 

「出来たわよ」

 

ペストが作ったのは箱庭の世界でも人気のある料理の一つ。

オムライスだった。簡単そうに見えて実は奥深い料理である、まずチキンライスだが普通の人ならご飯と一緒にケチャップを炒めるが、それをしてしまうと上手くご飯とケチャップが混ざらず赤と白がマーブル状になってしまう。

もちろんオムライスの要でもある卵もふわトロにするにはそれなりの技術が必要となってくる。

定番の料理ではあるがその実、難易度の高めとなっている。

 

「見た目は…綺麗にできているな」

 

「もっと悲惨なことになると思っていたが…意外とやるではないか」

 

「いくら見た目は綺麗に出来ていても、味が良くなければ意味がないぞ」

 

「貴方達…流石に酷いわよ」

 

三者三様に感想を述べる、ペストがぽつりと呟くが無視する3人。まず上条がスプーンでオムライスをすくい、そのまま口に運ぶ。

 

「……」

 

咀嚼を終えて飲み込む。

ペストはただそれを黙って見守る

 

「…普通だ」

 

「へ…?」

 

上条の感想を聞き、聞き直すペスト。

 

「ど、どういう事よ」

 

「いや、不味くはないんだよ。だけどとびきり美味いって訳でもない。何処にでもあるオムライスって感じがするんだよな」

 

上条の言葉を聞いて白夜叉とレティシアもオムライスを食べる。

 

「…確かに普通のオムライスだな」

 

「文句のつけようのない普通のオムライスだ」

 

「貴方達ね…これでも私なりに全力を尽くしたつもりなのだけれど」

 

壁に手をつき溜息をつくペスト。このオムライスは今のペストに出来る最大限の料理だった、それを普通と評されて落ち込まないはずがない。

 

「でも最初と比べれば大躍進じゃないか⁉︎あの時のダークマターを精製したとは思えないから!」

 

「あの時は黒焦げだったのに、よくここまで綺麗に焼けたと思うぞ」

 

「うむ。隠れて練習してた甲斐があったの」

 

上条達はペストをフォローする、もちろんその言葉に偽りはない。

それで気を良くしたのかペスト振り返り無い胸を張る。

 

「と、当然よ!あれで不味いなんて言われたら流石に傷つくどころじゃないわ」

 

「白夜叉、ここまで出来たんならもう卒業でいいんじゃないか?」

 

「私もそれに同意見だな。ここまで出来るのなら問題はない、たとえ料理ができなくとも掃除などでも仕事はできるからな。出来ないことは後で覚えればいい」

 

白夜叉は上条とレティシアの意見に頭を悩ませる。

 

「おんしたちがそれでいいのならよいのだが…。となると今から連れて行くかの?」

 

白夜叉の質問に上条はすぐに答えようとしたがある事を思い出しす。

 

「あー、今はやめた方がいい」

 

「それは何故じゃ?」

 

「白夜叉も知っているだろうけど、"アンダーウッドの収穫祭"の前夜祭に誰か行くかで競い合ってるからな。今行ったとしても皆がいるとは限らないんだよ。」

 

「ふむ…。どうせなら皆に紹介させてやりたいのぉ。皆が揃うのは何時じゃ?」

 

「収穫祭の前夜祭が終わってからの1週間かなぁ」

 

「ならその時にペストを紹介するといい。それまでは此方で預かるし、引き続き教育もする」

 

「そうしてくれると助かるよ。それでいいかペスト?」

 

「別に。問題はないわ」

 

「うむ。では卒業祝いとしてペストには色々な衣装を着せるとしようかの」

 

その言葉を聞いた瞬間、ペストは脱兎のごとく部屋を出ようとする。しかしレティシアはそれを読んでいたのか扉の前に立ちはだかる。

 

「そこを退きなさい。私はもう着せ替え人形になるのは御免なのよ」

 

「悪いが、それは出来ない」

 

ペストはレティシアをすり抜けて扉を開けようとする。しかしレティシアはそれすらも読んでいたのか動きを先回りして組み伏せる。

 

「無駄なあがきよ。上条、そやつを抑えといてくれ、右手でな」

 

上条の幻想殺しがあればペストはギフトを使えない、ギフトが使えなくなればここから出ることはもう不可能だろう。

そしてペストに近寄ろうとする、しかし上条は幼い少女を抑えつけるのに何かいけない気分になる。

 

「なんか背徳感があるんですが。それは」

 

「そんなもの今は必要ない。捨ててしまえ、やれ」

 

「ハイ」

 

白夜叉の圧力に屈服してしまう上条。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

その悲鳴を、いまだに店前の掃除をしている割烹着を着た店員は、もう何度目になるのかと数えるのをやめため息をついた。

 

 

 

 

 

 

ペストのオムライスを食った翌日。

耀と上条は招待状に書かれている通りに白夜叉の所へ向かう、"ウィル・オ・ウィスプ"とのギフトゲームをするために。

 

「春日部、用意はいいか?」

 

「…うん。問題はない」

 

「昨日、白夜叉から聞いた話だと春日部だけがギフトゲームをするみたいだな」

 

招待状にはゲームの詳細は書いておらず、日程と場所についてだけ書いてあっただけだった。

 

「そうなの?」

 

「あぁ。だから、今回は春日部1人でゲームをする事になる。勿論相手も1人」

 

「…そう」

 

1人だけの戦いと聞き、耀は少し残念そうにする。上条はそれには気付くが理由まではわからなかった。

その後、オティヌスを含め3人はは"サウザンドアイズ"に着くまでたわいもない談笑をした。

"サウザンドアイズ"支店に着くと店前にいる店員がいつも通りに上条達を部屋に案内する。

 

「ちゃんと来たようだな」

 

「…アーシャは?」

 

「あやつなら既に来ておるよ」

 

「私の事を呼んだかい?」

 

後ろから声が聞こえた。

振り向くとそこにはゴスロリ衣装を着たアーシャ=イグニファストが立っていた。後ろには扉から入れるのか怪しい位の大きさのかぼちゃ頭のジャックも居た。

 

「ヤホホ お久しぶりですね」

 

「役者は揃ったようだの。早速で悪いが今回の舞台を用意させてもらうぞ」

 

そういい手を叩くすると、一面が火龍誕生祭で見た樹の根で視界が包みこまれる。

 

「これは…あの時のか?」

 

「うむ。アーシャがどうしてももう一度このゲームをしたいといっての」

 

舞台が現れアーシャは笑い、耀を指さす。

 

「この前は負けたけど、今日は絶対に負けないんだから覚悟しなさいよ‼︎」

 

耀は同じゲームで、同じ相手。しかし今回は上条が居ない。それは相手も同じでアーシャもジャックが居ないなかで競わなければならない。だがそれでも耀は負けるつもりなど無かった。

 

「…何度やっても同じ」

 

一方的にライバル視されている耀だが、耀も自分で自覚はないもののアーシャとの勝負に闘争心を燃やしていた。

そして白夜叉によりギフトゲームの詳細が話している。ジャックは本来の目的でもある上条に近寄る。

 

「ヤホホ アーシャもやる気満々ですね。…上条さん、少しよろしいでしょうか?」

 

「そういえばジャックは俺と話をしたかったんだよな」

 

「単刀直入に聞きます。貴方のギフトは一体何ですか?」

 

ジャックが聞きたかったこと、それは誕生祭の大会で自分を打ち負かした…いや攻め切れなかったギフトの正体だった。

 

「私の炎がこうも一方的に通用しない…いえ、消されるギフトなんて聞いたことありません」

 

ジャックの炎は地獄な炎を召喚する事が出来るが、手加減したとはいえ無効化出来るギフトをジャックは知らなかった。

上条が説明するか、しないかで悩んでいるといつの間にか現れていたオティヌスが代わりに話す。

 

「簡単に敵に教える程、私は馬鹿じゃないぞ」

 

「勿論、タダで教えてもらうなんて思っていません。"ウィル・オ・ウィスプ"の商品をそれなりのお値引き致します。さらに同盟とまではいきませんが、私に出来ることがあるなら協力します。それでどうですか?」

 

上条はジャックが提示した値引きという文字に惹かれつつも、冷静に対処した。

 

「勝手に商品の値段とか変えていいのかよ」

 

「勝手ではありません。ちゃんとコミュニティのリーダーから許可を取っています」

 

「そこまでしてお前はコイツの情報を聞きたい理由を知りたいという事か」

 

オティヌスが睨みつける。

ジャックはオティヌスからくる威圧感に冷や汗をかいてしまう。その身体のどこからここまでの威圧感を出せるのか驚く。

 

「ヤホホ…これは驚きました。まさかこれ程とは。…理由といいましたね、私の炎は地獄の炎と同一のものです。これは簡単に消せるものではない。それこそ地獄に特化したギフトでない限り、しかし貴方は私が出した普通の炎さえ消して見せた。これはおかしい、地獄の炎と、ただの炎はまるきりの別物。2つとも消せるなど下層ではまずありえません」

 

「別に教えるのはいいけど…そんな大したものじゃないぞ?」

 

上条は横目でオティヌスを見る、オティヌスはため息をつき呆れていた。それをみた上条は苦笑いしつつジャックに自分のギフトを教える

 

「俺の右手は全ての異能…ここではギフトを打ち消す事が出来る能力ってだけだよ。それが例え神様の奇跡でさえも」

 

「全てのギフトを…打ち消す。確かにそれが本当ならばとてつもないギフトですね。一定の何かに特化し無効化するギフトなら知っていますが、全てにを無効化できるギフトとなど聞いたことがありません」

 

「といってもそこまで便利って訳でもないんだよな」

 

「それは一体どうい「クッソォォォォォォォォ‼︎もう一度、もう一度だけ勝負だ!」

 

ジャックがさらに詳しく聞こうとするが突如、周囲を埋め尽くしていた樹の根が消えていく。

そして白夜叉の部屋に戻り、耀の隣にいるアーシャが頭を掻き毟りながら叫んでいた。

 

「終わったのか?」

 

「うむ。見ての通りおんしらの勝ちじゃよ」

 

結果を知り、一安心する上条。未だにアーシャから再戦をするようにねだられている耀は助けを求める視線を上条に送る。

 

「あー…ジャック早速頼めるか?」

 

「ヤホホ わかりました。春日部耀さん、ゲームの報酬は後日"ノーネーム"の方に送らせてもらいます。アーシャ帰りますよ」

 

「じゃ、ジャックさん⁉︎で、でも私はまだ」

 

「アーシャ」

 

ジャックのその一言はアーシャを黙らせるには十分なものだった。

 

「わかったよ…。いいか!これで勝ったと思うなよ!次こそは私が勝つんだからぁぁ‼︎」

 

「白夜叉様、今日は仲介役ありがとうございました」

 

アーシャはジャックに引きずられながら去る、部屋は嵐が過ぎたかのように静まり返る。

 

「俺たちも帰るとするか」

 

「…うん」

 

「白夜叉、今日はありがとうな」

 

「気にするでない。私も楽しませてもらったしの」

 

 

上条はその日のギフトゲームはこれで切り上げたが、耀はさらに戦果を挙げるため街に巡るといい屋敷には帰らなかった

屋敷に帰るが十六夜と飛鳥もギフトゲームをしに戻ってきてないとのことだった

 

 




えー
別にギフトゲームを考えたくないわけではなくて

アーシャならこうするかなーと…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

どうも3週間と2日ぶりです…

言い訳をさせてもらうと
就活
課題
テスト
トリプルブッキング‼︎
いや…あのすいません
夏休みももう少しなのでそしたらスピードが上がる…かも


 

あれから数日が経ちゲームの最終戦果成績だが。

上条は頑張ってはいるが戦果は芳しくなかった。理由としては参加できるゲームが少ないのと、ペストの事もありゲーム自体に参加出来ない状況だった。そもそも何故、参加できるゲームが少ないというと上条は普通の人間だ、身体能力がインフレしている箱庭においてこれ以上ないハンデとなっている。また上条はオティヌスや、十六夜と違い頭が悪い。よって謎解きのゲームをやろうにも知識がないので出来ない。オティヌスを頼ればいいと思うが、上条自身の戦果ではないのでカウントされなくなってしまう。

クリアしたゲームは片手の指で数える程度でしかなく、報酬も寂しいものとなっていた。

なかば諦めていた上条はリリの手伝いをするため農園区で泥と格闘していた。

同じく泥と格闘していたリリは上条が手伝ってくれるのは嬉しいが、気になっていた事がある。

 

「上条お兄ちゃんはギフトゲームをしないんですか?」

 

上条はお兄ちゃん呼びに未だに慣れないが、そう慕ってくれている事だと思い嬉しく感じていた。

 

「あー…ただリリが1人でやってるのを見たら手伝いたくなっただけだよ」

 

「リリなら1人でも大丈夫です!」

 

胸を張りながら後ろにある2尾を元気良く振る。そんなリリの姿を見て上条は学園都市でも中々居なかった、会話してて癒される存在を見つける。

 

「強がらくていいんだぞ?確かにリリは子供達の中だと年が上で頼られているけど。俺はリリよりも年上だから、もっと頼ってくれて」

 

「そうですけど…いつまでも甘えていたらリリは成長できません。リリは黒ウサギのお姉ちゃんみたいに立派になれないです」

 

さっきまで元気に振っていた尻尾が、今度はリリの表情と共に弱々しくなる。

 

「今のリリだって十分立派だよ」

 

「そんなことはないです…」

 

「なら確かめてみるか?」

 

「え?」

 

リリが顔を上げると上条はあるものを見ていた、リリも追うように視線を向ける。

視線の先には遠くならがらも金属で出来た巨人がとある3人を乗せて屋敷に向かっていた。

 

「えっと…」

 

「アイツらにリリが頑張ってるか聞いてくる、リリはあそこに隠れていてくれないか?」

 

上条は流石の問題児達でも本人が目の前に居たら本音が言えないだろうと考える、十六夜は除き。

屋敷へと続く道へ向かい3人に上条は声を掛ける。

 

「おーい、今帰りか?」

 

「ん…上条か、何で泥だらけなんだ?」

 

「ちょっと農園区の手伝いをしていたからな」

 

鉄の巨人…ディーンと呼ばれる神珍鉄と呼ばれる特殊な金属で出来ており、飛鳥の命令でその真価を発揮するギフトである。

ディーンの両肩と頭に乗っかる飛鳥、耀、十六夜が泥だらけの上条を珍しそうに見ていた。

 

「悪いけど泥だらけの人をディーンには乗せられないわよ」

 

「それは残念だけど、聞きたいことがあるけどいいか?」

 

「…聞きたいこと?別にいいけど」

 

「リリの事どう思う?」

 

上条の質問に十六夜達は目を丸くした。

それはいきなりの質問もそうだが上条が誰かの評価を聞くようなことは一度もしていなかったからだ。

 

「…リリ?」

 

「おう。何でもいい、普段のリリを見ていてどう思う?」

 

耀と飛鳥は考え込み、十六夜は何処かををじっと見ていた。

 

「…私は上条よりも子供達と遊んでいないし、関わりが少ない。けど、それでもリリは子供達をよくまとめていると…思う」

 

「それには同感よ。私より小さいのにとてもしっかりしているし、それにあの子のおにぎり、私は好きよ」

 

飛鳥と耀がそれぞれ自分の意見を言い終わる、皆の視線は十六夜に集まる。

しかし当の本人は未だにどこか見ていた。

何か思いついたのか軽薄な笑みを浮かべる。

 

「そうだな…、黒ウサギよりも料理は下手で子供達も黒ウサギの方が言うことを聞く。レティシアの方が洗濯や掃除は綺麗に仕上げる」

 

それを遠くから聞いていたリリは顔を俯かさせる。十六夜の言うことは百も承知で、あの2人が褒めてくれたのは飛鳥と耀が優しいからと自分に言い聞かそうとする。

上条が何か言おうとするが、それよりも早く十六夜が言葉を発した。

 

「だけど、俺はリリは立派だと思う。」

 

「え?」

 

リリは自分の耳を疑った。

 

「確かに黒ウサギやレティシアには家事では勝てないかもしれない。でもアイツはその差を埋めようと頑張っているし、農園区にだってよく1人で行っているのは俺だって知っている。ディーンがいるから気付きにくいがリリは年下の子供達をまとめあげて農園区の復興や、栽培に大きく貢献しているからな」

 

十六夜の言葉で周りが静まり返る。

リリはあの十六夜が自分の事を評価してくれている事に驚きもあるが、それ以上に嬉しかった。

 

「で、こんな事聞いてどうしたいんだ」

 

軽薄な笑みを変えずにただ上条を見る。

上条はその様子見を見てあることに察した。

 

「…お前もう気付いているだろ?」

 

「はて、なんのことだか」

 

十六夜は軽薄ではないただ笑っていた。

するとグウゥゥゥン!とディーンに乗っている3人の方から腹の音が鳴り響いた。

 

「…ぁ、えっと」

 

「…。飛鳥、はしたない」

 

「ちょ、ちょっと春日部さん⁉︎」

 

「全くこれだから箱入りのお嬢様は…」

 

頬が赤くなっている飛鳥が十六夜を鋭く睨む。

 

「お前らな…。確か昼飯の準備は出来ていたから簡単なおにぎり位は作れるけど、それで我慢してくれよ」

 

「じゃあ俺は梅鰹醤油を」

 

「私はしそ昆布ね」

 

「…。シーチキンマヨネーズを」

 

おにぎりがあるとだけとしか言ってないにも関わらず、勝手に具のリクエストをされた上条は肩を落とす。

飛鳥はシーチキンマヨネーズを知らないのか首を傾げていた。

 

「はぁ…俺は農園の方を片ずけて来るから先に行っててくれ」

 

「そうさせてもらうわ」

 

そういいディーンは道幅の広い道を歩き始める、軽く地響きがするがそんな事は気になどしていなかった。

上条は十六夜達を見送り、農園区の方に向かう道に戻ろうとする。

道の途中に瓦礫があり、その裏からリリの狐耳が見えていた。

 

「リリ、わかっただろ。皆お前の事を認めている。あとはリリだけだ」

 

リリは立ち上がり、上条の方へ振り向くがその顔は嬉しいのか、悲しいのか、涙を堪えようとしているのか目の周りは赤く、泥だらけの手で涙を拭ったのか顔も汚れていた。

 

「は…い。ありがとうございます…!こんなに嬉しいのは初めてです!」

 

笑顔をいっぱいにして答えるリリ。

すると先程も聞いた腹の音が鳴り響いた。

顔を紅くするリリ、上条は笑いながら手を差し伸べる。

 

「俺らも飯を食いに行くか」

 

「はい!リリも手伝います」

 

元気に後ろの2尾を振りながら手をとる。

 

 

昼食を取り終えたその後、リリは家事全般の仕切りに戻り、十六夜達は大広間に集まっていた。

収穫祭に誰が何日参加するのか決めるため、十六夜、飛鳥、耀、上条が戦果を報告し、審査役のジンとレティシアが席に着く。

 

「おい、黒ウサギは?」

 

「先ほど"サウザンドアイズ"に向かったところだ」

 

「審査基準は聞いていますから、僕とレティシアだけでも充分です。それに後は十六夜さんの報告をまつだけですから」

 

ジンは少し気取った咳払いをして始める。

 

「細かい戦果は後に置いておくとして。まず皆さんがあげた大きな戦果から報告しましょう。まず飛鳥さんですが、牧畜を飼育するための土地の整備と、山羊10頭。手に入れたそうです」

 

「子供達も色々と喜んでいた。派手な戦果や功績ではないが、コミュニティとしては大きな進展だと思うぞ」

 

後ろ髪を掻き上げ、得意そうな顔をする飛鳥。華やかな戦果ではないが、コミュニティとしては重要な戦果となった。

レティシアは報告書をめくり続きを話す。

 

「次に耀の戦果だが…ふふ、これはちょっと凄いぞ。火龍誕生祭にもさんかしていた"ウィル・オ・ウィスプ"がわざわざ耀と当麻に再戦するために招待状を送りつけてきたのだ」

 

十六夜の片眉が跳ねる、3枚の招待状の内1枚だろうと。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"主催のゲームに勝利した耀さんは、ジャック・オー・ランタンが製作する、炎を蓄積できる巨大なキャンドルホルダーを無償発注したそうです」

 

「これを地下工房の儀式場に設置すれば本拠と別館にある"ウィル・オ・ウィスプ"製の備品に炎を同調させることができる」

 

「なのでこれを機に、釜戸、燭台、ランプといった生活必需品を"ウィル・オ・ウィスプ"に発注することになりました。これで本拠内は恒久的に炎と熱を使うことができます」

 

「へぇ?それは本当に凄いな」

 

十六夜から嬉々と関心のこもった声が上がる。

彼からしてみれば夜中も読書をするので蝋燭を消費しなくて済む。読書家の十六夜にとしてこの上なくありがたいギフトだった。

 

「知らない間にそこまでの設備の強化プランが進んでいたとはな。やるじやねぇか、春日部」

 

「うん。今回は頑張った」

 

いつになく得意気に微笑みを浮かべる耀 。

レティシアが報告書をめくり内容をめくり話を続ける。

 

「…当麻の戦果がその"ウィル・オ・ウィスプ"製の品を30%値引きしてくれるらしい。これには黒ウサギが大喜びで、この戦果も評価は高いとのことだ」

 

「「…えぇ」」

 

飛鳥と十六夜が微妙な反応を見せる。いや上条の戦果も充分なのだが、飛鳥や耀がさらにすごい活躍をしているため霞んでしまう。

 

「上条も"ウィル・オ・ウィスプ"のゲームに招待されたんだろ?」

 

「あー、俺は春日部のおまけみたいなもんだよ。だからゲームも春日部が参加して、俺は観戦してたんだよ」

 

「何だそれつまんねぇ」

 

十六夜は1度ため息をつく。

上条の戦果も聴き終わり十六夜は椅子の背もたれに大きく仰け反り、一同の顔を見回してニヤリと笑う。

 

「いや意外だったぜ。金銭を掛けた小規模のゲームが多い7桁で、中々大きい戦果をあげてるみたいじゃねぇか」

 

「上から目線でご親切に。…それで十六夜君はどんな戦果をあげたのかしら?」

 

飛鳥が鋭い目線で十六夜を睨む。

不敵な笑みを浮かべた十六夜は席を立ち、一同にもそれを促す。

 

「それじゃ今から戦果を受け取りに行くとしようかね」

 

「受け取りにって、何処に行くんだよ」

 

「"サウザンドアイズ"にさ。黒ウサギも向かってるなら丁度いい。主要メンバーには全員に聞いておいて欲しい話だからな」

 

十六夜の言葉に首を傾げる。

一同は大広間を後にし、"サウザンドアイズ"の支店に足を運ぶことにした。

上条とレティシアはある事を思い出し汗を流すのである。

 

 

噴水広場を抜け、"サウザンドアイズ"の支店に向う一同

箱庭に来た当初あった桜の木に似ている木だが、今はもう花弁は散らし始めていた。

いつもの割烹着をきた女性店員が竹箒でせっせと掃いていた。

彼女は忙しいにしていたが、十六夜の顔をみるや否や嫌そうな顔をした。

 

「…また貴方ですか」

 

「そういうお前はまた店前の掃除か。よく飽きないな」

 

「喧嘩なら別な機会にやってくれ。悪いけど、今日は白夜叉に用があってきたんだよ」

 

上条は今にも喧嘩しそうな2人の間に割って入り、宥めようとする。

 

「貴方もいたんですか。…はぁ、白夜叉様なら中に居ます。どうぞお入りください」

 

彼女は上条の顔を見ると、何かを悟ったように諦め道をあける。

いつもの様に暖簾をくぐり、白夜叉の部屋に向う一同だが、障子の向う側からあられもない声が聞こえ足を止めた。

 

「や、やめてください白夜叉様!黒ウサギは"箱庭の貴族"の沽券に掛けて、あれ以上きわどい衣装は着ないと言ったでありませんか‼︎‼︎」

 

「く、黒ウサギの言う通りです!この白雪も神格の端くれとして…こ、このような恥ずかしい格好をして人前に出る訳には‼︎」

 

黒ウサギともう1人女性の悲鳴が響き、一同は顔を見合わせる。

上条は視線の先にチラチラとこちらを見ている白い斑模様のメイド服をきたペストと目が合ってしまう。

 

「俺トイレ行ってくるから先に入っててくれ!」

 

上条はペストの所まで走り抜け、腕を掴み、十六夜達には見えないように隠す。

 

「ちょ、ちょっと何をするのむぐっ⁉︎」

 

「何でお前はこっちをチラチラ見てんだよ⁉︎」

 

上条は怒鳴ろうとするペストの口を押さえつけ、小声で制した。

 

「確かに全員いるけど、今はタイミングが悪いだろ⁉︎大体ペストはまだ料理だって完璧に覚えたわけじゃないだろ?それに」

 

口を押さえられたペストは上条の手を取り払い軽く咳き込んだ。

 

「わかった、わかったから‼︎それよりも何で集まってるのよ?」

 

「十六夜が自分の戦果を発表したいから、ここまで来たんだけど…さっき黒ウサギ以外の悲鳴も聞こえたんだが…」

 

「あー…それ多分白雪ね。確かギフトゲームで負けて隷属させられたって嘆いたわよ」

 

「隷属って事は十六夜の戦果はその白雪って子か…」

 

それは十六夜が胸を張って戦果を自慢するには充分な程だった。

しかし、それで耀の戦果を突き放すとなると少し無理がある。

上条は十六夜の事だから他にも隠し球があると思い部屋に向う。

 

「ありがとうな。そしてもう少しだけ待っててくれよな、ちゃんとお前の発表会と歓迎会を開くからさ」

 

「べ、別に頼んでもないわよ」

 

上条が部屋に入ると黒ウサギが十六夜に抱きついていて、飛鳥と耀が落胆したように顔を見合わせていた。

 

「な、何があったんだ…」

 

レティシアから話を聞く限りでは十六夜の戦果は白雪だけではなく、彼女を利用し外門の利権証を手に入れ“ノーネーム”が”地域支配者”という箱庭の外門に存在する様々な利益を取得できるようにした。

この決定的一打で前夜祭の1枠が決まった。

その夜"ノーネーム"上条は本拠に戻り"地域支配者"になった事を記念に小さな宴が設けられていた。

黒ウサギが手料理を振る舞い、子供たちもはしゃいでいたが、十六夜が余計な一言を言い台無しになってしまった。

宴が終わると前夜祭に行く残りの1枠をどうするか飛鳥と耀とで話し合うことになった。その中に上条が入っていないのは戦果不十分ただそれだけだった。

黒ウサギとしては耀の方を推していたが、子供達は山羊を連れてきた飛鳥を推してしまい、喧嘩になるのを避けるため双方話し合いをして決めるということになった。

結論としては耀が折れるという形になってしまったが。

 

十六夜がリリとレティシアとでお風呂に入っている頃、上条は談話室でオティヌスと黄昏ていた。

夜空を見上げている上条はオティヌスにある事を問う。

 

「なぁ、オティヌス」

 

「何だ、人間」

 

「こっちの時間軸と、学園都市の時間軸ってどうなっているんだろうな。もしかしたらこっちのが進んでいたりするのかな、それともこっちの方が遅いのか?」

 

「お前の言いたい事はわかったが、それは箱庭次第だと私は思うぞ」

 

オティヌスの返答に首を捻る上条。

 

「つまりどういう事だ?」

 

「もし学園都市との時間軸が同じならあの不良や、小娘達はどうなる。それぞれ違う時代から来ている。ということは余り時間を気にすることは無いと思うがな」

 

「そういうことか。ステイルには悪いことしちまったな」

ガチャと扉が開く。

 

「…何の話をしているの?」

 

入ってきたのは耀だった、幸いにも今の話は聞かれておらず少しだけ安堵する。もし上条の話が聞かれていたらややこしくなるところだろう。

しかし耀の表情は明るくなく何処か思いつめていた。

 

「春日部か、俺達のいた所の話をしていただけだよ」

 

「…上条のいた所気になる」

 

「俺のか?あんまり面白くはないと思うけど」

 

「人間のは面白いと言うより、殴りたくなるぞ」

 

「「え?」」

 

オティヌスは窓に顔を向け黄昏れ、呟く。

 

「主にこいつをだがな」

 

「俺かよ!」

 

2人のやり取りをみて耀は笑う、そして耀は前から気になっていた事があった。

 

「…ねぇ、上条の右手はあらゆる恩恵を無効にするんだよね?」

 

「恩恵というか異能というか、まぁそういうことになるのかな」

 

上条の話が本当だとしたら辻褄が合わないことがあり、耀はそれが気になっていた。

 

「だったら、どうやって此処に来れたの?」

 

上条の右手は、上条自身を対象とした恩恵すらも消してしまう。それは協会門にも適応される。それ故に上条が遠くに移動するには右手の力が及ばない程の力を持つ白夜叉しかいないわけだが、招待状から箱庭に来るため転送される。それは上条も例外ではない、だけど上条には右手があり転送ができるはずがない。

この矛盾が耀が気になっていた事だった。

 

「それが…俺もよく覚えてないんだ。知り合いと話をしている辺りから記憶が曖昧で…」

 

これはウソだ、本当はハッキリと覚えている。オッレルスに何をされたのか、しかし上条はこの話をしても耀が信じてくれるとは思けず話さない事にした。

 

「そう…。オティヌスは?」

 

「私も同じだ。思い出そうとしても頭が痛くなるだけでな」

 

オティヌスは上条が何故話さないのかを察し、話しを合わせた。

 

「じゃあ知っているとしたら、その知り合いだけ?」

 

「「まぁ、そうなるな」」

 

「…そう。だったら上条の話を聞かせて?」

 

「お、俺の話?なんて話せばいいんだか…」

 

「なら私が代わりに話そう」

 

オティヌスは上条の話をまるで自分の事のように詳しく語る、時折上条がその時どう考えていたのかを混ぜながら。

話を聞いた耀はある意味信じられないものを見る目で上条を見る。

 

「…何だが上条って凄いね」

 

「俺は別に…俺より凄い奴は沢山いた」

 

「ううん。誰かを助ける為にそこまで出来る人は中々居ないよ」

 

流石にロシアでのあの一件までは話せなかったが、あの時の上条はただ大切な人を救いたかった、今もそう変わらないかもしれないが根本が違う。魔神オティヌスとの出会いが上条を大きく変えたのだから。

今の上条では昔みたいにはなれないだろう。

しばらくの沈黙、オティヌスが続きを話そうとすると

コンコンと扉をノックする音が鳴る。

 

「失礼するぞ」

 

レティシアかと思い振り返る上条だが、それは見た瞬間に否定される、何故なら目の前にいるのは彼女とはまるで違う。幼女のような体型ではなく、上条よりも年上で何処か神裂にも似た雰囲気を持つ美女が居たからだ。

しかしその美女はレティシアに似ていた。その疑問を晴らすべく上条はレティシアに問う。

 

「レティ…シアなのか?」

 

「ん…あぁ、この姿で会うのは初めてだったな。勿論、私はレティシア=ドレイクだが」

 

上条はしばらく目を離せなかった、普段の彼女は美しいというより可愛いが先に立つからだが。しかし今のレティシアからは美しいという感想以外は出てこなず見惚れていた。

オティヌスが軽く咳払いをすると上条は見惚れていた意識を戻す。

 

「あ、あぁ。どうしたんだ?」

 

「すまないが、十六夜の頭につけているやつを見なかったか?」

 

レティシアが談話室を訪れた理由は十六夜が風呂から上がると、いつもつけている、あのヘッドホンが脱衣場から消えており、レティシアはその捜索を手伝っていた。

 

「ヘッドホン?俺と春日部は大分ここにいるけど見てないぞ」

 

「そうか…。所で何の話をしていたのだ?」

 

レティシアは談話室でどんな話をしていたのか気になったのか、上条を見つめながら問う。

それをオティヌスが代わりに答えた。

 

「こいつの昔話をしていただけだ」

 

「へぇ。それは随分と面白そうな話じゃねぇか」

 

次に扉から出てきたのは十六夜だった。レティシアの話どおり頭にはヘッドホンがなく髪が荒れていた。

 

「何も面白くはないぞ?」

 

「…十六夜的には面白い話かも」

 

「…え?」

 

「何ならお前も聞くか?」

 

「いや、非常に興味がある所だけど。あれがないと頭が落ち着かなくてな。今はそっちを優先させてもらうぜ。所でお前達はここでどのくらい話していたんだ?」

 

「2時間といったところか」

 

十六夜は顎に手を当てしばらく考える。

 

「なら俺達が風呂に入った時と同じくらいか…。他に誰か見なかった?」

 

「いや…俺達以外は誰も見ていないな。明日いくんだろ、探すの手伝おうか?」

 

その後上条、春日部も一緒に十六夜のヘッドホンを探したが夜も更けた所でその日の捜索は終了した。

 

翌朝。出発直前になっても、十六夜のヘッドホンは見つからずにいた。

上条と耀を寝かした後も十六夜は1人で探し続けたにも関わらず。

そのせいか本拠の前に十六夜は現れなかった。

初日から参加する飛鳥は日傘を傾け、少し心配そうに頬へ手を当てた。

 

「十六夜君、まだ見つけられないの?」

 

「Yes。子供達も総動員して捜しているのですが…うう。そろそろ出ないと間に合わないのです」

 

いつものミニスカートとガーターベルトを着込む黒ウサギは、ハラハラと十六夜を待っていた。

それらジンも同様に。

 

「…あ、来ましたよ!」

 

ジンが声を上げる。十六夜の頭上には髪を抑えるためのヘアバンドが載せてあった。

上条は目を丸くして十六夜に問う。

 

「それ…もしかしてヘッドホンの代わりか何かか?」

 

「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。それより話がある」

 

十六夜が道を開ける。後ろからトランク鞄を引く耀と三毛猫が前に出た。

 

「…本当にいいの?」

 

「仕方ねぇさ。あれがないとどうにも髪の収まりが悪くて聞けない。壊れたスクラップだが、ないと困るんだよ」

 

髪を掻きあげなから飄々と笑う十六夜。他の"ノーネーム"も状況を把握して顔を見合わせる。

つまり十六夜は本気へ残るというのだ。

耀は微笑んで十六夜に礼を述べた。

 

「ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくるよ」

 

「おう、任せた。ついでに友達100匹ぐらい作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだからな。俺としては、そっちの期待が大きいぜ?」

 

「ふふ、わかった」

 

昨日の耀は何処か元気がなかったが、上条はその原因に心当たりがある。今はその素振りを見せてはいないが放って置くことも出来ない上条は手を振りながら叫ぶ。

 

「友達以外にもいい苗を取ってこいよなー!」

 

「‼︎…うん!」

 

耀は一瞬だけ驚いたが、すぐにその表情は華が咲いたような笑顔になった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

長らくお待たせしました(ジャンピング土下座

遅れた理由?

最後の夏休みを満喫してました(白目

それと艦これ×上条さんで何かかけないか考えていたらいつの間にやら…本当にすみません


 

 

春日部耀、久遠飛鳥、黒ウサギ、ジン=ラッセルと三毛猫。

計4人と1匹は収穫祭に向かい、本拠を後にした。

本拠に残った十六夜、レティシア、オティヌス、そして上条は手を振りそれを見送る。

姿が見えなくなると上条とレティシアは少し緊迫したような顔で十六夜を覗き込む。

 

「十六夜…本当に良かったのか?外門利権証を手に入れてまで勝ち取った順番を、こんなあっさり手放して…ヘッドホンなら私たちが」

 

「出てこねぇよ。これだけ捜して出てこないってことは、隠した本人にしかわからない場所にあるんだろう」

 

レティシアと上条の表情が一層緊迫する。

十六夜は肩を竦ませて苦笑いを浮かべる。

 

「俺が外したのは風呂に入っている時だけ。ヘッドホンが独りで何処かに行くはずがねぇだろう?」

 

「それは…しかし一体、誰が」

 

「……さぁ?状況だけでみたら一番怪しいのは春日部だったんだが…、アリバイがあるし、アイツはそういう事が出来る奴じゃない。そう判断したから、先に行かせたんだしな」

 

沈黙が続く、まさかコミュニティとして喜ばしい日にこんなとが起こると誰が予想したのか。上条はそんな空気を変えようとする。

 

「とりあえず朝飯にしないか?」

 

「そうだな。…そうだ、上条のいた時代の話を聞かせろよ。随分と面白いんだってな」

 

「別にいいけど、十六夜の話も聞かさてくれよ?こっちだけ話すのは不平等だしな」

 

ニヤリと軽薄な笑みを浮かべる。上条は参ったように苦笑いをする。

 

「レティシア、先に朝食の用意を頼むぜ。どうにも腹が減ってテンションが上がらねぇ。ついでに茶請けと良いお茶もだ」

 

レティシアはそんな2人を見て微笑み、裾を持ち上げる。

 

「承りました、主殿よ。今日の朝食はこの私が、腕によりをかけて作らせて頂きます」

 

茶目っけを込めて仰々しく一礼をする。その動きはとても綺麗で本職のメイドが見ても文句が言えないような動きだった。しかしそれが可笑しかったのか、十六夜と上条は共に声を高くして哄笑をあげて十六夜は食堂に向かい、上条はオティヌスを起こしに行った。

 

上条は自室に戻り、ミニチュアのベットに眠るオティヌスを起こそうとするが、珍しく起きており窓際に立っていた。

 

「オティヌス…どうしたんだ?」

 

「…あの不良は残るのか?」

 

「まぁな、ヘッドホンがないと落ち着かないらしい」

 

上条はオティヌスと同じく窓際に近寄り外を眺め、下での出来事をオティヌスに話す。

 

「人間は犯人が誰なのか気づいているのだろ?」

 

「……」

 

オティヌスの質問に黙る上条、沈黙は肯定と受け取ったのか話を続ける。

 

「恐らく…あの不良の事だ、それにも気づいているだろう」

 

上条は自分ですら、あの場での犯行をできたのが1匹しかいない事に気付いた。それなのに"あの"十六夜が気が付かないはずがない。

 

「十六夜は…気付いているなら何でそれを言わなかっんだろうな」

 

気付いているのなら何故言わないのか、聞いてみるにしても十六夜の事だ、はぐらかせるだろう。

 

「そんな事私にわかるわけがないだろ?」

 

「そうだけどさ」

 

「今この話をしても仕方ないだろ。…朝食もそろそろ出来るのだろう?」

 

窓から目を話は上条の肩に乗っかる、そのまま食堂に向かい朝食を摂った。

上条達は屋敷を出て農園の脇にの小道を進み、休憩所として設置される予定の場所でテーブルに腰をかけた。ティーセットを手提げ鞄から取り出して用意しているレティシアに、他所に十六夜は上条に問う。

 

「上条が居た所はどんな時代なんだ?」

 

「多分だけど俺の時代はこの中だと1番時代が進んでいると思う。もし春日部や十六夜みたいなのが居たのなら学園都市が放っておくわけないしな」

 

「学園都市?学校が県として独立でもしているのか?」

 

「いや…確か独立した教育機関だったな。人口の8割が学生で、最先端の科学技術が研究されたりしてるところだな。あと人為的に超能力も開発している」

 

ティーセットの準備が出来たレティシアは紅茶を注ぎ、茶請けである羊羹を皿に盛り椅子に座る。

超能力という単語に反応したのか十六夜は目を輝かすように上条に質問をする。

 

「超能力?何だよそれ、上条の時代スッゲェ面白そうじゃねぇか!そいつらは強いのか?」

 

「面白そうって…超能力にはレベルが6段階で設けられていて一番高くてLevel5そこから順に下がって、超能力がない人達はLevel0になる。上条さんもそのLevel0の1人。ここまでいいか?」

 

十六夜にはにわかに信じられなかった。神霊の恩恵を打ち消した右手を持っているのにも関わらず上条が、Level0という位置に入ること。

 

「ちょっとまて上条、その右手がありながらLevel0なのか」

 

「そうだけど?」

 

十六夜は少し沈黙し、上条に問いかける。

 

「上条の右手は異能を全部消すんだろ、なら超能力にとっては最強の盾になるんじゃないのか?それがLevel0ってのはおかしくないか?」

 

「俺の右手は少し特殊でLevelを測るテストみたいなものでは全く意味ないんだよ。だからLevel0、ちなみにLevel5になると1人で軍隊と戦える程の力を持つことが出来る。まぁLevel5のあいつらはLevelだけじゃ測れない強さがあるけどな」

 

十六夜は上条が言った事を聞き逃さなかった。上条の言葉にはまるで戦ったことあるような口ぶりで、その戦いに生き残ってるという事を。

 

「つまり上条はLevel5と戦ったことあるんだな?しかも勝っているときたか」

 

十六夜の問いかけにレティシアが代わりに答えてしまう。

 

「あぁ、確か一方通行という名前の…学園都市最強の超能力者を倒したと言っていたな」

 

「そ、それは俺だけの力じゃ」

 

「へぇ、つまりは上条が学園都市最強って事でいいんだな?」

 

上条は軽くたじろぐ、レティシアには軽くしか話していなかった。上条は一方通行を止めたとしか言ってないため、レティシアは一方通行を倒したと思い込んでいたようだ。

 

「一方通行に関しては俺が倒したというより、周りの人達の力もあったから勝てただけだよ」

 

「それでも上条が勝ったことには変わりないだろ?」

 

再び軽薄な笑みを浮かべ上条を見つめる。その眼は何処か挑戦的に、いつか戦ってみたいという感情が上条にも伝わってきた。

そんな視線を無視し上条の代わりにレティシアが話を進める。

 

「それだけじゃないぞ。当麻は他にも外部から来た魔術師のクーデターも倒したのだったな」

 

「魔術師⁉︎何だよそれ、上条のいた時代にはそんな奴らまで居たのかよ‼︎…何で俺の時代にはそんな面白そうな奴らが1人も居なかったんだよ」

 

十六夜は悪態をつきながら茶請けを頬張り紅茶を啜る。

 

「あとは…そうだな。イギリスという国の王女が起こしたクーデターを止めたともいってたな。」

 

オティヌスが上条に痛い視線を送る。熱心に上条の事を話していて気付かずにいて、十六夜も話に聞き入っているのかこちらの様子を伺うともしていない。

レティシアの話を聞くたびにオティヌスからの視線はより強烈になっていき、目線を合わせていないはずなのにヒシヒシと伝わってくる。上条はそんな視線に耐えられなかったのか話題を変えるためレティシアに話しかける。

 

「お、俺の話もいいけどさ!レティシアって元魔王なんだよな?てことゲームに負けて…その隷属させられていたのか?」

 

「むっ…。いや、私の主は今も昔も当麻達だけだ」

 

上条の質問の内容が気になったのか十六夜もレティシアに問いはじめる。

 

「けど魔王を倒せば条件次第で隷属させられると聞いたぞ。レティシアは違うのか?」

 

レティシアは納得したのか相槌を打つ。

 

「そうだな…話せば長くなる故にかいつまんで話すが、私が発動させた"主催者権限"はちょっとした暴走状態になっていてな。だからわたしは"ゲームクリアで倒された"のではなく"ゲームから切り離された"というのが正しいんだ」

 

「…じゃあその切り離された"主催者権限"はどうなった?」

 

「暴走したまま封印された。南側の…いや、何処に封印したかは聞いていない。まぁ封印を解くつもりもないしな」

 

そこで話を切ると、レティシアは再び十六夜に上条の話をする。レティシアはまるで自分のことのように自慢した話し方で話していた。その後は十六夜の過去話も聞き、自室に戻った。

部屋に戻ると上条の机には手紙がぽつんと置いてあり、オティヌスが肩から降り手紙の送り主を調べる。

 

「"サウザンドアイズ"からの手紙だ」

 

それだけ確認し上条に渡す。封を開け中にある文章を読み上げる。

 

「何が書いてあったんだ?」

 

「今から白夜叉の所に行くぞ」

 

上条は出掛けるとだけ手紙を残し"ノーネーム"を出て、"サウザンドアイズ"に向かう。

 

 

 

 

 

"サウザンドアイズ"の白夜叉の部屋には上条、オティヌス、ペスト、白夜叉が机を囲う。

 

「白夜叉、俺に用事ってどうしたんだ?」

 

「おんしに来てもらったのは他でもない。個人的に依頼したい事があっての」

 

白夜叉は煙管を灰皿に置き、上条を見つめる。2人が見つめあう。

 

「説明してくれるか?」

 

再び煙管に火を付けゆっくりと煙を吸う。

 

「南の収穫祭の話はもちろん知っておるよな?」

 

「あぁ、今朝方に春日部達が出発したし」

 

「その収穫祭でなにやら怪しい動きがあると聞いてな。おんしにはそれを調査して欲しい」

 

「不穏な動き?…まさか魔王が⁉︎」

 

上条の頭にはペストとのギフトゲームの思い出が蘇る。それは決して良い思い出ではない。沢山の人が傷ついた、あの時は相手がたった3人だったから被害が少なく済んだ。しかし次がそうなるとも限らない。

 

「まだ確定したわけでないがの。おんしには収穫祭で潜んでるであろう魔王の情報を探って欲しい」

 

「別にいいけど…それでも俺だけだと不安だな」

 

白夜叉は待ってましたと言わんばかりの満悦の笑みを浮かべる。

 

「安心せい、護衛なら居るだろ?おんしの目の前に」

 

上条はえ?目の前にいるペストを見る、ペストは頭を抱えながら息を吐いていた。

 

「…つまり私が上条を護衛すればいいのね。でもいいのかしら、情報を探るのなら隠密が基本よね?私、霊格は高いからすぐにバレると思うわよ?」

 

答えようとする上条の代わりに、オティヌスが答える。

 

「忘れたのか、人間の右手に触れるだけで恩恵は消されるのだぞ?」

 

「あっ、つまり上条に触れてる限りは私も霊格が消えちゃうのね」

 

「その分、恩恵も使えなくなるがな。貴様も少しは考えたらどうだ?」

 

「私の名前はペストよ、ペスト!行くなら早い方が良いでしょ?白夜叉お願いできる?」

 

白夜叉は手を叩く、それだけで見えない何かが変わる。

 

「うむ、ついたぞ。くれぐれも気を付けるのだぞ。それと十六夜とレティシアには誤魔化しておくから安心せい」

 

「…それは助かる」

 

そしてペストと上条は部屋を出る。

"サウザンドアイズ"の視点を出ると樹の根が網目模様に張り巡らせた地下都市に、清涼とした飛沫の舞う水舞台に上条とペストは降り立った。

 

「…凄いな」

 

「…えぇ。凄いわね」

 

「これが水樹なのか」

 

上条、ペスト、オティヌスは各々に感想を述べその圧倒的な大きさに目を奪わられてしまう。

上条達は此処に来た目的を忘れ水樹を眺めていた。

しかし突如として響き渡る激震にペストは尻餅をついてしまう。

 

「な、なに⁉︎何事よ⁉︎」

 

「ッ…‼︎この揺れ、ただの地震って訳じゃなさそうだな」

 

上条は周りを見渡しなにが起こったのか確認をすると、下の方では全身30尺もある巨人の軍隊が所構わずに暴れまわっているのが見えた。

 

「なっ⁉︎まさかもう魔王が…‼︎ペスト、下に運んでくれ!」

 

「…駄目ね、上条では相性が悪すぎる。此処は私1人で行くわ。見た所は魔王襲撃って様子でもなさそうだし、貴方は大人しく偵察でもしててちょうだい」

 

ペストはふわりと浮かび、巨人達の方に向かって降下していく。

 

「おいッ‼︎」

 

上条はペストを追いかけようと再び下を覗き込むと、見えたのは黒と白のストライプのパンツだった。

思わず目を逸らした先に見えたのは炎を翼を羽ばたかせて飛翔する、赤髪で褐色の肌、そして何より立派に育っている龍角をもつ女性が周りの巨人よりも小さいが、仮面の他に金属製の冠、笏、杖といった装身具を纏っていた。

褐色の女性はその3体の巨人と対等に渡りあっていた。

さらに視界の先の方では見知った鉄人形が雄叫びをあげ無双していた。

 

「DEEEEEEeeeeeEEEEEEN‼︎」

 

「あれはディーン⁉︎てことはあれは飛鳥で、その上空にいるのが春日部か…‼︎」

 

飛鳥と耀が巨人達と奮戦しているのを見てしまった上条は駆けつけるために下に続く水路を渡ろうとするがオティヌスに呼び止められる。

 

「落ち着け、お前が行ったとしても足手まといにしかならんぞ?」

 

「このまま見てる訳にもいかないだろ」

 

「話を聞け、前に夜叉に聞いたが、どうやら前に南の"階級支配者"が魔王の襲撃で討たれたらしい。その後魔王は討伐はしたが壊滅とまではいかなかったらしい。コイツ等はその残党だろうな。でだ、何か不自然に思わないか?」

 

オティヌスの問いに顔を俯かせて考える。

そして上条は何かに気付いたのか顔を上げてオティヌスに答える。

 

「…何でその残党が今になって襲ってきたのかって事か」

 

落ち着きを取り戻したのか上条は魔王でもないのに何故今になって襲ってきたのか、という疑問が浮かんだ。"アンダーウッド"の収穫祭だからといって、"階級支配者"が居なくとも南の主力コミュニティが集まる日に残党だけで襲うのは戦略に乏しい上条にだって分かる事だった。

そして頭の中にある可能性が出てくる。

 

「あの巨人達の後ろには魔王のバックアップがあって、アイツ等はそれを頼りにして攻め込んできたのか?」

 

「そういう事だろうな。なら私達のやる事は決まっているだろ?」

 

オティヌスの言いたい事がわかっているのか、軽く頷くがその表情は焦りが見えていた。

 

「だけど…」

 

上条は春日部達がいる方向に視線を向ける。そこでは未だに奮闘している姿がある。戦況は押してはいるものの、それで安心できてとは言えなかった。

 

「あの小娘達なら問題ないだろ。お前より遥かに強いからな。心配するだけ無駄だ。お前は今やるべき事をやれ」

 

「…わかった」

 

上条は顔を上げ空を見る、もう殆ど陽は沈みかけていた。

 

「すっごーい‼︎まるで戦争だね」

 

突然、嬉々とした大声が聞こえる。

声のする方向に振り向くと黒髪にノースリーブと黒いワンピースを着込み、腰にはジャケットを巻きつけ、さらに腰に下げている革のベルトには何本もの短刀を備えている少女が居た。

 

そう上条のすぐ隣に。

上条は思わず距離をとった、彼女の雰囲気から普通の人間ではないと確信する。

 

「…こんな所に居たら危ないよ」

 

上条はなるべく平常を保ちながら少女に話しかけた。

 

「別に私強いし。そういう君は不思議ね、霊格が存在してないもの。君の方こそ避難した方がいいんじゃない?」

 

「ちょっと気になる事があってな。それを確認したらすぐにでも逃げるさ」

 

「ふーん…」

 

少女は上条の体をジロジロと観察する。

上条も警戒しながらも少女を観察する。

刹那、琴線の弾く音が"アンダーウッド"に響き渡る。

 

「なっ…⁉︎」

 

一瞬にして一帯が濃霧に包まれる。

 

「ありゃりゃ、見えなくなっちゃった」

 

少女は戯けてはいるものの上条に対して全くの隙を作っておらず不気味でしょうがなかった。

 

「んー、これじゃつまんないなぁ。そろそろ戻らないと怒られそうだし、帰るかぁ」

 

少女は上条から離れる。

上条は霧のせいで姿を見失ってしまい、慌てて後を追いかけようとする。

 

「お、おい!」

 

「ばいばい、不幸そうなお兄ちゃん」

 

その言葉を最後に少女の気配を消える。そして隠れていたオティヌスが上条の肩に現れる。

 

「オティヌス、今の女の子どう思う?」

 

「怪しい。この一言に尽きる。あの小娘もお前がただの一般人だって事には気付いていたみたいだがな」

 

「…もしかしてあの子が?」

 

「今はわからないが、可能性ある」

 

消えた少女の事を考えていると上空から幾つもの獣達が雄叫びをあげていた。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

雄叫びと共に突風が吹き、霧が薄くなる。

景色が徐々に見え始め、見えたのはいくつもの旋風だった。

そして霧が晴れた先にあったのは巨人族の死体だった。

 

「ッ…!春日部達は⁉︎」

 

「安心しろ。あそこにいる、2人とも無事だ」

 

オティヌスの指がさす方向には耀に、飛鳥、そして全身を血で染めている仮面の女性が何やら話していていた。

声を掛けるか迷う上条に、返り血はおろか、擦り傷すらないペストが上条の元へ戻ってきた。

 

「ただいま。ちゃんと残ってたわね、少し意外ね」

 

「…上条さんだって敵わない相手に突っ込んだりするほど無謀じゃないですことよ?」

 

上条の返答にペストとオティヌスは心の中でダウト!と叫ぶ。

上条は再び耀の方へ目を向けると、耀らしくない焦りと、不安の表情を浮かべ旋風を巻き起こし移動していた。

 

「春日部の表情…もしかして」

 

「あの娘がどうしたの?」

 

「ペスト、ノーネームが泊まっている宿舎ってわかるか?」

 

「わかる訳がないでしょ?私だってここに来たばかりだもの」

 

「ですよねぇ」

 

上条は飛鳥の方に視線を向ける、いきなり耀が飛び立ったものだから驚いているのと、旋風で尻もちをついていた。

 

「ペスト、俺を飛鳥の所まで運んでくれるか?」

 

「はいはい」

 

ペストは上条の両腕を抱え降りる、既にあちらこちらでは戦後処理なのか、巨人族の死体を片付ける獣達もいた。

 

「飛鳥!」

 

飛鳥は立ち上がりながら名前を呼ばれた方に視線を向ける、飛鳥からすればここに居る筈もない上条がペストと一緒に降りてきたのだから混乱するのも仕方なかった。

 

「上条君⁉︎何で貴方がここにいるのよ?それに後ろに居るのはペストじゃない⁉︎」

 

「後でちゃんと話すから、今は飛鳥達が泊まってる宿舎を教えてくれ」

 

 




感想お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

遅れて申し訳ない…


言い訳
メタルギア
艦これ
プロ野球
ニコ生

…あ艦これ。暫くは集中して書けると思います!
そしてまたランキング入りしてた⁉︎嬉しすぎて大型回したくなるわ


 

上条とペストは飛鳥に案内され"アンダーウッド"の地下都市にある、"ノーネーム"の宿舎へと向かった。

そこは巨人の襲撃をうけたせいかぐちゃぐちゃに破壊されていた。

上条は残骸の中で座り込んでいる少女を見つけ走り出す。

 

「春日部…?」

 

声をかけられた耀は背筋が跳ねる。

上条に続くように飛鳥も声をかける。

 

「…春日部さんどうしたの?」

 

耀は震えながら立ち上がる、胸に何かを抱きしめながら。

 

「かみ…じょ…う…あす…か…⁉︎」

 

耀は顔を真っ白にし、後ずさりする。

 

今にも逃げ出しそうな耀に大樹の根が降り注ぐ。

耀は頭上に顔を向けるが、本来なら軽く避けることが出来ただろう。しかし今はいろんな出来事がありすぎた、今の彼女にはそれを避ける事は出来なかった。

避けれないと察し目を瞑る。

その時、耀は誰かに突き飛ばされると同時に鈍い音がした。

耀は恐る恐る目を開ける、飛鳥とペストは呆然としていて何か叫んでいたが耀には届いていなかった。

次に視線を樹の根が落ちた方に向ける。

 

そこでは上条当麻が下敷きになっていた。

 

「え…?か…み…じょう?」

 

か細い声を出すのが今の耀にとって精一杯だった。

 

「上条!」

 

ペストが急いで駆け寄り樹の根をどかしていく、幸いにも落ちてきた数はそう多くもなくすぐに片付くと思っていた。

 

「…まずいわね」

 

根が落ちて打撲だけならまだ良かった、しかし不幸にも上条の腹部には根っこが貫通していた。さらに至る所で出血もしていた。

 

「…そこの赤いの、ここから本部までの場所ってわかるかしら?」

 

「え?…え、えぇ。それより!それを抜かなくていいの⁉︎」

 

耀の様子がおかしいし、上条は怪我をしてしまい、いろんな事が起きてしまい飛鳥はいまいち状況を飲み込めていなかった。

 

「頭の出血が酷いのに、今抜いたら出血多量で死ぬに決まっているじゃない。最低でも止血ができる医療器具がある所じゃないと駄目ね。…運営本部なら医療設備くらいあるでしょ」

 

「わ、わかったわ。春日部さん大丈夫?」

 

「わた…私…のせいでまた…まただ…」

 

呆然と上条を見ることしか出来ず。飛鳥が話しかけても反応がなかった。飛鳥はそんな耀にイラつき無理にでも聞かせようとする。

 

「春日部さん無茶を言うようだけど落ち着きなさい。今は上条君を助けないといけないの、彼が目を覚ました時に貴方がそんなの顔をしていたら、助けた上条君が惨めじゃない。」

 

飛鳥の言葉は耀に届いた。

しかし、それでは弱かった。耀は飛鳥が思っている以上に自分を追い詰めていた。十六夜のヘッドホンを壊し、巨人もまともに迎撃できず、挙げ句の果てにまた上条を怪我させた。全てにおいて活躍できず迷惑しかかけてないと思い込んでいた。

 

「………私は…私は…!」

 

耀は十六夜のヘッドホンエンブレムを強く握りしめる、悲痛な彼女の声。このままでは彼女は確実に潰れてしまう、飛鳥はこれ以上、どう彼女をケアしていいのかわからなかった。ペストは友達など居るはずもなく、ただ見る事しか出来なかった。

飛鳥は声をかけられない自分の無力を呪った、友達1人すら救えない。何が財閥の娘だ、何が"威光"だ、こんな肩書きやギフトは友達を救うのに役に立ちもしない。

 

「私は一体どうれば…」

 

飛鳥の顔は普段の彼女を知る人からすればありえないような表情をしていた。

 

少女の声が聞こえた。

上条の意識がうっすらと覚醒するが痛みがひどく立ち上がることも声を出すこともしんどかった。しかし瞼を薄く開けるとそこには今にも消えそうなくらい弱々しい少女が居た。

その姿だけで上条にとって助ける理由は充分だった。

お腹から力が抜けていくのがわかる、出血が酷いのだろう、それがどうした。

だからって目の前の少女を助けない理由にはならない。

それと上条自身が自分で少女を助けたいと思った。

だったら後は簡単だ、立ち上がり少女を助ける。今の上条はそれしか考えられなかった。

 

「…俺は平気だ…から」

 

少年の声がした、それはペスト達が囲んでいる少年の声。大樹の根や瓦礫に押し潰され、今もなお根が突き刺さっているにも関わらず少年は立ち上がる。

これにはペストも驚いた。普通の人間、いや普通じゃない人間だとしてもこれは重症で立ち上がる事すら難しいであろうことを少年ーーーー上条当麻は立ち上がり何時ものように耀に微笑みかける。

 

「だい…ょう…か?」

 

上条はまともに喋れず、立ち上がる足は震え、今にも倒れそうにしていた。

刺さっている根からは血が滴り落ちる。それは少しずつ落ちる速度は速くなり上条の命を削っていく。上条は呂律を回すため一度深く息を吐く。

呆然とする耀の頭を手を置く上条。

 

「大丈夫…わかってるから。それは春日部のせいじゃない」

 

そういい微笑む。飛鳥の声では届かなかった声が届く。

 

「上条…私はまた…また‼︎」

 

「春日部は強いよな」

 

耀の顔が強張る。

私が強い?友達を助けられず、仲間の想いを裏切り、共に戦いたいと思った人にまた助けられた自分が?

 

「私は…強くない!私は弱いから周りに迷惑を掛けることしか出来てない…私がもっと強かったら…もっとみんなの力になれるのに…!」

 

飛鳥とペストは静観していた、いや入ることができなかった。ペストからしてみれば早く医務室に連れて行きたかったが、今それを止めるほどペストは野暮でない。

 

「春日部は強いな…俺は目の前の誰かを助けることしかできないから。だけど春日部は周りの人みんなの為に頑張っているからな」

 

上条はこの箱庭ではジンの為にガルドと戦い、レティシアの為にペルセウスと戦い、ペストを助ける為にペストと戦ったにすぎない。

周りの人達は勝手に救われただけ、今の上条は箱庭の人達みんなに手を差し伸べられるほど強くないと自覚していたからだ。

 

「そんな事ない…そんな事ないよ…。私とは違ってみんなの役に立ってる、いつも活躍してる。なんでなの…恩恵の差?違う、上条には右手しかない。それだけであそこまでの事は出来ない…」

 

「春日部の強さってのは…ギフトの事を言うのか?なら違う…強さってのは…そんなので…測っちゃ…いけ……な…い」

 

ペストは静観を決めていたが流石に上条の出血が酷いのと段々と呼吸が荒くなっており、汗の勢いが尋常ではない事に焦りを感じていた。

 

「上条、流石にもう貴方が限界よ。説教もいいけど、今は貴方の方が危ないわ」

 

上条を止めようとするため肩を掴むが、それを無視し上条は耀に向かって言葉を続ける。

 

「そうじゃ…ないだろ?春日部のつよ…さは腕っ節のとかじゃ…なく…て………その…」

 

上条はそれ以上言わなかった。いやいえなかった、何とか立っていた身体は力が抜け糸を切った操り人形みたいに倒れようとするのを急いでペストが支える。

 

「あぁもう!言わんこっちゃない!こんな事になってるのにオティヌスはどこに居るのよ⁉︎」

 

いつも上条のすぐそばにいる妖精サイズの少女。

その上条がこんな事になってるのに騒ぎもしないのを見ると離れているとペストは想定したが。

 

「騒がしいぞ、何をそんなに慌てている」

 

上条の肩…ではなくペストの肩に乗り、周りとはうって変わり落ち着いているオティヌスの姿がそこに居た。

 

「騒がしいって…この怪我を見て落ち着いている方がおかしいわよ?」

 

「人間ならこの程度では死なない。それに班女…まお前が助けてくれるのだろ?」

 

ペストはオティヌスの言葉を聞き少し顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「ッ…えぇ、そうよ!だからそこの赤いの!さっさとこの娘を立たせて案内してちょうだい!」

 

「わかったけど、私の名前は久遠飛鳥よ。春日部さん…今は上条君の為にも立ちなさい。言いたい事があるのなら彼の意識が戻ってからゆっくりと話しなさい、いいわね?」

 

「…うん。ごめん」

 

そういい耀は立ち上がり飛鳥を抱え飛翔する。後を追うようにペストも上条の右手に気をつけながら浮遊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

上条が次に目を覚めしたのは夜も更け、あの騒動が嘘かのように思えるほどの静かな時が流れていた。上条は上半身を起こそうとするも腹部に激しい痛みが走る。

思わず腹に手を当てる、血は出ていなかった…いや傷のあった場所は丁寧に包帯が巻かれていた。

頭も触ると同じように包帯が巻いてあった。

何でこうなったのか、上条を記憶を辿る。よく覚えていないが、春日部と話していたのは所々覚えいた…が途中からの記憶が全くない、そこで自分が気絶したのだろうと推測した。

再びベット寝転がる、すると横から小さいながらも寝息が聞こえた。上条はその方向を向くと、オティヌスが枕のすぐそばで寝ていた。

 

「…心配させちまったな」

 

先程は心配などしていないと嘯いていたオティヌスだが、内心では上条の事を気にしていたみたいだった、あの時は飛鳥や耀にバレたら自身のプライドが傷つくので平然としていたが。

 

「…そうだ、春日部は」

 

「あの小娘なら平気だ」

 

平気なのかと独り言を言う前にオティヌスが未だ目を瞑ったまま遮る。

 

「あくまで身体はだが。心の方は知らんな」

 

「…そっか。所でここどこだ?」

 

「ここは収穫祭の運営本部だ。お前の傷が酷かったから、急遽ここに運び治療した」

 

「…あれからどれだけ経った?」

 

「まだほんの数時間だよ」

 

オティヌスは上条の回復力の高さに呆れたのか、深くため息をつく。

 

「そっか」

 

そして上条は立ち上がる、腹は痛むが立てないほどではなかった。

 

「行くのか?」

 

「あぁ。いまの春日部は放って置けないからな」

 

「そうか、案内するぞ」

 

「ありがとう」

 

オティヌスは一度上条の掌に乗り、肩へと誘導される。

上条が運ばれたのは緊急の救護施設として設けられた区画だった、廊下に出て、耳をすますと獣の呻き声がうすらと聞こえた。

 

「といっても隣の部屋だがな」

 

衝撃の事実にこける上条。

 

「そういうのは早くに言ってくれよ…」

 

部屋の前に立ち、扉を叩く。

数度叩くと、とある少女の声が聞こえた。

 

「黒ウサギかしら?いいわよ入って」

 

上条は扉を開ける、入って来たのが黒ウサギではなく寝ていなければおかしい人を見て驚く。

 

「え?か、上条君⁉︎起きて平気なの⁉︎」

 

「平気じゃなかったら寝てるよ…」

 

飛鳥はベットの脇にある椅子に座っていた。その彼女からベットで寝ている少女に視線を変える。

 

「春日部は?」

 

「今は寝てるわ。疲れていたんでしょうね…そういえざ上条君はこれの事について知ってる?」

 

そういい見せてきたのは炎が描かれたエンブレム。"ノーネーム"の人たちにとっては見慣れている、十六夜のヘッドホンについていた物だった。

 

「…あー、何となくな。でも一つ言えるのは春日部は何もやってないぞ?」

 

「春日部さんがそんなことをする人間だとしたら私はとっくに縁を切ってるわ。そうじゃなくて、これを春日部さんに押し付けた犯人について心当たりはあるかしら?」

 

「……………それは…」

 

上条の長い沈黙をみて飛鳥は感じ取ったのか軽く頷いて微笑む。

 

「……後は上条君に任せたわ…どうやら今の所は私じゃ力不足みたいだし。あぁ、だけど春日部さんを泣かしたら許さないからね?」

 

飛鳥は立ち上がり上条の肩を叩く、上条が横目で見た彼女の顔は…悲しくも悔しい顔をしていた。

 

「わかったよ。俺に出来るかどうかはわからないけど出来る限りやってみるよ」

 

「そうじゃないわよ…まぁ、これ以上言うのは野暮よね…。私は貴方達を応援してるのよ?」

 

「…?何の話をしているんだ?」

 

「そこは自分で考えなさい…」

 

上条の言葉を聞いた飛鳥は頭が痛いのか手で押さえながら部屋を出て行った。

飛鳥の言葉の意味は上条にはわからない。

上条は椅子に座り春日部を見る。

今はベットに横たわり、上条からは後頭部しか見えていなかった。

 

「春日部…聞いてたか?あれが飛鳥の答えだよ」

 

「……………」

 

耀は未だ動こうとはせず黙っている。

寝ているのか起きているのかはわからない。しかし上条は言葉を続ける。

 

「十六夜も言っていたよ。春日部が自分の為に汚い手使うような奴だったら、前夜祭にだって行かさなかったって」

 

しかし耀は動かない、本当に寝ているのかもしれない、寝ていないかもしれない。だけどそんなことは上条にはどうでもよく、さらに続ける。

 

「俺だってそうだ。春日部耀が誰かの大切なもんを盗む奴じゃないって知ってる。それはこの数ヶ月もない短い間だけれど一緒に住んでわかった。……なぁ春日部だって気付いているんだろ?本当はさ誰が盗ったのか」

 

数秒待ち、なんも返答がでず立ち上がり部屋から出ようとする。扉に手をかけ開けようとしたその時。

 

「わかっ…てる。このヘッドホンを盗った犯人も、何で盗ったかも。…その原因が……私にあるのも。全部わかっている」

 

耀はベットから起き上がっていた。しかし上条ではなく手にしたエンブレムを見ながら呟いていく。

 

「でもそんな事は関係ない。結局は私の為にやろうとした事だから。だから経緯はどうあれ私のせいには変わらない…今の私がしなきゃいけないのは、このヘッドホンを直すことだけど…」

 

このエンブレムを見るからにヘッドホンは粉々になっているだろう、修復は不可。どうするか考える耀に上条がある提案をする。

 

「これは誰のせいでもないよ。ただ春日部の運が悪かっただけだよ。それとヘッドホンの事なんだけど何とかしてくれそうな奴に心当たりがある。…一応春日部も知っているやつだよ」

 

耀は誰の事だかわからず、頭に?マークを浮かべているかのように首を傾げる。

誰?も考える耀だが扉の向こうから聞こえてくる声に反応し顔を向ける。

 

「えっとっと、"ノーネーム"の春日部耀さんと。此処でいいですか?三毛猫の旦那さん?」

 

『ありがとな、鉤尻尾の姉ちゃん。此処まででええよ』

 

「いえいえ、あんなのを聞いて見て見ぬ振りしては"六本傷"の名折れですからクッション役になりますよ」

 

『流石にそこまでやらすのは…うーん』

 

上条からは女性の声とニャーニャーと猫の声しか聞こえないが耀にははっきり聞こえ、その顔にどうするか悩んでいるように見えた。

 

「春日部にとって三毛猫がどんな存在なのかはわからないけど向き合う時はちゃんと向き合わないとな」

 

「…うん。わかった」

 

「三毛猫の旦那さん!うじうじしてても仕方ないですって!」

 

勢いよく扉を開かられる、現れたのはいつもの噴水広場にカフェテラスを持つ鉤尻尾の店員と三毛猫だった。

 

「どうもですよー常連さん!向こうの方で打ちひしがれていたら、三毛猫の旦那さんを連れてまいりましたー!」

 

『うおおおおい!そんな暴露必要ないやろ!』

 

「えー?でも本当に、この世のドン底みたいな顔で参ってたじゃないですか」

 

『そ、それは姉ちゃん、色々と事情が……』

 

やはり上条には猫の鳴き声にしか聞こえない、あの三毛猫がなんて言っているのかはわからない。しかしこの世のドン底みたいな顔と聞く限り、あの三毛猫もあれを見たのだろうと推測する。

 

「三毛猫…」

 

店員の腕の中で跳ね上がる。店員から猫を受け取る、三毛猫は受け取る際に耀の近くにいた上条に気がつく。

 

『にゃ⁉︎何であんさんが此処におるんや⁉︎』

 

三毛猫が上条に対し鳴くが当の本人には届くはずもない。しかし耀には届く、気になってはいた。

上条が此処にいる理由、何でペストと一緒にいるのか。しかし今はそれよりも今まで一度も耀を困らせたことなど無かった三毛猫に対し悲しそうな顔で問う。

 

「どうして…?」

 

耀は理由が知りたかった、自分の一番の理解者である三毛猫が何故にこんな事をしたのか、その理由を。

 

『お嬢が行きたがってたのに…あんなに頑張っていたのに。それが余りにも不憫やったから…仕返しに…』

 

そんな事で…と責めたい気持ちがあるが、そもそも三毛猫をそんな気持ちにさせたのは、やはり自分が原因だ。

犯人はわかった、しかしそれで終わりにしちゃいけない。ならやる事は一つと耀は意気込む。

 

「上条…あの話お願いできる?」

 

「もちろんだ。っとその前に三毛猫と話をさせてくれないか?」

 

「いいけど…三毛猫の言葉わかるの?」

 

「わからない。まぁ俺が一方的に話すだけだから」

 

そういい耀から三毛猫を受け取り、耀達に聞こえない距離まで行く。

 

「これは俺の憶測でしかないけど、春日部にとってお前は一番の"理解者"なんだろ?」

 

『そうだにゃぁ、お嬢は昔から知り合いが出来てもすぐに気色悪がられていて…友達と呼べるのもわいくらいで…』

 

「ならさ…何で耀の事を信じてられなかったんだよ」

 

突然の上条の言葉には三毛猫も黙っていられなかった。

 

『信じ…⁉︎あんさん!わいを馬鹿にしてるのか⁉︎わいはいつもお嬢の為に…!』

 

ニャーニャーと騒ぐ三毛猫、その反応を見るからに反論してきてるのだろう。

 

「なら何で…十六夜のヘッドホンを盗んだんだよ…。これも確信はないけど春日部のバックに入れただろ?それで春日部が動揺しないはずないだろ」

 

『…それは…』

 

「それにだ。お前は知らないだろうけど、壊れたヘッドホンを見つけた時の春日部は…一歩間違えれば精神が崩壊しても可笑しくはなかったぞ?」

 

『そんにゃ…わいのせいで…』

 

「いいか何も"理解者"だからって何とかしようって思わなくていいんだ。今回は間違ったかもしれない。でもそんなんで崩れるほどの関係じゃないだろ?」

 

『当り前にゃ!』

 

三毛猫はニャ!とだけ鳴く。それがどんな意味なのかはわからないけど三毛猫の雰囲気は先程と明らかにかわっているのはわかった。

意思を確認した上条は長話するわけにもいかず耀のところへ戻る。

 

「…終わった?」

 

「あぁ、といっても俺の独り言みたいなもんだけどな」

 

話が終わり三毛猫を耀に返す、春日部の腕の中で三毛猫は最後に鳴いた。

 

『わいもこの先そこまで長くない。その時はあんさんにお嬢の事を任せるにゃ。』

 

言葉がわかる店員と耀は三毛猫の発言に驚く。店員は何か微笑ましい視線を上条に送る。

 

「やったじゃないですかー!三毛猫の旦那さん公認ですよ!」

 

「え、今こいつなんて言ったの?」

 

「ふふふ、それは自分で気付かないとおもし…じゃなくていけません!」

 

「え…?…どういう事なの?」

 

上条が気付かないのもそうだが、三毛猫の言葉の真意がわからないのは耀も同じだった。

 

『はぁ、しかしとうとうお嬢にもその時が来るとは…。悲しいような、嬉しいような…』

 

「まぁまぁ、三毛猫の旦那さん。ここは素直に喜びましょうよ!」

 

「…何の話をしているのかわからない」

 

「俺に至っては三毛猫が何言ってるのかすらわからないがな…」

 

再び三毛猫と店員のわちゃわちゃも騒ぎ始める。上条はそんな2匹?を無視し耀を連れ出す。

 

「まぁ、あいつらはほっとくとして…立てるか?」

 

「うん。…上条の方こそ大丈夫なの?」

 

「問題ない。さてと…春日部、ここの代表者がいる場所ってわかるか?多分そこに居るはずだから」

 

「…いる。案内する」

 

店員と三毛猫を放ったらかしにし扉を開け部屋から出る。すると待ってたのか飛鳥が壁にもたれかかっていた。

 

「終わったかしら?」

 

「…うん、ごめんなさい…」

 

耀から謝られた飛鳥は目を丸くし、驚くがすぐに優しく微笑み耀の頭を撫でる。

撫でられた耀は顔を赤くし照れる。

 

「えっ…飛鳥?」

 

「春日部さん、この場合謝るのは私の方なのよ。貴女がそんなに悩んでいたなんて気付かなかったもの。私の方こそごめんなさい」

 

「…飛鳥は悪くない」

 

飛鳥は手を離す。

「良い悪いじゃないの。私は友達なのに春日部さんの初めての友達なのに気付けなかった。でも上条君は気付いた。正直に言って悔しいわ。だから次こそは私が一番に気付いてみせるわ」

 

「…ありがとう」

 

その言葉が聞きたかったのか飛鳥はにっこりと笑う。

 

「それでいいのよ。あと!今度は上条君だけじゃなくて私や黒ウサギにも頼るのよ?」

 

「…うん」

「…何だろう、感動するべきなんなけど、初めて女子達の普通の絆が見れた気がする」

 

御坂と白井といい、アイテム、必要悪の教会とまともな女の友情をしているのを見ていなかった上条にとって新鮮に映っただろう。

 

アンダーウッド収穫祭本陣営

上条は耀と飛鳥に案内された、扉を開けると、巨人と激戦を広げていた竜種の女性に、黒ウサギ、ジン。

そして今回の目的でもあるカボチャ頭のジャックが居た。

 

「上条さん⁉︎怪我は大丈夫なんですか?それに何でここにいるんですか⁉︎」

 

「黒ウサギ殿、この人が例の?」

 

「ちゃっと⁉︎話を…えっ、そ、そうですけど…」

 

「なるほどな」

 

褐色肌の女性は黒ウサギから何らかの話を聞いたのか上条に興味を示していた。

褐色の女性の横で、そのデカイかぼちゃ頭を揺らしながらジャックは愉快に笑っていた。

 

「ヤホホホ♪相変わらずで何よりです」

 

「相変わらずって…俺がお前に会いに行く時だってそこまで怪我してないだろ?」

 

「6割くらいの確率でしてたはずですが?」

 

上条はこれまで数度に渡ってジャックと会いギフトゲームやら、普通にお茶したりと交流していた。理由としてはジャックが上条の右手を調査、あとは個人的な依頼が主だった。上条はそれを条件付きで了承した。因みにジャックのリーダーにも会ったことがあるがその話はまた別。

 

「そ、それよりジャック。前に話をしていたアレ。今からでも出来るか?」

 

「おや、アレですか。少し時間を頂きますがよろしいですか?」

 

「あぁ、頼む。黒ウサギ。ちょっとジャックを借りて行くから。黒ウサギも詳しい話ならペストにでも聞いてくれ」

 

先程からハリセンを振り回しながら騒ぐ黒ウサギを無視しジャックを連れて行こうとた、その時、緊急を知らせる鐘の音がアンダーウッドに響き渡る。

扉から入ってきたら樹霊の少女が焦りと、恐怖を抱いた表情で叫ぶ。

 

「た、大変です!巨人族がかつてない大軍を率いて………アンダーウッドを強襲し始めました!」

 

直後、地下都市を震わせる地鳴りが辺り一帯に響く。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

まずお久しぶりです
無事に内定が決まりました。そしてクリスマスが近づく…
お菓子の仕事なのであくむでしかあひません

話は変わりますが活動報告にてアンケートとリクエストの方を実施します

アンケートはオティヌスについて
リクエストはまぁ小ネタですね



上条さんを見失ってしまいがちか自分にご教授を …


上条達は知らせを受け本部の外へ…襲撃された場所まで走る。

 

樹の根から出た先に見えたのは、半ば壊滅状態にいる"一本角"と"五爪"の仲間だった。警戒の鐘が鳴らされてから数分と経ってもいない、ほんのわずかな時間で彼等はやられたのだ。

この異常な事態に議長であるサラはいち早く反応する。

 

「誰か状況を報告できる者は居ないか!」

 

今もなお戦闘は続く中サラの叫びが響く。すると空から旋風と共にグリーが舞い降りてきた。相当戦ったのだろう、自慢の翼は荒れており、足にも深い切り傷などがあった。

そしてサラの目の前に着地し血相を変えて訴える。

 

『サラ殿…!ここはもう駄目です!一刻も早くお逃げください!』

 

「な…に⁉︎一体何があった‼︎」

 

『彼奴等の主力に化物がいます!先日の奴らとは比べ物にならんくらいに!このままでは全滅します、貴方達だけでも東へ逃げ』

 

グリーが叫ぶ最中、琴線を弾く音が鳴り響く。

 

耀やサラ等、先ほど戦闘していた者は聞き覚えがあるのか顔を上げ表情を歪めながら辺りを見回す。

 

『奴だ…!あの音色で見張りの意識を奪われ、

2度の奇襲を許してしまった。今は仮面の騎士が戦線を支えているが、それもいつまでもつか…』

 

グリーの声を翻訳し伝える耀と黒ウサギ 。

仮面の騎士という単語に反応したのか、ジャックは驚嘆の声を上げた。

 

「仮面の騎士⁉︎ま、まさかフェイス・レスが参加しているのですか⁉︎」

 

「ま、まずいぜジャックさんッ!もしアイツにもしものことがあったら、"クイーン・ハロウィン"が黙ってねぇよッ!」

 

ジャックは麻布に炎を灯すと、それは巨大な業火となりジャックに纏う。アーシャはその上に飛び乗り最前線へと目指す。

残された上条やサラ達は再びグリーに状況を尋ねる。

 

「この竪琴を引いている巨人って、仮面の人でも勝てないの?」

 

『というより攻めあぐねいている。あの音色は近くで聞くほど効力が高い』

 

グリーに同調するようにサラも説明する。

 

「それで私も全力が出せずにいた。私を抑えるくらいの恩恵となると神格級と見て間違いないだろう」

 

「それで竪琴の巨人と仮面の人は?」

 

『先程までは共に戦っていたが、竪琴の方は姿を消し、何処にいるのかわからない。仮面の騎士は音色に耐えながらも戦いに望んでいる。…あと竪琴の主は巨人族ではない』

 

巨人族ではないと言うグリーに上条達は首を傾げる。

 

『身長はお前たちと大差ない。深めのローブをかぶった人間だ。巨人族が従っているのを見ると、奴が指揮者なのかもしれん』

 

巨人でもないのに統率をしている。

上条の頭の中ではある可能性が出てくる。

 

(もしかして白夜叉が言ってたのはそいつの事か?)

 

確証が無い為に黒ウサギ達には話せないが、その可能性が本当だとしたら、話すべきなのか頭を悩ませる。しかし今言ったとしても、この場を余計に混乱させるだけと判断し口を閉ざす。

そして今は巨人の大軍をどうするか、頭を切り替える。

どうするべきか考えていると、すっかり忘れていた人物の事を思い出す。

 

「…そういやペストはどうした?俺と一緒に居たはずだけど」

 

ペストと聞き飛鳥は指を差しながら問い詰めてくる。

それに続くかのように耀も詰め寄る。

 

「そうよ!何で上条君とペストが一緒にいるのよ⁉︎」

 

「…しかもペストと仲が良さそう。それにあの服は…上条の趣味?」

 

上条が怪我した時は落ち着くように叱咤したり、あの中で1番冷静に物事を考えていたペスト。いきなり現れた元魔王、しかも自分達が戦った相手だ、戸惑いを隠せないのは当たり前である。

服装といえばメイド服…しかもわりと可愛く仕上げられており、レティシアのメイド服とはまた違う。

これまでの経緯をどう話すか、いかに短く話すか、考える上条。

 

「いや…ペストとの戦いが終わった後に。コミュニティの報酬として、うちのメイドになったんだけど」

 

「だけど?」

 

「家事が殆ど出来なくてな。流石にこのまま渡すのはマズイって事で、俺とレティシアにペストの教育をしていたんだよ」

 

「だから最近コミュニティに居ないことが多かったのね」

 

「そういうことだけど」

 

飛鳥の質問には答えた上条だが、耀は自分の質問に答えてないのに不満なのか上条に近づいて再度質問する。

 

「…あのメイド服は白夜叉?それとも上条?」

 

ガクリと崩れ落ちる上条、あの服に関しては白夜叉の暴走を止める為という大義名分があるのだが、そんな事は耀達には関係のない。

素直に言うのも良いのだが上条からしたらメイド服を一から考えた、だなんて言えるはずもなかった。

 

「今はそれどころじゃないだろ⁉︎」

 

「…いいから答えて」

 

何とか答えさせようとする耀。それを屁理屈で言い返す上条。

そんな"ノーネーム"のやりとりをみてサラは笑う。

先程まで目先の戦闘で混乱していたが、そんな自分が馬鹿らしく思えてきた。

 

「2人ともそこら辺にして、そろそろ真面目にどうするか考えた方が」

 

「そ、そうだな。それでペストは何処に」

 

上条が言い切る前に後ろの方からトンという足音が聞こえた、上条が振り向く。

 

「私がどうかしたの?」

 

ペストが何食わぬ顔で居た。視線の先には巨人と勇猛なる獣達の戦場。現状を把握したペストは上条に問いかける。

 

「それで?私に何をして欲しいのかしら」

 

それをごく当たり前の事のように言った。上条がペストを探していた理由を説明しようとするが、上条のカードからオティヌスが出てくる。

 

「コイツは黒死病を操る力があり、目の前のデカブツはケルト神話群、その中にダーナ神話というのがある。それは巨人族の闘争を記したものだが。中に黒死病を操る事で他の巨人族を支配していた一説がある。つまり相性でいえばこの上ない程にいいはずだ」

「…僕に作戦があります」

 

今まで黙っていた、いや会話に参加できていなかったジンが声を上げる。

 

「ほぅ、では聞くがどんな作戦だ?」

 

オティヌスも待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。

ジンは1度コクリと頷く、ゆっくりと息を吸い、吐く。

 

「まず竪琴の術者を破らないと、例え今回退けたとしても、また同じように攻めてくるはずです。術者を逃さないためにも…耀さん貴女が鍵です」

 

「…私?」

 

耀はまさか自分が指名されるとは思ってもいなかったのか眉を顰める。

 

「今までの情報を聞いた中で、僕の予想が正しければ、耀さんの力が必要な状況に陥るはず。上条さんは耀さんの控えとして同行して下さい。右手があれば竪琴の音色の効果は無効化されるはず。貴方達でなければいけないんです」

 

真っ直ぐ、耀と上条を見つめる。

耀はもしかしたらヘッドホンの事での同情されたのではないかと勘ぐってしまったが、その眼をみて消え失せた。

 

「…わかった。作戦を教えて」

 

 

 

 

耀と上条が支持されたのは上空1000mの上空で合図を待っていた。それは巨軀と呼ばれているアンダーウッドよりも更に高い高度である。

上条と耀はグリーに乗り、ジンの合図を待つ。

その中で上条はジンの作戦に疑問を抱く。

 

「…これ俺が居なかったら春日部だけでもっと身軽に奇襲出来たんじゃないか?」

 

「確かに…そうかもしれない。けど上条の右手があれば最悪の場合は竪琴を破壊するのに必要。それに竪琴の所持者も何をしてくるかわからないから」

 

敵のギフトが竪琴だけとも限らない、ジンも上条は巨人相手の陽動には向いておらず、正体不明の竪琴に回す方が良いと考えていた。

 

「竪琴…か何者なんだろうな。そういや、グリーだったよな。怪我しているのに悪いな。キツイ作戦に参加させて」

 

上条は左手でグリーの背中を撫でる。手綱は上条が持ち、耀は上条の背中に捕まっている。

 

『気にするな。皆が戦っているのに私が頑張らない訳にもいかんからな。今は振り落とされないように気をつけるといい』

 

「任せろ」

 

ジンの作戦、それはまず飛鳥、ジン、ペストでグリフォンに乗り上空から奇襲をかける。飛鳥は"威光"を使いグリフォンの能力を上げ、ジンが指揮を取り、ペストが巨人を一掃する。そうなれば巨人達は混乱し合図を出す、耀が混乱に乗じ、竪琴の持ち主を探し出し竪琴を奪取。上条は耀が失敗した時のサブとして、耀に続き幻想殺しを効果で竪琴の音色を聴いても何もないのを利用し、隙をついて竪琴の破壊もしくは奪取、そして耀と協力し持ち主を捕縛する。

この作戦の要は耀でいくら巨人達を混乱させて突き破っても竪琴の持ち主を探し出せなかったら意味がない、上条も何もすることがなくなってしまう。これ以上ない大役に耀はある思いを吐く。

 

「…ねぇ。私もさ十六夜みたいに自慢気に笑ったり、上条みたいに戦う事って出来るかな」

 

それは箱庭に来て数ヶ月、フォレスガロや、ペルセウス、そして魔王と色んな敵との戦いで十六夜や上条は沢山活躍し 、十六夜といえばヤハハハと高らかに笑うのが印象にあった。上条は自重しているものの魔王を1人で撃破した。

しかも倒したはずのペストは上条を憎みもせずに友達のように接している。普通なら出来ないことだ。そんな2人に耀は近付きたかった。

 

「俺なんて右手以外普通の人間だぞ?そんな奴の戦い方なんて真似しても仕方ないよ。それに十六夜みたいに笑いたいのなら笑えば良いじゃねぇか」

 

上条は耀が言いたいことをイマイチ理解していないが、十六夜みたいに笑えば良いと言われ試しに腰に手を当て、小さな胸を反らす。上条も耀と同じようにし。

 

「「やはははははははははははは!!」」

 

「……うんこれはない」

 

耀は想像以上に恥ずかしかったのか途中で止める。そして1つわかった、自分がどんなにテンションが高くても絶対にこんな笑い方は出来ないと。

上条も恥ずかしいものの意外と楽しいかったが、真似するつもりなかった。

 

「だな。それに誰かを目指してなろうなんて思うなよ?それは無理な事だ、他人にはなれない。どんなに頑張っても届かないものだってあるから」

 

それは記憶をなくした上条当麻が、記憶を失う前の上条当麻を目指し、結局はなれなかった。今はもう前の上条当麻とは決別した。

今の自分が異世界にいるのだ、もしかしたら前の上条当麻も何処かで元気にしているかもしれない、などとくだらない事を考えていた。

 

「じゃあ私は…私はどうすれば良いのかな…」

 

上条にはそれを答える事ができなかった、それは自分で見つけるしかない。

 

 

 

 

 

 

沈黙しかけたその時、地上にて濃霧が発生した。2人は顔を見合わせる。

 

耀はペンダントを握りしめ眼下を注視する。

耳を澄ませ、ソナーのように超音波を発生させて音源の位置を探る。

この濃霧と音色は視覚、嗅覚も惑せる。

しかし耀がとった行動は音波の元を探る方法。

これは耀にしか出来ない事、耀は自分で気付いていないだけで、ちゃんと自分のアイデンティティを活用しているのだ。

 

「見つけた!」

 

感知した耀は"生命の目録"の力を解放し、グリーから飛び降り流星の如く流れ落ちていく。

 

「グリー!」

 

『わかっている!』

 

グリーの全力をもって急降下し耀の後ろをマークする。今まで感じた事の無い風圧に思わず手を離しかけたが、耀だって耐えたのに自分が離す訳にもいかない。その手に力が再びはいる。

 

そして耀は針の穴に糸を通すように確実に竪琴の持ち主に接近する。

逃亡している最中に視覚外から現れた事で虚をつかれたのだろう、その手に持つ、豊穣と天候の神格をもつ"黄金の竪琴"を耀は奪い取る。反撃されないうちに上空へと飛翔する。その時上条とグリーとすれ違う。

そして竪琴を奪われたローブを被った人間はさして慌てる事もなく、ただ逃げようとしていた。グリーがそれを追い抜き上条を降ろす。

 

「そう易々と逃がすかよ」

 

「……」

 

「大人しく捕まってくれると助かるが…」

 

ローブのせいで顔は見えないが、口元だけがみえた。上条が投降するように呼びかけると不気味に口が歪む。

 

「そうもいかないよなッ!」

 

上条は走り出し一気に接近…しようとするが。

 

「止まれ、人間‼︎」

 

オティヌスの声により走り出す前に上条の動きが止まる。

そして上条とローブの人間を阻むように巨人が倒れ込む。土煙があがり、砂を吸い込んでしまった上条は咳き込んでしまう。

ほどなく砂煙が消え、巨人を回り込むとそこにはもうローブを被った人間は居ない。

居ない以上ここに居る意味もないので、グリーは上条を乗せ浮上する。

 

そして竪琴をバックアップを失った巨人が制圧されるのはそう時間はかからなかった。

 

"アンダーウッドの地下都市"新宿舎

戦いが終わり、破壊された宿舎の代わりに特急で造られた宿舎に上条達は戻る。

そして上条はある人物を探す、戦いが終わった今、優先すべきは十六夜のヘッドホンをどうするかだった。

"ウィル・オ・ウィスプ"のジャック、何回か彼とは交流のある上条はある話を聞いていた。

"クイーン・ハロウィン"は世界の境界を預かる星霊の力を借りることで異世界から呼び出す事ができると。

そして最近その"クイーンハロウィン"の1人を客分として招いたとも。巨人達との戦闘中にジャックはクイーン・ハロウィンと言っていた。つまりジャックさえ見つければヘッドホンの問題も解決するのではないかと。

ジャックを見つけるのは難しくなかった、あのかぼちゃ頭を見つけるなという方が難しい。

 

「いたいた!ジャック、ちょっといいか?」

 

「ヤホ?上条さんですか。話は聞いていますヨ」

 

「それなら話は早いんだけど…今から呼ぶことって出来るか?」

 

「今すぐというか本来なら断固として拒否しますヨ。しかし"ノーネーム"とは長いお付き合いさせてもらう予定なので…お友達料金という事で手を打たせてもらいます」

 

安堵する上条、これで拒否されたら耀に会わす顔がなくなってしまっていたからだ。

 

「ただし問題点が1つあります」

 

「問題?」

 

「はい。厳密には"クイーン・ハロウィン"の力で召喚するわけではなく、星の廻りを操り因果を変える…要するに"耀さんは初めからヘッドホンを持ち込んでいた"という形の再召喚です。なのね耀さんの家にヘッドホンがないと」

 

「…それなら問題ないから大丈夫。十六夜が持っているヘッドホンと、同じメーカーのヘッドホンがある」

 

いつからそこにいたのか耀が上条とジャックの話に入り込む。

耀はヘッドホンを手に入れられる可能性か大きい事を改めて知りどんどん喜色に染まっていた。

 

「本当か⁉︎」

 

「ヤホホ♪了解しました、では準備の方をしてきます」

 

ジャックはその巨大なかぼちゃ頭を揺らしながら上条達から離れた。

 

「でも良くあったな、十六夜のヘッドホンなんて」

 

「…正確には違うけど…ビンテージ物だからあれならきっと十六夜も許してくれる…よね?」

 

「十六夜も仲間想いが強いから大丈夫だと思うけど…いいのか?お父さんの何だろ?」

 

「それは大丈夫。お父さんもお母さんも行方不明だから」

 

耀は自身の身の上を初めて述べた。

上条はそれを聞いてなんてフォローすればいいかわからなくなってしまう。

 

「…ごめん」

 

「ううん。私も上条の話を聞くだけで話していなかったから。…それに」

 

耀は自分の胸にあるペンダントを握りしめる。

 

「私達…上条以外は自分の話をしたがらなかったから。知らないのも当然だと思う」

 

上条は耀から目をそらす。

上条は確かに自分が居た世界のことを話した。しかし自分の過去、上条当麻の歴史や、オティヌスの事、話していない…いや話したくない事は沢山あった。

 

「だからヘッドホンを渡すのを機会に皆でお茶会をしようと思う。やっと出来た友達だもの。関係を維持する努力していかないと」

 

気持ちを新たに、前を向く。

"家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い"

そんな無責任で、横暴で、素敵な招待状に耀は応えた。

そんな耀を上条は見ていられなかった。

上条は未だに捨てきれていなかった。

土御門や青髪ピアスと馬鹿みたいに騒ぐ高校生活も、御坂美琴との攻防も、バードウェイから押し切られる非日常も。

 

インデックスとの日々も上条は捨てられていなかった。彼処に戻りたいと思ったこともある、インデックスのあの笑顔をもう一度みたい。

だけどそんなのは許されない、確かにオッレルスは言った。

 

"もう2度と彼女に会えないかもしれないよ?"

 

そう今はもう脆弱な一般人以下となったオッレルスが確かに言った。

オッレルスの過去も聞いた。信じられない…なんてことはなかった。

だから後悔なんてしていない。

後悔した所で懐かしいあの日常はもう帰ってこない、そんな考えは春日部やレティシアにも失礼だ、考えてはいけない。

 

「…そうだな」

 

だから過去をきっぱりと捨てようとしている耀が上条には眩しかった。

 

上条は儀式の邪魔をしたくないため宿舎を離れた。上条がいるだけで幻想殺しが何らかの干渉をしてしまうといけないからだ。時間がどれだけ経っただろか、太陽も真上からすぎていたからお昼は過ぎていた。儀式が成功したのかわからないが、今上条はアンダーウッドの日差しがよかさすところにいた。

日差しは心地よく、昨日も戦争があったとは思えないほど風は穏やかで心地良い。

寝転がっている上条にオティヌスは話しかける。

 

「人間…お前は戻りたいと思うのか?」

 

「前も言っただろ?これは恩返しなんだ」

 

「そうじゃない、確かにお前は言った。償いだと、今はわからないと…!先程の小娘…耀を見ていられなかっただろうが、それは」

 

「捨てきれないってか?確かにそうだよ、だけど…今の生活も楽しい。これは本当なんだ。どちらかなんて選べねぇよ」

 

「……いつかは選ばないといけないんだぞ?」

 

「…わかってる。だけど今は」

 

言葉を続けようとした時、上条は何かを察知し今寝ていたところから急いで離れようとする。

それと同時にある叫び声が聞こえてくる。

 

「かぁぁぁぁみぃぃぃぃじょぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

それは彗星の如くやってきた。

すぐさま場所を離れる上条だが、音速を超えて落下するソレは先程上条がいたところにクレーターを作り、その衝撃で上条は尻餅をついてしまう。

 

「な、何だ⁉︎隕石か⁉︎十六夜か⁉︎」

 

クレーターから這い上がってきたのは不機嫌そうにしている十六夜。そして空からは明らかに怒っているレティシアがいた。

そして上条は悟った。

 

「あっ、これ死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

これから先の事を上条はよく覚えていなかった。

十六夜の攻撃を手加減しているとはいえ躱し、空からはレティシアの槍も飛んできていた。

それが日が沈むまで続くと十六夜が飽きたのか何処かへ行ってしまった。レティシアはそれを見送り攻撃を止めるが怒っているのは変わりなかった。バテバテになっている上条に膝枕をしていると説得力が欠けるが。

 

「さて質問するぞ。当麻は何でここにいる?」

 

息を切らしながらも何も上条は何とかして答える。

 

「し…ろやしゃに呼ば…れて。そしたら収穫祭に…行って欲しい…って」

 

「それは知っている、聞いたからな。質問を変えよう、私達が決めたルールを破り、先に行くのはどうかと思うが?」

 

反論ができないのか上条は黙ってしまう。

 

「何より…何も言わず消えてしまうのは止めて欲しい。かなり心配したんだぞ?私は」

 

手紙を書いておいたが確かに"出掛ける"だけじゃ心配されるのも頷ける。

 

「大丈夫だって…何処にも消えやしないさ。大丈夫、レティシアに何があっても必ず守るから」

 

その言葉を聞きレティシアは余程嬉しかったのか笑顔になる。

上条は今は…と言おうとしたが口を閉ざす。そんなのさらにレティシアの不安を煽るだけだから。上条は彼女には笑顔でいて欲しかった。

彼女の笑顔がインデックスと重なる、いや箱庭に来てから1番近くにいた彼女と重ねていた。似てもいない彼女にインデックスと無理やり重ねようとしていた。

だからなのかは分からない。

レティシアと初めて会った時のあの顔にさせたくなかった。心配させたくなかった。

上条の方が弱い、確かにそうだ。だけど上条はレティシアと耀を守る盾いようと決意した。

それは耀も同じだ、何度も彼女の弱い部分を見てきた、一緒に生活し、過ごし、戦いわかった。彼女は心が弱すぎると。

レティシアとは別の意味で彼女を支えたくなった。

無論、上条は自分がそう考えている事に気付かなかった。

 

レティシアも上条の弱い部分を知っている、だからこそ今抱いてる、この悩みは打ち上げられずにいた。

 

無言のまま時が流れる、このまま迎えが来るまで過ごそうとしていたが

 

 

不吉な声と音色が響いたのは、その直後だった。

 

ー目醒めよ、林檎の如き黄金の囁きよー

 

レティシアの体から力が抜ける、突然レティシアが横たわり膝枕どころではない彼女の状態に上条は声をかけようとするが、琴線を弾く音色が3度響き、周囲を見渡す。

するとローブを被った人がこちらに近づいてきていた。

上条はその人物に見覚えがある、そう巨人達との戦いで竪琴を持っていた人物だった。

 

「…どうやら余計な人もいるけど、お久しぶりですね、"魔王ドラキュラ"。巨人族の神格を持つ音色は如何ですか?」

 

レティシアは飛びそうな意識の中、何とか声を出す。

 

「…レティシアには触れさせないぞ」

 

上条はレティシアを守るように立ち塞がる。

それをみたローブの人は驚くがそれだけだった。

 

「…貴方には音色が届いていないのかしら?まぁだとしてもこのまま彼女は貰うわよ」

 

「絶対にそんな事は」

 

させないと言おうとした上条に背中に何かがささる。後ろを振り向こうとするがローブの人が近付き上条を蹴り飛ばす。

その衝撃で腹の傷が開き血がさらに出てしまう。

 

「とうまぁッ!き…貴様は…何者、」

 

薄っすらとする意識の中でレティシアは叫ぶ。

 

「余計な真似を…まぁいいわ。私の事はいいでしょ?だって貴方は」

 

ーもう1度、魔王として復活するのだから。ー

 

「レティシアから…離れろ…!」

 

上条はゆっくりと立ち上がりローブの人に殴りかかろうとするが足に力が入らないのかそのまま崩れてしまう。

 

「面倒ね…殺そうかしら」

 

殺す。その言葉にレティシアは黙っていられなかった。

 

「ッ⁉︎頼む…私の事はどうでもいい、だが当麻だけは助けて…くれ」

 

「あら?"魔王ドラキュラ"でもそんなこと言うのね。ふふっ、いいわ。今この場では殺さないであげるわ」

 

そう言い残し飛翔する。

オティヌスは急いで上条に刺さったナイフを抜く。幸いなのは出血がそこまでしていない事だけでだった。

 

「マズイぞ…人間!このままでは…聞いているのか?おい…!」

 

何とか立ち上がろうとする上条は膝をつき、地面を叩き叫ぶ。

 

「何が守るだよ…!いっちょまえなことを言って、結局はあの時と同じじゃないか‼︎」

 

刹那、空が2つに裂けた。晴れ晴れとしていたはずの空は暗雲に包まれ稲光を放ち"アンダーウッド"の空を昏く染め上げていく。

そして上条は自分の腕からも出たことのあるが比較にならない大きさで、その神話の光景を見た。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAaaaaa‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

常識外の雄叫びは、それだけでアンダーウッドの大樹を揺らす。

 

 

そうそれは龍だった。

そして魔王の契約書類が降り注ぐ

 

『ギフトゲーム名"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 

・プレイヤー一覧

・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断する、

・プレイヤー敗北条件

・無し(死亡も敗北と認めない)

・プレイヤー側禁止事項

・無し

・プレイヤー側ペナルティ事項

・ゲームマスターと交戦したプレイヤーは時間制限を設ける。

・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

・ペナルティは"串刺しの刑" "磔刑" "焚刑"からランダムに選出。

・解除方法はゲームクリア及び中断された際のみ適用。

・ホストマスター側勝利条件

・なし

・プレイヤー側勝利条件

1,ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害

2,ゲームマスター・レティシア=ドレイクの殺害

3,砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ

4,玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て

 

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

" "印』

 

 

 




東方×上条さんの作品が少なすぎる!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

たいッッッッッへんお待たせしました!

いやぁ〜ダメですね、艦これとクトゥルフをしていると時間を忘れてしまいます…
クトゥルフのシナリオなんてすぐに出来るやろ!なんて考えが甘かった…
そして季節はクリスマス…パティシエの自分にとっては地獄の季節となります…強く生きないと…締め切りも決めたほうがいいかな?


 

突然出現した龍、周りは騒然とし何が起こったのかわからない状況だった。

さらに魔王とのギフトゲームときた。

混乱せずにはいられない中で上条は地面に拳を突き立てる。

 

「クソッ‼︎何で…何でレティシアが…‼︎」

 

上条としてもレティシアから聞いた話の中に南に封印されたと聞いていて、白夜叉の件もあり少しは警戒していたつもりだった…しかし捕らえれてしまった。

上空を見上げるとレティシアとローブを被っている人間と、黒ウサギと十六夜が交差するようにこちらに飛んできていた。

黒ウサギは着地するや否や上条に駆け寄ってくる。

 

「上条さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 

「ッ…俺は大丈夫だ。だけどレティシアが…俺のせいで」

 

とは言っているか上条だが背中からは血が止まることなく流れている。腹の傷も開いており、いつ出血多量で倒れてもおかしくはなかった。

 

「そんな事で不貞腐れるのもいいが、今はギフトゲームの時間だ。お前も見ただろ、あのふざけた"契約書類"の内容を。それに目の前にいるドでかいトカゲの姿がよ」

 

「……言っておくけど俺は」

 

「わかってる。レティシアを助けたいって言うんだろ?そんなのは当たり前だ、問題はそこじゃない」

 

十六夜はジッと"契約書類"を読む、勝利条件には魔王ドラキュラの殺害、レティシアの殺害

、残りは謎々ときた。

魔王ドラキュラはつまりレティシアの事を指しているため除外、レティシアの殺害はもちろん除外。

謎解きをする前に、稲光を放つ夜空。雷雲から姿を見せている巨龍に視線を向ける。

すると龍が雄叫びをあげ、鱗を散弾のように"アンダーウッド"へ撒き散らす。

 

「ッ⁉︎上条、黒ウサギ‼︎俺の後ろに隠れろ!」

 

散弾とおもえるようや鱗を十六夜は拳と足を使い後ろにいる仲間を守るため弾いていく。

しかし最強種はそれだけでは終わらせてくれない。

鱗は大蛇や、火トカゲ、5つ尾の大サソリに変幻していく。

上条達は魔獣達に囲まれるも、上条と十六夜は拳を、黒ウサギはギフトカードを、オティヌスはその頭脳で戦うために臨戦態勢に入る。

十六夜は周囲を見渡し、敵の数を把握し上条と黒ウサギに話しかける。

 

「オイ、此処は俺が片しておくから上条は本部に戻って治療を受けてもらえ。今の傷だと逆に足手まといだ。黒ウサギは上条を運んでやれ」

 

「…はい。わかりました、十六夜さんは…気をつけるほども無いですね」

 

「って勝手に話を進めるなよ。そもそもこれは俺が原因なんだから休む訳にはいかない」

 

「阿保。今にも倒れそうな奴が何いってんだ。それに原因なら俺も少し遊び過ぎたから共犯だ。いいからさっさと帰って怪我を治してから来い」

 

「…なぁ十六夜。お前って本当は」

 

続きの言葉を言おうとするが十六夜に止められてしまう。

 

「いいから行け。こちとらやる事は此処だけじゃねぇからな」

 

そしてもう話す事はないと言わんばかりに魔獣達に向かって、第三宇宙速度の拳を叩きつける。

こうなっては仕方ないと上条は諦め、黒ウサギに大人しく連れて帰ってもらった。

 

 

 

 

"アンダーウッド"収穫祭本陣営では大混乱に陥っていた。

巨人達の奇襲だけで手一杯だったのに、最強種の襲撃となれば指揮が乱れ、"龍角を持つ鷲獅子"のコミュニティ間での連携など出来るはずなかった。

黒ウサギは外からでもその状況が伝わっていた。彼女の耳のお陰もあり、サラが伝令から聞いた内容もしっかり聞いており窓からサラの部屋へ乗り込む。

 

「サラ様!ご無事でしたか!」

 

「黒ウサギ殿…いや、丁度いい。すぐ同士を集め帰郷の…その前に彼の治療が優先だな」

 

上条はというと黒ウサギの脇に抱えられていたが傷口をダイレクトに触られノックアウト寸前になっており、慌てて黒ウサギが上条を解放し、医務室へと運ばれていった。

治療自体はすぐに終わった、止血し包帯を巻く。今のこの状況ではこれが限界で、上条もそれでいいと言いサラ達の部屋に戻る。

その道中上条が廊下を通り、ふと窓を見た。

 

 

 

なんということでしょう巨人の頭がこっちまで近付いてきているではないか。

肩に乗っていたオティヌスはただそっと上条の襟に捕まる。

上条はただ走った。

 

「うぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

走る、サラの部屋を目指して走り飛び込む。

ドガシャャャンッ‼︎と盛大に窓を破壊。続いて響くのは大樹を揺らす激動と衝撃。

ホコリが上条に被さるもすぐに体を起こし、事故現場を見ながら叫ぶ。

 

「これ十六夜だろ⁉︎絶対にそうだ‼︎そうに違いない‼︎こんな出鱈目で馬鹿なことをする奴他に居てたまるかッ‼︎」

 

上条の叫びに肩に乗っていたオティヌスも忌々しい表情を隠さずに叫ぶ。

 

「全くだ…何処に地球どころか箱庭にだってこんな阿呆な事をするのは1人で充分だ‼︎服が汚れたじゃないか‼︎」

 

そういい帽子を脱ぎ埃と瓦礫を払う。

上条も一張羅の学生服を叩き埃を落とす。

怪我人である上条を心配してか黒ウサギが駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「あぁ…しかし十六夜の奴、やりたいことってこれかよ…」

 

上条はがっくりと肩を落とし項垂れる。

部屋にいたサラは戸惑いを隠せない表情のか上条に話し掛ける。

 

「待て…これは君達の仲間がやった事なのか?」

 

何が起こったのかわからない、そんな表情のサラ。真正面と隣にいる上条と黒ウサギは申し訳なさと、気まずそうな顔で答えた。

 

「多分ですけど。ただ、こんな無茶苦茶な事をするのは1人位しかいねぇよ。居て欲しくない」

 

「Yes…この巨人は恐らく、我々の同志のお馬鹿様が投げた者かと…」

 

「…投げた?」

 

思わずきき返すサラ。

しかし黒ウサギや上条からは訂正する声は上がらない。

半信半疑になりながらも瓦解した壁まで行き身を乗り出した。視界の先では巨人族と"龍角を持つ鷲獅子"連盟が未だ戦っていた。

"アンダーウッド"は全長500mという巨躯を誇る水樹。その中腹に位置する本陣営からは戦場を一望できる。

そこでサラは再び驚愕する。

ほんの数分前までは都市付近まで追い詰められていたはずの"龍角を持つ鷲獅子"の戦線が外門までの退路を確保して余るほど盛り返していたのだ。

それもたった1人の少年を先頭に据えて。

 

「まさか…あの少年が、巨人をここまで投げ飛ばしたというのか⁉︎」

 

サラはその馬鹿げた光景に声を荒げながら、十六夜の戦いっぷりに口を開けて絶句してしまう。

 

「黒ウサギ殿…」

 

「はいな、何でございましょう」

 

サラは倒壊した壁から戦場を一瞥し。

 

「何だ、アレは」

 

アレと、もはや本当に人間なのか疑っているサラは十六夜に対して指をさしていた。

 

「か、彼に関してはまた後程説明するとして…そらそろ審議決議が受理される時刻。黒ウサギがそれを知らせますので、サラ様は魔獣掃討作戦に加わって指揮を取ってください」

 

「う、うむ。心得た」

 

サラは額を拳で軽き意識を切り替える。

黒ウサギは白黒に彩られたギフトカードから"擬似神格・金剛杵"を取り出す。

黒ウサギの髪は光を放ちながら緋色に変わり、やがて燃えあがり始める。

ウサ耳を揺らしながら"アンダーウッド"全域に届くような声で宣言した。

 

「"審判権限"の発動が受理されました!只今から"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"は一時休戦し審議決議。執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルへ移行してください!繰り返し」

 

「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaaaaEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAaaaa‼︎‼︎」

 

その叫び声に上条と黒ウサギ達は耳を疑う。

黒ウサギが審議決議の宣言をしている最中、巨龍は雷雲を撒き散らし"アンダーウッド"へと急降下し始めた。身体を少しでも動かすだけで大気を絡め取る龍は100mを通過し突風を巻き起こした。

しかし最強種が起こす災害はただの突風程度で終わるはずもなく、"アンダーウッド"で戦っていた飛鳥、ジン、十六夜、ペストも、さらには巨人や魔獣も敵味方の関係なしに、その突風で空へと巻き込んで吹き飛ばす。

その暴威にサラは瞠目したまま固まってしまう。

 

「都市が…戦場が、すべて空に…!」

 

「サラ様危ないッ‼︎」

 

「出鱈目過ぎるだろ⁉︎」

 

暴風に吸い込まれそうになるサラの手を黒ウサギが握りしめる。

しかし上条はそうもいかなかった。

突然の暴風で何かに捕まろうとするが届かず外へと投げ出されてしまう。

 

「まずっ…」

 

「上条さんッ‼︎」

 

空へと堕ちていく、黒ウサギはサラを支えるので手一杯、ペストも戦場で空へと打ち上げられている。レティシアは連れ去られた、春日部も十六夜も此処には居ない。

十六夜みたいな身体能力がある訳でもなく、春日部みたいに飛べず、飛鳥みたいに命令して助かることも出来ない。

上条は右手に"幻想殺し"があるだけで普通の人間なのだ、どこかの超能力者に滅多打ちにされる訳でもなく、魔神に襲撃される訳でもなく。

ただ上条当麻は地面に頭を打ち付けて死のうとしている。

落下していく中でどうにかして生き残れないか考えるが何も思い浮かばない。

本格的に死を覚悟した上条は目を瞑る。

 

しかし死は来ない。

目を開ければ地面が、そこにはあった。しかしその距離は10mはあり、何秒まっても落ちる気配はなかった。

くどいようだが上条は普通の人間、飛べるはずが無い。

上条は頭が混乱し、辺りを見渡すがやはり誰もいない。

 

「全く…魔神を倒した英雄が墜落死とは笑えないぞ」

 

「えっと…オティヌス?」

 

声がしたのは上条の頭の後ろからだった、背中の方から何かに引っ張られている感覚があるが、捕まる場所など何処にもなかった。

そこである可能性が1つ。

 

「まさか…飛んでるのか?」

 

オティヌスが空を飛んで上条を滞空させている事だ。

 

「それ以外に何があると思う」

 

それをオティヌスは否定をしない。

しかし上条の記憶ではオティヌスは魔神の力を得ていても空を飛んでいた記憶は無く、ましてや"妖精化"を受け魔術もろくに使えないオティヌスが空を飛ぶ。そんな事が出来るとは上条には思えなかった。

 

「と、とりあえず下ろしてくれ…」

確認しようにも真後ろにいるオティヌスを見る事を出来ないので着地してから状況を整理するこもにした。

 

「…な…」

 

「な?」

 

「な……な…」

 

「…な?」

 

「……何かないのか⁉︎空を飛んでいるんだぞ⁉︎」

 

オティヌスの悲しみと怒りに満ちた怒号が上条の耳を襲う。

 

「空を飛んでいるというのに…リアクションが下ろしてくれ、とは何だ⁉︎」

 

「えぇ…。とりあえず下ろしてくれよ、このままいるのも割とシンドイからさ」

 

「クソッ…!これだから人間は…」

 

上条からのリアクションが予想以上に小さい事に苛立ちを隠せないオティヌスは上条を着地させると、その姿を見せる。

 

「…え」

 

言葉が詰まる。

上条が見たのはオティヌスの背中から薄い羽が4枚生えており、その姿はまるでファンタジーの世界にいる妖精そのものだった。

上条はその美しさに見惚れてしまう、オティヌスが人形みたいで美しいのもあるが、羽が生えた事により幻想的になりより美しく見えたのだろう。

 

「今度は無反応ときたか…流石の私でもキレるぞ」

 

オティヌスは先程から上条の反応がいまいち掴めないせいか軽く拗ねかけていた。

 

「あっ…い、いや…ど、どうしたんだよ⁉︎いつの間にその羽。まるで妖精みたい…だ……まさか」

 

「そのまさかだ。私にかけられた"妖精化"の呪いが箱庭にきてギフトになり文字通りに妖精となったのだろうな。まぁギフト名は少し違うがな」

 

「えっと…マジで?」

 

「マジだ」

 

上条は頭の中を整理するが、やはり"妖精化"を打たれたからといって本当に妖精になるとは夢にも思っておらずパンクしかける。

考えていると上の方から黒ウサギとサラが降りてくる。

 

「上条さんご無事ですか⁉︎」

 

「…黒ウサギには心配かけてばっかりだな…」

 

「お前が悪いんだろ」

 

「そうですよ。でも上条さんを心配してるのは私だけでは無いんですけどね。それでも!私からしたらちょっと無茶しすぎデス…」

 

既に上条は腹部を貫通したり、十六夜とレティシア(主に十六夜)から受けた傷、そして背中にナイフとボロボロだった。

次に黒ウサギは上条の近くにいるオティヌスに目を向ける。

 

「ってオティヌスさん⁉︎何ですか、そのお姿は⁉︎」

 

「…ギフトを使うとこの姿になるだけだ」

 

「確かに…オティヌスさんがギフトを使っているのは初めて見ましたけど…確か"旅路を終えしもの"でしたっけ?」

 

「それとはまた別のギフトだ。それよりこんな話をしている場合じゃないだろ?」

 

オティヌスに言われてか黒ウサギは何かを思い出し、天空を見上げる。

そこには落下する瓦礫や残骸。落下するサラの仲間たちと巨人族が悲鳴をあげているのを。

 

「そ、そうでした!皆様を助けに行かないと…‼︎行きましょうサラ様ッ!上条さんとオティヌスさんは医療部屋を大きくするように伝えてください!」

 

「急ごう、黒ウサギ殿!」

 

炎翼を放出したサラと黒ウサギは、落下する仲間たちの救出に向かう。

オティヌスは上条の肩に降りると羽が霧散していく。

そして黒ウサギの言われた通りに本部に戻るのであった。

 

 

 

 

 

"アンダーウッド"の緊急治療所。

上条により急遽用意された治療所には、怪我人が並べられていた。

家屋の6割が焼き払われため殆どの負傷者は雑魚寝の状態である。

巨龍が立ち去った後、分身である魔獣たちも消え去ったのだろう。

たった一度の暴風で"アンダーウッド"と巨人族が殲滅されそうになったのだ。

それだけの力をあの巨龍は秘めている、これが神々の箱庭において尚"最強"と称された種族。

身動き1つで参加者達の士気を砕いた真実は魔王として相応しいものだった。

そんな中、"ノーネーム"一同は無事を確かめ合うため治療所に足を運ぶ。

審判決議から半刻ほどで十六夜、飛鳥、上条とペストは合流出来たが春日部と連れ去られたレティシアの姿はなかった。

 

「…駄目だ。こんだけ探しても春日部が居ないとなると、レティシアみたいに何かあったとしか考えられないな」

 

「で、でも、春日部さんは空を飛べるのよ?無事だとは思うのだけど」

 

「逆だよ、お嬢様。上条の言ってる意味は春日部は空も飛べるし、五感も鋭い。なのにここに居ない、そんなのはおかしいってことだ」

 

十六夜も普段の軽薄な笑みも、軽い口調はなく、真剣な声音で説明をする。飛鳥は動揺を抑えようとするが隠しきれていなかった。

飛鳥は上条に確認するように顔を向ける。

 

「上条君…本当にあのレティシアが連れ去られたの?」

 

「あぁ。突然、ローブを被った奴が現れたと思ったら竪琴を奏でてレティシアがそのまま倒れて、俺は殴りかかろうとしたんだけど後ろからナイフを投げつけられて…そのままレティシアが…俺が傍に居たっていうのに…すまない」

 

「あっ…いや、別に上条君を責めるわけじゃないの」

 

気まずい雰囲気が漂う。

十六夜がそれに苛ついたのか、羊皮紙を取り出して渡そうとする。

 

「そしてこれがゲームがレティシア…"魔王ドラキュラ"の主催するゲームって訳だ」

 

飛鳥はそれを受け取り、読み上げるとその顔は次第に強張る。

 

「…出鱈目な内容ね」

 

「そうでもないさ。少なくともゲームとしては成立している。後は黒ウサギから何点か確認すれば」

 

と、そこで言葉を切る。

黒ウサギとジンが捜索から帰ってきたのだ。

 

「十六夜さん、上条さん、飛鳥さん!耀さんの行方がわかりました!」

 

「「本当(か)⁉︎」」

 

上条と飛鳥は大きな声を上げる、それは先程とは違って喜びの声も混じっていた。

 

「Yes…ですが、かなりマズイ事になっています」

 

そういい見せたのは、彼女の腕の中で眠る、重症の三毛猫だった。

その猫は間違いなく春日部の猫だった。

何があったのか上条達に知らないが、黒ウサギの表情と三毛猫の状態から事態の深刻さを悟る。

オティヌスも静かに目を閉じる、彼女はよく三毛猫とはスフィンクス同様にライバル関係でもあったため思う節もあるのだろう。

 

「……春日部に何があったんだ?」

 

上条がそう問いただすが、黒ウサギはより深刻な表情になり、ウサ耳を垂れさせて答える。

 

「目撃者によると耀さんは、魔獣に襲われた子供を助けようとして……魔獣とともに回収された子供を追いかけ空に上がっていったという事です」

 

全員が窓の外にある空を仰ぐ、その視線は遥か上空、巨龍と共に出現した古城に集まっていた。

 

「あの城に…春日部さん1人で⁉︎」

 

「…はい」

 

蒼白になる飛鳥。

十六夜も焦りを隠せず痛烈な舌打ちをする。

上条はただじっと古城を見ていた。

空を駆ける2人の同志を失い"ノーネーム"一同はただ歯がゆそうに空の古城を睨む。

 

 

 

その後、上条は夜になっても上空の古城を見上げていた。オティヌスもそれに付き添うように肩に座っていた。

目の前でレティシアを連れ去られ、知らない所では春日部が城に1人で行ったのだ、本当なら今すぐにでも城に乗り込みに行きたい気持ちに駆られる。

 

「オティヌス」

 

「何だ」

 

「…謎の方は解けたか?」

 

「誰に言っているんだ。…7割と言ったところだな。あとは城に乗り込めばわかるんだが…それはあの不良も同じだろう」

 

「…まず間違いなく白夜叉の言っていた連中が今回も関わっていると思う」

 

ローブを被り、竪琴を奏でていた謎の人物。さらには上条の後ろからナイフを投擲した人物。

最低でもこの2人がギフトゲームを引き起こした要因となる、そしてレティシアも言っていた、かつて"魔王ドラキュラ"だった頃の力はこの南側のどこかにあると。今回はそれが回収され、レティシアが来たのを知ると誘拐したわけだ。

 

「何もかもが急すぎる…だけど相手は俺の事も知らなかった、スパイがいる訳でもないってことか?」

 

「そこは今考えても仕方ないだろ、今はどうやって城に行き小娘の無事を確認し、あの吸血鬼を助ける方法を考えるべきだろうが」

 

「空ね…そういえば、あの姿は何なんだよ?」

 

あの姿、オティヌスが妖精化した事を聞くがオティヌスは少し沈黙したのちに自分のカードを見せた、そこには確かに2つ目のギフトがあった。

 

"魔神の成れの果て"とギフト名と言っていいのかすらわからないが、そう書かれていた。

それを見た上条は、そのままカードを返した。

 

「全く…皮肉なものだな。私を崩壊させた"妖精化"が、今では私の"恩恵"とはな…」

 

自分の姿を見渡し薄っすらと笑う。

 

「…お陰で俺は助かったけどな。それにそのギフトも込みで頼りにするしかないから、レティシアを…俺たちの仲間を誘拐した奴らを殴りに行くぞ」

 

上条は立ち上がり宿舎に戻る。

入り口に手をかけると再び天空に輝く浮かぶ城を見据える。

 




えーそれで今回からオティヌスちゃんが大妖精となりました!

賛否が強く出そうですけど…いいのかなぁ?
この話を書くときからオティヌスを妖精にしたいと思ってたしいいか!

他にもこんなオティヌスがみたいとありましたら活動報告に!

次回こそは早めに投稿できると信じて


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

待たせたな!


…はい、申し訳有りません
私こと作者さんは深くお詫びと謝罪をここにいたします

今後はこのように遅くならないよう頑張ります


 

 

一夜明け"アンダーウッド"収穫祭本陣営に上条達は足を運んでいた。

集まったコミュニティは以下の4つ。

"一本角"の党首にして"龍角を持つ鷲獅子"連盟の代表・サラ=ドルトレイク。

"六本傷"の党首代行・キャロロ=ガンダック。

"ウィル・オ・ウィスプ"の参謀代行・フェイス・レス。

"ノーネーム"のリーダー・ジン=ラッセルと逆廻十六夜、久遠飛鳥、上条当麻、オティヌス。

黒ウサギは会議の進行役として前に立ち、バサッと委任状を長机に置いて話を切り出す。

 

「えーそれではこれより、ギフトゲーム"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"の攻略作戦の会議を行うのです!他コミュニティからは今後の方針の委任状という形で受け取っておりますので、委任されたサラ様とキャロロ様は責任ある発言を心がけてくださいな」

 

それぞれ誠実な声音で応答するサラと、鉤尻尾を振って応答するキャロロ。

後ろに控えていた上条は、キャロロの尻尾を見つめ頭をかいては思い出しだす。

 

「もしかして何だけど、いつも俺たちが行っている喫茶店のウェイトレスさんか?」

 

「そうですよー常連さん。いつもご贔屓にありがとうございます♫」

 

「彼女は"六本傷"の党首・ガロロ=ガンダック殿の二十四番目の娘でな。ガロロ殿に命じられて東に支店を開いているらしい」

 

「ふふ、ちょっとした諜報活動です。常連さんのいい噂を父にちゃんと流されてますよ!」

 

3人は感心したかのように相槌を打つ。十六夜は悪戯を思いついたとばかり顔を飛鳥と上条に向ける。飛鳥はニヤリと笑い、上条は呆れたように顔を引きつる。

 

「なるほど。一店員の筈のアンタが、南の収穫祭に招待されていたのはそういう理由か。………しかしそんな秘密を聞くと、今後はあの店に入れなくなるよなぁ、お嬢様?」

 

「そうよねぇ、あのカフェテラスで作戦立てていたことも、全部筒抜だったんでしょう?怖くて今後は使えないわよねぇ、上条君」

 

「そ、そうだなぁ。確かに他人に聞かれたくも無い話を報告されていたと考えると次からは他の店にかえるしかないよなぁ」

 

「そうだ、ここは一つ二一五三八〇外門の"地域支配者"として、ここは呼びかけておくかね」

 

「だとしてもどんな風にするよ?」

 

「『"六本傷"の旗下に、間諜の影あり!』とかチラシでもはったりとか」

 

十六夜と飛鳥はノリノリで、上条も呆れてはいたがノリノリで話を進める。

一方のキャロロは猫耳と鉤尻尾を跳ねさせて焦る。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ⁉︎そんなことされたらうちの店がやっていけなくなりますよ!」

 

「それを見逃して欲しいっていうなら…相応の態度って物があるだろ?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべる問題児達がキャロロを追い詰める。

キャロロは半泣きになり指をクルクル回し断腸の思いで提案をする。

 

「こ、これからは皆さんに限り!当店のメニューを格安のサービス1割引きに」

 

「「3割だ」」

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

キャロロの叫びが聞こえる中、その一連の流れを見ていたフェイス・レスはゆっくりと手を挙げる。

 

「話を進めていただけますか?」

 

「…ぁ、りょ、了解なのです!」

 

あまりの事に呆然としていた黒ウサギは仕切り直すため、せき込んで進行を開始する。

 

「それではゲームの方針を決める前にサラ様からお話があるそうです」

 

サラはその場で立ち上がり、周囲を見回す。

沈鬱そうな顔を浮かべ、深い吐息を漏らす。

 

「今から話すことは、この場だけの秘匿として聞いて欲しい。決して口外しないように」

 

「…はい、わかりました」

 

ジンが皆の代表として代わりに答える。

同席した全員が頷いたが、サラの言葉に不審そうに眉を顰めている者もいる。

 

「まずは1つ目。"黄金の竪琴"が奪い返された際に、"バロールの死眼"も同時に盗み出されたようなのだ」

 

「あぁ。凡百の巨人には扱えないが…これで奴らの戦力が大きくなった。死眼に対してはまた別の対策を練らないといけない」

 

サラはさらにと続け、より一層に沈鬱な顔になる。

 

「そしてもう1つ。ゲーム休戦前に北と南から緊急の連絡が入ったんだが…それによると、魔王が出たのは"此処"だけではないらしい」

 

「………まさか」

 

「そのまさかだ。北の"階層支配者"である"サラマンドラ"と"鬼姫"連盟。そしてお前たちもよく知る、東の"階層支配者"である"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉様。以上3つのコミュニティが同時に魔王の強襲にあっている」

 

皆が静まりかえる。進行役の黒ウサギも半口を開いて絶句している。

そんな中で上条は1人悪態をついていた。

 

何も知らされていない飛鳥や十六夜でさえ、それが異常だと理解していた。

上条が一言呟く。

 

「偶然じゃない…な」

 

「だな。…だがこれで納得した点がある」

 

十六夜の納得した。という点に疑問をもったサラが問いただす。

 

「…それはどういうことだ?」

 

「詳しい話は後でにするが…"サラマンドラ"の誕生祭に魔王が来たのを知ってるよな?」

 

「当たり前だ。出て行ったとはいえ故郷のコミュニティが襲われたんだぞ」

 

サラは馬鹿にされたと思ったのか、眉を顰める。

十六夜はより一層に顔を緊迫させる。

 

「…そもそも思い出してみろよ。誕生祭を襲ったペストの目的はサンドラだったか?」

 

上条もそこで十六夜の言いたいことに気付く、言われてみれば確かにそうだった。

ペストが欲したのは太陽の主権と復讐で、ましてや太陽の星霊を封印するという稀有な"主催者権限"を持っていた。白夜叉を倒すのに打ってつけの人選だったに違いない。

 

「誕生祭のメインホストはサンドラ。ゲストは白夜叉扱いで"サウザンドアイズ"の主力も連れてきていない状態で…だ」

 

上条も続くように声を上げる。

 

「つまり…南の"階層支配者"が討たれた時と、"サラマンドラ"…いや白夜叉が襲われた時が同時期。さらには今回は南に東に北に魔王に襲撃されている、となったら偶然じゃなくて計画されているってことか?」

 

「そう、つまり…仮称"魔王連盟"というべき敵は"階層支配者"を各個撃破できるように同時攻撃を仕掛けているんだろう。そしてそれを手引きしている組織もいる」

 

十六夜の鋭い視線がサラを貫く。さらにフェイス・レスがつげる。

 

「サラ様。現"階層支配者"は"サラマンドラ"・"鬼姫"連盟・"サウザンドアイズ"の白夜叉。これに加えて休眠中の"ラプラスの悪魔"の4つでよろしいのですか?」

 

「あぁ、そうなるかな」

 

「もし前者の3つが壊滅すれば、全ての"階層支配者"が活動不能になり、上位権限である"全権階層支配者"を決める必要があります。敵の狙いはそれでは?」

 

上条以外から何?と声が上がる。

サラも、ジンも、黒ウサギでさえ知らない様子で首を傾げている。

上条は何かを思い出したか、フェイス・レスに話しかける。

 

「そうか…それもあったな。確か"階層支配者"が全滅か、1人になった時に、4桁の地位と相応のギフト。それに太陽の主権の1つを与えられるんだっけか?でもそれがどうし」

 

「た、太陽の主権の1つと、暫定4桁の地位だと⁉︎」

 

「そ、そんな制度があるんですか⁉︎」

 

声を荒げる黒ウサギとサラ。

太陽の主権とは黄道の十二宮に、赤道の十二辰

 

「…黒ウサギは知らないのか?」

 

「く、黒ウサギは一族的にぶっちぎりで若輩なので…昔の話は…。というか何故に上条さんはそんなのを知っているんですか⁉︎」

 

ウサ耳をへにょらせながらも上条に食い気味に聞き出そうとする。

 

「俺か?俺は白夜叉とお茶してる時に過去の話とか聞かせてもらっているからな。確か初代"全権階層支配者"が白夜叉だった、てことくらいしか知らないけどな」

 

「なるほど…ということはレティシア・ドレイクも"全権階層支配者"だったという事も知らないんですね」

 

「レ、レティシア様が"全権階層支配者"⁉︎」

 

さらに声を荒げて驚く黒ウサギの反応に、フェイス・レスの方が驚いた。

上条は動揺せずにただ落ち着いて話を聞いていた。

 

「…"箱庭の貴族"ともあろう者が知らないのですか?」

 

フェイス・レスの言葉がトドメとなり、ハンカチを取り出して汗を拭きながらそっぽを向く黒ウサギ。

十六夜がやれやれと首を振りながら助け舟を出そうとしたが、上条の肩で沈黙してたオティヌスが遮る。

 

「そんな昔話はどうでもいいだろう?今は私達がやるべき事は城に乗り込む部隊を組むのと、"アンダーウッド"を守る部隊を編成することが先だ」

 

言い終わるとオティヌスは肘で上条の首を突き、続きの言葉を言うように催促する。

 

「あー…それに攫われた人達も気になる。確か"六本傷"のガロロさんだっけか、その人も攫われたんだろ。ならその人達を助けてから話し合いをしてもいいんじゃねぇか?」

 

ぎごちなくも耀を助けに行く流れを作り、サラとしても否定することなく快諾の意思を示す。

2日後の夜に部隊を編成し、送るという事になった。

さらには"ノーネーム"の客室として主賓室を用意してあり、そこに向かう途中に十六夜があるきながら、振り返りもせず呟く。

 

「おい、上条」

と、上条を呼びかけようとするも返事は返ってこず、飛鳥が気まずそうにしながらも代わりに答える。

 

「上条君なら居ないけど…?」

 

「……………は?」

 

後ろを振り向くと、確かにそこには飛鳥しか居らず、通りで歩くときも静かだったと思いながら、十六夜は軽く舌打ちをし前に向き直すと再び歩き始める。

 

「…?どうかしたのかしら」

 

「いや、何でもねぇよ」

 

それだけ言い放つと黙り込み、主賓室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「それで人間、なんであんな嘘をつきながら私に遠回しに話を変えさせるようなことをさせた?」

 

上条とオティヌスが居るのは、"アンダーウッド"本陣営から少し離れ、テラスだった場所に居た。

 

「あのままレティシアの昔話をして、余計乱 混乱させたくなかったってのもある。けど…」

 

それ以上に、周りの人達に不信感を抱かせたくなかった。といいかけた上条だったが。

 

「あれー?不幸そうなお兄ちゃんだ、生きてたんだね」

 

突然、気配もなく声を掛けられ咄嗟に後ろを振り向く上条と、話の邪魔をされて不機嫌なのか睨みつけるように少女を見つめるオティヌス。

 

「…確か…襲撃の時に居た…」

 

「うん、覚えててくれてねありがとうね!…あれれー、でも確か君…避難したんじゃないの?ここは避難してきた人がいるような所じゃないと思うけど」

 

ジッと、隙を見せず上条を見つめ…いや、観察する少女は、黒髪にワンピース、短刀を腰に巻く、"アンダーウッド"襲撃の際に、楽しそうに見物していた普通ではない少女。

 

「…たまたまだよ、"偶々"。そういうお前だってそうだろ?」

 

「まぁね、私も"偶々"だよ、不幸なお兄ちゃん。あっ、そういえば名前聞いてなかったね。よかったら抑えてくれないかな?」

 

「…上条当麻だ、お前の名前は?」

 

ここで黙ってても、メリットはないと考えた上条は、警戒を解かないまま、名前を言い、逆に黒髪の少女の名前を探ろうとする。

 

「私?私は…うーん、まぁいいか。リンだよ、よろしくね、上条くん」

 

頬に手を当て悩む仕草をするが、すぐに止めて笑顔で名乗る。

しかし、これらの行動に隙はない。

前に現れた時もそうだが、気配が無いところに急に現れるリンに上条は躊躇なくある事を聞いた。

 

「よろしくな、リン。しっかし急に現れたけど…ギフトか?」

 

「…急に現れたって、何でそう言えるのかな。"偶々"後ろから声を掛けた、それが2回続いただけかもよ?」

 

「"偶々"が2回も続いたら…それはもう、"偶々"だなんて言えないかとしれないぞ」

 

黙り込むリン、互いに視線をそらさず静かに数秒ほどの時が流れる。

口を開いたのはリンからだった。

 

「それでも"偶々"だよ。あっ、そうだ君は今回のゲームどうするの?魔王ドラキュラを殺さないとクリア出来ないんだよね?」

 

それは期待と、何か面白い答えを待つ子供のような目を上条に向ける。

上条はそんな質問に表情を特に変えずに言い放つ。

 

「そんなのは決まってる。レティシアを助けて、そんでゲームもクリアする。どんなゲームにだろうとな、その為なら諦めないし、体や頭を使い尽くしてでも助ける」

 

「なにそれ、つまらない」

 

リンの顔からは笑みが消え、後ろに振り向くとそのまま歩き出す。

 

「まぁいいや。上条くんも精々足掻いてね、バイバーイ」

 

そう言うとリンは走り去るが上条は追おうとはせずに見送った。

 

「いいのか、追わなくて。アレは間違いなく敵だと思うが?」

 

肩の上で呆れた目をしながら一応理由を聞くオティヌス。

 

「俺の前に出てくるってことは逃げる事も簡単にできるって話だろ?…見た感じは春日部よりも強いかも」

長年の経験則、それこそオティヌスとの戦いで、記憶が摩耗し、トラウマを植え付けられるほど過ごした、上条にとっては曖昧な感覚でもわかるものがある。

 

「…怪しすぎる。次会うときも油断するなよ?」

 

「わかってるって。あっ…そろそろ十六夜達の所に戻るか」

 

むしろ、あんな質問をしてくるという事はリンという少女も今回のギフトゲームを仕掛けた側、前に十六夜が言っていた魔王連合の1人かもしれないと考えていた。

考えすぎだとしても可能性の1つとして頭の中に入れておいては上条は十六夜と作戦会議でもする為に足を動かすが途中で止まり汗を流しながら、油をさしてないロボットがぎこちなく首を動かすような動きをしながら、肩に乗るオティヌスの方を向き。

 

「………そもそも十六夜達って何処に居るんだっけ」

 

呆れ、オティヌスからくる視線にはそれが充分に含まれており、上条は項垂れては息を一度ゆっくりと吐いては思い切り息を吸い。

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

 

上条の叫びが"アンダーウッド"に響き渡る。

その後、"アンダーウッド"を彷徨ってた上条は偶然にもサラに拾われては黒ウサギに送り届けられた。

翌朝、上条を待っていたのは

ペストと組んで、飛鳥とディーンの模擬戦だった。

 

何故そうなったのか…理由としては十六夜が飛鳥を遠回しに実力不足といい、耀の救出部隊から遠ざけて、巨人との戦闘部隊に回した。飛鳥のギフト的にも攻めより守りが相性がいいのは本人も自覚しているらしいが、友達である耀を助けたい為に十六夜に直談判するも、軽く蹴られ参加したいのなら十六夜が出した条件にクリアするというものだった。

それが上条とペストの2人組みに勝つ事だった。

 

"アンダーウッド地下大空洞"大樹の地下水門

 

「DEEEEEEeeeEEEEN!!!!!!」

 

地響きを鳴らしながら巨大な鉄腕が走り回る小さな影に向かっては、地面に突き刺さり岩が砕け砂埃が軽く舞う。

ディーンの肩に乗る飛鳥は砂埃を見つめては、一瞬だけ揺らめく影を見つけては叫ぶ。

 

「今度こそ…潰しなさい、ディーン!」

 

赤い鉄人形のディーンも、それに呼応するように雄叫びをあげながら鉄腕を振るう。

 

「DEEEEeeeEEEEEN‼︎!‼︎」

 

伸縮する鋼、神珍鉄と呼ばれる鉄腕が突き刺さる。炸裂するような音だけが鳴り響く。

そこに手応えと呼べるような物はなかった。

飛鳥は外れたとわかるとすぐに警戒するが、もう遅かった。

ディーンの腕から駆け上がるウニ頭の生物が1人。

焦る飛鳥は振り払うように命令するため言葉を発しようとするが、口を開けようとした…その時、一瞬と言っていいほどの速度で上条が急加速しながら飛鳥に突進してきた。

ペストの死の風を背中に受けて加速し、右手で自分の体に触れては"死"を無効化。上条だから出来る荒技だった。

 

「なっ⁉︎」

 

突然の事に反応できなかったのか、避けることも出来ずに衝突し、そのまま地面に落下していくが途中でペストが2人を掴んでは着地させる。

そして飛鳥に向かい、見下してはつまらなさそうにしながら指摘する。

 

「上条の動きすらまともに捉えられない。あんな直線的な突撃も避けられない、これじゃ話にならないわ」

 

「……っ…!」

 

「それで、どうするの?まだ続ける?このままやっても上条すら倒せない。これじゃ苛めてるみたいになるわよ」

 

顔をうな垂れては悔しそうに唇を噛む、しかし何も言い返せない飛鳥はゆっくりと立ち上がりディーンをギフトカードに戻す。

 

「…いいえ。もう自分の実力は把握したわ」

 

「あっそ」

 

笑顔のままそっけなく言い捨てて、上条の元へと近づくペスト。

 

「上条も相手が飛鳥だったから、あんな馬鹿みたいな突撃がうまくいったけど。普通なら避けられて貴方だけが落ちて追撃されておしまい」

 

「そもそも突撃させたのはペストだよな⁉︎いきなり後ろから突風が吹いては急加速するんだもの!」

 

「あれは…ッ、上条があのままだと振り落とされると思って手助けしたのよ‼︎」

 

「急に、何も言わずに、あんなの出されても、合わせるなんて無理に決まってるだろうが⁉︎」

 

「言わせておけば…!大体ね上条は色々と雑すぎるのよ、あの鉄人形に触れないのは仕方ないにしても、全部ただ避けてるだかじゃない‼︎私が居なかったは勝ててなかったわよ⁉︎」

 

「上条さんには上条さんなりの作戦があるにきまってるだろ⁉︎」

 

さらにデッドヒートする上条とペストの言い合いに呆れたのか、ジンが仲裁しようとする。

 

「お、御2人とも落ち着いくだ」

 

「「ジンは黙ってて(ろ)‼︎」」

 

「は、はいっ」

 

ジンを言葉を遮りながらも、口論を続ける2人。

2人の剣幕に押されたのか、ジンは仲裁するのを諦めては飛鳥に近寄っては労うように声を掛ける。

 

「飛鳥さん、お疲れ様です。仕方ないと…いいますか…えっと…」

 

「……えぇ、ありがとう」

 

沈黙、ジンは何てフォローしたらいいのかわからず視線を観戦していた黒ウサギとサラに向ける。

しかし黒ウサギも困ってるのか、軽く微笑んではそっぽ向いてしまう。

サラはというと何かを考えているのかジンの視線に気付いてすらいなかった。

困り果てたジンは1度黒ウサギの元へと駆け寄ろうとするが、視界の端に両手にバケツを持っては川辺を歩く問題児を捉える。

問題児十六夜はバケツに水を汲むと、未だ言い合いを続ける上条とペストに近寄り。

 

「手が滑ったァァァァァァァッッ‼︎‼︎」

 

十六夜は思い切り水を上条とペストのいる方向に水を掛ける。ついでに黒ウサギにも。

口論で気づかなかった2人はもろに水を受けては吹っ飛んでしまう。飛鳥も巻き添えにして。

 

こんな事をする輩は1人しかいないと、2人仲良く立ち上がっては文句を言おうとする。

しかし十六夜が有無を言わさないように口だけ笑いながら親指を立てて。

 

「手が滑った!」

 

笑顔のままいうが、目が笑っておらず。

2人は睨まれた蛇のようにたじろいでしまう。

その隙を狙うかのようにペストを担いでは、上条に向かいながら言葉を掛ける。

 

「風呂に来い」

 

来い。その一言だけを言い残しては飛鳥も抱えながら風呂に入らせようとする十六夜。

2人で仲良く入らないなら服を剥いでは身体を洗うと言われたベストと飛鳥の2人は大人しくなったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小ネタ

このお話は本編とは全く関係のない、季節?

箱庭にそんなのあったけ?

いいえ、知りません

 

ただ作者の妄想です

 

お正月

 

大晦日

一年の終わりを迎える日

"ノーネーム"一同は屋敷の外でパーティを開いていた。

 

子供達が用意してくれた椅子に座っては、年越し蕎麦を啜る上条と、その肩に乗るオティヌス。ゆっくりとした時間が流れる。

 

「いやぁ、あと数時間で一年の終わりかぁ」

 

「…そうだな。ここにきてからいろんなことがあったが、半年以上を過ごして…とても…楽しい日々だ」

 

照れているのか、帽子で顔を隠すオティヌスをみては微笑む。

他のメンツはというと

十六夜はジンを振り回しながら馬鹿騒ぎをしていた。飛鳥はそれを眺めては笑いながら十六夜を止めようとし。

耀は何かを気にしつつも料理を頬張っていた。

 

いつもの光景なのだが、何故か今日は普段よりも騒いでた、だけど皆が楽しそうにしてるのを見てると、止めようとも思え無くなってしまい上条はただリリが作った年越し蕎麦を啜る。

 

「あぁ…この一杯か身体にしみる」

 

「当麻…台詞がおじさんくさいぞ」

 

蕎麦を堪能してる上条の前に座ってきたのは、何故かメイド姿ではなく着物姿のレティシアだった。

着物は黒を基調とし、色鮮やかな花が散りばめられていて、とてもよく似合っていた。

 

「そういうレティシアさんは何故着物姿なのでせうか…」

 

「ん?ニホンでは祭事にはこう言ったものを着ると十六夜がいっていてな。服自体は白夜叉から借りた」

 

「…十六夜が犯人か」

 

心の中で十六夜にエールを送りつつも、レティシアの着物姿を観察しつつたわいもない話をする。

すると大きな器を持った耀がレティシアの隣に座る。

因みに飛鳥は十六夜の餌食になっていた。

 

「……こういうのが好きなの?」

 

レティシアの着物を見ては上条の方へ視線を向ける。

 

「いや、まぁ好きではあるけど…」

 

「…そう」

 

一言だけ言っては蕎麦を食い始める耀。

何かを察したのかレティシアは勝ち誇るような笑みを浮かべる。

オティヌスは呆れ果て、上条は状況についていけなかった。

 

そして刻は0時を回る。

それを告げる鐘の音が鳴り響くと、騒いでた十六夜も動きを止め"ノーネーム"一同は挨拶を交わす。

 

「新年明けましておめでとうございます」

 

 

この作品もよろしくお願いします

 




投稿しない間に上条さんが人間やめてて助かったよ()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

あけましておめでとうございます

昨年は仕事が始まり、思うように書かずに投稿できませんでしたが今年からは仕事も慣れ始め(るだろう)プロットも出来たので亀のままでありますが投稿していきたいと思います


21話

"アンダーウッド"葉翠の間・大浴場

大樹の西側を掘って造られた大浴場。

他の部屋も同様に樹をくり抜いて造られている。

滴る湯、白く立ち上る湯煙、そして木目の見える木で出来た湯殿には2つの男の姿があった。

 

「なぁ十六夜」

 

「んっ…なんだよ」

 

湯船に男2人並びながらも目は合わせず、ただお湯の温もりを感じるため目を瞑る。

そして上条は疑問に思っていた事を問い掛けた。

 

「飛鳥を攻略隊に加えない事は俺も賛成だったんだけどさ、あそこまでする必要あったか?」

 

「あるに決まってる。お嬢様は俺や春日部と違ってギフトがあったとしても、何処まで行ってもただの人でしかない。それを分からせるためにあの方法が一番手っ取り早いんだよ。特にお嬢様の場合は口で説明するより身体で体験した方が効くだろうしな」

 

「…あー、そうかもしれないけど。俺を参加させたのは何で?」

 

目を開けては思い当たる節があるのか上条は遠く空を見つめる。あのビリビリと白井を足したら飛鳥に似た性格になったのだろうかと考えていた。

それと同時に早朝に十六夜に引っ張ってこられた理由がいまいち掴めなかった。

飛鳥の相手をするならペストだけで十分だったと考えているからだ。

 

「上条のテストも兼ねてたからな。お前も右手以外は普通の人…なんだよな?」

 

これまでの戦いを見てきて本当に上条が右手以外は普通の人間なのか、十六夜ですら怪しく思ってしまう。

 

「そうだっての。上条さんは別にどこにでもいる平凡で普通の高校生だっての」

 

別段何かを誇張して言うわけでもなく、ただ本当に自分の事をそう思っていると十六夜は感じた。それと同時に気になる事もあった。

 

「平凡…ねぇ?」

 

平凡というには上条は余りにも特殊過ぎた。

十六夜の知っている限りでは、最初にギフトゲームをしたガルドの時も、ペルセウスの時も、初めての魔王襲来の時も、そして今回も上条は騒ぎ立てては慌てる姿を見せるなんてことは特にしなかった。

慌てない理由、それは上条がそれなりに場数を踏んできたという証拠にもなる。上条がどれだけの死線をくぐってきたのかは上条とオティヌスが話してくれた限りしか十六夜は知らない。

それでも聞いた話だけでも、到底普通の高校生では体験することもないような経験を上条は積んできていた。

それは小さな喧嘩や、面白くもない殴り合いばかりしてきた十六夜とは違う、本当の戦場を上条が潜り抜けてきた。

羨ましいとも思った。自分には経験したことのないことをしていて、自分が見たことのない世界を見てきたんだろうなと羨ましかった。

 

それでもやっぱり納得の、いや理解できないところがある。

これは上条が"ノーネーム"に住み着いてからよく聞く話だが、よく困っている人がいたらその人のために全力で力を貸しているツンツン頭の少年がいるというのを噂で聞いていた。

それをしては付き添いなのだろう金髪の美少女や、斑模様が特徴的な服を着た美少女達に呆れられたような表情をされているという。

そんな奇人は上条当麻その人しかいない。

 

「平凡な高校生なんざ、俺が知ってる限りだとお前みたいに行動する前に知らんぷりして逃げるぞ」

 

「そうか?俺からしたらさ本当に困ってる人を見たら、それだけでいつでもヒーローになれるのが平凡な高校生ってもんだろ。大体、他人が不幸な目にあってるのに、それを見過ごしたまま幸せに生活するなんてのは、俺には無理だ」

 

この時十六夜はコイツは何を言っているんだと思った。

何を経験したらこんな事が言えるのだろうか、何でそこまでハッキリとそんな事が言えるのか、こんな人を見た事がなかった。

上条当麻みたいな人間を、金糸雀とも違う、似ても似つかない2人なのに何故か彼女の事が脳裏に浮かんだ。

 

「…全ての人に救済を、なんてのは夢物語だ」

 

「そんなのはわかってるさ、だから俺は俺の眼の届く範囲の人は絶対に助けたい。皆が笑えるように、誰も不幸にしたくない。俺はその為なら何だってするし、諦めたりなんかしない」

 

「なら敵に助けてって言われたら助けるのか?」

 

「当たり前だ。誰かに助けを求めるのは敵も味方も関係ないだろ」

流石に耳を疑った。

この少年は何を言ってるのだろうと、自分とそう変わらない年齢のはずなのに、何をどう過ごしたら此処までの業を背負って誓って見て生きられるのだろうと。

これじゃまるで物語に出てくる"英雄"じゃないか、と十六夜は不意に思った。

少なくとも、いや十六夜はここまで頭の螺子が飛んでいる人物を見たことがなかった。

 

「………お前は最高にイカれてやがるよ。いいぜ、俺が太鼓判を押してやる。お前が最高に平凡な高校生だってな」

 

あぁ、やはり"此処"に来て正解だった。こんな世界に1人しか居ないであろう馬鹿と会えたことに、毎日が充実している現在を満喫できることに感謝をした。

 

「そんでもって決めた、あぁ決めた。上条、このクソみたいなゲームが終わったら、俺と喧嘩しろ」

 

「はい?…え、はぁ⁉︎」

 

戦ってみたい、きっと同年代で好敵手何て呼べるのはきっと上条だけだ。ケラケラとした薄い笑いではなく、十六夜は心底楽しそうな表情で上条に宣戦布告をした。

 

「俺とって…無理に決まってるだろ⁉︎勝てるわけがあるかッ‼︎」

 

上条の慌てぶりに何て目に止めずに、淡々と今決めたことを十六夜は喋っていく。

 

「ゲームの内容はどちらかが倒れるまで。使っていいのは己の拳のみ。簡単でいいだろ?」

 

「そういうことじゃ…!」

 

「楽しみにしてるぜ?自称平凡な高校生」

 

それだけを言い残し湯殿を後にする、ぽつりと理解が追いついていない上条を残して。

徐々に思考が追いついていくと、顔が青ざめていきながら本日2度目となるアレを叫ぶ。

 

「ふ…不幸だぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

一方女子風呂ではそんな上条の叫びが響いていた。

飛鳥はペストの髪をシャンプーで泡を髪を包み込んでいる最中だったがその手を止めてしまう。ペストはあまりお風呂に慣れていないせいもあるのか目を強く瞑っているためそれどころではなさそうだった。

 

「あら、今の声…上条君よね?何かあったのかしら」

 

「知らないわよ…って泡が目に入るから早く流しなさいよ!」

 

身動きが取れずに、目に泡が流れていき少しでも緩めると染みてしまうためペストからしたら流して欲しくて仕方なかった。

 

「はいはい、今流すから。次は身体だからね」

 

桶からお湯を流しペストの頭についた泡を流していく。すると次に四角いスポンジを取り出しペストの体を洗おうとする。

 

「や、やだっ」

 

それをペストは拒む。ジリジリと詰め寄る飛鳥と、後退していくペスト。その瞳には薄らと涙が垂れているようにも見えた。

 

「か、上条ォォォォぉぉッッ‼︎」

 

助けを求めれば来ると言ったあの少年の名前を叫ぶが、ヒーローでも来れない場所はある。

そのまま飛鳥がペストの身体を蹂躙するかのように洗っていった。

 

 

 

そして暫く経ち、湯殿からあがった上条とペストはこれまた木でできた椅子に座りながら項垂れていた。

 

「「…不幸だ」」

 

片や、何故か宣戦布告をされ、もう片やは身体を蹂躙された。

2人並んで項垂れている姿は少し微笑ましくもあるが、上条とペストからしたら最悪な気分だった。

 

「へぇ、十六夜君は上条君とギフトゲームをするのね」

 

「あぁ、そろそろアイツの本気って奴を見せてもらいたいしな」

 

そして十六夜と飛鳥は対照的に楽しく談笑していた。お風呂での事、次に攻略の時はどうしたらいいのか具体案を練り上げる為に作戦会議をしていた。

 

「あ、そうだ。ペスト、少し頼みがあるんだけど…いいか?」

 

何かを思い出すように顔を上げては、どんよりとしているペストの方を向く。

 

「…ん、何よ。上条からなんて珍しい」

 

「オティヌスを預かって欲しいんだよ。ほらグリフォン?…みたいなあれに乗るともしかしたら落ちちゃうかもしれないし」

 

「アレを?…気乗りはしないわね。いちいち小言挟んでくるから苦手なの」

 

なぜこんなことを頼んだのかというと、オティヌスなら万が一もなければ落ちる事はないだろうが、念には念を入れて地上で防衛するペストならそんな事もないので安心して任せられると思ったからだ。

 

「そう言うなって、オティヌスも悪気で言ってるわけじゃないさ。3割くらい本気だろうけど」

 

「何よその微妙な割合。…別にいいわ。上条から珍しく頼まれ事をしてきたんだし」

 

そう言っては軽く顔を背けながらも彼女は答えた。

それが上条は何だか可愛らしく思えた。

 

「さて…と、俺はそろそろ休ませてもらうよ」

 

「作戦は明日なんだから少しでも身体を休ませときなさいよ」

 

「わかってるよ。ペストもオティヌスみたいに小言を言うのか?」

 

「う、うっさい!」

 

軽口を叩く上条に、激昂するペストであった。

 

「それで…一体誰を何処に預けるって?」

 

何故かペストと上条が座っている椅子の端っこ、そこにちょこんと座っているオティヌスが上条を不機嫌そうに睨みつけていた。

 

「…あのー、オティヌスさん。いつからそこに?」

 

冷や汗を流しながらも尋ねる上条。

 

「……」

 

じっと上条を見つめるオティヌス。暫く見つめると、深く溜息をつく。

そして立ち上がっては上条ではなく、ペストの肩まで歩いて行った。

上条は驚いたが察したように苦笑いを浮かべる。

そんな不思議な雰囲気にペストはオティヌスと上条を交互に見ては首を傾げていた。

 

「無茶をするな、とは言わない。帰ってこい」

 

「あぁ、わかってるよ。帰ってくる」

 

「それと例の物がこれだ。左手首につけておけ」

 

そう言って自らが座っていたところを指差す。そこには草で編まれているブレスレットがあり、上条は左手で持ちながらそのまま手首までくぐらせた。

 

「ありがとな、オティちゃん」

 

「うるさいっ‼︎いいからさっさと行け」

 

言葉を交わすと上条は立ち上がり部屋から出て行く。

一覧の行動を黙って見送るペストも何かに気付いたのか、ペストも溜息をついていた。

「…ほんと馬鹿ね」

 

ペストはそう呟き、オティヌスを連れて自室まで戻るのであった。

 

飛鳥と十六夜は楽しく談笑してたのか2人が退室していたのに気付かずにいた、その後黒ウサギとサラも加わり、こちらでも軽く会議をしていた。

ペストは自室に戻るとオティヌスを肩から机に降ろし、側にあるベットに腰を掛けた。

 

「見送る私も私だけど…アレ、どう考えても今から乗り込む気よね。止めなくてよかったの?」

 

「彼奴の行動はお前も見てたろ」

 

「見てたわ、というかされたわ。それでも今回は…いえ、今回も暴走してると思うわよ。私の時みたいに甘くはないのよ」

 

「ソレは直らないさ。アレが無くなると人間が人間ではなくなるからな」

 

ペストにも何か通ずるものがあるのか、黙りこくってはオティヌスを観察していた。

 

 

 

「ねぇ、何で上条の事を人間って呼んでるの?」

 

「いきなり何だ」

 

「だって気になるじゃない。私達とかよりも付き合い長いんでしょ?それなのにまともに名前を呼ばないのって何かしらの理由でもあるのかなと思ってね」

 

「………な、何もない」

 

体ことペストから見えないように移動させては帽子を深く被る。

 

「いや、あるよねそれ。絶対あるわよね」

 

「えぇい、うるさいっ!お前はさっさと寝たらどうだ‼︎あと私の布団も用意しろ‼︎」

 

顔を赤く染めたままペストに指を差しながら叫ぶ。ここまで来ると引くに引けなくなり同じく意地をはる。

 

「こうなったら意地でも聞いてやる…‼︎さっさと教えなさいよ、じゃないと上条に聞くわ!」

 

「あの人間がそんな事を聞かれても、俺もわからない。としか言わないわ!」

 

ぎゃあぎゃあと叫びながら話す2人、丁度その頃に上条は"アンダーウッド"の大樹の根元に来ていた。

 

 

上条は外に出ると人知れず待機していたグリーのいる所まで歩いていく。

何でここにグリーが居るのかというと、それは事前に上条がグリーに対して頼み込んでいたからなのはそうだが。他に頼れるヒッポグリフ種の幻獣が居なかったのもある。

そんな彼も上条からその話を聞かされた時はもちろん反対した。

しかし何回も頼まられると彼の言葉と、その心に魅せられたのか承諾した。

 

そもそも明日からなんて上条が我慢出来るはずもなかった、確かに皆で行った方が確率は高いし安全だろう。

だけど、今もしかしたら春日部たちの身に何か起こってるのかもしれない、そんな可能性を見つけてしまうと上条の足は動いてしまう。

左手首には草編みのブレスレットをつけながらグリーに話し掛けた。

 

「待たせたな」

 

「…本当に行くのか?承諾はしたが…やはり私からすると無謀でしかないと思うが」

 

「それでもだ。誰かが行かないと、今もしかしたら救えるものも救えなくなる」

 

「…わかった。ならば私の背中に乗ると良い、私の誇りにかけて城まで連れて行こう」

 

 

 

 

"アンダーウッド"上空。吸血鬼の古城・王道の玉座。

玉座の間に続く階段の踊り場に陣取っていた、黒いローブをまとった女性、アウラと呼ばれた女性は、水晶球で夜のアンダーウッドを観察していた。

すると大樹の根元に1人の少年とグリフォンと呼ばれる幻獣が少年を乗せて羽ばたいていた。

 

「殿下、なにやら動きがありました」

 

「…こんな夜中にか?数は幾つだ」

 

「それが…1つです」

 

目を丸くする、殿下と呼ばれる少年。白髪の頭に見た目はとても幼き、しかし少年から発せられる威圧感は異常だった。

 

「こんな時間に、1人で…奇襲にしても数が少ない。何の目的があって…」

 

意図がわからないのか、そのまま黙りこくってしまう。

すると殿下の髪の毛を三つ編みにしていた少女…、リンが何か気になるのか、特別ふざけることなくアウラに質問した。

 

「ねぇ、アウラ。その少年ってさ…ツンツン頭とかだったりする?」

 

あまり見ないリンの姿に面を食らっていたアウラは、我に帰ると水晶球を見直す。

 

「えぇ、確かにツンツン頭だけど」

 

「…そっか。まさかこんな早くに行動するとは思わなかったかな」

 

三つ編みをしていた手の動きは止まり、アウラの水晶球へと近づいては覗き込んでツンツン頭の少年をじっと見つめる。

 

「…この人の相手は私がしていいかな?」

 

「貴女が?まぁ、問題はないと思うけど…」

 

「"アレ"を使うにも目立ちすぎるし、巨人達も今動かすわけにはいかないからね。なら私が直接相手するよ」

 

そして立ち上がっては殿下と呼ばれる少年の方に向く。

 

「ちゃんと作戦までには戻ってきますね」

 

闇夜に向かい歩きだし、音という音は少女の軽い足音だけだった

 

 

 

"アンダーウッド"吸血鬼の古城 上空

 

グリーが一歩踏み締めて歩き出す度に上条には物凄い風力の波が襲い掛かる。目を開けるのが精一杯で耀みたいに空を歩く感覚を楽しむなんて事は出来るはずもなかった。

 

「ぐぉ…わかってはいたが…ッ」

 

言葉を発しようとすると肺にまるで空気の塊が入り、冷たい冷気を帯びてるためか呼吸もままらない状況でも何とか一言呟くが、それをグリーが制止させた。

 

「上条殿、無理をなされるな。本来ならこの速度にしがみついてこれるだけ異常なのだ。春日部殿みたいなギフトがない以上は話さない方がいいと思うのだが」

 

別に上条は無理して言葉を発したいわけでもなかった。単に無言でいるのが辛かっただけなのだが、よく春日部はこれ以上の速度で、これ以上の速度と寒さの中でしがみついていた凄さを改めて実感した。

それから何分たっただろうか、もはや時間の感覚を気にする余裕もないままに城の城下町だと思われる、壊れた街並みに着地した。

 

「…ぁ…はぁ…っ、しんどっ」

 

そのまま落ちるように降りると、グリーにもたれかかりながらも一息つくと、そのまま歩き出し街の方へと行こうとする上条をグリーは呼び止める。

 

「…確かに此処を散策するに私は不向きだが、本気で1人で行くのか?」

 

「これだけしてくれただけでも充分だよ。後、明日の作戦に響かせたくないしな。お前の力は必ず必要になる」

 

「そうか…。なら健闘を祈る。私達も明日…いや、もう今日になるか。必ず迎えに来る」

 

そしてその大きな翼を羽ばたかせグリーは再び闇夜に消えて行く。

それを見送ると振り返り城めがけ歩いて行く。

 

「待ってろよ…!」

 

歩く足は次第に早くなり、最終的には走りながら周りを捜索し始める上条。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

お久しぶりです

今回はなぜこんなにも時間かかったと言いますと
プロットを1から練り直し、クロスオーバーにつきオリジナル展開などを考えたりとしていたら何年もかかってしまいました、本当に申し訳ありません

ただその間も感想を下さった皆様
本当にありがとうございます
これからも亀ではありますがよろしくお願いいたします


視線の先に広がるのは地平線と巨大な天幕に覆われた都市。

 

そう此処はまさに異世界だった。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!不幸だァァァァァ!!!!」

 

 

上空4000mから落下してるのは4人と2匹は落下地点に用意してある緩衝材のような水膜を通り湖に落ちてゆく。

 

「へぶっ!?」

 

ボチャンと湖に着水した、水膜で落下速度が衰えた為無傷ですんだが。

 

「…おい人間、早く引き上げろ。」

 

人形みたいな少女は冷静ながらも溺れそうに水上でもがいてる、ツンツン頭の少年は慌てて少女を引き上げるが平謝りをするも周囲の様子を見ると首を傾げ始める。

 

「あっ、すまんすまん!てか何でいきなり上空に居るんだよ!?あれ…オッレルスは?…もしかしてまた土御門!?」

 

「色々あったんだよ。落ち着いたら詳しく話すさ」

 

ツンツン頭の少年と小さい少女は話しながらも周りを見渡す、そこには3人の少年少年達がいた。

隣にたショートカットの少女が猫を引き上げてる。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んで空に放り出すなんて!!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバだぞコレ。石の中に呼び出されて動けないほうがまだ親切だ」

 

「…?いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題なんてない」

 

「そう。身勝手なのね」

 

金髪でヘッドホンがトレードマークの少年と黒発で髪が長くいかにもお嬢様って少女はフン、と互いに鼻を鳴らし岸に上がる。

 

「此処……どこだろう?」

 

先程猫を引き上げてた茶髪でショートヘアーの少女は服を絞りながら岸に上がる、ツンツン頭の少年もそれに続く。

 

「さぁな、世界の果てっぽいのが見えたし、どごぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 

少女の呟きに金髪の少年が応える。

 

「まず間違いないだろうけど、確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙がきたか?」

 

「そうだけど、まずはオマエって呼び方を訂正してよね、私は久遠飛鳥。以後気をつけて。そこの猫を抱えてる貴女は?」

 

上品な風貌と言葉遣いをする少女ー久遠飛鳥。

 

「…春日部耀。以下同文」

 

無口でタンクトップと不思議な少女ー春日部耀。

 

「そうよろしくね野蛮凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見た目のまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度でせっしてくれよな、お嬢様」

 

まさしく問題児に必要な要素を込めた、少年ー逆廻十六夜

 

「そう、じゃあ取扱説明書をくれたら考えるわ、十六夜君」

 

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラと笑う十六夜。

 

「やっぱり遠慮しとくわ。最後にいかがわしい人形と話してる幸薄そうな貴方は?」

 

「幸薄そうって…、いや合ってるけどさ。俺は上条当麻、何処にでもいる普通の高校生ですことよ。それといかがわしい人形っておいこら!それだと俺が変態みたいにみえるからやめて下さい!それに人形じゃなくて人間だっての生きてるし呼吸もしてるさ」

 

ツンツンヘアーと不幸オーラ全開の少年ー上条当麻

 

「全く心外だ、人形などと一緒にされるとはな。私はオティヌス、今はもうその名前だけだよ」

 

美しい金髪に帽子と露出度MAXの服を着た15㎝位の少女ーオティヌス。

 

 

 

 

 

 

 

魔術と異世界が交差するとき物語は始まる。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

大変長らくお待たせしました
戦闘描写に悪戦苦闘しながら、プロットを全部壊しては作り壊して、上条さんの解釈がおかしくならない様にするのはほんと、もうね??

今年中に後2、3話くらい投稿できたらなぁ…仕事辞めるし多分いける?筈?です?
誤字はないといいなぁ!

追記

現在22話がプロローグに変更されるというミスが起きています、なんとか探してみます…


轟く龍の声。

それは本来聞こえない、聞こえてはいけないはずの叫びだった。しかし上条とレティシアの耳には確かに今もなお叫び続ける龍の声が聞こえていた。

それは2人の頭を混乱させるに充分な咆哮だった。いや2人だけではない、外で"アンダーウッド"で待機してた皆が突如として現れた龍に困惑してるに違いない。

 

「なんで…ありえない、そんな筈が」

 

レティシアからそんなつ呟きが漏れた。

次にした行動といえば自らの身体を見つめる事だった。

驚き固まってたのは上条も同じようで暫く2人がなにも言えず、事実を受け止める時間が過ぎていく。

いつまでもそうする訳にもいかず、上条は今のこの現実を把握するしかなかった。

 

「…なんだって急にドラゴンが現れたんだ」

 

頭を掻きむしりながら悪態をついていれば、レティシアも苦虫を噛み潰したような表情で上条の方を向く。

 

「恐らくだが、何らかの原因であの龍の中にある私のパスが途絶えたか。何者かが強引に捻じ曲げてゲームそのものが変質したとしか。私も長いこと生きてはいるが初めて見る」

 

自分の中にある1つの仮定を言い出さなかった。

もし仮に上条が触れた時に可笑しくなったとしたら、それは此の箱庭において由々しき事態に陥る。

神々が決めたギフトゲームのルールが壊され意味もなく休戦が終わりを迎えたとしたら

 

そんな事があり得てしまったら、どんな処罰が下されるか想像もつかなかった。その中で良くて追放が限界だろう。神々のルールすらいとも簡単に壊してしまう彼のギフトは箱庭に存在してはいけないのだから。

 

しかし私が疑問に感じてた事はそうではない。

そんな強力な右手を待ってながらも役割が打ち消すだけの役割に特化してるという事に疑問を抱いていた。

春日部は友達となって自分でその力を行使できる。飛鳥は他者だけでなく物にも力を与える事ができる。十六夜のギフトも不明だが万能に力を扱っている、だがそれ以上に上条の右手は全容が見えなかった。

ギフトを打ち消す、ありとあらゆるギフトが彼の前では意味をなさない。本そんな力を持ってながら本当にギフトだけなのか、自分の頭の中でレティシアは考えては上条の小言に耳を貸さずに相槌を打っていた。

 

そんな時である、正面扉を誰かが勢いよく開けたと思ったら駆けてくる。足取りは軽いものだが聞こえてくる音が此方へと近寄ってくる。

上条は警戒するように駆けてくる人へと視線を向けて目と目が合えばお互いの声が重なった。

 

「上条!」

「春日部⁉︎」

 

上条が乗り込んだもう1つの目的である春日部耀その人だった。

ずっと探してた人物が見つかったお陰もありこの状況下でもほっと安堵の息を漏らす。

それは春日部も同じようでレティシアと上条を交互に見ると嬉しそうに口元を緩めるも再び聞こえる咆哮に悠長にはしてられないと気を引き締めなければならない。

 

「聞きたい事はあるけど、まずはゲームが再開した原因を探らねぇと」

 

「ううん、原因を探すよりもゲームをクリアする方が先決だと思う。原因がわかっても止められる保証はないし、既に始まったのなら尚更このゲームをクリアしないと被害が増すばかりだよ」

 

「…しかし肝心のゲームのクリア条件がわからないんじゃ手詰まりになるんじゃないか?」

 

「その事なんだけど…多分解けた。それで必要な物も皆が集めてくれた」

 

大扉が開いていたせいか徐々にバタバタと足音が大きくなると捕らえられたとされる子供達が姿を見せた。

中には老人と思われる重たい足取りもあるが、一番目を引いたのは大きなカボチャ頭をしランタンを携えた知り合いだった。

 

「ジャック!お前も捕まってたのか」

 

「ヤホホ♪上条さんも此処にいらしたんですね。これはもう私達は安全と言っても過言ではないですねぇ」

 

友と再会のお陰かゆらゆらと揺れており握手などはすることはなくともお互いに再会できた喜びを表していた。

 

「和むのも悪くないが今は一刻を争うんだ。なぁ、耀お嬢ちゃん」

 

「うん。解けたのは第三勝利条件だけれど」

 

それだけを告げるとレティシアを中心として周囲を探る。床を探り終えたのか、今度は壁を念入りに調べ直した。暫くすると窪みを押すような音が聞こえた。

 

「あった…!ジャック、これの方角は?」

 

「ええと、其方は処女宮があった方向かと」

 

「ありがとここに処女宮の欠片を置いて、後はここから基準に12等分すれば…」

 

ガコン、と何かが塡まる音。

こんな仕掛けが自分の住んでいた居城にあったなど知らされてなかったのか目を丸くして驚いていた。

 

「よ、耀。それは私たちの神殿に安置されていたものじゃないか。一体何を…」

 

「…ぇ。レティシアはゲームの内容を知ってるんじゃないの?」

 

今は囚われの身とはいえ元は主催者のレティシアの発言に今度は耀が目を丸くしていた。

 

「実はこのゲームだが、他人に任せたものでな。本来の“主催者権限”のゲーム内容とは大幅にかけ離れてるんだ」

 

「そっか。じゃあやっぱり、この部屋の仕掛けはゲームとは無関係のものなんだね」

 

そう言い次の欠片を填める。ここで又手を止めて振り返り話を続けた。

 

「レティシア。この空飛ぶお城って、元々は衛星……ぁ。えっと、世界の周りをぐるぐる回るお城だった?」

 

「あ、あぁ。我々吸血鬼は世界の系統樹が乱れないように監視する種族だったからな。吸血行為による種族変化もその名残だ」

 

「そう。なら監視衛星だったんだ。…うん、そこは分からなかった」

 

3つ目の欠片を填めた所で上条が先程から何故欠片を填めてるのか気になり口を開いた。

 

「なぁ、春日部。さっきはゲームが解けたって言ってたが…その石を填める事がゲームクリアに繋がるのか?」

 

「…えっと。そうなるかな、私が今填め込んでいるのがこの城が正しく飛ぶ為に使っていたと思うの。そして“砕かれた星空”の2つ目の解答。それがこの天球儀の欠片なの」

 

今もなお外では龍が暴れてる、悠長にはしてられないが無駄に焦る事はもっと必要ない為か耀は自分で確認するように頭の中で紐解いた内容を話していく。

 

「このゲームの第3勝利条件に、砕かれた星空を集め獣の帯を玉座に捧げよ。ってあったけれど…簡単に言うと獣の帯は黄道の十二宮ってなるの。砕かれた星空は…形ある何かだと思って探してもらったの。そして捧げる事ができるのが此処にある天球儀って解答になる」

 

耀は10個目の欠片を填め込み、少し自慢げに小さな胸を張った。

 

「な、なんと」

 

レティシアは感嘆した声を上げた。ゲーム開始前に悩んでいた彼女がギフトゲームを攻略していくと考えもしなかったからだ。

 

「俺なんてちっともわかんなかったのに…やっぱり春日部はスゲーな」

 

上条も同様に感嘆としてた。レティシアの話を聞きながらもゲームを攻略するために考えたいたのに解けずにいた、だが自分と歳も変わらない女の子が解いたのだから。

 

「こ…れは皆のお陰だよ。上条もレティシアも、ガロロさんもジャック、他のみんながいたから私は出来た事だから。それに今までゲームを解いてた十六夜の様子を見てたからだもの」

 

「何を謙遜する必要がある!同志から学び、己の戦果とする!これぞコミュニティの理想的な高め合いではないか!」

 

熱のこもった声で陽を褒める。

レティシアからみて何処か日陰があり、何時も寂しそうにしてた耀が誰かと協力してゲームを攻略しようとしてるのだ、それもコミュニティや他の皆が居たからだと言ったのだ。

年長者である身からしてこれほど嬉しいことは無いだろう。

 

「此れが、最後の欠片」

 

「これで龍も大人しく…!」

 

そして壁の仕掛けに最後の欠片を埋め込む。今起きている惨事を止める為に耀は自然と安堵の息が漏れてしまっていた。

 

 

 

10秒、30秒。短い間の時間が過ぎたがあの轟きが方向が止むことがなかった。

そんな中でこの悲劇を止められると思った耀は驚きの中で体が固まったのか小さく震えていた。

 

 

 

 

「な..んで。そんな確かにこれで」

 

頭を抱え再び思考に巡る。なにが間違ってたのか、何処か見落としはないのか。今尚"アンダーウッド"にいる皆が守ろうと戦ってるという焦りが思考を鈍らせる。戦に慣れていない耀に襲う仲間達の危機。

落ち着こうとするものの簡単にそんな事が出来るわけもなく唇を噛み締める。焦りだけが先を行く中で上条が声を掛ける。

 

「………きっと春日部がしてる事はあってるはずだろ?じゃなきゃ何の為にこんな装置を用意する必要がないはずだし、何より他に方法がないなら、何かが抜け落ちてるのかもしれない」

「….うん」

 

憶測だけの言葉、根拠も何もないはずなのに何故か落ち着いた。

一つ息を吐く。焦りでぐちゃぐちゃになっていた思考が紐解かれ一つになる。すると耀の思考にある可能性が見えて来た。

 

「あ っもしかして 」

 

そう続けようとした時。

感じた、上条と耀は同時にその方向へと振り向いた。

敵意 それもかなり強く 強大な殺意を感じた。

 

そして その強大な敵は玉座の間にある窓をぶち破りながら敵は入ってきた。

 

「其処までだ、小娘ッ‼︎」

 

側に控えていたジャックは即座に構え、ランタンから業火を放出した。

 

「油断した……!春日部嬢!下がりなさい!」

 

こんなにも近くになるまで気付かなかった自分に悔いながら、3つのランタンから業火を再び放出させる。其処にいつもの戯けた姿はなく、あるのは敵への警戒心だけだった。

油断はなかった、今ある業火を全て浴びせたのだ、ダメージは与えただろうと考えようとした。

 

しかし

 

「ヌルいわッ、木っ端悪魔がァ!」

 

敵は身体を1つ払っただけでその業火を払いのけ、猛々しい雄叫びをあげた。

 

「な、なんと⁉︎」

 

仰天して声をあげるジャック。敵は巨大な腕でカボチャ頭を鉤爪で鷲掴み、回廊へと続く階段に叩きつけては下へと転がり落ちていった。

 

姿を現した敵は全身が黒く塗りつぶされたような鷲獅子だった。

鷲の頭も、獅子の胴体も、全てが黒い。しかしその中でも目を引いたのは、その頭上にある聳える巨大な龍角と胸元に刻まれた“生命の目録”だろう。

 

それをみた上条は1度目を見開く。なんで彼奴にと思った。けれどそんな事は悠長に考えてられない。目の前にいる敵をどうにかして止めなければならないのだから。

 

 

上条の後ろで耀は動きを止めていた。

本能が逃げろと頭の中で警戒音を鳴らし続ける。

今すぐ逃げろ でないと死んでしまうと。

アイツには勝てない、と。

しかしそんなことは叶うはずもない、叶えてくれるはずがない。その事を理解すれば1つ息を吐き戦闘態勢を整える耀に対し妨げるように上条は腕を横に伸ばす。

 

「わかったんだろ、このゲームのクリア条件が。なら足止めをするのが俺の役目だ。春日部は一刻も早くこのゲームを終わらせる為に行ってくれ」

 

私も戦うと反論しようとするも言葉がでなかった。

上条を囮にゲームをクリアする、それが最善で最速だと結論を出してしまう。

 

だから何だ、此処で上条だけに任せていたら何も変わらない、なにも進めない 十六夜や上条みたいに強くなることができなくなる。そんな予感がしたのだ。

 

「ううん。上条1人じゃ勝てない、だから私も戦う。1人で勝てなくても2人なら勝てると思う…から」

 

強く 絶対引かないという意思を持って。もう上条を1人で戦わせたりしないと。

目の前にいる敵は1人でどうこうなる相手ではないなんて見ればわかってしまう。

 

黒い鷲獅子は嬉々とした目で耀をみつめた。

 

「嬉しいぞ、コウメイの娘。よもやこんなにも早く解答に近づく者がいるとはな!しかもどうやったかは知らないが龍も暴走させたとはな。色々聞きたい事はあるが、今はこの宿命に、星の廻りに感謝せねばなるまい!」

 

コウメイの娘と言われた途端 耀の表情に一瞬動揺が走る。

しかし考える暇もなく黒い鷲獅子は高らかに雄叫びを上げる。

 

「我が名はグライア=グライフ!兄ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ!今一度、血族の誇りに決着をつけようぞ‼︎‼︎」

 

上条には目もくれず耀へと襲いかかるグライアと名乗る黒い鷲獅子だが、豪腕を振り上げたところで横に吹き飛んでしまった。

理由は簡単だ、上条の拳がグライアへと突き刺さったからだ。一度、二度と転がり壁に打ち付けられ亀裂がはしる。

耀はその時間を無駄にしないとばかりに後ろに振り向いては叫んだ。

 

「みんな、蠍座と射手座の間にある星座を探して!もしも城下街が天球儀を示してるなら、その中間地点に最後の星座があるから‼︎」

 

キリノ達や子供達が頷くと一斉に廻廊へと走り去った。このゲームをクリアするために あの龍を止めるために。

 

「 やってくれる 人間だからと甘くみていたが、ペストを倒したのは本当の様だな。だが所詮は人間。私の前に立ち塞がると言うのなら死んでもらうぞ」

 

その威圧感、殺気に耀は後ろに一歩下がってしまう。しかし上条は臆する事なく前へと一歩歩みを進めた。

 

「テメェが春日部に何の因縁があるのかはわからねぇけど。こんなふざけたゲームを仕掛けて、みんなが楽しみにしていた収穫祭を台無しにして、それでもまだ足りなくて壊すって言うのなら。そんな馬鹿げた幻想は俺が壊してやる」

 

「 面白い ならばやって見せろ」

 

グライアは常人なら反応する余裕もなく潰されてしまうでろう突進を仕掛けるも上条は右に滑り込む形で避ける。するとすぐさま体制を整えて振り向くがグライアは既に次の攻撃へと移っていた。

龍角から焔が1つの業火が現れる、それはジャックの地獄の炎よりも熱く燃え盛る、まるで全てを灰にするような獄炎。

 

しかしそんな攻撃は上条に効くはずもなかった。

右手を振り払うそれだけで何かが砕ける音がすると焔は霧散し消え去った。

 

反応はできた、目で追うこともできた しかし刹那の攻防に手を出そうにも出せなかった。耀は唾を飲み込む、これが命を賭けた戦い。

 

「…ほぅ。コレがリンの言っていた不思議なギフトか。なるほど面白い、面白いがつまらん」

 

またも同じ様に突進を仕掛ける がまた先程同様に避けようとした上条だが、このグライアは甘い筈もなかった。

足を地面に引っ掛ける形で速度を急激に落としたと思えば反動で回転し上条の脇腹に蹴りを放ったのだ。

咄嗟に自らのお腹を守ろうとするも速度が追いつかず、ミシミシッと骨が軋む音が響く。痛みで表情が歪む。次の時には身体は壁へと押し付けられていた。

 

「ガッ……は…ぁ⁉︎」

 

肺にあった空気を全て吐きだし、意識が飛びそうになるほどの激痛。ここで眠ろうと思えば目を閉じて楽になることも出来た。だがそんな事を上条当麻はしない、壁から落ち倒れそうになるも足で 腕で何とか立ち上がる。一撃を受けた、たったそれだけなのに。

改めて相手の強さというのを認識できた。

 

此奴は箱庭で出会った今までのどの敵よりも強く、レベルが違うのだと。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 15~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。