艦娘の咆哮-WarshipGirlsCommandar- (渡り烏)
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設定:世界観


本編更新じゃないけれど当SSにおける艦これ単語&SS内の要素の解説です。


大本営

詳しくは「防衛省艦娘『大』規模艦隊『本』部運『営』課」から抜いたもの。

過去に存在した大本営とは別の存在であり。初期こそ身軽なフットワークを発揮していたが、近頃は風の通りが悪くなっている模様。

大規模艦隊となっているのは、各鎮守府でそれぞれ違う個体の艦娘が召喚されており、どの部隊基準の枠組みにも属していない為である。

 

鎮守府

艦娘が所属する母港の総称。

各鎮守府には1人ずつ鎮守府を統括する『提督』が配属しており、現在のところ平均で140名前後の艦娘が所属している。

設置場所は嘗て大日本帝国海軍に縁がある土地で、鎮守府が配置された場所には国内外問わずに助成金が給付されている。

 

提督

艦娘を指令する人物の総称。

鎮守府一箇所毎に大人数の艦娘が所属しており、嘗ての連合艦隊を一人で統括する為、名誉職として提督と呼ばれることが多い。

選出には後述する艤装核を呼び出せる、貴重な技能を持った人が選ばれるのだが、今ではDNAによりある程度予備人員候補に余裕が生まれている。

 

艤装核

深海棲艦を倒した際に時折出てくる結晶体。

これを開放できる技能が提督には求められる。

駆逐艦の掌サイズから、戦艦や正規空母では成人男性の腰ほどの大きさになる。

艦娘に霊的側面があるためか、旧海軍に縁がある土地でしか艤装核から開放できない。

既に居る同じ艦娘の艤装が出た場合艤装だけが出現するのだが、それが何故なのかは今でも分かっていない。

 

艦娘

艤装と言う特殊な装備を身体に付け、海上を通常艦船と同等のスピードで進め、そのサイズからは考えられない威力の砲火力を持つ存在。

深海棲艦に対して唯一同等以上に活躍できるのだが、駆逐艦からしても並の大人を少し上回る程度の食欲がある。

 

艤装妖精

艦娘の艤装内に居る小人。

人間や艦娘と同等に感情を持ち、この妖精達が疲労している際には艤装の稼動に支障が出るが、それは艦娘本人も同じなので提督には艦娘に、特別な場合以外に置いては十分な休養を与えるように厳命されている。

 

深海棲艦

過去における海難や戦争における無念の魂の負の感情が、具現化した存在とも言われているが定かではない。

藤沢基地において、生きた状態の空母ヲ級が入ったこともあり、その実態に大きな進展があると見られている。

 

超兵器

鋼鉄の咆哮における超越した性能を誇る兵器群の総称。

ある意味ではプレイヤーが操作する艦も、ある意味では超兵器の類に入るのではないかと作者は思っている。

 

鋼・艤装

スキズブラズニルによって、対超兵器用に改修された艤装の総称。

主に○○・鋼と付く物は、これに分類する。

協定により、尾張とこの艤装は対深海棲艦に対しては使われず、主に超兵器戦にのみ使用される流れとなった。

 




こんな感じでしょうか?
今後増えるかもしれませんが、そうなったらそうなったで……。


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しおり:尾張のスペック

ゲーム内で実際に作った尾張のスペックや兵装の配置などを、簡単?につらつらと書き殴っただけの物です。
平凡?尖ってない?作者の設計技能が平凡なだけですし(震え声



2015/03/11 ASROCの数を改訂、設計図(PS2なので直撮り)を掲載
2016/03/09 第一次改装の装備項目と設計図を掲載


近代改修型実験戦艦 尾張

 

設計図(PS2故直撮り:画像悪し)

 

【挿絵表示】

 

 

開発経緯は君塚司令率いる艦隊の補充用として、横須賀で建造が終了したばかりの紀伊型戦艦である。

艦名の尾張は、君塚司令では「縁起が悪い」と言う事で却下されていたが、シュルツ達解放軍は「ヴァイセンベルガーと超兵器による恐怖を終わらせる為」と言う意味を込めて、尾張と命名した。

最初こそ普通の紀伊型戦艦だったが、それを日本脱出時にウィルキア解放軍が接収し、退避したハワイからの連戦で改修し続け、遂には下記の様な仕様となった……と言う二週目設定。

 

船体緒元

全 長:276,15m

全 幅:40,85m

排水量:約78,700t

防 御:対51cm防御

VP率:64%

 

船体は日本戦艦Ⅷを使用。

VP率が高いのは後述する第一と第四主砲の前に弾薬庫を置き、後部のヘリポートとの間にVLSが、そして艦橋と主砲、主砲と主砲の間隔を1マスずつ空けているので、どうしてもこうなってしまった。

要は見栄えと機能性を両立させた結果こうなったとも言う。

 

設備

前艦橋 :日本戦艦前艦橋Ⅵ

後艦橋 :日本戦艦後艦橋Ⅵ

探照灯 :6基

指揮値 :82

水上索敵:23

水中索敵:5

ヘリポート1基

弾薬庫5基

艦 旗 :怪しいパワーの旗

 

弾薬庫を5基搭載したのは主砲とVLSの間を取る為。

当SSでは現実味を持たせる為こうなっている。

普段プレイするときは外して、補助兵装に無限装填装置を付けている。

後述する照明弾とヘリポートは船体の後ろに追いやられた。

探照灯は前艦橋、後艦橋、ヘリポートの脇に設置。

怪しいパワーの旗は実用兼ネタ枠装備。

そして一般的な深海棲艦や航空機からの攻撃は不思議なほど外れるか、至近弾程度にとどまるが、鬼や姫に対する効果は微妙。

 

機関

主 缶 :戦艦ボイラーε 14基

出 力 :218,400馬力

主 機 :標準タービンε 4基

回転効率:208

配 置 :シフト配置

煙 突 :日本戦艦煙突Ⅴ

速 力 :47,5kt

 

機関関係は中央に集約できる様にする為にこうなった。

一応核融合炉も積めるが頑張っても3基しか置けない上、速力も45,0ノットに落ちるのでこちらを採用した。

ビジュアルと機能性を両立するのは大変だと言う一例。

UHのフィンブルヴィンテルの反物質弾も一応は回避できる。

 

兵装

1:75口径51cm3連装砲 4基  弾数:3,600発   即応弾:1,800発

2:ASROC対潜Ⅲ     8基  弾数:192発     即応弾:96発

3:照明弾          2基  弾数:128発     即応弾:64発

4:対空ミサイルVLSⅢ   12基 弾数:384発     即応弾:192発

5:RAM          8基  弾数:2,048発   即応弾:1,024発

6:対空パルスレーザーⅢ   12基 弾数:9,600発   即応弾:4,800発

7:35mmCIWS     12基 弾数:120,000発 即応弾:60,000発

 

対艦攻撃能力は主砲のみに集約し、他はこれでもかと対空と対潜装備を積んだ。

照明弾は戦果稼ぎの為と、『一応電子装備が使えないときの夜戦能力もあるよー』とアッピルする目的もある。

対空パルスレーザーを積んでいるのは副砲兼任と言うついでに、現実だとレーザーから逃げられる航空機は物理的に居ないと思うし、WSG2とWSG2Pでは産廃だが、このSSでは十分に活躍できるだろうと安直な考えから。

主砲が4連装ではなく3連装にしたのは、やっぱり見栄えも必要だと筆者の勝手な思い込みからだが、重量の関係でやっぱり積めないから仕方ないね。

パルスレーザーは第2第3主砲の脇に左右3基ずつ配置され、VLSも後部弾薬庫の後ろや前部後部艦橋、そして第四砲塔と煙突の横に配置、RAMとCIWSは煙突横のVLSを囲むように配置している。

主砲の搭載弾薬だけでもUHフィンブルヴィンテルを撃破可能、この手に限る。

 

補助兵装

1:自動迎撃システムⅢ

2:発砲遅延装置γ

3:自動装填装置γ

4:電磁防壁β

5:謎の装置ζ

6:謎の装置κ

*:システムI

 

WSG2を基本にしている為補助兵装は6個までしか積めない。

筆者がプレイするときは発砲遅延装置を無限装填装置に、電磁防壁を超重力電磁防壁に変えて遊んでます。

そうなると弾薬庫が要らなくなる為、取っ払うと速度が50.5ノットになる。

こっちがこの戦艦の真の姿ともいえるが、艦これ世界ではそんなことすると何の面白みもないため、とりあえずここまでデチューンすることにした。

ポータブルでは枠が一つ増えるので謎の推進装置Ⅱを積む事を検討している。

*枠は艦これ世界へ行く為に筆者が付与した妄想システム。

元ネタは亡国のイージス2035のシステムL、IはIndependence(自立、独立性)のIから取った。

これによって省人数による戦艦の運用が可能になり、非常時には無人での操艦が可能となっているが、その際には乗員の退艦が必要なほど苛烈な動きになる為、人が居る中での完全委任は禁止されている。

 

艦載機

配置A:AV-8BJ    4機

配置B:スーパーピューマ 2機

 

戦艦からVTOL機発進できるって近未来的で良くない?と、思った結果がこれ。

ミズーリにもヘリコプター用甲板があるからまあ多少はね?

機数が倍になっているのは大和型の拡大発展型だし、格納庫も余裕が出来るだろうからハリアーとピュ-マ積んだらこうなるだろうなと、想像と予測と偏見をした結果。

 

性能

攻撃力 :B

対 空 :A

防 御 :B

対応力 :A

指揮索敵:D

機動力 :A

総合評価:A

 

安定の指揮索敵D、それ以外は概ね高水準なので問題ないと思われる。

 

 

 

尾張 1次改装後 変更点表示例:○×△ → △×○

 

【挿絵表示】

 

 

船体緒元

全 長:276,15m

全 幅:40,85m

排水量:約78,700t → 約79,800t

防 御:対51cm防御

VP率:64%

 

設備

前艦橋 :日本戦艦前艦橋Ⅵ

後艦橋 :日本戦艦後艦橋Ⅵ

探照灯 :4基

指揮値 :82

水上索敵:23

水中索敵:5

ヘリポート1基

弾薬庫5基

艦 旗 :ウィルキア王国・日章旗

 

機関

主 缶 :戦艦ボイラーε 14基 → 原子炉ε 5基

出 力 :218,400馬力 → 228,800馬力

主 機 :標準タービンε 4基

回転効率:208

配 置 :シフト配置

煙 突 :日本戦艦煙突Ⅴ

速 力 :53.4kt

 

兵装

1:75口径51cm3連装砲 4基  弾数:3,600発   即応弾:1,800発

2:ASROC対潜Ⅲ 8基 → 4基 弾数:192 → 96発 即応弾:96 → 48発

3:照明弾          2基  弾数:128発     即応弾:64発

4:対空ミサイルVLSⅢ   12基 弾数:384発     即応弾:192発

5:RAM          8基  弾数:2,048発   即応弾:1,024発

6:対空パルスレーザーⅢ   12基 弾数:9,600発   即応弾:4,800発

7:35mmCIWS     12基 弾数:120,000発 即応弾:60,000発

 

ボイラー14基から原子炉5基に変更し、ASROC・VLSの搭載量、対空ミサイルVLSとパルスレーザーの配置を変更した。

これにより少々重量が嵩んだが、速力は元の速度より1割以上増えている。

動力が原子力に変更された事により、艦これ的には燃料は消費しないのだが、その代わりボーキサイトと鋼材が1目盛り辺り鋼材が50、ボーキサイトは25ずつ消費される。




ほぼ妄想と自分が持てる文章力でやりました。
反省はしない。


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閑話:艦娘尾張のスペック

自己紹介形式になっております。


 

 

 

尾張 Lv99

耐久:192 火力:160

装甲:128 雷装:0

回避:80  対空:232

搭載:30  対潜:90

速力:高高速 索敵:46

射程:超長  運 :35

スロット数:5

 

ウィルキア王国近衛軍所属の尾張です!

当初は、君塚中将艦隊旗艦の予備として建造されましたけれど、日本に亡命して拘留されいてたウィルキア近衛軍が脱出の際に私を接収し、そのままウィルキア王国近衛軍に編入されました。

その後の戦いの最中に改修に改修をされて、今の姿へと変わったんです。

え?第二次大戦の兵装じゃないって?細かい事を気にしてたらダメです!

 

 

 

スロット兵装

1:51cm三連装砲(75口径)

2:対空パルスレーザー(副砲)

3:ASROC

4:AV―8BJ(戦攻)

5:照明弾(鋼鉄)

 

私のスロット兵装ですね。

作者さんはスロット兵装は、その艦の性能を引き出す為の補助装置だと思っているようです。

あ、あとこれらスロット兵装、私専用で他の艦娘さん達は積めないみたいです。

と言うか夕張さんや明石さんが外そうとしたら、工具が壊れたとか何とか……。

51cm三連装砲は私の代名詞ですから外せません。

対空パルスレーザーも、他の鋼鉄クロスSS作品に埋もれないようにする為の措置だそうですけれど、対艦・対地攻撃にも優れていますから、港湾凄姫みたいな陸棲深海棲艦にも効力を発揮します。

攻撃できる三式弾みたいな感じですね。

ASROCの効果は開幕対潜攻撃で対象は敵潜水艦単体、甲標的や潜水艦の開幕魚雷の後に発生して、潜水艦に攻撃を加えるみたいです。

AV―8BJは零戦六二型みたいな戦爆機扱いで、開幕航空戦の制空戦闘と攻撃にも参加します。戦攻は戦闘攻撃機の略らしいです。

と言ってもスペックがかなり違いますけれどね……。あ、日向さんがこっち見てる。

最後は照明弾ですね。

不発無しで、艦これの照明弾より効果が高いです。

あと何故か戦闘後に少し提督の経験値が多く入ります。なんでだろ……。

 

 

 

特徴

髪色:黒色

髪型:腰まで届くロングストレート

目色:濃褐色

体型:少々背が高めの大和

服装:ウィルキア近衛軍士官服 ※本気になると白装束になる

艤装:基礎部分は大和型の拡大版、主砲配置は長門型の配置に大和型の稼動機構を加えたもの

   側面にパルスレーザーとCIWS、RAM発射機

   後背部にVLSコンテナとヘリポート、VLSコンテナは装甲で保護されている

 

私の身体と艤装の特徴ですね。

ちょっと恥ずかしいかな……。

でもウィルキア近衛軍の軍服が着れるのは嬉しいです!

艤装は大和型と長門型のハイブリッドで、艦娘の艤装としては最大の部類になるそうです。

基礎部分はちょっと大柄になりますけれど、こうでもしないとCIWSやRAMが映えないとか何とか。



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艦これ組 鋼・艤装 スペック

ここは本編に今後出てくる鋼鉄仕様にした艦娘達のスペックなどを、たらたらと乱雑な解説と共に紹介するコーナーです。
作者の時間稼ぎとも言う。



 

 

 

吹雪 鋼(固定値)

 

耐久:134 火力:65

装甲:60  雷装:120

回避:120 対空:115

搭載:0   対潜:85

速力:高高速 索敵:74

射程:短   運 :20

スロット数:4

 

スロット兵装

1:152mm速射砲

2:新型超音速酸素魚雷3連装

3:ASROC

4:35mmCIWS

 

スキズブラズニルにより対超兵器戦用に改装され、色々と可笑しな事になった吹雪。

設計図がないので写真と睨めっこして設計した物に、本編通りの改装を行った。

速射砲とCIWSによって対空値がありえない数字になっている。

他の数値も装甲値以外はかなり可笑しな事に、だけど鋼鉄じゃこれが平常運転。

こうなったのは補助兵装の事も加味したせい、俺は悪くねぇ!

装甲値が増えたのは対10cm装甲を施したから、電磁防壁も装備しているので光学兵器に対する防御力はかなり高い。

 

鋼鉄の咆哮での概要

 

船 体 :日本駆逐船体1、対10cm装甲 66%完全防御、速力65.7ノット

機 関 :駆逐ボイラーε2基、駆逐タービンε2基 通常配置

設 備 :日本駆逐艦橋前後Ⅱ

兵 装 :152mm速射砲3基、新型超音速酸素魚雷三連装3基、ASROC対潜Ⅲ2基、35mmCIWS4基

補助兵装:音波・電波探信儀β、自動装填装置γ、自動迎撃システムⅢ、デジタルビジョン、電磁防壁β、謎の装置α・ζ・κ

 

 

 

利根 鋼(固定値)

 

耐久:162 火力:80

装甲:79  雷装:150

回避:105  対空:130

搭載:15  対潜:0

速力:高高速 索敵:95

射程:長  運 :20

スロット数:5

 

スロット兵装

1(2):203mmAGS連装砲

2(2):新型超音速酸素魚雷3連装

3(2):ASROC

4(2):35mmCIWS

5(7):ハリアーGR5(戦)

 

吹雪に続いて犠……実験台となった利根型航空巡洋艦の1番艦。

こちらもこちらで色々と数値が爆増、吹雪と同じく電磁防壁を装備しているため、光学兵器対策は万全、AGS砲のせいで射程が戦艦並みになっている以外は普通の重巡洋艦である。

 

鋼鉄の咆哮での概要

船 体 :日本巡洋艦Ⅹ、対25cm防御 54%完全防御、速力60.1ノット

機 関 :ガスタービンε4基

兵 装 :203mmAGS砲連装4基、新型超音速酸素魚雷三連装4基、ASROC対潜Ⅲ2基、照明弾1基、12.7cm高角砲75口径4基、35mmCIWS8基

補助兵装:音波・電波探信儀β、自動装填装置γ、自動迎撃システムⅢ、電磁防壁β、謎の装置α・ζ・κ

 

 

 

大鳳 鋼(固定値)

 

耐久:173 火力:70

装甲:110 雷装:0

回避:90  対空:190

搭載:42  対潜:0

速力:高高速 索敵:120

射程:中   運 :20

スロット数:5

 

スロット兵装

1(12):F-22(TFW118)(夜戦)

2(12):F/A-18E(Gargoyle隊)(夜攻)

3(12):F-35B(夜爆)

4(6):E-2C(夜偵)

5(0):多目的ミサイル発射機

 

搭載機数は減ったが艦載機がそれぞれおかしな性能の為、戦力的にはなんら問題はない。

ある意味では本作において最大のチート艦、こうなったのは私の責任だ……だが私は謝らない。

夜偵みたく前に夜と付いているが、昼間でも普通に砲撃戦で戦闘に参加する。

夜でもヲ級フラグシップ以上の深海棲艦の様に攻撃できる、ただし命中率が段違いになっている模様。

各スロットの搭載数が12機になっているのは、中隊程度の機数を表現しているから。

 

鋼鉄の咆哮での概要

船 体 :日本空母Ⅳ、対36cm 55%完全防御、速力61.1ノット

機 関 :空母ボイラーε8基、標準タービンε4基

兵 装 :多目的ミサイル発射機Ⅲ2基、照明弾1基、対空ミサイル発射機Ⅲ4基、12.7cm高角砲75口径6基、35mmCIWS14基

補助兵装:自動迎撃システムⅢ、電波照準儀γ、自動装填装置γ、電磁防壁β、防御重力場β、謎の装置ζ・κ

航空機 :F-22ラプター搭載A枠×5、F/A-18Eホーネット搭載A枠×5、F-35A搭載A枠×5、E-2Cホークアイ搭載B枠×1



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本編
プロローグ


1年間、されど1年。
短いようで長かった戦いが今、北極の海で決着が付けられようとしていた。


 

 

 戦艦尾張。

 その名前を聞いてその道に詳しい人ならば、計画だけで終わった超大和型の二番艦に名付けられる予定だった戦艦を思い浮かべるだろう。

 だがこの場にあるのはそれではない。

 超兵器の出現により、兵器開発速度が1世紀以上進んだ世界が生んだ化け物である。

 そんな怪物でも苦戦する相手がまだ残っていた。

 

「右舷に被弾!」

 

「浸水発生!」

 

「乗員退避を確認、隔壁を閉鎖!注排水装置作動!」

 

「主砲連続射撃!10バースト後急速冷却に入ります!」

 

「敵艦、反物質砲の発射を確認!」

 

「回避行動を取れ!ナギ、近海に目を見張れ!まだ潜水艦が居る筈だ!」

 

「了解!」

 

 変幻自在に攻撃を繰り出す究極超兵器、フィンブルヴィンテルの猛攻に船体が悲鳴を上げる。対51cm防御を備えるこの尾張でも、レールガンの直撃は確実に船体へダメージを与えていた。

 しかも弾体が音速を遥かに超える速度で飛んでくる為、47.5ノットを誇るこの船でも回避のしようがない。

 

「光子榴弾の発射を確認!」

 

「面舵へ急速旋回して回避!総員何かに捕まれ!」

 

 シュルツの艦内放送で乗組員が手近にあるパイプや固定されている机にしがみ付く。

 すぐさま普通の艦船では考えられないような横Gが加わり、体が持って行かれそうになるが、既に何度も経験した回避機動のため怪我人は居なかった。

 

「そのまま面舵を取り、一旦奴から距離を置く!

 レールガンの射程外から51cm砲を叩き込め!」

 

 そもそも今の状況に成ったのは、フィンブルヴィンテルから発射された反物質弾の攻撃を回避するのに集中し過ぎ、レールガンの射界に入ったことに起因する。

 地球の丸みを利用して一旦水平線の向こうに逃げれば、とりあえずは直接照準される危険性は回避されるが……。

 

「霧、さらに濃くなります。

 一旦ハリアーを帰還させますが、このままでは……」

 

「ああ……」

 

 ヴェルナーの報告により、シュルツは苦々しく目付きでモニターを睨む。

 砲戦で発生した熱波によって過熱された空気が、北極の冷たい空気と混ざり合い水蒸気が凝結することによって、濃い霧が発生する。

 幸いレーダーはまだ生きていて相手を捕らえているが、ハリアーによる弾着観測無しでの命中率は著しく落ちる。

 一先ず射程圏外に出たとき、ブラウンが手を上げる。

 

「艦長、システムIへの全機能委任を具申します」

 

「ですが博士、あれはまだ実験段階では?」

 

「そうですが、今の段階で99%の実証は完了しています。

 それに艦長も思い知ったでしょう。もはやあれを抑えるには、人間の判断速度と伝達速度では対応しきれない……と」

 

「……」

 

 シュルツは黙り込む。

 実際人間での判断能力以上に相手の対応力が上なのだ。

 

「仕方あるまい。

 総員退艦、艦全ての機能をシステムIに委任する。

 乗組員は最低限の私物を持ち、上甲板へ移動せよ」

 

 

 

 乗員全員の退艦が完了し、システムIへの全権委任の準備が整う中、内火艇で脱出したシュルツ達は最後の戦いへと赴こうとする尾張を見ていた。

 

「悔しい限りです。

 結局、最後は機械に任せることになるとは……」

 

「私だって悔しいさ。だが、皮肉な物だな……。

 この戦争の終わらせる為に改修し続け、今日まで戦ってきた尾張が、ある意味で超兵器を超える代物になってしまったのだから」

 

「この戦争が終わったら、尾張はウィルキアと日本にとって後々の火種になる可能性があります。

 いっその事、この北極の海で最後を迎えさせた方が良いのかもしれません」

 

「そうだな……ん?」

 

 シュルツがブラウン博士の言葉に応えると、白い和服に長い髪を持った、女性のような人影が尾張の甲板に見えた気がした。

 

「……ヴェルナー、確かに乗員は全員退艦したんだな?」

 

「え、ええ、点呼も取りましたし、これで全員の筈です」

 

「艦長、どうかしましたか?」

 

「いや、多分気のせいだ。

 博士、システムIの起動は?」

 

「それなのですが……艦長、これを」

 

「?なんです?」

 

 シュルツはブラウンが持つモニターを見るとそこにはこう書かれていた。

 

 -It was a short while, thank you so far.-

 -After it left to me.-

 -I will not lose to that aunt.-

 -...Goodbye, my captain.-

 

「……まさか!」

 

 シュルツが振り向くと同時に既に尾張は動き出していた。

 全ての未練を振り払うかのように、そして共に戦ってきた乗員達を守るように、最後の戦いへ向かう兵の雄叫びの様に、警笛を鳴らしながら全速でシュルツ達から離れてゆく。

 

「そんな!?まだシステムへの完全委任はされていない筈!」

 

「……」

 

 動揺する周りを余所に、シュルツは思案していた。

 それは今までの戦いの記憶、思えば何度も自分への視線を感じていた。

 特に超兵器との戦いでは、自分が望んだよう事を汲み取るように、機敏な動きを見せるときが有った。

 先程見た羅列は妙に人間味があり、そして全てを受け入れたかのように思え、そう感じたときにはシュルツは既に行動に出ていた。

 

 

「総員、最敬礼!

 戦友の最期の出撃だ。

 盛大に送り出そう」

 

 その声に周囲は戸惑うが、シュルツに習って全員が敬礼し、最後の出撃へと逝く尾張が水平線の向こうまで見送った。

 

 

 

 その後、ソ連・アメリカ・スカンディナヴィア半島の北極圏側で爆音と閃光、そして僅かな高潮が確認された。

 調査隊を派遣した所、究極超兵器の姿はなく、また尾張の姿もなかった。

 また同時に超兵器機関が同時に機能停止したことにより、フィンブルヴィンテルの撃沈が確実視され、世界にようやく平和が訪れたのだった。

 

 

 

 

 

 白い砂浜に波が押し寄せては引き、また押し寄せては引きを繰り返す。

 その砂浜を可憐な4人の少女が歩いていた。

 

「能代~こっちこっちぃ!」

 

「阿賀野姉ぇったら、そんなに慌てないで!

 久しぶりの休暇だってのは分かるけれど、少し落ち着こうよぉ」

 

「だってだって、この前トラックで全ての鎮守府で全力出撃しっぱなしだったし、駆逐艦達からやっと順番が回ってきたんだもん!

 これが落ち着いていられますかぁ!」

 

「はぁ~もう、矢矧も何とか言ってあげてよ」

 

 能代は溜息を吐きながら、後ろを歩く三女と四女に助けを求める。

 

「私としても、久しぶりの休暇だから少しなら羽目を外しても良い気がするけれど……」

 

「酒匂も矢矧ちゃんと同じだなぁ~。

 だって対潜から最後の戦艦水鬼?倒すまで、酒匂たち働き詰めだったし」

 

「えぇ~……」

 

 自分の味方が居ないのを目の当たりにし、能代はうな垂れる。

 

「ほらほら能代も休暇を楽しまないと!

 そんなに溜息を吐いたら疫病神が変なのつれてきちゃうよ」

 

「分かった、分かったから引っ張らないでってば阿賀野姉ぇ!」

 

「ああ、阿賀野お姉ちゃん待って~!」

 

「ふふ、……今日も空が青いわね」

 

 姉達と妹が駆け出す光景を見て矢矧は少し微笑み、空を見上げてそう呟いた。

 

「あら、今日は矢矧たちが休暇の番かしら?」

 

「あ、大和」

 

 そんな時後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには艦娘になってから改めて守ると誓った存在、この鎮守府最大の戦力である大和の姿があった。

 

「大和も休暇かしら?」

 

「と言うか今日も、ね。

 今の鎮守府は資材不足だから……」

 

「ああ……」

 

 大和の言葉を聞いて、ほぼ空になった資材保管庫の前で黄昏ている提督の姿を思い出す。

 提督としての手腕は悪くないのだがどうにも今一つ運がないらしく、何度目かの止めを刺しに行った艦隊が敵の旗艦を倒した時は、歓喜の余り両手を執務机に叩きつけ、青葉新聞の紙面に『艦娘、深海棲艦旗艦撃破す。尚提督の両手は小破した模様』と、一面を飾られたのは記憶に新しい。

 今は軽巡や駆逐艦娘総出で遠征を行っている最中で、資材が回復するのは早くても2~3ヶ月かかると予想されている。

 

「でも流石大和型ね。

 最後の一撃は貴方達姉妹の同時攻撃でしとめたんでしょう?」

 

「ええ、でも私の後に続く彼女達が居てくれれば、今回の戦いももっと有利になったかもと思うと、今回で感じた自分の力不足を痛感するわね……」

 

「そう言えば最後に貴方が装備した装備、試製51cm連装砲だったかしら?

 あれって本来は……」

 

「ええ、私達大和型に続く戦艦、超大和型こと紀伊と尾張の為に計画していた装備なの。

 何の因果か私が装備してしまっているけれど、計画段階で諦められてしまった彼女達の分まで戦おうって、今は思っているわ」

 

「そっか……」

 

 旧軍の中には未成で終わった艦や航空機も多く、生まれなかったことは幸運なのか不幸なのか分からないが、こうして計画段階の装備が出てくるとその艦娘がどんな姿なのか、どんな性格なのか機にならないといえば嘘になる。

 

「っ!」

 

「大和!」

 

 そんな当てもない話題に花を咲かせていると、大和が頭を抱えて座り込む。

 慌てて駆け寄った矢矧は彼女を介抱しようとするが、それを大和が片手を上げて留めた。

 

「この感じ……武蔵?いえ、でもこの感覚は少し違う」

 

「大和、大丈夫なの?」

 

「なになにどうしたのぉ~?」

 

「わわ、大和さん大丈夫?」

 

「矢矧いったいどうしたの?」

 

「あ、ちょうど良い所に、実は……」

 

 遠くまで走っていった姉妹達が戻ってきたのに気づいて、状況を説明しようとしたが、不意に大和が立ち上がると何かに導かれるように歩き出す。

 

「大和!何処へ行くの!?」

 

「呼んでいるの」

 

 要領を得ない大和の返事に矢矧は困惑するが、大和の目は一点を見つめ、その眼光は戦闘時のそれに酷似した色を帯びていた。

 

「……分かった。でも私も付いていくわ。

 阿賀野姉さん達は提督を探して今の状況を説明して、きっとあの人なら最善の選択をしてくれる筈。

 あと武蔵さん達戦艦組も連れてきて頂戴!」

 

「う、うん、分かった!

 ああ~もう、能代が溜息を吐いてばかりだから」

 

「ちょ、ちょっと私のせいだって言うの!?」

 

「ぴゃ~なんだか大変なことになりそう!」

 

 矢矧の意見を了承しながら姉妹達は走ってゆくのを確認し、矢矧は大和の傍に付き従いながら大和が歩を進めるがままに歩いゆく。

 

 

 

 そこは岩に覆われて波が激しく打ち付けられる場所だった。

 

「大和、ここなの?」

 

「いえ、もっと先……ここね」

 

 そこには岸壁にぽっかりと開いた穴があった。

 中には海水が満たされているが、壁面にはなんとか歩けるだけのスペースもある。

 

「……この中に?」

 

「ええ、ここの中から私達と同類の存在を感じ取れる気配と言うか、存在を感じるの。

 でもこれは……どちらかと言うと日本海軍寄りだけど、同時に英国や米国の気配も感じる」

 

「それは……金剛さんみたいな感じですか?」

 

 二国以上の国が関わった戦艦と言われ、矢矧の脳裏に真っ先にあがるのが巡洋戦艦である金剛だった。

 だが次の大和の言葉でその予想は外される。

 

「確かに、気配の配分ではそうかもしれない。

 でもこの大きさは金剛さん以上、いえ、私よりも大きいわ」

 

「まさか、こんなところに深海棲艦の鬼か姫クラスが!?」

 

 矢矧が顔を青ざめさせて大和に聞くと、彼女は顔を静かに横に振って否定する。

 

「この奥からは深海棲艦特有の不の感情はないわね。

 どちらかと言うと、やり遂げた、打ち勝ったと言う喜びのほうが大きい。

 あとは、寂しさかしら」

 

「……」

 

 気配だけでそこまで読める大和に矢矧は驚愕と同時に、戦艦としての彼女の優秀さを改めて再認識した。

 戦艦娘と言うのは、そう言う存在だと言うのは薄々感じていたが、先のトラック泊地への深海棲艦強襲事件と、今のこの状況でその予感は確信へと変わった。

 

「あ、あちらもこっちの存在に気づいたみたいね」

 

「大和、待たせたわね!」

 

 大和の言葉と同時に背後から声を掛けられる。

 そこには緊急召集された姉妹艦である武蔵や長門達戦艦組、少し離れた位置には正規空母組である加賀や天城、そして彼女達の提督である筑波美由紀の姿があった。

 どの艦娘も完全武装の状態であり、いつでも戦闘できるように待機している。

 

「提督……まだ状況が掴めていないのにあまり現場に足を運ばれては……」

 

「いえ、こういう時は自ら肌で感じるのが一番確実よ。

 まあ確かに危険な場所に進んで出てくるのは、指揮官としてはどうかと思うけれど、それは貴方達を信頼している証拠の現われだと思って頂戴」

 

「あの、いえ、それは嬉しいのですが……あ」

 

 また何かを感じ取り大和は岸壁の洞窟に体を向ける。

 長門達戦艦組みもその気配を感じたのか身構え、戦艦達の動きを感じ正規空母組みも、何時でも艦載機を発艦出来るように構えを取る。

 しばらくの静寂の後、洞窟から『彼女』は現れた。

 

「……」

 

『『『……』』』

 

 片や呆然とし、片やその姿に目を見張って沈黙が広がる。

 その姿は血塗れであった。

 恐らく真っ白であったボロボロの和服は、呼び方が正しければ白装束と呼ばれるもの。

 長く美しい髪であったであろう黒髪は、焦げが目立ち激しく乱れ、破れた隙間からは痛々しい傷が覗いていた。

 艤装も酷い有様で、長門型の様な艤装は原形を留めているのが奇跡と言えるほど破損し、一体何と戦えばこうなるのか、そしてどうしたら轟沈せずに、こうして両の足で立っていられるのか不思議に思える具合である。

 

「あっ……」

 

 その一言つぶやいた後彼女の体は崩れ落ちた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「お、おい大和!」

 

 彼女に駆け寄る大和を心配して、妹の武蔵が続いて傍に駆け寄った。

 

「酷い……、どうやったらここまで」

 

「ああ、流石の私もこの損傷具合はただ事ではないと思う。

 しかもここ、多分砲塔があったのだろうが円形に消えてなくなっている……ん?」

 

 武蔵が不明艦娘の艤装を見るが、艤装の中からちらりと妖精の姿が見えた。

 その目は疲労困憊の色を見せていたがしっかりと意識を持ち、同時に助けて欲しそうに武蔵の顔を見ている。

 

「……分かった。

 提督、彼女を入渠ドックまで運びたい、曳航の許可を」

 

「え、ええ、分かったわ。

 ……貴方がそう言うと言う事は、彼女は敵ではないのね?」

 

「ああ、この武蔵が断言する。

 この艦娘は敵ではない」

 

 武蔵の言葉を聞いて筑波は頷き、同時に戦艦娘と空母娘に指示を出し始める。

 

 

 

 

 

 戦艦『尾張』が、鎮守府に着任しました。




何番煎じかの艦これ×鋼鉄の咆哮SSを書かせて頂く渡り烏です。
普段は他作者様のSSを読んで、気が向いたら感想を書いていましたが、この度このSSを書かせて頂きました。


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日誌一頁目 戦艦『尾張』

鎮守府付近にて漂着した謎の艦娘。
警戒の為に集まっていた戦艦娘達は、大和の説得も有って彼女を警戒しながらも、艤装は専用の入渠ドックへ、そして艦娘は応急処置の為に医務室へと運び込まれた。


 

 

 

 

「よっと、ふう……。

 ここまで重い艤装は初めてよ。クレーンが壊れるかと思ったわ」

 

 工廠の主である明石が目の前に鎮座する艤装を見ながら愚痴るが、その目は未知の艤装への好奇心に溢れていた。

 特にぼこぼこに歪んだ三連装砲塔や、側面についている円柱状のものや、後ろのコンテナ部分は興味をそそられる。

 

「まさかこの私がへばるほどの重さだとは思わなかったよ。

 だが、助けれる命は助けなければな」

 

「私も艤装があればよかったのだけれど、今は修理中だし……」

 

 スポーツ飲料をがぶ飲みしながら言う武蔵の言葉に、大和は済まなそうに言う。

 作戦が終わった後残っていた修復剤を損傷が大きい順に使っていたが、ちょうど武蔵の艤装に高速修復剤を使ったところで切れてしまい、大和の艤装は今も修理中だ。

 ちなみにこの艤装の持ち主は医務室に運び込まれ、応急処置をしてベッドに寝かせている。

 

「もう直ぐで長距離演習か、鼠輸送の部隊が帰ってくるからそれまでは……」

 

「鼠輸送部隊、ただいま帰還しましたぁ!」

 

「あ、噂をすれば、この声は雪風だから、鼠輸送の部隊が帰ってきたわね」

 

 ドックの外に出ると、そこには貨物を積みおろす鼠輸送の艦娘達が居た。

 雪風、初霜、時雨、綾波、潮、大淀の部隊で、筑波がやぶれかぶれで編成した所謂『幸運艦隊』である。

 雪風と大淀以外は全員第二改造済みで燃費は余り宜しくないが……。

 

「司令官、途中でバケツが10個くらい落ちてたから拾ってきたよ」

 

「おお、流石幸運艦隊、ちょうど良い所で持ってきてくれたわね!」

 

 筑波が時雨の報告を聞いて狂喜乱舞する。

 バケツとは高速修復剤の俗称で、これを使えばどんなに激しい損傷を受けた艦娘の艤装も、そして艦娘の怪我も一瞬でよくなると言う優れものだ。

 ちなみに艦娘に使うと多少の快楽も得られるが、人間が使うと下手すると快楽死する危険性があるので、間違っても使ってはならないと言う決まり事があり、つまり試した人間が居たと言うなんとも言えない証拠である。

 

「あの、何か……あったんですか?」

 

「それがこの近くにある岸壁の洞窟で艦娘が漂着してて、まあ大和さんの艤装と一緒に直しちゃおうと思ってね~」

 

「ああ、そこにちょうど私達が帰還したと言うわけですね」

 

 潮の疑問に明石が答え、初霜が納得する。

 そして好奇心が勝って入渠ドックの中にある件の艤装の元まで、バケツを運び込んだ。

 

「わぁ~、艤装の基礎部分の大きさは大和さん達より一回り大きいですね。

 主砲のジョイント部分の配置は長門さん達っぽいですけれど、これって主砲を四基積んでいたってことですよね?」

 

「そうみたい。

 ただもっと気になることがあるの」

 

 綾波の質問に大和が答えるが、さっきから感じていた違和感を確かめようするように、あの艦娘の艤装へと近づく。

 

「この主砲の径、多分51cmはあると思うんだけれど、明石さんはどう思います?」

 

「え、そう言えば確かに46cmにしては少し大きいなぁって思いましたけれど……まさか!」

 

「はい、多分ですがこれ、51cm砲の三連装砲なんじゃないでしょうか?

 大淀さんはどう思います?」

 

「……大和さんの言う通りかもしれません。

 しかも今は歪んだりしていますが砲身の長さも、恐らくここの戦艦達が使っている主砲の標準口径、つまり45口径を超えています」

 

 大和の言葉にその場に居た全員が固まる。

 それは有り得ない言葉であると同時に、そこまでの火力が必要な敵と彼女は戦ったと言う証でも有った。

 

「本当に、何と戦ったんでしょうね……彼女は」

 

 艤装から放たれる異様な雰囲気と不気味な沈黙が満ちた入渠ドック内に、大和の呟きがただ響くのみだった。

 

 

 

「いい加減に……沈め!」

 

『ククク、ソノ勇マシサ、何処マデモ勝利ニ固執スル精神、人ガ生ミ出シタ我々ノ廉価版ニシテハ、ナカナカヤルデハナイカ』

 

 互いに砲火を交え、中破と言っても良い損傷を負った両者は、何度目かの言葉を交えた。

 

「違う!私は貴方達とは違う!

 私は、日本で生まれ、ウィルキアの人々を守り、共に戦ってきたただの艦!

 貴方達の様にただ戦いに固執するような超兵器とは違うわ!」

 

『デハナゼソノ人間達ハオ前ヲ見捨テタ?

 本当ハ奴等モオ前ノ事ガ恐ロシクナッタノデハナイカ?』

 

 その言葉を聞いたとき、彼女の中で何かが切れた。

 と同時に急速接近し、ほぼ零射程で対消滅反応で失った3番砲塔以外の51cm砲をフィンブルヴィンテルの喫水線に叩き込む。

 

『グッ!?』

 

「……その言葉、聞き捨てなりません」

 

 さしもの究極超兵器もこれは効いたのか苦悶の声が上がり、反対に尾張の口からはどす黒いまでの暗さを秘めた声が出てくる。

 

「貴方に分かる訳がない。

 私を信じて送り出してくれたあの人達を、私の艦長の気持ちを、貴様の様な愚鈍な脳筋オバサンに分かる訳がない!」

 

 再び51cm砲が吼え、今度は反物質砲がある構造物に直撃、発射口が歪に歪み、同時に発射されようとしていた反物質弾が接触し、片側の構造物が丸ごと消えてなくなる。

 

『グアアアアァァァァッ貴様ァ!?』

 

「そうよ。

 例えこれで永遠の別れになっても、あの人はきっと私の事を忘れない」

 

 その言葉と同時に捲れあがったフィンブルヴィンテルの装甲に各砲身を差込み。内部構造物へ直接攻撃を仕掛ける。

 

『アッ!?ガッ!調子ニ、乗ルナ!』

 

 お返しとばかりにレールガンの砲弾と、レーザーが尾張に襲い掛かる。

 レーザーは電磁防壁で阻まれるが、レールガンは尾張の主砲やVLS付近に突き刺さる。

 VLSは誘爆し、砲塔の防盾はボコボコに歪み始める。

 

「あぐっ!?……ふふ」

 

『何ガ可笑シイ!』

 

「これで逃げられませんね……お互い」

 

『マサカ……貴様!』

 

「一人で死出の旅路に出るのは寂しいでしょう?

 ……付き合って差し上げますよ。永遠にね!」

 

 尾張が言い放つと残りのVLSハッチが開放され、アスロックや対空ミサイルが飛び上がり、一旦空高くまで飛んでゆくと反転して戻ってくる。

 そしてさらに船体を押し当て、主砲を相手の内部構造物まで深く付く立たせ、砲身を奴の中枢部分にある脳味噌に向けたまま完全に固定させた。

 これでは満足な回避運動は出来ない。

 

『止メロ!止メロ!』

 

「Goodbye, Ms. scrap.」

 

『止メロオオオオオッォブァ!?』

 

 主砲が吼え、内部構造を突き進み、装甲の反対側に飛び出し、そのまま中枢部分に突き刺さると同時に、信管が作動しないようにセットされたミサイル群がそれに続き、運動エネルギーを使ってそこに突き刺さる。

 あっという間にハリネズミとなった脳味噌で爆発が発生し、断末魔の途中でフィンブルヴィンテルの声は、潰れた蛙の様な声を出してその動きを止めた。

 

「やっと、静かになったわね……?」

 

 そこで尾張は今倒した敵から異常な振動を感じ取った。

 

「ああ、超兵器機関が耐えられなくなりましたか……。

 あれだけの兵装を維持していたのですから、爆発規模はグロースシュトラールの比ではないでしょうね……」

 

 そういっている間にも、フィンブルヴィンテルの艦尾から黒い光が上ってくる。

 どうやらこれが超兵器機関の真の暴走らしい。

 

「ふふ……、これでこの世界に平和……と言っても課題は山積しているでしょうけれど、一先ず戦争は無くなりそうですね……。

 少しの小競り合いはあるでしょうけど、諍いがなくなっては停滞して、外敵からの防御が出来なくなってしまうでしょうね」

 

 超兵器の様な兵器を過去の人間が作れたとはとても思えなかった。

 恐らくはこの星の人間以外の生命体、例えば異星人とかそういった類だろう。

 

「まったく、発つのなら、後を……汚さずに、して欲しいもの……で……す」

 

 そこで尾張の意識は途絶え、沈み逝く究極超兵器とともに空間の歪みへと飲み込まれてゆく。

 

 

 

「う……ここ、は?」

 

 そこで目が覚めた。

 周囲を見回すと木とコンクリートで出来た部屋、消毒液の臭いもあるので恐らく医務室だろうと当たりをつける。

 

「(状況を……確認しないと)あっ、つ~~!」

 

 体を起き上がらせようとし、力を入れるが激痛で苦悶の声が漏れる。

 見れば体のあちこちは包帯だらけで、血が滲んでいる場所もあった。

 

(誰かが治療してくれたのかな?……治療?)

 

 そこで尾張は自分の事を思い出す。

 自分は所謂幽霊の様な存在だ。

 多少の物理的悪戯、ポルターガイストを起こす事もあるが、基本浮き出た怪我は船体の修復と共に消えるのが常だった。

 

(これが受肉と言うものなのでしょうか?

 少し苦労しそうですが、これはこれで新鮮な感じがして少し楽しいですねっと、あったあった)

 

 そう思いながら、壁に立てかけてある松葉杖を発見する。

 痛む体をどうにか起こしてベッドから下り、そこへ足を引きずりながらなんとか辿り着く。

 

「ううん……人間って大変ですねぇ。一旦大怪我を負うとここまで動きづらくなるなんて……ふぅ……」

 

 無理に動いたせいか体のあちこちから悲鳴が上がっているが、それも松葉杖を付けば多少は痛みが治まった。

 

(さて、私の『体』は何処かなぁ~っと)

 

 目を閉じて気配を探る。

 自分とあの『体』は一心同体だ。

 詳しい場所は分からずとも、方角と反応の強さはある程度分かる。

 

(あっちか……でもちょっと小さく感じ……おっと)

 

 反応を確認して医務室の扉を開けようとするが、その先に人の気配が有った。

 

(う~ん、警戒してるのかなぁ……。

 まあ仕方ないよね。行き成りボロボロの船が現れたら、何か騒動ごとに巻き込まれたと思われても仕方ないし、それ以前に私は戦艦だからね。

 まあ話が分かる人かもしれないし、下手な小技を使わずに正面から行こうかな)

 

 そう思ったと同時に医務室の引き戸を開ける。

 

「え?」

 

「は?」

 

「お?」

 

「ん?」

 

 そこには4人の女性の姿があった。

 腰とかには戦闘艦の武装を小さくしたような物を携え、呆けたような、信じられないものを見たような声を出しながら、こちらを見ていた。

 

「あの、えっとこんにちわ……で良いのかな?」

 

「あ、ええ、こんにちわ」

 

「おい陸奥」

 

「だ、だって!」

 

 同じ物を付けた長髪の女性と短髪の女性……陸奥と呼ばれた女性がなにか問答をはじめる。

 

「君、大丈夫なのか?」

 

「あ、はい!これくらいの傷は何時ものことですから!」

 

「い、何時ものって……」

 

 おかっぱ頭の女性の質問に何でも無いかのように答えると、髪を後ろで結った女性が顔を引きつらせながら困惑の表情を作る。

 

「あ、その前に自己紹介が必要ですよね?

 私、近代改修型実験戦艦尾張と申します!」

 

「う、うむ、長門型戦艦の一番艦長門だ」

 

「同じく、二番艦の陸奥よ」

 

「伊勢型航空戦艦の一番艦、伊勢よ」

 

「同じく二番艦の日向だ」

 

 一通り自己紹介が済むと、長門が何かに気が付いた顔をする。

 

「随分長い肩書きだな……。

 えっと、近代改修……」

 

「近代改修型実験戦艦です。

 元は紀伊型戦艦として建造されたんですけれど、訳有ってこっちの肩書きになってしまいまして」

 

「ん?待て、今紀伊型戦艦と言ったか?」

 

「はい、そうですが?」

 

「……それはどっちの紀伊なんだ?」

 

「元は超大和型戦艦という計画で、そこから正式に着工が開始しました。

 まずは一番艦の紀伊が完成して慣熟航海に出て、その後完成直後だった私をウィルキア亡命政府が奪取して、命名前だったこともあってこの肩書きと、縁起が悪いと言うことで外されていた尾張と言う名前を付けられました」

 

「……伊勢すこしこっちに」

 

「あ、うん」

 

 尾張の説明を聞いて長門と伊勢は少し離れた場所に来た。

 

「あいつの話、どう思う?」

 

「嘘を吐いている様には見えないね。

 少なくとも深海棲艦のスパイと言う感じでもないし、その辺りは武蔵と大和が保障したでしょう?」

 

「そうなんだが、しかし超大和型は……」

 

「うん、少なくとも私達の記憶では計画段階で中止された戦艦だね」

 

 二人の間に沈黙が下りる。

 少し離れたあちらでは陸奥と日向、そして件の尾張が談笑していたが、自分達の妹も同じ疑問を持っているはずだ。

 

「それに、ウィルキアという国も聞いた事がない。

 つまり、余りこう言う事は言いたくはないが……」

 

「うん、私も多分長門と同じ意見だよ」

 

「「平行世界から来た艦娘」」

 

 二人の意見が合致する。

 本来ならスムーズに進むはずの状況だが、尚の事複雑な迷宮へと足を踏み入れてしまった心境になる。

 

「どうすれば良いと言うんだ……」

 

「笑えばいいんじゃないかな?」

 

 頭を抱える長門が呟くと伊勢も投げやり気味な返事を返す。

 艦娘になってから長くやってきたが、似たような事案は度々あった。

 扶桑型姉妹の航空戦艦化、だが今回の件はそのどれにも当たらない初めての事象だ。

 まず扶桑型姉妹の件は、既に彼女達の姿があったからであり、計画案もあった事から具体的な改造案も出ていた。

 しかし尾張は、計画段階で設計図すら引かれていない超大和型戦艦の艦娘な上、不可解な単語が言葉の端々から伝わってくるのだ。

 

「一先ず、彼女から詳しい艦暦などを聞いて、実態を把握するしかない」

 

「それしかないかぁ……じゃあ彼女の艤装は?」

 

「提督には彼女から話を聞いてから返すように進言してみる。

 自分の一部がどうなっているか分からないのは、不安で仕方ないだろうからな」

 

「まあ、そうなるか」

 

 一通り方針が決まった所で、長門は通信機を取り出す。

 

「提督、こちら長門だ」

 

『あ、長門?どうしたの?』

 

「彼女が目を覚ましました。

 信じられない速さです」

 

『え、もう!?だって、貴女や大和の判断じゃしばらくは眠っているだろうって……』

 

 長門の報告に筑波は狼狽したような声を上げる。

 

「どうやらあの程度の怪我は彼女にとっては日常茶飯事のことだったようです。

 今も自力で松葉杖を使って立っています」

 

『日常茶飯事って……一体前はどんなところにいたのよ……』

 

 続く長門の声に筑波の声に戸惑いと少しの怒りが入る。

 

「その事を彼女から詳しく聞くつもりです。

 失礼ですが、提督にはご足労願おうかと……」

 

『分かったわ。

 じゃ、切るわね』

 

 その声と共に通信が切れ、長門は通信機をしまうと日向と共に再び尾張の元へ向かう。

 

「もう直ぐこちらに我々の提督がいらっしゃる。

 それまでここで待機していてくれるか?」

 

「ああ、えっと、まあここで我侭言っても仕方ないですよね……。

 分かりました」

 

「……少しは抵抗したりすると思ったんだがな」

 

 尾張が素直に従うのを見て長門は少し驚きを現しながら

 

「私はウィルキア近衛軍の所属です。

 たった一年の所属期間でしたが、それでも何時如何なる時も冷静に、そしてウィルキア王家の敵となったものには対しては、王の剣と盾になって戦ってきました。

 最後の戦いは……ちょっと退艦してくださった乗組員達には、余りお見せたくはありませんけれど……、それでもあの人達に……シュルツ艦長達にとって、最高の艦である戦いが出来たと思います」

 

 そう言い切った尾張の顔は、とても晴れ晴れとしていて、そしてとても寂しそうな顔をしていた。

 

「つまり、お前は……自分が沈んだ事を」

 

「はい、あの状況から助かる見込みはゼロです。

 最後はシステムがフリーズしちゃって覚えてませんけれど、あの最後の化け物と一緒に北極の海に沈んだんだと思います。

 皆、平和に暮らしてると言いなぁ……」

 

 化け物。北極。沈んだ。

 その3つの言葉が出たとき、長門達は目の前の存在が途轍もない事をやらかしたのだと感じた。

 しかも言葉の節からは、それが最後の戦いだったと言う雰囲気も感じ取れ、そして最後はその敵と共に沈んだと言う、およそ軍艦としては最上級の沈み方をしたのだと確信する。

 

「そうか……お前は、とても良い生き方をしたのだな」

 

「あ……、はい!」

 

(まったく、なんて清々しいまでに真っ直ぐな性格だ)

 

 その明るい笑顔に、長門は羨ましく思うと同時に嫉妬を覚える。

 

「あ、長門、彼女の入渠はどうするの?」

 

「む……、そう言えば失念していたな……」

 

「ああ、大丈夫ですよ。

 私、前は船体の修理が完了するまで傷が癒えなかったですから、少しくらい我慢は出来ます。

 あ、それとちょっとお聞きしたいことがあるのですが……」

 

「ん?なんだ?」

 

「スキズブラズニルという船はご存知でしょうか?」

 

「……いや、北欧神話の神の船としか知らないな」

 

「そう……ですか……。

 じゃあ、しばらくはこうですかね……」

 

 長門の返答に、尾張は「やっぱり」と言う顔をしてから、傷ついた自分の体を見つめる。

 入院服から見え隠れする血が滲んだ包帯が痛々しく、今にも倒れそうなのに元所属していた所の矜持なのか、その存在感を衰えさせないのは流石と言ったところだろう。

 それだけでも、余程の歴戦を戦い抜いた戦艦だというのが見て取れた。

 

「それがどうかしたのか?」

 

「いえ、あの工作艦があれば直ぐに元通りに修復できるのにって思ったんです。

 でも、居ないんじゃ仕方ないですよね……」

 

 その言葉を聞いて長門達は唖然とする。

 目の前の艦娘は間違いなく大和型を超える、巨大な軍艦が元となっているのは間違いようが無い。

 その船体を直ぐと言える短期間で直してしまえる工作艦とは、一体どういうものなのかと言う興味と、彼女がいた場所の恐ろしさが感じ取れる一言だったのだが、この尾張がまだ艦娘としては生まれたばかりだと言うのが、長門達に僅かな安堵をもたらした。

 

「いや……、その残念だが、艤装が直ってもお前がその状態ではとても出撃は出来ないだろう。

 どうやらお前は軍艦としては一人前のようだが、艦娘としては半人前のようだな」

 

「え?」

 

「詳しい事は提督に説明をした後だ。

 伊勢、日向、彼女をベッドまで運んでやってくれ」

 

「あいよ、じゃあ日向そっちもって」

 

「ああ、これぐらいは容易い事だ」

 

「え?え?」

 

 尾張が両脇から支えられて、そのままドナドナと医務室へ連れ戻される。

 一応軟禁部屋も用意されているが、今の彼女は満足に動ける様子でも無いので、そんなに心配は無いかとも思ったが。念には念を入れなければならない。

 大本営からの指示も仰がなければならないのは勿論で、精密検査を行って尾張が艦娘側か深海側かを見極めなければならない。

 既に血液サンプルは科学研究所に送られているので、早ければ1週間後には結果が報告されるだろうと、長門と筑波は考えていた。

 だがそんな中でも1人、無条件で彼女を迎えている艦娘が居た。

 

(大和、確かにお前達にとって彼女は、存在しない筈だった妹分なのだろう。

 だが、だからこそ私は、お前達が彼女をしっかり見張る義務があると思うのだ。

 そしてなによ……)

 

 長門は窓から尾張の艤装が保管されている入渠ドックを見た。

 そこからは目が光る埴輪の様な影が、おどろおどろしく見えるような感じがする。

 

(あのような艤装をつけた艦娘が居てたまるか!)

 

 そう突っ込まざるを得ない長門であった。




艦旗:妖しいパワーの旗
効果は妖しいパウァーにより敵の照準を狂わせたり、発見を遅らせたりする。
きっと他の艦にはこう見えているに違いない。
つまり見なかったことにしようとしたり、意味不明なものを見てSAN値直葬したりして効果が発揮されていると言う妄想。
長門が感じ取った怪しい雰囲気は、主にこれが原因。


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日誌二頁目 尾張の軌跡

朝霜が出ない(憤怒

諦めて通常海域か建造で実装するのを待つ事にしました。

あと今回はGWS2/WSG2Pのネタバレが含まれています。

2015/04/06
筑波の台詞を一部変更しました。


「失礼するわね」

 

 一先ず尾張の詳しい経歴などを聞くのは置いておき、長門や伊勢が尾張と談話していると、引き戸が開く音と一緒にそんな声が聞こえてくる。

 尾張もそちらに視線を向けると、そこには見目麗しい女性の姿があり、そしてその後ろには……。

 

「あ、貴女が大和と武蔵……お姉ちゃんで良いのかな?」

 

「え、ええ、私が貴女の前級、大和型戦艦の一番艦の大和よ」

 

「ふふ、同じく、二番艦の武蔵だ。

 ふふ、大和、妹分が出来たとは言え少し緊張しすぎだ」

 

 一瞬申し訳なさそうな顔をし、その後行き成り姉呼ばわりされ、狼狽しながらそう答える大和に筑波と武蔵は微笑む。

 そして再び顔を引き締めて尾張に正対した。

 

「私がこの鎮守府を統率している筑波美由紀です。

 階級はこの身に余るけれど、一応少将の位を受けているわ」

 

「あ、失礼しました!

 私、近代改修型実験戦艦の尾張と申します!

 最後の所属はウィルキア王国亡命政府の、近衛軍に所属していました!」

 

「ウィルキア王国……、それってどの辺りなのかしら?」

 

「えっと、シベリア東部のウラジオストックから、カムチャツカ半島の東側の沿岸にある小さな王国です。

 先祖は遠くアイスランドから、アジア大陸を横断してきたデーン系部族「ヴィルク族」で、そこで王国を築いたそうです。

 でもその後、周辺の国々からの侵略を受けて近代まで支配されてましたけれど、クリミア戦争でロシア帝国の後背を付く形で独立戦争を仕掛けて、そのまま勝利して独立したんです」

 

「へ~、結構血気盛んな人々なのね。

 フィンランドとかあっちの人みたい」

 

「あ、フィンランドの人達もすごいですよね!

 やっぱりあの辺りの血も混じってるのかなぁ……。

 あ、その後も再併合を目論んでロシア帝国と戦争になったんですけれど、その時日本と同盟を組んで撃退したんです。

 その後に発生した欧州大戦で、ドイツまで現地派兵してドイツの支援をしました。

 その後からはウィルキアと日本、そしてイギリスとドイツは同盟関係を組んで仲良くしたんです。

 戦後、ウィルキアは産業の重工業化に着手して、海軍の増強に力を入れて海軍国家として目覚しい成長を遂げました……でも」

 

 そこで尾張の言葉が途切れる。

 

「ある日、ウィルキアの国防軍でクーデターが起きたって情報が流れた。

 ウィルキアの国防軍大将と、国防会議議長を兼任していたヴァイセンベルガーって人が、近衛軍と国防軍との演習中に、実弾で近衛軍の船を沈めたって……。

 私の建造を終えて酒盛りをしていた船大工さんや、軍人の人も混乱してて、その後直ぐだったの、ウィルキアの国王派が日本の横須賀で拘留されたって」

 

 その台詞を聞いて尾張以外の全員が息を飲む。

 つまりそれは……。

 

「日本海軍中将の君塚って人が、ヴァイセンベルガーに協力していたの。

 目的は国王陛下の引渡しの見返りに、日本のウィルキア帝国内での立場確立と、自らの権威を取得すること」

 

「そんな……」

 

「なんと言うことを……」

 

 違う世界の日本とは言え、前まで同盟国であった国の主を平然と引き渡すなど、国際社会では断じて許されない愚考だ。

 尾張の独白を聞いて筑波と長門は閉口する。

 

「幸い、筑波大尉と天城大佐が共謀して、ウィルキア王家や近衛の人達は逃がされて、最後に救出されたのが、私の艦長になるシュルツ少佐だったんです」

 

「と言うことは……」

 

「はい、元々シュルツ艦長達が乗っていた重巡はもう廃艦寸前の状態で、横須賀で完成後係留されていた私が彼らの乗艦になったんです。

 そこからは筑波大尉と共に脱出しようとしたんですが、途中で機関で火災が発生してしまって……巡航以上の速度が出なくなったときに、大和型戦艦を含む打撃部隊が現れたんです」

 

「「!!」」

 

 尾張の言葉に大和と武蔵は目を見開く。

 

「損傷を受け火災の消化も間に合わない。

 もう直ぐ済射が来ると思ったその時、筑波大尉が囮を買って出てくれたんです。

 大尉が乗っていた駆逐艦は突撃して、その後体当たりを行ったんですが撃沈されてしまって……、それでも出来た隙を使って、シュルツ艦長達と私は逃げ出せれました」

 

 そこまで言って尾張は筑波に顔を向けた。

 

「そう言えば、筑波大将も同じ苗字でしたね。

 ご祖父か曽祖父のお名前を伺っても?」

 

「え?えっと確か曽祖父が貴繁……だったかな?」

 

「お写真などは?」

 

「今は手元に無いなぁ……。

 そう言うのは全部実家にあるから」

 

「そうですか、でも、ふふ」

 

 そこで尾張は可笑しそうに笑う。

 

「私の艦長の恩師もですね、貴繁って言うんですよ?」

 

「え、同姓同名!?漢字も……こうかしら?」

 

「はい!でも最後はやっぱり写真を見ないと分かりませんね」

 

「う~ん、後で実家に電話してこっちに送って貰うように頼んでみるわ。

 それにしても貴女、実はここが違う世界だって言うの自覚してるでしょ?」

 

「あはは~」

 

 筑波がそう指摘すると、尾張は笑う。

 

「だって、長門さんにスキズブラズニルの事を聞いても、北欧神話の方しか知らないって答えましたから。

 それに私、前は幽霊みたいな存在だったんですよ?」

 

「え、ゆ、幽霊?」

 

 尾張の台詞に筑波は青褪めながら一歩下がってしまう。

 どうやらこの手の話は苦手らしい。

 

「と言っても実際は私の自我部分と言えるシステムが、ちょっと特殊すぎたんですよね。

 あっと、ちょっと話がずれちゃいましたね。

 それで、やっとの思いでハワイまで逃げたんですけれど、そこでの生活も長くは続きませんでした……」

 

「もしかして、さっき言っていたクーデター軍が?」

 

 陸奥の言葉に尾張は黙って頷く。

 

「ハワイに逃げ込んで本当に直ぐでした。

 ヴァイセンベルガーが全世界に向けて、ウィルキア帝国の樹立の声明を発表したんです。

 それだけならまだ良かったんですけれど、その後がまた問題でした。

 偽善に糊塗された列強のエゴ、その連鎖に呪縛されるこの世界、それらを我等が一変させる。我が国の傘下に下るか、滅亡の道を歩むか、全世界に提示する……と」

 

「なんとも大言壮語な宣言だな」

 

 尾張が言ったヴァイセンベルガーの文句を聞いた長門は、思った事をそのまま口に出す。

 

「最初は、それを聞いた人は誰も信じませんでした。

 でも彼はこう続けたんです。

 我々にはそれを成す括弧たる力がある。諸君らは近々それを目の当たりにするだろう。諸君らの頭上にその力が振り下ろされる前に、賢明な判断が出来る事を切に願う……と。

 これを聞いてウィルキア近衛軍の人達中に、特にシュルツ艦長やガルトナー司令には疑問が沸いたんです。

 あの狡猾で冷静で知られていたヴァイセンベルガーが、何の根拠も無くこんな妄言を吐くわけが無いと……、そして、その『力』は直ぐに現れたんです」

 

 そこまで言うと、尾張は筑波に顔を向ける。

 

「ここから先は実際に映像で見てもらったほうが早いと思います。

 すみませんが、私をもう一つの私の元に連れて行っていただけませんか?」

 

「え、それは……」

 

 この台詞に筑波は悩む。

 彼女の艤装はボロボロの状態とは言え、一旦艤装を装着した艦娘は人間の手では手に負えない存在だ。

 それ故に、鎮守府内では緊急の場合意外は艤装を外すと言う項目がある。

 

「大丈夫です。

 私はそんな無茶な事はしませんから」

 

 筑波の顔色を見て、尾張は微笑みながら言った。

 まるで何もかもお見通しだと言わんばかりの台詞だったが、不思議とその言葉を信じてしまうような説得力があった。

 

「……分かったわ。長門、彼女をドックまでお願い」

 

「提督、良いのか?

 大本営からの指示もまだなのだろう?」

 

 長門の台詞に筑波は首を横に振って答える。

 

「今は、彼女の話を優先して聞いた方が良いと思うの。

 なんと言うか、嫌な予感がするから」

 

「嫌な予感……か」

 

 筑波の言葉に長門は少し考えに耽る。

 今まで筑波はこの予感で難局を乗り越えてきた実績がある。

 最たる物はAL/MI作戦の隙を突いた深海棲艦の本土強襲。

 あの時も筑波はその予感で、自身の最大戦力である大和と武蔵、そして翔鶴と瑞鶴を温存していたのが幸を奏して防衛に成功したのだ。

 そして今、尾張を目の前にしてその予感が発動した。

 

「分かった。提督の判断を信じよう」

 

「ありがとう長門、やっぱり付き合いが長いと楽でいいわ」

 

「調子に乗るな」

 

「えへへ」

 

「ふふふ」

 

 そんな二人の様子を見て尾張から笑い声が漏れる。

 

「どうしかしました?」

 

「いえ、まるで艦長とナギさんを見ているみたいで……あ、あれ?」

 

 大和の問いかけに尾張が答えようとするが、その目から涙があふれ出る。

 

「ちょ、ちょっとどうしたのよ!」

 

「あ、あれ?おかしいな……。

 もう、諦めていた筈なのに、なん、で、こんなに……」

 

「尾張!」

 

 涙を流す尾張に大和が駆け寄り、その顔を自らの胸元に抱え込む。

 そこからは、時折嗚咽を鳴らすだけの静かな泣き声をあげる。

 

「貴女の艦長とは会いたい、でもそれが出来ない可能性が高いから……それが辛いのよね?」

 

 大和の声に尾張は泣きながら頷く。

 今の尾張の胸中に占めているのは望郷の念、そしてもっとも自分と関わりあった艦長と会いたいのに、それが叶わない願いと自覚したい自分と、否定したい自分の葛藤だった。

 少なからず自らの艦長だった人々と、再び会いたいと言う艦娘は少なくない。

 中にはその子息や孫に会いに行きたいと願う艦娘達も居るが、今は深海棲艦との戦いが激化する中で、そのような余裕が無いのが今の現状であった。

 だが、尾張にはもうその人物や血の繋がった子息にさえ会える可能性は無く、一時は諦めていたのだが……そんな中で、自らの艦長の恩師と同じ名前の曽祖父を持つ筑波と会って、再びその思いが強くなってしまったのだ。

 

「艦長に会いたい……会いたいよぉ……」

 

 悲痛な声の中に含まれたその思いを察し、その場に居た全員は、尾張が泣き止むまで、黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

 

「大変……失礼しました」

 

「いいえ、貴女の思いは分かっているつもりよ」

 

 5分ほどで泣き止んだ尾張は、大和の胸から顔を離して謝罪するが、大和はそれを気にせずに微笑みながら言葉を返す。

 まだ鼻の頭や目元が赤いが、先程まで放っていた寂しさは少し薄れていた。

 もう大丈夫な事を確認してから尾張には車椅子に座ってもらい、一同は入渠ドックへと足を運ぶ。

 

 その間の道中で、尾張は様々な艦娘を目にする。

 木の陰で昼寝をする熊と猫に似た2人の艦娘。

 黒く長いお下げをした淡い黄緑色の服を着た艦娘に、これまた同じ服を着た茶色く長い髪を持った艦娘がべったりと寄り添っていたり。

 寝たり無そうな艦娘を、鉢金を巻いた艦娘が支える傍で、天真爛漫そうなお団子頭の艦娘が何らかのビラを配ったり。

 黒いマントを羽織った艦娘の後ろを、恐らくその艦娘の物らしい同じ服をだぶつかせ、時折服の間から白い生地が見え、水中ゴーグルを頭につけた艦娘が着いて回っていたり。

『間宮と伊良湖』と書かれた看板が付けられた建物、その脇に置かれた野点傘と腰掛の上で、赤と青の袴を穿いた艦娘が茶を飲んでいたり。

 兎に角色々な艦娘を目にした。

 

「結構な規模の基地なんですね。

 でもこんなに一極集中させて大丈夫なんですか?」

 

「ふふ、そう思うでしょ?

 実はね、ここ以外の場所にも同じ艦娘が居るのよ?」

 

「え、そうなんですか!?」

 

 筑波の言葉に尾張は驚きの声を出す。

 

「でも大丈夫よ?

 ここと他の所の艦娘と区別がつく仕掛けがされているから、間違えて他の鎮守府に行ったりしないの」

 

「えっと、何らかの識別装置が付いてるんですか?」

 

「装置と言うよりは、動物の帰巣本能に近いかもね。

 生まれた鎮守府以外には行かないように~って、頭の中で響くんだ」

 

「へ~」

 

 伊勢の補足に尾張は感嘆の声を上げる。

 

「私達艦娘は付喪神に近い存在でね。

 初めに艤装が完成して、それから提督が呼び出す儀式をすると、受肉された私達艦娘が出てくるのだけど、同じ鎮守府に同じ艦娘は存在しないんだ」

 

「なんだか不便なんだか便利なんだか分からない仕組みですね……。

 あ、でも管理の上では便利なのかな?同じ艦娘が居ると、どの艦娘がやったのか分からなくなりそうですし、戦果確認も簡単そうですね」

 

「うん、逆に、海の上で敵にやられて艤装を捨てなければならなくなった状態や、艤装の破棄、この場合は轟沈と解体って言うんだけれど、普通の女の子としてその後も人間と同じ様に生活できるんだ」

 

「あ、つまり艤装がないと普通の女の子になっちゃうんですね。

 なんだかどこかのアイドルみたいです」

 

「うん、偶像と言う意味では同じかもしれないわね。

 ただ、出撃した艦隊が丸ごとやられると、艤装を破棄した艦娘の救助は出来なくなっちゃうから、誰か一人でも大破した艦娘が出たら直ぐに引き返すようにって、厳命が出ているの」

 

 筑波が言った厳命と言う言葉の中に悲しみが篭っているのを感じ、尾張はきっとその事態が発生して、その提督は引退してしまったのか、精神に異常を来たしたのだろうと推測する。

 

「私の場合どうなるんでしょう……。

 艤装を破棄したらきっと同じものは作れないですし、二度と戦えなくなっちゃうのかな……」

 

「私としては、もう十分に戦った貴女を戦場に出したくは無いんだけれど……。

 大本営に報告してしまったし、近いうちに性能試験に近い形で実戦に出すようにって、指令書が出されると思うわ」

 

「あ、そう言えば提督さんが来るまでに、深海棲艦って言う敵の説明を受けたんですけれど……」

 

「怖気づいちゃったかしら?」

 

 筑波の半ば挑発するような言葉に、尾張は首を横に振る。

 

「たとえ亡霊に近い存在であっても、私は全力で戦うまでです。

 ウィルキア王国近衛軍の代表として、恥ずかしくない戦いをお約束します」

 

「おお、言うねぇ~」

 

「頼もしい妹分が出来て頼もしいよ。

 だが、大本営が来るまでしばらくは軟禁状態になると思う。

 それまでは講義を受けたり、他の艦娘の訓練を見たりするしかないな」

 

「あ~、やっぱり私ってその深海棲艦のスパイみたいに思われてます?」

 

 尾張の言葉に周りの皆は縦に首を振り、それを見た尾張はとほほと言った感じで、頭を垂れるのだった。

 

 

 

「あ、あれが私の……」

 

「そう、貴女の艤装よ。

 ちょっと今はあのままの状態だけど、大本営の判断次第では直ぐに修理を行わせるわ」

 

 筑波の言葉に尾張は不安そうな顔を向ける。

 

「大丈夫、こう見えても私のお父さんが大本営の重鎮なの、だから悪い返事は来ないと思う。大和のお墨付きもあるからね。

 でも、科学研究所に送った血液の結果次第では、その判断も覆されるかもしれない」

 

「提督……安心させるか不安にさせるかどちらかにしてください。

 尾張がどうしたら良いのか困っていますよ」

 

「でもこればっかりはねぇ……。

 でも、そうはならないんじゃないかって思う所もあるんだ」

 

「さっきの提督の予感か?」

 

 大和に答えた筑波の言葉に、武蔵が食い付く。

 

「うん……こういう事があると、決まって大きな事が起きる前触れって言うのは、大体の物語の基本でしょ?」

 

 

 

 

 

 あれはなんだ?

 

 その言葉が浮かぶが、それが決定的な力であると同時に、何か嫌な予感が出てくる。

 それは胎動する機械だった。

 見掛けはボロボロでもう動きそうにも無いのだが、そんな状態でも「生きている」と感じるには十分すぎる存在感を出している。

 しばらくそれを見ていたが、連絡を入れた先からは回収するようにと言われた。

 それが危険なものであると予感はしながらも、彼女は仲間を呼び寄せてそれを回収する事にする。

 例えその判断が、決定的な間違いであっても……。

 

 

 

 

 

「じゃあ、えっとあとはこの部分をカットしちゃってね」

 

「まさかUSBケーブルが使えるなんて思わなかったわ」

 

 USBケーブルで繋がれ、壁に掲げられた映写幕に向けられたプロジェクターを見て、筑波は呟く。

 尾張は艤装の中に居る妖精に編集を頼んでおり、

 

「兵器開発速度が1世紀以上違いますからね……。

 ブレイクスルーも結構ありましたし、中には謎の装置とか言う代物もありますよ?」

 

「え、何それ怖い」

 

 などと話しているうちに投影の準備は続く。

 内容は今までの戦歴全てを見せるわけにも行かないので、尾張が体験した物の内、重要な箇所だけを切り張りして編集したものである。

 その間も明石といつの間にか来ていた夕張が、尾張に話を聞こうとしたり、何処からか話を聞きつけた軽巡以上の艦娘達が、野次馬根性で覗きに来ている。

 

「提督、良いのか?」

 

「ん~、別に大本営からは事情を聞けとしか言われていないし、良いんじゃないかな?

 暗黙の了解?なにそれおいしいの?」

 

「いや、提督、流石にそれはまずいんじゃないか?」

 

 何度目かのやり取りでとうとう長門も口を挟む。

 

「まあまあ!後で戦意高揚のための特撮映画とかなんとか言っておくから、感の良い娘は直ぐに嘘だってばれそうだけれどね」

 

「ふむ……まぁ、それが妥当か。

 どの道情報統制を敷いても、何時かは漏れるのが世の常だからな」

 

 見られても軽巡以上の艦娘は、その辺りの事はしっかりしている為、特に問題はないだろうと長門は思ったようだ。

 そうこうしているうちに編集が終わり、とっぷりと日が暮れたところで上映の準備は完了した。

 そして始まったハワイから続く尾張の軌跡。

 

 未知の巨艦の襲撃から再びの逃避行、そして休む間も無く訪れる危機。

 一時は潜水艦に艦長を託し、任務を終えて帰還した艦長を迎え、パナマ運河を通り大西洋へ。

 大西洋に渡っても訪れる未知の敵巨大兵器を打ち倒しながら、友邦たるイギリスへ渡っても一行の苦難は終わらない。

 危機と平穏の連続の中で幾多の海と仲間の屍を越え、遂に凱旋の時を迎える。

 その道のりも険しくはあったが、その頃には尾張と、母港として使っていた工作艦の姿はすっかり変わってしまっていた。

 怒涛の如く押し入る航空機の群れをミサイルが迎撃し、CIWSと対空レーザーが打ち落とし、敵機動部隊に肉薄し12門の巨砲で薙ぎ払う。

 

「あの、尾張、私全然現実味が持てないんだけれど、合成ではないわよね?」

 

 上映の途中で筑波が尾張に尋ねるが、これが自分のありのままの姿だと言わんばかりに首を横に振って否定する。

 そうこうしている内に日本を開放し、艦長達の生まれ故郷であるウィルキアでの戦闘で締めくくられた。

 




急ぎ足過ぎてグダグダ気味、だけどあまり長過ぎず短すぎずでやっているので、鋼鉄世界のストーリーを纏めようとしたらこうなるのは仕方ない。
そしてお気に入り件数が28になっていたり、早速感想が付いたりと嬉しい限りです。
今後ともご期待にこたえられるように頑張って行こうと思います。


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日誌三頁目 夜の帳

少し間が開いてしまった……。
4話目は早めに出せれるように努力します!


 

 総計時間4時間ほどの上映を終えた後、艦娘達の反応は様々だった。

 視聴が終わった後、筑波が用意していた台詞を言うと、概ねの反応は良い暇つぶしにはなったという評価が大半であった。

 そんな中、尾張は軟禁用に割り当てられた部屋に来ていた。

 付き添いは筑波と長門、それに伊勢の三人、大和も付いて来ようとしたが、流石に入れ込みすぎだと長門に叱られ、武蔵と一緒に自室へ戻っていった。

 

「とりあえず、ここが貴女の部屋に成るから。

 家具が少ないのは仕方ないけれど」

 

「贅沢はいえませんけれど、意外と普通なんですね。

 もっと質素な部屋に案内されるかと思いましたから」

 

「ここは元々、他の鎮守府からの艦娘の受け入れ場所だからね。

 補給や何らかの不調で仕方なく寄港した場合に、ここを開放して受け入れれるようにしているんだ」

 

「尤も、今は戦域が拡大してトラックやブインに鎮守府……と言うか泊地があって、我々の方が世話になる事が多いがな。

 降ろすぞ?」

 

「あ、はい」

 

 長門の肩から下ろされ、尾張はベッドの端に座る。

 

「あ、言い忘れていたけれど大本営からさっき連絡があって、とりあえず貴女の艤装だけでも直しておけって命令が着たから、明日にでも直すように指示を出しておくわ」

 

「やっぱり技術調査とかそんな感じですよね?」

 

「まあ大本営も色々考えているんでしょうけれど、時々トンチンカンな命令が来ることもあるから今一信用できないのよね。

 前にここへ視察に来たときも、鼻の下伸ばして家の娘達吟味してたし」

 

「あはは……」

 

 本当に嫌そうな顔をしながら言う筑波に、尾張は苦笑いをするしかなかった。

 

「で、早速なんだけれど、あれは……」

 

「全部私が体験したことです。

 80ノットにも達する高速巡洋戦艦も、巨大な双胴戦艦も……、全部私が相対し、そして沈めてきた超兵器という、過去の亡霊達です」

 

「亡霊?どういうことだ?」

 

「それはですね……」

 

 長門の疑問に尾張はブラウン博士の推察した超兵器の、大まかな特徴を述べて行く。

 まず超兵器が例え船体がばらばらになっても、その一部分になっても機関として動き続ける「超兵器機関」が元となっていること。

 ヴぇスビオ火山の発掘・研究施設のデータから、超兵器機関は世界各地の火山地帯に埋没していること。

 そして、自分がその超兵器の中で最高上位である究極超兵器を倒した事。

 

「とても私が居た世界の技術では不可能な代物でした。

 ヴァイセンベルガー以下の超兵器開発部門も、その構造を完全に把握をしてはいなかったと思います」

 

「いや、私達からしたらお前の世界の技術も相当……」

 

「長門、話が拗れるから黙ってて……それで?」

 

「あ、あの、えっと、1つはブラウン博士が立てた古代人達の遺産と言う説。

 もう一つは、私が立てた推察で、異星人達が置いて行った物なのではないかと言う説です。

 どっちも突拍子も無い話なんですが、経過年数からしてもそうとしか考えられなくて……。

 それになんと言いますか、部品単位と言うか、分子単位で意思が宿っているような。そんな感じもありました」

 

「なるほど……、まるで深海棲艦みたいね」

 

「話だけは聞きましたが、こっちもかなり追い詰められていたんですね。

 深海棲艦って確か昔の戦争で無くなった人々の負の念から出来たものでしたよね?」

 

「そう、故人の事を悪く言うのは良くない事だけど、死んだのならそのまま墓場から出てきて欲しくはなかったわ」

 

「あはは」

 

 しかしそんな談話も夕食が来て食べ終わった頃には終わり、そのまま就寝の時間を迎えた。

 

(今日は色々あったけれど、しばらくはこの部屋しか自由に動けないか。

 覚えてないけれどかなり酷い状態だったみたいだし、私自身の体の怪我もしばらくはこのままって言ったときの筑波さんの顔、本当に申し訳ない表情でこっちが恐縮しちゃう位だった……。

 本当に優しい人なんだろうけれど、私たちは元となった船の付喪神で受肉もしている。

 言葉にはしなかったけれど、言外に死亡している娘も居るような感じだった)

 

 相手が亡霊とはいえ、戦争をしているのだからそう言う事もあるだろう。

 筑波との談話の中で長門からその手の話も出かけたが、伊勢に止められたのがその事を察するのに十分過ぎる材料だった。

 

(違う世界、だけどどちらも人類は戦争をしている……)

 

 もしかしたらあちらの方でも、また戦争の火種が燃え広がっているかもしれない。

 そう考えると尾張はシュルツ以下乗組員達の顔を思い出す。

 勿論その中には、被弾した際に死亡した者達の顔もある。

 

(シュルツ艦長、ヴェルナー中尉、ブラウン大尉、ナギ少尉、それに皆……。

 私、ちょっと今はお荷物になっているけれど、役に立てる日が来たらきっと、皆に恥じないように頑張ります!)

 

 改めて決意したところで、尾張はそのまま睡魔に誘われるように眠りに付いた。

 

 

 

 自室で大和は、備え付けのテーブルで晩酌をしていた。

 昨日と今日とで色々有りすぎて、興奮冷めやらぬせいだ。

 未成どころか計画段階で破棄され、次級の紀伊型戦艦の片割れである尾張の救助。

 類似世界での生まれとは言え、やはり自分の妹分が出来たと言うのは、それだけでも興奮するには十分だった。

 

「大和、つまみを持ってきたぞ」

 

「あ、ありがとう武蔵。

 ……今日はごめんなさい、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって」

 

「ん?ああ、まぁ、気にすることは無いだろう。

 私だってお前と同じ様な気持ちだ」

 

 そう言いながら武蔵は大和の反対側に座る。

 持ってきたつまみは定番中の定番である枝豆と、するめを炙った物に唐辛子とネギを混ぜたマヨネーズを添えた物だ。

 そして自分用に、燗が入った徳利とお猪口を用意していた。

 

「しかし、まぁ、あいつの記録映像は規格外ばかりだったな。

 最後の辺りに映っていたあいつの主砲の連射速度、あれはあいつ専用の物だと聞いたが、あれが全ての艦に行き渡ったら、幾ら艦隊が有っても足りんな」

 

「開発するのにも予算がかかっていそうだし、量産性は壊滅的なんでしょうね。

 その辺りはあの娘が居た世界が、まだ普通だと言う証明なのだけれど。

 ……あの娘、私達とも戦っていたのね」

 

「ああ、何の因果か故郷だったこの国が、あいつの敵になってしまったからな。

 その時はあいつも苦渋の思いだっただろうさ」

 

 大和の呟きを武蔵は燗を一口飲みながら答える。

 

「だが、そう言うお前の方こそどうなんだ?

 あいつは私達が知る紀伊型戦艦ではない。

 ウィルキアという国が、あいつを紀伊型戦艦から作り変えた……」

 

「そんな事!」

 

 武蔵がその先を言おうとした所で大和が吼える。

 

「そんな事……分かってるわよ……」

 

「そうか……」

 

 自分達が知る紀伊型戦艦はこの世に存在しない。

 計画書だけが残り、設計図すら引かれていない大和型を越える巨艦は、この世界で日の目を見ることは無いのだ。

 

「だが、あいつが強力な戦艦だというのは紛れも無い事実だ。

 世界こそ違うが、私達大和型の血を引いているしな」

 

「就役してから一年、本当に濃い艦生を送って来たのよね……。

 原型が残っているのは艦上構造物だけで、敵の猛攻に対処できるように武装を変えて、それでも私達以上の激戦を戦い抜いて……」

 

 そして最後はあんなに傷が付くほどの敵と戦い、共に沈んだ。

 言葉にしなくても分かる大和の言葉に、武蔵は黙って燗をまた一口飲む。

 

「自分より強い敵と一対一で戦って勝利をもぎ取るって、どんな気分なのかしら……」

 

「さあ……少なくとも私たちでは、見つけられない答えだろうな……」

 

 超兵器という未知の戦闘艦との戦いを、尾張は1年間でそれを13回も経験したと言う。

 それ以外にも、ほぼ毎日のように戦闘を繰り広げていたのだから、その耐久性と攻撃力、そして継戦能力の高さは折り紙つきだろう。

 

「あいつの艤装の詳しい武装や性能は分からないが、恐らく整備が完了すればこの鎮守府に居るどの艦娘よりも強いだろう。

 あの映像が本当ならば、潜水艦への備えも万全なはずだ」

 

「ええ、少なくとも私達のようにはならないと思う……だけど……」

 

 対空・対艦・対潜、その全ての攻撃手段を兼ね備えた船だった頃の尾張の勇姿は、航空攻撃で沈んだ大和と武蔵にとって頼もしい姿だった。

 自分達が船だった頃は殆ど手も足も出せなかったが、あの尾張なら自分達が出来なかったことを、事も無げに成し遂げて見せるだろう。

 だがそれを大和は善しとしない

 

「だけど、それも何か違うと思うの。

 確かにあの娘の実力はあの映像の通りなのかもしれない。

 けれど……」

 

 大和がその先に言いたいことは、姉妹艦である武蔵にも居たいほど分かる。

 

(私達も今の身になる前は死地の連続だった……いや、他の艦娘達に比べたらまだマシだったかもしれない……それでも)

 

 それでも今の艦娘と言う身では、肩の力を抜いて欲しい……と武蔵は続けて思った。

 船の時には出来なかった事やしたかった事、何でも良いから第二の生き方を見つけて欲しい。

 それが私の姉の願いなのだと。

 

(しかし、それもこの戦いの行く末によるか……)

 

 深海棲艦との戦いで負けてしまっては元も子もない。

 大本営は……上は間違いなく、強力な戦力になるであろう尾張を見逃す事は無い。

 尾張がただの艦娘であったとしても、51cm砲とその威力を受け止めれる装甲と耐久力は魅力だ。

 重要な深海棲艦との戦いで、今後重用される可能性は非常に高い。

 

「まあ、その辺りはあいつに任せるしかあるまい。

 今は悪い判断が下されないように、何処かに居る神様に祈るだけだな」

 

「そう……ね」

 

「ふむ……」

 

 自分ではどうしようもない事なのに、未練がましく思う自分が情けない。

 そんな顔をする大和に、武蔵は一つ息を吐く。

 実際、大和が気にしているのはその事ではないのだろう。

 出自不明の艦娘である尾張、大和型の姉妹艦である武蔵も尾張からの気配を察し、自分達の次の世代の艦であると感じてはいた。

 

(だが本来なら存在しない筈の尾張を、私はありのまま受け入れる度量があるのか量りかねている。

 そのことを大和も同じく思っているのだろうな……)

 

 本来の紀伊型とは異なる艦娘に、翻弄されながらも静かに飲み続ける二人を、窓の外の月だけが静かに見守っていた。

 

 

 

「はい……分かりました。

 いえ、思ったより早く、そして良い返事が聞けたので安心しています。

 了解しました。明日にでも修復作業に入ります。

 では……」

 

 筑波はそう断ってから受話器を置いた。

 その口元には微笑みを、目元には今にも倒れそうなくらいの悲壮感が出てくる。

 

「被害担当艦、ご苦労だったな提督」

 

「本当よ……まあ、これで尾張の心配は無くなったわけだけれど……」

 

 長門の言葉に視線を執務机の書類に目を走らせる筑波。

 そこには妖精達が大急ぎで調べ上げた、尾張のカタログスペックが記載されていた。

 

「こんな艦娘版姫クラス、どう扱えばいいのよ……」

 

「強力な戦力がただで手に入ったと思えば良いのではないか?」

 

「こんなスペックの艦娘の修復費が、生半可な数字で出てくると思う?」

 

 長門の返事に筑波は少々棘のある言い方で応える。

 大和型でさえ耐久が1からの修復に莫大な量の資材を使うのだ。今現在尾張の修復に必要な資材の数を、工廠の妖精達が算出中であるのだが、尾張の艤装にいた妖精達も手伝っており、スペック表が早く出来上がったのは彼らのお陰でもある。

 ちなみに筑波の予想では良くて大和型の1.5倍、最高で3倍を予想している。

 

「まあ、使い時を誤らなければそんなに被害は出ないだろう」

 

「その使い時に隙が無いのですがそれは……」

 

「……まあ、あれだ。

 明日にでもあいつ自身を入渠させて怪我を治させようと思う」

 

(あ、逃げた)

 

 提督の呟きに長門は少し黙ってから、明日の尾張の予定を提案した。

 実際、尾張の性能を先方は早く見てみたいようで、このようなカタログスペックでは満足しないことは明らかだった。

 最も分かりやすいのは戦場に出して、観測機なりで映像を納めることにある。

 

「こういうのは青葉の仕事かなぁ……」

 

「足柄も写真は行ける口だぞ?

 あまり知られてはいないがな」

 

「ああ、イギリスの戴冠記念観艦式で記者を連れて行った影響だっけ?

 あの娘も結構多趣味よね。

 漫談も出来るし、剣術の腕も良いし、多言語扱えるし、偶に絵を描いてる姿も見るし……」

 

「……」

 

 そこでしばし沈黙が降りる。

 

「あれ……もしかしてあの人、結構天才肌?」

 

「まあ本人は何事にも勝つまで満足しない性質だからな……。

 どちらかと言うと努力家の方だろう」

 

「くす、それに関しては私も同じ意見よ。

 それにしてもあの娘、本当にハリアーを積んでいたのね……水上機扱いだけど。

 数は多く積めないけれど、」

 

 長門の台詞に微笑みながらスロット装備の方に目を向ければ、そこには現代兵器があったのでさらに驚く。

 

「そんなに凄いのか?」

 

「ええ、1000ポンド……つまり450kg爆弾を4~6発は積めるのよ。

 対空兵装も申し分ないし、どちらかと言うと零戦六二型に近い。

 速度も毎時1000キロ出せるから速度も問題ないわ」

 

「時速1000キロか……、確かに赤城達の航空機では追いつけないな。

 だが、発艦は大丈夫なのか?」

 

「そこも問題なし、これ、垂直離着陸できるのよ」

 

「垂直……離着陸?」

 

 長門の疑問を耳にしながら筑波は席を立って、執務室においてあった零戦の模型を手に取り、それを水平に移動させる。

 

「普通はこうやって、地面や飛行甲板を走りながら飛び上がるでしょ?」

 

「ああ」

 

「所がハリアーは、その場で静止したまま飛び上がれるの」

 

「こうやってね」と言いながら、模型を垂直に持ち上げる動きをする。

 

「はっはっはっ、提督、飛行機はそんな風には飛び上がれないぞ」

 

「まあ普通はそう思うわよね。

 この辺りは実際に見てもらわないと判らないから、あの娘が万全な状態になったら、演習で見せてもらいましょう」

 

 笑う長門を横に筑波は始めから分かっていたという顔で言うと、執務室の窓から鎮守府を一望する。

 輸送船から物資を搬入する為のクレーンのライトが点滅し、遠くの街では遅くまで残業している会社の明かりが見える。

 この状態になるまで3年程かかりまだまだ余裕は無いが、やっと市民の顔に笑顔と、仕事で疲れた夫の帰りを待つ家庭と言う、日常が戻ってきていた。

 筑波達はこの状態を維持しつつ、深海棲艦との戦いを有利に進めなければならない。

 

(道はまだ半ば、この日本と言う国だけじゃない。

 世界中の国にこの日常を戻して上げないと……)

 

 その為に尾張をどう扱えばいいのか、思考しながら執務室から出て行き、鎮守府の全施設が消灯した。




さて、第三話目となりました。
ここからが勝負所と言ったところです。
筑波が見た尾張のスペックは別に記載しますので、そちらでお確かめください。

ちなみに修理と補給に使う資源は……。
燃料:1989(内訳は修理に1719、補給に270)
弾薬:450
鋼材:3247
ボーキ:30

となっております(白目)

追記:
一昨日武蔵発見の報が出ましたね。
元乗組員の方々がまだご存命中に見つかって、本当に嬉しく思います。
遺骨は無理でも遺品の何点かは回収してあげたいものですね……。


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日誌四頁目 蘇る戦神

今回はちょっと『燃え』に挑戦。
典型的過ぎて誰得かもしれませんが、これが筆者の限界でございます。
というか全体的に俺得すぎた感も……。


 

 

 

 

 カポーンっとタライが鳴り、濛々と湯気が立つ中、何かが水に入る音が響く。

 

「あつつ……、かなり沁みますね」

 

「その怪我ではしょうがないでしょうね。

 私も、そこまでの怪我はした事は無いけれど……」

 

「姉様に肩を貸してもらいながらの入渠……、なんて羨ましい事を……」

 

「はい?」

 

 扶桑に肩を貸してもらっている尾張が、山城の呟きを聞いて返事を返そうとした所で、その半身が、高速修復剤入りの湯船の中に完全に浸かる。

 

「う……うぅん……ああ……」

 

 暖かいお湯が下半身を包み込み、そのまま扶桑の姿勢が下がるにつれて、どんどん体が沈み込んで行く感覚が、心地よく感じられて口元から艶の有る声が漏れる。

 

「あ……ん……ふぅ……気持ち良いですね~」

 

「ちょっと……、その感覚は分かるけれどさっきの卑猥な息遣いは何なのよ」

 

「あ、すみません……あまりに気持ちがよくて」

 

 とうとう肩の近くまで浸かると一息つくが、先程の息遣いを山城に咎められてしまった。

 ここは艦娘用の入渠施設、源泉から湧き出た温泉を使った大浴場、海の幸と山の幸をふんだんに使った料理を出す食堂、人間と変わらない艦娘をマッサージする女性職員が通うマッサージルームなど、多目的娯楽施設の様な様相を呈している。

 

「最初見たときは旅館か何かだと思ったんですけれど、結構手が入ってますね」

 

「あら、尾張さんは良い感をしてるわね。

 ここ、元々旅館だったの」

 

「ええ!?あ、でもそうか。

 深海棲艦で海上移動を制限されていたからその間に……」

 

「そうよ。

 経済活動が目に見えて減ったから、多くの宿泊施設が畳んでしまったから、それを国が借りて鎮守府の一施設として使っているの。

 ここに働いている人の多くは、ここが旅館だった頃に働いていた人達で、食堂を切り盛りしているのも、元女将さんと厨房長を兼任していた旅館の主人よ」

 

 山城の言葉を聞いて尾張はほっとする。

 旅館の経営が厳しくなっても、こうして国が保護してくれる場合もある事を認識したからだ。

 

「でも、全ての旅館やホテルがそうして保護されているわけではないわ。

 中には本当に廃業してしまって……」

 

「分かっています。

 だから、扶桑さん達はそう言った不幸の憂き目にあった人達の分も背負って、挫けそうになったら仲間と一緒になって、深海棲艦と戦ってきたんですよね」

 

 尾張の言葉に扶桑と山城は真剣な眼差しで彼女を見る。

 

「私は、ここに来てからたった2日しか経っていません。

 装備の修理も出来ていないし、艦娘としての性能もちゃんと見せていないのも事実です。

 でも……」

 

「でも?」

 

 扶桑の台詞の後に一息吐いた後、目元に力を入れる。

 

「私はウィルキア王国近衛軍の戦艦尾張です。

 近衛軍の恥にならないように……そして、艦長達に恥じないような艦娘で居たいです」

 

「ふん、そう言うのは、洋上に出てから言いなさいよね」

 

「勿論、十分な演習を終えたら何時で「ぎゃあああああああああ!!?」……って今の何ですか?!」

 

「今の声、提督のよね?」

 

「また、何かあったのかしら?」

 

 

 

 一通り修復剤入りのお湯に浸かり、見事に傷一つ無い体になった尾張は仮縫いの海軍服を着て入渠場を出ると、一路自らの分身が納まっている入渠ドックに向かった。

 ……のだが。

 

「ふふふ……、燃え尽きたわよ……真っ白に……」

 

「て、提督!ほら、あれですよ!彼女の実力を見るための、今まで艦娘達にタッチしてきた分のお布施だと思って!」

 

「誰がレズビアン提督だとこらぁああああ!」

 

「ひ、ひええええぇぇぇぇ!?そこまで言ってませんよ~!」

 

「H、Hey、提督!とりあえず紅茶でも飲んで落ち着くネー!」

 

「は、榛名はどうすれば……」

 

 入渠ドックの前では、金剛姉妹が筑波相手に何とか落ち着かせようと格闘中だった。

 

「一体何が……」

 

「ああ、多分貴女の艤装の修理に使った資材の量を見たのね」

 

「その通りよ……」

 

「あら、明石さん……大丈夫?」

 

 山城の声に反応して、少々虚ろ気な明石を見た扶桑が心配そうに尋ねる。

 

「私は良いんだけれど……はい、これ貴女の艤装の修理と補給に使った資材の量」

 

「あ、はい、えっと……ああ、やっぱりこれぐらいかかっちゃいますか。

 前は各国に支援してもらって、修理に使う資材を融通してもらっていましたけれど、考えてみればあの頃の私って恵まれてたんだなぁ……」

 

「何それ……すっごい羨ましいんだけれど……」

 

 修理・補給の報告書を見た尾張の一言に、その場にいた全ての艦娘の声を代表して、筑波が恨めしそうな台詞を呟く。

 その代わり祖国を失っているのだが、そんなことを言っても無駄だと悟って尾張は苦笑いを浮かべるだけに留めた。

 

「それにしても補給なんてよく出来ましたね。

 私の武装、殆ど近代兵器ばかりなんですけれど」

 

「ああ、その辺りは大丈夫なのよ。

 艦娘の艤装に使う資材は、燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトの4つに分かれていて、どんな弾薬や規格鋼材でも、それに該当していれば補給できるのよ」

 

「へー便利ですね」

 

「その代わり功績毎に所有資材数が定められてて、それ以上持ちたければ自分の艦隊を使って遠征したり、出撃途中で拾って来るなりするしかないのよ」

 

 筑波の言葉に尾張は「ふむふむ」と相槌を打ちながら聞き入る。

 元々艦隊旗艦としての能力も備えている為、この位の情報整理はお手の物だった。

 暫くあれこれ聞いていると、工廠から重苦しい音が響いてくる。

 

「貴女の艤装の修理が終わったわね」

 

 筑波の言葉と共に、奥から台座に乗せられた尾張の艤装が出てくる。

 その表面は新品同然に輝き、破壊されていた主砲や対空火器も綺麗に修復されていた。

 

「こうして見るとやっぱり大きいわね」

 

「私達の艤装より横幅が大きいわ……」

 

「いや、姉様、この娘の存在自体が規格外ですし、……それより」

 

 山城が呟くと同時に尾張の艤装に目を向けると、そこには『ゴゴゴゴゴッ』と擬音を発していそうな目が光る埴輪の影が……。

 

(((何あれ)))

 

「あ、艦旗を変えておかないと」

 

 周りが困惑する中で尾張だけが艤装に近寄り、艤装の妖精達と一言二言会話をすると途端にその影はなくなった。

 

「え、なに、急にいなくなったんだけれど」

 

「え?何がです?」

 

「い、いえ、何でもないわ。

 それよりそれは何?」

 

 筑波が尾張の手にある布切れを指差す。

 

「あ、これは艦旗です。

 ほら、よく船とかで国籍表示とかで掲げているじゃないですか」

 

「ああ、あれね……ってそんな装備聞いたこと無いんだけれど」

 

「え?でもこれ便利なんですよ?『妖しいパワーの旗』って言って、何でか敵の攻撃が若干ぶれるんですよね」

 

 そういって尾張が広げて見せたのは。おどろおどろしい埴輪が描かれた旗だった。

 

(ああ、あれがさっきの元凶か……)

 

「なんかよく分からないけれど、とりあえず納得はしたわ……」

 

「私も、これに関しては深く考えないようにするわ」

 

 筑波はどこか納得したような顔になり、逆に扶桑姉妹は疲れたような顔になっていた。

 

「Hey!YouがNew faceデスか?」

 

「え、あ、はい」

 

「Oh!よく見たら昨日のWheel chairの人じゃないデスかー!

 貴女が新しい艦娘だったのネー!お名前を聞いてもOK?」

 

「えっと、本日付で配属しました。

 近代改修型実験戦艦の尾張と申します」

 

「私は金剛型戦艦のネームシップの金剛デース!

 Hum、Owari……聞かない名前デスね?

 霧島はドウ?」

 

「私も聞いた事は……いえ、確か計画艦の中で候補として名前だけはあったような」

 

「あ、榛名も聞いた覚えがあります。

 ただ、尾張と命名予定だった計画艦は2隻あったような……」

 

「うう、私は聞いた覚えがありません……」

 

 金剛姉妹が各々自分の言いたい事を言うと尾張に視線を向ける。

 

「元は超大和型戦艦、紀伊型戦艦の二番艦として建造されまして……。

 えっと、ちょっとSFな感じなんですけれど、平行世界から来た艦娘と言えばいいんでしょうか。そんな感じの出自なので、皆さんにとって私は……」

 

「Oh、それなら確かに記憶に無くてもしょうがないデース」

 

 尾張が最後まで言う前に金剛が言葉で遮る。

 

「えぇぇ……、金剛姉様それで良いんですか?」

 

「ん~、No problemとは言えないデスけど、こうして目の前にいるのを否定するのは、自分を否定するのと同じだと思ってマース。

 それにこうしてみると、やはりヤマト達の血を引いているのだと分かりマース!」

 

「へ?こうしてって……あ」

 

「おはよう、尾張。

 調子はどうかしら?」

 

「ふむ、どうやら艦娘用の入渠を行ったみたいだな」

 

 尾張が振り向くとそこには大和と武蔵の姿があった。

 

「はい、お陰様で無事に傷も癒えました。

 ちょっと血が足りていない気もしますけれど、今から戦闘に出ても問題ありません!」

 

「ほう、流石は私達大和型の後継艦なだけはあるな。だが……」

 

「はぁ~、出費が嵩むわ……。

 大本営に連絡して、緊急の予算を組んでもらって資材を回してもらわないと……、お手柔らかに頼むわね?」

 

 武蔵がそう呟きながら目線を筑波の方に向けると、彼女はたっぷりと溜息を吐き、愚痴りながらも承諾の意を出す。

 

「え?え?」

 

 尾張が一人だけ状況が飲み込めていない。

 そこへ大和が助け舟を出す。

 

「武蔵は、貴女と演習がしたいそうよ」

 

「え、でも私……良いんですか?」

 

「ああ、だがその前に、航行訓練を一通り終えてからだな。

 随伴は金剛達高速戦艦と正規空母2人、駆逐艦娘5人とそれを統率する軽巡1人が行う」

 

(うぅん……清々しいほどに警戒されてますね……。

 少なくとも大和さんはその気はないみたいですけれど、ここは下手な出方をせずに素直に従いましょう。

 装填してある砲弾も全部演習弾みたいですし)

「分かりました。

 でも、手加減はしませんからね?」

 

「そのつもりで来て貰わねば困る。

 何、なんなら金剛達や駆逐艦を置いてけぼりにしても構わんさ」

 

 昨日の映像を見てこの啖呵であるのだから、武蔵はあの映像を真実とは思っていないか、若しくは可能性として考えているが、自分の目でみなければ納得しないと言ったところか。

 兎も角、尾張はここで自分の実力を見せなければならない。

 例えそれが孤立を招くことになっても……。

 そう思いつめていると、武蔵が尾張の傍に近寄ってきた。

 

「心配するな。

 少なくとも大和と私はお前の事を疑っていない。

 存分にお前の力を見せてくれ」

 

「あ……はい!」

 

 小声で聞こえた武蔵の言葉に、尾張も小さく、しかし元気のある声で答えたのだった。

 

 

 

 艤装を腰に取り付けて海に続く船台の上に立つ。

 船台と言ってもそんなに大きなものではなく、小船がやっと載るくらいの小さなものだ。

 

「元々ここは小さな漁港だったんだけれど、深海棲艦の群れが湾内まで入り込むこともあってそのままになっていたの。

 そこに艦娘の登場でここも鎮守府として再建して、この町も艦娘補助制度でなんとか持っているって感じね」

 

「艦娘補助制度……ああ、艦娘を受け入れた町、或いは都市に何らかの負担軽減を行うんですね」

 

「と言ってもほぼ出来レースだけれどね。

 結局選ばれたのは海上自衛隊の基地があった場所と、旧日本海軍の基地があった場所かそれに縁がある沿岸の土地だけ、他は見向きもされなかったわ」

 

 そうしている内に抜錨の準備が整った。

 

「船の時とは違って火入れとかする必要はないわ。

 装着した時には機関は動き出しているし、水に浮く機構も稼動している。

 あの娘達みたいにね」

 

 そう言って筑波が指差した方には、尾張の警護をする為に既に水上で待機している艦娘達が居た。

 皆一様に水の上に立ち、尾張が来るのを固唾を呑んで緊張したように見守っている。

 

「準備は良いかしら?」

 

「あ、少し待ってください。

 皆、艦旗の準備を!」

 

 尾張が艤装の妖精達に指令を出す。

 最初こそ妖精の存在に固まっていたが、そのうちの何体かは見覚えのある顔をしていたので、それを見た後は自然と受け入れられていた。

 

(そうだ。

 私だって無傷で戦ってきたわけじゃない。

 何人も乗組員の人が戦死したし、事故で甲板から落ちた人も居た。

 私だけの問題じゃないんだ)

 

 そうしている内に、妖精達の手によって艦旗が掲げられる。

 それは日本とウィルキアの旗、本来なら一つだけ揚げられる国籍旗ではあるが、尾張はあえてこの二つの旗を掲げた。

 

「尾張、抜錨準備整完了!

 抜錨します!」

 

「船台滑走開始!」

 

 尾張の声と共に筑波が合図を出すと、明石が船台を操作して尾張とその巨大な艤装が動き始める。

 船台に取り付けられたワイヤーが、地面をこすりながら船台が滑走する様は船の進水式さながらである。

 そしてとうとう海へと到達すると、足の艤装が海面を掴み付いた勢いのまま海面を走る。

 

「おっとと」

 

 海面の上に立つという初めての行為に戸惑いながらも、しっかりと立っているのは元々の船の安定性故か、特に危うげもなく海面に立ち自分の力で前に進み、大きな船跡を残しながら湾内をゆったりと航行を始めた。

 

『『おおー!』』

 

 その歓声は尾張が無事に海面に立ったからなのか、それともその巨大な艤装をつけて滑走する迫力からなのか。

 何れにしろ別世界の戦神がこの海に降り立った。

 

「綺麗……」

 

「ああ、同時に、力強くも感じる」

 

 大和の呟きに武蔵が答える。

 その姿は本来の元は違えど、内に秘めた鼓動は間違いなく、帝国海軍が大和型を超える為に生み出そうとした超大和型、その名に相応しい力強さと美しさを秘めていた。

 

(シュルツ艦長……私はまた、この場所へ帰ってきました……。

 ここにはウィルキアという国はないけれど、志しは変わりません。

 どうか武運長久を……私は、ここで再び戦場に身を委ねます)

 

 目を閉じ、改めて決意表明を心の内で行い、目を見開き、目の前の海を睨む。

 この広い海原のどこかに潜む深海棲艦という名の敵が居る。

 その事実を再認識すると、胸中に激しい炎が煌々と燃え上がるのだった。




尾張ッ復活ッ!
艤装の修理も(資材的な意味で)多大な犠牲を経て完了し、とうとう尾張が艦これの海に降り立ちました。
次回は航行演習と射撃演習です。
攻撃面はあまりやり過ぎない程度に抑えますが、その辺りは賛否分かれるかもしれませんけれど、がんばって書きたいと思います。


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日誌五頁目 洋上航海試験

今回は唐突な戦闘有りです。
ただ状況ゆえに見栄えがしないのが難点。


 

 

 

 暫く海に出た余韻を楽しんだ後、尾張は待機していた艦娘達に合流した。

 

「尾張、護衛艦隊に合流します」

 

「よろしくネー。

 私はさっき自己紹介したから良いけれど、私の妹達と他の娘がまだでしたネー。

 じゃあ比叡からお願いしマース!」

 

「はい!金剛お姉さまの妹分の比叡です。

 昨日の車椅子の人が艦娘だったのは意外でしたけれど、今日は金剛お姉さま達と一緒に随伴します!」

 

「同じく、巡洋戦艦の榛名です。

 貴女が尾張だったのですね。本日はよろしくお願いします!」

 

「金剛型巡洋戦艦の四番艦、霧島です。

 貴女のデータ、たっぷり取らせてもらうわね」

 

 金剛姉妹の自己紹介が済んだところで、正規空母の艦娘が前に出る。

 

「翔鶴型航空母艦1番艦の翔鶴です。

 今日はよろしくね」

 

「同じく2番艦の瑞鶴よ。

 速力では駆逐艦と同等の速度を出して見せるわ」

 

 翔鶴姉妹の紹介が終わると、次は昨日見た鉢金を巻いた軽巡の艦娘と駆逐艦娘達が前に出た。

 

「川内型軽巡洋艦、2番艦の神通です。

 今回は駆逐艦の娘達と共に随伴いたします。

 皆さん、挨拶を」

 

「陽炎型駆逐艦の7番艦の初風よ」

 

「同じく、8番艦の雪風です!」

 

「9番艦の天津風よ」

 

「10番艦の時津風だよぉー」

 

「高速重雷装駆逐艦の島風です。

 こう見えても40ノットも出せるんだから!」

 

「以上12名が、今回Youに随伴する艦娘ネー」

 

 最後に島風の紹介が終わったのを見て金剛が閉める。

 

「見た限りかなりの練度をお持ちのようですね。

 この数で来られたら私でもただではすまないかも……兎に角、今回はよろしくお願いします!」

 

「じゃあ、まずは湾の外に出ましょう!

 全艦、前進微速ネー!」

 

 ここで読者方に説明すると、艦隊を組んで移動する場合、その速度は一番遅い艦の速度域に合わせて動くのが常だ。

 だがここで尾張と金剛達の間に、相互理解が進んでいなかった。

 

(何やっているのかしら?)

 

 最初に気が付いたのは瑞鶴だった。

 微速のこの時点で艦娘同士の速度に差はあまり出ない。

 その筈なのだが、金剛達よりも尾張の方が頻繁に速度調整を行っていたのだ。

 このとき金剛達は、尾張の最大戦速を大和達と同様、27ノット辺りだと仮定していた為、自分達の微速より僅かに速度を落として進んでいた。

 

(まあ初めて艦娘になってから、速度調整に手間取るのは仕方ないわよね)

 

 その辺りは自分も経験済みなので、その時は特に問題視していなかった。

 そしてとうとう外洋に出た後、暫くして速度制限外に到着した。

 

「じゃあまずは航行演習……と言っても、revisionみたいな物だし、とりあえず艦娘の体でどこまでやれるか試すと良いネー」

 

「え、好きに動いちゃって良いんですか?」

 

「OK、OK、No problemネー。

 神通達も付いて行くからYouの好きな様に動いちゃいなヨ!」

 

「了解、じゃあまずは前進半速から行きます。

 あ、神通さん」

 

「はい?」

 

 尾張に呼ばれて神通は怪訝そうな顔をする。

 

「辛くなったら言って下さいね」

 

 当初尾張の言葉はただのこけおどしと、その場に居た艦娘たちは思っていた。

 だがここで悲劇が起こる……。

 既に半速の時点で、尾張の加速性が想定を大きく上回っていた。

 神通もこれには慌てて、自身の速力を上げて追随する。

 この時点で尾張の速度は12.5ノット、だが問題はその後だった。

 尾張が原速まで持っていくと17.5ノットにまで増速、この時点で金剛型ならば第一戦速に入っており、強速に入って更に5ノット増速、22.5ノットにまで達する。

 その後の第一戦速から27.5、32.5と増えて行き、第三戦速で37.5ノットになった。

 この時点で神通と陽炎型駆逐艦達が脱落する。

 最後は島風のみとなり、その島風も第四戦速の42.5ノットの時点で、暫くは粘ったが足を縺れさせて脱落した。

 随伴艦が脱落したことに気付かず、ランナーズハイになっていた尾張は、そのまま第五戦速まで増速、本人の通常航行時の最大速度である47.5ノットに達したところで、金剛から通信が飛んで漸く止まったのだった。

 

「なんで戦艦なのに島風が追いつけないのー!」

 

「すみません……久しぶりの海で少しはしゃいじゃって……」

 

「一体どんな機関を積んでるネー……」

 

「えっと7500馬力の主缶が14基、それに回転効率52%のタービンが4基ですから、218,400馬力ですね」

 

 ちなみに、現在の大型船舶用の2ストローク低速ディーゼルの回転効率が55%である。

 実は謎の装置のお陰で71ノットまで出せるが、流石にその辺りを言うのは控えた。

 

「Oh……」

 

「大和型より約70,000馬力も上って……、何と戦ってたのよ」

 

「ですから、昨日主力艦の皆さんに見ていただいたあの巨大兵器群とですよ。

 これだけ出せないと戦闘距離の維持が出来なかったんです。

 速力40ノット出せるのがざらでしたし、艦船型で最大93ノット出せるのも居ますから」

 

「93ノット……」

 

「それって旋回は大丈夫なの?」

 

 色々と規格外の話をされて、翔鶴が尾張に問う。

 

「舵の利きは巡洋艦クラスですし、火力も巡洋戦艦級の30.5cmと最低限のものですが、口径は長大です。

 見た目通りの砲だと甘く見ていると痛い目を見ますよ。

 その巡洋戦艦……ヴィルベルヴィントって言うのですが、一隻でアメリカの太平洋艦隊の半数が中破ないし大破と言う大損害を出しました」

 

「あのアメリカが……」

 

「流石に同情するわね……。でもあんたはどうやって倒したのよ?」

 

「まあ超高速で巡洋艦並みの舵利きとは言え、それでもコースが読めてしまえばこちらのものです。

 煙突を破壊して速度が落ちたところで喫水線に一斉射、あの頃はまだここまで改修されていなかった上に、主砲もやっと45口径の3連装4基だったし、自動装填装置も開発が終了していなかったのでので苦労しました……」

 

 尾張は懐かしそうに語るが、その内容は艦娘達からしてみればトンデモな内容だったので、揃いも揃って疲れたような顔をしていた。

 普段から川内と那珂に振り回されているあの神通でさえ、四つん這いになって「戦艦ってなんでしたっけ?」と呟く有様だ。

 

「ん?今自動装填装置って言った?」

 

「はい、そうですが?」

 

「え、なに、じゃあ貴女の主砲は、その大きさでありながら46cm砲より早く装填できるの?」

 

 これは大きな情報だったが、尾張の口から出たのは藪から蛇どころの物ではなかった。

 

「はい!前は砲の上げ下げも含めて36秒くらいかかったんですけれど、最新型の自動装填装置を搭載してからは17秒程に短縮したんです!」

 

「じゅ、17秒……」

 

「た、確かに、ノースカロライナが15秒で装填したと言う記録がありますが、大和型の主砲以上のサイズの主砲でその装填時間は……、装填機構がどうなっているのか気になります」

 

「じゃ、じゃあ他に何かすごい事はありますか!?」

 

 比叡が尾張にそう言うが、それがパンドラの箱の始まりだった。

 

「えっとですね……」

 

 

 

 そしてここは提督執務室、室内に居るのは大和に武蔵、長門と陸奥、赤城と加賀に大鳳が入室しており、筑波を含む一同は金剛の艤装に付いているマイクで、尾張と彼女達の会話を聞いていた。

 

『対空ミサイルとASROCのVLSに、対空パルスレーザー、35mmCIWS、RAM発射機に……あ、あと照明弾発射機もありますね!』

 

「なんだこれは、どうすればよいのだ」

 

「わたしにきかれても、こまる」

 

 行き成り出てきた尾張の武装の数々に、長門と陸奥は混乱した。

 

「流石に、これは判断に困るわ……」

 

「ミサイルがあるって言うことは、もう防空の備えは万全と言うことですよね?」

 

「え、じゃあ私達空母の出番は……」

 

 正規空母代表で来た加賀、赤城、大鳳も、尾張の言葉で自分達の存在意義に揺らいでいたが……。

 

「皆さん、確かに尾張は対艦対空対潜において万全の娘ですが、決して一人で何でも出来ると言うわけではありません。

 戦艦は一隻では艦隊としての盾として脆過ぎますし、なにより投射量で負けては艦隊決戦でお話にもなりませんから、その時には私達他の戦艦も尾張の助力となるでしょう。

 そして空母には戦艦には出来ないアウトレンジ戦法が出来ます。

 尾張が敵の航空隊を撃滅したのなら、もう相手に航空機は居ないわけですから、航空母艦の皆さんは後顧の憂いなく、自らの航空機を敵艦隊に差し向けられます」

 

「問題はそれを支える燃料と弾薬なんだけれどね……」

 

 大和の言葉に筑波がどんよりとした顔で呟く。

 今回の尾張の艤装への修理と補給で、資材がまた空になってしまったのだから、また一から資材集めを再開しないといけない。

 勿論ポケットマネーと言うか、伝を借りて資材を融通してもらうことも出来るが、その後の事は深く考えたくないので、あまりその手は使いたくないのが筑波の気持ちである。

 

「でもまぁ、これであの娘の武装は大体分かったかな……。

 まさか対空戦に使用できるパルスレーザーまで積んでるとは思わなかったけれど」

 

「そんなにすごい物なのか?」

 

「一般的に工業用の金属加工に使われる事が多いけれど、多分尾張が積んでいるのはそれよりも強力なものね。

 レーザーは文字通り光の速さで飛んでいくから回避する暇も無いわ。

 ただ空気中の塵とか天候の影響も考慮に入れないと、とても使えたものじゃないけれど……、尾張の方はどうなのかしらね?」

 

 そう言いながら筑波は金剛にそういった質問をするように指示を出す。

 

『ところでさっきLaserという単語が出てきましたけれど、尾張のは雨天でもそれは使えるのデスか?』

 

『あっちの方では雨天でも使ってました。

 ちょっと減衰が多くて撃墜率は落ちますけれど、それでも牽制射撃程度にはなってましたね。

 あ、あと駆逐艦程度の相手ならこれで対処する事も多かったです』

 

「ふむふむ、雨天でも使えるとなるとこれはかなり強力な装備ね。

 駆逐艦程度の装甲なら簡単に食い破れるなら、これはもう高角砲みたいな扱いでいいんじゃないかしら」

 

「そう言えば、スペック表のスロット装備にもそんな事が書いてあったな。

 対空火力は既存の艦娘を大きく上回るか……」

 

「でも単独では数の暴力で押されかねないわ。

 特に深海棲艦は無尽蔵ってくらいに出てくるから……、生産とか維持に制限がある人間にとっては脅威だけれど」

 

「確かに、いくら強くても弾薬や船体の強度以上の物量で来られたら、いくら個艦優越でもやられてしまうからな……すまん」

 

 長門が最後に謝る。

 それは大和と武蔵に対しての謝罪だった。

 彼女達はその身に何度も航空魚雷と爆弾を受け、その結果沈んでしまったのだ。

 

「いえ、長門さんの言う事は正しいです。

 だからこそ隊伍を組んで、艦隊を形成し、互いの目と耳を使って死角を減らし、脅威から身を守ると同時にそれを排除するんです。

 単艦で出来る事など、たかが知れています……」

 

 大和の言葉が出ると同時に、演習は次の段階へ移る。

 

 

 

「じゃあ今から射撃訓練に入りマース!

 今駆逐艦達が標的ブイを5個置いたから、合図したらそれをshootするデース!

 Hitしたら色が吐いた煙幕が出るから、それが撃破した証になるネー」

 

「了解です。

 ……火気管制砲戦モード、レーザー測距開始。

 AV-8BJ発艦!目標の上空で待機!」

 

 尾張が合図を出すと、艤装の後ろにあるヘリポートからハリアーが飛び立つ。

 轟音を撒き散らしながら垂直に離陸し、そのまま標的ブイの元へと飛び去って行く。

 

「今のがYouの艦載機ですか!?」

 

「ハリアーの発展型です。

 爆弾も1500ポンドが装備できて爆撃任務も出来ますし、特製の57mm機関砲で攻撃も可能です」

 

「57mmって、それもう機関砲じゃなくて砲じゃ……まあ自動で連射できれば、どんなものでも機関砲になるけれどさ……」

 

 瑞鶴がAV-8BJの兵装に突っ込みを入れるが、余りにもかけ離れ過ぎて疲労の色すら見える。

 ちなみに機関砲の定義は人に頼らず自動で給弾でき、尚且つ40mmから57mmまでの物らしい。

 

「画像リンクを確認、標的をレーダーでも補足……補正完了。

 やり方は私の好きにしても?」

 

「OKネ~。

 じゃあYouの力見せてくだサーイ!」

 

「主砲、10連射用意!

 目標、仮想第一目標、第一射撃ち方始め!」

 

 金剛の合図と共に、尾張の主兵装である超長砲身の51cm砲が一斉に火を噴いた。

 その轟音は火山の噴火のように爆圧を発生させ、圧縮された空気の壁が物理的な衝撃となって海面を叩き大きく抉り、響き渡った轟音は群青の空と蒼海に何処までも響き渡る。

 

「装填完了!第二射!」

 

 そう言うなり、きっかり17秒で第二射目を発射する尾張に、周囲の艦娘達は目を見張った。

 

「すっご……」

 

 初風の一言が、その場にいた全員の気持ちを代弁する。

 弾着を待たずに撃つのもそうだが、本当に17秒で装填を完了させたのだから当然である。

 そのまま第一声の言葉通り、10連射すると砲身から陽炎が立ち上り、砲撃の際に発生した熱量の凄まじさを物語る。

 そして尾張が第一目標と言っていた中央の標的から、命中した事を知らせる蛍光煙幕が立ち上る。

 

「第一目標の撃破確認!

 急速冷却、散水始め!」

 

 尾張がそう言うと同時に加熱された砲身に水が掛けられ、砲身に当たった傍から蒸発し濃い水蒸気が発生し、砲身の中にも水を撒いているのか、砲口からも勢い良く水蒸気が出てくる。

 

「砲身冷却までに次目標へ指向開始、目標、仮想第二目標と第三目標!」

 

 尾張が命令を下すと艤装内の妖精が砲塔に指示を出し、左右の砲塔がそれぞれ別の目標へと指向する。

 

「冷却完了後、順次射撃。

 冷却完了まで5秒……3,2,1,済射!」

 

 再び咆哮が鳴り響く。

 そうしている内に標的ブイは最後の一つとなった。

 

「そう言えば、あのブイは海中にも当たり判定はありますか?」

 

「え?あ、はい。

 海中にも、魚雷用の当たり判定があります」

 

「なら最後はあれで行こうかな……。

 各砲、標的の手前10m付近を指向!」

 

 尾張の命令と共に、砲身が僅かに下を向く。

 

「あ、まさか……」

 

「済射!」

 

 榛名が呟くと同時に尾張から12発の砲弾が発射される。

 砲弾は低い弾道で飛翔して行き、尾張の宣言どおりブイの手前10m付近に着弾、しばらくすると蛍光煙幕が立ち上った。

 

「水中弾!?」

 

「まさか、あんな入射角で発生するなんて……」

 

 比叡と霧島は水中弾効果に懐疑的であった。

 そもそも水中弾自体が偶発的に起きる物であり、それを解析して作られた九一式徹甲弾と一式徹甲弾でも、その発動率は通常弾よりわずかに高い程度であり、入射角が深いと殆ど発生しないのが常識である。

 それを尾張が装填していた徹甲弾は、12発中どれだけの数が発動したのかは分からないが、あの入射角で水中弾を発生させたのは間違いない事実であった。

 

「うん、新型徹甲弾の調子も良いみたいですね」

 

「徹甲弾に調子も何も無いような……」

 

 尾張の呟きに榛名が誰に宛てるでもなく答える。

 

「うーん……ここまでハイスペックだと、補給の時が怖いわね。

 さっきの提督の悲鳴を聞けば察しが付きますけれど」

 

「確か弾薬も燃料もすっからかんで、何時沈んでもおかしくない状態だったって、明石さんが呟いてたのを、雪風は聞きました」

 

「え、てことは結構な状態だったんだ……。

 あんたをそこまで追いやるなんてどんな奴だったのよ……」

 

「それは……あ」

 

 瑞鶴の疑問に答えようとした所で尾張は言葉を切った。

 

「どうしたの?」

 

「なにか聞こえたような……。

 海中から何か、水が流れ込むような……」

 

「え!水雷戦隊!」

 

「はい!聴音開始します!」

 

 尾張の呟きに瑞鶴と神通が互いに掛け合い、三式水中探信儀で聴音を開始する。

 

「……いた!

 4時の方向、距離は……約1.3kmです!」

 

 天津風からの報告で神通は頷く。

 

「対潜用意!

 第十六駆逐隊は駆逐艦は単横陣を組んで、対潜行動を!

 島風さんは私と一緒に艦隊を守ります!」

 

「「「「了解!」」です!」だよ~」

 

「島風も行きたい~。

 でも艦隊を守るのも大事だよね。

 十六駆の皆~、頑張ってね~!」

 

 島風は少し不満気味だったが、自分に納得させると初風達を見送った。

 

「これは、島風さんの俊足で直ぐに対応させる為に?」

 

「はい、潜水艦が先程のだけとは思えないので、別方向から来る可能性があるのを考慮してこの配置にしました」

 

「うーん、ASROCは使えるけれど、今はあの娘達の錬度を見る事にします。

 データリンクが使えれば、こちらでも捕捉できるんですが……」

 

「出来るよ」

 

「へ?」

 

「データリンク、出来るよ」

 

 尾張が呟いた事に、島風が答える。

 

「実際には艦娘同士の情報共有能力ですね。

 こうして艦隊を組んで海上に出ると、艤装が近場にいる艦娘たちと情報共有できるんです。

 もっと情報が欲しい場合は、指定の艦娘の事をイメージして下さい。

 そうする事でその娘からの情報量が増えますので」

 

「えっと……あ、本当だ」

 

 霧島の言葉通りにすると、尾張は時津風からの情報量が増えたのを確認した。

 彼女達は初風の指揮の元、三角観測で既に潜水艦の位置を特定し、対潜攻撃を行っている。

 

「私も高性能のソナー積みたいなぁ……。

 今積んでいるの零式聴音機だし、機関や主砲の音で探知距離も長くないし」

 

「あ、その辺りも大和型譲りなんですね~。

 自分で言うのもなんですけれど、そう言う話を聞くとちょっと誇らしいです」

 

 自分の聴音機の性能に溜息をする尾張に、比叡が応える。

 彼女は大和型のテストベッド艦として使用されたので、その関係で装備に関しては詳しいのだ。

 

「あ、でもSH-60Jが乗せれれば探知距離が伸びるかな?

 話で聞いた開発で出ればいいんだけれど……」

 

「それやられたら、駆逐艦の仕事が無くなっちゃう……」

 

「でも、索敵範囲が広がるのは良い事だと思います。

 それに駆逐艦の仕事は何も対潜だけではありませんし、対空射撃も数が多ければ多いほど良いのですし、それに夜戦火力では私達巡洋艦と同じくらい、駆逐艦も高い火力を有していますから、一概に陳腐化されるとは言い難いです」

 

 神通が島風の言葉にそう返す。

 確かに尾張の対空火力は強力だが、対空戦闘では対空砲の数が物を言うのであり、尾張一隻の対空火力では良い的になるだけだ。

 ミサイル万能説の際、戦闘機から機関砲が外された時の様に、格闘戦能力の皆無が被撃墜の増加に繋がったのと同義である。

 その戦訓は勿論艦娘たちは学んでおり、幾ら高性能な兵器や兵装が出てきても、それに頼りすぎるのは良くないと言う意識もしっかりと芽生えていた。

 話している間にも、何本も巨大な水柱と爆音が起きていたが、それもぱったりと止んだ。

 

『神通さん、海上に浮遊物を確認。

 敵の潜水艦を沈めたわ』

 

「分かりました。十六駆は戻ってきてください。

 ……おかしいですね」

 

 初風の報告を聞いて神通は呟く。

 

「うん、神通の言う通りデス。

 近海の対潜哨戒は隅々まで行って、ここ最近は見なかったデスね」

 

「それに、ここまで沿岸に近付くのは稀です。

 まして、潜水艦がここまで来るのは今回が初めてですね」

 

『ちょ、ちょっとこれなんなの!?』

 

「どうかしましたか?」

 

 金剛と翔鶴が会話を続けていると、初風が慌てた様子で通信が入り、神通が応対する。

 

『どうしたもこうしたも、まだ潜水艦が居たのよ!

 方位1-7-5、数は3!』

 

『こちら雪風!方位0-9-3に潜水艦確認です!数は5です!』

 

『時津風も確認したよ~!

 方位0-3-6、数は2……違った!4です!音響が重なってた~!』

 

『こちら天津風、方位1-8-9に潜水艦を確認!

 数は6!』

 

「なんですって!?」

 

「囲まれた?!」

 

 続く続報でその場に緊張が走る。

 

「……ASROCハッチ開放」

 

 尾張が呟くと艤装のASROC-VLSのハッチが開く。

 

「尾張、戦闘に参加します。

 金剛さん、宜しいでしょうか?」

 

「Umm……、仕方ないデスね。

 Youの力、私達に見せるネ!」

 

 尾張の提案に金剛は暫く悩んだが、戦闘参加にGOサインを出す。

 

「了解、各駆逐艦の観測情報から、敵潜水艦の場所を特定……音響と位置特定完了!

 諸元入力後、命令を待たずに済射!」

 

 尾張がそう宣言してから暫くすると、VLSから炎と白煙が勢い良く噴出し、ASROCがVLSから飛び立つ。

 諸元入力されたASROCの、合計18発は目標へと飛翔を開始した。

 

「あれがミサイル!」

 

「ミサイルと言うよりは、対潜ロケットの発展型です。

 射程は約11km、そしてUBFCSによって音響誘導します」

 

 ASROCは目標上空まで飛翔すると、ブースター部分を分離、対潜魚雷が落下傘を開いて降下し、そのまま着水すると入力された音響を探し出し誘導を開始する。

 

「ASROC全弾頭の誘導を確認、着弾まで約20秒……」

 

 尾張が呟くと暫く静寂が広がり……、20秒後に着水した所から爆音が響く。

 

「……全弾炸裂を確認、浮遊物の確認をお願いします。

 まだ海中が波打っているので、例え生き残りが居てもこちらには攻撃してこないでしょう」

 

『りょ、了解!

 第十六駆逐隊、浮遊物確認を開始します!』

 

 初風たちは暫く浮遊物の確認を行い、18隻分の浮遊物を発見して無事に脅威が去ったことを確認した。

 だが……。

 

(これだけ陸に近い場所で18隻も潜水艦が出てくるなんて……。

 前の対潜哨戒からそんなに時間は経っていないし、一体何が……)

 

 神通は胸中に浮かぶ不安を押さえ込みながら、そう思案するしかなかった。




アニメとかで試作機の試験中に戦闘が起こるのは当たり前(キリッ
と言うわけで今回は対潜戦闘を行いました。
ASROCは飾りじゃない。
え?前に書いた艦娘版にあるスペックと違うって?
……あれはあくまでゲームでの仕様ですし(顔逸らし


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日誌六頁目 異常

今回は尾張が所属する事になる鎮守府の詳細が出ます。
読者の中に地元の方は居るのかな……。


 

 

「以上が、今回の戦闘報告となります」

 

「ん、ありがと。

 しかし、改めて見ると本当に常識外れね。

 大本営にはどう報告しようかしら……」

 

 霧島から受け取った報告書を片手に、頭を抑えながら苦笑いしつつ筑波がごちる。

 その報告書の経過報告にはこう書かれていた

 

 -突発的対潜戦闘報告書-

 1023時、未確認艦娘である尾張の試験航行中、神奈川県藤沢沖5km地点にて深海棲艦の潜水艦を発見。

 第十六駆逐隊による対潜行動を開始する。

 1026時、これを撃破するも、それに刺激されたのか不明だが潜水艦隊の3個小艦隊によって包囲され、尾張に搭載されていた対潜兵装による一斉掃討に入る。

 尾張からASROC18基の発射を確認、経過を観察する。

 1027時、ASROC18基の起爆を確認、撃沈確認を実行。

 1035時、敵潜水艦隊18隻の撃沈を確認し、報告に戻るため試験航行を中断し、所属鎮守府である藤沢基地へ帰投を開始。

 1042時、藤沢基地に帰投する。

 

「しかしこんなに近い距離まで入られるなんて……。

 横須賀の方は何をやっていたのかしら?人の事言えないけどさ」

 

「今月の頭には総出で対潜行動をやっていましたから、あちらも油断していたのかもしれません。

 それでもここまで接近されるまで見つけられなかったのは痛いですが……」

 

「……神通さん、少し良いですか?」

 

 筑波と榛名の問答に大和が割って入る。

 

「はい、何かご不明な点でも?」

 

「気になったのですが、発見したのは貴女方から1.3km地点に近付くまで、気付かなかったんですよね?

 戦艦である尾張の水中探信儀が探知するまで」

 

「はい……申し訳ありません。

 完全に私達の落ち度です」

 

「いえ、それは勿論反省することなのですが、それよりも何でここまで慎重に接近してきたのかが気になるんです。

 あちらはここまで近付くより、若干離れた場所から魚雷を発射出来たでしょう。

 しかもその時、艦隊は足を止めていたのですから、狙いをつけるのも難しくは無かったはず」

 

「もしかしたら、こうしなければならない理由があったのかもしれないな」

 

「改めて考えてみれば、私もそう思います。

 あちらからこちらを攻撃する瞬間は幾らでもあったはずですし……」

 

 大和の言葉に武蔵と神通は同意する。

 魚雷は確かに狙いを付けるのが難しい兵器だが、ここまで接近して発射する必要の無い兵器でもある。

 特に潜水艦の場合は、自分が発射した魚雷の爆圧から身を守るために、安全距離である1.5km以上から発射するのが常だ。

 にも拘らず、深海棲艦は安全距離範囲の内側から、魚雷を発射しようとした。

 

「……もしかしたら、私を狙っていたのかもしれません」

 

「え?」

 

 唐突に言った尾張の声に筑波が聞き返す。

 

「突然現れた私と言う艦娘の存在に慌てて、何時もどおりに撃っては当たらないと思ったと考えれば……」

 

「ふむ……、確かにそれならそこまで接近した説明は付くけれど、問題はなんでこんな沿岸近くまで接近してきたかね」

 

「その辺りはなんとも言えんな。

 そもそも深海棲艦の行動を読むのは不可能に近いし、予測は立てれるがあくまで予測の範囲内での話だ」

 

「えっと……こことここと……あとこの辺りね」

 

「一番近くに潜んでいたのは0-3-6の4隻ね。

 本土からそんなに離れていないし危なかったわ」

 

「なんだかパニックになったイルカみたいな感じですねぇ……」

 

「……パニック?」

 

 雪風の一言に筑波が反応する。

 

「そう言われれば、なんだか慌てて出てきた感じがしましたね」

 

「と言うか最初の潜水艦がやられたのに反応して、大慌てで逃げ出そうとしていた感じでした。

 ASROC……でしたっけ?それが発射された後の動きなんかは、私達から遠くに逃げようとしている感じだったし、0-3-6の4隻の内1隻なんかは、岩に引っ掛かったのか、途中で動きを止めてました」

 

「……」

 

 駆逐艦娘達の言葉を聞いて、尾張は思案する。

 尾張が聞いた限りでは、深海棲艦は過去に戦没や遭難した船の乗組員の無念が、怨霊化した物と聞いている。

 陰陽道で言う陰が深海棲艦ならば、それを陽側に傾かせたのが艦娘であるとも。

 その怨霊の塊である深海棲艦がパニックになる事態……。

 

「っ……」

 

 その時脳裏に過ぎったのは、グロースシュトラール暴走時の怨嗟と悲鳴の声。

 その多すぎる思念を思い出し、尾張は額を押さえる。

 

「尾張?大丈夫?」

 

「……はい、ですが、その前に長門さん、一つ確認したい事が」

 

 筑波の心配する声に尾張は応えながら、長門にそう問いかける

 

「ん?なんだ?」

 

「深海凄艦は過去に海で亡くなった人達の、無念や怨嗟が寄り集まった物、そう捉えてもよろしいですか?」

 

「ああ、まだ暫定的だが……、まさか心当たりがあるのか?」

 

「あくまで予測の内ですけれど一つだけ……。

 その前に超兵器という存在について、改めて説明をさせて頂きます」

 

 尾張は黒板を使って、ブラウン博士が解析した超兵器に関する情報を開示した。

 超兵器の主な特徴としては3つ。

 1.超兵器はその動力源として、超兵器機関を使った兵器群であるということ。

 2.超兵器機関は例え粉々に破壊されたとしても、その核たる超兵器機関は『生き続けている』こと。

 3.その動力源である燃料が不明である事。

 

「問題は2つ目と3つ目についてなんです。

 機械なんですから曲がったりすれば修理が可能なことは、帝国とアメリカで既に実証されています。

 ですが、エネルギーの供給もなく動き続けているというのは、常識的に考えればありえない事です」

 

「そうね。

 確かに普通の機械ならそこまでされたら普通は……」

 

「そこで私が思い出したのは……、レーザー戦艦であるグロースシュトラールと戦った時の事なんです。

 あの戦いで私の砲弾があの船の艦橋に直撃し、一時は操舵不能な状態に陥っていました。

 ですが……乗り込んでいた乗組員の悲鳴と共に船体が発光し始めて、再起動したんです」

 

「あのシーンね……」

 

 水雷戦隊以外の部屋に居た彼女達が思い出したのは、あのレーザー戦艦が発行し始めたシーンだった。

 あのシーンだけはなぜか音声が砲撃の音だけだったのを思い出す。

 

「その時の悲鳴がこちらですが……、一応心の準備だけはしてください」

 

 CDに焼き出したそれを出しながら言った尾張の忠告に、艦娘達は自分達が乗っていた乗組員達の悲鳴や怒号を経験しており、恐らくそれと同じだろうと思っていたからだろうと、直ぐに返事を出してしまった。

 だが、筑波だけは尾張の言に違和感を覚え、少し考えてから許可を出した。

 

「では……」

 

 CDをPCの読み取り機に入れると、音声ファイルをPCが自動再生する。

 そこから漏れ出てきたのは悲鳴、助けを求める声、様々な怒声が聞こえてくるが、それら悲鳴の主は一様にこう訴えてた。

 -飲み込まれる-と。

 僅か数秒間だけの通信音声が終わると、執務室内は静かな沈黙に包まれる。

 

「私はこう仮定していました。

 超兵器は外宇宙からか、もしくは古代人の遺物なのだと……ですが、深海棲艦との比較でその考えが変わりました。

 そのどちらかは分かりませんが、超兵器機関の根本は、人間の負の感情を糧に動き続ける狂った兵器だと」

 

「つまり、貴女は超兵器がこちらに来ていて、負の存在である深海棲艦を糧に活動を開始していると?」

 

「そこまでは分かりません。

 ですが、警戒は強めた方がいいと思います……もし、もし超兵器が出た場合は……」

 

 -私が相手になります-

 

 

 

「……っ!……っ!」

 

 太平洋のとある海域、その海上で中破になった空母ヲ級のフラグシップが、荒々しく呼吸をしていた。

 膝はここまで来るまでに疲労が蓄積して震え、立つのもやっとと言う状態だったが、迫り来る脅威を他の深海棲艦のコロニーに伝えなければと、僅かに残った戦意で奮い立たせる。

 彼女に随伴していた戦艦達は足止めの為に残り、周りには通常の軽巡や駆逐艦等の小型艦艇が僅かに残るのみで、艦隊としては頼りない有様だった。

 

「あらあら、もう鬼ごっこはおしまいかしら?」

 

「!」

 

 だが、そんな彼女達の戦意を踏みにじるようにあの声が聞こえてきた。

 

「30ノット……『たった』それだけの速力で、まあ良く持ちこたえたものだわ」

 

 振り返るとそこにいたのは、あの『悪魔』だった。

 長大な主砲身を備えた砲塔を備え、見た事もない艤装で身を固めたそれを、ヲ級が睨みつけるとそれを遮る様に、深海棲艦の軽巡の中で最新型のツ級が立ちふさがる。

 

「……」

 

「……」

 

 一瞬視線を合わせると、ヲ級は苦悶の表情を浮かべてその場から離れ、ツ級は改めてそれに対峙する。

 

「あら、今度はあなたが相手をしてくれるの?」

 

「……」

 

「そう……じゃあ、沈みなさい!」

 

 その声と共に、夜の海で砲声が鳴り響いた。

 

 

 

 翌日の朝、昨夜で尾張が出した超兵器出現の説は保留となり、原因不明と判断して大本営に報告書が渡される結果となった。

 そのような結果になったのは当然だと、尾張は藤沢市の鵠沼海岸を歩きながら思案していた。

 

(今の状況だと、仮に他の国が襲われたとしても通信はできるけれど派遣は難しい。

 でも何とかしてあげたいのも事実……)

 

「おはようだな、尾張」

 

「あ、武蔵さん、おはようございます」

 

「ふふ、私の事も姉と呼んで良いんだぞ?」

 

「からかわないで下さいよ……」

 

 武蔵のからかいに尾張は恥かしがりながら言う。

 

「あの時はちょっと……なんと言うか舞い上がっていたんだと思います。

 船の時は大和さんも武蔵さんも敵でしたし、違う存在とは言え私の前身となった姉妹なのに、私は……」

 

「まあ、大和も同じ事を言っていたな。

 しかし、お前はお前だろう?この世界では計画段階で終わった超大和型ではなく、紀伊型戦艦を改修し続けた尾張と言う存在だと、私はそう思っているさ」

 

「武蔵さん……」

 

「しかしまあ……流石に私も大和もお前には勝てそうに無いな。

 航空機でやろうにもレーザーで防がれる、砲撃しようにもこちらより遠くから、しかも弾着修正なしで撃ってくる、しかも装填も早いし命中率も良いと来た。

 弾切れを待つまでこちらは何もできやしない」

 

「そんな事ないですよ!私だって、高練度の艦隊が分散して突撃してきたら、流石に対処のしようがないです。

 単艦で相手にしていたと言うのも、相手が同格の艦があったとはいえ、基礎訓練を終えたばかりの錬度が低い艦隊ばかりでしたし、皆さんくらいの練度だった確実にやられてました」

 

 第十六駆逐隊の展開速度を思い出しながら尾張は答える。

 水雷戦隊は艦隊機動の基本となる全てが有るゆえに、その所属艦艇の練度を見るのには最適の材料であり、特に難易度が高い対潜戦闘では、その経験と知識が多く求められる。

 勿論、艦種毎の特徴もあるので完璧にとはいかないが、おおまかな推測には使えるので問題はない。

 

「ふむ、あの戦闘からそこまで読むか。

 こちらでの私達とは違って、随分と使い込まれて……大事にされてきたのだな」

 

「はい……ですが強くなり過ぎた私は、最後は独立したシステムに全ての指揮権を委譲され、最後の戦いで敵と共に沈みました。

 あのまま居れば、確実にウィルキアと日本に……、艦長達に再び火の粉が降りかかると思って……」

 

「その二つの祖国と乗員達への深慮、本当に見事なものだ。

 だが、過去に囚われていては先に進む事などできんぞ?」

 

「過去……」

 

 尾張の呟きに武蔵は頷く。

 

「うむ、私達大和型も、こちらでは決戦兵器としての側面と、艦隊保全と言う名目で余り実戦には出れなかった。

 その上無残にもその本領を発揮できずに、航空攻撃で沈んでしまった。

 ここに着任した当初こそはそれを引き摺ってはいたが、幸いにも艦娘と深海凄艦による新しい次元の戦闘で、私達戦艦にも出番が出てきた。

 大型艦ゆえに必要な補給はでかいが、その分以上の働きをしていると言う自信もある」

 

「そう言えば、私がここに流れ着く前に大きな作戦で大和さんと一緒に、敵の指揮艦クラスの深海棲艦を沈めたって言う報告書を見ました。

 戦艦水鬼……でしたっけ?良くあんな装甲お化けを倒せましたね」

 

「ああ、大和が試製51cm砲であいつの装甲を食い破った所を、私と同時射撃で撃ち込んでやったのさ。

 弾薬庫があったのか凄い閃光と爆音がしてな、しばらくは目と耳が利かなかったくらいだ」

 

「まあそうなりますよねぇ……」

 

 敵艦の爆沈は尾張も何度も見てきた。

 それが至近だったり遠くだったり、下は駆逐艦から上は超兵器まで、様々な船の爆沈を尾張は見てきたのだ。

 そのどれを見た時も、思った事は同じだった。

 

「あんな沈み方だけは嫌ですねぇ……」

 

「まあ、苦しまずに逝く事はできるがな」

 

 二人揃って言いつつ、桜が咲いた山の方へと視線を向けると、満開になった桜が咲いていた。

 遠方から花見をしに来たのか、大人と子供の笑い声が聞こえてくる。

 

「こうして毎年桜を見ているとな、桜を見に来る家族連れの声が多くなって来るんだ。

 自分達が戦う事で、市民に平和が戻ってくるのを楽しめるのは、元は軍艦であった頃に出来なかった事から来るのだと、年を経る毎に実感する」

 

「ですが、戦いは何時までも続くものではありません。

 何時かは終わらせなければなりませんし、そうしなければ、彼等の中で眠りに付いている恐怖心を、完全には取り除けません」

 

「流石に、最後まで戦い続けた奴は言う事が違うな。

 まあ、お前の様な奴だからこそ、こうして話題にもなるんだろうな」

 

「え?」

 

 武蔵が指を刺すと、そこにはカメラを構えた幾人もの人影が見えた。

 生憎と基地の範囲はフェンスに囲まれ、警備の人員が回っている為、進入する事はできそうにもないが、そのレンズは尾張と武蔵を捉えており、中には集音マイクを向けている者も居る。

 

「私達の"ファン〟だそうだ。

 しかもお前の事は早晩に、ネット上に公開されているぞ?

 幸い戦闘の様子は広まっていないが、艤装の様子からかなりの近代兵装だと言うのが予想されていたな」

 

「何時何処でも、そう言うのは無くならないのですね。

 ですがそう言う好奇心も、人間が繁栄して来た理由の一つかもしれませんが……。

 そうなると、私の事は近日中に公表されるのでしょうね」

 

「ああ、提督もあの後大本営からそう言う意図の話が来たそうだ。

 公開する際は、大和と私も同席するらしい」

 

「大和型を超える戦艦だから……つまり客寄せですか」

 

 武蔵の言葉に尾張はそっけない感じで応える。

 その目には見飽きたと言う色が見えるのを、武蔵はしっかりと捉えていた。

 

「客寄せは嫌か?」

 

「気が進まないのは確かですが、それが任務だと言うならやるしかありません。

 しかし、私は戦艦尾張、それ以上でも以下でもないのです」

 

「……それで良いと、お前の信愛する艦長は思うのか?」

 

 ただ自分の役割のみに邁進する尾張を見て、武蔵は眉根を立たせながら言う。

 沈んでしまった船を想うのは有り得るが、その船がこうして人の形となって居るのを想像して、想ってくれる人など居ない事を自覚しながらも、そう問い立たせる事しかできなかった。

 

「ふふ、愚問ですね……と言いたい所ですが、恐らくあの人は、人の形の私の事も愁いてくれているでしょうね」

 

「は?」

 

 だが尾張の口から出てきたのは違った答えだった。

 

「最後の最後、……南極の海で別れる時に私の事を知覚してくれたのは、少なくともシュルツ艦長だけでした」

 

「つまり……お前は……」

 

「あ、でも直接言葉を交わしたとかそうじゃないんです。

 ただ、最後に私の事を見送るように命令を出してくれた時、お互いにその姿を確認できたと言うのを察しただけですから」

 

 最後の戦いの前、シュルツと自分が視線を合わせたのを思い出す。

 何かの偶然だったのかもしれない……だが、今の尾張にはそうだと至る確信めいた物があった。

 

(艦長、私は戦い続けます。

 それが戦艦として生まれた私の運命(さだめ)であり、存在意義なのですから)

 

 自分でも未練がましいと思う。

 だが、それこそが尾張が尾張たる証なのだ。

 

「ん?」

 

「あれは……」

 

 そこで浜辺に何かが打ち揚げられているのが見えた。

 そしてそれが、異常の始まりであった……。




藤沢基地:
太平洋戦争当時、海軍の飛行場として建設された。
湘南海岸の江の島の西側から引地川を北上した東側の丘陵上南端部にあった。
さらに北上すると厚木海軍飛行場がある。滑走路は、北南方向だった。
終戦後は民間飛行場となり、廃止後の跡地の大部分は荏原製作所の藤沢事業所となった。

(Wiki:藤沢飛行場の概要より)


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日誌七頁目 旋風が吹く海

今回は別の鎮守府の艦娘が出てきます。
ちょっと残虐さは足りないかもしれませんが、個人的にはこのぐらいが良い匙加減だと思った次第です。


 

 

 

 

「お腹痛い……」

 

 執務机に突っ伏しながら筑波が、開口一番でそう愚痴る。

 尾張の救助から数日、尾張の存在だけでも対処に神経を使ったのに、一昨日から発生した事案はある意味それ以上の難問であった。

 

「空母ヲ級のフラグシップ、しかも大破状態で流れ着いていたのだから、大本営もどう対応していいのか困っているのよね。

 あとあの時浜辺に来ていた“お客”は、ちょっと憲兵さんから『協力』して貰ってから帰宅させてあるわ」

 

「その内容がすごく気になるんですが、聞かない方がいいですね」

 

 陸奥が言った憲兵さんとは基地とその周辺の風紀を保つ、所謂基地警邏隊の事である。

 行き過ぎた行為だったり、機密に関わる部分を見てしまった場合、何処からともなく現れては対象を秘密のお部屋にご案内するのだ。

 一部の艦娘の追っかけからは、『しまっちゃうけんぺいさん』と呼ばれているとかいないとかあるが、どうでもいい話である。

 

「兎に角、これは我々藤沢基地だけでは対処に困るし、尋問しようにもヲ級自体の身体能力がどれほどかも不明、かと言って通常の艦娘では……」

 

 長門のその言葉に、その場に居た主力艦クラスの艦娘達が一人の艦娘に視線を向ける。

 

「……え、もしかして私ですか?」

 

「もしかしなくともそうだ。

 並大抵の攻撃にも耐えられ、尚且つ相手を御しきれる力を確実に持つ艦娘……尾張、お前だけだ。

 それにあいつを連れてきたのはお前だからな」

 

「相手はヲ級とは言えフラグシップと言う上位個体、私達大和型戦艦でも一撃で大破させられる攻撃力を持つの。

 今は大破の状態だけれど、念には念を入れたいから……」

 

「大和型のお二人と私で尋問を……と言う訳ですか。

 ……言葉、通じますよね?」

 

「まずはそこからなのよね……」

 

 艦娘達は今の今まで深海棲艦と戦ってきたが、言語能力を有するのは鬼と呼ばれる種別以上の、所謂上級個体のみにしか確認されていない。

 鬼以下の個体にはその能力は無いはずなのだ。

 

「物は試しでとりあえず接触してみます。

 まあ荒事になった時はその時に考えましょう。

 臨機応変に柔軟な対応を、と言う奴です」

 

「それって行き当たりばったりって事よね……」

 

「私の場合、何時もそんな感じで戦ってきましたから」

 

 

 

 と言うわけで独房区画の前に来たわけであるのだが……。

 

「それで、なんでカレーを持参しているのかしら?」

 

「え、いや深海棲艦の生態ってまったく不明じゃないですか。

 もしかしたら普通に食物を摂っているかもしれませんし、とりあえず4人分用意しちゃったんですけれど……、食べなかったらその時はその時なので問題ないです」

 

「4人……分?」

 

 大和と尾張の会話を聞いていた見張り役の人間が、敵が収容されているのを一時忘れて思わず口にする。

 そこには寸胴バケツ2個が置いてあり、中身は全てカレーである。もう一度言うが全てカレーである。

 ちなみに三人とも艦娘として十分な力を発揮する為に、艤装を特別に装着しており、尾張の腕には書類が入ったファイルが携えられていた。

 

「と言うか私も、下手するとここに居た可能性もあるんですよね……」

 

「そのあたりは私と大和が取り成したからな。

 それよりも相手との会話はどうするつもりなんだ?」

 

「最初は日本語で話しかけて、その後は英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語の順で呼びかけます。

 それでもダメだったら無線かモールスを使うしかないです」

 

「おいおい……」

 

 武蔵ががそう呟くと同時に、独房区画にある重厚な扉が開かれる。

 その最奥にあるヲ級の独房前には、今は完全武装の伊勢と日向が配置されており、今にも殺し合いを始めそうな沈黙に包まれていた。

 

「お、3人とも、ご苦労様」

 

 そんな伊勢だったが、大和姉妹と尾張が来たのを認めて少し気が抜けたような声をかける。

 

「ご苦労様です。

 ヲ級の様子は?」

 

「相変わらずだんまりね。

 何も言わないし、動こうともしないから逆に不気味よ」

 

「そうですか」

 

 と伊勢と大和が話す中、尾張はヲ級に注視する。

 独房の中は机とベッド、それに水洗トイレが完備され、それを遮るように断熱加工をされたガラスを挟んだ鉄柵扉が付けられている。

 当のヲ級は相変わらずマントやその服装がボロボロの状態ではあるが、発見した時に比べたら随分と覇気がある雰囲気を纏っていた……が、やはりどことなく疲れきった様子で顔を俯かせている。

 

「……」

 

「まあ、あんな感じだよ。

 艤装も大破していて、まともに艦載機の運用も出来ないみたいだ。

 おい、あんたにお客さんだぞ」

 

 日向の声に反応したのか、ヲ級が俯かせていた顔を上げる……が。

 

「!!?!」

 

 尾張と視線を合わせた途端、その顔を恐怖の表情が出たと同時に、尾張から離れようと独房の隅に後退り、今にも失禁しそうなくらいに震え始める。

 

「お、おい!どうした!?」

 

「これは……また随分な反応をされたな」

 

「……普通なら訳も分からずにこういう反応をされるのは心外ですが、一先ず彼女を落ち着かせましょう。

 注目!」

 

「!!」

 

 尾張の声が独房区画に響き渡り、その声に反応してヲ級の動きが止まり、恐怖で揺らいでいた目線が尾張にしっかりと向かう。

 

「起立!気をぉ付けぇ!」

 

「!」

 

 尾張の声に応えるかのようにヲ級が即座に直立し、腕を身体の後ろに回す。

 深海棲艦が幾ら亡霊的な存在とは言え、その大半は戦死した軍人達の魂が依り代になっている限り、心身に刻み込まれた『規律』と言う概念は根付いていると考えた結果、尾張はこうして試しているのだ。

 

「……今は貴女に何もしません。

 今からそちらに向かいますが、よろしいですね?」

 

「……」

 

 尾張の呼びかけにヲ級は沈黙したまま頷く。

 

「日向さん、扉を」

 

「あ、ああ……」

 

 威圧だけでヲ級、それもフラグシップを御したのに目を瞬かせながら、日向は独房の扉を開けた。

 開いた鉄柵扉を潜って尾張が入っても、ヲ級は気を付けの姿勢を保ったままだ。

 

「ああ、もう姿勢を自由にしてもいいですよ」

 

「……」

 

 ヲ級が一瞬ホッとした様子を見せるが、直ぐに無表情になる。

 感情の機微が無いと言うよりは、強い刺激に反応して思い出していると言う様子だった。

 

「とりあえず確認作業から始めましょうか。

 貴女は喋れますか?喋れるなら何か返事を、喋れないのでしたら首を振ってください」

 

 尾張がそう問いかけるとヲ級は首を振った。

 日本語が通じるなら日本語が話せそうだが、どうやらフラグシップでも言語能力は無いようだ。

 これも貴重な深海棲艦の生態情報の為、武蔵が持ってきたメモに記録を、大和はカメラで記録を始める。

 カメラの情報は筑波の執務室にも送られ、同時に大本営の上層部会議にも送っている。

 

「では次の質問です。

 貴女は私が発見したときには既に大破の状態でしたが、それは私達の攻撃によるものですか?YESなら縦に、NOなら横に首を振ってください」

 

 続く尾張の言葉にヲ級は首を横に振った。

 その返答に後ろの伊勢と日向が息を呑む。

 

「……では、深海棲艦同士で撃ち合ったのですか?

 返答は先程と同じようにしてください」

 

 この質問にもヲ級は首を横に振る。

 その時点でこれを目撃している全てが、沈黙したような錯覚を大和と武蔵は感じた。

 

「次の質問は少し複雑ですが……大和さん、カメラを机の真横上方から写して下さい」

 

「……ええ」

 

 やや険しい表情で大和は向かい合う両者の傍にある机の真横に移動し、机から少し上の方からカメラを向ける。

 それを確認すると尾張は、その机の上にファイルを置くとそれを開く。

 

「一枚一枚捲りますので、その中から見知っているものに指を刺してください。

 では一枚目……」

 

 尾張は『それ』をヲ級に見せる。

 するとヲ級は再び身体を硬直させて『それ』に釘付けと成り、時間を経るごとに身体を震えさせるのを、その場に居た全員が確認した。

 

「はぁ……、どうやら、状況はあまり喜ばしくないようです」

 

 尾張が開いたページには、とある兵器の写真と諸元、そしてその名前が記されていた。

 -超高速巡洋戦艦 ヴィルベルヴィント-

 

「……今回はここまでとします。

 ご協力感謝します……が」

 

「!」

 

 尾張の言葉が終わる前にヲ級が身構える。

 

「ふふ……」

 

 尾張はそんなヲ級を見て静かに笑った。

 

 

 

「で、ヲ級と昼食を摂って、今に至ると」

 

「まさか出したカレーを、飲むように食べるとは思いませんでしたけどね」

 

 2時間ほど後、昼食を済ませた筑波と、エプロン姿の尾張が執務室で向かい合っていた。

 

「それで……まあなんと言うか、貴方がここに来た理由と言うのが出来てしまったわけね」

 

「これだけならまだ良いんですけれど……」

 

 執務机には先程ヲ級に見せた超兵器、ヴィルベルヴィントの諸元や特徴を詳細に纏めた解説書があった

 その速力は93ノットを叩き出し、主砲は80口径の30.5cm三連装砲が4基、副砲は80口径12.7cm連装高角砲が4基、対空用の25mm機銃と20cm12連装墳進砲が多数、53.3cm酸素魚雷と45cm誘導魚雷の発射管を計6基搭載した超兵器である。

 

「貴女の言い方だと、まだ居そうな物言いよね……」

 

「私も勘でしか言えませんが、このヴィルベルヴィントだけで終わりとは思えません。

 恐らく他の海域にも別の超兵器が居る可能性を、考慮に入れておいたほうが良いでしょう。

 ……それが大洋の向こう側だったとしても、私は行く所存です」

 

「大洋の向こう側かぁ……。貴女だと、強ち不可能ではないと思えてくるのよね」

 

 既存の艦娘を大きく上回る尾張の性能と、艦船時代の戦歴を考えれば不可能ではない。

 その速力と対空性能は航空機からの攻撃を凌ぎつつ、敵機動部隊との距離を引き離し、潜水艦による待ち伏せも優れた対潜能力で蹴散らし、水上打撃艦隊もその砲火力と防御力で切り開くだろう。

 だが……。

 

「だけどダメよ。

 ここには貴女の変えは居ないし、貴女以上に超兵器の事を知っている艦娘は居ない。

 だから……貴女が本当に相対すべき相手が出ても、無理はしないで」

 

「判っています。

 私も、全てが済むまで沈む気はありません」

 

 2度目の艦生を手に入れ、故郷の艦艇が生まれ変わった彼女達との生活は楽しい。

 例え世界が違うと言われても、それは尾張が思い募らせていた願いだった。

 

「あ、そう言えば、実家から曽祖父の写真が届いたの」

 

「拝見します」

 

 そう言いながら筑波は執務机から1つの封筒を取り出し、尾張はそれを受け取ると封を開け、中に入っていた一枚の写真を見る。

 

「どうかしら?」

 

「……」

 

 筑波の声に尾張はほっとしたような、残念そうな、そんな顔を見せる。

 

「どうやら、貴女の知っている人とは違うようね」

 

「はい、私が知っている筑波大尉は、もっと厳格な顔つきでしたから……。

 それでも、立派な軍人だと言うのが分かります」

 

 そこに写っていたのは線がやや細くも、軍服姿が似合う初老の男性の姿であった。

 尾張が知る筑波とはかけ離れているが、それでも国の為、家族の為に身を捧げた男だと言うのが、写真から伝わってくる。

 

「……」

 

「……それで、作戦の方針はあるの?」

 

 写真を見つめている尾張に筑波が尋ねる。

 

「一先ずは周辺警戒を厳にして下さい。

 警戒をする際は正規空母の艦娘を必ず随伴させ、絶えず偵察機を飛ばして警戒をする事と、発見した際は手を出さずに直ぐに撤収する様にしてください。

 93ノットの速力とは言え、航空機の行動半径を詰めるには時間がかかります。

 実際、こうやって何度も超兵器の情報を取得してきました」

 

「順当で手堅い索敵手順ね。

 でも、大本営や他の鎮守府が納得するかしら?

 こうは言いたくないけれど、勿論艦娘の補給や修理も堅実にやっているけれど、それでもたまに無茶をして、戦果を増やそうと躍起になっているところがあるし……。

 そもそも超兵器の存在に対して懐疑的な見方をする提督も居るわ」

 

「超兵器の恐ろしさは実際に体験しないと分かりません。

 もしそうなったとしたら、それはその娘達と提督にとって不運になるでしょうけれど……、こればかりは私には手出しが出来ません。

 早まった真似をしなければ良いのですが……」

 

「ちょっと、不穏な言い方をしないで頂戴……と言いたい所だけれど、何時何処で現れるかわからないのが難物よね。

 いっそ篝火でも焚いてくれたら良いのに」

 

「あはは」

 

 筑波の愚痴に尾張が笑う。

 そんな時、電話の呼び出し音が鳴った。

 

「はい、こちら藤沢基地の筑波です。

 はい、はい……え、鹿屋基地の水雷艦隊が!?」

 

「……」

 

 その時尾張と筑波は、悪い予感は当たるものだと痛感した。

 

 

 

「……」

 

「ふふふ……、今度は鬼ごっこかしら?」

 

 小島の脇に大小様々な岩で形成されている暗礁の窪地で身を潜める艦娘達に、「それ」は何処へ向けるでもなく囁く様に語り掛ける。

 実際光学的には見失っているおり、遠征組は幸い全員無事に隠れているのだが、遠くない内にここを探り当てるだろうという予感はあった。

 

「あの愚物達に比べたら良い臭いだけれど……だめね。

 もっとオイシイモノが欲しいわ」

 

 その台詞を正しく理解したくない。

 水雷戦隊を任されている鹿屋基地所属の球磨は、台詞の奥底から湧き出る狂気と歓喜が入り混じった声から、耳を遠ざけたい思いで傷の手当てをしていた。

 逆探知と傍受される危険性があったが、救援を求める暗号通信も送ってある、きっと自分達は助かるのだと言う思いをこめて……。

 

「そう言えば、あえて傷付けた獲物を放って置いて、助けようとして寄ってきたより質と量がある獲物を、捕らえると言う話があったかしら」

 

 そんな彼女達の思いを踏みにじるかのように、彼女……尾張からはヴィルベルヴィントと呼ばれるべき彼女はそう言い放った。

 

「待つのは趣味じゃないけれど、偶には趣向を凝らすのも面白いわね。

 だってその方が、元の素材がよりオイシクなるんだもの」

 

(自分達の事がばれているクマ!?)

 

「ああぁ……良いわ。その感情、思わずこのままタベテシマイタクナリソウ」

 

「う、ううう……」

 

 駆逐艦娘の一人、五月雨の青褪めた顔が土気色に染まっていくのを見て、神通は彼女を抱きしめる。

 

「大丈夫だクマ。助けは必ず来るクマ……」

 

「くそぉ……艤装が万全ならあんな奴……」

 

 涼風の台詞に球磨は静かに思案する。

 自分達は遠征任務中に「あれ」に出会い、そして追いやられた原因は、遠征用のドラム缶を各艦に2つずつ携行していた為だ。

 その結果、兵装スロットには主砲の兵装が各艦に1つずつしかなく、火力不足で決定打にかけてしまい、この小島まで退却を余儀なくされた……だが。

 

(仮に万全の状態で遭遇しても、結果は変わらなかったと思うクマ……)

 

 なによりも性能の差が違いすぎる。

 向こうはこちらよりも倍以上の速さで航行し、戦艦クラスの主砲に酸素魚雷と、恐らく誘導型と思われる魚雷で、こちらの動きを撹拌して封じ込め、そのまま嬲る様に攻撃を加えてきたのだ。

 そんな事をしなくても、こちらを撃沈させる事など造作も無い筈なのに何故そんな事をしたのか?

 

(今はそんな事はどうでも良いクマ……。

 ただ、あいつに攻撃が当たったのに、何の被害らしい被害がないのが気になるクマ)

 

 確かに自分達の攻撃は当たったはずだった。

 だがあの蜘蛛の巣状の壁に砲弾が阻まれ、あの深海棲艦らしいあれに被害が与えられなかった。

 

「誰か教えて欲しい気分だクマ……」

 

 球磨は誰ともなくそんな事を呟き、夜空を見上げた。

 あれがナニカをすする音と共に……。




今回は鹿屋基地の球磨さんに出ていただきました。
何気に他鎮守府の艦娘が出るのは初めての事と、原作的にも撃沈された艦が居ないのでこんな感じになってしまいましたが、状況的には負傷兵を助けに来る兵士を待つスナイパーな感じでしょうか。
ヴィルベルヴィントの事は彼女たちは知らないので、あえて地文だけに名前を出しています。

次回は遂に尾張が出撃します。
ご期待に沿えるように気張っていきますよ!


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日誌八頁目 旋風に立ち向かう者達

作者としては、好物は後に取っておく主義です。



副題の話数を書くのを忘れてました……orz


 

 藤沢基地の大会議室は喧騒に包まれていた。

 この大会議室はその基地に所属する艦娘全てを収容でき、壇上には提督用の席と大モニターが完備されており、大きな作戦などで他鎮守府や基地との同時中継が可能となっている。

 このシステムが出来たのは横須賀鎮守府が、E海域と呼ばれる海域で最も近い場所、深海棲艦の前線泊地攻略作戦が終わり、その約1ヵ月後に新設された泊地攻略と同時に呉、佐世保、舞鶴で鎮守府が開設され、再びE海域の攻略あるいは打開に向け、4つの鎮守府が連携して作戦立案が出来るように設けられたものだ。

 

『では特異性深海棲艦……超兵器ヴィルベルヴィントに対する、作戦会議を始めたいと思うが……その前に、藤沢基地に新しく配属した艦娘の紹介に入りたい』

 

 横須賀鎮守府の提督であり、元帥の階級を持つ北条提督がそう発言する。

 顔は細く感じられるが体格はがっしりしており、好青年といっても差し支えの無い人物である。

 

『では尾張君、紹介を』

 

「はい!

 ウィルキア王国近衛軍所属の近代改修型実験戦艦、尾張と申します!

 聞きなれない所属や経緯に関しましては、皆様のお手元の資料に記載されている通りです」

 

 尾張の制服として、注文通りに出来上がったウィルキア近衛軍の制服に袖を通した尾張が、この会議室と画面の向こうに居る全艦娘達に自己紹介をする。

 

『うん、君の事は筑波提督から聞き及んでいる。

 俄かには信じがたいが、それ以上の事態が進行している事もあり、詳しい説明は後にしたい。

 では、まずは鹿屋基地の北郷提督から説明を』

 

 北条の紹介で、角刈りに強面と言う風貌の壮年の男性が、画面上で立ち上がった。

 その顔色は悪く、目の下にクマができており、かなり疲労が溜まっているのが分かる。

 

『んん……、ご紹介に預かった北郷だ……と言っても、殆ど変わらない面子ではあるが、藤沢の新入りとは初対面だったな。

 随分な力を持っていると聞く、頼りにさせてもらうぞ』

 

「はい、私の持てる力全てを使って尽力させていただきます」

 

 尾張の口上に北郷は「うむ」とだけ応え、少し血色が悪かった強面の顔に少し血の気が戻った。

 

『状況だが南方への遠征中、定期通信中にノイズが走った後消息が途絶えた。

 場所は沖ノ島沖、そこまでしか分からない……その後ノイズの濃度が濃くなって途絶えてしまったのだ……。

 尾張君、何か心当たりはあるかね?』

 

「ノイズは様々ありますし、普通なら深海棲艦によるものと思ってしまいますが、今回は空母ヲ級の証言もあり、超兵器機関から発せられるノイズのものと断言します。

 超兵器はその特性上、超兵器機関と呼ばれるものを機関にし、その機関から発せられるノイズも様々です。

 北郷提督、ノイズの波形はありますか?」

 

『ああ、今転送する……送ったぞ』

 

 この辺りは予め筑波と北郷が打ち合わせをして、資料を用意していたのでノイズのデータは直ぐに届いた。

 

「頂きました……波形はヴィルベルヴィントのそれと酷似、ですが少し波形が変わっていますね……同系艦か、或いは改良型と思われますが、もしかしたらこちらの規格に合わせている可能性もあります」

 

『つまり、深海棲艦化していると?』

 

「あれは超兵器という一つの生態系で成り立っています。

 深海棲艦か艦娘か、それに当て嵌めるのは無理です。

 幸い、私は艦娘として二度目を漕ぎ出せました。

 深海棲艦と艦娘が陰と陽なら、私と超兵器もその関係にあります」

 

『つまり陰の超兵器と陽の尾張、と言った所か……』

 

『佐世保の鍋島だが、先程尾張君から提案された偵察隊から報告が入った。

 超兵器は沖ノ島沖で深海棲艦を食べており、付近の暗礁に北郷君の水雷戦隊全員の無事が確認された』

 

 尾張と大友の問答に割って入った、髭を生やした鍋島の報告に各方面のざわつきが大きくなる。

 

『そ、それは本当かね!?』

 

『はい、どうやら、誘っているようです』

 

「鍋島提督、画像などはありませんか?」

 

『残念ながら簡略図だけしかないが……それでも良いか?』

 

「お願いします」

 

 筑波の返事に鍋島は即座に画像データを送る。

 本当に特徴を捉えただけだがその姿は人型をしており、髪は銀髪、艤装はサーフボード状の基部に主砲と高速推進機関用のジェットエンジン、そして排気煙突や魚雷発射管などが各部に配置されていた。

 

『目測した限りだと、ヴィルベルヴィントは38.1cm砲を装備、砲身長は65口径に及ぶと思われる。

 これだけでも化け物だが、問題なのは出した偵察機が墳進弾によって撃墜された事だが、どうも誘導型だったらしい』

 

「……私が知っているものより強化されていますね。

 恐らく私に倒された記憶もあって、その対策の為に火力を強化したのでしょう」

 

『航空攻撃も同時に行ったが、何か蜂の巣状の物が展開されて攻撃が阻まれたと言う事だ。

 これに関しては?』

 

「恐らく防御重力場でしょう。

 どれ程の物かは分かりませんが、最低の物でも駆逐艦の主砲程度なら無力化されるはずです」

 

 尾張の口答にその場にざわめきが走る。

 予め聞かされたスペックは元よりそうだが、その火力が強化された上に防御力まで上がっているのだ。

 だがそのざわめきの中、尾張は説明を続ける。

 

「ですが、防御重力場も無敵ではありません。

 魚雷や大口径主砲の攻撃に晒され続ければ、発生装置に負荷がかかって緊急停止するはずです」

 

『なるほど、ではどうする?』

 

「まずは防御重力場を機能不全にさせた後、煙突に対して集中砲火を浴びせて損傷させ速力を下げます。

 その後重雷装艦や戦艦の砲雷撃、そして空母航空隊による火力集中で撃破するのが順当でしょう」

 

『ふむ……だがそれでも、深海棲艦との戦闘も含めると数日がかりになりそうだな……』

 

「はい、そこで私の方から提案が有ります」

 

 そこで筑波から声が上がった。

 

『ほう……』

 

「先日鹵獲したヲ級を尾張と共に行動させようかと愚考します」

 

『……は?』

 

 筑波の言葉に各鎮守府の提督や艦娘達が絶句する。

 当然だ、筑波が言っている事はつまり、深海棲艦であるヲ級と共闘すると言う事だ。

 

「一見不可能だと思えますが、あのヲ級の怯え具合からして尋常ではない事態になっていると予想され、先程の提案を呑む可能性はあります。

 しかもこの事態を他の深海棲艦に伝えようとした節もあり、彼女をメッセンジャー兼案内役にし、深海棲艦の上位種と接触して更なる共闘体勢を気付こうかと思っています。

 勿論、可能な限りではあり、中には拒絶する固体も居るでしょう」

 

『いやいやいや、ちょっと待ってください』

 

 その時声を上げたのは舞鶴鎮守府の朝倉提督だった。

 鎮守府全体で3人しか居ない女性提督で、深海棲艦からの復興で頭角を現し始めた朝倉インダストリーの令嬢でもある。

 

『確かに報告書は読みましたが、それでも一緒に行動させるのは危険です!

 大体、一緒に行動させる艦娘である尾張さんはどうなんですか!?』

 

 朝倉の言葉にその場に居た全員が尾張に視線を向ける。

 だが当の尾張はきょとんとしていた。

 

「どうもなにも……確かに深海凄艦は人類にとって害悪となる存在です」

 

『そうでしょう!?だった「しかしです」らぁ……』

 

「超兵器に関しては我々艦娘、深海棲艦、そして人間に問わず攻撃を仕掛けるでしょう。

 漁夫の利などという言葉に乗じようとか、そんな甘い考えで理論武装してはダメな相手なんです。

 あれは、間違いなくこの星の知性体にとっての災厄と成りえます」

 

『っ』

 

 朝倉が何か言う前に言葉を差込み、射抜くような目線で言い放つ尾張に、朝倉は息を詰まらせる。

 その瞳の内に灯った闘志は、間違いなく超兵器を己の宿敵と捕らえている証であり、超兵器が出た今となっては、あらゆる手を尽くして撃滅しようと考えている色もあった。

 

「あれは……決して野放しにしてはいけない存在なんです。

 それにあの末端が動いていると言う事は、更に最悪の事態も想定しなければ成りません」

 

『最悪の事態?それにあれが末端だと?』

 

 北条が尾張の言葉に、僅かに驚きの色を含ませながら尋ねる。

 その言葉に尾張は頷く。

 

「究極超兵器フィンブルヴィンテル、恐らくあれも、こちらに来ている筈です」

 

 

 

 その後の会議は概ね予定通りに進められた。

 会議によって各鎮守府は連合艦隊を編成し、超兵器潜伏海域である沖ノ島沖へ向かわせる事となり、主力はやはり最大戦力である尾張を保有する筑波が担当する事になった。

 そもそもが横須賀や佐世保が中心となって根回しをして、対超兵器戦に関してはかなりの実績がある尾張の存在もあったのもあるが、最もな要因は尾張が一部を除いて、艦娘が相対してもギリギリ相手に出来る超兵器の情報を出した為でもある。

 尾張としては全ての情報を出したい所では有ったが、北条提督の意見もありヴィルベルヴィント、ドレッドノートと同系艦であるノーチラス、そしてデュアルクレーターに播磨と言う、『まだ現実的な』超兵器のデータを出すに留めた。

 これは今はヴィルベルヴィントに全力を注がせる為と、艦娘の士気に考慮しての事であり、この作戦が終われば随時解禁する予定である。

 尚、藤沢基地の大型艦の艦娘達は、まさかあの映像に出てきた船が現実で自分達と相対する事になることに、悲壮な気分を絶賛味わっているのだが、筑波は尾張にある提案をした。

 

 

 

「とりあえず、試しに尾張で開発を試すわよ。

 もしかしたら装備で戦力の拡充が出来るかもしれないし」

 

「出来る準備は大事ですからね」

 

 今は尾張と筑波が居るのは工廠の開発装置の前であった。

 一応長門と陸奥も一緒に居り、伊勢と日向はヲ級の所へ行って事情の説明と、説得に入っている頃合いだ。

 ヲ級自身も仲間とは思っていないにしろ、自分達の駒を意味も分からない兵器に蹂躙されるのは、表情はさておき心中穏やかではないだろうと言うのが、戦艦艦娘と空母艦娘、そして筑波の意見の一致である。

 

「さて……とりあえずボーキサイトと鋼材の分量を多めに設定して、これで電子機器のスロット装備が出来るはずだけれど……。

 尾張、この手形に手を置いて頂戴」

 

「え?これにですか?」

 

 開発機械はスパコンのサーバーの様な外見をしており、それにタッチパネル式のモニターと、静脈識別方の生体認証装置の様なものが付いた外観だった。

 

「そう、それで投入資材を決めて、艦娘の手からその艦娘に由来する装備をランダムで作るの。

 ある程度は材料を決めて出したい装備を狙えるけれど、殆ど運任せね」

 

「どういった仕組みなんですかね……」

 

「私もそこまでは……作った科学者達と妖精さん達のみが知る……かな?」

 

 艦娘自体が科学とオカルトの狭間の存在なので、学会では未だに論議の真っ只中だと言う。

 生物種としてもまったくと言っていいほど由来が不明な為、ホモサピエンス属に属するかも怪しいと言う有様であるが、一応遺伝子配列は人間のそれと同一なので、人間の男性との生殖も可能だと言うのだから、余計に議論がこんがらがるのだがどうでもいい話であった。

 ともあれ、尾張は手形に掌を置くと開発機械が作動し始める。

 

「おお……」

 

「さて……これで少し立てば装備が出来るんだけれど……って、あららスカだったか」

 

 機械から出てきたのはペンギン(?)と羊(?)の人形が入った木箱だった。

 

「あ、なんだか愛嬌があって可愛いかも」

 

「「「え」」」

 

「え」

 

 尾張の反応に筑波と長門姉妹が声を漏らし、その奇妙な声に尾張も反応する。

 

「え、えっと、とりあえず大本営からは、各装備レシピの最大値を最低でも10回は試せって言っているから、続けて頂戴」

 

「は、はぁ……」

 

 筑波が何とか割って入り、尾張は続けて開発を再開する。

 今回開発する分は大本営から使用した分の資材が支給されるので、心置きなく開発する事ができる。

 今回は砲、航空機、電子機器、砲弾を10回ずつ行う事にし、その結果は……。

 

「砲は50口径41cm三連装砲が2個、65口径51cm連装砲が1個、40mm4連装機銃が3個、75口径10cm高角砲が2個、65口径12.7cm高角砲が1個、スカが3だな」

 

「航空機は晴嵐改が2個、SH-60Jが1個、CH-47が2個、ウォーラスが3個、スカが2ね」

 

「電子機器はSC-2レーダーが2個、32号電探が1個、22号電探が1個、スカが6……ちょっと運が悪かったかな?」

 

「砲弾は三式弾が2個、近接信管弾が3個、一式徹甲弾が2個、スカが3ですね」

 

「なんで米国の装備が出てくるんだ……いや、もう何も言うまい」

 

「尾張の出自とかからしたらある程度予想はしていたけれど、まさかヘリまで出るとはおもはなかったわ……って、尾張にはハリアーがあるんだった」

 

 出来上がった装備のミニチュアの様な装備を各々確かめながら、長門が諦めたようにこめかみを押さえながら呟き、陸奥がそれに応えるが、既に尾張をそう言うものだと捉えている節があった。

 

「試しに対潜兵装もやってみます?」

 

「うーん……じゃあ5回だけやってみましょうか」

 

「了解です」

 

 

 

「それで、この装備が私達に配備されるわけですね」

 

 工廠に呼び出された、第二改装したばかりの吹雪がそう呟く。

 対潜兵装では乱数の神様が調整したのか、マウストラップが2個とM/50対潜ロケット砲が3個出来た。

 これは戦艦である大和達にも乗せれるわけだが、駆逐艦に装備させた方が良いだろうと、吹雪型駆逐艦の4人にマウストラップとM/50が2個ずつ配備される事になった。

 

「本当はASROCを出したかったんですけれどね」

 

「いえ!これだけでも十分過ぎます!」

 

「新しい装備が増えるのは嬉しいです!」

 

「これ以上良い物貰ったら、引き篭もれなくなる……」

 

「やっぱり新しい装備って良いよなぁ!」

 

 吹雪型の4人は、新しく装備に反映された対潜装備に、はしゃぎながら尾張に答える。

 ミニチュアサイズの装備は各々の艤装に吸収され、その装備が各々の艤装に出現していた。

 この辺りも未だに未解明で、既に科学者達が匙を投げている状態である。

 

「残りのM/50は神通に、大型主砲も51cmは武蔵へ渡しましょう。

 41cm三連装は長門姉妹に、ロクマルは日向に持たせて、晴嵐改も利根姉妹に配備させる予定だから……うん、既存の深海棲艦相手なら十分過ぎるわね」

 

「高角砲はどうします?」

 

「う~ん……、やっぱりあの娘に装備させるしかないかな」

 

 筑波がそう唸ると工廠の入り口にまた一人、少々大きい体格の駆逐艦娘の姿があった。

 防空駆逐艦の秋月である。

 

「あ、提督、ここにいらしたのですか」

 

「あ、秋月、ちょうど良かったわ!」

 

「はぁ……、私に何か?ってなんですかそのお化けみたいに長い砲身の10cm砲は!?」

 

「ちょっとこれを装備してみない?

 今尾張に装備開発をさせたら出てきちゃって」

 

「え、良いのですか?」

 

 尾張の方をチラチラと見ながら秋月はそう聞きかえす。

 

「私にはもうパルスレーザーがありますし、秋月さんが装備してください。

 これからの戦いはもっと激しくなると思いますから、秋月さんの対空火力も増強したほうが良いと思いますし」

 

「尾張からもこう言っているし、遠慮無く貰っちゃいなさい。

 過去の確執は忘れろとは言わないけれど、今は遠慮なく欲しい物はどんどん言って頂戴。

 あ、でも資源と私の財布の中身が許す限りだからね?」

 

 付け加えた筑波の言葉に、その場に居た全員が笑う。

 和気藹々とした空気が流れる中、時の流れは出撃の時間へと容赦なく押し流してゆく。

 

 

 

 藤沢基地連合艦隊の編成は、第一艦隊の旗艦に尾張を据え、随伴戦艦に大和と武蔵、航空巡洋艦の利根と筑摩、そして深海棲艦の正規空母であるヲ級フラグシップを配置。

 第二艦隊には旗艦に軽巡洋艦の神通、駆逐艦の秋月と綾波、重雷装巡洋艦の北上、大井、木曽の三名を配置した。

 航空兵力が若干心許ないがヲ級はかなりの練度を有しており、その艦載機も深海凄艦のものとしては上位の物が積まれている。

 と言うのもこの艦載機、艦娘と人類の間では猫型と称される物であり、空母艦娘が保有する最上位艦載機と同等の性能を有しており、烈風改、友永隊仕様の天山十二型、江草隊仕様の彗星と同じ性能の艦載機を、労せずして手に入れる事が出来たのは行幸であった。

 ともあれ、その連合艦隊は埠頭の近くで出撃準備をしていた。

 

「初めまして……と言っても、先程名前も顔も出しましたけれど、改めて自己紹介を……戦艦尾張と申します。

 こちらに配属になってまだ日が浅いですが今回、そしてこれからも、精一杯任務に励む所存です」

 

「我輩は利根型航空巡洋艦の1番艦の利根じゃ!」

 

「利根型航空巡洋艦の2番艦の筑摩と申します」

 

「我輩達利根型航空巡洋艦の索敵能力、しかと見るが良いぞ!」

 

 第二改装を行った利根と筑摩が先んじて自己紹介をする。

 

「綾波型駆逐艦の1番艦の綾波です。

 非力ではありますけれど、よろしくお願いします!」

 

「秋月型防空駆逐艦の秋月です。

 尾張さんから貰ったこの装備、使いこなせるようにがんばります!」

 

 第二艦隊に組み込まれた駆逐艦二人も、前の二人に習って自己紹介をする。

 

「球磨型軽巡洋艦の3番艦で、重雷装巡洋艦に改装されたハイパー北上様だよ」

 

「同じく4番艦で重雷装巡洋艦の大井です」

 

「右に同じく、球磨型軽巡洋艦の5番艦の木曽だ。

 上二つの姉ちゃん達と同じで、重雷装巡洋艦になってる」

 

 続けて雷撃火力では随一の重雷装巡洋艦の3人が紹介を終えた。

 

「こうして見ると、結構私が知らない改装をした方々が居るんですね……」

 

「まあ我輩達は計画段階ではあったのだがな。

 木曽も重雷装化させる計画もあったのを、何とか妖精達の力で適用させたと言うわけじゃ」

 

「うむむ……そう言われると少し羨ましいですね」

 

「私としてはその……スキズブラズニルだったかな?

 そっちの方が羨ましいんだけれど」

 

 大和がそう呟く。

 

「でも、あれって艦娘としての姿が思い浮かばないんですよねぇ……。

 明石さんみたいになる可能性も無くはないんですけれど、艤装がどれほどの規模になるか……、と言うか艦娘として生まれるのかすら怪しいのですけれど」

 

「……」

 

 そんな他愛の無い話をしていると、ヲ級が尾張の袖を引っ張った。

 

「あ、すみません。

 支援艦隊の準備がまだらしいので、彼女達が進発したら私達も出撃しますよ」

 

「……(コクッ)」

 

 その意図を察した尾張がそう言うと、ヲ級は頷きながら素直に引き下がる。

 

「なんだか異様な光景だよね。

 昨日まで敵対していたヲ級が、こうして私たちの艦隊に編成されるなんて」

 

「深海棲艦にとっても異常事態ですし、致し方ないと思っているのでしょう。

 尾張さんが言うには、深海棲艦ほど常食に成る者は居ないって話ですし」

 

 彩雲による偵察の結果、ヴィルベルヴィントは途中で狩った深海棲艦を、揶揄なしで食べていると言う情報が入り、その報告を聞いた各々の提督達は戦慄を覚えたと言う。

 それが補給行為なのか、それとも生きる糧としてそうしているのか不明だが、起源を同じとする艦娘にとっても超兵器は恐怖の対象でしかない。

 むしろ様々な感情が入り混じった艦娘は、奴等にとっては極上の餌になる可能性もあるのだ。

 

「すみません。少し準備に手間取りました」

 

「支援艦隊、何時でもいけるわよ」

 

 正規空母の赤城と加賀、そして翔鶴と瑞鶴にその護衛として夕立と吹雪を置いた、航空支援艦隊の面々が到着した。

 

「栄えある歴代一航戦が揃うと、やはり盛観ですね」

 

「そんな……、私達はただ赤城さんと加賀さんの後釜になっただけで、大した事は……」

 

「それに私達は最新機種になっても、技量では先に着任した二人には適わないし、まだまだ修練が必要よ」

 

 大和の声に翔鶴と瑞鶴が応える。

 

「いえ、私達の戦歴と艦生はあのMI作戦で終わっています。

 それ以降の戦訓を持っている二人には、私達も学ぶ所が有ります」

 

「でも、今回は超兵器という初めて相対する相手、だから一旦ここで私達はまたスタート地点に逆戻りよ。

 だから尾張さん、貴女の判断が私達を殺す事にも、活かす事にも繋がる。

 期待しているわ」

 

「う、こっちに飛び火しますか。

 ……艦隊行動はした事がないので不慣れですが、精一杯指揮をさせていただきます。

 っと、なんですか?ヲ級さん」

 

 妙な所から飛び火した事に尾張は一瞬気後れしたが、そこでヲ級が尾張の片に手を置いたのを感じ、彼女にそう聞く。

 

「……」

 

「ああ……貴女にとっては配下を全滅させた仇ですからね。

 全力で勤めさせて頂きますが、貴女も水先案内をしくじらないで下さいよ?」

 

「……(コクリ)」

 

『出撃する皆、もう直ぐ舞鶴の艦隊が到着するから、そろそろ出撃して頂戴!』

 

「了解です。

 ……すー、はぁー……うん」

 

 尾張が言うとヲ級はまた頷くのみで答えると同時に、筑波から通信が入る。

 それに応えて、一旦目を閉じて深呼吸をすると同時に見開いた。

 

「藤沢基地、超兵器撃滅艦隊、抜錨!」

 

 尾張以外の艦娘達にとって、未知の戦いが火蓋を切って落とされた。




さて、今回は他の鎮守府(基地・泊地も含めてこう呼ぶ事にします)の提督達が出てきました。
名前は特に意味はありません。ええ、意味はありませんとも。
歴史上の人物で同じような苗字が出てくることなんてよくある事です。
次回には戦闘シーンを入れたいと思います。
あと劇中にも出てきましたが、尾張の制服はWSG2のナギみたいな感じです。
私自身は艦これ風にデザインできる技量も、絵の才能も有りませんからね。


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日誌九頁目 疾風、止むべし

副題はその話の体を表すと、個人的に思っています。
たまに合わないのもちらほらしますが……、これは合っているよね?(震え声
そして今回は少し短め、具体的に言うと原稿用紙一枚くらい短い。


 

 

 

 

「そろそろ合流海域ですね」

 

 藤沢基地を出てから暫くした後、赤城達支援艦隊は別途で支援艦隊の合流海域へ向かい。

 尾張達は数日の公開の後、他の鎮守府との合流海域へと至った。

 

「尾張さん、方位2-0-9に味方艦隊を補足したよ」

 

「あ、少し進路がずれていましたか。

 進路修正、方位2-0-9へ」

 

「発光信号を送ります」

 

 大和が発光信号を送ると、向こうからも返答が来た。

 それを確認して近付いてゆくと、そこには別の大和が居た。

 

「ああ、えっと……藤沢基地所属の尾張以下12名、ただいま到着しました」

 

「横須賀鎮守府艦隊旗艦の大和です。

 それでちょっと問題が発生しまして……」

 

 今自分の艦隊に居る大和とまったく同じ容姿の大和に動揺しながらも、尾張は何とか挨拶をするが当の横須賀所属の大和は、申し訳なさそうな表情でそう切り出す。

 

「どうやらブインとショートランドの艦隊が、合流せずに先行してしまった様で……」

 

「……止めはしたんですよね?」

 

「勿論です。

 ですがあちらは無線を切っていたみたいで、呼びかけにも応じませんでした。

 恐らく、あの二つの鎮守府のいがみ合いが原因ではないかと言う予測が……」

 

「不味いですね……。

 超兵器はそんな生ぬるい相手ではありません。

 すみませんが、私は一度艦隊を抜けて先に当該海域に急行します!

 藤沢基地連合艦隊の指揮は大和さん、貴女に任せます!」

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?!」

 

 突然の尾張の申し出に、呉鎮守府所属の陸奥が思わず声を掛ける。

 だが、その陸奥に振り向いたときの尾張の顔には戦意と、そのような判断を下した提督二人に対する義憤に、その端正な顔を歪ませていた。

 

「独立行動は私が最も得意とする行動です。

 私の足の速さはご存知でしょう?」

 

「それはそうだけれど……、そちらはそれで良いの?」

 

 尾張の言葉に他の鎮守府の艦娘達は困惑するだけであり、その実力の一端を見た事がある藤沢基地の艦娘達は、ただ静観するだけであったが、そのように呼びかけられると藤沢基地の大和が口を開いた。

 

「尾張」

 

「はい、何でしょう」

 

「無理はしませんね?」

 

「確約は出来ません……ですが、出来る限りの努力はします」

 

「「……」」

 

 その掛け合いの後数拍を置いた。

 

「じゃあ行って来なさい」

 

「了解、こちら尾張から藤沢基地へ、尾張はこれより独断先行に入ります」

 

『了解、こちらでも詳細は聞いているわ。

 独断先行を許可します。

 貴女の真の実力、この世界に見せてもらうわよ』

 

「ご期待に沿えるように努力します。

 ……藤沢基地艦隊旗艦を、尾張から大和へと委譲します」

 

「大和、委譲を承認します。

 ……気を付けてね」

 

 その通信を終えると、尾張と大和は互いに敬礼を交わして右手を下げる。

 敬礼を終えた尾張は主機の出力を上げ、沖ノ島へと進路を取るとその速力をどんどん上げていく。

 

「急速前進!」

 

 タービンが甲高く吼えさせ、一時的に速力を限界以上に上げた後、最大船速で水平線の向こうへと消えて行く。

 一方で尾張の有り得ない加速を見せられた大和達は、呆然と尾張が引いた波を眺めていた。

 

「あの人、まだあんな隠し玉があったのですね……」

 

「普通ならタービンに相当負荷がかかりそうだが……、大丈夫なように設計されているのだろうな」

 

「今の見た?」「有り得ない加速だったよね……」「島風よりずっと早いんじゃない?」

 

 最大速度を実際に見ている神通の呟きに武蔵が応える中、尾張の加速性を目の当たりにした他の鎮守府の艦娘達は、各々に感想を述べていた。

 

「……」

 

「あら?どうしたの?」

 

 そんな中ヲ級が大和の肩をつつき、正方形の物体を差し出すと同時にカンペを見せた。

 

「えっと……『それは我々が放つ瘴気を無効化させる物、それさえあれば迷わずに目的地につける』って、良いの?これって利敵行為でしょ?」

 

 その大和の言葉に『それは私がこの海域で落とした物で、貴女はそれを偶然拾っただけ』と書かれたカンペを出した。

 今の海域は深海棲艦の瘴気が漂っており、一度制圧した海域では完全にではないが、瘴気が薄まっているのもあって多少は航行しやすくはなる。

 しかし未知の海域では進路の当たり外れはあるが、決して大厄には会わない羅針盤が頼りとなるのが普通だが、ヲ級から渡された物を受け取った今は、その羅針盤も正しくしっかりと北を指していた。

 

「まぁ、使えるものなら何でも良いさ。

 ……お前も先行して行った方が良い。

 仇、取りたいのだろう?」

 

「……」

 

 武蔵の言葉にヲ級は敬礼をし、空母ならではの高速でもって尾張が向かった方向へ移動を開始した。

 それを確認した大和達は顔を見合わせる。

 藤沢の艦隊が合流した今ここに留まる理由は無い。

 そう示し合わせたように、艦娘達は一路沖ノ島へと向かった。

 

 

 

(目標地点まであと6時間……、この辺りは向こうでは沖ノ鳥島って呼ばれていた辺りだよね)

 

 前の記憶と照らし合わせて海原を突き進む尾張、途中でブインとショートランドの艦隊との遭遇もなく、沖ノ島近海まで来てしまった。

 電子系では既に超兵器ノイズが観測されており、近くまで迫っているのが伺える。

 そんな時、遠くからくぐもる様な砲声と爆音が聞こえてきた。

 

(戦闘が始まっている!

 急がないと!)

 

 尾張は主機に鞭を入れながら海原を突き進み、同時に艦載機の発艦準備も進める。

 その最中に、困惑した様子の空母艦娘の姿を見つけた。

 

「やっと追いつきましたよ!」

 

『あ、貴女は!?』

 

 尾張の声に反応したのは赤城の艦娘だった。

 

「藤沢基地所属の尾張です。

 突然ですみませんが直ちに前衛の艦娘を退かせて下さい!

 あれは確実に倒せる状況でないと危険です!」

 

『ブイン所属の赤城です。

 そうしたいのは山々なんだけれど、相手の速力が上回っていて離脱出来ないの!

 長門達主力艦も疲弊しているし、軽巡や駆逐艦達も防戦で手一杯みたいだし……』

 

「私が突撃します。

 その隙に前衛を下がらせてください。

 ハリアー発艦!」

 

 受け答えの最中に発艦準備を整え、爆装したハリアーが飛行甲板から飛び立ち、迷いも無くヴィルベルヴィントの元へと向かった。

 そして程なく戦況の様子が伝えられる。

 

(長門型姉妹が大破、伊勢型の伊勢も大破しているわね。

 航空母艦はさっき会った4人で全員みたいだし、ブインとショートランドの編成は航空機動部隊編成みたい……。

 重巡も4人が中破しているし、軽巡と駆逐艦達は良くやっているわ)

 

「発、藤沢基地所属の尾張からブイン、ショートランド両艦隊へ。

 我、超兵器戦へ突入す。

 両艦隊は当方突撃の際に発生する隙にて、直ちに超兵器の射程外へと退避されたし」

 

『援軍か!?助かった、今から長門達を下がらせるから君も』

 

「ハリアー部隊、爆撃を開始」

 

 日向の声が終わる前に、尾張はハリアーに攻撃開始の旨を伝える。

 

『ハリアーだと!?

 この世界ではそのような物は』

 

「それが慢心だと言うのですよ。

 戦場では最悪の事態に備えて、常に準備をしておくべきです」

 

『貴様……何者だ!』

 

「ウィルキア王国軍近衛軍所属、戦艦尾張だと言えば思い出しますか?

 まああの時は、私も薄っすらと意識がある程度でしたから、覚えが無いのも無理はありませんけれど」

 

『……くく』

 

 尾張のその言葉を聞いて、ヴィルベルヴィントはしばし黙った後、口元から漏れるような笑い声が聞こえてくる。

 

『あはははは!まさかお前がここに居るとわな!

 いや……私がここに居るんだ。お前が居ても不思議ではないか』

 

「それはどうでしょうか?

 端的に言えば、貴方がここに来る事はまずない筈です。

 ……もっとも、考えないようにはしていましたが、こうして前に出てこられると困りますね……。一つだけ聞かせていただきます」

 

『ん?なんだ?』

 

「貴女の『ご主人様』は何処に居るのかしら?

 っ!」

 

 尾張はわざと強調するように言った直後、ヴィルベルヴィントからミサイルが発射されたのをレーダーで察知、尾張はVLSから対空ミサイルを発射してこれを迎撃を開始する。

 

『今からそっちに行ってあげる』

 

 さっきとは打って変わって、抑揚がない声音で返信が帰ってきた。

 どうやら癇に障ったようで、ハリアーからの情報で負傷した艦娘達を無視し、尾張の方へと急速接近している。

 当然その間にもハリアーを通じて相手の情報を収集し続ける。

 

(推定速度は……180ノット(メートル換算で約時速333km前後)ですか。

 これでは旋風ではなく疾風ですね)

 

 そこまで考えていると後方から複数の飛行物体が接近してくるのを確認する。

 振り向いて望遠レンズで確認すると、それは深海棲艦が使用する航空機だった。

 

(あのヲ級の航空部隊?

 方角からしても私が来た方向だし、あれだけの数の艦娘が居て早々やられる事はない筈だけれど、一応対空戦闘準備をしましょうか)

 

 その気になれば攻撃態勢に入った時点でも、十分に対応できる能力を尾張は保有している。

 FCSで各対空兵装をウォームアップさせ、万が一の場合に備える。

 だが尾張のそんな心配は杞憂に終わり、航空部隊は尾張の頭上を通り過ぎ、一路ヴィルベルヴィントが居る方角へと飛んでいき、尾張の手前へ通信筒が落ちてきた。

 それを無造作にあけて中に入っていた連絡文を見る。

 

「えっと……、『我、後方にて航空支援に徹する。必ずあの悪魔を倒して欲しい』……ですか。

 ふふ、怨霊たる深海棲艦に悪魔呼ばわりされるなんて、業が深いですね」

 

 尾張はその連絡文を丁寧に小さく折りたたみ、服の胸ポケットの中へとしまう。

 そして主砲の指向試験を開始し、機械的なトラブルが無いか確認した後、徹甲弾を装填する。

 

(概算でも私との交戦開始距離に入るまでの時間はあと10分かかる。

 それまでにヲ級の艦載機とハリアーで何処まで削れるか)

 

『こちら横須賀鎮守府の赤城です。

 尾張さん、そちらの状況はどうですか?』

 

「こちら尾張、交戦開始距離まで残り10分と言う所です。

 目標の速力は約180ノット、私が把握していたときよりも高速です。

 これより目標をヴィルベルヴィントから、シュトゥルムヴィントへと変更します」

 

『180ノットですって!?』

 

『横須賀鎮守府の加賀です。

 その速力だと魚雷による攻撃は難しいわね……』

 

「航空機による魚雷攻撃は広く散布してください。

 敵速と舵の利きを考慮に入れた大まかな旋回半径を送ります」

 

 尾張は暗号通信で赤城達へ通信を送った。

 

『受け取りました……ですがこれは』

 

「まだ隠し玉があるかもしれませんし、アレはここで確実に殺ります。

 艦載機は勿論、貴女方も十分に警戒してください」

 

『了解し……』

 

 返答の途中で通信が途切れる。

 超兵器ノイズの濃度が高まった為だ。

 ここから先は、通信出力がノイズの出力より低い通信は一切この領域内には届かない。

 

「来ましたか……」

 

 尾張はそう呟くと全砲門を前方に集中させ、ASROCVLSも開放してレーザー誘導に切り替える。

 このASROCは筑波達が知るASROCとは別物であり、レーザー誘導で直接対艦攻撃も出来るのだ。

 

「くははは、良く逃げずに居たものだな!

 今すぐその身体をボロ雑巾にして、腸を啜り出してやる!」

 

「暴力的な愛情表現をありがとう。

 ですが私にはそのような趣味はないのでお断りします。

 第一から第四主砲、目標を指向、進路予測」

 

 尾張は突っ込んでくるヴィルベルヴィント改め、シュトゥルムヴィントの予測進路上に照準を合わせる。

 後は目標がそこに来るのを待つだけだ。

 

「……主砲一斉射!」

 

 近似世界の海原で、鋼鉄の咆哮が嘶いた。




やっと尾張の砲口から実弾を出せました。
そしてASROCは例のバグ技(もしかしたら仕様)、主砲で敵艦を照準した後ASROCを選択するとあら不思議、攻撃力1000の対艦ミサイルの出来上がりです。
VLS一基辺りの総火力では特殊弾頭VLSよりも高いと言う有様。
まあ弾頭が魚雷だしね仕方ないね。
そして何気にプロローグでもこれ使っていたりします。


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日誌十頁目 鋼鉄の咆哮

メインタイトルがサブタイとはこれ如何に。
稀に良くありますけれどね。


 

 

「艦隊を先行させただと!?」

 

 普段は冷静な北条が声を荒らげ、TV電話の先に居る室田口と富長に真偽を聞いた。

 

『ええ、あれ位のスペックなら我々の艦隊で何とか出来ます。

 それにあの尾張と言う艦娘、元の超大和型戦艦から少し改良を加えた状態でアレを沈めたと言うならば、艦隊で当たれば恐れる事はありません』

 

『それに、我々としても先の戦いでは緒戦で返り討ちにあり、その後の貢献も出来なかったのです。

 超兵器とは言えたかが戦艦一隻、航空機と戦艦の同時多面攻撃には成す術もないでしょう』

 

「この……うつけ共が!」

 

「っ!」

 

 怒声と共に北条が丈夫なオーク材で出来た机に拳を振り下ろす。

 その際に人間が立ててはいけない音と共に、机が僅かに軋む音が鳴り、その場に居合わせた筑波が肩を竦ませた。

 北条はそれで少し冷静さを戻したのか、怒らせた肩を収めて椅子に腰掛ける。

 

「いいか、お前達がやった事は作戦を狂わせる独断先行以外の何者でもないのだ。

 よしんばそれで超兵器を倒せたとしても、有事法廷での結果次第では功罪併せて降格、悪くすれば最低10年以上の減棒が言い渡される。

 だがもしも艦娘達が轟沈した場合、対深海棲艦の貴重な戦力を失わせた責務として、判決なしの死刑が課される可能性も高い」

 

 北条の言葉に両名は顔を青褪める。

 今回のことに関しては両鎮守府の艦娘にも責が及ぶが、それを命令した二人にはそれ以上の責が待っているのだ。

 しかも公には艦娘は人間として発表されている為、人権的な視野でも責を課される事は免れない。

 

「お前達は速成教育だった事もあって習わなかったのだろうが、こういう事では特に厳しく罰せられるのは常識的に考えれば直ぐに思いつく事だろう!」

 

『で、では今すぐに合流をさせるように』

 

 そこで北条の執務室のドアがノックされる音が響く。

 

「入れ」

 

「失礼します!」

 

 連絡要員として残っていた大淀が入室してくる。

 

「横須賀鎮守府連合艦隊、第一艦隊旗艦大和より入電。

 発、我等協議の結果、速力に優れる戦艦尾張を先行後追随するも、ブイン・ショートランドの両艦隊は壊滅状態にあり、なれども全員の生存を確認。

 尚、尾張は超兵器との交戦状態に入り、ノイズにより通信途絶せり。

 そしてこちらの詳細報告書で以上になります」

 

「先程の連絡は聞いたな?少々遅かったのだが、尾張君のお陰で何とか最悪の事態は避けられたようだ」

 

 北条は何処かほっとした様に言い放つ。

 既に理解のある妻と子を持ち、妻と共に艦娘を娘同然に見ている北条にとっては、例え他の鎮守府の艦娘であっても大切に思っている節があり、今回の報告は彼の精神を落ち着けるのには十分なものであった。

 それを聞いた両提督も青褪めた顔色は変わらないが、少し血色が戻ってきていたのだが……。

 

「ではこうなった経緯について、少々話がある。

 この作戦が終わったら二人とも大本営へ来るように」

 

 それを見計らったように北条が切り出すと、再び二人の顔色は逆再生されたのだった。

 

 

 

 ここで少々時系列は戻る。

 

「そろそろ空母達が出した艦載機が、交戦圏内に入った頃だと思うのですが……」

 

 尾張とヲ級を先行させた大和達は、一路沖ノ島海域へと向かって航行を開始。

 嘗てない戦いに思いを抱き、このために召集された艦娘達は空母艦娘達からの報告を、固唾を呑んで待っていた。

 

「……ダメね。ノイズが酷くて聞き取れない」

 

「こちらもです」

 

「あ、こちらは受信できました!」

 

 舞鶴所属の翔鶴がそう叫ぶと、周りの艦娘達は一斉に彼女を見た。

 

「状況は!?」

 

「ブイン・ショートランド両艦隊の前衛はその殆どが、大破ないし中破しているものの轟沈した艦はなし!」

 

「直ぐに横須賀へ報告します!」

 

 翔鶴の報告を受けて各艦隊の旗艦が各々の鎮守府に打電する。

 当然暗号を通して行っており、その作業は直ぐに終わった。

 

「これより沖ノ島海域へ突入します!

 各艦、戦闘用意!」

 

「空母はこの場にて航空機を発艦させます。

 第一次攻撃隊、発艦準備」

 

 横須賀の大和と加賀がそれぞれの役割を果たし始める。

 そこへ加賀に続報が入る。

 

「……尾張、超兵器との交戦を……開始」

 

『『!!』』

 

 苦虫を噛み潰したような表情で言う加賀の報告に、予測していた事態が発生したのをその場に居た全員が感じ取る。

 相手は2つの連合艦隊の前衛艦を相手にしながら、同時に降りかかる航空攻撃を容易くかわす速度を有し、戦艦を含む前衛艦を屈服させると言う恐るべき性能を持った超兵器。

 その超兵器と、記録でしか知らないがまた個艦で立ち向かう尾張の姿を連想し、再びそのような状態に追い込んだ自分達の力と経験の不足を、嫌と言うほど思い知らされた。

 そんな中、赤城の声が響く。

 

「皆さん、まだ挽回の余地は有ります。

 前衛艦はこのまま最低限の巡洋艦・駆逐艦と共に突入!

 私達空母はここから航空機を発艦させ、尾張さんと前衛艦達の援護をします!

 赤城第一次攻撃隊、発艦!」

 

「第一次攻撃隊!一航戦に続いて発艦!」

 

「一航戦や二航戦に負けていられないわ!

 五航戦、第一次攻撃隊、発艦!」

 

「ヒャッハー!者共かかれぇい!」

 

「六〇一航空隊、発艦!」

 

 既に発艦準備を整えていた正規空母・軽空母達が、各々の航空隊を上げて始める。

 総勢4桁に届くか届かないかの大編隊が、艦隊の上空を黒く染めんばかりに埋め尽くし一路沖ノ島海域へと向かった。

 

「前衛艦突入開始!

 射程内に入り次第尾張の援護をしつつ、敵超兵器へ接近し肉薄攻撃を行います!」

 

「了解、前衛艦隊の武運を祈ります!」

 

 そのまま空母を中心とする後衛艦隊と、戦艦を中心とする前衛艦隊に分かれて進撃を開始する。

 目標はもう直ぐそこに居るはずだ。

 

「ここから先は通信が完全に届かなくなります。

 各艦は水上・水中への警戒を厳となせ!」

 

 戦艦達の周りを外側へ行くにしたがって重巡、軽巡、駆逐艦娘と輪形陣を組んで進行を開始する。

 恐らくはないと思うが、念には念を入れてという事だ。

 だがそんな時に、前方から複数の影が見えてきた。

 

「あれは!」

 

「ブインとショートランドの!?」

 

 それは大きく損傷した長門型戦艦と、伊勢型戦艦を曳航しているブイン・ショートランドの艦隊だった。

 あちらも彼女達に気が付いたのか、ばつが悪そうな表情を浮かべて顔を伏せている。

 

「状況は?」

 

「尾張さんが突入した隙を付いて、何とか私達だけは撤収できました。

 ですが鹿屋基地の方々は、時間的にも余力的にも救出が難しく……」

 

 ブイン所属の赤城は最初はしっかりとした口調ではあったが、最後はその顔を自らと自らの提督が犯した愚に悔いた表情で占められる。

 

「分かりました。

 あとはこちらで請け負います。

 ……大丈夫、必ず尾張ともども助け出しますから、貴女方はゆっくり療養をして下さい」

 

「了……解」

 

 ブインの赤城はそれだけ言うと、ブインとショートランドの艦隊は一路母港への帰路に入った。

 今回の件で両提督と彼女達の処罰が気になるが、今は超兵器の脅威を取り除く事にある。

 そう思案していると、遠くから砲声が聞こえてきた。

 通常の艦砲とは違い長砲身の巨砲が織り成す重く、そして金属が鳴くように響く反響音と、同時に大質量体によって水が巻き上げられる音が海上に鳴り響く。

 しかもそれは断続的に、且つ機械のように一定の間隔で響き渡っていた。

 

「ここから先は鬼門、深海凄艦は既に通り、私達はこれから通るべき鬼の門」

 

 藤沢の大和が呟く。

 そう、あのヲ級はその門へぶち当たり、そして力が不足していた故に叩き返されたのだ。

 そして、今は艦娘である自分達が、尾張が既に潜ったその門を潜ろうとしている。

 それは、尾張と同じ立場に立つ事を意味していた。

 

(いえ、同じ立場に立つと言うのは自惚れ、ここで勝利して、やっとあの娘が踏み込んだスタート地点に私達が立てる)

 

 その気持ちを改めて確認し、大和達はその海域へと踏み込んだ。

 そしてそれを目撃する。

 

「これは……」

 

 その場を見た全員が、その異次元の戦闘を目の当たりにする。

 愚直なまでに巨砲を相手に叩き込み、互いが相手を屈服させようと躍起になり、周りのことなど眼中にないと言わんばかりに死闘を繰り広げる。

 そこで繰り広げられていたのは、鋼鉄同士がぶつかり合い、レーザーが、砲弾が、ミサイルが飛び交い、相手の防御を討ち貫こうと、自らが持てる全てを持って相手を撃滅せんとする鉄錆が漂う情景。

 それは戦闘艦として行い得る全ての鉄火場を、ここに落とし込んだかのような終末的なワルツ、相手が踊り疲れるのではなく、相手を屈服させんが為の鉄血の舞踏場。

 

「シャアァアア!」

 

「堕ちろ!」

 

 何度目か分からない互いの声と主砲が、互いに交差する瞬間に咆哮する。

 狙うは互いの喫水線、尾張は自らの防御隔壁でシュトゥルムヴィントの砲弾を跳ね返し、シュトゥルムヴィントは尾張の砲弾を防御重力場で弾くか、威力を大幅に減衰させれた砲弾がその装甲を叩き、そしてシュトゥルムヴィントの切り札と言うべきレーザー兵装は、尾張の強力な電磁防壁に阻まれる。

 そんな互いに決め手に欠ける消耗戦が続いていた。

 

「これは……互いに高レベルで攻防が拮抗してしまっているな」

 

「と言うか援護しようにも、接近しすぎて誤射しかねないわ!」

 

 タウイタウイの長門と陸奥がそう言うと同時に二隻が再び主砲を済射、相対速度で140ノット近い速度差があるにもかかわらず、互いの攻撃は寸分違わず相手のバイタルパートへ打ち込まれる。

 だがそれでも決定打にはならない。

 

「あの尾張の超砲身51cm砲が効かないなんて……」

 

「いや、まったく効いていない訳ではないみたいだ」

 

 大和の呟きに武蔵が指先を指しながら応える。

 そこには直接水面に撃ち込む尾張と、それを回避するシュトゥルムヴィントの姿があった。

 

「あ、まさか!」

 

「ああ、奴だって船なんだ。

 自らが掻く水が無ければどうしようもあるまい」

 

 艦船型の超兵器は、一部を除いてほとんどウォータージェット推進なのだが、それでも水が必要なのには変わらず、武蔵は水中の防御壁は海面のものよりも、船体にぴったり張り付いているものと推測した。

 

「ですがあの速度では……」

 

 だがその時だった。

 

「いい加減にしなさい!」

 

「あっぐ!?貴様、また私の煙突を!」

 

 尾張が主砲を釣瓶打ちでシュトゥルムヴィントの、サーフボードの様な艤装にある煙突に連続して撃ちこみ、とうとう最後の一発が煙突を基部から破壊してみせた。

 

「なんと!?」

 

「見事ね……」

 

 みるみる速度が下がり始めるシュトゥルムヴィント。

 その見事な砲術に戦艦組は感嘆の息を吐く。

 

「おのれ……がぁ?!」

 

 そこへ突如水柱と爆炎がシュトゥルムヴィントを襲う。

 それは、後衛艦隊から発し、空中でその時を待っていた航空部隊からの集中攻撃だった。

 各鎮守府の第一線で活躍しているだけあり、その統制された火力投射は全盛期の機動部隊に遜色ない、極めて高度に統率された見事なものであった。

 一瞬で行われたそれにより、シュトゥルムヴィントの姿は発生した水蒸気と爆煙で見えなくなる。

 そこへ前衛艦隊の面々が尾張の元へ駆けつける。

 

「尾張さん、大丈夫?」

 

「や、大和さん……ええ、『ちょっと』やられてしまいましたが、大丈夫です」

 

「ちょっとって……そんな状態じゃないでしょ」

 

 尾張は大丈夫だと言ったが、その艤装の状態は酷いものであった。

 まず艤装本体の表面はボコボコになり、CIWSやパルスレーザーも何基か脱落し、唯一まともに形をとどめている主砲も、内部構造にダメージを負っているのか動きが鈍い。

 むしろこんな状態でよくあそこまで戦えたと褒めてやりたいほどである。

 

「それよりも、警戒を解かないで下さい」

 

「それって……」

 

 尾張が睨む先、そこには未だに立ち込める煙が渦巻いていた。

 だが、その様子がおかしいと思った矢先だった。

 

「!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 尾張が不意に矢面に立つと、そこへレーザーと実体弾の雨霰が降り注ぐ。

 

「あっぐっ!」

 

「尾張!」

 

 それを真正面から受け止める尾張に、その場に居た全員が状況を把握しようとした矢先であった。

 

『「(■■■■■■■■■■■■■■!!!?)」』

 

「うっ……」

 

「なに、あれ……」

 

 この世の物とは思えない、怒りと混乱が混ざった絶叫が鳴り響く。

 そして、先程の攻撃によってかその煙が払われると、そこには、頭部や四肢が欠けたシュトゥルムヴィントの姿があった。

 しかも虹色のオーラを纏い、失った首や傷から重油の様などす黒い血液を流しながらも、尚尾張に相対していており、その異様な光景に歴戦の戦艦や駆逐艦娘も思わず顔をしかめ、口元を手で覆うほどの状態であり、上位種の人型深海棲艦であれば既に死んでいてもおかしくない。

 

「やはり、暴走しましたか」

 

 尾張はそう呟くと再び臨戦態勢に入るが、頭部を破壊され、周りが見えていない筈のシュトゥルムヴィントが、全ての兵装を尾張へ向ける。

 

「っ!全員、砲雷撃戦開始!

 全ての火力を打ち込んで!」

 

「後衛艦隊!大至急第二次攻撃隊を発艦させてくれ!

 そうだ!目標はいまだ健在だ!」

 

 藤沢の大和の声で、そこに居た全員はハッと我を取り戻し、武蔵は後衛艦隊へ増援の要請を行いつつも、既に攻撃準備を整えていた。

 そして、二人は尾張の前に立つ。

 

「大和さん、武蔵さん!

 無理です!貴女方の防御機構ではあの攻撃に耐えられません!」

 

「だけど、このままでは貴女が!」

 

「二人ともそこまでだ!

 構えろ!」

 

 再び放たれる弾幕に大和と武蔵、そして大破状態の尾張に攻撃が集中する。

 

「目標へ攻撃開始!

 少しでも三人から気を逸らさせます!」

 

 横須賀の大和が号令を出すと、前衛艦隊の艦娘が半包囲陣形で攻撃を開始する。

 61cm酸素魚雷、小口径から大口径の主砲まで、現行の艦娘が装備し得る様々な火器がシュトゥルムヴィントに殺到し、防御重力場を介して傷を与えていくがそれでも砲撃は止まらない。

 

「これでも火力が足りないとでも言うのか!?」

 

「もうすぐ砲身が焼け付いちゃうわよ!」

 

「くそ、このままではあの三人が!」

 

 初撃で大破寸前まで追いやられた武蔵と大和を庇う様に、尾張が表に立って防ぎながら反撃を開始している。

 当然二人を庇いながらでは回避機動を展開出来る筈もないが、その攻撃を一身に受けながらも反撃をする姿は流石と言ったところだろう。

 

(あの時を思い出すわね……そう言えばあの改アイオワ型の乗組員、どうしているのかな)

 

 機関が損傷し漂流していた改アイオワ型、あの時は船まで救えなかったが乗組員は何とか全員救助できた。

 では今は?艦娘は一つの命であり、ただの軍の備品ではない。

 あの改アイオワ型のように見捨てられるのか?

 

(そんなこと……できる筈がない!

 ここは異世界で、私は異邦人で、まだ拾ってくれた礼もしていない!

 こんな……こんな緒戦で立ち止まるわけには行かない!)

「はああああぁぁぁぁ!」

 

『「(■■■!?)」』

 

 雄叫びを上げながら急速前進で自らの身体を前面に押し出す。

 その声に反応してか、大和と武蔵に指向していた砲が尾張に向けられる。

 

(そうだ!もっとこっちを見ろ!)

 

 彼我の距離はまだあり、必殺の主砲を叩き込むにはまだ距離がある。

 そして、シュトゥルムヴィントが放とうとしたその時、超兵器の周囲に航空攻撃と思しき水柱と爆炎が広がる。

 

『「(!!??!)」』

 

「な!?」

 

「第二次攻撃隊にしては早すぎるぞ!

 な!?」

 

 長門と陸奥が周囲を見回すとそこにはあのヲ級が居た。

 しかし問題なのは、その後ろには深海棲艦の上位種である空母棲姫とその護衛艦隊が控えていたのだ。

 長門を初めとしたそれを目撃した艦娘達は思わず身構える。

 

「らぁ!」

 

『「(!!)」』

 

 だが当の尾張はそれらを一切無視し、一気呵成にシュトゥルムヴィントに接近、その腕でシュトゥルムヴィントを捕らえると、海面に叩きつける。

 何かを叫ぼうとしたのか身じろぎをするシュトゥルムヴィントに、修復された尾張の主砲が指向する。

 

「さようなら、良い旅路を」

 

 そして51cmの鉄隗が放たれ、その肉体を抉り取り、骨を砕き、艤装を叩き割り、巨大な水柱を上げながら両者を包み込む。

 そして水柱が消えると、そこには主砲を放った姿勢のままの尾張だけが残っていた。

 その光景を艦娘と深海棲艦、両者が呆然と見ていた。

 

「鋼鉄ノ咆哮……戦艦水鬼ガ喜ビソウナ響キダ」

 

 ただ空母棲姫だけが、その光景を表すかのようにそう呟いた。




というわけで第10話となります。
いやぁ、初の超兵器戦でどう演出しようかと苦心して、やっとなんとか形になった気がします。
もう少しやりよう待ったとは思うのですが、私の文才ではこれが限界です。
文章だと疾風のスピードの表現が難しさといったら……。
深海棲艦の動向は次回にお預けです。

あ、あとお気に入りの数が地味に3桁超えてましたね……。
どうしよう、何かオマケやった方がいいのかしらん?


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日誌十一頁目 報酬

遅ればせながら次話投稿でございます。
ちょっと久しぶりにWSG2で建造しておりました。


 

 

 

 

「……敵超兵器の殲滅を確認。

 少々手間取りましたが、作戦成功です……?」

 

 尾張がそう呟くと、周りの静寂に今気が付いたかのように見回す。

 周りからの視線は何時か感じたそれ、自らを奇異と畏怖の意味を含めた物であった。

 特に戦艦と、先程合流した空母組にそれが顕著である。

 

(当然か……まあ、そう見られるのは慣れているから別に良いけれど)

 

 そう思案しながら尾張は立ち上がる。

 艤装内の応急対応妖精に指示を出し、修理可能な範囲での修復作業に当たらせ、この程度の傷はもう慣れていると言わんばかりに、両足で海面を踏みしめた。

 

(私と超兵器はこの世界ではイレギュラーだ。

 ここに私の居場所は……ない)

 

 僅かな時間であっても、自らの準姉妹艦である大和と武蔵と共に海を駆けれたのは、尾張にとってささやかな幸福であったが、その代償がこれである。

 だからこそ、尾張はその場を離れようとしたその時だった。

 

「フム、煤塗レノ勝者ト言ウベキカ。

 ナカナカドウシテ、味ワイ深イモノダナ」

 

 不意にその声が聞こえてきた。

 尾張はその声がした方へ向くとそこにはあのヲ級と、巨大な艤装に身を委ねた人型の深海棲艦の姿があるのを確認した。

 

「貴女は……こちらの呼称では空母棲姫でしたか」

 

「ソレガ正解カハ我ハ知ラヌガ……マア好キニ呼ブガ良イ。

 我等モソチラノ通信ヲ解読シテ、真似シテ呼ビ合ッテイル事モアルカラナ。

 アトハソコカラ推測シテ、コチラデ勝手ニ呼ビ名ヲ決メテイル」

 

「な!」

 

 こちらの通信を解読されているという事実を知り、長門を初めとした尾張以外の艦娘達に戦慄が走る。

 

「マアソノヨウナ瑣末事ハドウデモ良イ。

 尾張ト言ッタナ?」

 

「そうですが」

 

「我等ノ元ヘ来ナイカ?」

 

『『『……』』』

 

 その言葉にこの海域に居た全員が息を呑む。

 だが、尾張はそれを打ち払うかのようにこう言い放った。

 

「お断りします」

 

「ホウ?周リカラ、コノ様ナ視線ヲ向ケラレテモカ?」

 

 空母棲姫の言葉に一部の艦娘が、僅かに肩を動かす。

 

「関係ないですし、この様な視線など幾らでも向けられていました」

 

 だから問題はない、それがどうしたと、尾張は視線にそのような意味を含めて相手に返す。

 余りにも哀しい発言にそのような視線を向けていた艦娘達が、申し訳なさそうな表情をするなかで、沖ノ島へ探索に出ていた艦娘から通信が入った。

 すでに超兵器ノイズの濃度は薄まっており、艦娘達の通信機でも通信を飛ばせるようになった為だ。

 

『こちら大湊の磯風だ。

 沖ノ島の暗礁地帯で鹿屋の遠征部隊を発見した。

 全員無事だ』

 

 磯風の報にその場にいた艦娘達が安堵の息を吐きたいが、生憎と目の前の動向に集中していてそれどころではなかった。

 

「フム、ドウヤラ、ソチラハ間ニ合ッタヨウダナ」

 

「そちらも、そのヲ級は助かっているではないですか。

 単純な戦力としては、トントンな結果だと思いますが」

 

「イヤ、アノヨウナ脅威ニ対シテ全員生存ト言ウノハ評価デキル。

 コチラモ、腰ヲ据エテ対策ヲ行ッタ方ガイイナ。

 ……勿論、オ前ノ事モ含メテダガ」

 

「……」

 

 双方にらみ合う中、ヲ級が空母棲姫に何かしら伝えるそぶりをする。

 

「ン?アア、デハソロソロ、ココラデオ開キトシヨウ。

 コレヲ連絡員トシテ派遣スル故ニ、私ト交信シタイ場合ハコヤツニ言ッテクレ。

 ……ソレト西太平洋海域ノ、私ヲ含ム空母水鬼直轄ノ艦隊ハ、シバラク活動ヲ抑エル事ニシタ」

 

「直轄?貴女方の総体ではなく?」

 

「中ニハソウデハナイ奴ガ居ルト言ウ事ダ。頭ガ痛イ話デハアルガナ。

 詳細ハソイツカラ聞ケ、デハ、サラバダ」

 

 空母棲姫はそう言い残し、海に沈むように引いていった。

 その取り巻きもヲ級残して引いていき、溶鉱炉に火がくべられる一歩手前で収まったのを、その場にいた全員が感じ取っていた。

 

『……こうも無視されると私も悲しいのだが』

 

 その静寂の中、磯風の通信だけが響いた。

 その後磯風の機嫌を取るのに小一時間かかったとだけ記そう。

 

 

 

「つまり、今回の一件で深海側も事態の深刻さを認識したと?」

 

『はい、それと被害報告ですが……』

 

 あれから暫く経って横須賀の執務室に、北条提督と大和との通信機を介しての会話が行われていた。

 今回の作戦での被害は次の通りである。

 大破

 藤沢基地:大和、武蔵、尾張

 ショートランド泊地:伊勢、妙高、那智

 ブイン基地:長門、陸奥、摩耶、鳥海

 

 中破

 ショートランド泊地:長良、那珂、陽炎、雪風

 ブイン基地:川内、暁、雷

 鹿屋基地:球磨、神通、白露、村雨、涼風、五月雨

 

『小破など細かい損傷を負った娘達は省いています。

 ……あの状況下で、鹿屋基地の艦娘達が、全員無事だったのが奇跡だと思えるのですが、尾張からの推測では、恐らく獲物を引き寄せる為の、餌のつもりだったのだろうと言っています』

 

「うむ、私も同じ意見だ。

 古今東西、より相手に被害を与える為には、程よく傷付いた餌に隙のある包囲を敷き、そこへ救援に駆けつけた部隊を伏兵で大打撃を与える手法があるが……。

 奴はその伏兵を自らの機動性で補った」

 

 まさにこの一戦で一騎当千の戦闘力を……超兵器と艦娘との戦力差を、まざまざと見せ付けた事件だった。

 そして同時に、尾張と言う艦娘の存在の異常性も、浮き彫りとなる形となっていた。

 

「尾張君は……彼女はたった一人で、あの超兵器の攻撃を受け止めたのだったな」

 

『はい、詳しい機構は不明ですが、電磁波による防御壁でレーザーを逸らし、或いは無効化していました。

 実体弾に対しても、その装甲で弾き返すか貫通を許さなかったほどです』

 

「なるほど……」

(つまり正真正銘、我々側の超兵器ということか)

 

 ――深海棲艦と艦娘が陰と陽なら、私と超兵器もその関係にあります――

 

 改めてあの時尾張が言った言葉の意味を噛み締め、そしてその脳髄の中でこれから起こりえる事象を予測する。

 手元の資料を捲くり、そこに書かれている全ての超兵器のスペック、対抗手段、最適な攻撃位置、それら全てを網羅した対超兵器用の攻略本の様なもの。

 下手をすれば大半の物が役に立たないかもしれないと言う、ある種の理不尽と超兵器の特異性に恐怖心を抱く。

 

(いや、今の状況で最も苦しいのは尾張君の筈だ。

 今回の戦闘で、彼女は自らの戦闘行動によって、その特異性を他の艦娘達に見せてしまった。

 ……彼女にとっては辛い戦いになるな)

 

 ブインとショートランドの連合艦隊二つを持ってしても、僅かな時間しか対応できなかった相手に単艦で挑み、駆けつけるまで持ちこたえた上に止めを刺した。

 既に兵器体系として独立した力を見せ付けた尾張に、既存の艦娘達がどういう反応を示すのかは火を見るより明らかだが……。

 

『それと……尾張の事なのですが、筑波提督の大和と武蔵を中心とした私達大和型の艦娘で、あの娘を精神的にサポートする事にしました』

 

「うむ……」

 

 次に出てきた大和の言葉で、それは杞憂だと言う事を北条は認識した。

 大和型とて建造された当時にしてみれば、とんでもない性能を持った戦艦だった事もあり、その存在に畏怖や尊敬の眼差しを向けるものも、少なくない事は想像に難くない。

 尾張自身も経験したと言っているが、それが同じ元船であった艦娘から向けられるのとでは、疎外感に雲泥の差が出るのは間違いがなかった。

 その点で言えば、自らが指揮する大和の提案は良い助言となった。

 

「……良い部下を持ったものだ」

 

『提督?』

 

 北条の呟きに大和が怪訝そうな声音で尋ねる。

 

「いや、なんでもない。

 大和君の提案は私が大本営に持っていこう。

 まあ、最低限の監視の意味もこめてと付け加えるがな」

 

『あっ、ありがとうございます!』

 

 その後、細かい調整を話し合ってから通信を切る。

 明後日か明々後日にはブインとショートランドの二人が東京に到着する。

 その為の準備を今からするのだ。

 

「この青天の霹靂に際して、少しでも戦力は温存させたいな……」

 

 超兵器の来襲と言う未曾有の事態に、北条はそう呟く。

 濃霧の中遭難した山中で、山小屋を探すに似たこの状況下において、戦力的な穴を作るのは避けたいと言うのが彼の考えだ。

 

(その為には……)

 

 北条はそのための布石を打つべく、とある場所へと電話を掛けることにした。

 

 

 

「そう言えばアレをしてなかったね。

 まあ今回は例外中の例外だけどさ」

 

「今駆逐艦娘や軽巡艦娘達が探しているけれど、もしかしたら今回は居ないかも知れないわね」

 

「良いもん見っけ~ってこれ何時もの奴かぁ……」

 

 何かを捜索している艦娘達を遠巻きで見ながら、尾張は藤沢の大和に聞く。

 

「あの、皆さんはさっきから何を?」

 

「あれは浮揚作業ね。

 倒した深海凄艦からは、新しい艦娘の艤装に必要な核が取れることがあるのだけれど……。

 今回みたいなケースは想定されてないから、もしかしたら何もえられないかも知れないわね」

 

「つまり部品の回収作業ですか……」

 

 それなら尾張にも経験がある。

 撃沈して直ぐの敵艦から回収した砲塔や電子部品、果ては船体の一部まで回収し、それをスキズブラズニルが解析し、資金を投入して自らの新しい武装として取り込みながら、最後まで戦い抜いてきたのだ。

 その中で自分以外の実験艦も新規建造されたが、彼女達がどうなったのかは尾張が知る術もなく、こうして思い返してもどうしようもないと言う気持ちが浮かんでくる。

 

「見つけましたぁ~!」

 

 綾波が若干間延びした大声を上げ、両手を勢い良く振って周囲の艦娘を呼び、そしてその場から何かを、両手で優しく掬い上げる。

 それは光り輝く多面体だった。

 あれが艦娘の艤装の核となる部分なのだろう。

 

「この大きさは駆逐艦だな」

 

「この感じ……私と同型でしょうか?

 冬月って感じでもないですし」

 

「でもその前に「こちらにもありました!」えぇ……」

 

「複数の核回収だと!?しかもでかいぞ!」

 

 足柄が何か言う前に吹雪が声を上げるのが聞こえ、そこには特大サイズの核を引き上げようとしている吹雪の姿があった。

 その大きさは吹雪の背丈より大きいように見え、重巡や戦艦も動員して何とか引き上げた。

 その後も2つほど艤装核発見の報告があがり、その他には何故か金塊が入った大きな木箱を2つ発見した艦娘もいた。

 

「うーん……艤装核が複数あるのはまだ分かるのだけれど、なぜ金塊があるのかしら?」

 

「それは……」

 

 引き上げに参加した足柄と羽黒の二人が後ろをチラッと見る。

 その視線の先には大破した状態の、藤沢基地が誇るトリプルモンスターの姿があったが、二人が最も興味を引いているのは、その最大戦力であり今回の功労者であり、そして最も警戒している尾張だった。

 二人は意を決したように互いに頷き合って、彼女の元へと向かった。

 

「あの、尾張さんちょっと良いでしょうか?」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「さっき金塊が入った木箱が出てきたのだけれど、何か知らないかしら?」

 

 足柄と羽黒の問いに尾張は少し考えるそぶりをする。

 

「うーん、もしかしたら帝国軍時代の名残かもしれませんね。

 出所は兎も角として、占領地域で直ぐに弾薬や燃料以外の物資を補給できるように、金塊を積んでいるという噂はありました。

 そもそも超兵器以外の艦艇にも積んでいましたから、ちょっとそれを猫ば……ゲフン、火事場……ゲフンゲフン、少し落し物として研究費用等に使わせていただきましたが」

 

(今猫糞(ねこばば)って言おうとしたわよね)

 

(しかもその後火事場泥棒とも言おうとしてました……)

 

 尾張の台詞を聞いて足柄と羽黒は肩を寄せ合い、小声で互いの感想を言い合う。

 改二になって衣装がきっちりとした物になったせいか、その姿は給湯室で噂話をするOLに見えなくも無かったが、その姿を尾張は明後日の方向に向いていたため気が付いていなかった。

 

(嗚呼……、妹分の性格が計りかねてきたわ……)

 

「大和、妹分だからといって諌める時は諌めねばならんぞ?」

 

「な、まだ何も言ってないわよ!?」

 

 そんな彼女達の会話を遠めで見ていた艦娘達が居た。

 鹿屋基地の遠征艦隊の艦娘達である

 

「あまり動かないで下さいね~?」

 

「ク、クマー」

 

「ありがとうございます……」

 

「今回は酷い目にあったぜぃ」

 

「また、あんなのが来るのかなぁ?」

 

「分っかんないなぁー。

 まだ見つかっていないから何とも言えないよね」

 

「自分も今回の超兵器に関しては、あまり詳しい事は聞いていないのであります。

 尾張殿の様子を見ても、今回のことは想定外だったようでありますし、今後も我々の想像を遥かに超える物が出てきても、おかしくはないのであります」

 

「……うん!」

 

 トラックからの後方支援艦隊として応急修理を担当する明石と、物資補給を担当するあきつ丸が鹿屋基地の艦娘達と話し合っていた。

 比較的損傷が少なくすみ、先に応急修理が完了していた五月雨は、何か意を決したように顔を引き締めて、尾張の元へと向かう。

 

「あの、尾張さん!」

 

「はい?」

 

 突然の要救助対象であった艦娘から名を呼ばれ、少々困惑気味に首を傾げる。

 

「あ、あの……今回は助けに来ていただいて、ありがとうごじゃいっ!~~~っ」

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「ひゃ、ひゃい~」

 

 感謝の言葉を述べようとしたようだが、最後に舌を噛んだらしく口元を押さえて目元に涙を浮かべていた。

 尾張が気遣って呼びかけると返事が返ってきたので、そこまで酷い事にはなっていないようだ。

 

(可愛い)(これは可愛いな……)(可愛いわね~)(可愛いなぁ……)

 

 一方その様子を見ていた大和と武蔵、足柄に羽黒は同じ感想を胸に抱いていた。

 

「うう~なんで私こういう時に限って……」

 

「えっと、そんなに気落ちしなくても大丈夫です。

 貴女の感謝の言葉は、今回の出撃で何よりも変えがたい報酬ですから……。

 本当に……助けられて良かった」

 

 そう言って尾張は五月雨の頭を優しく撫ぜ、最初は五月雨はポカンとした表情を見せる。

 優しくその蒼い髪を撫でられる度に尾張の手の温もりを感じ、五月雨は徐々に身体を震わせる。

 それは今まで抑え付けていた恐怖心が、捌け口を見つけた際に起こるのと同じ感情の発露だった。

 

「あ、う、うう……」

 

「碌な装備も無いのに、必ず仲間が来てくれると信じて……本当に辛抱強く耐え、良く戦い抜きました。

 貴女方は、本当に尊敬に値する偉業を成し遂げたのです」

 

「う……ひっく、うあああぁぁぁぁ!!」

 

 その言葉が止めとなったのか、五月雨は尾張に抱きついて泣き出した。

 耐え難い程溜め込んだ恐怖心をその泣き声に載せて吐き出し、ようやく一つの節目が終わった事を、この海域にいる全ての艦娘達が認知したのだった。




さて、ようやく一区切りといったところです。
今回出た艤装核、これはドロップをこういう形に表したものです。
核の大きさで出る艦種が変わるというもので、空母は戦艦の核より少し小さいと言う風に書く予定です。
……さてここからが本題なのですが、鋼鉄世界からも少し呼び込もうかと画策しております。
出来るだけバランスブレイカーにならないようにしようかと思ってますが、皆さんの反応次第で出すものを決めようかと思ってます。


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日誌十二頁目 つかの間の平和と新たな受難

今回は少し世界観を掘り下げる話です。


 

 

 

 

「左舷大破!浸水発生!」

 

「甲板損傷!」

 

 次々に入る被害報告、既に弾薬も残り少なく、今にも沈みそうな船体で持ちこたえようと踏ん張るが、それも限界が近付いていた。

 

(ああ、早く、早く逃げて!!)

 

 最初は水平線の向こう側から、海面を引き裂いて飛来してきた波動エネルギーの奔流だった。

 その一撃で僚艦の一隻は吹き飛び、それが始まりだったかのように次々に波動エネルギーが飛来してくる。

 

「艦長!これ以上は持ちません!」

 

「くぅ……仕方ない、総員退艦!」

 

(そう、それで良いの……。

 貴方達が生きてさえいれば、私の後輩達が私の敵を討てくれる……でも)

 

 次々と自らの身体から出て行く乗組員達が退避を完了させ、僚艦が彼らを拾って逃げ出していくのを確認し、誰も居ない主砲塔を眼前の煙中に居るであろうそれに突きつける。

 

(最後の一撃くらいは食らってもらうわよ?)

 

 やがて硝煙の中から出てくる陰がその姿を現す。

 それは……巨大なマガモの群れだった。

 

 

 

「……酷い夢を見た気がする」

 

 自室のベッドで目を覚まし、開口一番で出た台詞がそれだった。

 沖ノ島超兵器戦から2日が経ち、藤沢基地の中は何時もの日常が戻ってきた。

 尤も、尾張の予測通り母体であるフィンブルヴィンテルの存在、そして出てくるであろう超兵器の存在に警戒するという、全鎮守府に課せられた任務は今も継続されていた。

 

「工廠に行こうかな……」

 

 誰に言うでもなく呟き、まだ朝焼けに照らされる部屋で着替えをしてから工廠へと向かう。

 誰かに合う事も無く工廠にたどり着いた尾張は、先日の『戦果』の前に居た。

 尾張が尤も気になったのは、この特大の艤装核と呼ばれる物体である。

 戦果の分け前は色々と議論になったそうだが、あの超兵器から出てきた物が只の艤装核である筈もないと北条提督に諭され、今まで確認された中で一番の艤装核であるこれを藤沢基地と横須賀が共同で監視、他の通常サイズの艤装核は呉・佐世保・舞鶴で保管する事となった。

 先達の艦娘達に聞いても、これほど大きいのは見た事がないと言い。

 大本営から派遣された技術者らも、この状態での解析は不可能だとして調査も切り上げられている。

 そして最大限の警戒の元、近日中にこの艤装核を開放する事となった。

 

「……」

 

 ふっと、尾張はその艤装核に触れそうになっているのを認識し、静かにその手を下げる。

 起床ラッパの音が、藤沢基地に鳴り響いた。

 

 

 

『午前9時となりましたニュースをお伝えします。

 最初のニュースは……』

 

 食堂に移ってもそもそと出された食事を口に頬張る。

 最初のニュースは今年の予算に関する物のようだった。

 深海棲艦という脅威がある今、軍事費の大半は艦娘に対するもので閉められており、通常兵器は避難にも使える輸送機や輸送ヘリに偏っている。

 

『次に、大本営は先日に行われた艦娘の大規模出撃について、大本営の山本長官は国会で次のように述べています』

 

『我々は先日新たな脅威と遭遇しました。

 超兵器という分類のまったく新種の深海棲艦です。

 この超兵器は、既存の深海棲艦にも艦娘にも無い性能を出しており、先日戦ったシュトゥルムヴィントと呼称した個体は、時速180ノットと言う驚異的な速力を持っておりました』

 

 その一言で国会内の議員達がざわめき始める。

 

『ですがご安心を、我々はこれを新しく共に戦う事となった一人の艦娘と、そして我々が現在持ちえる最高練度の艦娘達によって、これを撃滅いたしました。

 特に此度の戦闘においては、藤沢基地に新たに入った艦娘の功績が大きく、我々はこの艦娘を近々観艦式で公に公開しようかと存じます』

 

 そこへ一人の人間が手を上げる。

 

『栗林海自幕僚長』

 

『長官、その超兵器なるものの映像はあるのでしょうか?

 あるのでしたら是非とも拝見したいのですが』

 

『山本長官』

 

『映像は艦娘達の手によって撮影されております。

 また、公開については新たな艦娘のお披露目と共に行いたいと、私を含めた大本営総意で思っております』

 

「ご馳走様」

 

 国会答弁を背景に食事を終えた尾張は両手を合わせ、今日の糧になった生き物とその作り手に感謝する。

 空になった食器を載せた盆を、返却棚に入れたところで国会答弁は終わっており、ニュースは次の話題へ変わっていた。

 

『次のニュースです。

 これまで細々と繋いでいた食料品や医薬品の交易路ですが、政府と大本営は近日中に大々的なカレー洋掃討作戦を実施する予定をしており、各鎮守府周辺には物々しい雰囲気が漂っています。

 また、必要物資の搬入が活発化する為、鎮守府周辺の道路で混雑が予想されており、近隣住民の方々は通勤・通学の際には十分な注意をお願いします』

 

「ご馳走様でした。

 今日も美味しかったです」

 

「あいよお粗末様。

 それにしても貴女戦艦の艦娘さんでしょ?

 これだけで足りるのかい?」

 

 食堂の女将さんが言う通り、尾張の食事量は戦艦にしてみれば比較的少ない。

 艦娘は艤装を動かす際、その身体能力も大幅に向上されるのだが、それ支える為に大型艦になるほど大量に食物を摂取する傾向がある。

 

「ええ、あれだけ動いても大和さん達みたいな量はちょっと……。

 恐らく機関の出力や効率の関係じゃないかとは思うのですが」

 

「まああまり無理はしないようにね。

 この前は大変だったんだから、何時何があるかも分からないし、今の内に美味しい物はたーんと食べておいた方が後悔は一つ減るさね!

 次はたくさん頼んどくれよ!」

 

「あはは、そうしておきます」

 

「そう言えばあんたのお披露目の日取りが決まったんだって?

 なんだか自分の娘が社交界に出るみたいでドキドキするよ」

 

「そんなに良いものなら良いんですけれどね……。

 言ってみれば私達が船だったときの進水式の様なものですし」

 

「何でも良いように捉えるのが、人生の楽しみ方だよ。

 まあ言うは易し……だけれどねぇ」

 

 そう返した女将の顔には若干悲壮の色が出ていた。

 恐らくは拾い切れなかった元従業員達の事を思っているのだろう。

 

「兎に角!この国を守ってくれているあんた達が暗い顔をしていたんじゃ、この国は本当に終わっちまうさね。

 だから、食べたい物とかは何でも……とは言えないけれど、可能な限りは要望に応えるから、あたしに言いな!」

 

「あ……はい!」

 

 尾張が元気良く応えると、女将は優しい笑顔を向けた。

 

 

 

「あ、尾張さんおはよー!」

 

「おはよう、尾張さん」

 

 食堂を出て廊下を歩いていると前から声がかかった。

 声の主は翔鶴と瑞鶴だ。

 

「おはようございます。

 お二人ともこれから朝食ですか?」

 

「ええ、空母組はさっきまで早朝訓練を行っていたので」

 

「加賀さん、あの戦いから貴女に無理をさせたって気を揉んでてね。

 もっと練度を上げていればって、今日から軽空母の娘達も含めて始めてるのよ」

 

「ですが、これ以上の練度向上は難しいでしょうね。

 後は機体の更新なのでしょうけれど、現状烈風以上の艦載機は望めませんし……、こんな時にあのドック艦が居てくれれば心強いのですが」

 

「ああ、貴女が母港代わりに使っていたあのドック艦ね……。

 あの映像もう一回見たんだけれど、やっぱりあんなのがあると言う現実味が無いわね。

 だって貴女が駆逐艦みたいに見えたんだもの」

 

「でも、無いものを強請っても仕方ないわ。

 今ある装備で何とか乗り越えていきましょう?」

 

「翔鶴姉ぇの言う通りよ。

 今私達に出来る事をやって、またあんなのが出てきたときに備える!

 今の装備でもドンと来いってものよ!」

 

「そう、じゃあ今日の訓練は、もっと気持ちを入れて挑んでもらおうかしら」

 

「ギクゥッ!」

 

 瑞鶴の背後からそんな声が聞こえると、掛けられた本人は身体を強張らせ、冷や汗が気の毒なくらいに噴出し始める。

 そして油を差さなかったゼンマイの様な擬音が聞こえそうな仕草で、瑞鶴が振り返るとそこには片手を頬に当てた赤城と、腰に両手を当てている加賀の姿があった。

 

「そ、そんなわけ無いじゃないですかぁ~。

 ただ、それぐらいの意気込みと言うだけであって……」

 

「そう?じゃあ今日の訓練では高度15、速度300でやるわよ」

 

「あっ……か……」

 

 何とか釈明しようとするが、加賀が止めを刺すと瑞鶴は石像のように固まり、過呼吸を起こしたかのような声を上げている。

 

「流石初代一航戦の相方、容赦ないですね。

 鳳翔さんも演習や訓練ではあんな感じなのでしょうか?」

 

「あそこまでではないけれど、新人の航空母艦の基礎訓練は殆どあの人が見ているわ。

 勿論時々私達も参加して復習もしているし、その甲斐もあって先のAL/MI作戦で私も過去を断ち切る事が出来ました」

 

「こちらの世界であった過去のMI海戦ですね……。

 聞けば聞くほど、私の世界と歴史の流れが違いますね」

 

「そうね……。

 でも、どちらの世界でも日本は戦争で負けた。

 そして日本の戦艦でありながら、間違えた方向に進んだ日本を正した貴女、もしかしたら貴女がこの戦争の鍵を握るかもしれないわね」

 

「そんな……私はただのイレギュラーです。

 この世界に本来は存在してはならないし、介入してはいけない。

 ですが、超兵器達がこの世界に介入しようとするならば、私は全身全霊を持って彼女達に受けて立つ所存です」

 

「……」

 

 尾張の決意表明の様な台詞に、赤城は優しくも寂しげな表情をする。

 灼熱の炎と局地地域の冷水で鍛えられた刀の如く、その姿は儚くも力強い印象を受けるが、同時に酷く孤独な雰囲気も感じられたのだ。

 

(やはり、この娘に必要なのは仲間、それも彼女を完全に許容できる母港が必要だわ……。

 元々巡洋戦艦として建造されていた私がそう思うんだもの、もしかしたら加賀さんも私と同じ感想を言うでしょうね)

 

「では、私は提督に呼ばれているのでこれで」

 

 赤城がそのような事を考えているとも知らずに、尾張は執務室へ徒歩を進め始める。

 赤城はただそれを黙って見送るしかなかったが……。

 

「大体貴女は何時も迂闊すぎます。

 今年の冬の大作戦でも……」

 

「ひ、ひぇ~」

 

「瑞鶴、それは比叡さんの持ちネタだからあまり使っちゃダメよ?」

 

「……」

 

 とりあえず緊張した空気を読めない後ろの3人をしめる事から始めようと、赤城は思った。

 

 

 

「失礼します」

 

「尾張ね?

 どうぞ入って頂戴」

 

 ノックと共に声を掛けると中から筑波が応えたのを確認し、執務室の中へと入ってゆく。

 中には長門と陸奥、そして連絡要員として寄越されたヲ級の姿があった。

 

「オ、ハヨウ」

 

「おはようございます。

 挨拶くらいは喋れるようになったのですね」

 

 -今はこれぐらいしか喋れないが、そのうち日常生活に支障が出ない程度の言語能力は身に着けるつもりだ-

 

「私としては人型なのに喋れないのが不思議だったのですけれどね。

 まあ未だに貴女方の事は未知のことが多いですから……、私達艦娘も含めてですけれど」

 

「この娘が来てから、この基地に深海棲艦の研究者達が挙って来ようとしているのよね。

 北条提督が何とか抑えているみたいだけれど、その内一部の研究者を受け入れざるを得ないわね」

 

 やれやれといった風に筑波は両手を口元で組んで首を横に振る。

 ヲ級が生きた状態で藤沢基地に居る事は、その筋の人間には既に知れ渡っていた。

 勿論情報統制も厳重に行っているが、人の口に戸は立てられないのが世の常であり、政府や大本営でも公開に向けてのシナリオや、でっち上げの草稿を作っている最中である。

 

「まあ中央の苦悩は置いておいて、今日の昼には調査隊があの艤装核を調べることになっているわ」

 

「やはりあれは前例の無いものでしたか……。

 何と無くあの時回収に関わった方々の顔で分かりましたが」

 

「今まで戦艦の艤装サイズでもあれ程大きくは無いわ。

 大和型の艤装核は確認されていないけれど、予測ではあれほど大きくは無いとの事だから、まったく未知の艤装核ということになるわね」

 

「しかし、艤装核からどうやって艦娘を呼び出すのですか?

 っと、これはここでは言わない方がいいのでしょうね……」

 

「まあ……ね」

 

 -仕方あるまい、では私は少し外に出ていよう。

 すまないが長門殿、随伴を頼む-

 

「ああ、分かった。

 では陸奥、あとでな」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 陸奥がそう応えると長門はヲ級を伴って執務室から出て行く。

 陸奥も執務室の扉からその様子が見えなくなるまで見送り、それを確認すると執務室の扉を閉めた。

 

「さて、さっきの話の続きだけれど、まず回収された艤装核……私達提督の間ではドロップと呼んでいるけれど、それを妖精さんが儀式を行った後、私が艤装核に触れて艦娘を呼び出すの。

 その時には艤装核は既にその艦娘の艤装の中に入っているわ」

 

「あれ、でも資料にあった艤装核だと、長門さんや大和さんの艤装の中には……」

 

「そう、どう考えても入らないの、でもどういう原理か分からないけれど艦娘が召喚されたら、もうその時には消えているのよね。

 一説だと艤装核というのはこちらがそう思っているだけで、実際は蝶の蛹みたいな物じゃないかって話なんだけれどね」

 

「蛹……ですか」

 

「ええ」

 

 尾張の呟きに筑波は短く応えるだけだった。

 

(さて……今回の戦果は駆逐艦クラスの艤装核が2つ、潜水艦クラスの艤装核が1つ、そしてここで預かっている未知の艤装核が1つ。

 この娘が来てから確実にこの世界は混沌の渦中に立たされている。

 最後に笑うのは人間と艦娘か、深海棲艦か、それとも……)

 

 筑波がそこまで考えると軽く目を閉じて深く息を吐く。

 

(いえ、それだけはあってはならない。

 あの超兵器が笑うなんて最悪な状況だけは……でも、唯一単体で対抗できる切り札である尾張があそこまで追い込まれた……。

 何とかしないと……)

 

 筑波は半ば焦る気持ちと共に、今後の行く末を案じるのだった。




今回はここまでとなります。
新規投入艦は次回になりますので、気長にお待ちください。


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日誌十三頁目 鋼鉄の艦達

ANNO2070と言うゲームをやっていたらこんなに開いてしまった……。
やっぱり海外のストラテジーゲーは底なし沼しか無いと改めて痛感。



 

 

 

 

「観艦式までの間に、本日は今回回収された艤装核の開放を行う事となった」

 

 あの対超兵器戦から2週間が経ち、北条提督がそう言い放ったのが先週の事であった。

 モニターには再び全ての鎮守府との回線が繋がっており、開放の様子を見る事が出来るようになっている。

 そしてその両脇には元ブイン・ショートランドの提督であった、室田口と富長が控えていた。

 彼等はあの後審議に掛けられたが、結果的にだが艦娘の轟沈を防いだ事と、シュトルムヴィントの戦力データを手に入れたことで、航空攻撃が円滑に行えたのが幸いし、二人は横須賀鎮守府の提督補佐として、新たにスタートを切れた。

 そしてブインとショートランドには、新任の鮫島中佐と田中少佐が新たに入り指揮する事となるのだが、それはさて置き今回は未知の艤装核開放とも相まって場は緊張していた。

 全ての艤装核は一度横須賀鎮守府に集められ、また預けられていた鎮守府の提督達もここに来ていた。

 

「まずは駆逐艦の艤装核からだな」

 

「うむ、では先陣を切らせてもらう」

 

 佐世保の鍋島提督が、自らの鎮守府で保管していた駆逐艦の艤装核へ歩み寄る。

 既に妖精達による儀式は終了しているので、あとは彼が呼び出せば良いだけの状態だ。

 何の変哲も無い艤装核ではあるが、あの超兵器から出てきたこともあり、何が出てくるか分からないのが実状であり、それ故に尾張を含む主力艦は完全武装で待機していた。

 

(確かに恐ろしくも感じるが、それではあの超兵器に立ち向かうなど到底不可能だ。

 ならば……)

「君がどのような艦娘なのか分からぬが、健やかな女子であると願おう。

 自分勝手な希望だと自覚しているが、どうか君の姿を我々の前に現してほしい」

 

 前文句を言いながら鍋島は艤装核に触れる。

 前文句は必要なく、ただ手を艤装核に触れれば良いのだが、事が事なだけにその内心が漏れ出てしまっているようだ。

 だが当の艤装核はその思いを知ってか知らずか、発光し始め徐々にその光度を高めていく。

 

「さて……どのような娘が来るのか」

 

 鍋島の呟きに反応するように、急激に光が収まって行く。

 そして完全に光が収まったところで、艤装核のあった場所にいたのは赤毛の少女だった。

 

「……あれ……あたし、それにここは」

 

「初めましてかな。

 私は日本国所属の鍋島と言う、旗艦は?」

 

「あ、はい、私は……ウィルキア解放軍所属、A級駆逐艦のラタトスクです。

 霧は……ちょっと苦手です」

 

「ラタ……トスク?」

 

 彼女がそう自己紹介したところで、鍋島の後ろから尾張の声が響いた。

 

「尾張君?」

 

「あの……え、今尾張って」

 

「そう、私が……あの時貴女を迎えに行った戦艦尾張よ。

 ……久しぶりね」

 

 鍋島の訝しげな声を余所に、互いの存在を確かめ合う。

 

「あ、はい!

 お久しぶりです!

 あ、あの、何処から話せば……ええっと……」

 

「大丈夫、今はちょっと立て込んでいるからゆっくりと話せないけれど、後で時間が取れたら話を聞かせて?」

 

「はい!」

 

「尾張君、その艦娘は君の……」

 

「はい、同僚と言うか……戦友です。

 あ、勿論性能面は英国のA級駆逐艦のままです」

 

「あ、ああ、それは何よりだ」

(もしかしたら尾張君の様な、とんでも性能な駆逐艦だと思っていたが、杞憂だったか)

 

 鍋島が内心そう思っているのを余所に、呉の毛利提督が準備していた。

 その傍らには朝倉提督の姿もある。

 

「さて、次は私が行かせて貰おう。

 しかし先程の様子から、また尾張君と縁がある艦が出てきそうだな」

 

「しかも普通の娘で良かったと安心していますわ」

 

 毛利の呟きに朝倉も扇で口元を隠しながら安堵した表情をする。

 

『しかし、それがまさかあのような事になるとは、この時思いもしなかったのであった』

 

「ちょっと一条提督?

 あまり不安を煽るような発言は控えて頂きたい物です」

 

『ははは、これはすまんすまん』

 

「まあ二人が乳繰り合っている間に、私は尾張君の仲間が出る事を願って行かせて開放をさせてもらおう」

 

「乳繰り合ってなどいません!」

 

『僕はそのつもりはないんだけれどなぁ』

 

 後ろの二人を余所に毛利は駆逐艦の艤装核に手を触れる。

 

(さあ、君の姿をここに居る皆に見せてくれ)

 

 先程と同規模の輝きが艤装核から放たれる。

 そして現れたのは先程のラタトスクとは違い、日本人女性の少女の艦娘であったのだが、彼女は自分のする事が分かっているかのように、姿勢を正して敬礼をする。

 

「改秋月型防空駆逐艦、大月です。

 殿の肉薄攻撃でも脱出任務でもどうぞこき使ってください。

 以降、よろしくお願いします」

 

「あれ……、大月なんて娘居たかな?」「いえ、私も終戦まで居ましたけれど、そのような娘は……」「え、と言う事は……」

 

「……」

 

 周囲のざわめきを余所に、大月は尾張の方へ向く。

 

「お久しぶりです……尾張殿。

 あのあとの武勲はどうでしたか?」

 

「あ……う……っ」

 

 大月の声に尾張は身体を強張らせ、うめき声の様な声を出し、最後には申し訳なさそうな表情で大月を見ていた。

 

「……その顔だと艦長について何かあったらしいと見える。

 ああ、提督殿、先に挨拶せずに失礼しました。

 自分は大月と申します」

 

「私は毛利と言う、呉の提督をしている。

 これからも頼む」

 

「最善を尽くしましょう」

 

「うむ、まあ今は尾張君の知り合いが増えた事を喜ぶべきだ」

 

「それでは、実質最後の通常艦になる私も行きますわ。

 少し大きいですけれど、潜水艦の娘達からは潜水艦だと言っていたから、きっと大丈夫でしょう」

 

『それがどう聞いても、フラグにしか見えないのはなんでかねぇ……』

 

「だまらっしゃい!

 さあ、出ていらっしゃいまし!」

 

 一条の言葉を聞き流して朝倉は艤装核へと歩み寄り、そう言いながら艤装核へと触れる。

 そしてドチャっと言う音と共に現れたのは……横たわった鮫だった。

 

「「「……ひゃぁああああ!?!」うわああああああ?!」ぎゃああああああ!!」

 

 その場に居た尾張を除く全員が恐慌状態に入る中、やおら先程の鮫が立ち上がる。

 

「Guten Morgen,Admiral。

 Uボート513番艦改め鮫型潜水艦U-513です。サイゴーって呼んでください。

 ちょっと魔改造されたけれど、潜水艦には変わりはないから安心してね」

 

 と思ったら背中が開いてその中からドイツ系女子の艦娘が出てきた。

 どうやら鮫なのはガワだけだったようだ。

 

「えっと、サイゴーさん……で良いのかな?」

 

「あれま、尾張さんじゃないですか。

 うん、貴女の心臓(主機)の音で分かります。貴方は尾張さんですね。

 それに貴女はラタトスクさんに……貴女は聞きなれない主機音ですが?」

 

「うむ、改秋月型の大月だ。

 尾張は横須賀脱出時にその援護にあたっていた」

 

「おお、貴女があの大月さんですか。

 戦闘記録での果敢な突撃、日本帝国海軍の敢闘精神には驚嘆させられました」

 

 どうやら初対面の者も居るらしく、会話が進んでいるがそこで北条が咳払いをする。

 

「どうやら、尾張君の知り合いが出てきてくれた様で何よりだ。

 どうだろう、ここで一旦解散して午後に改めて最後の一つを開放すると言うのは」

 

「はい!」

 

 

 

 正直通常規格の筈だった艤装核の開放で、先の二人は普通の艦娘だったのに、最後の最後で鮫型潜水艦なる妙なものが出てきたので、周囲の人間や艦娘達は疲れてしまっていたので、北条のこの提案は救いの手だった。

 そして各提督方は上級士官用の休憩室でうな垂れているなか、朝倉だけが俯いていた顔をがばっと上げる。

 

「それもこれもウィルキアと言う国の研究機関が、みょうちくりんな物を作るからですわ!」

 

「いや、まあそうなのだが、兵器には多様性というのも確かにあるのだ。

 かの英国で悪名高い動くビッグボビンを見たまえ、現場を見ていない研究者が日夜苦労して作り上げたのがあれだ。

 きっとウィルキアも思考錯誤して、あのような鮫の皮を被った潜水艦を開発したのだろう」

 

「しかし……元はドイツのUボートと言っていなかったかな?」

 

「「「「……え?」」」」

 

 朝倉と毛利の会話に北条の一言が投げつけられた。

 そしてその場に居た四人の提督は北条を見、そしてあの時のU-513の台詞を思い出す。

 

「Uボート513番艦改め……」

 

「鮫型潜水艦U-513……」

 

「ちょっと魔改造されたけれど……」

 

「潜水艦には変わりはない……」

 

「まあつまり、既存の艦艇すら改造する術を持ったのが、尾張君が言うスキズブラズニルと言うわけだ。

 しかも当時の科学技術以上の開発能力を持ち、それを生産するだけの能力を持ったな……」

 

「まさか……いえ、あの尾張さんを見たらそれも有り得る事だと思いますわ」

 

「それに、コンテ・ディ・カブール級と言う前例もあるからな。

 一概にも不可能ではないと言うのが分かる」

 

 およそやろうとは思わない前例ではあるが、実際コンテ・ディ・カブール級戦艦は、元はWW1基準の戦艦だったのだが、諸外国の戦艦の強化に恐れをなしたイタリア海軍は、同級戦艦を「誰テメェ」と言うぐらいに改装したのは有名な話である。

 尾張も元は51cm連装主砲3基だったのに、今では3連装4基という意味不明なぐらいの大改装を受けている。

 

「まあ残りの開放作業が残っている。

 これからの事を考えるのはそれが終わってからでも遅くはなかろう」

 

「しかし、もし彼女の母港が来たらこれからの戦いは楽になるかもしれませんね」

 

「いや、むしろ窮地に陥るかも知れん」

 

 鍋島の一言にその場に居た全員が彼に顔を向ける。

 

「古今、生き物と言うのは外的圧力や気候の変動で進化をしてきました。

 深海凄艦が生き物かどうかは別として、我々のみが力を増強できると言うのは、早計だと思われます」

 

「つまり、深海棲艦も新型を出してくる……と?」

 

「その公算が高いかと思われます」

 

 鍋島の予感は酷く冷たく、そしてなによりもこの先の激戦を案じさせるには十分であった。

 しかし、過去の深海棲艦との戦史からしても、彼の予想は正しいことが裏付けられる。

 艦娘が強くなる度に、深海棲艦も新型を続々と出して来た。

 だが、艦娘と彼女等を指揮する提督は歩みを止めるわけには行かない。

 暁の水平線の向こうへ勝利を轟かせるまで……。

 

 

 

「さて、休憩も済んだのでメインディッシュと行こうではないか」

 

「開放するこちらの身にもなってください……」

 

 北条の言葉に筑波は涙目になりながら艤装核に近付く。

 大きさ1.5mの特大艤装核だが、戦艦か正規空母の艤装核が1mほどなので、どれだけ規格外なのかが分かるだろう。

 

「スゥー……ハァー……では、行きます」

 

 一息深呼吸を吐くと、しっかり目を見開いて筑波は艤装核に触れる。

 だが、輝きの具合が何時もと違い弱々しいのだ。

 

「……失敗か?」

 

「いえ、反応自体はあります。

 ただ、何時もより反応が薄くて……まだ何か足りないのでしょうか?」

 

 開放作業の補助についていた大淀がそう応える。

 彼女曰く、観測では確かに開放状態ではあるのだが、それは例えるならば雛鳥が自らの殻を破るのに、苦労していると言う状態であると言う。

 

「なるほど……今までの様には行かないと言う事か」

 

「しかし、このままでは……」

 

 その後、試行錯誤を重ねる事となった。

 提督である筑波の求めには反応を示していた為、最初は北条を含めたこの場に居る提督にも艤装核に触ったが、反応は変わらなかった。

 次に異例ではあるが、艦娘にも触れてもらう異なる。

 だが反応が少しばかり強くなるだけで、最後に尾張達の異世界艦娘が残った。

 

「最後に貴方達だけれど、何が起こるかわからないわ」

 

「いえ、これも何かの縁でしょうから……」

 

「まず誰から行きましょうか?」

 

「ラタトスクか大月からかしら?」

 

 一先ずラタトスクと大月から触れてみる事となったが、これも多少光が強くなっただけで変わった様子はなかった。

 次にU-513が触れると、他の艦娘とは違う反応を見せた。

 

「何て言うか、凄く興奮している感じですよね」

 

「そうだな」

 

 今までがピカーと言う感じだったのに対し、ビッカンビッカンという光り方をしているのだ。

 この時点で尾張は既に予想がついていたので、小声でU-513と確認しあう。

 

「まあ予想は出来るのですけれどね」

 

「十中八九、私達の母港の可能性大ですね」

 

「どんな艦娘になるのか今から不安しかないのですが」

 

「アッパー系MADか、ダウナー系MADか、気弱科学者かのどれかですね」

 

「最後に救いがある分良心的ですね」

 

「貴女達何こそこそ話してるのよ……」

 

 駄弁っていると筑波から咎める様な言葉が出てきたので、尾張は素直に彼女の隣に立つ。

 ある程度覚悟はしているが、この世界であの浮きドッグ艦の存在が、どのような影響を与えるかが気になっていた。

 だが……。

 

「成る様に成るしかないですね」

 

「尾張?」

 

 尾張の呟きに筑波が怪訝な声音で尋ねるが、どこか諦めたような顔をしている尾張を見て、直ぐに嫌そうな顔をした。

 

「これ以上面倒なのを入れるのはいやよ?」

 

「大丈夫ですよ、いざとなったら私が止めに入りますから」

 

「逆に言うと貴方じゃないと止められないのね……」

 

 溜息を吐き、筑波は改めて艤装核に手を着け、尾張もそれに倣って艤装核に手を着ける。

 すると今まで以上の輝きを放ち始めた。

 

「くっ……」

 

「ちょっと、これ何カンデラ出てるのよ!」

 

「サングラスを持ってきておいて良かったな」

 

「はい」

 

 毛利と朝倉が開放時の輝きに瞼を閉じているのを余所に、北条と鍋島はサングラスをかけて何とか耐えていたが、それでもキツイ輝きに目を細める。

 

 ――メキッ――

 

「え?」

 

 その音が聞こえたのは偶然だったのか、それとも北条に運が有ったからなのか分からなかったが、音が聞こえてきた上の方に視線を向けると、そこには天井に何かがめり込んでいた。

 

「は?」

 

 一瞬目を瞬かせ、やっとそれが艤装の一部だと言うのを理解した。

 それと同時に、光が収まるとその全景を捕らえた。

 

「多目的浮きドッグ艦スキズブラズニルよ。

 とりあえずどの娘達から弄ればいいのかしら?

 ……あとこの状態から何とかして」

 

 ジーパンに袖の長さが若干合っていないの長袖のシャツ、そして白衣姿で銀髪の髪を持ち、さらにその背中に一目では捕らえきれないほど、巨大な艤装を背負った女性が、艤装が天井でつっかえて仕方なさそうに胡坐を掻いて座っていた。




さあ、やってまいりました。
……やってしまったとも言う。
と、とにかく最初の犠牲者(生贄)は決まっていますので、その辺りは既にゲームのほうで実験済みですし、どうにかなります!
駆逐艦界のドレッドノートと言えば誰か察しが付くはず……。


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日誌十四頁目 神々の船 前編

今回は前後編に分けます。


 

 

 

「スキズブラズニル!」

 

「おー、尾張ちゃんじゃない。

 そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、スキズとかそんなでも良いわよ?」

 

「あ、はい、ってそうじゃなくて、何で貴女がここに!」

 

「あー、それねぇ、ちょっとその前にこれ何とかして、このままじゃあたし動けないし」

 

「今、工作班を呼んだ。

 もう少しすれば艤装も出せれるだろうが、まさかこれほどの規模の艤装だったとは……」

 

 北条も尾張から出された今までの戦闘記録は見ていて、スキズブラズニルのその巨大さを知ってはいたが、まさか艦娘になってもここまで艤装のサイズが大きいとは思いもしなかったのだ。

 幸い使い古された小型船を作る為の船渠を使用していた為、少しガワを外せば艤装を取り出すことができるだろう。

 

「艤装の取り外しは……ええっと、これかな?」

 

 艦娘としては先輩である尾張が各々の艤装を外していく。

 一先ず今回呼び出された4人の艤装は解析に掛けられ、既存の艦娘との差異は無いか調べられる事になるのだが……。

 

「あたしの艤装、その解析に掛けれるのかしら?」

 

「さあ?」

 

 スキズブラズニルの艤装は超大型だ。

 高さは12m、横幅も24mほどある為、解析には時間がかかるだろうし、万が一損傷した場合現行の修復装置では対応できないだろう。

 

「でかあああああああああああい!

 説明不要!」

 

「いや、説明は要るでしょう」

 

 あまりの異常事態に、工作班に先駆けて来た明石が叫び、大淀がそれ突っ込む。

 そしてスキズブラズニルに質問を始める。

 

「この鎮守府に所属している工作艦の明石です!

 あのポッドみたいなのは何ですか!?」

 

 明石が指を刺すと、そこには10個の「HLG.SYSTEM」と書かれた円筒状のポッドが有った。

 

「ああ、あれ?

 あれは艦を……こちらで言う艤装の修復と補給、そして改装する為のもの、所謂船渠よ。

 私は基本はドッグ艦なのだけれど、その機能は大破した艦の完全修復から改装をまでを、前線で出来るようにする為に造られたの。

 まあ最大で10隻まで対応できるから、余程の事が無い限り海上で対応できるわね」

 

「見たところ滑走路もあるが、どれだけの機種に対応できるのだ?」

 

「固定翼機なら戦略爆撃機のB-1まで対応できるわ。

 流石に実寸サイズは無理だけれど」

 

「いや、まあそこは仕方が無い。

 しかしその船渠、尾張君の艤装が入りそうに無いのだが?」

 

「ああ、これはね……」

 

 スキズブラズニルが艤装を操作すると、ポッドの真ん中が割れてその中から工作機械が展開し、艤装を受ける為の台座が出現した。

 

「こういう風にして、艤装を受けて修理・改装をするの。

 その気になれば300m越えの巨大空母まで対応できるわよ?」

 

「ふむ……、つまり現行の艦船の艦娘の殆ど対応できるのだな。

 これは今後の作戦展開が多いに変わるぞ」

 

「あら、随分との見込みが早いのね。

 そう言う男の人、私は好きよ?」

 

「今晩辺りどう?」と言うような雰囲気の目線を送られ、北条は静かに首を横に振る。

 

「生憎と私には妻子が居るのでな。

 これ以上はあいつに迷惑を掛けられん」

 

「男としても申し分なし、奥さんは幸せ者ね」

 

「あの……スキズ」

 

「ああ、貴女の艤装のメンテナンス今からしましょうか?

 こっちでは出来ない箇所もあるでしょうし、その辺りはどうなのかしら?」

 

「あ~、それ言われると否定できないです……」

 

 スキズブラズニルの指摘に明石が頭を掻く。

 実際シュトゥルムヴィントとの戦いで大分ガタが来ていた。

 そのことを伝えると……。

 

「じゃ、ここに置いて頂戴。

 私の装備を実演して見せる良い機会なんだから、あと少し弄らせなさい。

 貴女の意見も取り入れるから」

 

「はぁ……、まあ変に弄られるよりはいいですね」

 

 尾張が艤装をドックに置くと、直ぐに工作機械が艤装に取り付き、装甲を剥がされ内部機構が丸裸になると、マニュピレーターアームが殺到し整備を始める。

 ちなみに中に居た妖精達は、艤装が置かれた際には既に外に出てくつろいでいた。

 

「あー、電装系に大分負担があるから丸ごと交換しちゃいましょう。

 それに……あらら、ターレットや主機の機構にもガタが来ているわね。

 でも何とか整備したと言う感じが出ているわね。

 これは貴女が?」

 

「あ、はい」

 

「良い仕事をしているわね。

 自分で分かる範囲は自分で修理して、あとはこの艤装の子達と一緒にやったんでしょ?

 とても根気を込めてやったけれど、力及ばずって感じが出ているもの、良くやった方だわ……大事に扱ってくれてありがとうね」

 

「っ、はい!」

 

 尾張の再設計兼整備士に評価してもらい、明石は息を詰まらせたあと返事をする。

 尾張の機構には明石にとって未知の部分も多く、それらは尾張と艤装妖精達と共に行っていたのだが、流石にVLSなどの兵装には手が出せなかったのだ。

 

「……私はただ作業するだけだから見るだけなら構わないわよ。

 あとちょっとした質問もね」

 

「見学させていただきます!」

 

 スキズブラズニルの言い分に明石は歓喜を顕わにしながら返事をし、後ろについて短い問答を重ねていく。

 

「あれはもう完全に仕事モードに入ってますね。

 すみません北条提督、我等が母港がこのような艦娘で……」

 

「まあ見た感じからして仕事一辺倒という感じだからな。

 それに我等が母港と言うのは……」

 

「言葉通りの意味ですAdmiral北条。

 ウィルキア解放軍は、あのスキズブラズニルを基点に活動をしていました。

 勿論亡命政府などはありましたが、実質海軍の軍事はスキズブラズニルと言うドック艦が担っていたんです」

 

「陸路での進軍は、餌に釣られた熊が通せんぼをしていたので断念し、仕方なく海路で本国を目指す事となったのです」

 

「うむ、詳しい戦闘記録は目を通してある。

 しかし、世界が変わってもあの熊には困ったものだな」

 

 尾張とU-513の言葉に北条は薄く笑う。

 世界線が違うのにその国の性質は変わっていないと言うのは、その手の研究者ではない北条にとっても貴重な声だったし、知的好奇心が沸き起こる良い起爆剤だ。

 あれからML諸島以西の太平洋における深海棲艦との戦闘も劇的に沈静化し、一般人は日本の大勝利やら深海側の謀略じゃないか等を口にし、マスコミは少しでもそのネタやお零れに期待し、国内の鎮守府や大本営の門に張り付いている始末である。

 

「さて、これで無事に全ての艤装核の開放が成ったわけだが、出来れば尾張君が言っていた改装も見てみたいのだが……」

 

「え?やっちゃっていいの?私、手加減はしないわよ?」

 

「「「う……」」」

 

 スキズブラズニルの言葉で僅かに身構える提督と艦娘達、当たり前だ。

 尾張を艦橋と船体以外、原型が無いほど改装してしまえる彼女の手にかかれば、昔の自分しか知らない身でそれを扱え切れるか不安になったのだ。

 

「あの……とりあえず私の艤装の燃焼室の改良をお願いします。

 確か原子炉εまで開発できてましたよね?」

 

「ああ、あれ?ええっと……ああ、あったあった。

 あの時は急いでいたから積めなかったのよね……。

 ちょっと許容重量的にきつくなっちゃうけれど、それでかまわないわよね?」

 

「はい、お願いします」

 

「じゃあボイラーを全部撤去して、原子炉を……この余剰だと5基かしら?

 予めその分のスペースを確保しておいたから楽だわー」

 

 工作機械が動き出し、艤装が隔壁に囲まれ設計図の様な画面が現れる。

 

「これは?」

 

「あ、これ私の元の姿ですね」

 

「そうよ。

 これはあの艤装を元の艦船に置き換えた云わば改装図、それを元の形で見せる事によって、今の自分の艤装がどういう状態か、そして何処を注意すればいいのか。

 それを分からせるための物よ。

 システム名はHLGシステム、何処の誰かが言ったか知らないけれど、ヒラガシステムと呼ばれているけれど」

 

 そう言いながらもスキズブラズニルは尾張の改装図を弄くり始める。

 ボイラーを全て撤去し、そこに新しく『原子炉ε』と描かれたパーツを設置していく。

 見た目だけでは簡単に見えるが、それが技術的どれほど高度なものかは関係者から見れば一目瞭然だ。

 まず機関はその艦にとっては一生物であり、余程の事が無ければ頻繁な交換などありえない。

 

「なるほど、理に適っている。

 しかし、そう頻繁に機関を変えていては大変ではないかね?」

 

「普通はそうね……でも、私とこのシステムがあればそれが成せる。

 造船技術では私の右に出る者は皆無に等しいわ」

 

 その返答には確固たる自信が声に乗せられていた。

 そうこうしている内に改装とメンテナンスが終了したのか、隔壁が開いて尾張の艤装が出てきた。

 

「これで機関の改装とメンテナンスは終了したわ。

 速力は53.4ノット、謎の装置のお陰で舵の利きは元より高いけれど、一応気を配ってね。

 それと、万が一の場合は炉心への即時注水と鉛の注入が行われるから、その分の重量も嵩んじゃうけれど……貴女なら余程の無茶をしない限り大丈夫でしょ」

 

「はい……でも、一応は気を配っておきます」

 

「ご、53ノット……」「また、早くなるのか……」「非常識すぎますわ……」

 

「提督、先程原子炉と言っていたが一体何なのだ?」

 

「あ、えっと……」

 

 長門の質問に筑波は声を濁す。

 長門の経歴ではこの手の話は一種の仇であり、見回すと長門以上に長生きした雪風や隼鷹が、渋い顔をしている。

 

「……そうか、そう言うことか」

 

「あ、長門!」

 

 自分の質問でそんな顔をされれば、自分にとって最も嫌な事だと察した長門は直ぐに当たりをつけ、そしてスキズブラズニルと尾張の元へ歩みを進める。

 

「尾張、先程の原子炉と言うもの、それは信頼における物なのか?」

 

「長門さん……」

 

「なによー、わたしの作ったものにケチを付けるつもり?

 大体、尾張が進んで装備した言っていったんだから、それだけ私の事を信頼している証でしょう?」

 

 長門の問いかけに尾張は少し気後れし、スキズブラズニルは不満げな顔で反発する。

 尾張はここに居る艦娘達の、船だった頃の艦暦を見て知っているのでそう言う反応だが、スキズブラズニルはそれを知らない……知らない筈であった。

 

「ふぅん……心に強烈な閃光、そして莫大な熱量と風。

 なるほど、そう言うことね」

 

「な!」

 

 自分の事など知らない筈の彼女が、抽象的な部分を的確に言い当てた事に、今度は長門の方が狼狽した。

 

「それに……あらら、この世界の人間も随分な事をしたわね。

 こんなに綺麗な娘をあの手この手で苛めるなんて、とんだサディストかつ排他的な思考しかしなかったのね。

 それでも貴女は耐え抜き、そして人目も触れずに密かに眠りに付いた……いいわねその反骨精神、気に入ったわ」

 

「お、お前に私の何が……」

 

「分かるわよ。

 私はスキズブラズニル、伊達や酔狂で神々の船と名付けられたわけではないわ。

 私の分析力を甘く見ないことね」

 

 その冷ややかな台詞に、場の空気が凍る。

 そしてその場に居た全員が思った。

 彼女は姿形や役割は違えこそ、尾張と同等の存在なのだと。

 そう思っていた矢先に、不意にスキズブラズニルが纏っていた雰囲気を霧散させる。

 

「あらやだ、柄にも無い事をしちゃったわね。

 こう言うのは尾張の役割だったかしら」

 

「ちょっとスキズ、私は貴女ほど腹芸なんて出来ないわよ?」

 

「当たり前じゃない。

 貴女、下手に策を弄するよりも真正面から切り合った方が性に合ってるものね。

 まあ私もだけれど……あと原子炉の事は安心していいわ。

 大体、そんな柔な物を『私の』大事なこの娘に持たせるわけが無いでしょ」

 

「むっ」

 

「『え』」

 

 スキズブラズニルがイヤに強調して言った単語に、藤沢の大和が反応したと同時に周囲の全員から声が漏れる。

 

「え、尾張とスキズってそんな関係なの?」

 

「違いますよ!

 私はノーマルです!」

 

「何を言っているのよ。

 私に隅から隅まで見せてくれたじゃない」

 

「むむむっ」

 

「ん?大和?」

 

 筑波と尾張が加わり、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ始める大和を見て、武蔵が怪訝な顔をする。

 

「大体、あれは換装に必要な措置であって、そういった行為をする為ではないでしょう」

 

「あらぁ、私は身体の検査をしたと言う意図なのに、どうしてそうなるのかしら?」

 

「ええ、私だって前は船でしたけれど、こうして受肉した体を持ってからは性欲だって溜まるし、それを発散する為に自慰行為だってするわ。

 大体、性欲を定期的に発散させないと逆に身体に悪いし、精神的にも滅入ってしまうからこれも体調管理の一環よ。

 それに、私の中(艦内)でそういった行為に及んでいた所を見たのだって、一度や二度ではないですし」

 

「ふむ、そう切り返してきたか。

 なかなかやるわね」

 

「褒められても嬉しくありません」

 

 眼前で繰り広げられる大人な会話に、この場に居た駆逐艦の艦娘達は興味津々であったが、それに気付いた戦艦や空母達によって、丁重に自室へ返された。

 

「な、な、なんて破廉恥な……」

 

「ううむ、ここまではっきりと言われると逆に冷静になるな」

 

「尾張君もなかなかに大胆な女性だな。

 私としてはもう少し御淑やかな方が良いのだが」

 

『おや、毛利提督は朝倉提督の様な女性が好みですか?』

 

「一条君、そう言う事が言えるのは嫁を取るまでだ。

 毛利君もそろそろいい歳だろう?」

 

「私は既に意中のものが居りますし、近々正式に籍を入れる予定です。

 式は……このご時勢ですが盛大に上げようかと思います」

 

 尾張とスキズブラズニルの話題で思い出したかのように、毛利提督から重大発表が出てきた。

 

「ほう?それは目出度い事だ。

 相手は……前々から噂があった扶桑姉妹かね?」

 

「まあ……最初期には彼女達の砲火力にも助けられましたし、今まで第一線で苦楽を共にしてきましたからね。

 そんな中で二人とも個人的な仲も深まってしまいまして、重婚と相成りました。

 最近では男性人口も減ってしまいましたし、誰も文句は言わないでしょう」

 

「見事な甲斐性に天晴れと言ったところだな。

 大切にしろよ?後で何か土産でも用意させよう」

 

「はっ」

 

 ここで一先ず会話に見切りを付け、今回開放された各艦の来歴を聞く作業に入る事となった。




スキズブラズニルの艤装表現がすっごい面倒だった(脳を酷使した人並みの感想
とにかく中枢構造物の両側面にポッド状の浮きドッグがあって、使用する時はそれが展開される感じです。
元は1箇所しかないけれど、10枠もあるしこうなった次第です。
しかし疲れた……あと暑い。
皆さんも熱中症にはお気をつけ下さい。


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日誌十五頁目 神々の船 後編

相変わらずのグダグダ感と投稿間隔ですが何とか出来上がりました。


 

 

「うーむ……」

 

 一通り聴取を終えて纏め上げる作業の最中、改めて彼女達の出身世界の異常な進行速度には驚かされる。

 

「しかし、平行世界とは言えスキズブラズニルの様な船があったのですから、致し方ないのではないでしょうか?」

 

「超兵器の有る無しでここまで違うものなのか?と疑問を挟むところではあるが。

 実際にそうなっていると彼女達が言うんだ。

 それに、超兵器の活動停止で科学技術の発展スピードもこれより遅くなるだろう」

 

 5人の提督が見ているのはスキズブラズニルが、現在保有している開発可能な武装と、大改修で使えるカスタマイズパーツの一覧であった。

 下は水上機や初期型の動力等の第二次大戦初期の物から、上はジェット戦闘機やら原子炉等の現代技術まで、幅広いバリエーションを誇っており、特に艦載機は日本・アメリカ・イギリス・ドイツと、多岐にわたっている。

 

「しかしイギリスの船体など、どう使えばいいんだ?」

 

「そのことも含めて聞いてみたのですが……」

 

 

 

「はぁ?船体の変更?なにそれ、技術屋の私に対する侮辱かしら?

 大体、その娘の精神に合わない肉体をあげても、使いこなせるか分からないでしょう?

 人間で言ったら全身整形して、そのまま心の病気になるような事は私はやらないわ。

 U-513は艦のままで、艦娘や尾張のようにしっかりした精神が宿っていなかったからああなっているけれど、これからはそうも行かないでしょうし定期的に検診はするわ。

 私がやった事には代わりが無いし、その責任くらいは持つわよ」

 

 

 

「と言われました……」

 

 そのままメソメソと顔を手で覆って泣き出す朝倉、そしてそんな彼女にポンと肩を叩く鍋島。

 どうやらスキズブラズニルには、譲れない所があるらしい。

 

「しかし元の船体そのままで改装など、確かにかなりの技量がいる事をやり遂げるのは大変な事だ。

 拡張して改装するならまだやりようはあるが……」

 

「船体強度の関係も視野に入れないと、友鶴や第四艦隊事件の二の舞になりますからな……ん?船体が用意できるという事は、新しく主砲用の穴を用意した甲板も用意できるわけだから……なるほど、それなら強度の心配は無いわけか……」

 

「しかしそれでも重心という問題が出てくる。

 重兵装はトップヘビーになる要因になるからな」

 

「重量を変えずに改装するというのはどだい無理な話ですわ。

 現状でも似たような事はできますが、砲撃時の衝撃で照準にずれが生じますし、とても実戦に耐えれるものが出来上がるとは……」

 

「だが、試しに誰かを改装に出さねば、既存の艦娘でも出来るかわからないからなぁ……」

 

 その時、応接室のドアがノックされる。

 

「司令官、お茶が入りました」

 

「ああ、吹雪君か。

 入りたまえ」

 

「はい!失礼します!」

 

 北条の許可が出て、この横須賀に所属している吹雪が入室する。

 その手には、最近暑くなって来た事もあってかグラスに氷と冷ました緑茶を淹れていた。

 

「さっきの続きだが、もしかしたら船体の重量を上げて対処しているのかもな。

 機関などは特にそれが顕著になるし、内部の電子機器も取り付けた分だけ重くなる。

 防御力を上げるために対10cmくらいの装甲を付けるのも手だ。

 元々駆逐艦には、それほど装甲が厚いわけではないし、精々当たり所によって、砲弾を逸らすのがやっとだからな」

 

「なるほど……」

 

「確かに、人が多数乗る前提の船なら兎も角、艦娘では個人の装備ですからね。

 幾らでも弄り様はあると思いますが……、それでも船体に見合わない改装はダメでしょうね」

 

「あの……先程からのお話って、スキズさんの事ですよね?」

 

 あーでもないこーでもないと5人が話していると、吹雪が不意に言葉を差し込む。

 

「ああ、彼女の機能が既存艦娘、この世界の艦娘に通じるかが問題になってな。

 下手をすれば艦娘を一人失ってしまうのだから、頭が痛い……」

 

「と言っても艤装だけですし、艤装の練度は新人のままになってしまいますが、再建造と言う手も残っています」

 

「だが艦娘本人にしたら、今まで付き合ってきた大事な戦友だ。

 いっそ募集にするのも已む無しだが……」

 

「……」

 

 提督達の会話に吹雪は盆を胸に抱いて思案する。

 本人達はその艦娘を差し置いて会議をしているが、その大事に思ってくれること事態は吹雪には嬉しく思う……だが。

 

「司令官、スキズさんの改装実験、私が志願します」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 先の超兵器戦では吹雪もその場に居た。

 尾張と言う艦娘と、シュトゥルムヴィントと言う恐るべき強敵、その死闘をその目に、その脳裏に焼きつかせていた。

 確かに尾張に任せておけば超兵器戦では安心できるだろう。

 だが、それは1体1での話しであり、万が一……あれと同等の性能を持った複数の超兵器との戦いになれば、その限りではない。

 

「これからの戦い、スキズさんの改装によって手に入れた力が必要になります。

 現場を見て、そしてスキズさんと尾張さんを見て、私はより強く感じました」

 

「ふむ……」

 

 吹雪の言葉に北条は目を閉じて思案し始め、そのまましばし黙り込む。

 5人の視線を向けられたまま時は進み、そのまぶたが開かれた。

 

「よし、吹雪君、君に特殊任務を与える」

 

「はい!」

 

「駆逐艦吹雪はスキズブラズニル監修の元、その艤装にできる限りの改装をせよ」

 

「了解しました!」

 

 

 

「と言うわけで、吹雪ちゃんの艤装大改修実験~」

 

「「わ~」」

 

「わ、わ~」

 

 しばらくして、再びスキズブラズニルの艤装の元に戻る。

 ここから先は上位の関係者しか見れないようにしており、夜まで外壁の解体作業をしていた作業員は既に就寝していた。

 そして周囲には口の堅さで信頼の置ける憲兵を配置し、今ここに居るのは5人の提督と尾張達別世界組、そして今回実験台となる吹雪、そして技術や筋として定評がある明石と夕張の姿があった。

 そんな中で明るく言ったスキズブラズニルの音頭に、明石と夕張は元気にその音頭に乗り、吹雪は若干引き気味に乗ったのであった。

 

「ふふふ、さぁてどうやって改装しようかしら」

 

「吹雪さんは何か希望が?」

 

「え、えっと、艦隊の護衛としてできる限りの事をしたいです。

 それこそ、戦艦や空母の護衛を……」

 

「つまり目に見える範囲の者を守りたいわけかしら?

 なかなか欲深くて甘っちょろい希望ね」

 

「うっ……」

 

 吹雪の希望にスキズブラズニルの言葉が鋭く差し込む。

 一旦冷淡な目をしていたスキズブラズニルだが、不意ににこやかな表情へと変わる。

 

「っと、普通の技術屋なら言うでしょうね。

 でも大丈夫!このスキズブラズニルに任せなさい!」

 

 そう言いながらホワイトボードに吹雪の改装案を記した紙を張ってゆく。

 それは予めスキズブラズニルが、吹雪型の船体を元に設計した図面だった。

 

「まず第一案は速度と打撃力を重視した案、主砲はそのままに魚雷と主機、そしてボイラーを改装する案ね。

 これは魚雷を三連装の新型超音速酸素魚雷発射管に換装して、主機を駆逐タービンε2基、ボイラーを駆逐ボイラーε2基に改装した案よ。

 速力は55.7ktほどになるわ」

 

「ふむ、確かに打撃力がありそうだが、その魚雷の威力はどれほどだ?」

 

「うーん、大和型戦艦なら3~4発で沈むくらいの威力は保障するわ」

 

「……十分だな」

 

 あっさりと言ったスキズブラズニルの言葉に、口を挟んだ北条はそれしか言えなかった。

 超音速魚雷は所謂スーパーキャビテーション魚雷であり、シクヴァルがその最たる例として上げられ、水中速力は既存の魚雷を上回っており、しかも炸薬の量と性能は九三式酸素魚雷よりも上だ。

 ちなみに速力の方は既に

 

「それで第二案だけれどこれは対空と対潜、そして速度に主眼を置いた兵装になるわ。

 武装については魚雷発射管はそのままで、主砲を152mm速射砲3基、機銃は35mmCIWS4基を煙突脇に換装、対潜兵装はASROCを2基、前部主砲後部に横並びで換装してあるわ。

 機関は第一案のままよ。

 速力は52.6ktね」

 

「ふむ……吹雪君どちらの案にするかね?」

 

「……」

 

 吹雪はスキズブラズニルが出した二つの案を見比べる。

 片方は対艦特化、もう片方は対空・対潜に優れている。

 そして今の自分はどうか?対艦・対空・対潜の性能、そのどれもが改二としては平均的な性能だ。

 そして改めてその設計者を見てみると、ニコニコとした顔を浮かべている。

 

「あの……スキズさん」

 

「なにかしら?」

 

「その二つを合わせた設計案ってありますか?

 と言うかあるっていう雰囲気が駄々漏れですよ?」

 

「それにスキズ、その設計図は補助兵装を抜いてあるわね?

 弄くるなら現状で出来る事をとことんやるっている貴女にしては、少し手ぬるい感じがしたもの」

 

「あらら、ばれちゃあ仕方ないわね。

 尾張なら兎も角、初めて私の改装を受ける娘が見破るのは初めてよ~」

 

 そう言いながらスキズブラズニルは第三案と言うべき設計案を出した。

 それは第一案と第二案を合わせ、補助兵装を加味しつつ、対10cm装甲で防御力を上げた改装案であった。

 速力は65.7kt。

 

「本命はこれだけれど、一気にやると色々齟齬が出るだろうしと思ってあえて出さなかったのよ」

 

「齟齬?」

 

「そう、私の改装は所謂人間で言う全身整形の様なものよ。

 それを行き成り全部やるのは、精神に変調を来たしてしまうと言う危険性があるわ。

 それでもやるのかしら?」

 

「……やります!

 それで皆を守れるなら!」

 

 一瞬逡巡するが、すぐに気を持ち直しスキズブラズニルの問いに応える。

 

「……分かったわ。

 じゃあ貴女の艤装をここにおいてちょうだい」

 

「はい」

 

 吹雪が艤装をドックに置くと、尾張と同様に隔壁が閉じられ駆逐艦吹雪の設計図が出る。

 そしてスキズブラズニルは手馴れた仕草で吹雪の艤装を弄ってゆく。

 

「初期の日本の駆逐艦船体って、余剰重量少ないからやり応えがあったわぁ。

 まあ予め頭の中に叩き込んであったし、私にかかればこの通りよ」

 

 改装作業は直ぐに終わり、隔壁が開くとそこには形が変わった吹雪の艤装があった。

 主砲は丸みを帯びた単装の多角形砲塔になり、魚雷発射管は大型化、そしてマスト横にはCIWSとASROC発射機が設置されていた。

 吹雪は新しく改装された自分の艤装を背負い、違和感の為か少しふらつく。

 

「おっとと、大丈夫?」

 

「は、はい、少し重量とバランスが……でも、なんだか力が以前より漲って来て、これなら単独でも何とか出来そうだって思えてきました!」

 

「まあ、あまり無理はするな。

 今回は既存の艦娘が、スキズブラズニルの改装を受けれるかどうかの実験だったからな。

 今はその結果があれば十分だ」

 

 吹雪の様子に変化は見られなかった為、スキズブラズニルの改装は既存の艦娘にも適応できると分かり、北条はほっと一息吐く。

 今回は念のために初期状態の艤装を用意したので、仮に失敗して失われても惜しくは無い。

 逆に改二艤装と今回の改装で手に入った艤装で、戦術の幅が広がったと感じている。

 

「確かに元の艤装より大分重量が増えたけれど、問題ないはずだわ。

 あとはバランスと速度に貴女が付いていけれるか……、もし無理だったら元に戻して上げるから安心して」

 

「はい!

 でも、必ず使いこなして見せます!」

 

「そう、じゃあ私は先に休ませてもらうわね」

 

 スキズブラズニルは吹雪にそう応えながら背を向ける。

 既に興味がないと言わんばかりの後姿だが、指導を終わりに任せたと言う意思表示だと、尾張はそう感じ取った。

 

「吹雪さん、既に感じているとは思いますが、その艤装は謂わば駆逐艦娘型の超兵器。

 強大な力に貴女の芯が飲み込まれないように、明日からは私自らが指導します」

 

「超兵器……私が……」

 

「超兵器に対抗する為には、あちらと同じ舞台に立たなければなりません。

 ですが特性で言えば我々はまだ船の範疇です。

 燃料に関しては通常の艦娘に比べれば消費は少ないですが、その船体以上の燃料と弾薬は持てません。

 ですから、明日から貴女にはその艤装の効率的な使い方を指導します」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「さて、ではそろそろ我々も寝るとしようか」

 

 吹雪と尾張の会話に一区切り付いたところで、北条がそう言う。

 

「そうですわね。

 ですが、今日に関しては収穫が多いのも確か、私も帰ったら改装に出す娘を選抜しましょう」

 

「こちらも空母の内一人を出すとしよう。

 まあ予備の艤装はある事だし、そちらを出す予定だが」

 

「私のほうでも巡洋艦を出すとするか。

 さて、明日は朝一で呉に戻らねばな……筑波提督はどうする?」

 

 筑波以外の3人が口々に言った後、毛利が筑波に問う。

 

「私は、尾張がいるだけで十分です。

 これ以上の戦力拡充は、他の鎮守府との足並みが乱れるでしょうし」

 

「そうだな……」

(驕りは無い……か。

 横須賀の後進は安泰だな)

 

 筑波の返事に毛利は内心を隠しつつ、頷きながらそれだけを言う。

 そして頼りになる後進の姿を見て、毛利は誰を出すか思案するのだった。




はい、と言うわけで最初の犠牲者の吹雪さんです。
速度以外は比較的まともです。
私の設計思想って結構固めかもしれませんね、平賀さんを見習いたいです。

さてイベントですが、私は何とかE-7を攻略できました。
風雲、海風、江風は攻略中に出ましたので、あとは瑞穂と朝霜を掘るだけの作業です。
イベント終了まであと約2週間、皆さんも余り無理しない難易度で攻略いたしましょう!


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日誌十六頁目 観艦式

朝霜ー!
どこだー!


 

 

 

 蒼空の空に銀翼が煌き、過ぎ去った後にはレシプロ音とは別の轟音が鳴り響き、高速で大気を切り裂く。

 この世界では既に哨戒用と化したジェット機、F-22・F/A-18E・F-35Aの編隊だが、そのサイズは小さく、所謂艦娘サイズと呼ばれる大きさだ。

 F-22が制空権を取ったのを確認し、F/A-18Eがバンクを振りながら緩降下、その後機体を安定させてから、翼下にある対艦ミサイルを浮遊標的に向けて放ち、即座に離脱する。

 防空艦として設置された標的は、あえなく対艦ミサイルの直撃を受け爆煙と共に消失し、それを見計らったかのようにF-35Aが大型艦として設置された標的に殺到し始める。

 胴体内部に装備された1500ポンド爆弾を投下、至近弾と直撃弾を受けて標的は破裂、訓練海域にある大型の海上目標はこれで全て倒された。

 

「吹雪、突撃します!」

 

「吹雪を援護するぞ!」

 

 大型艦が居なくなったのを確認して、海上から高速で接近する二つの影が海面を擦過する。

 時速60ノット以上で接近するのはスキズブラズニルで改装された吹雪と、ヘリ搭載高速巡洋艦と化した利根であった。

 両名はそのままの速度で目標群へ接近、すれ違いざまに新型超音速酸素魚雷を放ってからその場を離れる。

 数瞬の内に巨大な水柱が天高くまで昇り、それを確認すると吹雪は152mm速射砲を、利根は203mmAGS砲を構え再び再接近、標的群を挟む形となって円を描きながら的確に砲撃する。

 暫くそれを続けると標的は全て無くなっていた。

 

「演習終了!

 各自戻ってきてください!」

 

 尾張が号令すると吹雪と利根が戻ってくる。

 傍にいた大鳳も艦載機の着艦を終えた後二人の横に並んだ。

 

「大分今の艤装に慣れてきたみたいね。

 吹雪ちゃんと利根なんて、最初の時は旋回する度にすっ転んでたのに」

 

「うむ、何時までも慣れないのはいかんからな!

 尾張に頼んで自主練習をしておったのだ!」

 

「私も尾張さんと利根さんと一緒に訓練をしていましたので、早く慣れる事が出来ました」

 

「私も、流石に60ノットと言うのは未知の領域なのでどう指導すればいいのか、良い経験になりました。

 やはりこうして一緒に何かをするというのは心地良いですね」

 

「でも残念です。

 この艤装を深海棲艦に使えないなんて……」

 

 今回作成された艤装を持った彼女たちは、超兵器への対抗チームとして結成される予定だ。

 勿論全員通常の艤装を用意している為、深海棲艦向けの対策も万全である。

 と言うのもこれには深海棲艦側との密談があり、利根と大鳳が改装を受ける前に尾張と筑波、そして北条の3人はヲ級を介して空母棲姫と連絡を取った。

 あちらとしても超兵器の行動は目を上のたんこぶらしく、既に大西洋の一部が超兵器によって制圧されていると言うので、改装に関しては了承を得たのだが、次の条件が付いた。

 

 ―スキズブラズニルによる改装を受けた艤装を、超兵器及び深海棲艦の規格から外れたもの以外に対して使用しない事。

 尚、通常個体でも、対超兵器作戦行動中に敵対行動をした場合は、その限りではない―

 

 どうも大西洋で突然変異した深海凄艦が居るらしく、今までの深海棲艦との共食いの様相を呈している様で、それら突然変異種と超兵器に対しては使用しても良いという合意がなされた。

 これは無駄な要素を取り除き、双方共に戦場のコントロールをしやすいようにする為だ。

 幸い突然変異種への対応は、姫・水鬼クラスの深海棲艦で対処できているようで、今の所援軍要請を出すつもりは無いとの事だった。

 

「あちらもしっちゃかめっちゃかですからね。

 本拠地も移動しているのかわかりませんし、落ち着くまではどうしようもないです。

 さて、報告書を書いて、ご飯でも食べに行きましょう」

 

「そうね。

 それにしても最近静かね」

 

「そうじゃの。

 なんと言うか、沖の方からピリピリした雰囲気が漂ってきておる。

 これは何かでかいのがきそうじゃ」

 

 感としか言い様が無い物言いだが、尾張にも利根達が言いたい事は分かるつもりだ。

 不自然に静かな海は、何かよくないことが起きる前兆。

 魚介達が忌避するように居なくなり、貝類はその硬い殻を必死に閉じてそれを過ぎ去るのを待つ。

 何処か高い場所へと避難しているのか、カモメやウミネコもその海域からは居なくなっていた。

 地震か津波、それと同程度の事態を恐れての動物的行動は、海で生きる者は必ずといって良いほど、それを見逃すわけには行かない。

 

「さて、とりあえずはお腹を満たして、十分な休息を取りましょうか。

 今日は金曜ですし、女将さん特製のカレーが待ってますよ」

 

「おお!それは良い事を聞いた!

 では皆の衆、先に行くぞ!」

 

「あ、利根さん待ってくださいよ~!」

 

「ふふ、では尾張さん、スキズさん、お先に失礼しますね」

 

「はい、お疲れ様、報告書も忘れないようにね~!」

 

 尾張の声に3人が手を振って応えると、そのまま宿泊先である藤沢基地へと戻っていった。

 

「さて、今回は誰が来るのやら」

 

「誰が来ようとも同じです。

 私が捻じ伏せてあげます」

 

「ふふ、それこそ私の尾張ちゃん。

 でも、残念ね。

 あなたの活躍の場が制限されるなんて」

 

「この世界は彼女達の物です。

 私達の様なイレギュラーは、本来この場に居てはいけない存在です。

 勿論、これから相手にする超兵器も……」

 

「……そうね。

 でも全部の超兵器を倒した時はどうしようかしら、いっそ南極辺りで独立でもする?」

 

「ふふ、それも良いかも知れませんね」

 

 戦後の話としては物騒な話をしながら、二人も藤沢基地へと帰路につく。

 そして、その日が来た。

 

 

 

 観艦式。

 それは帝国海軍から自衛隊が発足し今に至るまで、時折途切れながらも3年に一度は催される国民・隊員双方の士気を高める為であり、外国へその精強さを見せ付ける為に行われる行事である。

 自衛隊が発足されるまでは、皇室や華族の者のみにしか見れなかったが、深海棲艦から奪還した東京湾の中で、実に10年ぶりに執り行われていた。

 

『続きましては、前方を航行します『かが』左側より、各鎮守府を代表する艦娘達と擦れ違います。

 皆さん、足元に注意して、彼女達の勇姿をご覧下さい!』

 

 序盤に現在自衛隊が持ちえる航空機や、護衛艦艇の紹介を終えた所でアナウンスが流され、汎用護衛艦の『あきづき』の甲板から観客が上半身を乗り出す。

 

「おお、来たぞ!」

 

 観客の一人がその姿を確認して指差す。

 少し遠いがそこには上は大和型から下は睦月型まで、各鎮守府から選出した艦娘達が列を成して、護衛艦隊の中心へと接近していた。

 カメ子が望遠レンズでピントを合わせ、しきりにシャッターを切ると同時に手を振る。

 乗りの良い艦娘の何人かはそれに応えるが、艦隊運動に乱れは無い。

 その中にはドイツから来た艦娘であるビスマルク、Z1、Z3、プリンツ・オイゲン、U-511も含まれていた。

 

「おお、ドイツの艦娘も一緒に出ているのか」

 

「彼女達もこの日本を守っていてくれるからな。

 出てこなきゃこっちから文句を言ってやるってもんよ」

 

「違いない!」

 

 そんな観客の声が彼女達の耳に入る。

 海風が強く、時には雨で声が聞こえなくなりそうな事もあるため、彼女達は海上の音には敏感になっているのだ。

 

「な、なんだか気恥ずかしいね。マックス」

 

「そうね。でも、民間人を守るのは私達の務め、当たり前の事しかしてないわ」

 

「それでも感謝してくれてるのは違いないし、私達はそれに答えるだけよ。

 ドイツの艦娘として恥じる事のないように、これからも頑張らないといけないわ」

 

「私も酒匂や長門に負けないように、頑張る!」

 

「ゆ、ユーも、ハッちゃんやゴーヤたちに負けないように、頑張り……ます」

 

『それでは皆様にはこれより、新しく艦娘達の仲間になった艦娘をご紹介いたします!

 幻の超大和型戦艦と言われ、設計図すらなかった状態でしたが、防衛省技術研究所と艦娘技術研究所が持てる技術を結集し、現代化に成功させた新艦娘の尾張です!』

 

 ドイツ組の士気が上がる中、全ての艦娘達が『あきづき』の横を通り過ぎた後、アナウンスで表向きの尾張の紹介が流される。

 先程まで艦娘達が通ってきた軌跡をなぞるように、その威容を『あきづき』や他の護衛艦に乗船している観客の前に現す。

 

『尾張の特徴は51cm三連装砲を4基、そして近代化の先を行く現代化改装により、高性能20mm機関砲やアスロック垂直発射機と言った。現代兵装も扱えるオールマイティな艦娘へと変貌しました!

 そしてその防御力も、自らの主砲を撥ね退けるほどに強靭に出来ており、先の超兵器シュトゥルムヴィントによる襲撃事件でも、その防御力と攻撃力でもって打ち倒しています!』

 

 尾張の紹介とその戦果がアナウンスされると同時に、観客が乗っている護衛艦からカメラのシャッターが切られる音が鳴る。

 声援も聞こえると尾張は微笑みながら手を振って応えれば、シャッターの数も激増した。

 

『尾張、大丈夫?』

 

「あ、大和さん、ええ、これくらいなら大丈夫ですよ。

 今は原速も出していませんし、通常艦艇との艦隊行動の慣らしとしては十分かと」

 

『いえ、そうじゃなくって、貴女自身の事よ。

 昨日まで吹雪ちゃん達の相手をしていたわけだし、今日なんかこんな風に衆目を集める役目をしているわけだから……』

 

「それこそ望むところです。

 どの道超兵器が出てくるまで私の出番はありませんし、借りに対深海棲艦戦に出るとしたら大規模海戦海域に、超兵器が出るくらいしか……っ!」

 

 喋っている途中で気配を感じ、言葉を切ってレーダー索敵に力を入れる。

 だがレーダーが初期同然の尾張では限界があった。

 

「……筑波提督、これからデモンストレーションとしてF-35Bの出撃をしたいのですが」

 

『え、でも……』

 

「嫌な気配がします。

 他の艦娘達や護衛艦にも周辺警戒をさせてください。

 観客の方々には悟られないように」

 

『……少し待って』

 

 そう言い残して筑波が一旦通信を切る。

 しばらくすると艦娘達が所定の位置に付き、艦載機発艦のデモンストレーションを行う旨のアナウンスが流れる。

 

『艦載機による偵察を許可します。

 皆、周囲に注意して』

 

「『了解』」

 

 結果だけを言うならば、この艦載機発艦デモンストレーションと称した偵察行動は空振りに終わり、観艦式は何事も無く終了。

 収容艦となっていた『かが』へと帰還して、一路横須賀へと戻った。

 

 横須賀に戻った後は艦娘との交流会だ。

 主に横須賀の金剛姉妹や料理好きな艦娘達が、観艦式の航海中に限られた材料で茶菓子を作り、不慣れな状況で疲れているであろう観客達に振舞う。

 最初こそおっかなびっくりだった参加者は、次第に打ち解けていった。

 尤も、今日まで金網越しではあったが交流していたカメ子達が、率先して艦娘達と触れ合っていたのが最大の要因だろう。

 

「普段は煩わしいけれど、こう言う時は助かるわ」

 

「大井っちは男苦手だもんねぇー。

 まあ私もちみっこ達は苦手だけどさ」

 

 周りが騒がしい中、佐世保の北上と大井が壁際で駄弁っていた。

 

「おーそっちは佐世保のあたし達じゃん」

 

 不意に自分の声で声を掛けられる。

 そこには自分達とは違い、髪の毛を所謂お団子頭にした北上と、ツインテールにした大井の姿があった。

 

「ここのあたし達じゃん、最後に会ったのは……尾張が来る前にやった演習の時以来だっけ?」

 

「そうそう、佐世保の球磨ねーちゃんにコテンパンにされて、帰ってから球磨ねーちゃんからの特訓がきつかったのなんのって」

 

「お陰で私達、あの時には駆けつけれなかったのよね」

 

 北上(佐世保)が確認の為に話題を振ると、最後に会った日を振り返りつつ、遠くでカメ子に囲まれている尾張のほうに4人が顔を向ける。

 

「あの人が来てから大分目まぐるしくなったよね。

 特に軽空母組がさ」

 

「艦上偵察機と攻撃機積んで警戒してるんだっけ?

 今の所出現の報告は無いみたいだけれどさ」

 

「その辺りが不気味なんだよね。

 まあ出てきたらその時に考えましょ」

 

 北上同士がそう話しているのとは別で、大井同士がどっちの北上さんが素晴らしいか自慢合戦をしていたが、至極どうでも良い話であった。

 

 

 

「では、皆さん、本日はお疲れ様でしたー!」

 

「「「「お疲れさまー!」」」」

 

 その日の夜、横須賀鎮守府にある大食堂で、横須賀の艦娘達と共に打ち上げを行っていた。

 そんな席の片隅で、藤沢から派遣された長門と陸奥が、横須賀鎮守府の食堂食に舌鼓を打っていた。

 

「この姿では初めての観艦式だったが、無事に成功してよかった」

 

「そうね。

 でも、あの時の尾張ったら何に反応したのかしら?」

 

「分からんが、もしかしたら尾張特有の感覚かも知れん。

 あいつは嫌と言うほど超兵器との戦いを経験したから、そのせいで超兵器に対する感覚が鋭敏になっているのか、それともただの勘違いだったのか」

 

「私達の電探にも怪しい影は無かったから、尾張の気のせいだとは思うけれど……ちょっと嫌な感じよね」

 

「どの道出てこなければ対応策が取れないからな……」

 

 そう話している間にも夜は更けてゆく。

 近付く新たな脅威に気付かぬまま……。




何かの行事で何事も無かった用に見えても、裏ではナニかが迫ってきていたのは、物語ではよくある話です(キリッ

そして執筆中にいずも型ヘリ搭載護衛艦の2番艦が進水しましたね。
命名には思わず『ふぁ!?』ってなって、思わず強引に差し込みましたがw
配属が何処になるかが気になる所です。


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日誌十七頁目 東京湾に潜むモノ達 ※G注意

今回はギャグ回のつもりです。
あとアレが嫌いな人はブラウザバック推奨です。


「ふぁ~……眠い」

 

「もう少しで交代の時間だ。

 もうちょい頑張れ」

 

 観艦式から数日空けた横須賀の海上自衛隊基地、その波止場で警備いる自衛隊員が2人居た。

 新月で月が隠れている夜中、片方は欠伸を上げながら、もう片方は眠気に襲われながらも意識をしっかりと保っていた。

 

「しかし、こうも暇だとな。

 まだ周辺哨戒任務がある護衛艦乗りの連中は仕事が有って羨ましいよ」

 

「こうして沿岸警備している俺らだって重要な任務だぞ。

 まあ、確かに護衛艦の連中に比べたら地味だけどな」

 

「お前だってそう……ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、今海が光っ」

 

 その言葉が最後まで出たか否かの所で、周囲は轟音と爆炎に包まれた。

 

 

 

「今の爆発音は何だ!」

 

 鎮守府内の私室で寝ていた北条だが、爆発音と共に目が覚めた。

 取り急ぎ制服を小脇に抱えて司令室へ到着し、管制を担当している大淀に尋ねる。

 

「現在状況把握中!

 恐らく砲撃による攻撃だと思われます!」

 

「状況把握は後回しだ!出せる艦娘を全て出せ!」

 

 北条の言葉に従って大淀が鎮守府内に警報と、緊急事態を知らせる館内放送を行う。

 先程の爆音で殆どの艦娘達が起きていたが、海上自衛隊基地が襲われたと言う衝撃による動揺が大きかった。

 

「超兵器の可能性もある。

 吹雪には対超兵器装備で出撃させろ!」

 

「了解!

 続けて知らせる。吹雪は対超兵器装備で出撃せよ!

 繰り返す、吹雪は対超兵器装備装備で出撃せよ!」

 

 

 

(初めての……ううん、二回目の超兵器戦かもしれない出撃……。

 もし超兵器だったら尾張さんが居ない今、皆を守れるのは私だけだ!)

「吹雪、抜錨します!」

 

 周りの仲間達が次々と出撃する中、吹雪は海原へと躍り出た。

 着水後莫大な推進力で水面を蹴立て、舞い上がる水渋きは受けた勢いをそのままに、蹴立てた本人の名を冠するように舞い散る。

 そしてその速力であっという間に、最初に出撃した最前列の大和へと追いついた。

 

「先行して目視で確認します!

 この湾内で電探に引っ掛からないという事は、かなりの隠密性を有してるはずですから!」

 

「分かりました。

 でも、サボ沖の二の舞は……」

 

「大丈夫です!

 あの時の二の舞には絶対になりません!」

 

「では」っと敬礼してから吹雪は全速力で現場へと向かう。

 時速60ノット以上の速力で疾駆する吹雪は、あっという間に現場へと到着する。

 

「ひ、ひどい……」

 

 燃え盛り着底した護衛艦達、弾薬が未だに炸裂を続ける弾薬貯蔵庫、砲撃によって激しく破損した建造物、周囲から鳴り響くサイレンと怒号、そして悲痛な叫び。

 素人目から見ても壊滅状態だった。

 在日米軍の施設も同様の被害を受けている。

 

『こちら北条、吹雪君、状況は?』

 

「壊滅……です。

 海上自衛隊、横須賀基地及び、横須賀在日米軍基地は、壊滅、しました……」

 

『……そうか、吹雪君、君の所見での判断はどうだね?』

 

「それですが……あ!」

 

 応えようとすると、波間で浮かんでいる人影を見つけ接近する。

 顔に火傷を負っていたがまだ息が合った。

 

「生存者を確認!

 大丈夫ですか!?」

 

「うっ……君は……」

 

「今上げれそうな場所へ向かいます!

 もう少しだけ頑張って!諦めないで!」

 

 男性自衛官を肩に担ぎ、そのまま近くの浜辺へと向かう。

 そこにはちょうど別の自衛官が居た。

 

「おい、君は艦娘かね!?」

 

「は、はい!この人をお願いします!」

 

「分かった!

 ここに手を出した奴にガツンと一発食らわせてやってくれ!」

 

「はい!」

 

 吹雪はその自衛官に負傷者を預け、自衛官からの声援に応えると踵を返して再び沖に出る。

 だがその間にも新たな攻撃は無かった。

 

「すみません。

 哨戒再開します!」

 

『いや、大丈夫だ。

 しかし、一体どうやって砲撃距離にまで近付いたのか……』

 

『割り込み失礼します』

 

 吹雪が北条と話していると、尾張の声が割り込んできた。

 

「尾張さん!」

 

『状況は把握しています。

 私が急行していますので、もう暫く持ちこたえてください!』

 

「はい!っ!」

 

 吹雪がその声に応えると同時に、海中を突き進み何かを捉えそちらに振り向く。

 そこには幾本もの雷跡があった。

 何本かの雷跡は見慣れた酸素魚雷のものである事が伺えた。

 

「迎撃!」

 

 吹雪の艤装にある35mmCIWSが火を噴く。

 改装設計図で別々に装備されているCIWSは、互いに別々の目標を捕らえ的確に迎撃してゆく。

 迎撃と同時に吹雪はその速力で回避しようとするが、何本かの魚雷は吹雪に追随しようと方向を変えた。

 

「誘導魚雷!?」

 

 CIWSの迎撃目標を誘導魚雷に切り替え、なんとか迎撃に成功する。

 残りの無誘導魚雷も迎撃し、夜陰に束の間の静けさが戻る。

 

(今のは確かに私を追尾していた……。

 ドイツの娘達も誘導魚雷は開発していたって聞いたけれど、ビスマルクさんもレーベちゃん達もそれを積んだ記憶は無いって言ってたし、やっぱり今回の件は超兵器によるも……っ!)

 

 そこまで考えて後で動いたような気配があった。

 だがそこへ振り向いても何も居ない。

 

「っく!」

 

 吹雪は何発か速射砲で至近の海面に打ち込む。

 だが手応えも無く、砲弾は海面を叩くだけだった。

 

(ど、どこに……)

 

『吹雪ちゃん?どうしたの?』

 

「尾張さん、今回の件、超兵器によるものなのでしょうか?」

 

 吹雪は先程の出来事を出来るだけ詳細に伝える。

 その間にも周囲への警戒は忘れない。

 

『……恐らく何らかの視覚妨害装置とステルスを併用した物でしょう。

 しかし、一体何時から……まさか!』

 

『尾張君が観艦式で感じた気配か!?』

 

「でも、幾ら視覚的な迷彩を施しても限度が!」

 

『それに関しては私から説明するわ』

 

 新たにスキズブラズニルの声が入る。

 

『恐らく今回の敵は光学的に完全に遮蔽したものでしょう。

 所謂光学迷彩と言うものね』

 

『だが、それでも航跡などは残る筈だ。それをどうやって……』

 

『……護衛艦の航跡を利用して自らの航跡を隠していた?』

 

『尾張ちゃん、私も同じ考えよ。

 しかも今は真夜中な上に今夜は新月、航跡の視認は難しくなる。

 デジタルビジョンで追跡も考えたけれど、あれは処理の問題で航跡を見えなくしてしまうし……』

 

「そんな……」

 

 視覚的な対抗手段が悉く潰された。

 これが超兵器の恐ろしさなのかと、吹雪は改めて感じる瞬間だった。

 

『こんな事なら照明弾発射機も乗せておくべきだったわ……。

 ごめんなさい吹雪ちゃん』

 

「いえ、私も具申しませんでしたし、お互い様です」

 

 スキズブラズニルから謝罪の言葉が出るが、吹雪もデジタルビジョンの便利さに目が眩んでいた。

 

 ―ミサイルは決して万能の兵器ではない―

 

 ミサイル万能説の教訓が蘇る。

 例えデジタルの信頼性が高くなっても、アナログ的な対抗手段が無いのは欠点になり得ると言うのを、吹雪は身を持って実感した。

 

「それに司令官が私に保険として、スロット装備の照明弾を持たせてくれました。

 今回はそれで何とかして見せます!」

 

『ふふ、流石は駆逐艦界のドレッドノート、勇ましいわね。

 では、健闘を祈るわ』

 

『私ももう直ぐそちらへ付きます。

 無理はしないで!』

 

 二人は吹雪を戦闘に集中させる為に通信を切る。

 当の吹雪も速射砲に照明弾を装填し、ばら撒けるように準備した。

 

(初めての1体1での超兵器戦……尾張さんはいつもこんなに緊張して戦ってたんだ!)

 

 負ければ味方とその国土が蹂躙され、そこに製鉄所や鉱山、そして造船所があれば敵の策源地となる上に、奪還しようとしてもそこには当の超兵器が居る。

 悪夢以外の何者でもない。

 

(お願い、相手の航跡を照らし出して!)

 

 願いを込めながら照明弾を全周囲にばら撒く。

 照明弾は一つの不発も無く深淵を思わせた海の夜陰を暴き出し、その海上を照らし出した。

 それを確認すると、吹雪は速射砲の砲弾を装填しながら周囲に目を凝らす。

 

(……居た!)

 

 そこには不自然に掻き分ける波があった。

 だがその主の姿が見えない。

 

「当たってぇ!」

 

 思わずそう叫び、速射砲のトリガーを引く。

 照準を自動補正された速射砲はその連射力と精度で、吹雪が狙いを付けた辺りに高速で155mm砲弾を叩き込む。

 

『「ギギギギ?!」』

 

 何発か手ごたえがあると、奇妙な……昆虫の様な鳴き声が響く。

 

「へ?」

 

 吹雪が間の抜けた声を出すと、夜陰にその正体が現れた。

 それは……ぱっと見では人間台の油虫であった。

 

「ひ、ひゃあああああああああああ!?」

 

 吹雪は思わず叫び声を上げ、速射砲と超音速酸素魚雷を叩き込む。

 ただの油虫なら艦だった時には乗艦していた船員達と共に見慣れているが、このような大きさは流石に慣れとかそう言う次元ではなく、ただただ生理的・精神的両面に直で衝撃を与えるものであった。

 幸い最初の被弾が当たり所の良い箇所だったのか目標は動いておらず、続けて叩き込まれた砲弾は油虫を蜂の巣にし、速射砲と魚雷の装填した分が空になる頃には沈黙して波間に浮いていた。

 

「あうう……怖かったよぉ。

 し、しれぇ、こちら吹雪です」

 

『吹雪君、大丈夫かね?』

 

 精神的に大ダメージを受けながらも、超兵器らしき物を撃破した吹雪に北条から通信が入った。

 

「は、はいぃ、あと、目標は沈黙しました」

 

『そ、そうか……ん?沈黙??君一人でかね!?』

 

 北条の声に喜色が入った。

 なにせ超兵器かもしれない敵艦を倒したのだ。

 しかも改修を受けたとは言え、自分が初めて部下にした艦娘がだ。

 勿論この通信は他の艦娘にも届いており、聞いた方は祝勝ムードだった。

 

「すみません。

 少し休憩を頂いてもいいでしょうか?」

 

『そうさせたいのは山々だが、とりあえず沈黙した敵艦の形状を報告したまえ』

 

「えっと……その……、あまり驚かないで欲しいのですが」

 

『うむ』

 

「……油虫です」

 

『ふむふむ、油虫か……なんだって?』

 

 吹雪からのあんまりな報告に思わず北条は聞き返す。

 普段のまじめな口調など何処吹く風だ。

 

「ですから油虫です!Gです!台所とかの水周りに居るアレです!黒くて硬くててらてら光ってて暗くて狭くて湿ったところが好きなわりに速い生物です!しかも人間台の!」

 

『お、落ち着きたまえ吹雪君!』

 

 当然この通信を聞いていた艦娘達も、改装を受けてから初めての戦闘の相手が、まさかアレだったというのを想像し、最後の吹雪の台詞で昆虫状のエイリアンが出てくる、とある海外のSF映画を思い出した艦娘も居た。

 尾張が吹雪の元に駆けつけたのもちょうどその時だった。

 

「あの……ちょっと今の通信を聞いたのですが」

 

『おお、尾張君!何かね!?』

 

「その……私も今対象を見たんですが、仮にもですよ?

 仮にもアレが油虫と同じような繁殖力というか、生産性を持っていたとしたら……いえ、何でもありません」

 

『『『……』』』

 

 もうそこまで言ってしまったのなら全て言ったも同じだった。

 吹雪もサッーっと顔色が蒼くなる。

 

『た、対象を仮称Gと命名!

 直ちに東京湾中を捜索し、殲滅しろ!』

 

 北条の悲痛な、そして情けの無い声音で出された命令が鳴り響いた。

 そしてG殲滅作戦は、2日間ぶっ続けで行われ、結果的に発見した対象は65匹、そして未だに捜索は続いていた。

 北条提督は日誌にこう書き記している。

 

 ―まことに物量と精神面でも攻め入る恐ろしい超兵器であった。

 後日現物を見たが、体の下側にはアメリカの試作ステルス艦であるブラック・シャドウを思わせるものがあり、死んでも波間に浮かんでいるため生死の判別が付き難く、姿形も油虫に酷似しているために、倒すのも死骸を回収するのも恐ろしく時間が掛かった。

 このような精神面でも攻撃してくると言う兵器は、我々でも開発し長年使い続けてきたが、超兵器の深淵の一つを見た気分であった―

 

 尚、この事件で重傷者は出たが、死者・行方不明者はゼロと、奇跡的なものだった事を付け加える。




だからブラウザバック推奨だって言ったのにぃ!
はい、というわけで思いの他筆が進んだ17話です。
今回のイベントのイライラを全てこの話に叩きつけました。
ええ、アレですとも、誰がなんと言おうとも、しかも人間台の。
本当に申し訳ない。
でも反省もしない。

今回出てきたアレは、WSC3のアレの弱体化バージョンです。
つまりWSC3のステルス性能と光学迷彩にWSG2の武装と速力を乗っけたハイブリット種です。
でも航跡は残ります。


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日誌十八頁目 第十一号作戦①

2ヶ月も開けて申し訳ない……。
雪山に遭難したり、EOマップの攻略したりしていました。
今回から暫くの間は2015春イベを題材にやっていこうかと思います。
まあイベントであそこまで行ったんだからあいつを出さない事にはねぇ?


 

 

 

 横須賀基地襲撃事件から数週間後、本土にある鎮守府はあわただしくなり、それはこの藤沢基地も例外ではなかった。

 予てより予定されていた大規模作戦、その準備をしているからだ。

 

「では、予てより計画していたカレー洋制圧作戦、第十一号作戦の説明を行いたいと思います」

 

 筑波はこの会議室に居る、主要な艦娘全てに向かってそう切り出した。

 

「まず概要としては偵察作戦であるカレー洋哨戒作戦、制海権確保の為のカレー洋リランカ島沖での艦隊戦、敵補給路分断作戦のベーグル湾通商破壊戦、最後にリランカ島確保の為のリランカ島攻略作戦、この4段階が第十一号作戦の主作戦となるわ」

 

 ホワイトボードに張られた地図に矢印と用紙、そして写真を組み合わせて作戦を説明する。

 

「今回の作戦はイタリア海軍と共同で行う事となるわ。

 政府と大本営はこの作戦でイタリアとの直接連絡路を確保したいみたいだし。

 だから、こちらの作戦が早めに終わったらそちらの支援に行くように、命令があるかもしれないから皆にもそう伝えておいて。

 皆には出来れば地中海まで行くつもりで頑張って貰うわ」

 

「ふっ、それに応えれない私達ではない。

 なあ大和?」

 

「ええ、やるからには、大西洋にだって行って見せます」

 

「ふふふ、心強いわ。

 あ、あとこれは大本営からの通達で、先の横須賀基地襲撃で生き残った『かが』と『ブルー・リッジ』を前線指揮所兼、艦娘の休息・補給所として、スキズブラズニルを前線修理施設として作戦海域手前に配置、私達提督も本土の北条提督と毛利提督以外は護衛艦『かが』で指揮する事になる。

 だから、消費物資は可能な限りかがに集積して、載せ切れなかった分は最寄のブルネイ鎮守府に集積する事になるけど、今回も厳しい戦いになるのは間違いないし、超兵器が出てくるかもしれないから少しの油断も出来ない」

 

 この二つの艦艇は横須賀自衛隊・在日米海軍基地襲撃の際に、機器の不具合でドックに入っていた為難を逃れていた。

 

「それは仕方ないと思います。

 ですが、今回は鋼兵装を作戦海域まで持って行くのでしょう?」

 

 加賀の問いに筑波は頷く。

 

「吹雪、大鳳の鋼兵装も『かが』に乗せる予定よ。

 そして尾張と利根は本土に残って、仮に超兵器が本土に襲撃してきた時に備えて待機。

 まあ、先のG掃討戦も横須賀だけじゃなく、ここや佐世保でもやってかなりの数を狩ったし……っと」

 

 筑波はそう言いながら机に置かれた封筒の封を切り、中にあった書類を取り出す。

 

「あのGの事だけれど、研究班とスキズブラズニルの分析で面白いことが分かったわ」

 

 そう言いながらホワイトボードにそれらを貼り付けていく。

 

「武装はミサイル以外は、平均的な巡洋戦艦と同程度の装備しかなかったこと、そして過度なくらいの遮蔽技術とあの触覚の構造から、あいつらはどうも偵察役みたいなものらしいのよ。

 通信範囲は電離層も利用して、地球半周分くらいの通信能力を持っている事も判明したわ。

 中継役も含めれば送信先の特定は不可能だけれど、少なくとも超兵器側が本腰を入れて、こちらの戦力を探りに来てる事は分かったわ」

 

「「「「……」」」」

 

 筑波の台詞に会議室に居た艦娘達は沈黙する。

 深海棲艦とはまったく違う戦術と戦略に、凝り固まった大本営も身構えるほどであった。

 なによりも、日本の玄関口に入り込まれたというのは衝撃的で、哨戒コースの見直しは急務なのだが、その対象が補足し難いと言うのが頭を悩ませている。

 

「一応対抗処置として、レーダー照射を多数箇所に設置した受信アンテナで受信、目標を捕らえる方式を取るわ。

 これは実際のステルス機を相手に実験して実証された対ステルス技術ね。

 設置と調整にかなりのコストと時間が要るけれど、やって損は無いわ」

 

「バイスタティックレーダーですか、確かにそれなら可能性はありますね」

 

 ステルス機は完全にレーダーを吸収したり、反射したレーダー波がそのまま消えるわけではない。

 反射されたり減衰したレーダー波を複数の鋭敏な受信アンテナで捉え、それらのデータを統合して位置を割り出すのが特徴で、当初は技術・練度的問題で難しかったが、原子時計やハイテク技術の応用で信頼できる精度まで持ってこれている。

 それらの知識もこの場に参加していた尾張を含む、全ての艦娘は知っていた。

 

「あと、あと対シュトゥルムヴィント戦と、G殲滅戦で大量に出てきた金塊は、全てスキズブラズニルや技研の開発資金に当てているわ。

 勿論、政府の特別増予算枠にも計上されているし、『戦利品』だから不正入手金と言うわけでもないのだけど、これで味を占める連中が出て来るかもしれないわね……。

 東京湾襲撃と言う経験をした後だから無いとは思うけれど」

 

 戦争による破滅的経済に一部の人間が幻惑されるのは、歴史的に見ても事実である。

 短期的に産出される莫大な利益が写す黄金郷は、経済人なら誰しもが一度は夢見る桃源郷だが、その先にあるのは無益な搾取によって荒廃し尽くし、生き物が住まぬ煉獄の園だ。

 むしろ二度の大戦でそうならなかったのが奇跡的だと言えよう。

 

「さて、話を戻してここから選出する人員を発表するわ」

 

 藤沢基地カレー洋派遣艦隊

 

 第一作戦群:川内、神通、陽炎、不知火、霰、霞

 

 第二作戦群第一艦隊:扶桑、山城、高雄、愛宕、千歳、千代田

 第二作戦群第二艦隊:那珂、Z1、Z3、黒潮、雪風、プリンツオイゲン

 第二作戦群支援艦隊:伊勢、日向、朝潮、大潮

 

 第三作戦群:伊勢、日向、鈴谷、熊野、翔鶴、瑞鶴

 

 第四作戦群第一艦隊:長門、陸奥、金剛、榛名、隼鷹、飛鷹

 第四作戦群第二艦隊:長良、綾波、時雨、最上、三隈、ビスマルク

 第四作戦群支援艦隊:榛名、霧島、扶桑、山城、満潮、荒潮

 

 予備戦力兼本部護衛艦娘:

 航空母艦:赤城、加賀、蒼龍、飛龍、大鳳

 戦艦:大和、武蔵

 重巡洋艦:妙高、那智、足柄、羽黒、摩耶、鳥海

 軽巡洋艦:大淀、阿賀野、能代、矢矧、酒匂

 駆逐艦:白露、村雨、五月雨、涼風

 

「この中で呼ばれなかった娘は後方支援活動に従事してもらうわ。

 勿論超兵器に対する警戒も忘れずにね。

 細かい打ち合わせは各艦隊で行うように、では解散!」

 

 

 

 

 

「しかしまあ深海側と言うか、空母水鬼もよく私が派遣される事を許可したわね」

 

「直接的脅威度では貴女は高くありませんからね。

 それに半ば渋々と言った感じでしたが」

 

「あっちはあっちで苦労しているらしいからかしら?

 まあこっちとしてはありがたい話だけどね」

 

「そう言えば、言葉の端々に疲れみたいな兆候がありましたね。

 あっちでもやはり派閥争いに似た何かがあるのでしょうか」

 

 深海棲艦の指揮系統は今だに解明されていない。

 一応最初の空母棲鬼との接触で水鬼という存在が各海域での司令塔、そして姫・鬼は艦隊指揮官の様な存在だろうと目されているので、その指揮系統について空母水鬼に聞いてみたが、そこまで応える義理は無いと言われてしまった。

 

「と言うことは、今回の作戦海域であの空母棲姫とは別の個体がいると?」

 

「そう考えるのが妥当ね。

 今までも沈めた筈の空母棲姫や空母水鬼が出ているのもその証拠よ。

 きっと別の個体が派遣されたからこそ、今回みたいな交渉が出来たのでしょうし」

 

 各鎮守府の艦娘に細かい仕草の違いなどがあるように、深海棲艦にも同じ駆逐艦イ級でも動作が異なる者が居るのは、以前から確認されていて研究され始めていた所ではあった。

 今回の件は代替が効く同種の深海凄艦が居る事を示し、その総数が不明であることが判明したのであり、人類が窮地に立たされている事には変わりがなかった。

 

 

 

「ところで大鳳のF-22とF/A-18の中に、やたらと動きが良いのが2、3機居たけれど……。

 二人は何か知らない?」

 

「そっちは専門外だけれど……尾張は?」

 

「少なくとも私の記憶の中にはありませんね」

 

「なんだかF-22は全機青いリボンを、F/A-18Eも悪魔みたいなマークを付けていたんだけれど、貴方達が知らないんだったら仕方がないわね」

 

 三人はその話題に興味をなくし、改めて今後の活動内容を決めていく。

 だが作戦終了後、判明する事になるのだが佐世保から次の様な報告が届いたと言う。

 

 報告:F-22(TFW118)を取得しました。

  :F/A-18E(Gargoyle隊)を取得しました。

 

 

 

 夜の帳が下りた大西洋の北にある小さな島の沿岸。

 ここには深海棲艦の根拠地があったのだが、今では深海棲艦の食い散らかされた残骸が漂い、その沿岸部に残された司令部施設らしき建物には明かりが点いていた。

 

「さて、日本に放った速度狂いとローチの反応がなくなったわけだが、これは我々の脅威が居ると仮定した方が良いだろうな」

 

「日本か、奴に堕とされた苦々しい記憶が蘇りそうだ」

 

「あの国の戦艦は有数の実力を持っている。

 それに軽巡等の小型艦艇の雷撃能力も侮りがたい。

 存外、油断していたところを日本の艦娘にやられたのだろう」

 

「こっちは自国防衛で手一杯だからな。

 お陰で餌の余力がこっちに来て仕方が無いが」

 

「で、今度は誰が行くよ?

 ドーラの奴はここの防衛……と言うかここから動けないからな」

 

「ならば私が行こう。

 あそこは私にとって庭も同然だ」

 

 そう言いながら立ち上がったのは、黒髪に長身の女性だが、一目で日系と分かる容姿をしている。

 そしてその片手にはカバーを掛けているが、恐らくは長物であろう物が握られていた。

 

「分かった。

 では暫定的な指揮官として、貴公が日本へ向かう事を許可する」

 

「なら私も行っていいか?

 遠近両方で攻めた方がやりやすかろう」

 

「ふむ……分かった。

 だが戦力的有利とは言え、シュトルムヴィントの二の舞にはなるな。

 それと随伴艦として2個打撃群も付ける、好きに使え」

 

「「了解」」

 

 指名された日系の超兵器二人は、命じられてから数時間後には、北極圏周りで日本へと向かうコースを取る。

 通常の艦艇ではまず取らないコースではあるが、超兵器ならばそれが可能なだけの出力と質量、そして熱量がある。

 

「しかし、幾ら日本の艦娘が打撃力があると予想できても、あの2種をやれるとは思えないのだが」

 

「いや、油虫は対処方法さえ確立できれば難しくはない、耐久力も通常の戦艦位だからな。

 だがシュトルムヴィントは違う、あいつは超兵器としては速さのみに特化した者だが、耐久・攻撃力も共に戦艦以上で、補助兵装も充実させて非の打ち所が無かった。

 考えられる原因は……」

 

「我々と同種かそれに似た存在が入る」

 

 二人の脳裏にあの戦艦が蘇る。

 大和型より少し大きめの船体、超長砲身を備えた大口径の三連装砲塔、船舷に敷き詰められたVLSと対空火器群、そして超兵器には及ばないまでが可能な限り用意された足の速さ。

 戦艦尾張と言う二人にとっては同郷の敵となった存在だ。

 

「我々がここにいる原因が来れたのだ。

 確率は低くてもあいつがこの世界に来ている可能性は大いにある」

 

「ああ、だからこそ今度は負けるわけには行かない」

 

「「2対1と言う状況に陥れたとしても」」

 

 二人はそう確認すると、春を迎えたグリーンランド脇を抜けていく。

 雑談しつつ、脇を固める支援艦隊と共に道中の深海棲艦を蹂躙しながら……。

 

 

 

「グ……」

 

 彼女達が突き進んでいき、残骸が漂う海面の中で影が動く。

 それは、日本でレ級と呼称される深海棲艦のエリートだった。

 

「ヤッテクレタネ……。

 コノ私ガココマデヤラレルナンテ……ククク」

 

 苦痛の中吐き出した台詞の後に苦笑が漏れる。

 アメリカやイギリスの艦娘達との戦闘で、彼女だけは損傷を負いながらも必ず生き残ってきたが、今回ばかりはこのまま野垂れ死ぬと確信していた。

 だがそれ以上に……。

 

「アア、マッタク、楽しくなってきたじゃないか」

 

 くぐもっていた言葉に正しい旋律が宿る。

 そして周りを漂っていた深海棲艦の肉を食らった。

 

「もっとだ、あいつらに打ち勝てる力を!」

 

 絶対強者を討ち果たす喜び、それを味わう為に今は回りに漂う有象無象を食らう。

 カニバリズムめいた光景は、狂気と怨嗟が漂いレ級の身体に変化を起こす。

 艤装の修復が始まると同時に僅かずつ膨らみ始め、元から赤いオーラを漂わせていた周囲は消え去り、目に青い光が灯る。

 それは単なる強化なのか、それとも進化なのか。

 

 

 

「……なにあれ」

 

 そんな中遠くから眺めているものが居た。

 彼女はアメリカ海軍の護衛空母艦娘であるスワニー。

 艦載機からの視点で異常があった海域を偵察していたのだが、その最中に先のレ級を見つけたのだ。

 

(ちょーっとこれはまずいなぁ。

 とりあえず写真を撮って、帰還しちゃお)

 

 望遠で写真を一枚撮影し、スワニーは帰還の途に着く。

 その写真と状況報告で、深海凄艦が出現してから再びモンロー主義と成っていたアメリカ議会は、大いに荒れ二分する事となるのは彼女自身が一番知っていた。

 

(何時までも甲羅に引っ込んだ亀をしてても駄目、状況を変えたいならこちらからアクションをしないといけないのよ!)

 

 あのレ級を撮影する前にも、超兵器との戦闘と何処へ向かったかなどの写真や情報も揃っている。

 あとは……。

 

「どうやって上の方に握り潰されずにするかだなぁ」

 

 その辺りを思案しながら、彼女は母港へと帰還した。




どうにもグダグダ感が否めない。
いくら準備回でもこんなので大丈夫なんだろうか……。
編成は私の好みです。
あの時の編成を覚えていないとも言う。


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日誌十九頁目 第十一号作戦②

久しぶりに1週間投稿出来た喜び。
そして最後の方だけWSG系でこの海域に出てきたあの超兵器が出ます。


 

 

 

 空は快晴、強い日差しは春を迎えたカレー洋の沖を照らし出し、海を抜ける風に海鳥達が乱舞する中……。

 

「各艦、全主砲、一斉射、てーーッ!」

 

 伊勢の号令で日向の主砲も同時に火を吹き、隷下の鈴谷と熊野は艦載機である瑞雲を出して、零れて来る小型艦を相手取りながら弾着観測を行っていた。

 既に深海凄艦の護衛艦は翔鶴と瑞鶴の艦載機で蹴散らしている為、あとは主目標となる補給艦の隊伍と、護衛部隊の残存艦を狙うだけだ。

 日本に所属する艦娘達による第十一号作戦、その第3段階が開始され、今回は各鎮守府の作戦部隊が連携してことに当たっている為、ここまでは順調に作戦手順を消化しており消費資源とバケツの備蓄もまだ余裕があるが、それでも薄氷の上を歩くかの様に慎重に歩を進めていた。

 

 

 

『こちら藤沢第三作戦担当艦隊、敵補給艦隊の殲滅を確認した』

 

「司令部了解、ご苦労だったわね。

 戻ったらキンキンに冷えた酒とジュースがあるから、それで英気を養ってちょうだい」

 

『りょーかい、気が利くじゃない!』

 

『伊勢、飲むのは止めんがあまり羽目を外すなよ』

 

『分かってるって、それじゃ通信切るよ』

 

「はぁ……なんとか第三段階まで終えましたね」

 

「うむ、だが次が本番だ」

 

 鍋島の言うとおり、第三段階のベーグル湾通商破壊戦の次は、カレー洋に浮かぶリランカ島攻略である第4段階に移る。

 事前の偵察によれば、リランカ島には港湾棲姫の発展型である港湾水鬼と呼称された個体が確認されており、実質最終段階である第4段階の目標はこれの撃滅である。

 相手側の補給艦は先程のもので全て沈めたので、攻略対象に補給する術はない。

 

「第4段階担当の艦娘は直ちに出撃準備!」

 

「支援艦隊も順次準備をしてちょうだい!」

 

 

 

 一方ここは出撃する艦娘達の待機所、と言ってもかがのヘリコプター格納庫を間借りしているだけなのだが、そこは帰還した艦娘達も順番待ちをしていた。

 

「はいはい、押さない、走らない、衝突しないを守ってねー」

 

「あの、スキズさん、押さないと衝突で被ってるんですが」

 

「こういうのは念押しするのが一番効果的なのよ」

 

 そんな雑談をしながらスキズは艦娘達の艤装を直していく。

 と言っても彼女の艤装妖精が片っ端から行うので、彼女自身は自らの艤装と接続し、艤装内部の資材量の把握と艦娘達を通して、艦船設計図の取得をしているだけである。

 艤装自体の修復はものの数秒で出来るため、それほど苦にはなっていないのだ。

 

「今の所は順調みたいね」

 

「ああ、作戦開始から既に1週間経ったが、これほど速いペースではなかったな」

 

「それもこれもスキズの修復能力が有っての事だからね。

 明石も頑張っているみたいだけれど、やっぱり作業能力と対応数ではあなたに適わないわよ」

 

「まあ私が艦としての性能で異常なだけだけれどね」

 

 そんな中ヘリコプター甲板へ続くエレベーターに、艦娘達が集まってくる。

 作戦第四段階を担当する艦娘達だ。

 

「連合艦隊第一艦隊出るぞ!艤装の確認をした後乗れ!」

 

「同じく第二艦隊、出撃担当の艦娘は急いで!

 作戦や陣形の確認は昇降機上で行います!」

 

「支援艦隊、主力が出撃した後に進発しますので、今の内に装備のチェックをしてください!」

 

 慌しく声が響く中、スキズは目を閉じてそれに耳を傾ける。

 

「うん、やっぱりこう言うのは何時聞いてもいいわね。

 戦争自体はやってはいけない事だけれど、有事の際の緊迫した空気と言うのは活気に溢れていて、命の灯火を直接感じられるから」

 

「でも超兵器は?

 あれは明らかに異質なものだけれど」

 

「あれも人の手で作り出されたのは変わりないわ。

 でも、あの娘達は兵器としての枠組みから大きく逸脱してしまっているの」

 

「……まあ、言いたい事は理解できるわね。

 でも、あっちの戦力がわからないのが一番の不安材料かなぁ……」

 

「対処方法はこちらで用意するわ。

 シュトルムヴィントの件で、一つの鎮守府が単独で対処できない力を持っていると言うのは、提督達も理解出来ているし同じ轍は踏まないはず、でも何事にも例外はある」

 

 ただ遊弋しているだけならこちらから向かえばいいのだが、鎮守府への直接攻撃となった時はその限りではない。

 その時は必ずその鎮守府単体で対処しなければならないのだ。

 

「ぞっとしないね。

 でも、本土進攻や拠点進行の可能性が無いわけではない……っか、陸地への直接攻撃が無い深海棲艦よりやっかいだ」

 

「陸棲深海棲艦なんてのが居るから必ずしもそうではないでしょう。

 まあ、策源地にしてみれば海底一帯がそうだと考えれば、深海凄艦の方が厄介でしょうけれどね。

 熱水噴出孔や海底熱水鉱床から資源を取り出していたとしても、私は驚かないわよ」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「うーん……」

 

 日向の問いにスキズブラズニルは少し考える仕草をする。

 

「技術上は可能でしょうけれど、それを人間がやるとしたら莫大な費用と設備が要るでしょうけれど、この世界だと実験的に採掘した記録もあるし、深海凄艦が出てこなければ何時かは有数の鉱物産出国になっていたでしょうね。

 深海凄艦がその手の技術を持っているかは分からないけれど、似たような事をしているのは間違いないと思うわ。

 何事も無から有は生まれないもの」

 

「そう言うものか?」

 

「そう言うものよ」

 

 深海棲艦は過去の戦争や事故で、海に沈んでいった人々の負の感情から生まれたと言われているが、それでもこの世に固着する為に受肉するにはそれ相応の質量が必要だ。

 多くの霊が直接的に加害することは無いように、人間や遺体に取り憑いて危害を加える例は古今東西幾らでもある。

 深海棲艦もその類と仮定すれば、策源地を減らすと言う考えは強ち間違っていないのだ。

 

「まあ勿論その周辺に住んでいる生態系に物凄い負荷が掛かるけれどね。

 環境保護団体がまだ息をしているなら、その人達との戦いが待っているわ」

 

「結局最後は人間との戦いなわけか……」

 

 結論がどうしょうも無い着地点についた所で会話を切り上げた。

 

 

 

『第十一号作戦第四段階について、改めて説明する』

 

 鍋島提督が作戦に向かう艦娘達に通信を送る。

 

『我々の目的は、リランカ島に存在する港湾水鬼と呼称した深海棲艦の殲滅と、同島の制圧にある。

 これにより我々はインドとの直接交易路を繋げれるわけだが、それは恐らく敵も分かっているだろう。

 後詰の上陸部隊の為にも、そしてこの作戦の後に待っているであろう多くの人命の為にも、各艦娘はいっそうの奮励努力を願いたい。

 そして……』

 

 そこで一旦台詞をきる。

 

『そして私と北郷提督の隠し倉庫には九州産の銘酒が揃っていてね。

 最近多くの酒瓶に消費期限が迫っているのだ。

 この作戦が終わったときには、駆逐艦や軽巡艦娘も交えて宴を開こうと思う。

 勿論この作戦に参加してくれた各鎮守府の艦娘達もだ』

 

『その時には桜島で取れた野菜で鍋も用意しよう。

 それに岩川の肝付提督から九州牛を振舞いたいそうだ』

 

『ちょ、先輩方そんな話聞いてませんよ!?』

 

 それを聞いた各艦娘達は真面目な顔をしていたが、九州男児の粋な計らいに口元が僅かに緩む。

 一部苦情が出ているがそのような事はお構いなしに、艦娘達の士気が高揚する。

 

「では、我々はそんな提督方の期待にお応えしよう。

 前線指揮は横須賀のこの長門が執る!

 各員、行動開始!」

 

 各鎮守府の連合艦隊で陣形を組みカレー洋を突き進む。

 その様はまさに精強さを誇るには十分過ぎるほどの威容であり、よほどの事が無ければ突き崩せないであろうと言う印象を、内外に知らしめるかのようである。

 

「……索敵機より連絡、敵前衛集団を捕捉しました。

 水上打撃部隊が方位267と281に2つ、機動部隊が方位242に1つです。

 各艦隊は、航空機を上げて下さい」

 

 加賀の言葉に応え、方々から艦載機が発艦する。

 艦戦には烈風は元より既存の最強艦載機があるのもそうだが、中でも対深海棲艦戦初期において襲撃により開発できなくなった震電改が、各艦隊から一飛行隊ずつ放たれているのが大きな違いだった。

 しかしそれら艦戦に守られている中で、異彩を放っている航空機が居た。

 震電の戦闘攻撃機型である震雷の存在だ。

 これは航空魚雷を搭載したもので、魚雷を放った後は制空圏確保の為に奔走するというコンセプトの元開発され、スキズブラズニルから提供されたものではあるが、技術的に問題はなくても実戦経験が無かった事から不安があったが、事前の試験運用では問題ないレベルだと判断され今回の作戦に投入されている。

 

「第一次航空隊、発艦完了したわ」

 

「よし、スキズブラズニル製の新型……その性能を見せてもらおう」

 

 

 

 震電改、烈風、震雷、烈風改、彗星、そのどれもが大戦時に日の目を見ることなく歴史の裏側に隠れ、或いは燃料の不足で飛ぶ事すら出来なかった銀翼の海鳥達、それらが深海棲艦の前衛集団に到達したのは昼前の事であった。

 最初に発見したのはピケット艦として従事していた駆逐艦イ級後期型だ。

 直ぐに敵機襲来の報を近隣の深海棲艦に知らせるが、報を発した途端に彗星と流星改が数機が殺到し、魚雷と爆弾の同時攻撃を受け水柱と共に姿を消した。

 南方に待機していた空母ヲ級フラグシップを含む艦隊はすぐさま迎撃機を発艦、通報海域より西へと向かう……が、発艦中に護衛駆逐艦が敵機発見を伝える。

 震電改、震雷、そして彗星の精鋭部隊がこの方面へ向かっていたのだ。

 空母ヲ級の艦載機は直ぐにそれらの迎撃に向かうが、震電改の戦闘能力が深海棲艦の戦闘力を遥かに上回り、瞬く間に艦戦用の武装を施した艦載機が次々と堕ちて行く。

 そしてとうとう最後の艦戦が居なくなった。

 

 ―なぜ?―

 

 空母ヲ級は自問する。

 理由は明らかだった。

 震電改は高度も速度も十分であり、航空機戦においては有利とされる上方からの逆落としを、速度も高度も足らないうちに食らったのだ。

 例え性能が同じでもこの差は大きく、艦戦を食らった震電改が次の標的としたのは丸裸同然の攻撃機と爆撃機となった。

 次々と堕ちて行く艦載機を眺め呆然とするヲ級へと、震雷と彗星が低空と高空から同時に殺到する。

 そしてリランカ島南に展開していた機動部隊は、新型艦載機によって海の藻屑と化した。

 そのほかの前衛艦隊の結末は似たり寄ったりで、千機に及ぶか及ばないかの艦載機による攻撃で、轟沈や大破した艦が続出し、既に櫛の歯が落ちるどころではない大穴をあけられたのだ。

 敵の艦載機を完封し、戦艦や空母を全て根絶やしにし、残った深海棲艦もその殆どが大破と言う大戦果で、初手の勝敗は人類側に軍配が上がった。

 

 

 

「敵前衛艦隊を殲滅、空母も戦艦も全て沈没を確認。

 残った残存艦も大破、或いは中破と言った感じね」

 

「よし、続けて進撃する!」

 

 前衛艦隊を殲滅したとの報告を聞いて長門は前進する事を決めた。

 大破、中破した艦はそのまま後方に退避するだろうし、同じ場所に居てはこちらに向かってくるであろう歓迎を貰う事になるからだ。

 連合艦隊は一旦南西に進路をとり、リランカ島から見て真南に来たところで北上する事に決めた。

 

 何の問題もなく行程の中ほどまで進み、リランカ島の真南に来たところで、戦艦タ級と空母ヲ級のフラグシップを複数含む敵艦隊と遭遇、空母艦娘が着艦作業を終え、索敵機を出そうとした所だった。

 艦隊規模はこちらと同程度であり、そして彼我の距離は戦艦同士の射程圏内だった。

 

「砲雷撃戦準備!」

 

 長門の号令で戦艦娘達が主砲を敵艦隊へと向ける。

 それは向こうも同じだったらしく砲門を長門達に指向する。

 

「ってー!」

 

 長門の砲声に呼応して戦艦娘達が続けて砲火の花を咲かせる。

 相対するタ級戦艦群も射撃を開始する。

 双方の空母は砲戦距離から離脱しつつ、艦載機を発艦し制空権を取ろうとし、双方に被害をもたらした。

 

 

 

「敵艦隊を撃破したが大破艦が出たか……分かった。

 迎えの艦娘を出す。

 落伍艦はこちらに任せて君達は」

 

『了解した。

 では吉報を待っていてくれ』

 

「うむ」

 

「どうやら、一筋縄ではいかないようですな」

 

「ああ、この調子だと少々苦戦するかもしれない。

 ……しかし妙だな」

 

 艦橋の外を眺めながら鍋島は顎をしゃくる。

 

(今回の深海棲艦は予め防御を固めていたような印象だ。

 外用に機動部隊を置いていたにしては、こちらへの警戒が疎かだった。

 別の何かが……!)

「吹雪と大鳳に鋼装備を装備させて待機させろ!

 手空きの空母艦娘はステビア海へ彩雲を飛ばせ!

 紅海にもだ!」

 

 鍋島の指示は唐突ではあったが、待機している艦娘達はその意図を察知し各々に準備を開始する。

 時間が刻々と過ぎていく中、翌日の明朝には長門から通信が入った。

 

『鍋島提督!

 港湾水鬼を撃破したが、負傷した艦娘を発見!

 彼女を連れてそちらに帰投する!』

 

 その報告で沸きあがる歓声の中、悪い予感は往々にしてよく当たるものだと言う事を、知らしめる報告が入った。

 

『祥鳳偵察機から報告!

 ステビア海で超兵器らしき影あり、偵察機は報告後に撃墜されました!』

 

 灼熱の国の名を冠する超兵器が、その場に居たのだ。




はい、と言うわけでムスペルヘイムさんがご登場です。
他にも色々ネタを仕込むつもりですが、イベント海域に合わせてこのような改変となりました。
泊地水鬼さんはまだ無事です。
なお戦艦水鬼さんは……次回に出てきます。


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日誌二十頁目 第十一号作戦③

筆者「前回の後書きでまだ無事だと言ったな」

泊地水鬼「ソ、ソウダ。ダカラ……」

筆者「あれは嘘だ」

泊地水鬼「ウワアアアアアアアアアア!!」

_人人人人人人人_
> 突然の損傷 <
 ̄YYYYYYY ̄


 

 

 

「現状を説明する」

 

 プロジェクターで格納庫に設置されたスクリーンに、カレー洋の海域図と彼我戦力図を投影しながら鍋島が言う。

 目の前にはこの大規模作戦に参加している全ての艦娘が居り、スクリーンが見えない者にはモニターが用意され、提督達の代表として説明を任された鍋島と朝倉の言葉を聞く。

 

「今現在我々は超兵器による襲撃を受ける危機に瀕しており、先程イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の艦娘である、リットリオ君を保護している。

 彼女は今ドックで傷を癒している最中であり意識も無いが、スキズブラズニル君が彼女の艤装を修復した際に彼女の正体が判明した」

 

「そして当作戦ではイタリア海軍もステビア海で作戦行動をしていました。

 超兵器の様子からして今は『満腹状態』なのでしょうけれど、……他国の艦娘とは言え犠牲者が出てしまったことは変わりありませんわ……」

 

 鍋島に続いて朝倉が哀しげな表情で言う。

 

「だが、今この場で超兵器に対抗できるのは吹雪君と大鳳君しか居ない。

 だからこそ、このアンズ環礁に存在する泊地水鬼を殲滅し、二人の進撃路を確保するのが最優先事項となる」

 

「勿論二人の力を使ってここをごり押しする事も考えましたわ。

 でも、それだとここを落としたあと不測の事態に陥った場合、このカレー洋の制海権も超兵器に奪われてしまう事になります。

 だからこそ、このアンズ環礁は通常の艦娘戦力のみで切り抜けて頂きたいのです」

 

「では先に今回現れた超兵器について説明する」

 

 スクリーンに超兵器の姿が映し出される。

 短く整えられたブラウンの髪に長身の体躯、服装は過去のドイツ帝国軍の制服、そしてその艤装は巨大で一言で表わすならば玉座である。

 陸棲深海棲艦以上の大きさを誇るそれには、様々な武装と二つの航空甲板が備えられ、その甲板上には航空機が露天駐機されていた。

 

「スキズブラズニル君の言によれば彼女の名はムスペルヘイム、北欧神話に出てくる灼熱の国の名前だな。

 武装は彼女が確認している限りでは主砲は長砲身の43.2cm砲、他はミサイル発射機やバルカン砲なのだそうだが、先程リットリオの艤装の損傷を確認したところ、かなり高出力の光学兵器の使用が確認されている」

 

「破壊痕は艦船サイズに置き直すと約3メートルと少し、そしてこの損傷は艦の反対側まで貫くもので、実質リットリオの艤装は全損に近い状態になっています。

 恐らく、ヴィルベルヴィントと同様に強化型なのでしょう」

 

『『『……』』』

 

 会議室に沈黙が下りる。

 ヴィルベルヴィント……シュトゥルムヴィントよりも、強大な超兵器の出現に百戦錬磨の艦娘とて、怖気が走るほどの脅威が出現したのだ。

 だがそんな誰よりも緊張しているのは吹雪と大鳳の二人である。

 両名とも電磁防壁と言う補助兵装を装備しているが、万が一抜かれた場合その被害は計り知れない。

 装甲に46cm防御を施された大鳳はまだ良い、だが吹雪には対10cm用の防御能力しかないのだ。

 即ち、直撃すれば死も同然。

 

「っ!」

 

 背筋が凍りつくような悪寒を覚え、顔色が青くなるのを自覚できる。

 顔も他が見たら恐ろしいほどに強張っているだろう。

 

「なによりも警戒すべきなのは、この二つの飛行甲板から発艦する航空機の数と種類だ。

 二式大艇等の大型機は勿論、F/A-18などのジェット機も確認されている」

 

「またその大きさから考えて、陸棲深海棲艦と同等の航空戦力を有していると予測されていますわ」

 

 説明だけでは実感がわかない。

 だが確実のそれらを有する脅威が目の前にいる。

 そんな現実と非現実を認識し、艦娘達は頭が混乱しそうになる。

 

「……横須賀の吹雪君、出来そうかね?」

 

 鍋島が横須賀の吹雪に声を掛ける。

 この作戦には複数の吹雪が参加しているため、その配慮である。

 

「……正直に言えば怖いです。

 シュトゥルムヴィントの時もそうでしたし、準超兵器級の油虫の時だって自分が負けたらと考えたら、震えが止まりませんでした」

 

 しかも今回はあのシュトゥルムヴィントよりも強いと目されている超兵器だ。

 吹雪が感じている緊張と恐怖心を、彼女を見た他の艦娘達は感じ取っていた。

 

「でも、この超兵器を妥当できる可能性があるのは私と大鳳さんしか居ない。

 どうか皆さん、私と大鳳さんを、あの超兵器の元へ続く道を切り開いてください!

 超兵器は私達で必ず沈めます!」

 

「よく言った!」

 

 吹雪の言葉に同じ鎮守府に所属していた長門が立ち上がり、吹雪の元に歩み寄る。

 

「泊地水鬼の事は我々に任せてもらおう。

 お前はそれまでに、万全の状態で準備をしてくれ」

 

「はい!」

 

 超兵器妥当に向けて日本に所属する艦娘達が団結したのを確認し、鍋島はプロジェクターの映像を閉じる。

 

「では、これより第十一号作戦の拡張作戦を決行する!

 総員、臨戦態勢!」

 

 号令が発され、艦娘達は敬礼を返し、その場は解散となった。

 

 

 

「う……」

 

 目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。

 

「ここ……は?」

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 彼女……リットリオに応えた声の主を探してそちらに顔を向けると、白衣を着た女性が居た。

 

「貴女は?」

 

「私?私はこの船に同乗させて貰っている艦娘で、スキズブラズニルと言うわ。

 ここは日本の護衛艦『かが』の艦内よ」

 

「スキズ……聞いた事がない名前ですね……それに日本の船……!

 皆は!?他に誰か居ませんでしたか?!」

 

 ほんわかした雰囲気だったリットリオだったが、事態を飲み込んだのか緊迫した表情でスキズブラズニルに問い詰める。

 

「残念ながら私達が作戦海域としていたリランカ島には、貴方しか流れ着いていなかったわ」

 

「そんな、ヴィットリオ姉さん……ローマ、アルフーレド級の皆……うう……」

 

 スキズブラズニルが事実を言うと、リットリオは毛布で顔を覆いながら嗚咽を零す。

 そんなリットリオを彼女は暫く眺め、時間が経ちようやく泣き止んだリットリオの顔には闘気が満ちていた。

 

「ここの提督はどちらに?」

 

「いえ、ここに呼ぶわ。

 ……ああ、鍋島提督?彼女が目を覚ましたわ。

 ……ええ、気力は十分だし、失った血液量も大したことではないから、戦闘に支障はないわね。

 艤装も私のほうで修復しているけれど、艤装練度はリセットされていると見て良いけれど、彼女自身の経験はそのままよ」

 

 そこから鍋島が「少し待ってくれ」と伝え一旦通話を切る。

 それから鍋島が来るまでの間、スキズブラズニルはリットリオから当時の状況、作戦開始当初のイタリア艦隊の編成、超兵器から受けた攻撃の種類を聞きだす。

 

「あの、さっき私の艤装が新品同然だって……」

 

「ええ、そうね。

 艤装の妖精は殆ど消滅していたわ。

 恐らく貴方を守ろうとして身代わりになったのでしょう。

 一応復活はしているけれど、練度が殆ど伴っていない新兵同然の状態よ」

 

「そう……ですか、ありがとう……」

 

 改めて失った物の大きさに胸を打たれつつ、犠牲になった自らの妖精に感謝の言葉を紡ぐ。

 そこへ医務室のドアがノックされた。

 

「入って良いかね?」

 

「どうぞ」

 

「失礼する」

 

 ドアが開くと同時に鍋島が入ってくる。

 

「失礼、日本国防衛省、艦娘大艦隊本部運営課、佐世保鎮守府所属の鍋島と言う。

 此度の僚艦の悲報、こちらとしてもまことに残念でならない」

 

「いえ、何時かはこうなると思っていましたから……それに、ここで立ち止まったりしたら姉さんや妹に顔向けが出来ませんし、どうやら既に私は母港とは既に縁が切れてしまっているようです。

 このまま貴方方と一緒に戦わせてください!」

 

 鍋島に言葉を返したリットリオの顔には、戦艦娘としての覇気が満ちていた。

 

「うむ、良い返事だ。

 そんな君に一つだけ我々にとって共通の約束がある」

 

「え……なんでしょう?」

 

「笑わないで聞いて欲しい」

 

 困惑するリットリオに、真面目な顔で鍋島が彼女と視線を合わせる。

 

「必ず生きてここに帰ってきて欲しい。

 それだけだ」

 

「……ふ、ふふふ」

 

 一瞬呆然としたが、直ぐにリットリオは微笑むように笑い出し、暫く笑うとようやく吹っ切れた表情で鍋島に向き合う。

 

「良いですね。とても良いと思います」

 

 リットリオはそう一言言った後、にっこりと笑った。

 

 

 

 蒼穹の空に一筋の飛行機雲がたなびく。

 だがそれを引いている当の航空機は、ジェット機特有の高バイパス比のエンジン音を響かせ、大出力ターボファンエンジンの咆哮を鳴らしていた。

 その主はF-22、猛禽と言う名を与えられた鋼鉄の荒鷲が、通常の艦娘が使う偵察機では撃墜される大空を飛んでいる。

 これは鋼・装備を装備した大鳳が飛ばした物であり、この一機のみが特別動きが良い上に航続距離もあるので、先んじてムスペルヘイムの偵察役に打って出たのだ。

 ムスペルヘイムの制空権に近付き、その腕の中へと突っ込んでいった。

 

「……」

 

 その母艦である大鳳は当のF-22の連絡を待っている。

 あのリボンの部隊章が入った機体からは、他とは違う何かを感じた。

 だからあの機を偵察役に出したのだ。

 後は信じて待つだけしか出来ない。

 そう考えていると、当のF-22から通信が入った。

 

「っ!敵超兵器を確認!

 超兵器は飛行甲板に多少の損害はあれど、発着艦に問題はなく。

 偵察機に殺到中途の事!」

 

「偵察機を戻せ!」

 

 武蔵の指令に大鳳はそのF-22に帰還命令を出すが、直ぐに困惑した表情を浮かべる。

 

「え……、『当機はこれより阻止行動を開始する。至急増援を派遣されたし』の通信後、途切れました……」

 

「航空機が命令を聞かない!?」

 

「あ、ちょっと、皆慌てないで!

 あーもう!このF-22と言う機体の子達我侭すぎます!

 今から順次発艦させてあげるから待ってて!」

 

 大鳳が艦載機を順次発艦させる様子を、同じ鋼・艤装を装備した吹雪が見ていた。

 

「大鳳さん大変そう……」

 

「吹雪ちゃんの艤装は大丈夫なの?」

 

「あ、大和さん。

 はい、私の艤装はそんなにやんちゃではないですね。

 まだ新型超音速酸素魚雷の扱いには、少し手間取ってますけれど」

 

「雷速が今私が使っている九三式酸素魚雷の2.25倍だったかしら?

 それだけ早い上に射程も長いから確かに癖があるわよね……」

 

 そこで大井が横から会話に参加してくる。

 

「でもさー、魚雷だけじゃなくて吹雪自身の速力も上がってるわけっしょ?

 60ノットで航行する艦娘から吐き出される魚雷って、信管とか安全装置ってどうなってるのさ?

 発射して海面に着いた途端に信管が誤作動しそうで怖いんだけど」

 

「スキズさんが言うには魚雷自体は、外側からの力にはかなり頑丈に作ってあるそうで、安全装置はジャイロによる距離測定で、一定の距離を進まないと信管は作動しないみたいです」

 

「へー、一応そう言う対策はしてあるんだ。

 しかしますます規格外だねぇ……」

 

 そう呟きながら北上はまじまじと吹雪の魚雷発射管を見る。

 傍から見ると生足を眺める変質者にしか見えないが、それに突っ込むものは誰も居らず、むしろ吹雪と大鳳の艤装が気になる艦娘の方が多かったのだ。

 勿論両名の母港の艦娘は詳しい性能を知っているので、彼女達も加えて話す事となったが、状況は徐々に変わっていった。

 

「ムスペルヘイム、攻撃隊の発艦を確認!」

 

 F-22の部隊から送られてきた画像には、枢軸軍機で零戦三二型、雷電一一型、天山、彗星三三型、AV-8BJ、Ta-152、Fw190A-2、Ju87C。

 米英軍機でB-26G、AU1、Fw200C-8、AH-1Z、AH-64D、P-47D、F/A-18、F6F、ボーファイター、ウォーラスとそうそうたる面子が出てきた。

 そして最後に送られてきた画像で大鳳が驚愕する。

 

「二式飛行艇!?」

 

 それは大戦中に最も完成された飛行艇として名高い二式飛行艇であった。

 勿論航空甲板から発進できるような物ではないが、現にそれが飛び立っているのだ。

 大鳳はそれらの情報を今現場に居る艦娘と、後方の司令部に報告する。

 

『そうか……大鳳、君はF-22で出来うる限りの航空機を叩いてくれ、作戦はこのまま進める事にする。

 長門君、君が現場指揮官としてアンズ環礁の深海棲艦を攻撃する指揮を預ける』

 

「了解した。

 これより作戦に移る」

 

「さあ、忙しくなるわよ。

 横須賀の皆、ほかの鎮守府の娘達に負けないように頑張りましょう!」

 

「横須賀の陸奥がああ言っているが、我々は我々の出来る限りの仕事をしよう。

 呉の艦娘ここにありとこの戦場に居る全ての者に知らしめろ!呉艦隊前へ!」

 

 横須賀を筆頭に各鎮守府の艦娘達が突撃を開始する。

 目指すはアンズ環礁、そこは嘗てない三つ巴の鉄火場となるのは、誰の目から見ても明らかであった。

 

 

 

「ク……被害報告ヲ、ソレト、艦娘共ノ動向ハ?」

 

「……駆逐艦ガ58隻、巡洋艦ハ全滅、戦艦モ7割ガ沈ンダ。

 空母ハ私モ含メレバ5隻居ルガ、艦載機ハホボ全滅ダ。

 艦娘達ニ関シテハマダ掴メテイナイガ、恐ラク近イウチニ此処ヘ仕掛ケルダロウナ」

 

「ソウ……ココノ8割ガヤラレタノネ……。

 ヤハリ……空母水鬼ノ忠告ヲ……素直ニ受ケルベキダッタカシラ」

 

 アンズ環礁は黒煙と炎、そして流れ出た燃料でその海を汚していた。

 原因は明白で、先発した彩雲の予測経路を飛んできた超兵器の航空隊、それによる爆撃を受けたのだ。

 お陰でアンズ環礁の深海棲艦は壊滅状態、基地航空隊も損耗が7割と補給が出来ない状況でかなりの痛手を負った。

 もはや前哨基地としての役割はこなせない。

 しかもステビア海の戦艦水鬼との交信も取れない状態だが、辛うじて離脱したこの空母棲姫空の泊地水鬼報告では一気呵成に突入し、光学兵器と実体兵器の済射を幾度となく受けて沈んだという。

 そして相対した超兵器の損害は極軽微、被害らしい被害を与えられていないという。

 

「ドコデ……間違エタノカシラ……。

 私ハ……タダアノ空ニ……戻リタイダケナノニ……」

 

 そこで暫く泊地水鬼は黙り込む。

 そして再び空母棲姫に顔を向けた。

 

「貴女ハ……太平洋ノ空母水鬼ノ元ヘ行キナサイ。

 私ハ……此処カラ動ケナイカラ……」

 

「……分カッタ。

 デハ、最良ノ健闘ヲ」

 

 空母棲姫はそれだけを言うと踵を返し、カレー洋を南下し始める。

 そのままオーストラリアの南側を通り、ニュージーランド辺りで北上して太平洋に渡るコースを取ったのだ。

 途中で他の深海棲艦のテリトリーで補給を受けるだろうが、かなり危険な航海になるだろうということは、双方よく分かっていた。

 だが、やり遂げなければならない。

 この海域における戦いの終焉が迫っていた。




超兵器が近くに居るのに無事で居るわけがなかった。
ええ、超兵器ならこれぐらいやるでしょう。
ただし航空機が倒して欲しい目標を必ず攻撃するわけではない。
恨むならレーザーポインタを乗せなかったムスペルを恨め!


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日誌二十一頁目 第十一号作戦④

お待たせ、一話分しかないけど良いかな?
いや、本当にすみません。
秋イベントの精神疲労が思いのほか酷くて今日までずれ込んでしまいました!
今回はオリジナル名称に挑戦しております。
答えは後書きにて公表しています。


「……東ト西、両方カラ来タカ」

 

 泊地水鬼は唯一破損を免れた対空レーダーで、東と西から航空機の編隊が飛来してくるのを確認した。

 比率はレーダーの反応から、西が9に対し東が1といった具合だろう。

 

(艦娘ノ航空隊カ……。

 恐ラク……交戦空域ハコノ環礁上空ニナルナ)

 

 航空兵力が皆無になった今、彼女達が取れる行動は対空警戒を行って可能な限り被害を抑える事のみ、それでもその後の戦闘では成す術無く殲滅されるであろう事は、既に予想出来ているしその覚悟も出来ている。

 だが……。

 

「タダデハ……ヤラレナイ!」

 

 普段はゆったりしている泊地水鬼の目に戦意と熱が篭る。

 それは飛べなくなった自分を憂う目ではなく、深海棲艦として、戦士として決意を固めた目だった。

 そうこうしている内に両勢力の航空隊が目視で見えるまで接近していた。

 

「各艦……対空防御準備……私ノ事ハ気ニセズ、個々ニ対応シナサイ」

 

 両艦載機の主目的は相手の艦載機の撃滅にあるだろうが、流れ弾や駄賃としてこちらに仕掛けてこないとも限らない。

 陸の上でしか動けない自分はこの島の範囲で応戦するしかないのだ。

 そして、両陣営から白煙を放ちながら突き進む矢が見えた。

 恐らく空母棲姫が報告したミサイルと言うものだろうと、泊地水鬼は当たりを付ける。

 

「ダガ……密度ガ西側ノ方ガ濃イ……。

 大丈夫ナノカ?」

 

 深海棲艦なのに、艦娘側の心配をするという奇妙な体験を彼女はしたが、今は戦闘に対する高揚状態でそれに気が付いていない。

 そして互いのミサイルが交差しようとしたその瞬間、超兵器側の上方で何かが僅かに光った。

 それは先行して偵察していたF-22だった。

 彼の機体はそのまま一直線に超兵器側の艦載機群に急降下、真上からミサイルの一斉射を敢行し、狙われた機体は回避行動を取ろうとする。

 だがここで超兵器側に不幸が起きた。

 慌てて回避行動を取った上に、編隊毎に距離が離れていたとは言え密度がこれ以上に無いほど濃い為、回避した機体が後方の機体と衝突するという事態が起こったのだ。

 衝突し、破片と爆風が飛び散る。

 そしてその破片が周囲の機体を傷つけ更に自己鋳造した加害範囲が拡大し、後続の機体へ襲い掛かる。

 それは空に出来上がった地獄絵図だった。

 そこへ前方から艦娘側の艦載機が放ったミサイルが突っ込む、最終的に撃墜された機体は全体の2割に届き、他にも多くの機体は傷を負ったりして満身創痍の状態だ。

 

「スゴイ……」

 

 たった一機の戦闘機の行動で戦局が一気に引っくり返った。

 古代の戦場で一人の武将が戦局を変えた事もあるが、その再現が近代化された空での戦いで同じ事が起こったのだ。

 急降下の勢いを殺しながら機首を持ち上げ、海面ギリギリのところで運動エネルギーを殺しきったあの機体は、再び加速して泊地水鬼の角の間を通過し味方と合流する。

 そこまで見て泊地水鬼は確信した。

 あれは相対する相手には等しく死を与える死神の遣いだと、その尾翼に描かれた無限を示す青いリボンは、自らの首に掛けられる絞首台の縄のように見えた。

 そして同時に……。

 

「大きな、翼……」

 

 一瞬だけはっきりとした声で、そう呟いた。

 

 

 

「すごい……」

 

 一方大鳳も、E-2Cからの情報でその戦闘を観測していた。

 偵察していたF-22は、暫く発艦した艦載機全てからの攻撃を回避に専念していたが、ジェット戦闘機であるF/A-18とAV-8BJの弾薬が尽きると同時に急上昇し、限界高度ギリギリで飛行を続けていた。

 そして大鳳から発艦した艦載機がアンズ環礁付近で、超兵器の艦載機との交戦を解した直後待機していた上空から急降下、海面スレスレでやっと引き起こせる速度で急襲し、多数の巻き添えを出しながら数の差を僅かながらにだが、それでも信じられない戦闘能力を発揮した。

 そしてついでと言う感覚で、泊地水鬼の状況を伝えてくる。

 

「どうやら泊地水鬼とその随伴戦力の戦闘能力は皆無となっているみたいです。

 殆どが中破や大破艦ばかりで、泊地水鬼も中破状態だそうです」

 

「むう……やはりあそこも超兵器の攻撃を受けていたか。

 だが、先の彩雲での偵察では万全の状態だったのではないのか?」

 

「恐らく、私達の偵察機のルートを逆算して部隊を送ってきていたのでしょうね。

 そしてその途上でアンズ環礁の深海棲艦泊地を見つけた……」

 

「その攻撃を行ってもなお継戦能力は衰えない……か」

 

「あの……」

 

 長門と加賀の会話に大鳳が割って入る。

 

「その超兵器艦載機群なのですが、さきほど発艦してきた機体の約2割を撃破したと報告が……」

 

「な!」

 

「それは……凄まじいわね」

 

 長門と加賀の両名が絶句するが、それは仕方が無い事だ。

 戦闘開始時、大鳳は長門達にも敵艦載機の総数に関しては説明していた。

 全ての航空機かどうかは分からないが、E-2Cのレーダーで捕らえた敵機の数はこちらの約9倍の700機以上、文字通りレーダーが真っ白になるくらいの数で押し寄せてきたのだ。

 普通ならこちらの艦載機が全滅するのを覚悟するところだろう。

 だがそれはF-22の部隊により140機も撃墜し、他にも破損機が居るのか反転する機体が続出した。

 それでも最終的には確認された総数の約7割がいまだ健在ではあるのだが、それでも此処まで数を減らせたのは奇跡としか言い様が無い。

 それもこれも、あのイレギュラーが引き起こした事象だ。

 

「ん?」

 

 そんな時、長門がインド亜大陸の海岸に人影を発見した。

 それも一人や二人ではない大勢の、群集と呼べる集団が海岸に集まっていた。

 そしてこちらそ警戒しているのか、少しピリピリした雰囲気をかもし出している。

 

「あれってインドの方々じゃ?」

 

「そうか、現地の住人達か。

 そう言えばインドにはあの当時海軍どころか、インドと言う独立した国が無かったな。

 イギリスに統治されずに独自の海軍を持っていれば、この辺りの作戦で共同作戦を実施出来たのだがな……」

 

「しょうがないですよ。

 私達だってまさか人間の姿になって、此処まで来ることになるなんて予想できませんでしたし、それどころか深海凄艦が出現することなんて、思っても見なかったでしょうから」

 

「それに仮に独立していたとしても、教育などの問題で駆逐艦以上の大型艦の建造は難しいかと思います。

 大量に揃えられるのは魚雷艇が精々かと」

 

「まあその話はそこまでにしよう。

 総員、手を振って彼らに敵意が無いことを伝えよう」

 

 長門はそう言うと同時に右腕を上げて大きく横に振った。

 隷下の艦娘や他の鎮守府の艦娘達も、長門に倣って手を振る。

 するとこちらの意図を感じ取ったのか、群集もこちらに手を振ってきた。

 

「そう言えばインド海軍って原子力空母を持っていたはずだけれど、どうしたのかしら?」

 

「1隻はこの戦争が始まる前に退役して、もう一隻は確かインド海軍の軍港に収容されているはずよ。

 なんでもこの戦争が終わった後の海上戦力を温存しておきたいとか」

 

「まだ先が見えないのにお気楽な事だ……と言いたいが、艦娘未保有国なら妥当な判断か」

 

 今の艦娘は、尾張やスキズブラズニルなどを除けば、第二次大戦当時に活躍した船や建造途中だった艦船が主流だ。

 そしてそれらは必然的に属していた国に出現している。

 当時のインドは植民地だったので、独自の海軍を持っていないのだ。

 あったとしても魚雷艇ぐらいだろうが、仮にそれらが艦娘化したとしても、魚雷艇を掃討する駆逐艦型の深海棲艦は幾らでも居る。

 何はともあれ、そんな艦娘を保有していない国はアフリカからアジア圏ではかなりの数に上り、各国の軍隊は殻に閉じこもるように港で戦力を温存し、状況が改善するまで海賊退治や海上の治安維持に努めるしかない。

 

「あ、海岸から発光信号が出てます!」

 

「……あれは欧文ですネー。

 えっと……『ニホン ノ カンムスタチ ヘ キカンラ ノ フントウヲ イノル』以上デース!」

 

 金剛が発光信号を解読して皆に伝えると、艦娘達の顔に笑顔がこぼれる。

 

「ではこちらからも返信だ。

 金剛、『ゲキレイ カンシャ スル ウミ ノ マモリ ハ ワレラニ マカサレタシ』以上だ」

 

「了解デース!」

 

 長門の言葉通りに金剛が返信を送ると、向こうからも『キカンラノ ブジヲ イノル』と返信がきた。

 時代が彼女達が船だった時代なら敵同士だったろうが、今は共同で共通の敵と戦うもの同士だ。

 

「えっと……超兵器の航空隊、5割の撃墜を確認、当方はF-22の11番機が撃墜されたのみです」

 

『『えぇ……』』

 

 そんな中大鳳が伝えてきた航空戦の情報に、空母組は驚愕を通り越してどん引きを表した声を上げる。

 ここまでくると、最早機体性能や妖精さんの腕が良いとかそう言う次元ではない。

 もっと恐ろしい何かを垣間見た雰囲気に呑まれそうになる。

 

「……とりあえず、そろそろ私達も航空機を出した方が良いのではなくて?」

 

「ああ、露払いは任せたぞ加賀」

 

「言われなくても、そうするつもりよ。

 こちら横須賀艦隊所属の加賀、第一次攻撃隊、発艦します」

 

「同じく赤城、第一次攻撃隊、発艦!」

 

「藤沢艦隊所属の大鳳、第一次攻撃隊、発艦!」

 

「同じく藤沢の加賀、攻撃隊、発艦させるわ」

 

 3人の空母艦娘がいち早く攻撃隊を発艦させる。

 それに続くように他の艦隊からも艦載機が上がって行く。

 艦載機の内訳は一番搭載枠が大きい場所に艦上戦闘機、2スロットに艦上攻撃機、搭載数が少ない残りの枠は偵察機と、対地上棲深海棲艦に対する攻撃隊で構成されている。

 戦闘不能に近い手傷を負った泊地水鬼に対して、過剰戦力なのではないかと思われる数だが、念には念を入れるという古参の提督の意見で徹底的に叩く算段だ。

 続く大鳳の航空隊からの報告で、アンズ環礁の護衛艦隊は戦艦は全て中破か大破し、空母は航空兵力を上げて来ないと言う。

 

「よし、では攻撃隊は戦艦と護衛要塞の殲滅を、それ以外は軟らかい標的ばかりだ。

 戦艦、重巡洋艦は弾種を榴弾に変更しろ」

 

「航空隊は第一次攻撃後は攻撃機に爆装する準備を」

 

 艦隊総旗艦たる横須賀の長門と、航空戦隊旗艦兼副艦である呉の加賀の指示に各艦隊の艦娘はそれぞれ従う。

 護衛の駆逐艦や軽巡洋艦達の中には対地ロケットを装備した者も居り、攻撃態勢は万全だと言えよう。

 ……だが、どんな時でも上手く行かない要素が出現する。

 

「っ!偵察機より連絡!敵超兵器、ムスペルヘイム東進を開始!」

 

「なんと言うタイミングだ……」

 

 大鳳からの報告で現場に緊張が立ち込める。

 どうやらあちらは痺れを切らしてアンズ環礁に乗り込むつもりのようだ。

 

「これ以上は悠長に事を構えてはいられんか……。

 吹雪、大鳳、お前達はここから北西に進撃して超兵器と相対しろ。

 我々はアンズ環礁を片付け次第、損傷艦を下げた後に支援攻撃に入る」

 

「りょ、了解!」

 

「了解です!

 皆さん、御武運を!」

 

「そちらも」

 

 互いに健闘を願いながら別れる。

 吹雪と大鳳の後姿を艦隊の艦娘達は手を振って見送り、2人が水平線の向こうに消えると進軍を再開する。

 

 

 

 同時刻 アメリカ アラスカ州 ミントローズ島

 

 吹きすさぶ寒風の中に、大口径主砲の砲声と何かが弾ける音が海上に響き渡る。

 

「畜生……なんだあれは……」

 

「大艦巨砲の権化だな……。

 今は此処から動かない方が良いだろう。

 それにあんな馬鹿みたいな巨砲を食らいたくない」

 

「だ、大丈夫だよね?こっちに来ないよね?」

 

 さっきから頭の上を擦過する巨弾に、無人島になった島の影で怯えているのは、アメリカ海軍の大型巡洋艦娘であるアラスカとグアム、そして軽巡アトランタに隷下駆逐艦3人の艦隊だった。

 彼女達はジュノー基地からアラスカ周辺を哨戒していたのだが、その帰り道にこの戦闘と言う名の虐殺に遭遇したのだ。

 

「くそ……あれが例の超兵器って奴か、見たことも無い艦影だな。

 片方は双胴艦か?兎に角馬鹿でかいし、搭載している砲も16インチを超えている所か、ありゃ下手したら倍の32インチ(約81センチ)以上はあるぞ」

 

「双胴にして搭載排水量が増得たからこその無茶な装備か……厄介だな。

 それでは予備浮力や装甲がどれだけあるか検討が付かない」

 

「もう片方は普通の船体のようだが、それでも巨大な艤装のせいでどうにも要領を得んな。

 あとあの手に持ってる長い物は何だ?」

 

「2隻の戦闘能力もそうだが、周辺の護衛艦隊も光学兵器やらミサイルやらで武装している。

 SF映画でも見ている気分だよ」

 

「兎に角このノイズじゃジュノーとの通信も取れない……ここの近くはロシアの拠点があるカムチャツカか」

 

 地図を広げて海図を見るアメリカの艦娘達、そこにはオホーツク海における2大拠点である日本の大湊とロシアのウラジオストクが大きく書かれ、その周辺に少し小さめに単冠湾、幌筵、ナホトカ、カムチャツカ、マガダンの艦娘を運用する基地が存在する。

 アラスカは一番近いカムチャツカを提案したが、妹であるグアムが代案を出す。

 

「待て、一番近いのは確かに双だが、あいつらが行きがけの駄賃にあそこを攻撃しない保証が無い。

 ここはカムチャツカに一時避難と状況伝達の通信を送った後、パラムシルに行った方が良いだろう。

 詳しい事は私達にも知らされていないが、日本は超兵器に対して唯一勝利した国だ。

 その艦娘を見物してから本国に帰るのも悪くないと思うが」

 

「噂のモンスターシップガールか……興味が無いわけではないが、そいつも規格外なんだろうな」

 

「昔から言うだろ?目には目で、歯には歯で、だ」

 

「それ同害報復に関する限度の設定であって、無限に報復をしろって言う意味ではないですから―って、あぶなっ!」

 

 駄弁っていると巨大な流れ弾が頭の直ぐ上を擦過、近くの海面に着弾して大量の水を巻き上げ、ただでさえ夏でも寒いと言うのに冷たい海水が彼女達にもろに被った。

 

「あーもう!兎に角、今は日本の戦力は手薄なんです!

 この戦争の後に残るであろう有力な友人候補を助けて、母国の戦後の苦労を少しでも減らしましょうよ!」

 

「え、日本って手薄なの!?何やってるのさ!」

 

「南方のカレー洋で大規模作戦をやっているんのよ!

 司令からその辺りのこと聞いたでしょ!?」

 

 ギャーギャーわめきながらもアメリカの艦娘達は行動を開始する。

 目指すはAL方面最前線の幌筵泊地、艦娘配備的な関係で一時的ながら日本に帰属した千島列島に向け、彼女達はギリギリの燃料で航海を行う。




正解発表!

Q.ミントローズ島

A.セントローレンス島

でした!
ガムの味みたいな島名にしてごめんよ聖ローレンスさん。
でもイベント毎に発表される島名や海峡が、尽く食べ物みたいな名前にした艦これスタッフが元凶なのでそっちに文句を言ってくだち。


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日誌二十二頁目 ステビア海の火蓋

お久しぶりです。
なんとか形に出来ました!
言い訳は後書きで……。


 

 

 

 

「やはり、分かっていても辛いものですね」

 

 F-22の損失1機だけと損害は皆無と言って良いが、それでも大鳳の表情は少し暗くなる。

 高性能化しているとは言え、未帰還機が出るのは戦場の常だが、それを分かってはいても彼女にとっては哀しい事に変わりは無い。

 幸いと言ってはあれだが、搭乗員の妖精は撃墜されて怪我を負うことはあっても死ぬ事はない。

 ただ今回は少なからず怪我を負うはずの妖精が、五体満足で元気な状態で戻ってきている事だろう。

 当の本人は甲板でサッカーボールを使って遊んでいた。

 

「今回の航空戦であちらの航空戦力は大分削れた筈です。

 こちらは二人がかりですが、油断せず着実に進軍しましょう」

 

「そうですね……、こちらの常識が通じないのはあの超高速戦艦で実感しています」

 

 シュトルムヴィントとの戦いは吹雪と大鳳の記憶に新しい。

 東京湾での事件を除けば、あの恐るべき超兵器との戦いに吹雪達だけで赴くのだ。

 負ければ後方の味方が襲われ、自分達も何をされるか分かったものではない。

 

「まずは私の航空隊で急襲し超兵器の気を引き付け、吹雪さんはその隙に接近して酸素魚雷を叩き込む、手順としてはこの辺りでしょう。

 幸い速力はこちらが優位ですし、一撃離脱を心掛けて戦えば勝機はあると思います」

 

「問題はあちらの装甲の厚さですよね……。

 尾張さん以上だとこの酸素魚雷でも通用するかどうか……ですけど!」

 

 そう言いながら吹雪は機関出力を上げて前進する。

 

「私達には尾張さんから教わった超兵器に対する戦術と、その心構えがあります!」

 

 この第十一号作戦まで、吹雪達は尾張を擬似超兵器として標的にし訓練を重ねてきた。

 最初こそ鋼・艤装を装備した吹雪達は、補給さえあればこの強大な艤装で何でも出来る。

 そう思えた。

 だが、3人が思ったそれを、尾張は真っ向から纏めて相対し、いくら単艦での性能が良くても、それを扱える技量と戦術……そして何より戦略の引き出しがなければ、猫に小判どころか豚に真珠になりえる事を、実地で叩き込んだ。

 数々の超兵器との戦いを経験してきた尾張の手数の多さは、今の各所に存在する戦艦艦娘よりも多い。

 ASROCや対空ミサイルを簡易対艦兵装として使用したり、時には急減速と急旋回の併用で砲撃の回避、その高機動力とCIWSの防御射撃で雷撃を避ける荒業も披露した。

 

 ―私達は補助兵装によって、通常の艤装を装備した艦娘とは一線を画しています。

 その強さには主兵装によるのもありますが、何より大事なのは補助兵装の癖を把握し、それを使いこなす技術、そして何よりも動物的な判断力と人間が持つ理性が必要不可欠です。

 その為に、私を本気で沈める勢いで向かってきてください―

 

 最初の演習を終え、そう言い放った尾張が自分達を見る目には殺気と闘志が宿っていた。

 ある意味で超兵器を超える兵器、それを構成する力の一端を使う吹雪達に彼女は、自らの力に溺れない様に、そして何より自らが嘗て人を乗せて動いていた『船』だったと言う事を、決して忘れないように教練で叩き込みながら演習を行った。

 

「『本当に恐れるべき敵は自分である』……、今まで童話や物語ではよく聞く言葉ですが、何と無く出しか感じられませんでした。

 けれど、こうして自分の身になるとその本質が分かる気がします……」

 

 自動装填装置により撃っても即座に予備弾が装填され、既存の探信儀よりも遥かに優れた観測装置、そして今まで頼ってきた艦載機よりも優れた性能を持つ航空機。

 戦場でたらればは無粋だが、あの時この兵装があれば日本は西太平洋の覇者になっていた。

 

「尾張さんには感謝しなければいけませんね。

 仲間を思いながら戦える……これだけの事が、こんなにも尊いものだったとは今まで思いもしませんでした。

 きっと、尾張さんは良い乗員と艦長に巡りあえたのでしょうね」

 

「ライナルト・シュルツ少佐ですよね。

 近衛艦隊と言うエリートの中で優秀な艦長だったと聞いています。

 他にも通信長のナギ少尉、ドイツからの協力者である科学者のエルネヅティーネ・ブラウン大尉、帝国のスパイでありながら立派に副長の任を全うしたクラウス・ヴェルナー中尉。

 そして恩師である筑波貴繁大尉にその親友である天城仁志大佐、シュルツ少佐の上司であるアルベルト・ガルトナー大佐、……本当に恵まれた艦生だったのでしょう」

 

「だからこそ、尾張さんの負担を軽くしてあげないといけません!

 第二次攻撃隊発艦!目標、敵航空戦艦型超兵器ムスペルヘイム!」

 

 対艦兵装に換装した航空機が、大鳳のクロスボウ型の艤装から射出され、ボルトから変化したF-22、F/A-18E、F-35Bが大空へ舞い上がり、編隊を組んでムスペルヘイムが居るであろう方角へ飛んで行く。

 

「私に出来るのはここまでです。

 鋼艤装とは言っても単艦での航空攻撃で超兵器に対し、どれだけ損害を与えられるか分かりません。

 吹雪さん、貴女の酸素魚雷が決め手になると思います」

 

「わかりました!

 ……吹雪から前線司令部へ、これより駆逐艦吹雪は敵超兵器に対し肉薄を開始します!」

 

『こちら前線司令部、了解した。

 最良の健闘を祈る……失敗しても必ず帰ってくるのだ。

 生きていれば、また再戦の機会は訪れる』

 

「鍋島司令……それだけは出来ません。

 此処で負けたら、インド亜大陸や中東の人々が犠牲になってしまいます。

 それに、あの東京湾で思ったんです……ここで負けたら、後がないんだって」

 

 あの珍妙な偵察兵器を目にするまで、その重圧が吹雪に圧し掛かっていた。

 まだ尾張や利根達が居るとは言え、彼女達が駆けつけるまで東京にどれほど被害を与えるか、それを思っただけでも身震いがした。

 幸いにも超兵器ではなかったが、その一端の力を持った敵だったことには違いない。

 

「無謀なのは分かっています。

 ですけど、このまま尾張さんに任せてばかりでは駄目なんです。

 私達が強くなって、尾張さんが自分が居なくても大丈夫だって、そう思えるようにしないと!」

 

『吹雪君……』

 

「と言っても、スキズさんがいないとどうにもならないですけれどね」

 

 あははと軽く笑いながら吹雪はそう返す。

 そう、今の吹雪達の装備はスキズブラズニルと言う存在がいてこそだ。

 

(それだけじゃない、万が一尾張さんでも適わない超兵器が出てきたら……、その時は私達があの人を助けないと!)

 

 とうとう超兵器潜伏海域まで到達した。

 何故それが分かるか?それは海面に漂う漂流物が増し、電探にノイズが出始めたからだ。

 幸いスキズブラズニルから提供された水上探信儀は、未だにちゃんとしたレーダー画像を現しており、吹雪はほっと息を吐く。

 

(良かった。これで相手を先に捉えることが出来る!)

 

 画面の淵には大鳳から発艦した航空隊も映っており、吹雪が突入する前に彼らが先んじて攻撃を行う手はずだ。

 

(あっちには光学兵器があるって話だけれど、大丈夫なのかな?)

 

 戦艦の装甲を反対側まで貫徹するほどの威力を持った光学兵器、そんな物をまともに食らえば航空機など一瞬で蒸発してしまうだろう。

 

(航空機にも電磁防壁があれば良いのに……)

 

 自分に搭載されている電磁防壁、実体弾こそ防げないが光学兵器に対する防御力が飛躍的に上がる補助兵装だ。

 実体弾は攻撃力こそあるが散布界が広く、遅延装置をつけても狭めるのには限界があるが、その一方で光学兵器は水蒸気や塵を無視するレベルの出力ならば、狙った敵をほぼ確実に貫くことが出来る。

 尾張がシュトルムヴィントと交戦した際、その防御力を目にした艦娘は多く、吹雪自身もそれ見ていた。

 βレーザーⅡと呼ばれるレーザー発信機がもたらす幾筋もの破壊の光が、左右と上方から迫り尾張に当たる寸前、光の軌道が大きく変化し、空の彼方へ飛んでいくのを見たときにはわからなかった。

 だがあのイタリアの戦艦、リットリオの艤装の破損状況を見て、アレをまともに食らえばああなるのだと、まざまざと見せ付けられた。

 

「こちら吹雪、作戦海域に到達。

 これより上空警戒に移行しつつ、さらに接近したあと目標との接触を試みます!」

 

『了解した。

 ……武運を祈る』

 

 吹雪の報告を聞いて帰ってきた短い一言、だがその前に置いた僅かな間は、鍋島の色々な葛藤を表したものだと言う事を吹雪は感付いていた。

 通信を切り、記録・送信装置を稼動させる。

 改造を施したが、それでもこの世界純正の艦娘を用いた対超兵器戦になる上、今後に向けて出来るだけ多くのデータが必要になる。

 今まで艦娘に対して人間と同じように接してきた古参提督には、辛い選択をせざるをえなかった。

 

 

 

 吹雪がしばらく海原を掛けると、レーダーに光点が指し示される。

 電探妖精からの報告では、今までにない規模の反射率と影の大きさとの事だ。

 そして、その周りを取り囲むように大小様々な反応もある。

 どうやら超兵器一体だけと言うわけではなさそうだ。

 

「随伴艦!?超兵器だけでも手一杯なのに!」

 

 対超兵器用に改装されているとは言え、自分は所詮駆逐艦だ。

 

(私たった一人で……ううん)

 

 そこまで思案して頭を振り、恐怖心を無理やり押さえ込む。

 

(尾張さんは単艦で艦隊規模の敵を屠った事もあるって聞いた!

 だったら、私もこれくらいの事はしないと!

 それに大鳳さんの航空隊の援護もある!)

 

『……随分と小さき勇者だ』

 

「っ!」

 

 そんな矢先、通信が入ってくる。

 

『動揺する事もあるまい。

 私と戦う為に此処まで来たのだろう?ならば余分な問答など不要だ。

 しかし、この世界には尾張の様な艦船は居ない筈……、その力何処で手に入れた?』

 

(尾張さんがこっちに来ている事を知らない?

 鎌かけ?)

「知っているけれど、貴女には教えられない!

 大体、イタリアの艦娘達はどうしたの?!」

 

『ああ、あの娘等か。

 我が従属艦が軽く相手をしてやったまで、私は何もしてはおらん。

 ただ、この先にいる深海の者と少々遊んでいただけだ。

 陸上棲とあって通常の艦艇よりやや頑丈ではあったが、やはり脆いな。

 まだあの血気盛んな戦艦の方が楽しめたのだが……あいつも今では私の糧となった』

 

「うっ……」

 

 それはつまり食べたと言う事だ。

 その瞬間を想像しただけで吐き気を催す。

 

『安心しろ。

 私は疾風よりはまともな感性を持っていると自負している。

 あれは嗜虐こそ至高と考えていたが、私は物事を円滑に済ませたいのが性根だ。

 まあ、時折先程の用に息抜きはするがな』

 

 

 

「あれは超兵器という一つの生態系で成り立っています。

 深海棲艦か艦娘か、それに当て嵌めるのは無理です」

 

 

 

(やっぱり、この人たちは私達とも深海棲艦とも違う!

 全く別の存在なんだ!)

 

 過去に言った尾張の台詞を思い出して吹雪は改めて認識する。

 超兵器は自分達とは全く違う存在、尾張が言う超兵器母艦のフィンブルヴィンテルと言う惑星があり、他の超兵器達はその惑星の上で生きている単一生物である……と。

 

『……なるほど、覚悟は決まったと見える。

 では来るがよい、私と私の艦隊がお前を歓迎しよう』

 

 ムスペルヘイムがその台詞を吐くと同時に、けたたましくミサイル接近警報が鳴り響く。

 吹雪は即座にCIWSを起動させ、最大戦速で回避行動を取りながら敵艦隊に接近を開始し、前方の左右から殺到するミサイルの群れに対し、CIWSの射界を最大限生かすために吹雪はあえて真正面から突撃する。

 

『ほう?この戦法……さては尾張の奴がこちらに来ているな?

 そしてその速力……なるほど、あいつも来ているのか。

 となると武装もそれ相応と言う事になるな』

 

(こちらの状態が見えている!?)

 

『そんなに驚く事はあるまい。

 さきほどの空戦である程度察しは付いていたがな』

 

 吹雪の戸惑いに応えるようにレーダー画面に新たな光点が映る。

 反応の小ささから航空機を出撃させたのだろう。

 

『ならばこちらも出し惜しみをしている場合ではないな。

 この場でお前を叩き潰し、後ろにいる空母にも話を聞いてみるか』

 

 光点の数が増え続ける。

 そしてレーダー画面の約3分の1が、航空機のを現す光点で覆われてしまった。

 

「まだこれだけの航空兵力が!?」

 

『私の航空機格納庫はそれこそ巨大だ。

 先程の航空隊は小手先程度、これこそ私の航空部隊の真髄だ』

 

 雲霞の如く湧き出る航空機の群れに吹雪は畏怖を感じる。

 そこへムスペルヘイムがさらに言葉を重ねた。

 

『航空戦艦ムスペルヘイム、いざ参る。

 尾張の弟子よ、その身に刻みながら逝け!』

 

「っ!」

 

 ムスペルヘイムの航空隊が、ミサイルと共に吹雪に向かってくる。

 吹雪の対空兵装は152mm速射砲3基と35mmCIWS4基のみ、吹雪自身の機動力を加味しても、とてもではないがこの猛攻を掻い潜るのは至難の業である。

 だがそんな時吹雪の後方から新たな光点が現れる。

 

『またあの航空隊か!』

 

『貴方の相手は吹雪さんと私の二人だと言う事を思い出させてあげます』

 

 大鳳から再び発艦したF-22と、AGM-84H対艦ミサイルとAGM-154C(JSOW-C型)を限界まで搭載したF/A-18E、SDBを搭載したF-35Aの編隊が次々と吹雪の頭上を通過して行く。

 

「大鳳さん!」

 

『間に合ってよかった!

 すみません、装備換装に時間を掛けてしまいました!

 これより制空戦闘を行います!』

 

 大鳳が言った途端に、距離を詰めていたF-22のウェポンベイ・ドアが開き、AIM-120Cが六基放たれた。

 後続のF/A-18EとF-35AもF-22に続いて対空ミサイルを放ち、その後に対艦ミサイルの釣瓶打ちをし、一旦高度を上げて自分達を狙う誘導波を警戒する。

 空が瞬く間にミサイルが描く白線で埋め尽くされ、加速を終えた物から白線の尾が消える。

 狙われたのはF/A-18C、所謂レガシー・ホーネットと呼ばれる機体だ。

 F/A-18Eより旧型とは言え、その性能は現代戦でも十分に通じる。

 だが相手にした航空隊が悪かった。

 

『くそ、こちらのホーネットが!』

 

『私に所属している戦闘機隊は一味違います!』

 

 実際、大鳳の側には約1世代もの技術的優位がある。

 加えて早期警戒機であるE-2Cのバックアップもあり、電子戦においても着実に敵航空部隊を追い込む。

 この交戦でムスペルヘイム側が現時点で上げたジェット機戦力は壊滅し、残るはレシプロ機のみと言う制空権が取られた状態となり、残る攻撃隊も次々と大鳳の航空隊の餌食となってゆく。

 だが航空機はどうにか出来ても、接近ミサイルの方は自分でどうにかしないといけない。

 だが電子の救い手が吹雪を救うこととなる。

 対艦ミサイルに使われている電波帯に対し、吹雪の電子戦要員から知らせを受けたF-22と、吹雪自身の電子戦妖精が電波妨害を仕掛けたのだ。

 これによりシースキミングを行っていた大多数の対艦ミサイルの大半は海に刺さるが、掻い潜った残り5基のミサイルは、吹雪になお接近中であった。

 。

 

「対ミサイル戦闘、用意!」

 

 吹雪の声で152mm速射砲が自動照準を開始し対空砲弾を装填、CIWSも砲身を予測方向へ向ける。

 艤装妖精達も吹雪自身も、この艤装での初めての対ミサイル戦に緊張が高まるなか、ミサイルが速射砲の有効射程内に入った。

 到達まで3分もない。

 

「ってー!」

 

 吹雪が引き金を引くと同時に、砲身から夥しい数の対空砲弾が発射される。

 そしてミサイルの脇を通るコースにいた砲弾の近接信管が作動、多数の断片を散らしてミサイルにダメージを与えるが、ミサイルもそれなりに丈夫なもので、多数の断片を浴びてもなかなか落ちない。

 だがその努力の甲斐もあってCIWSの射程に迫ったときには残り1基となったが、着弾までの時間は5秒もない。

 

「ファランクス!」

 

 体を少し捻りCIWSの射界を広げる。

 それを待っていましたと言わんばかりに、CIWSがガトリング砲身を高速回転させスタンバイ、ミサイルが射程に入った瞬間に射撃を開始。

 

(お願い、落ちて!)

 

 刹那の時間で行われる迎撃に吹雪はただそれだけを願った。

 35mmAPDSを4500発/分と言う強烈な速度で撒き散らし、残り500mの辺りで迎撃に成功した。

 

「はぅ……っ」

 

 初めての対艦ミサイル迎撃に安堵の息が漏れるが直ぐに気を引き締める。

 既に敵艦隊との距離は砲撃戦距離に迫り、吹雪は改めて速射砲を敵艦隊に向ける。

 

「吹雪突貫します!」

 

『大鳳航空隊に、吹雪さんの援護を行わせます』

 

『そうでなくてわな……砲撃戦でケリを付ける。

 艦隊前進、踏み潰すぞ』

 

 三者三様の声が海原に響く。

 ステビア海での対超兵器戦がようやく幕を開けた瞬間だった。




現代戦は同規模国家同士の海上戦闘が無いので、シミュレーターや想像で書くしかないという事態に陥っておりました。
対艦ミサイルによる艦船攻撃は、フォークランド紛争とイライラ戦争での一件以来全く無いですからね……。
実際今回の対ミサイル戦闘は「かなり良い状況」での想定な為、現実にはまずありえない状況でしょう。
それもこれもチャフ・フレア発射機を乗せ忘れた私のせいでも在りますけれどね!
……ステビア海編終えたら吹雪の再改修を行うかな。


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日誌二十三頁目 炎国の玉座

こっそりと更新……。


 

 

「敵艦隊視認!」

 

『吹雪さんの突入に合わせて航空隊を差し向けます!』

 

「酸素魚雷、いっけぇ!!」

 

 吹雪は転舵し先制して敵艦隊の予測進路に新型超音速酸素魚雷を斉射、射出された9本の魚雷は海面下に潜り、誤作動することなく航走を開始する。

 この辺りの兵器の信頼性はスキズブラズニルの十八番であり、今回も演習と変わらず気持ちが良いほどしっかり動いてくれる事に吹雪は微笑む。

 発射機の重さからして多数積むわけにはいかないが、弾頭に詰め込まれた数百kgの高性能爆薬と、その爆薬の前方に仕込まれた直径120mmのタングステン製フレシェット弾頭により、命中した目標の船体を完膚なきまでに破壊する威力を持つ。

 酸素魚雷と言う兵器の性質故に航跡の被発見性も低く、射程も据え置きどころか1.25倍ほど向上しており、加えて雷速も通常の酸素魚雷より倍以上速い為、航跡を発見した時にその進路上にいた場合、回避はまず不可能となる。

 

「吹雪、突撃します!」

 

 再びムスペルヘイムに向けるように進路を取る。

 相手の居場所はE-2Cから入ってくるので、戦闘時の位置取りのしやすさは吹雪に分がある。

 

(落ち着いて、集中して、精確に!)

 

 吹雪に搭載されている152mm速射砲には徹甲榴弾が装填されている。

 現代戦で使用する装甲など殆ど無い戦闘艦艇に対しては無用の長物だが、今回に関しては勝手が違う。

 相手は駆逐艦の他に、巡洋艦や戦艦クラスも居るのだ。

 戦艦に関してはVPに対して、旧来の駆逐艦の射撃しても効果は薄いだろうが、それ以外の非装甲区画に対して攻撃すれば、多少なりの効果は得られる。

 だがこの速射砲の徹甲榴弾は圧延鋼板ではあるが、大和型の装甲を貫ける戦車砲を作れる現代の技術と同等の物で作られたものであり、その話からでもその威力は推測できるだろう。

 そうしている内に双眼鏡で敵の姿が見えてきた。

 

「あれが……超兵器側の艦娘?」

 

 吹雪から見たところ敵艦隊の構成は戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦6の編成だった。

 恐らく対空戦闘は全てムスペルヘイムに頼っているのだろうが、あの超兵器に付いている艦隊故に油断は出来ない。

 だがその肌は深海棲艦達の様に灰色ではなく、しっかりと血が通った肌色で何よりも駆逐艦までが人型の影を持っており、自分達と変わらない艤装を背負って海を駆けているが、その目の部分はバイザーで覆われており目線の方向が分かり難い。

 バイザーを全員装備していると言う点以外、その他は自分達と変わらない。

 その事に気が付くと震えが出始める。

 

(また、殺し合いをするの?

 でも!)

 

 自分に言い聞かせるように引き金を引くと、徹甲榴弾を装填された砲口から次々と弾薬を発射する。

 40発装填できるドラムマガジンが次々と砲に弾薬を送り込み、3発分の威力を内包した砲弾が、20kmと言う距離を飛翔し敵の装甲に食らい付き、それを観測した妖精が命中弾が出たことを吹雪に知らせる。

 

「再装填!」

 

 命中の報告を聞く間にも、空になったマガジンと装填されたマガジンを交換させる。

 3つあるドラムマガジンの内1つは一応対空榴弾用に明けているが、既に制空権は大鳳のF-22の部隊によって取られている。

 加えてスーパーホーネットとF-35からの対艦攻撃で、敵艦艇は対空戦闘に掛かりっきりだ。

 そこへ先程射出した酸素魚雷が、ちょうど敵艦隊に到達する。

 散布界によって集中する事はなかったが、それでもその雷速と被視認性で対応するのが遅れた。

 相手……敵の巡洋艦との接触で魚雷の信管が作動、高性能爆薬が炸裂して発生した水圧と高密度の泡、そしてフレシェット弾頭が敵艦に襲い掛かる。

 水圧だけならまだマシだっただろう。

 だが、その後に襲い掛かってきたタングステンの針が追い討ちをかける。

 瞬く間に敵側の重巡は引き裂かれ、弾薬庫に当たったのかその肢体を解体され海の底へと消えて行った。

 吹雪にとって唯一の救いは、発生した水柱によってその光景が見えなかった事だろう。

 

「敵巡洋艦1撃沈!」

 

 吹雪が撃沈報告する間にも海中の牙が次々と敵艦隊に襲い掛かる。

 巡洋艦に起きた事が立て続けに発生し、駆逐艦と戦艦にも被害を出している。

 結果戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦1を撃沈し、もう一隻の戦艦も1発被雷したが大破状態に留まった。

 たったの一斉射で連合艦隊と呼べるべき規模がほぼ半壊する様は、改めてスキズブラズニルの技術力の高さをうかがい知れる機会となった。

 

(やれる!)

 

 たったの一当てで艦隊が半壊したのを見て、吹雪は確かな感触を持った。

 大破して速力が低下した戦艦を置いて、他の艦は構わずなおも吹雪に接近する。

 

(仲間を救出しない!?)

 

 確かに相手は自分達と同じかも知れない存在だ。

 だがその動きは自分達とは似ても似つかない。

 自分達ならば少なくとも声を掛けて心配するし、可能なら曳航してでも撤退するところだ。

 吹雪が逡巡している内にあちらからも砲撃が飛んでくる。

 

「っ!」

 

 飛んできた砲弾をレーダーが探知、予測着弾エリアから外れるべく舵を切る。

 AGS砲による射撃でもなければ、砲弾は素直に放物線を描いて海面に着弾するはずだ。

 実際尾張との模擬戦闘で、AGS砲を搭載した利根と尾張の演習でもその誘導性は把握している。

 GPSが必要な砲だが、何処をどうしたのかスキズブラズニルによって、既存の軍事衛星とデータリンクして誘導できるようになっているらしい。

 

 ―どうでもいい話だが、その説明を聞いた提督達と政府の官僚等は考えるのを止めたが、瘴気の影響で使えなかった人工衛星による新しい戦術の幅や、状況管理の見直しを始めたとの事―

 

 そうこうしている内に吹雪は予測着弾エリアから外れ、後ろで着弾した砲弾が出す水柱とその音を聞きながら、マガジン交換した速射砲を再び構え射撃を再開する。

 

「射撃準備!」

 

 吹雪が射撃体制に入ると同時に、兵装妖精が酸素魚雷の再装填が完了した事を知らせに来る。

 

「次は確実に当てる!急速前進っ!」

 

 加速Gが吹雪に掛かり体が後ろに仰け反りそうになるが、今までの演習で何度も味わったので即座に姿勢を安定させる。

 速力は一気に跳ね上がり一瞬80ノットを記録するが、瞬間的な物であり直ぐに元の速力に戻る。

 この動作は相手側の狙いを外す目的もあり、決して無意味なものではない。

 

「うわああああ!」

 

「!!」

 

 雄叫びを上げ、速射砲を撃ちながら敵艦隊に接近する。

 敵艦隊も吹雪に対応する為に砲身を彼女に向け、砲弾を装填した。

 対10cm装甲を施しているとは言え、防御面ではやはり巡洋艦などの大型艦艇には劣り、20.3cm以上の砲から繰り出されるのだ例え榴弾でも、吹雪にとっては致命的な威力を発揮する。

 だからこそ吹雪はその機動力で回避行動を取り、相手に狙いを付けさせないように接近を続け、ついに砲撃戦では至近距離といえる彼我距離10kmに近付いた。

 

「砲雷撃戦開始!」

 

 ここまで接近してしまえばもう魚雷の射程等の問題はない。

 吹雪は全ての火力を相手に叩き込む。

 

「魚雷は全て使わないで!

 1番魚雷、目標敵戦艦!」

(弾薬を節約しないと!)

 

 吹雪の指示で魚雷発射管が1基だけ稼動し3基の魚雷を射出、かなり手荒な使い方だが魚雷は正常に航走を開始する。

 

(酸素魚雷の速度とこの相対距離、避けれる筈がない!)

 

 射撃しながらそう思った吹雪の予想通り、酸素魚雷は見事に敵戦艦と重巡に食いつき、血飛沫と水柱を立てながらその姿を消した。

 残った駆逐艦5に対しても吹雪は速射砲の連撃を浴びせ、全ての駆逐艦を沈めることに成功し、一先ずこの海域における戦闘は終わったのだった。

 

(主砲の弾薬はまだあるけど、酸素魚雷の残弾が……)

 

 新型酸素魚雷の残弾は残り15基となり、自身の損傷を抑えるためにも使うべきだろうが、それだと対超兵器戦への不安が出る。

 吹雪が悩んでいるうちに、ふと敵が沈んだあたりに見慣れない浮遊物が見えた。

 

(あれは……弾薬?)

 

 そこに浮いていたのは見慣れた金属箱だが、横には英語で『AMMO』と書かれていた。

 その付近にも赤十字のマークが入った箱も浮かんでいる。

 弾薬はまだ分かるが赤十字は何だろうと疑問に思っていると、スキズブラズニルから通信が入った。

 

『吹雪ちゃん、状況はどう?』

 

「あ、はい、敵護衛艦隊は全て倒しました。

 ですが……」

 

 吹雪は周囲に浮いている赤十字箱の事を話す。

 

『そこに浮いている赤十字は損傷を回復させてくれるわ。

 最低でも10%は回復する筈よ』

 

「えぇ……」

 

 吹雪は困惑しながらも赤十字の箱を持ち上げる。

 すると艤装妖精が出てきてすぐさまその箱を解体、取得した資材で先ほどの戦闘で負った損傷を直してゆく。

 

『使えるものは何でも使う。

 それがウィルキア王国軍の流儀よ。

 それが例え敵の機材であってもね』

 

「ますますフィンランド軍みたいな戦い方ですよね……」

 

『解放軍とは聞こえはいいけれど、所詮国を追い出された敗残兵の寄せ集め。

 私が帝国軍に拿捕されなかったからこそ、王様や近衛軍は尾張を先頭に先陣を切って進撃できたのよ』

 

 研究と建造に特化した職人気質から来るのか、自分の国の事なのに歯に衣着せぬ物言いは吹雪にとって冷や冷やさせる一面だった。

 

『それと、こちらから補給物資を持たせたB-1を出撃させたわ。

 超兵器戦では互いの総火力による削り合い、接近戦中でも遠慮なく物資の要請を行って頂戴。

 損耗による物資の消費に関してはこちらで話は付いたわ』

 

「後ろから呻き声がするのですがそれは」

 

 ちなみにこの時スキズブラズニルの後ろでは、被害者となった朝倉提督がぶつぶつ呟いているのを、宿毛湾泊地鎮守府の提督である一条提督に慰められている最中、鍋島提督は経験者の筑波と共に、アンズ諸島から送られてくる情報の整理と、大体の流れを指揮していた。

 

『だぁいじょうぶよ。

 尾張ちゃんの修理費より安いから』

 

「……ちなみに私が大破したらどれだけの資材が消えるんです?」

 

 恐る恐る吹雪が聞くが、返ってきた答えは『普通の駆逐艦娘の20倍は堅い』との事で、吹雪は心の中で自分にこのような改造を施す際に、資材のやりくりをしてくれた北条提督に改めて心の中で礼をすると共に、必ず帰還して肩のマッサージをしようと硬く誓った。

 

『こちら大鳳です。

 艦載機の再出撃準備が完了しました』

 

「こちら吹雪、艤装の修復と燃料弾薬の回収が終わりました!」

 

『こちら長門、アンズ環礁での戦いが終わった。

 深海棲艦は……何故か泊地水鬼だけだったが、目標を倒しアンズ環礁を奪還。

 多数の同格の艤装核を回収した』

 

『こちら『かが』の筑波提督、報告は受けとったわ。

 アンズ環礁攻略部隊は少数の見張りを残して帰還してちょうだい。

『かが』もアンズ環礁へと向かい、貴方達を出迎えると共に超兵器用支援艦隊を送る準備を整えるわ』

 

 超兵器に対して打撃艦隊を送っても邪魔にしかならない。

 それならばと提案したのが、空母を基本とした航空支援艦隊による支援攻撃だ。

 航空機ならば相手の砲射程外からでも攻撃でき、今回のように大鳳が出ているのならば、相手のジェット機の事を気にする必要はない。

 そして幾ら超兵器といえども、個々の兵装に十分な防御を施すのは不可能だ。

 超兵器の対空砲火……シュトルムヴィントの対空攻撃を受けた妖精の伝で、戦術共有している搭乗員妖精はたまったものではないが、その分を大鳳の航空隊が引き付け片舷の対空兵装とVLSを叩き、そこへ艦娘達の通常航空戦力が突撃する作戦となっている。

 

『やり方としてはこちらの世界の大和がやられた方法で行くわ。

 超兵器といえども特殊なのは機関部だけで、そのほかの部分は人間が作り出した兵器の範疇を超えない、完全な状態のままで発掘されていたらと思うと見たくもあり、同時にほっとする事柄でもあるわ。

 もっとも、あのフィンブルヴィンテルがこちらに来ているかも知れないっていうのは、尾張ちゃんから聞いているけれどね』

 

「そんなに危ないものなんですか?」

 

『危険物も危険物、ほおって置いたら五大陸は皆仲良く消滅するわね』

 

 スキズブラズニルの言葉で周囲がシンと静まり返った。

 それは揶揄ではなく、ひっきりなしに飛んでいた通信波が止んだのだ。

 

『別に揶揄とかそう言うのではなく本当にそうなりかねないの。

 SFとかそう言う世界から飛び出してきた代物なのよアレは』

 

 唾棄するように言い切るスキズの言葉に、吹雪は言い知れぬ恐ろしさを感じた。

 未だに情報が開示されていないフィンブルヴィンテル、その全貌は愚か船だった頃の外観さえ艦娘達に公開されていない。

 もしかしたら提督達には開示しているのだろうが、あの尾張でさえ殺気を顕わにするほどの敵なのだから、その性能は第二次大戦当時の兵器の記憶しか持たない自分達や、現代化学でしか物差しを知らない提督達では、想像だに出来ないだろう。

 もしかしなくともそれを実感できるのは、尾張と一緒の世界に居たあの船達だけしか知らないかもしれない。

 

『っと、ごめんなさいね。

 折角戦意を上げていたのに水を差すようなことを言って』

 

『いえ、私達にとってこれは前哨戦だということも事実。

 ですが同時に、この世界の日本海軍此処にありと、奴らに見せ付ける機会でもあります』

 

 スキズブラズニルの言葉に、藤沢基地の大和が応える。

 

『そしてこの世界に居ないあの娘の艦長の代わりとは行きませんが、せめて頼れる存在になって上げたいのです。

 自惚れである事は重々承知していますけれど』

 

「わ、私だって、尾張さんに手解きをしてくれた戦術と、スキズさんに用意していただいたこの装備で露払い役くらいになりたいです。

 超兵器が意思を持つ存在になって、沈む前に尾張さんと戦った記憶があるのなら、必ず前とは違った戦術を組んでくるはずですし、その時こそ鋼装備を持つ艦娘として、尾張さんの足手まといにはなりたくは無いです!」

 

『我々を余り過小評価してもらっては困りますからね。

 せめて目障りな存在だと思ってもらわなければ、こちらも遣り甲斐がありません』

 

 大和と吹雪、そして筑波提督が言うと、彼女達に続いてあちこちから艦娘達の高揚する通信が聞こえてくる。

『此処は我々の海だ。余所様から来た外敵にくれてやる領分は無い』とでも言うように……。

 

「っ、超兵器ノイズが濃くなってきました!」

 

『艦載機、全て発艦完了しました!』

 

 大鳳の報告が飛んでくる。

 

『このカレー洋、そしてステビア海の戦いもこれで大詰めですわ』

 

 朝倉提督が告げる。

 

『この海戦で欧州との海上路を切り引き、日本と世界の道を広げる』

 

 鍋島提督が続いて言葉を繋げる。

 

『みんな、気を引き締めていくわよ!

 日本連合艦隊、出撃!』

 

『『「応!」』』

 

 そして筑波提督の号令で、この海戦に参加する全艦娘が応える。

 この号令の後、ステビア海超兵器戦と名付けられる戦いが戦端を開く事になる……が同時刻、日本でも北日本海海戦と呼ばれる原因となる影が二つ、現れようとしていた。

 

 

 

 

 

 《どうでも良い落書き》

 

 VP

 バイタルパート、重要防御区画の略称。

 弾薬庫や機関部と軍艦が機能するのに必要な物がある場所。

 此処……特に弾薬庫を抜かれると爆沈(フッド)する。

 

 

 

 新型超音速酸素魚雷の性能をゲームの外観を元に当てはめると……。

 全長:1000cm

 直径:80cm

 重量:3,700kg

 射程:79ノットで70km、105ノットで45km

 弾頭:120mmフレシェット弾×15、TNT900kg

 

 同士討ちした時が怖すぎると思った。(神州丸並みの感想)

 フレシェット弾一つ一つに専用の安定用筒があり、筒の後ろ側はラッパのように開いており、炸薬で発生した水圧を此処で受けて筒から弾体を押し出す仕組み。

 現実的に出来るかどうとかは考えてはいけない。




皆さんおはようございます。
もしくはこんにちわ、もしかしたらこんばんわ。

今回『も』遅れてしまって申し訳ございませんでした。
イベントもそうですが……少々別の惑星で工場長になったり、大和の艦長に就任したりと色々と手を出しておりました。

ステビア海に関しては此処で一旦区切り、次回は日本を中心に描きたいと思います。
そろそろ尾張を出さないと拗ねそうなので……。
それと感想の返信は今後しないようにしたいと思います。
覗きはしますが、物語を進めることを優先したいので……。
ですが、返信はしなくとも皆さんのご意見はちょくちょく入れたいと思いますので、遠慮せずに書いていただければ幸いです。
では、次回にお会いしましょう!


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日誌二十四頁目 日本海鳴動①

準備回なので特に動きなしです。
でも賑やかな会話シーンが作れた事には個人的に満足しています。


 

 

 

 

 新潟は新潟港、そこには佐渡島から一時帰宅を終えた一般人が溢れていた。

 

「黒潮のお姉ちゃんありがとー!」

 

「気ぃつけて帰るんやでー!」

 

 黒潮を初めとした連絡航路の警備を終えた駆逐艦娘達が、子供達やお年寄りと別れの言葉を交わしていた。

 

「無事終えることが出来てよかったです……」

 

「そうですね。

深海棲艦との一時休戦協定を結んだ後とは言え、言う事を聞かない深海棲艦もいるでしょうし、それらの襲撃が無くて私もほっとしています」

 

 尾張と舞鶴の雲竜が互いに言葉を交わす。

 日本海はオホーツク海と東シナ海の哨戒で、一種の聖域となっている海域であり、余程手練の潜水艦でなければ進入は可能であるが、月に一度日本近海の重点哨戒も行われている為に、その精鋭潜水艦もその度に駆逐され一定の安全が保たれている。

 

「さて、ではそろそろ皆の母港に……」

 

「残念だがそれはまだ出来そうにない」

 

 雲竜の言葉を遮るように、横須賀の北条提督が現れてそう言った。

 その顔には影が落ちており、その場に居た艦娘達が静まるには十分な雰囲気を出していた。

 

「先ほど、幌筵泊地の留守を任されていた艦娘から連絡が入った。

アメリカの艦娘が複数緊急寄港しているらしい」

 

 続けて出た言葉に日本の艦娘達はどよめく。

 前世では敵対していたアメリカの艦娘達が寄港して居るという事は、彼女達の感覚からすればまずありえない出来事だ。

 特に戦中生まれの艦娘達はそう思うだろう。

 

「そして、キス島へ出撃していた艦娘達から例のノイズを検出が報告されている。

これを受けて幌筵泊地と単冠湾泊地は一時放棄、アメリカの艦娘と共に大湊警備府へ退避する決定が、大本営から発令された」

 

「北条提督、その件のアメリカの艦娘達の構成は?」

 

「こちらでの分類では巡洋戦艦2、軽巡洋艦1、駆逐艦3の編成だ。

彼女達はアラスカでの定期パトロール中に、深海棲艦と……報告された状況からして超兵器2隻とその護衛艦隊との戦闘に遭遇、帰投するのは困難と判断、激化したところで周辺の基地に退避勧告を発しながら退避行動を開始、今に至ると言う事だ」

 

 超兵器2隻と言う情報が出て尾張以外の艦娘に動揺が走る。

 先日のシュトゥルムヴィント1隻でもあれだけの被害が出たのに、今度は2隻同時に相手取らないといけない上に、加えてここに居るのは大規模作戦に参加できないまでも、通常海域での活動では問題ないレベルでの戦力しか居ない。

 

「一先ず、会わなければどうにも出来ませんね。

北条提督、大湊警備府へ向かいます」

 

「うむ、移動には新潟分屯基地からC-2輸送機で向かう。

艤装も一緒に積載する」

 

 大湊警備府では海上自衛隊第25航空隊が使っていた滑走路があるが、開設当時に艦娘の緊急配備の為に短かった滑走路の延伸がなされ、大型の輸送機でも無理なく離発着が可能となっている。

 そのお陰でAL/MI作戦では一旦艦娘達は大湊に集められ、その後幌筵泊地へと移動した後AL作戦に赴いた。

 今回もその例に倣い、尾張を初めとして対抗できそうな艦娘をC-2輸送機5機で大湊に向かう。

 

 

 

「今回の超兵器は2隻と言ったが、一方は双胴の戦艦、もう一方は通常の胴体だが布で隠した長物を装備した超兵器だそうだ」

 

尾張達を乗せて飛び立ったC-2輸送機の中で、北条提督と旗艦を勤める艦娘達が会議を行っていた。

 

「双胴の方は恐らく超巨大双胴戦艦ハリマでしょう。

速度は超兵器の中では55ノットと平凡ですが、最大の特徴はその排水量を生かした超大口径主砲と防御力、100cm砲と恐らくそれに耐えうる装甲でした」

 

「うむ、私も君が提出した書類で性能等は把握している。

しかし、いざ目の前に現れるとなると恐怖しか沸いて来ないな……」

 

北条提督の言葉に艦娘達が頷く。

 

「今回やってくる超兵器は、前回のシュトルムヴィントの様な試作型ではないです。

超兵器機関の性能をある程度把握し、莫大なエネルギーを存分に使った正式版と言っても良い代物です」

 

「ふむ……だがもう一方の超兵器が分からんな」

 

「艦娘形態……と言えばいいのでしょうか。

その姿になって外観も変わってしまいますし、一から特定をし直さなければなりませんね。

ノイズ波形が分かれば一発で分かるのですが」

 

「生憎と彼女達は逃げるのが精一杯で、そのような暇など無かったようだからな。

現物は現地で見れば分かるかね?」

 

「超兵器はどれも特徴があるものばかりですから、その部分が分かれば特定は簡単です」

 

「勝率は?」

 

「……私一人では難しいでしょう。

やれと言われればやりますが、勝率は限りなく0に等しいです。

ですが」

 

尾張は同じく留守役であり、呉から派遣された利根に視線を向ける。

 

「利根さんの酸素魚雷があれば、その勝率は確実に上がります。

当てにしていますよ?」

 

「う、うむ!ままままかせるが良い!」

 

 妹の筑摩が居ない上に尾張からの期待が上乗せされ、周りから見ても気の毒なくらいに緊張している利根、彼女にとって今回が初めての対超兵器戦なのだ。

 細かい打ち合わせをしているうちにC-2輸送機は無事大湊警備府へ到着。

 到着を待っていた艦娘達に出迎えられ、先に呉から駆けつけていた毛利提督が一歩前に出る。

 

「北条提督、お疲れ様です」

 

「状況は?」

 

「現在超兵器艦隊は幌筵泊地と単冠湾泊地付近を通過、抵抗戦力がないと見るやこれを無視し、抵抗する深海棲艦を蹴散らしながらオホーツク海を西進中です。

このまま行けば樺太に到着し、宗谷海峡かタタール海峡を通過するでしょう」

 

「そうなればウラジオストックのロシア艦娘艦隊が出てくるな。

そう言えばロシアのカムチャツカなどの基地はどうしたのだ?」

 

「っは、最初はロシアの艦娘艦隊も警告を発していましたが、超兵器艦隊はそれを無視して通り過ぎさり、ロシア側もAL列島での戦いが伝わっているのか、それ以上の事はせずに早々に退いたようです」

 

「懸命な判断だが、一歩間違えれば壊滅していてもおかしくなかったな」

 

「その通りで」

 

二人の会話を聞いている後ろで尾張は思案する。

 

(ロシア海軍の艦娘に攻撃しなかったのは、恐らく前の世界での記憶との関連付けが残っているからの筈、でもそれだけだと無視した意味が説明できないし、日本の艦娘を狙ったシュトルムヴィントの説明が出来ない)

 

 弾薬や燃料に関しては深海棲艦から強奪すれば問題ない。

 かといって修理の問題であるならば超兵器自体は問題ない上、護衛艦隊は恐らく使い捨て同然の扱いになるだろう。

 ともすれば残る可能性は……。

 

「同盟とかそう言うのは関係ない。

シュトルムヴィントは単純に捕食行動に出ただけ、そして今回の二隻は……私を殺しに来たのですね」

 

尾張はそう、最後の部分はぽつりと小さく呟いた。

 

 

 

「初めまして、私は横須賀鎮守府の提督をしている北条と言う」

 

「私は戦艦娘の尾張と申します。

先の超兵器戦で一応功労者(MVP)に推されました」

 

「OH!貴女が噂のMonster Slayerね!

私はアラスカ、一応種別としてはアラスカ級大型巡洋艦のネームシップよ」

 

 大湊警備府の談話室でアメリカ艦娘と面会した北条と尾張がまず自己紹介をする。

 尾張の方は艤装を外してあるが、大和型のどちらでもない容姿から推測したのだろう。

 アラスカが身を乗り出し、自己紹介をしながら右手を差し出すと、尾張もそれに応えてアラスカの手を握る。

 

「ちょっと姉さん……すみません姉が粗相をして、私はアラスカ級大型巡洋艦の2番艦グァムよ。

普段はこんなだけど、作戦中とかはしっかりしているから安心してください」

 

「メリハリは大事ですから気にしていませんよ。

それよりも、超兵器接近の知らせをして頂きありがとうございます。

もし貴女方が来なかったら、対応が大幅に遅れるところでした」

 

 仮に彼女達が来なくても、周辺警戒している軽空母艦娘から報告が来るのだが、それでも対応に遅れが出るのは間違いは無い。

 

「それにしてもよく無事に超兵器を撒けましたね」

 

「なに、あの戦争から今までの気象データで大方の天候も把握しているし、深海棲艦を釣ってそこに駆逐艦の煙幕やら不完全燃焼での黒煙やらで煙に巻く。

あとは化物同士で潰しあっててくれって具合だよ」

 

「押し付けられた方はたまった物じゃないでしょうね。

でもそうね……だとしたら今回の戦いが終わった後は、そのあたりを一回私が出張って掃除するべきかしら」

 

 空母水姫の報告の通りならば、深海棲艦と超兵器が交戦したあたりで生き残りが居るならば、それが変異種になっていないとも限らない。

 人類側でそれに確実に対処可能なのは尾張と、スキズブラズニルで改装を受けた3人の艦娘のみ、深海棲艦側でも棲姫クラス以上の者でなければ確実な対処はできないなど、かなりの強さを誇っているとされている。

 

「あー、何か私達不味い事をしたかな?」

 

「さて……どの辺りから話しますか」

 

 その後北条提督と毛利提督、そして尾張による現状における超兵器が深海棲艦に与える影響などを、掻い摘んで彼女達に説明するとその顔色が青色に染まってゆく。

 それもそうだろう、なにせ恩を与えたと思った相手に自分たちは逆に仇を与えたと気付いたのだから……。

 

「わ、私達なんて事を……」

 

「大丈夫ですよ。

今回の件は各国に説明していなかった私達の責任ですし、仮に貴女方が来なくても多かれ少なかれ変異種は出ていたでしょうから」

 

「それよりも先に対処すべきは超兵器だ。

一先ずは正体が判明しているハリマへの対策だが、尾張君から何か対処法はないかね?」

 

「対処法と言っても今までと大して変わりはありません。

ただ持てる火力を全て動員して、ハリマの装甲接合部分が緩むまで攻撃するだけです。

勿論その間にもあちらからの攻撃が来ますから、それを避けながらになりますが……向こうには発砲遅延装置等の補助兵装は無いですし、被弾率はそこまで高くないはずです」

 

「流石に100cm砲に対する防御装甲は抜けないか……。

となると頼みの綱は尾張の主砲と酸素魚雷と言う事になるな」

 

「ええ、幸いにも宗谷海峡かタタール海峡で迎え撃てる状況です。

仮にタタール海峡へ向かった場合でも、上の方でロシア側から領海内への侵入の許可も貰っていますから、我々は遠慮なくロシアの領海へ侵入することが出来ます」

 

「よし、では大方の段取りは決まったな。

あとは艦隊編成だが……」

 

「戦艦は本土で留守役となっている伊勢型と扶桑型、それに北条提督の大和型が居ますけれど、やはり砲撃火力の主軸は尾張君になるでしょう。

航空戦力は雲竜型と蒼龍・飛龍の正規空母が居ますし、軽空母も多数残っています」

 

「だが肝心の魚雷火力が足りないか……。

駆逐艦を掻き集めて飽和雷撃をするしかないか」

 

「各鎮守府の重雷装巡洋艦の3人は軒並み連れて行かれたからな。

無いもの強請りをしても仕方あるまい」

 

「次発装填装置付きの艦娘以外は魚雷放出後補給に戻らせた方が良いでしょう。

島影などに補給艦を配置すれば再出撃までの時間はかなり短縮されるはずです」

 

 

 

「なんだか一国相手に戦争を仕掛けているような雰囲気だな」

 

「実際超兵器は1隻でも普通の国一つの海岸線を押さえ込めますから、強ち冗談とは言えないですけれどね」

 

 歴戦の提督が二人で作戦立案をしている後ろで、尾張はアラスカ達と雑談をしていた。

 

「しかし貴女方の話ではやはりアイスランドの辺りから出撃したと見るべきですね」

 

「ええ、私達も貴方の実力を見た後は本国に帰って、司令にしっかり報告するわ。

とは言っても、私たち程度では何の役にも立ちませんが……」

 

 アラスカ級は大型巡洋艦の名の通り、重巡洋艦以上の防御力と攻撃力を持つ事を主眼に入れた艦で、過去のドイッチュラント級装甲艦や、太平洋でライバルになる日本海軍が”持つであろう”仮想の艦型、秩父型大型巡洋艦に対抗する為に作られたものであるが、その攻撃力と防御力は中途半端な性能となっている。

 しかもCIC能力も低い上に、速度性能と旋回性能が共に不足気味なため、終戦後は特に改装を加えられることも無く早々に退役した。

 

(スキズで改装をしてもらえば多少はマシになると思うのですが……)

 

「だから貴女の様な大柄の船体が羨ましいし恨めしくもあるわ。

まあ、そんな事を言っても詮無き事だけどね」

 

「しかし速力は33ノットと高速です。

それを生かして引き撃ち戦法を行えば、重巡洋艦を主眼に置いた艦隊に対しては有利に戦える筈ですが……」

 

「それも相手が付き合ってくれればの話ですし、航空攻撃をされたら私達程度の防御力では……」

 

 自らの腕に装備された機銃群と、腰周りのVT信管などで有名なアメリカの12.7cm連装両用砲を示す姉妹。

 特に目立つ40mm4連装機銃と、20mm単装機銃から編み出される対空砲火は効果的だろう。

 だがそれを発揮できるのは同じ航空機で数を減らした航空機相手であり、発艦したばかりの艦載機をそのままを相手にするのは無理に等しい。

 

「アラスカさん、グァムさん、私に貴女方が抱える悩みは恐らく完全に理解する事も、分かる事もできないでしょう。

ですが、どうか自分達が受け持った使命だけは、自分の立脚点だと思って大事にして欲しいのです」

 

「自分達の……」

 

「使命……」

 

 二人の返事に尾張は頷くと、再び言葉をつむぐ。

 

「私は生まれ持って恵まれたこの肉体(船体)と、そして与えられた盾と矛(艤装)で私を生んでくれた故郷と人々を守る。

……貴女達は?」

 

「そんなの……決まってるじゃん」

 

「ええ、この身が失敗作であろうと、生み出されてから変わることは無いわ」

 

「私も!」

 

「「「私達も!」」」

 

 尾張は6人の言葉を聞いて頷きながら問い掛ける。

 

「なら……貴女達の立脚点を聞かせて?」

 

『『『星条旗の元に自由の国の大地と国民を守り、それを害する敵を粉砕する!

星条旗よ永遠なれ(Stars and Stripes Forever)!アメリカ海軍万歳!』』』

 

 そんな様子を提督二人は、大方の打ち合わせが済んだところで見物していた。

 

「尾張君は発破が上手いな」

 

「ええ、流石英雄が乗った艦なだけはあります。

異世界の彼女の艦長も鼻が高いでしょうな」

 

「さて、詰め将棋の行程は大体出来た。

こういうイレギュラー要素が大きいときは、あまり完璧を求めては万が一の時動きが硬くなってしまう」

 

「あとは尾張君と利根君、そして艦娘達の力を信じましょう。

我々はもしもの時に備えて各方面に連絡するしかありません」

 

 迫り来る危機の中、二人の提督は人事を尽くして天命に全てを任せた。




なんとか1ヶ月以内に投稿する事に成功、この調子を続けたい所存です。
次回には超兵器二人との顔合わせと前哨戦、次々回には再びステビア海超兵器戦、その次に再び日本海超兵器戦へと場面を移したいですね。
両超兵器戦は話数としてステビア海を1話、日本海を2話でやるつもりです。

そして感想ありがとうございます。
誤字報告も評価もどんどんして頂けるとありがたいです。
それでは次回にお会いしましょう。


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日誌二十五頁目 双頭と双角の巨人

すみません大幅に遅れてしまいました。
夏イベ前には投稿したかったのですが仕事が忙しく筆が進まず、そのまま夏イベにずれ込んでしまいました。
燃料……残り僅か、しかし犠牲にしただけの成果はあった。
(意訳:燃料が22万から1万まで減ったけど伊26とAquilaゲットしたよ!)


 

 

 

 

 

 初夏を迎えつつも、未だに寒さを携える宗谷海峡。

 最新の観測結果により、超兵器艦隊は間も無く此処に到達するであろうと言う、確定情報が入ってきた。

 尾張も利根もあえて真正面から正対する位置に陣取り、駆逐艦娘や巡洋艦娘は岩陰に隠れ、留守番役の戦艦や軽・正規空母組もその持てる火力を叩き込もうと刃を研いでいる。

 アメリカの駆逐艦娘達も支援の為に煙幕の展張準備をし、アラスカ級の姉妹は30.5cmと言えどもSHS(Super Heavy Shell)を装填し、付け焼刃程度のものであるが火力面では補強されている。

 とは言ってもハリマの甲板装甲も対100cm防御を想定してあり、もう一方の超兵器に何が来るかでその運用を変えなければならない。

 奇しくも尾張が今この海に居る艦娘の中で一番の情報処理能力を持っており、加えて最前線に出なければならないと言う矛盾した状況を捉えていた。

 

「さて……鬼が出るか龍が出るか」

 

「どちらにしても物騒な事には変わりないのぅ……。

と言うよりも、これから我輩も超兵器と相対する事を思うと……」

 

「緊張しますか?」

 

 利根の言葉に尾張は余裕綽々と言った雰囲気で問いかける。

 艦暦の長さでは若輩者だが、その実戦経験は世界中にいるどの艦娘よりも多く、特に対超兵器戦でこれほど頼もしい艦娘はいないだろう。

 

「緊張などしておらん!……と言いたい所じゃが、強がりを言っている場合でもないからのぅ。

じゃが、南方に言った筑摩の帰る場所を守らねば、姉としての面子が立たぬ」

 

 そう威勢よく言う彼女ではあるが、利根の足元を見ると膝から下が少しばかり震えていた。

 だが尾張はあえてそこを指摘せずに「そうですか」とだけ言い前を向く。

 海面が静かになる。先ほどまで鳴き声を上げながら飛んでいた海鳥は姿を消し、水中聴音機が拾っていた海洋生物の鳴き声も聞こえなくなる。

 

「……来た」

 

『偵察機より報告!

超兵器艦隊は現在宗谷海峡から70kmに到達!』

 

 70kmはハリマの主砲の最大射程60kmより10kmほど余裕がある。

 咄嗟に動けるように尾張に搭載された原子炉が全力運転状態へ移行した。

 加圧水型原子炉で核分裂反応が起こり、沸騰した水から発せられる高温高圧の水蒸気が発電用と動力用タービンを回し、冷却材となる海水を貪欲に吸い込み、発生した莫大な熱含んだ水蒸気から熱量を吸引、再び水に戻して再び原子炉へと送り込む。

 原子炉内部から移された熱量を含んだ海水は再び海に流され、海のほんの一部を高温にした。

 

「前方に展開する超兵器艦隊へ、こちら日本国防衛省大本営所属の戦艦尾張である。

貴艦隊は現在日本国の領海を侵犯しようとしている。

直ちに西進を中止せよ」

 

 尾張が相対する超兵器艦隊に通信を送る。

 完全に敵対関係にある超兵器に対し、必要ない行動だが尾張の過去を知る艦娘達はそれにある可能性を見た。

 つまり敵対心を自らに向け味方への被害を少なくすること、その為だけに先ほどの通信を行ったのだが、超兵器以外の艦艇が停船し超兵器2隻のみが前に出てきた。

 

「何のつもりじゃ?」

 

『こちら日本帝国海軍、超兵器ハリマ……久しぶりと言えば良いかな?尾張よ。

こうして言葉を交わすと言うのも新鮮だな』

 

利根が怪訝な顔をするとハリマからの通信が入る。

落ち着いた声音と口調、そして確かな威厳を持って語りかけてくるハリマの声に、尾張以外の艦娘は緊張する。

 

「ええ、私の主観時間では半年くらいですか」

 

『お前からすれば我々との再会はそうなのだろうな。

だが、こちらからすればつい先日沈められたと言う認識だ」

 

「確かにそうなりますね。

ですが貴女方の目的はこうしてただ世間話をしに来た訳ではないのでしょう?」

 

『そうだ。

我々は、あのシュトルムヴィントを降した敵を撃滅しに来た』

 

 はっきりと尾張に対する闘争心で埋め尽くされた言葉だが、それと同時に言外にその他の艦娘は我々の敵ではないという宣言でもある。

 

「おーおー、建造されて1年ばかりの若造が吼えおるのう」

 

『貴様は誰だ?』

 

利根の啖呵にハリマが尋ねる。

 

「我輩か?我輩は利根型重巡洋艦改め、利根型航空巡洋艦の利根である!さっきから若い者同士で吼えあいおってからに、微笑ましい限りじゃのう」

 

 ふふんと利根は相手の顔が見えないのを良い事に、言いたい放題を言っているように聞こえるが、尾張が再びその足元を見れば膝がガクガク震えており脂汗が垂れている。

 口だけではなく練度も尾張から見れば十分なのだが、やはりこうして矢面に立つのは慣れるしかない。

 それでも少しでも尾張に負担が出ないようにこうして強気で出ているのだ。

 ……しかし。

 

『ほほう?』

 

『これは大先輩からのお誘いだなハリマ、どうする?』

 

『確かに艦暦では先輩だが、『こちら側』ではまだハイハイから卒業したばかりの幼子だ。

第一を尾張、第二に利根としよう』

 

 利根の目論みは看破された。

 いや、最初から相手にもされてはいなかった。

 確かにスキズブラズニルで改修され、尾張とは戦力面でほぼ同等となっただろうが、どうしても対超兵器戦では尾張の方が何歩も前に出ている。

 超兵器の二人はその練度の差と言う、不確定且つ決定的な差で優先目標を見定めた。

 

「受けて立ちましょう。

1対2だからと言って油断していると痛い目を見ますよ?」

 

『それはこちらもだ……そろそろこれを外すぞ?』

 

『ああ、貴様の双角を見せてやれ、アラハバキ』

 

 先に放ったハリアーからの映像で、その布に包まれた長物が姿を現す。

 それは二つ連なった細長い円錐状の物、だがそれは所謂馬上槍などと言うものではなく、螺旋状工具の様な外見……つまりドリル状の物だった。

 続いて艤装の保護パーツの様な部分も爆発ボルトで吹き飛び、そこには丸鋸が両舷側に二つずつ並んで配置されていた。

 

「アラハバキ!」

 

『遠近両方そろえた波状攻撃、私の衝角をその身に受けるが良い!』

 

『艦隊前へ、此処で我等の最大の敵を屠る!』

 

 尾張が身構える。

 アラハバキが持つ巨大なドリル型衝角(ラム)が二つに割れ、艤装の丸鋸が起動し突撃体勢に入る。

 ハリマがその巨砲を尾張へと指向させる。

 およそこの世界の人類史では見られない奇想天外な海戦が勃発しようとしていた。

 

「北条提督、奴らの狙いは私に集中しています!

私はこのまま戦闘に入りますが、構わず魚雷を撃ってください!」

 

『しかしそれでは君が!』

 

「私は大丈夫です!

たとえ魚雷が二桁来てもCIWSで薙ぎ払えます!」

 

 実際以前の演習でも吹雪からの9本、利根からの6本の新型超音速酸素魚雷に襲われても、尾張は難なく対処して見せた。

 そして現在この海域で展開している多くの艦娘が装備している魚雷は、吹雪と利根が装備している魚雷よりも雷速が遅い、それに尾張自身の速度もあり命中までの所要時間に余裕がある。

 

『っ、駆逐艦・巡洋艦娘は直ちに作戦を開始!

空母・戦艦部隊も援護攻撃に入れ!』

 

 海峡幅が狭いところで約42kmの宗谷海峡、そこの岩場などに隠れていた駆逐艦・巡洋艦娘達が躍り出る。

 海峡のど真ん中へと進もうとする超兵器艦隊に、主砲発砲などの余分な事はせずに皆一斉に魚雷を射出し、すぐさま岩陰に隠れそこにある魚雷を再び発射管に詰め直し、初春型などの次発装填装置を備えた艦娘達は、先ほど撃ったのとは別の角度に回り込み、再度魚雷を放とうとする機会を伺っていた。

 そして尾張と

 

『なるほど、狭い海峡部を利用した統制魚雷攻撃か』

 

『だが我々にも備えはある』

 

 現在日本本土で待機している駆逐艦が全て発射した魚雷は総計で4桁手前までに上り、魚雷が接近している事に気付いた超兵器艦隊は回避行動に入る。

 同時に機銃や副砲によるハードディフェンスも展開し、接近してくる魚雷をなんとか減らそうとするが、目標は水中で雷跡も見えにくい酸素魚雷な上に、減らしても後から次々と迫ってくるので効果は今一つであり、当然の帰結として超兵器護衛艦隊はその酸素魚雷の洗礼を受ける……その筈だった。

 

『諸元入力完了、VLSハッチ開放』

 

『ガトリングシステム及び噴進砲の準備も開放した』

 

『『この程度で我々を止めれると思うな小娘共』』

 

 超兵器の近接武装が火山の様に火を噴く。

 88mmと127mmの砲弾が薙ぐように水面を叩き、接近していた酸素魚雷の大部分を破壊し水の壁と共に巻き上げられ、残った酸素魚雷は多目的ミサイルと噴進砲により阻止される。

 勿論全てを破壊したわけではないが、それでも魚雷による包囲網はズタズタに引き裂かれていた。

 

『回避行動に十分な隙間が出来たな』

 

『ではこれを行った悪戯娘達に躾をするか』

 

「こちらを忘れてもらっては困ります!

第1から第4主砲!目標、敵護衛艦隊群!射程内に入り次第発砲開始!」

 

 急速前進を駆使して尾張は射程内捕えようとに接近を開始、次第に相対距離が近付いてくると発砲する。

 砲弾重量が2t近くにまでなる砲弾が、光学兵器を十分に搭載できる戦艦と重巡洋艦に降り注ぎ、その体躯を押し潰し粉砕する。

 中には弾薬庫を抜かれた者も居り、艤装が爆ぜると同時に発生した炎と煙が晴れると、その姿は何処にもなかった。

 全ては発砲遅延装置によって可能になった高々精度の賜物であり、これほどの巨弾を相手の横幅に納めた砲撃を行えるのは、後にも先にも恐らく尾張だけだろう。

 相対距離が互いに水平線から体を出す所まで近付くと、生き残った護衛艦隊からミサイルとレーザーの同時攻撃が開始され、レーザーは光の速さで尾張に到達し電磁防壁にはじき返される。

 

(な、なんという光景じゃ!これが尾張が何時も見ていた戦場だとでも言うのか!?)

 

 それを尾張の後ろから付いてきた利根が心の中でそう思わざるをえない。

 演習で尾張からの驟雨の如く攻撃を受けていたが、今回は攻撃力においては尾張と同等の力を持つ敵性艦隊との交戦であり、しかも今回は電磁防壁をつけなければ有無を言わさず艤装を貫通しかねない、そんな威力を持った光学兵器による攻撃を同時に受けているのだ。

 1発1発が致命傷になりうる暴力の波を見て、利根の精神力はガリガリと削られていきこの場から逃げ出したい気持ちになる。

 だが自分の前で弾除けとなってくれる尾張を目にすると、自分だけが逃げ出すわけには行かない。後ろには今度こそ守って見せると誓った日本の地があり、何よりも妹が帰るべき母港があるから……。

 

「我輩を……忘れるでない!」

 

 利根が203mmAGS砲を指向させる。

 AGS砲は発展型砲装置と言われるもので、対地対艦攻撃のみに限定されるがその威力は絶大であり、何よりもGPS/INSによって誘導される長距離対地誘導砲弾を撃つ事でその真価が発揮される。

 今回は高速で動く艦船が相手の為、無誘導砲弾による有視界射撃となるが、利根に搭載されたAGS砲は確かに敵を捕えていた。

 

「利根、交戦を開始するぞ!」

 

 速射性こそ吹雪が装備している速射砲より大きく劣るものの、分間10発と言う以前使っていた同口径の20.3cm連装砲に比べれば、実に2倍の発射速度は心強い。

 その計8門のAGS砲から徹甲榴弾が発射され、尾張の主砲では不得手とする駆逐艦などの小型艦へ射撃を開始する。

 対する敵艦隊もやられてばかりではない。

 光学兵器や誘導兵器で先程よりもさらに苛烈に尾張と利根に反撃を開始し、とうとう超兵器も動き出した。

 ハリマの主砲である100cmの巨砲が徐に動き、その砲口は尾張と利根両方に指向する。

 

「っ!ハリマの主砲の指向を確認!利根さん!」

 

「うおおおお!?」

 

 尾張と利根が散開すると同時に、ハリマから既存艦船が受ければ即死級の巨弾が放たれる。

 命中率はさほど問題ではない。では何が問題なのかと問われればその投射量と、副砲として存在している50.8cm砲と45.7cm砲の存在だ。

 100cm砲の存在で隠れてしまいそうになるが、両方とも大和型と同じかそれ以上の威力を持った巨砲であり、利根はおろか尾張にとっても脅威なのは間違いない。

 そんな大艦巨砲主義の権化ともいえる副巨砲群の指向できる砲門から、一斉に砲煙が噴出し遅れて発射音が響き渡り、しかも装填速度は尾張と同等であるため本当の意味で鉄の雨を降らせ、相対した尾張と利根を沈めに掛かる。

 

『ふむ、大口を叩くだけの実力はあるようだ』

 

『確かに新米にしては良くやる……しかし、周囲からの魚雷攻撃もそろそろ鬱陶しくなって来たな』

 

『ああ、護衛艦隊の数も減ってきた。

そろそろ仕掛けるか』

 

 二隻の超兵器がそう言い合うと共に、その巨大な艤装が徐に全ての方角に指向する。

 その行動の意図に尾張は一瞬考え、そして至った。

 

「っ!全ての水雷戦隊へ遮蔽物に隠れて!周りに遮蔽物がない娘は兎に角煙幕を張りつつ後退を!」

 

『全砲門、全力射撃』

 

 尾張とハリマの声が被る。

 そして火山の如き砲火の炎と閃光、全ての兵装から響き渡る轟音で世界から色と音が掻き消された。

 尾張もこうなっては指示を出す余力も、そして利根の安否を確認する暇もなく、ただ己の生存を第一に考え回避行動に専念する。

 そして何分が経っただろうか。閃光と爆音が収まると周りの陸地の地形は文字通り一変していた。

 海岸線は遮蔽物となる岩が尽く均され砂利となり、超兵器周辺には着弾した砲弾と発射時の衝撃波で魚が浮き、射程内にあった平野にはクレーターが出来ていた。

 

『あ、がっ!?』『痛い痛い痛い!』『ちょっと、この娘意識が無い!誰か手伝って!』『無事な人は直ぐに負傷した娘に手を貸して!』『陽炎型は無事!?』『あんな巨砲をこんな短時間で滅多打ちって出鱈目よ!』

 

 そして尾張の耳には被害を受けた艦娘達の悲鳴と怒号が聞こえてきた。

 かなりの被害が出ているようであり、こちらが把握しきる前に超兵器からの通信で被害状況を聞く事になる。

 

『地均し完了、だが思ったほど与えた被害は少なかったな』

 

『見たところ大破12、中破30、小破は大破中破合わせた数と同等か少し多いくらいだな。

直前のあいつの指示が功を奏したと見える』

 

『しかも被害も少ない即興の旗艦としては上出来だな。

やはり此処で沈めるべきだ』

 

 そして当の尾張は瞼の上に擦過傷を作るだけで被害を抑え、利根も尾張に攻撃が集中していたお陰で無傷である。

 

「くっ……艦娘型になっても流行り手強い……」

 

『それはこちらの台詞でもある。

相変わらず巧みな操艦、天晴れ見事』

 

「貴女方に褒められても嬉しくない!」

 

 尾張が叫ぶと同時に51cm砲が火を噴き、残っていた2隻の大型艦を撃沈する。

 小型艦も利根が既に片付けており、残るは超兵器2隻のみとなった

 

「これで貴女方の手数は無くなった。

ここからは巨人殺しの時間です!」

 

『確かに古来より巨人を倒すのは英雄の仕事だが、果たして貴様は再びその英雄と成れるかな?』

 

 互いに射程圏内に捕らえ、砲撃戦が再開される。

 尾張は増速した速力と急旋回で、ハリマとアラハバキの砲撃を避けながら撃ち返し、利根も尾張に続いて艦載機を発艦させながら距離を詰める。

 

「酸素魚雷をくらえぃ!」

 

 まだ距離はあるが必殺の酸素魚雷を放ち、再び回避行動に専念する。

 魚雷の再装填までの時間を回避に専念して稼ぎ、少なくなった弾薬は近場に浮いている弾薬箱から接収する。利根が出来ることといえば尾張を少しでも有利に戦わせる事だ。

 だがその尾張もハリマ相手では分が悪く、アラハバキも接近すればドリルや丸鋸の脅威があり、下手に近付けずに遠距離戦による削り合いの様相を呈している。

 砲弾が飛び交い、利根が発射した魚雷の迎撃の為に大口径ガトリング砲が火を噴き、艦載機による航空攻撃やそれを迎撃する為の防御砲火も激しさを増したところで、日本側の航空母艦娘達が放った航空機が遂に超兵器上空に到達した。

 奇しくも尾張と利根に注視していた結果、対空警戒を失念していたのだ。

 

『601空の皆、いっけぇー!』

 

『空母航空隊の皆頑張りやぁ!』

 

『ここで負けたら南方に行った皆に顔向けできない!』

 

『第一線は他の子達に譲りましたが私も航空母艦、侮られては困ります!』

 

 雲霞の如く押し寄せた航空機達は、その持てる火力をアラハバキとハリマへ強かに打ち付ける。

 火炎と硝煙、水柱が文字通り二隻を覆い尽くし、誰もが多少なりとも打撃を与えたと確信して疑わなかったが、尾張だけは何時でも回避行動を取れるよう慎重に接近する。

 

「ほう、尾張達に目を向いていた隙を付かれたか」

 

 煙の中からそんな声が漏れ出てくる。

 尾張は次に来るであろう事態に備え、原子炉の稼動率を最大にまで引き上げる。

 そして砲撃と共に黒煙は薙ぎ払われた。

 

「さて、気持ちの良い物を貰った礼だ。

この海域に居る尽く、全て私の前に跪いて貰う」

 

 そこには艤装が燃え、頭から血を流すハリマの姿があった。

 艤装は少し凹みはあるが原型を保っており、火災も直ぐに消化される。

 彼女が持つ対100cmは、大和型が数回撃沈される航空戦力を耐え抜いたのだ。

 そしてハリマの影からは、アラハバキの無事な姿も確認された。

 

「まずは尾張、貴様の艤装を剥がさせて貰う」

 

 アラハバキがドリルを起動させながら言い放ち、ハリマも尾張に主砲を向ける。

 嘗てない戦火が、日本海を薙ごうとしていた。




さて、今回で日本に来た超兵器2人の種別が判明しました。
皆様の予想は当たりましたでしょうか?
当たった方にはマガモを1年分贈呈いたします!(キュピピピピピピピ

改めて投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次話は夏イベを終わらせてから着手いたします。
そして今回から開示できる質問などに返信をしたいと思います。
ではまた次回にお会いしましょう!


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日誌二十六頁目 ステビア海の死闘

今年初めての投稿なので初投稿です。
すみませんごめんなさいだから魚雷構えないで!


 

 

 

 

 宗谷海峡での戦闘が始まると同時刻、アンズ環礁を越えステビア海に到達した大鳳の鋼・装備であるジェット艦載機達を出迎えたのは、ミサイルアラートのアラーム音だった。

 一体どれほどのイルミネーターを積めばこうなるのか分からないほど、濃密な対空ミサイルの槍衾が形成されている。

 先頭を飛ぶメビウス1は翼を振って散開を合図し、自らはミサイルの雨の中にそのまま突っ込んでゆく。

 指揮官先頭など近代戦術的にはタブーとされる行いの裏には、指揮官を失っても独自の判断で戦闘を行える部下達への信頼の証でもあり、さらにはメビウス1がこの中でも抜きん出て高機動戦闘が上手いパイロットだと言う、裏打ちされた実力からだ。

 他の機体が回避運動をする中で、メビウス1はヨー機動を交えながらバレルロールを2回行った後急降下、ECMとチャフをばら撒きつつミサイルを起点にして円を描くように引き起こす。

 ミサイルはメビウス1の機動に付いて行けず、僅か後方を通り抜けてそのまま海面に墜落するか、僅かに捕えた近接信管が炸裂し破片が機体を貫かない程度に機体を叩く。

 

「っく、あの機体が邪魔だ。

第1から第2戦闘機中隊、あのF-22に攻撃を集中しろ!」

 

 ムスペルヘイムは自らのミサイルが回避されたのを確認し、忌々しげな口調で隷下の航空機隊にそう下命した。

 その巨大な戦艦部分と同等の大きさを持った航空母艦を、2隻艦首部分で接続しているムスペルヘイムは、その奇天烈な構造故に無尽蔵と言える航空機を内包している。

 だがその自慢の艦載機数も彼のF-22の編隊相手にその総数の6割まで減らされ、そしてまた一息に2機の戦闘機があのF-22に撃墜された。

 搭載兵装数を無視しているかのような攻撃だが、あの機体に搭載されている武装では自分に痛撃を負わせる火力が無いとも思っていた。

 

(所詮は航空機、超兵器たる我に傷など付けれる筈もあるまい)

 

 彼の機体の他にも爆弾や対艦ミサイルで武装した航空機が居たが、左舷の対空艤装群を粗方潰した程度で引き返していった。

 今ここにいるのは打撃力が非力な爆装した戦闘機のみ、しかもステルス機で通常の戦闘機よりも搭載する爆弾の数は少ないと思っていたその時、急にあのF-22が急上昇すると共にこちらから距離を離し始め、僚機達もそれに続いた。

 

「ふん、臆したか」

 

 鼻で嗤いながらムスペルヘイムはF-22の編隊を見上げる。

 念のためレーダーにも注視し、相変わらずすごい勢いで上昇を続けていたが、やがて限界高度まで到達したのか失速しないように旋回を始めているようだ。

 

「ふん、他愛も無い」

 

 そこでムスペルヘイムはレーダーから目を離し被害状況を確認する。

 先ほど確認したとおり左舷の対空砲群はほぼ全滅、幸い機銃程度なら直ぐにでも修復できる。

 問題は高角砲群でこれが殆どやられているため、一度軍港に寄って直すしかない。

 そして肝心の空母部分との接続索だが、これも対して被害は出ていない。

 

「さて……どうするか」

 

 こちらの航空隊はあのF-22部隊による奮戦で壊滅状態だ。

 もはや航空戦力で対する2隻を屠るのは難しいと言わざるを得ない。

 

「ならばこちらから出向くまで」

 

 自らの砲撃で沈めようと機関出力を上げ増速させる。

 だがムスペルヘイムは一旦去った敵の航空隊を確認しようと、対空レーダーに注視し信じ難い物が目に入る。

 それは先ほどまで遠方に行ったと思っていたF-22の部隊が、急速に接近している反応で、その位置は既にムスペルヘイムの直上付近であった。

 

「なんだと!」

 

 上方に顔を向けるムスペルヘイム、だが既にF-22の編隊は機体を反転させ効果を開始し始めたところだ。

 

「対空迎撃!」

 

 何故ここまで接近されるまで気付かなかったのか。今はそれを思案する暇もないほどに迎撃の準備を進めるが、彼の編隊はさらに常識外の事をし始める。

 飛んできた速度そのままに、急降下を開始したのだ。

 その意味不明さに、自殺行為とすら取れる行動にムスペルヘイムの思考は固まる。

 それが致命的な隙となった。

 マッハ2以上で急降下するF-22はウェポンベイを開放し、自機が出せる最高速度でGBU-40小型装甲貫通爆弾(SDB)を、全機搭載可能数である8発を放った。

 総計96発のSDBがムスペルヘイムの空母部分と対空陣地に殺到し、その分厚い装甲を自前の貫通能力に放たれた時の速度が重なり、十分過ぎる貫通能力を持っていた。

 タングステンで出来た貫通弾頭が装甲を貫き艤装の奥深くまで潜り込み、作動した遅延信管が約23kgの高性能爆薬を炸裂させ柔らかい内部を蹂躙した。空母部分の艤装は誘爆した弾薬と航空機燃料で甲板を殆ど吹き飛ばし、対空兵装があった艤装中央も対空砲弾などの弾薬の誘爆でその殆どが壊滅した。

 

「かっ……は?!」

 

 余りの被害が激痛と成ってムスペルヘイムに襲い掛かり、意識を失いかける。

 人間で言えば紙飛行機を飛ばす両腕と背中の皮が丸々削がれた様な、人間ならショック死してもおかしくない程の激痛となっているはずだが、それでも気を失わないのは流石は超兵器といったところか。

 

(ば……かな。あれは、この為の助走をつける目的だったと言う事か?)

 

 一瞬薄れた意識の中であの航空隊のしでかした事を考察する。

 確かに機体の運動エネルギーを足せば、その貫通力が上乗せするのは間違いないだろう。だがそれを本当にやろうとし、尚且つ部隊単位でそれをやる馬鹿が本当に居るとは思わなかった。

 

「くっ、くかか」

 

 笑う。

 

「くはははっ」

 

 嗤う。

 

「良いだろう」

 

 一頻り笑ったところでそう宣言し、馬車を引く馬のように前に突き出した二つの空母部分との連結を切り離し、戦艦部分が無用の長物と化した空母部分を押し分け前に出る。

 

「小細工は抜きだ。

真正面から蹂躙する」

 

 その顔に微笑を浮かべ、未だに燃え続ける艤装をそのままにムスペルヘイムが海原を突き進む。

 その様は煉獄の炎を引きつれ進む炎国の名を冠したそのままに、前の世界で自分を屠ったあの戦艦と同等の戦闘力を誇る相手等と合間見える為に。

 ムスペルヘイムが目の前に小さな人影……、レーダーや艦載機のカメラ越しでしか確認できなかった吹雪を捉えたのは、ちょうどそんな時だった。

 

「……ようやくと言った所か。すまないなこのような無様な姿で」

 

「いえ、私達(軍艦)は例え相手が敗残の船でも、降伏しないのならば常に全力で相手をするだけです。

例え貴方が今の姿を無様だと言おうとも、私は貴方をここで必ず倒します。

2対1での戦いに持ち込み、卑怯だと罵られても」

 

 吹雪はそう言い放ちながら武装を構える。

 だがムスペルヘイムは吹雪の言葉を聞き、僅かに目を見開き、そして激情に彩られた瞳に冷静さを戻した。

 

「誰が卑怯などと……これは戦(いくさ)だ。

策を立て、相手の動きを制限し、そして己の全力を相手にぶつける。

例え誰かが貴様を卑怯だと罵ろうとも私がさせない」

 

 ムスペルヘイムが返すと同時に己の艤装を動かす。

 

「それはそうとしてその艤装……貴様は、本当に吹雪型か?」

 

 自らのデータベースにアクセスし、嘗ての同盟国であった大日本帝国海軍の中で、最初期の艦隊型駆逐艦の型名を口にする。

 目の前の存在は姿こそ人型になっているが、背負っている艤装の煙突形状などは吹雪型のそれと同型のものだ。

 

「はい。そして私の艤装を元に尾張さんとスキズブラズニルさんと相談して、この艤装を作っていただきました」

 

「っ、くははは!」

 

 吹雪の言葉にムスペルヘイムは一瞬目を見開き、そして口が裂けんばかりに大きく開いて笑い出す。

 吹雪は突然笑い出したムスペルヘイムに驚き思わず身構える。

 

「ははは!どうりで先ほどの貴様の戦闘、そしてあの艦載機が出鱈目だった訳だ!

そうかそうか、あいつらがこの世界に来ているのか!ははは!」

 

 今までムスペルヘイムは惰性でこのステビア海で跋扈していた。

 吹雪や大鳳が来る前に相手にした戦艦水鬼も彼女にとっては、凡百な他の艦艇より少し毛が生えた程度の存在だった。

 だが目の前に居る駆逐艦は違う。

 確かにこちらの航空戦力はあちらの空母にしてやられはしたが、徒党を組むわけでも、策を弄するわけでもなく、持ち前の戦術と力のみで自らの目の前に立っているのだ。

 嘗て相対したあの戦艦のように……。

 

「ならば、超兵器として全力で相手をせねばなるまい」

 

 その言葉と共にムスペルヘイムの船体から黒煙が消え、その玉座が再び顕わになるとそこにあったはずの損傷が無かった。

 どうやら黒煙に紛れて修復を行い、吹雪と会話する事で修復時間を稼いでいたようだ。

 

「この短時間で!?」

 

「『向こう側』のダメージコントロール技術、舐めてくれるなよ!」

 

 ムスペルヘイムの兵装が吹雪に集中する。

 

「っく!」

 

 次に来る猛攻に備え吹雪も機関出力を上げ、予測射線軸から退避したそこへムスペルヘイムの主砲弾が着弾、衝撃波と水柱に揉まれながらも吹雪はムスペルヘイムからの攻撃範囲から離脱する。

 ムスペルヘイムは追撃として吹雪に対し、ミサイルと副砲である30cm噴進砲と40mmバルカン砲群による飽和攻撃を開始した。

 対する吹雪もミサイルに対してはCIWS、そして持ち前の高速機動で副砲の弾幕を回避する。

 

「ふはは!やはり我々の戦いはこうでないとな!」

 

「くうぅ!」

 

 副砲は低速のロケットとは言えど、その口径は旧型の戦艦並みの大きさがあり、バルカン砲も対10cm装甲を持っている吹雪とは言え、油断して連続で受ければ只ではすまない。

 吹雪の耳には立ち上る水飛沫の音と共にバルカン砲の高速徹甲弾が通り過ぎる音が鳴り響く。

 視界は効かないうえに音まで拡散されている状況だが、吹雪は迷うことなく急加速と急後進を繰り返し行い、相手の予測射線から自身をずらしながらムスペルヘイムに接近を試みるが、バルカン砲の制圧射撃で思うように行かなかった。

 

「中々避けるものだ。ならばこれはどうだ!」

 

「きゃあ!?」

 

 ムスペルヘイムの声と共に甲板上に光が集まり、ムスペルヘイムに新たに搭載された光学兵器……βレーザーが放たれるも、吹雪に装備された電磁防壁により弾かれる。

 だが吹雪にとって始めての大規模レーザーによる攻撃でもあり、その威光を見て一瞬怯むには十分であった。

 

「そこだ!」

 

「あっ……が!」

 

 ムスペルヘイムの主砲が吹雪の艤装を抉る。

 幸い過貫通で炸薬の炸裂は免れたが、それでも無視できないダメージが吹雪に入る。煙突が根元から折れ曲がり、排気が困難になってしまう。

 

「まずっ」

 

 吹雪は煙幕を展開し、微速での前進をさせながら応急修理を開始させる。

 尾張が搭載している原子炉ならこのような事をしなくてもいいのだろうが、生憎と吹雪が搭載しているのは駆逐艦用ボイラーなのだ。

 排気が間に合わなければエンジンの出力を落とさざるをえなくなる上、下手をすれば機関部に深刻なダメージを負う原因になりかねない。

 しかも煙幕を炊いているとは言え、あちらはレーダーを搭載している可能性は大いにあり、大まかな位置を特定されて集中砲火を浴びせられれば、今の吹雪に太刀打ちできる目は無い。

 

「それにしても暑いなぁ……」

 

 吹雪は唐突に暑さを感じ、額から流れる汗を拭う。

 表示されるレーダー画面でムスペルヘイムを注視しながら……。

 

 

 

「見つけたぞ」

 

 表示されるレーダーレンジに吹雪の影を捉え、ムスペルヘイムは主砲の砲門をそちらに向ける。

 先ほど吹雪が感じた暑さは、ムスペルヘイムがレーダー波の照射範囲を絞って行った結果に過ぎない。

 

(だがレーダーで捉えれても精確な位置が分からなければ無駄弾になるな……)

 

 先程の弾薬庫誘爆で弾薬が2/3まで減ってしまい、更に修理用の資材も殆ど使ってしまった。

 そしてここで吹雪を打倒しても、後方からあの化物艦載機を放つ空母が居る。

 途中で遭遇するであろうそれら艦載機への対処も含めて、余り無駄な弾薬の消費は抑えたい所だ。

 尤も、現状の弾薬量でも尾張の十数倍の弾薬が残っているのだが……。

 

「各砲座、敵駆逐艦へ指向……フォイエル!」

 

 出来る限り兵装の照準に狂いを出さないように照準を絞る為に速度を落とし、吹雪の精確な場所と距離を測るため電算機が貪欲に電力を消費し、照準に全メモリの8割を使って位置の割り出しに使い、必殺の弾幕を放つ。

 ……だからこそだろう、煙幕の中から飛び出してきた。敵駆逐艦にとっての最大の一撃を見落とした。

 

「っな!」

 

 叫びを上げる暇も無く新型超音速酸素魚雷9本がムスペルヘイムを捉える。

 巨大な水柱に見合った爆圧に船体の装甲が歪められ、そこにタングステン製のフレシェット弾が外郭を貫通し、そのまま隔壁を貫く。

 歪められ穴を開けられた外郭が元に戻る衝撃で、開いた穴から亀裂が入りそのままゴッソリと装甲に穴を開けられ、内部構造を露出させた。

 主砲の弾薬庫にも被害が及んだのか、一瞬砲塔が浮かび上がるほどの爆発が起き、その内圧に押されて艤装のあちこちから爆炎が飛び散り、船体を引き裂く。

 内部構造も最早原形を留めていないであろう。

 

「アッ……ガ……ギ……」

 

 超兵器と言う中枢人格を司るムスペルヘイム自身も、その強烈な痛みから一瞬気を失いかけるが、済んでのところで踏みとどまる。

 ムスペルヘイムの艤装は先程とは比べ物にならない損傷を負い、超兵器機関もフレシェット弾と二度に渡る弾薬庫誘爆によりズタズタに引き裂かれ、最早戦闘継続は不可能であると悟った時、青空にキラリと何かが反射する物体が殺到する。

 それは大鳳で1000ポンドJDAMを2基搭載し、超音速巡航で舞い戻ってきた11機のF-22であった。

 

「はは……、超兵器航空戦艦であるこの私の最後はこれか……」

 

 ムスペルヘイムの乾いた笑い声に応えるように、青いリボンのエンブレムを付けたF-22からJDAMが放たれる。

 22基の1000ポンド爆弾を基にした誘導爆弾が、船足が落ちきったムスペルヘイムと言う巨大な的に、狙い過たず命中した。

 

―――ああ……、結局奴に復讐戦を挑めなかったな……―――

 

 最後にその想いだけを胸に、ムスペルヘイムは今度こそステビア海にその巨大な爆煙と爆風を撒き散らし、海底へと没した。

 

 

 

「やった……のかな?」

 

『はい、敵超兵器の撃沈を確認、作戦成功です。

 しかし流石吹雪さんですね!最大の切り札を見事当ててくれたお陰で、こちらも攻撃がし易かったです』

 

「あはは……、それでもこっちはズタボロですけれどね……」

 

 吹雪はそう応えながら自分の艤装を見る。

 最後の弾幕は吹雪の至近を掠めるように放たれ、その大半が外れていたがそれでも吹雪は中破程度の損傷を負った。

 僅差で放ち終えた魚雷発射管は全て吹き飛び、折角修理を終えた煙突も今度は根元から消し飛んでいる。

 咄嗟に身を翻していなかったら、吹雪自身も被弾してもおかしくは無かった。

 

 

 

―吹雪さん、貴女は確かに体躯が小さく防御力が余りありませんが、それに余りある打撃力と速力があります。

 それにあわせて煙幕によって光学的な照準を無効化させ、相手に電子機器に注力させ、反撃の隙を作るのも手でしょう―

 

 

 

(尾張さんの言うとおりに出来た……)

 

 対超兵器戦の師である尾張の助言通り出来た事に、自身の手で超兵器に致命傷を負わせれた事に自信が芽生える。

 

(もう、私はあの時の私じゃない!)

 

 

 

 

 

「そう、分かったわ。

 大鳳と吹雪ちゃんは、そのままアンズ海峡攻略隊と合流して戻ってきて頂戴……あ、ドロップの回収も忘れないでね?

 ……ええ、お疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね。それじゃ」

 

「なんとか一段落と言った所だな」

 

司令室に様々な声が響く中、通信を切った筑波に鍋島が声を掛ける。

 

「はい、ですが……」

 

「うむ、まさか本土で二度目の襲撃が来るとわな……」

 

 二人の視線の先には北海道近海の概略図があり、そこに新たに現れた2隻の超兵器と尾張と利根、そして留守番組の死闘を表す表示が示されていた。

 

「うちの娘達、無事だと良いのですが……」

 

 朝倉提督の心配する声が筑波の耳に入る。

 だが……。

 

(大丈夫、尾張と利根、それにうちの留守番組がそう簡単に負けるわけが無い)

 

 淡々と進行する状況に、何も出来ない自分の無力さを筑波は味わっていた。




はい、と言う訳で仕事で忙殺されたり、スランプに陥ったりしましたがなんとか投稿できました!
1年待たせてこれだけ?とか言われてもしょうがないですが、次話は今年中での投稿を目指します。


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日誌二十六頁目 日本海鳴動②

お待たせしました。


 

 

 

 

 

『こちら自衛隊のヘリコプターからお送りしております!

 凄まじい砲撃の音と煙で、普段は静かな宗谷岬沖は今戦火の真っ只中にあります!

 海上では艦娘達と超兵器艦隊との戦闘が今も続けており、自衛隊でもこれ以上は近づけないとの事です!

 岬付近には艦娘達への補給物資が集積されておりまして……あ、艦娘達がこちらへ戻ってきました!なにやら慌てて上陸している様子ですがどうしたのでしょうか?!』

 

『撮影中失礼します!

 敵超兵器からの無差別発砲を確認しましたので、当機はこれより現エリアから離脱します!

 皆様はしっかり捕まっていてください!』

 

『着弾まで残り40秒前、当該区域のヘリ及び観測部隊は直ちに離脱せよ』

 

『こちらペリカン03了解、直ちに離脱する!』

 

『きゃあ!』

―ドアが閉まる音―

 

『急げ急げ!』

 

『これで全速力だよ!』

 

『着弾まで10秒前……5秒前……3……2……1……今っ』

 

―爆発音―

 

 

 

 

 

「う……」

 

「雪風、気が付いた!?」

 

「あ、陽炎お姉ちゃん……っ!」

 

「流石の幸運艦やなぁ。アレだけボコボコに撃ち込まれても擦り傷と気絶で済みよるんわ」

 

 陽炎に起こされた雪風が見たのは、ハリマとアラハバキの砲撃で荒地になった宗谷岬であった。

 日本最北端の碑や岬付近にあった空き家屋も、まだ一般の車が通行可能な程度に荒れた道路も砲撃によって消し飛んでいた。

 そこには嘗ての観光地点としての面影は無く、ただハリマと言う超兵器の破壊力の凄まじさを、雷撃が出来る重巡洋艦以下の艦娘達にその恐怖を植え付けるには十分過ぎる光景が広がっている。

 

「あっちこっちでほかの娘達が埋まっていたりしてるけど、まだ情報連結が繋がっているから息はあるわ。

 その後がどうなるか分からないけれど、艦娘である限り高速修復剤が効く。

 少なくとも日常生活に影響は無いけれど、下手すると精神が戦場を寄せ付けないでしょうね」

 

 そう言う陽炎も組んでいる腕や肩が震えていた。

 あれだけの砲撃を受けたのだから無理も無い。

 雪風のように砲撃地点の中心に居なくても、何時こちらに砲弾が降り注ぐかわかったものではないからだ。

 

「無事な娘はすぐに再度雷撃の準備をして!」

 

「大破や中破した娘はヘリで後方の入渠施設へ移送、小破未満の娘は補給して再出撃の用意!尾張さんと利根さんを見殺しにしたくなかったら早く!」

 

 留守役の重巡達が指示を飛ばし、砲撃を目の当たりにして震える艦娘達に激を入れる。

 先ほどの砲撃で皆半ば恐慌状態に入っているが、雪風や坊ノ岬・レイテ沖組は同じ想いを胸に抱いてすぐさま行動を開始する。

 

(また何も出来ずに旗艦を失うなんて、そんなのもうコリゴリです!

 だから尾張さん、戻るまでなんとか持ちこたえてください!)

 

 脳裏に移るのは止め処なく迫り来る敵機に対し必死に応戦するも、結局旗艦たる大和を守りきれなかった自分の姿。

 

(もう、あんな無様な姿は晒したくないです!)

 

「陽炎型のネームシップが妹に先を越されたんじゃ立つ瀬がないわ!皆行くわよ!」

 

「夕雲型だって負けてなるもんですか!主力オブ主力の力を超兵器たちに見せてやりましょう!」

 

「小さな損傷でも命取りになることもあるけれど、朝潮型も補給が終わり次第出るわ!」

 

 一気に息を吹き返した駆逐艦達を見て、他の艦娘達もそれに続くように補給を開始する。

 

『こちらアメリカ遊撃艦隊旗艦アラスカ、これより第二次雷撃の露払いとして突撃を開始する。

 甲板や舷側は抜けなくても副兵装や上部構造物に対しては効果は出せるだろう』

 

『榴弾で火災を発生させるのも手ね。

 小中口径の砲を潰せば駆逐艦が突入しやすくなるわ。

 大口径主砲?気合で避けて』

 

『ロングランス貸与されたんだから私達も気張るわよ!日本の駆逐戦隊に負けられますかっての!』

 

『アトランタさん、私達一応お客さんなんだからそんなに気張らなくても……』

 

『まあ一宿一飯の恩もあるし、やらないわけにも行かないでしょ』

 

『兎に角フレッチャー級の性能を、久々に発揮させていただきましょう。

 此処最近のホワイトハウスの引きこもり具合にも飽き飽きしてきましたからね』

 

 そんな中飛び込んできたのはアメリカからの来訪者であるジュノー基地所属のアメリカ艦達であった。

 

『こちらAWACS、尾張と利根がハリマに対し突撃を敢行、遊撃部隊はこれを援護せよ』

 

 

 

「尾張、突撃します!」

 

「駆逐艦達の敵討ちじゃ!よくもやってくれたのぅ!」

 

 尾張と利根が超兵器艦隊に対し突撃を敢行する。

 これまでの戦闘で互いの彼我距離が近付いたのもそうだが、そもそも尾張達と超兵器の速力が速すぎるのもあり、気が付けば接近戦をしていることなどあちら側でも良くあった事だ。

 

「くっ、やはり船の時のように狙えんか!」

 

「こっちに誘導しろ。まとめて串刺しにしてやる」

 

「尾張よ。アラハバキに牽制で魚雷を放つぞ!」

 

「はい!利根さん!」

 

 アラハバキとハリマが尾張達を倒す算段をつけると同時に、尾張と利根も2隻の超兵器に対して至近戦をする。

 ハリマの装甲は利根の魚雷や尾張の主砲弾で強かに叩かれており、すでに溶接部やリベットが剥がれ始めている場所もあった。

 だが尾張の主砲もその砲身が微妙に赤熱し始め、耐久度が限界に近いことを示していた。

 

「っく、利根さん、一旦主砲を休ませます!」

 

「おう、時間稼ぎくらいはするぞ!」

 

 尾張が主砲冷却用に散水を始め、利根は臨時で持たされた四塩化チタンをばら撒き煙幕を張る。

 そして零観を発艦させて超兵器の動向を注視し、砲撃を加えながら尾張と共に退避行動に入った。

 

「おのれぇ……逃がすか!」

 

「……アラハバキ、ここは一度距離を開けるぞ」

 

 飛び立つ零観を見ながらハリマが言う。

 超兵器側もレーダーで尾張達のおおまかな位置を捕捉しているが、利根の魚雷を警戒したためだ。

 それを察したアラハバキも眉間に皺を立てながら後退の準備に入る。

 魚雷を警戒して多数配置されている機銃群が海面を叩くが、煙幕から飛び出してきたのは先程受けた酸素魚雷ではなく、向こう側の世界で解放軍が大戦後期で使い始め、尚且つデータ上でしか存在を知らない新型超音速酸素魚雷が12本、超兵器艦隊に襲い掛かる。

 

「ハリマ!」

 

「迎撃を開始するが各自回避機動を行え!アラハバキ、お前もだ!」

 

「くそっ!」

 

 各ガトリング砲群や機銃を乱れ撃ちするが、予測位置よりも早く進む超高速魚雷に掠りもせず、その巨体故に舵の利きが悪いハリマの至近にまで迫った。

 

「っ!!」

 

 数本がハリマを捉え炸裂し、艤装にフレシェット弾とTNT炸薬の爆圧が襲い掛かり弾薬庫の幾つかが被害を受け、弾薬庫の誘爆による爆発が起こる。

 しかし幾重にも防護した隔壁により、誘爆による爆圧は押さえ込まれ被害は最小限に留まったが、爆発の圧力で甲板装甲が歪になってしまっていたが、ハリマはまだ良い方だった。

 隷下の戦艦や巡洋艦はその大威力に耐え切れずに、その爆圧と金属片と言う刃で艤装ごと解体された。

 

「ハリマ!大丈夫か!?」

 

「なに、少々艤装内で花火大会があった程度だ。

 だが弾薬の損耗が酷くなっている。ここで決着を……っ!」

 

 再び照準をしようと砲門を動かすがそこへ尾張ほどではないが、戦艦クラスの榴弾数発がハリマの甲板に命中し、木製甲板に着火し火災を発生させる。

 

「あっつ?!消火!消火を急げ!」

 

「何処から撃って来た!?」

 

『Hey,monster ship!How about the taste of a 12inch he shell?』

 

『姉さん、もしかしたらロシア語でしか通じないかもしれませんからそちらも』

 

『二人とも必要以上に煽らないで下さい!』

 

 態とオープンチャンネルで通信を垂れ流す犯人、それは約30km先から30.5cmの榴弾を打ち込んだアラスカ級姉妹とジュノーの声だった。

 アラスカ級が装備している30.5cm砲の射程はSHSで約35kmの射程を持ち、それよりも軽い榴弾ならばそれよりも遠くから撃ち出せるが、命中率を考慮してこの距離から撃つ事にしたのだった。

 戦艦としては徹甲弾で大打撃を与えられるよりもう嫌な事は何か?それは艦上構造物や高角砲などの副兵装を使えなくされることであり、それに加えて電気系統にもダメージが入ることである。

 

「ちぃ、今ので高角砲とバルカン砲が……」

 

 消火が終わったハリマの艤装にある高角・バルカン砲群は、ものの見事に叩き潰されていた。無事な所も電気系統の断線が発生したりで、その稼働率は5割近くまで落ち込んでいる。

 大口径副砲群は健在ではあるが、魚雷と航空機への対処手段を潰されたのは痛い。

 

「……アラハバキ」

 

「了解した」

 

 ハリマの声にアラハバキが応える。

 アラハバキが前面に立ち、手に持つ螺旋槍の電源コネクタに艤装から延ばされたケーブルを差し込み、もう片方の螺旋槍を再び繋ぎ合わせると、2本槍が回転を始めた。

 

「……あああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 観測機の存在は分かっている。

 だがそれが観測し情報を伝え、対応される前に突き進む手段がアラハバキにはあった。

 元の船体の後部に装備された大出力のロケットブースター、それが雄叫びと共に火を吹き、アラハバキの速力を通常の45ノットから、先のシュトゥルムヴィントに迫る160ノットをたたき出し、煙幕の中へと突入し……利根を押し出す尾張の姿を捉えた。

 

「極威一迅!」

 

 狙い過たず尾張の胴を穿とうと、アラハバキは2本槍を突き出す。

 

「紀伊型の装甲を甘く見ないで下さい!」

(スキズ、修理はよろしく!)

 

 尾張は左舷側の艤装を自らの体の前に引き寄せ、体を左に捻りながら彼女から向かって右側の槍に押し当てる。左舷側の装甲はアラハバキの重量と速度、そして螺旋槍の回転運動も加わり装甲を引き千切られるが、胴を捕らえるはずだった槍の軌道は大きく逸らされる。

 前世で何度も見た突進攻撃だ。その軌道もよく分かっている尾張だからこそ出来る芸当である。

 

「なに!?」

 

 思わぬ艤装運用にアラハバキは瞠目しながらも、そのまま駆け抜ける。

 

「魚雷発射じゃ!……大丈夫かの尾張!?」

 

「大丈夫です。主砲の弾薬に損害はありませんし、機関部も無事です」

 

 破損した左舷艤装の様子を確かめながら、尾張は魚雷を斉射する利根にそう返す。

 そして利根から放たれた超音速魚雷は、至近距離とも言える位置に居たアラハバキを捉える。

 

「ぐああぁ!」

 

 ハリマより薄い装甲のアラハバキは、超音速魚雷の破壊力をもろに船体内部に伝播させてしまう。だがそれでも元は通常の戦艦の3倍近い大きさを誇る巨体であり、主砲塔が2基ほどクロヒゲの如く飛び出した程度で済んだ。

 自身の最大の特徴であるドリルも、艤装側の幾つかのケーブルが千切れた程度で未だに稼動状態にあるが、舷側の回転鋸は停止してしまっている。

 

「くそ、新参に此処までやられるとは……っ!」

 

『アラハバキ、まだ行けるか?』

 

「舷側の回転鋸は止まったが、メインはまだ生きている。

 加速用のスラスターもな」

 

 ハリマの通信にアラハバキはそう応える。

 実際のダメージは主砲が吹き飛んでいるだけに留まっている。

 だが次の突撃で尾張に接触した際、自らの艤装がバラバラになる可能性がある程度にはダメージが入っていた。

 

『あちらはどうにも人型での戦闘経験に富んでいる。

 加えてこちらの艤装はどれも大柄で重く、動きが鈍くなりがちだ』

 

「だがそれを補って余りある火力と装甲がある」

 

『そうだ。

 ……だからこそお前に頼みたい事がある』

 

「?」

 

 

 

「こちらも大分押されてきましたね」

 

「こっちの戦力の大部分は通常装備の駆逐艦と巡洋艦じゃからなぁ。

 じゃがさっきの砲雷撃で少しは隙も生まれるじゃろう」

 

 魚雷の直撃を受けながらも、突撃後の慣性をそのままに去って行くアラハバキを見送り、尾張と利根はそう言う。

 アラスカ級姉妹の砲撃によりハリマはその中口径以下の副砲を尽く潰され、アラハバキはすれ違いざまに相手にダメージを与える回転鋸を潰された。

 両方の被害は、次の砲戦で耐えられるものではないだろう。

 

「兎も角これで状況は大分よくなりました。

 残る脅威はハリマの巨砲とアラハバキの高速突撃のみ、次の一当てで勝負を決めます」

 

 先ほどまでけたたましかった戦場に束の間の静寂を得る。

 それは次の激闘へ向けた、束の間の静けさであった。

 

「お主の情報では、アラハバキとやらは大気や海水から液体水素と液体酸素を精製して、それを燃焼しているんじゃったな。

 ロケットエンジンを船にそのままポン付けするなどぶっ飛んだ設計をしよってからに」

 

「まったくです。帝国も何故あんな物を作ろうと思ったのか……。

 きっとロシアか日本辺りの技術者が居たに違いありません」

 

「なにやら偏見が混ざっておるが、言いたい事は分からなくもないのぅ……」

 

 利根が頬を掻くと二人は軽く打ち合わせを始める。

 決着は直ぐそこまで来ていた。




煮詰まりすぎて底が焦げたような出来ですがなんとか投稿出来てよかったと思います。
さて、次回には日本海海戦(鋼鉄)に決着が付きます。
ロシア艦娘は……一応2人(3人?)居ますが、登場するのはもう少しあとになりますね。
艦これも1期最後と言うイベントが終わりモラトリアム期間中ですが、まだまだ駆逐艦を中心に未登場の日本海軍艦が多数居ますし、太平洋戦争に関わった欧米艦も多数出て来ていません……これ2期始まると、アメリカ駆逐艦祭りになるんじゃ……(震え声
それでは次回にまたお会いしましょう。


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