風の聖痕~和麻のチート伝説~ (木林森)
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これが神凪和麻

あらすじにもある通り、何となく思いついたからという理由で出来た作品です。
ちなみに風の聖痕は、アニメでしか見たことありません。


 神凪家。代々古くから伝わる退魔の家系。伝わると言っても、歴史の表側で活躍するのではなく、裏で活躍している家系だ。今でも、中々の権力を保持している。退魔師で神凪の名を知らぬ者はいない。

 そんな神凪家だが、彼らは炎の精霊王から炎の加護を受け、その精霊達を使役する事ができる。その炎は浄化の力が宿っており、妖魔と呼ばれる人ならざる者を消滅させる事ができる。神凪の他にも、炎を使う術士は存在し、その者達を総じて炎術士と呼ばれる。

 炎術士以外にも、風術士、水術士、地術士と呼ばれる

 者達がいるが、精霊の力を使う者達は精霊術士とも呼ばれる。

 

 さて長々と話したが、つまり神凪の血を継ぐ者なら、炎を使えて当然なのだ。

 しかし、神凪の直系で分家でも無いのに炎を使えない少年がいた。

 少年の名は和麻。神凪和麻。彼は炎を使えない事以外は全て完璧だった。神凪家で生まれなければ天才と言われ、持て囃されていただろう。

 しかし、彼が生まれたのは神凪家。炎術以外の才能は、無価値に近いものだと思っている。一部は違うが大体がそう思い込んでいる。

 故に和麻は、神凪に組する者達に無能と蔑まれていた。

 だが、彼は天才であり、炎術の代わりに他が突出していた。それは--。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神凪家の屋敷。

 その庭の一角に子供達が集まっていた。

 

「おい、出来損ない!お前みたいな無能者が神凪を名のってんじゃねーよ!」

「そうだそうだ!炎を使う事もできねー癖によ!」

「お前は精々俺らの的になってりゃいーんだよ!」

 

 いじめだった。

 彼らは炎を使う事が出来ない和麻を集団でリンチしているのだ。

 神凪の炎術士は炎の精霊王の加護を受けている。だから、炎をその身に浴びても、特に何ともない。

 しかし、炎の精霊王の加護が無い和麻が炎を受けると、普通に燃えてしまう。

 彼らはそれを知っていながら、和麻に炎術を使う。

 だが、この和麻。ハッキリ言って普通では無かった。普通からかけ離れている少年だった。

 

「おら!喰らえ!」

 

 子供達の一人が和麻に向けて炎を撃ち出した。が、

 

「遅い」

 

 と、先程炎を放った少年の後ろから声がした。

 

「くそっ!」

 

 少年は、後ろに向けて炎を出そうとしたが、

 

「だから遅いって」

 

 和麻は、その少年の頭の上で片手で逆立ちをしていた。

 そしてそのまま、ストッと降りる。

 しかし少年は、炎術も使えない落ちこぼれにおちょくられてると感じ、怒りのボルテージがMAXになった。

 

「囲め!囲んでこいつに炎を撃って灰にしちまえ!!」

 

 少年は、周りにいる子供たちに命令し、そして子供たちも少年の言う通りに和麻を囲む。

 そして、炎を放つが

 

「囲んでも意味無いっての」

 

 全部避ける。そのままさっき命令を出した少年の方へ行き、

 

「おりゃ」

 

 何とも覇気の無い声と共に殴り飛ばした。この間約0.2秒。

 

「ぶげぁ!!」

 

 少年が殴り飛ばされ、気絶したのを目の当たりにした他の子供たちは、顔を青くして、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 和麻は、気絶している少年をそのままにして、

 

「あー。宿題しなきゃ」

 

 メンドくせ。と吐き捨てながら、自分の部屋に帰っていった。

 この時、和麻はまだ12歳であった。

 

 ちなみにある少女が気絶した少年を見て、悲鳴を上げたとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このように、彼は炎を使えない代わりに、ぶっ飛んだ身体能力を持っていた。

 そのせいか彼は性格も既に図太い少年になっていた。

 これは、正史とは違う和麻が繰り広げる物語......なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんな感じで身体能力チートな和麻君。
自分が今連載してる作品の主人公も身体能力チートですが、それよりは劣っています。
一応和麻が追放されるまでは考えています。
もしかしたら続くかもです。


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継承の儀、そして神凪追放

和麻が暴言吐きまくりです。
綾乃はちょっと調子に乗ってる設定です。
そんな感じてで第二話です。


 継承の儀。それは神凪家の当主を決める神聖なる儀式。

 ざっくり言うと、当主やその他の神凪宗家、分家のそれぞれの代表の前で御前試合をし、勝った方は炎雷覇という神凪家に代々伝わる神器に選ばれた者とし、当主になる。というものである。

 

 そんな儀式が今行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神凪家の屋敷の一室。

 そこには宗家、分家の炎術士達が中央の二人を囲むように座っていた。

 

 中央にいる二人。

 片方は活発そうな女の子で、名前は神凪綾乃。神凪家の現当主である神凪重悟の娘であり、炎術士としてかなりの才能を秘めた少女である。

 

 もう片方はものすごくダルそうな雰囲気を漂わせ、一切のやる気が感じられない少年。いや、もう青年に近いかもしれない。とりあえず男だ。名前は神凪和麻。神凪最強の名を持つ神凪厳馬の息子であり、炎術士としての才能は全く無い落ちこぼれである。

 

 綾乃の方はまだ若すぎるとはいえ、炎術士としての才能はかなり高いので、継承の儀に出るのに相応しいと言える。

 一方和麻はいくら異常な身体能力があるとはいえ、炎術士としての才能は無い。継承の儀に出るのはお門違いといえる。

 なのに何故和麻が継承の儀にいるのか?それは、父親である厳馬が言ったからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?今何て言いました?父上」

 

 父親である厳馬に呼び出され、彼の部屋で彼が告げた言葉に和麻は思わず聞き返した。

 

「明日の継承の儀。お前も出ろ和麻」

 

 厳馬は同じセリフを繰り返す。

 ヤのつく方々も裸足で逃げ出す程の顔とプレッシャーを持つ厳馬に和麻は臆する事となく近づき、自分の額と厳馬の額に手を合わす。

 

「......何をしている?」

「いや、どうやら父上が正気じゃないようだから、熱でもあるんじゃないかと」

 

 厳馬の放つプレッシャーがさらに強くなった。

 

「熱など無いし、私は正気だ」

「おれは しょうきに もどった。ってやつですね分かります」

「元から正気だ馬鹿者」

 

 どこまでもふざけた態度に厳馬はイライラする。

 

「とにかく、明日の継承の儀、お前も出るように。拒否は認めん」

 

 ギロリ、と厳馬は和麻を睨みながら(本人は見てるだけ)言葉を放つ。

 しかし、そんな厳馬に対し和麻はダルそうに言った。

 

「いや、明日は撮り溜めしてるアニメを見ないといけないし、何よりメンドイので遠慮しm「い・い・か・ら・出・ろ」ちっ。ハイハイ分かりましたよ」

 

 そんなこんなで和麻は継承の儀に出ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何あいつ。やる気無いの?)

 

 神凪綾乃は苛ついていた。

 今から行われる継承の儀。炎の精霊王に認められた最強にして、誇り高き神凪の次期当主を決める神聖なる儀式、と綾乃は思っている。

 なのに目の前にいる男は何だ?

 目が半分しか開いておらず、あくびを我慢しようともせずボーッと突っ立っている。

 

(継承の儀を何だと思ってるの!?)

 

 和麻を見れば見るほど、イライラが沸き上がる。

 しかし、すぐに冷静になる。

 

(ダメダメ落ち着かなきゃ。お父様もよく言ってるじゃない。一時の感情に身を任せれば身を滅ぼすって)

 

 それに、と綾乃は和麻を見る。

 相変わらずダルそうにしている。

 

(私が負けるってことは無いハズよ)

 

 綾乃も和麻の噂は聞いていた。

 神凪に、しかも直系に生まれながら炎を使役する事が出来ない落ちこぼれだと。

 炎術を使える自分。炎術を使えない和麻。どっちが勝つかなど、火を見るよりも明らかだ。

 綾乃はそう思っていた。実際その通りなのだが、目の前の和麻に関して言えば、それは当てはまらなかった。

 綾乃は知らない。分家の者達が落ちこぼれに負けたという恥を隠したため、和麻が炎術士である彼らよりも異常な存在であるということを。

 

「それでは今から継承の儀を行う。二人とも、用意はいいな?」

 

 重悟が威厳ある開幕宣言すると

 

「ハイっ!」

 

 綾乃が少し緊張を含んだ、ハッキリとした声で返事をする。

 

「オーケーでございまーす」

 

 対して和麻は、舐めくさってるとしか思えないほど適当に返事をする。

 当主を除いたその場全員に殺気をぶつけられる和麻。

 しかし、気にした様子は無い。

 

「うむ。ならば、始め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に攻撃を仕掛けたのは綾乃だった。

 

「はあっ!」

 

 炎の精霊達から力を借り、手に炎を生み出す。

 手のひらサイズとはいえ、炎の精霊王の加護を受けていない人間ならば、すぐに燃えてしまう。

 実際に

 

 ゴウっ!!

 

 目の前の和麻は燃えていた。

 それを見た者達は色めき立った。

 

「おおっ!さすがは綾乃様」

「あの炎の質といい、神凪宗家として相応しいですな」

「いやはや。これで神凪も暫く安泰ですな」

「それに比べてあの男は......」

「神凪宗家の血を引いておきながらなんと情けない」

「見ろ。まだ無様に燃えておるぞ」

 

 綾乃には賞賛を。和麻には嘲笑を。それぞれの感想述べる分家達。

 綾乃はそれを聞いて気分がよくなり、勝利を確信した。

 しかし、その確信はすぐに消え失せる。

 

 ブオッ!

 

 いきなり突風が生まれた。

 厳馬、重悟以外が突然の事で驚いている中、ダルそうな声が聞こえた。

 

「温いなぁ。これならまだ修●の方が熱いぜ」

 

 ●造って誰だ。綾乃はそう思った。そうやって、目の前の現実を受け入れようとしなかった。

 

(私の炎が消された?何で?どうして?どうやって?)

 

 綾乃は一人では無いが、既に退魔の仕事をしていた。その時にいくつもの妖魔を浄化してきた自慢の炎。それが消された。突然の風によって。

 

(え?あれ?風?何で?ここは室内よ。外から風が吹いてくる事はあっても、室内で急に発生するわけが無い。それに部屋だって閉めきっているから外からの風は無い)

 

 動揺しながらも冷静に思考を回転させる綾乃。

 そして思いついた一つの可能性。有り得ないがこれしか無い。

 

「和麻さん、あなた、風術が使えるの?」

 

 ざわっ!

 

 綾乃の呟いた一言に周りがざわつく。

 

「風術だって?」

「あの、コソコソとするしか能の無いアレか?」

「神凪に生まれながらあのような下賎な術を使うというのか」

「どこまでも恥さらしな」

 

 周りが和麻を侮蔑する。

 しかし彼は気にすることなく、

 

「いや、使えないけど」

 

 と、普通に答えた。

 それに驚いたのは綾乃だった。

 

「嘘言わないで!いきなりあなたから突風が来たのよ!どう考えてもあなたしかいない!それに風を起こすなんて、風術士しかいないじゃない!」

 

 自分の考えが外れたのも相まって、叫ぶ綾乃。

 和麻は綾乃の発言に対し、

 

「いや、思いっきり腕振って風圧起こしただけなんだけど......」

 

 逆に戸惑った風に答える。

 しかしそれを聞いた綾乃は

 

(は?)

 

 思考停止した。

 

「な、何言ってるの?腕を振っただけ?そんな、たったそれだけの事で?」

 

 たったそれだけで私の炎は消されたの?

 

「ふざけるな!」

 

 綾乃は和麻に殴りかかった。

 振り上げた拳は和麻の顔面を捉えた。が、和麻には効かない。

 

「別にふざけてねーよ。これが当主や父上の炎なら消せないだろうしな。まあ、単純にお前が弱いだけだろ」

 

 その容赦の無い一言に綾乃の体が固まる。

 弱い。それは綾乃が一番聞いた事がなく、一番縁が無いと思っていた言葉。

 

「お前は自分じゃ思い上がる事なく成長したと思ってたんだろうが、そんなわけ無ぇわな。ガキが天才だなんだと持て囃されたらそりゃ天狗にもなるぜ。ま、安心しな。人生が六年先輩である俺がきっちりお前の自信をへし折ってやるから。そこから這い上がれるかは、お前次第だけどな」

 

 ドゴッ

 

 人間から出る音とは思えないくらい鈍い音が出た。和麻が綾乃の腹を蹴ったのだ。

 綾乃は吹っ飛ばず、そのまま、ぐらりと体を傾かせ倒れた。

 意識を失う中で、綾乃は

 

(ああ、これが私とあいつとの差。全く動きが見えなかった。次戦う時は見えるようにしておかないと)

 

 強くならないと。もがいてもがいて、あの人に、和麻に追い付かないと。

 強くなるという決意を胸に綾乃は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りは誰も声を挙げなかった。

 誰もが綾乃が勝つと思っていた。しかし、勝ったのは和麻だった。しかも自分達ではどうしようも無い力の差を見せつけられて。

 

「勝者、和麻」

 

 重悟の声が響いた。

 重悟が和麻を勝者と認めた。それの意味するところは、

 

「和麻を次期当主とする。異論は無いな?」

 

 尋ねるような言い方をしつつも、込められた語気は異論は認めんと言わんばかりだった。

 

「あー、すいません」

 

 そんな中和麻が能天気に重悟に話しかける。

 

「何だ?和麻よ」

「いやー、あのですねー。ぶっちゃけ俺は次期当主の座とか要らないんですよね」

 

 周りがまたざわつく。

 重悟がそれを鎮め、和麻に聞く。

 

「和麻、お前は次期当主になりたくないのか?」

「ええ、まあ」

 

 ダルそうに答える。

 

「だって、そんなめんどうなポジションに居たくないですし、俺は炎雷覇だって扱えませんしね。それだったら、こっちのガキを次期当主に据えて、炎雷覇を持たして強くした方がよっぽど建設的ですよ」

 

 つらつらと、しかしやっぱりダルそうに言葉を並べる和麻。

 

「しかしだな、継承の儀で勝ったのはお前だ。それを覆すなど......」

 

 重悟は少々渋る。

 

「はー、頭固いなー。んなもんどうだっていーじゃないですか。ここで俺が次期当主になっても誰も着いてきやしませんよ。むしろ、反発が起きて内部分裂するのが目に見えてます」

 

 自分を次期当主に襲名した時のデメリットを語る和麻。

 しかし、これは間違いなく事実だ。確実に起こりうる未来になるだろう。

 百害あって一利無し。メリットがまるで無いのだ。

 

「分かりましたかね?当主。あなたが仰ってることの危険性が。それでは俺はこれで。もう、継承の儀も終わりましたしね」

 

 それではー。と、自分の部屋へと帰っていく和麻。

 

「私も失礼する」

 

 ずっと黙っていた厳馬も立ち上がり自室へと戻って行く。

 重悟はさっさと出ていった二人を見て、ため息を吐いた。

 

(全く勝手な親子だ。まあ、あの親子を縛れる者などおらんだろうがな)

 

 そう考え、重悟は苦笑する。そして、未だにどうすれば良いか分からない分家達に言った。

 

「此度の継承の儀は終了だ。各自戻られよ。それと、誰か綾乃を看てやってくれ」

 

 そうして各々が行動し、部屋には重悟だけとなった。

 

(それにしても次期当主、どうするか)

 

 一晩悩んだが、結局結論が出ず、本格的にどうするかと悩んでいたところに、和麻が厳馬によって神凪を追放されたと聞かされた重悟は、綾乃を次期当主にする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和麻よ。あの場で言った事は全て本心か?」

 

 和麻が自室に戻ってすぐに厳馬が自分の部屋に呼び出した。

 

「そうですが」

 

 和麻は、俺の部屋で話せばいいのに何でわざわざ父親の部屋まで行かねばならんのか。と、心の中で愚痴をこぼしていた。

 

「お前は神凪家の次期当主という栄誉ある座を捨てたということだな?」

「回りくどい言い方ですね。まあ、間違ってはいませんけど」

 

 和麻は怪訝な様子で厳馬を見る。

 そして、厳馬が懐から出した物を見てさらに訝しむ。

 

「これが何だか分かるか?」

「どう見ても銀行のカードですね。何ですか?馬鹿にしてるんですか?股間蹴りあげるぞハゲ」

 

 しれっと暴言を吐く和麻。

 そんな暴言に青筋を額に浮かべながら、厳馬は話す。

 

「このカードの口座には一千万入っている。好きに使うといい」

「マジで!!?」

 

 和麻が目の色を変える。

 

「でも何で急に?」

 

 和麻が疑問を口にする。

 

「生活の資金だ」

 

 厳馬は簡潔に答える。

 

「は?」

 

 何言ってるんだこいつは。的な目で和麻は厳馬を見る。

 

「和麻、お前を勘当する」

 

 そんな視線を意に介さずに、厳馬はさらっと言った。

 厳馬が言った事を理解するのに十秒くらいかかり、そして、

 

「ハアアアアアアア!!??」

 

 和麻は絶叫した。

 

「いやいやいやいや!何で!?何で急にそんなこと!」

「お前は前々から神凪を誇りに思っていなかった。そんなやつが神凪を名乗るなど言語道断だ。故にお前を勘当する」

 

 厳馬はそう言うが、勿論和麻が納得いくハズもなく

 

「っざけんなよクソジジイ!何勝手な事抜かしてんだボケ!!んなの認められるわけねーだろーがよ!!」

 

 最早言葉を取り繕わなくなった和麻。かなり口調が荒くなっている。

 

「認めようと認めまいとそんなものは関係ない。私が決めた。だからこれは決まった事だ」

「んだよそれ!何その俺様ルール!いい年したオッサンが俺様キャラとかキモいんだよ!!死ね!」

 

 和麻の暴言にそろそろ怒りを抑えられなくなった厳馬。

 

「和麻、さっきから聞いていれば何だ?その暴言は。それが父に対する言葉か」

「あんたさっき自分で勘当するとか言ってだろーがよ!都合のいいときだけ父親面すんな!」

「父親で無くとも目上の者に対しての言葉遣いぐらいキチンとしたらどうだ」

「お前以外にならちゃんとした敬語使うっての!お前に敬語とか敬語が穢れるぜ」

「幼稚な事を言いおって。大体、何故この家に残りたいと思う?お前がどれだけ強かろうと、この家の者達はお前を認めようとしない。常にお前を見下し続ける。お前にとっては生き辛いだけだ。なのに何故お前はこの家に拘る?」

 

 ポロッと溢れた厳馬の本音。

 厳馬は和麻の才能を潰したく無かった。神凪という枠に入ってる限り、和麻は自分の才能を自覚しない。和麻は自分の身体能力は異常だと感じているが、それだけなのだ。誰もが出来るとは思っていない。が、それでも和麻は自分が凄いとは思ったことは一度も無かった。

 厳馬はそれを見抜いていた。

 だから、外に出てもっと自分の凄さを知ってほしかった。もっと自分の可能性を追求してほしかった。

 

「この家に拘る理由?そんなの決まってんだろ」

 

 そんな厳馬の思いとは裏腹に和麻の答えは

 

「こんな金持ちの家にいれたら、働かずにずーっとぐーたら出来るからにきまってんだろぉがよおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 だった。

 それを聞いて厳馬の怒りは限界を振り切れた。

 

「さっさと出ていけ!!!この馬鹿者がああああああああああああああ!!!!!」

 

 こうして神凪和麻は神凪家を追放されたのだった。

 

 




こういう感じで、比較的平和(?)に勘当された和麻でした。
そして、綾乃の強化フラグみたいなのを立てたつもり。
次回の話は全然考えついて無いです。


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和麻が帰還しました
後味の悪い仕事


どうもお久しぶりです。
今回の話は後半意味分からないです。オリジナル展開ぶっ込みまくりです。原作はもっとさらっとしてます。
あと、妖魔の説明がよく分からないので大分テキトーです。
ご了承下さい。


「趣味悪い館だなー」

 

思わずそう呟いた青年。中々失礼な事を言うこの男が一体誰かというと、我らが主人公和麻である。

 

「どうしよーかなー。帰ろーかなー」

 

そんな風な事を宣う和麻。

が、そんな事が出来るわけがない。何故なら、今和麻は仕事でここにいるのだから。

とりあえず館のインターホンを押す。

 

『どちら様ですか?』

「依頼を受けた八神だ」

 

扉が開く。現れたのは少々顔が厳つい老人だった。雰囲気的に執事だろうか。格好もそれっぽい。

 

「あなたが八神和麻...様ですか?」

 

様と付けるの少し躊躇ったが、一応この館に勤めている身として品格を貶めないように様を付けた。と、和麻は何となく勝手にそう思った。

そんな和麻のしょーもない考えは置いといて。この執事、和麻を訝しげな目で見ている。

それもそのはず、和麻はかなりラフな格好をしており、とてもじゃないが仕事が出来るようには見えない。

本当に大丈夫なのだろうか?そう思う執事だが、人は見かけで判断してはいけない。そう考え和麻を招き入れる。

 

「お入り下さい。旦那様がお待ちになっております」

 

言葉は丁寧だが、やはり不信感は拭えなかった。和麻はそれが言葉に出ているのを感じて、少し苛ついたが日本で初めての仕事でいきなり騒ぎを起こすわけにもいかないので、なんとか抑えて館に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?お前は和麻!?」

 

執事に案内された部屋に入ったらいきなり大声で名前を呼ばれたでござる。

一体誰だと思いその声の方を見ると

 

「...............」

 

本当に誰だ。目の前の男の事を思い出そうとするが全く思い当たらない。

不思議そうな顔で見ているのにバレたのか男がまた喚く。

 

「おい!何だその顔!まさか覚えてないわけじゃ無いだろうな!!」

「いや、そんな事言われても......。あんた誰?」

 

本気で分からず、地味に戸惑っていると

 

「慎治だ!結城慎治!神凪の分家の!」

 

そう言われ、数瞬間を空けて

 

「ああ!そういえば居たな!そんなの」

 

と、人をそんなの呼ばわりする和麻。

 

「テメェ!」

 

案の定キレた慎治。

が、

 

「んん゛っ!」

 

誰かが咳払いをする。

咳払いをした人物はハゲでデブなおっさんだった。こんな見た目でもこの館の持ち主で金持ちな男である。そして、今回の仕事の依頼主でもある。

 

「悪いがそういうのは仕事が終わった後にしてくれないかね?」

 

些か不機嫌そうに言う。

 

「結城君。やたらと騒いでいたが、八神君と知り合いかね?」

 

慎治に和麻の事を聞く依頼主。

慎治は分家とはいえ、退魔師として有名なあの神凪家に名を連ねているのだ。そんな人間と知り合いの男が一体どんな存在なのか。気になるのは当然といえた。

 

「ええ、多分神凪の人間は皆あいつの事を知ってますよ。だって、神凪の直系でありながら炎を使うことの出来ない無能でしたから」

 

和麻を貶める発言をする慎治。だが、和麻は対して堪えてない。その様子が慎治を苛つかせる。

そして、それを聞いた依頼人が和麻に怒鳴る。

 

「それは本当なのか八神君!君の腕は確かだと聞いたから私は君に依頼したのだぞ!」

 

そんな依頼人に対して、和麻はヘラヘラしながら

 

「仲介人が何言ったか知りませんが、嫌なら別にこの依頼無しにしても構いませんよ?俺は」

 

依頼人に挑発するような言動をとる。

怒るかと思いきや、依頼人は少し唸って何かを考え始めた。

そして、顔を上げ

 

「ならば、君と結城君とで勝負してもらおうじゃないか。どちらが仕事を成功させるか早い者勝ちだ」

 

と、勝手に勝負することを決めた。

そんな勝手な提案に慎治は

 

「それはいいですね」

 

ニヤリとしながら了承した。

依頼人が依頼した仕事は、この館に出る悪霊を祓ってほしいという退魔師の仕事。

慎治は和麻には勝てないというのを身をもって知っている。だが、退魔の対決ならば話は別だ。どれだけ身体能力が高かろうと、悪霊を退治する事は出来ない。慎治はそう思った。だろうと和麻は思った。そして、もしそう思っているなら、こいつはバカなんだろうなとも思った。

まず、退魔が出来ないならこんな仕事はしていない。こういう依頼を受けているということは、それなりに退魔師としての力があるということだ。

 

(そんな事も分からんのかこいつ)

 

神凪も墜ちたな。そう思った和麻だった。

 

「八神君もそれでいいかね?」

 

依頼主が聞いてくる。

 

「別にどっちでも」

 

投げやりに答える和麻。

その時、和麻はある気配を感じた。だが、おかしい。これは悪霊退治のハズだが、感じる強さは悪霊程度ではない。

まあ、それでも和麻の敵ではないが。

 

「むっ!来たか!」

(遅すぎだ。グズ)

 

和麻より7秒くらい遅くに気配を感じた慎治。遅すぎた為、和麻は内心で慎治を罵る。

 

「な、何が来たと言うんだね?」

 

依頼人が狼狽える。

 

「あんたが退治してほしいって言ってた悪霊だよ」

 

和麻は依頼人を見ずに答える。視点は部屋の奥。そこに青黒い邪気が溜まっていく。そしてそれは形を成して、悪霊になった。

 

(やはり、悪霊なんてそんな弱い存在じゃねぇな。クソ、あの仲介人め。何が楽な仕事だよ。神凪の奴とは仕事が被ってるし、もう二度とあいつ使わねぇ)

 

目を細め、悪霊を見ながらそう悪態をつく和麻。

 

「出やがったな悪霊め!この浄化の炎で消滅させてやる!」

 

慎治は悪霊が出てきて、すぐにその手に炎を生み出した。

 

(遅っ!)

 

並の退魔師ならそこそこの早さだし、慎治は分家の中でも威力はともかく、炎を出すスピードはまあまあ早い方だった。

だが和麻からすれば遅すぎて、むしろ冗談だろと言いたくなるのだった。

しかも

 

(なんてお粗末な炎だよ)

 

慎治が言った浄化の炎。神凪の最強たる由縁。なのに、今慎治が出している炎に最強なんて感じられなかった。

 

(いくら分家とはいえ、この程度の力しかねぇのかよ。神凪は本当にこの先やってけんのかよ)

 

思わず、神凪の行く末を心配してしまう和麻。慎治の炎がそれほどまでに酷かったということであった。

 

「喰らえ!悪霊!」

 

慎治が悪霊に炎を放つ。赤々と燃える炎が悪霊へと迫っていく。

和麻はそれを見て呟く。

 

「バーカ」

 

慎治の放った炎が悪霊に当たり、燃え盛る。そして

 

『ギキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!』

 

悪霊が叫び、炎を辺りへと弾き飛ばす。そのせいで部屋が燃える。

 

「ったく、何やってんだか。それが悪霊なわけねーだろがよ」

 

どう見ても妖魔じゃねーか。

 

妖魔。簡潔に言えば人為らざる者。人に害を与える存在。数多く存在し、その強さは本当に弱いものから笑うしかない程強いものまでいる。

纏めると、人間にとってはマジでいらない存在。ということだ。

 

「あーあー。こんなに燃えちゃって。色々高そうなものあんのに。もったいねー」

 

でも、逆にこの趣味の悪い感じも無くなるかもしんない。

燃え盛る部屋を見てこんな感想が出る和麻は異常です。皆さん真似しないで下さい。

 

「た、助けてくれええぇ」

「あん?」

 

情けない声と共に依頼人が和麻の足に這いよって来た。

 

「引っ付くな。キメーんだよおっさん」

 

そう言って依頼人を蹴る。もちろん手加減はしている。

 

「た、頼む...。報酬の2倍出すから命だけはたすけてくれ......!」

「ふーん。あんたの命って二百万なんだ。随分安い命だな」

 

冷たい目で依頼主を見下しながら会話する和麻。

 

「だったら5倍!いや、10倍払う!」

「悪いねー。その程度じゃ助けてやれねぇわ」

 

和麻がそう言うと、風が吹き荒れた。風で炎は消え、そして

 

『ギギャアアアアアアアア!!!』

 

断末魔を上げ、悪霊もとい妖魔が消え去った。

依頼人はポカンとしていたが、助かったと理解し安堵した。しかし

 

「うぐっ!」

 

すぐに地面に這いつくばされる。和麻が足で押さえつけていたからだ。

 

「悪いねおっさん。まだちょっとお話があるんだよ」

 

和麻が悪い笑みを浮かべる。

 

「もういいぜ。入ってこいよ」

 

と、扉に向かって言葉を投げつける。すると、扉から和麻を部屋まで案内した執事が立っていた。

依頼人はそれを見て、驚きの表情を顕にした。

 

「っぐ!貴様!これはどういうことだ!」

 

依頼人が執事に向かって吠える。和麻はそれをニヤニヤと眺めている。

そして執事は依頼人の問に答える。

 

「旦那様。私はお前を許さない。お前のせいで私の娘がこの世を去ったのだから」

 

執事は淡々と、しかし底冷えするような声で依頼人を糾弾する。

 

「お前はその権力を使い、私の娘を手に入れようとした。が、金や権力に目が眩まなかった娘に対し、お前は腹を立てて、そこらのチンピラを雇いあろうことか娘を凌辱したな。結婚したばかりで幸せの絶頂だった娘を」

 

声は静かだが、目は血走って、まるで瞳孔が開いてるかのように見開いていた。

 

「許さん。娘の幸せを奪ったお前を。娘の幸せを奪っておきながら当たり前のように生きているお前を。私は決して許しはしない」

 

だから死ね。

 

和麻に押さえつけられている依頼人に何の躊躇いも無く、執事は懐から出したナイフで思いっきり頭を刺した。

何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も。めった刺しにした。

気が済んだのか、刺すのを止め立ち上がる。そして、執事は和麻に頭を下げる。

 

「私の依頼はこれで終わりました」

「ああ」

「報酬の一億は既に口座に入っております」

「分かった」

「それでは最後の仕上げをお願い致します」

「本当にいいのか?」

「はい。このようになってまで生きたいとは思いませんので」

「そうか。......なあ、これは興味本位なんだが、復讐してよかったって思ってるか?後悔はしていないか?」

「全くしておりません」

「そうか。だったら、あばよ」

 

ゴトッ

 

そう言って和麻は執事の首を落とした。

 

和麻はタバコを取りだし、火を点け吸う。そして、スパーっと煙をだし

 

「テンション下がるなー」

 

と呟いた。




後半はやはり意味不明ですね。
次回どういうことだったのか説明するつもりです。
次回は神凪家の方々が登場しますよー。綾乃や煉も多分登場します。


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綾乃levelup!!

かなーり遅くなって申し訳ありません。
相変わらず対して上手くない文章ですが、久しぶりなので、一応気合い入れました。そんなの良ければ見てください。

やっと煉と綾乃を書けました。


結城慎治は今かなり緊張している。何故なら今目の前には神凪家に二人しかいない神炎使いにして神凪家の当主である神凪重悟がいるからだ。

更には、神凪のもう一人の神炎使いで神凪最強と言われている男、神凪厳馬もいる。

この二人と一緒の部屋にいるだけでプレッシャーがヤバい。他にも何人か人はいるが、正直気にならなかった。

 

(うわー!やべぇ、やべぇよ。絶対今日の仕事の事だ。ミスしちまって神凪の名前に泥塗ったからそれについての処分が下されるんだ。しかもあの和麻に持ってかれたってなると...。当主はともかく厳馬様がこえーよ。あの人常に仏頂面だし。なに考えてんのかわかんねーんだよな)

 

そんな事を思いながら、当主からの言葉を待つ慎治。

 

「慎治よ」

 

来た!

当主の呼び掛けにビクッと肩を震わせる慎治。

 

「今日の仕事、依頼をこなせなかったと聞いた。何があったのだ?」

 

ゆっくりと優しく重悟は話しかける。重悟自身は相手が緊張を解きほぐすつもりでこういった話し方をしたのだが、もちろんそれは逆効果だった。慎治からしてみれば、静がに怒っているようにしか感じなかった。

 

「い、いいいいいややや、そそ、そそそそ、そ、のの、のののののの、ででですね?あ、あああ、のの、のののの」

 

だから噛みまくるのは仕方のない事だった。

 

「落ち着かぬか。何をいっておるのかさっぱりだぞ」

 

重悟が呆れたように話す。

そして、何とか落ち着いた慎治が改めて今日の仕事について話始めた。

依頼人が自分以外にもう一人退魔師を呼んでいたこと。そして、それが和麻だったこと。和麻が風術を使っていたこと。そして、和麻が依頼人の執事と依頼人を殺したこと。

それら全てを話した。そして、話しながら慎治は思い出していた。別れる時に和麻と話したことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、死んだ振りしてんじゃねぇよ」

 

タバコを吸いながら和麻は床に転がっている慎治の腹に蹴りを入れた。

 

「ぐほっ!」

 

和麻の蹴りがキレイに鳩尾に入って苦しむ慎治。

 

「えほっ!げほっ!ッテメェ、急に蹴り入れるやつがあるかっ!」

 

若干涙目になりながら慎治は和麻に文句を言う。

 

「あ?何?男の象徴潰してほしかったって?なんだよ~、それ先に言えよ~」

 

そう言って未だに床に転がっている慎治の下半身目掛けて踵落としをかまそうとする和麻。というか、かました。

 

「うおおおおおお!?」

 

和麻の踵落としから逃げるべく慎治は素早く立ち上がった。和麻の身体能力がキチガイ染みてる事を知っている慎治はもしさっきの踵落としが当たったらと想像し、ぶわっと全身に冷や汗を掻いた。

 

「お、おおおおおお、お前っ!!!ふざけんなよっ!マジふざけんなよっ!!お前の力で踵落としなんざされたら死ぬわ!!ボケ!カス!タコ!って、うおおおおおお!?」

 

慎治が勢いで和麻を罵倒すると、和麻がライダーキックばりの飛び蹴りをかましてきた。慎治はなんとか避けてまた文句を言おうとしたが

 

「次、舐めた事言ったら殺す」

 

睨まれながら、本気トーンでそう言われ

 

「マジすんませんでした」

 

速攻で土下座した。

 

そんな慎治を見て軽くため息を吐いて、そのまま部屋を出ていこうとする和麻。

 

「じゃーな。もう会うことはねーだろ」

 

そして、和麻と慎治は別れた。

 

「いや、何サラッとどっか行こうとしてるの?」

 

という訳にはいかなかった。

 

「あんだよ。俺腹減ったんだから早くしろよ」

「いやいや。目の前で殺人犯しといて何言ってんの?俺正直ドン引きだぞ?」

 

慎治の目はどういう事か説明しろと言っていた。

 

「で?」

 

和麻は、慎治からの無言の訴えをまるっと無視して続きを促す。

 

「で?じゃねーよ。説明しろって。何があってこんな事になってんだよ」

 

少し苛立ち気味に言う慎治に対し、和麻は光の無い目で見据える。

 

「知ってどうする?」

「あ?」

「知ってどうするんだよ。お前に説明したところで何も意味は無い。なぜなら、これは既に終わった事だからな」

 

だから、お前に説明する事なんて何も無い。

 

キッパリと、そう断言して踵を返し、また部屋を出ていこうとする和麻。

しかし、慎治は納得いかず

 

「人の仕事奪っといて、しかも依頼主まで殺されて、説明無しとか。ふざけてんじゃねえええええええええ!!!」

 

ズオッ!!

 

慎治の過去最高の炎が手から生み出された。

 

「うらああああああああ!!」

 

そして、そのまま和麻に炎を打ち出す。が、無意味だった。

 

「ガハッ!?」

 

慎治はいつの間にか壁に押し付けられていた。

見ると、和麻が慎治の首を掴み壁に押し付けていた。

 

「聞きたいことがあるからって実力行使とか、小学生じゃねぇんだからよ。少し落ち着けや。あと、仕事に関してはお前がお粗末だっただけだし、依頼主は自業自得で殺された。それだけだ」

 

淡々と感情の乗らない声で言われ、慎治は背筋が凍りついた。

 

「あのクソデブの被害者がクソデブに復讐した。ただそれだけだ。それ以上もそれ以下もねえ」

 

そして、慎治の首から手を放した。慎治は咳き込みながら和麻を見上げる。和麻は恐ろしく冷たい瞳で慎治を見下ろしていた。

慎治は自分は死ぬんだと悟った。

しかし、和麻はもうどうでもいいという雰囲気で部屋から出ていく。

 

「今度こそじゃーな。もう二度と会わないだろーぜ」

 

そのまま消えていった和麻を慎治は呆然と見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、以上で御座います」

 

慎治はなんとか今日起こったことを話終えていた。

 

「ふーむ...成る程。そのような事があったとは...。しかも和麻か。また、懐かしい名前が出てきおったな」

 

のう、厳馬。

 

と、当主である重悟は厳馬に話しかける。しかし、厳馬は、

 

「あの馬鹿がどうしようと私には関係ありませんな」

 

いつもの仏頂面で返答した。

 

「頼まれたからと言って、人を殺すような輩の事に興味は持ちたくありませんし、しかも風術という下術を身につけているなど言語道断です」

 

さらに、和麻と風術を貶めていく厳馬。

その時、奥にいる初老の男が歯を食い縛ったが、誰も気づく事は無かった。

 

「それに私はアレとはもう縁を切りました。なので、アレがどうしようとも知ったことではありません」

 

厳馬はキッパリと断言した。

 

(まーたこやつはそんな事言いおって。和麻が正当に評価されない事を誰よりも怒っておったくせに)

 

重悟は厳馬がどれ程和麻を気にかけていたかを知っているため、厳馬の態度に呆れた目を向ける。

そしてため息を一つ。

 

「まあよい、慎治から話は聞けたし今日はこれでお開きとしよう」

 

重悟の一言により、今日の話し合いは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、神凪の屋敷はかなりデカい。宗家と分家の両方の神凪の術者が暮らしているためだ。

そして、神凪は力が全ての家系。だから、もちろん修練場というのがいくつか存在する。

その修練場の一つで特訓をしている少女がいた。名前は神凪綾乃。神凪の現当主である神凪重悟の娘である。そして、過去に和麻に敗北した少女でもある。

そんな彼女は、和麻に敗北した日から更に修行に励み、この四年でかなりの力を身につけた。

そして、今は木刀を振り回していた。型にはまった動きではなく、変幻自在の我流だった。

綾乃は、妖魔相手に人間の型にはまった動きをしても意味は無いと考え、ならば自分のやり易いような動きをした方がまだマシだと思い、彼女は我流を極めようとしていた。

彼女が木刀を使っている理由は、綾乃があの負けた次の日に次期当主と共に受け継いだ神器、炎雷覇を使うからだ。炎雷覇は見た目は木刀に近いが、炎術師が使うとかなりの効果を発揮する、正に神凪に相応しい代物だ。

故に木刀を使った修行をしている。もちろん、炎雷覇が使えなくなった時の事も考え、体術の修行も欠かさない。

全身に玉のような汗を掻きながら、全身の力を抜く。

そして、

 

「シッ!!」

 

鋭い風切り音と共に、これまた鋭い蹴りを放つ。そして、足を下ろしてその場に寝転がった。

 

「っはあ!疲れた~」

 

大の字になってゆっくりと深呼吸する。そこに、一人の少年がやって来た。

 

「やっぱりここにいたんですね。姉様」

 

キング・オブ・ショタ。と、言わんばかりのショタショタしい少年が大の字になっている綾乃を苦笑する。

 

「あら、どうしたのよ煉。こっちに来るなんて珍しいわね」

 

煉と呼ばれた少年。姓は神凪であり、神凪厳馬の息子で、和麻の弟にあたる。

彼には和麻と違い、炎術の才能がある。まだ開花しきっていないが、それでも分家の者達では歯が立たない。

というのも、父である厳馬は神凪最強の神炎使い。兄である和麻は炎術使いでは無いが、他を圧倒する程な力を持っている。そんな二人の強さに憧れ、修行を積んできたし、更に厳馬に稽古を付けてもらっている。それで弱いはずもない。

 

「いえ、姉様に話しておきたい事があって」

「話しておきたい事?」

「はい。実はですね?僕もさっき父様から聞いたんですが、なんと兄様が日本に帰ってきてるそうです」

 

煉が嬉しそうに言うと、綾乃はさっきまで疲れが全て吹っ飛んだかのように、煉に詰め寄った。

 

「その話、嘘じゃ無いわよね!?真実よね!?」

 

煉の肩を掴みガクガクと揺らす。

 

「ほ、本当です~。ですから、落ち着いて下さい~」

 

一昔前のように目を回しながら煉は綾乃を宥める。綾乃はハッとなり、軽く煉に謝って肩を放した。しかし、今度は花も恥じらう女子高生とは思えない程好戦的な笑顔をした。

 

「ふ、ふふふふ。成る程。和麻さんが帰ってきてるんだ。今こそリベンジの時よね」

 

ふふふふ。と笑いながら、別の意味で和麻に想いを馳せる綾乃。

 

「でも、姉様。いくら強くなったと言っても兄様に勝てるんですか?」

 

かなり失礼な事を言う煉。しかし、和麻の強さを知っている煉はいくら綾乃が強いといっても和麻に勝てるとは思わなかった。

 

「そうね。正直言って、私も和麻さんに勝てるビジョンが思い浮かばないわ」

 

そして、綾乃もまた和麻に勝てるとは思っていなかった。綾乃は和麻の強さを身に染みて知っているため、例え天地がひっくり返っても勝てないと思っている。

 

「だから、リベンジというよりかは、自分が今どれだけ和麻さんに追いつけているかを試すって感じね。それに、奥の手も実戦でどれだけ使えるかを試してみたいし」

 

そう言って、綾乃は手に炎を生み出す。だが、それは普通の炎とは違い、朱金に輝いていた。

 

「やっぱりいつ見ても綺麗ですね。神炎...」

 

煉は、綾乃の手で燃えている朱金の炎に目を奪われていた。

そう、綾乃は神炎に目覚めていた。しかし、父親の重悟や他の神凪には秘密にしていた。理由は、まだ十全に扱えないからである。

因みに何故煉が知っているのかというと、ただ単に偶然見られただけである。

 

「まあ、精々出せて五分だけどね。それにしても早く会いたいわぁ。私がどれだけ強くなったか見てもらわないと」

 

瞳孔が開いてるかのように目を見開き、口は三日月のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

ゾクッ!!

和麻は泊まっているホテルの一室で妙な寒気を感じていた。

 




どうでしたしょうか?綾乃をかなり強化して、好戦的な性格にしたみました。
煉君も描写していませんが、結構強くなっています。
次回はまだ未定です。


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ハロウィン特別話にしたかった

10月31日に間に合わなかった...。


これはまだ和麻が勘当される前の話。

神凪にある種の伝説を残した彼の過去の一部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月30日。和麻はある準備をしていた。自室に籠り、せっせと何かを作っている。かなり集中していたため、彼の弟――煉が部屋に入ってきたのにも気づかなかった。

 

「兄さま。何を作ってるんですか?」

 

後ろから声をかけられても対して驚かず、和麻はそのまま作業を止めることなく煉と話す。

 

「んー?煉か?」

「はい。そうですよ」

「何で俺の部屋に居るんだ?」

「兄さまを探してたのですが見つからなくって」

「で、部屋にいると思ったって事か?」

「はい」

「そうか。で?何か用なのか?」

「用が無いと一緒に居てはいけませんか?」

 

煉は和麻の素っ気ない態度に少々むくれる。

 

「そんな彼女みたいな事言ってんじゃねーよ」

「そんな、彼女だなんて...///」

「おい、何で頬染めてんだ?アホか?アホなのかお前は」

 

和麻はまさか自分の弟にそっちの気があるのか!?と戦慄した。しかも対象は自分。ホモで近親相姦。笑えない話だ。多分あの親父ですら卒倒するだろうと、和麻は思った。

とりあえず煉の性癖には深く突っ込まない方が良いだろう。

 

「深く突っ込む♂」

「おいゴラァ。その表記はいくら何でもキレるぞ。てか、突っ込まねぇつってんだろ。というより地の文読むなよ。つーか、そういう知識どっから仕入れた?」

 

色々と危ない煉の発言に軽くキレかけの和麻。まだ純粋で幼いハズの煉が何故こんな事になってしまったのか。ていうか、まだ小学生じゃん。何?最近の小学生ってここまで進んでるの?和麻は煉の将来が果てしなく心配になった。

 

「どこからって、母様が隠し持っていた本にそういう内容が」

「お母様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」

 

最近では全く関わりの持つ事ない母親のまさかの趣味に思わず叫んでしまった和麻。

 

「いやいやいやいや。それよりも何でお前はそれを見つけたの?てか、どうやって見つけたの?どういう経緯で見つけるに至ったの?」

「いや、ただ単に暇だったので母様の部屋を探ってたら見つけました」

 

あら嫌だ。この子ったら以外とやんちゃ。じゃねーよ。

 

「それにしてもビックリしました」

「そりゃそーだろ。母親がまさかそんな本を読んでたんだから」

「いや、それもそうなんですけど、母様って絵が上手だったんだな~って」

「え"?」

 

嫌な予感がする。これは聞いてはいけない気がする。和麻はそう思った。

 

「母様の部屋にマンガの道具がいっぱいありまして、書きかけのマンガも見つけたんですよ」

「へ、へー。そうなんだ~(汗)」

「はい。何やら父様と当主の二人が裸になってる絵が「チョップ」ッウグ」

 

和麻のチョップを喰らいその場で気絶する煉。

 

「いけない。煉、それ以上はいけない。知ってはいけないのだよ。忘れた方がいい」

 

神妙な顔でそう言う和麻。そして、自分も忘れようと思い、作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神凪は風牙衆という風術に長けた集団を従えている。神凪が現代でも栄えているのは、風牙衆の力もあったからだと言えるかもしれない。

しかし、実際のところ神凪は風牙衆を見下し、傷つけている。風牙衆の風術は神凪の炎術に劣っていると決めつけ、彼らを虐げるのだ。

確かに真っ向からやり合えば風術は炎術に負ける。しかし、ぶっちゃけて言えば、風術の方が炎術よりも殺しに向いている。そして、もしそういう目的で風牙衆が牙を剥けば、神凪に成す術は無い。

だが、現状は神凪が上で風牙衆が下となっている。

その容赦のない残酷な暴力はこんな日にも行われる。

10月31日。ハロウィンの日である。この日は子供が仮装して、大人からお菓子を貰うというイベント。その際に言う言葉は「トリック・オア・トリート」。

こういった催しは神凪や風牙衆も例外ではない。

子供達がお菓子を貰う。そして、全部貰いきったら、どうするか。普通はもう無いのだから諦める。しかし、やはり欲しいと思ってしまうもの。だが、大人からはもう貰えない。ならば、他の子供から盗ればいい。そう思った神凪の子供達が向かう場所は一つ。

子供達は無邪気に笑いながら、残酷な事をしに行く。そして、それを屋根の上から眺めている一つの影がある。神凪の子供達よりも圧倒的な暴力を持つ少年が、このハロウィンを駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっへー!風牙衆の奴らもこういう時は役に立つよなー」

「本当にな。お!このカボチャケーキ美味ぇ」

 

神凪の屋敷の一室。そこには神凪の子供達がハロウィンのお菓子を堪能していた。しかし、これらは自分のお菓子ではなく、風牙衆の子供達から奪ったお菓子だ。ただ奪っただけならともかく、神凪の子供達は奪う際に炎術で相手を傷つけてから奪っている。

それに罪悪感なんてものは感じない。当たり前のように奪って、傷つける。そして、彼らの他にもまだ風牙衆から奪いに行っているグループもいる。

 

「他の奴らちゃんと奪えてんのかな?」

「さあな。んな事どうでもいいだろ。それよりもそのカボチャケーキくれよ」

「嫌だよ。俺が取ったんだから俺のだよ」

「ケチだなお前」

「言ってろよ。てか、量はお前の方が多いだろ」

 

適当に喋りながらお菓子を食べていると遠くの方で悲鳴が聞こえる。

 

「うるせーな。また風牙衆か?」

「あいつらいつもピーピーうっせえよなー」

「でも悲鳴がねーとつまんないけどな」

「確かにな」

 

そう言ってゲラゲラ笑っていると、急に部屋の襖が開く。見るとそこには、中身がくりぬかれたカボチャを被っている少年がいた。

 

「な、何だ?おまへぐぅ!!」

 

カボチャを被った少年が神凪の子供を一人殴り倒す。

 

「て、てめぇ!何しやがるんばっ!?」

 

そして、もう一人もぶん殴る。

そして、カボチャの少年はお菓子を全部持っていった。

 

「トリック・オア・トリート」

 

そう言って部屋を出ていった。

残ったのは天誅を受けた少年二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。こういう家系の奴らでもこういった催しをするのだな」

 

神凪の屋敷の塀の上。そこには、棒つきキャンディーを舐めながら、神凪のハロウィンパーティーを見ている金髪の女性がいた。

実は彼女、吸血鬼と呼ばれる西洋の化け物だ。そんな彼女が何故ここにいるのかというと、特に意味はない。ただ気まぐれにやって来ただけである。更に言うと、彼女は真祖の吸血鬼で、ほとんどの存在は太刀打ちできないぐらい強い。というか、最強レベルである。

そんな彼女は、そろそろ退屈になってきたのかゆっくりと立ち上がり伸びをする。

そして、気づく。隣にカボチャの少年がいることに。

 

(私が気配を察知できなかった!?)

 

真祖の吸血鬼である彼女ですら気づけなかった。その事実に動揺を隠せない。

冷や汗を掻きながら、少年と対峙する。二人の周りだけ緊張感が漂う。

そして、少年が口を開く。

 

「トリック・オア・トリート」

 

急に何を、と疑問を口にだす間もなく、彼女は吹っ飛ばされる。少年の容赦のない、相手を確実に仕留める全力の飛び蹴りだった。

 

「グガァッ!!」

 

真祖の彼女はそのまま受け身を取ることもできず、地面に叩きつけられた。

そして、少年は彼女の舐めていた棒つきキャンディーを手に取りもう一回言った。

 

「トリック・オア・トリート」

 

そうして、少年はこの場を去っていった。

残った吸血鬼は、飛び蹴りを喰らったお腹を擦りながら、興奮していた。

真祖の自分ですら知覚できないスピードで繰り出され、この吸血鬼の肉体にダメージを与える蹴り。

 

(こんな刺激初めて...)

 

要するに新たなる扉を開いただけだった。この出来事が後に和麻にとってかなりめんどくさい事態を引き起こすのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また場所は変わって中庭。そこでは風牙衆の子供からお菓子を奪おうとしている神凪の子供達がいた。

炎を生み出し、風牙衆の子供にぶつける。衣服はボロボロになり、体は火傷だらけになっている。しかも、一人の子を複数で虐めるというまさにリンチだった。

神凪の子供達は容赦なく炎を放つ。もう、気絶寸前の状態でも関係なく。

ニヤニヤと笑っている神凪の子供達の内の一人が肩を叩かれ振り向くと、そこにはカボチャを被った少年が拳を振りかぶっている姿があった。

そして、声を上げる間もなく吹っ飛ばされる。

一人が吹っ飛ばされた事により、周りの子供達も気づいた。すぐに、カボチャを被った少年を囲む。

 

「何なんだお前!」

「こんな事してただで済むと思ってんじゃねーだろーな!」

「黙ってんじゃねえよ!」

 

大声を上げる彼らにカボチャの少年は一言。

 

「トリック・オア・トリート」

 

気絶寸前の風牙衆の子供が気絶する前に見たのは、宙を舞い、地面に叩きつけられた神凪の子供達とそれを実行したカボチャの少年の悠然とした姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ!!大成功だったな!」

 

頭に被っていたカボチャを取った和麻は、今回の作戦が成功で終わった事に満足していた。

そう、カボチャを被った少年とは和麻の事だった。というか普通に考えてあんなこと出来るのは和麻くらいしかいないだろう。

和麻はあの後、他の神凪の子供達にも同じ事を繰り返し、そしてお菓子を奪っていった。そして、風牙衆のものはちゃんと返しにいった。

拳で吹っ飛ばしたり、蹴りをかましたり。時には頭一つ分くらいのカボチャを叩きつけたりとやりたい放題だった。

そして、決め台詞として「トリック・オア・トリート」と言って去っていく。

この和麻の行動のせいで神凪の中で「トリック・オア・トリート」という言葉は恐怖の対象となった。因みに和麻は子供からだけでなく、神凪の大人からもお菓子を強奪しに回っていった。

そして、この事件で風牙衆に対する虐めは大分減ったのだった。

この和麻の行動彼が勘当されるまで続いた。

 

 

これは和麻が勘当されるまでの三年前の話。

神凪に悪夢のハロウィンを残した彼の過去の一部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「煉、お菓子一緒に食う?」

「はい!食べます」

「そーいえば煉、お前もうホモじゃなくなったの?」

「兄様、ホモって何ですか?」

「いや、何でもない(どうやら記憶は消えてるようだな)」

「あ、実はですね兄様。僕母様の部屋に行って凄いもの見たんですよ」

「あ(察し)」

「なんとですね、百合と呼ばれる本が母様の部屋にありまして」

「お母様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」

 

和麻と煉の母親には秘密がいっぱいです。

 




これ別に無理にハロウィンと絡めなくてなも良かったんじゃね?と思ったり思わなかったり。
そんな話ですが、前書きに書いてある通りハロウィンに間に合わなかったです。地味に悲しかったです。
次回は本編になります。
次回!黒き風が神凪を襲う!乞うご期待!!


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動き出した悪意

最近こっちの内容ばっか書いている気がします。


深夜。大抵の人が寝ているだろう時間帯。そんな時間なのに、一人の男が公園にいた。年は二十代前半くらいだろうか。何をするでもなくただそこに立っていた。

だが、明らかにおかしい所がある。それは男の足下だった。男の足下には人の死体が転がっており、血溜まりができている。既に死体であるにも関わらず、男は死体に殺気をぶつけていた。まるで死ぬことすら生ぬるいと言わんばかりだ。

その男は殺気と共に、何かを呟いている。小さすぎて何を言っているのかわからないが、しかし、はっきりとこう言っていた。

 

「神凪殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーだりー」

 

現在午前10時。普通はほとんどの人が活動しているであろう時間だ。

しかしこの男、神凪和麻はそのほとんどに当てはまらない。彼は学生ではないし、かといって定職に就いている訳でもない。だからといってニートなのか、と言われるとこれまた違う。彼の仕事はフリーの退魔師。依頼が無いと仕事も無いという安定しない職に就いている。しかし、一回の仕事でぶっ飛んだ額を請求するため、基本生活には困らない。少なくとも、平日の朝に高級ホテルのスウィートルームでゆっくり起きれる程に。

真面目に働いている人をバカにしているとしか思えない行為だ。

 

「何か体ベトベトする......」

 

うへぇ、と呻きながら寝汗の不快感に顔をしかめる。そのままのそのそとナマケモノの様な遅さで浴室へ向かっていく和麻。

部屋には和麻一人しかいないため、恥ずかしげも無くその場で服を脱ぐ。和麻の体は思っていたよりも筋肉質だった。見せるための筋肉ではなく、がっしりと鍛えられた、正に実践用の体つきをしている。だが、その鍛えられた体よりも身体中にある無数の傷に目がいってしまう。和麻がどれだけの修羅場を潜ってきたのか一目でわかるだろう。

 

「あ゛ーシャワー気持ちいいー。これぞ正しく文化の極みだよなー」

 

相当に寝汗が気持ち悪かったのかおっさんのような声を出す。

まだ二十二歳になった青年がそんな声を出すなんて、全く悲しい限りだ。まあ、その声を聞いている人がいないからどうでもいいことではあるが。

風呂から上がり、テレビをつけ、髪を乾かしながら今やっているニュースを見る。そして、あるニュースに目が止まった。

 

『昨夜、○○公園で男性の遺体が複数放置されていました。遺体は、手足が体から切り離されていたり、体が切り裂かれたような傷があったようです。しかし、どの遺体も共通して、首を斬り落とされていたようです。警察は日本刀のようなもので斬ったのではないかと見て、捜査を進めています』

 

このニュースを見て和麻は、確実に日本刀では無いだろうと思った。そして、これは自分も同じ能力を使うからこそわかったことであるが、ほとんど風術士の仕業と見て間違いないだろう。

和麻が知っている限りで、日本の風術士と言えば、今は神凪に仕えている風牙衆だけだった。

 

「なーんか面倒な事が起きる気がする」

 

苦虫を噛んだような顔して、ニュースを見つめる和麻。そういう悪い想像は大抵あたるものだと、後に和麻は身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は変わって夕方。言っちゃえば放課後。学生達は家に帰るか、部活動に励む時間だ。

学生である綾乃も例に漏れず二人の友達と下校する。その綾乃は朝から機嫌が良かった。そして、その様子に気づかない友人達ではなかった。

 

「綾乃、今日はどうしたんだ?朝からご機嫌じゃないか」

 

そう声をかけるのは綾乃の友人の一人、久遠七瀬。癖のないショートカットで中性的な印象のあるスポーツ美少女だ。陸上部に所属しているが今日は家の用事が入り、休まざるを得なくなってしまった。そのため今は綾乃と一緒に帰っている。

 

「これはきっと男ですな!なーんてね。綾乃ちゃんに限ってそれは無いか~」

 

もう一人は七瀬と同じく綾乃の親友である篠宮由香里。見た目はホワッとした雰囲気のおっとり系美少女。お嬢様の様な見た目とは裏腹に、かなりの情報収集能力と行動力を持っており、とにかく面白い事には首を突っ込む性格をしている。

 

「あら、よく分かったわね」

 

由香里に機嫌のいい理由を当てられて少々驚いたが、特に隠す事でも無いのであっさりと認める。

しかし、親友二人は綾乃以上に驚いていた。男との浮わついた話などとは無縁と言っても過言ではない友人が、まさか男が理由でご機嫌になっているとは思いもよらなかったのだ。

別に綾乃がモテないという話ではない。むしろ綾乃はかなりモテる方だ。告白だって何回も受けている。なのに何故男との浮わついた話が無いのか。それは綾乃が断っているだけという単純な話だった。

 

「えー!あの綾乃ちゃんに!?『お父様以外の男は皆軟弱でダメ』とか平気でファザコン発言しちゃう綾乃に男!?」

「おい綾乃、熱でもあるんじゃないのか?病院に行った方がいいんじゃないか?」

「何?あんたら喧嘩売ってんの?」

 

親友二人の発言にビキッと額に青筋を浮かび上がらせる綾乃。

そんな怒り気味の綾乃に二人は慌てて弁明をする。

 

「わ、悪かったよ。確かに言い過ぎた。しかし、やっぱり驚くよ。あの綾乃がなぁ...」

「ねー。さっきのファザコンってのもそうだけど、綾乃ちゃんってウチの学校の男子やナンパしてくる奴らとかに全然興味示さないじゃん」

 

男子の告白は断り、ナンパしてくる奴らも断って、しつこいと鉄拳制裁。こんなことばかりやっているものだから、あまり男に興味がないと思われてもしょうがない。そして、綾乃のタイプは父親である神凪重悟。少なくとも親友二人はそう思っていた。

なのに、そんな綾乃が男の事でご機嫌だと言うではないか。驚くのも無理はなかった。

 

「それに綾乃ちゃんって修行馬鹿じゃん。それも原因だと思うんだよね」

「ああ、確かに。普通の人より遥かに強いからな」

 

七瀬と由香里はお互いうんうんと頷きあう。

 

「何?何の事言ってるのよ」

 

綾乃が怪訝そうに聞く。

 

「何って綾乃が男に興味を持たない理由」

「綾乃の家系って退魔師っていう特殊な家系なんだろ?その中でもかなりの実力を持ってるらしいじゃないか。そりゃあそこらの男に興味を示すわけないよなぁ」

 

実はこの二人は綾乃が退魔師だということを知っている。何故かと言うと二人は妖魔に襲われているところを綾乃に助けてもらった事があるからだ。

そして、その事件が切っ掛けで綾乃は神炎を出せるようになったのだが、それはまたの機会に。

 

「別に男に興味ないって訳じゃないわよ。ただ私に合うのがいないってだけで」

 

そう、自分に合う男がいないだけだ。と、綾乃は思う。神凪の大体の男は当主の娘ということで一歩引いている。煉はそんな事ないが、だからといって男として見ることはできない。というよりかは完全に弟としてしか見ていない。

学校の男子もダメだ。何がと言われると困るが、とにかくなんかダメだ。

そもそも綾乃は、ずっと和麻に追いつくために頑張ってきた。言ってしまえば、和麻しか見てこなかったと言ってしまえるレベルだ。

つまり、無意識にだが、綾乃の男性の理想は圧倒的に高いという事だった。

 

「ほーう?自分に合う男がいない、ねえ?」

「そんな綾乃が男で上機嫌という事は、その人が綾乃の好きな人なのか?」

 

二人は面白そうといった雰囲気で話す。

そんな二人に少々イラッとしながらも、いつも通り平静に答える。

 

「好きって言われるとちょっと違うわね。どっちかと言うと憧れね」

 

特に動揺もせずあっさりと言った綾乃に、由香里は本当の事を言っているとわかってしまい、少し不満そうな顔する。

 

「なーんだ。せっかく綾乃に春が来たかなーって思ってたのに」

「しかし、綾乃が憧れている男か。その人は年上なのか?」

 

二人ともお年頃の女子高生。恋ではないが、友人が上機嫌になるほどの男の存在について気になっても仕方がないのだ。

 

「そうだよ、その人は一体どんな人なの?イケメンなの?身長高い?」

「綾乃が憧れるくらいってことは、その人は綾乃より凄いってことなのか?想像がつかないんだが」

 

なので、こうやって根掘り葉掘り質問するのも仕方がないのだ。質問されてる綾乃にとっては鬱陶しいだけだが。

 

「あーもう!うるさいわね!その人とは四年前に会ったきりよ!一体どうなってるかなんては分からないわよ!」

 

うがーッと、まるで癇癪を起こすように二人に叫ぶ。

そんな綾乃に二人はニヤニヤしながら、別れるまで質問を浴びせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後綾乃は二人と別れ、下校していた。しかし、途中にある公園に入っていく。

公園には誰一人いなかった。それもそのはず、この公園は今朝ニュースに流れていた殺人事件が起こった公園だからだ。

綾乃はそれを知ってここに来た。殺人事件が起きた公園なんて誰も来ないだろうと思っての事だった。

 

「いい加減姿を見せたらどう?下校中ずーっと見てたでしょ」

 

そして、今から起こることは誰にも見られてはいけない。そう、これは炎術師綾乃としてのものだ。

 

「クカカ」

 

奇妙な笑い声を上げ、ふわりと、それは降りてきた。黒い風を纏った男だ。

 

「ようやく出てきたわね、このストーカー。風術師みたいだけど、えらく変わってるのねあんた」

 

軽口を叩きながら、手から炎を出す綾乃。いつでも対処出来るように警戒心を高めていた。相手から伝わる殺気が尋常ではないため、いつ動くかわかったものではないからだ。

しかし、その男はすぐには動かなかった。その場に立ってこちらを見ているだけ。いや、正確には綾乃が出した炎を見ている。

じっくりと見つめ、そして殺気が膨れ上がった。

綾乃は更に警戒する。

 

「神凪殺す」

 

そんな綾乃に男はその黒い風を綾乃に放った。

 




今回はやっと綾乃の友人二人を出せました。それが何より嬉しい。でも、キャラこんなでしたっけ?ちょっと自信無いです。
そして、次回は綾乃VS謎の黒い風の男です。
謎の黒い風の男って一体誰の事なんだ!?


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綾乃ちゃん戦う。出ずっぱりな頼道さん。再会和麻くん。

ようやく続き書けました。えらく長くなってしまって申し訳ないです。


「うわっ、と!」

 

黒い風術師はいきなり綾乃に向けて風を飛ばした。もちろん綾乃はすぐにやられはせず、横に跳躍してかわした。

そして、既に手の上に出していた炎を放つ。しかし、相手の周りの風の壁に遮られる。

 

「ぅえ!?」

 

綾乃は驚いた。確かにそこまで威力があったとは言えないが、それでも炎術が風術によって防がれるなんて、有り得ない。力関係はこっちの方が上だ。なのに防がれたという事はつまり

 

(私の炎よりあいつの風の方が強いって事よね...?うわぁ...勘弁してよ。そんな理不尽な存在和麻さんだけで十分よ)

 

冷静に考えてる最中でも相手は風を飛ばしてくる。その度に綾乃はかわし続けるが、それもいずれ限界がくる。いつまでも避けているわけにはいかない。

綾乃はまた炎を出す。今度はさっきのとは比にならない威力だ。

 

「オラァッ!!喰らいなさい!!」

 

綾乃は華の女子高生とは思えない声を出しながら炎を放った。しかし、また防がれてしまう。だが、さっきとは違い向かってきた炎に対して、自分が周囲に出している風を集中させた。

つまり、周りの風が薄くなっている。

という事は

 

「今なら私の炎が通るって事よねぇ!!」

 

相手を懐に潜り込み、体に炎をぶつけた。

 

「よし!これでどうよ!」

 

相手はぶっ飛び、地面に倒れる。が、またすぐに風が飛んで来た。

 

「っ!チッ!」

 

綾乃もまたそれを避ける。

相手を見ると、どうやらダメージはほとんど受けていないようだ。

 

(やっぱりダメか。まあ、そう簡単にはいくと思ってないけど。ていうか、あいつ妖魔よね?気配が人間のそれじゃ無いんだけ、ど!)

 

相手もさっきより威力のある風を放ってくる。速度も上がっていて、風が綾乃の二の腕を掠める。

それに舌打ちをしつつ避ける。途中相手のニヤニヤしている顔を見てイラッときた。

 

「舐めてんじゃないわよ!!」

 

今度は手からではなく、周りにいくつもの炎の球体を生み出す。そしてそれらを発射した。

 

ドドドドドッ!!

 

相手に全弾命中したが、それで倒したとはもちろん思っていない。

しかし、目眩まし程度にはなっただろう。そう思い、綾乃は次の行動に移る。

 

――パンッ

 

手を合わせゆっくりと離すと、手から炎を纏った刀が現れる。名は『炎雷覇』。神凪家の代々伝わる神器である。

綾乃はそれを一振りして、構えをとる。

 

「悪いけど滅させてもらうわよ」

 

相手に接近し炎雷覇を振り下ろす。だが、やはり相手の風に阻まれる。

しかし、今度は炎雷覇という神器を使っている。さっきまでのただ炎をぶつけるのとはわけが違う。

 

「アアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

炎雷覇の炎が激しく燃え盛り、相手の風を押し退けていく。

そして、そのまま風を打ち破る。

相手は自分の風が破られた事に驚愕している。その隙を逃すほど綾乃は甘くなかった。

 

「ハアッ!」

 

そのままの勢いで炎雷覇を渾身の力で一閃する。相手はその場に崩れ落ちた。

ふーっと、息を吐いて落ち着く。綾乃は炎雷覇をしまって、倒した男について考える。

 

(あいつって風を操っていたんだから風術師よね?だけど確かに妖魔の気配はあった。術士が妖魔にとり憑いたって事なの?でも、あんなに強い風術師は私知らないわ。少なくとも炎術と真っ向からやりあえる程の人なんて。もしかして、あれってただの妖魔じゃ無い?)

 

唸りながら思考するが、はっきりとした答えが出てこない。それにイライラしながら、ため息を吐く。

 

(考えてても仕方ない。お父様に報告して協力を仰ごう。もしかしたら、こういった存在がまだ他にもいるかもしれない)

 

その時だった。

 

ザシュッ

 

背中を何かで斬られたような痛みを襲う。

 

「ガアッ!」

 

綾乃はたまらずその場で膝を付く。傷の痛みに耐えながら後ろを向くと、さっき倒したはずの男が立っていた。

さっきまでのようなニヤニヤした顔ではなく、怒りの表情で綾乃を見下ろしている。

だが、相手も無傷ではなく所々に火傷を負っている。

 

(......っ!炎雷覇でも倒せないっていうの!?本当勘弁してよ)

 

なんとか立ち上がり再びお互いに対峙する。

綾乃が立ち上がるのを待っていたのか、立ち上がった瞬間にまた相手は風を飛ばす。

 

綾乃はそれに反応してまた避ける。背中の傷は比較的浅かったためなんとか反応できたが、しかし完全とはいかなかった。相手の風が今度は太ももを掠めた。それにより少しバランスが崩れ、地面に倒れる。

 

そんな綾乃に追い討ちをかけるように風を飛ばす。倒れている状態から、風を避ける事はできない。

相手は自分の勝利を確信したかのように口を歪める。

だが、その表情はまたもや驚愕に変わる。

 

綾乃が風に手を向けた瞬間、風が燃え消えた。見ると、綾乃の炎が先ほどとは違う色に燃え盛っている。

まるで太陽のような輝きを放つ朱金の炎。

 

「まさか、これを使うことになるなんてね...」

 

背中の傷が痛み、フラフラと立ち上がる綾乃。朱金に燃える炎を向けながら、相手を睨み付ける。

 

「対和麻さん用の秘密兵器だけど、あんたに使ってやるわ。感謝して燃え尽きなさい。私の神炎で!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在神凪邸はピリピリとした空気に包まれていた。それは今朝流れたニュースが関係している。

公園で起こった殺人事件。被害者は神凪の分家の者だった。

分家とは言え神凪の一員。それが殺されたとあっては黙っていられない。

 

「今日皆に集まってもらったのは他でもない。結城と大神の者たちが殺された件についてだ」

 

神凪の屋敷にある会議室。宗主の重悟は重々しく議題の内容を話し始めた。

誰も言葉を発しない。異様なまでに重い空気が場を包む。長い沈黙が続き、ようやく分家の一人が口を開く。

 

「......この事件について風牙衆が調べていたはずですが、それの成果は出たのですか?」

 

風牙衆の長、兵衛が目の前にいるがそれを無視して分家の男は、重悟に尋ねる。

重悟はそんな男の態度に少し眉をしかめて、ため息を吐いた。

 

「そうだな。兵衛。お主達風牙衆が調べた情報はどの様なものだ?」

 

兵衛はゆっくりと口を開く。

 

「犯人は風術師です」

 

ざわっ

 

その場にいた神凪の人間に動揺が走った。

 

「貴様ら!我ら神凪に牙を向いたというのか!!」

 

別の分家の男が兵衛に怒鳴る。

 

「いえ、私達風牙衆の者達ではありません。そもそも私達では神凪の皆様に敵いませぬので」

 

怒鳴られた兵衛は取り乱すこと無く冷静に応える。

 

「では、誰が殺したというのだ!!」

「風術師で一番強いのは貴様ら風牙衆だろう!」

「もし下らぬことを言うのればここで燃やし尽くすぞ!!」

 

分家全員が怒り、怒鳴り散らす。

会議室が非常にうるさくなってしまい、厳馬や重悟は眉をしかめる。

 

「静まれ」

 

その一言で部屋が静まり返った。

声を荒げたわけではない。怒鳴り付けたわけでもない。でも、誰もその一言に逆らえなかった。

 

「先代...」

 

重悟は先ほどの言葉を放った人物へと目線を向ける。そこにいるのは、神凪の先代宗主である神凪頼道だった。

 

「いい年した大人がぎゃあぎゃあ騒ぎよって、みっともない。少しは大人しく相手の話を聞かんか愚か者共」

 

もう既に八十近い年齢の老人だが、それを思わせないような体格をしている。筋骨隆々とまではいかないが、引き締まった体をしている。

そして、その眼力は老人が持っているものではない。先ほどのように一言で大の大人達を黙らすほどの迫力も兼ね揃えている。はっきり言って普通の老人とはとても言えない。

そんな人物に睨まれ叱責されると、大抵の者は萎縮して何も言えなくなる。

 

「では兵衛、続きを話せ」

 

そして、それは兵衛も例外ではない。頼道に続きを促されただけでも恐怖で体が震えている。

しかし、恐怖で押し黙っているわけにもいかない。兵衛は必死に自分を内心で叱咤しながら口を開く。

 

「はい...。此度の殺人事件の犯人は...」

 

兵衛は一端息を整える。そして、ゆっくりと犯人の名を告げた。

 

「和麻です」

 

その一言は、先ほどよりもその場にいた者達を動揺させた。

 

「なんだと!?あの無能が我ら神凪の人間を殺したというのか!」

「しかも貴様らが扱う下術で殺されただと!?そんな馬鹿な話があってたまるか!!」

 

分家の人間達はまた騒ぎ始める。同じような行動をして、先代宗主の頼道が苛立つのは当然だった。

 

「お主らは二回も同じことを言わんとわからんか?いい加減にせんと今この場で貴様らを殺すぞ」

 

更に迫力が増して、分家の人間達に言葉を叩きつける。

ほとんどの者達は黙り込む。しかし、一人何かに耐えられないように体を震わせ、反抗するように口を開く。

 

「先ほどから黙っていれば偉そうに!先代宗主だか何だか知らんが、炎術も使えない分際で!」

 

そう吠えた男の目の前の畳が抉れた。

頼道の方を見ると、大声を出した分家の者に向かって手を突きだしている。

 

「弱い犬ほどよく吠えよるわ。偉そうに、じゃと?力が全ての神凪家じゃろうが。それで?今この場でわしに勝てるやつはどれだけおるというのだ?」

 

その問いかけに答えられる者はいなかった。

それもそのはずで、この頼道という男は炎術を使うことは出来なくとも、それを圧倒する能力を有しているからだ。

その能力で他の宗主候補であった兄弟を差し置いて、神凪の宗主になった男だ。

もちろんその能力だけでなく、いろいろと策を講じたりもしたが、それでもその強さは神凪の人間は皆認めている。あの厳馬でも勝てないほどの強さを持っていることを模擬戦とはいえ示したのだから。

 

「して、兵衛。和麻が犯人だという証拠はあるのか?」

 

頼道は話を本題に戻すために兵衛に和麻が犯人である根拠を尋ねる。

 

「先ほども言った通り我ら風牙衆では神凪の術者には敵いません。ですが、和麻は既に子供の頃からこの家のどの人間よりも強かった。神凪の人間を殺すことは容易かと思われます」

 

「しかし、それは和麻が神凪の人間よりも強いという話であって、犯人である証拠では無いだろう?わしは和麻が犯人だという証拠はあるのか、と聞いたんじゃが?」

 

頼道は、無駄な話はするなと兵衛を睨んだ。

頼道の眼力に恐怖を覚え、「申し訳ありません」と頭を下げる。

 

「確実な証拠とは言えませんが、最近かなり強い風の精霊の力を感知していました。風牙の者にこれほどの力を持った者はおりません。更に言えば日本には我々以上の風術師は存在しません。また、新たに風牙衆以上の風術師が現れたという情報もありません。つまり、これは海外からやって来た風術師の仕業。我々は海外の術者も調べ、そして、ある情報を掴みました」

 

兵衛は一端話を切って、軽く一息を吐いてから再び話を始めた。

 

「《和麻という凄腕の風術師がいる》という情報です。そして、神凪の方が和麻と仕事で会った。これら二つを合わせて、私は此度の殺人事件は和麻の仕業であると確信しました」

 

ハッキリと兵衛は断言した。

先ほどまで頼道に対して恐怖に震えていたが、その震えも今は全く無い。

それほどまでに堂々とした態度で言ったのだ。

この場にいたほとんどの人が、兵衛の話を信じた。

自分達が見下している風牙衆の人間の話を受け止めるのは癪だが、しかし、兵衛の話は納得できるし、何より神凪の人間たちにとって和麻という存在はとても忌々しいものだ。

炎術を扱えないのに自分達よりも強いという事実が、神凪の人間たちには耐えられなかった。和麻と年が近い者達は特に。

つまりは和麻を潰す大義名分が欲しかった。その考えは兵衛の話を信じることに拍車をかけた。

 

「成る程な。確かに筋が通っておる」

 

頼道は兵衛の話に一応納得しておいた。だが、完全に信じた訳ではない。何か裏があると頼道は思っている。が、今ここでそんなボロは出さないだろうし、後で聞いたとしても口は割らないだろう。

ならば、形だけでも納得して兵衛を泳がしておいた方が良いかもしれない。

頼道はそう考え、

 

「わしは、和麻を犯人と決めうって動いても良いと思うが。どうじゃ?」

 

と重悟に提案する。

 

「父上!ですが、まだそうと決まったわけでは...!」

「ほとんど決まったようなもんじゃがの。まあ、宗主はお前じゃ。お前が決めよ」

 

勝手に場を仕切り、宗主である重悟を差し置いて話を進めておきながら、最終的な判断は重悟に任せる。かなり傍迷惑な行為だ。

しかし、重悟は何も言えない。あの場では頼道が適任だった。自分がやっても良かったが、頼道のように恐怖政治みたいな真似が自分にはできない。

頼道のやり方は、神凪が風牙に下らない因縁をつけない為の処置でもあった。最近の神凪の術者、特に分家の若い衆は、かなりしょうもない事で風牙の人間を傷つける。きっと今の報告だけでも風牙の人間を傷つけようとするだろう。

 

風牙の人間が目立っていた。

 

たったそれだけの理由で人を傷つけるような事をする馬鹿な人間は存在しない。今日日小学生でもしない。

でも、神凪の人間はやるのだ。それほどまでに、どうしようもなく馬鹿でクズで愚かな一族に成り下がってしまった。

マシな術者も居るがそれは基本宗家の人間のみだ。勿論分家にも力に驕らず、しっかりと常識を弁えている者もいる。しかし、少ない。圧倒的に少ないのだ。

これが今の神凪家の実態だった。

 

重悟は神凪の未来を憂いながら、とりあえず結論を出した。

 

「まだ、和麻を犯人と断定できん。しかし、一度話を聞いておかねばならんだろう。和麻をここに連れてきてくれ」

 

頼道はため息を吐いた。

 

(そんな言い方をすれば、勘違いする連中も増えるだろうに)

 

重悟は強さも申し分ないし、カリスマ性もある。しっかりと物事を考えて決定することができる。しかし、いかんせん少々甘すぎる部分がある。

 

(わしが原因なのかもしれんなぁ)

 

頼道が宗主の時は、今のように恐怖で従えさせていた。敵も味方容赦はせず、神凪も風牙も同列に扱った。

今まで神凪が風牙にやってきたようなことを頼道が、全員にした。それだけだ。しかし、それだけで恐怖を与えるには十分だった。

神凪の人間はもちろん不満に思っていた。その不満を風牙にぶつけたかったが、それもできないでいた。頼道が言った言葉。

 

『風牙を傷つけるようなことがあれば殺す。そのまた逆も然り』

 

神凪の者達が風牙に手を出すのを禁止し、風牙の者達は神凪に復讐したりすることを禁じたということだ。

その言葉によって、神凪は風牙に手を出すことはできなくなってしまった。実際手を出した神凪の一人を頼道は殺している。粛清であり見せしめだ。

重悟はそんな父を幼い頃から見てきたため、頼道を反面教師に育ってきた。

そして、今の重悟になった。別に悪い訳ではないが、神凪の人間も風牙の人間もほとんど疑わない。そんな調子ではいずれ痛い目を見るだろう。人を信じる事は大切だが、信じるべき対象を間違えてしまった。今の神凪と風牙を信じてしまっては、終わりだ。重悟の友である厳馬も堅物なだけで役に立ちはしない。戦うことしか出来ない人間だ。

まだ、綾乃と煉の方が二人よりマシかもしれない。と言っても神凪家が良くなるとは思えないが。

目の前にいる重悟。そして、部屋を見渡し、神凪の人間、兵衛、まだマシな神凪の人間、厳馬、そして最後にまた重悟を見る。

 

(神凪はもうダメじゃな...)

 

心の中でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っりゃあああああああああっ!!」

 

紅い神炎を纏った炎雷覇を正体不明の妖魔に切りつける。

かなり効いているらしく、先ほどまでとは違い、明らかにダメージを喰らっている。

綾乃は好機と思い、そのまま一気に畳み掛けるように妖魔へと切りかかる。

しかし、妖魔も黙ってはいない。風で綾乃を吹き飛ばす。

綾乃は飛ばされるが、またすぐに攻め立てた。妖魔は風を飛ばすが、綾乃は全て炎雷覇で叩き斬っていく。そして、妖魔へ猛攻を続ける。

綾乃は短期決戦を狙っていた。何故ならこの神炎は五分くらいしか出せない。力を溜めた神炎で一気に焼き尽くすという手段はあるが、溜めるのには時間が掛かるし、そんな時間を目の前の敵が許すとは思えない。

だから、超近接戦闘で相手に反撃の隙を与えないように連続で攻撃する。

敵の妖魔は確実に自分より格上だ。勝利の道筋なんてものは見えやしない。ダメージを与えているが何か決め手に欠けている。なら、連続で攻撃して削りきるか、運よく致命傷を与えるか。どっちかしか無い。

元々考えて戦うようなタイプじゃない。しかも、格上と戦ったのは和麻だけで、それ以外は全部自分より弱かった。

対和麻に備えて鍛えていたが、やはりまだ足りていなかったのだろうと実感する。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

妖魔が怒りのまま叫び、綾乃が炎雷覇を振り上げた一瞬の隙に風を束ねて綾乃にぶつける。至近距離にいた綾乃に避ける暇などなく、そのまま直撃してしまう。

 

「ガハッ...!」

 

吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。そして、綾乃はそのまま動けなかった。

敵に反撃されないように攻撃する。言うのは簡単だが実際はかなりしんどい戦い方だ。しかも相手は綾乃よりも強い。そして、綾乃は神炎を使いながら戦闘していたため、消耗も激しかった。更に、敵の攻撃を受けてしまったせいで、さっきの戦闘での集中力や気力などといったものが途切れてしまった。敵の攻撃の重さが原因でもあるが、綾乃自身もう限界だった。

荒い息をしながら、朦朧としながらも妖魔へと顔を向けると、あちらも立ってはいるもののボロボロだった。体のあちこちが焦げていて、フラフラとした足取りだった。しかし、何やら体が震えている。体を抱きしめ唸っている。そして、そのまま飛び去っていった。綾乃は何がなんだか分からず、頭の上にハテナマークを浮かべながらも安堵の息を漏らした。

 

(何かよく分からないけどラッキーだったわ)

 

すると、

 

 

 

ザリッ

 

 

 

公園の地面を歩く音が聞こえた。そして、そのまま綾乃の方へと歩いてくる。

今の綾乃は何もできない。

 

(何?誰?また敵?もしそうだったら冗談じゃ無いわよ!)

 

綾乃は焦るがどうしようもない。足音がどんどん近くなる。

そして、綾乃のすぐ近くで止まった。

 

「よぉ。えらく強くなったじゃねーか」

 

そんな言葉が聞こえた。

見ると、一人の青年が立っていた。

特に珍しい顔立ちという訳ではない。確かにイケメンの部類には入るが、そこまで目を引く程ではない。言ってしまえばありふれた日本人の顔だ。

でも、綾乃はその顔を知っていた。あの敗北から一回も忘れたことはない。目の前の青年の顔は昨日のように思い出せる。

 

「か、和麻さん...?」

 

 

 

 



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予兆的な何か

今回は何か無駄話感がすごいや


「和麻を連れてこいなんて、結構無茶だよなぁ」

 

そうぼやきながら街中を歩いているのは神凪の分家の一つ、大神家の嫡男である大神武哉だ。ちなみに彼は同じ分家の一つ久我家の娘の静と結婚しており、子供もいるという人生の勝ち組である。

 

そんな彼は今、風牙衆からの情報を貰い和麻のいる所へ向かっていた。先日、神凪で会議の結論。和麻を宗主の所まで連れてくるという結論になった。他の分家は中々にやる気を見せている。が、武哉はそこまでやる気になれなかった。当たり前だ。和麻の強さは身をもって知っている。あの理不尽な強さは忘れることはできない。あの時より強くなったとは思っている。だが、和麻に勝てるだなんて一欠片も思っていなかった。

逆に何故他の分家は和麻に勝てると思っているのだろうか。それが分からない。

 

「慎吾のやつは何かもうヤバかったし...」

 

またまた同じ分家である結城家。そこの息子である結城慎吾。慎吾と武哉は二人が組めば、宗家以外には敵無しと言われるくらいには強い。だが、その片方が軽くイカれている。まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

この前殺された神凪の人間の中には慎吾の弟である慎治がいた。慎吾は慎治を可愛がっていたため、今回の事件は慎吾を狂わせるには十分だった。だから、今回は多分彼が一番やる気に満ち溢れていることだろう。やる気が殺る気に変換されるくらいには。しかし、武哉は慎吾のイカれ具合を見て、「あ、これはダメだわ」と思い、彼とは別行動をとった。

 

別に殺し合いに行くわけでは無い。確かに和麻は強いが、和麻は暴力的な性格をしているわけじゃない。面倒になって相手を殴ることはあるが、それだけだけだ。

 

「まあ、それだけでも致命傷になっちまうこともあるんだがな」

 

武哉は冷や汗を掻きながら顔をひきつらせる。

 

(やだなーやだなー。早く帰りたいよー。早く帰って嫁さんと子供の顔見て癒されたいよー)

 

心の中で泣き言を言いながら、ゆっくりと歩く。行かなきゃいけないけど行きたくないという歩きになってしまう。

 

そして、着いてしまった。武哉の目の前に建っているのは一目で豪華とわかるホテルだ。ここに和麻は宿泊しているらしい。風牙衆の情報があっているならいるはずだ。

武哉は憂鬱になりっぱなしだ。覚悟を決めないと。顔を叩いて気合いを入れる。

 

覚悟はできたか?俺はできてる。

 

武哉が今でも好きな漫画のセリフを心の中で引用して、ホテルの中に入る。

そして受付の人に話しかけようと受付に行こうとすると、正面から「ヤツ」が来た。

 

昔と変わってないテキトーという言葉が当てはまる雰囲気。それだけでわかる男がやって来た。和麻である。

武哉は急に和麻が現れたので、一瞬だけ心臓が止まった。

しかし、武哉はなんだかんだ修羅場をくぐってきた。だからなのかすぐに意識を切り替え、和麻に近づいていく。

 

「よう、久しぶりだな和麻」

「誰?お前」

 

思いだそうとする素振りくらいしろよ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ!やあっ!」

 

子供のような、しかし気合いの入った声を出しながら、蹴りや拳を繰り出す少年がいた。神凪煉である。

彼は今組み手をやっている。相手は煉の父親である厳馬だ。厳馬による修行の一環でやっているのだが、流石神凪最強と言われているだけあって、煉の攻撃を難なく捌いていく。

 

厳馬はそんな煉を見て、息子の成長を感じていた。むしろちょっと強すぎじゃないだろうか?と思っていた。しかし、やはり厳馬も父親。自分の子供が強くなっているというのはなんだかんだで嬉しく思っている厳馬だった。

 

そんな気持ちを厳馬は顔に全く出さないため、煉は自分がちゃんと出来ているのか不安になりながらも厳馬に攻撃を仕掛ける。

煉は厳馬と違い、感情がすぐに顔に出てしまうので厳馬が内心疑問を浮かべながら煉を見る。それを顔に出さないため顔が少し厳つくなる。

 

それを見て更に煉は不安な顔をする。それが繰り返されるという悪循環が出来てしまった。だけど、そんな悪循環の中でも組み手をやっている二人。端から見るとシュールだった。

端から見ている綾乃がそう思っているから間違いないかもしれない。綾乃の感性が間違っていなければだが。片や厳つい表情を浮かべる大人の男。片や不安そうな表情を浮かべる男の子、または男の娘。そんな二人は組み手をしている。やはり綾乃はシュールだとしか感じなかった。

 

そんな綾乃は今修行とかそういう自分を鍛えることは出来ない状態にあった。先日、というかつい昨日の事だが、風術を使う謎の妖魔との戦闘でかなりの負傷をしたため現在療養中の身である。

妖魔が逃げた後、和麻と再会した綾乃だったがそこまで話し合ったりはしなかった。綾乃が負傷していたからだ。

和麻は綾乃と謎の妖魔との戦いを見ていたため、それについていろいろ感想を述べて、エリクサーを綾乃に飲ませてその場を去っていった。

 

あまりにもあっさりした、かつ突然の再会だったので綾乃は「はあ...」とか「どうも...」とか、和麻と言うことに生返事ばかりで、会ったら言おうと思っていたことを何一つ言えずに飛んでいった和麻を見ているだけだった。

そして、和麻が去っていって数分ぼーっとしていたが、我に帰ると、自分が飲まされたものがかなりの価値を持つ霊薬であることに驚いていたり、和麻が空を飛んでいたことから風術士になっていることに驚いたりと、もう驚くことしか出来なかった。

 

ちなみに謎の妖魔との戦闘については既に重悟に報告してある。報告をしたというより、ボロボロになって帰ってきた綾乃に重悟が何があったのかと、質問されたから答えたというのが正しい。質問というより詰問に近い勢いであったが。

 

更に言うと、綾乃は和麻と出会ったことに関しては言わなかった。言ったら確実に面倒なことになるだろうと思ったからだ。というか、分家の者達が時々和麻を潰す的な発言をしているのを聞いたからだ。

この状況で、和麻と会ったことを話せばいろいろと質問責めにされることは目に見えている。だから和麻のことについては話さなかった。

それに、和麻なら何があっても特に問題もないだろうというある種の信頼からでもある。

 

(でも、和麻さんが風術士になっているなんてねぇ...)

 

あの妖魔も風術士だった。そして、和麻も風術士だった。これは偶然では無いと綾乃は予測していた。和麻が帰還したのもこれが関係しているだろう。

しかし、そういった予想をしても何があったのかが解らなければ、自分が割り込んでもどうしようもないだろう。和麻も謎の妖魔もはっきり言って強さの次元が違う。あれに割り込むなど命がいくつあっても足りないだろう。

それに、和麻に関しては言うまでも無いが、妖魔の方も綾乃は勝てないと思っていた。あの時の戦闘は多分本気ではない。何となくだが、あれはまだ馴染んでいないかのような雰囲気だった。

 

あの妖魔は元々人間だったのではないか。そして、妖魔の力を取り込んで妖魔になったのではないか。綾乃はそう考えた。そして綾乃は更に思考する。

 

元々は人間だった。妖魔の力を取り込んだ。なら、あの風術はなんだ?妖魔の力を取り込んだから使えるようになった?いや、あり得ない。風術は炎術に劣るとはいえ、根本は同じだ。炎なら炎の、風なら風の。それぞれの属性の精霊王から賜った力であり、精霊王の眷族である精霊の力を借りて、妖魔を滅する浄化の力を行使できる。そんな浄化の力を妖魔が使う?そんな事があってたまるか。なら、元々術士の、風術士の人間が妖魔になったということだ。

 

しかし、あれほどの強さの風術士を綾乃は知らない。風術士として一番の力を持つのは風牙衆だ。だが、その風牙衆も神凪の人間には遠く及ばない。ましてや綾乃は神凪の中でも一線を画すほどの強さだ。それと渡り合えるほどの風術士。誰だ?一体どんな敵なのか。基本神凪は日本でしか仕事をしていない。海外の術士に恨まれるとは考えれない。

だが、恨みとはどんな形で買うか分からない。もし、海外の術士だったら。いや、海外じゃなくても、敵はどういう存在なのか。個人?それとも組織?何も分からない。

 

綾乃は一旦思考を止めた。これ以上考えると頭がパンクしそうだ。情報も少ない状況で考えても仕方ない。こういうのはもっと情報が集まってから考えよう。

父親であり、宗主である重悟にはもう報告しているのだ。いずれ情報ももっと手に入るだろう。

そういえば、ふと綾乃は思い出した。神凪お抱えの風牙衆についてだ。今彼らのほとんどはここにいない。確かある噂の調査に行くと言っていた。

 

(かなりヤバイ妖魔がいるとかだっけ?)

 

綾乃が風牙衆がいない理由を重悟に尋ねたら、そのように返された。実際はもっとちゃんとした返答だったが、綾乃はそんな事細かに覚えていなかった。

 

(和麻さんの事やあの妖魔についての情報を集めてほしいと思ったけど、いないんじゃどうしようもないわね。でも、どこだったけ?風牙衆が行った所って)

 

綾乃はう~んと唸っていた。そして、思い出して風牙衆が行った場所を呟いた。

 

「そうだ、京都だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都のある山の中。そこには小さな祠があった。その祠には何人かの人数の風牙衆と綾乃と戦った妖魔がいた。

しかし、その妖魔は今は動くのが困難になっていた。綾乃との戦闘で負った火傷に苦しんでいる。そのすぐそばには風牙衆の当主、兵衛が付き添っている。

 

「大丈夫か?辛かったろう?痛かったろう?安心せよ。ここにはお前を傷つけるような輩はおらん。だからゆっくりわしの腕で休むがよい」

 

兵衛は妖魔を抱きしめ、背中を擦ったり、頭を撫でたりしている。

それを間近で見ている風牙衆の面々は汚物を見るような顔をして、気持ち悪がっている。確かに老人と妖魔に成り下がった青年が抱き合っている場面なんて見たくない。しかも、この二人親子だというのだから、なお気持ち悪い。

しかし、妖魔になっているとはいえ、また人間としての精神が残っているのか、むしろ妖魔になったことで精神が幼くなってしまったのかもしれない。あんな風に兵衛に甘えているのを見るとそう思ってしまう。

 

「大丈夫だ。大丈夫だぞ?辛かったらわしが慰めてやる。痛かったらわしが癒しやる。だから、だからな?またわしの為に動いてくれるか?」

 

いい年通り越した老いぼれが、甘い猫なで声を出すのは、耳障りでしかたない。

セリフも何だか意味深に聞こえてしまう。周りの風牙衆は風で結界を張りながら、視覚と聴覚を攻撃してくる目の前の光景に耐えていた。

 

そして、大体二十分経つと、妖魔が立ち上がり、そのまま風の結界を破って飛んでいった。

 

「頼むぞ流也。お前が我々風牙衆の悲願を成就させるのだ。そう、外法様の力を取り込んだお前が...」

 

人では無くなったたった一人の息子。その息子に願いを託して生け贄に捧げたのだ。何としても今回の計画は達成してみせる。

そんな強い決意を秘め、流也が飛んでいった方向を見続ける。

周りの風牙衆は兵衛が見ているのは何か別の意味だと勘違いして、さらに気持ち悪がっていた。

 

 

 

 

 

 

そして神凪本邸のある一室で、「BLの気配がする」と呟いて、兵衛達がいる方向を見つめていた深雪の姿があったらしい。

 

 




深雪はニュータイプだったのかもしれない...。


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暴虐の風

かなり長く期間が空いてしまって申し訳ないです。
リアルが少々忙しくて中々時間が取れなかったのですがなんとか年内にできて良かったです。


都心から少し離れた公園。その公園のベンチには二人の男が座っている。和麻と武哉だ。

ホテルで会った二人だが、和麻が武哉の事を覚えてなかったため、武哉が十五分くらい説明して、ようやく和麻が思い出してから、やっと武哉は本題に入ろうとした。が、ホテルのロビーで五月蝿くした(主に武哉)ので、周りからの視線が痛かった。

それに恥ずかしさを覚えた武哉は、和麻を外に連れ出してそそくさと移動した。

 

別に話ができればどこでもいいと思い、適当に見つけた公園に入った。二人はベンチに腰掛けると、和麻はタバコを吸い始め、武哉は一息を吐く。そして、武哉は和麻に会いに来た理由を話始める。

 

「宗主からお前を連れてこいって言われてるんだ」

 

和麻は少し目を細めた。

 

「そりゃまた何で?」

 

タバコの煙を口から出す。

 

「お前少し前のニュース見たか?」

 

武哉は少し前のめりになって地べたを見つめる。

 

「どのニュース?」

 

和麻は武哉の言っているニュースが何なのかわかっているが、敢えてとぼけてみる。

 

「何人かの人が殺されたっていうニュースだよ」

 

武哉はぎゅっと両手を握って声を震わせながら言う。

 

「ああ、あのニュースか」

 

和麻はもう一度タバコを吸って煙を吐き出す。

 

「うん、見たよ」

 

和麻は一瞬嘘を言おうとしたが、そんなことしても大して意味無いと思ったので特に嘘は吐かずに答えた。

 

「あの事件、警察は犯人が日本刀のようなもので殺したって言ってるが、違う。あれは多分風術士の仕業だ」

 

武哉は絞り出すような声で話す。

 

「風術士は炎術士に勝てないんじゃ無かったっけ?」

 

和麻は少しおどけたように返す。

 

「俺もそう思ってたよ。でも、現に分家とはいえ何人か殺されている。それに宗主が死体の状況を聞いてきたらしい」

 

和麻は驚いたように目を見開いた。

 

「どうやって見てきたんだよ」

「神凪の権力使ったらしい」

「おいおい。それ大丈夫なのか?」

「知らん。だが、必要な事だったんだろ。1%でも日本刀の可能性があったんじゃないか?」

「そーいうもんか」

「そーいうもんだ」

 

和麻が新しいタバコを吸い始める。そして、煙を吐いた。

 

「何で宗主は俺を呼んでるんだ?」

 

理由はもう確実にわかるが一応聞く和麻。

 

「宗主がお前の事を疑っている」

 

一瞬二人の空気が張り詰める。

 

「意外だな。宗主は結構お人好しだったと記憶してるけど」

 

和麻は自分が神凪にいた頃を思い出す。

 

「だからこそじゃないか?」

 

武哉はそう返す。

 

「と、言うと?」

 

和麻は軽く聞き返す。

 

「俺達がいつも使っている風牙衆の奴等を疑いたく無いんだろ」

 

その答えに和麻は呆れた。

 

「そいつは何ともまあ。何と言えばいいのやら...」

 

武哉も同意するように苦笑する。

 

「いや、いいんだよ。俺達の中にも宗主に対してあまりよく思ってない奴等ってのも出てきている」

「おいおい、いいのか?部外者にそんなに神凪の現状を言ってよ」

「ああ、大丈夫だよ。どうせすぐ知るだろうからな」

「はあ?どういうことだよ」

 

武哉は軽く深呼吸を一回する。

 

「和麻。お前さ、俺が最初にニュースの話したの覚えてる?」

「あ?ああ、言ってたな」

 

それがなんだよ。和麻がそう言う。

 

「そのあと俺が、これは風術士の仕業だって言っただろ。その次お前が何て言ったか覚えてるか?」

 

和麻は何か言ったか?と思いながら記憶を辿ると、「あ」と言って、武哉を見る。

そんな和麻を見ながら、武哉は軽く笑う。

 

「そうだよ和麻。お前は殺されたのが炎術士と言ったな。俺はそんな事一言も言っていないのに。なあ、和麻。何で殺されたのが炎術士って知ってるんだ」

 

言った瞬間和麻は武哉の首を掴む。もちろん犯人は和麻では無い。しかし、和麻は武哉を殺そうとしている。何故か?このまま武哉がその事を言えば、神凪の大半が和麻を襲うだろうというのが容易に想像できるからだ。

別に和麻ならば傷ひとつなく相手を倒せるだろうが、果てしなく面倒くさい事この上ない。

ならば、武哉が神凪に言う前に殺す。

しかし、武哉は苦しみながらも言う。

 

「い、今俺をここで殺しても意味無いぞ...。どっちにしろ、分家はお前を狙い、続ける、から、な...」

 

意識が遠ざかりながらも武哉は言い続ける。

 

「こ、こで、俺を...殺して、面倒な、事に、なるくらいなら、神凪で...お前の無実を、証、明、し...ろ...」

 

本気で死にそうになっている武哉の言葉を聞いて、和麻は手を離した。

 

「っげほ!ごほっ!っはー!はー!」

 

武哉は咳き込みながら、和麻を見上げた。

 

「お前、これやって殺されるとは思わなかったわけ?」

 

その言葉を聞いて武哉は「ハッ!」と鼻で笑いながら言った。

 

「お前と会うと言われた時点で、それくらい覚悟してたよ」

 

和麻は大きいため息を吐いて、武哉に手を差し伸べた。

 

「よくやるよ、お前」

 

武哉は「まあな」と呟きながら、和麻の手を取った。

和麻が武哉を立ち上がらせる。

 

「神凪に来るって事でいいんだな?」

 

武哉が尋ねる。

 

「そんだけの覚悟見せられて行かないわけにはいかんだろ」

 

武哉は(和麻ってこんな性格だっけ?)と思いながらも来てくれるというならば文句は無いため、和麻の気が変わらない内にさっさと連れて行こうと決めた。多少の疑問は飲み込む事にしたのだ。

 

「んじゃ行こうぜ」

 

和麻がそう言うと、武哉ごと風で空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって神凪邸。

重悟は自分の私室に厳馬を呼び出し話し合いをしていた。

 

「此度の一件、風術士の仕業であった」

 

まず重悟が切り出した。

 

「そうでしたか...」

 

厳馬は厳しい表情のままそう答える。

 

「ああ。かなり強引な手段ではあったが、警察に頼んで遺体を状況を聞かせてもらった。写真等も見せてもらったが、あれは風術の切り口であったよ」

 

厳馬は重悟の言葉に鼻を鳴らしながら

 

「一々風術がどのような傷をつけるかなど覚えておりませんな」

 

不愉快そうに言った。

そんな厳馬に呆れながらも、重悟はとりあえず本題に入ろうと、姿勢を正した。

 

「犯人は風術士だとわかった。しかし、普通に考えれば風術は炎術には勝てぬ。だが、実際炎術士が殺されておる。これを可能なのは者は自ずと限られる」

 

重悟が本題を話したため、厳馬も先程よりも真剣に話を聞く。

 

「まさか風牙衆の連中がやったとでも言うつもりですか?あやつら程度が我等神凪をどうこうできるとは到底思えませんが」

 

しかし、やはり風術士が炎術士を殺したという事実は今でも信じられなかった。

 

「いや、さすがに風牙衆の者たちではない。確かに風牙衆は風術士の中ではトップレベルだが、お前の言うとおり炎術士に勝てるというわけではない。が、現場に大きな焦げ跡があったと聞いた。つまり、お互いに戦ったということだ」

 

そこまで聞けば、流石の厳馬でも気づいた。

 

「なるほど。風術士が気配を隠し、不意討ちで仕留めた訳ではないということですか」

 

厳馬の言葉に重悟も頷く。

 

「犯人は正面から堂々と殺したのだ。そして、わしはこのような事をできるであろうと思われる人物に心当たりがある」

 

厳馬は驚いた。少なくとも自分には心当たりなど一つも無いからだ。

 

「わしは恐らく和麻ではないかと考えておる」

 

重悟は自分の心当たりを述べた。

 

「何ですと?」

 

厳馬の顔が険しくなる。

 

「わしも和麻を疑いたくは無い。しかし、炎術士に勝てる風術士が和麻以外思い浮かばんのだ」

 

厳馬は慎治の言っていたことを思い出した。

 

「確か、慎治が言っておりましたな。和麻が風術士なっていたと」

 

厳馬の言葉に重悟は頷く。

 

「しかし解せませんな。あの馬鹿者が我等に牙を向く理由がわかりません」

 

和麻が犯人なら確かに炎術士を殺せるかもしれない。だが、それをやる理由が無い。基本的に面倒くさがりな性格をしている和麻がこんなことをするとは思えなかった。

 

「あいつは馬鹿ですが、頭が回らないという訳ではないございません。いくらあいつが強いと言っても神凪を敵に回せば私と宗主が出向く事は必然。あいつがそれをわからないとは思えませんが」

 

厳馬は自分の意見を重悟に告げる。少なくとも和麻が高校生の時まで父親をやっていたのだ。それくらいは厳馬でもわかる。

 

「むぅ、なるほど。厳馬はそう思うか。なら、やはり私の予想は間違っておったようだ」

 

厳馬の考えを聞いて、重悟は何故か嬉しそうな顔して一人で納得していた。

 

「何故そんなにも嬉しそうな表情をなさっているのですか?」

 

しかし、厳馬は重悟が嬉しそうにしている理由がわからない。

 

「なに、何だかんだ言ってもやはりお前が父親であったことが嬉しく思っただけよ」

 

重悟の言葉に厳馬は元々の仏頂面が更に仏頂面になった。

 

「はっはっは。照れるな照れるな」

 

厳馬の態度に何も言わず、むしろ面白そうに厳馬の肩をバシバシ叩いた。

 

「ええい!いい加減にしろ重悟!いつまでも人の肩を叩くな!」

 

そんな重悟に苛ついたのか、いつものような敬語ではなく昔のようなタメ口になってしまう。

重悟は一瞬驚いた顔をしたが、さっきよりも大きい声で笑いだした。

重悟がひとしきり笑ったあと、厳馬はイライラしながら話を戻す。

 

「ンンッ!話を戻しますぞ宗主」

「何だ?さっきのようにタメ口でも構わんぞ?」

「それを蒸し返さんでください!」

 

全く。と、厳馬はため息を吐いた。

未だに笑っている重悟を咎めるように睨むと、流石にしつこすぎると自覚したのか重悟も姿勢を正した。

 

「わかったわかった。ちゃんとするからそう睨むな」

 

そう言った後、咳払いをして真剣な表情のまま話し出す。

 

「さて、和麻ではないとなると一体誰が犯人なのかということになるが...」

 

重悟は悩みだす。厳馬も一緒になって悩む。

 

「風術士が犯人なのは間違いないのですか?」

 

厳馬がもう一度重悟に確認する。

 

「ああ。それだけは確かだ。わしが保証する」

 

その言葉に厳馬は重悟がそう言うのであれば本当だろうと信じる。

伊達に神凪のトップをやっているわけではない。

 

「ならば犯人は一体......っ!?」

 

 

 

 

ッドオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

 

唐突に神凪邸の一部が吹き飛んだ。

 

「な、何ィっ!?」

 

あまりにも突然の出来事に厳馬も重悟も動けなかった。

だが、それも一瞬の事。禍々しい気配が感じる庭先に出ていくと、そこには黒い風を纏った男、流也がいた。

 

「犯人が誰かわからんと悩んでおったがその心配は無くなったようだな」

「そのようですな」

 

二人は神炎を出しながら流也を睨み付ける。

 

「お父様!!」

「父様!!」

 

綾乃と煉がやって来る。その時綾乃の声に流也が反応する。

 

「ガアアアアアアアアアアア!!」

 

流也は叫びながら、黒い風を綾乃へと放つ。

 

「っ!?炎雷覇!!」

 

流也の風を綾乃が受け止める。が、受けきれず吹き飛ばされる。

 

「姉様!!」

 

煉が声を上げる。しかし、

 

「アアアアアアアアア!!」

 

流也は余所見をしている煉に風を放つ。

煉が気づくが、既に風が目の前に迫ってきていた。

 

「ぬんっ!!」

 

厳馬が煉の前に出て、炎で風を掻き消す。

 

「父様...あ、ありがとうございます」

 

煉がお礼を言うが厳馬は一切反応せず、流也を倒しに行く。

 

「ぬおおおおおおお!!」

 

厳馬が神炎で流也を攻撃するが圧倒的な質量を持った風の壁で防がれる。

更に重悟が炎を放つもやはり防がれてしまう。

 

「これは少々不味いかもしれんな」

 

重悟が少し顔を歪めながら呟く。

厳馬も口には出さないが、同じような考えを持っていた。

あの風の壁は360°どこからでも出せるだろう。相手が普通の風術士ならば、神炎でそのまま突き破ればいい。しかし、相手は普通ではない。神凪のツートップ二人の神炎を防ぐほどの強さだ。

本来風術は他の精霊術に比べてかなり自由度が高い術である。だからこそ力があまり強く無いという欠点が存在していたのだが、目の前の男は自由度も力も圧倒的だった。

重悟と厳馬はその事に気づいたが、だからといって退くわけにはいかない。

二人がもう一度流也に仕掛けようとした。

 

「裏切り者和麻!!お前はここで死ねぇ!!」

 

突如たくさんの炎が流也へと殺到した。

 

「どうだ!神凪の力を思い知ったか!」

「無能の分際で付け上がるからこうなるのだ!!」

「どれだけ身体能力が高かろうと我々神凪の前では無力なのだ!」

 

神凪の分家達だった。分家の者たちのほとんどが目の前の敵を和麻だと思い、そして先程の炎で倒したと思っている。

 

「皆の者直ぐに逃げろ!!」

 

それはあり得ないと分かってるからこそ重悟は叫んだ。しかし、その声に反応する前に

 

「え?」

 

分家の人間の首が十人程飛んだ。

 

「ガアアアアアアアアアアア!!カンナギィィィィィィ!!!!」

 

無傷で現れた流也は誰が見ても分かるほどブチ切れていた。

憎悪にも似た殺気がその場にいた全員に叩きつけられた。分家は勿論、煉や復活した綾乃も動けなかった。その中で動けたのは、重悟と厳馬の二人だけ。

二人は全力の神炎を流也にぶつける。が、流也はそれ以上の力で弾き返し、二人をぶっ飛ばした。

 

「お父様!!」

「父様!!」

 

綾乃と煉が叫ぶ。しかし、流也はそれだけで終わらなかった。

風が流也に向かって集まり出す。そして、今いる神凪全員に風が放たれた。

それは台風といのもおこがましいほどの風だった。この時神凪の全員が死を覚悟した。

 

「おーおーはしゃいでるねぇ」

 

その風が届く事はなかった。

代わりにどこか優しく、穏やかなそよ風が吹き抜けた。

それの発信源は気だるげで面倒臭そうで軽薄そうで、でも、とても頼りなる背中だった。少なくとも煉と綾乃はそう思った。

 

「久しぶりだな流也」

 

和麻が帰還したのだ。

 




次回は和麻VS流也です。
できれば早くできたらいいですけど...。
まあ、なるべく頑張りたいと思います。
では、少し早いですが良いお年を。


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さすかず!

タイトルはそこまで考えてないです。


目の前にいる男、和麻の存在に誰もが目を疑った。

何故ならこの場にいる殆どの者がさっきまで敵対していた黒い風を使う流也が和麻だと思い込んでいたのだから。

しかし、現実に和麻は今そこにいて、神凪の人間を守っている。

だが、何故和麻が神凪の人間を守っているのかと言うと、武哉が自分を嵌めたのがとても面白かったから、一つくらいならできる範囲の事はやってやると調子に乗って言ったため、武哉に「なら、この一件神凪を助けてくれないか」ということを安請け合いしてしまったからだ。

 

(だからっていきなりピンチに陥ってるってどういうことだよ。早速さっきの約束を守らないといけないってのはメンドーだな)

 

和麻がそう思っている間も流也は黒い風で殺そうとしてくる。

たが、和麻の風の守りを破ることはできない。

 

「ガアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

流也は何度攻撃しても突破できない事実に苛立ちを隠せずに叫ぶ。

 

「うるせぇな。獣かテメーは」

 

いや、理性無いし獣みたいなもんか。と、呑気に呟くと、軽く腕を振る。すると、流也の周りに風が巻き起こる。

明らかに流也の黒い風とは違う、和麻の風だった。

そして、その風がいきなり竜巻になり、流也を包み込む。

すると、流也の纏っている黒い風が削がれていく。

 

「ギ、ア、アアッ...!」

 

流也は何故こうなっているか理解する事ができなかった。

ただわかるのは、自分はこのままでは消えてしまうということだけ。

必死にどうにかしようと足掻くが、どうしようもなかった。

しかし、流也は自分の理性が戻ってきている事に気づいた。そして、とても心地よい気持ちに包まれた。

自分の心が穏やかになって荒れ狂った悪感情が落ちつていく。

和麻の方を見ると、あれほどやる気の無かった目が今は真剣になっていて、そして、なによりも蒼く輝いてた。

流也は最期に消える時に和麻に笑顔を見せた。

 

「ありがとう」

 

そう言って流也は消えて去った。

 

「殺した相手に感謝なんてしてんじゃねぇよ」

 

和麻は苦虫を噛み潰したような顔で流也が消えるのを見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵衛様...。先ほど流也様が...」

「分かっておる」

 

兵衛は神凪邸の方角を睨みながら部下に命令を下す。

 

「流也が駄目になったのであれば、次の策を使うぞ。準備に取りかかれ」

「はっ!」

 

部下が消えると、兵衛は憎々しげに呟く。

 

「流也を殺ったくらいで調子にのるなよ神凪め。どれだけ足掻こうが貴様らに訪れる未来は破滅だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風牙衆が次の策のために動いている最中、神凪邸では和麻が神凪の人間の殆どに炎を向けられていた。

 

「何で俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ」

 

和麻がぼやく。

 

「黙れ!少しでも妙な動きをしたら燃やし尽くすぞ!」

 

誰かがそう叫ぶ。

その言葉に対して、綾乃が返す。

 

「ちょっと待ってよ皆!和麻さんは私達を助けてくれたのよ!?何でそんなに敵視するの!?」

 

綾乃がそう言っても誰も警戒を解かない。

そんな状況で重悟が一喝した。

 

「やめんか!馬鹿者共!お前達は命の恩人になんたる態度をとっておるのだ!!」

 

重悟にそう言われると、皆渋々炎を消していく。

そんな様子に重悟は大きくため息を一つ吐き、和麻の方を向いた。

 

「すまなかったな、和麻。お前は私達を助けてくれたというのに」

 

申し訳なそうに重悟が謝る。

 

「いや、あんたが謝ることじゃないよ。それよりもさ色々と説明してくんない?」

 

和麻はどうでもいいと言った態度で、重悟の謝罪を軽く流す。

 

「あいつ、名前なんつったか忘れたけど、一応あいつに事情聞いたけど、あんたの口から説明してもらいたい」

 

和麻が武哉を指差す。武哉の名前を早速忘れている辺り

、神凪に対して何も想っていないことがわかる。

その事に気づいた重悟は悲しくなったが、決して表情には出さず、和麻の言葉に頷いた。

 

「そうだな。では、私の部屋に来なさい。厳馬、お前も来い。周防、お前もな」

 

そう言って、屋敷の中に入ろうとする重悟の前に綾乃が立ちふさがる。

 

「何だ綾乃。これから大事な話し合いをするのだ。そこを退きなさい」

「お父様。私もその話し合いに参加するわ」

「ならん。お前には関係の無いことだ」

「関係ならあるわ!さっきの事について話し合うんでしよ!?私は神凪の直系でお父様の娘よ!なら、私にだって参加する権利はあるわ!!」

 

そう言って綾乃は重悟を真っ直ぐ見つめる。

重悟は綾乃の目を見て、大きなため息を吐く。

 

「わかった。そこまで言うのならばお前も参加しなさい」

「本当!?ありがとうお父様!」

 

綾乃の喜んでいる様子を見て、またため息を吐く。

 

「あまりため息を吐くと幸せが逃げますぞ、宗主」

「やかましい」

 

少しニヤけ顔で重悟を揶揄う厳馬に、少しイラッとくる重悟。

 

「あの父様、僕も参加してはいけませんか?」

「何?」

 

そんな二人の横から煉が厳馬に話し合いに混ざりたいと言い出した。

 

「分を弁えろ煉。お前が入る余地など無い」

 

厳馬が冷たく言い放つが、煉は諦めずに言葉を重ねる。

 

「確かに、僕はまだ未熟で何の役にも立たないかもしれないけど、でも、このまま黙っていられる程大人じゃない」

 

厳馬は煉の言葉に込められた意思の強さに、煉の本気を知った。

これは梃子でも動かないだろうと思い、仕方ないという態度で

 

「わかった」

 

たった一言で了承した。

その言葉に嬉しそうに顔を輝かせる煉に思わずため息を吐いた。

 

「ため息を吐くと幸せが逃げるぞ厳馬」

「やかましいぞ、重悟」

 

意趣返しと言わんばかりに、ニヤニヤと嫌みな顔でさっきと同じ言葉を厳馬にかける。

厳馬は敬語を忘れ、重悟に言葉を返す。

 

そんな二人をこっそり観察している女性がいた。和麻と煉の母親で、厳馬の妻の深雪である。

 

「ぐへへへへ。妄想が捗るわぁ。あの二人のカップリングはやっぱり至高ね」

 

こんな状況でも彼女は平常運転である。

 



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