知らないドラクエ世界で、特技で頑張る (鯱出荷)
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【プロローグ】ハドラーは、困惑している

----ハドラーSide----

 

バーン様より新たな命をいただいて、

初めて六大団長をご覧いただける機会をいただいた。

 

「実に頼もしい顔ぶれ。余は大変満足しておる」

 

バーン様のお言葉に、頭をたれる。

 

「では六大団長の誕生を祝して、褒美を取らせよう」

 

その言葉の直後、天井にまで届くほどの業火が現れる。

 

「この炎の中央にあるのは、暴魔のメダル。さあ、忠誠心の証として手に取るがよい」

 

その炎の勢いに魔族である私はもちろん、魔鎧を身にまとったヒュンケルすら躊躇する。

だが忠誠心を示すため、取らないわけにはいかない。

 

ザボエラなど一部の者を除いて覚悟を決めて手を伸ばそうとした瞬間、躊躇いなくフレイザードがメダルを掻っ攫う。

 

「見事なり。フレイザ『あっちぃよ!バーン様!!』…何?」

 

戸惑うバーン様に、フレイザードは更に叫ぶ。

 

「俺が半分氷なのは見ればわかるっしょ!?その俺の前で火柱とか、どう考えても俺へのダメージが一番大きいですよね!?ねぇ!?…というかハドラー様やチョビ髭とか、もっと早く取れよ!氷部分、こんなに溶けちまったじゃんかよ!!」

 

…六大軍団発足早々、あまりの熱さにフレイザードが狂ったようだ。

 

 

----バーンSide----

 

最近のフレイザードの様子がおかしい。

嬉々として前線に立っては人間を皆殺しにするあの残虐なフレイザードが、いきなり古代戦闘技術を研究すると言い出し、与えた部屋にこもってしまった。

 

コアの再調整をハドラーに命じ、結果を確認するために予定していたオーザム王国へ前倒して攻め入るように命令したが、報告によると自ら最前線に立つということは変わっていないものの、虐殺はせずに敵側の死者は0だったらしい。

曰く、「氷炎魔団の名声を語り継がせるため、あえて殺すな」という命令を下したらしい。

それでも腕は衰えていないようで、難なくオーザム王国壊滅を済ませたとのことだ。

 

禁呪法によって作られた生命体であるため、幾分かハドラーの性格を引き継いでいるはずだが…。

 

「も、申し訳ございません!魔軍司令の名に懸けて、必ず再度コアの調整をしてみせますので、どうかお時間を…!」

 

帰還したフレイザードの報告を黙って聞いていると、憤怒していると勘違いしたらしく、ハドラーが頭を下げる。

所詮、戯れに作った六大軍団。この程度の事態、余興としてちょうどいいだろう。

 

「調整してこの結果ならば、時間をかける必要はない。そもそもフレイザードは誕生して1年にも満たぬ、呪法生命体。実力は十分なので、多少の不安要素など問題なかろう」

 

余の言葉に、ハドラーはますます恐縮する。

 

「それよりも今回の報酬として、フレイザードが求めていることとは何だ?」

 

ハドラー曰く、オーザム王国で拉致した精霊を研究の助手として許可してもらいたい。そして研究素材として、脳死した魔族の肉体を要望しているとのことだ。

 

「…まあ、よかろう」

 

捕えた精霊は、人間の見世物となっていたらしい。神の使いとも言われる精霊が魔王軍に協力しているとなれば、天界への良い見せしめになる。

 

そして魔族の死体も魔界の余に逆らう一族を狩ればいいため、小石を与えるようなものだ。

 

「ただし、近いうちに研究すると言った技術を形にしてみせよ。その結果次第では、この話は無しだ」

 

名誉欲に取りつかれていた人形が何を生み出すか、せいぜい楽しませてもらおう。

 




ほとんどしゃべってないですが、フレイザードに転生した男が主役です。


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【第1話】フレイザードは、仲間になってほしそうにこちらを見ている

【2019/11/16 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

変わらず、ありがとうございます。


----フレイザードSide----

 

俺がこの世界に気がついたときは、何か目の前の炎の中からメダル取れと言われたときだった。

 

いわゆる転生というものらしく、俺の体は半分氷・半分炎という人外になっていたが、元の持ち主の記憶を吸収したようで、この世界のことは瞬時に理解できた。

 

その結果どうやらドラクエっぽい世界に転生したらしいが、バーンやハドラーという魔王は俺がやったドラクエにはいない。

 

「7以降のドラクエ世界だろうな。ドラクエは6で止めちまったからなぁ…」

 

6以降のレベルを上げると特技を覚えなくなる職業システムが苦手で、それ以降のドラクエはやってないからだ。

だが原作を知らないのも痛いが、それ以上に次のことが痛い。

 

「この体、ハドラー様の魔力で作られているから、基本逆らえないんだよなぁ…」

 

体に忠誠心が埋め込まれているらしく、呼び捨てにすらできない。

 

そしてどう考えても、人間に対して攻撃しなければいけない。人を殴ったこともない俺にとって、悪役なんて無理難題過ぎる。

それを避けるためと、せっかくドラクエ世界に来れたこともあり、他ドラクエにあった『とくぎ』を古代技術と言い張り、研究すると駄々をこねた。

 

長期戦になると思っていたが、研究をすると言い出してからは意外にすんなり研究室をもらうことができた。元の体の持ち主がフィンガー・フレア・ボムズなど、幾つかオリジナルの呪文を作っていたおかげだろう。

ただ研究を開始して、思ったことがある。

 

「この体、研究者に向いてねぇ…」

 

記録を残そうと筆や紙を持っても、燃える・凍る・濡れるの三重苦。

とりあえず『瞑想』とか一部のとくぎを自分で使えるようになったものの、その過程や効果を成果として残すことができない。

 

氷炎魔団の手下もフレイムとか爆弾岩とかそんなのばっかで使えず、妖魔士団に助けを求めたけど、あの妖怪ジジイと部下は鼻で笑いやがった。

腹が立ったが、ため息をつくついでに『激しい炎』と『凍える吹雪』で室内温度を急変させたんで、水に流してやろう。

 

だがそんな状態で研究が進むはずもなく、研究を続けたければ軍を率いて来いと命じられてしまった。

できるだけ人死にだけは出さないようにしたが、それでも相当嫌気がさしている。

 

でも今回の遠征でしばらくは大丈夫だろう。

転生前でも仕事以外では外出しない、プチ引きこもりだったんだ。周囲の白い目などなんてことない。

 

ついでに他の体に乗り移る研究もしよう。ドラクエの世界は下着が装備として認められるほど露出が高く、魅力的なキャラが多い。きっとこの世界でも、素敵な女性がいるはずだ。

その際にこんな体じゃ、恋人すら作れない。

 

「そして神は俺を見捨てていなかった…!ようやく運が向いてきたぞ!」

 

まず転生先肉体の候補として、脳死した魔族の肉体もバーン様より手に入れた。すぐに転生できるとは思えないが、千里の道も一歩から。とりあえず蘇生液に漬けておいて腐らせず、少しずつ進めていこう。

 

更に攻め込んだオーザム王国に、恐らく奴隷として扱われていたと思われる、翼の生えた美女を見つけた。

きっと天空人だろう。

 

この体では恋人候補にできないが、それでも目の保養としても助手としても文句なしの逸材だ。何とか説得してみよう。

 

 

----???Side----

 

私は精霊。

天界に住む、天空人とも呼ばれる存在だった。

 

だが私は他の同族と違っていた。通常なら封印術が得意で武力がない精霊でありながら、攻撃呪文や格闘を得意としていたからだ。

そのため周囲からは精霊のふりをした人間、または魔族だと常に罵られた。

 

私はそれに耐えられなかった。だから地上界であれば、私を受け入れてくれると思った。そう思って地上界に下りた私を待っていたのは、人間によって首につけられた鎖とあざけり笑う声だった。

そしてその人間達を蹴散らし、私を人間の国から引きずり出したのは氷と炎を合わせた化け物。魔王軍の手先だという。

 

「私が生きてきた理由は、何だったの…?」

 

同族・人間に人として扱われず、魔族どころか人でもない者に殺される。私はきっと、神にも嫌われているのだろう。

 

「いや、そんな死んだ魚のような目しないで、俺の話を聞いてくれない?」

 

化け物はそう言ってくる。死に方でも選ばせる気だろう。

 

「そんなことしないから!…そうじゃなくて、俺が研究している戦闘技術の手伝いをしてほしいんだよ」

 

言っていることが本当なら、私はこの化け物の研究記録だけを行えば、戦闘も何もしないでいいらしい。

 

「俺はそもそも、戦闘は嫌いなんだ。かといって何もしないと魔力の提供断たれて死んじまうから、研究して引きこもることが命綱なんだよ。だから、この通り!」

 

両手を合わせて、懇願してくる。その目は外見に反してこちらにすがるような、弱々しい目だ。

…私がこれまで生きてきて、誰かからこんな目で見られるのは初めてだった。

 

どうせ私は、精霊・人間・神から嫌われた存在だ。たとえ魔王や悪魔に協力しても、誰も気に留めないだろう。

 

「…わかりました。私の名前はクーラ。私に唯一持つことを許されたこの名に懸けて、あなたに協力することを誓いましょう」

 




ちょこちょこ投稿内容の更新がありますが、特に記述がない場合は誤字脱字修正だけです。


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【第2話】ザボエラは、恐れおののいている

----ザボエラSide----

 

「まったく…。六大軍団長は、能無しの宴会芸を見るために結成したのではないのですぞ?」

 

バーン様からお声がかかり、何事かと思えば、最近おかしくなったフレイザードが研究していた戦闘技術の成果を発表するとのことだ。

 

あのようなガサツな奴が、研究とは笑わせる。

バーン様の命令とはいえ、ここまで時間の無駄と思えることはなかった。

 

「…大魔王様のお言葉は、すべてに優先する」

 

ミストバーンが呟く。その言葉にクロコダインも頷くが、二人ともつまらない物を見せるようならただでは済ませないという怒気を出している。

 

殺伐とした雰囲気をバーン様は楽しむように、フレイザードを促す。

 

「では、フレイザード。人間達に攻め込むのを放棄し、精霊をかばってしていたという研究を見せてもらおう」

 

どうやらバーン様も同じお気持ちだ。

そんな空気にも関わらず、フレイザードは近頃と同じくふざけた様子で答える。

 

「了解ですよ。それではまず、補助系呪文を紹介しましょう」

 

そう言って唱えたのは、捜索系呪文『レミラーマ』だった。

たしかにこれは古代呪文ではあるが…。

 

「…そんな手品みたいな呪文、ワシらを馬鹿にしておるのか?」

 

初めからこんな役に立たない呪文では、文句を言いたくもなる。

 

「まー、待ちなって。この呪文が便利なのは、ここからだよ。…クーラ、手伝いよろしく」

 

助手として攫ってきたという、精霊の女に指示して世界地図を机に広げさせる。

 

「この呪文が便利なのは、唱えた奴がわかる方法で探し物の場所がわかることだよ。…バランさん、今竜騎衆の所在地は知ってます?」

 

「…当然だ。それがどうした」

 

そして再度レミラーマを唱えると、地図の一部が光る。その結果に、バランが眉をひそめる。

 

「今光った場所が、竜騎衆の現在地ということでどうでしょう?」

 

フレイザードが尋ねると、バランは苦々しく「…正解だ」と呟く。その言葉に、周囲がざわめく。

 

竜騎衆はバラン直属の部下。フレイザードなんぞに、前もって教えるとは思えない。

ましてやあのバランが口裏合わせなど、もっとありえない。

 

それがわからないはずもなく、ハドラー様はフレイザードに命令する。

 

「…フレイザード。後でアバンの居場所を探るのを手伝え。出来るな?」

 

「お安いご用で。じゃあ、次は攻撃技だな。…ところでザボエラじいさん、あんたにとって勇者が使う魔法といったら何だ?」

 

「な、何じゃと?…回復呪文か、デイン系といったところかのぅ」

 

正解と答えた後、フレイザードは指を高く掲げ、激しく振り下ろす。

 

「『稲妻』!」

 

叫びと共に、指をさした方向に電撃が走る。

 

「馬鹿な!」

 

複数の軍団長が驚きの声をあげる。

今いるのは鬼岩城の室内であることに加え、勇者など一部の者しか使えないはずのデイン系を易々と放ったのだ。

 

「欠点は呪文と違って、誰が使っても威力は変わらないってことぐらいだな。そんで攻撃系は、もう1個あるぞ」

 

驚愕するワシらを尻目に、次の技を説明し出す。

 

「こいつは光の闘気ってやつを、魔力で再現したものだ。ちょっとタメが必要だけど、威力はあるぞ」

 

腕を十字に組み、壁に向かって光を放つ。

 

「そら!…『グランドクルス』!」

 

激しい閃光が放たれ、それが止むと壁には深い十字傷がつく。

その技にヒュンケルは見覚えがあるらしい。

 

「これは…アバンと同じ技か!」

 

先ほど放ったのは光の闘気。こいつのような悪意の塊なんかができるはずもなく、それどころかワシら魔王軍で同様の技を使える者は皆無だろう。

 

軍団長のほとんどが絶句する中、バーン様が口を開く。

 

「…素晴らしい。まさかこれ程とは、余の想像以上だ。褒美として、妖魔士団と同等の研究環境を与えてやろう」

 

バーン様がほとんど口にしない、ワシですら言われたことのない絶賛だった。

 

「じゃ、じゃがお前だけが出来ても仕方なかろう!?他の者も使える見込みはあるんじゃろうな!?」

 

机に乗り出して文句を言う。

フレイザードが答える前に、横の精霊が動く。

 

「『稲妻』」

 

結果、先ほどフレイザードが行った事と同じく、指をさした先に電撃が走る。

 

「…私はフレイザード様の右腕。フレイザード様が習得された技のほとんどを、私も習得しております」

 

つまりどのような手段かわからないが、他の者も使用できるということだ。

 

「ぐ、ぐぐ…!わ、ワシでも出来んことをこんな簡単に…!」

 

魔王軍一の頭脳を誇る、妖魔士団の名がすたる。

何とかこやつの成果を奪わねば…!

 

「生みの親である俺も鼻が高いぞ。それで、その技を俺達も使えるようになるのは何時だ?」

 

「まずは妖魔士団に資料渡すから、それからですね」

 

なんじゃと!?この結果を、ワシらに渡すじゃと!?

 

「いやー、さすがにモルモットが俺らだけでしょ?ここはぜひ妖魔士団の力を借りたいんだけど…」

 

晴天の霹靂だが、渡りに船でもある。

 

「ヒ…ヒッヒッヒッ。これほどの成果を見せてもらったんじゃ。特別に協力してやろう」

 

丸ごと奪うことは出来んが、これからは苦労せずこの技術が入ってくるのだ。更に妖魔士団の強化にも繋がるし、ワシの評価も上がる。

正に言うことなしだ。

 

「おー、助かる。そんじゃあ、次で紹介する技は最後だな」

 

その言葉に、先ほどまでのフレイザードを馬鹿にするような視線はない。

皆、その言葉に聞き入っていた。

 

だが、精霊の女が止めに入る。

 

「フレイザード様。その技は、止められたほうが…」

 

「何でだ?魔力を使わず、周囲にベホマラーをかけられる技だぞ?」

 

なんと!伝説級のベホマラーを、魔力を使用せず出来るじゃと!?

 

「か、構わん!今すぐその技を見せてみるのじゃ!」

 

 

----クーラSide----

 

バーンを始め、六大軍団長へのお披露目は完了した。

 

『稲妻』や『グランドクルス』など、魔王軍では使用できる者が少ない技だったため、その評価はこちらの想像以上だった。

だがその主役のフレイザード様は、壁の隅でのの字を書いている。

 

「フレイザード様。そんな隅にいられると壁が焦げるか、湿ってカビが生えます。離れてください」

 

「お前冷酷だな!?魔軍司令に半日説教された俺にそういうこと言う!?」

 

フレイザード様が立ち上がる。

最後に見せた技については、自業自得だと思う。

 

「なんで『ハッスルダンス』は駄目なんだよ!超便利じゃん!」

 

説教された原因は、奇声をあげながら奇妙な踊りを舞う『ハッスルダンス』という技のせいだ。あんな技を魔王軍一同が使用した際は、魔王軍から大道芸人に変貌する。ハドラーの怒りも当然だ。

 

更に言うなら、ミストバーンに黙って配下のパペットマンにこの踊りを仕込んだせいで、闘魔傀儡掌を延々喰らって会議が長引いたこともハドラーが怒った原因だろう。

 

なお私がこの踊りを覚えるのは、断固拒否した。そもそも私には、ベホマがある。

 

「…それでしたら私が言った通り、『火柱』とか『爆裂拳』を紹介すれば良かったのでは?それに旅の扉を分析して作成した無限に物が入る『袋』、フレイザード様の体の石で作成した『吹雪の剣』や『炎の剣』も評価を得ることが出来たと思われますが」

 

「『火柱』は俺の体が炎だから出来ると思われるし、『爆裂拳』は習得した奴以外にはただ殴っているようにしか見えないじゃん。作った道具も、まだ量産できるものじゃないし」

 

あんな変な踊りが出来るセンスをしているくせに、言っていることはまともだ。

 

「まあ、バーンは愉快だと言ってましたし、研究費や場所も大きく増えて良かったじゃないですか」

 

「…ていうかクーラ。バーン様もそうだけど、俺以外に敬称付けないの?」

 

「私が協力を誓ったのはフレイザード様だけです。他は知りません」

 

ここに連れ込まれてから、何名かフレイザード様以外の六大軍団長にあったが、私を見る目はこれまでの奴らと同じだ。

結局私を頼ってくれるのは、ここでもフレイザード様だけだった。そしてただ記録するだけのつもりだったが、楽しそうなフレイザード様を見ているうちに我慢できずに研究を手伝うようになっていた。

 

共同で研究することになってますます、フレイザード様は私と同じ目線で話してくれる。

そんな人は、フレイザード様だけ。だから今、私が慕っているのはフレイザード様だけ。この世界で唯一の、大切な大切な私の仲間。

 

「ハドラー様とかと直接話す機会ないからいいけど、バレたら助手でいられなくなるからコッソリとしろよ」

 

人嫌いな私がこんなに思っているのに、唯の研究仲間としか扱ってくれないところは非常に不満だ。

 

「そういえばバーン様がくれた研究場所って、どこだっけ?」

 

「話を聞いてなかったんですか?…バルジ島。ホルキア大陸にある島らしいです。とっとと引っ越しの準備をしたいので、まだ手伝いが出来るブリザードあたりに命令してください」

 

 



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【第3話】勇者の前に、氷炎将軍もどきが現れた

【2017/01/20 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----フレイザードSide----

 

バルジ島に引きこもって研究を続けていた俺たちだが、緊急事態とのことで鬼岩城に出頭すると、状況は思っていたよりも激変していた。

 

ハドラー様が宿敵アバンを倒したが、その弟子である『アバンの使徒』によってクロコダインが敗れたらしい。

 

目の前の蘇生液にはその敗れたクロコダインが入れられているが、致命傷となったと思われる傷跡は大きく、物理だけではありえない、何か強大な力で攻撃されたようだった。

 

「ヒッヒッヒッ…。クロコダインの傷跡に注目するとは、相変わらず着眼点が違うの、フレイザード。…それよりもお前さんから提出された技だが、多少『稲妻』ができる者がいるだけで、後はさっぱりじゃ。もっと他の、覚えやすいのはないんかのぅ?」

 

どうやら口に出していたのを、ザボエラに聞かれていたらしい。

というよりおじいちゃん、資料ならこの前渡したでしょう?

 

「踊り系以外を寄こさんか!ハドラー様より、妖魔士団は技の検閲も任されておる。ワシの目が黒いうちは、絶対に踊る技は認めんぞ!」

 

ハッスルダンスやメダパニダンスの素晴らしさがわからないとは、この世界の考えは解せぬ。

 

数少ない話し相手と近況を話しているうちに、他軍団長が揃っていく。

だがヒュンケル以外が揃ったところ、ハドラー様からヒュンケルはバーン様の勅命でアバンの使徒抹殺を与えたと伝えられる。

 

念のためと数日待機を命じられているものの、ここでは出来ることはなく、退屈だった。

 

仲間に合流する呪文、『リリルーラ』を使ってクーラのとこに帰ろうと思ったが、なぜか自分だけハドラー様に呼び出される。

 

「先ほどヒュンケルの奴に会ってきたが、アバンの使徒ダイと決闘を行うつもりらしい。お前はその決闘を見届けてこい。…そして万が一ヒュンケルが裏切るようなら、始末しろ」

 

ハドラー様、あんた自身がヒュンケルの裏切りフラグ立ててないか?

 

 

----ダイSide----

 

「オレの負けだ…!」

 

正直何があったのか、俺にもわからない。気がついたときには魔鎧は粉々に砕け、ヒュンケルは負けを宣言した。

ただ一つ理解できたのは、アバン先生の一番弟子を殺さず勝てたということだ。

 

「あーあ。ハドラー様の予想通りになっちまったか」

 

勝利の余韻に浸る間もなく、闘技場の座席から声がかかる。

そこにいたのは体の半分が氷。もう半分が炎となっている初めて見るモンスターだった。

 

ヒュンケルは半死半生の体を無理やり起こす。

 

「くっ…!何の用だ!氷炎将軍フレイザード!!」

 

名前を呼ばれると、フレイザードは面倒そうに闘技場の座席から立ち上がり、こちらに下りてくる。

…なぜか激しく踊りながら。

 

「…ねぇ、ヒュンケル。アレ、貴方の知り合いなの?」

 

「…認めたくないが、そうだ」

 

魂の貝殻で父の言葉を聞いた以上に、渋々同意する。

 

「はじめまして、アバンの使徒さん。氷炎魔団をまとめてる、フレイザードだ」

 

「…俺には遊び人か、踊り子にしか見えねぇよ」

 

ぼやくようにポップが言う。

その言葉にフレイザードはなぜか嬉しそうだ。

 

「お…本当か?」

 

腕を高く上げる。

 

「たしかにこれは元々その二つの職業を合わせた技だが」

 

片足を上げて一回転。

 

「この外見だから」

 

地面から足を離さず、「ぽぅ」と叫びながら後ずさりする。

 

「そう言われたのは初めてだよ」

 

全身で雨を受けるかのように、体を大きく反らす。

 

「何でもいいから、とりあえず踊らないでくれるかしら?」

 

いい加減マァムが切れそうだ。

 

「遠慮すんな。これから話をするんだ。回復はしといたほうがいいぞ」

 

何を言ってるかわからない俺達に代わって、ヒュンケルが答えてくれる。

 

「…不条理な話だが、あの踊りにはベホマラーの効果があるんだ」

 

ベホマラー。

勇者の冒険記にさえ出てこない、伝説上の呪文だ。

 

疑おうにも俺自身の体は軽くなり、ヒュンケルも立てるほどまでに回復している。

 

ポップはその効果に驚きながら、フレイザードを問い詰める。

 

「は、話をするって…。そもそもお前は何しに来たんだよ!?」

 

「ハドラー様からの命令さ。ヒュンケルが負けたならこれまででかい口叩いた罰として、ヒュンケルを殺せ。そして裏切るようなら、アバンの使徒ごとまとめて殺せ。…要するに、勝つ以外の結果だったらヒュンケルを殺せってことだよ」

 

見た目こそモンスターでその動作はともかく、目はデルムリン島にいる俺の友達と同じで、邪悪な感じはしない。

だからこそ、先ほどハドラーに命令されたという内容が信じられなかった。

 

「お前は、俺たちを殺しに来たのか…!?」

 

「…とりあえず、ヒュンケルだけはこっちに渡してくれないか?ヒュンケル以外はハドラー様の手柄を残したとか適当言って、見逃すからさ」

 

フレイザードの言葉に、マァムが激高する。

 

「ふざけないで!私達に仲間を売れというの!?」

 

その気持ちは俺も同じだ。同じ先生から学んだ仲間を渡して、生き延びる気なんかない。

 

剣を構えようとするが、その前にヒュンケルがフレイザードに剣を投げつける。

 

「オレなんか見捨てて早く逃げろ!こいつはさっきの踊り以外にも奇妙な技を研究している、手数の多さなら魔王軍一の怪物だ!まともに戦ってはその技の数に押し負けるぞ!」

 

ヒュンケルが叫ぶが、どう言われようと意見を変える気はない。その意思がポップにも伝わったのか、ようやくポップも杖を構える。

 

俺達が戦闘態勢に入ってもなぜかフレイザードは構えず、困惑した表情を浮かべる。

 

「いや。何か誤解してるけど、そのつもりは…!?」

 

最後まで言い終わる前に、フレイザードの足元に大きな穴が空く。

その地面から伸びた巨大な手がフレイザードの足をつかむと、強引にその穴に放り投げた。

 

突然現れたその姿に、ヒュンケルが叫ぶ。

 

「クロコダイン!」

 

「話は今度だ!俺とヒュンケルはこのままガルーダで逃げ去る!お前たちも急いでここから離れろ!」

 

有無を言わさず、クロコダインはヒュンケルを担ぐとガルーダと共に飛び去ってしまった。

 

「お、おい!俺たちもさっきの化け物が戻ってくる前に逃げるぞ!」

 

ポップが呆然とする俺とマァムを引っ張る。

 

あの二人とはきっとまた会える。そしてその時は、俺たちの仲間になってくれるだろう。

不思議とそう確信して、俺はポップの言う通りにすることにした。

 

 

----フレイザードSide----

 

「珍しいお客様ですな…」

 

よくわからないうちに穴に放り捨てられた俺は、瓦礫に埋まっているところをくさった死体みたいな執事に助けられていた。

モルグさんというらしい。

 

「なんか、すみません。お宅の軍団長をかくまう交渉してるつもりだったんですが、どうしてこうなったのか…」

 

元々はこの世界の勇者と思われるアバンの使徒に、正義の心に目覚めた戦士を保護する、素敵でダンディな魔王軍の理解者をアピールするつもりだった。

その結果である第一印象は、もしかしなくても最悪だろう。

 



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【第4話】レオナの前に、悪魔が現れた

ここからしばらくは、シリアスが続きます。

ラストまでこの雰囲気でいくのは(作者の力量的にも)ありえないので、苦手な方はしばしご辛抱を。

【2020/07/30 追記】
今回の話で、3名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----レオナSide----

 

パプニカ王国を滅ぼされてから、私は生き残りと共にここバルジ島に隠れ住んだ。

 

そのためのストレスだろう。普段温厚な兵士たちが食料の奪い合いをしている。

私はその食料袋を叩き落とし、彼らを叱責する。

 

「魔物と同じ道を歩むぐらいなら、人間として飢えて死にましょう…!!」

 

私の言葉に、目が覚めたかのように彼らは驚く。

ここまで付いて来てくれた者は皆、とてもいい人たちだ。きっとわかってくれるだろう。

 

思った通り、彼らは謝罪の言葉をお互い掛け合い、この苦境を乗り切ることを誓ってくれた。

 

「…私にとっては、あなた達人間こそが魔物ですが」

 

聞き覚えのない声を急にかけられ、全員がその方向を向く。

 

「て、天使…!?」

 

誰ともなく呟く。

 

背中には純白の翼、整った顔に艶のある髪、男性の視線を捕えて離さない体つき。

まるで絵画から飛び出したかのような、理想の天使と言える女性が窓に立っていた。

 

だがこちらを見る目は天使とはかけ離れた、汚らしい物を見るような目だった。

 

「こんにちは。私はクーラ。主人よりここの管理を任されている者です。あなた達から見たら、先住民です」

 

「はじめまして、クーラ様。私はパプニカ3賢者の一人、アポロと申します。ここは天使様のお住まいでしょうか」

 

女性の視線に気づかず、見かけに騙された様子のアポロが友好的に話しかける。

 

「先ほども言いましたが、私の主人の住まいです。ここは私の主人が偉大な成果によって、大魔王バーンより授かった場所です」

 

大魔王バーン。

その言葉に、全員が凍りつく。

 

こちらの反応などお構いなしに、クーラは変わらず淡々と話す。

 

「ここは私とフレイザード様との楽園。大人しく隠れているだけなら見逃すつもりでしたが、この状況で仲間割れが出来るなんて、やはり人間は野蛮で愚かです。…私の用件はただ一つ。争いの種にしかならない人間なんか、とっとと出て行ってください」

 

まるで人間そのものが害悪だと言わんばかりの言葉だった。

ようやく彼女の立場を理解したアポロが叫ぶ。

 

「ふざけるな!魔王の手先め!我々がいつまでもお前たちの好きなようにさせると思うな!」

 

「私は魔王の手先でも氷炎魔団の手先でもなく、フレイザード様だけの手先です。…どうしても出ていかないのですね」

 

諦めたかのような言葉の直後、彼女は大きく深呼吸をする。

何をしているか様子を見ていると、突然クーラの口から猛吹雪が吐き出された。

 

「姫様!危ない!」

 

隣にいたマリンが、つららが混じった吹雪に驚いて身動きがとれずにいる私を突き飛ばした。

 

私をかばったマリンには更に吹雪が吹き続け、マリンはみるみる氷漬けにされていく。

 

「やめて!どうしてこんなことするの!?」

 

氷柱が天井まで届くほどになってから、クーラはようやく吹雪を止めて私の叫びに答えてくれた。

 

「私達に逆らうことが無駄だとわかってもらうためです。今のはフレイザード様と共に編み出した、『凍える吹雪』。私はこれ以上の技を幾つも持っておりますし、フレイザード様は私以上に多くの技を持っております。…そして彼女を氷漬けにしたのは見せしめのためですが、3日後の日没までなら命に別状はないですよ。出て行ってくれるなら、すぐに彼女を解放しましょう」

 

人一人を氷に閉じ込めておきながら、クーラは平然と表情すら変えない。

 

「くっ…!先ほどまで彼女を天使だと思っていた自分を殴りたい…!こいつは悪魔そのものではないか!」

 

アポロの言葉に心から同意する。

…悪魔との取引は、こちらも悪魔になるしかない。

 

「一つだけ教えて。私達がこの島から去ると約束したら、マリンを解放してくれるの?」

 

私の質問に、皆が驚いた様子で見る。

 

「はい。私はこの島でフレイザード様と居られればいいんです。出て行ってくれるなら、追撃もしません」

 

マリンの安全と、今この場にいる皆でクーラを倒せる見込みを天秤にかける。

 

だが回答を出す前に状況が変わった。

デルムリン島であった、ダイ君が助けにきてくれた。

 

「レオナ!大丈夫!?」

 

倒れた私に駆け寄ってくれる。

後に続いて来た、クーラに鼻の下を伸ばしている少年とそれを叱っている女の子はダイ君の仲間だろう。

 

「ありがとう、ダイ君。それよりも、氷漬けにされたマリンを助けてあげて!…あそこにいるフレイザードの部下に、やられてしまったの」

 

「フレイザードの部下!?」

 

驚いた様子でクーラに向きなおす。

今までの私達と同じく、彼女のような人が魔王軍の一員であることが信じられないのだろう。

 

私達に助けが来たというのに、それでもクーラの表情は変わらない。

 

「…ダイ。たしかハドラーから連絡のあった、アバンの使徒ですね。あなたからも、ここから出て行ってもらえるよう言ってくれませんか?私達はこの島にいたいだけなんです」

 

「騙されてはいけません、ダイ殿!あの女は3賢者の一人マリンを氷漬けにした、悪魔のような女なのです!背中を見せたら、何をされるかわかりません!」

 

仲間を捕えられたアポロが怒り叫ぶ。

その言葉に、ダイ君と一緒に来た女の子も叫ぶ。

 

「ヒュンケルの時のことを忘れたの!?あの女がフレイザードの部下というのなら、信用できるはずないわ!」

 

どちらの言葉を信じるか、ダイ君は迷っているようだ。

私も同じで、クーラは本当にこの島から出て行ってほしいだけなのかもしれない。

 

もう一度話をしようと思った矢先、クーラの側に突然炎と氷の化け物が現れた。

 




フレイザードさえいなければ、この世界はだいたいシリアスです。


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【第5話】フレイザードは、踊るのを必死にこらえている

残念ながら、引き続きシリアスです。


----フレイザードSide----

 

鬼岩城への無駄足に交渉失敗と、意気消沈な気分を地底魔城のモルグさんに数日相談に乗ってもらい、スッキリした気分でバルジ島に帰ったところ、そこで待っていたのは想像以上に緊迫した空間だった。

 

「お帰りなさいませ、フレイザード様。留守の間は見ての通り、侵入者がいること以外は特にお変わりありません」

 

「淡々と言うことじゃないし、その侵入者が勇者ってのが一番まずいだろ!」

 

お家に帰ったら0秒で勇者とか、魔王軍にとってのモンスターハウスだ。

あまりにもひどいこの状況に耐えきれず…

 

「踊り出しそうだ…!」

 

「何をするつもりですか。…とりあえず、ご心配なく。敵の主力と思われる女を、氷漬けにすることに成功しました」

 

「心配ごとオンリーだよ!何で留守の間に、オブジェ作る感覚で殺人未遂してんの!?」

 

人間を怪物としか思っていないという意味では、クーラはバーン様よりも怖い。

 

一触即発な空気だが、戦いをしたくない俺は何とか対話を試みる。

 

「どうどう。とりあえず、お互い言い分を聞かせてくれないか?」

 

「黙れ!化け物!俺たちの仲間を人質にとって、話すことなんかあるか!」

 

賢者の格好をした男が怒鳴る。ですよねー。

 

勇者側は置いといて、まだ話が通じそうなクーラにも尋ねる。

 

「彼女らは私達の住まいに侵入し、退去を宣告しましたが、拒否されましたので攻撃しました」

 

「お前が一番話が通じないよ!…アバンの使徒さん、この氷溶かすから、話聞いてもらっていい?」

 

氷柱を溶かそうとすると、人間嫌いのクーラが止めに入る。

 

「駄目です、フレイザード様。人間なんて卑怯者ばかりです。溶かそうと目を離した瞬間、氷漬けにした女諸共、亡き者にしようと一斉に攻撃してくるに決まってます」

 

両者の溝が深い。

というより、人間と精霊の間を取り持つのが魔王軍のボスモンスターとか、斬新なドラクエだな。

 

…しかたない。ここは俺が一肌脱ぐか。

 

手刀で自身の腕を切り落とし、アバンの使徒に放り投げる。

驚く人間たちを尻目に、俺は地べたに座って話をする姿勢に入る。

 

「その腕が勇者様とお話する代金だ。…駄目かい?」

 

「…レオナ、お願いだ。こいつと話をさせてほしい」

 

ダイが剣を納めてくれる。

レオナと呼ばれた若い女は、かなり迷った様子だったが頷いてくれた。

 

周りが姫様と呼んでいるから、たぶん王女だろう。

 

「ありがとう、ダイに王女様。…クーラ。ややこしくなるから、お前は下がってろ」

 

背後にいるクーラに命令する。

しばらく無言で睨んでくるが、やがて翼をはばたかせて窓から飛んでってくれた。

 

「悪いね。あの精霊は以前人間の奴隷だったせいで、彼女にとって人間が一番の魔物なんだ」

 

最初にクーラの事情を話してから、こちらの都合を話す。

 

戦いは嫌いだが、ハドラー様からの魔力提供のため、何かしら協力しなければいけないこと。

ヒュンケルの前に現れたのも命令されたからで、クーラと同じくこの島にかくまうつもりだったこと。

そしてこの島で研究を続けることによって、それを理由に人間と戦うのを避けているので、できればそっとしといてほしいことを伝える。

 

「…お前は人間を憎んでいないのか?」

 

ダイが尋ねる。

 

「もちろん。それに俺の夢は、研究した技術を一人でも多くに教える、学校のような施設を作ることだ。そこは人間だろうと魔族だろうと区別なんかせず、全員同じことを学べるんだ。…バーン様のやり方だと、教える人間がいなくなっちまう」

 

クーラにも言っていない、自身の夢を言う。

せっかく再現した技術を、死蔵させるのはもったいないという理由からだ。

 

恥ずかしさをこらえて本音を言ったというのに、相手の人間達はこちらの言うことを信じず、罵倒しかしてこない。

 

ダイ達アバンの使徒や王女様は迷っているが、それを咎めることはしない。

 

(…やっぱり駄目か)

 

説得を諦める。

 

ここがドラクエの世界だと考えて、元の体の持ち主は性格的に途中でやられるキャラな気がする。

その場合、今がそのやられるシーンなのだろう。

 

それを避けることができないのなら、せめて勇者の糧となって成長してもらい、クーラを助けてもらおう。

 

先ほどの会話で、クーラは一部の人間に虐待されたことから、俺に騙されて従っていると思っているはずだ。クーラへは俺の死後、人間に協力を命令させれば殺されることはないはずだ。

 

そして万が一俺なんかに負けるようなら、アバンの使徒は勇者ではなかったということだ。

俺の命をかけてそれを見定めよう。

 

 

----ダイSide----

 

最初の予感通り、フレイザードが邪悪な魔物だとはどうしても思えなかった。特に自分の夢を語る姿は、本当に輝いて見えた。

ポップもマァムもそれがわかったらしく、フレイザードの話に戸惑っている。

 

だがレオナの仲間は、彼を邪悪な化け物だという。

一斉に攻められる彼の目は、どこか寂しげだった。

 

途端、その目が何か覚悟を決めた目に変わり、自ら落としたはずの腕が一瞬で生える。

 

「…だったら交渉は決裂だな!『氷炎爆花散』!」

 

突然の変わり様に対応できず、部屋中にフレイザードの破片がはじけ飛び、皆その痛みで倒れこむ。

 

「そら!氷炎魔団ご自慢の『氷炎結界呪法』の完成だ!…お望み通り、とことん殺し合いを始めようじゃねぇか!」

 




ご感想のお返事は1日1回は確認し、その時点でいただいている内容にお返事するようにします。
都合でできなかった場合は申し訳ありません。


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【第6話】ポップは、混乱している(断言)

引き続きシリアスです。

「こんな作者のシリアスに付き合ってられるか!俺は飛ばすぞ!」という方は、10話あとがきにだいたいの概要を用意致しましたので、そちらまで飛ばしてたぶん大丈夫です。

【2017/02/26 追記】
今回の話で、4名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----マァムSide----

 

豹変。

今のフレイザードを表す言葉に、これ以上の表現はなかった。

 

初めて会ったときはふざけた道化師にしか見えなかったが、目の前にいるフレイザードは正に氷炎将軍と呼ばれるにふさわしい覇気を放っていた。

 

「まずは雑魚を蹴散らしていくぞ!…この自慢の踊りでな!」

 

前回の踊りと違って腰を落とし、腕を激しく回しながら上半身をゆっくりと回る踊りを披露する。

…雰囲気が変わっても、やっぱり踊るのね。

 

とりあえず魔弾銃で弱めのイオを顔面に撃ちこもうとするが、フレイザードが踊りだした途端、レオナ姫の仲間達が何かに怯えるように叫び、床をのたうちまわっている。

 

「これは『メダパニダンス』。今叫んでるやつは、体中に虫が這いまわっている幻覚を見ているだろうさ!」

 

フレイザードは本気で、ふざけていたのは私達のほうだった。

慌てて本気の魔弾銃をセットする前に、痛みに耐えながらポップが起き上がる。

 

「く…!この期に及んで踊るとか、余裕見せるのもいい加減にしろ!メラゾーマ!」

 

ポップ自慢の呪文を唱えるが、なぜか不発に終わる。

 

「これが『氷炎結界呪法』の効果!俺以外の呪文は弱体化し、更に全ての能力を激減させる秘儀だ!」

 

フレイザードの言葉を無視して何度もポップはメラゾーマを唱えるが、無駄だった。

もしやと思い私も魔弾銃の引き金を引くが、こちらも言うことを聞いてくれない。

 

ダイが慌てて大地斬を放つも、フレイザードに指1本で止められてしまう。

 

「うかつに近づいていいのか?『猛毒の霧』!」

 

ダイとフレイザードが、濃い緑色の霧に包まれる。

霧が晴れたときには、全身に汗をかき、息を荒くしたダイが床に倒れていた。

 

「ダイ君に何をしたの!?」

 

「今のは相手に毒を吸わせる技だ。アバンの使徒は、ヒュンケルの奴が言ってたから知ってるだろう。俺はこういった特殊な技が十八番なんだよ!」

 

慌てて私やレオナ姫がダイにキアリーを唱えるが、この呪文も発動してくれない。

そうしている間にも毒が回っているのか、ダイの顔色がみるみる悪くなっていく。

 

「フレイザード様。助太刀に来ました。ただ『氷炎結界呪法』は私にも効果があるので、サポートに専念させていただきます」

 

先ほどのフレイザードがはじけた攻撃を見たからだろうか、クーラが戻ってきてしまった。

レオナ姫がかすかに迷った挙句、はっきりと口にした。

 

「…皆!ここは引きましょう!この結界呪法を何とかしないと、勝ち目なんかないわ!」

 

「そんな、待ってくれよ!」

 

その言葉に、珍しくポップが反論する。

きっと今までの戦いで、逃げることへの抵抗を持ってくれたのだろう。

 

「マリンを助けないといけないのはわかるけど、このままじゃダイ君も私達も全滅してしまうわ!お願い、わかって!」

 

「そうじゃない!あの女がフレイザードの部下で、同じ技を使えるってことは…このまま戦っていれば、きっとあのナイスボディが踊りでプルンプルーン!」

 

…少しでも成長したと思ってた私が馬鹿だったわ。

 

「あなたが一番、メダパニが効いているよう…ねぇ!」

 

アバンの使徒の恥さらしをボディブローで眠らせて、襟首を掴んだまま気球船まで引きずる。

 

しかしどこからか炎と氷の剣を取りだしたクーラが、立ちふさがった。

 

「通すと思いますか?」

 

「じゃあ、これが通行料よ」

 

メラゾーマが入った魔弾銃の弾を放り投げる。

クーラは不思議な様子で、何気なくその弾を剣で切った。

 

「馬鹿!危ねぇ!」

 

魔弾銃の弾に切っ先が触れた瞬間、フレイザードがクーラをかばう。

それと同時に爆発が起き、その隙にメダパニにかかっていないメンバーが仲間を気球船に乗せる。

 

「全員乗ったな!?今すぐ出すのじゃ!」

 

先に乗っていたメンバーから事情を聞いていたバダックさんが叫ぶと、気球船を出発させる。

 

遠ざかりながら爆風が晴れた塔の様子を見ると、氷部分がほぼ溶けたフレイザードに向かって、クーラが泣きそうな表情で効果が薄いはずの回復呪文をかけていた。

 

「…彼女も、あんな顔をするのね」

 

レオナ姫もダイにキアリーをかけながら同じ風景を見ていたらしく、驚いていた。

 

回復呪文の効果はなかったようで、フレイザードが回復をやめさせると、クーラがこちらを睨んで何かを放つ。

その攻撃を防ぐ間もなく、バギ系のような何かが気球船の風船をズタズタに切り裂いた。

 

ゆっくりと落下していく気球船に対して、クーラが大声で叫ぶ。

 

「氷漬けにした女の命は、3日後の日没までです!フレイザード様を傷つけときながら、いつまでも人質が無事だと思わないことです!」

 

「…言われるまでもないわ」

 

決心を固めるように、レオナ姫が呟いた。




ちなみにフレイザードに回復魔法の効果がなかったのは、原作でビースト君が言ってましたが『ヒムが生命体になったからホイミが効いた』=『呪法生命体ではホイミが効かない』という独自解釈からです。
【補足】
感想でご指摘ありましたが、呪法生命体うんぬんではなく、ホイミ系は自己再生能力を活性化される呪文のため、効果がないとのことでした。


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【第7話】フレイザードは、一生懸命戦っている

特技チート回です。

【2017/07/07 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----ミストバーンSide----

 

フレイザードの『氷炎結界呪法』を発動して敵わないと判断したらしく、勇者たちは人質を置き去りにして逃走した。

 

氷漬けになった女を見捨てるはずがないと判断したハドラーが、女の命が尽きる日を決戦として、超竜軍団を除いた現魔王軍の総攻撃を決定する。

 

必勝の陣と判断していたが、百獣魔団・不死騎団の両軍団長の裏切りもあって炎魔塔と氷魔塔は崩され、ハドラー達も敗れた。

まもなく中央塔にも敵が集結するだろう。

 

そして私はバーン様の命により、両心臓を貫かれたハドラーを蘇生しようとしていた。

 

「…」

 

しかし、私は思いとどまった。

 

以前よりフレイザードは、人間達に攻め込むのに消極的だ。

だが今の奴はハドラーからの魔力提供が断たれ、自身の魔力で体を維持していることだろう。

 

もしその状態が続けば、フレイザードはハドラー以外に魔力提供をしてもらえる人物を探すはず。

現在地上にいる人物でそんなことをできるのは、バーン様のみである。

 

ならばこのまま魔力を断っていれば、バーン様に助けを請うために、必死に勇者達と戦うはずだ。

 

もとより、ハドラーの蘇生に関しては私に任されている。

少し遅れたとしても、問題ないだろう。

 

 

----クーラSide----

 

「フレイザード様。日課のベホマが終わり、私の戦闘準備も完了しました」

 

人質の体力が尽きて死なぬようにと、私はフレイザード様の命令で女に毎日ベホマをかけることが義務付けられていた。

 

これまでは『氷炎結界呪法』で効果が薄いベホマを何時間もかけていたが、それがなくなった今すぐに終えることが出来たため、炎の剣・吹雪の剣・水の羽衣など作っていただいた装備を身にまとう。

 

格闘の才能があると思っていた私だが、どうやら剣の才能もあったらしく、フレイザード様が教えてくれた剣技は全てマスターできた。

不死騎団の元軍団長は剣の達人と聞いているが、フレイザード様と私さえいれば、誰にも負けない自負がある。

 

「これで私達が勝てば、よりバーンの評価を得られるでしょう。もっとも、この島や研究に必要な物は既にあるため、望むものなどありませんが」

 

冗談交じりに言うが、返ってきた答えは予想と違うものだった。

 

「…いや。ハドラー様が亡くなった今、俺への魔力の提供が断たれ、自分に残っている魔力をコアに回してる状態だ。だからこそ勇者に勝って、バーン様に魔力の提供をしてもらわないといけない」

 

「な…!?そ、それでしたら私に『マホトラ踊り』を使ってください!」

 

「マホトラで取れる量と、コアの維持に必要な量に差がありすぎて焼け石に水だよ。この体が保てるのは、もって今日1日ってとこだな」

 

手が凍傷と火傷になるのも関わらず、フレイザード様にしがみつく。

 

「私の命や魔力なら、幾らでも差し出します!だから、何か方法はないのですか!?」

 

問い詰める私に向かって、フレイザード様が何かを吹きかける。

これは…『やけつく息』!?

 

「フレイザードとしての最後の命令だ。…生き残って塔に上がった方に従え。そしてどんなことがあっても、俺とお前で一緒に作った、この技を後世に残すんだ」

 

痺れで床に崩れ落ちる私は、もう舌も回らない状態になっていた。

 

 

----ヒュンケルSide----

 

「…どうやら間に合ったようだな」

 

ハドラーとの戦いで一時気を失っていたオレだが、ダイ達も稲妻など妙な技を覚えた氷炎魔団に苦戦していた。

しかしザボエラが言っていた通り、フレイザードの技を覚えるには一定以上頭が切れる必要があるらしく、大した技を使えるものはいなかったため、無事中央塔にたどり着く前に合流できた。

 

自分で使ってみてわかったが、あのグランドクルスを使える敵がいないことに心から安堵する。

 

塔に向かいながらポップからは相変わらず憎まれ口をたたかれるが、クロコダインも含めて戦線離脱したメンバーはいないようだ。

また見たことのない女性がいたが、マァム曰くあのパプニカ王国の王女らしい。

 

…この戦いが終わった後、覚悟を決めなければならないようだ。

 

しかし塔への入り口にたどり着いたとき、頂上にいると思っていたフレイザードが既にこちらを待ち構えていた。

 

「堂々と姿を現すとは、どういうつもりだ!?それに部下の精霊はどうした!?」

 

クロコダインもそれを予想していなかったらしく、会話をしながら周囲を警戒する。

 

「どうもこうもない。あんたらがハドラー様をやっちまったせいで、こっちはコアの魔力提供が途絶えたんだ。このままじゃあ、人質より先にこっちが死んじまう」

 

今まで見たことのない、闘気に溢れた目でこちらを睨みつける。

 

「俺が生き残れる唯一の方法は、俺自身の手で勇者の首をバーン様に献上し、恩賞を得ることだけだ!…もう話すこともない!さっさと来やがれ!!」

 

そのあまりの迫力に、ポップは怯む。

地底魔城で対面した時と、似ても似つかない雰囲気からだろう。

 

「そうか…!なら、即行で終わらせてもらうぞ!」

 

有無を言わさず、奴の体にブラッディースクライドを放つ。

 

「『大防御』!…そして『まねまね』!」

 

渾身の一撃を、手の平だけで受け止められる。

更に氷で刃を作ったと思うと、オレのと寸分たがわぬブラッディースクライドを返される。

 

攻撃をしたことで無防備となっていたオレはその攻撃を避けれず、鎧が砕けながら地面を転がる。

 

「ならばこの獣王の一撃!同じように防げるか!?」

 

斧を振りかぶってフレイザードに襲いかかるが、フレイザードは自らその胸に飛び込む。

 

「そんな馬鹿力、正面から受けてられるか!『正拳突き』!」

 

「ポップ!私の魔弾銃に続いて!『ギラ』!」

 

「あぁ!『ベギラマ』!」

 

クロコダインが後方に飛ばされて巻き込まれないことを確認して、ポップ達が呪文で攻撃する。

さすがにこれは防げないと判断したらしく、フレイザードは舌打ちする。

 

「貴重な魔力だってのに…!『フィンガー・フレア・ボムズ』!」

 

ギラ系の同時攻撃を打ち消しながら、なお威力が衰えないフレイザードの呪文がポップ達を吹き飛ばす。

 

だが発生した爆風を利用して、ダイが一気にフレイザードに迫る。

使用する技は、今ダイが使える最速の剣だ。

 

「海波斬!」

 

「ただで当たってやるか!『捨て身』!」

 

ほぼ同時に、ダイの剣とフレイザードの拳がお互いの体に当たった。

ダイは防具を壊され、オレと同じように激しく地面を転がる。一方のフレイザードは、メダルを繋ぐチェーンが切れただけだった。

 

「つ、強い…」

 

習得している技が多いことはわかっていたが、まさか元軍団長とアバンの使徒を正面から相手にできるほどとは思わなかった。

 

こちらが倒されている間にレオナ王女がダイにベホマをかけるが、フレイザードも自身に呪文を唱える。

 

「魔力を温存しようとしたのが悪かったか…。『マホカンタ』!」

 

「嘘だろ!?あの野郎、あんな呪文まで使えるのかよ!」

 

ポップが悲鳴を上げる。

これで奴に呪文が効かなくなってしまった。

 

次の一手を考えようとするが、フレイザードは攻撃の手を緩めない。

 

「回復タイムをやると思ったか!『地響き』!!」

 

激しく地面を踏みつけると、周囲に激しい揺れが起こる。

更にひび割れた地面から、巨大な岩をえぐり出す。

 

「喰らいな!『岩石落とし』!」

 

「獣王の前で力比べとは、良い度胸だ!」

 

オレ達をかばうように、クロコダインが前に出る。

その隙に、オレはダイにアドバイスをする。

 

「ダイ!奴に勝つためには、コアを狙うんだ!…空裂斬。今のお前ならできるはずだ!」




本当はカットするつもりの話だったのですが、フレイザードの貴重な真面目な戦闘シーンのため入れました。


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【第8話】フレイザードの、悪あがき!

今後も含めて、一番のシリアスシーンです。

【2020/07/30 追記】
今回の話で、6名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----ポップSide----

 

「さすが過ぎるぜ、ダイ…!」

 

ヒュンケルの野郎が心の目で感じろとか言い出した時は正気か疑ったが、ダイは見事にフレイザードのコアを切り裂いた。

 

コアを壊されて体の維持が出来なくなったらしく、フレイザードは炎と氷の部分から真っ二つに裂ける。

その瞬間、氷の部分に俺のベギラマが直撃し、フレイザードの体は炎部分を残すのみとなった。

 

「これまでだな…!俺が引導を渡してやるぞ」

 

クロコダインのおっさんが斧を構える。

それに対して、フレイザードは静かに答えた。

 

「無駄なことすんな。…ほっといても、あと1時間もすれば元の石ころに変化するよ。それに人質には毎日ベホマをかけてたから、あと3日は何ともないはずだ」

 

その声は諦めたような声ではなく、何かを達成したような声だった。

 

「安心したよ。あんたが勇者で間違いなさそうだ。…一つだけ、遺言を聞いてくれねぇか?」

 

ダイが剣を構えたまま、耳を傾ける。

 

「クーラには、生きて塔に上がった奴に今後従うよう言ってある。そして俺が考えた技は全て書物にまとめて、クーラに預けている。その書物と引き換えに、クーラを助けてくれないか?あいつは生まれて初めて優しくされた俺に、騙されて従っていただけなんだ」

 

体が半分に裂けてまともに動かせないはずなのに、無理やり頭を下げる。だが現在の状態で姿勢を保てるはずもなく、倒れてしまう。

それでも何度も何度も起き上がっては、頭を下げていた。

 

その光景に何も言えないダイに代わって、レオナ姫がフレイザードに近づく。

 

「…氷炎将軍。頭を上げなさい」

 

フレイザードがレオナ姫の顔を見る。

 

「私達人間が、彼女をひどい目に遭わせたというのは間違いないのですね?」

 

「…あぁ。俺が見つけたときは、首輪をされて牢屋に入れられてたよ。たまに外に出れたと思えば、翼が作り物でない証明として人前で羽をむしり取られて、それを工芸品にされてたらしい」

 

何を言ってるかわからないといった表情で、レオナ姫を見つめる。

 

「ならば、彼女が私達人間に敵意を示すのは当然のことです。…だからあなたなんかに言われずとも、私達で彼女に許してもらえるよう努力します。これ以上、彼女をひどい目に遭わせないことを誓います」

 

フレイザードの目をみて、断言する。

 

「だからあなたが代償として差し出した書物については、他の願いに使ってください。…あなたが私達に対して、何か望むことはありませんか?」

 

開いた口が塞がらないといった様子のフレイザードに、レオナ姫は更に続ける。

 

「塔から脱出するとき、あなたはクーラをかばいましたよね?かばって大怪我しておきながら、相手を利用しているなんて言っても説得力ありません。それにあなたを回復させるクーラを見ました。…少し騙したぐらいで、あんな心から心配そうな顔をするほど女の子は単純じゃないんですよ?」

 

フレイザードの額をつつく。

 

「…私はあなたが塔で最初に話してくれた、実現させたかったという夢を信じます。そしてこれまで信じてあげられなかったお詫びとして、あなたの最後の願いを聞きたいのです」

 

レオナ姫の話を、フレイザードは黙って聞いていた。

長い間黙ったままだったが、やがて口を開こうとした瞬間、その前にヒュンケルが叫んだ。

 

「姫!下がれ!」

 

慌ててフレイザードからレオナ姫が離れると、その上空にはミストバーンが浮かんでいた。

 

「…人間に負けるだけではなく、地に頭をこすりつけるとは無様だな。フレイザード」

 

いつのまにか現れたミストバーンは、レオナ姫には目もくれず、フレイザードを見下していた。

 

「…やれやれ。どうやら看取りに来てくれたんじゃないようだな?」

 

黙ったまま空を指差すと、そこには禍々しい鎧が出現した。

 

「これは我が魔影軍団最強の鎧だ。…お前の頭脳は惜しい。私の部下になることを誓うなら、この鎧を新たな体として与えてやろう」

 

その言葉を聞いた途端、おかしそうにフレイザードは笑いだす。

 

「どうした?この鎧を気に入ったのか?」

 

「気に入った?そのデカブツを?…笑わせんな。氷炎将軍は勇者一行と真面目に戦って、満足してんだ。そもそも俺を従わせたいのなら、オリハルコンかヒヒイロカネで出来たキラーマシンでも持ってこい」

 

「…自分の状況を理解しているのか?この愚か者め」

 

近づくと、もうまともに起き上がれないフレイザードの顔を踏みつけ、粉砕し、蹴飛ばす。

 

「あの野郎…!」

 

無言で蹴り飛ばす度に、周囲にフレイザードの体を構成していた石が散らばる。

それでも何とか生きてるらしく、フレイザードはうめき声を上げる。

 

「最後だ。今後は私の手足となって生きろ」

 

「…帰れ。雨カッパもどき」

 

これまで以上の勢いでミストバーンが足を持ち上げるが、その足にダイが空裂斬を放つ。

 

「やめろ!フレイザードは、最後は正面から俺達と戦った!それをこれ以上侮辱するのは許さないぞ!」

 

無言でダイを見続けるが、ミストバーンはきびすを返すとそのまま消えていった。

 

それを確認するとダイはフレイザードだった石に駆け寄り、大声で呼びかける。

しかし、もうフレイザードからの返事はなかった。

 

「…愉快な奴だったのにな」

 

クロコダインのおっさんが呟く。

 

まだレオナ姫に最後の願いを伝えてないのに、逝っちまいやがった。

ふざけた奴だったが、未練を残したまま死ぬほど酷い奴じゃなかったというのに。




作者はハッピーエンド主義ですので、オチまでもう少々お待ちを。


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【第9話】レミラーマを唱えた。レミラーマを唱えた。レミラーマを…

【2017/02/26 追記】
今回の話で、2名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----クーラSide----

 

フレイザード様がいなくなって、初めての朝を迎えた。

 

麻痺になりながら全てを聞いていた私はフレイザード様が言われた通り、それぞれ数冊ある特技の書物をアバンの使徒に差し出した。

 

書物の名前は「ダーマの書」。フレイザード様曰く、特技をつかさどる由緒ある施設の名前らしい。

それはフレイザード様の指示のもと、職業ごとに「戦士の章」「商人の章」などに私が分けて保存したものだ。

 

…『ハッスルダンス』など、何を言ってるかわからない箇所については白紙だが。

 

これらは前もって私に預けられていた袋に入っていた物で、研究所にも行ってみたが、恐らくザボエラかミストバーンの仕業だろう。

そこには何も残っていなかった。

 

そして無事魔王軍を退け、マリンという賢者を助け出したことの祝宴が開かれたことまでが昨日の出来事だった。

 

人間に処刑されると思った私だが、アバンの使徒やレオナ姫が集まった人間に、私がこれまでどんな目にあったか説明してかばってくれた。

もっとも一番効果があったのは、昨晩の宴の間ずっと側にいて、今もくしで私の髪や羽をといている女性のおかげだろう。

 

「クーラちゃんの髪の毛、サラッサラ~♪翼の羽もフワッフワ~♪」

 

その女性は、私が氷漬けにしたマリンだった。

どうやら氷漬けにされていても意識はあったらしく、フレイザード様との会話も、私が『氷炎結界呪法』で効果が薄いベホマをかけ続けていたことも全てわかっていたとのことだ。

 

そしてなぜそうなったのかは不明だが、私を悪意から守ってあげなくてはいけない存在だと思ったらしい。

実際、氷から溶かされてまず彼女がしたことは、私にキアリクをかけることだった。

 

「ねぇ、クーラちゃん?…この後どうしたいか、決まった?」

 

それは昨日からずっと、レオナ姫を始め、多くの人間に言われていることだった。

 

私は処刑などによって罪を償うため連れてこられたと思ったが、罪を償うのは人間で、私は被害者だという。

そして人間が魔王軍との戦いを終えて、罪を償うことができるようになるまで、自分から人間を傷つけるようなことをしない限り、自由に生きて構わないと言われた。

 

その際「先立つ物が必要だろう」とこの世界のお金をもらい、使い方と物の値段を教えてもらった。

 

旅立とうと思えばいつでも出発できるが、今でも人間は恐怖でしかなく、フレイザード様がいない世界なんか正直どうでもいい。

だけど…

 

「…フレイザード様と作った特技を、後世に残すために生きます」

 

ここで私がいなくなれば、フレイザード様が作った物は本当にこの世界から消えてしまう。

だからこそマリンに協力してもらいながら、アバンの使徒や他の人間にダーマの書を読んでもらえるよう、頼み込んだ。

 

その結果ヒュンケルやクロコダインなど、多くの人物が興味を持ってくれたため、すぐ複製してもらえることが決まり、即座に廃れるということだけは免れそうだった。

特にヒュンケルやマァムは道すがら読むということで、それぞれ「戦士の章」「武闘家の章」を受け取ってくれた。

 

「そっか。…そういえばフレイザードさんが作った特技って、戦闘以外で使える物はあるの?」

 

マリン曰く、日常で使えるホイミのような物があれば普及しやすいらしい。

 

そういった物も、あることはある。『インパス』や『タカの目』、後は…『レミラーマ』。

フレイザード様と初めて、研究成果として披露した呪文。

 

 

----レオナSide----

 

胸糞悪い。

今の私の心境はその一言だった。

 

「レ、レオナ…。何だか怖いよ?」

 

ダイ君はそう言うが、それぐらいでこの気分は晴れなかった。

 

改めて旅人など多くの人からクーラが人間から受けた仕打ちを聞いたが、曰く「食事は見物客が檻に投げ込む野菜や果物だけだった」、曰く「むしり取った羽は神からの加護として売られていた」など、碌でもないことばかりだった。

 

挙句の果てにクーラ受け入れに反対する人間が、オーザム王国産の「天使の羽帽子」をかぶっていたときは、人前にも関わらずぶん殴るところだった。

 

なんとか我慢して大声で罵倒するだけに留めたが、それでもイライラは収まらない。

そうしていると、マリンとその後ろに隠れるようにしているクーラが近づいてきた。

 

「姫様、今お時間よろしいでしょうか?」

 

問題ないことを伝えると、クーラがおずおずとパプニカ周辺の地図を取り出し、行きたい場所があると言ってきた。

 

「私の『レミラーマ』は、本人が探している物の場所を教える呪文なんです。先ほどフレイザード様を思い浮かべてその呪文を唱えたところ、私が行ったことのない、この場所が光ったんです」

 

そう言って、地図を指差す。

 

「は?そこって…」

 

その場所に、ポップ君は心当たりがあるようだった。

 

 

----ポップSide----

 

「まさか、またここに来るとは思わなかったぜ。…そういえばフレイザードの奴に会ったのは、ここが初めてだったな」

 

クーラが示した場所は、不死騎団元アジトの地底魔城だった。

さすがにクーラ一人で行かせるのは危ないということで、俺とダイと自称クーラの親友のマリン、そしてストレスで限界だというレオナ姫が同行することとなった。

 

「思えば初めて会ったときから、フレイザードは俺達と敵対する様子がなかったなぁ…」

 

ダイも思い出すように呟く。

ちなみに地底魔城にはモンスターは存在せず、クーラが言うにはフレイザードと同じで、魔力の提供が断たれたのではないかとのことだ。

 

「レミラーマ。…次はこちらのようです」

 

クーラが曲がり角の度に呪文を唱え、道案内をする。

 

「それにしても便利な呪文だな…。師匠に聞いたら、教えてくれっかな?」

 

俺の呟きにクーラは袋からダーマの書を取り出し、ページをめくる。

 

「…ありました。これは『盗賊の章』に書かれている呪文ですね。魔法使いでは知らないかもしれません」

 

開いたページをこちらに見せてくれる。

その態度は冷静を装っているが、目は泳いでいて、どこか怯えが含まれていた。

 

怯えるクール系美女。…新しい何かに目覚めてしまいそうだ。

 

余計なことを考えていると、思いっきりマリンに足を踏まれる。

 

「ポップ君?私の親友に、変なこと考えてない?」

 

痛みに耐えながら、「滅相もございません」と答える。

 

やがて突きあたりの扉に着くと、念のため再度レミラーマを唱える。

 

「ここが目的地で間違いないようですね。…開けますよ?」

 

言っているクーラ自身が誰よりも緊張した様子で、扉を開く。

そこにあったのは大きな水槽と、机一つに本があるだけの書室だった。

 

その水槽にクーラは見覚えがあったらしい。

 

「これは、なぜここに?…そもそも蘇生液に漬けていた中身はどこに?」

 

頭に大きな「?」を浮かべながら、クーラは水槽の周囲を見回す。

調べている間、手持無沙汰だった俺は机の本を手に取ってみると、あることに気づく。

 

「あれ?これ、ダーマの書じゃねぇ?」

 

表装はクーラが持っている物と違うが、特技の説明や習得の手順は類似していた。

その本をクーラが奪い取る。

 

「これは…『遊び人の章』!?私も持っていない章が何で!?」

 

急に大声を出したせいだろう。

今まで気にしていなかった部屋の隅で、「ガタッ」という物音が聞こえた。

 

とっさにダイが剣を抜き、マリンが呪文を放つ姿勢を取る。

 

「誰だ!?」

 

威嚇する雰囲気を感じたのか、渋々部屋の死角となっていた場所から、両手をあげて魔族の男が出てきた。

 

「怪しい者じゃないよ。ただ急に人が来たから、隠れていただけさ」

 

そう話す人物に向かって、突然クーラが飛びかかった。




シリアスはようやく次回で終わり。
書き溜めすると言ったのは、シリアス路線に変更したと勘違いされないためと、このオチが安易に予想できるので一気に放出したかったためです。


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【第10話】勇者達は、一目散に逃げ出した

【お知らせ】
ログインせずに感想を書けるようになっておりましたが、思っていた以上にいただけるご感想が多く、返信が難しくなっているため、下記日時より設定を変更させていただきました。

2015/03/06 23:00


----???Side----

 

予定と違う。

今の心境はその一言だった。

 

話声がした時点で嫌な予感がしたため、『忍び足』を使って部屋の隅に隠れた。

 

(俺は壁、俺は壁、俺は壁…)

 

必死に念じる。

こんなことなら、姿を消す『レムオル』を覚えておくべきだった。

 

「私も持っていない章が何で!?」

 

突然の大声でびくっとしてしまい、机に足をぶつけてしまう。

出てくるよう脅され、無害をアピールしながら表に出ると、翼の生えた女性が飛びついてくる。

 

「フレイザード様!フレイザード様!フレイザード様!」

 

二度と離さないと言わんばかりに自分の足にしがみつき、号泣しながら連呼する。

 

だ、大丈夫。ハッタリのはずだ。まだどうにかなる。まだ誤魔化せる。まだ助かる!

 

「ど…どなたかと勘違いされているのでは?」

 

「私がフレイザード様の挙動を忘れるわけがありません!…私はもう用済みですか?もう手元に置いていただけないのですか?お願いします、捨てないでください。お願いします、お願いします…」

 

靴に額をこすりつけて、懇願してくる。

 

これ以上誤魔化そうにも、ダイ達ですら確信しているようで逃げ場はなかった。

 

「…バルジ島で別れて以来だな。元気そうで本当に良かった。クーラ」

 

 

----レオナSide----

 

「念のため尋ねるけど、あなたは元フレイザードで間違いないのね?」

 

クーラが落ち着くのを待ってから、目の前にいる魔族の男に問いかける。

 

「そうだけど、何か証明しろと言われても困るんだが…。とりあえず、踊ろうか?」

 

「もうその一言で十分よ」

 

世界広しといえども、身分証明を求められて踊る人(?)なんてフレイザードぐらいだろう。

 

「また会えてすごく嬉しいよ。でも、どうやってその姿に?」

 

純粋にフレイザードが生きていたことを喜んでいるダイ君が、元フレイザードに尋ねる。

 

「呪法生命体は、禁呪法を実行した奴の魔力でしか回復しない。だからもし死んだとき、禁呪法実行者以外が強制的に蘇生させたらどうなるかを考えたんだ」

 

そう言って、砕けた腕輪を取り出す。

 

「これは命の石で作った『メガザルの腕輪』。これの半分をフレイザードの石、もう半分は魔族の死体に埋め込んで、フレイザードの方が死んだ際に魔族のほうに魂が転移することに賭けたんだ」

 

「でしたら、なぜ私に話してくれなかったんですか!?それに、魔族の肉体を何時の間にここに移動させたんですか!?」

 

クーラが叫ぶように言う。

 

「実験もしていなかったし、そもそも成功するなんて思わないだろ。俺がメガザルの腕輪を仕込んだのは、短い時間で出来ることがこれだけだったからだよ」

 

どうやらこの結果には、元フレイザードも驚いていたようだ。

 

「それとこの場所は、以前ここにいたモルグさん達を『ニフラム』で供養させるお礼として譲ってもらったんだ。あと移動させたのは、そこにいる賢者の女性にクーラが効きにくいベホマをかけている間、魔族の体と入れている水槽だけはこちらに移動させたんだよ。…どうせ勝っても負けても、研究室は荒らされる気がしたからな」

 

元フレイザードは、一つ一つ答えてくれる。

だがまずはっきりさせたいことがあったらしく、ポップ君が聞く。

 

「それよりも今のお前、なんて呼べばいいんだ?少なくとも、フレイザードじゃないだろ」

 

その質問は予想していなかったらしく、元フレイザードは少し考える。

 

「…『レイザー』。うん、魔族レイザー。これでいこう」

 

ポップ君が捻りのない名前だと茶々を入れるが、現レイザーは気にしてないようだ。

私も今後は、そう呼ぶことにしよう。

 

「それでレイザー。クーラにも聞いているのだけど、あなたはこれからどうしたいの?」

 

「ミストバーンから受けた仕打ちもあるし、そもそも俺の末路は伝えられているはずだから、二度と魔王軍のためには戦う気はないよ。…まずは覚えた呪文と特技がリセットされちまったから、そのリハビリをさせてほしい」

 

「ということは、踊り系の特技も出来なくなったのね!?」

 

それが本当なら、世界にとっての朗報だ。

 

「心配すんな。この体で目覚めてから、いの一番に習得し直したからバッチリだ」

 

「…そう。それは何よりね。本当に良かったわ、本当に」

 

世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりね。

 

「あとリハビリが終わったら…氷炎将軍時代の罪を償いたい」

 

私の目を強く見つめる。

だが、私の答えは一つだった。

 

「何を言ってるか、わからないわ。氷炎将軍フレイザードは勇者ダイによって討たれた。あなたは今まで寝たきりだった魔族。一体何を償うの?」

 

「…おい。そんなんで済むわけにはいかないだろ」

 

「だったら、私達に言ったフレイザードの夢を叶えて。その夢のためには魔王軍を倒さないといけないでしょう?だったら、勇者の手助けをしてあげて」

 

私の言葉に、ダイ君も続く。

 

「俺からも頼むよ。あのとき見せてもらった技を使える人が味方になってくれるなら、すごい心強いしさ」

 

回答に困っているレイザーに向かって、横からマリンが口出しする。

 

「姫様。他に何もないんだったら、私からも言わせてください。…レイザーさん。クーラちゃんはフレイザードさんの遺言を叶えるために、ずっと怖いのを我慢してたんです」

 

クーラのことをマリンが抱きしめながら言う。

 

「もうクーラちゃんを寂しがらせないでください。この子はあなたに初めて優しくされたとか関係なく、あなたのことが大切なんです」

 

「…わかった。クーラに嫌がられるまでは、ずっといることを誓うよ」

 

レイザーとマリンが話す中、ふとクーラがダーマの書に挟んであった用紙に気づく。

それはレイザーが書いていた、今後の予定表だった。

 

【今後の予定(仮)】

1.呪文と特技を覚え直す。

2.未完成のダーマの書(特に上級職)を完成させる。

3.その間にクーラがこの場所に気づけば、一緒に行動する。

4.来ない場合は一人で旅に出て、特技を覚えつつ、腕試しをしていく。

5.酒場などで、踊り系の技を身につけてくれる弟子を探す。(出来ればかわいい子)

6.ついでに道中、おすすめの『パフでパフ』な店を回る。

 

「………」

 

黒いオーラがクーラの周囲から出てるような気がするが、ダイ君やポップ君も後ずさりしているため、気のせいではないようだ。

 

クーラが何気なく正面に手を差し伸べると、糸状の物が出て、レイザーの体の自由を奪う。

その技にダイ君が驚く。

 

「これは…『闘魔傀儡掌』!?」

 

「えぇ。以前見たことがある、ミストバーンの技です。今の私なら出来る気がしたんです」

 

「で、出来るような気がして出来る技じゃ…」

 

黙らせるようにクーラがグッと力を入れると、レイザーの悲鳴が3割ぐらい大きくなった。

レイザーが痛みを訴える中、クーラは私に宣言する。

 

「レオナ姫。私がしたいことが見つかりました。フレイ…いえ、レイザー様と一緒に技を磨く旅に出ます。そしてお役に立てる自信がついたら、必ず勇者の元へ駆けつけます」

 

「…わかったわ。それじゃ、ここで一旦お別れね。約束通り、力を取り戻したら勇者の助けになるのよ」

 

レイザーが「今は二人にしないで!」とか言っているが、せっかくの再会をこれ以上邪魔するわけにもいかないだろう。

ダイ君達と慌てて扉から退出する中、クーラがマリンに声をかける。

 

「マリン。その…今日までありがとうございます。良ければ、これからも私の友達でいてくれませんか?」

 

「…もちろん!レイザーさんとこれから元気でね。次に会える日を、楽しみにしてるわ」

 

言い終わったのを確認して扉を閉める。

中から「ぬわーーっっ!!」と悲鳴が聞こえた気がするが、大したことはないだろう。




【6話から10話までのあらすじ】
・おめでとう!『氷炎将軍フレイザード』は、『魔族レイザー』に進化した!
・やったねクーラちゃん!暗黒闘気を覚えたよ!

【あとがきという名の言い訳】
色々ありましたが、オリ主は魔族に転生致しました。

フレイザードのまま物語を進めることをご期待された方が多く申し訳ないのですが、当初から魔族に転生することを想定していたため、路線変更は難しく、変更せずに進めました。

またフレイザードとクーラの変化は、これぐらいしないとバーン戦で戦力にならないと思ったためです。

【追記】
次回以降の更新は、1週間に1~2話程度になる予定です。


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【第11話】命は大事に(切実)

レイザーとクーラのイチャイチャ回。それと方針決定回です。

こういった話は、どこまでやっていいかわからないので難しい…。


----レイザーSide----

 

『昨夜はお楽しみでしたね』。

ドラクエ世界で、一度は言われてみたい言葉である。

 

それがまさか『昨夜は命拾いしましたね』と心から思うとは、予想もしていなかった。

 

ダイ達と別れ、一人旅をする際に行くつもりだった店がバレて号泣するクーラに、「生身の肉体に転生して3大欲が出来て…」という言い訳をしたのがいけなかった。

 

何か琴線に触れたらしいクーラに「そんな店で出来ることぐらい、私がやります!」と、色々わかってはいけない叫びと共に押し倒された。

 

いつ意識を失ったかわからないが、クーラに手や足を絡められながら、更に翼に包まれて、捕食される寸前の餌のような状態で目を覚ましたのがついさっきだ。

 

こういう朝に目覚めたときは、相手がまだ寝ているか、こちらへ微笑んでいるのを期待していたが…

 

<●> <●>

 

顔文字で表現するとこんな感じで、まばたきもせずにこちらをガン見していた。

…もうクーラを怒らせないようにしよう。

 

それでもやっと話が出来るまでに落ち着いてくれたらしく、今後について話し合うこととなった。

 

「私『も』愛しております。それと一姫、二太郎、三なすびがいいと思います」

 

「落ち着いて、クーラさん。今後とはそういったことではないです。そもそも、いつ俺がそんなこと言いました?」

 

「…初めてだったのに。あんなに尽くしたのに」

 

それはこちらも同じだが、男性と女性では意味が違うため、それについては反論の余地はございません。

 

「いや、その…。こ、子供とか出来たら魔王退治どころじゃなくなるし…」

 

「わかりました。婚約ということで手を打ちましょう」

 

あれ?何かドツボに嵌まってないか?

 

「気のせいです。それよりも今後必要なことを考えましょう。えぇ、早く。目先のこととしては、私に預けられた装備でレイザー様向けの物はほとんどないという問題があります」

 

袋をひっくり返すように中身をぶちまけると、剣が幾つかあるだけで、防具はほとんどなかった。

 

後は色々な失敗作。

インパスを使って調べたところ、『ぬるい水』『復活の玉(空)』『なんかの雫』など、回復アイテムの出来そこないだけだ。

 

「クーラが剣メインとなると、俺は呪文とかのほうがいいか…」

 

そうなるとこの世界の極大呪文は両手を使うことが多いため、剣で手がふさがれるというのも問題だ。

 

「レイザー様は私と違って武器を選ばないので、武闘家のように手甲はどうでしょうか?」

 

それで問題ないだろう。

特技については隼切りなど明らかに剣でしかできない技も、斧でも鞭でも出来るため、武器に悩まないという意味でも便利だ。

 

「どうせなら、氷炎将軍時代みたいに自作するか。…となると、魔族と精霊がいて差別されない、武具を作る工房を貸してくれる場所が次の目的地だな」

 

レミラーマを使ってみると、地図上で光ったのは3箇所だった。

 

一つ目、ロモス王国。

 

「…人が多いところは怖いです」

 

クーラが怯える様に言う。ここは止めとこう。

 

二つ目、パプニカ王国。

 

「いや、ついさっき別れたばっかりで、戻るのは気まずいだろ。ここは最後の手段だな」

 

そして三つ目、ギルドメイン大陸のどこか。地図上に地名はなかった。

 

「レオナ姫からもらった地図は、主要都市だけ記述されていると聞きました」

 

ということは、ここは大きな街ではないということだ。

レミラーマに反応したということは、それほど外れた結果にはならないはずだ。

 

少し遠いが、自分はトベルーラがあるし、クーラは飛べる。

それほど時間をかけることなく、この場所に行けるだろう。

 

 

----クーラSide----

 

「…人間はやっぱり怖いです」

 

レイザー様から聞いた、夢である特技の施設を作るため、魔族や私のような精霊が世間にいるということをアピールしておきたいという理由で、この旅の間は可能な限り人通りが多い道を歩いていた。

 

だが人の視線は檻に入れられた時のことを思い出し、レイザー様の腕に抱きついて顔を隠す。

 

「あの…クーラさん?お願いですから、強くしがみつかないでください。その胸部装甲は脅威です」

 

「嫌です。離れません。…氷炎将軍だったころは触りたくても触れませんでしたから、その反動です」

 

怖いというのもあるが、ずっと触れたかったというのも本当だ。

 

「それに…私達は恋人なのですから。愛する人とこうするのは自然なことです」

 

正確に言えばまだ返事をもらっていないが、旅費の節約のため宿を同室にする理由などで、私達は婚前旅行中ということにしている。

 

それとレイザー様を変な店に行かせないためにも、常に一緒にいる必要がある。

もっとも毎晩、私が愛している証拠を行動で示しているのでそんな体力が残っているはずはないが。

 

「まぁ、喜んでくれるならいっか。…それよりもさっき道具屋で買った、目的地周辺の地図を確認しよう」

 

人の告白を流されたことに苛立つが、私が顔を隠している間に道具屋の場所を調べ、買い物も済ませていたため、文句は言えなかった。

 

これまで人間に接する機会は私よりも少なかったはずなのに、レイザー様は先ほどの買い物や酒場などでの情報収集をたやすく行う。

それどころかステージに上がっておひねりをもらうこともあり、私達が立ち寄った場所は「陽気な魔族と陰気な天使がいる」と有名になっていた。

 

私は人間に対して苦手意識があるとはいえ、ここまで適応能力に差があると自信をなくす。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、レイザー様は一層明るい声で地図を指す。

 

「あった、あった。『ランカークス村』…の近くか。ここが目的地みたいだな」




踊り系は戦闘中は大不評ですが、飲み会では人気の特技です。


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【第12話】レイザーの借り暮らしのアトリエ

今回は一部、日記のような表記があります。
【2015/03/14】
あまりに誤字脱字が多いため、ごっそり修正。
内容に変更はありません。

【2020/7/31 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----レイザーSide----

 

ランカークス村で宿を確保し、朝一で地図を頼りに進んだところ、ようやく目的地と思われる小屋に着いた。

 

「たのもー!」

 

中に人の気配がすることを確認して、扉を叩く。

すると覗き窓がわずかに開いた。

 

「…誰だ?魔族が何の用だ?」

 

不快そうな声だ。

こういうときは、自分の立場を示すに限る。

 

「初めまして。俺ははぐれ魔族のレイザーで、こっちは同じくはぐれ精霊のクーラだ」

 

自己紹介をした後、自分達は勇者との約束で修業の旅に出ていること。

そして装備を整えたいが、自分達の身なりがあるため、ここで自作させてほしいことを伝える。

 

「…俺のことを知ってここに来たんじゃないのか?」

 

「え?もしかして有名な方?」

 

俺の質問に答えず覗き窓が閉められると、ドアが開く。

そこにいたのは顔に傷のある、魔族だった。

 

「まずは入れ。幾つか確認させてもらったら、お前達の要望を考えてやる」

 

そう言って家に入れてくれる。

名前はロン・ベルクさんというらしい。

 

…なんか魔王軍時代に聞いたことがあるような気がするが、思い出せないなら問題ないだろう。

 

とりあえず挨拶代わりに、一言断ってからロン・ベルクが持っていた酒瓶を『凍りつく息』で冷やす。

 

「…随分と器用だ。酒瓶を割らず、中身を凍らせず、酒を冷やすことだけを行うとはな」

 

「炎と氷の扱いには自信があるんで」

 

掴みは上々のようだ。

 

「…さっき武器を自作したいと言ったな?これまでどういった物を作ってきたんだ?」

 

百聞は一見にしかず。

クーラに頼んで炎の剣と吹雪の剣を取り出し、渡す。

 

「…」

 

てっきり陶芸家の如く、即座に床に叩きつけられると思ったが、思いの外じっくりと炎の剣を眺めている。

 

「気持ち悪い剣だ。武器としては研ぎが雑のなまくら。…ただこの剣に宿っている炎の力は、俺が魔界で見た物と比べても段違いだ」

 

渡した剣をこちらに差し出す。

 

「これと同じものを作って見せろ。製造途中は、ここをどう使おうが文句は言わない。その結果次第で、引き続きここを貸してやろう」

 

テストということだろう。

クーラに目配せして、手伝ってくれることを頼む。

 

「お任せください。今まで通りやればよいのです。何も問題はありません」

 

クーラの頼もしい言葉に押されて炉の前に座ると、クーラは黙って袋からフレイザードの体を構成していた石を差し出してくれる。

 

「ありがとう。そんじゃ、まずはフバーハだな」

 

フレイザード時代は腕自体が炎を吸収できたが、今はこうしないと厳しいだろう。

 

そして鉄の剣とフレイザードだったときの石を合わせて、前回作ったときと同じようにまず『灼熱の息』で剣を熱する。

 

その光景を見た途端、ロン・ベルクが激しくせき込む。

酒が気管に入ったんだろう。

 

よくあることだ。

 

「待て待て待て!お前は一体何をしてるんだ!?」

 

先ほど文句は言わないと発言したのに、早速作業を止めてくる。

 

「見ての通り、剣を熱してる。いつも通りの手順ですけど?」

 

「大道芸じゃないんだぞ!何のために炉があると思ってるんだ!?」

 

「…微調整用?」

 

「レイザー様、念のためベホマをしておきます。やはり鍛冶は傷が絶えませんね」

 

「火傷とかはするだろうが、そんな火傷するのはお前ぐらいだ!」

 

何か作り方を間違っているだろうか。

念のためクーラに尋ねるが、何も問題ないと返事がくる。

 

「駄目だ、このバカップル…」

 

ロン・ベルクが何か呟いている。

 

「ちなみに吹雪の剣はどうやって作った?」

 

「『輝く息』と『火の息』のアンサンブル」

 

「わかった。お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 

頭を抱える。

顔色も悪いし、二日酔いだろうか?

 

「…どうせ暇つぶしでしか炉は使っていない。好きにしろ。ただしこんな作り方でどうやったら武器が出来るか、この目で確認させてもらうぞ!」

 

 

【製作1:奇跡の剣】

まずはリハビリも兼ねて、慣れている剣を作成することにした。

 

命の石でやってみたが、思ったよりすんなり完成し、クーラ用として渡す。

 

「プロボーズの指輪代わりですね。大切にします」

 

「違いますから」

 

もしそうだとしたら、多くのドラクエでメダル王からプロポーズされていることになってしまいます。

 

「…なんでこんな方法で剣になるんだ?」

 

ロン・ベルクが作った剣を眺め、納得いかないといった表情をしていた。

 

 

【製作2:炎の爪】

ランカークス村の武器屋で買った鉄の爪を参考に、フレイザードの炎の石で作業をする。

 

『灼熱の息』以外にも『激しい炎』なども合わせて調節しているが、思うような形状にならない。

 

もうすぐ日が暮れる。

今日はここまでのようだ。

 

 

翌日、炉を使おうとするとロン・ベルクに止められる。

 

「お前らの手際の悪さを見ていると、俺まで腕が落ちそうだ。少し家財道具を作るから、そこで見ておけ」

 

作業を開始すると瞬く間に、鉄の塊が見事な鉄の爪に姿を変える。

 

どうやら家の中に炉があるのは、伊達や酔狂ではないようだ。

しかし…

 

「あの、家財道具を作るのでは?」

 

クーラがごもっともな指摘をする。

だいぶ悩んだ後、ロン・ベルクは断言した。

 

「これは…鍋つかみだ」

 

うん、そうだね。鍋つかみだね。

 

「ええい!ほほえましい目で見るな!」

 

ロン・ベルクが作成した爪を参考に、炎の爪も無事作成できた。

 

 

【製作3:悪魔の爪】

最後に作るのは、相手に毒を与える悪魔の爪だ。

 

作り方は簡単。

『猛毒の霧』に包まれながら打つべし、打つべし。

 

ふとロン・ベルクが静かだと思って見てみると、床に倒れていた。

どうやら毒にやられたらしい。

 

キアリーをすれば、助かるのに…。

 

「俺は呪文を使えないんだ!そもそも換気ぐらいしろ!…というか踊るな!」

 

解毒とハッスルダンスをして回復すると、怒鳴って注意された。

 

「世界樹の毒じゃないんだから、これぐらい我慢我慢」

 

「意味がわからんぞ!?」

 

 

----ロン・ベルクSide----

 

あの変な奴らが来てから数日経った。

 

製作過程はともかく満足のいく武器が出来たらしく、モンスターが多い場所で試してくるらしい。

トベルーラを使っていたので、この周囲ではないだろう。

 

その去っていく姿を見ながら、俺はふと考えた。

自分があんな楽しそうに武器を作るために切磋琢磨したのは、いつ以来だろうか。

 

武器の使い手がいないと腐っていたが、それは自分の理想が実現できない未熟さを誤魔化す、逃げの言い訳だったのではないか。

 

「…久々にアレを引っ張り出すか」

 

あいつらの打ち方は参考にならないが、酒を冷やす係とベホマ係ぐらいにはなる。

ここまで付き合ってやったんだ。それぐらい手伝ってもらおう。

 

そう考えながら家に帰ると、最近知り合った人間のジャンクと見たことがない人間達がいた。




週末忙しいため、慌てて作成。

次回更新は来週の予定です。

【2015/03/14 追記】
今まで読み専だったため、評価コメントが見れるということに今日気づきました…。
思った通り賛否両論で正反対の意見もありますが、他の方とかぶらない話を目標に続けていきたいと思います。

またいただいた評価にコメントを返せないようですが、こんな作者の話にコメントしていただき、ありがとうございます。


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【第13話】知人と会った。どうやら巻き込まれたようだ

【2017/02/26 追記】
今回の話で、4名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----ポップSide----

 

「なんであんなこと言っちまったかなぁ…」

 

メルルの水晶玉で岩の巨人がパプニカに迫っていることを察したが、ロン・ベルク曰く作っている剣は今正に瀬戸際らしい。

 

そのため、足止めなんか楽勝だから剣が出来るのを待てと、啖呵を切ってしまい、森で自己嫌悪に陥っていた。

 

「マァムやクロコダインのおっさんがいてもな…」

 

「あれ?ポップと…どなたさん?」

 

草木をかき分けて出てきたのは、地底魔城で別れた以来のレイザーとクーラだった。

 

マァムにはレイザーの話はしているので、一緒にいるクーラを見て察しがついたようだ。

 

「ふふ、私はマァムよ。今はレイザーでしたっけ?お互い見違えたわね。…そうそう、あなたが書いた特技の本、ブロキーナ老師もすごく評価してたわ。生きていたらぜひ会いたかったって言ってたから、今度会ってくれない?」

 

親父やロン・ベルクから聞いてはいたが、やはり最近ランカークス村にいる変な魔族と無口な精霊はこの二人だった。

 

話を聞く限り、この二人は作った武器の出来栄えを確認して、工房を借りているロン・ベルクに報告しに来たらしい。

 

「地獄に仏だ!話は後!あんた達もパプニカまで付き合ってくれ!」

 

レイザーは氷炎将軍時代と比べて能力は落ちているが、そこら辺の兵士よりまともなはずだ。

また直接戦っているところは見たことないが、クーラはレイザーに次いで特技を使えるらしく、飛翔もできる。最悪彼女だけでも戦力になるだろう。

 

「親父!ロン・ベルクにはレイザー達を借りるって伝えてくれ!ルーラ!」

 

反論を与える間もなく、二人を巻き込んでルーラをした。

パプニカに着き次第、事情を把握できないレイザー達をほっといて、姫さんとお互いの現状を話す。

 

状況を把握している間に、ベンガーナ戦車部隊によって岩の巨人が破砕されたと思ったが、次の瞬間には巨人の反撃によって全滅してしまった。

 

「我は魔影軍団長、ミストバーンである…」

 

巨人から声が響く。その用件はシンプルだった。

『降伏は許さない。死ね』。それだけだった。

 

「この野郎…!ふざけんじゃねぇぞ!」

 

クーラのように人間から迫害されたことから化け物扱いされるならともかく、あの魔王軍から害虫扱いされるのは我慢ならなかった。

 

巨人に向かってトベルーラで空に駆け出す俺の手を、慌ててマァムが掴む。

それに並走して、翼を広げたクーラが追いついてくる。

 

「よくわかりませんが、あの巨人内にいるミストバーンを倒せばいいのですね?…あいつはフレイザード様を足蹴にしました。フレイザード様の石で作ったこの剣を一太刀浴びせなければ、私の気が済みません」

 

「ポップ!私は地上のクロコダイン達を援護するわ!」

 

地上を見ると、巨人から出てきた鎧のようなモンスターに、クロコダインのおっさんが襲われていた。

 

おっさんはそこら辺の壊れた戦車を持ち上げ、モンスターに投げつける。

 

「はぁぁぁ…!『岩石落とし』!」

 

おっさんのパワーも加わり、1度で多くの鎧兵士が押しつぶされ、戦車の火薬が残っていたのか、更に爆発まで起こる。

 

残っていた鎧兵士も、『かまいたち』によって引き裂かれる。

 

「どうした!?獣王相手に、遠慮はいらんぞ!」

 

「…ノリノリだな、おっさん。助けいらないんじゃね?」

 

「そんな気もするけど、私が掴まっているとポップの邪魔でしょ?」

 

そう言って俺の手を離すと、マァムも地上に降り、モンスターを拳で砕く。

今思えば手をつなげていて、ちょっと残念だった。

 

そういえば、一緒に飛んでいたはずのクーラがいないことに気づいた。

周囲を見渡すと、クーラはいつのまにか巨人の頭部に乗って一心不乱に鉄拳を振り下ろしていた。

 

「『地割れ』!『地割れ』!『地割れ』!『地割れ』!」

 

やだ。何この人、恐い。

しかもちょっとずつ巨人の頭部が割れ始め、既に片目部分が欠けているのが余計に恐い。

 

さすがのミストバーンも予想外だったのか、中から慌てた声がする。

 

「な、何をしている!?この無能軍団の生き残りめ!…ガスト共!そこの魔法使いと精霊を叩き落とせ!!」

 

マホトーンを使うガストの集団に俺は慌てるが、こちらに来る前にクーラが炎のブレスで一掃させる。

…俺、いらないんじゃないかな?

 

だが巨人は自身の腕を頭に置き、無理やりクーラを追い払う。

そして地上もチウとバダックじいさんの加勢もあるが、敵があまりに多いため押されてしまっている。

 

「おい、クーラ!俺が奴らを一掃するから、一度地上のメンバーと合流するぞ!…イオラ!」

 

俺の呪文で敵を半数近くまで減らすと、巨人からミストバーンの声が響く。

 

「精霊。貴様、バーン様が拾ってやった恩も忘れて何のつもりだ?」

 

「申し訳ありませんが、私が尽き従っていたのはフレイザード様のみです。ましてやあんな世紀の奇才を見限るような、節穴揃いの組織になど居られません」

 

「主人を亡くした哀れな犬だと思って放っておいてやったが、邪魔するなら容赦せんぞ!」

 

巨人から更に鎧兵士を放出される。

 

「暗黒闘気さえあれば、鎧兵士など幾らでも作れる。…それとせめてもの情けだ。奴の遺産で息の根を止めてやろう」

 

10数の鎧兵士を片手に乗せられる巨人でさえ、両手に乗せるほどの巨大モンスターが現れる。

 

「鋼の竜だと!?」

 

魔王軍にいたクロコダインのおっさんも見たことがないらしく、驚きの声を上げた。

 

「フレイザードが残した研究成果『メタルドラゴン』だ。奴の出来そこないを、我らが暗黒闘気をもって完成させたのだ。感謝するがいい」

 

「設計案よりも肥大化している、劣化品なくせに笑わせます。…あの鉄くずは私が相手します。皆さんは他をお願いします」

 

慕っている相手の技術を盗んで作成した物が、気に入らなかったのだろう。

止める間もなく、クーラはメタルドラゴンに飛びかかっていった。

 

「人のこと気にしてる余裕があるのか、ヘボ魔法使い!鎧の奴らがこっちに来るぞ!」

 

チウの怒鳴り声で、慌てて目の前の敵に意識を向き直す。

すると突然、何かが横切った気配がする。

 

「アバン流槍殺法海の技、海鳴閃」

 

その呟きの直後、鎧兵士だけが全て縦に裂ける。

先ほどのは、ヒュンケルの槍による一閃だったようだ。

 

「ヒュンケル!来てくれたのね!」

 

嬉しそうにマァムが駆け寄る。

 

「ちぇっ…。相変わらず、嫌なタイミングで来る奴だ」

 

思わず悪態吐く俺に、ヒュンケルは苦笑いを浮かべる。

 

「話は後だ。まずはあそこにいる鬼岩城と、中にいるミストバーン討伐だ」

 

「…なぁ。決めてるところ悪いんだけど、あっちはいいのか?」

 

メタルドラゴンをタコ殴りにし、素手で装甲を引き剥がしているクーラを指差す。

鋼が軋む音だとは思うが、メタルドラゴンから出る「ギィギィ」という音が助けを請う鳴き声にも聞こえる。

 

どうやらクーラは相手にルカニ、自分にバイキルトを使っているようだが、それでも十分異様な光景だ。

 

遠くを見るような目でヒュンケルが答える。

 

「…関わりたくないんだ。察しろ」

 

 

----レオナSide----

 

「ねぇ、レイザー。私、非常事態だから急げって言ったわよね?」

 

皆が巨人に向かっていったにも関わらず、私から事情を聞いたレイザーはこの場に残り、なぜかマリンやアポロ達を呼ばせてひたすら踊り狂っていた。

 

周りの王達も魔族は邪悪な印象があったらしく、愉快に踊っているレイザーを驚きと珍獣を見るような目で見ている。

 

「さっきも言っただろ。俺は修業終わった直後に連れてこられて、魔力が空なんだ。今回復してるから、待ってくれ」

 

レイザーが踊っているのは、マホトラと同じ効果のある踊りだそうだ。

 

「だったらせめて、世界のお偉い様がいるのだからもう少し見栄えのいい技はないのかしら?」

 

「違う、あのとき見た腰の切れはこんなんじゃ…。こうか!こうだな!OK!」

 

「私の話を聞きなさい!」

 

「…魔族と言っても、色々な奴がおるんじゃのぅ」

 

ロモス王が呟く。

ベンガーナ国王は先ほどから笑いをこらえて、楽しそうなのがまだ救いだ。

 

ただ彼のせいで魔族のイメージが別な方向に定着しそうだから、そろそろ無理やりにでも止めたほうが良いのかしら?

 

「あの…急に踊りを見せつけられて事情がわからなかったけど、魔力を回復したいなら魔法の聖水があるわよ?」

 

マリンがこの空気に耐えられず、レイザーに虎の子のアイテムを差し出した。



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【第14話】踊る阿呆とよく動く城

----クーラSide----

 

「ガラクタのくせに、しぶといです!」

 

いち早く私が相手をすると宣言したメタルドラゴンだが、装甲を剥がしたり、そこら辺に転がっている壊れた戦車をぶつけてダメージは与えているはず。

それだというのに、メタルドラゴンは依然として動きを止めないでいた。

 

ブレスなど遠距離攻撃がないとはいっても、その巨体で暴れられてかなり手こずっていた。

腐っても、フレイザード様が基本設計をしたことだけはある。

 

「クーラ、お願い!こっちを助けて!」

 

いい加減、刃こぼれしそうだったことから出し惜しみしていた剣を取り出そうとしたとき、マァムから悲鳴のような助けが聞こえる。

 

見るといつの間にかミストバーンが鬼岩城から出ていて、全員を暗黒闘気で縛り付けた上、ヒュンケルに対しては更に闘魔傀儡掌をぶつけていた。

ミストバーンが自身の顔を押さえているが、ヒュンケルが何かしただろうか?

 

「今すぐそちらに行きます。『メタル斬り』!」

 

躊躇せず吹雪の剣と奇跡の剣を取りだし、こちらも暗黒闘気を使ってメタルドラゴンを真っ二つに切り裂く。

いくら頑丈なメタルドラゴンでも、縦に切り裂かれればもう動くことはできないようだ。

 

「あ、暗黒闘気だと!?貴様、神の使いと言われる精霊の自覚があるのか!」

 

ミストバーンが失礼なことを言ってくるので、切りかかりながら答えてやる。

 

「精霊の自覚?そんなもの、あるわけないじゃないですか。私は天界で、異物扱いされていたのです。自身が精霊で良かったなどと思ったことは、一度もありません」

 

攻撃は寸前で避けられたものの、さすがにヒュンケル達を束縛している暗黒闘気の維持はできないらしく、皆を解放することはできた。

そして私の攻撃を避けたミストバーンの背中へ、別の人物が飛びかかる。

 

「隙ありだ!『飛び膝蹴り』!」

 

突然この場に現れたレイザー様の攻撃は予測できなかったらしく、ミストバーンは背後から受けた衝撃に耐えられず、地面に倒れこむ。

 

「邪魔だよ、雨ガッパもどき。今日のような快晴に、お前みたいなてるてる坊主は不要だぞ」

 

「その魔族姿、その台詞…。貴様、フレイザードか!?」

 

「初めましてだよ。俺の知り合いに、死にそうな同僚を踏みつけるような奴はいないよ」

 

「とぼけるな!言っておくが、バーン様はこの事態を予測済みだ。むざむざ殺されに現れるとは、探す手間が省けたがな!」

 

長い間ミストバーンに拘束されていて起き上がれないのか、地面に突っ伏しながらもポップがレイザー様に文句を言う。

 

「というか、来るのが遅すぎだ!俺達が戦っている間、お前何やってたんだよ!?」

 

「魔力がなくて、マホトラ踊りとアイテムで回復してたんだよ。今すぐ傷の手当をしてやるから、許してくれ」

 

いつものこととはいえ、まるで挨拶するかのようにレイザー様は『ハッスルダンス』を踊りだす。

それをミストバーンは鼻で笑う。

 

「無駄だ。いくら貴様の曲芸だろうと、暗黒闘気で受けた傷は回復呪文などでは治療できんぞ」

 

「え?回復してるけど?」

 

レイザー様が当然のように答える。

この中で最も傷が深いヒュンケルを見てみると、明らかに出血が止まり、顔色も良くなってきている。

 

「ば、馬鹿な…。私の暗黒闘気が、こんなものに…」

 

「というよりも、お前には俺の踊りが回復呪文に見えるのか?」

 

「見えてたまるか!そもそも、踊りで傷が治るなど誰が思うか!」

 

あまり顔を合わす機会がなかったとはいえ、激高するミストバーンは初めて見た。

ヒュンケルも治っていく傷に、納得できない様子でぼやく。

 

「ここまでミストバーンに同意したのは、俺も初めてだ…」

 

レイザー様とミストバーンが言い合っていると、その側に突如としてシャドーが現れる。

 

「ミストバーン様。世界の王共の居場所を突き止めました。…どういたしました?」

 

「何でもない!お前は鬼岩城を使い、早く王達を皆殺しにしろ!」

 

ミストバーンに怒鳴られ、シャドーは慌てて姿を消す。

少しして先ほどまで動きを止めていた鬼岩城が、レオナ姫達がいる大礼拝堂に向かって動きだす。

 

「や、やべぇ…!レイザー、クーラ!ミストバーンの相手は俺達がどうにかするから、あの巨人を止めてくれ!」

 

ある程度回復したのか、ポップが叫びながら頼んでくる。

私が鬼岩城に向かって飛ぼうとすると、レイザー様がそれを止める。

 

「鬼岩城の足止めなら、俺一人で十分だ。…まずは下準備に、これを喰らいな!」

 

気合いを込めた雄たけびを上げると、レイザー様が真剣な表情に変わる。

 

「さすがレイザー様。頼りになります。あまりの素敵さに、後光が差しているようです」

 

「目を覚ますんだ、クーラ。あれは後光ではなく実際レイザーは光っているし、どちらかといえば気味が悪い光だ」

 

クロコダインが指摘する。

確かあれは、状態異常を引き起こしやすくする『不気味な光』。相手にルカニでも使うつもりだろうか?

 

「マリン達にもずっと踊ってたから疲れてはいるが…持ってくれよ!俺の大腰筋!」

 

頭に手を置き、レイザー様は軽やかにクネクネと腰を振る。

 

「…」

 

そのレイザー様が踊る光景を、ポップ達やミストバーンは冷めた目で見ている。

だが誰かが次の行動を起こす前に、鬼岩城からシャドーの叫び声が聞こえる。

 

「み、ミストバーン様!鬼岩城の操作が出来ません!お助けください!」

 

今までレイザー様ばかり見ていて気付かなかったが、鬼岩城を見るとレイザー様と同じく、妙に苛立つ動きをしている。

 

「これぞ踊り系特技の代名詞、『誘う踊り』!これで鬼岩城は、俺のダンスパートナーだ!」

 

Y字開脚をしながら、レイザー様はその場で1回転する。

鬼岩城も体に亀裂が走りながらも、それに続く。

 

「や、やめろぉ!バーン様からお預かりしている鬼岩城を、どうするつもりだ!?」

 

「ふははは!このまま踊り壊してやる!…Y字からの~ブリッジ!」

 

「それは周囲の被害がひどいからやめてぇー!」

 

今にも崩れそうな鬼岩城が激しく踊る姿に、ミストバーンだけでなく、味方のマァムからも制止がかかる。

そんな中、疲れたようにクロコダインが呟く。

 

「あの鬼岩城をこんな簡単に止めるとは…。これまでの俺達の苦労は、何だったのか…」

 

なお踊り続けるレイザー様に我慢の限界を迎えたのか、ミストバーンが自身の爪を伸ばす。

 

「昔から貴様は、言ってわかる馬鹿ではなかったか!死ね!」

 

「やらせないぞ!空裂斬!」

 

その爪を、見たことのない剣を背負ったダイが切り落とす。

背負っている剣は使っていないが、どうやら時間稼ぎには成功したようだ。

 

「ダイ!俺達はこのままミストバーンの足止めをするから、あの城を頼む!」

 

光の闘気をまとった槍技を放ちつつ、ヒュンケルが言う。

 

「俺たちではあの城を足止めすることが精いっぱいで、破壊することはできない。だからお前のパワーで、あの城を破壊してくれ!」

 

「ついでに言うと、俺の踊りというか腰があと数分しか持たない。気持ち急いでほしい!」

 

レイザー様が、踊りながら顔に脂汗を浮かべる。

『ハッスルダンス』と違い、今の踊りは自身に体力を回復させる効果がないため、辛そうだ。

 

「…わかった!俺の新しい剣の力、見ててくれ!」

 

ダイがルーラで大礼拝堂に向かう。

ミストバーンがダイを追おうとするが、私が剣で切りつけてそれを制止する。

 

後はダイが鬼岩城を倒すまで、踊るレイザー様を守り切れば、私達の勝ちだ。

そして鬼岩城が真っ二つに切り裂かれたのは、それからすぐのことだった。




『原作では暗黒闘気などで受けた傷は回復呪文では回復しない』→『だったら踊ればいいだろう!』という謎発想が、オリ主が踊りまくる話にする切っ掛けでした。


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【第15話】レイザーは、元上司と戯れている

【2017/03/4 追記】
本日までに誤字報告機能にて、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。


----レイザーSide----

 

「驚いた。少し見ないうちに、随分パワーアップしたんだな」

 

ダイが勇者とある程度は確信していたが、実際にあの巨人を破壊できるほどとは思っていなかった。

今のダイを相手にするなら、自分が覚えていない特技を含めて全部駆使しても、その場しのぎが精いっぱいだろう。

 

ふとミストバーンを見ると、よっぽどあの巨人を倒されたのが悔しかったのだろう。

これまでのイメージと違い、ただただ叫び声をあげていた。

 

「…おっと。今のうちに、皆を回復しとくか」

 

ヒュンケルを筆頭に皆の傷は深く、自分も『誘う踊り』で腰が痛い。

 

備えあれば憂いなし。

治療できるうちにしておこう。『ハッスルダンス』で。

 

「レイザー様。回復なら私がベホマをしましょうか?」

 

全員がミストバーンに注目する中、クーラだけは違い、別の作業をしていた。

 

「?…クーラ、そんなの何に使うんだ?」

 

返事が来る前に、隙だらけのミストバーンへポップがベギラマを放つ。

それをミストバーンは、正面から無防備に受ける。

 

嫌な予感がする。

その直感を信じ、俺は皆をかばえる位置に移動して防御魔法をかける。

 

「全員、俺を盾にしろ!『マジックバリア』!」

 

特技が展開したとほぼ同時に、ミストバーンが受けた呪文をはじき返す。

その威力は強く、軽減は出来たもののバリアを貫通して熱風に吹き飛ばされてしまう。

 

「俺のベギラマを返した!?いや、むしろ増幅してやがるぞ!」

 

ポップが返された呪文の威力に悲鳴をあげる。

俺達に一矢報いたことでも気が晴れないのか、ミストバーンの怒気も大きくなっていき、自身の衣に手をかける。

 

「もはやここまで…!貴様ら全員、このミストバーンの真の力で塵一つ残さず、この世から消滅させてや『スト~ップだよ。ミスト』…!」

 

衣を脱ごうとするミストバーンの首に、巨大な鎌を突きつける妙な男が現れる。

ポップが言うには、あの男はキルバーンというらしい。

 

「ヒュンケル、それにレイザー。お前らも六大軍団長の一人だったのなら、知っているだろう。奴こそが六大軍団長を始末することが役目の、死神だ!」

 

クロコダインの言葉で思い出した。

自分は失態を犯した際はハドラーから魔力が断たれるが、それ以外の奴には死神という狩人を放たれ、死を贈られるという話だ。

 

キルバーンは元軍団長のヒュンケル達を一瞥し、踊る俺と眼が合うと「え?何コイツ」みたいな視線も送りながらも、ミストバーンに話しかける。

 

「ダ~メだよ、ミスト。君の本当の姿は、いつ・いかなる時でもバーン様の許しがないといけないんだろう?」

 

キルバーンの言葉に、ミストバーンがビクリと飛び上がる。

慌てて脱ごうとしていた衣を着直す。

 

「そ、そうであったな…。お前の言う通りだ。キル」

 

「そうとも、そうとも。なぁに、新しい勇者の剣という未確認の情報があったんだ。仕方がないさ。それより恥の上塗りを避けるため、ここは一度退くべきじゃないかな?」

 

キルバーンの言葉に、ミストバーンは黙って頷く。

もうミストバーンは以前のように、言葉を発する気はないようだ。

 

ミストバーンを説得して満足した様子のキルバーンは、俺達に声をかける。

 

「と、いうわけで皆さん。君達の努力に免じて、ボク達は失敬してあげるよ。ダイ君にも、よろしくアーンド剣の完成コングラチュレーションズって伝えておいてくれ。それでは、See you again♪」

 

軽口を叩くと、キルバーンとミストバーンはルーラで飛び立つ。

…ん?団長を始末できるくらいのレベルなくせに、リリルーラを使えないのか?

 

その挑発する態度に我慢の限界を迎えたポップが、マァム達の制止も聞かず、キルバーン達を追いかけてしまった。

 

「あの馬鹿ものが!…レイザー、クーラ!今この場にいるメンバーでレベルが一定以上、かつ飛行できるのはお前達とダイだけだ!すぐにポップを連れ戻してきてくれ!!」

 

クロコダインが大声で言うが、その心配は無用だ。

 

「大丈夫だって。俺は仲間と合流する呪文、リリルーラを使えるからすぐ追いつけるよ」

 

俺の言葉にマァム達がほっと胸をなで下ろす。

そんな中、クーラがふと思いついたことを聞いてくる。

 

「レイザー様。リリルーラには仲間と認識するための契約儀式が必要ですが、いつ済ませたのですか?」

 

「…」

 

「……おい。なんだその沈黙は?」

 

「お前、まさか…」

 

クロコダインとヒュンケルが睨んでくる。

 

「………クーラ、急ぐぞ!ついて来てくれ!」

 

「馬鹿ぁー!早く行きなさーい!!」

 

マァムが叫ぶ中、慌ててトベルーラを使ってクーラと共に飛び立つ。

 

すぐにポップに追いつくつもりだったが、ルーラと違ってこの世界独自の呪文と相性が悪いのか、ポップが急成長したのか。

本気で飛ぶポップに追いつくどころか、どんどん引き離されていく。

 

俺にとってトベルーラは魔法のじゅうたんのように移動用と思っていたため、速度を追求していなかったのが悪かった。

クーラも翼があることからトベルーラを覚えておらず、速度は俺と同レベルだ。

 

「仕方ありません。撃ち落としますか」

 

『火柱』を放とうとするクーラを必死に止める。

そんなことしていると、後から来たダイに追いつかれてしまった。

 

「レイザーにクーラ!マァム達から事情は聞いたよ!俺は先に行くから、二人とも後でね!」

 

それだけ言うと、俺達の返事を待たずに追い越していく。

 

「仮にも呪文主体の俺が、勇者よりも遅いなんて…。新しい呪文や特技だけでなく、もう少し呪文の精度も上げないと駄目だな」

 

「てっきり私のスピードに合わせてくれていると思ったのですが、違ったんですね」

 

俺の呟きに、クーラからステータス的に傷つく言葉を受けた。

…ポップを連れ戻したら、また修業に戻ろう。

 

俺達がようやくダイ達に追いついたときには、キルバーン達以外にもう一人敵対する人物がいた。

雰囲気が違うが、どうやらハドラーのようだ。

 

「その精霊と居て、死体だった魔族が動いているということは…。バーン様が言っていたが、本当にフレイザードのようだな」

 

「ミストバーンにも言ったが、初めましてさ。ハドラーさん。また手柄を求めて、出て来たようで」

 

「くくく…。以前の俺ならそうだな。それと初対面で俺の名前を呼ぶとは、少しは隠そうとしろ」

 

俺の嫌みも、さらりと流されてしまう。

以前なら少し踊っただけで怒り狂っていたというのに、何があったのだろうか?

 

「レイザー!今のハドラーは超魔生物とかいう、獣系のパワーと魔族の魔力を持つ、規格外な改造を施された奴だ!おまけに変な炎で、魔法剣みたいな技を持ってるぞ!!」

 

ポップが剣を抜いたダイを肩に担いだまま、大声で言う。

あの剣を使ったダイをここまで弱らせるほど、ハドラーは強くはなかったはずだが、本当に変わったのだろう。

 

「フレイザード…いや、レイザーとか言ったな。今の俺の標的は、ダイだけだ。踊りたいなら下がってろ」

 

一応俺以外にクーラもいるというのに、ハドラーのその視線はダイしか見ていない。

俺は「まぁまぁ」と近づきつつ、敵意はないことを踊るような身のこなしでアピールして、ハドラー達をあやす。

 

「ダイは疲れてんだ。この場はお開きにして、お互い回復してから再戦しません?」

 

「確かに全力のダイと戦いたいという望みはあるが、俺個人の意思などバーン様への貢献と天秤にかければ塵に過ぎない」

 

「そうですか…よ!」

 

ハドラーへ攻撃が届く範囲まで近づくと、躊躇なく悪魔の爪を装備した手で『疾風突き』をする。

だが爪によって軽い切り傷をつけることはできたが、効果はそれだけだった。

 

「早い攻撃だな。全く反応できなかったぞ。…だが、その成果がこれでは俺の間合いに入っただけだ!」

 

ハドラーが剣を振り下ろす。

だが俺が先ほど踊っていたのは、『身かわし脚』。

 

余裕をもってその攻撃を回避しつつ、距離を取りながら両手に魔力を込める。

 

「それでは、全力をお見舞いしますよ。…フィンガー・フレア・ボムズ!」

 

半ば問答無用で、最大レベルの呪文を放つ。

だがハドラーはそれを避けようともせず、涼しい顔で立ちつくす。

 

「…知らなかったのか?超魔生物になる前から、俺に炎系は『二連打ぁ!』何!?」

 

始めの炎が燃え切る前に、もう一度フィンガー・フレア・ボムズを撃つ。

さすがに合計10発のメラゾーマに、ハドラーが怯む。

 

「まだまだ!バギマ!!…生半可な風は、炎を舞い上げるぞ!」

 

フィンガー・フレア・ボムズで発生した炎は、バギマによって渦を巻き、竜巻になる。

 

天災である火災旋風を呪文で再現したもので、下手なモンスターならこのまま、骨まで焼き尽くす現象だ。

 

「どうだ!練習中に森を焼野原にしかけ、エルフ族に殺されそうになってまで覚えた攻撃だ!」

 

「死神のボクが言うのもあれだけど、エルフ族を怒らすって相当なことだって自覚してる?さすがのボクでもしたことないよ」

 

なんかキルバーンとその使い魔から、畏怖を含んだ目で見られる。

 

失礼な。ちゃんと周囲のモンスターを全滅させるということで、和解したぞ。

3時間働かされて、俺もクーラも魔力はほぼ0になったが。

 

「…はぁぁ!」

 

だがせっかく作った炎の竜巻も、ハドラーの気合い一つで消し飛ばされてしまった。

愉快そうに笑いながら、こちらに歩み寄る。

 

「やるな、レイザー。俺が魔炎気を使えるようになっていなかったら、そのまま火あぶりにされていたぞ」

 

こちらができる最高レベルの攻撃が防がれ、クーラも攻撃に参加しようとする。

しかし実験通りなら、いい加減効果が発揮する頃だ。

 

その祈りが通じたのか、突然ハドラーが立ちくらみを起こしたように前のめりになる。

 

「ぐっ…!レイザー、貴様何をした!?」

 

「さっきの爪の攻撃さ!あれには色んな毒が混ざってて、あんたの症状から麻痺毒になったみたいだな」

 

「ザボエラと同じ攻撃か…!」

 

ひどく不名誉なことを言われるが、この機会を逃すわけにはいかない。

両手を天に掲げ、周囲の被害がひどくて普段は使用できない天災系の特技を使う。

 

「クーラ!俺かポップ、どっちかに掴まれ!」

 

俺の叫びに、クーラは迷わず俺にしがみつく。

その結果に苦笑いを浮かべる。

 

「どうせここは敵の本拠地。好き放題させてもらう!…『津波』!」

 

特技名を叫ぶと、死の大地を覆い尽くさんばかりの大波が迫る。

 

「貴様、自然までも操るか!?」

 

さすがのハドラーも、この特技には驚いたようだ。

同じく驚いて身動きが取れないダイ達に、俺は叫んで次の行動を促す。

 

「ダイ、ポップ!俺達はこのまま撤退するから、お前達もこの隙に逃げろ!」

 

「わ、わかった!礼は後でな!…ルーラ!!」

 

ポップが呪文を唱えたのを確認する。

 

「…悪いな、クーラ。付き合ってもらうぞ」

 

「はい。もう離れるのは嫌です。どこまでも一緒にいます」

 

なけなしの魔力で、トベルーラを唱える。

波に紛れてこの場を去るのが、魔力の少ない俺たちができる精一杯だった。




【追記1】
ポップの魔力は、クーラが暴れたことで原作より余っている状態のため、ルーラの使用ができました。

【追記2】
「言葉を発する」を変換すると、真っ先に「言葉をハッスル」になる自分のPCは、色々と手遅れな気がします。


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【第16話】フェンブレンは、本気で嫌がっている

【2022/02/18 追記】
本日までに誤字報告機能にて、7名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。


----クロコダインSide----

 

敵の本拠地が死の大地であることを突き止め、ダイと戻ってきたポップだったが、レイザー達はいつまで経っても戻ってこなかった。

 

マリン達からレイザー達の魔力があまり残っていないことを聞いてようやく事情を察したポップは、マリンが持っていた魔法の聖水を全て奪い、同行すると言い張る傷ついたダイを制してから、俺達と一緒に捜索に出てほしいと頼み込んだ。

 

その協力者の指示で、怪しいと言われたのがこの氷山地帯だ。

 

「メルル!頼む!この辺りのどこなんだ!?なぁ、教えてくれ!」

 

「ぽ、ポップさん…近い…。顔、近すぎです…!」

 

俺以外に協力を頼んだメルルを問答無用で抱きかかえたまま、トベルーラで飛ぶポップが問い詰める。

 

…やれやれ。いくら俺でも、彼女の心情は理解できるぞ。

この様子では、出発する直前マァムが般若のような顔をしていたことも気づいてないんだろうな。

 

「落ち着くんだ、ポップ。そんなに焦っては何事も上手くいかんぞ」

 

とりあえず、彼女に助け舟を出してやる。

それと合わせて、鼻が利くという理由で一緒にガルーダに乗っているチウにも怪しい箇所はないか尋ねる。

 

「うぐぐ…!ダメですね。いくらぼくの鼻でも、こんな潮風強い場所なんかじゃあ…!」

 

必死に鼻を動かすが、辺り一面が海のこの場所では仕方がないだろう。

 

「くそ!メルル、お願いだ!あいつらは俺のせいで敵地に残る羽目になったんだ!正確な位置じゃなくてもいい!俺が出来ることなら何だってするから、あいつらがいそうな場所を教えてくれよ!!」

 

「ですから…近い…!あ、あそこが不自然で怪しいと思いますっ!」

 

羞恥で今にも気を失いそうになりながら、必死に彼女が指した方向を見る。

周囲は氷山と流氷だけのはずなのに、そこだけポツンと人工物があった。

 

具体的にいうと、かまくらだ。

 

「…おっさん。敵地からそんなに離れていないこんな場所で、のんきにかまくら作るようなことする奴、心当たりないか?」

 

「あんなのが世の中に何人もいてたまるか。さっさと行くぞ」

 

遠くからではわからなかったが、俺でも簡単に入れる大きさのかまくらに入る。

すると中から、大声が聞こえる。

 

「ヒムとか言ったなぁ!兄より優れた弟がいると思ったか!?…そのまま踊りながら、フェンブレンに全力で『ぱふぱふ』をするがいい!!」

 

「クネクネしながら、ワシの側に近寄るなぁー!」

 

「俺だって願い下げだぁ!ていうか、さっきから踊るな、かと言って踊らせるなっつてんだろ!このクソ野郎ぉー!」

 

「あぁ、クロコダイン達。良いところに来ました。ちょうどたまて貝が焼けた所です。このたまて貝を差し上げますから、この場から助けてくれませんか?いい加減こいつら全員、しばき倒しそうです」

 

踊るレイザーと全身メタリックの変な奴ら。そして死んだ魚のような目で、貝を焼くクーラがそこにはいた。

 

「…帰りてぇ」

 

ポップの呟きに、俺は本気で同意した。

 

 

 

「…ハァ。最悪の第一印象だが、俺はハドラー親衛騎団が一人、ヒム。こっちは同じくフェンブレンだ」

 

閑話休題。

ようやくこちらに気づいてくれたレイザーから解放された、一緒にいる者たちが名乗る。

 

「俺達はハドラー様の命で、この魔族と精霊を探してたんだよ。『非常識な奴らだから見ればわかる』って言われたが、こういう意味だとは思わなかったぜ…」

 

話を聞く限りこの見たことのない奴らは、フレイザードと同じ禁呪法によって作られた生命体ということか。

レイザーが兄とか弟とか言っていたのも、そのためだろう。

 

「…で、俺達アバンの使徒が来るのを待って、とどめを刺すつもりだったと?」

 

メルルをかばいながら、ポップはヒム達を睨みつける。

それをヒムは、心外だと言わんばかりに睨み返す。

 

「見損なうんじゃねぇ。俺らハドラー親衛騎団は、弱った者をいたぶったり、人質にするような外道な真似はしねぇんだよ」

 

「そもそも、ワシらの体は全身オリハルコン製だ。連戦で疲れきっているお前らなど相手にならんし、倒しても汚点にしかなら…わかった!言い過ぎた!わかったから踊ろうとするでない!」

 

立ち上がろうとするレイザーに、フェンブレンが怯える。

 

良かった。

フレイザードと同じ誕生の仕方をしたと聞いて恐れていたが、こいつらはまともなようだ。

本当に良かった。

 

「おい、クロコダイン。何で俺とクーラにそんな視線を向ける?…まぁ、とにかく何とか逃げれる所まで逃げて魔力切れで休んでたところ、こいつらが入ってきたんだよ。戦う気もないようだし、魔力が回復するまでの話し相手になってもらってたんだ」

 

ちなみにこのかまくらは氷山を一箇所に投げつけ、炎のブレスで中を空洞にして即席で作った物らしい。

その割には氷の椅子があるなど、妙にこだわっている。

 

クーラに体力と魔力の無駄遣いを指摘すると、足りない俺達用の椅子を氷のブレスで補充しながら答える。

 

「大丈夫です。ちゃんと『凍える吹雪』で作ってますから、魔力は使用しておりません」

 

「違う。そうじゃない」

 

今日二回目の、心からの言葉だった。

 

「あの…戦う気がないのでしたら、ハドラー親衛騎団の皆さんは、なぜレイザーさん達を探していたのですか?」

 

メルルの問いにヒムが何か言おうとした瞬間、フェンブレンが突然バギクロスを唱え、俺達とかまくらを吹き飛ばす。

 

「な、何をするんだ!?やっぱり魔王軍なんて、こんな奴ばっかりだな!」

 

チウがその行動に激怒すると、恐らくタカの目を使ったであろうクーラが遠くを指差す。

その方向を見ると、サタンパピーとバルログの大群が一斉にこちらに向かってきていた。

 

「あれは…妖魔士団の中でも、最上級のモンスターだと?だがダイ相手にならともかく、何故レイザー相手にあれほどの数を出したのだ?」

 

「ヒーヒッヒッヒッ…。脳筋の貴様にはわからんだろうな」

 

笑い声がした方向を見ると、こちらに向かってきている者と違うモンスターの大群に囲まれながら、突然現れたザボエラがこちらを見下ろしていた。

 

「馬鹿な貴様に教えてやろう。ミストバーンからバーン様への報告で聞いたが、そこの元フレイザードはどうやってかは知らんが、暗黒闘気さえ無視する回復手段を持っておるとのことだ。さらに転生術を完成させていて、これらを妖魔士団に取り込めばバーン様もワシに一目置くことじゃろう。それに死んでも生き返られるなら、超魔生物の実験にピッタリじゃろ。サンプルもタダではないのでな」

 

「呆れるな。まだそんな絵空事を信じているのか。貴様との因縁、今度こそ終止符を打たせてもらうぞ」

 

『ハッスルダンス』が暗黒闘気で受けた傷も回復できることは、恐らくミストバーンにとってトラウマとなっているため、故意に報告していないのだろう。

 

色々な意味で現実を知らないザボエラを打ちのめそうと俺がガルーダと共に飛び上がろうとするが、フェンブレンがそれを遮る。

 

「待て。…そもそもワシらは、ザボエラの奴を阻止しに来たのだ」

 

「なんじゃと?貴様、見かけん奴だと思っていたが新たな勇者の一味か!?」

 

「俺達を知らないことが、今のアンタの立場だよ。覚えておきな。俺達はハドラー親衛騎団。ハドラー様から結果的に勇者と全力で戦える機会を残してくれた礼に、レイザー達は帰せと命令を受けている。この雑兵は俺達が片づけてやる」

 

「だ、黙れ!サタンパピー、バルログ共!この邪魔者どもを叩きのめせ!」

 

ザボエラの号令でサタンパピーが一斉にメラゾーマを放つ。

合計で数十発になるメラゾーマが迫ることも関わらず、ヒムは何事もないかのように棒立ちで受けた。

 

ポップが驚きで目を見開く中、傷一つ付かないヒムはザボエラに蔑むような視線を向ける。

 

「阿呆が。オリハルコンには、この程度の呪文は効かねぇよ」

 

「遊ぶでない、ヒム。早くこのザボエラ達の首根っこを掴んで、ハドラー様の元へ戻るぞ。…それとレイザー。先ほどのバギクロスを、マホキテで吸収していただろう。さっさとルーラで立ち去るがいい」

 

「その通りなんだが…まぁ、いいか。兄のために尽くすのが、弟ってもんだろ。ルーラ」

 

「一緒にするでない!ワシは貴様のような奴と兄弟などど、絶対認めんぞ!…それと次に会った時は、二度と踊れないようにしてやるからな!」

 

ルーラが発動する中、フェンブレンの叫びが聞こえた。




最近多忙のため、あまり見直す時間がなく投稿しました。

プライベートが落ち着くまで、2週間に1本ぐらいのペースになりそうです…。


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【第17話】レイザー踊らずとも、トラブルは減らず

更新が遅れて、申し訳ありませんでした。

つかの間の休日(と思われる)回です。


----クーラSide----

 

なんとか敵地からパプニカに戻り、ポップ達と別れてレオナ姫に報告しようとしたところ、第一声はマリンから殺意がこもった怒号と攻撃だった。

 

「レイザー!死になさい!!」

 

「危ねぇ!というか何事!?魔法の聖水のお礼にやったその毒蛾のナイフは、俺を刺殺させるためにあげたんじゃないぞ!」

 

「黙りなさい!私の妹に、何を吹き込んだのよ!?」

 

「ね、姉さん!落ち着いて!私はただ、レイザーから『ハッスルダンスを教わりたい』って言っただけじゃない!」

 

エイミの肩を掴み、マリンが言い聞かせる。

必死な様子のマリンに、アポロも続く。

 

「とち狂わないで、エイミ!私を…お姉ちゃんを一人にしないで!」

 

「そうだ!一緒にパプニカ3賢者として、生きるんだ!人生に悲観するんじゃない!!」

 

「おい。俺の得意技を覚えることが、なんでこれからメガンテ使うみたいな扱いになってんだ?」

 

「メガンテ使われたほうがマシよ!」

 

「普段から踊ってる俺のことを、何だと思ってんだ!?」

 

「あなた達が元気なのはわかったから、全員黙りなさい!」

 

レオナ姫が私達を一喝して、ようやく現状を報告できるようになった。

 

 

 

「…つまり、もう皆のレベルに付いていけないから、せめて補助で役立ちたいのね?」

 

エイミの話をまとめたレオナ姫が、確認だと言わんばかりに問いかける。

その問いにエイミははっきりと頷き、その理由を小声で言う。

 

「暗黒闘気で受けた傷も『ハッスルダンス』なら回復できるって、ヒュンケルから聞きました。だから私が覚えれば、治療のため側にいられるって…」

 

つまりエイミは、ヒュンケルと一緒にいる口実が欲しかったのだろう。

私も理由をつけてレイザー様の側に居たいため、その気持ちはわかる。

 

マリン達もようやく理解して顔を綻ばせるが、レイザー様の表情は逆だった。

 

「なるほど。…要は特技の中から覚えたい物だけ、お手軽に覚えたいということか」

 

その声はレイザー様には珍しく、憤りを感じる物だった。

 

「俺の踊りはこれでも特技。つまり『技』だ。簡単な物から順に覚えて行くもので、特定の技を覚えたいからといって、段階を飛ばして都合のいい技だけを覚えられるほど甘くないぞ」

 

その言葉に、ようやくエイミは軽はずみなことを言ったことに気づく。

 

エイミ達が学んだ賢者としての魔法も体術も、段階を踏んで習得していったはずだ。

それをまるでアイテムのように欲しいものだけ教えろなどとは、その技を考えた人物に対しての侮辱でしかない。

 

「ご、ごめんなさい…。ヒュンケル達があまりに簡単に特技を覚えていたから、軽く考えていたわ…」

 

「ヒュンケルやクロコダインは、自分の長所がわかっているから覚えるのが早いんだ。特に『ハッスルダンス』は相手を癒すだけでなく、気を高ぶらせるつもりでやるのがコツなんだ。だから振付とか形だけ入ってもダメなんだよ。ゼロから『ハッスルダンス』を物にするためには、まずは『喜』を学ぶ『誘う踊り』、『怒』を制御する『パルプンテ』、『哀』を知る『死の踊り』、『楽』を受け入れる『遊び』。これらを理解してようやく『ハッスルダンス』への道が見え始めるんだ」

 

「レイザー様。長い間特技を学んでいる私でも、何を言っているかさっぱりです」

 

最初から最後まで、踊り系の説明については意味不明だ。

 

レイザー様が寝入った後こっそりと試してみたが、踊りを見続けていて振り付けを完璧に覚えている私でも、『ハッスルダンス』は使えないのはこのことを理解できないからだろう。

 

そういえば、あのエルフの森であった女だけは、レイザー様の話を理解してましたね。

まだ昼前なのに何度も何度もレイザー様を『夕食』に誘っていた、泥棒猫のような女でした。

 

…嫌なことを思い出しました。

周りも困惑していますし、無理やりにでも話を変えよう。

 

「レオナ姫。それよりも私達はまた技を鍛え直しに行きますので、今後の動きを教えてくれませんか?」

 

「そうね、それがいいわね、そうしましょう。だからレイザー、ちょっと黙って」

 

 

----レイザーSide----

 

レオナ姫の話をまとめると、自分達が死の大地に行っている間に、ポップの情報からとうとう本拠地に乗り込む準備を始めたらしい。

 

手始めとしてマァム達は自身の技を磨き直す修業へ行き、ポップも魔法の師匠の元へ教えを乞いに行くそうだ。

 

そして装備を修理してもらいたいダイとヒュンケルのため、ロン・ベルクの工房にルーラをさせられたのがついさっきだ。

 

「お疲れ様です、レイザー様。私のベホマは体力と傷を同時に回復できますので、少しは気が楽になりましたか?」

 

魔力がないって言っているのに、ダイ達に「出来ないの?」とあおられ無理やりルーラした結果、魔力切れで地べたに寝込んでいた。

 

ロン・ベルクもロン・ベルクで、ダイ達が到着するとすぐに鍛冶の支度を始めて毛布の一枚もくれず、優しくしてくれるのはクーラだけだった。

 

工房を借りた礼代わりを踏み倒してやろうかと一瞬思ったが、さすがにそれはどうかと思い、ショバ代を渡す。

 

「おい、ロン・ベルク。これ、工房を借りた料金代わりだ」

 

ロン・ベルクが休憩に入ったのを確認し、これまで持っていたフレイザードを構成していた石を鍛冶の材料として渡す。

品物は任せると言っていたので、こんな物でいいだろう。

 

何でもいいと言っておきながら、実物を並べるとロン・ベルクはそれらを興味深そうに見る。

 

「あとついでに、エルフの集落付近にいたドラゴン退治で手に入れた物だ。たぶん、超竜軍団が野良になったんだろう」

 

ドラゴンの皮や牙を差し出す。

無言で「お前何やってんだ」という視線が刺す中、クーラも袋から何かを取り出す。

 

「レイザー様。これもどうぞ。鬼岩城戦での戦利品です」

 

出したのは解体されたメタルドラゴンと、魔影軍団最強の鎧だった。

人が必死に鬼岩城を踊らせたり、ポップ達がミストバーンの足止めをしているというのに、クーラはそんなことをしていたのか。

 

ロン・ベルクはそれを懐かしそうに手に取る。

 

「久しいな。ヒュンケルの槍と同じ金属か。それとこのメタルドラゴンとかいうのは、また珍しい金属で出来ているな」

 

「そうなのか?それ、半分もらっていいか?色々試してみたいことがあるんだ」

 

メタルドラゴンが落とす物なのだから、もしかするとメタルキング装備の材料になるかもしれない。

 

「お前らが勝手に持ち込んだ物だ。別にかまわない。…それよりも、俺の個人的な剣作りを手伝ってくれ。正直、行き詰ってる。お前の奇天烈な発想でも、すがりたいくらいにな」

 

「ふーん。どういう武器が欲しいんだ?アイディアぐらいは出せると思うぞ」

 

ゲームボーイカラーからずっとRPGをやり続けていたため、知識には自信がある。

そしてここはドラクエの世界。多少の無理でも、形にできるはずだ。

 

「…要するに、技に耐えられる武器がないってことか?だったら武器に耐えさせるよりも、違う発想にすればいいんじゃないか?」

 

「どういうことだ?詳しく聞かせろ」

 

ロン・ベルクと意見を言い合う。

その後戦利品と合わせて、色々なアイテムや装備を作る。

 

数日後、勢いで作ったアイテムと武器の山を見てダイ達は呆れ、正気に戻ったロン・ベルクが頭を抱えていた。




3月末から親戚のお子さんが泊まりに来ていて、平日は22時帰り。
休日は子供を引率しての観光案内で書ける時間がなく、この有様となってしまいました。

ただ時間がない以上にきつかったのは、子供を引率中に職務質問を受けたことです。

「そんなにロリコンorショタコンに見えたのか…」と落ち込んでたところ、子供の母親に「誘拐犯と思われたんじゃない?」と言われ、ちょっと救われました。


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【第18話】作戦名「コイツには任せるな」

更新が遅れ、申し訳ありません…。
一度ペースを乱すと、戻すのが難しい…。

【2018/04/19 追記】
本日までに誤字報告機能にて、6名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。


----レイザーSide----

 

修業を理由にダイ達と別れた後、俺たちは数日だが呪文の精度を上げたり、作った武具の確認をしていた。

 

それ以外にもエルフ族との仲を取り持つため、暇を見つけては、足繁く集落に通っていた。

 

きっかけは最悪だが、このままエルフと良好な関係を結べれば『世界樹の雫』や『エルフの飲み薬』などの手掛かりになるかもしれない。

そのためエルフの集落に武具を渡して帰ってくると、ロン・ベルクはまだうなだれている。

 

「なぁ、ロン・ベルク。いつまで落ち込んでるんだ?」

 

「やかましい。俺は武具を作る時は、一品ずつ丹精込めてるんだ。それだというのに思いつくまま大量に作ったことを、後悔しているんだよ。…それに引き換え、お前だけは随分上機嫌だな」

 

こちらはエルフ族に、作った武具の中では割と質の低いドラゴン素材の武具を無料で渡したことで、一族との仲が進展してご機嫌だ。

 

しかしその反動として、何度言っても同行を止めないクーラの負のオーラが日々高まっていた。

 

「あのエルフ女ぁ…!レイザー様にベタベタ、ベタベタと…!!」

 

あふれ出る暗黒闘気は、道中で会ったアームライオンの群れが道を譲るほどで、最近はミストバーンに代わって魔影軍団を任せられそうな雰囲気だ。

 

なおエルフの子についてクーラはこう言っているが、実際は踊り系の特技に興味があるとのことで毎回声かけられるだけだ。

 

あと出される料理が「マタンゴと毒消し草のサンドイッチ」や「ガップリンの香草(毒消し草)焼き」などで、どちらかと言えば嫌われてる気がする。

 

とりあえずロン・ベルクが「クーラをどうにかしろ」と訴えてきているので、気分転換に誘おう。

 

「えーと、クーラさん?ダイ達に上級職の『ダーマの書』が出来たことを報告しに行ってくるが、一緒に来るか?」

 

基本職の特技をほとんどダイ達が覚えてしまったということで、急いで書いたものがようやく出来上がったので渡しに行くつもりだ。

特にヒュンケルの性格からして、『瞑想』などの特技は早く覚えてもらったほうがいいだろう。

 

 

----マァムSide----

 

「ヒュンケル。あのアルビナスから受けた毒は、これでもう大丈夫なはずよ」

 

サババのドックで襲撃を受けていることを伝えられた私達は、ポップ達から話を聞いていたハドラー親衛騎団と戦闘を行っていた。

 

ポップ達からはハドラー親衛騎団でさえもレイザーにいいようにあしらわれていたらしいが、その戦闘力は私達の長所を生かす戦い方が全く通用せず、ヒムの片腕を使用不能にするのがやっとだった。

 

「クロコダインの話から、先入観を持ちすぎたか。…あのレイザーが規格外なだけで、あいつらは相当な強敵だ。正攻法では何度やっても、同じ結果になってしまうだろう」

 

ヒュンケルの言葉に対抗策を思いついたらしいポップが、次の行動を指示する。

 

「よし。こっちも意地を張って相手の得意分野で勝負せず、フォーメーションを変更するぞ」

 

私達がまだ戦意が高い様子を見て、ヒムは気分良さそうに笑う。

 

「ははっ!いいじゃねぇか!やっぱり一方的な展開だけじゃ、こっちも不満だしな!」

 

「無駄な挑発はよさんか。以前レイザーをあおった結果、ワシ共々痛い目に遭ったばかりだろうが」

 

フェンブレンの発言に、アルビナスが興味深げに尋ねる。

 

「あなたがそこまで言うなんて…。その魔族は、それほど手ごわいのですか?」

 

「その通りだ。ハドラー様の命令でもない限り、ワシは奴とは戦いたくない。(踊らされて)死ぬような目に遭うぞ」

 

「全くだ。仮に戦うことがあったら、(踊らされるから)絶対に1対1では勝てると思うな。無様に逃げた方が、まだマシだぞ」

 

フェンブレンとヒムがそれぞれ、思い出したくもないという雰囲気を出しながら答える。

 

「聞けば聞くほど、それほどの相手がいるとは思えませんね。…ところであなた達から聞いた魔族に良く似た人物が、先ほどからあそこで光っているのですが?」

 

アルビナスの言葉にダイ達も含め、一斉に視線を向ける。

 

そこには恐らくリリルーラで合流したであろう、全身から暗黒闘気があふれ出て戦闘態勢のクーラと、ドック襲撃で傷を負った人達に対して何か青い石を掲げるレイザーがいた。

 

レイザーはその石が光ったのを確認して、近くにいて今にも気を失いそうなノヴァに話しかける。

 

「少しは痛みが引いたか?失敗作といっても、腐っても『賢者の石』だからホイミくらいの効果はあるはずだが」

 

「なっ…!ば、馬鹿じゃないのか君は!?なんで国宝級のアイテムを、気軽に振りかざしているんだ!?」

 

嫌味ったらしいノヴァでも、レイザーの発言にはさすがに驚いて目を丸くする。

 

「いや、回復量はさっき言った通りでホイミ並み。更に傷にしか効かないから体力は回復しないし、『祈りの指輪』みたいに何回か使ったら壊れる。別に出し惜しみする物じゃないだろ」

 

周囲のドックは全壊、私達は戦闘中、クーラは黒いオーラが揺らめいている。

 

こんな状況でも平常運転なレイザーに感心するべきか、呆れるべきか。

何て声をかけていいかわからない私達を尻目に、シグマが動く。

 

「ちょうどいい。噂に聞いたその実力、私が確かめてやろう。…フェンブレン、私に続け!」

 

「この馬鹿者!ワシ達の話を聞いておったか!?…えぇい!仕方あるまい!!」」

 

破れかぶれな様子で、フェンブレンもシグマと一緒にレイザーに襲いかかる。

ヒム達の忠告を聞いたためか、アルビナスとブロックもレイザーに向かう。

 

「まだ怪我人の治療をしているでしょうがぁ!」

 

何故かキレ気味に、向かってきたシグマの腹部に『回し蹴り』し、フェンブレンがいる方向にシグマを蹴り飛ばす。

 

「ブローム」

 

シグマ達が後方に吹き飛ばされてから間髪入れず、謎の言葉と共に巨大な体格からブロックが腕を振り下ろす。

 

「動作が大きすぎる!『受け流し』!!」

 

ブロックの攻撃を反らし、背後に備えるアルビナスの方向に流す。

突然向けられた味方からの攻撃に、アルビナスは防御する暇もなくブロックに殴り飛ばされた。

 

そして残ったヒムは、『誘う踊り』で踊らされていた。

 

「なんで俺だけこんな扱いなんだよ!?」

 

「馬鹿言うな。片手しかない奴に、攻撃なんか出来るか」

 

「いっその事殴れや!」

 

唯一何もされていないブロックも、自分の攻撃がいなされ、突然踊りだした仲間に戸惑ったのか、どうしていいかわからず右往左往していた。

 

「いつものこととはいえ、何でレイザーが現れるとこうなってしまうのよ…」

 

さっきまであった私達の戦意が、ことごとく削られていく。

 

だが仮にもハドラー親衛騎団をまとめている自負があるのか、アルビナスは一歩も引かずにレイザーを問い質す。

 

「レイザーと言いましたね?私達の体はオリハルコンで、魔法や下手な妨害などは効かないはずです。…それだというのに、なぜこんな簡単に、私達を手玉に取れるのですか?」

 

「簡単だよ。俺はフレイザード時代に、自身の核を研究してたんだ。そのおかげでハドラーの魔力が込められている、あんた達の核からの波動が手に取るようにわかる。…だから、こういったことも出来るんだよ」

 

側にいたブロックに対して、ラリホーをかける。

途端、ブロックは轟音を立てて地面に倒れこんで動かなくなった。

 

「この通りさ。やろうと思えば、メダパニやマヌーサも効くんじゃないか?何だったら、ここで試してみるかい?」

 

「既に私達を、研究し尽くしているも同然ということですねっ…!」

 

事態を把握したアルビナスが苦渋の表情をする中、レイザーは高らかに宣言する。

 

「妹よ。何で兄貴が先に生まれてくるか、知ってるか?…後に生まれてくる弟や妹達を、脅すネタを仕入れるためだ!!」

 

「お前最低過ぎるだろ!!」

 

あまりの悪役っぷりに我慢できなかったのか、ポップが怒鳴りつける。

だが言っていること・やっていることはひどいが、形勢は大きくこちらに傾いた。

 

「チクショウが!…ブロック!さっさと起きやがれ!!」

 

焦った様子のヒムが、地面に突っ伏すブロックの頭を踏みつける。

さすがの衝撃に目が覚めたのか、ブロックは頭を振りながら起き上がる。

 

後方に蹴り飛ばされていたシグマ達も、レイザーの話に動揺しながらもアルビナス達と合流する。

 

「皆、落ち着きなさい。確かに私達は手玉に取られていますが、彼自身の攻撃はさほどでもありません。絶え間なく攻め続けて、一撃でも当てれば勝機はあります」

 

先ほどの攻撃を分析したアルビナスが、他のメンバーを落ち着かせる様に言う。

その言葉に反応して、レイザーの背後にいたクーラが前に出る。

 

「私のことを忘れてませんか?ちょうどレイザー様から新しくいただいた剣で、試し切りしてみたかったところです」

 

銀色に鈍く光る剣を取り出し、アルビナス達に突きつける。

しかし、ダイがそのクーラに制止をかける。

 

「レイザーにクーラ。助けてくれて、ありがとう。…だけど俺たち自慢のチームワークでこのまま負けっぱなしは悔しいから、ここは俺達に任してくれないか?」

 




最近は執筆中テンションを上げるため、オススメされた某極道ゲームの歌を作業用に聞いています。

ただあまりに聞きすぎたせいか、合いの手だけがループする夢を見てうなされました。


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【第19話】続・作戦名「俺達に任せろ(だからお前は別にいい)」

最近は忙しく更新が遅いですが、「失踪なんかしてたまるか」という精神で頑張らせていただきます。


----レイザーSide----

 

「レイザーにクーラ。助けてくれて、ありがとう。…だけどチームワークでこのまま負けっぱなしは悔しいから、ここは俺達に任してくれないか?」

 

俺でも何とかハドラー親衛騎団に勝てる見込みが出たところ、ダイから引いてくれるよう頼まれた。

 

現状を考えてみると、能力的にはハドラー親衛騎団は現在の勇者達と互角に近い勝負ができるはずだ。

そのため自分達がしゃしゃり出ると、成長を妨げる可能性があるため、ここは下がったほうがいいはずだ。

 

また周囲には怪我人が多いことからも、俺やクーラは戦いよりも救助に回ったほうがいいだろう。

 

「わかった。俺とクーラは周りの手当てに向かう。…ただしピンチになってから、『やっぱり助けて』とかなしな」

 

俺の軽口に、ダイは笑いながら「任せて」と答えた。

…しかしヒム達は当然として、ポップ達も安堵の表情をしているのはなぜだろうか。

 

「レイザー様。私は傷が深い人間をレミラーマで探しながら回復しますが、レイザー様はどうしますか?」

 

クーラが今にも飛び立とうとしているので、慌てて役割分担を話す。

 

「俺も同じく治療に回るよ。ただ、ベホマとかで全快しないように気を付けてな」

 

「…?なぜでしょうか?」

 

「下手に全快されると、またハドラー親衛騎団に向かって行くかもしれないだろ。…今のダイ達レベルの戦いに、こいつらが入っていけるとは思えないからな」

 

俺も相手の挙動がわかることと、特技がなかったら偉そうなことは言えないが。

だが俺が言いたいことはわかったようで、クーラは頷いてくれた。

 

「それじゃあ、回復に行く前に蘇生呪文を使ってみるか」

 

この世界の蘇生系の呪文や特技は難易度が高く、道中で見かけた動物にザオラルから『精霊の歌』まで使ってみたが成功したことがない。

だからといって、試してみないわけにもいかないだろう。

 

…だがこの人数とがれきの山から、蘇生対象者を探すのは困難だ。

 

そのため全体蘇生を使う必要があるのだが、俺が知っているのはメガザルと『精霊の歌』ぐらいで、命と引き換えのメガザルは試す気にもなれない。

もう一つ知っている全体蘇生はあるが、アレはベホマズン以上の呪文なため、できるわけがないため除外だ。

 

そうなると、『精霊の歌』一択だろう。

 

「といっても、『精霊の歌』の歌詞って何だろうか…」

 

原作では具体的な表記がないため、わからない。

うーん。スクエニ関係で、精霊…天空人…天使…。

 

「エ●サン・シメジ・ヒラメ・デメキ●…」

 

違う。これは違う。

天使は天使だが、片翼の半裸を呼んでも仕方がない。

 

「レイザー様。一瞬とても禍々しい術式が発動しかけましたが、何をしようとしたのですか?」

 

クーラが冷たい目で睨んでくる。

そういえばすぐそこに精霊そのものがいるから、頼めないだろうか。

 

事情を説明するが、クーラの表情は暗い。

 

「…申し訳ありませんが、私自身が精霊を嫌ってます。そのため精霊の力が必要な蘇生系は私にはできず、他の精霊が力を借してくれることも期待できません」

 

慢心王と同じ理由なんだろう。

キャストオフする金ピカも、神性がそれで下がってたもんな。

 

それによく考えると「歌で周囲を癒す」なんて、「ニコポ」や「ナデポ」と同じく、俺なんかには向かないスキルだろう。

 

「そもそも、蘇生系の呪文を使う必要はありませんよ?先ほどレミラーマで調べたところ、該当者はおりませんでした。ハドラー親衛騎団の狙いはわかりませんが、遊んでいたのでしょうか?」

 

「そうなのか?だったらもう面倒だから俺が『ハッスルダンス』で回復して、クーラは賢者の石を使いながらラリホーマや『甘い息』で眠らせようか」

 

ようやくこれからの役割分担を決まったと思ったが、何故かクーラをそれらに対して首を横に振る。

 

「どうやらダイ達の戦況を見る限り、今は動き回らないほうがいいようです」

 

クーラの視線を追うと、後列で見たことのない炎と氷の呪文を唱えているポップに注意を向けさせないように、マァムが『身かわし脚』『飛び膝蹴り』『爆裂拳』と流れるような動きでブロックを翻弄している。

 

またダイとヒュンケルは、フェンブレン・ヒム・アルビナスの3人を相手にしているにも関わらず、アバン流の剣技・槍技と併せて『隼斬り』など手数の多い技で応戦し、拮抗している。

 

そしてクロコダインは、自慢の獣王会心撃でシグマと1対1で戦っていた。

 

「…なるほど。たしかにウロウロしてたら、邪魔でしかないな」

 

俺の呟きが聞こえたらしく、クロコダインはこちらを見てほくそ笑む。

 

「よく見ておけ、レイザー!これが俺の新技だ!…ハァァ!!」

 

現在獣王会心撃を放っているとは別のもう片方の手から、逆回転の獣王会心撃を放つ。

 

「まだだ!業火に覆われ、吹雪に凍えるがいい!!」

 

回転方向が別々の獣王会心撃がシグマの腕をきしませる中、更に『凍りつく息』と『火炎の息』を吹きかける。

 

急激に熱して冷ます。

俺もフレイザード時代に、鎧破壊などのために良くした戦法だ。

 

恐らく『魔物使いの章』で覚えた『冷たい息』などを、自分で応用させたのだろう。

 

「ねじり切れ!『獣王激烈掌』!!」

 

クロコダインの新技をまともに受けたシグマの腕は、宣言通りに盾ごと引きちぎられた。

痛みでうずくまるシグマに、ハドラー親衛騎団が一斉に駆け寄る。

 

「そこだぁ!メドローア!!」

 

ポップが先ほどから機会をうかがっていた呪文を放つ。

まるでレーザー光線のようなその呪文の射線が通った場所は、道も山も文字通り消滅していた。

 

その光景に、さすがのクーラも言葉がないようだ。

 

先ほどポップが放ったメドローアとかいう呪文は聞いた覚えがないので、リリルーラなどと同じくこの世界の呪文なのだろう。

 

出来るか試したい気もするが、俺は知らない技を見ただけで覚えられるような天才じゃない。

そもそも周囲に怪我人がいるこの状況で、あんな破壊光線ができるか試すなんて問題外だろう。

 

「へへ、どうよ?レイザー。これが俺とおっさんの新技だぜ!」

 

新呪文の結果に、ポップが自慢げに親指を立てる。

その様子に、俺は首をひねる。

 

「何で勝った気でいるんだ?まだあいつらの核は健在だぞ」

 

俺の言葉を瞬時に理解できたのは、ヒュンケルだけだった。

 

ヒュンケルが身構えたとほぼ同時、ブロックが全員を押し倒してかばうという荒業でメドローアをかわしたハドラー親衛騎団が立ち上がる。

しかしブロックは他のメンバーを押し倒したその代償として、背中がごっそりと削り取られ、再度倒れこんでしまった。

 

「…もう十分でしょう。『間引き』は終わりました。引きますよ」

 

ブロックの状態を見て、アルビナスはそう判断する。

その言葉にダイ達が反応する前に、ヒムが食いつく。

 

「ふざけんじゃねぇぞ!?俺やブロックが大ダメージを受けておきながら、このまま下がれってか!?」

 

激昂するヒムに、アルビナスは「仕方ありません」と大きくため息をつきながら、こちらを向く。

 

「…もしもし、そこのレイザーさん。この愚弟がわがままを言ってますので、止めていただけませんか?」

 

「そいつを呼び寄せるんじゃねぇ!つうか、お前どっちの味方なんだ!?」

 

呼ばれたようなので『忍び足』と『ルーラ』でヒム達の認識外から近づき、ついでに契約儀式を発動させる。

 

【レイザーが、リリルーラのためのパーティ登録をしようとしています。承諾しますか?】

 

「しねぇよ!どさくさに紛れて、お前何しようとしてんだよ!?」

 

こっそりヒム達にリリルーラを仕込もうと思ったが、全員から却下されてしまった。

ヒムが怒るのに対し、シグマは突然現れたように見えた俺に驚いていた。

 

「私がここまで接近されたことに気づかないとは、やはりあなたは私達の天敵のようだ…!」

 

「ブローム…」

 

警戒心を強めるシグマを慰めるように、背中の大部分を削られた状態にも関わらずブロックが声をかける。

そのブロックの言葉に、俺も便乗する。

 

「ほら。ブロックも『気にするだけ無駄』って言ってるから、諦めろよ」

 

俺の言葉に、なぜかフェンブレンが激しく食いつく。

 

「ブロックの言っていることがわかるのか!?」

 

「正確な言葉じゃないけど、ニュアンスとか発する言葉に乗せられた感情はわかるぞ。…というか、お前らわかってなかったのか?」

 

俺が視線を向けると、ヒム達は一斉に視線を反らす。

それを誤魔化すように、アルビナスが話し出した。

 

「…挙動は類を見ないほどの変人ですが、敵であることが惜しい能力ですね。ちなみに私達もそれはできますか?」

 

魔力の波動を把握するのと同様のことをしているだけだが、敵の強化につながることを教えるつもりはない。

 

『…相変わらずお前は、訳が分からないことばかりするな』

 

呆れるような声とともに、宙に浮いたハドラーが現れる。

その姿は画質の悪いビデオのように歪んでいることから、幻影だろう。

 

『あまりに帰還が長引いているようなので、俺の部下達に釘を刺しに来たのだ。…本来の目的をな』

 

ハドラーの言葉に、アルビナスが続く。

 

「その通りですよ、ヒム。私達は死の大地に足を踏み入れるにふさわしい者達を、ふるいにかけに来たのです。白黒をつけたいのなら、死の大地で行いなさい」

 

「間引きだの、ふるいだの…!てめぇら、俺たち人間を馬鹿にしているのか!?」

 

ポップがその言葉に怒りをつのらせていると、シグマが自身の盾を回収しながら答える。

 

「とんでもない。むしろ人間の力は凄まじいと、認識を改めさせられたよ。…もっとも、次に同じ魔法を放った際は私の盾でお返しさせてもらうがな」

 

「ハドラー様とアルビナスがこう言ってることだし、今回はここまでだ。…だがヒュンケル。テメェだけは俺が倒すから、死の大地へ必ず来るんだぞ」

 

シグマとヒムが、それぞれ好敵手と見込んだ相手に宣戦布告する。

 

そういえばふるいが済んだということは、無事な俺とクーラも死の大地に行く資格を得たということだろうか?

 

ならば、俺もそれっぽいことを言って答えよう。

 

「いいだろう。ならばそちらにお宅訪問するまでに、俺も踊りのキレを磨いておくぞ」

 

「テメェは例外だ!絶対にお前は来るんじゃないぞ!!」

 

せっかくやる気になったというのに、ヒムにつれないことを言われる。

 

いや、待て。先ほど言ったばかりのことを撤回するのはおかしい。

ということは…。

 

「なるほど。所謂、振りだな?『絶対に来い』と。このお兄ちゃんっ子め」

 

「どんな曲解だよ!?お前がいると、色々ペース狂うんだよ!そもそも以前ハドラー様にやった大波も、死の大地が海水や海藻まみれになって大変だったんだからな!」

 

知らんがな。

そういえばポップがさっきやった呪文の練習、死の大地でやればいいんじゃないかな?

 

「レイザー様。また何かろくでもないことを考えてますね?」

 

散々ロン・ベルクの所でやった実験が堪えたらしく、何かを察したクーラが睨んでくる。

 

「とにかく!バーン様に挑む資格があるのはここにいるアバンの使徒と、クロコダインだけだ!お前は除外だからな!」

 

『…ヒムはああ言っているが、どうするかは好きにしろ』

 

一方的に宣言するヒムに対して、ハドラーは判断に困るような表情をして、幻影を消した。

それを確認すると、ハドラー親衛騎団もルーラで飛び去っていく。

 

正直なところ、俺レベルで大魔王相手に役立つか微妙なので、決戦に出向くかを判断する必要があるが…。

 

「皆。まずは人命救助を優先しましょう。レイザーもクーラも、働いてもらうわよ」

 

マァムの鶴の一声もあることだし、とりあえず目の前にある問題から片づけることにしよう。




09年から使っていたノートPCのウイルスバスター期限が切れたので、
まだ壊れてませんが新しいPCへデータ移動してました。

これで今後は快適だ!…と思ったら、Vistaから8.1に移って使いづらさに困惑中。

慣れてないだけだと自分に言い聞かせてますが、某ロボット物で「新型を喜ぶのは新人だけだ」と言っていたベテランパイロットの気持ちがわかりました。


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【第20話】明日の決戦場は、今日の実験場

今回長い割には、おふざけ要素は控えめです。

【2017/01/20 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----チウSide----

 

「む!?これはポップが使っていた杖か。…目的とは違うが、成果として拾っといてやるか」

 

ぼくたち獣王遊撃隊は死の大地の侵入経路を探るため、マァムさんやダイ君たちに黙って潜入調査を行っていた。

 

バピラスのパピィとゴメちゃんからの空路、また先ほど仲間にしたマリンスライムのマリべいからの海路からも探しているため、見逃すことはないだろう。

 

だが…

 

「ピー…」

 

ゴメちゃんが心配そうに、離れたところからする爆発音を気にしている。

先ほど別れた、あの魔族が心配なのだろう。

 

彼は僕たちを探しに来たらしいが、こちらの事情を話したら反対するどころか自ら囮役を買って出てくれた。

 

「心配いらないさ。彼の行動は常に変だけど、クロコダインさんやマァムさんからの信頼も厚い。敵に見つかって倒すことは難しくとも、逃げ切るには大丈夫だろうさ」

 

ついこの間も、あの魔族が使っている技をまとめた新たな本を持ってきたという話になった途端、ダイ君やマァムさんはもちろん、あのヒュンケルでさえ我先にと本に食いついていた。

そのため彼もポップなどと同じく、見た目はともかくただの変人ではないはずだ。

 

「奴が手に負えないことは、ワシらも同感だ。…だからといって、全員生かして帰す気はないがな」

 

急にかけられた声に振り替えると、以前かまくらで遭遇した、全身が刃物のような人型の生命体が立っていた。

 

 

----レイザーSide----

 

サババのドック襲撃の怪我人治療をしていると、チウを探しているというマァムに会ったことからレミラーマで調べて探しに来たが、この死の大地で無事見つけることはできた。

 

だが連れ戻そうとする俺に対して、チウは強く抗議した。

チウのその表情は真剣で、目先の手柄に目がくらんだ者がする瞳ではなかった。

 

そのため俺では説得出来そうにないので、一度は止めようと思った計画を実行することで敵を引きつける囮になり、協力することにした。

 

ちなみにクーラはマリンに捕まったこともあり、その辺の人間に伝言を頼んで現在は一人で行動している。

なおクーラが捕まった理由は、旅の間に化粧や髪のケアをしていなかったことがマリンには許せなかったらしい。

 

「さーて。久しぶりの単独行動だし、派手にやりますか」

 

わざわざ死の大地に来てやろうと思ったことは、ポップが使っていたメドローアの練習だ。

もちろん一番の目的は呪文を習得することだが、失敗したメドローアなどで死の大地に穴を空けて潜入経路が出来ればそれもまた良しだ。

 

本当はポップから教えてもらおうとはしたのだが、「こうするんだ!」と問答無用で放たれたメドローアをマホターンで跳ね返したらすごく怒られて教えてくれなくなった。

 

そのため仕方なく見様見真似でやったら、今度は腕が激しく燃え上がった。

恐らくメドローアは炎と氷のバランスが難しく、俺はフィンガー・フレア・ボムズなどメラ系が得意だから腕が燃えたのだろう。

 

「まぁ、こうして練習すれば感覚はつかめそうだな」

 

俺が考えた練習方法。

それはベギラゴンのように頭上に炎と氷をぶつけることで、腕で直接魔力を衝突させずに調節することだ。

 

この方法で失敗して腕が焼けることはなくなったが、調整している間はずっと魔力を消費する上、ようやく調整が成功しても頭上のメドローアは球体状で下へ落ちるしかないため、ポップのように光線状としては一度も成功していない。

これを敵にぶつける場合、相手の頭上にトベルーラで飛びながら、ボーリングの球を落とす感覚でぶつけるしかないだろう。

 

「それにしても、やっぱりこの呪文は魔力の消費が激し過ぎんな」

 

今日何度目かわからないが、作成した祈りの指輪で回復を行う。

 

この世界でのアイテム作りのコツがわかってきたため、作ったアイテムの効能を確認することも計画していたことの一つだ。

今まで作ったアイテムは何らかの不具合があったが、この祈りの指輪は正常のようだ。

 

ただこの指輪のことを知らなかったらしいクーラにプレゼントして、試しの1回目で壊れた際は泣き崩れて大変だった。

 

「帰ったら、なんか違う指輪作ってあげるか。命のリングか、落ち着いてほしいという願いを込めて水のリングだな」

 

ぶつぶつ独り言を呟きながら作業をしていたためようやく気づいたが、何度も落下型メドローアの練習をしたおかげで、次の実験にちょうど良い感じに地面に穴を空けることができた。

 

メドローア以外でもう一つしたかった実験が、爆弾石の連結だ。

もっと具体的にいうと、爆弾石でチェーンマイ●が出来ないかの実験だ。

 

ロン・ベルクのところで爆弾石を干し柿のように結ぼうとしたら禁止されてしまったため試せなかったが、ここなら穴に爆弾石を積もうが、誤爆しようが(味方からは)文句は出ない。

こんなこともあろうかと袋に入るだけ爆弾石を持ってきたので、どんどん爆発させてみよう。

 

「まずは細工せずに一箇所にまとめて、爆発させてみるか」

 

とりあえず20個ほど、六星の魔法陣の形に作って爆発させる。

この世界の魔道書を読んだところ、こうすると威力が上がるそうだ。

 

 

 

試行錯誤すること、数百個。

結果として爆弾石同士が接触した時点で爆発してしまうため、あらかじめ間隔を空けて設置するか、単品としてしか使えないということがわかった。

 

「うーん…。だったら石を凍らせて、メラ系で点火する方向で行くか?」

 

次の爆破実験をしようとしたところ、突然聞いたことのない怒号と共に、ブロックとフェンブレンが出現する。

 

『さっきから我輩の寝床の上で、ドカンドカンしているのは貴様かぁー!?』

 

その怒号は、なぜか喋れないはずのブロックから聞こえてくる。

前に会ったときのように魔力の波動を確認しようとするが、何か違和感がある。

 

「…核からの魔力の質が全然違うな。もしかして、ハドラー以外が禁呪法で作った奴か?」

 

俺の独り言に対して、ブロック…。いや、城兵タイプから再び声がする。

 

『然り!そやつらは全て、頭脳明晰な我輩の忠実な駒!!我輩の名は、キーング!マ…』

 

名乗ろうとしていたはずの城兵タイプだが、突然その言葉を止める。

 

『…こほん。我輩はバーン様の居城を守る最強の守護者。おいそれとは姿を見せたり、名乗るわけにはいかん。よって「キング」と呼ぶがよい』

 

「わかった。キングマだな」

 

『キィィィングだ!』

 

「おいおい。お前は大魔王バーンの部下なんだろ?それなのに大魔王を差し置いて、『キング』を名乗るのは不味いと思っての配慮だぞ?」

 

俺の口八丁に、自称キングが食いつく。

 

『む?…うーむ、それもそうだな。良き考えだ。ならばこの場での我輩を『キングマ』と呼ぶことを許そう』

 

納得してくれてよかった。

…こっちもインパスで相手を分析する隙が出来たし、持ちつ持たれつだ。

 

「了解だ。よろしく、キングマさん。…それと時間稼ぎに付き合ってくれて感謝だ。この前ヒム達の核の波動と位置を把握したおかげで、そっちのも解析は終わった!!」

 

正面に来た僧正タイプと城兵タイプに、手をかざす。

本当は魔力節約のため『死の踊り』にしたいところだが、幾らなんでも踊ってる暇がないので妥協する。

 

「そら!ザラキーマ!!」

 

ブロックにラリホーを使った要領で、ザキ系上位の呪文を唱える。

呪文は成功したらしく、僧正タイプと城兵タイプはチェスの駒に姿を変え、床に転げ落ちた。

 

この場に操っている奴がいればすぐに禁呪法をかけ直すことができるのだろうが、周囲に本人がいないため出来ないのだろう。

 

とにかく狙いは上手くいったので、敵の増援が来る前に駒になった僧正タイプと城兵タイプを袋に入れる。

袋の原理はわからないが食べ物や植物が劣化しないため、恐らくこの中に入れておけば奪い返されることもないはずだ。

 

「くくく…。ようやく念願のオリハルコンを手に入れたぞ。これで俺のダーマ神殿(仮)を築くための道が近づいたな」

 

…あれ?なんだか幻獣を魔石化する道化師と、同じことをしていないだろうか?

 

軽い自己嫌悪に陥っていると、キングマの増援らしきヒムっぽい兵士タイプが3体現れる。

 

『貴様ぁ!よくもやってくれたな!!…って、我輩の駒をどこにやった!?』

 

「悪いが俺はチェスより、将棋派なんだ。だからこの駒はもらっていくぞ」

 

『何?ショウギとは何だ?』

 

「倒した駒を使える、チェスみたいなものだな。相手を必ず倒すチェスと違って、倒した相手を味方にするという考えのボードゲームだ。せっかくだから、やってみるか?」

 

最初の目的通り、囮役をこなすため敵の注意を引く。

ただ予想と違ったのは、てっきり断られるつもりだった将棋をキングマがすると言い出したことだった。

 

「えーと…。とりあえず、ルールブックを渡そうか?」

 

旅の道中、金が尽きたときに備えて作っておいた将棋盤と説明書を兵士タイプに渡す。

どうやら視覚も共有できるらしく、兵士タイプは渡した本を熟読している。

 

『ふーむ…。確かにチェスとは似ているが、微妙な違いがあるのだな』

 

「まぁ、習うより慣れろだ。初回ってことで『二歩』とか禁じ手があったら指摘するから、とりあえずやってみるぞ」

 

相手の興味が失せる前に、対局を促す。

これで時間を稼げれば、チウ達が調査と退却する時間を作れるだろう。

 

 

 

『ま、待った!その王手は待った!!』

 

対局を開始して数十分。

チェスと違って後半になるほど持ち駒のことを考えなければいけないルールに、混乱しているようだ。

 

「もう待ったは14回目だぞ。さすがに次でラストな」

 

俺の言葉にキングマが唸る。

結局ラストの待ったをした甲斐もなく、そのまま俺が勝利した。

 

「ほい、これで詰みだ。…続いてもう一局するか?」

 

どれくらいこの敵を引きつければいいかわからないが、可能な限り時間稼ぎを試みる。

 

『当然である。次こそ我輩が…!?』

 

話をしている最中、突然目の前の兵士タイプが正座になる。

そのまましばらく黙っていたが次に声を出したとき、その声はなぜか震えていた。

 

『ほ、本当にやられるので!?…う、うむ、魔族よ。もちろん次も勝負させてもらうぞ…。それと、もう一度ルールブックを貸してもらおうか』

 

先ほど十分に読んだと言い張ったはずのルールブックを、再度要求される。

明らかに挙動不審だし、キングマの後ろで指図している人物がいるが、やる気ならいいだろう。

 

 

 

「…ま、参りました」

 

初心者に負けた…。

それも相手は途中から王手をすることを後回しにして、こちらの駒を奪い尽くす遊びをしたにも関わらずだ。

 

こちらも相手が詰ませるのに有効な金将の対策を知らなかったと思い込み、後一歩のところまで行ったのだが、直前に気づかれて巻き返せず投了となった。

 

『ふむ。中々楽しめたと仰って…。い、いや、楽しめたぞ。うむ』

 

キングマの背後にいるのが誰かわからないが、格の違いを見せつけられた結果だ。

 

『よ、よろしいので?…おい、そこの魔族。そのショウギ盤と本を置いていくことで、この場は見逃してやろう。頼むから、何も言わずに置いていけ』

 

どうやらこちらの狙いも、見抜かれているようだ。

このまま下手なことをして機嫌を損ねる前に、退却しよう。

 

「…わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

対局に使用した将棋道具一式を、兵士タイプに差し出す。

 

『ふむ、確かに。…それでは我輩は戻ってこれを献上しに行くから、お前もさっさと去るがよい』

 

道具を大事そうに受け取ると、兵士タイプは全て立ち去っていった。

 

こちらも時間稼ぎは十分なはずなのでチウ達を探し出して帰還しようと思ったが、妙に乱れた魔力の波動を感じ取った。

その魔力の波動は、つい最近感じたものだった。

 

「さて。…こんなとこで不貞腐れて、どうしたんだ?」

 

そこには両目を潰されたフェンブレンが、岩に寄りかかっていた。

 

「その声、レイザーか。…あまりに自分が情けなくて、皆に合わす顔がないだけだ」

 

愚痴を聞く限り、自分より格下の相手をいたぶっていたら、突然現れた謎の敵に呆気なく両目を潰されたらしい。

そのため強者と思い上がっていた自分に嫌気が差し、仲間のもとに戻る踏ん切りがつかないとのことだ。

 

「…貴様のような奇妙な天才には、わからんだろうな。ワシらは技術を磨くことはできても、成長はすることが出来ない。これ以上ワシらに先はなく、これからもただ自分より弱い敵を相手にすることしかできないのだろう」

 

どうやら茶化すこともできないほど、追い詰められているようだ。

 

「…なぁ、フェンブレン。オーディンの話って知ってるか?オーディンは人間とエルフの間に生まれた神で、初めはとても弱い神だった。それが神々の中でも最強となったが、理由はわかるか?」

 

突然の俺の話に、フェンブレンはいぶかしい様子ではあるが返答してくれた。

 

「…人間共は自分達が最も優れていると思っている。それ故に自分たち人間を混ぜることで、最も優れた存在になると考えたのだろう」

 

「すごい偏見だな。…そうじゃなくて、答えは未熟な人間が混ざることによってオーディンは成長できる神になれたからだ」

 

「…さっきから何が言いたい?お前の話は、いつも意味不明だ」

 

こちらの話に食いつき始めたフェンブレンに対して、俺は提案を持ち掛ける。

 

「フェンブレン。俺に対して、保険をかけてみる気はないか?」

 

 

----???Side----

 

「ば、バーン様。こちらがあの魔族との遊びで使用していた、『ショウギ盤』というものです」

 

戻らせた兵士タイプが持ってきた魔族との対局で使用していたボードとルールブックを受け取り、バーン様にお渡しする。

 

「ご苦労だった、マキシマム。チェスを指す相手が久しくいなかったが、今回の遊びはなかなか良い余興であったぞ」

 

あの魔族とショウギをしている最中に突然バーン様が現れた時は、我輩の核が停止するかと思った。

しかし先ほどの対局でそこそこ楽しんでいただき、機嫌を損ねることは免れたようだ。

 

バーン様は我輩から受け取ったショウギの本を読みながら、何やら熟考する。

 

「マキシマムよ。先ほどレイザーとやった対局、どう思った?」

 

「れ、レイザー?あの魔族のことですね。…そうですな。さすがゲームの考案者といったところでしょうか。まるでこちらに合わせたようにころころ戦略が変わり、手の平で踊らされているようでした」

 

「そうだ。…だがあまりにその戦法は多く、変化も激し過ぎる。そしてこの将棋自体も、まるでチェスのように完成されたルールだった。これらを一人で考えて作成したのか、疑うほどにな」

 

そういえばこのゲームは金策のつもりで作って、人前には公開していないと言っていた。

しかしルールや駒の動きを見る限り、ワンマン作業ではあるはずのルールの穴や矛盾がない。

 

「考案者が複数いたのでは?あの魔族はこのゲームを一人で作れるほど、賢いようにはとても見えませんでしたぞ」

 

「ふむ。あの精霊が口出ししたのならば、あり得るか。…まぁ、よい。しばらくこの本は借りる。その時はこの遊戯に付き合ってもらうぞ」

 

バーン様はそう仰ると、玉座に戻って行った。

 

「…敵を殺さず、自分の兵に迎えるか」

 

先ほどやったショウギと併せて、かつてバランを受け入れていたバーン様のことを考える。

バーン様は敵には容赦しない反面、ミストバーンのような忠臣からキルバーンなど明らかな獅子身中の虫も手元に置いている。

 

それに引き換え、我輩の駒を見る。

 

こやつらは我輩の思った通りにだけ動く、優秀な駒たちだ。

だが我輩に危機が迫ったとき、この駒たちは何をしてくれるだろうか。

 

完璧と疑っていない我輩の戦法に、ぽっかりと穴が空いたような感覚だった。




皆様のおかげで、いつの間にやらお気に入り件数が5000件を超えることができました。

少年雑誌でいうと四コマ漫画みたいに気楽に読める話を目指しているためこの結果には驚きですが、慢心せず完結まで続けさせていただきます。


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【第21話】「レイザーは仲間に入れてほしそうにこちr『いいえ』

【お知らせ】
マキシマムの年齢については「生まれたばかり」というご感想がありましたが、調べてもWikiでは「300歳以上」などと色々な説があり、参考文献が見つけられずに不明でした。

そのためマキシマムの「バーンパレスの守護者で、敵を全滅させなかったことは一度もない」という原作セリフから、「最低1回は、バーンパレスの侵入者を倒したことがある」ということで、そこそこな年齢として扱わせていただきます。

【2015/07/25 追記】
ご感想でマキシマムは345歳と情報いただきました。

【2020/08/01 追記】
今回の話で、4名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。



----レイザーSide----

 

「レイザーさん。その…元気出して、頑張って?」

 

エイミに強迫…ではなく懇願され、必死に踊る俺に対してマリンが申し訳なさそうに言う。

 

フェンブレンとの話が思ったより長引いたようで、俺が戻って来たときはちょうど入れ違いでダイたちは死の大地へ向かったところだった。

 

帰ってくるのを待つと言っていたクーラも、ダイの父親だったというバランとの決闘でヒュンケルが大怪我をしてしまい、戦線離脱をしたこともあり、現地で合流しようと言いくるめて決戦場に向かったため不在だ。

 

要はサババ襲撃に耐えたメンバーで、俺だけ理由なく置いてかれた状態だ。

 

更に辛いことは続くらしく、帰ってきた俺を見つけるなりエイミに強制連行され、現在ヒュンケルに対してひたすら『ハッスルダンス』を踊らされている。

ちなみにフェンブレンに傷つけられたチウ達は、マリン達のホイミ系が効いたので治療済みだとのことだ。

 

「大丈夫。俺は置いて行かれたんじゃなくて、ヒュンケルの治療を任されたんだ。バランがダイの父親とか、俺を連れていくべきか多数決を取っていたとか色々と初耳だけど、くじけそうな発言は禁止だ…。でもまぁ、暗黒闘気と同じく竜闘気にも『ハッスルダンス』が効果あるのがわかってよかったか。うん」

 

「あの…本当に大丈夫ですか?エイミが睨みつけているからって、踊りに専念して現実逃避してませんか?」

 

俺の呟きに対して、マリンが精神科医を呼びそうな様子で聞いてくる。

それに対して返事をしようとすると、突然目を開いたヒュンケルが俺の手を引いて踊りを止める。

 

「…もう動くためには十分回復した。レイザー。俺も死の大地へ向かうから、ポップ達の所へ連れて行け」

 

「馬鹿なこと言わないで!もしレイザーが居なかったら、ずっと目が覚めなかったかもしれないほどの大怪我なのよ!」

 

俺とヒュンケルを引きはがすように、エイミが割り込む。

 

エイミの制止を無視して起き上がろうとするヒュンケルの腕を、軽く振り払う。

 

「…10分待っていろ。その間に俺は準備をしておくから、エイミとちゃんと話しておけ。もしエイミが了解しなかったら、置いていくからな」

 

『帰ってから話す』といった変な死亡フラグを建てるわけにはいかないので、ここで思う存分話してもらおう。

 

 

----クロコダインSide----

 

死の大地にてダイ達と別行動を取っている俺たちは、ヒュンケルがいない中、ハドラー親衛騎団との戦闘を強いられていた。

 

人数差からこちらが不利と思っていたが、フェンブレンが独断でダイ達に向かって行ったことと、クーラが暗黒闘気と補助系呪文を駆使してシグマと接戦を繰り広げていることから、何とか拮抗を維持している。

 

クーラが向かって行く時に「最近はモンスターに会っても逃げるばかりで、試し切りできる相手は久しぶり」と嬉々していて不安だったが、相変わらずこの元氷炎魔団の二人は行動が読めない。

 

見た目からは両手に持った2本の剣を振り回し、激しい近接戦闘をしそうに見えないクーラの猛攻に、アルビナスは驚きと呆れを含みながらブロックに話しかける。

 

「全く…。あの魔法使いといい、レイザーといい、厄介な相手が多いですね。ブロック、あなたはシグマやヒムのように熱くならないように注意するのですよ?」

 

話しかけられたブロックだが、その視線は先ほどまではいなかったレイザーに向けられていた。

 

「はいよ。それじゃあ、契約成立ってことで。あぁ、特にサインとかいらないよ。同意してくれれば、核に契約印を刻むから」

 

「ブローム…」

 

「そうか…。フェンブレンの奴、結局自分を突き通したんだな…。そうそう。さっきの契約はフェンブレンと同じ内容だから、何の心配もないからな」

 

「ブローーーック!その不審者から離れなさい!!あなたも私達の仲間に何をしているのですか!?」

 

聞いたことのない声で怒鳴るアルビナスに、レイザーと共に来たらしいヒュンケルは申し訳なさそうにしている。

 

先ほど別れた時よりは回復したように見えるヒュンケルに、怪我を心配したポップ達が駆け寄るが、それを制してヒュンケルはレイザーに指示する。

 

「レイザー。ここまで連れてきてくれたことには感謝している。…だから後は俺達に任せて、向こうへ行っていろ」

 

「やれやれ。またキメラの翼扱いか…。わかった。あっちで邪魔しないようにしてるよ」

 

どこか気落ちした様子で、レイザーが離れていく。

 

レイザーは役に立つことは立つのだが、感覚は爆弾岩を抱えながら戦っているようなので、近づいてほしくないという気持ちはわかる。

 

どうやらそれはヒムも同じようで、現れたヒュンケルに安心したような笑顔で近づく。

 

「へっ、ようやく来たな。遅かったじゃねぇか。ヒュンk『ドンドコドンドコドンドコドンドコ…』」

 

何やら騒音がした方向を見ると、レイザーがどこからか取り出した楽器を叩いている。

全員が視線で抗議するが、当のレイザーは「何が悪い」と言わんばかりに見つめ返してくる。

 

「…アルビナスからダメージを受けたときはどうなるかと思ったが、やはり俺達と同じようにお前も不死m『ドンドコドンドコドンドコドンドコ…』」

 

気にしないように努めるヒムだが、レイザーからの騒音は続く。

 

「………やはり俺が見込んだ通r『ドンドコ【セイヤッ!】ドンドコドコ【セイヤッ!】ドンドンドンドドンドン…』立ち去れぇ!お前は本当に立ち去れぇぇぇ!!」

 

耐えてきたレイザーからの騒音に限界を迎えたらしく、ヒムが本音を叫ぶ。

体液のないはずのハドラー親衛騎団だが、ヒムの頭に血が上りそうなので、代わりに俺が何をしているか問いただす。

 

「おい、レイザー。お前はさっきから何をしているんだ?」

 

「近づくなと言われたんで、せめて『戦いのドラム』でサポートをと…。これは周囲の味方にバイキルトをかける超優秀な道具なんだが、何故か廃れてしまった逸品だ」

 

廃れた理由は見ての通りだが、本当にレイザーはわかっていないようだ。

それと味方だけに効果があると言い張っているが、確実に敵味方関係なく攻撃力がアップしている。

 

「わかった。俺の言い方が悪かったんだな。…向こうへ行って、大人しく、静かにしていろ。それとダイ達の所へ行くのも禁止だからな」

 

ヒュンケルの補足に納得いかない様子のレイザーだったが、渋々打楽器を仕舞ってくれた。

 

だがシグマはそれでも信用できないのか、先ほどまで戦っていたクーラへ、レイザーに付き添って離れないよう頼み込んでいる。

 

「なんか、俺の扱いひどくね?やろうと思えば、俺そこそこ役立つよ?」

 

「レイザー様。私は必要としてますよ。私は翼があることから着られる服がほとんどないため、レイザー様がいなかったら寝間着すらありません」

 

「それって仕立て屋扱いだよね?…まぁ、いいか。詰将棋本作って来たし、『穴を掘る』で侵入路作ってキングマでも呼び寄せてみるか」

 

「何か嫌な予感するから、そいつを止めろ!!」

 

ヒムが叫んだと同時に、死の大地全体が崩れそうなほどの大きな揺れが発生する。

その揺れに備える前に、誰ともなく叫ぶ。

 

「レイザー!今度は一体何をした!?」

 

「これは俺のせいじゃねぇ!!」

 

何人が言ったかわからない叫びに、レイザーは全力で答えた。




何気なくこちらで原作「ダイの大冒険」でのお気に入り数をソートしたところ、この作品が上位にあり、思わず画面を閉じてしまいました。

「こんな流れの作品がこの位置でいいのかな」と、最近ちょっとしたスランプです…。

【2015/07/25 追記】
お気に入り数が増えて変な気合が入っておりましたが、タグにもある通り自分に合った内容で頑張ります。

このまま消えたりしませんので、今まで通り軽い感じで読んでいただければ幸いです。


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【第22話】バーン大魔王の貴重な脱衣シーン

前回色々悩んでいた結果がこのタイトルです。

ちなみに「大魔王バーン」ではなく「バーン大魔王」となっているのは、間違いではなく元ネタからです。

【2017/02/26 追記】
今回の話で、2名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----レイザーSide----

 

「レイザー様!起きてください!…ザメハ!!」

 

呼び声と共にクーラがザメハを唱えてくれたらしく、失っていた意識を取り戻す。

クーラはザメハを覚えていないはずで、腹部がひどく痛いがザメハと言っていたのでザメハで起こしてくれたのだろう。そのはずだ。

 

とにかく気を失っている間に床に転がされていたらしく、起き上がりながらクーラに現状を訪ねる。

 

「大丈夫なようですね。先ほどの激しい揺れの際、レイザー様は皆にスクルトを唱えたのはよかったのですが、落石に気づかず頭に当たってしまい、今まで気を失っておりました。そしてダイ達に合流したのですが…」

 

言いよどむように視線を向けると、悲痛な表情をしたポップ達と倒れこんでいる人間の手を握りしめて泣き叫ぶダイがいた。

 

「バラン!?ベホマ…は効く様子じゃねぇか。クソッ!!」

 

一目見て助かるはずがない大怪我を負ったバランを見つけ、俺は袋から『賢者の石』を取り出して地面にぶつけて叩き割る。

 

「レイザー様!?それは何十個も試作品を作り、ようやく成功した唯一の物では…」

 

「1回作れたなら、また作れる!それよりも無駄かもしれないが、やれることをやるべきだ!…ダイ!場所を代わってくれ!!」

 

バランの横に陣取り、砕いた『賢者の石』をバランの周りに並べ、六星の魔法陣を構築する。

皆が不審な目で見てくるが、何かしようとしているのかわかったのか、止めてくる者はいなかった。

 

「駄目でもともと!全魔力を込めさせてもらう!!」

 

ザオラルやザオリクさえも使えないため、この呪文が使える保障はないがやるしかない。

魔力を込めた『賢者の石』だった砂が反応したのを確認して、ザオリクより上位の復活呪文を唱える。

 

「これが俺の知る最高の回復呪文だ!ザオリーマ!!」

 

唱えた途端、目が開けられない程の光と、急激に魔力が奪われる感覚に襲われる。

その光は徐々に小さくなっていき、完全に消える前にこちらの魔力が尽きて光は止まった。

 

息を整えながらバランの様子を見ると、傷は治っているのだが未だ目覚めない。

だが傷が消えたということは細胞が活性化したはずなので、クーラにインパスでバランの状態を確認してもらうよう頼む。

 

「あ…!ステータスが『意識不明』になってます!回復呪文は効果なさそうですが、安静にしていればもしかすると…」

 

クーラの言葉に、ダイ達が一斉に湧き上がる。

まだ山を越えたわけではないことを伝えようとするが、突然剣を取り出したクーラが切りかかって来た。

 

「…へー。よく僕の存在に気付いたね?それにそこの魔族も、魔力が足りなくて不完全とはいえ、復活呪文を成功させるとはやるじゃないか」

 

クーラの剣先は、レムオルのような呪文で姿を消していたキルバーンの鎌を止めていた。

どうやら背後から近づき、俺の首をはねるつもりだったらしい。

 

キルバーンが距離を取るために大きく下がったのを確認して、クーラに感謝の言葉を伝える。

 

「助かったよ、クーラ。それにしてもよくキルバーンが来たことがわかったな?」

 

「私はレイザー様の匂いをかぐため、普段から『盗賊の鼻』をしております。そのため全身から異臭がしているキルバーンのような者がいれば、すぐ気づけます」

 

なんだろう。

助けてもらったのに、釈然としない。

 

俺が礼を言いかねていると、キルバーンに続いてミストバーンも現れる。

 

「一同、控えよ。…大魔王バーン様がお会いになられる」

 

尋常でない威圧感と共に、魔族の老人が現れる。

きっとこの人物こそが、大魔王バーンなのだろう。

 

皆がバーンに注目する中クーラは空気を無視して、袋からこれまで作った中でトップレベルの失敗作である『エルフの飲み薬(酷)』を取り出す。

 

「ちょ…!クーラ、それは味とか異臭とか、色々な意味で封印指定した物…こっちに向けるな!!」

 

「緊急事態です。先ほどの呪文でレイザー様の魔力は空なのです。今のうちに飲み干してください」

 

こちらの静止を無視して、飲み薬を口に流し込んでくる。

 

「おぅぇ…!た、耐えるんだ…!このままだと『ドラゴンクエスト・オブ・リバース』になってしまう…。絶対に耐えるんだ…!!」

 

「バーン様の御前だから控えろと言っているのがわからんかぁー!!」

 

ミストバーンが叫ぶが、相手にする余裕がない。

 

「ごめん。口から『仲間(バブルスライム)を呼ぶ』が発動しそうだから、本当に話しかけないで」

 

俺の必死の願いが通じたのか、バーンは俺を一瞥するだけで無視してくれた。

ダイ達がバーンと対峙している間に、ザメハやキアリーなどの回復呪文を片っ端から試してこの吐き気をどうにかしようと試みる。

 

そうしている間にも話は進んでいき、バーンから一つ提案を出された。

 

それはバーンの計画ではこの時点で俺たちは全滅しているはずだった。

その結果を覆した健闘をたたえて、褒美としてバーンのみで相手するという内容だ。

 

「なめやがってぇ…!レイザー、もう動けるだろ!?俺たちがまず先行するから、後ろでサポートをしてくれ!!」

 

ポップがそう提案するが完全に浮き足立っているし、ヒュンケルやクロコダインは大魔王の雰囲気に飲まれ、硬直している。

ましてやダイ達のこれまでの戦い方はバーンにも伝えられているため、こちらの戦法も見抜かれているはずだ。

 

「…いや。前哨戦は俺に任せろ。これまでずっと、ダイとお前達で戦って来たんだろ?だったら慣れない奴と組んで、チームワークを乱すわけにはいかないだろう」

 

キアリクで酔いが引いたのを確認して、完全にバーンの雰囲気に飲まれているダイ達に代わって一歩前に出る。

 

緊迫感で身動きが取れなくなっていたヒュンケルだったが、さすがに俺の行動を止める。

 

「やめろ!無駄死にするつもりか!?」

 

「そんな緊張で満足に動けない状態で戦ったら、それこそ無駄死になるって言ってんだよ。…俺が一つでも多くの大魔王の技を引き出して見せるから、見逃さずに対策を立ててくれ」

 

初見でいきなり大魔王と戦うなんて、いくらダイ達でも無理だろう。

かといって、勇者以外で大魔王を倒せるとは思えない。

 

ならば勇者パーティーの一員でない自分が矢面に立って、勝算をわずかにでも上げてもらう。

 

「レイザー様。お供します。…私でしたら連携に問題ありませんから、駄目とは言いませんよね?」

 

俺に寄り添うクーラは何を言っても引いてくれそうにない雰囲気をかもし出しているので、諦めて頷く。

 

「…余は構わん。貴様の技はフレイザードの時から興味があった。前座として相手をしてやろう」

 

「正気ですか!?バーン様!!」

 

ミストバーンと同じく俺も驚いたが、バーンは俺達の相手をしてくれるらしい。

戦闘前に、俺達が倒れた際にも使える道具を投げ渡す。

 

「ポップ。念のため、これを渡しておく。いざってときは使え。ただ、これもどのタイミングで壊れるかわからないから過信はするなよ」

 

『賢者の石』を作る途中で出来た『祝福の杖』を、使い方を教えながら渡した。

これも『祈りの指輪』のようにいつ壊れるかわからないが、それ以外は優秀な回復道具だ。

 

「もう言い残すことはないな?…そら。挨拶代りのメラだ」

 

バーンは小さく、ゆっくりとした動きの火球を飛ばしてくる。

見た目は火の玉のようにユラユラとしているが、大魔王から発せられた攻撃である以上、当たってみるのは危険だろう。

 

「せっかくの挨拶だが、お断りだ!」

 

その火球に向かって『炎のブーメラン』を投げつけ、こちらへ届く前に爆発させる。

火球の大きさに反比例して、ブーメランが当たった火球は以前俺が作った火災旋風並の火柱が立ち上がる。

 

その業火に向かって、炎の爪による火球とフィンガー・フレア・ボムズを加えて、合計6発分のメラゾーマを放つ。

 

「熱いのは嫌いなんでな!全部返すよ!!」

 

相殺したことで発生した爆炎と自分の呪文で発生した炎を、全て『追い風』によってバーン達の方向へ流す。

 

炎と黒煙でバーン達の姿は見えないが、見当を付けてロン・ベルクと共通制作した防具を投げ込む。

 

「クーラ!バーンの身動きを封じさせる!…アムド!!」

 

先ほど投げたのはヒュンケルの『魔剣の鎧』と同様に体に巻きつくように装備される魔神の鎧で、魔鎧を作る際に失敗して出来たステータスが低下するだけの呪いの鎧だった。

それを相手に強制的に装備させて、身動きを鈍らせる拘束具として改造したものだ。

 

一度装着したその鎧は音声認識で俺以外では解除できないため、足止めぐらいにはなる。

 

それを理解しているクーラが炎の中へ飛び込むが、煙の中からクーラの腹部にバーンの手が添えられ、彼女は後方に吹き飛ぶ。

どうやらバーンは暗黒闘気を放出し、『魔神の鎧』も同じく暗黒闘気で内部から破壊したらしい。

 

「すまんな。せっかく用意してもらった召し物だが、余の体には合わなかったようだ」

 

阿吽の呼吸のつもりだったクーラとの連携を軽くあしらわれた上、気の利いた冗談を言ってくる。

 

だがそんなことよりも、クーラの状態が気になるのでバーンから目を離さず、声をかける。

バーンの攻撃が当たった腹部の装備は、メタルキングの鎧と同等の素材にも関わらず破損させられていたため、無傷のはずがない。

 

「クーラ、大丈夫か?」

 

「わ、私にはベホマがあります…。どうか私のことは、気にしないでください…!」

 

「虚勢を張っても無駄だ。バーン様の先ほどの一撃は、圧縮した暗黒闘気だ。回復呪文ではしばらく治療できず、このままでは助からないかもしれないぞ」

 

ミストバーンが、こちらを揺さぶるように言う。

 

「『ハッスルダンス』による回復タイムは…」

 

「やればよかろう。だがそうした途端、余はダイ達に狙いを定めるぞ?」

 

ワンチャンあるかと聞いてみたが、思った通り駄目だった。

 

ダイ達にバーンの戦い方を見せることが目的なのだが、このままでは全然情報が不足しているため、こうなったら一人で戦うしかない。

クーラもそれを理解しているのか、ひたすら「大丈夫だから気にしないでほしい」と繰り返し呟いている。

 

「レイザーよ。戦ってみればわかると思ったが、むしろ疑念が募るばかりだ。…余は貴様の正体が気になる」

 

こちらが覚悟を決めていると、突然バーンが俺に話しかけてきた。

 

「貴様が古代技術と言っている『特技』だが、生みの親であるハドラーどころか、余さえも知らない技ばかりだ。それらを幾つも知っていて、更にそれを他の者に教える技量もある。また神々が考え出したチェスと同等と言って良い完成度の、将棋という誰もが知らない遊戯を持ち出した」

 

俺がこの世界にいる矛盾点を、バーンは一つずつ挙げていく。

 

「初めは天界からの回し者と思っていたが、命を弄ぶのに等しい転生を行っているため、違うのだろう。…レイザーよ。貴様の正体と目的は何だ?」

 

「…さぁね。俺はこの世界に生まれた瞬間から、これらを知っていた。そもそも自分が何者か、何のために生まれてきたかなんて、答えられる奴のほうが少ないんじゃないか?」

 

記憶がどんどんなくなっているのか、やったゲームや内容は覚えているが生前の自分の名前や生活環境については何一つ思い出せない。

だから本当に答えようがないのだ。

 

「ふむ。ならば、余の所に来ることを許してもよいぞ。貴様の持つ知識はどれも興味深い。退屈することだけはなさそうだ」

 

バーンが勧誘してくるが、一度捨てられた組織に戻るなんて真っ平御免だ。

 

「嫌だね。俺はこの特技を、人種差別なしで教える施設を作りたいんだ」

 

「そうか。…ならば先ほどから練っている魔力で、無駄な抵抗を続けるか?」

 

隠れて準備をしていたつもりだが、バレバレだったらしい。

どうせ気づかれているならと、堂々と呪文を発動させるための魔法陣を展開する。

 

「レイザー!ヤケになるな!!メガンテをするつもりか!?」

 

術式が似ていたためか、ポップがこれから使おうとしている呪文に対してやめろと叫ぶ。

 

「言われなくても、まだ死ぬつもりはないさ。…全員ぶっとびな!マダンテ!!」

 

全魔力を解放して、バーンだけでなくミストバーン達をもマダンテに巻き込む。

さすがのバーンもこれは防げなかったらしく、マダンテ発生時に弾け飛ばした周囲の瓦礫と共に、吹き飛ばされた。

 

「レイザー!大丈夫なの!?」

 

肩で息をしながら次の一手のためにカードをばらまく俺に対して、マァムが叫ぶ。

 

「平気だよ。今のは簡単に言うと魔力版のメガンテで、命には別条はないさ。…もっとも俺の魔力が足りないのか、技が未完成なのかわからないが、とどめにはならなかったがな」

 

先ほど出来た瓦礫の山が吹き飛ぶと、多少はダメージがあったようだが誰一人欠けることなくバーン達は立っていた。

 

「…随分と面白いことをしてくれるね。バーン様との戦闘と言いながら、遠慮なく僕達にも攻撃してくるなんて…!」

 

バーン以上にダメージがあったらしく、キルバーンが怒気を飛ばしてくるが、『祈りの指輪』で魔力を回復しながら適当に言い返す。

 

「さっきの技は難易度が高く、指向性に出来ないんだ。巻き込まれる位置にいるのが悪いんだよ。…それに、まだ俺の攻撃は終わってない!」

 

ばらまいたカードの中で、ちょうどバーンが踏みつけていた物に魔力を送り、仕込んでいた効果を発動させる。

 

「『トラップカード』オープン!装備外しってな!」

 

先ほどばらまいたのはシャナクの術式を刻んだカードで、不思議のダンジョンで使われているトラップの装備外しをヒントに作った物だ。

つまり通常は呪われた装備だけを外すシャナクとは違い、発動相手の装備品を問答無用で全て外す効果を発揮する。

 

ちなみに外すのはあくまで装備品なので、決して衣服などを脱がす効果はない。

 

…そのはずだったのだが、さすがは大魔王。

身に着けている物は全て一流の武具だったらしく、思ったより多くの装備品が外れる。

 

結果として、バーンは下着一枚の姿となった。

 

「…」

 

「…」

 

誰もが絶句する中、何か言わなければいけないと思い、とっさに頭に浮かんだ言葉を絞り出す。

 

「ご、ご立派ですね?(ご老体な割に、体つきが)」

 

「言いたいことはそれだけだな…!」

 

慌てるミストバーンに服を着せられながら、バーンは血走った目で豪速球のようなイオラを連発してくる。

 

マホカンタで返そうと思っても先ほどのマダンテで魔力は尽きて出来ず、仮に出来たとしても反射したイオラを相殺されて爆風でダメージを受けてしまうことだろう。

 

そのため解決策にならないとわかっていても、『大防御』と『瞑想』で耐えるしかなかった。

 

直撃するイオラがようやく止まって煙が晴れると、バーンは俺のバギマで作った物とは比較にならない、巨大な竜巻を生成していた。

恐らく、外に弾き飛ばすつもりだ。

 

「バーン様。レイザー達を確実に始末しなくてよろしいので?」

 

まだ怒りが収まらない様子のキルバーンが、バーンに尋ねる。

 

「対峙してミストバーンの気持ちがよくわかったが、余でもこやつは手に負えん。早々に退場願おう。…もっとも魔力が尽きたレイザーと、まともに動けない精霊ならここから落とすだけで終わりだろう」

 

竜巻を回避できる位置に動こうと思ったが、背後にはクーラがいるため、それもできない。

せめてクーラとはぐれないようにと駆け寄り、彼女を抱きかかえる。

 

「ダイ、それに皆。…すまない、俺達はここまでのようだ。後は任せたぞ」

 

「ここまでやってくれてこう言うのも悪いんだが…色々とやり過ぎだよ!キレた大魔王の相手をさせられる俺達の身にもなれ!!」

 

ポップの叫びに謝罪する前に、バーンが放った豪風によって俺とクーラは戦場から弾き飛ばされた。




【追記1】
「チェスは元々神々が考え出した遊び」というのは、原作でのバーン様からのセリフからです。

【追記2】
「ザオリーマ」は作者オリジナル呪文ではなく、ちゃんとDQ6にも特定条件で出てくる呪文です。
(自分もつい最近まで知らなかった、裏技みたいな呪文ですが)


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【第23話】俺の妹が急に低姿勢になって扱いに困る

気が付けばほぼ月刊の亀更新で、申し訳ないです。
また前回からの落差が激しい回です。

こういった説明が多くなる Or おふざけが少ない回は苦手で、何度も書き直したり長くなりがちなため自信をなくします…。

【2018/04/02 追記】
今回の話で、2名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----クーラSide----

 

「んぁ…」

 

先ほどまで意識を失っていたようだったが、断続的にゆりかごで揺らされるような感覚に目を覚ます。

周囲の音や匂いからここは森の中で、今はレイザー様に背負われているようだった。

 

「クーラ、目を覚ましたか?今安全な場所まで移動しているから、回復はもう少し待ってくれ」

 

レイザー様の言葉に、ようやく現状を思い出す。

確かバーンの攻撃からレイザー様に庇っていただき、戦場から叩き出されたことまでは覚えているが、なぜ森にいるかが全くわからない。

 

「そこまで覚えてるんだな?どうしてこうしているかというと、バーンパレスから落下する中、何とか袋から自作のキメラの翼を使ったのはいいんだが、なぜかここに飛ばされたからだ」

 

恐らく材料となったキメラが持っている、帰巣本能が原因とのことだ。

 

「それではキメラの巣に突っ込んでしまったということですか?モンスターは大丈夫だったのですか?」

 

「いや。今は繁殖期ではなかったみたいで、もぬけの殻だった。とりあえず『鷹の目』を使って、最寄りのエルフの村に向かってる。そこでクーラの治療と俺の魔力を回復して、再度ダイ達と合流しよう」

 

嘘だ。

レイザー様からは焦げ臭い匂いや返り血、それを誤魔化そうとしたのか、すり下ろした薬草を肌にすり込んだ匂いがする。

 

きっと魔力がない状態で、意識のない私を守りながら多くのキメラを相手にしたのだろう。

 

「…レイザー様。ありがとうございます」

 

「どうした?怪我をしているのだから、背負うことぐらい大したことないぞ」

 

「それだけではありません。バーンとの戦いの中、私を見捨てればまだ戦えたのに、庇ってくれたことです。とても嬉しかったです」

 

「…気にしなくていい。俺みたいな奴に付き添ってくれる変わり者は、クーラしかいないんだから」

 

「私にもレイザー様しかおりません。ですからこのままいつまでも、ご一緒させてください。…それにしても、この姿勢は素晴らしいです。レイザー様の耳の裏やうなじが、見放題・なめ放題です」

 

「いい話だと思ったのに、変貌するな!あと耳元で息を荒くするなら、振り落とすぞ!?」

 

レイザー様ならやりかねないので、落とされないよう一層強く抱き付き、首筋に顔を埋める。

深呼吸を繰り返す私に何か言いたそうだが、諦めた様子で歩き出す。

 

私がレイザー様を堪能している間に、ようやく目的地に着いたらしく、誰かが駆け寄ってくる気配がする。

どうせレイザー様に助けられたことから毎回言い寄ってくる、エルフ娘のナーミラだろう。

 

「わぁ!レイザー君、いらっしゃい!!今日はサボテンボールを狩って来たから果汁…クーラさん、どうしたの!?」

 

さすがに怪我をして背負われている私には気づいたようで、レイザー様に馴れ馴れしくしつつも、私に話しかける。

先ほど言いかけた果汁をどうするか気になるが、レイザー様に近寄らないよう牽制する。

 

「あなたには用はありません。この虚乳が」

 

「出合い頭に悪口言わないでよ!?それに私は、エルフとしては平均なんだから!」

 

私はこの女が嫌いだ。

 

この女は村の生贄として育てられたため、常に周囲に笑顔を振りまくような生き方が習慣になっている。

そのせいか表情だけはいつも笑っているのだが、常に濁った池のような目をして不快だからだ。

 

もし私が天界で周囲に反発することを諦め、媚びを売って生きることを選んでいたら、同じような生き方をしていただろう。

そのため彼女を見ていると、レイザー様と出会えなかった私自身の姿を見ているような気分になることも気に入らない原因だ。

 

「おぉ、レイザー殿。今日はどうなされたので?」

 

ナーミラが騒いだせいか、この集落の長老が現れる。

その長老に、レイザー様は普段以上に丁寧に対応する。

 

「突然の訪問ですまない。ちょっと連れが怪我をしてしまって、回復するまでの間でいいので場所を貸してもらえないだろうか?」

 

「クーラ殿が怪我をされるとは、近くにそれほどのモンスターが…!?」

 

「いや、その心配はいらない。戦っていたのは別の場所で、とっさに目的地を定めずに使ったルーラのせいで、印象深かったこの村に着いただけさ」

 

大魔王と戦っていたことを言わないのは余計な混乱を招くだけでなく、このエルフ達なら私達を村に攻め込ませない交渉材料として魔王軍に差し出す者も出かねないので、このような言い回しをしたのだろう。

…こういった時はとても頭が切れるのに、どうして戦闘中ではああなってしまうのだろうか?

 

レイザー様の話を鵜呑みにしたエルフの長老は、一転して安心したような表情となる。

 

「おぉ、それでしたら心配はないですな。…それよりもレイザー殿。急で申し訳ないのですが、我々の頼みを聞いてくれないだろうか?」

 

「何かお困りのようだな。わかった。話を聞くよ。…それでナーミラさん。俺が長老さんと話している間、悪いけどクーラの手当てを頼めないだろうか?クーラの傷は回復呪文では治療できないから、この村ではナーミラさんにしか頼めないんだ」

 

このエルフ女をレイザー様が気に入っている一番の理由が、レイザー様以外で唯一踊り系特技を覚えたからだ。

当然『ハッスルダンス』も使えるため、レイザー様からの頼みを嬉しそうに引き受ける。

 

「うん、任せて!私はレイザー君の一番弟子だから、頑張るよ!!」

 

「調子に乗らないでください。レイザー様の一番は、起床から就寝まで全て私です」

 

「一歩間違うとストーカーだから、もうちょっとマイルドに言おうな!?」

 

私を背から降ろすと、レイザー様は長老と一緒に別の場所に向かう。

そして私はナーミラに再度背負われ、自宅まで連れてかれた。

 

「待ってて。レイザー君たちの話が終わるまでに、治してあげるから」

 

レイザー様と同じ踊りのはずなのに、なぜか煌びやかに見える『ハッスルダンス』を舞い始める。

生贄とはいえ、村の巫女として育てられた違いだろうか。

 

「…あなたを嫌っている私がいうのは変ですが、よくこんな村にいられますね?周りのエルフは、あなたをドラゴンの餌にしようとしたのですよ?」

 

ナーミラとの付き合いは、レイザー様と共にロン・ベルクの元で作成した武具を試すためエルフの集落付近に行ったところ、ドラゴンの大群が住み着いたことから生贄として選ばれ、餌になる直前にレイザー様がそのドラゴンを倒してからだ。

 

ドラゴンの生贄にされて何とか助けられたにも関わらず、なお周囲のエルフに愛嬌を振りまき続けていたナーミラをレイザー様が叱ったところ、なぜか「もっと叱ってほしい」と言い寄るようになった。

 

「…平気だよ。私はいざって時に、頼られるために生きてるんだから。それに皆とはあまり話さないけど、お薬とか譲ってくれるよ」

 

ちなみに食事に必ず毒消し草を入れるのは、また生贄を育て直すことがないように集落のエルフが教え、習慣化しているらしい。

 

色々なことが天界にいた頃の私を思い出すきっかけとなり、ひどい顔をしていたようで、ナーミラは恐る恐るなだめるような口調で話しかけてくる。

 

「そ…そんな怖い顔しないで、仲良くしよう?私、二人と一緒にいるとすごく楽しいの。間違ったことをして叱ったり怒ったりしてくれるの、私にはレイザー君とクーラさんだけだから」

 

「散れ、このドエムフ」

 

「いきなり酷い呼び方しないでよ!私はただレイザー君に怒られるのが好きな、普通のエルフです!」

 

「…少し動かないでください」

 

特殊性癖を持つこのエルフの目を抑えるように顔を鷲掴みし、呪文を唱える。

 

「浄化されなさい!ニフラム!!ニフラム!!ニフラム!!」

 

「いきなり何!?こめかみ痛いし、すごく眩しいし、目がチカチカするからやめてよぉ!」

 

「弱い者イジメしてんじゃない!なんか光ってると思ったら、何してんだ!?」

 

話が終わったためか戻って来たレイザー様が、私の頭に手刀を落とす。

痛がる私を差し置いて、レイザー様はナーミラに話しかける。

 

「それでナーミラさん。さっき長老と話していたことなんだが、俺達と一緒に来てもらうことになった」

 

突然のレイザー様の話に私が食い付こうとすると、まだ視覚が回復していないナーミラに気づかれないよう、私に手紙を渡す。

表面には「本音」と書かれているため、今からナーミラにする話が建前で、この手紙が実際の引き取る理由なのだろう。

 

「私がレイザー君達と?それはとっても嬉しいけど、どうして?」

 

「俺達は魔王軍と戦っているんだが、回復呪文では治療できない攻撃をしてくる奴が多いんだ。だから俺以外に『ハッスルダンス』を使えるナーミラさんに協力してもらえるよう、俺から長老に頼んだからだ」

 

ナーミラに気づかれぬよう手紙を開くと、先ほどのレイザー様の話とは違い、この話は元々エルフの長老から頼まれたことだという。

その理由は、以前この集落のエルフ族がドラゴンの生贄としてナーミラを差し出したことが原因らしい。

 

レイザー様のおかげでドラゴンは全滅させたものの、生贄としてナーミラを選んだ者達の後ろめたさから確執が生まれ、近頃の彼女は周囲から一層距離を置かれているとのことだ。

長老もなんとか仲裁しようとしたが、その溝は日々大きくなっているらしい。

 

そのため今の代まで伝統となって引き継がれてきた生贄を今後は誕生させないことと引き換えに、大魔王と戦う生贄という名目で、ナーミラを貰い受けることになったとのことだ。

レイザー様としても、将来特技を教える施設を作る際に、講師として踊り系を使える人材が是が非でもほしかったとも書かれている。

 

(…なるほど。お優しいレイザー様なら、このような話を断るはずがありませんね)

 

エルフ族の言い分に思うところもあるが、私としてもこのまま見捨てるには気が引ける。

 

また先ほどの大魔王バーンとの戦闘で思ったが、レイザー様は良くも悪くも容易く状況を一変できるため、暗黒闘気を使う相手だからといって回復役に一任するのは惜しい気がする。

そう考えると『ハッスルダンス』を使えるナーミラは、レイザー様を自由にできるということも含めて役立つだろう。

 

「…わかりました。レイザー様が必要だというなら、私はナーミラを連れていくことに反対致しません」

 

「い、いいの!?ありがとう!私、ずっと一人で食事を作ったり狩りをしてきたから、踊り以外でも家事や弓でも頑張るよ!!」

 

「ニフラムを連呼していた私が悪いのですが、あなたが話しかけているのは壁です」

 

しばらくはナーミラの視力回復を待っていようとすると、突然レイザー様が立ち上がる。

 

「…すまん。ちょっと大事な用が出来たから、別行動だ。それと予定変更でクーラとナーミラさんはダイ達ではなく、レオナ姫の所に行ってくれ。俺も用事が済んだら、すぐに行く」

 

その様子はどこか慌てていて、有無を言わさぬ緊迫感があるものだった。

 

「それと、どうやらポップ達も俺達と同じくバーン達の居城から追い出されたらしい。レオナ姫に合流次第、レミラーマを使って助けに行ってほしい」

 

「レイザー様?どうしてそんな事がわかるのですか?」

 

「説明している暇がないんだ。必ず戻るから、先に行っててくれ」

 

私が事情を聴く暇もなく、いつの間にか魔力を回復したらしいレイザー様はリリルーラで姿を消した。

 

 

----ハドラーSide----

 

「ハドラー様、ここなら安全でございます。どうか体をお休めになって下さい」

 

バーンとの戦いをザボエラの横やりのせいで台無しにされ、自分の部下までも失って満身創痍な俺だが、アルビナスに支えられながらどこかの洞窟にたどり着く。

 

心身共に限界なのは皆も同じはずだが、シグマもアルビナスと同様に気丈に振る舞う。

 

「…ヒム。お前のブロックのことを悲しむ気持ちはわかるが、今はこれからのことを考えろ。そうでないと、私たちを逃がしたブロックも報われんぞ。だから涙を拭け」

 

シグマの言葉に悪態をつくヒムに、レイザーがハンカチを手渡す。

 

「ほら。これを使えよ、住所不定無職。今日は同じく就職活動中の俺が、新入りのお前達にアドバイスを…」

 

「曲者っ!ニードルサウザンド!!」

 

とっさのアルビナスの攻撃に、レイザーは当たり前のようにヒムを盾にしてそれを防ぐ。

ようやく不審者が誰かを認識できたヒムが、全力で抗議する。

 

「だからお前は俺の扱いがおかしいんだよ!そもそも、どうやって俺達の居場所を突き止めた!?」

 

「おいおい。以前、リリルーラのパーティー登録をしただろ」

 

「サババを襲撃した時のことか?だけどあれは俺も含めて全員却下して、未遂のはずだろ」

 

「兄の言うことに、弟や妹に拒否権があると思ったか?」

 

種明かしをされたアルビナスが、歯を食いしばる。

 

「強制契約とは、性質が悪いですね…!」

 

「まぁまぁ。とりあえず、俺はお前達と敵対するために来たんじゃない。事情はブロックから大体聞いた。バーン達に謀反を起こしたんだってな」

 

「何!?貴様、どうやって知った!?」

 

先ほどあったばかりの出来事を知っているレイザーを、問い詰める。

 

「こいつらのおかげだ。これは元々『復活の球』の失敗作でただの容器だったんだが、俺が使った転生術を利用すれば、呪法生命体の魂を入れられることに気づいたんだ」

 

レイザーは、懐から淡く光る球を2つ取り出す。

 

「契約に必要なことは、呪法生命体の核に術式を刻むことだけで、あとは契約相手の肉体が壊れることで履行され、魂だけがこの球に入る仕組みだ。…言っておくが、これの契約は相手の同意がないと出来ないからな」

 

2つあるということは、もしかすると…!

 

「さすがのハドラーは気付いたみたいだな。こいつらはフェンブレンとブロックだ。二人とも俺の話に乗って、無事魂だけは残すことができたってわけだ」

 

「ほ、本当か!?本当にお前達なのか!?」

 

レイザーが持つ球に駆け寄って覗き込むヒムに、応えるように球はチカチカと光る。

 

「…ちょっと待て。なんでフェンブレンとブロックが、お前なんかの提案に乗ったんだ」

 

我に返ったヒムが、レイザーを睨む。

今にも襟首を掴みそうな勢いのヒムだが、レイザーはいつもの調子だ。

 

「二人とも今のままだと、叶えられない望みがあったからさ。フェンブレンは『最初は弱くてもいいから、技や体を鍛えて成長できるようになりたい』。ブロックは『仲間と会話できるようになりたい』。これを叶えたいから、俺の話に乗ったんだ」

 

「どうやって肉体を与えるつもりだ?お前は大魔王から肉体を与えられたが、まさか死体集めをするのか?」

 

俺の言葉に「とんでもない」と言いたげに回答する。

 

「万が一バーンから肉体を与えられなかったときのため、人工的に肉体を作るホムンクルスの研究を、フレイザードの時には完成させてたんだ。バーン打倒後に、再度肉体を作って約束を果たすつもりだ」

 

多芸は無芸というがこいつの場合は全く当てはまらず、呆れて声も出ない。

なぜここまで頭が回るのに、魔王軍所属の時は俺の頭痛の種になり続けたのか。

 

「…そういえばお前、大魔王に何をした?俺がバーンと対峙したとき『レイザーのせいで酷い目に遭った』と罵られ、他の奴はお前がバーンを脱がして襲っていたと言っていたぞ」

 

「あぁ、うん…。いつもの実験の結果だと思ってほしい。…あと人をレ●パー扱いした奴は誰だ!?」

 

レイザーの回答に、ハドラー親衛騎団は奴が何かやらかしたことを想像できたらしく、微妙な顔をする。

 

だがアルビナスが何かに気づいたらしく、突然大声をあげる。

 

「レイザー…いいえ、レイザー兄様!これまでのご無礼を承知の上で、お願いがございます!あなたのその類稀な頭脳から生み出した転生術で、ハドラー様を助けてください!私程度の首なら喜んで差し上げますので、どうかお願い致します…!」

 

アルビナスが、レイザーに向かって頭を下げる。

 

突然のアルビナスの変わりように戸惑いながら、レイザーはアルビナスに頭を上げさせる。

 

「一回落ち着け。ブロック達からは断片しか聞いてないから、何があったのか詳しく話してくれ」

 

 

 

「…なるほどね。とりあえず要望を聞く前に、俺の転生術について簡単に説明するぞ」

 

アルビナスから俺の事情を聴いたレイザーが、指先から放ったギラで洞窟の壁面に字を書きながら説明する。

 

「まず俺の転生術は、呪法生命体限定だ。理由は呪法生命体の魂は仮置きのような状態なため、比較的容易に転移可能なんだ。ただし一度生身に魂を置くと、肉体と紐づいて固定化されてしまう。箇条書きで書くとこんな感じだ」

 

洞窟の壁面に、可能なケースと不可能なケースの具体的な事例を書いていく。

 

 

○転移可能

・呪法生命体→呪法生命体

・呪法生命体→復活の球(空)

 

×転移不可能

・生身の肉体→呪法生命体

・生身の肉体→生身の肉体

 

 

「…要するに、ハドラーの場合は転移できないってことだ」

 

頭から湯気が出そうなヒムに気を遣ってか、結論だけを言う。

 

それでも諦めきれないのか、アルビナスは食い掛かる。

 

「でしたらあの奇抜な『ハッスルダンス』なら!暗黒闘気も無視して回復できるあの儀式なら、治療可能ですよね!?」

 

色々言いたそうなレイザーだが、インパスで俺の状態を診て、首を横に振る。

 

「…だめだ。いくら『ハッスルダンス』でも、あくまで回復できるのは自然回復できる場合だけだ。今のハドラーの状態は、最大HPがどんどん減っている状態だから、たとえベホマが効いても意味がない」

 

つまり俺の命をコップに入った水に例えると、水が減っているのではなく、コップがひび割れ始めている状態ということか。

 

「命の石で作った賢者の石がもう一個あれば、核晶代わりに埋め込められたんだが…!」

 

袋の中をあさりながら言うレイザーの呟きに、俺は疑問に思う。

 

(賢者の石はホイミスライムが原料のはずだったが、一体どうすれば命の石なんかで作れるのだろうか?)

 

…こいつに原料のことを教えると、嬉々としてホイミスライムを絶滅しかねないので黙っておくか。

 

「…これだ!これは『時の砂』を結晶にしたもので、これだけのサイズなら疑似的な核にできるはずだ。それで効能だが、5秒毎に0.5秒前のステータスに戻すことができる使いどころがなかったアイテムだ」

 

つまり一瞬前に受けたダメージなら、タイミング次第でそれをなかったことにできるということか。

ただし連続で受けたダメージには効果がないようなので、確かに微妙なアイテムだ。

 

「あぁ…!それならば、ハドラー様の延命処置ができるのですね!?」

 

歓喜するアルビナスだが、レイザーの表情は晴れない。

 

「確かにこれを使えば結構長い時間生きられるが、それはあくまで静かに平凡な暮らしをしていく場合だ。…どうする?」

 

視線で俺にどうするか問いかけてくる。

 

「迷うまでもない。どうせこのままでは早かれ遅かれ、ただ朽ちていくだけだ。失敗作だろうが、副作用があろうが、可能性があるなら俺に使え。…ダイとの決着の際、わずかでも万全の状態にできるようにな」

 

俺が最期の戦う相手はバーンではなく、勇者ダイであるべきと始めから決めている。

 

「俺が生涯を掛けて決着を付けるべき相手は、バーンなどではない。奴らの最も大事なアバンを奪った断罪を受けるためにも、俺は勇者と戦うべきなのだ!」

 

俺の様子を見て、諦めたようにレイザーは肩を落とす。

 

「本当ならここで止めるべきなんだろうが、俺程度の実力だと無理だもんな…」

 

「そういうことだ。私達もハドラー様と同様に、覚悟を決めている」

 

シグマがレイザーに、妨害は無駄だと釘を刺す。

ヒムも腕を組みながら、大きく頷く。

 

「わかった。邪魔はしないし、ダイ達にもここであったことは話さない。…たださっき話した応急処置以外で一つ案がないこともないが、賭けてみないか?」

 

レイザーから賭けの内容を聞く。

その話は成功しないことが前提の夢物語のようなものだが、俺の決闘に支障がなく、デメリットは特にないものだ。

 

ただし、その賭けに乗るためには条件があるらしい。

 

「条件は一つ。もし俺が賭けに勝ってさっきの話が成功した場合、四の五の言わず、バーン討伐に手を貸してもらうことだ」

 

「…いいだろう。その話に乗ってやる。俺の条件としては、ダイとの決着に直接・間接的問わず、お前は邪魔をしないことだ」

 

「レイザー兄様。私も条件を。…私の望みはハドラー様のご存命のみです。そのためハドラー様が賭けに負け、私だけが勝った場合は即座に葬ってください」

 

俺とアルビナスの言葉に、シグマも続く。

 

「私も同様の条件だ。守るべき主を亡くして、どうしてこの世に留まることが出来ようか」

 

「…俺は降りる。どうしても決着を付けたい相手がいるが、たとえ万が一でも逃げ場になることを用意する舐めた真似はしたくねぇ。…そんな覚悟じゃあ、あいつには勝てないんだ」

 

どうやらヒムを除いて、全員レイザーの賭けに乗ることに決めたようだ。

ヒムの回答に残念そうな表情を浮かべるが、レイザーはその覚悟に泥を塗るようなことはせず、そのことについて何も言わない。

 

「わかった。それじゃあ、今から応急処置と賭けの仕込みをするんで、俺の言う通りにしてくれよ」

 

「レイザー。その前に一つだけ聞きたい。…これからすることは、お前に得はほとんどないはずだ。何故ここまでするんだ?」

 

俺の言葉に、レイザーは小馬鹿にしたように答える。

 

「決まってんだろ。兄や姉は弟達をおもちゃにしていい代わりに、いざという時は守る義務があるんだよ。それにたとえ血が繋がってなくとも、弟や妹がいなくなって喜ぶ兄がいるか?」

 




個人的なことですが、この作品を書き始めてから記憶を混合させないよう、DQは6までしかやらないリアル縛りプレイをしております。

そのため某通販サイトのお勧めとして表示されるDS版DQ8が、「あそこに通販サイトの直リンクがあります」「えぇ、1000円引きの価格表示であります」と常に言われているようで、ガリガリ集中力を削られます。

実際に購入できるのは、いつになる頃やら…。


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【第24話】先生!レイザーの立ち位置、そこじゃないです

色々アップデートした影響か、Wordやメモ帳が一瞬非アクティブ化する現象が多発して文字入力がまともにできず、ストレスがマッハで心が折れかけています。

今週知り合いに見てもらう予定ですが、それまではこの状態で頑張ります。

【2015/10/17 追記】
直りました(*´∀`*)

原因はいまいちわかりませんでしたが、知り合いが1時間ぐらいでやってくれました。


----レオナSide----

 

 

ダイ君達が死の大地に乗り込んでから間もなく。

 

一度超竜軍団に滅ぼされたカール王国の女王フローラ様に導かれ、私達はカールのアジトに身を潜めていた。

 

そして衰弱したポップ君とマァムを担いだクーラによって大魔王に敗れた経緯を聞かされ、丸二日今後のことをどうすべきか話し合っていると、突然見張りをしていた兵士が駆け込んでくる。

 

「た、大変でございます!突然砦の側に魔族が現れ、妙な術でポップ様と複数の門番が身動きを奪われております!!」

 

「…まさかと思うけど、変な踊りをする魔族ではないでしょうね?」

 

私の返事を待つ前に、ずっとレイザーの命令を聞いて待ち続けていたクーラと、新しく合流したエルフ族のナーミラが駆け出していった。

 

あの二人ならレイザー以外の魔族だった場合でも返り討ちにしそうなので行きたくないのだが、必死に急かす兵士がいるため、渋々様子を見に行く。

 

だが門の前まで来てみると、クーラ達は騒ぎの中心を遠くから眺め、私に忠告してくれる。

 

「レオナ姫。巻き込まれますので、近づかないほうが良いですよ」

 

その騒ぎの中心を見るといつも通り踊るレイザー以外に、アストロンを唱えられたのか、全身鉄の塊となっているポップ君。

そして『メダパニダンス』を使われたらしい見張り役の皆が、像となって絶叫するポップ君に抱き付いていた。

 

「チロル。ほら、また抱っこしてやろう。…それにしてもしばらく見ないうちに、随分固くなったんだな。念入りにブラッシングしてやるからな」

 

「あぁ…、ソアラ。再びこうして会えるとは…」

 

「ポップ殿…!俺、ずっとあんたのことが…!!」

 

「レイザー!問答無用で殴り掛かった俺が悪かった!だからこのアストロンを解除してくれ!…それと素でやばい奴が一人いるんだが!?」

 

「このドラクエ世界のアストロンは、呪文を使われた相手も喋れるんだな。…まぁ、一回落ち着け。まずはあと数秒で俺が唱えたアストロンが解除されるから、それを確認してメダパニを止めるからな」

 

「逆!解除する順番が逆だから!!…それとメルルも、目をキラキラさせてないで助けてくれぇ!!」

 

ここ最近の大魔王による無差別攻撃などのストレスで限界な私は、クーラにバイキルトとピオリムを自身にかけさせて、レイザーに近寄る。

そして全力でレイザーの腹部を殴りつけた。

 

 

----レイザーSide----

 

レオナ姫による踊り封じ(物理)をされた俺は、この二日間ハドラー達に会っていたことはにごして正座で事情を説明していた。

 

「…というわけで、用事が終わったんでリリルーラで合流しようとしたら、急にポップが殴り掛かってきて、それにつられた周りの人間も襲って来たから仕方なく『メダパニダンス』とマヌーサで自己防衛をしただけで…」

 

「あなたの『仕方なく』は意味がわからないわよ。…それとポップ君。レイザーを殴りたい気持ちはわかるけど、事情を知らない人の前でそうするのは良くないわ」

 

「いや。こいつが大魔王相手に変に頑張ったせいで、初めから本気の大魔王と戦う羽目になったことを思い出して、つい…」

 

「ただ俺が作ったアイテムで、相手の装備を外すトラップをしただけだろうが」

 

ポップの一言に俺からも当時の状況を補足するが、周囲からの警戒心が上がった気がする。

 

何だかオンラインゲームでパルプンテなどギャンブル系の技で、ボス戦を台無しにしたときの空気に似ている。

 

あと地味に膝へのダメージが蓄積されていくので、さっきから正座している俺にのしかかるように背中から抱き付いているクーラを、どかしてもらえないだろうか?

 

「レイザーさん。クーラちゃんはずっとあなたを待って、また寂しがっていたんですよ。反省して、少しは我慢してください」

 

マリンの言う通り、人前にも関わらずクーラはこれまで以上にくっついてくる。

会うのは久しぶりだし、甘えさせようかと思い始めたが、クーラがぶつぶつ何か言い出す。

 

「くんくん。…多少変な匂いがしますが、他の女の匂いはしませんね。以前嗅いだことがある気がしますが、女でなければ何でもいいでしょう」

 

改めてマリンを見つめると先ほどまでとは打って変わって、申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

だがクーラのこともあってか俺への説教を諦めた様子のレオナ姫が、メダパニが解けた時からずっと地面にひざまずくように落ち込んでいる見張り役に声をかける。

 

「あの…元気だしてください。このレイザーは色々規格外ですし、今バランさんは弱っているんですから、メダパニにかかってしまったことを気にしなくても…」

 

「心遣い、感謝する。…だが容易くメダパニにかかったこともあるが、命の恩人に斬りかかってしまったことに私は落ち込んでいるのだ」

 

以前会った時と服装が大きく違っていたのでまさかと思っていたが、先ほどまでポップに抱き付いていたメンバーの一人は竜騎将バランだったようだ。

 

「意識あるときに会うのは、鬼岩城以来だな。俺のザオリーマは成功したようだけど、調子悪いのか?」

 

レオナ姫の言葉からバランにインパスを使ってステータスを見るが、その能力は元竜騎将とはとても思えない、周囲の兵士と大差ない能力だった。

 

「恐らく竜の騎士である私に、無理に蘇生呪文を使用した反動だろう。命だけは助かったが、魔力はもちろん竜の騎士としての力も全て失ってしまい、今の私は人並みの人間でしかない」

 

もしかして今までの俺の蘇生呪文が成功しなかったのは、復活させた相手にダメージと能力低下を与えるからではないだろうか?

 

しかも割合とかではなく固定ダメージを与えているようなので、それに耐えきれない者は蘇生すらされないのだろう。

 

「…悪い。もしかしたら、俺が未熟な呪文を使ったことが原因だったかもしれない」

 

俺がバランに頭を下げようとすると、ダイがそれを止めてくる。

 

「謝らないで、レイザー。あの場で蘇生呪文を使えるのはレイザーしかいなかったし、もし呪文を使ってくれなかったら、父さんと二度と話すことは出来なかったんだから」

 

そう言いながら、ダイはバランの手を握り締める。

二人が揃ったところを見るのは初めてだが、どうやら親子仲は順調なようだ。

 

「レイザー様。ひとまず、中にお入りください。他の方にレイザー様を紹介しなければならないですし、今の状況を説明します」

 

どうやら抱き付くことに満足したらしいクーラが、ようやくのしかかるのを止めてくれた。

 

 

----マァムSide----

 

先ほどのひと騒動があった後、クーラとナーミラに引かれながら合流したレイザーと情報交換をする。

 

見た目だけは綺麗な精霊とエルフに囲まれるレイザーに視線が集まるが、二人がどういった人物か嫌というほど周囲に伝わっているため、嫉妬の視線はなかった。

 

「…そっちの状況はわかった。バランを受け入れてもらうために女王様とどういった会話をしたのか気になるが、時間もないし、後で直接聞くよ」

 

相変わらず頭だけはよく回るようで、簡単な説明でレイザーはこちらの状況を理解してくれる。

 

対するレイザーは、地上に残された魔王軍の拠点を調べ、役立つ物がないか探していたらしいが、バーンパレスによる無差別攻撃もあり、収穫は今一つだったとのことだ。

 

実際渡されたアイテムも、何に使うかわからない黄金の腕輪や、女性にケンカを売っているとしか思えない水着のような防具ばかりだった。

 

違う意味でレイザーを勇者として見るような視線が増えていく中、唯一異なる視線を向ける人物がいた。

 

「ふふふ…。噂通り、あなたは面白い人ですね」

 

まるで眩しい物を見るかのように、フローラ様はレイザーを見ている。

 

「レオナ姫やアバンの使徒から聞いていますが、あなたは普段からそうやって自分が道化となることで、私達を和ませてくれているのでしょう?」

 

ポップやレオナ姫は「何を言っているのですか?」と叫びたそうにフローラ様を見ているが、それでもフローラ様の話は止まらない。

 

「生み出した幾つもの優れた武術。誰も作ることを真似できない道具の数々。大魔王でさえも一瞬にして正気を失わす戦い方。そしてこれほどのことが出来るにも関わらず、横柄な態度を取ることなく皆に接し、精霊やエルフからも慕われている。…アバンもあなたのように、普段はその素顔を隠していました」

 

…どうしよう。

恐らくフローラ様は先生のような素敵な前例があったせいで、レイザーのことをかなり誤解している。

 

レイザーもそのことを察したのか、必死にフローラ様の言葉を否定していく。

 

「…なるほど。あなたは普段からそうやって、敵どころか味方さえも欺くようにしているのですね。でも、忘れないでください。私やあなたの恋人のように、あなたがしていることを本当にわかっている人もいるのです」

 

今まで見たことのないような表情で、レイザーはこちらに助けを求めている。

あのレイザーでも、純粋な好意で絶賛されるのは苦手らしい。

 

結局フローラ様による先生へののろけ話は、テランからの古文書の解説が終わったという学者が来るまで続いた。




他作者様の小説を探している時に気づいたのですが、この話が累計ランキングで一時100位以内に入っており、嬉しさとプレッシャーとかでちょっと涙ぐみました。

始めた当初はここまで来れるとは到底思っていなかったため、読んでくださっている方々のおかげとひとえに感謝です。


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【第25話】神は言っている。そいつは連れてくるなと

いつものことながら、遅れて申し訳ありません。

定期的に他作者様との出来の差に恥ずかしくなることがあり、投稿に二の足を踏んでいました。

最近は自分の作品をスクエニのジャンルで例えると、半熟英雄のようなポジションなんだと、強く強く言い聞かせて頑張っております。

【2015/11/10 追記】
破邪の洞窟で習得する呪文と階数を間違えていたため、修正を行いました。

話の展開に変更はございません。

【2018/2/27 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----マリンSide----

 

テランからの古文書調査が終わってまもなく、バーン達に捕らえられたヒュンケルとクロコダインの処刑が魔王軍の呪法によって通告された。

 

その執行日は明後日ということで、今まで決戦に備えていたメンバーは一斉に動き出す。

 

兵士達の皆は装備の確認と、レイザーさんとの合同訓練。

ダイ君とノヴァ君、そしてバランさんは剣の特訓。

 

またレオナ姫やフローラ女王などの女性メンバーは、大魔王の居城へ乗り込むために必要な伝説の呪文を習得するため、破邪の洞窟へ潜っていった。

 

他にも何をしているか把握していないメンバーもいるが、私はレイザーさんが浮気しないようにとクーラちゃんに頼まれて、エルフ族のナーミラさんに付き添っていた。

 

「タン、タン、トン、タタントン…♪」

 

そのナーミラさんはレイザーさんの指導の下、訓練で傷ついた兵士達に機嫌良さそうにステップを踏む。

 

時々わざとらしく失敗して、チラチラとレイザーさんに怒られたそうにしていることからレイザーさん達と同じくこの子もどこかおかしいが、彼女が踊る『ハッスルダンス』はレイザーさんと同じ踊りとは到底思えないほどに可憐に見えるため、兵士達は彼女から目を離せずにいる。

 

その一方、彼女の眼球はガラス玉にすり替えたような生気を感じない不気味な目であるためか、傷が治ることと引き換えに皆の生気を奪っている気がする。

 

いい加減彼女を止めてもらえないかとレイザーさんに視線で訴えていると、私の視線に気づいたらしく、先ほどまで兵士達相手に天変地異を引き起こしていたレイザーさんがこちらを見る。

 

「どうした?やっぱり、レオナ姫達に付いてく助っ人がクーラだけだと不安か?」

 

違う、そうじゃないんです。

 

ちなみにクーラちゃんがここにいない理由は、私からレオナ姫たちと破邪の洞窟へ行ってほしいと頼み込んだからだ。

 

当初クーラちゃんはレイザーさんと離れるのを嫌がったが、何故かレイザーさんがレオナ姫たちに付いていくように説得し、現在に至る。

 

「あー、そうではなくてですね…。そ、そうです。破邪の洞窟にすごく行きたがっていたレイザーさんが、どうしてクーラちゃんを説得してまで行かなかったのか、気になったんです」

 

「そりゃ、不思議のダンジョンみたいな洞窟があると聞いたら行きたかったけど、今回はダイのためにも行くわけにはいかないからだよ」

 

レイザーさん曰く、ダイ君にとって初めての人間の友達であるレオナ姫は特別な存在らしい。

そんなレオナ姫が破邪の洞窟へ入って呪文を取得し、大魔王に立ち向かうことを納得してもらうために、今回は女性だけのパーティで目的を達成してもらう必要があるとのことだ。

 

「それだっていうのに俺が行ったら、ダイは心のどこかで納得できないかもしれないだろ。他にも俺は兵士達との交流が少ないから、訓練もかねてお互いの実力を確認し合う必要もあったから、洞窟に行っている場合ではないと判断したんだよ。…そして、なぜ俺の顔をつねる?」

 

「ごめんなさい。てっきり、モシャスで誰かが化けているのかと…。あと何で頬をつねっているのに、普通に喋れているんですか?」

 

これまでと違って急にまともなことを言い出したりするレイザーさんを、思わずつねってしまった。

ちなみに普通に話せているのは、マホトーンをかけられた際などの状況でも呪文の詠唱ができるようにと、腹話術を覚えたからとのことだ。

 

「とにかく俺が付いていかなかったのは、さっき言った通りだ。まぁ、心配しなくても探索に必要な特技をクーラは一通り覚えているから、問題はないはずだよ」

 

 

----レオナSide----

 

大魔王から宣告された捕らえたヒュンケル達の処刑時刻までに間に合わせるため、わずか1日で古文書に記されていた上位の破邪呪文ミナカトールを習得することが必須条件となったことから、私達は現在破邪の洞窟の25階を目指している。

 

フローラ様達に解読された古文書によると、この破邪の洞窟は人間の神によって作られ、その困難を乗り越えた者に封じられた幾つもの呪文を授ける場所だという。

 

その呪文は各階毎に異なる呪文を取得できる反面、深い階層になるほど魔物も罠も凶悪になり、どんな屈強なパーティも容易に突破することは不可能と断言されている。

 

…断言されているのだが、世界で最も困難なはずのダンジョン探索は、クーラによって特技の見本市にされていた。

 

「またモンスターの群れですか。『輝く息』で一掃しますので、離れてください。…片付きました。レミラーマ。次の階段はこちらのようです。…それとレオナ姫。その開けようとしている宝箱は先ほどインパスをして、ミミックだとわかっていますからやめてください」

 

彼女が使う特技はどれか一つでも使えれば一流の冒険者としてやっていけそうなものばかりで、それを湯水のごとく使っているため当然と言えば当然だが、私達のダンジョン攻略は山も谷もない平坦な道のりだ。

 

1階ごとに攻略の難易度が上がり続けているとはいえ、わずか7時間で21階まで来てしまったため、このまま何の苦労もなく目的の階まで行けそうな気がしてしまう。

 

「…私、来た意味あるのでしょうか?」

 

クーラの様子を見て、メルルが呟く。

 

ドラゴンのようにブレス攻撃が出来たり、迷った時はレミラーマで道案内できたり、飛べたりと、何でもありの光景を見せられているので気持ちはわかる。

 

ただ先ほどから特技を披露するたびにフローラ様から褒められているクーラだが、その表情は晴れない。

 

「私の特技は全てレイザー様の二番煎じで、レイザー様の技に比べると魔力や体力の消費が大きいため、あまり過信しないでください。それにこの洞窟自体、ルーラやリレミトなどの呪文を封じるだけでなく、人間以外の能力を抑える力があるようで、暗黒闘気もうまく使えません」

 

「暗黒闘気を使いこなす精霊のほうが、おかしいと思うのですけど…。そういえば、クーラさんは着替えなくてよかったのですか?」

 

私達は邪気を払う効果がある特殊な法衣を着ているのだが、クーラだけはそれに袖を通そうともせずに、持参の武具を身に着けている。

 

「私が身に着けている物は、頭から足の先まで全てレイザー様が私のために作ってくれた物です。私にとってこれが三界一の装備ですから、他の装備はいりません」

 

「クーラさんは、本当にレイザーさんが好きなのですね。そこまで人前ではっきり言えるほど人を好きになれるなんて、羨ましいです…」

 

クーラが自慢げに断言する姿を、メルルは尊敬のまなざしで見ている。

時間に多少余裕があるためか、フローラ様も微笑みながらそれを特に咎める様子はない。

 

「本当に、レイザーと同レベルの特技を使えるあなたがいて助かるわ。このペースなら25階で呪文を習得して、脱出する時間も確保できそうね」

 

「…もっと急ぐ必要があるなら、レイザー様に『できれば使うな』と言われた奥の手がありますが」

 

「そういった不吉なことは言わないで。ちなみに、もしいざという時になったらどうするつもり?」

 

嫌な予感がしつつも、ちょっとした好奇心からクーラに尋ねてしまった。

この子の思考は、割とレイザー以外どうでもいいと思っていることを忘れていたのだ。

 

「こういうつもりです。…『地割れ』!」

 

突然クーラが地面を殴り、洞窟の床を崩壊させる。

私達は為す術もなくその崩落に巻き込まれ、一気に落下していく。

 

そのまま地面に叩き付けられ、何とか皆ケガなどしていないことを確認すると、マァムは自分だけ飛んで落下を免れたクーラを睨みつける。

 

「なにか、言いたいことは、ないかしら…!」

 

「これでショートカット出来ました。ただ思ったより床はもろいらしく、一気に23階まで行けたようです。得しましたね」

 

クーラの相手を煽っていくスタイルに、マァムは怒りを爆発させる。

 

「あなた、このダンジョンを作ったと言われている人間の神に『最初からやり直せ』と言われても仕方ないことをしてるわよ!?」

 

「大魔王によって地上が消滅させられそうになっているのに、薬草一つ寄こさない神なんかどうでもいいです」

 

「私達、その神が残した力を借りに行っている途中なの!それとお願いだから、自分の種族を考えて発言して!!」

 

マァムがクーラに怒鳴る中、同じく崩落に巻き込まれたフローラ様は皆と違って、優しくクーラを咎めるに留めていた。

 

「フローラ様。もう少しクーラに怒ってもいいんですよ?」

 

私の発言を、フローラ様は微笑みながら断る。

 

「彼女の行動は、好きな人に早く会いたいと思っての行動よ。これまでも歩きながら自分にベホマをしたり、魔力回復のためと思われる薬を飲んだりと、出来るだけ休むことなく進行出来ているのもそのためよ。ちょっと短絡的とは思うけど、可愛らしい気持ちのほうが強いわ」

 

私が勝手に憧れている女性なだけあり、まるで聖母のような方だ。

 

更に優しさだけでなく、常に周囲の警戒を緩めない気持ちも忘れていないようだ。

 

「皆。色々言いたい気持ちはわかるけど、そんな場合でもないわ」

 

フローラ様の言葉に慌てて周りを見ると、崩落の音が引き金となったらしく、ゴーレムやシルバーデビルなど地上では上級に当たるモンスター達があちこちから集まってきている。

 

クーラが火柱を放ってその集団を攻撃するが、さすがにこの階層まで来ると一撃では全滅させることはできない。

 

「鬱陶しいですね。先ほど2階進めましたし、もう一回すればちょうど良いですので…」

 

面倒くさそうなクーラが暴挙に出そうなので、私が慌てて制止する。

 

「危ないから、もう床は壊さないで!それに目的の破邪魔法を使えば、この洞窟によって封じられているリレミトを使えるようになるはずだから、帰還する時間を考えなくて済むわ」

 

併せて敵を全滅させる必要はないので、クーラは進行方向の敵だけを倒すように指示し、クーラの手が回らない相手はマァムに相手してもらうよう頼む。

 

「あの、進むべき方向は私が教えます!ですからクーラさん達は戦闘に専念してください!!」

 

私の発言に、手伝えることを見つけたメルルも協力を申し出てくれる。

 

ようやく私達の心が合ってきたことを感じながら、一つのことを心に誓う。

 

「マァム!帰ったら八つ当たりでレイザーの奴をぶん殴るから、早く帰るわよ!!」




プロットは出来ているのですが、ラストが近いこともあってシリアスな場面が多くなってしまい、話は出来ているのにネタ的に納得いかないからと書き直しまくっている今日この頃です。


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【第26話】7人の六大軍団長

----ダイSide----

 

破邪の洞窟へ向かったレオナ達は、宣言通りにミナカトールを無事取得して帰還することができた。

 

その知らせを聞いて駆けつけると、何故か現在進行形でレイザーがマァム達に追い掛け回されているが、誰一人大きな怪我もなく戻って来てくれて本当に良かった。

 

「ダイ、よく見ておけ。レイザーはレオナ姫が繰り出している拳を、容易くさばいている。力任せに押し返すことなら以前の私でも出来るが、あのように双方に痛みなく、最小限の力で行うことは不可能だ」

 

父さんが、マァムの猛攻を避けつつ、レオナ姫の攻撃をはじくような動作だけで防いでいるレイザーを解説する。

隣でノヴァが「あれが変態に技術を与えるということか…」と呟いているが、何となく意味が分かるし、真似しないほうが良い気がする。

 

「レイザー様。はんぺんの匂いがします。おでんを作ってくれたのですか?」

 

「ん?まぁな。薄着でダンジョンを探索して体が冷えているだろうと思って、海産物を中心にしたおでん風の鍋物だ。ルーラでこれまで行ったことのある土地を巡って、食材を集めたんだぞ」

 

レイザーが息を切らす様子も見せないことで諦めたのか、マァム達は攻撃を止める。

「ちょうどネタに味が染みてきた」というレイザーに誘導され食堂に案内されると、レイザーが厨房から鍋を幾つも持ってくる。

 

「ところでクーラ。ちゃんとレオナ姫やマァムを手伝ったのか?」

 

ふとレイザーが尋ねるが、そのクーラは質問から逃げるように鍋から手掴みで、はんぺんやタコ足を食べ始める。

 

「…こんなことをするために、一人用のフバーハを覚えさせたはずじゃないんだけどなー」

 

「普段クーラちゃんに、どんな教育してるんですか?」

 

マリンの責めるような口調に、レイザーは反論する。

 

「これでもマシになったほうなんだぞ。クーラに初めて何を食べるかを聞いたとき、野菜や果物をリクエストされたんで用意したら水で洗うだけで、生でかじりついていたんだから」

 

話を聞くと、当初のクーラの食事風景は口に食べかすを付け、果汁を垂らしながら手で食べていた。

美女のそのような姿は見るに絶えなかったため、フレイザードのときから四苦八苦しながら調理をし出したのがきっかけらしい。

そしてきっかけはアレだが、慣れてしまえば実験と似たような感覚で、いつの間にか得意となってしまったとのことだ。

 

「レイザーの料理は俺もロン・ベルクさんのところで食べたからわかるけど、上手だと思うよ」

 

フォローするように、俺はレイザーのことを褒める。

するといつの間にか来たのか、そのロン・ベルクさんがチウ達に案内されて現れる。

 

聞くと俺やヒュンケルの武器の修理に加えて、バダックさんが頭を下げてポップ達の武器も作ってきてくれたとのことだ。

 

武器の解説を記した紙を配りながら、ロン・ベルクさんは思い出したように補足する。

 

「あぁ。ちなみにだがレイザーから材料をもらったが、技術は全て俺のものだから安心しろ。…こいつの案は独創的過ぎて使う場面が特定されてしまうため、余計な機能になりかねん」

 

「さすがに人の命を左右する武具作りに、手を抜くことはしないぞ」

 

「お前のアイディアはさっきも言ったが、限定した場面でしか使えないんだ。袋から幾らでも道具を取り出して、臨機応変に対応するお前を基準にするな」

 

レイザーの反論を一蹴する。

続いてロン・ベルクは、父さんに視線を向ける。

 

「お前が竜騎将バランか。…見たところ大した装備を身に着けていないが、真魔剛竜剣はどうした?出来れば極限まで俺の技術を詰め込んだダイの剣が、目標としている真魔剛竜剣にどこまで近づけたか見たいんだが」

 

「今の私は竜の騎士ではない。またダイも真の竜の騎士と認められていないため、剣は行方知らずだ。…もしくはダイが持っているその剣があるから、自分の役目はないと思っているのかもな」

 

少し残念そうだが、納得した様子でロン・ベルクは引き下がった。

 

何だかんだ言って父さんと気が合った様子のロン・ベルクも手を貸してくれることになり、俺も眠くなるまで父さんと話しながら、最後の決戦に備えることとなった。

 

ただ就寝前に部屋に戻ろうとした際、襟首を掴まれたレイザーがクーラに引きずられていて、父さん達は「子供が気にすることではない」と言っていたのが気になった。

 

 

----クロコダインSide----

 

「全く…!ヒュンケル、お前の行動は心臓に悪すぎるぞ!!」

 

宣告された処刑の当日、処刑場にてミストバーンより差し出された暗黒闘気を飲み干し、傷の回復と光の闘気を増幅させるという荒療治をしたヒュンケルを怒鳴る。

 

そしてヒュンケルの行動を引き金に、処刑場周囲に潜んでいた数十もの人間達が一斉に魔王軍に突撃する。

 

「皆、一気に行くぞぉぉぉ!」

 

ブォォォー!ブォォォー!

 

「うおおぉぉぉっ!」

 

ブゥゥゥゥブォォォォォ…!

 

「わああぁぁぁ…!」

 

ブォォォ~!ブゥゥゥオオオォォォー!

 

「さっきから変な楽器鳴らしているのは誰だぁ!?」

 

雄叫びに紛れて聞こえる音に、先ほどヒュンケルに顔面を殴りつけられて怒りをあらわにしているミストバーンがぶち切れる。

確認するまでもなく、名乗り出た犯人はレイザーだった。

 

「貝殻帽子から作った、特性のほら貝だ。皆の士気を高めようと思って自作したんだ」

 

隣にいたポップがその貝殻を奪い取り、これ以上使われないようにレイザーの袋の中へ押し込める。

 

「またお前は無駄に敵を挑発して…!士気を高めてるんじゃなくて、自分の死期を早めているだけだろ!…ちょっと待て。まさかそれも以前使った『戦いのドラム』のように、何かしらの効果があるアイテムなのか?」

 

「は?ただの楽器だけど?何で楽器に特殊効果があると思ってるんだ?」

 

怒りの限界を超えた様子のミストバーンがレイザーに斬りかかるが、ロン・ベルクが横からそれを遮る。

何か因縁があるのか標的をロン・ベルクに変えるが、レイザーは懲りずにミストバーンの後頭部へ『石つぶて』をするという挑発行為をしているため、ミストバーンがこちらを気に掛ける余裕は微塵もなさそうだ。

 

レオナ姫も「殴りたい…!このくそ魔族を殴りたい…!!」と不気味な呟きをしていると、そのレオナ姫を見覚えのない女性が諭す。

 

「しっかりするのです。レイザーはああすることで囮役となり、魔王軍幹部を引き付けているのですよ。今のうちに、ミナカトールを唱える準備をしなさい」

 

「フローラ様。結果としてはその通りですが、絶対フローラ様が言っている意図ではないと思います」

 

納得したとは到底思えない表情をしているが、ダイ達は俺とヒュンケルにミナカトールを唱える作戦を伝えてくる。

そのため俺はヒュンケルを始めとする、アバンのしるしを持つ者たちの護衛に動こうとすると、またもや見覚えのないエルフが近寄って来た。

 

「あの…初めまして。私はレイザー君から『ハッスルダンス』を教わったエルフです。ひとまず、あなたの怪我は私が回復しますね」

 

自己紹介をしたエルフの目は、ザボエラ辺りがモシャスをしたのではと疑いたくなるような汚れたものだった。

だがダイ達は信頼している様子に加え、実際踊り始めると回復しているので、チウから俺用に作ったという斧を受け取りながら治療を受ける。

 

「キィ~ッヒッヒッヒッ…。ミストバーン様。魔軍司令補佐、このザボエラが例の準備を全て完了したことをご報告に参りましたぞ」

 

聞きなれた耳障りな笑いをしながら現れたザボエラを警戒したのか、レイザーはとっさに挑発する相手をザボエラに変える。

 

「まぁまぁ、じいさん。そう慌てんな。元も入れて、久しぶりの六大軍団長が揃ったんだし、ゆっくりしようや。…もっとも、数だけなら4対2でこっちが多いがな」

 

「お前は自分がしてきたことを、胸に手を当てて考えてみるんじゃな。バーン様からは『貴様だけは自分の前に来させるな』と厳命され、キルバーンもお前の相手は嫌だと言い、ミストバーン様も疾うの昔に堪忍袋の緒が切れておる。…貴様の相手は、貴様自身ですることじゃ」

 

どういうことだと尋ねるレイザーを黙らせるように、ミストバーンがザボエラを急かす。

 

「ザボエラよ。これ以上、この精神的人外のこいつを相手にしていられん。バーン様にもお力添えをいただいた、奴をさっさと出せ!!」

 

「了解しました、ミストバーン様。…ヒッヒッヒッ。レイザー、貴様は先ほど4対2と言ったのぅ?…違うな、正しくは4対『3』じゃ!」

 

ザボエラが懐から魔法の筒を取り出し、「デルパ」と叫ぶ。

 

出てきたのはキラーマシンに似ているが、見た目の色や下半身の形状が全く違うモンスターだった。

レイザーはそのモンスターに、見覚えがあるようだ。

 

「『キラーマジンガ』か。破棄した研究を形にしたのは褒めてやるが、また人の褌で相撲を取るつもりか?」

 

期待外れのような視線をそのキラーマジンガとやらに向けるが、そのモンスターは動き出すと同時に笑い声をあげる。

 

「クカカカ…!感謝するぜぇ、ミストバーン!!あの憎たらしい奴を殺せる機会をくださってよぉ!!」

 

突然響いたキラーマジンガからの声に、クーラが呟く。

 

「…え?この声、フレイザード様?」

 

「ヒャーハッハッハッ!そうともさぁ!この俺様こそ正真正銘、氷炎将軍フレイザード様よ!!」

 

驚くクーラ達を小馬鹿にするように、自称フレイザードに続いてザボエラが話し出す。

 

「キーヒッヒッヒッヒッ…!バルジ塔でミストバーン様が、お前を蹴り飛ばしていたのを忘れたのか?あの時に核の断片を回収し、その知識を絞り出すために甦らしたのじゃ。もっとも復活させた人格は、貴様と違ってまともだったがのぅ」

 

「そうですか…よ!」

 

高らかに笑うキラーマジンガに向かってレイザーが氷のブレスを吐き出し、周囲のさまよう鎧達と合わせてフレイザードを氷の塊にする。

 

「…見掛け倒しか?」

 

為すすべもなく氷塊となったフレイザードにそう呟いた途端、氷は一瞬にして蒸発する。

それどころか周囲の土や鎧兵士達をマグマのように溶解させながら、フレイザードは平然と現れる。

 

「ウヒャヒャヒャ!俺はバーン様による魔力で、強力無比な魔炎気を自在に操れるようになったんだよ!!今の俺なら、ハドラーの野郎よりも強ぇはずさ!!」

 

自慢げに語りながらフレイザードは周囲に目を向けていたが、クーラを見ると持っていた剣を突き付けて命令をする。

 

「おい、クーラとか言ったな。俺がテメェの本当のご主人様だ。こいつらを殺すのを手伝…」

 

最後まで言い切る前に、クーラは袋から取り出した吹雪の剣をフレイザードの顔面に投げつけた。

 

「黙りなさい。私は初めて会った時から、ずっとフレイザード様を見てきたのです。それだというのにあなたは声こそフレイザード様と同じですが、声のトーンや挙動など品がなく、どれも似ても似つきません。…誰が何と言おうとも、あなたは私のフレイザード様ではありません」

 

「上等だ、クソ精霊…!貴様の大事なレイザー様の腸をぶち撒けた後、戦場では性別も種族も関係ねぇってことを教えてやんよ…!!」

 

状況がわからないヒュンケルが、レイザーにどういうことか尋ねる。

レイザーは珍しく呆然とした様子だったが、こちらの質問には答えた。

 

「…あいつが誕生当時の、本当のフレイザードだよ。俺は鬼岩城でバーンからメダルをもらおうとした際に、奴を上書きして誕生した謎の人格さ」

 

「確かにあの喧しさと不快感は、見覚えがあるな。メダルを取った際にバーンに悪態をついたときは何事かと思ったが、そういうことだったのだな」

 

バランもそのことを思い出したようで、合点がいったような表情を浮かべている。

 

そしてフレイザードは俺達がレイザーと呼んだ人物に気づいたらしく、今度はレイザーに剣を向ける。

 

「よう。随分と俺様の体を使って、好き放題してくれたそうじゃねぇか。お前は俺の知識を吸収したようだが、今度は俺様が貴様の知識を使わせてもらうぜ…!」

 

バルジ島での本気だったフレイザードとの戦闘を思い出し、冷や汗が出る。

だがレイザーはため息をつきながら、フレイザードの言葉に反論する。

 

「下手なハッタリだな。お前、俺だった頃の記憶はないだろ?まずクーラのことを、人伝てに聞いたようなことを言っていた。そしてもし俺の記憶がお前にあるなら、以前戦った際にバーンが俺の特技について尋ねるはずがない」

 

興ざめしたように一つずつ指摘をしていき、そして最後に断言をした。

 

「なによりも俺の記憶があるならば、今この場でお前が踊らないはずがない!」

 

「テメェの記憶が十全でも、それだけはあり得ねぇよっ!」

 

キレたフレイザードが、剣を振り下ろす。

その一撃を半身を反らすことだけでかわしつつ、レイザーはフレイザードに宣戦布告する。

 

「せっかくのご指名だ。お前は俺がこの世界に生まれて最初に殺した相手なんだから、特別待遇のおふざけなしで、全力で殺し直してやる」

 

クーラもいつものように付き添うことを懇願するが、レイザーはそれを強く拒絶した。

 

「やめてくれ。…俺は最初から誰かを殺していたにも関わらず、『殺しはしたくない』って甘いことを言ってきたんだ。その結果がコレなんだから、俺がきちんとけじめを取る」

 

バルジ島で俺達と戦った以来の覇気に満ちた表情を浮かべ、レイザーはそう断言した。

そして目にも止まらぬスピードでキラーマジンガの弓矢となっている尾を掴むと、ハンマー投げの要領でコロシアム状となっている処刑場の外へと放り投げる。

 

「どうせなら、もっと広いところで遊ぼうぜ!…俺はあっちでケリをつけてくるから、ダイ達を任せた!!」

 

一方的にそう言うと、レイザーは場外に放り投げたフレイザードをルーラで追って姿を消す。

 

その光景を、ミストバーンは満足そうに眺めていた。

 

「計画通り、これであの歩くパルプンテは遠ざけた。…次は貴様らだ。奴の研究を元にして作ったのは、これだけではないぞ!」

 

ザボエラとミストバーンの号令と共に、魔法の玉から魔界のモンスターや、以前見た鋼の竜。そしてキラーマシンに似たモンスターが何十体も出る。

 

「『メタルハンター』ですね。キラーマシンの劣化版ですが、さまよう鎧やキラーアーマーよりかは遥かに上位でしょう」

 

これらもレイザーの研究らしく、知っていたクーラが呟くが、その声は怒りに震えていた。

 

「貴様らが用意したおもちゃのせいで、レイザー様に拒絶されて今の私はすこぶる機嫌が悪いんです。…先ほどミストバーンは『暗黒の力に限界はない』と言ってましたが、それは私にも言えるということを証明してやります」

 

暗黒闘気を揺らめかせながら、クーラはギョロリと視線を獲物に定めた。




【追記1】
色々言われたいことがあるとは思われますが、今回の「キラーマジンガ in フレイザード」は当初からどうしてもやりたかった展開でした。

個人的トラウマなキラーマジンガを出したいと思っていたのですが「さまよう鎧」のような物言わぬ機械では物足りず、また原作では竜の紋章を出さずにやられてしまったフレイザードの強いシーンを書きたいとも思っていたので、組み合わせることにしました。
第8話のバルジ島でミストバーンからの鎧をオリ主が受け取らなかったのも、この場面が二番煎じにならないようにするためでもありました。

そして「戦いたくない、殺したくない」などと言ってるキャラの前に、実は以前殺しそこねた人間やその関係者が復讐に来るという展開も好きなため、これも合体させました。
…投稿前から書いていた展開なため、詰め込み過ぎな気もしましたが。

また次回以降、表記上ややこしいですが「フレイザード = キラーマジンガ」という認識で読んでいただけますよう、お願いいたします。

【追記2】
最近になって気付いたのですが、どうやら私、軽度の「ネタを挟まないと死んじゃう病」にかかっているようです。

そのせいか投稿前にノリノリで書いていたはずの最近の展開や今後のガチバトルシーンを見ると、物足りないどころかむしろ苦痛で、「心の赴くままに、ゼロから書き直すのです」という悪魔に何度も囁かれています。


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【第27話】対決!力のフレイザードと技の元フレイザード

更新遅れて、申し訳ありません。
遅れた理由は単純で、元々シリアスにする予定だった路線を変えようとしたところ出来栄えが悲惨で、1周まわってプロット通りに落ち着いてしまいました。

…要するに今回は非常に珍しい戦闘シーンで、これまでと比べると代筆を疑われるような雰囲気になっています。


----レイザーSide----

 

「チョロチョロチョロと…!テメェは地べたを這う虫と同じことしか出来ねぇのか!?」

 

浮遊しながら両手に持った剣とメイスを振り回すキラーマジンガの攻撃を必死に避ける俺に、フレイザードは文句を言う。

 

「お前こそ、その体の基本設計をしたのが誰かわかってんのか!?キラーマジンガの攻撃力で一撃でも喰らったら、俺なんか即お陀仏だぞ!」

 

俺がキラーマジンガの研究を破棄した理由は、キラーマジンガを宙に浮かせ続ける技術がなく、作っても固定砲台になると見込んだためだ。

しかし今のフレイザードは、ポップ達から聞いたバーンの魔力によって浮遊する石と同じ技術を使っているようで、ド●のようにホバー走行で追い掛け回してくる。

 

この状態のキラーマジンガでさえ手一杯なのに、全身から魔炎気を放つなど防御面も強化され、正面からではとても勝てる見込みがない。

実際一度ノコノコ近づいたときは魔炎気を使われて皮膚が焦げ、喉もやられてしまった。

回復呪文を使ってはみたが、この炎も暗黒闘気と同じらしく回復呪文での治療はできない。

 

当然『ハッスルダンス』を踊る隙があるはずもなく、喉や皮膚の火傷はそのままだ。

 

それでも何とか逃げ回れている理由は、俺が密かに特訓していた、複数の特技を連続で使用できるようになったからだ。

 

今も『疾風突き』の動きで移動しながら、『身かわし脚』と気休め程度の『瞑想』で戦線を維持している。

正直この動きは足の筋がちぎれそうなほど痛いので止めたいが、そうでもないとこのフレイザードは俺の相手をやめて、ダイ達の下に向かって行くだろうから止めるわけにはいかない。

 

そんな俺の様子に、フレイザードは苛立ちを募らせる。

 

「情けねぇ…。それでも俺を一度は殺した奴か!それにさっきまでの勢いはどうした!?あとお前、口動かさずにどうやって喋っているんだ!?」

 

「勢いなんて、虚勢に決まってんだろ!それと声は腹話術だ!!」

 

「気持ち悪ぃよ!」

 

『疾風突き』で高速移動する俺に痺れを切らしたのか、フレイザードは目からレーザーを何発も放つ。

 

近距離で放たれたら危なかったが、あからさまに目線をこちらに向けていたため、なんとか無傷でかわす。

 

(まだだ…。俺が相手より優れている点は、圧倒的に実力差があることによる慎重さだけだ…!)

 

まともに戦いができないなら、意表を突く形で一気に決めるしかない。

そのため恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ回り、相手の行動パターンと能力を確認していた。

 

その結果、どうやら暗黒闘気にキラーマジンガの武器が耐えられないためだろうが、暗黒闘気と斬撃は同時にしてこない。

またさっきからニフラムを連呼しているが反射している様子はないため、マホカンタの効果は所有していないようだ。

 

だがその体はヒュンケルの魔槍の鎧と同じく呪文が効かないため、接近せずに効きそうな特技は『稲妻』ぐらいしかない。

 

そのため次の手としてラリホーなどの補助呪文を使おうとしたが、バーンあたりが何かしたらしく、コアの位置はわかるがヒム達のように直接呪文をかけることができない。

他の特技では『津波』なら効きそうだが、向こうで戦っているクロコダイン達にも水害が行ってしまいそうなので却下だ。

 

「…覚悟を決めた。そろそろ攻めに転じさせてもらう!」

 

勝てるかもしれない算段をつけ、逃げ回るのを止めてフレイザードと向き合う。

 

「へぇ、面白ぇ…。ほら、やれるもんならやってみろ。特別サービスで、一発だけ抵抗しないで喰らってやるよ」

 

俺の態度に対して、ハッタリだと決め込んでいるのかフレイザードは余裕をかます。

 

お言葉に甘えて、逃げ回りながら込めていた魔力を一気に解放する。

更に媒体として袋から剣を取り出し、地面に作った魔法陣に突き刺して電撃系の特技を放つ。

 

「せっかく地獄から来てくれたんだ。故郷の名産品で歓迎してやるよ!『ジゴスパーク』!!」

 

俺ごときが使うには惜しい技だが、今のキラーマジンガに効果がありそうな技は少ないので、選り好みしていられない。

プライドを捨ててまで使った甲斐あって、空中にいるキラーマジンガは悲鳴を上げ、体からは煙を出しながら動きを鈍らせる。

 

ようやくキラーマジンガに近づけるようになったため、フバーハを掛け直しつつ、袋から武器を取り出しながら一気に突っ込む。

 

「その体の基本設計をしたのは俺だって言ったよな!?強度が足りないところも、覚えているさ!」

 

ギミックが多いおもちゃは壊れやすいというが、俺が設計したキラーマジンガは特に上半身と下半身の付け根が弱い。

そこを狙いながら『気合ため』を行い、『剣の舞』を魔人の金槌でたたき込む。

 

「て、テメェ!どう考えても、その武器でその動きはおかしいだろ!?」

 

『剣の舞』による連続攻撃で胴体を叩き割られたフレイザードが何か言ってるが、こっちも色々物理法則を無視しているせいか腕が痛いため相手にしない。

 

「ほら!これはおまけだ!」

 

上半身だけになったキラーマジンガの目に向かって、デーモンスピアを投げつけて相手を地面に貼り付ける。

 

「がぁ…!貴様、いつまで攻撃するつもりだ!?」

 

「次で終わりだよ!少し準備が必要な他人様の呪文だが、確実に仕留められる呪文だ」

 

俺が使える技で数少ない決めてになる呪文メドローアを唱えるため、キラーマジンガの上空に飛ぶ。

だがその準備のため両手に魔力を込めた途端、フレイザードが笑い出す。

 

「クカカカ…。詰めが甘ぇんだよっ!」

 

キラーマジンガが持っていた剣を投げつけ、その投げた剣は俺の右肩に突き刺さる。

切断されることはなかったが腕が上がらなくなり、これではメドローアを始めとする両手を使う極大呪文を撃てない。

 

しかも投げた剣に魔炎気を込めていたのか、傷の治療をしようにも回復呪文の効果がない。

 

「くそ…!暗黒闘気と同時に武器を振れないんじゃないのか!」

 

「ウヒャヒャヒャ!俺様の名演技にかかったな!テメェみたいな奴が精霊に作った生半可な武器が暗黒闘気に耐えれて、バーン様よりいただいた俺様の武器が耐えられないわけないだろが!!…それに、こんな槍一本で俺様の動きを封じれたと思ってんのか!?」

 

こちらを小馬鹿にしながらキラーマジンガの装甲がはじけ飛び、その鎧の破片が剣を刺され激痛に悶える俺に容赦なく激突する。

 

「俺様の手札はまだまだあるぜ?この技は『弾岩爆花散』の応用だ。このまま死ぬまでなぶってやるから、簡単に死ぬんじゃねぇぞ!?」

 

はじけ飛んだキラーマジンガの機体は鉄板となり、俺の周囲を浮遊しつつ、隙あらば全方位から幾度となく叩き付けられるが、必死に他の攻撃手段を考える。

その表情がフレイザードにはおかしいらしく、狂った笑い声を更に高ぶらせる。

 

「いいぜ、いいぜ…!俺様は勝つのも好きだが、自慢げに逆転できると思っていた奴の顔が苦痛に変わる今の表情も好物だぜ!」

 

「悪いが俺は女好きなんだ。そういうのは他を当たれ…!」

 

頼みの綱であるメドローアが使えない今、もう一つの切り札を使うための呪文を唱える。

これは『津波』ほど周囲の被害が酷くないとはいえまともに使える技ではないが、もうどうしようもないため、俺が片手で撃てる最強の技を唱える。

 

「どうした?どうしたっ!どうした!?諦めたのなら、這いつくばって命乞いでもしな!そうすればさっさとトドメをさして、バーン様への土産話にしてやるよ!」

 

(言われなくても、最後の抵抗をさせてもらうさ…!)

 

特技を使うための魔力を貯めつつ、覚悟を決める。

そしてキラーマジンガの破片とコアを全て巻き込める位置まで近づいたのを確認して、一気に特技を放つ。

 

「これが俺の切り札だ!…ルルスボ・サケム!!」

 

特技を放った瞬間、俺を中心に大爆発が起こる。

 

先ほど使ったのはただの「ビックバン」だが、俺が使うと自分自身も大爆発に飲まれてしまうため、自虐としてこう呼んでいる。

そのかわり呪文の威力は俺の使える特技ではトップクラスで、初めて使ったときはクーラを巻き込んでクレーターができたほどだが、自爆技として自粛していた技だ。

 

だがこの場での選択は正しかったらしく、うかつに近づいたキラーマジンガの破片はほとんど消滅し、残っていても精々砂粒程度だ。

 

「テメェ…何の、呪文を唱えやがった…!」

 

俺と同じく爆破の直撃を受け、コアがむき出しになりながらもフレイザードは怒気をぶつけてくる。

 

「元々は街一つを消し飛ばす呪文だ。…俺が使ったら、この程度の威力だけどな」

 

「ふざけんな…!ふざけんなっ!」

 

フレイザードは暴れようとするが、もはや砂鉄と化したキラーマジンガでは声を出すので精一杯なようだ。

 

「こんなはずじゃねぇ!俺様は楽勝でテメェを殺し、そしてチビの勇者共を片付け、魔王軍幹部として、バーン様の右腕として…!」

 

「夢を語っているところ悪いが俺だってお前と同じように、他人に技を教えることで生まれた証を作ろうと必死なんだ」

 

体を引きずりながらキラーマジンガだった灰をどかし、コアを手に取る。

 

「だからお前の立場を奪ったことは申し訳ないとは思うが、それはそれ。…これで俺の勝ちだ」

 

掴んだフレイザードのコアを、なけなしの力で握り潰す。

コアから魔力が途絶えたのを確認し、周囲に敵意がないことを確認してようやく地べたに寝込む。

 

「まったく…!俺みたいな奴に、本気になってどうすんの…!!」

 

肩に刺さった剣を抜きながら、今の状況をぼやく。

 

そしてダイ達がいた方向を見ると、光の柱が出ているためミナカトールは成功したのだろう。

しかし戦闘中と思われる叫びや武器がぶつかる音がするため、クロコダインあたりが頑張っているはずだ。

 

すぐに助けに行ってもいいが、片手が使えない瀕死の状態では邪魔にしかならないため、今は回復に専念しよう。

 

「とりあえず…『寝る』か」

 

これを特技と言っていいか怪しいが、この『寝る』は回復力なら『瞑想』以上の特技だ。

ただ原作と違って、『寝る』を使った後に動き回れないのが欠点だが。

 

「…介錯が必要か?」

 

頭上からかけられた声に、意識を手放そうとしていたのをザメハでつなぎとめる。

目を見開くと、先ほどフレイザードに投げつけたデーモンスピアを俺に突きつける魔族がいた。

 

正直もう虫の息だが、なんとか勝機を探る。

 

「ふ、ふふふ…。残念だったな。俺が弱ったところに現れたつもりのようだが、むしろやっと体が温まったところだ」

 

「四つん這いの状態で言っても説得力ないぞ」

 

「これは獣の姿勢を取り入れた戦闘スタイルだ」

 

「足が生まれたてのシカのように震えているが?」

 

「武者震いだ!…嘘、ごめん。無理」

 

多少言葉を交わしただけで体力が尽き、もう四つん這いになることすらできず、地べたにうつ伏せに倒れる。

 

「くそ…!だが俺は大魔王と戦ったメンバーの中では最弱。そして俺自身はともかく、俺にはまだ第2、第3のお助けモンスターがゴホッゴホッゲホッ」

 

破れかぶれで『召喚』をしようとしたが、まともに魔力を練れないほど体は衰弱しているらしい。

無理をすれば発動させることはできそうだが、以前魔力をケチってやったときはウゴカザルが出たので、今回も同レベルのモンスターが出そうだ。

 

だが目の前の魔族は、そんな俺の様子を呆れるように眺めているだけだった。

 

「何を言いたいのかわからんが、血反吐を吐くぐらいなら黙っていろ。…それにお前と一戦交えるつもりで声をかけたんじゃない。ただ勇者ディーノ様のお役に立つため、この槍をくれないかと言いに来たのだ」




【追記1】
約2か月ぶりの更新となり、申し訳ありませんでした。
今回は本当に作るのが難しく、3回ぐらい白紙にして書き直しました。

最終的に昔の中二病だった頃を思い出し、震えながら無理にテンションを上げました。

【追記2(というよりおまけ)】
レイザーの決めてとして考えてましたが、結局没ネタとなった物です。
作者の迷走ぶりの参考として晒しときます。

■『輝く息』と『魔人斬り』を組み合わせて、疑似魔法剣『マヒャド斬り』。
 →レイザーのくせに格好いいのでボツ。

■トベルーラで頭上を飛んで、『吹雪の剣』と『雷鳴の剣』を袋から落下させる『ゲート・オブ・バビ■ンごっこ』。
 →タイトルに反してアイテム頼りな上、いじめっぽいので却下。

■トベルーラで頭上を飛んで、袋から色々な液体をぶちまける。
 →ド○えもんのパクリな上、完全にいじめなのでなかったことに。


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【第28話】ギャグ補正→捨てる「それを捨てるなんてとんでもない!」

2月中のことですが、誤字報告機能を用いて誤字の指摘をされた方がおりました。

直接ご連絡するのも失礼と思い、この場を借りてお礼させていただきます。
ありがとうございました。

【2017/02/26 追記】
あまりに作者の誤字が多く、ご指摘いただいた方が増えているため、話ごとに累計を記述させていただきます。

本日までに、7名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
ありがとうございます。
(一部意図的に適用していなかったり、修正している場合もございます)

また今後ご指摘をいただいた際は、基本対象の話にお礼の言葉を書かせていただきます。



----バランSide----

 

力が欲しい。

竜の騎士だった頃から幾度となく思ったことだが、以前持っていた力を失った今ほどではなかった。

 

仲間を殺してまで死体を作り、その死肉を部品として用いて自身をパワーアップさせるという非道な行為を行ったザボエラに対して、何もできない自分の非力さを嘆く。

 

「何をしているのですか、竜騎将バラン。レイザー様が戻れば、容易く状況を変えられます。それまであなたの指揮が必要なのです」

 

超魔ゾンビを暗黒闘気で押さえつけるクーラが、体力が尽きた私を叱咤激励する。

 

この精霊は先ほどまで戦っていた魔界のモンスター達にもそうだが、ミストバーンの『闘魔滅砕陣』までも使いこなし、私と違って地上に残ったメンバーの主力となっていた。

そして今も、懸命にザボエラを暗黒闘気で縛りつけていた。

 

その間にも何名もの人物が超魔ゾンビに攻撃をするが、その肉体の毒素で武器は腐食し、ダメージを与えられる者はいない。

 

「先ほどレイザー様の『ビックバン』が見えました。ならば既に決着は付いているはずですので、もうひと頑張りです」

 

【イタイヨー!コレ、ハズシテヨー!】

 

「…買いかぶり過ぎだ。確かに竜の騎士だった頃の知識はあるが、私がこれまで知りえなかったことまではわからない」

 

【エルフダッテ、イタイトカ、ツウカクハアルンダヨ!?イタ、イタタ!イタイッテバ!!】

 

知識だけでなく、かつて存分に振るえていた剣術や体術も今の能力では体がついていけず、完全に宝の持ち腐れだ。

老いというのは、こういった感覚なのだろうか。

 

「ヒ~ヒッヒッヒッ…!随分とか細い暗黒闘気で粘るが、いつまで続くかのぅ…?」

 

クーラの『闘魔滅砕陣』が徐々に弱まっていることがわかっているため、ザボエラは強くは抵抗せず、焦燥感に駆られる私達を見て楽しんでいた。

 

ミナカトールは魔を退ける効果があるため、ザボエラを抑えるほどの威力を出し続けるのはクーラでも厳しいのだろう。

 

「っ…!まだまだです!!この程度で音を上げては、レイザー様にお褒めの言葉を受ける資格はありません!!」

 

「もう音を上げてよ!さっきから私、クーラさんの暗黒闘気に巻き込まれているんだけど!?」

 

気合を入れ直したクーラに、先ほどから意識して無視していたエルフの娘が叫び声を上げて抗議する。

 

当初このナーミラは皆に『ハッスルダンス』をしていたのだが、ナーミラのそれは対象の視覚に入らないと効果がないことがこの場でわかった。

そのため弓による援護に切り替えていたのだが、クーラによって超魔ゾンビの側に放り投げられ、ザボエラ諸共、『闘魔滅砕陣』の餌食になっている。

 

「ねぇ、いる!?私、今この場で縛られる必要ある!?」

 

「私の暗黒闘気を維持するには、何かモチベーションが必要なのです。レイザー様に『ハッスルダンス』を使えると堂々とアピールしときながら、土壇場で使えない報いを受けなさい」

 

「報いって言った!?ぜったい私怨入ってるよね!?それにレイザー君もこの踊りの欠点に気づかなかったし、仕方ないと思わないかな!?」

 

「私の前でレイザー様に責任転嫁するとは、思ったより余力がありますね。さすが脱がなくてもひどいと噂のエルフですね。これで私も、まだまだ頑張れそうです」

 

「またエルフの悪口言った!!というか何か暗黒闘気の出力が上がっt…痛い痛い痛いってば!いい加減、私でも怒るよ!?私はレイザー君に指導するように怒られるのが好きで、こういった痛みは好きじゃない…痛い痛い痛い痛いごめん!ごめんってば!!」

 

言い争うクーラとナーミラだが、当のナーミラは怒声を上げながらもいつも通りの満開の笑みを浮かべているため、演技なのか本気なのか判断に困り、助けを出しにくい。

 

更にザボエラがこのやり取りに爆笑していることから足止めが出来ているため、ますます止めるべきか踏ん切りがつかない。

 

「珍しいな。即断即決の竜騎将様が、そんな表情をするなんてよ」

 

どうすればいいかと迷っていると、上空からレイザーが現れて私の横に立つ。

遅かったことに対して何か言うつもりだったが、レイザーの様子を見て言葉を失くす。

 

「ヒッヒッヒッ…。随分と酷い様子ではないか。さすがの貴様でも、自分殺しは堪えたようじゃのう?」

 

私と同じくザボエラはレイザーの身なりを見て、愉快そうに笑う。

 

レイザーの服と顔は焦げや煤だらけで、肩には乱暴に包帯が巻かれて、傷口からは血がにじんでいる。

更に片腕をダランと垂れ下げている様子から、そちらの腕は上げることができないのだろう。

 

慌てて『闘魔滅砕陣』を解いたクーラと解放されたナーミラが近寄るが、レイザーは「そのうち治るため心配は不要」と言い張る。

 

「転生元になった魔族の体が優秀らしく、もう少しで動かせそうだから気にしないでいい。…それよりも、その変な巨人からする声はザボエラか。お陰様でだいぶ苦労させられて、見ての通り簡単な踊りをするので精一杯だよ」

 

「限界に近いのは見てわかるが、そんな状態でも踊らずにいられないのか」

 

クロコダインが諦めたような表情で問う。

レイザーは片手しか使えないにも関わらず、以前見たメダパニを引き起こす踊りとは違う踊りを披露している。

 

「悪いが踊りは、俺にとって生きがいなんだ」

 

「…おい、ザボエラ。俺にロモスで寄越した魔法の筒のイルイルやマホトーンの応用で、こいつの技能を封じる研究をしてきたとかないか?」

 

「なんと…!脳筋とは思えない案じゃ!まったくの盲点であった…!!」

 

「やめて!俺のアイデンティティを奪わないで!!俺から踊りを取ることは、ホイミスライムからMPを奪うようなことだぞ!!」

 

ザボエラとクロコダイン達の会話に、ノヴァは恐る恐るといった様子で私に聞く。

 

「あの…魔王軍とは昔から、あのような職場環境だったのでしょうか?」

 

「私をあの愉快な一味に入れないでくれ」

 

ハドラーや、噂に聞くミストバーンはともかく、私は決して違う。

 

はっきりと意見を言う私を見て、レイザーは踊りながらほくそ笑む。

 

「少しやる気が戻って来たみたいだな。もう一つおまけとして、アンタ宛てに伝言だ。…『必ず勇者ディーノ様と共に大魔王を討伐し、あなたの元に戻る』と、魔族のもう一人の息子さんから」

 

レイザーの言葉に、驚きで目を見開く。

私のもう一人の息子として手紙を残したのは、この世界に一人しかいない。

 

そのことを確信し、手元の刃こぼれした剣を握り直す。

 

「…余計なことをしおって。貴様のせいで、意地でも息子たちにこのような姿を見せられなくなったではないか」

 

「それは悪かった。だがアンタがいるだけで、士気が上がるんだから頑張ってくれ。…それよりもバラン。お前、家族はダイと亡くなった奥さんが一人いるだけって言ってたよな?隠し子がいる奴とは思ってなかったぞ」

 

「お前は一体何を想像したのだ!?」

 

「うるさくは言わない。ただあいつのことを、実子って認めてやれよ。少し世間知らずっぽいけど、好青年に育っていたんだから。な?」

 

「ディーノが私とソアラの子であることに間違いないが、お前が会った魔族は私にとって息子のように大切な者という意味だ!」

 

酷い勘違いをしているレイザーを、怒鳴りつける。

 

だが私が奴の認識を叩きなおす前に、フローラ女王がレイザーに頼み込む。

 

「いいところに来ました。レイザー、あなたの力を貸してください」

 

「いや、女王様。俺来たばかりなんで、現状を教えてくれません?」

 

「ほら、レイザーさん。包帯巻き直してあげるから、頑張って」

 

「ありがとう、マリン。ついでに現状を教えてくれるとありがたいんだが」

 

「レイザー君。治療は私が頑張って『ハッスルダンス』を続けるから、皆の手助けしてあげて。あと踊っている間は、私を見てね?」

 

「だから、ナーミラさん。とりあえず、どうなってるか…。それとクーラ、目が怖いから一旦ステイ」

 

「すまん、レイザー。ロン・ベルクからの新しい斧もザボエラの新兵器に腐食されてしまった。お前の悪知恵に頼りたいんだ」

 

「その、クロコダイン…」

 

畳みかけるように好き勝手言う面子に対して少し迷った後、レイザーは袋から何かを投げながら言い放つ。

 

「…よぉぉし!よくわからないけど、後は俺のお助けモンスターに丸投げだ!俺の代わりに働けぃ!!」

 

「貴様らには多大な借りがあるため力を貸すのはやぶさかではないが、だからといってこのような場面でワシを頼るな!」

 

レイザーが投げた玉から現れた者の姿に、チウは腰を抜かし、私はまた目を見開く。

 

「お、お、おまっ!お前は!?」

 

「…驚いたな。レイザーの能力は把握したつもりだが、こんな手駒もあるとはな」

 

「久しいな。チビ助に竜騎将バラン。そして港を襲撃した際の面子もいるようだな」

 

レイザーが投げた水晶玉のような物から現れたのは、ダイによって倒されたはずのハドラー親衛騎団の一人、フェンブレンだった。

 

「ワシがこの場に立っていることが皆許せないことは、重々承知している。だがワシの夢のために、バーン討伐に参加することを許してほしい」

 

最期に戦った際とは打って変わって、真摯にこちらに訴えるフェンブレンを警戒しつつ、その目論見を探る。

 

「ふん…。どういった夢かは知らないが、それは私達に協力する理由になるのか?」

 

「なる。ワシは大魔王を倒した世界で、魔王軍やハドラー様の部下でもなく、ただの武芸者として生きたいのだ。当然誰かを無意味に傷つけたり、奪ったりせずにだ。だからこの世界で生きていくことを許してもらう贖罪を…」

 

「…許す!」

 

拙い言葉で本心を語ろうとするフェンブレンの言葉を遮り、チウが叫ぶ。

 

「キミがどうして魔王軍を離れ、ボク達に協力する気になったかは知らない。そしてボクや部下達を傷つけたことを無かったことにするつもりはないけれど、過ちを反省し、純粋に生きたいと思い直したのなら、キミを責める理由はもうない。だから誰が何と言おうが、正義の味方になることを選んだキミをボクが許す!!」

 

「…ありがとよ、チビ助。期待の分だけでも、仕事はさせてもらう」

 

改めて超魔ゾンビに向き合うフェンブレンに、レイザーはエルフの入れ知恵で完成させたという飲み薬を使って魔力を回復しながら、忠告する。

 

「フェンブレン、無理すんなよ。その禁呪法は所詮ハドラーの猿真似で、付け焼刃。倒れたとしても魂は別の復活の玉に移せるが、俺の実力では傷ついてもオリハルコンの体は修復できないし、その体の媒体に使ったのは敵から奪った駒だから、もう予備はないぞ」

 

「つまり大小の傷にかかわらず、ワシの体はもう替えがないということだな。…望むところだ。ワシは大魔王を討伐後に、やり直しの利かない生涯を送るのだ。この戦いが、呪法生命体での仕納めだ」

 

「わかればいい。あと魔力は俺と共有になるから、あまり一気に使うなよ」

 

「承知した。…バギクロス!!」

 

「早速極大呪文を使うな!お前これまでの事、根に持ってるだろ!?」

 

ザボエラを真空呪文によって処刑場の壁面に叩き付け、フェンブレンは高速で襲い掛かる。

 

その間にクロコダインは、更なる助力をレイザーに求める。

 

「レイザー。あのときバーンに使った、装備を外すアイテムはもうないのか!?」

 

「ポップ達と合流してすぐ、根こそぎ奪われて灰にされたよ。シャナクだけでなく、バイキルトとか役立つカードもあったってのに…」

 

気落ちしているレイザーを無視してフェンブレンに向き直すと、フェンブレンはザボエラとの距離を詰め、超魔ゾンビに剣を振り下ろす。

その一撃を超魔ゾンビは腕で防ぎ、フェンブレンの腕となっている剣は食い込むだけで斬撃を止められる。

 

「ど、どうじゃ!例えオリハルコン製といえども、貴様のような2流が相手でワシの超魔ゾンビは…」

 

最後まで言い切る前に、フェンブレンは食い込んだ腕を回転させ、超魔ゾンビの腕に食い込んでいた剣を肉ごとえぐる。

慌ててザボエラはフェンブレンから離れるが、腕をえぐられた箇所は決して小さくない。

 

「…どうやら貴様の毒素でも、ワシのオリハルコンを多少腐食させることが限界のようだな。ハドラー様のように肉体が再生する超魔生物であれば多少の傷は回復させられ、終わりが見えない戦いであったはず。しかし再生能力がないゆえに、ワシはお前と戦えそうだな。…ワシの体が腐り切るか、貴様の肉をえぐり取るのが先か、勝負だ!!」

 

勢い付いたフェンブレンが、全身の刃物を使って超魔ゾンビの肉を細断にかかる。

 

何度も超魔ゾンビの血肉が辺りに散らばる中、マリン達からザボエラの能力を聞いて様子をうかがっていたレイザーに、フローラ女王が尋ねる。

 

「レイザー。何か気付いたことがあるようですが、アドバイスがあるならしてもらえませんか?」

 

「まだ分析の途中で『だからどうした』と言われたらそれまでなんだが…」

 

自信なげな様子だが、レイザーは考えを口に出す。

 

「あのザボエラが、超魔ゾンビを二本足の体にした理由を考えてみたんだ。ああいった巨体を二本足で支えるのは重心の関係で難しく、特に理由がないならメタルハンターのような四本足。もしくはいっそのこと馬車のような車輪にしたほうが楽なのに、ザボエラはわざわざ二本足にしている」

 

レイザーが言う知識は私にはわからないため判断できないが、それが正しいと仮定して話は続く。

 

「もう一つ。超魔ゾンビに刺さった剣を見てみると、攻撃を受けてもダメージはないはずなのにやけに顔への傷は少なく、また顔面を庇うかのように腕の傷が多い。…以上のことから恐らくザボエラが超魔ゾンビを動かすためには、出来るだけ自分の体に近い状態じゃないといけないんだろ。だから超魔ゾンビの視覚は、目の部分だけに依存してる可能性が高そうだ」

 

合流して間もないにも関わらず、その洞察力に感心する。

竜の騎士を蘇生させるという、出鱈目なことが可能なだけのことはある。

 

フローラ女王の言う通りふざけているのは演技で、恐らくフレイザードに転生したときからそれを続けていたのだろう。

そして自分の研究をいざという時まで隠し通すため、私や魔王軍幹部の目を誤魔化し続けたということか。

 

どうやら感心していたのはフローラ女王も同じようで、感嘆の声を上げる。

 

「あなたの本質を見抜く力には、脱帽ね。とうとう本気を出してくれる気になったのかしら?」

 

「だから勘違いしてるみたいだけど、俺はいつでも全力だ。さっきの考えもキラーマジンガやメタルハンターを研究する際に、たまたま同じ悩みに当たっただけだよ」

 

レイザーはこれ以上アドバイスをする気がないかのように、フローラ女王から顔をそむける。

 

ここまでお膳立てをしてくれたのだ。

せめて対抗策は私から出そう。

 

「ならば超魔ゾンビの首を落とすか、一斉に弓や槍投げで重点的に顔を攻撃するぞ。ザボエラは武芸者ではないため周囲の気配を探るすべはなく、視覚を封じればその本体を表に出すしかなくなるはずだ…!」

 

「…せっかくの意見だが、超魔ゾンビの顔面を狙ってる時間はなさそうだ。あのメタリックだが思ったより腐食が早く、このままではへし折られるぞ」

 

ロン・ベルクの言葉に慌ててフェンブレンを見ると、先ほどまでの勢いは衰え、全身に錆びが浮いてしまっている。

 

「キ~ヒッヒッヒッ!まったく、驚かしおって…。いかにオリハルコンといえども、所詮武器の使い手はダイ共と比べれば素人。ワシの超魔ゾンビの敵ではないわっ!」

 

フェンブレンの体は超魔ゾンビに斬りかかった時だけでなく、腕を回転させる際に浴びた返り血によっても腐食されたため、その腐食の速度が予想以上だったことが敗因なのだろう。

 

「惨めじゃのぅ…。それにしても、幾ら呪法生命体といっても多少痛覚はあるはずじゃ。これだけワシの返り血を浴びてもまだ向かってくるとは、お主は正気か?」

 

「貴様はダイやポップ達が会う度に強くなっていく様を見て、何も思わなかったのか?…ワシは弱者をいたぶるのではなく、ただあやつらのように苦労して強くなりたいだけだ。だからこそワシはその目的を叶えるため、自分より強い相手と全力で戦えている今に満足しておる!!」

 

体が朽ちていっても一歩も引かないフェンブレンの闘志に、その心情を理解できないザボエラは攻めあぐむ。

 

それに感化したのか、ノヴァも自身の命を削る生命の剣を展開しようとする。

しかし、ロン・ベルクがノヴァの行動を止める。

 

「よせ。どうせ命を削るなら、お前達より長く生きた俺の命を使う。…レイザー、お前に預けていた剣を寄越せ」

 

「…いいのか?あの剣は試しに作ってみて、そのまま俺に押し付けた物だろ」

 

ロン・ベルクが言うことを半信半疑な様子で、レイザーは踊りながらも二本の剣をロン・ベルクに差し出した。

その剣は、水晶のように透き通った見たこともない剣だった。

 

「俺が作った『星皇剣』は数十年放置していたものだから、体への負担を考えればこの剣の方がマシなはずだ。…そうは言っても、放てるのは一撃だけ。そのための隙を作ってくれ」

 

ロン・ベルクが構えを取りつつ、レイザーに頼み込む。

しかし、レイザーはその言葉を断った。

 

「お前は俺を馬鹿にし過ぎだ。…言われなくても、もうその仕事は終わってるよ」

 

レイザーがそう言った途端、超魔ゾンビの動きが急激に遅くなる。

 

「な、なんじゃ!?魔力が思うように練れん…!?」

 

「甘いんだよ、じいさん。俺がさっきから、何を踊っているか気づいてなかったのか?」

 

「踊り…?ま、まさか…それは『不思議な踊り』か!?」

 

「その通り。始めに踊ったのが『不思議な踊り』。そしてこっそり『不思議な踊り2』に昇華させ、今踊っているのが最高レベルの『不思議な踊り3』だ!!気付かなかったようだな!?」

 

「気付けるか、この残念将軍が!!」

 

ザボエラが怒鳴りながらも何とか魔力を絞り出そうとする中、フェンブレンも動き出す。

 

「ワシから目を離すとは、余裕だな!…『ツインソードピニング』!!」

 

高速で全身を回転させながら超魔ゾンビの足に突撃し、フェンブレンの体はその巨体に突き刺さるかのようにして止まる。

ザボエラが何とかしてフェンブレンを抜こうともがくが、逃れられない。

 

抜くことを諦めたザボエラがフェンブレンを力尽くで折り曲げようとするが、そうはさせまいとフェンブレンは必死に叫ぶ。

 

「ロン・ベルク!どうせワシの体は、こやつの毒素のせいで長くはない!なればこのまま足止めをするから、何かするつもりならワシごとやれぃ!」

 

「見事な覚悟だ。噂でしか聞いていないが、お前にもハドラーの意思が受け継がれているじゃないか。…『星皇十字剣』!!」

 

ロン・ベルクが両手の剣を振り下ろしたのと同時に、先ほどまで腕などに突き刺さるのが精一杯だった超魔ゾンビの体に深い十字傷が入る。

その傷は瞬く間に広がり、超魔ゾンビの体はとうとう4つに割かれた。

 

勝利を確信した皆が歓声を上げようとしたが、突如ロン・ベルクが持っていた剣が砕け、更にロン・ベルク自身の腕も泥人形のように崩れ落ちる。

慌ててノヴァがロン・ベルクを支えるが、その傷はどうすればこうなるかわからない程、ひどい有様だった。

 

しかし皆がその腕の様子を見ていると、まるで時が巻き戻るかのようにゆっくりと修復されていく。

 

「な、なんだ?何が起こっているんだ!?」

 

混乱するノヴァを落ち着かせるように、支えられながらロン・ベルクは説明する。

 

「俺が全力で剣を振れない理由がこれだ。俺が全力を出せば、今のように剣と腕が崩れ落ちてしまう。…それを少しでも軽減するための剣がさっきの奴だ」

 

先ほどまで持っていた剣を、ロン・ベルクは顎で指す。

 

「これはレイザーの助力で作った、『ガラスの剣』だ。元々作っていた剣のように、振るった際の反動を無理に剣に耐えさせるのではなく、最初から剣に反動を集中させることで担い手の負担を減らそうと考えた剣だ」

 

ロン・ベルクの言葉に、レイザーも補足する。

 

「それとロン・ベルクの傷が少し治ったのは、この『ガラスの剣』が時の砂で作ったガラスだからだ。完成していれば腕だけでなく、剣も修復されるはずだったんだが…」

 

「その剣よりも、ダイやヒュンケルの武器を鍛えることを選んだのは俺だ。だから、そんな顔をするな。本来なら治るのに70年かかった怪我で、この程度だったら10年程度だろう。ぶっつけ本番での結果としては十分だ」

 

「ちなみにインパスで診たところ、『ハッスルダンス』で治療させてくれるなら毎日数時間したとしても数年で治りそうだぞ」

 

「それはますます朗報だ。…どうやら生きているうちに、まだダイ達に武器を打てるようだな」

 

安堵した様子のロン・ベルクの後ろで、星皇十字剣を喰らった超魔ゾンビの側でチウが大声を上げる。

 

「フェンブレン!しっかりしろ、おい!!」

 

「因果なものだな。まさか真っ先にワシに声をかけるのが、チビ助とはな…」

 

叫び声のする先にいるフェンブレンに、私とレイザーが駆け寄る。

ザボエラとロン・ベルクの攻撃でフェンブレンの体は、原型は留めているが体のあちこちに亀裂が入り、もう軽い衝撃でも砕けてしまいそうな状態だった。

 

その様子を見て、レイザーは懐から何かの玉を取り出す。

 

「お疲れ、フェンブレン。『復活の玉』に再送する準備は出来ているからまたコアを砕くが、いいか?」

 

フェンブレンが頷いたのを確認してレイザーがイオラを放とうとするが、チウがそれを止めた。

 

「ま、待ってくれ!…なぁ、レイザー。フェンブレンのコア、ボクの手でも壊せないかな?」

 

「…そうだな。ワシも出来れば、チビ助にしてもらいたい。やはり償いといっても行動だけでなく、直接何かしてもらったほうが良い」

 

チウとフェンブレンの言葉に、レイザーは袋から魔人の金槌を取り出し、チウに渡す。

 

「…わかった。例えオリハルコンでもこれだけ腐食しているなら、これで砕けるだろう」

 

礼を言ってチウがレイザーから金槌を受け取ると、チウはフェンブレンに向かってその金槌を振り上げる。

 

「少しの間、さよならだ。…今回の活躍に免じてキミがこの世界に蘇ったときは、隊長権限の推薦枠で獣王遊撃隊見習いにさせてあげよう」

 

「寝言は寝て言うのだな、チビ助。…ワシを部下にしたいのなら、目覚めるまでにせいぜい腕を磨いておけ。それと後は任せたぞ。…兄者」

 

フェンブレンがコアを砕きやすいように地面に倒れたのを確認して、チウはその金槌を振り下ろした。

 

 

 

【10分後】

 

「それっ!また外した。…もう1回だ!次こそ、ちゃんと砕くからな」

 

「こらぁ!チビ助!!何度コアを外せば気が済むのだ!?さっきから真綿で首を絞めるようにワシをじわじわと痛めつけて、意趣返しのつもりか!?」

 

両手両足や頭部の一部を金槌で砕きながらも、何故かコアにだけは当たらず、必死に金槌を振り下ろし続けるチウと悲鳴を上げるフェンブレンがいた。




【追記1】
超魔ゾンビの「二本足だった理由」や視覚について、また「魔力が足りないと動きが鈍る」などという点は、完全に独自解釈になります。

原作でのロン・ベルクの攻撃直後に超魔ゾンビが自分の手を見ていたことによる、それっぽい妄想です。

【追記2】
「超魔ゾンビに特技の『グランドクルス』すれば?」とお思いでしょうが、レイザーは片手が不自由なため使用できず。
またクーラも暗黒闘気を使うダークサイドに「全速前進だ!」状態のため威力は低く、使ったとしても効果は薄いため未使用となっております。

【追記3】
ガラスの剣については既に感想で意見が出ていて、皆様のRPG知識に冷や汗をかきました。
もう半分の時の砂で作ったことは、武士の情けか書く方がいなかったため、首の皮一枚繋がりました。

【追記4】
私事ではありますが、今回で掲載開始してほぼ1周年を迎え、掲載合計文字が100,000文字を超えました。

他作者様と比べると「鈍足」や「亀」と言われても反論できないペースですが、広げた風呂敷は畳むつもりですので、完結までお付き合いいただければ幸いです。


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【第29話】キングの大決戦

更新遅れ、申し訳ありません。
生活環境の変化についていけず、自分なりに入れていたつもりの見どころが全く見出せない状態になっていました。

それと今回のタイトルは何となくで、深い意味はないです。
ましてや『金太の大冒険』との関係は、もっとありません。

【2017/07/09 追記】
本日までに誤字報告機能にて、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。



----クーラSide----

 

「クーラちゃん、いい加減諦めたら?」

 

先ほどから寝ているレイザー様に触れようとしている私に対して、マリンは呆れるように言う。

 

レイザー様はチウに魔人の金槌を渡してすぐに、「疲れた」と言い残してクロコダインが張り付けられていた十字架に寄りかかって眠り始めた。

そのため以前からやりたかった膝枕をしてもらおうとレイザー様に頭を近づけるが、ある程度まで近寄ると眠りながら頭を小突いてくるため、もう10回近く成功出来ずにいる。

 

ちなみにナーミラを放り投げてみたときは私と違って普通に殴ったため、人物によって加減も出来るようだ。

 

「ぬぅ…。武術の腕は『ダーマの書』の出来栄えで理解しておったが、眠りながら他人を近づかせないとは芸達者なものだな」

 

変な布を被った自称ビーストくんが、レイザー様の反応に唸る。

 

感心しているようだが、実際は眠りながら他人を近寄らせない芸当はレイザー様の防具のおかげだ。

レイザー様の防具は複数の防具を合成しているもので、今回の場合は戦士のパジャマによる効果によるものだが、周囲の評価が上がっているので黙っておこう。

 

…それはそうと、レイザー様の防具をあらかじめ脱がしておけば、こんな苦労しなくてよかったのではないだろうか。

 

「お、お待たせ…。レイザー君の言う通り、ちゃんと私の『ハッスルダンス』の改善を終えて皆の傷の手当終わったよ…」

 

息も絶え絶えに、深手を負ったメルル達に『ハッスルダンス』をしていたナーミラが声をかけてくる。

 

ナーミラの『ハッスルダンス』は視覚に入っていないと効果がなかったが、レイザー様曰くそんなことはなく、「自分を見て欲しい」というナーミラの欲求が強すぎるため、視界に入らないと効果がないとのことだ。

バーンパレスに突入する際の回復役としてこのままでは役に立たないので、皆の回復の間にその欠点を改善するようレイザー様から言われていたのだが上手くいったようだ。

 

手当てを終えたクロコダインが、まともな回復役が増えたことに安堵のため息をつきながら言う。

 

「レイザーの一言でこれ程早くあの踊りを改善できるとは、相変わらずこいつは特技のことに関しては一流だな。…そういえばクーラは、レイザーが踊る特技ばかり使う理由を知ってるのか?」

 

「はい。以前聞いたときに教えてもらえましたので」

 

駄目もとで聞いた様子のクロコダインが、あっさり答える私に驚く。

言っていいか迷ったが、別にレイザー様から口止めされていないので構わないだろう。

 

「レイザー様の夢は、特技を教える施設を作ることです。そのため特技の認識を広める必要があるのですが、目撃者が多い場面でこそ、踊りなど見た目では簡単そうな特技を積極的に行うように意識しているそうです」

 

先ほど離れて戦ったキラーマジンガに使ったように、レイザー様はやろうと思えば『ビックバン』など私でも使えない強力で高難易度の技を使用することができる。

 

しかし初めから難しい技ばかり見せてしまうと特技を知らない人間達にとって敷居が高くなってしまうので、あえて簡単に見えて効果的な技を多用しているとのことだ。

 

「言い換えますと、見栄えの良い特技は私や勇者達に実施してもらい、レイザー様自身は習得が難しく見えない特技を人前では多用するように心がけているのです。…そのためオーディエンスが少ない今後の戦闘では、そういったことを気にせずレイザー様は特技を使ってくれると思われます」

 

「…思っていた以上に、まともな理由だったんだな」

 

クロコダインの予想と違ったらしくどこか拍子抜けしたような様子で呟くが、フローラ女王はなぜか感心していた。

 

「さすがですね。皆が目の前の大魔王討伐のことだけで精一杯だというのに、レイザーは初めからその先のことも考えているのね」

 

皆が何か言いたいような表情でフローラ女王を見ているが、実際に発言すると色々と問題なので私は次の行動を促す。

 

メンバー選抜は気合に溢れたチウが率先して行ったことで決定して、戦闘で傷ついたレイザー様と皆の回復を待っていたが、もう十分だろう。

ちなみにレイザー様を突入メンバーに入れるべきか最後まで協議したが、最終的に「大魔王への嫌がらせとしてこれ以上の適材はいない」というクロコダインの意見に満場一致で賛成となった。

 

…思い返してみると、判断基準がおかしい気がするがいいのだろうか。

 

「お前達。手当てが済んだのなら、そろそろ出発したほうがよいだろう。…私はこれ以上の戦闘では足手まといにしかならない。ここで待たせてもらうことしかできないが、息子たちを頼む」

 

自分からこの場に残ることを言い出したバランが、申し訳なさそうに言う。

ザボエラとの戦闘で予想以上に自身の体が動かなかったことに限界を感じ、落胆しているようだ。

 

「わかりました。それではアバンの使徒達が大魔王を倒す前に合流できるように、レイザーさんを起こしますね」

 

マリンがザメハを唱えようとするが、レイザー様を起こす役目は私のものだ。

それを誰かに譲る気はない。

 

…近づいて叩かれるなら、それよりも早く懐に飛び込むのみ!

 

「そうはさせません!『疾風突き』!!」

 

「なんで!?クーラちゃん、あなた一体何と戦っているの!?」

 

突きによって傷が開いたらしいレイザー様に驚きながら、珍しくマリンは大声をあげた。

 

 

----ヒュンケルSide----

 

大魔王を討伐するダイ達を先に行かせるため、バーンパレス中央部で敵の足止めを選んだ俺だったが、復活したことによって光の闘気という強大な実力を手にしたヒムを相手にしてその体は既に限界に達していた。

 

その状態にもかかわらず、直後に現れた軍団と言って良いほどの数の敵勢に俺は身動き取れずにいた。

 

「ハァーハッハッハッ!我輩達に見とれるのは致し方ないが、何か言ってみたらどうだ?もしくは我輩達の姿に戦意喪失したのか?」

 

敵軍の最奥で高笑いをする自称キングのマキシマムは、バーンがハドラーに授け、ヒム達ハドラー親衛騎団の基となった5つを除いた全てのオリハルコンの駒を呪法生命体として操る能力を持っているようで、今俺たちの前にはその駒たちが並んでいた。

しかし、なぜか2体足りない8体しか現れていないが、何か理由があるのだろうか?

 

「てめぇ…!俺たちが戦って疲弊しているところを待ってノコノコやって来やがるとは、大将としての誇りはあんのか!?」

 

俺の決死の一撃で起き上がることも出来ないヒムが、マキシマムを睨み付ける。

 

「ふん…。単細胞な兵士はそのような考え方しか出来んようだな。我輩が遅れたのはそのような姑息な理由ではなく、思うところがあって魔界屈指の強者であるこやつらを我が軍勢に引き入れるためだ」

 

マキシマムが自慢げに、自らの前に立つモンスターを顎で指す。

 

黄金の竜、グレイトドラゴン。

青い巨体に巨大な斧を持つ4本足のモンスター、セルゲイナス。

醜悪な悪魔を形にしたようなモンスターを何体も率いる、エビルマスター。

俺の育ての親である地獄の騎士バルトスに似て、4本腕にそれぞれ武器を持つアンデット系モンスターのボーンファイター。

 

魔王軍にいた俺でも、聞いたことのないモンスターばかりだった。

 

「こやつらは皆六大軍団長の候補だったが、軍隊を率いる能力が足りなかったり、現六大軍団長と反りが合わないなどで辞退した者達だ。それを我輩が魔界に自ら出向き、味方に引き入れたのだ」

 

説明に満足したらしく、マキシマムは「キングスキャン」と叫びながら俺たちを眺める。

 

「つまらん。ここまで来れたため大層な実力を持っていると思ったが、ステータスを見てみれば死にぞこないそのものではないか。…貴様らは、新たな我が軍の初戦にふさわしくない」

 

マキシマムが指を鳴らすと、今までいたオリハルコンの呪法生命体に加えて、キングを除いた15体の駒が増援として現れる。

その体の色から材質はオリハルコンと違うようだが、オリハルコン製ではないとはいえアルビナスに似た駒などがあり、一斉に襲い掛かられてしまったら今の俺たちでは勝てそうもない相手だ。

 

「これらはバーン様がチェスをする際に使用していた遊戯用の駒だ。貴様ら程度にはオリハルコンの駒ではなく、魔鉱石によって出来ているこれら兵士タイプだけで十分だ」

 

「…いいだろう。軍団長からの脱落組と人形の烏合の衆で、俺の命を奪えるか試してみろ」

 

未だに起き上がれないヒムを抑え込むように、俺は覚悟を決めてマキシマムの人形達と対峙する。

 

何度も死線を共にしてきた鎧の魔槍は、ヒムとの戦闘の際に遥か後方へ手放したためナイフ一つない丸裸な状態だが、先ほどものにしたカウンターとレイザーの特技を用いれば、キングを引きずり出す程度までは敵を減らせるはずだ。

…後は俺の生命が燃え尽きるまでに、地上の仲間が来てくれることを願うだけだ。

 

俺の虚勢を見抜いたのか、マキシマムはつまらなそうに溜息を吐く。

 

「我輩の軍を前に、くだらない自信をほざくな。…我輩がバーン様より授かった使命は、ある魔族をこの場より進めさせないこと。貴様らなどに使う時間は、これ以上ないわっ!!」

 

高らかにマキシマムが指を鳴らすと、魔鉱石の兵士タイプが一斉に襲い掛かる。

それらをどの順序で破壊出来るか算段を付けるが、後方から放たれた一閃が兵士タイプを全て切断し、俺の考えを中断させる。

 

「俺はお前に、バラン様とディーノ様を頼んだはずだ。それだというのに、こんな所で人形遊びをして何のつもりだ?」

 

目で追うのが精いっぱいな速度で俺の横に現れた人物に、俺は驚きながらも苦笑いを浮かべる。

 

「…厳しいな。これでもダイが倒すべき相手を、千体以上は相手にしてきた自負があるんだが」

 

かつて戦死したはずの竜騎衆ラーハルトが、俺が投げ捨てた鎧の魔槍を手に平然と立っていた。

驚きこそあるが、ラーハルトがあのバランの部下だったことを考えると、ポップと同じく竜の騎士の血にて復活したのだろう。

 

俺があまり驚いていないことについては何も言わず、ラーハルトは背負っていた武器を俺に渡す。

 

「千体倒してまだディーノ様の敵がいるなら、一万体倒せ。…お前だけで無理なら、手助けしてやる。これを使え」

 

ラーハルトが生き返ったことにはそれほど驚かなかったが、渡してきた武器にはさすがに驚く。

それは刀身が消滅して二度と復活出来なくなったはずの、鎧の魔剣だった。

 

「道中で会った変な魔族に使える武器をねだった際、お前のことを話したら代わりの武器として譲り受けた。一応ロン・ベルク本人が監修したらしく、最低限の機能はあるとのことだ」

 

「俺が知っている魔族で、こんな物を持っている奴といえばレイザーぐらいだろう。…またアイツの怪奇現象に助けられたか」

 

アバンに始まり、立て続けに起こる思わぬ再会に何か言う暇もなく、俺は受け取った剣を鎧化せずに鞘から抜く。

今の俺は軽い攻撃ですら絶命してしまう状態なため、無意味な防御を上げるよりかはこちらのほうが身軽でいい。

 

その様子を顔のひげを撫でながら眺めていたマキシマムが、待ちくたびれたように言う。

 

「我輩のデータを見る限り、貴様は竜騎衆の一人、ラーハルトだな。本来なら貴様のような化けて出た敗者を相手にするつもりはないが、こやつが構ってやるそうだ」

 

マキシマムの言葉に応えるように、グレイトドラゴンが威嚇するかのようにいななく。

 

「先ほども言ったがこやつは六大軍団長の候補で、超竜軍団を率いる候補であった。しかしバランが竜の騎士であることをバーン様が気に入ったため辞退してやったというのに、それを勘違いして六大軍団長最強と誇っていたお前達にお灸を据えたいようだ」

 

「そこのトカゲがバラン様と同格だと?…身の程を知るんだな。お前程度、超竜軍団を率いるどころか俺たち竜騎衆が乗るドラゴンの控え要員にもならん」

 

ラーハルトの挑発にグレイトドラゴンが翼を広げ、宙に飛び立つと思われたが、何かに気付いたらしく動きを止める。

 

マキシマム達に注意しつつ俺も見上げてみると、グレイトドラゴンとは別のドラゴンが急降下して、グレイトドラゴンを踏み潰す。

踏みつぶされて泡を吹いているグレイトドラゴンを余所に、飛来したドラゴンから降り立つクロコダイン達に驚く。

 

「クロコダイン!それにクーラやチウ達も…!!」

 

一目見ただけでもわかる俺の状態を気にしたのか、クロコダインはマキシマムから俺を庇いながら言う。

 

「なんとか間に合ったようだな。ここまで来て、壁役にもなれないとは悲しすぎるからな」

 

「…それはいいんだが、クロコダイン。その気味が悪いドラゴンは、どこから連れてきたんだ?」

 

クロコダイン達が乗ってきたドラゴンは、形状こそまともだがその皮膚の色は毒々しい七色に変化し、おまけに夜のキノコのように怪しく発光している。

こんなドラゴン、見たことも聞いたこともない。

 

レイザーがいない時点で嫌な予感がするのだが、言いよどむクロコダインに代わってクーラが答える。

 

「この竜はドラゴラムを使ったレイザー様です。空中に浮かぶバーンパレスに乗り込む際、ルーラやリリルーラなどで乗り込むと戦闘中だった場合にそこに飛び込むことになり危険で、かといってトベルーラなどで飛んで突入すると迎撃される可能性があります。そのためレイザー様が練習されていた、この姿で運んでくださいました」

 

「…近寄るだけで毒になりそうな見た目だが、背中に乗っても平気だったのか?」

 

自殺希望者でもない限り近づこうとも思わないその発光物を見て、乗っていたメンバーが心配になり尋ねる。

 

「触れても問題ありませんよ。…すぐにキアリーをすればの話ですが」

 

「ブロキーナ老師がいなければ毒死だった…」

 

平然と言うクーラに対して、九死に一生を得たような様子のチウが地に伏せる。

そこのグレイトドラゴンが意識を失った…というよりも既に息をしていないのは、このドラゴン化したレイザーと接触したことが原因のようだ。

 

皆がバーンパレスに降り立ったと同時にドラゴラムの効果が切れたらしく、レイザーは元の姿に戻る。

 

「人のことをキメラの翼や乗り物扱いしてんだから、ちょっとやそっとの毒でぶーぶー言うな」

 

「毒はまだいいとして、敵にアピールするかのように発光してんのはなんでだよ!?乗ってる間、気が気じゃなかったぞ!!」

 

怒鳴るチウを見て、自分もあのようにレイザーを拒絶していた時期があったと懐かしい気持ちになる。

今ではすっかり「アイツはああいった生き物」だと、諦めの境地に達してしまったが。

 

「ふ、ふはははは…!待ちわびたぞ!!我が宿敵にして好敵手っ!!」

 

これまで俺たちに大して興味を示さなかった様子のマキシマムだったが、レイザーを見た途端、歓迎の意を示す。

 

「元軍団長やバーン様に反旗を翻した雑兵などに、我輩は端から興味はない!我輩の標的はバーン様から直々にこの場より通すなと勅令を受けた、お前だけだ!!将棋で受けた屈辱、ここで返させてもらうぞ!」

 

マキシマムからの一方的な宣言をいぶかしんでいたレイザーだったが、どうやら心当たりがあるらしく口を開く。

 

「その声は、前に俺と将棋をした…えっと…確かキンタ『キングマだ!貴様が付けた呼び名だろうが!!』

 

マキシマムの怒号に反応したのか、魔鉱石の僧正と騎士タイプの駒がレイザーに襲い掛かる。

だがレイザーは向かって来る駒達を、以前見た『回し蹴り』とは違う足技を一瞬にして繰り出し、容易く蹴り倒す。

 

「これが上級剣術、『五月雨剣』!…ただし、俺の剣技は足からも出る」

 

「斬れよ!もうこの際、百歩譲って手刀でもいいから、せめて斬れよ!!」

 

無駄に高度なレイザーの技術に、チウが抗議する。

 

「特技の基本は、武器を選ばないことだ。いつも使っている得物がないから戦えませんなんて、特技の第一人者を自称している身としてはあり得ない」

 

「あり得ないのはお前の存在だよ!普通、技は武器を選んで放つんだ!!」

 

チウの抗議に、ラーハルトは首をかしげる。

 

「あの魔族が言っていることの何が間違っている?戦場で武器を選ばずに戦えるのは、戦士の最低条件だと思うが」

 

「ラーハルト。よく考えろ。剣術を足で放っている時点で、おかしいだろうが…」

 

新たなレイザーの被害者を増やさないよう、俺がラーハルトの正気を取り戻させようとする。

しかしその意識を治す暇もなく、クロコダインが敵からの攻撃を斧で防ぐ。

 

「俺の相手はお前か、セルゲイナス。ハドラーの部下となることを嫌ったと聞いたが、こんな所で戦うことになるとはな…!」

 

クロコダインの言葉に返答せず、セルゲイナスは至近距離でマヒャドを放つ。

 

「唸れ!業火よっ!!…見ての通り、俺は呪文が使えん。だから武器に頼らせてもらうぞ」

 

クロコダインの斧から放たれた業火によって、マヒャドは相殺される。

それが気に入らなったのか、セルゲイナスは巨大な斧を軽々振り回し、クロコダインへ幾度となくその斧を振り下ろす。

 

力比べが拮抗していることに気付いたのか、マキシマムが叫ぶ。

 

「セルゲイナス!お前には小回りが利くオリハルコン製の騎士タイプを援護に付けてやる。我輩の期待に応えて見せろ!!」

 

再度マキシマムが指を鳴らすと、見た目はシグマと同じ騎士タイプの駒がクロコダインへと向かうが、千鳥足のようにふらつきながら、ブロキーナ老師がその進行を遮る。

 

「仕方ないのぅ…。その馬面は、ワシが相手しよう。クロコダイン君は、その大物の相手を頼む」

 

「…ご老体。お気持ちは嬉しいのですが、あの騎士タイプは、スピードだけならマァムより上だった駒ですよ」

 

クーラが代わりに戦うことで止めようとするが、向かってきた騎士タイプの一撃をブロキーナ老師は紙一重で躱し、俺の目ではほとんど見えないほど早い一撃をその横っ面に入れ、殴り飛ばす。

 

加えて胸部へも攻撃をしていたらしく、倒された騎士タイプは胸の亀裂から爆発し、粉々となった。

 

「何か言ったかのぅ?」

 

「…いえ。私の人を見る目が、未熟だったという話です」

 

クーラは実力を見誤ったことを素直に謝るが、ブロキーナ老師は「どっこいしょ」という一言と共に地べたに寝転ぶ。

 

「構わんよ。しかしワシの体は、老いから手のひらピカピカ病に冒されておる。後はお任せさせてもらうよ」

 

レイザーの扱いでこういった態度を取る人物に慣れているのか、ブロキーナ老師にクーラはそれ以上何かを言おうとせず、一礼を返す。

怠けているように装っているが、ブロキーナ老師は皆に何かあった際は手助けしてくれる位置に陣取っている。

 

彼のような強力な味方がいる以上、全員でこのマキシマム達を相手する必要はないだろう。

 

「ラーハルト。こいつらの相手は俺たちで十分だ。だからここは任せて、お前に借りていたその鎧の魔槍を使ってダイ達の力になってくれ」

 

「…そうみたいだな。俺はディーノ様の元へ行くから、お前も早く片づけてこい」

 

俺の言葉にセルゲイナスは両手で持っていた斧を片手に持ち替えてマヒャドを唱えるが、ラーハルトはその吹雪を掻い潜るように駆け出し、瞬く間にバーンパレス奥深くに消えていく。

 

自身が歯牙にもかけられなかったことが気に食わなかったのか、再度マヒャドを唱えようとするセルゲイナスの斧をクロコダインが弾き飛ばす。

 

「貴様は目の前の敵にも集中できない、俺以上の脳筋のようだな。…刃を交えている相手を侮った戦士の風上にも置けない態度の代償、受けてもらうぞ!!」

 

クロコダインは持っていた斧を地面に突き刺す。

 

「俺が人間たちと共に戦って身に着けた技を、その眼に焼き付けろ!獣王会心撃!!」

 

クロコダインが得意とする技を放つが、その渦に巻き込まれる敵の様子がいつもと違う。

これまでように敵を吹き飛ばすのではなく、先ほど放った獣王会心撃はセルゲイウスを急激に吸い寄せているのだ。

 

「俺は見ての通り、鈍重でな。…だからお前の方から来てもらおう!!」

 

竜巻に飲まれた木の葉のように飛んでくるセルゲイナスを待ち構え、クロコダインは獣王会心撃を放ちつつも片手に渾身の力を籠める。

 

「はぁぁぁ…!『正拳突き』!!」

 

無防備にクロコダインに飛び込む形になったセルゲイナスに、クロコダインは自慢の腕力による一撃を与える。

更に腹部に拳が突き刺さった瞬間、クロコダインは再度獣王会心撃を繰り出す。

 

手を押し当てられた状態でクロコダインの必殺技に耐えきれるはずもなく、セルゲイナスは半身が分かれて絶命した。

 

壮絶な最期を迎えたセルゲイナスの死にざまから恐れ戦いた様子のエビルマスター達を睨むように、クロコダインは言い放つ。

 

「さぁ、次だ。どこぞの氷炎魔団のせいか、どいつもこいつも軍団長を甘くみているようだが、本物との格の違いを教えてやる」




【追記という名の言い訳】
更新が遅れて本当に申し訳ありません。

3月から生活環境が変わったり、4月は季節外れのインフルエンザにかかったり、預かる子供が増えたり、1話の配分感覚がおかしくなって今回の話を気づいたら2万文字以上書いていたりと、執筆の調子が乱れておりました。

落ち着くまではまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも執筆を続けていきます。


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【第30話】8身合体、キングマーズ!

毎回遅れてしまい、申し訳ありません。
私生活がとても落ち着く様子を見せず、この惨状となっております。

…夏過ぎれば暇になるって言ったじゃん。
むしろ忙しくなってるってどういうことよ(´;ω;`)

【2018/02/27 追記】
今回の話で、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。



----ヒュンケルSide----

 

「…ここまでの事をされると、もう笑うしかないな」

 

クロコダインの新たな技の威力に呆然としていると、俺の頭をレイザーが小突く。

 

「いつまでボーとしてるんだ。エビルマスターはともかく、ボーンファイターはどうやらやる気のようだぞ」

 

エビルマスターとレッドイーター達はクロコダインに怯える一方、ボーンファイターは全く気にする様子もなく前に出る。

そして動きの鈍いエビルマスターに、ボーンファイターは声をかける。

 

「…おい、エビルマスター。怯えているだけなら、私の後ろに下がっておれ」

 

「す、すまねぇ。俺は後ろで、回復呪文でも使って援護させてもらうよ」

 

エビルマスターがボーンファイターに同意して背を向けると、ボーンファイターは剣を振り上げる。

 

「それは結構。…お前を連れてきたのは、この為だからな」

 

無防備なエビルマスターの首を、躊躇なく切り落とす。

更にその行為に驚いているレッドイーターとブルーイーターも、ボーンファイターは次々と斬り殺す。

 

「お前、仲間に何をしているんだ!お前もザボエラみたいに、そいつらを部品扱いするつもりか!?」

 

その行為に怒鳴るチウに、ボーンファイターはあくまで淡々と答える。

 

「あの老いぼれのような、自分の身を確保しないと戦えないダニの心臓と同じにするな。私が不死騎団長候補となった理由は、この能力からだ」

 

ボーンファイターから暗黒闘気が溢れ、エビルマスターやグレイトドラゴン達の死体を包む。

その死体は見る見る骨となっていき、集結して巨大な竜の骨となる。

 

見上げるほどのドラゴンゾンビとなったことを確認して、ボーンファイターは満足気にうなずく。

 

「この通り、私の能力されあれば手駒に戦線離脱はないのだ。グレイトドラゴン達も、役立たずの自分を使えるようにしてもらったことに感謝しているだろう」

 

「言い方を変えたところで、結局はザボエラと目くそ鼻くそですね。…クロコダイン。私がドラゴンゾンビの供養をしてやりますので、ボーンファイターをお願いします」

 

クーラはクロコダイン達にボーンファイターの相手を任せようとするが、マキシマムもクーラと似たような口調で口をはさむ。

 

「…ボーンファイター。お前が切り裂いたそのエビルマスターは、一応百獣魔団長候補だった者だ。レッドイーター達と合わせればそれなりの実力だったはずなのに、無意味に戦力を減らすでない」

 

「足元をうろつかれるのは邪魔だったのでな。…しかし、戦い方は私のやりたいようにやる。それがお前の軍隊ごっこに付き合う条件だったはずだが?」

 

「……我輩の苦労を徒労に変えたことに言いたいことは幾らでもあるが、済んだことを言っても仕方があるまい。お前にはオリハルコン製の兵士全てで援護してやる。我輩は残りの駒でレイザーの相手に専念するから、それ以外を倒してみせよ」

 

敵がこちらに向かってきそうなことを察したクーラが身構える。

しかし俺はそのクーラ達を押しのけて、前面へと躍り出る。

 

「俺をかばってくれるのはありがたいが、父と似た姿をしてああいった行動をされるのは見るに堪えない。…だからボーンファイターの相手は俺がする」

 

クロコダイン達は俺の怪我の様子から制止するが、クーラは諦めたかのようにため息をつく。

 

「どうせ止めても無駄でしょう。でしたら、せめて手当をさせてください。…そこの薬草袋。あなたは早く踊りなさい」

 

「そのアイテム呼ばわりしてるの、私のことじゃないよね!?」

 

クーラに文句を言いながらも、ナーミラは『ハッスルダンス』を踊って俺の治療を行ってくれる。

踊るナーミラを一瞥して、クーラは思い出したかのように呟く。

 

「…あぁ、失礼しました。あなたには袋はありませんでしたね」

 

「どこ見て言った!?残念そうな目で、どこ見て言った!?エルフは人間達には物静かなイメージなんだろうけど、私は普通に怒るからね!?」

 

怒鳴りながらもナーミラは踊るが、その治療が終わる前にレイザーが俺の怪我の様子を診てくる。

 

「…どうやら傷が深いとこは闘気で受けた怪我のようだから、回復呪文の効果はなさそうだな。治療は『ハッスルダンス』で回復するしかないが、時間がないんで体力だけでも回復するぞ。ベホマラー!」

 

「お前はなんで普通に回復呪文を使ってるんだ!?」

 

「俺が回復呪文使ったら悪いのかよ!?」

 

俺の言葉に、レイザーは心外だと言わんばかりに叫び返す。

これまで一度も回復呪文を使っているところを見たことがなかったため、平然とベホマラーを唱えるレイザーに驚かざるを得ない。

 

しかも驚いたのは俺だけではないらしく、相方であるクーラも目を丸くしている。

 

「あの、レイザー様。私もレイザー様が回復呪文を使っているところを見るのは初めてなのですが、そんな便利な呪文が使えるなら何故これまで使わなかったのですか?」

 

「魔力を使わずに回復する手段があるのに、なんで大量の魔力を使わないといけないんだよ。今回は時間もないし、本当に仕方なくだ」

 

レイザーの行動指針が理解できず頭が痛くなっていると、マキシマムの駒を相手にしようとしていたクーラの肩を起き上がったヒムが掴む。

 

「…待てよ、クーラ。横やり入れて悪いんだが、そこのお山の大将がハドラー様より優れた司令官だっていう自称を黙って見逃すわけにはいかねぇ。駒の相手は、全部俺にさせろ」

 

先ほどまでうつ伏せで動くことができなかったヒムだが、蘇ったことで回復呪文が効くようになったらしく、俺が付けた傷はなくなっていた。

ヒムは構えをとりつつ、マキシマムを挑発する。

 

「そこの同類たちの相手は俺一人で十分だ。ハドラー様との格の違いを、そいつらに叩き込んでやる。…だからヒュンケル。お前は自分の相手に専念しな」

 

「言うではないか。望み通り、オリハルコンの兵士タイプ7体をお前に割り当ててやろう」

 

マキシマムの言葉に、ヒムは困ったようにほくそ笑む。

 

「おいおい、勘弁してくれよ。…それっぽっちの駒で、足りると思ってんのか?」

 

先ほどの俺との戦闘でも使った、光の闘気をヒムは身にまとう。

自在に闘気を使えることと呪文で回復したヒムに、レイザーも驚いているようだった。

 

「へぇ。ただロン毛に化けただけだと思っていたが、便利な体になったな。…これで俺と同じく、呪法生命体から突然変異した仲間だな」

 

「嫌だぁぁぁっ!」

 

「泣くほど嫌か!?」

 

レイザーの一言に、ヒムが泣き崩れた。

 

身内からの攻撃にチウが慰めようとするが、痺れを切らしたボーンファイターがドラゴンゾンビを差し向ける。

その勢いに乗って、兵士タイプの駒もヒムへと攻撃を加える。

 

クロコダインやクーラ達が慌てて相手をする中、マキシマムはレイザーを指さす。

 

「待たせたな、レイザー。貴様の相手は我輩と、残り全ての駒である魔鉱石製の女王・城兵・僧正・騎士タイプが1体ずつだ。オリハルコン製の駒がない駒落ちの状態だが、貴様一人相手には十二分であろう。…行けぃ!」

 

レイザーに向かって、僧正タイプと城兵タイプが意図的にタイミングをずらして突撃してくる。

 

「だぁぁ!どいつもこいつも、俺なんかに構うんじゃねぇ!!『受け流し』!…ついでに『急所突き』!!」

 

強襲にもすぐさま対応したレイザーは、向かってきた城兵と僧正タイプを地面に叩き付けて、更にコアの位置に追撃をする。

 

しかしレイザーはその手ごたえに、眉をひそめた。

その様子にマキシマムは高笑いをする。

 

「地上でキラーマジンガと戦った際に言われなかったのか?貴様の核への分析方法の手口はわかっておる。それゆえ我輩の駒の核は全てバーン様の魔力によって、波動の探知を乱しておるのだ!」

 

「だったら、こうするまでだ。…『地割れ』!そして『マグマ』!!」」

 

地面に倒れていた人形達に、レイザーは追撃をして地面をたたき割る。

その亀裂に駒たちは落とされ、更に割れた地面からは溶岩が溢れ出して人形を巻き込む。

 

奈落に落ちた人形は慌ててその溶岩から這い出るが、一瞬にして表面が溶けてしまい、もはや何の駒だったか判別が付かない状態だ。

 

「またしても我輩の駒を…!それよりも貴様、この浮遊しているバーンパレスでどうやって溶岩を掘り出した!?」

 

「なんか勘違しているみたいだな?『特技』ってのは、本当の自然現象を引き起こす技じゃない。俺ぐらい特技に慣れて土台さえ出来ていれば、同様の現象を発生させることなんて容易なんだよ」

 

レイザーの異常現象とその説明を聞いて憤慨すると思ったマキシマムだが、なぜか大声を上げて笑い出す。

 

「いいぞ、レイザー!我輩がどれだけデータを蓄積しても、貴様は容易くそれを凌駕する一手を打ってくる。バーン様の部下となって数百年。どの敵も予想通りの行動しか取らず、飽き飽きしていたところだ。我輩は何度も予想を覆す貴様を相手にするのが、愉快でたまらない!!」

 

「お引き取りください」

 

本気で勘弁してほしそうなレイザーだが、今は自分が相手をするしかないと悟ったのか、俺が持つ魔剣について忠告をしてくる。

 

「ヒュンケル。その剣なんだけど、未完成だから使いどころを間違えるなよ。鎧化する技術が俺には難しく、展開する部分が最小限なんだ。…具体的に言うと、鉄仮面を被った危ない水着みたいになる」

 

「鞘の部分を今すぐ捨てていいな?」

 

条件反射でそう言ったものの、さすがに善意で借りている物を投げ捨てるのは気が引けるため、「アムド」と口走らないことを深く誓う。

 

そしてクロコダイン達の様子を見るが、ドラゴンゾンビの腕や頭部を何度も破壊しているにも関わらず、再生し続けている。

 

どうやら元を絶たねば、ボーンファイターの魔力で復活し続けるのだろう。

ならば、早いところ片づけてやろう。

 

「あまりラーハルトを待たせると、また小言をもらってしまうのでな。出し惜しみはなしだ!!」

 

ボーンファイターへ空裂斬を放ち、腕ごと吹き飛ばす。

先ほどまで使っていたアバン流槍殺法で空の技を使えてたものの、剣技で放つのは初めてだったが問題ないようだ。

 

再生能力があるのはボーンファイターも同じなようで、一瞬で腕を再生させて4本の腕に持った武器をこちらへ振り下ろして反撃してくる。

その一撃をかわしつつ、俺は更に空の技を放っていく。

 

怪我が完治しておらず、かすっただけで死んでしまう今の状態では薄氷を踏むような感覚だが、一撃一撃カウンターを加えることで、最高のタイミングで反撃する感覚を物にしていく。

その緊張感が、まだ自身が戦えることを実感させてくれて、嬉しくて仕方がなかった。

 

これまで強くなる必要があった環境だったため、必要に迫られて修練を重ねてきたが、アバン先生が戻り、ダイ達を先導する兄役をする必要がなくなったことで、「強くなりたい」という欲が出てきたらしい。

 

そんな俺の様子に、元々低そうな沸点が爆発したボーンファイターは持っていた武器をこちらに投げつけ、腕を全て使ったベギラゴンを放つ姿勢に入る。

 

「図に乗るなぁ!私は極大閃熱呪文も使用できる!この2連ベギラゴン、耐えられるか!?」

 

ボーンファイターが魔力を貯めようとするが、その隙を狙って俺は攻撃を試みる。

以前の俺ならおこがましいと思い、絶対に使おうと思わなかった技だが、今の俺なら放つことが出来るはずだ。

 

それとレイザーが「今こそ鎧化をするときだ!」と叫んでいるが、絶対に使わん。

使ってたまるか。

 

「レイザー、お前は黙っていろ。…そして、見せてやる。アバン流の地海空を極めて初めて放つことができる、俺たちアバンの使徒にとって最強の技だ!」

 

武器を逆手に持ち、ボーンファイターへ全力の一撃を食らわせる。

ボーンファイターに断末魔の叫びをあげさせたその技に、クロコダインが感嘆の声をあげる。

 

「おぉ…!それは、アバンストラッシュ…」

 

「…ポップ達には使ったことは言わないでくれ。本来ならアバン先生とダイだけが、使い手としてふさわしいと思っているのだからな」

 

正当な勇者アバンと、その後継者であるダイが使うべきと思って自戒している技だが、他にアバンの使徒がいない今なら見栄として使って罰が当たる程度で済むだろう。

 

そして思っていた通りボーンファイターが倒れたことでドラゴンゾンビが崩れ始めているため、残る敵はマキシマムとその駒たちだけだ。

 

「さて。…ヒムとレイザー。助けが必要か?」

 

ヒムの様子を見ると既にオリハルコン製の兵士3体を倒しているようだ。

しかもヒムはまだ余裕があるようで、俺の言葉にへそを曲げたような表情でヒムは返答する。

 

「お前が片づけんのが早すぎんだよ。見てわかる通り、俺は今の倍の数でも楽勝だ」

 

かたやレイザーは必死な様子で真面目に戦っているものの、敵を減らせずにいるようだ。

だが『大防御』で一斉攻撃を耐えつつ、カウンターで『グランドクルス』を放つなど複数の特技を駆使しているため、こちらも平気そうだ。

 

「『平気そうだ』じゃねぇよ!どこからどう見ても手一杯だろうが!!」

 

ヒム達の戦闘に余計な手出しをせず、ナーミラの回復で治療することに専念している俺をレイザーが怒鳴る。

言いたいことはわかるが、下手に加勢するとレイザーの技の餌食になりそうなので、踏ん切りが付かないのだ。

 

クロコダイン達は俺と同じ様子だが、クーラは珍しくまともに戦うレイザーを期待で満ち溢れる視線を向けていて、こちらも手助けをするつもりはなさそうだ。

 

孤立無援なことを悟ったレイザーは、改めてマキシマムの駒たちと対峙する。

 

「わかったよ。…だったら、期待通りに戦わせてもらうよ!!」

 

底なし沼に足を取られた鳥のように両手両足を激しくばたつかせ、鶏のように首を前に出しながらゆっくりと弧を描きながら踊る。

 

違う。

期待しているのは、踊り系の技ではない。

 

「…死にかけの鳩か?」

 

レイザーの奇行に戸惑うマキシマムが、踊りをそう評する。

 

次の瞬間、レイザーに向かっていた魔鉱石の駒が、糸の切れた人形のように地面に倒れこむ。

 

「踊り系特技の奥義、『死の踊り』だ。…本来ならザラキーマと同じ効果のはずなんだが、バーンの妨害のせいか制御を奪うので精一杯みたいだな」

 

「なぜだ!?対策であるバーン様の妨害呪文は、完璧なはずだ!?」

 

「さっきのドラゴラムの際に、意味なく光っていたと思っていたか?あの光は『不気味な光』で、お前は既に俺の手中に落ちていたんだよ」

 

ブロキーナ老師とクーラが、その布石に驚きの声をあげる。

…正直言うと俺もマキシマムと同様に、意味なく発光していたことを疑っていなかった。

 

そして手駒を失ったマキシマムに対して、レイザーは『疾風突き』と『体当たり』で突進する。

俺には出来ない特技の連続使用によって、その突撃速度は飛躍的に上昇する。

 

しかしレイザーは加速された突進を制御することはできなかったらしく、その一撃はマキシマムの横を素通りし、激しく地面を転がって砂埃を立てながらレイザーは明後日の方向へフェードアウトしていった。

 

「…我輩の買い被りだったか。ここまで阿呆とは思わなかったぞ」

 

失望した様子で姿が見えなくなったレイザーは見限り、次なる標的を俺たちへと定めるが、構えようとするクロコダイン達を俺は制する。

 

その行動を、マキシマムはいぶかしむ。

 

「何のつもりだ?降伏して我輩へ命乞いをするつもりか?」

 

「お前はやはり、机上でチェスをしているのがお似合いのようだな。…砂漠ならともかく、こんな舗装された床を転げまわったところで、あのような土煙が上がるわけがない。そんなこともわからないのか?」

 

マキシマムがその言葉に対して何かを発する前に、突如マキシマムがメタルスライムへと変わる。

 

それはマキシマムの背後に立ったレイザーが放ったモシャスによるもので、体力と魔力の消費が激しいためか、肩で息をしながらレイザーは勝ち誇る。

 

「オリハルコンに高速で『体当たり』なんて、走っている馬車に突っ込むようなことをするわけないだろ。攻撃を外したのはわざとで、地面を転がる際に『砂煙』を使って姿を隠し、相手から見えないようバーンパレスの外周を通って不意を突いたってわけだ」

 

レイザーの種明かしに、メタルスライムとなったマキシマムは合点がいった表情を浮かべる。

 

またマキシマム自体に異常が発生したためか、ヒムが相手をしていた駒もメタルスライムへと変化した。

これで勝負は決まっただろう。

 

「ぐっ…!我輩が多少優位になった途端、持ち駒を使って直接王への奇襲を行う。貴様が将棋でよく使う手法であったな。忘れておったわ。…だが」

 

メタルスライムとなったマキシマムだが、全ての駒を自分の周りに集める。

 

「墓穴を掘ったな、レイザーよ!我輩の能力でこの体のステータスを見たところ、ただのメタルスライムではなかったぞ!!」

 

重なり合うようにメタルスライムが集まっていくと、マキシマムは合体してメタルキングへと変化した。

同時にアルビナスのニードルサウザンドのような技を放ち、レイザーを弾き飛ばす。

 

「これこそキング、マキシマムの第二形態!先ほどより更に巨大になったオリハルコン製の体に、合体した全ての駒が使う呪文と技を繰り出す我輩を相手に出来るか!?」

 

攻撃をまともに食らったレイザーは『瞑想』で治療をしつつ、マキシマムの言葉に反論する。

 

「悪いけど、真正面から相手をするつもりはないよ。…メタルスライムになったのは予想外だったが、合体スライムにしたのは狙った通りだ。もうすぐモシャスが切れる。今の状態で解除されれば、組体操のようになっていて、すぐには身動きが取れないはず。そのままメドローアで決めさせてもらうぞ!」

 

レイザーの宣言通り、マキシマムのモシャスが解除される。

その姿は予想通り、マキシマムの動きを封じる状態にはなっていた。

 

しかしその形状は思っていたものと大きく違っていて、無理な合体をした結果だろう。

 

手足や胴体など人形の関節があり得ない方向に折り曲がり、マキシマムの駒は全て人型としての原型を一切留めてはいなかった。

強いて言うなら、ゴム製のマネキンを雑巾のように絞り、キングスライム型の箱に押し込んでいる状態だ。

 

レイザーはあまりに無残なその姿を見て言葉を選んでいたようだが、しばらくしてマキシマムへ声をかける。

 

「…なんて酷いことを」

 

「目を反らすな!そしてこれは半分以上お前のせいだっ!!」

 

怒鳴るマキシマムだが、以前シグマの腕を斬り落とした時のように、全身から火花が散っている。

もう間もなく爆発するのだろう。

 

「ありえない…!我輩がこんな、こんな形で敗北するなどありえん…!これは何かの間違いだ。そうであろう!?」

 

「お前の言いたいことはわかるが、俺が言えることは一つだけだ。…相手が悪かった。悪過ぎたんだ」

 

世の中には、絶対にまともに相手をしてはいけない人物がいる。

マキシマムは、力以外でもそういった相手がいることを知らなかったのだろう。

 

俺がかけた言葉を理解したくないようにマキシマムが叫び続けるが、叫んだことが引き金になったらしく、駒と合わせて大爆発を起こしてマキシマムは微塵と化した。




【追記1】
今回の決め技(?)は「モシャスでモンスターに変身中、途中で解除されたら」でした。

またブロキーナ老子がいるため獣の名前が入った技をしようと「狼牙風〇拳」が浮かびましたが、見返してみるとこの世界で彼は普通にチートのため、没となりました。

【追記2】
サブタイトルを考えている際、「仲間になりたそうに~」を元にしようとした結果、

「仲間に見捨てられないよう頑張っている」(略してナマステ)
「仲間へ今すぐ助けてほしそうに見ている」(略してナマステ)

といった謎のナマステ押しが頭から離れず、苦しんでいました。


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【第31話】割といつも通りの理不尽が、ミストバーンを襲う

今更ながら、明けましておめでとうございます。
色々あって中々更新に踏み切ることが出来ませんでしたが、まだ生きております。

そして今更ながら物語も終盤なので、今年中にはなんとか完結できるよう頑張ります。
…ペルソナ5をやりながら3DS版ドラクエ8をするという野望に、早くたどり着きたいです。

【2021/09/11 追記】
今回の話で、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----ポップSide----

 

期待が重い。

今の心境はただそれだけだった。

 

ようやくミストバーンの闇の衣とやらを脱がせ素顔を見ることが出来たものの、その強さは合流したヒュンケルやラーハルトでさえも歯牙にもかけないほど強く、攻撃が当たったとしてもかすり傷一つ負わせられない。

その強さの秘密は『凍れる時間(とき)の秘法』という呪法で、アストロンのような呪文で封じた肉体を暗黒闘気で操るという反則な戦法だ。

 

しかもバランからも聞いていたが、ミストバーンの体はバーンの肉体の一部や半身であることが推測できるため、無敵となったバーンを相手にしているといっても過言ではない。

 

唯一の勝機として、師匠が『凍れる時間(とき)の秘法』の対策として生み出したメドローアを放つ隙を狙うが、ヒュンケル以外にクロコダインのおっさん達もミストバーンに挑むが足止めすらも出来ず、上手く当てるイメージを掴むことができない。

 

「ポップ、焦らないで。私たちの攻撃は効かないけど、こちらも回復しながら戦えるのだから、まだまだチャンスはあるわ」

 

知らず知らずのうちに周りが見えなくなっていた俺を、マァムがなだめるように肩を叩いてくれる。

現在戦っているヒュンケルに代わってミストバーンと戦おうとしているクーラも、マァムの言葉に頷く。

 

「そういうことです。わずかにでも勝算があるのなら、私たちは幾らでも戦いますのであなたは必勝の時まで待ってください。…それにいざという時は、どこぞのエアフを盾にしますから大丈夫です」

 

「確かに私空気だけど、本当に頑張ってるんだよ!?それとさっきから私が無口なのは、疲れたって言ってもクーラさんがベホマをして、休ませてくれないからだからね!!」

 

暗黒闘気で受けた傷でも回復できる『ハッスルダンス』がこの戦いでの命綱だが、常に誰かがミストバーンと戦っていることから踊り続けているため、いつかはナーミラも踊り疲れてしまうだろう。

そのためマァムやクーラの決意表明はありがたいのだが、どうしても焦りを拭うことが出来ない。

 

表情からそのことが伝わったのか、腕をもがれて治療に専念しているヒムが、『ハッスルダンス』とメドローア要員の控えとして備えていたレイザーに声をかける。

 

「なあ、レイザー。次はあんたがミストバーンの相手をしてくれよ。お前だったらミストバーンの嫌がることの一つや二つ、簡単に出来るだろ?」

 

「おい、愚弟。簡単に言ってくれるが、俺は今日だけでフレイザードとかキングマとか色々大物相手にして、消化不良を起こしそうなんだが。そもそも、何でちゃんと戦うんじゃなくて嫌がらせが前提なんだ?」

 

ヒムの言葉に否定的なレイザーだが、クーラがレイザーの正面に立ち、その両手を握り締めて懇願する。

 

「レイザー様。今この場で、レイザー様の特技の有効性を認めていない者はおりません。ですから周囲の品評などは気にせず、レイザー様の思うがままに戦ってくれないでしょうか?…一度くらいは、私が知っている素敵なレイザー様の姿を、皆の前で披露してください」

 

レイザーは珍しく自分の感情を押し付けるクーラに戸惑っていたようだが、やがてため息混じりに返答する。

 

「泥臭くて面白みのない戦いになると思うけど、文句言うなよ?…それとポップ。メドローアほど確実ではないが、何とか出来るかもしれない手段が幾つかあるから、本当に手詰まりになったら言え」

 

そう言うとレイザーはヒュンケルと戦うミストバーンの足元に鎖鎌を投げ、ミストバーンの注意を自分に引かせる。

そして気がそがれて戦闘を止めたミストバーンの前に立つ。

 

「ヒュンケル、選手交代だ。次は俺がやるから、ポップが集中できるようフォローしてやってくれ」

 

今までと違い、真の姿に絶対の自信があるためか、ミストバーンはレイザーを前にしても余裕を崩さない。

 

「どうやらお前も私の相手をしてほしいようだが、出来るものならやってみろ。私がこの姿になったからには攻撃は一切通らず、万に一つも貴様らに勝ちm『ネチャ…』」

 

ミストバーンの言葉を遮るように、レイザーは『石つぶて』の要領で顔面に泥団子を投げつける。

…泥臭いと言っていたが、まさか言葉通りとは恐れ入った。

 

ミストバーンは顔に付いた泥を拭い、怒りで震えているが、レイザーは鼻で笑いながら更に畳みかける。

 

「どうした?ダメージはないんだろ?笑えよ、ミストバーン」

 

先ほどまでの余裕が一瞬でなくなったミストバーンが、言葉にならない叫び声を上げてレイザーに飛びかかる。

 

その土石流のような突撃を、レイザーは軽くミストバーンの肩に手を添えることで反らし、壁に衝突させる。

以前ブロックに対して行った『受け流し』だろう。

 

並の相手なら壁に穴が開くほどの威力で頭から突っ込めばそれだけで終わりだろうが、やはりこれでもミストバーンに傷を負わすことはできないようで、無傷のミストバーンが瓦礫から飛び出す。

そしてレイザーの行動が余計に火に油に注いだらしく、怒りが収まらないミストバーンはレイザーに猛攻を続ける。

 

何度も闘牛士のようなやり取りを繰り広げるレイザーを、ラーハルトは感心するように見ていた。

 

「なるほど。場をひっかき回す人物のことをトリックスターと評すると聞いたことがあるが、ああいった者を言うのだな」

 

「ラーハルト。ああいうのはトリックスターと呼ばない。あれは災厄の化身とか、そういった類の人型兵器だ」

 

瞬時に、ラーハルトの言葉をヒュンケルが否定する。

しかしレイザーの行動理由については理解できるらしく、ヒュンケルは説明してくれる。

 

「レイザーの思考と技量から考えると、ミストバーンにフェイントを混ぜられるよりかは、怒りで正気を失わせたほうが戦いやすいと思ったため、ああいった行動を取ったのだろう。…どうにか他の方法がなかったのか、問い詰めたいところだがな」

 

呆れ半分の俺達を余所に、レイザーは周囲の壁を穴だらけにするほどの激闘を繰り広げる。

 

しかもレイザーは『受け流し』をするだけでなく、『ムーンサルト』やイオでミストバーンの顔面を執拗に狙い続けている。

ダメージはなくとも癪に障るらしく、ミストバーンは完全に我を失っている様子だ。

 

だがあまりに二人の動きが予測不能で素早いため、メドローアの狙いを定めることができない。

 

「…ヒュンケル君。加勢する準備を。彼、もう持たないよ」

 

俺が何もできずにいると、ブロキーナ老師が誰よりも早く忠告する。

だがその忠告は遅かったようで、ミストバーンがレイザーの首に手を掛けた。

 

レイザーを掴んだ瞬間、ミストバーンが勝利を確信してほくそ笑むが、レイザーはその時間も惜しむように両手に魔力を込める。

 

「妹や弟の能力を取り込んだ俺を、甘く見るんじゃねぇ!!!」

 

レイザーを掴んだことで両手が塞がったミストバーンの顔面に、レイザーは『フィンガー・フレア・ボムズ』とシグマのライトニングバスターのような技を直接叩き付ける。

 

この攻撃でもダメージを与えることは期待できないだろうが、メラ系による炎と黒煙、更にはイオ系の閃光でミストバーンはこちらの様子を見ることは完全に出来なくなったはずだ。

 

「よっしゃ!上出来だ!!メドロー…」

 

「待て!撃つんじゃない!!」

 

レイザーが作った機会に飛びつく俺をおっさんが制止するが、止めることは出来ずミストバーンがいた方向にメドローアを放つ。

相手が見えなかったのはこちらも同じで、煙から垣間見えた様子からでは、俺が呪文を放つ直前にミストバーンはレイザーを地面に叩き付け、ミストバーンはその場から離れた瞬間だった。

 

そしてメドローアの射線上には、うつ伏せに倒れたレイザーだけが残った。

 

(あいつのことだ。何かしているはずだろう…!!)

 

以前レイザーにメドローアを教えようとした際、あいつはマホカンタのような呪文で防いだことがある。

だから今回も、そういった備えをしているのだろうと思っていたが…

 

「は?」

 

何も起こらず、メドローアはレイザーを通過した。

当然、通過した箇所を消滅させながら。

 

状況を理解できない俺達を差し置いて、ミストバーンは大きな笑い声をたてる。

 

「ようやく、ようやくこの奇想天外な固形物を始末できたぞ!!…そしてお前たちの目論見もわかった。同じ手は二度も通じんぞ」

 

レイザーが消えたことで勝ち誇るミストバーンだが、最も失意に沈んでいると思っていたクーラが、静かに告げる。

 

「どうやらあなたは学習能力が皆無のようですね。…あれほど痛い目にあっても、まだレイザー様がこの程度で倒れる人物だと思っているんですか?」

 

「ははは!好きなようにほざけ!貴様らがどのような負け惜しみを言おうと、歯牙にも…」

 

笑い狂うミストバーンだが、突如ニフラムのような光が背後から注がれる。

慌てて振り向くミストバーンだが、間髪入れずに放たれたベギラゴンがミストバーンを吹き飛ばした。

 

いつの間にかミストバーンの背後に移動していたのは、メドローアが直撃したはずのレイザーだった。

 

「武道において、勝った後も気を緩めない『残心』という言葉がある。ようやく勝てた相手程、そう思う事が重要なんだよ」

 

「お、おい。待てよ。さっきやった事とか気になるが、お前なんで無傷なんだ?」

 

何か仕出かした様子のレイザーだったが、それよりもメドローアが直撃したにも関わらず、五体満足でいる理由が気になり問いかける。

 

「直撃する直前に、マホステっていう呪文を使ったんだ。これは自分への呪文を無効化する呪文で、メドローアの誤射に備えて唱えていたんだよ」

 

「は、ははは…ビビったぜ。お前は一応魔族で、この中では俺の次くらいに呪文が使えることを忘れてたよ」

 

空笑いする俺だったが、ベギラゴンを放たれたミストバーンが苛立ちを隠そうともせずに激しく壁を叩く。

 

「貴様は、ことごとく私をコケにして…!余程苦しみながら死にたいようだな!!」

 

先ほどにも増して怒気を高めるミストバーンだが、その顔を見て全員が驚いていた。

その理由を、レイザーは自分の頬をつつきながらミストバーンに教える。

 

「お前だけが気づいていないようだな。自分の頬を撫でてみろよ。驚きの光景が見れるぞ」

 

事態を理解していないミストバーンが言われるがまま頬を撫で、手に付着した血に仰天する。

吹き飛ばされて瓦礫が直撃したミストバーンの顔には一筋の傷ができ、そこから血が流れていたのだ。

 

状況がわからない俺達へ、その理由をレイザーが説明する。

 

「さっきミストバーンに放った光は特技の一つ『凍てつく波動』で、これはアストロンやバイキルトなど、呪文を全て無力化する技だ。呪法である『凍れる時間(とき)の秘法』も例外じゃないと思ったんだが、上手くいって何よりだ。もっとも発動まで時間がかかって、1回使うとしばらくは使えないのが悩みの種だが」

 

相変わらず使う場面に困る技ばっか使えるレイザーに、褒めるよりも先に文句が出る。

 

「お前、それを俺達が戦い始める前に言えよ!?今まで俺達が何のために戦って来たと思ってるんだよ!?」

 

「いや、ポップがやる気になってるし、メドローアは元々『凍れる時間(とき)の秘法』の対抗策として作られた呪文らしいから、出しゃばるのはどうかと思って…」

 

「何でこんな時だけ遠慮してんだよ!お前、普段はもっと傍若無人で不遜なフリーダムヒトモドキだろう!?」

 

チウからも人外扱いされて思うところがある様子のレイザーだったが、それを無視してラーハルトが茫然としているミストバーンを責めるように言う。

 

「少し迂闊過ぎたな。予想になるが、バーンがお前に体を預けたことを悟られたくなかったのは、その体がバーンの物だとバレることだけではなく、ポップやレイザーのような技を使える者を警戒してたからだったのではないのか?」

 

「わ、私は何てことを…。バーン様の意図を理解せずにお体を勝手に使ったどころか、『凍れる時間(とき)の秘法』を解かれ、この体に傷を付けてしまうなんて…!!」

 

膝をついて嘆くミストバーンに容赦なくラーハルトが攻撃しようとするが、突如として響いたバーンの声に正気を取り戻し、ミストバーンが立ち上がる。

 

バーンに懺悔するミストバーンだったが、バーンもダイに苦戦しているらしく、むしろ俺達の実力を見誤り、『凍れる時間(とき)の秘法』を解く可能性があったことを見落としていたと擁護する。

 

そしてバーンの命令によってミストバーンが肉体を返したとき、そこに現れたのは漆黒のようなモンスターだった。

その正体をクーラが一目で見破る。

 

「暗黒闘気の集合体ですね。…闘気が使えない方は下がってください。恐らく物理的な攻撃は効きませんよ」

 

クーラが、レイザーやマァムを後方へと下げる。

その反面、嫌がるナーミラを前面に引きずり出そうとしているのは、何か対抗策があるためと信じたい。

 

しかし身構える俺達に対し、ミストバーンは含み笑いを浮かべる。

 

「私の体は、そこの精霊の言う通りだ。しかし先ほどまでの戦いで何も学ばなかったのは、お前のほうだったようだな。…私の最大の能力は物理攻撃が通らないことではなく、どんな物も乗っ取り、操れることだ!!」

 

霧状になることで、ミストバーンが目の前から姿を消す。

次に起こることを予測して警戒するおっさん達だったが、レイザーはミストバーンに呼びかける。

 

「やめて!俺の体を奪うつもりなんでしょ!?バーンの時みたいに!!」

 

「誰が貴様のようなおぞましい物体になりたいと思うか!?」

 

相変わらずのレイザーの挑発を無視できなかったらしく、姿が見えないミストバーンが叫び返す。

その声は、戦場となっていたバーンパレス内の壁から聞こえてくる。

 

「認めたくはないが、貴様の知識だけは一流だ。…しかしその知識を生かすことができずに浅知恵となっていることが、貴様の死因だ!!」

 

暗黒闘気によって壁が崩れると、中から珍妙な動物のような形をした、淡い青の光を放つ壺が現れる。

それを見た途端、レイザーの顔色が変わった。

 

「げっ…!こんな狭い宮廷内で、『ブオーン』を呼び出すとか正気か!?」

 

レイザーの慌て様に、クーラがレイザーが口走った言葉について補足する。

 

「『ブオーン』とはレイザー様が知る伝説上の魔物です。その姿は塔より高く、天災と同視されるほどの人の手に余る怪物です」

 

クーラが説明をする中、霧状となったミストバーンは壺に吸い込まれていく。

 

「そういうことだ。貴様が書物に記した、封印されし伝説上の魔物。バーン様の手にかかれば、魔界中を探すことなど容易いことだ。…現れよ!雲にも届く強大なる魔物、ブオーン!!そしてバーン様のために、私にその身を捧げるのだ!!」

 

ミストバーンの叫びと共に、壺がはじけ飛ぶ。

 

その壺の中から現れた姿は、宣言通りあまりに巨大で…巨大?

 

「…小せえな」

 

俺より早く我に返ったチウが呟く。

壺から現れたのは、チウより一回り小さいサイズの、鼻が垂れたモンスターだった。

 

「…レイザー。何だこれは?これがお前の言う、災害クラスの魔物なのか?」

 

警戒を緩めないヒュンケルが尋ねるが、レイザーは完全に脱力した様子だ。

 

「そんなわけあるか。この姿は『プオーン』。簡単に言うと、ブオーンの弱体化した姿だな。…まぁ、無理やり封印解いたら、何かしら不都合あるよね」

 

何とも言えない空気が支配する中、ヒュンケルは闘気を溜め始める。

それに気づいたミストバーンが、慌ててヒュンケルを止める。

 

「ちょ、ちょっと待て!決着はこのような姿ではなく、きちんとした姿でもう一度…!!」

 

「最後の最後まで、お前はレイザーにひっかき回されたんだな。…せめて、俺の手で終わらせてやる」

 

ミストバーンの言葉を受け入れず、ヒュンケルは全力のグランドクルスを放った。

塵一つ残らなかったその様子に、おっさんが同情するかのように呟く。

 

「…不本意だっただろうな。バーンから授かった命令はレイザーの技で成し遂げられず、レイザーの逆手を取ったつもりの知識でこんな最期を迎えて」

 

おっさんの言葉に、俺もいくら何でもここまでひどい目に会わすことはなかったんじゃないかと、レイザーに視線で訴える。

 

「なぜ加害者を見るような目で俺を見る?むしろ、褒め称えてくれてもいいんだが?」

 

…こいつの手綱を握れる人物は、この世界にはいないような気がしてならない。

そしてバーンの次の脅威はレイザーなのではないかと、本気で考えたほうがいいのかもしれない。




【おまけ1 その頃のアバン先生】
アバン「ポップ達に加勢するタイミングを見計らってたら、戦いが終わってしまいました…」

【おまけ2 その頃のダイと戦うバーン】
バーン「これがミストバーンに預けた肉体と一つになった、真の余の姿だ」

レオナ「…なんで顔が泥だらけなの?」

バーン「それは余の方が聞きたい」

【追記1(という名のボツネタです)】
ダイの大冒険で特技を出す際に誰もが考えるであろう『凍てつく波動』は早いうちから出すことを決めていたため、すんなり書くことができました。

しかしミストバーンが呼び出すモンスターはだいぶ迷って、当初は弱体化したシドーかダークドレアムを考えておりました。

とはいったものの、シドーとの戦いはネタのない長々とした戦いが1話近く続くためボツ。

ダークドレアムは正装(鉄仮面+危ない水着)したヒュンケルが、レイザーのサービスで付けた般若の面の影響から「フォォォォ」と叫びながらの戦闘にしようとしましたが、どう足掻いても出オチのパンツレスリングだったため、このオチになりました。

【追記2】
最近ギャグ成分が足りないと思って、ヒュンケルの装備のこともあって『おいなりさん』で有名な作品を読んでみたところ、文庫版の追加分が思いのほか感動できる良い話でした。

しかし求めていた物と違っていたため、ハンバーガーを頼んだらサービスで高級寿司が出てきたような、何とも言えない気分になりました。


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【第32話】勇者と魔王とはぶらレイザー

失踪と思われても仕方ないほど空いてしまいましたが、恥を忍んで更新させていただきます。

【2017/07/06 追記】
今回の話で、7名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----マァムSide----

 

ミストバーンをようやく倒すことができてすぐ、キルバーンを倒したというアバン先生とも合流でき、とうとう残る敵はバーンだけとなった。

そのためダイの加勢に行く前に、可能な限り体力の回復に努めていたはずだったのだが…

 

「はっはっはっ!素晴らしいですな、レイザーさん!!まさか踊りでこんな魔法と同様…。いや、それ以上のことが出来るなんて、正に目から鱗ですよ。今まで私がしてきた研究が基本から脱せない、浅いことだったように思えてしまいます」

 

「いやいや。そちらこそ、さすがは勇者の家庭教師。『ハッスルダンス』までは無理とはいえ、こんな短時間で踊り系特技を使えるなんて驚きです。それに俺のような既存の物を再現した二番煎じとは違って、この輝石と聖石を利用したフェザーといい、新たな物を生み出すことについては俺なんか足元にも及びませんよ」

 

目の前で繰り広げられる、軽やかなステップで踊り合うアバン先生とレイザーを見て精神が死にそうになる。

 

「…ねぇ、ポップ。大切な恩人が目の前で死んでしまう気持ちって、こういうことだったのね」

 

「その恩人が喜んで地獄に突き進んでいる分、デルムリン島の時より質が悪ぃよ。…マトリフ師匠。『魔法使いは常にクールでなければならない』と言ってましたが、味方に全力で調子を狂わせる奴がいる場合、どうしたらいいんだろうか」

 

そもそも先生がこうなってしまったのは、合流後にレイザーの持つ特技が先生の琴線に触れてしまい、意気投合してしまったからだ。

そして私達の必死の制止を無視して先生はダーマの書を読み込み、あっという間に踊り系特技を習得してあの有様だ。

 

「それとブロキーナ老師。老師も踊り系の特技をこっそり習得しようとするのはやめてください」

 

私の言葉に『踊り子の章』を読んでいた老師が、いたずらがばれた子供のようにギクリと肩を揺らす。

もう手遅れだとわかっているのですが、本当にやめてください。

 

そうこうしている間にアバン先生は幾つかの踊り系特技を習得してしまったが、満足した様子の先生が気分よく話す。

 

「久しぶりに知的探求心が満たされる方に出会えて、嬉しい限りですよ。…ところでレイザーさん」

 

一転して目が笑わなくなった先生が、しっかりとレイザーの肩を掴む。

 

「ハドラーがデルムリン島に現れた際、『盗賊の章』にあるこのレミラーマという呪文を使って私の居場所を突き止めたと話していたのですが、そこのところを詳しく」

 

「落ち着こう、先生。それよりも、りせちーの腰について語ろうぜ」

 

ひとまずその場しのぎと思われる適当な言葉と共に放してくれるよう頼むレイザーの肩に、アバン先生とは別の人物の手が置かれる。

 

「レイザー様。その『リセチー』という、女らしき者について詳しく。それと私という者がいるのに、なぜ胸ではなく腰などを語ろうとしたかについても詳しく」

 

暗黒闘気をまとったクーラが、肩を掴んだまま『闘魔傀儡掌』を使ってレイザーを捕らえる。

 

…うかつなことを口走るもんじゃないわね。

私も肝に銘じておこう。

 

 

----レオナSide----

 

(駄目だわ。幾らポップ君たちが来てくれたからといっても、このままでは…)

 

先行していたバーンと対峙した私たちにポップ君たちが追い付いてくれたが、バーンの能力によって私を始め、多くのメンバーが「瞳」という名の手の平サイズの宝玉に封じられてしまった。

 

その対象は現在の実力がバーンと差があるほど成功しやすくなってしまい、一度瞳に捕らわれてしまうと、一切の身動きが取れなくなってしまう。

 

瞳から許される行動は見る・聞く・考えるの3つだけで、戦闘力の低いチウやナーミラはもちろん、老いによって体力がないマァムの師匠。

そしてあのレイザーでさえも為す術も無く、瞬時に封じられてしまった。

 

無事だったクロコダインやヒュンケル達が先陣を切って応戦するも、3つの動作を同時に繰り広げる『天地魔闘の構え』で返り討ちされ、受けたダメージによって瞳にされてしまった。

 

「戦力の低下もそうですが、暗黒闘気への対抗策である『ハッスルダンス』を使える人がいなくなってしまったのが痛いですね…!」

 

ヒュンケル達から控えてもらうよう言われていたアバン先生が、現状を苦々しく確認する。

 

苦渋の表情のアバン先生だが、「やはり私が『ハッスルダンス』を習得していれば…!」という呟きは聞き間違いだと思いたい。

それとその隣で、ずっとナーミラの瞳をグリグリと踏みつけながら「これでレイザー様が私の手中に…!」と、レイザーの瞳を持ち上げて目を輝かせているクーラもなかったことにしたい。

 

そんなクーラをマァムが正気に戻そうと呼び掛けていたところ、クーラが持っていた瞳が突然割れる。

 

「っしゃぁぁ!戻れた!!ふははは。この特技の伝道師である俺にかかれば、このぐらい…」

 

何か言いながら瞳から自力で復帰したレイザーに向かって、バーンは無言で魔力を放ち、再度レイザーを瞳にする。

 

再び瞳に変えられたレイザーだったが、今度は間髪入れず元に戻った。

そしてバーンも負けじと、瞬時に瞳に変える。

 

またレイザーが戻る。

バーンが魔力を放つ。

 

レイザー、戻る。

バーン、放つ。

 

戻る。

放つ。

 

戻る。

放つ。

 

放つ放つ放つ放つ放つ…!

 

「大魔王の名において命じる…。瞳になれぇぇぇ!!」

 

「そいつを封じたい気持ちは嫌というほどわかるけど、いい加減諦めろ…」

 

意地でもレイザーを瞳化させようとするバーンに、ポップ君は諭すように言う。

幾ら大魔王といえども、あのレイザーを相手にするのは断固として嫌らしい。

 

何度やっても瞳からの復帰を果たすレイザーに、渋々バーンも諦めたようだ。

 

ようやくバーンからの魔力が止まって一息ついた様子のレイザーに、ラーハルトはどうやって戻れたのかを聞く。

 

「フェンブレンの時みたいに俺でも条件さえ揃えば魂を玉に入れることはできるから、それの逆のことをしただけだよ。解析には時間かかったが、もうコツを掴んだから効かないよ」

 

「ねぇ、他のメンバーも元に戻すことはできそう?」

 

マァムからの問いにレイザーは他の瞳を手に取ってみるが、首を横に振る。

 

「内側から自分で解析するならともかく、外部から戻すのは自信がない。『凍てつく波動』なら出来そうだがバーンのあの瞳化は連発できるのに対して、俺の技量では連発できないから無駄だろうな」

 

レイザーの説明に、バーンは大きなため息をつきながらようやく言葉を発する。

 

「…仕方あるまい。アバン以上に何をやらかすか見当もつかない貴様は是が非でも封じておきたかったが、できないなら意識を奪ってから瞳にするまでだ」

 

「言われなくても、俺に大したことはできないってことはわかってるよ。…だから、全力で皆をサポートする!!」

 

レイザーは『身かわし脚』で敵の攻撃に備えつつ、『ハッスルダンス』を踊りながら味方を回復し、『戦いのドラム』で皆を鼓舞する。

 

「これが俺の集大成にして最終形態…!更に口から炎や氷を吐き、一定時間ごとに目から『凍てつく波動』を出すオプション付きだぞ!」

 

「最醜な変態だよ!大道芸人か、お前は!?」

 

平常心を保とうとしていたポップ君だったが、レイザーの奇行の前では形無しだった。

 

そしてバーンが誇らしげに放った3つの動作を同時に繰り広げる『天地魔闘の構え』が、技の数だけならレイザーに負けている分、バーンは複雑そうな表情をしている。

 

「…わかったよ。だったらさっき使える見込みがついた、俺の切り札を見せてやる」

 

挙動不審を注意されたレイザーだったが、今度は袋からベチャリという嫌な音を立てて何かを出した。

それを人形だと思ったらしいマァムが触ったところ、悲鳴を上げる。

 

「死体じゃない、これ!?どういうつもりよ!?」

 

遺体を触った手をポップ君の服で拭いながら抗議するが、その問いには答えずレイザーは真剣な表情で呪文を唱え始める。

 

「このための準備は出来ていたんだが、肉体への転移は技術不足でどうにもならなかったんだ。…だけどさっき瞳にされて、その技術を分析することで目途が立った」

 

詠唱の片手間に説明しつつ、レイザーは死体を中心に魔方陣を展開する。

 

唱えようとしている魔法陣に心当たりがあるのか、アバン先生が驚きの表情をしつつ、ゴールドフェザーを使ってレイザーの呪文を増幅する。

 

「サンキュー、先生。…話の続きだが、転生術に必要なのは魂を復活の玉に入れることなんだが、生身では魂は肉体と同化しているのか、復活の玉に入れることができない。…ただし死んだときに灰となることで、通常より早く肉体が朽ちる超魔生物は別だ。肉体が先に崩れることで、魂の回収ができたんだ」

 

レイザーの説明は続く。

 

曰く遺体である彼はアバン先生に敗れた時と、アバン先生を倒した時の合計2回バーンから肉体をもらった。

 

そのうちの1回の肉体をザボエラが実験材料として残していたのがこの遺体で、決戦前に地上を探し回って見つけたそうだ。

 

「そのため俺に不足していたのは魂を生身の肉体に転移させる技術だけだったんだが、ついさっき瞳を解析したことでその問題も解決した!」

 

詠唱を終え、ザオラルに似た光が魔法陣から発せられる。

その光が消えてから、レイザーは遺体に話しかける。

 

「さぁ、賭けは俺の勝ちだ。約束通り、四の五の言わず手伝ってもらうぞ」

 

「目覚めたばかりだというのに、こき使いが激しい奴だ。言われなくともそのことを反故にするつもりはない。…それにしてもポップ。人間の神は捨てたものではないが、魔族の神もまた捨てたものではないぞ。こうして宿敵と並んで戦うことができるのだからな」

 

ゆっくりと起き上がる遺体だった人物に、ヒムが叫ぶ。

 

「ハドラー様…!ハドラー様!!」

 

「あぁ。お互い妙な形で生き残ったな。…だがまずは、賭けに負けた俺の負債のため、大魔王討伐を果たさせてもらう」

 

その姿は、ダイ君と死闘を繰り広げたハドラーだった。

所々様子が違うのは、超魔生物ではなく、今の体が普通の魔族の体だからだろうか。

 

「ハドラー。蘇ってくれたのは泣きたくなるほど嬉しいんだが、アンタが竜の騎士であるダイと互角の戦いを繰り広げられたのは超魔生物だったからだ。普通の魔族のその肉体だと、とても大魔王の相手は…」

 

伝えにくそうに言うポップ君に対して、ハドラーは表情を変えずに告げる。

 

「言われなくても、このままで大魔王に敵うと思うわけがなかろうよ。その対策も、こいつの悪知恵で目途が付いている。…レイザー、やれ」

 

「はいよ。…言っておくが、死ぬ程辛いぞ?」

 

何かを投げ渡し、レイザーから受け取ったそれをハドラーが飲み込む。

それを確認してレイザーは金色の腕輪を取り出し、聞き取れない言葉で呪文を唱える。

 

直後、ハドラーはうずくまるように倒れた。

それだけでなく、ハドラーの体は皮膚や骨格がうごめき、魔族だった体が膨れ上がるように変貌していく。

 

「ほう…。まさか、進化の秘法を目の当たりにすることができるとはな」

 

レイザーが始めたことを看破したバーンが、対岸の火事を見るような目をしながら笑う。

 

「だがその術の制御は余でも容易ではなく、未熟な者が使えば理性なき破壊の化身へと落とす禁術だ。…一度死んだ者を使い捨ての怪物に仕立て上げるなど、お前もまたキルバーンに劣らぬ畜生だな」

 

「な…!お前、いくら追い詰められているといってもそんなことが許されるわけないだろ!?」

 

バーンの言葉にレイザーを責めるポップ君だったが、レイザーはハドラーから目を離さないままやんわりと制する。

 

「あんな愉快犯と一緒にすんな。…で、もう起きてんだろ?調子はどうだい、ハドラーさん」

 

「…どうにかな。これほどの苦痛でも狂うこともできないのが、良かったのかどうかは別問題だがな」

 

以前よりも2周りほど巨大となっているが、超魔生物となったハドラーが起き上がりながら答えた。

平然と受け答えするハドラーに、バーンも驚いているようだった。

 

「レイザーの悪知恵を甘くみたな。先ほどレイザーから受け取ったのは、どんなときも我を忘れない効果があるという『理性の種』。力の種などを作ろうとしてできた失敗作らしいが、こういう使い方もあるということだ」

 

体の調子を確かめるように腕を回すハドラーの横に、辛抱ならないといった様子のアバン先生が並び立つ。

 

「カール王国で初めて対峙した時は、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。…魔王であるあなたに倒された人達のことを考えると不謹慎ですが、これほど嬉しいと思ったことはありません」

 

「言いたいことがあるのはお互い様だ。…もっとも、この状況を喜んでいるのもお互い様だがな」

 

進化の秘法によって体の調子が上がったせいか、ダイ君と戦った時よりも数段加速された動きで、ハドラーはバーンの懐に飛び込む。

さすがのバーンも余裕をなくした様子で咄嗟に『天地魔闘の構え』をしようとするがハドラーの呪文がそれを止め、バーンを殴り飛ばした。

 

ハドラーに続いて、戦意が上がったアバン先生やヒムもバーンへと立ち向かう。

 

(これなら、まだまだ行けるかもしれない…!)

 

仲間が瞳化される度に下がっていた戦意だったが、今や高揚が完全に上回っていた。

そんな期待の中、隅から不貞腐れたような声がする。

 

「…なぁ、クーラ。俺、今回はこれまでの技術を集結させた結果でちゃんと役に立ったはずなのに、誰も成果を褒めてくれないんだが」

 

「大丈夫です。この程度の事、レイザー様でしたら出来て当然と思われているだけです。…レイザー様でしたら、もう何をしても驚かないとも言えますが」

 

…バーンを倒して瞳から出ることができたら、もう少しだけレイザーに優しくしてあげよう。




【追記1】
瞳にされたメンバーについて、クロコダインは特技による技能向上、ヒュンケルは『ハッスルダンス』による回復で免れました。
しかしちゃんとバーン戦を書いてみたところ、真面目なシーンの描写力不足からダラダラな展開となり、カットさせていただきました。

…実際は自分の力量を考えずに見切り発車したことが原因です。はい。

【追記2】
瞳にされた状態でも心を読むことが出来るバーンがレイザーの企みに気づかなかったのは、瞳にされた直後にせめてもの抵抗として「般若心経を唱える」「ファ●チキください」など意味不明な言葉を連呼していたレイザーに、バーンが根負けしてレイザーの心を読むのを意図的に遮断していたためでした。


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【第33話】そこに何体ものレイザーがおるじゃろ?

区切りのいい位置で場面を変えたいため、更新期間が開いてしまっているにも関わらず、いつもより短めです。

…決してシリアスなバトルシーンが書けないことに屈したわけではありません(´;ω;`)

それと最近3DSに出たドラクエですが、もちろんダウンロードしてプレイしてます。
しかし相変わらず、回復役がいないうちにサマルトリアの王子を探すのは面倒ですね。

【2017/11/19 追記】
今回の話で、8名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----ポップSide----

 

「すごい。あれが、レイザーの力でパワーアップしたハドラーの力…」

 

バーンとの戦闘をするハドラーを見て、ダイが感嘆の声をもらす。

そんなダイは俺達が合流するまでに傷ついているにも関わらず、今にもバーンに飛びかかっていきそうなため、俺がダイの肩を抱き、抑え込んでいた。

 

【ハッソゥ!ハッソゥ!】

 

蘇ったハドラーは周囲を溶かすほどの魔炎気を身にまとい、その一撃一撃全てがヒムのヒートナックルのような重みがある。

更に体に埋め込まれた黒の核晶による悪影響がなくなった超魔生物は自己回復能力も備えているため、真の姿となったバーンでも戦闘に専念せざるを得ない状況だ。

 

【ハッソゥ!ハッソゥ!】【ハッソゥ!ハッソゥ!】

 

その余りの熱波に、共闘しようとしていたアバン先生やラーハルトは火傷から前線から下がり、付いていけるのはヒムだけとなっている。

 

そして暗黒闘気で回復呪文では治療できないダメージが残るダイと、魔炎気の巻き添えで火傷を負ったアバン先生のために『ハッスルダンス』を踊ってくれてはいるのだが…。

 

「なるほど、なるほど。ただ闇雲に動くのではなく、このように一挙手一投足、動き一つずつに気持ちを込めるのですね。『ハッソゥ!ハッソゥ!』…うん。気合の入る良い掛け声です」

 

モシャスによってレイザーに化けたアバン先生。

 

「ふむ、面白いな。見ただけでは無駄な動きと思っていたが、実際に動きを真似してみると次から次へと移る動作は効率的で無駄がない。これが舞踊というものか。『ハッソゥ!ハッソゥ!』」

 

モシャスによってレイザーに化けたラーハルト。

 

「アバン先生はもちろん、まさか竜騎将もダンスの心得があるとは…。やはり『ダンス万能説』を提唱するべきか」

 

そして諸悪の根源、レイザー。

まるで邪悪な儀式の生贄のように、俺とダイの周りに合計3体のレイザーが踊りまわる地獄絵図ができていた。

 

ちなみにマァムとクーラは「バーンからの攻撃に備える」と言って逃げられ、囲まれているのは俺とダイだけだ。

またさっきから、アバン先生やラーハルトが『ハッソゥ!ハッソゥ!』と奇声を上げる度、瞳にされたヒュンケルからレイザーへの怒気が膨れ上がっていくのを何とかしてほしい。

 

ただこちらだけが辛いということはなく、位置的に常にレイザーを見なければいけないためか、バーンの頭には青筋が立ち、思った以上に本調子が出せていないようなので痛み分けといったところだろう。

 

…勇者と大魔王との決戦での痛み分けって、こういうことじゃない気がする。

 

「バーン、貴様は気づいているはずだ。…お前はレイザーを恐れている」

 

何度目かの仕切り直しとなったハドラーも、何か変なことを言い出した。

 

「俺と立ち会っている際も、必ずレイザーを視界に入れるようにしている。それにお前は気づいているからこそ、苛立っているのだ」

 

「いや。余が奴から目を離せないのは…」

 

「ふふふ。そういって自分を言い聞かせているのだろう?俺もそうだったぞ」

 

「話を聞け。進化の秘法で復活したが、脳が退化しているのか?」

 

ヒムが必死に首を横に振るが、ハドラーは話を聞く様子を見せない。

それどころかアバン先生は「当然です」と言わんばかりに頷き、ダイも「父さんや先生どころか、ハドラーにも認められるなんてすごい」と目を輝かせている。

 

どうやってダイやアバン先生に正気に戻ってもらえるか考えていると、それよりも先にバーンからの怒号が飛ぶ。

 

「次から次へとこの変人は…!今度は何をしているのだ!?」

 

ハドラーから再びレイザーに視線を移すと、いつの間にかレイザーは踊りの輪から外れて、床に座って何枚もの絵を描き上げていた。

 

「このバーンパレスは美しい建築物だが、大魔王の拠点として足りないものがある。それは自己顕示欲を具現化した物だ。だから雰囲気作りのために、今からでも贈呈品と思って。…これなんていい出来だと思うんだけど、どう思う?レオナ姫」

 

「バーンの瞳化から解放してくれたことにはお礼を言うけど、その理由が『王族からの絵の評価が欲しかった』なんて知りたくなかったわ」

 

恐らく『凍てつく波動』の練習としてだろうが、レオナ姫が元の姿に戻り、絵を見せてくるレイザーへの怒りをこらえていた。

 

しかもその描かれた絵の数々は無駄に上手く、バーンも美形に書かれているがポーズはボディビルのような姿ばかりで、瞳化を解除された怒りも加わり、バーンはもう何と言っていいか困り果てた表情をしている。

 

本当に、暇だからって奇行に走ろうとするのはやめてほしい。

 

「うーん…やっぱりただの人物画だと普通過ぎるな。だったら今度は浮世絵風にs『ガシッ』…あの、マァムさん?」

 

なお絵を増産しようとしているレイザーの頭を、マァムが鷲掴みにする。

 

「そんなに元気があるんだったら…戦って来なさいっ!」

 

アバン先生を始めとする周囲への悪影響に限界を迎えたのか、掴んだレイザーをバーンへと投げつけた。

床をバウンドしながらバーンの前に滑っていくが、クーラもマァムの行動を仕方ないと思っているのか咎める様子もないし、そもそもレイザーなら大丈夫だろう。

 

「助かるぞ、レイザー。幾ら回復能力があると言っても体力は消費する。しばらくこの場を預けるぞ」

 

そう言って下がるハドラーに続いて、ヒムもレイザーから一刻も早く離れるためだろうか、全速力で下がる。

だが、バーンはレイザーに付き合う気はないようだ。

 

「貴様らの喜劇に付き合ってやるのもそこまでだ。…まずは地上の邪魔者を消させてもらう」

 

その言葉と共に、はるか下の方から爆撃のような音が響く。

 

バーンが行ったのは、これまで度々地上への無差別攻撃として行っていた巨大な杭のような物を落下させることだった。

 

地上にいるフローラ女王様やバランのことを気にする俺達に対して、バーンは先ほど落下させたのを含めて計6発の攻撃は、無差別攻撃などではなく、杭の中に潜ませた黒の核晶を呪文の威力を増幅させる六芒星の位置になるよう地上に落とし、地上そのものを消滅させることが目的だったと明かした。

 

そしてバーンが魔力を放てば、いつでも起爆させることができる状態だという。

 

アバン先生の話では先ほどの地上への攻撃でミナカトールは破壊され、ルーラなどで外部に出られないよう結界が張られてしまったという。

更に地上に残っているメンバーに、もう黒の核晶をどうにかできる戦士はいない。

 

それを確信したからこそバーンはこの場で計画を実行に移し、その全貌を明かしたのだろう。

しかしその計画を話している中、バーンがふと思い出したことがあるらしい。

 

「そういえば落下させたピラァ・オブ・バーンの内、バルジ島に落とした物は突如余の魔力でも届かない場所に消えていたな。恐らくバラン辺りが何かしていたのだろうが、5本でも十分に威力が発揮される。無駄な抵抗だったな」

 

嫌な予感がする。

 

1つ。最近、各地の魔王軍拠点に行った。

2つ。ルーラなどを使えて、無駄に行動範囲が広い。

3つ。巨大な落下物など珍しい物に対して、嬉々として何かやらかす。

 

バランとの比ではなく、それらに該当する人物にダイとバーン以外が視線を送る。

 

「レイザー、どうせお前だろう?」と。

 

視線を送られたレイザーは、苦笑いをしながら同じく視線で返す。

 

「Yes,I do.(はい、私です)」と。

 

そしてレイザーが袋から取り出したのは、禍々しく輝く黒の核晶。

多少申し訳なさそうに、レイザーは語り出す。

 

「久しぶりに里帰りしたら変なのが刺さっていたんで、拾ってきました」

 

「捨て犬拾ってきたみたいに言わないで!確かに黒の核晶のことをあなたに教えたのはバルジ島から戻って来てからだけど、その時点で皆に相談して!!」

 

マァムの怒りが頂点に達したようだが、レイザーは懲りた様子もなく言葉を続ける。

 

「いや。『黒の核晶』っていうくらいだから、『赤の核晶』とか『青の核晶』とか全部で7色あって、全部集めると願いを叶えてくれる的なアイテムかと…」

 

「どんなファンタジーかアドベンチャーだ!…あぁ、もうとにかくそれを早くしまえ!!」

 

理屈はわからないがレイザーの袋にはバーンも干渉できない力があるらしいため、隠すよう指示する。

しかし何か思いついたらしく、俺の言葉を無視してレイザーはバーンへ叫ぶ。

 

「バーン!地上にある黒の核晶を起爆させたら、俺の手元にあるこれも爆発させるぞ!ちなみに色々いじったから、お前が停止させようとしても無駄だ!…だから爆破するのは止めてください!!」

 

アバン先生やラーハルトが逆転の一手を見つけたかのように「その手があったか」といった様子で驚いているのは、彼らの気の迷いだと思いたい。

しかしレイザーの脅迫のおかげで、現在地上が命拾いしているため何も言えなかった。




【追記1】
ここからかなり悪ふざけが加速するため、まだまともなところで切っております。

私でも「怒られそう」と躊躇するくらいのノリなため、今回の皆さまの反応で方向転換するかもしれません。

【追記2】
今回のレイザーの突発的な行動の内、まともな理由で行ったことが一つあります。
そのため感想で「何でこんな迷惑行為してんの?」などと聞かれて不自然にスルーしている点があったら、そこが答えと思ってください。

【追記3(という名のボツネタです)】
考えていたサブタイトルの候補ですが、他に使うところなさそうなので晒させていただきます。

■あなたが困っているのはアバン的なレイザーですか?ラーハルト的なレイザーですか?それともレイザー的な何かですか?
 →長い上に、サブタイトルで内容が予想できかねないので却下。

■奴にジェットストリームハッスルを仕掛けるぞ!
 →勢いで書いたものの、テンション落ち着いてから見直したところ、自分でも意味不明なため却下。


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【第34話】うるせぇ、レイザー押し付けんぞ!

【前回のあらすじ】
バーン「地上を破壊するために、1つで大陸を吹き飛ばす威力を持つ爆弾を6つ仕掛けた」

レイザー「そのうちの1つがこちらになりまーす」

ポップ「(;゚Д゚)」

【2018/4/9 追記】
今回の話で、6名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----レオナside----

 

「だから爆破するのは止めてください!!」

 

レイザーがまた変なことを言ったことでバーンが頭を痛くしているようだが、今のうちに私はレイザーが書いた絵を見ていた。

そこには先ほどレイザーが描いたバーンの絵に隠れて文字が書かれ、どうしてヒュンケルやクロコダインではなく私を瞳から戻したか書いてあった。

 

その内容は、今回は本当にふざけている振りをしているようで、大真面目な内容だった。

見た目からはいつもと変わらない様子のレイザーに、ポップ君達もいつもの事と思ってこちらに注目していた様子はない。

 

ここはレイザーの指示に従い、彼からの情報を基に行動に移ろう。

 

…ただし黒の核晶を隠し持っていて私たちに相談しなかったことについては、後で説教させてもらうわ。

 

「貴様の存在そのものが理不尽ということは、もういい。…しかし余が地上の黒の核晶を止めたとして、貴様の手にある核晶はどうするつもりだ?」

 

目の前に黒の核晶を持ってきたという現実をようやく受け入れたバーンが、レイザーの言葉に応じる。

 

バーンの言葉に、レイザーは黒の核晶を袋に入れながら指差す。

 

「勝負をしよう。この袋は俺とクーラしか中に入れた物を取り出すことはできない。俺とクーラの相手をしてくれるなら、このまま袋の中に入れておくよ」

 

「ほぅ。つまり袋に入れたまま貴様らを殺せば、お前に渡った黒の核晶は誰も入手できないということだな。非常に気が進まないが、大魔王である余が格下に背を向けることなど言語道断。…いずれ相手せざるを得ないのなら、ここで戦っても同じであろう」

 

レイザーの話の意図がわかったバーンに続き、クーラも一歩前に出る。

 

「なるほど。前回のリベンジというわけですね。…ダイやハドラー達は手を出すのは控えていただけますか?ここはレイザー様と私がいきます」

 

「え?いや、別に2人だけで挑むとは一言も…」

 

暗黒闘気を高めるクーラに反して「そうじゃない」と言いたげなレイザーが呟くが、バーンの闘志がそれを消し飛ばす。

 

「前回の屈辱を晴らしたいのは、こちらのほうだ。これまで幾多の敵を葬って来たが、余の衣服を剥ぐようなことを仕出かした輩は貴様だけだからな…!」

 

「甘いですね。マキシマムにトドメを刺し、あなたの半身の顔に泥を塗り、ミストバーンを倒すための致命的な隙を作った。これら全てレイザー様が起因ですよ」

 

「…薄々感づいていたが、どれもこれも貴様のせいかっ!」

 

怒気と共にカラミティウォールを放つ。

暗黒闘気を放ち、エネルギー波を噴き上げながら相手に迫る技で、超魔生物となったハドラーでも捨て身で反らすことが精一杯の技だ。

 

初撃で終わったと皆思う中、レイザーは迷わず特技の『地割れ』をすることで地面を叩き割り、地を走るカラミティウォールの勢いを殺す。

更にクーラも暗黒闘気を放出させ、バーンのカラミティウォールを力任せに拡散させる。

 

「乗り気はしないけど、こうなったら仕方ない。俺の嫌がらせを味わってもらうぞ!!」

 

レイザーが叫びながら、バーンに向かってカードを数枚投げる。

それを見た途端、バーンが烈火の如く怒りながらカイザーフェニックスを放つ。

 

「もう十分だ!そしてそのおぞましい札を余に向けるな!」

 

カードを灰にしようとしたバーンだが、カイザーフェニックスがカードに当たった途端、吸い込まれるように消えていった。

 

その光景に驚いたバーンに、クーラがすかさず斬りかかる。

クーラにありったけの補助呪文を唱えながら、レイザーは嫌がらせ目的と思われるが、先ほどの理由を説明し出す。

 

「大層な魔力で放っても、メラゾーマはメラゾーマ。天丼で悪いけどそれはシャナクじゃなくて、マホステの札だよ」

 

「てめ、怪しいカードは全部燃やしたはずだぞ!?」

 

ポップ君の指摘に、レイザーはすました顔で言い返す。

 

「持っていたカードは渡したが、もう作らないと約束した覚えはない。ついでに言うと、このカードを作ったのはさっきの絵を書いていた時だ」

 

話しながらも呪文を唱えていたレイザーだったが、今度は急に動き出し、クーラと入れ違うかのようにバーンの懐に飛び込む。

 

レイザーとは思えない積極的な行動を予測していなかったのか、バーンは闘気を込めたカラミティエンドではなく通常の手刀を繰り出すが、それをレイザーは『受け流し』で横に反らす。

 

そしてその勢いのまま、レイザーはバーンの背後を取った。

 

「中途半端な攻撃では意味がない…。だったらせめて、次につなげるために全力で妨害行為をさせてもらう!!」

 

レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ…

 

「んはぁぁぁぁん…!」

 

レイザーに猛烈な勢いで耳を舐められるバーンが、この場にそぐわない声で喘ぎ、膝をついた。

 

…ごめんなさい。こんなの連れてきて、本当にごめんなさい。

たぶん大魔王にとって、ここまで扱いに困る敵は前代未聞なんでしょうね。

 

「いや、引かないで。これは『百裂舐め』って特技で、相手の守備力を下げる技だから。…それと弟。こんなんで悪いけど、一応舞台は整ったぞ!!」

 

レイザーがそう言った途端、私の側に置き去りにしていた絵の一枚が光ると、その絵はレイザーに変わる。

そしてレイザーがいたバーンの背後にはハドラー親衛騎団の一人、ブロックが立っていた。

 

「借リ、返ス…!!」

 

片言の言葉を口にし、ブロックの一撃がバーンの脇腹へと直撃する。

さすがのバーンでも、無防備な状態でオリハルコンによる攻撃を受けて何本も骨が折れる音がした。

 

「キャスリングか…!またしても!!」

 

ブロックへ反撃を試みようとするバーンだが、それよりも早くクーラが追い打ちをかける。

 

「レイザー様が言ったはずです。せめてもの嫌がらせと、リベンジをさせてもらうと」

 

いつの間にかクーラは武器を剣から槍に変え、それは一直線にバーンの心臓へと突き刺さる。

 

「デーモンスピアによる『急所突き』です。本当はレイザー様提案の攻撃なんですが」

 

槍をバーンに突き刺した状態のまま、クーラとブロックはバーンから離れる。

ヒュンケルから聞いたがハドラーは心臓が2つあったため、バーンも恐らく同じかそれ以上に持っているはずだから警戒しているのだろう。

 

ハドラーやヒムがブロックに何か言おうとするが、バーンのあまりに怒る様子に口をつぐむ。

 

「口約束とは言え、まさかこうも容易く横やりを入れてくるとはな…!いいだろう。もう地上は消し飛ばす。本当に貴様が持っている黒の核晶で余を止める覚悟があるか、試してみろ!!」

 

バーンが魔力を込め、地上にある5つの黒の核晶に起動命令を出す。

 

ダイ君達が絶望に満ちた表情を浮かべるが、私とレイザーは事情を知っているため、それを黙って見ていた。

 

「…!?レイザー、貴様何をした!地上にある黒の核晶が、1つも起動しないだと…!」

 

「俺は何もしてないよ。頑張ったのは、地上にいる皆だ」

 

レイザーが積極的にバーンの気を引こうとしていたのは、この時間稼ぎのためだった。

 

私が優先的に解放されたのは、アバン先生からもらったフェザーを所有していることに加え、ゴメちゃんの存在があったからだ。

 

神の涙。

レイザーが弱ったゴメちゃんを回復できないかと、インパスで様子を診たときに初めて気づいたゴメちゃんの正体だ。

 

その能力もレイザーは分析できたらしく、どうやら奇跡に等しい現象を任意に発動できる、賢者の石など比較にならないアイテムらしい。

 

ただしその能力と引き換えにゴメちゃんが弱っているらしく、これ以上その力を使ったらゴメちゃんの命の保証はない。

 

だからこそ神の涙としての力を使うかどうかは、ゴメちゃんの友達である私に任せる。

そしてもし使わなくとも、恨むことは決してしないと託されたのだ。

 

私は言われなくても使うつもりはなかったのだが、レイザーが騒ぎはじめてから、頭に直接声がし出した。

 

その声はゴメちゃんからで、もう力を使わなくともまもなく命は尽きてしまう。

だから最後に、皆のために使ってほしいというゴメちゃんからのお願いだ。

 

そして私は出来るだけゴメちゃんの負担をかけない願いを選び、実行してもらった。

 

バーンに私の心を読まれないようにすること。

 

地上にいるフローラ様達と念話をし、今すぐバーンパレスの真下から避難すること。

 

そしてロン・ベルクさんから聞いた黒の核晶を凍結させて停止させる方法を、地上全ての人に伝えること。

 

「…これが私とレイザーがしていたことよ」

 

どんどん小さくなっていき、今や片手に収まる程度までになってしまったゴメちゃんを皆に見せながら話す。

地上を救ったと言えば聞こえはいいが、結局はダイ君の友達を犠牲にしての結果だ。

 

そのことによる罪は背負うつもりだったが、諦めきれない様子のポップ君がレイザーへと叫ぶ。

 

「おい、レイザー!お前だったら、どうにかゴメ公を救うことが出来る手段を持ってるはずだろ!バランの時みたいに、なんでもいいからやってくれ!頼むよ!!」

 

「へ!?え、えーと、媒体に使えそうな素材は…もうない。イア、イア、ハスター…は違うハスター来そうだし。…どうにでもなれ!!ホンダララッタ、ヘンダララッタ、ドンガラガッタ、フン、フン!」

 

レイザーがうるさいが、もはや消えてしまいそうなゴメちゃんを前にそれどころではないので聞き流す。

 

ダイ君やマァムも寄り添い、ゴメちゃんの最期のときを見つめる。

 

「…言っておくが、なんでもいいって言ったのはお前だからな?」

 

不吉なレイザーの一言が聞こえたが、もはや重みを感じないゴメちゃんを前にお別れの言葉を口にする。

 

「ゴメちゃん、今までありがとう…!ゴメちゃ…?」

 

ふと、手の中にあるスライムの感触が変わったことに気づく。

これまでゼリーのような感覚だったものが、こう何というか、モッチリとした手触りになっているのだ。

 

レイザーのこれまでの行動を省みて嫌な予感がしつつ、恐る恐る自らの手を見てみる。

 

「おめでとりぃぃぃぃ!!」

 

握っていたスライム型の神の涙は、天文学的に頭が悪そうな許容しがたい生物に変貌していた。

 

思わずその餅状のモンスターを投げ捨てるが、レイザーがそれをキャッチする。

そしておずおずと、ダイ君にそのモンスターを差し出した。

 

「…これ、ゴメちゃんです」

 

「そうなった事実を言わないといけないのはわかるけど、もう少しオブラートに包んで言えよ!!そもそもお前、何しやがったぁ!?」

 

これまで以上の勢いで、ポップ君はレイザーの襟首を掴む。

 

「何でもいいって言ったじゃん!?それによく考えてみろ。『ゴールデンメタルスライム』から『メタボっぽいスライム』に変わっただけだ。だろう?」

 

「とりぃぃぃぃ!とりぃぃぃぃ!」

 

姿が変わって混乱している様子のゴメちゃんを落ち着かせるよう、レイザーは言う。

 

「どうどう。あんまり興奮するな。そのモンスターはエッグモンスターの一種で、自爆能力があるから下手すると破裂しちまうぞ」

 

「さらっと危険技能を持たせないで!」

 

本気でレイザーに殴りかかろうと思ったが、当のダイ君は餅となったゴメちゃんを持ち上げ、嬉しそうに回り出す。

 

「ありがとう、レイザー!父さんだけでなく、俺の友達も助けてくれて」

 

「よかったの?これで…?」

 

マァムの一言に、ゴメちゃんが元気よく答える。

 

「おめでとりぃぃぃぃ!」

 

「ちょっと黙っててくれないかな!?」

 

「大丈夫?ハッスルダンスる?」

 

「『ホイミする』みたいな言い方で聞かないで!腹立たしい!!」

 

混乱する私たちを他所に、怒りが収まった様子のバーンが淡々と告げる。

 

「もう今の余でも貴様の相手は務まらん。まともに相手をしようとした余が間違っていた」

 

そう言った瞬間、レイザーの床が抜けた。

咄嗟にトベルーラをしようとしたのだろうが、バーンがレイザーにアストロンをかけてそれを妨害する。

 

「そのまま落ちていけ。そして二度と余の前に姿を現すな」

 

慌てた様子のクーラと、仲間意識のためかブロックがレイザーを追って行った。

…色々ひどいが、現状を受け入れよう。

 

本当の大魔王討伐は、ここからなのだから。




【追記1】
明けましておめでとうございます。
そして新年一発目が、このようなネタで申し訳ございません。

ゴメちゃん変異ですが、動機を言わせていただくとキラーマジンガ戦と合わせて当初から決まっていたシーンでした。
そのため後から見るとかなりひどい内容のため続行するか迷いましたが、実行に移しました。

…現在こちらは、正座をして書いております。
そして土下座の覚悟も出来ております。

【追記2】
知らない方へエッグモンスターの説明させていただくと、ゲーム「半熟英雄」シリーズに登場するモンスターで、FFでいうと10の召喚獣のように代わりに戦ってくれる存在です。

その種類は非常に多い反面、当たりはずれが激しく、言うまでもなく「おめでとり」ははずれの方です。
ちなみに「おめでとり」の見た目は、鏡餅に翼が生えた縁起の良いモンスターです。

【追記3(という名のサブタイトルのボツネタ集です)】
 ■「なんでもいい」って言った結果がこれだよ!
 ■「一回殴ってよかですか?」「嫌ですとも!」
  →私の魂が叫ぶんです。「この芸風は違う」と。

 ■作戦名「命令させて」
 ■作戦名「この人、止めて」
  →シンプルな変更なため、たぶん既出なので止めました。

 ■作戦名「踊るな、光るな、物投げるな」
  →オリ主にこれらは禁止するには無理がありました。


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【第35話】冥竜王!お許しください!!

【2019/06/01 追記】
今回の話で、4名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----レイザーside----

 

「死ぬかと思った…」

 

バーンによって決戦の場から退場させられた後、魔力を吸収する壁で周囲を覆われた心臓部へ落とされたのだが、気まぐれにやってみた『凍てつく波動』からのマホイミをした途端、壊死するように床が崩れるとは思わなかった。

 

落下直後にルーラでバーンパレスへ戻ろうとはしたのだが、再度ルーラによる侵入を阻む結界のようなものが張られてしまったため、今は諦めてバーンパレス真下の地上で一息を入れている。

 

「レイザー様。今更なのですがこの後、私達と同じように心臓部に落とされた方がいた場合、そのまま地上まで落下するのではないでしょうか?」

 

底部がぽっかりと空いたバーンパレスを見上げながらクーラが言うが、まさか自分が落とされた後にまた落下されるような人物はいないだろう。

…いないよね?

 

「やっちまったことは仕方ない。もう戦場に戻ることもできないようだし、フローラ女王達と合流しようか」

 

「ブローム」

 

付いてきてしまったブロックに対して言うが、急にクーラは何もない方向を睨みつける。

 

「いえ。その前に、退治しなければならない者がいるようです」

 

さすがの俺でも、2回目となったら全てを言わずともわかる。

クーラと同じように『盗賊の鼻』を使い、見つけた人物に『灼熱の炎』を吹きかける。

 

「出てこい、この不審者めっ!!」

 

「君に言われたらおしまいだよ!!」

 

俺の炎を切り裂くようにしながら、アバン先生が首を切り落としたというキルバーンが現れる。

脇にはその自身の首を抱え、使い魔ピロロと共にニヤニヤ笑いながらこちらの驚く様子を楽しんでいる。

 

とっさにその正体をデュラハンやスリーピーホロウといった、元々首がない種族と予測しつつインパスをするが、予想とは違った答えが返ってきた。

 

「…なるほど。胴体や首を切られて平気なのは、後ろの使い魔が操作している人形だったからか」

 

「ふふふ。やっぱりボクの正体を見抜く特技を持っていたんだね。君から距離を取って正解だったよ」

 

こちらの特技を警戒してか、人形の陰に隠れるようにしながらピロロは俺の言葉を肯定する。

 

「まぁ、もうこんな状況だし、どうせここで死ぬ君達には言ってもいいか。僕の上司は冥竜王ヴェルザー様さ。いざという時はバーンを殺すよう仰せつかっていたのさ」

 

ピロロは人形を操作しながら、これまでのようにからかうような口調ではなく、上から目線で語り出す。

アバン先生から聞いた人形の特徴から推測するに、不可視の刃であるファントムレイザーを周囲に設置しているのだろう。

 

「ボクの今の目的は、万が一勇者が大魔王を倒せたとき、勇者一行を始末することだ。だけどボクの位置や正体を見破れる君たちが邪魔だったんだけど、こうして君たちだけが現れてくれるなんて、ボクは運が良いみたいだ」

 

「…たしかピロロがいれば、人形の刃を幾らでも補充できるってアバン先生が言ってたな。さっきから設定している刃は、何本目だ?」

 

途切れることなく人形を操作していたピロロは、なおその動作を止めることなく答える。

 

「さぁ?たぶん100本くらいじゃないかな。一歩でも動いたら、大変なことになるよ」

 

直接刃をぶつけないのは、俺達が見えない刃に囲まれ、恐怖する様を見たい奴の趣味のためだろう。

そうなると次にくるのは、人形に使用している、魔界のマグマと同じ成分である液体に点火し、メラゾーマ以上の火球を投げつける技のはずだ。

 

敵の狙いがわかっているのに、それを黙ってみているつもりはない。

 

「このまま灰になるつもりはないから、精一杯抵抗させてもらうよ。それと覚えときな。奇術師は自分のタネがバレたら、自ら幕を閉じなければいけないんだよ」

 

キルバーンの刃は『輝く息』で凍らせることでも位置を確認できると思うが、敵の小細工を丸ごと無力化させることを優先する。

この技はブロックにも影響が出てしまうが、確実に勝つために体中から霧を噴出する。

 

「うん?黒い…マヌーサかい?そんなことしても、この距離で狙いを外すことなんてありえないんだけどなぁ」

 

ピロロが人形にもたれかかりながら、無駄な抵抗と思っているのか、俺が噴出した霧に無防備に人形ごと包まれる。

 

それを確認してクーラに目配せをすると、察したクーラはピロロに向かって浮遊しながら駆け出した。

 

周囲にばらまいたはずの刃が刺さらないクーラに驚きながら、ピロロは人形を操作しようとしたがそれもできず、クーラによってその手足を引き千切られた。

 

「どうです。レイザー様にかかればこの程度の結果、一瞬で導かれるのです」

 

いや。そこまでしろとは言ってないし、思ってない。

せいぜい手足を縛る程度で良かったんです。

 

「お、お前…何をしたんだ!?どうして空中に固定したはずのファントムレイザーが地面に落ちていて、ボクの人形も思うようにならない!?おまけに呪文まで使えないじゃないか!!」

 

激痛にもだえながら回復呪文をしようとしているのだろうが、先ほどした特技『黒い霧』の影響で、もう数分は魔力によって引き起こされる現象は起こすことができない。

 

「魔界のモンスターで、これを使える奴はいないのか?これは現在かかっている呪文も含めた魔力に起因する効果を全て解除する技で、霧が晴れるまではどんな呪文も使えない『凍てつく波動』の無差別版のような技だよ。当然、魔力で動かしている刃や人形も対象だ」

 

この効果でブロックは駒に戻ってしまったが、魂は復活の玉に送られたので大丈夫だろう。

 

先ほどまでと立場が逆転したものの、さすがにこのままでは手足からの出血でピロロが息絶えてしまいそうなため、霧が晴れたことだし回復呪文を使おうとしたが、頭上に突然何かが現れる。

以前ハドラーが使った、自身の姿を映像で送る呪文だ。

 

『待て。貴様の動きを見せてもらったが、ここは負けを認めよう。その人形をくれてやるから、そいつはこちらに引き渡してもらう』

 

映し出される竜の石像にピロロは驚くが、俺は拍子抜けしていた。

 

「…なんだ。動く石像か」

 

『違う!オレは冥竜王ヴェルザー!!かつてバーンと魔界を二分する勢力を持ち、竜の騎士であるバランを追い詰めた竜だ!!』

 

「わかった、わかった。自分を竜だと思い込んでいる、動く石像だなんて思ってないから。今大事な話をしようとしてるんだから、帰ってくれるか?」

 

『貴様ぁ…!!』

 

動く石像とは思えない圧力を放ってくるが、適当に無視しようとする俺を合流したバランがたしなめる。

 

「レイザー。そいつはヴェルザー本人で間違いない。実際に戦った私が、その声を覚えている」

 

バーンパレスから落下した俺達が見え、様子を見に来てくれたらしい。

そしてバランの説明から、動く石像の正体を聞く。

 

「…なるほど。じゃあ、お望み通りにしてやろうか」

 

バランの説明とキルバーンがしようとしていたことから、決めかねていた対応が確定した。

 

ピロロと人形を囲むように、ゴールドフェザーを突き刺す。

 

「レイザー様。今度は何をするつもりですか?それとその羽は、アバンの物では?」

 

「バーンパレスの床や扉に刺さっていたのを、拾い集めたやつだ。それとアバン先生からは、ダーマの書のお返しに少しだけだがこんな物ももらえた」

 

怪訝な目で見てくるピロロに対して、献花のようにルラムーン草を供えていく。

これだけでは心許ないので、バランにも協力してもらう。

 

「おい、バラン。以前魔界でヴェルザーと戦ったらしいけど、その場所を思い浮かべられるか?」

 

「問題ないが。…お前まさか、バシルーラでキルバーンをヴェルザーの元へ送るつもりではないだろうな?」

 

「そのつもりだ。ついでにちょうど始末に困ってた、不発弾の処理もしてもらう」

 

袋からバーンから奪った黒の核晶を取り出し、人形に括り付ける。

しっかり結んだことを確認してから、人形にも仕掛けられている黒の核晶の起動ボタンを押した。

 

インパスで確認したが、この人形のボタンは押してから爆発するまで10数秒しか猶予がないため、急いでバシルーラの詠唱に入る。

 

『や、やめろ馬鹿者が!…バラン、奴を止めろ!オレとの決着が、このような形で恥だと思わないか!?』

 

自身では動くことができない冥竜王ヴェルザーがバランに言うが、むしろ肩の荷が下りた様子のバランは冷静に答える。

 

「これまで私個人の勝手を貫いてきたのだ。残りの人生は全て家族へ捧げるつもりのため、好都合だ」

 

「ま、待ってくれ!ボクの持っている情報を全て渡す!それに今度こそ、ちゃんと改心する。だから…!」

 

ピロロの命乞いに、詠唱をしながら俺は静かに答える。

 

「…勘違いするなよ」

 

思っていたよりも低い声が出て自分でも驚くが、話を続ける。

 

「俺自身はともかく、自分の恋人や弟を殺されかけたのを笑って許せるほど、俺は人間が出来てない」

 

ゴールドフェザーなどの媒体が働いているのを確認し、俺はピロロに向かってバシルーラを放つ。

 

「故郷へ帰るんだな。お前にも上司がいるだろう」

 

バシルーラが発動したのを確認してしばし待つが、地上で爆発が起こった様子はない。

無事、魔界に送り返せたのだろう。

 

「…クーラもどうかと思っていたが、お前も似たような物だな」

 

引いた様子でこちらを見るバランだが、俺は気にせず、出来ることをやり終わったことに安堵の息を吐く。

 

「そりゃ、俺だって怒るときは怒るよ。…それより向こうの盛り上がりを見る限り、勇者様が帰還されたようだぞ。俺達も、出迎えに行こう」

 

これからは、ようやく特技で生きていけるのだ。

やらなければいけないことは山積みだが、頑張っていけば何とかなるだろう。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
レイザーと奇行な物語は、これにて本編終了となります。

次話はちょっとしたエピローグと、その後の勇者達をまとめたおまけ話となります。

【追記1】
レイザーの最後の行動は魔界の勢力を敵に回しそうですが、ダイを救い、キルバーンやヴェルザーに一矢報いるためにこのような結果となりました。

【追記2(という名のサブタイトルのボツネタです)】
■ハッスルダンスを使うまでもない
■お前にもレイザーをあてがってやろうか!?
 →無理やり感のあるパロディは駄目な気がしてボツ。

■絶対死なない死神 VS 生きているなら大魔王にでも迷惑をかける魔族
■「冥竜王!空からレイザーが!!」「早く逃げろっ!間に合わなくなっても知らんぞー!!」
 →ネタを詰め込み過ぎな気がして、却下しました。

■おめでとうございます!応募されていない抽選で、レイザーからのプレゼントが当選しました!
■視聴者プレゼント~当選は発送をもって代えさせていただきます~
 →サブタイトルの本命でしたが、万が一読者プレゼントと見間違える方がいて空喜びさせては申し訳ないのでNG。


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【エピローグ】「彼は悪い魔族じゃないよ」「そうです。彼は質の悪いだけの魔族です」

【2018/04/09 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


----クーラside----

 

「…入校希望者のリストですが、今年分はこれで終わりですね?」

 

バーンとの決戦から3年後。

私は現在、初めて地上に降り立ったオーザム王国にいた。

 

そしていま私が聞いた人物は秘書に当たる人物で、レイザー様から商人の特技を学び、そのまま職員として勤めている者だ。

 

「はい。今年も本校へ試験免除の該当者はなく、全てここオーザム校で人格と能力を磨く必要があると判断しました」

 

レイザー様が作られた特技を教える施設『ダーマ訓練校』は2ヶ国にあり、カール王国にあった隠し砦をそのまま改装し、一般公開されていない本校。

 

それとは別に特技を悪用したり、生半可な気分で学びに来る者を省くため、基礎だけを作り、特技は教えない入校試験のためだけのオーザム校だ。

またオーザム校は入学は自由だが卒業試験はなく、こちらが見込みなしと判断すれば、ずっと本校に招いて特技を教えることはない。

 

これはレイザー様が一度オーザム王国を滅ぼしたことを気にされ、復興のため人材を集めることが目的だという。

 

実際勇者たちが使用したという特技は各地で名をとどろかせ、かつオーザム校は入学試験がないため他国の兵士なども含め、あっという間に集落となり、建物も増えていった。

 

「クーラ様。あと、こちらも。カジノの売上金と、カール国王様から今回の襲撃地候補になります」

 

「あぁ。今度は廃墟の撤去目的ですね。…それと私のことは、校長夫人と呼んでください」

 

秘書から渡された、ヴェルザーによる襲撃予定地を見る。

 

戦が終わった直後、レイザー様の案で冥竜王ヴェルザーからの宣戦布告が演出され、表向きは地上と魔界の戦いは終わっていないことになっている。

その方法はアバンのドラゴラムとアストロン、そしてハドラーの周囲に映像を映す魔術を使い、「バーンの次は私が地上を進軍する」という内容だった。

 

その目的は、平和になったことでダイやその仲間たちがバランのように虐げられることがないよう、まだ勇者の力が必要だと知らしめるためだという。

実際はヴェルザー側は沈黙を保っており、存命しているのかすらわからないが、時折レイザー様やアバンがドラゴラムを使い、山賊のアジト襲撃や焼畑などをして脅威を演出している。

 

(…そうは言っておりますが、本当は戦いが終わると特技の需要がなくなるとか、そんな理由ではないでしょうね)

 

ないとは思いたいが、あのレイザー様のことを思うとその疑念はなくならない。

 

「ふふふ、嫌ですね。レイザーさんとクーラ様は、まだ結婚式を挙げる予定はないじゃないですか」

 

私がそんな裏事情を考えていると、秘書はくすくすと笑う。

そして、その目は笑っていない。

 

生徒であるときからレイザー様に馴れ馴れしいと思い、私の側に置いといて正解だったようだ。

 

「レイザー様は忙しいのです。既に私自身で、魔族と精霊の挙式を上げてもらえる教会は調べていますため、時間さえあればすぐにでもできます。…もっとも結婚を認めないような教会は『この邪教徒め!』と叫びながら人通りを飛び去りましたので、人の入れ替わりがないか確認する必要がありますね」

 

「…現在本校にいる生徒に、実家の教会が風評被害で潰れて職にあぶれたという者がいましたが?」

 

「…そういえば、そろそろ本校の入学式ですね。私が目を通さなければいけない案件は済ませましたので、後は任せます」

 

リリルーラを使い、カール王国にある本校に移動する。

今はちょうど広場にて、数国あるスポンサーの一つベンガーナ国からの代表者が全校生の前で祝辞を読み終わったところだ。

 

『…それでは勇者一行として大魔王討伐に大変な貢献をし、特技を教え広めた本校校長からの挨拶になります』

 

アナウンスでレイザー様の紹介をすると、演台の前にレイザー様が風を切るような音と共に一瞬で現れる。

 

どうやら『砂煙』によって視覚をなくし、その砂をまとったまま『疾風突き』による高速移動をしたようだ。

 

その反応は特技への理解で差がでて、入学生や特技を学んでいない関係者は何が起こったかわからず、入学してだいぶ経つ生徒は同時に異なる特技を行ったレイザー様の技量に驚愕している。

 

そして特技を学び終わる直前の生徒や、卒業せずに講師として残った者達は「また高度な技を無駄なことに使ってる」と呆れていた。

呆れている生徒たちは、避難訓練の際、火事や災害よりも「校長がまたやらかした」と放送する方が真面目に避難する程度には、レイザー様に染まっている。

 

「とりあえず、入学おめでとう。堅苦しい挨拶は苦手だから、軽く短く言うが…」

 

毎年のことではあるが、レイザー様はいつもの洗礼をしようとする。

これによって生徒からの敬意が薄れているのが、止めるだけ無駄だろう。

 

「これまでの訓練や挨拶で、疲れてるだろう。皆まとめて、まずは回復してやろう!!」

 

そういって、レイザー様は『ハッスルダンス』を踊り出す。

 

苦労して入った本校の校長がこんなので申し訳ないとは思いますが、約束しましょう。

レイザー様と特技がある限り、この世界は決してあなた達を退屈させません。




このエピローグにて、今作は完結となります。

次話はこの世界でのダイ達について私なりの解釈のため、完全におまけとなります。

本当は1話まるごとあとがきとして書けるほど語りたいことはあるのですが、こちらで長々とするのはマナー違反な気がするため、簡潔に言わせていただきます。

まずは更新速度が遅いにも関わらず、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
出来に納得できず、更新が非常に遅れることがほとんどで、申し訳ありません。

その際も罵倒などせず、むしろ生存確認などで声をかけていただけたことが起爆材となり、何とかここまでたどり着けました。

これからまたしばらくは読み専に戻らせていただきますが、当初の目的の一つだった「自分でもダイの大冒険で話を書いてみよう」と思う人がいれば幸いです。


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【おまけ】戦後の近況報告書

【2020/02/25 追記】
今回の話で、16名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


【ダイ】

・レオナからの誘いでパプニカ王国を本拠地にしているが、バランやブラスに会いに行ったり、ポップと共に破邪の洞窟踏破のため、ちょくちょく出かけている。

・噂ではレオナから渡された書面によくわからないままサインし、それ以降レオナの機嫌が良くなったらしい。

 

【ポップ】

・破邪の洞窟攻略以外ではこれといったことをしておらず、時々臨時講師としてダーマ訓練校の世話になっている。

・マァムとメルルとの関係は、未だ友達以上恋人未満らしい。

 

【ゴメちゃん】

・見た目が大きく変わったことで以前の姿を知る人物たちが驚愕しているが、無邪気にダイと時間を共にしている

 

【マァム】

・故郷のネイル村で生活していたが、世間からの目や勧誘で疲れてしまい、ダーマ訓練校の講師として働いている。

・最近ヒュンケルに女性の影があると聞き、気にしている。

 

【ヒュンケル】

・ラーハルトと共に武者修行のため、各国を渡っている。

・最近では旅の同行者に、半ば押しかけ女房のような形でエイミが増えた。

 

【レオナ】

・国や私生活は順風満帆なのだが、スポンサーとなっているダーマ訓練校が度々とてつもないことをやらかすため、『レイザー』という単語に胃を痛めている。

・最近では、大魔王戦での奇跡を全てレオナが行ったという『全盛期のレオナ伝説』という本が出回り、焚書を強行した。

 

【アバン】

・フローラ女王と結婚し、カール国王となる。

・時折ダーマ訓練校の生徒に、踊り系特技が得意な中年が混じることがあるが、そのときは決まって不在となる。

 

【マトリフ】

・レイザーに誘われ、ダーマ訓練校の講師になる。

・勧誘には『女生徒』や『トラップカードの製法』などといった言葉が飛び交ったが、詳細は不明。

 

【ブロキーナ】

・レイザーに誘われ、ダーマ訓練校の講師になる。

・主な指導科目は『踊り子』となっている。

 

【マリン】

・パプニカ王国で、引き続き賢者として勤めている。

・最近ではクーラにダーマ訓練校に誘われ、心が動いている。

 

【エイミ】

・賢者を辞め、ヒュンケル達に同行している。

・身の回りの世話をすることで家事が得意になったが、それに比例するように筋肉がついていることに悩んでいる。

 

【メルル】

・レイザーのレミラーマのせいか以前より仕事が減ったこともあり、副業を始めた。

・噂では掛け算の本を執筆していて、掛け算なのにかける順番が大切な仕事らしい。

 

【フローラ】

・アバンと結ばれ、国の顔として皆を導いている。

 

【ノヴァ】

・ダーマ訓練校の生徒として戦闘技術を学ぶ一方、ロン・ベルクに憧れ、鍛冶をやり始めた。

 

【クロコダイン】

・主にブラス達と共にデルムリン島にいるが、たまにレイザーに誘われ、人間との交流をする目的もあり、臨時講師をしている。

 

【チウ】

・主にブラス達と共にデルムリン島にいる。

・最近入った新隊員の育成にはりきっている。

 

【ロン・ベルク】

・完治後にダーマ訓練校に務める条件で、ダーマ訓練校で暮らしている。

 

【バラン】

・自分にできることはないと各国からの誘いは断り、ダーマ訓練校の事務員をしている。

 

【ラーハルト】

・ヒュンケルと共に武者修行をしているが、最近同行するエイミとヒュンケルが良い雰囲気になることが多く、気まずいのが悩み。

 

【ハドラー】

・クーラによって破壊された、破邪の洞窟を修復し、そこで生活をしている。

・実力のない冒険者などが入り込むのを防ぐ目的だが、たまにダイとの模擬戦を条件に、ヴェルザーからの刺客として暴れている。

 

【ヒム】

・自分の見た目から武者修行を諦め、今はデルムリン島を生活の拠点にしている。

 

【ブロック】

・ホムンクルスへと姿を変え、ダーマ訓練校の受付を担当している。

・仲間以外に、不特定多数と話せることが楽しいらしい。

 

【フェンブレン】

・ホムンクルスへと姿を変えたが、技を若いうちから学ぶという目的で、6歳程度の子供の姿になっている。

・しかし思ったよりも弱体化が激しく、今は獣王遊撃隊下っ端として、基礎体力をつけている。

 

【シグマ】

・ホムンクルスへと姿を変え、ハドラーと共に破邪の洞窟で生活している。

・時々ヴェルザーの配下の真似をするのは、それほど悪くはないらしい。

 

【アルビナス】

・ホムンクルスへと姿を変え、ハドラーと共に破邪の洞窟で生活している。

・近頃は進化の秘法を使った魔族を元に戻す研究を、時間を見つけては行っている。

 

【レイザー】

・夢である特技を教える施設建築に加え、カジノなども作り、多くの業界で名をはせている。

・その一方、定期的に予想できないことをやらかすため、各国の重鎮から「彼を一人にしてはいけない」ということを何度も言われている。

 

【クーラ】

・レイザーから恋人認定されたが、結婚は出来ずにいる。その間に、レイザーを慕う生徒が出始め、女子校設立を企んでいる。

・大魔王討伐後、天界と揉める。その理由が天界から「大魔王討伐の功績を認め、そこの野蛮な魔族から解放してやる」と言われたためで、岩塩を投げつけて使者を叩き返して問題になった。

 

【ナーミラ】

・ダーマ訓練校の講師として勤めているが、踊り系特技を学ぶ生徒は少なく、暇だった際にレイザーの側に行こうとするため、度々クーラの被害にあっている。

 

【天界】

・クーラとの騒動で問題になったが、レイザーとダイが出向くことで交流を開始した。

・その手段はレイザーが「開国してくださいよぉ~。先っちょだけでいいですから~」という不気味な呪文と『誘う踊り』で門番を説得。扉や門を閉めて抵抗しようにも、「くしゃみが出そう。は…は…アバカムっ!!おや、扉が開いた。ありがとうございます失礼します」といったセールストークで最深部まで突入し、契約をものにしてきた。

・最終的に、ダイの無垢な様子に心を打たれ、ごくわずかだが交流を認めることとなった。

 

【魔界】

・勇者一行が黒の核晶を送り付けたという噂が何者かによって流れ、地上と断絶状態となっている。

・近々、レイザーを投入予定。



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