RED GUNDAM (カメル~ン)
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第01話 ガンダム大地に立つ!

 

「ジオンの赤い彗星が来たぞーー!」

 

 地球連邦軍の戦艦マゼランタイプの艦橋では、敵の急速接近の対応に騒然となっていた。

 現れた機体は、地球連邦軍から鹵獲された、RX-78ガンダム。

 

 そして、その機体の色は―――『真っ赤』だった。

 

 ビームライフルはグレーの金属色、シールドは変形六角形に窓があり、赤の枠に白地に黄色いジオンマークが黒縁でくっきりと入っていた。

 とにかく速い。

 小艦隊を組む地球連邦軍の戦艦や巡洋艦から苛烈な砲撃等が行われるが、離れて見ていると全く標準が合っていないとしか思えない状況だ。

 すると、赤いガンダムのビームライフルから伸びるエネルギーの軌道が、戦艦マゼランタイプに吸い込まれた。間もなく、艦の内部から弾けるように爆発が広がり大きな火球へと変貌する。

 その光景が立て続けに六つ程起こるが、すぐに暗闇の広がる宇宙へ戻る様に消えていった。

 

 赤いガンダムのコックピットに座る特徴のある白いヘルメットとグレーのマスクを被った青年将校は、自身の乗船しているムサイ艦へ通信を開くと告げる。

 

「これで全部沈めたな。直ちに帰還する」

 

 彼の名は―――シャア・アズナブル。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 吸い込まれるような漆黒の中、足元も含め全天で星々が光っている。

 そして、空気の存在しないこの空間で星は瞬くことは無い――ここは新しい人類の宇宙(そら)。

 その空間を漂うように進む、其々が十数メートルはある大きな人型の影が六つ。

 ジオン軍の誇るモビルスーツ、MS-06ザクII。

 それらの中に一つ、赤い機体があった。頭部の一つ目なメインカメラモノアイが周辺を確認するように左右へスライドしながら動く。

 そして無線封鎖の為、機体の手先のサインで周辺機へ指示を出す。

 

『事前の手筈通りに(ガウラ曹長とカル軍曹はコロニーの外で周辺警戒。スレンダー軍曹は中へ入った出入口で待機。デニム曹長とジーン軍曹は、私に続け)』

『『了解、少佐殿』』

 

 曹長二人も、機体の手先のサインで答えた。

 少佐は部下たちを率い、目元を覆うマスクの外にある口許に不敵な笑みを浮かべつつ資材出入口から中へと突入して行った―――。

 

 

 

 人類が宇宙に進出して半世紀以上が過ぎていた―――宇宙世紀0079年。

 地球と月の周辺には、人類の新しい生活場所であるスペースコロニーがいくつも浮かべられていた。

 月の裏側にあったサイド3は、この年初頭に『ジオン公国』を名乗り、地球連邦政府へ独立戦争を仕掛ける。

 ジオン軍は開戦一週間で、サイド1、2、4を殲滅。サイド2に至っては毒ガスで虐殺した上、のちにその8バンチコロニーである『アイランド・イフィッシュ』を―――地球の地上へ落下させる『コロニー落とし』まで行なった。

 開戦一ヶ月ほどで総人口の半分を死に至らしめ、人々は自らの行為に恐怖する。

 このあと、両軍は膠着状態に入り半年以上が過ぎていく。

 

 地球に対して月とは反対側のラグランジュ点付近に浮かぶ、スペースコロニーの一つ、サイド7。

 そこで生活を送っていた15歳の少年アムロ・レイは、機械オタクで日々ひきこもり気味な性格の子だったが、まだ平和に暮らしていた。

 しかしある日、コロニー内へジオン軍の進攻を受けて、宇宙港に入港している地球連邦軍の軍艦WB(ホワイトベース)へ避難することになった。アムロは怠惰な生活の所為か、準備が遅くなり出遅れ気味に家を出る。

 その避難の途中で、ジオン軍の主力MS(モビルスーツ)ザクの攻撃の余波で爆風が起こり、彼も余波を受け軽く吹き飛ばされる。その時、偶然目の前に「V」と表紙に書かれた重厚なマニュアルが飛んで来ていた。なんとなしにページを捲って見ると、それはなんと連邦の新型MSの操縦マニュアルだった。

 

 マニュアルにあった連邦軍の新型MSの名は―――『ガンダム』。

 

 アムロは、兵器類がある工業地区に父がいるはずと、軍の開発者主任であるテム・レイを捜しに行く。やっと見つけるが、話や避難は兵器類を軍艦に搬入してからだ言われてしまい、すごすごと一人で先に避難するため宇宙港の入口に上がる場所へやって来る。

 そこには、マニュアルで見た形の新型MSが積載トレーラーの上に乗せられていた。

 だが、ちょうどその頃、シャアの率いるザクの小隊もその新型MSに気が付いていたのである。

 ザクから近隣の防御施設へ攻撃を受けると、運悪く直撃を受け、目の前で軍のMSパイロットは戦死してしまった。

 傍にいてそれを目撃したアムロは呟く。

 

「くそっ……僕に、出来るか……いや、今はやらなくちゃ。やってやるさ」

 

 そう言ってマニュアルを握りしめ、ガンダムによじ登ろうとしていた。

 しかし―――。

 

『動くな、そこの青年』

 

 機体のスピーカーを通して鋭く厳しい声が響いた。

 アムロは咄嗟に振り向く。

 そこには赤いザクが機体上半身をこちらへ向けて立っており、120mmザクマシンガンの銃口をアムロへ―――コクピットの開いたままのガンダムへと向けていた。

 積載トレーラーの上で横になっているガンダムの腕に、片足まではよじ登れていたが、腰のコクピットまではまだ距離があった。

 

『そこから降りたまえ。死にたくなければな』

 

 赤いザクの横にいる二機の緑のザクの内の一機が振動を伴って歩いて近づいて来る。

 アムロは―――諦めてガンダムの腕から降りた。

 

 アムロは緑のザクのパイロット、ジーンに捕まった。

 重厚な新型MSガンダムのマニュアルと共に。

 

 赤いザクも近付いて来ると、そのパイロットが降りて来る。

 鮮やかな赤い軍服姿に、鋭い角を持つ独特のヘルメットとマスクを被った、口もとからはまだ若い青年のように見える人物だ。

 周りからは「少佐」と呼ばれていた。

 彼はアムロを見ると口を開いた。

 

「非常時に私服か。それに随分若いな、名と階級は?」

「……」

 

 アムロは、軍人でない自分が何と言っていいのか迷ってしまった。

 返事次第では即射殺だろうから。

 

「黙秘か、まあいい」

 

 マスクを被った「少佐」は部下にマニュアルを渡されると、徐に捲ると呟いた。

 

「大体分かった、私が動かしてみる。その者は救命カプセルにでも放り込んで船まで連行しろ。聞きたいことがある。私のザクは、私がコイツで運ぶ」

 

 そう言って、マスクを被ったジオン軍のパイロットであるシャア少佐は、ガンダムの方を見上げた。

 

「はっ、了解しました」

 

 部下の声をすでに背を向けて聞くと、シャアは軽やかに新型MSガンダムのコクピットに入り込むと搭乗口を閉める。

 室内ランプの元、ザクの五倍もあるメインゲインを起動した。

 

 慣れた手つきで、操縦桿を操作するとガンダムは動き出し―――大地に立ち上がった。

 

 シャアは、周辺にあったガンダムのシールドを背負い、ビームライフル一丁を部下のデニムのザクに持たせると、赤いザクを抱えてコロニーの外へと脱出した。

 そして―――パイロットと間違われた様子で、アムロもサイド7から捕虜として連れ去られてしまった。

 

 

 

 歴史の流れが、大きく変わろうとしていた―――。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年02月23日 投稿
2015年02月24日 文章修正
2015年02月26日 文章修正
2015年02月28日 文章追加
2015年03月02日 開戦状況の文章追加
2015年03月06日 文章修正
2015年03月09日 文言修正
2015年04月04日 文言修正



 補足)日付等
 一年戦争開始は0079年1月3日。
 サイド7鹵獲作戦は、同年9月18日。


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第02話 ガンダム移送命令

 

 シャアは、サイド内で連邦軍の白い新型MS(モビルスーツ)の鹵獲に成功する。

 

 サイド7周辺で待機するシャアの部隊は、将官用ムサイと更にもう一隻ムサイがあった。

 二隻のムサイは、副官のドレン少尉が指揮し、その援護を受けてシャアらのザク隊は一機も失わず帰還し、シャアの操縦するガンダムも艦後尾から格納庫へ帰還していた。

 艦橋へ上がって来たシャアをドレンが出迎える。

 

「少佐、おつかれさまです。大成功ですな」

「君も留守中、良くやってくれた。悪いがソロモンのドズル中将を呼び出してくれ」

 

 戦場からの宇宙要塞ソロモンへの帰投途中に、連邦軍の『V作戦』を偶然キャッチしたシャアは、事前にドズル・ザビ中将へ連絡を取っていた。そして可能なら連邦の『V作戦』の新造戦艦の情報とMSを奪取せよと命令されていたのだ。

 直通レーザー通信のモニタにドズルの姿が映ると、MS鹵獲成功の経緯を簡単に説明する。

 

「さすが赤い彗星のシャアだな、すばらしい功績だ。特進を近いうちに進言しておこう」

「はっ、ありがとうございます、中将。あの、一つお願いがあります」

「なんだ?」

「連邦の鹵獲した新型MS(モビルスーツ)、私に使わせていただきたいのです。データ等についてはこちらへ技術者をお送りください」

「気に入ったか。うーむ、それに実戦データも取れるというわけか……」

「はい、敵ながらすばらしい性能の機体です。これなら新造戦艦の情報も容易く取れると思います」

「……悪いが、貴様と貴様の艦は、すぐにソロモンへ帰投しろ。残り一隻は連邦の新造戦艦を追跡してもらいたい。戦力については心配するな、こちらから別のもう一隻を合流させるべく向かわせる」

「ドズル中将……」

「こちらにも都合がある……妹がな。今は我慢してくれ、悪い様にはせん」

「……はっ、分かりました。直ちにソロモンへ帰投します」

 

 現物を手元に置き、キシリア・ザビ少将に対し大きな手柄を先んじたいのだろう。

 通信を終わると、シャアはアムロを独房へ連れて行き報告に帰って来た軍曹に尋ねた。

 

「あの私服の連邦の士官は、どうしている?」

 

 連邦初のMSに雑兵が乗る訳がないのである。若そうに見えたが最低でも少尉以上と思われていた。

 

「大人しいですが……爪を噛んでましたね」

「「爪?」」

 

 横にいるドレン少尉と顔を見合わせ、声もハモった。

 こうして、シャアの将官用ムサイは間もなくサイド7宙域を離れソロモンへと向かう。

 だが、シャアには一つ気掛かりがあった。

 赤いザクでサイド7へ侵入した折に、避難の遅れた者を探しに車で移動していたのだろう、妹のアルテイシアにとても雰囲気と姿が似ている少女を見かけたのだ。道を塞ぎコクピットからザクの手の上まで降りて彼女に向かって素顔まで見せたが、他のザクの攻撃の振動で機体が傾き、その隙に逃げられてしまっていた。

 

(あの少女、似過ぎている……せめてサイド7に残ってくれていればいいが)

 

 

 

 そのころサイド7内では、コロニーの外に二隻のムサイ級軽巡洋艦があり、鹵獲されたガンダム以外に最低でも六機ものザクが存在するという情報を掴んでおり、焦った状態での出航を見送っていた。

 さらにコロニー内の戦闘では、動きの素早い赤いMSも見たという。

 

 WB艦長のパオロは呟いた、「鮮やかな手際と言い、ジオンの『赤い彗星』では」と。

 

 また宇宙港に停泊する、地球連邦軍新造戦艦WB(ホワイトベース)の艦内に残った軍属はかなり少ない。ただジオン側がガンダム鹵獲後すぐに引き上げたため、軍人はまだ三十人ほど残っていた。とはいえ正規のパイロットは不足している、というか居なかった。訓練兵のみである。

 WB自体の操艦もスペースグライダーのライセンスしかない、ミライ・ヤシマが買って出ていた。

 そんな中で、外へ出ていけば圧倒的に不利であったのだ。

 それを是正すべく宇宙港では、テム・レイのもと、残ったMSの搬入と調整が急がれていた。

 ガンキャノンが三機、ガンタンクが二機、コア・ファイターが三機。(ガンタンクはまだ二機あったが、乗り切らずサイド7に残る)

 ジオン側は、あの場に一機しかなく『人型で希少性』があると見た、白いガンダムのみを速やかに鹵獲して行っただけだった。

 それが幸いなことに、ガンダムの予備パーツも多く残っており、なんと―――

 

 

 もう一機ガンダムが組み上がっていた。

 

 

 WBの艦橋にテム・レイが整備終了の報告に上がって来ると、艦長のパオロ・カシアス中佐が艦長席で出迎える。補佐のブライト・ノア少尉とも軽く礼を交わす。

 

「ありがとう、レイ大尉。……息子さんが行方不明なところを」

「いえ、艦長。これが戦争ですから」

 

 艦長の言葉に、アムロの父はどこか冷めた形式的な返事を返していた。

 

「私に今出来る事はしておきました。あとはパイロットの方々にお任せします」

「……ここサイド7へは、援軍を差し向けるように要望を出しているから。しばしの辛抱だと思う」

「はい、ありがとうございます。では、私はまたこの地へしばらく残って研究を続けますので。失礼します」

 

 彼は下へと戻って行った。

 サイド7の外郭には直接穴は開いておらず、また多すぎる避難民すべてをホワイトベースに乗せることは出来ない状況だった。乗艦希望者の中で、若いもの、技術の有る者とその家族のみに選別された。ハヤト・コバヤシやフラウ・ボゥの家族らは皆、無事に乗艦していた。

 フラウらは艦内の雑用を行っていた。また彼女は元気な良く通る声と、アムロからいつの間にか教わっていた機械操作がある程度出来たため、サブの通信士としても考えられていた。

 

(アムロ……どこに行っちゃったの)

 

 それからしばらくすると、艦橋にいるオペレーターの一人、オスカ・ダブリンが外のムサイ艦二隻の内の一隻がサイド7宙域を離れてレーダー外へ出て行くと伝える。

 艦長は好機と見て、間もなくの出航を決断した。

 

 サイド7からゆっくりと白い木馬風な巨体の船が出港してゆく。

 護衛にガンキャノン二機とコア・ファイターが一機。

 加えて今、カタパルトにビームライフルを持ったガンダムの姿があった。

 それらのパイロットは、船内のシミュレーターで選考されており、訓練兵並びに候補者の中から上位が選ばれていた。艦長による戦時下の特別措置だ。

 

 コア・ファイターには、リュウ・ホセイ。

 ガンキャノンには、ジョブ・ジョンとカイ・シデン。

 そしてガンダムには―――

 

 

 

「セイラ・マスです。ガンダム、発進します!」

 

 

 

 カタパルトから急加速で打ち出され飛び出し、宇宙空間を飛翔先行する白いガンダム。

 彼らの目標は連邦軍の最前線基地、ルナツーである。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年02月26日 投稿
2015年03月11日 文章修正
2015年04月04日 文章修正



 WBは、生き延びることが出来るか……



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第03話 アムロの顔面を叩け!

 

 モニター越しで、ノーマルスーツ(宇宙服)すら着ていない、その赤紫の髪の少女は自然に優しく微笑んでいた。

 

「だって、私もMS(モビルスーツ)に乗って貴方の傍に行ってみたかったんだもの、アムロ」

「だからって危ないじゃないか」

「ふふふっ。大丈夫、平気よ(苦境から私を救い出してくれた白い騎士様♪)」

 

 シャアが少尉扱いのアムロへ譲った、あのブレードアンテナを残したまま赤から白へ塗り替えた3倍速の専用ザクで、彼の試験搭乗が行われた時にちょっとしたハプニングが起こった。

 試験そのものは、アムロが白い3倍速のザクを難なく乗りこなし順調に進んでいた。

 それは、キシリア・ザビ少将よりアムロの身体調査で命じられ訪れた某施設から、アムロが可愛そうだと引き取って来たまだ少し幼い感じの少女が、格納庫にあった通常のザクへこっそり忍んで搭乗し、宇宙空間にいる彼の白いザクの傍まで勝手にやってきたのだ。

 当然彼女は、正規のMS搭乗訓練など受けていなかった。

 だが見事に操縦してのけていた。

 シャアも驚いていた。確かに数か月前、初めて某施設でこの少女を見た時『力』を感じた。

 だが、その施設で彼女は大した能力数値を出していなかったという。だから施設も持て余し、環境を変える意味で外へ出すことに同意したようだ。

 しかし今、この宙域に広く鋭い感覚を覚えていた。

 

(環境や感情がこれほどの影響を与えるということか……)

 

 シャアは、星空の一画から射す日の光を受けて浮かび上がっている、手を取り合う白と緑のザク二機の様子を、赤いガンダムのコクピットの中から静かに眺めていた。

 

 その少女の名は―――ハマーン・カーンといった。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 シャアの将官用旗艦型ムサイは現在、ドズル中将の指示に従い『鹵獲したV作戦関連の新型MS』を届けるため、旧サイド1があった地点近くに浮かぶ、ジオンが誇る宇宙要塞ソロモンを目指している。

 ムサイ艦内を管理している曹長の一人が、格子越しの独房にいるアムロへ簡単な尋問を開始していた。

 本当ならドレン少尉が担当するところだが、シャアに代わり連邦軍新造戦艦を追撃するムサイで指揮するためサイド7宙域に残り、この艦には不在だった。

 そのためシャア自身がと思ったが、度重なる作戦の最前線に出続けており、部下から是非少し休むようにと進言されて一時間程前から自室で休んでいる。

 そして捕虜のアムロは、独房内や今の尋問の合間もサイド7の事を思い出していた。

 

(フラウ・ボゥや父さん達、みんなは無事なのか……)

 

 曹長がアムロへ何度目かの確認をする。

 

「貴殿は少佐殿の質問に黙秘したそうだな? 名と階級も言えないとは……当然所属も言えないか。それは……極秘の『V作戦』の関連部署ではないのか?」

 

 アムロは繰り返される質問について、困惑しつつも黙秘し続けていた。軍人じゃないと言った瞬間に命が無いのではと思っていた。それならまだ黙っていた方がそれらしく見られるのではと。相手がどう思おうとそれは相手が勝手に考えた事なのだ。

 

(僕は―――悪くない)

 

 士官への尋問と言う形で今のところ手荒な扱いも無い。これが何かの失言で、雑兵扱いに変わるのではと思うと気が気ではなかった。

 

 ソロモン到着までは、まだ二日程掛かる距離があった。だが、アムロはそのことを知らない。いつまでこの独房に押し込められるのか。

 15才の少年には不安な感情しか湧いてこなかった。

 

 そこへシャアが現れる。やはり気になっていた。

 

(彼から感じる、あの独特の感覚……)

 

 シャアはこの独房にいる人物にサイド7で遭遇した時から、何か今までと違う感覚があった。いや、某施設で感じたあの『赤紫の髪の少女』的な独特な感覚というべきか。

 具体的にはなんとも言えないのだが。

 

「曹長、変わろう」

「はっ」

 

 人払いをした形になったところで、シャアがアムロに問いかける。

 

「君はこの戦争をどう思う?」

「…………」

「良いか、悪いかで表現してみたまえ」

「…………良い戦争だと言えるのは、勝った陣営の人達だけです」

「そうだな、勝った方が正義になるからな。君は正義を目指しているのか?」

「………?」

「だからMSに乗ろうとした、違うか?」

 

 アムロは、この「少佐」の質問の意図が掴めていなかった。

 だが同時に考えていた。

 

(僕は……あのとき何のためにMSへ乗ろうとしたんだ? ただ必死だっただけなのか)

 

 シャアとしても考えていた。『あの目的』を一人で完遂するには限界がある。

 不思議とこの目の前の若い人物には、良く分からないが『力』を感じていた。

 だが、今はまだ捕虜である。段階を踏まなければならない。

 

「君が勝ち負けにこだわらず、早く戦争を終わらせたいと思う気があるなら----私に協力したまえ。悪い様にはしない」

 

 またシャアには目の前の人物が、普通のがむしゃらに凝り固まった軍人には見えていなかった。そもそも非常時に私服だったのだから。(まさか一般人が最高機密のMSに乗り込もうとするとは思っていない)

 

「……それはジオンが勝つという形なのか?」

「どうかな。私はそれに拘ってはいない。時間はまだある、まあゆっくり考えたまえ」

 

 そう言うとシャアは、格子の独房前にある席を立とうとする。

 

「そうだな、先に君の力を見せてもらおうか」

「えっ?」

「この少し後で、シミュレーターを使って見せてもらおう。本気を出してもらうため、規定に達しない場合は―――手か足を銃撃する。まあ、頑張ってくれたまえ」

 

 シャアの味方には『強者』のみが必要なのだ。味方にするのはそれが分かった後でいい。

 

「それって、捕虜虐待なんじゃないのか!」

「君は歴史や戦時下の法則を知らないのか? 真実を知る者がいなくなれば、無かったのと同じだという事を」

 

 アムロは絶句していた。そして一人になり少しすると、爪を噛み始めた。

 

 

 

 ルナツーを目指すWB(ホワイトベース)の後方にムサイが一隻追尾していた。

 WBの艦橋では二人のオペレーターの一人、マーカー・クランが定時報告する。

 

「依然一隻が距離を保ったまま追尾して来ます」

「艦長、何か対策を取りますか?」

 

 ブライトが、熟年に近いの艦長、パオロ・カシアス中佐に確認する。

 

「いや、敵はザクが三機はあるはずだ、軽々しくこちらから仕掛けるわけにはいかん。陽動を受ける可能性もある。今は友軍と合流するためルナツーを目指すべきだ」

「はっ、了解です」

 

 だが次の瞬間、状況が変わる。オペレーターのオスカが伝える。

 

「敵のムサイから、MSらしきものが接近して来ます。数は3」

「全艦直ちに戦闘態勢へ移行! 各員持ち場へ付け! MS隊は準備が整い次第、順次発艦せよ」

 

 艦長の号令に、艦内へ戦闘態勢を告げる警告音が響く。

 

(似ていた。あれは……兄さんだったの? でも……)

 

 その時セイラは自室のベッドで丸まり、サイド7内に侵攻して来た赤いザクのパイロットのマスクを取った素顔を思い出していたが、戦闘警報に部屋からMSデッキの方へと飛び出して行った。

 WBの前部にある、両舷の艦載機発進口が全開され、カイとジョブ・ジョンの乗るガンキャノン二機と、セイラの乗るガンダムがカタパルトで発進した。ガンダムはビームライフルを装備。その後にリュウのコア・ファイターも続く。

 半日ほど前の出撃では単に護衛任務だったが、今回は戦闘になりそうな可能性が高い。

 MS搭乗の三人は全員が極端に緊張し、自然と沈黙していた。三人ともモニターと計器の明かりが光る薄暗いコクピットの中で、レーダーに映り接近してくる敵と思われる光点の動きに集中する。

 ガンダムら三機は、大きな逆三角の面の中心をWBが進む感じの位置取りをしていた。

 そんな中、WBの傍を周回しつつコア・ファイターのリュウがみんなに声を掛ける。

 

「はははっ、みんな緊張しすぎだ。今からそれでは体が固まってしまって動かんぞ。リラックスしろ、リラックス!」

「うははっ。そうだな」

「そうですね」

「そうね、ありがとうリュウ」

 

 皆の緊張しすぎの糸が少し解れた。

 

 ムサイから発艦していたのは三機のザクであった。

 艦を指揮するドレン少尉は「敵艦影の近接映像を記録せよ。その際、軽い攻撃を仕掛け敵艦の戦力や対応能力も見よ」と命じていた。

 強引な威力偵察である。

 ジオン軍のガウラ曹長の元、ザクマシンガンと脚部へ三連装のミサイルポッドを装備した三機のザクはWBへ後方より接近して行った。

 ザクは間もなく三方位に散ってザクマシンガンを放ちつつWB側へ戦闘を開始する。

 ガンキャノンらも敵へ標準を合わせ、両肩のキャノン砲で応戦を始めた。

 

 これが人類史上初のMS同士による実戦となった。

 

 ジオン側では赤い機体のガンキャノンの動く姿は初めて見る形だ。だが、動きはそれほど俊敏ではなかった。

 ザクでも十分に対抗できるように思えた。

 だが、白いMSは違った。

 ジオン軍のまだ若いカル軍曹は、左後方からWBへと迫っていた。白いMSが相手であった。ふとそれから一瞬目線を逸らし、近くを飛ぶコア・ファイターの位置をメインモニタで確認していた時である。

 ガンダムのコクピットで静かにターゲットスコープを見るセイラが呟く。

 

「敵の目の前では、余所見をしなくってよ」

 

 一筋の閃光が緑のザクの機体を貫いていた。

 ビームライフルの一撃だった。

 

 

 

 ザクは爆散した。

 

 

 

「なにぃ! なんだ今のは……」

「曹長、カルが、カル軍曹がやられましたーー!」

「ぐっ、一撃か……何という火力だ。セネル軍曹、お前は先に引き返せ。殿は私がする」

 

 損失を出す戦闘が目的ではなく、情報を持ち帰るのが今回の任務なのだ。

 「了解」の声と共に、一機のザクが後退を始める。それを狙わせないように、ガウラ曹長のザクは三機のMSとコア・ファイターを牽制した。脚部のミサイルも使用する。

 

「少佐が鹵獲したあの白い奴がもう一機あったとは……戻った時に詳細を報告せねば」

 

 連邦の攻撃を自身の機体へ上手く引き付けつつ、白いMSに迫る。だが接近してみて挙動を見るとその動きには、まだ慣れていないものが見えた。

 

(機体の装備や動きは凄いが、パイロットはまだ練度が足りないようだな)

 

 ザクマシンガンを二百メートル程度の距離で白いMSへ多く直撃させる。

 

「やったか!」

 

 だが、白いMSは平然と動いていた。二、三度さらに接近してそれを繰り返すが、直撃でも破壊できないように見えた。

 

「バ、バカな。どうなっている、この120mm口径のマシンガンが通用しないのか!?」

 

 そうしているとコア・ファイターや、ガンキャノンも近付き砲撃が集まって来たので、ガンキャノンへもマシンガンの攻撃をお見舞いする。しかし、これも重装甲に弾かれてしまう。

 即この期に及んでは、一機でとても凌げないと判断したガウラ曹長は、経験を積んだザクの機動技を駆使して、キャノン砲やビームライフル等の軸線を躱して慎重に後方へと下がって行った。

 

「敵、モビルスーツが離れていきます!」

 

 WB艦橋に響くオペレータの声に、艦長は追撃せず現状待機を指示する。

 一時間後に戦闘態勢は解除された。

 

 

 

 頬を激しく打つ音が将官用ムサイ内にあったシミュレーター室に響いた。

 

「親父にも打(ぶ)れたことないのに!」

 

 アムロは打たれた頬を抑えて倒れ込み、そんなセリフを思わず叫ぶ。

 このムサイ艦内にいた戦場での叩き上げな気風のデニム曹長が、シミュレーターに乗ることを何度も拒否するアムロへ「自分の立場を弁えろ」と制裁したのだ。

 

 『採点が悪ければ手足を銃撃』

 

 そんなことを言われては乗らない方がいいに決まっている、そうアムロは考えたのだ。だが、捕虜の身で我を通すことなど無理な話であった。

 そしてここにシャアの姿はなかった。指揮官の彼にはやることが山ほどあり、部下の曹長の一人であるデニムに任せていた。

 『銃撃』についてもシャアとしては、実力が知りたかったための軽い景気付けのつもりだったのだが、戦場を知らないアムロは少し甘ったれた子供過ぎたのだ。

 デニムはそこで軽く、激昂中のアムロを挑発する。

 

「連邦の士官さんは、皆腰抜け揃いなのか? 戦場でも無い単なる腕試しが怖いと見える。簡単なゲームから逃げるとは、子供以下だな貴殿は」

「なにぃ」

「安心したまえ、二回計測していいそうだ。一回目は練習のつもりで出来ますぞ」

 

 そこまで言われて、アムロはやる気になった。

 デニムは薄笑いを浮かべて『連邦の士官』アムロのシミュレータへ乗り込む準備を見ていた。

 

(新米の兵だと100点そこそこ、熟練の兵で250から300点。俺は過去に351点出したことがあるがな、さてどれほどか)

 

 一時間程過ぎ、アムロが二回の計測を終え出て来た時、先ほど薄笑いを浮かべていたデニムの表情が固まっていた。

 

(不慣れな一回目でいきなり200点越え?! 二回目で―――よ、400点越えだと……こんな点数、少佐以外でほとんど見たことがない)

 

 

 

 アムロの持つ操縦技術のポテンシャルは―――今後の宇宙世紀史上でも最高クラスであった。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月01日 投稿
2015年03月09日 文言修正
2015年03月11日 文言修正
2015年04月04日 文言修正



宇宙要塞ソロモンへ到着するシャア達だが……


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第04話 ソロモン脱出作戦

 

 サイド7を出航し、途中でジオン軍の偵察攻撃を受けたWB(ホワイトベース)であったが出航二日後にルナツーへ到着する。

 残念ながら民間人を収容するスペースがないという理由で、避難民らは艦内に留め置かれていた。

 歴戦の中佐であるWB艦長のパオロ・カシアスが、ルナツー方面指令ワッケイン少将に事情を説明すると、補給等は行われる事になった。

 また、WBへ応援戦闘員や軍属としてスレッガー・ロウ少尉ら十名余が新たに乗船する。スレッガーは、ラテン系な伊達男だ。WBの美人な女史方々を見て声を上げる。

 

「おおっ、この船には可愛い子ちゃん達がいるねぇ♪ スレッガーだ、ヨロシク~!」

「はい……」

「―――よろしく、スレッガーさん」

 

 少し控えめなミライを庇うように、居合わせたセイラが些か冷た気に返していた。

 

「あららら、乗りが悪いねぇ~」

 

 彼は歴戦十分で度胸もあるが、普段は何となくお調子者で軟派に見えた。

 

 ルナツーのワッケイン指令は、壮年を少し過ぎ熟年に近いパオロ艦長の教え子であったため、色々と便宜を図ってくれていた。『極秘兵器の使用』についても事情を考慮し、現状は特例扱いとしてくれたのだ。

 しかし、安全と思い一時的にとルナツーへ退避して来た避難民達へは、軍務優先と物資の不足などによりサイド7への帰還は叶わず、WBごと地球へ降下してもらう事になってしまっていた。

 ここルナツーも余裕がなく、WB艦長やテム・レイ大尉の要請に応え、サラミス級巡洋艦二隻をサイド7へ向かわす予定なのだが、補充兵や修理等の軍需物資で満載予定だったのだ。

 なおWBの、次の目的地は南米ジャブローとなっている。

 

 

 

 一方、シャアの将官用旗艦型ムサイは、これに一日遅れで宇宙要塞ソロモンに到着し宇宙港の一つへ接岸する。そこにはドズル中将自らが出迎えていた。

 さっそく鹵獲に成功した連邦軍の新型MS(モビルスーツ)『ガンダム』や関連装備がムサイ艦から一旦下ろされ、要塞内で一通り精密な解析に回される事になった。

 ドズルもシャアと共に、その白い機体の移送光景を眺める。

 

「本当にご苦労だったな、シャア。これが連邦の新型か?」

「はい。マニュアルに因れば、名は『ガンダム』と」

「ガンダムか……。そういえば、パイロットの捕虜もいるそうだな」

「まだ、所属や階級と名を黙秘していますが―――」

「お前にしては少し温いな。なぜ、徹底的に調べん?」

 

 話を切る様にドズルが、少し鋭い眼光をシャアへ向ける。

 並みの将兵なら怯み引いて答えてしまう所だ。

 しかし中将に凄まれようと、シャアはいつもと変わらず堂々と理由を説明する。

 

「ソロモンまでの途中で装置を使わせ調べたところ、MS(モビルスーツ)操縦適性が極めて高い士官であります。また柔軟な思考の持ち主にも見えます」

 

 ドズルは、シャアの武人らしいそんなところも気に入っていた。

 

「……ほう珍しいな、シャアが操縦を褒めるのだから相当なのだな……括目する武人と言うのなら、お前の顔も立てて今しばらくは任せよう。そうだ、今夜は祝杯の晩餐会を行うぞ、楽しみにしていろ」

「はっ、ありがとうございます」

 

 ドズルは中将ながら純粋な武人の為、下位の者でも実力のある将兵には礼儀と敬意を持っていた。

 だが彼も敵に対して、いつまでも気の長い人物ではない。

 この時、シャアのマスクの奥の瞳が鈍く光った様に見えた。

 

 

 

 シャアは、ソロモンに到着後も未だムサイの中で独房入りな捕虜であるアムロに度々遭っていた。

 

「この戦争を良い方向へ終わらすために、君の力を是非借りたい」

 

 シャアは会うたびに、そう口にしていた。

 そして色々と話をする中で『君の呼び方に困る』と言われ、アムロはついに自らのファーストネームを明かしていた。また階級について―――『少尉』と偽っていた。

 

「アムロ少尉か……」

 

 シャアが呟く。

 シミュレーターの後、捕虜のアムロに対して曹長らの態度が『良く』なったのだ。曹長らが控えめながら、明らかに自分達よりも目上の者だという態度を取る様になっていた。

 これはドズル中将の、軍隊内での実力主義な考えに元付くものだったが、アムロはそれを知らずに『それならば曹長の上を』と上手く利用した形である。

 シャアとしても、アムロが非常に若く見えたので『少尉』は納得のいく妥当なところであった。それに所属やセカンドネームが不明は不明で構わなかった。味方に引き入れる場合には、連邦での身元がハッキリしない方がいい気がしていた。シャアが欲しいのは身元ではなく、『意志を持った強い力』なのだ。

 そこで一旦、先日戦死したと聞いた、このソロモン所属の少尉の名字である『ノール』を名乗らせようと考えていた。

 ジオン軍特務機関から配属の少尉、『アムロ・ノール』と言うわけだ。

 連邦からの亡命者と発表しても広報的には悪くないのだが、某機関の言う所の『ニュータイプ』となれば極秘将兵になるため、総合的にしばらくは偽名の方がいいとシャアは判断していた。

 もちろん部下らへは当初から緘口令を徹底している。また、MSパイロット以外は一部を除いて曹長以下の者に捕虜の顔を見せていない。

 

(いっそのこと、私の様に彼にもマスクを被ってもらうか)

 

 シャアは、濃いグレーと白い角のヘルメットに自分と同じグレーのマスク、そしてカーキの一部に白が入った少し小柄で華奢なアムロの軍服姿を想像する。

 だが、今もこの独房脇で見ているが、肝心のアムロはシャアへの協力について同意する雰囲気はなかった。

 そもそも、彼には自分を攫った張本人のシャアへ力を貸す道理も義理もないのだ。

 確かに戦争を早期に終わらせるのはいい考えだとは思っている。

 また、この少佐が自分を勧誘する訳が、MS(モビルスーツ)を上手く使えそうだという理由からだと判断していた。

 

 そしてジオン側なら―――我が子を放って現場に留まった、あの仕事絶対主義に見える父に一泡吹かせられるという事ではあるが。

 

 アムロは、『ガンダム』の操縦マニュアルの設計開発責任者欄内に、父であるテム・レイの名が入っているのも見つけていたのだ。(それもあってセカンドネームは黙秘中)

 だが、シャアへ力を貸すという事は連邦軍へ弓を引くという事に他ならない。

 連邦にはフラウ達もいる。「少佐」の話ではサイド内で民間施設への攻撃はしていないと言った。

 アムロも見ていた。確かに、むやみな攻撃は無かった。連邦の軍人らが直撃弾で死ぬところを見てしまっていたが、軍人が戦争で死ぬのは止むを得ないところだとは思っている。

 知り合いの民間人が死んだところをまだ見ていないため、アムロの心はまだ怒りに燃えることも闘志もなく穏やかだった。

 

(皆、無事ならいいけど)

 

 色々考えると『民間人』のアムロとしてはこの時、独房へ何度会いに来られてもシャアへ首を縦に振る気は無かったと言える。

 

 

 

 シャア配下のドレン少尉の乗るムサイが潜むルナツー宙域でも、WBから一日遅れでソロモンより援軍のムサイ一隻が合流する。これを受け、ドレン少尉のムサイはルナツー周辺へ留まらずソロモンへと向かった。

 それはWBへの威力偵察を行った後、各種情報を得たことを暗号でシャアへ知らせていた。すると、ドズル中将より帰投の指示が出たとシャアより命令を受けたためである。

 その帰投命令に従い、ドレン少尉の乗るムサイは、四日後無事にソロモンへ到着していた。

 シャアは早速、ドレンより映像データと報告の詳細を確認する。

 

「そうか、カル軍曹が……」

「申し訳ありません、少佐。かの白い『木馬』を侮っておりました」

「いや、皆良くやってくれた。軍曹の死も名誉な死だ。『ガンダム』が装備するライフルの明確な威力を我々に知らせてくれた。このどれも貴重なデータだ。それにあの優れた機体が、もう一機あるとは私も考えていなかった。今はこの得た情報の戦果で十分だ」

「はっ」

 

 ドレンの齎(もたら)した、連邦軍新造戦艦の保有する戦力について、『ガンダム』タイプを含むMS(モビルスーツ)が三機、戦闘機が一機以上あり、それぞれの装備、そして戦艦の銃砲座の数や位置も映像から詳細に報告された。もちろんすべての映像も提出された。

 シャアの提出したすべての情報が貴重であった。

 早速、要塞内の一画にある会議室にて、ドズル中将とソロモンの高位な士官ら二十数名の前で、シャア少佐による『V作成』関連の兵器類について報告が行われた。

 

「以上で報告を終わります」

 

 報告を受けたドズルがシャアを労う。

 

「うむ。シャアよ、僅かな損失で本当に良くやってくれた。貴様らの特進とそれに加えて戦力補充について、総司令部へ強く進言しておくぞ」

「はっ、ありがとうございます」

「それはそうと、シャア。あの捕虜に付いてはどうなっている?」

「はぁ、その件ですが実は―――」

 

 その時、高官の一人が割って入り報告する。

 

「ドズル閣下、実はその捕虜に付きまして、キシリア様より『ニュータイプ』の件で火急に調べたいと要請が来ております」

「な……なんだと?」

 

 シャアは、ドズル中将旗下の尋問が苛烈な事を知っていた。そのためドズルに『アムロが黙秘中』だと確認された後すぐ、一つの手を打っていたのだ。

 

 ―――アムロを連れ、早くこの宇宙要塞を出る為にである。

 

 このソロモンにもいるキシリア少将へ太いパイプを持つ人物へ、連邦軍の新型MS『ガンダム』の判明済情報と共に、『あの感覚』から捕虜パイロットに『ニュータイプ』能力の可能性が高いことをリークしたのだ。

 シャアは自身の能力故、フラナガン機関からも声を掛けられていて数度訪れており繋がりがあった。

 キシリア少将とドズル中将は戦略面や艦隊編成の軍事面で意見がぶつかり、公国国防軍がニ隊に分裂し対立している。またキシリア少将に対し、長兄であるギレン・ザビ大将がニュータイプ開発に置いては理解を示しており、その件にはドズル中将も余り強く出る事は出来ないでいた。

 そのため、シャアはキシリア少将側からの『ガンダム』を含めた捕虜への庇護的な一応の保険を掛けたのだ。

 高官の話は続く。

 

「さらに、『ガンダム』関連につきましても速やかに調査の為に一旦機関へ引き渡すようにとも来ております。これにはギレン様からもキシリア様へ協力するようにと要請がありまして」

「く、兄上までからか」

「その輸送には、現場の話も聞きたいとのことでシャア少佐自身にお願いするとの事です」

 

 ドズルの表情は、非常に険しい物になっていたが反論は出来ない内容だった。

 

「……わかった、まあいい。すでに現状は父上にも報告済だ、我が手柄は揺るぐまい。シャア、準備が出来次第、サイド6へ迎え。あと―――ガンダムはお前が使うがいい。妹には言っておく。データは送れよ」

「はっ、ありがとうございます」

 

 そう告げるとドズルは会議室を後にする。

 新型MSガンダムについて、シャアはついに中将から預けられる身となった。

 まだ、グラナダへ持ち込まねばならないが――

 

 『赤いガンダム』の誕生は近い。

 

 彼は事前に予想していたため、数時間で出航準備を終えるとまだ白い『ガンダム』とアムロを乗せ、ムサイ二隻でサイド6へと、この宇宙要塞ソロモンを後にする。

 キシリア少将の作った、ニュータイプ研究施設のフラナガン機関はそこにあった。

 

 

 

(誰か……誰か、私を助けて……)

 

 無機質で重厚な建物が建っていた。

 そして分厚い壁と何重にもロックされ、外環境から閉ざされた部屋。

 それは、外からの侵入に対してだけではない。『中の者も決して逃がさない』――そんな思惑が形になったものだった。

 その年齢からまだ伸び切っていない体へは、全身に計測機器が取り付けられている。

 ずっとではない拘束時間、しかし。

 担当が女ではない時もあり、乱暴はないが良くも知らない男に触られる嫌悪感。

 機械とは言え、己の体を好きに調べられ続ける屈辱感。

 それから……姉と同様に父から売られ、誰も頼る者のいない『赤紫な髪の少女』の常に寂しい苦しい心の叫びが静かに響いている……そこは、そんな場所でもあったのだ。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月06日 投稿
2015年03月09日 文章修正
2015年03月11日 文言修正



 彼女の悲しい心の叫びに――――「アムロいきまーす!」

 そして、WBは、生き延びることが出来るか……



 補足)赤紫な髪の少女(ハマーン・カーン)
 『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』では某機関ではないとしているようですが、一時期はそちら側にもいたという本作独自展開設定。



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第05話 最前線突入(1)

 

 ムサイ艦内をMS(モビルスーツ)デッキへと移動する通路にて、擦れ違う兵が脇へ立ち止まって敬礼をくれる横を、軽い敬礼で返しつつ鮮やかな赤い軍服姿の士官が颯爽と抜けていく。

 

(ふふっ、手段は選ばない。相手が残った最後の一人なら、刺し違えてもいい。その為に、あの『ガンダム』とアムロという少尉は大きな武器と駒になる……)

 

 その涼やかな赤き炎の男、シャア・アズナブル。

 ジオン公国軍ドズル中将旗下の宇宙攻撃軍所属で、赤い3倍速のザクを駆り開戦当初のルウム戦役では僅か一機で五隻もの戦艦を沈める。敵側の地球連邦軍からも『赤い彗星』と恐れ呼ばれるなど、輝かしい戦績を持つMSエースパイロットで若き少佐の彼だが、『困難な目的』を持っていた。

 マスクで、その知られてはならない目的をも覆うように、容姿端麗な素顔を隠しているのには訳がある。

 彼の本当の名は、キャスバル・レム・ダイクン。

 そして父の名はジオン・ズム・ダイクン。

 そう彼の父は―――宇宙世紀0059年に建国されたジオン公国の前身、ムンゾ自治共和国創始者だ。(ムンゾは首都があるバンチコロニーの名称)

 0068年、演説中に父は倒れそのまま亡くなる。その死には暗殺説もあったが、シャアにはあまり『関係のない事』だった。父から自分へ、愛を注いでもらった記憶が無い彼には。

 彼の怒りは、自分を含め残された家族、そして敬愛する母アストライア・トア・ダイクンが、ザビ家によって薄幸な人生を辿らされた事である。

 サイド3周辺からも退去させられ、母は幼い二人の子を抱えて若く苦渋に満ちた報われぬ死を迎えていた……。断じて許せない。

 そして残された兄妹も―――

 

『兄さーーーん』

『アルテイシアーーー!』

 

 その時幼い兄妹は引き裂かれ、別々に引き取られていく。その後、たった一人の妹アルテイシアは行き先が知れない。

 またキャスバル自身も数年前、ザビ家の手先によって暗殺されそうになるが、友人であり容姿の似ていた本物のシャア・アズナブルと入れ替わり窮地を脱している。

 

(なぜ、私達家族だけが……優しかった母や、妹や私が何をしたというのか? 富と名声と権力をすべて手に入れた、嘗て父の盟友だったデギン・ザビとその子供らであるギレン、ドズル、キシリア、ガルマら罪深き傲慢な者達よ!)

 

 

 ザビ家に報いを―――滅びを。

 

 

 そのマスクで隠す瞳の奥に浮かぶ憎悪な思いの炎が、彼を闘いの中で生きさせていた。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 シャアらがまだ宇宙要塞ソロモンにいた頃、WB(ホワイトベース)は動き出していた。

 ルナツーへ到着して3日後、補給を終えたWBは南米アマゾンにある地球連邦軍の総司令部ジャブローに向けて発進する。

 ジャブローは、その全域を大量の地盤特殊硬化剤と強化耐熱耐爆コンクリートで分厚く固められた、核攻撃にもビクともしない広大な地下要塞であった。

 WBは『V作戦』のため、そのジャブローの宇宙艦ドックから発進し、サイド7で最終調整開発をしていた新型MSを受け取って、それらを持ち帰るのがこの航海の任務だっだ。

 『V作戦』とは、鹵獲したジオン軍の新型MSザクから得られた情報をもとにした、ジオン公国側のMSへ対抗するための連邦独自なMS開発計画のことだ。

 その重要なWBの任務にルナツーからも、大気圏傍までの護衛にサラミス級巡洋艦一隻が付いていた。

 しばらくは平穏であったがルナツーの防衛ラインを外れると、例のムサイ一隻の追尾が再び始まっていた。

 そして―――ジオン軍は、前方の地球に近い宙域にも少数ながら威力偵察を兼ねた待機艦隊を配していた。そこは地球の大気圏からはまだかなり距離を残している位置だ。

 ドズル中将旗下のゴレット少佐率いる、三隻編成のムサイ艦隊である。

 その搭載するザクは実に十一機に及ぶ。少し離れた宙域にいたが、中将の命によりWBの予想進路近くへと移動してきていた。

 シャアの齎(もたら)したWBの大気圏脱出進路情報により、ジャブローからの発進を推測され同場所への帰還路を予想されていたのだ。

 そして後方からWBを追尾するムサイにも、三機のザクが搭載されていた。

 WB前方で待ち受ける、将官用旗艦型ムサイの艦橋で恰幅のいいまだ三十前に見えるゴレット少佐が命令を出す。

 

「閣下より指示のあった例の連邦の新造戦艦だな。MSは最低3機はあるということらしいが……始めるか。シャアには先を越されたが、こいつはオレ達が鹵獲するぞ! ザクを8機発進させろ、あの艦の行動力と戦闘力を奪うのだ! 追尾艦へも攻撃暗号を出せ」

 

 ゴレット少佐は不敵に笑う。

 

「残りの3機もスタンバらせておけ。私も降伏勧告には出る」

 

 WBは、攻撃の第一波として前後から十一機ものザクに接近されつつあった……。

 

 

 

 WB艦橋のオペレータ、マーカー・クランが叫ぶ。

 

「大変です、前方にムサイ級3隻が現れ、MSと思われる機体が8機、後方の追尾艦からも3機がWBへ向けて迫って来ています」

「な、なんだと! ……そんな」

 

 ブライトは絶望的な声を上げたが、艦長のパオロ・カシアスは冷静に一括気味に戦闘態勢への移行を指示する。

 

「弱気になるな、楽な戦いなどない。全艦戦闘態勢だ! 主砲、両側のメガ粒子砲を急速展開! MSらも可能な限り発進させろ」

「は、はい!」

 

 今回はほぼ最大戦力でのフル出撃となった。ガンダム、ガンキャノン三機、ガンタンク二機、コア・ファイター二機が発進した。コアファイターにはルナツーから乗り組んだスレッガー・ロウが、ガンキャノンにハヤト・コバヤシ、ガンタンクにはオムル・ハングや、こちらもルナツーから乗船のエレス上等兵らが新たに乗り込んでいた。

 コアファイター、ガンダム、ガンキャノンが順に発艦後、ガンタンク二機は格納庫を下半分開いたままの扉の上で砲台のような配置になった。

 艦長は、体制が整うと不慣れな乗組員らへ戦い方を鼓舞するように指示する。

 

「戦力差が大きすぎる。止まったらあっという間にやられてしまうぞ。正面の敵艦隊もこちらへ向かってくる状況だ。ムサイ艦の砲塔配置を考えるとこういう場合、正面からの攻撃を常に回避しつつ短時間で後方へ抜けて敵が転舵する間に振り切るのがセオリーだ。サラミス並進を考え、両舵メインエンジン出力を70%まで上げろ! 面舵(右転舵)1度。すれ違いざまに気を付けろ。いいか、新人の各砲塔員は焦らず、充分引き付けて撃て! 戦闘可能時間は10分もないはずだ。落ち着いていけ。MS隊もそう心得よ」

 

 だが艦長もまだ、ガンダムやガンキャノンらの性能を良く把握していない状況であり、これまでの経験に沿っての内容になっていた。

 ここで、WBに合わせて増速するサラミス艦長のリード大尉がWBとの共闘を告げる。

 

『WBパオロ艦長、我々は貴艦左舷より400mの位置で並進し前方のムサイ艦隊を叩きます』

「お願いする、リード艦長」

 

 前方の敵艦隊との距離が詰まり、照準有効射程範囲になると、引き付けずここでWB主砲の艦砲射撃が始まった。

 WBの主砲、52cm連装火薬式実体弾砲の威力は宇宙空間でも強力なのだ。砲弾は2トンにもなる。

 そして三撃目、正面へ立ち塞がるムサイ艦隊の一隻の左エンジン付近に一発が掠りつつの状況で信管が作動し、機関部を巻き込んで炸裂した。一撃でそのムサイ一隻が轟沈する。

 

「左舷側の僚艦ムサイ、マグメル轟沈!」

「な、なんだと?!」

 

 爆発による衝撃波に、近くにいた旗艦型ムサイが揺れ、ゴレット少佐は声を上げつつ指揮所の手摺へ捕まる。

 ルナツーからWBへ乗艦した中に、戦艦マゼランの熟練砲手の一人であったダリル准尉がいたのだ。三射撃目で誤差補正に成功し当てていた。

 この撃沈状況報告に、WBの主砲塔内を始め各所でガッツポーズや、艦橋でも「おおおーー!」っと歓声が上がる。

 だが、喜びに浸る時間は長くは無かった。ザクの集団がWBに迫っていたからだ。

 広がって展開し接近するザク集団に対して、ガンダム、ガンキャノンの四機は、まだWBの船体を掴んだ近い場所に固まる形でいた。

 WBの早い速度や進路も考え、艦長の指示通り引き付けてから打って出る事にしたのだ。

 しかし、接近するジオン側もザク十一機のうち、熟練の少尉や曹長らが四人もいた。

 救いと言えるのはWBが速力を上げたため、後方からの三機の到着は遅れていることだろう。

 そして逆に、前方の八機のザク隊とWBの距離はみるみる詰まり、ついに戦闘が始まる。

 ここでリュウやセイラらは割と冷静だった。前回の戦いで知ったことがあったのだ。ガンダムやガンキャノンの装甲は分厚い箇所なら、ザクのマシンガンの直撃には耐えるようなのだ。

 そこでマシンガンのザクは牽制し、まずそれ以外の武器を持つザクを標的にする作戦で対抗する事を決めていた。

 そのため初めからバズーカを持つザク三機へ、攻撃を集中した。

 対して、ジオン側にはドレン少尉ら前のMS戦を直接知る者がいなかった。連敗の連邦軍を散々に打ち破って来たザクへの信頼と、前回の損失が偶々だという驕りのような気がまだあった。

 

 突破口的に活躍したのが、コア・ファイターで戦場を大きく回り込んでいた歴戦のスレッガー少尉である。

 地球圏周辺の宇宙には、通信障害を生じレーダー機能を阻害するミノフスキー粒子が多く散布されており、ほぼ有視界での戦いになっているのだ。

 彼は上方より不意を突きコア・ファイターで巧みに肉薄し、ミサイルと機銃でバズーカを持つ隊長機と思われる指揮官機のザクを最初に撃破してくれたのだ。

 その後すぐ、スレッガーに続いたリュウのコア・ファイターに気を取られたバズーカ装備のザクをセイラのガンダムがビームライフルで狙撃する。それがザクの頭部近くへ直撃貫通し、小爆発を起こさせ戦闘不能にした。バズーカは遠方へ漂流する。

 セイラの射撃精度は非常に高く、無駄玉をほとんど撃たなかった。中長距離ではガンダムの性能もあり非常に優位に戦えた。

 だが、もう一機いたバズーカを持ったザクが、WB右舷後方へ回り込み右エンジンに対して側面より三発発射し―――直撃を受ける。

 全艦へ伝わる衝撃と共に、WB艦橋の機関計器担当のイセネ曹長が叫ぶ。

 

「右エンジンに直撃です! 火災発生!」

「誰でもいい、付近の緊急自動消火を急がせろ!」

 

 即ブライトの声が艦内に響く。

 強固な装甲部に当たったが一部は大きく貫通し、WBの右舷エンジンノズルの四基の内、すでに右列二基が停止し、出力も通常の三割まで低下する。それに合わせて左側エンジンも出力を半分以下まで落とした。そうしないと左側のエンジン出力が強すぎて右へヨレるからだ。

 その状況を見た、カイ・シデンが魂を込めて咆哮する。

 

「コノヤローーーー!!」

 

 ガンキャノン両肩の連装キャノン砲が、バズーカを持つザクの腹部付近に炸裂し、爆散する。

 前方からのザク隊は、運よくバズーカを持つ機体が曹長以上の指揮官機だったのだ。指揮官機三機を失って残り五機のザク隊は、わずかに動きが乱れる。それでも、まだジオンMSパイロットらの層は厚かった。年長の軍曹が指揮を引き継いで、攻撃は続行される。

 一方、WB自体も近づいて来ていたザクらへ対空砲やガンタンクの120mm低反動キャノン砲等が火を噴いていた。それらに気を取られるザク隊。

 そこで更に、スレッガーとセイラが共に其々二機目のザクを撃破し、残りが三機に。

 ジョブ・ジョンとハヤト・コバヤシが共同して一機を撃破。残りのザクはもはや二機になる。

 指揮を引き継いでいた年長の軍曹はまだ生きていたが、濃いミノフスキー粒子のためにムサイへ連絡も取れず、「た、たった七分で6機ものザクが……」と彼が呟いた瞬間。

 

「これで三つめ」

 

 スコープを覗くセイラの呟きと同時に、ガンダムが放ったビームライフルの一閃に機体エンジンを撃ち抜かれ、年長軍曹のザクも爆散する。

 これを見た残り一機のザクは、後方から接近の三機に合流するように一度後方へ大きく離れていった。

 この頃には、WB主砲と両舷のメガ粒子砲、サラミスの砲も加わり、前方のムサイ二隻へ砲撃を集めようとしていた。

 

 

 

「くそう、ザク隊はどうしたのだ? なぜ連邦の艦からの砲撃が止まらん? ……仕方ない、私がザクで出る」

 

 ゴレット少佐はそう言って、艦橋を離れようとしたとき、右側にいるムサイの船体中央へ並ぶ砲塔群を破壊しながらWBの主砲が直撃し、爆発轟沈する。

 

「僚艦、ユグメル轟沈ーー!」

「うぉわぁぁーー」

 

 その衝撃波に、艦橋床へ投げ出されたゴレット少佐は打った額を抑え叫ぶ!

 

「お、おのれー! 構わん、白い艦を直接狙え! 撃て、撃てぇーーー!」

「はっ。各砲塔、白い連邦軍新造戦艦へ直接砲撃せよ!」

 

 距離がかなり詰まっていた。加えてジオン側の練度はかなり高い艦隊であった。

 旗艦型ムサイ級軽巡洋艦の連装メガ粒子砲塔三基の砲身が、WBへと向く。そしてそれらが火を噴いた。

 

 六つの閃光がWBへ迫る。そして、五つは艦の外や隙間を抜けただけだが、残り一つが―――オムルの乗るガンタンクの横を掠めるように左格納庫奥へ吸い込まれた。

 それは、奥の装甲板を貫通して左舷メインエンジンへ直撃する。

 ほぼエンジン正面中央へ当たり、そしてノズル後方へ弱い光線が抜けていった……。

 

「ムサイからの砲撃が左舷を直撃!」

「被害は―――」

 

 オペレータの叫びを受け、ブライトが放つ声を遮り―――機関計器を見るイセネ曹長が再び叫ぶ。

 

「左メインエンジン急停止、内部温度が異常上昇中です! 間もなく爆発する可能性が!!」

「左エンジン部、急速閉鎖だ! 切り離せ!」

「えっ!? 艦長、エンジンをですか!?」

 

 パオロ艦長の叫びに、操艦中のミライが振り向き思わず聞き返す。

 

「早くしろ! 爆発に巻き込まれるぞ!」

「は、はい!」

 

 そう答えつつミライは、手早く操舵装置の右側面扉を開けると、二つある赤いレバーの左側を力いっぱい下げた。

 WBの左メインエンジンが付け根から急速に切り離される。それと同時に大爆発した。

 近接での大きな衝撃に、WBの船体がビリビリと震える。

 そしてジオン、連邦の両艦隊は、そのまま撃ち合いながら擦れ違う。

 その頃に、ザク一機も合流してWB後方から迫る四機になったジオンのザク隊だったが、まだ距離があったにも関わらずバズーカを持つ機体へガンダムのビームライフルが直撃する。ビームはバズーカに当たり機体ごと爆散した。その余波で、残る三機のWBへ迫る勢いが落ちていった。

 それは指揮官機では無かったが、ゴレット少佐らは十分間ほどの短時間で、ムサイ二隻とザクを八機も失った。すれ違い際にもWBのメガ粒子砲が旗艦型ムサイの砲塔部を掠り、砲塔二基が損傷を受けてしまっていた。

 この損害の大きさに、ゴレット少佐は追撃をしなかった。後方のムサイをそのまま追尾させるに留めた。

 

「バカな……ムサイはともかく、短時間で一方的に我が軍のMSザクを八機も……連邦のMSは……あの白い艦は……。『木馬』は―――危険な存在だ」

 

 ただWBの接近戦の状況情報については、軍曹一人のザクが帰還し、頭部付近が損傷し機体が戦闘不能になっていたザクの曹長一人も救助。その機体と共に二人が生還しており、証言や映像等などジオン側へ貴重な実戦データをもらたしていた。

 

 一方、WBでは追尾艦一隻に対して戦闘態勢維持中ながら、帰還したルナツーより新規に加わったスレッガー少尉と砲手のダリル准尉、そしてザクを四機も撃破したセイラらの活躍に湧いていた。

 彼らは厳しい状況を共に戦い抜き、結束力と信頼感を強めつつあった。

 だが、そんな大きな戦果を上げるWBは深刻な問題に直面する。

 右メインエンジンが三割ほどしか機能せず、そして……左メインエンジンを丸ごと失っていた。これによって、大気圏へこのまま降下すると―――

 

 

 

 減速しきれず、そのまま地上へ激突することが判明した。

 

 

 

 WBのパオロ艦長は考慮の末、迂回後にルナツーへの帰還を取るしかなかったのである。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月11日 投稿
2015年04月05日 文章修正



 補足)ルウム戦役
 宇宙世紀0079年1月15日から1月16日に掛けて、サイド5周辺で起こった大規模な艦隊戦。




『助けがこない………死にたいのかッ、ZOKUBUTUが!』

 カワユイ少女は、そんな事は思っていなかった……。思イマセンカラ!
 次回、はにゃーん♪と登場。


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第06話 最前線突入(2)

 

 現在、地球に対して月とは反対側のルナツー周辺だけが、敗北を続けた地球連邦政府側に残された宇宙での勢力範囲と言える状況になっている。

 一方、月の裏側にあるサイド3が本国のジオン公国は、開戦当初より月寄りの宙域をほぼ勢力下においていた。

 そんな宇宙(そら)の漆黒に星々が美しい空間を、白に『赤』の混じったMS(モビルスーツ)が彗星のように流れていく。

 

「うむ、やはりいい機体だな―――この『ガンダム』は」

 

 凄まじいスピードと機動性を見せていた。

 シャアは、サイド6へ向かう航路上でガンダムの機動データ取得も兼ねた試乗訓練を行なっている。

 体感でも分かる程なのだ。乗り慣れた3倍速の赤いザクよりもスピードに加え反応速度や機動性等も一段上だという事を。ソロモンでの解析速報でも、特に防御力とパワーは優に倍以上上回っているという。

 

「連邦がこれほどの機体をすでに作れるというのは……脅威だな」

 

 ソロモン出航後すぐにシャアの下へも、WB(ホワイトベース)の艦隊がゴレット少佐の偵察艦隊と戦闘に入り、短時間でムサイ二隻とザクを八機も失った情報が入って来ていた。連邦側の『白い』ガンダム一機だけで、ザクが四機も落とされたという。

 そのため連邦機と判別する意味で、この鹵獲機胴体部分の青と黄と白色は『赤』へと部分的に塗り替えられていた。(全部塗らないのは,調査がまだ終わっていないキシリア側へ一応の筋を通すため)

 この『ガンダム』が量産化されればジオン側は、確実に厳しい局面を迎えると考えられた。

 

(……これは、出来るだけ早急に『私の目的』を達成しなければならないか……)

 

 だが『ガンダム』は、このままの高性能での量産など無理な機体であった。連邦でもコストを度外視した特注機という事までは、まだジオン側も掴んでいなかったのだ。

 この白い機体は、ソロモンでも部分的に詳細な調査を行うため、装甲強度に問題がない箇所のメンテナンスハッチなどが一部ながら材質調査の為、ジオンの特殊鋼板の物に替えられている。しかし、メイン装甲と可動部や機関系はグラナダでの調査も控えており、出力計測や簡単な分解にて外観と非破壊調査のみが行われるに留められていた。

 ただ操縦マニュアルについて、原本のオリジナルはソロモンに置かれ、完全コピー版がシャアの手に渡されている。まあ、マニュアルは読めれば良いので問題はなかったが。

 また、強力な装備のビームライフルについても解析し量産へ繋げたい思惑の為、施設の整ったグラナダまで移送予定でシャアのムサイに積み込んでいるが現在封印中となっている。シールドは、外観調査の後に極一部を削られたが、そのままシャアに渡されていた。

 今回の試乗での主装備はザク・バズーカだけである。

 コピー版のマニュアルをコクピットで眺めつつ、シャアの搭乗するガンダムは、将官用旗艦型ムサイの後部格納庫へ戻って来た。

 

「いかがでしたか、少佐殿」

「問題なく順調だったよ、ラエス中尉」

「じゃあ、データを調べますね」

 

 MSデッキでシャアを、同じ背丈ほどの細目な一人の男が出迎える。彼は軍服の上に白衣を着ていた。

 シャアのムサイ艦隊が、サイド6へ向け宇宙要塞ソロモンを離れるとき、ドズル中将から贈り物があった。

 鹵獲した新型MSガンダムに加え、失ったザクの補填分一機と追加の武器装備類、そして――新たにガンダム解析班の名目で優秀なメカニックの白衣なラエス中尉率いる技術スタッフグループがシャアのムサイに乗り込んでいた。

 彼らは、シャアのザクを最初に3倍速へ調整した非常に優秀な技術者達で、シャアとの関係が良好で信頼のある者達であった。

 3倍速ザクのベースは指揮官用ザクII(MS-06S)であるが、彼らによって独自の改良により、見た目以上の別物な機体になっているのだ。

 戦は人が纏まることで成果が出ることを知っており、こういう辺りはドズルが部下思いの優れている将と言えた。

 シャアとしても特進で今後増えるであろう兵器装備類のメンテ、調整には欠かせない人材達であった。

 

 そして、艦隊は三日半後にサイド6宙域へ到達する。

 この間、アムロは―――シミュレーターにハマっていた。平均点はすでに600点近くになっていたりする……。もはや時々練習で対戦するMS曹長達らに「『少尉』、もう勘弁してくれ」と言わせてしまうほどだった。

 また彼は守衛付きながら、ついに独房から個室に移されている。ただし、足首に位置センサー付の頑丈なリングが付いており、艦の出口に近付くと事前にそこをロックされる機構が有り、自由な範囲もまだ狭い。それと室外では少佐のように顔を隠すグレーのマスクの着用が義務付られていた。

 シャアは相変わらず、人払いな状態でアムロへの勧誘を続けている。

 そしてそれは、両軍のどちらかがボロボロに負けるまで戦いが進む前に、この戦争を終わらせる方法があることも遠回しに話し始めていた。戦いを早期講和へ持ち込むには条件があり、そのためにアムロにも手を貸してほしいと訴えていた。また、シャアの基本的な方針の考えには民間人への攻撃は含まれないと言う。ただアムロへ「これらは反戦要素が強いから君は口にしない方がいい」と、さり気無い口止めも忘れない。少尉も頷く。

 そして―――シャアはアムロのMS操縦技術の高さを『とても』褒めた。

 

「君のその技術は、戦争を早く終わらせるために非常に役に立つと私は思っている。是非人々の為に使うべきだ。早期終結への君の働き如何では、何百万、何千万の人々が死ななくて済むかもしれないのだ」

「………そ、そうかなぁ……」

 

 アムロ自身も自分のMS操縦技術の高さに気付き始めていた。持て余し気味なその力を使ってみたい気にも少しなり始めていたのだ。

 そして、戦争に加担する仕事を選び、家庭や家族を顧みないように見える父の事もあった。

 

(確かに戦争は―――早く終わらせるべきかもしれない。僕が連邦じゃなく、ジオン側というのも父さんにはいい薬になる気がする……でも……フラウらが……まぁ民間人は攻撃しないって話だし……うーん)

 

 アムロは、まだシャアという男を『良く』知らない。

 頭脳は明晰なアムロだが、まだ『若過すぎた』から―――。

 それでも、現時点で彼は未だ一人の『民間人』だった。あの場所へ付くまでは。

 

 ここサイド6宙域は、開戦当初より中立地帯である。

 自給自足のために必要な経済基盤を持ち、連邦、ジオン両陣営の有力者の子弟、関係者などが戦火を避け多く居住しており、また余剰食料などを輸出なども行なっていたため存在が両陣営より認められて中立協定が成立していた。

 サイド傍に浮かぶ宇宙灯台の内側で、シャア艦隊のムサイ二隻はサイド6の検察艇の横で停船する。協定により宙域内では兵器類等を封印されるためである。この封印テープが破られると高額な罰金処分となるのだ。

 封印後に旗艦型ムサイの艦内に検察官が上がって来て説明を受ける。これにはシャアが自ら対応した。検察官は、カムラン・ブルームと名乗っていた。

 手間のかかる手続きが済むと、ムサイ艦隊は宇宙港へ検察艇に曳航されて入港して行く。

 接岸し係留が終わると、シャアの艦隊の隊員達も交代での下船を許されていた。

 一方シャアは、アムロとデニム曹長を連れて下船し、シャア自らが運転する屋根があり偏光ウィンドウで中の見えない小型車でサイド内を移動し始めた。シャアらは軍服姿で、アムロは私服に義務となっているグレーの目元を隠すマスクを付けている姿だ。

 彼らは十キロ程走ったところに建つ、とある建物の前まで移動する。そこは広い敷地ながら、塀も無く人の気配の少ない四階建ての無機質な外観の建物に見えた。

 シャアは、デニム曹長へ時間を指定しここへ迎えに来るように伝えると、アムロにマスクを外させ受け取ると車の座席に放り、アムロを伴って建物の中へ入って行く。

 

「僕にもっと監視を付けなくていいんですか?」

「はははっ、私だけでは不足かね?」

「……そうですね」

「それに、折角ここへ来たんだ。逃げるのはここを見てからでもいいんじゃないか?」

 

 シャアは、そんな冗談のような話をアムロへ返していた。

 アムロはこの建物が何だか知らない。

 二人は建物の中のロビーに入るが、そこには全く人気が無かった。不気味過ぎる建物に感じる。

 そしてシャアとアムロは、一階ロビー奥に二台あるエレベータの一つに乗り込み、地下へ降りて行った。

 だが、そのエレベーターは少し下ると止まり、今度は―――横へ動き出していた。

 そしてしばらく横に移動すると止まり扉が開いた。

 開いた扉の足元の扉用レールやその周囲を見ると、アムロはギョッとした。向こう側の扉も開いていたが三重になっており、その厚さは合計で―――優に1m以上もあった。

 殆ど核シェルターみたいなところである。

 

(な、なんだ……ここは?)

「ついて来たまえ」

 

 アムロは、先へ進むシャアに付いて中へ入って行く。さらに三か所ほど道なりの通路にあった分厚い扉のゲートを通ると、病院のようでもあり研究機関のような設備が目立つブロックが現れた。

 そこへ踏み込むと、アムロは『イヤな感覚』に襲われる。

 

『……タスケテ……』

 

 今、そんな声を聞いた気がした。

 

(えっ……?)

 

 振り向いた側に廊下があり、先は照明が落とされ少し薄暗くなっていた。

 

「アムロ少尉……どうした?」

「い、いえ」

 

 先に進んでいたシャアから振り向き様に声を掛けられ、アムロは先へ急いだ。

 二人は診察室のような部屋へ入ると、白衣の医者のような人物に少佐が話をしていた。 それから、三時間ほどアムロはいろんな計測機器を付けられて、数種類のシミュレーターへも乗せられていた。

 一通り終わると二人は食堂で食事を取っての休憩になった。

 

「少佐、此処は何ですか? その……研究施設ですよね?」

「ジオンの施設だよ。連邦も何かの施設がサイド6のどこかにあるはずだ」

「……ここ中立じゃあ?」

「そういう所でしか出来ないこともあるのだよ。戦争は当然綺麗ごとだけじゃない。君も軍人なら、よく覚えておきたまえ」

「はぁ」

 

 そこでアムロはトイレに席を立った。

 この施設からは容易に逃げられない事を知っていたシャアは、食堂に残っていた。

 アムロも入口の扉の厚みやゲートの数から『さすがに逃げるのは無理かな』と諦め、トイレで用を足して食堂へ戻ろうとした時だった。

 

『……助けて……誰か私を助けて……』

 

 ハッキリと聞こえた……いや感じた。

 

「誰なんだ、君は?」

 

 気が付くと先ほど振り向いた、照明が落とされ先が少し薄暗くなっていた通路を、またアムロは見ていた。

 今度はそちらへと彼は歩いて行ってみる。

 すると奥を左に曲がった突き当りに部屋があった。そこはガラス張りになっており、薄暗い中に―――よく見ると多数のランプの明滅が浮かび上がる計測機器を全身に付けた、まだ小柄な女の子が診療台のような椅子に横たわっていた。頭にもヘッドギアのような、目元にもバイザーが降りている物を被らされている。

 

(この子、監禁……されているのか?)

 

 アムロの胸へ、徐々にジリジリとした怒りの感情が湧いて来る。

 だが、少女の腕や足に計測機器以外に拘束具等は無いようだ。

 分厚いガラス越しに手や体を付けた彼は、少女へと大きめな声で話し掛ける。

 

「君が、僕を呼んだのか?」

 

 すると少女はバイザーの下りた顔をアムロへ向けて尋ねる。

 

「私服……? 見ない顔ね。貴方は? ……私の心が聞こえたの?」

「僕はアムロ。助けてって聞こえたよ。君は? それに、ここに捕まってるの?」

「……ハマーンよ。……そうね、戻る場所も行ける場所も無いから……そうかも」

 

 『戦争は当然綺麗ごとだけじゃない』―――彼女の詳しい状況は分からないが、さっきの、シャアの言葉をアムロは思い出していた。

 

(酷いな、くそぉ……まだ小さい女の子なのに……ジオンめ。……いや、連邦もやってるかもしれない。これも……『戦争』が悪いのか?)

 

 アムロは、ガラス張りの部屋の入り口を探した。分厚そうな扉はすぐ横に見つけたが、入力コンソールがあった。パスワード錠だろう……さすがに開けられない。一瞬、爪を噛みそうになる。

 

「RDF5JQRCよ(サングラスを掛けた『俗物』な担当の時に反射して指先も写ってたから)」

「えっ?」

「開けたいんでしょ、そこを。……でもいいの? 開けたら貴方、捕まるかも」

(……確かに。でも―――見過ごせない)

 

 少女の言ったキーを打ち込むと特殊ガラス張りの扉は開き、彼は躊躇なく部屋の中へ足を踏み入れる。

 そして少女の横に来ると、彼女の計測装置を外しながら告げる。アムロは、質問形を口にしなかった。

 

「一緒に行こう」

「……私と? でも……」

「大丈夫、一緒に外へ行こう」

 

 アムロは、優しく手を差し伸べ微笑んだ。

 

「……(私を助けてくれる人が……やっと来たんだ)……はい!」

 

 ハマーンはアムロの手に引かれ、寝ていた状態からゆっくり起き上がると、薄暗い中でも可愛らしい笑顔を見せながらヘッドギアを外した―――だが、その表情が一気に引きつる。

 

「お前達、そこで何をしている! 動くな!」

 

 複数の足音と共に照明が点く。

 アムロは、ハマーンを庇いながら彼女の目線先へ振り向くと、白衣の服を着た男と警備の男達数名が扉の前付近を固めていた。

 

 絶体絶命だった。

 だが―――

 

 『私に協力したまえ。悪い様にはしない』―――少佐のかつてのその言葉にアムロはここで乗ることにした。だが、彼はこの時、まだその先に有る『本当のモノ』が見えてなく、甘い考えであった。少しぐらい踏み込んでも、後戻り出来るものだと思っていたのだ。若さゆえ、後戻りは無理だという事に気付けていなかった。

 

「僕はアムロ少尉です。食堂にいるドズル中将配下のシャア少佐を呼んでください」

 

 アムロは直接シャアから名前等を聞いていないが、ムサイ艦内で得た事から確信していた。

 寄せて来ていた警備の男達が、目の前の私服な『少尉』から発せられた『中将配下』や『シャア』との言葉に顔を見合わせる。

 

「さあ、早く! 僕は何処にも行きません。武器も持ってませんし」

 

 アムロが無抵抗な意思を示し、軽く両手を上げながらも急かせると、警備の男が一人下がって行った。

 そして、すぐにシャア少佐を連れて帰って来る。

 アムロは少佐の姿を見ると叫ぶように考えを伝えた。

 

「少佐、『あなたに協力する』ので、この子が外に出られるよう―――何とかしてください!」

 

 アムロは、シャアへ問題を丸投げする。少年にはガンダムへ乗り込もうとした時のような、思い切りのいい度胸もあった。

 警備の者達が「協力……?」と再度顔を見合わせる。

 

「ふふふっ、ははははっ。少尉、君は本当に(それで)いいのか?」

 

 シャアはこの少尉から問題を急に振られつつも、平然と受けていた。笑う余裕すらあった。彼にとっては『この程度』の事なのだ。

 そしてまた当然知っている。『YES』と言えば、目の前の彼はもう後戻り出来ないという事を。

 

「あっ……一つだけ条件を。民間人施設へ(の攻撃)は拒否します。それ以外なら少佐に協力しますから」

「……ふふっ、まぁいいだろう……分かった。そこで、少し待っていたまえ。ここの責任者に話してこよう」

 

 それから一時間後、シャアは責任者のフラナガンに話を通し、この少女ハマーンをシャア預かりで外へ連れ出すことを機関に容認してもらって来る。

 ただアムロについて、たまにデータを取らせることを条件にしてきた。速報データだったが、アムロは先ほどの検査でかなりの数値を叩きだしていたのだ。対して、少女ハマーンへは機関として、この時もはや余り期待するところは無かったのである。

 ただ、機器を急に外したノイズだろうとされたが―――アムロと邂逅していた時間帯に凄まじい数値を計測していたという……。

 アムロがその条件を飲んだため、話し合いは成立する。

 シャアはこの条件をさらに利用し、フラナガンへアムロをここの仮所属にし、特務機関から配属の少尉、『アムロ・ノール』を実現化させていた。

 これに倣って、のちに若年齢なハマーン・カーンも臨時軍曹にする。

 

 

 

 シャアは、ついにアムロの協力を得ることになった。

 少年が、後戻りできない道を進み始める。

 アムロのジオン側での参戦も近づいて来た。

 

 そして、シャアのムサイ艦隊に一輪の―――ハマーンの可憐な華が咲く。

 

 しかしアムロは、一つ重要なことを忘れていた。

 後戻りすると考えていたとしてもジオン側へ一旦は協力する以上、身元はともかく『V作戦』については教練施設等について明かさなければならないだろうという事を……。

 感情から『勢い』で動くところがある少年アムロは―――まだ『若かった』。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 全長2kmにも及ぶ巨大な艦影を中心にした船団が地球圏へ到達しつつあった。

 

「何とか壊れかけの機関は持ちそうだな、少尉。今回が初めての往復任務の若いパイロットながら、君の発案と技術が無ければ如何なっていたか。本当にご苦労だったな。皆、君に感謝しているぞ」

「はっ、ありがとうございます。ですがあの時、艦長らのお早い帰還の決断と、皆での不眠の作業があったればこそかと思います」

 

 その巨大な艦影の先端に近い艦橋部で、地球連邦政府資源採掘艦艦長のブルース大佐が掛ける声に、横に立ち照れるように微笑む若き天才肌の薄紫髪な少尉であった。

 

 彼の名は―――パプテマス・シロッコ。

 

 間もなくこの戦争で名を轟かす男である。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月16日 投稿
2015年04月05日 文章修正



 次回予告)
 戦場に可憐な華たちが咲き誇る。
 シャアのムサイ艦隊にハマーン・カーン。
 ホワイトベースにセイラ、ミライ、フラウ・ボゥ。
 そして、連邦にも――

 次回、RED GUNDAM、第7話『マチルダ出撃す』
 君は、生き延びることが出来るか……


 そんな感じで。




 解説)俗物
 世間的な名誉や利益などに心を奪われる、利己主義なつまらない人物。俗人。
 対して、損得抜きなアムロの優しい言葉と行動に、少女ハマーンは感動し信頼を寄せ付いてゆく―――どこまでも。


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第07話 マチルダ出撃す(1)

 

 南米アマゾン流域にある、地球連邦軍総司令部ジャブロー内の広々とした統合指令室。

 この基地内では開戦以後、それほど大きな戦闘が無く、全域に渡り空調等も整い快適な環境が作られている。

 指令室にも、ある意味のんびりとした厭戦気分も有る中、多くのモニターとオペレーターが並ぶ。

 そこに、WB(ホワイトベース)の状況が届いて来ていた。

 十日程前、ここより飛び立ちサイド7まで行き、『V作戦』の成果である極秘開発のMS(モビルスーツ)群をここまで移送して来るはずであった。しかし途中からジオンの艦船に後を付けられ、サイド7で『ガンダム』一機をジオン側に鹵獲され失い、地球降下手前の戦闘に於いては機関部の損傷で地球へ降下出来なくなったと報告して来たのだ。現在はルナツーに戻って立ち往生の状態になっているだろうと言う。

 WB護衛のサラミス艦長のリード大尉が、大気圏突入カプセルで地上へ降下し知らせに来ていた。

 

「エンジンの損傷と片側を喪失したため地球に降りられないとは……」

「ガンダムがジオン側に奪われたそうですな」

「何をやっているんですかなぁ」

「ガンダムは一応もう一機、WBにあるそうですな」

「それに艦隊戦の戦果、短時間でムサイ2隻とザクを8機も落としたみたいで」

「ふむ、WBらは役には立ちそうですな……何とかしなくては……」

「……金も掛かってますからなぁ……」

 

 この場にいる地球連邦軍の高官ら数人は、口々に思ったことを呟いていた。

 色々口には出したが結局、WB自体の開発・建造費も含め『V作戦』関連には多大な予算が注ぎ込まれており政府側への手前、何も手を打たない訳にはいかないのであった。

 そして、ちょうど当基地に『V作戦』の件もあり、立ち寄っていた一人の将軍がその場へ現れると皆、口を閉じていった。

 

 彼の名はヨハン・イブラヒム・レビル。

 

 階級は大将。地球連邦軍の地上・宇宙の双方において実戦部隊の総司令官を務める。彼は歴戦の武人でもあり他の高官らとは格が違った趣を持っていた。

 貫録のある締まった軍服姿に、口元から顎周りまで威厳のある手入れのされた灰色の髭をも蓄えている彼は、WBについての報告と状況を確認する。

 そして、彼より速やかに『その命令』は下された。

 

 

 

 ジャブローの宇宙艦ドックの一画にある建物内の最上級士官の一室。

 赤い髪の美しい女性士官が一人、男性士官の前へ現れた。

 彼女の名はマチルダ・アジャン中尉。百七十センチに少し届かないほどのスラリとした綺麗な女性らしい体形。軍帽を被る凛々しいグレーの連邦軍士官服姿である。22歳、婚約者は―――まだいない。

 同室の男性士官は初老なバートランド准将、ジャブロー滞在軍の宇宙艦隊司令である。

 准将を前にしても落ち着いた彼女は、凛々しく敬礼をすると用件を述べる。

 

「特別補給部隊隊長のマチルダ・アジャン中尉です。本日はWBへ補給を行なえとレビル将軍より言付かりました。これが命令書です。つきましては協力をよろしくお願いします」

 

 バートランド准将は、命令書よりも若く美しいマチルダを一瞥すると「ふふふ、夜に食事でもどうかな?」と誘いを掛ける。

 マチルダは表情を変えることなく一言返す。

 

「准将閣下、私が―――レビル将軍閣下の代行で来ていることに、命令書をご覧になってお気付きになりませんか?」

 

 准将は直ちに命令書を読み返すと、そこには大将としてのレビルによる厳命が列記されていた。それは時間厳守の要綱で、階級に関係なく怠慢な者には厳しい懲罰有りとまで記されていた。遊んでいる時間などないのだ。

 バートランド准将は、顔の弛みを引き締めた表情で言葉を返すのみであった。

 

「すまなかった……直ちに協力する」

 

 協力許可をもらったマチルダは直ぐに宇宙艦ドックへやって来た。

 そして、とある艦の艦長である壮年のセドリック少佐に会うと、レビル将軍とバートランド准将の命令書のあと、本作戦書を確認してもらっていた。

 内容を見た彼は、マチルダを見返し言葉を返す。

 

「中尉、本当に―――これを実行するのか? 宇宙(そら)に上がった後が結構危険であると思うが」

「そうですね、ですが確実に『荷』を上げるにはこれが一番かと。確かに無人で打ち上げる手もありますが、上も受け取り準備に回す余力を作るのには時間が掛かるようですので。またジオンの艦隊は、WBの降下予測進路側に未だいるはずですから、盲点な宙域を通れると思いますし」

 

 マチルダは時間厳守の命令書では、宇宙側の準備を待っていられなかった。

 セドリック少佐は、彼女のこの後の行動も気にしていた。

 

「それに……地上の補給部隊の君が態々上へ上がらなくても」

「この案を言い出したのは私です。なので私自身も乗艦させていただき宇宙(そら)へ上がり、納入完了まで見届けるつもりです。これでも戦地はいくつもミデアで飛び越えていますので、邪魔にはならないと自負していますが」

「ははっ、分かりました。将軍の命令書からも殆ど堅実に物資を届けているというすばらしい評価もありますし、いいでしょう」

「時間がありませんし、『大物』の積み込みはこちらでさせていただきますが、通常の補給物資搬入の準備はよろしくご協力願います」

「了解した」

 

 二人は笑顔で敬礼し合う。

 

 

 

 

 

 時間になり、シャアらはフラナガン機関の建物を出る。

 塀も無いこの外観からは、想像も出来ない隠ぺいされた重圧的な空間であった。

 結局シャアはこの建物について、アムロへはまだ詳しく話していない。

 建物の前の道へは既にデニム曹長が、先程の偏光ウィンドウな中の見えない小型車で迎えに来ていた。

 だか曹長は、少佐ら二人の他に短めのポニーテールな赤紫髪の女の子が増えている事に首を傾げる。

 

「少佐、そのお嬢さんは?」

 

 ハマーンはヘッドギアを取った後、肩程な長さの髪を後ろで纏めていた。

 ガキと言うには表現が合わない、身長が百四十五センチ程で紺と白のワンピース姿の品のある可愛い綺麗な娘に見えたのだ。

 

「ウチで預かることになった。まあ、頼むよ」

「はぁ」

 

 デニム曹長は事情が分からないが、少佐の言葉にとりあえず了解の言葉を返すと、皆で車へ乗り込んだ。

 帰る途中の車内でシャアは、再びマスクを付けたアムロへ告げる。

 

「アムロ少尉、ここは私が助けたがこの子の面倒は君が見たまえ。いいな」

「は、はい」

「だが要望があれば、遠慮せず私に伝えるといい」

「分かりました、少佐」

 

 アムロも少佐の言葉は当然だと感じた。自分がかなり無茶を言って出してもらった子なのだ。

 だが、女の子の面倒である。おまけによく考えると、これから彼女の住む先は男の軍人しかいない軍艦のムサイ艦であった。少年の不安もそれなりに大きくなる。それでも『あの施設』がある、このサイド6には置いて行けなかった。

 人ひとりを預かるのだ、責任重大であった。アムロは気を引き締める。

 だがまず、彼女には今着ているワンピースと、カバンで持ち出した僅かな手持ちの服と下着や小物しかない。

 

(……この子の服とか日用品を買いに行かなきゃ)

 

 シャアらは宇宙港の入口下まで戻って来た。

 少佐からは「君の服は軍で支給するが、彼女についてはこれで準備したまえ」と結構な額の金額が使えるカードを渡される。

 

(若くても、やはり少佐は面倒見がいい人だな)

 

 今のアムロにはそうとしか見えていなかった。

 そんなアムロの横で彼の腕に可愛く縋りつつ、ハマーンは少佐という男をじっと静かに観察していた。

 

(……これは……『俗物』ではないけど……油断できない男……か)

 

 外へ出れたのは少佐のおかげなのは理解出来るが、アムロの様に損得抜きで信頼出来る人物かは別問題である。彼女はすでに、自分を利用しようとする者が許せない性分になっていた。今の所、シャアへは『借りがある人物』という味方認識に落ち着く。

 アムロは、デニム曹長から運転を引き継いで車を借り、そのままハマーンを連れて港入口近くのショッピングセンターまで買い物へ出かける。

 少佐からは「一応君を信用しているが、あの少女が居た施設の者も街中で見ていることを忘れないでもらいたい」と釘を刺されていた。

 

 港入口へ向かうシャアへ、艦を下りここまで出迎えたドレン少尉は、そのままモール施設へと向かい走り去るアムロの運転する車を見ながら小声で話しかけていた。

 

「少佐、よろしいので?」

「ああ(これであの若い少尉には『足枷』も付いた)」

 

 しかしこの時、シャアも『足枷』自体が化けるとは思っていなかった。

 

 ショッピングセンターへ向かい始めてすぐ、車の中のハマーンはアムロへ質問する。彼女は年下な上、助けてもらった身だが媚びる少女ではない。対等に話をする。

 

「アムロ、そのマスクは何なの? あの少佐とお揃いみたいだけど」

 

 もっともな質問だと思う。アムロは一瞬答えていいのか迷ったが、ハマーンへは少し話す。

 

「僕は、実は連邦から来たところなんだ。さっきの件で少佐に協力することになったんだけど、余り顔を知られないようにって。この事は皆に内緒だよ?」

「ふぅん、そう……逆に目立ってるような気もするけど、まあいいわ」

 

 そう、ハマーンはアムロ個人を信頼してるのであって、所属がジオンも連邦も関係なかったのだ。

 その後、ショッピングセンターへ赴いたアムロだが、『爪を噛む』よりある意味目立っている私服にマスク顔であった。さらに彼は、ハマーンに腕を組まれる等の甘えられ具合に四苦八苦しながら、服や下着を選ばされる羽目にも会い、雑貨を買い込むと船へと戻って行った。

 

 シャアは、アムロへは先に誠意を示しておく方針でいた。彼は、アムロが旗艦型ムサイ艦へ戻ると、まず正式に部屋を与えた。そこには小さいながらもシャワー室まである6平方メートル程ある士官相当な部屋であった。ハマーンはアムロと同じ部屋でいいと少し駄々を捏ねたが、アムロに促されると漸く承諾し近くの4平方メートル程と手狭だが彼女も個室が与えられた。

 その後、マスク姿のままのアムロは少佐と一室で自分の仮の名と所属に付いて知らされる。承諾したのち、緑カーキのジオン軍士官服を渡され着替えると、外へ出て待っていたシャアと共に二人は艦内の一画にある三十人程は入れるブリーフィング室へ入る。

 そこにはデニム曹長、ガウラ曹長、スレンダー軍曹らシャア艦隊に所属するMSパイロットら五人と艦隊副官のドレン少尉、そして艦内を管理している曹長の内、アムロの顔を知る二人が集まっていた。アムロを扉の閉まった入口脇に残し、シャアが正面中央のスクリーン前に立つと軽い敬礼の後話し始める。

 

「諸君、我々部隊に新しい隊員が加わる。皆知ってる通り経緯(いきさつ)はいろいろあるが、彼は既に特務機関の所属先からここへの配属となっている。経緯に付いては以前の通り、ここにいる者以外には他言無用だ。なお彼は私直属の士官になる。階級は少尉である。彼の名は―――アムロ・ノールだ。アムロ少尉、挨拶をしたまえ」

 

 シャアが少し脇へ退くと、アムロが正面中ほどへ進み出て来る。少佐の事前の指示通り敬礼をしてから自己紹介する。

 

「アムロ・ノール少尉であります。まだ艦内に慣れていないのでよろしくお願いします」

 

 軍帽を被るアムロの挨拶は僅かに緊張気味な、どことなく初々しい感じがしないでもなかった。

 だが、副官のドレン少尉らから拍手で迎えられる。ガウラ曹長やデニム曹長らを始め皆、アムロの驚異的な操縦技術はシミュレーターで、すでにイヤなほど知っているため、ニヤけ顔の歓迎ムードである。

 シャアも口元を綻ばせていたが、連絡事項を続けて伝える。

 

「あと、彼の配属の都合で娘が一人艦隊所属になる。ハマーン・カーンという子だ。責任者はアムロ少尉になる。出航前に少尉と共に隊員の皆の前で顔見世するが、何か困っていたら助けてやってくれ」

「「「「「「はっ」」」」」」

 

 皆、些か困惑の笑いを浮かべながら了承し「では、解散」とシャアの言葉で内々の紹介式を終える。

 シャアから「今日は、部屋を整理した少し後でジーン軍曹にハマーン共々艦内案内をしてもらうといい。後は自室でゆっくりしたまえ」と言われて、アムロは覚えたての部屋への通路を進んだ。

 

 アムロが部屋へ戻ると―――早速シャワーが使われていた……。もちろん使っていたのはハマーンだ。アムロが部屋のパスワードを試しているのを、その時横にいた彼女はもちろん見逃すはずが無かった。シッカリと暗記していていたのだ。

 だが行儀よく、服はシャワー室脇にある椅子へ綺麗に畳まれ、下着も服できちんと隠していた。そんな彼女が、シャワー室から話し掛けて来た。

 

「おかえり、アムロ。シャワーを先に使ってるわよ」

「……何やってるんだよ?」

「時間も丁度いいし、暇だったんだもの。一緒に入る?」

 

 狭いスペースだし二人入るのは少しキツい。それに事後報告も甚だしい感じだが―――問題はそこではない。

 なぜ、『普通に』入ってるんだよ?と言う思いだ。

 

「入らないよ」

「そう?」

 

 シャワーの音が止まる。

 ハマーンは中から外に掛けてあるバスタオルを掴むと、中で髪や体を拭く。

 

「僕の前で……は、はずかしいとか……ないのか、ハマーンは?」

 

 彼女は、バスタオルを体に巻いて、まるで妖精のような雰囲気で出て来た。

 

「何を? だって、軍艦って共用のシャワーしかないと思うし。良く知らない男達の前で服を脱ぐなんて冗談じゃないわ。それに、私の物はアムロの物、アムロの物は私の物でしょ、ね? 私は―――アムロだから気にしてないんだけど」

 

 いつから『そう決まった』のかまるで覚えがないし、『ね?』じゃないと言いたいが、彼女の腰に手を当てての堂々とした発言に、「わかったよ」と答える少し気弱なアムロだった。その答えをハマーンはニッコリと微笑んで聞いていた。

 ハマーンの着替えを部屋の外で待ち、終わるとアムロの部屋の整理になるが……何故かハマーンの荷物の方が多い気がした。

 

「だってあの部屋、ロッカーが小さいんだもの。ここのロッカー広いし」

 

 いつの間にかアムロの雑貨の一部がハマーンの部屋へと回されていった。

 

(そのうち、この子がこの部屋に住んでいそうだな……)

 

 アムロは気にしない事にした。

 整頓が済むと、少ししてジーン軍曹がやって来たので二人は艦内を一通り案内してもらう。ハマーンは人見知りはしない感じだ。軍曹の「じゃあ、行きましょうか」の声にも、偶に振り返り説明する彼にも、後ろに続き堂々とアムロの横を歩く。

 二人はとりあえず、艦内でよく使う場所を案内してもらった。共用トイレ、MSデッキ、脱出装置、物資倉庫、食堂、共用シャワー室等である。行く先々で会う兵らは皆、愛想よくしてくれた。こんなところで女の子を見ると、妹や娘ら家族を思い出すのだろう。

 終わると軍曹へ礼を言って、食堂で食事を取る。

 すでに夜の時間になっておりシャアからは、その後は自室でゆっくりしろと言われていたので就寝時間になるまで、のんびりベッドの上で本を読んでいたが、何故かハマーンもずっとその横で本を読んでいた。

 

「そろそろ、寝よう。ハマーンも自分の部屋へ戻って。おやすみ」

「……うん」

 

 彼女が本をベッド脇の棚に戻し、降りるとアムロはベッドへ入って、ハマーンを見送る。

 ハマーンは部屋からの去り際にアムロへ振り向く。出口の自動ドアが開いた。

 

「アムロ、あの場所から助けてくれて―――ありがとう、おやすみ!」

 

 そう言って、彼女は横になってるアムロへサッと近寄り、彼の頬へお礼のキスをするとドアが閉まる前にダッシュで去って行った。

 アムロは、閉まったドアを呆然と見ていたが、微笑むと再び「おやすみ」と言って眠りについた。

 

 

 

 

 

 月の裏側にあるサイド3。その首都ズム・シティにあるジオン軍総司令部。

 先日ドズル中将の提出したシャア少佐の特進願いに対して、総司令部内で待ったが掛かった事について、少将以上な兄妹での定期会合の終わりにドズル中将から確認があった。

 総帥ギレン・ザビは大型モニターに映る、ドズル中将、キシリア少将を前に話し始める。

 

「二階級特進……大佐か。些か若すぎないか? それに贔屓な気もするが、ドズルよ。MS一機と戦闘の情報にだ」

「そんな事はありませぬ、兄上。『V作戦』の決定的な機体の現物と新造艦艇の情報なのですぞ」

「まあ戦果は確かに大したものだ。父上も喜んでおられる」

「では」

「だが、ガルマの親友と言うではないか。同じ階級の大佐へ上がれば……なぁ? ガルマにも立場があるとは思わんか? 考え様だぞ」

「ぬ……ぐぅ」

 

 今は地球侵攻軍総司令マ・クベ少将配下になっているが、末の弟のガルマに大きな期待を寄せているドズルは目線を落とし苦しい表情で沈黙する。

 すると二人のやり取りの様子を伺っていたキシリアが薄ら笑いを浮かべつつ、進言する。

 

「では、当初の要望のあった装備について少し加える形で、中佐というのが宜しいのでは?」

 

 彼女も、シャアの戦果と手腕を認め始めている一人だ。

 

「ふむ。そうだな……どうだドズル? それで」

「なら……細かい事を三つ加えてもらいたい」

 

 ドズル中将の提案は他の二人にも承認された。

 一階級特進というのも、功績のあった者への特別の昇任には違いなかった。

 だが、結果的にシャアはこの勲功では『大佐』に成れなかったのである。

 

 

 

 

 

 再びサイド6宇宙港内、将官用旗艦型ムサイ艦。

 シャアの艦隊は明日一杯、寄港地であるこのサイド6にて休暇となる。

 シャアは明後日出航し、グラナダへ向かう為の出航時用の書類準備で遅くなっていた。

 漸く終わり、彼は寝る前にトイレへ向かおうと自室を出る。

 すると……薄暗い通路に何かいた。

 ここは士官の個室が並ぶ階層である。

 彼はとりあえず声を掛けた。

 

「おい、そこで何をしている」

「! 少佐……」

 

 振り向いたのは、ハマーンであった。ポニーテールの髪は下ろして、愛らしいピンクのパジャマを着ている。

 だが、下の層へ降りようとしていたところで迷っている様だった。

 シャアは、少し優しい声で聞いてみる。

 

「どうした、ハマーン? もう遅い時間だが」

「……」

 

 何故かハッキリと答えない。しかし、モジモジしていた。

 シャアは、紳士としてすべて察して教えてやる。

 

「この階層にも士官用の個室のトイレがある。この突き当りだ、使うといい」

「! ……ありがとう」

 

 お礼を言うとハマーンはそそくさと通路を進んで行った。

 

(少し、いい人なのかも……)

 

 ハマーンの中の、シャアへの味方認識度が少し上昇していた。

 

 

 

(アルテイシアにも、あれぐらいの時期があったのかもしれない……ザビ家め!)

「あれ? 少佐、珍しいですね?」

「ん? ああ……偶にはな」

 

 シャアは、下の共用トイレでデニム曹長に声を掛けられていた……。

 

 明後日、シャアの艦隊は月の裏側にある月面第二の都市グラナダへ向けて中立地域のサイド6を後にする。

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 レビル将軍によるWB関連の補給命令発令から二日後、ジャブロー基地最大の開口扉である、宇宙艦ドックの出入り口が全開されていた。

 セドリック少佐が艦長を務める、準備を整えたWB(ホワイトベース)の同型艦のペガサス級強襲揚陸艦一番艦―――『ペガサス』が異様な状態の船体を見せ出港する。

 その目的地はルナツー。

 

「おい! あれは?!」

「すぐに、暗号の送信準備をしろ!」

 

 密林の中に潜み、偶々居合わせた、ジオン軍の常駐探索隊の兵らが呟く。

 

 ペガサスの、そのやや青みのある白い船体の甲板上には―――WB用に補給する新品のメインエンジン左右分の二基が船体の前後に露出の状態でガッチリ固定され積まれていた。

 ペガサス級の総推力55万トンの機関パワーが、補給物資を満載し、なお一基六千トン以上もある予備エンジン二基を乗せても船体を軽々と空へと浮上させていく。

 艦内には補給隊隊長のマチルダ中尉、リード大尉らも乗艦し、サラミスの大気圏突入カプセルも艦尾格納庫に積まれている。彼女は艦橋から離れていく地上を静かに見ていた。

 

(地上から宇宙へ……地球は綺麗ね。これらを守るためにWBには頑張ってもらわないと。そのために私は行く―――)

 

 ペガサスは徐々に空へ小さくなり大気圏を脱出して行った。

 

 だが、ジオン軍の偵察部隊にジャブロー最大の出入り口場所が知られてしまう機会になってしまった。

 この後に親友シャアの、地球連邦軍『V作戦』に関する極秘MS鹵獲という大きな活躍と戦果での昇進を知った、北米にいるジオン公国軍地球北米方面軍司令ガルマ・ザビ大佐が奮起し、『ジャブロー破壊作戦』を発動するのはそう遠くないのであった。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年03月27日 投稿
2015年04月02日 文章修正
2015年04月05日 文章修正


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第08話 マチルダ出撃す(2)

 

 シャアは指揮官自室で独り―――頭を抱えていた。

 中立地域のサイド6からの出航の今日、朝食あとの尋問時にアムロが答えた『V作戦』へ関する答えに。

 

 

 シャアの艦隊は、月面第二の都市グラナダを目指す。

 鹵獲した連邦の新型MS(モビルスーツ)『ガンダム』を精密調査する目的で持込むためである。

 同時にキシリア・ザビ少将の命により、ガンダムのパイロットとして捕虜となっていたアムロのニュータイプ適正についても調べる為、航路の途中に当たるサイド6へ寄っての道程となっていた。

 入港当日、そして昨日まで、乗員は非番の者について、交代でコロニーへ上陸しての休暇が許されていた。

 シャアは昨晩、艦内通路で会ったアムロへ、「明日、例の作戦について話を聞かせて欲しい」と伝えた。少尉は見える口許を硬くすると「分かりました」と答えてその場は分かれる。

 そうして今朝、朝食の後に人払いされた艦内の一室へとアムロを呼び出した。

 

「落ち着いて話をしよう、そのマスクも外したまえ」

「はい……」

 

 入室して来たアムロのマスクを外させて、彼をリラックスさせてやることも忘れない。

 

「さてアムロ少尉、そろそろ『V作戦』について話してくれてもいいんじゃないか?」

 

 シャアは、場が硬くならないようにとマスク下に見える、口許を緩めて優しい感じにそう切り出した。

 しかし、アムロの表情は硬い、そして。

 

「すいませんが……言えません。……僕の家族も軍属なんです。僕が喋ったと分かれば投獄され―――銃殺されるかもしれない。悪いのは戦争だと僕も思います。だから、戦争を終わらせる事には『アムロ・ノーン』として全力で協力します。ですが、『V作戦』については話せません」

「君は、民間人に被害を出さない事には、私に協力すると言ったはずだが」

「すみません。それは僕個人だけの事ならということでお願いします」

「……(困ったな)」

 

 シャアとしては上層部へ報告する『情報(モノ)』がなければ、各所へ無理を通した分、体面を保つのが難しくなる。

 だが、シャア個人の目的としては、『その情報』よりアムロの方が必要な人材だと考えていた。

 

「アムロ少尉」

 

 膝上に、右手の親指を上にした状態で握りつつ噛むのを我慢し、目線を僅かに左側へ落としていたアムロは、少し厳しい感じに呼ばれたシャアへ視線を戻す。

 

「これだけは言っておく。この後もあの子を守ったりその意思を通したいのなら、自分の存在意義となる『戦果』で通してもらうしかないな。君の持つ情報以上のものを君自身が持っていることを実力で証明したまえ。次の戦闘には君も最前線に出てもらう。出来なければ―――あの子がどうなるか君にも分かるな?」

「……はい、分かりました」

 

 シャアは、アムロ自身だけを急に追い込んでも余り良い結果にならない気がし、それよりも彼の周辺を厳しい状況にした方が、少尉は行動するのではと考えていた。ハマーンの件での彼の行動がそう思わせるのだ。

 アムロへの尋問はそこで終わった。少佐に「今日はもういい、下がりたまえ」と退室を告げられ、マスクに軍帽を被ると、少尉は何となく不慣れに見える敬礼をして退室していく。

 一人残ったシャアは、椅子を倒し溜息を付きつつ天井を仰いでいた。

 

 サイド6から出航する少し前、ムサイ艦二隻の乗組員ら約四百名程(最低限の常駐者除く)が港の広いドッグ下に手短かに集められ、その場にて艦隊でも上位の士官となるアムロと彼の関連で所属するハマーンが、ちょっとした折り畳み式のお立ち台にて並んで紹介される。その際、もちろんアムロは、あの目元を隠すマスクをして軍帽と緑カーキ色の士官服姿で臨んでいた。その近くに立つ、シャアの表情は例の件で冴えない。

 その際の挨拶で、アムロは無難に「ハマーン共々よろしく」と発言する。だがポニーを揺らすハマーンは、「あの皆さん、お酒臭いのはなんとかしてください! 飲み過ぎは体に悪いですし」と休暇で許されていた飲酒で艦内が酒臭い事に一言申していた。「大丈夫、あれは体の薬だぞぉ」という、娘へ言い訳を言う親父のようなヤジと共に逆に皆の笑いを誘っていた。そんな雰囲気にハマーンは、プンプンと少しご機嫌斜めだ。

 一方この場でアムロが、艦隊指揮官シャア少佐直属の少尉と口頭で周知され、特務機関所属という事も裏で伝わっており、目元を隠すマスクには『理由がある』のだという皆への印象付けもされることとなった。

 このマスク装着は見えない効果を上げていく。シャアとしては、今の段階で連邦の人間だと知られなければ良しという事であったが。

 アムロはサイド7ではそれなりに有名な民間人の少年であり、このように普段から顔を隠していれば、偶然見かけられての発覚はかなり防げる形と言えた。

 そうして間もなく艦隊の出航時間を迎える。

 休暇の間、サイド6や艦内で羽を伸ばし、まだ少し酒臭い漢達が真剣な顔に戻り、艦内の持ち場へ散っての出港準備に移る。

 出航の際も、港から数隻の検察艇に宇宙灯台のある境界線付近まで曳航され、封印を検察官らより再チェックされてからの開封となったが手間が掛かりつつも無事に出航出来た。

 

 ―――将官用ムサイ内、シャアの自室。

 そこは、10平方メートル程の広さがある指揮官室だ。

 無事の出航を確認すると、シャアは副官のドレン少尉へ艦橋の指揮を任せ、その自室へと戻っていた。

 彼も余り悩んでいる時間は無い。アムロへ関する報告は、ドズル中将らから催促や疑われる前に済ませておきたかった。

 シャアは、少尉の持つ凄まじい素質を含めた貴重な存在と、これから『少尉をフォローする』リスクを頭の中で天秤に掛ける。

 

(ええい……毒を食らわば皿まで)

 

 少佐は、ドズル中将からの計らいもあって、一部の高級佐官のみが閲覧可能な極秘情報ファイルをある程度閲覧することが出来た。

 

 そう、静かに速やかに―――情報のねつ造を始める。

 

 少佐自身は気が付いていないが、年下の娘を守ろうとしている少尉の行動や思いを見て、そこには『損得』だけではない自分にも重なる『何か』の心情が生まれ始めていた。

 シャアは苦肉の策として、アムロの知る『V作戦』についてジオンの諜報部が掴んでいる最新情報をある程度確認し、それに照らして少佐『独自』に10ページほどのレポートを作成しドズル中将宛てで暗号報告を行なった。要約は以下のようなものだ。

 『少尉のその教育施設までの移動に際しては、目隠し、ヘッドホンなどでパイロット自身にも厳密な形で極秘にされ、教練も個人単位で隔離して行われていたとの事。実戦的なシミュレーターも使われ、選抜された若い優秀な兵士に高度な技術習得への育成教育を施しているのが伺える。それは、当艦にあるシミュレーターでの得点や実戦経験の豊富な兵らとの対戦形式の結果でも証明されている。また彼が僅かに見た風景から場所は―――南米と推測』であると。

 加えて、現在優秀な彼を寝返らせフラナガン機関へ仮所属とし、特務扱いにして自艦隊へ出向させる形を取っており、今後も知り得た情報は報告するとも伝えた。

 

 そんなシャアの大人的な苦労を知らないアムロであったが、実は彼も自業自得ではあるけれど少年的には苦しんだ。

 通路で少佐から急に明日と言われ、アムロは固まった。

 

(……しまった。ああ、どうしよう……)

 

 『例の(V)作戦』に付いて聞きたい―――。

 

 そんな意味合いの言葉が、頭の中をグルグル回り、彼の思考を圧迫し始める。

 重要な事をアムロは失念していたのだ。協力すると少佐にも言ってしまっている。

 だが、知る訳もない連邦の極秘情報など取り繕えるわけがない。

 その場は無理やりな苦笑いで流せたが、部屋に戻りマスクを机の端へ投げ付けベッドに潜ると、右親指の爪を思いっきり噛み砕く勢いで噛みしめていた。

 そこへ鼻歌交じりの、自室で寝床の準備を終えたピンクなパジャマ姿の可愛いハマーンが、ポニーテールを揺らし寝るまでの間、アムロの横で恋愛物な本の続きを読もうと飛び跳ねるような元気さで部屋へ入って来る。つい先ほどもアムロの部屋のシャワーで体をキレイキレイにしていた。出入口脇にあるコンソールへ打ち込むパスワード入力も、回数といいすでに自室以上の滑らかさだ。

 そして唯一な彼女の心の拠り所、アムロの傍に♪

 だが、そのアムロの状態が―――オカシイ。

 

「……どうしたの、アムロ?」

 

 アムロは、毛布から引き吊った顔を亀のように出すと呟いた。

 

「どうしよう……」

 

 ハマーンはアムロから、彼が少佐に対して知らない情報を知っている風を装っている事を聞く。ハマーンはズバリ聞いて来る。

 

「アムロ、それは……生き抜くためのウソなのね?」

「……ああ」

 

 それを聞いたハマーンは―――少し安心する。自分自身も言えない事の一つや二つはある。だが、付いていい『ウソ』と悪い『ウソ』。また、無駄で下らない嘘と生き抜く為の仕方のない嘘があることも知っている。

 そこで、年少ながらハマーンはアドバイスする。

 

「あの少佐はアムロを特別扱いしてるのが見て取れるわ。アムロの『要望』で私があの施設から出られたんですもの。重要なのは貴方が『ここ』にいて頑張ればいいはずよ。そこで―――」

 

 そうして、アムロのシャアへの言い訳が考えられた。

 

 シャアからの尋問を終えて、アムロは部屋へと帰って来る。

 ああは言ったがハマーンも成り行きが心配で少し心細く、アムロのベッドの上で彼の毛布に包まり座って待っていた。

 そんな可愛い乙女な姿でハマーンは、少し疲れた表情の彼を笑顔で出迎えてくれる。

 

「上手く行ったようね?」

「ありがとう、ハマーン。なんとか少佐に言い訳出来たよ。代わりに、僕自身の存在価値を『戦果』で証明しろって言われちゃったけど」

 

 後の無い土俵際の通告にも思えるが、今はそれでいい。

 とりあえず予想通り少佐が、アムロの方を優先したことに彼女は安心する。

 そしてハマーンは、優しく微笑んでこうも言った。

 

「付いた嘘を、良い『意味のあったモノ』にする努力を忘れないでね」

「……そうだね。わかった、頑張るよ」

 

 ハマーンの優しい雰囲気で、アムロの固まっていた表情にも笑顔が戻った。

 

 サイド6を出航して四時間ほど経った頃のこと。

 ソロモン宇宙要塞に居るドズル中将より『V作戦』関連の暗号報告に対してシャアの元へ直通レーザー通信が入る。シャアの前のモニターに映るドズルの表情は、機嫌がいいのか穏やかだ。

 

「さすがはシャアだな、報告は見させてもらった。これも総司令部へ回しておく。その報告にあった者はお前に任そう。細かい事はまあいい、上手く使えよ。それに――喜べ、『V作戦』関連の『勲功』により二階級とは行かなかったが……無事グラナダに着けば貴様は一部大佐並みの権限を持つ『上級中佐』だ。要望のあったモノもそれに少し加えて用意してあるだろう。新造艦を貴様の艦隊の旗艦にするがいい。それから、ソロモンへ戻ってくれば俺からの祝いの贈り物も考えてある。ではな」

「はっ、お心使いありがとうございます」

 

 上級中佐。臨時大佐と言うべき位置付けで大きな艦隊を持て、旗下を持つことも可能である。これによりシャアにとって、非常に意味のあるグラナダ行きとなってきた。

 

 

 

 

 

 地球連邦軍の宇宙における最後の砦とも言える最前線基地、ルナツー。

 地球へ降下するはずであったWB(ホワイトベース)は、その為の出航から二日半を経過し、左側のメインエンジンを丸ごと失い、右側メインエンジンも三割程度の出力に。そして四つのノズルの内でも右側の縦二つは攻撃で損傷し、左側の縦二つのノズルからしか吹かすことが出来ない状態で、この基地へと帰還して来た。

 ルナツー入港後、WB艦長パオロ・カシアス中佐は、ルナツー方面指令ワッケイン少将へ直ちに掛け合う。右メインエンジンについての最優先修繕についてである。

 四時間ほどの検証の結果、三週間半ほど掛ければ代替部品等で八割ほどまで直る見込みが立った。片側でも八割、全体にして四割あれば降下時の減速は十分可能になる。

 直ちに、パオロ艦長はルナツー基地内の技術者達も一部暫定的に組み込んだ作業班へ指示を出す。

 大気圏降下ポイントへ向かう途中の艦隊戦闘では、短時間でムサイ二隻とザク八機を撃破する大戦果を上げて当初は湧くも、今、乗組員たち皆の表情は、知らされた先の長いトンネルのような修繕期間に優れない。

 ルナツーに到着して丸一日が過ぎていた。

 今は右メインエンジン回りに作業へ必要な足場を組み上げているところである。副官のブライト・ノア少尉が一応の現場責任者を務め、厳しい口調で慣れない作業への指示を飛ばしている。

 内部側でも不要な破損個所の取り外しが始まっていた。

 船体後部ではそんな忙しい動きが続いていたが、前方のMS(モビルスーツ)格納庫内では各機とも一通りの整備を終えており、すでに日々の定期確認二回目を迎えて無駄口が聞こえて来ていた。

 

「これだけ暇だと、女の子でも連れてどこかへ出かけたいねぇ♪」

「かかかかっ、違いねぇですね」

 

「…………下品な笑い方」

 

 コア・ファイターのコクピットにいたスレッガー少尉に、近くにいて物資にもたれていたカイが相槌を打つ。それに『育ちの良い』セイラが、離れたガンダムのコクピット内で確認中に顔をしかめていた。

 

 そんな中、休憩時間に入ったハヤト・コバヤシは、フラウ・ボゥを懸命に探していた。フラウも同じタイミングで休憩時間に入っている事をもちろん知っていてだ。

 ハヤトの家も、アムロとフラウの家に近く幼馴染と言える顔見知りである。ただ、フラウに憧れている上に色々とアムロには適わないと苦々しく思っていたが、此処にヤツはいないのだ。

 彼はドリンクを両手に一本ずつ持っていた。

 そして生活ブロックの中で、彼女を見つける。フラウはまだ、健気にシーツの洗濯作業を続けていた。

 

「フラウ・ボゥ、休憩しないか? ほらドリンク、偶然一本ちょっと余ってたから」

 

 そう言って、愛想良くドリンクの小ボトルを差し出していた、しかし。

 

「ありがとう、……でもいいわ」

 

 フラウは、ハヤトへ微笑んでくれたが弱弱しかった。彼女は「じゃあ」とハヤトに背を向けると仕事を続ける。

 フラウは後悔していた。好きなアムロをあの日、何故自分は無理にでも一緒にWBへ引っ張って来なかったのかと。避難指示で彼の部屋まで起こしに行き、起こしたところで家族に呼ばれた。「僕もすぐ行くから、お爺ちゃんに付いててあげなよ」と優しく言われ、家族と一緒にWBまで来たのであった。あの時アムロに「さぁさぁ」と急かされなければ、自分も行方不明になっていたかもしれない。

 家族皆に引き止められたためWBへ乗ったが、気持ちとしてはサイド7に残って行方不明になったアムロを探したかったのだ。

 彼女の切ない表情に、アムロへの思いが募る。

 そんな表情で作業する彼女の姿を見ていたハヤトは、一人生活ブロックを後にする。

 ドリンクをフラウから見えない少し離れたゴミ箱へ―――二本とも捨てて。

 

(……僕はまだまだ諦めない。チャンスはあるはずだ。―――もう居ないヤツに負けてたまるか)

 

 彼も……彼女への思いが募っていく。

 

 

 

 

 それから二日が経ち、機関を損傷したWBがルナツーへ帰還してから三日目の夜に状況が大きく変わる。

 ルナツーへ一本の近距離通信が入ったのだ。

 それは、急ぎルナツー基地内のワッケインのいる中央指令室へと繋がれた。

 

『こちら、ジャブロー駐留の地球連邦宇宙軍バートランド艦隊第3部隊所属ペガサス艦長のセドリック少佐です。ルナツー聞こえますか? 我が艦はWBに対して緊急の大型補給物資と補給整備部隊を届けに来た。護衛の派遣と、入港を許可されたし』

 

 マチルダらの乗るWBの同型艦ペガサスは、進路上に敵を捉えることなくルナツーの防衛圏内まで到達して来たのだ。ここからなら通信は十分届くはずと。

 この距離までは、無線封鎖の形で潜航するかのように静かに航行して来ていた。マチルダの予想通り、宇宙へ上がった宙域には敵艦隊はおらず、かなり離れた位置にいたためペガサスへは今日まで接近して来なかった。

 だが、ルナツー周辺に一隻のムサイ級を確認する。WBの後をずっと付けていたあの船だ。

 ペガサス側は物資を満載しており、現時点での戦闘は絶対に避けたいところであった。

 そのため、このタイミングでの通知通信となった。

 この報にワッケイン指令は直ちに答える。

 

「了解した。こちらでは入港準備を進めておこう。護衛も直ちに送る。よろしく頼む、セドリック艦長」

『はっ』

 

 ルナツーから待機中の即応艦隊より、サラミス二隻とWBからもガンダム、ガンキャノン一機とコアファイター二機が急速発進して合流地点へと向かった。

 

 とはいえ、ペガサス側も全く無防備でここまでは来ていない。

 ペガサスにも一機の―――最新鋭MSが搭載されていた。

 『ガンダム』の量産型機になる『GM(ジム)』の、基本データ取得のために使われていたため、先行して優先的に整備調整が行われていた『ガンダム8号機』である。リード大尉が持ち込んだ、セイラ・マス操縦の『ガンダム』の実戦データも学習機能へ取り込まれ短時間で調整されている。コア・ブロックシステムが外され、腰部の突起等が無くなってはいるが、それ以外の頭部等は『ガンダム』の物が使われている。そして装備は、ビームスプレーガンの試作型の一つで高速収束器を内蔵した少し大型のスナイパー型ライフル。そしてシールドを装備。

 地上では俊敏に振り回すのが難しい型のライフルだが、ここ宇宙では片腕でも『ガンダム』程のパワーがあれば問題ないと持ち込まれていた。

 更に支援機として開発最終試験完了直後のコア・ブースターが二機搭載されている。

 ムサイの艦影を捉えたところで、ペガサス艦内でもこれらの艦載機へ直掩の為に発進の命令が出ていた。

 ところが、ガンダムのメインパイロットであるジョー・ミフネ中尉が、昨晩から高熱で倒れていたのだ。そのため、コア・ブースターへ乗り込もうとしていたサブパイロットであるヤザン・ゲーブル少尉が『ガンダム』へ乗り込み、ペガサス左格納庫のカタパルトから、ビームスナイパーライフル装備で発進する。

 そのあと、コアブースター二機も発進していく。

 ムサイ艦側では外から接近する船からMSらしきものらが直掩に付き、ルナツー側からも二隻の艦船とガンダムと思われるMSと戦闘機らが出てきたため、一時ルナツーの防衛圏傍から離れて行った。

 

 数時間後、WBの同型艦ペガサス級強襲揚陸艦―――『ペガサス』がルナツーへ堂々とに入港する。

 その甲板上に乗って固定されている巨大なモノである換装用のメインエンジン二基を確認すると、WBのパオロ艦長を始め、ブライトや乗組員らは一気に湧いた。

 やや青みがかった白い船体のペガサスは、WBの左横に並んで着底する。

 到着前からブライト指揮の元で、メインエンジン周辺に組まれていた足場の撤去が急遽進められえていた。

 並んだ二隻のペガサス級の艦は直ちに、届けられたメインエンジンの換装準備に入る。

 その中で両艦の艦長らがペガサスのブリッジにて会見する。

 

「セドリック艦長、ありがとう。正直、途方に暮れていたところだ。修理のメドは立ったのだが、修繕だけで優に三週間以上掛かると言う状況だったのでね」

 

 熟年に近い中佐であるパオロ艦長が、セドリック艦長と握手をしながら笑顔で礼を伝えた。

 それに対して少し遠慮気味に微笑みつつ、セドリック艦長は答える。

 

「恐縮であります、パオロ艦長。私はただ命令に従い運んできただけですので。礼は即対応な命令を出されたレビル将軍と、この素晴らしい作戦を計画したこちらの補給隊隊長のマチルダ中尉へ贈られるべきでしょう」

 

 彼はすぐ後ろに並ぶ、軍帽に赤毛の美しく凛々しい連邦軍士官服な女性の方を紹介するように向いた。

 彼女は、堂に入った敬礼を行なうと静かに挨拶する。

 

「はじめまして、パオロ艦長。この度、WB担当になりました特別補給部隊隊長のマチルダ・アジャン中尉です。……セドリック艦長はこう仰っていますが、地上では時間が無い中、こちらの手の回らなかった護衛の手配までされながら予定よりも早く積込みと出航準備を完了されておられました。出航後の指揮も素晴らしく、敵の接近を一切許さず通信のタイミングも最良のものであったと思います。計画は実行する部分の方が当然難しく、艦長の協力なくして補給の成功は無かったと考えています」

「私もそう思うよ、セドリック艦長。だが、良い計画がなければ補給は今、ここへは届かなかったのも事実。マチルダ中尉にも心から感謝する」

「はっ、ありがとうございます、パオロ艦長。さて……では今回の件に入ります。レビル将軍の命により、WBへメインエンジン二基並びに、補給物資と追加装備をお持ちしました。私の部隊へ優秀な整備班も連れて来ておりますので、出来るだけ早く出航出来る状態を整えます」

「本当にありがとう、マチルダ中尉。地球へ降りた際には、将軍へもお礼を申し上げるつもりだ」

 

 パオロ艦長はマチルダともにこやかに握手を交わす。

 パオロは続けてその場に居たリード大尉へも、地上への報告と補給を呼び込んでくれた事へ礼を伝えていた。

 この後、ブライトも含め、両艦の他数名の士官らの挨拶も交え、そのあと三十分程、今後の予定をブリッジから下へ降りた会議室で話し合った。

 その結果、『エンジンの換装作業に二日、調整確認と試験航行に三日という予定で、その間に物資の搬入を終える。WBは今日から六日後にルナツーをペガサスと共に出航。その一日半後に二隻とも大気圏へ突入しジャブローへ帰還する』事になった。

 このWBらの予定は、このあとルナツー側のワッケイン司令へも会議で報告される。

 その六日後の出航の際に、今回は万全を期すため、降下ポイントまでの護衛として戦艦マゼランと巡洋艦サラミス二隻も同行することになった。

 

 その間、WBのエンジン換装や物資搬入については、マチルダ中尉が艦長よりその全権を任されていた。

 その補佐としてブライト少尉が手伝っている。だが、その彼女の手際の良さにブライトは感服していた。

 

(こう見ていると、緊急で突貫を強いられる中、口調は滑舌よくハッキリながらも穏やかで且つ、指示を出している内容が常に先の先を見て行われている。そのために全体の進行に無駄が無くとてもスムーズだ。女性だというのは能力には全く関係がないな……素晴らしい指揮ぶりだ。自分も厳しいばかりでは無く、よくよく中尉を見習わねば……)

 

 WBの地球降下への準備が、メインエンジンの換装や、物資搬入が順調に進んでいた。

 そして……マチルダの22歳で美人振りな人気も、ペガサスとWB乗組員、果てはルナツー内部にまで順調に浸透が進んでいった……。

 

 

 

 そのころ、地球圏の宇宙空間で色々な動きが起ころうとしていた。

 サイド7からは、防衛増援と補給物資輸送の為に来ていたサラミス二隻のうちの一隻が、MSの入ったコンテナを船体の下部へ固定され、静かにルナツーへ向けて出港して行った。

 一方、シャア少佐のムサイ二隻艦隊がグラナダへ到着する。

 これによってシャアは臨時大佐と同等の『上級中佐』となった。そしてシャアの艦隊は用意されていた艦船群により大幅に増強されていく。

 『ガンダム』及びビームライフルとシールドは、数日の間、一部分解を含む各種精密調査へ回される事になった。

 それが終わった時―――シャアの『ガンダム』はついに『真っ赤』になる。

 

 そして―――

 

 

 

『こちらは、ジオン公国軍である。

 地球連邦軍資源採掘船団『ジュピトリス』艦隊に告げる、直ちに降伏せよ―――』

 

 

 

 ジオン軍エギーユ・デラーズ大佐率いる、グワジン級大型戦艦グワデンを中心とする、重巡洋艦チベ数隻を含む二十七隻にもなる艦隊と、百機にも及ぶMS隊によって、木星周辺から緊急帰還してきた全長二キロにもなる巨艦を中心とした連邦の資源採掘船団を完全包囲していた。

 サイド3と月の近くである。

 年初より地球との通信について直通レーザー通信までが原因不明で途絶しており、『ジュピトリス』艦隊に取って寝耳に水であった。その原因について、当初は太陽風や小惑星等での電磁波干渉の影響で全ての中継器の故障かと考えられていた。地球圏に近付いても状況が変わらなかったが、中継器の直接破壊が確認され、また広範囲で大量に散布されたミノフスキー粒子の検知など独自に調査を始めていた矢先でもあった。

 

 そんな中、緊急事態で戦闘宇宙艇に乗り込んでいた薄紫髪の天才肌の少年少尉のパプテマス・シロッコは、盛大なカルチャーショックを受けていた。

 

 

(あれは………………一体なんだ!?)

 

 

 僅かに噂程度でしか聞いていなかったモノに。

 初めて見る、人型の巨人のような兵器――――MS(モビルスーツ)の姿に。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年04月06日 投稿




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第09話 シロッコ脱出せよ(1)

 

 宇宙世紀0079年2月22日。

 

 その晩、彼は成長した自分が―――死ぬ夢を見た。

 

 閉じた狭い空間の中、赤い大きなものに胸腹部を潰されて……というものだ。

 だが、その夢は目が覚めたと同時に忘れ去っていた。

 

「起きろ、シロッコ! 大変だ!」

 

 パプテマス・シロッコ少尉は、同僚で地球連邦軍宇宙艇パイロットのフレッド少尉から激しく揺すられ起こされると、状況を聞かされる。

 機関部で大きな爆発が起こっていた。そしてその周辺部の艦内火災が深刻だと言う。

 シロッコは駆け出していた。真っ直ぐに艦橋へ。

 扉が開き艦橋へ駆け込むと、各所への対応に追われている乗組員達の中、この艦隊責任者でもあるブルース大佐へ叫ぶ。

 

「艦長、直ちに艦内火災周辺の広範囲な空気を段階的に全部抜いてください! 加えて、宇宙艇による火災部署への立ち入り許可を。私に妙案があります!」

「なに? ―――分かった。シロッコ少尉、急いで向かってくれ!」

「はい!」

 

 すでに、彼の開発した高性能マニピュレーターを装備された、宇宙戦闘艇の有能性は艦隊の中でも有名で、その才能は各部署でも輝きを放ちつつあった。

 その後、シロッコの現場で執った戦闘艇をフル活用した大規模な化学反応消化で、急速に火災が収まるも機関の損傷は深刻であった。

 そしてそれは、時間が立てば徐々に機関の出力は下がっていき状況は悪くなると計算され、このままだと長くても全員生存の余命は六か月という予想が判明する。それ以降は段階的に少しづつ死者が出だすという計算結果に至る。

 シロッコは『地球圏への帰還』を艦長ら上級佐官達へ進言する。また、早急な応急補修と調整次第では出力低下は緩やかに出来、『今ならまだ地球圏までは間に合わせられる』と言う。

 艦長らは、即日船団会議で『地球圏への帰還』を決定した。

 同時に、シロッコは壊れ掛けた機関の稼働を出来るだけ持たせる案を矢継ぎ早に提案していく。

 その日から帰還しながらの半月、シロッコも含め技術者たちは協力して24時間体制で機関補修に掛かりきっていた。

 失敗すれば最悪地球圏へ戻れず、多くの仲間達の死者を出してしまうという状況であった。

 しかし、彼らはそれを克服した。

 

 全長二キロに及ぶその巨大な船体。

 メイン反応炉機関群に大きな問題が発生し、予定では宇宙世紀0079年には地球圏へ帰ってこない予定だったが彼らは戻ってきた。

 月が―――地球が近付いてきていた。

 

 地球連邦政府の資源採掘艦『ジュピトリス』とその船団である。

 

 ところが―――

 

 

 

 初めから、その船団は軍のように見えた。

 救援? なれば地球連邦軍の艦隊か―――?

 だが、入った通信に船団の中枢である『ジュピトリス』の艦橋は騒然となる。

 

「こちらは、ジオン公国軍である。

 地球連邦資源採掘船団『ジュピトリス』艦隊に告げる、直ちに降伏せよ。私はサイド3防衛第3艦隊司令、エギーユ・デラーズ大佐である。周辺はすでに封鎖してある。繰り返す、直ちに降伏せよ」

 

 その聞きなれない軍隊名称に、ブルース大佐は一瞬詰まるが前後の内容から組み立てる。

 

(『ジオン公国』……とはなんだ。サイド3……月の裏側のコロニー群か……? 何が起こっている?)

 

 彼は多くの命を預かる指揮官として確認を行う。

 

「貴公らは、地球連邦政府とは違う組織体の所属なのか?」

「そうだ。我々『ジオン公国』は地球連邦から―――『独立した国家』である。今、それを真に勝ち取るため、正義の戦いが行われている。回答に三十分待つ」

 

 ブルース大佐は、直ちに船団内での内線会議を行なった。しかし、戦力差から選択肢は『降伏』しかなかった。

 

(……なんということだ。おそらく、年初から地球圏との通信が途絶しているのは、このためなのだな。木星の重水素を運搬できるこの巨艦『ジュピトリス』は地球圏の生命線の一つでもある。せめてこの状況だけは、なんとか地球連邦政府へ知らせなければ……)

 

 ブルース大佐は会議後、直ちに非常秘匿回線を―――シロッコ少尉の乗る宇宙戦闘艇へ繋ぐ。

 彼は、すでに宇宙艇発艦デッキへ駆け込んでそのコクピットへ滑り込み、各機能チェックがオールグリーンな事を確かめ終わり、臨戦態勢で待機しているところであった。

 突如ブルース大佐の指示が、彼の乗る宇宙戦闘艇のコクピット内へ響く。

 

『シロッコ少尉、聞こえるか。我々は降伏せざるを得ない。だが、緊急迎撃用カタパルトで一番手薄な月方向へ君の機体を打ち出す。―――何とかしてこの宙域をパスし、連邦政府へ状況を知らせてくれないか。今、そちらへ人を向かわせているが君に我が艦のデータを託したい。可能なら……ルナツーを目指せ』

 

 ルナツーはサイド3から地球を挟んで反対側であり、地球連邦の一大拠点である。その地理的な宙域に、ブルース大佐は指揮官として判断し掛けた。

 一方、指示を伝えられたシロッコは、味方が抵抗するなら時間も稼げようが、単機で出る為、死ぬ確率は非常に髙い命令と言えた。だが―――

 

「分かりました、了解であります。ではパプテマス・シロッコ少尉、データを受け取り次第、直ちにルナツーへ発進します」

 

 彼は自分の開発した宇宙戦闘艇の性能と、自身の操艇技量に自信があった。

 訓練兵時代でもその卓越した技量は、教官も含め他の者の追随を許さなかった。何機、敵『戦闘艇』がいようと突破できると考えていたのだ。

 

「よろしく頼む。君なら突破出来るだろう。武運を祈っている」

「はっ」

 

 データチップを届けに来たのは、ノーマルスーツ(宇宙服)を着たここまで配属もずっと一緒だった同じ歳の同僚フレッド少尉であった。

 

「頼むぞシロッコ! ……俺も一緒に戦いたいところだが」

「ああ、任せておけ。お前の分もプラスして蹴散らしてやる」

 

 二人は、操作室の窓とキャノピー越しで互いに微笑み親指を立て合った。無言で『GOODLUCK』と。

 次の瞬間、カタパルトから巨艦『ジュピトリス』の後方の月側に向けて一機の戦闘艇

が発射された―――。

 その直後、地球連邦資源採掘船団『ジュピトリス』艦隊は降伏する。

 

『私は地球連邦政府軍所属、資源採掘船団指揮官ブルース大佐です。デラーズ大佐、我が艦隊は降伏する。一般的な常識ある対応と、乗組員の安全を要望する』

 

 グワジン級大型戦艦グワデンの広い艦橋にて、スキンヘッドに口髭を蓄える長身のデラーズはその言葉に答えず、通信モニタに映るブルース大佐へ問いかける。

 

「ブルース大佐……今の機影はなんだ?」

「……分からない。調査中ゆえ、今は存じ上げぬ」

「ふん……降伏を認めよう。ではよろしいか?……知らないモノを潰そうと問題あるまい。――月方面封鎖位置のMS(モビルスーツ)隊各機、今飛び出して行った『不要物』を―――破壊せよ」

「「「「「了解!」」」」」

 

 MS隊小隊長らが答え、直ちに戦闘行動を開始する。

 シロッコの乗る宇宙戦闘艇を、十八機ものザクが待ち受ける。

 彼は、その初めて見る姿に大きな衝撃を受けた。

 

(あれは………………一体なんだ!?)

 

 人型の巨人のような兵器。人の様に巨大な銃やバズーカを使いこなしている。

 自分の開発した宇宙戦闘艇は宇宙空間ではマニピュレータの腕もあり、負ける気はしない。

 だが―――足のある機体。軽快な機動力。

 おそらく、コロニー内などで接近戦や地上戦に非常に有用だろう。地球上もしかり。

 彼に生死を掛けた戦闘が迫りつつあり、それに対処する思考の中でも、彼の頭脳には『人型の巨人兵器』への無限の可能性が広がって行く。

 

 彼の操る宇宙戦闘艇は、腕を畳んで加速する。

 ザク六機が待ち受け、十二機が進行先へ並走するように、速度負けしないように事前加速を始める。

 まず、待ち受けるザクらのマシンガンによる十字砲火が始まる。

 しかし、その微妙に目まぐるしく変わる攻撃の軌道をシロッコの宇宙戦闘艇は正確にスライドして避けていた。

 彼の宇宙戦闘艇は、形としては先端部にキャノピーのコクピットがあり後部に推進メインノズルがある流線型な宇宙艇だ。各所にもノズルがあり変則的な機動性を生み出す。下部側へ左右一本ずつマニピュレータの腕がある。発想としてはMA(モビルアーマー)に近いだろう。

 彼には―――全て見えていた。

 待ち受ける手前の六機の攻撃を躱し、それらを置き去りにする。

 彼の今の目的は『積極的戦闘』ではない。

 これらを自力で突破して連邦政府側へ、大佐の命により同僚から託されたデータチップを確実に届ける事なのだ。

 次に並走して来きつつある、先行しているザクらからも攻撃が始まった。両サイドに六機ずつだ。 もはや、直進加速だけでは撃墜されると感じたシロッコが、『攻撃』に転じた。

 両腕のマニピュレータには、こちらも貫通力の高い90mmマシンガンが搭載されているのだ。

 周辺のザクへそれを左右同時に別方向へ向けお見舞いする。

 彼はその時のザク十二機の反応を全て確認していた。そして、反応の鈍い機体から血祭りにあげて行こうとする。

 マニピュレータ内臓のマシンガンが、一機のザクの頭部モノアイや脇の下の装甲の薄い所を撃ち抜いていた。爆散までは行かないが大破はする。

 数分で都合四機を無力化させた。数がいても動きが悪ければ標的にしかならないのだ。

 だが、残り八機の中に腕の立つものはいた。

 バズーカは大振りなので弾は躱しやすいが、120mmザクマシンガンは弾速が早く、腕の立つ三機が連携して躱せる場所を無くすように弾幕は薄いが集中砲火を浴びせて来たのだ。

 残念ながら、シロッコの宇宙艇は120mmもの口径の直撃弾に耐えられるほどの頑丈さでは無かった。

 機関部を庇い、両腕のマニピュレータの装甲の分厚い部分で数発を受ける。

 貫通はしなかったが大きく凹みが付いた。機関部で受けていればメインノズル部分が完全破損しただろう。

 

(……機体には一発も受けるわけにはいかない。……さっさと片付けるほかないか)

 

 直進していたシロッコの宇宙艇は急激に不規則な螺旋を描くように飛び始める。そして、急減速したかと思うと方向転換し、一機のザクへ肉薄し、モノアイと背中の推進部をマニピュレータのマシンガンで撃ち砕いた。

 彼は感じるのだ、いや『流れが見えている』というべきか。この感覚のとき、彼は負ける気がしなかった。

 さらにあっという間に、三機を戦闘不能へと撃ち落とす。

 残りは四機になった。

 さすがに、ジオンのMS隊のパイロットらも、この宇宙艇の異常さを感じ取っていた。

 全く『捕まらない』のだ。

 

 相手は近接して両腕のマシンガンを撃ってくるので、ザクマシンガンを片手にもう片方には腰からヒートホークも抜いて振り回していた。

 シロッコはその様子に感慨深く呟く。

 

「まさにこれは……白兵戦をするための兵器だな」

 

 更に一機を下から擦り抜けながら銃撃。裾の装甲の間から十発以上が直撃しついに爆散させる。

 ここから残りは手練れの三機になり、三機は結構揃った連携を強めて来る。

 ジオン側は一対一にならないように狡猾にこちらの動きを予想しつつ戦って来た。

 

(さすがに三機同時だと手強いな……。奥の手を使うか――)

 

 すると間もなく、連携をしていた三機のうちの一機が背中の推進部に被弾する。

 それも、敵の宇宙戦闘艇のいる位置とは違う所からの銃撃だった。

 さらに一機もモノアイを撃ち抜かれる。

 残った一機のジオン側のパイロットは困惑する。

 

「な、なんだ?! どこから撃ってくる?」

 

 そう、宇宙戦闘艇の両腕の『高性能』マニピュレータの先が―――有線で離れていた。

 小型ノズルで姿勢制御させるため、シロッコの左手は激しくノズルコントロールに動き、右手で最後の一機への射撃トリガーを引いていた。

 

 パプテマス・シロッコ―――ザク十二機を自分で開発した宇宙艇にて短時間で撃破。

 

 彼は直ちに増速する。但し進路を予測されないように少し迂回気味に月を目指していた。その先の地球の反対側の位置にあるルナツーへと近付くために。

 だが重大な問題が発生していた。

 

 彼が再計算すると、減速する推進剤が足らなくなっていた……。

 

 本気を出す為に先ほどの戦闘によって推進剤を多く消費してしまっていたのだ。

 しかし、あの状況ではセーブすれば命取りであったため、最善は尽くしており後悔は出来ない。

 となれば、どこかで手に入れるしかなかった。

 彼は近付きつつある、故郷の星の唯一な衛星である月へと近付いて行く。

 

 一時間半後、包囲を続け『ジュピトリス』艦隊に順次武装解除させていたグワジン級グワデンの艦橋にて、エギーユ・デラーズは信じられない衝撃の報告を受けた。置き去りにされた六機のザクが追跡し、戦闘不能機の救助と共にその状況を伝えて来たのだ。

 

「な、なんだと……十二機ものザクが撃破されて逃げられた……だと?!」

「は……はい、申し訳ありません」

 

 普段精悍な大佐の表情は、苦虫を噛み潰した様子で固まっていた。

 報告に来た准尉が、思わず謝ってしまうほどの。

 

「……(バカな信じられん……『ジュピトリス』艦隊にはMSはなく、旧式の宇宙艇しかないはずだ。どうなっている……)……もうよい。(くっ、それだけ戦闘をすれば推進剤は相当使ったはずだ。どんな奴か知らんが、宇宙を漂うゴミとなるがいい)」

 

 

 

 

 

 

 

 月の裏側、その月面のクレーターの中で中央から放射状に広がる大規模な基地都市、グラナダ。

 元々は、サイド3のコロニー群を建設する際の資材を打ち上げるマスドライバーが設置され、その後も発展した。ここはジオン軍の各種研究施設に加え、ザク製造元のジオニック社の工場も存在する場所である。

 シャアの二隻艦隊は、百以上もある宇宙船ドックの一つへと無事接岸を終える。

 接岸した瞬間より、シャアは少佐から『上級中佐』へと昇格していた。

 

「おめでとうございます、中佐殿」

 

 旗艦用ムサイの艦橋にてドレンが笑顔で、早速お祝いの言葉を送ると、周囲の通信士や操艦の兵らからも拍手が起こっていた。

 

「ありがとう、諸君。君もな、ドレン大尉」

「ありがとうございます。しかし……」

 

 シャアの艦隊の乗組員らは、ドレン以外も多くの兵らが連邦の『V作戦』関連の『勲功』により昇格を果たしていた。

 だが、シャアが一階級に対して多くが二階級の為、事前に十名近くが一階級分を固辞しようとしていたが、シャア自身が「遠慮するな。君らは十分に戦果を上げているのだから。それに、規模が大きくなる艦隊には信用のおける高位の士官が多く必要なのだ。その為にも昇進してくれ」と笑顔で皆に告げていた。

 そんな複雑な表情のドレンの肩を軽くたたいて、共に艦橋を下りたシャアらはいくつかの準備を始める。

 まず、ガンダムとビームライフル等の関連装備をグラナダの研究機関側への引き渡しだ。それに伴う艦からの降ろし作業と関連事項の説明を受ける。

 期間としてはまず四日という予定。状況によっては更に数日との事であった。実際の実験で、ガンダムによるビームライフルの射撃実験も行うと聞いている。

 ソロモンでの解析速報で、すでに性能は素晴らしいが、ガンダムの量産化はコスト的に中短期で考えれば難しいのではとの結果が上がってきている。そのため調査が終われば、ガンダムはシャアの部隊へ配備されることになっている。

 ただ、ビームライフルについてだけはここグラナダに留め置かれ、近い後日に代替えの試作ビームライフルがシャアのガンダムへ届けられる事になった。ビームライフルに付いてはジオン側でも研究が進んで来ているが、まだ実用化には今一歩となっていた。だが今回、その完成現物が連邦側から届いて来たことで一気に開発が進むと期待されている。

 シャアとしては、それらが戻って来るのを待つしかなかった。

 次は、艦内の引っ越し準備である。残る者は良いが、半分近くの者が新しい艦側へと移る予定である。また、MS格納庫でも3倍速ザク関連に、ガンダム関連の機材類は移動となる。その準備がドレン大尉を中心に、MS格納庫ではラエス中尉らが進められていた。

 さらに次である。

 キシリア・ザビ少将に面会し、『ガンダム』関連や、ニュータイプの将来性が高い『捕虜』の件を報告する事になっていた。

 面会に際してはシャア自身が赴き、同行者はいない。

 服装は中佐になっても、あの鮮やかに赤い色の佐官服である。

 

 だが、そのシャアは―――ヘルメットもマスクも被っていなかった。

 

 髪を髪用着色スプレーで少し山吹色に近く染め、整髪料でオールバックにしている。

 目にはカラーコンタクトを付け、そして僅かに暗いレンズの入った、縁の黒いメガネを掛けていた……。

 シャアはガルマとキシリアへは、偶にこのような形で素顔を見せている。

 これは、全く隠していると逆に色々と疑われると考えていたからだ。

 とはいえ、これまでキシリアとはモニター越しでしかこの格好を見せておらず、直接この姿で会うのは初めてであった。

 普段は殆ど緊張しないシャアだが、幾分緊張気味に艦を降りてなるべく人を避けるように、キシリアの居るグラナダの突撃機動軍司令部へ出向いた。

 

 

 

 その頃アムロは、自室の片付けを始めていた。着替える前のシャアから「近日中に新しい艦へ移る事になるだろうから、荷物を纏めておくように」と言われていたのだ。

 彼の傍でハマーンが(悪魔的な言葉を)囁く。

 

「ねぇ、アムロ。こんなことは後にして、グラナダの中を回って見たいんだけど。せっかく来たんだしぃ」

 

 ハマーンは背中合わせで荷物の整理をしているアムロ側へと背伸びするように寄りかかりながら「ねぇねぇ」と可愛くおねだりしてきた。彼女の赤紫色の髪のポニーテールが、はらりと頭の上からアムロの額をくすぐる。

 

「ダメだよ。僕らはドズル中将配下の兵達だから、ここではアウェーで外様なんだから。少佐も言ってたじゃないか」

 

 ドズル中将とキシリア少将の軍は上が揉めていた分、配下同士も結構難しい関係になるのだ。仲良くしすぎるとその者らは、軍団内で白い目で見られることになる。

 

「そんなの、黙って歩いてれば分からないわよ。それにアムロは、シャア中佐の部隊のそれも士官なのよ。そう言えば皆黙るわよ」

 

 ハマーンの理屈は、なかなか鋭いので困る。

 確かにサイド6の、あんな怪しげな所での急な願いを、そこの責任者へ申し入れて本当に通してしまえる中佐である。

 ジオン側でもかなりの人物であることは間違いないだろう。

 しかし。

 

「ダメだよ、ハマーン。言われたことをちゃんとしてからでないと。ここは軍隊なんだから」

「えぇーー、……ちぇっ」

 

 アムロは、ハマーンを任されている事もあったのでマジメであった……。

 だが、ハマーンもアムロの言う事には従っていた。プンプンしながら「とっとと片付けてやるぅ~」と可愛くのたまった。

 

 

 

 シャアは司令部建屋内の広い部屋へ通される。

 待っているとキシリアが数名の護衛らを連れて現れた。そしてシャアの前奥へ一段高くなった場所にある、背面の壁にシオンのマークと両脇に旗が置かれた席へと座る。

 シャアも護身用の銃は腰に持っているが、今は『その時』では無い。素顔を晒しつつも心を隠し抑え、『標的』な一人の前へ静かに立つ。

 

「久しいな、シャア」

「はっ、直接会わせていただくのは三か月ぶりでしょうか」

「中佐への昇格、おめでとうと言っておこう。大佐並みの権限が付いている。上手くやるといい」

 

 キシリアは、いつものようにヘルメットを被り、口元まで隠した表情でシャアへ祝いを告げた。

 今の所、シャアの格好へ特に不自然さは感じていないようだ。彼は内心ほっとする。武に殉じるドズルよりも、考えが不透明なキシリアは危険な存在と考えていた。

 

「ありがとうございます。期待に沿えるよう努めます。つきましては、先ほどガンダムに付いては研究機関へ引き渡しました。四日程お預けとのこと」

「うむ、先程報告を受けた。任務ご苦労であった。しかし……考えるも先制的に鹵獲とは大したものだな」

「はい、敵新造艦へ偶然に遭遇でき、運も良かったのかと。時に、捕虜の件についてはお聞きで?」

「ああ、フラナガンから聞いておるぞ。我が軍へ寝返らせたそうだな。ニュータイプとしてデータ等でも優秀な素質がある上、貴様からの情報にもMSの操縦技術が驚異的だと」

「はっ、私もうかうかしてはいられない程です」

「ほう……だが大丈夫なのか?」

「はい。まだ若く、行動もすべて掌握しています。足枷も付けておりますので」

「……あの、カーンの娘か、なるほど。まあ、連邦の新型MSの件は我が軍にとっても決して小さくない事だ。新しく配下にしたその者のデータも機関へ報告せよ。さすれば多少の事でどうこう言うやつはいまい(私からも抑えてやる)、そこは好きにするがいい」

「はっ」

「それから、貴様の新しい艦隊の準備は出来ておるぞ。私からの進言とドズル中将からの要望も入っておる」

 

 脇の兵より、その目録と引き渡し命令書がシャアへと渡される。

 

「誠にありがとうございます」

「良い働きをした者、出来る者に良い装備を使わせる。理に適っておることだ。分かるなシャア?」

 

 今回の情報リーク等は、キシリアにとっても有意義なものであったのだ。彼女は『使える』『出来る』者を使う主義であった。それが例え―――『多少』騒動を起こしたり、問題のある人物でも。

 その背景には戦況がジワジワと長引き、連邦の『ガンダム』のような具体的に脅威の反撃の近付く足音が聞こえ始めており、ジオン側も厳しい状況に立たされつつあることに加え、人材にも限界が近付いていたからである。

 

「はい。キシリア様」

「うむ、早速受け取る準備に入るがいい。また良い報告を待っておるぞ」

「はっ、では失礼いたします」

 

 そう言ってシャアは司令部を足早に後にする。『衝動』に、そして『いやな気持ち』に駆られる前に―――。

 

 

 

 そうして港の鑑へと急ぐ途中、シャアは通路で後ろから一人の人物に呼び止められる。

 

「シャア少佐?!」

 

 その聞き覚えのある気さくそうな声に、シャアは振り向く。

 その声を掛けてきた上背のある黄色い髪のガッチリした男の名は、ジョニー・ライデン。

 階級は少佐。ここグラナダの突撃機動軍所属のMSエースパイロットだ。彼らはルウム戦役後のソロモンとグラナダの合同演習等でも顔を合わせていた。気さくなジョニー・ライデンは不仲なソロモンの宇宙攻撃軍側にも友人は多かった。彼はそういった事はあまり気にしない人物であったし、とやかく言わせない実力も持っていた。

 彼は駆け寄って来る。

 

「これは、ライデン少佐」

「やっぱり。シャア少佐の歩き方だったからな。しかし珍しいな、マスクを被っていないなんて。……おっと、これは失礼を。中佐殿ですか、おめでとうございます」

 

 彼はシャアの軍服の模様と階級章に気が付いた。

 思わず敬礼をとる。

 

「いや、ライデン少佐、気にしないでいい。普通に話てくれてかまわんさ」

「そうはいかんでしょう。でも、まぁ……ここではそれで」

 

 お互いに笑い合い、しばらく話をした。

 

「そうか、それは大佐並みの権限があるな。もう人前では気軽に話せないな」

「なに、ライデン少佐の実力なら昇格はそう難しくないだろう?」

「俺は……上を目指しているワケじゃないからなぁ」

 

 彼は、何か少し複雑そうな顔をして笑っていた。

 

「おっと、艦の方が忙しいんだったな、中佐。また落ち着いたらゆっくり話そう。グラナダには、しばらくいるんだろう?」

「一日有れば落ち着つくと思う。明後日ぐらいにでも、暇があれば港を訪ねて来てくれ」

「分かった、じゃあその時に」

 

 そう言って、ライデン少佐は去って行った。

 

 

 

 シャアは旗艦型ムサイへ戻ると、自室ですぐにいつものマスクとヘルメット姿へと戻った。コンタクトも外し、髪も一週間ほどで元の色に戻る。

 そうして、先程の目録へ目を通す。(詳細は解説に)

 

(…………ふむ)

 

 現状のシャア艦隊の戦力は、ムサイ二隻にザク五機、それに3倍速赤ザクとガンダムであった。

 新戦力は、それにメガ粒子砲装備の最新鋭機動巡洋艦ザンジバル一隻、ムサイ三隻、ザク十二機。

 追加として、ムサイ一隻とザク二機。これで配下の兵員は千名以上一気に増える。

 さらにドズル中将の提案によって、高機動型ザクII後期型一機が加えられていた。

 シャアの出していた要望は、ザンジバルかチベ、ムサイ三隻、ザク十二機、高性能MSを一機であった。彼の要望は十分満たされていた。

 ドズル中将の細かい事を三つという提案は、臨時大佐と同等の『上級中佐』、『ガンダム』の最終所属、そして生産機数四機に、そこから予備パーツより急遽プラス一機追加生産させての、『高機動型ザクII後期型』の供与であった。『高機動型ザクII後期型』については基本、グラナダ所属の突撃機動軍配下に支給されるが、シャア艦隊ということならばとキシリアは特別に承認した。ただ、通常のザクよりも乗りこなすには技量が必要であり、乗り手をかなり選ぶ機体である。

 それらの引き渡しについて、命令書の日付は明日になっている。

 その時、シャアは不意に妙な感覚を覚えた。

 

(………ん? なんだ……これは?)

 

 同じ時、ハマーンの部屋の荷作りの手伝いに駆り出されていたアムロが動きを止める。

 

(これ……なんだ)

「ねぇ、アムロ……今、何か感じない?」

「えっ、ハマーンも?」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 明日の引き渡しの為、急遽ジオニック社の専門整備士らまでが呼ばれ、高機動型ザクII後期型の最終調整が突貫で行われることになっており、ここ宇宙港傍区画にあったMS最終調整用ハンガーはメカニックの多くが各所チェックで忙殺されていた。

 すでに夜の時間に結構入っており、「今夜は徹夜だなぁ」という声も聞こえてくる。

 ここには、他にも最終調整中や整備を終えた特殊なMSが駐機されていた。

 

 

 

 その中の機材群の隅へと隠れるように彼が―――整備員服姿のパプテマス・シロッコの姿があった。不足分の推進剤を求めて―――。

 

 

 

to be continued




2015年04月11日 投稿



 解説)2月22日
 宇宙世紀0088年2月22日、Zガンダムの物語においてパプテマス・シロッコ戦死。



 解説)シャア艦隊
 現状のシャア艦隊の戦力は以下。

 旗艦型ムサイ級軽巡洋艦(艦名:ファルメル)
 ムサイ級軽巡洋艦(艦名:カルメル)
 ザクII×5
 ザクIIS改×1(赤ザク)
 ガンダム×1

 上記に加える新戦力は以下。

 ザンジバル級機動巡洋艦(艦名:ラグナレク)
 ムサイ級軽巡洋艦(艦名:エレメル)
 ムサイ級軽巡洋艦(艦名:グリメル)
 ムサイ級軽巡洋艦(艦名:フィーメル)
 ザクII×12

 追加として以下。
 ムサイ級軽巡洋艦(艦名:ベルメル)
 ザクII×2

 ドズル中将提案として以下。
 高機動型ザクII後期型(MS-06R-2)×1

 を予定。




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第10話 シロッコ脱出せよ(2)

 

 彼―――シロッコは、宇宙艇のマニアでもあった。

 グラナダに工場を持つジオニック社も、その有名製造メーカーの一つ。

 そのゆっくりと彼の目前の開いた巨大な扉の中へ降りようとする船は、ジオニック社内でしか使われていない全長五十メートル程の中型の輸送艇であった。

 だが、そのメーカー名が消されていた。

 

(特別な船……?)

 

 シロッコは、好機と見て一気に駆け出すと、その船の側面へとノーマルスーツ姿でしがみ付いていった。

 

 

 

 『ジュピトリス』から脱出したシロッコの宇宙戦闘艇は、月の裏側へ迂回しながら近付いていた。推進剤は三割ほどしか残っていない。

 ルナツーまでの、距離と生命維持時間を考えれば加速と減速には、満タンに対して最低五割はほしいところだ。それに、状況から戦闘ももうないとは言い切れない。余力は多い方がいい。

 地球圏へ近付いてレーダーの効きが悪かったのだが、この宙域では完全にすべてをロストしていた。有視界のみが頼りだ。だが彼はもともと、有視界の方が自分には合っていると思っている。今のレーダー機能の喪失な状況にも不安は感じていない。

 

(あれがグラナダか)

 

 キャノピーから右視界遠方のクレーターの中、放射状に広がる人工建造物が小さく見えていた。

 それから百キロ程離れた位置から宇宙艇を地表へと寄せ、月面の稜線に隠れつつ匍匐飛行で近付いてゆく。なお、このときノズルの吹かしも最低で行う。何故なら、所々にあの巨人の兵器がマシンガンを持っており、構えず平常警戒風ではあるが見張りをして立っているのを確認していたからだ。

 そして、あと十キロと言う所で停船し、ノーマルスーツ(宇宙服)で船外へと出た。手元には自作の双眼鏡式な高性能探知装置を持っている。機体は半分ほどグレーシートで隠していく。

 シロッコは、慎重にクレーターの縁の丘を越えて、グラナダの都市が広がるクレーターの中へと入っていく。

 建物の外側には当然空気はないため、人影は見えない。だが、宇宙(そら)を見れる為の窓のある建物は多い。シロッコは慎重に目線からの影へ隠れつつ、センサーの無い場所を選んで良さそうな出入り口を探した。

 少し進むとかなり開けた場所を見つける。港のような円形の大きな開閉口のように見えた。

 巨大な扉は開いたままである。

 そこへ、一隻のメーカー名の消された怪しいジオニック社の輸送艇が近付いて来ると、その開口内へと降りようとしていた。

 

(特別な船……? これだ!)

 

 彼は瞬間に行動を起こす。輸送艇の船体が管制室からの死角になるところで駆け出し加速を付けると背中の推進器(頭寄りから倒す様に九十度広げると腰横にノズルが来る)も吹かせて、輸送艇の側面へとしがみ付いた。すぐに推進器を畳み、ダクトのような箇所へと潜り込む。

 輸送艇は何事も無く降下を続けていく。

 この行先がジオニック社関連の施設や設備なら、推進剤を手に入れることやそれを運搬する手段を手に入れる事は難しくないだろう。

 もしかすると、この輸送艇の中にあるかもしれないと考えた。

 輸送艇は二百メートルほど降下すると、壁の一部から穴の中心へと床がせり出していた着陸デッキへと接床する。それは床ごと壁側内へと引き込まれると扉が閉められた。同時にブロック内へ空気が充てんされていく。

 シロッコが少し様子を伺っていると、輸送艇下部の積載コンテナがパージ(切り離し)され移送車に接続しようとしていた。どこかへ運ばれていくようだ。

 

(ついて行くべきか……だがその前に)

 

 シロッコは動き出した。周辺の人影は、輸送艇から降りて来た技術士のような感じのジオニック社のロゴの入ったノーマルスーツの者らが二十人ほどいる。すでにコンテナのパージが終わり、輸送艇の上方や側面を気に掛ける者はいない。壁の高い位置にある管制室にもすでに人影は見えない。

 シロッコは隙を見て輸送艇へ侵入する。

 艇内で予備のジオニック社のカーキ系なノーマルスーツを見つけると、此処では目立ちすぎる青い連邦のノーマルスーツを脱ぎ着替え、脱いだものはロッカーへと押し込んで鍵を掛けた。

 小型推進器を背負い直し、銃と双眼鏡式探知装置を腰に差し、輸送艇内を軽く移動して見回した。

 

(乗員ブロックに推進剤系は流石に無いな。まあ、この輸送艇自体の残量を見るとそれなりに積んでいるが、少し成分が違う……やはり、あのコンテナとその先か)

 

 移動の準備が終わったのか、「いくぞ」の掛け声に移送車とコンテナに技術者や整備士らが分かれて乗ったり掴まったりする。真後ろや下部へは誰も乗る者はいない。

 この港ブロックから中への扉が開かれた瞬間、皆の意識がその扉に向いている時を狙い、シロッコはコンテナの後方から静かに駆け寄り、下部の金属手摺へと掴まる。

 シロッコをも連れたジオニック社の一団は、宇宙港近接区画にあったMS(モビルスーツ)最終調整用ハンガーへと向かって行った。

 

 その入り口には『モビルスーツ調整区画』と言う文字が確認出来た。

 

(モビルスーツ……?)

 

 シロッコには聞きなれない単語であった。

 そして、中へ入ってその意味を知る。

 そこには、あの巨人のような機体がいくつも並んでいたのだ。

 

(あれは―――『モビルスーツ』と呼ばれているのか)

 

 だが、あの襲って来た緑色はここに一機も見えない。型はよく似ているが橙やグレーや黒等が目立つ機体が並んでいた。

 シロッコの乗る移送車が入口から入って間もなく、資材傍横を通り過ぎそうな感じである。

 その状況を見てシロッコは、コンテナの手摺から脇へ飛ぶように手を離す。速度はそれほど出ておらず、重力も少し弱いので難はない。すぐに端に置かれた資材の影に潜り込む。

 彼の予想通り、移送車は周囲から見渡せる広い場所に停車した。その状態になってからシロッコが移動すると見つかってしまっただろう。

 すぐに寝かせてあったコンテナは、クレーンで起こしハンガーへ掛けられコンテナの外壁が外されるとその機体の全貌が現れた。緑のMSの機体よりも脚部の推進部が高度に強化されているのが見て取れる。

 しかし―――全てが真っ赤な機体であった。シロッコは知らないが納品先の指揮官のイメージ色に染められていた。

 

(ずいぶん、派手な色の機体だな)

 

 シロッコはそう思った。しかし、彼の宇宙戦闘艇の機体色も僅かに薄いが『黄色』一色であった。人の事は余り言えない気がしないのだが。

 周辺で整備作業が始まり、「今夜は徹夜だなぁ」という声も聞こえてくる中、シロッコも目的の推進剤を見つける。

 MSに充てんするためだろう、周辺には大量にあるのが確認出来た。

 ところが、大量に充てんする故かタンク自体が大きかったのだ。家ほどの大きさがある。

 おまけに周辺には作業員が多く動いてもいた。彼らが話す内容から、今夜はタイミング的に難しく思える。

 彼は積まれた資材の裏側を通って、この機体の傍を離れた。

 ここは結構広い。そしてあの赤い機体周辺以外は、結構手薄に見えたのだ。

 手に他の整備士らと同じような、近くで拝借したノートサイズな行程チャートの指示書の端末を見るフリをする。そうして資材を探している素振りをしつつ、他のハンガーも窺う。

 するとこの広いブロックの奥に、推進剤のタンクで小さな部屋程の大きさで車の付いたものを見つける。

 さり気なく残量を確認するとかなり残っており、それで宇宙艇の残量を満タン近くまで出来そうであった。

 

(これなら……だが、どうやって持ち出すか)

 

 ここから動かす手ごろな移送車は近くに見当たらない。

 それに傍にある各ハンガーは手薄に見えつつ、まだ七、八人はいた。よく見ると、銃を肩に掛けて兜をかぶった衛兵も各所へ数名いる。

 彼は目立たないようにブロックの一番奥まで進む。そこはL字になっており、ずっと右奥へもブロックが続いていた。しばらく空のハンガー群の横を進む。その途中でも、残量の十分な小さな部屋程の推進剤タンクを見つけた。

 さらに奥へと進む。もうブロック入口からは四、五百メートルは移動して来ているだろう。

 すると、その先に黄色地にツィマッド社の黒ロゴのテープが張られてあり、封鎖された区域のハンガーを見つける。

 技術者と思われる二名がこちらをにらんでいた。もちろん宇宙艇の製造元の一つなのでツィマッド社についてもシロッコは知っている。

 

(……ん? ツィマッド社は、サイド3ではなかったか?)

 

 彼は知る由もないが、新型MSの採用競争は苛烈を極めている。キシリア・ザビ少将にも売り込みに来ていたのだ。

 ライバルのジオニック社のノーマルスーツを着るシロッコの接近に、二人はにらんで反応していたのだ。

 

(タンクをどうやって持ち出すかだが……いい機体が傍に有るじゃないか)

 

 シロッコは、二人の傍に衛兵が一人しかいないのを確認すると―――行動に出た。

 

 彼は、ツィマッド社の二人に手元の端末を見ながら声を掛ける。

 

「すいません、お二人ともちょっといいですか?」

 

 まだ若い声に、二人は顔を見合わせるが寄って行く。

 

(………)

 

 衛兵はツィマッド社の二人の動きを目で追って見ていた。二人は、やって来た一人の男の前に並んで立っていた。

 すると、二人を呼んだ男から今度は衛兵に声が掛かる。

 

「あのすみません、衛兵の方も、ちょっとこれを見てもらえますか?」

 

 呼ばれて怪訝な顔をしたが、結局衛兵は傍へと寄って行く。衛兵の彼もジオニック社の整備士に呼ばれただけと思っており、銃は肩に掛けたままであった。

 

「なんだ?」

 

 ツィマッド社の二人の後ろに立ったところで、ジオニック社の男へそう声を掛けると―――前の二人が後ろへと倒れて来た。

 

「な?!」

 

 その時、衛兵が見たのは端末を左手に、そして右手に銃を構える男の姿だった……。

 

 シロッコは、みぞおち打ちで気絶させたツィマッド社の二人へ、手早くさるぐつわを噛まして縛り上げるとハンガー脇に転がし、頭を消音銃で撃ち抜いた衛兵もその近くに資材シートで覆った。

 そうして、ハンガーに立つ十字メインカメラモノアイの角ばり重厚そうな機体のMSへ向かう。上へと登り、開いていた搭乗口から乗り込むと、コクピットへ着席して搭乗口を閉める。

 すると彼は……いきなり不思議な、あの流れの見える『負ける気がしない』感覚に覆われていた。

 

(ふふっ……これはいけるか)

 

 MSのコクピット内を見回す。

 初めて見るわけだが、MSを初めて見た時に感じた操作系のイメージとダブる。彼の宇宙艇の操作系の延長上にある感じでもあったのだ。

 シロッコは、この整備ブロックの構造と位置について、すでにある程度頭で把握していた。

 先ほどまで移動して来たルートので脱出はMSでも可能と考えられる。

 なぜなら扉が開く時、MSの肩の位置ほどにもMS用の操作レバーがあり、連動して稼働していたのを見ていたからだ。

 移送車の移動した距離もそれほど長くはない。四百メートルほどだ。

 そしてこのハンガーにはこのMS用の武器もあった。大きなバズーカ風のものである。 シロッコは、このMSのメインゲインを起動した。

 

 

 

 

「ライデン少佐、準備は出来ています」

「ありがとう」

 

 彼は、自艦のMSデッキで整備兵の挨拶を受けつつコクピットに乗り込む。

 グラナダの突撃機動軍では基地待機任務の場合に、少佐でも定期警戒任務が任意で存在した。

 ジョニー・ライデン少佐はそれに参加している。

 

『初心を忘れない』

 

 彼が大切にしている事の一つだ。

 また、ここグラナダでは殆ど戦闘がないため、気が緩みがちな周辺の現場も、エースの少佐が傍で見ているとなると手を抜けなくなる。

 戦場で気を抜いたら死ぬのは自分なのだ。ここもいつ戦場になるかは分からない。そういう気構えで居て欲しい意味でも、彼は抜き打ち的に警戒任務参加を行なっている。

 彼の愛機も希少な高機動型ザクII後期型だ。そして背の推進部と脇肩と足の甲部分が黒以外は赤色の機体。知人でもあるシャアと誤認されることもあったが、彼は余り気にしない。敵側の連邦にすれば『赤は兎に角ヤバイ』という認識は変わらないのだし。

 彼自身は高性能機でなくても良かったが、配下へそれまで乗っていたザクIIS型の機体を回せるという大きな利点を取った。

 発艦し、予定の担当警戒区域へと向かう途中にその一報が飛び込んで来た。

 

「ライデン少佐、緊急報告です。ジオニック社の男が衛兵一名を射殺し、ツィマッド社の試作MSを奪って逃走中とのことです。あと機体名ですが……」

 

 少佐はそれを軽く聞き流す。

 

「……了解した(何て事だよ。あの連中はライバル社へそこまでするものなのか……)」

 

 エースパイロットである彼の元にも、ご機嫌伺いが来ていたぐらいだ。

 殴り倒して奪ったのなら、MSを撫でる様に捕まえその男を引きずり出してぶん殴るぐらいで済ます話だが、すでに死人が出ている以上冗談で済ませられる話ではない。

 

(さて、どうしたものかな……)

 

 その時、同時に発艦した配下のザクに乗る軍曹が声を上げた。

 

『少佐、私に是非やらせてください!』

 

 モニタに笑顔のまだ若い彼の姿が写る。

 問題は色々ある。乗り込んでいるのは非戦闘員であり、機体も試作MSなのだ。撃墜は最終手段にしなければならない。つまり可能なら無傷でMSを捕まえ、投降させるのが上策となる。

 

『軍曹、勝手な事を言うな』

 

 そう言って、同時に出撃したもう一機の中尉が窘(たしな)める。

 

『部下が失礼しました、少佐殿』

「いや、気にしていないよ。ただ、今回の機体は試作MSということだ。パワーもザク以上だろう。すでに現場へは何機か向かっているはず。周りを固めれば投降するかもしれん。非戦闘員が乗っているのを忘れるな。こちらからは挑発しないようにな」

『『はっ』』

 

 だが、現場へ近付いてライデン少佐は、すぐその異常に気が付いた。

 戦闘が始まっていたのだ。それも―――一方的な。

 彼は配下へ伝えた。

 

「各機、臨戦態勢に移行だ。絶対に油断するな。強いぞアイツは」

 

 動きを見た瞬間に感じる。

 まさに三機目のザクがバズーカの直撃で撃破され爆散していたところだった。

 出撃時に聞いたその機体名は、試作型リック・ドム(MS-09R)。

 

 

 

(これで三機目か、火力も十分)

 

 シロッコはMSに感心する。

 宇宙戦闘艇よりも加速は落ちるが、機動性はずっと高い。操縦感覚が、自分に合っている気がしている。

 新たに近くへ三機の接近を確認する。

 手早く仕掛ける。ジャイアントバズーカの照準をその中の『目立つ機体』へ合わせて、発射。

 だが……。

 

(――ん?)

 

 躱された。当たったと思ったのだが。

 目立つ機体、赤い機体だ。

 それも先ほどまでいた場所にあった、同じく真っ赤なものと同型の機体に見えた。

 

(なんだ、今の動きは。それに、赤が流行ってるのか)

 

 すごい加速機動であった。

 シロッコの想像を超えた動きをされた。

 彼は僅かに緊張する。

 

(ふっ、やるな)

 

 少し前に撃破したザクが手放したザクマシンガンも奪っており、バズーカを持つ右腕に通している。左手には箱型な推進剤のタンクを掴んでいる。

 そこへライデンの駆る赤い高機動型ザクIIが迫る。

 シロッコには流れが見える。

 

(グッと寄ってから機体右側……先にバズーカをねらうつもりか)

 

 赤い機体により、近距離からの通常では避けれないマシンガンの射撃が襲う。

 しかしシロッコは予期した様子で躱した。

 赤い機体と黒紫の機体の二機は高速で流星のように動き出す。近距離で位置を入れ替えつつ互いに譲らず撃ち合うも当たらない。

 だが、シロッコにはその先の流れすら見えていた。

 赤い機体にはあって、シロッコにはないもの。それは―――足手纏い。

 ヤツは配下を二機連れてきていた。

 

(ふふふっ、ヤツには躱せても……)

 

 二機は激しく標準を躱し合いつつ、ライデン配下の……動きの鈍い軍曹の搭乗するザクの傍に近付いて行く。

 

(――配下はどうかな?)

 

 シロッコはライデンを狙わずソレを先にバズーカで狙った。加速の付いてからの不意の弾道を軍曹の腕では躱せなかった。

 軍曹のザクがバズーカの一撃を受け爆散する。

 

「―――軍曹!」

 

 冷静で気さくなライデンの瞳に戦士の怒りが籠る。

 シロッコとしては、少ない側が多い側の勢力を攻撃しただけ。戦場に『不意打ち』は存在せず、卑怯な状況でもなかった。

 そして、その爆散の余波は近い位置を通過するライデン少佐の機に『予期していない状況』を回避する挙動を起こさせる。だが、シロッコはそれを『予期していた』。

 

(隙がなければ、効率的に作るまで)

 

 そしてバズーカを手放し、素早く腕を回し弾速の速いマシンガンを構えて撃っていた。それが、ライデン機の右の足首近くを横断する。

 ライデンの座るコクピットの計器に、機体ステータスの異常を告げる警告が出る。

 高機動を生み出す右足側面三つのノズルが、マシンガンの直撃で吹き飛び、推進部も損傷し推進剤漏れを起こしていた。

 左右の機動力のバランスが大きく崩れる。

 シロッコは逃さない。

 

(ふふっ、落ちろ)

 

 試作型リック・ドムがザクマシンガンを撃つ、致命傷をと赤い機体の下腹部を狙って。

 それでも―――

 

「なに?!」

 

 躱されていた。

 ライデン機は片側の左足のみの推力でも、側転気味に素早く弧を描くように躱して見せた。ライデンの瞬間的な判断力も、シロッコに劣るものではない。

 それに、彼は普段の訓練でも機体の各所に不備がある場合も想定した機動を磨いて来ていた。

 さらにシロッコは、近くより別機の銃撃を受ける。もちろん躱すが。

 

「少佐殿、今のうちにお下がりください。ここは私が抑えます。その間に応援を」

 

 部下の軍曹を討たれた中尉が割って入って来た。かなりの熟練さを感じさせる動きだ。

 緑だが角の有る機体である。ライデンが以前に乗っていた機体であった。

 中尉の言葉に一瞬言いよどむも、この異様な状況をいち早く伝える者が必要だ。「分かった」と告げ、急速に加速機動を見せて退避する。足一本分弱の推力が無くても上方への直進加速は素晴らしいものがあった。

 ジョニー・ライデン少佐は、報告しつつ自艦へと無事に戻れた。

 だが、中尉機は戻ってこなかった……自力では。

 シロッコの搭乗する試作型リック・ドムは、残った一機を二分ほどでモノアイに加え背面の推進部をマシンガンで大破させると、応援が来る前にと足早にその場を去った。

 

 

 

 この件の騒ぎはグラナダ基地内で大きくなっていく。

 グラナダ都市周辺へ三機一小隊で十二小隊ものザクの部隊が緊急出撃する。

 

『ジョニー・ライデン少佐を被弾させた―――ジオニック社の整備士がMSで暴れている』

 

 話の前後で、多少意味不明に思える。

 突撃機動軍にはライデン以外にもロバート・ギリアム大佐らエースパイロットも存在するのだが、今は宇宙要塞ア・バオア・クー駐留であったり、グラナダから離れた所で哨戒行動中であった。

 残るグラナダ滞在のエース、ただ突撃機動軍所属ではない。それは―――

 

「では、私も出ます」

「すまんなシャア。連邦のスパイかもしれん。一応よろしく頼む」

「はっ、お任せを」

 

 自室へ基地司令でもあるキシリア少将より、夜遅くながら直接警戒の依頼を受け、シャアは出撃準備に入る、しかし。

 

(ええい、いきなり艦の自室へ繋いでくるな! 普通は艦橋だろうが、ザビ家の娘め! 今から撃ち殺すぞ)

 

 カメラの前では平常心で通したが、『カタキ』が再びプライベートへ割り込んで来た事から『衝動』が沸き起こっていた。

 すでにマスクも外し、寝間着の状態であったため、慌ててその上から佐官服の上とマスクにヘルメットを被って対応していたのだ。

 そんなシャアだが、気を静めると今回の出撃にもノーマルスーツは着て行かない。真っ赤な佐官服でMSデッキへ颯爽と向かう。

 

「中佐殿、我々もお伴を」

 

 中尉となったデニムと一階級上がったスレンダー曹長が、MSデッキにて戦士として覚悟の敬礼でシャアを出迎える。あのジョニー・ライデン少佐ほどのエースが被弾するほどなのだ。すでにザク四機以上があっという間に撃破されたと伝えられている。遭遇した場合、ライデン少佐に勝るとも劣らないシャア中佐なら大丈夫だろうが、自分らもその撃墜機の内に数えられる可能性は高いと思われた。

 

「いや、ここはグラナダだ。今回は私だけでいい。君たちは艦の守りを頼む」

「「……はい」」

 

 シャアは、ライデンらが三機で出て行ったことを聞いている。

 それに相手はMS一機。遭遇を考えるとやはりここは一人の方が良いように思えた。

 彼は部下らが見守る中、慣れきった赤き機体のコクピットへと滑り込む。

 

「こちら、シャア・アズナブルだ。緊急で出るぞ」

 

 シャア専用の赤い3倍速なザクが起動した。

 

 

 

 基地内全体が警報を伴った警戒態勢に移行しており、状況が良く分かっていないアムロも起き出して士官服へ着替え直していた。

 当然まだ『戦果』を挙げていない彼は少尉のままだ。

 中佐の言葉を思い出す。

 

『次の戦闘には君も最前線に出てもらう』

 

(僕も出撃なんて……あるかな?)

 

 『殺し合い』をする実戦へ―――そんな爪を噛みたくなる不安な気持ちのアムロの所に、ハマーンも自室で一人は不安なのか、彼の部屋へとやって来る。

 ピンクのパジャマからは、艦内で作ってもらったと言う黒のジオンマーク入りな白とカーキの可愛いワンピースに着替えていたが、髪は下ろしたままで……何故か枕を持って。

 そして、部屋に立ち尽くすアムロの横をツカツカと通って―――彼のベッドへと潜り込むと一言。

 

「さっきから、時々ピリピリする感覚がするわ」

「僕もだ……」

 

 アムロもグラナダ周辺の宙域にイヤな感じを覚えていた。

 

 

 

「この機体はリック・ドムというのか」

 

 シロッコが、移動しながらMSコクピット内の機体ステータスチェック用のサブコンソールを操作している時に、そこへ機体名が表示されたのだ。

 そうして、宇宙戦闘艇の所まで戻って来た。

 まず試作型リック・ドムで運んできた推進剤タンクを宇宙艇の傍へ置き、推進剤補給を開始する。そして補給の間にこの目立つ試作型リック・ドムを一キロほど離れた崖な砂地を見つけると、そこへ機体の半身を埋没させ、上から軽く砂を掛けて放棄する。

 MSに興味は尽きないが、今は加速力の高い宇宙戦闘艇でルナツーを目指す任務を果たすべきなのだ。

 その戻る道程にて、まだ遠いが緑のMS小隊の、おそらく自分を探索しているであろう、周回している様子が見えていた。長居は無用である。

 そうして早めに宇宙艇のところまで戻る。補給はそれから二十分程で終わる。推進剤は満タンまで入った。

 これだけあれば、無駄弾を抑えれば突破戦があっても凌げるだろう。

 

「では行くか」

 

 宇宙戦闘艇のステータスがオールグリーンな事を確認し、機関を始動する。

 宇宙艇を飛ばすと、彼は稜線を巧みに使う。

 今は日が当たっているため、ノズルの光は目立たない。だが、砂煙は高く舞い上がると目立ってしまう。なので、地表を離れ稜線よりも高度を少し低く抑えて飛べば見つかり難いのだ。

 この後も、進路は日がこれから当たる東方向に抜けていく予定。

 そうしてグラナダより百キロほど離れた辺りで、天体自体の丸みに隠れるように機体を上昇へと転じる。月面は重力が地球の六分の一程度に加え、大気圏も無いの為に離脱は優しい。

 

(あとは地球を跨いでルナツーへ向けて加速するだけだ)

 

 しかしシロッコは、この時になって一機の接近を感じた。

 コックピットからキャノピー越しでそちらへと向く。

 遠目でも分かった。

 

 それは―――真っ赤な機体であった。

 

(……またか)

 

 今日は良く見る機体の色だ。

 それは、どれも任務に立ちはだかる障害にしか思えないものに見えた。

 

(そう何度も邪魔させるか。振り切ってやる)

 

 宇宙戦闘艇は急加速を開始する。すると、赤い方も合わせて加速し始める。

 そして―――赤い機体は迫って来ていた。

 

(な、なんだと?!)

 

 シロッコはその事実に驚愕する。

 『赤い彗星』の名と、3倍速ザクの巡航加速力は伊達ではない。ガンダムや長時間では高機動型ザクII後期型をも優に上回っていた。

 

 追跡に出たシャアだが、情報も当ても無かった。ライデン少佐を追いつめる手練れが、そう簡単に尻尾を出すと思えない。

 自分ならどうするか。日の光や地球よりも小さい天体の丸みを利用すれば……そうシャアは考えた。

 そして、途中からは増援を呼んでいては間に合わないと判断し、単機先行してここまで来ていたのだ。

 前方に一機進む『何か』を確認する。

 

(ん? 黄色い宇宙艇……か)

 

 それは試作MSでは無かった。だがこの宇宙艇は、今の時間に飛行許可を取っている宇宙艇データへ照会しても該当するものが出て来なかった。

 そのうちに黄色の宇宙艇は急加速を始める。

 

(こちらの姿を見て加速か……怪しいな。話を少し聞かせてもらおうか)

 

 3倍速赤ザクが、『赤い彗星』が加速していく。

 

 自慢の宇宙戦闘艇に対して、じわじわと差が詰まって来ていた。間もなくマシンガンの射程に入れば、後ろから撃たれることになるだろう。それは余りに良くなかった。

 シロッコは距離のあるうちに『対戦』することを選ぶ。

 速度を落とすと変則的な飛行へと移った。

 シャアも、相手が逃げるのを止め、戦いを選んだことを感じる。それは、この宙域周辺に鋭く広がるあの独特の感覚がそう告げていた。

 

(この黄色い宇宙艇のパイロットは―――ニュータイプか)

 

 シャア自身も感覚を研ぎ澄ませる。

 あの宇宙艇の後方にあるノズルを壊せば終わる……そう考えていた。

 しかし、その宇宙艇の下部から収納されていた、武装した両腕が出て来たのだ。

 

(マシンガン……戦闘艇だったのか。これで油断出来んな)

 

 グッと距離が詰まった風に見える戦闘艇は、不規則な螺旋を描くように飛び照準が難しい形で飛んでいた。

 だが突然、シャアの方へと襲い掛かって来る。二機は位置を入れ替えながら、激しい銃撃戦を繰り広げる。接近しては離れ、中距離でも撃ち合う。

 そして、何度目かの激突。

 今度は戦闘艇が、下方から近接して擦り抜けるように銃撃して来たのだ。

 シャアは機体のシールド面を戦闘艇側へ向けつつ、被弾面積が最小になる様に段階的に戦闘艇へ匍匐するかのように姿勢制御しつつマシンガンで応戦する。

 両機はすれ違う。

 すれ違った瞬間、シャアは後方を取ろうと素早く機体を前転するように機動させるが、通り過ぎたはずの戦闘艇の姿がすでにそこには無い。戦闘艇はほぼ九十度上方反転しつつ加速してシャアの背面を取ろうとしてきていた。

 

(むぅ、できるな。加えて、宇宙艇もそれとは思えん機動性だ)

 

 シャアは内心で感心する。

 そして、一方も。

 

(先程から反応が素早いな、この赤い機体のパイロットは。機体の性能だけではない。やりにくいな……ここで余り時間を食う訳には行かない。使うのは今だ―――奥の手を)

 

 感心しつつも、すでにシロッコの顔に勝利への微笑みが浮かぶ。

 その瞬間に周辺へゾワリとするいやな感覚が広がった。

 

 そのときシャアは、声を聴いた気がした。

 

 背面へ回ろうとした宇宙艇は、3倍速赤ザクの影側に入っていた。宇宙艇の全体像が灰色掛かって見える。

 僅かに肉眼では気が付きにくい。そう、宇宙艇の『高性能』マニピュレータの両腕がそこに見えてないことに。

 忙しくノズル操作をする左手を動かしながら、シロッコは落ち着いて決定的な攻撃となる右手のトリガーを引いた。

 

 

 

 だが―――赤い機体は、その後方左右からの銃撃を予期した様に、素早く弧を描きながら躱しつつ、そのマシンガンをシロッコの宇宙戦闘艇に命中させていた――――。

 

 

 

 シロッコの避けられたという『まさかの衝撃』が、僅かに宇宙戦闘艇の回避を遅らせてしまった。

 宇宙戦闘艇の中央部から後方の機関部に命中し、120mmマシンガンに抗しきれない装甲にはいくつも穴が重なっていった。

 五秒ほど間があったが、その宇宙戦闘艇は――爆散する。

 

 シャアは勝った。

 

 しかし直前の『今、後ろに気を付けて』と言うアムロとハマーンの二人の重なった感じの声が届いていなければ、シャアが散っていたかもしれなかった。

 

(ふっ、あの二人に助けられたな)

 

 これは偶然では無い。ニュータイプなら分かるのだ。

 そして、同時に感じた。

 

 あの戦闘艇のパイロットは、まだ生きている、と。

 

 爆散する一秒ほど前に戦闘艇から『五つ』もの脱出カプセルらしきものが高速で放出されたのだ。爆散が目くらましにもなっていた。

 

(全部に乗っている? いや一つだ。さて、どれか?)

 

 シャアは『月から一番遠く』へ放出されたカプセルを選んだ。いかにも捨てたハズレに見える物を。

 赤いザクはそれへと寄って行く……そしてカプセルを掴んだ。

 MSのマニピュレータにより力づくで軽くそれを捻り開ける。

 だが中身は……カラであった。

 

(チィ、逃したか)

 

 レーダーが効かない為、もはや残り四つのカプセルは捉えることが出来なかった。

 映像を巻き戻すと、三つは広大な月面へと落下していった様に見えた。

 

 しばらく、周辺を周回したが動きは掴めなかった。すでにあの鋭い感覚が周辺の宙域から消え失せていたから。あのパイロットは気絶しているのかもしれない。

 十分後、シャアは開けた脱出カプセルと、撃破した戦闘艇の大きめな残骸の一部を持って帰還する。

 

 

 

 その後も、試作型リック・ドムは見つかっていない。

 

 

 

to be continued

 

 

 




2015年04月17日 投稿



 解説)試作型リック・ドム
 本来リック・ドムがベースであるが、本作では前倒しでドムをベースにパーツ等の規格を企業間で合わせようという統合整備計画(0079年2月にマ・クベが提唱)に沿って開発しようと試作されたリック・ドムの機体となっている。
 マ・クベが、ギレンへ実利を上げて少し強めにプッシュしていたのだ。
 宇宙戦仕様と地上戦仕様の換装が容易になっている。
 改修への多大な労力分がゲルググの生産へと回って行くのだ……。
 この時点で、宇宙用高機動試験型ザク(MS-06RD-4)と同等の熱核ロケットエンジンを脚部に装備。
 今後量産されるリック・ドムやドムは、少し角張ったものに移ってゆく。
 ドムについては、すでに当初の型の機体が多くロールアウトしている状況ではある。




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