時計塔の魔術師的日常 (十津川烏)
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ロード・エルメロイⅡ世と手紙
最近師匠の様子がおかしい。なんだか妙にそわそわしているのだ。また日本のテレビゲームでも注文したのかと思ったがどうもそれとは違うようだ。
ライネスさんは何か知ってるのか訳知り顔でにやにやして師匠をいつも通り不機嫌にさせたがライネスさんがいなくなるとまたそわそわしだした。
…なんだか気味が悪い。と、言うより気持ち悪い。師匠の教室で師匠と最も付き合いの長い弟子であるフラット氏によると「なんか師匠、年に何度かああなるよグレイちゃん」とのことだ。
それからしばらく経って一通のエアメールが師匠に暮らすアパートに届いた。
「ウェイバー・ベルベット様へ…?」
どこかで聞いたことがあると思って思い出した。どこかで聞いた師匠の本名だ。たしか初めて会った時もその名前を使っていた気がする。
拙も詳しい事情は知らないが師匠が今名乗ってる「ロード・エルメロイⅡ世」は「自分には不相応だが押し付けられたものだ」とか言ってた気がする。
気になって宛先を見ると日本のフユキという町のグレン・マッケンジーという人物から届いたらしい。
そういえばフユキとはたしか師匠がかつて聖杯戦争という魔術儀式で行ったという町ではなかっただろうか。グレンというのは現地の魔術関係者だろうか。それならば師匠の勤め先で私の通う時計塔のほうに行くと思うのだが。
まぁいいか、さっさと師匠に手紙を渡すとしよう。階段を上り師匠の部屋の元まで言ってノックをする。
「師匠、グレイです」
「あぁ、入って構わん」
無愛想でぶっきらぼうな返事が返ってきた。入った師匠の部屋は相変わらず埃っぽいしかび臭く服や本やテレビゲームなどが散らかっている。
個人的には衛生にも精神衛生にも悪いからいつか世話役の権限を使って徹底的に掃除をしたいと思うのだがなかなか機会がない。
「ところで師匠…日本からお手紙が」
届いてるのですがと言葉を言う前に手紙は奪われてしまった。何時もの師匠からは想像もできないスピードだった。
手紙はすぐに開封され師匠はそれに没頭したようだった。何か大事な要件が書いてあるのかと思ったらそうでもないらしく師匠の顔はいつもの不機嫌そうな仏頂面ではなく穏やかで少し子供っぽかった。
そんな師匠をしばらく唖然としてみると我に返ったのか少し赤みがかかった顔で咳払いをされ少し部屋を追い出される羽目になった。
そんな師匠をやっぱり気持ち悪いと思ったけど同時になぜか微笑ましく思ったのは拙だけの秘密だ。
エルメロイⅡ世の事件簿二次が少ないので書きました。これでエルメロイⅡ世2次やグレイの出る2次が増えたらなぁと思います。
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フラット・エスカルドスは問題児
「グレイちゃん、グレイちゃん!ライネスさんとこのメイドさんと一緒にDVDみない?」
そんなことを魔術協会の総本山である時計塔の教室で拙に話しかけてきたのは拙が師匠の弟子の中で特に苦手とする兄弟子のフラット・エスカルドス氏だ。
師匠曰く「才能だけはあるがただの馬鹿」とのこと。自分もあまり頭のいいほうではないがフラット氏の頭の螺子の抜けっぷりは頭が痛くなることもある。
パッと見た感じの彼は顔立ちも整っており育ちの良さを感じさせる御曹司にしか見えない。
事実、彼の実家は辛気臭い墓守一族の拙の実家とは違い日の当たる地中海の名門出身らしい。
才気に溢れ、容姿も血統も兼ね揃えてる。
だがそれを補って余りあるほど『残念』な人物であるのだ。
別に家柄を鼻にかける高慢な性格をしてるとか陰湿陰険とかそういうことじゃない。
具体的に言うとこの時計塔という最高学府(いまだに拙にはその実感がないが)で惚けた…というより微妙に幼い言動をとる精神性。
かと思えばその卓越した才能で様々なトラブルを引き起こし周囲を引っ掻き回し自分は要領よく立ち回るちぐはぐさ。
師匠であるロード・エルメロイⅡ世がたびたび高血圧で卒倒する原因を作っているのだが本人はその自覚がないようだ。
そんな彼を苦手とする拙が彼の用事に付き合う義理も義務もないのだが会話で彼が少し気になることを言った。
『ライネスさんとこのメイド』である。
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテのメイドともなれば彼女の暮らす館に二桁くらいいるのだろうが彼が指す『ライネスのメイド』となれば一人しかいないだろう。
トリムマウ、師匠の師匠が作った魔術礼装をもとに師匠が改良したことにより人型となった自動人形(メイドゴーレム)。
以前彼はとあるハリウッド映画を見せてトリムマウを暴走させたらしい。
彼がどんな映画を見せるのか知らないが…また変な影響を与えないだろうか、それが心配だ。
そしてそれを知ってて放置した拙に類が及ぶのではないかそれが一番大きな問題だが――――
「申し訳ありませんが拙はこれから師匠に頼まれた買い物があるので断らせてもらいます」
「あちゃーそっかー…じゃあ仕方ないね、また今度!」
「…機会があったら」
今度…というよりそんな機会は当面ごめんだが曖昧に濁しておく。
これも倫敦に来てから培ったスキルだ。まぁ事実買い物はあるので嘘は言ってない。
こうして拙の倫敦での日常は過ぎていくのであった。
本のしめらしいことを言えばそれっぽくまとまるだろうか…
フラットのグレイに対する態度は捏造です。
エルメロイⅡ世の事件簿を続刊が出たらわかるかもしれませんが。
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とある魔術の後継者
後継者。それは魔術師にとって大きな意味を持つ単語。
魔術師未満の半端者である拙にとってはいまいちピンとこないが魔術師の世界にとって後継者というのは非常に大切な存在らしい。
そして今日エルメロイ教室にはある魔術の後継者の青年がいた。
「…なるほど、オルロック翁は私を君に教育してほしいと」
「はい、先代はあなたの事を信頼できる教育者だと」
彼の名はヴェルナー・シザームンド。かつて拙達があの城で出会ってその最期を看取った―――と言ってもその時の記憶は拙にはないのだが―――オルロック・シザームンド老人の、つまり彼が扱っていた魔術である蝶魔術(パピリオ・マギア)と彼の一族の魔術刻印の後継者だ。
「しかしオムロック翁が遺言をあの城で残していたとはな…最後にもう一度言っておく、私もそれなりに経験を積んだ講師として人にモノを教える能力はある。しかし才能は君の足元に及ばないだろう。自身この歳で第四階梯だから、底が見えてる」
「えぇロードは魔術師としては並以下で現段階の実力も私に劣るやもと先代も遺言状に書いてました。しかしその視点は魔術師とも魔術使いとも異なる物で発展途上中のお前にはいい刺激になると…」
どうやらオムロック氏はあの城で遺言状を書いていたらしい…しかしあの偏屈そうな老人が師匠を後継者の指導者として指名するとはよっぽど師匠の事を気に入ってたのだろう。
ヴェルナー氏の遠慮のない発言に師匠はいつも通りの仏頂面を少し崩し師匠にしては珍しく少し面白そうに話を続けた。
「全く…オルロック翁と同じでずけずけとモノを言うな…まぁいい佐野老体には世話になった。これからは指導者としてお前をこれから指導していくことになる。
エルメロイ教室へようこそ、ただし歓迎はしない」
全く実に偏屈な師匠らしい物言いだ。
「それではこれからよろしくお願いします、先生」
ヴェルナー氏はそんな師匠の発言に苦笑いを浮かべながら頭を下げエルメロイ教室の生徒になったのだった。
「やれやれ全く面倒なことになった、今まで蝶魔術の使い手の指導などしたこともないぞ…また資料を探さねばならないな」
ヴェルナー氏が教室を去った後、不機嫌そうな顔で文句を言い始める師匠だがその実面倒見がいいことで生徒だけではなくほかの講師からも一目置かれる彼の事だ。
ヴェルナー氏を的確に指導する方法を考えてるのだろう。
「師匠、お茶を入れておきました」
「む、すまんな」
拙が入れたお茶を啜りながら新しい弟子への指導を思案する師匠。
私生活は本当にどうしようもなくだらしないが指導者としての師匠は輝いて見えることがある。
そんなところは尊敬できる人物だと拙は思うのだ。
Fakeにシザームンドの後継者が名前だけ登場し等でその過程を捏造しました。
実際どういう過程でエルメロイ教室の生徒になったんでしょうね。
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