不老不死の幻想入り (人生脇役)
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幻想入り
プロローグ


ルート・フォンク
主人公。男の娘。
不老不死。

F-R
Fighter-R。


不老不死。その言葉に惹かれる物は、沢山いるだろう。

歳を取らず、頑丈で、何をされても死なない肉体。

しかし、現実には、それは苦しみと等価だろう。

俺は、不老不死だ。呪いを受け、そうなった。

人は、自分と違うものを、恐れる。増して、不老不死など、恐ろしいだけだろう。俺は、排除されようとしている。

今も、俺をなんとか殺そうとするやつを、逆に殺しているところだ。

「がっ」

最後の敵の頭を撃ち抜く。

俺は周りを警戒する。人の気配はない。死体だけだ。

雨が降り続いている。

「……これから、どうするかな」

俺の居場所は既にない。どこにも。

「……流浪うか」

行く宛はないが、足はある。

F-Rを呼び出す。今まで乗ってきた戦闘機。

すぐに上空から、特徴的なコクピットをもつ白い機体が、降りてくる。

F-R。宇宙で回収した、どこのものとも知れない戦闘機。

慣性制御を利用した、高い機動性。小型の永久機関による、無限の航続距離と、空間跳躍機能。高い威力をもつ、レール・マシンキャノン。極めて汎用性の高い、フレキシブルレーザーユニット。

コクピットには、ゴミなどから食料や消耗品を作り出せる装置や、洗浄ユニット、サバイバルキットを備え付けてある。一人での長旅にそなえて載せた。

キャノピーを開け、乗り込む。

機体を上昇させる。雲の上へ。

とりあえずは、どこか落ち着ける場所。雨が降っていない場所へ、だ。

雲のないところまで、機体を飛行させる。

眼下に草原が見えた。ランディングギアを降ろして、垂直着陸。

キャノピーをあけ、降りる。ボックスから、着替えを出す。

周りを確認してから、着替える。脱いだ服は洗浄ユニットへ放り込む。

体はすっかり乾いている。水筒を取り出して、水を飲む。

キャノピーを閉めてから、F-Rの横に腰を下ろす。

ふう、と息を吐き、空を見上げる。雲の白と空の青が美しい。

吹いてきた風が、草原の草を揺らす。さぁー、と。

「のどか……だな」

呟きながら、荒んでいた自分の心が澄みわたっていくのを感じる。

空か。じっくり眺めた事はなかったな。こんなに綺麗なものだとは。

俺はしばらくの間、空に見とれていた。

 

 

 

F-Rに乗り込み、キャノピーを閉じる。

「むぅ……」

行き先は、決まらない。

目指す場所なんて、考えつかない。

F-Rを離陸させる。F-Rか。旅の相棒にそれは、いささか素っ気ないな。何か、名前を付けようか。

俺は、行き先を迷っている。

そう考えると、「ストレイド」という単語が浮かんできた。

ストレイド。随分前にやったゲームに出てきた言葉で、意味は確か──

「道に迷ったもの、か。」

これでいいか。とりあえず、機体識別名を変更しておく。

あとで機体にも書いておこうか。

スロットルを操作し、加速させる。

行き先は、考えるのを止めた。

無くてもいい。旅なんだ。気の向くままに流浪えば、いいさ。

「空間跳躍用意」

〈jump ready〉

まずは、この星から出る。ジャンプ先は、引力圏の外。

「空間跳躍、開始」

〈jump start 10s………5、4、3、2、1 〉

〈go〉

そして、機体は跳躍に入る。と、同時に、俺は微かな違和感を覚え、次の瞬間、意識が消えた。

 




次から原作キャラ登場。


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花畑

少しおかしいところがあったので修正しました。


長い間、気絶していたような気がする。

気がついて、状況を確認すると機体は空を飛んでいた。

跳躍開始しなかったかと思ったが、空間図によると、ここは俺のいた星ではない。

眼下をみる。すると、一面黄色い場所が、あった。よく見ると向日葵畑だ。

取り敢えず、着陸しよう。

機体を操作して、向日葵を傷つけないよう、端の草原に降ろす。

キャノピーを開け、降りる。

周りは、草原と、向日葵や、他の花の畑だけだ。

だが、花畑に、現実離れしたものを感じた。

ストレイドの横で腰を下ろす。

この花たちは、綺麗すぎる。

現実のものとは思えないが、不気味さは感じない。

癒される風景だ。

しばし、眺める。

ふと、俺は強い気配を察知する。近寄ってくる。

俺は立ち上がり、その気配に向き直る。

そこにいたのは、綺麗な少女だった。緑の髪を持ち、日傘をさしている。

花が美しければ、人間まで美しいのか、ここは。

「こんなところで、何をしているのかしら?」

「ここが綺麗だから眺めていただけさ」

「そんな物で来ておいて?」

ストレイドの事か。

「まぁ、そうだな。綺麗だったから、降りただけだ」

「……変わった人間もいたものね」

「変わった、か。俺は変わっているか?」

少女に訊く。

「そうね。変わってるわ。あなた───」

「………」

「見た目と、雰囲気が剥離してるもの」

見た目と、雰囲気が剥離している、か。

「どういうことだ?」

「強そうな雰囲気が出てるのよ、あなた」

突然、少女は殺気を出してきた。

少女が出すにはいささか不似合いな、鋭く、強い殺気。

しかし、どうということはない。

「やはりね。この殺気を受けて平然としている人間なんて、そうそういないわ」

「散々死線を掻い潜って来たからな」

殺気なんて、飽きるほど浴びている。

「やめてくれないか?俺は争う気はない」

「……わかったわ。」

殺気が止む。

「聞いてもいいかしら?」

「何を」

「あなた、何者?」

何者か、と問われると、困る。今の俺は、どうなのだろうか。

いや、考える程のことではなかった。俺は……

「しがない旅人、さ」 

「へぇ、どこを目指しているの?」

こんどは行く先を訊ねられた。

「目指す所なんて、ない」

「あら、そう」

少女は、何故か納得したような感じだ。

「俺からも質問がある」

「あなたは、人間ではないだろう?」

「………あなた、やはり只者ではないようね。どうしてそう思ったのか、聞いていいかしら?」

「あんなに鋭い殺気を放つ貴方が、人間とは思えなかったからな」

並大抵の人間なら、殺気だけで金縛りをかけられるのではないだろうか。

いや、殺気で殺せるかもしれない。

「ふうん。まぁ、その通りよ、私は妖怪。でも、そんな殺気を受けて眉一つ動かさないあなたは、どうなのかしらね」

「俺はただの人間さ。戦い慣れしているだけの」

いや、実際のところ、普通の人間とは言えないが。

「一つ教えてあげる」

「なんだ?」

「ここは、幻想郷。人間と妖怪の共存する場所よ」

「幻想郷?」

他愛の無いことのように言うが、俺には重大な情報だ。

「有難い情報提供だな。礼を言う」

そう言い、俺は少女に背を向ける。

「待ちなさい」

「ん、何か?」

顔を少女に向ける。

「名前を聞いていなかったわね。私は、風見幽香よ。貴女は?」

自己紹介された。

「俺は、ルート・フォンク」

「ルート・フォンクね。いつか、手合わせ願いたいものね」

その少女は、戦闘狂の気を覗かせる表情で、言った。

「………できれば、勘弁してほしいな」 

どうやら、厄介なやつに出会ってしまったらしい。

俺は、ストレイドに乗り込み、飛び立った。




どうでしたか?
キャラ崩壊してませんか?
違和感などありましたら、是非ともご指摘下さい。


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設定

もう少しシンプルにしたいけど、最低文字数の関係でくどいです。
読まなくても特に問題はありません。


ルート・フォンク

主人公。男。外見年齢17才。実年齢30。

格闘、射撃、狙撃など、超人的な戦闘力を持つ、元傭兵。やっていたことはレイヴンに近い。

人間だが、呪術師にかけられた呪いにより、不老不死。

ものすこく頑丈。

仕事柄、気配察知したりする能力は高い。気配で位置が掴めるほど。

ある種の遺伝子的異常があるために、生まれつきで容姿が美少女。

慣れたふりをしているが、今もかなり悩んでいる。

年齢の割りには、意外と精神年齢が低い。動揺するとネットスラングが出たりする。

また、物語上ほぼ意味はないが、出身は地球そっくりな文化、言語を持っていて、技術が遥かに進んだ星。つまり異星人。

 

 

PaTaA

パター。パーソナルタクティカルアームズの略。

ルートの愛用する拳銃。

単発式光弾銃、機関光弾銃、光線照射銃の機能を持つが、拳銃。

相手を麻痺させる非殺傷ビームも撃てる。

ルートは二丁持っているが、基本的には一丁しか携行していない。

 

エネルギーナイフ

柄からエネルギーの刃を発振する。

ナイフと言いつつ、刃は長くでき、実質的にはエネルギーソード。

エネルギー刃は、エネルギーを凝縮して実体刃としての機能を持たせることが出来る。もっぱら相手の剣等を防ぐのに使う機能。

 

 

 

力学制御装置

ルートが常に装備しているもの。その名の通りのチート装置。とはいえ、個人用サイズなのでなんでもできるわけではない。

推進力を制御することによりルート単体での飛行を可能とするだけではなく、広範囲に応用できる。変態機動もお手の物。越える時には音速も越える。

もしも売り出したら、惑星一つ買えるほどの値がつくと言われる程の希少品。

 

 

ストレイド(R-F)

ルートが乗ってきた戦闘機。宇宙空間から水中まで活動可。

名前はルートが即興でつけた。

宇宙を漂っていた異相次元戦闘機が元。

空間跳躍機能で、単独での銀河間航行が可能。

改装時に機関の大幅小型化がなされ、旅の用意が詰め込めるほどにペイロードがある。

ある程度自立行動が出来る。ルートは基本的に上空に光学迷彩作動で待機させておき、必要になったら呼び出す。

大抵は荷物の出し入れでよびだすので、実質飛行倉庫。

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷側に関して

 

文化、特に服などは、幻想入りした現代人によってか、最近の洋服も流通してます。

通貨は、原作そのままです。私は、明治時期の通貨について理解不足なため、具体的な描写は省かせていただきます。

異変などは、いまの所未定、というか原作に詳しくないので書けません。

とりあえず、時間軸は全ての異変終了後です。

 

 




批判コメントも大歓迎ですが、しっかり悪い所を指摘していただけると嬉しいです。



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人里へ

ストレイドで飛び立って数分。

眼下に、町、いや、里と言ったほうがいいか。

とにかく、それが見えてきた。

見たところ、壁のようなもので周りを囲われている。

入口的な物もあった。

少し離れた所に、機体を降ろす。

機体から降りて、最低限の荷物を持ち、機体の光学迷彩を作動させてから、スタンドアローンで離陸させる。

これで、呼び出したらすぐに来るだろう。

さて、行くかと考えたところで、でかい気配を察知する。

「む、近いな」

なんだ、この気配。嫌な予感がする。

この里ではなく、そっちに行ったほうが良さげだ。

取り敢えず、そちらへ進む。

まだ真っ昼間だが、変な感じだ。

その気配は、森の中にあるらしい。そのまま踏み込むと、もうひとつの気配が。人里あたりからすでに察知できた気配より弱いあたり、襲われているかもしれない。そもそも、その大きい気配も近づくにつれ、沢山の気配だということがわかった。

取り敢えず、駆ける。

すると、子供に何やら変なのが群がっているのを見つけた。妖怪、なのだろうか。

見たところ、怪我などはしていない。遊んでいるうちに迷い混み、妖怪に襲われそうに、といったところだろうか。間に合ってよかった。

駆け寄ってその子供を、抱えあげる。周りに目を走らせても、持ち物らしき物はない。

来た道を、駆け戻る。行く手を塞ぐものは、パターの非殺傷ビームで無力化する。

人里には、あまり苦労せずに戻れた。

「ふう」

抱えていた子供をおろす。

「あ、あの」

その子供が、話しかけてきた。

「ん?」

「た、助けてくれて、ありがとう」

おお、偉いな。しっかり礼を言えるとは。

「どうってことない」

そういうと、その子は、ありがとう、ともう一度言って、人里のなかへ走って行った。

「さてと、次は……」

後ろに向き直る。

さっきから、

「居るんだろう?出てきたらどうだ?」

すると、なにもない空間に隙間のようなものが開き、これまた綺麗な少女が姿をあらわす。金髪に白い肌。

「気づいたのね」

「ああ。さて、何の用かな?」

「貴方、外来人?」

「ああ、たしかにここではないところから来たな」

「どうやって来たの?」

「空間跳躍さ」

「空間跳躍?」

俺は、その女性に空間跳躍についての説明をする。

「まぁ、瞬間移動をする技術とでも考えてくれ。」

「ふうん、それは、結界に何の影響も無しにここに来られるの?」

「結界がどういった物かは知らないが、場所から別の場所への直接的な移動だからな。間に何があっても関係ないんだ」

今回は、一種の事故だが。

「つまり、出ようと思えば出られる、ってこと?」

「そうだ。最も、今のところ出る気はないけどな」

「………」

なにやら、品定めするような目で見てくる。

「とりあえず名前を聞こう。俺はルート・フォンクと言う。貴女は?」

「私は八雲紫」

少女は、素直に名前を教えてくれた。

「心配せずともいいさ。俺は、ただここに旅してきただけの人間の旅人だ」

「不老不死の人間?」

そう言われ、俺は少し驚いた。見ただけで看破されたことはないからだ。

「よくわかったな、たしかに俺は不老不死だ」

「何故、ただの人間が不老不死なのよ」

「そういう呪いをかけられたからだ」

「人を不老不死にするなんて、随分と凄いことをするものね」

「ああ、全くだ。最も、そいつは呪いをかけてすぐに死んだがな」

死ねない苦しみを味わうがいい、と言っていたな。

「貴方、霊力とか使える?」

「霊力?知らん。よくわからん力なら使えるが」

「どういうことが出来るの」

「身体能力の強化とか、かな」

後はエネルギー弾のようなものも出せる。

「霊力よ、それ」

八雲紫は納得したように言う。ここではこの力の概念があったのか。

この力、いざとなれば飛行だってできるが、そっちは個人用力学制御装置でやっているため、滅多に使わない。

「貴方、子供を助けていたわね」

「まぁな」

「貴方の武器は気絶させるだけ?」

「いざとなれば殺すことも出来る」

「そう」

八雲紫は少し考えると、こう言ってきた。

「じゃあ、私はお暇するわね」

「ああ」

八雲紫は隙間に入り、姿を消した。質問攻めだけか。何が目的だったのか。

しかし、掴み所のない雰囲気の少女だった。

老練な感じがしたから、妖怪なのは確かだろうが。

「………今度こそ、行くか」

俺は妙な疲れを感じながら、人里のなかに向かった。



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人里内にて

人里は、和風な、というよりは、時代劇そのままのような街並みだった。

その癖して、人々の格好は、和服だったり洋服だったりと、いろいろいて、俺からすると奇妙な風景だった。

そのおかげで、あまり浮かないで済んでいるのだが。

とりあえず、換金できそうな所はないだろうか。

あれば、ストレイドに積んでいるレアメタルとかを金に出来るのだが。

仕事柄、どこに行っても希少価値のある物品という形の財産を、必要に応じて通貨に変える、と言うことをしていた。

が、通貨に変えられなければ意味が無くなる。

「あ、あの人!」

突然、大声が聞こえた。子どもの声。聞こえた方を見ると、さっき助けた男の子だ。

青い服に銀髪の少女の手を引いて、こっちに歩いてくる。

「先生、このお姉ちゃんが助けてくれたんだよ!」

「え」

お姉ちゃん、だって?また、女に間違われた?

「貴女か。この子が助けてもらったと言っていたので、私からもお礼を言いにきたんだ。私は……」

「あ、いや、ちょっとまって」

「?」

首を傾げる少女。

とりあえず、俺は男の子に言う。

「あのな?俺は男だから、お姉ちゃんは止めてくれないか?」

「えっ」

「えっ」

驚愕された。少女にまで。

「そ、それは、本当、か?」

少女が話しかけてくる。ああ、この子確実に動揺してるよ。

「本当だ」

「それは……失礼、私も女だと思っていた」

うん、それはさっきの反応でよくわかったよ。

「とりあえず、自己紹介でもしよう。俺は、ルート・フォンクと言う」

「私は、上白沢慧音だ。この里で、寺子屋の教師をしている」

上白沢慧音、ね。寺子屋の教師か。さしずめ、男の子の担任、ってところか?クラス分けされてるかも知らないが。

「この子を助けてくれたそうだな。ありがとう」

「当然のことをしたまでさ。それよりも………」

「何?」

「俺は、そんなに女に見えるか?」

「少女にしか見えないな。男の格好をしていても、女だと思ってしまった」

「………ぁー」

久しぶりに性別を間違えられたので少々混乱していたが、この人の言う感じだと、もしかして風見幽香とか八雲紫とかにも女だと思われているんじゃないか?

「まぁ、なんだ。俺は、まだ幻想郷に来たばかりでな。色々教えてくれると、助かる」

「わかった。わからないことがあったら、聞いてくれ」

「ああ、頼むよ。上白沢さん」

「慧音と呼んでくれて構わない」

「ん、そうか。なら、慧音さん」

「ああ」

「早速だが、金とかそういう類の物を換金できそうな所を知らないか?」

「それなら、香霖堂という店に行くといい。あそこはいろんな物を扱っているからな」

「それは、何処にあるんだ?」

「ここから西に行けばいい」

「わかった。教えてくれてありがとう」

「ああ」

「では俺は行くよ。また会おう」

そう言うと、俺は人里の外へ向かう。

香霖堂か。書店にありそうな名前だな。

人里の外に出て、ストレイドを呼び出す。

降りてきたストレイドに乗り込み、西に機首を向けた。



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香霖堂

香霖堂を目指し西へ、飛ぶ。

道のような物が人里から続いているので、それに沿って飛ぶ。

しばらくすると、建物を見つけた。

近くに降りる。

ストレイドから降りて建物を見ると、「香霖堂」と書いてある看板、だろうか。それがあったので、目的の店だとわかった。

扉を開けて、中に入る。

「む」

ちょっと埃っぽい。

「いらっしゃい」

銀髪で眼鏡をかけた男性に声を掛けられる。ここの店主か。

「物を換金したいのだが……」

「換金ですか?」

「ああ」

それにしても妙な服を着ているな、この人。和服といえば和服だが、変わった模様がある。

「金を換金してほしい」

「金、ですか」

「そう、これだ」

持ってきた鞄から、金の塊を出す。

「これは………かなりの価値になりますね」

煙草の箱ほどの大きさの金が10個ほど、だからな。

「少し待っていて下さい」

そう言って店主は奥に引っ込む。金を用意してくるのだろう。

俺は店内を眺める。

色々あるな。

炊飯器やら、ストーブやら、ナイフやら。

とにかくごちゃごちゃとしていて、品物もバラエティ豊かだ。

「……む?」

棚にある品物の中に、妙な銃を見つけた。 

サイズとしては大きめのライフルだが、普通の銃とは違い、グリップが高い位置かつ、後ろの方にある。持って指を伸ばしたら、その先に銃身があるかんじだ。グリップの下にも、伸びている部分がある。ストックはない。

見た感じ重心が前に寄っていて、持ちにくそうなことこの上ない。

が、持ってみると、以外と軽く、片手で十分に保持できた。

しかし、どうにも人が持つことを考えられた設計とは思えない。

第一、アイアンサイトがないのだ。

スコープのようなものもない。

センサーのようなものはあるが、これは使えない。

考えていると、店主が戻ってきた。

「ええと、このくらいの価値になります」

貨幣価値はあまりわからないが、数字の桁が多いので、それなりにあるだろう。

「それでいい」

「わかりました」

換金された金を受けとる。

「ああ、そうだ」

「なんでしょう?」

「この銃を外で試させてもらっていいだろうか?」

「唐澤弐式ですか、どうぞ」

許可がでたので、持って外に出る。

スイッチとセイフティらしきものを動かしてから、空へ向けて構える。

トリガーを引くと、特徴的な発射音とともに、光弾が発射された。

「む、これは……」

弾を見るに、かなり強力なものだ。

店内に戻る。

「これを買いたい」

レーザーライフルを店主に差し出した。

「わかりました。これくらいでよろしいでしょうか」

「それでいい」

金を払う。

「ところで店主さん、名前は?」

これからも訪れるかもしれないし、聞いておこう。

「名前ですか?僕は、森近霖之助といいます」

「俺は、ルート・フォンクと言う。あと、敬語は止めてくれないか?何かむず痒い」

「え?ああ、わかり……わかったよ」

店主、森近霖之助が敬語を止める。

「ところで、ここの品物は、何処で仕入れているんだ?」

「無縁塚と言う場所で拾っている」

無縁塚ね。覚えておこう。

「僕からも聞きたいことがあるんだが」

「む?」

「失礼だが、君の性別を聞いてもいいかい?どっちなのか判断がつけづらくてね」

「あー、俺は、男だ」

「男?」

間違えられるまでは行かないが、男なのが意外なようだ。相変わらずこの容姿は面倒臭い。

まぁ、悪人面なのよりはいいが。

「また来るよ」

俺はそう言って店から出る。

唐澤弐式ねぇ。なんか買ってみたはいいけど、あまり使うことはなさそうだ。威力がありすぎる。

まぁ、それはストレイドに仕舞っておくとして。

そろそろ、どう夜を明かすかも考えなければ。

時間は3時。

ストレイドに乗り込みながら考える。テントはあるし、野宿するか。

何はともあれ、買い物だ。

俺はストレイドを、人里に向けた。




霖之助が敬語を使っているのは
客商売なのだから愛想をよくするべきだろうか→まずは敬語で話すことから始めてみよう
という霖之助の思考の結果、という設定です。

3/29
指摘して頂いた誤字を修正しました。


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再び人里にて

今回東方キャラは一切出ません。閑話です。


再び人里に入る。

腹が減ったので、腹ごしらえできる店を探す。

蕎麦屋を見つけたので、入る。適当な席に座り、お品書きを見て、何を食べるか考える。

結局、普通のざるそばを頼んだ。

手を合わせてから、頂く。

箸で麺をつかみ、つゆにつけてから、すする。

「む」

美味い。久しぶりだからかもしれないが、今まで食べたことはないくらいに美味かった。

すぐに完食した。

勘定を払い、店を出る。

さてと。

人里を歩き、さっき見つけた店に寄る。色々な物が売っている店だ。

商品を見ていると、店主に声をかけられた。

「姉ちゃん、見ない顔だな」

「ああ、まだ来たばかりなんだ。あと、俺は男だから、そこのところよろしく」

「へぇ、そんな見た目で男なのか。変わってんな」

「よく言われる」

「来たばかりってんなら、上白沢先生には会ったかい?」

「ああ。子供を1人助けてな。それで」

「子供を助けたって、妖怪からかい?」

「そうなるな。小さい奴らだった」

「言葉も通じない部類のか」

「そうだろうな」

話しているうち、1つ思い付いた。

「店主、幻想郷の地図って、置いてないか?」

「地図?旅でもするつもりかい?」

「ああ」

「それなら、これがいいんじゃないか?」

店主が見せてきた紙。色々な場所への行き方や、道などが記されたものだ。

「お、これはいいな。幾らだ?」

「こんくらいだ」

代金を払い、受けとる。

「また来いよ」

店を出るときに、店主に言われた。

「ああ、ありがとう」

そう言って、店を出た。

さて、そろそろ寝る所を決めなければ。

人里のすぐ外にでもテントをはるか。それともストレイドの中で寝るか。

宿か何かあればいいのだが、今までそんな感じの建物は見つからなかったから、ないのかもしれない。

と、すれば野宿か。

そう結論付け、俺はいい場所を見つけるため、里の外にむかう。

 

 

少し人里の周りを歩き回り、結局入り口近くにする。

ストレイドに積んだ野宿道具を出さなければ。

呼び出したストレイドのキャノピーを開けて、ボックスから野宿道具をまとめて出す。

洗浄ユニットに入れっぱなしだった服も出し、畳んでボックスにしまっておく。

キャノピーを閉める。離陸しながら光学迷彩で姿を消すストレイドをみあげながら、できればどこかに停めておきたいのだがな、と独りごちた。

 

テントを建てる。

俺の持っているものは、全てが進化した科学の産物だ。テントも例外ではないが、組み立て方は昔ながらの物だ。

程なくテントが完成した。

寝袋などを中に置き、入る。

まだ外は明るい。しかし、疲れた。

寝袋には入らず、その上に寝転がる。

「………」

今日は濃い日だった。追っ手を殺し、旅に出て、異世界に来た。

これだけでこの疲れだ。これからどうなるのか。

考えるが、すぐに眠気に教われる。

このまま寝るのはまずい。夜、冷えるかもしれない。

もう寝てしまおう。そう考えながら寝袋に入り、すぐに意識は途切れた。

 




いるかどうかもわからない読者の皆様へアンケートです。
次回は妹紅が登場しますが、口調は原作よりのほうがいいでしょうか?
回答はメッセージでお願いします。
なお、回答がない場合男口調となります。
期限は3月3日までとします。
回答よろしく御願い致します。

3/29
確認してみたところ、コメントでのアンケートは禁止でしたので、メッセージにて回答をお願いします。
すみませんでした。


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藤原妹紅

もこたんINしたお。


目が覚めた。 

寝袋から出て起き上がり、テントの外に出る。朝の涼しい空気。

「ふあぁ。……んーーっ」

軽く欠伸が出た。

朝日を浴びながら、伸びをして体を伸ばす。

清々しい朝だ。

さて、人里に行くか。そう思いながら、ストレイドを呼び出す。

頻繁に呼び出しすぎか。荷物の出し入れは減らしたい。

テントなどを仕舞ってから再び飛び上がらせる。

見上げながら思う。あれじゃ体のいい倉庫だな、と。

 

 

「よう」

里に入って少し歩いた。現在時刻は11時。

茶屋で緑茶を飲んでいたら、突然白髪の少女に声をかけられた。見た目がいいやつが多いな、ここ。

「なんだ?」

少女を観察する。頭に紅白のリボン。裾の広いズボンのようなものを履いている。

特徴的なのは長い髪だ。不便ではないのだろうか、と思うほど長い。

「あんた?慧音が言ってた女男な外来人って」

女男、ね。あながち間違ってはいないな。

「まぁ、外来人なら、俺だな」

「へぇ、本当に男なんだ。変わってる」

「初対面のやつに、いきなり変わってる、か?」

「おっと失礼。私は藤原妹紅だよ」

「ルート・フォンクだ。よろしく」

「ああ、よろしく」

初対面なのにこれとは。気さくなやつだな。気楽でいいが。

「隣いい?」

聞いてきたので、頷く。藤原妹紅は隣に腰かけた。

「何故俺に声をかけた?」

問いかける。

「なにやら只者じゃない感じがするって慧音が言ってたからね」

「そうか」

今の言葉から察するに、こいつは慧音の友人か。

「で」

藤原妹紅は、こちらを見ながら言った。 

「あんた、戦えるの?」

「は?」

「いやさ、腰につけてるそれ、武器だろ?」

パターのことか。そういえばおおっぴらにホルスターで携行していたのに、誰にもそれを指摘されてないな。

「まぁ、そうだな。戦える」

ここではどうか知らんが、腕には覚えがある。

「やっぱりか」

「そうだ。……ところで藤原」

「あ、妹紅でいいよ」

「そうか。なら俺もルートでいい。で、妹紅、貴女は妖怪なのか?」

なにやら人間離れしたものを感じたので、問いかけた。呼び捨てをしたが、不思議と抵抗を感じない。

「いや、人間さ。どうしてそんなことを?」

「ここじゃ人間と妖怪の区別が見た目ではつけられんからな」

「ああ、確かにそうかも。でも」

「む」

「私は人間だけど、不老不死だ」

爆弾発言だ。いたのか、俺以外に。

「………俺もだ」

「は?」

わけのわからない、という妹紅の顔。

「俺も、色々あって、不老不死だ」

「………本当?」

「ああ」

妹紅が、顎に手を当て、考えるような仕草を見せる。

「……むぅ、これは予想外だ」

「そうだろうな。不老不死なんてそこらにはいないだろうし」

「そう、だから驚いた」

「こっちもだ。まさか不老不死の人間が他にいようとはな」

他にいるのは俺も予想していなかった。

「まぁ、そこは大したことじゃない」

「確かに、大したことじゃないんだけどね。……歳、聞いても?」

「30だ。そっちはもっと生きていそうだな」

「あら、勘いいね。私はもう1000は生きてる」

1000か。途方もないな。

「そうか、なら妹紅は人生の大先輩、ということになるな」

「気にしなくていいよ。柄じゃない」

「わかった」

何故か妹紅とは話しやすい。共通点があるからか。あと、妹紅の気さくな雰囲気故か。

「ところでルート。夜はどうやって越した?」

「里の入口近くで野宿だ」

「ああ、ここには宿はないからね。そこでなんだけど、慧音に相談してみたらどうだい?」

「む、何故だ?」

「慧音は人間好きでね。外来人にも優しいから、言えば部屋くらい貸してくれるんじゃないかな」

「ん、人間好き?」

人間ではないような言い方だ。

「あぁ、慧音は半妖なんだ」

「なるほど」

「とにかく、言ってみれば?」

「そうしてみるよ、ありがとう」

「ああ」

茶を飲み終わった。立ち上がる。

店主に、ごちそうさん、と声をかける。代金は払ってある。

「じゃあな」

と妹紅。それに対して俺は

「ああ、またな」

そう返し、歩き始めた。



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慧音の親切心

人里を歩く。妹紅にはああ言ったものの、俺は慧音がどこにいるか、とかそういうことは一切知らない。

「むぅ……」

なので、適当に歩き回っていた。

途中、昨日の蕎麦屋で昼食を食べ、今の時刻は2時。

「あ、いた。おーい」

再び妹紅に声をかけられた。その横には慧音。

「妹紅か。また会ったな」

「おう。それよりルート。慧音にまだ相談してないんだってな」

「寺子屋にいるかと思ったが、場所がわからなくてな。それで、慧音さん」

「ああ。妹紅から聞いたのだが、寝床もないそうだな。部屋を貸してあげるから、うちに来るといい」

むぅ。昨日会ったばかりの慧音に部屋を借りるのも何か気が引ける。だが、慧音本人が貸してくれると言っているのだから、いいか。

「……では、お言葉に甘えさせてもらうよ。すまんな、昨日会ったばかりなのに」

「謝らなくてもいい。困った時はお互い様、だよ」

そう言ってくれた。いい人だな、慧音は。

「ふむ、なら、何か俺に手伝えそうなことがあったら言って欲しい。少しでも礼がしたい」

「わかった、そうさせてもらうよ」

頷き、今度は妹紅に言う。

「妹紅にも礼を言わせてもらう。おかげで助かった」

すると、

「いいっていいって。同じ不老不死なんだし、何かの縁ってやつだよ」

「不老不死の者同士の縁、か。奇妙な縁だな」

と慧音。まったくもってその通りだ。

「では、改めてよろしく頼む。慧音さん、妹紅」

「ああ、よろしく。私のことも呼び捨てで構わないぞ?」

「よろしくな」

慧音と妹紅にそう返された。

ようやく寝床にありつけて、安心した。やはり寝るのは屋内のほうがいい。

「では早速だが、うちに案内するよ」

「ああ、頼む」

そして俺は、慧音について寺子屋へ向かった。

 

 

寺子屋はかなり大きい建物だった。

慧音曰く、この里唯一の寺子屋だとのこと。だとすれば納得だ。

そういえば今日は休日なのかと聞いたら、そうだと言われた。

寺子屋内の部屋の1つに案内される。

そこそこ広い部屋だ。

「ここを自由に使ってくれ」

「ああ、ありがとう」

「夕食の時間になったら呼ぶよ」

「ああ、それなら支度を始める時に呼んでくれ。料理は出来る」

「わかった」

慧音はそのままどこかへ行った。

俺は部屋に入る。襖を閉めて、座布団に座る。

「ふぅ……」

まさか部屋を貸してもらえるとはな。驚きだ。まぁ、ありがたいから口には出せないが。

そういえば……

「………」

慧音の頭に乗っている帽子。見たところ本当に乗っているだけだ。

何故落ちないのか。今度妹紅にでも聞いてみるか。本人に聞くのは何か駄目な気がする。

そう結論付け、少しの間ボーッとする。

あ、そうだ。この部屋は自由に使っていいと言われたのだから、荷物を置いておこう。ストレイドをいちいち呼び出すのもあれだし。

だがまぁ、それは夕食の後でもいいだろう。取りに行っているうちに支度を始められても困る。恩返しとしては不足かもしれないが、手伝わなければ気が済まない。

やることもないので、そのままボーッと待つ。

しばらくして、慧音がきた。

「ルート、そろそろ夕食の支度を始めるぞ」

「わかった」

立ち上がり、慧音について行きながら、さて、何を作るのかな、と考えていた。

 



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夕食と雑談

四話連続投稿。 
ちょっと慧音が親切過ぎだろうか。


出来上がった夕食を居間へ運ぶ。時間は6時。早めの夕食だ。

夕食は一般的な和食だった。それこそ、一汁三菜の典型的な。

作っている時に、今日は妹紅も一緒だと聞いた。どうやら、色々と話をしたいらしい。

居間のテーブルへ、盆ごと料理を置く。

すでにいた妹紅が、うまそう、と漏らした。

俺としては料理を人に振る舞ったことがないので、若干不安なのだが。

ちなみに俺が作ったのは味噌汁だ。

どういうわけか、俺のいた惑星とこの惑星は文化や言語が気味の悪いほどに似通っており、和食も味噌汁も知っていた。

慧音が自分の分を持ってきた。テーブルへ置き、座る。

俺が座ったのを確認すると、慧音は手を会わせた。俺と妹紅も手を会わせる。

「いただきます」

三人でそう言ってから、料理に手をつける。

俺はまず味噌汁から。

ずず、と啜る。よし、ちゃんと出来てるな。

味噌汁を置き、米を食べる。

一口食べて、お、炊き方が上手いな、と思った。

やわらかすぎず、固すぎずのちょうどいい食感。

「この味噌汁は、ルートが作ったんだって?」

妹紅が話しかけてきた。

「そうだ。味はどうだ?」

「美味い」

とりあえず安心した。

「これだけ美味しく作れるということは、自炊をよくしていたのか?」

と慧音。

「ああ。しょっちゅう野宿していたからな、野生の食材を使って料理をすることもあった」

それこそ、山に生えている食用可能な茸やらを使ったりも。

「なるほど。料理自体は手慣れているのに包丁を使いなれていないのもそれが理由か?」

「サバイバルナイフを使っていたからだな。包丁はそれこそ始めて使った」

包丁なんてサバイバルで使うものじゃないからな。

「へぇ、野生の食材を使っても料理できるってことは、知識があるんだ」

「最低限、食用可能かどうかはわかる」

「まぁそうだろうね」

それからも談笑を続け、気づくと食べ終わっていた。

 

 

「で、ルート」

「ん」

食器を片付けて居間に戻った。そうしたら、妹紅が話しかけてきた。

「ルートは、どうやって、どうしてここに来たんだ?」

妹紅の質問に、慧音も興味を抱いたらしく、二人でこちらを見つめてくる。

「ああ、それはな」

特に隠す理由もないので、すべて話した。

不老不死になった経緯と、狙われ始めたこと。

旅に出ようと空間跳躍して、気づいたらここに来ていたこと。

まとめると、なんともシンプルな話だ。

話し終わると、慧音が口を開いた。

「ふむ、なら、そのストレイドという乗り物は、今どこだ?」

「上だ」

「上?」

「光学迷彩という見えなくなるものを起動して、空で待機している」

「野宿するのに、それに載せた荷物を使ったって言ってたけど、何を載せてるんだ?」

今度は妹紅から。

「野宿に使ったテントとか、寝袋とか、着替えとかだな。あとは色々な物に使える洗浄ユニットも」

話しながら、部屋に荷物を置いておこうと考えたのを思い出す。

「そうか。ところでルート」

俺は慧音の言葉に耳を傾ける。

「ルートはここに来たばかりだから、住むところも、目的もないのだろう?」

「ああ、確かにそうだが……」

「なら、ここに居候すればいい」

その言葉を聞いて、耳を疑った。昨日あったばかりの俺を一晩泊めてくれるのみならず、居候すればいい、だと?

「いい、のか?」

「私は構わない。部屋は余っているしな」

驚いた。その言葉が浮かんだが、それ以上は考えられなかった。

ここまで優しくされたのは、初めてだ。

「……なら、お願いするよ。本当にありがとう」 

「ああ」

ああ、いい人に出会えてよかった。妹紅にも感謝しなければ。

「ところで、慧音」

「うん?」

「着替え、取ってきたほうがいいか?」

「ああ、あったほうがいいな」

「なら、今からとってくる。直ぐ済むから、待っててくれ」

「そうか。わかった」

ふと妹紅を見ると、すごくニコニコしていた。何故だ。まぁいいか。

俺は立ち上がり、玄関の方へ向かう。

さすがにストレイドを降ろすわけにはいかないし、こちらから飛んでいくかな。

 

「で、とりあえずこれが俺の荷物だ」

そう妹紅と慧音に話しかける。

「わかった。荷物を置いてきたら、風呂に入ってくるといい」

慧音が提案してきた。 

「ああ」

「よし。順番はどうする?」

慧音曰く、今日は妹紅も家に泊まるので、風呂にも入るらしい。

「ルートが最初に入って、綺麗にしてきなよ」

と妹紅。

「いいのか?」

慧音に聞く。

「私はいいぞ」

「なら、先に入らせてもらう」

「ああ。今タオルを持ってくる」

「頼む」

会話のなかで、タオルというものはあるのだな、と思った。そこら辺はよくわからん所だ、ここは。

 



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今回はルートの一人称と妹紅よりの三人称があります。


風呂場の場所は慧音に教えてもらった。

荷物から着替えと、借りたタオルを持って、脱衣場に入る。

服を脱ぎ、風呂場へ。

シャワーなんてものはやはりなかったので、まずは桶に湯を溜めて、かぶる。

石鹸はあったので、タオルで泡立ててから、体を洗う。

ちぐはぐな文化だという印象は拭えないな。

もう一度湯をかぶり、泡と汚れを落とす。

これでよし。

泡が体についていないことを確認してから、湯船につかる。

「ふぅ…………」

湯船に浸かったのは久しぶりだが、やはりいいものだ。

体が芯から暖まり、疲れが取れる。

しばらく浸かっていると眠気がしてきた。頃合いと思い、上がる。

体を乾いたタオルで吹き、替えの服を着た。

汚れ物は慧音が、一緒に洗ってしまうから、とりあえず脱衣場のかごのひとつに纏めておけと言っていたので、そうしておく。洗濯はあとで慧音に、俺がやると言ってみようか。

居間の慧音と妹紅に、上がったことを伝えて、借りた部屋へ足を向けた。

 

「ふぃー………」

座布団に腰を下ろし、後ろに体を倒す。

さっきの眠気が再び押し寄せてきた。

「あー、布団敷かなきゃー………」

そうは言うものの眠い。体が動かん。

頭にも霧がかかっているような感じが。今日はそこまで疲れることはしてないんだが、居心地がいいからか?風呂の後にも話をしたいと妹紅が言っていたのだが……。

あ、駄目だ。眠気が………。

「………すぅ」

 

 

 

ルートが布団も敷かずに寝てしまってから十分ほど。

慧音と一緒に風呂に入ってきた妹紅は、ルートの部屋に向かっていた。

「さーて、何してるかな」

呟きつつ、妹紅は襖を開ける。

「すぅ……すぅ……」

「あれ、寝てる」

襖を開けた妹紅が見たのは、布団も敷かずに眠っているルートの姿だった。畳に直寝では体が痛くなるだろう、と妹紅は思い、ルートを起こそうとしたのだが。

「……起こしづらいな」

穏やかで、正直可愛らしいと思える寝顔に、起こさずにそっとしておきたいと考えてしまい、手が止まった。

「………」

数秒考えるうち、妹紅にちょっとした悪戯心が。そして妹紅の手は、寝ているルートの頬を、指で突いた。

ぷに、とした感触。なかなかいい指ざわりだ。もう一度。

「ん、ぅ……」

頬を突いていた妹紅は、ルートの寝言にハッとなる。起こさなければ。

「ルート、起きろ」

「ぅ、むぅ………もこー?」

ゆるい。さっきより口調がゆるい。

「寝るなら布団を敷いたほうがいいよ」

「ぁー、わかった、起きる……」

むくりとルートが上体を起こす。

「ありがとー、妹紅」

まだ眠そうだ。

「ああ。というかルート、疲れてるの?」

「ふあぁ……。ああ、いや、な。ここは居心地が良くて、ついつい眠くなる」

欠伸をし、そう答えるルート。

「ああ、しょっちゅう野宿してたって言ってたもんな」

「そういうことだ」

ルートは投げ出していた足を戻し、胡座をかく。

「そういえばさっき気になったことがあるんだが」

気になること?と妹紅は思う。何だろうか。

「慧音の帽子。あれ、どうやって乗せているのか知らないか?」

「え?」

そう言われ、慧音の帽子を想像する妹紅。たしかにあれはかぶっていると言うより、乗っていると言うほうが的確だ。

しかし帽子か。今まで気にしたことはなかったが、と思いつつ、妹紅は口を開く。

「それは私も知らない。というか今不思議に気づいた」

「そうか……」

ルートは若干落胆したように言った。

「ホント、考えてみると謎だよ、あれ。ひもは使ってもないし、それなのに激しく動いても滅多に落ちないし……」

「やはり激しく動いても落ちないのか……」

「むむむむむ」

「むむむむむ」

考え込む二人。

たっぷり数十秒思考して、二人は結論を出した。それは、

「うん、気にしたら負けだな」

「そうだな、負けだな」

問題放棄であった。見事なまでの。

「この問題を考えるのはやめよう」

とルート。同感だ、と考えた妹紅は他の話題を探す。

「………あ。なぁルート。ルートは何か能力あるのか?」

「……能力?」

頭の上にハテナマークが浮かんでいそうな疑問顔のルートに、ああ、そこからか。説明しなければ、と考える妹紅であった。

 

 

能力というものについて妹紅に聞いたところ、何ができるかは人によって違うが、例えば火を出したりできる、とか。

そもそもない人もいるらしい。

「ふむ………どうだろうな、わからん」

「そう。あ、能力知らないってことは、スペルカードルールも知らないよな?」

「知らん」

「やっぱり。なら、明日博麗神社に行ってみたらどう?」

「博麗神社?どこだ……いや、待て、確か」

そこらへんに昨日買った地図があるはず。

「あった。……ここか」

地図の博麗神社と書かれた場所を指差す。……ふむ、歩いても行けるか。

「そうそう、ここ」

「何故ここに?」

「そこに、巫女の博麗霊夢ってのがいるんだけど、スペルカードルールは霊夢が考案したんだ。スペルカードルールはいずれ必要になるから、知っておいたほうがいい」

「ふむ、なるほど。わかった、明日はそこへ行くことにする」

「うん、わかった。慧音にも言っておこうか?」

「頼む」

「了解」

さて。また眠気が押し寄せてきた。

「……もう寝る」

「あ、もう?」

「ああ」

「じゃぁ、おやすみ」

「おやすみ」

妹紅は部屋から出ていった。

寝るか。

押入れから布団を出して、敷く。

布団に入る。

「あー……至福……」

寝袋とは雲泥の差だ。

本当に、慧音には感謝しなければ……。

そう思いながら、眠りについた。

 



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里を発つ

「慧音」

声をかける。

今朝は早めに起きて、顔を洗ったりしたあと、台所に来た。

「ああ、おはようルート」

「おはよう。支度を手伝うよ」

「わかった、じゃあ味噌汁を温めておいてくれ」

昨晩の余りか。

「了解した」

火をつける。火加減を見ながら、慧音へ話しかける。

「今日は博麗神社に行こうと思っているのだが、妹紅から聞いたか?」

「ああ、聞いている。あそこへ行くのなら、何か菓子でも持っていったほうがいいぞ」

「わかった。里で買っていくよ」

そうこうしているうちに、朝食が出来上がった。

と、そこで台所に妹紅が。

「おはよう。あー、遅かったか」

手伝う気だったのだろうか?

「私の分は運ぶから」

とのことなので、盆にのせて渡して、三人で居間に向かった。

 

 

朝食を食べ終え、慧音の家を出る。

妹紅が、どうせなら一緒に出ようと言うので、慧音に行ってきますと告げてから、妹紅と出てきた。

「妹紅、巫女が喜びそうなもの、わかるか?」

「饅頭とかでいいんじゃないか?」

「ふむ」

饅頭か。和菓子屋を探すべきだろうな。

「和菓子屋なら、そこがいい」

妹紅が指差す先を見ると、確かに和菓子屋だ。

「あ、そういえばお金は?」

「昨日香霖堂で換金してきた分がある」

「換金?何を換金したんだ?」

「金塊だよ」

「金塊!?」

「通貨は場所によって違うからな。旅をするなら、どこでも一定の価値が有るものを持っていたほうがいいんだ」

最も、金が貴重ではない星もあるらしいが。

「へぇ……」

なにやら感心している妹紅をよそに、俺は店に入る。

「いらっしゃい。おや、見ない顔だね」

「まぁ、来たばかりだからな」

答えつつ商品を見る。ふむ、1ダースもあればいいか?

「饅頭十二個入りを一箱」

「あいよ」

箱を受け取り、代金を払う。

店の外に出て、妹紅に話しかける。

「そういえば、妹紅は何処に住んでいるんだ?」

歩きながら聞く。

「迷いの竹林ってとこに住んでる。ちょっとした案内人をしてるんだ」

「案内人か」

迷いの竹林と言うくらいだから、迷うやつが多いのだろう。

「ああ。主に永遠亭へ行くやつの案内をしてる」

「永遠亭?」

「薬師の八意永琳が住んでるとこさ」

なるほど、薬師か。それなら、行くやつもいるのだろう。

「ふむ。そちらにも、そのうち行ってみるか」

「行くんなら地上からは避けたほうがいいけど……そういえば、ルートは飛べるのか?」

「ん、ああ。飛べる。機械を使うけどな」

「ストレイドってのとは別?」

「ああ。いまも身に付けてる。飛ぼうと思えば飛べるな」

「へぇ、すごいな。その機械」

「そうだな。今まで何度となく役立ってきた」

里の出口が見えてきた。

「あ、もう里を出るね」

「ああ」

少し歩き、里の門を出た。

「それじゃルート、またな」

「またな」

挨拶を交わして、妹紅は飛び去っていった。聞いてはいたが、本当に生身のまま飛ぶんだな。

まぁ、急ぐ旅ではない。俺は歩いていこうか。

そう思考しつつ、博麗神社の方角へ、足を向けた。

 



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博麗神社への道中

ルーミア登場。


幻想郷の森は、深い。その中には、現実の世に存在しないものもある。

そんな森の中を、1つの「闇」が飛んでいた。

まるで風景を丸く切り取ったかのように見える、闇。昼間にも関わらず、それは闇夜だった。

その正体は、宵闇の妖怪、ルーミア。

そんな彼女が、森の中に人を見つけた。

男物の服を身につけた女性、いや、少女というべき人間。

人食い妖怪と名乗るルーミアが、それを見逃す筈はない。

すぐに近寄り、姿を現してから、その人間に話しかけた。

「あなたは、食べてもいい人類?」

と。

 

博麗神社へ向かって森の中の獣道を歩いていたら、妖怪に遭遇した。

見た目には幼い少女だが、雰囲気はまるで違う。

気配で察知していたから、驚きはなかったが。

そいつは、俺の前で腕を広げて浮きながら、こうほざいた。

「あなたは、食べてもいい人類?」

当然のことながら食べられる訳には行かない。

不老不死かつ再生力の高い体ゆえ、腕の一本くらいくれてやってもすぐ再生するのだが、そんなのは当然の如くいい気分ではない。

そこで、こう答えた。

「食えたものではないぞ」

と。

 

 

ルーミアは、帰ってきた答えに、いつも通りと思った。

大抵の人間は、食べられたい筈もないので、このような答えを返してくるのだ。冷静すぎるのをすこし気にしたが、そこはルーミア。なめられているのだろうとすぐに結論を出した。

そして、襲いかかった。

しかし、そこでルーミアは、唐突に意識を手放した。

 

 

妖怪少女に言い返したら、少しの間のあと、襲いかかろうとする仕草を見せた。

即座に抜き撃ち。非殺傷。

スタン効果をもつレーザーを喰らった妖怪少女はそのまま気を失い、墜落した。

妖怪なので、放置しても問題ないだろうと判断し、反撃を警戒しつつ、立ち去ろうとする。しかし、

「う……」

低出力の非殺傷で撃ったからか、目を覚まされた。

「うう、痛い。今の、お姉さんが?」

妖怪少女が立ち上がる。

「そうだが」

「すごいね、何をしたのかわからなかったよ」

ただ抜いて撃っただけなのだが。

というか、またか。

「とりあえずお姉さんじゃなくてお兄さんだ」

「え、そーなのかー?」

怪訝そうな、それでいてとぼけた感じで返された。

「そうだ」

「そーなのかー」

納得はしていなさそうに見えるが、もう面倒だ。

『そーなのかー』は口癖か何かだろうか?

「お兄さん、人間だよね」

「そうだが」

「ついて行ってもいい?」

「待て、何故そうなる」

妖怪がついてくる理由などないはずだ。

「お兄さんが面白そうだったから」

「………隙をついて俺を食う気か?」

「もうお兄さんは食べないよ。またやられそう」

「………」

ま、いいか。

「勝手にしろ」

そう言って、再び歩き出した。

 

 

それからしばらく歩いていたのだが、妖怪少女はついてきているようだ。

歩きながら後ろを見ると、さっきのように腕を広げた姿勢で、ふよふよと浮きながらついてくる。

「おい」

「え?」

「あんた、名前は?」

「私?私はルーミアだよ」

ルーミア、か。

「お兄さんは、何て言うの?」

聞き返された。

「俺か?俺は、ルート・フォンクだ」

「ルートって言うんだー」

「ああ」

ルーミアが近寄ってきた。相も変わらずふよふよと浮いているが、見た目といい言動といい、かなり子供っぽい。

妖怪だから、俺より長く生きている可能性も高いのだが。

まぁ、そんなことはいいか。

博麗神社まではまだ掛かるだろうし、ルーミアと話しながら行くのもいいか。

そんなことを考えながらも、俺は歩き続ける。



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博麗霊夢

ここの霊夢は貧乏巫女です。


「……これは」

博麗神社についた。が、今俺の前には長い階段がある。

「………飛ぶか」

楽をしよう。そう考え、力学制御装置を起動する。

推進力を使って、浮く。

「へー、お兄さん飛べたんだ」

とルーミア。

「まあな」

階段にそって斜めに上昇する。

歩けば苦労するであろう階段も、飛べば楽だ。すぐに上についた。

石畳に降り立つ。正面には木造の建物。ごく一般的な神社の様相だ。

「さてと、巫女とやらはどこかね」

とりあえず建物に近づく。参拝でもするか。

御手洗があったので、作法にしたがって手を洗う。

その後、拝殿へ歩き、軽く礼をしてから、賽銭を投入する───

ふと左から気配を感じて、そちらを見る。 

「……は?」

赤い服をまとった少女が猛スピードで迫っていた。

「ねぇあなた!」

「ひぅ」

俺に触れるか触れないかの距離で急停止し、声をかけてきた少女に、若干驚く。

「な、なんだ」

「お賽銭を入れたのよね?」

「あ、あぁ」

そう返事すると、少女はおもむろに賽銭箱の中身を見た。まさか、こいつが博麗の巫女か?

「い、一円……これで一ヶ月、いやもっと持つ……」

「おいいま聞き捨てならないこと口走らなかったか」

いくらここの一円は価値が高いとはいえ、そこまで持たせるってどんな生活だ。

全体的に細い体はもしかして栄養不足か?

「とりあえず聞こう。あんたは、博麗霊夢か?」

「そうよ」

やはりか、なら。

「よかったら、これを」

「……こ、これはお饅頭……しかも十二個……だと……?」

「え、えぇ……?」

動揺すごいな。饅頭ってそんなに貴重か?

「な、なにが……?」

状況にまるで追い付けていない様子のルーミアを見て、とりあえずこの恐らくキャラがブレブレであろう巫女を何とかする方法を考える。

 

 

「……何これ」 

どうにもならなくて、試しに斜め四十五度から軽く頭をコツンとしてみたら、巫女は正気を取り戻した。古いテレビかよ。

巫女は神社の裏の生活スペースと思わしき場所へ上げてくれた。

それで、巫女が出してくれたお茶を飲んでいるのだが……。

「……色、ついてるよな」

お湯だった。味が無かったのだ。微かにおぼろげに香りはあるが、それだけだ。見た目はお茶なのに。

客に出涸らしを出さなければいけない経済状況って何なんだよ。

当の巫女は俺が持ってきた饅頭を一つ、幸せそうに食べている。

というか凄く大事に食べてるな。話しかけづらい。

「………」

左を見るとルーミアが饅頭を頬張っている。

「………巫女さん」

饅頭を食べ終わったのを確認して、話しかける。

「何よ?」

「俺がここに来た目的なんだが……」

「ああ、外に戻りたいの?」

外、とは恐らく幻想郷の外のことだろう。

「いや、違う。幻想郷についてと、スペルカードルールについてを聞きに来たんだ」

「あら、そうなの?」

「ああ」

「なら、説明してあげるわ。まず、幻想郷についてだけど」

巫女の説明を要約すると、まず幻想郷は、外で存在できなくなった、妖怪や神、人間などの住む場所だという。幻想郷と外は、博麗大結界というもので仕切られていて、往き来する手段は限られているらしい。

「なるほどな………」

あのとき、すでに俺は外で存在できなくなっていたのだろうか?だから、ここに吸い寄せられた?

「理解できたなら、次はスペルカードルールについてね」

巫女が再び説明を始める。

説明によると、スペルカードとは、あらかじめ決めた技の名前を記したカードのことだと言う。

そして、スペルカードルール、弾幕ごっことも言われるそれは、歴然とした力の差がある妖怪と人間が対等に戦う、または強い妖怪同士が力を出しすぎないように戦うための決闘ルールだとのこと。あらかじめその戦いで使うスペルカードの数を決めておき、お互いにスペルカードを使って撃ち合うのだそうだ。スペルカードは基本的に、相手を殺さない程度の威力で作る、とも言っていた。

勝敗は、どちらかの体力が無くなる、またはどちらかのスペルカードが全て攻略(つまるところ回避しきる)された時につくらしい。

「ふむ」

戦闘という形式を取りながらも、いちおうの平和的解決手段になっている、ということか?

「あと、スペルカードは技の美しさも競うの」

「技の美しさ、ねぇ」

遊びや競技の類だな、まるで。

「スペルカードとやらは、俺でも作れるのか?」

「そうね。相手を殺さなければだいたいどんな技でもいいから、貴女でも作れるわね。………貴女は霊力もあるみたいだし」

「霊力か」

「人間が弾幕を作るなら、普通は霊力を使うわね。貴女は結構な弾幕を作っても大丈夫なくらいは持っているわね」

「そうか」

話を一度終える。左を見ると、ルーミアが机に突っ伏して寝ていた。

「………ところで、二つ聞きたいことがあるのだけれど」

「なんだ?」

「まず、貴女の名前は?」

「ああ、言っていなかったな。俺はルート・フォンクだ」

「ルート、っていうのね。ならルート。何故ルーミアを連れているのかしら?」

一瞬理解ができなかったが、すぐに、人間が妖怪、それも人を喰う類いを連れているのはおかしいことに気づいた。

「こいつが襲ってきたから、気絶させたら何かなつかれたんだ」

「気絶?」

「こいつを使った」

ホルスターからパターを抜いて、霊夢に見せる。

「………何これ?」

「レーザーを撃つ道具だ。非殺傷モードもある」

「そんなものがあるのね、外には」

「この星のじゃないけどな」

「え?じゃあ、月?」

「月?ああ、ここの衛星か。いや、そこよりも恐らく何億倍は遠いな」

空間跳躍でなければ、まず行けはしない。

「なにそれ。想像つかないわね」

「普通に行ったらつく前に死ぬな」

「そう」

「それにしても、どうやって当てたの?」

「早撃ちしただけだ」

「こともなげに言うのね……。霊力量もあるし、普通ではないわね、貴女」

「そうだろうな」

それにしても、さっきから巫女の『あなた』に違和感を感じる。

「ところで博麗」

「何?」

「一応言っておくが、俺は男だからな」

「……そう」

目を丸くしていた。やはりか。ああ面倒臭い。

「意外すぎて驚いたわ」

そうだろうな。本当にこの容姿には困らされる。

「それはさておき、貴方、霊力を使えるのよね?」

「ああ、そうらしい」

「具体的に何が出来るの?」

なるほどな、それなら。

「外で見せる」

「わかったわ」

そういえば、さっきからルーミアが静かだな、と思ったので見てみると、ルーミアは机に突っ伏して寝ていた。そっとしておくか。



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霊力の扱い

なにか3000文字超えた。


外に出る。

博麗も来たのを見てから、言う。

「まずはこれだな」

右手を上げ、霊力を凝固させる。作り上げたのはコンバットナイフ。*1

「!……へぇ、やるじゃない」

「感心するほどなのか?」

「幻想郷に来るまで霊力を知らなかったっていうことは、扱い方も知らなかったはずよ。そんな人間がここまでできるなんて、なかなかないわ」

う、結構褒めるな。実際の所、この力のこと自体は知っていたし、ある程度使ってもいたのだが。

「そりゃどうも。他には、エネルギー弾も撃てるぞ」

「え、もうそんなことも出来るの?」

「ああ」

答えながら、意識を少し霊力コントロールに割く。武器を使う仕草を見せずに攻撃できるのは、大きな利点だったから、よく使っていた。

霊力を手に集め、小型の光弾を撃つ。

「へぇ、本当に撃てるのね。外来人とは思えないわ」

「まぁ、俺は外一般の常識からは微妙に外れているからな」

「微妙どころじゃないわよね?……まあいいわ。ところで」

「ん」

博麗の目付きが少しきつくなった。何だ?

「あんた、何でそんな容姿なの?」

む。それか。まだ引き摺っていたのか。

「なんでこんなに可愛くなるのよ、男が」

博麗が俺の両頬をつついてきた。

「あーもう、ぷにぷにじゃない。本当になんでよ」

「知らん。あとやめろ」

いい加減この容姿で驚かれるのも慣れすぎて、イラついてきた。

「そのすかした態度もまったく似合ってないわ。背伸びしているみたい」

「気取っているつもりはないんだがな」

「というかあんたいくつなのよ。やけに大人びてるけど」

「もう30だ」

「おっさんじゃない。老化を知らないの?」

「不老不死だからな」

「そうだったの?驚きね」 

「……」

会ったときからの印象だが、博麗はどうにも巫女らしくないような気がする。服とか、態度とか。

巫女らしさは知らないので、気がするだけなのだが。というか脇出しってどういう趣味だ?

「お、見慣れない顔がいるね」

声がした方を見ると、角を生やした幼い少女がいた。

角が体に比して大きい。

「あー、萃香。こいつはルート・フォンク。来たばかりの外来人だって」

博麗がその少女に俺を紹介してくれた。

「そうなの?私は、鬼の伊吹萃香だよ」

「ルートだ。よろしく頼む」

「よろしく。にしても、随分可愛らしい男だね」

「わかるのか?」

始めて間違われなかった。少し、嬉しい。

「わかるよ。ところでさ」

伊吹がにやりとする。

「ちょいと力比べをしないか?」

「駄目よ」

博麗が横槍を入れてきた。

「えー、なんで」

「何でも何も、そもそも鬼のあんたとこいつじゃ力の差がありすぎるじゃない。こいつは人間なのよ?」

「そうなの?強そうなのに」

博麗の言うことに、俺は頷く。鬼がどれほどかはわからないが、妖怪と人ではスペックが違うだろう。

「むー、いい勝負できそうに見えるんだけどなー。霊力使えるんでしょ?」

「そうだが。でも力比べは勘弁してほしい」

「えー、どうしてもー?」

「そうだ」

そういうと、残念そうに伊吹は縁側へ歩いていき、腰かけた。見ている気か?

それにしても、霊力か。色々と応用できるらしいし、練習でもしてみるか?

「博麗」

「何?」

「今からちょっと霊力を使ってみるから、思うことがあったら言ってくれ」

「え?ああ、成る程ね、わかったわ」

「よし」

先程と同じように、手に霊力を集める。 

集まったら、薄く広げる。

前面を覆う霊力の盾。とりあえず形は作れたが、どれ程のものか。

「博麗、俺に弾幕を撃ってみてくれ」

「わかったわ」

博麗の手から赤い札が連射される。

飛んできた札は、すべて盾で消滅した。

「やっぱり盾ね。強度もなかなか。カード無しでは破れそうにない」

「そうか。上手くいったようでなによりだ」

「限界も知りたい?」

「出来るなら把握しておきたいな」

博麗の顔に、笑みが浮かぶ。

「じゃあ、これからスペルカードを撃つから、防いでみなさい」

「わかった。手加減してくれよ」

「ええ」

霊夢の返答を聞きつつ装置を準備。

「霊符『夢想封印』」

来た。

でかくてカラフルな光弾が八ほど。とりあえず後ろへ飛ぶ。

破られるのを見越して前面シールドは五メートルほど前で張った。

案の定、二発で破られた。残り六発。

もう一度霊力シールド。こんどは直径三十センチほどのものを両手に纏わせる。

飛んでくる光弾を、右手のシールドで相殺。

密度を高めるほど防御力は上がるようで、再展開はしなくて済みそうだ。

次は左手。二発を振り払うように掻き消す。

右手で正面からくる一発を防ぎ、最後に左右の二発を両手で。

「……手加減したか?」

「手加減したわよ」

「嘘だろう?手加減したように見えなかったぞ」

「まったく応えていなさそうじゃないの。というか飛べたのね」

「……そうだが」

たしかに先程のは応えるものではなかったが。

「それにしても、あんたの霊力はどうなってるの?」

「は?」

「身体強化と防壁張り。それもかなり強い物。さらに飛行。そんなの人間の貴方が同時にやってたらモリモリ減るはずなのに、ぜんぜん減ってる様子がないのよ」

「激しく使うと減るのだが、これくらいなら回復量の方が上回るようだ。あと、飛行は機械を使っている」

「すごい回復力ね。本当に人間?」

「それは間違いない。不老不死だが」

「やっぱりそこなのかしらね」

「そうだろうな」

博麗の言い草からして、霊力というのは生命力が絡んでくるのだろう。

そして、生命力なら、俺を上回るやつはそうはいないに違いない。何せ、頭が蒸発しても、記憶障害も何も無しに、元通りになる体だ。いや、これは生きているとは言えないか。生物として越えられないラインを越えている。

「まぁ、練習し続けてみるさ」

「そう」

色々と活用出来そうだからな、霊力は。

そこまで考え、ふと縁側に目を向けると、さっきの鬼、伊吹萃香とやらが、こちらへ駆けてきていた。

「ルート!やっぱりやろうよ力比べ!」

自然に呼び捨てされた。というか、またかよ。

さっきのあれを見て、やはり面白そうだとでも思ったのだろうが。

「悪いがやりたくないんだ、伊吹」

「なら弾幕ごっこは?」

「なおさら駄目だ。こっちは勝手も知らないんだぞ」

「手加減するからさ」

……しつこい。おまけにさっきは気づかなかったが、酒の臭いがするぞ、こいつ。酔ってて手加減ができるのか?

「というかさ、伊吹ってのもまどろっこしいから萃香って呼んでよ」

ここの住人は知り合いでも名前呼びが普通なのだろうか。名前で呼ぶように言ってくるやつが多い。

「なら、萃香。せめてこっち流の戦い方とかに慣れてからにさせてほしい」

「慣れてからならいいんだね?」

しまった、迂闊。

「………慣れたらだぞ」

「よし!その時が楽しみだ」

満面の笑みを浮かべて言う萃香に、思う。こいつは俺の苦手な部類のやつだ。

そういえば、と先程から蚊帳の外の博麗を見やると、こちらはさもありなんという顔でこっちを見返してきた。こうなることをわかっていやがったな、あいつ。

「………少し、休んでくる」

と、萃香と博麗に言い、縁側へ歩く。

縁側に腰掛け、溜め息をひとつ。

博麗たちは、二人で何か話をしているようだ。

「お兄さん」

ルーミアの声だ。見ると、まだ眠そうな様子のルーミアが、俺の横に来ていた。

「ああ、ルーミア。起きたか」

「うん。よく寝た」

それにしても。

ルーミアは、見た目には単なる幼女なのだが、人喰いだという。

実際俺を襲ってきたし、それは事実なのだろう。

ここでは、人を見た目で判断はできないな。

さてと。

「そろそろ帰ろうと思うんだが、お前はどうする?」

「あ、じゃあ私も行く」

ついてくるらしい。

「なら、行くか」

「ん、あんた帰るの?」

「ああ」

「そう。お饅頭、ありがとね」

「ああ」

表へ歩き、鳥居をくぐる。

目の前に見えるのは、幻想郷。ここはかなり高いところにあるらしく、見晴らしがいい。

「………いいところだな」

自然が多いし、空気もうまい。 

その景色を暫く堪能したあと、俺は人里へ飛び立った。

 

*1
霊力なので半透明。




ちなみに霊夢は、夢想封印を防ぎきったルートを見て、力比べくらいならやらせてもいいのでは、と思ったそうな。


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霧雨魔理沙

魔理沙と遭遇。


上空を飛んでいると、何やら人の影が見えた。何かにまたがって飛んでいる。

「よう!見ない顔だな!」

そのまますれ違おうとしたら、相対速度を落として、話しかけてきた。

「誰だ?」

お互いに距離を縮め、空中で静止する。

「私は霧雨魔理沙だぜ!あんたは?」

「俺は、ルート・フォンクだ」

名乗りつつ、相手を観察する。

鮮やかな金色の髪をした少女だ。箒に跨がっているそいつは、白黒のエプロンドレス?を身につけ、とんがった帽子をかぶっている。

「へぇ、ルートって言うのか。ん?俺って言うことは男なのか?」

「そうだ」

「そうだよな、男な訳が……えっ」

「俺は男だ」

くそ、いくらなんでも間違われすぎだろう。まさか初対面のやつと会うたびにこれが続くんじゃなかろうな?

「………あー、変わったやつもいたもんだな」

「ああ………」

「ところで、あんたは博麗神社に行ってきたのか?」

「そうだ」

「外来人なのか?」

「ああ。ただ、俺は外に帰る気はないんだ」

「そうなのか?それは珍しいな」

「………ああ」

「それにしても、外来人なのに飛べるんだな」

「ああ、これは俺が身に付けている機械を使って飛んでいるんだ」

「え、そうなのか?でもそんな機械見えないんだぜ?」

「わりと小さいからな」  

「小さいのに飛べるのか………すごいんだぜ」

「ああ。これには俺も何度も助けられてる」

「へぇ……」

好奇心満載な顔だな。

そう思いながら、ふと西の空に目を向ける。

「おっと、そろそろ日が暮れるな」

「あ、そうだな」

「俺は帰るよ。またな」

「ああ!」

別れを交わすと、魔理沙は飛び去っていった。

さて、俺も帰らなければ。慧音が心配してしまうかもしれない。

俺は人里に向けて、加速する。

「ああ、すっかり夜だ」

人里に到着した。すでに辺りは暗い。

寺子屋の前に着地して、玄関から中へ。

「慧音ー、今帰ったぞー」

少し大きな声で帰りを告げる。

ほどなくして、慧音の声がどこからか聞こえてきた。

「ああ、お帰り」

台所からか。

とりあえずは、荷物を置いてこよう。

自分の部屋へ行き、武器を置く。

それから、台所へ向かった。

「慧音、手伝うよ」

「ああ」

手を洗ってから、今朝と同じように分担して食事を準備する。

準備を終え、食卓へついた。

「それで、収穫はあったか?」

食べていると、慧音が訊いてくる。収穫、か。

「幻想郷のことや、スペルカードルールについて教えてもらったな。あと、ルーミアという妖怪と仲良くなった」

「ルーミアと?」

「ああ。行きの道中で襲ってこようとしたから、銃で気絶させたんだ。そうしたら、何故か付いてきてな」

「ふむ」

「まぁ、見た目相応な感じだったな」

見た目相応に幼かった。

「そうか」

「あと、博麗のことだが……」

「霊夢か……」

「大分貧乏しているようだったな」

「ああ………。霊夢には、人里を妖怪から守る結界を張ってもらったりして、報酬を出しているんだ。だが、最近は平穏そのものだからな……」

「やってもらうこともない、か」

「そうなんだよ。ううむ、どうしたものか……」

そう言うと慧音はうんうんうなり始めた。やはりと言うべきか、人里を守ってくれている巫女がそんな状態では、困るのだろう。

「ふむ」

これから博麗神社に行くことがあったら、何か食べ物を持っていくことにしよう。

俺はそう考えた。

あの歳でまともに食べられないのは、可哀想だ。

 

そうこうしているうちに、食べ終わった。

「慧音、食器は片付けておく」

「ああ、ありがとう。なら、私は、先に風呂へ入るよ」

「ああ」

二人分の食器を持って、台所へ。

食器を洗いながら、今日のことを思い返す。

スペルカードルール。生死を賭けない戦い。

弾は非殺傷らしいが、あれは当たり方によっては死ぬのではないだろうか?

とはいえ、博麗曰く、スペルカードで対戦するのは大抵が妖怪らしい。

妖怪は人間より頑丈だとも聞いた。だから、問題はないのだろう。

あとは、霊力。

幻想郷に来るまでは、精々光弾を撃ったり、身体能力の強化程度にしか使っていなかった。それも、そう長くは使えなかったのだが。

神社でシールドを展開した時は、時間に制限無く使えるような感覚だった。

とにかく、使い方は練習しなければ。

そういえば、帰りに会った霧雨魔理沙とかいうやつは魔法使いだったのだろうか?

箒に乗っていたし。

また会ったら、話を聞こう。

 

食器を片付け終えた。

あとは、風呂に入って寝るだけだ。

 



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暑い日の人里

だいぶ間が開いてしまい、すみません。


「………朝か」

日の光で目が覚める。

起き上がり、布団を畳む。着替えも済ませる。

「さてと」

昨日、今日は朝から外出するので、食事も自分でとる、と慧音には伝えた。

今日は一声かけていかなくてもいいか。

考えつつ、財布などを入れた鞄と武器を身につける。

準備できた、よな?

確かめながら、寺子屋の外まで出る。

とりあえず、適当に通りを歩く。朝早いため、人はほとんどいない。

早く出すぎたな。

「………」

慧音は居候すればいい、と言っていた。その言葉に俺は甘えることにしたのだが、それは住む場所が見つかるまでだ。

そう考えていたので、こうして住む場所を探すためにでてきたわけだが。

「………むぅ………」

よく考えてみると、この里唯一の寺子屋の教師である慧音なら、人脈は広いだろう。慧音にも、少しは相談してみるべきだったかもしれない。

「………はぁ」

判断力が鈍っている。案外と、俺は混乱しているのだろうか?

「どうするか…」

とりあえず、昼くらいまで暇を潰さなければ。

 

 

歩きまわっているうち、通りに人が出て来はじめた。

店も次々に開いていく。

それを見ながら歩いていると、変わった格好の奴を見つけた。

あれは、俗に言うメイド服というやつか。

それを来ているのは、銀髪の少女だ。

趣味で着ているのか、それともどこかの従者が買い出しか。

少し観察したところ、どうも後者らしい。

にしても、和服が多いのであの格好は目立つ。ま、それは俺も同じことか。

考えていると、メイド服の少女がこちらの方向へ歩いてきた。

「さっきから私を見ていたようだけど」

と思いきや話しかけてきた。

「格好が珍しいからな」

「その言葉、そのまま返すわ」

ああ、言われてしまったよ。

「そうだろうな。俺はルート・フォンクと言う。いわゆる外来人というやつだ」

「成る程ね。私は十六夜咲夜。紅魔館に住まう吸血鬼、レミリア・スカーレットに仕えるものよ」

「へぇ」

幻想郷には吸血鬼もいたのか。

「貴方、外来人なのよね」

「ああ」

「腰のそれは?」

パターか。

「俺の武器だ」

「すぐ取り出せるようにしてあるのね」

「そういうことだ。要らん警戒かもしれんが」

「ここではそうかもしれないけれど、他のところではね」

「知ってるさ」

「でしょうね」

腹でも探ろうと言うのか?

「そろそろ行くわ」

「ああ」

「では」

しかし驚いたな。俺と話しているあいだのやつ、十六夜咲夜の動きには、隙が無かった。

おそらく、あのメイドは、主人の護衛もしているのだろう。

初対面で、得体の知れない俺の危険性でも探ったか。

あいつの主人、レミリア・スカーレットにも興味が湧いてきたことだし、そのうち訪ねてでもみるかな。紅魔館を。

 

 

昼になるにつれ、暑くなってきた。

自然が多いこともあってか、今まであまり暑さは感じなかったのだが、今日は暑い。

かくいう俺は、鈴奈庵と書かれた看板をつけた店に入ってみたのだが。

「うぁー…」

店番と思わしき少女が、店の奥の机でへたっていた。周りには本棚。

「……大丈夫か?」

声をかける。

「あ、お客さん……」

少女が立ち上がろうとする。が、どうにもふらついている。

「いいから、座っていてくれ」

「は、はい…すみません…」

「気にするな」

それにしても、店内はそこまで暑くないのだな。

多分こいつは、外で作業していたのだろう。

本棚に近寄り、本を抜き出す。装丁が古風、というか、なんというか。

「ふぅ、大分楽になってきました…」

「そうか」

本を本棚に戻す。

「はい。ええと、貴女は?」

「ああ。ルート・フォンクという。外来人だ。今は慧音の家で世話になっている」

「初めて見るひとだなーって思っていたんですけど、外来人だったんですか。あ、私は本居小鈴です」

「本居小鈴、だな。ああ、ついでに言っておくと、俺は男だぞ」

「男の方?意外です」

「まぁ、昔から色々なやつに性別を間違われていてな」

幻想郷で最初から男だとわかってくれたのは………。

「うぐぅ」

「え!?」

おっと、変な声が出てしまった。

「気にするな。ところでここは、本を売っているのか?」

「いいえ、本を売ったりもしていますが、基本的には貸本屋なんですよ。他にも、印刷や製本をやっているんです」

「ほう」

本関係を手広くやっているのか。

本棚から適当な本を抜き出して、開く。大判で厚くはない。

「……ん?」

その本は、雑誌だった。いわゆるホビー雑誌。プラモデルの作例などが載っている。幻想郷の雑誌とは思えない。

「ああ、それ、外来本ですよ」

「外来本?」

「外から幻想郷にきた人が持ち込んだりしてきた、幻想郷の外の本です。ここでは、そういう本も扱っているんですよ」

「そういうことか」

暇な時はここに来れば、いい暇潰しになりそうだ。

幻想郷の外の世界の文化もわかるかもしれない。

雑誌を棚に戻す。

「また来る」

そう本居に言い、店を出る。

「……暑い」

日差しを直に浴び、瞬く間に汗をかく。

入ってからそれほど時間は経っていない。

どこかで帽子でも買いたいな。

 



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空き家見分と九尾

昨日と同じように、目を覚ます。

昨日は結局、里を歩き回り、暑さにうんざりするだけで終わってしまった。

今日も慧音は寺子屋だ。

とはいえ、まだ時間はある。

身だしなみを終え、慧音と朝食の準備をし、食卓につく。

もう慣れてきた流れだ。

「ところで、慧音」

「ん?」

「一人で住める場所を探そうと思っているのだが」

「住める場所?」

「ああ。ここにこのまま居候しているのは、どうもな」

「そうか…。それなら、ちょうど良さそうな空き家があるよ」

空き家か。

「今日、そこを見ておきたいな」

「場所を言えば、わかるか?」 

「ああ。昨日のうちに里の中は大体把握している」

「そうか。なら教えよう。場所は………」

そこまでの道程を聞いた。

「里の端の方だな」

「ああ」

「わかった。今日行ってくる。あ、食器は洗っておくよ」

慧音にそう言い、話しているうちに食べ終わっていた慧音と俺の食器を持つ。

「ありがとう」

「ああ」

台所へ行き、食器を洗う。

それを終えたあと、寺子屋の玄関へ向かう。

「ああ、ルート」

「なんだ?」

「これを買ってきてくれるか?」

その言葉と共に渡されたのは、紙だった。買い物メモか。

「わかった。行ってくる」

「行ってらっしゃい、ルート」

慧音は笑顔でそう言う。

………行ってらっしゃい、か。

 

 

 

寺子屋を出発して、空き家へ向かう。

慧音の話によると、空き家に住んでいたのは、天涯孤独の身の男だったらしい。

それでも、近所の人間などとは親しくしており、孤独とはとても思えなかった。が、ある日、山菜狩りに森へ入っていき、妖怪に襲われ、命を落としたのだそうだ。

聞けばその男の両親も、同じような死にかただったという。

……ま、俺には関係のない話か。何せ、その男の死からすでに十年は経っている。

空き家に着いた。

……ふむ。やはり鍵はないのか。治安がいいのだろうな。

「おい、そこの」

「……はい?」

「あんた、何者だ?」

男性が話しかけてきた。近所に住んでいる人だろう。

「私は、ルート・フォンクといいます」

訝しげな様子だったので、丁寧に言葉を返す。

すると、男性は途端に相好を崩した。

「ああ、寺子屋の生徒を助けたって女の子か」

………女の子って。

「俺は男ですよ」

「嘘つけ」

あっさり否定された。もういい。

「失礼します」

話すこともないので、そう言って空き家に入る。

和室、台所、倉庫と見てまわる。

一人で住むなら十二分な広さだ。

とくに傷んでいたりもしない。

………それにしても、ここまですんなり行くと不安になってくるな。

ま、とりあえずは頼まれた物を買って帰るとするか。

 

 

 

「………」

買ってくるものの中に豆腐があったので、豆腐屋にきたのだが。

「(わくわく)」

あの女性、狐の尻尾が生えている。しかも9本。

「(まだかな)」

狐の妖怪か?

「はい、頼まれた油揚げ」

「!」

店主がそう言って袋を渡す。ってか尻尾が反応したな、今。

代金を支払って、女性がこちらを向く。

袋を大事そうに抱えている。顔はすごく笑顔だ。

「………」

「………」

何故かこちらを見て固まった。

微妙な空気。

「……ルート・フォンク、だな?」

「そうだが。あんたは何者だ?」

「ああ、し、失礼した。私は八雲藍。八雲紫様の式だ」

「八雲紫……ああ、いつかの」

あの時は、少し会話して、名前を聞いたんだったな。

「……ところでフォンクさん」

「ルートでいい。何だ?」

「さっきの……」

「ああ……。油揚げ、好きなのか?」

「ああ……」

顔が赤い。あれはあまり見られたくなかったのか。まぁ、あからさまにそわそわしてたからな。

「誰にも言わないから安心しろ」

「……ありがとう」

「いいさ」

八雲藍にはそう答えてから、豆腐屋の店主に豆腐を頼む。

すぐに頼んだ分が出てきた。

代金を支払う。

「………では」

「ああ」

八雲藍と別れる。

他は何かな………。

 

 

 

「ただいま帰った」

と言いつつ、慧音の家へ入る。

慧音はまだ帰っていないか。

台所の食料庫へ買ってきた食材を置き、部屋へ行く。

畳に座り、一息つく。

「………」

そういえば、俺は何故幻想郷で住居を確保しようとしているのだろう。

もともと、幻想郷には、空間跳躍のトラブルか何かで迷い混んできたのに。

それを少し考え。

「………ま、目的も行き先もなかったしな」

と独りごちた。



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ワーハクタク

「ただいま帰った」

と言いつつ、慧音の家へ入る。

慧音はまだ帰っていないか。

台所の食料庫へ買ってきた食材を置き、部屋へ行く。

畳に座り、一息つく。

「………」

そういえば、俺は何故幻想郷で住居を確保しようとしているのだろう。

もともと、幻想郷には、空間跳躍時の原因不明のトラブルで迷い混んできたのに。

それを少し考え。

「………ま、目的も行き先もなかったしな」

と独りごちた。

 

 

 

「そうだ、ルート。今夜は満月だ」

「満月?」

夕食で、慧音が突然言い出した。ただ満月だと言うわけではないだろう。続きを促す。

「私は満月の夜に白沢化するんだ」

「ああ、そうか」

「それでな。ええと、私の能力のことは話していなかったな?」

「そうだな。まだ聞いていない」

「ならそこから説明しよう」

慧音の説明を要約すると、慧音は、人間の時と、白沢化したときで、別の能力を持つそうだ。

人間の時は、歴史を食べる程度の能力。

白沢の時は、歴史を創る程度の能力。

白沢化している間の慧音は、幻想郷中の知識を持っていて、白沢になっている一晩の間に、幻想郷の歴史を編纂しているのだそうだ。

「一夜漬けで作業するのか」

「ああ」

「それで、な。白沢化している時の私は少し気性が荒くなっているらしくてな」

成る程な。さらにその状態で一夜漬けとなれば……。

「迂闊に近づかないほうがいいかな?」

「そう。下手すると角の生えた頭で頭突きをしてしまうかも知れない」

「わかった」

妹紅曰く、「慧音の頭突きはすごく痛い」からな。

角が刺さりでもしたら、とは考えたくない。

死ねなくても、痛みは普通にあるんだ。

「それと、明日の朝、私が起きていないようだったら部屋へ起こしにきてくれないか?」

「ああ、わかった」

徹夜だから、寝落ちすることもあるのだろうな。

「ところで、今日空き家を見てきたんだろう?どうだった?」

「ああ、そうだな。あそこならちょうどいいと思うよ」

「それならよかった。いつからそこに住む?」

「荷物も多い方ではないし、明日にでも」

「そうか」

「いろいろ世話になったな。感謝してもしきれないくらいだ」

「ルートが困っていたから、助けたまでだよ」

本当に、慧音という人は優しいな。

間違いなく、俺が出会ったなかでも断トツに。

 

 

「……これでいいか」

荷物を運びやすいよう纏める。

今夜が、今のところここで過ごす最後の夜だ。

と言っても、同じ人里の別の家に移るだけだが。

そこまで考え、立ち上がる。

月でも見に行くか。

部屋を出て、縁側へ。

「……ほう」

満天の星空だ。夜でも明るい都会では見られない。

あの白い靄は、銀河か。もといた星より、少しだけ薄く見える。

やはり、別の星に来たのは間違いないな。

この星の衛星は、俺の知っているものより、小さく見えた。

文化は似通っていても、やはりこういうところは違うな。

縁側に腰掛けようとした時、足音が聞こえた。慧音か。

足音の方を見ると、慧音がいた。こちらへ歩いてくる。

いつもは青い服を来ているが、今は緑を基調とした服だ。

髪も、青かった部分が緑になっている。

そして目を引くのが、角。

博麗神社で会った伊吹萃香と同じように、二本の角を生やしていた。

「これから作業か」

「ああ」

口数が少ない。態度も少し硬い。

頑張れよ、とは言わない。言う必要はないだろう。

会話は続けない。

慧音はそのまま歩いていった。後ろ姿を見て、呟く。

「……尻尾」

白く、ふわふわしていそうな尻尾が生えていた。尻尾用の穴を開けているな、あの服。

視線を再び夜空へ向ける。

暫くの間、眺める。

「………」

この星空の光は全て過去のもの、か。

あの星から、この星は見えていたのだろうか?何光年、離れていたのだろうか?

そんなことは、ストレイドの航法コンピュータを使えば、すぐにわかるだろう。

それでも、考えてしまう。

それにしても、何故俺はこの幻想郷に迷い混んだのだろう? 

「………いや」

考えるのを止める。

そんなことは、今考えなくともいいだろう。

もう夜も遅い。寝てしまおう。立ち上がり、部屋へ歩く。

敷いておいた布団に入って、目を閉じる。

明日から、どうなるのやら。

 



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居を移す

18/6/30
話を一つ入れ忘れているのに気づきました。



「………起きていないか」

起床して、台所を見に行ったりしたが、慧音はいなかった。

残るは慧音の部屋だ。

襖を開ける。

「案の定、寝落ちか」

慧音は、机に伏せて寝ていた。

「慧音、朝だぞ」

肩を揺する。

「う、うーん……」

よく見たら、角が戻りきっていない。小さな角が髪から突き出ている。

「うー……ルートか……」

「ああ。朝だぞ」

「わかった……」

「朝食、作っておくが、何がいい」

「適当でいい……」

眠くて考えるのも億劫らしい。

動き始めてはいるので、俺はとりあえず台所へ。さて、何を作るか。

 

 

「そういえば、ルートに食事の用意を任せたのは初めてだな」

「ああ。味はどうだ?」

「美味しいよ」

「良かった」

朝食を作り終え、居間へ様子を見に行った時、慧音は居間のちゃぶ台でこっくりこっくりしていた。

朝食を食べて、もうすっかり目が覚めたようだ。

「ルートは、幻想郷で何をしようとか、考えているのか?」

慧音がそう訊いてきた。

「まぁ、な。とりあえずは、幻想郷の色々な所へ行こうと考えている」

実際のところ、未だに俺は何をやろうとは決めていない。

暫定的な目的、といったところか。

「そうか。なら、ルートの家は留守も多くなるかな?」

「さぁな。どのくらいの頻度で出掛けるかもわからんしな」

「まあ、それもそうか」

「ああ」

慧音が食べ終えた。俺は少し前に食べ終えている。

「ご馳走さま」

「お粗末様でした。片付けも任せておいてくれ」

「ありがとう」

食器を持って、立ち上がる。

………ありがとう、か。むしろ俺が言うべきことだな。

 

 

「世話になった」

「ああ。またなにか困ったことがあったら、相談してくれ」

「そのときは頼らせてもらうよ。その代わりと言ってはなんだが、手が足りなかったりするときは、俺に是非手伝わせてくれ」

恩を返しきっていないからな。

「わかった。それじゃあ」

「ああ。また」 

本当に束の間の別れだがな、と思いつつ、歩き始める。

 

 

空き家に荷物を運び込む。

そこまで量のないそれを置いてから、ふとストレイドのことを思い出す。

あれのなかの荷物も、運び込むか。

上空に呼び出し、そこへ向かって飛ぶ。

今では飛行する倉庫と化してしまっているストレイド。どうするべきか。

今はその気はないが、また旅立つとなるとあれがないと話にならない。

………ううむ。

この家のまわりは広い。

しかし、ストレイドを着陸させておくには色々と問題があるだろう。

「むぅ」

考えても、現状よりいい方法は思いつかない。

少し腹が減った。表に出てみると、昼を過ぎている。

食事の用意をするか。

昼と夜、それから明日の朝の分の食材は買ってある。

これから何をするにも、まずは腹ごしらえだな。

 

 

夕食の下ごしらえをしてから、昼食として野菜でサラダを作った。

味付けは、醤油と酢を混ぜた簡単なものだ。

縁側に腰掛け、箸で一口。

やはり、美味い。

幻想郷の野菜は、どれも美味しい。

農薬なんてものは使わず、自然の中で育てられているからか。

さらに一口。

適当に混ぜた醤油と酢だが、いい感じだ。

ゆっくりと味わい、食べ終えた。

「さて、と」

皿、片付けるか。

 



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妹紅と

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
大して話は進んでいませんが、どうぞ。


「…ん?」

食器を片付け終え、居間でくつろいでいるとコンコン、という音が聞こえてきた。

玄関か。誰だ?

「いま行きますよー」

と言いつつ、玄関へ。

扉を開ける。

「妹紅か。上がっていいぞ」

「ああ。お邪魔するよ」

「ここは慧音に?」

「そうだよ」

とりあえず、居間へ。

「まだ家具とか買ってないのか」

「ああ」

昨日買ったのは、とりあえずの食器を数枚、今日と明日のぶんの食材だけだ。

「今日はどうするんだ?」

「今日からしばらくは、家具を揃えたりだな」

さすがに机もなにもないのでは、生活しづらいからな。

「机もないもんね」

「そういうことだ。とりあえずは机と座布団でも買いに行くかな」

外を見る。少し落ちたが、まだまだ日は高い。

「今から行くの?」

「そうしようと思っていた」

「なら私も行くよ」

ついてくるようだ。

「わかった。じゃ、すぐに行こうか」

「うん」

 

妹紅と共に家を出る。

「座布団はともかくとして、机はどうやって運ぶ?」

「担ぐさ。木製の机くらいならどうにかなるだろう」

「担げるのか?」

「ああ」

「そんなふうには見えないけどね」

「まぁそうだろうな」

この容姿じゃそう取られるのが普通だろう。

「とりあえず、机から行くぞ」

「どの店かわかる?」

「わからん。歩きまわってれば見つかるだろうと思っていた」

「まぁ見つからないことはないと思うけどね。私は知ってるから、案内するよ」

「そうか。ありがとう」

「いいよ。さ、行こう」

「ああ」

 

 

 

「ふむ…」

家具職人の店で売っている机は、いわゆるちゃぶ台のようなものだ。

大きなものから小さなものまである。

「これにしよう。幾らだ?」

「それならこのくらいだな」

金を数えて渡す。

「まいどあり」

机を持ち上げ、店を出る。

 

「いいのがあったみたいだな」

「ああ。とりあえず置きに帰ろう」

 

「さて、次は?」

「座布団はとりあえず買いたいが…。ところで妹紅、夕食は食べていくか?」

「そんなに遅くなるかな?」

妹紅の言葉に、空を見る。

日の高さから考えると、3時くらいか。

「ならないかもな。礼として食事を作ろうか、と思っていたんだが」

「ルートの料理か。食べたいな」

「なら、色々と見て回るか。そうすれば、腹も減るだろう」

「そうだね」

さて、どこへ行くか。

 

「そういえば、ルート」

妹紅が話しかけてきた。

「ん?」

「ルートって、森の中で妖怪に襲われてた子供を助けたんだよね?」

「ああ」

「どうやって察知したんだ?」

「あー、人里の近くで大きな気配を察知して、そっちのほうに行った方がいい気がしたから行ってみたんだ。そうしたら、子供が襲われていてな」

今思えば、何故そちらに行った方がいいと思ったのだろう?

「人里から察知できるような、大きな気配?」

妹紅が聞き返してくる。

「ああ。妖怪が集まっていて、それをひとつの気配のように感じたんだ」

それにしても、あれほどの気配はかなり珍しいが。

「そういうのは、珍しいな」

やはりそうか。

「何かある、か?」

「さぁ。どうだろう?今はまだわからない」

「それもそうか」

警戒はしておくべき、か。

「それよりさ、ここの店の団子とお茶が美味しいんだ。食べてかない?」

「ほう?ならそうしよう」

答えつつ、夕食は何を作ろうか、とも考える。

 

 

 

「いい甘味だった」

「でしょ?」

「ああ」

空を見る。だいぶ日も傾いてきた。

「妹紅、そろそろ俺の家に行こう。途中で食材を買っていく」

「確かに、そうした方がよさそうだ」

「何が食べたい?」

「ルートの知ってる中で幻想郷では珍しい料理、とか?」

「幻想郷では珍しい料理、か。なら…」

カレー、とかだろうか。いや、あれは手間がかかるな。

そもそも、人里で売っている食材にもよるな。

「とりあえず食材を見て決める」

「わかった」

 

 

 

「小麦の粉末があるのか」

幻想郷の食文化は、米が主食だ。それゆえ、小麦粉などはないだろう、と思っていたのだが。

「それに、にんじん、じゃがいも、玉ねぎと。鶏肉もあるな」

あとは米も。

「なにか思い付いた?」

「ああ。シチュー、という料理を作る」

「シチュー、か。聞いたことないな。楽しみ」

店主に声をかけ、必要な食材を買う。

「よし。妹紅、行くぞ」

「ああ。すこし持とうか?」

「いや、いい」

肩に米を担ぎ、手ににんじんなどを抱え、歩く。

近い道を通ったので、さしてかからずに着いた。

「よし。妹紅、待っててくれ」

「わかった」

さてと。久しぶりだが、美味く作れるだろうか。

 

 

 

「…ふむ。よし、これでいいな」

満足行く味に出来た。

皿によそいでから、焼いておいた保存食のパンを別の皿にのせ、持っていく。

「出来たの、ルート」

「ああ」

ちゃぶ台に置く。

「おお…。これは、今までにない感じだ」

「幻想郷の食文化とはだいぶ違う料理だな。ご飯のかわりに、このパンを食べてくれ」

「わかった。どうやって食べる?」

「シチューはこのスプーンですくって食べる。パンは基本は手づかみで食べるものだな。手でちぎって食べるんだが、シチューに浸けたりしても美味しいぞ」

「そうなんだ…。じゃあ、いただきます」

「いただきます」

まずはスプーンで一口。自分では美味く作れたと思うが、妹紅の口に合うだろうか。

妹紅も、俺に倣ったように一口。

「…」

もう一口。

「…うん、いいな、これ。食べたことのない味だけど、美味しい」

「それならよかった」

杞憂だったようだ。

幻想郷においては、和食とよばれるものが主流らしい。

洋食は珍しいなら、それで金を稼ぐことも出来るかもしれないな。

 

 

「御馳走様。美味しかったよ」

「こういう料理が食べたくなったら、また作ってもいいぞ」

「本当に?なら、その時はお願いね」

「ああ」

妹紅を見送った後、俺は寝袋を置いて寝転がりながら、色々と考える。

まずは、金。

今持っている分で当面は暮らせるだろうが、使うばかりではいけない。

先程、料理で稼ぐことも考えた。

妖怪退治もいいかもしれない。

そのうち誰かに相談してみよう。

さてと、寝るか。



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チルノ

俺は今、紅魔館へと向かっている。

数日前に会ったメイド、十六夜咲夜が仕えているという、吸血鬼の住まう舘だ。

眼下には森。

前に買った地図には詳しい位置が記されていなかったので、慧音に方角と目印だけ聞いて、真っ直ぐ飛んできた。

「…お」

見えた。慧音が言っていた湖だ。

ここまでくれば、あとは周辺を探せば必ず見つかるだろう、と言っていたな。

高度を下げ、霧の濃い湖のほとりに着地する。

「………」

おかしい。直射日光が当たっていると言うのに、妙に涼しい。いや、寒いというべきレベルか。

近づいてくる気配も感じる。

「誰だ?」

「あんたこそ、誰よ?」

後ろから声。

振り向くとそこにいたのは、水色の髪と後ろに羽のように浮いている氷の塊が特徴的な少女。

見た目にはかなり幼い。

「俺はルートだ」

「ルート?へー。聞いたことない名前。あたいはチルノ」

チルノ、ねぇ。

「で、何か用でもあるのか?」

「そうね。なら、あたいと勝負しなさいよ」

「何でだ」

「強そうに見えるから、倒してやるわ」

「……」

なんだそりゃ。付き合う理由はないな。

「面倒だから嫌だね」

飛び立つ。すぐに左へ移動し、飛んできた氷塊を避ける。

チルノは不敵な顔で、

「逃げるの?強そうな人間だと思ったのに、拍子抜けね」

と言った。まぁ、言わせておけばいい。

「ああ。生憎と俺はそこまで強くないんでね」

「そう。なら、あたいにやられちゃうわね」

そういうと、チルノは氷塊や氷のつぶてを連射してきた。

「………」

素早く移動すれば避けられるが、連射は途切れそうもない。

ああ、これは相手してやったほうが楽そうだな。ほっといたら会うたびに襲われそうだ。

パターを抜く。いつもどおりの低出力スタンモード。

チルノから照準をはずして撃つ。

「ふふん、やる気になったわね」

「しょうがないから相手してやる」

どう来るかね。

「凍り漬けにしてあげるわ!」

氷のようなものが飛んでくる。

飛び上がり、着弾した所を見る。

氷結していた。本当に凍り漬けにする気か。

さらに攻撃。

数十もの数を群れにし、一気に飛ばしてくる。

大きく動いてかわしつつ、パターを連射する。

当たってはいるが、効果は薄いようだ。

出力を上げるか?いや、上げすぎて殺してしまった、では洒落にならないな。

「むー、この、ちょこまか避けないでよ」

「そりゃ無理な相談だ」

「ちくしょー、ならこうよ!氷符『アイシクルフォール』!」

攻撃パターンが変わった。

左右に発射した氷が分裂しつつこちらへ方向を変える。

「む」

多い。こりゃ、弾幕だな。それにしてはかわせとばかりに隙間があるが。

隙間をかいくぐる。

しばらくかわしていると、弾幕が途切れた。

「やるわね」

「どうも」

続いてチルノは、氷をばらまきつつ、レーザーを撃ち始めた。

こちらの動きを制限して、当てるつもりか?

まぁいい。かわし続ける。

「いい加減にやられろー!凍符『パーフェクトフリーズ』!」

チルノがそう言うと同時に、色とりどりの光弾が大量に撃ち出される。

直進する弾を掻い潜ってかわす。

「ん?」

弾が止まった。

チルノがこちらに向けて氷弾を放つ。

さらに掻い潜れというわけか?

かなり間が狭いが、かわす。

そしてすぐに、止まっていた弾がバラバラな方向へ動き出す。

が、難なくやりすごす。

「…や、やるじゃん」

「なんでもいいからもう決めさせてもらうぞ」

チルノに接近しつつ、連射。

「痛っ、やったわねー!」

頭にあたったからか、チルノが怒って氷を大量に射ってくる。

怒りで狙いが雑だ。こちらもそのまま撃ち続ける。

「痛いのよ、この、この、この、あぅっ!?」

…痛め付けてる感じだなこりゃ。

「悪いな」

それでも連射。

「きゅう…」

スタン弾のダメージが蓄積したのか、チルノはすぐに気絶した。

「…ふう」

そして気づく。

「さっきのが弾幕ごっこ、ってやつか」

なかなかにハードだな。

実力者の弾幕はもっと凄いのだろうか。

そもそも戦うことになりたくないが。

霧が晴れてきた。

周囲を見渡すと、湖の向こうに大きな赤い館が見えた。

あれか。

高度を少し上げ、館へ向かって飛ぶ。

吸血鬼とやらはどんなものかな。



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紅魔館

「ここか」

館の門前に降りる。

「…」

紅いな。真っ赤な館とは、主人も変わったセンスだ。案外血の色とかかもしれんな。

で。

門前には俺以外にもう一人。門横の柱によりかかって寝ている女。髪が赤い。

門番か?こいつ。

「誰ですか、貴女?」

「ん、起きてたのか」

「まぁ寝てたら仕事になりませんし」

「それはつっこみ待ちか」

寝てるようにしか見えないんじゃ主人にも誤解されないのか?

まぁとにかく。

「俺はルート・フォンクだ。この館に興味があって来た」

「それはまた、珍しい。ちょっと待っててください」

そう言うと彼女は門を開けて中へ入り、再び閉めてから館へ歩いていった。

一分もたたず、里で見かけたメイド、十六夜咲夜を連れて戻ってくる。

「誰かと思ったらこの間の。まぁ、礼儀くらいはわきまえているでしょう、入れていいわ、美鈴」

「わかりました、咲夜さん」

めーりん、ねぇ。どう書くのだろう。

「では、私についてきて下さい、フォンク様」

フォンク様。客として扱ってくれるらしい。

「わかった」

言われたとおり十六夜咲夜についていく。

紅い中目立つ、木の色をした玄関を入ると。

「(中も紅いのか)」

目に悪そうな紅い壁。どす黒い赤の床。そんな色をした広い空間。

「(吹き抜けか)」

目の前に大階段。

「こちらです」

階段のほうで言う十六夜について歩いて行く。

「こちらへ」

廊下にある扉の一つ、その中は廊下や外壁よりも目に優しそうな色合いの部屋。

座り心地のよさそうなソファとテーブルが置いてある。

「どうぞお座り下さい。すぐにお茶をお出しします。紅茶でよろしいでしょうか?」

「それで構わない」

座る。見た目通り、中々の座り心地だ。

扉から出て行った十六夜はすぐに紅茶を乗せたカートを押して部屋に戻ってきた。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

湯気が立つ色鮮やかな紅茶だ。

「(紅茶を淹れたにしては早すぎるな)」

まぁ、気にすることでもないか。

カップを手にとる。

「いい香りだ」

「ありがとうございます」

一口。味もいい。

俺が頷く様子を見た十六夜は、

「少々お待ち下さい」

そう言うと再び部屋から出ていった。

俺はカップを傾け、紅茶を味わう。

飲み干してカップを置き、一息ついたところでドアが開く 。

「フォンク様、紅茶はもうよろしいでしょうか?」

「ああ。いい物を飲ませてもらった」

「では、こちらへ。主人が話をしたいそうです」

「わかった」

再び十六夜について、廊下を歩く。

今度は大きい扉へ案内された。

「この部屋で主人がお待ちです」

いよいよご対面、か。吸血鬼とはどういうものかな。

 

「お嬢様、ルート・フォンク様をお連れしました」

「入りなさい」

お嬢様。そして聞こえた声。少なくとも男ではない。

ドアが音をたてて開く。

部屋にあったのは、テーブルと椅子。

長テーブルの短い面がこちらに向いている。

そして、奥側の椅子に座っていたのは。

「ようこそ、紅魔館へ。私がレミリア・スカーレットよ」

明るめの青い髪を持ち、桃色を基調とした服をまとった、幼い少女だった。

 

 

「あなたね、この館に興味がある、なんて奇特な人は」

「奇特、か。吸血鬼の館に興味を持つのはおかしいか?」

「だからって来ないんじゃないかしら?普通は」

「それもそうだな」

「まぁ、それはともかくとして。座りなさいな」

「お言葉に甘えて」

手前の椅子を十六夜が引いてくれる。その椅子に座ると、ちょうどレミリア・スカーレットと対面する位置に。

「咲夜、下がっていいわ」

「かしこまりました」

十六夜は部屋から出ていく。

「さて、ルート・フォンクと言ったわね。あなたは何をしにこの館へ来たのかしら?」

レミリア・スカーレットは両手で頬杖をつきながら、問いかけてくる。

「何をしに、ね。強いて言えば、あなたに興味があったから、かね」

「なかなかストレートね。なら、私の姿を見て、少なからず失望したんじゃないかしら?」

「あなたが幼い姿をしていたからって、失望などしないさ。意外さはあったがな」

「ふぅん?そう」

「だがひとつ聞きたいな」

「何をかしら?」

「紅い館は、あなたの趣味かな?」

「残念、私じゃないのよ。紅い館は嫌いじゃないのだけれど、目には優しくないと思わない?」

「違いない」

「ふふ、やっぱりそうよね。私は吸血鬼だから、あまり関係はないのだけれど」

見た目とはギャップのある、余裕のある態度。しかし子供が威張っているような印象は受けない。

「しかし、この館は広いな?」

「咲夜の力で広げているのよ。おかげで空間に余裕があって助かるわ」

力、ねぇ。大したものだ。

「さて。このまま話しているのもいいけれど、せっかく来てくれたのだから、この館を見ていきなさいな。特に、大図書館なんて、あなたも気に入るんじゃないかしら?」

「それは楽しみだな。なら、案内してもらうことにしよう」

「ええ。咲夜?」

「はい、お嬢様」

レミリア・スカーレットの呼ぶ声と同時に気配が現れ、扉から十六夜咲夜が入ってくる。

「それでは、行きましょう。フォンク様」

「案内、よろしく頼む」

「かしこまりました。では…」

と十六夜が歩き出そうとして、止まる。

気配。それもレミリア・スカーレットのように押さえていない、強いもの。

それが近づき、開いたままのドアから宝石のようなものが覗いた。

「お姉さま?」

宝石のようなものは細く黒いものに吊るされるようについていて、その黒いものは、赤い服、金髪に白い特徴的な帽子の少女から生えていた。

「フラン、出てきたのね。丁度いい、紹介するわ。私の妹、フランドール・スカーレットよ」

妹か。たしかにレミリア・スカーレットと似た雰囲気がある。背中の翼らしきものを除いては。

と思い、レミリア・スカーレットを見ると、こちらは背中からコウモリのものに似た翼を生やしていた。先程は畳んでいたのだろうか?

「お姉さま、この人、お客さん?」

「そうよ。ルート・フォンクって人よ」

「へぇー、そうなんだ。ついて行ってもいい?」

「いいかしら?」

「構わない」

「だそうよ。フラン、大人しくしているのよ?」

「うん、わかった」

姉と比べると、仕草、言動などが幼く感じる。見た目相応か?

「それじゃ、咲夜。お願いね」

「かしこまりました、お嬢様」

「それでは、行きましょう」

と促す十六夜について部屋を出る。

「ねぇねぇお姉さん」

フランドールが、無邪気な笑顔で話しかけてくる。

「え、あー、何だ?」

「お姉さんは、どこから来たの?」

「どこから、か。……すごく遠いところ、かな」

「遠い…?どっちにあるの?」

「空のずっと上、かな」

「ずっと上?すごーい!それってどんなところ!?」

「どんなところ……」

どんなところ、だったか。口で語るには、色々な印象がありすぎる。

「………」

困った。どう答えるか。

「…えぇ、と」

「…?」

「…幻想郷とは、別の美しさがあったな」

「別の…?」

「ああ」

「そうなんだ…。見てみたいな、私も」

見てみたい、か。

「着きましたよ」

「ん、ああ」

十六夜がひときわ大きい扉を開けていた。

扉の中に目をやると――――

「っ」

予想以上に広い空間。そこに、多数の背の高い本棚と、ぎっしり詰まった本。

大図書館の名に恥じない光景がそこにあった



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大図書館

長らくお待たせいたしました。
他に言えることはちょっと思い浮かびません。


「これは…すごいな」

広い。そして多い。

大図書館に収められている本すべてで、どれほどの情報量になるのだろうか。

「読んでも読んでもまだまだあるから、いい退屈凌ぎになるんだよ」

とフランドール。

それはそうだろうな。なにせ無数の本棚一つ一つが人の三倍以上、中には10倍ほどのものすら。そのうえ、壁面も本棚になっている。

「ここは広い場所ですし、迷う可能性もございます。先にここの主のところまでご案内しましょう」

「ああ、頼む」

そう答えると、十六夜は軽く床を蹴って飛び上がった。

それについて俺とフランドールも飛ぶ。

本棚の間を縫うように飛ぶと、入り口周辺より雑然とした場所に来た。

床に本が積み重ねられ、いくつかの机と椅子がある。

その一つに、ピンクに近い紫色の人影。本を読んでいるようだ。

十六夜はその近くへ降りていく。

降り立つと、先ほどの人が顔を上げた。

「ん、咲夜。お客さんかしら?」

「ええ、パチュリー様。こちら、ルート・フォンク様です」

「ルート、ね。私はパチュリー・ノーレッジ。ここの主よ」

「紹介されたとおり、ルートだ。よろしく」

「ええ。図書館を見に来たのね。こあに案内させるわ」

「ありがとう」

「まぁ、まともな客ならそれくらいはね」

まともな?まともでない客がいるのか。

「こあ、きてちょうだい」

ノーレッジが本棚の方にむけて話すと、そちらから飛んでくる影。

「どうしましたか、パチュリー様?」

「この人、お客さんだから案内してあげて」

「わかりました」

目立つ赤い髪。そこから生やしたコウモリのような小さい翼が特徴的なそいつは、十六夜に向き直って言った。

「咲夜さん、あとは私に」

「ええ、頼むわね。……それでは皆様、失礼いたします」

そう言うと十六夜は消えた。

「それじゃ、行きましょうか。妹様、ルート様」

「ああ。しかし、ここは広いな」

「はい。私は慣れていますけど、それでもぼんやりしてたら迷いそうですよ」

「慣れているのか…」

慣れられるのが不思議だ。この周辺はともかく、見渡してみると奥の方には天井まである本棚の列が大量に見える。奥底まで入り込んでは戻るのに苦労するだろうに。

「私はここのどこにどんな本があるかをほとんど把握しているので、それで位置はわかるんですよ」

「成る程…」

それにしても記憶力が要るだろう。そこはさすが人外、というわけか。

「それで、どんな本が読みたいですか?」

「ん、ああ…」

そういえば考えていなかった。

ふむ。

「不死、とかそういう類いに関わるもの、ないか?」

「不死ですか?」

「俺の体質なんだがな、何故そうなっているのかがよくわからないんだ」

発端は明らかだが。

「それはまた…「その話、本当?」パチュリー様?」

本を読みふけっていたパチュリー・ノーレッジが、こちらを見ていた。

「本当だ」

「興味深いわね…少し私に付き合ってもらえないかしら?」

「付き合うとは?」

「不死について調べたいのよ」

「…それなら、付き合おう」

そうなった時から自分の不死には興味があったが、生憎とそちらの知識のなかった俺が調べても、大したことは出てこなかった。

彼女は俺より、知識がありそうだ。

「とりあえず、あなたの体を解析させてもらうわ」

「どうやるんだ?」

「あなたはここに座ってるだけでいい」

「了解した」

勧められた椅子に座る。

「行くわよ」

ノーレッジは机から本を取って開き、片手を俺に向けてかざす。

すると、俺の座る椅子付近の床が光り始めた。

見るとどうやら、紋様になっているようだ。魔法陣、というやつか。

体に力が走る感覚。霊力とは違う、これは、魔力か。

「構造は…。力…。代謝…」

ノーレッジはぼそぼそと呟きながら、さかんに目を動かしている。

「……………こんなところ、かしら…」

光が消える。魔力の感覚も。

「…体は特に人とは変わらないわね。でも、代謝が違う。細胞が劣化しないようね。その力の大本は異常に豊富な霊力から来ている。つまり、あなたの不老は恐らく、霊力のおかげね」

「霊力、か。そんなに強い力だったのか、これは」

「貴方ほどに大きな霊力反応を持つ人はほとんどいないわ」

「なぜこうなっているか、はわかるか?」

「残念ながら、分からないわね。既にあなたの一部になっていて、発端となった力は残っていないようなの」

「そうか…」

あの変な僧侶が何をしたかはわからない、か。

「それはそれとして、貴方の不老不死はどれくらいなの?」

どれくらい、と。

「それは、どれくらいまで死なないか、と言うことか?」

「そうよ」

「…体のどこがもげても、蒸発しても元に戻る。頭でも、な」

「っ、想像以上ね…」

少し驚きを見せたノーレッジは、それきり押し黙る。何か考えているらしい。

「再生する様子は、見せてもらえないかしら」

すこし悩むような態度で、そう切り出してきた。

「構わないが…」

「いいの?」

「腕に傷をつけるくらいならな。腕を無くしてから再生となると、違和感がかなり残る」

「ええ、十分よ」

「なら、なにか刃物を貸してくれないか」

「わかったわ。こあ」

「はい、ナイフですね?」

「血液もついでに採取したいから、液体用の皿もお願い」

「わかりました」

と答えて、こあと呼ばれた女性は図書館の奥に飛んでいく。

「血液も調べて、構わないわよね」

「ああ」

返事をして俺は"こあ"が飛んでいった方を見る。

「あ、紹介していなかったわね。彼女は小悪魔、私の使い魔よ」

小悪魔とは、またそのままの呼び名だな。

そこでふと、フランドールのことを思い出して周囲を見回す。と、彼女はいつのまにやら本を呼んでいた。座っている席の机に数冊を重ねている。

「彼女にこれからやることを見せてもいいのか?」

先程までの印象からすると、フランドールは精神的にも外見的にも幼いように思える。

「どうかしらね…レミィの方なら問題ないでしょうけど」

「わからないなら、念のため移動しよう」

小悪魔が戻ってくる。ノーレッジはフランドールに歩みより、実験をしてくると言った。

「わかった」

とフランドールは一言答え、読書に戻った。

「落ち着いている。いい子、だな」

移動しながら、ノーレッジに言う。

「そうね。昔はもう少しやんちゃだったわ」

本棚の間を3人で抜けて行くと、一際大きな机と椅子があった。

ノーレッジはその肘掛けつきの椅子に腰掛けて、言う。

「いつもはここで研究するの。こあ」

「はい」

小悪魔がノーレッジの前に大きいシャーレのようなガラス皿を置く。

俺はノーレッジに向かい合う席に座るよう言われた。

「このナイフで軽く貴方の前腕部の皮膚を切り裂くわ。いいかしら?」

「ああ」

左手の袖を捲る。

ガラス皿の上に左手を差し出し、待つ。

「切るわ」

ノーレッジはもう一度言い、ゆっくりとナイフを近づける。

「っ」

左前腕に痛み。ノーレッジは慎重にナイフを動かし、長さ5cmほどの切り傷を俺の左腕につけた。

血が流れる。

腕を伝い、指からガラス皿へ滴り落ちる。 しかし、その血はすぐに止まった。

「…早い」

ノーレッジが呟く。

「こういう体だ」

俺が応えた時には、すでに切り傷は無くなっていた。

 

 

「想像以上ね」

その後もノーレッジは何度か俺の左腕で傷を見て、そして最後にそう言った。

「そうか」

濡れた布で左手の血を拭う。

「ええ。元が人間だとは思えないわ」

「人間でないなら何だと?」

「妖怪かしらね」

「妖怪はこんな体をしているのか」

「人間より再生能力は高いわ。知らなかったの?」

「幻想郷に来てからそれほどではないからな」

「そう」

ノーレッジはそれきり黙り、採取した俺の血を持ってどこかへ行ってしまった。

「あら、行ってしまいましたね」

「ああ、急に行かれるとこちらは困るんだがな」

「でしょうね。でも、貴方が不老不死だという事実はそれだけ大事なんですよ」

「それは、そうだろうな」

妹紅は不老不死だが、研究させろと言われればいい顔はするまい。

それに、不死者の血なんて物は研究者にとって、さぞ魅力的なものに思えることだろう。

「…」

左腕を見る。

幾度かナイフでつけられた切り傷は、既に無い。切り傷程度なら数秒で治ってしまう。

以前には、なくしたこともあった。それでもこの腕はこうして付いている。

「不死、か…」

「ん、どうしましたか?」

口から零れた思考に、小悪魔が反応する。

「独り言だ、気にしないでいい」

「わかりました」

死なないこと、それを実感できるほどにはまだ生きていない。

ただ再生力が高いだけ、体が老いないだけ。そうなのかもしれない。そうであったなら―――

「ルート」

意識が引き戻される。ノーレッジか。

「戻ったか。どうだった?俺の血は」

「さっきの身体解析でもそうだったけど、成分などは特筆するものはなし。ただし健康ね。血液としては最良の状態よ」

「ふむ」

確かに、こうなってから病気を経験していない。

「それ以上は、これから更に研究しないとダメね」

「そうか」

血液一つとっても奥深い。研究とはそういうものなのだろう。

「俺はそろそろお暇させていただくよ」

「あら、帰るの?」

「ああ。当主にも挨拶をしていく」

「そう。なら、こあ。案内をよろしくね」

「はい、パチュリー様。それではルート様」

「ああ」

小悪魔に続いて飛び上がる。そして入り口へ向かって少し飛ぶが、途中で呼び止められた。

「お姉さん、もう帰っちゃうの?」

声のもとは、本を読んでいたフランドールだった。

「ん、ああ。そうだ」

「そう…また来る?」

そう問われて少々思案しつつ、ふと小悪魔のほうを見る。彼女は少し離れたところに立っていた。

「ああ、来るよ。フランドール。ここは魅力的だ」

彼女の姉、レミリアとはもう少し話してみたい。それに大図書館の蔵書は読んでみたいし、ノーレッジの研究成果を確認したい。

「…わかった、待ってるよ」

そう言って彼女は微笑む。

「またな、フランドール」

俺も彼女へ微笑み、再び床を蹴った。



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飛行

「あら、帰るの?」

小悪魔に案内してもらい、レミリアに帰らせてもらう旨を伝えると、レミリアは笑みを浮かべながら言った。

「ああ。だが、ここは色々魅力的だし、ノーレッジに聞きたいこともある。また来させてもらってもいいかな?」

「構わないわよ。不老不死なんて、パチェに関わらず気になるものだし、ね」

「聞いていたのか?」

「いいえ?ただ、そういうことは分かるわ。親友だもの」

「道理だな。では、失礼する」

「また会いましょう。貴方には興味があるわ」

「光栄だな。また」

挨拶をし、屋敷から出る。そこまで案内してくれた小悪魔にも礼を告げ、門の外に佇む門番にも挨拶していこうと考え、ふと思う。

名前を聞いていない。

「あら、ルート様。お帰りに?」

「そうだ。だがその前に一つ」

「はい?」

「貴女の名前を聞いておきたいと思ってな」

「ああ、自己紹介してませんでしたね。私は紅美鈴(ほん めいりん)。紅く美しい鈴と書きます」

紅、美、鈴か。

「なるほど、中国語か」

「そうです」

「よし。では、失礼する。また来ると思うから、その時はよろしく頼む」

「ええ、貴女のようなお客様なら歓迎します」

紅とも別れを交わし、飛び立つ。

浮上して暫く進む。進んでいる途中で、体が揺らいだ。

「む。不調か?」

個人用力学制御装置。大層な名前だが、個人用だけあってせいぜい出来るのは人間一人二人を飛ばすくらいだ。実質は重力、慣性制御を応用して推力を発生させ、空力的形状を整えているに過ぎない。過去の知り合いの手で速度などをかなり出せるようにはなっているものの、精密装置で、メンテには手間がかかる。

「霊力、ねぇ」

俺の霊力は類い稀な量があるらしい。博麗にも、ノーレッジにも言われた。神社へ行ったときから霊力の扱いは色々試しているが、飛行は疲れる。霊力制御の飛行は力学制御のイメージ制御とは違う。ただ、霊力を形作るのも最初は疲れていたのだ。恐らく、慣れることができるだろう。

装置に頼らず、飛行できるようにしておきたいな。

そこまで考え、ふと思い付く。

装置の推力と霊力を合わせたら、どうなる?

例えば、ブースターのように推力を足したら?

試しに、装置制御はそのまま、霊力を意識する。後方へ推力を発生。

加速した。強くする。

さらに加速。

装置側まで強くしたら、どれだけ出るんだ?

「いや、ダメだな」

さっきの揺らぎが気になる。むしろ、装置なしの練習をすべきだろう。

ブレーキ、空中静止。

霊力制御に気を回し、逆に装置の方は弱めて行く。

滑らかに、霊力浮遊へ移行。

「…む」

やはり、制御に気を使う。

無駄が多いのか?

…推力による浮遊ではなく、浮遊のイメージでは、浮けるか?

「……浮いた」

推力ではなく、純粋な浮遊感のみ、という印象。先程より楽だ。

そうか、霊力は複雑に考えなくてもいいのか。

なら。

「加速」

呟きながら、前進をイメージ。その通りに加速する。

上昇、下降、左右旋回、平行移動。急反転、直角カーブ。

これはいい。装置と同等以上。以前は、ここまで扱えなかった。

何故、と考えるのは後だ。害もない。

身一つで飛べるのは便利だ。是非とも自在に使えるようにしたい。

そう考えながら、人里へ再び加速する。



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置き場所

「ん…」

陽の光に目を覚ます。

ファスナーを広げた寝袋から出て立ち上がり、伸び。

「…ふぅ」

縁側に出て、空を見る。6時くらいか?

寝袋のファスナーを閉め、隅に移動させる。

昨日の帰りについでに取ってきたクーラーボックスを開ける。中には昨日の夕食と共に作っておいた握り飯。二つパックに入れてある。

ちゃぶ台に起き、座布団に腰掛ける。

パックを開いて一つ目の握り飯を掴み、一口。普通だ。特段大したものではない。

そのまま二つとも食べきり、パックは軽く洗って乾かすために伏せておく。

「…」

そして、立ち尽くす。

幻想郷に来てから、7回目の朝だった。

 

 

 

昨日から始めた霊力での飛行は、今のところ問題はない。

ただ、「飛ぶ」と意識するだけで飛べてしまうのだから、より便利になった。

…霊力、か。

霊力のモトは何だろう?

死ななくなる前は、霊力のことなど自覚していなかったし、当然使えもしなかった。

あの「呪い」、いや「呪詛」がきっかけだと言うのか。

いかにも、な教祖が頂点に立つ、いかにも、なカルト教団。

科学時代においては不自然なほどに巨大化したあの組織は、科学的な根拠を持っていたのか?

信者、になっていた人間には、行方が掴めないものも多くいたらしいが。

…行方?

行方知れず、なんて実際には「確認されていない死」と同義だろう。

死。魂。生命力。

俺の、生命力────

「む」

妙な音が響いた。そして妙な感覚。

その方向を見ると、そこには妖怪から子供を助けた直後に見たような、穴が浮いていた。

「八雲、か?」

「そのとおり」

答えと共に顔を出す少女。

「何やら考え込んでいたようね?」

「ああ。そうだ」

とは言え、他人に話すようなものではない。

「貴女は、何の用だ?」

「そうねぇ。貴方、暇?」

「特段やることがあるわけでもない」

「そう?なら──」

八雲は可愛らしく、という感じに微笑む。

 

「私の家に、来て頂けるかしら?」

 

 

 

 

八雲の招きを受け、穴を通して移動した先は、大きな屋敷だった。

「家、ねぇ」

呟く。

人里の屋敷とは思えない。屋敷は見かけているものの、こことは構造が違うように感じる。

第一、周辺に人の気配がない。

呟きに、俺の前を歩く八雲が反応する。

「客間、って言ってもいいかしらねぇ」

客間。恐らく八雲の家は違う「場所」にあるのだろう。

「さしずめ、迷い家ってとこか?」

「あら、よく知ってるわね」

「一時期、調べていたんだよ。この体、オカルトの類いをな」

それももう昔だが。

「そう。ただ、その話がここで通じるのはおかしいと思わない?」

「ああ、確かに思っている」

「興味深いわね」

八雲が襖を開ける。

その部屋にあるのは普通のちゃぶ台と、座布団数個。

「座っていいわ」

促されるまま、座る。八雲は対面に座った。

「さて、話しましょうか?」

小首を傾げ、挑発するように。八雲紫は曖昧な問いを投げ掛けてきた。

 

「なら、貴女が何者なのかを訊こうか」

「話していなかった?」

「名前だけだ」

「そうね」

「人外なのはわかるがな」

八雲が苦笑する。

「人外って纏めるのね。あんまりいい言葉ではないわよ?」

「わかっているさ。だが、はっきり言って妖怪やらの違いなど知らんのでな」

「来たばかりだものね」

「そういうことだ」

答えると、八雲は一息をつく。そして。

「なら答えましょう。私、八雲紫は幻想郷の管理者みたいなものね。区別するなら…そうね、スキマ妖怪、といった感じかしら」

と、自分のことを語った。

管理者、とは。随分と上の存在らしいな。 

「なるほど、な。なら、あの時俺のことをあれこれ聞いてきたのは、異物である俺が気になったからか」

「そうよ。空中に突然、結構な大きさの機械が現れるんだもの。気にもなるわよ」

当然、ストレイドのことも知られているか。

「なら、その機械の扱い方には言いたいことがあるんじゃないか?」

「ありますとも。空間跳躍なんて超技術とか、空中に待機させてることとかね」

「俺自身については?」

「少なくとも、幻想郷に対する害意はなさそうね」

なさそう、とは、見てきたような物言いだ。

「覗き見とは、趣味の悪い」

あの穴を通して見ていたのだろう。

軽く咎めてみるが、八雲は、

「そうね」

と微笑むだけ。

「まぁいい。それで?俺をわざわざ読んだのは何故なのか、聞かせてもらいたいね」

「言ったでしょう?お話ししたいって」

それだけとは思えんのだがな。

「そうかい。なら、文化のことでも訊こうか」

俺の知っている、俺の知らない場所の、文化。

「いいわね」

興味を引かれている、という雰囲気で、八雲は頬杖をつく。

「俺の故郷は、この星ではない。わかるだろう」

「ええ」

「しかし、俺はここの言葉の意味がわかるし、こうして話ができる」

「支障もなくね」

「そのうえ、料理なども変わらん。俺の知っている"味噌汁"は、ここの"味噌汁"と変わらないものだ」

慧音の作ってくれたものは、美味しかった。俺の作ったものは好評だった。

「つまり、星が違うはずなのに、文化は酷似している?」

「酷似?いや、一致しているといっていい」

俺の知っている、『和』の文化。ここで見かける『洋』の断片。

「面白いわね。あなたは、どう考えているの?」

「何のことはない。パラレルワールド、という概念は?」

「知っているわ」

「ここ、を含むこの星は、俺の故郷のパラレルワールドのような星、といったところか」

何故、かはわかることはないだろう。

「そのようね」

「もしかすれば、他にもあるかもしれないな。普通なら接触しないほどの、遠くに」

FTLでも接触できない、遠く。

「ますます面白いわ。私にもない発想。宇宙文明のスケールから出てるのかしら?」

「さあな。だが、少なくとも俺はそう解釈した」

「いいわね、空間跳躍。私もしてみたいところだわ」

「貴女は、似たようなことが出来るだろう」

俺をここに連れてきた、穴と穴を繋ぐ空間。あれはワームホール型のFTL移動のようだった。

「距離が違うもの。私だって、宇宙規模の力は持っていない」

「そんなもの、一個体には過ぎたものだろう」

「そのとおりね」

そこで会話を止め、ふぅ、と互いに一息。

「マクロな話はさておくとして。貴方のこと、聞きたいわ」

「さしたることはない。俺自身は普通だ」

「死なないでしょう?」

「しかし、痛みはあるぞ」

「でも、それには慣れているのでしょう」

「慣れてはいるが、避けたいことだよ」

痛みには鈍くなりたくない。

鈍くなってしまったら、自分のこともわからなくなる。

「死ぬような目には、あったことあるの?」

「あったね、何度も」

今思い出しても、寒気のする思いの出来事が、いくつも。

「………」

自然、気持ちが沈む。

「そう。過酷な人生ねぇ」

「そうでもない。結構自堕落に生きていた時期もある。荒事が少しばかり多いだけだ」

八雲がすこし、首をかしげた。

俺はと言うと、そろそろ本音を聞きたいところだ。

「それで、このようなとりとめもない話にどういう意味が?」

「貴方のことを知ることね」

「知ってどうする?」

「ほとんど興味本意よ。興味深いもの、貴方」

「そうかい」

よくわからん。が、ならばこちらから話そう。

「ところでだが」

「何かしら」

「ストレイド、あの空飛ぶ機械をこのまま浮かばせておくのは貴方にとって都合は良くないんじゃないか」

「それで?」

「貴女が、保管してくれないか」

八雲は他と違う。管理者みたいなもの、と言うが、そのものだろう。彼女は空間を操っているような節もある。

「初対面と言っていいようなのに、渡してもいいのかしら?」

「そのほうがいいと判断した」

八雲に預けるのが、最適だろう。俺の荷物が入っていることも観ているはず。それを差し出すのだ。

「取り入るつもり?」

「いいや。信用を得るためかな?それと、そのほうがあいつももつ」

いつまでも稼働状態にして、壊れたら嫌だからな。

「危険物を預けるのね。まぁ、いいわ。貴方はやらないと思うけど、暴れられたら困るもの」

幻想郷で暴れる、か。想像しただけでも嫌だな。汚(けが)したくはない。

「では、預かってくれるということでいいか」

「いいわよ。一方的に使われるならまだしも、私にも利点があるわ」

「利点ね。あれで侵略行為やらをされたら困るが、どうなんだ?」

「しないわよ。良く解りもしないもの、使いたいと思うかしら?」

「だろうな。それでいい」

それでも保険はかける。ただ、通じるかどうかはわからないが。

「それで、どうするのかしら?今すぐ、呼ぶ?」

「そうさせてもらう。出口は?」

「作るわ」

八雲が右手を上げる。右へ払うような動作をすると、その先にあの穴が現れた。

「空に繋がっているわ」

「なら、使わせてもらおう」

立ち上がり、穴へ近づく。

浮き上がってくぐると俺は、八雲の言葉通りに空に浮いていた。

ストレイドを呼び出すと、前方から、光学迷彩を解除しながら現れる。

「それ、便利ね」

八雲の声。

「これのおかげで、隠せていたからな。だがずっとは持たなかっただろう」

ストレイドを呼び出すのに使っていた端末では不安だ。シート後方のボックスから、少し大型の多機能端末を取り出す。ホルスターに入ったそれを、腰につける。

「さて、こいつを運びたいんだが」

そう言いながら振り向くと、ストレイドが通れるサイズに広がった穴と、その横に八雲が浮かんでいる。

「どうぞ?」

微笑みながら、促される。

ストレイドに乗り込み、操縦をマニュアルモードへ。ゆっくりと前進させ、穴を再びくぐる。

するとストレイドは、平らな草地の上へ浮かんでいた。近くに屋敷。

スキッドを下ろし、着地。

システムを低負荷モードへ移行させて、降りる。キャノピーを閉じて、端末からロックする。

上空の大穴は既に無い。俺の正面少し先に、穴が開き、八雲が上半身を出している。

「これでいいのか?」

「ええ。見事なものね」

穴の縁に手を置いた八雲が言う。

「そういう乗り物だからな」

屋敷に歩み寄り、縁側に腰掛ける。

見たところ、さっきまでいた部屋の前らしい。

八雲は穴に顔を引っ込めた。穴が消えると同時に、後ろから声。

「それじゃぁ、話を続けましょうか?」

八雲が、ちゃぶ台に頬杖をついて、こちらを見る。



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生命

「真面目な話もいいけど、それよりいい話をしましょう?」

ふむ?

「いい話か」

「ええ。親睦を深めましょう」

「なぜだ?」

馴れ馴れしいと言える言葉を放った八雲に、俺は疑問を抱く。

「私にあんなものを預けておいて、私自体には関わらないつもりかしら?」

「確かに、そうか。だが何を話せと?」

俺のことはさっきだいたい話してしまったのだが。

「あなたが自己紹介したら聞かれること」

「…それか」

幻想郷に来てから、俺の外見のことを考える頻度が高い。

考える必要があるような環境に、しばらくいなかったからか。

「正直に言って、第一印象は可愛らしいって感じだったのよ」

「言わんでいい。知ってるだろう」

八雲は俺のことを覗いていた。俺に対する反応も見ているだろう。

「ええ。でも知った時は驚いたものよ」

「だろうな」

見て、聞き飽きた反応だ。

「いじりたくもなったわ」

「む?」

いじる?

「あまり表には出さないけど、実は私、可愛い子は好きなの」

「はぁ」

「だから、私はあなたが好き」

好き。ストレートな言葉だが。

「いじめる対象としてか」

「愛でる対象かしらね」

「………」

飼われたくはないのだが。

「その顔。飼われるとでも考えているの?」

「そういう企みに巻き込まれたことはあるからな」

「しないわよ、そんな趣味の悪いこと」

「ならどうすると?」

そう訊くと、八雲は頬杖をといて、腕を机の下へやる。

「たとえば、こんな感じ?」

「っ」

頭に触られる感覚。

「びくっ、てなったわね。可愛い」

「撫でるな」

後ろへ振り向いてみると、小さい穴から右手が突き出ていた。

「何なんだ、その穴は」

「私の能力ね。スキマ、と呼ばれてるわ」

「スキマ、ねぇ」

なるほど、便利なものだ。が、しかし。

「だから、撫でるのをやめろと言っている」

「撫でられるのは嫌いかしら」

「好かん」

「そう。なら、ここにくる?」

スキマから腕を抜いて、八雲が指し示すのは膝の上。

「行かん」

「もう。少しくらいいいじゃない」

「何故そんなに執着する」

「小さくて可愛い子を愛でたがるのは、女性なら共通のことじゃない?」

「なるほど確かに、あんたからすれば俺は子供だろうさ」

いい加減にイラついてきた。こいつは何をしたいのか、読めないことに。

「あら?」

思考しつつ、スキマが後ろに開くのを感じて、霊力を固めた壁を作った。

この様子からするに、両腕で俺を掴もうとしたらしい。

「上手いものね、物理的に触れるなんて」

霊力壁のことらしい。

「博霊にもそこは感心された」

「量も感心されたでしょう」

「そうだな」

量か。霊力は俺が死なない原因らしい。量が減れば、再生力も下がるのか、どうか。下がるとすれば、その方法は知りたいとも思う。そうなれば、俺は………。

「貴方は、死にたい?」

「え?」

突然、八雲が言った。

死にたい、と聞かれたのか。死にたい、か。確かに、俺はいつかは死にたいと考えている。でも、今死にたいかといえば、そうでもない。幻想郷のすべてを見てみたいし、住んでいる人々や妖怪にも興味がある。

「すぐには死にたいわけじゃない。いつかは、な」

「そうかしら」

「本当だよ。俺はまだ、人の範疇でしか生きていない」

「そういえば、聞いていなかったわね。あなた、歳は?」

覗きをしている時に聞いていたのだろうに。

「30だ」

「ふうん?若いわね」

「15から老けてないからな」

「あら、それじゃぁ社会では生きにくそうね」

「確かに、そうだな。だが、さして問題はなかったよ」

なにせ宇宙を移動できるのだ。いかに国交があっても、隙をつくように星を移ればよかった。

「その点、幻想郷は気にしない者も多いだろう」

「そうね。妖怪はみんな、寿命が長いわ」

「だからこそ、俺は落ち着く気になったのかもしれない」

家を慧音が紹介してくれた。それだけで、そこへ落ち着く理由にはならない。幻想郷に、魅力を感じたから。

「あなたも、ある意味ではここにいるべき存在なのかもしれないわね」

「幻想、か」

俺自身は幻想ではない。死なないことはどこであろうと変わらないし、老いることもない。

俺が仮にここから外へ出れば、何処へ行くのだろう?

宛もない漂流の旅。現実的なことを言えば、あの場所から何光年、跳んだのだろう。

「それでも、いつかは居なくなるだろう」

それが俺の答えだった。いつかは、離れるときが来る。

何十年、いや何百年先だろうと。

俺が生き続ける限り、いつかは。

「そう」

八雲は、呟くように言う。

俺は、もういいと思った。話すことなど、既にない。

「そろそろ帰らせてもらう。ストレイドのこと、よろしく頼む」

「あら、残念。まぁ、あれのことはしっかり管理させてもらうわ。では、また」

「ああ」

立ち上がり、振り返ると、そこにはすでにスキマが開いていた。

くぐりながら、ふと呟いた。

「また、か」

この先、どれほどの時を過ごすのか。何度奴と会うのか。

わからないな。それでも、それが俺には嬉しく思えた。



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薬師の弟子

ふと目に入ったのは、綺麗な黒髪だった。

いつものように置き薬の販売のため、人里に来ていた鈴仙は、八百屋の店主と会話していた。

「ねぇ、おじさん。あの人は?」

鈴仙の会ったことのない人間、だろうか?

肉屋の店主と会話している彼女は、人里の人々とは違う雰囲気を纏っている。

「あの子かい?少し前から、里の外れの家に住んでるんだよ、慧音さんの紹介でな」

「慧音さんの?」

「なんでも、寺子屋の子供が妖怪に襲われていたのを助けてきたらしい。人当たりもいいし、俺はいい子だと思うよ」

「へぇ、そうなんですか…」

返事をしながら、鈴仙は彼女を観察する。

最初に目についた、艶のある黒髪。腰くらいまで伸びたそれを、普通の紐で乱雑に纏めている。

肉屋の店主と比べてみると、かなり小柄で、華奢なほう。しかし、すらりと伸びた手足がそれを感じさせない。服装は男物らしい。こちらに左側を向けているので、よく見えないが、右腰になにか提げている。

「お代はこれでいいかい?」

八百屋の店主が、そう言ってお金を差し出す。

「あ、はい。いいですよ。いつもありがとうございます」

「あぁ、こちらこそ。助かってるよ」

店主と別れ、鈴仙は彼女に話しかけようと近づいた。ちょうど、彼女も買い物を終えたらしい。

「すみません」

「ん?」

彼女がこちらへ振り向いた。

ちらり、と鈴仙の頭の傘を見る。

「私、鈴仙といいます。ときどき、竹林の永遠亭から人里に、置き薬を売りに来ています」

「ああ、どうもご丁寧に。俺は、ルート・フォンクといいます」

彼女がこちらへ体ごと向き直り、自己紹介する。と同時に、鈴仙は彼の右腰のものが何かを理解した。標準的なサイズの銃と、そのホルスターだ。

「これが、気になるか?」

彼が鈴仙の視線を察して、訊いてくる。

「はい」

「その様子からして、何かはわかるんだろう。まぁ、自衛用さ」

「外来人の方で?」

「ああ。旅人なんだが、迷い混んでしまってね」

「へぇ………」

「それで、何か用だったかな?」

「いえ、見慣れない方だと思ったのと……」

鈴仙は一瞬、言い淀む。顔つきなど、一見して綺麗な少女だが………。

「綺麗な男の方だと思って」

骨格など、よく見ると男のものだった。

「お、わかったのか」

「多少、医術の心得がありますから」

「なるほどね。まぁ俺は多分、医者にかかることはないだろうが」

「どうしてです?」

ルートと名乗る彼の物言いを、鈴仙は考える。自信だろうか?

「ここだけの話だがな」

彼は少し声を小さくして言う。

「不死身、なんだ」

「え?」

鈴仙は、驚いた。

不死身?どういうことだ?治癒力でも高いのだろうか?

それとも。まさか?

「なんで、そんなことを?」

何故、急に?

「永遠亭なら、君も知っているはずだからな」

「姫様や、妹紅さんみたいな?」

「ああ」

それは、なんというか納得だ。蓬莱の薬のせいかはわからないが、彼は少なくとも、あの二人と同じような体質なのだろう。

言われてみれば、人里の人々と違う雰囲気も納得できる。老い、と言うものを感じさせないのだ。

「失礼ですが、お歳を訊いても?」

「30だ。まぁ、普通さ」

「普通、ですかぁ」

どうみても15くらいだ。

それはさておき、人間としてなら、確かに30は普通の歳だ。

「ところで、鈴仙さん。あなたは、兎の妖怪か何かかい」

「玉兎で、地上の兎です。今は、永遠亭で薬師の見習いをしています。…妹紅さんから、ですか?」

「そうだ。やはり兎なのか。………ふむ」

「?」

「永遠亭に、伺ってもいいだろうか?」

「永遠亭に?はい、大丈夫だと思います。人里の方も、たまに来ていますから。ただ、道案内がないと迷いますよ?すぐですか?」

「今日でもいいのか?」

「はい。私は、仕事が終わり次第帰りますから。案内しますよ」

「ありがたい。なら、これを置いてからにしよう」

風呂敷に提げている肉を、彼が示す。

「それなら、私はここのお店をまわっていますので」

「ああ。また後程」

そう言って、彼は歩き去っていった。

その後ろ姿を見て、鈴仙は思った。

───髪、もうすこしきれいにまとめればいいのに。



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永遠亭

途中の空白までは、前回の別視点。


人里で肉を買い、帰ろうかと思った矢先、声をかけられた。

そちらを見てみると、声の主は薄い紫色の髪をした少女だった。傘の下から、纏めているらしい髪が見える。

服装は、ラフな着物。

「私、鈴仙といいます。ときどき、竹林の永遠亭から人里に、置き薬を売りに来ています」

丁寧な自己紹介。ならば、ということで、こちらも向き直って丁寧に返す。

「ああ、どうもご丁寧に。俺は、ルート・フォンクといいます」

相手の少女の視線が一瞬、下を向いた。銃を見た、か。

「これが、気になるか?」

銃とホルスターに手を当てて、訊いてみる。

「はい」

返事が少しだけ硬い雰囲気。どうやら武器だとわかるらしい。

「その様子からして、何かはわかるんだろう。まぁ、自衛用さ」

「外来人の方で?」

「ああ。旅人なんだが、迷い混んでしまってね」

「へぇ………」

さて、ここらへんで訊いておこう。

「それで、何か用だったかな?」

「いえ、見慣れない方だと思ったのと……」

そこで、鈴仙と名乗る彼女は一瞬、言葉を止めた。視線がちらりと動く。

「綺麗な男の方だと思って」

ほう?

「お、わかったのか」

「多少、医術の心得がありますから」

骨格あたりから判断したか。

「なるほどね」

医術の心得、ね。

「まぁ俺は多分、医者にかかることはないだろうが」

妹紅から聞いたことがある。永遠亭の人々の中に、妹紅と同じ体質の奴がいると。なら、知っているだろう。

「どうしてです?」

彼女はやはり、怪訝そうな表情をする。

「ここだけの話だがな。不死身、なんだ」

小声で、伝えてみる。

「え?」

驚いている。まぁ、当たり前だろう。

「なんで、そんなことを?」

「永遠亭なら、君も知っているはずだからな」

そこで彼女は、得心のいったという顔をした。

「姫様や、妹紅さんみたいな?」

「ああ」

鈴仙は少しのあいだ、考えている様子だったが、やがてこう訊いてきた。

「失礼ですが、お歳を訊いても?」

「30だ。まぁ、普通さ」

「普通、ですかぁ」

今度は微妙な表情。

そういえば、妹紅によれば弟子は兎ではなかったか。

「ところで、鈴仙さん。あなたは、兎の妖怪か何かかい」

訊いてみる。

「玉兎で、地上の兎です。今は、永遠亭で薬師の見習いをしています。…妹紅さんから、ですか?」

「そうだ。やはり兎なのか。………ふむ」

「?」

永遠亭、ね。一度、行ってみるのもいいかな。一応、きいておこう。

「永遠亭に、伺ってもいいだろうか?」

「永遠亭に?はい、大丈夫だと思います。人里の方も、たまに来ていますから。ただ、道案内がないと迷いますよ?すぐですか?」

すぐ、か。

「今日でもいいのか?」

「はい。私は、仕事が終わり次第帰りますから。案内しますよ」

「ありがたい。なら、これを置いてからにしよう」

風呂敷を持ち上げながら言う。

「それなら、私はここのお店をまわっていますので」

「ああ。また後程」

急ぐとしよう。俺は踵を返して、家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙と合流し、人里を出る。

「すまないな、手間をかけて」

「いえ、ついでですから」

人里の出口から、遠くに見える山とは反対の方角へ歩く。

そういえば、弾幕ごっこは基本的に、飛行しながらやるものらしい。つまり。

「………鈴仙さん」

「なんです?」

「一応、俺は飛べる。そちらも飛べるなら、飛んでいかないか」

「えっ、飛べるんですか?」

「あぁ。霊力でな」

装置による飛行は、使っていない。霊力飛行にもだいぶ慣れてきていて、今では自由自在だ。

「外来人なのに、凄いですね」

「この力が宿っているおかげさ」

「なら、飛びましょう。あ、その前に………」

鈴仙は立ち止まって、傘を脱ぐ。纏め上げた髪と、ヨレた兎の耳が露になる。

「ほう」

「ご覧のとおり、兎です。いちおう、人里では人間に変装しているんですよ」

そう言いながら、鈴仙は髪をほどいた。

ふわり、と垂れる髪は長い。足元にも届きそうなほどだ。

「長い、な」

「あなたこそ、男にしては長いですよね。切らないんですか?」

言いながら、鈴仙は地面を蹴る。

「長いと役立つこともある」

浮き上がった鈴仙に追従しながら、答える。

「へぇ………。綺麗ですし、そういうときは役立ちそうですね」

「まあ、な」

「普段から、もっとちゃんと纏めないんですか?」

「面倒だからな。それに、乱雑なほうがわかりやすいだろう」

「性別が?」

「あぁ。もっとも成果は出てないが」

「そうでしょうね。私も骨格を観察しなければ気づきませんでしたから」

「そんなことだろうと思った。人里の人たちも、何割が間違えているのやら」

「私が思うに、ちゃんと話した人以外は気づいてないと思います。人里の医者なら、もしかしたら?」

「そうかね」

「もしかしたら、男の子たちに憧れられてたりして?」

「ぞっとしないね」

話しているうちに、眼下に竹林が見えてきた。かなり広く見える。そのうえ、霧も深い。

「私を見失わないようにしてください。じゃないと、迷っちゃいますから」

「さしずめ、迷いの竹林と言ったところか」

「あはは。当たってます、それ」

「ほう?」

「ただの竹林じゃなくて、迷うようにしてあるんですよ」

「なるほど。だから案内が必要なわけだ」

一面の白に突入する。鈴仙の横で、見失わないように。

そのまま飛び続けていると、突然、竹の切れ目が見えた。

鈴仙はそこへ降りて行く。それにつれて、霧のなかから、和風の大きな屋敷を想像させる門が姿を現した。

「着きましたよ」

その門の前に着地すると、鈴仙が言った。

「なるほど。これは想像以上だ」

想像以上に、立派で、そして古風だ。

「師匠に会いたいんですよね?」

「ああ」

「なら、着いてきてください」

「勿論」

屋敷の門をくぐり、中へ入っていく鈴仙に続く。入っていくすぐのところで、一匹の兎が寄ってきた。

「この人、師匠のお客様なの。伝えてくれる?」

しゃがみこんで、鈴仙が兎へ話しかける。

数回、頷くような仕草を見せた兎は、屋敷の奥のほうへと跳び跳ねていった。

「今のは?」

「永遠亭に住んでいる兎です。一応、人にも化けられるんですが、人見知りなので」

「なるほど」

再び歩き出した鈴仙に続いて行くと、一つの部屋の前に着いた。

「さっき伝言を頼んだので、たぶんここにいるはずです。私は一旦失礼しますから」

「わかった。案内、感謝する」

「いえいえ。では」

鈴仙と別れて、俺は部屋の襖を開ける。



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