異世界放浪日記 (青色一號)
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逃走と言う名の旅立ち
退屈な日常を毎日毎日無限ループのごとく過ごしていたある日、俺はお決まりの展開で異世界に召喚された。
学校の帰り道。途中の本屋で百合本を買いに行こうとしたその道すがら、俺はトラックに撥ねられて死んだ。
そう、死んだはずだった・・・・。
しかし目を覚ますとそこは自分が知っている世界ではなく、別の世界だった。
俗に言う、異世界と呼ばれる世界に、俺は転生されてしまったらしい。
その世界は中世ヨーロッパ風ではあるか文明レベルは20世紀初頭なので、普通に鉄道や自動車が存在している。
異世界、カルデロット王国。
おまけに転生先が驚くことに一国の王族。それも金髪碧眼の超美少女お姫様に転生してしまったのだから驚きだ。
「これ・・・・・ホントに俺なのか?」
姿見の前に立って自分のプロポーションやその姿に戸惑う。
男だった俺が異世界転生でこんな美少女に生まれ変わるなんて、誰が想像したことであろうか・・・・。
おまけに第三位王位継承者という立場であったが、俺はあまりそういうことに関心がなかった。
しかも俺には他に三人の姉たちがいた。しかしその姉たちは俺に比べたら酷いブサイク面で、おまけに家畜の豚のように丸々と太っていた。
そんな自分たちの容姿を気にしてか、姉たちは自分たちより綺麗でスリムな俺に対して嫉妬したようで、醜い嫌がらせが相次いだ。
「めんどくせぇ・・・・ここから逃げ出したい。」
そう思っていたある日、突然俺に縁談の話が持ち上がる。
そう、王族社会では当たり前の政略結婚というヤツだ。
しかも縁談の相手が隣国の王子、しかもイケメン。
だが、俺は体は美少女だが中身は男だ。なので縁談は断ろうとしたが国王はそれを聞き入れず無理やりにでも俺を結婚させようとしていた・・・・。
そこで俺は考えた。
「逃げちまえばいいんじゃないか・・・・・」
はい、というわけで逃げます。
まぁ正確には旅に出るということです。家出ですね。
俺はすぐに準備を始めた。高価な宝石やアクセサリーなど、金に換えられそうなもの全てと着替えを持ち出し、それらを皮製のトランクにまとめて寝室のベッドの下に隠した。
そして結婚式の前夜、軽装に着替えるとベッドの下からトランクを取り出し、それを持ってベランダから城の外へと飛び出した。
「よいしょっと・・・こんなところ、今日でおさらばだ」
まずは第一段階はどうにか成功。
そのまま俺は納屋に向かうと、護身用の武器として納屋から猟銃を一挺と弾薬を持てるだけ拝借し、猟銃を背負うと納屋をそっと抜け出し、闇夜に紛れながら裏門のほうに回る。
脱出ルートはちゃんと事前に確保済みなので、城の裏門から逃げますよ。
裏門は警備が手薄なので、見張りがいないうちに逃げましょう。
第二段階成功!次は逃走用の足の確保。
もちろんそれもちゃんと確保済み・・・・・・と、正確にはそこまでいってないんだけどね。
「自動車発見・・・・」
ちょうど御誂え向きの黒の小型乗用車、ベンツ170Vが停まっている。
というか、異世界にベンツが存在しているのか!?という突っ込みはこの際無しで。
あの車はおそらく城の使用人が乗ってるものだろう、しかしキーは何処にあるのか?そもそも高校生に運転できるのか?そう疑問の声が聞こえてきそうなので説明しよう。
ベンツのキーは事前に拝借済みなのだ!どうやってキーを使用人から拝借したのか、ぞれはずばりお金ですね。
つまりは、このベンツは事前に俺が使用人から買い取ったと言った方がこの場合適切かな。
そして疑問その2、運転できるのか?
これはもう余裕ですよ。実は転生前にゲーセンのレーシングゲームでしっかりと運転のノウハウは鍛えているのでバッチリです!
しかし昔の車は運転したことがないのでまったく余裕と言ったらそうでもないかも・・・・。
「よし・・・・誰もいないな?」
周辺に誰もいないのを確認すると、俺はそっとドアを開けてベンツに乗り込み、助手席に荷物の入ったトランクと護身用の猟銃を押し込んで載せると、音を立てないようにそーっと運転席のドアを閉めた。
「さぁ~て・・・・こっからが本番だ。」
城の外に出て車に乗り込んだからといってまだ安心は出来ない。
頭をハンドルのしたに下げながら鍵穴にそっとキーを差し込んで回し、エンジンをスタートさせる。
ドルン!
「おっし、かかった!」
ここからが本番だ、警備が手薄とはいえ、まだ安心はできない。
車をゆっくりと発進させ、俺はゲームで培った運転テクニックを駆使しながら裏門付近を離れ、真っ黒な車体も相まってかうまく闇夜に紛れることができ、無灯火のまま俺は車で獣道をひたすら走り続けた。
こうして俺は旅立った。
しかしこれから何処に向かおうか?異世界で一人、オンボロベンツで当ての無い旅をするのも悪くないな。
まぁとりあえずこの国を出よう。しかし流石に眠いな、旅の初日は車中泊になりそうだ。
そして翌朝、結婚式当日。
「国王陛下!大変でございます!」
「どうしたセバスチャン?今日は姫の結婚式だ、早く姫を起すように伝えてくれ」
「その姫様が部屋に居ないのでございます!!」
「何?どういうことだ!?」
「おそらく・・・・昨日の晩のうちに逃げ出したものと・・・・・城内もくまなく探しましたが何処にも・・・・・」
「なんだと!?なんということだ・・・・・・・」
姫が逃げ出したという事実を聞かされ、国王はうなだれる。
その頃、俺はといえば都から遠く離れた郊外のカルデロット国境にいた。
国境に着いてからは車中泊で夜を明かし、俺は今、国境の丘の上から都の遠く離れた城を見つめる。
「・・・・・アディオス。」
そう言い残し、俺は都に背を向け一人車に乗り込む。
「さて、これからどうすっかなぁー・・・・・」
追っ手が来る前になるべくこの国から離れよう。俺はもう自由だ。
窮屈な王族の暮らしを捨てて、俺は今、異世界で一人流浪の旅人となった。
そもそも俺は何故この異世界に召喚されたのか、今となってはどうでもいいことだ。
「じゃ、行くか。相棒!」
これから旅を共にするベンツにそう言い、俺はそこから国境を越えて走り去った。
こうして俺の異世界の旅が始まった。
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