遊戯王 5D’s 竜と鳥と (海と鐘と)
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Phase 1

 最近、セキュリティーの締め付けが厳しくなってきた気がする。

 元々このサテライト地区は、ネオ童実野シティの下層地帯、犯罪者ましましの治安不良区域ということもあり、警備警戒は厳重に行われていた場所である。

 さらに昨今のデュエルギャングの抗争の激化、それに伴う治安の悪化、不良少年の増加、etcetc.

 

 町の空気は悪くなる一方。

 サテライト民だというだけで収容所に連れて行かれそうになった人もいると聞くし、そこらの街道ではギャングがぼろぼろのDホイールを乗り回している始末。こんな状態じゃあ気軽に散歩もできやしない。

 

「いや、逆に考えるんだ。今なら一般市民はあまり出歩いていない。外で遭う者はだいたいデュエルギャング、あるいはセキュリティー。アンティデュエルに勝てばカード貰い放題の拾い放題。この機会を見逃して、いったいいつ外に出るんだ?今だろう!」

 

「……いったいどこのチームのせいで抗争が激しくなったと思ってるんですかね、お前は」

 

「俺はこのやり方でカードを拾った」

 

「強奪!」

 

「強奪じゃない。デュエル精神に(のっと)った正式なカード拾いだ」

 

 真顔でとんでもないことをさらっと言ってのける、隣のカニ頭である。

 デュエルギャング達の抗争の引き金となった、チーム・サティスファクションの他チーム潰しから一週間。

 ギャング達の勢力図が変わったことで、それまで硬直状態だったサテライトが一転、ルール無用のデュエルロイヤル地域に早変わりである。今いるぼろアパートから100m歩けば、三回はデュエル出来そうな状況だった。

 

 やったね、みんな!たくさんデュエルできるよ!(白目

 

 本当に勘弁してほしい。できることなら落ち着くまで家に引きこもっていたい。

 いくら外が面倒な状態だったとしても、仕事の予約が入っている以上、外出しないわけにはいかないのだが。

 そもそもこんな状態となった元凶の一人がいまここにいることが悩みを増やしているのである。

 このカニ頭がここにいなければ、いくら治安の悪いサテライト、B.A.Dエリアであるとしても、うちのまわりがこんな世紀末只中のヒャッハー野郎はびこる場所にはならなかったはずなのに……。

 

「……デュエッ\(TдT)ゝ!」

 

「……どうした、急に。それは俺たちのチームの象徴のポーズじゃないか。だれに教わった?」

 

「この間クロウがうちに来て、自慢げにレクチャーしていった。いったい何がしたかったのか分からなかったが、すごく楽しそうだったからまぁいいかなって」

 

「羨ましいのか?俺から鬼柳に言って、チームに入れてもらうか?」

 

「違ぇーよ!?嘆いてんだよこの状況を!分かれよ!」

 

 ちょっと涙が出ているのが見えんのか!?

 本当にだんだんと泣きたくなってきたのだが、もう現実逃避はやめておこう。

 現状を端的に表現すると。

 

 

チーム・サティスファクションが活動開始

         ↓

他チーム潰したりデュエルディスク壊したり

         ↓

恨みをもった人間の報復秒読み待ったなし

         ↓

サティスファクションの人間が一人でぼろアパートに入るのを目撃!

         ↓

    「デュ↑エルだぁ!!」←いまここ

 

 

 つまり隣のカニ頭のせいで、いまこの家はデュエルギャングに包囲されているのである。

 Dホイールがぎゅんぎゅん走り回る音や、大音声の罵詈雑言、物を壊す音。いかにも面倒臭そうな雰囲気ぷんぷんである。近隣の世紀末度が急上昇中。俺の腹痛メーターも急上昇中。下手に才能がある上にいろいろ(こじ)らせた人間が集まると、こんなことになるといういい例である。満足同盟のことである。

 

「……デュエッ\(TдT)ゝ!」

 

「そうか、分かった。お前が何を感じているのか、はっきりとな……」

 

「分かったならいいよ。もうお前帰れよ。これから仕事があるんだよ」

 

「周りの連中に合わせて、つまらないデュエルをこなす日々。レベルの低いプレイングに失望する毎日。心に吹く風が淀み、自分が何をしたいのかも分からなくなっていく……。そんな日々を、お前は嘆いていたんだな」

 

「( ゚д゚)」

 

「俺たちもそうだった。こんな毎日は変わってほしい、こんな世界から抜け出したい。そんな、鬱屈とした思いを胸に秘めた俺たち4人が出会ったとき、風が教えてくれた……。世界が変わるんじゃない、俺たちが、俺たちの手で、世界を変えるんだってことを」

 

 真顔で言ってのけたカニ頭。話し終わると立ち上がって、押し入れの方に歩いて行った。なにかごそごそやっていたかと思うと、デュエルディスクをこっちに投げてきた。デッキ装填済みである。

 

「……いや、え?なんでお前、俺のデュエルディスクがある場所知ってんの?一回も教えたことないよね?」

 

「フィールを感じただけだ。真のデュエリストならだれでも出来る」

 

「突っ込み待ちだろうから放置して聞くけど、なんでデュエルディスク?お前が帰るだけなら俺のデュエルディスクいらないよね?……あっ、待て。答えなくていい。表から出たくないなら、裏口あるからそっちから……」

 

 

 

「 お い 。 デ ュ エ ル し ろ よ 」

 

 

 

 会話をぶった切ってそう言ったカニ頭。

 なぜかDホイールに乗っていた。

 

「……突っ込み待ちだろうけどあえて聞くけど、そのDホイール、どっから出した?」

 

「ふっ。こんなこともあろうかと思ってな。お前が出かけている間に、押し入れに仕込ませてもらった」

 

 呆然。

 『その押し入れ、Dホイールが入るほど広かったっけ』、とか、『不法侵入なんだけどいつから置いてあったの?』、とか、『今まで俺気が付かなかったんだけどどうやって隠しておいたの?』、とか、突っ込みどころが多すぎて処理落ち状態に陥った俺の頭が、なんとか言葉を絞り出す。

 

「……ここ、土足厳禁だから、Dホイールは玄関で脱いできてね」

 

 自分でも意味不明だと思ったその言葉はしかし、カニ頭には伝わったらしい。口角を釣り上げたドヤ顔が、少し申し訳なさそうな顔に変化した。

 

「……ああ、すまない。だが、もう外にでるから許してほしい」

 

「あ、ああ!帰ってくれるんなら別に問題はねぇよ!」

 

「そうか、ありがとう」

 

 ちょっと微笑んでから、アクセルを吹かす。

 Dホイールのエンジンが轟くような低音を響かせ始める。

 Dホイールの動力源はモーメントから供給されるエネルギーのため、車のような排気ガスとは無縁である。アパートの中にいる今、排気ガスがないのはありがたい……いやいや!

 

「ねぇ、なんでエンジン吹かし始めたの?ここ俺の家の中なんだけど、どうやって外に出る気なの?」

 

「デュエルディスクは着けているな?ヘルメットを被って後ろに乗れ。少々手荒くなる」

 

「いったい何をどう手荒くする気なんですかね……」

 

 『押し入れからDホイール』の衝撃からまだ立ち直っていなかった俺は、言われるままにカニ頭の後ろに乗った。Dホイールの座席は思った以上に広く快適である。そもそもこういうメカメカしいカッコいい形をしたものに、男は憧れるものである。乗れて走れてデュエルもできる。やっぱりDホイールはいい物である。俺のDホイールはジャンクと違法販売部品で固めた、走る産業廃棄物みたいなものだから、こんな風に正しい知識と確かな技術で組み立てたものとは全然違う。仕事に必要だからまだ走らせているが、いっそ俺もこいつに頼んで新しいの作ってもらおうかな……。

 

 などと、考えていた時。

 カニ頭から声がかかる。

 

 

「いくぞ」

 

「おう」

 

 

 反射で返事をしてしまったが、え、どこに行くって?

 カニ頭のヘルメットを被った後頭部を見つめた、その瞬間。

 Dホイールが走り出した。

 

 直前までエンジンを吹かし続けていた機体は、スタートダッシュを切るときのように急加速する。

 進行方向は、いつの間にか大きく開かれていた窓である。窓ガラスは外されて壁に立てかけられてあった。

 この部屋の窓は、事故で開いた大穴を修復した時に作ったもので、相応に大きい。

 ああ、ここからDホイール入れたんだなぁ、と、現実逃避気味に思った。

 言っておくが、ここはアパートの三階である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム・サティスファクションのメカニック、不動遊星が、たった一人で行動していると報告されてから数時間。チーム・ブルーフォンティナのリーダーは、メンバーの大多数を引き連れてそこに来ていた。

 抗争が激化して一週間。サティスファクションの連中が次々に他チームを潰しにかかっている中、受け身の姿勢ではいずれ自分のチームも食われるだけだと分かってはいたが、サティスファクションのメンバーは4人とも凄腕のデュエリスト揃い。4人そろった状態では勝ち目はないと悩んでいたところで、この朗報である。

 不動遊星を倒せば、戦力の低下のみならず、メカニック担当までいなくなることになり、サティスファクションの大幅な弱体化が狙える。この機会に半殺しにしようと意気込んできて今に至る。

 

 どれだけ挑発しても全く反応がない相手に業を煮やし、突撃命令をだそうかと考えていた時である。

 突然、アパートの中からDホイールのエンジン音が聞こえ始めた。三階建てアパートの最上階から聞こえるそれは、だんだんと大きく勢いをまし、轟くような音に変わっていく。

 

「……おい、まさか……」

 

 まさかとは思う。そんなバカなことをしでかす人間がいるはずがない。しかし、現に音は聞こえ、臨界点に達するように大きくなっている。

 

そして。

 

 一際大きな音ともに、大きく開かれた窓から、Dホイールが飛び出してきた。

 

「いかれてやがる……!」

 

 申し訳程度につけられた小さなバルコニーを踏み台に、Dホイールは高く跳躍した。

 『ああ!俺のオサレバルコニーが!?』という声が聞こえた気もしたが、不動遊星の大胆な行動に驚いたリーダーは気が付かない。

 踏み台にされたバルコニーはひしゃげて壊れたが、そんなものは関係ないとばかりに大きく飛び、少し下にあった家の屋根に飛び移った。

 そこから家々を伝って道に降りた頃には、不動遊星はチーム・ブルーフォンティナの包囲から完全に抜け出ていた。

 

 

「……くそ、追え!」

 

 メンバーに命令を出し、不動遊星を追わせる。自分もDホイールに乗り、道を走る。

 隣に、自分の右腕として重用している副リーダーが並んだ。

 

 わざわざこちらを待っていたのだろうか、追いついた時、不動遊星はDホイールを止めてこちらを睨んでいた。

 アパートから跳んだ時には気が付かなかったが、そばにもう一人、男が立っていた。赤い帽子を目深に被ったその男は、不動遊星と何かやり取りをしているようだったが、この場では関係ない。リーダーは声を張り上げた。

 

「不動遊星!お前にはこの場で、ミンチになってもらうぜ!」

 

 デュエルモードをオンにする。盗んだばかりのDホイールで、まだ全ての機能を把握してはいなかったが、走り出すくらいのことはできる。走れるならデュエルもできる。

 

「………………」

 

「……………………………」

 

「……」

 

 リーダーの声には答えず、そばにいる男と何かやり取りをした後、不動遊星は、不意に鎖のようなものをこちらに投げてきた。デュエルアンカーである。遠距離から投げてきたにも関わらず、それは見事に、Dホイールを捉えた。

 

 副リーダーの、Dホイールを。

 

「これは何の真似だ、不動遊星!?」

 

「お前はDホイールに乗って日が浅いな。重心の移動で分かる」

 

 的確な指摘にたじろぐ。確かに、デュエルの腕はともかく、Dホイール乗りとしては、自分よりも副リーダーの方が上だった。

 

「ライディングデュエルをするなら、お前ではなく、横の男の方が歯ごたえがあると感じた。俺はそっちとデュエルをする」

 

「ふざけるなぁ!てめぇは俺とデュエルをするんだよ!」

 

「お前の相手は……」

 

 そこで言葉を切って、隣の赤帽子の男を見る。

 

「こいつがしたいそうだ」

 

「なめやがって……!」

 

「心配しなくてもお前がこいつに勝てたら相手をしてやるさ。もし、勝てたら、な」

 

 薄笑いを浮かべながら不動遊星は言った。

 侮られているのは分かったが、確かにライディングでは分が悪い。

 ここは適材適所で行こうと、副リーダーを見る。

 副リーダーは頷いて、不動遊星の隣に移動した。

 

「いくぞ……」

 

『デュエルモード・オン オートパイロット・スタンバイ』

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

 Dホイールが加速し、みるみるうちに小さくなっていく。第一コーナーを曲がると、2台のDホイールは見えなくなった。最後に見えた時、コーナーに先にたどり着いたのは不動遊星。先行は向こうになる。幸先の悪いスタートだった。

 副リーダーのデュエルに感じた不安を振り払うように、目の前に立って俯く男に目を向ける。

 帽子で顔が隠れて見えないが、さぞ不安そうな顔をしてるのだろうと思った。何せこちらはチームのほとんどを引き連れてきたのである。大人数と一人で対峙する恐怖は相当なものだろう。

 

「ふん。おいお前!そろそろこっちもおっぱじめようぜ!お前みたいな雑魚に、時間をかけるのももったいねぇ」

 

「………………」

 

「聞いてんのか!それともビビッて声も出ないか!?」

 

「……お前らが…………」

 

「あん?」

 

 小声で何かを呟いた。だが小さくて何を言っているか聞こえなかった。

 案外本当にビビッているのかもしれないと、笑おうとした時だった。

 

 

「……いいぜ、来いよ。全員と相手してやる」

 

 

 赤帽子の男が顔を上げた。

 笑っていた。

 どこかが壊れているかのような、危うげな笑みである。

 

「……大口叩きやがって、なら本当に、全員で相手してやろうか!」

 

 男の笑顔にぞっとしながらも、デュエルディスクを掲げる。

 申し合わせたように、同時に叫んだ。

 

 

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 AAAA:LP4000

 リーダー:LP4000

 

 デュエルである。結局こうなったかと思いながら手札を眺める。もはや半笑い状態である。

 

 『お前の心に風を通すには、とにかくデュエルをするしかない。デュエルで全力を出せる相手が見つかれば、お前の世界も変わるはずだ』

 

 何かを勘違いした遊星の言葉である。あいつの場合は分かっててあえて勘違いしているような気がしてならない。バルコニーは壊れるし、部屋はタイヤの跡が着くし、もう散々である。

 自棄になって『全員かかってこい!』とか言っちゃったけど、どうやら真に受けられてしまったらしい。

 本当に全員とやるとなると、どれだけ時間がかかるだろうか?パッと見30人はいるようだが、一人あたり5分と考えても2時間半。仕事の時間には間に合わない。最悪である。最悪ついでに先行も取られたらしい。

 

「俺のターンだ!ドロー!」

 

 力いっぱいドローする相手。あんなひき方をすればカードが曲がったり破れたりすると思うのだが、この世界の法則は一部おかしいところがあるので、問題はないのだろう。

 

「へっ!こいつはいい手札だ!俺は《代打バッター》を攻撃表示で召喚!」

 

 バットをもったバッタが現れる。

 

 

《代打バッター》

 

 効果モンスター

 星4/地属性/昆虫族/攻1000/守1200

 自分フィールド上に存在するこのカードが墓地に送られた時、

 自分の手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

「さらに、魔法カード《トゲトゲ神の殺虫剤》を発動!」

 

 

《トゲトゲ神の殺虫剤》

 

 通常魔法

 フィールド上の昆虫族モンスターは、すべて破壊される。

 

 

「昆虫族モンスター、《代打バッター》が破壊される!さらに代打バッターが破壊されたとき、その効果を発動!手札から昆虫族モンスター一体を特殊召喚する!俺が召喚するのは、こいつだ!」

 

 

 

《アルティメット・インセクト LV5》

 効果モンスター

 星5/風属性/昆虫族/攻2300/守 900

 

 

「上級モンスター、しかも《LV》モンスターか……」

 

「Dホイールを盗んだとき序に手に入れた、超レアモンスターだぜ!こいつでお前をぶち抜いてやる!俺はこれでターンエンド!」手札3

 

「俺のターン、ドロー」

 

 手札にはこのデッキのエンジンとなるカードはなかった。初動は遅くなりそうである。

 

「モンスターをセット、カードをセット。ターンエンドだ」手札4

 

「そんなフィールドで大丈夫かよ!後悔しても遅いぜ!俺のターン、ドロー!」

 

 デュエルするたびに思うんだが、この世界ではドローフェイズの前に心理フェイズでもあるのだろうか。相手を煽る、挑発するは当たり前、ライディングデュエルではDホイールをぶつけ合ったりもする。遊星なんかはおとなしい方だが、そんなのは少数派である。

 

「スタンバイフェイズ時、《アルティメット・インセクト LV5》をレベルアップ!」

 

 

《アルティメット・インセクト LV5》

 

 効果モンスター

 星5/風属性/昆虫族/攻2300/守 900

 「アルティメット・インセクト LV3」の効果で特殊召喚した場合、

 このカードがフィールド上に存在する限り、

 全ての相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で

 「アルティメット・インセクト LV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する

 (召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)。

 

 

「こい、俺のデッキのエース!《アルティメット・インセクト LVレベル7》をデッキから特殊召喚!」

 

 

《アルティメット・インセクト LVレベル7》

 効果モンスター

 星7/風属性/昆虫族/攻2600/守1200

 「アルティメット・インセクト LV5」の効果で特殊召喚した場合、

 このカードが自分フィールド上に存在する限り、

 全ての相手モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントダウンする。

 

 

 フィールドにいた昆虫が繭に包まれたかと思うと、内側からはじけ飛んだ。中から出てきたのはさっきより大きく、刺々しくなったモンスターである。巨体を揺り動かし、鎌を持ち上げた。

 強力なダウン効果を持つ昆虫族最上級モンスターだ。面倒臭い。

 

 

「こいつの効果でお前のフィールド上のモンスターの攻撃力守備力は700ポイントずつダウンする!戦闘破壊は諦めるんだな!さらに俺は、《共鳴虫》を召喚し、バトルフェイズ!《共鳴虫》でセットモンスターを攻撃!」

 

 

 

《共鳴虫》

 

 効果モンスター

 星3/地属性/昆虫族/攻1200/守1300

 

 

「セットしていたのは《ドラグニティ-ファランクス》だ。破壊される」

 

 

《ドラグニティ-ファランクス》

 

 チューナー・効果モンスター

 星2/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1100

 

 

「低ステータスの雑魚モンスターか!お前にぴったりのモンスターだ。《アルティメット・インセクト LV7》でダイレクトアタック!」

 

「…………ッ!」

 

AAAA:LP4000→1400

 

 怖い。巨大な昆虫に鎌で切りかかられるのは本当に怖い。ソリッドヴィジョンだと分かってはいるが、体がびくつくのは止められなかった。

 

「俺はこれでターンエンドだ!お前のライフは残り1400!もう終わりが見えてきたなぁ!」手札3

 

「……俺のターン、ドロー」

 

AAAA:LP1400

モンスター:なし

セットカード:1

 

 残りライフは1400、確かに終わりは見えてきた。さっさと終わらせようと思う。俺はまだ、諦めたわけじゃない。

 

「諦めたんなら、さっさとサレンダーしな!ただし、お前にはまだまだ、俺のチームのサンドバッグをやってもらうけどな!」

 

「……諦めないぜ」

 

「ナニィ?」

 

 カードを大きく掲げ、デュエルディスクに叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、絶対に諦めない!」

 

 ……これから全員ワンキルすれば、まだ仕事には間に合うはずだ!!

 

「魔法カード《手札抹殺》を発動!お互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた分だけドローする!俺は4枚捨て4枚ドロー!さらにフィールド魔法《竜の渓谷》を発動!」

 

 ソリッドヴィジョンが展開する。

 そこは切り立った険しい崖に、激しく滝が流れる過酷な世界。

 そこに住むのは翼あるもの。ドラグニティのフィールドである。

 

「《竜の渓谷》の効果を発動!1ターンに1度手札を捨て、2つの効果のうち1つを使える!俺は《ドラグニティ》と名のついたレベル4以下のモンスターを手札に加える効果を選択!《ドラグニティ-レギオン》を手札に加える!」

 

 捨てたカードが光を放ち、すらっとした体躯を持つ竜に変わり、俺の手札に加わる。

 

「さらに、《ドラグニティ-レギオン》を召喚し、その効果を発動!このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下の《ドラグニティ》と名のついたドラゴン族モンスターをこのカードに装備する!俺は《ドラグニティ-アキュリス》を選択!」

 

「手札抹殺で捨てたカードか!」

 

 フクロウのような特徴をもつ白い鳥人が召喚され、そのまわりに光が集まっていく。

 

「《ドラグニティ-レギオン》の効果を発動!このカードに装備された《ドラグニティ-アキュリス》を墓地へ送り、お前のフィールド上モンスター、《共鳴虫》を破壊!」

 

「なにぃ!?」

 

 

《ドラグニティ-レギオン》

 

効果モンスター

星3/風属性/鳥獣族/攻1200/守 800

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下の

「ドラグニティ」と名のついたドラゴン族モンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

また、自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在する

「ドラグニティ」と名のついたカード1枚を墓地へ送って発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

 

 

「さらに、墓地に送られた《ドラグニティ-アキュリス》の効果を発動!《アルティメット・インセクト LVレベル7》を破壊!」

 

「……俺の、エースモンスターが……」

 

 

 

《ドラグニティ-アキュリス》

 

チューナー(効果モンスター)

星2/風属性/ドラゴン族/攻1000/守 800

このカードが召喚に成功した時、

手札から「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、

このカードを装備カード扱いとして装備する事ができる。

モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた時、

フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 《ドラグニティ-レギオン》が光を両手に集め相手モンスターに向かって放つ。

 光は昆虫たちを飲み込み、焼き払っていった。

 

「これでお前のフィールドは焼け野原だ。だが、まだ終わらない。俺は《ドラグニティ-レギオン》をリリースし、《ドラグニティアームズ-ミスティル》を特殊召喚、その効果を発動!」

 

 

《ドラグニティアームズ-ミスティル》

 

効果モンスター

星6/風属性/ドラゴン族/攻2100/守1500

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する

「ドラグニティ」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが手札から召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する「ドラグニティ」と名のついた

ドラゴン族モンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。

 

 

「墓地の《ドラグニティ-ファランクス》を装備!装備カードとなった《ドラグニティ-ファランクス》の効果により、ファランクス自身を特殊召喚!」

 

 小さい体のドラゴンが召喚される。

 

 

《ドラグニティ-ファランクス》

 

チューナー・効果モンスター

星2/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1100

(1):1ターンに1度、このカードが装備カード扱いとして

装備されている場合に発動できる。

装備されているこのカードを特殊召喚する。

 

 

「永続魔法《竜操術》を発動!その効果により、手札の《ドラグニティ-ジャベリン》を《ドラグニティアームズ-ミスティル》に装備!ミスティルの攻撃力が500ポイントアップ!」

 

 

《竜操術》

 

永続魔法

「ドラグニティ」と名のついたモンスターを装備した、

自分フィールド上に存在するモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、1ターンに1度、手札から「ドラグニティ」と名のついた

ドラゴン族モンスター1体を装備カード扱いとして

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する事ができる。

 

 

《ドラグニティアームズ-ミスティル》

 

攻2100→2600/守1500

 

 

「バトル!ファランクスでダイレクトアタック!」

 

「くぅっ!」

 

 小さいドラゴンが相手に果敢に飛び掛かる。

 頭突きによる攻撃で、相手にダメージを与えた。

 

リーダー:LP4000→3500

 

「だが!残るお前のモンスター、攻撃力は2600!俺のライフを削りきることはできない!次のターンがあれば……!」

 

「ミスティルでダイレクトアタック!」

 

 剣を持った金色の竜人が、翼をはためかせて相手に迫る。

 大上段に構えた剣を振り下ろす瞬間。

 

「攻撃宣言時、リバースカードオープン!速攻魔法《虚栄巨影》を発動!」

 

「なに……!?」

 

 ソリッドヴィジョン的にダメージステップ直前みたいな感じだが、この世界、言ったもの勝ちである。

 

 

《虚栄巨影》

 

速攻魔法

(1):モンスターの攻撃宣言時、

フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力は、そのバトルフェイズ終了時まで1000アップする。

 

 

《ドラグニティアームズ-ミスティル》

 

攻2600→3600/守1500

 

 

 

「ミスティルの攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

ミスティルの姿が二回り大きくなり、剣の大きさも変わっていく。

 

「お前に次のターンは来ない。これで終わりだ!」

 

「くそぉおおおおお!」

 

 攻撃が決まった瞬間に何故か吹き飛ぶ相手。

 遊星曰く、『デュエリストのフィールが高まるとただの映像でもダメージが入るように感じる』らしい(困惑

 

リーダー:LP3500→0

 

 

 

 

 

 

 

 デュエル終了、これでやっと一人である。残り29人。やってられん。

 しかし、今後こいつらがこの家の周りに来ないようにするには、ちょうどいい機会かもしれない。

 

「さーて、次は誰だ?三人までなら同時に相手してやるよ」

 

 やけくその笑みを浮かべながら、先鋒がやられたことにざわざわしている連中に言った。

 

 



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Phase 2

 チーム・サティスファクションの本拠地である廃ビルは、B.A.Dエリアの中心にあった。

 多少の苦境がなければ面白くない、むしろ苦しい方が逆に燃えてくる、そんな心境であったサティスファクションメンバーの意向で、周りを他チームに囲まれるこの場所に、あえて本拠地を作ったのである。

 チーム結成時点で既に地理的な不利を持っていたにもかかわらず、そしてチームメンバーがたったの四人しかいないという人数的不利にも屈せず、サティスファクションは次々とデュエルギャング達を制覇していった。

 それはチームリーダーである鬼柳の積極性、策謀家クロウの緻密な戦略、ジャック、遊星の戦闘力(物理)が、他のチームの追随を許さなかった結果であると言えるだろう。

 

 なにより、サティスファクションメンバーは一人ひとりが一流のデュエリスト。たとえ多対一のデュエルであったとしても、正面からの勝負ならば負けなしのその実力は、まさにサテライト一のチームだった。

 

 そして、その力故に、今、サティスファクションの本拠地は静まり返っていた。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 四人が一堂に会し、そしてその全員が黙り込んでいた。

 メンバーの気持ちを代弁するかのように、空には厚い雲がかかり、今にも雨が降り出しそうである。部屋は暗く、沈黙で満ちていた。

 普段ならば、鬼柳が次の指針を示し、クロウが具体的な計画を編み、ジャックが猛り、遊星が諌める、そんな、騒がしいながらも朗らかな空気が流れている場所である。異様な光景であるとさえいえる。

 

 端的にいって、彼らは燃え尽きていた。

 

 サテライトを制覇統一してしまったのだ。

 他のデュエルギャングを全て倒し、サテライトの頂点に君臨した。

 チーム結成時の目的をつい先日完遂し、達成感あふれる笑いと、大いなる充足感とともにそれぞれ帰路に就いたのが昨日。そしてついさっき、この廃墟に集まってお互いの顔を見たとき、彼ら四人は気づいた。

 

 このチームが目指すべき目標が、既に失われていることを。

 

「……なーんか、つまんなくなっちまったな。やることがなくなってよ……」

 

「……クロウ」

 

「……指針が消えたっつーのか、目標が無くなったっつーのか、そんな具合によ。考えてみれば俺たち、サテライト統一だけを目指して、そのあとのこと、なーんも考えてなかったんだよな」

 

 独白のようなクロウの言葉が、四人の間を通り抜ける。

 全員がクロウの顔を見つめる。

 いつもの気迫がない、しぼんだような顔をしていた。恐らく自分も同じような顔をしているのだろうと、遊星は思った。鬼柳とジャックも、クロウと同じような表情をしていたからである。

 

「お笑い草だぜ。サテライトの王者になった次の日に、こんな虚無感に襲われるなんてよ。俺はずっと思ってたんだ、最強のチームになったら、どんなにか気分がスカッとするかって。最悪の糞だまりみたいなこのサテライトで、それでもこの瞬間だけは、最高の気分になれた筈なんだ。それなのに……」

 

「クロウ」

 

「こんなになるんなら、抗争の只中にいた時の方がよっぽど楽しかった。敵とデュエルして、お前らと一緒になって戦って、どんなピンチも乗り越えて、チャンスを掴んで、笑ってた時の方が」

 

「…………」

 

「こんなになるんならよ、こんなになるんなら、前の方が良かったじゃねぇか。なにせ、戦う相手もいない今、俺たちがチームを組んでいる意味も……」

 

「クロウ!」

 

 言葉を遮るようにして、遊星は叫んだ。

 チームメンバーがこんな状態の今、その先を言わせてはならないと思った。

 下手をすれば、このままの流れでチームが空中分解することにつながりかねない。

 

「……ああ、悪い。変なことを言っちまった」

 

 らしくもなくナーバスになっちまってるな、と、クロウは笑った。

 泣いているような笑顔だった。

 

「よぉし!デュエルするか!この後のことは、デュエルしながら考えようぜ!」

 

「……あぁ、デュエルをしよう」

 

「俺たちは、いつでもデュエルで絆を作ってきた。今も、そしてこれからも。それはずっと変わらない」

 

 クロウに合わせるように、ジャックが、続いて遊星が腰を上げる。デュエルディスクは肌身離さず持ち歩いている。いつでも、デュエルはできる。

 

「鬼柳、俺とデュエルしろ!やれんだろ!?進化したBFの力、見せてやるぜ!」

 

「このジャック・アトラスが、本物のデュエルを教えてくれる!」

 

「鬼柳。デュエルが、俺たちに道を示してくれるはずだ」

 

 三人で、黙ったままの鬼柳に声をかけた。

 サティスファクションを立ち上げたリーダーである鬼柳が、この中の誰より現状にショックを受けていることを、三人とも感じ取っていた。

 

 そう、誰よりも、鬼柳は責任を感じていた。

 

 

「……いや、俺はいい。今、そういう気分じゃねぇからよ」

 

 

 そう言って立ち上がった鬼柳は、一人、扉が朽ちて無くなった出入り口へと歩いていく。

 

「悪いが、しばらく一人で考えたい。お前達は、自由行動で満足してくれ」

 

 そういって、背中越しに手を振ると、鬼柳は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行っちまった」

 

「クロウ、貴様が似合わないシリアス顔をするからこんなことに……」

 

「んだとっ!?お前、俺だってなぁ、やりたくてあんなことしたわけじゃねぇんだよ!お前なんて『このジャック・アトラスが、本物のデュエルを教えてくれる!』、しか喋ってねぇじゃねぇか!目立たないから印象にないだけで、お前も十分シリアス顔だ!」

 

「……この俺が、目立たない、だと……!?もう我慢ならん、構えろ、クロウ!」

 

「おうよ!久々に、全速力でいくぜ!」

 

「「デュエル!」」

 

「……………」

 

 突発的に始まった喧嘩のようなデュエルを横にしながら、遊星は険しい顔で、今鬼柳が出て行った出口を見つめていた。

 もっとも鬼柳に近い場所にいた遊星にしか、それは聞こえなかった。鬼柳が去り際に、ぽそりと言っていた言葉。それは鬼柳自身も意図して放った言葉ではなく、考えていたものがぽろっとこぼれ出てしまったような言葉だった。

 

 

 

『……目標があればいいんだ。チームが満足できる、新しい目標が……』

 

 

 

 

 「……雨が降ってきたな」

 

 とうとう降ってきた雨を見て、遊星は呟いた。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルーチャはロマンだと思う。

 《ドラグニティナイト-バルーチャ》のことである。

 《ドラグニティ》の最上級シンクロモンスターであるバルーチャだが、俺がデュエル中にこいつを召喚することはない。エクストラデッキにいれはしているものの、召喚条件が面倒なうえに、性能があまり良くないのである。

 

 

《ドラグニティナイト-バルーチャ》

シンクロ・効果モンスター

星8/風属性/ドラゴン族/攻2000/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

自分の墓地の「ドラグニティ」と名のついた

ドラゴン族モンスターを任意の数だけ選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

このカードの攻撃力は、このカードに装備された

「ドラグニティ」と名のついたカードの数×300ポイントアップする。

 

 

 《ドラグニティ》の鳥獣族モンスターは下級モンスターが主である。同様に、ドラゴン族チューナーも低レベルのものばかり。大体の場合、モンスターを三体以上出さないと召喚できないが、召喚したとしても最大攻撃力は3500。ヴァジュランダが効果を使った方が強いのである。

 

 

《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族の

「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。

そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):1ターンに1度、このカードに装備された

装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。

このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。

 

 

 召喚すれば、『ドラグニティの力を結集!いでよ、バルーチャ!』とか出来てかっこいいんだが、いかんせん使いにくい。レベル8のドラゴン族は優秀なものが多いこともあり、今現在、バルーチャをエクストラデッキから外すか外すまいか悩んでいたところなのである。

 バルーチャを外して入れるとすると、候補は一体の竜になるのだが。この竜を入れていいものかどうなのか。世界観的に大丈夫なのかどうなのか。世界がメディアミックスになってしまうかもしれん。

 

 

「……世界は、メディアミックスになる。そういう運命なのだ、遊星……!」

 

「……どうした、急に。メディア……なんだ?相変わらず不意に意味が分からないことを言うな、お前は」

 

「流して、どうぞ。別に大事なことを言っているわけでもないので」

 

「そうか、じゃあ流して言うが、お前に1つ、頼みたいことがある」

 

「……ばるーちゃぁ……!残念だが、お別れのときが来たようだ。俺のデッキに、お前を入れる余地はなくなってしまった……!」

 

「聞けよ」

 

 ゆうせいのリアルダイレクトアタック!おれは1500のダメージをうけた!

 

「……はい、聞きます。聞きますからぁ……!」

 

「いいか、これは大事な話だ。茶化して聞くな。絶対だ、絶対だぞ」

 

「聞きますから、聞きますからどうか俺のばるーちゃだけは堪忍してつかぁさい……!」

 

「(無言の腹パン)」

 

 ゆうせいのリアルダイレクトアタック二連打ぁ!おれは2500のダメージをうけた!

 めのまえが、まっくらになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対だ、って二回繰り返すから振りだと思ったが、どうやら本気に本気の話だったらしい。

 サティスファクション存続に関わる相談事だった。

 燃え尽き症候群の彼らが輝きを取り戻すにはどうすればいいのか、他人の意見を聞きたかったようだ。

 外はもう暗くなり始めている。そろそろ夜の警邏が回り始める時間だった。

 ボロいアパートの中、備え付けのベッドに横並びで座って話し始めた。

 

 

「俺たちは目指していたものを既に手に入れてしまった。チームの目標を達成してしまった今、俺たちがチームを組んでいる意味も無くなってしまった。このままいけば、サティスファクションは近いうちに解散状態になるだろう。いったいどうすれば……」

 

「…………」

 

「AAAA、お前の意見を聞かせてくれ」

 

 俺の意見を言ったら、たぶん遊星は怒ると思うんだが。

 

「……落ち着いて聞いてくれると嬉しんだが」

 

「ああ」

 

「解散すれば?」

 

 すっと立ち上がって拳を構える遊星。

 どうやら彼は暴力系幼馴染キャラになってしまったらしい。これが美少女であればどんなによかったか。

 

「茶化して言ってるんじゃない。殴るな、殴るなよ。これは振りじゃないぞ」

 

「ふざけるな!俺もそこまで余裕があるわけじゃない!なんのためにお前に相談していると……!」

 

「考えて欲しいのは、何を目標にしてチームを結成したのかということだけだよ、遊星」

 

「目標……」

 

「デュエルでサテライトを統一する、っていうのが本来の目的だったんだろう?で、それはもう果たしてしまったんだと。お前も自分で言ったように、もう目指すものがなくなったんだ。達成したんだよ」

 

「そんなことは分かっている」

 

「大事なのは、考え方だよ遊星。お前たちがやったのは偉業だよ。本当にすごいことだ。サテライトが始まって以来初めてのことだ。なのにお前は、『目標を果たしてしまった』と考える。なぜだ?」

 

「……それは、今後のチームの指針が消えるからだ」

 

「チームの指針が消えて何がダメだ?チーム結成時の目標は果たしたんだろうに」

 

「……チームの指針が消えれば、チームである意味がなくなる」

 

「チームである意味が無くなれば、どうなるっていうんだ?」

 

「チームで動くことがなくなる!メンバーの皆と、同じ目標に向かって動くことも無くなるんだ!」

 

 険しい顔をして、遊星が叫ぶ。

 拳は強く握られていて、彼が思い詰めていることが伝わってくる。

 しかし、彼は気付いていないようである。自分の考えが途中から変わっていることに。

 

「……あれ、おかしい。『遊星』なら分かるはずなんだが……」

 

「なんだ。何かあるなら言ってくれ!」

 

「要するに、チームを組んでいる目的が、途中から変わっているんだ。『サテライトを統一する』ことから『チームとして同じ目標を追う』ことに、目的が入れ替わっている」

 

「何を……」

 

「チームで動いているうちに、絆が深まったんだろう。それ自体はとても良いことだけど、遊星、チームでいることに依存するようになったな」

 

「依存……?」

 

「メンバー達と別れて、違う道を歩もうとすることが嫌になっているだろう。そんなお前にこの言葉を贈ろう。

 

 『例え違う道を進むことになっても、紡いだ絆は消えはしない』」

 

「……絆は、消えない……」

 

「受け売りだけどね」

 

 遊星は、ほーっと長く息を吐いて、ベッドに寝転がった。溜りに溜まった何かを、全部吐き出したような仕草だった。

 

「……あんまり参考にならなくてすまんね」

 

 自分もベッドに寝転がる。

 

「……いや、そんなことはない。確かに、チーム存続の危機は去ったわけじゃないが」

 

 こっちを見て笑いながら言った。

 

「考えは変わった。ありがとう、AAAA」

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

          ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊星がシリアス顔でうちに来てから数日後。

 俺は今日もお仕事に精を出す日々である。

 遊星と話をした、あの後。時間も遅いということでうちに泊まっていった遊星であったが。

 翌朝、あいつと朝チュンすることになるとは思わなんだ。

 

 

『……え?お前、ソファで寝てたよね?なんでベッドで俺と寝てんの?』

 

『……AAAA、俺がお前と紡いだ絆も、ずっと消えはしない』

 

『口説くなら女の子にして、どうぞ』

 

 

 無駄にイケメンボイスで言ってくるから困る。

 ともあれ、悩みは軽減したようで、すっきりとした顔で彼はこういった。

 

 

『俺たちの目標は、まだ完全に達成できたわけじゃない。このサテライトにも、チームに属さない強者はまだいるはずだ。AAAA、お前とかな』

 

 

 

 ……あれは『標的にするぞ』宣言だったのかどうだったのか、今でも悩むところだが、ともあれ。

 その後何の音沙汰もなく、しばらくは平穏な、本当に珍しく平穏な日々が続いていた。

 

 続いていた、のだが。

 

 

 

 

 

「弱ぇ奴が、半端な気持ちでこの世界に入ってくるんじゃねぇよ!」

 

 

 

 

 

 ……ここでこう来たか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チーム・サティスファクションが目標を喪失してから数日後。

 リーダーである鬼柳は、新たな指針を見つけていた。

 

『デュエルギャング以外にも、デュエリストはたくさんいる。その全てを倒さない限り、真のサテライト統一とは言えない』

 

 その結論は、くしくも不動遊星が友人に冗談でいった言葉と同じものであった。

 鬼柳が遊星と違ったのは、彼が本当に本気で、サテライト全てのデュエリストを倒そうとしていたということである。

 それは、勝手に目立つように行動してくれるデュエルギャング達を倒すこととは違って、時間も手間も大いにかかると予想される目標だったが、今の彼にとってはそちらの方が好都合だった。

 

 チーム・サティスファクションの新たな目標は、大変であればあるほどいい。

 

 鬼柳はそう思っていた。遊星がそうであったように、彼もまた、チームで動くことそのものに対して執着していたのである。

 

 チームメンバーにこの指針を伝える前に、リーダーである自分が実践していないといけない。

 ジャックもクロウも遊星も、自分以外のメンバーはどこか甘いところがあるため、一般人を標的にすることをためらうのは容易に想像できた。しかし、自分が既に行動を開始しているとなれば、皆もついてきてくれるに違いない。今までもそうだったのだから、これからもそのはずだった。

 

「弱ぇ弱ぇ!それでも本当にデュエリストかぁ!?」

 

「…………う、うう……!」

 

「ほら、早く出してみろよ、そのモンスターをよ!一瞬でぶっ潰してやる!」

 

 デュエルディスクを持っていた少年にデュエルを吹っかけ、今に至る。

 少年のライフは残り少なく、ボードアドバンテージも鬼柳が圧倒していた。

 

「……な、なんで、こんなことするんだ……!僕はただ、デュエルを楽しみたいだけだったのに……!」

 

 負けそうになって呟く少年の泣き言に、鬼柳は大いに腹が立った。

 楽しみたいだけのデュエルをする、そんなことを言う少年は、本当のデュエリストではない、そう思った。

 

 あるいはそれは、今のサティスファクションの状況に比した、少年への嫉妬だったのかもしれない。

 

「ふざけんじゃねぇ!デュエルをお遊びみたいに考えてんじゃねぇ!」

 

 鬼柳は叫んだ。

 

「弱ぇ奴が、半端な気持ちでこの世界に入ってくるんじゃねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませぇーん、半端な気持ちでデュエルしててー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ?」

 

 どすの利いた声を出しながら、鬼柳は振り返った。

 ふざけた声が聞こえたのはこっちかと考えながら。

 

 そこにいたのは、一人の男である。

 自分たちサティスファクションのメンバーと同年代くらいだろうか、赤い帽子を目深に被り、赤いジャケットに黒いインナーを来た男が、異様なDホイールに乗っていた。

 かろうじてDホイールの(てい)をなしているようなそれは、ところどころからパイプが飛び出し、部品がむき出しになっていた。ジャンクを固めて作ったようなそれは、走っているところが想像できないほどである。

 

「いやー、まさかね。チーム・サティスファクションのリーダーが、悪質なガチデッカーみたいなことを言うとはね。時代は変わったようだな……」

 

「……誰だ、てめぇは?」

 

「貴様に名乗る名前を、このジャック・アトラスは持ち合わせていない!……なんてね」

 

「ふざけやがって……!」

 

「別に俺の名前なんてどうでもいいんだ。ただ、一つだけ、言いたいことがある」

 

 Dホイールから降りた男は、デュエルディスクを構えて言った。

 

「俺とデュエルしろよ。半端にデュエルやってる俺と、お前との違いを見せてくれ」

 

「……いいだろう。こっちのガキとやってても、面白くもねぇ」

 

 展開していたソリッドヴィジョンが消え、鬼柳のデュエルディスク上にあったカードが、デッキの中に戻っていく。

 

「簡単に潰れてくれるなよ、赤帽子ィ!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

    

 

 

 

     

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AAAA:LP4000 

   手札:5

 

鬼柳:LP4000  ←先攻

   手札:5  

 

 

 サティスファクションのメンバーとは、遊星とクロウしか面識のない俺である。

 鬼柳とは初対面だが、最悪の出会いになってしまった。

 

「先攻は俺だ!ドロー!手札から、フィールド魔法《伏魔殿-悪魔の迷宮》を発動!」

 

 鬼柳がカードを発動させると、ソリッドヴィジョンが動く。周囲の景色が変わり、大きな宮殿が姿を現す。

 そこは悪魔の棲む宮殿。そこここに髑髏がのぞき、怪しい影が動き回る。

 

「いくぜぇ!俺は手札から、《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を妥協召喚!」

 

 巨体の悪魔が、玉座ごと召喚される。

 妥協召喚で力は衰えているが、その威容は健在である。 

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守2000

このカードはリリースなしで召喚できる。

この方法で召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になり、

エンドフェイズ時に破壊される。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分は悪魔族以外のモンスターを特殊召喚できない。

また、1ターンに1度、自分の手札・墓地の

「デーモン」と名のついたカード1枚をゲームから除外して発動できる。

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

「さらに魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動するぜ!フィールド上に悪魔族の《メタルデビル・トークン》一体を召喚!《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果を発動!《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を選択し、《メタルデビル・トークン》を除外!ジェネシス・デーモンと同レベルの悪魔族モンスター一体を特殊召喚!見て恐れろ!《ヘル・エンプレス・デーモン》!《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果で、攻撃力は500アップする!」

 

 

 

《ヘル・エンプレス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2900→3400/守2100

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000→1500→2000/守2000→1000

 

 

 巨体の悪魔が体を揺らして笑ったかと思うと、隣にいた銀鏡の悪魔を次元の歪みに投げ込んだ。銀鏡の悪魔がいた場所には、大きな角の生えた女の悪魔が立っていた。 

 

 

《伏魔殿-悪魔の迷宮》

フィールド魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、

自分フィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、自分フィールド上の

「デーモン」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスター以外の自分フィールド上の

悪魔族モンスター1体を選んでゲームから除外し、

自分の手札・デッキ・墓地から選択したモンスターと同じレベルの

「デーモン」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。

「伏魔殿-悪魔の迷宮-」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「さらに手札から魔法カード《おろかな埋葬》を発動!デッキからモンスター一体を墓地に送る!おれは二体目の《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を墓地に送る!カードを一枚セットし、ターンエンドだ!エンドフェイズ時、妥協召喚した《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》は破壊される」

 

 

 

 

AAAA:LP4000

   手札5

 

 

鬼柳:LP4000

   手札0

   モンスター:《ヘル・エンプレス・デーモン》

  

魔法罠:セット1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 相手は《デーモン》デッキか?

 《伏魔殿-悪魔の迷宮》を使うなら、セットカードは《闇次元の解放》とかだろうか。

 なんにせよ、一ターン目から最上級モンスターに加え、破壊されても後陣が控えている。

 さすがにサティスファクションのリーダーである。初期手札が『積み込んだの?』ってくらい恵まれている。

 ……この手札だと、人のことは言えないかもしれないが。

 

「俺は、魔法カード《調和の宝札》を発動!手札から、攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨てて発動する!《ドラグニティ-ファランクス》を捨て、デッキからカードを2枚ドローする。」

 

「チューナーか。シンクロ召喚を使うデュエリスト、満足できそうだぜ」

 

「《ドラグニティ-レギオン》を召喚し、その効果を発動!墓地の《ドラグニティ-ファランクス》を、レギオンに装備カード扱いで装備する!」

 

 フクロウのような鳥人が姿を現すと同時に、彼の体が薄く光る。

 

「《ドラグニティ-レギオン》の効果発動!魔法、トラップゾーンの《ドラグニティ》と名のついたカードを墓地に送り、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を破壊する!《ヘル・エンプレス・デーモン》を破壊!」

 

「へぇ、やるじゃねぇか」

 

 レギオンが体中の光を両手に集め、ヘル・エンプレス・デーモンに向かって放つ。

 迫る光にあたふたと動く女の悪魔だったが。

 

「《ヘル・エンプレス・デーモン》の効果を発動だ!このカードが破壊され墓地へ送られた時、《ヘル・エンプレス・デーモン》以外の自分の墓地に存在する悪魔族、闇属性、レベル6以上のモンスターを特殊召喚する!俺は《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を特殊召喚!」

 

 

 

《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》

星8/闇属性/悪魔族/攻3000→3500/守2000

 

 

「残念だったなぁ!悪魔を倒そうとして、より強い悪魔を呼び覚ましちまったみてぇだぞ!?」

 

「いや、読めていた、ここまでは」

 

「あぁ?」

 

「フィールド上の《ドラグニティ-レギオン》を墓地へ送り、《ドラグニティアームズ-ミスティル》を特殊召喚!このモンスターは、自分フィールド上の《ドラグニティ》と名のついたモンスターを墓地に送り特殊召喚することが出来る!さらに、《ドラグニティアームズ-ミスティル》の効果発動!このカードが手札から召喚、特殊召喚に成功した時、自分の墓地の《ドラグニティ》と名のつくドラゴン族モンスター一体を、装備カード扱いでこのカードに装備することが出来る!《ドラグニティ-ファランクス》を装備!」

 

「ふん、また破壊効果かよ?」

 

「ミスティルに破壊効果はない……。だけど、このゲームの勝敗を決める竜を、こいつは連れてきてくれるのさ!」

 

「ゲームの、勝敗を決めるだと……?」

 

「装備カードとなったファランクスの効果を発動!このカードが装備カード扱いでフィールド上に存在するとき、このカードをモンスターゾーンに特殊召喚できる!ファランクスを特殊召喚!そして、レベル6、ミスティルに、レベル2、ファランクスをチューニング!」

 

 ファランクスが光の輪を作りだし、ミスティルがその中をくぐるように飛んでいく。

 悪魔の棲む宮殿に、光が満ちていく。

 空から指す一際強い光の中、一体のドラゴンが姿を現す。

 

 

 

 

 

「おい、こいつは……」

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!」

 

「まさか、遊星の……!?」

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 

 

 

 

      ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遊星。しばらく、振り……?」

 

 鬼柳とデュエルをしてから、何日かたった、ある日。

 いつものように仕事に出かけようとDホイールを引っ張り出していた俺の前に、遊星は現れた。

 前に相談に来ていたとき以上に蒼白な表情で、いまにも倒れそうな様子だった。

 

「……AAAA、俺は、どうすればいいのか、どうしたら良かったのか!俺は、俺は……」

 

 様子がおかしかった。

 何かに怯えるように、詫びるように、遊星は言葉を震わせる。

 

「……どうした?何があった?」

 

 いたわるように聞くが、もう予想はついていた。

 やっぱり、先は変わらないらしかった。

 

 

 

 

 

 

「……獄中で、鬼柳が死んだ!」



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Phase 3

鬼柳が捕まって獄中で死亡してから後、遊星は感情を表に出さなくなった。

鬼柳がセキュリティに捕まったときの叫び声が、頭から離れなかった。

 

 

『俺たちは仲間じゃなかったのかよ!遊星ぇぇええええ!!』

 

 

鬼柳を助けるために取ったはずの行動が、逆に鬼柳に誤解させる要因となり、結果として鬼柳は遊星を恨みながら連行されていった。

あの時、どういう行動をとれば良かったのか、遊星はいまだに分かっていない。

鬼柳と共にセキュリティに勝ち目のない戦いを挑めば良かったのか、セキュリティに自主して罪の軽減を求めれば良かったのか、何が最善だったのか分からない。

最善だと思って行った行動が結果として仲間に誤解を生むだけに終わってしまったことが、遊星を苛んでいた。

 

加えて、ジャックによる《スターダスト・ドラゴン》の強奪、並びにシティへの出奔。

仲間だと思っていた人間によるこの行為は、遊星を人間不信に陥らせるのに十分な出来事だった。

笑顔を見せなくなり、ただ黙々と日々を過ごしているような遊星を、彼の養母であるマーサを筆頭に、心配に思う者は大勢いた。声を掛けても『大丈夫だ』『問題ない』の一点張りで他人を頼ろうとしない遊星に、彼の周りの者はやきもきさせられるばかりだった。

 

そんな無愛想に変わってしまった遊星が、以前と変わらぬ態度で接する人間が一人いた。

ぼろアパートに住む赤帽子である。

以前から交遊のあった彼は、マーサの孤児院での知り合いでもなく、チーム・サティスファクションとも関係が薄い、妙な立ち位置の男だった。

普通のサテライト住民のようでいて、しかし他にはない妙な余裕も感じられる。自分の他の知り合いとも交遊が少ない彼を、遊星は友人兼相談役として、以前から頼っていた。

事件の後も前と変わらぬ態度で接してくる彼に引きずられるように、遊星もまた、彼には以前と同じように対応していた。

 

彼のことを、『仲間』とはまた違う、『友人』として、大切に思っていた。

 

 

 

 

 

その信頼もまた、裏切られる。

 

 

 

「……お前もなのか、AAAA……」

 

 

 

呟いた視線の先。

昨日まで彼が住んでいたはずの部屋は、家具もカードも、なにも残されていない、がらんどうの空き部屋となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サテライトで暮らしていた間に、このカードは自然に俺の元にやって来ていた。

《閃珖竜 スターダスト》のことである。

自然に、というと語弊があるかもしれない。不自然に、といっておこう。

サテライトでの生活を始めたその日、あのぼろいアパートの部屋の真ん中に、ぽつんと落ちていたのである。

きたこれ、主人公俺?とかテンション上がっていたものの、その後なにも起こることはなく。

後に『不動遊星』と知り合い、彼が既に竜を持っているのを見て、俺の儚い幻想は終わったのである。

 

まぁ?主人公とか大体大変な目に逢う運命だし?メンタルにダイレクトアタックな出来事も多々あるし?別に全然惜しくねーわ、逆に主人公キャラじゃなくて良かったわー!

 

とか思って、その後の遊星の活躍をずっと見ていこうと思っていた俺である。

 

俺が持っているスターダストも、たぶんカードの劣化量産品とかそんなところだろうと思っていた。

別に量産が悪い訳じゃない。元居たとこじゃ、それこそ大量に印刷製造されているものである。

大事なのは自分のカードに対する思い入れであって、そして俺のスターダストに対する思いはそんじょそこらのデュエリストには負けない自信がある。ただ世界観狂うからこの間まではデッキに入れることもしていなかった。

他に使っている人を見つけたら俺も使おうと思っていたのである。

VS鬼柳の時に初使用、やっぱかっけーわー、と見惚れているうちにデュエルが終わった感じで、正直あんまりあのときのデュエルの内容は覚えていないのだが、ともかく。

俺が言いたいのは、俺は遊星と、今後出来るであろう彼の仲間たちの冒険を見られればそれで良かったわけで、俺自身が冒険したいわけでは無かったと言うことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無かったんだけどなぁ」

 

「ヒャーッハッハッハッハッ!!ようこそいらっしゃいました、星屑の竜を持つお方!」

 

アパートのベッドで就寝したと思ったら、目が覚めたのは溶岩流れる火山帯の真っ只中。

目の前で、燃え上がる炎を人のかたちに固めたみたいなナニカが大笑いしていた。

 

決闘竜(デュエル・ドラゴン)の中でも最も高貴なる竜を操るお方、さすがに胆が座っておられる!わたくしがこれまで呼んだ人間のなかでも最も余裕のある態度、感服いたします!ヒャハッ!!」

 

「あー、決闘竜、決闘竜ね。はいはい、おーけーおーけー。状況が分かってきたぞー」

 

「おおっ!流石にございますな!わたくしが呼び出した他の方々は、状況をご理解されないまま散っていかれたものでございますが、ヒャハハッ!!どうやら極めて聡明であらせられるようで!!」

 

「うん、まぁ、よくあることだよね」

 

『遊戯王』では、日常茶飯事である。

ゲームの中、宇宙、異世界、時空の狭間。カード一枚で世界創造。

改めて、やばい世界である。

 

「それでは、具体的に説明させていただきます!」

 

周囲を見渡していると、人形(ひとがた)の炎がぐるりと宙返りをしながら言った。

展開は分かりきっていたが、この状況、彼の話を聞くくらいしかすることがなかった。

 

「一枚一枚が規格外の力をもった決闘竜!それらを全て支配下に置けば、精霊界を支配したも同然であると、我が主は考えました!」

 

彼が足元に流れる溶岩に触れると、溶岩がまるでスクリーンのように空中に広がり、そこに簡単な絵が映し出される。

 

「当然ながら、力ある竜、力ある精霊でございます故に、精霊界で直接手を出すことは、我が主の力を持ってしても難しいものでございます!そこで主は考えた!人間界にいるカードの持ち主をデュエルで下せば、いかな決闘竜でも主に従わざるを得ないだろうと!」

 

言葉が進むごとに絵が変わっていく。

悩むような大きな影、助言するような人形の炎、人間、ドラゴン、大きな鎖。

 

「ヒャハッ!簡単でございますな!決闘竜自身が認めて自分を使わせていたデュエリスト、そのデュエリストを下せば、我が主の力量の方が上であると証明することになります故に!」

 

最後の絵は、倒れる人間に、鎖で縛られた数頭の竜、鎖の先を持つ大きな影である。

 

「人間界にいる決闘竜の主を探すには、決闘竜が召喚された時の大きなエネルギーを辿ればよいと、今までそうやって何人かを探し当て、ここに招いていたのですが、最後の一人だけはどうしても見つからなかった!高貴なる竜はいまだに仕える人間を定めていないのかもしれないと悩んでいたのですが……」

 

口の部分にあたる空洞を笑うように歪ませて、彼はこちらを見た。

 

「ヒャーッハハッ!!先日ついに召喚のエネルギーを感知いたしまして、こうしてあなた様をお呼びした次第でございます!」

 

溶岩に映った絵が消え、スクリーン状だった溶岩がばしゃりと流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「説明どうも。それじゃあ、この後すぐデュエルすればいいのか?」

 

聞くと、ずっと笑い顔を作っていた彼は、訝しげに目(にあたる部分)を潜めた。

 

「……本当に胆が座っていらっしゃる。それともまだ状況を理解しておられないのか。ここは人間界と精霊界を繋ぐ狭間の領域、なんの守護も為されていない人間ならば、あっという間に蒸発して死ぬ場所だと言うのに」

 

そんな場所に急に呼ぶなと言いたい。

 

「なぜわたくしが、決闘竜の持ち主をここに呼ぶのか、教えて差し上げましょう!周りを見れば分かるでしょうが、ここは」

 

指先を下に向けて、地面を指し示す。

 

「溶岩流れる火山地帯の真っ只中。決闘竜の守護がない人間ならば、呼ばれた時点でお陀仏でございます。つまりは、呼び出した人間が本当に決闘竜に認められた者なのか否か、確かめるためにここに呼ぶのですよ!」

 

下に向けていた指を、俺の頭上に差し替えて、彼は言った。

 

「身の程を弁えなさい、人間風情が!貴様など、常に決闘竜に守られていなければ、今すぐにでも死に逝く脆弱な存在なのですよ!ヒャーッハハハハハッ!!」

 

俺の上には、翼を丸めて光の壁を作り出し、炎の人形を睨み付けて唸る、星屑の竜がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うわぁお。スターダスト、かっけー……」

 

「………………」

 

間近で見るスターダスト、格好いい上に美しいその姿に、しばし見惚れる。

ソリッドヴィジョンで見たときもそうだったが、何度見ても圧倒される竜である。

ずっと上にいたことに、いままで気がつかなくてごめんなさいと謝りたい。

 

「……本当に余裕がおありでございますね。調子狂うな……」

 

「すげー、この光の壁、波動音壁(ソニック・バリア)か?

 ちょ、ちょっと、どうなってんのか触ってもいいかな……」

 

波動音壁(ソニック・バリア)を触ろうとして前に進むと、輝く鱗に包まれた大きな手が慌てたように前に差し出される。

 

え?触っちゃダメ?残念・・・。

 

「・・・ごほん、んん、兎も角、でございます!!」

 

大声で言う彼に視線を向ける。炎の体で器用に咳払いした後、こちらに指を向けた。

 

 

「あなた様が本当に決闘竜に認められているか否か、確かめるための試練をご用意しております!この溶岩帯はその第一段階。見事クリア、といったところでございましょうか。しかぁし!この第一段階、突破できなかったものは今までにたったの一人でございます!決闘竜を操るものとしては、クリアできて当然の試練でございます!次に参りますよ!!ヒャハッ!!」

 

「勝手に試練始められても困るんだが、受けないとしたらどうなるの?」

 

「ここは我が主が作り出した領域。言わば我が主の掌の上。試練をお受けになられないのでしたら、一生この領域に留まって頂くことになります!ヒャハハッ!!」

 

「…………」

 

「無論、決闘竜の精霊力を持ってすれば、この領域を破壊することも出来ましょうが、そんなことをすれば人間であるあなた様は、領域の狭間でその存在ごと消え去ってしまわれるでしょう!ヒャーッハッハハハハ!!」

 

「……つまり、死にたくなければ試練を受けろってことか」

 

頭上のスターダストを見る。

状況はとっくに理解していたらしく、不機嫌そうにしながらこっちを見ていた。

「……回りくどいことする奴だな、お前の主ってのは」

 

「ヒャハッ!デュエリスト並びに決闘竜の体力の消耗も図っております故に!」

 

「卑怯者!卑怯者!」

 

「ヒャーッハッハッハッハ!!遠吠えが心地よいですな!」

 

ここまでテンプレである。

スターダストの視線が、楽しそうだな、お前、というものに変わってきたところで覚悟完了。

 

「……よーし、そいじゃ行くか」

 

「おお、準備完了ですかな。それでは参りましょう、次なる試練の場へ!」

 

彼が炎の腕を高く伸ばすと、周りの溶岩が光り出した。

 

「次の試練は古の森!植物が支配する太古の森林でございます!決闘竜との絆を示すため、いざ……」

 

得意気に口上を述べ、光が強まっていく、その時。

 

 

 

 

 

 

「待って!私も連れていって!!」

 

 

 

 

 

 

 

女性の声である。

張りのある声が横から聞こえた。

見ると、溶岩にまみれて煌々と燃える、大きな悪魔の姿があった。

その悪魔自身、体から炎を吹き出しているようで、溶岩を掻き分けてこちらに向かってくる。

 

《ヴォルカニック・デビル》だった。

 

炎族の最上級モンスターであるその悪魔が、大事そうに抱えているもの。

黒い髪の女性。

赤いハイヒールに、白いロンググローブ。貴族がパーティに着ていくような真っ赤なドレスは、裾が焦げているようだった。

炎の悪魔を当然のように従えている彼女に、しばし魅入る。

 

「私の竜を、取り戻したい!私も一緒に連れていって!」

 

「おやおや、これはこれは!ヒャハッ!!先ほどの脱落者様でございますね。まだ生きていらっしゃったとは、流石に決闘竜を保有していただけのことはあると申しましょうか!ヒャハハッ!!」

 

口を歪めて嘲笑する炎の人形。

ここでの脱落者、この人が唯一第一段階をクリアできなかった人なのか。

 

「私の竜を奪っていった者の目的は、全ての決闘竜に打ち勝ち、支配すること!ならば、全ての試練を達成すれば、最後には本人が現れるはず!最後に勝てば、私の竜も解放されるはずです!どうか、私も連れていって!」

 

「なりませんなぁ!第一の試練をクリアできなかったあなた様は、既に落第でございます故に!その上我が主自らこの場所に出向いて行ったデュエルにも敗北し、決闘竜にも見限られた人間が、今さら何を仰るのでしょうか!」

 

「…………!」

 

彼の言葉に、唇を噛み締めて俯く。

デュエルに負けたというのは本当のことなのだろう。

しかし、第一の試練、『溶岩帯で決闘竜に守られること』をクリアできなかったというのは。

 

聞いてみると、力なく笑いながら答えてくれた。

 

「わたしの竜は、『守る』ことには向いていなかったようで。一応出てきてはくれたのですが、彼が何かする前に、この子が」

 

言って、《ヴォルカニック・デビル》を見る。

 

「出てきて、助けてくれたのです。それはありがたかったのですが、ここの支配者はそれでわたしを不合格にしたようですね・・・・・・。竜に助けられなかったわたしは、第一段階で不合格。その後のデュエルにも負けて、力を奪われたわたしの竜は、カードの状態で連れ去られたということです」

 

「ヒャハハハッ!!恨むのなら力なき自分か、余計な真似をしたそこの悪魔を恨むのですな!」

 

「……デュエルで敗北したわたしが、喚く権利もないことは分かっております。ですが、どうか、もう一度だけチャンスを頂けないでしょうか!?」

 

「ヒャーッハッハッハッハッ!ヒャーッハッハッハッハッ!!だぁーめぇーでぇーごーざーいーまー」

 

「いいよ」

 

「ッファッ!?」

 

凄く楽しそうに断ろうとしていた炎の人形を遮って言った。

俺の言葉と同時にスターダストが動き、女性と悪魔を光の壁の内側に招いた。

 

「ちょ、勝手に決められては困りますよ!敗者復活の救済措置などご用意しておりませんゆえに!」

 

「て言っても、こんなとこに置いていくのも人間的に考えてダメだろうし。この人は連れていく。恨むんなら、デュエリスト全員一度ここに来させた自分を恨むんだな」

 

「……ひゃは、なんだかもう、あなた様の自由人っぷりにも慣れてきた気が致します」

 

なんだかなー、と呟いて後ろを向く彼。

両手を頭に当てていたかと思うと、ペコペコと頭を上下に振りだした。

電話して上司に謝る下っ端のような仕草だった。

 

「……はい、ええ、では、そのように致します。それでは・・・」

 

両手を頭から離したところで、こちらを向いた。

 

「……はぁ、よろしいでしょう。我が主にも確認致しましたが故。そちらの方もお連れいたしましょう。ひゃはは……」

 

「……便利だな。遠距離で通信できるの?」

 

「ヒャハハ!左様でございますが!?」

 

「じゃあ、その主とやらに言っといて欲しいんだけど」

 

「はぁ、何でございましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのうち、勇者一行がお前を倒しにいくから、覚悟しとけってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わたくしもう何だか疲れました。第二の試練クリアまで休ませていただきます。もしあなた様がクリア出来れば、試練後にお会いすることになりましょう。もしクリア出来れば、ですがね!!ヒャハハッ!!』

 

そう言って、第二の試練の場に二人の人間と二体のモンスターをつれてきた後、炎の人形は消えていった。

第二の試練。

先ほどの溶岩帯とはうって変わって、物音のない静かな森だった。

木々に遮られて光りも少なく、暗い森のなかを、二人は歩いていた。

 

「古の森、でしたでしょうか。フィールド魔法カードに、確か同じ名前のものがあった気がしますが……」

 

「うん、《古の森》ね。もし同じものだとしたら、ここでデュエルするのはかなり面倒だな」

 

「あなたの竜も、わたしのデビちゃんも、カードに戻ってしまいましたし、これからどういたしましょう?」

 

「デビちゃん? ……《ヴォルカニック・デビル》をデビちゃん。

 違和感あるな……。ともかく」

 

歩きながら周りを見渡す赤帽子。

その様子は随分余裕があるように見えて、彼女は不思議に思った。

 

「試練だって言うくらいだし、このまま何日もここをさ迷い歩くってこともないだろう。この試練っていうのも、決闘竜とデュエリストとの絆を深めるという目的があるはずだ」

 

「絆……?」

 

「絆を深めさせた後、それをデュエルで叩き潰すことで、決闘竜の抵抗しようという意思をなくさせる、ってとこかな。テンプレ的にはね」

 

そう言って笑った後、赤帽子は足を止める。

 

「ほら、お出ましだ」

 

「…………?」

 

赤帽子が指を指す。

指の先には、小さな赤い球根のようなものが、ポツンと落ちていた。

ふよふよと揺れるそれは、いっそ可愛らしくもあり、攻撃的な雰囲気は全くない。

 

「あれが、試練なのでしょうか?」

 

「ああ、間違いないな。あれは《フェニキシアン・シード》だ」

 

「フェニキシアン・シード?植物族の、単体では力を持たないモンスターですよね?」

 

ふよふよ、ふよふよと揺れていた球根。

その揺れが、不意に止まり。

 

表皮が裂け、中の目玉がぎょろりと二人を見据えた。

 

「ひぃっ!?」

 

「そう、《フェニキシアン・シード》は単体では力を持たない。つまりは……」

 

目玉がまた閉じたかと思うと、次は球根が肥大、成長を始める。

赤い花を下に垂らした、燃える大きなアマリリス。

 

「《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》が登場するってことだ」

 

「解説してる場合ですか!?《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》は最上級モンスター、早く逃げないと……!」

 

「ちょーと遅かったかな」

 

「へ……!?」

 

 

 

 

 

爆発。アマリリスが作り出した大きな実が、爆弾のように炎を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……赤帽子さんは……!?」

 

爆発時、彼女を守ったのは《ヴォルカニック・デビル》だった。

炎の悪魔にとって、自分より力の弱い炎など心地よい風に等しい。

その強靭な体で、自分の主を守っていた。

 

傷ひとつ出来なかったことに、炎の悪魔に感謝しながら、彼女は連れの赤帽子を探す。

爆炎の影響で煙が立ち込め、周りが全く見えなかった。

ここで、まだ彼の名前を聞いていなかったことに気がついたが、それは今は些細なことである。

自分より前を歩いていた彼は、自分よりも近い位置で爆発を受けたことになる。

彼の安否が心配だった。

 

 

 

 

 

 

「……うおー、レヴァテイン。かっけーわー、やっぱ!」

 

気が抜ける。

緊張感の欠片もない声が、前方から聞こえてきた。

 

煙が晴れると、そこにいたのは、金と赤の鱗を持つ、剣を掲げた大きな竜人。

体で受け止めたのか、それとも手に持つ剣でどうにかしたのか、後ろに居る赤帽子を完璧に守っていた。

 

《ドラグニティアームズ-レヴァテイン》。ドラゴン族の最上級モンスターだった。

 

彼を守ったモンスターを見て、彼が使うカード群がどんなものか、少し理解した。

 

 

 

 

「レヴァ剣!レヴァ剣来た!!これで勝つる!!」

 

『………………』

 

「え、だめ? 嫌だった?」

 

 

叫ぶ彼に、嫌そうな顔をする竜人。

先ほど爆破を食らったとは思えないほど余裕があるように見えた。

 

ふざけているようにしか見えない彼の前で、焼け焦げたアマリリスがピクリと動く。

自分が作り出した爆弾によって弾け飛び、死んだように見えた大きな植物は、その身を炎で包み込む。

炎が完全に消えたとき、《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》は完全に蘇生していた。

 

 

「アマリリスの蘇生効果か。こうして見るとやっぱり面倒な効果だよね」

 

『………………』

 

呑気そうに言う彼のとなりで、竜人は光となって、彼のデュエルディスクに戻っていった。

第二の試練が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「植物とデュエルとか、うまくいくのか不安なんだが、まぁ……。行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュエル!」



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