終焉の樹 (一時のバンドは最高)
しおりを挟む

第0章


 

 

 

 ―――――深夜。

 

 広大な敷地を持つ魔王城を、幻想的な蒼月が照ら している。

 

 その魔王城の中、ある一つのパーティーが魔王を 倒そうと乗り込んでいた。

 

 とある人間のパーティーである。

 

 

 まだ少年の面影が残る勇者候補――ゲイン。

 

 刀を背に二つ携えた寡黙な青年魔剣士――トーガス。

 

 馬の背に乗る高飛車そうな女隷魔師――エルザ。

 

 上半身裸で筋肉隆々の暑苦しい融魔師――ノールド。

 

 

 彼等は今、一様に恐怖、驚愕していた。

 

 

「……何故こんな奴が此処に?!」

 

 

 目の前にいるのはなんだ。

 

 ゲイン達は『それ』が放つ異様な雰囲気に呑ま れていた。

 

 其々が、並大抵の敵ならば逆に呑んでしまう高位の魔術師なり戦士であり、実績もある。

 

 勇者候補に至っては、各国を代表する実力精神力人格を評価された猛者しかなれない一握りの存在――ゲインはその中の一人だというのに。

 

 

「……っ!」

 

 

 トーガスの唾を飲み込む音が聞こえた。

 

 此処の魔王ディーモンとその配下の幹部の実力を計算し、勝てると踏んで突入した。

 

 確かに此処まで難なく倒せてきたし、まだ中盤辺りだからといって気を緩めたりなどもしていな い。

 

 だからゲインは自らと仲間を鼓舞し、奮起し次の扉を開けたのだ。

 

 だがそこにいたのは、魔王より圧倒的な強者の風格を纏う化け物。

 

 誰も動かない。

 

 否、誰も動けない。

 

 対峙しただけで心が折られてしまいそうだ。

 

 何故動けない?

 

『それ』はただ視ているだけだぞ。

 

 その青色の瞳に囚われただけで、ゲイン達は足が竦んでしまった。

 

 

「……………何を怯えている?

その様じゃ、ディーモンを倒せないぞ?」

 

 

 黒い台座の上にいる『それ』――一匹の狼はゲイン達を視界に捕らえ、つまらなそうに話す。

 

 新雪の様な純白の躯、一回り以上大きな体躯が放つ異様な雰囲気は、異常な重圧、威圧としてゲイン達を襲ってくる。

 

 明らかにそこらにいる通常の狼や魔狼とは違っていた。

 

 

「…………貴様は何物だ?!

何故、貴様の様な者がディーモンについている?!」

 

 

 震えそうになる唇を抑え、なんとか声を絞り出 す。

 

 

「…………おいおい、勘違いするなよ人間。

俺をあんな糞連中のお仲間にするんじゃねぇよ!

 

 

 ディーモンの仲間にされたことが、癇に障ったのか語尾を強めた。

 

 背中に汗が伝っていく。

 

 駄目だ!この規格外の怪物に勝てる絵が思い浮かばない。

 

 そう感じてしまったゲインは、苦い表情で頭を振り、その考えを振り飛ばそうとする。

 

 自分が此処で挫けては駄目だ!と自らを奮い起た せ、聖剣と呼ばれる相棒を握りしめた。

 

 仲間を励まそうと振り向き――――

 

 次の瞬間、黒い大鎌が稲妻の様に空間を裂きながらゲインへ襲ってきた。

 

 

「………っ!?」

 

 

 

 

 

 

 ―――ッギィィンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 間一髪であった。

 

 首を刈ろうと迫ってきた大鎌の切っ先に、聖剣をなんとか滑り込ませる事ができた。

 

 そして―――

 

 

「ゲインに何するのよ!!」

 

 

 敵に影が射した―――エルザの馬が踏み潰そうと炎を纏った前両脚を降り下ろす。

 

 

「………っち!その馬、隷魔か」

 

 

 だが敵は後ろに飛び退き、それを回避する。

 

 …………ゲインも後ろに下がり、追撃に備えようとしたが。

 

 どうやら、敵は様子見らしく、追撃する様をみせてこない。

 

 

「―――ゲイン、大丈夫?!」

 

 

 エルザが近付き、声をかけてくる。

 

 

「っ大丈夫だ、エルザ!」

 

 

 ゲインはそう返し、ありがとうと伝えると。

 

 何故かエルザは、勢いよくそっぽを向いてしまった。

 

 ………どうしたのか?

 

 気になるが、今はそれどころではない。

 

 視線を敵の方に移し、姿を認する。

 

 

「………人?!」

 

 

 驚きのあまり思わず声を出してしまった。

 

 十代半ばといったところだろうか。

 

 あの大鎌を振り回せるとは思えないほど華奢な少女。

 

 黒いローブを身に纏い、フードを深く被っている。

 

 フードの下から伸びる、艶やかな黒髪が揺れ煌めいていた。

 

 そして、存在感のある金色の瞳が、ゲインに向けられていた。

 

 そしてもう一人。

 

 狼が佇む台座を守る様に立つ黒い髪の少年。

 

 こちらも十代半ばであろう。

 

 少年も同じローブを纏い、黒い瞳でゲイン達を睨んでいた。

 

 

「よくも、ロキリア様に剣を向けようとしたな勇者候補風情が!!」

 

「…………ボスの敵は殺す」

 

 

 少女は激しく燃える炎の様に怒りをぶつけてくる。

 

 対して少年は冷酷な氷の様に怒気を纏わせていた。

 

 それに合わせ、ゲイン達も戦闘体勢にはいる。

 

 が、そこに待ったが入った。

 

 

「―――――通してやるよ。

勇者候補さんよ、ククク♪」

 

 

 妖しく嗤った狼――ロキリアがそう言いはなったのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。