俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? (エノコノトラバサミ)
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お兄さんのいない幻想郷での日々
見越し入道と僕


 一つだけ注意しておきます。いや、注意しなくても分かると思いますけど、一応注意しておきます。

BL(ボーイズラブ)注意】

 一応、本編と繋がっているという事で。


 太陽が空高く登り、爽やかな風が吹く、気持ちのいい日。僕はいつもより早起きした。顔を洗わなくても、すっかり目は覚めている。

 手早く作ったおにぎりを食べ、服を着替えて、準備ができ次第、僕は家を飛び出した。とある場所へ向かう為に。

 約束は大分前からしていた。この日を僕は、どれだけ楽しみにしていた事か。想像するだけで、心が踊る。

 

 待ち合わせの場所には、まだ君はいなかった。それに少しがっかりするけれど、君を待たせずに済む事を考えれば、むしろ早めにきて良かった。

 そわそわする気持ちを抑え、君を待つ。

 

 それから間も無くして、君は現れた。

 

「──おはよう、雲山」

 

 無口な君は、ただ黙って頷いた。

 

 

 

 

【見越し入道と僕】

 

 

 

 

 君と手を繋ぎながら、僕は歩き始めた。君は足がないから、僕に引っ張られる様に進んでいる。とっても楽そうだ。

 

 君の手のふわふわで柔らかな感触は、僕に昔の事を思い出させる。

 あれは、二年前の元日。普段はあまり信仰に興味の無い僕が、この日ばかりはお参りでもしようと命蓮寺を訪れたんだ。

 無事にお参り出来たのは良かった。けれど、その後にトイレに行きたくなった僕は、近くにいた人に道を聞いた。

 その人の言う通りに進んで行くけれど、何故かトイレに辿り着けない。時が経つにつれて我慢が苦しくなる。半ば諦めかけたその時、君が僕を救ってくれたんだ。

 

 始めは友達みたいな関係だったけれど、気がつけば今、僕は君と二人で手を繋ぎ、デートしている。その事実が、僕はとても嬉しいんだ。

 デートと言っても、特に目的は決めていない。二人で里を歩いて、気になった所に向かうだけ。そして、日が暮れれば帰る。

 

 里の大通りには、相変わらず多くの人達で賑わっている。その中で、僕は君と楽しめそうな場所を探してみる。

 そんな中で、僕の視界に茶屋が入った。お腹が空いている訳では無いのだが、ここで君とのんびり過ごすのも悪くない。

 僕は君に目で確認する。そして、そのまま中に入った。

 

 僕はみたらし団子を頼む。君は相変わらず無口で、お茶一つさえ要らないといった表情だった。

 店に入った時も、注文する時も、品物を待つ時も、そして僕が食べている時でさえ、君はずっと何も話さず、僕の事を見ているだけ。できれば君と話したいけれど、無理になんて言わない。君が傍にいてくれるだけでも、幸せなんだから。

 

 結局すぐに店を出て、僕達はまた里を歩き始めた。

 君と二人で楽しめそうな場所を探す。けれど、やっぱそんな場所は中々無い。僕の家にでも向かおうか考えたけれど、それもなんだか面白味が無い。もっと、君との思い出に残るデートにしたい。

 

 思いきって、僕は里を出た。

 

 普段なら、危険に溢れている里の外になんてまず出ない。けど、今日は君が一緒にいてくれる。力持ちな君なら、妖怪の一人や二人、平気で追い払えるよね。

 僕が目指しているのは、あの吸血鬼が済む館の近くにある霧の湖。僕はふと、ある事を思い付いたんだ。思い出に残るような、とっても素敵な事を。

 

 霧の湖に着いた。僕が思い付いたあの事を実行するには、まだ時間が掛かる。それまでは、ここでのんびりと過ごす事にしよう。

 霧の向こうで、妖精達の影が見える。それと同時に、笑い声も耳に届く。姿までははっきり見えないけれど、その様子を想像するだけで、微笑んでくる。

 しばらく眺めていると、だんだんと眠くなってきた。体を倒して仰向けになろうとしたら、君が僕の頭をその手で受け止めてくれた。

 ふかふかしているその手は、僕の心をとても安らかにさせてくれて──

 

 

 

 ──目が覚めた時、空は既に赤く染まり掛かっていた。

 ちょっと焦ったけど、まだ大丈夫だ。大きく背伸びをすると、僕は君の顔を覗き込む。

 君は、優しそうな顔で眠っていた。

 

「ねぇ、雲山」

 

 僕が呼び掛けると、すぐに目を覚ました。

 

「ちょっと、お願いがあるんだけど」

 

 僕は君の耳元で囁く。

 君は頷くと、その大きな手を握って、思い切り振り回した。

 風圧で徐々に霧が晴れていく。少しずつ遠くが見えてくる。その光景に、僕は息を飲んだ。

 

 沈み行く夕日が湖に反射して、水面にもうひとつの夕日が写し出される。二つの太陽が、空と湖を同時に焼き尽くす。紅く染まる世界は、僕の心を虜にした。

 

「……凄い」

 

 君はこの景色をみて、どう思っている事だろうか?

 無口だし、あまり顔に出さない君の事だから、僕には正直分からない。けれど、喜んでくれたら、嬉しいな。

 

 しばらくすると、湖に霧が戻り、夕日は一つに減ってしまった。

 僕は、君と手を繋いで、帰り道を歩き出した。

 

 今日の事、君は覚えていてくれるだろうか?

 君は妖怪で、僕は人間だ。例えお互いに結ばれたとしても、その運命はいずれ僕達を引き裂くだろう。数十年、数百年と時が流れたその時、この日の事を覚えていてくれるだろうか?

 ──今そんな事を考えても、解るわけが無い。信じるしかないんだ。

 

「ずっと、一緒にいようね」

 

 僕は、握るその手に目一杯力をこめた。

 彼にとってはちっぽけだけど、僕にとっては全力だった。

 

 

 

「──そうじゃな」

 

 

 

 今、君の声が聞こえた気がした。



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お兄さんの平和な(?)日々
俺は悪くない。絶対悪くない。


「結婚しましょう」

「嫌です」

 

 彼女から俺に送られた第一声がこの言葉だった事は、今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 飛脚。外の世界では確か『タクハイビン』って呼ばれてた気がする。集積所に集められた便りや依頼された荷物を運び、相手に届ける仕事だ。

 幼い頃から寺子屋を抜け出しては遊び回っていた俺は、他の子より脚も速く、体力もあった。その代わり、頭は悪かったけれど。

 走るのが好きだった俺にとって、この仕事はとても楽しい。森で妖怪に遭遇したりもするけど、何だかんだで襲われたことは無いし、逃げ切れる自信もある。

 だが、この仕事に就いて後悔した事もある。いや、絶賛後悔中だ。今、この場所で。

 俺は今、仕事の真っ最中だ。目的地は博麗神社。依頼主は鈴奈庵とかいう店から。という訳で、俺は博麗神社へ繋がる森を駆けているのだが……

 

 背後、おおよそ三十メートルという所か。

 なんか付いてきてるし。木の裏に隠れてるつもりがバレバレだし。

 

「……おい!」

「──!?」

 

 あ、頭引っ込めた。

 そう、俺は今、ストーキングされている。しかも、これが初めてじゃない。なんかほぼ毎日いるし。

 

 俺をストーキングしてる奴の名前はアリス・マーガトロイド。魔法の森に住んでいる人形使いだ。

 何故俺がストーキングされてるか、その覚えは大いにある。無論、俺は悪くない。絶対悪くない。

 ある日、俺は彼女に届け物をした。

 魔法の森の魔力に耐えながら、なんとか彼女の家に着いた。魔力って毎日少しずつ浴びてると、段々と慣れてくるんだよ。

 彼女に届け物をした。

 「結婚しましょう!」って言われた。

 断りました。

 ハイ以上。もう、完全に好かれちゃいました。しかも人間的な意味じゃなくて性的な意味だし。最悪だよコンチクショウ! なんで俺好かれたんだよ!?

 

 話し掛けようとすると逃げるし、全力で走ってもなんか付いてきてるし、これもうどうしようもねぇよ。つーか空飛んでるじゃん。羨ましい、メッチャ羨ましい。

 

 という訳で後ろのストーカーを気にせずに森を駆け抜け、神社へと到着。パッと見、人の姿は無い。留守なのか?

 居間を覗いてみよう。

 

「スゥ……」

 

 寝てるし。タイミング悪ッ。どうすればいいものか?

 仕事上、相手に確実に渡さないといけない。もし何処かに置いて誰かに盗まれでもしたら、信用ガタ落ちだ。起こすのもアレだし、起きるまで待つしかないか……

 縁側で休ませて貰おう。勝手に入るのも悪いから、お賽銭でも入れとくか。

 

「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね!」

 

 賽銭入れた瞬間起き……なんで後ろにいるんだよ!?

 

「お届け物です」

「あら、ありがとう。疲れたでしょうから、中で休まない? お茶、出してあげる」

「いえ、結構です」

「あらそう。何か困ったことがあったら、またここに来て頂戴。この博麗の巫女が解決してあげるわ」

 

 現金な上にナルシストかよ……そうだ!

 

「あの……実は、一つ困っている事が……」

「何?」

「最近、金髪の人形を使う魔法使いにストーキングされてまして、退治して欲しいんですけど……」

「え!?」

 

 なんか遠くで「え!?」って聞こえたけど気にしない。

 

「分かった、アイツね! クゥオォラァぁぁ!! ぶち殺したるわァァァァ!!!」

「いや、ちょ、来ないでよ霊夢、イヤァァァァア!!!!」

 

 ……よし、帰ろう。

 

 

 

 次の日。この日は生憎の雨。けれど俺は休んではいられない。雨具を身に付け、今日も手紙を届けに走る。

 雨の日というのは、皆家に籠りがちだ。いつもは活気に道溢れてる大通りでさえ、雨が降ると人の声はあまりしなくなる。外に出なくなると、皆他人と会話をしない。こういう日に限り、便りは多くなる。

 この日はひたすら里中を走り回った。途中から下半身が完全に濡れてしまったけれど、残り数件で今日は終わりだ。

 

 雨はだんだんと強くなる。とうとう嵐に近くなってきた。梅雨時には早すぎないか?

 

「うォッ!?」

 

 足元を滑らせ、うっかり転んでしまった。手紙は何とか大丈夫だが、上半身まで泥だらけになってしまった。これでは風邪をひいちまう……

 残り数件を訪れ、何とか自宅へと帰る。

 

「おかえりなさい、ア・ナ・タ。ご飯にする? お風呂にす……まあ大変、泥だらけじゃない!? さあ、早く脱いで、一緒にお風呂、入りましょ♥」

 

 ……不法侵入者発見。直ちに排除する。

 

「ちょっと、何するの!? そんなに激しくしないで!!」

「出てけ変態野郎。もう一度巫女に退治されろ」

「もう、酷いわよ。霊夢ったら、私のア○○を○ったのよ♥」

「アタマを殴ったんだろ顔に痣あるから分かるよ伏せ字にすんなよ変態女風邪引いて引きこもってろ」

「アァン♥」

 

 ……俺が風邪引くわチクショウ。



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薬を下さい……お願いします……

 今日は永遠亭への便りを届ける事になった。

 幻想郷で最も高い医療技術を持ってる永遠亭には、毎回多くの便りが来る。そのほとんどが次に売りに来る時の薬の注文やら、ツケの支払いだ。希に危篤患者の診察依頼が来たりもするが、速達の印が無いので今回はマイペースで大丈夫だろう。

 

 永遠亭に行くには迷いの竹林を通らなければならない。そこで、一つ問題がある。うん、言わなくても分かるな。分からない奴は永夜抄買え。

 その問題を解決するのに必要なのが、藤原妹紅。不老不死の人間だ。竹林の入口近くの小屋に住んでいる。

 今、俺はその小屋の扉を開けたのだが……

 

 ギィ……ギィ……

 

 何の音かはこれだけじゃ分からないだろう。俺の目の前には、天井からぶら下げられたロープに首を吊って舌出したまんま顔を蒼くして白目を剥いたモンペの少女がいる。

 

 ……また死にやがったよコイツ。

 

 脚立を使って天井のロープをほどいて、彼女を降ろす。首のロープを取って舌をしまって瞼を閉じさせた後……

 

「ドラァッ!!」

「──ぐえッ!?」

 

 思いっきり腹を踏んづけた。

 

「何いっつも死んでんだよ無駄なんだから死ぬなよ」

「気持ち悪ぅ……あぁアンタか……なんか用か……」

「道案内に決まってんだろバカ」

「そんなことよりさ……最近あの閻魔に会うと嫌な顔されんだけどさ……なんでかな……」

「裁いても意味ねぇからだろ察しろよ」

「あ、そうだ……」

 

 妹紅が懐から何かを取り出す。

 

「良い青酸カリが手に入ったんだ……どうだい?」

「要らねぇよ!!」

 

 コイツ見ると毎回生きてると実感させられるよ。

 

 

 妹紅の案内で竹林を進んで行く。まあ、辺りは竹竹竹で特に何もないから大丈夫だろう。あ、後ろのストーカーは論外でお願いします。

 という訳で永遠亭に到着。こう見えて一時間ぐらいかかってんだよな。時の流れって怖い怖い。

 

「お届け物です」

「はーい!」

 

 奥から出てきたのはウサ耳長髪の少女。確か名前は鈴仙って言った気がする。

 

「あれ、永琳さんは?」

「師匠なら今ラリってるので出られません」

「またか……」

 

 あの月の医者、いくら不死だからって毎度毎度ヤク使うとか医者の面目丸潰れだぞ……

 

「それじゃ、これお願いします。ところで……」

「はい?」

「その手に持ってる物何ですか?」

「ああこれですか? 面白いですよ~。見ます?」

「……遠慮し」

「いいからいいから」

「うおッ!?」

 

 断ってる人無理やり引きずるなよ……

 

「師匠~、お客さんですよ~」

「あぁ鈴仙! 何処行ってたのよ!?」

「おやおや師匠、どうしたんですか~」

「薬! 薬を早く渡しなさい!!」

 

 どうして檻に入れられてるんだよヤブ医者……

 

「そんなヤク中に易々と薬渡すわけねぇだろ!! 礼儀を弁えなさい! ほらどうしたの? 薬欲しいんでしょ? どうするか分かってるんでしょ?」

「く、薬を下さい……お願いします……」

「なら、ハイ」

 

 そう言って鈴仙が渡したのは……足?

 

「舐めなさい♪」

「はい……」

 

 うわ、舐めてるよ……どっちが師匠だよ立場おかしすぎじゃねぇか……

 

「フフ……ウフフフ♪ ほら、足の裏も舐めるのよ」

 

 もうさっさと帰──

 

「鈴仙~お腹すい……あらお客さん?」

「おや姫様ぁ、どうかしたんですかぁ?」

 

 おい、なんでコイツは全裸なんだよ……

 

「な、なに……私の事をじろじろ見て……興奮するわ!」

 

 そんなに見てねぇよ勝手にしてろアホ。

 

「あ、もう帰るんですかぁ? もっとゆっくりしていって下さいよぉ。ほら、檻の中に入りなさい♪ 一緒に飼ってあげるから♪」

 

 ご遠慮します。

 

 

 

「妹紅、帰るぞ」

「ゴフッ……ゲフッ、ガハッ……」(遅かったな)

 

 なんで舌切ってんだよ地面汚れるだろ。

 

「早く進めよ頼むから」

「ブエッ、ガフッ」(はいはい)

 

 今日はもう帰って寝るか……

 

 

 

「お帰りなさい、ダーリン♥」

「誰かぁ!! 変態魔女が襲ってきた!! 助けてくれェ!!」

「変態じゃないわ! 未来のハニーよ!!」

「お前と結婚するとしたら来世だよコノヤロウ」

「私と貴方は結ばれる運命なのね……」

「もう出てけよ」

「なら、せめて私の手料理食べて!!」

「手りょ……おい」

「なぁに?」

「この料理なんだ?」

「肉じゃがよ?」

「まあそれはいい」

「別に変なところ無いじゃない。具材も色もちゃんと肉じゃがよ」

「そうかそうか……ほら、目瞑って口開けて」

「私は貴方の言われるがままに……熱ッ!?」

「飲み込め!!」

「ウグッ……何するのよ!?」

「お前、ちゃっかり永遠亭に居ただろ!!」

「当たり前じゃない!」

「なら、そこにある小瓶はなんだ?」

「これはアレよ、魔法の調味……あれ、体が熱くなってきた……」

「思いっきり媚薬って書いてあるぞテメェ」

「ダメ……私もう我慢出来ない♥」

「外で勝手にやってろ」

「酷い♥」



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お姉さま大好き♥ お姉さま大好き♥

※昨夜はお兄さんがアリスを追い出しました。


「おはよう、ア・ナ・タ♥」

「……んぁ、おは……うわッ!?」

「昨日は盛んだったわね」

「適当な事言うなよ出てけよ!」

「キャア♥」

 

 

 

 朝から酷い目に合った。気を取り直して、本日の依頼を確かめる。

 ……十六夜咲夜宛て。うわぁ、紅魔館かよ。めんどくさッ!

 

 そんな訳で今俺は、湖のほとりを走っている。

 紅魔館とは……説明いらねぇな。紅魔館知らねぇ奴いたら逆に凄いよ。アンタ東方projectの何を知ってるんだってなるよ。

 

 という訳で紅魔館の門の前に到着。門番に頼んで門を開けてもらう筈なんだが、既に開いてる上に誰もいない。サボってるのか?

 中に入ると、それはすぐに分かった。単純に庭の手入れをしていただけだった。

 

「十六夜咲夜さん宛てにお便りです」

「あ、お疲れ様です。中へどうぞ」

 

 門番の中国人っぽい人と挨拶を交わして門へと向かう。これだけ見ればまあ日常の風景だろう。

 片手で逆立ちして腕立てしながら水やってる門番の姿以外はな。まあ凄いと思うよ、うんうん。自分を鍛えるのは良いことだ。そのせいかなんか北斗○拳の使い手みたいな筋肉付いてるけど気にしない気にしない。それで巨乳なんだから違和感半端ないんだよなぁ。筋肉×巨乳ってどう? 俺はちょっと無いかなぁ。どちらかと言えば俺はスレンダーで尚且つ巨乳の女性……何関係ない話してんだよ俺。

 

「失礼します、十六夜咲夜さん宛てにお便りです」

 

 入口には妖精のメイドが数十人……列になって敬礼してるんだが。スゲー違和感。全員帯刀してるし。なんか萌えねぇし。

 

「「「「咲夜様は三階のお嬢様の部屋へおります!!」」」」

 

 いや知ってるしそんな堂々と言われてもビビるわ……咲夜様!?

 

「私が案内致します! こちらへ!!」

 

 お前ら何処の軍隊だよ……

 

 

 

「お嬢様! 咲夜様! お客様をお連れしました!」

「入りなさい」

「はっ!」

 

 ただの飛脚なんだけどなぁ。

 

「失礼します……咲夜さんにお便りです」

「ご苦労」

 

 俺にも上から目線かよ。ていうかお嬢様の部屋なのにお嬢様いねぇし。

 

「それよりも、いかがです?」

「……何がですか?」

「私が育て上げたこのメイド部隊! 優秀でしょう!! お嬢様に仕える身であれば、その身が朽ち果てようともお嬢様を魔の手から御守りしなくてはいけないのです! 私が選びに選び抜いた妖精達を存分に鍛え抜いて得た彼女達の力は、一人につきおおよそ妖精千匹分の強さを誇る!! そんな彼女等が三十人!! つまりこの館は、妖精三万匹の警護が付いていると言っても過言では無いのです!! 更に言えば門番の美鈴の力は人間に換算するとおそよ──」

 

 長げぇ……

 

「──とうとう出来たわ!! あら、お客さん?」

「お嬢様! おめでとうございます!」

 

 壁からお嬢様出てきたぞ!? 軽くビビったわ!

 

「ちょうど良いわ! そこの貴方、見ていかない?」

「え、その、遠慮し──」

「──お嬢様のお誘いを断ると言うのですか?」

 

 いつの間にか背後にいるし首元にナイフ突き付けんなよ脅迫じゃねぇか。

 

「……喜んで」

「付いてきなさい」

 

 そうして連れてこられたのは恐らく隠し部屋なのだろう。じゃなければ壁に入口なんか作らねぇ。ていうか隠し部屋なのに俺入れて良いのかよ?

 

「さあ、これを見なさい!!」

「おお! 素敵ですお嬢様!!」

「これって……アンタの妹?」

「そうよ! 等身大1¦1フランドール・スカーレットオリジナルフィギュア!! 私の生涯最高傑作!!」

 

 アンタ生い先短くねぇだろ。

 

「更に、背中のボタンを押すと……」

「お姉さま大好き♥ お姉さま大好き♥」

「キャァァァフラン最高!!! 我が生涯に一片の悔い無ぁぁぁしッ!!!」

 

 もう死ねよ。

 

「あの……そろそろ別の仕事が」

「貴様、お嬢様の誘いを受けて足早に帰ると言うのか?」

 

 あぁもう、帰りてぇ……

 

 

 

 結局、俺が紅魔館から出られたのはそれからおよそ三時間後。それまで延々とお嬢様を褒め称える言葉を言わされ続けました。

 ……あんな姉を持って、妹の奴可哀想だな。

 

 やっと家に帰ると、居間にリボンでぐるぐる巻きにされた大きな箱が……燃やそう。

 

「……なん……あ……ぁつ……たす……」

 

 なんか聞こえるけど気にしない気にしない。世の中面倒な事は気にせず忘れるのが一番だ。

 

「あっつぅぅぅぅぅッ!?!?」

 

 あ、自力で脱出しやがった。 

 

「酷いじゃない! 燃やすなんて!」

「なら服を着やがれ」

「仕方ないじゃない、貴方へのプレゼントなんだから。ありのままの私を受け取って♥」

「うちは生ゴミは焼却処分してるんだよ」

「熱ッ!! ちょ、火消して!! 熱い!!」

 



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この世に悪があるかぎり、世界に平和は訪れない!

 皆さんは、森近霖ノ助という人物を知っているだろうか?

 かつて幻想郷に巨悪が蔓延っていた時代、暗く閉ざされていたこの世界の未来をたった一人で切り開いた幻想郷の英雄である。はい、嘘です。

 まあ少なくとも、彼の見た目位なら分かると思う。要は眼鏡かけた男だ。それ以外はどうでもいい。

 

 今日の依頼は香林堂。その森近霖ノ助が経営している古道具店だ。繁盛してるのかは知らん。

 

「お届けものです」

 

 店の扉を開けても、誰もいない。いくら普段は客来ないからって、まさか勝手に留守にしてる訳ないよな?

 

「霖ノ助さん」

 

 返事がない。ただのしかばね……しかばね無ぇな。

 

「霖ノ助さぁん」

 

 やはり返事がない。

 ……もう諦めるか、あの名前で呼ぶのを。

 

「はぁ……霖花さぁん」

「はぁい♥」

 

 居たし、返事しろよコノヤロウ。

 

「あら、お届けもの。ありがとう」

「どういたしまして」

「あ、ついでにお茶でも飲まない? 話し相手がいなくて暇なのよ」

「え……それじゃ、お言葉に甘えて」

「はい。それじゃ、こっちにいらっしゃい」

 

 一話二話三話とお誘いを断り続けた俺がどうして今回は誘いを受けたかって? 理由は単純だ。霖ノ助……違う、霖花さんは案外まともな人だからな。

 会話も通じるし、面倒見もいいし、優しいし、更に意外とキレイ。正直言えば、女装舐めてたわ。まるで別人だよ。この人が本当に女だったらなぁって思うわ。

 

「少し散らかっててごめんね」

 

 とか言いながらあるのはテーブルの上の本が数冊のみ。女子力高ぇ……

 

「いえいえ、お気遣いなく」

「今お茶を入れてくるから、少し待っててね」

 

 そう言って調理場に消えた霖ノ……霖花さん。テーブルの近くに座り、近くの本を手に取る。

『mi○i 今流行りの原○風コーデ』

 ファッション雑誌じゃねぇか……

 

「お待たせ~、この前焼いたクッキーも持ってきたわ♥」

 

 何でも出来るんだな、霖さん。

 

「あ、そうだ、見てほしい物があるんだけど……」

 

 そう言って取り出したのは……別のファッション雑誌かよ。

 

「あのね、この服とこの服、どっちが似合うと思う? 私はこっちの方がいいと思うんだけど、やっぱ自信無いのよね~」

 

 そんなこと俺に聞かれても……

 

 

 

「それじゃ俺はそろそろ」

「ええ、また来てね」

 

 霖さんのお茶やクッキーを堪能し、彼女?の話に付き合ってあげた後、キリのいい所で香林堂を後にした。

 もう仕事はない。後は帰るだけ。あの変態が家に居なければいいのだが……

 

「見付けたぜ」

 

 ん? その声は──

 

「オラァッ!」

「がぁッ!?」

 

 ヤベェ、意識が……

 

 

 

 ……暗い。ここは、何処だ? 誰かの倉庫みたいだ。

 体をぐるぐる巻きに縛られている。これでは動けそうにない。

 

「……お、目覚めた見てぇだな」

「お前……」

「久しぶりだぜ、お兄さん」

「魔理沙……」

 

 ヤバイ。この状況は非常にヤバイ。

 

「会いたかったぜ……一向に私んところ来てくれないから、嫌われたのかと思ったよ……」

 

 別に好んでも無いんだけどな。

 

「幾ら頼んでも私の物になってくれないからよぉ……もう待ちくたびれちまったよ……お前は誰にも渡さない。あの人形使いにもなぁ!!」

 

 いつから俺がアイツの物になったんだよ。てか俺は物じゃねぇよ。物扱いすんなよ。

 

「覚悟しな……お前が私の物だという事を今からたっぷりその体に刻み込んでやるぜ……」

 

 ……人生詰んだかも。

 

「待ちなさい!!」

「誰だ!!」

「この世に悪があるかぎり、世界に平和は訪れない! 純愛の使者、アリス・マーガトロイド見参!」

「貴様、よくも邪魔したな!!」

 

 ……ん? アイツの自己紹介おかしくないか?

 

「待ちなさい!!」

「「誰だ!」」

「元気100倍! 勇気1000倍! 愛と勇気と触手の味方! パチュリー・ノーレッジ参上!」

「「き、貴様は、触手のパチュリー!?」」

 

 アイツどうして来たんだ? ……触手!? 触手ってなんだよ、アレか? アレなのか?

 

「喰らいなさい! 触手乱舞!!」

「うわ、なんだこれ!! 気持ち悪ッ!!」

「イヤァァァ!! このままじゃ触手に○されてしまうんだわ! エロ同人みたいに!! ……え、ちょ、そこ耳!! その穴じゃないわ!! もっと下、下よ!!」

 

 一人スゲーウルセェ。

 

「私の触手は相手の耳をキレイに掃除する事が出来るのよ!」

「え、何それ!! じゃあエロ同人みたいになんないの!? 酷い!! 訴えてやる!!」

「お、これ案外気持ちいいんだぜ」

 

 ……帰ろう。

 

 

 

「おかえりなさい、ア・ナ・タ♥」

 

 なんで居るんだよテメェ……



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ウッセェ死ね!!

※暴言注意(手遅れ)


『魂魄妖夢 様へ』

 

 白玉楼って、どうやって行けばいいんだよ……

 

 

 

「ありがとう。はい、お駄賃」

「イャッフゥゥゥ! 今後とも御贔屓に!」

 

 そんな訳で、博麗の巫女に依頼して白玉楼へ。アイツ最早巫女というより何でも屋だな。というか別世界宛に手紙出すなよな、メンドクサイ。サンタクロースへのお手紙をポストに入れるのと同じ様なもんなんだぞ。

 

 長い階段を登り白玉楼へと進む。疲れるかって? 疲れないと言えば嘘になるけど、日頃から走り込んだ俺の肉体はこの程度では根を上げんのだ!

 

 てな訳で白玉楼へと到着。実は来るの初めてなんだよな。たまに魂魄妖夢が里に買い物しに来るのは見かけてるけど。

 

「妖夢さん、お便りです」

 

 ……返事がない。ただのしかば……幽霊だ。

 

「妖夢さぁん、入りますよ~」

 

 門を開けると、そこに見えるは美しく整えられた庭だった。そしてその真ん中にポツンと一人、誰か座っている。

 ……妖夢だし。

 なんでどいつもこいつも返事しないんだよ。

 

「あの~、お便──」

「来るなぁ!!」

「うおッ!?」

 

 いきなり刀振ってきやが……刀じゃなくて新聞紙かよ。文々。新聞って書いてあるよ。

 

「どうせ……貴方も笑いに来たんでしょう!!」

「ハァ?」

「剣士の癖に刀無くした私を嘲笑う為に来たんでしょう!! ええどうぞ、存分に笑って下さい!! 間抜けでヘタレな私を存分に笑えばいいじゃないですか!!」

「……おた」

「知りません! そんなもん!!」

 

 ……今日はどうしてこんなメンドクサイんだよ。

 刀、探すか。

 

 白玉楼をぐるぐる回りながら刀を探す。が、そんなものは見当たらない。よく考えりゃ当たり前か。庭に落ちてたらすぐ見付かるもんな。

 俺は屋敷の中へ向かった。刀を探す為に!

 ……とかいうのは口実で本当は中が気になったからだ。

 

 屋敷の中も庭に負けず劣らずキレイだった。どこを見てもゴミ一つ落ちていないし、家具も上質なものばかり。こんな家に住んでみてぇよ。

 

「あら、お客さん?」

「うおッ!?」

 

 後ろに誰か居たし!! ビックリした!!

 どうしてこの世界の奴等はみんな背後に這い寄ってくるんだよ!?

 

「ふふ、そんなに驚く事無いじゃない。あ、私幽霊だから気配感じないのも仕方ないわね。所で、どんなご用件?」

「あ、妖夢さんにお便りがあるのですが、刀を無くしてしまったみたいで……」

「あら、そうなの。手伝ってくれてるのね。ありがとう」

「いえいえ……」

 

 ……おい、まともな人が居たぞ! 久しぶりにちゃんとした会話した気がする!!

 

「あの、名前は何ですか!?」

「私? 私は西行寺 幽々子。この世界を管理したりしてるんだけど……あ、ちょっとごめんなさい。そろそろ時間なの」

 

 時間?

 

「貴方も一緒にやる?」

「はい? ……じゃあ、とりあえず一応」

 

 一体何をするんだ?

 

 

 

「はい、ワンツーワンツー!」

「こう……ですか……」

「そこで腕を大きく振って!」

「は、はい……」

「膝を曲げて屈伸!」

「……」

「手を上げて大きく伸びて!」

「……これ何ですか?」

「エアロビクスよ」

「あの……一ついいですか?」

「何?」

「幽々子さん、幽霊でしたよね?」

「ええ」

「今やってるこれ、何ですか?」

「エアロビクスよ」

「意味あるんですか?」

「あるわよ! 女性たるもの、美容と健康には気を使うべきだわ!! その為の努力は惜しまない、それが私のモットーよ!!」

 

 ……惜しいなぁ、色々と。

 

 

 

「ふぅ、良い汗かいたわね~」

「そうですね……」

「あ、そういえば、妖夢の刀なら冷蔵庫にあったわよ」

 

 何故それを先に言わない!?

 てかどうして冷蔵庫なんだよ!?

 

 言われるがまま冷蔵庫を開ける。だが、そこに刀は無かった。

 

「あれ? おかしいわねぇ」

 

 元から嘘なんじゃねぇのか?

 

「違うわ! 嘘じゃないわよ!」

 

 地味に心読むなよ覚り妖怪かテメェは。

 

「こうなったら、妖夢に心当たりを聞くしか無いわねぇ……」

 

 

 

「妖夢ぅ~、刀の場所に心あ──」

「ウッセェ死ね!!」

 

 話しかけた第一声が死ねかよ……

 

「参ったわねぇ、どんどん性格が凶暴になってきてるわ」

「これどうします?」

「仕方ないわ。久しぶりに幻想郷に降りて探すとしましょう」

「そうですね……」

 

 従者の刀を主が探すってな。まるで永遠亭だ。

 ……よく考えれば全く違げぇわ。

 

「そういえば、その手紙に何て書かれてるの?」

「え……基本本人以外開けちゃいけないのですが……」

「私は主だから私にも権利はあるもの」

 

 ……まあ、いいか。

 

「どれどれ……魂魄妖夢様へ。刀は私が貰いました。霧雨魔理沙より」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……帰り、どうしよう」

「泊まっていく?」

「ありがとうございます」




「ダーリン……帰ってこないわ……放置プレイかしら!?」

※追記
変態成分が足りないので次回も白玉楼です。


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鼻フック物なんだけど

「申し訳ありませんでした!!」

 

 白玉楼で一日過ごし朝起きた直後、俺の目の前で誰か謝ってる。

 

「昨日はあの様な態度をとってしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 あ、妖夢か。

 

「刀、取り返したのか?」

「はい、幽々子様から魔理沙が怪しいと聞いたので、行くてみたら案の定盗まれてました!」

「それで?」

「○りました」

 

 何したんだよ……

 

「朝ごはんが出来ていますので、あちらへどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

 まあ、刀が帰ってきてから様子も普通だし、久々に平和な日々を送れそうだ……

 

「幽々子様~朝ごはん出来てますよ~」

「ハァ、ハァ……今行くわ~」

 

 朝からジョギングする幽霊ね……

 

 

 

「それじゃ、頂きます」

 

 食事の内容は白米に味噌汁、そしてお吸い物と質素な物だが……ん? 汁物二つかよ。漬け物とかあるだろ。なんで味噌汁とお吸い物で汁物二つ出すんだよ。

 

「あ、これ旨い」

「でしょ? これインスタントなんですよ」

 

 手抜きじゃねぇか、誉めて損したよ。

 

「「「ご馳走でした」」」 

 

 三人で食べ終え、食器を片付ける。

 

「それじゃ俺はそろそろ帰り」

「待って下さい!」

 

 妖夢に引き止められた。

 

「あの……昨日は迷惑かけてしまったので……お詫びしたいと思うんです」

「いや、別に……」

「それじゃあ私の気が済みません!」

「はぁ……それじゃ、遠慮なく」

「奥の部屋に来て下さい」

 

 妖夢に連れられ、奥の部屋へ。そこには布団が一式のみ。

 

「あの……優しくしてくだ」

「待て、何故脱ぐ」

「貴方に恩返しがしたくて……♥」

 

 こいつデフォが変態か!!

 

「恩返したければ金をくれ」

「お金はありません……その代わり、体で払います♥」

 

 しまった! 墓穴を掘っちまった!!

 

「──かえ」

「待ってください、これ以上動いたら……首が取れますよ♥」

 

 クソ!! どっちもR18じょねぇかよチクショウ!!

 なんで俺ばっかこんな眼に合うんだよ……

 

「待て! 早まるな! 俺は女だ!!」

 

 口から出任せにも程があるな。

 

「え……」

 

 あからさまに信じた顔すんな。

 

「……禁断の愛も、悪くないです♥」

 

 折角の逃げ道が塞がれちまった!!

 

「ダメだ、えっと……俺には心に決めた彼女が居るんだ」

「──!?」

 

 お、また信じた。

 

「それは誰ですか……」

「えっと……アリスだ! アリス・マーガトロイド!!」

「そうですか……分かりました……フフ」

「ど、どこに行くんだ?」

「ちょっと森にネズミ狩りに行きます」

 

 ……最悪の展開から一転、最高の展開だぜ。

 明日からは家でも安眠生活だな。

 

 

 

「あら、もう終わったの?」

「……妖夢が何しようとしてたのか知ってたのか?」

「ええ」

 

 止めろよ。

 

「あの子私の部屋のエロ本盗み見てからすっかり感化されちゃってね~」

 

 テメェのせいかよ。

 

「鼻フック物なんだけど」

 

 じゃあどうしてあぁなったんだよ!? 鼻フック全く関係ねぇぞ!?

 

「ところで妖夢は?」

「ネズミ狩りに行きました」

「あら、そうなの。命蓮寺のあの子大丈夫かしら?」

 

 大丈夫だ、問題ない。

 

「あの……そろそろ帰っていいですか?」

「そうね、送るわ」

 

 

 

 なんやかんやありながら、一日ぶりに家に到着。地味に今日仕事サボってるけど、速達便は無さそうだし別にいっか。さて、家でのんびり寝てゆっくり休もう。

 

「待ちくたびれたわ、ダーリン♥」

 

 クソォ、生きてやがった!

 

「待ってましたよ、お兄さん♥」

 

 何ぃ、妖夢!? 挟み撃ちだと!?

 

「オイお前ら……争ったんじゃないのか……」

「ええ、始めはお互い争っていたわ」

「けれど時が経つにつれ、お互いに一つの想いが生まれたのです」

 

 友情が芽生えたのかよ変態同士で……

 

「「3Pも悪くない」」

 

 ダメだコイツらなんとかするとかいう次元を越えてやがる!!!

 

「くそ、寄るな変態!!」

「そんなに緊張しないでダーリン♥」

「すぐに終わりますから……♥」

 

 どうする……ここを脱出出来る手段は……

 

「……お、俺、どうせなら3Pじゃなくて4Pがいいな……」

 

 発想の転換!!

 

「ダーリン……分かったわ。今すぐ探してくる! 妖夢、行くわよ!!」

「はい! 分かりました!」

 

 ……しばらくは人数増やせば切り抜けられそうかな。




※この発言が後にお兄さんの首を絞めて行きます。


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僕、約束したんだよ

 いつもの朝。いつもと同じ風景。そして、いつもと同じ仕事。変態共に振り回されながら、日々楽しく過ごして……楽しくはねぇな。

 という訳で、今日もまた仕事。もうこの下りメンドクセェな。次話からカットしていい?

 

 集められた便りの内容を確かめる。昨日サボッちまったから多いな。まあ、幻想郷の皆さんは優しくから少し遅れても──!?

 

 

 

「おい、妹紅!!」

「なんだよ、今から体中のありとあらゆる首を切断しようとしてたのに」

「そんなことしてる場合じゃねぇ!! 速達だ!!」

「……分かった、今すぐ準備する」

 

 そう、俺が見た物は速達の印が押された手紙。それも、宛先は永遠亭。間違いなく、病人だ。それも相当症状の重い、命に関わる病。

 

「飛べ妹紅! 全力で付いて行く!」

「OK! 見失うなよ!!」

 

 こういう日は、もう他の手紙になど構っていられない。最速で届ける。これが俺の仕事。俺の取り柄、脚の速さを皆の為に活かせる唯一の方法なんだ。

 

「永琳さん!!」

 

 なりふり構わず永遠亭へと入る。返事と共に鈴仙が現れた。

 

「永琳さん、居るか!?」

「え、師匠なら、今取り込んでますが……」

「速達だ! 上がらせて貰う!」

「あ、ちょっと!?」

 

 診察室にいた永琳は、もう明らかにヤクを吸ってラリっていた。今はそんな事してる場合じゃない!

 

「永琳さん、急患だ! 今すぐ来てくれ!」

「……そろはな……あおいくふりろっれ……」

「この薬だな!!」

 

 棚の手前にあった青い瓶にある液体を、永琳に飲ませる。

 

「……ウッ、ゲフッゲフッ!!」

「おい、大丈夫か!?」

「……ええ、心配ないわ。行きましょう」

 

 ヤクが切れた、流石医者だな。

 

「案内する! 付いて来てくれ!!」

 

 

 

 人里の大通りから少し離れた、平屋の住宅街。便りの届け主はこの家だった。若い夫婦に少年が一人。家族構成はごく普通。そして、病を患わせているのは、よりによってその少年だった。

 

「……長期間の熱、血痰の伴う咳……結核の可能性が高いわ」

 

 永琳さんの宣告を、俺を含めたその場にいる全員が静かに聞き届けた。

 結核。一言で言えば『死ぬ可能性が高い難病』。主に肺を蝕み、少しずつ破壊していく。大人でも過酷なこの病を、こんな子供が……

 

「……治す方法はあるんですか?」

「…………」

 

 その沈黙が、何よりの答え。質問した少年の母親は、泣き崩れてしまった。

 別室から、少年の酷い咳が聞こえる。枯れそうな声で咳き込んでいる。とても辛く、苦しそうだ。

 ……俺に、何か出来ないだろうか? 最早仕事なんてどうでもよかった。

 

「一度永遠亭に戻って、薬を持ってくるわ。症状を落ち着かせる薬なら、すぐに作れるから」

「ええ、お願いします」

 

 家から出ていく永琳さん。今、少年は部屋に一人だ。結核は空気感染する。不死ならともかく、普通の人間が移ったら非常に危ない。少年にとって赤の他人である俺でも、彼の傍らに居てやれない事が心苦しい。

 

 

 

「……ぇ……な……の……」

「ぼ……し……ぅ……」

 

 ふと気が付けば、話し声が聞こえてきた。枯れた少年の声と、もう一つ、永琳さんではない誰かの声。不思議に思った俺は、襖を少しだけ開け、覗いてみる。

 

「へぇ、新太郎っていうんだ」

「うん……おねぇちゃんは?」

「私はアリスって言うの、よろしくね」

「アリス……おねぇちゃん……」

 

 お前、何してんだよ……

 

「調子はどう、新太郎くん?」

「少しだけ……良くなった……」

「そう、おねぇちゃんのおまじないが効いたわね」

 

 俺は二人のやりとりを、ずっと覗き見ていた。恐らく今、俺は行くべきじゃない。

 

「新太郎くんは、欲しい物とかあるの?」

「……ないよ……お母さんやお父さんに……迷惑かけちゃうもん」

「……良い子なのね」

「うん……僕、おばあちゃんと約束したんだもん」

「おばあちゃん?」

「おばあちゃんが良い子にしていれば、きっとまた会えるって……僕、約束したんだよ」

「そうなの……」

 

 二人の話をある程度聞いていた俺は後、母親に質問した。

 

「あの子のおばあちゃん、どうしたんですか?」

「それがね……去年、亡くなってしまったのよ……」

「…………」

「それまでは元気だったんたけど、ある日眠るように冷たくなっててね……私も驚いたわ」

「……ありがとうございます」

 

 結局、出来る事がほとんど無いと悟った俺は、永琳さんが戻ってくると同時にそこから出ていった。

 帰り道、俺はふと立ち止まった。

 

「アリス。お前はどう思う、あの子の事」

「……何も出来る事は無いわ。あの医者でも治せない病気を魔法でどうにかしようなんて思わないでよ」

「いや、そうじゃない」

「じゃあ何?」

「……死んだ人にもう一度会う方法、知ってたりしないか?」

「…………」

「だよな……当たり前だ。そんな事が出来る訳ねぇよな」

「……閻魔様なら知ってるかもね」

「たまに幻想郷に降りてくるって話は聞くけど、時間が無い。直に死んで会いにでも行かな──!!」

「どうしたの?」

「……いるじゃねぇか、いつも死んでばかりのイカれたモンペ野郎が!!」




……え、いつもと違う? 気のせいだ。


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あぁ~、だるッ

※超メタ回。小説の闇に手を突っ込んでる様なメタ回です。ただの小説として読まない方が身のためです。というより、一話や二話を読んでもまだこの作品をごく一般的な小説だと思ってる方、脳外科に行く事を推奨します。



 夕方、妹紅の家。俺は彼女に頼み事をしに来た。

 

「──という訳だ、頼むから死んでくれないか?」

「私も長年生きて……たのか分からないけど、死んでくれなんて頼まれたの初めてだぞ。いいけどさ」

 

 さっすがもこたん!! インしたお!!

 

「誉めてんだか貶してんだかわかんねぇよ」

「地味に心読むなよ」

 

~~~

 

「……ん、あぁ、死んだ。さて、三途渡って閻魔んとこ会いに行くか」

 

 三途の川。死者が閻魔に裁かれる前に渡る川。生前の罪によって向こう岸に着くまでの時間が変わるとか、なんかそんな場所。俺は今からもこたんと二人でこの川を渡るのだ。なんか、心中したみたいだな。

 

「説明半端だな……ん?」

 

 どうしたんだ、もこたん。

 

「えっと……一つ良いか?」

 

 どうぞ遠慮なく。

 

「この物語ってあの飛脚の一人称だよな」

 

 そうだよ。

 

「飛脚は死んでないよな」

 

 うん。

 

「なら普通、私に一人称が入れ替わるか三人称になるだろ」

 

 そうだね。

 

「お前誰だよ」

 

 変態です。

 

「作者が物語に出てくんじゃねぇよ! 共々クソみたいな話が余計クソになるじゃねぇか!」

 

 登場人物にクソって言われる作品ってどうよ?

 

「仕方ねぇだろ、事実なんだから」

 

 て言うか~俺作者じゃねぇし~。

 

「じゃあ誰が書いてんだよ?」

 

 モ○ゴンさん。

 

「止めろォ!! 幾らよく感想書いてくれてるからって他ユーザーの名前出すんじゃねぇ!! よく考えればさん付けしてる時点で違うじゃねぇか!!!」

 

 あ、バレた?

 

「まず騙されてねぇよ!!」

 

 そんなに照れなくていいじゃないの。

 

「怒ってんだよォ!!!」

 

 もう分かった、分かったよ。地の文みたいに振る舞ってりゃいいんだろ。

 

「分かったら二度と出てくんな」

 

 妹紅は激怒した。必ずや、かの変態無秩序な作者を「待てやゴラァ!!」

 

 ん、どうかしたの?

 

「あのなぁ、マジでそれはヤバイぞ」

 

 そうかなぁ……仕方ない、真面目にやるか。

 

 

 

「あぁ~、だるッ」

 

 なあ、この腑抜けたワカメみたいなのが閻魔さん?

 

「腑抜けたワカメって何だよ、て言うか出てくんなよ」

 

 あ、ごめん。生きてるのか死んでるのか分かんない妹紅は飛んで川を渡り、閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥの元へ着いた。死神形無し。

 それよりヤマザナドゥって何だ?

 

「お~い、閻魔~」

「な、蓬莱人!」

「ちょっと聞きたい事があんだけど」

「後二時間で仕事終わるの! お願いだから邪魔しないで!!」

「人里にいる新太郎って奴のおばあちゃんなんだけどさ、ここに来てからどうなった?」

「忘れた!!」

「……あ、手が滑って書類が大へ」

「ごめんなさい分かりました今から調べます」

 

 閻魔ァ……

 

「確か……あのおばちゃんはそんな悪いことしてないから転生するわよ、そのうち」

「で、今はどうなってんの?」

「忙しいから後にして!」

「隣の部屋にあるモータ○コン○ット、データ消しちゃ」

「御免なさい謝るから止めてくださいお願いします」

 

 意外とエグいゲームしてんな。

 てか死後の世界にゲーム置くなよな。

 

「──冥界?」

「ええ、あそこにいる霊はほとんど転生するのを待ってる奴等だから、探せばいるわよ多分」

「そっか、ありがとな」

「礼を言うなら帰って頂戴」

「飛脚が私の腹踏んづけるまで生き返れないから、隣でモータ○コン○ットしてるわ」

「大人しくしといてよ!!」

「そしてゲーム機をFatality(フェイタリティ)!!」

「やめてェ!!」

 

 

 

「ドラァ!」

「ぐふッ!?」

 

 死んでから約二時間。頃合いを見て踏んづける。分からないのは当たり前だけど、死んでる奴に触るの案外気持ち悪いんだよ。

 

「うぅ……閻魔に『二度と来るな』って言われた……」

「何したんだよ……それで、どうだった?」

「おばあちゃんは多分冥界だってさ……それから先はあの幽霊コンビに聞いた方が良さそうだ……」

「あお、十分だ、ありがとな!」

 

 思い付いたらすぐ行動。俺は直ぐ様冥界へ向かった。

 

「今度一緒に心中しような~」

 

 嫌だよ。



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……不束者ですが、宜しくお願いします♥

「私思うんです。今の私の剣の実力は、まだまだ半人前……このままでは、生きている内に達人と呼べる域に到達出来ないかもしれません。だから、私は考え直しました。日頃の行いを全て見直し、剣士として、そして女として、膜を破らなければならないと思うんです!!」

 

 開始冒頭下ネタぶっこいてんじゃねぇ変態剣士が。

 

 

 

 新太郎くんのおばあちゃんの霊を探しに、一人白玉楼へ訪れた俺。勿論何でも屋の巫女さんに連れてって貰いました。アイツ多分お金さえくれれば何でもすると思うんで、未だ独り身の孤独な男性諸君は札束を差し出しながら求婚すれば婚約出来るんじゃない?

 金で左右される愛なんて俺は嫌だけどね。

 

「あら、いらっしゃい。最近よく来るわねぇ」

 

 好きで来てる訳でも無いんですけどね。

 

「無視しないで下さい!」

 

 おやおや、放置プレイは嫌いかね妖夢ちゃん。残念ながら俺は放置プレイ専門だからひたすら放置するぜ!

 

「斬りますよ?」

 

 ごめんなさい。

 

「ところで、今日はどんな用なのかしら?」

「実は、里の新太郎って子のおばあちゃんの霊を探しに訪れたんですけど……」

「そうなの……いるとは思うけど、ここには沢山の霊がいるからねぇ……見付かるかしら……」

 

 確かに、ふと空を見上げると、薄暗い中に幾つもの霊がふわふわ漂っている。それが冥界のほぼ端から端までいるのだから、相当な数だ。下手すれば一日二日では終わらないかもしれない。

 

 ……ていうか、幽霊の識別方法わかんねぇよ。

 

「まあ、丁度暇してたから、手伝うわ。ねぇ、妖夢?」

「…………幽々子様は?」

「今からヨガの時間なの」

 

 今だけは同情するぜ、妖夢。そしてありがとうな。

 

「じゃあ二人とも、頑張ってね~」

「……すまん妖夢、助かるよ」

「…………」

 

 妖夢?

 

「……デートみたいですね♥」

 

 ……ま、いっか。

 

「この後一緒にラブホでも行きませんか♥」

 

 無ぇし行かねぇよ。

 

 

 

 という事で、妖夢と二人でおばあちゃんの霊探しを始めたのだが、この大量の幽霊の中から、どうやって一人の霊を探し当てるのだろうか?

 

「どうするんだ?」

「簡単です。新太郎くんのおばあちゃん、いませんか~」

 

 うわ、それでいいのかよ。

 

「あ、ちょっとそこの霊。新太郎くんのおばあちゃん知りませんか?」

「ん? 知らねぇべさ」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 幽霊、喋るのかよ。

 

「そこの霊、新太郎くんのおばあちゃん知りませんか?」

「ワン!」

「そうですか……」

 

 犬だし。しかも話通じたのか?

 

「お兄さんも聞き込みしてください」

「ああ、えっと……ちょっとそこ、新太郎くんのおばあちゃん知らないか?」

「そんな事より貴方に乗り移りたいです♥」

「あ、それ私の半霊です」

 

 ぶん殴りてぇ。

 

「えい♥」

「あ、ちょっと!! 俺に入るんじゃねぇ!! おい妖夢、お前の半霊体に入ったぞ!! どうすりゃいいんだよ!?」

「無害な筈ですし、大丈夫じゃないですかね?」

「考えろ!! 今の俺は半分お前で今のお前は半分俺になったって事だぞ!! それで良いのかよ!?」

「……不束者ですが、宜しくお願いします♥」

 

 チクショウ、予想通りだよ!!

 

 そんなにカッカしなくても良いじゃないですか、旦那様♥

 

 な、お前半霊か!?

 

 妖夢ですよ、今はお兄さんですけどね。

 

 入って来んじゃねぇ!! どうすんだよこれ!?

 俺の一人称の筈なのに俺と妖夢の一人称になってるぞ!!

 なんか矛盾してるじゃねぇか!?

 

 新しい手法の開拓ですね!

 

 んな技術誰も使わねぇよ!

 

「お、飛脚。頑張ってるな」

「貴方は……蓬莱人の魂!?」

「妹紅、どうしてここにいるんだよ……」

「いやぁ、どうやら飛脚の事を考えながら死んでたら、気が付いたら飛脚の近くに魂が飛んでったんだ」

 

 怖ぇよ。取り憑かれてるみてぇじゃん。

 

 幾ら何でも流石にそれは無いですよね。

 

 ……そういや取り憑かれてるんだったわ。

 

 違います! 宿っているだけです!

 

 どうでもいいよ。

 

「あ、そういえば、あそこにやけにババアの霊が集まってる場所があったから、そこに行けば見付かるとんじゃないか?」

 

 妹紅、ありがたいけど、ババア扱いはやめとけ。

 お前そのババアより遥かに長く生きてんだぞ。

 

 私だって人間の年齢からすればあと数十年でババアです!

 

 そこはどうでも良いわ、黙っとけ。

 

 嫌です! 折角私も主人公と同じ様な扱いを受ける事が出来たんですから、今の内に目立たないと!

 

 『オリキャラ×妖夢(半霊)』とか誰得だよ。

 

 俺得です!!

 

 勝手にやってろ。

 

 ああ、妖夢……君が恋しい。君の事を思うと、夜中に何度もトイレに行ってしまうんだ……

 

 ヤメロ! しかも意味わかんねぇよ!! 頻尿か!?

 

「お兄さん、新太郎くんのおばあちゃんいましたよ~」

「……取り込んでるな」

「どうします? 何故か死んでる蓬莱人さん」

「ほっとけ」




※あ、次回も取り憑かれてるまんまです。


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おばあちゃん……見ててね。

 こんなのをやりたかっただけ。
 クッソ短いしつまんないです。


「……ここ、ですか?」

「あぁ」

 

 新太郎のおばあちゃんの霊と共に彼の元を訪れた妖夢と妹紅。これから二人で、どう彼におばあちゃんと会わせるか相談する事に。あ、今回の地の文は変態こと作者視点でお送りします。前と違ってそんなボケる事無いんで真面目に書きますね。

 お兄さん? 冥界に置いて行かれました。

 

「いきなり会っても驚かせる事になりますし……」

「どんな風に会っても驚くと思うけどな」

「私の霊力をおばあちゃんに分け与えて、死んでませんでした~見たいに振る舞わせるのはどうです?」

「もう死体埋葬してる筈だぞ、ゾンビじゃねぇか」

「あ、今思ったんですけど、幽霊って服着てるんですかね? もしかして全裸!? 興奮します!」

「しねぇよ」

 

 話が進みません。

 

「もうアレだ、夢みたいに夜中に枕元に現れる的な感じでいいだろ」

「じゃあ、そうしますか」

 

 変態の前ではまともな妹紅です。

 

 

 

 皆が寝静まった深夜、二人は家に忍び込みました。そういえば、妹紅まだ死んだまんまなんで実質妖夢一人です。

 

「夜這いみたいですね」

「死ね」

 

 死者が死ねって言うと気味悪いですね。

 

「ここが新太郎の部屋だ」

「それじゃ、今からおばあちゃんに霊力を分け与えてます」

 

 妖夢が手を翳すと、一つの幽霊がみるみる光り輝き、一人のおばあちゃんへと姿を変えました。

 

「それでは、彼に会ってあげて下さい」

「……ふたりとも、ありがとうね」

 

 そう言って、おばあちゃんは襖の奥に消えて行きました。

 

 

 

 ──新太郎や。

 

「……ぅ、ん」

 

 ──新太郎や。

 

「……誰?」

 

──いい子にしてたかい、新太郎や。

 

「……おばあ、ちゃん?」

 

 ──そうだよ、おばあちゃんだよ。

 

「うん……僕、いい子にしてたよ……」

 

 ──そうかい、偉いね。いい子にはプレゼントをあげよう。

 

「これ……何?」

 

 ──ニンテンドー3○Sだよ。

 

 何故そんなもの持ってるんだ、おばあちゃんよ。

 

「ありがとう……おばあちゃん」

 

 ──他人に良いことをしてあげれば、きっといつか自分に返ってくる。それを忘れず、立派に生きて行きなさい。

 

「うん、分かったよ……」

 

 ──それじゃ、おばあちゃんはそろそろ行くよ。まあ、会おうね。

 

「うん、またね……」

 

 こうして、おばあちゃんは消えて行きました。残ったのはおばあちゃんのくれたニンテンドー3○Sのみ。中にはなんと、ポケットモ○スターZが入っていました。

 俺も欲しい。

 

 

 

 翌日、彼は幻想郷から姿を消しました。

 彼は決めたのです。

 おばあちゃんの想いを継いで、ポケモ○マスターになると!

 

「おばあちゃん……見ててね。僕、絶対ポケモ○マスターになるから……」

 

 彼の冒険はまだまだ終わらない!!




 結核? 何の話かね。


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俺は今から──

 先に言っておきます。
 今までで一番つまんないです。
 約3500字と少し長め、現状一番のシリアス回です。


 澄みわたる青空に、爽やかな風。私を照らす眩しい太陽。まるで私の心を写し出してくれているような、そんな気持ちのいい一日が始まる。

 

「……やっと会えるね、お兄さん」

 

 始めて感じたこの気持ちをもう一度確かめる為に、私は歩き出した。

 

 

 

 

 どうも皆さんおはようございますこんにちはこんばんわはじめまして、飛脚です。いい天気ですね。こんな日は仕事をサボりたいですが、しばらく里に居なかったせいで配達物が山積みです。今日は一日中走りっぱなりしになりそうですね。

 え、何かいつもと様子が違う? そりゃあそうですよ。

 何たって今の私には変態が取りついていますからね。万一にもこちらが暴走したら、変態に物語の主導権を乗っ取られてしまいます。それだけは絶対に阻止しないといけません。

 その証拠にほら、まだ妖夢は出てきてないでしょう。

 

 ……何か、違う…… 

 

 妖夢がたじろいでいます。これはチャンスですね。この調子で真面目な一人称を披露し続けたていれば、きっと妖夢は拒絶反応を起こして逃げていくでしょう。さあ、今日も一日お仕事頑張りますか。

 

 ……この雰囲気……何かが、来る!?

 

 おや? 妖夢の様子がおかしいですね。なんかどっかの戦闘物のヒロインみたいな事言ってますね。

 

「お兄さん」

 

 ん? 今、声が聞こえた様な……

 

「会いたかった……お兄さん!」

 

 声が聞こえた方へ振り向くと、そこには小柄で胸に不思議な物を付けた少女がいました。

 

「……誰?」

「あの……私、始めて会った時から、お兄さんの事が気になって、その……」

 

 ……何だ、この体に走る悪寒は?

 スゲー嫌な予感がする。

 少女の眼はとても澄んでいて、頬を赤らめている。憧れの先輩に告白する女子高生みたいな雰囲気を感じる。甘酢っぽい青春の香り……

 

「つ、付き合って下さい!」

 

 頭を下げ、意を決して告白する。その言葉を俺は予想出来たのだが、反応はすぐには出来なかった。自分にとっては始めて会ったばかりの相手だ。そんな簡単に告白を受ける事は難しい。かと言って、断るのも気が引ける。彼女の眼を見ていると、まるで子猫の様な可愛らしさとか弱さを感じた。今俺が断ったら、簡単に壊れてしまいそうな、そんな気がする。

 

「……えっと、ま、まずは友達からって事で……」

「ほ、本当!? やったぁ!!」

 

 無邪気に喜ぶ少女。告白を受けた訳でもないのにこんなに喜ぶなんて変な奴、と俺は思った。そもそも、彼女はどうして俺の事を知っているのだろう。見た通りだと、人間じゃないのかも知れない。

 

 ──ん? あれ? どうしてこんな展開になってんだ。これじゃまるでどこぞの素人が書いた恋愛小説じゃねぇか!?

 

「あの……会ったことあったっけ?」

「ああ、ごめんなさい。私、古明地こいしって言います」

 

 古明地? 何処かで聞いたことあるような……

 おい、妖夢。何か知らないか?

 ……………………

 あれ? 妖夢?

 ちょっと、肝心な時に体から抜けやがった!?

 

「お兄さん!」

「ふぇい!?」

 

 変な言葉出てきたわ。

 

「今から一緒に何処か出掛けませんか!?」

「え、ごめん、今から仕事が……」

「お便りを届ければいいんですよね? 私も手伝います!」

「あ、ちょっと!?」

 

 そう言うとこいしは俺から手紙を半分ほど奪っていくと、この場を去ってしまった。

 ……手伝って欲しいなんて一言も言ってないのに。

 

 

 

 里を駆け回りながら、俺は彼女の事を考えていた。

 俺の事が好きな奴は結構いる。だが、今回は違う。

 彼女はおかしい……いや、違う。彼女こそが本来の恋する女性の姿なのだ。おかしいのは他の奴等なんだ。俺の感覚がおかしかったんだ。

 正直に言おう。彼女の一途さには、俺も牽かれる部分がある。

 だが、ダメだ。

 彼女の事は受け入れられない。

 彼女が人間じゃないから? 違う。

 出会ったばかりだから? それも違う。

 はっきり言うと、俺にも分からない。だが、本能が告げている。彼女と付き合ってはいけないと。

 

 全ての配達物を配り終え、自宅へと戻ろうとする。日は沈み始め、里は紅く染まりかけていた。

 

「……あ、お兄さん。お疲れ様です」

「……速いな」

「えへへ……お兄さんの為に、頑張りました」

 

 家の前、玄関で彼女は待っていた。額や服に汗の後が目立つ。さわやかな顔をしてるが、裏では全力で頑張っていたのだろう。

 

「あの、お兄さんの家に入ってみてもいいですか?」

「……ん、ああ」

「やったぁ!」

 

 ……断れない。断る理由もない。今、俺は非常に迷っている。突然現れた彼女を、俺はどうやって受け入れればいいのだろうか? 

 

「……は、ハクシュン!」

「どうした?」

「服が汗でびしょびしょで……」

「そうか、とりあえず奥で休んでろ」

「はい」

 

 俺は押し入れから普段使っていない服を取り出し、彼女に着替える様に言った。彼女の服を洗濯し、部屋の中に干す。それから俺は二人分のお茶を入れ、片方を彼女に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます」

「服、乾くまでしばらくかかりそうだ。帰るとき送るよ」

「あの、その事なんですけど……私、実はお姉ちゃんと喧嘩して、家出しちゃったんです……」

「家出?」

「はい。だから、その、泊めて欲しいかな、なんて……ダメですよね。いきなりそんな事言われても……」

「…………」

 

 はっきり言おう。今俺が断ったら彼女はショック死してしまいそうだ。そんな眼で見るな。俺の澱みきった眼が腐っちまう……

 

「仕方ない、一日だけだ……」

「本当ですか!? やった! ありがとうございます!!」

 

 ……全く、調子が狂うよ。

 

 

 

「いただきます!」

 

 夕食の時間。思えば、自宅で人を招いて食事するのは始めてかもしれない。白玉楼で食べた事はあったが。

 

「やっぱり、運動した後のご飯は美味しいです!」

「そうか」

 

 美味しそうに食べるこいし。俺の作った食事をこんなに美味しそうに食べる姿を見るのも始めてだ。というより、他人に料理を振る舞った事さえない。

 

「あの……おかわり、ありますか?」

「ああ、あるよ」

「えへへ……」

 

 本当によく食べる。気がつけば、自然と俺も笑っていた。夕食はあっという間に無くなってしまった。

 

 

 

 楽しかった。一緒に食事して、少し会話して……今日会ったばかりの彼女だけれど、本当に楽しかった。自分が今までに求めていた物が、全て満たされていると感じた。

 今彼女は俺の隣で寝ている。布団は一つしか無かったから俺は床で寝ようとしたけど、彼女は俺が布団で寝ろと言って聞かなかった。結果、二人で寝ることになった。

 古明地こいし。そうだ、彼女こそが俺の求めていた人。いや、本当は人ではないけど、そんな事は関係ない。彼女と過ごしたこの時間で、俺はそう確信した。彼女は俺が好きだし、俺も恐らく彼女が好きだ。今まで会った者の中で、一番。

 

 だが、ダメなんだ。俺は彼女と付き合ってはいけないんだ。どうしてだ? どうして俺はそんな事を思うんだ?

 

 結局その答えは出ないまま、気が優れない俺は風を浴びに外へ出た。

 その時、何かが走り去るのを俺は見た。

 

「……今のは」

 

 暗くてはっきりとは見えなかった。けれど、その姿には確かに見覚えがある。誰だったのか、思い出さない。

 追いかけようか、そう考えた時、足元に紙が落ちている事に気が付いた。

 

 家へと戻り、僅かな灯りを付け、その紙を見る。

 

【私の事はもう忘れて、幸せになって下さい。今まで過ごした時間、とても楽しかったです】

 

 ──ああ、そうか。思い出した。

 なんで俺は忘れていたんだ。あの変態共と過ごしたあんなに長い時間を、たった一日で。

 もう、全て理解した。

 

 俺は、こいしと別れるべきなんだ。

 俺が幸せになる事は、この物語が終わりを告げる事。

 そしたら、アイツらはどうなる?

 アイツらは俺の事が好きなんだ。

 俺の事を想ってくれてるんだ。

 俺の幸せを、アイツらは絶対に邪魔しない。受け入れる。受け入れるべきなんだと自分に言い聞かせ、そして物語で幸せになった主人公を取り囲む『その他』のキャラクターとしての終わりを受け入れる。

 そんな終わらせ方、俺が許さねぇ!!

 

 

 

 朝。眩しい朝日が部屋に差し込む。丁度その時、彼女は眼を覚ました。

 

「おはよう」

「ふぁ~……おはようございます」

 

 顔を洗った後、二人で朝御飯を食べる。その後、俺は彼女に話し掛けた。

 

「なぁこいし。この後二人で色々と出掛けないか?」

「あ、はい!」

 

 元気よく返事を返す彼女。それを聞いて少しだけ心が痛んだが、自分に言い聞かせ決心を固める。

 そう、決して別れを告げる訳じゃ無いんだ。俺が彼女を平気で拒絶できればいいんだ。彼女を他の皆と同じ様なポジションに置けばいいんだ。

 

 俺は今から、こいしを変態に変える!!

 




貴方はさとり派? こいし派?

私は寿司が好きです(適当)


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今度紹介しなければ

 変態とは。

 動物の正常な生育過程において形態を変え……違う、性的行動や性欲のありようにおいて、正常と見なされない嗜好を指す、らしい。辞書で調べた。

 という訳で、今から俺はこいしの性欲を異常に変える。この物語の為だ。読者の皆さん、こいし好きの皆さん、許して下さい。

 

 実を言えば、どうやって彼女を変態に変えるか、俺には分からない。あんなにすっぱり言い切ったのにカッコ悪いな。

 だか、悩んでいても仕方がない。変態の事なら、そう、変態に聞け!

 

「アリス、居るか?」

 

 魔法の森、アリスの家にこいしを連れてきた。アイツの家を訪れるのは一話以来だな。

 

「……何かしら、お届け物?」

「ちょっと入るぞ!」

「え!?」

「あ、お兄さん!?」

 

 こいしを外に置いたまま俺は勝手にアリスの家に入り、アリスを奥の部屋へと無理矢理引っ張った。

 

「な、何よ!?」

「聞いてくれ! 俺は今からアイツを変態にしたい!」

「はぁ、どういう事!?」

「お前変態だろ! アイツに無理矢理変態の極意でも叩き込んでくれ!」

「ちょっと、いきなり意味分かんないわよ!」

「頼む、この通り! 俺はアイツとは恋人未満で居たいんだよ!」

 

 何かを察した様な表情を見せ、考え始めるアリス。

 

「……分かった、良いわ」

「ありがとう、助かる!」

 

 真面目な時のアリスは頼りになるぜ!

 見たの初めてだけどな。

 

 

 

「あ、お兄さん」

「よし、こいし。中に入れ。俺は外で待ってる」

「え? どういう事……うわッ!」

「いい、こいしちゃん。変態の基本は体よ。自分の体、または相手の体、それかその両方があってこそ変態は成り立つの。さあ、まずはありのままの自分を解放して、お姉ちゃんと語り合いましょう!」

「え、ちょ、イヤ、助けてお兄さん! たす──」

 

 ……元気でな、こいし。

 

 

 

 数分後、二人は家から出てきた。案外早いな。

 

「お兄さん、怖かったよぉ~」

「オーソウカソウカ」

 

 ……変態になってない。アリス、どうしたんだ?

 

「……フフ、フフフフ」

「アリス?」

「ごめんなさい。私、用事出来ちゃった」

「アリス? どういう事だアリス!?」

 

 結局、アイツは玄関の鍵を閉めてしまった。一体どうしたってんだよ……

 

 

 

 次の策として、俺は二人で白玉楼へ訪れた。目的は幽々子。妖夢が変態化したエロ本でも読ませれば、きっとこいしも変態化する筈だ!

 

「もう捨てたわよ」

 

 幽々子さん答えるの早いっすよもう少し尺稼いで下さいよ。

 

「ところで妖夢は?」

「妖夢なら昨日から、死んだ様な眼をしながらずっと素振りしてるわよ」

 

 ……アイツは放っといていいや。その方がアイツの人生明るそうだ。

 

 

 

 第三の策として訪れたのは永遠亭。そう、ここには生粋のドSがいる。苦肉の策だが、彼女に調教して貰うしかない! こいしごめんよ! 後で飴玉あげるから!

 

「鈴仙、いるか!」

「はぁい」

「よかった、頼みたい事があるんだ。ちと中に入るぞ」

「え、何ですかいきなり?」

 

 またもや鈴仙を奥の部屋へと無理矢理連れて行く。

 

「玄関にいるあの子、お前の元で飼って欲しいんだが……」

「いいですよ」

 

 軽ッ!

 

「お前なら、飼い慣らすまでどれぐらい時間掛かるんだ?」

「とりあえず服従させる程度ならものの数分で十分です」

 

 すげぇ、流石プロだな。

 

「よし、準備が出来次第頼む!」

「分っかりましたぁ!」

 

 テンション高ぇ。生粋のドSは格が違うぜ。

 

 鈴仙に連れられ、一旦居間へ。そこでお茶とお菓子が差し出される。無論、薬入りだ。永遠亭特製睡眠薬。すぐに眼を覚ますよう、量は少なめ。

 そうして眠りについたこいしを、俺は鈴仙に預けた。

 

 ……元気でな、こいし。

 

 それからおよそ数十分。まだ調教は始まっていない様だ。ドSの事だから、始まったら恐らく永遠亭にこいしの悲鳴が響き渡るだろう。あんまり聞きたくないなぁ……

 そんな事を考えている内に、今こいしがどうなっているか気になり始めた。鈴仙には「別に見ても見なくてもいいですよ」って言われて(別に見たくねぇよ)と思い返したのだが、やはり気になってきた。

 

 我慢出来ず、俺は襖から覗き込む。

 

 ……裸で空中に鼈甲縛り、エゲツネェ……

 しかも部屋の隅には鞭とか三角木馬とかあるし、ハンガーにボンテージ掛かってるし、型に填まった様なドSだな……

 しかし鼈甲縛りで吊り下げられて、痛そうだ──!?

 

 

 そう、俺はこの時、見てはいけない物を見てしまった。

 それは、一気に俺の人生を変える事となった。

 衝撃。身体中に駆け巡る稲妻の様な衝撃。思考の想像だにしない驚愕の発見。

 

「ごめん鈴仙、やっぱり止めてくれ」

「えぇ!? 急にどうしたんですか!?」

「ごめんな、後日お詫びする。とりあえず今日はこいつを連れてもう帰るよ」

「ちょっと、説明してくださぁい!!」

 

 

 

 それから俺は、こいしが姉と仲直り出来るまで、こいしを家に泊める事にした。

 こいしはすぐにこの生活に馴染んだ。よく俺の仕事の手伝いもしてくれた。そんなこいしの好意を、俺は素直に受け止めた。

 数日経っても帰る素振りがないのを見ると、もしかしたら本気で家に住み始めてしまうかもしれない。けれど、別に構わない。普通に二人で食事も摂るし、平気で二人で風呂にも入る。もう、俺とこいしは家族同然なんだから。

 

「お兄さん、一緒に寝よう……」

「ああ、いいよ」

「ありがと……」

 

 アリスはこの事を知っているが、他の奴等はまだ知らないだろう。今度紹介しなければ。

 

 俺に『弟』が出来ました。




※こいし、祝レギュラー化。


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とっても疲れちゃった

※こいしが好きな人【閲覧注意】


 こいしが家に来て一週間。俺の日常は気が付けば、こいしの存在以外すっかり元に戻っていた。

 時々休みながら手紙を運んだり、こいしが手伝ってくれたり、たまに背後にいるアリスを撃退したり、まあそんな日々が続いた。

 

 そんなある日、一通のお便りが届く。宛先はうちだった。

 

『二人で来い 上白沢慧音』

 

 ……内容と名前の長さが同じだな。

 ハァ。

 

 

 

 という訳で、今日はこいしと二人で慧音先生の家へ。ご存じの通り、慧音先生は寺子屋で教師をしている。俺も昔は慧音先生に色々と教わったものだ。

 だが、俺はあの人が苦手だ。何故かはすぐに分かる。

 

「慧音先生~」

「来たか、入ってくれ」

 

 部屋の向こうから声がする。俺とこいしはその部屋へと入った。

 先生は、書類に何かを書いている最中だった。

 

「おぉ、君がこいしちゃんと言うのか、可愛いなぁ」

「先生、何で呼び出したんですか?」

「その前に少し話をしようではないか。さあ、そこに座ってくれ」

 

 言われるがまま、先生の向かいに座る。書類を片付けていた先生は、お茶を出してくれた。

 

「しかし久しぶりだなぁ。随分かっこよくなったものだ。私の見立て通りだな!」

「そ、そうですか……」

 

 確かに俺は昔から先生に見込まれていた。「君は将来きっとかっこよくなる」と、よく先生に言われていたものだ。それだけならまだ良かった。

 そう、問題はあの日からだった──

 

 

 

 俺はその日、先生に寺子屋を残る様に言われた。試験の成績があまり良くないので、補習を受けなければいけないらしい。外で遊んでばっかでろくに勉強しない俺が悪いので、それは仕方なかった。

 

 問題は補習を受けた後だった。授業は終わった筈なのに、先生はまだやる事があると俺をある部屋へ連れていった。そこは、用具庫だった。

 

「君にはまだ補修が残っているんだ」

 

 そう言って、先生はおもむろに服を脱ぎだした。

 

「──さぁ、これから先生と保険の実習をしよう」

 

 結論から言おう。用具庫の中にあったお星さま観察セットを取り出し、そこに描かれている月を太陽の光で照らし、満月っぽいのを作り出した俺は、なんか人間と獣の間で悶えている先生を尻目に用具庫から脱出した。

 

 そう、この先生は猛烈な変態ショタコンだ。

 この日から俺の身には、人並外れた危機感知能力を得たのである。

 

 

 

 ──今思えば、この能力のお陰であの変態共から逃れられているのだろう。もしそれを見通していたのなら、先生に感謝しなくちゃいけないかもな。

 

「今からでも遅くない、先生と二人でこの寺子屋で愛を育もうではないか!」

 

 やっぱ死ね。

 

「というより、先生はショタコンじゃないですか。なんで俺?」

「君だけは特別だ」

 

 先生だろ! 皆平等に扱えよ!

 

「というより、どうして呼んだんですか?」

「あぁ、まあそろそろ良いだろう。こいしちゃんを寺子屋に通わせてみないか?」

「嫌だ」

「いやいや、話を聞け。彼女はここ最近里に来たばかりだ。今は君という家族がいるが、彼女には友達が恐らくいないだろう。妖怪と言えど、幼い彼女にそれは可哀想だ。寺子屋なら、人間、妖怪、妖精、様々な子供達がいる。彼等と共に暮らすのも、こいしちゃんにとって良いことだと思うのだよ」

 

 ……まともな意見だ。

 

「学費は要らない。私が持ちかけた話だからね」

「こいし、どうする?」

「お友達……私、行ってみたい」

「そうか、こいしがそう言うなら」

「よし、話は決まったな!」

 

 それから、寺子屋通いに必要な用具を無償で提供して貰い、次の日から通い始めるという事で話は纏まった。明日から、こいしの新たな生活がはじまるのだ。

 

 

 

 そして次の日、こいしは元気な声で寺子屋へと出かけた。少々不安な部分もあるが、彼を信じて待つしかない。

 ……本当に大丈夫だろうか?

 

 そして、帰ってきたのは夕方だった。

 

「こいし、遅かったな」

「うん」

「どうだった?」

「楽しかったけど、疲れちゃった」

「なんでそんな遅くなったんだ?」

「えっと、先生にお勉強が少し遅れちゃってるから、ちょっとずつ先生とお勉強しようって言われたの」

「そうなのか」

「うん。それとね、実技もしなくちゃいけないから、先生に『赤ちゃんを作る練習をしましょう』って言われたの」

「…………それでどうした?」

「とっても疲れちゃった」

「…………」

 

 霊夢に妖怪退治の依頼でも出しておこう。

 



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拳符『腹部圧迫掌』

※お兄さんの性格の悪さが暴走します。


 それは、俺がいつもの様に仕事しようとした時だった。

 

 俺がイケメンなのは皆承知してると思う。この幻想郷の中で、少なくとも俺を容姿で嫌っている奴はまずいないだろう。自分でこう言うと普通は『ナルシストかテメェは』ってなるけど、俺は本気でもっと普通の顔に生まれたかった。

 となると勿論、あのストーカー野郎や半分幽霊や半分獣みたいな奴等と同じように、人里で俺の事を好きになる奴等もいる。だが、そいつらは大抵あのストーカー野郎の見た目の可愛さと俺への執念で諦めるのだとか。……アイツ迷惑この上ないな。

 だが、だからと言っても完全には諦めてられない様で、どうやら仲間内で文通し合い、その手紙を俺が直接彼女等に手渡す事で、欲求を満たしているだとか。仕事が増える増えるでたまったもんじゃない。まあ、今ではそれも日常化してしまったけれど。

 

 そう、皆さんお察しだろう。

 彼女等がほぼ毎日送ってくる手紙が、今日は一通も無かったのだ。

 その日は偶然何かがあるだけだと思っていたのだが、次の日も、その次の日も手紙は入っていなかった。

 

 ……何だろう、この胸に沸く不安感は。

 

 

 

 この日の仕事終わりに、俺はある家を訪れた。単に文通集団の一人の家だ。答えを知るには、もう直接聞くしかない。

 

「すみません」

「はい……ひ、飛脚様!?」

 

 なんで様付けなんだよ。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 なんで謝りながら扉閉めるんだよ……

 今の会話で確信した。今、俺の回りに何か起きている……

 そして、更に俺は気がついた。あのストーカー野郎が、三日前から居ない事に……

 

 

 

「お邪魔するぞ、アリス!」

「はひゃ!? 何よ突然!?」

 

 あ、こいつ今何か背中に隠しやがった!

 

「最近どいつもこいつも様子がおかしいと思ったら、何かしてやがるな!」

「違う、私じゃないわよ!」

「なら見せろ! その背中にある物を!!」

「嫌ッ!」

「なら力づくだ!!」

「あ、やめて、そんな事したら……あぁ、らめぇ!!」

「黙れ」

「ぐふッ……」

 

 アリスに腹パンした後、隠していた物を取り上げる。

 それは、驚くべき物だった。

 

「……何だよ……これ……」

「あ……本気で、吐き……オ×××××」

「汚ねぇよ」

「ひ……酷い、わ……」

 

 

 

 妖怪の山。幻想郷にそびえ立つそれなりにでっかい山。

 ここでは我が物顔で周辺を彷徨く天狗達と、山を手中に入れようとすべく侵略する神様達が約二千年に渡り永き死闘を繰り広げて……え? 適当な事言うなって? いいだろう、んなもん。どうせ皆知ってるんだから。

 

 俺はその山に住む、ある一人の天狗に用があって来た。そいつと顔を会わせたら、問答無用で一発殴る予定だ。

 しばらく山を登り、やっとそいつの家に着いた。右手に握り拳を作り、左手でドアをノックする。

 

「はぁい、今行きますよ」

 

 ……よし、覚悟は出来た。

 

「どちらさ──」

「──うぉらあァァッ!!」

「うゥッ!?!?」

 

 これが俺のスペルカード、拳符『腹部圧迫掌』だ。

 

「……て、あれ? あのブン屋じゃない」

 

 俺が狙っていたのはブン屋である射命丸文だ。だが、今殴ってしまったのは見たことない白髪の犬みたいな奴。

 ……ま、いっか。

 

「ぐッ…………う、オ×××××」

 

 あ、また吐いちゃった。

 

「椛~、どうかし……あやァ!?」

「あ、テメェ! 拳符『腹部圧迫掌』!!」

「グアぁッ!? …………んグ、オ×××××」

 

 あ~、気持ちいいッ!

 

 

 

「お前らだろ。勝手に俺の写真集出したのは」

「……はい、スミマセン」

 

 俺の向かい側に座るブン屋と白い犬コロ。二人とも揃って青い顔をしてる。原因俺だけどな!

 

「どうしてくれんだアァン? もう里に出回ってんだよテメェ」

「がっぽり稼がせて貰いました」

「もう一度腹ン中ぶちまけてやろうか?」

「誠に申し訳ありません深く謝罪申し上げます」

 

 土下座するブン屋。プライドの欠片も無いな……

 

「あの……」

 

 白い犬コロが手を上げる。

 

「私……あまり関係ないのですが……帰っても宜しいでしょうか?」

「もう一発逝くか?」

「ふぇえ……う、オ×××××」

 

 何もしてないのに思い出しただけで吐かないでくれ。

 メンタル弱すぎだろ。

 

「とりあえず、売り上げ金は全部没収させて貰おうか……」

「あの……その事なんですが……」

「ん?」

「その……仲間内で飲み会したり……新しい取材道具とか買ってたら……その……」

「ほうほう……つまり、手元にもう無い訳か」

「す、スミマセン……」

 

 困ったな、どうするか……

 

「となると、私に出来るのはこれしかありません……優しくして下さいね……♥」

「脱ぐな」

「わ、私も○されるんですか!? そんな……私、処○だけは好きな人に捧げたかったのに……グスッ」

「んな事一言も言ってねぇだろ、泣くなよ……」

 

 あぁもう、どうしてこうなるんだよ……

 

 

 翌日、新入りの飛脚が二人増えました。



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ワン!

ワンワン!
今回は結構ほのぼのしてるワン!


「配達、終わりました~」

「お、ご苦労ご苦労」

 

 俺の写真集騒動から数日。賠償としてしばらくの間、便りの配達を文と犬ッコロの二人が代わりにやる事となった。これで俺は長期休業に入れる。因みに、期間は決めてない。これがアイツらの習慣になれば俺は永遠に楽出来る訳さ!

 

「文お姉ちゃん、椛お姉ちゃん、遊ぼう」

「ええ、いいですよ」

 

 しかも写真集のお陰で便りは少ないし、天狗が二人がかりだから早く終わるし、こいしと遊んでもくれる。願ったり叶ったりだ。これならいっそ定期的に写真撮られても構わないな。

 

「それじゃあ、弾幕ごっこしましょう!」

「そんな、私は仲間外れですか!? 酷い……グスン」

 

 泣くなよ犬ッコロ……

 

「あややや、椛は泣き虫ですねぇ。スペルカードが無くても弾幕ごっこは出来るじゃないですか」

「……でも、結局一人余るじゃないですか……どうせ私ですよ……」

「当たり前当たり前」

「うわぁぁぁぁぁん!!」

 

 うっせぇよ犬ッコロ……ったく、もう。

 

「はいはい泣くな泣くな。オヤツあげるから、な?」

「オヤツ!? ありがとうございますお兄さん!」

「あ、椛ばっかズルいです! 私も!」

「お兄さん、私も食べたぁい!」

 

 全員来るのかよ!?

 

 結局、家の中で皆でオヤツを食べる事になった。朝のうちに里で買った三色団子だ。念のため少し多めに買っておいて良かったな。

 

「これ美味しいですね~」

 

 先に喰ってんじゃねぇよ烏野郎。

 

「はい、椛お姉ちゃん、お手」

「ワン!」

「おかわり!」

「ワン!」

「よしよし~、ねぇお兄さん、この子飼っていい?」

「宜しくお願いします」

 

 飼わねぇよ、何その気になってんだよ。

 

「こいしちゃん、椛は私のペットですよ」

「いいじゃない、私の方が幸せに出来るもん!」

「そんな……私の為に争わないで下さい!!」

 

 めんどくさいから放っとくか。

 

 椛の件は、じゃんけんで負けた文が土下座して椛を返して貰う様に懇願し、事無きを得た。

 ……烏の得意技は土下座らしい。

 

「お兄さん……あの、今夜泊まってもいいですか?」

 

 ふと、椛が切り出した。

 

「どうして?」

「一日でもいいからここで飼われたいんです」

「私からもお願い!」

「ん……仕方ない、今夜だけだぞ」

「やったぁ!」

「あ、椛ばっかりズルいです! 私も泊まります!」

「お前は帰れ」

「そんなぁ! お願いします! どんな相手でも盗撮しますから!」

「なんで盗撮なんだよ」

「この『隠し撮り(シークレット)射命丸(フォトグラフィ)』と呼ばれた文様にかかれば、どんな相手もイチコロコロリンコですよ!」

「帰れ」

「ふざけてすみませんでした」

 

 また土下座かよ。『隠し撮りの射命丸』じゃなくて『土下座(プロストレート)射命丸(ワンセルフ)』に変えろよ。

 

「つぅか帰れよ」

「ああ待って! 私を見捨てないで!」

 

 

 

 という訳で、今日は椛が家に泊まる事に。どうして射命丸は断ったかって? あんな盗撮野郎入れる訳無いだろ。

 

「よしよし、いい子いい子」

「ハッハッハッハッ」

 

 すっかり飼い慣らされてんじゃねぇよ。

 

「ねぇねぇお兄さん、モミーと一緒に寝てもいい?」

 

 モミーって何だよ。

 

「お願いしますお兄さん、ご主人様に尽くしたいのです」

 

 いつの間にそんな関係になったんだよ。

 

「好きにしろ」

「やったぁモミー!」

「ご主人様ぁ!!」

 

 ……まあ、いいか。

 

 

 

 翌朝、物音がして外に出てみた。

 そこには何故か一軒の小屋。入り口の側の標識には『モミーの家』と書かれてある。

 …………え?

 

「あ、お兄さん」

「こいし……これ、何だ?」

「モミーの新しい家!」

「……何で、こんな所に建ってんだ?」

「夜中にこっそり盗撮しようとしてた文お姉ちゃんを捕まえてお願いしたんだ」

 

 意外とエグいな、こいしよ。




家族がまた一人増えたワン!
今のところフラン編が人気だワン!
最近アリスの影が薄いワン!
変態というより変人ばっかりだワン!


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お化粧終わったわ、ダーリン

最近スゲーモンハンの小説書いてみたいです。


「助けてダーリン!」

「うわ、何だよ急に!」

 

 突然家に駆け込んで来たのはアリス。普段のニヤケ面した変態みたいな表情ではなく、珍しく汗を掻いて焦っている。

 

「私そんな顔した事無いわよ」

「いいんだよテメェなんて大体そんな感じだろ」

「それより聞いてよ、大変なのよ!」

「ったく、何だよ?」

「私……どうやら、付けられてるみたいなの」

「は? お前が付けられてる??」

 

 ストーカーがストーキングされてるとは、こりゃ珍しい。

 

「日頃の悪行の報いだ、死ね」

「そんなぁ……私何もしてないわよ、ダーリン以外には♥」

 

 うるせぇ、と言いたい所だが、確かにその通りなのだ。

 正直、こいつがストーキングされてるとして、誰がそんな事をするのか検討がつかない。少々、気になり始めた。

 

「まあ、仕事は烏と家のペットに任せればいいし……たまにはいっか」

「ホント!? ありがとうダーリン!! 正直全く期待して無かったわ!!」

 

 じゃあ来るなよ。

 

「お礼に、私の大切なモノ……ア・ゲ・ル♥」

「じゃあテメェの財産全部渡して貰おうか」

「良いわよ」

「良いって言われると……やっぱいらねぇ」

 

 

 

 アリスの家。一旦、ここで作戦を立てる事に。

 

「まず言っておくわ。今回の相手は相当のやり手よ」

「そうなのか?」

「ストーカーには、二種類あるの。敢えて姿を晒して相手を心理的に追い詰めるオープン型ストーカーと、最初から最後まで完璧に姿を隠すクローズ型ストーカー。今回の相手は後者、しかも腕が立つわ」

 

 なんだその理論は、お前はオープン型か。

 

「私も人形を使ったりして姿を突き止めようとはしたわ。けど、ダメだった。速すぎるのよ」

「俺はどうすればいいんだ?」

「簡単よ」

 

 そして、アリスは自らの服を脱ぎ始めた。

 

「脈絡もなく脱ぐな変態」

「今は違うわよ、はい」

「……なんで俺に服を手渡す?」

「私に変装して頂戴」

 

 ……マジかよ。

 

「ダーリンみたいな素人じゃ、相手を見付ける事さえ出来ないわ。だから、ダーリンが私に変装して、相手がダーリンにストーキングしてる所を、私が見付けて捕らえるの」

「……帰ってもいい?」

「外は人形達が監視してるわ……上海や蓬莱と子作りの練習したいなら良いわよ♥」

 

 袋のネズミか、チクショウ!!

 

 

 

 アリスに嵌められた俺は、アリスが脱いだばかりの服を着させられ、更に化粧までさせられる羽目に。下着まで着けなくていいのが唯一の救いだ……

 

「さぁ、お化粧終わったわ、ダーリン」

 

 アリスに鏡を渡される。俺は勇気を出して、鏡を覗き込んで見た。

 

「嘘だろ……」

 

 そこに写るのは一人の凛々しい少女。両性的な凛々しい顔立ちに、つぶらな瞳。整った鼻と口。頭のカチューシャが、可愛らしさを引き立てる。

 ……って危ねぇ、これ俺だぞ!! 香霖堂のあの人みてぇになる所だった!!

 

「あんま私に似てないけど、流石ダーリンね!」

 

 似てたら多分自殺してたわ……

 

 そんなこんなで、囮作戦は開始。如何にもアリスの様に振舞い、人形や本を抱えて森を歩く。とりあえず、二人のストーカーの姿は全く見えないし、気配も感じない。

 

 ふと突然誰かの視線を感じ、振り向いた。そこには誰もいない。きっとこれがアリスの感じたストーカーなのだろう。

 森を歩いてるとこれが何度も感じた。間違いない、確かにアイツは付けられていた。後はアイツが自分で捕まえられるかどうかだ。

 

 もう既に三十分は歩いた。アリスはどうしたのか? そう気になってアリスの家に引き返して連絡を取ろうとしたその時だった。

 

「とうとう捕まえたわ!!」

 

 森に響くアリスの声。俺は急いで声がする場所へと向かった。

 

「お前は……烏!?」

「あ、あややや……」

 

 何してんだよ……

 

「お前、アリスなんかをストーキングしてたのか? 仕事はどうした!?」

「その声……もしかして飛脚のお兄さん!? まさか、目覚めたのですか!? これは一大スクープです!!!」

「ちげぇよ、書かせねぇよ」

「とにかく、私の家で事情を聞かせて貰うわ」

「あやぁ…………」

 

 こうして、ストーカーの捕縛に成功した俺達。烏から事情を聞く事に。

 

「実はですね、今里で、アリスさんが大人気なんですよ……」

「私が?」

「いつも飛脚さんを付け回しているので、多くの人の眼に入り、その一途さと可憐さからファンが急増中でして……」

 

 黙っていりゃあ可愛いもんな。

 

「人里の男性方百人にアンケートしてみたのですが、なんと九十五人の方が、アリスさんを好きと答えたんですよ~」

 

 いつの間に取ってたんだよアンケート。俺にも取れよ。大嫌いって答えてやるからよ。

 

「好きな理由としては『あのスカートの中で死にたい』『好きな人を想う気持ちを容赦なく叩きおって○してやりたい』『上海様と結婚したい』『ストーキングされて襲われたい』『アタイ最強』等々ですね」

 

 クズばっかじゃねぇか。

 しかも最後何だよ、俺の知る限り男じゃねぇよ。

 

「という訳なので、飛脚さんの次はアリスさんの写真集でも発売して、大儲けしようかなと」

 

 こいつゲスだな。

 

「勝手に写真集なんて……恥ずかしいじゃないの♥」

 

 どうして地味に嬉しそうなんだテメェは。

 

「安心して下さい、ちゃんとお兄さんの女装も三十枚位撮ってありますから」

「ア、アシガスベッテカメラノウエニ!」

「ちょ、私の商売道具! 止めてェェッ!!!」

 

 

 

 射命丸文、資金不足により新聞発行を断念。

 無職になりました。




※仕事はモミーとこいしが二人で協力して終わらせました。二人ともとってもいい子ですね、変だけど。


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あっそ

比較的シリアス回の前にやりたい事の為、眈々と物語を進めております。
しばらくは変態成分も薄く、盛り上がりに欠ける事でしょう。
しばらく我慢してくれるとありがたいです。
そのうち爆発しますから。


 新しい朝が来た、希望の朝だ。

 喜びに……あ、歌詞書くのダメなんだっけ? 悪い悪い。

 とにかく朝が来た。別に新しさも希望も無いんだけどな。

 

「それでは行ってきますね」

「ご主人、すぐに戻りますから!」

「行ってらっしゃ~い」

 

 という事で、仕事に向かう二人。俺とこいしは特にやる事無く家で留守番だ。

 ……ん、誰が配達行ってるんだって? 文とモミーに決まってんだろ?

 え? 何で文が家から出て行ってるんだって?

 

 あ、そうか。それでは過去回想、レッツゴー。

 

 

 

「私を正式に雇って下さい! 下宿させて下さい! お願いします!!」

 

 前話の事件からしばらくした後、烏が家にやって来ました。見た目で分かるのですが、途方に暮れてしまったらしいですね。

 

「いいよ」

「やっぱそうですよね、流石に無理が……えぇ!?」

 

 そんな彼女を、俺は受け入れる事にしました。

 何せ忘れてたけど、文は幻想郷最速。配達の早さも尋常じゃない。更にモミーと二人なら、あっという間に仕事なんて終わる。何でコイツ今まで新聞記者やってたんだろうと疑問に思ったが、どうせ聞いても無駄なので忘れよう。

 それに飛脚なんて重労働、今や進んでやりたいなんて思う人はいない。それほど重労働故に、給料も弾むのだ。節約次第では俺一人で相当な人数を養える程に。養う気なんてこれっぽっちも無かったけどな。

 

「いやぁ、期待して無かったのですが、来てよかったですよ~」

 

 何で皆俺の事期待しないんだよ。

 

 

 

 ……と、そんな訳です。別に面白くとも何ともねぇな。

 そろそろネタ尽きて来たんだよ、頼むから察してくれ。

 

「ねぇねぇお兄さん、今日は何して遊ぶ?」

 

 特にやる事も無いのでこいしに付き合ってあげる毎日。なんか、ダメ人間みてぇだな俺。

 

「ん~、今日はかくれんぼでもするか?」

「そんな事よりプロレスごっこしよう!」

 

 なんで聞いたんだよ。

 

「タワー○リッジ!!」

「うお、痛てぇ!! 背骨が折れるぅぅぅ!!!」

 

 容赦ねぇなコイツ……

 

「そこまでよ!」

「だ、誰だ!」

 

 ふと忽然と姿を表した一つの影が、こちらへと降りてくる。しかも、見覚えが無い。

 

「弱いものイジメは許さない!」

 

 俺は弱いものらしいです。

 

「き、貴様は!?」

「私は……えっと、その……仮○ライダーだ!」

 

 作品ごったがえすな、紛らわしい。

 

「私の邪魔をするな、仮○ライダー! 喰らえ、ライダーキック!!」

 

 放つ方逆じゃね?

 

「グハァ!! ……く、この私が……こんな奴、に……」

「ハハハハハ、正義は勝つ!」

 

 盛大な茶番をありがとう。

 

「……それで、貴方だれですか?」

 

 こいしに蹴られた当の本人である女性はふと思い出した様にこちらに向かい合うと、深々と頭を下げて御辞儀した。

 

「ついついこいし様のお遊びに乗ってしまいました。私は霊烏路空。皆にはお空って呼ばれてます」

「お空ねぇちゃん久しぶり!」

「もうこいし様ったら、すっかりなついてしまって。ご迷惑を御掛けして申し訳ありません」

「は、はぁ……」

 

 なんだろうこの凄いお姉さんオーラは。

 

「あの……こいしのお姉さんですか?」

「いえいえ、私は昔からさとりお嬢様の元に仕えていた使用人兼ペットなんですよ」

「ペット?」

「はい、私こう見えて元々カラスでして、まあ色々あってこうして人の姿になったり、核融合の力も使えたりするんですよ」

「そうなんですか……」

 

 こう見えてっていうかバリバリ背中から黒い翼見えてるけどな。

 

「とりあえず、外で話すのもアレですから、中へどうぞ」

「これはご丁寧に、ありがとうございます」

 

 

 

「それで、今日はどうして家へ?」

「純粋にこいし様の様子が気になりまして」

 

 もしかして、連れ戻しに来たのか?

 

「こいし様、さとりお嬢様から伝言です」

「何?」

「お土産宜しくぅ!! だそうです」

「あっそ」

 

 お嬢様……

 

「という事で、一旦私は地底に戻ります」

「あ、もう行くのか?」

「はい、荷物を纏めなくてはいけませんから」

 

 荷物? どういう事だ……

 

 そうして、空は空へと飛び立ってしまった。きっと忙しいのだろう、俺とは違って。

 ……なんか、虚しくなってきたな。

 

「……こいし」

「何?」

「お前は、家に帰りたいか?」

「別に。私はお兄さんと居れればそれでいいもん」

「……そうか」

 

 ちょっと、複雑な気持ちだ。

 

 

 

「ただいま帰りました~」

「ご主人様ぁ!」

「おかえりモミー!」

 

 仕事を終え、帰ってきた二人。しっかし、いつ見てもモミーのこいしへのなつき様は凄いな。あそこまで行くと最早洗脳だな。おぉ、怖い怖い。

 

「あ、そういえば、帰る途中に飛脚さんに用事があるって人連れて来ましたよ」

 

 すると、文の後ろから先程見たあの人の姿が。

 

「また会いましたね」

「……」

 

 空の背中には風呂敷一つ。それを床に置くと、またもや深々と頭を下げた。

 

「では、今日から宜しくお願いします」

「…………え?」

「さとりお嬢様が私に『こいしの面倒でも見てやれ』と仰りましたので。こうみえて、掃除、洗濯、お料理、核融合、何でも出来ますよ」

「え、お空おねぇちゃん一緒に住むの? やったぁ!」

「ご主人様のお姉さん、宜しくお願いします」

 

 ……なんで、皆家に来るんだろう。




烏が二羽に狗が一匹。
次話は……狐かな?


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ちぇぇぇん!!/アハハッ、驚けぇ……

 そう言えば、昨日であの日から約四年が過ぎましたね。
 あの時、私は家の目の前まで津波が来ているにも関わらず、混乱しまくっていました。(宮城在住)もう少し津波が大きければ、私も呑まれていたかもしれません。
 あの日の事はきっと忘れないでしょう。

 さて、関係ない話は置いといて……
 今回はみっじかい話が二本です。


「どうか……私にお恵みを……」

「…………」

 

 深夜、物音がすると思って出てみたら、尻尾が九本ある痩せこけた女の人が倒れてました。

 

 

 

「あぁ、ありがとう!! こんな極上のいなり寿司を食べたのは本当に久しぶりなんだ!!」

「あ、うん、よかったね……」

 

 仕方なく夕飯の残りであるいなり寿司をあげると、涙を流して貪る始末。これって確か八雲んとこの式さんだよな?

 

「なぁ、一体どうしたんだ?」

「ほぼおほぼおひばはふはふおふししははべへはふへ……」

 

 飲み込んでから話せ。

 

「あぁ、すまん。ここのところ、しばらく鰹節しか食べてなくて……」

 

 貧し過ぎるだろ。

 

「あ、いや、決して貧しい訳じゃ無いんだが……」

「じゃあどうして?」

「実は──」

 

 

 

 私は今までは、普通に八雲家で過ごしていたのだが……

 

「ちぇぇぇん!! 私と一緒に禁断の愛の儀式をしようね!!」

「来るなクソ女」

「あ、待ってよ! ちぇぇぇん!!」

 

 と、何故か私は橙に嫌われ続け、挙げ句の果てには毎朝顔を会わせると中指立てられる様になってな……

 

 そんなある日、紫様が暇潰しにこんな提案をしたんだ。

 

「暇だし、王様ゲームでもしましょう」

 

 私は、これをチャンスだと思った。私が王様になって、橙と愛を育めば、きっと仲直り出来ると思ったんだ。

 

 だが、王様は橙だった。橙の指名した番号は、私が持っていたんだ。

 そして、橙は言ったんだ。

 

「私が許すまで食事は鰹節のみ。それ以外を口に入れたら殺す」

 

 

 

「あれから約二ヶ月……もう、無理だった……私は家を飛び出してきたよ……」

 

 ……ほぼ自業自得じゃねぇか。

 

「頼む、お願いだ! 橙の怒りが収まるまで私を匿ってくれないか!! 見付かったら何されるか分からないんだ!!」

 

 アイツお前の式だろ。なんでそんな怯えてんだよ……

 そして脚を掴むな、そんな眼で見るな。

 

「……ダメって言ったら?」

「殺す」

 

 もうヤダぁ……

 

 

 

「という事で、しばらくお世話になる八雲藍だ。宜しく頼む」

「わぁ狐だ! しっぽモフモフ~♪」

「あ、ご主人様ばっかずるい! 私も~!」

「あやややや、モッフモフですね~♪」

「あらあら、皆してはしゃいじゃって。すみません」

「いえいえ、慣れてますから」

 

 ……この短期間でスゲー家族増えたな。

 こいし、モミー、文、お空さん、藍に俺を合わせて六人か……

 家、そんな広くないんだけどなぁ。

 

 

 

~~~

 

 

 

 ある日の夕暮れ、一人の農夫が畑仕事を終え、自宅に帰ろうと歩いていました。

 この場所は里の近く。時折妖怪の姿も見られるが人を襲うこともほとんどなく、安全な道でした。

 

 そんな道で彼は、ふと気配を感じたのです。

 

「妖怪か?」

 

 しかし、肝心の姿が見当たりません。彼は気のせいだと思い、歩き出したその時でした。

 

「アハっッ!!」

「──!?」

 

 木陰から飛び出した一つの影。それは彼のすぐ横を通り過ぎると、彼の肩に刃物で切り裂かれた傷跡が作られていたのです。

 

「アハハッ、驚けぇ……」

 

 オッドアイの少女の手に握られていたのは傘ではなく、鉈。それも、禍々しく血で染められ、所々錆びている。

 

「ひ、あぁ……誰か!!!」

 

 肩を抑え、彼は一目散に逃げて行きました。

 

「逃げちゃった……ま、いっか」

 

 そして彼女は森の中へと身を潜める。

 

「次は誰を斬って驚かせようなぁ……アハハ♥」

 

 




小傘たん可愛い(о´∀`о)


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家族会議

 本文に無い言葉が初めてタイトルに。
 今回は地の文がほっとんどありません。台本書きじゃないのに台詞ばっかです。もしも見づらいと感想がくればこれからはやめようと思います。要は検証です。
 それでは、どうぞ。
 あ、レズ注意。


 俺の家は平屋だ。六畳一間の部屋が三つに、キッチン、トイレ、風呂という、精々二人か三人で住む様な家だ。元々俺一人で住んでいたので、これでも充分広々と生活していた。

 

 なのに今は……

 

「どうしてくれるんだ、私の尻尾! 二本なんか変な感じに折れ曲がってしまっただろう!!」

「仕方ないじゃないですか、寝起きだったんですし!! あんな所に寝てるから悪いんですよ!!」

「寝相なんだから仕方ないだろう!!」

「まあまあ、文さん、藍さん、落ち着いて」

「ご主人様ぁ、トイレまだですかぁ!?」

「ごめんモミー、外でしてきて」

「流石にそれはマズいですよぉ!!」

 

 ああ、うるせぇ……

 

 

 

「という訳で、これからどうするか決めようと思う。この家に六人は流石に無理がある!」

「うんうん」

「そうだそうだ」

「確かにそうね」

「ご主人様、どう思います?」

「やはり消費税は増税すべきですねぇ」

「うるせぇ居候共。あとこいしは適当な事言うな、お前政治分かるのか?」

「ちゃんと分かるよ! 私の前世はル○ーシュ・ランペ○ージだもん!」

「名前出すんじゃねぇ、いいから始めるぞ」

「はぁい」

「今から少しでも工夫して、この家をより住みやすく変えようと思う。だが、これは非常に難しい問題だ。そこで皆の意見を聞かせて欲しい。何か無いか?」

「はい」

「じゃあ藍、言ってみろ」

「夕飯はいなり寿司がいいです」

「死ね。じゃあ次」

「はい」

「どうしたモミー」

「私のあの小屋、もう少し何とかなりません?」

「し……まあ確かにそうだな。あの小屋を増築して何人か寝かせるか」

「私とご主人様の愛の巣を♥」

「俺が寝る」

「そんなぁ……う、オ×××××」

「冗談だから吐くな、検討してやるから。はい次」

「はぁい!」

「なんだ文?」

「皆で今度旅行に行きません?」

「お、いいかもな。どこ行きたい?」

「渋谷の1○9に行きたいです!」

「私は蔵○のキツネ村かな」

「ユニ○ーサルスタジオジャパンに行きたい!」

「アフリカ」

「どうしてどれも外界なんだよ、しかも誰だよアフリカって言ったの、意味わかんねぇよ」

「私、野生のライオンやゾウやシマウマが見たいんです」

「お空さんかよ……」

「それを言うなら、私はフクロウを見てみたいですね」

「ご主人様は何が見たいんですか?」

「私オオカミを見てみたい」

「いいですねオオカミ、私も見てみたいです!」

「蔵○のキツネ村! 蔵○のキツネ村!」

「うっせぇキツネ女。ていうか話が逸れた。その話はまた今度だ。はい次」

「あの……」

「はい、お空さん」

「私ケニアがいいと思うのよね」

「頼むから話を聞け! 次!」

「は~い」

「どうしたこいし?」

「今晩は焼き鳥がいい!」

「お、それいいな」

「あや……あややややややぁ!?」

「そんなぁ……いや、これもこいし様の為なら!」

「……うん、悪かったな、冗談だ。そんな怯えないでくれ」

「え?」 

「何が『え?』だよ、お前本気で食うつもりだったのかよいい加減にしろ、はい次!」

「はい」

「どうぞモミー」

「烏のお二人は屋根の上で寝ればいいんじゃないでしょうか?」

「あやぁ!? 私はそんな子に育てた覚えはありませんよ!」

「出来れば中がいいわ……」

「よし、採用」

「あやぁぁぁぁッ!?」

「酷いわ……」

「ごめんごめん、やっぱお空さんは中でいいや」

「私はぁ!?!?」

「知らん、それじゃ次!」

「はい」

「夕飯のリクエストは受け付けてないぞ藍」

「え!?」

「『え!?』じゃねぇよ学習しろよバカキツネ」

「またいいですか?」

「どうしました、お空さん?」

「やっぱり、文さんだけ屋根の上で寝るのは可哀想よ……」

「お、お空さん……」

「文さん……」

「お空さん……私……本当は貴方の事が……」

「文さん……実は、私も……」

「もう二人とも屋根でいいよ、ハイ次」

「あのぉ」

「なんだモミー」

「……これ以上話進まないと思いますけど」

「確かにな」

「やはり夕飯はいなり寿司で」

「飯抜くぞ」

「そんなぁ……」

 

 その後、全員総出で小屋を増築。烏二人をそこで寝させる事にした。

 夜中、謎の喘ぎ声が聞こえるとか聞こえないとか。

 気にしない気にしない。




 小傘の出番ややりたい事はもう少し先です。


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逃げる訳にはいかないのです

 まさかのガチバトル。


 家族が六人になってから大分経った。

 初めは家が狭くてなんやかんやと大騒ぎしていたが、烏二匹を外に寝かせてからは比較的大人しくなった。仕事や家事も住人達でそつなくこなし、安定した日々を送れていた。

 

「椛~、なんか飛ぶの面倒なんで背中乗ってもいいですか?」

「私の背中に乗ってもいいのはご主人様だけです!」

「なら、私の背中に乗るか?」

「狐火出しながら言わないで下さい……」

 

 配達は文、椛、藍の三人。一人はメチャクチャ飛ぶのが速く、二人はメチャクチャ走るのが速い。力を合わせれば一時間もしないで仕事から帰って来る。

 

 そして残りの三人で家事。料理は何気にお空さんが一番上手いので、彼女専門に。残りの仕事は俺とこいしが二人で行った。

 まさか、自分が専業主夫になるとは……

 ま、楽だしいっか。

 

 というのは大分前の事。俺は専業主夫のを甘く見ていた。

 家族六人分の洗濯、家族六人分の買い物、家族六人分の食器洗い……どれも俺にはキツすぎる。

 お金はそこまで問題ない。俺の貯金がまだまだ十分にあるし、アイツ等も地味に自費で食器やら服やら買ってきたりしているからな。

 だが、それに伴い洗濯量も食器量も増え、必然的に仕事が増える。走ってばかりいた頃もそれなりにキツかったが、慣れない家事は今のところもっとキツい。

 

 現に今、俺は買い物から帰ろうとしている。両手にひたすら食材を詰めた重い袋を抱えながら。

 汗が額を流れ、息も荒々しい。重すぎて指が千切れそうだ。

 

「お兄さん、大丈夫?」

「あぁ……多分……」

 

 こいしも一応手伝おうとはしてくれるが、こんなに重い物を持たせる訳にはいかない。彼女には軽い代わりに丁寧に扱わなければいけない卵やらを任せている。

 

「お前は……その卵を……しっかり運べ……」

「う~ん……」

 

 何故か卵を凝視するこいし。

 

「ねぇお兄さん?」

「何だ?」

「卵って、ひよこが産まれるんだよね」

「そうだけど……」

「……私も、こんな感じに赤ちゃん産むのかなぁ」

 

 お前は産めねぇよ。

 

「お兄さん……♥」

 

 なんで紅くなるんだよ。

 

 

 

 

「──驚けぇ!!」

「!?」

 

 突如物影から飛び出してきた影を、俺は袋を放り捨て間一髪回避した。日頃から変態に襲われて身に付いた瞬発力が役に立った。

 

「何だテメェ!?」

「チッ、なら──」

 

 謎の妖怪は傍にいたこいしに向けて刃物を振るう。

 

「アハッ、悶え苦しめェ!」

「イヤァッ!」

「こいし!!」

 

 俺は謎の妖怪に向かって飛び掛かる。だが、刃物を振るう速度には間に合いそうにない。

 このままじゃ…………

 

「……あれ?」

 

 狂気の刃はこいしを切り裂く直前、その動きを止めた。

 

「……ご主人様に手を出すとは、覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

 アイツが、悪魔の腕を受け止めていた。

 

「モミー!!」

「モミー……お前、どうしてここに?」

「仕事が終わって暇だったので、遠くからご主人様の麗しいお姿を眺めてました」

 

 ストーカーかよ……

 

「貴様……どうしてご主人様を襲った!?」

「そんなの、脆そうだからに決まってるじゃん♥」

「……そうか」

 

 

 

 椛は妖怪を突き飛ばす。互いに距離が出来た。

 

「お二方、下がって下さい。どうやらこの狂った妖怪にお灸を据えなければならない様です」

「……アハ」

 

 まるでストレッチでも始めたかの様に、背中を大きく反らす椛。

 

「……弾幕以外での勝負は、久しぶりですね」

 

 そして、今度は大きく前へと腰を曲げた。

 ふと、両手から銀色に輝く物体が椛の袖から姿を表す。

 

「普段から忍ばせておいて、正解でした」

 

 それは二つの大太刀。彼女が常日頃背中に忍ばせてある暗器。両手に持ち、そして構える。

 

「あんなもの、普段から忍ばせてあんのかよ……」

 

 暗器とは、基本的にもっとコンパクトでないと上手く隠す事が出来ない。それを椛は普段の生活から、しかも二本の大太刀という決して短くない武器を、鞘も無しにずっと隠し持っていたのだ。

 

「はぁッ!!」

 

 高く飛び上がり、小傘に向かって空を蹴る。その際、体勢を大きく捻り自らの体に回転を加え、その状態で小傘へと斬り掛かる。

 

「クゥッ!?」

「──まだです」

 

 着地と同時に自らの回転を縦から斜め、そして横へと切り替える。自らがコマの様に回転しながら、二本の大太刀を駆使してひたすら片側寄りに攻撃を繰り返す。

 一見素人が回りながら二本の刀を振り回しているだけの様に見えるが、そうではない。只でさえリーチの長い大太刀に更に遠心力を加え、より威力を増す事が出来る。ひたすら片側への攻撃を受け流し続ける相手への負担は尽く増して、更にはこちらの回転速度も上昇して行く。

 無計画に見えて、計画的。重い大太刀を少ない体力で振り回す効果的な方法。

 

「チッ……」

 

 今まで何度と太刀を受け流し続けていた小傘だったが、腕の痺れが酷く、腕力の限界を悟り後退する。だが、椛はそれを逃さない。素早く飛び上がりまた縦回転に切り換え、追い討ちをかける。

 

 一瞬青くなる小傘。だが、冷静に太刀筋を読み寸での所で回避する。二本の大太刀が、砂地へめり込んだ。

 

 両者の間にはまたもや一定の距離。お互いに荒くなった呼吸を整える。次の手を予測し、見切ろうとしている。

 

「……アハ」

「……」

 

 小傘の様子がおかしくなる。突如、笑いだしたのだ。

 

「アハハハハ……私が、このミラクル魔法少女小傘ちゃんがこんなに苦戦してるなんて初めてだわ!」

「……何がミラクル魔法少女ですか、この通り魔が」

「こうなったら凶器変更(モードチェンジ)よ!」

 

 小傘は手持ちの禍々しい鉈を空に掲げる。その鉈はみるみる内に黒い光に包まれ、その姿を変えた。

 

「モード【ドキドキ(シザース)】♥」

 

 小傘の手には巨大な刃を持つ鋏。やはり禍々しく血で染まっている。今までに幾多の生物が、あの刃の犠牲になってしまったのだろう。

 

「私ね、本当は【ウキウキ(ブレイド)】を使いたかったの……だって、これで切っちゃうと皆あんまり反応も無しに死んじゃうんだもん♥」

 

 小傘は笑う。口元をニヤリと広げて。

 

「モミー……もう逃げようよ……」

 

 こいしが不安そうに提案する。それに反応し、椛は振り返った。

 

「ご主人様、それは出来ません」

「どうして?」

「今ここで逃げてしまったら、コイツはこれからも誰かを襲い続けます。私は、逃げる訳にはいかないのです」

「でも……」

「大丈夫です」

 

 そして、椛も笑う。

 

「私、こう見えてそれなりに強いんですよ」

 

 それ以上、こいしは何も言わなかった。

 

 再び両手の大太刀を構え、回転しながら突撃する。あの攻撃を行うつもりだったが、異変はすぐに起きた。

 

「……同じ手なんかもう効かないよ」

 

 鋏だ。鋏で太刀を挟んでいる。回転して間もなくだからこそ、小傘は何とか大太刀を受け止める事が出来た。

 勝負は力比べに移行する。お互いに一瞬の隙も許さず、ひたすら相手を押し続ける。僅かながらに椛が小傘を押しつつある。いずれ椛に軍配があがると、そう皆が思っていた。

 

 だが押しきろうとした直前、小傘は鋏の角度を変え、大太刀を下向きに変える。そして刀を鋏ごと地面に踏みつけた。

 

 危険を感じ、後ろに飛び退く椛。無傷ではいられたが、武器を失ってしまった。

 

「アハハハ……これで逆転……ヒロインは最後には勝つの♥」

「……本当、吐き気がしますね」

 

 鋏を拾い、またニヤリと笑う小傘。

 

「モミー……」

「言ったでしょう? 私は強いんです」

 

 椛の眼にはまだ闘志が残っている。姿勢を深くし、相手に飛びかかろうとする。

 

「……もう、手加減はしません」

「……アハハ」

 

 全力で駆け出す椛。相手へと真っ直ぐに突っ込む。対する小傘も鋏で迎撃の姿勢を取る。

 

 二つの影は、一瞬にして交差した。

 

「──あ、い、痛……い?」

 

 小傘の胸に創られた、三本の傷跡。そこから血が流れ出す。

 

「手甲鉤って、知ってますか?」

 

 椛の手の甲に付けられた三本の刃。更にもう片手にも装着されている。計六本、彼女の二つ目の暗器であり牙。

 

「痛い……痛いよ……痛いよぉ……」

 

 地面に倒れ込み、泣き出す小傘。その様子をただ何の感情も無く見つめる椛。彼女は、まだ小傘から狂気が抜けていない事を察していた。

 

「……ヨクモ」

 

 ゆっくりと立ち上がる小傘。鋏を空に掲げ、その姿をまた別の武器に変える。

 

「ヨクモ、ワタシヲキズツケタナ」

 

 それは鎌。狂った少女が身の丈以上の鎌を構える。

 

「【ワクワク(サイス)】……モウ、シネヨ」

 

 小傘は体を回転させ、鎌を放り投げた。それは空を斬りながら椛へと向かっていく。動揺したものの、体勢を低くして避ける。

 

「アハッ」

 

 鎌が戻る──その鎌の先を見て凍りついた。

 こいし達だ。鎌の通り道にこいし達がいる。

 

 途端に駆け出し、二人のカバーに入る。何とか間に合ったが、その直後に鎌が椛を襲う。防御の姿勢を取り、刃を挟んで受け止めようとはしたものの、予想以上の重さに抑えきれなくなる。

 

「──うゥッ!?」

 

 鋭い先端が、椛の脇腹へと突き刺さった。

 

「モミー!?」

 

 膝を付く椛。そして、今が好機と襲い掛かる小傘。

 

「アハハ、シネ、シネッ、シネェェッ!!」

 

 手元に傘を召喚し、椛の頭部目掛けて大きく振りかぶる。

 

「──猛犬は、追い詰められても尚、抵抗するんですよ」

 

 刹那、椛の姿が消えた。

 

「【狂犬の牙(レイビーズバイト)】……油断して噛みつかれても、自己責任ですからね」

 

 上方向から三本、下方向から三本。合わせて六本の傷を小傘の胸へと刻み付けた。

 遥か後方で現れた椛と同時に、小傘の体が地に伏した。




※本人でさえ忘れてますけど一応モミーは狼です。


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お兄さんの童貞奪ってやる!!

 サブタイトルがヤバイ。


 モミーVSミラクル魔法少女の戦いはモミーに軍配が上がった。地面に倒れ込むミラクル魔法少女と、遠くで膝を付くモミー。

 こいしは走ってモミーに駆け寄る一方、俺は魔法少女が気になり、彼女へと近付く。

 

「あ……うぅ……」

 

 意識はまだある。出血が少し酷いが、まあ妖怪ならまだ死にはしないだろう。

 

「おい」

「ッ……」

 

 俺の姿を見るや一瞬睨むが、すぐに苦しそうな顔をして背ける。いくら俺より強かろうと、その傷じゃろくに動けないだろう。

 

「……く、殺せ……」

 

 急に何言いやがんだバカヤロウ。

 

「殺さねぇよ」

「……どうする、つもりだ?」

「ん~」

 

 ……コイツ、本当にどうしようか?

 とりあえず二度とこういう事をさせない様にお仕置きしないといけないのだろうが……

 一旦モミーの方に寄り、三人で相談する事に。

 

「お仕置き……ですか、確かに」

「でもどうするよアレ?」

「ご主人様、どうしますか?」

「お兄さん、とりあえず○せば? さっき『く、殺せ』って言ってたし」

「やだよ、ていうか何時からそんな事知った?」

「文さんがたまに寝る前色んなお話聞かせてくれるんだ。【満員○漢鉄道】とか【囚われの女○士 ~汚された誓い】とか」

 

 あの烏そろそろ殺すか。

 

「鎖で拘束して届かない所に食べ物を置きながら餓死寸前まで放置するなんてどうですか?」

 

 モミー意外とえげつない事考えるな。

 

「流石にそれはやり過ぎだ。期間は長くていいから、もっと平和的な案は無いのか?」

「○しましょう」

「○せば?」

 

 それが平和と考えるテメェ等の頭が恐ぇよ。

 

「お兄さん無しでは生きられなくすればいいんだよ!」

「それ遠回しに同じこと言ってんじゃねぇか」

 

 もうダメだコイツら。

 

 結局コイツらの意見は片っ端から放棄して、俺一人で考える事に。

 それで思い付いたのが……

 

「とりあえず、げんこつしとくか」

 

 

 

「という訳だから、オラァ!」

「──ッ!?」

 

 俺の握り拳を魔法少女の脳天へ叩き落とす。やった事がやった事なので、結構強く殴った。地面にも頭を打ち付けたっぽいな、これ。

 

「…………」

 

 あ、伸びちまった。どうしようかな?

 

「お兄さん、椛の手当てもしたいし、そろそろ帰ろう」

「ああ、先に行っててくれ」

 

 伸びちまったし、なんか心なしか出血も酷くなってる気がする……

 とりあえず止血した後、コイツも手当てしてやるか。

 俺は魔法少女……もう小傘でいいや、を背負い、家に向かって歩いた。

 

 

 

「…………う」

 

 背中から僅かに声がする。どうやら小傘が起きた様だ。

 

「……あ、れ?」

「気分はどうだ?」

「……わちき……何して……アッ!?」

「うわっ!?」

 

 小傘が急に暴れ出し、背中から落ちてしまった。

 

「痛ぁぁぁ!?」

「急に暴れるからだろ!」

「うぅ……でも……やっぱり!!」

 

 どうも様子がおかしい。

 

「治ってる! わちきが治ってる!!」

「ハァ?」

「やったぁ! アハハハ痛ぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 言わんこっちゃない。

 

「お前、一体どうした?」

「でも……どうして治ったんだろ……あの犬に斬られても治らなかった……あ、そうか!!」

 

 小傘はこちらへと向き直し、笑顔を作っている。先程のどす黒い笑顔ではなく、とても明るい笑顔だ。

 

「拳骨で頭を打ったからだ! そこのお兄さん、ありがとう! お礼に私の出来る事なら何で……あ、れ……」

「おっと、あぶねぇ」

 

 ふらついた小傘を支える。元気なのか弱ってるのか分からん。

 

「お前……さっきと性格違うみたいだけど、一体どうした?」

「えっと、実は私──」

 

 

 

 多々良小傘は悩んでいた。

 

「どうすれば相手を驚かす事が出来るんだろう?」

 

 彼女は驚くという感情を食べる憑喪神。人間の食べ物も食べられない訳ではないが、そのお腹を満たすのは感情を食べる他無い。食べなければ死んでしまう訳でも無いが、空腹感を延々と味わう事になってしまう。

 

「やっぱり傘が悪いのかなぁ」

 

 大きな目玉に長い舌。小傘的にはとっても恐ろしいのだが、現に里の子供達には面白い傘と評判である。

 私が驚かせられないのはこの傘が悪いと、小傘は結論付けた。実際は小傘自身の可憐さが一番の原因なのだが。

 

「よし、試しに傘以外で驚かせてみよう!」

 

 という事で小傘はトレードマークである傘をしまい、様々な物を使って驚かせる事にした。

 提灯、こけし、打木、コンニャク、鬼のお面、色々な物を使って驚かせてたが、どれも効果が薄かった。鬼のお面は使い方次第で驚かせられる気がするが、小傘には自分がお面を着けるという発想が浮かばなかった。

 単にアホである。

 

 そして小傘は次に刃物を持って驚かせる事にした。ヤマンバの真似であって、実際に切ろうとは微塵も思っていない。

 そしてある日の夕暮れ、通りかかった一人の男に向かって飛び出す。

 

「驚けぇ!!」

「ヒィ!?」

 

 男は驚愕した。小傘の持っていた凶器に。

 そうして男がとった行動、それは自己防衛の為の攻撃。男には、少々ながら武道の経験があったのだ。

 小傘の頬に強烈な拳が食い込む。そのまま地面に打ち付けられた。

 

「あ、おい……」

「…………」

 

 霞む意識の中、彼女は思った。

 殴られた……怒ってる……私の事を容赦なく攻撃してきてる……

 痛い……頭が痛い……もしこのまま、また攻撃されたら……このままじゃ……このままじゃ……

 ──私、殺されちゃうのかもしれない。

 

「……嫌」

 

 全身の力を絞り出し、立ち上がる。

 

「嫌……イヤ……」

 

 ──抵抗、しなければ。

 

「来ないでェ!!」

 

 手元の刃物を男に向かって全力で振るった。その刃先が男の腰付近を切り裂き、紅い液体が流れ出す。

 

「た、助けてくれぇ!?」

 

 必死になって逃げ出す男。残るは地面に滴り落ちたあの液体のみ。

 

「……私、こんなことするつもりじゃ無かったのに」

 

 我に返り、自らの行いに深く後悔する彼女。罪悪感が彼女の心を包む。

 だが、その罪悪感はすぐに消えた。

 

「──美味しい」

 

 ──あれ?

 

「アハ、久し振りのご馳走……」

 

 ──何で私、笑ってるの?

 

「もっと、もぉっと食べたいなァ♥」

 

 ──どうして、こんなことしちゃ駄目なのに。

 

「どうして駄目なの?」

 

 ──だって、可哀想だよ。

 

「じゃあ私は? 私はどうなの? 今まで何度もひもじい思いをしてきた私は可哀想じゃないの?」

 

 ──それは……

 

「ねぇ可哀想でしょ? 幾ら努力しても報われない私が、可哀想でしょ? 私が今まで悪いことした? ねぇ、ねぇ!?」

 

 ──。

 

「いいんだよ……きっと許してくれるよ……私は良い子だもん。だから、少し位他人を傷付けても、神様は許してくれるよ。だから、もっと食べよう♥」

 

 ──許して、くれるの?

 

「うん、神様はいい人だもん!」

 

 ──そう、だね。きっと許してくれるよね!

 

 こうして、彼女の心は一時期、闇に墜ちた。

 

 

 

「──あれ、なんだっけ?」

「おいおい、忘れたのかよ……」

「う~ん……思い出せない……」

「もういい。ほら、背中に乗れ」

「うん……」

 

 

 

 結局事情を聞けないまま、俺は小傘を家へ連れ帰り、手当てをしてやった。こいしから一件を聞いた皆は驚いたが、彼女の人格が訳あって変わった事を説明すると、皆受け入れてくれた。根は良い奴等……なのかな?

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

 藍が小傘に問う。

 

「わちき、心を入れ換えて一から驚かせる練習をするわ!」

「まあ、その心意気はいいのだが……一つ聞きたい事がある」

「え?」

「君は、今まで何人の人々を襲った?」

「えっと……多分、三十人いくか、いかないか……かな? あ、わちきさっきは格好付けてたけど、まだ一人も殺してないよ! 皆逃げたよ!」

 

 そうだったのか。

 

「……君、このままだと本気で退治されるぞ?」

「えぇ!? でも、ちゃんともうしないって謝れば……」

「……問答無用で相手を襲った通り魔を、許すと思うか?」

「そんなぁ……」

 

 小傘は泣き出してしまった。言い方はキツいが、確かにそうだ。このままでは無事じゃすまないだろう。

 

「小傘」

「はい……」

「……君が許してもらうには、一つしか無い」

 

 藍の言葉に、皆が耳を傾ける。

 

「──脱ぐんだ」

 

 予想はしてた。

 

「今思ったんですけど、性的に襲えば自分も相手も幸せじゃないですか?」

 

 黙れ変態カラス。

 

「……皆、ありがとう……わちき頑張る!」

 

 頑張らなくていいよ。

 

「お兄さんの童貞奪ってやる!!」

 

 何で標的俺なんだよ!!

 

 

 

 最終的には初めの方に椛が言っていた『鎖で拘束して届かない所に食べ物を置きながら餓死寸前まで放置する』案を家の隅っこで実行する事にしました。

 家族がまた一人増えましたが、俺は元気です。



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許して……何でもするから……

 もっと中味のない話を書きたい。


「久しぶり!! 皆のアイドル、アリスちゃん参上!!」

 

 死ね。

 

「何よその反応!? 久しぶりなんだから祝ってよ!!」

 

 なんで祝わなくちゃいけないんだよおかしいだろ。

 朝っぱらからテメェの相手なんてしてられないんだよ。

 

「お願いだから何か喋ってよダーリン!」

「へぁぶにぉ」

「え、何!? どういう事!?」

 

 もう日本語話すのもメンドクサイ。

 

「ていうかいつの間にこんなにダーリンに子供が出来たの!? しかも皆女の子ばっかり!?」

 

 眼科行ってこい。

 

「まあ冗談はこの位にして……実は少し頼みたい事があるの」

「ん?」

「今少し人手が欲しくて。ダーリンも手伝ってくれたら、イイモノアゲル♥」

「あっそ」

「ウソウソご免なさい! けれど人手が欲しいのは本当なの!?」

「……理由を言え」

「パチュリーが、図書館の本がメチャクチャになっちゃったから片付けるの手伝って欲しいって」

 

 案外普通に困ってるんだな。

 

「……ま、いっか」

「ありがとうダーリン! それじゃ、レッツハネムーン!」

 

 テンション本当高けぇな。

 

 

 

 という訳で来ました久しぶりの紅魔館。足の指一本でスクワットしてる門番に挨拶した後、アリスと二人で図書館へ。

 

「遅かったわね、二人共。もう片付け終わったわよ。私のこの触手の力でね」

 

 すげぇ……けれど気持ち悪。

 

「じゃあ結局俺等は何しに来たんだよ……」

「折角だし、何か読んでいけば?」

「まあ、そうするか」

 

 という訳でこのだだっ広い図書館から適当に本を漁る。

 どれどれ『東方触手姦』……しまおう。

 これは『快楽に墜ちる巫女』……何だよここは、同人誌ばっかじゃねぇか。

 

「私のオススメはこれ『逆触姦』よ! 普段は触手が○す側なのに、この本はなんと触手が○されてしまうという新ジャンルを築き上げた偉大なる同人誌なの!」

 

 興味ねぇよ。

 

 結局一冊も本を読まずに図書館から出る。本の九割が同人誌とか最早図書館じゃねぇよ。

 

 俺が紅魔館から帰ろうとすると、廊下に一人の少女が立っていた。金髪でサイドテールのその少女は、背伸びして紅魔館の数少ない小さな窓を覗いている。

 あれは確か『お姉さま大好き♥』って言ってたあの吸血鬼……レミリアの妹か。

 

「なぁ」

「──ヒッ!?」

「あ、ちょ!?」

 

 俺の姿をみるや否や、途端に血相を変えて逃げたしてしまった。

 その様子に異常を感じ、俺は何となく追いかける。

 

「嫌、助けてェ!?」

「おい、どういう事だよ!?」

 

 階段を下り、地下に入り、それでも尚追い掛ける。

 とうとうある地下の一室で、彼女は逃げ場を失った。

 

「来ないで……」

「なぁ、どういうこ」

「許して……何でもするから……だからお願い……」

 

 ダメだ、聞く耳を持たない。

 

「俺は別に何も──」

 

 そう良いながら彼女の肩に手を置こうとした瞬間。

 

「イヤァ!!」

「──痛ッ!?」

 

 彼女の爪が、俺の掌を軽く切り裂いた。

 

「痛てぇ……だから俺は何も……」

「あ……あ、ァ……」

 

 途端に更に表情を歪ませ、泣き出してしまう彼女。

 

「ご、ご免なさい……本当にご免なさい……」

 

 そして、ついに土下座まで行う。

 もう、俺は何も言えなかった。

 

「──フラン!?」

 

 部屋の中にレミリアが来たのは、その直後。

 

「はぁッ!!」

「うッ!?」

 

 背後から突如飛び掛かってきたレミリアに、俺は呆気なく組伏せられてしまった。

 

「フラン! お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ!!」

「ご免なさい……ご免なさい……」

「フラン! ほら! もう大丈夫だって!!」

「なぁ、一体どういう──」

「──黙ってて」

「……」

 

 結局、俺はレミリアに引きずられ部屋を出た。

 彼女は土下座したまんまだった。

 

 

 

 レミリアの隠し部屋に、俺一人で連れて来られる。あの軍式メイドも今はいない。

 

「……フランには近付かないで」

「そんなの、アレを見ればすぐに分かる」

 

 レミリアは、フランのフィギュアに抱き付いた。

 

「……あの子は人間が嫌いなの」

「理由は?」

「人間に殺されかけたのよ」

 

 レミリアは、俺に語り始めた。

 

「私達が外の世界から来たのは、知ってる?」

「ああ」

「……ここに来る前、丁度私達は戦争してたの。察してる通り、相手は人間共よ。私達にはそんな気は無かったのに、想像と偏見だけで吸血鬼の私達を殺人鬼に仕立て上げられたのよ。それまで私達は動物や自殺者の血しか吸わなかったのに……人間達との共存を、掲げてきたのに」

「……捕まったのか、彼女」

「不意討ちって奴よ。フランが一人で遊んでいる所を襲われたわ。人間達が公開処刑する寸前の所を皆で何とか助け出したのだけれど……もう、酷い有り様だったわ」

 

 思ったより、重い話だ。

 

「フランは良い子なの……あんな能力を持ちながら、フランは誰一人殺した事もないの……フランは私が守ってやらなくちゃいけないの……」

「彼女、外を見てたんだ」

「……外?」

「ああ」

「出してあげたいのは山々だわ。けれど見たでしょう、人間に対するあの態度を。あれじゃ何処にも行けないわよ……それにもし、フランが暴走でもしたら……」

「……どうなるんだ?」

 

「──恐らく、皆死ぬわよ」

 

 この日は、レミリアの話を聞いてすぐに家へと帰った。

 彼女が経験した過去を想像すると、胸が締め付けられる様に痛くなる。

 

「お兄さん、大丈夫?」

「……ん、あぁ、大丈夫だこいし」

 

 人間……謂わば俺達のせいで彼女はああなってしまったのだ。

 何か、治す手は無いのだろうか?

 

 ──あぁ、気がつけば俺は、またそんなお人好しな事を考えてやがる。



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私は魔王ではない、拳王だ!

 私は笠原さんではありませんよ。

 あ、今回は作者視点の三人称でいきま~す。


「え~、この度はお忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます野郎共」

「お集まりって、ここ私の家なんだけど」

 

 紅魔館の広間に集まったのは、お兄さんとその家に住む居候達、そして紅魔館の住人達。

 お兄さん、こいし、文、椛、お空、藍、小傘、レミリア、咲夜(と数人のメイド)、美鈴、パチュリーと十一人+αの面々。

 

「驚けぇ!!」

「あ、小傘テメェ俺のズボン脱がすんじゃねぇ!?」

「公衆の面前でパンツ一丁とは、お兄さんも中々の……おぉ、こわいこわい」

「ぅるセぇクソカラスぅ!!」

 

 皆さん相変わらずですね。

 

「しかしあの様子だと、お兄さんのアレは短小と見ましたな」

「イヤイヤ何を言う射命丸。お兄さんがその気になれば、大方私の尻尾並にはなるぞ」

「あの時はびっくりしたわ……私の制御棒よりもちょっとだけ大きかったもの」

 

 突っ込みどころ満載の会話ですが、お兄さんはズボンを奪われてそれどころではありません。必死に小傘を追い掛けてます。

 

「捕まえたぁッ!!」

「アハハ、捕まっちゃった」

「お兄さん、パンツ半分脱げてるよ」

「うわッ!?」

 

 メンツも何もありゃしない。

 元々ありませんが。

 

「……それで、結局アンタ等何の用?」

「あぁ、そうだった」

 

 再び壇上へ立つ。

 

「おどろ──」

「話が進まねぇだろバカ!」

「うッ!?」

 

 少女にボディーブローを撃ち込むお兄さん。

 容赦ないですね。

 

「あ……オ×××××」

 

 どんな相手でも吐かせる魔法のボディーブローです。

 

「ゴホン、え~、この度集まって頂いた目的はズバリ、この館の主であるレミリア・スカーレットの妹であるフランドール・スカーレットを」

「暗殺」

「誰だよ今暗殺って言ったの」

「はぁい」

「こいし……」

「えへへ、冗談だよ」

 

 随分ブラックな冗談です。

 

「暗殺ではなく、彼女の人間嫌いを治す為に、手を打とうという訳であります」

「けれど、どうするつもり?」

 

 レミリアが率直な疑問をぶつけます。

 

「私はそれを考える為に、三日三晩寝ながら考えました」

 

 寝てたらしいです。

 

「人間、寝ないと死んでしまいます」

 

 早速話が脱線してます。

 

「いいから続きを言え」

「ごめんなさい」

 

 妹の事になると厳しいお姉さま。

 

「その結果、一芝居打つのが得策かと」

「一芝居?」

「そう、名前の通り芝居です」

 

 お兄さんの思い付いた案は、こんな感じでした。

 ある日、フランが部屋に籠っていると、突然上から悲鳴が聞こえてきます。フランが紅魔館の一階に行くと、そこには紅魔館の住人やその仲間が倒れています。そして住人はフランに「レミリアが奥の部屋で闘ってる」と教えます。

 フランが奥の部屋に行くと、レミリアは既にやられて、相手のボスに捕まっていました。残るはフランのみ、絶対絶命のピンチ!

 そこで駆けつける人間のお兄さん。お兄さんはフランを意ともせずに相手と闘い、瀕死になりながらも見事レミリアを助けます。そうしてレミリアがお礼を言うと共に、フランに人間は悪い人ばかりではない事をアピールする、という作戦です。

 

「なんだか……吐き気がしてきたぞ」

「似合わないにも程がありますね」

「流石に無理があるんじゃないかしら?」

 

 批判殺到です。

 

「そんなことより○しちゃえば」

「出来るわけねぇだろ」

 

 最近こいしちゃんが悪に染まりつつあります。

 寺子屋のあの一件からでしょうかね。

 

「……悪くないわね」

「「「え?」」」

 

 お姉さまだけ何故か賛成です。

 

「よし、じゃあこれで」

 

 お兄さん勝手に決めてしまいました。

 

「という訳で、今から配役を決めたいと思います」

 

 まずお兄さんが主役。そしてレミリアを倒す悪者のボスが一人と、その手下が数人。後はフランが行く先々で道に倒れてたり、裏方で支援したりとその辺は曖昧です。

 

「とりあえず俺とレミリアを除いて、まずは悪者のボス、魔王だ」

「そこの門番でいいんじゃないすか?」

「私は魔王ではない、拳王だ!」

 

 中国人がなんか変なこと言ってます。

 

「ていうか、私達はフランに知られてるから無理よ」

「あ、確かに」

「じゃあ私やる!」

「こいし、お前は無理だ。見た目だけ見るとカエルにも負けそうだしな」

 

 酷い言い様です。

 

「う……」

「何だよその反応」

 

 しかも図星という。

 

「それじゃ、私が犬に変身するというのは?」

 

 今度はモミーが立候補。

 ちなみにこの子、狼です。

 

「悪くないけど……犬は、な」

「それでは、私がカラスに変身しましょう!」

「墜ちろクソカラス」

「私まだ何もしてませんよ!?」

 

 文には辛辣です。

 

「ごめんね……私は変身出来ないの」

「いや別に求めてませんから大丈夫ですよ」

 

 お空さんには優しいお兄さん。

 同じカラスでも凄い格差ですね。

 

「残るは藍一人だけど……」

「私か? 一応変身出来なくは無いぞ」

「とりあえず気になるから変身してみて欲しい」

「分かった、仕方ない」

 

 そう言うと、突如呻き出す藍。全身が大きく肥大し、服が裂け、狐色の体毛が生え始め、両手両足が長く鋭い爪が光出す。尻尾の先から九つの蒼白い炎が灯り、全長四、五メートルもあるであろう巨大な九尾へと姿を変えたのです。

 

『……フウ、コレデドウダ?』

「すげェ……」

 

 まさにバケモノですね。

 今思えばこいつ、幻想郷でも最強格の妖怪なんでした。

 

『コノスガタデイルトイロイロトフベンナノダ』

「と、とりあえずボスは藍で決まりだな。後は手下だ」

「じゃあ私やる!」

「こいしまた……いや、別にいっか」

 

 早速一人決まりました。

 

「ご主人様がやるなら私もやります」

 

 二人目もあっという間です。

 

「よし、もうこれでいいや。最後は裏方を決めて、残りは皆その他という事で」

「裏方って何をするの?」

「フランが目的の場所に着く様にこっそり誘導したり、フランの様子を俺達に知らせたり」

 

 要は見張りです。

 

「咲夜とそこのメイドでいいんじゃない? 通信なら『ムセンキ』ってやつを使えばいいんだし」

「お嬢様のご命令とならば」

 

 なんでそんなもの持ってるんでしょうね。

 

「ようし、後は皆台詞を覚えて、本番まで練習だ!」

「本番っていつですか?」

「明日」

「「「明日ァ!?」」」

 

 そうして、お兄さん達の劇の猛特訓が始まりました。

 果たして上手く行くんでしょうかね?

 失敗する予感がぷんぷんしますね。




 という訳で次回も三人称でいきま~す。


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八雲藍、顔面蒼白

 三人称で書くとなんか変態度も面白さも微妙なんでこれからずっと一人称で書きますわ。


 紅魔館、地下。とある一室。

 フランドールの部屋はそこにあった。

 紅く染められたベット、柔らかな絨毯、整理されたお人形。そこはどこかのお金持ちの幼いお嬢様の部屋の様だった。とても彼女が生物の血を吸って生きる吸血鬼だとは思えない。

 

 彼女はいい子なのだ。

 何の比喩表現でもなく、本当にいい子なのだ。

 

 お姉さまの言う事はしっかり守るし、好き嫌いもしない。お手伝い等もきちんとする。

 そんな純粋な性格だからこそ、こんなに傷付いても何も出来ない。

 いっそ、狂ってしまった方が、幸せなのかもしれない。

 

「ねぇねぇエリちゃん、今日は何して遊ぶ?」

 

 彼女は両手にお人形を持っていた。

 

「そうねリンちゃん、一緒にかくれんぼしましょう」

「それは楽しそうね」

 

 金髪でロングの少女の人形と、頭にリボンを付けた茶髪の人形。

 過去にお姉さまから貰ったプレゼント。

 

「それじゃ、私が鬼ね」

 

 フランはこの人形遊びを、とても楽しいと思っている。

 長きに渡り館に引きこもっていた彼女にとっては、人形とお姉さまだけが心を許せる存在。けれど、お姉さまはこの館の主としてやるべき事がたくさんある。だから、フランはここで待っている。お姉さまが私と遊んでくれる数少ない時間を。

 

「キャー……」

 

 上で微かな悲鳴が聞こえた。それが誰のかはフランには分からないし、本当に悲鳴なのか確証もない。

 無視しようと、したその時だった。

 

「フラン様! 大変です! 開けてください!」

 

 メイドの一人が切羽詰まった声で呼び掛けてくる。明らかに普通ではない様子を察し、すんなりと扉を開けた。

 扉の前にいた妖精メイドは、頭から血を流していた。

 

「敵襲です! お嬢様含め総力を挙げて抵抗していますが、状況は劣悪! フラン様、どうかお嬢様の元へ!」

 

 さあ、劇の始まりです──

 

 

 

 という訳で始まりました紅魔館一大イベント、フランドールの人間嫌いを治す茶番劇。実況解説はこの私変態がお送り致します。

 早速現れた妖精メイドは言われずとも仕掛人Aです。頭の血も勿論ただのトマトジュースですよ。

 

「う、うん、分かった!」

 

 突然の事で戸惑いながらもとりあえず走り出すフラン。怖がって部屋に閉じ籠もるという最悪の選択は回避でき、とりあえず一安心ですね。

 

「……フラン様、無事にスタート。健闘を祈る。どうぞ」

「了解、作戦を実行する、オーバー」

 

 この人達本当にメイドなんでしょうかね。

 

 紅魔館はとても広い造りになっていますが、所々通路は瓦礫やら何ならで程よく通行止めにしているので、フランが無駄な寄り道をする確率は大分低く収められています。

 更に、争いの後というリアリティを追求する為に館をある程度壊したり、通路によっては真っ暗だったりとただ移動するだけでも困難だったりします。すんなり過ぎると怪しまれるかもしれませんから、これぐらいが丁度良いでしょう。

 道端で倒れている妖精達も無論フリです。中にはわざと折った剣を胸の辺りにくっつけて白目を剥いたり、咲夜の空間操作を利用して首が体からポロッてなってる物まで。平気で断面図とか見えちゃってますから、これが漫画だったらグロ規制確実です。

 

 とりあえず地下から出たフラン。そこで突如壁が崩落し、そこから二つの影が。

 

「わっはっは、貴様の力もこの程度かー」

「く、なんて強いのかしらー」

 

 謎の仮面を付けた烏と触手魔女パチュリーです。

 

「おぉフラン、貴方は無事だったのねー」

「え、う、うん……」

「レミィが上で戦ってるわ、貴方も早く上へ──」

「隙ありー」

「ぐはぁー(棒)」

 

 (棒)とか付いちゃってます。

 

「パチュリー!?」

「私に構わず行きなさいー」

「分かった」

 

 意外と薄情なフランちゃんですね。

 

「……それと、フラン」

「何?」

「貴方と過ごした時間……悪くなかったわ」

 

 あえて死亡フラグを立てるパチュリーさん。

 

「あ、え……う、うん、私も……えっと……楽しかった、かな?」

 

 思い出無いの、バレバレです。

 

 パチュリーとの過酷な……別れに心を痛め……たと仮定して、フランは進み続けます。幾多の亡骸を飛び越え、やっとお姉さまのいる部屋へとたどり着きました。

 

「お姉さま!?」

「ふ、フラン……」

『ワッハッハー、コノヤカタハワタシガシハイシター』

 

 時すでに遅し、レミリアはひび割れた壁に埋もれてました。因みに、壁にヒビを入れたのはレミリア本人です。

 

『コンナヤツ、アイテニモナランワー』

「うっ、痛い、痛いよぉ」

 

 九尾の藍がレミリアの顔を足で踏みつけてますが、全く力を入れてないので痛いどころかちょっと気持ちよくて軽く恍惚の表情を浮かべてます。

 

「どうだ、怒ったかー」

「悔しかったらかかってこいー」

 

 子分の二人がフランを挑発しています。フランはただただじっと相手の事を見つめているだけで、微動だにしません。怯えているのてしょうか?

 

「──それまでだ!」

 

 真打ち登場!

 

『ダレダキサマワー』

「私はさすらいの勇者! 化け物よ、覚悟しろ!」

 

 ただ装飾が派手なだけの剣を掲げるお兄さん。

 

『オマエラ、ヤッチマエー』

「おりゃー」

「死ねー」

 

 ボスの言葉で子分二人がお兄さんに突撃します。しかしお兄さん、攻撃を正確に回避して反撃します。当たり前です、リハーサルしましたから。

 

「──瞬風神速斬!」

「ぐはぁー」

 

 名前が痛い。

 

「さぁ、残るはお前だけだ!」

『オノレー、ヤツザキニシテクレルワー』

 

 九尾がお兄さんに突撃。お兄さんはそれをかわして反撃しますが、その攻撃を弾かれてしまいます。

 

『カカッタナ、シネー』

 

 尻尾でお兄さんを持ち上げ、吹き飛ばします。

 

「ぐはぁ!?」

 

 だが着地点にはあらかじめ保護色のマットが敷かれてあり、その衝撃は受け身を取れば充分受け流せる程度でした。

 

『フッハッハッハ、コレデジャマモノハイナクナッター』

 

 だがしかし、お兄さんは諦めません。どんなに傷付いても、正義の為に立ち上がります。

 

『…………』

 

 立ち上が……あれ?

 

『……オーイ』

「…………」

『……チョット、ダイジョウブカ、オニイサーン』

 

 小声で話し掛ける藍。返事はありません。

 突如不安になり始め、狐モードから人間モードに戻ります。

 

「……脈が、無い」

 

 八雲藍、顔面蒼白。

 

「ちょっと、どうしたのよ!?」

「何かあったの?」

 

 異変を察知して、レミリアやこいしも駆け寄ります。

 

「……死んでる」

「あ……ぁぁ……」

「そんな……私は確かにマットの近くに投げた筈……」

 

 藍が辺りを調べると、お兄さんの頭の上辺りから地面かふかふかになってました。

 単純に角度をミスったのです。

 

「や、やばいわよこれ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」

 

 もう劇どころではありません。

 

「そ、そうだ! お前のとこの時を操るメイドに時間を巻き戻して貰うってのは!?」

「そんなこと出来るわけ無いでしょう!」

「じゃあどうするんだよ!? お前確か運命操れるんだろ!? 予知とかしなかったのか!?」

「んなもんハッタリに決まってるじゃない!」

 

 お嬢様まさかの暴露。

 

「と、とりあえず中止! 皆を集めるわよ!」

「分かった! おぉい、集まれぇ!!」

「──ん、お兄さん……?」

「……うぅ、痛ってぇ」

 

 お兄さん、普通に生きてました。

 

「……頭が、クラクラする」

「ふぇ? 何で生きて……確かに脈は……止まってるのに……」

「脈は普通小指じゃなくて親指だぞ」

「え」

「おい……」

 

 結局、全部台無しになってしまいました。

 

「あ、そうだ、フラン!?」

 

 お姉さま、完全に忘れてました。

 

「おーい、フラン」

「…………」

「フラン?」

 

 フランは未だぼーっと一点を見つめています。

 

「ちょっと、どうしたのよフラン」

「…………」

 

 すると、ハッと気が付いた様な表情をするや否や、俯きながら何処かへ早足に移動し始めました。

 フランの向かった先は、なんとこいしの前。

 

「……あ、あのぉ!」

「ん?」

「わ、わわ、わたしと、付き合って下さい!」

 

 …………え?

 

 

 

 

 翌朝。

 

「えっと、どうしてこうなったんだ……?」

「よ……よよろし……しくお……おぉ……やっぱ無理!」

「ぐえッ!?」

「駄目だよフランちゃん、お兄さん叩いちゃ」

「ごめんなさい……」

 

 何故かフランがお兄さんの家にいます。

 

「なんで家にいるんだ……」

「そ、その……こいしちゃんと、一緒に……」

「だって。許してあげてお兄さん」

「人間嫌いは大丈夫なのか?」

「こ、こいしちゃんと……一緒なら……」

「やったねお兄さん、家族が増えたよ!」

「もう要らねぇよ……見ろよこれ……」

「おい憑喪神! その羊羮は私のだ! お前が食べるのは驚きだけだろ!?」

「やぁい、女狐は男でも食べればいいんだよ!」

「もーらい♪」

「あぁ文さん! それ私の羊羮ですよ!?」

「そんなに急がなくても羊羮は……無くなるわね。あぁ、私の分!?」

 

「……こんな所に住みたいか?」

「なんだか楽しそう!」

「そ、そうか……」

 

 




「……フラン……私の愛しいフラン……」

「レミィ……フランの事、心配なの?」

「ええ、けれど良いの。彼女が自分で決めたのだから。それに……」

「それに?」

「──私にはこれがある!」

『お姉さま大好き♥ お姉さま大好き♥』

「イィィィィィィィヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「相変わらずね……」

「よ~し、フィギュアの次はラ○ドールよ!!」

「やめなさい」


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……やるよ、キツネ女

「──!?」

 

 突如襲いかかる息苦しさで、俺は目が覚めた。

 俺の顔の上に何かが乗っている。

 

「──ぶはッ!? 何なんだよ……」

「ムニャァ……」

「小傘……」

 

 苛立ちに任せて小傘のケツをひっぱたいた。

 

「痛ったぁ!?」

「よっ、おはよう」

「酷い! わちきまだ何もしてないよ!?」

「どうせそのうち何かするだろ」

「うん」

 

 もう一発やっておくかな。

 

 あれから数日。フランはこいしのお陰かすぐに家に慣れ、すっかり家族の一員に。

 

「何ですか、朝から?」

「文おねぇさん、お兄さんが襲ってくる~!」

「あやややや、とうとうやってしまいましたね……」

 

 黙れ変態カラス。

 

「あらあら、そういう文さんもたまに私の事襲ってくるじゃないですか」

「お、お空さん……それは……そう、お空さんがそんなイヤらしいボディなのがいけないんですよ! ほら、このこの!」

「そ、そこはだめぇ♥」

 

 外でやれテメェら。

 

「おい、そんなことしてないで、朝ごはん出来たから食べろ」

「お、ありがとう藍」

「いなり寿司に油揚げの味噌汁だ! いやぁ、料理っていいなぁ!」

 

 お前いなりしか作らねぇけどな。

 

「とりあえず、他の皆も起こしてくれ」

「はいよ~」

 

 俺は寝室へと戻り、こいしとフランの二人が寝ている布団へ近付く。

 

「お~い、起きろ」

「……んぁ、お兄さん……おはよ~」

「ほら、フラン!」

「……ふぁ~、おは……人間ッ!?」

「ぐぇッ!?」

 

 いきなり腹部を蹴らないで……

 

「あ、お兄さんだった……」

「お、俺も人間……だけど、な……」

「でも私、もうお兄さんの事はそんなに怖くないの。なんでかなぁ」

 

 加害者だからじゃないですかね……

 

「とりあえずお前ら……朝ごはんだ……」

「「は~い」」

 

 くっそ……吐きそうだ……

 

 皆が起きて朝ごはんが運ばれる。が、家の食事は平和には進まない。

 いなり寿司には個数があるのだ。

 

「……均等に分けても三つ余ったな」

「今回はどうしますか?」

「……よし、くじ引きにしよう」

 

 腕が入る程度の穴が空けられた木箱に星の描いてある紙を三枚、そして白紙を五枚入れる。ジャンケンで順番を決めて一枚ずつ紙を取った。

 

「いくぞ~」

「「「「「せ~の!!」」」」」

 

 俺の紙には、見事に星マークが。

 

「よっしゃ! 後は誰だ!」

「やったぁ!」

「あらあら、ごめんなさいね」

 

 こいしとお空さんが当たりを引いたみたいだ。

 

「あややや、最近運が悪いです……」

「いいなぁ、こいしちゃん」

「クッソオオオォォォォォォォォォォォォォ!?!?」

 

 一人だけスッゲーうるせぇ。

 

「……やるよ、キツネ女」

「ほ、本当にいいのか!? ありがとう、愛してる!!」

 

 お前の愛はいなりで左右されるのか。

 

 朝食後は配達の仕事があるのだが、ここ最近皆で行くのはめんどくさいという事になり、一人ずつ当番を決めてやる事になった。

 一昨日は俺、昨日は藍、そして今日は椛だ。明日は文になっている。

 こいし、小傘、フランは除外だ。一人吸血鬼だしな。

 

「それじゃあご主人様……グスッ、必ず帰ってきますからね……」

 

 なんで泣いてんだよ。

 

「いってらっしゃ~い」

「私の事……忘れないでくださいね」

 

 はよ行け。

 

 この後は特に何も予定はない。各々自由な時間を過ごす。俺とお空さんだけ家事に勤しんでいるのだが。

 

「お帰りなさいお父さん」

「ただいま明恵、遅くなってごめんよ」

 

 こいしとフランは二人でおままごとをしている。

 明恵って名前、何処から出てきたんだ?

 

「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」

「明恵……君にしたいな」

「まあ、仁志さんったら♥」

 

 ちょっと待て、何してんだよアイツら。

 

「ただいま~」

「お、彩佳、おかえり」

「部活で遅くなっちゃった」

 

 そこに小傘が参加。どうやら二人の娘らしい。

 

「じゃあ、今日は二人とも頂こうかな」

「もう、お父さんったら♥」

 

 待て待て待て待て、何だよこれ。

 家族終わってんだろ。

 

「あら、おままごとですか。楽しそうでいいですねぇ」

「そう……ですかね?」

 

 洗濯物を干し終えたお空さん。

 

「私たちもあんな家族みたいにに仲睦まじくなれればいいですね♥」

 

 確かに仲睦まじいけどさぁ……あれオカシイだろ……

 

「私達も文さんや藍さん誘っておままごとします?♥」

 

 しねぇよ。

 

「私は文さんが本命ですけど、お兄さんでも悪くないです♥」

 

 聞いてねぇし聞きたくもねぇよ。

 

「お空さぁん!!」

「文さん!!」

 

 文てめぇ何処から出てきた。

 

「私……文さんが一番大切ですけど……でも……お兄さんの事も、何だか心配なんです」

「お空さんは優しいですね……」

 

 なんで俺が話に出てきてるんでしょうかね。

 

「でも大丈夫ですお空さん! 幻想郷に法はありません! お兄さんも入れて、三人で愛し合うのです!」

「流石ね、文さん!」

「さあ、お兄さん! 私達と三人で再びあの愛の巣を築き上げましょう!!」

「申し上げますが俺は鳥類ではないので巣は築きませんさようなら」

「あぁ、お兄さ──』

 

 家に戻ると、そこには神妙な顔をして座り込んでる藍の姿が。

 

「どうしたんだ?」

「ああ、お兄さん。今お稲荷を使った新しい料理を考えてるんだ」

「へぇ、例えば?」

「お稲荷の炊き込みご飯とかどうだ?」

「それいなり寿司と大して変わらないと思うぞ」

「う~ん、難しい……」

 

 まあ、頑張れ。応援はしないけど。

 

 

 

 椛も帰って来て、里は夜を迎える。

 

「皆、ご飯出来たぞ!」

「待ってました!」

「今日はきつねうどんだ!」

 

 そろそろ藍以外の奴が飯作ってくれないかな。

 

「頂きまぁす!」

「美味しいですね」

「ん~、少し味薄くない?」

「そうか?」

 

 今宵は平和に終わりそうだな。

 

「ついでにいなりの炊き込みご飯も作ってみたんだが……」

 

 本当に作ったのかよ。

 

「食べてみてくれないか?」

「それじゃ、頂きまぁす……味無い」

「え? ……確かに味無い」

「そんな筈は無い! ならば私が……な、なんで味無いんだ……」

「どれ、俺も……すげぇ、味無ぇ」

 

 皆さんも作ってみて下さい、味の無い炊き込みご飯。

 

 という事で夕食も終わり、寝る時間へ。

 文とお空の烏コンビは未だあの外の小屋で寝てますが、残りはみんな家の中です。テーブルとか避けて布団を敷いてます。

 この時、家では恒例のじゃんけんが。

 

「いくよぉ……最初はグー、じゃんけん──」

「「「ポン!」」」

 

 結果、勝ったのはフラン。

 何故じゃんけんをしてたのかと言うと……

 

「わぁい、ふっかふか~♪」

 

 勝者はその日、藍の尻尾の上で眠れるからだ。

 

「私は迷惑この上ないのだがな……」

 

 その通りだ。

 

「それじゃあお休みなさい」

「ああ、お休み」

 

 後は各々布団に着き、眠るだけ。

 俺の家の一日はこんな感じだ。

 

 

 

「──ぶはッ!?」

 

 深夜、突如息苦しさを感じ起き上がる。

 また顔の上に何か乗っている様だ。

 

「……おどろぇ……スゥ……」

 

 小傘テメェ……




 そのうち現代入り投稿します。


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前じゃなくて後ろを捻るのよ

 お兄さん家の日常、お空編。

 最近真面目な現代入りを連載し始めたのですが、一瞬そっちに次話投稿して焦りました(笑)
 現代入りも読んで頂けたらありがたいです!


「ねぇお兄さん、一つお願いがあるのだけど……」

「ん?」

 

 ある日、お空さんが俺に話し掛けてきた。

 

「この腕の奴、外すの手伝ってくれない?」

「いいですけど、それ何ですか?」

「制御棒」

「制御棒?」

「ああ、これはね──」

 

 

 

「──という訳なのよ」

「つまり『太陽の力が欲しいと厨二病を患わせていた頃に神様にお願いしたら付けて貰った』って事?」

「そうなんだけど、最近は邪魔で仕方がないのよねぇ……核融合もする機会も無いし」

「ちょっと見てみたい」

「里が吹き飛んじゃうわよ♥」

「やめて下さい」

 

 という事で今日一日、お空さんの制御棒を外す事になりました。

 

「しかし、これどういう構造してるんですかね。引っ張って抜ける様な物じゃ無さそうですし」

「それが私も分からないのよねぇ」

 

 何で分からないんだよ。

 

「つーかやっぱ無理じゃ無いですかこれ」

「でも……やっぱ外したいのよねぇ」

 

 今までずっとそれを付けて生活してきたのに、今になって外したいという事は、何か大きな悩みがあるのだろうか?

 

「最近これを見るとまるでお兄さんのアレみたいに思えてきて、私や文さんの体が火照って来ちゃうんです♥」

「今すぐその腕ごと切るか」

「そ、それはらめぇ!」

 

 何だよその言い方は。

 

「じゃあどうすれば……」

「捻ったりすれば外れるかなぁ」

 

 その容器のキャップみたいな発想はどこから出てきた。

 

「あ! そういえば、お湯に浸してから捻ると外れやすいって聞いた事があるわ! やってみましょう!」

 

 といえ訳で風呂場に行き、お空さんの腕をしばらく浸す。

 

「どうですか?」

「うん、そろそろ外れそうだわ!」

 

 その自信は一体どこから湧いてくるのだろうか?

 

「えっと、それじゃまずは右に捻りますよ」

「準備OKよ!」

「せーのッ」

 

 俺は容赦なくお空さんの制御棒を右側に捻った。

 

「い、痛い、ちょストップ!!」

 

 五秒と持たなかった。

 

「やっぱ無理じゃ……」

「き……きっと逆なのよ……」

 

 という事で、今度は左側に捻る事に。

 どうしてこんな事で外れると信じ込んでいるのだろうか。

 

「いきますよ……せーのッ」

 

 またもや容赦なく左側に捻る。

 すると、ポキッと不吉な音がした。

 

「あ」

 

 肘がブランブランになっている。

 

「──ッッッ!?!?!?」

 

 お空さん、悶絶。声の無い悲鳴を上げている。

 

「えっと……ごめんなさい」

 

 俺、悪いのかなぁ……

 一応悪いよなぁ……

 

 

 

「腕って外れても簡単にくっつくんだなぁ」

「私は痛かったけど……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 お空さんの外れた肘も何とかくっ付け、話を本題に戻す。

 結局、外し方は分からないまんまだ。

 

「もっとその棒を詳しく調べてみるしかないな」

 

 俺はお空さんの制御棒を手に取り、色々と触ったり眺めたりして確認する。

 

「あぁ、そこは敏感なのぉ♥」

 

 感覚あんのかよ。

 

「まってぇ、棒の先っぽはらめぇ♥」

 

 色々と聞きたいがまずは黙ってくれ。

 

「もうダメ、イっちゃ──」

「黙れ」

「すみません」

 

 一通り確認してみたが、特に何かあるわけでは無さそうだ。

 

「もう、お兄さんったら、あんなに激しくしちゃって♥」

「……一応聞くけど、その棒感覚あるの?」

「無いわ」

 

 嵌めやがったコイツ!

 

「紅くなってるお兄さん可愛い♥」

 

 クッソォ……一発殴りてぇ……

 

「今夜一緒に寝ましょう?♥」

 

 絶対嫌です。

 

「……それで、結局その棒外す方々あるんてすか!?」

「ああこれ、実はね──」

 

 するとお空さんは、棒の後ろ半分を捻った。

 カチッと音がして、ロックが外れる。

 

「──前じゃなくて、後ろを捻るのよ」

「……何で俺に相談持ち掛けて来たんですか?」

「お兄さん可愛いからイタズラしたくって♥」

 

 俺がもう一度お空さんの肘関節を外したのはそれから十秒後の事。



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紅霧異変? ①

 どうもお久しぶりな変態です。
 ここ最近くっそ忙しい生活を送っております。こう見えて(?)私バリバリ部活ガチな学生なので、ホンキで毎日疲れてるんです、ええ。合宿もしょっちゅう行きますし。

 今回からは紅霧異変! ぶっちゃけ次はいつ更新できるか分かりませんし、相変わらずホントテキトーに書いてますので、まあ暇すぎて死にそうっていう人が見てくれるだけでありがたいです( ´,_ゝ`)



「エクストラボス、やって頂戴」

 

 ……ハァ!?

 

 

 

 

 もう何度言ったか分からないある日の事。

 ふと、紅魔館のメイドが家に現れた。どうやら、レミリアが俺の事を呼んでいるらしい。

 暇をもて余していた事だし、俺はこいしと小傘を差したフランとの四人で紅魔館へと向かった。

 

「よく来たわね」

 

 レミリアはまるで玉座の様な豪華な椅子に座ってふんぞり返っていた。

 なんかムカつく。

 

「久しぶり、お姉さま」

「あらフラン、元気にしてた?」

 

 おや、大好きな妹を目の前にしても暴走しないぞ?

 お姉さまも成長したんだな。

 

「見てみなさい、これ。メイド総出で作らせた、紅魔館の主のみが座ることを許される豪華で気品溢れるこの椅子を!」

 

 ドヤ顔で自信満々に威張るお姉さま。

 

「すごぉい! ねぇねぇお姉さま、私も座ってみたい!」

「ダメよ、これは主である私しか座ってはいけないの」

「お願い……お姉さま♥」

「やっぱり私は座布団でいいわ」

「わぁい、ありがとう!」

 

 椅子に座るフランの隣で座布団に正座するお姉さま。

 やっぱ成長してないわ。

 

「えっと、それで今日はどんな用で呼んだんだ?」

「あぁ、そうね」

 

 メイドが持ってきたお茶を飲み、一息つくレミリア。

 ……紅茶じゃなくて緑茶。

 なんか、服装以外は哀れである。

 

「実は、異変を起こそうと思うの」

「異変?」

 

 幻想郷には時折異変が起こるのは、もう皆承知してるだろう。

 この吸血鬼も昔は、紅霧異変とかいう騒動を起こしたものだ。

 

「それで、どんな異変?」

「紅霧異変」

「……は?」

「だから、紅霧異変をもう一度起こすのよ」

「何でだよ」

「作者が時間取れない癖に異変書きたいって訊かなくてね」

 

 作者ぁ……

 

「じゃあ、何で俺は今日呼ばれたんだよ」

「貴方、エクストラボス、やって頂戴」

「……ハァ!? なんでそうなるんだよ!? それって確かフランの筈だろ」

「フランに出来る訳無いじゃない!」

「そんなの分かんないだろ?」

「……それじゃ、聞いてみるわよ」

 

 レミリアは立ち上がり、椅子に座るフランの前に立つ。

 

「……ねぇフラン」

「何、お姉さま?」

「私達、もう一度紅霧異変をしようと思うんだけど……エクストラボス、やる?」

「……エク……ス、トラ……ボス……」

 

 途端、フランの顔が青ざめて行く。

 

「……ぁぁ……ごめんなさい……もういや……剥がないでェ……あぁぁぁ……アアァァァァァァァァァォァァァ!!!!!」

「ほら、発狂しちゃったじゃない」

 

 待って、一体何があったんだ!?

 剥がないでって何!?

 

「という訳だから、お願い♥」

「絶対嫌に決まってんだろ!!」

「殺すわよ」

「こういう時ばかり実力行使かよぉ……」

 

 

 

 

 途端に無理難題を押し付けられ、途方に暮れる俺。

 というより、まず弾幕ごっこすらしたこと無いのに……

 ていうか弾幕出せないし……空飛べないし……マジでどうしよう。

 

 一人で悩んでも仕方がない。

 

「──と、いう訳なんだけど……」

 

 皆を集め、相談を始める。すると文が提案した。

 

「一から飛ぶ練習しますか?」

「飛べるようになれるのか?」

「二、三年位練習すれば」

 

 遅すぎだよ。

 

「誰かが服の中に入って代わりに飛ぶのは?」

 

 今度はこいしだ。

 

「それじゃ、誰が飛んでくれるんだ?」

「「「「……」」」」

 

 やっぱりな。

 

「魂だけなら飛ばせるんだけど」

 

 やめて下さい藍様。

 

「……打つ手無しですね」

「天井から誰かが吊り上げてでもしないと無理ですね」

 

 ──ん?

 

「待て、いるぞ。天井から吊り上げられる奴!」

 

 

 

 久しぶりに訪れたら魔法の森。ここに来たからには、もうアイツしかいない。

 そう、最近見かけないあのストーカー女だ。

 

「お~い、アリス~、いるか~」

 

 返事はない。扉は開いている様だ。

 

「勝手に入るぞ~」

 

 そうして勝手にリビングに上がるが、アリスの姿はない。

 アリスを探しに手当たり次第部屋を調べると、一通の手紙を見つけた。

 

 そこには、こう書いてあった。

 

 

 

 

『これが読まれているという事は、私はここにはいないでしょう。

 私は、ある人の事が好きでした。毎日毎日ある人の事を想っては、濡らして愉悦に浸っていました。

 しかし、最近ある人は私の事を相手にしてくれませんでした。いくら作者が「なんか出すタイミングが浮かばない」って言っても、酷すぎると思います。私、タイトルにも出てるのに。

 そこで私は決意しました。

 もう、変態キャラでは人気は出ません。だから私は変わります。私の心にあるありとあらゆる性欲を全て消し去って、悟りを開いた変人人形使いとして新たにデビューするのです。

 私は命蓮寺にいます。止めて下さい。

 

 アリス・マーガトロイド』

 

 

 

「…………」

 

 手紙を捨て、俺は家を出た。

 ……とりあえず、行くか。



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紅霧異変? ②

 目指すは原点回帰!


 命蓮寺は、皆さん知っているだろうか?

 一応知らない人がいるかもしれないので軽く説明しておくと、要は封印されてたお坊さんやら毘沙門天の使いやらが集まったデッカイお寺だ。最近だと船に変身して幻想郷を征服しようとする悪の手先をキャプテンランチャーという超圧力で水を放つ必殺技で倒したり倒してなかったり。

 ごめん嘘だ。でも船には変身するよ。

 

 本日はここに、アリスを探しにやってきました。俺一人で。

 

「あの~、すみません……」

 

 お寺の門には誰もいない。仕方ないので、黙って中に入る。

 すると、庭にネズミの耳を付けた少女が一人。その手には紐が握られている。その紐の先には──ん?

 

「あ、あの~」

「ん、あぁ客人か。ようこそ命蓮寺へ。ほら、ご主人も挨拶しなさい」

 

 その紐に繋がれているのって、人?

 頭に菊みたいなの乗っけているし、なんか神々しい雰囲気醸し出してるんですけど……

 

「ニャァ~」

 

 どんなプレイだよ。

 

「申し遅れたが、私はナズーリン。このご主人の名前は寅丸星と言う」

「そうですか……」

 

 立場逆じゃねぇのか?

 

「あ、誤解しないで欲しいが、これはご主人が望んでやっている事だからな。トラなんて凶暴な動物なんか辞めて、ネコになりたいらしい」

「ニャァ~」

 

 鳴きながら、星さんは俺の脚に頬を擦り付けてくる。

 なんだろう、この複雑な気分は。

 

「因みに私は犬派だ」

 

 どうでもいい。

 

「ところで客人、本日はどんな用だ?」

「ああ、この寺にアリスっていう金髪の魔女がいると聞いたんだけど……」

「ああ、アイツか、いるぞ。どうせだから上がるといい」

 

 俺は、ナズーリンの言葉に甘えた。

 

 命蓮寺の中はとても立派だった。何度か行ったことのある博麗神社の、数十倍の大きさだ。

 そんな寺の一室に、俺は通された。

 

 部屋の中には、アリスともう一人の女性の姿が。

 

「あ、ダーリン……」

 

 アリスは俺の顔を見るや否や、俺に向かって飛び付いてきた。

 あまりに突然な出来事に反応できなかった俺は、アリスの体重を加えた状態で、地面に頭をぶつけた。

 

「ダーリィン!! 会いたかったわ、ダー……ダーリン!? しっかりしてよダーリン!?」

 

 突如豹変したアリスの様子を最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

「……ぅ、うぅ……」

 

 目が覚める。まだ、頭が痛い。後頭部に触れてみると、そこには大きなたんこぶが出来ていた。

 

「あら、お目覚めですか?」

 

 ふと、傍らから声が聞こえる。先程、アリスと一緒にいたもう一人の女性の声だ。

 

「まあ、ええ。一応……」

「そう、よかった……あ、私、聖白蓮と申します」

 

 グラデーションのかかった髪が特徴の彼女は、深々と頭を下げた。如何にも丁寧で、優しそうな女性だ。

 

「この度はご迷惑を御掛けして、誠に申し訳ありません」

「い、いえいえ……」

 

 あんまりにも丁寧すぎて、思わず謙遜してしまう。

 

「その様子ではすぐに出歩くのも危険ですし、今晩はお泊まりになられれば宜しいかと」

「え、ええ……それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 断るのも気が引けてしまうので、俺は聖さんの誘いを受けた。

 

 

 

 しばらく命蓮寺の一室で休んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。

 襖を開けたのは、俺の知らない別の女性。半袖短パンで、海兵の様な格好をしている。

 

「おっと、あんたがお客さんだな? 私は村沙水密、ここで船長やってるんだ」

 

 お寺で船長と聞くと、普通は頭おかしいんじゃねってなるが、俺はこの寺が船になる事を知っている。

 そんな疑問は沸かない。

 

「あの、どんな用で?」

 

 俺は村沙さんに問う。

 

「……あ、あぁ、夕飯の準備が出来たから、聖から呼んでくる様に言われたんだが……」

 

 言われたんだが?

 

「……お前、カッコいいな」

 

 自覚はしている。

 

「なあ、結婚しないか?」

「嫌だよ、てか話が飛びすぎだろ」

「いいだろ別に、妻の一人や二人増えたところで変わりゃしないって」

 

 大問題だよバカ。

 

「ほら、私幽霊だからさ、いくら出しても子供出来なくて済むよ」

 

 自分を売るなよ。

 

「てか、お腹空いたんで早く案内してくれません?」

「ん~、仕方ない。この話は後にするか」

 

 もうしねぇよ。

 

 

 

 村沙に連れられて、俺は寺の広間に来た。そこには、聖さんや星さん、ナズーリン、そしてアリス。これに村沙を含めれば、恐らくこの寺に住んでいる人全員が揃うのだろう。

 

「あ、ダーリン、大丈夫?」

「一応な」

「良かったぁ……」

 

 アリスの奴、普通に心配してくれたんだな。

 まあ、俺に怪我を負わせたのはコイツなんだけど。

 

「あれ、もう結婚してたんだ」

 

 村沙が口を挟んでくる。てか結婚してねぇよ。結婚するならまともな人間としたいんだよ。

 

「そうよ」

 

 デタラメ言うな変態人形野郎。

 

「ねぇ、聞かせてよ、彼との結婚生活!」

「仕方ないわね、あれはダーリンとの初夜の出来事だったわ──」

 

 まあいい、放っておくか。

 

「こらこらご主人、テーブルの上に乗らない」

「フシャァ~」

「痛ッ!? 引っ掻くな!!」

 

 この動物二人は何をやってんだか。

 

「ほらほら、ご飯出来たから、皆大人しく席に付きなさい!」

 

 別の部屋からまた一人、別の女性が出てきた。蒼い髪に頭巾の様に布を被っている。

 

「はい、今日のご飯はぬえだよ!」

「ぬえ?」

 

 聞いた事がない。一体何なんだ?

 

「おや、お客人、もしかしてぬえを知らないのかい?」

「知りませんけど……」

 

 すると、頭巾を被っているその女性が、懐から一枚の写真を取り出した。

 

「はい、これ」

 

 その写真には、背中に計六つの謎の翼らしき物をつけた黒髪の少女の姿が。

 

「……で、これは?」

「ぬえだよ」

「……え?」

「このたくあんみたいに見える料理がぬえだよ」

「……この、たくあんみたいなのが、これ?」

「ええ」

「マジで?」

「ええ」

「嘘でしょ?」

「嘘よ」

 

 嘘なのかよ。

 

「あれ、ところでぬえの奴は?」

 

 村沙さんが頭巾の女性に聞いてきた。

 

「ぬえの事だから……その辺で野垂れ死んでるんじゃないかしら」

 

 なんだこの人、ぬえって奴の事嫌いなのか?

 

「ほら皆さん、そろそろ頂きましょう」

 

 聖さんの一言で、皆が席に着いた。彼女がこの寺の中でリーダー的存在なんだろう。少なくとも、雰囲気は凄いのにネコの物真似ばっかしてる人よりは頼りがいがありそうだ。

 

「それでは、頂きます」

「「「頂きます」」」

「ニャァ~」

 

 一人だけネコまんま。もうこれ病気じゃねぇのか?

 

 




 文字数の都合で今回はこれまで。
 次回はとうとう、お風呂シーンを……


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紅霧異変? ③

 約二千字ずっとお風呂。
 流石に文字数増やそうかなぁ。


 夕食の後、俺は聖さんに勧められるがまま、命蓮寺の風呂場へと向かった。男は俺一人なので、先に入ってしまった方がいいとの事。俺もそう思う。

 誰かが先にお風呂に入っていて、それを俺が気付かずに風呂場に入ってしまって「キャーエッチ~!」ってなるような展開は、本気でお断りだ。これは建前ではない。心の底からの本音だ。

 想像してみてくれ。こんな頭のおかしな奴等ばっかの幻想郷で全裸のイケメンが目の前で立っているといシチュエーションを。

 

 

 運が良ければビンタ。悪ければ半ば強制的に籍を入れられる事になる。それだけは避けなければならない!

 

 

 タオルは風呂場に置かれてある物を使ってよいと言われた。聖さんの言うことを信じれば、二十分は誰も来ないはず。俺は服を脱ぐ前に、浴槽へと向かった。

 ……よし、誰もいない。

 

 俺は着ていた服を籠の中に入れると、タオル一枚を持って浴槽の側へ座る。桶で風呂のお湯をすくい、頭から被った。

 こうして一人でのんびり風呂に入るのは久しぶりだ。家にいると、いつも誰かが乱入してくる。ただでさえそこまで大きくない風呂場が更に狭くなるのだ。

 人によっては羨ましいと思うかもしれないが、考えてみろ。純情な乙女が恥じらいながら裸を隠している姿と、頭のおかしな変態が何故か自慢げに全裸を晒すのでは、天と地ほどの違いがある。まあそこまでにはいかないにしろ、裸を見られる事に恥じらいがない奴等とばっか居ると、何だかもう照れるのも馬鹿らしくなるのだ。

 発情? 少なくとも俺はしないな。したら負けだ、色々な意味で。

 

 軽く頭と体を洗い、浴槽へと体を沈める。今日一日の疲れが一気に吹き飛ぶ気がする。まあ、そんなに疲れてないんだけどね。

 

「ふぅ……」

 

 吐息が溢れてくる。疲れてなくても、やはり風呂は気持ちがいい。温かなこの水は、俺を癒してくれる。

 

「気持ちいいねぇ」

「そうだなぁ……」

 

 俺の後ろにいる者も、どうや……

 

「──誰だ!?」

 

 振り返っても、誰の姿もない。

 

「……いるんだろ……出てこい!」

「ふふふふふ……」

 

 微かな笑い声だけが聞こえてくる。俺は風呂場から出ようと、慌てて扉に手をかける。

 

「……あ、開かない」

 

 どうやら、何者かに嵌められたらしい。最悪だ。

 

「──それではお楽しみに」

「な、待てェ!」

 

 俺を嵌めたであろう人物は、天井で一瞬だけ姿を現し、そしてまた消えてしまった。

 あの、ぬえとかいう少女だった。

 

 

 

 風呂場の床へ腰掛ける。風呂場からは出られないまま、刻々と時が過ぎて行く。このままでは、アイツ等が入ってきてしまう。

 俺はただ祈るだけ。一番始めに入ってくる人物が、聖さんや一輪さん(あの後名前を教えて貰った)である事を。いや、あの動物二人でもいい。最悪、村沙でも何とかなる。

 

 アリスは、アリスだけはヤバい! アイツには何をされるか分からない!!

 

 ひたすら誰かが来るのを待っていると、とうとう足音が聞こえてきた。俺は浴槽に入りながら、それが誰なのかをじっと伺う。

 湯気のせいではっきりとは見えない。だが、そのシルエットからして、髪は短い。この時点で、考えられる最高のパターンはあり得ない。

 更衣所には俺の服がある。星さんはニャーニャー鳴いてるだけなので問題ない。村沙なら俺の服に気が付いて、声をかけてくれるだろう。アリスだったら……どうなるか。

 俺は祈る。最悪の展開だけを避ける為に。

 

 

 無情にも、扉に手が掛けられた

 

 

「……まだ入ってたのか、あんた」

 

 

 しかし、入ってきたのは、村沙。

 アリスではない。

 

「よ、良かった……聞いてくれ、あのぬえって奴に嵌められたんだ!」

「ぬえに? ……へぇ、あんたも大変な奴に目を付けられたね」

「あぁ、だからさ、俺はもう上がるよ」

 

 そう言って、俺は浴槽から乗り出そうとしたその時だった。

 

「──させないよ」

「え?」

 

 その言葉の意味を確かめようとした時だった。

 突然、俺の体がお湯の中に包まれる。何が起きているのか把握する前に抜け出そうとするが、泳いでも泳いでも体は外に出られない。

 そんな様子を見て、村沙がくすくす笑う。

 

 ──まさか、コイツも俺を嵌めたのか!?

 

 気が付いてもどうしようも出来なかった。苦しくなる呼吸をどうすることも出来ない。我慢できなくなり、お湯を肺にまで飲み込んでしまう。

 

 意識が遠退く。その時やっと俺の体は解放されたが、既に遅かった。

 

「みんな大変だ! 客人がおぼれ──」

 

 このクソヤロウ……

 

 

 

 

「──ブハァ!?」

 

 肺に酸素が入り、俺の意識が覚醒する。身体中が空気を求め、呼吸が激しくなる。

 

「あ、ダーリン!? 大丈夫!!」

 

 俺の真上にはアリスの顔。起き上がり、回りを見てみると、命蓮寺の皆が揃っている。そこには、頭にたんこぶを作ったぬえの姿もあった。

 

「溺れたと聞いて、皆心配してたんですよ!? 村沙が見付けなければどうなっていた事か……」

「すみません……!!」

 

 村沙、と聞いて、俺の記憶は蘇る。アイツが俺の事を溺れさせたんだ。当のアイツを見ると、俺の顔を見ながらニヤニヤしている。ホントムカつく。

 

「アリスさんに感謝して下さいね。彼女が真っ先にお客さんを助けたんですよ」

 

 聖さんが俺に伝える。その言葉は、俺にふとある事を過らせた。

 溺れた人を助ける方法ってたしか、肺を圧迫して水を吐かせたり、そして……

 

 唇に軽く指を触れて、俺はアリスの方を見た。ハッとした表情で何かに気が付くと、顔を真っ赤にしてその場から逃げだした。

 

「……まさか」

 

 真実を告げるには、それだけで十分だった。

 村沙への怒りは消えていた。

 

 

 

「一ついいですか」

「何ですか、聖さん?」

「寒くないですか?」

「…………」

 

 ……てか、服着せてくれなかったのかよ。




 何だかいつもとは違う雰囲気が……


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紅霧異変? ④

 まさかの展開。


 命蓮寺のある部屋で、俺は布団の中へ潜っていた。

 

「……眠れん」

 

 布団に入ってから大分経っていて、寺の中は既に寝静まっている。多分、俺だけが起きている。

 

「……はぁ」

 

 ため息を吐く。俺らしくない。こんなこと、いつもの事だと気にしないのが一番なのに……

 

 やっぱり頭から消えない。あの時のアリスの様子が。

 いや、あの時だけじゃない。今日、アリスが俺に関わっきた頃から、ずっとだ。

 

 ずっと忘れていた感覚。他の者達が介入してから、俺の中ですっかり消えていたあの思いが、俺の中を過っていく。

 

 風に当たりたくなり、俺は外に出た。

 

 アリスが俺の事を好きなのは知っていた。初めて会った時の事は、今でもはっきりと覚えている。俺が飛脚を初めて間もない事、初めて訪れたアリスの家で。

 

 それから、あの生活が始まった。アリスは毎日の様にしつこくアプローチを仕掛けてきて、俺が適当に流す、そんな日々。正直疲れてる時は鬱陶しかったけれど、楽しくないと言えば、嘘になる。

 

 そんな日々が、気が付けば消えていた。アイツは、どんな気持ちだっただろう? 変態でストーカーなアリスの仮面に隠された、本当の彼女は、どんな思いで俺の事を見ていたのだろう?

 

 

 今日のアイツ、本当に嬉しそうだったな。

 

 

 普段は綺麗だし、人形とか大好きだし、興奮するとついうっかりするけれど、女性なのに頼りがいもあるし、そして一途で……

 

「……あれ?」

 

 何だか、顔が熱くなってくる。アイツの笑顔が頭から離れなくなってしまった。

 

「あれ、あれ、あれあれあれあれ?」

 

 まさか、そんな、嘘だろ?

 頭を掻きむしり、床にぶつけても、アイツの笑顔は消えない。頭から離れてくれない。

 

「……何だよ、頭の中まで付いて来やがった」

 

 もう駄目だ、逃れようがない。

 

「……俺、アイツの事──」

 

 

 

「──何してるの?」

「ッ!?」

 

 背後から俺に声が掛けられる。

 

「あ、アリス……」

「物音がしたから来てみたら……何してるの、お兄さん」

「……眠れなくてさ」

 

 俺の隣に、アイツは腰掛けた。

 

「ダーリンって、呼ばないんだな?」

「……気にしてるんでしょ、お風呂場での事」

「ああ」

「ごめんなさい、私その……本当に焦ってたの」

 

 そんなことは知っている。

 

「……滑稽よね、普段はお兄さんの貞操狙ってたのに」

「そうだな、おかしいよな」

 

 分かってるんだよ、もう。お前の考えていた事なんて。

 

「……私さ、お兄さんに会うまで、退屈だったのよ。魔法使いになって、捨食の魔法も覚えて、色々な物を集めたりしてたけど……なんか、心から満たされる様な物はなかったと言うか……あんまりよく分からないけど」

 

 アリスは、そのまま続けた。

 

「何でかな、何でお兄さんに牽かれたんだろ、私。魔界にいた頃だって、お兄さんよりカッコいい人はいたのにね」

「……運命の赤い糸って奴じゃないですか、人形使いさん」

「残念ですが、その糸は取り扱っておりません」

 

 クスリ、とアリスは笑った。つられて俺も笑う。

 

「アリスは、さ」

「何?」

 

 俺は、意を決して問う。

 

「俺が人間を辞めるって言い出したら、どうする?」

 

 アリスの顔から笑顔が消えた。そのまま、彼女は俯く。

 やはり、聞かない方が良かったのかもしれない。俺が言葉を発しようとしたその時、アリスは俺に向かって真顔で言った。

 

「襲うわ」

「意味わかんねぇよッ」

 

 予想外の返答に、ついつっこんでしまった。ちょっぴり痛そうな素振りで、俺に叩かれた頭を抱えるアリス。誰も見ていないのに漫才みたいな感じになってしまった。

 

「──まあいい、吹っ切れたわ、寝る!」

 

 俺は立ち上がった。

 

「いいか、俺はお前みたいな変態発情ストーカー野郎となんか絶対に付き合わないからな!」

「ふん、いいわよ別に、無理矢理ヤってやるんだから」

 

 アリスに背中を向けて、俺は自分の布団へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ──愛してるよ、お前の事。

 

「え、何か言った?」

 

「お前もさっさと寝ろって言ったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ぅん……」

 

 息苦しさを感じ、俺は目を覚ました。日は既に昇り始めている。体を起こそうとしても、上手くいかない。

 

「……ん?」

 

 体が重い。俺の布団の中に、誰かいる。しかも俺の体の上に乗っかっているではないか。

 まさかと思い、俺は急いで布団を捲った。

 

「……」

「ゴロロロ~♪」

 

 あんたかよ、星さん……

 

「ダーリン、朝よ! 私と一緒に二人羽織で朝ご……な、何よ貴方、邪魔よ!!」

「フシャー!!」

「痛ッ!? 引っ掻いたわね、このォ!!」

「ニャー!!」

 

 ……まあいい、ほっといて朝ご飯食べよ。




 お兄さんとアリスの関係がはっきりと分からないという方、イオシスさんの『アリス→デレ』という曲をPV付きで見てください。ある程度は分かると思いますよ。

 という事で次回から紅霧異変に軌道が戻ります。


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紅霧異変? ⑤

 皆様本当にお久し振りです。五ヶ月ぶりの更新となります。
 ぶっちゃけ内容忘れた(元からほぼ皆無)ので展開が不安ですが、たま~にボチボチと更新したいと思ってます。



 家からちょっと離れた森の中。

 そこの一番大きな木の根本で、俺はただじっと眼を瞑っている。

 辺りには皆の姿。こいし、文、椛、空、藍、小傘、そしてフラン。姿は見えないけれど、気配は感じる。皆が、この世紀の瞬間を眼にしようと立ち会っている。

 

「驚けぇ!」

「ッな、小傘テメェ、こんな時にズボン脱がすなぁ!!」

「あははは、大成功!!」

 

 ったく、雰囲気ぶち壊しだよ。

 

「ていうかお兄さん、早く飛んでくれません?」

「俺に言うな文、アリスに言ってくれ」

 

 俺の真上、木の枝の上に、アリスが待機している。

 俺の体に糸を通して持ち上げて、一時的に空を飛ばせる準備をしているのだ。アリスも初めての事の様で、念入りにしなければ危ないとの事。まあ、仕方がないよな。

 

「とうとうお兄さんも弾幕デビューかぁ」

 

 何故か感慨深そうに藍が呟く。

 

「この調子でトントン拍子で進んで行って、いつか人間も辞めちゃうんだな……」

 

 前話が前話だからそれは言わないでくれ。

 

「もしも力が欲しいなら、私の式にしてやるぞ」

 

 いや結構です。

 

「え、ホント!? じゃあ私式になる!」

 

 こいし、お前何言ってんの? そんな力欲しいの?

 

「こいしちゃんがなるなら、私も!」

「じゃあ私とフランちゃんでペアルックだね!」

 

 何か違うぞ。

 

「こいしちゃん……子供はいつ作る?♥」

 

 飛び過ぎだよテメェ、てか無理だよ。 

 

「準備出来たわ!」

 

 アリスが上から叫ぶ。皆が会話を中断して、一斉にその時を見守る。流石に直前になると大人しくなるな。

 

「それじゃあ、いくわよ」

 

 両手を広げると、上から垂れ下げられた糸が俺の体をぐるぐる巻き付けていく。超が付く程細く、眼を凝らしても視認する事が難しい。こんなに細いと俺の体が千切れそうだが、魔法で俺の体の強度も上げているので、そんな悲惨な事故は恐らく起こらないだろう。

 

 足がゆっくりと地面から離れていく。

 皆が少しずつ低くなっていく。

 

「……すげぇ、飛んでる……」

 

 感動。生身の人間が何も付けずに、空に浮かぶなんて。

 

「凄い凄い、お兄さん飛んでる!」

「後は素早く動けるかですね」

「まあ私達は皆飛べるんですけどね」

 

 低く見えていた皆の姿があっという間に同じになった。

 あぁ、神様はなんて不公平なんだ。

 

「……なぁ、今思ったんだけどさ」

「どうしたの、お兄さん?」

「皆って、どうやって飛んでるんだ?」

 

 思えば、それが当たり前なので深く考えた事は無かった。

 文と空は分かる。背中に翼があるし。

 

「実は私の尻尾はプロペラなんだ」

 

 嘘つくな女狐。

 

「フランちゃんは羽あるよね」

「わちきには傘があるよ!」

「傘で空飛べるのか?」

「こう、上に向かって息をフーッて」

 

 お前の体重どうなってんだ小傘?

 

「皆オナラで飛んでんのよ、細かい事はどうでもいいじゃない」

「じゃあアリス、お前はオナラで飛んでんのか?」

「たまに○○○が出ちゃうわ」

「死ね」

「弾幕ごっこの最中に、つい力んじゃってお尻か──」

「テメェも死ねカラス」

「お兄さん、私トイレ行きたくなっちゃった」

「ほら見ろ、話題のせいでこいしが催しただろ、何とかしろ」

「こ、こいしちゃん……どうしてもって言うなら、私が何とかして……」

「え、ホント、フランちゃん!?」

「何もするな馬鹿野郎トイレ探して来い」

「大丈夫だよお兄さん……私、こいしちゃんの物なら全部受け止めて」

「止めろって言ってんだろ吸血鬼」

「トイレなら心配なく、私が他の奴等のテリトリーではない場所を探しに行って来ます!」

「本当、モミー!?」

「お前は犬になる気か!?」

「て言うか、ちょっと飛べばすぐ家に戻れるじゃない」

 

 アリスのこの一言で、この場にいた全員が顔を見合わせた。

 

「……行ってくるね」

「……おう」

 

 アリスの奴、昔と比べたら随分とまともになったものだな。

 

「ったく、私はスカ○ロは専門外なのよね……」

 

 あ、さっきの無しで。

 

「……チッ」

 

 え、今フラン舌打ちしなかった!?

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、俺の弾幕ごっこの特訓が始まった。

 アリスの糸に操られながら、借り物のスペルカードで弾幕を出す練習を何度も繰り返す。仕方ないじゃん、俺魔力とかそーゆー類いの力無いし。

 

 そして、とうとうその日が訪れる。

 



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紅霧異変の皮を被った何か

 ステージが進む度に内容が破綻して行きます。








 お兄さんの出番はありません(まさかのネタバレ)


 stage1

 

 夜の森、そこに空飛ぶ人影が二つ。

 博麗霊夢と霧雨魔理沙。二人は再び紅魔館からちょろっと出た紅い霧を止める為、高速で空を飛んでいた。

 二人の思いはただ一つ、幻想郷の平和を守る事!

 

「待て!」

 

 その二人の前に現れたのは、宵闇の妖怪ルーミア。

 彼女は一体何の為に二人を呼び止めたのか!?

 

「紅魔館はあっちだ!」

「あらそう」

 

 激しい戦いを終えた二人は、新たな想いを胸に抱き道を進み出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 stage2

 

 道を急ぐ二人の前に突如、霧が現れた。

 そう、ここは霧の湖。年中霧に覆われ、通る者の視界を酷く塞ぎ込む危険地帯である。数多の者がこの場所で道を間違え、行方を眩ましていった。(嘘)

 

「そこの二人、待て!」

 

 突如、霧の中から二人の前に立ち塞がる一人の少女が!

 

「二人とも! アタイと勝負しろ! アタイのこのスーパーサイキョーパワーでカチンカチンのコチンコチンに──」

「なあ霊夢、喉乾いたし氷溶かしてジュース作ろうぜ」

「良いわね、まあ私はかき氷でも構わないけど」

「──し……ようと、思ったけど……アタイ今日は忙しいから帰る! じゃあな!」

 

 こうして二人は、湖を突破して紅魔館へ。

 

 

 

 

 

 

 stage3

 

 そんなものは存在しない。

 

 

 

 

 

 

 stage4

 

 紅魔館の中へと突入した二人は、大図書館にて足止めを食らってしまった。

 なんとそこには、レミリアの親友である魔法使い、パチュリー・ノーレッジが潜んでいたのである!

 

「ふふふふふ、さあ、私の触手魔法の餌食になりなさい!」

 

 パチュリーが魔法を唱えたその時、二人の回りからピンク色でヌメヌメテカテカした触手が現れる!

 

「イヤァァァ、助けてぇ!」

「な、霊夢ぅ!」

 

 なんと、霊夢が逃げ遅れて触手の群れに捕まってしまった!

 どうなる主人公! 二人の冒険はここで終わってしまうのか!? このまま二人は触手達に《規制》されてしまうのか!?

 

「……なぁ霊夢」

「助けて魔理沙ぁ、このままじゃ私は服を全部剥がされてまるで野獣の様な触手に誰一人お嫁に貰ってくれなくなってしまうような仕打ちを受けてしまうわ!!」

「……お前、賄賂でも貰ったのか?」

「……………………な、何の事かしら?」

 

 図星である。

 

「いやだってお前、自分から触手に突っ込んでったじゃん」

「そ、それは……引き寄せられたのよ、謎のパワーで」

「何が謎のパワーだよお前明らかに変態化したか何かとしか考えられねぇよ!」

「仕方ないでしょ!! 四面辺りでどっちか消えないと残り半分貰えないし展開的にメンドクサイからって言われたのよ!! グダグダ言ってるとテメェの顔面に夢想封印喰らわすぞカスコノヤロォ!!」

 

 逆ギレである。

 

「もういいよお前触手に《規制》されてろ」

「ったく、解れば良いのよ。さぁ、この私二度と異変解決に行けない位にぐちゃぐちゃに《規制》しなさい! その他にも《規制》やら《規制》、更には《規制》しても構わないわよ!」

「その触手がするのは足つぼマッサージよ」

「嘘!? そんな事されたら私……あ、いや、ヤメ……あぁ、そこは、そこはらめぇぇぇ!♥」

 

 最早何をしてるのか。

 

「さあ、これで残るは魔理沙、ただ一人よ!」

「そう言えばさ、この前にとりが妖怪の山にある川でイソギンチャク見付けたってさ」

「イソギンチャク!? イソギンチャクって、あの外の世界にいる触手がウネウネしてるあの!? マジで!? ちょっと言ってくるわ!!」

「…………バッカだなアイツ」

 

 こうして魔理沙は一人、大図書館を抜けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 stage5

 

 こうして唯一無二の親友であり戦友でもある霊夢を失った魔理沙は、孤独と共に足を踏み入れる。

 異変の首謀者、最大の敵が居座る最深部へと。

 

 ──その悲しみを、力へと代えて。

 

「いやナレーション、私そんなに悲しんでないぞ」

 

 え、そう? じゃやり直そうか?

 

「別に良いよもう、あんま突っ込んでるとキリないし。でも一つだけ良いか?」

 

 何?

 

「何で3面抜かしたんだ? 可哀想だろ、あの……えっと…………誰、だっけな……香港?」

 

 モンゴルじゃなかったっけ?

 

「だっけ……ま、いっか。んで何でモンゴルの出番抜かしたの?」

 

 いやだってさ、モンゴルが最後に出てきたの随分前だし、何も考えずに世紀末の覇者的なキャラにしてみたけどあれ改めて見てみるとそんな面白く無いと思うんだよ、個人的にさ。

 

「お前の自業自得だろ」

 

 あ、今思ったんだけどさ、最近俺銀魂一から見ててさ、モンゴルのキャラを万事屋のアルアル娘に変えようぜ!

 

「ダメに決まってんだよ!! まずここに書いた時点でおしまいなんだよ!! それにそんな事したら絶対苦情来るって、モンゴル好きな奴から『何だアイツ本当は夜兎族だったのかよ』って言われるって!!」

 

 別に良いだろ、んなもんどーだって。

 

「お前な、この作品のタイトルから何からテキトーだし読者様もある程度分かってくれてるから何とかなってるけど、本来ならアウトだよ! バリバリのモリモリでアウトだよ! もしも誰かが運営に通報したら確実に消されるよ!!」

 

 運営なんて怖くねぇコノヤロー、かかって来いやテメェ! どうせパソコンの前で尻掻きながら小便漏らし「止めろそれ以上言うなぁぁぁッ!!!」

 

「早く入って来いよテメェらぁぁ!!!」

 

「あ、ヘミリア」

「へじゃねぇよレだよヤンデレ野郎テメェら何時までウダウダしてんだよさっさと入って来いよぉ!!」

 

 そうカッカすんなってヘミリア。

 

「だからへじゃないっつってんでしょうがぁ!!」

「それによヘミリア、私はもうヤンデレじゃないぜ」

「何度言わせるのよへじゃないわよ!」

「そんな細けぇこたぁ別に良いんだよ」

「良くないわよ私の人権を踏みにじってんのよ!」

 

 お前人じゃねぇだろ。

 

「あ、よく考えたらそうだったわね」

「何だよったく、人騒がせな奴だな」

 

 んじゃ、俺は銀魂の続き見てくるわ。

 

「待て、アンタが消えたらこっから先は会話文しか表示されなくなるのよ。もう少し我慢しろ」

「てか魔理沙、あんたいつの間にヤンデレじゃなくなったのよ」

「だってよ、私確か4話辺りに出てからずっと出てないんだぜ? そりゃ性格変わるぜ」

 

 ホントは設定変えたかっただけなんだけどさ。

 

「ダメだコイツ、都合から何から全部喋ってやがる」

「ホント、ネタじゃなかったら終わってるわね」

 

 良いじゃないの、個性って奴だよ個性。

 

「そーゆーのは個性って言うんじゃねぇよ」

「て言うかstage5の筈なのにこうして部屋の前でグダグダ話してて大丈夫なの? 咲夜多分キレてるわよ? 魔理沙の前にナレーターがバラバラにされるわよ?」

 

 え、マジ!? 超怖えぇ!! 嫌だよ、中入りたくないよ、もう帰ろうよ。道中でヘミリアにヤられてゲームオーバーで良いじゃんもう。

 

「だからレよ、レ!」

「そんなんで良いのか、ホントに?」

 

 良いんだって、思い出してみろ? 紅霧異変始まったのだって、元を辿れば俺が始めてみたいなぁって思ったからなんだからさ。もういいんだよ終わりで、はい解散!

 

「けど、一応stage6まで行った方が良くないか? やっぱ道中でやられたって言うのは格好つかないぜ」

 

 仕方ねぇな……俺が考えてやっから。つー訳でヘミリア、そこで死ね。

 

「直球過ぎて逆に清々しいわ、てか私はラスボスよ。stage5は咲夜だって言ってんでしょ。私の部屋で待ってるのよ。RPGでよく見る王様の近くにいる大臣の様に」

 

 んじゃもうstage5は無かったっつー事で。

 

 はいクリア! stage6突入!

「それで良いのかよナレーターぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 stage6

 

 僕たちの戦いはこれからだ!!

 

 『完』

 

 

 

 

 




 
 stage EX

「…………なぁアリス」

「…………何よお兄さん」

「……俺達さ、ここに来てどの位経つか分かるか?」

「……二、三ヶ月位じゃないの?」

「…………来ねぇな」

「そうね」

「……何時まで入ればいいんだろうな、この地下室に」

「私は何時までも居られるわ、お兄さんが一緒なら♥」

「……そう」

「……」

「……」

「……」

「…………来ねぇな」

「…………来ないわね」

「何でこんなに来ないんだよ……」

「……もう終わってたりして」

「……そんな事言うなアリス、不安になるだろ」

「本編は全部終わってて、後はもうあとがきやら何やらに押し付けられたり……」

「…………まさか、な」

「……そう、ね。そんな事あるわけ無いわよね!」

「ああ。もう少し気長に待ってるとするか」

「それじゃお兄さん、待ってる間に私と愛の乗馬レッスンでもしましょ?♥ 私が騎手で、お兄さんが種馬ね♥」

「テメェが馬やれ」


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そして平穏な日々へ

 今回そんな面白くないッス。
 ただし来訪者あり。


「ねぇねぇ山本」

「誰が山本だお兄さんだよお兄さん」

「結局、あの異変は何だったの?」

「知らね」

 

 お兄さんの家。

 相変わらず、多くの住人達がひしめきあっている。

 そんな中、日向で寝ているお兄さんとこいしの二人。

 

「しっかし暇だな」

「お兄さん、最後に配達行ったの何日前?」

「覚えてねぇよ」

「お兄さんの仕事って何だっけ?」

「……もう、俺ヒモ化してるな」

「ヒモだね」

「仕方ねぇだろ、俺が行くより文とかモミーとかお空さんとか藍が行った方が何倍も何十倍も速いんだから」

「……だね」

 

 二人でダラダラと愚痴っていた。

 

「ただ今帰りました~」

 

 そこに、文が配達から帰ってくる。

 

「おかえり、今日は十分もかかったな」

「安全第一ですから。それではまた行ってきますね」

「今日も『駕籠(かご)』か? 随分と働くな」

「速いのが取り柄ですからねぇ。それに私、結構人気あるんですよぉ」

 

 自慢げに鼻を鳴らす文。

 最新型のカメラを買う為に、最近始めた駕籠の仕事。要は人を運ぶのだ。

 天狗特有の力と速さであっという間に目的地へ運ぶ文の駕籠は、時間の無い者にとっては非常にありがたいものなのだ。

 

「それでは、行ってきまぁす!」

 

 あっという間に、文の姿が空の彼方へ。

 

「行っちまったなぁ……」

「貴方の事は、ずっと……ずっと忘れない!」

 

 何言ってんだお空さん。

 

「って、何時から居たの!?」

「さっき洗濯物を干し終わったから、今来たばっかよ」

「あ、そう」

「それにしても寂しいわ……最近文さん相手にしてくれなくて……疼いてきちゃう♥」

 

 うるせぇよ百合女。

 

「お兄さん、たまには相手してよ♥」

「しねぇよ、てか心読むなって。狐でも誘ってろ百合女」

「お兄さん……はっきり言っておくけど……私はバイよ♥」

 

 だからどうした。

 

「因みに文さんもバイよ♥」

 

 もうどうだっていいわ。

 

 

 

「ねぇねぇ、お兄さんも一緒にカルタやろうよ!」

「カルタ?」

 

 突然こいしに引っ張られる。

 向かった先では、フランと小傘の二人が座って待っていた。

 

「それじゃ……犬も歩け──」

「とりゃ!!」

「うぉ、小傘早ッ」

「あ、来た来た、二人とも早く!」

 

 仕方なく、俺も一緒に参加する事に。

 読み上げるのは交替してやる様だ。

 さっきはフランが読んでいたので、今度はこいし。

 

「いくよ……二階から目──」

「はい!」

「お、また小傘か……」

 

 どうやら、皆の中では小傘が一番瞬発力が高いらしい。

 次は小傘だ。

 

「言うよ……駆逐してや──」

「とぅ!」

「あ~、こいしちゃんにとられちゃった」

 

 ……ん? 駆逐?

 

「はい次、お兄さん読んで」

「あ、ああ」

 

 そして、詠み札を渡される。

 

「いくぜ……夢じゃないあれもこ──」

「やッ!」

「おお、フランちゃん」

 

 てかこれ、ことわざカルタじゃねぇの?

 

「じゃ、次は私ね」

 

 こいしが札を詠み始めた。

 

「その手でドアを──」

「とりゃ!」

「あ、また小傘ちゃんに取られた~」

 

 そして、次はフラン。

 

「祝福が欲しいのなら──」

 

「一人で──」

 

「泣きましょう──」

 

「そして~か~がや~く」

 

「「「ウルトラソ──」」」

「言わせねぇよバカ野郎ッ!!!」

「え~」

「え~じゃねぇよこういうのは言っちゃダメなんだよなんかもう色々な意味で!!」

「じゃあ何ならいいの?」

「何って……自分で作った歌とか」

「わきち歌います!」

 

 何故か小傘がしゃしゃり出てくる。

 

「カッパッパッカッパッパッニーットリー♪」

「…………」

「…………」

「…………」

「え、何で皆無反応なの!? わきち寂しいよ!」

「色々と中途半端だし」

「にとりだし」

「きゅうりだし」

「間も悪い上にセンスも微妙だし」

「わきちわきち言ってキャラ付けようってのが見え見えだし」

「ヌメヌメしてるし」

「皆酷いよ! わちき……わちき、トイレ行ってくる!」

 

 勝手に行け。

 

 

 

「皆、ご飯が出来たぞ!」

 

 ふと、藍が皆を呼ぶ。

 居間へ向かうと、エプロンを外している藍がいた。

 

「今日のご飯はキツネご飯にキツネ味噌汁、キツネの塩焼きにキツネの浅漬けだ」

 

 油揚げと言え物騒だろ。

 つーか毎食毎食油揚げ多いんだよ。

 何だよキツネの浅漬けって、喰うまでもなく不味いだろ!

 

「また油揚げ~?」

「たまにはさつま揚げ食べたいよね、フランちゃん」

「私はこいしちゃんを食べたいな♥」

「お兄さん、フランちゃん壊れちゃったから、トンカチで頭叩いて治して~」

 

 こいし、そりゃ無理だ。

 

「私、たまには焼き鳥がいいです」

 

 お空さん、アンタがそれ言っちゃダメだよ。

 

「幻想郷で一番速い烏の焼き鳥なんて想像しただけでヨダレが……」

 

 何ちょっと、対象が限定されてるよ、それ一人しかいないよ。

 てかそれ本来の意味での食べたいじゃないよね? いつの間にSMプレイに目覚めたの?

 

「文句言わない! 家計が厳しいんですから!」

 

 いやいやいや確かに余裕ある訳じゃないけど毎食油揚げにしなきゃいけない理由ないよ!?

 つーか油揚げそんなに安い訳でもないよ!?

 

「……あれ、モミーどこ行った?」

「ホントだ、モミー居ないや」

 

 文は駕籠の仕事で居ないから分かるが、気が付けばモミーが居なくなっていた。

 一体、何処に行ったのか?

 

「誰かぁ、助けてぇ!」

 

 突然、外から椛の叫び声が。

 俺達は急いで玄関を開く。

 

「おうおうおう何だテメェはさっきからクンクン臭い嗅ぎやがって、ぶっ殺すぞコノヤロウ!」

「ご、ごめんなさい、もうしませんから!」

「なら言ってみろテメェ『申し訳ありませんでした橙様』ってな! 勿論土下座だぞ!!」

「も、申し訳ありませんでした、橙様……」

「声が小せぇ!!」

「申し訳ありませんでした橙様ぁ!!」

「うるせぇ!」

「なんで!?」

 

 ……グラサン掛けた猫耳少女とか萌えねぇ。




 グラサン付けた猫耳は萌えないけど、猫耳付けたグラサンならどうよ?


 吐き気がするね(  ̄▽ ̄)


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