セシリアに弟を作ってみた (ウルトラマンイザーク)
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懐かしい夢を見た。姉ちゃんに遊んでもらっていた夢。そんな姉ちゃんも今は日本にいる。

姉ちゃん…セシリア・オルコットは僕を守ってくれた。ISを操れる男子は織斑一夏だけじゃない。僕にも操れる。でも僕は戦うことが好きじゃない。イギリスの名をあげるために政府に代表候補生にされそうになった僕を、そして両親の莫大な遺産を守るため、姉ちゃんがたくさん勉強して守ってくれた。それで、姉ちゃんはイギリスの代表候補生となった。

でも、そんな姉ちゃんも今は日本にいる。これからは僕が一人で生きなければいけない。だから、今度は僕が姉ちゃんを守れるように勉強した。ISの整備士になれるように。そんな僕に政府から命令が来た。

 

『IS学園に転校せよ』

 

あの…僕まだ中二なんですけど……。

 

 

_________________________

 

 

 

一年一組。いつも通りの教室。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

「先生質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

「俺は昨日の試合に負けたんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」

 

と、そんな感じの朝のSHR。

 

「それは…」

 

「それは、わたくしが辞退したからですわ!」

 

がたんと立ち上がるセシリア。

 

「まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それら仕方のないことですわ。それで、まあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして」

 

そこで言葉を切るセシリア。

 

「一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」

 

「いやあ、セシリア分かってるね!」

 

「そうだよねー。せっかく世界で唯一の男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」

 

「私達は貴重な経験を積める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で2度美味しいね、織斑くんは」

 

なんて話してる中、また山田先生が声を上げる。

 

「あの、それともう一つ…転校生の紹介です。入ってください」

 

言われて、教室の扉が開いた。その瞬間、セシリアの目が見開かれる。

 

「イアン・オルコットです。よろしくお願いします」

 

男用の制服、少し長めの金髪。セシリアの弟だ。

 

「オルコット?」

 

「まさか、セシリアの?」

 

「でも、男の子だよね?」

 

的な反応。困った顔をするイアン。その瞬間、セシリアは立ち上がった。

 

「ど、どういうことですの!?」

 

そんなセシリアの頭にスパァーン!と出席簿アタック。

 

「騒ぐな。言いたいことは分かるが後にしろ」

 

「わ、わかりましたわ……」

 

その反応で、「やっぱりそうなんだ!」「でも弟なのに高校生ってどういうこと?」「双子じゃない?」「それにしては身長小さ過ぎよ」「ていうか可愛い!守ってあげたくなる!」などと騒ぐ生徒達。そんな中、セシリアはイアンを睨み付けていた。

 

 

________________________

 

 

 

「ねえねえイアンくん!もしかしてセシリアの弟?」

 

「何歳?やっぱ双子?」

 

「もしかして、IS操れたりするのかな?」

 

なんてはしゃぐ生徒の中、セシリアが不機嫌そうに言った。

 

「ちょっとよろしいですの?」

 

そのままイアンを連行する。で、屋上。

 

「一体どういうつもりですの!?なんでこんな所に……」

 

「僕だって望んだわけじゃない。でも、政府の独断でこうなったんだ」

 

「政府の……?それではなんのためにわたくしがここまでやって来たか……!いえ、むしろこのためにわたくしはここに入学させられたと見た方が正しいかもしれませんわね」

 

「大丈夫、僕はまだISを動かしたわけじゃないし…」

 

「そういう問題ではありませんわ!イアン、あなたのIS適性、覚えてらっしゃいますの?」

 

「もちろん、覚えてるよ。でも、もうこうなった以上は仕方ない。覚悟の上だ」

 

「………ッ!なら、いいですわ」

 

そのままセシリアは教室に戻っていく。少し遅れてイアンも戻って行った。

 

 

_________________________

 

 

 

ISの飛行操縦の実践授業。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

「「「はい」」」

 

声が三つ。

 

「あぁ、すまない。弟の方ではない」

 

「あ、すいません」

 

イアンは引き下がる。で、一夏とセシリアは前に出る。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒かからないぞ」

 

そう言われ、二人は集中する。すると、展開された。

 

「これが、白式……」

 

思わず声を漏らすイアン。

 

「よし、飛べ」

 

そのまま飛んだ。そんな様子を見ながらイアンは目を輝かせていた。

 

「本当に僕以外でISを……」

 

「すっごいでしょ!うちの織斑くん!」

 

なんて自慢げに語る生徒。それを苦笑いしていると、ズドォォォォンッッと音がした。見れば白式が落下していた。

で、心配して近寄る箒とセシリアを見ながらイアンは思った。

 

(まさか、姉ちゃんが…惚れたの?)

 

 

 

 

 



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姉弟

 

 

 

 

夜の寮の食堂。

 

「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでと〜!」

 

と、騒ぐクラスメート。イアンには何のことだかさっぱり分からない。

 

「姉ちゃん。これなんのパーティ?」

 

「これは一夏さんのクラス代表就任パーティですわ。わたくしが譲って差し上げましたのよ」

 

「ふーん…ま、姉ちゃんは恋愛経験とかないから、ちょうどいいかもね」

 

「なっなんのことですの!?」

 

「ふんっ。僕は織斑先生の所行かなくちゃいけないから。じゃあな」

 

「なにを怒っておりますのあの子は?」

 

「おーいセシリア」

 

一夏からセシリアの方へ行った。

 

「い、一夏さん!?ど、どうかいたしました?」

 

「少し、聞きたいことがあるんだけど。お前の弟もIS操れるのか?」

 

「は、はい。ですが、この学園での訓練以外でのISの使用は禁止されていると思いますわ」

 

「へぇ、なんで?」

 

「あの子はISを使わないことと引き換えにISに乗らなかったのですわ。世界的にニュースにもならなかったでしょう?」

 

「そういえばそうだな。でも、なんでISに乗らないんだ?」

 

「あの子自身、争いが好きではありませんの」

 

「ふーん…」

 

「その代わり、あの子はかなり頭いいのですわよ。数分あれば他人の専用機を一時的に自分のものにも出来ますわ」

 

「それはそれで怖いな……まぁ、あいつとは同じ男子同士仲良くやりたいからな」

 

「わたくしも是非お願いいたします。あの子をお願いしますね」

 

 

_________________________

 

 

 

僕は話を終えて、織斑先生の部屋から出て、部屋へ戻っている。話っていうのは一夏さんと仲良く、ISには訓練以外で乗れないんだよね?、部屋はとりあえず姉ちゃんと同じってこと。にしてもすごく飲んでたなあ、織斑先生……明日仕事のはずだけどなにか嫌なことでもあったのかな……。

そんなことより、もうこの時間ならパーティも終わってるよね。

 

「し、失礼しまーす……」

 

若干緊張しながら入ると、姉ちゃんがお風呂に入っていた。姉ちゃんのルームメイトの人はいないのかな……。

 

「ふう……」

 

さて、どうしたもんか。姉ちゃんが風呂に入っている以上、僕はすることがない。ていうか風呂に入ったら速攻寝たい。久々に姉ちゃんと会ったから話がしたいっていうのもあるけど、眠いんだよなあ。

周りに歳上の女性しかいない(一人だけ男だけど)教室があんなに気疲れる物だと思わなかった。うーん…お風呂は明日の朝でいいかなあ、早く寝よう。

ベッドに入って目を閉じた。

 

「……………」

 

変に緊張して眠れない……。いいや、しばらくこうしてよう……。

 

「ふぅ…いいお湯でした。あら?イアンもう戻ってましたの?」

 

げっ、姉ちゃん出て来た。

 

「まったく、お風呂にも入らないで……」

 

ん?なんか誰か布団に入ってきたな……。

 

「大きくなりましたわね」

 

おいバカ姉貴!なにしてんの?弟と一緒に寝る気?ちょっ…やだ緊張してきた……。

 

「おやすみなさい。イアン……」

 

やめて!僕が眠れなくなるから……マジで。

結局、この後朝まで眠れなかった。

 

 

 



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特訓

 

 

 

 

次の日。寮で一人、朝食をとっていると、僕の席の前に誰かが座った。

 

「よう。イアンだっけ?ここいいか?」

 

一夏さんだった。

 

「あ、ど、どうぞ……」

 

「そんなに緊張しなくていいよ。俺は織斑一夏、昨日は余り話せなかったから、改めてよろしくな」

 

「は、はい。イアン・オルコットです!」

 

「分からないことがあったら聞いてくれ。同じ男として出来ることならなんでも強力する」

 

なんかいい人そうで助かった。では弟としての債務を果たそう。

 

「じ、じゃあ早速なんですけど…一夏さんって、姉ちゃんのことどう思ってますか?」

 

「は?セシリア?」

 

「はい。こう…好き嫌いとかいい奴嫌な奴みたいな感じで…」

 

「うーん…そう聞かれると……」

 

パコンッ

 

僕の頭に衝撃。振り向くと姉ちゃんがオボンで僕の頭を叩いていた。

 

「よ、よ、余計なこと聞かないでくださる!?」

 

「ね、姉ちゃん……」

 

「一夏さん?ご一緒してよろしいかしら?」

 

「あ、ああ。別にいいけど……」

 

「待てセシリア。そういうことなら私も座らせてもらおう」

 

なんか一夏さんの周りにはすぐに人が集まって来るな…。ていうか、みんな美人さんばかりだなあー…。

 

「ん?あ、ああすまない。私は篠ノ之箒、一夏の幼馴染だ」

 

篠ノ之さんが僕に挨拶してくれる。

 

「あっえと…イアン・オルコットです…よろしくお願いします……」

 

ダメだ。歳上の女性と話すのは緊張する。それも美人さんとくれば尚更だ。それに、みんな僕より身長高いし…女の子より小さい男の子って価値あるのかなあ……。

 

「こいつの家は剣道場なんだ。今度鍛えてもらってみたらどうだ?」

 

「一夏、余計な事を言うな」

 

「まあ、ですからそんな野蛮な女性になってしまいましたのね」

 

「人に向かってISを使う奴に言われたくない」

 

「あ、あはは……」

 

なんだろう…苦笑いするしかない。僕ってこんなに話せない人だったっけ?

 

「そういえば、イアン。お前はISを操れるのか?」

 

篠ノ之さんに聞かれた。

 

「は、はい。一応……でも、訓練以外でのISの使用は禁止されています。僕が代表候補生になるのを断りましたから」

 

「そうなのか……」

 

まぁ、あまりこの手の話題には触れたくない。さりげなく話題を逸らそう。

 

「それはそうと、一夏さんは日本の代表候補生だったりするんですか?」

 

「いや?違うよ?」

 

「へ?でも専用機……」

 

「俺はほら、世界で唯一ISを動かせる男子ってことになってるから。特別扱いされてんの。学園内ではそうでもないんだけど」

 

「そうなんですか……」

 

なんて会話をしながら僕達は朝食を食べ終わって学園に向かった。

 

 

________________________

 

 

 

SHR前。騒がしいクラス。

 

「織斑くんおはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

「転校生?イアンじゃなくて?」

 

「イアンくんじゃないよー」

 

「あの…頭撫でないで下さい……」

 

と、迷惑そうにするイアン。が、クラスの女子はそんなの無視してなでなでしながら続けた。

 

「なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「ふーん」

 

そんな様子を耳にしながらイアンはただぼんやりしていた。本当にどいつもこいつも歳上なんだなーとか思いながら。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

一夏が言った。

 

「む、気になるのか?」

 

「ん?ああ、少しは」

 

「ふん……」

 

そんな様子を見てイアンは一夏に言った。

 

「もてもてですね」

 

「はあ?どこが?」

 

「イアン。余計な事を言うな」

 

ギロッと睨む箒だが、顔を真っ赤にしているので全然怖くない。

 

「ちょっと!人の弟を脅すような真似はやめてくださる?」

 

「ふん。姉の教育がなってないんじゃないのか?」

 

「そちらこそ歳下の男の子を脅すなんてどういう教育を受けてましたの?」

 

なんてギャーギャー騒ぐ二人を捨て置いてイアンと一夏は話す。

 

「そうだ。イアンって確かISについて詳しいんだったな」

 

「そんなことないですよ。少しだけです」

 

「よかったら俺のISの特訓、付き合ってもらえるか?あの二人だと『こう、ずばーっとやってからがきんっ!どかんっ!という感じだ』『防御の時は右半身を斜め上前方五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』と、まぁ見事に正反対なベクトルにわかりずらくて…」

 

「そういうことなら、でも僕も同じようにしか教えられないかもしれませんよ?」

 

「大丈夫、どちらにせよ男に教わるっていうのはなんとなく気が楽なんだ」

 

「わかりました。では、放課後よろしくお願いします」

 

「そ、それはこっちの台詞だ」

 

そんな感じになってる中、教室の入り口ではツインテールの女の子が固まっていた。

 

「タイミング逃した……」

 

 

 

 

 

 

 



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昼休み。一夏、イアン、セシリア、箒は食堂へ向かった。券売機でそれぞれ食べ物を注文し、席を探していると、

 

「待っていたわよ一夏!」

 

ツインテールの女の子が立ち塞がった。

 

「あっ、お前鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

「あっ!朝に教室の前に立ってた人ですか?」

 

イアンが声を上げる。

 

「はあ?誰よあんた」

 

「え?朝に来てたのか?」

 

「は、はい。なんか居場所を無くした子供みたいにチラチラこっちを見ては諦めたようにため息ついて涙目で戻っちゃった人です」

 

「な、なんであんたそんな詳しく見てるのよ!」

 

「す、すいません…なにか声を掛けた方がいいか悩んでたものですから……」

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年になるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。あんたこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

なんて話してる中、不自然な咳払いが聞こえた。

 

「あー、ゴホンゴホン!」

 

「ンンンッ!一夏さん?あちらのテーブルが空いておりましてよ?」

 

そんなわけで鈴を加えて五人はその席へ座る。

 

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。あんたこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが」

 

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの?」

 

と、質問攻めに合う一夏を捨て置いて不機嫌そうにイアンはラーメンを啜った。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」

 

「………………」

 

「? 何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

いきなり怒る鈴さん。

 

「幼馴染……?」

 

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな。で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ふうん、そうなんだ。これからよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ」

 

なんか宣戦布告に見えるのは気のせいだろうか…そんな空気に耐えられずにただただ麺を啜るイアン。

 

「ンンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

「……誰?」

 

「なっ!?」

 

顔を真っ赤にして怒りを露わにするセシリア。

 

「ね、姉ちゃん落ち着いて!ごめんなさい、えっと…凰さん?こちらはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生です。それで、僕はイアン・オルコット、弟です」

 

「そう、よろしくね。って、弟ぉ!?」

 

「は、はい…僕も一応、ISを動かせるので……」

 

「ふ、ふーん……なんか弟くんの方がしっかりしてるみたいね」

 

「んなっ!」

 

「そ、そんなことありませんよ!僕なんか、戦うことにビビって代表候補生を降りた身ですから…そんな僕をお姉ちゃんは守ってくれたんです」

 

「ふーん…なんか訳ありみたいね。あまり深く聞かないでおくわ。にしてもあなた、可愛いわね」

 

「そ、そんなこと…ないです……」

 

顔を真っ赤にして俯くイアン。

 

「うりうり〜どうして欲しいのかなー?」

 

「ちょっと鈴さん!人の弟で遊ぶのやめてくださいません!?」

 

「ぼ、僕失礼します!」

 

そのままラーメンを食べ尽くして去ってしまった。

 

 

__________________________

 

 

 

放課後。第三アリーナに向かう途中。一夏とイアンは会話しながら向かう。

 

「ふーん。つまり、ISの操縦ってイメージが大事なのか」

 

「はい。まあ、僕の考えですが」

 

「ありがとなイアン」

 

「わっ、だから頭撫でるのやめてくださいよ…」

 

「悪い悪い」

 

なんて話しながら歩く。アリーナに入ると、箒が中で打鉄を装備していた。その後にブルーティアーズを装備したセシリアが来る。数分後、二人に袋叩きにされる一夏をイアンはただ苦笑いしながら眺めていた。

 

 

 

 

 



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決意

 

 

 

 

 

今日から僕は一夏さんと同じ部屋。山田先生がなんとかしてくれたみたいだ。荷物をさっさとまとめて僕は姉ちゃんの部屋から出た。で、一夏さんの部屋の前。

……だからなんで緊張してんの僕。

 

「し、失礼しまーす…」

 

「だから!私は部屋の移動など聞いていない!」

 

「そんなこと言われても仕方ねぇだろ!元々、男と女が同部屋であること自体がおかしかったんだ!これでいいだろ!?」

 

「いやだ!」

 

「駄々をこねるな!子供か!」

 

なんか、カオスなことになってる……。

 

「あらイアン。どうしたの?」

 

後ろから声が掛かった。凰さんだ。なぜかボストンバッグを担いでいる。

 

「その…今日から僕がこの部屋に住むことになったんだけど…篠ノ之さんが……」

 

「なるほどね…まぁ、イアンならあたしも諦められるわ。じゃ、部屋に戻るわね」

 

「ま、待ってくださいよ!助けてください!」

 

僕の大声に気付いた一夏さんが声を上げる。

 

「あ、イアン。やっと来たか」

 

ものっそい形相で僕を睨む篠ノ之さん。食堂の時とは違ってすごい迫力で、ついビビってしまった。

 

「こら箒。歳下の男の子を困らせないの!」

 

そんな僕の肩に手を置いて庇ってくれる凰さん。身長的には僕と変わらないのになんでこんなに、こう…威厳?が違うんだろう。

 

「ふん。お前はなにしに来た?」

 

「あたしは部屋代わってもらおうと思ったんだけど、イアンなら諦めるわ」

 

「そうだぞ箒。なにを駄々こねてるのか知らないが大人になれ。先生の命令なんだから仕方ないだろ」

 

「ふん。まあいい」

 

そのまま荷物をまとめて出て行く篠ノ之さん。大丈夫かな…僕、殺されたり…略して撲殺されたりしないかな……。

 

「ごめんなさい。助かりました凰さん…」

 

「あんたも男ならあれくらい言えるようになりなさい」

 

「は、はい」

 

そのまま凰さんは去っていった。やだカッコイイあの人。しばらくぼんやりしていると、

 

「おーいイアン、入ってこないのか?」

 

「あ、はい」

 

呼ばれたので入室。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「だから固いって。なんならタメ口でもいいし」

 

「そ、それは流石に……」

 

「はははっ、まぁよろしくな」

 

「は、はい!」

 

だからこれなんで緊張してんだよ……。

 

 

________________________

 

 

 

次の日の朝。僕は図書室から戻った所だ。何冊か昆虫の本を借りて教室に戻ると、ドンっと誰かとぶつかった。

 

「わっ」

 

「……っ」

 

見ると、凰さんが涙目で走り去って行った。教室の中では一夏さんが困った顔をしている。

 

「どうかしたの姉ちゃん?」

 

とりあえず近くにいた姉ちゃんに聞く。

 

「それが、まぁイアンには関係ありませんわ。酢豚がどうのって痴話喧嘩みたいなものですから」

 

「そ、そう……」

 

でも、凰さん泣いてたなあ……。

 

「それはそうと、まだそんなもの好きだったんですのね」

 

「だって虫好きだもん」

 

「どこがいいんですの?気持ち悪い」

 

「日本のカブトムシはシンプルでかっこいいんだよ」

 

「理解出来ませんわね」

 

 

____________________

 

 

 

試合当日。一夏側のピットでセシリア、箒、イアンは試合をリアルタイムで鑑賞。

 

「あれが、中国の第三世代型……」

 

思わず呟きを漏らすイアン。モニターでは、すでに戦闘は始まっている。

 

『やるじゃない。初撃を防ぐなんて』

 

鈴と一夏の一撃がぶつかり合った。消耗戦になるのはマズイと踏んだ一夏はなんとか距離を取ろうとするが、

 

『甘いッ!』

 

カパッと開く肩アーマー。そこからバボッとなんか出て、一夏を吹き飛ばした。

 

『ぐあっ!』

 

『今のはジャブだからね』

 

そんな様子を見ながらイアンはつぶやいた。

 

「衝撃砲、か……空間に圧力をかけて砲身を生成……」

 

(それにあの馬鹿でかい剣。だが、威力なら一夏の雪片も負けてない。シールドエネルギーを犠牲にしてバリア無効化攻撃を放てる白式なら……)

 

そんなことを考えながらイアンはただモニターを眺めていた。が、問題発生。ズドォォォォォンッッ‼︎‼︎となにかがフィールドに降ったきた。

 

「なんだ?」

 

「織斑先生!所属不明機です!」

 

真耶が声を張り上げる。その瞬間、レベル4の遮断シールドが降りる。そして、客席はパニックとなり、生徒達は逃げ回っていた。

 

「織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」

 

『いや、先生たちが来るまで俺たちが食い止めます。いいな鈴?』

 

『だ、誰に言ってんのよ。それより離しなさいってば!動けないじゃない!』

 

緊張感ねーなあの二人とか思いながらイアンはモニターを眺めていた。

 

「もしまし!?織斑くん聞いてます!?凰さんも!聞いてますー!?」

 

が、反応なし。真耶が必死に声を上げる中、千冬が落ち着いた声で言った。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、お、織斑先生!何をのんきなことを言ってるんですか!?」

 

「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 

「……あの、先生。それ塩ですけど……」

 

「………………」

 

ぴたりとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、白い粒子を陽気に戻す。

 

「なぜ塩があるんだ」

 

「さ、さあ……でもあの、大きく塩って書いてありますけど」

 

「………………」

 

「あっ!やっぱ弟さんのことが心配なんですね!?だからそんなミスを……」

 

嫌な沈黙。

 

「山田先生、コーヒーをどうぞ」

 

「へ?あ、あの、それ塩が入っているやつじゃ……」

 

「どうぞ」

 

無理矢理、山田先生が飲まされている中、セシリアが声を上げる。

 

「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐに出撃出来ますわ!」

 

「そうしたいところだが、これを見ろ」

 

「遮断シールドをレベル4に設定……?しかも、扉が全てロックされて…あのISの仕業ですの!?」

 

「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできないな」

 

「で、でしたら!緊急事態として政府に助勢を!」

 

「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに、部隊を突入させる」

 

「はぁぁ…結局、待っていることしか出来ないのですね……」

 

と、落胆するセシリアにイアンが言った。

 

「姉ちゃん。今すぐにブルーティアーズを起動して」

 

『えっ?』

 

声を漏らすその場の全員。イアンは自分のパソコンを持って起動した。

 

「すぐに開く」

 

 

_____________________

 

 

 

「クッ……!」

 

「一夏っ、バカ!ちゃんと狙いなさいよ!」

 

「狙ってるっつーの!」

 

さっきから攻撃はしているものの、敵ISの全身のスラスターの出力が尋常ではないのだ。シールドエネルギーも60を切っている。

 

「一夏っ、離脱!」

 

「お、おう!」

 

敵は攻撃を避けた後、いつも反撃して来る。しかもその方法がめちゃくちゃだ。

 

「鈴!」

 

「えっ?」

 

長い腕を振り回す攻撃が鈴に直撃し掛けた瞬間、一夏がなんとか庇った。が、そのおかげでシールドエネルギーの残量は20を切った。

 

「一夏!」

 

「ぐうぁっ!」

 

そのまま地面に落ちる一夏。そして、敵ISがビームを撃とうとした時、その腕をビームが貫いた。援軍が来た。いつの間にか遮断シールドは開いている。

 

「えっ……?」

 

『織斑くん、凰さん。後は先生達に任せてください』

 

真耶からの通信。

 

『イアンくんがハッキングを解除しました。あなた達は離脱してください』

 

こうして、敵ISは教師部隊に鎮圧された。

 

 

______________________

 

 

 

保健室。一夏が目を覚ますと、箒やら鈴やらオルコット姉弟がいた。

 

「ここは……?」

 

「バカッ!あたしなんか庇って!自分が死んだらどうするつもりだったの!?」

 

プンプン怒ってるのは鈴だ。

 

「悪かったよ。でも…無事でよかった」

 

「ふんっ。馬鹿者め」

 

箒にまでバカと言われる一夏。

 

「で、どうやって助かったんだ俺達……?」

 

「イアンが敵のクラックを解除して教師部隊が突入しましたの」

 

なぜか自慢げに語るセシリア。が、そのイアンの表情は暗い。

 

「イアン……?」

 

「え?な、なに?」

 

「どうかいたしまして?」

 

「な、なんでもないよ!僕、部屋に戻ってるね!」

 

四人が不思議そうな目で見る中、イアンは保健室を出た。

 

 

________________________

 

 

 

屋上。情けない…僕は決着がつくのをただ見ているだけだった。一夏さんもやられてしまった。こんな状態じゃ姉ちゃんなんて守れない。だから、力が欲しい。

僕はイギリスに電話をかけた。

 

「もしもし、僕です。はい、はい。それで、お願いがあります。コアとブルーティアーズ製作時の余ったパーツを送って下さい」

 

『………………』

 

「………はい。イギリスの代表候補生になります」

 

 

 

 

 

 



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姉弟喧嘩

 

 

 

 

一年一組の教室。

 

「イアンが帰って来ない?」

 

そう言ったのはセシリア。一夏に相談され、いつの間にか鈴や箒も集まってきている。

 

「あぁ。放課後はいつも部屋にもアリーナにもいなくて、なにしてんのかなあいつ……」

 

「さあ…直接聞いてみたのか?」

 

箒に聞かれた。

 

「あぁ、でも『ちょっと、色々アレでして…』ってよく分からん返事された」

 

「あの子…自分にバツがあるときは返事を濁しますからね…」

 

「そうなの?」

 

セシリアが言うと、鈴が聞き返す。

 

「えぇ、少し前にわたくしのマグカップを割ってしまった時の言い訳が『と、飛んでった……』でしたから」

 

「すごい言い訳だな…」

 

箒が呆れている。

 

「とにかく、今日尾行してみよう」

 

そんなわけで放課後、ストーキングである。

 

 

______________________

 

 

 

放課後。

 

「イアン、一緒に帰ろうぜ」

 

「す、すいません一夏さん。今日も少し…」

 

「そうか。あんま遅くなるなよ」

 

「はい!」

 

そのまま走り去るイアン。教室の中で一夏、箒、セシリアはアイコンタクトを取ると、教室を出た。

鈴も加えて四人はこっそり後をつける。イアンは整備室に入って行った。

 

「あ、アイアイーまた来たんだねー」

 

中にいたのは布仏本音。

 

「こんにちは本音さん」

 

「毎日毎日大変だねー」

 

「そんなことないですよ。自分のことですし。今日で仕上げですから」

 

なにがだ……?と、思わずにはいられない。が、そんな気も知らずにイアンはバサっと近くにあった布を取る。そこから出てきたのはISだった。見たことのない。

 

『!?』

 

四人は大きく反応する。色は青基調だが、打鉄のパーツも使われているのか所々黒かったりグレーだったり。

 

「あ、あれ一人で作ったのか……?」

 

「試験稼働はまだみたいだけど……」

 

「スペック高そうな……」

 

箒、鈴、一夏と声を漏らすが、その声が止まる。セシリアの無言の威圧である。

 

「せ、せしりあ……?」

 

一夏の声にも反応しない。セシリアは四人の群れから出た。

 

「ちょっ!セシリア!?」

 

「イアン?」

 

ギクって音と共に震え上がるイアン。

 

「ね、姉ちゃん…!なんでこんな所に……」

 

が、ハッとしてあわあわと両手をバタバタさせる。そんなイアンにセシリアは冷たい声で言った。

 

「どういうつもりですの?」

 

「なっななななにが!?」

 

「そこのISですわ」

 

「こ、これは本音さんの専用機で…て、手伝ってたんだよ……!」

 

「そこの青い部分、ブルーティアーズの部品ですわね?大方、余った部品を送らせたといったところかしら?」

 

またギクっとなるイアン。

 

「ち、違う!これはあれだ!エクシアの……」

 

「ていうか、この学園に一人でIS作れる人間なんてあなたしかいないでしょう」

 

で、ガックリと肩を落とすイアン。

 

「で、どういうつもりですの?あなたはイギリスの代表候補生にでもなるつもりですか?」

 

「もうなったよ」

 

「え?」

 

「これからは僕が姉ちゃんを守る。いや、今は姉ちゃんだじゃない。一夏さんや篠ノ之さん、凰さんに本音さんも守る!だから、僕はイギリスの代表候補生になるって言ったんだ!」

 

「バカなことを言うな!」

 

普段のセシリアからは考えられない口調である。

 

「あなたは自分でなにを言ったのか分かってるんですの!?」

 

「分かってるよ!僕の存在を世界に伝えるようなものだ!僕のIS適性がS+だったことも!」

 

「そもそも、わたくしは弟に守られるほど弱くなったつもりはありませんわ!」

 

「弱いよ!一夏さんにやられかけたって聞いた!シールドエネルギーが切れなければ確実に負けてた!」

 

「このっ……!」

 

バシィンとビンタの音が響いた。

 

「……っ!」

 

「勝手になさい。わたくしはもう知りませんわ」

 

そのままセシリアは整備室を出て行った。

 

 

 

 



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庇う

 

 

 

 

 

次の日。昨日は早くも引っ越しがあったので少し眠い。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ。ええとですね。今日はまたまた転校生を紹介します。しかも二人です」

 

と、まあそんな感じのHR。ええええっとクラスが騒ぐ中、僕は不機嫌そうに頬杖を付く。昨日、姉ちゃんと喧嘩してからずっと機嫌が悪い。すると、教室のドアが開いた。

 

「失礼します」

 

「…………」

 

その瞬間、クラスのざわめきがピタッと止まる。それも分かる。だって片方は男の子だったから。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」

 

そう紹介したのは金髪の男の子。僕よりは大きいものの、男子にしてはかなり小さいと思う。ていうか制服ダボダボだし。

 

「きゃあぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

巻き起こる悲鳴。僕の時はこんなことなかったなんて思ってない。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれてよかったー!」

 

なんて騒ぎが起こる。まあ確かにシャルルさん美形だもんね。

 

「みなさん静かに!まだ自己紹介終わってませんからぁ!」

 

山田先生の声でとりあえず静かにするクラス。もう一人は僕なんかより遥かに男らしく堂々とした銀髪、眼帯の女の子だった。

 

「……あいさつをしろラウラ」

 

「はい、教官」

 

なんか、すごい服従してない?

 

「教官はよせ。お前はここでも普通の生徒だ。織斑先生と呼べ」

 

「了解」

 

で、そのラウラさんは挨拶をする。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

そのまましばらく沈黙。しかしまた偉くクールな子だな。みんな困っちゃってるじゃん。と、思ったら、バシンと、バシンと一夏さんを引っ叩いた。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

うわあ……なんかすごい人来たなあ……。僕、あんな人と上手くやってけるのかな……。そのままHRは終わった。

 

「おい織斑、イアン。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

そんなわけで僕は二人の元へ。

 

「君が織斑くんとイアンくん?」

 

「とりあえず移動が先だ。女子が着替え始めるから」

 

で、更衣室へ。

 

「とりあえず、俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「僕は、イアン・オルコット。よろしくお願いします」

 

「うん。二人ともよろしくね。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「って、時間やばいな!さっさと着替えちまおうぜ!」

 

なんて話してる間に僕はもう着替え終わっている。自慢じゃない…つーか自慢にならないけど誰にでも出来るような事なら早いんだよ。例えば着替え。二人が…ていうか一夏さんがバカみたいな話してる間に僕は遅刻したくないので先に行った。

 

 

______________________

 

 

 

「遅い!」

 

案の定、怒られる二人。そんな二人を見ながら僕はチラッと姉ちゃんを見る。まだ不機嫌そうな顔をしてるよ…本当にどうしよう。その後、なんかバシンバシン音がしたけど僕には関係ないようだ。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

詳しく織斑先生が説明してる中、急に凰さんが一夏さんを蹴っ飛ばしてる。

 

「今日は戦闘を実践してもらおう。ちょうど活力溢れんばかりの十代女子もいることだしな。凰!それと…織斑!」

 

「なんで俺も!?」

 

「専用機持ちはすぐに始められるからだ。早くしろ」

 

「あーあ…また鈴とやんのかよ…」

 

「なに?怖気着いてるの?」

 

「慌てるなバカども。対戦相手は……」

 

キィィィン……と、音がした。

 

「ああああー!ど、どいてください〜っ!」

 

上から降ってく…僕?

 

「あっあわわわっ!」

 

「イアン!」

 

ドカーン!と僕の上に降って来たが、ギリギリ僕の上にブルーティアーズ。ん?……ってことは……、

 

「ねえ、ちゃん……?」

 

助けて、くれたのか?喧嘩中なのに?が、僕の声にハッとする姉ちゃん。

 

「な、なにを勝手に下敷きになっておりますの!?さっさとどきなさい!」

 

「えっ、うん……」

 

「まったく…」

 

「姉ちゃん」

 

「……なんですの?」

 

「ありがと……」

 

「……っ!べ、別に助けたわけではありませんわ!勘違いしないでくださる!?」

 

なんて顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向く姉ちゃん。

 

「セシリアー!弟にツンデレかー!?」

 

「ブラコンめー!」

 

「ち、違いますわ!勝手なこと言わないで下さる!?」

 

そんな姉ちゃんをみながら僕は思わず微笑んでしまった。

 

 

 

 

 



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怒った

 

 

 

 

昼休み。屋上。そこに一夏、イアン、箒、セシリア、鈴、シャルルはいた。が、空気は悪い。もちろん、セシリアとイアンの二人のせいである。前の授業で一応、距離は縮まったように見えたが、それでも喧嘩中は喧嘩中だ。

 

「あの、僕もここにいて良かったのかな……」

 

シャルルがそう声を漏らす。

 

「い、いいに決まってるだろ。ISを使える男子同士で仲良くしたいし!なぁイアン!?」

 

「そうですね」

 

素っ気ない返事。それに気まずそうな顔をする一夏。

 

「ち、ちょっと!(小声)」

 

鈴が一夏に耳打ちする。

 

「どうしてこんなことになんのよ!だからあたしは姉弟喧嘩は当人に任せてほっときゃいいって言ったのに!(小声)」

 

「じゃあお前、あの雰囲気に耐えられるのか!?普段から一緒にいる癖にまったく会話しないあの空気!俺は無理だ!だったら俺達がなんとか……(小声)」

 

「と、とにかく!(小声)」

 

箒も参加。

 

「私はこれ以上耐えられない!誰かなんとか切り出せ!(小声)」

 

「あんたが自分で切り出しなさいよ!剣道やってんでしょ!?(小声)」

 

「そっちの切るじゃない!(小声)」

 

「お前ら落ち着け!ここは俺に任せろ!せっかくみんな弁当持ってきてるんだ。これを利用するに限る(小声)」

 

で、三人が離れて一夏はうぅんと咳払い。

 

「ところで……」

 

「うわあー!イアン、それ自分で作ったの?」

 

シャルルが先に切り出した。

 

(((えええええっ‼︎‼︎)))

 

「は、はい…一応自分で作ってます…」

 

「少しもらってもいいかな!」

 

「ど、どうぞ……」

 

で、シャルルは一口。

 

「んー!美味しい!」

 

そんなイアンに一夏は耳打ち。

 

「お前、料理出来るのか?」

 

「それが…出来ざるを得なかったというか…」

 

言いながらチラッとセシリアの弁当を見るイアン。

 

「ああ、なるほど……」

 

「一夏さん?今、とても失礼な解釈をしませんでした?」

 

「き、気のせいじゃないかなー…ははっ……」

 

これで流れは出来た。

 

「あっ!本当だ美味しいー!」

 

「中々やるなイアン、私のも食べるか?」

 

「い、いただきます……」

 

「さあ一夏さん、わたくしのも召し上がってくださいな」

 

「お、おう…はははっ……」

 

と、楽しい昼食を過ごした。オルコット姉弟は一言も会話してないけど。

 

 

_________________________

 

 

 

放課後。僕はようやく自分のISを完成させ、ていうか後は色塗りだけだったんだけど、とにかく完成させた。で、部屋に戻る。中にはシャルルがいた。

 

「あれ?あぁ、そっか。僕引っ越したんだ」

 

「これからよろしくねイアン」

 

多分、転校してきたばかりってことの配慮なんだろう。織斑先生は相変わらず怖優しい。

 

「それにしても随分遅かったけど、何してたの?」

 

「ちょっとね…後は稼働試験をするだけなんだけど…」

 

「?」

 

「今日はISの色を塗ってました」

 

「それって…自分専用の?」

 

「はい。本当は姉ちゃんじゃなくて僕が代表候補生になる予定だったから。でも、僕が嫌だって言ったら姉ちゃんが庇ってくれた。それなのに、僕は姉ちゃんを守る為って、自分勝手にISを作ったんです…」

 

「へ?ISを作った?一人で?」

 

「はい。結果、姉ちゃんに引っ叩かれましたけど…」

 

僕は、ははっと力無く笑いながらベッドに腰を掛けた。そんな僕をシャルルさんは優しく抱き締めてくれた。

 

「大丈夫、イアンは自分勝手じゃないよ」

 

「シャルルさん……?」

 

「お姉ちゃんを守ろうとするのは男の子なら誰でもそうだよ。だから、元気だして」

 

「………はい」

 

それで、ニコッと笑うシャルルさん。なんとなく勇気をもらえた気がした。あと、胸がやたらと柔らかかった気がしたんだけど…気のせいかな?

 

「きっと、今作ってるISが上手く行けばセシリアも認めてくれるよ」

 

「………はい!」

 

 

______________________

 

 

 

月曜日。第三アリーナにはセシリアと鈴がいた。

 

「「あ」」

 

二人揃えて間抜けな声を出す。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「奇遇ですわね。わたくしも同じですわ」

 

「それはそうと、あんたイアンといつまで喧嘩してるわけ?」

 

「っ」

 

詰まるセシリア。

 

「あの子、シャルルに聞いたけどあんたに認めさせるために色々努力してるみたいよ」

 

「それは……」

 

「いいんじゃないの?もう維持張らなくて…」

 

なんて話してると、そこに砲撃が飛んできた。間一髪二人はISを展開してガード。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

「あんた、今大事な話してんのわかんないの?」

 

鈴が言うがラウラは涼しい顔。

 

「中国の甲龍にイギリスのブルーティアーズか。ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

「や、あんた会話する気あんの?それとも会話出来ないわけ?」

 

「そうですわ。わたくし達は…」

 

「弱い犬ほどよく吠える、か……戦うことにビビって逃げた弟の姉らしいザマだな」

 

その一言がセシリアの口元を引きつらせる。

 

「一応聞いておきますが、その弟とは誰のことですの?」

 

「両方だ。まったく弟という存在はどいつもこいつも情けない奴ばかりだ。理由がないと喧嘩一つ出来ない」

 

「それ以上、その汚い口を開かない方が身のためですわよ…」

 

そのセシリアのピリッとした物言いに鈴は少しゾクッとする。

 

「事実だろう。あんな女々しいガキなどそもそもISに乗る資格などない。IS適性の持ち腐れだな」

 

「おい」

 

全身に鳥肌が立つ声。それにとりあえず黙るラウラ。

 

「殺すぞ」

 

セシリアとは思えない声音と共にスターライトをぶっ放した。それをかわすラウラ。

 

「ちょっとセシリア!」

 

鈴は止めたが、聞く耳持たずに喧嘩が始まった。

 

 

___________________________

 

 

 

イアンとシャルルはISの稼働試験の為に第三アリーナへ。

 

「これがうまく行けば……!」

 

「いよいよ完成だね!」

 

二人して歩く。同部屋ということもあって、結構仲良くなった二人。

 

「上手く言ったら姉ちゃんと、仲直り出来るかな…」

 

「大丈夫!きっとできるよ!だから、最後まで頑張ろう!」

 

「………はい!」

 

で、第三アリーナに到着。中では見たことある機体とない機体が戦闘をしていて、甲龍が止めようとしていた。

 

「ち、ちょっと二人とも落ち着きなって!」

 

だが、聞く耳持たずに殴り合う。そんな鈴の足にラウラのワイヤーブレードが巻き付く。

 

「へ?」

 

そのままセシリアに叩き付けた。

 

「きゃあっ!」

 

地面に落下する二人。そのセシリアの首にワイヤーブレードが巻き付いた。

 

「姉ちゃん!」

 

「ま、待って!今迂闊に出たら危ない!」

 

シャルルに止められるイアン。渋々引き下がった。だが、セシリアの体に打ち込まれる拳。

 

「ち、ちょっと!あんたやめなさい!もう勝負は……!」

 

止めようとした鈴の首にもワイヤーブレードが巻き付き、拳が叩き込まれる。シャルルがふと横を見ると、イアンの体が震えていた。

 

「い、イアン落ち着……」

 

「パープルティアーズ!」

 

ISを呼び出して出撃。正確な狙撃でワイヤーブレードを撃ち切った。

 

「なんだ?」

 

ラウラが顔を上げると、見たことのない機体が自分の方に迫っている。

 

「お前!お前ェーッ!」

 

「あぁもう!」

 

シャルルもリバイヴを展開してセシリアと鈴を助ける。

 

「ふん、直球な奴め」

 

ラウラはそう言うと、AICを使う。それにいち早く気付いたイアンはインターセプターを投げ付けた。当然、動きは止まるが、そのインターセプターにビームを撃ち込み爆発させる。

 

「なにっ!?」

 

「あああああっ‼︎」

 

爆風の中、いつの間にか背後に回っていたイアンのスターライトver.repairのサーベルモードが大口怪レールカノンの砲口をぶった斬る。

 

「ぐっ……!」

 

「お前なんか、お前なんかァーーッ‼︎」

 

サーベルがラウラに突き刺さる瞬間、スターライトを止める影。千冬が止めていた。

 

「やれやれ……これだからガキの相手は疲れる」

 

「お、織斑先生!?」

 

正気に戻るイアン。

 

「模擬戦をやるのは構わん。が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントで着けてもらおうか」

 

「教官がそうおっしゃるなら」

 

素直に頷くラウラ。

 

「イアンもそれでいいな?」

 

「……ッ。は、はい……」

 

納得いかいながらも返事をしたという感じだ。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 

 

 

 



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仲直り

 

 

 

 

保健室。

 

「お前ら、大丈夫か?」

 

一夏さんが姉ちゃんのお見舞い。凰さんは大した傷ではなかったので湿布程度。

 

「えぇ、無様な姿をお見しましたわ……」

 

「馬鹿、そんなのどうでもいい。悪かったな。すぐに駆け付けてやれなくて」

 

「あんたのせいじゃないわ。近くにあたしがいたってのに止められなかった……」

 

「じゃあ、俺は千冬姉に呼ばれてるから」

 

「あたしも」

 

そのままシャルルさんも連れて二人は出て行った。残ってるのは僕と姉ちゃんだけ。

 

「ごめん…姉ちゃん」

 

「なにがですの?」

 

「姉ちゃんを、守れなかった…せっかく、ISまで作ったのに……それに、僕全然分かってなかった…ISで戦うってことが…姉ちゃんが、こんなんなるなんて……」

 

「…………」

 

不意に流れる涙。情けない、姉ちゃんがやられるのをただ見ているだけだった……。

 

「凰さんから聞いたよ。僕のために、怒ってくれたって…それなのに、僕は……」

 

そんな僕の頬に手が伸びる。優しく。

 

「バカですわね…謝るのはわたくしの方ですわ」

 

「えっ……」

 

「確かに、今はわたくしの方が弱いようですわ。あんな戦い方、わたくしには真似出来ませんし、なによりこの様ではトーナメントに出場することも出来ません」

 

よく見ると、姉ちゃんの目には涙が浮かんでる。

 

「しばらくは、イアンに守られてあげますわ。パープルティアーズ、いいISですわね」

 

そう言ってにっこり微笑み、僕を抱きしめた。

 

「うん…姉ちゃん……」

 

 

_______________________

 

 

 

しばらくあのまま抱き締められ、僕はようやく部屋に戻った。シャワーの音が聞こえる。シャルルさん、シャワー浴びてるのかな。とりあえず手だけ洗っちゃおう。インフルエンザとか怖いし。今、夏前だけど。そう思って洗面所へ。そのタイミングでシャワールームの扉も開いた。

 

「あ、シャルルさ……」

 

「い、い、いあん……?」

 

「」

 

だれ…?見たことのない女の人……ま、まさか部屋間違えた!?

 

「し、失礼しました!」

 

慌てて逃げる。部屋番号は……合ってる、よね……?じ、じゃあ今の人は……?

 

「あの、イアン?入ってもいいよ?」

 

中から声がした。言われるがまま中へ。

 

「そ、その…シャルル、さん……」

 

「う、うん……」

 

なんだろう…、姉ちゃん以外の女の人の裸見ちゃったからすごく気まずいというか……、

 

「そ、その……ごめんなさい!寝ます!」

 

「ま、待って!」

 

ベッドに逃げようとした僕を後ろから捕まえるシャルルさん。

 

「その、怒ってる、よね…でも、その、イアンには話しておきたいな……」

 

「な、なにを、ですか……?」

 

「その、僕が男の子やってた理由…」

 

「そんな!怒ってないですし、僕だって、中二なのに…高一のふりしてますし……」

 

「全然出来てないよ。誰が見ても中学生に見える」

 

「むっ。それどういう意味ですか?」

 

「あ、あはは…とにかく、話だけ聞いて欲しいな……」

 

「わ、分かりました……」

 

早い話が、父親の愛人の子がシャルルさん。実の母親が死んでから父親に引き取られ、IS開発の道具として使われていたらしい。それで、自分の会社の宣伝のためにシャルルさんを男としてこの学校に編入させたそうだ。それと共に、白式のデータを盗んでこい、とのことだ。

 

「と、まあそんなところかな。でもイアンにはバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいかな」

 

「………………」

 

「ああ、なんだか話してたら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソついててごめん」

 

深々と頭を下げるシャルルさん。

 

「いいんですかそれで」

 

「え………?」

 

「ようは男のデータが手に入ればいいんですよね。白式じゃなくてもいいんですよね?」

 

「う、うん…どうだろう……」

 

「だったら、僕のパープルティアーズのデータのコピーあげます」

 

「えぇ!?でもそれはイアンが……!」

 

「いいんですよ。僕はシャルルさんに帰られる方が辛い。そんな人を、それもまだ高校生の女の子をそんな風に扱う奴が許せないんです。だったら、シャルルさんにはそんな親との縁を切ってもらいたいです」

 

「そ、そんなこと……」

 

「そもそも、家族っていうのは子供に好きなことさせていいんですよ!むしろ子供にはわがままを言う権利がある!うちのお姉ちゃんが何回僕のわがまま許してくれたことか!親が死んで莫大な遺産を姉ちゃんは守るために勉強しながらも僕のわがままを許してくれたんですよ!そんな子供の自由を奪う親なんてデスノートに名前書かれて死ねばいいんですよ!」

 

気が付けば僕はうがーっ!と叫んでいた。

 

「だからこのデータを引き換えに縁を切ってもらってください!ついでに呪っといてください!」

 

そんな僕をキョトンとした顔で見るシャルルさん。………今更自分のしてたことが恥ずかしくなってきた。

 

「ふふっ」

 

「す、すいません……」

 

すごく恥ずかしい。

 

「あはははっ!イアンはやっぱり可愛いね!」

 

「や、やめてください!」

 

「でも、パープルティアーズのデータはいいよ。僕は、自分でなんとかしてみるね。ありがとうイアン」

 

「もし、縁が切れたら言ってください!僕が引き取ります!」

 

「…………ん?」

 

「僕が家族になります!」

 

なぜかカアァッと赤くなるシャルルさん。

 

「ね、ねぇ!それってどういう……!」

 

「二人目のお姉ちゃんです!」

 

その瞬間、顔が一気に暗くなる。と、思ったら僕の首を絞めるシャルルさん。

 

「歳上をからかうなんていい度胸してるね?」

 

「い、いだだだだっ!な、なんで!なんでですか!」

 

 

 

 

 

 



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タッグ

 

 

 

 

次の日。クラスはかなり賑わっていた。その中心は一夏さん。

 

「織斑くん!私とタッグ組んでー!」

 

「いや私とー!」

 

何事?と、事態が飲み込めないうちに僕も囲まれてしまう。

 

「あっ!あたしデュノアくんでいいや!」

 

「えー!私はイアンくんにする!」

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

ど、どうしよう…姉ちゃんがいれば姉ちゃんと組むって言えるけど……、

 

「ご、ごめんね…僕はイアンと組むから……」

 

そう言うシャルルさん。その瞬間、女子達は「男同士なら許せる」みたいな空気を作って退散する。ていうか一夏さんに再び突撃する。

 

「ちょーっ!待てって!俺は……」

 

なんてやってるのを捨て置いて僕はシャルルさんの元へ。

 

「た、助かりました……」

 

「まったく、男の子なら自分でなんとかしないと…」

 

「男にとって一番怖いのは歳上の女性ですよ…」

 

「なにか言った?」

 

にっこり微笑むシャルルさんが怖かった。

 

 

__________________________

 

 

 

放課後。姉ちゃんにお見舞いでリンゴを持って行って、今は自室。ラウラさん対策に僕とシャルルさんは会議中。

 

「……ねぇイアン。思ったんだけどパープルティアーズの性能ってあまり高くない?」

 

「え?はい」

 

「いや『はい』って…これ、下手したら第二世代型レベルの機体だよね?」

 

「仕方ないですよ。元々、ブルーティアーズと訓練機の余りのパーツで作ったんですから。武器だってスターライトリペア、ピストル×2、インターセプター×2しかありませんから。防御に使う分は少しでも速度を上げるために軽量化してありますから」

 

「……大丈夫なのそれ?確かにイアンはかなり強いけど…」

 

「僕は強くないですよ」

 

「この前、ラウラのこと圧倒してたじゃん」

 

「あ、あの時は無我夢中で……」

 

頬を掻く僕をジト目で睨んで来るシャルルさん。

 

「ま、いいよ。とにかく、ボーデヴィッヒさんが誰かとチームワークを組むとは思えない。そこを狙うよ」

 

「はい」

 

と、会議は進む。気が付けばもう夕方の7:00を回っていた。

 

「そろそろご飯食べにいこっか」

 

そんなわけで食堂。

 

「あ、一夏さん!」

 

「お、イアンか」

 

篠ノ之さんと一緒に歩いている。

 

「ふんっ」

 

僕、篠ノ之さんに嫌われてるのかなあ……。なんか目を合わせてくれない。

 

「一夏さんは誰と組むんですか?」

 

「あぁ、俺はクジだ。周りの女子のおかげで千冬姉がそうした」

 

「妥当な判断ですね…」

 

「だろ?大変だったんだぞ。どっかの男二人は勝手に組んじまうしよ……」

 

「「うっ…」」

 

僕とシャルルさんは詰まった声を出す。ていうか、シャルルさんって周りからしたら男なんだよね。篠ノ之さん、気まずいんじゃないかな……。と、思ってチラッと見てみたら全然違った。どうやら一夏さんさえいれば他はどうでもいいようだ。

これは邪魔しちゃいけないかな。

 

「すいません一夏さん。僕、やっぱ部屋で食べます」

 

「え?なんで?」

 

「たまには料理したくて。では」

 

僕が部屋に戻ると、シャルルさんも悟ったのかついてくる。

 

「えーっと、なに作ろうかな…」

 

「しかし、イアンもそういうところちゃんと気遣ってあげるんだね」

 

シャルルさんが関心したように言う。

 

「いや、なにより気まずかったんですけどね…それより、なにか食べたいものとかありますか?」

 

「んー…なんでもいいよ。僕は好き嫌いとかないし」

 

「分かりました。ではテキトーに作りますね」

 

数十分後、完成したのは塩焼きそば。

 

「あれ?焼きそばってイギリス料理だっけ?」

 

「いえ、その……姉ちゃんに料理させないために、『今日は○○料理覚えたんだ!』って言って誤魔化すために色んな国の料理勉強してたので……」

 

「大変だね……」

 

「まったくです」

 

で、お皿に盛り付けて机の上に置いた。

 

「どうぞ」

 

「いただきます!」

 

ゾボボボボと啜る。うん、まぁまぁかな。シャルルさんの口には合ったかなと思って、横をチラッと見ると箸の扱いに苦戦していた。

 

「す、すいません。お箸、苦手だったんですね」

 

「う、うん……練習はしてるんだけどね……」

 

「フォークにします?」

 

「い、いや…その……」

 

? なんか珍しく歯切れ悪いな。

 

「食べさせてくれると、嬉しいな……」

 

………今なんつった?食べ……なに?

 

「あの、シャルル、さん……?」

 

「二度も言わせるの?」

 

「ご、ごめんなさい!でも、焼きそばで…?」

 

「口に入れてくれれば後は自分で啜るよ」

 

「そ、そうですか…では、あーん……」

 

あむっと一口。

 

「ん……(ズズズッ)、美味しいね」

 

いや、あの…恥ずかしいんですが……。そのまま完食するまでお手伝い。一時間かけてようやく小っ恥ずかしい晩御飯が終わった。

 

 

 

 



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第一回戦

 

 

 

 

 

トーナメント当日。姉ちゃんの怪我も良くなり、観客席に座れる程度には治ったらしい。モニターから観客席を見ながら思った。

 

「すごいな……」

 

三年生、二年生などの高学年や世界のお偉いさん。中でもイギリスが多いのはやっぱり僕目当てだろう。いや自意識過剰とかじゃなくて僕が代表候補生を引き受けたから。それに専用機も自分で作ったんだからそりゃ見にこないわけがない。

 

「大丈夫、緊張しないで行こう。作戦通りにね」

 

シャルルさんが気に掛けてくれる。だけど僕は緊張しているわけじゃない。ていうかその辺の連中はどうでもいい。僕は、ボーデヴィッヒさんを倒さなければ悔やんでも悔やみきれない。仇だ。ボコボコにする。最低でも100発はぶち込む。姉ちゃんを傷付けただけの代償は払ってもらう。最悪、ブッ殺……、

 

「イアン」

 

肩に手を置かれた。誰かと思えばシャルルさん。

 

「感傷的にならないで」

 

「……………はい」

 

危なかった。殺意が出る所だった。とにかく、落ち着かないと。そう思ってトーナメント表に目を通した。その瞬間、思わず息を呑んだ。

 

「イアン!」

 

「………うん」

 

一回戦目の相手は、篠ノ之、ボーデヴィッヒ。いい機会だ。万全の状態で叩き潰せる。

 

 

___________________________

 

 

 

そんなわけで、試合会場。フィールドにはイアン、シャルル、ラウラ、箒の四人。

 

「ねぇ、あの機体どこの?」

 

「さぁ…ブルーティアーズに似てるけど見たことないよ?」

 

なんて声がする。それはそうだ。あくまでイアンオリジナルだから。

 

「ふんっ。あの男を叩き潰す準備運動になればいいがな」

 

ラウラが言うが、そんな憎まれ口に一々反応しないイアン。

 

「ビビって声も出ないか」

 

それにも反応しない。ただカタカタと震えていた。

 

『それでは、試合を開始してください』

 

その声と共にラウラの目が見開く。

 

「怖ければ一瞬で片付けてやろう!」

 

大口怪レールカノンを初っ端からぶっ放した。それに対してイアンはかわしながら言った。

 

「武者震いだ」

 

「なにっ」

 

スターライトリペアを取り出して狙撃。それをかわすラウラ。

 

「いきなり頭は狙い過ぎか。シャルルさん!篠ノ之さんをお願いします!」

 

「分かってるよ!」

 

言われるがまま、シャルルは箒の方へ。

 

「ちょこまかとっ!」

 

ラウラの砲撃。それを軽々かわしてビームを撃つ。

 

「そんな砲撃、当たるもんか!」

 

「このっ!」

 

今度はワイヤーブレード。追い掛けてくるブレードを空中に舞い上がりながらかわし、スターライトからピストルに変える。

 

「はあっ!」

 

五本のワイヤーブレードを破壊。

 

「なにっ!」

 

そして、インターセプターをぶん投げて残りの一本のワイヤーブレードを壁に突き刺す。

 

「小癪なぁっ!」

 

ヤケになって大口怪レールカノンをぶっ放すが、イアンはかわしてスターライトをサーベルモードに切り替えて突っ込む。

 

「機体が良くても、自分で性能を引き出せなければ!」

 

かわすラウラ。とりあえず距離を取ろうとしたが、一定距離以上離れられない。

 

「なんだ!?」

 

見ると、ワイヤーブレードが壁に固定されているため、動けない。

 

「そこっ!」

 

そのままイアンはスターライトリペアをサーベルモードへ切り替え、突っ込んだ。

 

 

_____________________________

 

 

 

ピット。そこでセシリアやら一夏やらは驚いていた。

 

「すごいな…機体の武器や性能を最大まで引き出している……」

 

思わず声を漏らす一夏。

 

「えぇ…あの子があそこまで戦えるなんて……」

 

「おもしろい戦い方をするな。ボーデヴィッヒの挑発にもまったく乗らずに落ち着いている」

 

千冬までもが褒めている。

 

(あれで、13歳か……)

 

「だが、まだ若いな」

 

千冬は意味深にそう呟いた。

 

 

___________________________

 

 

 

「はぁぁぁっっ‼︎‼︎」

 

突っ込むイアン。だが、

 

「掛かったな!」

 

ラウラはAICを発動。動きが止まる。

 

「勝利を急いだな!これで……!」

 

「掛かったのはそっちの方だよ」

 

「なにっ?」

 

「忘れたんですか?これはタッグ戦ですよ!」

 

その瞬間、ラウラの後ろからヴェントを乱射するシャルル。それがすべて直撃し、ラウラのシールドエネルギーを削る。ちなみに箒はあそこで停止。

 

「ぐあっ!」

 

そして、AICが切れる。

 

「そこだぁっ!」

 

大口怪レールカノンの砲口をぶった斬った。

 

「ぐあぁっ!」

 

「こいつで、終わりだぁっ!」

 

イアンがとどめを刺そうとしたその時だった。

 

 

 

Damage Level…………D

Mind Condition………Uplift

Certification…………Clear

 

《 Valkyrie Trace System 》………boot

 

 

 

「あああああっ‼︎‼︎」

 

突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と、同時に電撃が放たれ、イアンは吹き飛ばされた。

 

「うわあっ!」

 

「イアン!」

 

すると、シュバルツェア・レーゲンの装甲がドロドロのものになってラウラの全身を包み込んで行く。

 

「なん、だ……?」

 

ただ某然とするイアン。そんなイアンにそのなんか、ゲル状かと思ったら形あるなにかが攻撃してきた。

 

「イアンッ!」

 

シャルルがガバッと庇った。が、リヴァイヴはやられ、遠くに吹っ飛ぶ。客席には遮断シールドが張られた。

 

「シャルルさんっ!」

 

そう叫ぶイアンにさらに攻撃。今度はかわした。

 

「イアン!そいつには勝てない!逃げて!」

 

声を張り上げるシャルル。だが、

 

「シャルルさん逃げて!僕が食い止める間に篠ノ之さんを持って!」

 

「だめだよ!危険だ!」

 

が、聞く耳持たない。イアンは一人、相対する。向こうは完全に近距離で来ている。固定していたブレードも無理矢理引き抜いて、イアンに迫る。

 

「こんのぉっ!」

 

ブンブン振り回して来る攻撃を回避しながらインターセプターを出して突き刺す。

 

「これでっ!」

 

さらに、ゼロ距離からの射撃。爆発し、そこから離れた。

 

「はぁ、はぁ……どうだ」

 

油断なく上空を睨む。だが、そこから物凄い早さで居合いが飛んできた。スターライトを犠牲にして回避。

 

「まだっ!?」

 

続いて二丁のピストルを抜く。すべて直撃させるも、全部弾かれてまた壊されてしまった。残りはインターセプターのみ。

 

「クッソ……」

 

「イアン!逃げて!無理だよそいつに一人は!」

 

「ダメですよシャルルさん…勝てる勝てないじゃない。ボーデヴィッヒさんはあの中にいるんだ。僕はあの人の事が嫌いだけど、見捨てるわけにはいかない」

 

「………っ」

 

(今までの射撃で十分なダメージは与えたはずだ。あと一撃、これでキメる)

 

そう思いながらイアンはインターセプターを握る。

 

「っつあぁぁぁぁっっ‼︎‼︎」

 

吠えながら突っ込んだ。そして、振り下ろされる敵の刃。それをわざと肩で受け止めた。防御が特別薄いイアンの機体は速攻でシールドエネルギーが減っていく。そんな中、イアンは不敵に笑って見せた。

 

「軽いな。攻撃のための攻撃は…」

 

そして、強い瞳で睨み付けて言った。

 

「これが、守るための、攻撃だぁっ!」

 

そのままインターセプターを左下から右上に叩き斬る。ピシッとヒビが入り、そこからラウラが弱々しい目をイアンに向けている。それと共にパープルティアーズは消えていった。そして、ラウラが崩れるように倒れ込んで来る。イアンは支え切れずに後ろに倒れた。

 

「そこは支えてあげないと」

 

シャルルに助けられた。

 

 

 



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シャルロット・デュノア

 

 

 

 

僕は任務完了して、姉ちゃんやシャルルさんと晩御飯。

 

「それで、肩はもう大丈夫なんですの?」

 

「うん。元々、そんな深く入ったわけじゃないからね」

 

「まったく…心配かけさせて……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

イアンは少し肩を落とす。

 

「そうだよ。単機でボーデヴィッヒさんに突っ込んだ時は心臓止まるかと思った」

 

「だからごめんなさいってば…でも勝てたし結果オーライで……」

 

「「よくない!」」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

な、なんで怒られてるんだろう僕………。

 

「まぁそういじめてやるなよ」

 

声が掛かり、振り向くと一夏さんがいた。両隣には凰さんや篠ノ之さんがいる。

 

「それよりイアンはやっぱり強いんだなー。今度俺に稽古つけてくれよ」

 

「いやいや、僕はそんなに強くないですよ」

 

『嫌味か?』

 

「口を揃えて!?」

 

な、なんかみんな冷たいんだけど…僕、なんかしたかな……。

 

「で、ラウラは無事なのか?」

 

「無事みたいだよ。怪我とか特にないみたい」

 

一夏さんに聞かれてシャルルさんが答える。優しいなーあんな人にも一応気に掛けてあげるなんて。

 

「ま、それもこれもあんたのおかげだけどねー」

 

「わっ!凰さん!だから頭撫でるのやめてくださいよ!」

 

「うりうりーなにを照れてるのかなー?」

 

「鈴さん?前も言ったはずですが人の弟に手を出すのはやめていただけます?」

 

「あんたも相変わらずのブラコンっぷりねー」

 

「ぶ、ブラコンではありませんわ!そもそも、こんな愚弟なんてわたくしはちっとも気に留めておりません!」

 

「ぐ、愚弟………?」

 

今のはちょっと傷ついた……あっやべっ…涙が……。

 

「あー!セシリアがイアン泣かしたー!」

 

「最低だな」

 

「ち、ちょっと!イアン!?」

 

凰さん、篠ノ之さんが言うと、姉ちゃんがあたふた慌てる。が、最初の声が相当大きかったのか、周りの女子達も過剰反応する。

 

「なに!?セシリアが私達の天使を!?」

 

「許せないわ…全員武器を取れー!」

 

「メガ粒子砲スタンバイ!ってぇー!」

 

「ち、ちょっと!」

 

戦場になる食堂から僕とシャルルさんと一夏さんは退散した。数秒後、織斑先生の声が響いた。

 

「あ、そこの男子三人!」

 

山田先生の声。

 

「「「はい」」」

 

「男子の大浴場が開きました!どうぞ!」

 

「「えっ」」

 

「マジっすか!?」

 

「はしゃぐな馬鹿者」

 

パシィーンと叩かれる音。

 

「ま、そんなわけだからさっさと入ってこい」

 

 

_______________________________

 

 

 

とりあえず僕や一夏さんが先に入るということで落ち着いた。

 

「うおー…まさかまだ男子と一緒に風呂に入る機会が来るとは……」

 

「この高校に来た時から諦めてたんですか?」

 

「まあな」

 

「あー…でも分かります」

 

何て話しながら入浴。

 

「っはあぁぁぁぁ………」

 

オッさんみたいな声を出す一夏さんの横で僕も静かに入浴。

 

「なんか、久々に広いお風呂ですねぇ〜」

 

「風呂好きなのか?」

 

「はい。一時間以上は入ってますね」

 

「……女々しいな」

 

「う、うるさいです!」

 

なんて話しながら身体洗って入浴。

 

「でも、いいよなぁイアンは……」

 

「なにがです?」

 

「姉ちゃん守れるくらい強くて。俺は千冬姉には守られてしかないから……」

 

「……………」

 

そう自分を責めるように言う一夏さん。そっか…そういう人もいるのか…守りたくても守れずに守られてしまう人も……。

 

「いいんじゃないですか?今は守られていても」

 

「えっ……?」

 

「そんなことより、これからはどうやって守れるくらい強くなるかですよ!僕も協力しますから、元気だしてください!」

 

「…………生意気な奴め」

 

コツンと僕の頭を小突く一夏さん。

 

「じゃ、俺そろそろ上がるわ。あんま長く入ってんなよ」

 

「はーい」

 

で、一夏さんは上がった。はぁ…偉そうなこと言っちゃったかな……あくまで歳下であることを忘れないようにしないと……。少し反省してると、カラカラっとドアが開く音。忘れ物かな?

 

「お、お邪魔します……」

 

ん?一夏さんにしてはやけに声が高いような……。正体を確認しようと振り返るとシャルルさんだった。

 

「……ってシャルルさぁん!?」

 

「あ、あまり見ないでよ……」

 

「ご、ごごごごめんなさい!出ます!すぐ出ます!」

 

「ま、待って!少しでいいから……その、一緒に……」

 

な、なにを考えてるんだこの人は!だ、ダメだってこんな……ね、姉ちゃんにバレたら…狙撃される……。

 

「あ、あうぅ……」

 

「だ、大丈夫だよイアン…僕が、勝手に入ってきたんだから……」

 

「は、はい……」

 

そ、そんなこと言っても…僕が恥ずかしいんだよ……。

 

「その、大事な話が、あるんだ……」

 

いや、ダイジよりオオゴトなんですが……。

 

「な、なん、ですか……?」

 

「ぼく、その…この学園に残ることに、なったから……」

 

「そ、そですか……」

 

や、ヤバイ…内容が頭に入ってこない…えっと、あ、そか…この学園に残ってもらえるんだ……。

 

「なんでだと、思う?」

 

「さ、さぁ………?」

 

と、思った瞬間、僕の背中に柔らかく華奢な感覚。思わず「ひうっ」と声を上げてしまった。

 

「イアンが、ここに残って欲しいって、言ってくれたからだよ……?」

 

「そ、そうですか………」

 

「うん。そうだ」

 

それは嬉しい。僕の行動が周りを良い方向に変えたと思うと、それはそれで嬉しい。

 

「それと、僕と二人きりの時は、シャルロットって呼んでくれる、かな……?」

 

「へ………?」

 

「僕のお母さんが付けてくれた、本当の名前」

 

「わ、分かりました…シャルロット、さん……」

 

「『さん』も、ダメ」

 

「へ………?」

 

「シャルロット」

 

「し、しゃる、ろっと……」

 

「うん。OK。よろしくね、イアン」

 

そこまでが限界だった。僕は顔を真っ赤にして頭から煙を出しながらぶくぶくと沈んでいった。

 

「あれ?イアン……?イアンー!?」

 

 

____________________________

 

 

 

次の日。僕は今だボーッとしながらHRを過ごす。姉ちゃんとかから「どうしたの?」みたいな事とか聞いてきたが、昨日あったことなど話せるはずもない。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

もはやHRなんて頭に入らない。忘れようとしても頭に焼き付いて離れない。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

スカート姿のシャルロットさんが入ってくる。あぁ、ダメだ…シャルロットさんの全裸が頭に浮かぶ……あれ?スカート?その瞬間、クラスがざわつく。

 

「え?デュノア君って女?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

 

「って、イアンくん。同室だから知らないってことは…」

 

「ちょっと待って!昨日って確か男子が大浴場使ったわよね!?」

 

あ、マズイ!一緒に入ったことが……、

 

「ってことは、イアンくんも女だー!」

 

「いやそっちぃーっ!?」

 

そのまま脱がせ脱がせと女子全員が僕に向かって襲い掛かる。

 

「ま、待ってください!僕は男ですって!し、シャルロットさん!僕、男ですよね!?一緒にお風呂入って…」

 

その瞬間だった。僕の目の前をレーザーが通る。見ると、姉ちゃんが鬼の形相の笑顔で僕にスターライトを向けていた。

 

「イ〜ア〜ン〜?わたくしはあなたをそんな破廉恥な弟に育てた覚えはありませんわよ?」

 

「ま、待って姉ちゃん!違うんだ!これは……」

 

「でも入ったんですよね?」

 

「は、入ったけど……」

 

「その事実だけで十分ですわ」

 

だ、ダメだ…死んでしまう……。姉ちゃんが狙撃し、ぎゅっと僕が目をつぶった時だ。そのスターライトを止めた影。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒ、さん……?」

 

ボーデヴィッヒさんが守ってくれた。

 

「イアン・オルコット、だったな」

 

「は、はい……」

 

急に名前を呼ばれてビクッとなる。ま、まさか…殺しに?やだ助けて……昨日、パープルティアーズ壊れちゃったから修理中なのに……!

と、思ったら、目の前でボーデヴィッヒさんは土下座した。

 

「すまなかった。お前の姉貴、そしてお前自身への侮辱を謝罪する」

 

「……………へ?」

 

周りがぽかんとする。

 

「これから、私の教官になってくれ」

 

「え?いやでも僕そんなに強く……」

 

「それともうひとつ」

 

次の瞬間、僕の唇に柔らかい感触。それがボーデヴィッヒさんの唇であることを察したのは数秒後だった。

 

「え、えぇっ!?」

 

「お前はこれから私の嫁にする!」

 

えぇーっ!と騒然となる教室。そりゃそうだ。僕だってそうなのだから。

 

「ま、待ってください!ていうかなにを言ってるんですかボーデヴィッヒさん!」

 

「ラウラと呼べ」

 

そんなボーデヴィ…ラウラさんにまたビーム。

 

「あっああああなた!人の弟になにしてくれてるんですの!?」

 

「キスだ」

 

「もう許せませんわ!ブルーティアーズ!」

 

「おもしろい!返り討ちにしてやる!」

 

そのままバトル開始して二人は教室の窓を突き破って出て行った。

全員がポカーンとしてる中、僕の後頭部にコツっと何かが当たる。振り返ると、ヴェントを構えたシャルロットさんが立っていた。

 

「イアンって女の子の目の前でキスしちゃうんだね。僕びっくりしたな」

 

「あの…シャルロット、さん……?なんで、怒って……」

 

「自分で考えてみて?」

 

学校に絶叫が響いた。

 

 

 

 

 



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改造

今更ですが、パープルティアーズのピストルはGNビームピストル的な見た目だと思ってください。



 

 

 

 

トーナメントから一週間経った日のこと。

 

「ねぇ、シャルロットさん」

 

放課後の教室。イアンがシャルロットに声を掛ける。

 

「どうかしたの?」

 

「その…パープルティアーズの修理は終わったんだけど、強化しようと思って、手伝って、くれないですか……?」

 

「うん。いいよ。行こっか!」

 

にこりと笑って答えるシャルロットにパァッと明るくなるイアン。で、二人は整備室へ。だが、そこにあったのはパープルティアーズじゃなくてダブルベッド。

 

「イアン?これってどういう…」

 

「えいっ!」

 

「ふぇ!?」

 

ドサッと押し倒されるシャルロット。

 

「い、イアン……?」

 

「シャルロット、僕と、一つになろう……」

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

みるみる赤くなるシャルロット。

 

「だ、だめだよそんなの!」

 

ガバッと起き上がると自室。それが夢だったことに気付くのに約10秒。

 

(あわわっ…僕はなんて夢を……)

 

自分で自分が恥ずかしくなるシャルロット。

 

(今更だけど…僕ってイアンのこと好きなのかなぁ……って、でも二つも歳下なんだよ!?これじゃあし、ショタコンみたいだよ!)

 

が、イアンのことを考えると頬が熱くなるのは事実。

 

(うー…確かに、戦ってる姿はかっこよかったけど…でも…だからって二つも歳下の子に……)

 

が、今までIS開発の道具として扱われていたシャルロットにとってこの感情は理解し難いのも事実。だから、今までの自分の行動を含めて協力者に話して、意見を聞いてみることにした。

 

 

________________________

 

 

 

「恋ね」

 

「恋だな」

 

「恋ですわ」

 

の、三段活用。

 

「やっぱりかぁ……」

 

と、深々とため息をつくシャルロット。

 

「ていうかあんた、それだけ大胆なことしといて自分の気持ちに気付いてなかったの?」

 

「うっ」

 

鈴に言われてグサっと来るシャルロット。

 

「と、いうか逆にそれではただのビッチだぞ」

 

さらに箒の追い撃ち。

 

「そもそも、あまりわたくしの弟に淫らな物を見せないで下さる?」

 

トドメの一撃。もはや残りHPは限りなくゼロに近い。

 

「それで、どうすればいいかなあ……」

 

「なんであたし達に聞くのよ」

 

至極当然のことを聞く鈴。

 

「だ、だって三人とも一夏にゾッコンでしょ?」

 

「「「は、はぁ!?なにをバカな……!」」」

 

「だから、アドバイス貰えるかなあって……」

 

三人の反応などまるで無視して言うシャルロットだった。

 

「うーん…一応聞くけど、ラウラはどうしてるわけ?」

 

「毎日のように夜這いに行ってるよ…その度にイアンが泣きついて来る」

 

「なんで少し嬉しそうなのよ」

 

呆れる鈴。

 

「そうだセシリア!イアンってなにか好きなものない?」

 

「うーん…あるにはありますけど…果たしてあなたがそれについていけるか…」

 

「教えて!」

 

「昆虫、ロボットアニメ、仮面ライダー、ウルトラマンですわ」

 

「」

 

それには全員が呆れムードになる。

 

「子供っぽいな……」

 

「なんかトミカとかあげたら喜びそうな感じ……」

 

箒、鈴とゲンナリした声を出す。

 

「あと、最近ではこの前壊れたパープルティアーズの改造にハマっているみたいですわ。一緒に行ってきてはどうですの?」

 

「え?で、でも僕、ISを作り方なんてとても…」

 

「大丈夫だろう。手伝うという行動だけでも大分ポイントは上がると思うぞ」

 

セシリアの思い付きに箒の援護射撃。

 

「ちょうど今もあっちにいるんじゃない?行ってきたら?」

 

「わ、分かった!ありがとみんな!」

 

そのままパタパタと整備室へ向かうシャルロット。

 

「なんか、恋する乙女って感じねー」

 

「お前もそうだろう」

 

「箒さんの言えた台詞ではありませんわ」

 

 

_______________________________

 

 

整備室。ソーっと音を立てないようにシャルロットは中へ入る。

 

「イアン、いるかな……」

 

中ではイアンがコツコツと武器を作っていた。布仏本音、てかのほほんさんでいいや。のほほんさんと一緒に。

 

「それにしてもアイアイはよくそんなトリッキーな武器を思い付くね〜」

 

「うーん…やっぱりロボットアニメの影響なんですかね…こんな感じのを使いたいっていうのを作ってますから」

 

(なんか、忙しそうだし…布仏さんいるなあ…僕が行っても意味あるのかな……い、いやいや!箒も手伝いに来たことに意味があるって言ってたし!大丈夫だよ!)

 

で、深呼吸すると、心を落ち着けて目を見開いた。

 

(よしっ!)

 

「イア……」

 

「あれー?でゅっちーなにしてるのー?」

 

「ひゃあぁぁぁぁっっ‼︎‼︎」

 

びくびくぅっと跳ね上がるシャルロット。

 

「うぇっ!?」

 

それに反応してイアンも振り向く。

 

「あれ?シャルロット、さん……?」

 

「や、えーっと!本日はお日柄も良く…じゃなくて!」

 

アワアワと慌てるシャルロットを不思議な目で眺めるイアン。

 

「えっと…お、お手伝いに、来たよ……?」

 

途切れ途切れにそう告げるシャルロット。最初は不思議な顔をしていたものの、イアンはすぐに笑顔になって答えた。

 

「ありがとうございます。じゃあ、完成した武器をテストしてもいいですか?」

 

「! うん!」

 

そんなわけで、第二アリーナ。パープルティアーズは既に直っているらしい。

 

「模擬戦形式でもいいですか?追加武装は二つだけなので」

 

「うん。そう簡単にはやられないからね」

 

戦闘開始。

 

「行くよリヴァイヴ!」

 

初っ端からヴェントをぶっ放すシャルロット。それを横に回転しながら回避し、スターライトリペアを呼び出して撃つ。が、それもかわされた。

 

「このっ!」

 

さらにレイン・オブ・サタディ、ショットガンを二丁取り出し、イアンに乱射。それを実に緩やかにかわすイアン。イアンはスターライトのグリップを引き抜く。

 

「まずは、一つ目!」

 

そのグリップから出たのは短いビームダガー。それをぶん投げた。

 

「そんなもの!」

 

それを撃ち落とすシャルロット。だが、その瞬間大きく爆発した。

 

「うあっ!」

 

「そして、二つ目!」

 

イアンはピストルを二丁取り出すと、それを縦に繋げた。そして、ストレージから砲口のような筒を取り出し、前のピストルの真下に装着する。

 

「喰らえ!リボルビングピストル!」

 

解説。ピストルを繋げることによって、本来の倍のエネルギーのビームを放てる。また、砲口を前のピストルの真下に付けて、前の引き金を引くと、砲弾が飛び出す。

 

まぁそんなわけで、砲弾が飛んだ。爆発に爆発が重なり、アリーナは爆発に包まれた。そして、イアンは空高く飛び上がった。取り出したのは再びスターライトリペア。そこから煙の中の熱を感知する。

 

「狙い撃つッ!」

 

パシュッと狙撃。数秒後、模擬戦終了のモニターが出た。

 

 

___________________________

 

 

 

「ご、ごめんなさいって!最後の狙撃は確かにいらなかったと思います!」

 

さっきから謝ってるのはイアンだ。で、怒ってるのはシャルロット。今は模擬線が終わり、寮の食堂である。

 

「ふんだ。武器を試すだけとか言ってた癖に」

 

本当は、ただ単に叩きのめされたのが悔しかっただけだ。

 

「ごめんなさい…次から、気を付けますから……」

 

余りにも泣きそうな顔をされてしまったため、逆に困ってしまうシャルロット。そして、ふっと笑うとイアンの頭に手を置いた。

 

「今度、臨海学校があるよね」

 

「へ?は、はい……」

 

「その水着買いに行くから。着いてきて」

 

「わ、分かりました…」

 

「それと、あだ名」

 

「え?」

 

「僕、本名言ったからみんなもう『シャルロット』って呼ぶでしょ?だから、僕とイアンだけのあだ名考えてくれたら許したげる」

 

「え?えーっと……」

 

困った顔をするイアン。

 

「し、シャル、とかは…どうですか?」

 

しばらく無表情のシャルロット。だが、すぐにニコッと笑ってイアンの頭を撫でた。

 

「じゃ、次の休日、ちゃんと空けといてよ」

 

「は、はい!」

 

そのままシャルロットは部屋に戻りながら、にやにやする自分の顔を隠せなかった。

 

 

 

 

 



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イアン教官

 

 

 

朝。目が覚めると体に柔らかい感覚。ていうか目の前に足。

 

「って、ラウラさん!?」

 

「ん………もう朝か……でももうちょっと……」

 

「も、もうちょっとじゃなくて……」

 

な、なんで全裸なんだよこの人……。だ、ダメだ……。変にいい匂いが……。

 

「は、離れて……!」

 

だが、まるで言うことを聞かず、僕の上をゴロンと転がって目の前にはお尻のあ………、

 

「だ、だから離れて下さいよぉ!」

 

い、いかん!鼻血が………!

 

「む?イアン…どうかしたのか……?鼻血が出てるぞ……」

 

僕に馬乗りになって顔を近付けてくるラウラさん。

 

「あ、あわわっ!だ、だから離れ……」

 

ラウラさんの胸を見ないように前に手をかざす。だが、その手を取って十字固めされた。

 

「い、いだだだだだっ!ご、ごめんなさいごめんなさい!」

 

「お前はもっと男として強さを磨いた方がいいぞ。この程度で泣きそうになるとは情けない」

 

「こっの………!」

 

そこまで言われて黙ってるほど男じゃなくない。ラウラさんの足の裏を空いてる手でくすぐった。

 

「ひゃっ!や、やめろ!」

 

「そっちこそくすぐり体制付けた方がいいんじゃないですか!?」

 

「ぷっはははっ!や、やめろ!私が悪………ははははっ!」

 

………よく考えたら全裸の歳上の人の足の裏くすぐってるやばい奴だよな……と、思った矢先、僕達の頭に拳が降り注ぐ。

 

「あがっ!」

 

「痛っ!」

 

「お前ら…人が寝てる横で暴れるんじゃねぇよ」

 

一夏さんが怒っている。そっか…この前、この部屋にまた引っ越したんだっけ……。と、思ったらラウラさんが食って掛かる。

 

「おい、私はお前をまだ教官の弟と認めたわけでは……へっくち!」

 

いやそこまで言ったら最後まで言いなさいよ……。僕が横で呆れてると、ラウラさんにバサっと布が被さる。

 

「いいからお前は服を着ろ」

 

一夏さんの男前な仕草、思わず僕が惚れそうになった。ちなみに投げたのは一夏さんのパーカー。

 

「それで、イアン。パープルティアーズは直ったのか?」

 

ラウラさんに聞かれた。

 

「え?は、はい。一応追加武装含めて昨日終わりました」

 

「なら約束通り私の教官として訓練を手伝え」

 

「え、でも僕そんな強く……」

 

「私を二度も圧倒した奴の台詞か!いいから手伝え!」

 

「わ、わかりました!」

 

シャルさんとの買い物は一週間後だし、問題ないか。僕の返事に満足したのか、ラウラさんは出て行った。

 

「これじゃどっちが教官だかわからねぇな」

 

そんな一夏さんの呟きが後ろから聞こえた。いやまったくその通りですはい。

 

 

______________________________

 

 

 

第三アリーナ。

 

「で、僕はどうすればいいんですか……?」

 

「それは教官が決める事だろう。お前の言う『守るための力』を教えてくれればそれでいい」

 

いや精神論なんだけどな……。

 

「うーん…例えばですよ?敵をただ殲滅するのと友達を守るために戦うの、どっちの方が精神的に力が入りますか?」

 

「ふむ……私は誰かのために戦うということがなかったからな……」

 

「えっと…じゃあただ目的もなく、あるとすれば作戦成功のために戦うのと、織斑先生が死にかけていて、それを守るために戦うのどっちが……」

 

「教官が死にかけるなどあり得ん!」

 

「や、これは例えで……」

 

「あり得ん!」

 

もうやだめんどくさいこのヒト……。

 

「じゃあ、この学園に誰か好きな人とかいますか?」

 

「イアン」

 

「………………」

 

「? なに顔を赤くしている?」

 

「ど、どうしてそんなサラッと言えるんですか!?」

 

「お前が言えと言ったのだろう。いいから、それでなんなんだ?」

 

「いえ、ですからじゃあ僕が死にかけて、それを守るために戦うのと、軍の命令でただ作戦成功のために戦うの、どっちの方が力が入りますか?」

 

「それは…状況にもよるのではないか?他の仲間、自分のISや武器の状態、敵の数に……」

 

「そういうことではなくて…精神的な問題です」

 

「それなら……守る方、か?」

 

「ですよね?つまり、そういうことです」

 

「いや待て。それでは分からん。もっと分かりやすく言え。それでどうして強くなれる?」

 

もうやだめんどくさいマジで。

 

「つまり、人間、いや生物は極限状態に追い込まれると自分の力以上の力を引き出せるんですよ」

 

「なるほど…」

 

「でもだからと言って、ラウラさんが今ISを装備して僕は生身で挑んでも勝ち目はありません。極限において引き出せる力といっても物理的に不可能なものは無理です」

 

「待て。でもお前はあんな余ったパーツだけで私を倒しただろう」

 

「じゃあ、物理的に可能だったんじゃないんですか?」

 

「…………今のは少しムカついた」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

な、なんで!?僕今癇に障るようなこと言ったかな……。

 

「しかし、追い込まれなければ力が出せないのであれば意味がないだろう。それにお前はトーナメントの一回戦の時は誰かを守るとかなかっただろう。どういうわけだ?」

 

「うーん……後は実践あるのみで!」

 

「な、なんだそれは!結局そうなるのか!?」

 

「自分より強い人と戦えばそれだけ強くなれるんですよ!うん、強くなるには自分より強い人の技術を盗むのが一番早いですからね。ですから、この学園で一番強い人にでも…」

 

「ならお前が相手をしろ」

 

「ふぇ?」

 

「今から私が勝つまで模擬戦だ。いいな?」

 

「ま、待ってください!僕、昨日もシャルさんと模擬戦して…今日はゆっくりやすもうと……」

 

「異論は認めん。では始めるぞ」

 

「はぁ……なんでこうなるの……」

 

次の日、僕は筋肉痛で動けなかった。

 

 

 

 



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試着室

 

 

 

 

放課後の屋上。僕はそこで空を見上げていた。そして、右手にはとあるカードが握られ、腰にはディケイドライバーが巻かれている。

 

「貴様は一体、何者だ!(裏声)」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。変身!」

 

『カメンライド、ディッケェイド!』

 

ベルトからそんな声がして、僕は今すごい充実感に溢れている。これはこの前、買ってきたディケイドライバー。早い話が仮面ライダーの変身ベルトだ。姉ちゃんには「そんな子供っぽい物買うのはよしなさい!」と、怒られるからこっそり買って今日、学校に隠し持って来た。

放課後なら、誰も屋上には来ないだろうし、思いっきり全開で遊べる。と、思った矢先、屋上の出口に人がいた。見たことのない人。

 

「あっ」

 

「…………?」

 

恥ずかしい。多分、今僕顔真っ赤。そんな僕の気も知らずに不思議なものを見る目でこっちを見てくる眼鏡の女子生徒。どうしたらいいか分からず、僕はただ立ち尽くした。と、思ったらその人はブレザーの前のボタンを取る。そこには何処かで見たことあるベルトが装着されている。

 

「?」

 

そして、妙な手付きで真顔で言った。

 

「変身……」

 

ベルトの真ん中が赤く光る。………仮面ライダークウガだ。僕とその人は軽くにらみ合う。と、思ったら急に顔を真っ赤にして出て行ってしまった。

 

「この学校に来て良かった……」

 

不意にそんな呟きが漏れた。

 

 

_____________________________

 

 

 

姉ちゃんの部屋。

 

「それで、わたくしはずーっと昔から言っておりますわよね?こんなもの、中学生になってまで買うなと」

 

正座で怒られている。眼鏡の女の人が出て行ったのと入れ替わりのように姉ちゃんとシャルさんが屋上に来た。カンカンに怒ってる姉ちゃんの横で苦笑いしているシャルさん。

 

「まったく…いつまでたっても成長しないんですから…」

 

「ま、まぁまぁセシリア。別にいいんじゃないかな。大人になってもそういうの買う人いるって一夏も言ってたし…」

 

「そういう大人になって欲しくないから言ってるんですのよ。はぁ……もういいですわ。これきりですからね……」

 

『アタックライド、ブラスト!』

 

僕の手にはディエンドライバーが握られていて、銃口はしっかり姉ちゃんを狙っている。当然、没収された。

 

「あなた、反省しておりますの!?」

 

「ごめんなさい!」

 

僕のバカ!煽ってどーすんだよ!

 

「もう部屋に戻りなさい。この二つは夏休み中にイギリスに置いて来ます」

 

「はーい……」

 

「大丈夫だよイアン。僕が今度買ってあげるから、ね?」

 

おぉ!さすがいい人は違う!

 

「シャルロットさん?」

 

「じ、冗談だよセシリア…はははっ」

 

ですよねー知ってました。

 

「それはそうとイアン。明日だからね買い物」

 

「はい」

 

そう、明日はシャルさんと買い物だ。

 

 

___________________________

 

 

 

次の日。僕とシャルさんは水着を買いに出かけた。行きのモノレールの中。

 

「せっかくだから、イアンに選んでもらうからね」

 

「えぇっ!?な、なんでですか!」

 

「当然でしょ。これは元々ペナルティなんだから」

 

うっ…そう言われると反論できない。

 

「でも…僕どんなの選べばいいか…」

 

「大丈夫、僕が決めきれなかったやつを選んでもらうだけだから」

 

「そ、それでも……その、恥ずかしいですよ……」

 

「いいから!行くよ!」

 

そのまま僕の手を引っ張ってモノレールを降りた。で、水着売り場。

 

「うぅ…女性客しかいない……」

 

居場所がなくてキョロキョロしていると、

 

「そこのあなた」

 

と、声をかけられた。まったく知らない人だ。

 

「は、はい」

 

「そこの水着、片付けておいて」

 

「僕が、ですか?」

 

「当たり前じゃない」

 

「は、はあ」

 

とりあえずその水着を手に取ると、その水着をパシッとシャルさんが取った。

 

「あの、自分で片付けてください。この子は私の連れですから」

 

「あなたの男なの?躾くらいしっかりしなさいよね」

 

そのまま去って行った。なんだ?なにがしたかったんだ?

 

「ダメだよイアン。言われたことに従ってちゃ」

 

「あの、何がしたかったんですか?あの人」

 

「あー…大丈夫。気にしないで」

 

なんだ…さっぱり分からん……。

 

「それよりさ、ちょっと……あっ!」

 

急に声を上げるシャルさん。と、思ったら水着と僕を持って試着室に入った。……って、あれ?僕も?

 

「あの……シャルさん?」

 

「静かに!………どうしてラウラがここに……?」

 

「ラウラさんがいるんですか?なら一緒に……」

 

と、出ようとしたら口をバッと抑えられ、壁に叩き付けられた。

 

「………っ‼︎」

 

「ご、ごめんねイアン。お願いだから黙ってここから出ないで」

 

僕はコクコクと頷いた。そしたら、手を離してくれる。

 

「じゃ、僕着替えちゃうから向こう向いてて!」

 

「は、はい!」

 

な、なんでこんなことになったんだぁ〜普通に買い物だけだと思ってたのに……。

 

「ひゃあっ!」

 

「ふぇっ!?ど、どうかしました!?」

 

「こっち見ないで!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

ほ、ほんとになんで…こんなことに……と、思ってたら後ろからドサッと何かが降ってきた。

 

「ひゃあぁっ!」

 

「うわっ!」

 

試着室は狭いから倒れることはなかった。だが、だからこそ体が密着しやすい。後ろから抱き着かれてしまったのだが、なんか背中にヤケに柔らかい感覚……、

 

「あの…シャルさ……」

 

シャッと音がした。試着室のカーテンが開く音だ。

 

「なにをしてる馬鹿者が……」

 

織斑先生が立っていた。僕の世界が終わる音、確かに聞こえた。

 

 

_______________________________

 

 

 

「はあ、水着を買いにですか。でも、試着室にふたりで入るのは感心しませんよ。教育的にもダメです」

 

怒られるイアンとシャルロット。イアンは放心状態で、シャルロットにおぶられている。

 

「では、さっさとその水着を買って帰れ。そのガキ、疲れてるんじゃないか?」

 

千冬に言われてシャルロットは苦笑いで退散する。

 

「それとラウラ。隠れてないで一緒にいたらどうだ」

 

ギクっと音を立ててラウラも退散した。

 

 

 

 

 

 



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「海!見えたぁっ!」

 

クラスの女子が声を上げた。窓からは確かに海が見える。

 

「姉ちゃん!海!海!」

 

「はいはい」

 

言いながら頭を撫でてくれる姉ちゃん。

 

「相変わらずイアンは甘えん坊だねー」

 

前からシャルさんがバカにしたようなことを言ってきた。

 

「違います。ただお姉ちゃんが好きなだけです」

 

「シスコン」

 

「ち、違います!」

 

なんて言ってると、なんかヤケにソワソワしてらラウラさんが目に入った。

 

「ラウラさん?どうかしました?」

 

「ど、どうもしてない!近い!馬鹿者!」

 

「むぎゅっ!」

 

顔を押し戻されてしまった。

 

「箒もどうかしたのか?なんかさっきからソワソワしてるけど」

 

一夏さんが聞くが、

 

「な、なんでもない!馬鹿者!」

 

なんでこのクラスは人のことをバカバカ言うんだろうか……。そんな感じで宿に着いた。ゾロゾロと一年生がバスから降りる。

 

「それでは、これから三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

『よろしくお願いしまーす!』

 

と、声を揃えて挨拶。

 

「はい、こちらこそ。一年生は元気があってよろしいですね」

 

宿の人はそう笑顔で言った。ま、僕は二年生だけどね本来。つまり、僕はここにいる全員の先輩にあたるわけだ。そんなわけあるか。で、部屋へ案内。その時、

 

「ね、ね、ねー。おりむーとあいあいー」

 

「あ、本音さん」

 

「二人の部屋ってどこ〜?一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて〜」

 

「や、俺も知らない。廊下にでも寝るんじゃねぇの?」

 

「えぇっ!?」

 

「冗談だよイアン」

 

なんて話してると、織斑先生から声が掛かる。

 

「織斑、イアン。お前らの部屋はこっちだ。ついてこい」

 

僕達が連れて行かれた先は教員室。

 

「最初はお前ら二人部屋のはずだったんだが、就寝時間を無視して押し掛けて来るだろうということになってだな。結果、私と同室になったわけだ」

 

「で、でも…僕も、ですか……?」

 

「ふん。お前程度に襲われてされるがままにされるほど私は弱くない」

 

「お、襲いませんよ!僕だって命は惜しいです!」

 

「…………どういう意味だ?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

危なかった…駄目だこの人は……姉ちゃんの軽く400倍は怖い。

 

「さて、今日は一日自由時間だ。海にでも行ってこい」

 

そんなわけで、僕と一夏さんは水着の用意だけして部屋を出た。

 

 

__________________________

 

 

 

とりあえず着替えるために別館へ向かう途中、篠ノ之さんとバッタリ出会した。凄い形相で僕に「邪魔だ」と言っている気がしたので僕は先に更衣室に行くことにした。数分後、一夏さんがやってくる。

 

「待っててくれたのか?」

 

「は、はい…その……一人で、女の子しかいない海に行くのは、ちょっと……」

 

「はははっ、そっか。ちょっと待っててな」

 

「は、はい」

 

着替えてる一夏さんを見ながら、やっぱり高校生はいい身体してるなと思った。割と筋肉あるし、少し羨ましい。僕は今だ身長160cmを越えないから尚更。僕はぺしゃんこの浮き輪を持った。

 

「さ、行くぞ」

 

「はい!」

 

で、海に駆り出す。が、隣にすごい肉体の人がいるとやっぱり自分の体を見せるのはなんとなく恥ずかしい。一応、パーカーを着て行くことにした。

 

「おいおいイアン。腕掴んでると歩きにくいよ」

 

「す、すいません……」

 

「ていうか、浮き輪膨らませないのか?」

 

「いえ、あの……あははっ」

 

言えない。膨らませられないなんて言えない。一夏さんが真面目に準備体操してる中、僕は姉ちゃんの姿を探す。

 

「い、ち、か〜〜〜っ!」

 

突然、聞き覚えのある声がして、ガバッと飛び付く凰さん。そのまま一夏さんに飛び乗って肩車させる。

 

「こらこら、お前もちゃんと準備運動しろって。溺れてもしらねぇぞ」

 

「あたしが溺れたことなんかないわよ。前世は人魚ね、たぶん……って、イアン。その『何言ってんだこいつ?』みたいな顔、やめなさい」

 

「な、なんでわかるんですかぁ!?」

 

「ふぅーん。本当にそう思ってたんだ。生意気な!」

 

今度は僕に襲い掛かって来るので慌てて逃げた。

 

「待て待て待てー!」

 

「ご、ごめんなさ…わっ!」

 

砂浜に足を取られて転びそうになる。そんな僕を支えてくれた(胸で)のは姉ちゃんだ。

 

「まったく…なにをしてらっしゃいますの?」

 

「ね、姉ちゃん……あっ、ちょうどよかった!浮き輪、膨らませて!」

 

「はいはい…いつまでも甘えん坊なんですから…」

 

で、ぷくぅ〜っと膨らんでいく浮き輪。すると、近くにいた女子生徒に声をかけられる。

 

「ていうか、なんでイアンくんパーカーきてるの?」

 

「ふえ?」

 

「せっかく海に来たんだから脱ぎなよ」

 

「い、いやでも…は、恥ずかしい、ですし……」

 

「なに女々しいこと言ってんのよ!」

 

気が付けば凰さんにフードを引っ張られている。

 

「脱がしてやる!」

 

「ち、ちょっと!やめてくださいよ!」

 

抵抗はしたものの、結局脱がされてしまった。もうお婿に行けない……。

 

「なによ。別に何もないじゃない…」

 

「そういう問題じゃないですよ……」

 

ゲンナリする僕。

 

「ほらイアン。出来ましたわよ」

 

「ありがと姉ちゃん!一夏さん、一緒に海に……」

 

「申し訳ございませんが、一夏さんはわたくしにサンオイルを塗ってくださる約束をしてますの」

 

「「んなっ!?」」

 

僕と凰さんが声を漏らす。

 

「では、お願いします一夏さん」

 

僕の心境などまるで無視してサンオイル開始。少し困った顔をしながらも一夏さんはサンオイルを手に付ける。大丈夫、一夏さんならやらしいことはしない。我慢だ我慢。

 

「じゃ、じゃあ、塗るぞ」

 

「ひゃっ!?い、一夏さん、サンオイルは手で温めてから塗ってくださいな」

 

「そ、そうか、悪い。なにせこういうことをするのは初めてなんで……すまん」

 

「そ、そう。初めてなんですの。それでは、し、仕方が無いですわね」

 

リミットブレイク。限界突破。僕は一夏さんからサンオイルのボトルを奪うと、姉ちゃんの背中の上でドボドボドボっと垂れ流した。

 

「ひゃあぁっ!?な、なにを……」

 

「ふんっ。バカ姉」

 

そのまま僕はスタスタとその場を後にする。

 

「? なんなんですのあの子は……?」

 

「今のはセシリアが悪いな」

 

「そうよ」

 

なんて声が後ろからする。と、思ったら後ろからだきっと抱きついて来た。

 

「ほらほら、あんたもいじけてないの!せっかく海に来たんだから遊ぶわよ!」

 

こういう時の凰さんは好きだ。

 

「は、はい」

 

「じゃ、泳ぐわよ!一夏、向こうのブイまで競争ね!負けたら@クルーズで奢り!」

 

「ま、待てよ!卑怯だぞ!」

 

そのまま海に突っ込む。僕も慌てて追い掛けた。水中眼鏡を装着して海に飛び込むと、思ったより海は綺麗で魚も見える。へぇー…日本の海って綺麗なんだなあ……。サンゴ礁の間を泳ぐ魚などを見て感動してしまった。

もっと、深く潜る。イソギンチャクの中にカクレクマノミ。可愛いなぁ……なんだっけ、あのディズニーの…ファインディング……ネモ?まぁなんでもいいや。

僕は海パンのポケットに手を突っ込む。僕特製水鉄砲(試作品)である。威力は岩を砕くレベル。サメ対策はバッチリだ。

いいなぁ、海は。心地よかぁ……これならどこまでも潜って行け……サメだ。まさか、本当にいるとは…僕は斜め下に向かって水鉄砲を発射。その瞬間、ブワッと体が浮き上がり、後ろにぶっ飛んだ。

 

「ガボバァッ!」

 

そのまま背中に何人かぶち当たり、水柱を描いて砂浜に落下した。その途中で僕の水鉄砲は破壊された。しまった。反動に着いて考えてなかった。

 

「す、すいません!」

 

下を見ると、一夏さんと凰さんが倒れていた。

 

「うわぁぁ!ご、ごめんなさい!」

 

「だ、大丈夫だ…むしろ助かった……」

 

「?」

 

何かあったのかな……。

 

 

 

 

 



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マッサージ

 

 

 

 

姉ちゃんにメチャクチャ怒られた後、僕は一夏さんとまた海に向かった。その時、

 

「あ、ここにいたんだ」

 

振り返ると、シャルさんとなんかミイラがいた。

 

「ほら、出て来なってば。大丈夫だから」

 

「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

なんかこの声聞いたことあるな……。

 

「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから。イアンに見てもらわないと」

 

「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな…」

 

「もー。そんなこと言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」

 

そういえば、この二人って同室なんだっけ。よくこの前まで戦い合ってた同士が仲良く慣れたなぁ…。

 

「うーん、ラウラが出てこないんなら僕、イアンや一夏と遊びに行こうかなぁ」

 

「えっ?」

 

「うん。そうしよ。二人ともいこ?」

 

そのままシャルさんは僕の手を取って海へ向かう。

 

「ま、待てっ。わ、私も行こう」

 

「その格好のまんまで?」

 

「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」

 

男前にバスタオルをかなぐり捨て、水着姿のラウラさんが現れた。

 

「わ、笑いたければ笑うがいい……!」

 

な、なんだろう……普段、制服姿しか見たことないからかもしれないけど、こういう女の子らしい姿のラウラさんは、こう………新鮮?

 

「じ、ジロジロ見るな!見るならなにか言え!」

 

「あっごめんなさい!え、えと…その……」

 

な、なんて言えばいいんだ……?

 

「その、いい感じ…というか、可愛いというか…その…うぅ……」

 

いかん。僕が恥ずかしがってどうする。

 

「か、可愛い!?わたしが!?」

 

「えっ!?は、はい…とても……」

 

「そ、そうか…にへへ……」

 

あぁ、僕の中のラウラさんのイメージが……。

 

「あ、それとシャルさんも…ですよ?」

 

「ふえっ!?」

 

自分も言われると思ってなかったのか、一気に顔を赤くする。

 

「あ、ありがと……」

 

…………なんだこの空気。と、思ったら、三人、女子達が寄って来た。

 

「織斑くーん!さっきの約束!ビーチバレーやろうよ!」

 

「わ〜!おりむーと対戦〜。ばきゅんばきゅーん」

 

本音さんと友達が寄ってくる。

 

「おう。いいぜ。こっちは一人多いけど」

 

「あ、僕は見てますから」

 

ここは自分から抜ける。歳上に譲るべきだし、なによりスポーツは苦手だ。が、

 

「だーめ。ラウラがあれ完全に放心状態だし」

 

見ると、「可愛い、私が…にへへぇ……」と呟いていた。

 

「仕方ないですね……」

 

なるべく迷惑かけないようにしないと……。

 

「ふっふっふっ。七月のサマーデビルと言われた私の実力を……見よ!」

 

いきなりジャンピングサーブ。しかも直線で僕に向かっていた。

 

「わわっ!」

 

思わず頭を抱えて回避。すると、後ろからバァンッ!と音。見ると、凰さんの顔面にボールがめり込んでいた。

 

「あっ………」

 

ぼさっとボールが落ちた。

 

「イ〜ア〜ン〜……」

 

「ご、ごめんなさ……」

 

「ゆるさーん!」

 

鬼ごっこが始まった。

 

 

___________________________

 

 

 

夕食。僕はぶかぶかの浴衣を着て一夏さんの隣に座った。反対側にはシャルさんが座っている。

 

「浴衣、大きい……」

 

「さっき転んでたもんね」

 

苦笑いのシャルさん。

 

「それよりイアン。刺身美味いぞ」

 

「本当ですか?」

 

では一口。おぉ!本当だ。柔らかくてなんか、こう…美味い!僕はグルメレポーターには絶対なれないだろうと思いました。一人でパクパク食べてて思い出したけど、シャルさんは確かお箸苦手じゃなかった?

 

「あ、シャルさん。お箸……」

 

「ん?どうかした」

 

バリバリ平気で使ってた……。

 

「い、いえ。なんでもないです」

 

「そういえば、イアンはわさび使わないの?」

 

「は、はい…わさびはちょっと…お寿司屋さんでも姉ちゃんにわさびを取ってもらってます」

 

「ふぅーん……」

 

「………なんですかその目」

 

なんか生暖かい目を向けられてる……。

 

「いやあ?子供だなあと思って」

 

「子供じゃないです!」

 

失礼な人だ。

 

「じゃあ、コーヒーに砂糖は?」

 

「入れます」

 

「お茶とジュース、どっちがいい?」

 

「ジュースです」

 

「好きなテレビは?」

 

「仮面ライダー!」

 

「ほら子供」

 

「〜〜〜っ!シャルさん意地悪!」

 

僕は不貞腐れて前を向く。

 

「ごめんね。からかい過ぎちゃった」

 

「だから頭撫でないでください!」

 

もう嫌だ。僕はさっさとご飯を食べ終えて部屋に戻った。

 

 

___________________________

 

 

 

お風呂から上がり、僕と一夏さんは自室へ。中には織斑先生がいた。

 

「おぉ、戻って来たか」

 

「うん。ただいま」

 

「し、失礼します……」

 

「なにをかしこまっている。ここはお前の部屋だ。リラックスしろ」

 

「そ、そうは言っても……」

 

姉弟の中に部外者がいるんだから気まずいものは気まずい。そんな僕の様子を見て織斑先生はニヤッと笑った。

 

「ならリラックスさせてやろう。一夏、あれをやってやれ」

 

「はーい」

 

「へ?あれって……」

 

 

______________________________

 

 

 

食事の時にセシリアは一夏に部屋に呼ばれていた。だから、ウキウキしながら廊下を歩く。だが、部屋の前にとある四人が聞き耳を立てていた。

 

「なにをしておりますの?」

 

しぃーっと指を立てる四人。セシリアも耳を傾けることにした。

 

『どう、だ…イアン……』

 

『ふあっ…やっ……き、気持ちいいです……』

 

『ここ、固くなってる、ぞっ』

 

『あんっ…そこはァッ……ッ!らめぇ……』

 

『ふん、やらしい声を出しおってがガキめ』

 

『ひあっ!せ、せんせぇくすぐったいで……ぁんっ!』

 

その瞬間、セシリアは突入した。

 

「ひ、ひ、人の弟になにをしてるんですっっ!?」

 

顔を真っ赤にして突撃するセシリア。中ではイアンのちょうどお尻の所に馬乗りになっている一夏に、足の裏をつつーっとなぞる千冬の姿。

 

「なにって…マッサージ」

 

一夏が当然と言った顔で答えた。イアンの顔は完全に腑抜け切っている。

 

「あえぇー?ねえちゃん……?」

 

その声で五人はかあぁぁっと顔を赤くした。それと共に自分自身の思考を恥じるのだった。

 

 

 

 

 



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束さん

 

 

 

 

次の日。寝ているとゆさゆさと揺さぶられた。なんかぼやーっとしてて誰だかわかんないが、髪の長い人。誰だろ…。

 

「起きんか馬鹿者」

 

「姉ちゃぁ〜ん…」

 

もうちょい寝たい。だから僕はガバッとその人を布団の中に引き摺り込んだ。どんな人でも布団の魔力に抗える者はいない。一緒に寝かせてしまえばいい。これで姉ちゃんとのなら戦績128戦中91勝だ。微妙な所かな。

 

「ほう、教師に手を出すとはいい度胸だなイアン」

 

……………ん?教師?目を見開くと、織斑先生が同じ布団に入っていた。

 

「ご、ごごごめんなさい!ね、寝ぼけてました!」

 

「目は覚めたようだな」

 

「は、はい!それはもうギンッギンに!」

 

ど、どうしよう!なに言われるんだろう!

 

「私は少しお前を特別視していたようだ。だが、私のクラスにいる以上はいくら歳下でも平等に扱うべきだな」

 

「や、あの……」

 

「今から走り込みだ。朝食は抜き。一番近くのコンビニまで走り込みだ」

 

「へ?一番近くのコンビニって……確か近くて10km先じゃ……」

 

「いいから行け」

 

「は、はいぃ!」

 

慌てて出て行った。

 

 

_________________________________

 

 

 

「っふぅ、っふぅ……」

 

走り込み。うぅ…辛いぃ……。もう無理だよ…歩いちゃおうかな……いいよね。織斑先生監視してるわけじゃないし…そもそも運動苦手なのにこういうこと自体が間違えてるんだよ。

そんなわけで僕は少し歩く。その瞬間、目の前に人参が降ってきた。それもでっかいの。

 

「………え?」

 

パカッと開く。中からうさ耳の女の人が出て来た。

 

「やっほー!んだよぉー!ねぇねぇ君君ぃ、花月荘ってどこだか知ってるぅー?」

 

なんかすごいテンションだな……。とりあえずなんとか答えないと。

 

「え?えっと……僕、今そこから走ってたので、良かったら案内しますよ?」

 

「大丈夫だよ。場所分かってるし!束さんに分からないことはないんだよー!」

 

じゃあなんで聞いたんだよ。

 

「それより君、あそこは確かIS学園が貸切にしてるはずだけどどうしてそこから来たのかなー?」

 

「え?それは、僕もIS学園の生徒だからで……」

 

「あれ?ってことはまさかいっくん?」

 

「え?……いえ、そう呼ばれたことは、ないですけど…」

 

「ふむぅ…あー!まさか二人目の男の子でISを動かせる子か!まぁ分かっててここに降ってきたんだけどね!それで、これからどこ行くの?もう朝練始まるんじゃないかな?」

 

「その…ちょっとした理由でコンビニまで走り込みで…あ、パシリとじゃないですよ」

 

「そっかそっかー大変だねぇー。にしても君、外国人にしては礼儀正しいね。気に入った!束さん君のことも気に入っちゃった☆名前教えてくれるかな?」

 

「え、えと…でも、知らない人に名前教えるのは……」

 

「あははっ!若いのに固いね!大丈夫!私は天才篠ノ之束さんだから!」

 

全然大丈夫である理由がわから……篠ノ之束?

 

「えぇっ!?あの…IS作った……!?」

 

「そうそうー!私は今、失踪中だから!だから名前くらい教えてよー!不貞腐れるぞー!」

 

「わ、わかりましたから!イアン・オルコットです」

 

「うーん、君もいっくんかぁ…よし決めた!君はいーくんだ!」

 

「………へ?」

 

いやそれあんま変わってないような…ていうか勢いでアダ名付けられた。

 

「それで、最後のお願い!君の専用機見せてくれるかな?」

 

「……へ?どうして僕が専用機持ちだって……」

 

「えっへん!束さん天才だからね!その指輪みれば分かるよ」

 

「で、でも…僕の専用機って余ったパーツで作った奴だから…そんなにスペックは……」

 

「ん?君が自分で作ったのかな?」

 

「は、はい……」

 

「いい子だね君!尚更見たくなっちゃった!」

 

「は、はあ。では……『パープルティアーズ』」

 

言うと、僕の周りに纏われて行くパープルティアーズ。

 

「おぉ…これを君一人で作ったのかぁ……ちょっと勝手に見せてもらうよー!」

 

「え?でも、これ僕がブロック掛けてて……」

 

自分で言うのもなんだが、セキュリティ対策はバッチリだ。うちの学園の三年生が束になって解析しても見ることは出来ないだろう。だが、目の前の束さんは平気でこなして見せた。………すごい。ほんものだ……。

 

「ふぅーん、おもしろい武器を使うねぇ……でも、これ上げようと思えばもっとスペック上げられるよね?どうしてこの程度なのかな?」

 

「あー…えっと、その…僕は余り機体の性能とかアテにしたくなくて……あと防御とかも余り上げないで回避メインにしたくて……」

 

「なるほどねぇ〜いやぁ、可愛いねぇ君!よし、特別に束さんが君のISを作ってあげよう!」

 

「………へ?」

 

「大丈夫!君の要望通りの機体にするから!じゃあそろそろちーちゃんと箒ちゃんに会いに行かないといけないから!またね!」

 

そのまままた飛んでった。なんか、すごい人だったなぁ……。あ、そろそろ走り込みしなくちゃ。

 

 

___________________________

 

 

 

一時間後、やっとの思いで走り込みを終えて戻って来ると誰もいなかった。

 

「遅かったなイアン」

 

ラウラさんが待っていた。

 

「あの、なにかあったんですか?」

 

「緊急事態だ。ついてこい」

 

なんだろう……なにかあったのかな。ついていった先は大座敷。今では完全に会議室となっている。

 

「では、現状を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

なるほど…緊急事態だったか……。いやさっきラウラさん言ってたけどね。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域及び海域の封鎖を行う。教員は訓練機を使用してその海域の封鎖。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

つまり、僕らがそれを止めるのか。

 

「それでは作戦会議を始める。意見のあるものは挙手するように」

 

「はい、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。口外はするな」

 

「わかりました。……広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利……」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450kmを超えるとある。アプローチは一回が限界だろう」

 

「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね…」

 

どれが誰の台詞かは大体分かってもらえただろうか。最後のは山田先生の言葉。それをきっかけに僕を含めた全員が一夏さんを見た。

 

「え………?」

 

間抜けな声を出す一夏さん。

 

「あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。ただ問題は」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから移動はどうするか」

 

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」

 

「「「「当然」」」」

 

四人の声が重なった。うわあ…いや一夏さん以外には無理なんだろうけどちょっとかわいそうだな。

 

「織斑、これは訓練ではない。実践だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

それを織斑先生に言われると、一夏さんの表情は引き締まった。

 

「やります。俺がやってみせます」

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「それなら、私のブルーティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージが送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「20時間です」

 

「ふむ。それなら適任……」

 

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ〜!」

 

ん?どっかで聞いた声だな。と、思ったら束さんが天井から生えていた。

 

「やっほー!いーくん!一時間ぶりだねー!」

 

うわあ…手ぇ振ってる……それと周りの人からの「知り合いなの?」的な目線が嫌だ。

 

「山田先生、室外の強制退去を」

 

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてください」

 

「とうっ★」

 

山田先生の言葉を無視して着地。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリティング!」

 

「出て行け」

 

織斑先生の冷たい声も無視して束さんは言った。

 

「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿といーくんの出番なんだよ!」

 

「えっ?」

 

今度は僕が間抜けな声を出した。

 

「この紅椿は高機動パッケージなど必要なしに超高速機動が出来るんだよ!あとそこのいーくんが足止めしてくれればいっくんが隙を突いて落とす。完璧な作戦じゃないかー!」

 

「えっ!?ぼ、僕!?」

 

ちょっとそれは僕には……、

 

「束、お前パープルティアーズのスペックは見たのか?速度的に考えても足止めにもならん」

 

「ちーちゃんこそいーくんの戦闘データ見たの?あの子は機体の性能ではなく自分の腕で戦えるんだぞー!」

 

「うえ!?だ、だから僕はそんなに強く……」

 

「とにかく!いーくんといっくんと箒ちゃんに任せなさい!」

 

そんなわけで、束さんの独断と偏見で作戦は決定した。

 

 

 

 

 

 

 



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沈んだ

 

 

 

作戦前。僕は先に一夏さんたちより接触しなければならないため、早目に出発。よって、すでに外に出ている。やることはいつもと変わらない。当たったらその時点で負け。つまり、当たらなければどうということはない。

さて、そろそろかな。僕はパープルティアーズを呼び出した。

 

「イアン!」

 

振り返ると姉ちゃんの姿。

 

「決して、無理はなさらずにね」

 

僕は無言で頷くと出発した。

 

 

___________________________

 

 

 

「パープルティアーズ、目標と接触しました!」

 

真耶の声で全員がモニターを見る。セシリアはただ手を組んで目を閉じ、祈っていた。心なしか肩は震えている。そんなセシリアにシャルロットが手を添えた。

 

「シャルロットさん……」

 

「大丈夫だよ、セシリア」

 

「で、でも……」

 

「今動いてるのは誰だと思ってるの?あのイアンだよ?」

 

「で、ですが……」

 

「まぁ、なんにせよ」

 

ラウラが口を挟んだ。

 

「歳下にやらせて私達がなにも出来ないのは少し情けないな」

 

「………………」

 

少し雰囲気の暗い会議室だった。

 

 

_____________________________

 

 

 

イアンは福音を捕捉した。スターライトリペアを取り出し、狙撃。それにいち早く反応して福音は回避。

 

「チィッ!」

 

そして、羽を広げて弾丸を撃ち込んでくる。それに反応してイアンはピストルに持ち替え、弾丸をすべて撃ち落とした。そして、ピストルを繋げ、砲口を取り出して装着。

 

「はぁっ!」

 

前の引き金を引き、砲撃する。それを向こうはかわそうとするが、スターライトでその砲弾を爆発させ、煙で取り囲んだ。

 

「当たれェッ‼︎」

 

ピストルの後ろの引き金を引き、通常時の五倍の威力をぶち込む。が、煙の上の方から福音は脱出。そこから弾丸をまた放った。

 

「このっ!」

 

スターライトをサーベルモード切り替え、すべて切り落とすと、再びライフルモードにして、狙撃。それをも回避する福音。が、狙撃の手を止めずに射撃。

 

(クリップのグレネードは一夏さんが来るまで使えない……それまでは狙撃するしかない……!)

 

そして、敵の動きが止まると、最大出力で撃った。相手の肩を掠め、動きが怯む。そこを見逃さず、狙撃していなかった方の手にインターセプターを握り締め、突撃した。

 

「っはあぁぁぁぁッッ‼︎‼︎」

 

 

_________________________________

 

 

 

「やっぱりすごいねいーくんは。ねぇ、ちーちゃん?」

 

何時もの口調でそう言う束。

 

「ふん。まだまだ若い」

 

「あれだけやれてまだ中学生でしょー?最強の座も危ないんじゃないかなちーちゃん?」

 

「あの程度なら私はまだ負けんよ。それに、負けたとしても教え子にやられるならそれはそれでいい」

 

「ふぅーん。相変わらず教え子思いだねー。じゃ、私はもう行くね。いーくんの戦闘スタイルも大体分かったし」

 

「さっさと出て行け」

 

「大事にしてあげなきゃダメだゾ☆」

 

そのまま束は出て行った。

 

「さて、そろそろセカンドフェイズだ」

 

 

________________________________

 

 

 

で、イアンVS福音。インターセプターを握っての突撃。が、それを読んでいたようにヒラっと躱す福音。そして、右手で殴り掛かって来る。だが、読んでいたのはイアンの方だった。片手でスターライトのグリップを引き抜き、放り投げる。

 

「掛かった!」

 

ほいっと放って、狙撃して逃がさないようにしながら逃げる。グリップグレネードはそこまで範囲が広いわけではない。ゆっくり逃げても間に合う。そして、爆発した。

 

「一夏さん!」

 

そこで声を上げる。

 

「おうっ!」

 

箒を踏み台にして一夏が突っ込んだ。

 

「そ、こ、だぁぁぁぁぁッッ‼︎‼︎」

 

そのまま零落白夜を振りかざして煙の中に突っ込む。だが、その煙から出て来たのは、右羽で自分を覆った福音。

 

「なにっ!?」

 

そして、左の羽は開いている。そこから弾丸が発射された。

 

「クッ!」

 

仕方ないのでガードにする。一夏は弾丸を弾いた。が、今度は福音が一夏に迫っている。その一夏と福音の間にビーム。イアンがリボルビングピストルの後ろの引き金を引いた。それに反応して福音は後ろに回避した。

 

「すいません一夏さん。少し早かったみたいです」

 

「反省は後だ。まだ戦えるか?」

 

「スターライト以外はまだやれます」

 

スターライトのグレネードはグリップを引き抜くので、グレネードを使ってしまうともうそれ以上はなにもできない。だから、本来ならエネルギー切れの時に使うためのグレネードなのだ。

 

「分かった。箒、援護してくれ!」

 

「了解だ!」

 

そのまま、再び戦闘開始。斬りかかる一夏。それをヒラリとかわす福音だが、そのかわした先からビームが飛んでくる。イアンの狙撃だ。しかし、それもかわされてしまう。

 

「なんて反応速度だよ!」

 

躱して距離を取った先から弾丸。弾く一夏と箒、撃ち落とすイアン。そして、リボルビングピストルを分離させて二丁ピストルに戻した。

 

「一夏さんと篠ノ之さんは格闘に徹してください!僕が動きを止めます!」

 

言うと、イアンはピストルを構えた。

 

「ちっ、偉そうに……!」

 

箒がそう吐き捨てた。が、イアンには聞こえてなく、乱射。それを回避しつつ羽を広げる福音。だが、その隙を一夏や箒に狙われ、斬り掛かってくるので撃てない。

 

(やっぱり、すごいなイアン、あれだけ正確な射撃を……戦いが安定する……)

 

(ふんっ、私の方が一夏のパートナーとしては向いている。あんな機体より私の紅椿の方が……)

 

なんて思いながらも戦闘する二人。そして、イアンの射撃が福音に直撃し、動きが止まった。

 

「もらったぁっ!」

 

一夏が声を張り上げて斬り掛かる。かわされはしたものの、掠った。

 

「くっ!」

 

「掠りました!」

 

「イアンのお陰だ!」

 

「掠った程度で喜んでどうする!」

 

箒に怒られ、二人は怯む。まぁその通りかなとイアンは思い直し、ピストルを構える。そして、箒は敵の斜め上に上がって、斬撃を放った。

 

(私だって、援護くらい!)

 

が、軽々とかわす福音。その斬撃が海に向かっていく。

 

「なにっ!?」

 

その先には密漁船があった。気付いたのはイアンだけだ。すぐに体を反応させてISを動かした。

 

「イアン!?」

 

「なにをしている馬鹿者!」

 

が、その二人も気付いた。密漁船に。イアンはそれを庇った。

 

「ぅあぁっ!」

 

「イアンッ!」

 

元々防御力の低いパープルティアーズだ。それに最新式ともいえるISの斬撃が直撃。バチバチと火花をあげ、機体に電気が走る。

 

「イア……!」

 

さらに、そのイアンに福音の弾丸が降り注いだ。すべて直撃し、爆発。

 

「い、イアンが……!」

 

煙から出て来て海に落ちて行くのは、体に右足のパーツしか着いてないイアン。そのまま煙を上げて海に落ちた。

 

「イアンッ!」

 

「一夏!今は福音だ!」

 

「ほ、箒!?」

 

「犯罪者を庇ったあいつの落ち度だ!」

 

「ふざけんなッ!」

 

その声にビクッとする箒。それを捨て置いて一夏は海に潜った。が、その海に攻撃しようとする福音。

 

「ちぃっ!」

 

箒は一人で福音に向かった。数秒後、海からイアンを抱えて一夏が出て来る。

 

「おいイアン!目を覚ませよ!おい!」

 

が、目を開けない。ただグッタリしている。

 

「くそっ!なんで…なんで、こんなっ!クッソォッ‼︎」

 

そのまま三人は帰還した。

 

 

 

 

 





なんか色々と無理矢理だった気がしないでもないな…次はもう少し落ち着かせないと……。



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コスモス

 

 

 

 

どこぞの部屋。そこにイアンはいた。命に別条はないものの、未だ意識は戻らない。ていうか爆発してよく手足が体と繋がってんなこいつ。まぁそんなことはともかく、その一室にセシリアはいた。寝ているイアンの力なく手を握りしめている。

 

「セシリア……」

 

後ろから声を掛けたのは鈴だ。

 

「イアン、起きた?」

 

返事はなく、首だけ横に振る。

 

「そっか……これ、飲み物。起きたら渡してあげて」

 

「すいません…わざわざ」

 

「うぅん。あたし達に出来ることなんてこれくらいだもん」

 

そのまま鈴は出て行った。

 

(イアン………)

 

自分にもっと力があれば…と、自分を責める。自分に力があれば、イアンを戦わせることもなかったと。目から滴が落ちた。それが、イアンの目元に落ちる。

 

「セシリア」

 

と、入って来たのは一夏だ。顔が腫れ上がっている。

 

「どうしましたの?その顔」

 

「ラウラに殴られちまった。やっぱりお前は教官の弟じゃないって」

 

「…………」

 

「………ほんと、その通りだよ。悪かったな…そいつ、守ってやれなくて……」

 

「一夏さんのせいではありませんわ」

 

「…………悪い」

 

自分でも情けねぇーと感じている一夏だった。

 

「箒さんは?」

 

「あいつも悔やんでるよ。それと、イアンのこと謝ってた」

 

「そう、ですか……」

 

「さて、それじゃあそろそろ行くか。セシリアも来いよ」

 

「…………へ?」

 

そのまま出て行く一夏。その後ろを、セシリアは涙を拭いて追い掛けた。外に出て、海岸に出る一夏とセシリア。しばらく歩くとそこには専用機持ちの四人がISを装備していた。

 

「あの…どこへ……?」

 

「決まってんだろ」

 

セシリアの問いに答える一夏。

 

「イアンの弔い合戦だ」

 

それにセシリアはポカーンとする。が、すぐに再起動。

 

「ま、待ってください!これは命令違反で……」

 

そう、今は待機命令が出ている。だが、

 

「なんだ、知らないのかセシリア」

 

と、意外そうな顔をして一夏は言った。

 

「命令ってのは無視するためにあるんだぜ?」

 

「なにキザな顔して最低のこと言ってんのよ」

 

鈴に後ろから蹴られてドテッとなる一夏。

 

「セシリア」

 

急に呼ばれて振り向くと箒がいた。

 

「すまなかったな。イアンのこと。私のせいだ」

 

頭を下げる箒。

 

「あいつの仇は必ず討つ。だから……」

 

「いえ、その先は倒してからにしましょう」

 

セシリアが笑顔で言うと、軽く笑って箒も答えた。

 

「じゃ、行くか」

 

一夏の声で全員が飛んでった。

 

 

_________________________________

 

 

 

海上200mそこで福音は静止していた。体を丸くして。が、そこに砲撃が飛んで来る。見事に命中した、

 

「初撃命中。続けて砲撃を行う」

 

続いて砲撃開始。だが、それ以上のスピードで迫ってくる福音。砲弾は羽の弾丸にすべて落とされてしまう。

 

「ちぃっ!セシリア!」

 

その瞬間、ビームが福音の伸ばした手を弾いた。さらに狙撃するセシリア。

 

『敵機Bを認識。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

セシリアの射撃を避ける福音を真後ろからシャルロットが攻撃。ショットガン二丁による近接射撃を背中に浴び、福音は姿勢を崩す。が、それも一瞬のことでシャルロットに反撃。

 

「おっと。悪いけど、この『ガーデン・カーテン』はそのくらいじゃ落ちないよ」

 

そして、シャルロットを攻撃する福音の真後ろからさらに一夏が斬りかかる。

 

「ッラァッ!」

 

それをかわすが、かわした先にビームが降り注ぐ。さらに、ラウラの砲弾が飛んで来る。

 

『……優先順位を変更。現空域から離脱を最優先に』

 

「させるかぁっ‼︎」

 

海面が膨れ上がり、爆ぜる。飛び出して来たのは紅椿と、その背中に乗った甲龍。

 

「離脱する前に叩き落す!」

 

鈴が降りてから、紅椿は突撃。鈴は機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態へ移行する。さらに、両肩の衝撃砲が開き、計四門の衝撃で一斉射撃。

 

爆発した。

 

「やりましたの!?」

 

「まだよ!」

 

『《銀の鐘》最大稼働……開始』

 

両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向ける。その瞬間、光が爆ぜ、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。

 

「くっ!」

 

「箒!僕の後ろに!」

 

言われてシャルロットの後ろに隠れる箒。

 

「それにしても……これはちょっと、きついね」

 

防御専用のパッケージであっても、福音の異常な連射を立て続けに受けることはやはり危うかった。

 

「ラウラ!セシリア!お願い!」

 

「言われずとも!」

 

「お任せになって!」

 

後退するシャルロットと入れ替わりにラウラとセシリアがそれぞれ左右から射撃をはじめる。

 

「足が止まればこっちのもんよ!」

 

そして、直下からの鈴の突撃。双天牙月による斬撃のあと、至近距離からの衝撃砲を浴びせる。

 

「もらったあああっ‼︎」

 

エネルギー弾を浴びながらも鈴の斬撃は止まらない。だが、鈴の方が傾く。

 

「鈴っ!」

 

すると、上から零落白夜を持った一夏が降って来て、ついに福音の片翼を奪った。

 

「はっ、はっ………!どうよ……ぐっ!?」

 

片側だけの翼になりながらも、大勢を立て直すと鈴の左腕へ回し蹴り。一夏がギリギリ後ろへ鈴を引き摺り込んで回避させた。

 

「鈴!バカ無茶しすぎだ!」

 

「………っ!」

 

そして、箒が両手に刀を持ち、福音へ斬り掛かった。そして、福音の右肩へと刃が食い込んだ。が、その刃を福音は手のひらで掴んで握り締める。そして、両腕を最大まで広げ、箒は無防備な姿になった。そして、もう片方の翼を広げた。が、その片方の翼に零落白夜が食い込んだ。

 

「さぁせるかぁぁぁっっ‼︎‼︎」

 

そして、ついに両方の翼を失った福音は海面へ落ちて行った。

 

「箒、大丈夫か?」

 

一夏に聞かれる。

 

「私は平気だ……それより、奴は……」

 

が、海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。そして、その中心、青い雷を纏った『銀の福音』がうずくまっている。

 

「!? まずい!これは……『第二形態移行』だ!」

 

ラウラの叫び、その直後に福音の獣のような咆哮が響いた。

 

 

__________________________________

 

 

 

海岸。

 

「………ん」

 

ん……?

 

「…………ーくん!」

 

なんだ?この呼び方は……。

 

「いーくん!」

 

「わあっ!束さん!?」

 

「まったく、どんなに呼んでもおきないんだから!思わず束さんシャーマンスープレックスしちゃうところだったぞ!」

 

「す、すいません…」

 

あれ?ていうか……、

 

「僕、なんで海岸なんかに?確か…落とされて……それで……流れ着いた、とか?」

 

「あはは☆違う違う!旅館で寝てたのを束さんが連れて来たのさー!ちょうどいーくん専用機が完成したからね!」

 

「へ!?も、もうですか!?」

 

「うんうん!もうだよもう!でも牛じゃないよ?だからその試験稼働にいっくんと箒ちゃんを助けてもらおうと思ってね!」

 

いや試験稼働のついでに助けるって……。

 

「は、はぁ……って、なにかあったんですか!?」

 

「ん?今ねぇ、君がボコボコにされちゃった機体と交戦中。第二形態になっちゃったからあと何分持つかわからないんだよねー」

 

「そ、そんな…じゃあこんなとこしてる場合じゃ……」

 

「だぁかぁらぁ、そのために今最後の調整中なんだよ。ほらほら動かないで」

 

って、いつの間にかISも装備してる?しかも見たことのない機体……、

 

「いいかねいーくん。この機体はそこらのISと違って、君の動きを学習して進化して行くIS。だから君が強くなればこのISも強くなるし、君がいつまでもへっぽこだとこの機体もへっぽこのまんまだからね」

 

「は、はぁ」

 

「よし、完了っと……このISの名前はぁ〜……『秋桜』!どう?カッコイイ?」

 

「か、カッコイイです」

 

「むう、反応薄いなぁ。まぁいいや。あともう一つだけ注意ね。防御という防御を花びらシステム以外すべて捨てちゃったから!その代わり機動性は紅椿の三倍だよ!」

 

あちゃー赤い彗星三倍も離されちゃったかー。

 

「じゃ、くだらないこと考えてないで行って来な」

 

「は、はい…あの、他の武装は?」

 

「そんなもん君なら操れるでしょ?」

 

「…………! は、はい!」

 

そのまま僕は軽く浮遊した。

 

「じゃあ束さん、ありがとうございました!」

 

「うんうん。じゃ、またねぇ〜」

 

そのまま僕は飛び立った。ていうかこれ、本当に早ぇーな。

 

 

 



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狙撃


秋桜は本体はファルシアをISにしてみましたみたいな外見だと思ってください(←超無理難題)。武装はまた物語で紹介します。




 

 

 

 

海の上。シャルロット、鈴、セシリア、ラウラはやられ、箒は福音に首を締められていた。ギリギリと締められ、福音の翼が紅椿を包んで行く。

 

「いち、か……」

 

「その、手を、離せぇぇぇぇぇッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

その瞬間、一夏の零落白夜が迫って来る。外したが、箒の手は離させた。

 

「箒!大丈夫か!?」

 

「す、すまない……ケホッ」

 

「くっ……もう動けるのは俺だけか……!」

 

「ま、まだ私も……!」

 

「バカ言うな!休んでろ!」

 

そう吐き捨てる一夏。

 

(クソッ!これ以上やれるのか?シールドエネルギーだって持たないし、やられてる奴も多い。引いた方がいいのか?それでも俺一人が時間稼ぎした所で稼ぎ切れるのか?やっぱりここで倒すしか……いや待て、確か福音には第二形態があった……白式にも第二形態があってもおかしくないんじゃないか?)

 

で、白式のデータの中を覗く。が、そんなことは書いていない。

 

(なにかしら発動条件があるのか?それとも……)

 

「一夏!前だ!」

 

「えっ!?」

 

目の前に迫って来る弾丸。

 

「グアァァッッ‼︎」

 

(クソッ!バカか俺は!有るか分からん力を望むなんて!)

 

そして、地面に叩きつけられた。

 

(やべっ……意識が………)

 

その時だった。白式がぱぁーっと輝き始める。

 

「なんだ?」

 

それから数秒後、第二形態・雪羅となった。

 

「これなら……!」

 

そのまま突っ込む。

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼を伸ばす。そして次の回避の後、福音の掃射反撃が始まった。

 

「そう何度も喰らうかよ!」

 

雪羅をシールドモードに切り替え、相殺防御開始。そして、最大出力で叩き斬ろうとした時だ。パスっと間抜けな音がした。エネルギー切れだ。

 

「こんな時に……!」

 

酷く焦った。

 

(あと少しも動けねぇのか!)

 

そして、無機質な声が聞こえた。

 

『状況変化。最大攻撃を使用する』

 

それまでしならせていた翼を自身へと巻き付けはじめる。それはすぐに球状になって、エネルギーの繭にくるまれた状態へと変わった。

 

(ここまでか……!)

 

一夏がそう思い込んだ時だ。一本のビームがエネルギー翼の付け根を貫き、背中が小さく爆発した。

 

「えっ?」

 

飛んできた方向を見るとなにもない。いや、見えない。福音もそっちを見た。

 

『新たな敵機を確認』

 

「一夏!逃がすな!」

 

「! お、おう!」

 

箒に言われて一夏は右手で福音の頭を掴み、最後のブーストを使い切って近くの岩山に叩き付けた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

ズガガガガッッと岩に穴を開けて減り込ませる。それきり、福音は動かなくなった。

 

 

____________________________

 

 

 

「作戦完了、と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったら反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

 

「……はい」

 

と、声を揃えて六人は言った。

 

「あ、千冬姉」

 

スパァーンッ!

 

「……織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「あの、旅館の方向から一発ビームが飛んで来て福音の翼の付け根をもぎ取ったんですが…知りませんか?」

 

「………なんだ。お前ら気付いてなかったのか」

 

意外そうな顔をする千冬。

 

「知ってるんですか?」

 

「そいつは今、罰則中だ。まぁお前らと違って学年が違うからな」

 

『?』

 

イアンは今、コンビニまで走り込みに行っている。

 

 

_______________________________

 

 

 

息を切らせて僕は帰って来た。あの鬼教官め……怪我人に二日連続でこんな距離走らせるなんてぇ……。まぁ姉ちゃんたちに僕が狙撃したなんてバレたら怒られるに決まってる。それなりに心配させちゃったしなぁ……。

まぁ、みんな無事で何より。と、それより一刻も早く布団に戻って誤魔化さないと。えっと、僕の部屋どこだったっけ……えーっと、ここかな?そう思ってドアを開けた。

 

『えっ?』

 

「あっ」

 

専用機持ち五人が検査中だった。僕の顔はみるみる赤くなっていると思う。

 

「あっ…いや…ごめんなさ」

 

「イアン!」

 

「んぐっ!?」

 

ぎゅーっと抱きついてきたのは姉ちゃん(下着ver)。

 

「無事だったんですわね!良かった……本当に良かった……」

 

「〜〜〜っ!〜〜〜ッ!」

 

「本当にあなたはいつもいつもいっつも心配かけさせて!わたくしがどの様な思いでいるかわかってますの!?」

 

「〜〜〜っ!〜〜…………」

 

「次のこのような事があっても許しませんからね!ていうか知りませんわ!聞いてますの!?」

 

「………………」

 

「セシリア、その辺にしないと…イアンが………」

 

「へ?」

 

ようやく気付いてくれた…姉に人前で下着で抱き締められるとか……。

 

「って、湯気が出てますわよ!イアン!?イアンー!」

 

そんなわけで、臨海学校は終わった。

 

 





はい、色々と迷走してましたがとりあえず三巻まで終わりました。それと共にパープルティアーズの活躍も終わりました。
これからパープルティアーズが出るとしても、エクシアリペアみたいな外見で、ビルドMK-2みたいな扱いになると思います。



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遊園地

 

 

 

 

 

臨海学校も期末試験も終業式も今日終わり、夏休みに入ろうというこの頃、僕は一夏さんと自室にいた。シャルさんが女の子だの分かった時にこの部屋割りに戻った。

 

「ふーん。じゃあイギリスに帰っちゃうのか」

 

「はい。まぁすぐに戻って来れると思うんですけどね」

 

「そっかー。でもお前ら帰らなくてもいいんだろ?用があるのセシリアなんだから」

 

「嫌です。姉ちゃんと一緒にいたいです」

 

「シスコン……」

 

「聞こえてますよ」

 

「本当のことだろー甘えん坊め」

 

「違います!大体、一夏さんだって織斑先生にべったりじゃないですか!」

 

「違うね。俺達は両親がいないから二人でいる機会が…」

 

「それは僕も一緒です」

 

ジト目で僕は一夏さんを睨む。

 

「ま、なんでもいいか。それより帰っちまうんなら遊びに行こうぜ」

 

「はい!どこに行きますか?」

 

「出来れば男だけで行けるところだよなー」

 

「なんで男だけですか?」

 

「ほら、ここの学園に来てからあんまり男と遊ぶ機会ないだろ?」

 

「なるほど。じゃあどこに行きます?」

 

「どこか行きたい所あるか?日本に来てまだ日も浅いし、行ってみたい所とかあるだろ?」

 

「うーん…じゃあ、遊園地!」

 

「男二人で遊園地……」

 

「? どうかしました?」

 

「いや、なんでもない。行くか」

 

「今からですか?」

 

確かに今日は終業式で学校も10:30に終わったけど。

 

「都合が合わないなら明日とかでもいいけど」

 

「いや、今行きましょう!」

 

そんなわけで着替えて出発した。

 

 

_______________________________

 

 

一夏とイアンが部屋を出ると、バッタリ鈴と出会した。

 

「あ、鈴。よう」

 

「う、うん。どっか行くの?」

 

「だから頭撫でるのやめてくださいよ」

 

「あぁ、ちょっとイアンとな」

 

「そっかー。男同士ってこの学園だとあんまないもんね。どこ行くの?」

 

「遊園地」

 

「デートか!」

 

「え?」

 

鈴からツッコミが来た瞬間、キョトンとした声を出すイアン。すると、一夏が鈴の肩を組んでヒソヒソ話し。

 

「ちょっちょちょちょっと!いきなりなにを……」

 

「バッカお前、イアンが日本で行ってみたい場所っつーから行くんだよ。余計なこと言うとあいつが遠慮しちゃうだろ(小声)」

 

「そ、そう…悪かったわね……(小声)」

 

「じゃあ俺達行くから」

 

「う、うん」

 

出発進行。

 

「もしもしセシリア?暇だったらでいいからちょっと遊園地行かない?」

 

 

_______________________________

 

 

 

「ほら、ここがウルトラスーパーメガ粒子ハイ・メガ・バズーカランチャーツインバスターライフル遊園地だ」

 

一夏に連れられて遊園地に到着。

 

「なんか乗りたいものあるか?」

 

「と、言われても何があるのか分かりません」

 

「そういえばそうか…じゃ、俺がエスコートしてやるよ」

 

「よろしくお願いします」

 

「じゃあまずは……」

 

と、2人が仲良く歩く中、その数m後ろでは、

 

「聞いた?エスコートだってよ……」

 

「覗き見なんて趣味が悪いですわよ鈴さん」

 

「そんなこと言いながら双眼鏡持ってきてるじゃない」

 

「だ、だって!弟の貞操の危機なんてどっかの中国が言うからつい……」

 

「いや、それにしても覗く気満々よね。あんたも大概ブラコンね」

 

「んなっ……!それ以上言うと帰りますわよ!?」

 

「ふーん。じゃあイアンが一夏に何されても言い訳ね?」

 

「んぐっ……!わ、わかりましたわ!行けばいいんでしょ行けば!」

 

尾行するバカ二匹もいた。まぁそんなことはさておき前の二人は列へ。二人は一番前の席になり、ガタンガタンとゆっくり動き出した。

 

「うわわっ……」

 

「大丈夫、俺が守るから」

 

「えっ?今何か……」

 

「いやすまん。間違えた」

 

(危なかった……ついうっかり男になるとこだった)

 

そのころ、セシリアと鈴。手元でセシリアが双眼鏡を握り潰した。

 

「ちょっとあんたなにやってんのよ」

 

「あら、脆い双眼鏡ですわね」

 

「いや明らかに高そうなんだけど……」

 

「高ければ頑丈という物ではありませんわよ」

 

なんてやってると、ガタんっと動き出した。ゆっくりと傾いてコースを登る。

 

「うわぁ、高い……」

 

「こっからだぜ」

 

「へ?」

 

で、頂上。ピタッと止まったかと思うと、一気に急降下!

 

『キャアァァァァッッ‼︎‼︎‼︎』

 

と、客が声を上げる。イアンもその一部だ。

 

「うおっ…思ったより……」

 

と、一夏も少し怯む。が、ギュッと手を握られた。イアンに。その瞬間、キリッとした顔になる一夏。そのまま一周し、二人は降りた。

 

「やっぱり一番前だと怖かったなぁ…一夏さんはどうでした?」

 

「余裕だった」

 

即答である。

 

「やっぱりすごいなぁ、一夏さん」

 

「まぁな?まぁいつも白式乗ってるわけだしこの程度は余裕だなうん」

 

そんな様子を見ながら鈴は、

 

「なによあいつ…最初の方はビビりまくってた癖に……ほらセシリア行くわよ」

 

「……………」

 

「セシリア?」

 

「鈴は先にお二人を追ってくださいな。わたくしはお手洗いに行ってまいりますわ」

 

「はぁ?それくらいあたしも付いて行くけど……」

 

「いいからさっさと追ってください。台無しになりたいんですか?」

 

「分かったわよ……早く来なさいよー」

 

そのままタタタッと走って行く鈴を後ろから眺めながらセシリアはトイレに向かった。

 

 

______________________________

 

 

「次はどこ行こうか……」

 

一夏がキョロキョロしながら歩いてるが、イアンの目線は一か所に止まっている。その場所はメリーゴーランド。

 

「……………」

 

(どうする、気付かないフリをするか乗ってやるか……いやしかし、男同士であれ乗るの?しかも中学生と高校生で?冗談キツイどころかキツ苦しいレベルなんですけど……ていうかどこまで子供っぽいんだこいつ……)

 

「一夏さん」

 

「どうした?」

 

「あれ乗りたいです」

 

「やだ」

 

「な、なんでですか!?」

 

「あれは、ほら…お子様用かバカップル限定だから。俺達は男同士で……」

 

「でも、乗りたいです」

 

上目遣いで言われ、怯む一夏。だが、まだ耐えている。理性が勝っている。

 

「ダメ、ですか……?」

 

「乗ろう」

 

振り切った。二人はメリーゴーランドの列へ。

 

「ふぅ…お待たせしましたわ鈴さん」

 

「あ、あんた何してたのよ。なんかあった?」

 

「いえ、特には……」

 

「もしかしてお漏らししちゃったとかー?」

 

「………………」

 

「えっ嘘……や、ごめん。誰にも言わない」

 

「で、どうしてあの二人はメリーゴーランドへ?」

 

「可愛い弟ね……」

 

「えぇ、自慢の弟ですわ」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

で、メリーゴーランド。楽しそうなイアンと恥ずかしそうな一夏の写真を撮る鈴とセシリアだった。

 

 

_______________________________

 

 

 

今度はお化け屋敷に向かう2人。

 

「僕、こういうの苦手なんですけど…」

 

「大丈夫だよ。死にはしないからな」

 

「そういう問題じゃ……」

 

中へ入った。

 

「あたし、こういうの苦手なんだけど……」

 

「あら、こういうのわたくしは好きですわよ?おもしろそうでしょう」

 

「小学生の頃、一夏と電気消してバイ○ハザードやってチビってからトラウマで……」

 

「……やめときます?」

 

「いや、行くわ」

 

で、突入した。一方、一夏とイアン組。

 

「うおーっ!」

 

「わわっ!」

 

ギュッと一夏の腕にしがみ付くイアン。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「大丈夫だ。問題ない。むしろもっと来い」

 

「じ、じゃあ…手ぇ握っててもいいですか?」

 

「おう!」

 

無駄に男前な一夏と、

 

「きゃあぁぁっ!もうやだぁ!帰ろうセシリア!」

 

「まだ入って3分も経ってませんのよ……」

 

「うわあぁぁん……」

 

ビビりまくってる鈴と実に面倒くさそうに受け止めてるセシリアだった。

 

 

______________________________

 

 

 

「もう時間も時間だし、帰るか」

 

一夏がそう言うと、イアンはキョトンとする。

 

「へ?日本の遊園地って最後は観覧車に乗るものなんじゃないんですか?」

 

(なにを言ってるのこの子)

 

「や、それはだからカップル限定なわけで……」

 

「そうなんですか?」

 

「だからもう帰……」

 

「観覧車の一番上からIS学園が見えるか確かめたかったのになぁ……」

 

「行くぞ観覧車」

 

「ええっ!?」

 

(どんだけ可愛い理由だよこいつ…)

 

その後ろ。

 

「ねぇ」

 

「はい」

 

「男同士で観覧車に行って何するつもりなのあのバカ達」

 

「止めなければ、流石に止めなければ……」

 

「でも、どうやって止めんのよ」

 

「わたくしに秘策がありますわ」

 

 

_________________________________

 

 

 

観覧車の中。

 

「わー!見える見える!見えますよ一夏さん!IS学園」

 

「はははっ。本当だ。なんか小さく見えるな」

 

なんて笑いながら話す2人。

 

「今日、楽しかったですねー」

 

「あぁ。イギリスには遊園地ないのか?」

 

「ありますけど、でもやっぱり別の国のって気になるじゃないですか」

 

「……あぁ、分かる。俺もアメリカのUSJとか行ってみたい」

 

「アメリカだとJ付きませんよ?」

 

「あっそっか」

 

なんて話してると、観覧車がガタンと揺れた。

 

「わわっ」

 

イアンがバランスを崩しそうになった時、一夏の唇に口が……、

 

「さぁせるかぁっ!」

 

変なお面を付けて甲龍に乗った奴が……ていうか鈴が衝撃砲を放った。

 

「んなっ!?」

 

「えっ!?」

 

二人はなんとかかわそうとするが、観覧車の中なのでどうしようもない。そのまま観覧車の一部が吹っ飛んだ。

 

「ふ、凰さん!?なんでこんなところに……!」

 

「イアン!後ろだ!」

 

言われて振り返ると、後ろからビームが飛んでくる。

 

「うわあっ!」

 

今度はサングラスを掛けたセシリア。

 

「姉ちゃん!?」

 

「この変態どもがぁぁぁっっ‼︎‼︎」

 

「仕方ねぇ!白式!」

 

「秋桜!」

 

二人してISを装着。

 

「やるぞイアン」

 

「分かってます!」

 

うおおおおっと四つの専用機がぶつかりあった。

 

 

_________________________________

 

 

 

遊園地の職員室。

 

「とにかく!先生方には連絡しておきましたから!」

 

「「「「すいませんでした」」」」

 

捕まり、学園で千冬にめちゃくちゃ怒られた。

 

 

 

 



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イギリス

 

 

※ここからの会話はすべて英語だと思ってください。

 

僕は姉ちゃんとイギリスに帰国した。姉ちゃんはこれでもオルコット家の代表やらなにやらで忙しい身だから、戻らないわけにはいかなかった。

 

「チェルシーさん。お久しぶりです」

 

「はい。イアンさん」

 

「ではわたくしは職務がありますから。チェルシーはイアンのお世話をお願いします」

 

「姉ちゃん!だから子供扱いは……」

 

「かしこまりましたお嬢様。イアンさん、参りましょう」

 

「はーい。姉ちゃん」

 

「はい?」

 

「早目に終わらせてね」

 

言うと、クスッと笑って言った。

 

「はいはい……」

 

で、チェルシーさんと自室へ。

 

「チェルシーさん。ゲームやりましょうゲーム」

 

「かしこまりました」

 

「もう、いつも言ってるじゃないですか。敬語やめてって」

 

「ならイアンさんこそ敬語やめてくださいな。私はイアンさんのメイドですよ?」

 

「で、でも…歳上の人にタメ口は……」

 

「イアンさんが敬語やめたら、私もやめます」

 

「じ、じゃあ…よろしくねチェルシーさん」

 

「うん」

 

にこっと笑うチェルシーさん。ちなみにこのやり取り、僕とチェルシーさんが二人きりになる度にやってる。

 

「ほら、膝の上おいで」

 

「うん!」

 

チェルシーさんの膝の上でゲーム。頭も撫でてくれるし安心できる。普段、子供っぽさを隠してる僕としてはこの時間は大好きだ。

 

「余り隠しきれてませんけどね……」

 

「? なにか言った?」

 

「ううん。それより今日は何のゲームやりたい?」

 

「うーん…スマブラDXかな」

 

「また古いゲームを……」

 

「いいじゃん!さぁやろう!」

 

「はいはい。じゃあ準備しますね?」

 

「僕がやるからチェルシーさんはジッとしてて!」

 

「はぁーい」

 

言いながら僕はゲームキューブにディスクを入れてコントローラを二つさした。

 

「さ、やるよ」

 

「はい」

 

で、涼しい顔でこの人は僕のことをフルボッコにするんだから本当に嫌だ。

 

「もう、なんでプリンでそんな無双出来んの?」

 

「どのキャラも使い方次第だよー?」

 

「……なんかムカつく」

 

なんてやってると、部屋のドアが開いた。

 

「ふぅ…休憩ですわ……」

 

姉ちゃんが部屋に入ってきた。

 

「あ、お疲れ様ぁ〜」

 

「お疲れ様ですお嬢様」

 

「なっなななにをやってますの!?」

 

「「ん?」」

 

二人揃って間抜けな声を出してしまった。

 

「どうかし姉ちゃん?」

 

「な、なんで膝の上に……!」

 

「なぜって…お嬢様も知っておられたはずですが……」

 

チェルシーさんもそう言う。

 

「そ、それはそうですが……にしてもあれですわ!もう中学生なんですからそろそろ……」

 

「やだ」

 

「なんでですか!?」

 

「だってチェルシーさんの膝好きだもん」

 

「くっ……いつになく甘えん坊モードのイアンですわね……」

 

「だって、四月からチェルシーさんに会えなくて寂しかったもん」

 

「んぐっ……」

 

詰まるセシリア。

 

「お嬢様、この位は許してあげてくださいな」

 

チェルシーさんの援護射撃。

 

「はぁ…分かりましたわ」

 

「それに、嫉妬はあまり好ましくありませんわ」

 

「んなっ……!だ、誰にですか!?」

 

「チェルシーさん。姉ちゃんが好きなのは一夏さんだよ?」

 

その瞬間、生まれる謎の沈黙。と、思ったら姉ちゃんはビットを部分展開。

 

「えぇっ!?」

 

「ふん。愚弟」

 

そのまま不機嫌そうに出て行ってしまった。

 

「ごめんねイアンさん。少しいいかな?」

 

言われて僕はチェルシーさんの膝の上から退いた。そして、チェルシーさんも出て行ってしまった。

 

 

______________________________

 

 

 

(ありえません!ありえませんわ!わたくしが弟を……!いくら少しだけ頼りになるからって……!)

 

とか思いながら居間のソファーにふんぞり返るセシリア。

 

(大体、わたくしには一夏さんが……!)

 

でも最近はイアンが誰かと仲良くしているのを見ると、少しイラッとする。例え一夏であっても。

 

「お嬢様」

 

呼ばれて振り返るとチェルシーが立っていた。

 

「チェルシー?なんですの?」

 

「いえ、ただブラコンも度を越えたと思いまして」

 

「んなっ!な、な、なにをバカな……!」

 

「でも、イアンくんは渡しませんよ?」

 

「えっ……?」

 

「私、イアンくんが好きなんです。ずっと、前から」

 

「……………」

 

「夏休み明けてから。覚悟してくださいね」

 

ニコッと笑うとチェルシーはイアンの部屋に戻った。

 

(わたくしは………)

 

 

_____________________________

 

 

 

目が覚めて時計を見る。6:00か……起きなきゃ……。とりあえず軽く伸びをして居間へ。チェルシーさんはまだいないよね?今日の夜には日本に戻らなきゃいけないんだから今日くらいは僕がご飯を作ってあげたい。

そんなわけで、キッチンへ。冷蔵庫の中は……うん、ある。とりあえず日本で買ってきた魚でも焼……、

 

「あらイアンさん。早いわね。どうかしたの?」

 

そっちこそ早くね?

 

「あの…明日で僕達、今日の夜に日本に戻っちゃうから…今日くらいは僕がご飯作ろうと思って……」

 

「そっか…じゃ、一緒に作る?」

 

「うん!」

 

そんなわけで一緒に朝飯作り。姉ちゃんがいたら爆心地となりかねないのでなるべく起こさないように作った。で、完成し、居間に並べる。

 

「じゃ、ぼく姉ちゃん起こしてくるね」

 

「いってらっしゃーい」

 

で、僕は姉ちゃんの部屋に入った。

 

「あっ」

 

着替え中だった。

 

「ごめん姉ちゃん。出直すわ……」

 

「こんのっ…愚弟がっ!」

 

飛んでくるビーム。

 

「うわっ!なんで姉ちゃん!?普段は別になんともないじゃんか!」

 

「う、うるさいですわ!」

 

部屋のドアを閉めても追ってくるビット。

 

「ご、ごめんなさい!次からはちゃんとノックするから……!」

 

と、謝ったところで姉ちゃんが着替え終わって出て来た。

 

「い、いえこちらこそ…大人気なかったですわ。そうね、姉弟ですからね……」

 

「ど、どうしたの姉ちゃん。最近なんか変だよ?」

 

「なにもありませんわ。それよりなにか用があったのでしょう?」

 

「朝ご飯出来たから呼びに来たんだけど……」

 

「あら、そうでしたの。では参りましょう」

 

「本当に大丈夫かな……」

 

不安に思いながらも僕は朝食の席に戻った。

 

「今日はチェルシーさんと二人で作ったんだよ」

 

「そう。それは楽しみですわ」

 

そのまま他愛のない時間が過ぎていく。姉ちゃんの職務も昨日で終わったので、今日はずっと一緒にいられた。

 

「じゃ、そろそろ出発ですわね」

 

そんなわけでしばらくまた実家を空ける。チェルシーさんはIS学園前まで付いてきてくれるみたいだ。

 

「ではイアン、先に車に乗っててくださる?」

 

「へ?姉ちゃんは?」

 

「後で行きますから」

 

言われるがまま僕は車に乗った。なんなんだろ……。

 

 

______________________________

 

 

 

「チェルシー、いいかしら?」

 

「はい。お嬢様」

 

セシリアは家でチェルシーと二人で話す。

 

「わたくし、実はまだイアンと一夏さん、どちらが好きか自分でも分かっておりませんわ」

 

「はい」

 

「それでもこれだけは言っておきます。あなたには負けませんわ」

 

「はい。私もセシリアお嬢様には負けません」

 

「それだけですわ。じゃ、行きましょう」

 

「はい」

 

で、二人は車に乗り、ブゥーンと空港へ向かった。

 

 

_____________________________________

 

 

ようやく!IS学園に帰って来たぁー!さぁて、これからまた頑張らないと!

 

「じゃあ、チェルシーさん!またね!」

 

「イアン」

 

不意に呼び捨てで呼ばれ、少し戸惑った。が、そんな僕の気も知らずにチェルシーさんは僕の頬にキスをした。

 

「えっ……?」

 

「もっと、男になって帰って来てね」

 

そのままチェルシーさんは行ってしまった。僕はただその後をぼーっと眺めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 



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夏休み1

 

 

 

 

IS学園に帰ってきた。と、言っても僕はこれと言ってすることがなかったので、とりあえず一人でオモチャ屋に向かった。買う物は決まっている。ダブルドライバーだ。えーっと、ダブル…ダブルっと、あった。よし、あとは特にないか。買って店を出た。

外に出ると、店の出口に自販機が設置されていた。喉乾いたし、コーラ飲みたい。

 

チャリンッピッガシャンッ

 

で、一口。やっぱコーラ美味いよなぁ…炭酸といえばコーラだわ。うん。なんてやってると、今の店からまた客が出てきた。なんか見たことある顔だな……。

 

「…………………」

 

誰だっけ…眼鏡の、ん?どっかで見たことある気がする……。その人の手元にはダブルドライバーが握られている。その瞬間、僕の体に電気が走った気がした。

そして、買ったばかりのダブルドライバーを腰に巻いた。その瞬間、向こうもダブルドライバーを装着。僕の手にはサイクロンメモリ、彼女の手にはジョーカーメモリが握られている。

 

「「変身」」

 

で、僕は倒れて、コンマ数秒の技で彼女のダブルドライバーにサイクロンメモリを置く。そして、変身した。

 

カチッ

 

ビィンッ!

 

カチッ

 

ビィンッ!

 

『サイクロン、ジョーカー!』

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」

 

気が付けば通行人のほとんどがこっちを見ていた。あれ?救急車のサイレンが聞こえるよ?僕と彼女は急いで逃げ出した。

 

 

__________________________

 

 

 

そのままその人とは何も会話しないで別れた。すると、僕の携帯がヴーっと震える。姉ちゃんからだ。今日は一夏さんとプールって聞いてたんだけどな……。

 

「もしもし?」

 

『あ、イアン・オルコット様のお電話でしょうか?』

 

「そうですけど……」

 

『ウォーターワールドの叢雲ガイといいます。お手数ですが、こちらへ来ていただきますか?』

 

「……………へ?」

 

そんなわけで僕はそのウォーターワールドへ行った。

 

 

______________________________

 

 

 

「ねぇ、ごめんってばイアン」

 

「も、申し訳ございませんわ」

 

2人に謝られるが僕は許すつもりはない。

 

「まったく…プールでIS使って姉の保護者として呼び出されるなんて……」

 

この後にファインディングエボリューション買いに行く予定だったのに……。2人を寮まで連行して先生に報告しなきゃいけない。

 

「うっ…だから悪かったですわ」

 

こんなことのためにわざわざ呼び出されるなんて思わなかった。本当に最悪の気分だよまったく。

 

「と、所でイアン。何買ったのそれ?」

 

「なんでもいいでしょ」

 

「うっ……」

 

ジト目で睨むと凰さんは怯む。中身がバレたら怒られるかもしれないが、紙袋に入っているので問題ない。

 

「ほら着きましたよ。次、こんな事で呼び出したらもう知りませんからね」

 

「「「ご、ごめんなさい……」」

 

さて、ちょうど寮に着いたし、荷物置いてからゲーム買おう。

 

 

___________________________________

 

 

 

荷物を置いて再び出発。……お腹減ったな。どっかご飯食べに行こう。近くのカフェでいいや。そう思ってたまたま見かけたカフェに突入。

 

「いらっしゃいまs……」

 

シャルさんが執事の燕尾服で出迎えてくれた。

 

「何やってんですか」

 

「い、イアン……なんでここに……」

 

いやそれこっちの台詞。つーかなんで執事の格好?なんでこんなクソ似合ってんの?

 

「あの、シャルさんって男性でしたっけ?」

 

「怒るよ?」

 

「ごめんなさい」

 

なんてやってると今度は別の人がこっちに来た。

 

「おいシャルロット。なにをしている。さっさと接客を……あっ」

 

ラウラさんだった。流れる沈黙。なにこれ、どーすんの?てかどーなんの?

 

「な、なぜこんなところにいる……」

 

ラウラさんなんて恥ずかしさで顔真っ赤じゃん。

 

「や、ご飯食べに来たんですけど…」

 

「そ、そうか。では私が案内を……」

 

その時だった。後ろからバタァンッ!とドアが開く。慌てて振り返ると、僕は覆面を被った男に腕で首を絞められ、銃を突き付けられた。

 

「えっ?」

 

「動くんじゃねぇ!こいつの頭吹っ飛ばすぞ!」

 

こいつ?それって僕のこと?

 

「えぇっ!?困るよ!」

 

「今更かお前!」

 

強盗に突っ込まれてしまった……。って、そんな場合じゃない!

 

「え?やだよ助けて!」

 

「だから遅ぇ!いいから黙ってろ!」

 

ま、まずい!僕の人生最大のピンチ!福音以上の!

 

「だ、誰か……!」

 

と、思ったらラウラさんがなんかコップをおぼんに乗せて持ってきた。

 

「……なんだ、これは?」

 

強盗が聞く。

 

「水だ」

 

「おい、こいつの頭吹っ飛ばされたいのか」

 

「黙れ。飲め。飲めるものならな」

 

言ったかと思ったらトレーをひっくり返した。氷水が宙を舞い、僕を含めて全員がそれを見た。瞬間、ラウラさんの蹴りが僕を抑えていた強盗の手に当たり、拳銃を奪った。

 

「イアン!こっちだ!」

 

腕を引っ張られ、僕はラウラさんに助けられる。

 

「このっ!」

 

後ろの二人が拳銃を構えた。

 

「一人じゃないんだよね!」

 

その二人の拳銃を弾くシャルさん。そして、拳銃を奪って二人の頭に廻し蹴り。

 

「目標1、2制圧完了」

 

「目標3制圧完了」

 

と、いつの間にかラウラさんも強盗を倒している。

 

「す、すげぇ……」

 

思わずそんな声が出た。その後、警察やら何やらが来て、僕達は面倒な事になる前に退散した。で、今は臨海公園。

 

「すごいですね二人とも。銃持った強盗をあんなにあっさり……」

 

と、言いかけた所でラウラさんに頭を叩かれた。

 

「痛っ!」

 

「馬鹿者。私を倒し、教官となった者がなにをあっさり捕まっている」

 

「す、すいません……」

 

確かにちょっと情けなかったかもしれない。僕はISがないと何も出来ないのだ。

 

「ま、まぁまぁラウラ。イアンはつい最近まで普通の男の子だったんだから。あんまり責めないで」

 

「ふんっ……」

 

「それよりほら、着いたよクレープ屋さん」

 

ん?クレープ屋なんて目指してたのか?

 

「なんでクレープですか?」

 

「なんでも、あそこのミックスベリーとかいうのを好きな人と食べると……」

 

「わー!わー!な、なんでもない!なんでもないからね!?」

 

すごい勢いでシャルさんが止めた。

 

「? なにを隠す必要がある?」

 

「そうですよシャルさん」

 

「い、いいから!ほら買いに行こう!」

 

ま、大して気になってるわけじゃないからいいんだけどね。

 

「ミックスベリー、3つください」

 

シャルさんが言った。だが、

 

「すいません。ミックスベリーはもう終わっちゃったんです」

 

と、言われて残念そうな顔のシャルさん。でもさ、メニュー見て言おうよシャルさん……。ミックスベリーなんて…、

 

「では、ブルーベリー一つとイチゴを2つもらおう」

 

ラウラさんが言った。で、僕はブルーベリーをもらい、シャルさんとラウラさんはイチゴを食べた。なんでブルーベリーとイチゴ……あぁ、そういうことか。で、そこら辺のベンチに座る。

 

「んむ、んっ。これ、おいしいね!」

 

「そうだな。クレープの実物を食べるのは初めてだが、うまいと思うぞ」

 

「イアンは?美味しい?」

 

「は、はい。普通に美味しいと思います」

 

うん。実際、中々に美味い。

 

「せっかくだから、またみんなで来ようね。その時にはミックスベリーもあるだろうし」

 

うーん、この反応……まだ気付いてないのか。言っていいものなのか……。

 

「あぁ、そういえばあのクレープ屋だがな、ミックスベリーはそもそもないぞ」

 

「え?」

 

一刀の元斬り捨てやがった……。

 

「イアンも気づいていただろう?」

 

「は、はい。メニューにありませんでしたし」

 

「い、イアンも気付いてたの?」

 

「まぁ、どうせ店の人が客寄せのために噂作った…あ、いやそれならミックスベリーを本当に作った方が儲かるか。ならどっかの誰かが勝手に噂したんだと思いますよ」

 

「それにシャルロットは見事に引っ掛かったというわけだ」

 

うわあ…ラウラさん容赦ねぇ……。

 

「そうだったんだー」

 

と、思ったよりショックを受けてないシャルさん。なぁんだ。だったらさっさと言えば良かった。そんな事を思いながらクレープを食べる。すると、いつの間にか僕の顔のすぐ前にラウラさんの顔がある。

 

「えっ何です……」

 

ペロッと、ぺろっと頬を舐められた。僕もシャルさんもギョッとする。

 

「なっななな……」

 

「クリームがついてた」

 

「だ、だだっ、だだだからって、え、えぇぇ!?」

 

余りの動揺に思わず声が震える。

 

「余り動揺するな。男だろう」

 

「男だからですよ!」

 

何言ってんのこいつ?みたいな顔でクレープに戻るラウラさん。僕はただ舐められた頬を手で摩っている。と、思ったら頭をパカンと叩かれた。

 

「な、なんですかシャルさん!」

 

「女たらし」

 

「な、なんでですか!」

 

まったく…今日は厄日だ……姉ちゃんのせいで呼び出されたり、強盗に人質にされたり、女たらしだのなんだの言われたり……。

 

「まぁそう拗ねるなイアン。私のクレープをやるから、お前のクレープも寄越せ。それと、シャルロットとも交換してやれ」

 

「へ?」

 

「お前のことだ。気付いてるだろう」

 

「ま、まぁ気付いてますけど……じゃあラウラさんから、あーん……」

 

「あ…んっ。うん。では私のもやろう」

 

「ま、待って二人とも!さっきから二人で話進め過ぎだよ!」

 

突然割り込んでくるシャルさん。

 

「なんだシャルロット。あとでお前もやるのだからいいだろう」

 

「そうじゃなくて!なんでわざわざ食べさせ合いっこなんて……し、しかも、かっかかか関節き……」

 

「あ、ん…あ、イチゴも美味しいですねぇ」

 

「イアンまで勝手に……!」

 

「ほら、次はシャルロットの番だ」

 

さっきから一人で顔を赤くして戸惑ってるシャルさん。

 

「あの、もしかしてブルーベリー嫌いですか?」

 

「そ、そんな事ないよ!じゃあ、頂こうかな!」

 

で、ヤケに緊張しながら一口。

 

「じゃあ、今度は僕がいただきますね」

 

「え?う、うん……」

 

あむっと一口。

 

「うむ。これでミックスベリーだな」

 

最後にラウラさんがそう閉めた。キョトンとするシャルさん。

 

「えっ……?あぁっ!ブルーベリーとストロベリー!」

 

「ご名答」

 

楽しそうに笑うラウラさん。そんな様子を僕は横目で見ながら、またクレープを一口頬張った。

 

 

 

 

 



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夏休み2

 

 

 

寮。僕はシャルさんとラウラさんの部屋にいる。それだけなら別にいいんですが、問題は僕の服装なんですよね…なんでシャルさんのパジャマ着てるんでしょうか…しかも猫の。

 

「んー!可愛いー!二人ともすごく似合うよー!」

 

「あ、あの…シャルさんこれは……」

 

「だ、抱き着くな。動きにくいだろう……」

 

「ふっふー。だーめ、猫っていうのは、膝の上で大人しくしてないと」

 

「や、あの…僕人類なんですけど……」

 

うぅ…女の子が後ろと隣にいる状況……。

 

「今は二人とも猫なの!ほらほら、にゃーんって言ってみて?」

 

っざけんな。恥ずかしいとなそんなレベルじゃないぞ。

 

「嫌ですよ……」

 

「そ、そうだぞシャルロット。あまりふざけが過ぎると…」

 

「えーだって可愛いよ?可愛いはなによりも優先されることだよ?ほらほらー言ってみようよ〜にゃーん」

 

余りにしつこいので、僕とラウラさんは顔を見合わせた後、ため息をついて言った。

 

「「に、にゃーん……」」

 

「か、可愛い〜!二人とも写真撮ろう!ね?」

 

「「絶対嫌だ!」」

 

「そんなこと言わずにさぁ〜」

 

な、なんなんだこの人は……しかも逆らえる気がしない……。なんてやってるとノックの音がした。

 

「はーいどうぞー」

 

「いや良くないでしょ……」

 

僕の呟きも虚しく、開かれた扉。しかもそこにいたのは最悪の人物だ。

 

「お、なんか変わった服着てるな。白猫と黒猫だ」

 

一夏さんだった。僕とラウラさんの世界が終わる音、確かに聞こえた。

 

「なんか今日電話くれたみたいで、出れなくてごめんな。ちょっとIS関係ので緊急の用事があってな。ずっと缶詰だったんだよ。夕方に掛け直しても繋がらなかったし、それで様子見に来たんだ」

 

「ね、ね、一夏。この二人可愛よね?ね?」

 

いや「ね」って言い過ぎでしょうこの人。

 

「ん?あぁそうだな。なんか可愛いぞ二人とも」

 

「怒りますよ一夏さん」

 

「な、なんで!?」

 

いや分かれよ。男なら尚更。

 

「でもイアンがいるなら丁度いいや。今から俺、地元の祭行くんだけど、イアン一緒に行かないか?」

 

「あ、行きたいです。日本のお祭りがどんなものか知るいい機会ですし」

 

「そうか。じゃ、30分後に寮の前な」

 

「はい!」

 

 

_____________________________

 

 

 

そんなわけで、僕は一夏さんとお出掛け。それにしても日本のお祭りかぁ、割と楽しみだなぁ。

 

「ほら、着いたぞ」

 

「わあ……」

 

素直に感動した。これがで店かぁ……。

 

「僕、りんご飴っていうのを……」

 

「あー…悪いけど先に行くとこがあるんだ。そっちでいいか?」

 

「? は、はい」

 

言われるがまま付いていく。着いた先はどっか建物。人も何人かいて、舞台?がある。そこではどっかで見たことある篠ノ之さんが扇やら刀やらを振っていた。

 

「箒は剣術道場の娘さんなんだよ」

 

一夏さんの分かりやすい説明で納得した。そうだったのか……。

 

「なんか、綺麗ですね…篠ノ之さん」

 

「はははっ。まぁな」

 

「そんなこと言ったら僕、あの人に殺されそうですけど」

 

「? なんでだ?」

 

「や、それは嫌われてるから……」

 

「ははっ。多分、嫌ってないと思うぞ?」

 

「や、でも……」

 

「箒は、ほらあれだから。素直じゃない部類の奴だから」

 

そうなのかねぇ……。でも、化粧してるからかな。本当に綺麗だ。見違えるほどに。ていうか二度見するほどに。

 

「あ、終わっちゃった……」

 

思わずそんな言葉が出た。それくらいすごく綺麗なものだった。

 

「言っとくよ。イアンが褒めてたって」

 

「や、やめてくださいよー!」

 

「じゃ、行くぞ」

 

「? どこにですか?」

 

「箒のとこだよ」

 

この人、本当に言うつもりか……?ていうかそれなら僕いちゃいけない気がする。

 

「ていうか、それなら僕いいですよ。多分、篠ノ之さんにとってもお呼びじゃありませんし」

 

「は?なんでだよ」

 

この人本気で分からんのか……。とにかく、これ以上篠ノ之さんに嫌われたくない。僕はここで行くわけにはいかない!

 

「と、とにかく!僕は行きませんからね!」

 

「あ、もしかしてお前照れてんのか?」

 

「なんでそうなるんですか!そうじゃなくて……」

 

「はい、連行〜」

 

「はーなーしーてー!」

 

僕の叫びも虚しく、引きずられていった。

 

 

______________________________

 

 

 

「よっ」

 

「…………………」

 

「おつかれ」

 

一夏さんが学校で挨拶するみたいに挨拶した。ちなみに僕は一夏さんの後ろに隠れている。お守りの販売をしている篠ノ之さんからは見えないはずだ。しかしこの人、近くで見ても綺麗だなぁー。

 

「それにしても、すごいな。様になってて驚いた。それに、なんていうか……キレイだった」

 

「っ!?」

 

超驚いてる篠ノ之さん。「キレイだった」って聞いたときなんか顔真っ赤だからね。

 

「夢だ!」

 

「な、なに?」

 

いやそりゃそうなるでしょ……。一夏さんなキレイとか言うなんて……。

 

「これは夢だ。夢に違いない。早く覚めろ!」

 

「なにを言ってるのか分かんないけど本当に綺麗だったって。イアンも言ってたし」

 

「………は?イアン?」

 

「ほら、いつまで照れてんだよ」

 

「て、照れてないですよ!」

 

ドンッと押されて前に出る僕。その瞬間、あからさまに落胆する篠ノ之さん。

 

「やっぱり夢じゃないようだな……」

 

「? お、おう……?」

 

で、僕を睨む篠ノ之さん。こわいです。

 

「まあまあ箒ちゃん。大きな声を出してどうしたの?……あら?」

 

後から出て来る叔母さん。篠ノ之さんのお母さんかな……。

 

「箒ちゃん、あとは私がやるから、夏祭りに行って来なさいな」

 

「なっ!?や、やはり夢か……」

 

「箒ちゃん。現実に戻ってきてね」

 

と、その人は篠ノ之さんの頭にチョップ。どうでもいいけど、この人に僕の姿は見えてないみたいで、見事なスルーっぷりである。

 

「ほらほら、急いで。まずはシャワーで汗を流してきてね。その間に叔母さん、浴衣を出しておくから」

 

「あ、あ、あのっ」

 

「いいからいいから」

 

とわそのまま奥に行ってしまう篠ノ之さん。

 

「ちょっと待っててね。彼女を待つのも彼氏の役目よ」

 

「は、はあ……」

 

「それにしても箒ちゃんもモテるのね。男の子を2人も引っ掛けるなんて」

 

「「は?」」

 

僕と一夏さんが間抜けな声を出した時にはその叔母さんはもういなくなっていた。なんか、面倒な勘違いをしてった気が……。

 

 

__________________________________

 

 

 

そんなわけで、僕達は三人で出発した。

 

「で、一夏。なぜそいつまでいる?」

 

「俺が誘ったんだ。イアンも日本の祭りのこととか知りたかっただろうしな」

 

で、ギヌロッと僕を睨む篠ノ之さん。怖いです。

 

「あ、あの…やっぱり僕、帰った方が……」

 

「なんでだよ。一緒に回ろうぜ」

 

おい、ほんと少しは察しろよ。辛いよ。視線が比喩じゃなくて突き刺さってる。

 

「は、はい……」

 

「で、一夏。何をする?」

 

そう聞いたのは篠ノ之さんだ。心なしかイライラしてるように見えるしなぁ……。

 

「そういえば箒って金魚すくい苦手だったよな」

 

「い、いつの話だいつの!」

 

「ん?今は違うのか?」

 

「当然だ。私をいつまでも過去のままだと思うなよ」

 

「じゃあ、勝負するか?負けたほうが食べ物おごりな」

 

「いいだろう。望むところだ」

 

……なんだろう。会話に入れない……。これ、僕も参加したほうがいいのかなぁ……。なんて思ってる間にも二人は料金を払っている。

 

「何してんだイアン?やらないのか?」

 

「え?」

 

声をかけてくれる一夏さん。

 

「私は相手が歳下でも手加減なしだぞ」

 

意外にも篠ノ之さんも声をかけてくれた。

 

「じ、じゃあ…あの、やり方は?」

 

「まぁ俺たちのプレイを見ながら学んでくれ」

 

そんなわけで、スタート。

 

 

_______________________________

 

 

 

「いや、すいませんね。りんご飴に飲み物」

 

僕の一人勝ちだ。二人とも悔しそうに睨んてくるが、僕が優越感に浸っているため全然怖くない。

 

「「な、納得いかない……」」

 

「勝負に勝つためには現時点の自分を受け入れることですよー?」

 

「調子に乗るな」

 

スコンと篠ノ之さんにチョップを喰らった。

 

「いてっ」

 

「自業自得だ」

 

頭をさすりながら抗議の視線を送るが、涼しい顔で返された。

 

「さて、次はなにで賭けます?」

 

「「お前とはなにも賭けな……」」

 

「あれ?一夏……さん?」

 

二人の声が一人の声に遮られた。振り返ると赤い髪の女の子。すぐに一夏さんが声を出した。

 

「おー、蘭か」

 

誰?

 

「き、奇遇、ですね……」

 

「そうだなー。案外、知り合いに会わないと思っていたらばったりだな。弾は?」

 

「さ、さあ?家で寝てるんじゃないですか?」

 

「へえ、蘭の浴衣姿って初めて見たな。洋服の印象しか無かったけど、和服も似合うんだな」

 

「そ、そう、ですかっ。あ、ありがとうございます……」

 

かあっと赤くなる女の子。すると、その女の子の周りの女の子が「会長照れてるー」なんてからかってる。と、思ったらそのまま去ってしまった。会長さんを置いて。

 

「え、えっと!あ、あの…そのっ、あの子達、ふざけるのが好きで、ですね…!」

 

「あーなんか分かるぞ」

 

「け、けして、悪い子ではないんですっ。ないんですよ!?」

 

なんだ?なんのフォロー?いや分かるよ。いるもんねそういう子。

 

「あー……ゴホンゴホン!」

 

その二人の世界に耐えられなくなったのか、篠ノ之さんが咳払いをした。

 

「お、悪い。紹介がまだだったよな。えっと、こっちが五反田蘭。ほら、前に話した弾ってやつがいただろ?あいつの妹」

 

「五反田蘭です」

 

「で、こっちが篠ノ之箒。俺の幼馴染み。こっちがイアン・オルコット」

 

「し、篠ノ之箒だ。よろしく」

 

「イ、イアン・オルコットです」

 

聞いてないかもしれないけどとりあえず挨拶。すると一夏さんが言った。

 

「そういえば、蘭は中二だったか?」

 

「い、いえ。中三です」

 

「そっかー…イアンは中二だからもしかしたらと思ったんだけど」

 

「ていうか…イアンくんと一夏さんはどういう関係ですか?」

 

「クラスメートだよ」

 

「え?歳下なのにクラスメート?え?」

 

「あー…まぁ色々あるんだよ」

 

「しかも、IS学園の生徒さんですか?」

 

「まぁ気にしないでくれ」

 

「本当にこんなちっちゃい人がISを操れるんですかー?」

 

この女、ウルトラ失礼なんですけど……。まぁあんま気にならないし。

 

「おいおい蘭。言っとくけどこいつ、俺より強いぞ」

 

「えっ」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「謙遜するな。福音と一対一でやり合ってた奴の台詞か」

 

篠ノ之さんまで言う。

 

「ちょっそれ軍事……」

 

「一般人に福音と言ってもわからないだろう」

 

ちんぷんかんぷんな顔をする五反田さん。そりゃそうか。

 

「とにかく、一緒に回ろうぜ。蘭も一緒に」

 

おい、何言ってんだこの人。

 

「い、いいんですか?」

 

「ほら、連れ帰っちゃったみたいだし」

 

「はいっ。ぜひぞ一緒しましょう!」

 

で、ガシッと一夏さんの手を握る五反田さん。あぁ…なるほどね。五反田さんも好きなのか。すると篠ノ之さんは表情は変わらないものの、なんとなく悔しそうな空気を醸し出す。だめだ。見てられない。

 

「あの…篠ノ之さんも同じことすればいいと思いますよ」

 

「あ?」

 

こ、怖い!でもこれ以上この人をほっとくともっと空気ヤバい事になりそうだし……、

 

「ほ、ほら…一夏さんの右手空いてますし……逸れたら大変じゃないですか……ってことで」

 

「な、なるほど……たまにはいいこと言うな」

 

で、篠ノ之さんも二人の輪に参加。三人が前を歩く中、僕はその後ろを一人で歩く。…………これ、周りから見たらストーカーじゃね?帰ろっかな……。と、思ったらトテトテとこっちに寄って来る五反田さん。

 

「あの、歳下なんだよね?タメ口でいいかな?」

 

「えっ?うんはい」

 

二回返事してどうする僕。

 

「もしかして、あたし達に気を遣ってくれてるのかな?」

 

「えっ」

 

「あ、当たりだ」

 

クスッと微笑む五反田さん。

 

「いいんだよ気を遣わなくて。一番年下なんだから、一緒に回ろ?」

 

「で、でも……」

 

「いーからいーから。おいで?」

 

僕は黙って頷いて五反田さんと二人の後を追う。……なんかアレだな。すごくいい人だった。一瞬、ドキっとしちゃったし。

 

ドンッ

 

「きゃっ!?」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「い、いえ、私もちゃんと見てませんでしたから」

 

すれ違う人とぶつかって、五反田さんは軽く会釈した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うん。大丈夫。あっ………」

 

「? どうかしました?」

 

体制を崩した五反田さんは僕の胸に頭を置いて、ちんまり洋服の襟を握っている。

 

「えっ、うっ、あっ……!ご、ごごごごめんね!」

 

「? 何がです?」

 

「えっ!?や、やっぱりなんでもない!」

 

(この子!見た目によらずある程度体ガッチリしてる!)

 

どうしたんだろう五反田さん……なんか顔赤いけど……。

 

「もしかして、熱中症だったりします?」

 

「ち、違うわよ!こ、これは…えっとぉ……」

 

わたわたと胸前で手を泳がせる五反田さん。

 

「あの、五反田さん?」

 

「そ、そーいえば一夏さん達はどこへ行ったのかなー!?」

 

「あっ、そういえばはぐれちゃったみたいですね。今、連絡取りましょうか?」

 

「う、うん!そうだね!お願い!」

 

言われたので僕は携帯を取り出すが、

 

「すいません、充電切れみたいです……」

 

「じ、じゃあ私が連絡してみるね!」

 

言いながら手元の袋の巾着を探る。だが、

 

「携帯、忘れちゃったみたい……」

 

そのまま、不安そうな顔になる五反田さん。

 

「まぁ、回ってる間に見つかりますよ。それまで一緒にいましょう」

 

「う、うん……」

 

少し不安げだなやっぱり……まぁそりゃ友達に帰られて、一夏さん達とも逸れて、今日であったばかりの男と二人きりだもんね。ここは僕が何か言うしかないか。

 

「じゃあ、なにかやりたいものありますか?これでもお金はある程度ありますから奢りますよ」

 

「ほ、ほんと!?」

 

すると、ぱぁっと明るくなる五反田さん。

 

「あ、あれ!あれやりたい!」

 

犯人はお前だ!とでも言わんばかりにビシィッ!と指を五反田さん。その先には射的。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「う、うん!」

 

(や、やだ…イアンくんって、頼りになるし優しいし……どうしよう、胸の高鳴りが……)

 

「五反田さん?」

 

「は、はいぃ!?」

 

「あの、本当に熱中症ですか?顔赤いですし……」

 

「ち、違う違う!問題ないよ!それより五反田さんじゃなくて蘭って呼んで!」

 

「へ?」

 

「ほ、ほら。私、お兄いるし!なんとなく混ざるのは嫌なの!」

 

ああ、それは分かる。僕もIS学園に来た時、織斑先生にオルコットで呼ばれて姉ちゃんと一緒に返事した覚えがある。

 

「分かりました。蘭さん」

 

すると、顔を赤くして目を軽く見開く蘭さん。

 

「………やっぱり熱あるんじゃ……」

 

「怒るよ?」

 

「ごめんなさい……」

 

「いいからほら、射的やろう!」

 

「は、はい!」

 

で、射的屋へ。

 

「へい、らっしゃーい」

 

「あ、あの…二人分で……」

 

「おう!ほら銃だ」

 

ゴトッと置かれる銃。で、これどーやんの?

 

「あの、蘭さん。これ、どうやるんですか?」

 

「へ?あ、そっか。日本のお祭りは初めてなのか。これは銃口にコルクを詰めて……んしょっ。で、狙いを定めて、撃つ!」

 

言いながら放った弾は何かに当たることなく落ちていった。

 

「……これで当てて倒せば景品ゲット」

 

「なるほど。じゃあ蘭さん、なにか欲しいものあったりしますか?」

 

「へ?」

 

「取れるかは分かりませんけど。一応、狙ってみます」

 

「じ、じゃあ…あのぬいぐるみ」

 

「わかりました」

 

僕は言うと狙いを定める。頭の中では、福音を狙撃した時のような情景が広がっている。

 

「そこっ!」

 

ぱーんっと本物とは程遠い音でコルク玉は発射され、見事に落とした。

 

「おっ!兄ちゃん、初めてにしてはやるな!ほら、ぬいぐるみだ」

 

お店の人が景品を取ってくれて、僕はそれを蘭さんに手渡した。

 

「どうぞ」

 

「わっ……すごい………」

 

「射撃なんてコツを掴めば簡単ですよ。銃を構えて下さい」

 

言うと、頭に「?」を浮かべながらも構える蘭さん。その後ろから僕は蘭さんの腕を掴んだ。

 

「ひうっ!」

 

ビクッとなる蘭さん。

 

「動かないで。ここをもっとこう…脇を締めて……」

 

と、とりあえず自分の知ってることをレクチャーした。顔を真っ赤にして「ぁぅ……息が掛かる……ぁぅ……」って言ってるけど聞いてるのかな。まぁいいや。

 

「そこっ!」

 

言うと慌てて引き金を引く蘭さん。すると、ポコっと見事に当たってココアシガレットに当たった。

 

「やった!」

 

「おめでとうございます」

 

そう言って僕は微笑んだ。で、景品を受け取る蘭さん。その後もポコッポコッと景品を落とした。

 

 

________________________________

 

 

 

袋の中に景品を入れて二人でで店を回り、その後も焼きそばだのわたあめだのを食べ歩いた。その途中、

 

「おっ!見つけた蘭!」

 

そんな声がした。振り返ると、見たことのない歳上っぽい男の人が立っている。

 

「お、お兄!」

 

「探したぞお前……隣の男はなんだ?ナンパか?てめぇ、うちの蘭に手ェ出した後が怖ぇぞ。特に爺ちゃんが」

 

「ち、違うよ!一夏さんの友達!」

 

「おっ、そーか。そりゃ悪かったな」

 

「えっと…蘭さんのお兄さんですか?」

 

「おう!五反田弾だ。一夏とは中学時代の友達だ!よろしくな!」

 

なんか元気発剌な人だな。

 

「お、お兄!もういいから帰って!」

 

「あ?なんだよ迎えに来てやったのに冷てぇな。いいから帰るぞ。親父達がうるせぇんだから」

 

「……あの、せめて、花火が終わるまでは、ダメかな……」

 

上目遣いで言う蘭さん。すると弾さんは目をぱちくりさせると、頭をかきながらため息をついた。

 

「あんま遅くなんなよ」

 

それだけ言って僕の肩を組む弾さん。

 

「おい、お前この後時間あるか?(小声)」

 

「え、ありますけど……(小声)」

 

「うちに来い。そして奢らせろ(小声)」

 

「へ?」

 

「飯屋やってんだ。いいな?来いよ?(小声)」

 

「わ、分かりました…(小声)」

 

それだけ言うと去っていく弾さん。その瞬間、バァァァンッッ……っと、花火が上がった。僕と蘭さんはそれを見上げた。

 

「綺麗ですね……」

 

「うん」

 

ぎゅっと僕の手を握る蘭さん。

 

「蘭さん?」

 

「今日は、ありがとね」

 

「なにがです?」

 

「一夏さん達と逸れて、少し不安だったの」

 

「いえ、それなら僕もありがとうございます。気遣ってくれて」

 

「元々気を遣いすぎてたのはイアンくんでしょ」

 

「そ、そうですね……」

 

そんな風に二人でその時間を過ごし、いつの間にか花火は終わっていた。

その後、蘭さんを家に送るついでにご飯をいただいて、寮に帰ったら一夏さんと篠ノ之さんと姉ちゃんにめちゃくちゃ怒られた。

 

 

 

 

 

 






うおぉ…長かった……。



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夏休み3

 

 

 

僕は一夏さんの家にお泊まり会に来ていた。午後からどこかに遊びに行って夕方は一夏さんの家で遊ぶ。で、今は晩御飯。

 

「やっぱり一夏さんって料理上手ですねー」

 

「そうでもないよ。普通だ普通」

 

「でも美味しいですよ?」

 

「まぁ、千冬姉が味にうるさいからなぁ……」

 

「織斑先生って家だとどんな感じなんですか?」

 

「あー案外だらしな……」

 

そこで、パコッと叩かれる一夏さん。

 

「余計なことを言うな馬鹿者」

 

「お、織斑先生……」

 

織斑先生が立っていた。

 

「イアンか。今日は泊まるのか?」

 

「は、はい……」

 

「そうか。セシリアには言ってあるんだろうな」

 

「一応、言いましたけど」

 

「ならいい。あまり姉に心配掛けさせるなよ。そここの馬鹿者のようにな」

 

「は、はあ。でも一夏さん、結構しっかりしてるように見えますけど…」

 

「姉からしたらまったく成長してない。まだまだガキだ」

 

「それって、織斑先生がブラコンなだけじゃ……あっ!いやなんでもないで……」

 

「ほう、お前も言うようになったなクソガキ」

 

「いだだだだっ!」

 

アイアンクロー。うわあ、この人容赦ない……。

 

「あ、千冬姉もご飯食べる?出来てるけど」

 

「いただこう」

 

ま、まさか…担任の先生と同じ食卓に付くことになるとは……。その後、あまりにも気まずい食事を過ごした。

 

 

___________________________

 

 

 

次の日、朝から僕と一夏さんはお出掛け。ホームセンターでの買い物を手伝って、その帰り道。

 

「悪いな。手伝ってもらって」

 

「いえ。泊まらせてもらってる身ですから」

 

なんて会話しながら帰宅中。今日は1日一夏さんの家で遊ぶ。で、家の前に着いたのだが、

 

「せ、セシリアはここにイアンがいるって言ってたよね…大丈夫……」

 

なにを言ってるか聞こえなかったが、なにかボソボソ言ってるシャルさんが表札の前に立っていた。変に深呼吸してるし。僕は助けを求めるように一夏さんを見たが、まったく察することなく、一夏さんは言った。

 

「あれ、シャルロットか?どうした」

 

「ふえっ!?」

 

いきなり声を掛けたもんだから、驚いてこっちを振り向くシャルさん。

 

「あ、あっ、あのっ!ほ、本日はお日柄も良くっ……じゃなくてっ!」

 

「「?」」

 

「え、えっと、ええっと……」

 

なにをパニクるのか。そんなに驚くようなことかな……。

 

「き……」

 

「「き?」」

 

「来ちゃった♪」

 

えへっと微笑むシャルさん。……なるほど、夏休みにわざわざクラスの男子の家に遊びに来るなんてこの人、一夏さんのこと好きなのか。だったら僕、お邪魔かな。………最近、僕お邪魔虫になり過ぎじゃね?が、そんな僕の気遣いなどまるで気付かずに一夏さんは言った。

 

「そっか。じゃあ、上がって行けよ。あんまり盛大なもてなしは出来ないけどな」

 

「う、うん。ごめんね、男同士だったのに」

 

あれ?この人、ここに僕か来てること知ってたのかな。そういえば最初会った時、「なんでいるの?」って聞かれなかったな。で、僕達は家に入る。

 

「しかし今日も暑いなー。ちょっと座って待っててくれ、飲み物出してくるから。イアンも座っててな」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「はい」

 

僕とシャルさんはソファーにかける。

 

「しかし、シャルさんもすごいですね。わざわざここまで会いに来るなんて」

 

その瞬間、ブッフォ!と噴き出すシャルさん。顔を真っ赤にするシャルさん。

 

「なっなっなななにを!?」

 

「え?だって一夏さんに会いに来たんですよね?」

 

「べ、別にイアンに会いに来たわけじゃ……えっ?」

 

「えっ?」

 

「………ごめん。もっかい言ってくれる?」

 

なんか笑顔が怖いけどいいか。

 

「や、だから一夏さんに会いに来たんじゃ……」

 

その瞬間、笑顔で僕の首に腕を回して締め上げるシャルさん。い、痛いし顔に胸が……、

 

「ほんとぉーにイアンは歳上をからかうのが上手だね。僕、感心しちゃうなぁ」

 

「ご、ごめんなさい!え?でもなんで!?」

 

「わからないのかな?」

 

「ごめんなさい!そ、それと…あのっむ、胸が…顔に…」

 

「………へ?」

 

すぐに顔が赤くなるシャルさん。その瞬間、僕のことを突き飛ばして自分の胸を庇うように僕を睨むシャルさん。

 

「………イアンのえっち」

 

「な、なんで……!いやすいません……」

 

「ふんっ」

 

あー…完全に拗ねちゃったよ……。どうしよう……。

 

「ほいっ麦茶」

 

突然、僕とシャルさんの前に一夏さんが麦茶を置いた。

 

「? どうかしたのかシャルロット?」

 

「んーん。イアンが僕のことからかうもんだから」

 

「だから僕が何したって言うんですか!?」

 

「まだ分からないんだ」

 

ニッコリ微笑むシャルさんが怖い。

 

「あー…イアンは鈍感だからな。頑張れよシャルロット」

 

「それをあなたが言いますか。ていうか僕は割と敏感ですよ。神経質って姉ちゃんに言われたこともありますし」

 

「「そういう所だよ」」

 

2人に突っ込まれた。なんでだろう…分からん。なんてやってると、ピンポーンとインターホンがなった。

 

「宅配便か?」

 

一夏さんは玄関に向かった。

 

 

_______________________________

 

 

 

で、そこにいたのは姉ちゃんだった。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

なにこの沈黙。

 

「お待たせ〜」

 

姉ちゃんの買ってきたケーキを運んでくる一夏さん。ケーキは四種類あった。おそらく、一夏さん、姉ちゃん、僕、織斑先生の分だったんだろう。

 

「どれがいい?セシリアが買ってきたんだし、セシリアから選べよ」

 

イチゴのショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ、フルーツタルトの四つ。

 

「そ、そうですわね。では、わたくしはタルトをいただきます」

 

「ん、了解。シャルロットは?」

 

「僕より先にイアンが選びなよ」

 

「え?い、いいですよ。先にお二人が……」

 

「いいからいいから。歳下は甘えろよ」

 

一夏さんにまで言われ、チラッと姉ちゃんを見ると、ニコッと頷いた。

 

「じ、じゃあチョコレートケーキで」

 

「はいよ。………子供だな(小声)」

 

「聞こえてますよ」

 

と、一夏さんはチョコレートケーキを取ってくれた。で、シャルさんはショートケーキを取り、一夏さんはチーズケーキを取った。

 

「いただきます」

 

僕はさっそく一口食べる。

 

「わっ、これ美味しいですね!姉ちゃん、これどこで買ったの?」

 

「駅の地下街にある『リップ・トリック』ですわ。今日は運良く買えましたけど、相変わらずすごい人混みで大変でした」

 

ふぅーん。姉ちゃんって人混みとかあまり好きじゃなかった気がするんだけど…そんなに一夏さんと食べたかったのかなぁ。

 

「なぁ、せっかくだしちょっとずつ交換しようぜ。三人とも四つ食べれた方が嬉しいだろ?」

 

「えっ?そ、それは、その……」

 

「た、食べさせ合いっこ……みたいな?」

 

え?なんでわざわざそんなことする必要あるの?自分でテキトーにつまめばいいんじゃ……、

 

「おう」

 

一夏さんも何言ってんの?まぁ嫌じゃないけど……。

 

「じ、じゃあ一夏さんのケーキを……」

 

「僕はイアンのが欲しいなあ」

 

「えー嫌ですよ僕。チョコレートケーキが一番好きですもん」

 

その瞬間、ピシッと音を立てて固まるシャルさん。そして、姉ちゃんにゴミを見る目で見られ、一夏さんは呆れたように苦笑いしながらため息をついた。

 

「な、なんですか?」

 

「イアン…お前さ……」

 

「まったく愚弟が……」

 

「ならいいよ。僕、一夏のもらうから」

 

なぜか三人に思いっきり呆れられた。

 

「え、じゃあ…シャルさん食べます?」

 

その瞬間、世界が照らし出されるような笑顔でシャルさんは振り返った。

 

「いいの!?」

 

「は、はあ……」

 

「じゃあもらおうかな!」

 

言いながら口を開けるシャルさん。何がそんなに嬉しいのか分からんが、とりあえず口にチョコレートケーキを運んだ。

 

「あーん……」

 

「あっ、んむっ。美味しいねぇ」

 

やけにニッコニコしてるシャルさん。と、思ったらなぜか姉ちゃんまで口を開けていた。

 

「………なにしてんの」

 

「そ、その…わたくしも食べてあげてよろしくてよ?」

 

「嫌ならいいよ。僕は交換しなくてもいいし」

 

そのままチョコレートケーキを一口、食べようと思ったら後ろから叩かれて、フォークに刺さったケーキが鼻の穴に入った。

 

「ムゴッファ!い、いひかさん!ティッシュ!ティッシュ!」

 

「お、おう。はい」

 

で、ブッピィーと鼻をかむ。

 

「な、なにすんだよ!」

 

「ふん。愚弟が。いつか撃ち殺してやりますわ」

 

「ええぇ………」

 

僕が何したって言うんだ……。

 

「大丈夫?イアン」

 

シャルさんが優しく心配してくれる。

 

「だ、大丈夫です……」

 

「うんうん。よしよし」

 

「だ、だから子供扱いしないでくださいよ!」

 

なんてやってるうちにケーキを食べ終わってしまった。

 

「さて、これからどうする?うちってあんまり遊ぶ者なきし、外にでも出るか?」

 

「い、いえ!外は暑いですし、せっかくですから……あ、一夏さんの部屋を見せていただけません?」

 

「俺の部屋?見てどうすんだよ、そんなもん。ん、まあ、いいけどさ」

 

で、僕達は一夏さんの部屋へ。

 

「そんなに広い部屋じゃないが、どうぞ」

 

「お、お気遣いなく」

 

「お邪魔しまーす」

 

と、みんなで入室。僕はベッドに腰を掛けた。

 

「昨日はこのベッドで一夏と一緒に寝たんですよ。ね?」

 

「「は、はぁっ!?」」

 

顔を真っ赤にして過剰に反応する女子二人。

 

「あ、あぁ。イアンがどうしてもって言うからな……」

 

なぜか照れ臭そうに頬を掻く一夏さん。

 

「だって男の人と一緒に寝て見たかったから。僕、イギリスでもお泊まり会とかなかったし、そもそも男の子の友達少なかったし」

 

そう、別に女の子の友達が多かったとかじゃなくて、単に友達が少なかった。両親が亡くなった事もあって遠慮されていたんだろう。

 

「ね、ねえ…一夏とイアンってさ、」

 

「どんな関係ですの?」

 

なぜか緊迫した顔で聞いてくるシャルさんと姉ちゃん。

 

「どんなって……」

 

僕は答えに困った。同じ学年とはいえ、年齢の違う人と友達と言っていいのだろうか。しかし一夏さんは躊躇なく、

 

「友達だろ?」

 

と、答えてくれた。それが妙に嬉しかったり。

 

「だ、だからって一緒に寝たりするのかな……」

 

「そ、そうですわ!不健全じゃありません!?」

 

「だ、だからなにがだよ!」

 

僕は反論して、一夏さんの援護射撃を待った。だが、

 

「そうなんだよなぁ…こいつ無駄に可愛いから昨日、中々寝付けなかったんだよ……」

 

と、なにをボソボソ言ってるのか聞こえなかったがなんか言ってた。で、微妙な空気になった時、ピンポーンと音がした。

 

「ん?誰か来たのか。ちょっと行ってくる」

 

そのまま一夏さんは行ってしまった。その瞬間、僕は姉ちゃんとシャルさんにベッドに押し倒された。で、突き付けられるスターライトとヴェント。

 

「な、な、な、なに!?」

 

「イアン?聞きたいことは分かるよね?」

 

「一夏さんと、昨日の夜何かしました?」

 

二人が怖い。や、本当に目が据わってる。

 

「な、なにかって……ね、寝ただけ、ですけど……?」

 

「本当だね?」

 

「は、はい……ていうかベッドの中ですることって何が……あっ」

 

そうか、理解した。

 

「そ、そんなことするはずないじゃないですか!なんなの二人して!」

 

「ふん。変態な弟ですわね」

 

「イアンのえっち」

 

「変態でえっちなのはお前らだ!」

 

なんてやってると、一夏さんが上に上がってきた。

 

「三人ともきてくれ」

 

「「「えっ?」」」

 

言われるがまま下に行くと、いつものメンツが揃っていた。どういうことなの?

 

 

 

 

 

 

 



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夏休み4

 

「しかし、来るなら来るで誰か一人くらい事前に連絡くれよ」

 

呆れれたように一夏さんが言った。だが、篠ノ之さんと凰さんはまったく悪びれる様子なく返す。

 

「仕方ないだろう、今朝になってヒマになったのだから」

 

「そうよ。それとも何?いきなりこられると困るわけ?エロいものでも隠す?」

 

お昼ご飯のざるそばを啜りながら言う二人を僕は呆れた目で眺めるが、篠ノ之さんに夏祭りの時以来、とても嫌われているので視線を外す。

 

「わ、わたくしは、ケーキ屋さんに寄っていて忙しかったので」

 

「ご、ごめんね。うっかりしちゃってて」

 

姉ちゃんはそれっぽい言い訳をして、シャルさんは多分正直に言ったか、テキトーに答えた。

 

「私はお前に会いにきたのではない。私の嫁に会いに来たのだ」

 

うわあ、ラウラさんはストレートだなぁ。

 

「ところで午後はどうする?みんな室内っつーか、うちの中がいいんだよな?」

 

一夏さんが言うと、全員が頷いた。

 

「ま、お茶でも入れるからちょっと待っててくれ」

 

「僕も手伝いますね」

 

「そうか?サンキューなイアン。じゃあ机の上頼む」

 

「はーい」

 

ラウラさん以外は多分、一夏さんに会いに来てるんだから、僕は裏方に回るのが正しい選択だろう。なにより、僕は泊めさせてもらってる身だ。手伝わないわけにはいかない。で、みんなの食器を重ねて、流しへ出す。

 

「なんか、新婚さんみたいだねあの二人……」

 

おい、今言ったの誰だ。男同士で新婚はないでしょ。

 

「あの、僕全部やっとくので、一夏さんは休んでてください」

 

「なんでだ?」

 

「や、あの…ほ、ほら、あっちの人たちは多分、一夏さんに会いに来たんですし、僕は昨日からここにいますから」

 

そこまで言ったらオデコをデコピンされた。

 

「って!」

 

「バカだなイアン。何度も言うけど、お前は気を遣わなくていいんだよ。悪い所だぞ?気を遣い過ぎだ」

 

「で、でも…歳下ですから……」

 

「歳下だからこそ気を遣うな。ただでさえ普通じゃない環境で暮らしてるんだから。歳上にめいいっぱい甘えとけ」

 

「…………」

 

「ま、気持ちは嬉しいけどな」

 

と、言いながら頭を撫でてくれる。

 

「分かりました……」

 

「そうショボくれんな。俺は洗い物しとくから、みんなにお茶出してやってくれ」

 

「はい」

 

言われて僕は冷蔵庫の中を開けた。中にはビールが五本くらい入っていた。うわあ…織斑先生ェ……。

 

「と、これがお茶か」

 

ゴポポポポとお茶をコップに注いで、おぼんにのせて運んだ。

 

「あの、お茶入れましたけど……」

 

言いながらみんなの前にコップを一つずつ置く。

 

「すまないな。イアン」

 

「いえ」

 

で、一夏さんが戻って来て、みんなくつろぐ。

 

「それで、この後はどうしたもんかな。うちはあんまりみんなで遊べるものとかないぞ」

 

「まー、そういうだろつと思って、あたしが用意してきてあげたわよ。はい」

 

凰さんが紙袋を出して、中にはトランプや花札、モノポリー、人生ゲームなどのボードゲームやらカードゲームが溢れていた。

 

「おー。そういや鈴はこういうの好きだったな」

 

「そりゃそうよ。勝てるもん」

 

この人は勝てないと好きになれないのか…。

 

「じゃあ、これで遊ぶとするか。みんなは希望とかあるか?」

 

「あら、日本のゲーム以外にもありますのね」

 

「あ、これやったことある。材木買うゲームだよね」

 

「ほく、これが日本の札遊びか。なかなかにミヤビだな。今度、帰国するときには部隊に土産として買っていくとしよう」

 

と、周りが話し合う中、篠ノ之さんが言った。

 

「私は将棋がいいのだが、あれは二人でし……」

 

「あっ!僕、将棋やってみたいです!」

 

「なに?」

 

ギロッと睨んでくる篠ノ之さん。思いっきりビビりながらも僕は一応返事した。

 

「や、あの……一回でいいからやって見たかったんですよ。ジャパニーズチェス」

 

「私はお前なんかとやっても……」

 

「やってみればいいんじゃないか?」

 

篠ノ之さんの言葉を遮って一夏さんが言った。

 

「なら、ルールはあたしが教えてあげる」

 

凰さんも僕の頭を撫でながら言う。この人の撫で癖は多分治らないので諦めた。

 

「ま、待て。私が相手をするのか?」

 

「別にいいだろう箒。そうケチケチするな」

 

「そうですわ。わたくしの弟の頼みですわよ?」

 

「大人気ないよ箒」

 

ラウラさん、姉ちゃん、シャルさんにも言われて、ウッと詰まる篠ノ之さん。

 

「わ、分かった。その代わり、手加減はしないからな」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「とりあえず、駒の動き方だけ教えてあげるわね」

 

そんなわけで、僕の人生初の将棋が始まった。

 

(ふんっ。初心者など、軽く捻って一夏に良いところを見せてやる)

 

 

___________________________________

 

 

 

数十分後、部屋の隅で膝を抱える篠ノ之さんの姿があった。

 

「すごいわね……本当に初心者?」

 

「完膚なきまでに叩き潰しましたわ…」

 

「俺、将棋とかあんま詳しくないんだけど、これ飛車落ちっていうのか?」

 

「さあ、私も詳しくないから分からん……。ただ、箒の残りの駒が歩兵七枚、金一枚、桂馬二枚、これはなんと読むか分からんが……」

 

「香車な」

 

「香車一枚になるまで袋叩きにするとは……」

 

五人が言葉を発するたびに篠ノ之さんの体がビクンッと震える。いかん、フォローしなくては。

 

「あの、篠ノ之さん。て、手加減してくれたんですよね!」

 

「やる前に手加減なしと言った……」

 

「く、口ではなんとでも言えますよ!」

 

「実際、叩き潰すつもりだった……」

 

「今日は調子が悪かったとか!」

 

「一夏のざるそばを食べて調子が悪くなるものか」

 

うっ……なんか逆に傷付けてしまったかもしれない。助けを求めて後ろの人達の方を向く。が、

一夏さん→視線を逸らして苦笑い

姉ちゃん→視線を逸らしてため息をつく

凰さん→気まずげに携帯を弄る

シャルさん→から欠伸で誤魔化す

ラウラさん→もはや、別の遊び道具に夢中

ど、どいつもこいつも……と、思ったらラウラさんが「あっ」と声を上げた。

 

「これは我がドイツのゲームじゃないか?」

 

取り出したのはバルバロッサというボードゲーム。突破口はこれだ!

 

「じ、じゃあそれやりますか?みんなで遊べる物の方がいいですし!」

 

「そ、そうだね!僕もそれやってみたかったんだ!」

 

よし、シャルさんが乗った!から欠伸してた癖に!

 

「じゃ、やるか。箒もやろうぜ」

 

トドメは一夏さんの一言。これなら、

 

「…………グスッ、やる」

 

いよっしゃあぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎‼︎心の中で全力ガッツポーズ。と、思ったら僕の目の前に立ちはだかる篠ノ之さん。

 

「いつか、いつか必ずお前を倒すからな」

 

宣戦布告された。まぁそんなわけで、そのバルバロッサである。ルールは粘土でなんか作って当てて行くゲームだそうだ。そんなわけでみんなで粘土をこねる。うーん……なにを作るか、好きな物を作ればいいんだろうけど……。

 

「できたっ」

 

「それじゃ、スタートね」

 

シャルさんからサイコロを振り、ゲームが開始される。

 

「えーと、一、二、三、と」

 

「あ、宝石を得ましたわ」

 

「私は……質問マスか。よし、ではイアン。覚悟しろ」

 

まるで決闘にでも挑むかのように篠ノ之さんは僕に指を指す。

 

「は、はい……」

 

まぁ、どーせこうなると思ってめちゃくちゃ完璧に作ったんだけどね。しかも誰でも分かる物。どんっと目の前に置いた。その瞬間、沈黙。

 

「えーっと……」

 

苦し紛れに声を出す篠ノ之さん。

 

「それは生き物か?」

 

「違います」

 

「人が身につける物?」

 

「いえ、選ばれた人間のみが着けられる物ですね」

 

「……特撮関係か?」

 

「そうです」

 

「分かった。仮面ライダーの変身ベルトだ」

 

「正解です!」

 

「まぁ最初から検討はついてたがな……」

 

なぜか全員ため息をつく。なんで?もしかしてヘタクソだったかな……。ちなみに、シャルさんは馬、篠ノ之さんは井戸を作っていた。で、問題はラウラさんと姉ちゃん。いや姉ちゃんのは僕は分かってるんだけど…超下手くそ。

 

「ラウラさん、なんですかこれ?」

 

「なに、分からんのか?嫁失格だぞ」

 

「すいません。で、なんなんですか?」

 

「山だ」

 

「山田?」

 

「違う」

 

「じゃあYAMADA?」

 

「違う。山、だ」

 

その瞬間、一夏さんが立ち上がる。

 

「待て待て待て!山はそんなにとんがってないだろ!刺す気か!?」

 

「ふんっ。貴様にはわかるまい。エベレストなどはこんなもんだろう」

 

「それならエベレストに特定しねーとわかんねーって!」

 

「エベレスト以外にもこういう山はある」

 

スゲェなこの人…超自信満々に腕組んでるよ。

 

「ま、まあ。ラウラ、正解されなかったから減点ね。それで、セシリアのは?」

 

まとめるように凰さんが言った。

 

「あら。誰にもわからないのかしら?」

 

「分かるよ。どーせイギリスでしょ」

 

「流石!わたくしの弟ですわ!」

 

姉ちゃんに感動されるが全然嬉しくない。そりゃこれだけ一緒に暮らしてりゃわかるって。僕を抱き締める姉ちゃんをみんなは憐れみの目で見た後、凰さんが気を取り直したように言った。

 

「ま、まあこれで大体ルールは分かったでしょ!じゃお、次からはあたしと一夏も入って全員でやるわよ!」

 

で、そのまま第二戦と進む。てわ、時刻が四時を過ぎたところで、唐突に予測外の人物がやってきた。

 

「なんだ、賑やかだと思ったらお前達か」

 

織斑先生だ。

 

「千冬姉、おかえり」

 

「ああ、ただいま」

 

一夏さんはすぐに立ち上がり、織斑先生の側に行く。

 

「昼は食べた?まだなら何か作るけど、リクエストある?」

 

「バカ、何時だと思っている。さすがに食べたぞ」

 

「そっか。あ、お茶でもいれようか?熱いのと冷たいの、どっちがいい?」

 

「そうだな。外から戻ったばかりだし、冷たいものでも……」

 

と、そこまで言ったところで織斑先生はとある視線に気が付いた。篠ノ之さんと姉ちゃんと凰さんの視線だ。あーそっかそっか。羨ましいのね。

 

「………いや、いい。すぐにまた出る。仕事だ」

 

「え?そうなんだ。朝にイアンと一緒に作ったコーヒーゼリー、そろそろ食べれるのに」

 

「また今度もらうさ。イアンもすまないな」

 

「あ、いえ。全然気にしないでください」

 

そのまま居間から出て行ってしまった。

 

「……あんた、相変わらず千冬さんにべったりね」

 

凰さんが複雑そうな顔で言った。

 

「え?そうか?普通だろ。姉弟なんだし」

 

「いやいや、なんか専業主婦みたいでしたよ」

 

「イアンの言えたことではありませんわ。いつの間にか世界中のほとんどの料理が出来るほどの女子力になってる癖に」

 

「そういえば、イアンて料理上手だよね」

 

「そうだな。それに寮では常に部屋も綺麗だし、専業主婦としては完璧だろう」

 

なんて話す中、篠ノ之さんと凰さんだけなぜか変な汗を流している。と、思ったらガチャッと織斑先生が入って来た。

 

「イアン」

 

「は、はい!」

 

「付いて来い」

 

「………へ?」

 

「IS関係の話だ」

 

「は、はあ……」

 

「安心しろ。そんなに遅くならんし、遅くなるようならまた泊まっていけ」

 

「じ、じゃあ……皆さん失礼します」

 

そのまま織斑先生と二人で家を出た。

 

 

_________________________________

 

 

 

着いた先はIS学園。ではなくどっかのバー。

 

「あの、織斑先生……?」

 

「今日は千冬さんと呼べ」

 

「ち、千冬さん……僕、未成年なんですけど……」

 

「すまないな。少し愚痴に付き合え」

 

僕の理解が追い付かない内にバーの中へ。中には山田先生がいた。

 

「あ、織斑先生〜…と、イアンくん!?未成年がこんな所に来ちゃ……」

 

「酒は飲まさん。それなら問題ないかマスター?」

 

「えぇ。コーヒーでよろしいですか?」

 

「……………あっ、はいお願いします」

 

自分に聞かれた問いだと気付くのに少し時間が掛かった。で、山田先生、千冬さん、僕と席に着く。

 

「どうされたんですか?今日はお休みだったので実家に帰省されてたんじゃ…」

 

「そうしたかったんだが…家に女子がいてな」

 

「女子?おおー、もしかして織斑くんのですか?」

 

「ああ、そうだ。というかいつもの面々だ。そこからこいつだけ連れて来た」

 

「専用機持ち、七人ですかぁ。戦争が起こせる戦力ですね」

 

「冗談にならないぞ、それは」

 

本当に冗談にならねぇ……。

 

「ていうかイアンくんだけ連れて来ちゃってよかったんですか?」

 

「あっ、僕は大丈夫です。ていうか、IS関連の話をここでするんですか?」

 

「お前はどこまで純粋なんだ。それは嘘だ、言っただろう。愚痴に付き合えと」

 

え、まさか…そんな事のために引き抜かれたの?

 

「まぁまぁ、イアンくん。歳上の美人さんと誘われて一緒にいられるんですから」

 

山田先生にそう言われてしまったら頷くしかない。僕はコーヒーを一口飲んだ。

 

「苦っ!」

 

「おっと、ブラックは飲めませんでしたか。すぐに、お取り換えしますね」

 

「ふんっ。本当にガキだな」

 

マスターに会釈しつつ、一言多い隣の千冬さんを睨む。が、気付かなかったようで、千冬さんは本題に入る。

 

「先月のな、臨海学校があっただろう?」

 

「あ、はい……」

 

「もちろん覚えてますよ。色々ありましたからね」

 

「まあ、福音事件のことは置いておいて。そのだな、あの時に少し私は余計なことを言ってしまってな」

 

「………と言いますと?」

 

山田先生って聞き上手なのかなぁ。と、思ってチラッと見てみると全然違った。ただ興味津々なだけだった。が、それも分かる気がする。普段、あれだけハッキリと堂々とした人がここまで歯切れの悪い感じで話すことなのだから相当なのだろう。

 

「イアン、一日目の夜は覚えてるか?」

 

「は、はい。僕が一夏さんにマッサージしてもらった日ですよね」

 

「ああ、あの後お前はすぐに寝てしまっただろう」

 

「えーっと……はい。眠かったので」

 

「その時にな、明らかに一夏に惚れてると思われる連中は分かるな?」

 

「えっと…篠ノ之さん、姉ちゃ…姉、凰さん、シャルロットさんですよね?」

 

「一人多いが…まぁいいか。そいつらにな」

 

「はい」

 

「一夏はやらんぞと言ってしまった」

 

「「…………はい?」」

 

僕と山田先生の声がハモった。きょとんとして思わず聞き返してしまった。

 

「いや、その……違うんだ。別にあいつがどうとかそういうのではなくだな、なんというか……弟は姉のものだろう?」

 

「はい。僕は少なくとも二十歳過ぎるまでは姉ちゃんのものです」

 

「堂々とシスコン宣言はやめろ。と、とにかくだな、私はなにもおかしな意味で言ったわけではない。しかし、どうにも………女子連中がな、私をライバル視したせいで動きづらくなったようでなぁ……」

 

「あー…見てて分かりますそれ」

 

思わず共感してしまった。なんだ、そういうことだったのか。先生にとってはちょっと困らせてやろうくらいのつもりだったんだろうなぁ。

 

「えっと、織斑先生は一夏くんが女子と付き合うのには賛成なんですか?」

 

山田先生が聞いた。

 

「それは賛成だ。そもそもあいつの人生だ好きにすればいい」

 

「じゃあいいじゃないですか」

 

「いや、よくない」

 

えぇ〜…と、思わず突っ込んでしまった。多分、山田先生も同じだろう。

 

「いや、よくないというか、変な女に引っ掛からないか気掛かりだ。あいつは女を見る目がないからな」

 

「つまり、心配なんですね?」

 

「いや、心配はしていない」

 

「いや今気がかりって言ったじゃないですか」

 

思わず突っ込んでしまった。が、今回はアイアンクローされる事もなかった。で、山田先生がまた聞く。

 

「じゃあなにがそんなに心配なんですか?」

 

「あー……どう言えばいいか自分でもよくわらんな」

 

で、おかわりを頼む千冬さん。

 

「まぁとにかく、今日家を出てきたのはそれが理由だな。十代の女子がうちに押しかけて来たんだ。それを私が邪魔するわけにはいかない」

 

「あの、千冬さん。僕男なんですけど……」

 

「男の邪魔をしないとは言ってない」

 

な、なんだそれは……まぁ別にいいけど。すると、山田先生がクスッと笑った。

 

「織斑先生って、一夏くんと似てますね。優しさに境界線がない所とか」

 

「なにぃ?真耶、お前も男を見る目がないな」

 

「いやそっくりですよ。あと不器用なところとか」

 

「お、イアンくん分かってますねー」

 

クッとなぜか歯噛みする千冬さん。

 

「今日は朝までお付き合いしますよ」

 

「そういう台詞は自分の男に言ってやれ」

 

「とりあえず、目の前の人より男前の人を見つけたら考えます」

 

「ならイアンはどうだ。一夏の話だと、料理も出来て掃除も出来て洗濯も出来るそうだ」

 

「それはむしろ女性の必須スキルですよね。それに、私だってある程度は出来ますから」

 

なんて飲みながら話す二人。そっか、千冬さんもなんだかんだ言って大概ブラコンなんだろうなぁ……。

この後、潰れた千冬さんを僕と山田先生は二人でおぶって一夏さんの家に持ち帰った。

 

 

 

 

 

 




夏休み長ぇ……すいません。あと1〜2話くらい夏休みです(気分によってはやらない)。飽きたとかもういいとか思うかもしれませんが、我慢してください。



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お菓子


もう少し夏休みやろうとか言ってたけど、いい加減話進めたいのでやめました。




 

 

 

 

夏休みも明けて、二学期最初の実戦訓練は一組二組の合同で始まった。そんな中、今は一夏さんと凰さんが、クラス代表ということで戦っている。

 

「最初にシールドを使い過ぎたわね!」

 

「まだまだぁっ!」

 

「無駄よ!この甲龍は燃費と安定性を第一に設計された実戦モデルなんだから!」

 

と、まぁ白熱するバトルを僕はぼんやり見ていた。一夏さんの白式はかなり燃費悪い。最初の方は一夏さんが押してたにも関わらず、最終的にはエネルギー残量が減って負けそうになっている。

 

「もらい!」

 

「!?」

 

一夏さんの足首を掴んだ凰さんが地面に投げ飛ばし、そこに衝撃砲をぶっ放す。そのまま勝負は決した。

 

 

________________________________

 

 

 

「これであたしの二連勝ね。ほれほれ、なんか奢りなさいよ」

 

「ぐうっ……!」

 

悔しそうに唸る一夏さん。今はいつもの面子で食堂。僕はラーメンを食べている。

 

「ラウラ、それおいしい?」

 

「ああ。本国以外でここまでうまいシュニッツェルが食べられると思わなかった。食べるか?」

 

「わあ、いいの?」

 

「うむ」

 

「じゃあ、いただきます。えへへ、食べてみたかったんだ、これ」

 

「ん〜!おいしいね、これ。ドイツってお肉料理がどれも美味しくていいよね」

 

「ま、まあな。ジャガイモ料理もおすすめだぞ」

 

なんて仲良く話すラウラさんとシャルさん。

 

「あー、ドイツってなにげに美味しいお菓子多いわよね。バウムクーヘンとか。中国にあんまりああいうの無いから羨ましいっていえば羨ましいかも」

 

「そうか。では今度部隊のものに言ってフランクフルタークランツを送ってもらうとしよう」

 

………なんか聞きなれない言葉が聞こえた。世界の料理を研究(せざるを得なかった)した僕でもまだまだ知らない料理あるんだなぁ……。

 

「ドイツのお菓子だと私はあれが好きですわね、ベルリーナープファンクーヘン」

 

そう言った姉ちゃん。その瞬間、僕はじと目になる。が、気付かずみんなは話をつづける。

 

「えっ。ベルリーナープファンクーヘンってジャム入りの揚げパンだよね?しかも、バニラの衣が乗ってるからカロリーすごいと思うけど……セシリアはあれが好きなの?」

 

「わ、わたくしはちゃんとカロリー計算をするから大丈夫なのですわ!そう、ベルリーナーを食べるときはその日その他に何も口にしない覚悟で……」

 

「よくいうよ。夏休みに僕が作ってあげた奴、一つも僕にくれないで全部自分で食べてた癖に」

 

「い、イアン!」

 

「セシリア、それはちょっと可哀想だよ……」

 

シャルさんに言われ縮こまる姉ちゃん。

 

「だ、だから謝ったじゃないですか!」

 

「許してないもん。そもそもカロリー計算なんてしたことないくせに」

 

「こっの……!イアンは逆に食べなさ過ぎですわ!だからいつまで立っても女子より身長が小さいんじゃなくて!?」

 

「食事の時くらい落ち着けセシリア。しかし、ジャム入り揚げパンか。確かにうまそうだ」

 

篠ノ之さんが言った。この人も姉ちゃんと同じタイプなんだろうなぁ……お菓子とかカロリー関係なく食べてそう。

 

「セシリア、揚げパンが好きなら今度ゴマ団子作ってあげよっか?」

 

「それはどんなものですの?」

 

「中国のお菓子よ。あんこをお餅でくるんでゴマでコーティング。その後、揚げるの」

 

「お、おいしそうですわね!ああ、でも、カロリーが……」

 

「ま、食べたくなったら言ってよ」

 

「鈴さん……思っていたよりいい人ですわね……」

 

「思っていたよりってなによ!思っていたよりって!」

 

いやそれについては僕も同意見だ。思っていたよりいい人そうだ。しかしこの二人仲良いな。

 

「私は日本のお菓子が好きだな。あれこそ風流というのだろう?」

 

そう言ったのはラウラさんだ。夏休みに行った抹茶カフェの水菓子がヤケに気に入ったみたいなんだよね。

 

「春は砂糖菓子、夏は水菓子とくれば秋はまんじゅうだな」

 

「ほう。冬は?」

 

「せんべえだ」

 

「せんべいですラウラさん」

 

僕が言うと、少し恥ずかしそうな顔をするラウラさん。まぁ、言わんとすることは分かったから気にしないでください。

 

「それにしてもなんでパワーアップしたのに負けるんだ……」

 

「だから燃費悪すぎるのよ。アンタの機体は。ただでさえシールドエネルギーを削る仕様の武器なのに、それなふたつち増えたんだからなおさらでしょ」

 

「うーん……」

 

本当にその通りだ。背部ウイングスラスターも大型化に伴い、エネルギーを大量に使用するになってしまった。

 

「ま、まあアレだな!そんな問題も私と組めば解決だな!」

 

メチャクチャいい笑顔で語る篠ノ之さん。

 

「ざーんねん。一夏はあたしと組むの。幼なじみだし、甲龍は近接も中距離もこなすから、白式と相性いいのよ」

 

「な、何を勝手な……!?ゴホン!それならこのわたくし、セシリア・オルコットも遠距離型として立候補しますわ。白式の苦手距離をカバーできましてよ?」

 

「ええい、幼なじみというなら私の方が先だ!それに、なんだ。白式と紅椿は絵になるからな。……お、お似合いなのだ……」

 

いや照れるくらいなら言わないでくださいよ……。

 

「んー……。でもなあ、別に最近ペア参加のトーナメントとかないしなぁ」

 

「いきなりあるかもしれないでしょうが」

 

「あるとしたら誰と組むんだ?」

 

「イアン」

 

その瞬間、なぜか女子全員が僕を睨むとともにため息をついた。怖いです。

 

「ちなみに、イアンは誰と組むの?」

 

「えっ?僕ですか?」

 

シャルさんに聞かれた。

 

「や、一……」

 

「一夏以外で」

 

にっこり笑うシャルさん怖い。

 

「えっ……姉ちゃ」

 

「セシリアもダメ」

 

な、なん…だと……?

 

「えっ…それは……」

 

どうしたもんかなぁ……。

 

「えっと……」

 

すごい視線がもう一つ。ラウラさんだ。僕の事をすごい剣幕で睨んでいる。

 

「あー……」

 

二人が怖い…涙出そう……。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

そのまま僕は逃げた。無理、怖い。

 

 

________________________________

 

 

 

「やっぱり無駄に広いもんだ……」

 

「そうですね。二人でこのロッカールームは少し贅沢ですね」

 

何人分あるんだ。いや30人以上はあるよね。

 

「すいません。トイレ行くので先に行っててください」

 

「おう。遅れんなよ」

 

で、僕はトイレに向かった。その途中、目の前が真っ暗になった。ポケモンか。でも本当になった。

 

「!?」

 

「だーれだ?」

 

え?誰?知らない声…多分、歳上の人かな?いやそりゃそうか。歳上しかいないもん。

 

「はい、時間切れ」

 

そう言って解放してくれた。誰だろうと思って振り返ると全く知らない人だった。

 

「………だれ、ですか?」

 

「んふふっ」

 

楽しそうに笑った。リボンの色が二年生かな。

 

「あの……」

 

「それじゃあね。君も急がないと、織斑先生に怒られるよ」

 

「へっ?って、ヤバッ!お、怒られる!」

 

トイレに行ってる時間なんてない!

 

 

_____________________________________

 

 

 

「遅刻の言い訳は以上か?」

 

「いや、あの………あのですね?だから、その……」

 

「ではその生徒の名前を言ってみろ」

 

「で、ですから初対面で……」

 

「その初対面の女子との会話を優先して、授業に遅れたと?」

 

「あ、いや結果的にはそうなったのかもしれませんが、違うんですよ。一方的に向こうから……」

 

「おいデュノア。ラピッド・スイッチの実演をしろ。的はそこの馬鹿者で構わん」

 

「えっ」

 

いやおかしいでしょ。

 

「え、いや待って!ご、ごめんなさい!」

 

だが、聞く耳持たない先生。バッとシャルさんの方を振り返った。にっこり笑って返してくれる。女神転生。さすが…いい人は違っ

 

「行くよリヴァイヴ」

 

女神じゃなかった。魔王だった。僕の声は銃声に掻き消された。

 

 

 

 



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学園祭前

 

 

 

 

続いて六限目。専用機持ちは模擬戦。で、その初戦。イアンは鈴と向かい合う。

 

「行くわよイアン」

 

甲龍を呼び出す鈴。

 

「は、はあ」

 

イアンも秋桜を呼び出した。なんだかんだで福音戦の時以来使っていなかったので割と楽しみだったりする。

 

「始めっ!」

 

そんな声で二人で飛び立つ。

 

「うおっ!」

 

この前は狙撃しかしてないから気付かなかったけど、秋桜はかなり速かった。

 

「くっ……!」

 

「喰らいなさい!衝撃砲!」

 

飛んでくる衝撃砲をなんとかかわす。

 

「武器は……!」

 

とりあえずイアンはリボルビングライフルを取り出す。

 

「はぁっ!」

 

ビシュームッとビームを放つ。威力はそこそこ高いようで、勢いも前に使っていたスターライトより速い。

 

「くうっ!」

 

鈴もかわした。

 

「相変わらず、正確な射撃ね……!けどっ!」

 

そして、剣を構えて、衝撃砲を放ちながら突っ込んでくる。その衝撃砲をかわしながらイアンは距離を取って、小太刀・ビーム小太刀を取り出した。

 

「このっ!」

 

「うおおっ!」

 

一度、アリーナの電気を踏み台にして一気に加速。衝撃砲をかわしながら小太刀・ビーム小太刀を構えて突っ込む。ギィィンッと音を立てて空中でぶつかり合った。

 

「こっの…!近距離戦でこの甲龍と!」

 

「ぐうっ!」

 

が、近距離型の機体にパワーで勝てるはずもない。イアンは自分から後ろに押し飛ばされたように飛んで、地上に着地。そこに鈴は衝撃砲を放ってくる。

 

「もらったぁっ!」

 

五発の衝撃砲。それが直撃し、煙が舞い上がった。

 

「やった……?」

 

そう声を漏らす鈴。が、煙が晴れてもそこには何もなかった。

 

「なにっ!?」

 

その瞬間、飛んで来る何か。

 

「そこかっ!」

 

それを弾き飛ばすが、それは小太刀・ビーム小太刀だけでイアン本人ではない。

 

「しまっ……!」

 

気が付けば、真後ろになにか重たい感覚。イアンが自分の機体に乗っかってる。しかもリボルビングライフルをゼロ距離で構えていた。

 

「終わりです」

 

「ッッ‼︎⁇」

 

そう吐き捨ててビームを放った。背中のアーマーに直撃し、一気に地面に落ちる。

 

「うあっ!」

 

が、まだやられていない。

 

「こんのぉっ!」

 

負けじと放ってくる。それを全部かわしながらもガトリングを撃ち続け、すべてが直撃する。

 

「な、なんで当たらないのよ!」

 

そのまま地面スレスレを飛行して空中に舞い上がり、また剣を構えた。

 

「やってくれたわね!でも、ここからなんだから……!」

 

が、イアンは超ロングライフルを構えている。

 

「だから、終わりですって」

 

パシュッと静かな音を立ててビームが直撃した。勝敗は、決した。

 

 

_________________________________

 

 

 

翌日。全校集会。内容は学園祭についてらしい。

 

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

そういえば僕、この学校の生徒会長知らないや。どんな人なんだろう……。

 

「やあみんな。おはよう」

 

「!?」

 

その人は、ていうかそいつのせいで僕は昨日怒られた。しかもなんかこっち見て笑みを浮かべたよ今。……怖い。篠ノ之さんとは別のベクトルの怖さなんだけど……。

 

「うえっ!?」

 

一夏さんも声を上げた。どうやら僕の知らないところで会っていたみたいだ。

 

「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更織楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

あの人が生徒会長だったのか……。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」

 

閉じた扇子を慣れた手つきで取り出し、横へとスライドさせる。それに応じるように空間投影ディスプレイが浮かび上がった。

 

「名付けて、『各部対抗男子争奪戦』!」

 

そのあとに、僕と一夏さんの写真がデカデカと映し出された。

 

「え………」

 

「ええええええええ〜〜〜〜〜っ!?」

 

そして、集まる視線。僕と隣にいる一夏さんに突き刺さった。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い……織斑一夏とイアン・オルコットを、一位と二位の部活動に強制入部させましょう!」

 

再度、雄叫びが上がる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

「素晴らしい!素晴らしいわ会長!」

 

「こうなったらやってやる……やぁぁぁってやるわ!」

 

「今日からすぐに準備始めるわよ!秋季大会?ほっとけ、あんなん!」

 

おい、秋季大会を今そんなん言った?てかほっといていいのかよ。

 

「ていうか、僕達了承しましたっけ?」

 

「してない。皆目知らない」

 

ウインクされた。僕と一夏さんのジト目で睨むがまったく意に返してない。そのまま男子争奪戦は始まったのだ。

 

 

_________________________________

 

 

 

で、特別HRの時間。一夏さんが学級委員なので学園祭の出し物を決める。

 

「えーと……」

 

うん。一夏さんの言わんとすることは分かる。

 

『一夏、イアンのホストクラブ』

『一夏、イアンとツイスター』

『一夏、イアンとポッキーゲーム』

『一夏、イアンと王様ゲーム』

 

「却下」

 

当然の判断である。が、クラスはええええー‼︎と大音量サラウンドでブーイングが響く。

 

「あ、アホか!誰が嬉しいんだ、こんなもん!」

 

「私は嬉しいわね。断言する!」

 

「せっかく同い年に歳下キャラがいるんだから!」

 

「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

「織斑一夏、イアン・オルコットは共有財産である!」

 

「他のクラスから色々言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」

 

「助けると思って!」

 

「メシア気取りで!」

 

うっ……数の暴力だ。この学園において男子対女子は成り立たない。

 

「山田先生、ダメですよね?こういうおかしな計画は」

 

「えっ!?わ、私に振るんですか!?」

 

お、いい作戦。こういう時こそ教師に頼るのは正解のはずだ。

 

「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?」

 

おいあんた本当教師か。

 

「とにかく、もっと普通の意見をだな!」

 

「メイド喫茶はどうだ」

 

そんな聞き慣れた声がした。振り返るとラウラさんのようだ。

 

「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れられるのだろう?それなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」

 

す、すげぇ……。ラウラさんが、メイド喫茶?……あぁ、夏休みに着てたっけ?

 

「え、えーと……みんなはどう思う?」

 

一夏さんが聞くが、周りの女子はキョトンとしている。

 

「いいんじゃないかな?一夏やイアンには執事か厨房を担当してもらえればOKだよね」

 

そう言ったのはシャルさんだった。その瞬間、女子は言った。

 

「織斑君、執事!いい!」

 

「それでそれで!」

 

「メイド服はどうする!?私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

「その前にイアンくんは執事でいいの!?メイドじゃない?」

 

「だ、誰ですか今言ったの!怒りますよ!?」

 

「怒られたーい!」

 

もうやだこの人タチ……。

 

 

 

 

 





秋桜の武器・システム
リボルビングキャノン→ノルンのリボルビングランチャーまんま
小太刀・ビーム小太刀→柄の前からは刃が出て、後ろからはビームサーベル的な。分離も可能。
超ロングライフル→正確には決めてないけど、こう…すごい距離から撃てる。ビームでも実弾でも可。
脚部サーベル→足先からビームサーベル。
花弁システム→八枚のビームシールドをビットのように操る。一枚にしてデッカいシールドにも出来る。あと自分を包むことも出来る。

他にも追加するかもしれませんが、とりあえずこんなもん





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生徒会

 

 

 

 

その日の放課後。織斑先生に報告しにHRの結果を報告しに行った一夏さんを職員室の前で待っていた。その時だ。

 

「やっ」

 

「えーっと、更織さん、でしたっけ?」

 

「そうそう。よく覚えてたね。でもおねーさんのことは楯無さんと呼びなさい?」

 

「は、はあ…それで、僕に何か用ですか?それとも……」

 

「ううん。君じゃないよ。君は強いから平気」

 

「?」

 

「私が用あるのは一夏くんだよ」

 

「は、はあ……えっ?じゃあ、僕一夏さんの特訓に付き合う予定だったんですけど……」

 

「うーん…悪いんだけど今度にしてもらえるかなあ?君も一緒に来るのもアリだよ。むしろ君もいてくれた方がいいかもね」

 

「や、さっき用はないって……」

 

「直接的な用がないだけよ。男ならつべこべ言わずに来なさい」

 

「学園祭ではメイドをやらされるかもしれないんですけどね……」

 

「それは良いことを聞いちゃったな」

 

「別にいいですよ来ても。どーせ一夏さんの執事見にほとんどの生徒が来るんですから」

 

「なんか、えらくナイーヴだね」

 

「そりゃそうなりますよ!メイド服ですよ!?まだ中二なのに!」

 

「この学園では高一でしょ」

 

くっ……ど正論だ……。なんてやってると、一夏さんが出て来た。

 

「お待たせイアンー…って、更織さん…でしたっけ?」

 

「やっほー」

 

「なんで?」

 

「や、なにか話があるみたいなんですよ。一夏さんに」

 

「そうそう。私が一夏くんのISコーチをしてあげようと思って」

 

「へ?あ、いやコーチはいっぱいいるんで」

 

「うーん。そう言わずに。私は何せ生徒会長なんだから」

 

「はい?」

 

「あれ?知らないのかな。IS学園の生徒会長というと…」

 

ん?なんだ?と、思ったら前方から竹刀を持った女子が殴りかかってきた。

 

「覚悟ぉぉぉぉっ‼︎」

 

「なっ……!?」

 

「う、うわわっ!」

 

僕は思わず腰を抜かしてしまった。が、楯無さんは扇子を取り出し、竹刀を受け流し、左手の手刀を叩き込んだ。と、思ったら今度はガラスが破裂する音。

楯無さんの顔面を狙い、次々と矢が飛んでくる。よく見ると袴姿の女子の姿。あ、暗殺?

 

「ちょっと借りるよ」

 

楯無さんは竹刀を蹴り上がらせて浮かせ、キャッチし、放り投げた。それが弓道部の女子の眉間にクリティカル。

 

「もらったぁぁぁぁ!」

 

バンッ!と廊下の掃除用具ロッカーからボクシンググローブを装着した人が殴りかかってくる。

 

「ふむん。元気だね。ところで二人とも」

 

「「は、はい?」」

 

「知らないようだから教えてあげるよ。IS学園において、生徒会長という肩書きはある一つの事実を証明してるんだよね」

 

そう言う間もボクシング部のラッシュを平気な顔してかわす楯無さん。

 

「生徒会長、即ちすべての生徒の長たる存在は」

 

右ストレートをかわす楯無さん。

 

「最強であれ」

 

そして、蹴り抜いてボクシングの人はロッカーに突っ込んだ。

 

「………とね。イアンくん大丈夫?」

 

手を差し出してくれる。情けないなぁ僕。

 

「ま、その最強の座も危ないんだけどね。君のおかげで」

 

「へ?ぼ、僕?」

 

「………なんてね」

 

僕なんかじゃ生徒会長に勝ち目ないと思うんだけどな……。

 

「で、これはどういう状況なんですか?」

 

一夏さんがきく。

 

「うん?見たとおりだよ。か弱い私は常に危機に晒されているので、騎士の1人もほしいところなの」

 

「さっき最強だとか言ってたくせにですか」

 

「あら、ばれた。まぁ簡単に説明するとだね、最強である生徒会長はいつでも襲っていいのさ。そして勝ったなら、その者が生徒会長になる」

 

「はぁ……、無茶苦茶ですね」

 

本当に無茶苦茶だ。

 

「ではまあ、一度生徒会室に招待するから来なさい。お茶くらい出すわよ」

 

「「はぁ」」

 

そんなわけで連行された。

 

 

____________________________

 

 

 

「ただいま」

 

楯無さんが言いながらとある教室に入った。中には二人の女子生徒がいた。

 

「おかえりなさい、会長」

 

出迎えたのは三年生の眼鏡の女子だ。そして、その後ろにいたのは、

 

「わー……おりむーとあいあいだ〜…」

 

あ、そう言えば本音さんって生徒会だったっけ。パープルティアーズ作ってた時に言ってた。

 

「まあ、そこにかけなさいな。お茶はすぐに出すわ」

 

メガネの生徒に言われ、僕と一夏さんは座る。

 

「お客様の前よ。しっかりなさい」

 

だが、ぐてーっとしてる本音さん。

 

「えーと、のほほんさん?眠いの?」

 

「うん……深夜……壁紙……収拾……連日……」

 

「夜勤明けってことですか本音さん?」

 

「あら、あだ名にファーストネームなんて、仲いいのね」

 

「あー、いや、その…本名知らないんで……」

 

「ええ〜!?」

 

がばっと起き上がる本音さん。そりゃそうだ。

 

「ひどい、ずっと私をあだ名で呼ぶからてっきり好きなんだと思ってた〜……」

 

「いや、その……ごめん」

 

一夏さんが頭を下げると三年生の人が口を挟む。

 

「本音、嘘をつくのはやめなさい」

 

「てひひ、バレた。わかったよー、おねえちゃん〜」

 

「「お、お姉ちゃん?」」

 

「ええ、私は布仏虚。妹は本音」

 

「むかーしから、更織家のお手伝いさんなんだよー。うちは、代々」

 

ふーん…そんな家柄がまだ日本にあるとはなぁ……。別に日本について詳しいわけじゃないけど。で、僕達の前にお茶が出される。

 

「はい」

 

「ど、どうも」

 

「すいません……」

 

「本音ちゃん、れいぞうこからケーキ出してきて」

 

「はーい。目が覚めた私はすごい仕事できる子〜」

 

言いながらケーキを取りに行く本音さん。

 

「あいあいー、ここはねー。ここのケーキはねー、ちょおちょおちょおちょお〜……美味しいんだよー」

 

「やめなさい、本音。布仏家の常識が疑われるわ」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶっ。うまうま♪」

 

ケーキのフィルムについたクリームを猫のように舐める妹にゴチんっとげんこつ。

 

「うええっ……いたぁ……」

 

「本音、まだ叩かれたい?………そう、仕方ないわね」

 

「まだ何も言ってない〜。言ってないよ〜」

 

仲良いなこの二人。すると、楯無さんが前に出る。

 

「一応、最初から説明するわね。一夏くんとイアンくんが部活動に入らないことで色々と苦情が寄せられていてね。生徒会は君をどこかに入部させないとまずい事になっちゃったのよ」

 

「それで学園祭の投票決戦ですか……」

 

「あの…僕中二の上に男子なんですけど……」

 

「大丈夫大丈、どーせマネージャーくらいしかできないでしょ?でね、交換条件としてこれから学園祭の間まで特別に私が一夏くんを鍛えてあげましょう」

 

「遠慮します」

 

その答えは少し意外だった。一夏さんなら乗ると思ったのに。

 

「大体、どうして指導してくれるんですか?」

 

「それは簡単。君が弱いからだよ」

 

うおっ、サラッとひどいこと言うなぁ。

 

「それなりに弱くないつもりですが」

 

しかも乗っちゃったよ一夏さん。

 

「うーん…じゃ、イアンくんと一夏くんはどっちが強いのかな?」

 

「それは……」

 

「イアンですが?」

 

「え?いや僕ですか!?」

 

が、無視して話が進む。

 

「だよね?じゃあ丁度いい機会だし、私とイアンくんが戦って、イアンくんが勝ったら私の言うこと聞いてもらうわね?」

 

「えっ?」

 

「いいでしょう」

 

「ちょっ一夏さん!?なんで?僕は関係な……」

 

なんとかしてやめようとしたが、それを楯無さんが遮った。

 

「ダメだよイアンくん。一応言っとくけど、私はあなたと元々戦う予定だったのよ?」

 

「な、なんで!?」

 

「なんでって…生徒会長はこの学園で最強と言ったでしょ?けど君だけは唯一、私より強い可能性があるの」

 

「い、いやいや!大体、僕生身はカブトムシより弱いですし!楯無さんなんかに勝てるわけが……」

 

「いいから。アリーナに集合ね」

 

横暴だ……。テキトーに負けようにもそしたら一夏さんに何言われるか分からんし……。やらないとなぁ。

 

 

 

 

 

 



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対生徒会長

 

 

 

 

そんなわけでアリーナ。生徒会長と男子のイアンがしあいをやるということで結構人が集まった。

 

「一夏、何事?」

 

たまたま居合わせたシャルロットが一夏に聞いた。他にセシリアとラウラがいる。

 

「あー…色々あってああなってる」

 

「そのいろいろを聞いてるのですわ!」

 

「と、とにかく見てようぜ。話はそれからだ」

 

下らない挑発に乗った自分のせいだとは言えない一夏だった。

で、アリーナの中央。

 

「じゃ、やろっか」

 

「は、はあ」

 

いざ、対決。イアンにとってらあまり気乗りはしないが、こうなってしまっては仕方ないだろう。

 

「行くよ、秋桜!」

 

とりあえずリボルビングライフルを取り出して撃つ。が、あっさりかわされた。その後、空中に舞い上がって、動きながら狙撃するが、全部かわす楯無。

 

「いい射撃ね」

 

イアンは攻撃しながらも、今までの敵のどれよりも強いと直感的に思った。回避の仕方に余裕がある。

 

「このっ……!」

 

片手に小太刀・ビーム小太刀を握ってそのまましばらく射撃。向こうも大型のランスを取り出し、ガトリングを撃ってきたが、全部回避するイアン。

が、しばらくイアンは防戦一方になり、すべての行動を回避に回した。

 

「くうっ!」

 

「逃げてるだけじゃ、勝てないわよ!」

 

が、カチンと音を立てて弾が出なくなる。

 

「そこっ!」

 

その瞬間を見てイアンは超ロングライフルを呼び出して撃ちこんだ。速度だけならリボルビングライフルの三倍はある。

 

「捉えた!」

 

だが、効いていない。

 

「えっ!?」

 

「私のアクアクリスタルは射撃なんて通らないのよ」

 

そして、向こうは弾を装填したのか、再び撃ってくる。

 

「うおっ!」

 

回避するイアン。射撃が効かないのなら、リボルビングライフルも超ロングライフルも使えない。

 

「格闘でっ!」

 

小太刀・ビーム小太刀を握って突撃。楯無のランスの四連装ガトリングを確実にかわしながら接近した。

 

「当たらない!?」

 

当たりそうな攻撃はすべて弾かれる。今更回避しようとするが遅い。イアンのビーム小太刀が楯無を真っ二つに分断した。

 

「やった!?」

 

客席から…という一夏のそんな声がしたが、イアンは素直に喜べない。

 

(この感覚…当たってない……!?)

 

「そう正解。水で作った偽物よ」

 

後ろからゾワッと嫌な声が聞こえて、イアンはテキトーに横に左へ逃げる。その瞬間、右に振り下ろされたランス。完全にたまたま避けれただけだ。

 

「危なかった……!」

 

「あらっ、でも今のはテキトーね」

 

続いて、もう一度ランスを振り被る楯無。

 

「うわああああっ!」

 

イアンは、振り向きざまに脚部サーベルを出しながら廻し蹴りをかました。

 

「そんな所に……っ!」

 

ランスで急いでガードするが、勢いが違う。思いっきり蹴り飛ばした。

 

「やったなっ!」

 

そのままランスの四連装ガトリングを乱れ撃つ。それを後ろに宙返りしてかわしながら、脚部サーベルを片方飛ばした。

 

「んなっ……!?」

 

そのトリッキーな動きに完全に呑まれた楯無。しかも、射撃攻撃ではないのでアクアクリスタルでは防げない。直撃して、怯む楯無。

 

(手加減なんてしてる場合じゃない……!)

 

そう思い直し、バッと前を睨むがそこにイアンはいない。

 

「そこっ!」

 

後ろから声がしてテキトーにかわすと、すぐ横に小太刀が通り頬を掠める。

 

「今のテキトーでしたね」

 

「生意気っ!」

 

振り向きざまにランスで攻撃しようとしたが、それをもう片方の足の脚部サーベルでガードされる。

 

「もう一本!?」

 

「これでっ!」

 

で、ビーム小太刀叩きつけ、地面に落とす。が、シールドエネルギーを削りきらなかったのか、まだ勝ちではなかったようだ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

アリーナに煙が舞う中、中央になにか青いエネルギーが集中する。

 

「なんだ……?」

 

キィィィィンッ……と、中央で光ったかと思うと、何かが発射された。

 

「『ミストルティンの槍』」

 

その瞬間、ドゴォッ!と音を立ててイアンに向かって飛んでくる。慌てて回避するが、爆風で体制を崩した。スタジアムの客席は吹き飛び、煙が上がる。

 

「な、なんて威力……」

 

「そこよ!」

 

「えっ?」

 

声がして振り返ると、ランスが飛んで来た。いつの間にか楯無が回り込んでいた。

 

(回避出来なくもない。だけど……!)

 

イアンもビーム小太刀を握り、振り向きざまに突き刺す。お互いのアーマーに突き刺さり、勝負は引き分けとなった。

 

 

_______________________________

 

 

 

「で、お前らはスタジアムをぶっ壊したと?」

 

僕と楯無さんは織斑先生に怒られている。

 

「や、僕は壊してないですよ!壊したのは……」

 

「イアンくん。男の子が女の子のせいにするの?」

 

「歳上が歳下に罪を広げますか!?」

 

「うるさい馬鹿者ども」

 

ゴチンッ☆と頭を殴られた。

 

「ったい!」

 

よく見たら楯無さんも涙目だ。

 

「もういい。次はないからなまったく……」

 

そのまま職員室を追い出された。

 

「それにしても驚いちゃった。かなり強いわねイアンくん」

 

「い、いえ!そんなことないですよ」

 

「またまた謙遜しちゃって。おねえさん驚いちゃったなー」

 

と、頭を撫でられる。

 

「じゃんけんぽんっ!」

 

「うえぇっ!?」

 

いきなり言われてパーを出してしまった。楯無さんはチョキ。

 

「はい。これで賭けはお姉さんの勝ちね」

 

「ち、ちょっと!ズルいですよ!不意打ちなんて!」

 

「お姉さんは常日頃から不意打ちされてるけど負けたことないけど?」

 

「そ、それとこれとは……!」

 

「いーじゃない。男の子でしょ?」

 

そう言われてしまうと言葉に詰まる。

 

「ほら、早く一夏くんの元に戻るわよ」

 

あー…怒られるだろうなぁ。ジャンケンで負けたなんて言ったら。

 

 

______________

 

 

 

その後、僕は一夏さんとは別に帰った。明日から一夏さんと楯無さんと特訓かぁ……っと、さっさと電話しないと。ついっついっとスマホを動かして電話。

 

『も、もしもし!?』

 

「あ、蘭さんですか?僕です。イアンです」

 

『ど、どうしたの!急に電話なんて……?』

 

「あ、忙しかったですか?」

 

『そんなことないよ!超暇だった!』

 

「ならよかった。あの、今度学園祭あるんですけど、来ますか?」

 

『へ?それって、IS学園に!?』

 

「は、はい。どうですか?無理にとは……」

 

『行きます!』

 

即決かよ。

 

「そ、そうですか。分かりました。では招待券送っておきますね」

 

『う、うん!ありがとうね!』

 

「では、失礼します」

 

ふぅ、さて部屋に戻ろう。

 

 

_________________________

 

 

 

あれから二日。僕は一夏さんの特訓に付き合ってはいるものの、ただ見ているだけが多い。なんでも、生徒会長お墨付きの強さとかなんとか言ってただ見学させられるだけだ。今日の訓練も終わりか。

僕は一夏さんと二人で自室に戻る。

 

「あー…疲れた……」

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ…俺のためにやってることだし……」

 

「あの、良ければマッサージとかしますけど」

 

「おぉ、サンキュー…頼むわ」

 

なんて話しながら部屋に入る。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

バタンと一夏さんがドアを閉める。

 

「今、見えた?もしくは聞こえた?」

 

「一夏さんの疲れが感染したみたいです」

 

「伝染病みたいに言うな。と、言いたいところだがすまん。まさか疲れが人に伝染するとは」

 

で、あっはっはっと乾いた笑い。もう一度突入した。

 

「お帰り。私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」

 

「選択肢がない!」

 

「あるよ。一択なだけで」

 

「いや選択の余地がない時点でそれは選択肢ではないのでは……」

 

「もーそれは屁理屈だよ。イアンくん。あんまり生意気だとお姉さんが色々と大人にしてあげよっかな〜」

 

「ちょっ…そのかっこうで来ないで!」

 

そう、裸エプロンの楯無さんだ。僕は一夏さんの背中に隠れる。

 

「もう、照れちゃって可愛いなぁイアンくん」

 

「で、なんでここにいるんですか?」

 

一夏さんが軌道修正してくれる。助かった。あのままじゃ話が進まない。

 

「今日から私、ここに住もうと思ってね」

 

「は………?」

 

「いやぁ、みんなに自慢できるなぁ。まだ2人しか住んだことのない、一夏くんのお部屋で寝泊まり。私ってば三人目の女ね」

 

「いや、あの、………え?ちょっと、ここって、一年生寮ですよ?」

 

「生徒会長権限」

 

この人は……やっぱり強けりゃ生徒会長はよくないと思いました。

 

「と、とにかく!服を着てください、服を!」

 

一夏さんがもっともなことを言う。だが、

 

「じゃん♪水着でしたー」

 

「……………」

 

「んふ。残念だった?」

 

「そ、そんなわけないでしょう!」

 

この人は……残念なのはあんたの頭だ。

 

 

 

 

 

 



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遊ばれてる

 

 

 

 

 

「そっかーじゃあイアンくんも大変だったんだねー」

 

「そうなんですよ…『生徒会長と引き分けた貴公子』だのなんだの……女子生徒に追い掛け回されて取材とか言われて頭撫でられて抱き着かれて……」

 

「本当は少し喜んでたり?」

 

「しませんよ!」

 

「でもおねーさんのこの格好もなんだかんだで慣れてるよね?」

 

「な、慣れてませんよ!ち、直視出来ないんですから…」

 

「んー!やっぱり可愛いなぁ、イアンくん」

 

「や、やめてください!」

 

誰のせいでこうなったと……。

 

「俺も入学したての時は大変だったよ。ほとんど珍獣扱いだったからなぁ」

 

なんて話してると、コンコンとノックの音。

 

「は、はい?どなたですか?」

 

一夏さんが答える。

 

「わ、私だ。差し入れを持ってきてやったぞ」

 

「げっ!箒!?」

 

「むっ、入ってもいいか?」

 

「……す、すまん。ダメだ。あ、あれだ!イアンが体調悪いらしいから!ま、また今度……」

 

「えっ!?僕!?あ、いや……ゲホッ!ゴホッ!」

 

「やーん、男2人に襲われるぅー♪」

 

「「楯無さんッッッ‼︎‼︎」」

 

この人は本当にッッ‼︎‼︎その瞬間、スパッと両断されるドア。篠ノ之さんが入って来た。

 

「のわああっ!?」

 

「貴様ら……!それでも男か……!」

 

「わああっ!待て待て!誤解だ!」

 

「し、篠ノ之さん待って!これは……」

 

「これは、なんだ?納得いかない答えなら私が介錯してやる」

 

うっ……思わず泣きそうになってしまう。それくらい怖い。そんな僕の頭を撫でながら楯無さんは言った。

 

「まぁまぁ落ち着いて。冗談だから」

 

しかし、落ち着かない。裸エプロンに見えるその格好で宥めた所で逆効果だ。

 

「一夏ぁ!」

 

「な、な、なんで俺が!?ていうか前にもこんなことあった気がするが!?」

 

「女子を連れ込み、あろうことか二人掛かりで破廉恥極まりない行為をしおって……。恥を知れ!」

 

びゅっと日本刀が振り下ろされる。が、その間に入るのは楯無さん。

 

「あらら、直情的ね」

 

ガギンとランスで止める楯無さん。そのまましばらく睨み合うふたり。楯無さんはニコニコ笑顔ではあるものの、あれほど怖い笑顔はない。

 

「あ、あのっ……」

 

もう無理。僕は部屋から逃げ出した。

 

 

_________________________________

 

 

 

部屋から逃げて、姉ちゃんの部屋に退避することにした。ノック。

 

「姉ちゃん。いるー?」

 

「どうぞ」

 

中に入ると、姉ちゃんとルームメイトの人がいる。

 

「あら、イアンくん?どーしたのこんな所に」

 

いいながら抱き付いてくるのは、名前なんだっけ……鏡ナギさん?

 

「こ、こんばんは」

 

「んー相変わらずセシリアの弟とは思えないほど礼儀正しい子!」

 

「ナギさん、それどういう意味です?

 

姉ちゃんが言いながらナギさんを引き剥がす。

 

「それで、何かご用です?」

 

「ううん。部屋で戦争が起こってるから逃げて来ただけだよ」

 

「戦争?」

 

「楯無さんと篠ノ之さんが」

 

「あー……」

 

普段なら今からでも飛び出して行きそうなものだが、楯無さんの名前が出たからか冷静だ。

 

「まぁそれならしばらくはここにいなさいな」

 

「うん。ありがと」

 

そんなわけで僕は姉ちゃんのベッドにダイブした。

 

「いいなぁーセシリア。私もこんな可愛い弟欲しいなぁ」

 

「わたくしの弟はあげませんわよ」

 

「ブラコンめ」

 

「ち、違いますわ!」

 

姉ちゃんも友達出来てるみたいで何よりだなぁ。ぶっちゃけ、四月あたりとか結構心配してたし。まぁそんな感じで三人でお喋りしていたら、あっという間に9時になった。

 

「そろそろ僕、戻るね。ナギさん、ありがとうございました」

 

「うん。またおいでねー」

 

そのまま僕は部屋に戻る。だが、なぜかまだ部屋に人がいた。しかも楯無さん。一夏さんはすごいやつれて、僕を睨んでる。お疲れみたいですね。逃げてごめんなさい。

 

「…………なんで?」

 

「私、しばらくここに住むの」

 

「や、だからなんで……」

 

「一夏くんの特別コーチやるんだから寝食共にして波長を合わせるの。あと、イアンくんの普段の様子とか観察しないといけないしね」

 

「僕は夏休みの課題か何かですか?」

 

ん?てことは……、

 

「この部屋で三人で住むんですか?」

 

「うん。でも困ったわねー。ベッドが二つしかないわ」

 

「なら、僕は一夏さんと……」

 

「ここのベッドは一人用なのよね。男の子二人はキツイのよ」

 

「………何が言いたいんですか」

 

「あら、分かってるくせに」

 

悪戯っぽい笑み。嫌な予感しかしない……。

 

「私と一緒に……」

 

「お断りします!」

 

「えーつれないなー」

 

「そういう問題じゃありませんよ!一夏さんおかしいですよね!?」

 

「セシリア、イアンの貞操は終わったよ……」

 

「一夏さん!?」

 

この野郎……と、思ったが先に見捨てて逃げたのは僕の方だ。

 

「さて、じゃお姉さんは先にお風呂入ってベッドで待ってるからね」

 

そのままお風呂に行ってしまった。絶望する僕。そんな僕の肩に一夏さんは手を置いた。

 

「頑張って」

 

「どの口が言いますか……」

 

 

_________________________________

 

 

 

で、風呂から上がってベッドの中。僕は楯無さんに背中を向けて寝転がる。

 

「あれぇ?どうして背中向けちゃうの?」

 

「あ、当たり前でしょう!」

 

ただでさえ水着エプロンなんだから!

 

「ほれほれ〜どこをどうして欲しいのかなぁ?」

 

「ちょっ……!」

 

背中に柔らかい感覚が……!

 

「や、やめっ……!」

 

「すごい心臓ばくばく言ってるけど、大丈夫?」

 

「だ、誰のせいだと……」

 

「誰だろうね〜」

 

この人は……!いっそのこと本当に……いやでもそれで取り返しのつかない事になったら……、

 

「顔、真っ赤だよ?」

 

「うっ………」

 

「じゃ、おやすみなさーい」

 

「えっ?」

 

「どうかした?」

 

な、なんか…遊ばれてる……。

 

「な、なんでもないですっ!おやすみなさい!」

 

結局、眠れなかった。が、僕と一夏さんの苦労はこれからだった。

 

 

 

 

 



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メイド服

 

 

 

あれから二日。僕はシャルさんとラウラさんの部屋にいる。ベッドに突っ伏して。部屋に戻ると楯無さんがいるのでここにいるしかない。姉ちゃんの部屋だとナギさんいるし。嫌いじゃないけど慣れてない人だからなぁ。

 

「大丈夫?イアン」

 

「もうやだ……女の子怖い……」

 

素直にそう思った。

 

「あの、僕も女の子だよ?」

 

「私も怖いか?」

 

「ラウラさんは元々怖いです。少し」

 

「んなっ!おまっ……」

 

「ま、まぁまぁラウラ。それで、何があったのイアン?」

 

「もうダメです……ここ最近なんて一緒に寝かされてるし……」

 

「「んっ?」」

 

「それに昨日なんてお風呂にまで突入して来て…裸なのに擽られて……」

 

「「んんっ?」」

 

「もうやだ……」

 

「…………嫌なのはこっちだよ」

 

なぜかシャルさんは不機嫌だ。

 

「な、なんか怒ってます?」

 

「怒ってないよ?」

 

「いやでも…」

 

「怒ってないよ?」

 

なんかまたマズイこと言っちゃったかな……。

 

「とにかく、なんとかしてくださいよ……楯無さんと引き分けて以来、周りに人が集まって来るし……」

 

「イアンはもっと女の子の心を知るべきだね」

 

「へ?」

 

「そうだぞイアン。ここ最近、私の訓練にも付き合ってくれなくなったしな」

 

「うっ、それはすみません……」

 

なんか二人とも機嫌悪いなぁ……。

 

「とにかく、ここに少しだけいさせてもらえませんか?」

 

僕が聞くと、なぜか二人は顔を赤くする。「上目遣いはズルイよ……」なんてよくわからんことを小声で言うシャルさん。

 

「ま、まぁそれくらいなら構わん。なぁシャルロット?」

 

「う、うん。なんなら泊まっていってもいいし」

 

「そ、それは……」

 

いや楯無さんと一緒に寝るくらいならここにいた方がいいか。シャルさんとは同じ部屋で暮らしてたこともあるんだし。

 

「じ、じゃあ…お願いします」

 

「へ?本当に?」

 

「楯無さんと寝るのは嫌ですから。耳に息吹きかけて来ますし……」

 

「耳弱いの?」

 

「ち、違いますよ!その、力が入らなくなるだけで……」

 

「それを世間一般では弱いって言うんだよ?」

 

うっ、そうなのか?

 

「ま、ここにいなよ。それともお腹すいてるならご飯食べに行こうか?」

 

「もう寝ます……なんか疲れてるので……ラウラさん、ベッド借りますね」

 

「むっ?私のか?」

 

「身長が変わらない人と寝た方がお互いスペース取れるじゃないですか。嫌ならいいですけど……」

 

「そ、そうか。では、寝よう」

 

「待ってラウラ」

 

ガッと止めたのはシャルさん。

 

「ラウラは僕と一緒に寝ようね。男の子と女の子は一緒に寝るものじゃないよ」

 

「し、しかし……」

 

「寝ようね?」

 

ギリっとラウラさんは奥歯を噛み、渋々了承していた。

 

 

_____________________

 

 

 

学園祭当日。数人の女子生徒が一年一組にご入店。僕はそれを出迎えた。

 

「お、おかえりなさいませ…お嬢様……」

 

メイド服で。その瞬間、ほわあぁぁと顔を赤らめる生徒。

 

「か、可愛いー!イアンくん、だよね!?」

 

「は、はあ……」

 

結局メイド服を着ることになった。これなら蘭さん呼ばなきゃ良かったなぁ……。それと、一夏さんの執事服。それを目当てに来てる人が多く、一組の前はアリの行列のようになっている。僕は深くため息をついた。

 

「はぁ……」

 

「どうかしたの?イアン!」

 

僕の肩に手を置くのはシャルさん。さっきまで鼻血出てたけどどうしたんだろ。鼻くそ深追いするタイプのキャラじゃないしなぁ……。

 

「ご機嫌ですね……」

 

「そりゃあもう!」

 

ついさっき、僕がこの格好で「その…似合ってますね…」と言ったら鼻血出しながらこの調子である。

 

「きゃあー!イアンくーん!接待してー!」

 

「ほらイアン。お呼びだよ」

 

「は、はい。ただいま…」

 

「元気良く!」

 

あんたは僕の監督ですか。

 

「はーい☆ただいま」

 

マントルまで減り込んでいた元気を無理矢理引き上げて応対する。

 

「お待たせいたしました。お嬢様♪」

 

「おー来た来た。じゃあこのメイドにご褒美セットで」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

「あっいやなんでもございません。かっ、かしこまりましたお嬢様」

 

仕方ないので立ち上がって裏方へ。

 

「す、すいません……」

 

テキトーに声を掛けると、鷹月さんが出て来た。

 

「あら、どうしたのイアンちゃん」

 

「あの、その呼び方ほんと勘弁してもらえます?」

 

「あははっ、ごめんね。それでどうかした?」

 

「め、メイドにご褒美セット一つ……」

 

多分、今の僕は顔が真っ赤だろう。それでもやらなきゃいけないことがある。それが働くということだ。今、身をもって知った。

 

「はいはい。ちょっと待っててね」

 

鷹月さんが準備をしている中、待機してると携帯が震えた。蘭さんからメールのようだ。

 

『どこにいるの?』

 

あー…来ちゃったかー……。

 

『一年一組で仕事してます。来ても大丈夫だと思いますよ』

 

と、返事したところで僕の手元にポッキーの入ったグラスが運ばれた。

 

「じゃ、頑張ってね」

 

「は、はい……」

 

と、仕方なく仕事をして数分後、

 

「イアンく……イアンちゃん。ちょっといいかな?」

 

誰だかわからないけど多分二年生の人に呼び出された。ていうか、言い直した理由をすぐ様問い質したい。

 

「は、はい」

 

呼び出されて僕は付いて行くと、一夏さんが立っていた。それと楯無さん、篠ノ之さん、姉ちゃん、凰さん、シャルさん、ラウラさんのいつもの面子。

 

「私、新聞部の黛薫子です。それでね、写真を撮りたいんだけど…」

 

「絶対嫌です!」

 

こんな恥ずかしい格好を撮らせてたまるか!

 

「ま、まぁまぁイアン。写真くらいいいではありませんか」

 

「姉ちゃんに言われてもそれだけは嫌だ!」

 

と、言った瞬間、後ろから楯無さんに手を固められる。

 

「わがまま言っちゃう子はお仕置きかな〜?」

 

「い、いだだだ!でも嫌ですよ!ただでさえ恥ずかしいのに……!」

 

「ウルトラ兄弟変身アイテムセットでどうかな?」

 

「中身はベーターカプセル、ウルトラアイ、ウルトラリング、ウルトラバッチの四つですか?」

 

「レオリングも付けちゃう」

 

「撮りましょう」

 

やったぜ。僕、勝ち組。周りから生暖かい視線を感じるが無視。あー学園祭が終わった後が楽しみだなー。

そんなわけで、一枚目。姉ちゃん。

 

「姉ちゃん、姉弟で撮る必要あるの?うちにチェルシーさんいるんだから帰国したときにでも……」

 

「ダメですわ。せっかくですから今撮りましょう」

 

二枚目。ラウラさん。

 

「……なんか、僕たちの組だけ中学生の写真みたいですね」

 

「……どういう意味だ?」

 

「いや僕と身長変わらな…」

 

殴られた。

三枚目、シャルさん。

 

「なんか、どっちかっていうとシャルさんの方がお兄さんに見えますね」

 

「あー…でもそれじゃあ男同士でコスプレして写真撮ってるみたいだよ?」

 

「でもシャルさんみたいなお兄さん欲しいです。もちろん、お姉さんでも」

 

「お、奥さん、は……?」

 

「? 何か言いました?」

 

「な、なんでもない!」

 

四枚目。一夏さん。

 

「イアンくん、織斑くんの腕に腕を絡めて」

 

「「は?」」

 

「ほらほらいいから。せっかくだからいい物撮りたいもん」

 

黛さんに言われるがまま腕を絡ませる。

 

「一夏くん、手袋外して手に持って、イアンくんの腰に手を添えて、そう、OK」

 

で、パシャっと一枚。

 

「出来た!結婚写真!」

 

「そういうことか!」

 

「や、やめてくださいよ!」

 

「やめてもなにも、もう撮っちゃったもーん。はい、この写真欲しい人、一人500円ー!」

 

そのまま女子の群れは黛さんの方へ。意外に食い付かなかったのは専用機持ち。一夏さんの写真なら喰いつくと思ったんだけど……、

 

「で、貴様ら?」

 

言ったのは篠ノ之さん。なぜか日本刀を握る。周りの代表候補生たちも何故か武器を展開。

 

「貴様ら、まさか男同士でそういう関係なのか?」

 

「は、はぁ!?箒!お前本気でそれ言って……」

 

「そ、そんなわけないでしょう!僕がそんな……」

 

「問答無用!」

 

篠ノ之さんの号令で僕達は袋叩きにされた。

 

 

 

 



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デート

 

 

 

 

「イアンくん。お客さん」

 

鷹月さんに呼ばれて入口へ向かう。

 

「隅に置けないわね。彼女さんがいたなんて」

 

「へ?」

 

その言葉が出た瞬間、裏方で皿が3枚程割れる音がしたが無視して入口へ。

 

「お帰りなさいませ、お嬢さ……」

 

「なにしてるのイアンくん?」

 

「」

 

蘭さんだった。

 

「そうだ。イアンくん、今から30分くらいなら自由時間にしてもいいわよ。彼女さんと回ってきな」

 

「いや、全然彼女じゃないですけど」

 

言うと後ろからドンと背中を叩かれた。

 

「痛ッ!ら、蘭さん……?」

 

「ふんっ」

 

なぜか不機嫌な蘭さん。そんな僕達の様子を楽しそうにニコニコしながら眺める鷹月さん。

 

「いいから、行って来なさい。蘭さん、だったかしら?邪魔は未然に防いどいてあげるわね」

 

「? は、はい……」

 

蘭さんはよくわかってないながらも返事をした。僕もよくわかってない。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「あの、その格好のまま行くの?」

 

「30分しかもらえてませんから。我慢しますよ」

 

 

_________________________________

 

 

 

 

で、二人で学園祭巡り。

 

「どこか行きたいところありますか?」

 

聞くけど聞いちゃいない。なぜかわたわたと慌てている。

 

「あの、蘭さん?」

 

「うぇっ!?な、なに!?」

 

「いえ、だからどこか行きたい所とか……」

 

「ど、どこでもいいよ!」

 

「や、でもせっかく来たんですから何かやってみたいこととか……」

 

「ほら、私IS学園とか初めてだから何があるか分からなくて!」

 

「じ、じゃあテキトーに近くの所入りますね」

 

「うん」

 

で、近くの美術部の中へ。入った瞬間、

 

「芸術は爆発だ!」

 

来なきゃよかった……。が、珍しい男子(今はメイドだけど)である僕に気付かないはずもなく、声をかけてくる。

 

「あ!イアンくんだ!」

 

「って、それ彼女さん!?」

 

「神は死んだ……」

 

「や、友達ですよ」

 

また蹴られた。

 

「なぁんだ。じゃあおいで。爆弾解体ゲームだよ!」

 

あぁ、そういうことか。

 

「ね、ねぇこれ本当にやるの?」

 

「へ?」

 

「も、もう終わってる……」

 

「あぁ、これ僕得意なんですよ。良ければ教えますよ?」

 

「じ、じゃあ、お願いしようかな……」

 

そんなわけで解体開始である。

 

 

_______________________________

 

 

 

その後、僕と蘭さんはテキトーに何か食べたりしながら歩き回り、あっという間に30分経ってしまった。今は一組の教室の前。

 

「じゃあ、僕仕事に戻りますから」

 

それだけ言って去ろうとした時だ。僕の袖をキュッと掴む蘭さん。

 

「その、次は休憩とかいつ取れる?」

 

「それは……ちょっと……」

 

分からない。一夏さんのせいでここまで繁盛してしまっているからだ。

 

「じ、じゃあ休憩取れたらわたしと必ず回る。約束して」

 

「は、はあ。別にいいですけど……」

 

「んっ」

 

突き出してくる小指。何のことやらと思ってると、「指切り!」と宣言してきた。

 

「は、はぁ……」

 

「指切りゲンマン嘘吐いたらお兄を呑ーます♪」

 

それはつらいなぁ…物理的にも人道的にも。

 

「指切った!」

 

そのまま手を振りながらトテテと走って行く。

 

「あらあら、お熱いわね」

 

「げっ、楯無さん…見てたんですか」

 

「可愛い子じゃない」

 

「まぁ、そうですね……って何言わせるんですか!」

 

「イアン?」

 

ガッと肩を掴んできたのはシャルさんだ。後ろには姉ちゃんとラウラさんがいる。

 

「どういう関係か説明してもらえるかな?」

 

僕の悲鳴が響いた。ていうか、今日ボコボコにされすぎでしょ僕。

 

 

 



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コーヒー

 

 

 

 

酷い目にあった…どうしてみんな怒ったんだろうか……なんて考えてる暇もないほどいそがしい。一夏さんが休憩に出てしまったため、僕の仕事が倍増したのだ。まぁ、僕がいなかった時は一夏さんも忙しかったんだろうから、それはそれで仕方ないのかもしれない。

 

「イアンくん!」

 

「あ、はい!おかえりなさいませ。お嬢様☆」

 

と、まぁこんな具合だ。そのままダーツだのなんだのやらされると思ったらポッキーを食べさせてもらったりと大忙し。

 

「はぁ……」

 

「ほらため息つかない!」

 

ポンっと背中を叩かれる。多分、相川さんだと思う。名前なんてほとんど覚えてないよ。

 

「そんなこと言われても……」

 

「はい笑顔!」

 

「かしこまりました、お嬢様☆」

 

「うむっ、よろしい」

 

満足したように去って行く相川さん。疲れる……。マッサージチェアが欲しい。チェルシーさんがいればマッサージしてくれるのに……、

 

「あ、イアンくんお客さん!」

 

またか…そう思って迎えに行く。

 

「おかえりなさいませ。お嬢さm」

 

「こんにちはイアンさん」

 

「」

 

チェルシーさんだった。なにしてんのこの人。

 

「可愛いですよイアンさん」

 

「………〜〜〜ッッ‼︎‼︎」

 

僕の顔、段々と赤くなってると思う。

 

「なっなっなぁっ………!?」

 

「ほら早く案内してください」

 

「えっ!?え、えっとぉ……こちらです……」

 

言われるがまま案内する。

 

「な、なんでここにいるんですか!?」

 

「お嬢様から招待していただきまして」

 

あんのアホ姉貴ィ……ッ‼︎初めてそう思ったこの瞬間でした。

 

「あの…何か頼みますか?」

 

「じゃあ、コーヒーをお願いいたします」

 

そんなわけで、コーヒーを入れた。そのコーヒーを一口飲むと、チェルシーさんは言った。

 

「しかし、よかったです。イアンさんにお友達がいるようで」

 

「それ、友達がいないって言われてます?」

 

「そうではなくて、歳上の女性ばかりの教室ですから。中々、友達作るのは難しいかなって思ってましたから」

 

「は、はぁ……」

 

すると、ようやく一夏さんが帰って来た。その瞬間、歓声が上がる教室。

 

「一夏さんも人気者みたいですね」

 

「えぇ、相変わらず」

 

「一緒に回ったり出来ます?」

 

「あーごめんなさい。次の休憩はいつか分からないんです…」

 

「そうですか。それでは休憩になったら言ってくださいね。それまで私はこの学園を回ってみますから。それと、お嬢様にも挨拶しておかないといけませんから」

 

と、立ち上がって行ってしまった。やっぱりチェルシーさんと話すだけで元気出るなぁ……。よし、午後からも頑張らないと。と、そこで僕が座っていた机に女の人が座る。

 

「こんにちは」

 

「あっ、はい……」

 

「接待してもらえるかしら?」

 

「あっ、か、かしこまりました。えーっと……」

 

大人の女性にもお嬢様でいいのか?

 

「お嬢様で構いませんよ?」

 

クスッと笑うその女性。

 

「お、お嬢様……」

 

「コーヒーをもらえる?あなたの分も」

 

「えっ?」

 

「奢ってあげるわ」

 

「かしこまりました」

 

で、コーヒーを二つ取りに行く。

 

「どうぞ」

 

「あら、中々おいしいわね」

 

「ありがとうございます」

 

「おーい、イアンくん少しいいかな?」

 

お呼びが掛かった。

 

「わかりました!すいません、すぐに戻って来ますから」

 

呼ばれた先は裏方。なんかジュースを入れる機械が動かなくなったとか。

 

「これ、直せる?」

 

「五分あれば」

 

で、五分で終わらせた。

 

「はい。じゃあ僕戻りますね」

 

「うん。ありがとー」

 

で、戻る。

 

「すいません。お待たせいたしました」

 

「いいのよ。お疲れでしょ?コーヒーでも飲んだら?」

 

「いただきます」

 

言われるがまま一口含んだ。………あれ?なんか、意識が…遠のいて………そのまま僕は寝てしまった。

 

 

 

 

 

 



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ボコボコ

 

 

 

 

目が覚めると、僕はどこだか分からないところにいた。あれ…確か、1年1組のメイド喫茶で、なんか女の人にコーヒーをいただいたら、眠くなって……それで………、

 

「よぉ、目が覚めたかよクソガキ」

 

乱暴な言葉遣いが聞こえ、顔を上げるとさっきの女の人がいた。

 

「あんた、は……?」

 

「お前にあんたとか言われたくねんだよ!」

 

なぜか怒って僕のお腹を蹴る女性。

 

「ガハッ!」

 

避けようにも縛られている上に寝転がされているため、動けない。

 

「な、なにを……!」

 

「あーウゼェ。決まってんだろ。お前の秋桜を出せ」

 

「えっ……」

 

その言葉を理解するのに少し時間が掛かった。

 

「あ、あなたは何者ですか!?」

 

「はぁ?言うわけねぇだろクソガキ。お前はいいから出せばいいんだよ!」

 

さらに蹴られて僕は思わず唾を吐き出す。痛みと恐怖で目には涙が浮かんだ。だ、誰か…助けて……。

 

 

_______________________________

 

 

 

1年1組の教室。一夏がまた接客を再開しようと教室に戻った時だ。中には楯無がいた。

 

「じゃじゃん、楯無おねーさんの登場です」

 

「………………」

 

「と、言いたい所なんだけど、少しいいかな?」

 

「どうかしたんですか?」

 

真面目な顔になったので一夏も真面目になる。

 

「イアンくん知らないかな?」

 

「イアン?教室にいるのでは?」

 

「それが見当たらないのよ。クラスの子に聞いても知らないって。誰かさんがいないからクレームに対応するのでいっぱいいっぱいだったのかもね」

 

「うっ……」

 

「うーん…でも一夏くんも知らないとなると少し心配ね。あの子は誰にも言わずに職場放棄するような子じゃないでしょ?」

 

「え、えぇ。ちょっと探してきますね」

 

「ねぇ、一夏。イアン知らない?」

 

聞いてきたのはシャルロットだ。

 

「? どうかしたのか?」

 

「イアンくん目当ての子達からのクレームが凄いから呼び戻そうと思うんだけど……」

 

「いや、俺たちも今その話をしてたんだ。ちょっと電話してみるわ」

 

で、prprと電話。5回ほどコール音がした後、出た。

 

『も、もしもし?』

 

「イアンか?お前どこにいんだよ」

 

『一夏?ごめんあたしイアンじゃないわ。鈴よ』

 

「はぁ?なんでお前がイアンの携帯持ってんだよ」

 

『いやこれ、アリーナの廊下に落ちてたのよ』

 

その瞬間、全員の顔色が変わる。

 

「鈴、どこのアリーナだ?」

 

『第三よ。イアンは教室にいる?』

 

「いない。俺達もそこに行く」

 

『わかったわ。あたしも入り口で待ってるから』

 

三人はアリーナに向かった。

 

 

______________________________

 

 

 

アリーナ前。

 

「鈴!」

 

一夏の声で振り返る鈴。

 

「どこにあったんだ?」

 

「こっちよ。この廊下」

 

「マズイわね…誘拐の可能性も出て来たわ。みんなで手分けして探すけど、単独行動は危ないわ。私は一夏くんと、鈴ちゃんはシャルロットちゃんと組んで。それと、今回限りは部分展開までのISの使用を許すわ。向こうはどんな武器を持ってるか分からないからね。ただし、向こうがISを使えるようならこちらも使いなさい。いいわね?」

 

楯無の台詞に全員が頷く。で、行動開始した。

 

 

______________________________

 

 

 

「ぅああっ!」

 

ガッと僕のおデコに女の人の爪先がヒット。

 

「いいから早く出せってんだよ」

 

「出せるもんなら出してますよ…あなたを倒すためにね」

 

僕のその台詞にイラっとしたのか、また拳が降り注ぐ。気絶すれば楽になれると思える程、リアルな痛みだ。さっきから意識は朦朧としているものの、気を失うことはなかった。それに、なぜかISが反応しない。まるで、誰かにハッキングされたようにうんともすんとも言わないのだ。

 

「くっ……」

 

「あーもうめんどくせーな。早く出せってんだよ。オラァッ!」

 

ドムッ!と蹴りが入る。

 

「ヴッ……‼︎」

 

今のは効いた。僕は思わず血を吐き出す。大声で声をあげたい気持ちを押さえ込み、ただ歯をくいしばる。涙が流れて、もう何も考えられない。

 

「あーもう面倒臭いマジで。これでいいや」

 

言いながら女の人はISを展開した。のだが、なんかISらしくないISだ。背中からグググッと人が怪人に変身するように膨れ上がる。

 

「なっ………!」

 

「ラストチャンスだ。出せっ」

 

マシンガンを向ける女の人。なんで…なんで僕がこんな目に……誰かぁ………、

 

「その、手を、離せぇぇぇーーッッ‼︎‼︎」

 

そんな声がした。血で滲んでボヤけている目で声の方を見ると、白式を展開した一夏さんが突っ込んできている。

 

「チィッ!」

 

女の人はそこから離れる。そして、一夏さんは僕を抱き上げた。

 

「大丈夫かイアン!?おい!」

 

「い…ちか、さん………」

 

安心して流れる涙。

 

「イア……クッソっ!」

 

キッと女の人を睨み付ける一夏さん。その姿はとてもかっこよかった。

 

「はははっ!白式まで来やがったか!こりゃよみどりみどりだぜ!」

 

「白式だけじゃないわよ」

 

どこかで、聞いた声が……そっちを見ると楯無さんが立っている。その後ろにはシャルさんと凰さんが立っている。

 

「みん、な………」

 

自然と涙が出た。みんなが、来てくれた……。

 

「てめぇ、俺の仲間をこんなんにしやがって……」

 

「チッ、流石に分が悪い。引くしかねぇか」

 

言うと女の人はそこら中にマシンガンを撃ちまくると共に、後ろの八つの足で壁を破壊しながら逃げた。ふう…ひとまずは助かった、かな……。

 

「おいイアン!大丈夫か!?おい!」

 

「い、ちか…さん………」

 

唇が切れて血の味がする口でなんとか声を絞り出す。

 

「すいません………」

 

「謝らなくていいよ!とりあえず、ほ、保健室!」

 

シャルさんに言われてとりあけず保健室に運ばれた。

 

 

__________________________

 

 

 

保健室。

 

「はい、手当て終わり」

 

ニコッと笑うシャルさん。この保健室にはさっき助けてくれた四人がいる。

 

「まったく、消毒の度に悲鳴上げるんだから…」

 

と、呆れたように言うシャルさんに僕は抱き付いた。とりあえず、今は誰でもいいから抱き付いて、落ち着きたかった。

 

「ちょっ…イアン!?」

 

「……………」

 

むぎゅーっと離さない。周りの視線なんて気にしている場合ではなかった。最初は驚いていたものの、シャルさんはすぐに頭にポンッと手を置いてくれる。

 

「怖かったんだね、イアン」

 

「うん……」

 

しばらくそのまま。で、ようやく僕はあったことをはなした。その後に楯無さんに説明を受けた。僕や一夏さんのISを狙ってる組織があることと、その予防線として僕達の部屋に住んでいたこと、そして、僕のせいで生徒会の出し物だったシンデレラが中止になったこと。でもその内容ならやってくれなくてよかったと思います。

 

「でも、結局イアンくんは守ってあげられなくて、ごめんね」

 

「い、いえ……」

 

「ううん。ISだと私と互角に戦えてたから平気かなって思って油断しちゃってた。私の落ち度」

 

「そ、そんなことありませんよ」

 

とにかく、と話をまとめる。

 

「これで私はようやく気が休まるわ。じゃあイアンくん。お大事にね」

 

「あ、楯無さん!」

 

「なに?」

 

行こうとする楯無さんがこっちを向く。

 

「あの…姉ちゃんにはこのこと言わないでくださいね」

 

「どして?」

 

「あまり、心配かけさせたくないので……」

 

「へぇ?」

 

最後のはここにいる誰の声でもなかった。いつの間にか姉ちゃんが隣にいた。

 

「あ、あれ?姉ちゃん……なんでここに……」

 

そこまで言って抱き着かれた。

 

「このバカ弟!どうしてこんなんなってるんですの!?まったくいつもいつもいつもいつも心配ばかり掛けさせて……!少しはわたくしの気持ちを考えてください!その上にわたくしには内緒?ふざけないで!まったく本当にもう……」

 

そのままクドクドと姉ちゃんの心配なのか説教なのか分からない長台詞が続く中、みんなはいつの間にかいなくなっていた。

 

 

_______________________________

 

 

 

僕の部屋。ベッドの中だ。

 

「あの…一夏さん。まだ起きてます?」

 

「どうした?」

 

「その…まだ、少し怖くて……だから……」

 

「?」

 

「一緒に寝てくれたり、しませんか?」

 

「………は?」

 

そうだよね…そうなるよね。

 

「で、でも…その、このままじゃ眠れそうになくて……」

 

「…………いいぞ。ほら、来いよ」

 

「はい。すみません」

 

で、一夏さんのベッドに入る。

 

「なんか、一夏さんってお兄さんみたいですね……」

 

「弟なんだけどな」

 

「でも、僕からしたらお兄さんです」

 

「そうかよ…いいから寝ようぜ」

 

僕は一夏さんの手を軽く握った。

 

「おやすみなさい。一夏さん」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 



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論破

 

 

 

 

「では織斑、篠ノ之。模擬戦をやってみろ」

 

織斑先生の声によって呼ばれた二人は前に出る。僕はといえば、怪我のおかげでしばらく見学。あー…ブランク空いちゃったなぁ……。

 

「はあ……」

 

「どうしたイアン?退屈か?」

 

ラウラさんが声を掛けてくれる。

 

「そりゃそうですよ…ここしばらくずっとこのままですよ?僕だって、そりゃ戦いたいわけではないですけど、ブランク空くのはもっと嫌ですから…」

 

「ふん、生身でも戦えるように鍛えておかないからそういうことになるのだ」

 

「そ、そんなこと言われても睡眠薬入れられてたんじゃどうしようも……」

 

「そこがたるんでいる。それでもなんとかしなくちゃならないだろう」

 

くっ……ラウラさんが正論を言っている、だと?

 

「……なんか失礼なこと考えたか?」

 

「イエ、ナニモ」

 

「ほう、そうか」

 

ふう、納得してくれ……、

 

ガンッ!

 

「ったぁっ!」

 

殴られた頭を涙目で摩った。

 

「ふん、馬鹿め」

 

ガンッ!

 

「んなっ!?」

 

「ほう、見学の者にちょっかいを出すほど動きたいかボーデヴィッヒ」

 

いつの間にか織斑先生が腕を組んで立っている。涙目になりながら頭を摩るラウラさん。

 

「き、教官!今のはこいつが……」

 

「それほど元気があるなら今から走り込みでもして来い。ISを着けて第二アリーナを10周」

 

「そ、そんな……!」

 

「いいから行け」

 

そのままトボトボと歩くラウラさん。僕のことをすごい形相で睨んでいる。すごく怖いので目を逸らしてしまった。昼休みは早目にご飯食べて逃げよう。

 

 

____________________________

 

 

 

昼休み。僕は食堂で一人、ラーメンを啜る。うん、辺りにラウラさんの気配無シ。我、食事二没頭ス……、

 

「うわっ……」

 

ついついそんな声が出た。ラーメンに卵が入っている。いつもは姉ちゃんに食べてもらってたから忘れてたよ……やっぱり一人で食べるんじゃなかったなぁ……。ひょっとして、これがなくなって初めて気付くということなのだろうか。絶対違う。第一、姉ちゃんは亡くなってない。

まぁそんなことはさておき、しばらく困った顔をしていると、声が掛かった。

 

「なんだ、食えないのか卵」

 

「え?は、はい。少しにが……てで………」

 

ラウラさんだった。手にはおそらく日替わり定食であろう、天ぷら定食の乗ったトレーが握られている。

 

「なら私が食べてやろう。ほらよこせ」

 

「え?は、はい」

 

で、ちょこんと隣に座る。僕は蓮華に卵を乗せると、ラウラさんに手渡す。が、受けとらないラウラさん。

 

「食べさせろ」

 

「へ?で、でも熱いですよ?」

 

「いいから。食べさせろ」

 

「わ、分かりましたよ。じゃあ、あーん……」

 

と、口元に卵を運んだ。少し顔を赤らめながらもあんっと食べるラウラさん。

 

「むっ、ラーメンというのも…なかなか……」

 

「美味しいですよね。僕はラーメン大好きです。ラウラさんは天ぷらですか?」

 

「あぁ、和食というのに興味が出た」

 

「僕も天ぷらは好きです。でも和食はちょっと…煮物とか苦手です」

 

「あの良さが分からんとは…ガキだな」

 

「ら、ラウラさんには言われたくないですよ!」

 

なんて話しながら食事を続ける。どうやらビクビクしているのは僕だけで、さっきのことなんてラウラさんは忘れているようだった。僕は安心して麺を啜る。

 

「それで、先ほどの仕返しがまだだったな」

 

啜った麺を吹き出してしまった。

 

「や、あれは僕は……」

 

「だが、お前だけ罰を受けないのは少し納得がいかん。そんなわけで、明日買い物に付き合え」

 

「へっ?」

 

「なんだ?」

 

そ、そんなことでいいの?いやそれで許してくれるなら僕としては助かるんだけど。

 

「それでラウラさんが許してくれるならいいですけど…で、何を買うんですか?」

 

「実は、私の部隊の者からアニメのDVDが送られてきてな。戦争アニメなのだが…それが気に入って調べてみれば『ガンプラ』なるものが流行っているそうではないか。だから買いに行こうと思ってな」

 

ら、ラウラさんがガンプラ……頭部と胴体を繋ぐ大切なパーツが折れて泣き叫ぶ未来しか見えない……。

 

「そ、そうですか。分かりました」

 

「では、次の土曜日に寮の前に集合だ」

 

そんなわけで、買い物の待ち合わせである。

 

 

____________________________

 

 

 

土曜日。僕は待ち合わせ場所である寮の前へ向かう途中で眼鏡の女の人とばったり出会った。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

しばらく見つめ合うこと数秒。向こうがバッとベルトを出した。

 

「変身」

 

『変身』

 

カブトムシの形をした何かをベルトにくっ付ける。その瞬間、女の人をライダースーツが包み込んでいく様に見える。

 

「キャストオフ……」

 

『キャスト、オフ』

 

そうベルトから音が鳴ると、そのまま顔、胴や肩、腕脚のパーツが吹き飛び、最後に顔の角が上に上がっていく様に見えた。こちらに幻覚まで見せるとは、中々に完璧に近いモーションだ。

だが、こちらも負けてない。この前、買ってもらったウルトラ兄弟変身アイテムセットの一つを毎日必ず一つ持ち歩いている。その内の一つを私服の胸ポケットから取り出して目に当てた。

これだけの仕草かもしれない。だが、これだけの仕草であるからこそ、手の角度や変身の速度を問われるのだ。これは完璧だろうと思いつつ、ウルトラアイ越しに女の人を見ると、ゴミを見る目で見られていた。

え?どういうこと?なんか変だったかな……。

 

「ウルトラマンは、ダメ……」

 

「へ?」

 

「あんなのただのデッカいタイツ叔父さん…仮面ライダーの方がデザインも強さもヒーロー度も高い……」

 

今の言い草にはイラっとした。

 

「なにを言ってるんですか?ウルトラマンの良さが分からないとは……仮面ライダーも確かにカッコイイし、等身大であるだけ、リアリティを感じるのも分かりますが、最近の仮面ライダーはライダーしてません。車だの電車だのロケットだのに逃げ、挙げ句の果てには魔法使いですよ。それに、最初のライダーは武器など使わず、多対一が基本だったのに、今では敵は怪人どころかライダーだ。ライダー同士の戦いなんて一般人から見たら仲間割れにしか見えませんよね?」

 

「そう……?それでもそれは一部のライダーでしょう…。大半のライダーはキチンと正義のために戦っているわ……それに比べてウルトラマンは何?メビウスほ地球でレオと修行してたわね。迷惑極まりないんじゃない……?」

 

「うっ……でもそれは人類のために……」

 

「それなら宇宙でやればいいのじゃないかしら……?」

 

「ひうっ……」

 

「はい論破…お疲れ様……」

 

で、その女の子は去ってしまった。僕はしばらく項垂れるしかなかった。が、後ろからラウラさんにドロップキックされた。

 

「遅い馬鹿者!」

 

 

 

 

 

 



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X1

 

 

 

池袋のラビ。僕とラウラさんは二人でそこにいる。最上階に「ガンダム」というフロアがある。「おもちゃ」でも「ホビー」でもなく、「ガンダム」である。中々にインパクトがある上に、本当にまんま「ガンダム」フロアだ。

 

「これが…すべてガンプラなのか?」

 

「そうですよ。ラウラさんはどのシリーズを見たんですか?」

 

「種だ」

 

「…………は?」

 

「ガンダム種というものだ」

 

「すみません。もう少し分かりやすく……」

 

「私は特にブリッツガンダムが好きだな。あれは中々にシュバルツェア・レーゲンに似ている」

 

それは色だけでしょ……ていうかそれ種ってSEEDか。

 

「なるほど…なら、SEEDは多分こっちですね」

 

「おっ?」

 

「どうかしました?」

 

「こ、これは何ガンダムだ?」

 

ラウラさんが手に取ったのはクロスボーンx2。うわあ…似合う……ダメじゃないか!死んでなきゃあっ!

 

「クロスボーンガンダムX2ですね。僕、ガンダムはSEEDとかOOしか見てませんから詳しくありませんが、確かザビーネが操るクロスボーンバンガードのモビルスーツで、パイロットが前作のF91のベルガギロスに乗っていたこともあってショットランサーを装備してるんですよ。まぁ個人的にはX2よりはX1の方が好きですが……」

 

そこまで語ったところでラウラさんがドン引きしてることに気づいた。

 

「……お前、詳しいな」

 

じと目で睨んでくるラウラさん。ゲッ、実はガンダム大好きなことがバレると面倒だ。

 

「そ、そんなことないですよ!興味があったからパソコンとかで調べた程度で、物語は読んでないですし、ほとんどにわかです」

 

「そうか。ではあそこのνガンダムとはどんなものなんだ?」

 

「RX-93νガンダムですね。ロンド・ベル隊隊長のアムロ自身が設計したニュータイプ専用モビルスーツでサイコフレームを搭載してるんです。武装はフィンファンネル以外はほとんど初期ガンダムと同じですが、僕が特に感動したのはこの時代のビームサーベルは振った時に初めてビームが出る仕組みになっ……」

 

気が付けばラウラさんは僕を見ていた。まるで哀れむような目で。

 

「あっいや…今のは……」

 

「………………」

 

僕は顔を赤くして俯くばかりだった。

 

「ガキだな」

 

「だからラウラさんには言われたくないです!その歳でクマさんパンツの人に……」

 

そこで僕は自分の失言を悟った。が、その時には既に遅く、ラウラさんは僕の後ろに回り込み、首を締め上げて人差し指を僕の喉仏に当てていた。

 

「答えろ。どこで見た」

 

「ち、違うんです……この前、シャルさんに誘われて部屋に、行った時……ベッドの上に落ちてるのを見かけただけで……」

 

「それではなぜ私のだと分かった……」

 

「シャルさんはそんなの履くように見えなかっ……」

 

「もういい寝てろ」

 

その人差し指が僕の喉仏を…こう、うまく説明出来ない具合に刺激し、僕は気を失った。

 

 

______________________________

 

 

 

目がさめると、僕は公園にいた。しかもなぜかベンチの上で寝ている。ていうか頭の下が柔らか……、

 

「目は覚めたのか?」

 

「わあっ!」

 

どうやら、ラウラさんに膝枕されていたようだ。すぐに起き上がる。

 

「まったく…私におんぶなどさせおって……」

 

「す、すみません……」

 

あれ…なにがあったかイマイチ覚えてないぞ?

 

「い、いや…その、私の方こそすまなかった。やり過ぎるつもりはなかった」

 

「は、はぁ……」

 

何されたのかな…まあいいや。

 

「それで、結局ガンプラは買ったんですか?」

 

「ま、まぁな。一応……」

 

袋の中にはX1のHGが入っていた。

 

「あれ?X1にしたんですか?」

 

「わ、悪いか?」

 

「い、いえ。その、最初はX2の方を見ていたのでてっきりそっちにするものかと…」

 

「迷ったのだがな………お前がX1の方が好きだというから……」

 

「? 何か言いました?」

 

「な、なんでもない!とにかく、起きたなら帰るぞ!」

 

「は、はい」

 

そのまま前を歩くラウラさんを慌てて追い掛けた。が、すぐにピタッと止まる。

 

「あ、あの…イアン」

 

「なんですか?」

 

「そ、その、だな……」

 

指をもじもじさせ、目を逸らしながら顔を赤くするラウラさん。

 

「もし、作り方が分からなかったり、したら……その……一緒に、作ってくれるか?」

 

今度はハッキリ聞こえた。そんなの決まってる。

 

「はい。僕で良ければお手伝いします」

 

そう答えると、はにかむように笑みを見せたラウラさんは、僕の手を握ってまた帰宅道に戻った。その時の笑顔は、少しだけドキッとしてしまった。

 

 

___________________

 

 

 

ラウラ、シャルロット部屋。

 

「〜♪〜♪」

 

「どうしたのラウラ?ご機嫌だね」

 

「む、ま、まぁな。さて、では作るか」

 

「なにを買ったの?」

 

「実はな、イアンと池袋に行ってきたのだ。そこでガンプラなるものを……」

 

「ちょっと待ってラウラ?それは抜け駆けっていうんだよ?」

 

「ふえ?…………あっ」

 

「本当にラウラはいつもいつも…少しお仕置きが必要かな?」

 

「ま、待てシャルロット。その手の動きをやめろ…頼む!コチョコチョだけはやめっ……」

 

数秒後、ラウラの笑い声が響いた。

 

 

 

 



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誕生日

 

 

 

 

「えっ!?一夏の誕生日って今月なの!?」

 

「お、おう」

 

そのシャルさんの言葉に姉ちゃんの耳がピクッと動く。

 

「そうだったんだ〜おめでと……」

 

「そ、それはいつです!?」

 

ガタッと立ち上がって姉ちゃんはフォークを突き付ける。恋する姉ちゃんはステキだなぁ……。

 

「に、27だけど……」

 

「そ、そうですか…日曜日ですわね?」

 

「お、おう…日曜日だな……」

 

で、ブツブツと「日曜日、日曜日……」と、呟く姉ちゃん。日曜日…27、か……なにかプレゼント買いにいかないとなぁ。

 

「一夏さん、そういう大事なことはもっと早く教えてくださらないと困りますわ」

 

「え?そ、そうだな…」

 

「しかしセシリア。そのことを知ってて教えなかった奴もいるんだぞ」

 

そのラウラの言葉でバッと顔を背ける二人がいた。無論、幼なじみの二人だ。

 

「べ、別に隠していたわけではない!聞かれなかっただけだ!」

 

「そ、そうよそうよ!聞かなかったあんたらが悪いんでしょ!?」

 

うわあ……言ってることは正しいのに言い訳じみてるのが不思議だ……。

 

「と、とにかく!一夏さん、予定は空けておいて下さいな!」

 

「あ、ああ。一応、中学の時の友達が集まって祝ってくれることになってるんだが、いいか?」

 

「もちろん!」

 

そんなわけで、約束した。しかし、27か。あ、その日って、

 

「そういえば、その日ってキャノンボールファストの日ですよね」

 

僕がいうと、皆さんは思い出したような顔をする。

 

「そうだったな。明日から高機動調整を始めるんだよな?あれって具体的には何するんだ?」

 

「ふむ、基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の白式には無いだろう」

 

一夏さんの問いに、ラウラさんがプチトマトを頬張りながら答えた。

 

「それって、僕の秋桜も関係なかったり……」

 

「するね。その場合は駆動エネルギーの分配調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ」

 

それにしても、高機動パッケージかぁ……。なんかパッケージっていう名前の響きがもうね、G-セルフみたいでカッコイイよね。僕の秋桜にもトリッキーパックとか欲しいなぁ…個人的にはリフレクターパックが好きです。

 

「でも、そうなるとセシリアとかが有利になるんじゃないか?ほら、確かナントカってパッケージあったよな」

 

「えぇ、ブルーティアーズにはストライクガンナーが搭載されておりますわ」

 

「なら今度超音速機動について教えてくれよ」

 

「……申し訳ありません。それはまた今度。ラウラさんにお願いしてくださいな」

 

………そっか。姉ちゃん焦ってるんだよなぁ。模擬戦の成績は上から僕、ラウラさん、シャルさん、凰さん、でその下に姉ちゃんと一夏さんと篠ノ之さんが並んでいる。僕はそういうのは余り気にしないが、プライドの高い姉ちゃんはそうはいかないんだろう。だから、いくら一夏さんの頼みでも、まずは自分をしっかりさせなきゃいけないと思ってるんだと思う。

 

「はあ………」

 

なんとかしてあげたいなぁ……。そんな事を思いつつ、ため息が出た。

 

「? どうかしたのイアン?」

 

心配そうにシャルさんに聞かれた。

 

「あ、いえ何でもないです」

 

「ていうか、有利っていうならあんたとイアンのも同じでしょうが。機動力おかしいのよあんたらの機体」

 

それを言うなら紅椿もだけどね、と付け加えた。

 

「そうだな。特にイアンのはおかしい。普通の生徒じゃ乗りこなせないぞあの機体は」

 

「へ?そ、そうなんですか?」

 

ラウラさんに言われてギョッとする。

 

「あぁ。と、いうかドンドン早くなっていっているだろう」

 

それを聞いて思い出した。束さんは僕の機体は使えば使うほど、僕の戦闘スタイルや癖を捉えて進化していくと。なるほど…だから毎回使いやすくなっていくのか。

 

「で、でも…僕なんかじゃなくてもラウラさんなら乗れるんじゃないですか?」

 

「どうだろうな。試してみないと分からん」

 

「試さなくても分かりますよ。だって僕でも乗れるんですよ?」

 

「……………」

 

言うと、なぜか微妙な空気になる。

 

「………たまにイアンのその謙遜さはイラっとくるな」

 

「えぇ!?っていうか謙遜なんてしてませんよ!」

 

「なら尚更ムカつくわね。あんた、言っとくけど相当強いのよ」

 

「生徒会長と引き分けたお前の言う台詞か」

 

ラウラさん、凰さん、篠ノ之さんと怒られた。

 

「な、なんかすいません……」

 

「そうだな。これから全力演習でもやるか。言っておくが、そろそろ私もお前の動きが掴めた頃だ。そう簡単にはやられんぞ」

 

ラウラさんが僕に言った。

 

「え?あ、いや…でも僕なんかより強い人と模擬戦した方が……」

 

「もうアレだなお前。ちょっと生身で殴り合うか?」

 

「ええっ!?」

 

ダメだ。これ以上、この話題は僕の命に関わる。

 

「そういえば、結局学園祭で僕達はどのクラブに入ることになったんですかね」

 

確か、学園祭の出し物で一、二番を取ったクラブに僕と一夏さんが引き渡される事になったはずだけど……、

 

「そうか。イアンは怪我してたから知らないのか。生徒会だよ」

 

一夏さんに言われて僕は「はっ?」と言った顔になる。

 

「ほら、イアンが誘拐されたこともあって生徒会の出し物が出来なかったんだよ。生徒会も一応、その争奪戦に参加してたから、これは不平等だのなんだのあったらしくて結果的に一時的に俺は生徒会に入ることになった」

 

「僕は?」

 

「お前まで生徒会に入れるわけにはいかないだろ。前まで毎日の様に楯無さんに虐められてたから俺が庇っておいたよ」

 

「い、一夏さん……大好きです!」

 

思わず姉ちゃんに抱き着く勢いで一夏さんにも抱き付いてしまった。

 

「お、おいおいイアン……」

 

困った顔をしつつも頭を撫でてくれた。そんな僕達をゴミを見る目で見る女子達。

 

「き、貴様ら…」

 

「男性同士で…」

 

「抱き合うとか…」

 

「気持ち悪いよ?」

 

「不健全だ」

 

な、なぜ……?

 

「それより、お前らは部活入ったのか?」

 

「私は最初から剣道部だ」

 

「ら、ラクロスよ」

 

「り、料理部……」

 

「英国が生んだスポーツ、テニス部ですわ」

 

「私は茶道部だ」

 

なんか、みんなそれぞれ似合わないなぁ……いや篠ノ之さんは似合い過ぎてるけど。

 

「ふーん…しかし、ラウラが茶道部か……」

 

「なんだ。何が言いたい織斑一夏」

 

「いや、ラウラの着物姿とか見てみたいなって。案外似合いそうだし」

 

「ふんっ。誰がお前になど見せるか。見せるなら…その、イ、イア……」

 

「へっくち!」

 

ヤバッ。鼻がムズムズして……。

 

「す、すみません…って、ラウラさん?フォークを握ってな、何を…どうして僕に向けて……や、やめて止めてやめて止めてやめっ……」

 

僕の悲鳴が食堂に響いた。ていうか最近、僕の悲鳴至る所で響き過ぎでしょ。

 

 

 

 



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指切り

 

 

 

 

セシリアの部屋。そこでセシリアは考え事していた。

 

(マズイ、マズイですわ………)

 

セシリアが焦っているのはイアンの事だ。今までは、イアンの強さをまるで当たり前のように受け入れていたが、思えば、自分が情けなくなってくる。

そりゃそうだ。自分は今まで、イアンを守るために代表候補生になったり、色んな勉強をしてきたはずなのに、まるでそれを嘲笑うかの様に、自分より遥かに強い弟。言い換えれば、セシリアより強いくせに自分を守らせていたようにも見える。事実、セシリアはそう感じてきていた。

 

(こんなバカな話がありますの……?)

 

イアンにそんな気がないことはセシリアにもわかってる。だが、それでもまだ15、16歳のセシリアには納得出来ない。

 

(愚かな事だとは思いますが……)

 

セシリアは決心した。

 

 

__________________________________

 

 

 

僕は部屋に戻っていた。ラウラさんにボコボコにされてボロボロになった身体を引き摺る。

 

「た、ただいまぁ〜…」

 

「あ、おかえりなさーい」

 

出て来たのは楯無さんだった。僕はガックリとうな垂れた。

 

「あ、その態度ひどいなぁ。愛でてあげようか?」

 

「勘弁してください……」

 

そういえば一夏さんはどこへ行ったのだろうか……。ていうか逃げただろあの人。

 

「どうしたの?あ、もしかしてパンツ覗こうとしてる?」

 

「してませんよ!」

 

「じゃあなんで顔赤いの?」

 

「や、それは……」

 

「困ったなぁ…おねーさんの白いパンツ見られちゃったあ」

 

「へ?ピンクじゃ……はっ!しまっ……」

 

「あはっ。えっち」

 

うう…ひどい…あんまりだよ……。

 

「さて、今日はちょっとお話があってきたのよ」

 

「嫌です」

 

「ふぅーん?歳上のおねーさんの言うこと聞けない子には、お仕置きしちゃおうかなぁ〜」

 

手をワキワキさせる楯無さん。き、危険だ……!

 

「ま、待ってください!ごめんなさ……」

 

「ほれほれほれ〜」

 

「あっははははっ!ちょっ!それは……やっやめっ……くはははっ!」

 

その時だ。コンコンとノックの音。

 

「イアンーいるー?」

 

シャルさんの声だ。

 

「だ、ダメですシャルさん!来ないで……あはははっ!んんっ……!や、やめてくださ……いやぁぁっ!」

 

「?」

 

入ってくるシャルさん。そして、僕と楯無さんの姿を見た瞬間、段々と恐ろしい無表情へ変わっていった。

 

「イアン、何してるの」

 

「た、助けてくださ……あはははっ!」

 

「あらシャルロットちゃんが来ちゃった。じゃあここまでかな。おねーさん帰るわね」

 

「はぁ…はぁ……えぇっ!?話は!?」

 

「どうでもよくなっちゃった。シャルロットちゃん、どうぞごゆっくり」

 

「はい」

 

そのまま出て行ってしまった。この沈黙が辛い。

 

「あの、シャルさ……」

 

あ、いや二人きりの時はシャルって呼ぶんだったな。

 

「シャル……?」

 

「何かなオルコットくん?それと、呼び捨てで呼ばないでくれる?」

 

「………………」

 

こ、怖い……。ただそれだけだ。

 

「あの、なんで怒って……」

 

「怒ってないよ?」

 

嘘だ!怒ってる!と、思っても言えない。それほど怖かった。で、でも怒られるようなことなんてしてないし…ていうなんで怒ってるの?どうしよ……。

 

「あ、あのぅ……」

 

「なに?」

 

「な、なんでもないです……」

 

ダメだ……話すことなんてないし……。やばっ涙が……。

 

「グスッ……」

 

「えっ?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ち、ちょっとイアン?」

 

「ぼく、何しちゃったか分かりませんけど……でも、その……グスッ」

 

「ま、待ってイアン!そんなに怒ってないから!僕こそごめんね!ちょっと困らせてみようと思っちゃっただけだから!」

 

「ほんと?」

 

「う、うん!男の子がそんな簡単に泣いちゃダメだよ」

 

「はい………」

 

で、それから数分。ようやく僕は落ち着いた。てか落ち着いてから考えたら確かに泣きすぎだな僕……。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「その、週末空いてたらさ、一夏の誕生日プレゼント買いに行かない?」

 

「へ?僕と、ですか?」

 

「うん。ほら、イアンって一夏と一緒の部屋でしょ?だから、その……一夏の趣味とか知ってると思って……」

 

「そういうのなら篠ノ之さんとか凰さんの方が……」

 

そこまで言ったら、何故かまたふくれっ面になっていくシャルさん。

 

「やっぱり怒るよ」

 

「ど、どうしてですかぁ!?」

 

「とにかく!週末に二人っきりで!買いに行くからね!」

 

「わ、分かりました!」

 

二人っきりをヤケに強調してたが、とにかく週末だな。と、そこで小指を突き出してきた。

 

「指切り!」

 

「は、はあ……」

 

「指切りげんまん、ウソついたらクラスター爆弾のーますっ♪」

 

「えっ?ちょっとそれは指切りたくな……」

 

「指切った♪」

 

「や、あの……」

 

「えへへ。週末が楽しみだなぁ。おやすみイアン」

 

そのまま出て行ってしまった。シャルさんって、怒らすと一番怖い気がする……。

 

 

 

 

 

 



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姉弟喧嘩2

 

 

 

次の日の放課後。僕はキャノンボールファストに向けて特訓だなんだとラウラさんに呼び出され、第三アリーナへ。が、先客がいた。

 

「あ、姉ちゃん」

 

僕が声を掛けると、姉ちゃんはこっちを見る。ブルーティアーズを装備していて、やっぱこの人とブルーティアーズは似合うなぁとか思った。

 

「姉ちゃんも特訓?じゃあ僕達と……」

 

「決闘ですわ」

 

「は?」

 

何言ってんのこの人。

 

「わたくしと戦いなさい。イアン」

 

「ま、待ってよ姉ちゃん!理由がないよ!なんでそんなこと……」

 

と、言おうとした僕の頬をビームが掠めた。姉ちゃんがスターライトを放っていた。

 

「ねえ、ちゃん……?」

 

「戦いなさい」

 

僕は黙って秋桜を呼び出した。

 

 

__________________________

 

 

 

ラウラは少し遅れて第三アリーナへ。今日はイアンと二人きりで特訓だ。それなのに、途中で一夏にバッタリ出会して、高機動訓練を土下座までしてお願いされてしまったので、仕方なく引き受けたのだ。

 

「ありがとなラウラ。今度なんか奢ってやるから」

 

「ふんっ。食べ物なんかで私の機嫌が……」

 

「この前の抹茶カフェの水飴でどうだ?」

 

「し、仕方のない奴め!」

 

明らかに声が弾んでいた。で、二人はアリーナの中へ。だが、目の前ではイアンとセシリアが戦っていた。

 

「なんだ?模擬戦か?」

 

「いや、これは……」

 

ラウラは二人の目を見る。明らかに模擬戦の目付きではない。セシリアが。イアンはイアンで、戦う目ではなかった。

 

「イアンめ、手を抜いているな…」

 

「そうなのか?」

 

「見て分からんのか。さっきからわざとライフルの照準をズラしている。あれじゃセシリアには当たらん」

 

「すごいなラウラは。よく見抜けるなー。つーか視力どんだけ?いやでも模擬戦じゃなかったらなんなんだ?まさか喧嘩ってことは……」

 

「あり得ない話ではない。セシリアにとってイアンは守るべき相手だった。その相手が自分より強かったのだ。そうなってもおかしくないだろう」

 

「いやでもそんな事で喧嘩なんて……あーいや、もし俺の方が千冬姉より強かったら、どうなるかな……」

 

「安心しろ。お前が教官より強い事はない」

 

「んぐっ!」

 

で、その頃戦闘中の2人。イアンは確実に攻撃をかわして、当たらない銃撃を行う。セシリアはインターセプターを抜くと、突撃した。それに答えるようにイアンも小太刀・ビーム小太刀を出して応戦。

 

「このっ!」

 

「………………」

 

すべての攻撃をかわし、当たらない反撃。

 

「何をしてますの?」

 

途中でセシリアの攻撃が止まる。それに応じてイアンも動きを止めた。

 

「なんですその生気のない目は!わたくしをバカにしてますの!?」

 

「そうじゃないよ。でも…こんなこと意味ないよ」

 

「な、何を……」

 

「こんな喧嘩、意味ないよ。姉ちゃんがどうして僕に挑むのかが分からないんだ」

 

「だ、だからって手を抜いていいはずが……!」

 

「理由もないのにヤル気なんて起きるわけないだろ!」

 

「……ッ‼︎」

 

「もうやめようよ。バカバカしい」

 

「このっ!」

 

パァンッとビンタ。イアンの顔は横に向く。

 

「戦いの時に手を抜くなんて相手への最大の侮辱ですわ。もうあなたなど知りません。イアン・オルコット」

 

「えっ……?」

 

「絶交ですわ。もしわたくしと仲直りしたければ、キャノンボールファストでは全力で来なさい。さようなら」

 

「ちょっ…姉ちゃ……」

 

だが、そのままセシリアは降りてしまった。イアンはその場からしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

 



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泣き付く

 

 

 

 

 

ラウラさん、シャルさんの部屋。僕はシャルさんの膝の上で涙を流していた。

 

「ねえ、ぢゃんに、ぎらわれだぁぁぁ……」

 

「う、うん…な、泣かないで……」

 

優しく頭を撫でてくれるシャルさん。でもそれどころのダメージ量ではない。

 

「で、でもアレは、ほら……手を抜いてたお前も悪かったし……」

 

ラウラさんの台詞がぐさっと来た。

 

「ゔあああああっ!」

 

「あー泣くなー!」

 

ビシッとチョップするラウラさん。

 

「なんにせよセシリアはお前を怒ってるんだから、許して欲しければキャノンボールファストで勝つしかないだろう!」

 

「うぅ……」

 

「分かったら準備しておけ。いいな!」

 

「グスッ。はい……」

 

「なんか、ラウラもお姉さんみたいだね」

 

「か、からかうなシャルロット!」

 

 

___________________________

 

 

 

その頃セシリア。

 

「ゔああああああん‼︎‼︎イアンに、イアンに酷いことを言ってしまいましたわあああっ‼︎‼︎」

 

「あの…なんであたしに泣き付くの……?」

 

鈴の膝の上で泣いていた。

 

「わ、わたくしはどうすればいいのでしょう……グスッ、もし…もし、イアンに嫌われるようなことがあれば……わたくしは……」

 

「ていうか、突き放したあんたが悪いんじゃん」

 

「ゔああああああああっっ‼︎‼︎」

 

「うるさーい!めんどくさいわねあんた!あんたがキャノンボールファストで蹴りつけるって言ったんだからそうしなさいよ!いいわね!?」

 

「ぐすん……はいぃ……」

 

「はぁ……まったく………」

 

イアンと同じだった。

 

 

___________________________________

 

 

 

週末の土曜日。僕はシャルさんと待ち合わせた通りに出掛ける。にしても明日、姉ちゃんとの対決なのに出掛けていいのかなぁ。まぁ約束しちゃったものは仕方ないんだけどさ。

服装は少し大き目のセーターに短パン。一目見た瞬間、僕はこれを気に入った。が、試着の結果、セーターが長過ぎるのかズボンが短過ぎるのか、スカートを履いているように見えてしまう。すぐにやめようとしたら姉ちゃんに鼻血を垂らしながら「買え」と言われた服だ。

その服を着て僕は待ち合わせ場所へ向かった。その場所にすでに金髪の女性が見える。

 

「すいません、遅れま……」

 

「ねえねえ、カーノジョ♪」

 

「今、暇?遊びに行かない?」

 

僕の目の前に男の人が二人出て来た。や、あの……、

 

「え?いや、あの待ち合わせに……」

 

「いいじゃんいいじゃん。遊ぼうよ!」

 

「へ?ていうか僕……」

 

「うおっ、ボクっ娘とかマジ本当にいるんだな!」

 

うわあ…人の話を聞くつもりないのか……。

 

「や、だからあの…僕ちょっと急いでて……」

 

「いいから行こうぜ……」

 

うー…目の前に待ち合わせの人がいるのに……と、思ったら本当に目の前にいた。その人は男の人の腕を捩じり上げる。

 

「いででででっ!?」

 

「な、なんだてめぇ!」

 

「その人、ぼ……私の連れなんで離してくれます?」

 

「ハァ?舐めてんじゃねぇぞ!」

 

「ていうかその人、男の子ですよ?」

 

その一言でその男二人は顔を真っ赤にしながら退散した。

 

「あの、すいません面倒かけちゃって……」

 

「それよりイアン…その服装は何?」

 

「色々ありまして……ズボンが短過ぎてスカートに見えるって言われた奴です」

 

「なんでそんな服着てきたの?」

 

「少しだけ気に入ってますから」

 

「そう……」

 

「っていうか…その、僕女の子に見られてました?」

 

「間違いなくその服装のせいだけどね」

 

「はぁ……本当にすみません……」

 

僕はため息をついた。買い物のスタートだ。

 

 

 

 

 

 

 





携帯の充電切れそうだったので少し雑になってしまった……。



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シャルと蘭って入れ替えるとシャトルランになるね

 

 

 

そんなわけで買い物。二人で僕とシャルさんは並んで歩く。なんかシャルさん、ヤケに小刻みに震えてるなぁ……と、思ったら顔を真っ赤にして僕をチラチラ見てるし…、

 

「あの、シャルさん?」

 

「ひ、ひゃいっ!」

 

「うえっ!?」

 

「あっ!いや…えと……ごめんね。な、なに?どしたの?」

 

「あ、いえ…顔が赤いので熱でもあるのかと……」

 

「そ、そんなことないよ!元気だよ!」

 

「そ、それならいいんですけど…でも無理しないでくださいねシャルさん」

 

「それ、やめて」

 

「へ?」

 

「二人の時は、呼び捨ての約束」

 

「え?いやだってシャルさんが昨日……」

 

「やめて」

 

女って勝手な生き物だなぁ……。

 

「わ、分かりました……シ、シャル……」

 

「うん!イアン!」

 

と、言いながら僕の手を握るシャルさん。

 

「ふえ?」

 

「あっ!いや…その…い、嫌、かな……」

 

「い、嫌じゃないですよ!そ、それより何を見ます?」

 

「えっ!?そ、そっか…嫌じゃないんだ……えへへっ♪えっ!?あーえっと…あ、あそことか!」

 

ビシィッ!と指差した先は下着売り場だった。

 

「………本気ですか?」

 

僕の真剣味の入った質問を聞くとシャルさ…シャルは自分の指差す先を見る。

 

「ご、ごめん違うの!違うから!違うんだってば!」

 

「わ、分かりました!分かりましたから!」

 

シャルの声から逃れるように僕は下着売り場に目を逸らす。そこには見知った顔があった。

 

「あれ?蘭さん?」

 

声を掛けると、その人は振り返る。手にはパンツが握られていた。あっやべっ。

 

「えっ!?い、イアンくん!?………はっ!」

 

そこで蘭さんは自分が握っている物を認識したようだ。ドンドン赤くなる顔。と、思ったらパンツをバッと隠す。うん、気付かなかった振りしとこう。

 

「こんにちは蘭さん」

 

「えっ!?あ、うん、こんにちは!」

 

「今日はお一人ですか?」

 

「そ、そうだよ。イアンくんは……」

 

「え?あー…僕のクラスメートの人と来てるんだ」

 

で、後ろにいるシャルを指す。

 

「えーっと、シャルロットさん。クラスメートでフランスの代表候補生です」

 

「シャルロット・デュノアです。よろしくね」

 

「ご、五反田蘭です。よろしくお願いします」

 

「えーっと、学園祭で僕と一緒に回ったんですよ。ほら、鷹月さんがふざけて僕の彼女とか言ってた……」

 

その瞬間、シャルが僕を無表情で睨み付ける。

 

「彼女?」

 

「え?あ、いやだから鷹月さんの冗談ですよ?」

 

「ちょっとイアンくん。そんなに弁解しなくてもいいじゃない」

 

「えぇ!?蘭さんまで!?」

 

ジトーっと睨んでくる2人。に、逃げ道は……そ、そうだ!

 

「そうだ蘭さん!今度、キャノンボールファストっていう、こう…なんかあるんですけど、そのチケット送りますね!」

 

「え?あ、うん。ありがとう」

 

「興味あったら見に来てください!」

 

「それって…イアンくんも出るの?」

 

「え?あ、はい…まぁ一応……」

 

「行く!絶対行くね!」

 

「で、でも僕そんなに強くないから出ても勝てるか…」

 

「優勝候補が何言ってんの?」

 

シャルに真顔で言われてしまった。

 

「え!?イアンくんってそんなに強いんですか?」

 

「うん。生徒会長と引き分けるくらい」

 

「そ、そんなことないですよ!あれは夢中になってただけで機体の性能に助けられてた事も……」

 

「す、すごいんですねイアンくん!あの…良かったら私にもっとお話聞かせてもらえませんか!?」

 

「うん、いいよ。じゃあ一緒に回ろっか」

 

「はい!」

 

「あの、話聞いてます?シルロットさん聞いてる?」

 

あれ?いつの間にか一緒に回る流れになってるぞ?

 

 

 

 

 



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守る

なんかもう非常に面倒だったのでいろんな所すっ飛ばしてキャノンボールファスト当日まで飛ばします。原作読んでもイアンが介入して面白くなりそう所なかったし。




 

 

 

 

買い物を終えて、僕達は帰宅した。さて、明日からはキャノンボールファストの特訓だ。僕はムンっと気合い入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボールファスト当日。わあぁぁぁ……!と盛大な歓声がピットの中にまで聞こえる。今は二年生のレースが行われている。どうやら抜きつ抜かれつのデッドヒートのようで、最後まで勝者がわからない大混戦らしい。

一夏さんや姉ちゃん達がお話ししている中、僕は少し緊張気味にモニターを眺めていた。すると、山田先生の声がした。

 

「みなさーん、準備はいいですかー?スタートポイントまで移動しますよー」

 

いよいよだ。僕は軽く気合を入れた。

 

『それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 

アナウンスの声が響いた。僕の横に並ぶ、白式、紅椿、ブルーティアーズ、甲龍、リヴァイヴ、シュバルツェア・レーゲン。そして、ヒュイィィィ……と、スラスターを点火させる音がした。

僕は、シグナルランプを見ながら意識を集中させた。

3……2……1……ゴーッ‼︎

その瞬間、僕は秋桜を動かした。姉ちゃんが飛び出し、その後に凰さんが飛び出す。

 

「くっ!やりますわね!」

 

「へへん!おっそーい!」

 

「甘いな」

 

それに合わせてラウラさんが前に出た。ふーん、スリップ・ストリームを利用したのか。ちなみに僕はまだ最下位。作戦的には後半から追い上げる予定だ。

 

「レースはまだまだ!」

 

「これからが本番よ!」

 

白熱するバトルレース。そろそろかな、と僕は秋桜で本領発揮しようとした時、いち早く異変に気付いた。

 

「ラウラさん、シャルさん!逃げて!」

 

だが、遅かった。上空から飛来した機体が二人を撃ち抜いた。

 

「あれは……サイレント・ゼフィルス!?」

 

そして、それ以上の恐怖の対象があった。

 

「よぉ、久しぶりだなクソガキ」

 

そう口を歪ませたのは、文化祭の時、僕を誘拐した女だった。

 

 

________________________

 

 

 

「大丈夫か!ラウラ、シャル!」

 

一夏はすぐに壁に激突した二人の元に駆け付け、雪羅のエネルギーシールドを展開する。その瞬間、BTライフルの攻撃が降り注いだ。

 

「くっ……!」

 

「一夏さん!あの機体はわたくしが!」

 

セシリアがサイレント・ゼフィルスに向かい、鈴もサポートするように上に上がる。

 

「すまないな。織斑一夏、直接戦闘には私は加われない」

 

「僕も。せいぜいシールド張るくらいしか……」

 

「くっ……!イアン、お前はその機体を頼む!」

 

一夏がアラクネと相対するイアンに声を掛けるが、イアンはうごけない。自分を拉致監禁した女に完全にビビっているイアンだった。

 

「イアン!どうしたんだ!?」

 

「ハァ……ハァ……」

 

呼吸を荒くするイアン。そんなイアンに口を歪ませて近付くオータム。

 

「どうした?ビビってんのか僕?また遊んでやろうかお姉さんが」

 

「あいつは……!」

 

一夏が声を漏らす。オータムはゆっくりとイアンに近付く。

 

「どうしたよクソガキ。もしかして、ビビッてんのか?あぁ?」

 

「………っ‼︎び、ビビってなんか……!」

 

「へぇ、そうなんだ。ならかかって来いよクソガキ」

 

「………っ‼︎」

 

「どうしたよ。ビビってないんじゃ、ねぇのかよ!?」

 

言いながらオータムはイアンに突っ込む。

 

「う、うわあっ!」

 

イアンはビビりながらもリボルビングライフルを撃つが、当たらずに8本脚に弾かれ、ボッコボコに殴られる。

 

「うあっ……!」

 

「おらどうしたクソガキ。ビビってねぇんじゃねぇのか?それとも何、誰かに助けてーって言う?ママ〜ってか?」

 

「…………っ!」

 

ガンッガンッと殴られつつも抵抗出来ない。完全に腑抜けている。

 

「ケッ。つまんねーな」

 

言いながら唾を吐き捨てるオータム。すると、ニィィッと口を歪ませ、マシンガンを出した。

 

「もっと、面白くしてやるか」

 

そのマシンガンの先は、一夏と倒れているラウラとシャルロット。

 

「! や、やめろ……!」

 

「っらぁっ!」

 

ガガガガガッ!と乱射。一夏やシャルロットがガードするものの、何発か被弾する。

 

「や、やめっ……」

 

「聞こえねぇなクソガキィッ‼︎」

 

「…………っ!」

 

だが、それでもイアンの腰が抜けているのを見て、チッと舌打ちするとオータムは空中に舞い上がった。そして、マシンガンをイアンに向けた。

 

「もういぃーわお前。逝け」

 

「させるか!」

 

一夏がイアンを守ろうとするが、サイレントゼフィルスからビームが降り注ぎ、ガード。そして、マシンガンが放たれた時、イアンはキュッと目を瞑った。が、弾が自分に当たることはなかった。代わりに被弾したのは、さっきまで上空にいたはずのセシリア。ゴフッと血を吐き出した。

 

「ねえ、ちゃん………?」

 

「この、愚弟、が………わたくしを、守るんじゃなかったんです、の………?」

 

「……あっ…………」

 

「やっぱり、あなたは……まだ、守られてなさいな……」

 

それだけ言うと、セシリアは倒れた。それを見ながらオータムは言った。

 

「はっ。一人ゲームオーバー。それ、お前の姉貴か?いいなぁ、姉弟ってのは。ゲロ吐きたくなるくらい素敵な愛だなおい。でも、てめぇは守られるばかりで、何も守れはしねぇよ!」

 

言うと、オータムはマシンガンをさらに一夏達に向ける。

 

「今からお前のお友達が死んでいく所、よく見とけよ」

 

 

………僕は、何をビビっていたんだ。決めたじゃないか、姉ちゃんは僕が守ると。それなのに…僕は………いや、悲観的になるな。もう誰も傷付けさせてはいけない。僕が、僕が……!

 

「僕が、みんなを!守るんだぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎」

 

花びらシステム起動

 

その瞬間、秋桜の花弁が舞い、専用機持ち全員の前に飛んで行き、マシンガンの弾丸を弾いた。

 

「あ?」

 

間抜けな声を出すオータム。そのオータムにイアンは突っ込んだ。

 

「お前なんか!怖いもんかァァァァッッッ‼︎‼︎」

 

撃ってくるマシンガンの弾丸をすべて回避し、イアンは小太刀でオータムを斬り上げた。空中に吹っ飛ぶアラクネ。

 

「っのやろっ!」

 

降り注ぐマシンガン。それをすべて回避し、リボルビングライフルを構えて撃った。直撃し、空中に吹っ飛ばされる。それにビーム小太刀を持って追い討ちを掛けるイアン。

 

「!?」

 

別の機体の接近に気づいたエムがイアンに全ビットで攻撃を仕掛けるが、全部回避される。

 

「なにっ!?」

 

そして、通り過ぎざまにイアンはリボルビングライフルをサイレントゼフィルスに向けた。

 

「邪魔だ」

 

そして、発砲し、爆発しながら地面に落下していくサイレントゼフィルス。

 

「何っ!?」

 

声を上げるオータムに構わず突っ込むイアン。

 

「お前なんか!お前なんかー!」

 

そして、ビーム小太刀でアラクネの脚8本すべて叩き斬った。

 

「このやろっ!」

 

マシンガンを向けるが、それをなんなく壊され、丸腰となった。

 

「クッ……!」

 

「ここから、ここから!いなくなれぇぇぇぇッッ‼︎‼︎」

 

そのままアラクネのありとあらゆる部位をすべて破壊した。

 

「私が…こんなガキにっ……!?」

 

そのまま下に落ちていき、爆発した。

 

 

 

 

 

 




ぶっちゃけるとさっさと簪の所やりたいのでかなりテキトーになってしまいました。六巻も紛失して、最終的に二冊目購入する羽目になりました。まぁ、あれだ。反省してるから許してください。





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粒子変換

 

 

 

 

 

無事、姉ちゃんとも仲直りできて、今は任務の最中。シャルさんと一夏さんと共に輸送船の護衛をする。

 

「別にイアンは来なくても良かったのに……」

 

「シャルさん1人に行かせられませんよ。危ないじゃないですか」

 

「まったく……歳下なのに気がきくんだから……」

 

「何か言いました?」

 

「な、なんでもないよ!あはっあははは……」

 

「鈍いなイアンは」

 

「一夏さんには言われたくありません!」

 

なんて話してると、車の走る音が聞こえた。その瞬間、僕達の顔は引き締まる。

 

「来たよ!」

 

その車から四機のISが出てくる。それに相対するように僕達は出撃した。

 

「花びらシステム、起動!」

 

八枚の花びらが出て行って、一夏さんとシャルさんに4枚ずつ付く。

 

「サンキューイアン!」

 

一夏さんはそう言うと、敵に突っ込む。花びらシステムのおかげで敵の弾丸はすべて弾かれ、あっという間に倒してしまった。それはシャルさんも同じだ。

だが、僕はうまく戦えない。なんか、こう……集中出来ない。

 

「………あっ」

 

そうか、花びらシステムで花びら一枚一枚に神経を使ってるから僕自身が疎かになってしまってるんだ。しかも僕の相手は二人。

 

「バカ、イアン!花びらシステムは解除していいよ!」

 

シャルさんに言われるが、このくらい出来るようにならないとみんなを守りながら戦うなんて出来ない。

 

「ふん!仲間のために自分が疎かになるなど!」

 

敵にそう言いながら撃ってくるが、すべてかわしてリボルビングライフルを放つ。それが敵のマシンガンにあたった。

 

「今だ!」

 

「えっ?」

 

そう言われ、振り返ると、もう一機が輸送船を狙っていた。

 

「やらせるもんかぁーっ‼︎」

 

花びらを2人から2枚ずつ剥がして輸送船をガード。

 

「なにっ!?だが、しかし……!」

 

そいつはニヤリと笑う。気が付けば、最初に僕を狙っていた奴が再び僕を狙って斬りかかってきていた。

 

「しまっ……!」

 

「イアンーーッ‼︎‼︎」

 

僕を庇う影。一夏さんに庇われた。

 

「えっ!?」

 

予想外の行動で花びらシステムの反応が遅れ、敵の攻撃は一夏さんに直撃した。

 

「一夏さん!………こんのぉっ!」

 

僕は小太刀を敵に叩き付け、ゼロ距離からリボルビングライフルをぶち込んだ。

 

「一夏さ……」

 

「大丈夫だ。問題ない……」

 

僕のせいだ……クソッ……。ちなみにもう一機はシャルさんが倒していた。

 

 

 

____________________________

 

 

 

次の日の朝のHR前。一夏さんの腕からブレスレットが消えた。昨日のことで白式が粒子変換されなくなったためだ。

 

「すみません一夏さん……」

 

「気にすんなって」

 

頭を撫でられるが、拒絶反応は出ない。はぁ……。

 

「元気出しなよイアン。確かにイアンの気の使い過ぎだったかもしれないけど、仕方ないよ」

 

「シャルさぁん……」

 

「ほら泣きそうにならないの」

 

シャルさんも頭を撫でてくれる。その時だった。なんか…こう……股間の辺りに違和感を感じた。

 

「…………?」

 

「どうかしたかイアン?」

 

「い、いえ……」

 

なんだろ……この、なんていうか……違和感は……今まで感じたことない……小学生の時に寝ぼけてパンツ履き忘れて学校に行った時とも別の感覚……。

 

「す、すいません……」

 

僕は急ぎ足でトイレに向かった。で、個室の中。ズボンとパンツを下ろした。そこには、

 

「」

 

僕のナニが粒子変換されていた。つまり、消滅した。

 

 

 

 

 

 



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ノーチン

 

 

 

 

 

トイレの個室。

 

「……………………」

 

僕は、しばらく動けなかった。棒が……棒が凹んで穴になった……。姉ちゃん……弟が妹になったよ……。だ、誰かに相談した方がいいのかな……で、でも恥ずかしくて言えないし……一夏さんに相談、いや女性は男の人に胸と下を見せると襲われるってチェルシーさんが昔言ってたし……。

 

「どうしよう……」

 

「どうかしたのかイアン?」

 

「ブッ!」

 

思わず吹き出した。一夏さんの声が聞こえたからだ。

 

「い、一夏さん!?」

 

「どうかしたのかイアン?」

 

「えっ!?いやなんでもないです!大丈夫です!」

 

「もうHR始まるぞ」

 

「えっ!?あ、わ…わかりました!先に行ってて下さい!」

 

「………………」

 

「? な、なんですか?」

 

「おいなりさん、チャックに挟まったのか?」

 

「へ、ヘンタイ!女の子に言う台詞じゃありませんよ!」

 

「? や、お前男だろ」

 

「と、とにかく!先に戻っててください!」

 

「分かったよ」

 

と、とにかくこのままでいいや。スボン履いてれば周りからは分からんだろうし。さぁ、早く戻らないと。

そう思って、トランクスとズボンを上げた時だ。

 

「ひうっ!」

 

トランクスの股の下の部分が穴に食い込んだ。

 

「ぱ、パンツの上げ過ぎに気を付けなきゃ……」

 

少し腰の辺りまで下げる。だが、

 

「ひゃうっ……」

 

中々、パンツが穴から抜けない。思いの外、勢いよく食い込んでしまったようだ。それに、なんか…こう、パンツを降ろそうとする度に体に力が入らなくなる。

 

「ううぅ……」

 

携帯を見ると、8:35。いつも先生が教室に来る時間帯だ。

 

「い、行かないと……」

 

食い込んだまま、僕はトイレを出た。

 

 

______________________________

 

 

 

授業中。うぅ……股間の辺りがムズムズするぅ……。なんていうか…ずっとオシッコを我慢してる感じ?いや違うな……とにかく、なんか嫌。ま、まぁこの範囲は寝てても問題ないし、今日は大人しくしてよう。

 

「じゃ、イアンくん。教科書のP.78の5行目を読んで下さい。この台詞になってるところです」

 

「…………えっ!?」

 

山田先生に急に指されてしまった。こ、こういう日に限って……!

 

「え、えっとぉ……」

 

78…78、と………。

 

「あ……会いたかった!…あんっ、会いたかったぞ……んんっ!……ガンダムーーっ‼︎」

 

おい、教材でガンダム使うか普通?

 

「あの、イアンくん?読んでるときに、いやらしい声出すのは……」

 

「だ、出してませんよ!」

 

「そ、そうですか……?なんか、ガンダムといやらしい行為してるように、聞こえたので……」

 

「は、はぁ……すみません……」

 

僕は大人しく座った。今思ったけど、これいつまで続くんだろう……。もしかして、一生このままなんて……。

 

 

 

 

 

 

 



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脱がす

 

 

 

 

 

授業が終わり、休み時間。僕は早足で教室を出た。今日はあまり人と関わりたくない。と、思ったら、

 

「イアン?」

 

呼ばれて振り返ると姉ちゃんが立っていた。

 

「あなた、どこか具合悪いんですの?」

 

「ふえっ!?な、なんで?」

 

「先ほどの授業を見れば誰だってそう思いますわ。具合悪いなら保健室にでも……」

 

「だ、大丈夫だよ姉ちゃん!」

 

「……………」

 

「な、何さ……」

 

と、思ったら僕のおデコにピトッと姉ちゃんのおデコがくっ付いた。

 

「ッッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「熱はありませんわね……」

 

そんなに、くっ付かれたら…僕……、その時だった。ジワァ……ッと股間の辺りに湿ってる感覚。ま、マズイ!気がする!

 

「ご、ごめん!」

 

「あっ!こら、イアン!」

 

姉ちゃんを無視して僕は寮に逃げた。

 

 

_____________________________

 

 

 

自室。僕は布団の中に籠った。なんで、僕だけこんな目に……。

 

「おーいイアン。どうしたんだ?急に部屋に戻って」

 

「い、一夏さん!?」

 

ビクッと振り返る。

 

「具合悪いのかやっぱり。まぁなんにせよちゃんと千冬姉に言わないとダメだろ」

 

「す、すみません……」

 

「で、どうかしたのか?」

 

「え?それは…その……」

 

「言いにくいなら言わなくてもいいけど、セシリアとか心配してたぞ」

 

「そ、そうですか……」

 

「ほら、この学園じゃ歳上しかいないんだから、俺たちで力になれることがあれば協力するぞ」

 

「は、はい」

 

どうしよう……そこまで言われたら……。

 

「じ、じゃあ……その、聞いてもらえますか?」

 

「おう。なんでも言え」

 

言いずらい……見せた方が早いかな……。

 

「あの、ドアの鍵閉めてもらえます?」

 

「ん?お、おう……」

 

で、二人きり。

 

「その、一夏さん……白式の量子変換は分かりますよね?」

 

「あぁ、今回のことだろ。それがどうかしたのか?」

 

「それが…その、僕のアレで起こるようになってしまって……」

 

「アレ?」

 

「だから…その……」

 

多分、僕は今顔真っ赤。で、ズボンを降ろした。パンツは食い込んじゃって脱げない。

 

「な、何脱いでんの?」

 

ええい、もうヤケだ!

 

「黙ってここ見てください!」

 

「いやパンツの中見たって……」

 

「いいから!」

 

怒鳴ると、渋々こっちに来てパンツの中を覗く一夏さん。その瞬間、一夏さんがブフッと吹き出す。

 

「なっ、あっ…なっなっなっ……」

 

「と、いうわけなんですが……」

 

しばらく黙り込む。と、思ったら一夏さんが煩悩を打ち払うように壁に頭を叩き付けた。そして、血で真っ赤になった顔でこっちを見た。

 

「で、どうしたんだ?いや分かるけどね?」

 

「それで……その、パンツが…食い込んじゃって……敏感になっちゃって……だから、その……」

 

「パンツを脱がして欲しいと」

 

「す、すみません……」

 

なんで男同士でこんなことしなきゃいけねんだ……。

 

「じ、じゃあ…脱がすぞ……」

 

「は、はい………」

 

僕のパンツに手を掛ける一夏さん。

 

「ひゃうっ」

 

「!? ど、どうした!?」

 

「な、なんでもないです……あ、あははっ」

 

「も、もう少しだから……」

 

「は、はい……ひゃっんんっ……‼︎」

 

「あ、余り声上げないで……こっちが恥ずかしくなる」

 

「す、すみません……」

 

こうして、ようやく、脱げた……。しばらく、黙り込む。

 

「あの…どうしましょう……」

 

「ブリーフあるか?それでいいんじゃ……」

 

「そ、そうですね!す、すみません……」

 

この後、当然授業に遅刻して怒られた。

 

 

 

 

 

 



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エロ同人

 

 

 

 

 

 

まぁブリーフに変えた所で僕の苦労は変わらないわけで。ていうか女の人の苦労というか……この人達、股間に何もぶら下がってないとかなんか違和感ないのかね。なんかもうダメだよこれ。気持ち悪くて……。

しかも、パンツの上にスボンも履いてるから、周りにバレることはまずないのに、変に緊張する。だが、それももう終わりだ。帰りのHRが終わり、僕は一足先に部屋に戻ろうとした。その時だった。ラウラさんが僕の前に立ち塞がった。

 

「おい嫁」

 

「は、はい?」

 

「脱げ」

 

「……………ふぁ?」

 

何言ってんのこの人。

 

「クラリッサから、『性交』なるものを教わった。夫婦なら誰でもやるらしいな。それについて、エロ同人なるもので勉強した。やるぞ」

 

「い、いやいやいや!なに言っちゃってるんですか⁉︎ていうか言ってる意味分かってます⁉︎」

 

「無論だ。子作りの事だろう」

 

「大声で言うなよ!」

 

こ、これはマズイ!こんな所で童貞奪われたくないし、ていうか童貞失う前に処女失うのはもっと嫌だ。この人やると言ったやらやる勢だからな……。しかも元軍人で隙も何もない。僕はとりあえず、目を逸らさずに後ろに下がった。

 

「無駄だ。私からは逃げられない。ISならまだしも生身では貴様は一番弱いだろう」

 

その通りだ。だが、この人は素直な部類だ。だから、そこを利用する。僕はラウラさんの後ろを指差した。

 

「お、織斑先生!」

 

「何⁉︎教官⁉︎」

 

ガバッと振り返るラウラさん。その一瞬で僕は窓から飛び降りた。

 

「チィッ、逃がすかッ!」

 

ラウラさんはワイヤーブレードを飛ばしてくる。だが、ISを展開すればこっちのものだ。

 

「コスモース!」

 

なんかウルトラマンに変身してる気分だったが、この際それはいいや。そして、秋桜を展開し……あ、あれ?展開されない……ていうか、量子変換に異常が出た。ま、まさか…壊れたのは白式だけじゃなかった……?

 

「うそおおおおおおおおおッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

僕はそのまま落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イアンが落下してから、その後を追うようにラウラも降りた。そして、

 

「ふむ、では始めようか」

 

言いながらラウラは気絶してるイアンのズボンとパンツを下ろした。その瞬間、

 

「なにっ⁉︎」

 

何もなかった。

 

「なっ……あっ……あれ……?」

 

しばらく口をパクパクした後、後ろから声が聞こえたので、急いでラウラはズボンとパンツを戻した。

 

「あれ?ラウラ?」

 

「ッッ⁉︎し、シャルロットか!」

 

「どうしたのこんな所で……って、イアン⁉︎何、何があったの⁉︎」

 

「あ、いや……これは……」

 

「と、とにかく保健室!」

 

「あ、あのシャルロット……」

 

そのままイアンは保健室に運ばれた。

 

 

 

 

 

 



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ピンチ

 

 

保健室、僕はそこで目が覚めた。えーっと……何があったんだっけ……記憶が曖昧……。

 

「大丈夫⁉︎イアン!」

 

「……シャルさん?」

 

「心配したんだよ。なんでかわからないけど、裏庭で気絶してたんだから」

 

………気絶?なんで僕が?まぁいいか。身体には何の異常もないし、平気でしょ。

今はもう時間的に放課後だ。もうすることも無いし、帰ろう。そう思ったが、シャルさんに声を掛けられた。

 

「ねぇ、イアン。なんか今日変だよ?どうかしたの?」

 

「ヘ?い、いや別に変じゃないですけど……」

 

「いや、変だよ」

 

バレるわけにはいかなかった。つーかバレたら自殺もんだよねこれ。

 

「隠さないでよ。僕、イアンの力になりたいんだ。前はイアンが助けてくれたでしょ?だから、今回は……」

 

ありがた迷惑だってんですよこのヤロー。だが、チ○コが内側にめり込みましたなんて言えるわけもないし、そもそも相談してどうにかなるもんでもない。けど、このままではシャルさんも逃してくれなさそうだし……。

 

「お気持ちはありがたいんですけど、まずは先生か姉ちゃんに相談したいと思います」

 

無難な答えだろう。まぁ姉ちゃんに相談するつもりはサラサラないけど。

 

「そっか……。で、でも、僕もいつでも力になるから、必要になったらいつでも言ってね」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、またね」

 

シャルさんは少し元気なさそうに出て行った。さて、じゃあ早速先生に相談しよう。それがベストだ。

そう思って、僕は保健室を出ると、顔を赤くしたラウラさんがヤケにモジモジした様子で僕を見ていた。

 

「…………」

 

「ラウラさん?どうかしたのですか?」

 

「………い、イアン。ま、まさか……まさか、おまえが……」

 

なんだ?ラウラさんにしては歯切れが悪いな。何事?かと思ったら、水爆クラスの爆弾を投げてきやがった。

 

「……ほ、ほんとに嫁になってしまったのだな……」

 

「」

 

…………今なんつったこの野郎。いや野郎じゃないけどこの野郎。ほんとに嫁になった、と言われて僕の頭の中に浮かぶ出来事といえば一つしかない。

そして、今できる最善の判断も一つしかない。

 

「逃げろ!」

 

自分にそう言い聞かせて、僕は保健室に逃げ込んだ。だが、ラウラさんはそんな僕を逃がさない。すぐに追いかけて来て、僕は捕まり、保健室のベッドに押し倒された。

 

「ひゃあっ!」

 

「ふっ、安心しろ。痛くはしない」

 

「ま、待って下さい!何をするつもりで……!」

 

「性交にきまってるだろ」

 

「何言ってんだあんた!」

 

「いいから脱げ」

 

ヤバい!IS学園に転校してきて以来のピンチだ!

 

 



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