アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり (砂岩改(やや復活))
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第一期 《第1章 心願火星姫君 編》
プロローグ


 

 

地球軌道上に高速で移動する物体があった。十五年前に起きたハイパーゲートの暴走事件によって軌道上には月の残骸が大量に浮かんでいる宙域《サテライトベルト》は宇宙を航行するには厳しすぎる環境だった。

 

「……」

 

しかし現在移動している物体はそのデブリ地帯にはあり得ない速度で移動している。

通常ならそこに浮かぶ岩石に激突し自爆行為になりかねない事をやっている辺りを見てパイロットの腕があるのだと誰もが分かることだろう。

 

「これより…武装のテストを開始する…」

 

『了解~頑張ってね~』

 

搭乗者であるフィア・エルスートは通信から聞こえてくる間延びした声に若干眉を寄せつつもロングバレルのビームライフルを構える。

すると次々と目の前に展開された的を正確に撃ち抜く。

デブリからドローンが現れるとシールドに装備されたビームアックスを起動させ切り裂く。

 

「ビームライフルの集束率、規定値以上を確認。ビームアックスのビーム発振器の異常は見られず…各計器チェック。問題なし」

 

『了解~。じゃあハイ・ビームライフルとビームサーベルのチェックね』

 

「了解…シナンジュ…テストを続行する」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

テストの全工程を終えて月面基地の格納庫に着地した赤いカタフラクト《シナンジュ》は整備ハンガーに格納される。

従来のカタフラクトとは違い頭部が可動するタイプではなく胸部のコックピットハッチが開く仕組みだ。

そこから出てきたのは灰色の制服を着た人物。その灰色の制服は比較的高い階級の者にのみ与えられるものだ。

それを着こなしていたのはまだ16歳の少女だった。

少女は腰まである長い銀髪をなびかせて床に降り立つと寄ってきた人物を赤い瞳で睨み付けに文句を言う。

 

「その緊張のない声はどうにかなりませんか?」

 

「え~いいじゃない」

 

「ハァ……」

 

フィアは機付き長の暢気さに思わずこめかみを押さえていると格納庫の出入り口から声が響いた。

 

「フィア、ご苦労様です。とても優雅な操縦でした」

 

「こ、これは姫様!何故ここへ!? 」

 

その声の主とはヴァース帝国の第一皇女であるアセイラム・ヴァース・アリューシア姫だった。フィアを含む全員がその登場に驚き敬礼をしフィアも方膝をついて挨拶をする。

 

「今日もご機嫌麗しく…」

 

「ありがとうございます。フィア、面を上げてください」

 

「ハッ!」

 

アセイラムが自身の前に降り立つのを確認するとフィアは顔を上げてアセイラムを見る。

 

「姫様…ここは危ないので来たらいけないと申しているではありませんか」

 

「あら、すいませんでした…でもフィアの操縦を見て早く話したかったものですから…」

 

フィアの言葉に少し申し訳なさそうな顔をしながら謝るアセイラムの姿にフィアは少し言い過ぎたと思ってしまう。

 

「ちょうど私もテストを終えましてこのシナンジュも戦場に立てる日が参りました。姫様は私がお守り通してご覧にいれます…」

 

「ありがとうございます。でも無茶だけはなさらないように…」

 

「ハッ!姫様のご命令とあれば、ここは危ないですので…お部屋までお送りいたします」

 

「はい!よろしくお願いいたします」

 

フィアの提案にアセイラムは嬉しそうに答えるとフィアは後ろを向き機付き長を見て機付き長は親指を立てるとフィアはシナンジュを任せてアセイラムをエスコートする。

 

「あの…フィア?」

 

「ん?なんでしょうか?姫様」

 

基地内の重力ブロックに入りフィアとアセイラムが歩いているとアセイラムが突然フィアに話しかける。

 

「フィアもあの機体に乗って地球人と戦うのですか?」

 

「はい、もし地球人が姫様に仇をなすような事があれば私は地球人と戦いますが。それが仮にも火星人だとしても私は戦います」

 

「悲しいですね…何故こうも人は争いあうのでしょう…」

 

「失礼いたします」

 

アセイラムの悲しい声にフィアは方膝を床に付きアセイラムの手を持つ。

 

「フィア?」

 

「姫様…姫様はとても優しいです。私もその暖かさに感銘を受けこうしてお側に居られる事を光栄に思っております。大丈夫です…姫様の思いは必ず人々の乾いた心に届き潤いをもたらすでしょう」

 

「フィア…ありがとうございます!私は正しいと思った事を成し遂げようと思います!」

 

「姫様…」

 

フィアは元気になったアセイラムを見て安堵の表情を作るが後にこの言葉を言った事を後悔するようになるとはまだ思いもしなかっただろう。

 

アセイラムが元気になった所でフィアはアセイラムを部屋までエスコートし扉を開けるとそこには侍女であるエデルリッゾがご機嫌斜めで待っていた。

 

「姫様!どこに行っておられたのです!私は心配いたしました!」

 

「姫様…エデルリッゾに言ってなかったのですか?」

 

「えぇ…だって危ないからいけないと言われるので」

 

「ハァ…」

 

フィアはアセイラムの自由さに少し呆れながら立っているとエデルリッゾの怒りの矛先がフィアに向く。

 

「フィアもフィアです!姫様を甘やかしすぎです!」

 

「うぅ…面目ない…」

 

フィアは自身よりも五歳ほど年下の女の子の言葉に返す術もなくただ黙って怒られるのだった。

 

「それで…明日の準備は整ったのですか?」

 

「あぁ、シナンジュは月面基地でしばらく封印する。クルーテオ卿の揚陸城も明日の午後には月面基地に到着し姫様を収容し一ヶ月後には地球に降下する予定だ…」

 

エデルリッゾの質問に答えたフィアの言葉にアセイラムは少し残念そうに呟く。

 

「一ヶ月ですか…長いですね…」

 

「はい、そこで姫様に地球についてのご勉学をしていただきます。担当者は…スレイン・トロイヤードと言う者ですね」

 

「スレインですか!」

 

フィアの放ったスレインと言う言葉にアセイラムが反応しフィアは驚きの表情を見せる。

 

「姫様…ご存じなのですか?」

 

「えぇ!昔も地球の事を多く教えてもらいました!」

 

「そうなのですか…良かったですね!」

 

「姫様が…地球人と…」

 

アセイラムの言葉にフィアが喜ぶがエデルリッゾは納得いかないようで不機嫌になるがそれを見たフィアはあえて黙って置くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

月面基地展望区画

 

アセイラムが就寝した後、フィアは壁に大きく張られたガラス越しに地球を眺めていた。

 

「地球か…我らの故郷」

 

「フィア、シナンジュの完成おめでとう」

 

「マリーンか…」

 

フィアは話しかけられた方を見ると黒髪をポニーテールにしたフィアと同い年の少女、マリーン・クウェルがたっていた。

 

「せっかく火星から持ってきて完成したと言うのに…」

 

「元々シナンジュは我らの姫様をお守りするための剣だ。使わなければそれでよい…」

 

「そうか…」

 

「貴様もザーツバルム卿の元で働くのも大変だろう…」

 

「いや、新鮮だよ毎日な。新たな目標も出来た事だしな…」

 

「そうか、それは良かった。では私も忙しい身なのでな…」

 

そう言ってフィアが身を翻し居住区画に向かうのをマリーンはニタリと笑いながらそれを見送る。

 

「エルスート卿。貴方のお役目も…近いうちに無くなるでしょう……新たなるヴァースの為に」

 

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
アルドノア・ゼロを見させて頂いて興奮冷めぬ内に書いております。
こんな感じで行きますので暖かく見守って頂ければ幸いです。
あとシナンジュはガンダムUCのシナンジュとはスタインが持っていたハイ・ビームライフルを装備している意外特に変更点はありません。




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第一星 全て始まりーAll beginningー

 

 

「本当に美しい星、何度見ても心を奪われます。貴方も懐かしいですか生まれ故郷が?……スレイン」

 

床一面に映る地球の映像を見てアセイラムは銀色の髪の少年に語りかける。

 

「えっと…それは…まぁ…」

 

「照れることはございません。たった二ヶ月留守にしただけでもうヴァースが懐かしいですもの。地球、私たち人類の発祥の地。私もこうして見るのが楽しみだったのです」

 

スレインと呼ばれた少年はアセイラムに少し照れて相づちを打つとそれを見たアセイラムは笑いながら話を続ける。

 

「ねぇスレイン、空も青くて海も青いと言うけれど、前から不思議だったんです。地球では水や空気に青い色が着いているのでしょうか。どう思います?フィア?」

 

「はぁ、私には分かりかねます」

 

アセイラムは少し離れた所に居たフィアに話しかけると、フィアは困ったように答えながらスレインを見る。するとスレインが少し焦りながら話す。

 

「いえ、水や空気は透明です。ただそれが大量に積み重なると光の屈折とかありまして。あ、青い色に見えるという事だと思うんです……」

 

「光を歪めるほど沢山の水や空気……凄いですね!想像もつきません!」

 

助けを求められたスレインも分からないようで、考えながらゆっくりと答える。アセイラムはその答えに驚きの声を上げて喜ぶ。

それを見てフィアとスレインは楽しそうに微笑んでいると、部屋の扉が開き伯爵の地位を示す赤い服を着た金髪の男性が入ってきた。

 

「こちらにおいででしたか……」

 

「クルーテオ伯爵!」

 

「夜もだいぶふけて参りした。どうか御寝所にお戻りなされるようアセイラム姫」

 

アセイラムはクルーテオ伯爵の言葉に驚き名残惜しそうに部屋を見渡す。

 

「あら、もうそんな時間?このテラスからの眺めはつい時を忘れてしまいますね。それではスレイン、また明日の授業もよろしくお願いしますね!」

 

「あ!はい!恐縮です」

 

アセイラムの言葉でスレインは姿勢を正すとアセイラムはそのまま部屋から出ていくとその後ろからフィアも僅かながらスレインに礼をして出る。

最後にクルーテオはスレインをゴミのような目で見るとそのまま退出するのだった。

 

ーーーー

 

「ねぇフィア、貴方はスレインの事をどう思いますか?」

 

「はぁ、私は別に姫様の思うような事は思ってございません。むしろ姫様の心許せる数少ない貴重な人物だと思います」

 

スレインの部屋を退出した後、フィアはアセイラムの問いかけにフィアは当然のように答える。

するとアセイラムはホッとしたような表情を見せる。

 

月面基地から揚陸城に移ってもうすぐ一ヶ月近く経つが、フィアは本当にスレインに感謝していた。主であるアセイラムが生き生きとしているのは彼のお陰で、フィア本人も少なからずあった地球人の劣等民族としてのイメージは無くなっていた。

 

「貴方個人としては?」

 

「えっと…とても優しく正直な方だと思います」

 

「そうですか!フィアにも分かって貰えて私は嬉しいです!」

 

「そうですか。それは良かった」

 

フィアの言葉にアセイラムは嬉しそうにに微笑むのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「スレイン…」

 

「アセイラム姫…」

 

スレインはアセイラムの姿を確認すると膝まずき顔を伏せる。

 

「面を上げてください、スレイン……」

 

「ハッ!」

 

アセイラムの言葉でスレインは顔を上げる。

 

「お別れの日が来てしまいました。私はこれより親善の勤めを果たします。貴方から教わった様々な知識がきっと役に立つでしょう……」

 

「その、危険ではないのですか?」

 

「恐れては何も始まりません。今は地球と火星が歩み寄る第一歩を新たに踏み出さねばならないのです」

 

「案ずるな、その為に私がいる。姫様を命を懸けて守る…それが騎士である私の務めだ」

 

スレインは二人の言葉を聞くと制服の上のボタンを外しネックレスを取りアセイラムに渡す。

 

「フィア卿、姫……本当にありがとうございました。それとこれを、地球に伝わる魔除けの御守りだと聞いております」

 

「でもこれは、お父さまの形見だと……」

 

「いいんです、父も喜ぶと思います。五年前、瀕死の僕と父を救ってくれた…そのお礼です。どうか……」

 

渡されたネックレスをアセイラムが返そうとするがスレインは微笑みながら渡しきる。

 

「貴方と父上の平和への祈りを必ずや青い星に届けて参ります。ありがとう…スレイン」

 

「姫様、そろそろお時間です…」

 

エデルリッゾがシャトルの到着時間を告げるとアセイラムは名残惜しそうにスレインを見る。

 

「そうですか。それではスレイン……」

 

アセイラムがシャトルに向かい歩き出すとフィアがスレインの前に立ち頭を下げる。

 

「えっ?」

 

「ありがとう。姫様があのように楽しく過ごせたのは貴様のお陰だ。感謝する」

 

フィアの突然の行動にスレインは驚くがフィアは気にせず礼を言うと立ち去るのだった。

 

ーーーーーー

 

シャトルへの道でアセイラムはエデルリッゾに話しかける。

 

「貴方も、スレインの事をよく思っていないのですか?エデルリッゾ…」

 

「えっ?あの…その…」

 

「私たちとて、あの青い星から旅立った移民の末裔。なぜそこまで意味嫌うのでしょう…」

 

アセイラムの言葉にエデルリッゾはもごもごしていた口を開き質問に答える。

 

「恐れながら、ヴァース皇帝がアルドノアの威光を受け継いでおり、我ら帝国の臣民は地球に住む旧人類より一線を越えた存在となったのです。そして姫様は神の力を呼び覚ます身の上、あまり滅多な事は…」

 

「エデルリッゾ…」

 

エデルリッゾの言葉でアセイラムの顔に若干影が入るのを見るとフィアはエデルリッゾを睨み付ける。

 

「うっ……」

 

「エデルリッゾ、口がすぎるぞ…」

 

「フィア、いいのです。私は純粋に意見を聞きたかっただけなので」

 

「姫様……すいません。お見苦しい所を…」

 

「す、すいませんでした!」

 

アセイラムは二人が謝るのを聞いて静かに話始める。

 

「私は、遠き故郷であるこの星と友好的な関係を望んでいます。過去の経緯はどうあれ、私は勇義と親愛を示す為にこそ地球に訪問するのです」

 

「姫様…」

 

「姫様……このフィア、全てを賭けて姫様の夢の手伝いをさせてください」

 

「ありがとう…フィア」

 

悲劇の開幕まで…後少し…

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
第一話です!クルーテオ伯爵とスレイン虐めはフィアの礼の所を入れる為にカットしました。
あとフィアは元々地球人に対する嫌悪感があまり無く火星人でも珍しい部類に入る人物です。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第二星 騎士の陰謀ーKnaito of machinationー

 

 

伊奈帆side

 

地球、新芦原市そこの大通りでは親善の為に地球に降りた第一皇女のアセイラム・ヴァース・アリューシアの為のパレードで賑わっていた。

その中には友達であるオコジョに誘われて界塚伊奈帆とカーム・クラフトマンが訪れていた。

 

「ご覧ください。只今、火星の第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシア殿下を乗せたリムジンが姿を現しました」

 

撮影のために訪れていたキャスターが話始めると周りの観客もさらに賑わい始め周囲には歓迎ムードが漂っていた。

 

「おぉ…間に合った、間に合った」

 

「テレビ中継で十分だって…」

 

「まぁ、一応親善訪問って名目だし。俺たちだって賑わせてあげないと…歓迎ムードってやつ?」

 

「お前いつから火星シンパに鞍替えしたんだよ…」

 

「だってプリンセスだよ皇女様だよ。結構かわいいってネットじゃ噂なんだよ」

 

「そっちかよ…」

 

来たことを後悔するカームをよそ目にオコジョは持ってきた双眼鏡でリムジンの窓を覗くが分厚いスモークガラスに遮られ何も見え無かった。

それにがっかりするオコジョを見て当然のように呟くカーム、その後ろでは伊奈帆がスマホをいじりながらスーパーのチラシを見ていたがその視線はスマホから自分たちから少し離れた所で双眼鏡を覗いている銀髪で全身黒で統一された服を着た少女に移っていた。

 

(あの人…見てない…)

 

伊奈帆が気になった少女はリムジンを見ずにビルの屋上や観客を入念に見ていた。

 

そんな彼女を伊奈帆が見ているとオコジョが伊奈帆に話しかける。

 

「あれあれ?もしかして伊奈帆君、一目惚れ?」

 

「何が?」

 

「またまた~綺麗だね、北欧の人かな?」

 

「マジかよ!新芦原じゃ珍しいな」

 

伊奈帆は勝手に盛り上がり始めた二人を放置していると彼女は突然双眼鏡を外し走り始めるのを黙って見ているのだった。

 

 

フィアside

 

アセイラムが馴れない重力に体調を崩してしまいパレードには出れずに要るのに騎士であるフィアが何故ここにいるかと言うと。

 

(もし姫様を襲う不届き者が居るとすれば…)

 

彼女は例え影武者とはいえアセイラムが殺されるような事が起きれば火星と地球の全面戦争になってしまうのを避けるためである。

 

(屋上は…目立ちすぎるか…なら人混みに紛れる…厚さ200ミリの防弾ガラスを突破し姫様をを殺す為にはアンチマルテリアルライフル等の大型の火器が必要になる…しかしそんな大きな火器が…)

 

考えながら見ていると携帯を構え写真を撮り何かしら入力している人物が居た。

 

(なんだ…パスワード?まさか!カメラでロックオンしたのか!)

 

「クッ!」

 

フィアは双眼鏡を外しその人物に走り気配を消しながら近づくと拳銃を取り出しその人物に着ける。

 

「動くな…」

 

「なんだ?」

 

「その携帯を捨てろ…それ以上入力したら撃つ」

 

「………」

 

フィアが拳銃を向けた男性は黙ってフィアに携帯を見えるように持ち上げるとゆっくりと指を離していく。

 

「早く捨てろ……ガッ!」

 

しかしフィアの注意が不覚にも携帯に向けられていたために後ろから来た仲間に気づかずにスタンガンを首筋に当てられ気絶してしまうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「あ…ウッ!」

 

気絶してしまった後に誰かに起こされ目を覚ますとフィアは目がチカチカするのを我慢して上体を起こし声の主を見ると茶髪の少年が隣に座っていた。

 

「すまない…」

 

「いえ、たまたま倒れているのを見つけただけですから…」

 

そう言って少年はミネラルウォーターを差し出すとフィアはありがたく飲ませて貰う事にした。水分を摂取し頭が回って来たらフィアはその少年に慌てながら質問をする。

 

「リムジンは!姫は無事なのか!?」

 

「…残念ながらミサイル攻撃で…」

 

「何と言う…」

 

フィアが悔しそうに頭を押さえているのを少年は黙って見て立ち上がる。

 

「すいませんが失礼します…友達が待っているので…」

 

「あぁ、ありがとう…えっと」

 

「界塚伊奈帆です」

 

「界塚、ありがとう…私はフィア・エルスートだ」

 

「姉も居るので伊奈帆で結構です。フィアさん…では…」

 

そう言って伊奈帆は若干小走りで歩道橋を渡って行きそれを見送ったフィアはポケットの電話が鳴っているのを気づき通話ボタンを押して耳を傾けると。

 

「もしも…『何やってるんですか!!』…エデルリッゾ…」

 

いきなり爆音に耳がキーンと鳴るがそんな事お構い無しにエデルリッゾは電話の向こうで怒鳴り続ける。

 

『こんな時に姫様を御守りする為の騎士がどこほっつき歩いてるんです!』

 

「影武者の様子を見に来たら暗殺者にやられて気絶してしまった…」

 

『え、なんかすいません…』

 

「それより姫様は!」

 

謝るエデルリッゾにフィアはアセイラムの事を聞くと姫は無事であり現在は体調も回復、事態の急変に伴いホログラムで姿を変えて泊まっている施設から出ようとしていた。

 

「分かった、合流地点で会おう。一晩なら泊めてくる施設もある筈だ…手配は私がする」

 

『分かりました…合流地点に向かいます』

 

「すまない、姫様を頼むぞ…」

 

『了解です!』

 

フィアは電話を切ると若干ふらつく体に鞭を打ち合流地点に向かうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『我らがアセイラム姫の切なる平和への祈りは悪辣なる地球人どもの暴虐によって無惨にも踏みにじられた。我らヴァース帝国の臣は、この旧人類非道に対して断固正義の鉄槌を下さなければならない!誇り高き火星の騎士たちよ。今、時は来た!歴代の悲願たる地球降下の際に…義をもって!今こそ果たすべし!』

 

アセイラム姫の悲劇を知った火星騎士たちは自らの演説が終わるのと同時に揚陸城が次々と地球に降下するのを見送るザーツバルムに通信が入った。

 

『流石ザーツバルム伯爵。先程の演説、姫殿下への忠義に溢れておりました…』

 

「フッ…皮肉のつもりかマリーン」

 

『いえ…予定通り月面基地の制圧は完了しました』

 

ザーツバルムはマリーンの報告にさらに機嫌を良くする。

 

「後はトリルランがネズミの掃除を終えれば我々の悲願は達成される。貴様も機体を持って我が城に来るがいい…」

 

『ハッ!』

 

ザーツバルムはマリーンとの通信を終えると再び細く微笑むのだった。

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
一話分が完成しました、一応原作沿いでやっていますがもしかしたら変わるかもれません。
こんな駄作者ですか最後まで読んで頂きありがとうございます!




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第三星 夜明け前 ーBefore daylightー

 

 

「姫様!よくご無事で!」

 

「フィア、貴方も!暗殺者に襲われたと聞いたけど!」

 

「いえ…私は大丈夫です」

 

何とか合流地点にたどり着いたフィアは主であるアセイラムに会えホッとする。

 

「ありがとう…エデルリッゾ」

 

「私も姫様を御守りするのがお勤めですから!」

 

フィアの礼にエデルリッゾは誇らしそうに胸を張る、するとフィアはアセイラムの手を取り連れていく。

 

「お話ししたい事も多く有りますが…取りあえず安全な場所へ」

 

「は、はい!」

 

「え…待ってください!フィア!姫様!」

 

アセイラムをさっさと連れて自分を置いていくフィアに叫びながらエデルリッゾも着いていくのだった。

 

そこでたどり着いたのは特に何もないマンションだった…それを見てエデルリッゾは思わず声を上げて反論する。

 

「何ですか!これは!?」

 

「後で言う!姫様…取りあえず中に…」

 

「はい…」

 

フィアはそう言いながらドアの鍵に何かを突っ込み少し弄るとガチャリと音がし扉が開く、時間にして二秒。

一般の鍵とはいえフィアは一瞬で鍵の種類を把握し鍵を解除するのは常人では不可能だ。それを見たエデルリッゾは何か言いたげだったが取りあえず入る事にした。

 

「で?色々聞きたい事が出来ましたが…取りあえず…なぜ姫様をこの様な所へ?」

 

「この様なとは失礼な…地球人の一般階級がすむ所だぞ」

 

「なるほど!ここは多くの地球の皆さんが住む所なのですね!」

 

「違う!」

 

目をキラキラさせるアセイラムをよそ目にエデルリッゾは思わず大声を上げてフィアに詰め寄り思っていた事を全て吐き出す。

 

「なぜ姫様に!地球の!一般階級の者達が住まう所に連れて来たのです!さらにサラッとしてましたが完全にピッキングしてましたよね!不法侵入ですよね!」

 

「まぁ…まぁ…」

 

ゼェゼェ言うエデルリッゾを落ち着かせたフィアは真剣な表情になりそれを見たエデルリッゾも顔を強ばらせて話を聞く。

 

「まずここを選んだのは暗殺者対策のためだ…」

 

「暗殺者対策…ですか」

 

「あぁ…ここは地球の一般階級が住まう場所だ。言ってみればこの様な部屋は他にもあるわけで情勢が混乱しきっている状態でのホテルよりは遥かに安全だ。それにもしホテルの記録で割り出され暗殺者に気づかれたらアウトだからな…」

 

「なるほど…確かにそれはそうですが…この部屋の主は帰って来ないのですか?」

 

「ここは家具付きの賃貸と言うものであってだな。家具は有るが人は住んでいない、一晩借りるだけだ…問題はない」

 

エデルリッゾはフィアの説明に納得したのか頷き了承の意を示す。

こんな非常事態は予測されるべき出来事。その為にフィアは地球の事を密かに調べ上げていたのだ。主にスレインから。

その後、エデルリッゾとフィアはアセイラムが寝る場所を窓の無い部屋にしベットを運びその横の床でエデルリッゾがその部屋の扉の前でフィアが寝ることになった。

 

「フィア…」

 

「ハッ!何でしょう姫様…」

 

「影武者の方は…どうなったのでしょう…」

 

心配そうに呟くアセイラムを見てフィアは心を痛め悲しくなりながらも静かに首を横に振る。

 

「残念ながら…恐らく…」

 

「そうですか…フィア…お休みなさい…」

 

「……はい」

 

フィアは悲しそうにするアセイラムを何とか励まそうと頭を回すが良い案が浮かばずにゆっくり横になって寝る事をただ見る事しか出来なかった。フィアはそんな自分を情けなく思いながらも黙って部屋から退出する。

 

「では…ゆっくりお休みください」

 

「フィア…」

 

そんなフィアを見てエデルリッゾは心配そうに呟くがどうすることも出来ずにいた。

 

「エデルリッゾ…姫様を頼む…」

 

「はい…あまり気負うと大変ですよ…」

 

「ありがとう…」

 

気を使ってくれるエデルリッゾにフィアは感謝すると部屋の中に入るのを見届けて扉の前に座ると拳銃を取り出そうとするが…無かった。

 

「あれ?…あの時、落としたか…」

 

フィアは気絶された時の事を思いだしその時から拳銃を見かけていない事を思い出した。

 

「界塚伊奈帆か……」

 

フィアは自分を助けてくれた少年を思い出しその名前を呟き笑う…。

 

(何故だろうな…また会う気がする…)

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃、伊奈帆も寝る前にフィアが持っていた銀の拳銃を眺めていた。

 

(フィア・エルスート…彼女は…火星人か…)

 

伊奈帆も無表情のまま拳銃をしまうとフッと砕けた月を見上げる

 

(彼女は敵だろうか…それとも…)

 

そう考える彼の表情からは何も分からなかった…ただその無表情と冷たい視線が月を見つめるだけであった。

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今日は短めで
暗殺事件の後、お姫さまは何をしていただろうと思いながら書かせて頂きました。
次回から二話ですね!最後まで読んで頂きありがとうございます!





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第四星 騎士の長い一日 ーKnaito of longdayー

 

 

フィアside

 

 

「う…」

 

目を覚ましたフィアは部屋に有ったラジオを点けるとニュースで男性アナウンサーの話し声が聞こえて来てそれに耳を傾ける。

 

『緊急速報です…先程、ヴァース帝国軍による軍事攻撃が行われました…現在、原因不明の通信障害のため…各地の詳細な被害は分かっていません…』

 

「ハァ……」

 

フィアはため息をつきながらラジオを切ると頭を押さえる…ラジオの情報が正しければ今頃、地球連合軍側は既にやられていると思って良いだろう。

それは専用のカタフラクトを持っているフィア達だから分かる…火星は技術力だけなら地球を遥かに越える物を持っているのだ…落着地の制圧など一日も掛からないだろう。

 

「通信障害…間違いなくジャミングだ…人工衛星も海底ケーブルももう無いだろう…長距離通信が…」

 

フィアはもうこの時点で連合の首脳部に連絡が取れないのが分かり愕然とする。

アセイラムの体調を考えてしかるべき通信施設に急行しなかった事を悔やみながらも次の手を考えていると寝室からエデルリッゾがあくびをしながら出てきた。

 

「フィア…おはようございます…」

 

「エデルリッゾ…」

 

「はい?」

 

フィアの真剣な声色にエデルリッゾは背筋を伸ばし静かに聞く。

 

「姫様を起こして出発する…外はもう戦争だ…ここもいつ戦場になるか分からない…」

 

「でも…それからどうすれば」

 

「避難民に紛れて地球連合本部に向かおう…そこから長距離のレーザー通信で姫様のご無事を放送する…」

 

「わ、分かりました!すぐに!」

 

フィアの話を聞いたエデルリッゾは急いで部屋に戻り準備をするとフィアも部屋を漁りめぼしい物が無いかと確認すると安物のカッターナイフを見つけてポケットの中に入れる。

拳銃が無い以上最低限の武器を持っていなければもしもの時に対応できないからだ。

 

 

伊奈帆side

 

そんな外の状況に構わずにだし巻き卵を作ったフライパンを片手に板のついたエプロン姿の伊奈帆は携帯で姉である界塚ユキと話していた。

 

「え…ユキ姉の車で行くって話じゃなかったけ?」

 

『え!?まさかナオくんまだ家に居るの!?どうしてみんなと逃げなかったの!?』

 

「だって…そう言ったから…」

 

『判断は臨機応変…いざとなったら自分を信じて決断する…いつも言って聞かせてるでしょう!』

 

「ベニビア…」

 

『なに?』

 

伊奈帆は少し不満そうにボソリと呟くといつもの一定のトーンで話す。

 

「何でも無いよ…巡回中の車に拾ってもらう事にする…」

 

『気を付けてね』

 

「ユキ姉こそ…」

 

電話を切ると伊奈帆は取りあえず韻子に連絡しそして棄てたら勿体ないのでだし巻き卵をタッパーに詰めてあらかじめ用意してあった荷物を持ち家から出ようとするとフッと部屋を振り返る。

 

「一応…持っていこうか…」

 

フィアが持っていた拳銃を荷物に入れて家を出て行くと誰も居ない筈の街中に人影が移動していくのを見つけた。

ほっておけなかった伊奈帆は追いかけると川沿いの道で橋の下と言う人目のつかない所に居たので話しかける。

 

「あの…早く逃げないと…新芦原全域に避難勧告が出ている…」

 

伊奈帆はゆっくりと人影に近づくとそこには金髪と桃色の髪をした少女二人が居た…それを見た伊奈帆はさらに距離を縮めながら話しかける。

 

「ん?旅行者の人?言葉は…」

 

歩を進めた伊奈帆だが突然の背後からの殺気を感じて振り返ろうとするがそれは叶わず伊奈帆の世界はぐるりと回りいつの間にか地面を見て首筋に何かが当てられていた。

 

 

フィアside

 

取りあえずアセイラムとエデルリッゾを人目のつかない所に居させると巡回している車を探して橋の上に居た。

するとフィアは下から二人の者ではない話し声が聞こえた瞬間、迷いなく橋から身を翻しその不審者の背後に音もなく降り立つと投げ飛ばし組伏せ、持っていたカッターナイフを首筋に当てる。

 

「何者だ…貴様……」

 

うむを言わせない絶対零度の声音に怯むことなく組伏せた相手はこちらに首を回しその顔を見るとフィアの表情は驚きに変わる。

 

「界塚…伊奈帆…」

 

「フィア・エルスート…」

 

「なんだ…貴様だったが…」

 

「あの…知り合いなのですか?」

 

一気に警戒を解くフィアを見てアセイラムは話しかけるとフィアが答える。

 

「はい…暗殺者に襲われた時に助けて頂いた者です…」

 

「そうなのですか!」

 

「あの…痛い…」

 

「すまない!」

 

話に盛り上がる二人の下から伊奈帆が話しかけるとフィアは慌てて拘束を解くと伊奈帆は立ち上がり間接を回しながら話しかける。

 

「フィアもまだ逃げてなかったんだ…友達?」

 

「あ…あぁ…そう!友達だ!友達!」

 

「それと…はい」

 

伊奈帆の質問にフィアはどもりなから答えていると伊奈帆はバッグから拳銃を取り出しフィアに銃口を向けないように渡す。

 

「これは…私の…」

 

「落ちてた…」

 

「ありがとう…」

 

フィアは内心焦りながら拳銃を受けとると見えないように腰のホルスターにしまう。

フィアの拳銃はヴァース帝国軍が正式に採用しているものではないためヴァースの紋章が大きく入ってはいないが銃底に小さく有るのでそれが気づかれていないか心配でたまらなかった。

 

「もうすぐ輸送車が到着する。韻子に連絡して置いたんだ…一緒に行こう…」

 

「分かった…助かる…姫様」

 

「えぇ…」

 

「はい」

 

伊奈帆の提案にフィアは了承するとアセイラムとエデルリッゾも同意し先に歩き始めた伊奈帆に着いていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「助かったよ…まさかこんな時に車がガス欠なんて…」

 

「感謝してくださいよ先生」

 

その後、伊奈帆のお陰で輸送車にたどり着いた三人は身を寄せて居るのをオコジョ、カーム、伊奈帆が見て話していた。

 

「あの人、昨日居た北欧美人じゃないか…しかも二人増えてるし…」

 

「友達だって…」

 

「お手柄、伊奈帆君10ポイント!」

 

「ありがとう…」

 

男子三人の緊張の欠片もない話に運転席に居た韻子はグッと拳を握りしめていると輸送車が急にブレーキをかけて止まるとフィアは空いていた窓から外を見るて呟く。

 

「KG―7アレイオン…」

 

「どうしたのです?」

 

「ハッ!地球連合軍の主力カタフラクトです…どうやらここに火星騎士が来るようですね…」

 

フィアの言葉にアセイラムは悲しそうな顔をするとフィアはそれを見て慌てて声をかける。

 

「姫様のせいでは御座いません…恐らく落着地の制圧が終わり足を伸ばして来たのでしょう…」

 

「そうです!フィアの言う通りです!姫様は何も悪くありません」

 

「はい…ですが…」

 

フィアとエデルリッゾの言葉を聞いてもアセイラムは悲しそうな顔をするだけで二人はそれを見て悲しくしていると、運転席が急に騒がしくなりフィアはアセイラムをエデルリッゾに任せて何があったのか見に行くことにした。

 

「エデルリッゾ…」

 

「はい…分かりました…」

 

運転席に向かうと突然輸送車がブレーキをかけてフィアは支えるものが無くそのまま倒れそうになるが近くに居た伊奈帆に支えられる。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ…何があったんだ?」

 

「ユキ姉が残った人と敵を連れてきたみたい…」

 

「敵だと!姫様が居るのに!」

 

「ちょっと!大人ぁぁ!」

 

伊奈帆の言葉にフィアが怒っていると残った人と思われる赤髪の少女が入り込みカームもその後に続く。

それだけでも大変な状況に運転手が我を忘れて車から逃げ出し瓦礫に吹き飛ばされる始末、見てられなくなったフィアは運転席に座りシートベルトを着ける。

 

「ちょっと!貴方!」

 

「舌噛むぞ!」

 

韻子は自分が運転しようとした矢先にフィアに割り込まれ思わず怒るがフィアはそんな事など構いもせずにアクセルを思いっきり踏み発進させるのだった。

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回は伊奈帆との再開とニロケラスの登場ですね!
どうでも良いですがだし巻き卵が可哀想だったので持っていく事にしました、何処かで食べるつもりです!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第五星 大胆不敵ーfearlessnessー

 

 

「ちょっと!貴方!」

 

「舌噛むぞ!」

 

韻子が叫ぶのを気にせずにフィアはアクセル全快で輸送車を発進させた。その急加速は運転室に居た韻子やカームを椅子に座らせて黙らすには調度良かった。しかしアクセル全快で走行しているにも関わらずスピードメーターの上がりは良くなかった。

 

「車が重い!何を載せているんだ!」

 

「後ろにアレイオンが載ってんだから仕方ないだろ!」

 

大声で怒鳴り付けるフィアに大声で答えるカーム、その横にいつの間にか居た伊奈帆が冷静にフィアに話しかける。

 

「片足が重いんだ…」

 

「なるほど…敵の特徴を教えろ!」

 

「紫、ダンゴムシもしくはダルマ…装甲は何もかも吸収してそう…」

 

「ニロケラスか!奴との距離は!?」

 

「代々、17m位…」

 

「よし!」

 

フィアと伊奈帆の話に着いていけない韻子とカームがポカーンとしているとフィアが僅かに笑うと叫ぶ。

 

「何かに掴まれ!」

 

「え!?」

 

聞き返す韻子とカームをよそにフィアは思いっきりブレーキペダルを踏みつけると当然、輸送車は急速に速度を落としニロケラスとの距離が一気に縮まる。

その様子を見て二人は悲鳴を上げるがフィアはサイドミラーを伊奈帆は窓から顔をだして冷静にニロケラスを見てアレイオンの足がいい感じに無くなる直前に伊奈帆が叫びフィアはアクセルペダルを踏み軽くなった輸送車は速度を上げる。

 

「おいオコジョ!」

 

「ユキさん助けねぇと!」

 

するとオコジョがアレイオンで気絶しているユキを助けようと車の上に出るのをカームが引き止めるがオコジョはそれを無視してアレイオンに向かう。

 

「おい!トンネルは!?」

 

「え?」

 

「出来るだけ長くて複雑なトンネルを教えろ!」

 

「は、はい!ここ左折です!」

 

フィアの突然の質問に韻子は考える間もなく答えると輸送車が傾くのではないかとぐらいハンドルをきり曲がると車上に居たオコジョは当然、飛ばされるが何とか落ちずにすむ。

 

「オコジョ!」

 

「大丈夫!」

 

「上の奴をさっさと中に入れろ!構ってる余裕は無いぞ!」

 

フィアが叫んだ直後にニロケラスがビルから出現し車が大きく揺れその衝撃でオコジョが宙に飛ばされるが中から出てきた伊奈帆に手を捕まれ何とか落ちずに済む。

 

「い、伊奈帆…」

 

「………」

 

泣きそうな顔のオコジョを見て伊奈帆は手を強く握るが無情にも手はゆっくりと滑り離れて行く。

何とかしなくては…そんな思いが伊奈帆の頭を支配した時、まるで待っていましたかと言うように強い衝撃が地面と車を揺らしついに手が完全に離れてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

悲痛な叫び声が響き宙を舞ったオコジョはニロケラスのバリアーによってその欠片すらも残されずに消え失せた。

伊奈帆はそれを黙って見るしかなくただ唖然として身を固まらせると同時に輸送車はトンネルに入り込みニロケラスはその追撃をやむ無く中断したのだった。

 

「はぁ……」

 

「ありがとう…」

 

「どういたしまして…」

 

流石のフィアも疲れたように席に深く座り隣に居た韻子が礼を言い素直に受けとるのだった。

 

「もう大丈夫だ!二人とも!奴はもう追ってこない!」

 

輸送車が止まったのを確認するとカームは車上に顔を出し伊奈帆を見るとそこにはただ呆然とする伊奈帆の姿だけがありオコジョの姿は無かった。

 

「なぁ…伊奈帆…オコジョは?」

 

「……」

 

「嘘だろ…」

 

質問にも沈黙を続ける伊奈帆の姿にカームはあって欲しくなかった事実を否応なく突きつけられる、するとユキが乗っているアレイオンの無線から通信が入る。

 

『…こちら鞠戸…聞こえるか?』

 

「鞠戸教官…」

 

『界塚か!?火星人はお前を追っている。フェリー埠頭への攻撃はまだ無い…出来るだけ奴を引き付けて…でも無茶はするな!必ず生きて帰れ!』

 

途切れ途切れの通信は一方的に切られると沈黙を守っていた伊奈帆が呟く。

 

「さっきの奴…まだ僕らを追ってきてるって。でもその隙に避難民を乗せたフェリーが出発出来るかも…僕らが囮になれば」

 

「おい!何言ってんだ!」

 

伊奈帆の言葉にカームが思わず叫び輸送車から降りてきた他の人々も伊奈帆の言葉が耳に入る。

 

「共同抗を使えばここから学校まで行ける…」

 

「だから何だよ!?」

 

「格納庫に行けば練習機がある。火器演習の時の弾薬も…」

 

「おい……」

 

伊奈帆の言葉にカームは気づいたようで静かになる。

 

「戦おう、ユキ姉達の代わりに。今度は僕らが…あの火星カタフラクトと…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「姫様…」

 

「ありがとうございます…」

 

伊奈帆の提案以外に他に為す術もなく学校にたどり着いたフィアは椅子にアセイラムを座らせると支給された食料を渡す。

 

「全く…あの界塚と言う地球人はよく分からない人物ですね」

 

「まぁな…だが私個人としては…考えも無しで言っていた言葉ではないと思うんだがな…」

 

「あの方の目はとても深くて分かりません…でも信用に値する人物だと思いますよ」

 

「フィア、姫様まで…」

 

二人の言葉に深いため息をつくエデルリッゾ、それを見て少し笑うフィアとアセイラムを見てエデルリッゾがさらに機嫌を悪くしたのは言うまでもない。

するとフィアは後ろから声をかけられ振り返るとそこにはスマホを持った伊奈帆が立っていた。

 

「フィア…ちょっと良いかな?」

 

「え、えっと…」

 

「良いですよ…行って下さい」

 

「あ…はい…すまない。エデルリッゾ」

 

「そう思うなら早く帰って来て下さい!」

 

伊奈帆の言葉に若干フィアは伊奈帆とアセイラムを見て考えるが彼女の言葉でアセイラムをエデルリッゾに任せることにし、その場から立ち去ると伊奈帆に案内されたのは会議室のような部屋だった。

 

「こんな所でごめん…誰にも聞かれたく無かったんだ…」

 

「それで?用件は?」

 

「じゃあ単刀直入に…フィアって火星騎士だよね?」

 

「…何の事だ」

 

伊奈帆の単刀直入過ぎる言葉にフィアは若干眉を動かすが冷静に聞き返す。

 

「まず一つはあのダンゴムシの名前と能力を知っていた事。輸送車でニロケラスって名前を叫んでいたし機体を見なくても突差に足を消滅させる事を思いついた…」

 

「……」

 

「それと決定的なのは…フィアが持っている拳銃だ。小さくだけど火星の紋章が描かれていた…」

 

伊奈帆の言葉を聞いていたフィアは焦り始める。このままではアセイラムの正体がばれて今度こそ本当に地球人に殺されるかもしれない…そう思うとフィアは最悪の手段を選ぼうとした時。

 

「僕は火星人を恨んだりはしない…」

 

「え?」

 

伊奈帆の突然の言葉にフィアは思わず考えていた事を忘れてしまう。

 

「私はお前の友達を殺したんだぞ…」

 

「君が殺したんじゃない…やっぱり火星人だったんだね…」

 

伊奈帆の言葉に思わずフィアは口を押さえるが既に遅く伊奈帆はその無表情な顔をフィアに向け続けて話を続ける。

 

「あのカタフラクトについて纏めておいたんだ…意見を聞かせて欲しいんだけど…」

 

「私に同胞を売れと…」

 

「フィアはあの人を護れればそれで良い筈だ。奴の排除は不安材料の払拭になると思う…だから僕とフィアの利害は一致している」

 

フィアは伊奈帆に全て言い当てられて目を細める。そしてアセイラムの事をあの人と呼ぶあたり正体に気づいているのか気づいてないのか分からない…フィアは少し考えると静かに答える。

 

「…分かった。だが条件がある、私もその作戦に参加させろ…伊奈帆、お前に興味がある…」

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はニロケラス戦の前まででこざいます!
原作と違って伊奈帆はアセイラムの正体に若干ですが気づいています…なのでフィアにお願いをするという危険な行動を取った訳ですね。
最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第六星 騎士の初陣ーMushroom-gatheringー

今回は長くなってしまいました。


 

 

「えぇ!」

 

「声が大きい!」

 

大声で叫ぶエデルリッゾをフィアは黙らせると部屋で座っているアセイラムがちゃんと座っているのを確認すると話の続きを話す。

 

「どういう事です、フィア!ニロケラスを撃退する地球人の手伝いをするなんて!貴方はヴァースを裏切るつもりですか!?」

 

「言っておくが私はヴァースに忠誠を誓った覚えはない…私は姫様に忠誠を誓ったのだ…」

 

「ですが!」

 

「姫様を連合本部にお連れするまで不安材料は少ない方が良い…それに誰が首謀者か分からない状況で私が取れる行動はこれぐらいしかない…」

 

その言葉にエデルリッゾは黙り込む。フィアが言っている事は正しい…しかし彼女が一番心配しているのは同族を殺すフィアの事だった。

 

「貴方は大丈夫なのですか?」

 

「私は姫様の騎士だぞ…簡単にはやられないさ」

 

「そうではなく!」

 

「フィアさ~ん!」

 

エデルリッゾの言葉を遮るように廊下にカームの声が響き渡りフィアはそれに応じるように手を上げ後に付いて行こうとするのをエデルリッゾが引き止める。

 

「フィア!」

 

「姫様を頼む…あの方には戦場は似合わない…血を被るのは私だけで十分だ…」

 

「フィア…」

 

黙って去っていくフィアの後ろ姿をエデルリッゾは黙って見つめ続けるしか出来なかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあ…予備のカットを含めて四機で作戦を行おう…」

 

「なぁ伊奈帆…カットで出るのはフィアさん含めて四人でいいけど囮のトレーラーを含めて後二人は欲しいだろう」

 

「私に…やらせて下さい」

 

カームの言葉は最もでこの作戦を行うためには明らかに人数が不足していた…するとカタフラクトを乗せたトレーラーの影から出てきたのはアセイラムだった。

 

「姫様!いけません!」

 

「これは私のせいで起こった出来事です!なら私には見届ける義務があります!」

 

「だとしてもです!もし姫様の身に何かが起これば!それこそ取り返しが付かないことになります!」

 

フィアは何としても止めようとするが覚悟を決めているのかアセイラムは一歩も引かずに真っ向からぶつかる…すると突然アセイラムはフッと微笑みフィアに語りかける。

 

「大丈夫です。フィアに言われた通りに私も私の心に従う事を決めました。それに…もしもの時はフィアが守ってくれるでしょう?」

 

「あぁ…」

 

フィアはアセイラムの言葉に思わず声を失い頭を抱える。先程のアセイラムの言葉は完全に殺し文句だ…ここまでの信頼を見せつけられてしまったらフィアはそれに応えなければならない。

 

「はぁ…分かりました…ですが無茶だけはしないように…」

 

「ありがとう…フィア…」

 

「いえ…御守りしましょう…それが我が務め…」

 

二人の意見が纏まったのを見届けると伊奈帆が話を切り出す。

 

「あと一人だね…この際だからフィアにトレー「私にもやらせて」…」

 

伊奈帆の声を遮るように同じくトレーラーの影から出てきたのはユキに助けられて輸送車に逃げ込んだ赤髪の少女だった。

 

「あいつは父を殺した…私にも協力させて」

 

「こっちも命がけだぜ…」

 

「分かってる…任せて」

 

「決行は明朝、日の出と供に出発しよう。あの火星カタフラクトを撃退する…」

 

伊奈帆の言葉で全員が頷くのだった。

 

「ごめんなさい…フィア…」

 

「もういい…起きてしまった事だ…」

 

少し疲れたような様に居たフィアを見てエデルリッゾは謝るがそれを気にした様子はなくただフィアは自身の主の覚悟に降参するしかなかった自分を怒っていたのだった。

 

ーーーー

 

「明日…死んじゃうかもしれないのに…」

 

アセイラムが眠りに入ったことを確認してフィアは明日使うスレイプニールの調整をするために格納庫に入ると韻子の声が聞こえて思わず身を隠す。

 

「ごめん…」

 

「別にさ…怖いもの知らずって訳じゃないよ。助けられると思ったんだ、でもあんなにあっさり…あんなに簡単に…きっとその時が来ても覚悟する暇なんて無いんだろう。その瞬間にどんな後悔をするのか…そう思いながらただジッと待ってるだけなんて…耐えられない。僕も、たぶんカームも……もし韻子が嫌なら…」

 

「ううん…大丈夫…明日に備えてもう寝る…伊奈帆…風邪ひかないでね」

 

「韻子も…」

 

二人の会話を黙って聞いていたフィアは手を強く握りしめる、韻子も伊奈帆も本当なら世界の事なんて考えずにただ普通に暮らして行くはずだった人達。

フィアは悲劇を止められる位置に居ながらも何も出来なかった自分の無力さを改めて実感していると…。

 

「フィア?」

 

「な!なんだ!?」

 

突然すぐそこに伊奈帆が現れフィアは思わず大声を出して顔をそらす。若干泣きそうになっていたフィアはそのプライドから顔を見せるのを見られたくなかったのだ。

 

「泣いて…「ない!」…そう」

 

余りにもデリカシーの無い伊奈帆の言葉にフィアは怒鳴り返すと伊奈帆は黙り込みフィアは話題を変える。

 

「しかしこんなに遅くまでいるとはな…」

 

「スレイプニールの調整をしてたから…フィアも調整を?」

 

「まぁな…初めて使う機体だからな」

 

「良いの?」

 

「何がだ?」

 

「僕達は良い…でもフィアは仲間と戦うことになる…」

 

伊奈帆の心配にフィアは少し笑いながら答える。

 

「ありがとう、だが大丈夫だ。抵抗は無い事は無い、むしろ少し迷っている自分がいる…だが私は姫様の幸せの為なら」

 

「……」

 

胸に手を当てながら静かに話すフィアの姿を見て伊奈帆はその無表情の顔に若干の悲しさを見せるのだった。

 

キュルル

 

「!?」

 

「?」

 

するとその空気を壊すように鳴った腹の虫に伊奈帆は首をかしげてフィアは顔を真っ赤にする。実はフィアは支給された食事を自分の分も全てアセイラムに渡してしまった為、事件が起きた昨日から何も食べていないのだ。

 

「食べる?」

 

「クッ…騎士は食わねど高楊枝…」

 

「それ…武士だから…」

 

「………」

 

伊奈帆の言葉にフィアは顔を真っ赤にして落ち込むとそれを気にせず伊奈帆はタッパーに入っただし巻き卵を出して差し出す。

 

「なんだ?これは?」

 

「だし巻き卵…知らない?」

 

「黄色い塊がたまごと言う物か…」

 

今まで基本オキアミやクロレラを食べていたフィアにとって未知の物体であるだし巻き卵。

それを訝しげに見つめるフィアを見て伊奈帆はだし巻き卵を目の前に突き出して食べるように目で言うとフィアはそれを恐る恐る食べる。

 

「…美味しいな……」

 

「そう…全部食べる?」

 

「…すまない」

 

その後、フィアは無言だが本当に美味しそうに食べきったのを見た伊奈帆も満足そうにしていたのだった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

フィアside

 

明朝、晴れ渡る空に赤い信号弾が三発界塚ユキの手で打ち上げられフィア達は作戦を開始する。

 

「姫様…無理しないでくださいよ…」

 

「見つけた!十時の方向」

 

スレイプニールでカームと韻子の後ろに続くフィアはトレーラーを見ながら呟くとニロケラスが現れる。

 

『作戦開始…』

 

「了解…」

 

無線から聞こえる伊奈帆の合図と同時にフィアは煙幕弾を空に打ち上げるとニロケラスは動きを止める。

 

「奴の動きが止まった!」

 

「伊奈帆の言った通り!」

 

「全く恐ろしい奴だな…伊奈帆は…」

 

韻子とカームの歓喜の声を聞きながらフィアも苦笑する…一度見ただけでこれだけの事が読める伊奈帆を心の中で素直に褒めるのだった。

 

「アイツ、メチャクチャ!」

 

「援護してくれ!あのコウモリ…アイツの気流で煙幕が乱れる!落とさねえと!」

 

上空にスカイキャリアが飛来すると同時にニロケラスはなりふり構わず前進を始めカームがスカイキャリアを落とそうと攻撃を開始する…するもスカイキャリアは旋回し機銃をむけてカームのスレイプニールに攻撃をする。

 

「チィ!」

 

砲弾がカームのスレイプニールに直撃する直前にフィアはマシンガンをセミオートに切り替えて構えると機銃をピンポイントで狙撃する。

 

「よし…」

 

「このぉ!」

 

機銃を失ったスカイキャリアを韻子は見逃さずに素早く左翼にクレネードを当てるとスカイキャリアは離脱していく。

 

「ありがとう…助かった」

 

「気にするな…煙幕を張りつつ指定ポイントへ」

 

「「了解!」」

 

カームの礼にフィアは返すと冷静に指示を出し二人はそれに沿って行動を開始する。

 

『大丈夫?』

 

「気にするな…問題無い」

 

『分かった…じゃあ合流ポイントで』

 

「分かった」

 

フィアは伊奈帆との通信を終えると足の飛行ユニットを展開し急いで合流ポイントに向かう。

 

「あの赤髪…姫様が居るのに無茶を…」

 

合流ポイントである橋の上で時間稼ぎのために挑発するトレーラーを見てフィアは焦る…すると案の定トレーラーは後輪を消滅させられ走行不能に陥る。

 

「姫様!韻子!狙撃は頼む!」

 

『え!?どこ行くのフィア!』

 

いきなりニロケラスに突っ込むフィアを見て韻子は止めるがフィアは止まるどころか更に加速して橋に辿りつくとアセイラムが外に出てニロケラスと対峙していた。

 

『見苦しいな今になって命乞いとは…』

 

「控えなさい…目に余る狼藉。許しません…ヴァース第一皇女の名において…」

 

『あぁ!?アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下!』

 

アセイラムがそう呟くとホログラムを解除し元の姿になるのを見てフィアは思わず頭を抱えたくなるがそんな暇は無くアセイラムのすぐ後ろにスレイプニールを立たせるとコックピットを開き自らの姿も見せる。

 

「控えろ!姫殿下の御前である!その態度無礼であろう!」

 

『え!エルスート卿まで!?』

 

ニロケラスパイロットであるトリルランは狼狽し二人を見ながらニロケラスを後退させる。

すると市民の回収に来た揚陸艦からミサイルが発射されニロケラスに直撃するが次元バリアによって掻き消される。

 

「今だ!」

 

『は!はい!ファイヤーコントロール!ファイヤー!』

 

韻子の放った砲弾はニロケラスに直撃するがこれも意味をなさずに消える。

 

「誤差修正!016、012!撃ちまくれ!」

 

『了解!ファイヤー!』

 

フィアの言葉通りに誤差を修正した韻子の砲弾は見事に橋に直撃する。

 

「姫様!お下がりください!」

 

それを確認するとフィアは機体に乗り込みアセイラムをスレイプニールの後ろに下がらせると橋にマシンガンの弾をありっけぶち込む。ボロボロになった橋はニロケラスの巨体を支えきれずに海に落ちる。

 

「カーム!確認急げ!」

 

『分かってるよ!』

 

海面から何とか脱出しようと藻掻くニロケラスの周りは海水が吸い込まれる様に消滅していくのをカームはラジコンの偵察機で観察しバリアの隙間を確認する。

 

伊奈帆side

 

「カーム…」

 

『えっと…足の裏?』

 

「他は?」

 

『えっと…見つけた!水が吸い込まれない!背面装甲!インテーク右下!爪の隙間!』

 

「フィア!」

 

『分かってる!』

 

弱点の位置を確認し伊奈帆が突っ込むと同時にフィアが煙幕弾を空に打ち上げ視界を奪う。完全に身動きが取れなくなったニロケラスの次元バリアの隙間にナイフを突き立てる。

 

『クッ…馬鹿な…』

 

「お前のバリアに隙間があるのは分かっていた。例えば接地面、足の裏にはバリアは張れない。そんな事をすればお前は立つことさえ出来なくなる…お前のバリアはその無敵さ故に全身を覆いきる事が出来ないんだ。外部カメラのデータ受信部、バリアの隙間の一つさ…」

 

外部マイクから漏れ出る敵の声に伊奈帆はバリアの隙間にあるナイフを横に動かし傷口を広げるとマシンガンの銃口を差し込み静かに…だが明らかな殺意を持って呟く。

 

「友達の分だ…」

 

マシンガンの引き金を迷い無く引き銃弾が吐き出されるたびにニロケラスは大きく振動するとその機能を停止し全員が安堵の表情を浮かべる中、伊奈帆は橋の上に立つ金髪の少女を見て呟く。

 

「やっぱり…火星のプリンセス…」

 

「ハァ…」

 

その時、フィアも脱力しながら今後のことを考えるのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
随分遅くなりました!色々と忙しくて投稿が遅れました。
とりあえずこれで三話が終了で次は四話ですね!
最後まで読んで頂きありがとうございました!




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第七星 疑惑の騎士ーmistrust of Knightー

 

 

救助に来た揚陸艦と合流したフィアはスレイプニールを甲板に座らせ機体から降りるとカームがやってきて頭を下げる。

 

「いや~助かったよ、ありがとうなフィアさん」

 

「いや…当然の事をしただけだ。それとフィアでいい」

 

「そうか!じゃフィアありがとな!」

 

「あぁ…」

 

礼を言って去って行ったカームを見送るとフィアは伊奈帆のスレイプニールから降ろされたアセイラムの元に駆けつける。

 

「姫様!」

 

「フィア!」

 

「何故あの様な無茶をなさるのです!私の寿命が何十年縮まったと思っているのです!」

 

「ごめんなさい…」

 

「全く…」

 

シュンとして反省するアセイラムを見て思わず許しそうになるが今回フィアはもう二度としないように心を鬼にして説教を続けようとする。

すると突然の衝撃が襲いかかり倒れそうになるアセイラムをフィアは倒れないように抱きしめる。

 

「姫様!ご無事で!」

 

「あ、はい何とか…フィアこれは…」

 

「隕石爆撃ですね…」

 

「火星人め!」

 

隕石によって街が丸ごと消し飛び燃え盛るのを見てカームが憎々しげに叫ぶとアセイラムは抱きしめていたフィアの腕を強く握りしめフィアもそれを感じて悲しい顔をする。

 

「大好物です…」

 

そんな二人を見て近くの眼鏡をかけた男子、祐太郎がそう呟いたのは言うまでも無いだろう。

 

ーーーー

 

恐ろしい光景を見た後、艦内に入るとエデルリッゾが二人に嬉しそうに駆け寄る。

 

「フィア!姫様!お二人ともご無事で!」

 

「ありがとうエデルリッゾ…こちらの様子は?」

 

「はい!変わりありません!」

 

「そう…良かった…」

 

エデルリッゾの言葉に笑顔を見せるアセイラムだがその笑顔には若干の悲しさが含まれておりフィアとエデルリッゾはあえて触れないでいた。

 

「だが…色々と事情があってな…少し時間が掛かりそうだ…」

 

フィアは疲れたように言うと赤髪の少女を見やりしばらく目が合うが艦の突然の揺れにまたよろめいてしまう。

 

「もう!操舵手は何やってんの…」

 

その揺れでユキは伊奈帆と思いっきりおでことおでこをぶつけて痛がりながら怒っているとアセイラムと目が合い黙る。

 

「あの…」

 

「あぁ…」

 

「先程は…どうも界塚伊奈帆さん…私は…セラムとお呼びください」

 

「うん…そうします…セラムさん」

 

見せかけの自己紹介を終えたのを見たフィアは伊奈帆に話しかける。

 

「我々はまだ不慣れなのでな…出来れば船を案内して貰えるとありがたい…君も…来てくれるな?」

 

フィアは後ろにいた赤髪の少女に言うと少女は黙って頷きフィアは目線で伊奈帆に人目のない場所を頼む。

 

「分かりました…案内します」

 

「ありがたい…」

 

ーーーー

 

そして伊奈帆に案内されてのは誰も居ない油圧室でエデルリッゾが止めるの退けてアセイラムのホログラムを解除して姿を現す。

 

「改めて初めまして。私はアセイラム・ヴァース・アリューシア、ヴァース皇帝の孫娘です」

 

「フィアの言動で何となく分かってたけど…まさか本当だったなんて…でも僕は暗殺の一部始終を見ていた…」

 

伊奈帆の質問にエデルリッゾが答える。

 

「あれは影武者です。姫様はあの日、慣れない重力でお身体の調子を崩されたのです。それを理由に懐疑派の護衛隊長が無理やり影武者を」

 

「なる程…それで?これからどうするの?」

 

「ひとまず姫様には旅行先に巻き込まれた一般人としてこのままロシアの地球連合本部に向かう。そこで月基地へ長距離レーザー通信を行い無事を知らせる予定だ。最もこの船が最後まで無事という条件は付くがな…」

 

伊奈帆はフィアの言葉に納得したのか頷くと更に質問をする。

 

「でもわざわざ隠さずに今ユキ姉たちに事情を話せば…」

 

「いけません!地球人の中にヴァースのスパイが紛れ込んでいます!恐らく暗殺者の仲間です!姫様はそのスパイに命を狙われたのです!」

 

伊奈帆の言葉にエデルリッゾが全力で反対すると後ろで話を聞いていた赤髪の少女が若干表情を変えるがフィアを含めて誰も気づいていなかった。

 

「出来ればこの件は内密に頼む…」

 

「分かった…」

 

「…うん」

 

フィアは二人の同意を得ると取りあえず安心するのだった。

 

ーーーー

 

「突然押しかけて月を壊して、ヘブンズフォールで地球をメチャクチャにして!岩石帯からずっと俺たちを見下ろして、仇は討つ!オコジョや他に殺された奴らの…火星の奴らめ…」

 

艦内で静かに待機していたフィア達の耳を襲ったのはある意味当然の罵倒と恨みだった。

しかしそのきっかけになってしまったアセイラムやフィアにとってはとても重く、とても辛い現実だった。そんな様子を見ながら階段で伊奈帆と赤髪の少女が静かに話していた。

 

「さっきの話…どうするの?本当に黙ってるつもり?」

 

「いつ敵が来るかもしれない極限状態で人間が理性的に居られるとは限らない。もし火星人だと分かったら…あの人達がどうなるか分からない…」

 

「優しいのね…敵の心配をするの?」

 

「それだけじゃないよ、フィアはアセイラム姫に忠誠を誓っている。もしその姫が危険な状況に陥れば……この艦の全員を皆殺しにするのも躊躇わない」

 

伊奈帆の言葉を聞いた少女は戦慄した。確かにあれ程アセイラム姫に入れ込んでいるフィアならやりかねないからだ…黙る少女をよそ目に伊奈帆は話を続ける。

 

「それに敵はあの人達じゃなくてそれを殺そうとしている奴らだよ。これが本当ならフィアの言う通りセラムさんを無事に送り届ける必要がある…君は?」

 

「ライエ、ライエ・アリアーシュ…」

 

「ライエさん…君は?」

 

「保障はしないわ…危ないと思ったら全部話す…火星人は皆敵よ…」

 

そう言ってパーカーのフードをかぶり去って行くライエを見届けた伊奈帆はそのまま黙ってフィア達を見続けるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「マリーン・クウェル…只今、月面基地から参上致しました」

 

「月面基地での働き…大義であるクウェル卿…しかしトリルランがネズミを一匹逃したようだ…」

 

マリーンはザーツバルムの話を聞くと少しばかり顔をしかめる。

 

「トリルラン卿がですか…ネズミもネズミで頭が回るようで…私が出ましょうか?」

 

「いや、その必要は無い。先程その一帯に隕石爆撃を仕掛けた…流石のネズミも逃れられまい…」

 

「なら大丈夫でしょう。私が一番心配なのは…フィアがまだ生きていないか…ですね」

 

マリーンの言葉にザーツバルムが不審な顔をする、マリーンは現実主義者で普段は自身の感やフッと思ったことは口にしない…その彼女がその様な事を口にするのは珍しいのだ。

 

「マリーン…どういう事だ?」

 

「いえ…私の経験上フィアがあの暗殺で本当に死んだとは思えないのです」

 

「貴様がその様な事を言うとはな…何か不安要素があるのか?」

 

「いえ、シナンジュのアルドノアは機付き長の証言では停止している様ですし。いえ…気になさらずに…」

 

マリーンはそう言うと揚陸城の司令室から去ると地球を見られるテラスで黙って地球を見下ろす。

 

(フィア・エルスート…貴様がテロを簡単に見逃すとは思えない…)

 

ただ止められなかっただけなのか…それとも”止める必要が無かった”のかマリーンは静かに地球を睨み付けるのだった。

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はアルギュレの登場前までです!
少し補足でマリーンとフィアはお互いを認め合っていた関係で数少ない友達のようなものです。
最後まで読んで頂きありがとうございます!


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第八星 騎士対騎士ーKnight vs Knightー

 

揚陸艦は強襲揚陸艦『わだつみ』の合流ポイントである港にたどり着き取りあえず一息をつける状態なった。

 

「姫様…外の空気でも吸いましょうか?」

 

「そうですね!ゆっくり見られなかったので海も見てみたいです!」

 

「あ…今は日も落ちているので難しいかと…」

 

「そうですか…それは残念ですね…」

 

エデルリッゾの提案にアセイラムは喜ぶが海が見られないと分かると少し残念そうにするのを見てフィアは自身の失言に後悔する。

 

「もう!フィアは!姫様行きましょう、夢の欠片もない脳筋はほっておいて」

 

「え、えぇ…」

 

「そんな…エデルリッゾぉぉ、姫様ぁぁ」

 

置いて行かれたフィアは若干涙目になりながら二人に訴えるが容赦なく置いて行かれたのだった。

 

「あぁ…ただ事実を述べただけなのに…」

 

「フィア!」

 

エデルリッゾとアセイラムを遠目で眺めながら落ち込んでいると後ろから韻子がフィアに話しかけ振り向く。

 

「ちょっと港に残っている物を揚陸艦に搬入するから手伝ってくれない?」

 

「分かった…だが余り遠くまで行けないからな…」

 

「良いよ!そこの物を分別するだけだから」

 

韻子が指差した先には山盛りの段ボール箱がありそれに埋まるように分別している伊奈帆の姿があった。

 

「ね?」

 

「大変そうだな…」

 

韻子が手を合わせてお願いするとフィアは渋々段ボールの山に向かうのだった。

 

ーーーー

 

「なんで食料の中に銃弾が…」

 

(この弾…私のと同じだな…)

 

「程々にね」

 

フィアは少々居る物を拝借していると後ろから伊奈帆が現れ思わず叫びそうになった。

 

「いきなり出てくるな!」

 

「だって…」

 

「取りに来たよ!あ!貴方がフィアちゃん?」

 

フィアが少し怒っているとツインテールの少女が段ボールを貰いに現れフィアを見つけるなり喜びを露わにする。呼ばれたフィアは驚き彼女の言葉に唖然とした。

 

「ちゃん…だと?」

 

「韻子から聞いてるよ~凄いんだってね!私はニーナ、ニーナ・クラインよろしくね~」

 

「あ、あぁ…」

 

自己紹介を終えて段ボールを持って去っていくニーナを見ていたフィアは少し変な顔になっていた。

フィアは今までちゃん等という可愛い呼び方はされなかった、それに対する戸惑いがそのまま顔に出てしまっていたのだ。

 

「プッ…」

 

「貴様!何が可笑しい!」

 

クールなフィアからは想像できないトンチンカンな顔だったのでそばに居た伊奈帆が無表情なのだが明らかに笑った。その反応にフィアは怒鳴るがすぐに落ち着き、少し笑う。

 

「なんだ…お前も笑えるんだな…」

 

「?」

 

意味が分からないと言わんばかりの伊奈帆の視線にフィアは作業をしながら話す。

 

「失礼なのは百も承知だがな…お前には感情と言う概念が無いのでは無いかと本当に思っていたんだ」

 

「なんで?」

 

「え?それはな…友達の仇である私を恨んで無いと言った時とニロケラスの解析が細かすぎた所かな」

 

「……」

 

伊奈帆はフィアの説明を聞いても全く意味が分からなかった。

それはある意味、伊奈帆にとっては当然の事で何も思い当たる節がないのだ。その様子を見たフィアはため息をつくと話を続ける。

 

「お前の感情が見えないんだ…喜怒哀楽全てがな…だから最初は少しお前が恐かった…」

 

「……」

 

そう言ってフィアは伊奈帆を見るが肝心の彼は相変わらずの無表情で何を思っているのか分からない。

 

「だが韻子と話していた時、ニロケラスに止めを刺した時、さっきのを見てやっぱりお前も人なのだなと。フッ…やっぱり気にしないでくれ。私が言いたかったのは私は何があっても泣かない奴は信用しない…だがお前は信用に足る人物だ…姫様を頼む」

 

真剣な声に伊奈帆は静かに頷きフィアは満足そうにしていると突然港に鳴り響いたのは銃声。ただの銃声ではないアレイオン等の地球のカタフラクトが標準装備している75ミリマシンガンの大気を振るわす銃声だ。

 

「敵襲だと!?姫様!」

 

「皆さん!早く中へ!」

 

ユキの声に全員が乗ってきた揚陸艦に急いで戻る中、フィアは人ごみの中からアセイラムを見つけて駆け寄る。

 

「フィア!またなのですか?」

 

「はい…分かりませんが我が方のカタフラクトかと…。取りあえず中へ!エデルリッゾ、姫様を頼む」

 

「フィアは…きゃ!」

 

フィアの行動に疑問を持ったエデルリッゾは聞き返すが遠くから大きな爆発が起こり夜空を明るく照らす。

 

「カタフラクトがやられている!早く中に!」

 

「フィア!」

 

心配するアセイラムを無理やり艦内に入れるとフィアは決意したようにスレイプニールを見つめ向かう。

すると彼女の行動を戒めるように手を掴んだのは伊奈帆だった。

 

「何をするの?」

 

「正規部隊はアテにならん!私が時間稼ぎを…グッ!」

 

フィアが叫んでいると停泊していた揚陸艦の艦橋にビームサーベルが突き刺さり爆発する。

 

「もうここまで侵入を許したのか!?もう出るぞ!」

 

「フィア!」

 

フィアは伊奈帆を振り解きスレイプニールに乗り込むと艦の中から韻子とカームも出てくる。

 

「おい!伊奈帆!どうしたんだ?」

 

「カーム!あれ!」

 

韻子が指を指した先にはスレイプニールが起動し揚陸艦から降りている姿だった。

 

「まさか!フィアかよ!助けねぇと!」

 

「そうだね…時間も稼がなきゃならないし。韻子はあっちを頼む」

 

「…あっち?」

 

伊奈帆とカームがスレイプニールに向かうのを追いかけようとした韻子は言われた場所を見ると少し困ったように同じ言葉を呟くのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

「アルギュレか…」

 

ほんの少し、ほんの少しだが手が震える。フィアはそんな震えを感じ、二度目だと言うのにまだ味方の筈のカタフラクトに銃を向けるのに対し躊躇っている自分を感じ少し笑った。

 

「姫様の為ならば!」

 

フィアは戸惑いを振り払うかのようにそう叫ぶとマシンガンの引き金を引く。アルギュレに飛来する銃弾は奴の得物であるビームサーベルを使い切り払らわれ銃弾は空中で爆発した。

 

「火薬が爆発しているのか!なら!」

 

フィアは素早く弾倉をHE弾からAP弾に切り替えて射撃を再開する。銃弾はビームサーベルを突破し本体に当たるがアルギュレはサーベルを持ち直すとまたはじかれる。

 

「今度は何だ!?」

 

『ライデンフロスト現象だ…弾頭が蒸発して弾道がはじかれているんだよ…』

 

「伊奈帆!?」

 

『僕とカームが相手の注意を引きつけるからこのポイントに誘導して…』

 

伊奈帆の言葉と供にコックピットの画面に港の図が表示され一カ所が赤く光っていた。

 

「分かった……ッ!?」

 

地図を確かめた直後、アルギュレが挟み撃ちを嫌ったのか急接近しビームサーベルを振るう。

それに対しフィアはマシンガンを犠牲にしながらも避け飛行ユニットで加速するとアルギュレに体当たりを仕掛ける。

それと同時に伊奈帆の放ったグレネードが足元で爆発しバランスを崩したアルギュレは大きく後退するのだった。

 

伊奈帆side 

 

『貰い受ける!』

 

「カーム…」

 

「おうよ!」

 

グレネードの爆煙を利用してナイフを持ちながら迫るフィアを見てその援護のためにAP弾のマシンガンを打ち続ける…しかしアルギュレはフィアに目標を定めたのが被弾承知でビームサーベルをフィアに振るった。

 

『フィア!』 

 

カームの焦った声が聞こえるがその心配は無くフィアはビームサーベルのビームが当たらない。

振るわれた相手の二の腕を掴んで止め、持っていたナイフをその関節に差し込む。だがアルギュレはパワーで押し込みこちらを両断しようとする。

 

(流石だ…ナイフを抜いていたのは最初からそうするため…)

 

「韻子…今だよ…」

 

『はい!はい!』

 

関節に何かしら異常が起これば生身だろうが機械だろうが格段にパワーが落ちる。伊奈帆はフィアの機転の良さに驚きながらも韻子に合図を送るのだった。

 

フィアside

 

『OK…完璧だよ…フィア』

 

伊奈帆の言葉と供に突如飛来した大型のコンテナがアルギュレの頭部に直撃しその半分を粉砕する。

 

「ふぅ…」

 

ギリギリの所を切り抜けたフィアは思わず息を漏らすと海から砲弾が飛来しアルギュレの近くを穿つ。

 

「援軍!?」

 

フィアが驚いて海を見るとそこには大きな母艦の姿があった。

そこからアルギュレに向かって大量の銃弾と砲弾が襲いかかり更に陸からは伊奈帆とカームの射撃も加わる。

流石に捌ききれなくなったアルギュレは撤退を始めるのだった。

 

「何とかなったな…」

 

『流石フィアだぜ!地図だけで作戦を読んじまうなんてな!』

 

「伊奈帆のお陰だ…あのグレネードのタイミングは完璧だったよ」

 

『フィアの体当たりには少し驚いたけどね…無茶は駄目だよ…』

 

「お前に言われたくない」

 

『それ言えてる』

 

『韻子まで…』

 

危機を何とか乗り越えた四人はしばらくの間笑い合うのだった。

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
アルギュレの得物はビームサーベルにしました、アニメでプラズマって表現があったのでプラズマサーベルかと思ったんですが一瞬で砲弾レベルの大きさの銃弾を溶かしてますから多分ビームサーベルかと…
あとフィアが伊奈帆に言った言葉ですが…感情を出さない奴ほど信用できないけど伊奈帆は信用できるって事ですね。
説明が長くなりましたが最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第九星 許されない罪ーguilt‐ridden peopleー

 

ザーツバルム伯爵の揚陸城の一室。

部屋の電気も点けずに暗闇の中、ただ椅子に疲れたようにもたれ、沈黙を守り続ける少女、マリーンがいた。

 

『マリーン…居るのだろうマリーン…』

 

「ザーツバルム卿…どうされてのです?」

 

机に置いてあった端末から空中ディスプレイが起動しザーツバルムの顔を映し出すとマリーンは起き上がりそれに答える。

 

『トリルランが戦死したらしい…』

 

「トリルラン卿がですか!?…あのニロケラスがやられるとは…」

 

『クルーテオ伯爵が申すには私の行った隕石爆撃が原因だと聞いたが…』

 

「次元バリアを装備したニロケラスがですか…」

 

『貴様はどう思う?』

 

マリーンの言葉にザーツバルムは考え込むと問いかける。

 

「クルーテオ伯爵は義理堅い男です。食客を無下にするとは思えません、その最後を見届けた者…まずそれから調べるのが得策かと」

 

『なる程。マリーン、貴様はやはり優秀だな…すぐに私と同じ答えを導くとは』

 

「試しておられたのですか?それは命拾いをしました」

 

『すまなかったな休息中に…ゆっくり休め』

 

「ハッ!」

 

ディスプレイが切れると部屋は再び暗闇に包まれるがマリーンは先程と打って変わって歓喜しているようだった。

 

「フフッ…ハハハハハハ!」

 

アセイラム姫の暗殺が実行された地で派遣された者が謎の戦死を遂げた…マリーンはこれを偶然とは思えなかった。

 

「フィア。暗殺者はここに居るぞ…早く来い…」

 

マリーンは狂気を孕んだ笑顔で笑い続けるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

その頃、地球では

 

「全く…無茶は駄目ですよ…」

 

「すいません…」

 

強襲揚陸艦『わだつみ』の医務室で医師である耶賀頼蒼真の手当てをフィアが受けていた。

港における戦いの際、アルギュレに体当たりした時に強く腕を打ち、右腕が大きく腫れていた。

 

「これで終わりです。あまりここに厄介にならないように…」

 

「善処します」

 

フィアは耶賀頼の説教を上着を着ながら聞いているとすぐ外の廊下から声が聞こえてきた。

 

「名誉の為に死ぬのも悪くない。惨めに生き残るのも辛いけどな…」

 

「鞠戸大尉…ちょっといいですか?」

 

フィアが医務室と扉を開けるのと同時に耶賀頼が伊奈帆と韻子に話しかけていた鞠戸に話しかけ、二人はフィアに気づく。

 

「あ!フィア…大丈夫?」

 

「あぁ…少々腫れただけだ」

 

韻子の質問に対しフィアは無事なのを見せるために右腕を大きく回す。

少しだけ韻子と話してその場から去ろうとしたフィアは退出した医務室から鞠戸の声が聞こえてきた。

 

「犯した罪は魂にこびりついていつまでも付きまとう。まして裁かれない罪は死ぬまで許される事は無い…」

 

独り言の様に呟かれた…実際は独り言なのだろう。だがその言葉にフィアは自分自身の事を言われている様に思えた。

 

「っ…」

 

堪えるように手を強く握りしめるフィアの肩に手が乗る。

驚いた彼女が後ろを見ると顔をゆっくりと横に振る伊奈帆の姿があった。

 

「伊奈帆…」

 

「腕…怪我してるから…あまり力を入れない方がいい…」

 

「あぁ…」

 

悲しい感情を必死に隠そうとしている彼女の姿を見た伊奈帆。

その姿はとても儚くすぐに崩れ落ちそうな物の様に感じたのだった。

 

ーーーー

 

「姫様…」

 

「フィア!無事なのですか?怪我をしたと…」

 

「心配には及びません…唾をつければ治る程度です」

 

心配そうにするアセイラムを見てフィアは微笑みながら答えそれを見て横にいたエデルリッゾも安心したようにため息をつく。

 

『不毛なる地球の民に告げる。我らが偉大なるヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・レイヴァース陛下は地球連合政府に対して休戦を布告する』

 

フィアとアセイラムが話していると突然何も映さなかったテレビから荒い音声と映像が入る。

 

「お爺さまから!」

 

「これは…ヴァース帝国からの海賊放送、と言うことは軌道騎士の頭を越えて…」

 

「きっと騎士達の行き過ぎた行動をお爺さまが止めようとしているのでしょう…」

 

「火星の皇帝が…」

 

アセイラムの言葉に伊奈帆は少々驚きながら聞き返すとフィアはテレビを見ながら汗をかいているのをエデルリッゾが見て疑問に思う。

 

「どうしたのですか?フィア?」

 

「不味いな…」

 

「どういう事?フィア?」

 

「このまま終わってくれればこちらとしては言うことは無いが。向こうの判断次第では…正式に開戦するかも…」

 

フィアの言葉を聞いた鞠戸以外の全員の表情が強ばるのだった。

 

ーーーー

 

(何とか姫様のご無事を皇帝陛下にお伝えしなければ…)

 

「フィア…ちょっといい?」

 

艦長に自分の正体を明かそうとしたアセイラムを何とか落ち着かせて言われた部屋に入れる。

その出入り口の壁にもたれかかりながら考えていたフィアの元に現れたのは伊奈帆だった。

 

「なんだ?」

 

「この前のカタフラクトの武器の構造を教えて欲しいんだけど…」

 

「……分かった…」

 

フィアは敵に回ったからと言ってその情報を教えるのは少々気が引けたがアルギュレ戦では借りがあったのと今後のためを思い、話すことにした。

 

「アルギュレの得物はビームサーベルのみだ。柄からビームを出し周りに特殊なフィールドを発生させて形にする…私の機体にもそれが装備されているからな」

 

「その周りにある特殊なフィールドはバリアの様な物?」

 

「そうだな…ビーム限定のバリアの様な物だ…」

 

「じゃあ外から何かしらの干渉を受ければそれが歪んだりするの?」

 

伊奈帆の質問にフィアは黙り込む…今まで一切気にした事が無かった為に断言が出来ないからだ。

 

「やったことはないから分からんが…恐らく」

 

「そう…ありがとう…」

 

「何をしようとしている…」

 

フィアは伊奈帆を睨みながら聞くと伊奈帆は全く気にしたようすも無く答える。

 

「今、出来る最大限の事をやっているだけだよ。フィアのお陰でこの仮説もやってみる価値が上がったって事だし…」

 

「無茶はするなよ…」

 

「無茶ぐらいしないと…生き残れない…」

 

伊奈帆の言葉にフィアは黙り込みため息をつくと静かに話し始める。

 

「私は…罪を犯した…許される事の無い罪だ…」

 

「暗殺の事?それは…」

 

「私のせいなんだ!私の甘さが!この事態を引き起こしたんだ!」

 

「……」

 

フィアの心を蝕んでいた物を伊奈帆はその時、見た気がし黙ってフィアを見続ける。

 

「分かっているさ…。もう私は殺されても構わない、それで気が済むならな…だが姫様の悲しい顔はもう見たくない…だから誰も死んで欲しく無いんだよ…勝手だろ?」

 

「勝手だね…でも安心したよ」

 

「なに?」

 

「フィアも心の底では僕たち地球人を恨んでるかと思ってた」

 

それを聞いたフィアは少し笑うとある人物の名を出す。

 

「私だって少なからずあったさ…まぁスレインのおかげだな…」

 

「スレイン?」

 

伊奈帆はその人物の名を聞いて聞き返すと艦内に警報のサイレンが鳴り響く。

 

「敵襲だと!?」

 

「フィア…」

 

「なんだ?」

 

「少し手伝って欲しいけど…頼める?」

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回も第二回アルギュレ戦までと言うことで!
なんかグダグダしてすいません
最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第十星 宣戦布告ーdeclaration of warー

フィアside

 

「これがタクティカルスーツか…なぜパジャマ?」

 

『見つかった?』

 

「あったぞ準備はした、すまないが後は頼むぞ!」

 

『フィア!どこにい……』

 

フィアは愚痴りながらタクティカルスーツをスレイプニールが装着出来るように準備する。

それができ次第、走り出し伊奈帆からの無線を切るとわだつみ艦内の階段を駆け上がる。

甲板に通じる扉を出ると同時に爆風がフィアを襲うが気にせずに持ってきた双眼鏡で襲ってきたアルギュレを観察する。

 

「クッ…やはりか…」

 

甲板の出入り口で吹き飛ばされないように見ていたのはアルギュレのビーム刃、フィアはタクティカルスーツを見て伊奈帆がしようとしている事を理解し確認しに来たのだ。

フィアは迎撃に出たアレイオンの爆発でアルギュレのビーム刃が少しであるが変形しているのを確認する。フィアは伊奈帆に通信を入れる。

 

「伊奈帆」

 

『フィア!何をしてるの』

 

「アルギュレのビームサーベルは爆発の影響で粒子が吹き飛んでいる!」

 

『まさか甲板に…』

 

「さっきも言ったが姫様に関わった以上死ぬのは許さん…姫様の悲しい顔は見たくない」

 

『……分かった…ありがとうフィア』

 

「なら帰ってこい」

 

伊奈帆の礼に笑いながらフィアが答えると無線を切り艦内に入るとまた急いで今度はボートの元に向かうのだった。

 

ーーーー

 

 

伊奈帆side

 

「まさか甲板に…」

 

『さっきも言ったが姫様に関わった以上死ぬのは許さん…姫様の悲しい顔は見たくない』

 

フィアの行動にまたしても驚いた伊奈帆はフィアの言葉を聞いて思わず笑みがこぼれる、勝手な言い分だがフィアが自分の事を心配してくれている事が分かったからだ。

 

「……分かった…ありがとうフィア」

 

『なら帰ってこい』

 

礼を言った伊奈帆にフィアは優しく答える。

そのまま無線が切られそのまま愛機となったスレイプニールをエレベーターに乗せユキ姉が操作し上昇を始める。

 

「なお君!ガンバだよ!」

 

「ありがとうユキ姉」

 

伊奈帆は右拳を上げて見送る姉の姿を見て微笑む。

上昇した機体のモニターから現れたアルギュレを見やるとスイッチが入ったように集中する。

アルギュレは待っていたと言わんばかりに伊奈帆を睨み付けると二本のビームサーベルを構える。

 

(恐らく敵は策を使われる前に決着をつけたい筈…なら一気に来る)

 

伊奈帆はマシンガンを構えた瞬間、アルギュレは伊奈帆の予想通りマシンガンの弾丸を避けながら迫りサーベルを振るう。

伊奈帆がそれを受けると同時に左腕タクティカルスーツの火薬が爆発しビームサーベルの粒子が吹き飛ばす。その隙に手を掴み拘束する。

 

(やっぱり…)

 

伊奈帆は少し安堵しながらも次の攻撃を防ぎアルギュレの両腕をしっかりと掴んだ。

 

「コントロール!船を傾けて下さい!」

 

『不見咲君!』

 

『バラスト注水!ウェルドックハッチ開放』

 

伊奈帆の言葉の後すぐにわだつみは傾き始める。重力に従ってアルギュレとスレイプニールがゆっくりと海に滑っていきアルギュレは藻掻き脱出しようとサーベルの出力を上げるがそれは伊奈帆の手伝いをしているのと同じだった。

 

「好都合だ…バックパック投棄よし。ベイルアウト」

 

コックピットに鳴り響く警報の中、伊奈帆は冷静に脱出の準備を済ませて脱出する、そしてアルギュレと無人になったスレイプニールが海に落ち巨大な爆発が海中で起きるのだった。

 

「水蒸気爆発…。あの刀の膨大な熱エネルギーが海水を急激に蒸発させその高圧水蒸気の衝撃が奴を破壊した」

 

伊奈帆は静かに説明しながらも賭に勝った嬉しさと無事切り抜けた安心感に少し疲れを覚えたのだった。

 

ーーーー

 

「ん?まさかお前も水蒸気爆発を読んでいたとはな…」

 

「貴方も行くの?」

 

「あぁ…同乗させてもらおう」

 

伊奈帆の回収に向かおうとしたフィアの前に同じく回収に向かおうとしていたライエの姿があり二人はボートに乗って向かう途中ライエはフィアに問いかける。

 

「なんで…なんで貴方は地球人と協力するの…仲間を裏切るの?」

 

「裏切ってなどいない…私は姫様の幸せのために動いているだけだ…」

 

「それは貴方が騎士だから?でもそれは…」

 

「それだけではない。私は本当に…姫様を尊敬しているのだよ…見えてきたな」

 

フィアの言葉にライエは考え込むように俯いていると伊奈帆の乗ったコックピットが見え伊奈帆もこちらに気づいたのか右腕を上げている。

 

「全く…一歩間違えば逝っていただろうに…無茶をする」

 

「僕よりフィアの方が無茶をすると思うけど…生身で甲板に出るなんて流石の僕でもしない…」

 

「行くわよ」

 

フィアが差し出した手を伊奈帆が掴みボートに乗せるとライエが来た道を引き返す。

それを見た伊奈帆はライエにも礼を言うがライエは黙って運転を続けるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

ヴァース本土の皇帝陛下御寝所…そこには地球人であるスレイン・トロイヤードが居た。

 

「うむ…直ちに取り計らおう…」

 

「ありがとうございます…皇帝陛下…それでは…」

 

ニロケラスを新芦原に送り届ける任務の際に自身の敬愛するアセイラム・ヴァース・アリューシアとフィア・エルスートを目撃しその事を揚陸城の謁見の間を使い真実を報告したのだった……既に手遅れとは知らずに…。

 

「貴公の言った通りだな……ザーツバルム伯爵…」

 

ヴァース皇帝、レイレガリアの言葉と共に同じく謁見の間を使い皇帝陛下に進言した二人の人物が現れる。ザーツバルム伯爵とクウェル子爵だ。

 

「地球人は信用なりません。至る所にスパイが紛れ込んでおり隙あらばヴァース転覆をと企んでおります。大切な姫を失い、空言で陛下を惑わせようとは言語道断…皇帝陛下…卑しき種族にどうか正義の鉄槌を…」

 

ザーツバルムの言葉にレイレガリアは考え込むように目を閉じるのだった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国の宣言を行う部屋にレイレガリアのホログラムが現れ火星騎士の揚陸城を含む地球全土に海賊放送が流れ始める。

 

「ヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの名において改めて宣戦を布告する。地球を攻撃せよ…我が血族に仇なす者を…焼き払え!」

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はアルギュレ決着と宣戦布告でした!
アルドノア・ゼロのアニメの方も最終回を迎えてしまい寂しくなりました、個人的にはとてもいい話だと思いました、アニメの様子を見て伊奈帆とフィアはどうしようか悩んでいましたがこれでタグが増やせる!
では最後まで読んで頂きありがとうこざいました!



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第十一星 種子島レポートーTanegashima Island  reportー

 

 

『誠実なる同胞であり、我が愛すべき家族アセイラム・ヴァース・アリューシアはその死を持って我々に真実を伝えてくれた』

 

ヴァース帝国皇帝直々の演説に火星騎士達は耳を傾けある者は敬愛するアセイラム姫の死を悼み、ある者は密かに微笑んだ…。

 

『その敬虔なる行いによって我々を目覚めさせてくれた…これは正義の行使である!我らの誠意を踏みにじり増長を重ね…暴虐を尽くす地球への天罰である!』

 

フィアはその演説を聞きながら驚きを隠せないアセイラムを見て手を強く握りしめる…目の前に居るというのに何も出来ない…ただ聞くだけしか出来ない自分を酷く憎かった……そして止めようのない火種が今地球に降り注ぐ。

 

『ヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの名において…改めて戦線を布告する!地球を攻撃せよ!我が血族に仇なす者を…焼き払え!!』

 

そして火星と地球は正式に戦争を開始したのだった。

 

ーーーー

 

「スレイン・トロイヤード…我が大義に仇をなす者か…」

 

「ザーツバルム卿…」

 

感慨深くスレインの名を呟くザーツバルムを見てマリーンは少し心配するがザーツバルムは黙りながら謁見の間を出る。

 

「皮肉だな…トロイヤード博士…」

 

そんなザーツバルムの背中を見てマリーンも黙って謁見の間を出るのだった。

 

ーーーー

 

「正式に宣戦布告……か…休戦するって話だったのに…」

 

「ずっと戦争は続いていたんだ…」

 

「鞠戸大尉…」

 

演説を聞いていた韻子が悲しそうに呟くと後ろにいた鞠戸が話し始める。

 

「それを皆で知らないフリしていただけだ…」

 

「……」

 

確かに鞠戸の言う通りだ…フィアはそう思った…戦争が完全に終わっていたならのシナンジュは開発される必要は無かったし軌道騎士の揚陸城が地球のサテライトベルトにいる必要も無かったのだ。

 

「そのジジイが言う通り…あのお姫さんが死んで…皆の目を覚ましてくれただけだ…」

 

「違います!私は!」

 

「姫様…」

 

鞠戸の言葉に耐えられなくなったのかアセイラムが叫ぶとフィアはアセイラムを落ち着かせるように優しく話しかけると我に帰り話を続ける。

 

「アセイラム姫は争いなど望んでいません!地球とヴァースの友好の架け橋になろうとしたのです!」

 

「そして…まんまと火種になった…」

 

アセイラムの言葉に鞠戸は非情な事実を突きつけるとそれはアセイラムにフィアにも深く突き刺さる。

 

「ずっと狙ってたんだよ…大手を振って暴れられる大義名分を…」

 

「火星人がお姫様を生け贄にしたって言うんですか!?」

 

話を聞いていた韻子は信じられないような顔で鞠戸に聞き返すと界塚ユキの声が部屋に響き渡る。

 

「全員注目!一同ブリーフィングルームに集合!」

 

「どうしたの?ユキ姉…」

 

「界塚准尉って呼びなさい…こっちも正式に戦争する事になったの…」

 

伊奈帆の問いにユキは険しい顔を崩さすに言うとそれを聞いていた全員が事実に驚くしかなかったのだ。

 

ーーーー

「これよりあなた方を兵士として召集します…軍法と軍規を遵守し命令に従って任務を果たす義務が生じます…今まで習った事を無駄にせず、勇気を持って戦いに赴き、地球の平和と秩序を守る戦士として活躍することを期待します」

 

強襲揚陸艦『わだつみ』艦長のタルザナ・マグバレッジの説明の元、正式に兵士として召集されたフィアは思考を巡らす…アセイラムとエデルリッゾはもちろん何とか兵士になるのは避けなければならないが今考えるべきは自分の事だった。

 

(私は…)

 

騎士としての身辺警護なら兵士にならない方が良い…だがまだ火星のカタフラクトが襲って来ないとは限らない…それを対処するならカタフラクトに乗れる兵士の方がいい…フィアは必死に思考を巡らす……そして彼女の選んだ選択は…。

 

ーーーー

 

「それでセラムお姉ちゃんはずっと病気で学校には通えなかったの…」

 

フィアはエデルリッゾの迫真の演技に舌を巻きつつも仕切り越しに横の面接官に自己紹介をしていた。

 

「出身は北欧…名はフィア・エルスートだ、歳は16」

 

「公立高校で訓練は?」

 

「ある…主席だ…」

 

「なる程、では貴方を正式に地球連合所属のカットパイロットに任命します…頑張ってね」

 

「ありがとうございます…」

 

フィアはパイロット服を貰い席を立つと先に終わっていたアセイラムとエデルリッゾの元に向かう。

 

「姫様…良かった…よくやったなエデルリッゾ」

 

「私だって伊達に姫様の侍女を務めていません!」

 

「フィア…その服は…」

 

兵士なるのは何とか避けれた事をフィアが安堵しているとアセイラムにパイロット服を見られエデルリッゾも驚く。

 

「フィア!貴方!」

 

「身辺警護はエデルリッゾに任せる…もしもの時は…」

 

そう言うとフィアは上着に隠していた銀の拳銃をホルスターごとエデルリッゾに渡す。

 

「フィア!」

 

「姫様…必ずお守り通してご覧に入れます…」

 

「フィア…貴方は…」

 

「エデルリッゾ…私はカタフラクトをどうにかする…だがそれだと身辺警護はおろそかになってしまう…だからお前に任せる」

 

エデルリッゾはフィアの言葉に何も言えなくなる…普段のフィアならどちらもこなそうとするだろう…それをあえてせずにエデルリッゾに任せると言う事は自分が死んでも良いようにするためだ。

 

「我が騎士フィア…必ず生きて私を守り抜きなさい…」

 

「ハッ!必ずや…守り通してご覧に入れます!」

 

アセイラムの言葉に跪くフィアを見てアセイラムは悲しそうな顔をする…主として出来るのは事程度、こんな事を言っても、もしもの事があればフィアは命を投げ出すのは目に見えている…フィアに対してそれしか出来ない自分の無力さを痛感するアセイラムだった。

 

ーーーー

 

「何でパイロットじゃなくて整備員何だよ!」

 

「何を騒いでいるんだ?」

 

自身の使える機体を探して格納庫に来たフィアはカームが怒鳴っているのを見て話しかける。

 

「フィア!聞いてくれよ!俺は火星人ぶっ飛ばしたいのに整備員なんて!」

 

「整備だって立派な戦争よ!」

 

「あぁ…韻子の言う通りだ…いくら腕の良いパイロットが居ても機体がガタガタでは何もならんからな…」

 

「でもよ!」

 

カームの主張も最もだが韻子とフィアの主張を聞いたカームは少し納得出来ないような複雑な顔をしていた。

 

「まぁそう気張るなって…この15年間実践を経験した奴らは居ないんだ…経験した奴らは皆の死んだ…火星の奴らもな…てことは敵も味方も皆…お前らと同じ童貞だ…」

 

「みんなじゃありません…」

 

「あぁ…そうだな…」

 

鞠戸の言葉に答えたのは二人、伊奈帆とフィアだ…まさかの返答に韻子とカームは顔を赤くし震えながら問いかける。

 

「おま…お前ら…まさか……」

 

「嘘……伊奈帆とフィアが…」

 

韻子とカームは自身の頭に浮かび上がった可能性を信じて二人を見ていると伊奈帆が

 

「鞠戸大尉は生き残った…そうでしょう?」

 

「スコアブック上は違う…俺の書いた種子島レポートは握りつぶされた…」

 

「種子島…火星と地球が初めて戦闘を行った場所……」

 

「確か…フィアとか言ったな…民間人である筈のお前が何で知ってる…種子島レポートは軍内部でもその内容を知ってる奴は多くない…」

 

鞠戸は知っているように呟いたフィアを見て問いかけるとフィアは睨む鞠戸の視線など何処の吹く風と知らんばかりに冷静に答える。

 

「私の知り合いの知り合いから聞いた…ヘブンズフォールで全て吹き飛んでしまったらしいが…」

 

フィアが指している人物は当然、火星側…マリーンの上司であるザーツバルムの事だ、しかし彼女自身もデータで閲覧しただけで深く内容は知らないが…。

 

「フィアの言う通りだ…月の破片の前に火星のカタフラクトが降りてきやがった…その化け物みたいなカタフラクト相手に俺たちは時代遅れの戦車で挑み……全滅した…」

 

鞠戸は苦しそうに顔を歪めるが話を続ける。

 

「その直後にハイパーゲートは暴走、時空震でヘブンズフォールが起きて火星の奴らは戦場ごと…」

 

鞠戸の話を聞いている内にフィアはデータの内容を思い出して来ていた。

 

(確か先遣隊は飛行能力を持つ二機…その内一機がザーツバルム伯爵で後一機はMIAだった筈だな…確かオルレイン子爵でザーツバルム伯爵の婚約者だった……まさか…)

 

「フィア?」

 

伊奈帆はフィアの様子がおかしくなったのを見て話し掛けるが返事がなく何かをブツブツと呟いている。

 

「まさか…ザーツバルム伯爵が…いや…だからって姫様を狙う理由には…しかし時空震はギルゼリア元皇帝が…まさか……マリーン…貴様も…組しているのではあるまいな…」

 

フィアは強ばった顔を上げて天井を…いやその上の宇宙を見つめのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

ザーツバルム伯爵揚陸城

 

「マリーン…逃亡したスレインを回収するのだ…地球へ降下せよ…」

 

「ハッ!」

 

ザーツバルムの司令室からの通信を受けたマリーンは笑いながら格納庫にゆっくりと降り立ち狂気に満ちた顔で愛機に話し掛ける。

 

「待ちかねた…姉さんの眠る青き星に……なぁゼダス?教えてやろうではないか…我々の憎しみをな…」

 

ダークグレーとブラウンのツートンカラーの機体、ゼダスはまるでマリーンの言葉に答えるように線の様なカメラが怪しく光るのだった。

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はヘラス戦ちょっと前までですね!
そしてマリーンの機体ですがガンダムAGEに敵として登場したゼダスになりました!
敵、火星、凄い技術力の観点で考えていたらヴェイガンにたどり着きましてじゃあ一番目好きなレギルスを(ビームビットとか地球勢皆殺しにしたいの?まだ早いよ!)じゃあ二番目に好きなゼダス(単独飛行も可能だし)と言うことでゼダスに…(まぁレギルスでも伊奈帆が何とかしてくれそうですが)。
そしてカウントダウン…ただのダウンロード期間かい!?頑張って終わるまで待ってた自分は!?噂は半分信じて半分聞き流せって言いますけど本当でしたね…。
では最後まで読んで頂きありがとうこざいました!



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第十二星 騎士の実力ーKnight of real abilityー

今回はちょっと長くなってしまいました。



 

 

「スレイプニールしかないのか?」

 

「ごめんねフィアちゃん!機体が足りなくて…」

 

「はい…良いですがちゃん呼びはやめてください…」

 

必死に謝るユキを見て別に機体にこだわらないフィアは気にした様子もないが最後の言葉にユキは思わず笑みがこぼれる。

 

「良いじゃない♪可愛いんだからフィアちゃん!」

 

「はぁ…」

 

ユキの楽しがる様子を見てフィアはため息をつきながらスレイプニールの座席調整を始めるがフィアの頭を占めていたのはザーツバルムとマリーンの事だった。

 

(ニロケラス…トリルラン卿は食客としてクルーテオ伯爵の所に居たが元々はザーツバルム伯爵の配下だ…)

 

アセイラムを見た時のトリルランの反応は驚愕の中に恐れがあった。

 

考えば考えるほど可能性が上がっていく…しかしフィアは信じられなかった、正確には信じたくなかったのだ。

人間、誰しも信用している者を疑いたくないのは突然の事…フィアが知っているマリーンと言う人物は人一倍正義感が強く、ヴァースの事を考えている奴だ…。

 

「マリーン…これが正義と…ヴァースの為にだと思っているのか……いや…私は姫様に仇なす者を駆逐するのみ…」

 

考えても仕方が無いとフィアは割り切ると自分のなすべき事を再確認する、例え友であろうとも主を守る…それがアセイラム姫の騎士であるフィアの課せられた任務であり、行動原理だ。

 

そんな事を考えながら座席調整をしているフィアは他の人間からしてみればえげつないことをしている。

索敵システムを一から作り直しているのだ…正確には自身の愛機であるシナンジュと全く同じ物に、スレイプニールの性能を限界まで引き出しつつフィアの操縦能力に出来るだけついて行けるように他のOSまで全て書き換える。

地球の整備兵が見たら自信を喪失して閉じこもりたくなるレベルまで……フィアが数多くの騎士の中からアセイラムの騎士に命じられたのはこれが理由の一つである、フィアはパイロットセンスもさることながら整備能力も抜きんでている…時間と道具さえあれば一人でオーバーホールも出来るし体術関係ももちろん…ただ弱点を挙げるなら経験不足による未熟さである。

 

「ふぅ…」

 

「フィア!」

 

一通り書き換えを済ましたフィアはスレイプニールから降り思いっきり背伸びをしているとアセイラムが走ってやってきた。

 

「姫様…どうされたので?」

 

「レイリー散乱とミー散乱なんです!フィア!」

 

「ハッ?」

 

突然の単語にフィアは変な声を上げてしまい取りあえず興奮しているアセイラムを落ち着かせる事にした。

 

「すいません…姫様…まず落ち着かれて説明を…いきなりレイリーなどミーなど言われましても…」

 

「あ!すいません!興奮してしまって」

 

アセイラムは落ち着いた後フィアに伊奈帆と甲板で話した出来事を説明した…それを聞き終えたフィアは驚き興味深くする。

 

「なる程、屈折ではなく散乱でしたか…まぁ誰しも勘違いはある物ですよ…」

 

「でもそれで恥をかいてしまいました…スレインには後で恥をかかないように私から教えましょう!」

 

「それは良いことです!スレインも驚くことでしょう」

 

「そうですね!もっと知ってスレインを驚かせましょう!」

 

フィアとアセイラムが格納庫の端で楽しそうに話しているとエデルリッゾがやって来て混ぜてくれと言うとまるで妹のような可愛さにさらにフィアとアセイラムは笑う。

しかし和やかな時間はそう長く続かなかった…大きな衝撃が艦全体を震わしたのだ。

 

「キャッ!」

 

「姫様!!」

 

突然の衝撃にアセイラムとエデルリッゾがよろめくがフィアがしっかりと支える。

 

「二人とも無事で?」

 

「は…はい」

 

「なんとか…」

 

「フィア!敵よ!貴方も!」

 

「わかった!エデルリッゾ!姫様を頼む!」

 

二人の返事を聞いたフィアは安堵していると後ろから韻子が走りながらフィアに言うとフィアもアセイラムをエデルリッゾに任せて急いでロッカーに向い出撃準備をする。

 

「敵は?」

 

「まだ分からないわ!でも不発のミサイルを撃ち込んで来てるって…」

 

「不発弾を?」

 

着替えて格納庫に向かうフィアと韻子が話している内に準備を済ませたフリージアン小隊がエレベーターを使って甲板に上がりその間にフィアはスレイプニールに乗り込む。

 

「………きつい」

 

パイロットスーツでの搭乗は生命保護のためにきつくしてあるが韻子より膨らんでいる胸のせいで予想以上にきつかった。

 

『マスタングリーダーよりマスタング22と33…なお君とフィアちゃんは練習機だからマークスマンお願いね』

 

『ユキ姉…まだ腕が……』

 

『新米が出るのに私がいかない訳ないでしょ?』

 

『界塚准尉!』

 

伊奈帆の少し焦った声にユキは微笑むと安心させるように優しく話し掛ける。

 

『ユキ姉でいいよ…』

 

『……』

 

『通信終わり!以上!』

 

ユキの言葉に伊奈帆が黙り込むとそのまま通信を終わらせて甲板へのエレベーターに乗り込むとそれに続いてフィア達も乗り込みエレベーターがゆっくりと上昇し甲板に上がる。

 

「これ以上、艦をやらせては…」

 

『フリージアン小隊は船首!マスタング小隊は船尾に展開!各個に飛行兵器を迎撃せよ!』

 

わだつみの副長である不見咲の指示で船尾に展開したフィア達はマシンガンを構えながら周囲を警戒しているとフィアはカームに通信を入れる。

 

「カーム…」

 

『なんだ?フィア…戦闘中に…』

 

「ライフルを準備してくれ…弾はAPではなくHEでな…」

 

『分かった!用意しとく!』

 

『何か分かったの?』

 

カームと通信を終えると伊奈帆がフィアに問いかけるがフィアは顔をしかめながら答える。

 

「分からん…だがもしかしたらいるかもしれんからな…」

 

『来るわよ!』

 

ユキ姉の言葉に全員が迫ってくるロケットパンチを避けながら迎撃するが着弾してもダメージを負わせた形跡がない…。

 

「やはり…不発弾と聞いていたが…ロケットパンチだったとは、ならヘラスだな!」

 

フィアはそう叫びながらマシンガンの下に付いているグレネードランチャーを発射しロケットパンチに直撃するが少しふらつくだけで特に効いたわけでは無いようだ。

 

「チッ…やはり駄目か…」

 

『う…うわぁぁぁぁ!』

 

『フリージアン44!!』

 

足をもがれ宙に浮いた上半身をロケットパンチは見逃さずに巨大な手で握り潰され爆発する。

 

『広がれ!密集していると狙われるぞ!』

 

不見咲の指示で各機は散開する…この状況での密集陣形は全滅への最短距離になる。

お互いが退避する為のスペースを邪魔してしまうからだ…それはとても良い判断、当然だと言えるがそれはすなわち敵の予測の範疇と言うことでもあった。

 

『しまった!予測していたのか!』

 

散開の為に移動したのを見計らってロケットパンチは散開直後のアレイオンに襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

フィアは地面を強く蹴り、脚部のウイングを展開せずにスラスターだけで無理矢理加速しロケットパンチを避ける。

だが他の機体はそう上手くいかない…。人間は一度止まってからすぐ行う動きはどうしても隙が生まれてしまう。その一瞬が生死を分ける境界線となってしまった。

 

『フリージアン22!』

 

「フリージアンリーダー!上だ!!」

 

『なに!?』

 

フィアの叫びにフリージアンリーダーが上を見るとそこにはロケットパンチの重力をも味方に付けた一撃が迫っていた。

 

『な…』

 

言葉を言い終わる前にフリージアンリーダーはロケットパンチに潰されアレイオンは爆発する。

 

「やるな…」

 

フィアはこの一連の攻撃を見て焦りながらも賞賛を贈る…先程の攻撃も平面による攻撃一辺倒からの立体的な上からの攻撃…元々人間は頭上の危険に対する防御が苦手な生き物のため常人なら避けられない。

 

『フィア…後ろを頼む!』

 

「分かった…ッ!」

 

伊奈帆のカバーに回ったフィアだがロケットパンチが迫り素早くグレネードランチャーで迎撃すると直撃からかすり程度まで進路がずれてフィアのスレイプニールを倒れさせる。

 

「クソッ!」

 

フィアは倒れたスレイプニールを素早く立て直しすぐにマシンガンを構えるがロケットパンチは散開し一気に片を付けに来た。

 

『速力を溜めて止めを刺すつもりだね…』

 

『えぇ!?どうするの?』

 

『韻子…スポッターをお願い…フィアも飛行兵器の迎撃をお願い…』

 

伊奈帆の言葉にフィアは一瞬考えるが理解しカームに通信を繋げる。

 

「カーム!ライフルを!ユキさん!スポッターお願いします!」

 

『準備は出来てるぜ!エレベーターで上げる!』

 

『分かったわ!頼んだわよ!』

 

素早く迎撃態勢を整えた伊奈帆は韻子のスポッターの元、まず一個目を迎撃し進路を変える。

 

『フィアちゃん!右3ミル!!』

 

「了解!」

 

フィアは素早く受け取ったライフルで迎撃し進路が逸れ通り過ぎた瞬間、改良した(書き換えた)索敵システムを使いロケットパンチの後ろのスラスター部分を狙撃する。

 

「一つ!」

 

『フィアちゃんすご!』

 

「後は上以外ほぼ同時で来る…さっきのは出来ない!」

 

ユキを含めてフィアの操縦能力に舌を巻くがそうも言ってられずに次々とロケットパンチを迎撃していく。

 

『ラスト!!』

 

「ローディング!」

 

『了解…僕がやる…』

 

韻子の言葉と同時にフィアはライフルを撃ち尽くし弾倉を交換している間に伊奈帆が狙撃するが重力によるロケットパンチの加速と実弾故の射程距離の減少が原因で当たらない。

 

伊奈帆side

 

(不味い…ここで当てないと…)

 

心臓が激しく鳴り響きもしも…と言う嫌な想像が働いてしまい伊奈帆はこれ以上無く焦っていた。

 

(フィアは給弾中だ…僕が当てないと……当たれ…当たれ!!)

 

そんな伊奈帆の感情を嘲笑うかのように弾は惜しいところでロケットパンチに当たらずに通過してガチリと銃から嫌な音が響いた……弾切れだ…。

 

「…弾切れ……」

 

『うぉぉぉぉ!!』

 

絶望的な事実に伊奈帆は何も言えなくなっていると無線からフィアの叫び声が聞こえた。

 

フィアside

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

給弾を終えたフィアはスレイプニールを後ろに倒れさせながらライフルを上に向ける。倒れながらの為、一発勝負だフィアは全神経を集中して引き金を引く。

 

改良された索敵システムの恩恵もあり銃弾は落ちてくるロケットパンチの直撃軌道、しかしフィアの放った弾丸と別の弾丸が当時にロケットパンチを吹き飛ばし進路を変えたのだった。

 

「どこから!」

 

『あれ?生きてる?』

 

『ハァ………』

 

飛来した弾丸の発射元を見ようとしたフィア達の頭上を火星の輸送機、スカイキャリアが通り過ぎたのだった…。

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
ヘラス戦前半と言うことで取りあえずここまででございます!一応これでアニメの第六話まで終了で四分の一が終わりましたね!
伊奈帆はたぶんあの時は相当焦っていたと思って書きましたけど焦りすぎでしたかね?
アニメは終わってしまいましたけど張り切って小説を書いていこうと思います!
では最後まで読んで頂きありがとうこざいました!


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第十三星 思わぬ再会ーunlooked for reunionー

今回はマリーン視点からです!



 

 

日本列島の九州の港、そこでは地球のカタフラクトと火星カタフラクトが戦闘を行っていた。

 

「クソッ!なんだアイツ!」

 

「くわぁぁぁ!!」

 

「スティール11!クソッ!この化け物めぇ!!」

 

味方が次々とやられていく声を聞きながらスティールリーダーは叫びなからマシンガンを撃つが当たる気配すらない…そんなスティールリーダーの恐怖を嘲笑うかのように黒いカタフラクト『ゼダス』はゼダスソードでコックピットごとアレイオンを真っ二つにしたのだった。

 

「チッ…降りたと思ったらすぐ戦闘とは…地球人どもめ…」

 

ゼダスのパイロットのマリーンはイラつきながら呟くとゼダスソードをしまい手のひらのビームマシンガンで港をまんべんなく攻撃する。

 

『や…止めてくれ…』

 

するとイラついているマリーンの耳にオープン回線で命乞いが聞こえてきた…両腕を失い足も損傷しているのか全く動く形跡がない…。

 

「あぁ…さっき取り逃がした奴か…まだ居たとはな…」

 

『俺には武器がない…戦えないんだ…』

 

「ハハッ!さっさと逃げれば良いものを…恨むんなら…」

 

マリーンはそう呟くと手のひらのビーム砲からビームサーベルを形成ししっかりとコックピットに突き刺した…。

 

「己の無力さを恨むんだな…」

 

アレイオンが完全に停止したことを確認すると揚陸城から通信が入りザーツバルムが現れる。

 

『流石だなマリーン…たった数時間でこの戦果は…』

 

「…ザーツバルム卿、トレース出来ましたか?」

 

『あぁ…奴が向かったのは…種子島だ…』

 

「ッ!…種子島……ですか…」

 

『我等にとっては因縁の地だが……この際クルーテオに任せても…』

 

「大丈夫です…墓参りも兼ねて行って参ります…」

 

『そうか……』

 

ザーツバルムの心配にマリーンは先程の狂気は消え失せただ静かに答える…そんな様子を見たザーツバルムはマリーンを心配するがあえて触れずに通信を切るのだった。

 

「マリーン…」

 

通信を切ったザーツバルムは珍しく弱々しそうにマリーンの名を呟く…マリーンは婚約者であるオルレインの従姉妹(いとこ)でオルレインの母の年の離れた妹の娘である…妹は遅くに結婚しその中でも末っ子なので歳はかなり離れているがその娘の中でも一番オルレインに似ていた…。

 

「全く皮肉な物だ…」

 

更にオルレインの死んだ少し前の十五年前に生まれたのだからザーツバルムはオルレインの生まれ変わりとつい思ってしまうのは当然だった…それから彼はあくまで上司として厳しくマリーンを育て上げ、この暗殺計画には外そうとしたのだが向こうから志願して来て断る事は出来なかったのである。

 

(ただ残念なのは…性格が歪んでしまった事くらいか…)

 

そう思いながらザーツバルムは種子島を映した地図を見るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

その頃、種子島では…

 

「なぜスカイキャリアが…」

 

『仲間割れ?』

 

『さぁ…獲物を取り合ってるだけかも…』

 

『どっちでもいいよ…敵の敵なら、味方で無くても役に立つ…』

 

「だな…せめて有効活用させてもらおう…」

 

伊奈帆の言葉にフィアは同意すると一度収納された5本のロケットパンチがスカイキャリアめがけて襲いかかる…スカイキャリアも精一杯の回避運動をとるが急に失速し墜落していくかのように落ちるところをロケットパンチが襲うが伊奈帆が狙撃しそれを阻む。

 

「壊れた…」

 

『なる程、手が動くときは壊れるのか…』

 

フィアが感心し伊奈帆がロケットパンチの弱点を見つけるとロケットパンチが離れその二つが艦に迫る。

 

『距離を取った…と言うことは…コントロール、ウェルドックを開けてください!』

 

『マスタング22ッス!』

 

『界塚弟か…いいでしょう…』

 

艦長の承諾を得てわだつみのウェルドックがゆっくりと開き伊奈帆はスレイプニールをその開いた扉に乗りライフルを構える。

 

『フィアは上から狙撃を!耳を塞いで!』

 

「皆さん!耳を塞いでください!」

 

「ウェルドックに姫様がいるのか!?クソッ!」

 

フィアはスレイプニールの片膝を甲板に付けて射撃体勢を取ると伊奈帆に続いて狙撃し狙撃されたロケットパンチは片方が海に落ち、もう片方がフィアのスレイプニールギリギリ横を通り種子島の岩盤を砕くと隠されていたドックが姿を現す。

 

『フィア…行こう…』

 

「え?おい!待て!」

 

船が隠しドックに向かうのを確認した伊奈帆は甲板から港に降りフィアを呼ぶとフィアも急いで甲板から降りる。

 

『ちょっと!フィア!伊奈帆!』

 

『マスタング11私たちも行くわよ!』

 

『え…えぇ!?』

 

韻子は突然の行動に戸惑いつつも甲板から港に降りるとユキが伊奈帆に少し怒りながら話す。

 

『なおくんどう言うつもり?勝手に!』

 

『ユキ姉こそ…船の護衛は?』

 

『あんたねぇ…』

 

「フフッ…」

 

伊奈帆とユキのコントの様な話にフィアは思わず笑うが伊奈帆の言葉ですぐに気を引き締める。

 

『さぁ…三面六臂をやっつけよう…』

 

「それで…どうするんだ?」

 

『フィア…あの三面六臂はロケット以外に武装はあると思う?』

 

「……あくまで私の予測だが…恐らく無い…」

 

『そう…』

 

伊奈帆は通信を秘匿回線にしフィアと連絡を取るとフィアは伊奈帆に合わせて答えると伊奈帆は少し考え通信を元に戻す。

 

『ユキ姉…あのカットを直接攻めよう…』

 

『はぁ!?何言ってんの!あんなのに敵う訳無いじゃない!』

 

『どうかな…以外とこけおどしかも…韻子、ハンドガン借りるよ…』

 

『あ…うん』

 

韻子は伊奈帆に言われた通りハンドガンを手渡すと伊奈帆は空に銃口を向けスカイキャリアに分かるように撃つ…するとスカイキャリアは意図を理解したように近づいてくる…それを見たユキは思わず問いただすが伊奈帆はただ静かに答える。

 

『あの三面六臂はあの場所から動いていない…同じ攻撃を繰り返すだけだ……アイツの武器はあれだけだ…』

 

伊奈帆の自身に溢れた言葉にユキも黙り込みそれを見た伊奈帆は接近するスカイキャリアに向かうとフィアも付いてくる。

 

『フィア…君も乗るつもり?』

 

「弾は心もとないんだろ?私も乗った方が良い」

 

『……分かった…でも乗るかな?』

 

伊奈帆の了承を得たフィアは笑うと自分が知っているコードでスカイキャリアに通信を繋げる。

 

「スカイキャリアのパイロット…聞こえるか?二機乗るが大丈夫だな?」

 

『あ…はい…重量的には問題ないかと…その声…まさかフィア卿ですか!?』

 

「スレイン!まさかお前とは…」

 

伊奈帆とユキが言い合っている傍らフィアとスレインは思わぬ再開に驚きながらもスカイキャリアに乗り込み、続いて伊奈帆が乗り込む。

 

『接触回線オープン、手短にいこう…そちらの兵装は?』

 

『榴弾砲が二十発程…そちらは?』

 

『HE弾が九発』

 

「私はHEが十一発だな」

 

『しかしフィア卿…ヘラスの拳は巨大分子になってどんな弾も…』

 

『破壊されたのがある…指を動かす時は元に戻るんだよ…』(知り合いだったんだ…フィアとコウモリは)

 

「あと装甲がないスラスター部分だな」

 

スレインの言葉を聞いて伊奈帆が偶然に少し驚きなからも話を進める。

 

『スタビライザーの信号を回して…』

 

『規格が違いますよ…』

 

「問題ない…既に解析してある…」

 

『流石フィアだ…』

 

素早く解析されてスタビライザーを受け取った伊奈帆はフィアを素直に褒めるとフィアは少し笑い迫るロケットパンチを逸らす。

 

「使える腕はあと四つだ…」

 

『分かった…コウモリ…フィアが逸らしたロケットの後ろにつけてくれ…』

 

『コウモリ!?』

 

スレインはいきなりのあだ名に驚くがすぐに後ろにつけ榴弾砲をロケットパンチのスラスターを狙って撃ちスラスターをやられた一つが海に落ちもう一つはフィアと伊奈帆の狙撃にやられる。

 

「あと二つ…」 

 

『来ました!後方よりさらに二機!』

 

フィアの呟きに伊奈帆とスレインはあと少しと集中するが相手のヘラスもバカではない…確実に当たるように加速しすぎずにロケットパンチがスカイキャリアに迫る…あれでは銃弾の爆発で大きく逸らす事は出来ない…。

 

「考えたな…」

 

『僕に考えがある…コウモリ…進路175…海岸線に沿って飛んで…ユキ姉聞こえる?』

 

『都合のいい時に頼るんだから…進路そのまま!』

 

伊奈帆の通信にユキは愚痴りながらも目の前を通過したロケットパンチのスラスター部分を狙撃し最後の二機を撃ち落とした。

 

「後は本体……ナッ!」

 

後は止めを刺すだけとばかり思っていたフィアは驚愕の表情を浮かべる…ヘラス本体がロケットパンチに変形して空に飛びたったのだ。

 

『飛んでった~』

 

『なんだアレは!?』

 

『僕も知りません!』

 

伊奈帆の珍しく焦った声色に自然とフィアも焦っているとヘラスロケットは距離を取って加速し迫ってくる。

 

「来たぞ!」

 

『フィア卿!狙撃で軌道を!』

 

『あのサイズ…ライフルじゃ無理だ!避けられないのか!?』

 

『二機も乗せてるんです!避けられません!』

 

『来るぞコウモリ!』

 

『黙っていて下さいオレンジ色!』

 

「うおッ!」

 

伊奈帆の警告にスレインは若干怒りながら答えるとスカイキャリアを失速させて一気に降下し突然の降下…墜落に思わずフィアは驚きの声を上げる。

 

『また来た…』

 

『引き起こしが!』

 

墜落している時にヘラスロケットが迫り終わりかと思われた時…突然ヘラスロケットにミサイルが直撃し続いて種子島の地中からミサイルが発射されると同時に巨大な戦艦が姿を現す。

 

『飛行艇…いや…戦艦か…』

 

「なぜ航空戦艦が地球にあるんだ!」

 

『やはり居た!アセイラム姫!』

 

予想を遙かに上に行った状況に伊奈帆とフィアは驚きスレインはブリッジから見えるアセイラムを見つけ歓喜の声を上げる。

 

「スレイン!ヘラスの後ろによる着けろ!伊奈帆!その後、スラスターに一斉射!」

 

『『了解!』』

 

目標を変えたヘラスを見て素早く二人に指示を出しスラスターを殺ると墜落し航空戦艦に轢かれる…巨大戦艦に轢かれたヘラスは流石にその質量に押し潰され大破状態になり航空戦艦の後部ハッチからアレイオンがヘラスを狙撃し爆発する。

 

何とか勝利を収めたフィアはコックピットの中でため息をついていると伊奈帆が喜ぶスレインに厳しい声で問いかける。

 

『姫は死んだ…なのになぜ探している?』

 

『え?』

 

『君は姫が生きているのを知っていた…何故だ?』

 

『どういう事ですか?』

 

「おい…伊奈帆…スレインは…」

 

伊奈帆の問いかけにスレインも伊奈帆に対する警戒を強めるとフィアが仲裁の為に伊奈帆を説得しようとするが伊奈帆はそのフィアの声を遮る。

 

『フィア…僕はこの戦争の為にもセラムさんの為にも聞かなきゃならない事を聞いているだけだよ…もちろん、フィアの為にでもある…』

 

「伊奈帆…」

 

『姫に会わせて下さい…』

 

『僕の質問が先だ…』

 

『もしかして…姫を利用するつもりですか?』

 

『利用されると…困るのか?』

 

『あなたは!』

 

「待て!伊奈帆!スレインも落ち着け!」

 

お互いが銃を向け合い不味いと感じたフィアは急いで止めに入るが既に遅く、お互いが銃を撃ち合いスカイキャリアは大きく損傷し墜落する。

 

『貴方は僕の敵ですか?』

 

『君は…僕の敵だ…』

 

「クソッ!スレイン!これをクルーテオ郷に!あの人は信用出来る!」

 

墜落するスカイキャリアをフィアは迷いながらも伊奈帆に続いて脱出し素早く電文をスカイキャリアに送り叫ぶのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はヘラス戦でしたが…一話で一話使っちゃったぁぁ!アニメの七話は全部ヘラス戦なので区切るところが見つけられずに……一話につき二話にする様にしてきましたが…ショックです。
閑話でも入れようかな…
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第十四星 暗号電文ーcoded messageー

今回は火星側がメインです!



種子島…巨大な航空戦艦が地下から出現したその島は戦闘の騒がしさとは打って変わって今は静かになっていた。

 

「これは…ヘラスの残骸…」

 

ザーツバルムの通信後、増援できたアレイオン部隊を相手にしていたら種子島の到着が遅れてしまいマリーンが到着したのは全てが終わった後だった。

 

「…生体反応だと」

 

ゼダスのレーダーが海中にスカイキャリアの識別反応と生体反応をキャッチし近くの砂場に着地し降りると持った端末で確認しながら海を見ると…。

 

「ハァ……」

 

ため息をつきながら灰色の上着脱ぎ捨て海に飛び込む…ゼダスで引き上げる事も考えたがスカイキャリアの損傷状態がよく分からなかった為、生身で飛び込んだのだ。

 

携帯酸素ボンベを持ち水中に潜ったマリーンはスカイキャリアを見つけ予想通りコックピット部分が損傷しており中からスレインを助け出す。

 

「プハッ!」

 

「……」

 

「全く…」(なんか塩っぱいな…)

 

マリーンは意識が無く、重いスレインを担いで海面に上がり砂浜に何とか上がらせると脈を測り状態を確認すると何とか生きているようでマリーンは濡れきった服を無視して人工呼吸器を続けるのだった。

 

ーーーー

 

気を失って居るスレインは昔の事を思い出していた…それはアセイラムと初めて出会った時…瀕死だった自分を助けてくれた時のことだ…。

 

「…ガハッ!オェ!」

 

「大丈夫か?」

 

するとスレインが意識を取り戻し水を吐き出し一通り吐き終わり落ち着き声のした方に見るとそこには黒髪を束ねたポニーテールの少女が居た。

 

「貴方は…」

 

「マリーン…マリーン・クウェルだ、ザーツバルム伯爵の部下をしている…貴様の捜索を依頼されてのでな…」

 

「マリーン卿…何故地球人で脱走者の僕を…」

 

「それが任務だ…それに…」

 

「それに?」

 

「何もない…」

 

マリーンはスレインが聞き返したのを見て言い過ぎたと思いつつびしょ濡れになった灰色の制服はまだ湿っており不快感を覚えたが無視して上着を羽織りながら話を変えるために呟く。

 

「美しい物だな…海という物は…」

 

「え?あ…はい」

 

突然のマリーンの言葉にスレインは驚きながらも同意し夕暮れの海を見る…マリーンの名前の由来はこの美しい海から来ている…その海に見とれ暫く沈黙の時間が流れるがマリーンがスレインに話しかける。

 

「スレイン・トロイヤード…」

 

「はい…」

 

「貴様を揚陸城に連行する…抵抗はしてくれるなよ…」

 

「はい…分かりました…」

 

マリーンの言葉にスレインは大人しく従い手錠をはめゼダスに乗るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

そして…航空戦艦『デューカリオン』アルドノアドライブを搭載し反重力能力を持つその戦艦はまるで漫画のように空を飛んでいた…その中のブリーフィングルームにはアセイラムに関する人物が集められていた。

 

「火星騎士の行動故に我々はこうせざる得なかったと言う事は…お分かり頂けただろうか…」

 

「火星騎士が殿下の暗殺を…にわかに信じがたいお話です…」

 

「マグバレッジ艦長…この事を明らかにすれば火星騎士は攻撃を止めるのでは…」

 

フィアの説明のお陰でアセイラムの現在の状況を確認できたマグバレッジと不見咲は話し合うがマグバレッジは険しい顔を崩さない。

 

「通信衛星及び通信基地は全滅…妨害電波によって長距離無線も不可能…殿下の無事を伝えようにも然るべき機関に正確に伝わるとは限りません…」

 

「むしろ暗殺を企てた火星騎士の攻撃の的になると…」

 

「分かりました…元々そこに行く予定でしたし…エルスート卿の進言通りロシアの地球連合本部まで殿下を保護します……エルスート卿…」

 

「フィアでいいです…今の時点では地球連合の兵士でもありますから…」

 

「分かりました…ではフィアは仕方ないとして…二人ともこの事実を知りながら報告を怠っていた訳ですね…貴方は?」

 

「ライエ…ライエ・アリアーシュ…私は軍人じゃない…報告義務もない…」

 

現在民間人であるライエの主張は正しくマグバレッジは反論できず…もう一人である伊奈帆に向き直り問いただす。

 

「弟君は?」

 

「界塚伊奈帆です…怠ったのではありません…故意に報告しませんでした…」

 

「発言に注意しなさい!立場が不利になりますよ!」

 

伊奈帆のまさかの言葉にマグバレッジは頭を押さえ不見咲は怒鳴るとアセイラムが伊奈帆の前に出て擁護する。

 

「私がお願いしたのです!」

 

「この船に暗殺者の仲間がいないとも限りませんし…」

 

「エデルリッゾ!」

 

アセイラムはエデルリッゾの言葉を戒めるがエデルリッゾはあまり反省して居なさそうだった…すると黙っていたライエが突然憎々しげに呟く。

 

「信用出来ないのは火星人も同じ…アルドノアと言う古代文明の超科学を頼りに古くさい封建制度にしがみついた民族…位を得たいばかりに武勲を上げることに躍起になる平民…それを平気で裏切り踏みにじる貴族…」

 

「ライエ…お前……」

 

「そんな奴らを…どうやって信じるの?…私は信じない…火星人は皆敵…」

 

涙ぐみながら話し続けるライエを見て全員が黙り込んで居るとライエは黙って部屋を出て行った…その背中を見たフィアは憎々しげに火星の事を呟くのを見て違和感を感じていたがそれはなんなのか分かっていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「グワッ!アァッ!」

 

東京、クルーテオ伯爵の揚陸城の尋問室では天井に繋がれている手錠をはめられ…拷問を受けているスレインがいた…その光景は連行し拷問に同席したマリーンにとっては気の良い物では無かった。

 

(野蛮な…)

 

マリーンはムチで打たれているのを見て火星と地球は大差が無い事を改めて実感していると司令室から通信が入るも音声が抑えられているのかマリーンの位地からもザーツバルムの空中ディスプレイの集音機能からも聞こえずに居ると…。

 

「何だと!?それは真か!分かった…すぐに向かう…すまないがクウェル卿…こやつの様子を見て居てくれ…私は一度司令室に向かう…」

 

「ハッ!どうされたので…」

 

「後で話す…」

 

マリーンの質問にもクルーテオは取り合わず状況が分からないスレインを含むクルーテオの部下とマリーンだけが尋問室に取り残されたのだった。

 

「どういう事だ!一体!」

 

そして急いで司令室に向かい到着したクルーテオはオペレーターより先程の件を問いただしていた。

 

「ハッ!スレイン・トロイヤードが奪取した機体から新着の暗号電文が発見され確認してみますと…」

 

「これは…」

 

オペレーターが操作し画面に現れたのはたった四つのアルファベット…だがこの四文字はクルーテオにとってとんでもない事実を伝えるアルファベットだった…そのアルファベットは『PKFE』これは伯爵以上とごく一部の者しか知らない物…これが表すのはPKFE=princess・k night・fear・e r s u t(姫殿下の騎士、フィア・エルスート)と言う意味を指す…当然偽物の可能性もあるが皇族専用の暗号電文を使ってきた辺りまず本物で間違いないだろう。

 

「アセイラム姫が生きておられる…と言う事は…あやつは真実を知り一人で姫を探していたのか…逆賊に悟られぬよう…誰にも明かさず…たった一人で我等に捕まり…殺される危険を顧みず…いや…まだ分からぬ…奴から話を聞かねば……直ちにスレイン・トロイヤードの尋問を取りやめよ!手厚く介抱し私の部屋に呼べ!」

 

クルーテオは司令室から尋問室に通信を繋げ命令するとすぐさま切り今度はメディックを呼ぶ…尋問室に居たクルーテオの部下は急いでスレインを介抱し担架で尋問室から運び出すのをマリーンは見送るとザーツバルムに通信を繋げる。

 

「ザーツバルム卿…これは一体?」

 

「分からぬ…しかしこれでスレインの命の安全は確保できた…ひとまずはそれで良いだろうが…マリーン…クルーテオから目を離すな…」

 

「ハッ!」

 

ザーツバルムの厳しい顔つきにマリーンは背を正して答え、通信が切れるとニタリと笑いながら尋問室を後にする。

 

(面白くなってきた…)

 

尋問室を後にするその背中には狂気が漂い秘かな含み笑いが尋問室に響くのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
フィアのお陰でスレインの尋問回避は出来ませんでしたが軽くなりました。
それと補足説明ですがフィアの存在はあまり表に出ない為にその存在を知っている者は少ないです当然名前ならもっと少ない…なのであのアルファベットはそんなに多くの人が偽造出来る物ではないです!まぁスレインはその英列の存在すら知っていなかった訳ですが。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第十五星 全ては闇に消えるーall vanish into the nightー



今回は完全に火星サイドです!地球側は一切出てきません。



 

 

 

スレインside

 

フィア卿との思わぬ再開に驚きながらもアセイラム姫を見つけ喜ぶのもつかの間、フィア卿と供に居たオレンジ色のカタフラクトのパイロットに撃ち落とされた時に、フィア卿の声が聞こえた…。

 

『これをクルーテオ卿に!あの人は信用出来る!』

 

その言葉を聞いた直後、大きな衝撃と共に意識を失った…そこでマリーン卿のお陰で助かりクルーテオ卿の揚陸城に連れ戻された…その時にクルーテオ卿にフィア卿の電文の事を伝えれば酷い事をされなかっただろう…だが今までの仕打ちのせいでどうしても信じられず伝えれなかった。

 

(一体…何が……)

 

この戦争終結の為…いや…敬愛する姫様の為に拷問に耐えていると突然クルーテオ卿が部屋を退出し苦い表情で同席していたマリーン卿も訳が分からない様子でつかの間の休憩を過ごしていると…。

 

『直ちにスレイン・トロイヤードの尋問を取りやめよ!手厚く介抱し私の部屋に呼べ!』

 

「え……ハッ!承知しました!」

 

クルーテオの突然の言葉に尋問室に居た兵士は驚きながらも返事をし手錠を外し担架に乗せられ怪我の手当てを施されるとクルーテオ郷の待つ部屋に案内され恐る恐る入室し広い執務室の中心に古風ながらも優雅さを持つ椅子にクルーテオが座っていた。

 

「来たか……座れ…」

 

「は…はい…」

 

先程の尋問の時とは打って変わり静かな雰囲気のクルーテオの言葉にスレインはクルーテオの向かい側に座る…。

 

(本当に一体何が…)

 

もう訳が分からないスレインは椅子に座るも落ち着かない…そんなスレインを置いてクルーテオはスレインに静かに話しかける。

 

「スレイン・トロイヤード…」

 

「は…はい……」

 

「貴様の奪取したスカイキャリアから特殊な音号電文が見つかった…皇族と伯爵以上の者しか知らぬ暗号電文だ…アセイラム姫は生きておられるのか?」

 

「………」

 

クルーテオの問いにスレインは黙り込む…それを見てクルーテオは怒ること無くそのまま話を続ける。

 

「あの尋問の際、貴様はアセイラム姫殿下に忠誠を誓っているかと言ったな……」

 

「はい…」

 

「私はアセイラム姫殿下に忠誠を誓っている…騎士であるフィアには劣るかもしれぬが私も姫様の為なら命を投げ出す覚悟はある…」

 

クルーテオの真摯な言葉にスレインは息をのむ…スレインはクルーテオの言葉に嘘偽りは無いように見えた…するとスレインは静かに話し始める。

 

「クルーテオ卿…一つお聞きしたい事があります…」

 

「良い…申せ…」

 

ーーーー

 

マリーンside

 

『トリルラン卿に指示したのは貴方なのでは…今度こそ殺せと…生かしておけば一族郎党逆賊だと…』

 

『まさか貴様…トリルラン卿の最後を見たのではなく…』

 

クルーテオ卿の一瞬の隙を突いて盗聴器を着け…状況を確認しようとしたマリーンは予想以上にやばい状況を聞いて冷や汗をかいていた…。

 

『はい…僕が殺しました…』

 

『貴様は…』

 

その言葉を聞いてクルーテオは悟る…この事が明らかになれば即刻処刑と言うのにその危険を犯してまでスレインはアセイラム姫の為に引き金を引いた…その事実にクルーテオが驚いているとマリーンは盗聴を止めてザーツバルムに通信を繋げる。

 

「ザーツバルム卿…」

 

『マリーン…何かわかったか?』

 

「どうやらクルーテオはアセイラム姫殿下の生存を知ったようです…フィアの差し金で…」

 

『フィア・エルスート卿か…若いながらも恐ろしい奴だ……こちらも種子島の事で分かった…デューカリオンが見つかったらしい…今頃、クルーテオにも知らせが届いているだろう…』

 

「デューカリオンが…まだ残っていた…」

 

ザーツバルムの言葉にマリーンは驚き言葉を失う…。

 

『しかし…クルーテオに姫殿下の無事を知られれば…我々に辿り着くのにそう掛からないだろう…』

 

「確かに…」

 

ザーツバルムの言葉にマリーンは同意する…クルーテオは堅物だが三十七家門の中でも優秀で人脈も豊富だ…用意周到かつ慎重に行った暗殺でもクルーテオなら辿り着く可能性は高い。

 

『マリーン…貴様に任せる…ただしスレインは』

 

「分かっております……少し荒くなりますが…私にお任せ下さい…」

 

『うむ…』

 

ザーツバルムはマリーンの言葉に静かに頷くと通信を切りそれを見届けたマリーンはクルーテオ卿の配下に紛れたザーツバルム派の連中にゼダスの発進準備を指示したのだった。

 

ーーーー

 

そんなマリーンの行動も知らずにクルーテオはスレインの報告を聞いていた。

 

「つまり貴様は…姫殿下の御生存を皇帝陛下に伝えるために謁見の間を使用し姫殿下を探していたのか…アルドノアを持った者と供に行動をしていると…」

 

「はい…しかしあの様な戦艦が出てくるとは…」

 

「戦艦だと?まさか…先程報告にあった…デューカリオンの反重力能力を持った戦艦だと言うのか…」

 

クルーテオは地球人がその様な戦艦を建造していた事を知り、驚きながらも安心する…その様な戦艦に乗艦していれば姫殿下も大丈夫だろうと…その瞬間、突然の振動がこの揚陸城全体に襲いかかる。

 

「なんだ!?一体何が起きたのだ!」

 

『現在調査中です…これは……マリー………』

 

突然の振動に驚いたクルーテオはすぐに司令室に繋げるが何かを叫びかけたオペレーターの声と共に通信が切れる。

 

「クソッ!一体…何が…」

 

ーーーー

 

司令室…そこには先程、クルーテオと話していたオペレーターの無残な姿と爆発を起こしボロボロになった司令室…その中心にゼダスの姿があった。

 

「フフッ…圧倒的な力の前には火星人も地球人も変わらない…」

 

マリーンはそう呟くとゼダスをクルーテオの部屋に向けて動かすのだった。

 

ーーーー

 

尋常じゃない様子にスレインはクルーテオに聞くがクルーテオも分かっていないようだった。

 

「伯爵!一体なにが起きているのですか?」

 

「分からぬ…ッ!」

 

クルーテオの返事と同時に部屋の壁が吹き飛びその勢いは天井も粉砕し冷たい雨が部屋に降り注ぐ。

 

「伯爵!グワッ!」

 

「スレイン!……なに?ゼダスだと?」

 

破片に頭を打ちつけ意識を失ったスレインを見てクルーテオが叫ぶが襲撃者を見て驚きながらも真実を悟る。

 

「そうか…そういう事だったのか…姫様の暗殺を企てたのは……私のタルシスを!!」

 

真実を悟り言葉を発したクルーテオはその言葉を最後まで言えなかった…ゼダスの手のひらから形成されたビームサーベルで消滅したからだ…高温の塊であるビームサーベルは干渉した床を瞬時に溶解させクルーテオの骨すら残さなかった……死んだ…その表現ですら温い…消えたのだ…その存在すらまるで無かったかのように灼熱の塊によって消し去られた。

 

「……」

 

その姿をマリーンは表情を変えずに見届けると降りしきる雨の中、気絶したスレインを静かに見るのだった。

 

 

 






どうも砂岩でございます!
結局クルーテオは亡き者に…殺したのはマリーンですが…。
この話を見た当時は仮面を着けたクルーテオが再登場!なんて想像していましたね…ミスターブシドーではなくミスターキシドー的な…ガンダム見過ぎましたね…。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第十六星 戦士達の木陰ー shade of a treeー

 

 

デューカリオン艦内、廊下…取り調べが終わりアセイラムを含む四人は話ながら艦内を散策していた。

 

「フィア…セラムさん…」

 

「はい?」

 

「なんだ?」

 

伊奈帆はアセイラムを偽名で呼ぶがすぐに気づき言い直す。

 

「いえ…アセイラム姫…」

 

「セラムで構いません…伊奈帆さん…」

 

「いいえ構います…今度は殿下も着けてください…それとエルスート卿です」

 

エデルリッゾは少し怒ったように三人の間に割って入りアセイラムとフィアの言い方を訂正するがフィアに咎められる。

 

「エデルリッゾ…」

 

「しかしフィア…」

 

「すまないな…伊奈帆…悪い奴じゃ無いんだが…この通り堅物でな…」

 

咎めた後、フィアが伊奈帆に謝るとエデルリッゾがシュン、と言う感じで可愛く落ち込むが伊奈帆は話を続ける。

 

「種子島で発見された…」

 

「おーい!伊奈帆ぉ!!」

 

しかし伊奈帆の言葉を遮るように走って来たカームの怒鳴り声がフィア達の耳に入る。

 

「お前!火星人が紛れ込んでるの…知ってたのか!?」

 

「あぁ…」

 

「誰だよソイツ!俺がオコジョの仇を討ってやる!」

 

カームの怒りを見てフィアはアセイラムを庇うように一歩前に出るがアセイラムはフィアの後ろからカームに話しかける。

 

「私がその…火星の王女です…」

 

「姫様…」

 

「……はい?」

 

突然名乗られ状況が飲み込めないカームは変な声を出すがアセイラムは話を続ける。

 

「多くのお仲間が傷つき…亡くなった事を心から悼みます…この戦争は決してヴァースの本意ではありません…無意味な争いを一刻も早く終わらせるよう…努力いたします…」

 

「え…は……」

 

アセイラムの誠意が伝わったのか…まだ状況が飲み込めないのか…カームは変な声しか出さないが暫くすると顔を赤くして敬礼する。

 

「頑張って!!」

 

「なーに赤くなってんのよ…」

 

「タコみたーい」

 

するといつの間にか居た韻子とニーナにジト目で見られカームは驚く。

 

「な!なんだよいきなり!」

 

「仇討つんじゃなかったの?」

 

「火星人は全員敵だーって言ってなかった?」

 

「そっ…そんな事言ってねーよ…火星人だからって…いい奴と悪い奴が居るんだろ…なぁ伊奈帆…」

 

韻子とニーナの攻撃に不利を悟ったカームは伊奈帆に助けを求めアセイラムの方を見るがそこには無言の伊奈帆とジト目で見るフィアの姿がありカームは耐えきれずに叫ぶ。

 

「フォローしろよ!」

 

「やはり地球人は信用できません…」

 

さらにエデルリッゾの言葉でカームは完全に轟沈したのだった。

 

ーーーーーーーー

 

そしてデューカリオン食堂…そこには韻子、ニーナそれにフィアの姿があった…三人は艦内にあったお菓子を広げて話していた…アセイラムは伊奈帆とお話中だ。

 

「まさかフィアが火星騎士だったなんて…」

 

「すまない…恨めしいなら殺してくれても文句は言わない…」

 

「もう~堅いな~フィアは何度も私達を助けてくれたじゃん~」

 

韻子の言葉にフィアは謝罪するがニーナは間延びした声でフィアを慰める。

 

「すまない…」

 

「もう良いって!これからも友達で居てね!」

 

「そうそう~」

 

「……ありがとう」

 

韻子とニーナの言葉にフィアは嬉しそうに礼を言うと二人は微笑み和やかな空気が流れるが韻子の一言で場が一変する。

 

「……で…フィア…ずっと聞きたかったんだけど…何カップ?」

 

「ハッ?」

 

「フィアも同じ歳の癖に……私の倍あるってどう言う事!!」

 

「ヒッ…」

 

韻子の突然の豹変にフィアは後ずさるがニーナも興味を持ったようで既に後ろに回られた。

 

(私が後ろを取られた…)

 

「大人しくしてね~フィア~」

 

「遺伝子なの?遺伝子の違いなの?」

 

ジリジリと近づく二人を見てフィアはその表情に恐怖を表し叫ぶのだった。

 

「い…イヤァァァァァ!!」

 

その頃、デューカリオンの外でウミネコを見ていた伊奈帆は僅かに耳を動かしデューカリオン艦内を見つめるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「酷い目にあった…」

 

フィアは若干ボロボロな姿で寄港している港の海風に当たっていた…アセイラムは身元がハッキリしたため士官室に移されより一層安全が確保された…その為フィアも身辺警護も部屋に居るときは特に要らない為、ゆっくりしていた。

 

「どうしたの?」

 

「ん?…なんだ伊奈帆か…」

 

「なに?その反応…」

 

「別に…」

 

フィアの扱いになんとなく雰囲気が若干不機嫌そうな伊奈帆は黙って座っていたフィアの隣に座る。

 

「もう少し…酷い扱いを受ける覚悟はしていた…優しいな…皆は…」

 

「韻子たちだからって言うのもあると思うけど…フィアがフィアだから…」

 

「は?」

 

伊奈帆の言葉をフィアが理解出来ずに聞き返すと伊奈帆は淡々とした口調で言い返す。

 

「フィアが火星の人と同じだったら韻子たちは受け入れてない…フィアが優しかったから…セラムさんを助ける為とは言え…フィアが全力で僕たちを守ってくれたからだよ…」

 

「それをお人好しと言うんだ…普通そんなんで受け入れたりしない…」

 

「そうかな…」

 

「そうだな…」

 

よく分からないと言った風な伊奈帆を見てフィアは寝転ぶと暗くなりかけた空に星が少しずつ光り始めていた。

 

「空か…美しいな…あの中に火星が…」

 

「そうだね…でもこの時間じゃまだ火星は見えないよ…」

 

「ハァ…」

 

「なに?」

 

フィアは伊奈帆の言葉にため息をつき伊奈帆は訳が分からず聞き返すがその反応すらフィアはジト目で見続ける。

 

「……」

 

「本当になに…?」

 

「なんかな…夢が無いな…お前は……」

 

フィアの呆れた声が夜空に響くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

地球軌道ザーツバルム卿の揚陸城、そこの一室にてスレインが寝かされていた…その横の椅子にはザーツバルムが座っていた。

 

「ザーツバルム卿…タルシスの回収を終えました…」

 

「そうか…大義である…マリーン」

 

「ハッ…」

 

「座りたまえ…スレインが目覚めるまでゆっくり話でもしようではないか…」

 

マリーンはザーツバルムの言葉に驚きながらも微笑み深く頷く。

 

「はい…では失礼します…」

 

「うむ…」

 

マリーンはザーツバルムの前に座り、紅茶を淹れる…紅茶の香りが部屋を支配しマリーンとザーツバルムは安息の一時を過ごしたのだった。

 

 

 

 





どうも砂岩でございます!
今回は休憩回と言う事でのんびりとちょっとザーさんとマリーン、フィアと伊奈帆の絡みをやりたかったので良かったです。
最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第十七星 人の輪ーcircle of peopleー

 

 

 

「うっ……」

 

地球軌道、ザーツバルムの揚陸城…そこでスレインは目を覚ますと横から声をかけられる。

 

「目覚めたか…スレイン・トロイヤード」

 

スレインはザーツバルムの声のした方を見るとそこには紅茶の入ったカップで静かに飲んでいるマリーンの姿とスレインの目覚めに気づき立ち上がるザーツバルムの姿があった。

 

「僕は……確か…クルーテオ卿と」

 

「案ずる事は無い…マリーンが既に始末した…」

 

「え!?」

 

ザーツバルムの言葉にスレインは驚きを隠せない…スレインの記憶が正しければクルーテオ卿はアセイラム姫に忠誠を誓う者の一人だ…それを見透かしたようにいつの間にかザーツバルムの横に居たマリーンが話す。

 

「分かるだろう?あの振動は私のゼダスが原因だ…」

 

「まさか…揚陸城を襲ったのはマリーン卿…」

 

マリーンの言葉でスレインはハッとするのを見てザーツバルムは静かに真実を告白する。

 

「その通りだ…この我こそがアセイラム姫殿下暗殺を企てた反逆者である…」

 

「そうですか…だから真実を知る者を…クルーテオ卿を…しかしなぜ僕を助けたのです…」

 

「我はそなたの父君に恩義がある…故にそれに報いる義務がある」

 

「恩義…?」

 

ザーツバルムの言葉にスレインはイマイチ理解出来ないで居るとザーツバルムは悲しそうに静かに話す。

 

「我は十五年前…開戦の折、我は先兵として地球へ降下した…そこでヘブンズ・フォールに見舞われ瀕死の重傷を負った…月は割れ地殻変動が起き救助のあてもない天変地異の最中で……我はそなたの父君、トロイヤード博士に拾われ命を救われたのだ…」

 

「父さんが…」

 

スレインがザーツバルムの話に言葉を失い…背中から悲しみが溢れているザーツバルムを見てマリーンは静かに悲しそうに見守るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「よく周囲を見て…ほら!サーモグラフィーも警戒を怠らない…」

 

『はい!』

 

地球、デューカリオン艦内のカタフラクトハンガーではアレイオンのコックピットを使って韻子は訓練を行っていた。

 

「へ~韻子の奴、結構やるなぁ…」

 

「彼女は中々いい勘してるわ…カーム君も練習する?」

 

「俺…整備員に回されたんですよ…」

 

「今の所はね…」

 

「それって…空きが出来るって事ですか?」

 

「戦争だからね…」

 

韻子の訓練を見ていたユキの言葉にカームは驚き、少し嬉しそうに反応するがその後の言葉を聞いて複雑な表情をしていると後ろから声をかけられる。

 

「それ…私にもやらせて」

 

「オッ…狙撃少女」

 

声をかけたのはライエ…カームが呼んだ通り大破のヘラスにアレイオンのヘビーバレルの狙撃で止めを刺した本人だ。

 

「でも貴方…教練を受けてないんじゃ…」

 

「ゲームで覚えた…」

 

「あ!それってシムカットⅩ?あれよく出来てるよな!俺実習はイマイチだったんだけどアレは上手いんだぜ!でもよくそれで実機の操縦できるようになったなぁ」

 

ユキの疑問に答えるライエに対してカームが嬉しそうに話し掛けるが当の本人のライエは聞いていないのか全く無反応だ…すると話していたカームはアセイラムにハンガーを案内する伊奈帆を見かけて呟く。

 

「火星人か…俺ら地球人と変わらねーよな…まぁフィアを見てたら火星人は悪い奴だけじゃないってよく分かるぜ」

 

アセイラムを守るように一歩後ろに待機するフィアを見てカームは笑う、カーム自身もニロケラス戦の時、スカイキャリアの攻撃から守ってくれた事もあってフィアに対して悪い感情は全く浮かばなかった…。

 

「伊奈帆の奴もヒッデーよな!姫の正体知ってたのに黙ってやがったんだぜ…」

 

「ま…なお君も大人になったって事かな?せめて姉には話して欲しかったな…好きな子出来たんなら…」

 

「え?」

 

『そ!それ!どう言う事ですか!』

 

カームのぼやきに反応してユキも呟くとあまりにも衝撃の言葉にカームはもちろんの事、訓練していた韻子はシミュレーターの自機が大破した爆発音と共に無線で声を上げる…そんな事お構いなくユキは話を続ける。

 

「今のご時世…火星人なんて反対されるもんね~」

 

「ユキさん…それってお姫様の事ですか?」

 

「ん~お姫様はどっちかって言うと私と近いかも」

 

「親愛ってやつですか…」

 

「ホッ…ユキさん…紛らわしい事言わないでくださいよ」

 

まさかの言葉にテンパりアレイオンのコックピットから上半身を出した韻子は損したと言わんばかりに戻ろうとするとカームがフッと気づく。

 

「ユキさん…”は”ってどう言う事ですか?」

 

「フフッ♪だってね~お姫様よりフィアちゃんと居る方が楽しそうなんだもん、なお君」

 

『ほわぁぁぁぁ!!』

 

再びのユキの爆弾発言に韻子はまた大声を無線で上げる…カームは伊奈帆を遠目で見るが相変わらずの仏頂面に疑問の声を上げる。

 

「そんな気なさそうだけどな…笑顔一つ見せないし、いつもと同じ…愛想ない顔してるけど…」

 

「全然違うわよ」

 

「そうですか?」

 

「家族なんだから分かるわよ…嬉しい顔、落ち込んでいる顔、嘘ついてる顔…アレは相当入れ込んでる顔ね」

 

「そうかな?」

 

まだ疑うカームを見てユキは楽しそうに説明を続ける。

 

「ていうかあの朴念仁が用事も無いのに寄ってたりしないわよ…昨日なんか寄港中、二人で星を見てたのお姉さんはちゃんと見てるんだから♪」

 

「マジすか!?」

 

ユキの言葉にカームは納得していると凄い形相の韻子があり得ない速さでアレイオンを降りてやって来た。

 

「界塚准尉!休憩良いですか!?」

 

「どうぞ~」

 

「俺も!」

 

降りてきた韻子は許可を取り伊奈帆の元に向かうカームもそれに続き韻子を追いかけるのだった…そんなんで様子を見ていたユキだがライエにアレイオンを使いたいと言われ準備をする…するとライエが質問してきた。

 

「本当に分かるの?嘘をついてる顔…」

 

「まぁね…貴方もその顔…嘘をついてる訳だ…火星人でしょ?」

 

「!?」

 

ユキの言葉にライエの顔は思わず強張るが次の一言でその表情は一気に白けた。

 

「しかも騎士でしょ?そういうハードル、男の子は燃えやすいのよね~姫様の騎士と敵側の兵士…立場上絶対に相容れてはならないと言うのにお互い惹かれ合う…クゥゥ!妄想が広がるわ!」

 

なんか自分の世界に入ってしまったユキを見て再び拗ねたような顔に戻ったライエは黙ってアレイオンのダガーを上げるのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「なる程…フィアはこの機体に乗っているのですね」

 

「はい…このスレイプニールの四号機に乗ってます」

 

伊奈帆の説明を一通り受けたアセイラムはフィアに話しかけフィアは直立不動で答える…完全に仕事モードに入って居たフィアの耳に届いたのはアセイラムの次の質問では無く韻子の声だった。

 

「フィア!」

 

「ヒッ!!」

 

韻子は特に怒っても何でも無いのだが昨日のトラウマがフィアの恐怖心を蘇らせ先程の姿とは想像できない可愛い声を上げる。

 

「あら!フィア…もう少しそう言う所を出して貰えると楽しいのですが」

 

「まさかフィアからそんな声が聞けるとは…」

 

「………」

 

それを聞いたアセイラムとエデルリッゾはちょっと嬉しそうにしているが伊奈帆は全く表情を変えずに黙ってフィアを見る。

 

「楽しいって何ですか!?姫様!」

 

「フィア!絶対負けないからね!!」

 

「ハッ!?」

 

「おいおい、韻子…いきなり言ってもフィアが分からないだろう?」

 

全く状況が飲み込めないフィアを中心に韻子とカームが話しているのを見たアセイラムは安心していた…フィアも少し融通が効かない時があるので心配していたが上手く輪の中に入っているフィアを見て思わず笑顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 






どうも砂岩でございます!
今回はスレインとザーツバルムの会話と地球側なんですがフィア自身はあまり出てきませんでした…ちょっと周りから見たフィアを書きたかったのでユキ姉の会話をきっかけにちょっと書いてみました!
伊奈帆のアセイラムへの気持ちは親愛にしました…体の一部って家族も入りますからね!
では!最後まで読んで頂きありがとうございました!




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第十八星 逃れられない過去ーNot escape events of the pastー

 

 

 

 

 

ライエ・アリアーシュ…彼女は火星人だ…しかし火星人を憎んでいる…それは何故か?彼女の父はアセイラム姫暗殺未遂の実行犯でありこの任務に成功していれば地位と報酬を与えられる筈だったがザーツバルムの配下トリルランのニロケラスに殺され帰らぬ人となった。

 

ウォルフ・アリアーシュ…それがライエの父の名でありパレードの際にフィアに銃を向けられた人物の名である。

 

「熱源体発見…十時の方向まもなく射程距離……!!」

 

暗殺未遂の実行犯の中での唯一の生き残りとも言えるライエは韻子が去った後にアレイオンのコックピットを使ってシミュレーション訓練をしていた…その相手とは……紫色のずんぐりとした機体、ダンゴムシを連想されるそのフォルムは彼女の因縁の相手でありトラウマの元凶だった。

 

「あ……あぁ…うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ライエちゃん…駄目よ銃身がオーバーヒート」

 

彼女はシミュレーションである事を忘れ引き金を引き続ける…注意するユキの声も混乱しきったライエの頭には入らず叫びながらニロケラスを撃ち続けマシンガンは爆発、振り上げられた手によって自機が破壊される…皮肉にも父と同じ…殺され方だった。

 

「ハァ…ハァ……ハァ………」

 

暗くなったコックピットでライエはひたすら息をし続ける…まるで自分が生きているのを確かめるように…。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ザーツバルムの揚陸城…スレインが目覚めた部屋の机には料理が並べられザーツバルムとスレインの二人だけが静かに座っていた。

 

「どうした?食わぬのか?心配するな…毒など入っておらぬ…殺すつもりならとっくに殺している?」

 

「伯爵…」

 

「なんだ?」

 

「何故そこまでして…地球と戦われるのですか?」

 

料理を前にして手を着けないスレインの質問にザーツバルムは当然のように答える。

 

「領主として領地を広げる為に戦うのは領民に対する務めだ…」

 

「それだけの為に…」

 

「それだけの大義である…」

 

するとザーツバルムは料理である鳥を切りスレインに見せるように持ち上げる。

 

「これは空を飛ぶ生き物だそうだな…」

 

「はい…あ…いえ…これは飛ばない種類の鳥です…」

 

「クロレラとオキアミを糧に生きるヴァースの民には想像もつかぬ贅沢…それを事もなげに支援物資として施していた地球人には怒りすら覚える…」

 

憎々しげに呟くザーツバルムを見てスレインは顔を伏せながら答える…。

 

「これは贅沢品ではありません…宇宙輸送と保存に適した加工食品です…」

 

「失礼します…」

 

すると部屋に水差しを持ったマリーンが入室しザーツバルムの水を入れる中、ザーツバルムは話しを続ける。

 

「水と空気に恵まれ無数の生命がひしめく地球にのみ許された文化だ…祖国ヴァースはアルドノアによって科学文明だけは発達したものの文化は何も育っておらぬ…この豊かな恵まれた星を手にせぬ理由は無い…」

 

「でも…だからと言って…アセイラム姫を利用しなくても…」

 

「もう遅い…戦の幕は切って落とされた…姫殿下には人身御供となっていただく…」

 

「姫に罪はありません!」

 

「姫殿下は皇族…その生まれ自体が罪…十五年前、皇族は騎士を焚きつけ地球へ進軍させた…その責は……その血で償ってもらう…」

 

「ッ!」

 

ザーツバルムの言葉にスレインはカッとなったのか突然立ち上がるとナイフを持ち首元に突きつけるが…ザーツバルムはもちろん、そばに居たマリーンすらもそれを冷静に見るだけで抵抗の素振りすら見せない。

 

「姫を殺さないでください…」

 

「アルドノアを中心とした封建制度の中で虐げられた民…その貧しく卑しい国が歴史ある星を蔑む…何と愚かしいことか…」

 

ザーツバルムの言葉は正しくスレインは思わず怯むがナイフを首元からどけずに突きつけ続ける。

 

「地球を妬み、地球を恨む事で民衆を治めていたヴァースが地球を侵略する事でしかその大義を保てぬほど病むのも道理…それはそなたの傷がよく知っているだろう?」

 

ザーツバルムの言葉にマリーンはチラリとスレインを見て悲しい顔をする…その現場は火星人であるマリーンですら何か感じざる得なかったからだ。

 

「皇族が戦を選んだのだ…ヴァースを治める為に…そして…その戦によってヘブンズ・フォールが起き…我が婚約者オルレインは命を落とした!!」

 

「ザーツバルム卿!」

 

感情が爆発したようにザーツバルムは首に当てていたナイフを握りしめそこから血が溢れる…それを見たマリーンは驚くが思わず駆け寄ろうとした足を止める。

 

「この戦は我が復讐、この戦は我が天命…逆らうようなら容赦はせぬ…例え恩人の息子であろうと…」

 

ザーツバルムはナイフを握りしめながら立ち上がり尋常ではない気迫がスレインを襲いスレインは言葉を失いその場に座り込むのだった…それを見たザーツバルムはナイフを机に置くと部屋を出る…マリーンはそれを見て慌てて追いかけ衛兵にスレインの拘束を命じるのだった。

 

ーーーー

 

「ザーツバルム卿!」

 

「………」

 

「ザーツバルム卿!!」

 

「ッ!なんだ?マリーン…」

 

黙って移動するザーツバルムをマリーンは大声を出して引き留めるとザーツバルムは気づいたように足を止めマリーンを見るとマリーンはザーツバルムの手を掴み手当をする。

 

「ザーツバルム卿…無理をしないで下さい……」

 

『貴方はいつも無茶ばかり…少しは私の身になってください…』

 

「ッ!」

 

心配し手当をするマリーンを見てフッとザーツバルムはオルレインに言われた事を思い出しているとマリーンは手早く作業を終わらせる…綺麗に包帯が巻かれておりザーツバルムはそれをしばらく見つめる。

 

「『無茶をなさらないで下さい…見ているこっちがハラハラします…』」

 

「……あぁ…気をつける…」

 

最近よく思い出すせいかマリーンがオルレインと重なって見える…決してならない事だ…部下であれ…マリーンに失礼な事は分かっている…しかし無意識にマリーンを通してオルレインを見ている自分が少し嫌になるザーツバルムだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

地球、デューカリオン艦内……食堂でアセイラム達は食事のトレイを受け取り席を探しているとアセイラムがライエを見つけ駆け寄る。

 

「ライエさん…ご一緒してもよろしいですか?」

 

「ぐぬぬ…」

 

「エデルリッゾ…」

 

話し掛けられたライエがその方を見るとアセイラムと自分に威嚇してくるエデルリッゾ、それを小突くフィアの姿があった…。

 

「好きにすれば…」

 

許可を貰ったアセイラムは喜んでライエ前に座ると元気に話し掛ける。

 

「地球の食事はとても美味しいですね!ヴァースにない珍しい物ばかり…」

 

珍しい…その言葉で表現できるアセイラムはやはり姫なのだなとライエは実感する…領主である伯爵であっても地球の食事は貴重であり姫直属の騎士であるフィアですらだし巻き卵を見た事が無いと言うのにアセイラムは”珍しい“と言えるだけいい生活は送ってきたのだろう。

 

「それも光学迷彩?」

 

「いえ…これは伊奈帆さんのお友達のニーナさんから貸して頂きました…ドレス姿で狭い艦内は歩きにくいだろうと…」

 

「う…」

 

隣に居たフィアはアセイラムの言葉を聞いて思わず目をそらす…ニーナからアセイラムのドレスを着たいと言われ「交換したら」っとフィアが提案したら数分後にはちゃんとアセイラムの服が制服に変わりニーナの部屋から鼻歌が聞こえたのだ…もちろんこの制服に関してもエデルリッゾはいい顔をせず、それを見たフィアはこの事は心の中に留める事にしたのだ。

 

「いい人ですね…」

 

「全く…姫様が地球人と同じ服を…」

 

「まぁ…姫様には良い経験になられたし…よかったじゃないか…」

 

「お姫様…あげる」

 

エデルリッゾの言葉にフィアは冷や汗をかいていると小さな女の子二人がアセイラムに駆け寄り折り鶴を渡す。

 

「まぁ…素敵、地球の鳥の紙細工ですね!ありがとう…大切にします…」

 

「なかなか良い心がけですよ、平民…地球とヴァース平和の暁には皇帝陛下に進言して……キィィ!」

 

女の子二人にエデルリッゾは年上ぶるがアッサリ無視されエデルリッゾは悔しいように声を上げる…するとライエがアセイラムに向かって呟く。

 

「どうして?どうして正体を明かしたの?火星人は敵だと思われているのに…どうして平気でいられるの?火星人に裏切られたのに…変よあなた…」

 

「無礼者!姫様に向かって!!」

 

「………仲間だと思ってたのに…」

 

エデルリッゾの叫びにライエは無視してトレイを持ち立ち去ると同時にライエは悲痛な呟きを置いていく…フィアはそれを聞いてライエを危うい状況だと気づくが彼女はただ見ることしか出来なかった……このタイミングが彼女を止める最後のチャンスだと知らずに。

 

ーーーー

 

「全く…姫様相手にあの無礼な態度は許せません…」

 

「良いのです…私も全ての人に受け入れて貰えるとは思っていませんから……フィア?」

 

デューカリオン艦内、人が混む前にシャワーを浴びようと歩いているとフィアは何かを考えるかの様に黙り込んでいた…その様子を見て心配そうにするアセイラムを見てフィアは笑顔で答える。

 

「いえ…お気になさらず…」

 

「そうですか…ではお先に」

 

「ごゆっくり…」

 

フィアの返答にアセイラムは安心するとシャワールームにエデルリッゾと共に入っていく…あくまで護衛のフィアは一緒に入らずにその出入り口で待機するのが普通である、なのでフィアはシャワーの更衣室前のドアで立っているのだ。

 

その時、フィアの頭にあったのはライエの“仲間だと思ってたのに”と言う言葉だった。

 

(仲間か…もしかして彼女は火星人……しかしライエは最初はニロケラスに襲われていたからだろう…)

 

「フィア…しばらく姫様を頼みます」

 

フィアが考え込んでいると更衣室からエデルリッゾが出てきた。

 

「どうした?」

 

「姫様のお召し物が…」

 

「全く…仕方ないな……」

 

エデルリッゾが若干落ち込んでいるのを見てヤレヤレと言った感じでフィアは更衣室に入る…すると更衣室の床に黒いガラパゴスケータイが落ちていた…落ちた衝撃でか画面が開いておりフィアは思わず拾い上げる…アセイラムの元に死神が近づいている事を知らずに…。

 

「ライエか…でこっちは父親かな…」

 

フィアは拾い上げた際にたまたま画面を見て違和感を覚える…問題はライエの方では無く父親の方だ。

 

(どこかで見たことが……ッ!)

 

記憶を探り終えたフィアの行動は速かった…ケータイを捨てると慌ててシャワールームに入る…そこにはスレインから貰ったネックレスでアセイラムの首を絞めていたライエの姿があった。

 

「貴様ぁ!!」

 

フィアは怒りながら拳銃に手を伸ばすが…無かった。

 

(ッ!?…エデルリッゾに預けたままだった…)

 

呆然としているライエをよそにフィアはライエの元に迫るが突然の衝撃でフィアはバランスを崩す…普通ならこの程度の衝撃でフィアはバランスを崩さないが今回は床に石鹸の混ざった水が流れておりそれに滑ってしまったのだ。

 

「しまった!」

 

フィアの叫びも虚しく激しく壁に頭を打ちつけ一瞬にしてフィアの意識を刈り取るのだった。

 

 

 






どうも砂岩でございます!
フィアちゃんの出番が激しく減少してる…どうしよう…でもザーさんとライエの分を削るのはちょっとアレだし…次で頑張ってもらいます!
最後の絞める所ははどうしようか迷ったんですけど結局絞められる運命に…姫様すいません…。

所で話が変わりますがなんかお話に関係ない番外編でも作ろうと思いまして(気まぐれで)砂岩の文章でも我慢できる…と言う方が居ましたらリクエストして頂けたら出来るだけ書きますので!



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第十九星 あなたの優しさに私は心を引かれたー Your kindness captured my heartー

5000文字なんて初めて書きました…自分で自分にビックリしてます!


 

伊奈帆side

 

種子島に眠り続けていた航空戦艦『デューカリオン』はその名を冠したカタフラクトから得た反重力能力により空を飛び、敵の攻撃を受けること無く目的地である地球連合本部に向かっていた…順調だと思われた最中、突如デューカリオンの要であるアルドノアドライブが停止したのである…それが原因でデューカリオンは雪原に不時着したのだった。

 

「大丈夫?」

 

「う…はい…」

 

突然の衝撃は艦内全てに襲いかかった…当然、廊下で話していた伊奈帆とエデルリッゾも例外なく衝撃が襲いその場に座り込んでいた…伊奈帆はエデルリッゾを心配するとエデルリッゾは何とか返事をする。

 

「一体なにが…」

 

「アルドノアドライブが停止したようです…」

 

伊奈帆の質問にやって来たデューカリオン艦長であるマグバレッジが答えるとエデルリッゾが異を唱える。

 

「そんな筈ありません!この船のアルドノアは姫様が起動したのです!姫様が生きている限り他人が勝手に止める事はありません!」

 

その答えに伊奈帆は最悪の事態に気づく。

 

「セラムさんは…どこだ!?セラムさんは!!」

 

「シャワールームです…フィアと一緒に…」

 

「クッ!」

 

鬼気迫る伊奈帆の質問にエデルリッゾは戸惑いながら答えると伊奈帆はシャワールームに向けて走り出す…それを見てマグバレッジとエデルリッゾも追いかけるのだった。

 

ーーーー

 

「フィア!!」

 

シャワールームに到着した伊奈帆が先に見つけたのは頭から血を流して倒れているフィアの姿だった…伊奈帆はその姿を確認するとフィアを抱き上げて珍しく大声を出す。

 

「きゃぁぁ!!姫様!!」

 

すると奥からエデルリッゾの悲鳴が聞こえ伊奈帆は気を失ったフィアをマグバレッジに託して向かう…そこに居たのは明らかに息をしていないアセイラムの姿だった。

 

「姫様が!」

 

「…呼吸…心拍…共に停止…」

 

伊奈帆はすぐにアセイラムにバスタオルを掛けると一生懸命、心臓マッサージを始める。

 

「姫様…」

 

「タオルを…除細動器を使う…水を拭かないと…早く!!」

 

「あ!はい!!」

 

伊奈帆の言葉に弾かれるように動き始めるエデルリッゾだがマグバレッジが既に用意しておりタオルをエデルリッゾに渡す。

 

「手伝おう…」

 

「艦長…フィアは?」

 

「止血はした…後はメディックに任せよう…」

 

それを聞いて安心したのか伊奈帆はアセイラムの心臓マッサージに集中する…その際にエデルリッゾが交代を申し出たが体重の関係で却下された。

 

号泣して祈るエデルリッゾの横に居たマグバレッジは冷静に伊奈帆の手際の良さに驚いていた。

 

「手際がいいですね…」

 

「学校で習います…」

 

「学生は真面目に習いません…人工呼吸を冷やかすだけ…」

 

「命が掛かっています…」

 

「……う…」

 

伊奈帆の答えにマグバレッジは感心していると心臓マッサージを受けていたアセイラムの顔が変化し体が動き始める…その様子に気づき伊奈帆は心臓マッサージを止めるとアセイラムは苦しそうに顔を歪めると気がつき大きく息をする…。

 

「く……ハァ!!」

 

「姫様!!」

 

「良かった…大丈夫ですか?」

 

「いな…ほ…さん…私は…」

 

「シャワーを浴びて倒れたみたいです…どうしたんですか?」

 

いつも通りの冷静な伊奈帆の声にアセイラムは落ち着き混乱していた記憶が戻りハッとする。

 

「私は…彼女に…」

 

意識を取り戻したアセイラムに全員の気が向いている時、今回の事件の犯人であるライエがマグバレッジの後ろに忍び寄り腰のホルスターから拳銃を取り出す。

 

「動かないで!!」

 

ーーーーーーーー

 

フィアside

 

デューカリオンの墜落によりバランスを崩して壁に思いっきり頭をぶつけそのまま意識を失ったフィアはマグバレッジによって止血をされ…壁にもたれかかった状態のままで放置されていたが突然の銃声に意識を取り戻した。

 

「あ……」

 

(私は………姫様!!)

 

記憶の整理がついたフィアは動こうとするが頭を強く打ったせいか手足が痺れて動けない。

 

「君は…一体何者だ……」

 

「ヴァース……火星人よ…」

 

「だろうな…」

 

「あなた…」

 

「ッ!フィア!」

 

ライエの告白にフィアは少しでもアセイラムから気を逸らすために話しかける…その声を聞いたライエはフィアを睨み伊奈帆は驚きの中に少しの安堵を混ぜた声を上げる。

 

「失礼なのは分かっているが…ケータイを見させて貰った…お前の父親は新芦原のパレードで私が捕まえ損ねた暗殺者共の実行犯だ…」

 

「そうよ…」

 

ライエはフィアの言葉を肯定しながらフィアに銃を向ける…フィアの居る位置は伊奈帆とライエのちょうど真ん中で距離が近いフィアの方が脅威だと考えてのだろう。

 

「父は地球に住む火星のスパイ…貴方を殺せば地位と報酬が約束されていた…でも任務を終えると無残に殺された…口封じの為に…」

 

「だから…火星人を恨んでいたのか…」

 

「火星人は信用できない!火星人は皆敵!!…私は…火星に戻れない…地球人でも無い……」

 

フィアは納得の声を上げるとライエは大声を出して銃を握りしめる…その様子に嘘偽りは無くそれを見たフィアは悲しそうに顔をうつむける。

 

「なのに…貴方は火星人だって明かした…火星人なのに受け入れられて!火星人なのに居場所が出来て…火星人なのに!!」

 

ライエの叫びにフィアは俯きながら静かに話し始める。

 

「そうだな…私達が火星で大人しくしていれば済んだ話だ…いくら暗殺を企てようと地球に来なければ何も起こらなかった…」

 

「そうよ!貴方達が来たから!」

 

ライエの感情は最高潮に達してフィアに向けている拳銃は強く握りしめ大きく震えていた。

 

「ごめんなさい…私が…貴方を不幸にしたのですね…」

 

「姫様!」

 

意識を取り戻したばかりでフラフラなのにアセイラムは立ち上がりライエの元に歩き始める、それを見たフィアは慌てて叫ぶがその叫びも虚しく歩を進める。

 

「私が…愚かだったのです…平和を願ったつもりでした…正しい事をしたつもりでした…でも…私が我が侭を通しただけにすぎませんでした…」

 

(頼む!動いてくれ!)

 

うっすらと涙を流しながら近づくアセイラムを見てライエは銃を向け直し後ずさる…それを見たフィアは動こうとするが若干痺れが残っており瞬発的に動くにはまだ時間が必要だった。

 

「むしろ…地球との関係は悪くなってしまった…たくさんの人が死にました…どんなに正しい事をしたと思いこんでも…現実には…大勢の人に不幸が…降りかかって…貴方にも…貴方のお父様にも…」

 

アセイラムの言葉はその場に居た者、全員が聞き入り同時に悲しくなった…誰かの為にと行動した事が全て悪い方向に向かってしまう事を感じたアセイラムの心中は常に自責の念と後悔が渦巻き…他人には計り知れない物だっただろう。

 

「許して欲しいとは言いません…でも…ごめんなさい…」

 

「どうして…どうして貴方が泣くの?お父様は貴方を殺そうとしたのよ!私も貴方を殺そうとしているのよ!どうして憎まないの!どうして許すの!?どうして優しくするの!!」

 

ライエにはアセイラムのとっている行動が理解出来なかった…謝っているのだ…殺そうとしている相手に、彼女を苦しめる原因を作ったというのに、怒らず更には謝り、泣き崩れている…怒って恨んで貰った方がどんなに楽か…混乱するライエにフィアが刺激しないように静かに語り掛ける。

 

「それが姫様なんだ…どこまでも優しくて、純粋で、でも真実を見続けている…だから私は忠義を誓った…このお方ならヴァースを変えてくれると…」

 

「………貴方達…本当にバカじゃないの?」

 

先程の様子とは打って変わって力なく銃を下に向けると生気の無い笑顔を作り自身のこめかみに銃口を向けた。

 

「何やってるんだろ…私……」

 

「ッ!ダメ!!」

 

その様子を見たアセイラムはライエを止めるために叫ぶと動いた影が二つ…伊奈帆とフィアだ……伊奈帆は拳銃をスライドさせ撃発を防ぎ取り上げるとフィアは倒れないように肩を掴みライエを思いっきりグーで殴る。

 

「何をッ!」

 

殴られ倒れたライエは叫び終わる前にフィアは再び立たせて睨み、今までに見せなかった程の怒りを見せて叫んだ。

 

「甘ったれるなぁ!!生きたくても生きられない奴が大勢居るんだ!!」

 

フィアは許せなかった…もちろんアセイラムを殺そうとした事も許せないがそれ以上に…死を選ぼうとした事がだ…贖罪の為の死を選ぶのは償いではない…ただ辛い事から逃れようとしているだけだ…今こうしている間にも戦争は続き、多くの人達が全力で生き、その命を散らせているのを考えると到底許せる物ではなかったのだ…その言葉にライエはハッとした表情になりフィアの顔を見る。

 

「お前は受け入れられないんじゃない!お前自身が拒まれるのが怖くて線を引いてるだけじゃないか!」

 

「ッ!うるさい!私は貴方とは違うの!暗殺犯の娘なのよ!!」

 

「悲劇のヒロインを気取るな!周りをちゃんと見ろ!姫様を見なかったのか!?」

 

フィアの言葉にライエは黙り込みその場に座り込む…それを見た伊奈帆は座り込んだライエと顔を合わせるようにしゃがむと静かに語り掛ける。

 

「僕にとって…君が火星人か地球人かなんて…正直どうでもいい…僕らと一緒に戦って来た…それだけで十分だと思うけど…」

 

伊奈帆の言葉にライエの顔には生気が戻り始め目の前に立っていたフィアに向かって笑いながら言い放つ。

 

「…後悔しても知らないわよ……」

 

「その時は全力で止めてやる……」

 

ライエの言葉を聞いてフィアは笑うと伊奈帆と一緒に手を差し伸べる…それをライエはしっかりと掴んで立ちあがるのだった。

 

ーーーーーーーー

 

その後…ライエはユキに連れられその場を去ったがどことなくその表情は今までとは違い明るかったのだった。

 

そしてデューカリオン医務室、アセイラムは大事をとってベッドで横になりその横にエデルリッゾが心配そうに待機しフィアは耶賀頼先生に切った頭の消毒をして貰っていた。

 

「イタタッ!」

 

「騎士なんだから我慢しないと…全く……凄い勢いで頭を打ったんだね…」

 

「正直覚えていません…一瞬の事だったので…」

 

「あれ程の衝撃を受けてしかも石鹸水が床に散らばっていたら仕方ないかもね…はいこれでいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

フィアは改めて頭に巻き直された包帯を触ると耶賀頼に礼を言い立ち上がる…すると医務室にマグバレッジがアセイラムの様子を見に来た。

 

「耶賀頼先生…姫殿下とフィアの容態は?」

 

「異常ありません…ただ姫様は大事をとって安静にした方が良いですね」

 

「そうですか…でもそう言っても居られません…」

 

「大丈夫です…」

 

マグバレッジの言う通り一度アルドノアドライブが停止した以上、デューカリオンを動かすためには再起動しなければならない…それを悟ったアセイラムは立ち上がろうとするがフィアが止める。

 

「いえ…姫様はどうか安静にしていて下さい…私が起動してきます…」

 

「そうですか…ありがとうフィア…」

 

「いえ…では行って参ります…」

 

ーーーー

 

アセイラムを何とか安静にさせたフィアはアルドノアドライブの部屋にたどり着き起動させる。

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシア殿下の騎士、フィア・エルスートが命じる…目覚めよアルドノア」

 

フィアの声と共に暗くなっていた部屋は一瞬にして明るく灯されデューカリオンにエネルギーを与える…任務を終えたフィアが戻ろうとすると出入口に一人、いつの間にか壁にもたれて居た人物がいた…伊奈帆だ…。

 

「伊奈帆か…驚いたぞ…」

 

「ごめん…人払いでお見舞いにも行けなかったから…」

 

「ありがとう…お前のお陰で姫様が助かった…」

 

「戦争だしね…」

 

「照れるな…照れるな…」

 

素っ気なく言う伊奈帆を見てフィアは笑いからかう…フィアは何となくだが伊奈帆の感情の変化が分かってきたのが少し嬉しかった…するとデューカリオンが離陸する振動が伝わる。

 

「もうすぐ地球連合本部だね…」

 

「そうだな…」

 

伊奈帆の言葉にフィアは目を閉じながら静かに答える…その表情からは何も感じられないがその声色はどことなく安堵と寂しさに溢れているように伊奈帆は感じた。それは本当なのか…それとも伊奈帆自身が無意識に求めた物なのかは…静かに佇むフィアしか知らないのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回はアセイラムの絞殺未遂でした!そしてフィアちゃんのブチギレシーン…フィアは基本本気で怒ったりしませんが命を粗末にする奴とアセイラムにちょっかい出す奴には基本キレます。
それとフィアは元々人の心の機微に敏感な方なので伊奈帆の感情の変化は結構早めに何となく理解しています。
伊奈帆とフィアですがお互い一緒に居ると居心地が良いって位ですね!(聞いてねぇよ)すいません!
さて今回は地球側ですが次回は火星視点を基本に書いていきます!最終決戦までのタイムリミットが近づく中、それぞれのキャラがどう思い行動するのか!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!





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第二十星 譲れぬものーNonnegotiableー

 

 

マリーンside

 

地球軌道上にあるザーツバルム卿の揚陸城…そこの独房にはスレインの姿があり彼は静かに暗闇の中、体育座りをしていた…静かに時間を過ごしていたスレインの元に一人の人物が訪れた。

 

「頭は冷えたか?」

 

「…マリーン卿」

 

黒髪を一つに束ねたポニーテールが特徴のマリーンは部屋に居るスレインを見て隣に座り込むとそのまま黙ってしまった…その間に耐えられなくなったスレインはマリーンに話しかける。

 

「マリーン卿…何故…アセイラム姫を狙うのですか?」

 

「……私は…姉さんの無念を晴らす為にここに居る…」

 

「お姉さんが…」

 

「あぁ…居た…私が生まれて間もない頃にヘブンズ・フォールで亡くなったのだ…姉さんは優しかった…幼い頃の記憶のせいでおぼろげだが姉さんの笑顔はまだ覚えている」

 

マリーン自身、家柄とそれを取り巻く状況のせいでまともな愛を受けずに育った…そのせいでマリーンは歪み全てに対して恨みを持つようになったのだ…ただ数人を除いて…。

 

「しかし…」

 

「確かに…それだけではお前は納得しないだろうな…だがな…これは私にとって復讐であり、恩返しでもある…」

 

「恩返し…ですか?」

 

「あぁ…ザーツバルム卿にな…あの方は私を本当の家族のように扱ってくれ…命を助けてくれた…私にとってそれで十分…」

 

スレインの質問にマリーンは当然の様に答えるがその顔には少し影が入った…その原因はザーツバルムが時折見せる悲しい顔だ…ザーツバルムの婚約者でありマリーンの従姉妹であるオルレイン…それを自分自身を通してザーツバルムが見ているのはマリーンも知っている…。

 

(ザーツバルム卿…私は貴方の娘になりたかった…)

 

悲しそうに顔を俯けるマリーンを見てスレインはそれを静かに見つめる事しか出来なかった。

 

ーーーーーーーー

 

ザーツバルムside

 

 

「マリーンは居らぬのか?」

 

「はい…スレイン・トロイヤードの部屋に行ったのは見ましたが…」

 

「そうか…」

 

ザーツバルムはスレインの元に向かおうとマリーンを探していると兵士が既に向かった事を伝えられ自身も向かう事にした…そしてスレインが居る独房の前に立ち扉を開けようとすると声が聞こえた。

 

「これは私にとって復讐であり、恩返しでもある…」

 

「恩返し…ですか…」

 

「あぁ…ザーツバルム卿にな…あの方は私を本当の家族のように扱ってくれ…命を助けてくれた…私にとってそれで十分…」

 

ザーツバルムの耳にはマリーンの言葉が悲しみに満ちていたのがよく分かった…マリーン自身も自身が通してオルレインを見ているのが分かっているのだろう…。

 

(すまぬ…マリーン…私のせいでお前も傷つけてしまった…)

 

ザーツバルムは独房の前でフッと昔の事を思い出したのだった。

ーーーーーーーー

 

ヘブンズ・フォール一週間前、月のハイパーゲート周辺にザーツバルムが保有する揚陸城は滞在しており先鋒としてオルレインのデューカリオンとザーツバルムのディオスクリアが作戦に向けて最終調整が行われていた。

 

「ザーツバルム卿…オルレイン子爵が帰投いたしました…」

 

「分かった…すまぬがここを頼む…」

 

「ハッ…」

 

揚陸城の司令室にいたザーツバルムはオペレーターの報告を聞くと司令室を任せてオルレインを迎えに行くと輸送艇から降りてくるオルレインの姿があった。

 

「オルレイン…」

 

「ザーツバルム卿!わざわざお迎えに上がらなくとも…」

 

「よい…どうだった?久しぶりの母星は?」

 

「はい…実に楽しかったです…」

 

月と火星はハイパーゲートのお陰で手軽に行き来が可能でありオルレインは物資の運搬の指揮を兼ねて作戦前に一旦、家に顔を出して来たのだ。

 

「そう言えば…ザーツバルム卿また私に従姉妹が出来ました!まだ産まれたばかりでとても可愛らしかったです!」

 

「ほう…今度は男の子か?女の子か?」

 

「女の子です!私に目と髪色がとても似ているのですよ!名前は地球の海にちなんで『マリーン』と言うそうです!」

 

「マリーンか…良い名前だ…」

 

嬉々として話すオルレインを見てザーツバルムは自然に笑顔になりその生まれたばかりの女の子の話に夢中になる。

 

「あの子が大きくなる前に名前の由来である海を見せてあげたいものです」

 

「あぁ…我らが先鋒を預かったのも巡り合わせ…その子に海を見せる為にもこの青き星を手に入れねばな…」

 

「はい…必ず…成功させましょう…」

 

生真面目な性格のオルレインは余り笑顔を見せないがその時の笑顔はザーツバルムが見た中で一番笑っていた気がする…。

 

ーーーー

 

(オルレイン…今の私を見ても…まだ笑ってくれるか?…いや…悲しむだろうな…)

 

間違っているのは分かっている…これで本当にオルレインが報われるのか分からない…だが引き返さない…これが自分に出来る唯一の手向けなのだから…。

 

ザーツバルムは静かに独房の扉を開け…部屋に入るのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「マリーン…ここに居たか」

 

「ザーツバルム卿…」

 

マリーンがスレインと一緒に居るとザーツバルムが入室しマリーンはそれを見て立ち上がる…それを見たザーツバルムはスレインを一瞥すると部屋にモニターを表示させる。

 

「ソナタが回収された種子島からのデータだ…巨体なドックと造船設備…船を見たな?」

 

「…はい」

 

「それはアルドノアを持つ船だな?」

 

「恐らくは…」

 

「そのアルドノアドライブを起動したのは…アセイラム姫殿下か?」

 

「………」

 

ザーツバルムの質問に素直に答えるスレインだがアセイラムの事になると固く口を閉ざし何も言わなくなる…それを見たザーツバルムは少し笑うと話を続ける。

 

「姫殿下の身を案じて黙するか…これを知っているか…」

 

「ッ!」

 

そう言うと解体されたデューカリオンの姿がモニターに映され、それを見たマリーンは悲しそうな顔をする。

 

「これは?」

 

「デューカリオン…重力制御能力を持つ…オルレイン子爵のカタフラクトだ…」

 

「オルレイン子爵?」

 

「マリーンの従姉妹であり、我妻となる女性であった…」

 

ザーツバルムの言葉にスレインはハッとするがザーツバルムは気にせず話を続ける。

 

「我らは尽力した…皇帝陛下から賜ったアルドノアの力を使い…民を統べ、ヴァースの荒れた地を開拓し、領地を広げ、富を築こうとした…しかし…何をしようとも我らには限界があった…」

 

「限界…」

 

「水と空気だ…アルドノアを作った古代文明人の時代は…まだ水と空気が豊富であった…しかしヴァースは真空に近い薄い大気と地下に残った僅かな水のみ…むしろ、薄い大気のせいで常に砂嵐に見舞われる…」

 

豊かな地球と比べるとその火星の現状はまさに雲泥の差…新たな星で新たな可能性を求めた人達を待ち受けていたのは希望では無く…どうしようも無い絶望感だけだった。

 

「これではどんなに土地があっても得られる実りは僅か…民が増えれば増えるほど…生産が消費に追いつけず困窮していく…あの惑星に住むには…最初から無理があったのだ…」

 

この現状は地球に来るまでオキアミやクロレアしか知らなかったフィアの反応が最も物語っているだろう…姫殿下の騎士である立場のフィアでさえその存在すら知らなかったのだから。

 

「しかし…ニ代目皇帝、ギルゼリア陛下はアルドノアの力を信奉し…工業力の発展ばかりに力を注いだ…アルドノアを支配する王族の権力を絶対の物とし…民衆の苦しみには耳を傾けられなかった…」

 

封建制度に置いてはギルゼリアが行った事は決して間違っていない…封建制度は国王・領主・家臣の間の主従関係に基づく統治制度だ…その一番上に居る国王の権力が落ちてしまった場合、ヴァースその物が崩壊する恐れがあるからだ…しかしそのやり方は自然と民の不満を溜め込む事になる。

 

「そして…民の積もる不満の矛先を地球に向けられたのだ…ヴァースに対し主権を主張し、独立を阻み、遠く離れた場所から統治しようとした地球こそが我らの敵であり…苦難の源であると…ヴァースの民を先導されたのだ…恐ろしい事に…その妄言は皆に支持された…」

 

もちろん、最初はそれに疑問に持った者は決して少なくは無かっただろう…だがヴァースの民は生きていけなかったのだ…死の恐怖に押し潰されないように地球を呪い、奪うことで無意識に生きる為の希望を見出していたのかもしれない…。

 

「自らこそが優秀な民族であり、豊かさを握っている劣等民族こそが悪であると…我らは地球侵攻を企て…ハイパーゲートを経由し月に戦力を結集した…愚かにも…それを正義と信じて…」

 

ザーツバルムは悲しそうな顔をするとマリーンは心配して近づくが手で制止されマリーンは立ち止まる。

 

「そして先鋒として飛行能力に長けた我がディオスクリアとオルレインのデューカリオンが種子島に降下した…」

 

ザーツバルムは辛いであろう十五年前の出来事を静かに話していく。

 

ーーーーーーーー

 

ヘブンズ・フォール当日、種子島…そこでは大破した戦車部隊の残骸を前にして立っていた巨大なカタフラクト『デューカリオン』と変形し空を飛んでいた『ディオスクリア』が居り…そのパイロットであるオルレインとザーツバルムが通信で話していた。

 

『なんと貧弱な…これでは覚悟を決めて降下した意味がございません…そう思いませんか?ザーツバルム伯爵…』

 

「あぁ…肩透かしを食らったな…オルレイン」

 

『この惑星…思ったより容易く手にすることが出来ましょう…』

 

「…皇帝陛下ももとより我らが民も喜ぶ事だろう…あの子にも海を見せてやれそうだな…」

 

『はい…』

 

ザーツバルムの言葉にオルレインが嬉しそうに答えると突然、コックピットに警報が鳴り響き衝撃が襲う…状況を確認しようとザーツバルムは計器を見ると時空の計器が異常値を示していた。

 

「強力な時空歪曲波…よもや!…ハイパーゲート!!」

 

ザーツバルムが叫びながら空を見上げると地球を優しく照らしていた月が粉々に砕け散った瞬間だった。

 

「月が!割れた!!離脱するぞオルレイン!!」

 

突然の異常事態にザーツバルムは撤退して立て直しを図ろうとするがオルレインのデューカリオンだけが少し身じろぎするだけで動かない。

 

「どうした!早く離脱せよ!地上は危険だ!」

 

「時空の歪みが反重力デバイスに影響を!飛べません」

 

オルレインの言葉にザーツバルムは助けようと向かうがオルレインはそれを拒み早く脱出するように進言する…そう言っている内に巨大な月の破片がディオスクリアとデューカリオンの真上まで迫っていた。

 

「オルレェェェェイィィィィィィン!!」

 

ザーツバルムが叫ぶ中、隕石のせいで荒くなった通信でオルレインは静かに涙を微かに溜めながら笑いかける…砂嵐の中、その笑顔はザーツバルムの脳裏にしっかりと焼き付いている。

 

ーーーー

 

「我は必ず…オルレインの無念を晴らす…」

 

「伯爵…ザーツバルム伯爵!!」

 

話は終わったとばかりにザーツバルムは部屋を出る…スレインは何を思ったのかザーツバルムの名を叫ぶがザーツバルムは止まらずマリーンもそれに続くのだった。

 

ーーーーーーーー

 

スレインと話した後、ザーツバルムは黙り込み司令室で立っているだけだった…それを見ていたマリーンはザーツバルムに話しかける。

 

「ザーツバルム卿…」

 

「………」

 

「私は…ついていきます…例えそれが地獄であろうとも…どこまでも…」

 

マリーンの言葉にザーツバルムは振り向きマリーンを見て優しく頭を撫でる。

 

「本当は巻き込みたくなかった…だが…これからも頼む…私はお前を信用しているぞ…」

 

「はい!」

 

ザーツバルムの言葉にマリーンは言い様の無い幸福感に包まれているとオペレーターがザーツバルムを呼び、報告するとその内容は彼が最も待っていたものだった…アセイラムの月面基地への通信だ。

 

「私は…アセイラム・ヴァース・アリューシア…ヴァース帝国皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫娘、第一皇女です…祖国ヴァースに告げます…この無意味な戦争の即時停戦を求めます…私は無事…生きています…私の命を狙ったのは地球人ではありません…地球侵略を求める軌道騎士の策略です…地球人に罪はありません…今すぐ戦争を止めて下さい…そして地球と和平を結んで下さい…どうか…この不幸に終止符を…」

 

純粋な優しさが詰まったアセイラムの言葉にザーツバルムは何とも言えない表情をするがすぐに切り替えて覚悟を決める。

 

「発信元は?」

 

「ハッ!ノヴォスタリスク地球連合本部です!」

 

「そうか…スレイン・トロイヤードをタルシスの格納庫へ!マリーン…ついてこい」

 

「ハッ!」

 

ザーツバルムはオペレーターから発信元を聞き出すとマリーンを連れて回収したタルシスの格納庫へ向かう…そこには連れられたスレインが居り突然の事で何が何だか分からないようだった…ザーツバルムの指示でマリーンが格納庫の照明をつけるとスレインは驚きザーツバルムが説明する。

 

「クルーテオ卿の揚陸城からマリーンが持ち帰った…奴には過ぎた機体だ…月面基地へのレーザー通信でアセイラム姫殿下の所在が特定された…月面基地は我が同士の管理下にある…姫殿下の声明は誰にも届くことは無い…これより…敵、本拠地にて決戦となる…揚陸城の戦力を持ってしても無事では済むまい…」

 

ザーツバルムは説明を終えるとマリーンから手渡された拳銃をスレインに向けて発砲…スレインは驚いて避けようとするも銃弾は手錠を繋いでいた鎖を見事に破壊する。

 

「父君への義理は果たした…地球に戻るのもよし…我が軍につくのもよし…好きにせよ」

 

そう言って立ち去るザーツバルムをスレインは見ているとマリーンが近づき話しかける。

 

「お前は自分が最も後悔しない道を選べ…それに私は何も言わない…」

 

「マリーン卿…」

 

そう言うとスレインに拳銃を渡して立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

「ザーツバルム卿…発進準備、整いました…いつでも行けます!」

 

ザーツバルムが司令室に到着するとオペレーターが報告し、マリーンがちゃんと戻ってきたのを確認し黙祷する…しばらくそうしていると目を開き腕を振るい指示を出す。

 

「揚陸城降下開始…目標!ロシア、ノヴォスタリスク地球連合本部!!」

 

 

ー役者は揃い舞台は整った…開演はもうすぐだー

 

 

 




どうも砂岩でございます!
ついにここまでやって来ました!大きな山場です!
本当にザーさんは恨めない!ザーさん本当にいい人だと自分は思いますね!そして格好いい!アセイラム姫の演説の時のザーさんの表情は見ていたらとても複雑な感じになりました!
それとオルレインの死に際の最後の笑顔は完全に妄想ですね…あんなに仲良いんだからやってるだろう!って事で…さぁ!次回はノヴォスタリスクの攻防です!
最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第二十一星 迫り来る暗殺者ーApproach of assassinー

 

 

 

ノヴォスタリスク地球連合本部デューカリオン専用デッキ…そこには何とか辿り着いたデューカリオンが補給を受けていた…その心臓部と言えるアルドノアドライブの部屋には伊奈帆が静かに光り輝くアルドノアを見つめていると後ろから声を掛けられた。

 

「…アルドノア」

 

「これが全ての始まり…ありがとうございます…伊奈帆さん…私の命を助けて貰ったそうですね…」

 

「いえ…」

 

「伊奈帆さんに助けて頂いたのは…これで何回目でしょう…」

 

「さぁ…助けたつもりはないですし…」

 

伊奈帆の言葉にアセイラムは驚くが伊奈帆はいつもの調子で淡々と話そうとすると…アセイラムの後ろに居たフィアが目に入る…すると伊奈帆は『戦争ですから…』と言う言葉を飲み込んで話す。

 

「結果的にそうなっただけで…自分は自分を守っただけですから…」

 

「いい人ですね…いい人です…」

 

これが前回フィアに見破られた照れ隠しの改良版だが案の定フィアは笑い、アセイラムにも見破られてしまった…そんな雰囲気にエデルリッゾも悔しそうだが受け入れる。

 

「これからも…これからも友達で居てくれますか?」

 

「…はい」

 

アセイラムは一人前に出て伊奈帆に手を伸ばすと伊奈帆は了承したように手を伸ばし握手を交わす…するとアセイラムが小さな声で伊奈帆に囁く。

 

「どうか…フィアをよろしくお願いしますね…」

 

「え…」

 

「あんなに楽しそうに笑えるようになったのは貴方のお陰ですから…」

 

「……」

 

「姫様…そろそろお時間です……」

 

アセイラムのまさかの言葉に伊奈帆は驚くが彼女はその反応を見て微笑むとエデルリッゾが時間を知らせ軽く会釈しながら出口に向かう。

 

「それでは…」

 

「あぁ…じゃあな…伊奈帆……」

 

「フィア……」

 

アセイラムに続いて部屋を出ようとしたフィアは伊奈帆に止められ立ち止まり振り返る…すると伊奈帆は若干だが悲しそうに話しかける。

 

「また…」

 

「あぁ…またな…」

 

フィアはそう言うと部屋を後にした…そしてアセイラムに追いつくと質問をする。

 

「姫様…伊奈帆と何を話されたので?」

 

「フフッ…秘密です♪」

 

「え?」

 

心底楽しそうに言うアセイラムを見てフィアは惚けるとアセイラムはそのまま楽しそうにデューカリオンの廊下を歩くのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「私は…アセイラム・ヴァース・アリューシア…ヴァース帝国皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫娘、第一皇女です…祖国ヴァースに告げます…この無意味な戦争の即時停戦を求めます…私は無事…生きています…私の命を狙ったのは地球人ではありません…地球侵略を求める軌道騎士の策略です…地球人に罪はありません…今すぐ戦争を止めて下さい…そして地球と和平を結んで下さい…どうか…この不幸に終止符を…」

 

地球連合本部の大きな会場からアセイラムの声はは月基地にレーザー通信で送られる…これで全て丸く収まる…このアセイラムの演説は地球連合本部にも流れており聞いていた者、全てが安堵の表情を浮かべる…当然それはフィアも同じで放送室で腕を組み、壁にもたれながら耳を傾ける。

 

「……これで…」

 

「エルスート卿!!」

 

「何か?」

 

「どうしたのですか?フィア?」

 

不思議そうな顔をしているアセイラムが部屋に入って来ると、状況が分からずにフィアに問うと同時に地下基地全体に警報が鳴り響く。

 

「姫様!敵襲です!」

 

「え?……きゃ!」

 

フィアの叫びと同時に揚陸城落下の衝撃が地下の部屋まで伝わり部屋を揺らすのだった…。

 

ーーーーーーーー

 

その頃、地上では揚陸城がその花のような姿を現す…地球側は地下から出したミサイルランチャーで対応するも大気圏を突破できる揚陸城にとっては痛くも痒くも無かった。

 

「フッ…無駄なことを……」

 

「ザーツバルム卿…出撃準備完了しました…」

 

『攻撃開始…』

 

それを見たザーツバルムは一人、呟くと揚陸城からもミサイルが発射される…これはバンカーバスター(地中貫通爆弾)と呼ばれる物でその名の通り地下に深く掘り進みそこで爆発する物でそのミサイルは岩盤とシールドを貫通し地下にあるシェルターに被害をもたらす…それを見たザーツバルムは叫ぶ。

 

「出撃!」

 

「出ます!」

 

するとザーツバルムのディオスクリア(素体)と子機、マリーンのゼダスが揚陸城から飛び立ちバンカーバスターが開けた穴から侵入する。

 

「マリーンはその穴から入れ…我はここから入る…」

 

「ハッ!」

 

マリーンはザーツバルムの指示通り二手に別れゆっくりとバンカーバスターが開けた大穴を降下していく。

 

ーーーー

 

地球軍side

 

マリーンが降下していく先には既にアレイオンの部隊が展開しており包囲陣形が整って居た。

 

『スイング小隊配置よし』

 

『カールラ小隊配置よし!』

 

『震源…なおも接近中……会敵まで四十秒…全機!戦闘に備えよ!』

 

『『了解!!』』

 

『……来るぞ』

 

『さぁ……宴を始めよう……』

 

部隊長の言葉に全機が大きく空いた穴に向けて銃口を向ける…するとオープン回線で敵らしき声が聞こえてくる…その声はまだ幼く、少女だとよく分かった。

 

『撃てぇぇ!!』

 

部隊長は姿を現した途端、攻撃許可をだしアレイオンは各々ゼダスに向けて発砲するがゼダスは急加速し床に降り立つと所持していたゼダスソードで近くに居たアレイオン四機を一瞬にして切り刻むのだった。

 

ーーーー

マリーンside

 

「フフッ…脆弱な…」

 

マリーンはそう呟くとアレイオンを切り刻み更に機体を加速させる…アレイオンはマシンガンを撃ち放つが敵が迫り軽いパニック状態に陥っている者の弾など当たる訳も無く胴体を切り裂き手のひらに内蔵されたビームマシンガンで囲んでいたアレイオンを次々と潰していく。

 

「フフッ…ハハハハハ!!」

 

光速で移動するエネルギー弾をアレイオンは避けられる筈も無く数を減らし、ついに全滅する…その爆煙と炎の中、マリーンの笑い声と共にゼダスはカメラを怪しく光らせるのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

各所で爆発を起こし施設の一部が崩壊する…それはアセイラム達がいた場所も一部崩壊してしまっていた…その瓦礫の中、フィアは瓦礫を退けながら立ち上がる。

 

「姫様…ご無事で…」

 

「ありがとう…フィア」

 

「ありがとうございます…」

 

崩壊する部屋の中、フィアは身を盾としてアセイラムとエデルリッゾの上に覆い被さり瓦礫から守ったのだ。

 

「ここは危険です…移動した方が…姫様…」

 

フィアはすぐに避難するように言うがアセイラムの悔しさと無念が入り混じった顔を見て黙り込む…エデルリッゾはそれでもアセイラムの為に進言する。

 

「姫様!フィアの言う通りです…お早く移動を……」

 

「暗殺は偽りだと明かしたのに…どうしてまだ…やはり初めから戦が目的…暗殺はただの言い訳…私の命など…初めからどうでも良かったのですね……」

 

「そんな事ありません!姫様はヴァース帝国の大切な…」

 

「では何故ここが攻撃を受けているのですか!」

 

今までに無かったアセイラムの怒りにエデルリッゾとフィアは驚くがフィアはエデルリッゾから拳銃を貰いチェックを始める。

 

「フィア…何を…」

 

「行きましょう…姫様…我々にはまだ出来ることがある筈です…向こうが全力で殺しに来るなら…私が全力で姫様をお守りいたします…」

 

「私に出来る事…行きましょう…デューカリオンに…フィア…通信機を…」

 

「はい…」

 

決意したようにアセイラムはフィアから通信機を貰い受けると通信をデューカリオンに繋げる…通信はユキに繋がった様で伊奈帆に変わって貰いアセイラムが話す。

 

「私もお手伝いします……」

 

『セラムさん…』

 

「ヴァースの兵器は全てアルドノアによって動いています…揚陸城も例外ではありません…」

 

アセイラムが話している内にエデルリッゾは車を見つけて発進の準備をする…フィアは少し居なくなったと思ったら何やら物騒な物を車内に入れる…それを見たエデルリッゾはフィアの後ろ姿を見て心の中で呟く。

 

(キレてる…)

 

「…ありがとうございます」

 

通信を終えたアセイラムは悲しそうな顔をする…。

 

「ヴァースの皇女たるこの私が…ヴァースの民を敵にまわすとは……」

 

「この戦はヴァースの本意ではありません…全ては暗殺者の策略…」

 

「いえ…全ては私の…私の不徳…急ぎましょう……」

 

(マリーン…もし貴様が暗殺者だとしても…私はお前を殺す…)

 

アセイラムの姿を見てフィアは悔しそうに顔を歪め強く手を握りしめるのだった。

 

ーーーー

 

「出口です!」

 

車に乗ったアセイラム達は敵に見つからずにデューカリオンに向かいドックの入り口に辿り着き車を全速力で走らせる…運転はエデルリッゾが務めており本来ならフィアがする所だがフィアにはやることがあった。

 

「見えました!デューカリオンです!!」

 

「アセイラム姫殿下です…」

 

「ロケット砲!グワッ!!」

 

車が全速力で駆けるのを見た兵士達は車内にアセイラムが居るのを確認すると隊長がロケット砲の準備を指示するがそこに何かが打ち込まれ隊長はもちろんそばに居た兵士も爆発に巻き込まれた。

 

「……姫に仇なす者は…私が殺す」

 

「恐くない!恐くない!」

 

フィアは車の屋根で着弾を確認すると筒を捨ててそばに置いてあったRPG7を持ち上げて構える…総重量十キロのRPG7を次々と撃ち込む…沸点が振り切れたフィアはいつも以上に切れ目で黙り込み全身から殺気が溢れていた。

 

「チッ…切れたか…」

 

フィアは舌打ちをするとアサルトライフルを取り出しまだ残っている所に撃ち始めるが、ある程度RPG7で片付けはしたとはいえまだまだ兵士は残っていた…そこからロケット弾や銃弾が飛来し迎撃していたフィアの肩に当たる。

 

「ッ!」

 

「フィア!」

 

その様子を見ていたアセイラムは心配する…フィアの服は元々、護衛の為に来ただけあって防弾、防刃仕様になってはいるが衝撃が消せる訳が無い…しかし彼女は自身の主を安心させる為に笑いかける。

 

「うわぁぁ!!」

 

するとロケット弾が飛来しエデルリッゾが叫ぶと横からアレイオンがロケット弾を撃ち落とす。

 

『生きてる?』

 

「ライエか…」

 

「ライエさん!」

 

『借りは返すわ…ここは私が…』

 

ライエはそう言うとアレイオンを操り残っている兵士に向けて牽制の攻撃をする…その隙に車は兵士が居る真横を通って行くと同時に手榴弾をニ、三個投げ捨てるのだった。

 

「来た来た!フィア!お姫様!こっちこっち!!」

 

何とかデューカリオンに接近したフィア達は解放された後部ハッチに近づきそこに居たカームが手を振り大きな声で呼びかける。

 

「姫様」

 

「ありがとう…」

 

「ご無礼!」

 

「え?きゃ!」

 

フィアは屋根のハッチからアセイラムを出すとエデルリッゾが更に後部ハッチに接近し、フィアがアセイラムを抱えてデューカリオンへ飛び移りカームの元に降り立つ。それを見たエデルリッゾはフィアに向かって叫ぶ。

 

「行って下さい!」

 

「エデルリッゾ!」

 

エデルリッゾの言葉にアセイラムが泣きそうな顔で叫ぶがエデルリッゾは気丈に振る舞い叫び続ける。

 

「行って下さい!早く!フィア!姫様を頼みます!」

 

「ありがとう…エデルリッゾ…」

 

「分かった…すまない…」

 

エデルリッゾの意志を汲み取った様に後部ハッチがゆっくりと閉じられ車が離れていくのをアセイラムとフィアは黙って見送るのだった。

 






どうも砂岩でございます!
なんかグダグダになってしまってすいません…。
ついにやって来ました!第一次最終決戦の開幕ですね!今回はザーさんだけでは無くマリーンのカタクラフトも居ますしどうなることやら…。
さて次回は降下作戦メインですね!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第二十二星 揚陸城降下作戦ーHigh Altitude Low Openingー

フィアside

 

アセイラムとフィアを収容したデューカリオンは揚陸城からの迎撃を避けて成層圏まで一気に上昇していた…その上昇の振動の中、フィアとアセイラムはパイロット服に着替えて静かにアレイオンで待機していた。

 

(一かバチか…)

 

デューカリオンが成層圏に到達したのか、僅かな浮遊感を感じたフィアは静かに目を開ける…すると無線から降下作戦に向けて行動している声が聞こえてきた。

 

『高度二万メートル到達…ターンオーバー』

 

『スケアブロー投下』

 

デューカリオンから先に降下を開始したデコイ達は揚陸城のレーダーに掛かり全てのミサイル発射管からミサイルが撃ち出されデコイを次々と落としていく。

 

『デコイカタフラクトに着弾!チャフ、フレアー拡散!』

 

デコイカタフラクトに仕込まれたチャフとフレアーによって揚陸城のレーダーは阻害され赤外線も撹乱されてしまう…多少なりとも揚陸城の迎撃能力が低下したのを見計らうとブリッジに居た鞠戸の指示が飛ぶ。

 

『強襲隊出撃!』

 

『マスタングリーダーより各機、吹雪でレーザー通信の見通しが悪い上に…揚陸城の近くはジャミングが強くなるわ…上陸までは指示に頼らず各機で戦って…』

 

『マスタング11了解!』

 

『…マスタング22…了解…』

 

『マスタング33…了解』

 

『マスタング44…了解』

 

マスタングリーダーであるユキの指示に各機が返事をすると後部ハッチがゆっくりと開く…するとフィアの乗っていたアレイオンに伊奈帆から通信が入る。

 

『フィア…』

 

「伊奈帆…すまない…私が至らないばかりに…お前達にに無理を…」

 

『大丈夫…気にしてないよ…フィアの力になれて良かった…上陸地点はちゃんと確保して待ってるから…』

 

「フッ…あぁ…信用している…」

 

フィアは伊奈帆の言葉に笑いながら答えると伊奈帆も微笑み通信を切る…今まで無表情しか見せなかった伊奈帆の微笑みに驚きながらもフィアは楽しそうに笑うのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

『フッ…あぁ…信用している…』

 

たった一言のその言葉に柄にも無く笑っているのが自分でも分かる…普段から無表情なのは自分でも分かってるしそれを変えようとも思わない…でも久しぶりに自然に笑った気がした。

 

(らしくない…かな…)

 

心なしか解れた緊張を感じて愛機のスレイプニールを降下の為にスタンバイする。

 

『降下!』

 

ユキ姉の言葉と同時に次々と降下を開始していく…自身も韻子のアレイオンが降下したのを見て続く…降下開始から少しして韻子の声が無線を通じて流れてくる。

 

『当たりませんように…当たりませんように…当たりませんように』

 

『そんなに怯えてると帰って殺られるぞ…弾は臆病者が好きなんだ…堂々としていれば弾の方から避けて……』

 

マスタング33からの不自然な通信の遮断に疑問を感じた伊奈帆は居るはずの地点を見るとコックピットのある上半身を見事に吹き飛ばされたアレイオンの姿があった。

 

『ヒッ!』

 

『マスタング33!』

 

(さっきのは明らかにミサイルじゃない…迎撃兵器が弾幕を張りだしたか…)

 

滞空時間が長いと危険と判断した伊奈帆はスレイプニールの体勢を変えて降下速度を加速させると追いついたデコイカタフラクトの後ろに着く。

 

「僕のオレンジ色を目印にして……」

 

『なお君、早い!』

 

「デコイを盾にして降下…目標は雲を抜けた直後…ギリギリまで降下して減速する」

 

スレイプニールは大きな雲に突入する…視界の悪い雲の中で見えるのは目の前に居るデコイだけ…若干緊張しながらも冷静に落下する機体を調整していく…すると雲を抜け花のような形をした揚陸城が眼前に現れる。

 

「目標確認…」

 

手持ちのマシンガンの有効射程距離を確認した伊奈帆は減速のためのパラシュートを開き弾幕を張っている戦車のような兵器を次々と破壊していく。

 

「ッ!」

 

迎撃兵器が自分を狙ってきているのを見てパラシュートを切り離し滑りながらも揚陸城に上陸する…膝に装備したミサイルを展開しミサイルをばらまく…ある程度のスペースを確保した伊奈帆は通信を繋げる。

 

「こちらマスタング22…上陸地点確保…」

 

『マスタング22を目視…接近中…無茶しないで…なお君…』

 

「少しでも対空火器を潰しておけば…後続が楽になるから……」

 

伊奈帆はユキ姉と通信しているとフッと気づく…上陸の際に予測していたジャミングが確認できずに通信は正常を保っている。

 

「おかしい…通信がやけにクリアだ……」

 

ーーーー

 

フィアside

 

「姫様…もうすぐ降下します……」

 

「はい…頼みます…フィア」

 

プリンセス1と呼称されたアレイオンにはフィアが操縦しその後部座席にはアセイラムの姿があった…するとブリッジから鞠戸の指示が飛びフィアはアレイオンを後部ハッチに近づける。

 

『コントロールよりプリンセス1降下位置に待機』

 

「了解…降下位置に待機」

 

『残念だが俺が直接支援出来るのはここまでだ…幸運を祈るよフィア』

 

『フィア!頑張ってきてね!』

 

「プリンセス1了解…必ず成功させます…」

 

鞠戸とニーナの声援の元、フィアは開く後部ハッチから青い地球を眺めると気持ちを引き締める。

 

『プリンセス1降下準備!』

 

「プリンセス1降下準備よし!」

 

『プリンセス1降下!』

 

「プリンセス1降下…ッ!」

 

いざ降下しようとすると何やら黒い点が動いているのが確認できた…それをフィアがディオスクリアだと理解するのは遅くなく叫ぶ。

 

「姫様!伏せて!」

 

「え?はい!」

 

ディオスクリアの飛行ユニットから発射されたマイクロ弾はフィアの体を貫きフィアは悲鳴を上げる…マイクロ弾と言っても拳銃の弾より少し大きい位で前の座席に座っていたフィアに容赦なく降り注いだ。

 

「あぁぁぁぁぁ!」

 

形を維持できる限界まで熱せられた棒を無理やり体にねじ込まれる様な感覚にフィアは悲鳴を上げる…その痛みが体の至る所で襲い気絶すると制御を失ったアレイオンはゆっくりと後ろに倒れてその機能を停止した。

 

ーーーー

 

その頃、突然現れた敵性カタフラクトに驚きを隠せないでいた。

 

『そんな…レーダーに反応は……』

 

レーダー観測者である祐太郎の言葉と共に鞠戸がブリッジ眼前に現れたディオスクリアを見て叫ぶ。

 

『対空戦闘!”デューカリオン”を守れ!』

 

「ッ!」

 

ディオスクリアの制御信号を機体の搭乗者に翻訳可能な物に変換する固有能力…つまり電子解析によりデューカリオンの通信全てがザーツバルムの元に筒抜けになっている…その通信を聞き、彼は驚くもミサイルを発射しその全てがデューカリオンに直撃し墜落していくのを見届けると憎々しげに呟く。

 

「デューカリオン…かの機体よりアルドノアを移植するもオルレインが他界して機能せず…それをアセイラム姫殿下が再起動したと言う事か…忌まわしき艦よ」

 

ーーーー

 

ディオスクリアの襲撃によりブリッジは甚大なダメージを受けその衝撃はほとんどのクルーの意識を刈り取った…しかし暗くなったブリッジの中で動く影があった。

 

「クソッ!」

 

「被害報告…」

 

鞠戸が悔しそうに近くの機器を殴り副長の不見咲はボロボロの体で艦内各所に通信を送るがどこからも返事が無く操舵手であるニーナのみが答える。

 

「右舷、反重力デバイス二番から七番が停止…高度が下がっています…」

 

「全エネルギーを推力モーターに…目標…揚陸城…この船で…直接乗り込みます」

 

艦長であるマクバレッジは指示を出しニーナはその指示に従い墜落するデューカリオンを揚陸城に向ける。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

揚陸城のプリンセス1降下予定ポイントには降下した部隊が上陸地点を確保しており迎撃兵器と確保部隊が激しい戦闘を繰り広げていた…その中、マスタング44が迎撃兵器の砲弾に直撃する。

 

『マスタング44!』

 

(このままじゃ…じり貧だ……)

 

『ユキさん!プリンセス1はまだ来ないんですか!?』

 

『まだよ…合図が無いわ!』

 

韻子の焦った声が無線に響き伊奈帆自身も状況が悪いことを感じて嫌な汗をかく…何かないかと辺りを見渡した直後。

 

「ッ!ユキ姉!あれ!」

 

『なに!?…あ…あれは……』

 

伊奈帆の叫びとユキの驚きに近くに居た者は二人が見ている所を見るとそこには分厚い雲から姿を現し墜落してくるデューカリオンの姿があった。

 

『あ…あれは…デューカリオン』

 

『全機散開!』

 

(フィア…)

 

降下予定ポイントに突っ込むデューカリオンを見てユキは各機に散開の指示を出し撤退する…その指示に従い散開するとデューカリオンが揚陸城に不時着するのだった…その衝撃は揚陸城全体を震わせ伊奈帆はそれを見て冷や汗をかくのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
言い題名が思いつかずにそのまま…(泣)
ついに辛くも上陸しました…第一期分の話もついに一話分になってしまいましたね…さてさて!次回はついに直接対決!どうなってしまうのか!。
最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第二十三星 影のエースーShadow of aceー

伊奈帆side

 

『デューカリオン…どうして…』

 

「直接乗り込むしか無かった…と言う事か…」

 

『コントロール…こちらマスタングリーダー応答願います!』

 

『………』

 

デューカリオンの上陸に韻子は驚きを隠せずに居るとユキがブリッジに通信を繋げるが返ってくるのは雑音ばかりで誰一人返事をよこす者は居なかった…その状況に伊奈帆はスレイプニールに装備したコンフォーマル・パワーアシストを使って無理やりデューカリオンの後部ハッチを開けるとそこには力なく倒れているアレイオンの姿があった。

 

「フィア!」

 

『プリンセス1!ちょっと!なお君!』

 

デューカリオン周辺はマスタング小隊以外の部隊が警戒に当たっており、マスタング小隊は中を捜索する余裕が出来ていた…倒れているプリンセス1を見た伊奈帆はユキより先に機体を寄せるとプリンセス1に乗り込み中を確認する。

 

「フィア!セラムさん!…ッ!」

 

伊奈帆は中の光景を見て目を見開く…後部座席には無傷で気絶しているセラムさん…しかし問題なのは前に座っていたフィアだ…体の数カ所から血を流し吐血もして気絶していたのだから…それを見た伊奈帆は血の気が引いたのが自分でも分かった。

 

「フィアちゃん!姫殿下!…ッ!フィアちゃん!」

 

「ユキ姉!運ぶの手伝って!」

 

「え…えぇ……」

 

ユキは伊奈帆の叫びに面を喰らいながらも負傷したフィアをアレイオンから降ろし軽い手当をする…被弾した所に止血テープを張っただけなので気休め程度だが何もしないよりマシだろう。

 

(フィア…)

 

「あ…ぁぁ……」

 

「フィア…」

 

「いな…ほ……ウッ!」

 

「無理しないで……」

 

すると意識を取り戻したフィアが起き上がろうとするがあまりの激痛に顔を歪め伊奈帆は心配する。しかしフィアは無理やり笑顔を作り話しかける。

 

「行け……姫様を…頼む…」

 

「……分かった」

 

「これを…」

 

「…ありがとう」

 

正直心配でたまらない伊奈帆はグッと手を握りしめフィアをゆっくりと寝かせ立ち去ろうと立つとフィアは自分の拳銃を渡す…伊奈帆はその意味を悟って礼を言う。

フィアが唯一の武器を渡すと言う事は”心から信じてる”という事だ…伊奈帆は受け取った拳銃を握りしめると自身の拳銃をフィアに託して立ち上がる。

 

「すぐに行く。それまで頼む……」

 

「……分かった…無理しないでね」

 

「お前こそ…」

 

お互いニヤリと笑い合い伊奈帆はスレイプニールに乗り込みユキが搭乗し起動したプリンセス1がフィアの横を通って行く…それを見届けたフィアは怪我をしながらも駆け寄ってくれたカームに痛み止めと治療用具を持ってくるように頼むのだった。

 

ーーーー

 

アセイラムside

 

プリンセス1のアセイラムと合流した部隊は揚陸城の入り口を探すために中心部へと移動する…そこに向かう途中アセイラムは目を覚ましたのだった。

 

「う……」

 

「気がついた?ちょっと荒っぽいわよ。お姫様……しっかり摑まってて」

 

「伊奈帆さんの…お姉さん……あ!フィアは!フィアは無事なのですか!?」

 

意識を取り戻し混乱していた思考が元に戻るとアセイラムは悲鳴を上げていたフィアの事を思い出し慌てて叫ぶ。

 

「大丈夫よ。なお君のお陰で早く処置が出来たからね…」

 

「そうですか……」

 

「貴方も大丈夫?見た所何も無さそうだったけど、何かあったら言ってね…」

 

「……憎い…ですよね。地球をこんなにした、たくさんの人を犠牲にしたヴァースが、憎いですよね……」

 

ユキの優しさにアセイラムは感謝をしつつも申し訳なさを感じてつい思っていた事を口に出してしまう…それを聞いたユキは思わず黙り込んでしまうと伊奈帆が通信を繋げる。

 

『セラムさん…どうすれば戦争が終わるか…知っていますか?』

 

「それは…平和を願い、憎むことをやめれば…」

 

『いいえ…戦争は国家間の交渉の手段でしか無い…憎まなくても戦争は起こる…どうしても手に入れたい領土、資源、利権、思想や宗教やプライド……それらの目的が原因で戦争は起きる…』

 

伊奈帆は淡々と戦争の理屈面を語る…全員がそれに耳を傾ける。

 

『…だから…その目的が果たされれば戦争は終わる…または……利益に見合わない数の人が死ねば戦争は終わる…怒りも憎しみも戦争を有利に運ぶ手段でしか無い…僕はそんな感情に興味はありません…だから…僕は火星人と言うだけで憎いとは思わない…』

 

「あぁ……」

 

伊奈帆の言葉を聞き終えたアセイラムの顔は若干だが明るくなった…それを見た伊奈帆は満足そうに通信を切る…しかし伊奈帆らしいと言えばらしい遠回しな励ましである。

 

『そうか?我は地球人と言うだけで憎いがな……』

 

「全機散開!」

 

すると突然暗号通信に割り込んで来た声があった…その声に全員が反応すると同時に多数のミサイルが迫り各機は素早く散開する…すると漆黒の機体が上空から降り立つ。

 

『ヴァース軌道騎士37家門より…ザーツバルム参上いたしました…お覚悟を……アセイラム姫殿下』

 

「ザーツバルム伯爵、まさか貴方が!」

 

『暗号通信が!どうして!』

 

アセイラムは信じられなかった…ザーツバルムは軌道騎士の中でも王族から信頼を置かれている方で一部の者からは忠臣とも言われているからだ。

 

「各機!以後送信はレーダー通信に限定!」

 

『ユキ姉…作戦を継続して…韻子はユキ姉のサポートをお願い…アイツは僕が食い止める…』

 

「バカなこと言わないで!相手の全力も分からないのよ!一機じゃ勝てないわ!」

 

ユキは無茶なことを止めようとするが伊奈帆の声色は今まで以上に何かを含んでいたものだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

「勝つ必要は無いよ…足止め出来ればいい…」

 

『まさか盾になるつもりじゃ無いでしょうね!』

 

「そんな方法じゃ時間は稼げないよ…早く行って…」

 

『だが…相手取るつもりか?たった一機で…我々”二機”を』

 

「ッ!」

 

ユキが決心して行こうとした直後…さらに通信に割り込んできた声…それは自分とあまり変わらないであろう少女の声であった…その声の主はユキと韻子の行く先を阻むように立つもう一機のカタフラクト。

 

『ユキさん!行って下さい!』

 

『韻子ちゃん!』

 

するとユキのプリンセス1を守るように立つ韻子のアレイオン…ユキはそれを見て叫ぶが韻子の意志は固くマシンガンをもう一機のカタフラクトに向けたまま動かない。

 

『大丈夫ですよ!これでも伊奈帆の次に成績は優秀ですから!』

 

『クッ…二人とも必ず生きて帰るのよ!』

 

ユキは悔しそうに歯を食い縛りながら揚陸城の中心部分に向かう…伊奈帆は後ろに残った韻子の心配をしつつも向かい合う漆黒の機体ディオスクリアを見つめる。

 

『蛮勇だな地球の兵士よ。だが容赦はせぬ!』

 

(誘導ミサイルなら勝機はある…)

 

敵の声と共に肩のアーマーに装備されたミサイルコンテナからミサイルをばらまく…それを伊奈帆が冷静に思考すると迫り来るミサイルを対処するのだった。

 

(誘導ミサイルはデコイに攪乱される。でも……無誘導ロケット弾は影響を受けない)

 

揚陸城降下前にばらまかれたチャフとフレアはまだ若干残っておりその影響でディオスクリアの誘導ミサイルは一部が変な方向に向かってしまう。しかし元々その中での戦闘を備えていた伊奈帆のスレイプニールは攪乱されないロケット弾を装備してきた。これで状況はやや伊奈帆に有利になった。それを悟ったザーツバルムは叫びながらミサイルを撃ち放つ。

 

『いい気になるな!地球人!アルドノアの輝きを!』

 

ーーーー

 

韻子side

 

韻子は火星のカタフラクト…ゼダスと対峙していた…元気よくユキを送り出したのは良いが正直たった一機で立ち向かうのは初めてで韻子自身、極度に緊張していた。

 

(駄目よ私!冷静にならなきゃ殺られる)

 

『フフフッ…』

 

そんな韻子の緊張を見透している様にゼダスから不気味な笑い声が聞こえてきた。

 

『フィアが出てくるかと思ったが…まぁいい、フィアの前に貴様を葬り去ってくれる!』

 

「貴方フィアの知り合いなの!?なんでこんな事を!」

 

まさかの言葉に韻子は信じられなかった…。話し方からすれば彼女とフィアは友達かそれに近しい関係なのだろう…それを平気で亡き者にしようとする彼女の思考が…だがゼダスから来た返事は冷たい物だった。

 

『貴様ら劣等民族に!話す舌など持たん!』

 

「ッ!」

 

そう叫ぶとゼダスは装備された刀の様な物を構えると急加速し斬りかかる…その速度に韻子は驚きながらも足の飛行ユニットを全力運転させギリギリ避けるとマシンガンを撃ち放つ…それをゼダスは驚異的な機動力で避けると何も持っていない左手を向ける。

 

(やばい!)

 

韻子は本能的な危険を感じて飛行ユニットの全力運転のまま一気に後退すると、直前まで居た所にビームの雨が降り注いだ。

 

「ビーム!」

 

韻子は驚いた…今まで見てきた火星のカタフラクトは言ってみれば一芸に特化したタイプ…ニロケラスの次元バリア、アルギュレのサーベルやヘラスのロケットパンチが代表的である…だがこの機体は違う……遠近両方に武装を持ち圧倒的な機動力を持つ実戦を意識した機体。

 

(こんなのって…)

 

『隙だらけだぁ!!』

 

その事実を知ってしまった韻子は一瞬だけ恐怖感を抱いてしまう…それが決定的な隙になってしまった……それをゼダスのパイロットであるマリーンが見逃す筈も無く、急接近したマリーンはゼダスソードでアレイオンの左腕を切断し、更にアレイオンを蹴り飛ばす。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

ゼダスの加速も合わせた蹴りはアレイオンを倒すには十分で韻子は悲鳴を上げ、倒れた衝撃で頭部周辺のエアバッグが膨らむ。

 

『終わりだ…』

 

「あ……」

 

そして韻子が見たのは覆いかぶさるゼダスの姿と余裕で勝利を宣言する敵の声…そしてモニターでゼダスの腹部が光るのが見えた。

 

(ビーム!あんな所にも!)

 

避けられない…そう感じて思わず韻子は目を閉じて迫り来る”死”に恐怖する…するとビームの直撃とは明らかに違う衝撃が数回響き、敵の驚きの声が聞こえた…そして次に聞こえてきたのは知った声。

 

『韻子!無事か!?』

 

「フィア!」

 

そこに居たのはグレネードランチャーを装備したアレイオン…そのパイロットはフィア・エルスート…韻子が頼りにする人物だった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
今回は韻子ちゃんに頑張って貰いました!韻子も最後まで生き残ってるのを見て腕は確かにあると思うんですよ…何気に伊奈帆助けたりしてますしね。
それに伊奈帆の遠回しな励ましも好きですね!
さぁ次回はフィアVSマリーンと最終に突入!最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第二十四星 見いだした物ーdiscoverー



※今回は流血表現などが多くなります苦手な方はブラウザバックです。
それでもO.K.と言う方はどうぞ。




 

 

フィアside

 

デューカリオン後部ハッチ…伊奈帆達がアセイラムを連れて去って行った後、カームは傷ついたフィアの手当てをしていた…するとフィアが。

 

「カーム…痛み止めを頼む…一番きついやつをな…」

 

「おい…まさかまだ出るつもりなのかよ…こんな体で…」

 

フィアの言葉にカームは無茶だ…そう言おうとした時、腕を強く掴まれた…これ以上ないと言っていいほど真剣な顔で…。

 

「頼む…私は後悔したくないんだ…」

 

「……分かったよ…待ってろ耶賀頼先生呼んでくるから」

 

カームはフィアを見て何を言っても無駄だと判断したのか耶賀頼先生を探すために立ち去る…それを見たフィアは体を動かす。

 

「う…グッ……」

 

指一つ動かすにも激痛が走る…数ヵ所に及ぶ被弾箇所はフィアの体を蝕みフィア自身もまともに歩くことすら出来ない事は分かっている…しかし彼女には守りたい者がいる…忠誠を誓った人が……。

 

「グッ…アッ……」

 

「おい!何してんだよ!」

 

「そんな怪我で!」

 

激痛の中、フィアはアセイラムの事を思い何とか立ち上がるとちょうどカームと耶賀頼がやって来て慌ててフィアを支える。

 

「こんな体で無茶ですよ…」

 

「無茶は承知…痛み止めを……」

 

フィアの有無も言わせない目に耶賀頼は冷や汗をかき、仕方が無いと…渡すとすぐに注射を打ち体を少し動かす。

 

「少し引き攣るが問題ない…」

 

「フィアさん…」

 

「フィア……」

 

苦しそうに顔を歪めながらも体を確認しユキの置いていったアレイオンに向かうのを耶賀頼とカームはただ見守るしかなかった。

 

ーーーー

 

フィアは軋む体を無視してアレイオンを揚陸城の中心部に向かわせる。

 

「戦術データリンク……各機の交戦状況を確認……」

 

フィアはモニターに映る多数の反応を一瞬で解析すると韻子のアレイオン、マスタング11の反応と火星のカタフラクトの反応。

 

「この火星の識別コードは…ゼダス……マリーンか!」

 

フィアは韻子が追いつめられているのを察するとアレイオンの飛行ユニットを稼働させて交戦ポイントに向かう…するとそこには予想通り追いつめられたアレイオンと止めを刺そうとするゼダスの姿があった。

 

「止めろ!」

 

フィアは叫ぶと持ってきたグレネードランチャーを構えてゼダスに撃ち放つ…するとグレネードはゼダスの背中に直撃しこちらに気付くと回避運動を行う…韻子から離れるようにグレネードを撃つと通信から韻子の声が聞こえてきた。

 

『フィア!』

 

「韻子!無事か!?」

 

フィアは韻子の盾になるように立つとゼダスはゼダスソードを構えて対峙する。

 

『フフフッ…やっと来たか…フィア!』

 

「マリーン…やはりザーツバルム伯爵だとはな…だが…こうなった以上……殺す」

 

『ッ!』

 

ゼダスのコックピットの中にいても今まで感じたことの無い程の殺気にマリーンは全身に鳥肌がたつのが分かった…自然とゼダスが一歩下がってしまうがマリーンにも譲れない物がある。

 

『フッ…フィア…お前の忠誠は知っている……この計画に立ち塞がるのも薄々分かっていた…』

 

「何故この様な事を!姫様さえ居ればヴァースは生まれ変わる!何故それが待てない!」

 

『そんな僅かな可能性より!私はより確実な方法を選んだだけだ!それの何が悪い!なぜ悪いんだ!』

 

「お前の言い分も分かる…だが姫様は殺させはしない!」

 

マリーンとフィアの話は平行線を辿る…お互いが信じる者の為に戦う……その点に置いてなにも違わない筈の二人は対峙しフィアはマシンガンをマリーンはゼダスソードを構える。

 

『もはや言葉など無用……』

 

「騎士なら騎士らしく……」

 

『「勝って証明してみせる!!」』

 

お互いがしばらく対峙し一瞬の沈黙が流れる…最初に動いたのはマリーンだ……ゼダスの機動力を活かし接近するとゼダスソードを振るうがフィアのアレイオンはギリギリの所で避けるとマシンガンを構える。

 

「甘い!」

 

『ナッ!!…グァ!!』

 

マリーンはマシンガンの弾丸を避けようと行動するがそれを予測していたようにマシンガンに備え付けられたグレネードがゼダスの頭部に直撃した…コックピットが頭部にあるゼダス……その着弾の衝撃はマリーンに直に伝わり内臓がシャッフルされるような感覚に陥る…制御を失ったゼダスは揚陸城の装甲を突き破り内部通路に倒れる。

 

『あ…あぁ……』

 

「う…グボッ!!」

 

ほんの一瞬だけ意識を失ったマリーン…決定的な隙を得たフィアだがゼダスソードの一閃を避けるためにアレイオンを急加速した為に発生したGはフィアの応急処置で塞いでいた傷口を広げ吐血する…その様子を見て韻子が声をかける。

 

『フィア!』

 

「来るな!韻子は姫様を頼む!」

 

『でも!』

 

「信じてくれ…」

 

『……分かったわよ!終わったらたくさん奢って貰うんだから!!』

 

左腕を失った韻子のアレイオンはゼダスが突き破った穴とは違う穴から中心部に侵入し叫びながら消えていくのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

揚陸城降下地点…そこには子機や飛行ユニットを合体させ伊奈帆のスレイプニールの倍の大きさはあるであろうディオスクリアが姿を現していた。

 

『ディオスクリア…見参!』

 

「クッ……」

 

伊奈帆はマシンガンをディオスクリアに向けて撃ち放つが弾丸はまるで吸い込まれるように消されていく…この能力は間違いなく伊奈帆が最初に戦ったニロケラスと同じ次元バリアだった。

 

「弾丸が!?」

 

『フッ…次元バリア、アクティベート…エネルギージョイント接続、フィールドジェネレーター始動…ブレードフィールド展開……抜刀!』

 

伊奈帆が驚くのを見てザーツバルムは静かに笑い、右手に装備されたビームサーベルを起動させスレイプニールに向けて振るうと伊奈帆は何とか避ける。

 

「あれは…フィアの言っていたアルギュレの…」

 

伊奈帆はディオスクリアから発せられているのがビームサーベルだと悟り戦慄する…次元バリアにビームサーベル…今まで相手にしてきた機体とは違いこの機体は複数の能力を備えている。

 

『こちら…オルデンブルクリーダー、マスタング22援護する!』

 

「駄目だ!退避して!」

 

伊奈帆が冷や汗をかいているとちょうどディオスクリアの後ろに居たオルデンブルク小隊が伊奈帆の援護の為に攻撃を開始する…それを見た伊奈帆は焦りながら叫ぶがディオスクリアは標的を背後に居たオルデンブルク小隊に変更し次々とアレイオンを潰していく。

 

『飛べ!我が眷族よ!』

 

「ッ!」

 

ザーツバルムの声と共にディオスクリアは腕を構えロケットパンチを発射する…ロケットパンチはオルデンブルク小隊を壊滅させ伊奈帆にも襲いかかる…それを避けた伊奈帆だがディオスクリアは再び抜刀しビームサーベルを振るう。

 

『……フッ』

 

「………」

 

ディオスクリアの圧倒的な性能に伊奈帆は僅かに顔を歪ませザーツバルムは静かに笑うのだった。

 

ーーーー

 

フィア&マリーンside

 

 

『く…抜刀!』

 

「……」

 

マリーンのゼダスが立ち上がり衝撃で若干歪んだゼダスソードを投棄し右手のビームサーベルを構え突撃して来る…一撃目は何とか避けるがマリーンは左手のビームサーベルを抜刀しながら二撃目を入れる。

 

「ッ!」

 

流石のフィアも二撃目は避けきれずに右腕を斬り飛ばされる…しかしフィアは右腕を斬り飛ばされる前にマシンガンを上に投げ、斬り飛ばされた後に左手で受け取ると撃ち放つ。

 

『私はぁ!ザーツバルム卿の為にぃ!』

 

「クソッ!!」

 

マリーンは叫ぶと突っ込むがゼダスの動きには隙が無い…更にゼダスとアレイオン…のその圧倒的な性能差は流石のフィアも埋めきれる物では無く…マリーンは銃弾を回避しながらフィアのアレイオンを追いつめていく…フィアは揚陸城内に移動し逃げる…回避スペースが狭い通路だがマリーンは巧みに回避すると隙を見つけてフィアを蹴り飛ばす。

 

「ゲボッ!ゲボッ!私も姫様の為にこの命を捧げると決めたのだ!」

 

『王族の為に!アセイラム姫殿下の為にお前は何故そこまで戦えるんだぁぁ!!』

 

蹴り飛ばされた衝撃で吐血しながら叫ぶとマリーンはゼダスでアレイオンを殴り続ける、頭が吹き飛び所々装甲がボコボコになるがフィアはバックアップのナイフを取り出しゼダスの腹部ビーム砲に突き刺す。

 

『ぐわぁぁぁ!』

 

元々ゼダスは素早くビームを撃てるようにある程度エネルギーを蓄えて行動している…そのエネルギーパックが腹部ビーム砲と隣接していた為に爆発を起こした…頭部にあったコックピットは直接的なダメージは無かったが一部システムが暴走してコックピットに小さな爆発が起きる。

 

『ゲボッ!……ウッ…』

 

破片が腹部に刺さり苦しそうに呻くと頭から血を流しマリーンはノイズが入ったモニターを睨みつける。

 

『ウッ…まだ…まだ……』

 

「ヴァースには…姫様が必要だ…」

 

お互い満身創痍…正直言って二人とも…特にフィアは即刻、治療を受けなければならないレベルである…たが二人は退かない。

 

『ザーツバルム卿の夢を…悲願を……叶…え…るまで……は』

 

マリーンは体中に激痛が走る中、ザーツバルムの事を思い浮かべる…娘になりたかった……親の愛をまともに受けてこれなかったマリーンにとっては本当の親のように接してくれたザーツバルムは生きる希望だった…”娘”になれないなら…せめて誇れる”部下”に…マリーンはほぼ大破したゼダスを動かしビームサーベルを形成させる。

 

「姫様……」

 

フィアはいつもより少し白くなっている手を見て笑う…荒れ果てた土地の中で過ごしてきた…絶対的な王族、広がり続ける格差社会、それを見ようとせずにただ地球に恨みを向ける一般民衆…フィアは自身の母星を冷ややかな目で見ていた…だがそこに現れたのは優しさに溢れ、誰に対しても優しい涙を流すアセイラムの姿だった…その優しさにフィアは希望を見た…絶望したヴァースの未来を…フィアは力を振り絞りアレイオンを立たせる…。

 

『ここで終わりにするか!続けるか!フィア!!』

 

「そんな決定…権が…お前にあるのか…」

 

お互いが覚悟を持って立ち上がるが正直、立つのがやっとのアレイオンとほぼ大破状態だがビームサーベルを形成出来る余力のあるゼダスでは既に勝負は着いているのと同じだった。

 

『返事のしようではここで命を……』

 

「悪いな…」

 

マリーンは機体状況から例え少しだとしても戦闘を避けたかった…それを分かっていたフィアは退くわけにはいかない…そしてフィアはマシンガンをゼダスに向け発砲する…近距離でも関わらずマリーンはその攻撃を避けてビームサーベルをフィアに突き立てるために振るうが背後から強力な衝撃が襲う。

 

『なんだ!?』

 

マリーンはすぐさま体勢を立て直そうとするが周囲から襲い来る衝撃で上手くいかない…警告音と共に揚陸城の見取り図が出てくるとマリーンは驚愕した。

 

『火薬庫!?まさか!逃げていたのは私を誘導するため!?』

 

「今の私には…これしか出来なかった…」

 

誘導されていた事を知ったマリーンは叫び、サーベルを突き刺そうとするがフィアはアレイオンの腕からアンカーを出して拘束し逃げられないようにする。

 

『フィアぁぁぁぁぁぁッ!』

 

「姫様…」

 

マリーンの叫びとフィアの静かな呟きは揚陸城全体を震わす爆発と共に掻き消されるのだった。

 

 

 






どうも砂岩でございます!
今回、一期分の最後になる予定だったのですがちょっと長くなりそうなので切りました…すいません。
次回はちゃんと終わりますので…。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第二十五星 逃れられない運命ーUnavoidable of destinyー

 

揚陸城、格納庫。

そこにはマリーンがクルーテオの揚陸城から持ち帰ったタルシスの姿があった、そこには地球軍の兵士二名がタルシスに乗り込もうとしているスレインに対し発砲するが彼はタルシスに乗り込んでしまった。

 

「チッ…乗り込まれた…」

 

「起動するぞ!城内のカタフラクト隊と連絡を取れ!」

 

これ以上は無理だと判断した兵士が通信機で近くに居るカタフラクト隊と連絡を取っている間、スレインはタルシスのコックピットで起動作業をしていた。

 

「補助動力スタート…行けるか…」

 

スレインは補助動力を起ち上げるも肝心のアルドノアドライブが起動せずに落胆の声を上げる。

 

「駄目か…アルドノアドライブは停止してる。起動権を与えられた者しか起動する事は出来ない。どうすれば…」

 

アルドノアドライブが停止しているのを確認してスレインはどうすれば良いか思案していると突然アルドノアドライブが起動しコックピットに光が入る。

 

「これは!?アルドノアドライブが起動した…どうして?」

 

スレインはこの事に驚くが格納庫の上部からアレイオンがマシンガンを撃ってくるのを見てスレインはタルシスを操作し格納庫を脱出するのだった。

 

ーーーー

 

ユキside

 

揚陸城、物資搬入用通路。

アセイラムを連れたユキはアルドノアドライブに向かう為の通路に伏せていた歩兵に阻まれ止まってしまっていた。

 

「もう、こういう所に来るのは勘弁して欲しいんだけどな…」

 

『ユキさん!』

 

進路を阻む歩兵を見てユキが呟くと通信から韻子の声が聞こえる。その声に対しユキは周囲を見渡すと片腕を失ったアレイオンがやって来るのを見てユキは喜ぶ。

 

「韻子ちゃん!無事だったのね!?あのカタフラクトは?」

 

『……今フィアが相手をしている筈です』

 

「フィアがですか!?フィアは怪我をしている筈では!」

 

韻子の言葉に後ろに居たアセイラムが叫ぶと韻子は静かに話す。

 

『フィアが…お姫様を頼むって…』

 

「そう…フィアちゃんが…」

 

韻子の話を聞いてユキは静かに後ろに居たアセイラムを見ると少し驚く。彼女は悲しむだけでは無くその瞳には必ず目標を成し遂げると言う覚悟があったからだ。

 

「ユキさん…管理用通路があります。迂回路です、アルドノアジャンパーに向かえます。機材搬入路ではないので、ここから先は…機体を捨てねばなりませんが…」

 

「……マスタング11」

 

『了解!』

 

韻子はユキに呼ばれるとその意図を理解して歩兵が伏せていた通路の隔壁の基部を銃撃し通路を閉ざす。

迂回路を使うために入り口を向かおうとすると上から天井を壊し落ちてくるスレイプニールの姿があったのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

『アセイラム姫殿下…お命頂戴いたします…』

 

『ザーツバルム伯爵…』

 

『このぉ!』

 

通信からザーツバルムの声が聞こえて伊奈帆は頭から血を流しながら改めて状況を確認する。

ディオスクリアに押されて揚陸城の中まで追いつめられた。だがそれは違う…次元バリアの性質上、視界は上からのカメラに頼るしか無い…つまり上から見通せるのは突き破ってきた穴から見える物ただ一つ。

つまりディオスクリアは次元バリアを発動させている限りその場から動けない。

 

『あ!あいつもバリアを!』

 

「韻子…逃げて…」

 

『バカ言わないで!』

 

迎撃に出たユキと韻子のアレイオンの弾丸は吸い込まれるように消されていく。

それを見た韻子は驚愕の声を上げその声を聞いた伊奈帆は韻子に警告を発する、次の攻撃の予測はついている…視界を確保するために次元バリアを解除しながらのロケットパンチだ…。

 

(この機体…確かに脅威だ…でもこの予想が正しければ勝機はある…)

 

伊奈帆の警告を自分を見捨てて逃げろと解釈してしまった韻子は反対しているとディオスクリアは腕を構えロケットパンチを飛ばす。

 

「避けて…」

 

『うわぁ!』

 

『マスタング11!』

 

ロケットパンチを何とか避けたが残った腕を持って行かれてその衝撃で尻もちをつく。

ユキは韻子を心配しながらも帰ってくるロケットパンチを迎撃するがそれを横目で見ていた伊奈帆はハンドガンを構えてディオスクリアのロケットパンチと本体の接続部分を撃つ。

すると伊奈帆の予想通り爆発を起こしザーツバルムの驚愕の声が聞こえてきた。

 

「やっぱり、腕を飛ばす時バリアを解除する必要があるんだ…腕のスラスターがバリアと干渉するから…」

 

『なに!?私囮?』

 

『そう言う事か!』

 

伊奈帆の言葉に韻子は怒り、ユキはマシンガンの銃口をロケットパンチからディオスクリア本体に向けて発砲する…多数の銃弾を受けたディオスクリアは爆発を起こしザーツバルムは急いで次元バリアを展開するが伊奈帆は待っていましたと言わんばかりにバリアの隙間を攻撃する。

 

『オワッ!』

 

「バリアには隙間が必要だ…エネルギーフィールドを展開する所を見逃さなければ…それは容易に発見できる…」

 

『飛ばした腕を遠隔操作するアンテナ!』

 

アンテナを集中して攻撃された事により飛んでいたロケットパンチが力なく床に落ちる。

それでも尚、ザーツバルムは次元バリアを纏った手を振り上げ伊奈帆に向けて振り下ろそうとする。

 

『こざかしいマネを!』

 

『なお君、逃げて!』

 

「いや…むしろ近づいてくるのを待っていた」

 

それを見た伊奈帆はあらかじめパージしてあったミサイルコンテナを退避しながらハンドガンで破壊する。

足元から起きた衝撃は片腕になりバランスが悪くなったディオスクリアには耐えきれずに倒れ次元バリアがオートで解除されてしまう。

 

「そして…接地面にはバリアが張れない…」

 

『うあぁぁぁぁぁ!』

 

それを伊奈帆が見逃す筈も無く上に乗ると容赦なく近距離でマシンガンの弾丸を浴びせる。ダメージの蓄積によりディオスクリアは合体を解除し素体が姿を現す。

 

「お姫様、早く…伊奈帆も!」

 

「いや、先に行って…すぐに追いつく……?」

 

アルドノアジャンパーに向かおうと機体を捨てて管理用通路の入り口にいる韻子たちを先に行かせようとした時、揚陸城全体が揺れ始めた。

 

「この振動は…爆発…」

 

「お姫様!早く!」

 

着々と振動が近づいているのを感じた韻子はアセイラムを中に入れてドアを閉める。すると伊奈帆とザーツバルムが居た上の天井が爆炎と爆風と共に崩れ落ち二人を襲う。

 

「なに?…ッ!」

 

『う…なんだ…ッ!』

 

爆炎と爆風が収まり伊奈帆が見たのは大破し完全に機能を停止したゼダスと原型を留めていないアレイオンの残骸に埋もれた何か…それを見た伊奈帆は心臓が止まった様な感覚に陥った。

残骸の下から血か付着し所々焼けて変色している奇麗な銀髪…伊奈帆はディオスクリアの事を忘れて急いで残骸を退ける。

 

「フィア!」

 

一方ザーツバルムの方もディオスクリアをゼダスに近づけ頭のコックピットハッチを無理やり開けてマリーンの無事を確認していた。

 

「マリーン!」

 

ーーーーーーーー

 

マリーンside

 

爆発の後、体がコックピットの中を舞いボロボロになったマリーンを優しく抱きしめ呼びかける声にマリーンは重いまぶたを開けるとザーツバルムが居た。

 

「ザーツ…バル…ム…きょ…う…」

 

「マリーン!無事か?」

 

ザーツバルムはマリーンを回収しディオスクリアのコックピットに入れていた。マリーンが目を覚ましザーツバルムは抱きしめながら呼び掛けるとマリーンは話しかける。

 

「ザーツ…バルム…きょ…う…夢を…叶え…て…」

 

「マリーン…」

 

力を振り絞り声を出すマリーンを見てザーツバルムは悲しむ。それを見たマリーンは困った様に笑い、話を続ける。

 

「わた…しは…娘として…貴方を支えた…かっ…た……」

 

「マリーン!」

 

マリーンはそう言うと意識を失い静かになる…その顔には笑顔を浮かべておりそれを見たザーツバルムは決意を新たにし顔を上げるのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

「フィア!」

 

「いな…ほ…か…」

 

「喋っちゃ駄目だ…」

 

「ウッ!」

 

スレイプニールの手の上で伊奈帆はフィアが目覚めた事に安堵するが止血の手は止めない。

伊奈帆はスレイプニールにある全ての応急用具を使って止血を試みるが数が足りずに特に大きな傷を塞ぐ…ディオスクリアの方も今はザーツバルムがマリーンの方に行っているので安心だ。

 

「無茶しないでって言ったのに…」

 

「フフッ…ウッ!」

 

フィア自身、意識がもうハッキリしていない。それでも精一杯の虚勢を張っていつも通りにしようとするがそんな余裕はもう無かった。

意識を手放そうとした直前、全身が暖かい物に包まれる。もう殆ど目が見えないフィアにも分かる、この安心感は人の体温だ。

 

「いな…ほ…」

 

「………」

 

"抱きしめられている"こんな状況でもそれを理解したフィアは何故かとてつもない安心感に包まれる。フィアは静かに微笑みその安心感の中、フィアは意識を失うのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

「いな…ほ…」

 

そう言って意識を失うフィア、伊奈帆は自分の腕の中で眠るフィアを見て抱き上げて韻子が閉めた扉を開きゆっくりと降ろす。ここも安全とは言いにくいが物資搬入路よりかはマシだ。

 

(フィア…必ず…倒すから…)

 

無残な姿になってしまったフィアを見て誓うとスレイプニールを再度起動させる。するとザーツバルムもディオスクリアを立ち上がらせるのが見えた。

 

『マリーンの為にも…我は成さねばならぬ…うおぉぉぉぉ!』

 

「………」

 

もはや素手しか武器が無いディオスクリアはスレイプニールに突っ込む。伊奈帆もスレイプニールのマシンガンを捨ててザーツバルムの一撃を避けると腕のアンカーを発射しバランスを崩させ倒す。

 

『わかるまい…貴様らにはぁぁ!』

 

ザーツバルムはコンフォーマル・パワーアシストを装備し直したスレイプニールに向かっていく。

 

『植えつけられた地球人への羨望と憎しみが、いつまでも我等の魂を濁らせ続け…人としての生き方を奪い、豊かな地で漫然と生きる貴様らなどに我らの想いはわかりはすまい。憎しみを植えつけられた恨み、それに気づいた時の虚しさ、愛する者を守れなかった無念、想いに気づけなかった後悔…わかりはすまい!』

 

ザーツバルムの声は全周波で流れておりこちらに向かっているスレインはもちろん、相手をしていた伊奈帆にも聞こえてくる。しかし伊奈帆は右腕で殴りつけると同時にザーツバルムの悲鳴が響き、ディオスクリアは倒れる。

 

「オプティカルシーカーダウン…補助センサーの信号をメインモニターへ…ライトアーム動力カット…レフトアーム…」

 

『我は…憎む全てを倒し…憎しみの連鎖を…断つ…』

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシアの名において…」

 

『伯爵!』

 

「眠れ!」

 

ザーツバルムの言葉に場に急行したスレインが反応して止めを刺そうとするスレイプニールに突っ込む。タルシスはスレイプニールと共に壁を突き破りアルドノアジャンパーに倒れるのだった。

 

ーーーーーーーー

 

先程の激戦とは打って変わって静寂がこの場には漂っていた…そこに動く二人の影…アセイラムとスレインだ…アセイラムは大破したスレイプニールに駆け寄る。

 

「伊奈帆さん!大丈夫ですか!?伊奈帆さん!」

 

「アセイラム姫…」

 

会いたかったアセイラムを見てスレインは喜ぶがアセイラムはスレインに気づかずにそのまま呼び掛ける。

 

「セラム…さん」

 

「伊奈帆さん…良かった…揚陸城のアルドノアドライブは停止しました…作戦は成功です!私たちも脱出しましょう」

 

「フィアが…入り口の近くに…眠ってる…」

 

「フィアが!分かりました…すぐに」

 

アセイラムがフィアの居る筈の所に向かおうとすると銃声が鳴り響く。それはアセイラムを貫き彼女は苦しそうにしながらもその銃声の方に体を向けると…そこには瀕死の状態になったザーツバルムの姿があった。

 

「クッ…」

 

アセイラムは力を振り絞り、伊奈帆に銃弾が当たらないように移動すると再び銃弾が鳴り響く…彼女は死を確信して目をつむるが衝撃が来ない、不思議に思った彼女が目を開けると驚く。

 

「フィア…」

 

アセイラムを守るように立っていたのは他でもない。フィアだった…全身傷だらけの彼女は僅かに顔を動かしてアセイラムを見て笑うと呟く。

 

「あぁ…守れて…良かった…」

 

そう言ってフィアは倒れるとアセイラムが絶叫する。そして憎しみの籠もった目でザーツバルムを睨み付けるとザーツバルムは再び拳銃を発砲…アセイラムの体は宙を舞い血を流しながら倒れるのだった。

 

「ザーツバルム…伯爵…」

 

「フッ…我を助けたな…スレイン……よくやった…」

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ザーツバルム卿!」

 

ザーツバルムの最大の皮肉にスレインの頭に血が上りザーツバルムに向けて我を忘れ撃ちまくる。その間に割って入る影…マリーンだ…マリーンはザーツバルム卿に覆い被さり自身の体を盾にしてザーツバルムを守る。

 

「マリーン…」

 

「……ザーツバルム…卿………」

 

死んではいないが意識を失いグッタリするマリーン…ザーツバルムはスレインを見て静かに笑う。憎しみの連鎖を断つ…その言葉の通り、自身もその対象だ…ザーツバルムはマリーンを横に寝かせると自身の額を指さす…それを見てスレインは泣きながら拳銃を構えるのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

そんな事を横目に伊奈帆は血が目に入り、体から力が抜けている状況でも何とかスレイプニールから這い出てフィアとアセイラムの元に向かう。

 

「う…」

 

重い体を引き摺りながら伊奈帆は着実に二人に近づく…。

 

(界塚、ありがとう…私はフィア・エルスートだ)

 

最初に出会った時…その時も気絶してたっけ?今考えるとフィアってよく気絶する…それに意外と天然な所もある…特に港でニーナにちゃん付けされて変な顔してたな…。

 

(さっきも言ったが姫様に関わった以上死ぬのは許さん…姫様の悲しい顔は見たくない)

 

今考えても身勝手な言い分だ…でもその言葉に勇気づけられた自分はどうなのだろうか?

 

(………)

 

ニロケラスと戦う前に…泣いてた……フィア…君はとても優しい…だから守ってあげたい…自ら傷ついていく君を守りたい…。

 

「フッ…ウゥ…」

 

何とか辿り着いた伊奈帆…しかしすぐ後ろから拳銃をスライドする音が聞こえ…続いて声も聞こえる。

 

「よせ…それまでだ…二人に触るな…オレンジ色……」

 

「……コウモリ」

 

種子島で聞いた声に顔を向けると向けられる銃口を見て伊奈帆は笑う。圧倒的に不利な状況……しかし伊奈帆は振り向いた顔を戻しフィアから託された銀の拳銃を向ける。二人を助ける……そんなシンプルな思いが伊奈帆を動かした結果だ……しかしその思いは叶わずそこで意識を刈り取られるのだった。

 

ー2014年12月。地球連合本部に強襲をかけたザーツバルム伯爵の揚陸城は陥落。戦いは地球連合の勝利に終わった。敵味方双方に死傷者多数、ヴァース第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシア姫とその騎士のの消息は…今だ知れないー

 

 




どうも砂岩でございます。
あぁ…最後なのになんかグダってしまった感……クソ……。
フィアがなんで生きてるの?と疑問に思った方は多く居ましょうがフィアだからって事で……。
そして一期分完結しました…次回からは空白期間も挟んで二期に突入していきます!ご指摘通り二期分の設定集は作るつもりです……オリキャラの数が増えますので!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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空白の十九ヶ月 《第1.5章 忘却忠誠騎士 編》
空白の十九ヶ月及び第二期 登場機体、登場人物紹介


※すいません…諸事情によりちょっと変えました。

※キャラを追加しました。




ーー 既存キャラクター ーー

 

フィア・エルスート

 

身分……アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下専属騎士兼アセイラム親衛隊隊長

 

専用カタフラクト……シナンジュ

 

アセイラムに絶対的な忠誠を誓う騎士…全ての戦闘分野において超一流の実力を持ち、交戦した全てのカタフラクトの情報を頭に叩き込んでいた事などからその能力の高さが伺える。

 

 

マリーン・クウェル

 

身分……子爵

 

専用カタフラクト……ゼダス→レギルス

 

大破し揚陸城に放置されたゼダスの代わりにヴァース本国からレギルスを受領…変わらずザーツバルムに忠誠を誓っている。

 

ーー アセイラム親衛隊 ーー

 

リア・シャーウィン

 

身分……アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下親衛隊副隊長

 

専用カタフラクト……ローゼン・ズール

 

アセイラム親衛隊の副隊長、元々ヴァース本土の護りのためにヴァース本土に居たがアセイラムの行方不明とレイレガリア皇帝の勅命で月面基地に配備された…フィアの忠実な部下…しかし普段生活では少々特殊な性格。

 

シルエ

 

親衛隊隊員、ベルガ・ギロス01のパイロット冷静沈着で基本返事も挨拶も「………」で済ます…しゃべる事が珍しい位である。

 

ネール

 

親衛隊隊員、ベルガ・ギロス02のパイロット男気が強く元気な性格…さばさばした性格であまり細かい事は気にしない。

 

ジュリ

 

親衛隊隊員、ベルガ・ギロス03のパイロットお堅い性格でフィアに似ている節がある…フィアを尊敬している。

 

ケルラ

 

親衛隊隊員、ベルガ・ギロス04のパイロット常に敬語を使う親衛隊隊員の中で最年少の隊員。

 

フェイン・クラウス

 

フィアの機体であるシナンジュの機付き長、歳はフィアより上でフィアも敬語で話している。

妙に間延びしている声が特徴で頼りなさそうだがとっても優秀で本気になると口調が変わる。

 

ーー地球連合ーー

 

界塚伊奈帆

 

階級……地球連合軍、少尉

 

専用カタフラクト……スレイプニール00(元スレイプニール03)

 

揚陸城の事件後、素早い治療により一命を取り留め失った左目の代わりに義眼としてアナリティカル・エンジンを脳に直接繋げる事で目の代わりとしている…尚、アナリティカル・エンジンはその他多数の機能を搭載しているが代償もその分大きくなる。

現在使用しているスレイプニールはデューカリオンに残されたフィアが使っていた物でフィアが独自に改良したシステムは伊奈帆も頼りにしている所がある。

 

ーー 火星騎士 ーー

 

ヴァルト伯爵

 

身分……伯爵

 

専用カタフラクト……ギランディア

 

ヴァース軌道騎士37家門の一人で五十後半とかなり高齢…クルーテオと同じくアセイラム姫に忠誠を誓っている者の一人で真の貴族主義を夢見ている。

 

 

アセイラム親衛隊

 

伯爵など…階級を持つ者は独自に軍を持ち行動している為、親衛隊等の人員は自然と下層階級の者でその中でも腕が立ち信用に値する者が選ばれる事が多い…アセイラム姫の護衛を主にするために隊員全員が女性である。隊長のフィアはシナンジュ、副隊長のリーリアはローゼン・ズール…その他の隊員の機体はベルガ・ギロスが配備されている。

 

シナンジュ

 

火星のカタフラクトの中でも戦闘用に開発された珍しい機体で最新鋭のカタフラクト…武装も豊富で色んな状況に対応できるようにビーム兵器、実弾兵器と装備は充実している。

 

 

ローゼン・ズール

 

親衛隊副隊長、リーリアの専用機、かなり古い機体で多数のビット制御能力を持つハーシェルの先輩の位置にあたる…武器は強力なクローとビーム兵器が複合になっている手で左腕にはシールド兼ビーム拡散砲が装備されている…尚、背後には対内乱用に作られたアルドノアジャマーが装備されておりそれに囲まれるとアルドノアドライブが強制停止する機能を持つ。

 

ベルガ・ギロス

 

アセイラム親衛隊の隊員が持っている専用機、しかし数は少なく四機しか配備されていない…武装はショットランサーとその基部には実弾のマシンガンが仕込まれておりランスを発射してもマシンガンとして使える、その他ビームシールドとシンプルだが機動力は高い…隊長機であるシナンジュに追随出来るようにされており機動力ならシナンジュより若干下だが優秀な機体である事は変わりない。

 

レギルス

 

ゼダスの戦闘データを元に製造された新型の火星カタフラクト…ゼダス同様ビーム兵器のみの武装で固められている…電磁装甲は装備していない…特殊装備にシールドに内蔵されたビームビット生成機関が装備されている。

 

ギランディア

 

特殊能力……完全電子操作

 

ヴァルト伯爵専用カタフラクトで巨大なドラゴンのような異形の形をしている羽の部分と尻尾の先は巨大な大剣の様になっており、腕の部分は巨大なミサイルランチャー、機体の大きさはディオスクリア(合体済み)と同等の大きさを誇る。

装甲は特殊な合金を使っており艦砲射撃でも傷すらつけられない重装甲…複数のアルドノアドライブを持っている。

 

 




設定集作った方が良いんじゃない?とご指摘を頂いて作りました…オリキャラが多くなったのでちょうど良いかと…ではでは最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第二十六星 忘却の騎士ーforgetfulness of knightー

 

 

ザーツバルム伯爵の揚陸城陥落からおよそ半年が経ったある日…月面基地では二人の人物が眠っていた…一人はこの火星と地球の開戦の火蓋となった人物…アセイラム・ヴァース・アリューシア姫…もう一人はその騎士であるフィア・エルスート…彼女はアセイラムとは違い簡素な個室で一人、人工呼吸器を付けて眠っていた。

 

「スゥ…ハァ……スゥ…ハァ……」

 

規則正しい寝息にただ寝ているような印象を受けるが彼女は半年もの間、一度も目を覚ましていない。

 

「……」

 

そんなフィアのベッド傍らに立つのはフィアと同じ灰色の制服を着たスレインだった…彼はベッドの横に置かれた机に赤のポピーを花瓶に備える…花言葉は”感謝”。

 

「それでは…姫様のお見舞いもありますので……失礼します…」

 

「………ぁ…」

 

「ッ!?」

 

スレインがいつものように退出しようと背中を向けた直後…僅かだが声が聞こえた…それに気づいたスレインは振り向くと僅かだが目がピクピクと痙攣しゆっくりと目を開けたのだ。

 

「ッ!目を!分かりますか!スレインです!」

 

「………」

 

目覚めたフィアを見てスレインはそばに駆け寄り声をかけ続けるとフィアは黙りながらも目をスレインに向けて目を合わせる…それだけだがそれは本人が意識を明確に持っている証だ…それを見たスレインは急いで人を呼ぶのだった。

 

ーーーー

 

「フィアぁぁぁ!」

 

「エデルリッゾ……」

 

フィアが目覚めたと聞いてエデルリッゾはベッドに座っていたフィアに抱きつき泣く…フィアは驚きながらもそれを受け止めるが当の本人はまだ記憶が混乱しており若干…上の空である。

 

「よくご無事で…」

 

「姫様と一緒に運ばれて来た時はどうなるかと!」

 

エデルリッゾは相変わらずフィアの腕の中で泣き続ける…アセイラムの意識が戻らない半年間…スレインが居たというものの頼りにしていたフィアも瀕死の状態で運ばれ心細かったのだろう……スレインも目に若干涙が浮かび喜んでいる…その後ろからドア越しに傷も完治したマリーンが様子を見に来て居り静かに立ち去るのだった。

 

「姫様…スレイン…」

 

「目覚めたばかりなので記憶が混乱しているのでしょう…数分もすれば戻りますよ」

 

「私は…クルーテオ卿…訪問…ッ!うぁぁ……」

 

フィアを診ていた医者はそう言うと立ち去りスレインは頭を下げて見送ろうとするとフィアが突然頭を抑えてうずくまるとスレインとエデルリッゾは驚き呼びかけるが返事は無く…苦しむ……それを見た医者は急いでフィアを診る。

 

「エルスート卿…分かりますか?ここは月面基地ですよ!」

 

医者の言葉にも苦しむフィアには届かずにその光景をスレインとエデルリッゾはただ…見守るしか無かった。

 

ーーーー

 

医者から退出を命じられた二人はフィアが眠っていた部屋の前で待っていると医者が出てきて二人は駆け寄ると医者は少し残念そうな顔で報告する。

 

「エルスート卿の体自体は問題ありません…しかし……」

 

「しかし何なのです?」

 

医者が言葉を濁らせていると耐えきれずにエデルリッゾが聞くと医者は決心したように二人の目を見て話す。

 

「半年前の記憶が欠落しています……アセイラム姫殿下が地球に降りられる直前から怪我をして運ばれて来た所まで忘れていました…」

 

記憶障害…二人はその言葉を頭に浮かべて絶句する…元々地球に偏見を持っていたエデルリッゾだが実際に触れて話しているとその意識も薄れていた…特にフィアはよく笑うようになったし本当に楽しそうだった……その事を思うと彼女は胸が痛んで仕方が無かった。

 

「フィア……」

 

「大事をとって今日は安静にするように…」

 

そう言って医者はその場から立ち去るとその場に静寂が訪れる…

 

「……」

 

「行きましょうか…」

 

「はい…」

 

スレインは静かにエデルリッゾに話しかけるとエデルリッゾも静かに答えスレインの後に続いて部屋に入るとそこには先程の苦しみが嘘のように静かにベッドに座っているフィアが居た。

 

「フィア…」

 

「あぁ…エデルリッゾか…どうやら私は色々忘れてしまったらしいな……スレイン…」

 

「はい…」

 

「よく見れば騎士になったんだな…おめでとう…この調子ならあっという間に抜かれそうだ…」

 

「あの…エルスート卿…」

 

「フィアで構わない…呼び捨てでな…」

 

「ッ!……フィア…さん…」

 

フィアの言葉にスレインは思わず息を飲み…泣きそうになる…こんなに優しくされたのは何年ぶりだろう…同じく目の前でアセイラムが撃たれるのを見る事しか出来なかった罪悪感とその優しさにスレインはもう一度涙を流すのだった。

 

ーーーーー

 

それから次の日…フィアは杖を突きながらエデルリッゾに案内されある部屋に向かっていた…本来ならリハビリが必要なのだが彼女は大丈夫と言い張りこうして歩いているのだった。

 

「……こちらです」

 

「ここに姫様が…」

 

フィアは少し恐怖に襲われながらもエデルリッゾが開けた部屋に入室するとその光景に思わず杖を落とす…そこに居たのは生命保護用水の中でただ浮かんでいるアセイラムの姿だった。

 

「あ……あぁ…ウワァァァァ!」

 

フィアは膝を突き、頭を抱えて泣き叫ぶ…守れなかった……騎士なのに、守ると誓ったのに…後悔と自責の念がフィアを支配しただ己の未熟さを呪い泣く事しか出来なかったのである。

 

 




すいません…メチャクチャ短いですがここまでで…一応空白の十九ヶ月間のプロローグと言う事で書きました。
あとスレインのフィアへの呼び方ですがこれからはフィアさんになります。それとフィアは地球の事を丸々忘れていると言う事で少しずつ思い出していく予定です。
では今日は短くてすいませんでした…次からは本格的に書いていきますので…最後まで読んで頂いてありがとうございました!


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第二十七星 召集ーassembleー


お気に入り数が101!?ありがたいです!皆様のご期待に答えられるように頑張ります!



 

 

連合本部強襲から半年…月面基地ではフィアが目覚めその真実を知った数日後…月の司令室ではザーツバルムがおりスレインからフィアの様子を聞いていた。

 

「して…エルスート卿の様子はどうだ?スレイン」

 

「はい…アセイラム姫を見た後は酷く落ち込んでいましたが昨日から食事も摂れるようになられています」

 

「そうか…」

 

ザーツバルムはスレインの報告を聞き少し感心する…本当は最悪の事態も考えていた彼だがフィアは騎士である事を心得ている…騎士とは時にはその命を持って主の命を守る者であるが決して命を捨てることが忠義では無い…主の為に行動する…それが常識であり義務である……それを分かっているフィアにザーツバルムは密かに評価を上げる。

 

「ザーツバルム卿…エルスート卿には全てを話すのですか?貴方のことも……」

 

「……それはお主が決めよ…スレイン…」

 

「え…」

 

ザーツバルムの言葉にスレインは驚く…事の全てを話せば後ろから撃たれかねないと言うのにそれを自分に任せるなど普通ではあり得ない。

 

「スレインよ…私は目的の為ならどの様な事もする…我は民を統べ、導く者だ…手を汚すことは厭わん…我は我が正しいと思うことを全力で成すのみ…彼女にも譲れない正義があるのだ…それが私と相対するなら…この命が亡くなろうとも文句は言わん…もちろんスレイン…お主に殺されてもな…」

 

「ザーツバルム卿……」

 

ザーツバルムの言葉にスレインはただ黙るしかなかった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

「フィア?」

 

「全く情けない…これでは姫様に合わせる顔がない…」

 

フィアに用意された部屋には来客用の椅子に座るエデルリッゾと古風な机に備えられた椅子に座るフィアが居た…フィアはそう言うと立ち上がり杖を取って騎士服を羽織り立ち上がると部屋を出る…それを見たエデルリッゾは慌てて追いかける。

 

「どこに行くのです!」

 

「月面基地の司令室だ…ザーツバルム伯爵が居る筈だろう…」

 

「何をしに…」

 

「悲しむのは止めた…私は今、姫様に出来る事を全力でやる、ただそれだけだ…」

 

この前の状態とは打って変わっていつも通りのキリッとした顔に迷いの無い言葉にエデルリッゾは安心しながらフィアに着いていくのだった。

 

「失礼します…」

 

「フィアさん!」

 

「エルスート卿…」

 

司令室に入ったのを見たスレインは若干驚き、ザーツバルムは堂々とした態度でフィアの方に向き直るとフィアはザーツバルムに要件を話す。

 

「ザーツバルム伯爵…謁見の間の使用を許可して下さい…」

 

「謁見の間?何に使うのだ?」

 

「私のやれる事をやる為に…」

 

「………」

 

「………」

 

「…分かった……しかし…一つやって貰いたい事がある…」

 

ザーツバルムとフィアはしばらくの間向かい合うとザーツバルムは許可を出し一つ要件を言うとフィアはしばらく考え了承するのだった。

 

ーーーー

 

フィアは制服を正し謁見の間に入ると中央の石に手を添えて起動させる…するとたった今までの狭い個室が巨大な広場になり、そこにヴァース帝国を納める皇帝…レイレガリア・ヴァース・レイヴァースが姿を現しフィアは杖を横に置きながら跪く。

 

「フィア・エルスート…参上いたしました…」

 

「うむ…久しいな…アセイラムが地球で怪我をしたと聞いたが…どうだ?」

 

「ハッ!姫様は現在、安らかにお眠りになられております…」

 

フィアは言葉を発しながらも自身に嫌悪感を抱く…いくら安心させる為とは言え…嘘当然の事を発しているのだ……しかし皇帝は今病に伏せっている時…悪い情報は出来るだけ避けて通りたい…そんなフィアを見ながら皇帝は安心したようにする。

 

「そうか…して…今回は何のようだ?」

 

「ハッ!許可を頂きに参上いたしました……親衛隊の使用許可を……」

 

ーーーー

 

ザーツバルムside

 

月面基地司令室…そこでザーツバルムは密かに思案していた…月面基地自体は元々マリーンの働きで自身の配下が半ば占拠している状態だがそこに親衛隊が加わる…親衛隊は身分の低い者達の集まりだが実力はトップクラスの猛者達……その中でトップに立つフィアはアレイオンでゼダスを倒す化け物なのだ…それに続く親衛隊隊員はそれに等しい実力の持ち主……当然頭も切れるだろう。

 

「計画に支障が出なければ良いが…」

 

ザーツバルムの計画は終わっていない…封建制度を廃し人の尊厳を取り戻す為に…オルレインの為にこの命が尽きるまで諦める訳にはいかない。

 

「フッ……騎士たる者…牙向く者を倒すのは凡庸…牙向かせぬ程に格差を見せつける事こそが肝心……」

 

ザーツバルムはそう呟くと静かに笑うのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

レイレガリア皇帝から許可を頂いたフィアは謁見の間を操作すると場所が変わり、突然フィアを囲むように五つの人影が現れる…それを見たフィアは静かに笑うと話しかける。

 

「久しぶりだな…みんな……」

 

そこに現れフィアの正面に立つのは紫の髪をフィアと同じように伸ばした少女…彼女はしばらくの沈黙の後、口を開き話す。

 

「お久しぶりです…隊長……地球で行方不明と聞いて気を揉みました…」

 

「あぁ…すまない……」

 

「まっ!流石は我らの隊長!私たちが心配するまでも無かった訳だ!」

 

副隊長であるリアとフィアが話してるとフィアの左側に居た褐色の肌に紺色の髪をショートにした少女…ネールが元気に笑うとリアが叫ぶ。

 

「この馬鹿が!ここはシリアスに進めるのが常識でしょうが!?」

 

「まぁまぁ」

 

「お二人とも…まずは隊長の無事をお喜びするのが先かと…」

 

「………」

 

「え…どうしましょうか…」

 

そんなリアとネールのやり取りを、金髪を背中まで伸ばし途中で一カ所束ねている髪型の隊員ジュリが硬い声色で止めるが二人の口論は絶えない…それを興味なさそうに直立不動で待つのが肩まで伸ばしている黒髪が特徴のシルエとそれを見てウロウロするウェーブした茶髪を持ったケルラ……そんな光景を見てフィアは笑うと真剣な声色で話し始める。

 

「総員!傾聴!」

 

フィアの一言で場は収まり全員が直立不動で立つ…その顔には先程の呑気な影は無く真剣な表情をしていた。

 

「レイレガリア皇帝陛下の許可を頂き…貴様らは月面基地に向かって貰うと同時に、これからデータを送る人物を月面基地まで護衛する!その任務完了後…正式に私の指揮下で行動して貰う…それまで副隊長であるリアの指揮の下で行動せよ!以上だ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

親衛隊の五人が返事をするとフィアは敬礼をし謁見の間の機能を切ると部屋は薄暗い空間に戻る…あれ程騒いでいた親衛隊のメンバーをたった一言で収める…親衛隊のフィアへの信頼と尊敬がよく分かる一面であると同時に各メンバーの練度の高さを覗えるものであった。

 

ーーーー

 

マリーンside

 

「ほぅ…これが……」

 

「はい…まだ調整が必要ですが…ディオスクリアの再建造の為のパーツを取り寄せた時に一緒に…」

 

月面基地格納庫…そこにはヴァース本国からの長距離輸送艦が入港しており仕入れの備品をチェックする兵の中にマリーンが居た…本当なら目を覚ましたフィアに一言言うべきなのだろうがマリーン自身…どんな顔をして会えば良いか分からなかった…もちろん揚陸城の戦いの事は後悔していないがマリーンはまだ心が未成熟な時期…まして戦争における殺し合いの経験などある訳も無く…会えずに居た。

 

「試作兵器か…名は?」

 

「XVM-FZC『レギルス』と言う物です…」

 

「レギルス…聞いたことがあるな……」

 

「クウェル卿もですか…七年前に設計図が発見されたのですが当時のヴァースの技術では再現出来なかったらしいです…ですがクウェル卿のゼダスの戦闘データとエルスート卿のシナンジュの調整データを元に機体自体は完成したらしいですね…」

 

「なる程…そんなに恐ろしい技術を使っているのか…」

 

マリーンは輸送艦から運ばれる機体を見てそう呟く…赤、青、白のトリコロールでマリーンの愛機であったゼダスと同じスリット状のメインカメラ…背部に羽根のような物と腰の下からは尻尾のようなビームキャノンを装備しており恐竜の様なデザインだ。

 

実のところ…機体自体は性能の違いはあれどゼダスと比べても特筆すべき技術は使われていない…問題は装備である…レギルスのシールドに内蔵されているビームビット生成機関は今までに無い凶悪な兵器であり、それを操るパイロットはかなりの負担を担わなければならない。

 

(果たして…私に扱えるかどうか…)

 

マリーンは心の中で呟き運ばれていくレギルスを見つめるのだった。

 

ーーーー

 

「アナリティカル・エンジン…」

 

「えぇ…現在研究中ですがほとんど確立されています…付けてみる気はありますか?」

 

そして地球…そこで一つの決断を提示された少年の姿があった…名は界塚伊奈帆…揚陸城の一件の後…左眼を失った彼は軍上層部にアナリティカル・エンジンを左眼の代わりとして移植する事を提案されていた。

 

世界で初めて…最も多く火星騎士のカタフラクトを倒した伊奈帆は地球連合としても喉から手が出るほど欲しい人材だ…片眼を失った状態よりも移植してその力を何倍にも拡げる事が出来るならその方が良い…その為ならどんな事だって地球連合はしてくれるだろう…そう思った伊奈帆の決断は姉であるユキの判断を待つ必要は無かった…。

 

(もし研究中の技術でも僕が戦力として価値があるなら軍は見捨てない…)

 

「分かりました…お受けします…」

 

もう二度とあの様な後悔はしたくない…伊奈帆のその強い思いは微かな打算と共に決断を下したのだった。

 

 





どうも砂岩でございます!
フィアとマリーンの確執はまだまだですがゆっくりと解決していきたいと思います。
そして親衛隊の初登場!まぁ親衛隊の護衛対象はお分かりの方も多いと思います通称…にんに…ゲフン、ゲフン…。
フィアがその護衛対象を認めたのには理由があるのですがそれはまた次回で…。
アニメしか見ていないですからいつどういう風に伊奈帆がアナティカル・エンジンを付けたかは完全に想像ですね。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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二十八星 騎士の過去 《出会い》 ーknight of memoryー

 

 

 

 

 

 

親衛隊side

 

ヴァース帝国、帝国軍軍港…そこには巨体な長距離航行用の輸送艦が多数並べられていた…ヴァース帝国の主戦力と呼ぶべき火星騎士軍は全て地球軌道上に集結しており本土の軍のほとんどが一般階級からという、いわゆる低い身分の者から成り立っているのが現状だ…もし地球軍が火星騎士軍を破り本土に進撃してきたら為す術もないだろう。

 

「各システムのチェックは入念にな…」

 

「整備班は最終チェック急げ!」

 

「月面基地への荷物と移動中の食料も忘れるな!」

 

軍港では整備兵と作業班がごちゃ混ぜになり長い地球圏への旅に備えて作業を進めていた…その輸送艦に黒と紫の二色で彩られ、ガスマスクを付けているような顔のカタフラクトがその人員を踏まないように慎重に格納庫に入っていく。

 

『全く!こんなに人が居たら踏んじまうぜ!』

 

『ネール…踏んだらどうなるか分かってるな…』

 

『分かってるよ!いちいちジュリは細かいんだから!』

 

ネールは足元の人に悪態をつきながらも何とかベルガ・ギロスを格納庫に納める…元々、予定されていなかった輸送艦に特務を理由に親衛隊が割り込んだのだ…この様な混乱は仕方の無い事だった…ジュリ達は機体をロックするために指定の位置に置くと既にその横にはリアのローゼン・ズールとシルエのベルガ・ギロス01が収められていた…それを機体から降りる際に見たネールは呟く。

 

「あれ?副長は?」

 

「特務の遂行だ…ブリーフィング聞いていなかったのか?」

 

「わ…分かってるよ…聞いただけさ…」

 

『アワワ!退いてください!』

 

ネールの質問にジュリはため息をつきながら答えるとネールは冷や汗をかき…目をそらしていると輸送艦の入り口からケルラのベルガ・ギロス04がぎこちない動作で入って来ており足下に居た作業員は慌てて逃げる…それを見てネールとジュリは頭を押さえるのだった。

 

ーーーー

 

輸送艦に繋がる長い廊下…そこをゆっくり歩く三つの影…親衛隊副隊長のリアとその隊員のシルテだ…シルテは特務で同行する人物の車椅子を押していた。

 

「レムリナ姫…これから二ヶ月と言う長い旅に出られますが…よろしいでしょうか?」

 

「……私にその選択肢があるとお思いですか?リア・シャーウィン副隊長…」

 

「……」

 

その特務で同行する人物とは先代皇帝であったギルゼリアの隠し子…レムリナ・ヴァース・エンヴァース…その生まれのせいで母親と同じく酷い扱いを受けており皇族を含む封建制度を恨んでいる人物だ…その少女が虐げられる原因であるアセイラムの身代わりをするとは皮肉なものである。

 

レムリナはリアの言葉に皮肉を込めて返事をするとリアは黙ってしまい少しだけ渋い顔をする…そして車椅子を押しているシルエは相変わらず無表情、無言を貫いている…それを見たレムリナは少し笑い言葉を発する。

 

「フフッ…冗談ですよ……私たちを救ってくれたザーツバルム伯爵のお願い…恩を返すには絶好の機会です…それにこんな私を守ってくれるあなた方にも感謝しているのですよ…」

 

「それは良かった…我々も任務とは言え…嫌がっている人を連れて行くのは気が引けます…」

 

「そうですか…私としてもこんな星より向こうに行った方が遥かに楽しいでしょうし…期待してるのですよ…」

 

「ハッ!」

 

リアもレムリナの経歴はある程度洗い出している…気が障らない様に注意を払いながら話しているとレムリナも気を良くしたのか次第に言葉数も増えて来た…護衛としては護衛対象との距離間は大切である…その確保を完了したリアは少し安心しつつ輸送艦にレムリナを案内するのだった。

 

ーーーー

 

その頃、月面基地のとある一室にフィアとスレインの姿があった…その目の前には医療カプセルに浮かんでいるアセイラム…静かにアセイラムを見つめるフィアを見てスレインは心配そうに話し掛けるがフィアは沈黙を守り続けた。

 

「フィアさん……」

 

「………」

 

しばらく黙っていたスレインはフィアに本当の事を話そうかと考えているとフィアが静かに語り出した。

 

「スレイン…」

 

「はい…」

 

「私は元々貴族や特定の階級を持つ物では無かった…」

 

「え…一般階級だったんですか?」

 

フィアの言葉にスレインは驚く、アセイラムの警護を全面的に任せられているフィアが元々は何も持たない一般階級だとは思いもしなかったからだ。

 

「まぁな…あの時は姫様の騎士になるなど思いもしなかったがな…」

 

「クウェル卿とも仲が良く見えましたが…」

 

「マリーンか…アイツとは訓練学校で出会った…」

 

「そうだったんですか…」

 

スレインはヴァースの訓練学校には行かずに父が他界してすぐクルーテオ卿に引き取られた為に訓練学校には行っていないのだ。

 

「良かったら聞かせて貰っても…」

 

「そうだな…あれは……」

 

ーーーーーーーーーーー

 

四年前、フィアはヴァース帝国軍の志願兵として軍の教練所のグランドに整列している志願兵の列に居た…階級と言う物をを重く見るヴァース帝国だがこの教練所においてはそれは意味をなさなかった…むしろ権力を持つ物は一般階級よりも厳しい訓練を受け力を示さなければならないと言う点では力ある者とない者での違いはあるとも言える。

 

「貴様らは皇帝陛下の盾となり矛となる者だ!この厳しい試練を抜けれた者にはそれ相応の力が手に入る!」

 

教練所のお偉いお方のありがたいお言葉をフィアは冷めた目で見ていた…当時十二歳であるフィアは既にヴァースの封建制度に疑問を持ち、全てがくだらないと言わんばかりの表情を隠さないでいた。

 

ーーーー

 

「……」

 

「ッ!」

 

「「「「おぉ!!」」」」

 

訓練が始まって一ヶ月が経った教練所の施設では体術の訓練が行われ全員に等しく試合が設けられ教官が審判を下していた、その一角で大きな歓声が上がっていた、フィアと男の志願兵との試合で決着がついたからだ。男の方は息が荒れ、ひっくり返されているが対するフィアは呼吸の乱れが見られずにそのひっくり返された男を立って見ていた。

 

「流石だな…フィア・エルスート……前代未聞の天才とはよく言った物だな…」

 

「ありがとうございます…」

 

教官の言葉にフィアは淡々と答えその場を立ち去るのだった。

 

ーー

 

「……」

 

教練所の食堂…訓練だらけのこの生活において月に一度の休みと食事の時間が数少ない安らぎの時間だった…フィアは食堂の不味い食事を黙って食べていた。

 

「いや~流石は麗水…」

 

静かに食事を摂る姿に周りの者達は相変わらずの無言、無表情、無反応に苦笑いをする…誰かが呟いた言葉はフィアの別称になっている…冷水の様に冷たい麗しい少女で“麗水”付けた人は上手い、…静かに座っているフィアは綺麗な銀髪で無口で近寄りがたいのは逆にクールとも取れる…それが理由か分からないがファンクラブ的な物も存在するらしい…そんな一方それを面白くないと思う連中も当然存在する訳で…。

 

「おい!フィア・エルスート!!」

 

食堂に怒声が響き渡り食堂に居た全員が注目する…その怒声を発したのは先程の体術訓練で投げ飛ばされた男だ…後ろには数人の男たちが待機している…彼の家柄は男爵なので意地もプライドもあったのだろう。

 

「……」

 

「おい!」

 

それでも無視するフィアに苛ついたのかフィアの肩を掴んだと思った瞬間、その男は投げ飛ばされ地面に伏せていた…フィアは肩を掴まれる寸前に片手でその手を掴み投げ飛ばしたのだ。

 

「私に触れるな…」

 

冷たい言葉と瞳に一緒に居た者達も一瞬たじろぐが一泡でも吹かせたかったのか彼女に数人が襲いかかる…面倒くさそうに舌打ちをしたフィアが立ち上がろうとした瞬間、その男共はまとめて吹き飛んだ…その中心に居たのは黒髪をポニーテールにした少女…マリーン・クウェル。

 

「……うるさい…埃が舞う……」

 

「……」

 

それがフィアとマリーンの出会いであった。

 

 

 





どうも砂岩でございます。
今回は過去についてですね!フィアちゃんは超一匹狼ですね!

ーーーー

そして重大なお知らせ

活動報告でも報告させて頂きましたが今回、この砂岩は大学受験の為に更新が著しく遅くなります…下手したら来年まで投稿しないかもしれません。
今回の投稿が遅くなったのもこれが原因です、今までご声援頂いた方々には申し訳ありませんが落ち着くまでお待ち下さると嬉しいです。




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第二十九星 騎士の過去 《式典》 ーknight of memoryー




ヴァース帝国軍式典用礼服(訓練兵用)…紺色の制服の色を白色にしボタンや袖口等を銀色に装飾している物。(正規兵はその身分の位の制服を白色にし金色に装飾している物)
腰には刃の潰してある装飾されたサーベルか木で出来たボルトアクション式の単発銃を持っている。




 

 

 

 

 

 

「お前は…」

 

突然のマリーンの登場にフィアは少し警戒するがマリーンは目だけをフィアに向けると話し掛ける。

 

「お前も大変だな…こんな奴らの相手に付き合わされて…」

 

「人気者は辛いとでも言っておこうか」

 

「フッ…「何をしている!!」…思ったより早かったな…」

 

フィアの言葉にマリーンは笑うと遠くから教官の怒鳴り声が聞こえた。

辿り着いた教官を前にフィアとマリーンは姿勢を正し、倒れていた連中も急いで立ち上がり姿勢を正した。

 

「貴様らこんな所で何をやっている!」

 

「合同のレクリエーションであります!教官殿」

 

「レクリエーションだと?」

 

「はい…各員の交流をはかっておりました……」

 

教官の質問にフィアはサラリと嘘を述べマリーンもそれに続く…バレたら何かしらの罰則が待っている。

そんな物を受ける気は全員サラサラないので教官による目線の質問に全員が黙って頷く。

 

「フッ…交流だと?こんな所でか?まぁいい…次はもっと場所を選べ」

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

フィアとマリーンの言葉に半信半疑だが教官は納得しその場を立ち去る。

教官が食堂の部屋から完全に退出すると全員が一息をつくが吹き飛んだ連中は不満なようだ。

 

「お前ら……」

 

「なんだ?レクリエーションの続きでもやるか?」

 

「チッ!」

 

しかしフィアとマリーンが睨むと、それ以上仕掛けること無く食堂から出て行ったのだ…それを見届けたフィアとマリーンは時間も無いのでさっさと食事を済ませる事にした。

 

「そう言えば名乗って居なかったな…フィア・エルスートだ…」

 

「私はマリーン・クウェル…お前のことは良く聞いている…麗水だろ…」

 

さっさと食事を済ませた二人は水を飲みながらお互いが向かい合って座り話していた。

元々人と接するつもりは無かったフィアだがどことなくマリーンに親近感を抱いたのが最大の理由だろう。

それはマリーンも同じでこの出来事を境に二人はよく一緒に行動するようになった。

 

ーーーーーーーー

 

「明日か…」

 

「明日だな」

 

教練生活から半年が過ぎ、フィアは消灯時間までの僅かな間にこの前、貴重な月一の休暇を利用して買った本を読みながらぼやく。

すると近くで課題をしていたマリーンもその呟きに同意し呟く。

 

教練生活から三ヶ月で成績順に部屋が割り当てられマリーンとフィアは一、二を争う好成績者だった為に一番広い部屋を二人で使っていたのだ。

 

「式典か…」

 

フィアは『宇宙戦闘における戦術基本論』を読み終わると静かに呟く。

 

「いっぱい人が来るんだろうな…」

 

マリーンの言葉にフィアは顔を僅かに歪める、皇族は自分たちが困窮しているのを尻目に優雅な生活を送っている。

地球に比べたら優雅かどうか分からないが少なくともこのヴァースの現状を考えればそうである。

 

「ふざけるな…」

 

「フィア?」

 

明らかにフィアの声色が変化したのを聞いてマリーンは話し掛けるが当の本人は「寝る…」と言う言葉を残して布団を被ってしまった。

 

(全く…またか……)

 

マリーンはそんな姿を見てヤレヤレと言った感じで終えた課題を片づける。

ヴァースの封建制度にフィアが不満を持っているのは知っている。

だからこそ信用できる…その考えは自身が尊敬する人と同じなのだから。

 

「明日か……」

 

マリーンは天井を見上げながらもう一度呟く…明日はヴァース帝国の式典が開かれる事になっている。

そしてその式典には勿論、皇族が参加し訓練兵であるフィア達は交通整備や人の誘導などやることは山ほどある。

 

(皇族が気に喰わないのは分かるけどな…)

 

マリーンはフィアの態度を見て少し笑いながら自身も布団に潜るのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

次の日

 

ヴァース帝国宮殿に伸びる大通りには多くの人が集まっていた。

 

「……」

 

そしてその人だかりが道に漏れないように道路に沿って立っていたのは白い制服ヴァース帝国軍式典用礼服を着込んだフィア達、訓練兵だった。

 

式典用礼服に身を固めた兵士たちが歩幅を完璧に合わせて進むと兵が持っていたヴァース帝国の帝国旗が緩やかに揺れる。

 

「おい!上を見ろ!」

 

「おぉ!!すげー!」

 

上にはアセイラム親衛隊に渡る前、宮殿防衛隊に所属しているベルガ・ギロスがビームフラッグでヴァース帝国旗を形成しながらゆっくりと飛ぶ。

そんな中、上で優雅に飛ぶベルガ・ギロスもそれに喜ぶ民衆もフィアには目障りでしかなかった。

すると多数の兵士に囲まれながら現れた車には金髪の髪をなびかせた少女が乗り、優しく手を振る。

 

「「「「おぉ!!」」」」

 

可憐な少女が手を振ることで一部の民衆が喜びの声を上げる。

 

(ヴァース帝国第一皇女…アセイラム・ヴァース・アリューシア)

 

教練所の座学で姿を知っていたフィアはアセイラムを見るとほんの僅かだが睨みつけるのだった。

 

ーーーー

 

アセイラムside

 

ベルガ・ギロスがビームフラッグを掲げ、民衆が喜びの声を上げる。その前に立つ兵士も尊敬の眼差しを向けるのがほとんどだ。

しかしその中にアセイラムはフッと違う視線を感じた。

 

(なに?)

 

当時のアセイラムは暖かな環境でしか育っていなかったためにフィアから発せられた“敵意“が分からすにただ感じた方を見る。

 

(綺麗な人…)

 

フッ目を向けた先には僅かな敵意を滲ませるフィアの姿がある、しかしアセイラムが受けた印象は違う物だった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

対照的な印象を持つ2人が初めて出会ったのはこの時…この時2人は思いもしなかったであろう。

主を心から愛し、尊敬する忠誠の騎士になろうとは…

その騎士の幸せを心から願いながらも何も出来ないことに悲しむことになろうとは……。

 

 






どうもお久しぶりです。砂岩でございます!
更新の方も少しの時間でチョイチョイ書いているのでこんなに遅く…本当に申し訳ありません。(泣)
式典の様子のイメージはガンダムF91のクロスボーンバンガードがコロニー占拠後に行った式典をイメージしてます。
チョイチョイに書いたので何かちょっと違和感…おかしな所があったらよろしくお願いします!


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第三十星 騎士の過去 《騎士・聖誕》 ーknight of memoryー

フィアの生い立ち

父と母そして祖母と共に過ごしていたが仲の良かった祖母と幼い頃に他界、最後の言葉は「もう一度地球に…」だった。それからフィアはヴァースに疑問を抱くようになった。
その後、兵士として父は家を出て行き、一人になった母は一人でフィアを育てたが過労で倒れ、病気にかかり薬も買えないまま死んでいった。




 

 

「ホワァ……」

 

式典から数日、休暇に入ったフィアは欠伸をかきながら街を歩いていた。

 

(家か…)

 

フィアは第二階層にある自身の家の事を思い出すが頭を振って忘れる、あそこには優しかった両親などもう居ない。

ヴァース帝国の階層社会はフィアから言って見ればヴァースの腐敗その物である、宮殿を中心として数十キロ圏内を第一階層として宮殿から離れれば離れるほど階層の番号が上がっていく。

第一階層しか守る気のない貴族達のせいでフィアの住む第二階層からは無法地帯と言っても過言では無い。

 

(まぁ…あんな所でも故郷は故郷だ……)

 

「あわわ!退いて下さい!!……キャ!」

 

ほんの少し自身の故郷に嫌悪を抱くが生まれ育った地であるのでそんなに考えない事にした。

 

「ん?グォォォォ!!」

 

そんな事を考えていると猛スピードで突っ込んでくるピンクの物体…身長はフィア方が上なのとピンクの物体は何かに躓いたらしくミサイルのように彼女の腹部に直撃し衝撃をもろに受けた本人は普段より低い声で悲鳴を上げる。

 

「あ!すいません…大丈夫ですか?」

 

「…もう少し速かったら意識飛んでた……」

 

ピクピクするフィアを見て桃色の髪をした少女が大丈夫が確かめる。

 

「あ!居たぞ!!」

 

するとその向こうから黒服にサングラスをかけた怪しい人間が少女を見つけて叫ぶ、それに気づいた少女はフィアの後ろに隠れる。

 

「突然ですいませんが助けて下さい!」

 

「……なに?」

 

「このままじゃ攫われてしまいます!」

 

少女の言葉に復活したフィアの目が鋭くなり黒服を見る、しかしその黒服は近づくとフィアに目もくれず少女の肩を掴む。

 

「さぁ…お帰りになりましょう…皆が心配しています…」

 

「嫌です!私は…真実を!!」

 

「おい……」

 

少女の無理やり連れ去ろうとした黒服の腕をフィアは掴む。

 

「なんだお前は…」

 

「彼女が嫌がっている……」

 

「そうか…手荒な真似はしたくないんだが…」

 

黒服はそう言うと掴まれていない腕でフィアを殴る。

それを避けフィアは黒服の足を払い跳ぶと顔面を掴み地面に思いっきりぶつけると黒服は地面に顔をめり込ませながら気絶した。

 

「わぁ…すごい!」

 

目をキラキラさせながら感動する少女を後ろにフィアは手を払うと少女の手を掴み走り出す。

 

「え?何ですか!?」

 

「他にも似たような気配がある…ここは危険だ…」

 

そう言ってフィアは謎の少女を連れてとにかく逃げる事にした。

 

ーーーーーーーー

少女side

 

真実を知りたかった…式典で見た人たちは自分が想像しているように幸せそうではなかった…だから知りたい…本当の事を…この外の事を。

 

「彼女が嫌がっている……」

 

連れ戻されようとした時に助けてくれた人…知っている…昨日見た綺麗な人だ…彼女は何も知らないのに助けて今も手を引っ張ってくれている。

 

かっこいいな…

 

ーーーーーーーー

 

「はぁ…これだけ逃げれば良いだろう……」

 

「はぁ…はぁ…ありがとう…ございます」

 

「大丈夫か?」

 

若干息を乱しながらに逃げたフィアは息を切れ切れにしている少女を見て心配するが少女は大丈夫と手を振る。

 

「人攫いか?第一階層じゃ珍しいな…いや…宮殿から離れてるしあるか……」

 

フィアはそう言って呟くと近くにあったベンチに少女を座らせて自分も座る。

 

「いきなり無理を言ってすいません…」

 

「気にするな…あぁ、自己紹介がまだだったな…私はフィア、フィア・エルスート」

 

「えっと…私は…セイラ…セイラ・アリーシュと申します」

 

「セイラ…良い名前だな…」

 

セイラの名前を聞いたフィアは優しく微笑むと呟き、それを聞いたセイラも微笑みながら返す。

 

「貴方もとてもかっこよかったですよ」

 

「私は女なんだが…」

 

「フフフッ…すいません」

 

(不思議な人だ…)

 

先ほどの空気から一変して和やかな空気に変わる。それはこのセイラと名乗った少女のお陰というのはフィアにもすぐに分かった。

 

「本当にアレなのか?」

 

「間違いない、ホログラムで隠してるだけだ」

 

「護衛はいるがやるぞ……」

 

「「「了解」」」

 

そんな様子を遠くから見ている黒服とは違う集団、その者達の殺気に気を抜いていたフィアは気づかなかった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国には草木は等の植物はなく市民の憩いの場である公園でもある程度の広場に申し分程度の椅子が置いてあるだけだ。

 

「見たところ一般市民には見えないが…何をしに来た」

 

「え…」

 

椅子に座り一段落すると先に口を開いたのはフィアだった、綺麗な身なりに言葉遣いから見てセイラはある程度の家にいると見当をつけた結果、疑問を彼女に放った。

 

「私は…人の口から等でしか外の現状を知らされていませんでした…だから……本当の景色を見たかったのです」

 

質問にセイラはゆっくりと静かに答えるとフィアは静かに彼女の評価を変えた。

突発的な家出をした結果、人攫いに攫われそうになったかと思ったがどうやら彼女自身、ちゃんとした理由があった事に少しだけ感心したのだ。

 

「そうか…じゃあ行こうか…」

 

「え?」

 

「見るんだろう…外を……また攫われそうになったら大変だからな」

 

フィアの言葉にセイラは驚くが言葉の続きを聞いた彼女は幸せそうに笑う。

 

(何だろう…なぜか護りたくなる……)

 

恐らく、自身が嫌いなヴァース帝国の恩恵を受けている者の一人である筈なのに放っておけないこの感情にフィアはただ疑問に思うのだった。

 

ーーーー

 

『どうだ?そちらは?』

 

「対象が動いた…監視を続ける……」

 

『気をつけろ…その護衛はN-2とS-3を一度振り切ってる……慎重にな……』

 

「了解」

 

そんなフィア達の様子を遠くから監視していた人物が静かに動き出すのだった。

 

ーーーー

 

そんな者達に気づかずにフィアはセイラを連れて第一階層の外園部付近に来ていた、まだ第一階層だと言うのに中心街とは違いくたびれた様子を見せていた。

 

「これは……」

 

「まだ良い方だ…第二階層はもっと酷い……」

 

少し痩せすぎてる人や力なく倒れている人、その光景にセイラは手で口を覆い驚くがフィアは静かに真実を告げる。

 

「……」

 

「現実なんて酷いものだ…地球から配給されている食料だってほぼ全部が王族や貴族が貪ってる……奇跡が起きて市場にまわってきても高額過ぎて誰も買えない」

 

「…こんな……」

 

「ッ!」

 

静かに呟き、倒れ込むセイラを見てフィアは目を見開き驚く。

 

「なんで…泣いているんだ……」

 

「ヴァースには人々の夢と希望があった…人類の新たなる新天地であった筈なのに…私は…申し訳がない……」

 

同情ではない、ただ悲しんでいる…この状況を、現在のヴァースを…なんの色メガネを掛けずに心から悲しんでいる。

 

(違う…この人は違う…)

 

フィアはただ驚いた…目を背けずにまっすぐと現状を見ている、そしてこの状況を憂いている。

そんな姿にフィアは心が撃たれるような気がした。

 

(あぁ…なんて……優しい人だろう……)

 

これを見ても貴族は見向きもしない、それどころかこのヴァースの汚点だとばかりに見ると言うのに。

 

「皇女だと言うのに…何も知らないで……」

 

「それは…ッ!!」

 

「キャ!」

 

フィアはそんな事を思っているとセイラから発せられた言葉にさらに驚くが突然の濃い殺気に急いで倒れ込んでいるセイラを抱えて横に跳ぶ。

突然のことにセイラが叫ぶがフィアはそれどころではなかった。

突然の発砲音、肩を掠った熱い物体…明らかにセイラを狙ったその物は…

 

(銃弾…)

 

「なんですか」

 

「走れ!!」

 

一気に裏路地まで跳んだフィアはセイラの手を握ると強引に立たせ叫ぶと走る。

狭い路地を全力で走り、フィアは必死に気配を探ると少し広い所に出る。

 

(五人か…多いな……ッ!)

 

「キャッ!!」

 

すると突然前からコンバットナイフを持った男が現れる、フィアはセイラを止め、突き飛ばすとセイラは尻もちを着き悲鳴を上げるが無視する。

 

「オラッ!!」

 

「ッ!」

 

フィアは突き出されたナイフを避け伸びきった腕を腋で閉めると空いている手で相手の顎に掌底をぶち込むと男は気絶する。

 

「囲まれた!!伏せろセイラ!!」

 

「はい!」

 

セイラの後ろの路地から現れた男を気絶させた男から取ったコンバットを投げつける、フィアは刃の方を持って投げたので持ち手の方が相手の眉間に当たり気絶する。

 

「フィア!!後ろ!」

 

「この小娘が!!」

 

「グッ!!」

 

後ろから現れた男はフィアの腕を掴み壁に叩きつけるがフィアも負けておらず足で相手の腹を蹴り飛ばす、しかしもう一人現れた男に鉄パイプで頭を殴られ意識が飛びそうになる。どうやら奴らは優先目標をフィアにしたらしい。

 

「調子に乗るな!!」

 

腹を蹴られた男はフィアの顔を殴ると羽交い締めにする、すると鉄パイプで殴った男が再び羽交い締めにされたフィアに向けて構える。

 

「へへっ、そらっ!!」

 

「えい!!」

 

男の薄気味悪い笑いと共に可愛らしい声が上がり鉄パイプの男は気絶した。後ろからセイラが鉄パイプで殴ったのだ。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「なん、とか、な!!」

 

突然のセイラ乱入に驚いた男の隙をフィアは見逃さずこめかみ、腋、みぞおちと人体急所に三連発をぶち込み地面に埋めた。

 

「クソッ…血が……」

 

あと一人と言う所で殴られた頭から血が流れ出し片膝を着くと銃弾がフィアの肩を貫通した。

 

「グッ……」

 

フィアは倒れ込むと撃たれた肩を押さえて呻く。

 

「そこまでだ小娘が…」

 

そして少し野太い声がフィアの耳に届く、当然銃を構える際に鳴る金属音と共に。

 

「止めて!!」

 

するとセイラがフィアを庇うように覆いかぶさる、しかし男は表情を変えずに話しを続ける。

 

「皇女殿下を渡して貰おうか…」

 

「やっぱり…セイラ…お前は……ヴァース帝国第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシア殿下か……」

 

「………」

 

「フフッ……」

 

男の言葉に納得したフィアはアセイラムに問いかけるとアセイラムは申し訳なさそうにする。

それを見たフィアは思わず笑ってしまった…あの呟きで分かっていた筈なのに…自身が恨んでいた人物が……この少女だと。

 

(なんでだろうな……)

 

なぜ助けたのか…自分はさっさと逃げてアセイラムが死ぬのを期待してれば良かったのに。

 

知り合ったから?

 

(違う…)

 

自分が殺したかったから?

 

(違う…)

 

助けたかった?

 

(………)

 

バカらしくなった?

 

恨みの対象がこんなに優しかったのが?

 

見てしまったんだよね?

 

希望を…

 

この優しさがこの腐った世界を変えてくれるって…

 

思ってしまったんだよね?

 

(あぁ…今までの自分がバカらしくなったんだ……そうだよ…現実から目を背けてたのは……私の方だった…)

 

辛くて…憎んで…逃げてた……全部他に責任を押し付けて。

 

「だから…」

 

フィアはそう呟くと痛む肩を押さえて立ち上がる、心配するアセイラムを手で制して銃を構えた男の前に堂々と立つ。

 

「姫殿下…貴方の涙に賭けてみることにします…」

 

覚悟をしたフィアの表情に男は一瞬たじろくが銃の引き金を引く…しかしその引き金は最後まで引かれず男は宙を舞ったのだった。

 

 




どうもお久しぶりでごさいます!砂岩です!
一応、回想編終了でございます!
私が言うのもなんですがフィアちゃんいつもぼろぼろですね…ごめんなさい。
そう言えば、この前広告でタルシス売ってましたね、欲しい…欲しいわ…でも高すぎる。(泣)
次はその後の事を少し書いて、ストーリーを進めていきたいです。
更新スピードは諸事情でとても遅いですが
最後まで読んで頂き本当にありがとうございます。


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番外編 一年に一度の特別な日

※注意※

※キャラ崩壊あり

※前触れもなく現れるキャラ達

※いろいろとふざけてます

※作者は暴走中

※本編とはまったく関係ありません

※大人組以外、現役の学生

※ハブラレッゾ

それでも良い方はどうぞ!楽しんで頂けたら幸いです!





これはアルドノアでありでもそうでもない世界のお話し。

 

「さて…これより会議を始める……」

 

新芦原市にある伊奈帆の家に集まった者達はフィアの言葉で全員が真剣な表情をするがスレインだけが手を上げて質問する。

 

「あの…なぜ突然集められたのでしょう……」

 

「フッ…何も知らないで来たのか……コウモリ…」

 

「なんだと…オレンジ色」

 

「あぁ!もう二人とも!やめて!!」

 

そんなスレインを伊奈帆が挑発するが韻子が慌てて止めに入る。

 

「すまないスレイン…お前はすぐ顔に出るからギリギリまで黙っておいたのだ」

 

そう言うとフィアは持っていた紙束を机に置くとスレインが驚きながらその紙に書かれた文面を見る。

 

ーアセイラム姫お誕生日おめでとう計画立案書ー

 

「…なんのひねりもありませんね」

 

「クッ……」

 

スレインからフィアに向けて精神攻撃、クリティカルヒット…フィアに甚大なダメージ……フィアが倒れた。

 

「「「メンタルよわ!」」」

 

真っ白になって倒れるフィアに全員がツッコミを入れるがそんなものは無視して代わりに伊奈帆が話しを進める。

 

「続きを話すよ…要するにセラムさんの誕生日が一週間後だからみんなでお祝いしようって事だね」

 

「はいは~い!」

 

「なに?ニーナ?」

 

伊奈帆が話しを進めようとするとニーナが手を上げて質問する。

 

「もしかしてそれって、みんなでお料理作ったりするの?」

 

「うん…そうだね……役割は後で決めるけどその人達が作る予定だよ」

 

「は~い」

 

伊奈帆の答えにニーナは納得したように座ると伊奈帆は計画書を見て話そうとするが早々に復活したフィアが話し始める。

 

「話題に上がったから先に役割を決めようか」

 

「「「復活はやっ!!」」」

 

全員見事なツッコミをスルーしてフィアは全員の意見を聞くのだった。

 

ーーーー

 

「で…結局全員がやる訳か……」

 

「話し合いの結果だ……」

 

伊奈帆の家でガヤガヤやっているのを見ながらマリーンはフィアに話しかけるとフィアはちょっと疲れたように答える。

色々と話し合ったが結局の所、当日に全員が料理を作り、それまでに作ってくる物を決めてプレゼントも持ってくると言うものだった。

 

「まぁ…みんな姫様は大好きだからな……おっと……もうこんな時間か」

 

「ん?」

 

フィアと話していたマリーンが腕時計を見て呟く、時計は既に六時をまわり外もいくらか暗くなってきた、話し合っているうちに時間がかなり過ぎたようだ。

 

「そろそろ帰らなければな…」

 

マリーンはそう言うと立ち上がる、それを見たスレインがマリーンに話しかける。

 

「もう帰るの?”姉さん”」

 

「あぁ…スレイン…お父さんも心配しているぞ」

 

「お父さんは心配性だからね」

 

スレインに呼ばれたマリーンが笑うとスレインも笑いながら話す。

 

「では先に失礼する」

 

「じゃあな…オレンジ色」

 

「あぁ…また…コウモリ」

 

マリーンがみんなに挨拶して帰ろうとするとスレインがついていくついでに伊奈帆と何秒かガンを飛ばすと立ち去って行った。

その後、みんなも時間が時間なので各々帰って行った。

 

ーーーーーーーー

マリーン、スレインside

 

「「ただいまー」」

 

「おぉ!!待って居ったぞ二人とも!!」

 

マリーンとスレインが自宅に戻るとそこで待っていたのはエプロンを着たザーツバルムだった。

 

「”お父さん”今日はお父さんの担当の日だっけ?」

 

「そうだ!オルレインには休みの日も必要だからな……あ!」

 

スレインが出迎えたザーツバルムに話しかけるとザーツバルムは上機嫌で答えるが最後に気づいたようにスレインの肩を掴み、真剣な顔で話す。

 

「スレイン…”お父さん”ではない”パパ”と呼べと何度言ったら分かるのだ!」

 

「ハッハッ!無理だよ、お父さん…スレインも年頃なんだから」

 

「マリーン!お主もパパと呼べと言っているだろう!」

 

「私も嫌です!」

 

「まぁまぁ…良いではないですか…」

 

「おぉ!オルレイン!!」

 

最後達、三人が玄関で騒いでいると奥から綺麗な黒髪をたなびかせてオルレインが現れた。

 

「我は寂しいのだ…昔はパパ、パパっと言って可愛かったのに…もちろん、オルレイン程ではないがな!!」

 

「まぁ!そんなに褒めてもなにもでませんよ!」

 

帰ってきて早々、イチャイチャし始める、ザーツバルムとオルレインにマリーンとスレインは頭を抱えるのだった。

二人の最大の悩みは現在進行形で行われているこのイチャイチャだと言うのはイチャイチャしているバカ夫婦には届かないものだった。

そのせいでザーツバルムの作った鶏肉のトマトソース煮が冷めてしまうのは余談である。

 

ーーーーーーーー

フィア、伊奈帆side

 

「んー旨い!!」

 

「それは良かった…」

 

マリーンとスレインが疲れているその頃、フィアと伊奈帆は机を挟んで向き合い夕食を食べていた。

フィアはドイツからの留学生としてホームステイ先である伊奈帆ともう既に一年近く住んでいた。

伊奈帆は自分の作った肉じゃがを美味しそうに食べるフィアを見て無表情ながら微笑むと話しかける。

 

「ねぇ……」

 

「なんだ?」

 

「今夜……どう?」

 

「え……」

 

伊奈帆の静ながらどこか強い意志を持った言葉にフィアは一瞬たじろく。

 

「あの…伊奈帆さん……明日は学校ですよ…」

 

「一晩くらい寝なくても大丈夫だよ…」

 

「ユキ姉様は?」

 

「仕事で明日の昼まで帰らないよ…」

 

「えっと…」

 

「問題ないよね…」

 

「…………はい」

 

「大丈夫だよ…早く寝れるように努力するから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、二人は朝まで最近人気のゲーム、『連合VS(バーサス)ヴァース帝国Ⅱplus』をやり続けたのだった。

 

実はこの会話…家のドアの前で一晩仕事をするので一旦帰宅しようとしたユキ姉が聞いてしまい…そのままこっそり仕事場に戻ったのは余談である。

 

※ここでちょっと考えてしまった人

 

挙手(*´∀`*)ノ

 

ーーーーーーーー

 

そんなこんなで一週間後(飛ばしすぎじゃない?by伊奈帆)

 

学校の調理室にはエプロン姿のメンバーが揃っていた。

 

「エプロン姿も大好物です……」

 

「祐太郎ちゃん、初セリフそれでいいの?」

 

いつもの如く、祐太郎のセリフに祭陽先輩がツッコミを入れると各自、メンバーに分かれて調理を開始するのだった。

 

「ねぇ…薄力粉はどこ?」

 

「これだよ~ライエちゃん!!」

 

「韻子はクリーム作って…はい……これが基だから」

 

ケーキ担当の韻子、ニーナ、ライエチームはライエを中心としてケーキを作らんと働いていた。

 

「ライエ上手いね~」

 

「お父様の食事は私が作ってるから…これくらい慣れたものよ」

 

韻子がライエの手際の良さを褒めるとライエは少し嬉しそうに笑いながら作業を進めるのだった。

 

そしてその他メンバーのフィア達はケーキ以外の食事を作っていた。

 

「スレイン…海老の衣をつけてくれ」

 

「分かったよ姉さん」

 

揚げ物の準備を進めるマリーンとスレインの横ではあらかじめ準備してあった唐揚げを取り出すフィアがいた、それを見てスレインは驚く。

 

「これは…仕込んでありますね」

 

「分かるか?伊奈帆と一緒に昨日の晩仕込んだんだ」

 

スレインの言葉にフィアは嬉しそうに答えるとマリーンも気になったのかスレインの後ろから覗き込む…まだ揚げていないと言うのに何となく光って見える。

 

「ほう…これは美味しそうだ…」

 

「そうだろう…大変だったんだぞ♪」

 

マリーンの言葉に照れ隠しと言わんばかりに近くにいたスレインの肩を軽く叩く…しかし何故かフィアの手はフライパンを握ったままになっておりフライパンがスレインに襲いかかった。

 

「タルシス!!」

 

突然そんなもの避けれないスレインは見事フライパンが直撃し沈んだ。

 

「………」

 

そんな間にも伊奈帆は一人で着々と料理を作っていくのだった。

 

ーーーーーーーー

 

そして肝心のアセイラムは家でエデルリッゾとゴロゴロしてた。

 

「エデルリッゾ……」

 

「はい…姫様?」

 

「私……今日誕生日なんです……誰からもメールが来ないんです!!」

 

「だ、大丈夫ですよ!!ホラ!サプライズですよ!!」

 

目をウルウルさせながら泣くアセイラムに小6のリッゾちゃんが必死に慰める。

 

プルプルプルー!(某アニメのキュベレイMKⅡ乗りより)

 

「ハッ!!」

 

そんな事をしているとアセイラムの携帯に着信が…アセイラムはそれを素早く取ると画面を開く、急いで電話に出ると相手はフィアだった。

 

『姫様!』

 

「フィア!どうしたのです?」

 

『実はスレインが学校で大怪我をしてしまいまして…一応報告を』

 

「えぇ!!」

 

フィアの報告を聞いたアセイラムは驚きながら立ち上がると急いで出て行く支度をする…フィアの声の向こうには苦しむスレインの声もあった。

 

「どうしたのですか?姫様」

 

「スレインが大怪我を!」

 

いきなり慌て始めたアセイラムにエデルリッゾは聞くと同時に驚いて自身も支度を始めるのだった。

 

ーーーー

 

「はぁ…はぁ…はぁ…ここですね」

 

「はぁ…はぁ…そのようで……」

 

大急ぎで来たアセイラムとエデルリッゾはフィアに言われた視聴覚室に急行し急いでドアを開ける。

 

パンッ!!パパンッ!!

 

「キャッ!」

 

ドアを開けた瞬間、突然の破裂音に驚くアセイラム、そしてゆっくりと目を開けるとそこにはクラッカーを持ったフィア達の姿が。

 

「「「「誕生日おめでとう!(ございます!)」」」」

 

「え?」

 

みんなの行動にアセイラムは一瞬ポカンとなる、さっきまでスレインの事が心配で自身の誕生日がどっかに行ってしまったからだ。

 

「すいません姫様…こんなマネをしてしまい」

 

「もう!フィア!驚きましたよ!!あんな嘘を!!」

 

「えっと…嘘ではないんですけどね…」

 

アセイラムの言葉に盛大に目を逸らすフィアに不思議と感じたアセイラムはスレインを見つけるとさらに驚く。

 

「スレイン!どうしたのですか?その包帯は!!」

 

「えっと…フライパンに襲われまして……」

 

「フライパン!?」

 

アハハっと苦笑いするスレインにアセイラムは驚いているとエデルリッゾが怒りながらフィアに近づく。

 

「なんで私に知らせないのですかぁぁ!」

 

「だってずっと姫様といるんだもん!」

 

「可愛くない!!」

 

可愛く言って逃れようとしたフィアだがエデルリッゾはまだプンプンっと怒っている。

 

「……いい」

 

「……伊奈帆…鼻血を拭け……」

 

そんな光景を伊奈帆は無表情ながらも親指を立てて鼻から赤い液体を出しながらどこか幸せそうに見る、そんな様子をカームは呆れながら鼻血を指摘する。

 

「おう!やってるか?」

 

「ジュース持ってきたわよ!!」

 

そんな所にやってきたのは鞠戸とユキの二人、二人は両手にビニール袋を持って現れパーティーに参加する。

 

「待たれよ!姫様のパーティー会場はここか!」

 

「下郎共、トリルランのソテーを作ってきたぞ」

 

さらにそこからザーツバルムとクルーテオの参戦で会場はパニックに近い状態に陥ったがそんな中、主役であるアセイラムの笑顔が絶えることなく、パーティーは成功を納めたのだった。

 

 




どうも砂岩でございます!
今日はアセイラム姫殿下の御誕生日でございます!
この話の世界はみんながただ笑い合う幸せな世界と言う事でこんな感じにしました。
詰め込みすぎたかもしれませんが楽しんで頂けたら幸いです。


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第三十一星 残された者達 ーIt has been leftー

今回は地球sideがメインです。


 

 

 

ヴァースside

 

「はぁ……」

 

月面基地であてられた私室に備え付けられたシャワールームでシャワーを浴びたマリーンは長い髪を拭きながらため息をついた。

 

(そう言えば…あれがすべての始まりか……)

 

ーーーーーーーー

 

フィアとアセイラムが襲われしばらくした後、当時、同室だったマリーンは驚いていた。

 

「ハァ!騎士になる!?」

 

「あぁ……」

 

「なんで急に!!」

 

マリーンはフィアの突然の言葉に驚きを隠せなかった、それもその筈、ついこの前まで皇族を毛嫌いしてた人物が皇族を護る騎士になると言うのだから。

 

「当然、私はこの腐ったヴァースを変えるという目的は変わらない」

 

「フィア…どういう事だ?」

 

「少しな…判断しただけだ…外からこの体制を変えるのではなく、中から変える…」

 

「そんな…」

 

マリーンが少し残念そうにするとフィアは顔を向け真剣な表情で話す。

 

「マリーン…私とお前の思いは同じだ…道は違えど必ず共に歩める日が来る……」

 

「あぁ…私もその日が来ることを願ってるよ……」

 

マリーンはフィアの言葉に頷くとフィアも嬉しそうにするのだった。

 

ーーーー

 

その後、アセイラムの推薦もありすぐにフィアは騎士として徴用された…騎士になるために色々と訓練を繰り返したらしいが。

そしてマリーンも無事に教練所を卒業すると志願していたザーツバルムの元に行き、そこで計画されていた壮大な計画に参加、友であるフィアと敵対する事になったのだ。

 

それは結果的に誰も死なずに済んだ訳だがアセイラムの意識不明の原因がマリーン自身にもあるのだから突然本人は行きにくい。

 

「…でも……ウジウジするのは私の性に合わんな」

 

マリーンはヨシッと気合いを入れると取りあえず今日は寝る事にしたのだった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国、月面基地カタフラクト格納庫。

 

「あぁ~やっとだせたね~」

 

「かなり頑丈に拘束してましたから」

 

妙に間延びしている声が格納庫に響く、その声の主はフィアのカタフラクトであるシナンジュの機付き長のフェイン・クラウスである。

彼女は一息つきながら部下と共に封印を解いたシナンジュを見つめた。

 

「もうすぐ親衛隊も来るし、忙しくなるね~」

 

フェインは持っていた飲み物を飲みながら呟く。

母星である火星を連想させる深紅の色、他のカタフラクトには見られない単眼型の顔はどこか禍々しさを感じるが各部に施された金の装飾がその中に優雅さを付け加える。

 

「美しく、強く、まさにフィアにピッタリの代物だな…」

 

フェインはそう呟いた自分に嫌気を感じると、普段緩い感じになっている顔を若干だが歪めて呟く。

 

「子供に戦争の片棒を担がせてる時点で私も末期だろうな…」

 

フェインはフィアのまっすぐな瞳を思い出すとその顔により一層の陰りを見せるが、すぐにいつもの緩い表情に戻り整備に取り掛かるのだった。

 

(私に出来るのは少しでも良い状態に機体を仕上げるだけか……)

 

ーーーーーーーー

 

地球side

ロシア・ノヴォスタリスク地球連合本部

 

半年前、ザーツバルム卿が攻撃を加え大きな被害を被った本部だ、今は修復され通常に運用されているがこうなってしまった以上、本部を秘密裏に移動させる計画もあるようだ。

そこのカタフラクト専用の射撃場では120ミリライフルと75ミリマシンガンで訓練をしている2機のアレイオンがいた。

 

「まだ訓練ですか…熱心ですね……」

 

「いえ……あれは訓練ではありません」

 

「はい?」

 

その様子を見ていたのは本部の防衛戦でほぼ大破し現在修復中の戦艦、デューカリオンの艦長ダルザナ・マグバレッジとその副長の不見咲カオルだった。

不見咲はマグバレッジの言葉に疑問の声を上げるとマグバレッジは静かにこう答えた。

 

「あれはただの憂さ晴らしですよ…」

 

「はぁ……」

 

「不見咲君、貴女方モテない理由を教えてあげましょうか?」

 

マグバレッジの言葉に要領を得ないという感じで不見咲は答えるとマグバレッジは少し笑いながら言うのだった。

 

ーーーー

韻子side

 

「次!次!次!まだまだ!!」

 

次々と出てくる標的を韻子は120ミリライフルで全て当てると何処か焦っているように標的が出てくる間に叫ぶ。

 

(私には何も出来なかった…)

 

韻子の頭に浮かぶのは半年経ってもハッキリと覚えている。

揚陸城の降下作戦、スリット状のカメラに睨まれた時、死に直面した自分は何も出来なかった、ただ恐怖に塗りつぶされ手足が金縛りを受けたように動かずに。

 

《韻子!無事か!!》

 

その時に現れたのはフィアだった、体中に銃弾を受けながらもアレイオンに乗って駆けつけてくれた。

 

《来るな!韻子は姫様を頼む!》

 

しかし彼女も限界だった、血を吐きながら発する言葉に私は従ってしまった…この選択が正しかったのかなんて分からない。

現実はとても残酷だった…フィアに頼まれていたお姫様を守り切れず、フィアすらどこにいるのか分からない、私が見たのはフィアが使っていたアレイオンの残骸とフィアのものと思われる血溜まり。

 

(私がもっと強かったら…もっとやれていれば!)

 

後悔などなんの役に立たない、フィア達を守るなんて傲慢な考えなどしない、もしあの時に手助けが出来たら微力でも何でもいい…上手くなりたい。

 

(フィアに!少しでも追いつけるように!)

 

ーーーー

ライエside

 

「ッ!…まだ……」

 

そのとなりでアレイオンを駆り、75ミリマシンガンを撃っているライエも険しい表情で訓練に没頭していく。

 

 

《甘ったれるなぁ!!生きたくても生きられない奴が大勢居るんだ!!》

 

あの時、暗殺未遂の時に言われた言葉は今でも覚えてる、何故かフィアがその時どんな表情かもちゃんと覚えていた。

あの時の自分は、今思えばだだをこねていたのだけかもしれない、憎むべき対象はこんなに優しく、慈悲深い人だったのかを知って自分が分からなくなったのだ。

 

(借りを借りっぱなしじゃない……)

 

フィアも姫も帰って来なかった…帰ってきたのは瀕死の伊奈帆とボロボロのデューカリオンメンバー達。

 

あの気高く、誇り高い騎士は帰って来なかったのだ、皆があの背中に頼っていた…伊奈帆とフィア…この二人は私たちの希望だったのだから。

 

(必ず借りは返す!)

 

少しでもあの背中に追いつけるように、マシンガンの射撃ボタンを押すのだった。

 

ーーーー

 

「あ~あ、またやってんのかあの二人は…」

 

「韻子もライエちゃんも最近恐くてさ…」

 

「追いかけてんだろう、フィアの影をさ…」

 

その二人の訓練を見つめるもう一つの影の正体はカームとニーナだった。

ニーナはカームの言葉を聞くと静かに頷き呟く。

 

「フィアちゃんは強烈だったからね…色々と……」

 

同性なのに強く頼りがいがあり、同い年なのに立派で優しかった…そんな彼女はニーナ達にとってもいつの間にか大きな存在になっていた。

 

「まぁ…ちょっと俺に考えがあるんだ」

 

「考え?」

 

「まぁ…ちょっとな……ニーナも手伝ってくれ」

 

何か考えているカームの様子にニーナは疑問符を頭につけながらカームの話を聞くのだった。

 

ーーーー

次の日

 

「韻子~」

 

「わ!ニーナ!どうしたの?」

 

韻子はいつものように訓練を受けるために廊下を歩いていると後ろからニーナに抱きつかれ驚く。

 

「ちょっと来て!」

 

「え?ちょっと!なに!?」

 

韻子は訳も分からずにニーナに半ば強引に連れてこられたのはシミュレーター室だった。

 

「よう!韻子」

 

「カーム!ライエまで!どうしたの?」

 

「私も強引に…」

 

ニーナに連れられるとそこに居たのはカームとライエの二人だったが、ライエの方は韻子と同じで何故ここに居るのか分からないらしい。

 

「プレゼントだよ~」

 

「あぁ!!チマチマ的を撃ってるよりよっぽど有意義なものをな!」

 

「え?」

 

「へぇ…面白そうじゃない……」

 

ニーナとカームの言葉に韻子とライエは反応を示し、二人に言われるがままシミュレーション用のコックピットに乗り込んだ。

 

『二人はタッグを組んでもう一組のタッグと戦って貰う…相手はデータだけど強いはずだ』

 

「なるほど…これが有意義なもの?確かに的よりかは有意義だと思うけど……」

 

「それだったら一対一でも……」

 

通信から聞こえてきたカームの声に二人は疑問をもらす。

二人は本部防衛戦で数少ない生き残りである、さらにその日から毎日欠かさず通常の訓練規定の倍はこなしていた…そんな彼女たちは一般的な兵士のレベルなど既に追い抜いてしまっていたので二人の疑問はもっともと言える。

 

「まぁ…まぁ…やってみりゃ分かるって」

 

そう言ってカームは通信を切ると同時にシミュレーションが始まる、廃墟が建ち並ぶ街の中、韻子とライエのアレイオンのレーダーに反応が現れた。

 

「二時の方向に機影2!IFF反応無し!敵と判断!」

 

「レーダーが…ECMが撒かれたわ……」

 

韻子とライエが迎撃の準備を整えるとレーダーが乱れ、敵影2機の姿が消えてしまった。ライエも対抗してECCMを展開するが敵影を捉えられない。

 

「どこに…」

 

「本当に手際が良いわ…何者?」

 

二人はお互いに背中を預けながら周囲を見渡す、恐らく敵は既にこちらを捉えている…迂闊に動けなかった。

 

「ッ!」

 

緊迫した空気の中の突然の銃撃、二人は何とか避けると銃口を向けるがもう居ない。

 

「本当に強い…」

 

そうしているうちにアレイオンは先程攻撃してきた機体と、もう一機の機体の反応を基に機体を照合して答えに辿り着くと、操縦者に機体とパイロットを伝える。

 

「え…うそ……」

 

「なるほど…そう言う訳ね……」

 

その画面に現れていたデータは……

 

機体

《KGー6スレイプニール》二機

 

搭乗者

 

《界塚伊奈帆》

 

《フィア・エルスート》

 

それを見た瞬間、二人の表情は大きく変わり二人は襲ってくるシミュレーションデータ《フィアと伊奈帆》に向かって行くのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
今回は韻子とライエの二人をちょっと書いてみました。
個人的な意見なのですが韻子やライエ、ニーナも同い年で同性なのに自分より遙かに大人で、先を見ていて、信念があり、強かったフィアはとても眩しかったのではないかと言う事でこんな感じにしました。
次回はこの続きを書いていきたいと思ってます、地球sideが多めになると思います。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!!


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第三十二星 鳴り始める序曲 ーBeginning overtureー


今回は短めで韻子たちが主役です。


 

 

『でやぁぁぁぁ!』

 

『行くわよ!』

 

シミュレーションルームの一画、そこの閲覧エリアに居るカームとニーナの視線の先にはフィア、伊奈帆チームと戦っている韻子とライエが映っていた。

 

「フィアちゃんと伊奈帆君のってデータでしょ?強いね~」

 

「まぁな、伊奈帆とフィアのデータはあの新芦原の時から揚陸城までのデータを統合して作り上げたデータだ…苦労したぜ」

 

ニーナの言葉に得意げに言うカームはどこか誇らしげだったがよく見ると隈等の疲労の色が見て取れた。

 

「勝てると思う?」

 

「う~ん…3分が限度だな…」

 

カームはそう答えると同時に画面の中のアレイオン二機が爆発するタイマーを見るとカームの予想通りだいたい3分だった。

 

「やっぱりな…」

 

「すご~い、なんで分かったの?」

 

「まぁ…勘かな」

 

ここだけの話、カタフラクトのパイロットをまだ目指していたカームがこのシミュレーターをやって10秒位しか持たなかったのは心に留めておくことにした。

 

『カーム!』

 

「おう!どうだった?」

 

『もう一回やらせて!!』

 

『私からもお願いするわ…』

 

「了解!好きなだけやれ!!」

 

ニーナと話していたカームは韻子とライエの言葉に喜びながら答え、すぐにシミュレーターを再開させるのだった。

 

ーーーー

 

「はぁ…はぁ……」

 

もう何回になるだろう…シミュレーターを何度も繰り返して行っているが倒すどころか反撃の光さえ見えてこない。

 

『どう?そっちは?』

 

「駄目…もう左腕が使えない……」

 

『困ったわね…これじゃ……ッ!』

 

物影に隠れて一旦呼吸を整え、何とか反撃をしようと話していると綺麗な放物線を描きながらグレネードが韻子とライエのアレイオンの間に落ちる。

 

「ッ!」

 

韻子とライエは急いで退避行動を取ると、ちょうど間に弾が落ちたがため結果的に二人が離れてしまった。

 

「しまった!!」

 

その事にすぐさま気づいた韻子はライエと早急に合流しようとするが既に遅かった…04のナンバーが描かれたスレイプニールがナイフを持って迫っていたのだ。

 

「くっ!!」

 

韻子はアレイオンの間接の悲鳴を聞きつつ無理矢理動かし何とか回避する。

 

「やった!!」

 

韻子は思わず歓喜の声を上げる、目の前にいるのはナイフをあて損なり体勢が若干崩れているスレイプニールの姿、確実に当たるであろうナイフを避けられたにしては体勢が崩れなさすぎるがそんな事構わない、やっと一機。

 

「貰った!…ハッ!!」

 

しかしその歓喜は恐怖へとすぐに塗り変わった、伸びきった左腕、その腋からこちらへと覗いているマシンガンの銃口。

 

「読んでた!?」

 

韻子の悲鳴と共にシミュレーターの画面が真っ黒になる、殺されたのだ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

ボタボタと汗を流しなからシミュレーターの中で俯くと中で響くのは自身の荒い息づかいだけだった。

 

「大丈夫?そろそろ休んだ方が…」

 

「ん?…ありがとう……」

 

そんな時、シミュレーターの扉を開けて入ってきたのはニーナだった、ニーナはタオルと飲み物を持って韻子に差し出すとすぐに受け取り一気に飲み物を飲み干す。

 

「ライエは?」

 

「外で倒れてるよ~」

 

「そっか……」

 

そう言った彼女はライエに見習い外に出ることにした、そして隣で倒れてる相棒と呼べる存在の横に倒れる、熱が篭もったシミュレーターより空調の効いたシミュレーションルームは心地よく、動く気力すら奪っていく。

 

「どうだ?あの二人は?」

 

「これ本当にデータなの?強すぎるんだけど…」

 

「当たり前だろ」

 

倒れた二人に降ってきたカームの言葉に答えたのはライエだった、ライエの質問にカームは当然のように答える。

 

「そう…」

 

「伊奈帆もそうだけどフィアは何手先も計算して動いてる…常に最悪の状況を想定して……それに一番有効な対処を実行してる」

 

「本当に凄いね~あの二人は~」

 

「「まったく……」」

 

ライエと韻子の言葉にニーナがのんびり答えると二人は口をそろえて同意するのだった。

 

「その様子じゃ、今日は無理だな…そろそろ時間だし今日は終わりな、先に戻ってるぜ」

 

「先に食堂で待ってるね~」

 

二人の様子を見たカームとニーナは新しい飲み物を二人の近くに置くとシミュレーションルームを去って行った。

 

「ねぇ…ライエ……」

 

「なに?」

 

「次は……次こそはあの二人にぎゃふんと言わしてやる…」

 

「そうね…必ず見返してやるわ……」

 

韻子の言葉にライエは強く同意すると何の変哲もない天井を見上げる。

この時の二人は何も考えていなかった…いや正確にはデータの向こうの二人にもう殺されたくなく、そしてただ勝ちたいと言う思いだけだった。

 

ーーーー

月面基地、展望室

 

「へっくち!」(風邪かな?)

 

その時、月の展望室から地球を見ていたフィアがくしゃみをしていると背後からとある人物が現れた。

 

「フィア…」

 

「マリーン……」

 

真剣味を帯びたマリーンの雰囲気にフィアは顔を引き締めてマリーンに向き直るのだった。

 

ーーーー

航宙船、ブリッジ

 

「見えてきました、地球です」

 

「望遠で見られるか?」

 

「はい…」

 

ブリッジクルーの言葉に親衛隊副長であるリア・シャーウィンは反応するとブリッジの大型空中ディスプレイに青い地球が映る。

 

「姫様…見えてきました……」

 

「えぇ…そのようね……」

 

リアの言葉に紫の髪を持った少女が短く答える。

 

(あそこに…お姉様が……)

 

しかしその瞳はしっかりと豊かな大地を持った地球を映しているのだった。

 





どうもお久しぶりでございます!
砂岩でございます!
そろそろ役者達が揃いますね!さてどうなるのやら。
そしてシミュレーションのお陰で韻子たちもパワーアップ!本編以上に活躍して貰いましょう!
では!最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第三十三星 腐っても親友 ーAnd confidant also rotten ー

 

「マリーン…」

 

「フィア…」

 

月面基地の展望室でフィアが会ったのは親友でありライバルのマリーン・クウェルだった。

かつて二人はこの展望室で別れ次に会ったのは戦場である揚陸城であった。

 

「フィア…話したいことがある…多くの事を…お前が忘れてしまった事を…」

 

その言葉を聞いたフィアは真剣な表情でマリーンと向き合うが、内心ではマリーンの言いたいことは分かっていた。

何だかんだと仲が良かったマリーンが意図的に自分との接触を避けてきたのであれば現在姫様の状況に関係しているのは言われなくても分かることだった。

 

「いい…分かっている……」

 

「…流石だな……」

 

「少し冷静に考えれば済むことだ…」

 

冷静に答えるフィアを見て若干の冷や汗をかきながら答えるマリーンもそんな事を悟らせない様な堂々とした態度だった。

 

(やっぱり…フィアには勝てないな…)

 

「一つだけ…聞きたいことがある……」

 

フィアの凄さを再確認したマリーンは突然の質問に再び気を引き閉めた。

 

「お前の態度を見れば大方の予想は当たっているだろう…私が聞きたいのは…お前はその行動を後悔しているか、否かだ…」

 

「していない…」

 

フィアの質問にマリーンは即答だった、自身が姫殿下の命を狙ったのも、フィアと殺し合いをしたのも全ては母星を思った恩人の手助けをしたかったからだ。

それでやった行いは自身にとっては何も恥じることの無く、後悔もしていないからだ。

 

「そうか…お前を殴り殺さずに済んだよ…」

 

フィアはその答えを聞いて軽くため息を吐いた。

フィアもマリーンの事は分かっているつもりだ、だからこそ聞いた、騎士であり主君は違えどその者に命を差し出した似た者同士…ここで後悔されていたら怒りに身を任せて本当に殺していただろう。

 

「だがな…私はお前を絶対に許さない…」

 

「構わない…私が来たのはお前から逃げたくなかったからだ…」

 

「そうか…」

 

絶対に許さない…これはフィアの本心だ、だが騎士として戦士として一番に信頼している彼女はフィアにとってかけがえのない人物であることに変わりがなかった。

 

「それで…これだけじゃないんだろ?」

 

「…全く……本当にお見通しだな…」

 

話は終わったとばかりに少しだけ口調が緩くなったフィアの言葉を聞いたマリーンは、頭を掻きながらため息をつきつつも端末を取り出しフィアに見せる。

 

「作戦命令書だ…私たち二名をご指名らしい…」

 

「作戦…」

 

懐かしいようなその響きにフィアは思わず息を飲むのだった。

 

ーーーー

 

「地球軍の宇宙進出?そいつは噂じゃないのか~?」

 

シナンジュ機付き長であるフェイン・クラウスはコーヒーを飲みながら部下の話を聞いていた。

 

「それが本当なんですよ、この月面基地から最も近いデブリ群にあるって…昨日監視科の奴等が騒いでました」

 

「ん~出撃命令が出そうだな~」

 

「はい?」

 

「全員を叩き起こせ!いつでも出せるようにしとけ!!」

 

「「「「は、はい!!」」」」

 

急にスイッチが入ったフェインを見たシナンジュ担当の整備チームは慌ただしく行動を開始する。

 

「一応、レギルスの方にも連絡入れとけ!10分以内に出せるようにしとけとな!」

 

「そんな!」

 

「やりゃ出来るんだよ!」

 

「はいぃぃ!」

 

フェインの言葉一つで格納庫に居た者達は動き回り格納庫にあるはずの活気がよみがえるのだった。

 

ーーーー

 

「全く…作戦なら作戦と先に言ってくれれば…」

 

「しこりを残したままにしておきたくなかった…」

 

「そうか…」

 

マリーンの答えに少し笑いながらフィアは呟くと月面基地の指令室にたどり着いた二人はドアを開ける。

 

「失礼します」

 

「あぁ…そのままでよい…」

 

そこに居たのはスレインと月面基地を取り仕切りマリーンの主君であるザーツバルムだった。

ザーツバルムはマリーンとフィアの入室を確認すると、礼をしようとした二人を止めてオペレーターに目を向ける。

するとメインモニターが一つの静止画像を出した。

 

「これは…」

 

そこに映っていたのは宇宙用の装備をつけたアレイオンと紺色の進化機と思われる機体が模擬演習をしている場面だった。

 

「見ての通り、敵の軍事施設だ…運の悪いことに月面基地から最も近いデブリ群にある…」

 

「つまり、敵の新型もろとも基地を殲滅せよと言うことですね…」

 

「話が早くて助かる…」

 

話を聞いたフィアはすぐに理解するとザーツバルムは頷く、話は終わったと判断したフィアは部屋から出ようとすると止められ振り向く。

 

「なんでしょう?」

 

「この作戦は三機で行ってもらう…」

 

「三機?」

 

「あぁ…スレインも連れていって欲しいのだ」

 

「スレインをですか?」

 

てっきり二人で行うとばかりに思っていたフィアは驚く、それはマリーンも同じだった様で少々顔が変わっている。

当の本人であるスレインは緊張している様で汗をかいている。

 

「専用のカタフラクトであるタルシスを持っている以上、騎士としての務めを果たさねばなるまい、操縦は覚えている…後は経験だ」

 

「なるほど…」

 

確かにアルドノア搭載機である火星のカタフラクトは数が限られてくる、機体をいつまでも遊ばせて置くわけにはいかないのだろう。

 

「フィアさん、クウェル子爵…よろしくお願いいたします」

 

「あぁ…よろしく…」

 

「硬くなるなよ…スレイン」

 

「はい!」

 

フィアとマリーンの言葉にスレインはカチカチになりながら答え、それを見た二人はやれやれと言った感じで微笑むのだった。

 

ーーーー

 

指令室を後にしたフィアは私室に戻りフェインと話していた。

 

「と言う訳です…タルシスの方はどうですか?」

 

『そっちもか~なんとかする~』

 

「10分で」

 

『七分で』

 

「分かりました…頼みます…」

 

やり取りを終えるとフィアは電話を戻し椅子に深く座る、すると備え付けの机の上に紅茶が置かれる。

 

「どうぞ…」

 

「あぁ…ありがとう…エデルリッゾ」

 

「いえ…」

 

フィアは落ち着くために渡された紅茶をゆっくりと飲む、紅茶の豊かな香りと繊細な味がよく出ていてエデルリッゾの淹れ方が上手いとよく分かる。

 

「美味しいですね…」

 

「やっぱり専門は違うなぁ…」

 

「さて…二人ともくつろぐのも良いが聞けよ」

 

連絡を終え、一段落つくとフィアは部屋の電気を消し、部屋の中央に空中ディスプレイを表示する。空中ディスプレイが現れるとマリーンとスレインは楽しんでいた紅茶をおいて注目する。

 

「今回の作戦は聞いての通り、この月面基地の安全を確保することになる…今までならカタフラクト一機でも行っていたが今回は宇宙要塞…敵の迎撃は想像を超えるだろう」

 

「三機でも厳しいじゃないのか?新型がいるんだろ?」

 

「エデルリッゾ…親衛隊の到着はいつだ?」

 

「え?はい!少々お待ちを……」

 

フィアの質問にエデルリッゾは少し慌てながらも思いだすように腕を組み答える。

 

「最速でも後三日は必要です…」

 

「そうか…到着が明日なら良かったのだが…敵の脅威がある以上、すぐにでもやるべきだ……幸いな事に敵基地がこの月面基地に最接近するのは30分後だ…15分後にこの月面基地を出なければならない」

 

「フィアさん、僕のタルシスは間に合いますか?」

 

「フェインが後五分で仕上げてくれる、座席調整込みでギリギリだろうな…出来るか?スレイン?」

 

「はい!やって見せます!」

 

「良い子だ…」

 

フィアはまるで弟の成長を見た姉のように優しく褒めるとスレインも恥ずかしいのか頭を掻きながら顔を赤くする。

 

「さて…久しぶりにやるか!フィア!!」

 

「全く…憎みきれないなお前は……」

 

「ハッ!!」

 

「??」

 

マリーンの言葉にフッと笑いながら呟くと、マリーンは笑いながら部屋を後にしフィアもそれに続く。そんな様子をスレインは少し疑問を抱きながら後に続くのだった。

 

 




どうも砂岩でございます!
今回は久しぶりにマリーンとエデルリッゾを出せました…エデルリッゾの方はもっと出したかったのですが……機械があればどんどん出しましょう。
今回は主にフィアとマリーンの和解ですね、最後の方のマリーンはキャラ崩れてませんよ!戦闘でウキウキしてるだけですよ(汗)
まぁ、フィアちゃんにとってもなんだかんだでマリーンは大切な存在の一つですから憎みきれないんですねこれが!

長くなりましたが最後まで読んで頂きありがとうございます。

フィアちゃんを描いてみました!下手なんでご了承ください!!

【挿絵表示】


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第三十四星 宇宙要塞マリネロス 前編 ーSpacefort Marenerosー



KG―9 グラニ

名前の元は神獸「スレイプニール」の子孫である神獸「グラニ」からとったもの。
地球軍が宇宙専用機として開発した機体で地球軍が独自に開発した空間把握対応システムが組み込まれている。
外見は宇宙装備のアレイオンと変わらないが装甲の強化ではなく機動力を重点に置いており装甲はアレイオンより若干薄い。
プロペラタンクによる航行時間の拡張、無反動砲は上にスコープをつけ命中精度を上げ、宇宙装備を取り外し不可にすることで連動性の向上を計っている。
色は紺色を主体としたカラーリングで敵から見つからにくくしている。


※今回は地球軍視点がほとんどです


 

 

地球軍宇宙軍事基地、通称マリネロス基地周辺宙域

 

一般兵side

 

「こちら、ユレイル44…定時報告異状なし……」

 

『了解…間もなく月面基地との最接近ポイントに到達する…気を緩めるな……』

 

「了解…」

 

地球軍の来るべき月面基地襲撃のために建設された宇宙基地だ…その分、地球軍の中でも秘密裏に建設されている為か襲われたことなど一度もない。

 

『最接近ポイントって言ってもなぁ、平和なもんだよな前線にしては』

 

「ぼやくなよ…秘密基地なんだからバレたら大変だろ?」

 

『そうだけどさ…』

 

ユレイル44は近くのデブリに張り付いてる同期のユレイル33と任務中だというのに話をしていた。この二人は徴兵されたばかりのエリートで、実戦と言う物をまだ感じたことが無かったのが最大の原因だろう。

 

「でもさ…正直、アニメみたいに格好良く動かしたいよなぁ…なぁ?」

 

『…………』

 

「どうしたんだよディン?」

 

先程から話していた相手の名前を呼びながらユレイル44は同期の機体の様子を確認しようとカメラを向ける。

 

「ッ!」

 

そこに映ったのは何かに蜂の巣にされた同期の機体が溶解しデブリに貼り付けられていた光景だった。

 

「敵しゅ!!………」

 

敵襲に気づいたユレイル44の声は本部に届く事無く後から襲いかかったシナンジュのビームアックスの餌食となった。

 

フィアside

 

『これがビットの力か……』

 

「運が無かったな…」

 

『哨戒機はこの二機だけのようです…』

 

「よし、後11キロで敵基地だ!ここからはレーダーを騙せないぞ!」

 

『あぁ!』

 

『はい!』

 

スレインの報告を聞いたフィアはビームアックスを納めると二人に対して警戒を促す。

マリーンも試したばかりのビームビットを納めると満足そうに返事をし、スレインもそれに続くのだった。

 

「作戦は先程伝えた通りだ…」

 

先程から少し進出して敵基地から10・5キロ手前のデブリに隠れてフィアが二人に指示を出す。

作戦はシンプル。高い機動力を持つフィアが先行し、敵のカタフラクト隊を邪魔にならないように排除後に敵基地の防空施設を破壊し制圧する。

マリーンはスレインの付き添いでフィアが突破したカタフラクト隊を殲滅後に対空施設の破壊に参加すると言う物だった。

 

「……よし…行くぞ!!」

 

『おう!任せな!!』

 

『お気をつけて……』

 

「ありがとう…スレイン……」

 

スレインの言葉にフィアはフッと微笑むとシナンジュを先行させる……何らかの引っ掛かりを感じなから。

 

ーーーー

推奨BGM《FULL-FRONTAL》

 

マリネロス指令部side

 

「哨戒機の反応が消えました!敵機接近の可能性大!!」

 

「対空砲火開け!カタフラクト隊緊急発進!!急げ!!」

 

一方マリネロスの指令部は哨戒機のロストに慌て、迎撃の準備を始めていると基地全体にうるさい警告音が鳴り響く。

 

「レーダーに感あり!数は3、敵味方識別反応応答なし!!敵と断定!!」

 

「カタフラクト隊が出るまで対空砲火で足止めをするんだ!」

 

「了解!」

 

「待ってください!!一機だけ凄いスピードで接近しています!」

 

「何だと!?」

 

オペレーターの声に基地指令はメインモニターに映し出されたレーダーを見ると確かに先行している一機が見たことのないスピードで接近しているのが見て取れた。

 

「何なんだ…コイツは……」

 

敵の姿すら見えないのに基地指令はレーダーに移る光点に恐怖を覚えた……本能が動物としての生存本能が逃げろと言っている…コイツはヤバいと。

 

「その機体は後続機の……三倍の速度で接近中!!」

 

「撃てっ!撃てぇぇぇぇ!!」

 

指令の悲鳴にも近い命令でマリネロスは対空砲火をたった一機のカタフラクトに向けるのだった。

 

ーーーー

 

「……」

 

フィアは静に前を見つめ常人とはかけ離れた操作スピードでシナンジュを動かす。

通常、この様なデブリこと岩石群地帯では出せるスピードに限りがある、少しでも操作を間違えれば岩石と激突し死んでしまうからだ。

それだけならフィアだけではなくマリーンと未来予知を持ったタルシスを持つスレインだって出来る…しかしフィアはその二人を遥か後ろに置いても尚、加速を続ける。

シナンジュの持つ高出力スラスターの恩恵だけではない…フィアはその障害ともなる岩石を足場として蹴り加速しているのだ。

 

「す、凄い…」

 

「あれは私でも無理だな…」

 

その光景はマリネロス基地指令だけではなく、味方であるスレイン、マリーンにも衝撃を与えていた。

 

「フッ…その程度……」

 

マリネロスまで後、8キロの地点を通過した所で対空砲火が火を噴きシナンジュを狙うがフィアはそれを見てただ不敵に笑いながら砲火の穴を通り更に加速していく。

 

「カタフラクト隊はまだか……」

 

フィアは静かに呟きながらデブリを足場に、時には楯代わりにしてマリネロスとの距離を詰めていく…するとマリネロスの一角でセンサーに反応が上がる。

 

「来たか…」

 

フィアは餓えた狼のような紅い眼をぎらつかせながらシナンジュを操作し持っていたロングライフルを構えるのだった。

 

ーーーー

 

マリネロス基地、カタフラクト専用カタパルト

 

『先行している敵は一機だがかなりの手練れだ…全機で仕留める』

 

『『『『『了解!』』』』』

 

カタパルトで待機している部隊員に号令を飛ばす部隊長は自身の機体、アレイオンのチェックを済ませていた。

 

『クソッ!ディンとレイの仇は取ってやる!』

 

『早まるなよ、ユレイル22』

 

『了解!ユレイル22クリアード・フォー・ランチ…ブラスト・オフ!!』

 

ユレイル22を皮切りに基地にある2個中隊規模の全ての機体が射出されていく。

 

「……」

 

その中で地球軍の新型であるKGー9“グラニ”のテストパイロットである新兵が緊張の面持ちでカタパルトデッキに上がる。

 

『大丈夫か?新兵?』

 

「ち、中尉…」

 

『ビビるな、怖がっていると運が逃げちまうぞ!』

 

「は、はい…」

 

新兵は世話になりっぱなしの気さくな中尉に少しどもりながら答えるとオペレーターから射出許可が下りる。

 

「モルモット44、クリアード・フォー・ランチ…ブラスト・オフ!!」

 

『モルモット22、クリアード・フォー・ランチ…ブラスト・オフ!!』

 

「うっ……」

 

新兵は射出されたGに顔をしかめるがしっかりと前を向き進行方向を見ると黄色い光線がすぐ横を通り抜けた。

 

「なっ!!」

 

嫌な予感がした新兵は進行方向の確認を忘れて後ろを振り返る、先程の光線はその予感の言う通り“射出中だったグラニ”に直撃し中尉共々カタパルトを巻き込んで爆発を起こす。

 

『うわぁぁぁぁ!!』

 

『ば、爆発が!!誰か拘束を解いて!!きぁゃゃゃ!』

 

固定されたカタパルトの中で中尉は避けることも出来ずにビームの餌食となった…しかし被害はそれだけではなかった…不幸な事に次に発進予定だったアレイオンも巻き込んで爆発した為にカタフラクト隊ハンガーにも大きな被害をもたらしたのだ。

 

「中尉!」

 

近くにあった対空施設も巻き込んだ爆発を見ながら新兵は声を上げるが既に遅かった…死んだ……その言葉が新兵の頭の中で支配するが無理やりそれを頭の隅に押し退け涙を溜め込んだまま前を向くのだった。

 

ーーーー

 

『奴を人間だと思うな!』

 

『クソッ!どんな手品使ってやがる!』

 

『ターシャをやりやがったのか!!』

 

「静まれ!!各機死にたくなければ私に従え!!」

 

カタパルトへの長距離狙撃を見て戦線に居た兵士は恐慌状態に陥いるが部隊長が何とか収める。

死にたくなければ…その単語に全員は冷静さを取り戻し行動を開始する。

 

「どんな奴でも同じ人間だ!弾幕を張り続けろ!グラニの部隊は回り込め!包囲殲滅する!」

 

『『『『了解!』』』』

 

統制を取り戻した部隊だったがその時点で既に手遅れだった…敵の赤い機体が岩石に着地したかと思うと進行方向を大きく変えカタフラクト隊の弾幕を回避していく。

 

『クソッ…速すぎる……デブリなのになんで速く動けるんだ!』

 

「落ち着け!オルアン33、隊列を維持するんだ!」

 

焦る部下を諌める部隊長も内心焦っていた…敵は中隊規模である16機ものアレイオンの弾幕をまるで何もないように移動している。

 

「勝てるのか…」

 

『部隊長!!』

 

「なんだ!?」

 

『敵の後続が!!』

 

「ッ!!」

 

『ハッハッハッハッ!!死にたい奴から!かかってこい!!』

 

狂気を孕んだ若い少女の声が戦場に響く、レギルスとタルシスの白い機影が彼らの命を散らすために加速するのだった。

 

 

 

 





どうも砂岩でございます!
正直、機体をシナンジュにしたのはこれをやりたかったからです!はい!!
書いたら止まらなくて…はい!
そう言えば書いてる途中で友達に指摘されたんですが…宇宙の迎撃施設って対空施設でいいんですかね?対宙施設かな?
そしてアルドノア名物のアドバイスする奴は死ぬと言う…ごめんなさい中尉…。

それでは!最後まで読んで頂きありがとうございました!!


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第三十五星 宇宙要塞マリネロス 後編 ーSpacefort Marenerosー

 

 

『いけぇぇぇぇ!ビットォォ!!』

 

マリーンは楽しそうに叫ぶとレギルスの左腕に装備されたシールドが開き、蛍の光ような物が何十と生成される。

その美しい球体は高速に移動し始め、アレイオン隊に襲いかかる。

 

『な、なんだ!コイツ!!』

 

謎の光に恐怖を抱いた兵は持っている無反動砲で対応すると着弾した光は爆発し数を減らす。

 

「各機散開せよ!!」

 

危険物と判断した部隊長は各機を散開させ回避させようとするが大きなアレイオンに対して小さく小回りの効く光の方が速くアレイオンに追いつき破壊し尽くす。

 

『クソッ!』

 

『部隊長!赤い奴がマリネロスに!!』

 

「ええい!向こうは向こうでやってもらうしかない!我々はこっちの対処に全力で当たるんだ!」

 

『は、はい!!うわっ!!』

 

『余裕だなぁ!隊長さんよぉぉぉ!!』

 

「ッ!!」

 

指示を出した部隊長はその隙をマリーンに見破られいつの間にか目の前にレギルスが現れていた。

レギルスは左手からビームサーベルを出すと部隊長のアレイオンを真っ二つに切り裂くのだった。

 

『部隊長!…ヒッ!!』

 

近くに居た部下が叫ぶが、その行為は死を早めるだけだった。

 

『うぁぁぁぁぁ!!』

 

部下の目とレギルスのスリット状のカメラが合い小さく悲鳴を上げるとビットがその恐怖を察知したようにそのアレイオンに殺到し喰い尽くすのだった。

 

ーーーー

スレインside

 

精神的支柱を支えていた部隊長が居なくなり統制が完全に崩壊したが戦闘は続いている。

ユレイル小隊は残存の二機と小隊が崩壊し彷徨っていた二機を組み込み臨時の小隊を形成していた。

 

「くっ…制御が…」

 

スレインはその小隊を相手にしつつ戦っていたがデブリによる偏向重力のせいで上手く動けずにいた。

だからと言ってやられる事はない…タルシスの予知能力の恩恵とも言えるがそれに対してしっかりと対処しているスレインの高い順応力があってこそだ。

 

『上下を意識するからこうなるんだよ!!』

 

「クウェル子爵…」

 

『ここは宇宙だ!頭で考えるな!体で覚えろ!!』

 

「はい!!」

 

突然の怒鳴り声にスレインは驚くがすぐに頭を切り換えてマリーンの声に従う。

マリーンもアレイオン隊がビットに少し慣れてきたせいかデブリを楯に攻撃を始め、ビットを上手く扱いきれないマリーンは舌打ちをしながら応戦しながらスレインに怒鳴る。

 

『いいか!シートに体を預けろ!後は宇宙が溶け込んでくれるのを待つだけだ!!』

 

「はい!」

 

スレインはマリーンのちょっと意外な面倒見に喜びながらも言われたように動かしているとスッとするものがあった。

 

「なんだ?急に機体が……」

 

『不慣れな奴め!』

 

動きに乱れが生じたタルシスを好機と見たアレイオンは無反動砲を構えて撃つがスレインは紙一重で避け右腕のシールドを反転させて近接戦の剣を出す。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

『しまった!近すぎた!!』

 

一気に加速したタルシスはアレイオンに近づき無反動を破壊すると後退をするアレイオンを追いかけてもう一度剣を振るう。

 

「もらった!!」

 

『ぐをぁ!!……ディン、レイの…仇すら……』

 

『ユレイル22!!』

 

「やった……ッ!」

 

初めての敵機撃破に若干安堵の声を漏らすスレインだったがタルシスの未来予知はいち早く危険をスレインに告げ急いで退避行動を取る。

 

「なんだ!」

 

驚いたスレインが見たのは部隊長の指示で回り込んでいた新型グラニを有する2個小隊規模の部隊だった。

 

「くっ!」

 

先程、交戦していたアレイオン隊とは違い距離が少し近いとは言え正確に撃ってくるグラニはスレインの応戦を難なく交わし散開する。

 

「速い…これが地球軍の新型機……」

 

スレインは今までとは違う敵に気を引き締め直すのだった。

 

ーーーー

マリーンside

 

「あっちはもう良いみたいだな…」

 

マリーンはスレインが敵機を撃墜したのを見て戦闘に集中する、マリーンは戦闘に関しては少々異常だが基本はフィアと同じで面倒見が良い人物である。

 

「さて…こっちもさっさと片付けるか……」

 

そう言ってマリーンはレギルスの腰に付いていたライフルを取り出して構える。

本当ならビットでサックリと殲滅したいのだがレギルスビットはある意味同系統の武装を持つハーシェルとは操作方式が違う。

基本は高度な演算システムでプログラムされた動きをする(脳波は補助)ハーシェルに対し完全に脳波で操作するレギルスビットは高い集中力を必要とするのだ、更にマリーンがこれほどビットを使ったのは初めてだったので三人の中で一番疲労が溜まっていた。

 

「さぁ!!来いよ!!」

 

マリーンが叫ぶとレギルスのライフルが最大出力で放たれ小さなデブリを粉々に破壊した。

 

『なんて奴だ!デブリを粉砕するなんて!』

 

『来るぞ!』

 

『グワッ!!』

 

「ビットが無かろうが!!」

 

ライフルで撃ち抜かれたアレイオンの爆発を煙幕代わりにすると、もう一機のアレイオンに肉迫する。

 

『ヒッ!』

 

アレイオンのパイロットは爆炎から飛び出してきたレギルスを見ると悲鳴を上げるが既に遅く左手のビームサーベルによって刻まれたのだった。

 

「さぁ!後ぉ三機ぃぃぃ!!」

 

『あれはさっきの光!!』

 

『しまった!』

 

『隊長!!』

 

マリーンの相手をしていたアレイオン隊は見事デブリの仲間入りを果たし、マリーンは若干変な汗をかきながらビットを展開しスレインの所にいたアレイオン三機に向かわせ撃破する。

 

ーーーー

 

「クウェル子爵か!!」

 

グラニの対応に追われていたスレインは背後に回っていたアレイオン三機が爆発するのを確認すると若干の隙を見せたグラニをシールドに仕込んである銃で撃ち落とす。

 

「よし!二機目!!」

 

『なんて奴だ…』

 

そんな光景を見て新型機部隊長のモルモットリーダーは思案する、このまま新型を全て失えば計画自体も地球の存亡にも関わってしまう。

 

『モルモット44!!』

 

『はい!』

 

『お前はデータを持って戦域を離脱!味方と合流するんだ!』

 

『そんな!隊長!!』

 

モルモット44は隊長の命令に食い下がろうとした、現在も仲間がタルシスと交戦していると言うのに…新米である自分が怨めしかった。

 

『この地点でのグラニならトライデント基地までギリギリ推進剤は持つはずだ』

 

『しかし!!』

 

『お前は若い、ここは年長者の言うことを聞くもんだ…それにお前の持っているデータは必ず必要になる…これは命令だ!行け!!』

 

『ッ!……はい!!』

 

モルモット44は隊長に押され全速力で戦域を離脱する。

 

『中尉の仇すら…取れていないのに……』

 

『………頑張れよ…新兵』

 

「逃がすか!!」

 

一機だけ戦域を離脱しようとする反応を見つけたスレインは交戦していた機体を放置し追撃を開始するがその前に無反動を乱射するグラニが立ち塞がった。

 

『全機!新兵の花道を作ってやれ!!』

 

『『『『了解!』』』』

 

「くっ…あくまで邪魔をするつもりですか……」

 

隊長の言葉に他のグラニ達も鬼気迫る迫力でスレインに迫る。

 

「スレイン!…無事か!!」

 

「クウェル子爵!敵が!!」

 

『うぉぉぉぉぉ!!』

 

「ちっ!!」

 

迫るグラニを左手をビームマシンガンにして蜂の巣にするが穴だらけになったグラニがレギルスに取り付き拘束する。

 

「雑魚が!退け!!」

 

マリーンは力で拘束を解こうとするが無傷のグラニが後ろからさらにレギルスを拘束しそして三機目、四機目と続く。

 

「スレイン!」

 

「…あぁ……」

 

「スレイン!…チッ!!」

 

マリーンはスレインに救援を求めるがタルシスも同様に拘束されていた…タルシスに取り付いた敵はレギルスに比べたら少ないが肝心のスレインが相手の気迫に呑み込まれ頭が真っ白になっていた。

マリーンはそんなスレインを見て舌打ちをするが内心仕方が無いとも思っていた、初の実戦で相手は死を覚悟している…その気迫に負けてしまうのはある意味仕方のない事だった。

 

「クソッ…ビット!」

 

マリーンは頭痛に顔をしかめながらもビットをシールドから生成し張り付いた敵を破壊する。

 

「クッ…」

 

至近距離の爆発のせいでマリーンはレギルスごと振り回され、さらに顔をしかめるが何とか敵を殲滅するとタルシスに張り付いていた2機も墜としビットをしまう。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「クウェル子爵…大丈夫ですか!?」

 

「何とかな…」

 

息を乱しているのを心配するスレインを横目にマリーンは遠くに居る敵の基地を見て思うのだった。

 

ーーーー

フィアside

 

マリーン達が敵の殲滅を完了させていた頃、フィアはシナンジュを駆って敵基地の迎撃をかいくぐり、持っているロングライフルで銃座やミサイルランチャーを破壊していき、ついに敵基地の表面に取り付いたのだ。

 

「よし!取り付いた!」

 

取り付いた事でフィアは喜ぶが油断など微塵もしておらず頭部バルカンで銃座を粉砕しミサイルランチャーをライフルで破壊し脅威を排除するとすぐ近くに大きな穴が開いていた。

 

「…あれは……私が狙撃した……」

 

フィアはその穴に近づくとライフルを構える、ここから攻撃をすれば全てが終わる…基地も全滅だろう。

 

(任務完了……ッ!)

 

フィアは操縦桿のスイッチを押そうとした時、穴が開いた格納庫にある物を見て思わず手を止めた。

そこにあったのは一機のカタフラクト…地球では練習機として広まっているオレンジ色の機体…スレイプニールだ。

 

「くっ…頭が……」

 

それを確認した瞬間にフィアは激しい頭痛に襲われ思わず両手で頭を抱える。

 

「くうっ…ううぅ……」

 

ナニかがオクから湧き出てくる感覚に息苦しくなり制服を胸元まで開けて大きく息をする。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

『フィア!無事か!!』

 

「ッ!…マリーン……」

 

変な汗が噴き出し頭が真っ白になりかける…そんな時に無線からマリーンの声が響きハッとすると穴から離れ接触回線を開きマリネロスの司令部に繋げる。

 

「こちら、アセイラム姫殿下の騎士だ…決着はついた…投降しろ…」

 

『なんだと?』

 

SOUNDONLYの文字が映る画面が出現するとその先からは指揮官であろう人物の声が聞こえてきた。

 

「こちらは指揮官だけ貰えればそれでいい…兵の脱出は見逃してもいい…」

 

『……本当か…』

 

「あぁ…」

 

フィア自身もなぜこの様な行動をしているのか分からなかった、しかし体と口は勝手に動き話は進んでいく。

 

『……分かった…投降しよう』

 

「貴方の英断に感謝する……」

 

指揮官の言葉にフィアは感謝を述べると基地から降伏を知らせる発光弾が打ち上げられ漆黒の宇宙を彩る。

 

『おい!…話が違うぞ!フィア!!』

 

予定外の行動にマリーンが慌てる、フィアは人一倍真面目な性格だ…計画変更に何かあると思いつつ怒鳴るが応答は無かった。

 

(先程の頭痛は…一体……)

 

そんな声を蚊帳の外にしてフィアは先程の自身の乱れように疑問を持ちつつコックピットシートに大きくもたれ込みただ打ち上げられた光を見つめるのだった。

 

 

 





どうも砂岩でございます!
これでマリネロス攻略戦は終了でございます。
フィアがなぜあの様な行動をとったのか…それはスレイプニールがそれだけ思い出深い物なのでしょうね~(シミジミ)
それと…御覧になられている皆様には本当に感謝です!感想やお気に入りにいつも励まされております。
至らない物はたくさんありますが今後とも暖かく見守って頂ければと…。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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番外編 「騎士と姫の大晦日」

 

これはまだフィア達が地球に行く前の話

 

火星本星、城の一室でのんびりと過ごしているアセイラム姫とその侍女エデルリッゾがいた。

 

「暖かいですねぇ~」

 

「はい、ジャパニーズコタツと言うらしいですよ」

 

「ジャパニーズコタツですか!暖かくて動きたくありません~」

 

アセイラムは猫が乗り移った様にゴロゴロとするエデルリッゾを見ながら微笑むと時計を見る。

時計は11時40分を指し新しい年までまもなくだ。

 

ーーーー

 

「はぁ…疲れた……」

 

そんな時、フィアは仕事を済ませ眠気を感じながら暗い廊下を歩く…アセイラム姫親衛隊を預かる身、年最後の日だろうが忙しい。

 

年始めの行事は動けないレイレガリア皇帝の代わりにアセイラム姫が執り行う…護衛を行う者として逆に忙しい日でもある。

親衛隊との打ち合わせ、書類整理、警備配置再確認など行っていたらこんな時間である…出会った当初は優しいお姫様だったが日に日にしっかりしてきてフィアは思わず嬉しくなる。

 

(これが母性本能だと言うのか?)

 

そんな事を考えながらアセイラムの部屋の前を通ったフィアはまだ灯りがついているのを見た。

 

(こんなお時間まで…)

 

いつも時間通りのアセイラムにしては珍しいと思い部屋の扉を開けるのだった。

 

「姫様、こんなお時間まで…どうなされたのですか?」

 

「フィア!ちょうど良い所に!!」

 

アセイラムはフィアの姿を見て喜ぶとコッチコッチと手招きコタツに誘導する。

その隣でエデルリッゾは安らかに眠りっていた…

フィアはアセイラムに呼ばれるが恐る恐るコタツに移動するとその前で止まる。

 

「あの…姫様……どうすれば?」

 

「この布団に足を入れるのですよ」

 

「足を?……ホゥ……」

 

フィアは少し警戒しながら足を入れる…するとほっとするほど心地よい温度に思わず変な声が出た。

一気に気が抜けたフィアを見てアセイラムは微笑み思わず頭を撫でる。

 

「ひ、姫様!!何を!?」

 

「すいません、あまりにも可愛くて…」

 

「かわっ!!」

 

アセイラムの言葉にフィアは顔を紅くする。

いつも餓えた狼のように敵を狩るフィアもこう言った表情をするのだな…とアセイラムは微笑みながら思う。

 

フィアと出会い騎士と主と言う関係で共に過ごしてきたがそんな関係のせいかお互いの事は余り知らない。

 

(よく考えたら…フィアに助けて貰ってばっかり……)

 

「フィア!肩を揉んであげますよ!」

 

「えぇ!それは流石に…いけません!姫様!」

 

「もう!私の言葉が聞けないのですか?」

 

「う……」

 

あまりにも抵抗するフィアだがアセイラムは楽しそうしフィアはその言葉に流石に抵抗が出来なくなった。

 

「いつもお世話になってますから…こういう時は恩返しさせてください…」

 

「…すいません」

 

「フフフ…フィア……"すいません"では無く"ありがとう"ですよ…」

 

「ありがとうございます…」

 

「はい、よく出来ました…」

 

いつもと違うフィアを見てアセイラムは笑いながらソッと思う。

 

(いつか…騎士としてでは無く友達として……居られる時が来るのでしょうか……)

 

穏やかな空気の中、眠るエデルリッゾの寝息を聴きながらフィアは静かに目を閉じる。

 

(この様な時間が何時までも続けば…どんなに幸せだろう…)

 

ただ何も無く笑い合う世界…そんなものを夢見ながらフィア…は静かに微笑むのだった。

 

騎士と姫の微かな一時、しかし二人にとってはかけがえのない……そしてお互いに近づけた大切な一時であった。

 

 

 




みなさん!
あけましておめでとうございます!!砂岩でございます。
今回はフィアとアセイラムの日常エピソードと言うことで書かせて頂きました。
受験のため本格的に書けなくなりますが皆様の暖かいお言葉に感謝の念を抱きつつ頑張って行きたいと思います。
ではでは…それでは改めて!!あけましておめでとうございます!!

フィ「あけましておめでとう…これからも姫様のために精進する所存だ…よろしく頼む……」

伊奈「これからもフィアと僕の恋愛劇もよろしく……」

フィ「な!!///」




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第三十六星 虚無の苛立ちーnihilistic of irritatedー

 

 

月面基地、カタフラクトハンガーではマリネロス攻略作戦を終えた三機の機体が帰投し整備が行われていた。

 

「タルシスの量子アンテナの点検は念入りにな!」

 

「レギルスの脳波リンクシステムのデータを上げろ!調整が出来ないじゃ無いか!!」

 

「エネルギーバイパスのOS調整するぞ!ディスプレイが足りない!持って来い!!」

 

ハンガーは怒号と共に多くの整備員と大型の機械が行き周り活気に溢れていた。三機ともまともな実践が初めてであったのがその忙しさを加速させているのだ。

 

「こりゃ、ひどいなぁ~」

 

そんな怒号の中、シナンジュのコックピットで大きくため息をついたのは機付き長…フェインだった。

しかしそんなフェインの言葉とは裏腹にシナンジュは大きな損傷が無く敵の特攻で傷ついたタルシスとレギルスに比べたら綺麗な姿だった。

 

「脚部の間接が逝ってしまいましたね…」

 

「シナンジュ"でも"駄目だったか~」

 

フェインは手を顔に当ててもう一度ため息をつく、整備員の言葉通りシナンジュの間接、主に脚部はフィアの操縦に耐えきれず文字通り逝っていた。

フィアは操縦に関して文句を言うなら一つだけ…足癖が悪いのだ…地上の戦闘なら問題はないが宇宙における戦闘になると足をよく使うが為に脚部の損耗が激しい。

シナンジュの前の機体では訓練中に突然足が膝からもげてどっかに飛ばしたと言う事件が発生している。

 

一回の訓練で何故足がもげるのか聞きたいものだ。

 

「足首と膝のパーツは全部交換するよ、いつもの持って来て~」

 

「「「了解!!」」」

 

整備班が整備のために動き始めるとフェインはレンチを片手にコックピットの整備を始める。

 

「コントロールスティック周りがガタガタじゃない…どんな無茶な操縦をしてるんだか……」

 

先程から愚痴ばかり吐き出してるがその顔は清々しく満足しているような笑みを浮かべていたのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、司令室

 

「うむ、予想以上の成果だな…エルスート卿」

 

「いえ…スレインとマリーンのお陰です……」

 

「嫌みか?」

 

「アハハ……」

 

ザーツバルムの言葉にフィアが静かに答えると隣に居たマリーンがジト目で見ながら小突く。

それを見ていたスレインも苦笑いをしながら頬を掻く。

 

「ふむ…敵、要塞の確保によって我等の行動も随分と楽になるだろう…今人員を向かわせておる……手中におけるのもさほど変わらんだろう……」

 

「ありがとうございます…」

 

「久々の戦闘で疲れたであろう…ゆるりと休まれよ」

 

「ハッ!!」

 

ザーツバルムの労いの言葉にフィアは敬礼をすると下がる。

 

ーーーー

 

スレイン、マリーンと別れたフィアは自室に戻るとベッドに身を投げ込む。

 

「ハァ…」

 

暗い自室の中、大きなため息をつくと瞼の上に腕を乗せ動かなくなる。本当なら早くシャワーでも浴びなければならないのだが想像以上の疲労に何もやる気が起きなかった…そんな中、頭に浮かぶのはマリネロスでの出来事。

 

「スレイプニール……」

 

オレンジ色の機体…その名前を呟くと頭がヅキヅキする。

 

(確か薬があったはず……)

 

フィアは重い体を起こすと軍医から貰った薬をデスクから取り出す…記憶障害の場合、頭痛は付きものらしいので貰っていたのだ。

 

「ん?」

 

デスクを漁っていると引き出しの奥に黒色の拳銃があった。

 

「これは……」

 

《すぐに行く…それまで頼む…》

 

《……分かった…無理しないでね》

 

《お前こそ…》

 

「ッ!!」

 

視界が塗りつぶされそうな吹雪の中、黒い影が自身を労るように呟く…突然のフラッシュバックに驚きながらも視界が大きく揺れるのが分かった。

 

「なんだ…これ…は……」

 

思わず倒れそうになるがデスクに手をつき阻止する。

拳銃と一緒に見つけた頭痛薬を乱暴に飲み込むと力なく座り込み荒くなった息を整える為に大きく息を吸う。

 

「なんなんだ…いったい……」

 

フィアは度重なるめまいと頭痛に愚痴を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

月面基地周辺宙域、そのデブリ群に存在する五つの光点は数隻からなる輸送艦隊を守るように展開していた。

 

『こちらR2(ロイヤルガード2)…レーダー及び有視界に異状なしと認む』

 

「分かった…各機、ここはもう敵地だ警戒は厳となせ!」

 

『『『『了解!』』』』

 

一つ目(モノアイ)を煌めかせながら周辺を警戒している機体、ローゼン・ズールは味方機であるベルガ・ギロスの通信を聞くと輸送艦からの通信を受け取る。

 

『まもなく月面基地に着きます、各艦着艦ドックが分かれるので姫様を頼みますシャーウィン副長』

 

「了解しました、親衛隊各機!全機帰投せよ!月面基地に入港する!」

 

『『『『了解!』』』』

 

「ようやく隊長に会える!」

 

ローゼンのコックピットでリア・シャーウィンは先程とは打って変わって年相応の顔でモニターに映る月面基地を見るのだった。

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
突然ですが…スランプです…やっと最近時間が出来たので溜まってたガンプラを作ってます、グシオン良いね!作りやすい!この調子でマン・ロディも作りたいですね。(←何が言いたいのか分からない)
って言うのは置いといて…今回はフィアの記憶の混乱と親衛隊到着ですね、後はシナンジュの整備…個人的にはフェイン機付き長の出番を増やしたいけど…うん、無理ですね。
整備シーンって好きなんですよ、だからこう言うのをもっと書きたいですね。
親衛隊到着と共に物語は更に加速していきます(たぶん)、もうそろそろ二期にも入りたいですしね。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第三十七星 親衛隊ーloyal guardー

ー親衛隊ー

フィアがアセイラムの騎士に着任した二年後に発足
五人ともそれぞれの教練所で主席を勝ち取った下級(階層)エリート
フィア含め下級階層出身

フィアは騎士だが男爵、場合によっては伯爵並の権力を行使できる。
他五人も最高で言えば男爵並の権力を行使できる立場で非常に異例な存在、しかしその点から一部の伯爵からは毛嫌いされており理不尽な目に遭うこともある。



 

『こちら月面基地総司令部、所属と目的を明らかにされたし』

 

「こちら、ヴァース帝国軍第八惑星間輸送艦隊…親衛隊の移送及び特務の遂行…物資輸送のために着艦許可を願いたい…作戦コードを送る」

 

『コード受領、照会……確認した、遠路はるばるご苦労様です…第三、第四格納庫に入港してください』

 

「こちら輸送艦隊、了解した」

 

通信を終えた艦長は部下に指示を出すとホッとしたような表情を浮かべる。

 

「お疲れ様です、艦長」

 

「副長か…そっちはこれからが大変だろう」

 

「いえ…私は隊長に会える事は何よりも幸せですから」

 

「あぁ…」

 

リアの幸せそうな顔に艦長は若干引きながら答えるのだった。

 

ーーーー

月面基地第三格納庫

 

「うむ…着いたか……」

 

そこには既にザーツバルムがマリーンを連れて特務人物ことレムリナ姫の到着を待っていた。

 

「親衛隊にはゆっくりして貰わねばな…マリーン、エルスート卿はどうした?」

 

「先程から連絡を入れているのですが…今スレインが呼びに行ってます」

 

「そうか…」

 

その言葉を聞いたザーツバルムは右手を顎に添えながら意外そうな顔をする。

彼自身、フィアをそこまで知っていると言う訳ではないが、それでもこの様な行動を取ることは珍しいと思えるのはフィアが色んな意味でまっすぐであるからだろう。

 

「何かなければ良いがな…」

 

「そうですね…作戦終了後も様子がおかしかったですから…」

 

「そうか…」

 

『まもなく入港します、作業中の各員は作業を中断し直ちに退避してください』

 

(あの時の行動と言い…記憶に関係しているのか……)

 

マリーンは入港する輸送艦隊を見ながら一人、考えにふけっていた。

 

ーーーー

 

その頃、マリーンに迎えに行かされたスレインの顔は驚きに満ちていた。

ドアロックが行われていなかったため自動で開いたドアから見たのは暗い部屋に乱れたデスク、それに力なくもたれているフィアの姿、副長のリアが見ようものなら発狂するぐらい異様な光景だった。

 

「フィ…フィアさん?」

 

流石の光景にスレインは質問をしてしまうほど驚き、その声にフィアは紅い眼をスレインに向ける。

 

「スレインか……」

 

「はい……」

 

酷く疲れた声に静かに答えたスレインはフィアの元へと駆け寄り心配そうに顔を見る。

 

「フィアさん…」

 

「フフッ……」

 

そんな子動物の様な様子にフィアは思わず笑うと立ち上がる。

 

「すまない…色々あってな…見苦しい所を…」

 

「いえ…頼りないかもしれませんが…僕に出来ることがあったら何でも言ってください」

 

「ありがとう…スレイン……」

 

両手をしっかりと握られ真剣な表情を見たフィアはスレインを優しく抱きしめた。

 

「え!フィアさん!!」

 

「本当に…ありがとう……」

 

「いえ……」(柔らかい……)

 

先程とは打って変わって優しい表情になった彼女を見て顔を真っ赤にして俯くスレインだった。

 

ーーーー

 

「ん?」

 

「どうしました?界塚少尉?」

 

「いえ……」

 

そんな時、地球でスレイプニールの整備をしていた伊奈帆は突然声を上げて上を見上げる。

 

(なんだろう…今コウモリへの殺意が……)

 

ピポピポピピピ……

 

「さぁ…なんだろうね……」

 

その時、スレインの背筋に悪寒が走ったのは恐らく気のせいではないだろう。

 

ーーーー

月面基地第三格納庫

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下親衛隊、副長リア・シャーウィン以下四名…特別任務遂行のため月面基地に参りました…任務完了と同時に当基地におられますフィア・エルスート親衛隊長の指揮下に入ります」

 

「うむ…ご苦労であった」

 

親衛隊の一挙一動乱れぬ挨拶を見たザーツバルムは満足したような表情を浮かべ労うとリア達は乱れぬ動きで休みの姿勢をとる。

 

「エルスート卿ももう間もなく来るだろう…それで…殿下は」

 

「ハッ!」

 

リアは後ろを振り向くとそこには髪を七三に分けた男性がレムリナ姫の車椅子を押してやってきた。

 

「ありがとう…もう良いわ…」

 

「はい、恐れ入ります」

 

「これは…姫殿下…ご足労頂きありがとうございます」

 

「いいのです、ザーツバルム卿…この命は貴方のおかげであるのだから…」

 

「ハッ!…まずはごゆっくりと長旅の疲れを癒して頂きたいと思います…マリーン……殿下を案内するのだ」

 

「分かりました…殿下、こちらに」

 

一通りの挨拶を済ませたレムリナはマリーンに連れられて格納庫を後にした…それと入れ替わるようにフィアとスレインが格納庫に到着しザーツバルムに向けて礼をする。

 

「遅くなりました」

 

「すいませんでした…私としたことが…」

 

「二人とも来たか…スレイン…お主に伝えておかねばならぬ事があったのだ」

 

「はい?」

 

二人の足がしっかりと床に着くとザーツバルムは横目である人物を見る…それは先程、レムリナ姫を連れてきた男性兵士だった。

 

「お初にお目にかかります…スレイン様」

 

「様!?」

 

いきなりの様呼びに驚くスレインを前にその男性は自己紹介を進める。

 

「本日からスレイン様の下部(しもべ)としてお仕えさせていただきます……ハークライトと申します」

 

「は、はい……」

 

いきなりの出来事にオロオロしているスレインを見ていたフィアだが、横から紫の髪を持つ少女が自身の所に飛んで来ているのを見て思わず受け止める。

 

「隊長!お久しぶりです!!」

 

「リアか!久しぶりだなぁ」

 

久しぶりに会う部下にフィアの表情も晴れリアを強く抱きしめるのだった。

 

ーーーー

リアside

 

「隊長!お久しぶりです!!」

 

美しく輝く銀色の髪に地球にあると聞くルビーの様な美しく輝く紅い瞳…それを見た瞬間、今まで律していた自身を解放してその胸元に飛び込む。

 

「リアか!お久しぶりだなぁ」

 

柔らかな感触を感じながらリアは猫の様に頬をスリスリする。

 

(あぁ…九ヶ月と十七日と五時間と二十九分四十二秒ぶりの隊長の香り、感触……あぁ!!)

 

最高に幸せそうな顔をして顔をスリスリするリアの後ろ姿を見ていたネール他親衛隊の面々はまたか…と言った感じにしていた。

 

そう、親衛隊副隊長ことリア・シャーウィンはフィアの熱狂的な忠臣とは聞こえがいいが世間一般的に言えば…究極の領域に踏み行ったフィア好き(ストーカー、変態)である。

フィア本人こそ気づいていないがその様子を常に見てきた親衛隊のもの達には異様であり通常の光景であった。

 

ーーーー

 

「やぁ~来たねぇ~」

 

「クラウス機付き長!お久しぶりです!」

 

そんな様子を見ていた親衛隊員のジュリの肩を叩いたのはシナンジュの機付き長、フェイン・クラウスだった。

 

「相変わらずやってんねぇ」

 

「えぇ…」

 

「まったくですよ!副長は隊長が絡むとあれだからな」

 

「ネール!機付き長に何て言葉を」

 

「いいよ~久しぶりだね、ネール…ギロスは壊してないかい?」

 

「動かせなくて鈍っちゃうぜ!」

 

フェインは元気なネールと話しているとその脇からシルエが無言で頭を下げ、ケルラが話に入っていいか分からずにオロオロしている。

 

「この二人は相変わらずだねぇ」

 

「あぁ、良くも悪くもってか!」

 

「ネール!…全くもう…」

 

「苦労人だねぇ…」

 

「久しぶりだな、全員」

 

フェインはジュリの様子を見ながら彼女の頭を軽く撫でていると、今度はフィアが腰にリアをくっつけたままやってきた。

 

「「「「ハッ!」」」」

 

「うむ…相変わらず動きが鋭いな、リアの教育もしっかりとしているようだな」

 

「当たり前です!私は隊長の補佐ですから!」

 

「うむ…」

 

受け答えはしっかりとしているがその当の本人はフィアの腰にまだくっついているのだから説得力のなさが絶大である。

しかしその親衛隊は普通の人と同じように話しているのを見ると自身が可笑しくなったのではないかと思えてくるのは必然なのだろうか。

 

「元気になられて良かった…」

 

そんな親衛隊の様子を見たスレインはそれに囲まれて笑顔を振りまくフィアの姿を見て少しだけ安心するのだった。

 

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
親衛隊終結!!でございます!
リアは…まぁ…あんなんなので温かい目で見て頂けると嬉しいです。
次回は地球サイドをやってついに二期に突入しようかと思います!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!!

ご依頼があったのでフィアの照れ顔的なものを…相変わらず下手すぎて笑えます。
こんな私ですが…もし、仕方がない描いてやろうなんて言う天使がおりましたら全力募集です!はい!


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第三十八星 想いは硝煙に紛れ ーunder the cover of gun smokeー

「あぁ~あ!もう少しだったのに!!」

 

「仕方ないわよ…向こうが二枚も三枚も上手なのは分かってる事じゃない…」

 

「それもそうね…」

 

地球連合本部の食堂の一角でライエと韻子は〇ッキーを食べながら例のシミュレーターの事を話していた。

先程、韻子達が行った戦闘ではライエがフィアのスレイプニールの右腕を吹き飛ばしたその直後、ライエはフィアのスレイプニールが左手に持っていたハンドガンでコックピットを精密に撃ち抜かれたのだ。

 

ちなみに韻子は伊奈帆の足止めをしていた。

 

「でも何でこんなに人気になっちゃうかなぁ~」

 

「やり甲斐があるからじゃないの…」

 

韻子はポッ〇ーをタバコの様に咥えながら机に頭を乗せる。本来なら暇な時間があればシミュレーターを使い体力が尽きるまでやり続けていたいのだが、どこから漏れたのかカームが作ったシミュレーションは他の兵士にも破格の人気を誇りカームはちょっとした有名人と化していた。

しかしそのせいでシミュレーターは埋まりに埋まりまくり韻子とライエが出来なくなっていたのだ。

 

「でもまだ誰も倒せてないって…何なのあの二人!てか伊奈帆どこに行ったのよぉぉぉぉ!!」

 

「また始まった…」

 

ライエはまたかと言わんばかりに悶えている韻子を見る…そんな彼女だが彼女自身も伊奈帆の事は心配している、あの戦いから八ヶ月を過ぎた時点で会ったのは病院で目を覚ましたと言う報告を受けた一回だけ…その後はいつの間にか病院から姿を消しどこかに行ってしまったのだから。

 

「近いうちに会えるわよ…」

 

「なんで!?」

 

「デューカリオン、手探り状態だけど修理が始まってるみたいだし…いつかあの時のメンバーが集まるでしょうね…」

 

「そっかー…」

 

「どうしたの?」

 

急に元気をなくした韻子を見て不思議に思ったのはほんの一瞬だけ…ライエ自身も恐らく同じ思いを持っているだろう。

 

「フィアと…戦うのかな……」

 

「……」

 

韻子の言葉にライエはなにも答えられずに黙ってオレンジジュースを飲む……こういう時、口下手な自身が恨めしく思う…いつも韻子やニーナ達の明るさに助けられてそれに頼っていた……だから…韻子の不安にライエは何も応えられなかった。

 

「フィアは火星騎士でお姫様の騎士…私達の…敵……」

 

「そうね…いつか戦場で会うかもしれない……」

 

「フィアは…容赦しないだろうなぁ……」

 

「そうね…」

 

二人はあの迷いない狼のような紅い瞳を思い出し黙りこもってしまうのだった。

 

ーーーー

伊奈帆side

 

それと同じ頃、連合本部付近にある放棄されたザーツバルム卿の揚陸城内部では地球軍による復旧作業が内密に行われていた。

 

「………」

 

復旧のために作業員が動き回り騒がしくしている中で、一人の少年は一度来たことがあるかのように巨大な廊下を歩き、ある場所に向かっていた。

 

アルドノアジャンパーへの入り口前の廊下には巨大な穴が開いておりアレイオンの残骸と解体され尽くし原形を辛うじて保っているゼダス姿があった。

 

「フィア……」

 

あの時…死にそうな体で戦っていたフィアの姿を思い出し伊奈帆は無くした右眼を瞼の上からソッと触る。

 

あの戦いの後…ベッドの上で目覚めた時、言いようの出来ない喪失感を伊奈帆は感じていた…いつかこの時が来るのは分かっていたし、戦いが始まる時に覚悟もしていた。

 

……でも…その時が来たとき……自身は何も考えられなくなっていた…頭では理解していても体の奥底にあるナニかがそれを拒んだ。

 

「………」

 

伊奈帆は無意識に重くなる足を進めながらそう考えていた…。

 

「ここは…そのままか……」

 

揚陸城のアルドノアドライブ制御室……復旧作業中だというのにここはまだ手つかずだったのは伊奈帆自身も驚いた。

 

「動力は必要ない訳か…」

 

残骸で足の踏み場の無い制御室を伊奈帆はどんどん進んで行く…すると足に硬いものが当たる。

 

「これは…」

 

暗い制御室で鈍く光る銀色の拳銃、その拳銃には小さくヴァース帝国の紋章が刻まれている…この拳銃は紛れもなくフィアから託された拳銃だった。

 

その拳銃を持つと同時に構えるあの銀髪の少年にしたように。

 

 

《また…》

 

《あぁ…またな…》

 

あの時交わした言葉を決して忘れない。

 

「また…会いに行くよ……」

 

この忌まわしい場所で静かに伊奈帆は決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます。
まぁ今回は短めでございましてザッと地球側の方をやって終了でした。
次回からはついに二期に突入します。
伊奈帆の想い…それは届くのだろうかって感じですね。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!

ー追記ー

名前を少々変更しました。
受験も無事終わりを告げたので週一で投稿できると思われます。


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第二期 《第2章 鉄面秀逸兵 編》
第三十九星 暁の騎士 帰還 前編 ーOrange of Knightー


 

ーヴァース帝国姫君失踪により地球とヴァース帝国は正式に戦争を開始…その最中、ザーツバルム卿は地球連合本部強襲を開始、本部は甚大な被害を受けたがそれを撃退…ザーツバルム卿はその際、揚陸城を失ったものの地球連合に捕らわれていたアセイラム姫を救出、一躍ヴァース帝国の英雄となった…ヴァース帝国のそんな“公式見解”と共に真実は闇へと葬られたー

 

ーその際に活躍した少年少女達の戦いはひとまずの終わりを告げた…しかし、戦いはそれを許さずその渦へと彼らを引きずり込む……あの忌まわしい事件から十九ヶ月と言う時が経とうとしていたー

 

 

ーーーー

サテライトベルト

 

16年前に起きた月の崩壊により発生した岩隗宙域はサテライトベルトと呼ばれその予測不能な(デブリ)の動きは危険で一種の危険地帯とされていた。

しかし障害物の多いこの宙域は戦闘における襲撃に置いて圧倒的な優位性を持っていた。

 

「アンダルシアリーダーより各機へ…目標はあくまでも敵輸送船だ……カタフラクトが出てきても相手をするな…目標襲撃後、カウフマン(シックス)をアンカーにワイヤースティングバイを行い、トライデント基地に帰投する……各機の健闘を祈る」

 

「「「了解」」」

 

デブリを目眩ましとして航行中の輸送艦に近づく四つの影…それは地球連合軍が今だ主戦力として使用しているアレイオンだ。

最近ではグラニ等と言う新型も配備されているが宇宙における高級量産機は末端の兵士まで届いていないのが現状だ。

 

『いました!目標発見!!』

 

「全機!攻撃開始!!」

 

小隊長の命令と共にアレイオンの無反動砲が火を噴きヴァース帝国の輸送船にめがけて飛ぶが弾は生き物のように動き回り当たらない。

 

(偏向重力)が強い…弾が流される」

 

攻撃を受けた輸送艦隊は機銃で迎撃を始めるがその弾も偏向重力の影響であらぬ方向へと飛んでいく。

 

「怯むな!向こうも条件は同じだ!接近するまでに当てろ!!」

 

小隊長は部下を激励しながら機体を加速させ無反動砲を撃ち続けるのだった。

 

ーーーー

 

「高比重衛生多数、この距離では当たりません!」

 

「弾幕を絶やすな!撃ち続けろ!」

 

一方、ヴァース帝国の輸送艦内でも弱気になる部下を艦長が怒鳴り散らす…しかし機動力のあるカタフラクトと鈍足な輸送艦、戦い続ければ不利なのは艦長も分かっていた。

 

「どうしたのもか…」

 

「六時の方向より高熱源体接近!!」

 

「敵か!?」

 

「いえ…これは……」

 

言葉が続かない部下に眉をひそめつつ前方に映るモニターを見ると後ろから追い抜かすように敵に向かう白い機体。

 

「あれは…タルシス……」

 

『下がっていてください…ここは僕が……』

 

その救いの手を伸ばしてくれた人物に艦長は心からの尊敬と感謝と共にその人物の名を口にする。

 

「サー スレイン・トロイヤード」

 

ーーーー

 

その時、襲撃部隊は小さな混乱が起きていた、あっと言う間に一機が墜とされ敵が高速で接近しているのだから。

 

「この距離で当ててくるだと……」

 

『まさか…マリネロスの悪夢……』

 

「バカな……」

 

1年前の悲劇を思い出し小隊長は冷や汗を掻くがすぐに否定する。

 

「奴の機体は赤色だ、奴は白、先程のはまぐれに違いない!接近さえすれば我々に勝機が…」

 

『うわぁ!』

 

『アンダルシア33!!クソッ!!』

 

「アンダルシア11!駄目だ陣形を…」

 

『あぁぁぁ!!』

 

「ッ!!」

 

残りは自分だけになってしまった小隊長は叫びながら撃ち続けるが敵機は当たる気配すらない。

 

「当たらない…ここまで接近してなぜ……」

 

恐怖を通り越し唖然とする小隊長の目に映ったのは敵機の機銃だった。

 

「そんな…バカな……」

 

理解できない、そんな表情を最後に小隊長はこの宇宙に命を散らしたのだった。

 

堕ちていく機体を見てタルシスはまるで黙祷を捧げるように止まる。

そして捧げる、今だ目覚めぬ主に向けて

 

「我が君、アセイラム姫のご加護の下に…スレイン・トロイヤード、参上いたしました」

 

その姿は人殺しを躊躇っていた幼い少年は居らず、ただ無慈悲な白い死神が立っているだけであった。

 

ーーーー

 

「地球は幼い頃からの憧れでした…青い海、青い空…水と空気の恩恵を受けたくさんの豊かな資源に恵まれた世界」

 

ヴァース帝国地球圏における最大の基地、月面基地の謁見の間では車椅子に身を預け静かに語るアセイラム姫の姿があった。

 

「私はその地球で一度、命を失いました…そして真実を悟りました…豊かな大地で無思慮に生きる地球人の如何に傍若無人なことか資源を貪り自然を破壊し興に浸る愚かな民族」

 

その後ろ、姫を守るために立っている一人の少女、フィア・エルスートは主である姫の言葉に僅かながら不快感を覚えていた。

言葉にできない物を抱え続けてもう一年近くが過ぎ去っていた、頭に浮かぶ謎の人影、少年のような陰はそこから一行に晴れること無くその存在を強く主張していた。

考え込む自分に気づいたフィアは邪念を振り払い前を見る…自身の感情など関係ない…姫様を守るそれが私の全てだから…。

 

「彼らに大切な地球を自由にさせてはいけません…私、ヴァース帝国第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシアはその儀に服し偉大なる務めに殉じる、軌道騎士の諸侯らを称え賞賛します」

 

ーーーー

 

「ふぅ…」

 

「お疲れ様です…姫様……」

 

「ありがとう、フィア」

 

演説を終えた姫様に水を渡したフィアにレムリナは感謝を述べるとそれを飲む。

 

「ところでスレインは今、何処に?」

 

「現在はこちらに向かっている輸送艦の護衛かと」

 

「そう…お姉様の所ではないのですか?」

 

「いえ、現在は作戦行動中です」

 

「そう…あなたの言葉を信じましょう……エデルリッゾ行きましょ」

 

「あ!はい!!」

 

言葉が詰まってしまうフィアを横目にエデルリッゾと共に去って行ったレムリナを見ていた親衛隊はフィアの周りに集まる。

 

「相変わらず、捻くれてますね」

 

「ネール」

 

「だってそうだろ…なぁシルエ」

 

「………まぁ…」

 

「しゃべった……のか……」

 

「………」

 

ネールの言葉にジュリは咎めるように睨み付けるが当の本人も同感なようで言い方が心なしか弱かった。

 

「でも…分かる気がするんです……私達も似たような生活だったので……」

 

「そうだな、彼女も彼女でヴァースという物を見てきている…だから自分にも周りにも期待しなくなったのかもな」

 

ケルラの言葉にフィアは頷くと静かにその頭を撫でる、その横でリアがおもしろくなさそうにむくれていたのはご愛嬌である。

 

「そう言えば…隊長演説の途中になにか我々がしたでしょうか?」

 

「なに?どう言う事だリア?」

 

「いえ…少々、不機嫌そうだったので」

 

自信なさげに言うリアを見てフィアは内心驚く、表情には一切出していなかった自信はある…だからこそリアの言葉に驚嘆したのだ。

 

「あぁ、何となくな…地球を罵られると…私にもよく分からないのだが……」

 

そう言うとフィアは腰のホルスターに収めている黒い拳銃を優しく撫でる。

その行動が無意識的な物なのは見ていたリアにも分かった。

 

「隊長……」

 

ほんの少し弱気のフィアを見てリアは心配になるが自身には何も出来ないことが分かり黙り込んでしまうのだった。

 

ーーーー

その頃、地球のとある海上基地付近のビーチでは水着姿の3人の少女がいた。

 

「そんな海賊放送なんか見てどうしたの?」

 

「やっぱり気になって…」

 

ニーナはノイズが入り動かなくなった端末を持ちながら答えると諦めたのか端末を横のテーブルに置く。

 

「お姫様、どうしちゃったんだろう…地球の味方だと思ってたのに……」

 

「平和的解決に絶望したのかも…戦うなら火星に着くのは当然…火星人だもの……」

 

ニーナの言葉にライエは静かに答えると表情に若干だが影が入る…それはある意味当然なのかもしれない、彼女自身は火星人でありながら地球についているのだから。

 

「うん…ねぇ……韻子……韻子?」

 

「え?うぅん、何でも無い……ゆっくり出来るのもこれで最後かなって…」

 

「うん…明日には乗艦、明後日には打ち上げだもんね…」

 

そう言うとニーナは海上基地の一角を見つめるそこには完全に修復された母艦“デューカリオン“の姿があった。

そんなニーナをよそに置いて韻子はとある少年の姿を思い浮かべる。

 

「ふ~ん、どうせアイツの事でしょ」

 

「え!?ち、違うよう!」

 

「え~、そうなの~韻子ったら可愛い!!」

 

「ちょっと!!」

 

ライエの言葉に対し明らかに動揺した韻子を見たニーナは抱きつきはしゃぐ、そんな様子を見てライエも思わず笑みをこぼすのだった。

 

ーーーー

デューカリオンカタフラクトハンガー

 

そこでは明後日の出撃の為に機材が大量に送り込まれていた。

 

「もたもたするんじゃねーよ、お前ら教練受けてるのかよ!!」

 

「は、はい!」

 

デューカリオンのこれからの主な任務は本隊の影響のない所で揺さぶる…つまり捨て駒である、そんな艦にベテランが来るはずが無くデューカリオンに居た経験のあるカームが整備の長に収まったのだ。

 

「ったく…」

 

整備班の鈍間さにため息をつきつつ端末に目を通す…その中にはこの艦にはいないスレイプニールの予備パーツ一覧が表示されていた。

それを見るとクラスメイトだった少年の姿を思い出す。

 

「まぁ…スレイプニールを使うのはアイツぐらいしか……」

 

何となく呟いた言葉を止めカームは一人の少女を思い出す。

 

(そう言えば…アイツも使ってたな……)

 

「あぁ、止めだ止めだ……ったく…情けねぇな、韻子に言っといて…俺も引きずってるじゃねえか……」

 

あの時もこの格納庫でフィアがアレイオンに乗っていくのをただ見送るしか出来なかった自身はどれだけ無力に感じたか…。

 

「まぁ、やれる事をやるだけだよな…」

 

そう呟いたカームは自分で顔を叩くと頼りない部下に指示を飛ばすのだった。

 

ーーーー

 

『私はその地球で……命を失……した…そして真………りました…豊か………で無思慮に生き……人の如何……若無人なことか資……貪り……然を破……興…る愚……民族』

 

ノイズを交えながら繰り返し演説を流すラジオを聴きながら大型のトレーラーを運転する伊奈帆は僅かだが悲しそうに目を細めた。

 

「明後日には宇宙に上がる…フィア……必ず会いに行くから……」

 

伊奈帆は確信を持っていた。セラムさんとフィアに何かが起こっている事を……だからこそハンドルを強く握りしめる。

そんな彼の腰にはフィアから託された銀色の拳銃がしっかりと収められていた。

 

ーーーー

 

ガシン……ガシン…

 

それぞれの想いが交錯する中、戦いは彼らを決して待ってくれない…。

全てを凍てつかせる絶対零度のカタフラクトが韻子たちデューカリオンに迫っているのが分かるのはほんの少し先の話。

 

 

 

 




どうも砂岩改め、砂岩改でございます。
ついに二期に突入しました!ここまで来れたのは皆様が温かい目で見てくれたおかげだと思っております。
さて!次回は氷結のエリシウム戦をメインで月面基地を少々ですね。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第四十星 暁の騎士 ー帰還ー 後編 ーOrange of Knightー

 

 

月面基地カタフラクトハンガー

 

そこに置かれている機体、レギルスの調整をザーツバルムの騎士、マリーン・クウェルが行っていた。

マリーンは頭にヘッドマウントディスプレイをつけてビームビットの調整を行い整備班に指示を飛ばす。

 

「キツくありませんか?」

 

「まぁまぁだな…そっちはどうだ?」

 

「脳波には目立った乱れはありません…しかし常人の設定を大きく上回っていますので」

 

「私を常識の範疇にいれるな、それだけの訓練もしている」

 

「す、すいませんでした…クウェル卿」

 

「まぁ、いいが……ザーツバルム卿の元へ行く…調整は頼むぞ」

 

「り、了解です!!」

 

落ち込む整備員を見て言い過ぎたと悟ったマリーンは目をそらしながら機体を後にする。

 

「ハァ……」

 

やってしまった…っとマリーンは自身の行いを悔やんだ、彼女がイライラしているのには理由があった。

それはほんの少し前、いつも通りザーツバルムとお茶をしていた時に彼が発した言葉が原因だった。

 

《マリーン…》

 

《どうされたのですか?》

 

《我もこれからは戦地に赴く事が多くなるやもしれん…その時、我にもしもの事があれば…》

 

《お止めください!!》

 

《聞け…その時はスレインを立ててやってくれ…》

 

《スレインを……》

 

《あやつは我を恨んでおるが、目的は同じ困窮する者達の救済だ…その時は……》

 

《…分かりました……しかしこの話題は今後一切行わないでください》

 

《すまぬな……》

 

ーー

 

思い出すだけで言いようのない不安が焦燥感を掻き立てる。

 

「この胸騒ぎ…ザーツバルム卿も感じておられるというのか……」

 

寂しげに呟いたマリーンは俯き自身の世界に入って行こうとした時、視線の端から人影が出てくるのが見えた。

 

「ッ!」

 

咄嗟のことで反応できなかったマリーンはその人影とぶつかるが大きな衝撃は来なかった。

不思議に思っていたマリーンだったが声を聞いたとたんそんな疑問はすぐに解消された。

 

「おぉ、マリーンか…」

 

「ざ、ザーツバルム卿…すいません、少し考え事を」

 

壁にぶつからないように抱きかかえられたマリーンは恥ずかしさと焦りで顔を真っ赤にして必死に謝る。

 

「ハハッ、まぁそう慌てるでない」

 

そんな姿を見たザーツバルムは微笑みながら頭をなでるとマリーンは大人しくなったのだった。

 

ーーーー

 

輸送艦隊の護衛を終えたスレインは横の通路から出てきたマリーンをなだめるザーツバルムを見ていると少しばかりの羨ましさと罪悪感に駆られていた。

 

「………」

 

「本当の家族のようですね、スレイン様」

 

「そうですね、ハークライトさん」

 

そんな様子のスレインを知ってか知らずかハークライトは耳に軽く口を近づけて話す。

その言葉に素直に返事を出せる自身にほんの少しばかり嫌悪した、いつか殺そうと思っている人物を大切に思っている人がいる。

 

「……」

 

心のどこかでは、この人を殺したくないと思っているのだろうか……。

そんな思いを抱きつつスレインは“今の”姫様、レムリナ姫の元へ向かうのだった。

 

ーーーー

地球、ヴァルト伯爵の揚陸城

 

「ヴァルト伯爵、ヤーコイム男爵は間もなく目標の索敵範囲に入ります」

 

「うむ、スカイキャリアは?」

 

「高高度から敵の艦を補足、主モニターに出します」

 

揚陸城の司令室のモニターに映ったのは一枚の静止画、そこにはハッキリとデューカリオンの姿が映っていた。

 

「監視を続行せよ…ザーツバルム君の予想通りだったな…」

 

紅い伯爵の服を纏った初老の男性は満足そうに顎を触る。

ヴァルト伯爵の揚陸城は機能している揚陸城の中で地球連合本部に最も近い位置にある。

あの戦いの後、スレインがザーツバルム達を連れてやって来たのが彼の揚陸城だった。

 

彼はアセイラム派筆頭の男であり穏健派の筆頭でもある、彼は極力、地球に被害を与えずに静観を決め込んでいたが今回初めて連合国軍迎撃以外でカタフラクトを出した。

 

「彼の健闘を祈ろう…」

 

ヤーコイム男爵の目的は敵のアルドノア搭載艦への威力偵察が主な任務だが可能であれば敵艦の撃破、制圧が上級目的だったりする。

 

その主、ヴァルト伯爵は揚陸城で臣下の無事を静かに祈るのだった。

 

ーーーー

その時、デューカリオン艦内ではライエ、韻子、ニーナが廊下を歩いていた。

 

「生きて…帰れるといいね……」

 

「死ぬわけないでしょ…」

 

ライエの言葉に若干落ち込み気味だった韻子とニーナは俯けていた顔を上げてライエの顔を見る。

 

「火星人に勝つ、勝って地球に平和を取り戻す…絶対に……死んでる暇なんてないわ……」

 

淡々と話すライエだがその言葉には二人に向けての励ましの色が強く含まれていた。

そんなライエの言葉に韻子とニーナの表情は随分と明るくなっていた。

 

ビィィィィィ!!ビィィィィィ!!

 

突然鳴り響く警告音、その音に全員が顔を見上げ近くのモニターを見る、そこにはWARNINGという緊急事態を告げる文字が刻まれていたのだった。

 

ーーーー

 

「敵襲!火星のカタフラクトっす!!」

 

「南南西20㎞に機影確認、時速50㎞で接近中!!」

 

通信士である祭陽希咲が艦内と基地に向けて通信を発すると同時に同じブリッジにいるマグバレッジに報告、レーダー手である詰城祐太郎が敵位置の詳細な内容を伝える。

 

「全艦戦闘態勢、ドックを離れます!」

 

「重力デバイスのメンテ中ですよ!」

 

「構いません」

 

「遅れてすいませ~ん」

 

緊迫した空気のブリッジに遅れて入ってきたのはデューカリオン操舵手のニーナだった。

だがその格好に副長である不見咲副長は声を上げる。

 

「ちょっと待て!支給された制服はどうした?」

 

「だって可愛くないし…」

 

「かわッ!?」

 

軍の制服を可愛くないと言う理由で着ないニーナに不見咲は言葉を失い振り向いた。ニーナの後ろに座っていた帰還士の筧至剛も口を開けて驚いていた。

 

「操船に異常がなければ許可しましょう…」

 

「艦長!」

 

「不見咲くん…君がモテない理由を教えましょうか?」

 

「若さでしょうか…」

 

「………」

 

不見咲のまさかの答えにマグバレッジは黙り込み周囲にどうしようもないほどの気まずさが生まれた。

 

(((気まずい……)))

 

その空気を察した筧、祭陽、詰城は戦闘とは違う意味で汗を掻くこととなった。

 

ーーーー

そんな時、韻子とライエはデューカリオンのハンガーから揚陸艇に乗り込み進行している敵に向かっていた。

 

「敵の情報は!?」

 

「これだわ、ヤーコイム男爵のカタフラクト…氷結のエリシウム……」

 

制圧されたザーツバルム卿の揚陸城から得られた火星側のデータは大変貴重な物だった。敵機やパイロットの名前、特性など多くの物が得られたのだ。

補足で言うと宇宙での高級量産機グラニの開発は大破したゼダスの解析データの恩恵を受けている。

 

「武器は…エントロピーリデューサー……って何?」

 

「半径1㎞のフィールドに入った物質の分子運動を奪うの……空気が変化するどころか…凍りつく程の超低温よ……」

 

「厄介な敵ね……」

 

草木どころか風力発電のための施設まで凍り付き倒壊している、凍ることによって強度が下がるのは目に見えていた。

 

「今の速度だと後15分でデューカリオンのドックに到達するわ」

 

「何とか足止めしないと」

 

「足止め?冗談…倒すに決まってるでしょ」

 

韻子の言葉にライエは淡々と当然のように言い放つとアレイオンを揚陸艇から降ろすのだった。

 

「さぁ、地球人よ…アルドノアの力にどう抗ってみせる?」

 

エリシウムのパイロット、ヤーコイムは不遜な態度ながら敵がどう動くか興味深そうにしていた。

 

『こちら、ハービィンジャー小隊、目標を確認……寒冷地モードで行く…タービン出力最大…除氷装置オン……攻撃開始』

 

通信と共にハービィンジャー小隊は典型的な陣形でゆっくりと前進し攻撃を開始する、そして凍りつく草木を踏みしめ、更に敵へ進もうとする。

上手くいったと思った刹那、アレイオンの足が氷に覆われ関節が凍り付く。

 

『なんだ?動かない…除氷装置が効かない……』

 

ある意味当然の結果であろう、エリシウムの能力は分子運動を奪い空気すら凍りつかせる物だ気温が下がっているのとは訳が違う。

 

『電圧低下?バッテリーの化学反応が止まったのか!?』

 

凍てつく寒さは機体内部すら浸食し中に居る人間すら凍らせる。

 

『て、手が!うわぁぁぁ!!』

 

自身が凍るのをただ叫び見ることしか出来ないパイロットはその恐怖ごと凍り付いてしまった。

 

「ハービィンジャーリーダー!!」

 

韻子の叫びも虚しく倒れたアレイオンはエリシウムにいとも簡単に踏みつぶされた。

 

「手も足も出まい、氷結のエリシウムの名は伊達ではないわ……」

 

エリシウムは何事もなかったかのように進行を進める、それを阻止しようと韻子とライエはライフルで撃つが弾が逸れ当たらない。

 

「弾が当たらない?何で!?」

 

「シールド…そんな筈は……ッ!」

 

エリシウムの撃破に気を取られていた時、コックピット内で機体温度の急激な下降に対して警告音が鳴るとライエと韻子は大きく後退する。

よく見るとつま先辺りが完全に凍り付いてしまっていた。

 

「危なっ!!」

 

「マズいわ…足止めする方法を考えないと…」

 

「やっつけるって話は!?」

 

「下方修正!!」

 

「たくっ……」

 

韻子は強気だったライエに一言いってやりたかったがこの様な状況だと自身も何も言えない。

二年近く前に戦った次元バリア並みの能力に二人は対処が出来なくなっていた。

 

「くっ……」

 

二人が海辺まで追いつめられライエがエリシウムを睨み付けた瞬間、横合いから一発の銃弾がエリシウムの眼前を通り抜けた。

突然の出来事にエリシウムは歩みを止め横に体を向けるのだった。

 

ーーーー

 

「あれは…」

 

突然の攻撃にヤーコイムが見たのはオレンジ色の機体、その特徴的な色は知っている。

地球との戦いが始まった時、破竹の勢いで火星騎士を倒し、挙げ句の果てに英雄であるザーツバルム卿に重症を追わせた機体…。

 

「ふっ……」

 

その姿を見たとたん笑いが溢れる…この様な者と戦いたかった…さぁどう来る?正々堂々と迎え撃ってやる。

 

「面白い…来るがよい……」

 

ヤーコイムはエリシウムを堂々と立たせオレンジ色に向き合うのだった。

 

ーーーー

 

「奴自身は…何故凍らない?」

 

AP弾とHE弾を撃ち分け敵の能力を計算する。モニターをサーモグラフィーに切り替え更に根を詰める。

 

「エントロピーリデューサーのフィールドは半径30メートルから始まっている…奪った熱は何処へ?分子運動のエネルギーを次元の裏側に隠している?」

 

自問自答を繰り返し計算し一つの答えを導き出す。

 

「弾頭の電子時限信管が作動するの飛距離は50メートルと言う所か…奴のフィールド半径は1㎞……つまり…20発あれば行ける」

 

スレイプニールの腰にマシンガンを両手にはグレネードランチャーを持たせる。

 

『伊奈帆!?』

 

「敵に突っ込む」

 

『凍っちゃうわよ!』

 

「凍る前にたどり着けばいい…」

 

なんとなく懐かしい韻子の声に安心感を感じながら伊奈帆はスレイプニールをフィールドに突っ込ませる。

 

(3…2…1……今だ…)「ファイヤー」

 

機体が凍り付き始めたのを見計らってグレネードを発射、時限信管により空中で爆発したグレネードは高熱の爆炎を産み出す、その高熱の爆炎にスレイプニールをあえて突っ込ませる事により機体温度を上げ凍り付くのを阻止する。

荒っぽいやり方だが即席で突破するならこれ以上ない方法であった。

 

瞬く間にエリシウムの眼前に姿を現した伊奈帆はグレネードランチャーを捨て腰にマウントしていたマシンガンを向ける。

 

「ふっ…おみごと……」

 

眼前にある銃口を見たヤーコイムは静かに笑い賞賛の声を上げた。その表情に悔いや後悔はなくただ穏やかだった。

 

(この様な者が最後の相手に…ある意味贅沢なのかもしれんな……)

 

ヤーコイムの意思を知ってか知らずか伊奈帆はその直後、マシンガンの引き金を引いたのだった。

 

ーーーー

 

エリシウムのアルドノアドライブ停止と共に巨大な爆発が起こる。次元の裏側に隠されていた熱が戻り凍っていた空気が一気に気化したからだ。

 

「伊奈帆!」

 

巨大な爆炎に驚いた韻子が叫ぶがその中心部にはスレイプニールの堂々とした姿があった。

 

「想定以上のダメージだ…カームに怒られるかな……」

 

そんな韻子の心配はよそに伊奈帆は壊れた機体の心配をするのだった。

 

ーーーー

 

夕焼けが美しく草原を照らす中、伊奈帆はスレイプニールから降り韻子たちと久しぶりに顔を会わせた。

 

「大丈夫!?伊奈帆?」

 

「界塚伊奈帆少尉、到着いたしました…総司令部の命令により貴艦に着任します」

 

二人を前にして敬礼、挨拶をすませた後に伊奈帆は笑いかける。

 

「もう…なにそれ……変わらないね…伊奈帆は」

 

「韻子こそ、元気そうで良かった…」

 

「変わったわね、随分」

 

放った言葉に疑問の表情を浮かべた伊奈帆を見てライエは少しだけ笑いながら言葉の続きを言う。

 

「人を気遣うような事、言えるようになったんだ」

 

「それ、褒めてないよね……」

 

「ふっ…褒めてるわよ」

 

そう言って笑みを向けられた伊奈帆は今だ疑問の表情を浮かべていたが抱きついてきた韻子に驚き見る。

 

「お帰り…お帰り伊奈帆……」

 

「ただいま…韻子」

 

泣きじゃくる韻子を宥めるように頭を撫でる伊奈帆を見てライエは面白そうな物を見る目で見ていたのだった。

 

しかし、韻子が抱えていた不安と孤独は予想を遥かに上回っていたのだろう…あの決戦の後から。

 

ーーーー

19ヶ月前

 

暗くなったデューカリオンのブリッジにユキと伊奈帆を運び込んだとき……。

 

「頭部に銃創、弾丸は左目から側頭部を貫通!意識不明!応急処置としてアドレナリン3ミリを投与!!」

 

「これは酷い…」

 

耶賀来の言葉に思わず悲鳴を上げそうになる韻子だが無理やり呑み込む。

 

「今すぐ外科的治療も必要ですもちろん輸血も!」

 

「道具や設備なら地下シェルターに揃っています!マグバレッジ艦長!デューカリオンの発進命令を!」

 

悲鳴に近い声を上げるユキだがマグバレッジは申し訳なさそうに目の前にある球体の装置を見る。

 

「アルドノアドライブ…停止しちゃってる……」

 

アルドノアドライブが停止する理由はただ一つ、起動した人物の心臓が止まった時だ。

そしてアルドノアドライブを再起動したのは…。

 

「ッ!フィア!!」

 

「界塚准尉…フィアは……姫殿下は何処に?」

 

あぁ…失ってしまう……大切な人をかけがえのない友人をそんな事が頭を過ぎり韻子はただ大声で泣くしかなかった。

 

ーーーー

 

だが今は違う。伊奈帆にも会え、フィアも生存している事が分かっている。

デューカリオンが大気圏を突破する振動に揺られながら韻子の表情はしっかりと引き締まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも砂岩改でございます!
しゅ、主人公がでねぇぇぇぇ!!
スレインの帰還とザーツバルム&レムリナの場面は泣く泣くカット。(カットしたらフィアが居なくなった)
特に変更点は考えて無かったので…その代わりマリーンのシーンとヤーコイム男爵の心情的な物をやっときました。
ヤーコイム男爵は火星騎士の中で4番目に好きですからね頑張りました(一番はセルナキス伯爵)
最後の方は韻子視点を中心に盛り込んでみました、韻子は絶対に寂しかった(確信)
13話最後の方は次回にやりますので(流石にそこはカット出来ない)
補足で説明するとヴァルト伯爵はアセイラム姫の事は知ってますが地球人にやられたと勘違いしてます。
でもまだ穏健派なのはアセイラムの意思を尊重する為に現状維持してるだけ。(レムリナの事も知っている)

では最後まで読んで頂きありがとうございました!ではまた次回に!!



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第四十一星 軍事要塞トライデント ーtoraidento fortー



ー地球連合軍の宇宙要塞ー

宇宙における高級量産機《グラニ》の開発により武器のバリエーションが増えている。基本は使い勝手の良い無反動砲だが拠点防衛にあたっては機体をデブリに固定し高い威力の兵器を使用することで防衛戦の強化が図られている。
これはマリネロスにおけるシナンジュ戦で基地にカタクラフトを近づけたら終わりと言う考えが広く広まり上層部も真剣に捉えたためにこう言う事になった。
カタクラフトを砲台化することは賛否両論分かれたが自由に展開出来る、自身で身を守れるのと状況によって戦線に復帰出来ると言う点で砲台を増設するより遙かに現実的だと現場からは意外にも指示された。



 

 

 

 

 

『愚かにもヴァース帝国の恩情を反故にした地球人は。依然、我らから領地を奪おうとしています』

 

デューカリオン艦内、伊奈帆は多くの人が集まるブリーフィングルームでアセイラムの演説を聴いていた。

 

『"光が屈折し海と空が青く見える"ほどの沢山の水と空気を持つ豊かな星を』

 

モニターに映る姫の後ろにはヴァース帝国の紋章が在るだけで伊奈帆が心配していた人物の姿は確認できなかった。

 

『それこそが我々ヴァースの切願であり天命なのです…』

 

「姫様達と戦争…伊奈帆?」

 

「違う…空が青いのはレイリー散乱だ……」

 

隣に居た韻子の声も届かず、伊奈帆はただ独り言のように呟くだけだった。

 

ーーーー

 

月面基地、謁見の間では演説を終えたアセイラムは責任者であるザーツバルム卿と話していた。

 

「いかがです?ザーツバルム伯爵…」

 

「まさにアセイラム姫の生き写し、誰も正体を疑いなどしますまい」

 

「…これだから殿方は……」

 

ザーツバルムの言葉にレムリナは不機嫌な顔をするとホログラムを解除し元の姿に戻る。

 

「誰も正体の話などしていませんわ」

 

姿を現したレムリナはいまだに不機嫌そうで声のトーンも一つ下がっていた。

そんな様子を見ていたスレインはザーツバルムの横に立ち話す。

 

「とてもお上手でした…レムリナ姫、堂々としたお言葉、軌道騎士達も感銘を受けたことでしょう」

 

「ありがとう、サー・スレイン・トロイヤード…演説を褒められた事よりもその気遣いの方に感謝いたします」

 

「恐悦至極に存じます」

 

スレインの言葉にレムリナは喜び、嬉しそうにする…その様子で大方の者は察するだろう。彼女が彼に対する好意を…。

 

「それにしてもエデルリッゾはまだでしょうか?……ケルラ」

 

「ハッ!」

 

「エデルリッゾを迎えるついでに部屋に戻りましょう……」

 

「了解しました」

 

アセイラム親衛隊の最年少、ケルラはレムリナの言葉に従い車椅子の取っ手を持ち謁見の間から退出する。

その際、ザーツバルムとスレインへの礼を忘れずに。

 

「ではザーツバルム卿、私も……」

 

「うむ、ご苦労だった…ゆっくり休め……」

 

「はい……」

 

それを見送ったスレインもザーツバルムの前から去りそれに続くように下部であるハークライトもその場から去るのだった。

 

ーーーー

 

「では、スレイン様…私はここまでで……」

 

「ありがとうございます、ハークライトさん……」

 

とある部屋の前で下がったハークライトを見送ったスレインは部屋の扉を開ける。

 

「フィアさん…いらしたのですか?」

 

「あぁ……」

 

暗い部屋の中、中央のアイソレーションタンクだけが照らされている。

その前には長い銀色の髪を持った少女がいた、フィアは静かに答えると軽くスレインを見る。

 

「…………準備は良いのですか?」

 

「機体は万全だ…後のことはジュリがやってくれる」

 

眠るアセイラム姫に礼をするとフィアに話しかける。

二人が話しているのはマリネロス基地の防衛戦の事だった。

ザーツバルムを始め、多くの戦力を投入する今作戦は当然、親衛隊も含まれていた。

 

「宇宙における大規模攻防戦…この時点で地球連合はこの月面基地を狙えるわけだ…」

 

「全ては軌道騎士の怠慢…いえ……傲慢の方が正しいでしょうか…」

 

「量産機だってステイギスではなくベルガの簡易型にすれば良かったんだ…」

 

フィアは少しだけため息をつく、親衛隊の使っているベルガ・ギロスは元々、量産機を作るために作られたプロトタイプの装甲と部品を高級化することで製造された機体だ。

まぁ、親衛隊の戦闘目的はあくまで姫を守ること…主に内乱やクーデターが発生したときの楯だ…そんな機体をたとえ簡易型であろうが一般の兵に与えるのは嫌だと言う考えも分からなくは無いが。

 

「ステイギスは良い機体だと思いますよ…あのデブリ群は人型では少々厳しいかもしれませんし…」

 

フィアの意見にスレインは少しばかり笑いながら答える。

穏やかな空気、そんな中で二人は目を合わせない…否、合わせられない…何故なら目の前に主君が眠っているのだから。

フィアが目を覚まして一年、肝心のアセイラムは目を覚ます気配すら無い。

暗い感情が過ぎっても仕方が無いが二人は敢えてそれを口にしない。

 

「まぁ…とにかく…今は変なことで死なないことだな…」

 

「はい…」

 

「明日は前哨戦だ…休んでおけよ……では、失礼いたします……」

 

「はい…フィアさんこそ」

 

「フッ……」

 

そう言ってフィアはアセイラムに挨拶をすると部屋から去っていったのだった。

 

ーーーー

翌日

 

カタフラクトハンガーでは各機体の最終調整が行われていた。

 

「シールドにバズーカ砲が付いてるから重量が普通より左に向いてるからね~」

 

「弾種は?」

 

「散弾で信管は3秒、後は撤退用の閃光弾だね…カートリッジ着脱式だから自由に切り替えできるし」

 

「バズーカ砲をロングライフル下部につけるのは分かったがオートか?」

 

「一応オートだけど…」

 

「駄目だ、マニュアルにしてくれオートは遅い」

 

「分かったよ、10秒待って」

 

《ベルガ・ギロス二号機、三号機発進します、周辺の作業班は退避!!》

 

親衛隊員のネールとジュリの機体が動き出すと同時に周辺の人々は散開するが、シナンジュ含め様々な機体が最終調整と点検を行っているものだからグチャグチャである。

 

「調整を兼ねた航路の安全確保さ…」

 

フェインは横目でベルガを見送りながら言うと作業を続ける。その間にフィアは持っていた時計を見ると立ち上がりコックピットから出る。

 

「フィア?」

 

「時間だ…レムリナ姫がステイギスを起動なさるからな、ケルラ!」

 

「は、はいぃ!ただいま!!」

 

ワタワタとフィアの後ろについていくケルラに苦笑しながらもフェインは作業を続ける。

 

「惑星間戦争始まって以来の大規模攻防戦かぁ~」

 

そんな呟きはハンガーに響く音に紛れ誰にも聞かれずに消えてゆくのだった。

 

ーーーー

 

「姫様!?」

 

「あれ!?」

 

ステイギスの格納されているハンガー。そこに辿り着いたフィアとケルラは笑いながら格納庫を跳ねるレムリナを見て慌てた。

 

「あら?どうしたのフィア?」

 

「レムリナ姫!危ないですよ!!」

 

「良いじゃない、こうやって歩けるのは重力が操作されてない格納庫ぐらいですもの」

 

慌てるフィアが面白かったのか余計にピョンピョン跳ねるレムリナを見てスレインは思わず吹き出してしまい肩をプルプルさせるのだった。

 

ーーーー

 

思う存分ピョンピョンしたレムリナは蜂の巣の様な場所に格納されているステイギスに乗り込みアルドノアドライブに手を添える。

 

「ヴァースの血を引く者の名に置いて…目覚めよアルドノア」

 

その瞬間、中央に居たステイギスのカメラが光るとそれが伝染するように壁一面に広がるステイギスのカメラが光るのだった。

 

「凄い……」

 

そんな光景にケルラが驚いていると隣にいたフィアは複雑な表情をする。その理由は本人の知らぬまま…来るべき作戦へ向けて動き始めるのだった。

 

ーーーー

 

地球連合軍軌道要塞《トライデント基地》

 

その基地の12番埠頭に巨大戦艦《デューカリオン》がゆっくりと相対速度を合わせ停泊するのだった。

 

「うわ、スゲー戦力」

 

「招集できるあらゆる部隊が集められましたからね」

 

ブリッジから見える光景を目の当たりにした祭陽は驚く、横から補足を加えている祐太郎もその光景に少々圧倒されていた。

 

岩壁にある複数のシャトルに、警戒に当たるアレイオンとグラニは見えるだけでも優に10機は超えている。

 

「あれ?あんな装備見たことないなぁ」

 

「無反動バズーカですね、火力支援を目的とした兵器です…グラニが開発されたおかげで武装のバリエーションも豊富になってきていますから」

 

「へぇ~」

 

1機、1機をよく見ると確かに手持ちの武器が無反動砲ではないものがチラホラ見える。デブリに機体を固定してあるアレイオンはガトリング砲を持っているようだ。

 

「今回は戦いが始まって以来の大規模戦になるだろうからな」

 

そんな二人の話を聞いていた筧は外に広がる光景を見てそう話すのだった。

 

ーーーー

デューカリオン艦内、伊奈帆&カーム部屋

 

その中で伊奈帆は二段ベッドに座りながら膝に乗せたパソコンを操作していた。

 

「界塚少尉、いらっしゃいますか?」

 

そんな時、数度のノックの後、韻子の声が部屋に響いた。他人行儀な言葉だがお互いの軍人としての立場を鑑みれば妥当と言ったところだろう。

 

「開いてるよ…」

 

操作を一時中断した伊奈帆は静かに答え扉を見やる。プカプカと浮きながらやってきた韻子は器用に脚を床につける。

 

「調子はどう?伊奈帆…」

 

「まぁまぁ…少し痛むけど……」

 

「お薬は?」「飲むと楽になるけど神経接続の感度が悪くなるから……」

 

「そうなんだ…大変だね……」

 

心配そうに見つめる韻子を見て一瞬だけ自身の姉を思い出すがすぐに頭の隅に追いやる。パソコンの操作に戻ろうと視線を動かすと少しだけ驚いた。

韻子の顔がすぐそこまで来ていたからだ…もちろんそんな事で動揺もしないし恥ずかしくもない…驚いたとしても目の前に虫が突然通り過ぎたくらいの驚きだ。

 

ムニィ……

 

 

「!?」

 

「今、ものすごく失礼な事考えてたでしょ?」

 

ひあ…へふに……(いや…べつに……)

 

韻子に両頬を摘ままれ焦る伊奈帆は頑張って否定する。韻子はその言葉に納得はいかない顔をしつつも手を離し話を続ける。

 

「で?その眼はそんなに凄いものなの?」

 

「まぁね…開発中の試作機だからプログラムを改良しないといけないけど…はい」

 

そう言って伊奈帆は近くに置いてあったパックを韻子に放ると義眼であるアナリティカルエンジンを起動させる。

 

「サンキュー」

 

「体重48.3㎏…ほんの少し太った?」

 

「え、なんで分かるの!?」

 

「200グラムのパックを受け取った時の運動量変化を三次元計測で割り出して総質量を算出、そこから制服の質量の概算を引いた」

 

「う……」

 

伊奈帆の説明を聞きつつ韻子はあることを思い出していた。

アレはデューカリオンに乗り込む二ヶ月前だ…死ぬ気で伊奈帆とフィアのAIを倒した時、ライエ、ニーナ、カームとたまたま居た、祭陽、祐太郎とで盛大なディナーを食べた。

それだけで飽き足らず寝る前にニーナとお菓子三昧を繰り返すこと数日……過度な訓練で減り続けた体重は元に戻るどころかそれすら超えて増えていったのである。

 

「トレーニングで筋肉質になっただけ!!」

 

「それも嘘、声のホルマント分析に緊張が見られるよ」

 

軍人とは言え花も恥じらうお年頃、必死に言い訳を並べる韻子に伊奈帆は次々と一刀両断していく。

そんな時、伊奈帆は持っていたパソコンの画面を韻子に見せる。

 

「彼女の声にも緊張が見られるんだ…特にここ」

 

『私、アセイラム・ヴァース・アリューシアは』

 

「え!?もしそれが嘘だとしたら…」

 

「やっぱり…食べたんだ……」

 

「……」

 

「韻子?」

 

「もうあんたとは口きかない!!」

 

伊奈帆の気遣いの無さにとうとう堪忍袋が切れた韻子はズカズカと女の子らしくない歩き方で部屋を後にした。

そんな光景を見届けたライエが一言……

 

「分かったわ…あなた、本当はバカなのね……」

 

「嘘は…ついてないね……」

 

「………体重見ないでよ…」

 

「大丈夫、見ただけじゃ分からないから……」

 

「そう……」

 

(何でこんなに信頼がないんだろう…)

 

そんな的外れな事を思いながら伊奈帆は作業を再開するのだった。

 

 

 

 





フィア「おい、何か言うことはないか?」

すいませんでしたァァァァァァ!週1日にしたいとかほざきながら一ヶ月近く待たせてすいませんでしたァァァァァァ!!

伊奈帆「弁明は聞くよ」

大学って忙しいですね…

フィア/伊奈帆「「……」」

ごめんなさい!でもそうなんですよ!新入生ってやること一杯なんですよ!

伊奈帆「日曜日は?」

家でRGデスティニー作ってました!

フィア「…死ね」

ギャァァォォァォォォァ!!

ーフィアー

と言うことで汚物は消毒したのだが原稿を預かっている。日付は一ヶ月前のだがまぁいい。
ほうほう、本当は第一次トライデント基地防衛戦まで書きたかったらしいが書いていたら文字が凄いことになったので次に回します?…予定をしっかりとつけないからこうなる。まぁ原作と多少違う会話が入ってる所で勘弁して貰えたら助かる。他にも書いてあるがもう良いだろう。私個人としては我が親衛隊のメンバーをもっと登場させて貰いたいと思うが……まぁ期待せずに待っておこう。

では最後まで読んでくれて感謝する…ありがとう……あのバカがこんな調子だ次回はいつになるか分からんが気長に待ってくれると助かる。

ではまた会おう!




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第四十二星 引き金は軽く ーlight the triggerー

 

「周辺確認は完了っと…はぁ、早く帰ってシャワー浴びたいぜ…狭っ苦しいコックピットに長時間なんて拷問に等しいよなぁ」

 

「ネール、無駄口を叩くなと何度も言ってるだろ…隊長のお立場は余り良くないんだ」

 

「はぁ?何言ってんだジュリ…隊長より優秀な人がどこに居るんだ?」

 

月面基地周辺の安全確認と輸送艦の進行ルートの確認を終えた二人は親衛隊専用の回線を使って話しながら帰投していた。

 

「そう言う問題じゃない…姫様を一時とは言え危険な目に遭わせたんだ親衛隊長として大きな失点だ…今だに目を覚ましておられないと言う真実が知られていなかろうとな…」

 

「ふざけんな!あんな状況で穏便に済ませられる奴が居るって言うのかよ!!」

 

ジュリの言葉にネールは声を荒げて憤慨する。ネール自身もフィアを心から尊敬する者の一人だ。そんな事を聞けば怒るのも無理はないだろう。

 

「ネール、私たちを叩き潰したがってる奴らは多くいる…それを頭に置いておいた方がいい……マリネロスで何も起きなければいいんだけど……」

 

ジュリの呟きは狭いコックピットに虚しく響くだけだった。

 

ーーーー

月面基地司令室

 

「輸送艦の進行ルートの安全確認が終了しました、親衛隊が帰投します」

 

「輸送艦の最終チェック及び機体の点検を怠るなザーツバルム卿の留守はしっかりとするが輸送艦に何かあったのでは話にならん」

 

「了解」

 

本来、ザーツバルムが立っているであろう場所にその腹心であるマリーンの姿があったのだ。彼女は的確に指示を出しているが不機嫌そうな表情をしていた。

それもそのはず、マリーンはザーツバルムから月面基地の留守を預かったからである。本来なら姫様を護る親衛隊がその任務に就くべきなのだろうがそうはいかなかった。

 

「全く…騎士の誇りはないのか……」

 

元々親衛隊は高い階級の一部の騎士達からは敵対視されていたのだがフィアはそれを“結果”でねじ伏せてきた。

が、ジュリが指摘したとおり“あの事件“以降、一部の騎士達が調子に乗り始め親衛隊を使いっ走りにする傾向が見られ始めた。元々強い格差社会性を持っていたヴァースではそれは強く影響する。

親衛隊とは言え隊員は一般階級、それを拒否する術は持ち合わせていなかった。

 

「大した事もしてないのに調子に乗りやがって……」

 

みるみる機嫌が悪くなっていくマリーンを背後に回したオペレーターは生きた心地がしないのだった。

 

ーーーー

 

アセイラムが眠るアイソレーションタンクを前に立つ二つの人影、フィアとエデルリッゾのものだった。

 

「行かれるのですね…」

 

「あぁ…ここはマリーンが守ってくれる…大丈夫だろう」

 

「そうではな…」

 

「あれから、二年が経つ…」

 

相変わらず自分のことを考えない姿にカッと来たエデルリッゾは声を上げるがそれを遮るように話す。

 

「姫様を守れず、記憶を失い…親衛隊の皆にも迷惑をかけている…私は騎士失格だ……」

 

「フィア……」

 

1年前のマリネロス以降、記憶が安定しないフィアはたまにこう言う言葉を吐くようになった。

無意識なのは間違いないのだろうが本心である。それだけ彼女の精神が安定していないのは確かだった。

 

「それは違います!」

 

「スレイン?」

 

「スレインさま!?」

 

それを真っ向から否定したのは突然部屋に入ってきたスレインだった。

 

「貴方は僕の憧れです!初めてお会いしたとき思いました!なんて綺麗な人だろうと」

 

「キレ……」

 

「突然なにを!?」

 

いきなりの爆弾発言にフィアは顔を紅くし、エデルリッゾはびっくりする。

スレインは憧れていた、あの誇り高い背中に、揺るぎない信念に

 

「だからもっと堂々としてください!最近、萎れて…あの……その…すいません」

 

感情が爆発したのは良いものの言いたいことがよく分からずに自分が萎れてしまった。

そんな姿にフィアは笑いながら頭を撫でる。

 

「え…あの……」

 

「ありがとう」

 

静かに礼を述べるフィアの眼にスレインが一瞬だけ紅い瞳を持つ少年に見えた。

 

「アイツはこんなに素直じゃないからな……」

 

「え?」

 

「今、なんて?」

 

《ベルガ・ギロスの2番機と3番機の収容完了…補給が済み次第マリネロス島に出発します…各員は作業を続行…出撃準備をお願いします》

 

「さ、早く出撃準備だ!」

 

スレインとエデルリッゾの驚きは放送に掻き消されフィアは眠るアセイラムに礼をすると部屋を出る。

 

「あ…では…エデルリッゾさんもお気をつけて……」

 

「あ、はい」

 

スレインも遅れまいとフィアの後に続くがフッと後ろを見ると鳥肌が総立ちした。

スレインの視線の先、通路の角にある姿があったのだが

 

「スレイン殿、随分と楽しそうで……」《なに隊長とイチャついとんねん、ぶっ殺すドおんどりゃ》

 

今にも自身を殺しそうな目で睨みつける親衛隊副隊長ことリアがいたのだ。

 

「大変驚きました、あの様な発言…余計な誤解を生まなければいいのですが…」《綺麗?萎れて?ナニ言ってんだこの野郎、それ含めて隊長は可愛いだろうが…ナニ本人の前でぶちまけとんねん、てめぇの胃の中絞りとったろか!!》

 

噂ではフィアに近づく不届き者をパンツ一丁でロッカーやサンドバックにと突っ込んでたりと…フィアが綺麗なのに迫られない理由は彼女にあるという。

 

「不用意な発言は控えるよう」《次言ったら殺す……必ず殺す》

 

「は、はい……」

 

半泣き状態のスレインを見てリアは通路の角から頭を引っ込めるのだった。

 

せっかくいい感じで締めたはずなのにリアせいで散々な目に遭うスレインだった。

 

ーーーー

月面基地カタフラクトハンガー

 

「シナンジュは?」

 

「大丈夫だよ~カンペキ」

 

「ありがとう」

 

「帰って来なよ、寝覚めが悪いからねぇ」

 

「はい」

 

コックピットに潜り込んだフィアを見て機付き長であるフェインはシナンジュから離れる。

 

「御武運を!」

 

機体から離れていく整備員たちがそれぞれ手を振るのを見てフィア達は機体を動かし出撃していく。

戦士達の出撃に月面基地の人々も各々に見送っていくのだった。

 

ーーーー

 

「スレインはどうした?」

 

「ハークライトさんが何か一悶着あったらしいって…」

 

輸送艦が出て行く中、タルシスの姿が見えないのに気づいた。親衛隊のハンガーとタルシスの置かれているハンガーは違うため何が起こっているのか分からないのだ。

 

ケルラも心配そうに月面基地を見やるとタルシスがザーツバルムの乗せた輸送艦と共に出てきた。

 

「遅れてすいませんでした…」

 

「構わん、各員…ネールとジュリが確認してくれたが何時どこから沸いてくるか分からん…気をつけろ」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

タルシスと親衛隊の護衛の元、航海は順調に進むとモニター 一杯に地球が映る。

 

「すげぇ」

 

「……」

 

「ここまで近くで見たのは……」

 

青く映る地球に親衛隊の各々が感嘆の声を上げているとハークライトが少し申し訳なさそうに通信をよこした。

 

『楽しみの所、すいませんが…大気ブレーキをかけますので帰投願います』

 

「分かった…」

 

「帰投するぞ、ネール」

 

「了解…了解……」

 

ベルガ・ギロス3機を収容、次にリアのローゼン・ズール、フィアのシナンジュを収容する。機体数の関係上フィアはスレインと同じ輸送艦だ。

 

『まもなく、周回軌道に入ります…大気ブレーキを行いその後、上昇離脱しサテライトベルトに突入マリネロス島まで向かいます』

 

ハークライトの言葉と共に輸送艦は静かに揺れ始めるのだった。

 

ーー

 

『減速終了まで5秒……4…3…2…1……離脱』

 

小刻みな揺れが収まるとフィアはシナンジュのシステムを再起動させる。せっかく敵基地の横を通るのだ、やっておくべきことはやるべきだろう。

 

「行きがけの駄賃だ…ステイギス隊よ、目にもの見せてやるがよい…」

 

「ステイギス1…命令のままに」

 

「ステイギス2…命令のままに」

 

「我々も出るぞ、リアは私と…他は艦隊の護衛だ!傷一つ付けるなよ!!」

 

「「「了解!」」」

 

シナンジュとローゼン・ズールはモノアイを煌めかせながらスラスターを噴かしデブリ群に突っ込んでいくのであった。

 

ーーーー

 

フィアの行動の様子はトライデント基地でも既に察知されていた。

デューカリオンブリッジでは急いで宇宙服に着がえる人員に対してマグバレッジが指示を飛ばす。

 

「艦載機、全機出撃!当艦も緊急発進に備えよ!!」

 

デューカリオンカタフラクトハンガー

 

「カーム、僕の機体は?」

 

「修理も終わってる…宇宙装備の換装もバッチリだ」

 

「ありがとう…」

 

「おう」

 

伊奈帆は端的に礼を述べると自身の愛機であるスレイプニールに乗り込む。オレンジ色の派手な機体、本来なら色を変えることを薦めるべきだが。

 

「フィアが見つけられねぇから…これじゃねぇとな」

 

カームはそう呟くとスレイプニールから離れるのだった。

 

ーーーー

トライデント基地周囲のデブリ群

 

「マスタング11…配置よし」

 

「マスタング22…配置よし……敵機との相対速度は秒速約3㎞、一瞬ですれ違うわよ」

 

「チャンスは一瞬って訳ね」

 

デブリに伏せるように配置についた韻子とライエは話している間にも味方が次々と配置について行く。

大型のガトリングを持ったアレイオンはワイヤーで完全に固定されており簡易砲台のできあがりである。

 

「ステイギス1…攻撃開始」

 

「ステイギス2…攻撃開始」

 

敵の輸送艦から出てきた敵機はそれぞれ5つに分裂すると機体に備え付けられた機銃が火を噴く。

敵の攻撃でデブリが削れるがそんなもの構わない韻子は冷静に照準を合わせ引き金を引くが当たらない。

 

「風が複雑だわ……お互いこの距離じゃ当たらない……」

 

「ライエ…」

 

「なに?」

 

「私が3発撃つから風の軌道を計算して」

 

「りょうかい……」

 

ライエは韻子の言葉でハッとする。そうだ、当たらなければ当てればいい…そんな単純なこと、どうやらあのシミュレーターで一番鍛えられたのは韻子かもしれないと内心そう思うのだった。

 

そして韻子の発砲…それぞれ違う軌道で撃たれた弾は大きく軌道を周りながらデブリにぶつかる。

 

「どう?」

 

「オーケー、ここらはだいだい行けるはず」

 

「よっし!これで!!」

 

ライエの答えに元気付いた韻子、自身の機体の無反動砲を向け修正しステイギスを狙う。

 

「これで…」

 

推奨BGMーFULL-FRONTALー

 

獲った…そんな確信と共に引き金を引こうとした瞬間、目の前を黄色い光線が通り過ぎた。

 

「なに!?」

 

先に声を上げたのはライエだった…すぐ後ろに陣取っていたアレイオンがコックピットを貫かれ大爆発を起こす。

 

「狙撃!?ローネス33!逃げて!」

 

「なに!うわぁぁ!!」

 

韻子の叫びも虚しく目の前で機体を固定されたアレイオンは真っ赤な炎に変わるのだった。

 

ーーーー

トライデント基地司令室

 

「敵機を新たに捕捉…」

 

「新手か場所は?」

 

「D72ポイントを高速で通過、七番埠頭に向けて進撃中」

 

レーダー表示がメインモニターに映し出され司令官は戦慄した。デブリを加速源にしているような曲線的な動き…この司令室全員が見たであろう"あるデータ"の動きに酷似するものだった。

 

「データ照合」

 

その時、司令官にとってオペレーターの言葉はまるで死刑宣告に聞こえたであろう。

 

「照合完了…完全に一致……奴です!!マリネロスの機体が!!」

 

オペレーターの声に司令官はなにも答えられずにいるのだった。

 

ーーーー

 

「艦長!」

 

その知らせは直ちに知らせられたもちろんデューカリオンにも…

 

「たった一機で宇宙要塞を墜とした伝説の機体が…」

 

「確認しました…ってこれはやばいって!」

 

「どうしました?祭陽上等兵」

 

「奴の進行線上に韻子ちゃんとライエちゃんが…」

 

「接触時間は!?」

 

祭陽の言葉にマグバレッジは珍しく怒鳴る。しかしそんな事では状況などなにも好転しない。告げられた言葉は絶望的な内容だった。

 

「後、3秒で会敵するっす…」

 

ーーーー

 

祭陽が言葉を発した同じ時、韻子とライエの眼には既に紅い機体が映っていた。

 

「あの機体って…」

 

「マリネロスの悪夢……」

 

韻子とライエ…そしてフィア……望まぬ形の再開それは運命だったのか…ならば……。

 

思わず体が強張ってしまう二人の機体を追い抜くようにしてシナンジュに迫るオレンジ色の機影。

 

「伊奈帆!!」

 

「韻子、ライエさんも下がって!!」

 

この二人が殺し合うのもまた……必然なのだろうか……。

 

距離を詰める紅とオレンジ色、構え合う獲物…お互い心から信頼した仲間だというのに。

 

ーその引き金はいとも簡単に引かれたー

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
早速ですが…
前半のぐたり感が否めない……どうしてもだれてしまうんですよね…文才が欲しぃ!。

ってことで後半はいよいよ、第一次トライデント基地攻防戦!フィアと伊奈帆が!韻子が!ライエが!激突する!!
その運命やいかに!!

では最後まで読んで頂きありがとうございました!!


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第四十三星 悪夢対悪魔 -Nightmare vs devil-

 

 

会敵した赤とオレンジ、初手は伊奈帆がとった。無反動砲を構えて撃つ、伊奈帆の義眼…アナリティカルエンジンとスレイプニールのシステムの導き出した道筋は正しく偏向重力(かぜ)の影響を受けながらシナンジュへと突き進む。

 

(やるな…)

 

それを紙一重で避けるフィアだが体勢を変えたせいでほんの少し失速してしまった。

 

「んぐ…」

 

フィアは頭痛を無視しながらシナンジュを操作、シールド裏に装備されたビームアックスを展開しスレイプニールめがけて振るった。それ程までに二人の距離は縮まっていたのだ。

避けようがない容赦がない一振り、だが伊奈帆は難なく避けた…あらかじめデブリに刺していたアンカーを巻き戻し無理やり進路を変更したのだ。

 

「動きに無駄がない…かなりの手練れだ…」

 

ワイヤーを巻き取りつつ無反動砲で牽制する伊奈帆は静かに呟きながらフッとした違和感を感じていたがそれが何か彼には分からなかった。

 

「隊長!」

 

そんな時、リアのローゼン・ズールが追いつき腕部のクローと一体化したビーム砲をスレイプニールに向ける。

 

「よくも隊長の邪魔を!」

 

『させるかぁぁぁ!』

 

「なに!?」

 

するとリアの横合いから無反動砲による攻撃の雨が襲いかかる。高速で接近しているのは新型のグラニ4機だった。

 

「分隊長!敵が2機います!」

 

「構うな!紫だけ集中しろ!!」

 

グラニ部隊の指揮を執っている分隊長は一年半前に唯一生き残ったグラニパイロット…フォルドだった。

弾幕を絶やさない攻撃に流石のリアも苦戦する。解決しようとすればシールドのビーム拡散砲で一掃できるが味方であるステイギスがどこにいるか分からない上に拡散範囲にシナンジュがいる。

 

「隊長すいません、すぐに戻ります!」

 

『あぁ!無理はするなよ!』

 

「了解!」

 

場所を移すためにローゼンはこの場から離れる。実際にこの二人が離れようと戦況は変わらない。それだけの実力を持っているのだから。

 

「伊奈帆!援護する…私は右、ライエは左から挟んで!」

 

『分かったわ…』

 

ーーーー

フィアside

 

「ええぃ!」

 

フィアはライフルを3発撃ち放つが見事に避けられてしまう。かなりの手練れらしい…特にあのオレンジ色は厄介だ、他の2機のアレイオンも連携が取れてやりにくい。

 

「くそ…」

 

それに先程から頭痛が酷くなる一方だ…一時デブリに身を隠し医者から渡された薬を飲み込む。あわよくばこのまま基地に接近したかったが仕方がない。

 

「あのパイロットは間違いなく脅威になる…ここで潰しておかないと…」

 

呼吸を整えたフィアはシナンジュを加速させ敵のもとへと突っ込ませるのだった。

 

ーーーー

韻子side

 

『ねぇ…韻子も感じてる?』

 

「えぇ…なんか違和感を感じる…」

 

デブリに身を隠しながら韻子とライエは話す。そんな間にも無反動砲のカートリッジを交換し弾を満タンにする。

 

『僕も感じてる…何かは分からないけど…』

 

その考えは伊奈帆も同じだったようで話に参加てきた。だがそのモニターを見る眼は止まらず全方位に注意をしている。

知らないのに知っている感覚…本来のこれは起こりえないものだ。

 

「でも…あの動き……」

 

ライフルを構える動作、発射までのタイミング、アックスの振るい方…多少のズレはあるが全てが"分かってしまう"。

 

『韻子……』

 

「ライエ…」

 

ライエは韻子に話しかける、その表情は強張っておりいつもの冷静な顔じゃない…恐らく気づいたのだろう。

この二人は二年間の間、死ぬ気でシミュレーションをやってきた…覚えようとしなくても相手のクセや構え方などは頭に入ってくる。

 

「重なっちゃったんだ…シミュレーションに……」

 

『私もよ…残念ながらね……』

 

『どう言う事?』

 

伊奈帆の問いに二人は答えない…いや、答えられないのだ。シナンジュの動きが…"フィアの乗るスレイプニール"と姿が重なったことを。

なら答えは一つだ…彼女たちは…フィア・エルスートと戦っている。

 

『来た…韻子たちは援護を…』

 

そして鳴り響く警告音、フィアが来たのだ…。

 

「どうしよう、どうしようどうしようどうしよう…」

 

頭がパンクしそうになる。突然すぎて彼女の頭は真っ白にはなりかけていた。

すると思い出すのは二年前の記憶…伊奈帆もフィアもとても楽しそうだった…ずっといた私が入り込めないほどに…。

 

「駄目だ…」

 

『韻子?』

 

韻子の呟きにライエは嫌な予感を感じながら彼女に問いかける。

 

「あの二人を…戦わしちゃいけない…」

 

『韻子…ダメよ…』

 

「戦わしちゃいけない!」

 

『韻子!!』

 

ライエは急いで韻子のアレイオンを捕まえようと腕を伸ばすが遅かった。韻子はアレイオンを急加速させて伊奈帆のもとに向かうのだった。

 

ーーーー

 

「韻子?」

 

猛スピードで来る韻子に疑問を持った伊奈帆は後ろを振り向く…するとアレイオンは自分を無視してシナンジュに突っ込んでいくではないか。

 

「韻子!?なにやってるの!」

 

伊奈帆にしては珍しい動揺が乗った声であったが韻子は気にしない、無反動砲も捨てて両手を広げながらシナンジュに突っ込んでいく。

 

「コイツ正気か!?」

 

装備を捨てて突っ込んで来るアレイオンにフィアは動揺を隠せないでいた。なんの策もなく突っ込んでくるアレイオン…そのせいでフィアの反応が少し遅れた。

 

「クソッ!」

 

全身に激しい衝撃が走った。機体同士が猛スピードで正面衝突したのだ。カタフラクトの耐衝撃装置が優秀だからこそ良かったものの普通なら人間がミンチになってもおかしくない衝撃である。

シナンジュはともかくアレイオンは衝撃に耐えきれなかったようで機体の破片を飛び散らせるのだった。

 

ーーーー

フィアside

 

「一体…なんなんだ…」

 

『……フィ………な…………しょ…!』

 

突然、ノイズ混じりの通信が割り込んできた。これは接触回線による通信だ…ということは相手はこのアレイオンのパイロットだろう。

 

「この声は…なんだ?」

 

『フィアなんでしょ!!』

 

「ッ!」

 

「なぜ、私の名を……」

 

フィアは動揺する、突然話しかけられたからではない…その声にとてつもない"懐かしさ"を感じたからだ。

 

「ウッ!」

 

するとフィアの頭に衝撃が走る、脳内に映ったイメージと共に暖かい気持ちが流れてくるのを彼女は感じたのだ。

 

「誰だキサマ…」

 

『え……』

 

「私は姫様の騎士…地球に知り合いなどいない…」

 

なぜだろう…なぜこんなに心が痛むのだろう…。まるで親友を裏切るような虚無感を彼女は感じていた。

なぜだろう…相手の声を聞く度に襲いかかる後悔の念は…。

 

『隊長!』

 

グラニを撃墜こそ出来なかったものの追撃を振り切ったリアは様子が急変したフィアに向けて大声で話しかける。

 

『どうされたのですか、隊長!』

 

『私だよ韻子、網文韻子だよ!』

 

『隊長!』

 

『フィア!』

 

二人の声がグルグルと頭の中を周りとてつもない吐き気が彼女を襲う。そんな彼女の耳に入ってきた声は一定のトーンで話す特徴的な話し方をした彼の声だった。

 

『フィア?』

 

「ッ!ああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

『隊長!?』

 

頭がついにパンクしたフィアは狂ったように叫ぶと韻子のアレイオンを振り払い、急加速し輸送艦に帰投する。その様子を見たリアは驚きながら追いかける。

 

「本当に…フィア……」

 

シナンジュの撤退を確認した敵軍の残存戦力はそれに続き引き上げていく。

そんな光景を見ながら伊奈帆は静かに呟く…たったその一言でライエと韻子は黙り込む。その一言は二人にとってとても寂しく、悲しそうに呟いたように聞こえたからだ。

 

ーーーー

 

「うぐっ…ああああぁ……」

 

輸送艦に取り付いたが良いもののコックピット内で悶え苦しむ彼女の姿を別ルートを進行していたスレインが心配そうに様子を見ていた。

 

「どうすんだよ」

 

「取りあえず、マリネロスまでこのままではないでしょうか?」

 

「そうだな……」

 

ネール、ケルラ、ジュリも同じく心配そうに相談するが解決策が見当たらない、肝心のリアも機体をウロウロさせて心配そうに見やる。

 

「ザーツバルム卿!」

 

「分かっておる…シナンジュを収容後、マリネロスまで全速で向かう…」

 

スレインの叫びに全てを理解していたザーツバルムは指示を出す。その後も各員に言い渡す指示は適切で非の打ち所がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも砂岩でございます!!
取り敢えず今回はこんな感じの短めでついに再会しました。この四人が…これが原因でフィアがどうなるのか、そして次回は親衛隊がどう思われてるかがよく分かる回になりそうです。


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第四十四星 二人の感情 -complex feeling-

 

 

 

「一つ聞いていいですが?F3、クイーン」

 

「どうぞ…G7キング」

 

デューカリオン会議室、本来なら作戦説明などに使われる部屋だが今回は艦長のマグバレッジと伊奈帆の会話のために使われていた。

お互い、盤上が設置されたモニターを映すことなくチェスを行っていた。記憶力と戦術的な手腕が高度でないと出来ない芸当だ。

 

「僕を戦場に出していいんですか?E4ルーク…僕が死んだらデューカリオンのアルドノアは止まりますよ」

 

「理解してます、D8ルーク…しかしその時はその時です」

 

「界塚少尉は前線から退きたいと思っているのですか?」

 

伊奈帆の質問に同伴していた不見咲は疑問の声を上げた。しかしその言葉を発した彼女自身、既に答えは知っているようなものだった。

 

「いえ、僕は戦いに出ます…F6クイーン…チェック…」

 

「クイーンを取ってF6キング、ならば意見は一致しています」

 

「E5ビショップ…チェック」

 

「モニターに出します……」

 

机のように配置されたモニターに先ほど行っていたチェスの盤上が映し出される。全体を見れば拮抗はしているがマグバレッジのキングが詰んでいた。

 

「アリアーシュ曹長の報告を聞きました…会ったそうですね……」

 

「そのようです……」

 

数時間前に行われたトライデント基地防衛戦、これからの大規模作戦の前戦のようなものだったが、とある人物との再会がデューカリオンのパイロットたちを大きく動揺させていた。

 

「マリネロスの悪魔の正体が我々と共に死戦をくぐり抜けた者だったとは……」

 

冷静に話すマグバレッジ…その一方伊奈帆の心情は決して穏やかな物ではなかった。言いようのない心のざわめきが聞こえる…あの時何かが割れる音がした…。

 

「それでも僕は戦場に出ます…たとえ彼女と矛を交えようとも…」

 

「報告によれば貴方たちの接触により彼女は精神的に不安定な状況に陥っていたようですね…通信記録からも確認しました」

 

伊奈帆の覚悟の言葉、それは虚勢だとマグバレッジの目からも明らかだった。知らぬ間に握られた拳が何よりの証拠だ。

 

(自分自身に対してとても不器用なのですね…)

 

心の中で呟きながら彼女は話を続ける。

 

「彼女の証言が全て正しいならば…彼女は……」

 

「記憶の欠損、つまり記憶喪失の可能性が高い…セラムさんを守れなかった事に耐えきれなかったのかそれともケガの影響か…」

 

どっちもあり得る話だ。今回の遭遇でもし彼女になにかが起きれば…。星空のもと、微笑みかけてくれたフィアの顔が頭を過ぎった。

苦しそうに目を細める伊奈帆の表情にマグバレッジは問いかける。

 

「貴方が抱いているのは彼女への後悔?贖罪への念?それとも…」

 

フッとした好奇心から湧き出てきた言葉をマグバレッジは抑える。それは野暮というものだろう。

 

「僕はただ…背中に居て欲しかった…それだけです…」

 

伊奈帆の消えそうな呟き、戦友としてそれとも一人の女性としてか…その意味は聞いていたマグバレッジはおろか言葉を発した彼自身も分からない事なのだろう。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国軍マリネロス基地の廊下、その1カ所は物々しい雰囲気に溢れていた。

 

「姫様をも御守り通せない犬共が親衛隊などと笑わせる」

 

「面目次第もありません」

 

ヴァース帝国軍37家門の一人、マリルシャン伯爵はアセイラム姫親衛隊隊長であるフィアを笑いものにするように話していた。

笑いものにしているのはマリルシャンだけではない、他の家門である者達も加わり口をそろえて笑っていたのだ。

 

「品も知性もない犬共に高貴なるお方を任せること自体が間違い…結果的にこのような失態ばかり……」

 

トライデント基地襲撃の失敗は確かに親衛隊活躍がイマイチと言う点もあったが実際、ほんの小手調べ程度なのだ失敗もなにもない。

 

「……」

 

そんな伯爵たちを睨見つけるのは副隊長のリアだ。敬愛を通り越しフィアへの愛を抱いている彼女はこの心のない罵倒が心底許せなかった。

このようないびりを初めて体験したケルラは泣きそうになっており無口のシルエが慰めるように腰を優しく叩く。

 

「なんですか…その目は?」

 

「おい!よせ!」

 

凄い形相で睨むリアを見たマリルシャンは気分を悪くしたように腰の剣を鞘ごと引き抜いた。その様子に驚いたのは彼の後ろで傍観していたバルークルス伯爵だった。

 

「汚い視線で睨みつけるなど!」

 

振り下ろされる鞘を見てリアは目をつむる。後ろにいた隊員たちも目をつむり悲劇の惨状を見まいとする。

バキッと言う鈍い音ともに床に倒れたのはリアではなくフィアだった。

 

「隊長!」

 

「すべては私の責任です…どうぞ、気が済むまでお殴りください…」

 

「フンッ…いいでしょう…今回はこれだけで……教育はしっかりとしてくださいね……」

 

捨てゼリフを吐きながら立ち去るマリルシャンとその他諸々、頬を真っ赤に腫らしたフィアを心配そうに見やるバルークルスだったが彼もなにも言葉を発せずに立ち去るのだった。

 

「隊長!なんで私のために……」

 

「先ほどの戦いで助けて貰ったからな……」

 

「それは……」

 

フィアの優しさにリアは思わず言葉を詰まらせる。彼女の心臓は色々な意味で心臓がバクバクだが今はそんな状況ではない。

 

「大丈夫だ…隊長としてお前たちを守ってやる」

 

「隊長……」

 

その言葉に親衛隊全員が心を打たれた。あの戦闘から数時間が経ち、精神的に安定してきたとは言え彼女自身、他人を気遣う余裕なんてないはずなのに…。

 

「隊長の美しいお顔に……」

 

ワナワナと震えるリア、彼女はマリルシャンに対して怒りを通り越し殺意が沸いてきた。だがその前にフィアへの治療を優先せねばならない。

 

「隊長、とりあえず医務室に行きましょう…」

 

「あぁ…だが一人で行く、お前たちは機体の調整をしていろ…もうすぐで戦闘だぞ」

 

顔を腫らしながら立ち上がるフィアの背中をネールたちは黙って見守るしかなかった。

 

ーー

 

「うぅ…」

 

リアたちの視線を外れ少し進んだ先の廊下でフィアは苦しみながら壁に身を預けた。襲いかかるフラッシュバックと頭痛に正直、頬の痛みなどどうでも良かった。

 

「姫…様…」

 

ザーツバルム揚陸城の記憶が途切れ途切れに流れてくる。アセイラムが撃ち抜かれる瞬間、彼女は薄れゆく意識の中で見ていた。

 

「私は…なんて無力なんだ……」

 

御しがたい感情が彼女を支配する。無念と後悔、自身への怒り…そのような感情が彼女を支配しようとした時。傷だらけの少年が微笑みかけてくれた気がした…。

 

「伊奈帆…」

 

無意識に発せられた言葉、彼女自身は知覚していないだろう。だが彼女はしっかりと彼の名を口にした。落ち着きを取り戻すフィア、なんだか不思議な気持ちに包まれている気がした。

 

「い!」

 

すると突然、頬が痛くなってきた…。気がついたら頭痛もフラッシュバックも落ち着きを取り戻していた。

 

「とりあえず、医務室に行くか…」

 

フィアは頬を抑えながら医務室に向かうのだった。

 

ーーーー

デューカリオン伊奈帆&カーム部屋

 

「シナンジュ…攻撃回避率が異常に高い…その点で言えばタルシスも同一線上…」

 

伊奈帆はタルシスと戦闘はしていないが義眼から送られてきたデータでそれを閲覧していた。

フィアとは別ルートを通っていたために接触しなかったのだ。

 

「フィアのは純粋な技量なのだとすると…奴はなんで同じなんだ…」

 

操縦者はスレイン・トロイヤード、自身の左眼を撃ち抜いた相手…。無意識に左眼に手を添えながら思考する。

 

「機体には特筆した機能は見られない…操縦者に作用するタイプか?」

 

ヴァース帝国のカタフラクトは強力な特殊能力を保有している。ニロケラスの次元バリア、ヘラスのロケットパンチが代表的だ。

 

「それとも本人に何かしらの細工が…」

 

その中でもタルシスは操縦者に能力を与えるという珍しいタイプだ。ザーツバルム曰くクルーテオには過ぎた機体と呼ばれていた点から考えると扱いがかなり難しいようだが。

 

「ひとりごと?」

 

「自分と話してた…」

 

「だから、ひとりごとだろ?」

 

思考の海に浸っていた伊奈帆を呼び出したのは親友であるカームだった。彼は伊奈帆と対峙するように壁にもたれるとひとりごとのように言葉を発した。

 

「8本足の神獣、スレイプニールを操る軍神オーディンはミーミルの水を飲み膨大な知識を授かる…がその代償として自らの左眼を失った……北欧神話」

 

彼の話はあくまで神話の話だがその話はまるで現状の伊奈帆を指しているようにしか思えなかった。

 

「物知りだね……」

 

「おまえ、俺のこと馬鹿にしてるだろ」

 

あまりに一定のトーンで言葉を返されたカームは軽く突っ込むがすぐに笑う。正直、彼女と戦場で会ってどうなったか気になっていたが大丈夫なようだ。

 

「ロシアでの戦いの後でさ…船を降りようと思ったんだ…怖くなっちまって…でもやっぱりそれじゃあ、あの世でオコジョに顔向けできないよなぁって……」

 

2年前のザーツバルム城の戦いは参加した者達に大きな傷を負わせた…身体的にも精神的にも…。

そこから逃げたいと思うのはある意味当然、咎められるようなことでもないだろう。

 

「カームは強いね…」

 

「あ?」

 

「こう見えて僕は動揺してる…」

 

その言葉にカームは驚いたと同時に納得した。

 

「やっぱり伊奈帆も人間だなぁ」

 

「なにそれ…」

 

軽快に笑うカームに若干ムッとした伊奈帆、だが不機嫌ではなさそうだった。

 

「そうやって俺たちに頼ってくれよ…俺たち、友達だろ?」

 

「そうだね…ありがとうカーム……」

 

「あぁ…」

 

安堵したような表情を浮かべた伊奈帆にカームは静かに笑うのだった。

 

ーー

 

トライデント基地廊下、そこでは韻子とライエの二人が話をしながら自身の機体が搬入された格納庫に向かっていた。

 

「ライエはどういう組み合わせなの?」

 

「一号から三号までを二つずつ」

 

「高G旋回使用だね…」

 

地球軍の宇宙用カタフラクト装備の大きな特徴はデブリを利用するために装備された両肩のワイヤーが内蔵された装備だ。

一号はワイヤーが太く頑丈で旋回半径が100メートル程、十号は重く岩石に深く刺さる使用で旋回半径が1000メートル程。

本来は両肩に装備できる4対のうち近距離と中距離、予備に遠距離を搭載するのが基本だがライエのは近距離と予備の十号を装備したタイプスピードを意識した使用だ。

 

「細く長くは性分じゃない…」

 

アルドノアの力によりヴァース帝国軍は推進剤を必要としない…アルドノアドライブから無限に湧き出てくるからだ。

それに対して地球軍は推進剤の消費を気にしなければならない、そのため推進剤をの消費を意識した設計になるのはある意味必然だろう。

 

「お、チームデューカリオン…」

 

「火星人なんだってな」

 

「戦場で足引っ張ってくれるなよ」

 

そんな会話をしていた二人に対し同軍の兵士に浴びせられた言葉は心のない言葉だった。それに対して言葉を浴びせられたライエは無表情のままだった。

 

「なによ!」

 

「でも間違ってない…火星人はみんな敵よ…私が一番分かってる」

 

先ほどの兵士たちに不機嫌な態度を隠さない韻子だったがライエの言葉に笑いかけながら頭を撫でる。

 

「可愛いなぁ、ライエは…ツンツンしちゃって」

 

「なによ」

 

やけに上機嫌な韻子に疑問の声を上げるライエだが彼女は気にせずにからかい続ける。

 

「もっと甘えてくれていいのよ」

 

「はぁ!?」

 

廊下の先で笑って待っていたニーナと合流するとそのからかいに拍車が掛かる。

 

「アメちゃん食べる?」

 

「ぶっ飛ばすわよ」

 

先程の空気とは打って変わり暖かい笑い声が廊下に響くのだった。

 

 

 





どうも砂岩でございます!
お久し振りです、色々ありまして(自分のせい)遅くなりました 
伊奈帆君が随分柔らかくなりましたね、個人的にはもっとみんなに頼って欲しいものです。次回は第二回トライデント基地攻防戦、2機の最大の分岐点とも言える戦いで何が起こるのか!?
最後まで読んで頂きありがとうございました。

最後になんと今作主人公のフィアを描いてくれたお方がおりましたのでよろしければどうぞ!


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第四十五星 分岐点 前編 -turning point-

まずは、遅くなってすいませんでしたぁぁぁ!!
言い訳は後書きでします。本当に申し訳ありませんでした。ではどうぞ!




 

 

 

ヴァース帝国軍、マリネロス基地カタフラクトハンガーでは小さな騒動が起きていた。

 

「地球人を飼うだけなら酔狂で許されよう…だが、騎士に取り立てるなどいささか戯れが過ぎるのではないかな?」

 

「バルークルス卿、我が家臣について貴公に口を出される筋合いはない…」

 

バルークルス卿とマリルシャン卿に向き合って立っているのはザーツバルム卿、彼はそばに跪いているスレインを庇うように立っていた。

 

「何があった?」

 

「隊長!あぁ…なんて痛ましい姿に…」

 

「よしよし…」

 

そんな様子を遠くから見ていた親衛隊の近寄ってきたのは頬に湿布を貼ったフィアだった。そんな彼女の姿を見てリアは悲しむがフィアに頭を撫でられ、すぐに大人しくなった。

 

「マリルシャン卿、今度はスレインに言いがかりをつけているのです」

 

フィアに状況を知らせたのはジュリだった。彼女は簡潔に話をまとめ伝えるとフィアはすぐに状況を理解した。

 

「しかしともに戦うと言うなら別の話、いつ裏切るとも分からぬ者と共に戦場など出れませぬ!ザーツバルム卿、そなた一人の身勝手で済むことではないぞ!」

 

一見、バルークルス卿の苦し紛れに発した言葉に聞こえるが実に的を得ているとフィアは判断していた。当然ながら地球人と火星人の信頼など言わずもがな最悪…それが味方として共に戦線に出るのは許しがたいと言う言い分は分かるからだ。

 

「ならば、この場で僕を斬って下さい…」

 

ハンガーに響いたスレインの冷たい声に一同が騒然とし隣にいたハークライトすら驚愕の表情を隠せないでいた。それはフィアも例外ではなく表情こそ変えなかったが目は大きく見開かれていた。

 

「貴方の言う通りです…このまま戦場に出ると…私の方が後ろから斬られかねません」

 

「貴様あぁぁ!」

 

流石に切れたマリルシャンは持っていた剣を抜刀しスレインに斬りかかろうとした瞬間…。

 

「諸君、聞かれよ諸君!!」

 

ザーツバルムの突然の声にその成り行きを見守っていた者達の視線が集中した。

 

「ヴァース皇帝の庇護のもと、スレイン・トロイヤードを我が息子とする!この場に同席された諸君が証人である!」

 

まさかの事態に全員が絶句する。地球人が伯爵家の跡取りとしてなってしまったのである。言うなれば玉の輿に乗ったと言うのだろう。

 

「立てスレイン…今日からそなたは我が息子だ」

 

「貴公にそこまでの覚悟がおありなら良いでしょう…しかし僅かでもおかしな真似をすれば容赦なく斬る」

 

地球人とは言え伯爵家の跡取りを殺してしまえば流石にマズい…剣をしまったマリルシャンは捨て台詞を吐き去って行くのだった。

 

「スレイン!」

 

「フィアさん…」

 

「てい!」

 

「痛い!」

 

去って行くのを見送ったスレインは上から降ってきたフィアに驚きながら流れてくる手を受け取り止める。だがすぐに後から来たリアに腕をチョップされスレインは手を離すと威嚇される。

 

「全く心配させて…」

 

「フィアさん…」

 

フィアに優しい笑みを向けられ思わず紅くなるスレインを見てザーツバルムは静かに微笑む。そんな彼を見てフィアはすぐに頭を下げた。

 

「ありがとうございます、ザーツバルム卿」

 

「構わぬ…お主にも色々と苦労をかけるがよろしく頼むぞ…」

 

「ハッ!!」

 

フィアにとってザーツバルムは尊敬できる人物だと判断できた。友であるマリーンが心酔しているのも分かる気がする。

 

「敵衛星基地、最接近までもう間もなくです!」

 

「では御武運を」

 

「うむ、そちらもな…」

 

ハンガーに響き渡った声に全員が顔を引き締める。フィアはザーツバルムにもう一度礼をするとその場を立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

「作戦は伝えたとおりだ…我々は対艦攻撃に出る」

 

「「「「了解!」」」」

 

この作戦でフィアたち親衛隊が行う目標は敵のアルドノアドライブ搭載艦、デューカリオンの撃沈であった。

内容は簡単、敵の戦線を突破してマリネロスが離れるまでに撤退する、機動力が売りの親衛隊ならではの作戦である。

 

「進路クリア、発進どうぞ!」

 

「フィア・エルスート…シナンジュ出るぞ!」

 

「………出ます」

 

「ベルガ・ギロス02!ネール行くぜ!」

 

「ベルガ・ギロス03…ジュリで行きます!」

 

親衛隊の機体が次々と出撃するさまを見送ったスレインはタルシスを発進させる。

 

「スレイン・トロイヤード…タルシス行きます」

 

タルシスから送られる未来データをもとに流れる岩石を避けて突き進む。その前方を親衛隊が突き進むがどんどん距離を突き放される。全ての機体がスピード重視の機体とはいえ最小限で岩石を避けて進むさまはまるでどこかのSF映画のようだった。

 

「鍛えてるなぁ…」

 

スレインは改めて親衛隊の実力を実感する。操縦技術がずば抜けているフィアに追随するなど並の兵が出来ることじゃない。

 

ーーーー

 

地球軍、トライデント基地に鳴り響く警告音。ヴァース帝国軍のカタフラクト進行を知らせるアラートだがこちら側も既に準備は完了している。

 

「全隊に通達!作戦開始!!」

 

トライデント基地、司令官の号令は全体に伝わった。それはデューカリオンも同様である。

 

「司令本部より入電、作戦開始命令っす!」

 

「デューカリオン発進!当艦は遊撃隊として攻撃隊を支援する…全艦戦闘態勢!!」

 

「両舵全速前進…」

 

通信士である祭陽の言葉と共にマグバレッジの号令が発せられニーナの操艦でトライデント基地の七番埠頭から発艦する。

 

「トライデント基地より当艦の艦載機が発進します」

 

不見咲の報告と共にマグバレッジは横目で離れていくトライデント基地を見やるがすぐに戻すのだった。

 

ーー

韻子side

 

『マスタング11、クリアード・フォー・ランチ』

 

「ラジャー、マスタング11、クリアード・フォー・ランチ…ブラストオフ」

 

トライデント基地のカタパルトより射出された韻子は襲いかかるGに顔をしかめながら出撃する。

 

「ブラストオフ…」

 

その横のカタパルトからはライエが射出され他の隊と合流、綺麗な横一文字隊形に並び進撃する。あらかじめ展開された《傘》と呼ばれる電磁グリッドを盾に進む。

 

「ターゲットマージ…攻撃開始!」

 

ヴァース帝国軍の先行であるステイギスが子機を分離して四門装備されたマシンガンが火を噴き韻子たちに襲いかかる。

 

『攻撃来ます!』

 

『まだだ!この偏向重力(かぜ)では命中しない、よく引きつけて狙え!』

 

偏向重力により荒れ狂う弾丸が襲いかかるが命中弾はない。落ち着いて対処しなければすぐに殺られてしまう。

そんな時、たまたま弾丸が傘の基部に直撃し破壊されてしまう。

 

「傘をやられた!?」

 

「韻子!」

 

細かいデブリが当たり機体を揺らすが問題はない。それより韻子はレーダーと周囲に目を回すがお目当ての者が見つからない。

 

「フィアはどこ?」

 

「韻子、まえ!」

 

「くっ…」

 

少し目を離していた隙に目の前まで接近していたステイギスがモニターいっぱいに映る。しかし韻子は動揺せずに苦しい表情をすると無反動砲を構え撃つ。するとステイギスに直撃し撃墜する。

 

「よし!」

 

「マスタング00援護する……韻子はカバーをお願い」

 

「あ、うん!」

 

後方から追い越すように進撃する伊奈帆に少々驚きつつ韻子は喜びの声を上げる。なんだか初めて伊奈帆に頼られたような気がしたからだ。

 

「どこにいるの?」

 

ライエは先行する2人を見送りつつ周囲を確認するのだった。

 

ーーーー

 

本隊から先行した伊奈帆と韻子はステイギスを破壊すると戦闘領域に帰還するために反転を行っていた。

 

「三号シュート、ワイヤースイングバイで旋回…戦闘領域に帰還」

 

韻子は一足先に旋回を終了させ帰還ルートに入っている。

 

「旋回終了まで4……3……2……1……リリース」

 

旋回終了と同時に襲いかかる弾丸に伊奈帆は驚くが素早くバレルロールし回避する。

 

「スレイン・トロイヤード…」

 

「界塚伊奈帆!」

 

伊奈帆はタルシスを生で初めて見ると何か奥から沸き上がるものを感じていた。しかしタルシスは伊奈帆の予想より早く接近しブレードを構えていた。

 

「伊奈帆!!」

 

「くっ…」

 

これでは完全に避けられない…多少の損傷を覚悟した彼だったが異変を察知しカバーに入った韻子によってそれは防がれた。スレインは襲いかかる弾丸に対応するために避けねばならず仕方なく攻撃を中断した。

 

「カバーする!」

 

「助かるよ韻子…」

 

ーーーー

 

トライデント基地付近のデブリ空白地点に砲撃のために進行していたデューカリオンはステイギス2機との戦闘に入っていた。

 

「マリネロス基地、最接近まであと三十秒」

 

「主砲発射準備完了しています」

 

「各隊に通達、斜線上に退避せよ」

 

裕太郎と不見咲の言葉にマグバレッジは各隊に向け通信を発する。その瞬間、レーダー手の裕太郎が珍しく叫んだ。

 

「敵機来襲!直上です、猛スピードで4機接近!!」

 

「近寄らせるな!対空砲!!」

 

「駄目です!」

 

直上より接近したのはベルガ・ギロス…ジュリたちはショットランサーを一撃ずつ発射させるとスピードを緩めずにデューカリオンの横をすり抜けていく。

放たれたショットランサーは左舷の対空砲を破壊し四門ある主砲の一つを貫いた。

 

「左舷対空砲四割沈黙!三番砲塔大破!!」

 

「下部ミサイル発射管開け!敵機体に対し牽制攻撃!カタフラクト隊に援軍要請を!!」

 

「り、了解!」

 

一瞬のうちにこちらの攻撃手段を的確に奪ってきた。敵はかなりの手練れだ。マグバレッジはせわしなく指示を出しながら状況を確認するために全力を尽くす。

 

「小型のミサイルらしきものが多数接近!」

 

「なに!?」

 

ーーーー

 

デューカリオン付近のデブリから顔を出したリアはローゼン・ズールのバックパックからアルドノアジャマーを射出し向かわせる。

 

「隊長のご褒美は私のもの!!」

 

ジャマーをデューカリオンの周辺に展開させ綺麗な八角形の形をとらせる。

 

「さぁ…香りに誘われ眠れ!」

 

展開されたジャマーはお互いをつなぎ合わせ巨大なデューカリオンを囲む。

 

「あぁ…あ…」

 

その様子を見てリアは恍惚とした様子だった。

 

ーーーー

 

「一体何が起きたのです!」

 

「分かりません!急にアルドノアドライブが停止して…」

 

戦闘中だというのに暗闇に包まれたデューカリオンのブリッジは混乱に見舞われていた。

 

「予備電源に切り替え!界塚少尉の安否を確認!!」

 

「健在っす!」

 

「一体何が…」

 

デューカリオンの動力源であるアルドノアドライブの突然の停止…まさか伊奈帆がやられたのかと思ったが違う。なら思いつく方法は限られてくる。

 

「まさか…アルドノアドライブ事態に干渉する能力を持つカタフラクト…」

 

「そんな!」

 

「予備電力でも何も出来ません!」

 

筧の言葉に全員が絶望の表情を浮かべるがマグバレッジは決して諦めない…何かしらの方法があるはず。そんな時にニーナが声を上げた。

 

「あの浮いてる奴を壊せば良いんですよね?」

 

「確証はありませんが…可能性はあります……」

 

「だったら……」

 

ニーナの提案に全員が驚くが援軍の到着が分からない今、それに賭けてみるしかなかった。

 

ーーーー

 

「本当に停まりやがった…すげぇな……」

 

「これがアルドノアジャマーの力……」

 

ネールとジュリの感嘆に全員が頷くが問題はこれからだ…何しろアルドノアジャマーの範囲内ではこちらの機体も好きに扱えない。

 

「これでこの艦を沈めれば…隊長の名声は元通りに……」

 

リアは嬉しそうに呟きながら左腕をデューカリオンのブリッジに向ける。近づいて攻撃出来ないなら有線式のこの腕で握りつぶせば良い。

念のためベルガ・ギロスもデューカリオンの周辺を囲むように配置されている。

 

「隊長…」

 

リアは後ろのデブリに仁王立ちしているシナンジュにモノアイを向ける。

 

「これでいいんだ…これで……」

 

拒絶するように襲いかかる頭痛を無視しながらフィアは冷徹に号令を下す。

 

「やれ……」

 

「了解!」

 

射出されたインコムはデューカリオンのブリッジに向けて真っ直ぐ突き進む。その瞬間、フィアは気づいた…デューカリオンの一番砲塔だけが動いていることに…。

 

「全機乱数回避!」

 

フィアの声と共に発射された砲弾は途中で内蔵していた無数の小型爆弾を撒き散らし親衛隊に襲いかかる。

 

「キャニスター弾!?」

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

絶妙なタイミングで放たれた弾はローゼン・ズールの左腕を破壊し近くに居たジュリのベルガ・ギロスに襲いかかる。左腕部のビームシールドで防ぐが基部が破壊され使い物にならなくなった所に背後からスラスターを破壊され墜落するように落ちていく。

 

「ジュリさん!きゃ!」

 

助けに向かおうとしたケルラは援護に来たグラニ一個中隊に阻まれ動きが取れなくなる。ネールもシルエも…損傷しているリアも同様であった。

 

「ジュリ!くうっ!!」

 

墜落するジュリを救わんと駆けるフィアだが再起動したデューカリオンの主砲が直撃し吹き飛ばされる。幸いシールドで防いだが内蔵していたビームナギナタ共に爆発してしまった。

 

「きゃ!」

 

ジュリのベルガ・ギロスはデューカリオンの被弾した左舷対空砲に擱座し停止する。落下の衝撃でアルドノアドライブが停止したようだ。

 

「くっそう!」

 

フィアは自身の不甲斐なさに憤りながらビームライフルをデューカリオンに向けて撃ち放つのだった。

 

 

 

 

 




まずは最後まで読んで頂きありがとうございました。
そして本当にすいませんでしたぁぁぁ!
書く時間はありました、たっぷりありました!でもなんか思いつかなかったんです!スランプって奴ですかね?
気晴らしに他のやつ書いてたら2カ月も…こっちが本命ですからね!それは間違いありませんよ!
最近、案とかも色々と湧いてきてるんでやっていけます!マジです!!

許して?ダメ?

フィア/伊奈帆「慈悲などない…」

ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!!




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第四十六星 分岐点 後編 -turning point-

 

 

「予備電力の全てを主砲とレーダーに?」

 

「はい!予備電力で機関が動かない以上、主砲で浮いてる奴を倒さないといけないと思うんです」

 

このまま行けば確実に殺されてしまう…この案に乗っかるしかないだろう。

 

「軍曹…」

 

「分かりました…予備電力を主砲とレーダーに絞ります」

 

機関士の筧が操作するとデューカリオンのブリッジが更に暗くなる。

 

「弾はキャニスター弾を装填…命令があるまで一切動かさずに…悟られてはいけません」

 

「はい!」

 

デューカリオンの主砲は実弾式の三連装砲と旧式のものだが弾の装填はオート化されている。通常の三式弾から広範囲を攻撃できるキャニスター弾に入れ替え作業が行われる。

 

「主砲の装填完了!」

 

「敵は?」

 

「取り囲むように展開していますが正面に3機います!」

 

「一番砲塔照準!完了次第撃て!」

 

マグバレッジの命令と共に動き始めた一番砲塔はローゼン・ズールとジュリのベルガ・ギロスを照準に収め放たれた。途中で無数の片となった砲弾は2機を損傷させ周囲を張っていたアルドノアジャマーを2個も破壊した。

 

「アルドノアドライブ再起動しました!」

 

「反重力デバイス異状なし!いけます!」

 

ニーナと筧の言葉に全員が歓喜の声を上げる。だが状況が不利であることは変わらないマグバレッジは号令を絶やさない。

 

「デブリに気をつけつつ両舷、前進、強速!」

 

「右舷より機体が急速に接近!」

 

「主砲放て!!」

 

目の前に迫っていたシナンジュを見てマグバレッジは心臓が跳ね回るのを知覚したがすぐに指示を出す。二番と四番砲塔の砲撃をシナンジュはシールドで防いだようだが装備は粉々に吹き飛んだ。

 

お返しとばかりにシナンジュの放ったビームは二番砲塔を破壊しデューカリオンに大きな振動が襲いかかる。

更に近づこうとするシナンジュだが流石にデューカリオンの濃い弾幕と背後から襲いかかるカタフラクトの攻撃に手を焼いたのか退いていくのだった。

 

ーーーー

 

「隊長!敵が多すぎますよ!!」

 

「こりゃジリ貧だぜ!」

 

コックピットをベルガ・ギロスのランスに潰され、盾と化しているグラニで敵弾を防ぐネールとケルラはゆっくりと後退する。

 

「リアはどうだ?」

 

「すいません…モノアイが右側に動きません」

 

高速で飛来した破片のせいで右側のモノアイレールが破損したらしく上手く稼働していなかった。

シナンジュもデューカリオンの主砲直撃時に左のマニピュレータが損傷し鈍くなっている。

 

「状況をこうまでひっくり返されるとは、流石だな」

 

「隊長?」

 

納得し嬉しそうに笑うフィアの姿に対し疑問を抱きつつリアはその言葉をすぐに飲み込む。隊長が我々に伝えないという事は我々に必要ないからだ。余計な詮索は無用。

 

「撤退する!ジュリとて無能ではない…この状況では信じるしかあるまい」

 

フィア単機ならまだしも手負いの部下たちが背中にいる状況ではジュリを助けることは難しい。逆に被害を増やすことになるかもしれない。

自分たちがフィアの足かせになっているのを実感したリアたちは唇を噛み締めながらも帰投コースに入るのだった。

 

「逃がすな!追え追えぇぇ!」

 

「たいちょ…」

 

「なっ!?」

 

勢いついた部隊がフィアたちを追撃しようと追いかけるがその部隊の先方3機が一発のビームに貫かれ爆散する。目の前で三枚抜きを見せ付けられた隊長はすぐに部隊を退かせるのだった。

 

「良い判断だ…」

 

素早い撤退指示にフィアは素直に褒めると親衛隊とは別ルートを移動する。その先にはスレインと伊奈帆がいる戦闘区域があった。

 

ーーーー

 

「クソッ!」

 

スレインは珍しく焦りを現していた。"仕込み"が来るのが間もなくだというのに追い込み切れていない。その原因は伊奈帆に追随しているアレイオンが原因だった。

 

未来予知のお陰で攻撃は当たらないが絶妙のタイミングで攻撃を寄越してくるせいで上手くスレイプニールに近づけなかった。

 

「このままでは…これは」

 

スレインの背後から接近する機影、それはザーツバルムのディオスクリアⅡだった。

 

「行け!我が眷属よ!」

 

ザーツバルムの声と共にディオスクリアⅡから射出されるロケットパンチはその色も相まって非常に見にくい。スレインとの戦闘に集中している2人にとってこれは致命的だった。

 

「伊奈帆!左に!!」

 

「え…」

 

真っ先に見つけたのは韻子、彼女はすぐに見つけると警告を発するが伊奈帆の回避行動が少し遅れた。しかし絶妙なバランス調整でそれを回避すると当たりを見渡す。

 

「ザーツバルム卿!」

 

「無事かスレイン?」

 

「ここは自分が!」

 

「無理をするな…オレンジ色、奴には借りがある」

 

高い技量を持つパイロット2人と戦っていたせいでタルシスは傷だらけだ。大きな傷こそないがそれでは先が思いやられる。

ロケットパンチを回収したザーツバルムは機体を前進させ伊奈帆たちに迫る。

 

「韻子、ここから離れて」

 

「なんで?私だって…」

 

突然の言葉に不満をあらわにする韻子だがモニターに映る伊奈帆の顔を見て黙り込み戦闘区域を離脱する軌道を取った。

 

「逃げたか…だが私の目的は貴様だけだ地球人!!」

 

二年前の借りを返さんと憤るザーツバルムだがそれに似た感情を伊奈帆も感じていた。

彼女の血まみれの姿が思い出される。後悔、悲嘆、自身に対する怒りに大きな喪失感。真っ暗な部屋に置いて行かれたような寂しさ…。

 

「もうあんな思いはたくさんだ…」

 

静かにだが溢れる思いを抱きながら伊奈帆はスレイプニールを加速させた。

 

ーーーー

 

「エネルギージョイント接続、ブレードフィールド展開…抜刀!」

 

「ッ!」

 

「覚悟しろ!地球人!!」

 

ディオスクリアⅡの手から展開された巨大なビームサーベルを振るい伊奈帆を狙う。振るわれたサーベルは巨大なデブリを真っ二つに両断する。

振るわれた間にも伊奈帆は的確にディオスクリアⅡの部位に弾丸を命中させるが全て掻き消された。

 

「バリアの隙間か?位置は変えさせて貰った」

 

前回の弱点である脇辺りの部位に当てても何も反応がない。見たところ隙間が確認できずに伊奈帆は周囲を見渡す。するとディオスクリアⅡの後ろに当たる部分に韻子のアレイオンがスタンバっていた。

 

(流石は韻子だ…)

 

「韻子、合わせて…」

 

「え、あ…うん」

 

何を合わせるかは分からないが取りあえず伊奈帆の行動をしっかり見る韻子。すると伊奈帆はスレイプニールの脚部ロケットエンジンを切り離した。

 

「右キックスラスター投棄よし、ファイヤー!」

 

上手くディオスクリアⅡの脇をすり抜け背後で爆発したロケットエンジンは巨大な爆発を起こし機体に襲いかかる。掻き消される爆発だがその一部だけ違う箇所があった。

 

「炎が吸い込まれない、バリアの隙間!」

 

バリアの隙間に向けて弾丸を数発叩き込むとディオスクリアⅡの巨体は大きく傾く。

その隙に伊奈帆はワイヤーを韻子のところまで伸ばすとそれを掴み離脱してくれる。

お互いの信頼と高い技量を合わせてしか出来ない神業に等しい所業だ。

 

「ッ!逃がすか、スレイン!」

 

伊奈帆を逃がさんとばかりにスレインと共に追撃に出ようとするザーツバルムの頭上から降り注いだのは高速に飛来する銃弾だった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

「なに!?」

 

「高速デブリの群れだ…三次元ドップラーレーダーに急速に接近する雲の反応があった…ありがとう韻子、あと少し遅れていたら僕も危なかった」

 

改めて中々、紙一重だと痛感した伊奈帆は心の底から礼を言うのだった。

 

ーーーー

 

「バカな、たかがデブリごときにこのディオスクリアが!」

 

「デブリではありません…銃弾です、開戦前に銃撃しておいたんです、地球の周回軌道を回ってちょうど今その辺りに着弾するように…元々は界塚伊奈帆を倒すための罠だったんです」

 

そう、元々は伊奈帆のための罠、ザーツバルムを殺すつもりなど全くなかった。しかし状況は大きく動いてしまった。ザーツバルムの息子となり権力への足掛かりを掴んでしまったこと。罠に掛ける機会に巡り会ってしまったこと。

 

―もう後には退けない

 

「スレイン!」

 

「黙れ!!」

 

少し悲しげに聞こえる声を遮るようにスレインは声を荒げた。

 

「僕が貴方に忠誠を誓っていると本当に思ったのですか、アセイラム姫殿下に引き金を引いた貴方を、僕が許すとでも本当に思ったのですか?」

 

「………」

 

「もうすぐ第二波が来ます…さようなら」

 

スレインの言葉には歓喜も冷酷さも含まれていなかった。ただ悲しんでいた…それだけだった。

 

「お父さん」

 

スレインのその言葉にザーツバルムは密かに笑った。意志を継ぐものはいる…マリーンを残していくのは心残りだがアイツはしっかりとしていけるだろう。

 

―まぁこう言う最後も中々…

 

「悪くない…」

 

その言葉と共に第二波の銃弾がディオスクリアⅡに降り注ぐ。

その瞬間、少しでも困りながらも穏やかに微笑むオルレインの姿がザーツバルムの目に映った。

 

―まだ少し早いであろう

 

―………

 

―そうだな、これからゆっくり話そう、生憎時間はあるようだしな

 

―………

 

―あぁ、分かっておる

 

穏やかな表情のザーツバルムはディオスクリアⅡの爆炎に包まれ炎の熱さを体感する前にその身を焼かれたのだった。

 

ーーーー

 

「ザーツバルム卿…」

 

「フィアさん…」

 

ディオスクリアⅡの爆発を見届けたスレインは背後にいたフィアの姿に気が付くと振り返り話しかける。

 

「やりましたよ、ついに姫様の仇を取りましたよ…」

 

「スレイン…お前……」

 

「どうしたんですか?フィアさん…顔色が悪いですよ?」

 

フィアは目の前に映る人物がスレインだと思えなかった。大きな何かを捨て去ったスレインの顔はとても悲しく狂気的なものだった。

 

ーーーー

 

「おのれ地球人め…」

 

トライデント基地攻防戦で前線に出向いたのはステイギス隊や親衛隊だけではない。多くのデブリを使った戦術により追い込まれた男爵もいた。

 

「これは、お痛ましい姿に…」

 

「親衛隊か?助かった…俺を助けろ」

 

「…」

 

「おい!聞いているのか!!」

 

損傷した機体での帰投が難しくリアに助けを求めたのはマリルシャンと共にフィアを馬鹿にしていた取り巻きの一人だった。

 

「はい…お連れしましょう…」

 

「ッ!」

 

コックピットを貫いたのはローゼン・ズールの右腕、確実に殺せるようにコックピット辺りを丁寧に潰し破壊する。

 

「地獄へね…」

 

潰し終えたカタフラクトを見て満足そうにするリアは生ゴミを見るような目で一瞥すると帰投コースに戻る。

 

「穢れたシミが私に口をきくな…」

 

隊長こそが至高、隊長こそが正義、隊長こそが全て…隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長…。

 

「あぁ…もう何もいらない」

 

恍惚としたリアの表情は実に嬉しそうだった。

 

 

 





かなり迷いましたがザーツバルム卿は残念ながらご退場ということになりました。個人的にはスレイン、殺す気ゼロだったと思うんですよ。たまたま機会が巡ってきただけで。
二期においてここは大きなターニングポイントだったので書けてよかったです。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!!



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第四十七星 終焉への始まり ―final to beginning―

 

月面基地に設置された謁見の間にはスレイン・トロイヤードの姿があった。彼の後ろには今は亡きザーツバルム卿の遺影が大きく映し出されていた。

 

「私はこの日、二人目の父を失った…共にヴァース帝国の繁栄に尽くした偉大な人物だった」

 

「ザーツバルム卿…」

 

「……」

 

月面基地の留守を任されていたマリーンはショックのあまり寝込んでしまい一言で言えば最悪の状態だ。そんな彼女の傍らにはフィアの姿があった。

彼女の主君は目覚めぬ身、気持ちは痛いほど分かったかるだ。

 

「私は今ここに、父たちの意志を継ぎ…ヴァース帝国の更なる隆興のため戦う事を決意する」

 

ザーツバルム家は養子であるスレイン・トロイヤードではなくスレイン・ザーツバルム・トロイヤード伯爵が継ぐこととなった。

 

「ヴァース軌道騎士の諸侯よ、今はお互いに争っている時ではない…崇高なるヴァース帝国の騎士として手を取り合い地球の反抗勢力を殲滅しようではないか!」

 

それと同時にスレインに月面基地の所有権とアセイラム姫に関する全権が移動しフィアたち親衛隊もトロイヤード伯爵の配下として位置付けられた。

 

ーーーー

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下の名の下に、我らヴァース帝国に歯向かう地球」

 

「隊長…」

 

その様子をデューカリオンの独房で聞いていたジュリは敬愛するフィアを心配するのだった。

 

「アセイラム姫殿下は月面基地にて時を待っておられる!」

 

「やっぱり、生きているんだ…」

 

デューカリオンの食堂でスレインの演説を聞いていた伊奈帆は静かに呟く。確信が真実へと変わった瞬間、少し…ほんの少しだけ伊奈帆の顔が険しくなる。それは幼馴染みの韻子たちにも分からない僅かな物だった。

 

ーーーー

 

「ん…」

 

「気が付いたか…」

 

目を覚ましたマリーンはフィアをしっかり見つめるとゆっくり体を起こす。

 

「あぁ、最悪な気分だ…お前も、こんな気持ちだったんだな」

 

「あぁ、だが私はまだ希望がある」

 

死んだわけではない、目を覚まさないだけだ。1年半も待ち続けている。それは死と変わらないのではないか、そんな言葉をマリーンは飲み込む。

 

「まさか、スレインがザーツバルム卿を継ぐとはな…私は子爵としての家柄かあるから無理だったが…」

 

「そうだな…」

 

マリーンの言葉に思い起こされるのはスレインの狂った笑顔。何も守れない…力を手にしても何も出来なかった。主君を救うことさえも尊敬してくれた後輩を見守るのこさえも。

フィアは無意識に腰に吊した拳銃を触る。記憶にはないが伊奈帆のくれたこの銃は彼女にとって御守り以上の物だ。

 

「私は失礼する…」

 

マリーンが目を覚ました以上、フィアがここに居る必要も無い。それに一人になりたいだろうから…。

静かに去っていたフィアを見届けたマリーンは一拍おいて視界が滲むのを感じた。頬を伝わり手の甲に落ちる雫を彼女は理解できなかった。

 

「何故先に行かれたのですか…ザーツバルム卿」

 

覚悟はしていた、泣かない自身はあった。だが今流れる物はなに?幼い頃から自身を極限まで律してきたマリーンは涙など流したことはなかった。否、流さなかった。

 

「うぅ…」

 

今日、マリーン・クウェルは人生で初めて涙を流したのだった。

 

ーーーー

 

「では捕虜は我々が移送すると…」

 

「そうだ、君たちに向かって貰うアデン港の基地にて捕虜を受け渡し、本部に移送する」

 

デューカリオン、ブリッジでは艦長であるマグバレッジと本部のハッキネン大佐が話をしていた。

子供とはいえ相手はアセイラム姫直属の親衛隊、その価値は計り知れない。

 

「くれぐれも自決などと言う結果にならんようにな」

 

「分かっております…」

 

指示を終えたハッキネンは通信を切る。真っ暗になった画面を見続けるマグバレッジは独房にいるであろう少年のことを考えていた。

 

ーー

 

デューカリオンの仮設独房、親衛隊の一人であるジュリが収監されている部屋に訪れたのは地球軍のエース、界塚伊奈帆だった。

 

「やあ…」

 

「……」

 

伊奈帆の声が虚しく響くが彼は気にせずに言葉を続ける。先程の不見咲による軽い尋問にも黙り込んでいたジュリは伊奈帆を睨みつけていたがある部分に注目した。

 

「これが気になる?」

 

伊奈帆はそれに気づき腰に吊してあった銀色の拳銃を見せ付けるように体を動かす。

 

「これは僕の戦友が貸してくれたものなんだ、でも僕はまだ返せずにいる…」

 

「……」

 

「名前はフィア、フィア・エルスート」

 

「ッ!!」

 

自身の敬愛する者の名前を知らないはずの地球人から発せられジュリは思わず動揺した。それは端から見ても明らかだった。

 

「何故その名前を…」

 

「やっと話したね…」

 

「ッ!」

 

思わず口にしてしまったのに気づき慌てて口を閉ざすがジュリの疑問は尽きない。まるで隊長を知っているような口ぶりに動揺を抑えられなかった。

ヴァース帝国への忠義を忘れてジュリは質問を続けた。

 

「なぜ隊長の名を!隊長の名はごく一部しか知らぬはず!!」

 

「話の始まりは二年前、セラムさ…アセイラム姫が暗殺されたことから始まった…」

 

ーー

 

「そんな事が…」

 

伊奈帆の話に思わず聞き惚れていたジュリは素直な感想を漏らした。実に現実味に溢れた話だった、自身が知る隊長と全くずれない行動だ。

 

「………」

 

「もうすぐこの船は地球に降りる…それまでゆっくり考えて…」

 

「……」

 

伊奈帆はそう言うと静かにその場を立ち去る。それを見届けたジュリは思案する。界塚伊奈帆と名乗る人物が行った質問はただ一つ。"フィアとアセイラム姫の置かれている状況が知りたい"明らかに個人的な質問。

 

「奴の話は本当に隊長のことを思っていた…」

 

話の中で隊長であるフィアの名は多く出てきた。だがそのたびに彼はどことなく苦しそうな顔をする。

 

「気のせいか、あるいは…」

 

奴の話が本当か…。今は亡きザーツバルム卿が暗殺の犯人であるというのはどうでもいい。姫様には希望が残り隊長はご健在なのだから。だからこそ警戒する、暗殺者を受け継いだスレイン・トロイヤードを…。

 

ーーーー

 

デューカリオンカタフラクトハンガー、そこには鹵獲されたベルガ・ギロスが固定され解体されていた。

 

「これはすげぇな…」

 

次々と上がってくる報告を見てカームは感嘆の声を漏らす。基本設計は地球のカタフラクトと同じだが何より注目すべきはこの関節部だろう。

 

「強固かつ柔軟に動かせるようにすげぇ工夫が施されてる、それに整備も完璧に仕上げてるなぁ」

 

相手の整備主任の腕を認めざるを得ないこの出来に尊敬すら覚える。

 

「フィアの機体もこいつが仕上げてるんだろうな…」

 

ーーーー

 

「クショイ!」

 

「機付き長、どうしました?」

 

「なんか褒められた気がする!」

 

「はいはい…」

 

「流さないで~」

 

シナンジュの機付き長であるフェイン・クラウスはマニピュレータの交換作業中に大きなくしゃみをするが誰も気にとめてくれない。これが人望か、なんてバカな考えを抱きつつ作業を進める。

 

「たった2戦でこんなにやられるなんて…相手も必死だねぇ」

 

手元にあったドリンクを飲みつつ並ぶベルガ・ギロスの列を見やる。機体の間に開くスペースはやけに広く感じるのは自分だけではないだろう。

 

「馴れないよねぇ、こう言うのはさ…」

 

フェインは手元のドリンクを掲げて献杯する。自身の悔やみも悲しみも全てが押し殺して再びドリンクを飲む。そんなフェインの行動を見て他の者達もそれに習い献杯するのだった。

 

ーーーー

 

月面基地の廊下をフィアはゆっくりと歩いていた。やけに長く、静かに感じる廊下の向こう側から伯爵服を纏ったスレインが一人で歩いてきた。

 

「スレイン…いや、トロイヤード伯爵」

 

「……」

 

やけに冷たくなった彼の視線に悲しさを感じながらもフィアはスレインと向かい合いお互いは止まらずにすれ違う。

 

「……」

 

「はい…」

 

スレインはその鉄仮面をほんの少しだけ崩すと静かに、誰にも聞かれないであろう声で返事をする。そんな様子をフィアは少し微笑んで立ち去るのだった。

 

(辛かったら、いつでも来い…)

 

なにも変わらない、いつだって優しい彼女にスレインは思わず声を張り上げたくなるが必死に抑える。

フィアはあの時のスレインの姿が頭から離れなかった、だからこそ彼を助けなければと思った。

人を、ましては心を支える方法なんて彼女は知らない。だからこそ彼女はその言葉を残した。

 

自分を救った主君がそうしてくれたように…。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
地球軍に掴まったジュリがどのような影響をもたらすのか?フィア含め親衛隊がどう動くのか?伊奈帆はフィアと会えるのか?
大きなターニングポイントを終えてついに物語は最終章へ…。
個人的にはフィアとスレインの絡みをもう少ししていきたいですね。伊奈帆含めスレインも大好きなキャラなので。
では最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第四十八革 古傷 -old wound-

 

 

サウジアラビア、アデン基地。港に建設された基地はそれなりの規模を誇る基地であり落下した揚陸城付近の基地でありながら存続している珍しい基地だ。

 

その揚陸城の偵察を行ってきた部隊が海上の強襲揚陸艦に帰投していた。

 

「全機帰投完了…っと、界塚准尉あとで艦長室に来てくれ、呼ばれている」

 

偵察として趣いていた部隊の隊長は鞠戸孝一郎は昔から同部隊の界塚ユキを呼び出し愛機のアレイオンから降りる。

 

「デューカリオン絡みだ、地球に戻ってくるらしい…」

 

「……」

 

デューカリオン、その単語を聞いたユキはほんの少しだけ悲しそうな顔をするのだった。

 

ーーーー

 

宇宙、トライデント基地に停泊しているデューカリオンのハンガーでは損傷したスレイプニールの調整を伊奈帆とカーム、韻子が行っていた。

 

「捕虜から何か聞けたの?」

 

「なにも…でも次は話してくれる気がする…」

 

「へぇ、そこまで行ってるのか」

 

3人の会話の内容は先の戦いでデューカリオンに運悪く擱座した機体のパイロットのことだった。

年は自分達より下であることは間違いないと言うのに親衛隊のメンバーだったというのは衝撃的だった。

 

「フィアのこと、なにか分かれば良いんだがな…」

 

「うん…」

 

「……」

 

カームの言葉に素直に同意する伊奈帆、それを見て韻子は複雑な気持ちになる。先の戦いで伊奈帆の信頼は痛いほど伝わった。それはいい、フィアの代わりになるつもりは無いが少しでも彼の手助けが出来るようになれたという証明なのだから。

 

(私は見てくれないもんね…伊奈帆は……)

 

もっと深いところであの二人は繋がっている。そんな気がしている。もちろん、伊奈帆の事については諦めるつもりなど毛頭にない。だからこそ、現れたフィアの影に対して素直に喜べない自分がいたのだ。

そんな自身を嫌悪しつつあくまでも笑顔で話を続ける韻子、そんな様子をカームは横目で黙って見守るのだった。

 

《全艦に告ぐ、UTC1300通達通り本艦は地球降下シークエンスに移行する》

 

艦内にマグバレッジの声が響く中、伊奈帆は黙々とスレイプニールの計器を操作するのだった。

 

ーーーー

 

地球、艦長室に呼ばれたユキと鞠戸は来客用の椅子に腰掛けると目の前に座る艦長を見る。

艦長は自身が淹れた紅茶を二人に差し出すと小さな小瓶も二人の前に静かに置いた。

 

「カルバトスだが」

 

「あ…」

 

「いえ、結構です…」

 

カルバトス、簡単に言えば酒だ。紅茶のアクセントとして入れるのであろうそのお酒を進められ慌てて鞠戸の方を見やるユキだが即刻断った鞠戸を見て安堵する。

 

「で、デューカリオンの護衛というのは?」

 

「あくまで補給と整備の一時的な物だがね、先の戦いで大きく損傷したらしい…指定の基地がここからさほど離れていないと言う事でもある」

 

主砲を2門大破させ、艦艇部にも穴が空いている。無重力下では本格的な修復を行えないというのもあって付近のアデン基地が選ばれたわけだ。

 

「まんざら、無縁の艦でもないんだろう?乗艦する予定だったのを断ったそうじゃないか」

 

しっとりと言う艦長の言葉には他意など全く含まれていない、純粋な疑問だ。

 

「あの艦にいると、無駄に古傷を思い出すんで…」

 

古傷、そのフレーズに反応したのは鞠戸だけでは無い。その横にいたユキもだった。大切な家族を護ってあげられなかった後悔、頼ってばかりだった騎士。

あの狼のような冷酷さと暖炉の炎ような暖かさを兼ね備えた紅い瞳が彼女の脳裏をかすめる。

 

「弟さんも乗っているそうだね、だいぶ活躍しているそうじゃないか…」

 

「ええ、まぁ…いただいても?」

 

「もちろんだとも」

 

ユキは艦長の承諾を得るとカルバトスを数滴、紅茶に落とすと一気に飲み干す。胸の内かは出てきそうな感情を呑み込むように。それを横目で見ていた鞠戸は静かに紅茶を飲むのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、展望室のようなレムリナの部屋には伯爵服を纏ったスレインと側近のハークライトがレムリナと話していた。

 

「その後の諸侯の動きはどうなのですか?」

 

「表だって反発を示している者はいないと聞いております、ハークライトの見立てですが」

 

「スレインもそうお思いで?」

 

「伯爵の喪が明けぬ内に異を唱えるのは流石に不謹慎、そう思って当面、黙っているのに過ぎません」

 

ヴァース帝国が下卑すべき存在が伯爵の服を纏っている。他の伯爵からしてみれば耐え難い屈辱だろう。そんな事、スレインが一番よく分かっている。

 

「ザーツバルム卿の死がヴァース帝国にとって多大なる損失になるのは紛う事なき事実、私は父である二代目皇帝ギルゼリアが犯したあやまちによる娘、父の犯したもう一つの罪…ヘブンズ・フォールによって父は他界しこの月すら割れた…」

 

ヘブンズ・フォール、これさえ無ければ何も起こらなかった。ザーツバルム卿がオルレインを失うことも、マリーンが戦闘狂になることも、伊奈帆とユキが両親を失うことも。

 

「ザーツバルム卿は身寄りの無い私を見つけ忠誠を尽くしてくれました、心の奥では何を考えていたか分かりませんが…しかしそれでいいのです」

 

だがヘブンズ・フォールが起きなければ伊奈帆はフィアに出会わなかった、マリーンはザーツバルムと出会わなかった、レムリナはスレインと出会うことは無かっただろう。

 

「権謀術数を張り巡らす器量も無き者は却って信じられません、これからは妬みや嫉みを嫌でも買わざるを得ませんね、スレイン」

 

改めて前に立つスレインの顔を見やりレムリナはうっすらと笑う。

 

「ザーツバルム卿の全ての特権、アセイラム姫の後見という立場までも貴方は受け継いだのですから」

 

「覚悟しております、されど…妬まれる甲斐のある重責」

 

「その服、とてもよく似合っていますよ…忘れないでくださいね、今あなたが守らねばならぬ姫は目の前にいると言うことを…」

 

「重々、承知しております…」

 

そんな二人の会話を胃を痛くして聞いていたのはアセイラム姫親衛隊のケルラとネールだった。二人はこの部屋の警護のため部屋の出入り口の両脇に静かに立っていたのだ。

 

(ネールさん、ここから出たいです…)

 

(我慢しろ、私だってこう言うのは苦手なんだよ)

 

最年少のケルラは当然のこと、気の強いネールでさえこの空気は嫌な物だ。なぜか胃が痛くなってくる。

そんな二人は自身の尊敬するフィアを思い、耐えるのだった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国、本星である火星にフィアの姿があった。月面基地の謁見の間を使っているのだ。あたかもそこにいるようだがその考えはあながち間違ってはいない。

ヘブンズ・フォールにて消滅したゲートの技術を応用して造られた一種のテレポーテーションの様なものである。本人をヴァース帝国本星まで飛ばせるのだがその継続時間は短く時間が切れたら元の場所に元通りだ。

 

「これは、エルスート卿ですか?」

 

「あ、クラ…いえ、クルーテオ伯爵」

 

レガリア皇帝の謁見に向かっていたフィアは場内にいたクランカインと会った。

 

「この度の伯爵家襲名、おめでとうございます」

 

「よしてください、私はまだまだ未熟な身…クランカインで結構です」

 

「ではクランカイン伯爵で…」

 

「それでお願いします」

 

クランカインは伯爵家の中でも珍しい部類で下層階級だろうが気にしない。

実力があれば相応の態度と礼儀を取るべきという先代クルーテオ伯爵の教育の賜物だろう。

 

「しかし二年前の失踪の時はどうなるかと思いましたが、流石はエルスート卿」

 

「いえ、私は助けられてばかりの半端者です」

 

トライデント基地攻防戦の折に失ったものの断片が記憶にハッキリと残っている。それだけ見ても自身の未熟さを痛感してしまっていたフィアであった。

 

「弛まぬ努力、飽くなき向上心に自身を律する気構え、その姿は実に美しい…アセイラム姫もそんな貴方を見て強くあろうとしたのでしょう」

 

「ッ!クランカイン伯爵!?」

 

両肩に添えられた肩に困惑するフィアに対しクランカインは静かに顔を寄せる。

地球降下後にだいぶ丸くなったフィアにとって体を停止させるのに充分な距離まで近づいた。まぁ、相手が伯爵というのもあるが。

 

「お静かに…」

 

「……」

 

二つの影が重なるのはそう時間は掛からなかった。

 

ーーーー

 

「なんか金髪をぶっ飛ばさなきゃいけない気がする…」

 

「怖いこと言うなよ伊奈帆…」

 

そんな状況を伊奈帆レーダーはしっかりと察知していたのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
ついにユキ&鞠戸の登場でございました。次回は当然の如くシレーンとマズゥールカ卿の登場ですね。
そして早速登場したクランカインとその行動の訳とは?
次回にご期待して頂ければ幸いです。まぁ、一期に増してフィアが丸くなっている分、可愛いフィアも出していきたいですねぇ。(主に伊奈帆関係で)
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第四十九星 集結 ―Assemble―

 

 

「皇帝陛下…」

 

ヴァース帝国本星、そこには明らかに前より悪化していたレイレガリアの姿があった。

 

「エルスート卿か…久しいな……」

 

「ハッ!」

 

場内にてクランカインはフィアの耳元にささやいたのはレイレガリア皇帝の体調悪化を知らせる物だった。場内でもそれを知っているのはほとんどいない。

 

「ザーツバルム卿の死は実に痛手だ…その後任のトロイヤードは私の知る子だが今は分からぬ…」

 

「つまり、我々親衛隊にトロイヤード卿の監視をせよと」

 

「うむ…」

 

突然のしかも一人だけという異例な条件による謁見の理由にフィアは納得すると同時にレイレガリアの洞察力の高さに驚嘆する。

まさかこれ程早く手を回してくるとは思わなかったからだ。

 

「クルーテオ伯爵には既に出立をするように言ってある…直に地球へ向かうだろう……」

 

「それまではお前たちの仕事だ…くれぐれも用心せよ、この戦いはこれ以上長引かせてはならん」

 

「ハッ!お任せ下さい!!」

 

凛とした声で答えるフィア、それと同時にフィアの体は光る粒子に包まれ姿を消した。それを見届けたレイレガリアは真底疲れたように息を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

サウジアラビアに着陸したマズゥールカ卿、揚陸城。

その司令室にいたマズゥールカはモニター越しにマリルシャン卿とバルークルス卿と話していた。

 

「どこの馬の骨とも分からぬ者に跡目を継がせた挙げ句、非業の死を遂げるとは…ザーツバルム卿も運が悪い」

 

「酔狂のむくいかもしれませぬな、存外寝首を掻かれたのかも…」

 

「裏切られたとでも言うのですか?ザーツバルム卿が…」

 

ザーツバルムは人徳においては優れた人物だ。他の騎士達も信頼していた節がある。まさかそんなザーツバルムが寝首を掻かれたなど誰が考えようか。

 

「よせ!確たる証左がなければただの流言としか聞こえん」

 

「とにかく、騎士の品格にも関わる問題…これ以上ヤツをのさばらせておくわけにはいきません」

 

マリルシャンの軽率な物言いに流石のバルークルスも声を上げる。それによって自身の失言を感じたマリルシャンは本題へと話題を戻す。

 

「マズゥールカ卿、貴公が地球資源の確保を優先とするが為に破壊的な侵略を極力避けていることは重々承知している…いや、その事を責めようと言うのではない」

 

「だが今は地球侵攻を強引にも推し進める時、37家門と謳われし騎士団の威光も今は翳りを増すばかり…勢力争いは脇に置いてこれからは協力し合う派閥も必要かと」

 

「マズゥールカ卿、どう思われる?」

 

だいぶ含みのあるバルークルスの言い方にマズゥールカは顔を険しくするのだった。

 

ーーーー

 

鞠戸大尉所属艦、医務室。そこには共に赴任してきた耶賀頼 蒼真はいつも通り鞠戸のメンタルケアをしていた。

 

「良好、特に気になる点はないですね」

 

「そう言ってるだろう、そろそろ楽にして欲しいもんだな」

 

「ところでどうです?戦況は?もっと一気呵成に来るんじゃないかと思っていました…和睦の可能性は限りなく低くなった訳ですし」

 

「火星だって一枚岩じゃない、単純に地球憎しで攻撃してくるヤツもいるだろうが…資源としての確保を優先したい者もいる」

 

耶賀頼の言葉に鞠戸は一応反論してまみるもその考えはあながち間違っていない。

 

「あえて抑制していると言う事ですか?でも…」

 

一息間を置く耶賀頼に若干、疑問を抱きながらも鞠戸は言葉の続きを待つ。

 

「まさか…彼らも主力のカタフラクトがああも簡単に倒されるとは夢にも思っていなかったんじゃないですか?思惑が外れて警戒モードに入っている」

 

「かもな…だがそのきっかけを作ったのは一般の男子高校生と火星の騎士…」

 

そう呟いた鞠戸はフィアのことを思い出す。同じ艦にいたとはいえ、話す機会など余りなかったしまともに話したのは揚陸城降下間際のほんの一瞬だけ。

だが姫様を護るために同胞に引き金を引いた彼女はどれほど辛かったか、想像できない。

 

「伊奈帆くんにフィアちゃん…ユキさんもそうですがあの子たちも気が気じゃないでしょうね」

 

耶賀頼は韻子たちの心象を考えその顔をほんの少しだけ悲しみに染める。端からだが彼女たちが仲良くしていたのは見て取れた。だからこそ、思う…あの年でこの様な経験、下手すれば一生もののトラウマになり得る物だと。

 

「界塚准尉はアイツを軍から外したくて再三、上に頼んでいたようだが…」

 

「それ、ただの噂じゃないんですか?あまりしつこいから疎んじられてここに配属されたって…」

 

鞠戸、ユキは言ってみれば高い実力を持っている。それは二年前の怒濤の戦いをくぐり抜けた事で実証されている。鞠戸に関しては初戦のニロケラスのみだがそれ相手にライエを助けるための時間稼ぎを行った点を見れば明らかだ。

 

ビー!ビー!

 

そんな時、艦内に敵接近を告げる警告音が鳴り響いた、二年ぶりの警告音に鞠戸は目を見開くのだった。

 

ーーーー

 

スカイキャリアから降り立ったマズゥールカ卿のカタフラクト、シレーンはモノアイの様な物を動かし周囲を確認する。

 

「東6キロに市街地がある、そちらに向かわせないように足止めをする…各機、射程距離で待機、命令と共に攻撃開始」

 

「「「了解!」」」

 

地球の砂漠化により砂に埋まってしまった街に辿り着いた。鞠戸率いるクライスデール小隊はシレーンの姿を捉えた。

 

「攻撃開始!」

 

建物を盾にしつつ4機のアレイオンはマシンガンで攻撃を開始する。弾丸は吸収される訳でもなく装甲に着弾し火花を散らす。

 

「敵、カタフラクト進行中!」

 

「攻撃は効いている!」

 

シレーンの背部ユニットが稼働し装備された球体が浮遊を開始、ゆっくりと速度を上げて機体周囲を回転する。

砂塵が舞い周囲にあった建物の瓦礫を呑み込み遥か上空へと上げていく。

 

「銃弾が!?」

 

「竜巻?」

 

「いえ…風速、風量、気圧にも大きな変化は…」

 

一見すると風の壁に銃弾が阻まれ弾かれる。それと同時に機体がきしむ音が鳴り響きその場に居た全員に激しい頭痛が襲いかかる。

 

「あ、頭が…締め付けられる!」

 

「バルークルス卿、軌道騎士の名と爵位に恥じぬ我が戦いぶり、とくとご覧あれ!」

 

「クライスデール22!?」

 

襲いかかる頭痛に耐えきれなくなったアレイオンは早々に倒そうと距離を詰めて強攻策にである。だがアレイオンの右腕が簡単に引きちぎられ舞い上げられる。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「ど…どうにか」

 

たまらず後退したクライスデール22はなんとか無事だったが損傷が酷い。

 

「大尉、加速度計を見てください…」

 

「ん?」

 

ユキの言葉にアレイオンの計器を操作する鞠戸は異常な数値を示す計器を発見した。

 

「重力、ヤツは重力を操っていると言うのか…」

 

「加速度計が異常な振幅を示しています、重力帯と重積帯が一対となってあの機体の周囲を高速で回転し…それ……によっ…て」

 

襲いかかる頭痛に意識を刈り取られそうになりながらもこの現象を突き止めたユキ、その相手の能力に鞠戸は驚きを隠せない。

 

「重力波、近づけば重積帯の振動で物体はちぎられ攻撃は逸らされるって訳か…」

 

「じゃあ、頭に直接響くこの音も…」

 

「恐らくな…」

 

「この星の民に恨みはないが、これもヴァースの未来のため!」

 

マズゥールカは心を鬼にして機体を前進させアレイオン隊に襲いかかる。

グレネードを放つが重力波によって砕かれて途中で爆散する。

 

「む、無理です…届く前に砕けて……」

 

「ダメージは与えられなくてもヤツを引きつける効果はある」

 

「市街地から更に10キロ、確実に誘導は出来ています」

 

「あと南へ2キロ、そこまでヤツを誘導するんだ…」

 

先程、ユキに調べて貰った奥の手を使うためにはもう少し誘導する必要がある。そんな時、アレイオン2機が突然、動きを止めてしまう。

 

「どうした!?動きを止めるな!クライスデール22、クライスデール33!!」

 

「…くそ……界塚、ヤツをひきつける二人を回収してくれ」

 

「大尉?」

 

一人囮を買って出た鞠戸に対してユキはその名を口にするしかできなかった。

 

「来やがれツイスター野郎!」

 

「無意味だ、なぜそんな事をする?その行為になんの価値がある?」

 

グレネードを乱射する鞠戸の姿にマズゥールカは思わず疑問を口にする。自ら囮に出てがむしゃらに泥臭く戦う姿は理解できないなかった。

 

「やべーな、近すぎる…距離をとって」

 

一歩、一歩…その間がとても長く感じる。

 

「もう少し、もう少し来るんだ…もっと……」

 

意識が遠退くのを感じていると目の前に広がった光景は馴染みのある戦場だった。親友を失った戦場、そびえ立つ赤いカタフラクト。

 

「くそぉ…どうあがいても逃げられないのか!この記憶からぁ!!」

 

魂の叫びが鞠戸の意識を覚醒させがむしゃらに引き金を引く。それと同時に上空から高速に飛来した砲弾が竜巻の中にいたシレーンの片腕を吹き飛ばした。

 

「誘導ありがとうございます、鞠戸大尉」

 

「レーザー通信?」

 

「ユキ姉、しばらく」

 

「ナオ君?」

 

聞き慣れた淡々とした口調、その声は自身の弟である。界塚伊奈帆のものだった。

 

「ヤツの重力波は水平方向に変動する波動、垂直方向の重力波は積分されていて影響がなくなる、誤差修正…コンマ二度パーセコンド、ロックオン」

 

「撃て!」

 

スレイプニールをセンサー代わりにデューカリオンの主砲が火を噴いた。

大気圏外からの砲弾は正確にシレーンの腕を吹き飛ばし機能を停止させる。

 

「狙える空域を外れました…お手伝いできるのはここまでのようです」

 

「いや、充分だ界塚弟」

 

倒れたシレーンに銃口を向け立ちあがれないように足を乗せる。

 

(デューカリオンと連絡が取れたのが幸いだった…いや、アイツがいたからか?)

 

鞠戸はそんな思いを今は押し込め足下にいるシレーンに警戒するのだった。

 

ーーーー

 

地球軌道、デブリ帯には先程大きな戦いを終えた地球軍の衛星基地、トライデント基地がひっそりと存在していた。

 

「なかなか捗りませんね、ゴミ掃除…シャトルの出入りが一苦労ですよ」

 

「TK-67・68、誘導軌道に入ります…」

 

「あれだけの戦いだったからなぁ、散らばったデブリの数も半端じゃない」

 

戦いを生き残り、その余韻に浸るのは生者の特権だ。ゆっくりと作業を進めていた各員の耳に届いたのは敵機の接近警報だ。

 

「レーダーに感あり、敵味方識別信号応答無し!申し訳ありません、デブリに紛れていたため補足が遅れました!」

 

「っ!1機だけだと?」

 

基地に残っているミサイルハッチ、機銃が一斉に火を噴き不明機を狙うが白亜の機体は速度を落とさずに接近する。

 

「たかが1機に…まさか!マリネロスの悪夢か!」

 

ついに来た、来てしまった。死神が死そのものが我々を睨んでいるようだ。

 

「総員!基地を放棄せ……」

 

司令の言葉は最後まで紡がれずに襲いかかる爆炎に包まれたのだった。

 

ーーーー

 

サウジアラビア、アデン基地。そこに寄港したデューカリオンを迎えたのはかつてのデューカリオンメンバーであるユキだった。

 

「ユキさん!お久し振りです!」

 

嬉しそうに駆け寄ってきた韻子とハイタッチを交わすユキは笑いながらそれを迎えた。

 

「もー、いきなりいなくなっちゃうんですもん」

 

「ごめんね、大人の事情ってヤツでね」

 

「また一緒に戦えるんですよね!」

 

頼もしいユキと供に戦える。その事に嬉しさ全開で喜ぶ韻子を見てユキも嬉しくなってくる。

 

「みんな頑張っているようね」

 

「ユキさんもお変わりなく」

 

ユキはニーナ、カームに韻子と仲良く談笑しているとつなぎ姿のライエを見つけた。

 

「ライエちゃん、どう…居心地は?」

 

「悪くない…」

 

「…よかった」

 

ライエの笑顔を見れてユキは安堵の表情を見せる。その姿は母親のような優しさを持っていた。

 

「伊奈帆も元気ですよ!」

 

「そうみたいね…」

 

「もう会ったんですか?」

 

「声で挨拶しただけ…向こうはそれで十分だと思っているのかもしれないけど…」

 

小さく呟かれたその声と共にユキの表情に一瞬だけかげりが見えたのだった。

 

ーーーー

 

「そうですか…またあの記憶が」

 

「どうにも逃れられないようになっているらしい」

 

その話を聞いていた耶賀頼は少し思案すると一つの答えを導き出す。

 

「あえて甦ったものとは思いませんか?薄れそうな意識の中、自らが選んだショック療法…」

 

「バカな…」

 

耶賀頼の言葉に笑い飛ばす鞠戸だが今思えばそんな気がしなくもない。

 

「あの悲劇を大尉は…もしかしたら自分が戦う理由にしているのかもしれません」

 

「克服したということなのか?」

 

「少なくとも貴方は戦いに勝利した…その事実だけは受け入れて構わないでしょう」

 

医療用の薬品の棚の奥から取り出したの一本のビン。それは鞠戸が愛用していた酒だった。

 

「俺のだ!そんなとこに隠していたのか?」

 

「過去に向き合いつつあるなら酒を飲む意味だってきっと変わってくる…」

 

「消毒してるんだろうなぁ、それ…」

 

注がれた酒を見やり口にする。二年前は現実から逃れるために飲んでいた酒。あの頃の酒はいくら飲んでも味なんてなんにも感じなかった。

だがこの酒は本当に美味いと感じた、久しぶりの酒だからか、それとも心が軽くなったからなのか…それは鞠戸本人すらよく分かっていないだろう。

 

「大尉!大変です!トライデント基地が!!」

 

そんな時に届いたのはまさかの事態だった。

 

ーーーー

 

デューカリオン、ブリーフィングルーム。そこにはデューカリオンメンバーの主要人物が集まり先程届いた悲報を確認していた。

 

「襲撃時の録画っす、シャトルがドッキングベイに入った直後を狙われて搭載した爆薬弾薬が一気に…」

 

「最悪のタイミング…」

 

「いえ、狙ってきたのだと思います」

 

「狙って?」

 

裕太郎言葉を返すように発せられた伊奈帆の言葉にその場に居た全員が注目する。

 

「派手に交えたばかりだしシャトルが来ることは十分に予測できた…僕ら援軍が離れた事も多分確認済みでしょう、勝算があるから1機で攻めてきたんです」

 

「でも、弾薬補給の運行状況はトップシークレットのはず」

 

「認識番号を変えたり、補給経路を変えたりやってくことはそれぐらいです…暗号解析とデータの洗い出しを入念に行えば割り出せる…多分それが出来る相手です」

 

伊奈帆の言葉に全員が言葉を失い黙り込んでしまうのだった。

 

ーー

 

全員がブリーフィングルームから出て行く中、マグバレッジは自身を見据える伊奈帆の姿を見てその場に留まった。

 

「すいません」

 

「構いません、それで用件は?」

 

「先ほどの録画映像を貰いたいのですが…」

 

「これですね」

 

マグバレッジが片手で掲げたのはデータ端末、だが中々渡さないマグバレッジに対して伊奈帆は思わず首をかしげる。

 

「犯人が彼女か調べたいのですね?」

 

「はい…」

 

「それがどのような意味を貴方にもたらすか分かっているのですか?」

 

マグバレッジの言葉に伊奈帆ほんの少しだけ目を細めるのだった。

 

 

 





今回は基本的にあまり原作と変わっておりません。次回はフィアちゃんもしっかりと登場します。
捕まったマズゥールカとジュリはどう影響していくのか?最後に放ったマグバレッジの言葉の意味とは?
では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第五十星 覚悟と不安 -Preparedness and anxiety-

「犯人が彼女か調べたいのですね?」

 

「はい…」

 

「それがどのような意味を貴方にもたらすか分かっているのですか?」

 

マグバレッジの言葉に伊奈帆ほんの少しだけ目を細める。伊奈帆にしては珍しく完全に理解し得れないと言う事ことだ。

 

「もし貴方が推測したとおり彼女が記憶障害に陥っているのなら我々には希望があります…二年前と同様、彼女と共闘し得るという希望が…」

 

二年前、あのアセイラム姫を見ればこの状況は違和感しか残らない。何かしらの事態が向こうで起きているのは確信を持っている。なら最大の要点となるのは彼女の騎士であるフィアだ。

 

「確かにフィアは大切でしょうね、彼女がいればセラムさんも動きやすくなる」

 

「しかし彼女は万全ではない、記憶障害にはトリガーがある、それは軽いものもあれば重いものもある、あるいは存在しないかもしれません」

 

「……」

 

マグバレッジの言葉に流石の伊奈帆も言葉を失ってしまった。トリガーが存在しない…その可能性は考えなかった、"考えようとしなかった"。

 

「それを我々が確認できるのがこのデータだと、私は思っています。記憶障害のトリガーは貴方たちであることは間違いありません、それと接触した戦いのすぐ後にこのデューカリオンを襲い、トライデント基地を墜としたのだとしたら?」

 

余りにも冷静すぎる。精神的に余裕がなくなっているはずのフィアの行える行動とは思えない。だとしたら?二年前のあのことは全て…。

 

「無かったことになる…フィア・エルスートは貴方の知るフィア・エルスートではなくなってしまうと言うことです」

 

「……」

 

マグバレッジの宣告は伊奈帆にとってとても冷たく感じられたのだった。

 

ーーーー

 

アデン基地、地下牢。連行されるマズゥールカ卿は先に牢屋にいた少女を見つけた。

 

「貴方は…親衛隊の」

 

「マズゥールカ卿…」

 

ーー

 

二人は地下牢に閉じこめられ壁越しに背中を合わせながら話をしていた。

 

「そうですか…エルスート卿は地球でそんなことを……」

 

「信じて頂けるのですか?」

 

「親衛隊である貴方が言うのですから間違いないでしょう…しかし、どうやって確証を得たのですか?」

 

ジュリが話したのは伊奈帆から伝えられたことだ。それが嘘である可能性は限りなく高い、それでも彼女はその言葉を信じた。それは何故かマズゥールカはそれが気になっていた。

 

「一番の理由は拳銃でした…」

 

「拳銃?」

 

予期せぬ単語にそのまま返してしまったマズゥールカを見てジュリは頷く。確かに端から見れば意味不明なのだろうが彼女にとってそれは何よりも大切だった。

 

「奴は隊長の拳銃を持っていました…」

 

「それだけなら、まだ不安だと思うけど…」

 

「はい、しかしそれだけではありません。隊長は地球に降りられてから黒い拳銃を離さなくなったのです」

 

銀色の拳銃はアセイラム姫親衛隊隊長を示す重要な物の一つである。フィアもそれを大切にし扱ってきた、だが地球に降りられてからというもの彼女は新しい拳銃を受け取らなかったのだ。

 

「気にはなっていたんです、拳銃を御守りのように持つ隊長の顔はとても穏やかでした…」

 

「そうですか…」

 

地下牢に閉じこめられた者同士のちょっとした話のつもりがこんな事を聞いてしまったマズゥールカは壁にさらに深くもたれた。

 

「その少年、界塚伊奈帆に会ってみたいですね……」

 

マズゥールカはそう静かに呟くと天井に吊された丸裸の電球をぼんやりと見つめるのだった。

 

ーーーー

 

デューカリオン、医務室。結局データこそ貰ったもののマグバレッジに言われたことが後を引きポケットの中で弄んでいた伊奈帆は耶賀頼の検査を受けていた。

 

「これ、伊奈帆君が自分でプログラムしたのかい?」

 

「元々あったファームをカスタマイズしただけです」

 

「領域も拡張されている…気分は?」

 

「特に変わりは…」

 

相変わらずいつも通り淡々と話す伊奈帆に対して耶賀頼は苦笑する。そんな彼を見て伊奈帆は首をかしげると理由を話してくれた。

 

「ごめんね、バカにしたわけじゃないんだ…表情が出やすくなってるって思ってね」

 

「そうですか?いつもと変わらない気がしますけど」

 

伊奈帆自身、鉄仮面なのはしっかりと認識してるし変えようとも思わない。そんな自分が分かりやすくなっている…あり得ないことだ。

 

「端から見れば無表情なのは変わらないよ、でも2年前と比べたら大違いだ」

 

「参考までにお聞きしますが、どんな顔をしてましたか?」

 

「とても悩んでる顔をしてたよ」

 

顔を手でペタペタ触っている伊奈帆を横目で見つつ耶賀頼はカルテに検査内容を書き込んでいく。少し驚いてるであろう彼に耶賀来は一つアドバイスを差し出す。

 

「現実というのはとても残酷です、鞠戸大尉の過去もそうであったように…。でもその現実を受け止め変えていけるのが人間だと思っています。今、なにで悩んでいるのか知りませんが……君は他人のために不可能を可能にしてきた、今度は自分自身のために足掻いていくのも悪くはないと思いますがね」

 

「……」

 

「私には助けられてばかりの君にこれぐらいしか言ってあげられない…すいません、なんか説教みたいになってしまって」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

誰だって怖くて進めない時がある。でもそれはほんの少しの後押しで進めたりするものだ。伊奈帆は心から感謝を述べて立ち上がる。

やることはいっぱいある、少しでも可能性があるなら賭けてみよう。そんな彼の元に訪れたのは姉である界塚ユキであった。

 

「ナオくん、ちょっといい?」

 

ーーーー

 

デューカリオン廊下、静かなこの廊下には主機が稼働中であることの証である振動のみが響いていた。

 

「どうしてこの船に乗ったの?」

 

「どうしてって?」

 

ユキは思っていた心の内を吐露する。理由など分かってるけど聞かずにはいられない。誰が喜んで家族を決死の戦場などに送るものか…。

 

「貴方はわざわざ戦う必要はないでしょう?怪我が治ったらそのまま避難すべきなのに…」

 

「それはユキ姉だっておなじでしょ」

 

「同じじゃないわ、私は軍人だもの!」

 

「そもそも軍人になる必要なんてなかったんだから同じだよ」

 

「違うわ!」

 

ユキが声を荒げ叫んだ瞬間、伊奈帆の顔は驚きに染まった。いつも優しく穏やかな姉とはかけ離れた一面だったからだ。

 

「私、後悔してるの…。貴方を軍人にしてしまったこと、あの時血まみれで倒れている貴方を見て…なんで貴方のこと止めなかったんだろうって。私はね貴方と、貴方の住む世界を守りたくて軍人になったの…それなのに」

 

守りたかった。小さな、とても小さな幸せを韻子ちゃんたちと当たり前のように過ごしていたあの日々を…。だからこそ軍人になったのに、結局は助けられてばかり。そんなナオくんに心のどこかで甘えていたのに気づけたのはあの時。我ながらなんてバカな姉だろう。

 

「ごめん、でもじっとしていられないんだ」

 

「やっぱり…フィアちゃん?」

 

まっすぐ見つめる紅い瞳には強い覚悟と大きな不安が入り混じっているようにユキは感じた。

 

「あの子は私達の知ってるフィアちゃんじゃない…彼女は敵になってしまった…いえ、敵に戻ってしまった」

 

「フィアは本当の意思で行動してはいない」

 

「どうしてそんなことが分かるの!?」

 

「……分からない、確証なんてない」

 

「……っ」

 

初めて見る、自身の弟が気持ちにこれほど素直に動いているのを…。理論や根拠を元にして常に動いていた弟が…他人ではなく自分のために動き始めている。

 

「でも、僕はフィアを信じる…フィアがそうしてくれたように」

 

腰に下げられた拳銃を軽く撫でる伊奈帆の姿は実に悲しげだった。

 

「ナオくん…」

 

ユキは言葉を紡げないまま立ち尽くしていると伊奈帆は廊下を歩き始める。その背中を彼女はただ見つめるしか出来なかった。

 

ーーーー

 

月面基地、スレインの私室。そこには部屋の主であるスレインとフィアの姿があった。

 

「まさか、たった1機で基地を墜とすとは…」

 

「フィアさんの真似をしただけです、貴方には遠く及びません」

 

この二人の私的な関係はスレインが伯爵となっても変わらなかった。呼び方も相変わらずだ。

 

「私は姫様の矛であり楯だ…そう簡単に追いつかれては困る」

 

「そうですね」

 

伯爵になって彼の行動はドライな部分が多く見られ始めたがその分覚悟が決まったと言う事だろう。少なくともこの二人の間にはそう言った空気は発生していなかった。スレインにとっても言葉はリラックス出来る貴重な時間だった。

 

「そう言えば花を育てていたのですが、ようやく花が咲きまして…」

 

「ほう…綺麗な花だな」

 

スレインが取り出したのは紫色の花、花と言っても小さくよく見れば小さな花の集合体のようだ。

 

吾亦紅(ワレモコウ)と言う花です、小さい花なので置きやすいと思いまして」

 

「すまない、良いものだな」

 

「えぇ、花はいいものです」

 

ワレモコウの花を愛でながら紅茶を楽しむ。見渡す限り無機質の壁と床だった執務室とは違い。私室には他にも花瓶に生けられた花たちが部屋を彩っている。

 

「実はバラを今育てていて、上手く咲いたらローズティーを作りたいと思っているんです」

 

「ローズティー?なるほど、面白そうな紅茶だな」

 

穏やかな空気の中、フィアはこの間皇帝陛下に命じられた内容を思い出す。

 

(皇帝陛下は一体何を恐れているんだ…)

 

「どうしました?」

 

「いや…なにもない」

 

ほっておけばすぐにもろく崩れてしまいそうなスレインを何とかできるのは自分だけ、そう思い行動している。スレインと穏やかに接することで思い出す。スレインと同等、いやそれ以上に気の許せる者がいたと言うことを。

 

「何故か懐かしい…」

 

「え?」

 

「スレイン…」

 

「っ!」

 

静かにゆっくりと名前を呼ばれたスレインは何故が背筋を伸ばしてしまう。

 

「自分をあまり追いつめるなよ…」

 

「あ…」

 

"とても知っているが知らない誰かに"似ているスレインに発した言葉は彼の心に大きく突き刺さる。すいません、心の中の懺悔は彼女に届く事なく消えていく。

これから自分が行うことは貴方を絶望させるだろう事でもやり遂げる。それがアセイラム姫に出来る奉公なのだから。たとえ貴方を敵に回しても。

 

 

 

 

 




どうも砂岩でございます!
あとがき書くの忘れてました、すいません。
今回は目立った動きは無しですね。次回は伊奈帆とマズゥールカ辺りを。
伊奈帆の表情の辺りは原作に比べ本当に柔らかくなっています。だいぶ仲間を頼るというのも覚えてきたので手強くなるでしょう。フィアの記憶は緩やかに開放されつつあります。
後ワレモコウの花言葉は感謝とーーーの意味を込めて登場させました。気になる方は検索してみてください。

フィアと伊奈帆を会わせたくてこっちもうずうずしています。中々筆が進まないのが残念でありません。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第五十一星 尋問 -Questioning-

 

 

アデン基地、地下牢。

剥き出しの電球に錆び付いた鉄格子、決して衛生的とは言えない空間はまさしくっと言った感じであった。

 

「気分はいかがですか?」

 

収監されているのは二人、親衛隊員のジュリと伯爵のマズゥールカだ。伊奈帆はジュリを一瞥しながらまず初対面のマズゥールカに話しかけた。

ベッドに寝転がっていたマズゥールカは閉じていた目をゆっくりと開け伊奈帆を見やる。

 

「あまり良くないようですね、身体検査を受けたと聞きました」

 

「まさか、ここまで原始的な調べ方だとは思わなかったよ…」

 

「奥歯に仕込まれた毒を使われては困りますから…」

 

「時代錯誤な…」

 

「そのようなお国柄と伺っています…」

 

マズゥールカの隣に収監されたジュリは無言を貫き通し目もくれない。

対するマズゥールカは当然ながら冷淡な話し方で言外で馴れ合うつもりはないと示している。

 

(さぁ、どう出る?界塚伊奈帆とやら)

 

ジュリの話から目の前の男に対していささかの興味は湧いているがやはり自身の目で確かめなければならない。

 

「地球人からすれば、ヴァースの封建制度など時代遅れも甚だしいだろう…」

 

「問題があるなら自分たちで変えれば良い…」

 

「満ち足りた地に生まれた者らしい考え方だな…」

 

「少なくとも彼女は変えようと行動していました…」

 

伊奈帆が割り込むように話した内容にマズゥールカは思わず息を飲む。

まだだ、こちらは整然とした態度で臨まなければならない。

 

「彼女?」

 

「貴方もよくご存じでしょう?フィア・エルスート、僕の戦友です」

 

「戦友?ヴァース帝国の餓狼と呼ばれた彼女が?笑わせる」

 

「一つ質問をよろしいでしょうか?」

 

バカバカしいと言わんばかりのマズゥールカの態度に伊奈帆は一切動じず話を続ける。

そんな様子にマズゥールカは心を見通されているのではないかと錯覚してしまう。

 

「私が国を売るほど安い男だと?」

 

「見えませんね、聞こえもしません…。なおさら好都合です」

 

ヴァース帝国の指針に消極的ではあるが忠誠心は本物だ。それだけは胸を張って言える。

心から発した言葉に対し伊奈帆は嬉しそうに放った言葉にマズゥールカは疑問を持たざる得なかった。

 

「恐らくですが僕のことは隣の彼女から聞かれていると思われます」

 

「…」

 

「ですのでお二人にお聞きします…貴方たちはアセイラム姫にフィアに忠誠を誓っていますか?」

 

ーーーー

 

「僕の予想ではアセイラム姫は身動きが取れない状態で、フィアにも何かしら支障が出ているのではないのかい?」

 

そう言うと伊奈帆が見たのは冷や汗を流しているジュリだった。

自身…いやそのほとんどが知り得ないものを彼女が持っている…その事を悟っていたマズゥールカは見えはしないが彼女のことを見つめていた。

 

「確かに姫様は身動きの取れない状態にある…」

 

様々な葛藤があった。

だがジュリは話した、自身が最も慕う隊長が恐らく心から信頼したこの地球人を…。

彼なら苦しんでいる隊長を救ってくれるかもしれない。

 

対する伊奈帆もジュリが話し始めたことで息を飲む。真実が分かる。

彼女が本当に記憶障害なのか、それとも自らの意思で殺しに来たのか…。

 

「隊長も記憶をお失いになり、そのせいで激しい頭痛に悩まされていた…」

 

「やっぱり…記憶障害なのか……」

 

心の底で一息ついた伊奈帆は安堵しつつもジュリの話を聞き逃さないように気を張る。

 

「アセイラム姫はどんな感じだった?」

 

「姫様は重傷の身で…今だに目を覚まされてはいない…」

 

「ではこれまでのアセイラム姫は偽物?そんなバカな…」

 

ジュリの言葉に驚いたのはマズゥールカだ。当然だろう、今まで従っていたのが偽物などとんでもない侮辱だ。

 

「隊長は悔やみ続け、我々にはどうすることも出来ず見ていることしか出来ないのが辛くて…」

 

「なぜ重傷の身に…」

 

泣き崩れそうなジュリに対し独り言のように呟いたマズゥールカの問いに伊奈帆が答えた。

 

「全ての発端はアセイラム姫暗殺でした…彼女には最後まで話していなかったのでここでお話ししましょう」

 

前回、伊奈帆が話したのは共闘し襲いかかるヴァース帝国のカタフラクトを撃退したと言うくだりだけだ。

信じて貰うには全てを話さなくてはならない。

 

ーーーー

 

アデン基地、食堂。

 

「あ~ん」

 

ライエの横で美味しそうにカレーライスを頬張るニーナ。

それに対して隣にいたライエは目の前に置かれた料理に手をつけずに沈黙を保っていた。

 

「ライエちゃん、食べないの?」

 

「少しでも食べないと出撃の時持たないよ」

 

「食欲無くて…」

 

「食べないダイエットは胸から落ちるよ」

 

「したことないわよ、ダイエットなんて」

 

「「ええぇ!」」

 

ライエのまさかの声に2人は周りの目をはばからず声を荒げた。

 

「ライエちゃん、ダイエットしたことないのぉ!」

 

「はぁぁぁ!」

 

「すごぉい!どうやってスタイル維持してるのぉ?」

 

落胆する韻子、感心するニーナ。

二者二様の反応をする二人に対しライエは相変わらずの無反応だ。

 

「私にも教えてくれますか?」

 

「不見咲副長…」

 

「お食事ですか?」

 

「寄港した時ぐらい外で食べたいと思いまして」

 

その騒ぎに気づきやって来たのはデューカリオンの副長、不見咲だった。

 

「そう言えば、伊奈帆を見ませんでしたか?食事に誘おうと思ってたら見つからなくて…。」

 

「界塚少尉なら火星兵士の尋問を行っているはずです」

 

「伊奈帆がですか?」

 

韻子は思わず疑問を口にする。

地球に降りる前は面会していたとは言え今度は尋問を任されるとは…。

 

「先、戻ってる」

 

「ライエ…」

 

不見咲の言葉に顔色を変えたライエは急に立ち上がるとその場を離れる。

突然の行動に見ていた全員が唖然とする中、ライエはその場を離れるのだった。

 

ーーーー

 

「あり得ない!ザーツバルム卿は姫様と隊長を救った英雄だぞ!」

 

「しかし今までの彼の言動から嘘をつくようなものでもないでしょう」

 

「マズゥールカ卿…。」

 

反対の意を示したのはジュリだった。

今まで信じてきた者がひっくり返ろうとしているのだ、無理もないだろう。

それに対しマズゥールカは冷静で伊奈帆の顔を伺っている。

 

「あいつは英雄なんかじゃない。アイツはアセイラム姫の暗殺計画の首謀者」

 

「ライエさん…」

 

そこにやって来たのは伊奈帆の動きを知ったライエだった。

 

「誰だお前…」

 

「あいつ等は父を騙して利用するだけ利用して虫けらみたいに殺した」

 

ジュリの言葉を無視して話すライエの言葉には怒りがにじみ段々と口調が荒くなっていく。

 

「お前、ヴァースの生まれなのか…」

 

話を聞いていたマズゥールカは静かに言葉を発するとライエの表情は更に険しくなる。

 

「そうか…どのみちお前の父親は遅かれ早かれ死んでいた。逆賊としてつるし上げられなかっただけでもマシだ」

 

「どう言う意味!父は殺されて当然だったというの!?」

 

「ライエさん、もう行こう…」

 

「離して!」

 

今にも殺しそうなライエの様子に伊奈帆は手を引くが彼女は納得できるわけもなく大声でわめく。

 

「全部、全部無駄だったの!?答えなさいよ!」

 

「行くよ…」

 

「ねぇ!!」

 

伊奈帆は無理矢理ライエを引っ張り外へと連れて行く。

その間にもライエは身をよじり大声で叫び続ける。

 

「離してよ!」

 

独房から出る為の階段を上りきった所でライエは手を振りほどくと急に静かになった。

 

「バカだと思ってるでしょう?いつまでも過去を引きずって、いつまでも捕らわれて…。そうよ、私だって同じ」

 

真底嫌いな、父を殺した奴らと同じ。

 

「誰かのせいにして恨んで妬んで!なのに恨みきれないクセに戦う事しか出来ないバカな火星人」

 

殺したくて殺したくて仕方がないのに、彼女の影が自身を迷わせる。

いい奴も居るんじゃないか?そこまで戦わなくてもいいんじゃないのか?と迷う自分がいる。

 

「君は違う…」

 

「違わない!」

 

「違う…」

 

「違わない!火星人なんて大っ嫌い!」

 

大粒の涙を流し立ち尽くすライエ、それを見ることしか出来ない伊奈帆。

 

「私は私が大っ嫌い…」

 

隠されてきた感情が噴出し抱え込んでいた言葉が口から溢れてくる。

そんな彼女を見て伊奈帆は何も発することが出来なかった。

 

ーーーー

 

その頃、月面基地。

 

「答えて見ろよぉ!」

 

そこではマリーンがスレインの額に銃口を向け引き金に指をかけていた。

まさかの事態にハークライトも唖然し親衛隊の面子も銃を取り出しまさかの事態に備える。

 

「聞かせて貰おうか?ザーツバルム卿の事をな!!」

 

鬼気迫るマリーンの姿にスレインは黙り込み向けられた拳銃を見つめるのだった。

 

 





今回は予告通りマズゥールカ卿とのお話でした。
このシーンはやっぱりしんみりしてしまいますね。ライエの珍しいシーンなので好きなのですが見てると悲しくなってきます。
アニメとは違いジュリのおかげで詳しい事情が明らかに。
そしてライエちゃんの事情を知って黙っちゃうジュリは良い子。そろそろ物語をガッツリ動かしていきたいです。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!!



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第五十二星 ケジメ -Distinction-

 

 

月面基地の廊下では緊迫した状態が続く、殺気を振りまいているマリーンと銃口を突きつけられたスレイン。

 

「隊長…」

 

「まぁ、待て…」

 

それに居合わせた親衛隊のメンバーはもしもの場合に備えて銃を手にする一方、フィアは何もせずにただ壁にもたれて傍観している。

 

「エルスート卿はなぜ落ち着いておられるのですか?」

 

「いや、私に聞かれても困るんだけどなぁ」

 

そんなフィアの様子にハークライトがネールに疑問を投げかけるが彼女自身も知るよしがない。

我らの隊長である彼女の思考は我々親衛隊の者達を遥かに凌駕するものであるのだ。

そう思うからこそ親衛隊も有事に備えているがそれ以上の行動はしない、一見忠実な部下とも取れる行動だが言い方を変えれば崇拝に近いものとも言える。

 

(随分器用なことを…)

 

どちらかと言えば脳筋思考のマリーンにそぐわない行動にフィアは軽く息を漏らす。

 

「本当のことを言うんだな…」

 

「はい…」

 

スレイン現在の立場は伯爵だが下の立場であるフィアに敬語を使うようにマリーンに対しても敬語を使っている。

それは昔から世話になってきた彼なりの感謝の気持ちなのだろう。

 

「僕がザーツバルム卿を殺しました」

 

「ッ!!」

 

スレインの言葉に対しその場に居たもの全てが息を飲む、ザーツバルム卿が戦死ではなかったこと、それに現状でその事を告げる意味を考えたからだ。

 

「そうか…」

 

 それに対しマリーンはただ静かにそう呟くと拳銃を構え直す。

 

「まずい…」

 

「ッ!」

 

限界だと思ったハークライトは静かに行動を開始する。

ハークライトの行動は近くに居た親衛隊のネールですら知覚するのが遅れてしまうほどのものだった。

隊長が待てと言ったなら自身は他の者を止めなければならない、その対象はハークライトも例外ではない。

 

「しまった。ッ!」

 

一番止めなければならない彼を止め損ねたネールは慌てて止めようとする。

その瞬間、視点がひっくり返り強制的に床に伏せさせられていた。

 

「なにが…。」

 

親衛隊で一番の体術の持ち主であるネールが一切反応できなかった、これがハークライトの実力である。

 

「落ち着けハークライト…」

 

「ッ!エルスート卿…」

 

やけに透き通る声、彼の目の前に現れたのはフィアだった。

一瞬とはいえ、ネールに意識を向けていた時に全く知覚されずハークライトの目の前に現れたフィアに対し彼は驚きを禁じ得ない。

だが彼女は攻撃するわけでもなく静かにマリーンとスレインの居る方向へと指を指した。

 

「あれは…」

 

「……」

 

フィアに促されハークライトは改めてマリーンを見ると、そこに写っていたのは拳銃を棄てる彼女の姿だった。

 

「やっぱりな…」

 

「殺さないんですか?」

 

「殺したいのは山々だがな…」

 

軽く笑みを浮かべて敵意がない事を示したマリーンは話を続ける。

 

「ザーツバルム卿に頼まれた。後は頼むとな…」

 

「それでも貴方は殺したいはずです」

 

「道は違えどザーツバルム卿とお前は同じ所へ向かおうとしている。なら私はお前に手を貸しザーツバルム卿の夢を叶えるだけだ」

 

「……」

 

マリーンの言葉を聞いてスレインは言葉を失う。

彼女と言い、フィアと言い、なぜこうも真っ直ぐ突き進んで行けるのだろうと。

 

「お前を殺すかは、全てが終わったらだ…。」

 

「分かりました、覚悟しています」

 

彼女につられてスレインの顔にも笑みがこぼれる。

そんな光景を見てフィアも軽く頷く、そんな様子を見ていたハークライトは彼女に話しかける。

 

「貴方はここまで予測していたのですか?」

 

「予測と言うより信頼だな。マリーンは従える主君は違えどここまでやってきた仲だ。私がそうしたように、アイツもそうするだろうと思っただけだ」

 

「なるほど…」

 

一度は殺し合ったと聞いているが、この信頼関係は半端な物ではない。

単なる友情という物ではなくもっと大きなもので二人は繋がれているのだとハークライトは実感したのだった。

 

ーー

 

「マズいですよ、レムリナ姫」

 

「貴方は私の言う通りにしていればいいの」

 

「トロイヤード卿もハークライトさんも居ないのにマリルシャン卿と通信なんて」

 

マリーンとスレインが対峙している時と同じくレムリナは親衛隊のケルラを連れて玉座の間へと向かっていた。

 

「ハークライトがいない代わりに貴方を連れているのでしょう。貴方それでも親衛隊なの?」

 

「それはそうですけど、下っ端ですからぁ」

 

マリルシャンがアセイラムへの面会をしつこく要求していることを聞きつけたレムリナはレムリナ担当のケルラを連れていたのだ。

 

「ほら、堂々となさい」

 

そうこうしているうちに玉座の間へとついてしまったケルラは腹をくくるしかなかった。

 

ーー

 

「アセイラム姫様におかれましては、ご機嫌麗しゅう。突然の無礼をお許しください」

 

「ごきげんよう、マリルシャン伯爵。それでどのようなお話でしょう?トロイヤード卿の許可を得ずの通信、よほど火急のようですね」

 

画面上のマリルシャンは横で控えているケルラを一瞥する。そのことに疑問を持ったレムリナは思わず疑問を表情に出してしまう。

 

「いやはや、やはり御身だけとは参りませんか。しかし見張りをつけるとは、エルスート卿とトロイヤード卿は過保護でいらっしゃる」

 

やけに身振り手振りが大きく話すマリルシャンは困惑の表情を浮かべるレムリナに対し気にせず話を続ける。

 

「見張りは語弊がありますかな。さしずめ塔に閉じこめられた姫を守る騎士(ナイト)と言ったところか」

 

「く、口が過ぎると思われますよ。マリルシャン卿…ひっ」

 

流石にマズいと思ったケルラは空気を変えるために口を挟むがマリルシャンに睨まれ口を閉ざす。

 

「おっと、これは無礼を申し上げました。姫殿下を籠の鳥のように」

 

「籠の鳥?」

 

「地球では自由を奪われた者をそう形容するそうです」

 

ーーーー

 

「基地本部より通信です。捕虜が脱走したと!」

 

「……」

 

地球、アデン港基地に鳴り響くサイレンと共に発せられた通信を読み上げた不見咲の声にマグバレッジは何かを察したような表情をするのだった。

 

「なんとか逃げられましたが、厳しいですね」

 

「そのようですね」

 

サーチライトが各所を照らし兵士たちがせわしなく駆けめぐる。

その様子をコンテナの隙間で様子を伺うがその警備の分厚さに手を焼いていた。

 

「しばらくここで…」

 

「仕方ないでしょう…ッ!」

 

ジュリの言葉に賛同するマズゥールカの背後に人影が現れ銃口を向けるのだった。

 

ーー

 

「もー、勘弁してよ。夜中の警報」

 

警報によって目を覚まされた韻子は愚痴をこぼしつつ、アレイオンに乗り込むためにパイロットスーツに着替えていた。

パイロットスーツは操縦者の生存率を上げるのが目的である、だからこそ体にぴったり張り付くように着なければならないのだがそれが原因で非常に着にくいと言うのが欠点だろう。

 

「ライエ、早く出動しないと…」

 

けたたましい警報に対して全くベットから出てこない同僚を心配した韻子はベットの仕切りを開ける。しかしその中には誰もいなかった。

 

「ライエ?」

 

ーー

 

「…お前か」

 

銃口を突きつけられたマズゥールカはゆっくりと振り返ると安堵する。銃口を突きつけた人物はライエ、彼女はマズゥールカとジュリを一瞥すると静かに話す。

 

「来て…」

 

ライエに連れられ道に出た途端、目の前に車が停車する。それに対しジュリとマズゥールカは冷や汗を流すが車内から伊奈帆が現れると再び安堵する。

 

「急いで…」

 

伊奈帆に促されるがまま二人は車内に入るのだった。

 

「なぜ、この様な事を…」

 

伊奈帆とライエの行動に疑問の声を上げたのはジュリだった。貴重な捕虜を逃したとばれれば大変だ。場合によっては銃殺刑も適用される重罪なのだから。

 

「貴方たちにはアセイラム姫の安全を確保して貰いたいのです」

 

「安全を…」

 

「僕が思うにスレイン・トロイヤードとアセイラム姫の信念が違います」

 

「……」

 

何より人命を尊び戦争を早期終結させようとしたアセイラムと目的のために戦争を操作し始めたスレイン。

端から見ても対立しているこの考え、伊奈帆から二年前の話を聞いた二人にはよく分かった。

 

「つまり、二人は結果的に対立する可能性があると」

 

「僕は高いと考えています」

 

「なら隊長は間違いなくトロイヤード卿と戦う事となる」

 

「フィアなら戦うでしょうね」

 

「それと…」

 

「分かっている」

 

淡々と話す伊奈帆の言葉を遮ったのはジュリだった。彼女は険しい表情から一転、ほんの少し笑みを浮かべて話す。

 

「隊長のことは任せて貰う。界塚伊奈帆が隊長を心配していたと伝えておく。」

 

「ありがとう。銃は必ず返しに行くとも言っておいて」

 

「分かった。承ろう」

 

ジュリの言葉に安堵したのか伊奈帆は少し疲れたように息を吐く。

目的地に着いたのか車が停車し伊奈帆とライエが降りる、それに従って二人も降りる。

 

「ここから北に進めば火星の揚陸城です。後は歩いてください」

 

「はい」

 

説明の後、ライエから大きなバックを受け取った。

 

「水と食料、逃げ切る前に干からびて死んだら困るから。私は死んで貰って構わないけど」

 

「感謝する。改めて名乗っておこう、私はヴァース帝国軌道騎士37家門の1人、マズゥールカだ」

 

「マズゥールカ…。地球にも似たような民謡音楽があります」

 

「この名の意味を調べるうちに私は深く地球のことに興味を持ったのだ」

 

「私はアセイラム姫親衛隊隊員、ジュリです。私が言うのもなんですが、隊長を救ってくれた件はありがとうございました。」

 

「いえ、こちらも助けて貰ったので」

 

「僕も自己紹介を、界塚伊奈帆です」

 

伊奈帆はマズゥールカ、ジュリと固く握手を交わす。

 

「アセイラム姫とフィアの件はお願いします」

 

「承知した界塚伊奈帆」

 

「任せてください」

 

揚陸城へと向かう2人の背中を見送ると伊奈帆とライエは車に乗り込み基地へと戻る。

 

「伊奈帆…どうして」

 

そんな様子をアレイオンで見ていた韻子は湧き上がる疑問を口にすることしか出来なかった。

 

ーー

 

「あなたって本当にフィアにぞっこんよね」

 

「ぞっこん?」

 

基地への帰り道、ライエが放った言葉に伊奈帆は疑問の声を上げる。

 

「あなたの頭の中を覗いてみたらどうなるでしょうね。フィアの事しか頭になさそうよ」

 

「そんなことはない。僕も色々と考えてるよ」

 

「ほんとかしらね」

 

ライエにジト目に対し伊奈帆はただ疑問を増やすだけだった。

 

ーーーー

 

「どういう事だ!揚陸城の入港など誰が許可した!」

 

「それが…」

 

月面基地に迫る二つの揚陸城に対しスレインが怒号を発するが傍にいたハークライトの哀れむ目がフィアによしよしされているケルラに向けられていた。

 

「す"い"ま"せ"ん"ぅぅぁ」

 

「よく頑張ったな、よしよし」

 

フィアに抱きついて泣きじゃくるケルラに対し彼女は優しく頭を撫でる。彼女の年齢はまだ15歳だ、仕方がないと言えばないだろう。

 

「と"め"よ"う"と"し"た"ん"て"す"ぅ」

 

「ケルラは許さないぃ!」

 

号泣するケルラに対しリアは怒りを露わにしてネールとシルエに体を抑えられている。

 

「私も隊長に頭を撫でて貰いたいぃ!」

 

「そっちに怒ってるのかよ!てめぇいい加減にしろ!」

 

「うるさい、ネール!副隊長に向かってその言い方はなんだぁ!」

 

「今のてめぇはただの変態だろうがぁ!」

 

ネールとリアが格闘しているのを背景に現れたのはレムリナだった。

 

「許可したのは私です」

 

「レムリナ姫」

 

「マリルシャン伯爵はアセイラム姫に直接謁見したいと願っていました。ですから許可したのです。私がアセイラム姫…。ヴァースの皇女として」

 

「なぜその様なことを…。」

 

レムリナの独断にスレインはただ驚くしかない。

 

「行きましょう、客人を待たせるのはマナー違反です」

 

彼の問いに対してレムリナは何も応えずにカタフラクトハンガーへと向かうのだった。

 

ーーーー

 

場所と時を移してカタフラクトハンガー、そこにはアセイラム姫に変身したりレムリナとスレイン、ハークライト、フィアとシルエの姿があった。

ケルラの涙のせいでダメになった上着をリアが回収した後、彼女はネールに引きずられていってしまい代わりに新しい上着を持ってきたシルエが来たのだ。

 

ハンガーに着地したハーシェルとオクタンティスから出てきたのはマリルシャンとバルークルスだ。

 

「アセイラム姫におきましては、この様な突然の謁見のお許しを頂き恐悦至極に存じます」

 

「マリルシャン伯爵、バルークルス伯爵には軌道上の守りを固めて頂き大変感謝しています。本来なら地球に降りて領地を広げたい所でありましょう?」

 

「地球の占領は志同じくする者に任せております」

 

「そう、それは良かった」

 

「それよりもアセイラム姫に折り入ってお話がございます」

 

本題に入ってきたマリルシャンに対しスレインとフィアは警戒の色を強くする。ヴァースの現状を象徴するような伯爵である彼の事だ、碌な事は言わないだろう。

 

「先代ザーツバルム卿亡き後、この宮殿とアセイラム姫殿下をお守りする近衛兵の任についてでございます」

 

「その件については心配に及びません。近衛兵はエルスート卿が、基地の管理は私が滞りなく引き継いでおります」

 

マリルシャンに対し牽制するように言葉を発するスレインに対し彼は不愉快な表情を表すがすぐに消し話を続ける。

 

「アセイラム姫殿下のお側にお使いする栄誉、私に授けて貰えないかとおねがいにまいりました」

 

「姫様の護衛は昔から我ら親衛隊が」

 

「口を挟まないで貰いましょうか!犬の分際で!」

 

マリルシャンを止めようと言葉を発したフィアに対し彼も大声で言い放つ。

 

「ここはヴァース帝国の御旗を掲げる砦、姫殿下救出の功労者であるザーツバルム卿であるなら遺憾ながらも容認しましょう。しかし養子とはいえ、地球人がどさくさに紛れその任を引き継げるとでも?」

 

明らかにスレインをバカにする問答にハークライトの顔が凄いことになっている。

 

「誇り高き皇族が住まう場所に卑しき血筋が足を踏み入れる事自体、許されぬ所業。揚陸城を持たぬ者が伯爵を名乗り、卑しく薄汚れた雌犬が殿下の傍にいるのも筋違い」

 

マリルシャンの言葉に対し普段無表情であるシルエも怒りを露わにし凄い形相で睨む。

 

「姫殿下の横で威張り顔を散らしていた貴方は目障り極まりないものでした。雌犬は雌犬らしく大人しくしていればいいのに」

 

マリルシャンはフィアの前に立ち睨みつける。

 

「私のハーシェルと貴公のシナンジュ、どちらが姫を守るにふさわしいか明らかにしましょう。私はこの場でエルスート卿に決闘を申し込む!」

 

マリルシャンが決闘の相手に選んだのはフィア、周囲の人は驚愕の表情を浮かべる。それはマリルシャンと共に来たバルークルスも同様だ。

 

「良いだろう、受けて立つ」

 

 

 





どうも砂岩改でございます!
今回は書いていたら膨大な量になってしまいこんな感じになりました。
次はセルナキス伯爵か…それとも決闘をするか…。悩みどころですね。
まぁ、マリーンはあんな子です。彼女のコンセプトはザーツバルムに着いたフィアと言う事なので元々似たもの同士です。なのであの行動は彼女なりの前に進むためのケジメだったんです。
アルドノアの女は強いですね。
最後のシーン、リアがいたならマリルシャンはその場で殺されていましたね。
そしてマリルシャンの運命はもう決まってますね(遠い目)バカだねぇ。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第五十三星 灼熱のソリス -Scorching heat of sorisu-

 

 

 

 

「本当によろしかったのですか?決闘など…」

 

「向こうが吹っかけたんだ。仕方ないだろうが、なぁ」

 

「そうだな…」

 

月面基地のフィアの部屋には紅茶を入れるエデルリッゾとそれを楽しむマリーンとフィアの姿があった。

戦いを挑まれた割には随分と落ち着いている2人に対しエデルリッゾは疑問を持たざるを得なかった。

 

「味方同士で…。」

 

「奴は味方などではない。姫様の作るヴァース帝国の膿の様な存在だ、早めに処理しておくにかぎる」

 

「恐いなぁ」

 

フィアの言葉に対し真底楽しそうに笑うマリーン。

こんな様子を見ていると本当に安心してしまう、この二人がなぜここまで強いのか本気で知りたくなってきたエデルリッゾだった。

 

ーーーー

 

月面基地トレーニングルーム。

 

「雌犬呼ばわりだとぉ!殺してやるぅ!」

 

「おい、止めろよバカ」

 

「バカとはなんだ!」

 

決闘へと至る経緯をハークライトに聞いたリアは当然の如く荒れ持参したサンドバックを殴っていた。

昔はよく物に当たっていたのだが結果的にフィアに迷惑がかかると気づいた彼女はこうして壊れない物に当たっているのだ。

 

「たく、ああなったらほっとくしかねえか。なぁ」

 

「……」

 

「あわわ、シルエさんがご機嫌斜めです」

 

「あの場に居たからな、私だったら間違いなく殴りかかってたし」

 

我慢強いシルエだからこそ出来たことだ。隊長に関して親衛隊は沸点が低いのは変えようのない事実なのだから。

 

「たくよ、ジュリがいねぇと諌める奴が居ねえからな」

 

「ジュリさん…。」

 

ネールの言葉にケルラはシュンとするとシルエが頭を撫でる。

 

「ジュリは生きてるさ、私がくたばらねぇうちはアイツが死ぬ訳ねぇ」

 

ネールの自信溢れる言葉にケルラは思わず頷く、それ程の自信が彼女から溢れていたのだ。

 

「しっかし、アイツ本当にどこに居るんだ?」

 

ーーーー

 

地球の砂漠

 

砂漠が熱された真昼の時間帯にジュリとマズゥールカの姿があった。

2人は手頃な洞窟で休み用意されたテントで日陰を増やして休んでいた、砂漠の移動は基本夜に行っている。

 

「灼熱の大地とはまさにこの事だな」

 

「灼熱ですか、ピッタリですね」

 

地球のことを調べていたマズゥールカは目の前に広がる砂漠を見て感慨深げに言葉を漏らすとジュリも反応を返す。

2人は現在、寝袋に入り睡眠を行っていたのだがあまりの暑さに目が覚めてしまったのだ。

 

「そう言えば君はなぜ親衛隊に?」

 

「私ですか?隊長直々にスカウトされたんです」

 

当時訓練生の中で3番目だったジュリはいつも虐められていた。その原因は彼女の堅い性格にあった。

それを知ったジュリはその堅い性格に対しコンプレックスを抱くようになったのだが自身はこれ以外の生き方を知らない、変えようがなかった。

 

「その時に、隊長が現れて来てくれたんです」

 

《お前のその腕と性格を私の元で振るってみる気はないか?》

 

「天の助けだと思いました」

 

「なるほど、エルスート卿は人を見る確かな目を持っていたんですね」

 

「私が勝手に感謝してるだけなんですけど、恩返しがしたくて」

 

「本当にエルスート卿は素晴らしい方ですね」

 

誇らしげに話すジュリを見てマズゥールカもフィアに対して興味を持ち始める。これ程まで人を惹きつける彼女は一体どんな人物なのだろうと。

 

ーーーー

 

アメリカ合衆国、ニューオリンズ。

そこには軌道騎士37家門の1人であるセルナキス伯爵が統治する土地だ。二年前まで栄華を誇っていた都市は荒廃し瓦礫ばかりの風景を作り出していた。

 

そこに飛来するミサイルを橋の上を陣取っていたセルナキスのカタフラクト《ソリス》は赤いレーザーを放ち撃ち落としていた。

 

「巡航ミサイル、全弾迎撃されました」

 

「セルナキス伯爵のカタフラクト《灼熱のソリス》に搭載された光学兵器の射程はサテライトベルトまで届く。そのため航空支援も不可能。とんだ化け物だ」

 

機体だけでも恐ろしいが特筆すべきはセルナキス伯爵の技量だろう。飛来する戦闘機やミサイルを当然の如く破壊するそのエイム力は文字通り化け物と言える。

何よりもこの2年間、この土地を確保し続けている時点で優秀なのは分かりきった事だが。

 

「結局、懐に飛び込んでやるしかないってか。全機搭乗」

 

巡航ミサイルが撃墜された閃光を見ていた鞠戸は強襲艇に乗り込んでいた部隊全員に対し命令を発する。

 

「みんな、出撃準備よ」

 

マスタング小隊の隊長として復帰したゆきは韻子たちを見やり命令を発する。全員が己のカタフラクトを乗り込む中、彼女は伊奈帆を心配そうに見つめるのだった。

 

「……」

 

そして韻子も今、伊奈帆たちに対し大きな疑念を抱いていた。先日の捕虜脱走の件、目撃してしまったことが頭を過ぎる。

 

(やっぱり私じゃ頼りないって言うの…。フィアの方がよかったの…)

 

「韻子、韻子!」

 

「はい!?」

 

よぎる疑念に対し頭を一杯にしていると無線越しにライエの声が響き思わず大声を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「う、ううん…。ねぇライエ、この間捜索かかったじゃない?ま、ま…ま…」

 

「マズゥールカ伯爵」

 

「そうそれ!どうやって逃げたんだろ?」

 

「さぁ…」

 

「伊奈帆なら分かるかな?」

 

「どうして?」

 

「尋問にも行ってたし何か聞いてない?」

 

「なにも…」

 

韻子の質問に対しライエは淡々とした口調で答える。それに韻子は落胆の声を露わにすると通信を切る。

 

「韻子…ごめん」

 

通信が切れた後、ライエは静かに呟くしか出来なかったのだった。

 

ーーーー

 

「各小隊、報告」

 

「デルジアン小隊、配置良し」

 

「マレンマード小隊、配置良し」

 

「ポトックス小隊、配置良し」

 

「ロカイ小隊、配置良し」

 

「マスタング小隊、配置良し」

 

鞠戸の声に対しそれぞれ小隊の隊長が応答し顔を引き締める。

 

「奴の光学兵器は避けようがない。見つかったら終わりだと思え…。作戦開始!」

 

鞠戸の声と共に各小隊の機体が次々と煙幕を上空に展開させ自身の機体達を包ませる。

煙幕が展開されると同時にレーダー等のセンサー系にノイズが走る。

 

「赤外線からレーダー波まで撹乱する煙幕か…。猿知恵だな」

 

冷静に分析したセルナキスは眼鏡を直すと同時に操縦桿を改めて握り直す。

 

「なん、だと!?」

 

進行するカタフラクト隊の機先を遮るように放たれたレーザーに対しパイロットたちは驚きを隠せない。

 

「愚か者め!」

 

その直後に放たれたレーザーは煙幕が張られた一帯に広く着弾し、進行していたカタフラクト隊に襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

悪態をつきながら煙幕を打ち上げるアレイオンにレーザーが飛来し一瞬にして鉄塊に変わり果てる。

 

「クライスリーダーより小隊各機。南側に散開、煙幕を張れ!」

 

「無駄なことを…」

 

「撃て撃て撃て!こちら注意を引きつけろ、当たるなよ!」

 

「引きつけて当たらないようにってどうすれば良いのよ!」

 

「なおくんは!?」

 

ゆきが懸念する中、伊奈帆はライエの駆るアレイオンの手のひらに乗せられ運ばれていた。ライエは目的の場所に辿りつくとゆっくり階段に手を動かす。

 

「上げるわよ、気をつけて…」

 

ーー

 

「ライエさん」

 

「OK、中継する」

 

高層ビルの屋上に辿り着いた伊奈帆は駆けてきたというのに息を一切乱さずソリスの位置を特定、情報開示する。

 

「音響解析、敵座標確定。目標29.951103

-90.085579」

 

「了解、照準合わせ…。発射」

 

「発射、了解」

 

無線越しに聞こえるマグバレッジの声と共にカウントダウンを開始する。

 

「カウントダウン5、4、3、2、1…」

 

カウントダウンが終わりを告げると同時に上空から飛来した砲弾がソリスの周囲を吹き飛ばした。

 

「なんだ!?」

 

何が起きたか分からずに周囲を見やるが確認できない。レーダーは何かが海から飛来したと告げている。

 

「着弾、修正037.025」

 

「海から…」

 

セルナキスは再び飛来する砲弾を避けるためにソリスを高く飛び上がらせると状況の把握に努める。周囲に穿たれた地表からして導き出される答は一つ。

 

「艦砲射撃か!」

 

ソリスの頭部から放たれたレーザーは数分違わず砲撃元であるデューカリオンに進み、その直上ギリギリを(はし)った。

 

「はずれぇ…」

 

艦砲射撃に対し即座に反撃する事に加え、数分違わず狙い撃てるその技量。それに対し呆けていたニーナの言葉は聞き方によれば煽りにも聞こえる。

 

「光学兵器は直線でしか攻撃できません。地球の丸みに隠れれば届かない」

 

「しかしこちらの砲弾は地球の引力で放物線を描くので水平線の影にも届くと」

 

光学兵器が重力に左右されないことはトライデント基地でフィアと交戦した際にも実証されている。

シナンジュの主武装がビームライフルなのがある意味幸運だったと言っても良いだろう。

 

「照準さえ可能なら…」

 

デューカリオンにいたマグバレッジの言葉は水平線の向こうにいる伊奈帆たちに向けられるのだった。

 

「修正283.-472」

 

「超高速弾、撃て!」

 

伊奈帆の義眼《アナリティカル・エンジン》が割り出した正確な情報をデューカリオンに送り続ける。

 

「おのれ、観測衛星もなしにどうやって正確に座標を」

 

正確な位置を割り出されている事実に対しセルナキスは動揺を隠せないでいた。まさかこれほど技術が進んだ世界で身をさらした観測手が居るとは思わないだろう。

 

「これか?」

 

空中に浮遊する観測機器らしき物体を見つけたセルナキスはその射程に納めていた浮遊機器を全て撃ち落とす。

 

「レーザー通信を中継していた無人機が落とされました!界塚少尉と連絡がとれません!」

 

揚陸城からの強力なジャミングをかいくぐるための無人機がなくなった以上、通信を繋げる方法はあまり残っていない。

 

「ライエさん、曳光弾だ。僕の言う通りに撃って…」

 

通信がダメなら光で伝えるしかない、古典的な方法だが確実な方法だろう。

伊奈帆の言葉通りライエは上空に曳光弾を二発、間を置いて三発を上空に放つ。

 

「そこか…」

 

だがこの行動は敵に位置を知らせるのと同義、セルナキスはそれを見過ごすわけはなくレーザーで高層ビルを狙撃する。

 

「なおくん!このぉ!」

 

弟が命の危険に陥った時、ゆきは思わず隠れていた物陰からアレイオンを出しマシンガンをソリスに向けて撃ち放つ。

これ以上大切な人を失いたくない、護れなかったことで泣きたくない。あの子のように後悔しないように生き抜きたい、そんな覚悟が彼女を突き動かしていた。

だがソリスの装甲はマシンガンを受け付けずに弾かれる。

 

「その距離からこのソリスを仕留められるとでも?」

 

「ゆき姉、逃げて!」

 

撃ち放たれたソリスのレーザーはアレイオンの左腕を吹き飛ばし爆発の閃光が闇夜を照らす。

 

「界塚准尉!」

 

「来ちゃだめぇ!」

 

「くそっ!」

 

それを見ていた鞠戸がアレイオンで飛び出し注意を引きつけるためにマシンガンを撃ちながら前進する。

 

「二発、続いて三発!」

 

曳光弾を確認した祭陽は口早に伝えるとマグバレッジはその意味を即座に導き出した。

 

「修正002、003…撃て!」

 

敵が動いてはもう遅い時間はなく装填が終わった主砲が高速弾を撃ち放つ。

 

「界塚ぁ!」

 

「そうよ、そうやってそこで偉そうにしてなさい」

 

レーザーの着弾により擱座したアレイオンでもゆきは怯むことなく片手銃を撃ち放つ。

 

「灼熱の輝きにて、灰になるがいい!」

 

「撃ってきなさいよこのカエル頭ぁぁ!」

 

ソリスのレーザーが撃ち放たれる直前、デューカリオンから放たれた砲弾がソリスを貫き凝縮していたエネルギーと共に爆炎に包まれる。

セルナキスはそれを知覚することなく光に包まれ文字通り灰になったのだった。

 

「ゆき姉!」

 

「大丈夫、片腕やられただけ。そっちは?」

 

「平気、界塚少尉も無事です」

 

「良かった…」

 

弟の無事にゆきは安堵の声を漏らすがそれに対し伊奈帆は納得していないようだった。

 

「良くないよ。逃げてって言ったのに、命令違反だよ界塚准尉」

 

「なによ、階級が上だからって偉そうにしない」

 

「いや、偉いから」

 

「姉に命令できる弟はいません」

 

相変わらずのゆき姉の姿に伊奈帆の顔にも笑みが浮かぶ。そんな二人の様子を見ていた周りの隊員たちも微笑ましい光景に笑みが浮かぶのは仕方のないことだろう。

 

「クライスリーダーより各機、作戦終了これより帰投する」

 

 

 





どうも砂岩でございます!
悩んだ結果、本編と変わらずソリスの戦闘を行いました。カットしてても良かったんですけど個人的に大好きな戦闘だったので書きました。
ウォークマンに入れてある《keep on keeping on》を聞きながら書いていたのでかなりテンション高めで書きました。
これを見ていた当時ギクシャクしていた姉弟関係が回復するのを見て何故かホッとしていた記憶があります。
そしてセルナキス伯爵は格好いい、セリフがいいですよね。
戦闘の最後辺り《keep on keeping on》が盛り上がってきたとで《灼熱の輝きにて灰になるがいい!》って格好良すぎだろって思ってました。まぁ、自分が灰になったんですけどね。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第五十四星 決闘 -Duel-

 

 

「地球に咲く、薔薇と言う花です」

 

 

 

アセイラム姫が眠るアイソレーションタンクの前にはスレイン、フィア、エデルリッゾがおり日課と化したスレインの地球講座を聴いていた。

空中には数々の薔薇の写真が投影されており華々しい。

 

「わぁ…」

 

「薔薇には色々な花言葉があるんです。赤い薔薇は貴方を愛しています。」

 

薔薇の写真にエデルリッゾは関心の声を漏らす。それをフィアは静かに笑う。

 

「これほどの色があるとはな…」

 

「はい、フィアさんには紫が似合うと思いますよ。」

 

「紫?」

 

「紫の薔薇の花言葉は誇りなんです」

 

「誇り…確かにフィアにピッタリですね」

 

「そうか…ありがとう」

 

スレインにとってもエデルリッゾにとってもフィアは誰よりも誇り高い騎士だ。これほどピッタリなものもないだろう。

それを言われてフィアも嬉しそうにする。それに対し二人も笑顔になる。彼女の笑顔を見たのは久しぶり、それが二人にとって嬉しかった。

 

「青い薔薇の意味は奇跡、でも青い薔薇にはもう一つの意味があるんです。」

 

「意味だと?」

 

「はい、それは--」

 

ーーーー

 

月面基地、カタフラクトハンガー。

そこでは万全に整備されたシナンジュが鎮座していた。

 

「どうだい?」

 

「完璧です。流石ですね」

 

「そりゃ、専門だしね。頑張ってねぇ」

 

「はい」

 

コックピットから離れていくフェインを見届けるとコックピットハッチを閉じる。システムが立ち上がり暗闇に包まれていたコックピットが明かりに包まれる。

 

「フィア…」

 

「姫様」

 

真っ先に届いた通信を広げるとそこにはレムリナが映っていた。レムリナからの通信に驚きつつもフィアはその顔を見つめる。

 

「これは私の至らなさが招いた結果です。すいません」

 

「姫様…」

 

「必ず勝ちなさい、貴方は私の騎士でもあるのだから」

 

「分かりました」

 

レムリナの態度にフィアは思わず笑みを浮かべると力強く頷く。

 

「姫様に私の勝利をお届けいたしましょう」

 

「分かりました。待っていますよ」

 

通信が切れコックピットは再び静寂に包まれる中、彼女の笑みは消えなかった。

 

「捧げる勝利、こんなことは久しぶりだ」

 

ーー

 

「参りましょうか。ハーシェル、出撃!」

 

「シナンジュ、出るぞ!」

 

指定された時間が訪れ2機の機体が月面基地の傍観室の目の前に対峙する。その光景は月面基地にいる殆どの人物が見守っていた。

 

「卑しき物の傲慢な振る舞い。目に余ります、ヴァース軌道騎士の名にかけて成敗いたしましょう」

 

「私利私欲の為に姫殿下に近づこうとしたこと、親衛隊として許しません。ここで断罪させて頂く」

 

機体越しに睨み合う二人、そんなシナンジュの後ろから鉄の塊の様な物が慣性の法則に従いゆっくりフィアに近づいていた。

 

「これより、マリルシャン伯爵とエルスート卿の決闘を行う。……始め!!」

 

立会人として月面基地に訪れていたバルークルスの号令と共に決闘が始まる。まずはお互いの様子を見るために高速で移動し合う……筈だった。

 

「っ!なんだ!?」

 

「ふ…」

 

お互いがメインスラスターを点火し動き出そうとしていた瞬間だった。シナンジュの背後で大きな爆発が起きたのは。

 

「どうしたのですか?止まっていてはやられますよぉ!」

 

マリルシャンはハーシェルの右手に持っていたバレットを撃ち放つ。"普通なら"完全に回避できる攻撃、だが彼女は左手に備えられたシールドで防ぐ。

 

「なにが起きてるんだ!?」

 

「メインスラスターが点火してない!」

 

決闘の映像を見ていたフェインはモニターを持ち上げ現状を確認しようのする。

 

「電子系統がおかしくなったのか」

 

「そんな訳ないですよ!整備は完璧でした!」

 

「先程の爆弾…。高出力の電磁パルス爆弾!?」

 

突然の電子系統の不調、それしか考えられない。EMP対策をしていなかったらシナンジュは機能不全になっていただろう。

外からの診断だがメインスラスターがイカれただけのように見えるが、足を奪われたシナンジュをフィアはどう扱うか。

 

ーー

 

「メインスラスターがやられたのか。電子系統に異常が、エネルギー供給ラインも止まっている」

 

「動かないならこちらから行きますよ!」

 

機動力が失われたシナンジュに対しハーシェルは無数のバレットを展開する。

 

「ちぃ!」

 

このままでは袋叩きだ、近くを漂っていた岩石を蹴り迫るビームを避ける。

 

「ビームライフルも四発しか撃てない。バズーカ展開」

 

漂う岩石を蹴ることで徐々に加速するがバレットが迫りシナンジュを撃ち抜かんと迫ってくる。フィアはシールドに内蔵されていたバズーカ砲をライフル下部に装備すると距離をとろうとする。

 

「くそ!数が多い!」

 

ビームが機体をかすめ、脚部スラスターが爆発を起こす。

 

「ふふ…。流石にそう易々と墜とさせてもらいませんか」

 

バレットから逃げるシナンジュを見やり細く微笑む。高出力の電磁パルス爆弾かシナンジュを襲ったのは当然、偶然などではない。マリルシャンが密かに用意した秘策だ。

 

「さぁ、狩りに出かけましょうか!」

 

誰が密かにヴァース帝国最強と呼ばれる奴と正面からやり合う物か。戦いにルールなどないのは当然、彼女が警戒していないのが悪いのだ。

 

「こんな手を使ってくるとは!」

 

迫り来るバレットに対しフィアはバズーカの散弾を撃ち放つが三発分をまんべんなくばらまいて2機しか墜とせなかった。

接近用のビームサーベルもエネルギー供給ラインが停止したせいで沈黙を守っている。一瞬にして打つ手をなくしたフィアは岩石を足場にして逃げ回っているがそれも限界があるだろう。

 

「フィアさん!」

 

「隊長!」

 

それを月面基地で見ていたスレイン、リア達は大声で叫ぶがそれしか出来ない自分たちに対し怒った。

 

「こんなことで!」

 

虎の子のビームを二発撃ち放ちハーシェルを狙うが外れる、シナンジュのスラスターが不調のせいで姿勢制御が行われていないのだ。

 

「儚い儚い!儚いなぁ!」

 

マリルシャンの勝ち誇った声と共に放たれたビームはメインカメラに着弾し爆炎を上げる。

 

(青い薔薇の花言葉は不可能…)

 

そこで思い出されるのはスレインの言葉、奇跡と不可能相反する意味を持つ花の名を思い出す。

 

「不可能だと…。ふざけるな、私の血塗られた道に不可能など許されない!」

 

咆哮するフィアの目はまだ死んではいなかった。

 

ーーーー

 

海上にて停泊中のデューカリオン甲板で伊奈帆は月の様子を見ていた。そんな伊奈帆の不自然な行動は韻子の目に止まった。

 

「伊奈帆、何してるの?」

 

「フィアが戦闘している」

 

「え、どこ!?」

 

予想外の言葉に思わず辺りを見渡す韻子、だがそれは見えない。何故ならそれは遥か遠くの月面で行われていることなのだから。

 

ーーーー

 

「お前がここで死ぬたまかよ……フィア!」

 

親友(ライバル)であるマリーンも月面基地の強化ガラスに手を付き心配そうな様子で決闘を見る。

 

直撃したシナンジュのモノアイは沈黙したがモノアイレールの奥の紅い瞳がハーシェルを見据える。それはまるでフィアの瞳の様に。

 

「このままではジリ貧だ!くっ!」

 

周囲を忙しなく見やるフィアの瞳は全方位から襲いかかるバレットに向けられていた。

 

「なんだ?」

 

その異変は突然現れた、シナンジュの被弾が極端に減った。と言うより皆無になったのだ。

身をよじり、細かく四肢を動かし岩石を蹴り反転や進路変更をする。

 

「バカな…どう言う事ですか!?ですが悪あがきも終わりです」

 

マリルシャンはフィアの異常な光景に驚きつつも手早く始末するため持っていたバレットをシナンジュに向ける。

 

「チェックメイトです!」

 

「間に合え!」

 

撃ち放たれたビームは真っ直ぐシナンジュに直進し着弾すると同時に漆黒の宇宙を染めたのだった。

 

「隊長!」

 

「フィアさん!」

 

「フィア!」

 

リア、スレイン、マリーンがその光景に肝を冷やすと大声で名前を叫ぶ。アセイラムに扮していたレムリナも思わず両手で口を押さえた。

 

「……」

 

誰もが絶望を覚える中、地球で見ていた伊奈帆だけが彼女の勝利を確信していた。

 

推奨BGMーFULL-FRONTALー

 

「ふっ…しぶとかったですがこの程度ですか…」

 

決闘は終わりだと警戒を解くマリルシャン、だがそれは早計だった。

燃え盛る爆炎の中、黄色の閃光がハーシェルに向けて伸び右手に装備されたバレットを撃ち抜いたのだ。しかもシナンジュを包囲していたバレット4機を撃ち墜してだ。

 

「なんと!?」

 

「アセイラム親衛隊が隊長、フィア・エルスート。これより刑を執行する」

 

爆炎から現れたシナンジュは高速でハーシェルに接近しライフルを構える。

 

「くっ!この死に損ないがぁ!」

 

怒りを露わにしたマリルシャンは残ったバレットを操作しシナンジュの後ろから追わせる。

 

「想定通りだ!」

 

ライフル下部に装備されたバズーカ砲が火を噴き撒き散らされた散弾がバレットを全て破壊する。フィアはその爆発すら加速に使いハーシェルに迫る。

最後に残されたビームは残りカスのような物だ、接近してから使わないと装甲を抜けないかもしれない。

 

「この私が追いつめられただと!?こんな汚い雌犬にぃぃ!」

 

武器を失ったハーシェルは何もする術もなく立ち尽くす。そこにシナンジュが蹴りをかまし岩石に埋めるとライフルの銃口をコックピットに向ける。

 

「貴様、雌犬の分際で軌道騎士を殺せばどうな……」

 

「詫びろ……」

 

マリルシャンの言葉は最後まで続かなかった。シナンジュの撃ち放ったビームにより骨すら溶かされたのだから。

 

「勝者、エルスート卿」

 

立会人として参加していたバルークルスは静かにその結果を口にする。

決闘の掟に則りマリルシャンの資産は全てフィアに渡るがその資産丸ごと便宜上、彼女の上司であるスレインへと渡ることになった。

 

「このバルークルス、立会人として確かに見届けた」

 

バルークルス卿はその事実を騒ぎ立てもせずただ静かに口にするだけであった。

 

ーーーー

 

「終わった…」

 

「何でも見えるんだね、伊奈帆は」

 

「うん」

 

デューカリオン甲板、静かに告げた韻子の言葉に伊奈帆も同意する。この目で多くのことを見て役立ててきた…だが。

 

「でも、本当に知りたいことは何も見えないんだ」

 

韻子でも分かる伊奈帆の悲しげな声に彼女は両手を静かに握りしめる。対する伊奈帆も甲板に座り込み静かに話す。

 

「ごめん韻子、巻き込みたくなかった」

 

「もう…」

 

伊奈帆の言葉に韻子は何も言えなくなる。あれでは殺し文句のような物だ、だが彼女は静かに微笑む。そんな小さな気遣いが何より嬉しかったからだ。

 

ーーーー

 

「一つの旗の元に集い、ヴァース帝国の未来のため共に戦うときが来たのです。私は私の持つ権限の一切を新たに力を得た城の城主であり、やがて私の伴侶となるトロイヤード卿に委ねました」

 

「どう言う事だこれは!」

 

決闘の直後、レムリナから放たれる新たな宣言。それはフィアにとっても寝耳に水であった。

 

(すいません、フィアさん。僕はもう…待つことは出来ないのです)

 

例えフィアと対立しようとも自身の道を歩み始めたスレイン、その一方で一人の少女が2年の時を得て目覚めるのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
かなり早めの投稿になりました。やったね!
今回の決闘なのですがまぁ、まともにやり合ってたらマリルシャンが可哀想なのでフィアには少し苦しんで貰いました。フィアの機体が人型でなかったた本当に死んでました。
ついにここまでやってきました!
そして物語はついに最終章へと突入、伊奈帆、スレイン、アセイラム、フィア…四人の運命がついに交錯し絡み始める。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第五十五星 目覚め -Awakening-

 

 

 

「三十七家門の皆さんに私たちの掲げる新たな政策を告げます。地球に新たな領地と資源を得た私たちは、いつまでもヴァース本星に頼る必要はありません」

 

月面基地、謁見の間にてアセイラムに扮したレムリナは全周波に向けて放送を行っていた。

 

「子はいずれ育ち、母の加護を離れ自ら道を切り開くもの。私アセイラム・ヴァース・アリューシアは…」

 

ほぼ中破状態のシナンジュが帰投し整備班が右往左往する。

 

「くそっ…」

 

汗だくになったフィアは耳に着けていた無線でレムリナの放送を聞いていた。

 

「スレイン・ザーツバルム・トロイヤード伯爵を夫に迎え。この地球圏に新たなる王国を築くことを、ここに宣言します」

 

レムリナのその一言は疲弊していたフィアを再度動かすには十分だった。

 

「どう言う事だこれはぁ!!」

 

カタフラクトハンガーに響く怒号にその場に居たもの全てが彼女に注目する。フィアを迎えに行っていた親衛隊の連中は思わず息を飲むのだった。

 

ーーーー

 

その放送をデューカリオンで聞いていた伊奈帆は神妙な面持ちで画面に映っていた映像を見やる。

 

「無茶は駄目だよ…。フィア……」

 

伊奈帆は彼女が取るであろう行動に対し心配するが自身には何も出来ない、それが一番歯がゆかった。

 

ーーーー

 

「貴様!何をしたのか分かっているのかぁ!!」

 

スレインの執務室、そこに訪れたフィアは彼のえりを掴み上げ壁にぶつける。鬼神のような形相に流石に冷や汗をかくスレインだが決して眼を逸らさない。

 

「スレインさま!」

 

「ハークライト、これでいい!」

 

どうにかしようとしていたハークライトも親衛隊達に抑えられ藻掻くがスレインが止める。

相変わらず掴み上げているフィアのその表情はどんどん萎れていき明らかに悲しんでいた。

 

「スレイン!こんな事をしては駄目だ…。姫様が姫様じゃなくなってしまう!姫様と言う偶像にしてしまうことだぞ!」

 

アセイラムの生死など関係ない、ただの地位としての道具になってしまう。それは最も禁忌すべき事態だ。

レムリナもアセイラムもただの道具、政治の駒としてしか扱えない事になってしまう。

 

「……」

 

「答えてくれ!レムリナ姫のお気持ち、お前は知っていながら!」

 

「それでも"私"はこれを選びました。」

 

「スレイン…」

 

懇願するように言葉を発するフィアに対しスレインは対照的で冷たい声だった。

 

「姫様の望む世界を創る。それが私の願いであり、そのために多くの犠牲を産み出してきました」

 

揚陸城の兵士、ザーツバルム卿、顔も知らない多くの人達…。一度血で塗れた手はもう二度と清めることは出来ない、なら突き進むこれからも"どんな犠牲を得ようとも"。

 

「たとえどんな手段を使おうとも私はアセイラム姫の世界を創造する」

 

「それは…。自己破滅で得られるものなどなにもないぞ」

 

「……」

 

「自分すら新世界の生け贄か…。望まれていないのを知りながらこうも……」

 

「"僕"にはこうする意外、分からないのです」

 

「……」

 

スレインの言葉にフィアは一歩、力無く下がると手を離す。支えを失ったスレインはその場でへたり込む、流石にフィアの怒号は堪えたようだ。

フィアは乱れた自身の衣服を正すと部屋の扉の前に立つ。

 

「今は良い、だが姫様がお前と対立するなら…。私はお前と戦う……」

 

「隊長!」

 

一度も振り返らずそう言い放ったフィアはスレインの執務室を後にする。それを見てリア達も慌ててその部屋を後にするのだった。

 

「貴方はまだ姫様が目を覚まされるのを信じているんですね……」

 

「スレインさま…」

 

フィアが去った扉を眺めながらスレインが呟いた言葉にハークライトは同情の眼差しを向けるのだった。

 

ーー

 

「隊長…」

 

「……」

 

怒りではない、明らかに悲しんでいるフィアの姿に思わず言葉を失うリア、そんな時にエデルリッゾが廊下の先から走って来た。

 

「フィア!姫様が!姫様が!」

 

「どうした、エデルリッゾ!」

 

エデルリッゾの発した言葉にフィアは驚きを隠せずにいるのだった。

 

ーーーー

 

「現状の旗艦の働きに関しては充分に満足している。しばらくは各隊の支援として遊撃隊に勤めて欲しい。」

 

地球、地球連合軍のとある基地の会議室に呼ばれたデューカリオン艦長ダルザナ・マグバレッジとその護衛鞠戸孝一郎は上官であるエリース・ハッキネンと話していた。

 

「それに関して異存はありません。ただ、アセイラム姫の宣言に関してですが…。」

 

「地球圏に新王朝を築くというあれか…。」

 

「単に火星騎士を鼓舞するための大風呂敷、そう言う類だろう」

 

ハッキネンのうんさんくさい言葉に対してマグバレッジはあくまでも冷静に話を進める。

 

「そうかもしれません、ですが敵の攻撃が次の段階に入るという可能性も考慮に入れるべきです」

 

「こちらが黙って手をこまねいている。そう言いたいのか、君は?」

 

「いえ、そのようなつもりは」

 

ハッキネンの若干威圧が入っている言葉に対してもマグバレッジは動じないむしろ言いたいことが伝わらず少し不満げだ。

 

「新たな作戦に関しては主要な部隊と調整を行っているところだ。その後に追って君たちにも連絡が届く」

 

「遊撃隊という立場に不満を抱いているのかもしれないが…。敵の力で動いている船をどこまで信用できるか、有り体に言えばそう言うことだ」

 

これ以上は言う事はないといったハッキネンの口ぶりにそれ以上は無理だと判断したマグバレッジは会議室を後にする。

エレベーターを使いデューカリオンへと向かうマグバレッジは後ろで待機していた鞠戸に話しかける。

 

「よく声を上げずに黙っていられましたね」

 

「護衛として来ているだけですからね。流石にそこまで世間知らずじゃない」

 

マグバレッジの皮肉とも取れない言いように鞠戸は静かに答える。

 

「彼らは、なにも分かっていません」

 

「向こうに見る目が無いだけでしょう。やれるだけのことはやっている」

 

「いえ、現在のデューカリオンの扱いに関しては不満を言いたいわけではありません」

 

そう、それが言いたいわけではないのだ。マグバレッジの言葉に鞠戸は理解できずに直立不動の背中を見る。

 

「ただ、舐めている」

 

「我々を?」

 

「火星を…」

 

その言葉に鞠戸は思わず息を飲む。その言葉で自身も失念していた事を思い出す。

圧倒的なテクノロジーを持つ火星のカタフラクトは1機だけで地球軍の大部隊に匹敵する戦力を保有している。それにまだ地球に降りてきていない軌道騎士は沢山いるのだ。

 

「戦況が好転しているからと言って、いたずらに事態を読み誤ったりしないか…それが恐ろしい」

 

そう言った時、タイミング良くエレベーターは目的地にたどり着くのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、アセイラム姫が眠るアイソレーションタンクの前にはフィアとスレインが立っていた。

事態が事態なため同じ場にいるが先程の件も相まって二人とも気まずそうだった。

 

「治療液を抜いてアセイラム姫を僕の城に運びます。この事は内密に、もちろんレムリナ姫にも」

 

「でもなぜ…」

 

「なぜでもだ!」

 

「ひっ!」

 

「……」

 

突然のスレインの怒声にエデルリッゾは驚き隣に立っていたフィアにしがみつき、影に隠れる。

明らかに余裕がないスレインの言動にフィアは悲しい顔をする。

親しくなった間柄だ、こうやって追い詰められているのをみるのは悲しい。

 

「すいません、怯えさせるつもりは…。すいません…」

 

怯えるエデルリッゾに気づき謝るスレインはとても小さな存在に見えた。

 

ーーーー

 

「面会謝絶!?」

 

月面基地、展望室。

実質レムリナの部屋と化している空間に彼女の声が響き渡った。

 

「そこまで悪いのですか、お姉様の状態が…?」

 

「ここまで、良く持ちこたえたと言うべきかもしれません」

 

「今日明日と言う事になるのでしょうか…」

 

スレインの言葉に対して大きな衝撃を受けるレムリナは動揺する。憎いと目障りだと思っていた存在の危機にどうしてこんなに悲しいのだろう。

 

「それはまだ分からないそうです。あるいはこのままの状態で長引く可能性も」

 

「お気持ちお察しいたします。複雑なお気持ちもお有りでしょう。やはり唯一血を分けた御姉妹」

 

「本当に悲しいのは貴方でしょう、スレイン」

 

「……失礼します」

 

自身もショックを受けていると言うのに心配されていることに心に残っている僅かな良心が痛む。

その痛みから逃れようとその場を後にしようとするがレムリナが袖を引っ張り背中に頭を添える。

 

「許します、スレイン。今日は私の前で涙を見せても、あの人のために泣いてあげても…。もう私は、貴方のものだから」

 

レムリナの言葉にスレインはその顔に大きく動揺するのだった。

 

「……」

 

その二人の様子を見ていたレムリナの護衛を仰せつかっていたケルラは黙って見守るのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、皇室専用の浴場。

 

「貴方に憧れていた、自分にないものを全て持っていて。だから憎かった、でも心配しないでお姉様」

 

一人で呟く言葉は広い浴場に虚しく響き渡る。

 

「これからは本当に私が貴方の代わり、これからは私がスレインの支えになるの……どうして」

 

空っぽの気力で強がるレムリナの視界は歪み、大粒の涙を流していた。

 

(こんなのおかしい、絶対におかしい……)

 

レムリナの嗚咽を聞きながらケルラは手を握りしめる。

なぜ彼女がここまで悲しまなければならないのだ、彼女はただ心の支えが欲しいだけなのに…。

 

疑問は決意に、決意は覚悟に変わる。フィア達のことは尊敬している、未熟だった自分をここまで育ててくれた。

 

《自分が後悔することはするな、やるだけやってみろ》

 

昔、フィアに言われた言葉だ。

 

(隊長、私は私なりに後悔しない道を進んでみます)

 

ここで一人の騎士が動き出す、誰かのためではなく自身の心のために…。

 

ーーーー

 

スレインの保有する事となった揚陸城の一室では回復の兆候を見せたアセイラムがベッドで眠っていた。

 

「……」

 

その横ではフィアが静かに執務を執り行っている、揚陸城に移ってからはレムリナの護衛を親衛隊に任せアセイラムの側を離れていなかった。

 

「姫様にお変わりは?」

 

「はい、しばらくはこの状態が続くのではないかと」

 

「いくらでも待ちます。待つことには馴れています」

 

エデルリッゾはアセイラムの様子を見に来ていたスレインと話をする。

相変わらずフィアとスレインの会話がない、と言うよりスレインが彼女を避けていると言った方が正しいのかもしれない。

 

「さぞや驚かれるでしょうね。お目覚めになられたら何もかもが変わっていて」

 

「僕も、変わって見えるでしょうか」

 

「今は目覚められることを祈るしかない」

 

二人の会話に入ってきたフィアはアセイラムの顔を覗く。悲しみに満ちた彼女の表情はスレインの心を締め付ける。

 

「また来ます…」

 

「フィア…」

 

そう言ってスレインがその場を去ろうとした瞬間、小さな声が部屋に微かに響いた。

 

「「「姫様!!」」」

 

「わ…た……し………」

 

「姫様…」

 

微かだが目を開け言葉を発している。夢までに見た光景にフィアの眼から涙が溢れる。

喜び、驚き、無念等の様々な感情が溢れ出し感情が制御できなくなる。

 

「ずっとお待ちしておりました…」

 

 

 





どうも砂岩でございます!
今回は火星サイドを中心にアセイラム姫の目覚めまで一気に駆けました。地球サイドの細かいところは次回やります。
何度見てもレムリナ姫が不憫でならない(;´д⊂)
可哀想すぎる、そして健気すぎる…。頭がニンニクって言った奴はシナンジュでミンチな。

そして悲しみが止まらないフィアでありました。同じくらいアセイラム姫を敬愛する者同士、変わっていくスレインは彼女にとってとても悲しいんでしょうね…。

では最後まで読んで頂きありがとうございます!



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第五十六星 彷徨える姫と騎士 ―Ambivalence―

 

「火星の宣言もあったし、状況は色々と変わっているよね」

 

「あのお姫様が結婚なんてなぁ」

 

「そこ、興味…」

 

耶賀頼を含めた韻子たちメンバーはデューカリオン内で昼食を取りながら宣言のことについて話していた。

カームの言葉に思わずライエがつっこむが彼も彼なりに思うところがあるようだ。

 

「いやぁ、だってさ…。姫様が心変わりしたのもそう言う相手が居たからじゃないのか?その相手にそそのかされたとか……すいません」

 

自身の解釈を入れつつも目の前にあったライエのトレーから食べ物を摘まもうとフォークを伸ばす。それは見事に回避されライエのジト眼が返ってくるのだった。

 

「フィアが許すかなぁ…」

 

「立場上は姫様の護衛だから口出し出来ないんじゃないの?」

 

「お姫様を利用しようとしてたら誰であろうと問答無用で殺しそうなんだけど」

 

「「「あぁ……」」」

 

韻子の言葉に全員が納得の声を上げる。彼女にとって相手のことなど知ったこっちゃないだろう。

 

「あのお姫様が偽者だったらフィアも口を出さないかも…」

 

「確かに…。でもどうだろう」

 

「伊奈帆君は偽者だと主張して居るみたいだけど、彼はどこまで見据えているのか…」

 

ライエの言葉に全員が納得の表情を表す。二年前に見てきたアセイラムとは真逆の宣言に対して皆思うところがあるのだろう。

 

「伊奈帆は独自に進めてるみたいだけど…」

 

「アイツももう少しこっちを頼ってくれても良いんだけどなぁ」

 

韻子とカームの言葉にニーナは深く頷くのだった。

 

ーー

 

デューカリオン、カタフラクトハンガー。

 

「食事はしたの?」

 

「もう少し、切りの良いところまで」

 

「変わらないなぁ、昔から。夢中になるとそればっかり」

 

愛機のスレイプニールの前で調整していた伊奈帆は上から話し掛けたユキを軽く見ると作業を続ける。

 

「はい」

 

「お、ありがとうユキ姉」

 

目の前に持ち出されたフルーツサンドをユキから受け取った伊奈帆は笑いかける。

 

「聞いたよね。あの、アセイラム姫の」

 

「うん」

 

「あの宣言、なお君の言っていることを証明しているように思えた。なんだか話がうまく行き過ぎてるし本当にアセイラム姫が本物なら、地球圏に王国なんて考えるかなぁって」

 

伊奈帆は貰ったフルーツサンドを食べると一人の男の名を静かに呟く。

 

「スレイン・トロイヤード」

 

「私のかわいい弟を撃ったクズ野郎ね」

 

「ありがとう、でも言葉使いが汚いよ」

 

「彼女が本物かどうかなんて関係ない…」

 

そう、関係ないのだ…。火星騎士にとって大義名分の意味しか持たない彼女の正体が本物でも偽者でも関係ないのだ。

自身が得をする方のアセイラム姫が彼らにとっての本当の姫様なのだから。

 

「誰も耳を貸さないだろうな…。彼女がもう一度、地球と火星を平和に導こうとしても」

 

伊奈帆はその言葉を呟きながら、ただただ悲しんでいるであろう彼女の事を案じているのだった。

 

ーーーー

 

「まずは無事で何よりだった、マズゥールカ卿」

 

「ご心配をおかけ致しました、バルークルス卿」

 

「彼女は…」 

 

無事揚陸城へと帰還したマズゥールカは揚陸城の指令室でバルークルスと会話をしていた。

するとマズゥールカの後ろに立っている少女を見やったバルークルスはその少女の正体に気付く。

 

「はい、同じく捕虜となっていたアセイラム姫親衛隊の者です」

 

(あの方は…)

 

マズゥールカの背後からバルークルスを見ていたジュリは彼の存在を思い出す。マリネロスの時、マリルシャンの行動を諌めていた伯爵だったはずだ。

 

(隊長…)

 

隊長は無事だろうか、姫様の様子に変わりはないか…。考えることはたくさんある、思考の海に浸かっていたジュリはフッと我に返りマズゥールカの話に意識を戻す。

 

「うむ、親衛隊を助けたとなればアセイラム姫、ひいてはトロイヤード卿に対しても良い印象を持たれるだろう。分かった、拝謁の件は私から話を通しておく」

 

「ありがとうございます」

 

通信が切れ目の前のモニターが暗くなるとマズゥールカとジュリは静かに目を合わせ頷き合う。

 

「ひとまずはこれで良いでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、これを放置していたら騎士の名折れです。細かい話はシャトルでしましょう」

 

「はい」

 

「宇宙に上がる、シャトルの用意を」

 

「はっ!」

 

部下にシャトルの準備を進めさせたマズゥールカは現在の状況を詳しく知るために行動するのだった。

 

ーーーー

 

月面基地、スレインの執務室。

 

「基地内の士気は良好だ。ステイギス隊の練度も上がってきている。武力面では月面基地がトップだろう」

 

「バルークルス卿、ヴァルト卿は全面的に協力をオルガ卿、ラフィア卿も今まで意思を鮮明にしていませんでしたが新王朝を肯定する側に立たれたようです」

 

内政面ではハークライトが武力面ではマリーンが指揮を執り順調に事を進めている。これでマリーンもスレインの部下と言う事だ。

 

「……」

 

「スレインさま…」

 

心ここにあらずと言った感じでいたスレインを心配するハークライト、それに対しマリーンは執務室の窓を見つめ待っていた。

 

「失礼ながら、アセイラム姫のご快癒と関係が…」

 

「……」

 

ーーーー 

 

「エデルリッゾとフィアに(いとま)をですか」

 

「しばしの間で構いません。アセイラム姫の急変に彼女たちも痛く衝撃を受けておりまして…」

 

「仕方ありませんね…貴方はどうなのですか?」

 

フィアとエデルリッゾがアセイラムのことを心から思っていることを知っていたためなんの疑いも無く許可を出す。

それよりもレムリナが気になるのは目の前に居るスレインだった。

 

「お気遣い感謝します。もう、僕には姫様の他に頼れるお方はおりません」 

 

姫様、その言葉にはどのような意味が込められているのか…。

 

「ヴァースをこの手に掴んで見せます。姫様の御ために…」

 

その言葉はレムリナに対してか、それともアセイラムに対しての言葉なのかは彼本人のみが知る。

 

ーー

 

「っ!」

 

展望室から去り、窓に映る自分を見たスレインはその場に止まる。自身を慕ってくれる少女を平然と騙すその顔を思いっきり殴るのだった。

 

ーーーー

 

「綺麗…」

 

「はい、スレイン様が姫様のためにとこの庭園を」

 

今やスレインの揚陸城と化した揚陸城は無機質な廊下にも花が装飾され色鮮やかになっている。その最もたる場所がこの庭園だろう。

 

「美しい…」

 

色鮮やかな花に豊かな草木に包まれたこの空間は悲しみに暮れていたフィアの心も癒やしてくれる。

 

「そうですか…地球の景色ですね」

 

「はい!思い出してきましたか!?」

 

アセイラムの言葉にエデルリッゾのも喜び喜々として話しかける。その様子を少し遠くからフィアは見つめる。

 

「隊長、行かなくてもよろしいのですか?」

 

「揚陸城と言っても完全に安全とは行かないからな」

 

「いえ…その…なんでもありません」

 

リアはそんなフィアを見かねて話し掛けるが彼女の事務的な返答に戸惑う。本来ならもっと傍に居たいであろう事は数年付き従ってきた彼女にはよく分かる。

 

(警戒している…)

 

偽のアセイラムことレムリナが発した演説のせいだろうかフィアはいつも以上に警戒していた。

 

(空か…何故か懐かしい)

 

庭園の天井に設置されたモニターに映し出される青空をフィアは感慨深げに見る。

 

「青空も良いが夜空も素晴らしかった…」

 

「夜空ですか?」

 

「あぁ…」

 

宇宙のように真っ暗な空にキラキラとした星が彩る。その光景で感じるのは深黒に対する恐怖では無く美しさに対する感動だ。

 

(誰かと見た気がする…。姫様だっか、いや違う…誰だったかな)

 

あと一歩、あと一歩がとてつもなく遠い。おぼろげにフラッシュバックする記憶から見られるのは誰かがいたと言う事実だけ、顔がどうしても思い出せなかった。

 

ーー

 

「かいつか…いなほ……」

 

フィアが感傷に浸っていた時、アセイラムがとある人物の名を口にするが残念ながら彼女の耳には届いていなかった。

 

「どうしました…おい!?」

 

「……」

 

「どうしたんだろうなぁ」

 

「……」

 

「お前に聞くんじゃ無かったぜ…」

 

庭園の通路を見回っていたネールとシルエは急いで庭園を出るスレインとすれ違い呼び止めるが彼は止まらずそのまま庭園を去るのだった。

 

 

 




どうも砂岩改でございます!
今回は短めで火星sideでした。そしてグダグダ感が今回は一層強くなってる…本当にすいませんでした!
そろそろジュリも帰ってくるので一気に話が進むと思います。
次回は伊奈帆sideを中心に…相手はあの三騎士ですね。

そしてアンケートのお知らせです。実はこの小説、エンディングが二つ存在します。
正規エンディングは決定しておりますがそうなればせっかく考えたもう一つのエンディングを止めることになる…それは棄てがたい。
なので読者の皆様に決めて頂こうと言う事になりました!アンケートの方は活動報告の方でやりますので是非参加下さい!

では最後まで読んで頂いてありがとうございました!



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第五十七星 連携 ―Cooperation―

 

 

「こちらデールズ小隊、現在オルロフ小隊と共に進撃中…。クライスデール小隊は?」

 

ヴィクトリア湖の湖畔、荒廃した町並みに響くのは爆発音、それと共に暗闇の街を明るく照らす光は一見してみれば綺麗だがそれは死を生む光だ。

 

「矢尻に強力な炸薬弾が着いている。気をつけろ!」

 

「っ!このぉ!」

 

絶え間なく飛来する矢に耐えかねクライスデール小隊の隊員はマシンガンを放つが、矢が近くに着弾することによって怯んでしまう。

 

「無駄弾を撃つな。敵は姿を隠している上に動きが速い!弓を使っているようだが恐らく…」

 

鞠戸は早まる部下を叱りつけると周囲を見渡し敵の能力を模索する。

 

「えぇ、銃撃ではマズルフラッシュで位置を特定しやすい。それを避けるためでしょう」

 

「光学迷彩、透明化のテクノロジー…」

 

単純だが強力…いや、単純ゆえに強力。自身の力を理解しその扱いを極める、相手はそういった類いの騎士だ慢心はしているが…。

しかし相手は自身の保有する能力を把握し最大限に活用し生かしている。

 

「ベースは恐らく、でも非常に巧妙だ。サーモグラフィーにも映らないし、影も落とさない…。でも」

 

「間違いなく存在している」

 

普通なら絶望するに足る現状だが伊奈帆と鞠戸はまだ諦めていない。こんな修羅場は何度もくぐり抜けてきたのだ、もはや馴れている。

 

「煙幕弾、装填完了」

 

「こっちもOK…」

 

敵の対処のために選んだのは煙幕を使った敵のあぶり出しだった。

 

「ファイヤ!」

 

ユキの声と共に煙幕弾は上空へと放たれ荒廃した街に白い煙を吐き出し広げる。

 

「そう、間違いなく存在している。そして存在している限り大気の流れに影響が及ぶ…」

 

町中の小さな広場、障害物が無いというのに煙の動き方が不自然な所があった。その不審点はゆっくりと移動し煙を掻き分けている。

 

「ターゲット捕捉」

 

「よし、攻撃開始」

 

非常に手の込んだ相手だったが流石に大気の流れは誤魔化せない。伊奈帆は目の前に敵を見つけライフルを構える。

 

「大尉、三時の方向から敵が…」

 

「なに?」

 

今までに無いケースに驚きを隠せない鞠戸、それはその場に居た者全てにとっても同じだった。

それはそうだろう、領土だ利権だといがみ合っていた騎士達は互いの領土に入ろうとしない、その前提が崩れたのだから。

 

「正面からも新たな敵接近!」

 

「連携して戦おうってか!?」

 

「上からも来ます!」

 

「っ!」

 

隊員の寄越した報告に対し鞠戸は上空を見上げる、そこには大気圏を突破しこちらに落下してくる揚陸城の姿があった。

 

「揚陸城……」

 

「全機衝撃に備えろ!」

 

揚陸城の着地と共に周囲の瓦礫が一気に舞い上がる。熱によって赤く変形するコンクリート、自動車ですら着地の衝撃に絶えきれず紙くずのように吹き飛んでいく。

 

「複数の揚陸城、複数のカタフラクトが同時に…。動き出したんだ…アイツが」

 

予想だにしなかった状況に伊奈帆ですら唖然とする。伊奈帆たちは、今までで最大のピンチを迎えようとしていた。

 

ーーーー

 

夜の暗闇を絶え間なく照らし続けるマズルフラッシュ、ユキを中心とするマスタング小隊は雷を操るカタフラクトに対し正面から攻撃を加えていた。

 

「このぉ!」

 

だが銃弾は届く事無く雷に阻まれる。その上、敵の操る雷が飛来し撤退を強いられる。

 

「鞠戸大尉!」

 

雷が飛来した瞬間、ユキの言葉と共に背後に控えていたクライスデール小隊が銃撃を開始するが結果は同じ、雷に阻まれ届かない。

 

「くっ…。全機散開!」

 

後方に対しても雷撃が飛来し廃墟の物陰に隠れるクライスデール小隊。

 

「駄目か…。攻撃も雷撃で行うならその転換の時に隙が出来ると思ったんだが…」

 

「やはり、そう甘くはないようですね」

 

伊奈帆も残弾が乏しくなったマシンガンのマガジンを交換しながら雷撃のカタフラクトの様子を見る。

 

「鞠戸大尉、デューカリオンから伝達。撤退命令が司令部から出ました」

 

「撤退、全軍か?」

 

「デールズ小隊、オルロフ小隊も既に命令を受けているはずです…。ただ…」

 

「ただ、なんだ?」

 

撤退命令に希望の光が見え始めた様に思えた鞠戸だったがユキの話した言葉にその表情を驚愕の色に染める。

 

「さっき倒し損ねた透明のカタフラクトが向こうに」

 

ーー

 

「退けぇ!退けぇぇ!」

 

飛来する矢に対し敵の対処が取れないデールズ小隊は窮地に陥っていた。矢が刺さりコックピットごと吹き飛ぶアレイオン。

 

「デールズ22!敵はどこだぁ!」

 

デールズ小隊の隊長は見えない敵をあぶり出すため目に映る一帯に対し攻撃を加えるが敵に当たるどころかその気配すら捉えられない。

 

「っ!」

 

すると暗闇から突如現れた矢がデールズリーダーのアレイオンに突き刺さり爆発をおこした。

 

「隊長!」

 

ーー

 

「くそぉ…クライスデールリーダーよりオルロフリーダー、聞こえるか、撤退だ!」

 

「…こちら…オルロフリーダー、無理だ…」

 

仲間の窮地に鞠戸は歯嚙みするがそんな事をしている暇は無い。すぐさまオルロフリーダーとの通信を繋げるが向こうの声は既に息絶え絶えだった。

 

「こちらは、もう自分しか…残っていない…」

 

何かが潰れる音と共に通信が途切れる。

 

「雷撃と透明、それに…もう一機…。」

 

絶望、2年前の新芦原で味わった感情が、記憶がまざまざと思い出されるのだった。

 

ーーーー

 

「ぐわぁ!」

 

「デールズ11!」

 

飛来する矢を右腕に受け被弾するデールズ11、デールズ33は心配するが既に第2の矢が飛来してきていた。だがその矢は応援に駆けつけた鞠戸の放った銃撃によって撃ち落とされ空中で四散する。

 

「クライスデールリーダー…」

 

「界塚弟!」

 

鞠戸の言葉と共にデールズ小隊の躍り出たのはスレイプニール。伊奈帆は上空に素早く煙幕弾を撃ち煙を拡散させる。

 

「撤退してください、多少は煙幕で敵の視界が遮られているはずです!」

 

「行け!」

 

「りょ、了解…」

 

鞠戸が牽制射を加えつつ緩やかに撤退するのを見て足手まといと判断したデールズ小隊はマスタング小隊と合流するために移動を始める。

 

(そして、この煙は攻撃にも利用できる……捉えた)

 

そんな時、伊奈帆は大気の流れを計算し透明のカタフラクトを見つけ出していた。

 

「右だ、逃げろ!」

 

「っ!」

 

透明のカタフラクト《スカンディア》に気を取られていた伊奈帆は鞠戸の声で右を見やる。そこには既に飛来してきている雷撃の姿があった。

 

(間に合わない!)

 

スカンディアに気を取られすぎていた伊奈帆は対処が遅れてしまっていた。飛来する雷撃に対し回避行動が遅れたのだ。

一歩、いや半歩足りない。このままでは感電しスレイプニールのアクチュエーターが暴走、爆発して機体ごと四散してしまう。

 

(フィ…)

 

間に合わないと覚悟した伊奈帆の頭に対しスレイプニールは素早く退避し雷撃を見事に避けきった。

地面を強く蹴り、脚部のウイングを展開せずにスラスターだけで無理矢理加速したのだ。

下手すればバランスを崩してしまうギリギリの行為に見ていた鞠戸と乗っていた伊奈帆が驚愕する。

 

「あの動きは…」

 

「フィア…」

 

フィアが2年前、ヘラスとの戦闘で見せた緊急回避術。スレイプニールのOSに組み込まれていた回避動作が自身の危険を察知し作動したのだ。

現在、伊奈帆の使っているスレイプニールは元々フィアが使っていたスレイプニールだ。彼女が書き換えたOSもそのまま残っている。

 

「マスタングリーダー、どうした界塚。雷撃の足止めは任せたはずだぞ!」

 

「すいません、そちらに集中するかのように急に矛先を変えて!」

 

飛来する矢と雷撃まるで誘導するかのように追いやられついに追い詰められてしまった。

 

「囲まれた…」

 

「そのようです…」

 

まさに前門の虎、後門の狼。追い詰められた鞠戸と伊奈帆は思わず息を飲む。

雷撃のカタフラクト《エレクトロニクス》は雷撃を集束し2人に向けて放つ。

迫り来る雷撃を見て2人は目を見開く事しか出来ない、絶体絶命の危機。だがその雷撃を止めたのは上空から高速で飛来したデューカリオンだった。

 

「デューカリオン!?」

 

ーー

 

「被害は!」

 

「大丈夫です、放電できてます!」

 

急降下に次ぐ急上昇、重力制御を船体に対して全振りしているのでブリッジでは加速によるGに耐えながらニーナが操舵していた。

 

「着陸し、全カタフラクトを救出する」

 

「ここにですか!?敵のど真ん中です!」

 

「着陸する!」

 

反対する不見咲の言葉を無視してマグバレッジが指示を飛ばす、危険なのは承知している、だがこのままではカタフラクト隊が全滅してしまう。

デューカリオンと対空砲、主砲が火を噴き暗闇で目立つエレクトロニクスに対し牽制を行う。

 

「KCAS10ノット、落としすぎだ!追い風も強い!」

 

「大丈夫!アルドノア・ドライブ効いてます、反重力デバイス最大。バーティカルスピード1200フィートパーセカンド!」

 

デューカリオンはその巨体を無理矢理着地させカタフラクト隊の救出を開始する。

 

「乗り込むぞ、デールズ小隊を誘導。急げ!」

 

「下部ハッチを開け、全カタフラクトを回収する」

 

「9時の方向、敵カタフラクト接近!」

 

「主砲発射!」

 

レーダー手である裕太郎の声と共にマグバレッジが素早く指示を出すすぐさま主砲が火を噴き接近してきたカタフラクトを吹き飛ばす。

 

「全カタフラクト、回収しました」

 

「離脱する」

 

「後方に敵カタフラクト、さっき倒した奴と同じタイプっす!」

 

「増援!?」

 

祭陽の言葉に不見咲は驚愕するがそれだけではなかった。

 

「二時の方向にも、増援ではありません。これは…」

 

灰色のカタフラクトがなにもない空間から出現しどんどんその数を増やしていく、その異様な光景に伊奈帆たちは息を飲む。

 

「敵影。12、16、24…。どんどん増えています」

 

「分身能力!?」

 

「両舷一杯!」

 

予備動力も使い無理矢理発進するデューカリオンだが灰色のカタフラクトは数を増やしながら追撃をやめない。

 

「このぉ!」

 

下部ハッチからカタフラクト隊が迎撃を開始するが敵の勢いは変わらない。

その上、スカンディアから放たれた矢がデューカリオンに着弾すると共に強力な雷撃が襲いかかった。

 

「ウェザーレーダー、ドップラーレーダー…機能停止」

 

「くそっ!透明の矢の攻撃で放電柵にダメージが」

 

「無線も駄目っす!」

 

「GPS消失、二次レーダーもアウトだ!」

 

「そんな!」

 

雷撃の影響で艦内システムとレーダーに甚大な被害を及ぼした。艦内の非常灯が点灯し各コンソールからは火花が飛び散る。

 

「落ち着きなさい、上昇を続けて…」

 

「はい!」

 

各所から黒煙を出しつつもデューカリオンは上昇を止めず辛くも脱出するのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
今回は取り敢えずここまでと言う事で。予想以上に分量が行ってしまったため2、3話ぐらいに分割することになりそうです。
そしてやっと生かせた、元フィアのスレイプニール設定。中々使えなくて悩んでましたから少しスッキリです。
この話はかなり興奮しましたね、伊奈帆の冷や汗なんて中々見られませんから、伊奈帆が2期で一番焦ったんじゃないでしょうか。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第五十八星 復活の騎士 -Resurrection Knight-

 

 

月面基地、スレインの執務室。

 

「戦勝おめでとうございます。スレイン様」

 

「あまり喜べないな、みすみす敵を逃しては…」

 

「領地の確保と言う目的を果たしたのです。十分成功ではありませんか…。これで忠誠を誓う騎士も増えることでしょう」

 

「油断は禁物だ。騎士の忠誠と言う言葉ほど当てにならない言葉は無い」

 

「重々承知しております」

 

ハークライトの言葉でもスレインの顔は晴れないままだ。こちら側を追い詰めたとなれば敵は恐らく界塚伊奈帆だろう、ここで仕留めて後顧の憂いを取り除きたかった。

 

「それから、バールクルス様からのご依頼の件ですが…」

 

「構わない」

 

「はぁ…」

 

「マズゥールカと言ったか?姫に会いたいというのなら会わせれば良い、姫も喜んでこちらの勢力を増やしてくれる役割を果たしてくれる。少なくとも今は…」

 

騎士の忠誠など信用ならない、だが最初の方はこちら側にとって良いように動いてくれるだろう。

そう予測しての回答、だがスレインはこの判断が自身を苦しめることになるとはまだ知らない。

 

ーーーー

 

既にボロボロとなったデューカリオンは基地に帰投すべく進路をとっていたがセンサー系が全滅した今、目隠しに運行に近い状態だった。

 

「駄目だ…。応急で復旧できるレベルじゃない…」

 

「そんな!ノクトビジョンもやられてるし、有視界飛行じゃとても…」

 

「故障は…センサー系ですか?」

 

「どうして分かったのですか、界塚少尉?」

 

「すぐに分かります。機体が微妙にですがずっと流されてる。この船ではエンジン周りの不備はあり得ないし…」

 

「とにかく助けて!いろいろとマズくて」

 

ブリッジに入ってきた伊奈帆は船の損傷を分析した後、助けを求めるニーナの所へと駆け寄る。

 

「もう少し高度を落とした方が良い。相手のレーダーにかからない程度に…」

 

「でも、高度計もGPWSも死んでるから低すぎると恐い」

 

デューカリオンのような巨体を操艦するだけでも通常の操縦士なら精一杯なのだ。その上、センサー系おも潰されてはこちらとしても為す術が無い。

 

「把握できてる。今、9200…」

 

「そこまで見えるんだ…」

 

伊奈帆の言葉に筧、裕太郎、祭陽が顔を合わせ頷く。

 

「VORも捕まえられますか?」

 

「ええ…」

 

「至近の2点を掴めたら頼む。ラジアルを割り出す」

 

「はい…」

 

「進路は、110(ヒトヒトマル)のつもりだけど」

 

「3度のオフセットを2分、後は戻してキープ」

 

順調に進むかと思えた矢先、デューカリオンがゆっくりと、だが確実に揺れる。

 

「マズいな、たちの悪い気流に捕まったか…」

 

「しばらく続きそうです、念のために速度を…」

 

「分かった!…この位なら前にも…」

 

「だね、ここから先は経験が役に立ちそうだ。LLGがキャッチできたら伝える」

 

いつも韻子にくっつき、弱音と涙を何度もこぼしていたニーナが随分と頼もしくなった。

そんな彼女に笑いかけつつ伊奈帆は振り返る。

 

「ありがとう」

 

「いえ、先程は。鞠戸大尉が驚いていました、随分と無茶をすると」

 

「貴方にだけは言われたくない。そう伝えておいてください」

 

「はい」

 

マグバレッジの言葉に再び笑みをこぼす伊奈帆、ここ最近、彼は本当に表情が柔らかくなった。成長し続ける周囲に対して伊奈帆が安心している証拠だ。

 

(もっとこちらを頼って貰えると嬉しいのですが…)

 

微笑む彼を見てマグバレッジは密かに思うがそれは難しいだろう。それが彼の性分なのだ、ならこちらは彼が無理をしないように頑張るだけだ。

 

ーーーー

 

「そうですか…建国の準備は着々と進んでいるのですね。楽しみにしているのですよ、新たな王国、貴方の故郷に行けることも」

 

「粗野な者達が住まう世界です。故郷と呼べるような安らげる場所でも…。いえ、元より僕にそう言う場所はありません」

 

月面基地展望室。そこには、スレインとレムリナ、彼女の護衛担当のケルラが遠くからこの二人の会話を眺めていた。

 

「それは、私も同じです。ヴァースも王族という地位も私にとって安住の地ではありません。貴方と一緒にいられる場所が私にとっては何よりも…。」

 

「光栄に…存じます」

 

レムリナが放った真っ直ぐな言葉にスレインは思わず目を背ける。彼女の純粋すぎる心が彼を大きく揺さぶる。まるで昔の自分を見ているような感覚をスレインは感じ取っていた。

 

「では、また改めまして」

 

「スレイン、晩餐の用意は整っているのですよ」

 

「生憎ですが、まだ所用を控えております。お許しください…」

 

あまりにも唐突なスレインの退出に驚くレムリナ。その様子を見ていたケルラは悟った。スレインが罪悪感に圧されて逃げだしたがっていると言う事を…。

 

スレインは静かに退出し展望室の中は静寂に包まれる。

 

「ケルラ…」

 

「はい…」

 

アセイラム親衛隊のケルラ、レムリナがスレインの次に信頼している人物。彼女は決して自身の元から離れない、だからこそ彼女にとっては隊長であるフィアより信頼できた。

 

「せっかくなので、どうですか?」

 

「お許し頂けるのなら…」

 

一人っきりの晩餐など寂しいもの、レムリナはケルラの返事を聞くと静かに微笑むのだった。

 

ーーーー

 

地球、苦労して基地に辿り着いたデューカリオンは大規模な修復作業が行われていた。

久しぶりにゆっくりと休める機会を得たデューカリオンメンバーはそれぞれ思うままに休んでいた。

 

「ふぁ~」

 

それは韻子も例外ではない。久しぶりに睡眠をたっぷり取った彼女はあくびをしながら艦内を歩いていた。

 

「あ、伊奈…」

 

「く…」

 

その際、伊奈帆を見つけた彼女は気軽に話し掛けようとするがそれは伊奈帆の苦痛な声によって止める。

 

「あ、韻子。どうしたの?」

 

「え、あぁ。ニーナが昨日は凄く助かったって喜んでたよ…」

 

「うん…」

 

話しかける韻子に対し笑みをこぼしながら答える伊奈帆。この時、韻子はとてつもない違和感を感じていた。

 

「どうしたの?」

 

「なにが?」

 

韻子は思う。自分は今、本当に"伊奈帆"と話しているのかと…。

 

―知らない話に無理矢理合わせている?

 

―彼はこんなに笑う人だったか?

 

―自分は今、誰と話しているんだ?

 

彼は本当に私の知っている界塚伊奈帆なのか…。

 

「なんでも…ないけど…。」

 

言葉に表せない違和感に韻子は何も言う事が出来なかった。

 

ーーーー

 

揚陸城に設置された庭園、若々しい草木の匂いが心を癒やす。その空間に設置された椅子にフィアは静かに座っていた。

 

「……」

 

「隊長!」

 

「なんだ…」

 

心地よい気分で意識が眠りの淵に立とうとしたとき、リアの声に彼女は目を向ける。

 

「ジュリが帰還しました!」

 

「なんだと!?」

 

失ったはずの部下の名を必死に叫ぶリアの声にフィアは思わず立ち上がる。

 

「それよりもなんだその恰好は…」

 

「いえ、所用がありまして…」

 

「…そうか」

 

リアの恰好はいつもの紺色の制服だったが問題は頭部だ。ハチマキを巻き、頭とハチマキの間に何本もの草を挟んでいる。明らかに怪しい恰好だ。

 

「それより、ジュリは今どこに」

 

「月面基地だそうです」

 

リアはフィアの関心が逸れて心の中でホッとしていた。流石に言えまい、リアが日課の隊長ウォッチングをしていたなど。

草むらの中でカメラ片手にハァハァ言ってたなんて…。

 

(通信さえ入らなければ隊長の寝顔を撮影できたのにぃぃ)

 

フィアの寝顔を盗撮(拝見)するという野望はまだ遠い。

 

ーーーー

 

「此度は私が信におくトロイヤード伯爵につく意思を固められたとの事。誠に欣喜にたえません」

 

「恐れ多き事でございます」

 

「誠心誠意、アセイラム姫殿下とトロイヤード伯爵に尽くさせて頂きます」

 

月面基地、謁見の間。そこにはマズゥールカとバルークルスの2人がアセイラムに扮したレムリナの前で跪いていた。

 

「1度は幽閉の身となりながらもヴァース帝国の未来のため、今一度立ち上がろうとしたマズゥールカ卿の意思に私も心打たれました。」

 

「恐れながらも姫殿下。姫も私と同様に同じ辛酸を味わったと聞いておりますが」

 

「左様なこともありました。地球人はその…粗野な者達ばかり」

 

辛い記憶を呼び起こすように暗い表情を見せるアセイラムを見てバルークルスはなにを言っていると言った非難の目でマズゥールカを見やるが彼はそれでも止まらない。

 

「親しくなられた者などは一人もおりませんでしたか?」

 

「親しくなど、まさか…。地球人の相手は全て侍女に任せていたので…」

 

アセイラムが言葉を発した瞬間、マズゥールカの表情は一変する。確信したのだ、彼女が偽者だと言う事に。

そして予定していたプランを実行に移すことを決めたのだった。

 

ーーーー

 

「ジュリさん!」

 

「ケルラ…よく頑張ったな」

 

ジュリの帰還に喜びケルラは目に涙を溜め込みながら彼女に抱きついた。ジュリも抱きしめ返しお互いの生存を喜ぶ。

 

「ジュリさん…私…。」

 

「どうした…」

 

何か言いたげの彼女の様子にジュリは思わず聞く。

 

「私はレムリナ様を護りたいんです」

 

「ケルラ…」

 

ヴァースの制度に苦しめられ光を浴びられなかった少女。その姿は親衛隊に入隊する前の自分たちの姿そのものだった。

でも彼女は光を得た、自分たちが隊長に拾われたように…。だがそれもレムリナは失おうとしている。そんな事実はケルラには耐えられなかった。

 

「でも、私たちはアセイラム姫殿下の親衛隊で…」

 

「気にするな…。隊長だって笑って応援してくれるさ」

 

ジュリはケルラの頭を撫でる。自分がいない間にしっかりと成長していた彼女に思わず笑みを浮かべた。

 

フィアも同じ行動をとるだろう。心に従いそれを貫き通す、それが我らが隊長の生き様、我らが憧れた背中。

 

「そう言えば…。ケルラ、隊長に会わせたいお方がいるんだ…」

 

「はい?」

 

ーーーー

 

「どうしてスレインが居ないのですか!?」

 

「スレインは現在、新たな作戦のために奔走しておりまして」

 

「それは前にも聞きました。こちらでは出来ないことなのですか?」

 

「大事な資料もあることかと…」

 

謁見を終えたレムリナは最近のスレインの行動に不満を抱いていた。それも当然だろう、彼の行動が自身に対して素っ気なくなっているのだから。

 

「なら、私が移ります。私が揚陸城に移ります!」

 

「姫様!?」

 

我慢の限界が来たのだろう、乗っていた車椅子を強引に動かしながら目の前に立つハークライトの横を抜け前進させる。

だが無理な操作をしたせいで車椅子が倒れてしまう。

 

「姫様!」

 

あわや地面に叩きつけらようとした瞬間。ジュリと分かれたケルラが飛び込みレムリナの下敷きになる。

 

「きゃあ!」

 

「うげ!」

 

「ケルラ…」

 

「大丈夫ですか!?」

 

慌ててレムリナを起こそうとするケルラを見やり彼女は大粒の涙を流す。

 

「いつに…なったら。ねぇ、いつになったら…」

 

「……」

 

そんな彼女の姿にケルラとハークライトはただ、黙ることしか出来なかった。

 

ーーーー

 

そして時間は少し経ち、揚陸城。

そこにはジュリの手引きで来訪したマズゥールカの姿があった。

 

「ジュリ!」

 

「隊長!」

 

帰還したジュリを見たフィアは彼女を力いっぱい抱きしめる。彼女の豊満な胸に埋まり大惨事になってしまったジュリが必死に脱出しようと試みるが彼女の腕は一行に動かない。

その様子を凄い目でリアが見ているのは最早お約束だろう。

 

「タイミングが良かったとはいえ、助けられて良かった」

 

「本当に感謝いたします。マズゥールカ卿」

 

先程の喜びようから一転、いつも通りになったフィアはマズゥールカとの会話を進める。

 

「いえ、地球側にも我々に協力してくれる方がいましたので、それほど苦労はしませんでした」

 

「地球側に協力者?」

 

「ええ…そう言えば、エルスート卿のお知り合いだとか…」

 

「私が?」

 

マズゥールカの言葉にフィアは考える。地球に知り合いなど居るはずがない。と言う事は相手が嘘をついていることになるがわざわざ噓など言うだろうか。

 

「それは一体……」

 

「界塚伊奈帆と言う少年ですよ…」

 

「……」

 

マズゥールカはその名を口にしそれを見守っていたジュリも固唾を呑んで彼女を見る。周りのネールやリアたちは誰だと疑問のを浮かべている。

 

「…なるほど、アイツか……」

 

その場に居る全員がフィアを見る。

彼女の表情はひどく穏やかなものだった。

 

トライデント基地攻防戦をきっかけに記憶の修復が行われていた彼女にとって足りないピースが1つあった。

それはとある人物の存在、地球で最も印象に残った少年の存在だった。

 

「伊奈帆…」

 

彼女は腰に吊した拳銃を優しく撫でる。

いつもの頭痛は無い、そこにあるのはどこかスッキリとした感情。今、彼女の失われた記憶のピースが復活した瞬間だった。

 

 






フィア、ついに復活!
アセイラム姫が庭園の時にフィアがその名を聞いていれば良かったのですがまさかの聞いていないという事件の後のマズゥールカ卿。
マズゥールカ卿って戦闘っていうより内政寄りのお方だったと今更ながら思いますね。
そしてケルラちゃんがついに決心!レムリナ姫大丈夫だよ、味方は居るよ!
さらにもうすぐ伊奈帆たちが宇宙に上がってきますよ!月面基地に来ますよ!その前に3馬…ではなく三騎士どもをやってしまいましょう!



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第五十九星 介入者 ―Intervention's―

 

「それで、それだけではないはず…」

 

月面基地付近にある揚陸城の応接室ではエデルリッゾのいれた紅茶を前にフィアとマズゥールカが相対していた。

 

「えぇ、彼は姫様と貴方の身を案じていました。そして状況が変わるであろう事も予見しているようでした。」

 

「確かに、私もこのまま黙っているつもりはない。しかし、これはチャンスだと捉えています」

 

「チャンス?」

 

その言葉にマズゥールカは思わず疑問を口にする。本物のアセイラムにとっては不利な状況、一体何がチャンスだと言うのか。

 

「姫様が望んでおられたヴァース帝国の改革。それをスレインの改革を乗っ取る形で行います」

 

「乗っ取る…」

 

「幸いなことにスレインの改革と姫様の改革は同じ道を辿っている。当然、目的地が違いますが…」

 

アセイラムが望んでいたのはヴァース帝国の民が平等に幸せに暮らせること、対するスレインの改革もアルドノアドライブの保有の有無による格差をなくすこと。

 

そこで違うのはヴァース帝国王族の立場だ。アセイラムは民に寄り添う形によって統治する。スレインはアセイラムの絶対的な権力下による統治が目的だ。

似ているようだがあり方がまったく違うのだ。

 

「この改革の波に乗ればヴァース帝国は変わる。姫様の為にも成さねばならない…」

 

「エルスート卿」

 

自分より年下だというのにしっかりとしている。そんな彼女の姿にマズゥールカは感心を隠せない。

 

「姫様の記憶がお戻りになれば…」

 

復活したフィアの姿はほんの数分前の彼女とは全く別人に見える。

そんな彼女の姿にリア達は思わず息を飲んだ、記憶をなくしていた状態でも以前と変わらぬ姿だったというのに取り戻した瞬間、更に凜々しくなった。

地球でかなりの辛酸を舐めてきたのだろう。

 

ーー

 

「ではこれで失礼します」

 

「もしもの時は頼みます」

 

「えぇ…。私が言うのもなんですが姫様を頼みます」

 

「はい…」

 

あまり時間が経ってはスレインに感づかれるかもしれない、早々に話を切り上げた2人は固い握手を交わす。

 

「貴方のような方がヴァースに居て良かった」

 

「私はまだまだ未熟者です。学ばねばならぬ事も経験せねばならぬ事もたくさんあります」

 

「それでも貴方は私の知る中で最高の騎士ですよ」

 

「ありがとうございます」

 

マズゥールカの言葉を聞き、微笑む彼女の顔は本当に誇らしそうだった。

 

ーーーー

 

マズゥールカが揚陸城から去った後、フィアとエデルリッゾは彼から預かっていたペンダントを持ちアセイラムの元を訪れた。

 

「あら…。フィア、エデルリッゾどうかしましたか?」

 

「いえ、実は姫様に贈り物が届いておりまして…」

 

「贈り物?」

 

エデルリッゾの言葉にアセイラムは首をかしげる。今日は特に何も無かった筈だが…見舞いの品だろうか。

 

「……」

 

エデルリッゾから受け取った小さな箱を確かめそっと蓋を開ける。その様子を見つめる2人……。

そこに現れたのは地球に発つ時にスレインが彼女に渡した御守りだった。

 

「っ!」

 

突然のフラッシュバック、揚陸城での激戦の記憶が次々と噴き出してくる。血まみれの伊奈帆、目の前で倒れるフィアの姿がまざまざと思い出される。

 

「フィア!」

 

「姫様!?」

 

突然胸に飛び込んできたアセイラムを受け止め驚くフィアだが彼女はさらに目を見開いた。

 

「よく…よく生きていてくれました。私は貴方がいなければ…」

 

「姫様…」

 

失礼なことは分かっている、だが自身が今の彼女のしてあげられることは目に涙を浮かべた主の体を優しく抱きとめる事だけだった。

 

ーー

 

それと同時期、月面基地のアセイラムが眠っているはずのアイソレーションタンクの部屋を訪れていたのはレムリナだった。

 

「どう言う事か…説明してくれますか?」

 

「……はい」

 

レムリナは後ろに控えていたケルラに質問すると彼女は静かに返事をするのだった。

 

ーーーー

 

地球、デューカリオンブリーフィングルーム。

 

「なぁ、界塚弟…。この相手、お前のとんちでなんとかならないのか?」

 

「難しいですね。高電圧を武器とするエレクトリス、透明になるスカンディアどちらも手強いです。オルテギュアの分身能力に関してはデータが少なすぎます」

 

「雷に分身にドロン、まるでソニー千葉の映画だな」

 

相変わらずの火星カタフラクトの異能性に舌を巻くカーム、それとは対称的に伊奈帆は冷静に分析する。

 

「観測から分かっているのはオルテギュアは一体が2体に分身すること、1度に3体には分身しない2機目が現れる範囲は半径30メートル以内…」

 

「どんなに分身しようとも敵が乗ってる本体は一機でしょう、他は偽者」

 

「なら本体を見つけて倒すしかないな」

 

「どうやってですか?」

 

「分身する前の敵をマークして追跡するしかないわね」

 

ライエの言葉に全員が暗黙の賛同をする、至極単純な方法だがそれしかないというのが現実だ。

 

「スカンディアに関しては煙幕で敵の位置を割り出せる」

 

「雷は、打つ手はあるの?」

 

「あいつを喰らったら電子回路もアクチュエーターも一撃で暴発する」

 

「絶縁体とかは?電気通さないやつ」

 

「はぁ?ばっかじゃないの。小学生でもあるまいし」

 

「なんで!?どこが間違っているの?」

 

まさに名案と言わんばかりの彼女の姿にカームは呆れ馬鹿にする。対するニーナもこれのどこが間違っているのか分からずに思わずムッとしてしまう。

 

「すでに空気が絶縁体なんだ、その分厚い絶縁を破壊できる高電圧には対抗できない」

 

伊奈帆の言葉にニーナも納得し黙る。そらそうだ、空気が絶縁体でなければとっくの昔に人類は滅んでいるのだから。

 

「なにより厄介なのは、このめんどくさい相手が連携を取っているということだ」

 

「一機ずつでも大変なのに…」

 

「もしかしたら、手はあるかも」

 

「また…その目を使うの?」

 

伊奈帆の言葉に思わず韻子が声を出す。当然だろう、目の前に居る想い人は明らかに無理をしているのだから。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。いつもミューテーションコードをはしらせてるから、時間が経つ度に最適化が進んでるんだ。演算能力は前より上がっている」

 

「……」

 

心配させまいと振る舞う伊奈帆の姿に韻子は何も言う事は出来なかった。

 

ーー

 

「はぁ…」

 

ブリーフィング終了後、韻子は食堂で飲み物を飲みながら大きなため息をついていた。

 

「何してるの、ため息なんかついて…」

 

「ライエ…」

 

そこにやって来たのは韻子の様子を心配して来てくれたライエだった。

 

「伊奈帆を止められなかった。絶対に無茶してるのに…何も言えなかった」

 

「……」

 

誰もが分かっている。伊奈帆は無茶をしている、それがどこまでの無茶なのかは分からないし言ったところで彼は止まらないだろう。

 

「フィアなら…無理矢理にでも止めたかな?」

 

「さぁ…」

 

韻子の問いにライエは口を濁す。分からないのは本当だ、彼女の思考など自身にはとうてい理解できないものだろう。

だが自分なりにフィアが取りそうな行動はある程度想像できる。彼女は止めない、信念の元で行動する彼を止めはしないだろう…。

彼女がするのはただ一つ、友に死線をくぐり抜け伊奈帆に無理をさせる必要をなくすことだ。

 

韻子にも分かっているだろう、そして自身には到底出来ないことだと落胆する。

 

「追いかけるべき背中があるって言うのも楽じゃないわね」

 

「その背中が立派である程ねぇ……」

 

韻子とライエ、この二人は心底敵わないと思いながらも笑みを浮かべるのだった。

 

ーーーー

 

月面基地展望室。

 

「レムリナ姫、地球への侵攻。滞りなく進んでおります」

 

「そう、流石ねスレイン」

 

「つきましては戦果を上げた軌道騎士に対して御言葉を頂けないでしょうか?」

 

「“私”が?」

 

「はい、“アセイラム姫”が御言葉をおかけになればこちらに与する軌道騎士も増えることでしょう」

 

あくまでもレムリナ姫ではなくアセイラム姫としてしか話さないスレインに対し彼女は僅かに顔をしかめるが肝心の彼は気付いていなかった。

 

「良いでしょう…。時にスレイン、お姉様の容態はどうかしら?」

 

「危篤状態が続いているとの報告を受けております」

 

「そう…」

 

「ここは医療スタッフを信じて委ねるしかありません」

 

「そう、スレインも気に病まぬように」

 

「優しき御言葉。痛み入ります、それでは失礼いたします」

 

通信が切れ、展望室に静寂が訪れる。

 

「ケルラ、お姉様の元に案内して…」

 

「……姫様」

 

レムリナはほんの少しだけ顔を後ろに向けそう告げる。ケルラは彼女の言葉に一瞬戸惑いを見せたがすぐに答えるのだった。

 

「分かりました…」

 

ーーーー

 

地球、ヴィクトリア湖の近くにある平原にて地球軍の第二次侵攻隊が投入された。

規模は9個小隊、つまり大隊規模と言う前回の倍以上の数の部隊が動員されていた。

 

「クライスデールリーダーより各機、全機展開」

 

「マスタングリーダーよりマスタング00、なおくんそっちは?」

 

「暫定値が出た。座標とタイミングを送る」

 

「マスタングリーダーより11、22…。移動開始」

 

「了解」

 

囮として配置されていたデューカリオンの部隊だが各機が伊奈帆の立案した作戦に従い行動する。

 

「オルテギュアのマスターは最初の1機だ。一斉に攻撃しマスターを叩く。ゾロイヤ小隊前へ、ゴトランド小隊は西に回りこめ」

 

「ゾロイヤ小隊、了解」

 

「ゴトランド小隊、了解」

 

「マスターは右から3番目の機体だ……攻撃開始!」

 

侵攻隊部隊本隊ははオルテギュアを破壊すべく行動を開始、すぐさま戦闘状態へと以降。

 

「本体を狙ったつもりか…違うな。あのお方の到着はいつになるのだ?」

 

「もう間もなくかと…。現在は海にいるようです」

 

オルガの言葉に対し答えたのはラフィアだった。そう、彼らには勝てると言う確信があったのだ。

 

ーー

 

アフリカ近海、そこの港を警備していた地球軍の部隊は言葉を失っていた。

 

「な…」

 

敵の反応を探知し部隊が出動するまでは良かった。だが敵がこちらの想像を遥かに超えていたのだ。

アレイオンが小さく見えるほどの巨体、そしてドラゴンを連想させるその姿に誰もが恐怖を覚える。

 

「これは…機体なのか……」

 

咆哮に似た駆動音が鳴り響くとドラゴンは港の防衛部隊に襲いかかのだった。

 

4体目のカタフラクト強襲、果たして伊奈帆たちの運命は…。

 

 




どうも砂岩でございます!
まさかの4体目の来襲、一体どうなるのか?
そして次回はレムリナとアセイラム姫の対面。
流石にアニメのものをそのまま描写しているのも読んで頂いてる皆様に失礼だと思いましてオリジナリティを加えてみました。
この展開は2期を書き始める前から考えてましたが…入れるかどうか迷ってました。
一応、新敵のイメージを言えば、ダンボール戦機に出てくるキラードロイド(ワイバーン)が個人的なイメージです。

では最後まで読んで頂きありがとうございます!



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第六十星 第4の敵 -forth enemy-

 

 

 

 

 

「居たぞ、撃て撃てぇ!」

 

奪還部隊本隊は一定のエリアに煙幕を張り光学迷彩機能を持つスカンディアの位置を割り出すと銃撃を加える。

 

「退屈な方々、そう思いません事。ゼブリン伯爵」

 

「遊んでやりましょうぞ。ラフィア伯爵」

 

対するラフィアは飛来する銃弾に対し一切動じる事なく無線で会話をしていた。

その瞬間、光が辺りを包む。光学迷彩を張っていたスカンディアを中心に空中に漂っていた煙幕が一瞬にして消え失せた。

 

「煙幕が消えた…」

 

「コロイドはイオンに吸着される。これも高電圧の使い方よ」

 

勝ち誇ったかのようなゼブリンの声と共にスカンディアから高電圧が放たれ囲んでいた包囲部隊の半分を破壊した。

 

「散り際は美しく、そうあるべきとは思いません。カタフラクト使いであるならば…」

 

散りゆくカタフラクトたちを見つめ、悠然と言葉を放つラフィアは静かに笑みを浮かべる。

 

完全に傾いた戦況、だが地球軍には切り札がある。それは敵より勝る数ではない、界塚伊奈帆と言う頭脳の存在だ。

 

「データ、揃いました。煙幕の無効化と透明化の拡張は想定外でしたが」

 

「補正できますか?」

 

「なんとか…」

 

地球軍の反撃が今、始まる。

 

ーーーー

 

「そうですか、私が眠ってからもう2年近くも戦争が続いているのですね」

 

「面目次第もございません…」

 

「一体、なにがどうなっているのですか」

 

目覚めたアセイラムに事の顛末を大まかに説明したフィアとエデルリッゾだったが現状の詳しい説明となると少々難しかった。

 

「私が言えるのはスレインが暴走しつつあると言うことです。残念ながら私では彼を止められず」

 

「スレインが…」

 

フィアの言葉にアセイラムは立ち上がると扉に向けてゆっくりと歩く。

 

「姫様、どちらに向かわれるのですか?」

 

「スレインに会うのです。そして、真実を確かめるのです」

 

「姫様…」

 

相変わらずの行動力に驚くエデルリッゾに対しフィアはやっぱりと言った感じで小さくため息をつく。

だからこそ一生付き従うと決めたと言う面もあるが守る身からしてみればその行動力は勘弁して欲しい時もある。

 

アセイラムが扉の前に立ち、自動ドアが開く。

それは問題は無い、だがその扉の向こうから現れた人物は彼女を驚愕させるには充分だった。

 

「っ!」

 

そこには車椅子に座る自身の姿があったのだから。

 

「ケルラ…」

 

「すいません隊長、でも我慢できなかったんです」

 

同じく驚愕の眼差しで見ていたフィアの言葉、それに対しケルラは静かに答える。その顔にはかつて無いほどの覚悟が見て取れたのだった。

 

「貴方は…」

 

「私は…私は貴方よ」

 

向けられる銃口、引き金に指が添えられる。

そんな光景をアセイラムは目を見開きながら見つめることしか出来なかった。

 

ーーーー

 

「戦術データリンクから敵の動きを多次元的に解析。パイロットの攻撃の癖を把握。敵が好んで使う攻撃パターンをあえて受けやすい位置に味方を布陣」

 

変わって地球、伊奈帆はアナリティカルエンジンをスレイプニールに接続し敵の解析に努めていた。

 

「敵の攻撃を誘う。ただし、解析が間に合うかどうか…。最新のデータを送る、移動して」

 

「「了解」」

 

「こっちも了解だ」

 

伊奈帆の指示に対してライエ、韻子、鞠戸たちが行動を開始する。

データに基づき移動をしているが伊奈帆がしくじれば命は無い、自身なりにも辺りを見渡してみるが敵の気配は察知できなかった。

 

「囮って嫌な気分ね。今どこに居るの?」

 

「ライエさんのうしろに回り込んでいる。相手に気付かれないよう、雷撃を停止して狙いを定めるために一旦停止するはず」

 

真後ろに敵が居る。

ライエは恐怖を感じ思わず振り向こうとしてしまうが何とかそれを抑え、前進を続ける。

 

「ユキ姉、今だ」

 

「本当にいるの!?」

 

送信された敵の位置データ。

ユキはライフルを構え弾道を逸らさせた3発の銃弾がその地点に飛来する。

飛来する銃弾、一拍の間を置いて砲弾の一発が空中で突如爆発した。

 

「いた!?」

 

「まさか!」

 

ユキとラフィアの驚愕の声が重なる。

 

「こちらマスタングリーダー、敵を捕捉」

 

「了解。マスタング00、出撃する」

 

「マスタング00、降下」

 

上空に待機していた輸送機から放出される機体。

訓練機を示すオレンジ色に塗装された機体は宇宙用装備を身につけ重力に従い地表へと降下していく。

 

「スカンディアの足が…。エレクトリスの重量を支えられませぬ」

 

「合体を解く。逃げろ」

 

脚部に損傷を負ったスカンディアはエレクトリスを降ろすと揚陸城のある方向へと移動する。

 

「目標確認。9号シュート」

 

「なんだ?」

 

降下し続けるスレイプニールから発射されたワイヤーはエレクトリスに繋がれる。

謎の衝撃に疑問を覚えるゼブリンだったが周囲からの攻撃に対抗するために雷を展開するしかなかった。

 

「無駄だと言っているだろう!」

 

「ならこっちならどうだ」

 

スレイプニールから放たれた銃弾は雷をすり抜けエレクトリスの装甲に直撃する。

 

「なにゆえ!?」

 

「電気は電位差で流れる。同じ電位にある物に雷は落ちない。お前自身に雷が落ちないように」

 

鉄壁の雷撃が無力と化したエレクトリスに為す術はない。防御面でも攻撃面でもだ。

 

「くらえ!」

 

「もう遅い。お前と同じ電位になった」

 

雷撃が飛来するがスレイプニールには当たらない。

伊奈帆は静かにライフルを構え、冷静に引き金を引いた。

放たれた銃弾はエレクトリスに直撃し各所から火花を散らせる。

 

「まさか…。あれが噂のオレンジ色か」

 

「ゼブリン伯爵!」

 

「応援をまわす。持ちこたえよ!」

 

「このぉ…。地球人風情が」

 

撃墜されたゼブリンを見たラフィアは通信から聞こえてくるオルガの声が耳に入ってこなかった。

あのオレンジ色がオレンジ色さえ居なければ…。地球軍のエースなど知ったことかこの私が叩き落としてくれる。

 

「くらえ!」

 

ラフィアは手にしていたボウガンを構え降下し続けるスレイプニールに放った。

 

「っ!」

 

ピピピッ!

 

飛来する矢はスレイプニールに右肩を穿つ筈だった。

それに即座に反応したのはスレイプニールのOS。OSは独自の判断で回避行動を開始し矢は背部の宇宙用装備を破壊した。

 

「伊奈帆!」

 

「煙幕弾!」

 

韻子の悲痛な声と共に鞠戸は包囲していた部隊に命令を下す。

ばらまかれた煙幕弾は広範囲を多いスカンディアの存在を引き立てさせる。

 

「見つけた、ファイヤ!」

 

煙幕から即座に見つけ出したユキは大型のライフルを構え撃ち放つ。

 

「…そんな」

 

ボウガンを持つ右腕を撃ち抜かれ反撃の手段すら奪われたラフィアはただ唖然として機体が生み出した業火に焼かれるのだった。

 

「おのれ、良くも同士を…。許さぬ」

 

二人の最後を見届けたオルガは敵の本隊へと機体たちを前進させる。援軍が到着する時間すら稼げなかった。

本来なら”あのお方”を待つべきであろうがそれでは栄えある軌道騎士に泥を塗ることになる。

それも彼には容認できることではなかった。

 

「大丈夫、なお君?」

 

「うん、ありがとう。ユキ姉」

 

「9時の方向!」

 

降下を終えた伊奈帆は背部の宇宙用装備をパージしライフルを構える。

ユキ姉の言葉に若干の安堵を覚えるがそれもつかの間。大量に分身したオルテギュアが丘をおけて進撃して来たのだ。

 

「各機、各個に応戦!」

 

本隊による一斉砲火、撃墜されてゆくオルテギュアたち、だがそれ以上に分身が出現しジワジワと迫ってくる。

数を生かした人海戦術。物量作戦を利点とした地球軍がその作戦によって追い詰められようとしていたのだ。

 

ーー

 

「マスターを倒せばいいんじゃなかったの!。どれが本物なのよ!?」

 

「マークしていた親機は本物じゃなかった。どこかに隠れてんのか?」

 

オルテギュアのナックルガードはアレイオンのコックピットを潰しジワジワと追い詰められていく伊奈帆たち。

 

「どれが一体が本物だと思っていたけどひょっとしたら違うかも」

 

「間違いって?」

 

増え続けるオルテギュアの動きには守りなど動作は一切無い。親機がいるのならそれを護ろうとするはず。

 

「分身を解析していたら興味深い結果が出た。奴らは分身の瞬間。姿勢からエネルギー状態までマスターと全く同じ状態で分身している。」

 

おかしな話だ。分身と言うのは本体と劣るのが当然、全く同じ物を増やすのは分身では無く複製だ。

 

「量子テレポートを使って自分自身をコピーしているのかもしれない。その時、コピーの大元を壊さず維持することで分身しているんだ」

 

「まさか…」

 

伊奈帆の冷静な解説の元、韻子は一つの答えに辿り着く。

 

「奴らは…全部本物だ」

 

伊奈帆からの通信を聞いていた全ての者が息を飲む。

近未来とかそう言う話では無い、もはやファンタジーの領域に入ってしまうことが目の前で起きているのだ、無理もない。

 

「全カタフラクトの照準とトリガーを僕にください」

 

「中隊指揮所に要請を」

 

「はい」

 

伊奈帆の一言と共に動き出したのは遠く離れたデューカリオンのブリッジに座るマグバレッジだった。

スレイプニールは増え続けるオルテギュアのロックオンを開始。

一つでは無い全てのオルテギュアに対しマルチロックオンを開始したのだ。

 

進化していたスレイプニールのOSのおかげでアナリティカルエンジンで行う作業の殆どをOSが肩代わりしてくれている。

 

「いったいいくつ増えるの!?」

 

「まだか界塚弟!」

 

「ターゲットが増殖しています。更新にあと少し…」

 

「次から次へと…。弾が持たねぇ!」

 

眼前まで迫ってくるオルテギュアを撃破しながら叫ぶライエと鞠戸。だがそろそろ限界が来ていた。

 

「戦術データリンク、シンクロ。全連合軍カタフラクト、照準を集中コントロール。チャンスは1回、全部本物だと言うのなら…。」

 

スレイプニールのマルチロックオン終了のアラームとカタフラクト隊のコントロール掌握は同時だった。

 

「ファイヤ」

 

伊奈帆コントロールの元、カタフラクト隊が一切射撃。

無数の弾丸がオルテギュアを穿ち機能を停止させる。一拍の静寂の後、全てのオルテギュアが爆散する。

 

「全部本物なら、全部纏めて倒せば良いってか」

 

「全カタフラクト、殲滅しました!」

 

「やったね伊奈帆!」

 

上空で様子を窺っていたニーナの言葉と共に参加していた兵たちからは安堵の声が漏れる。

 

「うん、上手く行って良かった。みんなのお陰だ」

 

そう言って伊奈帆は少し優しげにスレイプニールの計器を撫でる。

このスレイプニールでなければ脳を酷使しすぎた影響で自分は悶え苦しんでいただろう。

だがそんな事はない、自分は至って正常だ。

 

「ありがとう、フィア…」

 

これも全てフィアの残したOSのお陰だ。彼女はどれだけ自分を助ければ気が済むのだろうか。

 

ドォ……ン。ドォ…ン。

 

「え、なに?新たな敵影!?」

 

そんな安堵も長くは続かない。ニーナの通信と共に伝わる大きな地響き。レーダーに1機の機影が映る。

 

「まさかオルテギュアがまだ残っていたのか!?」

 

「違う…もっと大きい…」

 

鞠戸の言葉を否定したのはライエ、彼女はマシンガンのマガジンを変え警戒を強める。

 

「うそ…」

 

「なにこれ…」

 

敵はゆっくりと姿を現す。オルテギュアのチートじみた能力を相手取って来たのだ。

もう恐くない、などと覚悟を決めた兵たちはその姿に絶望を覚えた。

言葉を失う韻子とユキ、丘を越えてきたのは人型のカタフラクトではない。

全身を黒と赤で彩られた巨軀、胸には不気味に光る球体がその存在をさらにおぞましく見せていた。

 

「なんだこれは…。今までのカタフラクトの倍近くあるぞ…」

 

「こんな時に…」

 

キャァァァァ!!

 

30メーターを越すドラゴンは自分達を見つめ大きく咆哮するのだった。

 

 

 






どうも皆さん遅れながらあけましておめでとうございます、砂岩です。
本来なら去年の内に投稿したかったのですが年末年始、泊まり込みのバイトと某英霊スマホゲームに熱を出していましてこんな時期に…。
本当に申し訳ありませんでした!

と言う事で今回は火星三騎士の退場とドラゴンが登場でした。
小林さんちのメイドラゴン、あれ面白いですよ。自分、コミコからのファンなんで嬉しかったですね…。

「「くたばれ駄作者!」」

アルギュレ!

「と言う事でこれからはこの私、フィアと」

「伊奈帆でお送りします」

「次回は初っ端から大物とだがどうだ?」

「正直、難しいかな。相手の能力もよく分かってないから対策のしようがないんだ」

「お前の健闘を祈ることしか私には出来ない。必ず生きてくれ」

「大丈夫。僕は絶対にフィアを迎えに行くから…」

「伊奈帆///」

お熱いですね…

「くたばれ!」

タルシス!!

「と言う事で次回は伊奈帆対大型カタクラフトだ。こんなバカは放って置いてくれて構わない。次回も楽しんで頂けたら幸いだ。」

「とにかく頑張るよ…」

「「ではまた次回!」」

ディオスクリア!!

意味のある暴力が駄作者を襲う!




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第六十一星 ほんの少しの後悔  -little regret-

※書き方を変えてみました。




「オルガくんも逝ってしまったか。私のような年寄りばかり残しおって…」

 

 スカンディア、エレクトリス、オルテギュアの残骸を見たバルト伯爵は悲しげに言葉を漏らす。そして見据えるのは前に立っている敵。

 

「噂のオレンジ色か」

 

バルトは目の前に立つスレイプニールを睨見つけるのだった。

 

ーーーー

 

「なによこれ」

 

「でかっ」

 

 突如出現した巨大なドラゴンは自分たちを睨み付けたまま動かない。オルテギュア相手に弾薬を大きく消耗し疲労も蓄積している。

 それに相手は未知の敵、ここは撤退が妥当だろう。

 

「ここで倒そう」

 

「伊奈帆!?」

 

 マガジンを新しいのに取り替えた伊奈帆は目の前に立つドラゴンを見据える。

 

「一度退いたら他のカタフラクトが合流するかもしれない。ここで倒せばここはこっちの領域になる。マグバレッジ艦長」

 

「司令部からは?」

 

「返答なしです。作戦続行かと」

 

 通信越しに訪ねられたマグバレッジは不見咲に目線を移すが彼女が期待した返事は返ってこなかった。それを聞いて内心、ため息をつくと返答する。

 

「作戦は続行してください。ただし、不可能だと判断したらすぐに退きなさい」

 

「分かりました」

 

 伊奈帆とマグバレッジとのやり取りを聞いていた全員は覚悟を決める。目の前に居る化け物を倒す、それしか道はない。

 互いが睨み合ったまま動かない、先手を打ったのはバルト伯爵の方だった。

 

キャァァァ!!

 

 目がくらむような咆哮と共にドラゴンこと《ギランディア》は口を開け放つ、それと同時に胸部の光るブロックが輝きを増す。

 

「まずい、全機散開!!」

 

 悪寒を感じた鞠戸の声と共にジャンプユニットを噴かし散開する部隊、それと同時にギランディアの口から眩い光が放たれ2機のアレイオンを両断する。

 

「光学兵器ですって!?」

 

 一拍置いて爆発するアレイオンを横目にユキは信じられないと言わんばかりに叫ぶ。あれは間違いない、チューオリンズで戦ったソリスと同じ光学兵器だ。しかも威力はこっちの方が大きい。

 

「このぉ!」

 

「クロイネル22!」

 

 部隊の仲間をやられた事による怒りで一気のアレイオンがギランディアに向けて吶喊する。

 

「煙幕だと!」

 

すると突然、クロイネル22の視界が塞がれた。

 

「違う、これは蒸気だ」

 

「蒸気!?」

 

 ギランディアの両脚、背中、太股の計5つのダクトから排出されたのは高温の蒸気、機体を冷却するための行動だろう。

 

「なぁ!」

 

 大量の蒸気の中から突如現れたのはギランディアの巨大な剣が着いた尻尾だった。それは高速で飛来しアレイオンをオモチャのように空高くかち上げた。

 アレイオンは空中でバラバラになり爆散する。

 

「撃てぇ!」

 

 鞠戸の声と共に残存の部隊はギランディアに向けて射撃を開始するが屈強な装甲に阻まれ全て弾かれる。

 その際、ギランディアは手のようなミサイルランチャーで胸を隠した。

 

「無駄だ、ギランディアに通常兵器は通じん」

 

 必死に発砲するアレイオンたちを見たバルト伯爵は表情を一切変えずに機体を操る。

 腕部に搭載されたミサイルランチャーが火を噴きアレイオンたちに向けて飛翔する。

 

「各機散開!」

 

「全然、効いてないんだけどぉ!」

 

「今はとにかく相手の情報収集」

 

「は、そうだった」

 

 飛来するミサイルを躱しながら韻子とライエはなんとか無事に合流する。

 

「伊奈帆とユキさんは!?」

 

「あそこ…」

 

 ライエが指差方向、そこには大型ライフルを持って反撃するユキと援護する伊奈帆のスレイプニールの姿があった。

 

「大型ライフルも弾く屈強な装甲に有り余る火力か…厄介だな」

 

「どうするの?なおくん」

 

「なにか弱点があるはずなんだ。似たような敵と僕たちは2年前とこの前、宇宙で戦った」

 

「揚陸城の…」

 

 2年前に戦った相手、ディオスクリアも巨大で厄介な能力を複数有していた。そうだ、必ずどこかに取り付く島があるはずなのだ。

 

「ユキ姉、ライフルの弾は温存しといて…。使えるかもしれない」

 

「分かったわ!」

 

 一旦、下がるユキを見送りつつ伊奈帆はギランディアの懐に潜り込み弱点を探すためにマシンガンを乱射する。

 

「各機懐に潜り込め!奴は大きい、足元に入れば対処は難しい」

「「了解!」」

 

 巨体な分、動きは必然的に鈍くなる。そこをついて奴の弱点を探れば…。

 

「自ら懐に入ってくるか…。思惑通りだな」

 

 だがそれは相手を誘った罠だと言う事にこの時は鞠戸も伊奈帆も気づけなかった。

 

 懐に突入し反撃だと言わんばかりに声を上げるアレイオン隊に襲いかかった物体があった。

 それは円柱形のものでアレイオンの胴体ぐらいの物体だった、それは機体に迫ると胸や背中に張り付く。

 

「なんだ、このドラム缶は…ッ!?」

 

パイロットが疑問の声を上げた瞬間、その物体から出て来たのは無数のコード、コードは触手のように動き機体の隙間から内部に侵入していく。

 

「なんだよこれは、誰か取ってくれ!」

 

 侵食されたアレイオンは全身に血管のようなものを浮かび上がらせ停止する。

 

「おい、どうした?」

 

 停止した機体を心配そうに見つめる味方、何があったのか確かめるために近づくアレイオン。

 

「よせ、近づくなぁ!」

 

 ぞわっと鳥肌が立ち、全身が危険を知らせる。鞠戸は近づく味方機を大声で止めるが時既に遅し…。

 侵食されたアレイオンは近づいてきた味方機に向けてマシンガンを撃ち放ったのだ。

 

「おい、なにを…うわぁぁぁ!!」

 

「機体がコントロール出来ない!助けてくれぇ!」

 

 味方機を屠ったアレイオンは他の機体にも攻撃を加える。

 

「おいよせ!止めろ!」

 

「くっ!」

 

 制御を失い、攻撃するアレイオンを見かねた他の部隊員は苦悶の表情を浮かべながらマシンガンを構える。

 マシンガンを構えたアレイオンが引き金を引こうとした瞬間、制御を失ったアレイオンの両腕が吹き飛ばされた。

 

「諦めてはだめですよ」

 

「マスタング00」

 

 攻撃手段を失ったアレイオンは完全に停止し沈黙する。

 

「四肢をもげばどうとでもなる。それは当然な考えだなオレンジ色。だがこの数はどうかな」

 

 機体から大量に射出される子機は全ての機体たちに襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

 なんとかそれを迎撃するが数に押されジリジリと押し込まれてしまう。

 

「ッ!」

 

「ライエ、危ない!」

 

 そんな中、ライエがその標的とされてしまう瞬間。韻子が割って入り侵食を許してしまった。

 

「韻子!」

 

「機体の制御が…」

 

「早く脱出して、韻子ちゃん!」

 

「う、動かない!」

 

 韻子との通信が無理やり切断されアレイオンは独自に行動を開始する。しかしその動きは先程のアレイオンとはまったく違っていた。

 

「この動き…」

 

 ナイフを抜き放ちマシンガンを撃ちながら接近してくる。

 先程のように操られているかのような違和感はない、これはシミュレーターで確立した彼女の戦い方だ。

 

 侵食された機体の動きは機体に記録されているパイロットの動きが反映される。

 つまり乗り手が凄腕ならその分、動きもより鋭くなり危険になるというわけだ。

 

「韻子ちゃん、脱出して!」

 

 襲いかかる韻子のアレイオン、ユキはそれに対処するためにナイフで受け止める。

 

「ユキさん下がって!」

 

 アレイオンの背後から銃撃するライエ、だがそれはいとも簡単に避けられ察知された。

 

「マズい!」

 

 撃ち放たれたグレネードは足元に炸裂した、飛行ユニットを損傷させ、ライエの動きを鈍らせる。

 その隙をアレイオンは逃さない、一気に接近しナイフを振るった。

 

「マスタング22!」

 

 鞠戸の叫び声と共にライエのアレイオンはナイフと銃撃によって両腕を失う。

 

-ガンッ…。

 

 マシンガンの銃口がアレイオンの装甲に当たる鈍い音が耳に届く。

 ほんの数センチ先には銃口が存在している、両腕を失い飛行ユニットも損傷した機体は何も出来ない。

 

「ッ!」

 

 あと数秒もすれば弾丸が自身の体をバラバラに吹き飛ばすだろう。

 そんな時に浮かぶのは親友の顔、きっと彼女は泣きながら自分を責めるだろう。

 

「ふっ…」

 

 ライエの口からは意図せず笑い声が漏れる、思考が恐怖を通り越した証拠だ。

 

 

 あぁ、もっと素直になっておくべきだったなぁ…。 

 

-ズドンッ!

 

 一拍の間を置いて大きな銃声が平原に響き渡るのだった。

 

 




どうも砂岩でございます。
次回どうなる!?((((゜д゜;))))
と言う事で新たなカタクラフトギランディアの主な能力は完全電子操作、つまりかなり強力なハッキングと言うわけです。
考え敵にはディオスクリアの上位互換的なものです。果たして伊奈帆たちはこの敵をどう対処するのか?

では最後まで読んで頂きありがとうございます!



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第六十二星 落とし穴 -Pitfall-


未完成のまま、間違えて投稿してしまいました。
ややこしいことをして本当に申し訳ありません。



 

 

 響き渡る銃声、ライエは自身の最期を感じ取った瞬間。

 しかしライエは死ななかった、鳴り響いた銃声はユキの持っていた大型ライフルのものだった。ライフルは韻子のアレイオンの両腕を穿いたのだった。

 

「生きてる…」

 

「なんとか…助けられたぁ」

 

 韻子とライエのアレイオン、この2機の距離が近く一歩間違えれば2人を殺しかねない状況での一撃はユキの技量を窺わせるものだった。

 

「運の良い兵だな」

 

 だがそんな好機をバルトは見逃さない、行動不能になったアレイオン2機を踏み潰すために片脚を上げる。

 

「韻子、ライエさん!」

 

「このぉ!」

 

 急いで二人のもとに向かう伊奈帆、一方ユキはなんとかしようとやけくそ気味にライフルを構え撃ちまくる。

 頑丈な装甲に対し120ミリのライフルの弾丸が弾かれる。

 

「なんで効かないのよぉ!」

 

 ライフルに装填された最期の弾丸、それはギランディアの胸部にある光るユニットに直撃した。

 

キヤァァァ!

 

 その瞬間、ギランディアは苦しそうに叫びながら大きく後退する。

 

「あれは、もしかして…」

 

 その様子に感づいた伊奈帆はサーモグラフィーでギランディアを映した。

 機体の排熱ダクト以上に加熱している部分、それは胸部ユニットだった。

 

「あれは、機体のエネルギー制御ユニットなのか」

 

 あれが弱点なのは明らかではあるがアレイオンの持つ最大火力であるライフルすら弾かれるとなると銃撃を加えてもどうにかなるものではない。

 

「ライエちゃん、韻子ちゃん!大丈夫?」

 

「なんとか…」

 

「大丈夫です」

 

 大破したアレイオンから脱出する二人はユキに拾われ戦域を離脱する。

 

「すいません、鞠戸大尉。離脱します!」

 

「気をつけろよ!」

 

 ユキの機体も中破状態、とても戦闘が出来る状態ではない、むしろ離脱してくれた方がこちらも気が楽だというものだ。

 

「どうする」

 

 あれほどの巨体を動かすための高エネルギー体を暴走させればあれを撃破できるというのに。

 

「うわぁ!」

 

「デールズ22!」

 

 着実に減っていく仲間を見て焦る伊奈帆。そんな中、鞠戸の部下が突然出現した穴に呑み込まれた。

 ギランディアの攻撃で地下坑道の天井が脆くなっているようだ、よく見れば奴の足下も若干だが陥没している。

 

「ニーナ、少し頼める?」

 

「う、うん。なに?」

 

「鞠戸大尉、ご相談があります」

 

「なに?」

 

 上空に待機していたニーナ、指揮を執っている鞠戸それぞれに通信を繋げる伊奈帆。

 伊奈帆の練った作戦に二人は驚愕の表情を浮かべるのだった。

 

ーー

 

「全機、緩やかに後退しろ。一旦体勢を立て直す!」

 

「「「了解!」」」

 

 伊奈帆との通信を終え作戦を部隊に伝達した鞠戸は残り半分以下となった部隊に撤退の指示を出す。

 

「逃がすとでも思ったか」

 

 ビクトリア湖に向けて撤退を始める部隊をバルトは制御下に置いた機体を前衛に追撃する。

 輝き始めるギランディアのエネルギー制御ユニット、口部から放たれる高出力レーザー。

 

「くそっ!」

 

 1機が消滅してしまったが他の機体はなんとか回避に成功した。

 レーザーは地表を穿ち酷く傷つける、体中から蒸気を上げながら歩み始めるギランディア。

 

「使用可能な域で迎撃開始!」

 

 鞠戸の指示の元、後退しつつ持ちうる装備でギランディアに攻撃を加える。

 その攻撃に苛立ちを覚えたバルトは機体の進行スピードを早める。地面を揺らし進行するギランディアの歩は突然止められた。

 

「なに?」

 

 ぐらつく視界、バルトは何が起きたか分からなかった。

 右足が完全に沈没し全体重がのしかかった左足も陥没する。

 

「本当に沈んだ…」

 

「攻撃を絶やすな、グレネード!」

 

 平原の地下の鉱脈に沿うように張り巡らされた坑道の巨大なターミナルがギランディアの沈んだポイントだ。

 巨大な地下空洞となったあそこはとても脆く攻撃のダメージもありギランディアの重量を支えきれなかった。

さらに奇跡的にその大きさはあの巨体の半身が埋まる程の規模を有していた。

 

「攻撃を絶やさずに徐々に距離を取ってください。巻き込まれてしまいます」

 

 グレネードの爆発によって巻き上がる石炭の塵がギランディアを覆う。

 

「煙幕のつもりか、無駄なことを!」

 

ビー!ビー!

 

「なんだ!?」

 

 コックピットに鳴り響く警告音にバルトは周囲を見渡す。その瞬間、ギランディアは巨大な爆発に覆われた。

 

「炭塵爆発、巻き上げれた石炭の塵が引火して巨大な爆発を起こさせたんだ」

 

「やったのか?」

 

「いえ、恐らくまだです」

 

 爆炎が晴れ再び姿を表したギランディア、機体各所にダメージを見せつつもまだ動く気配を見せていた。

 

「おのれ、よくも!」

 

 強固な装甲に守られていても関節部はカバーできない、ミサイルランチャーと一体化している左手が落下し胸部のユニットはひび割れている。

 激昂するバルトは叫びながら口部の装甲を開き、レーザーの発射体勢を取る。

 

「まずい、レーザーだ!」

 

「皆を下がらせてください」

 

「おい、界塚弟!」

 

 退避する部隊、それとは対照的に伊奈帆はスレイプニールを全力で前進させる。

 

「貴様が居なければ同士たちは!」

 

 接近するスレイプニールに狙いを定め顔を向けるギランディア。その直後、口部にグレネードを放り込まれ爆発する。

 

キャァァァァ!

 

 コントロールを失ったレーザーはギランディアの頭部を破壊しメインカメラを失ってしまう。

 

「こざかしい真似を!」

 

 サブカメラに移行しスレイプニールを全力で探す。

 

「なに!?」

 

 バルトはすぐさま見つけ出し磨り潰さんとまだ動く右手を動かすが時既に遅し。

 

「これは耐えられないだろう…」

 

 胸部のユニットに突き立てられるナイフ、脆くなった装甲はナイフを防ぎきれずに深々と突き刺さる。

 

キャァァァァォ!!

 

「バカな、ギランディアがやら…」

 

 機体内のエネルギーが制御を失い機体内から爆発が起きる。そんな中、バルトもその業火に焼かれたのだった。

 

「やった!」

 

「倒したぞ!」

 

 崩れ落ちるドラゴンを見て歓喜する部隊員。そんな中、伊奈帆は心底疲れたようにコックピットの席に深々と座り直すのだった。

 

ーーーー

 

「お呼びでしょうか。レムリナ姫」

 

 月面基地展望室。そこではいつも通り、車椅子に座ったレムリナと護衛であるケルラの姿があった。

 

「スレイン、どう言う事ですか。アセイラム姫はお姉様はもう目覚めていたのですね」

 

 レムリナが発した言葉を聞いた瞬間、スレインは僅かだが表情を固くし目を細めた。

 

「いずれ、お話しなければと思っていました」

 

「説明をして頂けますか?」

 

「アセイラム姫はまだ意識がハッキリしておりません。回復するまではレムリナ姫にアセイラム姫を演じて頂く必要がありました。新しい世界を創るために」

 

「新しい世界」

 

 スレインの発した言葉に困惑を示すレムリナだったが彼の言葉は止まらない。

 

「何も憂い事の無い世界、争いもなく、悲しみもなくずっと幸せに居られる世界です」

 

「その世界を統べる人は誰ですか?」

 

「それは、アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下です」

 

「そんな事、お姉様が望んでいるとでも?」

 

「望んでいないことは知っています。だからこそ、僕が実現して差し上げるんです」

 

 対峙した2人はお互いを見つめ合い、顔を逸らそうとしない。それは2人に絶対に退けない何かがあるからだ。

 

「姫様、なぜ戦争が起こるか知っていますか?」

 

「それは、国家間の交渉の一手段として」

 

 以前、同じ事を聞かされた。彼は淡々と答えた、貴方のせいじゃないと。

 

「いいえ、戦争が起きるのは戦う相手が居るからなんです。戦争を完全に無くすには侵略して一つになるか、相手を滅ぼして一方がなくなるしかないんです」

 

 目の前に居る彼は淡々とそう答える。全く違う答えを彼は導き出していた。

 

「人類の歴史は闘争の歴史です。火星と地球とで分かれたその時から戦争が始まる事は決まっていたんです。いつかは、きっと誰かが…。」

 

「貴方は変わってしまったのですね。もう貴方は私の知っているスレインではないのですね」

 

 無邪気に笑っていたあの頃、鳥や様々なものを教えてくれたあの無邪気な少年はもういない。彼女はそれを強く実感した。

 彼女はゆっくりと乗っていた車椅子から降り、立ち上がる。それと同時に自身に纏っていた光学迷彩を解除した。

 

「アセイラム姫」

 

 それで姿を表したのはスレインの敬愛する姫、アセイラムだった。

 

「全部、話したの…」

 

 そして展望室の扉が開き、フィアを筆頭にアセイラム姫親衛隊とエデルリッゾ、レムリナが入室した。

 

「ヴァース帝国第一皇女、アセイラム・ヴァース・アリューシアの名に置いて、スレイン・ザーツバルム・トロイヤード伯爵に即時停戦を命じます」

 

 アセイラムの命と共にフィアがスレインに向けて拳銃を構える。彼を取り囲むように立つ親衛隊たち、有無を言わさない命令だった。

 

ーー

 

「スレイン、もう終わりにしてください」

 

「アセイラム姫、貴方の命令には従えません。僕はもうヴァース帝国の人間ではありませんから」

 

「な…」

 

 スレインは躊躇いもなくフィアの銃を掴み下げさせる。その目はとても冷たく覚悟を持った目だった。

 

「申し訳ありません。皆さんの身柄を拘束します」

 

 マリーンを筆頭に武装した兵たちが展望室に押し入り銃を構える。フィアには戦う意思がない、その様子を確認したリアたちは手を上げて大人しく降伏するのだった。

 

ーーーー

 

「艦長、総司令部からっす。通信時間、レーザー通信衛星が水平線に沈むまで約2分」

 

「そんなギリギリに…。スピーカーに出してください」

 

 地球、修理及び換装中のデューカリオンのブリッジではマグバレッジが司令部と通信を行っていた。

 

「デューカリオン艦長、ダルザナ・マグバレッジです」

 

「エーリス・ハッキネン中将だ。イレギュラー発生に対しても見事な作戦だった、改修作業の進行状況は?」

 

「もう間もなく」

 

「それは良かった。デューカリオンの新たな任務に必要な装備だ」

 

「サテライトベルトによる作戦活動ですか?」

 

「いや、今回はもっと上だ。作戦は追って伝える」

 

 もっと上、その言葉でマグバレッジは彼の言わんとしていることが分かってしまった。

 

「通信終了、レーザーのゲインが下がりました。通信衛星の高度が限界です」

 

「有無を言わさないと言う事ですか」

 

 ブリッジの窓の隔壁が開き夕陽が室内に差し込む。

 

「大きな戦いになりそうですね」

 

「全く…アルドノアを積んでいるからと言って無茶を言ってくれる」

 

「宇宙用の装備ですか」

 

「カタパルトモジュール」

 

 新たに装備されたカタパルトモジュールによってデューカリオンの船体が大きく膨らんでいた。

 

「決戦になるでしょうね」

 

 マグバレッジが静かに発したその言葉に不見咲は黙ることしかできなかった。

 

 






どうも砂岩でございます!
ギランディアの件はあんな感じになりました。
弱点のユニットが剥き出しなのは中にあると熱暴走を起こしてしまうので剥き出しと言う設定です。

そして次回からはついに最終決戦である月面基地の攻防戦が繰り広げられます。
フィアと伊奈帆は出会うことが出来るのが?宿敵であるマーリンとはどうなるのか?
次回も頑張って書いていきたいと思います!

では最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第六十三星 嵐の前の静けさ -The calm before the storm-

 

 

「これがグラニかぁ」

 

「ずいぶん良い物を回して貰えたわね」

 

 ギランディアとの戦いで大破したアレイオンの代わりに回された3機のグラニに韻子とライエは感心の声を上げていた。

 ユキの分も含む3機は宇宙における戦闘のために急遽手配された代物だが地球軍における最新の機体だ。

 操作性はアレイオンとまったく変わらないため転換訓練を必要としないこの機体は知る人ぞ知る傑作量産機だろう。

 

「グラニか…」

 

「あ、伊奈帆」

 

 納入されたグラニを見た伊奈帆は懐かしげにその名を口にした。

 

「そう言えばこの機体ってスレイプニールを参考にして造られたんだよね」

 

「うん、テストパイロットは僕がやってたから」

 

「え、どこに行ったかと思ってたらテストパイロットやってたの!?」

 

「うん」

 

 揚陸城の戦いから1年近く、伊奈帆が何をやっているかと思っていたがそんな事をやっていたなんて初耳だ。

 

「なるほどね」

 

 驚く韻子を横目にライエは若干、納得気味だ。

 明らかに機動力を主眼に置いた設計は伊奈帆の考え方に沿った物だ。

 

「まぁ、この機体で伊奈帆の役に立てるように頑張るから!」

 

「うん、頼りにしてるよ」

 

「えへへ」

 

 伊奈帆の言葉に韻子は思わず顔を赤くして笑う。

 

「これよりデューカリオンはサテライトベルトへと向かうための最終確認を執り行う。担当者以外は部屋に待機し発進を待て」

 

 艦内放送で響き渡る不見咲の声と共に韻子たち3人は先程とは打って変わり緊張の面持ちになる。

 

「いよいよ、月面基地に」

 

「決戦てわけね」

 

「フィア…」

 

 目を細め悲しそうに伊奈帆はその名を口にする。それを聞いた韻子は若干落ち込むとライエが肩を軽く叩いてくれるのだった。

 

ーーーー

 

 月面基地、カタフラクトハンガーの中には惑星間航行用の大型輸送船が入りその空間を圧迫していた。

 その輸送船から降りたったのは金髪の少年、クルーテオ伯爵の息子、クランカインだった。

 

「…」

 

 ハンガーに並ぶ機体たち、フィアのシナンジュの横にはスレインが保有しているタルシスが格納されていた。

 本来は父が操っていたであろう機体、だが今は違う。あの機体の主はあのスレイン・トロイヤードなのだ。

 

ーー

 

「クルーテオ伯爵?」

 

「継承された御嫡男だそうで…」

 

「クランカインか」

 

「皇帝に対する忠誠心は極めて高いと聞いております」

 

 ハークライトの話を聞きながらスレインは二年ほど前の事を思い出していた。最後は分かり合えると思っていたのだが…。そればかりは仕方がない。

 

「いまだこちらに靡かぬ連中は言わば皇帝派だ。彼をこちら側に引き入れることが出来れば一気に裏返る可能性もある」

 

「はい」

 

「だが、果たして信用に足る物か否か」

 

 皇族に対する忠誠心は彼の息子故に心配ないだろう。心配なのはこちらの思惑に賛同するかどうかだ。

 

ーーーー

 

 その頃。地球、アデン港から出港したデューカリオンはサテライトベルトに到達指定された合流ポイントに辿り着いていた。

 

「攻撃目標は敵月面基地、アセイラム姫がいる敵の本丸だ」

 

 地球連合軍宇宙要塞《パルナッソス基地》そこには各基地の防衛戦力を除いた全ての宇宙軍の戦力が集結していた。

 

「そして近接する敵の揚陸城は月面基地が攻撃を受けた際、アセイラム姫の避難先として使われる可能性が考えられるため。この二つの拠点に同時に攻撃を加える必要がある。」

 

 作戦の説明を行うのはエーリス・ハッキネン中将、この作戦の指揮のために地球軍本部から出向いてきたのだ。

 

「よって本作戦においては部隊を二つに分け、ブルトン中隊およびデューカリオンは地球標準時2200を侍し揚陸城に攻撃を開始。月面基地の戦力が揚陸城に割かれたことを確認した後にトリケラー中隊は周囲に点在する大型岩石を流用。その背後に隠れつつ敵基地に接近、強襲をかける。」

 

 ヴァース帝国の地球圏の本丸、月面基地への攻撃作戦。戦時下における最後の大規模作戦と言っても過言ではないだろう。

 

「以後作戦名を《オペレーションルナ・ゲート》と呼称する」

 

 大きな戦いが始まる。その事は彼の話を聞いていた者全てが感じたことだった。

 

ーーーー

 

「すいません姫様。私が至らなかったばかりに」

 

「いいえ、責任を負うべきは私です。事の全ては私から始まったこと」

 

 月面基地展望室には軟禁状態に置かれたアセイラムたちの姿があった。

 

「そうよ…。貴方が居なければ、貴方があのまま眠っていれば全ては丸く収まった。泣く者なんていなかったのに、あの人も心乱さずに済んだのに」

 

「隊長?」

 

「なんでもない」

 

 3人の会話を聞いていたフィアは思わず悲しい顔をする。

 2年前のあの時、自分がもう少ししっかりしていればこんなことにならなかったたくさんの人々が死ぬことはなかったのだ。

 

「止められた立場にあったと言うのに…。私の至らなさが全ての原因だ」

 

「隊長…」

 

 懺悔にも等しい言葉にリアは何も言えなくなる。彼女の気のせいかもしれないが記憶を取り戻してからというものフィアの心が少し弱くなったような気がしていた。

 

「心から思っているのですね、スレインのことを」

 

「貴方は、貴方はどうなの。誰のことを思っているの!?」

 

「私が思いを捧げるのはヴァースと言う星とそこに住む人々。そう教えられ、生きていました」

 

「かわいそうな人」

 

 女王となる身としては正しいかもしれない、だが人間として、1人の女性としてはあまりにも悲しいとレムリナは苦言を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

「本艦はブルトン中隊と共に揚陸城を攻撃。月面基地との攻撃を合わせて二正面作戦の一端をになう。司令部からデューカリオンに与えられた作戦は以上です」

 

 デューカリオン、ブリーフィングルームに集まった者達はマグバレッジの作戦説明に対し大きなざわめきを返した。

 

「二正面作戦って」

 

「要は敵の分散を誘っているだけの話だ。またこの艦を囮にしてな」

 

 その作戦に対し鞠戸は明らかに不機嫌そうに言葉を漏らした。その言葉はその場に居た者全ての思いを代弁したものだったが。

 

「しかし、その役割に無意に甘んじる気は毛頭ありません。みな、無駄に命を落とすことなく再び地球に戻るその時まで最善を尽くしてください…以上」

 

「各員、所定の配置に付け!」

 

「艦長」

 

「来るだろうと思っていましたこちらもお話しがあります」

 

 不見咲の言葉に全員が一斉に動き出す中、伊奈帆はマグバレッジに話しかけた。

 

ーーーー

 

「此度は我が父ザーツバルムへの弔問のためわざわざおいでいただいたとか」

 

「クルーテオ卿の襲爵のお祝いを申し上げぬまま失礼を」

 

「クランカインで結構です。まだどうも馴れず」

 

 月面基地、執務室ではクランカインとスレインが軽く握手を交わし話し始める。

 

「ではその様に、アセイラム姫様もクランカイン卿に久々にお会いできる事を楽しみにしておりましたが」

 

「ご体調を崩されているとか」

 

「さほどの事もないのですが大事を取りまして」

 

「エルスート卿にもお目通りしたいのですが」

 

「姫様の看護をしておりますが、本人にはお伝えしておきます」

 

「ありがとうございます」

 

 フィアとは月面基地に着いたすぐ後に合流する手筈だった。それは彼女がヴァース帝国の城内で会ったときに交わした約束だ。

 やはり何かを隠しているこの時点でクランカインは確信を得ていた。

 

「お父上には大変お世話になりました」

 

「ご苦労されたのでは?厳格すぎるほどに厳格な人でありましたから」

 

「沢山の事を学ばせていただきました。私がいまあるのもお父上のおかげと思っています」

 

 スレイン自身、クルーテオには良い思い出はないが彼を嫌っているわけでもない。

 なんだかんだ言いながらも地球人である自分を真っ先に引き取ってくれたのは彼だ。

 それに最期に別ってしまったが彼の忠誠心は深く、同じような思いを持っている者には平等だった。

 

「タルシスを見ました。今はトロイヤード卿のお役に立てているようでなによりです」

 

「地球圏に王国を築かれるという宣言をされたとか」

 

「それがアセイラム姫様の望みでしたから」

 

「皇帝陛下にとってでもですか?」

 

 いきなり斬り込んできたクランカインに対しスレインも表情を一切変えず切り返す。

 

「ご体調が思わしくないとか」

 

「最新の医療機器と最高の医療スタッフで対応しています。ご心配には及びません」

 

「それはよかった。アセイラム姫様のご希望が叶えば陛下もさぞやお喜びになることでしょう」

 

「そうであればいいですね」

 

「クランカイン卿にもお力添えいただければ大変心強いのですが」

 

「期待しています。新たな王国がヴァースの未来を変えることを」

 

 お互いが目線で牽制し合う空気の中、執務室で警報が鳴り響いた。

 

「殺気…」

 

 それとほぼ同時、警報の鳴っていない展望室にいたフィアが空気が変わったのを肌で感じ取っていた。

 

-ついに決戦の火蓋が切られる瞬間だった。

 

 





月面基地攻防戦が次回ついに開幕、一体どうなるのか?

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第六十四星 決意 -Resolution-

 

「エルスート卿!」

 

「敵が来たのか?」

 

「はい!」

 

 展望室の出入り口から現れた女性の兵は息を切らしながら状況を説明する。

 

「ご要望があれば用意いたします」

 

「全員分の対人装備一式を頼む」

 

「はい!」

 

「隊長、ここに敵が来ると?」

 

 要望に対し一番先に反応したネールが質問を投げかけると鋭い目付きになったフィアが答える。

 

「本土の防衛に専念していた地球軍の大規模攻勢。奴らは本格的に我々と戦争をするつもりだ」

 

 その言葉を聞いた親衛隊全員が目を鋭くする。

 

「カタフラクトでやり合うだけが戦争じゃない。お前たちはよく分かっているだろ?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 アセイラム姫警護のために選び抜かれた対人戦のエキスパートたちがアセイラム姫親衛隊。彼女達の本分は元々対人戦なのだ。

 

ーーーー

 

 巨大なデブリに身を隠し月面基地まで接近したデューカリオンを含む地球軍戦力は臨戦態勢を整えようとしていた。

 

「敵軍隊、あと7分で射程距離に接敵します」

 

「防戦しつつ戦線を下げ、敵戦力を月面基地から遠ざけます。全艦戦闘配置」

 

「これより発進シークエンスに入る」

 

「フライホイール接続、カタパルトアーム回転開始」

 

 デューカリオンに装備されたユニットが展開し回転を始める。

 

「ハッチ開放、クライスデール小隊。発進位置へ」

 

「了解、クライスデール小隊、発進位置へ」

 

回転を続けるカタパルトアームに近づくのは4機の宇宙装備型アレイオン。

 

「アンカーエンゲージ。カタパルトアーム回転正常。加速開始、発進可能まで二十秒。」

 

「クライスデールリーダー、クリア・フォーランチ」

 

「ラジャー。クリア・フォーランチ」

 

 機体のワイヤーを接続したカタパルトアームに牽引されたアレイオンは徐々に速度を増し加速していく。

 

「全機発進!」

 

「ブラストオフ!」

 

 マグバレッジの命令と共に鞠戸は機体のワイヤーをカタパルトアームから開放する。

 カタパルトアームから解放されたアレイオンは月面基地にぶん投げられるようにかなりの速度で飛ばされるのだった。

 

「続いてマスタング小隊、発進準備」

 

「ブルトン中隊とデューカリオンは予定通り攻撃を開始」

 

「了解。こちらも行くぞ!」

 

 司令部からの命令によりデューカリオンの周囲に待機していたシャトルからもアレイオン、グラニが発進しクライスデール小隊の後を追う。

 

ーー

 

「天秤座の方角に敵カタフラクト多数!」

 

「迎撃しろ」

 

 月面基地の司令部に着いたスレインの指示と共に基地の防空設備が一斉に火を噴き、迎撃に出たステイギス隊とアレイオン、グラニ隊との戦いが始まった。

 

 戦端が派手に始まった頃を見計らい月面基地の一角でひっそりと行動する者達が居た。フィアとスレインが予想したとおり隠密のアサルト部隊だ。

 

「いいか、今回の目標は敵の首領であるアセイラム姫とその騎士だ。騎士はカタフラクトに乗せてはならない、機体の制圧も優先だ」

 

「「はっ!」」

 

 隠密のアサルト部隊の中にはマリネロス攻防戦の時の生き残りフォルドの姿があった。

 

ーー

 

「始まった、やっぱり敵の防御は固い」

 

「初めから苦戦することは目に見えていた。それでもこの作戦を強行する必要があったのは、司令部にはもっと重要なミッションがあったからだ」

 

 作戦参加の部隊にも伝えられない作戦内容、つまり公にされては困る内容だというのは察しがつく。それを考慮して韻子が導き出した答は…。

 

「暗殺任務」

 

「恐らくね…」

 

「狙いはお姫様?」

 

「うん、それと可能性としてはフィアも」

 

 十分考えられることだ。撃墜数とこれまでの功績を見ればフィアが他の火星騎士より突出しているのは見なくても分かる。

 彼女を機体に乗せては手に負えないのなら…。

 

「カタフラクトに乗り込む前に叩けばいい」

 

 韻子の言葉に伊奈帆は静かに頷いた。

 

「2人が襲われる前に合流してデューカリオンに誘導しよう」

 

「うん。でもフィアは記憶が…」

 

「大丈夫だよ、きっと」

 

 頭に浮かぶのは親衛隊の少女と火星騎士の姿、あの二人は信用に足る人物だと思っている。

 

「準備しよう」

 

「うん」

 

 スレイプニールと韻子のグラニはデブリの裏にピッタリ張り付き月面への降下を試みていた。

 

「最接近まで90秒…。韻子、元々一人で来る気だった。ここから先は危険だ、だから」

 

「あぁーあ、やだやだ。またそう言うの」

 

 大切にしてくれるのは嬉しい、それは本音だ。だがそれ以上に彼の力になりたい、頼られたい。もうこれ以上、のけ者扱いは嫌なのだ。

 

「今までやって来たことを認めて、艦長が私をサポートにつけてくれたんだから。伊奈帆やみんなと一緒に戦って来たこと」

 

「ごめん韻子…よし、行こう」

 

 そこまで言われて拒める者も居ないだろう。仕方がないと思いつつ伊奈帆の顔は無表情のくせにとても嬉しそうだった。

 

ーー

 

「もう大丈夫、この辺りから降下する」

 

「危険よ、まだ高度が高い」

 

 気付かれないように確実に降下するグラニの手には伊奈帆が待機しており機体自体は丸腰に近かった。

 

「っ!敵機だ!」

 

 最悪のタイミング、伊奈帆の義眼とグラニのレーダーが敵を察知したのはほぼ同時だった。

 ステイギスが10機、恐らく基地防衛のために伏せていたのだろう計40の機銃が韻子のグラニを狙う。

 

「僕を降ろせ、このままでは対応できない!」

 

「大丈夫、風も強い。この機体の推進力なら振り切れる!」

 

「韻子!」

 

「あと少し!」

 

 珍しく声を上げる伊奈帆の声さえ彼女の行動を止めることは出来ない。

 最愛の人を送り届けることぐらい出来ないほど自分の覚悟は甘い物ではないのだ。

 

…あと少し…あと少し…あと少し!

 

 視界に広がり続ける月面、迫る敵機。グラニの高い推進力で着実に引き離していた。

 

 その瞬間、背後での爆発。ステイギスの横合いから現れたのはもう一機のグラニ。

 

「ユキさん!」

 

「こっちは任せて!」

 

 グラニの高い機動力を生かし次々と撃墜するユキに対してステイギス隊も応戦せざる得なくなった。

 ステイギスを振り切った韻子は月面のクレーターにある大きなシャフトに機体を寄せる。

 

「ありがとうユキ姉、もう大丈夫だ韻子」

 

「了解」

 

 機体の手から降り、月面基地に入っていく伊奈帆。

 

「気をつけて…」

 

 韻子は静かに彼の安全を願うのだった。

 

ーーーー

 

 月面基地攻防戦、主戦場。

 そこでは数に押され徐々に劣勢になっていくステイギス隊の姿があった。

 

「行ける、このまま敵機殲滅も!」

 

 自軍の優勢に歓喜の声を上げた兵はその瞬間、光の球によって蜂の巣にされた。

 

「月面基地に仕掛けてくるとは良い度胸だ。だが甘かったなぁ!」

 

 カメラのスリットが光り、いとも簡単にアレイオンを撃破していく白い機体。

 レギルスのコックピットでマリーンが狂気に彩られた顔で笑う。

 

「これでは馳せ参じた甲斐がないというもの」

 

「クウェル子爵」

 

 彼女に合流したのは応援に駆けつけたバルークルスとハークライトだった。

 

「獲物は早い者勝ちですよ。伯爵」

 

「分かっている。とやかく言うつもりはない」

 

 ヴァース帝国の真のカタフラクトが地球軍に牙を向いた瞬間だった。

 

ーーーー

 

「目標発見!」

 

 アセイラムを揚陸城に避難させるため月面基地を走るフィアたち、だが運悪く敵の暗殺部隊とかち合ってしまった。

 

「ネール!」

 

「分ぁかってるよ!」

 

「姫様を!」

 

「「了解!」」

 

 示し合わせ先行するネールとジュリ、フィアは二人のカバーのために前進しリア、ケルラ、シルエは身を挺してレムリナとアセイラムを守る。

 

「フィア!」

 

「姫様、危険です!」

 

 リアが飛びつくようにアセイラムを伏せさせる瞬間、スレインのペンダントが廊下の隅に落ちる。

 

「子供だと!?」

 

「しゃあ!」

 

 突然の接近に驚くアサルト部隊員の首筋にネールは迷いなく刃渡り20㎝はあるであろうナイフを突き立てた。

 

「ガァ!」

 

「貴様!」

 

 首を押さえ倒れる部隊員、その様子を見て激昂する仲間だったがサポートに来ていたジュリの拳銃の銃弾が仲間の額を撃ち抜いた。

 

「しねぇ…っ!」

 

 接近した二人の後ろに居た部隊員が銃を構えるがその横合いからフィアが現れヘルメットを蹴り飛ばす。

 防弾仕様のヘルメットはフィアの脚力に負け粉々になると部隊員の首からゴキッと言う嫌な音を立てさせ難なく沈黙させた。

 

「さすが隊長、一発も使わずに…」

 

「ハァハァ!そのおみ足で私を…ハァハァ」

 

 フィアの圧倒的な力に感嘆の声を漏らす一同、約一名が怪しい反応を見せているが触れないのが身のためだ。

 そんな中、フィアは首の骨をやった兵から無線機を探し音声を聞き取っていた。

 

「格納ブロックに侵入!」

 

「赤い機体を占拠しろ!パイロットの発見を急がせろ!」

 

「アセイラム姫も大切だが優先的に騎士の方をやるんだ!機体に乗り込まれる前に!」

 

「どうですか?」

 

「潜入部隊は私も狙っているのか…」

 

 ハークライトのハーシェルは地球軍にあまり遭遇されていないはずだ。地球軍に狙われる赤い機体となればシナンジュしかないだろう。

 

「機付き長も心配だが任せるしかないか…リア」

 

「駄目です!隊長!」

 

 フィアの声を遮るように声を荒げたのはリアだった。彼女はフィアの言わんとしていることが分かっている故の行動だった。

 

「いくらなんでも基地制圧も視野に入れた部隊に対して囮なんて自殺行為です!」

 

「フィア、あなた…駄目だと言ったではありませんか!必ず生きて私を守り抜きなさいと!」

 

「姫様…」

 

 地球とヴァース帝国との開戦した時、当時乗っていた船《わだつみ》で交わした約束。

 大切な主君との約束を彼女が忘れるはずがない、だがこの状況を乗り切るためには最善を尽くさねばならない。

 泣きそうな顔をして見つめるアセイラムの手を取り膝を立ててフィアは語りかける。

 

「私は姫様の矛であり楯であります。姫様のために最善を尽くし姫様をお守り通すのが使命です。レムリナ姫、それは貴方に対してもです」

 

「フィア…あなた」

 

 彼女の言葉にレムリナは目を見開き驚く、彼女にとって私はあくまで繋ぎだと思っていた。

 でも違ったのだ、フィア・エルスートと言う騎士にとってレムリナも護るべき存在だったのだ。

 

「二人の姫様をお守りする栄誉は私にとっては超えるもののない誇りです」

 

 優しく微笑みながら立ち上がるフィア、そんな顔をされては誰も何も言えないではないか…。

 

「リア、ネール、ジュリ、シルエ…。姫様たちを頼む」

 

「はい、お気を付けて…」

 

「待ってますよ!」

 

「先に行って待っています」

 

「生きてお会いしましょう」

 

 リア、ネール、ジュリ、シルエの表情には暗い影はない。隊長から授かった姫様の護衛という栄誉、無駄にしてはならない。

 

「姫様の命は必ずお守りします」

 

「フィア!」

 

 必死に手を伸ばすアセイラム、しかしそれはフィアによって閉められた隔壁によって阻まれるのだった。

 

「どうか無事でいてください」

 

 涙を流しながら発せられたアセイラムの言葉を背にフィアは大きく息をすいながら奪い取った無線に音声を流す。

 

「Bー27地点にて目標の騎士を発見。姫殿下も確認した至急応援を…」

 

「了解した。こちら第三班、すぐに向かう」

 

 すった息をゆっくりと吐き出し持っていた装備を確認する。

 

「かかってこい雑兵ども!」

 

ーーーー

 

「Bー27地点にて目標の騎士を発見。姫殿下も確認した至急応援を…」

 

「了解した。こちら付近の部隊は直ちに集結しろ!」

 

「この声は、フィア!」

 

 月面基地に潜入し義眼であるアナリティカルエンジンにてアサルト部隊の通信と基地内の地図を取り込んでいた伊奈帆は突然流れた声に驚く。

 

「駄目だフィア!」

 

 条件反射のごとく行き先を変更する伊奈帆、彼の向かう先はBー27地点。

 

ーーーー

 

「さっきの映像を戻せ」

 

「はい!」

 

 月面基地、司令部。

 そこに映し出された監視カメラの映像からスレインはある人物を見つけた。

 

「界塚伊奈帆…」

 

 また奪いに来たのか、大切なものを…。お前の思い通りには決してさせない。

 

「しばらく空けるぞ!」

 

「トロイヤード卿!」

 

 懐にしまった拳銃を確認し司令部を後にするスレイン、彼の顔はひどく恐ろしいものだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます。
次回はフィアの孤軍奮闘と月面基地攻防戦、伊奈帆は?スレインは?一体どうなってしまうのか!?
次回もお楽しみにして頂けたら幸いです!

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第六十五星 決死の防衛線 -Desperate of Line of defense-

 

「くそぉ!」

 

 月面基地、カタフラクトハンガー。

 そこでは基地に侵入したアサルト部隊に対し整備兵たちが決死の防衛線を繰り広げていた。

 

「機付き長、もう駄目ですよぉ!」

 

「泣き言、言うんじゃないよ!」

 

 シナンジュ機付き長、フェイン・クラウスはサブマシンガンを撃ちながら部下たちに檄を飛ばす。 

 

「私たちが機体見捨てたら整備兵失格だよ!」

 

「でも無茶ですよぉ!」

 

 クランカインが乗ってきた輸送船からの増援もやられてしまい、整備班が大型の機材やカタフラクトの部品を楯にして根性で居座っている状態だ。

 相手は完全武装の対人部隊、こちらは機械いじってるだけの整備班。勝負など目に見えている。

 

「駄目です!シナンジュの緊急運搬装置が動きません。物理的に切断されているのかと!」

 

「くそっ!」

 

緊急運搬装置でタルシスは他のハンガーに移動させたがシナンジュ用の装置が既に壊されていて逃げられない。

 

「すぐに復旧を!」

 

「止めろ、立ち上がるなぁ!」

 

「きゃぁぁ!」

 

 慌てて制御装置に向かおうとした部下が蜂の巣にされアサルト部隊を睨みつけるフェインだが自分には血まみれの部下を見守ることしか出来ない。 

 

「くそっ!最初っからシナンジュが目的だった訳か…」

 

「持ってきましたぁ!」

 

「「おぉ!」」

 

 敵の弾幕をかいくぐり大型の銃器を持ってきた整備兵を見て整備班は歓喜の声を上げる。

 シナンジュの頭部に設置してある60ミリバルカン砲の予備を持ってきたのだ。

 

「喰らえ地球種!」

 

 60ミリバルカン砲は火を噴きアサルト部隊の隠れていたコンテナに大穴を開ける。

 

「やった!」

 

 バルカン砲を持ってきた整備士2人が歓喜する中、砲のすぐ横に何かが投げ込まれた。

 

「手榴弾!」

 

「駄目だ、逃げろ!」

 

 爆発する手榴弾はバルカン砲の台を破壊し使い物にならなくさせた。

 

「ここで踏ん張って親衛隊の到着を待つしかないね!みんな気張りな!」

 

「「「はい!」」」

 

 形勢逆転に落ち込む整備班を怒鳴り散らすフェイン、やるしかないと整備班たちも負けじと大声を出すのだった。

 

ーーーー

 

「第三班からの連絡途絶、敵は1人のもよう!」

 

「銀髪の少女だ!気をつけろ!」

 

 報告に上がった場所には急行していたアサルト部隊の死骸が多数転がり悲惨な光景を産み出していた。

 

「居たぞ!」

 

 Bー27地点付近の廊下ではフィアと増援のアサルト部隊が接敵、混戦状態に陥った。

 フィアは近くに居た兵を拘束、背中に回り込むとその兵を楯にして脇からマシンガンを乱射する。

 防弾仕様の宇宙服は良い楯になる、目につく兵を一掃すると既に絶命していた兵を投げ捨てる。

 

「ハァァ…」

 

 昂ぶった気を落ち着かせるためにゆっくりと大きく息を吐く。

 

「居たぞ…っ!」

 

「ちっ!」

 

 場所の移動途中、曲がり角で出会い頭になった兵の腹部を蹴りつけ無防備な顔面に鉛玉をプレゼントする。

 曲がり角の先には二名の敵兵、ポケットに突っ込んでいた手榴弾の安全ピンを口で外すと2秒待って投げ込む。

 

「なっ!」

 

 投げ込まれた手榴弾は爆発し残りの兵を吹き飛ばす。先程のが最期の手榴弾。

 

「流石に厳しいな」

 

 味方のことを気にせずに動けるとはいえ1人で対人部隊を10以上相手にしてきたのだ流石に疲れてくる、それに装備が乏しくなってきた。

 

「姫様は無事だろうか」

 

 残弾が少ないライフルを棄て倒したアサルト部隊のライフルいただく。自分が派手に動いている以上こちらに戦力を割いてくるはずだがいつまで持つか…。

 

「やるしかないか…」

 

 大きく息を吸い、自分に活を入れながらハンガーとは反対方向に歩を進めるのだった。

 

ーーーー

 

「隊長が時間を稼いでる間に」

 

 リア達の護衛の元、駆けるアセイラムに追随するレムリナは突然、車椅子を止めた。

 

「レムリナ姫!?」

 

「私はここに残る」

 

「速く逃げないと」

 

 アセイラムは駆け寄り彼女の手を取るがレムリナは動くつもりはないようだ。

 

「どこに逃げるの、誰の手から?」

 

「必ず救いは」

 

「私にとってはここが唯一の逃げ場なの」

 

 レムリナはそう言い放つと車椅子を後退させる。その時、彼女はケルラを横目で見た。

 

「レムリナ様は私に任せてください。アセイラムを頼みます」

 

「ケルラ…」

 

 車椅子と取っ手を持ち笑うケルラ、親衛隊で一番の新米がいつの間にか成長していた。

 その事はリア達にはほんの少しだけ笑顔にさせる。

 

「ベルガ・ギロスを貸して貰うよ」

 

「はい、隊長にはありがとうございますと伝えておいてください」

 

「あぁ、生き延びろよ」

 

 ネールは空いていた手でケルラの頭を撫でると駆ける。

 

「皆さん、お気を付けて…」

 

「本当に良いの…。仲間と別れてまで私に着いてこなくても」

 

「いえ、これは私の意志ですから」

 

「…ありがとう」

 

 駆けていく先輩方の背中を見届けながらケルラはレムリナと共に来た道を戻るのだった。

 

ーー

 

「ここは…」

 

 その時、Bー27地点からフィアが敵の迎撃に使いそうな集積場に来ていた。

 カタフラクトハンガー程ではないがある程度、広い空間であり硬質ケースやコンテナが集積されている。

 相手を攪乱して迎撃するには打ってつけの場所だろう。

 

「もう一度サーチしてくれ…。セラムさんをフィアはいったい」

 

 月面基地システムのハッキング、その膨大な処理をアナリティカルエンジンが行うためには自身の脳に大きな負担がかかる。

 鈍く響き渡る頭痛に伊奈帆は顔をしかめる。

 

ダンっ!

 

 フィアの居場所を探ろうと意識を集中させようとした瞬間、銃弾が伊奈帆に降り注いだ。

 

「っ!」

 

 アナリティカルエンジンの警告に伊奈帆は素早く反応し近くのコンテナに身を隠す。

 

「まさか貴様も潜入しているとはな界塚伊奈帆!」

 

「スレイン・トロイヤード」

 

 銃弾を放ったのはスレイン、彼は銃弾が外れたのを見ると素早くコンテナの影に身を隠す。伊奈帆は油断ならない相手だ、慎重さも必要だろう。

 

 月面の重力は地球の三分の一、低重力下での立ち回りは馴れているスレインの方が分がある。

 

「早くしないとフィアが…」

 

「随分とフィアさんを気にするじゃないか」

 

 アセイラムを助けに来たのかと思っていたが彼にとっての優先順位はフィアの方が高いようだ、だから問う。

 

「地球でも随分と親しくしていたそうだが、熱心なことだ」

 

「戦友を助けに来た、ただそれだけだ!」

 

「一体、誰から助けるというのだ」

 

「分からないか」

 

 伊奈帆の含みのある言葉に顔をしかめるスレインは身を出し発砲する。

 銃弾がコンテナ辺り火花を散らす、その合間を縫って伊奈帆がコンテナの影から飛び出し突っ込む。

 それに対抗するように飛び出してきた伊奈帆に向けて飛び出し接近する。

 

「あの時、お前が来なければこんな事にはならなかった!」

 

 蘇る記憶、爆炎に焼かれ虫の息だったフィアの姿、目の前で撃ち抜かれたアセイラムの姿。

 二度とあんな思いはしたくない…させない。

 

「あの時、姫様に会えればこんな事にはならなかったというのに!」

 

 種子島でか叶わなかった願い、敬愛していたフィアも尊敬していたアセイラムも家族のように接してくれたザーツバルム、マリーンも全て裏切ってきた。

 それまでしてここまでのし上がってきた、誰にも邪魔はさせない。

 

 交わる銃口、放たれる銃弾は互いの服に宇宙服を擦りどこかへ飛んでいった。

 

ピピピっ!

 

「っ!」

 

 アナリティカルエンジンが高熱を示す赤で配管を映した。

 

「蒸気管…」

 

 一瞬の躊躇いもなく発砲し蒸気管から高温の蒸気が溢れる。

 

「なに!?」

 

 高温の蒸気に包まれ身動きが取れなくなるスレイン、煙が晴れた頃には伊奈帆の姿はなかった。

 

「くそっ!」

 

 やり場のない怒りがこみ上げスレインは大きく吼えるのだった、

 

 

ーーーー

 

「ちっ!」

 

 拳銃を撃ちながら後退するフィアは舌打ちをしながら弾倉を交換する。

 次々と押し寄せてくる増援に補給の暇すらなく弾が尽きてきたのだ、接近戦を仕掛けようにも数がおおすぎて接近できない。

 

「なんだ、煙幕?」

 

 後退する方から流れてくる煙に彼女は疑問を持ちながらも廊下の隔壁を閉じる。

 

「これで少しは持つか…」

 

 動き回りすぎて疲れた、少し休まないと体が持たない。降りた隔壁に持たれて彼女はゆっくりと座り込んだ。

 

タン…。

 

「っ!」

 

 漂う煙の中から足音が微かに聞こえる。慌てて銃を構え引き金を絞る。

 

「フィア…」

 

「伊奈帆…」

 

 界塚伊奈帆とフィア・エルスート、2人が2年ぶりに再会を果たした瞬間だった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
ついに伊奈帆とフィアが再会!激化する戦場で2人のとる行動とは?

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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第六十六星 合流 -Confluence-

 

 

 膨大な情報を処理していたせいで頭痛が酷くなっている。だがまだ動ける歩を進め自分が発生させた蒸気を抜けたときついに出会った。

 

「フィア…」

 

 凜々しい顔つき、透き通るような銀髪を持った少女は間違いない探し求めていたフィアだ。

 喜の感情が溢れてくると共に彼の思考に過ぎった考えが歩を止めさせる。彼女は自分を憶えているだろうか…。

 

「伊奈帆…」

 

「良かった、無事で」

 

 一気に高ぶった緊張が解けた伊奈帆はほんの少しだけ体の力が抜けふらつく。

 

「おい!」

 

 ふらついた体を支えるようにフィアは伊奈帆を抱き止める。

 

「お前はいつも無茶をして…」

 

「少なくともフィアにだけは言われたくないかな」

 

「失礼な」

 

「今だって少しキツかったでしょ?」

 

「ふっ…」

 

 なんでもお見通しな彼の言葉に思わず微笑んでしまう。2年経ってもこう言うのは変わってないようだ。

 

「そんな事してたら韻子辺りに怒られるぞ」

 

「何で知ってるの?」

 

「遅かったか…」

 

「ふふっ…」

 

「ハハッ!」

 

 ついに声を上げて笑い合う2人、その様子は昔からの幼馴染みのようだった。

 しばらく笑い合うとフィアは伊奈帆の腕を肩にまわし起こさせる。

 

「取り敢えずここは危ない」

 

「大丈夫だよ、自分で動ける」

 

「良い、気にするな」

 

 支えられるように歩く彼の足取りは若干だがぎこちない、そんな様子を見てほっとけるほど人でなしではないのだ。

 

「その銃…」

 

 フィアの手には地球軍で正式採用されている銃が伊奈帆の手にはヴァース帝国で正式採用されているものをカスタムした彼女の専用銃が握られていた。

 

「ああ、お前のだ。そっちも私のじゃないか」

 

「御守りみたいなものだったから」

 

 

 お互いがお互いの銃を2年間大切に使い持ち続けていたのだ。

 

「セラムさんは?」

 

「姫様なら大丈夫だ。私の部下が護っている」

 

「なら安心か…本当ならフィアと一緒にデューカリオンで保護するつもりだったんだけど」

 

「デューカリオンか…」

 

 デューカリオンと言う言葉に懐かしさを覚えたフィアはそれ程の歳月が経ったと言うのを改めて実感した。

 

「セラムさんが脱出したらフィアも…」

 

「うむ…」

 

 伊奈帆の言葉に彼女は腕を組んで思案する。月面基地を脱した後、向かうであろう場所は容易に想像できる、そこからアセイラムは戦争終結に向けて動きだすだろう。

 そのために自分がどこに居ればいいか…。

 

「デューカリオンに案内してくれ…」

 

「フィア…」

 

「地球軍の司令官と話をさせて欲しい」

 

 フィアの出した回答に伊奈帆は静かに頷くのだった。

 

ーー

 

「その…すまなかった。トライデント基地での件は」

 

 伊奈帆も何とか回復し自力で歩き始め、今だに蔓延している蒸気の中を2人は警戒しながら歩き続けた。

 そうした時、彼女の発した言葉に伊奈帆は虚を突かれポカンとした顔になった。(端から見れば無表情だが)

 

「なんだ?」

 

「いや、なんで謝まるのかと思って」

 

「私はお前たちを殺しかけたんだぞ」

 

「誰も恨んでないよ。フィアのことはよく知ってるから」

 

 伊奈帆は知っている。彼女はどこまでも真っ直ぐで純粋で何よりも他人を優先する。強くて美しく完璧そうに見えるがとても脆い面がある普通の少女。

 

「ありがとう…」

 

 静かに心からの感謝の言葉、それを聞いた伊奈帆は静かに微笑むのだった。

 

ーーーー

 

 同じ頃、月面基地カタフラクトハンガーではアセイラムが到着しており親衛隊とシナンジュの占拠部隊と交戦していた。

 

「くそっ、子供ばかりにやら…!」

 

「ラムズ、やろぉ!」

 

 低重力下を無尽に動き回る親衛隊相手にアサルト部隊は数を減らしていく。

 

「っう!」

 

「シルエ!ふざけんな!」

 

 そんな中、アセイラムの護衛をしていたシルエが肩に銃弾を撃ち込まれ血を流す。それを見たネールは激昂し敵兵の顔面にナイフを突き立てる。

 

「シルエ、無事?」

 

「……」

 

 いつも通り黙って頷くシルエにジュリは止血し包帯を強く巻き付ける。

 

「機付き長!」

 

「リアちゃん、助かったよぉ」

 

 弾幕をかいくぐり整備班たちが立て籠もっているエリアに辿り着いたリアはあまりの惨状に目を疑う。

 血まみれの兵が多く転がり数は半分以下まで減っていた。

 

「機付き長…」

 

「情けない話しさ、私が生き残ってしまった」

 

「無事で良かったです」

 

 恐らく部下の血ものであろう血が作業着に付着し体からは硝煙の匂いがする。部下のために必死に戦ったのだろう。

 

「もっと早く来ていれば…」

 

「戦いなんてそんなもんだよ。後悔するんだったら前に進むんだ。奥の格納庫にベルガ・ギロスを隠してあるから」

 

 落ち込むリアの背中を叩いて笑うフェインの笑顔はぎこちないものだったがそれを見ただけで元気が貰える気がした。

 

ーー

 

「私のせいで…」

 

「姫様…」

 

 怪我をしたシルエと目の前に転がるアサルト部隊の死体を見たアセイラムは悲しみエデルリッゾが心配する。

 

「……」

 

 そんな彼女の背後、死んだはずの兵が拳銃を構えアセイラムを狙う。

 

「危ない!」

 

「え……」

 

 突然、何者かに押し倒され驚くアセイラム。その瞬間、彼女の頭があった場所に弾丸が飛来しコンテナに花火を散らす。

 

「てめぇ!」

 

「この不届き者が!」

 

「ぐわぁぁ!」

 

 背後の生き残りに気づいたネールとジュリは持っていたマシンガンでその兵を蜂の巣にする。

 

「すいません、お怪我はありませんか?」

 

「貴方は…クランカイン」

 

「お久し振りです。姫殿下」

 

 アセイラムのピンチをすくったら人物、それは月面基地に客人として保護されていたクランカインだった。

 クランカインは倒したアセイラムを丁寧に立ち上がらせると跪く。

 

「とにかくこの場は危険です。私の船で脱出しましょう、貴方たちも」

 

「おい、どうすんだよ?」

 

「……」

 

 クランカインもといクルーテオ伯爵の忠誠心はとても高い事で有名だがアセイラムを乗せて利用されようものならフィアに会わせる顔がない。

 リアは迷う、隊長の囮作戦に対して相手も気づき始めて居る頃だ。

 

「分かりました。今は姫様の身が優先だ」

 

「信じてくれてありがとうございます。整備班の方々も!」

 

「機付き長?」

 

「私はここに残るよ。あの子を待ってなきゃね」

 

 生き残った整備班がクランカインの船に避難する中フェインだけは動かなかった。

 

「しかし…」

 

「ここは任せよう、リア。隊長なら大丈夫だよ、彼も居るはずだ」

 

「彼?」

 

 ローゼン・ズールに乗り込んだリアはシナンジュの前で座る彼女を見て立ち止まるがケルラのベルガ・ギロスに乗り込んだジュリが肩に手をかけながら進むように促す。

 

「とにかく今は姫様だ!行くよ!」

 

「分かった…。月面基地の外にいる敵機を掃討しながら船を護衛する!私に続け!」

 

「「「了解!」」」

 

 航宙船《ハドリアクス》は親衛隊の護衛の元、ゆっくりと月面基地のハンガーから脱出していく。

 その際に駆けつけたアサルト部隊はネールのベルガ・ギロスの機銃で蜂の巣にされる。

 

「……」

 

 スレインはその様子を歯嚙みしながら見つめるのだった。

 

ーー

 

「申し訳ありません。巻き込んでしまって」

 

「これも私の任務ですから。私は皇帝陛下の命によってここへ参ったので」

 

「おじいさまの?」

 

「レイレガリア皇帝陛下は先代ザーツバルム伯爵死後の地球圏統治に疑問を持たれました。そして私にその調査と共に姫の安否を確かめるよう命じたのですか」

 

「では、おじいさまと連絡が取れれば」

 

「話すことは可能です…しかし」

 

「クランカイン卿 姫をどこへつれていかれるのですか?」

 

「これはトロイヤード伯爵。姫を危機から保護し、避難するところです」

 

 輸送艦のメインモニターに映し出されたのはスレイン、彼は随分と落ち着いた様子だった。

 

「月面基地は強固な要塞。ここをおいて他に安全な場所はありません」

 

「しかし戦闘状態にありました」

 

「ご安心を。すでに基地の敵は排除いたしました。はやくお戻りください」

 

「いいえ!私は戻りません!」

 

 クランカインとスレインの目に見えない攻防の中、アセイラムが叫ぶ。

 

「私は…地球で鳥を見ました」

 

「姫様…」

 

「地球は回復し、人と自然とが共存していました。あなたは教えてくれましたよね?人と自然は…地球とヴァースは共に栄えることができると!」

 

 アセイラムの心からの叫び、それは誰もが戦いの中で理想とした思いだった。その言葉に対しスレインは手を顔に当て涙腺が緩んだような動作を見せる。

 

「…はい その通りです。たしかにそのように申しました…」

 

「ステイギス隊を追跡に向かわせました」

 

「捕捉次第、拿捕しろ」

 

 だが現実は非情だった。

 その様子は周囲を警戒していたリアたちにも伝わっていた。

 

「ステイギスがこっちに来てるぜ」

 

「スレイン・トロイヤード…。ここまでやるのか、クランカイン伯爵に連絡を」

 

 モニターに見せる動作と相容れぬ現実にリアは愕然としてしまう。

 

「どうか戦争をやめてください。そして地球と和平を…結んでください」

 

「わかりました。そのことについて話ましょう」

 

「スレイン…」

 

「その宙域は危険です、クランカイン伯爵。すぐに引き返してください」

 

「承りかねます。私はアセイラム姫の命に従います」

 

 一見すればスレインが考えを改めたであろう状況、だがクランカインはそれを当然の如く拒否し逃亡を選択する。

 

「ステルス起動 最大」

 

「了解」

 

 輸送艦に次々と収容されていく親衛隊のカタフラクト、それと同時にレーダー的にも光学的にもハドリアクスは消えていった。

 

「航宙船ハドリアクス、船影が消失しました」

 

「捜索を続けろ…」

 

「はっ…」

 

 司令室で映し出されたレーダーを睨み続けるスレインの顔はますます暗みをおびていくのだった。

 

ーーーー

 

ピピッ…。

 

「無事に脱出したか…」

 

「こっちも脱出しよう。僕は韻子と合流する、F3ゲートの宙域で合流を」

 

「分かった」

 

 端末で脱出を確認したフィアと伊奈帆は各々の来たいの元へと向かうのだった。

 

ーーーー

 

「脱出をしたけどどこに行けば…」

 

「心当たりはある。信用に足る人物が」

 

 航宙船ハドリアクスの格納庫内で先行きを心配するネールに対しジュリは確信めいた顔で言う。それに対しみんなが耳にした人物は始めて聞く名だった。

 

「マズゥールカ伯爵」

 

「今こそアセイラム姫に我が忠義を示す時。揚陸城、離陸!」

 

 時を同じくしてマズゥールカは地球に存在する揚陸城を離陸させる。目標は姫様の居られるであろうサテライトベルトだ。

 

ーーーー

 

 月面基地及び揚陸城の中間地点、デブリを楯にし戦線を維持していたデューカリオンに新たな命令が届いた。

 

「本部より入電、撤退命令です!」

 

「撤退?」

 

「どうやら結果が出たようですね」

 

「結果?」

 

「我々を囮に使った本命の作戦です。全機に帰還命令」

 

 まるで結果を分かっていたかのように冷静なマグバレッジは幸いとばかりに撤退命令を出しデューカリオンを下がらせる。

 

「マスタング00、11接近中です…これは?」

 

「どうしましたか?」

 

 レーダー手の祐太郎の要領の得ない言葉にマグバレッジはすぐさま問いただす。

 

「もう一機、機体が追随しています。これは例の赤い機体です!」

 

「っ!」

 

「フィアちゃん!」

 

 祐太郎の言葉にマグバレッジは目を見開き聞いていたニーナは歓喜の声を上げる。まさかこれほど上手くいくとは思ってなかったのだろう。

 

「艦長…」

 

「構いません、帰投を許可します」

 

「着艦を許可する!」

 

 不見咲の躊躇いを見通しながらも彼女は許可を出す。フィアがこちらに来れば和平への道がぐっと近くなる、拒否する必要などどこにもないのだ。

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫です。私はあそこに居ましたから」

 

「私はいなかったんだけどね…」

 

 デューカリオンに近づくシナンジュ、その手には大きな白旗が掲げられておりそのコックピットにはフィアとフェインの姿があった。

 

ーー

 

 月面基地、主戦場。

 

「ふ、敵わぬと見て逃げるか」

 

「どう言うつもりだ?」

 

 撤退を始める地球軍機を見てバルークルスとハークライトが反応する中、マリーンだけ違う点を見ていた。

 

「ふっ……」

 

 レーダーの隅に映っているのはシナンジュを示す点、それが地球軍の艦を示す点と接触している。

 

「やっぱりお前はそっちか…フィア」

 

 悲しみと狂気の歓喜が混じった笑顔を作り出すマリーンの姿はとても不気味だった。だが確かに言えるのは彼女が楽しそうだったと言う事ぐらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 





ついにデューカリオンとフィアの合流。

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第六十七星 失恋 -Heartbreak-

 

 

「おい、あの機体って」

 

「噂のマリネロスの悪夢だろ」

 

「なんでこの船に居るんだ?」

 

 デューカリオンのカタフラクトハンガーには跪くように格納されたシナンジュの姿があった。

 スレイプニール等、地球軍に正式配備されている機体の全高が15、6メートルに対しシナンジュは20メートルを超える。地球軍のカタフラクトを収容するのを前提にしたハンガーでは満足に立つことすら出来ないのだ。

 

「おい、あれ…」

 

 胸部子コックピットハッチが開き、姿を現したフィアの姿に整備兵たちがさらにどよめいた。

 

「まだ未成年か?」

 

「あんな子が…」

 

「おい、お前らなにやってんだ!やることは山ほど有るだろうが!」

 

 ざわめく整備兵たちを怒鳴りつけたのはカーム、怒られた兵たちは慌ててその場を離れ帰投した機体に逃げていく。

 

「すまない、助かった」

 

「構わねぇよ。それより…久しぶりだなフィア」

 

「あぁ…」

 

 久しぶりの再会に握手を交わす2人、そうしていると急いで駆け寄って来た韻子に横から抱きつかれる。

 

「フィア!」

 

「おっと…」

 

「良かったぁ、無事だったんだね」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 涙を瞳に溜めながら思いっきり抱きしめた韻子に対しフィアも抱きしめ返した。

 

「ふっ…」

 

「フィアちゃん」

 

 ライエとユキはその様子を優しげに見つめる。まるで姉が2人居るようだった。

 

「感動の再会やねぇ」

 

「うおっ、びっくりした!」

 

 同じく涙を溜めながら感動するフェインの突然の出現にカームは驚き飛び上がる。

 

「あ、どうもシナンジュの機付き長のフェイン・クラウスです」

 

「デューカリオンの整備班長のカーム・クラフトマンっす」

 

 やけにフレンドリーなフェインのペースに飲まれ挨拶をするカーム。その時、彼は思い出す。鹵獲されたベルガ・ギロスの見事な整備技術を、あの時感心した腕をもつのが彼女なのだと。

 

「あの親衛隊機の整備も貴方が?」

 

「ん、まぁ私が指揮をしたけど?」

 

「あれ凄かったですよ!」

 

「え、あぁ…。ありがとう」

 

 なぜか急にテンションが上がっているカームに若干引きつつ礼を言うフェインの姿はどことなくフィアに似たような雰囲気があったのだった。

 

「フィア…」

 

「フィアさん。話しは既に聞いています、行きましょう」

 

「はい…」

 

 2年ぶりの再会に騒いでいた一同に歩み寄ったのはマグバレッジと伊奈帆、2人を見たフィアは韻子を離して身なりを整えるのだった。

 

ーーーー

 

「地球連合軍、中将のエーリス・ハッキネンです」

 

「ヴァース帝国、アセイラム姫殿下親衛隊の隊長。フィア・エルスートです」

 

 デューカリオンのブリーフィング室では月面基地攻略の責任者であるハッキネンとフィアがモニター越しに睨み合っていた。

 

「あのマリネロスの悪夢が話し合いとは連絡があったときは実に驚きましたよ」

 

「えぇ、月面基地では随分とお世話になりましたが…。まぁ、それは置いておきましょう」

 

 言葉に対しハッキネンは僅かに身じろぎをするのをフィアはしっかりと確認していた。

 

「それで、態々私になにを話そうと言うのでしょう。月面基地への攻撃の件なら」

 

「いえ、私がお伝えしたいのは姫様の本当の意思です」

 

「本当の意思…」

 

 フィアの言葉にハッキネンは眼鏡を掛け直し実に面白そうに見つめる。

 

「姫様は地球とヴァースの和平を望まれています」

 

「なるほど、それで側近である貴方を寄越したと…。これまでのことは全て姫殿下の意志ではなかったと言う事でよろしいですな?」

 

「えぇ」

 

 フィアとの会話にてハッキネンは細く微笑む。

 これまでの姫様の言動がもし誰かに強要されていたのだとすれば今戦っているスレイン・トロイヤードは逆賊ということになる。

 

 前々からスレイン・トロイヤードの叛逆を知り地球とヴァースの和平のために地球軍が兵を出した、と言う事にすれば和平交渉で我々は大きく有利になる。

 

「なるほど、では我々が逆賊であるスレイン・トロイヤードを討伐いたしましょう。我々も長くなりすぎた戦争に終止符をうちたいのです」

 

「いえ、討伐する必要はありません。スレイン・トロイヤードは彼なりに忠節を尽くした結果です。我々の問題は我々で処理します」

 

「……」

 

 ハッキネンは提案に対しきっぱり断るフィアを見て目をヒクヒクとさせる。てっきりバリバリの武官だと思っていたが文官としての能力も持っていたとは。

 

「姫様の宣言後、私は地球軍の戦列に加わり対処をいたします。その許可をいただきたいのです」

 

「先ほどまで敵であった貴方を?」

 

「マリネロスの悪夢を敵に回さずに戦力に加えられる。魅力的な提案だと思いますが?これは私なりの譲歩です」

 

「譲歩だと?」

 

「私は両軍を敵に回しても騎士としての勤めを果たすつもりです」

 

「……」

 

 両者が僅かに睨み合う、最初に折れたのはハッキネンの方だった。

 

「分かりました。あくまで“対等“な立場でお願いします」

 

「えぇ、これは“借り“ですよ。ハッキネン中将」

 

「……」

 

 明らかに気分を害したハッキネンだったがこれ以上、口を出せばややこしいことになると判断し黙って頷くと通信を切るのだった。

 

「驚きました、まさか交渉ごとも行えるとは」

 

「騎士として必要最低限の能力は持っているつもりです」

 

「そうですか…部屋に案内しますよ」

 

「ありがとうございます」

 

 フィア・エルスート、彼女とまともに話したのはデューカリオンが墜落した時が初めてだ。改めてみると真っ直ぐで綺麗な目だ、彼が惚れ込むのも分かる気がする。

 

「よっ、久しぶりだなぁ」

 

 マグバレッジが思考の海に浸かっている時、フィアの後ろから現れたのは鞠戸だった。

 

「あ、えっと鞠戸大尉でしたね」

 

「良く憶えてたな、正解だ」

 

 鞠戸は近所の子と接するように頭を滅茶苦茶に撫でる。彼女の知る鞠戸はこんなに元気ではなかったが2年間で色々あったのだろう。

 

「鞠戸大尉、彼女は重要な客人です」

 

「分かってますよ。一言だけでも挨拶がしたくて…ありがとう。あの時、君がいなければ俺達はいなかったのかもしれない」

 

「いえ、私は出来ることをしただけです」

 

「おう。じゃあ、またな。界塚弟とは仲良くしろよ!」

 

「全く…どうしようもない人ですね。こっちです」

 

 終始元気で去って行った鞠戸を横目で見つつフィアは歩を進める、そんな彼女の表情はとても明るかった。

 

ーーーー

 

 マグバレッジに案内された部屋のベットに座り込むフィアは大きくため息をついた。

 シナンジュは一緒に来てくれたフェインが調整している、他の人たちも次の戦闘に備えて準備で忙しい。

 

「フィア…いる?」

 

「伊奈帆か、居るぞ」

 

「良かった。カタフラクトハンガーに居なかったから」

 

「少し休めとマグバレッジ艦長の配慮でな」

 

 フィアは部屋に訪れた伊奈帆にベッドを軽く叩くことで横に座るよう促す。

 

「あの時、月面基地で…。私はお前が来るのを待っていたのかもしれない」

 

「フィア…」

 

「誰よりも背中を預けられるお前は私にとって大切だからな」

 

 シミジミと語る彼女の姿に思わず見惚れる伊奈帆は珍しく顔を赤くした。なぜ赤くなったのかは本人でもよく分からないだろう。

 

「だから、ありがとう…本当に」

 

「……」

 

 感謝の気持ちを伝えるためだろうか、フィアは優しく抱きしめる。伊奈帆はその事に対してはあまり驚かず黙って腕を背中に回した。

 

「揚陸城で…私を落ち着かせるために抱きしめてくれた時、暖かかった。私には勿体ないぐらい…」

 

「フィアはもっと甘えた方が良いと思うよ」

 

「それはお前もだろう…」

 

 フィアの体温に包まれた伊奈帆は分かった気がした、自分が彼女に求めていたもの…。いや、正確には自分が誰かに求めていたものと言えば良いだろう。

 

(僕は誰かに甘えたかったのか…)

 

 いつも彼は完璧だった。だから頼られ信頼されてきた、それは家族であるユキでさえもそうだった。

 頼られることは嫌いではなかった、むしろ誇らしかったと言っても良いだろう。

 だからこそ彼は人に甘えるなんて事はしなかった、する方法も知らなかった。

 

(本当に暖かい…)

 

 そんな時に彼女は現れた。彼と同じく、完璧であろうとしたものが…何よりも頼れる彼女に背中を預け、もたれ掛かった。彼女はなにも言わずに背中を貸してくれる、そんな存在…。

 父や母という存在を知らずに育ち、肉親であるユキも守り続けようとした少年は出会えたのだ、そう言う存在に…。

 界塚伊奈帆と言う人物はただ、人に甘えたかった純情な青年であったのだ。

 

「礼を言うのは僕の方だ。フィアのおかげでここまで戦えたんだ」

 

「伊奈帆…」

 

「もう少し…この……ままで………」

 

 不意に伊奈帆の腕の力が抜け驚くがその顔を見て彼女は優しく微笑む。

 

「すぅ…」

 

 余程疲れたのだろう、静かな寝息をたてながら彼は眠っていた。

 

「ゆっくり休め…」

 

 フィアは膝に乗る彼の頭を優しく撫でて鼻歌を口ずさむ。その姿は1人の騎士ではなく、1人の女性としての美しい姿だった。

 

「あぁ…やっぱりねぇ。私じゃあなにも勝てなかったかぁ…」

 

「韻子…」

 

 フィアに宛がわれた部屋のドアのすぐ横、彼女に会いに来た韻子とライエの姿があった。

 

「ライエ、なんか変なの…。悲しいのに嬉しくて涙が止まらないの」

 

「まったく…。貴方も損な性格してるわね」

 

「そう?」

 

 大粒の涙を流しながら笑う韻子にライエは静かに手を肩に置く。失恋の悲しさと愛する人が安心出来る場所を見つけた喜びが入り交じってぐちゃぐちゃな顔になっていた。

 

「伊奈帆ぉ…。フィアを泣かせたら私がぶっ飛ばすからぁ」

 

「そっち?」

 

 泣きじゃくる韻子に突っ込みを入れながら連れて行くライエは1度だけ部屋のドアを見やるのだった。

 

 






韻子…(´;ω;`)

どんな人間であれ一人では生きてはいけない、伊奈帆も心のどこかでは寂しくて誰かに甘えたかったであろうと思います。

長い間書き続けてきたこの話も残すところ3話(たぶん)になりました。残りの話もしっかりとやっていきたいと思います!

最後まで読んでいただきありがとうございました!




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第六十八星 願い -Wish-


ふぁ!お気に入り300越え!?ランキング9位!?

皆様のご声援のお陰であります本当にありがとうございます!皆様のご期待に添えるように頑張ります!

では本編をどうぞ!




 

 

「ありがとうございました、マズゥールカ伯爵」

 

「いえ、貴方も無事で良かったです。ジュリさん」

 

 サテライトベルトのある軌道上を浮遊しているマズゥールカ伯爵の揚陸城。その司令室では二人の人物が話をしていた。

 

「ところでフィアさんはどこに?姿が見えないようでしたが?」

 

「隊長の行方は知れません。もしかしたら界塚伊奈帆と合流しているのではないかと」

 

「彼ですか…なら安心なのですが」

 

 地球にて助けられたあの少年の顔を浮かべ微笑むマズゥールカ、その思いはジュリも同じようで黙って頷いていた。

 

ーー

 

「フィアは無事なのでしょうか?」

 

「残念ながら、こちらから連絡する手段は現在ありません」

 

「貴方も心配でしょう。リア…」

 

「はい…」

 

 揚陸城の来賓室では避難してきたアセイラムたちの姿があった。これからのことを真剣に話し合う中、フィアのことが気になったのだ。

 

「彼女が居てくれれば状況は改善されるのですが」

 

「フィアがですか?」

 

 クランカインの呟きにその場に居た者、全てが疑問に思う。

 

「はい、彼女は公式には秘匿されている存在です。もちろん、リア副隊長を含む親衛隊の全員が帝国の最高機密なのです」

 

 親衛隊の主な任務は姫の護衛だが彼女達には別の側面で動いていることが多かった。

 それは暗殺などの影の任務だ。皇室を護るためには誰であろうと排除する、ヴァース帝国で表だった革命が起きないのも彼女たちの暗躍があったからだ。

 

「そんな事は当然です。それによる隊長の有無による差が出るのですか?」

 

「えぇ、伯爵クラスの人物しか知り得ない彼女の存在。それが表舞台に出ざる得ない状況であることを知らせると共に宣言を出したアセイラム姫が本物のアセイラム姫殿下だと証明することが出来ます」

 

 アセイラム姫への忠誠心の高さは全ての伯爵が知り得ていることだ。そんな彼女が付き従うアセイラムこそが本物のアセイラムであることは明白だ。

 

「それなら大丈夫だな」

 

「宣言の準備をしましょう」

 

「大まかな内容は私が纏めておきます。シルエさんは怪我人なんですから大人しくしてください」

 

「…大丈夫」

 

 ネール、リア、シルエ、エデルリッゾは彼の説明を聞き終えるとすぐに行動を開始する。いつでもアセイラムの声を届けられるようにするためだ。

 

「え…ちょっと待ってください。聞いていましたか?」

 

 そんな彼女たちを慌てて止めたのはクランカインだった。

 

「今ここにはエルスート卿は居ないのですよ?せめて連絡をつけてから」

 

「大丈夫ですよ、クランカイン」

 

「姫様、それは…」

 

 このまま宣言を行うことに難色を示す彼に優しく微笑んだのはアセイラム、他の彼女たちの表情には迷いなど暗いものは欠片もなかった。

 

「フィアなら分かってくれます。なんせフィアですから」

 

 迷いのない言葉、それを聞いたクランカインはしばらく呆然とし笑う。

 

「それは失礼しました…。無用な心配だったようですね」

 

 クランカインは少々見くびっていたのかもしれない、アセイラムとフィアの絆に…。

 彼女が行動を起こせばフィアはそのために独自に動く、それに言葉など無用でありそれが当然なのだ。

 

「彼女を心から信頼しているのですね」

 

「えぇ、私にとっては掛け替えのない姉のようなものですから」

 

「そうですか…」

 

 その言葉にクランカインは静かに頷く。

 

「マズゥールカ伯爵にも伝えて準備を行います」

 

「ありがとうございます。しかし宣言は最終手段、その前にお爺さまと連絡を…謁見の間に案内してください」

 

「…はい」

 

 アセイラムの言葉、それに対し彼は覚悟を決めたように了承するのだった。

 

ーーーー

 

月面基地展望室。

 

「ねぇ、ケルラ」

 

「はい」

 

「スレインは勝てると思う?」

 

 誰も居ない展望室、つい数日前まではそれが当然だった。だが今はこの空間が無駄に広く思えてくるのだ。

 

「分かりません。隊長もアセイラム姫もここには居ません。必ず大きな行動に出るでしょうね」

 

「この戦い…いえ、戦争を止めるために…。結局、私とお姉様では見ているものが違ったと言う訳ね」

 

 座っていた車椅子に深くもたれるレムリナはただボーッと天井を見つめる。

 

「ヴァースも地球も関係なく、人間を助けたかった姉様とその姉様の背中を必至に追い掛けてた私…。元々のスタートラインが違った」

 

「レムリナ姫は姫で彼を救おうとしました。寄り添うことで支えになろうとしたじゃありませんか」

 

「私は彼に必要とされる事で…生きて良いって思いたかっただけよ」

 

 彼に対しての感情は決して否定しない、だが始まりはとても浅ましいものだった。誰にも必要とされない私を必要としてくれた。そんな甘いぬるま湯に浸かっていたかっただけなのだ。

 

「でも貴方はそれを経て己の命すら彼に捧げようとしています」

 

 ケルラは自身の思うことを全て語る、それが彼女の心の支えになればと思うからこそ。

 

「彼が望むなら、私は持てるものを捧げます。それで少しでも心が晴れるのなら」

 

「姫様…」

 

ーーーー

 

「スレイン…」

 

「なんでしょうか?」

 

 月面基地司令室に訪れたマリーンはスレインの所に歩み寄ると声をかける。

 

「次の出撃は私の好きなようにやらせて貰う」

 

「…どう言う事です?」

 

「アイツが出てくるまでレギルスを温存したいんだ」

 

 アイツ、彼女の指す人物は容易に想像できた。

 

「フィアさんが?」

 

「あぁ…」

 

「しかし敵として出てくるとは…」

 

「アイツは来る、必ず来る。フィアはそう言う女だ」

 

 マリーンなりの確信、それを垣間見たスレインはため息をつきながら頷く。

 

「分かりました」

 

「感謝するよ…」

 

 曲がりなりにもザーツバルム卿の意志を継いだ彼をマリーンは敵視はしていない。

 だが彼の忠実な部下ではない、彼女は彼女なりにザーツバルム卿への忠誠を果たすだろう、それを止めることなどスレインには出来ないことだった。

 

「フィアさん…」

 

 月面基地に彼女の姿はもうない、思い出されるのは彼女の悲しげな瞳。

 自身が行ってきた姫様に対しての不忠に近い行いに対して彼女はそんな瞳を向けてきた。

 怒りでもなく、憐れみでもなく、悲嘆でもない…ただ悲しく光る瞳が彼の脳裏に浮かび上がる。

 

「スレイン様…」

 

 彼の心の中の葛藤を察したハークライトは心配そうに見つめることしか出来なかったのだった。

 

ーーーー

 

「各部隊に告ぐ、作戦はUTC1500に開始する。戦闘配置にて待機せよ」

 

 月面基地の防宙域のギリギリに集結していた地球軍はさらなる増援と合流し攻撃の時を待っていた。

 

「……」

 

 告げられる戦闘待機命令、ライエはデューカリオンの防衛任務にため既にグラニに乗り込んでおいた。

 彼女は唯一の形見である携帯の待ち受けに設定された写真を見ると目を瞑り顔を上げるのだった。

 

ーー

 

 デューカリオンの廊下、そこを歩く鞠戸を呼び止めたのは親友の耶賀頼だった。

 

「鞠戸大尉、出撃ですか?」

 

「ん、あぁ…最後に先生と一杯やりたかったが 機会がなかったな」

 

「らしくないですね」

 

「まぁ、低気圧下だ、悪酔いするとマズいしな」

 

 二人とも分かっているのだ、この状況下における戦いがどんなものかを…。

 

「そうじゃなくて…最後じゃないでしょ」

 

「あぁ、帰ったらな」

 

 だが二人の笑みは絶えない、腐れ縁だがそれなりの付き合い。それ以上の言葉は二人には必要なかった。

 

ーー

 

「これって、最終決戦って奴ですかね」

 

「さぁ、決着が着くんだったらそうじゃない?」

 

司令部が月面基地の壊滅、および制圧を目的とする事を改めて宣言し地球軍には大きな緊張感が生まれていた。

 

「戦死したら、そいつにはその時が最終決戦だな」

 

「もう」

 

「縁起でもないこと言わないでください」

 

「そうですよ、みんな生きて帰るんですから」

 

 筧の冗談に反発するニーナ、その言葉には気楽な口調とは裏腹に大きな覚悟が眠っていた。

 

ーー

 

「ん……」

 

「目を覚ましたか?」

 

「フィア…っ!」

 

 いつの間にか眠っしまった伊奈帆は目覚めの直後で頭が回っていない。しばらくした後、自分が置かれている現状を思い出し跳ね起きた。

 

「なっ!」

 

「あ…」

 

 突然、跳ね起きた伊奈帆に驚くフィア、彼女は彼の顔を覗き込むようにしていたためお互いが頭をぶつける羽目になった。

 

「いっつぅ…」

 

「ごめん、大丈夫?」

 

「なおくん、そろそろ…」

 

 ぶつけた頭を抑えてベッドに転がるフィア、それを心配そうに覗き込む伊奈帆。そんな時に部屋を訪れたのは姉であるユキだった。

 

「あ…」

 

 我が弟がフィアちゃんを押し倒している。予想外の光景に口が開くユキ、その反応に伊奈帆は状況を察して声を上げる。

 

「ユキ姉、これは…」

 

「ごゆっくりしてください!」

 

 オートのドアを手で強制的に閉めるユキ、状況を理解できないフィアは倒れた状態のまま止まり頭に疑問符を浮かべている。

 

「ちょっと待って…」

 

「ちょっと、伊奈帆」

 

 珍しく慌てて立ち上がる伊奈帆、立ち上がる際にフィアの足が引っ掛かり彼は再び彼女にダイブする羽目になるのだった。

 

(待て待て、界塚ユキ。あの冷静で鈍感ななおくんがそんな事をするはずがない、フィアちゃんがどれだけ可愛くても)

 

 部屋の前でユキは大きく深呼吸しながら考える。

 

「そうよ、何かあったのよ!姉である私が言うんだから間違いない!」

 

 そう言って再び扉を開けるユキ、そこで見た光景は…。

 

 フィアの豊満な胸に顔を埋める我が弟の姿だった。

 

「……」

 

「……」

 

 目が合う界塚姉弟…。

 

「女の子と男の子どっちがいいの?」

 

 その後、伊奈帆の声のならない声が上がったそうだ。

 

ーーーー

 

 デューカリオンカタフラクトハンガーではデューカリオン所属の機体たちが整備を終え次の戦闘に備えていた。

 

「まさか地球軍の機体にシナンジュのOSを積んでるなんて思わなかったよ」

 

「このOSの調整なんて誰も出来なかったんでありがたいです」

 

「こっちもシナンジュの整備をして貰ったんだ。お礼くらいするよ」

 

「ごめん、なおくん!邪魔するつもりはなかったの」

 

「いや、邪魔なんてしてないから…」

 

 次の作戦の開始時間はもう間もなくだ。パイロットたちがこのハンガーに集結し始めていた。

 

「機体はどうですか?」

 

「こっちも手伝って貰ったから万全だよ。しかし機体の感度を最大にしてくれって…長く持たないよ?」

 

「もし私が出るときはアイツと戦わなければならないでしょうから」

 

「なるほどね」

 

「フィアも出るの?」

 

 フェインと話していた再び2声をかけたのは韻子、その表情は不安に染まり心配げにこちらを見つめていた。

 

「あぁ、姫様が行動に出るなら私も動かなければならない。だがそれまで私は動けない、私の行動は姫様の意志だと受け止められてしまうからな」

 

「そう…」

 

「気をつけてくれ、これ以上私は人が死ぬのを見たくない」

 

 頭を撫で優しく微笑むフィアの姿に韻子は思わず顔を俯かせる。

 

「本当にフィアには敵わないなぁ…」

 

「韻子?」

 

「聞かせて今までの2年間のことやフィアがどんな道を歩んできたのか」

 

「あぁ、紅茶でも飲みながら…」

 

 お互いが握り拳を作り軽くぶつける。それだけで二人には充分だった。

 

「でも宇宙戦でこれを使う程接近するってよっぽどだぜ」

 

「そのよっぽどになりそうなんだ」

 

「マジかよ!?」

 

 スレイプニール用の宇宙装備をありったけ突っ込んだ代物、スマートな機体が随分ともっさりした印象を受ける。

 

「接近戦を意識した装備、シナンジュのOSとの相性もピッタリだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「いや、彼女が気に入っている人間と聞いてどんな人物かと思えば…。あの子を頼むよ…」

 

「はい…」

 

 フェインの言葉に対し迷いなく答える伊奈帆。その姿に彼女は満面の笑みで返すのだった。

 

ーー

 

「マスタームスイッチオン。燃料電池ヒートアップ。電圧チェック。ポンプ始動。アキュームレーター圧力チェック。」

 

 各機が主機に火を入れ機体を立ち上げていく、伊奈帆は軽やかな操作で機体の起動を行っていた。

 

「フォースフィードバックチェッキングプログラム…スタート。エジェクトンシート正常。IFF確認。戦術データリンク、アクティベート。システムオールグリーン。マスタング00…レディ」

 

 機体のカメラが煌めき重くなった機体の歩を進める。

 

「伊奈帆…」

 

「フィア、どうしたの?」

 

「一つだけ私個人から頼みたいことがある…」

 

 出撃直前、フィアに頼まれた願いを聞き取り伊奈帆は静かに頷くのだった。

 

 

 





ついに次回は最終決戦です!
全てが決着の時一体どうなるのか!?

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第六十九星 信念 -Belief-

 

 アセイラムは謁見の間にて祖父であるレイレガリアとの通信に成功していたが彼はもう瀕死の状態だった。

 

「私です アセイラムです おわかりになりますか?」

 

「アセイラム…」

 

「お元気そうで…」

 

「大義である…地球の制圧は進んでおるか?」

 

「今日はそのことでお願いがあって来ました。地球と和平を結んでほしいのです。軌道騎士たちに戦争をやめるよう、お爺様から命令してください」

 

「それは…できぬ。地球は決して許さぬ。攻撃の手を緩めるな。我らの支配下に治めよ」

 

 良い返事は貰えず、レイレガリアの言葉には憎しみの色が濃く残っていた。

 

「なぜ地球を憎むのですか?」

 

「ギルゼリアはどこだ?我が息子はどうした?早く地球を占領せよ…」

 

「お父さまは亡くなりました。ヘブンズ・フォールで」

 

「地球人め…我が息子を。しかも孫娘アセイラムまで…」

 

「私はここにいます」

 

 会話が成立しない、悲惨とも言える祖父の状況を実感したアセイラムは唇を噛み締める。

 

「ヴァースだ。代文明人はこの星のことをそう呼んでいた。私は発見したぞ…火星の超科学を…その名をアルドノアという。素晴らしい…人類は更なる躍進を遂げるだろう…。アルドノアは人を幸せにする夢の技術だ…」

 

「…はい」

 

「大きな力だ…道を誤ることなく大切に育てよ」

 

「…はい」

 

「そこにいるのはアセイラムか…大きくなったな、美しくなった。よい姫になれ…そして人を幸福に導け」

 

「はい」

 

 なにも脈絡のない言葉だが彼はアセイラムにとって大きな言葉を残していった。彼女はそう信じる、これが自分を育ててくれた人の末路だとは信じたくなかったのだ。

 

「クランカイン…」

 

「はい」

 

 通信が消え、謁見の間の暗い空間が姿を現す。

 

「貴方は私に忠誠を誓いますか?」

 

「当然でございます。この命が尽きるまでお供いたします」

 

「忠誠、感謝します。クルーテオ伯爵」

 

 謁見の間の薄暗い空間でクランカインが見たのは覚悟を決めたアセイラムの顔だった。

 

ーーーー

 

 月面基地、主戦場。

 ステイギスが火を上げながらアレイオンに突っ込み心中し地球軍のシャトルが弾丸に晒され轟沈する。

 乱戦となった戦場では死の風が吹き荒れ尊い命がとても簡単に失われていた。

 

「月面基地は地球連合軍との総力戦を開始した」

 

 全ての軌道騎士に対して発せられたスレインの宣言は伯爵から一般の兵に至るまで全てに対して発せられた。

 

「サテライトベルト及び地球に降下した諸兄よ、各々の意志にて地球連合軍にむけ一斉攻撃せよ!地球人にもう一度、我々の絶大な力を思い出させるのだ!」

 

 ヴァース帝国の総戦力の投入、アセイラムの代理人であるスレインから発せられた言葉は強い効力を持って発動される。

 

「そして連合軍に…」

 

「ヴァース軌道騎士の皆さん」

 

 スレインの言葉を遮るように通信を行ったのはアセイラム、皇族専用のロイヤル回線を使ったのだ。

 

「私はヴァース帝国第一皇女のアセイラム・ヴァース・アリューシアです。たった一つのきっかけから争いは始まり、とても大きな戦争に発展しました」

 

 響き渡るのはアセイラムの声、それと同時にフィアはシナンジュを起動させる。

 

「様々な人の様々な思いがすれ違い大きな不幸を呼びました。それはとても悲しいことです。私はこの戦争を憂い、人の手に余る力の扱いに付いて反省とともに深く後悔をしています」

 

 その時、戦場は止まった。この作戦に参加していた者は後にそう言ったという。

 それは比喩でもなんでもない、戦う者はデブリに身を隠しアセイラムの声に耳を傾けていたのだ。

 

「私は今ここに…」

 

 車椅子から立ち上がるアセイラム、その姿を見て伯爵たちは息を飲んだ。

 

「先代皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースのあとを継ぎ、ヴァース帝国の女王になります。我々ヴァース帝国皇族は地球との和平を望みます!」

 

「さようなら…スレイン・ザーツバルム・トロイヤード伯爵」

 

 アセイラムの言葉と共にフィアはそう呟きシナンジュの通信回線を開き全帯域でそれをつなげた。

 

「アセイラム姫殿下、親衛隊の隊長。フィア・エルスート!」

 

 コックピットにいるフィアの姿が流れ伯爵たちを更に驚かせる。だがこれはまだ序の口だ。

 

「私は姫様を傀儡として祭り上げた逆賊、スレイン・ザーツバルム・トロイヤードを敵と見なし、私に与えられた全ての騎士権限を行使することをここに宣言する!」

 

 騎士権限の行使、それは国家の滅亡やそれに類する事柄が発生した時のみ行うことが出来る宣言。

 この宣言によりアセイラムの宣言が本物であることを示し他の騎士達への牽制にもなる、スレインに味方したら逆賊だと言う牽制だ。

 

「この放送を聞いている全ての軌道騎士に即時停戦を命じます!」

 

 アセイラム女王からの《命令》は全ての軌道騎士に告げられるのだった。

 

ーーーー

 

「結局、私はこう言う立ち位置でしかいられないか…」

 

 月面基地のカタフラクトハンガーに格納されていたレギルスのコックピットでマリーンは静かに呟く。

 

「ザーツバルム卿…」

 

ーー

 

 月面基地、主戦場。

 

「何でまだ戦ってるの!?お姫様が戦争止めるって宣言したのよ!」

 

「月面基地の連中はやる気満々よ」

 

「みんな、気を抜かないで…。戦争はまだ終わってないわよ」

 

 正当性は誰が見てもアセイラムの方があった、それにフィアの宣言も加わる事でそれは確固たる物となっただろう。

 だが月面基地をめぐる戦いは終わらず漆黒の宇宙に眩い光がいくつも生まれる。

 

「シナンジュよりブリッジへ…。フィア・エルスートが出るぞ!」

 

「了解、お気を付けて」

 

「そちらこそ…」

 

 宣戦布告は終えた、なら彼女の行うべき事は行動で示すのみ。

 デューカリオンから出撃したフィアはシナンジュのシールドに内蔵された発光信号弾を高々と撃ち放った。

 

「なんだ?」

 

「発光信号か、誰が?」

 

「おい、あれって…」

 

 特殊な発光信号は花火のように形を形成する。赤く光る模様はヴァース帝国の旗印の物だった。

 

「やはり戦わないか…」

 

 フィアが前線に出張っていたときには既にステイギス共々、部隊が一時撤退を開始していた。帝国の兵ならば旗印に対して攻撃はしたくないものだ。

 

「スレイン…」

 

 撤退するステイギスを見守りつつフィアは静かに呟くのだった。

 

ーーーー

 

「スレイン様…」

 

「ふっ…構わない、補給を急がせろ」

 

「はい」

 

 命令もなく戦線を下げ補給を開始する兵たちに対しスレインは僅かに微笑み司令室を後にする。

 

「レムリナ姫」

 

「スレイン…本当に大切なのは皇族の血、アルドノアの起動権さえあれば貴方の夢は叶うのではなくて?私はどこにも行きませんよ。私の居場所はもう…ここしかないのですから」

 

 廊下で待っていたレムリナの言葉にスレインは目を見開く。

 裏切り続けていたのに、見ようともしなかったのに彼女は自身を心配しなおかつ着いてこようとしてくれるとは…。

 

「だから…」

 

 上手く言葉が見つからず脇に控えていたケルラに目線で助けを求めるレムリナを見たスレインはクスッと笑う。

 

「そうですね。御厚情、感謝しますレムリナ姫」

 

 自身をこんなにも想ってくれる人が居たのだと、それに改めて気付くとこれの表情は実に晴れやかだった。

 

「行きましょう」

 

「はい」

 

 その言葉に元気良く頷くレムリナ、その表情もまた実に晴れやかなものだった。

 

ーー

 

 宇宙がよく見える廊下をスレインとレムリナ、その後ろをケルラが静かに歩いていた。

 両軍が睨み合い状態の宇宙は一時の平穏が戻っていた。

 

「宇宙を見続けているといつも思います。吸い込まれそうだと、なにもない所に…」

 

「私は幾度も宇宙を飛び続け光を灯してきました。そこで私は未来を見てきました」

 

「未来?」

 

「良いこと、悪いこと全てを…。ほんの少し先の事だけを見て分かった気で居たんです。そしてたくさんの人を傷つけてしまった」

 

「スレイン…」

 

「結局の所、本当に大切な物はなにも見えていなかったんです」

 

 スレインの懺悔に近い言葉にレムリナは思わず言葉を失う。

 

 彼の背負っているものは何も分からない、でも少しでも力に、支えになりたかった。ただそれだけなのに…。

 

(どこで間違ってしまったのかしら…)

 

ーーーー

 

「トロイヤード卿、これはいったいどう言う事だ。アセイラム姫殿下はどうして!?」

 

「スレイン様…」

 

 カタフラクトハンガーに辿り着いたスレインはレムリナを車椅子からゆっくり立たせる。

 その時、ちょうど帰還したバルークルスが駆けつけ質問を投げかける。それはその場に居た者全てが欲する物だった。

 

「司令室に繋げろ、全軍に通達する。」

 

「はい」

 

「聞け、総員!10分以内に月面基地を離脱、揚陸城と共に連合軍に投降せよ…この月面基地を放棄する!」

 

「気は確かか!?」

 

 バルークルスを筆頭にこの言葉を聞いていた全ての人が戸惑うが彼にはもうどうでも良いことだった。

 

「スレイン…」

 

「レムリナ姫。これまでの数々のご無礼、失礼いたしました。どうか、いつまでもお健やかに」

 

「まさか…」

 

 レムリナと呼ばれた少女とスレインの態度、それを見た瞬間、バルークルスは全てを悟った。

 

「ケルラ…」

 

「分かってます」

 

 スレインと目線を合わせたケルラはレムリナを抱き抱え脱出艇のある場所に運ぶ。

 

「ケルラ、何をするのです?」

 

「行きましょう…」

 

「スレイン!スレイン!」

 

 手を伸ばし必死に叫ぶレムリナの姿を遠くから見ていたマリーンは昔のことを思い出し顔をしかめる。

 

「終わったか…」

 

 フィアとの決着は着けたかったが彼女は戦闘狂ではない、意味を見つけられない戦いに身を投じる気にはなれなかった。

 それにやり方は違えどザーツバルム卿の思い描いた世界は実現されるのだ。

 

「ザーツバルム卿…私はこれで良かったのでしょうか?」

 

 マリーンの口にした問いに答える者は誰も居なかった。

 

ーー

 

「月面基地より新たな機影多数、戦闘宙域から離れていきます」

 

 デューカリオンの通信を聞いたフィアは疑念に思う、何か嫌な予感が彼女の頭に過ぎったのだ。その時だった、スレインが笑顔のまま月面基地の自爆スイッチを押したのは。

 

「月面基地が陥落?」

 

「やっつけたの?」

 

「違う…」

 

「自爆…」

 

 各所から火を上げる月面基地を見つめる地球軍、その光景を唇を噛み締めながら見つめているハークライトの姿があった。

 

「シャトルの護衛を頼む…」

 

「え?ハークライト様!?」

 

 ハーシェルを反転させ月面基地へと戻るハークライト、それとほぼ同時に機体を反転させる人物が居た…マリーンだ。

 

「何をしている…ハークライト、マリーン。投降しろと言ったはずだ」

 

「ザーツバルム卿なら最後まで戦われる。私はそれに従うだけだ」

 

 そうだ…。ザーツバルム卿は最後まで諦めない、最期の一瞬までその命を輝かせる、私もそれに恥じない生き方をせねばザーツバルム卿に顔を合わせられない。

 

「よせ、我々にもはや勝機はない。命を無駄にするな!」

 

「覚悟はとうの昔に出来ております。わがままをお許しください」

 

 ステイギス隊も二人に吊られ機体を反転させ進撃する。

 

「投降するんだ!」

 

「申し訳ありませんがスレイン様。その命令はお受けできません!」

 

 ハークライトがスレインに初めて反抗した瞬間だった。

 

「来るぞ!」

 

 レギルス、ハーシェルを戦闘に地球軍に突っ込んでいくヴァース帝国軍、ステイギスの放ったマイクロミサイル群が戦端を開く合図となった。

 

「全機散開!」

 

 ステイギスのマイクロミサイルがレギルスのビームビットがハーシェルのビットが地球軍の機体を破壊し尽くす。

 死を覚悟した決死隊とそれに圧される地球軍の差は圧倒的な差となって出てくるのであった。

 

「ヴァース帝国の未来の…」

 

「っ!」

 

 最前線を張っていたステイギス、そのマスター機を含む3機が一撃のビームに貫かれる。三枚抜きだ、こんな混戦状態でそれをやってのける人物は1人しか居ない。

 

「やはりお前とは戦う運命か!」

 

 スラスター全開でこちらに突っ込んでくるのは深紅の機体《シナンジュ》スリット状のカメラを光らせ迎え撃つは《レギルス》。

 

「マリーン!」

 

「フィア!」

 

 フィアはシールド裏にあるビームアックスを起動、ビーム刃を形成しレギルスに突っ込んでいく、対するマリーンも掌からビームサーベルを出力させ振るう。

 

「やはり立ち塞がるかぁ!フィアぁぁぁ!」

 

「決着を着けよう…私たちのすれ違いに!」

 

 ビームがぶつかり合い激しくスパークを散らし両者の機体を照らす。

 親友同士の本気の殺し合いが幕を上げるのだった。

 

 





美しい者を護るその手が、希望を歌うその声が、築く未来を照らすように…。

最終回《笑い合うために》

――そして僕らは Zero に帰る…。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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第七十星 笑い合うために -To each other laugh-

 

 月面基地をめぐる戦いは地球軍の勝利に終わった。しかし戦いは終わらず激化の一途を辿っていた。

 

 決死の覚悟で挑むヴァース帝国軍と数で押す地球軍が戦いを繰り広げる中、その一角で2機のカタフラクトが激戦を繰り広げていた。

 

「私は負けたがこの戦いは譲らない!勝たせてもらうぞ!」

 

「もはや正義など問わない、我々の間にはそれはもう必要ないからな!」

 

 マリーンとフィア、レギルスとシナンジュがぶつかり合う戦域は戦場の中で最も危険な地帯と化していた。

 

「このぉ!」

 

 レギルスの腹部砲が高出力ビームを撃ち放つ、当然の如く回避するフィアだが避けられたビームはアレイオン、グラニを捉え焼き尽くす。

 

「くそっ!」

 

 躱したフィアは反撃としてライフルを撃ち放つがそれも避けられる。その一撃はステイギスを貫き爆散させる。

 

 互いが互いを狙いながら味方となる機体に当てないように放ち敵機を撃墜するように位置取る。もはや人間の行う戦いの領域を超えていた。

 

「この宙域から離れろ!」

 

「あの2機の戦いに巻き込まれるぞ!」

 

「なんなんだあの2機は!?」

 

 機体の姿すら捉えきれない戦いにその宙域で戦っていた両軍は唖然とするしかなかった。

 

ーー

 

 意志に反して戦闘を再開する部下たちにスレインは歯嚙みする。

このまま自分は終わってしまって良いのか…このまま彼らの想いを無駄にしてしまっても…。

 

「あれは…」

 

 後一歩、いや半歩がとてつもなく重い。

 その時だった、オレンジ色の機体が自分に見せ付けるように戦闘を行っていたのを見たのは。

 

「そうだなハークライト このまま終わる訳にはいかない…僕にはやることがまだ」

 

 不敵な笑みを浮かべたスレインは実に生き生きとしていた。

 月面基地の隔壁を破壊しその爆煙からタルシスが姿を現す。

 

「迎えに来た、スレイン・トロイヤード」

 

「決着を着けるぞ界塚伊奈帆!」

 

 いくつもの因縁に結びつけられた2人の戦いが始まった。 

 

ーーーー

 

「くっ…」

 

 今だに戦い続けるハークライトたちを見ていたバルークルスは悩んでいた。家紋を棄てる覚悟で援軍として向かうか、それともこのまま投降するか…。

 援軍に駆け付ければ間違いなく命を落してしまうだろう。

 

「いや、愚問であったか…」

 

 だがその悩みも考えてみれば簡単なことだった。騎士として1人の男としてこれを見捨ててしまえば一生の恥だ。どうせ1度の人生、悔いのないようにしてしまおう。

 

「オリンポスの砂嵐には抗うなかれ…私も心に従おう」

 

 笑みを浮かべたバルークルスは即座に機体を反転させ戦場に駆けつけるのだった。

 

ーー

 

 デューカリオンの周辺宙域、アレイオンを撃破したハークライトは機体を更に加速させ前進する。

 無数のビットを操るハーシェルは一対多数には打ってつけの機体だった。だが活躍もそれまで、ユキはグラニのアンカーをビットの一つに取り付けると追随するように進行し本体を狙い撃つ。

 

「くっ…」

 

 ハークライトもすかさず反撃するがランダムによって動き回り捉えることが出来なかった。

 

「すご…」

 

「戦術データリンクになおくんの戦闘データが保存されてるわ。各自参照して!」

 

 参照したところで出来るはずがないのだが韻子を含むデューカリオンメンバーならやりかねなかった。

 

「っ!」

 

 その瞬間、細いワイヤーの様な物がユキの機体の背中にあるユニットを綺麗に切断する。

 

「ユキさん!?」

 

「ヴァース軌道騎士37家紋、バルークルス。押して参る!」

 

「バルークルス伯爵」

 

 オクタンティスのカメラが激しく光り、手にしていたボビンが唸りを上げる。駆けつけてくれたバルークルスに感謝しつつハークライトは機体をデューカリオンに向けるのだった。

 

「8時の方向、仰角-25来ます!」

 

「迎撃を!」

 

「任せろ!」

 

 間近に迫る敵機に冷や汗をかくマグバレッジだったが駆けつけた鞠戸がそれを見逃さなかった。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 デューカリオンの影から現れた鞠戸は無反動砲を撃ち放ちながらハーシェルに突っ込んでいく。

 

「くっ…」

 

 一発が機体に直撃し残りの弾はビットを楯にして防ぐ、すかさず反撃するが避けられ接近を許してしまう。

 

「これは…」

 

 流石に近づかれすぎている。生命の危機を感じたハークライトだったがコックピット内に響き渡る警告音に目を見開くのだった。

 

「なんだ?」

 

 鞠戸もその異変には気付いていたこちらに高速で接近する光の球、その集団がこちらに向かって飛んできていた。

 

「なに!?うわぁぁぁぁ!」

 

 光の球は鞠戸の乗るアレイオンの両腕を破壊していく。そして目に映ったのはスリット状の目をした白い機体。

 

「貴様らぁぁ!」

 

「止めろぉ!」

 

 左手から出されたサーベルで鞠戸が両断される直前、横から駆けつけたシナンジュがレギルスを蹴り飛ばし、シールドでハーシェルを吹き飛ばした。

 

「もらった!」

 

「くうぅ!」

 

 ハーシェルに意識を向けた刹那、ライフルから放たれたビームがシナンジュの左の肩アーマーを吹き飛ばす。

 だがフィアもただではやられない、ビームアックスでレギルスのライフルを両断する。

 

「クソッ!」

 

 ただちにライフルを手放そうとするマリーンだがそれは許されない。シナンジュの蹴りがコックピットのある頭部に直撃、その衝撃で意識を持って行かれそうになる。

 頭を中でぶつけるもののビットの連動性を高めるため着ていたパイロットスーツに助けられ難を逃れる。

 

「はぁ!」

 

 続いてのタックルでレギルスはデブリに身をぶつける。それと同時にライフルが爆発した。

 

《警告-右マニピュレーターに重大な損傷》

 

「うるさい!」

 

 マリーンは警告表示を切りデブリとの衝突で起きた煙を見据える。そこから現れたのはシナンジュのビームサーベル、狙いは左肩。

 対処のために右の掌からビームサーベルを出現させるが彼女の思惑通りには行かずサーベルは出現しなかった。

 

「っ!」

 

 受け止められず左手を切り離されるレギルス、このままではビームビットの制御が出来なくなってしまう。

 

「餞別だぁ!」

 

 ありったけ放たれたビットはシナンジュのシールドと右足を破壊する。

 

「くはっ!」

 

 被弾の衝撃でフィアは思いっきり計器に頭をぶつけ、血を流す。

 

「ザーツバルム卿、見てください!貴方の夢は私が必ず!」

 

 彼女の全てであったザーツバルム卿はもういない、唯一の手向けであった夢を自身が叶えることも不可能。今までなんのために生きて来たのかマリーンは分からなくなっていた。

 彼女の中では、せめてザーツバルムに恥じない行いとして始めた戦いの意味さえ曖昧になりつつあったのだ。

 

「終わりにしよう、マリーン!」

 

 マリーンを見ていると昔の自分を思い出す。力を求めただ前進することしか出来ない悲しい存在。

 彼女の中には忠誠を誓うべき主ももういないのだから。

 

「親友として私からの手向けだ!」

 

 力ずくでも諭さして貰う、親友としてそれが私に出来る唯一の行いだ。

 

「うわぁぁ!」

 

「マリーン!」

 

 ライフルを棄て顔面を殴りつけるシナンジュ、対するレギルスも残った右手で腹を思いっきりなぐりつけていた。

 お互いがコックピットを狙った一撃は見事に命中するのだった。

 

ーーーー

 

「残弾数3」

 

 フィアとマリーンの戦いに蹴りがつこうと言う時、伊奈帆とスレインの戦いも佳境に入っていた。

 

「これ以上、戦っても得られる物はなにもない」

 

「あぁ、だが失う物もない」

 

 互いが得物を出し激しい接近戦に移行する。

 

「自暴自棄は愚かな選択だ」

 

「分かってないな、これは最も求めた選択だ!」

 

 スレインの高らかな声と共にタルシスの刃が断たれるが反撃にあい伊奈帆も大きな楯を失うことになった。

 互いが互いを削り合い2機は流れるようにして地球に近づいていた。

 

「あれは…」

 

 その様子をアセイラムはマズゥールカの揚陸城から見守るのだった。

 

ーー

 

 バルークルスのオクタンティス相手にライエはグラニの機動性を充分に活かしながら立ち回っていたが性能の差とバルークルスの腕にジワジワと追い詰められていた。

 

「ライエ!」

 

「三方十字砲火、MRSIオートショット!」

 

「くっ!」

 

 3機から放たれた弾丸は全ての回避コースを埋め尽くし避けようがない。

 これまでか…バルークルスはそんなあきらめが頭を過ぎった時、彼を庇うようにハーシェルが突っ込んできたのだった。

 

「ハークライト卿」

 

ーー

 

「ずっと…目障りだったんだ!その色が!」

 

 ハークライトが被弾した時、タルシスとスレイプニールの拳がお互いの機体を破壊したのだった。

 

ーー

 

「大丈夫か!?」

 

「えぇ、片腕を1本失っただけです」

 

「ハークライト様」

 

「戦況は?」

 

「私を含めステイギスマスターが3機、スレイブは4機ほどです。後は地球連合軍に墜とされました」

 

 マリーンとの通信が取れない、恐らくフィアとの戦いでやられてしまったのだろう。ハークライトは静かに彼女に祈りを捧げる。

 

「こちらもバレットはほぼ撃ち尽くした。バルークルス伯爵」

 

「オクタンティスの右腕が効かぬ。どうやら先程の攻撃でやられたらしい」

 

 戦況は最悪、部隊とも呼べない戦力しか持たないハークライトたちだったがその表情は穏やかなものだった。

 

「中々やるものだな地球の連中も」

 

「スレイン様の生まれ故郷ですから…」

 

「オリンポスの砂嵐には抗うなかれ…風を読み間違えたらしい」

 

 バルークルスは清々しい笑みを浮かべ機体を再び戦場へと反転させる。

 

「もう一戦、行くか!」

 

「お供します」

 

「9時の方向、仰角20。敵機編隊が接近」

 

「全砲門狙え。カタフラクト隊、全機一斉射撃」

 

 漆黒の宇宙に灯された無数の光はバルークルスたちを狙い飛翔していく。その後の彼らの命運は分かっていない。

 

ーー

 

 激しい戦いを終え、近づきすぎた地球の引力に引かれる機体たち。スレインはあきらめの表情を浮かべ笑っていると伊奈帆はタルシスとスレイプニールをひっつける。

 

「ドラッグシュートの代わりだ。機体を安定させる」

 

「一緒に死ぬつもりか?機体が燃え尽きるぞ」

 

「カタフラクトのフレームは高密度だ。アブレータとして十分に働く」

 

 相変わらず冷静な口調の伊奈帆にスレインは苛立ちを憶えるがこればかりは運任せと言ったところだろう。

 

「まさか…不可能だ…」

 

「さあ どうかな」

 

 吐き捨てるようなスレインのセリフを伊奈帆は少々、面白げに返すのだった。

 

ーー

 

「また生き残ってしまったか…」

 

 彼方に見える光を目にしたマリーンは静かに呟く。レギルスは機能を停止しぶつかったデブリと共に宇宙を放浪する。

 

「マリーン…」

 

 破損したレギルスのコックピットを覗き込んだのは宇宙服を着たフィアだった。

 

「フィア、お前が羨ましいよ。従えるべき主も、進むべき道もわかってる。私はもう何が何だか分からないんだ…」

 

「私はお前が恐かったんだよマリーン。ザーツバルム卿を失ったお前と話すのが恐かったんだ。私も一歩間違えればそうなっていたから」

 

 フィアにとってマリーンは過去と未来の自分のように見えていた。だからこそ恐かった、親友としてかける言葉もかけずに…。

 

「まったく…そう言うのは不器用だな」

 

「あぁ…。でも私はお前と昔のようにありたいと今も願っている」

 

 フィアの心からの言葉、それを聞いた彼女は静かに微笑む。ザーツバルム卿の事は恐らく一生忘れられない、だが決心した。それを糧として前に進もうと、目の前に居る“親友“と肩を並べられるように。

 

「あぁ、それはいいな」

 

 時間はたくさん必要かもしれないがしっかりと進んでいくことを決めたマリーンの瞼に満面の笑みを浮かべるザーツバルムの姿があった。

 

「やってみよう。お前と…」

 

 もう一度、笑い合うために…。

 

 

―月面基地を主戦場とした戦いは終わりを告げ、戦闘中に地球へ降下した界塚伊奈帆少尉も無事発見。アセイラム女王と地球連合軍の和平条約が締結された。―

 

 その後、マリーンはクウェル家を棄て新たなザーツバルム家の当主として伯爵の地位を得て家紋の復興に力を注いでいるらしい。

 

ーーーーーーーーーー

 

 そして時は流れ、1年後。

 

 3年前の隕石爆撃から復興しつつある新芦原市のマンションの一室では眼帯をつけた伊奈帆が朝食を作っていた。

 

「おはよう。なおくん」

 

「おはようユキ姉。だし巻き卵とスクランブルエッグはどっちが良かったかな?」

 

「んん、だし巻き卵かなぁ」

 

「良かったね。今日はだし巻き卵だ」

 

 いつも通りの風景、だし巻き卵を作り終えた伊奈帆は卵をテーブルに“3人分“置いて朝食の準備をする。

 

「昨日の3時に行われたアセイラム女王のアルドノア1号炉起動式典で…」

 

 テレビから流れるニュースを流し見る伊奈帆は箸を用意してある人物を待っていた。

 

「ただいま。参ったよ、まさかあんな事になるなんて…。仮眠は取ったから別に良いんだが」

 

 透き通るような綺麗な声を持つ少女は着ていた軍服の上着を脱ぐと待機していた伊奈帆に渡す。ネクタイを緩めワイシャツのボタンを一つ外して席に着く。

 

「おかえり、お疲れさま」

 

「おはようございます。姫様の式典関係で大変でしたから」

 

「じゃあ、ご飯を食べようか…」

 

 ユキと挨拶を交わし上着をハンガーに掛け終えた伊奈帆が席に着いたのを確認すると全員が手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

「そう言えば…」

 

「どうした、伊奈帆?」

 

 箸を進め食事を楽しんでいた時、伊奈帆は思い出したように言葉を発した。

 

「おかえり、フィア」

 

「あぁ、ただいま。伊奈帆」

 

―to be continued―

 

 




予想外の人気につき続編制作決定!

終戦後、フィアがどう言った経緯で地球に行くことになったのか?アルドノア1号炉を巡る戦いを舞台に繰り広げられる第2.5章

そして戦後から数年後、フィアと伊奈帆の関係模様を主にしつつ燻る動乱の火を消すために奔走する者達の物語を舞台にした第3章

この2つを書く予定であります。完全オリジナル自己解釈マシマシでお送りいたします!

次回は1話丸々使ってあとがきを書きます。
この作品を書き始めるまでの話しやアルドノアとの出会い話、これまでのオリキャラの誕生秘話など。ブルーレイの特典的な事をしていきます。
基本、作者がグダグダと書いているだけです。

その際、キャラの事などで質問などあればその時に返答いたしますので質問があれば受け付けます。

質問コーナーは活動報告の方で受付させていただきます。

そして最高評価をくださいました。捌咫鳥(八咫烏)様と麩菓子様、本当にありがとうございました。

では最後に《アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり》の本編は一区切りいたしました。

これも皆様の暖かいご声援があればこそです。本当にありがとうございました。

では次回はあらすじでお会いいたしましょう!



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番外編 ただグダグダと書いた作者のあとがき

※作者がグダグダと話しているだけ

※キャラやこの作品のことを少し掘り下げた事を話すだけ

※興味のない方はブラウザバック推奨




 

◆この作品を書くに至るまで。

 

どうも砂岩でございます!

 

フィ「フィア・エルスートだ」

 

伊奈「界塚伊奈帆です」

 

今回はこの3人でお送りいたします!

 

フィ「えっと、まずは何故書いたかだな」

 

そんなの簡単です。アルドノア・ゼロが面白すぎたからと言うのが一番の理由です。

 

伊奈「どうしてこう言うコンセプトに?」

 

簡単に言えばアルドノアにはまった時にコードギアスとガンダムUCを見ていたからですね。

デブリが散乱するサテライトベルトでシナンジュを思い浮かべたのが理由でシナンジュの登場が決まりました。

 

フィ「私よりシナンジュの方が先だったのか?」

 

そうですね、当初の企画は2つあったんですよ。アセイラムの騎士は男ストーリーと女ストーリーの2つです。

言わなくても分かると思いますが女ストーリーはフィアが主人公の本作品です。

 

ちなみに姫様に騎士をつけようと思ったのはコードギアスのギルフォードがかなり影響しました。国ではなく主に忠誠を誓う騎士を書きたかったんです。

 

フィ「私が男?」

 

伊奈「それは駄目だ」

 

ちなみに男ストーリーはライエがヒロインの物語で主人公は銀髪に蒼い瞳の騎士でした。

それを母体に銀髪に紅い眼のフィアが誕生しました。眼が紅色になったのはイメージキャラクターとしていた月詠真那のイメージカラーである赤を意識したからです。

 

フィ「シナンジュの色に合わせたのかと思っていたが」

 

それもありますね。

 

伊奈「一応、聞くけど男の主人公のイメージキャラクターは?」

 

Fateのベディヴィエールですね。企画当初にはまだ彼を知らなかったのでキャメロットで出て来たときは驚きました。

 

伊奈「性格とかも男版のフィアだったの?」

 

いえ、フィアのようなクールキャラではなく優男を全面に出したキャラです。少し抜けていたりしてほっとけないタイプの人間ですね。

 

フィ「そこにライエが気にかけてしまうと」

 

ライエも最初は完全に毛嫌いしてるのですが段々と接している内に気持ちが寄ってくるみたいな感じで考えてました。

 

伊奈「と言う事は、フィアの完璧超人はどこから?」

 

大本のイメージキャラはガンダムUCのマリーダさんでしたね。強くて美しくて優しいと言う3つの要素を持った女性でしたから。

 

◆ライバル。マリーン・クウェル

 

フィ「私の親友であり最大のライバルとも言うべきだな」

 

次回からの続編ではザーツバルム卿の家紋を継いで伯爵となって登場しますね。

 

伊奈「彼女のコンセプトは?」

 

ある話しのあとがきでも書いたと思うんですが改めて言うと姫様に出会わなかったフィアと言うものでした。

 

フィ「つまり私がなっていたかもしれない可能性と言う事か?」

 

えぇ、反ザーツバルム側がフィアの登場でパワーバランスがおかしくなったのでそれを調整すると言う意味合いもありましたが。

なによりザーツバルム卿がどれだけオルレインを大切に思っているかと言うのを書きたくて登場させたキャラでもあります。

 

フィ「オルレイン子爵はアニメ本編でも登場が1回だけだったからな」

 

えぇ、回想シーンで何回か出てくると思っていたんですけど…。まぁ、伊奈帆たちが主役なのであまり重要視されなかったんでしょうね。

 

◆親衛隊メンバー

 

一応紹介するとリア・シャーウィン、ネール、シルエ、ケルラ、ジュリの5人を指します。

 

フィ「私の自慢の部下だ」

 

ちなみにリアを除く4人は苗字の設定がないのではなく元々、彼女達には苗字がないという設定です。

ハークライトが階級が上がっても他の兵からもずっとハークライトと呼ばれていたのは階層の低い人々には苗字がないのでは?と思い4人には設定しませんでした。

 

リア→第2階層出身

 

他4名→第4階層出身

 

ちなみにフィアは第2階層出身でハークライトは第三階層。

 

伊奈「第4階層?」

 

個人的な設定としては街その物がスラム街と化した街で街ごとに法律みたいな物がある所、火星の厳しい環境の影響が一番大きい階層、これより下の階層はないと言う設定。

 

フィ「残念な話だが第4階層出身者は優秀な者が多い」

 

劣悪な環境を10代になるまで生き残った子たちは自然と他の階層出身者に比べて基礎体力や戦い方が群を抜いてる。親衛隊メンバーのほとんどが第4階層出身者なのはそれが理由。

 

伊奈「なるほど」

 

話しは親衛隊メンバー最大の問題児であるリアに移ります。

 

フィ「リアが問題児とは?」

 

伊奈「まぁ、話しを進めよう」

 

リアがあんな感じなのはそれなりの理由があるんですよ。

 

伊奈「それなりの理由?」

 

えぇ、実はリアはフィアが訓練生時代の時に既に教練所に在籍していたと言う裏設定があるんです。

 

フィ「それは知らなかった」

 

フィアとは一期下の回生だから会わないのは当然でしょうね。その時に食堂で男爵をぶっ飛ばすフィアを見てからファンになったそうです。

 

伊奈「リアさんもフィアがスカウトしたんじゃないの?」

 

フィ「いや、彼女は自ら親衛隊に志願して来たんだ」

 

これも裏設定ですが火星にあるリアの家には自家製のフィアのフィギュアが数体あります。しかもかなり完成度高くて、等身大だったら見分けがつかないぐらい。

 

フィ「ふぁ!?」

 

伊奈「……」

 

訓練生(制服、整備服)、一般兵制服、式典仕様の白制服、騎士服、伯爵仕様、私服、自主トレの服のバージョン全て取りそろえております。

 

フィ「伯爵!?」

 

伊奈「言い値で買おう」

 

フィ「伊奈帆!?」

 

さらに現在、リアが手に入れたベストショットを元に制作されている。風呂上がりのフィア。

バスタオル一枚に包まれた魅惑のボディとかきあげられた髪から覗くうなじが精巧に作られており皆様のご期待に応える作品となっております!

 

フィ「止めろぉぉぉ!」

 

伊奈「いくら?」

 

全て非売品です。

 

伊奈「ちっ…」

 

フィ「いっそ殺してくれぇぇぇ!」

 

◆宴もたけなわですが…。

 

3000文字で収めるという物だったのでそろそろお開きにします。

 

伊奈「まぁ、長すぎてもウザいだけだからね」

 

おふ、かなり傷つくことを…

 

フィ「」←チーン

 

綺麗な顔してるだろ死んでるんだぜ…。

 

伊奈「精神的にね」

 

感想にもご要望があった伊奈帆とフィアの絡みを書いた日常回ですが2.5章が終わったら書こうと思います。

そっちの方がたくさん書きやすいので。

 

そしてアニメ版の最後のシーン。

 

伊奈「僕とユキ姉とフィアが朝ごはんを食べてるシーン?」

 

それそれ、それを見てもう2人はくっついてるのか?同居してるのか?と言う質問をお受けしました。

残念ながらあのシーンは2.5章の最終と繋がるシーンなのでネタバレの関係上、解説が出来ない上にその質問をお答えできることが出来ません。

 

本当に申し訳ないです。

 

そして次回からは第2.5章《主失忠誠騎士編》をお送りいたします。

 

ヴァースと地球の和平のために日本に設置されたアルドノア1号炉をめぐる壮絶な戦いを描いた戦いで何が起きるのか?

真の意味での平和は訪れるのか?

 

それぞれの正義がぶつかり合う中でフィアと伊奈帆が見た物とは?

 

では最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

 



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AfterWar 2.5章 主失騎士編
第七十一星 散華の騎士 -Fall knight-


 

 

 終戦から1ヶ月、ヴァース帝国本星にてフィアは謁見の間を通してほぼ全ての伯爵たちと本星の政治を行っている文官が席を並べている空間の真ん中に立っていた。

 

「今回のスレイン・トロイヤードの暴走を止めるどころか助長していたのは本当かねエルスート卿」

 

 ここで問われているのはスレインの唱えた地球圏国家に対する責任問題だった。アセイラムに対してのみ隠密に開催されたこの会は異様な雰囲気に包まれていた。

 

「いえ、あくまで私は中立な立場として月面基地にいました。それに私は何度も彼を咎め話しを行いました」

 

「中立な立場か…。地球圏国家の建設宣言が行われた時点で止めるべきだったのではないかな?ヴァース帝国を二分する一大事ではないか」

 

「厳重注意は行いました」

 

 フィアの答えにヤレヤレと言った表情で笑う文官たち、それをクランカイン、マズゥールカは心配そうに見つめていた。

 

「帝国に尽くす騎士ならば、その時点で強制的な措置を…」

 

「それはあなた方にも行えた筈!最後の最後まで本星でモグラのように隠れていたあなた方には言われたくない!」

 

「エルスート卿、言い過ぎですよ!」

 

 事実を突きつけられ苦い表情を見せる文官たち、それと同時に声を上げたのはクレラシル伯爵だった。

 彼女はスレッドとアセイラムの放送を聞いていたあの赤髪の伯爵だ。

 

 アセイラム派の彼女はフィアの事を個人的に尊敬していた。だからこそ今回はフィア擁護派である。だからこそ発言で不利になって欲しくないのだ。

 

「今回戦争の舞台となったのは地球ですがヴァース帝国に尽くした多くの方々の命もあの地で失われた。月面基地の兵たちは最後までスレインに尽くした。それは掲げる理想に共感したからです」

 

 フィアが立たされた場所は本来、反逆者を公開処刑するための公開裁判所のようなものだ。この放送にはヴァース帝国の一般兵も視聴が可能である。

 

「私は姫様が望まれる世界に一番近い道を模索していました。少なからず彼は姫様の理想とする世界を創ろうとしていた。私はその行く末がどうなるか見届けようとしただけです」

 

 フィアの演説に感心し共感を得る兵たちは彼女の姿をしっかりと見届けていた。

 

「なるほど、噂通りの忠誠心ですな。エルスート卿」

 

 彼女の高すぎる忠誠心と迫力で根性なしの文官たちは黙ってしまう。このままお開きとなろうと言う雰囲気の中、1人の伯爵が声を上げた。

 

「カーティアス伯爵」

 

 マリルシャンを思い出させるいやらしい笑みを浮かべた伯爵はフィアを見下すように高らかと声を出した。

 

「全ての事の発端はなんだと思いますか?この惑星間戦争がなければスレイン・トロイヤードの台頭もなかったはずなのです」

 

「それとこれとは何も関係ないでしょう!」

 

「それがあるんですよクルーテオ伯爵」

 

 反論するクランカインをカーティアスはあざ笑い話しを続ける。

 

「もし貴方の報告通り先代ザーツバルム卿が姫殿下の暗殺をそそのかしあんな事態を引き起こしたと言う事など些末な問題です」

 

「何をおっしゃりたいのでしょうか?」

 

 嫌悪感を隠そうとしないフィアに対しカーティアスは眉をひくつかせるが彼は言葉を止めない。

 

「貴方はアセイラム女王を護るべき立場でありながらそれを果たせなかった!騎士失格です!」

 

「言い過ぎです!カーティアス伯爵、姫様はこうして無事であり王位も継いでいる!」

 

「影武者であろうとあの出来事が起きたせいで戦争が始まり劣等民族である地球種がヴァース帝国の誇り高き37家門が操られたのですよ。許されざる事態だ」

 

 カーティアス伯爵の言葉に他の伯爵たちはざわめき死に体の文官たちは息を吹き返す。

 

 元々、本星の文官たちはフィアのことを良く思っていなかった。下級階層出身の彼女がアセイラムの側近など許せなかったのだ。

 だがそれだけではない、彼女がただの兵であれば彼らもなにも言わなかっただろう。だが彼女は完璧であった、他の干渉をはね除け自らの意志で自身の使命をまっとうしていた。

 その為文官たちはフィア・エルスートという危険分子を素早く排除したがっていた。

 

「確かに騎士でありながら姫様をお護り通せなかったのは致命的だな」

 

「待ってください。地球軍に軟禁されていた姫様を護っていたのは他でもないエルスート卿でしょう」

 

「そうです、彼女は自らの使命をまっとうしています!」

 

 騒ぎ始める文官たちに対し反論を上げたのはマズゥールカ伯爵、彼の言葉にフィアの擁護派が賛同の声を上げる。

 

「バルト伯爵が生きていれば…」

 

「それは言わない約束でしょう」

 

「分かっているが」

 

 フィアの擁護派の者達が苦い顔をして言い放った言葉に対しクレラシルは睨みつけ黙らせる。

 惑星間戦争にて戦死したバルト伯爵はアセイラム派閥のトップに立ちその権力も絶大だった。彼を失ったアセイラム派閥ことフィアの擁護派は立場的にも劣勢に立たされていたのだ。

 

「その後がどうであれ姫様を護れなかった。あの車に姫様が乗られていたらその身が危険に曝された可能性はあったのでしょう?エルスート卿」

 

「はい…それは事実です。確かにあの事件は私の未熟故に起きた惨事、それは否定しません」

 

 唇を噛み締め握りしめた拳からは血が滲み出る。彼女にとってあの出来事は自分自身でも許せない出来事であった。

 

「フィアさん…」

 

 その様子を見ていたクランカインは心が締め付けられるような悔しさを感じる。

 

「そうでしょう、貴方は騎士でありながら姫様を護れずにあまつさえ大戦の英雄のように一部の人々から崇められている」

 

 カーティアスの一番気に入らなかったのはここだ。下層階級の癖に伯爵に匹敵する権力を持ち力を示し人々から崇められる。由緒正しき自分を差し置いてだ。

 

「今の貴方はただの汚点でしかない!厳正なる処分は追って伝えましょう!」

 

 もはやカーティアスの手中となった議会ではフィアの擁護派はなにも言い返せず。その場は終了となるのだった。

 

ーー

 

 サテライトベルトにてアセイラム女王の仮の居城として機能しているスレインの元揚陸城。

 

「エルスート卿」

 

「クルーテオ伯爵」

 

 現在、この揚陸城の城主であるクランカインはフィアと共に謁見の間を使用し議会に出ていた。

 謁見の間を閉じるとクランカインは心配そうに彼女を見る。

 

「すいません、私たちが至らないばかりに」

 

「姫様を護れなかったのは事実、私も何も言えません」

 

「エルスート卿」

 

「恐らく私は騎士を解任されるでしょう。姫様がどのような顔をされるか」

 

「エルスート卿を失えばヴァースは終わりです。もしその様なことがあっても我々が姫様の側に居られるように尽力します」

 

「重ね重ね、本当にありがたい。しかし、覚悟は決めなければならない…」

 

 必死に言葉を重ねるクランカインに対し頭を下げるフィア。彼女はアセイラムが悲しむのを予見した表情はとても悲しそうだった。

 

ーーーー

 

「何とか上手くいきましたな」

 

 カーティアス伯爵の揚陸城、ヴァース本星の軌道上にに浮かぶその城の中では珍しいワインを開け上機嫌な彼の姿があった。

 

「これで地球の奴らに良い返事が送れる」

 

 話しの相手は数人の文官。

 

「月面基地の所有権を分割する条件がエルスート卿の身柄を地球に引き渡すというものとは」

 

「彼女の存在を奴らは恐れている。5年という期間の中で彼女の弱点を作る魂胆なのだろう」

 

「なるほど」

 

 もしもの時、第三次惑星間戦争の時にフィアが再び暴れることを恐れているのだろう。

 

「彼女の処分についての工作は頼みますよ」

 

「分かっている」

 

ーーーー

 

 地球連合本部の一室。

 

「ヴァース帝国の交渉班と連絡が取れました」

 

「彼女の身柄を引き渡すと?」

 

「本人の同意は得ていないようですが」

 

「ふむ」

 

 交渉班からの報告を受け満足そうに頷いたのはハッキネン中将だった。

 

「彼女は客将として丁重に扱え。彼女の動向に関する監視は界塚伊奈帆少尉を指名する。彼は大戦中に彼女と知り合っている、極力彼女に警戒心を募らせないようにしたまえ」

 

「分かりました」

 

 敬礼をしながら退出する部下を見やりハッキネンは眼鏡を拭きながらため息をつく。

 

「なんとかして彼女を我々の元へ引き込めないものか…」

 

 ヴァース帝国の重要戦力でありアセイラム姫との関係も深く戦いの功績により象徴になろうとしている彼女を手に入れる。

 ハッキネンはほとんど夢物語とも言える理想を呟くのだった。

 

ーーーー

 

「そんな、なぜフィアが責任をとらなければならないのですか!」

 

 クランカインの物となった揚陸城の皇族室ではアセイラムが珍しく大声を上げていた。

 

「誰かが責任をとらなければなりません。この悲劇を起こした事に対しての…」

 

「それでなぜ貴方が!」

 

 フィアの肩を揺らし瞳に涙を浮かべるアセイラムを彼女は直視できなかった。

 

「答えてください、フィア!」

 

「隊長、我々も納得いきません。隊長は誰よりも姫様と帝国を護ろうと尽力したではないですか!」

 

「フィア、私も納得できません。よりにもよって貴方が」

 

 アセイラムに引き続き声を上げるリア達親衛隊とエデルリッゾ、フィア・エルスートと言う人物をそばで見てきたからこその怒りだった。

 下される処分は最悪、処刑。そんな可能性も決してないわけではない。ヴァース帝国の政治班である文官が根こそぎ敵に回っているのだ、彼女がどんな目に会うか…。

 なんとしてもフィアを助ける、それを心に決め叫んでいた者達は彼女の顔を改めて見ると沈黙する。

 

「エルスート卿…」

 

 それは同席していたクランカインも同様だった。

 

「姫様…」

 

 彼女が、フィア・エルスートが瞳に涙を浮かべていたからだ。

 

「私は姫様を護れなかったのです。あの時、体調を崩さねば私は姫様を護れなかった。ずっと目を逸らしてきました、しかしその事実は変わらないのです」

 

 彼女の表情には悔しさが溢れていた。自身の不甲斐なさ、力の無さに対する怒りと後悔が彼女の中で渦巻いていたのだ。

 

「フィア…」

 

「このままでは戦争勃発の責任を姫様が負ってしまう。私が身代わりになれるのなら…」

 

「そんな責任、いくらでも取ります!それが上に立つ者の責務でしょう!」

 

「貴方は綺麗なままで居なければならないのです!」

 

 それでも引かないアセイラムに対しフィアはついに声を荒げた。

 

「汚れのない美しい姿のまま、貴方はヴァース帝国の希望として居てください。かつて、全てを諦めかけていた私を救ってくれたように」

 

「っ!……フィア!」

 

 諭すように放たれた言葉にアセイラムは顔をゆがめフィアに抱きついた。

 

「ありがとうございます。私の唯一にして最高の騎士」

 

「その言葉だけで私はこれまでの出来事が誇りあるものになります…」

 

 胸で泣きじゃくるアセイラムを見つめフィアは静かに、優しく抱きしめ返すのだった。

 

 

 





フィアの戦績

当時、撃破不可能とされたヴァース帝国のカタクラフトを界塚伊奈帆と共に約4機撃墜。

地球軍の宇宙要塞を実質1人で制圧。

機能不全のシナンジュでハーシェルを撃破。

レギルスの撃破。

トライデント基地防衛戦では一瞬で前衛部隊を殲滅、当時の地球軍最高戦力であったデューカリオンを中破まで追い込む。

なにこの化け物恐すぎる。

ついにやってきました第2.5章、全てはここから始まった。
フィアの旅立ちとアセイラムの成長の物語ついに開幕。

最後まで読んでいただきありがとうございました。



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第七十二星 地球 ーEARTHー

 

 

 全ての始まりである種子島の基地、そこには大破したスレイプニールとタルシスの姿があった。

 頭、胴体と右足だけを残し後は床にその破片をまき散らしたスレイプニールと所々、装甲をまき散らしたタルシスの2機は1ヶ月前の激戦を物語る機体たちを伊奈帆は静かに見つめていた。

 

「伊奈帆…」

 

「韻子…」

 

 黙って立ち続ける伊奈帆に声をかけた韻子は微笑みながら歩み寄る。

 

「随分と感傷的じゃない?」

 

「そうかな、まぁ少し昔のことを思い出してはいたけど」

 

「やっぱりね。戦いが始まる前に比べたら随分と表情豊かになった」

 

「そう?韻子が言うなら本当なんだろうね」

 

 1ヶ月前のあの戦いのあと。伊奈帆は地球に降下しフィアも戦闘中の損傷により宇宙を漂流後、帝国軍に回収して貰っている。

 あれから2人は1度も顔を会わせていないのだ。

 

「結局、会えたのはたった1度だけか…」

 

「こっちは地球軍の兵で向こうはヴァース帝国の騎士、会えたのが奇跡だよ」

 

「そうか、伊奈帆の言う通りだ…」

 

 伊奈帆は右手を上げて静かにそれを見つめる。あの時の彼女の温もりを忘れはしない、むしろ忘れられなかった。

 

(あれほど安堵したのは生まれて初めてかもしれない)

 

 もう会うこともない、そんな当然のことを考えたらなんとなく不愉快な気持ちが沸き上がってきた。

 

「なんだろう、この感じ…」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。行こう、韻子」

 

 理解しがたいこの感情に疑問を持ちつつも伊奈帆は静かにその場を後にするのだった。

 

ーー

 

 同じく種子島基地の地下、そこではデューカリオンの凍結作業が行われていた。

 

「ついにこの船ともお別れですか」

 

「戦争は終わったのです。過度な力を誇示すればややこしいことになる。デューカリオンの凍結も妥当な判断でしょう」

 

 不見咲の言葉に対しマグバレッジは相変わらずの態度で答える。

 

「今後の予定は?」

 

「こと後はデューカリオン所属のメンバーが本部からの通達を受けそれぞれの配属先に移されるそうです」

 

「そうですか…」

 

「軍に徴兵された人たちで社会復帰する人は少なくありません。指揮系統の混乱を避けて丸ごと移動という可能性もあります」

 

「そうでしょうね」

 

 不見咲の言葉にマグバレッジは安堵の吐息を漏らす。会えなくなるのは寂しいがこれで彼らも軍人ではない未来を模索することが出来る。

 大人としては子供たちを戦わせずに済むと言う事は微笑ましい限りだった。

 

ーーーー

 

「と言う事です、本部の通達により現時点から強制徴兵の任は解除され貴方たちには選択権が与えられます。軍を辞め戦争前の生活に戻るのも良し、軍に所属しながら何かをする予備軍人になるのも良し、そのまま軍人として生きるのも良し…全ては貴方たちが決めることです。以上、解散」

 

 しばらくの間、種子島基地に待機とされたデューカリオンのメンバーたちはマグバレッジの言葉で改めて終戦を感じたのだった。

 

「ライエはどうするの?」

 

「私はこのまま続ける。それ以外に出来る気がしないし」

 

 その後、伊奈帆たちのメンバーは今後の話について基地の食道で話していた。

 

「私は勉強をし直して大学に行くよ。やりたいことがあるし…韻子は?」

 

 相変わらずの笑みでカレーを頬張るニーナは想像通り軍を辞めるようだ。彼女には戦いは似合わないだろう。

 

「私は軍には一応残るけど、学業もしたいと思ってる。教師になりたいんだ」

 

「韻子は学園で二位だったからな、教師なんてすぐなれるだろう?」

 

「そんな簡単じゃないわよ。バカわねカームは」

 

「はいはい、俺は馬鹿ですよぉっと…伊奈帆はどうすんだ?」

 

 カームの言葉に全員が伊奈帆に視線を向ける。

 

「僕は残るよ。色々とやりたい事もあるし」

 

 伊奈帆は特に夢というものを具体的に思い浮かべたことはなかった。

 これは良い、これは自分に合っているかも知れない、そんな事を思ったことはあるがこれをやりたいなどとは思った事は無いのだ。

 

「界塚少尉、アリアーシュ軍曹、本部からの通信です」

 

 そんな会話を繰り広げられていた時、不見咲が現れそう告げた。そんな内容に伊奈帆とライエは顔を合わせるのだった。

 

ーー

 

「まずは界塚少尉、アリアーシュ軍曹には聞いておこうか。軍に残る気はあるかね」

 

「「はい」」

 

 通信を寄越したのはハッキネン中将だった。月面基地の功績もあり近々昇格される予定らしい。そんな彼の問いに答えた二人を見てハッキネンは満足そうに頷くと話を進める。

 

「実はヴァース帝国から友好のため客将が来ることになった。君たちにその監視と補佐をやって欲しい」

 

「客将ですか?」

 

 ハッキネンの言葉に反応したのは伊奈帆だった、ライエもその考えは同じようで画面に映るハッキネンを見つめる。

 

「そうだ、界塚伊奈帆中尉」

 

「中尉?」

 

「 連絡は後に来るだろうが君は本日から昇格して中尉だ。界塚中尉そしてライエ・アリアーシュ准尉」

 

 含みのある笑みでそう告げられライエはその顔に僅かながら嫌悪を滲ませる。

 

「今回の客将と関係が?」

 

「そうだ、彼女は今回、大尉としてこの地球軍に所属することが決まっている。」

 

 伊奈帆の指摘にハッキネンは淡々と答えその名を口にする。

 

「名はフィア・エルスート卿、アセイラム姫殿下の騎士だ」

 

「え…」

 

 その名を聞いた瞬間伊奈帆は目を見開きライエは言葉を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

「期限付きでヴァース帝国の追放か…」

 

 帝国議会から届いた書類を読み上げフィアはそう呟く。

 

「こちらも動いたのですがこれまでの譲歩を獲得するので精一杯でした」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるクランカインにフィアは慌てて頭を上げさせる。

 

「地球軍も貴方を客将として丁重に迎えると言ってきています。ヴァース帝国の騎士が期限付きとは言え地球軍に行くのです、お互いの和平交渉が上手くいっていることを分かりやすく誇示したいのでしょう」

 

「しかし私には姫様をお守りせねば」

 

 やはり一番重要な問題はフィアがアセイラムから離れることになってしまうというものだ。親衛隊の実力は折り紙付きだがやはりなんとなく心もとないと言うのが現状だ。

 

「私は構いません。それが貴方の勤めならそれを果たして下さい」

 

「姫様…」

 

 完全な追放ならこっちもとるべき行動を取るだろうが5年という期限付き、クランカインもかなり苦心してやってくれてのだろう。

 

「地球軍からエルスート卿をサポートする人員の資料が送られてきました」

 

 議会の通知書と地球軍の書類が同時に送られてくる辺りカーティアスを含むフィア反対派が地球に送る手筈を整えていたのがよく分かる。

 

 

「伊奈帆…」

 

 写真付きの資料には一ヶ月前に再開できた伊奈帆の姿がありフィアはそれに釘付けになった。

 

「はい、地球軍のエースパイロットでオレンジ色の悪魔で知られる期待によって乗っていたとかで」

 

 クランカインの説明も余所にフィア、アセイラム、エデルリッゾは顔を合わせ驚きの表情を作る。そしてアセイラムは若干興奮気味にフィアの肩に手を乗せ、叫ぶ。

 

「行って来なさいフィア!」

 

「え、えぇ…」

 

「そうですよフィア!これはもはや運命です!」

 

 アセイラムの叫びに便乗して叫ぶエデルリッゾ、2人のテンションの上がりようと言ったら今までに無いほどだったという。

 

 一ヶ月前のデューカリオンでの出来事はフィア本人から聞いている。アセイラムもエデルリッゾも年頃の乙女、そう言ったものに疎いが興味が無いと言えば噓になる。

 伊奈帆とフィアの関係性は見たり聞いたりする方が楽しいのだ。

 

「しかし」

 

「行って来なさい!」

 

「はぃ…」

 

 こうしてフィアの地球行きが決定したのだった。

 

ーーーー

 

「隊長ぉぉぉぉ」

 

「アレからこの調子だよこの副隊長(バカ)

 

「上司に向らってしてらいだぞ!ネール!」

 

 大号泣しながらネールを叱るリアだが顔が悲惨な状態になっておりなにを言ってるのか分からない。

 せっかく2年越しに会えたというのに更に5年間会えなくなるのはリアにとって地獄にも等しい状態だった。

 

「5年の間に我々が隊長に相応しい人材にならねば」

 

「はいはい、優等生、優等生」

 

「……」

 

 ジュリの言葉に冷やかしを入れるネールとそれに頷いて便乗するシルエ、彼女は一ヶ月前の月面基地の防衛戦で腕を撃たれ今だに腕を吊っていた。

 

「そう言えばケルラは?」

 

「あの後の消息が掴めていない」

 

 月面基地の防衛戦での行方不明者は多い、ハークライト、スレイン、バルークルスそしてケルラとレムリナだ。

 

「最後に根性見せてどこか行ったか…。釈然としねぇな」

 

「まぁ、生きては居るだろうがな」

 

 ネールは用意してあった紅茶を掴んで飲みつつ大きなため息をつく。

 

「下品だぞ。これからは我々が隊長の行ってきた事を肩代わりするんだ」

 

「食事会だけは外してくれ、食ってる感じがしねぇ」

 

「無茶言うな」

 

 親衛隊の面々もそれぞれの覚悟を決めて来るべき未来を見据える。

 アセイラムを含め完璧超人のフィアに頼りすぎていた節があった者達にとってフィアの本格的な不在は成長を促す良い機会かもしれなかった。

 

ーーーー

 

「私がですか?」

 

「そうだ、君も主を救うために働く機会を得たと言う事だ」

 

 地球某所、軟禁されていたケルラは突然寄せられた通信に驚き耳を傾ける。

 

「分かりました。それでレムリナ様が歩けるのなら」

 

「それは約束しよう」

 

 通信が切れ、部屋には再びの静寂が訪れる。

 

「隊長もこんな心境だったのかな」

 

 再び巡り会うことも知らず尊敬するフィアを思う彼女は静かに言葉を漏らしたのだった。

 

 





次回、フィアはついに地球へ。

と言う事で今回は終わりでございます。フィアが政治的な取引に利用されたと言う事ですがアセイラムがまだそう言った物が疎いが故に発生した事態だと言っても良いでしょう。
フィアが離れることでアセイラムも大きな成長への転機となるので決して無駄なことではないのですが。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第七十三星 始まりの始まり -The beginning of the beginning-

 

 

 

 ヴァース帝国と地球の和平条約が締結されてから二ヶ月後。

 復興した成田空港に降りたったヘリから姿を現したのは地球軍の制服に身を包んだフィアの姿だった。

 

「地球か…改めて見ると青いものだ」

 

 紺を主体にした上着とズボンをしっかりと着込んだ彼女の襟元には新品の大尉の階級章が光っていた。

 

「エルスート大尉、こちらです」

 

「あぁ」

 

 地球軍に客将として扱われると言っても彼女の存在は特異だ。一般の兵と同じように作戦に従事する訳ではない。

 彼女の行う行動は火星に居ようが地球に居ようが変わらない。アセイラムのために自分が行えることを行う、それだけだ。むしろ地球側から解決できない事案片付ける事が出来る絶好の機会だ。

 

(着心地が良いな)

 

 制服に腕を通す時から思っていたが地球軍の制服は肌触りも着心地も良い。こんな制服一枚でも地球の資源の豊かさが窺える。

 

「姫様…」

 

 青く澄み渡る空を見上げながらフィアはアセイラムの事を思うのだった。

 

ーーーー

 

「なに緊張してるのよ」

 

「そうかな」

 

 成田空港の第2ターミナル国際線出発ロビー、そこでは伊奈帆とライエは地球軍の制服を纏いながら彼女の到着を待っていた。

 少しだけ怠そうに立つライエに対し妙にソワソワしている伊奈帆、端から見ても緊張しているのは丸分かりだ。

 

「来たわ」

 

「……」

 

 人混みの中、付き添いの兵と共にフィアが銀髪をなびかせながらその姿を現す。

 

「ここまでで良い」

 

「分かりました」

 

 サングラスを外しフィアは待っていたライエと伊奈帆に目を向ける。付き添いの兵が去って行き3人が改めて対面するのだった。

 

「お久し振りね」

 

「あぁ、まともに話すのは2年振りだな。自殺は止めたのか?」

 

「お陰様でね」

 

 握手を交わす2人を静かに見守る伊奈帆。それに気づいたフィアは彼に静かに笑いかけた。

 

「話したいこともあるけど場所を変えよう」

 

「そうだな」

 

ーー

 

 ライエが用意した軍用ジープ。それに乗り込んだ3人は再会早々に本格的な話しを始めるのだった。

 

「念入りな検査はしておいた。それに走行中の車両の盗聴は難しい」

 

 仮に盗聴器をつけられていたとしても電波の届かないところをリサーチして走行している。聞けたとしても断片的なものだろう。

 

「で、地球に何しに来たの?貴方は意地でもヴァースに残ると思ってた」

 

「ヴァースの政治文官どもを敵に回したからこうなった」

 

「どうせ本当のことでも言ったんでしょ。逆に腹立つのよねそれ」

 

「私のミスだ。先に片付ければ良かった」

 

「ゾッとしないわ」

 

「フィアらしい」

 

「あんたたちおかしいわ」

 

 この二人は全く理解できない。そう改めて思い知ったライエは前を向いて運転するのだった。

 

「それでどうするつもりなの?」

 

「この1年で地球軍が私を信用するための戦績をたたき出す」

 

「それほどの実績をどうやって出すのよ?」

 

「揚陸城か」

 

「あぁ…」

 

 伊奈帆の予測にフィアは静かに頷く。それを横目で見たライエは納得した。

 終戦から二ヶ月経った今でも居座る揚陸城の問題は地球側には大きな問題だ。確かにアセイラムの騎士である彼女なら戦いと言う方法以外で立ち退きをさせることが出来るかもしれない。

 

「私が実績を残せばヴァース側の交渉材料になる。私が活躍すればするほど地球はヴァースに借りが出来る。戦争が終わった今、私が戦う事で姫様のためになるのはそれしかない。ある意味、地球に来て正解だったな」

 

「貴方が言うと夢物語では無くなるわね」

 

「当然だ、騎士は現実主義者(リアリスト)でなければ務まらん」

 

 彼女の口から発せられると1年で揚陸城を全て降伏させてもおかしくないと思えてくるのは恐らく自然なことなのだろう。

 

「とにかくハッキネン中将に会う必要があるな」

 

ーーーー

 

「再建計画?」

 

「はい、月面にハイパーゲートを再建する計画で地球軍との合同再建となります。あくまでまだ予定ですが」

 

 地球に再び降り、現地の人々のとの交流を主目的としているマズゥールカ卿は通信越しに交渉で持ち上がった計画をアセイラムに報告していた。

 

「確かにそれで地球と火星の渡航時間が大幅になくなりますね」

 

「ヴァース帝国の下層階級のものを作業員として雇えば多くのものが流通してヴァース帝国の活性化にもなる」

 

「人員を多く送れば交渉材料にもなるし」

 

 送られてきた関連資料目を通しマズゥールカが報告してきた内容にエデルリッゾ、リア、ジュリは賛成の声を上げる。そんな中、ネールは1人、異を唱えた。

 

「完成したらどうする?戦争が起きたらヴァース帝国が戦場になるぜ。なにせ距離が縮まるんだからな」

 

「ネール!」

 

「事実だろ。地球と火星が遠いからヴァース帝国の本土は無傷で済んだ」

 

 第三次惑星間戦争の発生時の場合の判断、その言葉を聞いたアセイラムの表情は少し暗い。それを見たジュリは彼女を咎めるがネール自身も意地悪を言っているわけではない。

 

「ジュリ、ありがとうございます。しかしそう言ったことも考えねばならないと言うネールの言葉は理解できます。この件は慎重に決議しましょう」

 

「分かりました」

 

 あくまで冷静にいるアセイラム、フィアはもういない。それはとても寂しい、しかしそれは自分を律する糧となる。そして考える彼女なら私になにが必要か、なにが足りないと考えるだろう。

 

「リア」

 

「は、はい」

 

「ヴァース帝国に1度帰還しましょう。そして火星にあるハイパーゲートについての調査を行いましょう。そして惑星間戦争の影響で調査を中断した遺跡にも再調査を」

 

「分かりました。計画書を作ってみます」

 

《ヴァースだ。古代文明人はこの星のことをそう呼んでいた。私は発見したぞ…火星の超科学を…。その名をアルドノアという、素晴らしい…人類は更なる躍進を遂げるだろう…。アルドノアは人を幸せにする夢の技術だ…》

 

《大きな力だ…道を誤ることなく大切に育てよ》

 

 もはや会話すら出来なくなったお爺さま。レイレガリアの最後とも言うべき言葉。今だに生きているが彼はもはや生きる屍と化している。

 

「アルドノアやヴァースについて私は何も知りません。ですからまず知ることから始めましょう」

 

「姫様…」

 

「地球で実際に目で見て感じた経験があるからこそ、この戦争を止められたと思っています。ですからヴァースを治め導くためにヴァースをもっと知りましょう」

 

 アセイラムの言葉にリア達は立ち上がり黙って敬礼をするのだった。

 

ーーーー

 

 地球、新芦原。そこに到着したフィアたちは随分と変わり果てた街の光景を目にしていた。

 

「随分と平らになったな」

 

「大戦中も復興は行われてたからね。瓦礫とかはほとんどないよ」

 

 人が賑わっていた光景はなりを潜め港と一体化した軍事基地と内陸部にも小さな基地の周辺に家屋がまばらにあるというものだった。

 

「家屋があるけどあれは基地の関係者たちの家よ。土地も安いしちょうど良いんでしょうね」

 

「被害はどれ程だったんだ?」

 

「死者は一桁。重軽傷者は多く居たけど軽症者の方が多い、あらかじめ避難していたからこんな奇跡的な数字になってるんだよ」

 

「そうか」

 

 2年前に訪れた新芦原はもっと賑わっていたが仕方がない。むしろ隕石爆撃をされても今だに復興可能という点を見れば上等だろう。

 

「しばらくはここでゆっくりすることになるわ。ゆっくり出来るかは知らないけど」

 

「あぁ、寝床は?」

 

「それは僕…」

 

「私と一緒の部屋よ」

 

「…そうか」

 

 なにか違和感の残る答えだが伊奈帆が黙り込んだ辺りライエが正しいのだろう。

 

「あんた浮かれてるんじゃないわよ」

 

「いつも通りだよ」

 

「じゃあ、さっきのなんなの?」

 

「口が勝手に」

 

「心の声ダダ漏れよ。なんとかしなさい」

 

「はい」

 

 先程の問答を経て伊奈帆の胸元を掴み小声で話すライエ、だが伊奈帆はあくまで冷静だ。と言うか冷静なのかどうかなど彼女には分からないのだが。

 戦いで溜まったストレスの反動か知らないが時々、ぽんこつ伊奈帆が湧いて出てくる。これからのことを考えて少し頭が痛くなるライエだった。

 

ーー

 

「全て、予定通りですな。カーティアス卿」

 

「ええ、月を半分とは言え手に入れた訳です。まだ終戦で混乱している間に地球にも我々の手のものを入れておきましょう」

 

 サテライトベルトを眺めながら気分良く通信で話すのはカーティアス伯爵、彼は自身が作り上げた完璧な作戦に満足感を感じていた。

 

「……」

 

 ヴァース本星の文官と彼のやり取りを聞き、その情報を記録しているオペレーターが居た。その女性は暫くすると部屋から退出し端末を開き通信を開始する。

 

「はい、先程送りした記録通りです。エルスート卿の地球行きはあらかじめ仕組まれていたものだと判断できます」

 

「すまないな、エルシィ。引き続き頼む」

 

「気にしないで、クウェル子爵」

 

「その名はいずれ捨てる。コードネーム代わりにこう呼べ、ザーツバルム子爵とな」

 

「なるほどね、分かったわ」

 

 忠誠の騎士の地球行き、その背後で様々な者が動き始める。

 

 終わりの始まりではなく、全ての者達の新たな一歩の始まりが始まった瞬間であった。

 

 





伊奈帆は親しい者にしか分からない規模でポンコツと化しています。頭と心がバラバラの状態ですね、今後どうなっていくのか見物です。

と言うわけで戦後編のプロローグが終了。
次回からは少し時間が飛びます。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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第七十四星 発掘 ―Excavation―

 

 

 迫り来る銃弾、それを横飛びで避けたフィアは地面に転がりながら打ち返す。

 

「っ!」

 

 放たれた銃弾は相手の頬を擦り背後のコンテナから火花を散らせる。戦況が不利だと察した敵は黒いロングコートを靡かせながらその場を後にした。

 

「フィア!」

 

「伊奈帆、無事か?」

 

「こっちは何とか…その血は」

 

「ただの返り血だ」

 

 心配する伊奈帆を余所に首元に付着した返り血を袖で拭うフィア。彼女は酷く疲労しその場に座り込んだ。

 

「いったいいつまで続くんだ…」

 

 硝煙と血のむせ返るような匂いが立ち込める空間で彼女は珍しく弱音を吐くのだった。

 

―なぜ彼女達がこの様な状況に身を置く必要に迫られたのか…。それはこの場面から時を3ヶ月ほど遡る必要がある。

 

ーーーー

 

 終戦から半年、フィアの地球来訪から3ヶ月が経った頃。復興中の新芦原市はかつての賑わいを思い出しつつあった。各地に散らばっていた住人たちが再び集まってきたのが大きな要因だろう。

 

「ふむ…」

 

 中心街より山側に配置された新芦原基地の一室でフィアは机に大量に積まれた資料を見ながら唸っていた。

 

「どうしたの?」

 

 唸っていた彼女に対し声をかけたのはライエ、彼女は紺の制服のネクタイを緩め、上着を椅子にかけ、真っ白なシャツの袖を捲ったラフなスタイルでパソコンを弄っていた。

 

「これだ…」

 

「なによ…ただの資料じゃない?」

 

「出元が不明なんだ。私が頼むとなぜかすぐに届くんだ」

 

「貴方専属の諜報員でも居るのかしらね」

 

「その方が納得だな」

 

 書類をまとめ上げフォルダーに納めるとフィアはゆっくりと立ち上がる。

 

「昼にするか」

 

「そうね」

 

ーーーー

 

 「まったく、驚いたわよ。朝刊で揚陸城の降伏なんて見せ付けてくれちゃって」

 

「フィアちゃんは本当に凄いよねぇ…」

 

「姫様の騎士として当然のことだ」

 

 基地の近くの定食屋、そこにはフィア、ライエと韻子、ニーナの姿があった。4人は仲良く話しながらフィアの事を褒めたたえる。

 

 フィアの纏っている制服の首元で光るのは少佐の階級章。彼女は予告通り不法滞在していた揚陸城を1つ墜としてみせたのだ。

 

「そう言えば伊奈帆は?」

 

「さぁ、アイツたまに居なくなるのよね」

 

 週に1度、有るか無いかの頻度で伊奈帆は何も言わずに居なくなる。翌日には普通に戻ってくるのだから何をしているのか不思議なものだ。

 

「アイツの事だ。なにかあるんだろう」

 

 食事を終え、暖かいお茶を飲み屋がらゆったりと話す彼女だがその目は鋭く光っていた。

 

「っ!」

 

 そんな彼女の視線にビクッと体を揺らしたのはフィアのちょうど後ろに座っていた少女だった。彼女はサングラスをかけ黒のつまみ帽を被っていた少女はご飯を食べ終わりそそくさと退散するのだった。

 

ーー

 

「流石は隊長、一目見ようとした私がバカでした」

 

 新芦原基地、第1特務隠密部隊。諜報員として行動していたケルラは調査内容を基地に提出したついでにフィアが良く立ち寄ると言う定食屋で昼食をとっていたのだ。

 まさか後ろの席に隊長であるフィアが座るとは夢にも思っていなかったが。

 

「レムリナ様のお見舞いもいかなきゃ」

 

 新芦原市の端っこにある小さな診療所では現在、足の治療を行っているレムリナがいる。全ての始まりの地であるここで治療を行いたいという本人の強い希望によるものだ。

 

「そう言えば耶賀頼先生はしゅーくりーむと言うお菓子が美味しいって行ってたなぁ」

 

 地球にやって来てまだ数ヵ月だが食べ物の種類の豊富さは圧倒される。食事以外の目的で食べるものがあるなんて思っても見なかった。

 

 鼻歌交じりに歩を進めるケルラだが全身黒ずくめの少女が鼻歌を歌ってスキップしているのは嫌でも他人からの目が向くが本人はそれを知らず、続けるのだった。

 

ーーーー

 

 ヴァース本星、宮殿の執務室ではアセイラムが少しだけ慣れてきた執務を行っていた。まだ祖父であるレイレガリアの補佐が助言を加えながら行っているが最初に比べ随分と様になってきた。

 

「姫様、地球の交渉班からの資料をお持ちしました。それと隊長が揚陸城を1つ墜としたそうです」

 

「もう、フィアは少し休めば良いのに」

 

 豊かな地球で信頼する彼女には体を休めて欲しかったが、それを許さない性格をしているのは誰よりアセイラムが知っているだろう。

 

「それで、どうでしたか?」

 

「やはり我々ヴァース帝国が地球に対して優位に立っているのは工業系の技術です。アルドノアドライブを地球に売り出してヴァース帝国の技術力の高さをアピールするべきでしょう」

 

 久々のフィアの話しに思いを馳せる暇も無くリアは届けられた資料を見ながら解説を行う。

 

「アルドノアドライブはヴァース帝国では神聖なものであり高貴な代物。それを易々と地球に送るのはいかがなものかと」

 

「そうですね、そう考える人も多いでしょう」

 

 レイレガリアの副官が漏らしたのは他の者達の反応がどうなるかだ。彼なりにアセイラムの思想には共感しているが客観的に見ると賛同しかねる。

 

「なら姫様しか起動できないアルドノアドライブで良いのでは?」

 

 部屋の片隅で資料を分類していたジュリが山積みの紙束の中から声を上げる。

 

「立派なものを送る必要はありません。我々にはその気持ちがあると言うポーズが必要ではないでしょうか?」

 

「なるほど!それで良いではないでしょうか?」

 

 ジュリの言葉にアセイラムは喜ぶが他2名の顔はあまり優れない。

 

「地球とヴァース帝国の遺恨は根強く生きています。まだ時間が経っていないのでなおさらでしょう。姫様のお言葉で表面化していませんがヴァース帝国でも地球人を劣等民族として考えているのは変わりありません」

 

 そんな状況で神聖であり高貴の象徴であるアルドノアドライブを地球に渡すなど知れれば強硬手段に出るものは必ず出るだろう。

 

「しかし皆様が職を手にし余裕を持つためには必要な事です。それで私の命が狙われても結構です。最終的に皆様が豊かなるのなら」

 

 アセイラムの言葉にその場に居た全てのものが言葉を失う。戦争を肌で感じていた彼女の強さと理念、混沌とした戦場と人の心を見てもなお揺るがない彼女の高潔さに…。

 

「分かりました、手配しましょう。地球への運送は親衛隊が、地球からは何とかエルスート卿に連絡を取りして貰いましょう」

 

「お願いします」

 

「はい」

 

 レイレガリアの補佐は表情を崩さない人物だったがほんの少しだけ微笑み返事をする。

 こっちも堕ちたなっと言わんばかりに顔を合わせ笑いあうリアとジュリは互いに親指を立てるのだった。

 

ーーーー

 

 火星、ティレヌス遺跡。

 ハイパーゲートの次に発見された巨大な遺跡で今だに発掘が終わっていない巨大遺跡だ。この遺跡はクランカインが発掘の指示を出し多くの人々が作業に従事している。

 

「巨大な地下都市ですか。なんと巨大な…」

 

 ティレヌス遺跡は巨大な都市の名残が強く残っており圧巻させられる。

 

「クルーテオ卿!」

 

「どうしました?」

 

 舞い上がる粉塵に対し目をこらす彼の元に駆け寄った副官は血相を抱えながら言葉を出す。

 

「街のど真ん中にカタフラクトが埋まっています」

 

「カタフラクトが?」

 

 まさかの言葉にクランカインは驚きの声を上げるのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます。
今回は短めと言う事でここまでです。話が動くのは次かその次くらいですかね。

と言う事でアルドノアアンケート企画第二弾を開催いたします。今回も活動報告で受付をさせて頂きます。

今回の議題は2つ。

1つ目は今回の話、最後に出てきた発掘のカタフラクトの案を募集します。個人的には鉄血系統を考えていますがこの機体はどう?などを募集します。

2つ目はフィアたちの私生活を描いた番外編の案、そのキーワードを募集します。

例えば、春というキーワードを頂ければそここら作者が連想して書いていく仕組みです。 春でしたら無難に花見ですかね。

と言った具合にやっていきます。皆様のご意見をお待ちしております。

最後まで読んで頂きありがとうございました!



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番外編 花より団子


アンケート企画第一弾。





 

 

 

 フィアが地球に来て間もない頃、かつてのデューカリオンのカタフラクトメンバー+αで歓迎会もかねて花見をすることになった。

 

「と言うわけで酒はたっぷり用意してきたぞ」

 

「と言うわけってなんですか、鞠戸大尉。なおくんたちはまだギリギリ未成年なんですよ」

 

「心配するな界塚、子供たちにはあまざけだ。もう1年もしないうちに飲むことになるんだ。今から軽く慣れておかないとな」

 

 あまざけと達筆の字で書かれた瓶を握っていた鞠戸を見てユキは小さくため息をつくが祝いの場なのでこれ以上は止めておくことにした。

 

「正直、もう会えないかと思ってたぜ。あの時の礼もまともに出来てなかったからな」

 

「礼には及ばない」

 

 満開の桜の中、花見が始まる。フィアたちの周りにも他の人々が花見を楽しんでいる、随分と暗くなってしまった情勢に対し息抜きを求めた結果だろう。

 

「料理は私…が作れれば良かったんだけどなおくんが作ってくれました」

 

「頑張りました」

 

 綺麗に包まれた風呂敷を開けると立派な重箱が姿を現す。それを見たフィアはひどく感心し目を輝かせる。

 

「地球にはこれほど美しい工芸品があるのか…それなは美しいピンク色の花を愛でて食べるというのも良いものだ」

 

「フィア、この木は桜って言うの。私たちの国、日本では象徴的な花なのよ」

 

「なるほど…」

 

 韻子の解説に頷きながら笑っている姿を見ていると同年代の女性なのだなと納得してしまう。いつも厳しく強い表情しか見ていなかったが普段ではこう言った表情もするのだと改めて思う。

 

「わぁ、おいしそう!」

 

 開かれた重箱の中身を見て歓喜するニーナ、黙って箸を持つライエ。彼女もいつも通りの表情だが楽しんでいるのは丸わかりだ。

 

「気が利くな、界塚弟。酒の肴も十分だ」

 

 海老等のの天ぷら類、鳥、たこの唐揚げ等々、最後の段にはちらし寿司が敷き詰められている。

 

「はい。フィアには全部、初めてだよね」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 一通りのおかずを取り揃えた紙皿を手渡す伊奈帆、フィアは受け取る。

 

「それじゃあ、乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

 ユキの合図と共に始まった花見、皆は声を上げて紙コップを掲げるのだった。

 

ーー

 

2時間ほど後……。

 

「俺だってカタフラクトに乗りたかったんだよぉ!」

 

「韻子ちゃぁぁん!」

 

「……」

 

 泣き叫ぶカーム抱きつくニーナに抱きつかれ死にかけてる韻子、既に爆睡してるライエ、カオスな惨状へと変わっていた。

 鞠戸の用意したあまざけは甘酒ではなく。酒の銘柄名があまざけという本当のお酒だったのだ。

 

「鞠戸大尉、どうするんですかぁ!」

 

「俺にもどうしようもないだろう!」

 

 胸ぐら掴んで振り回すユキを必死に止めようとする鞠戸だが一向に力が緩まず悶え苦しんでいる。

 

「この天ぷらというものは本当に美味しいな」

 

「そう、それは良かった」

 

 悲惨な状況下でも食を堪能するフィアと伊奈帆、2人は何とか無事なようだ。

 

「む、桜が…」

 

「風流だね」

 

 酒の入ったコップに桜の花びらが舞い降り水面に浮かぶ。なんとも風流な光景に静かにフィアが笑う。

 

「こう言ったものを大切にする地球というのはとても素晴らしいものだな」

 

「自然豊かな星でしか出来ないことだしね」

 

「うむ…」

 

「なんか凄いことになってるからこれでお開きにします。片付けは鞠戸大尉に任せて私はこの子たち運ぶから」

 

 何とか無事な2人を見たユキは手を叩いてお開きとする。

 

「え、俺が片付けかよ」

 

「しっちゃかめっちゃかにした責任はとって貰います!悪いけどなおくんとフィアちゃんは歩いて家に行ってて夜ご飯はこっちで食べるンでしょ?」

 

「はい、よろしければ」

 

 いつも基地の宿舎で寝泊まりしているフィアは今回、伊奈帆の家で夕食を頂くことになっていたのだ。

 

「行こうか…」

 

「あぁ」

 

 酒を飲んでいないユキは用意していた車に韻子たちを詰め込むととっとと発進する。それを見送った2人は歩いて家をめざすのだった。

 桜並木が美しく輝く中、2人は静かに歩いていた。

 

「まさか、こんな風に地球を歩けるとは思わなかった」

 

「僕もフィアとこんな時間を過ごせるとは思わなかったよ」

 

 戦いに身を投じる過程で出会った2人がこうして時間を共有しているというのは実に不思議なことだろう。たわいもなくとりとめのない話をしているうちに家についた2人はソファに座り一段落する。

 

「夜は何が良い?なにか希望があれば…フィア?」

 

(すぅ……)

 

 テレビも何もつけていない静かな空間、そのソファでフィアは小さな寝息をたてていた。流石の彼女も酒を飲んで眠くなっていたのだろう。

 

「……」

 

 フィアは春の暖かさもあって彼女の服装は軽装だ。まぁ、ユキからの借り物なのだが。毛布でも持ってきて夕食でも考えようと思ったがなんだが自分も眠くなってきた。

 

(自分も一眠りしておこう)

 

 睡眠は人間の三大欲求の一つだ、大切にしておかなければならない。毛布を掛けて横で一眠りしようとした時、フィアが何かしらの拍子に倒れ込んできた。

 

「っ!?」

 

 寝るために完全に脱力していた伊奈帆は一緒に倒れてしまう。狭いソファの上で潰される伊奈帆、鼻先には彼女独特の甘い匂いがかすめる。

 

「……」

 

 顔の下半分を柔らかなものに埋めてしまった事になるが今動けば彼女がソファから落ちてしまう。落ちないように腕で彼女を固定すると強烈な睡魔が襲ってきた。

 あの時もそうだったが彼女の体温に触れていると凄く眠たくなる。

 

「おやすみ…」

 

 消えそうな声でそう告げた伊奈帆は睡魔に身を預け眠るのだった。

 

ーー

 

「ただいまぁ……あらあら」

 

 無事に皆を家に届け帰宅したユキはリビングのソファを見て笑う。

 狭いソファの上で眠る2人、伊奈帆に関してはいつも通りの寝顔だがほんの少し幸せそうな顔をしている。

 

「夜ご飯は私が作ってあげるわ」

 

 小さく鼻唄を歌いながらユキは再び買い物に出かけるのだった。

 

 





と言う訳で今回は㭭咫烏(八咫烏)様のご意見ワード。《花より団子》と言う事で伊奈帆君には団子(意味深)を堪能していただきました。
なんでこの二人はくっついてないんですかね(←おまいう)ちょっとほのぼのを入れつつ甘いのを入れていきました。
こう言った感じで入れる機会があれば番外編は入れていくのでご要望があれば活動報告へとお願いします! 

では最後まで読んでいただきありがとうございました!



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第七十五星 負の連鎖 -Negative chain-

 

 

「おい、聞いたか…。アルドノアドライブが地球との友好のために贈られるらしい」

 

「アルドノアドライブをか?」

 

「何と言うことだ。アセイラム姫を操る売国奴め、それだけは許さんぞ」

 

 終戦より1年を目処に送られる事が決定したアルドノアドライブの件をいち早く察知したある者達は密かに行動を開始する。

 アルドノアドライブの件はもちろん、地球のフィア達の耳にも伝えられた。

 

「来たか…」

 

「お待たせ…」

 

 新芦原基地の会議用の防音室、そこにフィアは窓を背にして立っていた。その部屋に現れたのは伊奈帆、彼は彼女の姿を認めると静かに部屋の鍵を閉める。

 

「地球とヴァースの友好の為にアルドノアドライブが地球に贈られるのは知っているな」

 

「うん、軍内部でも密かに噂になっているからね。少しだけ早すぎる気がするけど」

 

「政治的なポーズを取るためには最適なやり方だ。私を送ることで戦意がないことを示し、アルドノアドライブを贈ることで交渉的にも優位に立ち回れる」

 

 情勢が安定していない現在の状況でのこの様な行動は実に危険だがこの様な状況だからこそと言う考え方も出来る。

 

「それで、何か来たんでしょ」

 

「あぁ…」

 

 わざわざ防音の部屋まで案内されたのだ、世間話をするためではないことぐらい誰でも分かる。

 

「軍上層部とヴァース政府側からの通達があった。アルドノアドライブの護衛を我々が務めるようにと」

 

「やっぱり…」

 

 地球とヴァースの複雑な事情下で最も動かしやすい者達と言えばフィアたちの部隊の他にはない。地球に降りてからの方が危険が高い以上、短期間で実績の上げたフィアとその部隊に白羽の矢が立てられるのは当然のことだろう。

 

「任務は3ヶ月後。1ヶ月後に私の部下たちが火星を発ち、2ヶ月に及ぶ護衛任務の後に我々に引き渡される」

 

「場所は?」

 

「ロシアのノヴォスタリスク地球連合本部だ。旧ザーツバルム卿の揚陸城をプラットホームとして受け取りここまで運搬する」

 

 旧ザーツバルム卿の揚陸城、フィアたちにとっては因縁浅からぬ場所だ。

 

「追加人員も提供される。旧デューカリオンメンバーだがな」

 

「……」

 

 現役軍人である鞠戸やユキは勿論のこと、予備軍人になった韻子とカームもこの作戦に参加することとなる。図らずとも精鋭集団と化したデューカリオンメンバーはヴァースに対しての憎しみは浅い、今回の作戦には適任だろう。

 

「嫌な予感がする…気を抜かないようにしないとな」

 

「……」

 

 解せないような顔で言葉を発するフィアの表情を見て伊奈帆も黙って頷くのだった。

 

ーーーー

 

「と言う事で私達はロシアに行くことになった」

 

「いきなりね…」

 

 現地の部隊とも連携を取らなければならない以上、ある程度余裕を持って移動しなければならないのが実状だ。

 今回はフィアたちの班と他の班で行くタイミングを変えての出国となる。

 

「1週間後には出国だ。今から準備をしにいくぞ」

 

「今からすること?」

 

 フィアの言葉にライエは疑問に思う。仕事が終わってからでも準備は出来る、それなのに彼女は外行きの格好に着替えていたのだ。

 

「パスポートと言うやつを申請しろと言われたのだ」

 

「あぁ、そう言えば私も持ってないわね」

 

「じゃあ、ライエさんの申請書…」

 

「ありがとう」

 

 戦時中は世界中を飛び回っていて気付いていなかったが戦時中ではない今、そう言った物が必要となってくる。気を利かせた伊奈帆から大きな茶封筒を受け取ったライエは中身を軽く確認する。

 

「私も行くわ…」

 

 随分と面倒だが仕方がない、ライエも立ち上がりフィアに同行するのだった。

 

ーーーー

 

「ASW-G-64、ガンダムフラウロスか…」

 

 巨大都市のど真ん中に埋まっていた機体の名前を静かに呟くクランカインは上半身が出てきた白い機体を見つめる。

 

「まさか機体が遺跡に埋まっているとは…」

 

 完全に機能を停止しているフラウロスだがその様子は鬼気迫るものがある。まるで、今だに敵と対峙しているように。

 

「クルーテオ伯爵」

 

「何ですか?」

 

「実はフラウロスと言う機体の肩に生えていた黄色い金属ですが刺されていたものでした」

 

「刺されていた?」

 

 実はフラウロスの右の肩口には黄色い金属が突き刺さっていたのだ。当初は装備の一部かと思われていたが戦闘によって突き刺さった物だと判明したのだ。

 

「と言う事はあの機体の他に…」

 

「はい、反応は微弱ですが下にもう一機ありました」

 

 クランカインの部下が差し出したのは1枚の写真、顔が半分だけ地中から現れ何とか確認できるレベルだ。白と青に彩られ紅い眼が印象的だ。

 

「発掘は続けてください。被害が出ないように」

 

「分かりました」

 

 クランカインの言葉に敬礼し去って行く部下を見送ると発掘現場を見渡す。

 

「戦争は終わったというのに、なぜこの様なものばかり出てくるのでしょう」

 

 今までヴァースが扱ってきた物とは違う種類、つまり戦闘用に突き詰められた機体であることなど一目で分かる。

 

「まだ終わっていないと言う事ですか…」

 

 発掘されていく機体たちに不安を覚えるクランカイン、悲劇は忘れた頃にやってくるものだ。

 

ーーーー

 

「アルドノアドライブの護衛が決まったらしいぞ…」

 

「どこの隊だ?」

 

「例の部隊らしい」

 

「例のって最近出来た特務隊か」

 

 地球某所、ヴァースとの和平に不満を持っている者達が集まり集会を開いていた。

 

「あれだろ、全員子供だけの部隊だろ」

 

「噓だろ」

 

「本当らしいぞ、デューカリオンって言う浮遊艦に乗っていた精鋭らしい」

 

「ほう…」

 

 リーダーらしき男はその話を聞きながら細く笑う。いくら精鋭と言えど大戦中に運良く生き残ってきた奴らだろう。本部のアサルト部隊に着かれるよりマシだ。

 

「しかし、なんで本部の部隊じゃないんだ?」

 

「本部の精鋭は月基地の戦いで壊滅したわ」

 

「詳しいな、流石元アサルト部隊員」

 

 意気揚々と話す者達の会話に割り込んできたのは女性、金髪の髪をまとめ上げ、ロシア系統の端正な顔を露わにしている。

 

「銀髪の悪魔…仲間はその言葉を残して逝ったわ」

 

 彼女は手にしていた狙撃銃に弾を込め構える。スコープ越しに見えるのはコンクリートの壁だけだが彼女自身がそれを通して見ているのはまだ見たことのない悪魔の姿だ。

 

「元殺し屋にして軍人、あんたが居れば作戦は盤石だな」

 

「これが護衛のメンバーだ。追加人員の奴は入手できなかったがな」

 

「おいおい、三人かよ」

 

 集まっていた全員に見えるように差し出された写真、そこには伊奈帆、ライエ、フィアの姿が映し出されていた。明らかに隠し撮りされていた物だ。

 

「……」

 

 その中の1枚に狙撃銃を持っている女性が注目するのはフィアを撮った写真、写真の中の彼女は明らかにこちらを見つめている。

 

(簡単には行かなさそうね…)

 

 今だに話で盛り上がる連中を横目に狙撃銃をもって部屋を出るのだった。

 

 

 




どうも砂岩でございます。
遅くなって大変申し訳ありませんでした!
そして多数、意見を寄せられた発掘機体はフラウロスともう一機、お分かりの方はお分かりだと思いますが…。
そしてMSの他にACの意見も頂きましたが私はちょこっとかじった程度なので断念、申し訳ありません。
もしかしたらACバージョンの番外編を書くかもしれませんが、本編には残念ながら断念させて頂きました。
 MS系は今後の展開次第で出てくる可能性もあるのでしっかりと保管しておきます。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第七十六星 襲撃 ―Raid―

 

「全く…地球ってのは本当に遠いよな」

 

「ネール、無駄口を叩くな」

 

「へいへい」

 

 地球、火星航行ルート。アルドノアドライブ運送のための護衛に選ばれたのはアセイラム親衛隊のネールとジュリ、この二人が護衛を開始してから一ヶ月が過ぎようとしていた。

 

「後半分ってのも疲れる。着いたらすぐにとんぼ返りだもんな」

 

「仕方ないだろ、私達の任務はアルドノアドライブの護衛、終われば本国に帰還するだけだ」

 

 輸送艦の管制室で話す二人は無駄口を叩きつつも常に警戒を怠らない。残念なことにこの任務は身内にも刺される可能性が高いため気を抜けないのだ。

 

「戦時中の方がよっぽど楽だったな」

 

「ネール…」

 

 精神的な面で考えれば敵味方がハッキリしている戦時中の方が楽、その言葉にジュリも大きな言葉は出せなかった。

 

ーーーー

 

 その頃、地球。フィアたちがノヴォスタリスクに来てから2ヵ月が過ぎていた。

 後続の韻子たちも合流した彼女たちは本部の地上施設に割り当てられた部屋で会議をしていた。

 

「それでどうするんだ、少佐殿?」

 

「フィアで結構ですよ。鞠戸大尉」

 

「分かってるよ」

 

 旧デューカリオンメンバーの中で一番階級が高いのは左官であるフィアだ。つまり指揮はフィアが執ることになるがそれに関しては全員、異論はない。彼女の能力は皆が一番知っているからだ。

 

「アルドノアドライブはシベリア鉄道を経由して運搬した後に飛行機で日本に飛びます」

 

「本部から日本に飛んじゃ駄目なの?」

 

 フィアの説明に対し韻子は疑問の声を漏らす。わざわざ陸で行くというのは非効率だからだ。

 

「軍内部では海と空のルートが公開されている。そこであえて陸のルートで運送して後は補給無しで日本まで一気に飛ぶ作戦だ」

 

「海を越えるなら船か飛行機、そこであえて陸を使うことで攪乱する訳ね」

 

「そうです」

 

 壁に設置されたモニターに映し出された地図を見ながら説明を聞いていたユキは納得の声を上げる。

 

「流石はなおくんとフィアちゃんのプランニング。慎重ね」

 

「細かい事はまた話しましょう」

 

「よっしゃ、飯だ飯。伊奈帆、行こうぜ」

 

「うん」

 

 一通りの話を終え会議を閉めたフィアの言葉にカームが背伸びをしながら席を立つ。

 

「どこか食べに行く?」

 

「一応、ダイエット中なんだけどなぁ」

 

 ライエの提案に悩む韻子、軍務から離れがちの彼女はそろそろ体系にも注意しなければならない。体を動かす事が少なくなったから仕方がないだろう。

 

「それだったら良い居酒屋があったぞ」

 

「良いですね。フィアも行こうよ」

 

 そんな二人の会話に入ってきたのは鞠戸だった。

 地球連合本部から少し行くと割と大きな街がある、地球連合本部の隣接地と言う事で様々な国の店が軒を連ねているのだ。

 

「私は機材をしまってから行く」

 

「分かった、駐車場でね」

 

「あぁ…」

 

 鞠戸の言葉に全員が賛同すると地下の駐車場へと向かっていく。それを見送ったフィアはパソコン等の機材を持って執務室に向かう。

 

ーーーー 

 

 派遣してきたフィアたちにあてられた部屋はザーツバルム卿が襲撃してきた2年前の後に建て直された施設で中々、新しい。

 

 ビルの四階。派遣組、全7人が作業するためには充分すぎる広さの部屋の奥にガラスの壁で出来た上官専用の執務室がある。そのガラスには地球連合のマークがマーキングされている立派なものだ。

 

「よいしょっと…」

 

 機材片手に部屋の扉を開けたフィアは自分にあてられた部屋に誰かがいるのを見つけた。

 近くの机に機材を置くと腰辺りを触るが目当てのものがない。執務室の衣類掛けにホルスターごと掛けてあるのだ。

 

(仕方ないか…)

 

 戦闘モードに移行した彼女はわざと音を立てて近づく。

 

「おい…」

 

「少し待ちなさい…」

 

 背後からの彼女の言葉に侵入者は慌てることなくフィアの設置型パソコンを操作している。綺麗な金髪を持った大人の女性、彼女はパソコンを操作しながら話す。

 

「フィア・エルスートね」

 

「そうだ、お前が最もハッキングしてはいけなかった人物だ」

 

 左足を僅かに引きいつでも戦える体勢をとる。

 

「月では仲間が世話になったわ」

 

「軍の人間か、ならその馬鹿げた真似をすぐに止めろ。さもないと軍法会議に引きずっていくぞ」

 

「ルートは空?海?」

 

「そのどちらかだな」

 

「そう、貴方は噓が下手ね」

 

 女性がそう答えた直後、フィアにパソコンのキーボードが高速で飛来した。

 

「くっ!」

 

 左手でキーボードを弾いた瞬間、全身を使ったタックルをかまされガラスの壁を突き破って倒される。間髪入れずに肘が顔面に放たれるが左手で受け止め両足を跳ね上げさせ侵入者のマウントを解かせる。

 

「馬鹿げた脚力ね」

 

「よく言われる!」

 

 右ストレート、左フック、鋭いキレのパンチがフィアを襲うが紙一重の所で避ける。

 

(今だ!)

 

 鋭い右ストレートを避け、そのまま相手の懐に入る。相手のジャブも躱した絶好の攻撃タイミングの筈だった。

 

「んぐぅ!」

 

「鈍ってるんじゃないの?」

 

 ジャブは囮、首を避けた両腕に掴まれ膝がフィアの腹にめり込む。

 苦しむ彼女に更に追撃を加えようとする侵入者だったが彼女も黙っていない、カウンターで左顎に一発お見舞いする。

 

「よくも…」

 

 脳を揺らされ平衡感覚に支障が出た侵入者は数歩退き構える。

 

「ただの兵ではないな、ここまで苦戦したのはマリーン以来だ」

 

 少しだけ楽しそうに歩を進めるフィアだったがその足を侵入者の行動によって止められる。相手が銃を向けてきたからだ。

 

「最後まで殴り合うつもりだった?」

 

「……」

 

 額に向けられる銃口、フィアはそれを見て心の中で舌打ちするのだった。

 

ーー

 

「フィア、遅いね」

 

「なにかあったのかしら」

 

 地下の駐車場で車を用意して待っていた韻子たちは待っても来ない彼女を気にしていた。

 

「見てくるね」

 

「あ、私も行くわ」

 

 フィアの迎えのために伊奈帆とユキが執務室へと向かう。それがフィアが銃口を向けられる少し前の話だった。

 

ーー

 

 部屋の前に辿り着いた二人は中から激しい音を聞き、携帯していた拳銃を取り出す。

 

「行くわよ、なおくん」

 

「うん…」

 

 ユキはドアを蹴破り拳銃を構えて突入する。その後ろから伊奈帆も続く。そして二人が見た光景は衝撃的なものだった。

 

ダァン!

 

 耳を割くような銃声、宙に舞い倒れるフィア。

 

「っ!」

 

「なおくん!」

 

 それを見た伊奈帆の行動は迅速だった。目の前にあった机を飛び越え侵入者らしき女性に発砲する。

 

「く…」

 

 フルオートで撃ち放たれる銃弾に対し机を倒し盾代わりにする侵入者。

 

「まったくもう!なおくん、落ち着いて!」

 

「でも」

 

 ユキの言葉に伊奈帆の注意が後ろに向いた瞬間、手榴弾がすぐ側に投げ込められた。

 

「あ…」

 

「なおくん!」

 

「伊奈帆!」

 

 手榴弾が爆発する直前、伊奈帆を庇ったのは撃たれたはずのフィアの姿だった。

 

「フィア?」

 

「やばい!」

 

 爆風から逃れるために部屋から飛び出すユキ、侵入者も爆風に乗ってどこかに去ってしまった。

 

「無事か?」

 

「フィア、よかった」

 

「お、おう…」

 

 机を盾にして爆風を逃れた二人、フィアの無事を確認した伊奈帆は思わず彼女を抱きしめる。

 

「生きてて良かった…」

 

「あ、あぁ…」

 

 抱きしめられなぜか顔が熱くなってくるフィアは思わず固まってしまう。

 

「手榴弾の爆風並みにお熱いわね」

 

「ユキさん」

 

「あんな至近距離でよく避けられたわね」

 

「避けてませんよ」

 

 フィアはそう言うと手を口に添え中から何かを吐き出す。

 

「これは…」

 

「伊奈帆、近いから…」

 

 抱きついて為、顔がやけに近い伊奈帆を押し退ける。彼女の掌にあったのは金色に光る銃弾。

 

「まさか、奥歯で銃弾を止めたの…」

 

「とっさの行動でしたが何とかなりました」

 

「はぁ…」

 

 少しだけ濡れている弾丸を眺めながらユキは感嘆の声を出す事しか出来なかった。

 

 





どうも砂岩でございます。
久々の戦闘回、今回は軽く戦って貰いましたが今回の侵入者はフィアの因縁の相手となるのか?

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第七十七星 始まり -Beginning-


約1年ぶりの投稿。本当に申し訳ありませんでした。
忘れてたわけじゃ無いんです、ただちょっと書けなくなっただけなんです。中々、書けずに今回、やっと書け投稿するという運びに。
アルドノア作品のリハビリ的な感じで頑張って書きました。次回は一ヶ月いないに投稿します。


 

 

 

「襲撃された。しかも軍の人間にか?」

 

「えぇ、なんとか撃退しましたが輸送ルートを察知されたかもしれません」

 

 戦闘によってボロボロになった上着を脱いで白シャツ一枚になった彼女はネクタイを緩めながら別室に集まった鞠戸たちと話す。

 

「他に言っていたことは?」

 

「月では仲間が世話になったと言っていた。もしかしたら元特殊部隊員かもしれない」

 

 月の最終決戦にて月基地の制圧とアセイラム姫暗殺を目的としたアサルト部隊が投入されたがご存じの通り、フィアがたった一人で迎撃、その半数以上を葬ったのは記憶に新しい。

 

「かなりのやりてだった。あの状況下で出くわしていたらどうなっていたか」

 

 あの時、彼女も限界だった。あの様な奴に出会わなかったのは単純に運が良かったのだろう。

 

「とにかく。この作戦、何らかの妨害があると予想して準備しなきゃいけないわね」

 

「そうですね。作戦当日まで出来るだけ一人での活動は控えるようにしましょう。韻子、ニーナの迎えは私も行く」

 

「え、分かったわ」

 

 合流予定の最後のメンバー。ニーナは韻子が迎えに行く予定だったが状況がキナ臭くなってきたためフィアも同行することにした。

 

ーー

 

「韻子、フィアちゃん!」

 

 翌日、空港にてキャリーバックを持ってキャピキャピしているニーナが到着。なんか、フィアが知っているよりさらに顔が緩み、蕩け落ちるのではないかと思うぐらい顔の筋肉が緩んでいる。

 

「久しぶりだねぇ。また会えると思わなかったよ」

 

ニーナは現在。新芦原から遥か遠くの大学に通っているためにフィアとは戦後、初めての再会となる。フィアを抱き締めたニーナは満足そうに笑う。

 

「すまない、また力を借りる」

 

「いいよ。私、なんでも操縦できるから任せて」

 

 過去地球で空中戦艦を操縦していた者は当然ながら居ない。しかもニーナは信用できる上に度胸もある。これ以上の人材は居ないだろう。

 

「作戦内容は後日改めて説明する。他にも随伴の兵が来たときにな」

 

「分かったよぉ」

 

 親指と人差し指で丸を作ったニーナは笑いながら承諾。これで参加メンバーは全員集結。ついに作戦が始まるのだった。

 

ーー

 

「これが…」

 

「ライエさん。慎重にね」

 

「分かってるわ」

 

 宇宙から届いた巨大コンテナの中には親衛隊が運んできたアルドノアドライブ一号機が厳重に保管されていた。それを確認した伊奈帆とライエはスレイプニールとアレイオンを使って慎重にトラックに移す。

 

「あのお姫様の贈り物…」

 

 正直、アセイラムに関してあまりいい記憶がないライエ。挙げ句の果てに首まで絞めて殺しかけたのだから。でも彼女のお陰でこうして私はここにいる。ライエにとってはとても複雑なものがあるだろう。

 

「よし、固定完了。ご苦労様」

 

「えぇ」

 

「隔壁を降ろすよ」

 

 アルドノアドライブが保管される倉庫は分厚い隔壁に囲まれた場所。その解除は伊奈帆かフィアのIDカードでしか不可能だ。

 ついに作戦が開始される、そんな、わずかな緊張感と共に伊奈帆はアルドノアドライブを見つめるのだった。

 

ーー

 

 作戦開始日、当日。基地の地上倉庫に集まったメンバーたちは前に立つフィアを見つめていた。

 

「これより、我々は現時点において最重要任務に就くことになる。各員の奮闘を期待する。では総員搭乗!」

 

「「「了解」」」

 

 ひとまずは車で基地から駅まで、そこからは電車での長旅になる。本命のトラック、偽装トラックに護衛の軍用ジープが4両、前後に2両ずつが着く。

 

「行ってくれ」

 

「はい」

 

 先頭車両に乗り込んだフィアは運転席に座る兵に声をかけて車を出させる。それに続いて次々と車が発進していく。

 

「久々に緊張するよ」

 

「落ち着いて、私たちが護るから」

 

「うん」

 

 本命のトラックにはニーナと韻子、ユキの三人。荷台にはライエが潜んでいる。最後尾には鞠戸と伊奈帆の乗る車が続き、他の車には随伴の兵が操作している。

 

「来たわ…」

 

「作戦通りだ、出来るだけ数を減らせ」

 

「了解」

 

 積み込みをするための貨物用駅の周辺。そこにはスナイパーライフルを構えている女性。それはフィアを襲撃した張本人、ミーシャの姿だった。彼女はフィアの乗る先頭車両を確認すると静かに引き金を引くのだった。

 

(もうすぐ駅か…)

 

 基地から懐に潜ませている銃から手を離さないフィアは正面の建物の上が僅かに光ったのを目撃していた。

 

「止めろ!」

 

「え?」

 

 異常を察知したフィアだったがすでに遅く運転手の額に銃弾を撃ち込まれ、車はスリップ、横転する。

 

「くそっ、そこで待ち伏せするか!」

 

 フィアはひび割れたフロントガラスを蹴破ると車内にあったライフルで狙撃場所を銃撃する。

 

「フィア!」

 

「ニーナ、止まるな。そのまま全力で駅に向かえ」

 

「不味い…」

 

 咄嗟にブレーキをかけたニーナはフィアの言葉でアクセルを全力で踏み加速させる。その時、路地裏でライエが見つけたのはRPGを構えた人の姿。

 ライエは空かさずのぞき窓ごと銃撃、それが当たったのか体勢を崩す敵、弾頭はトラックから逸れすぐ後ろにいた3両目のジープを吹き飛ばす。

 

「フィア、左!」

 

「なっ!」

 

 積まれたゴミの影から人が現れ、フィアに襲いかかる。ナイフを突きつけられるが吹き飛ばすはライフルで受け止める。すると敵は懐から拳銃を取り出す。

 

「……」

 

「ちぃ!」

 

 すぐさまライフルを捨て、敵の拳銃をつかむと揉み合いになる。フィアは敵の足を思いっきり踏むと相手は悲鳴を挙げる。その隙に拳銃のマガジンを取り外しそのまま、相手の足に最後の弾を撃ち込む。

 

「があぁぁ!」

 

「邪魔だ!」

 

 さらにナイフの刃を返して心臓に突き刺すと捻って傷口を広げる。止めに相手に刺さったナイフを踏み深く突き刺す。

 

「フィア!」

 

「すまん!」

 

 フィアは向かえにに来た伊奈帆の車に乗り込むと先に行ったニーナたちを追いかけるのだった。

 

ーー

 

「こちらミーシャ、相手の半数を殺りましたがこちらも二人がやられたわ」

 

「なんだと、そっちには精鋭しか送ってないぞ」

 

「シャルフがあの少女にリッターも」

 

 ナイフと拳銃の使い手だったシャルフがいとも簡単にやられるなんて彼女は予想以上の化け物のようだ。

 

「シャルフがか…分かった、すぐに次の作戦に移行する」

 

「分かったわ」

 

 ミーシャは電話を切ると合流ポイントに向かうのだった。

 

ーー

 

「助かった」

 

「それにしてもお前、よくあの状況で撃退したな。凄すぎて言葉もでねぇよ」

 

「……」

 

 完全に虚を突かれた形にはなったがそれを覆してしまうのが彼女だ。本音の所、結構危なかったのだが。鞠戸の言葉に伊奈帆も黙って同意する。

 

「正直、危なかったがな」

 

 拾ってきたライフルの動作確認をしていたフィアは目的地である駅を睨み付ける。

 

「完全にルートがバレてる。奴らはまた来るぞ」

 

 そう言ってライフルのマガジンを装填する彼女の目はあの頃の鋭い目をしていた。

 

 

 





お久しぶりで御座います。砂岩改で御座います。
長い間、間を開けてすいませんでした。意地でも最後まで書ききるつもりなので暖かい目でみて頂けると嬉しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました!


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第七十八星 刺客 ーAssassinー


フィアの戦闘服(軽装)

コンバットズボンにコンバットブーツ、上は白のタンクトップ一枚。
腰に拳銃一丁と両腕の前腕にナイフを一つずつ装備している。防弾チョッキは基本的には着けない。

気まぐれに書いたフィア

【挿絵表示】




 

 

 駅で待っていたのは貨物と乗客を運ぶ列車を同時に運搬する混合列車。前三両が客車、そして後ろ三両は貨物車となっている。貨物の先頭がアルドノアドライブで後二両にはアレイオンが格納されている。

 

「積み込みは終わったわ」

 

「出発させてください。総員、乗車!」

 

 ユキと韻子がアルドノアドライブの積み込みとアレイオンを貨物車にしまうとユキが合図を出す。

 周囲の警戒のために外に出ていたフィアたちは次々と客車に乗り込むと列車が発車する。これからこの列車で約二日間、ここで最初の夜を向かえることになる。

 

「わぁ、すごい」

 

「私、寝台列車なんて初めて」

 

「これが寝台列車って言うのね」

 

 列車に乗り込んだのは元デューカリオンメンバーのみ。後は全員、駅に置いてきた。ここからは少数精鋭で警戒にあたった方がこちらとしても管理しやすい。

 客車の三両のうち二両は個室の寝台車、壊れてもいい古いタイプだがこれはこれで味があっていい。そして残り一両は食堂車になっている。コックはいないが簡易的な料理は作れるようになっている。

 

「こりゃ、中々すごいな」

 

「うん、予想よりいい車両だった」

 

 人生初の寝台車に喜びを表す韻子とニーナと興味深げに辺りを見渡すライエ。それに同意するカームと伊奈帆。

 

「輸送機では寝転べないからな。ある程度、余裕のある奴を手配させた、全員分の個室があるから好きなのを選んでくれ。なにもなければ私たちはゆっくりと旅を楽しめるのだがな」

 

「お、酒がある」

 

「鞠戸大尉」

 

「分かってるって」

 

 全員が乗り込んだ食堂車には備え付けの酒も用意されている。

 

「うお、スピリタスまである」

 

「大尉!」

 

 酒に興味深々の鞠戸にユキは眉を動かしながら叱り、アルコールの棚から引き離す。

 この列車は自動運転で車掌がいらない特殊車両、つまりこの列車にはこの場にいる者たちしかいないことになる。

 

「まぁ、張りつめてばかりじゃ身が持たないわ。少しリラックスしましょう」

 

 ユキの言葉と共に立っていた全員が席に座り、緊張を解く。こう言った解し方はユキの人柄がなければ出来ないことだ。

 

 

「僕は冷蔵庫でも見てくる。夕食を作らなきゃいけないし」

 

「私も行こう」

 

 早速、主夫モードに移行した伊奈帆が食堂車の奥に姿を消す。食堂車のキッチンなど普通では拝めない。彼自身も興味があったのだろう。

 ライエたちも肩に下げていたライフルとかを邪魔にならない位置に置いて談笑を始める。

 

「ある程度は揃ってるね。フィア、手伝って」

 

「あぁ、何をすればいい?」

 

 手際よく準備を始める伊奈帆、それに合わせて忙しく動き回るフィア。二人は黙々と料理を作り始めるのだった。

 

「まったく、地球の素材は豊富すぎて分からんな」

 

「…不思議だ」

 

「ん?」

 

「こうしてフィアと肩を並べて料理してるなんて」

 

 戦時中に出会った二人。そして一時期は殺しあい、そして背中を預け会った戦友。そんな彼女と料理を作ってる、それがとても不思議でそして楽しくもあった。

 

「私も、もう会わないつもりだった。色々あったが、お前たちには本当にお世話になった。とても楽しい記憶、そしてそれがとても恐ろしい」

 

「……」

 

「お前たちといると本当の私が出てきてしまう。そしてもっと触れたい、話したいと思ってしまうんだ。そしてまだ戦場に立ち続けて、今はお前たちを失うのが怖い」

 

 伊奈帆たちと会うまでは自分のことは何も考えずに生きてきた。そるが楽だったし、常に冷静で居られる。喜びを捨てて悲しみを無くそうと努めてきた。

 

「フィア…」

 

「……」

 

 料理を一段落済ませた伊奈帆はボーッと立つフィアたちは元に行き頭を彼女の肩に乗せる。

 

「僕は絶対に死なない。君を置いて先には逝かない」

 

「伊奈帆…」

 

 伊奈帆はそっと彼女を抱き締める。いつもなら抵抗する触れたいだが今回はだけはそれを素直に受け止める。

 

「私が地球に来てからスキンシップが激しくなってないか?」

 

「そうかな」

 

「たぶん」

 

「そうかもしれない」

 

 あの時、最終決戦前に感じたあの温もり。優しく包まれたあの体温が忘れられないというのもあるかもしれない。あまりスキンシップが激しいと嫌われると聞いたことがある。彼女には嫌われたくない、だけど彼女を求めずにはいられない。

 

(不思議だ…本当に彼女は…)

 

 

(むふふ、やっぱり二人にして正解だったわね)

 

(若いっていいな。おじさんには眩しいぜ)

 

(あぁ、もういろいろ通り越して尊い!)

 

(ステキ…)

 

(オコジョ、あの伊奈帆があんなんになってるぜ)

 

(なんか…いいわね)

 

 上からユキ、鞠戸、韻子、ニーナ、カーム、ライエの順にコッソリと盗み見している六人。全員が二人を微笑ましい目で見ており、その後の食事でもしばらく暖かい目で見られたらしい。

 

ーー

 

 運送中の襲撃などなかったかのように静かな電車での時間。時刻は深夜をまわり窓の外の景色は真っ暗だ。室内の光源として蝋燭を使い、その光で本を読む。

 フィアはこの読み方が好きだった、どこか暖かみのある光が文字を照らす光景が彼女をリラックスさせる。

 

「……」

 

 彼女が手にしている本。胡蝶の夢と書かれた文庫本はかなり使い込まれていて読み込んでいるのがよく分かる。昔に書かれた本というのは実に興味深い、なんというか奥深い。頭で理解せずに心で感じるといったものを感じさせるようなものばかりだ。

 

ーー

 

 そんな時、貨物車の手すりを何者かが掴む。それも一人ではない、次々と、貨物車に足を掛け、登り、天井に上がり込む。全身に真っ黒な防寒具をした集団はゆっくりと、静かに車両の上を移動する。その者たちの背中には細身の西洋刀がぶら下がっていた。

 

「……」

 

「……」

 

 施錠された扉を難なく解除し、誰もいない食堂車に10名ほどが侵入を果たす。一切、物音をさせないその行動ぶりは実に見事であった。

 

「っ……」

 

 扉を開けたことにより締め切られていた車両内の気圧が変化。車両間の扉は閉めていないので三両とも気圧は同じ。それが変化したことによりフィアと蝋燭の火が僅かに揺れる。

 

「来たか…」

 

 その以上はフィアの他にもユキや伊奈帆、鞠戸も関知していた。使っているのは古い寝台車両、古い扉が動いて音を出したのだ。

 

「なおくん」

 

「わかってるよ。ユキ姉」

 

 一番奥側の部屋にいた二人は互いに扉を開けて異変を確かめ会う。

 

「おい、界塚、界塚弟」

 

 そこに鞠戸も顔を出す。三人とも、物音をたてずに伊奈帆の部屋に集まり武器を確認していた。

 

「どうするの?」

 

「たぶん、お嬢ちゃんたちは気づいてないぜ」

 

「一番手前はフィアの部屋です。彼女がなにかしらアクションを取ってくれるはずです」

 

 携帯でも鳴らして起こしてやりたいが着信音で敵を警戒させるのは避けたい。

 

ーー

 

 その頃、フィアはベットの布団にくるまる。ショットガンのスライドアクションにて発生する音を抑えるためだ。気休めでしかないが。

 

「……」

 

 準備を終えるとフィアは扉のすぐ横に立ち、呼吸を整える。予備のライフルを足元に置き、ショットガンの銃口を扉の開き口に向ける。

 

…カチャ

 

 ゆっくりと開かれる扉の鍵、そしてゆっくりと静かに開かれる。扉を開けた侵入者が最初に見たのは黒光りする銃口。

 

ズガン!

 

 その瞬間、フィアは引き金を引き侵入者は頭を吹き飛ばされ倒れる。その背後からは侵入者の仲間が剣をこちらに向けて突き刺しながら侵入してくる。

 

「なっ!」

 

 咄嗟に避けたフィアは体勢を崩す、足元のライフルを足で跳ね上げ手にすると侵入者の胴に鉛弾をぶちこむ。絶命した侵入者の剣を取り上げながら部屋の外に出ると食堂車に数名の侵入者を見つける。

 

「ほう、お前たち。ヴァースの特殊部隊だろ」

 

「……」

 

 フィアのその言葉に侵入者たちは僅かながら動揺する。

 

「やっかいな状況になったな」

 

 そう言ってフィアは奪った剣を片手で構えて静かに呟くのだった。

 

 

 





まさかの火星からの刺客。最初に襲撃してきたグループとの関係はいかに、アルドノアドライブ防衛戦第2幕が開幕。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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第七十九星 複雑化 ーComplicationー


すいません、今回は短めで。
次回はこのアルドノアドライブ騒動もかなり佳境に入る予定です。




 

 

 帝国式実践用長刀。取り回しの良い細身の剣でヴァース帝国軍人であれば一度は手にしたことのある剣だ。この重さ、重心、間違いなく帝国式長刀だ。

 

「こんな剣、ヴァースにしかないものだ。暗殺部隊にしては随分、分かりやすい武器を。お前たち、宮廷付きの隠密部隊ではない、このために集まったやつらだな」

 

「我らは地に堕ちたヴァース帝国の威信のために動いている。邪魔をするな小娘」

 

「なるほど…」

 

 フィアの存在は機密の中の機密、宮廷関係者か伯爵の地位についた者たちしか知らされない姫護衛の切り札。終戦時に演説を垂れ流したが音声のみ、素顔を知らないものは多い。それを知らないと言うことは末端の暴走と取れるが。

 

(今の地球に潜り込むためには伯爵並みの権力が必要だ。奴等を利用している黒幕がいるはず)

 

「我々をどうするつもりかな?」

 

「知れたこと、この事は誰にも知られるわけにはいかない」

 

「皆殺しか…仕方ないな」

 

「なにを…」

 

 やれやれといった風に目を閉じるフィアを不思議に思ったメンバーの一人。その額に風穴が開けられる。

 

「狙撃だと」

 

 隊長格の男が驚く。寝台車の前方、その部屋のドアが僅かながら開き、スナイパーライフルの銃口がそちらを覗いている。韻子の精密な狙撃はフィア越しにも正確に的中していた。

 

「ナイスだ韻子、よく起きたな」

 

「流石に起きるわよ」

 

「寄せ集めが調子に乗るなよ。"彼女ら"はあのデューカリオンメンバーだぞ」

 

 デューカリオン、その単語を耳にした奴らは警戒して後ろに下がる。第二次惑星間戦争にて伝説となった名はいくつかある。《オレンジ色の悪魔》《マリネロスの悪夢》《空中戦艦デューカリオン》先の大戦にて名を馳せた英雄たちが丸ごと敵になっていることを奴らは知らない。

 

「そうよ。"私たちは"デューカリオンのメンバー。なめては困るわね」

 

 手慣れた手つきでライフルを構えるライエはこちらを睨み付けながら銃口を向ける。

 

「邪魔をするな!」

 

 剣を構えて突撃してくる兵を迎え撃ったのはフィア。彼女も慣れた手つきで剣を振るい応戦する。

 

「中々やるが、型に捕らわれすぎではないかな!」

 

「が!」

 

 フィアは後ろに控えていた敵もろとも蹴り飛ばして酒棚にぶつけると割れた酒を被ってびしょ濡れになる。

 

「寒いだろう。暖めてやる」

 

 そう言った彼女は拳銃を構えて発砲、敵は剣を楯がわりにして防ぐ。その瞬間、敵は一瞬にして炎に包まれた。

 酒棚にはスピリタスを含む度数の高い酒がわんさか置いてある。アルコールを被った状態で近くに火花でもあがれば一気に火だるまだ。

 

「甘いわね」

 

 フィアの背後にまわった敵もライエによってやられる。銃床を上手く使い次々と敵の気を奪っていく。

 

「まだやるつもり?」

 

「くっ…」

 

 隊長格らしき人物が手にしていた煙幕を床に投げつけ逃走する。相手は明らかに先手を取られていた。ここで退くとは頭は回るようだ。

 

「なんとかいってくれたようね」

 

「あぁ、だがややこしくなったぞ」

 

「え?」

 

 ライエの言葉に対して浮かない表情を見せるフィア。

 アルドノアドライブを奪いたい、あるいは破壊したい地球側と火星側。そしてそれを守りたいこちらの陣営の三つ巴。襲撃側の二勢力は全く連携していない所を見るに互いを知らないだろう。

 

「空港に連絡して厳戒体制を敷かせろ。事は厄介な方向に進みそうだ」

 

ーー

 

「これより作戦を説明する」

 

 食堂車に集められた全員はフィアに視線を集め、言葉を待つ。

 

「日本国内は国連軍の厳戒体制が公式にて敷かれている。そのため敵はそれまでにアルドノアドライブを奪取したいはずだ。なら残りの方法は一つしかない」

 

「航空輸送時に輸送機ごと強奪する…」

 

「そうだろうな」

 

 現在は二つの勢力が一度ずつ強襲してきた。今度は二つの勢力が一斉に襲いかかってくるはずだ。

 

「まもなくこの列車は空港直結の路線に入る。我々も完全武装で迎え撃ち敵を殲滅する。そしてなにも憂いなく日本に帰るぞ!」

 

 フィアの言葉に全員が頷き準備にかかるのだった。

 

ーー

 

 大型の輸送機が待機している空港に辿り着いたフィアたちはアルドノアドライブを積み込み暖気していた。

 

「ドライブとアレイオンの固定は終わったわ!」

 

「各部チェックオッケーです!」

 

 輸送機の操縦席にはニーナが副操縦席には韻子が座り発進に備える。

 

「後部ハッチを閉めるわ…っ!」

 

 輸送機の後部ハッチを閉めるためにコンソールを操作するライエだったがコンソールが狙撃され火花が散る。

 

「敵だ!」

 

 アレイオンの影に隠れながら応戦し始めたのは鞠戸、よく見れば軍用ジープ背後から急接近してきた。そのまま車で乗り込むつもりだ。

 

「各員応戦。ニーナ、発進させろ!」

 

「は、はい!」

 

 迫りくる敵、逃げるフィアたち。最後の戦いが幕を上げたのだった。

 

 



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第八十星 救援 ―relief―

 

 

 迫るジープに対して弾幕を張るが効果が見られない。おそらくガラスにも防弾ガラスが張られているのだろう。ニーナはすばやいてぎわでエンジン出力を上げて離陸を試みる。

 

「ライエ、ハッチは閉まらないのか!」

 

「修理する。待って!」

 

 コンソールのガワをナイフで無理矢理開けたライエは作業用のゴム手袋をつけて火花を散らしているコード類に手を突っ込む。

 

「フィア、前だ!」

 

「っ!」

 

 その間にもジープの一台が大型ハッチに乗り上げフィア目掛けて突っ込んでくる。彼女は格納されているアレイオンの装甲の隙間に手を突っ込むと飛び上がり両足でフロントガラスを粉砕、運転手の頭を潰す。

 車の速度とフィアの異常な脚力によって頭がトマトのように簡単に潰れる。ついでに助手席にいた奴にも脳天に二、三発撃ち込み、転がるようにしてジープから降りる。

 

「くそ、無茶しずきたか!」

 

 両足で蹴ったためこちらのダメージを出来るだけ抑えたつもりだが右足首の感覚がなくなっている。折れてはないだろうが完全に捻挫した。

 

「フィアちゃん!」

 

 後部座席から降りてきた敵を牽制しながら駆けつけたユキはフィアを後方へと引きずっていく。

 

「早く、掴まって!」

 

「すいません!」

 

ーー

 

「これは不味いかも」

 

「え、なに韻子ちゃん!」

 

 操縦席でニーナの護衛をしていた韻子は機体の両面から姿を表すジープを見て呟く。屋根にはモリのような尖ったものが頭を覗かせている筒が設置されてる。

 

「両面のジープにハープーンが着いてるよ!」

 

 韻子が叫んだのもつかの間。ハープーンが射出され翼とエンジンの間に絡まる。両面、二両ずつ。計四両の車がスピードを落とすと機体バランスが著しく悪くなる。

 

「あわわわわ!」

 

「ニーナ、大丈夫!?」

 

「飛行に問題ないけど離陸できないよ!」

 

 無理矢理エンジン出力を上げるニーナ。さらっとやっているがこれは神ワザと呼べる芸当である。

 

「早くなんとかして!」

 

 現在、走っている滑走路は宇宙からのスペースシャトル着陸場となっているため長さは通常の滑走路の3倍ほどある。通常の飛行機の離陸時時間が5分ほどなのでタイムリミットは15分。

 止まると言う選択肢はない。そうすれば周りから袋叩きに会ってしまう。最悪でも襲撃してきている連中を排除しなければ止まれない。

 

「カーム!」

 

「おう!」

 

「アルドノアドライブとアレイオンの大型接着パーツを外せ。もしもの時は二つとも滑り下ろす!」

 

「マジか!」

 

「早くしろ!」

 

 フィアの言葉にカームは驚きながらも作業に移る。その間にも両脇の人員用ハッチが壊され敵が入ってくる。更に後部ハッチからも二両か乗り上げてきた。

 エンジンの基部が持たなかったら終わりだ。もしもの時を考えなくては…。フィアは業務用のテープで靴ごと足を固定するとライフルを手にする。

 

「無理しないでね。フィアちゃん」

 

「えぇ、ユキさんは笑顔の方が似合いますから」

 

「あぁー。フィアちゃんが男だったらなぁ…」

 

 ライフルを構えて様子を伺うフィアを見てユキが嘆く。彼女が男だったらこれ以上ない優良物件であったのに。

 

(なおくんには少し勿体ない気がしてきた…)

 

「死ぬだろこれは!」

 

 ユキもライフルを構えていると銃弾に晒された鞠戸が逃げてきた。流石に数で押されては無理だったようだ。

 

「どうする、フィア?」

 

「操縦室は死守するしかない。向こうはアルドノアドライブは壊したくないはずだ。落ち着いて減らしていくしかない」

 

 両脇から来た敵を相手していた伊奈帆も逃げてきてフィアの周りにあらかた集合してきた。ライエもカームも作業を中断して身を隠している。

 

「向こうさんは約20ぐらいだな」

 

「しかも向こうも軍隊経験があると…大変ですね」

 

「軍人といっても崩れれば弱い。なんとかなる数字だ」

 

「たぶん、それはフィアだけだと思う」

 

 月面基地でその身一つで地球軍の特殊作戦部隊を壊滅させたフィアと比べられても困る。

 

「この…」

 

 その瞬間、ライエが敵の横腹をショットガンで吹き飛ばし交戦する。それを機に一斉に飛び出す伊奈帆たち、ヴァースとの戦争が始まって3年間文字通り修羅場を潜ってきた彼らに取って落ち着いて対処すればやれない相手ではなかった。

 

「なんとか…」

 

 敵の数を大分減ったのを確認したライエはショットガンをリロードしていると横合いから剣が振るわれた。

 

「っ!」

 

 咄嗟の判断で斬撃をライフルで受けるも弾かれ左腕に大きな切り傷を作る。素早く一歩退いて腰から拳銃を取り出し構える。

 

「貴様、火星人か!」

 

「……」

 

 ライエ、独特の外見を見て襲撃犯は驚く。しばらくは使えないであろう左腕を庇いながらライエは敵を見つめる。相手はヴァースの特殊部隊の隊長であった。

 

「このタイミングでか!」

 

「フィア!」

 

「私に構うな。伊奈帆はライエの援護に迎え!」

 

 地球軍の兵をタコ殴りにして脇のハッチから殴り落とす。すると敵は悲鳴を上げながら飛行機に引っ張られている車に牽かれ絶命する。

 それを見届けたフィアは拳銃を取り出し構える。ハープーンのワイヤーを狙うが背後の殺気を感じて身をよじる。

 

「くそっ!」

 

「く!」

 

 フィアを基地で襲った張本人。ミーシャは彼女を蹴り落とそうと蹴りを入れたが避けられ腹に重い一撃をかまされる。

 フィアはミーシャの腰に吊るしてあったホルスターを拳銃ごと吹き飛ばすが彼女の回し蹴りで持っていた拳銃を飛ばされる。

 

「強いな、だがここで終わらせる!」

 

「貴方こそ、そんな傷だらけの体で大丈夫かしら!?」

 

 そう言われ、フィアは一瞬だけ頭によぎる。最近、体が思うように動かないことが多々あった。最初は火星と地球の重力差によるものだと思っていたが…。

 

「いいハンデだろ」

 

「生意気ね」

 

 互いにコンバットナイフを取り出して切り込み合う。フィアは一本、ミーシャは二本のナイフで殺りあうがフィアの足が上手く動かないのと気付かされた違和感のせいで上手く動けない。

 

「動きが鈍いわよ!」

 

「だろうな!」

 

 ナイフを弾かれ額に刃を掠めるフィア。細かく飛びながら後退する彼女だが額から流れてきた血で視線が塞がれる。

 

「くっ!」

 

「怪我人の癖によくやったわ。でもこれで終わりよ」

 

 二つの刃がフィアに迫り彼女は思わず言葉を失うのだった。

 

ーー

 

「ぬう!」

 

「くっ!」

 

 ヴァース隊の隊長とライエは互いににらみ合いながら互いの獲物から火花を散らせる。剣とナイフが火花を散らせライエが力負けし徐々に態勢を低くさせる。

 

「貴様、火星の民でありながらなぜ地球に与する!」

 

「私は火星人が大嫌いだからよ!」

 

「主義者か…いや、違うな」

 

 ただ気に入らないから皇族に賛同できないといった眼じゃない。なにか大きなことが起きて一度絶望した目だ。

 

「お前、裏切られたのか…」

 

「……」

 

 ライエの事情を察した隊長。そんな彼の言葉を聞いたライエは眼光を強くさせる。その目に対して隊長は少しだけ狼狽える。

 

「お父さんはヴァースのために力を尽くした。なのにそれを笑って踏みにじった!」

 

「くっ!」

 

「ザーツバルムのせいで!」

 

「まさかお前、ウォルフの娘か!」

 

「え…」

 

 隙を見て拳銃の引き金を引こうとしていたライエの耳に驚きの言葉が入ってきた。ライエの父の名はウォルフ・アリアーシュ、その男の言う通りの名だったからだ。

 

「そうか、話だけは聞いていたが…」

 

「あなた…」

 

「隊長!ぐはっ!」

 

「なに!?」

 

 後部ハッチ。そこで鞠戸たちの攻撃を凌いでいたヴァース隊たちが黒マントに黒いフードを被った人物に次次と殺されていく。

 その敵はレイピアを片手に相手の間接や致命箇所を的確に突いて倒していく。

 

「……」

 

「おのれ!」

 

 隊長から振るわれる高速の斬撃。マントが切り裂かれその中からはヴァース帝国軍の紺色の制服があらわになる。

 

「お前もか!」

 

 斬撃を受け止めたのは鞘、その鞘は杖のようなデザインを持つ特殊なものだった。言うなれば仕込み杖だ。

 

「私は幻の皇女の騎士。姫様のために消えていただく!」

 

 





すいません、今回も遅くなってしまいました。
2.5章もあと1、2話ほどで終わります。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


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第八十一星 進展 ―Progress―

砂糖及びポンコツ、キャラ崩壊 警報発令中





「い、伊奈帆…」

 

 フィアの窮地に駆け付けたのは伊奈帆。彼は拳銃で二本のナイフを止めると落ちていたもう一丁の拳銃で反撃する。反射神経はあくまで一般的だがアナリティカルエンジンの恩恵で素早く攻撃をかわして隙を伺う。

 

(せめてあの女だけでも!)

 

 伊奈帆が駆けつけたと言うことは他のメンバーが殺られたという事だ。作戦は失敗、これは素早く離脱するのに限る。ミーシャは袖からデリンジャーを出して撃ち放つ。

 

迫り来る銃弾、それを横飛びで避けたフィアは地面に転がりながら飛ばされていた拳銃を拾い上げて撃ち返す。 

 

「っ!」

 

 放たれた銃弾は相手の頬を擦り背後のコンテナから火花を散らせる。戦況が不利だと察したミーシャは黒いロングコートを靡かせながらその場を後にした。 

 

「フィア!」

 

「伊奈帆、無事か?」

 

「こっちは何とか…その血は」

 

「ただの返り血だ」

 

 心配する伊奈帆を余所に首元に付着した返り血を袖で拭うフィア。彼女は酷く疲労しその場に座り込んだ。 

 

「いったいいつまで続くんだ…」

 

 硝煙と血のむせ返るような匂いが立ち込める空間で彼女は珍しく弱音を吐く。まだヴァースの部隊が残っている。これから相手するのは個人的に限界だった。

 

ーー

 

「ぬぁ!」

 

「くっ!」

 

 黒フードと隊長の戦いは一進一退で拮抗していた。しかし隊長は精神的に追い詰められている。後ろには友が残した娘、前には騎士と名乗る謎の女性。

 部下もほとんど虫の息である。ここで死ぬのも本望だが少し調べたいことが出来た。どのみち、アルドノアドライブの奪取は不可能だ。

 

「くっ、さらばだ娘よ!」

 

「なに、ぐは!」

 

 強力な蹴りを貰った黒フードは転がりその隙に隊長が逃げ出す。

 

「まって!」

 

 ライエの言葉も虚しく隊長は素早く飛行機から離脱するのだった。

 

ーー

 

「ライエ、無事か!?」

 

「フィア、伊奈帆…」

 

 伊奈帆に肩を貸してもらい駆けつけたフィアは黒フードを見て警戒する。

 

「何者だ…」

 

「…お久しぶりです。隊長」

 

「ケルラ…」

 

 月面基地からかなり立派な顔つきになったケルラの顔を見て笑みを溢すフィア。近くで暗躍していたのは薄々、気づいていたがまさか救援に駆けつけてくれるとは思わなかった。

 

「どうやって地球に降りたんだ?レムリナ姫は?」

 

「あの後、地球軍に保護されまして。現在は姫様の治療を地球で行っています」

 

「フィア、この子は?」

 

「私の部下だ」

 

 月面での別れはジュリたちから聞いていた。ヴァースのどこかに居ると思っていたがレムリナの立場からして地球に居た方が安全だろう。

 

「片付けましたかね」

 

「そうだな、取り敢えず重石になってる車をなんとかしねぇとな」

 

「う…」

 

 一気に静かになった機内を見渡していたユキと鞠戸。その後ろで無視の息の地球軍兵が懐にしまってあったスイッチを取り出す。

 

(せめて…道連れにしてやる!)

 

 持てる力を使ってスイッチを押す地球軍兵。それと同時にエンジンの近くで引きずられていた車が爆発した。

 

「なに、なに!?」

 

「どうしたのニーナ!」

 

 各所から警告が鳴り響く計器を操作しながら無理矢理エンジンを切る。

 

「4基中、3基のエンジンが吹き飛んだんだよぉ!」

 

「えぇ!」

 

「総員、機外退避ぃ!!」

 

 ニーナの叫び声が機内に響き渡る。爆発のせいで制御が効かず減速が出来ない。このままでは海に激突してしまう。

 

「私がアレイオンに乗るわ!」

 

「アルドノアドライブの固定を外せ!」

 

 素早くアレイオンを起動させたユキはアルドノアドライブが入っているコンテナに手を伸ばす。

 

「後方ハッチに車が3台ある。それで離脱するぞ!」

 

「たすけぇてぇ!」

 

「ひぃ!」

 

「ありがてぇ。キーはつけっぱなしだ」

 

 操縦室から逃げてきたニーナと韻子は急いで後方に移動すると車のエンジンをかけていた鞠戸の車に乗り込む。

 

「カーム!」

 

「全部外してある!」

 

「よし、伊奈帆。私たちも」

 

「うん…」

 

「隊長、後ろです!」

 

「なっ!」

 

 その瞬間、フィアと伊奈帆の後ろに積んであった積み荷が崩れ二人に襲いかかる。フィアは伊奈帆を突き飛ばして積み荷の下敷きになった。

 

「フィア!」

 

「隊長!」

 

「フィアちゃん!」

 

 その事にユキも気づいたがアルドノアドライブのコンテナを支えるので精一杯なアレイオンはユキの気持ちとは裏腹にそのまま滑り降りてしまう。

 

「早く離脱しろ!」

 

 下半身が完全に埋まったフィアは身動きが取れずに先に行くように促す。

 

「しかし隊長!」

 

「お前にはレムリナ姫がいるだろう!私のせいで責任を放棄するな!」

 

「っ!」

 

 ケルラは涙を溜めながら歯を食い縛ると身を翻す。

 

「すいません!」

 

「…それでいい。伊奈帆、お前も」

 

「それは無理だ」

 

 そう言って伊奈帆は彼女の手を握り座る。

 

「やめろ、伊奈帆。お前を巻き込みたくない!」

 

「もう僕は君を失いたくない」

 

「伊奈帆…」

 

 伊奈帆の強い目に見つめられ言葉を詰まらせるフィアは伊奈帆の手を強く握り返す。

 

「死んでも離さないからな…」

 

「うん…」

 

ーー

 

「何してるんですか。離脱しますよ!」

 

「……」

 

 後方で呆然としているライエを見つけたケルラは彼女を引っ張って乗ってきたバイクに乗せ離脱する。

 

「降りるぞ!」

 

「待ってください。まだフィアと伊奈帆が!」

 

 バイクが輸送機から飛び出したのを見てアクセルを踏む。鞠戸、乗っていた韻子、カーム、ニーナが叫ぶが鞠戸は悔しい思いで輸送機から降りる。

 

「伊奈帆、フィア!」

 

 韻子が叫ぶ中。輸送機は滑走路を走り終え、海に叩きつけられるのだった。

 

ーーーー

 

「っ!」

 

 一瞬だけ気絶していた伊奈帆は奇跡的に助かり水中で目を覚ます。すると横には気絶しているフィアがどんどん沈んでいく。

 

(フィア!)

 

 伊奈帆は急いで彼女を掴むと海面に引っ張り上げる。運良く目の前に人工の小さな岸を見つけ全身が軋む中、フィアを引き揚げた。

 

「げほっ、げほっ!」

 

 肺に入った水を吐き出した伊奈帆はピクリともしないフィアの服を剥いで心臓マッサージをする。マッサージを一通り行うと人口呼吸、それを何度も繰り返す。そして四回目の人口呼吸の際。

 

「う、がはっ!ごぽっ!」

 

 フィアは息を吹き返し体内に侵入した水を吐き出す。水を出し終えた彼女は数ミリ先にいる伊奈帆の顔を朧気ながら見つめる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「フィア…」

 

 様々な感情や思いが混濁し互いを見つめ、そして互いに意識することなく口を合わせた。俗に言う接吻と言うものだ。

 

 何故したか、実に無粋な疑問だが本人たちからしても分からない。むしろ理由などない、生と死の狭間から生まれる生存本能?どれを言ってもとりとめのないものだ。

 

 ただ言えるのはこの瞬間は二人の心が真の意味で一緒にあったと言うことだろう。

 

 短くも長いような時間、二人は顔を離し見つめ合う。

 

「ん…」

 

「あ…」

 

 そして二人は自分達が起こした行動を省み、言葉を失ってしまう。

 

「あ、あぁぁぁぁぁ!?」

 

 もはや言語など発せるわけがなく二人は離れると二者二様の反応を見せる。その場で振り返り、両手で顔を隠す伊奈帆と顔を真っ赤にしてその場で悶えるフィア。

 

(私は…)

 

(僕は…)

 

((何てことをしたんだ!!))

 

 接吻がどのような意味を待つかフィアでも知っている。

 

(それを、私は躊躇いもなくぅ!)

 

 右足首、そして左足を折って動けないフィアであるが物凄い速度でコロコロ転がっている。

 

(どうすればいいの!?)

 

 海に落ちた二人を探すために駆けつけていたユキは実の弟の逢い引きを目撃してしまい彼女は身を隠しながら目の前に広がるシュールな光景に呆然としていた。

 

「伊奈帆…」

 

 そんな光景を繰り広げていたフィアは突然停止するとムクリと上半身を上げて伊奈帆の方に顔を向ける。

 

「な…に…?」

 

 彼女の声に対し顔を向けた伊奈帆は思わず言葉を失う。

 顔を真っ赤にしてワナワナと震える彼女の姿などもう二度と見られないだろう。

 

「子供が出来たらどうしよう…」

 

「「がはっ!」」

 

「ど、どうした!?」

 

 伊奈帆は鼻血をユキは吐血し倒れる。

 

(もうやだこの二人…)

 

 ユキはやけに晴れた空を眺めながら頭の中でそう呟くのだった。

 

 

 




もうやだこの二人…
早くくっつかないかなっと思いつつ投稿。

と言うことで重要そうな敵二人を取り逃しつつも戦闘が終了。次回は軽くまとめを入れて第3章の予告も同時に投稿していきたいです。

最後まで読んで頂きありがとうございました!




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第八十二星 ひとまずの終わり ーFor now finalー

 

 フィアたちの乗り込んだ輸送機は墜落。本部から派遣された部隊と共に新たな輸送班が編成され無事に日本に運ばれる事となった。

 本来なら最初からそうしろよと言いたかったが現実に襲撃されないと軍隊は本腰を入れられないのだ。

 

 新たな輸送機の中ではやっと訪れた平和に一息つき、メンバーのほとんどは眠ってしまった。

 

「……」

 

《今から学ぼう体のしくみ》

 

 本当なら私こと、韻子も眠るはずだったのだが。前に座っていたフィアが熱心に読んでいた本に気を奪われ眠気が吹っ飛んでしまった。

 

なるほど、◯◯を取り込むことで◯◯が…

 

 なにやら呟くように言っている彼女の表情は真剣そのもの。彼女にとっては勉強をしているだけなのだろうが韻子からしてみれば緊急事態だ。なぜ彼女はそれに対して興味を持ち始めたのか気になって仕方がなかった。

 

「韻子ちゃん。やっぱり気になる?」

 

「え、まぁそうですね」

 

「フィアちゃんももうすぐ韻子ちゃんと同じ土俵に立つことになるわね」

 

「え?」

 

 もしや、彼女が自覚を始めたというのか。それを示唆するユキの言葉に韻子は悶えながら輸送機の旅を送るのだった。

 

ーーーー

 

 それから飛んで式典当日。襲撃の件から全く妨害がなかったとはいえ、厳戒体制で組まれた式典会場にフィアの姿があった。あの戦闘から数ヵ月が経過した現在も伊奈帆とフィアはほんの少しだけ距離ができてしまった。

 

「こちら、警備班。異常は認められません」

 

「了解。引き続き警戒せよ、もうすぐ来賓もご到着だ」

 

 無線から流れてくる報告に耳を傾けながら警備本部で流れている映像を見つめる。すると後ろから伊奈帆がやって来る。

 

「懐かしいね」

 

「もう思い出したくもないがな…」 

 

 アセイラムが初めて地球に降り立った日。それを再現するかのようにここで式典が行われる。

 

「会わなくていいの?」

 

「会いたいが会いたくないな。帰りたくなってしまう…」

 

「そう…」

 

 静かに隣に座る伊奈帆、それを見たフィアは少しだけ離れる。なぜかと理由を聞かれれば困るが、なんとなく気恥ずかしいのだ。

 

《ご覧ください。地球とヴァースの友好の証として建造されたアルドノア一号炉が本日、起動される運びとなりました》

 

 テレビから流れてくるアナウンサーの言葉を聞きながらフィアは話す。

 

「お前、軍服で潜り込んできたのはいいがそろそろ見つかるからな」

 

「ユキ姉が明日は家においでって」

 

「そうか…最近はやけに呼ばれるな」

 

「不満かな?」

 

「まさか、むしろありがたいよ」

 

 訪れる沈黙。今までなら気にすることもなかった沈黙に二人は気まずさを覚えていた。

 

「あの時の事はすまなかった。気が動転していたんだ」

 

「うん…」

 

「なんであんなことをしたのか…」

 

 二人とも同時に死にかけたことで人間の本能的なアレが発動してしまったというのは頭では理解しているがどうしても引きずってしまう。

 

「……」

 

 その気持ちは伊奈帆も同じだった。キスという点では彼は一度、アセイラムにしている。だというのに二度目である彼女の顔が忘れられない。正直に姉に相談しても「そうなんだぁ」と笑うだけ。

 

「嫌だった?」

 

「ん?」

 

「いや、嫌だったかなって…僕は嫌じゃなかったよ」

 

「……私も不快感はなかったな…」

 

 真剣に見つめてくる伊奈帆におもわず目を逸らすフィア。その先にはいまだに中継を続けているテレビがあった。

 

《そのトロイヤード博士の息子。スレイン・トロイヤードが第二次惑星間戦争の発端を作ったというのはなんとも皮肉な話です》

 

《スレイン・トロイヤードが死亡したことで地球とヴァースは友好条約を結んだと言うことですが》

 

《今だに地球を占領している軌道騎士も残っていますからね》

 

「スレイン…」

 

 彼もまた自分と同じ忠義に生きた騎士であった。その中に恋慕が含まれようともそれはいい。結果的に彼はアセイラムのために命を尽くしてくれたことには代わりないからだ。

 

「やっぱり、会わせたくないな…」

 

「なんだ?」

 

「いや、なんでもない」

 

 伊奈帆の言葉を聞き取れなかったフィアだったが頑としても言わなさそうな伊奈帆の顔を見てそれ以上の追求をやめるのだった。

 

ーー

 

「フィア…」

 

「姫様、式典に集中しませんと」

 

「エデルリッゾ、分かっているのだけれど」

 

 アルドノア一号炉の近くに設置された簡易的な休憩所からアセイラムはフィアの姿を探していた。韻子やニーナなどの見知った顔は見かけたが一番会いたいフィアが見つからない。

 

「まぁ、俺だったら来ないよな」

 

「ネール!」

 

 アセイラムを一目見ようと集まってくる人たちを眺めながらネールは呟く。

 

「あと4年も会えねぇんだ。帰りたくなっちまう…」

 

「…確かに。そうだな」

 

「隊長…」

 

 自作したフィアの顔写真がプリンとされたシャツを着込んでいたリアは涙を流しながら警護につく。

 

「姫様、隊長もこの放送はご覧になられているはずです。どうか、姫様も…」

 

「そうね…フィアに恥はかかせません」

 

 ジュリの言葉にアセイラムは静かに頷くと立ち上がる。式典の開始時刻だ。

 

「この輝きが地球とヴァースの平和の架け橋となることを祈って…目覚めよ!」

 

ーー

 

 沸き立つ観衆。アルドノアの輝きを目にした人々は歓喜に溢れていた。見知った顔ぶれには小さく挨拶をすると韻子たちも頭を下げる。地球での出来事は辛いことばかりだったけれど、それと同じく、多くの人に出会えた。

 

「フィア…私も頑張ります」

 

「姫様、行きましょう」

 

「えぇ…」

 

 飛行場に向かうために車に乗り込むアセイラム。乗り込もうとした瞬間、遠くで敬礼をしている一人の軍人が居た。美しい銀髪を風で揺らしていたその軍人は目があった瞬間、その場からいなくなる。

 ほんの一瞬の出来事。しかし彼女にはそれで充分だった。

 

「貴方も元気で…」

 

 

ーーーー

 

 

「おはよう。なおくん」

 

「おはようユキ姉。だし巻き卵とスクランブルエッグはどっちが良かったかな?」

 

「んん、だし巻き卵かなぁ」

 

「良かったね。今日はだし巻き卵だ」

 

 いつも通りの風景、だし巻き卵を作り終えた伊奈帆は卵をテーブルに“3人分“置いて朝食の準備をする。

 

「昨日の3時に行われたアセイラム女王のアルドノア1号炉起動式典で…」

 

 テレビから流れるニュースを流し見る伊奈帆は箸を用意してある人物を待っていた。

 

「ただいま。参ったよ、まさかあんな事になるなんて…。仮眠は取ったから別に良いんだが」

 

 透き通るような綺麗な声を持つ少女は着ていた軍服の上着を脱ぐと待機していた伊奈帆に渡す。ネクタイを緩めワイシャツのボタンを一つ外して席に着く。

 

「おかえり、お疲れさま」

 

「おはようございます。姫様の式典関係で大変でしたから」

 

「じゃあ、ご飯を食べようか…」

 

 ユキと挨拶を交わし上着をハンガーに掛け終えた伊奈帆が席に着いたのを確認すると全員が手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

「そう言えば…」

 

「どうした、伊奈帆?」

 

 箸を進め食事を楽しんでいた時、伊奈帆は思い出したように言葉を発した。

 

「おかえり、フィア」

 

「あぁ、ただいま。伊奈帆」

 

 





まずはお詫びを…大変遅くなってすいませんでした!
そして2、5章が終了しました。次はいよいよ最終章、フィアたち最後の戦いとなります。期間が空きすぎて忘れてしまった?本当にすいません。
軽い予告のようなものも投下しましたのでご一緒にご覧ください!

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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最終章 予告

アルドノア・ゼロー忠義は主君とともにありー最終章突入。

 

 

「我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はいない。今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連合政府に対し、宣戦を布告するものである。仮初の平和への囁きに惑わされる事なく、

繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に!」

 

「「「うぉぉぉぉぉ!」」」

 

 第三次惑星間戦争勃発の危機。

 

「事態は深刻です。青年将校らを中心にクーデターが発生しています。若い連中は姫様を御守りせんと立ち上がったようですが…」

 

「首謀者は誰なのですか?」

 

「カーティアス卿です」

 

 フィアを火星から追放した張本人。そんな彼がフィアやアセイラムのカリスマを利用して戦争をもう一度起こそうとしていた。

 

「すぐに声明を出しましょう」

 

「それはお辞め頂きたい。女王陛下」

 

 謎の兵たちに囲まれるアセイラム。

 

「さぁ、戦争をもう一度…」

 

ーーーー

 

「そんな…」

 

「フィア・エルスートさん。医者として貴方にとって辛い事をお伝いせねばなりません。最大まで持って3年です。お辛いでしょうが、現代の医学では貴方をお救いできません」

 

 フィアに訪れた本当の生命の危機。

 

「フィア…」

 

「人を殺してきたツケが回ってきただけだ。悲しむことではない」

 

ーー

 

「戦争を回避するためには首謀者を討ち取る他ない。ヴァースから進撃してくる敵艦隊を抜けて揚陸城に突撃。やつを討ち取る」

 

「その任務はデューカリオンにしかできない」

 

 デューカリオンメンバーに与えられたラストミッション。

 

「シナンジュ?」

 

「いや、その試作機リバウだ」

 

 再び姿を現す深紅の機体。

 

「これが私の最後の戦いになるな…」

 

「フィア…」

 

「終えることにはなんの後悔はない、最後に姫様をお救い出来る。姫様の騎士として誉れのある任務だ」

 

 ヴァース最強の騎士。最後の戦いの始まり。

 

ーー

 

「前衛が全滅した!」

 

「バカな、地球攻略のための戦力をなんだと思っているのだ!」

 

「敵は一機。深紅の機体だ!」

 

「まさか…あの悪夢!?」

 

「バカめ。赤い機体だと言っても奴である必要はない。冗談も休み休みに言え!」

 

「奴だ、姫殿下の騎士だ。なんでここにいるんだ!」

 

 マリネロスの悪夢が目を覚ます。

 

ーー

 

「ここは私にお任せを…」

 

「お前は…」

 

 銀髪を短く切り揃えた青年。死んだと思われていた忠臣たちが蘇る。

 

ーーーー

 

 暴走と妄想にて紡がれた物語がついに完結。

 

 アルドノア・ゼロー忠義は主君と共にありー

 

 最終章《騎士に捧げる鎮魂歌》

 

 それは騎士との別れの物語。

 

「ここが私の墓標となる…」

 

 

 

 



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After war 最終章 悪魔ノ騎士編
第八十三星 開幕 ーopeningー


 第二次惑星間戦争から5年後。

 年月とは儚いもので伊奈帆も22歳の歳を迎えていた。

 フィアもそれは同様で5年という出向期間の終わりを迎えようとしていた。

 

「フィアちゃんが地球にいるのもあと3ヶ月かぁ…寂しくなるわね」

 

「ユキさん。最近いつもそれですよ…」

 

 フィアはいつもの居酒屋でユキと二人で夜を過ごしていた。

 アルドノア一号炉の護衛も兼ねて新芦原市に定住することになった彼女はよくユキと飲み明かしていたのだ。

 

「だぁてぇ…てっきり私はなおくんのお嫁さんになってくれると思ってたのにぃ…」

 

「……」

 

 伊奈帆とフィア、この二人には言葉にできない関係が出来上がっている。

 二人だけが理解できる特異な関係性、そんな関係に甘えたくてもフィアには騎士として捨てられない生き方がある。

 それは伊奈帆が一番理解しているからなにも言わないのだ。

 

「あいつは私には勿体ないですよ…」

 

「なにいってんのよ…大丈夫ぅ……」

 

「もう、飲みすぎなんだから…」

 

 眠りについたユキを微笑みながら担ぐフィアは会計を済ませ家まで運んでいく。

 

「いつもごめん」

 

「気にするな」

 

 家には伊奈帆が顔をだしユキを受けとる。

 いつもの光景だ、お互いに付かず離れず…奇妙な関係だと自覚しているが変えるつもりもない。

 

「うん、泊まってく?」

 

「いや、今日は帰るよ。仕事がある」

 

「そう、気を付けてね」

 

「あぁ…」

 

 淡々とした会話だがこれもいつもどおり、フィアは伊奈帆と別れた後、静かに帰路につく。

 

「……駄目だな」

 

 最近は同じことばかり考えている。

 姫様を守る、その為だけにこの人生を捧げると決めてここまで生きてきた。

 今もそれは変わっていないし姫様の元へ帰りたいと切に願っている。

 

 

《フィア、無理をしてはいけませんよ。貴方には地球とヴァースの和平のために地球に残る選択もあります。伊奈帆さんとともに》

 

「伊奈帆…」

 

 自身の感情の答えなど既に分かっている。

 だがこれは口にしては駄目だ、口にしてしまえば今までの苦労が水の泡になってしまいそうで怖い。

 

(まさか、私が恐怖を覚えるとはな…)

 

 自嘲気味に笑うフィア。

 しかし次の瞬間、彼女は体を捻ると同時に彼女の体から鮮血が飛び散る。

 

「しまっ…」

 

 苦痛に顔を歪めながら地面に伏すフィアはそのまま身を隠す。

 

「油断した…」

 

 自身の状態を素早く確認する。

 撃たれたのはわき腹、なんとか致命傷は避けたが思ったより出血している。

 

「くそっ…」

 

 ここに留まっていては追っ手が来る、早く退避しなければと歩を進めると目の前に立ちふさがる少女がいた。

 

「なるほどな」

 

 美しい銀髪、真っ黒のコートに夜闇でもしっかりと相手を見据える紅い瞳。

 両手には真っ黒の手袋をはめており、相手は強く握りしめる。

 

「素手か」

 

「……」

 

 止血こそしたが血が抜けすぎてフラフラなフィアはその様子を一切、外に出さずに相手を見据えながら構える。

 武器など持っていないため当然、素手だ。

 

「っ!」

 

ー翌日ー

 

「なおくん」

 

「状況は…」

 

 ゆきから話を聞き、慌てて駆けつけた伊奈帆はその惨状を未定言葉を失う。

 道路の真ん中に飛び散った血は裏路地へと延び、その路地では至るところに血が飛び散っていた。

 

「検査しないと分からないけどたぶん」

 

「フィア」

 

 この道は伊奈帆の家から彼女のいる官舎まで道だ。

 現場の奥の裏路地では激しくあらそった形跡も見受けられる、鉄棒が見事にへし折れてる、一見するならなにかの事故現場のようだが彼女が本気で戦えばこんな光景は日常茶飯事だ。

 日本は非武装社会だ、フィアも武器の携行は基地内に留めている。

 

「おかけになった電話番号は現在、電波の届かないところにあるかーー」

 

「やっぱり繋がらないか」

 

 伊奈帆の家にゆきを届けたその直後、フィアは行方不明になった。

 尋常ではない形跡を残して、それは彼女の死を意味しているのかそれともまた別の意味があるのかは分からない。

 

 だがこの事件が伊奈帆、フィア、アセイラムこの三人を含む多くの人間のターニングポイントとなったのは間違いないと言えるだろう。

 

 

最終章 開幕

 

 



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第八十四星 役者 ーactorー

 

 

「伊奈帆」

 

「ライエ、どうしたの?」

 

「それはこっちのセリフよ。もう何日も寝てないじゃない、ユキさんも心配してたよ」

 

「そうか、もう何日も経ってたんだね」

 

 自身の執務室に籠りっきりであった伊奈帆は息を吐きながら椅子にもたれかかる。

 ライエはそれをあきれながら見ると彼に簡易食を渡す。

 

「なにか分かった?」

 

「まぁね、久しぶりに左目が欲しくなったよ」

 

「次は死ぬわよ」

 

「分かってる」

 

 ライエは伊奈帆から渡された資料に目を通す。

 何日も徹夜しただけあってすごい量だ、彼女は伊奈帆を風呂に叩き込むと資料を熟読する。

 

※噛み砕いて書いてます

 

 DNA結果 フィアである確率99.8% ただし一部の血痕には確率83.6%の不可解な血も混在していたもの。

 またダントリウムも検出され拉致された可能性が極めて高い。

 

 さらに戦闘の形跡からすると敵対者は素手で攻撃を行ったものと推定、少なくともフィアと互角に戦う技量の持ち主と思慮される。

 

 状況から推察するに襲撃したのは火星側である可能性が高いと考えれる。

 フィアは火星側の人間ではあるが非交戦派の筆頭であり、彼女がこれまで地球軍として活躍した功績を考えて地球側にとって彼女の存在はメリットの方が大きい。

 対してヴァースの交戦派にとっては彼女の存在はもっとも警戒すべき人物である。

 さらに地球で行方が分からなくなっている以上、それが理由で戦端が開かれる可能性がある。

 一ヶ月後には再建されたハイパーゲートの開通式が行われる。

 それも関係している可能性もあり。

 

「読んだ?」

 

「軽くは、聞いても良いかしら?」

 

「DNAでしょ?」

 

「えぇ」

 

 83.6%と言う数字が解せない。

 

「僕もこれが分からなくて止まってる。結局、推測の域は出なかった」

 

「なに?」

 

「それは…」

 

ーーーー

 

「うっ…」

 

「ふっ、帝国最強の騎士も墜ちたものだな」

 

 地球の某所、そこではわき腹に大きな杭を打ち付けられ壁に磔にされたフィアの姿があった。

 彼女は襲いかかる激痛に悶えながらも笑みを浮かべる敵対者を睨み付ける。

 

「まだまだ元気そうだな。恨むなよ、手錠や縄なんて中途半端なものじゃあんたはすぐ抜け出す。これしか方法がないんだよ」

 

 しっかりと止血され死なないように器用に打ち付けられた杭はフィアに激痛のみを与える。

 常人なら半日も持たない激痛を彼女は既に3日も耐えていた。

 

「さぁ、お互いに楽になろうぜ。ロイヤルルームの暗証番号だよ」

 

 ロイヤルルーム、ヴァース帝国の王宮にある皇室に関わりのある者しか入れない空間。

 それがロイヤルルーム、それこを出入りできる数少ない人間の一人がフィアであった。

 

「…」

 

「おいおい…」

 

 無言で唾を吐きかけられた敵対者はやれやれと言った感じで話すと彼女のわき腹に突き刺さった杭を動かす。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ご立派な騎士道だな、なら一旦死ねや!」

 

 激痛に叫ぶ彼女を見て笑う敵対者は意識を失うまでその杭を動かし続けたのだった。

 

ーー

 

「フィアが行方不明に?」

 

「はい、地球からの連絡でそのようにと」

 

「…そうですか」

 

 ヴァース帝国王宮、そこでフィア行方不明の情報を聞いたアセイラムであったが静かに答える。

 本来なら心配になって慌てふためくところであるがこの4年で彼女も立派な女王としての態度を身に付けていた。

 

「隊長…」

 

 側にいたリアも表情こそ浮かべないが心配そうな声色をしていた。

 

「地球側はどのような対応を」

 

「はっ、既に捜索と調査が行われております。あちらにとってもエルスート卿は大切な客将、無下にいたすことはありません」

 

 玉座においてアセイラムに報告しているのはカーティアス伯爵、彼は四年前、フィアを地球送りにした張本人だが文官としての能力が高く、こうして地球との交渉約としての地位を築いていた。

 

「各軌道騎士に通達、軽挙妄動は慎むようにと。こちらの指示なしで動く者は反逆者として処理すると伝えなさい」

 

「承知しました、それと私の息子が地球にてエルスート卿の捜索にあたっていおります。今後はこちらにも情報を回すように伝えておきましょう」

 

「エリスですか…頼みます」

 

 この状況は自身が経験したことと酷似している。

 第二次惑星間戦争の引き金であるアセイラム暗殺事件、この再来だけは決して許してはならない。

 

(やはり隊長に似てきたなぁ)

 

 普段生活では穏やかな昔と変わらない彼女だがいざ玉座にいるとしっかりとした威厳と口調をもった女王になる。

 それを見ているとどことなくフィアを連想させられる。

 そんな感想をジュリは抱きながら静かに玉座から姿を消すのだった。

 

「カーティアス伯爵は信用なりませんがエリスなら大丈夫でしょう」

 

 カーティアスが玉座から去った後のリアの発言に全員が驚いた表情を見せる。

 

「珍しいな、リアからそんな言葉が出るなんて」

 

 ネールの言葉に全員が頷く。

 

「エリスは私ほどではないが同志だ…」

 

 リアとは通称ヤンデレズストーカー。

 フィアの心から愛しておりその変態的もとい常軌を逸した行為で有名な人物なのだ。(腕はめちゃくちゃいいのが腹立つ)

 

「……」

 

 シエテは思わず遠い目をしてネールも思わず言葉を失う。

 

「ファンサイトでもあんのか?」

 

「あるが?」

 

「「あんのかよ!」」

 

ーー

 

「現代において一人の人間を運び出すのは難しい。痕跡を残さなくても逆にそれがヒントになったりすることもあります」

 

 新芦原市の駐車場、その車内で端末を操作しながら考えを巡らせる。

 中性的な顔立ち、一見すれば女の子にも見えるその人物は立派な男性だ。

 深みのある蒼いショートヘアーと小さな背丈も彼の中性的な見た目を引き立たせる。

 

「やはり現代は情報が全てと言っても過言ではありませんね」

 

 端末の操作を終えた彼は車のエンジンを着ける。

 

「貴方には負けませんよ、界塚伊奈帆さん」

 

 



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最終章各種設定集

年表

 

1980年 火星開拓使が設立。34万人が火星へ移住。

 

1982年 突如レイレガリア博士が反地球を標榜し、火星開拓民を扇動。

 

1985年 火星にレイレガリアを皇帝とする「ヴァース帝国」が樹立。

 

1986年 地球の諸国は地球連合を樹立。火星との冷戦状態に。

 

1996年 地球で大規模な同時多発テロ。火星人組織を名乗る犯行声明。地球の反火星化。

 

1999年 火星「ヴァース帝国」が地球連合へ宣戦布告。月の地球連合軍基地まで進軍。この戦闘により月は崩壊。地球は大規模な天変地異。ヴァース帝国の皇帝が戦死。両軍休戦へ。

 

2000年 地球連合と火星「ヴァース帝国」の休戦条約が成立。

 

2007年 地球側の戦後処理が終了。以後の情勢は安定していく。

 

2010年 戦後10年。和平に向けて両陣営歩み寄りを始める。

 

2014年 アセイラム姫暗殺事件をきっかけとした第二次惑星間戦争勃発。

 

2014年末 プロジェクトヘファイトス開始

 

2015年 スレイン・ザーツバルム・トロイヤード死亡により第二次惑星間戦争集結。

    フィア・エルスートの地球行きが決定。

 

2016年 アルドノアドライブ一号炉攻防戦勃発。

 

2021年 最終章開始

 

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ヴァース軍組織表

 

《王》(現アセイラム女王)

 

《親衛局》(元フィア、現リア局長)

ヴァース王室直属の親衛軍統括機構、軌道騎士とは違う独自の権限を与えられている。

 

《親衛軍》

 組織で主に本星、首都圏防衛のために組織された直属部隊。

 惑星間戦争は参加しておらず無傷のまま終戦した。

 

《本土防衛軍》

 主に首都圏を防衛するための部隊。

 火星大気圏内を管轄とする。

 親衛軍の3割が所属

 リアのローゼンズールを含む4機が主戦力でほとんどで数機のカタクラフト以外の戦力ばかりで戦車などの陸上戦力ばかり。

 

《本星防衛軍》

 主に火星大気圏外を管轄する部隊。

 本星防衛用の4つの揚陸城を拠点とする。

 親衛軍の7割が所属

 装備は各揚陸城の責任者の専用カタクラフトに加え無数のステイギス隊を保有している。

 

《ヴァース軌道騎士37家門》

 各伯爵を中心に構成された軍で主に地球侵攻を目的とした侵略軍。

 親衛局とは違う独自行動権限が与えられている。

 

ヴァース本星防衛網

 

 4つの《揚陸城》と無数の《ハチノス》を配置した防衛網を構築している。

 

《ハチノス》

 ステイギスを格納している施設でいつでも射出できるように火星圏のデブリに無数に設置されている。

 全機無人機。

 

 《揚陸城》

 火星の四方を均等に周回している、各揚陸城に主が居り、その上に統括する人物が居る。

第一揚陸城

 ボルド上級男爵(???・???)

第二揚陸城

 スティル上級男爵(?????)

第三揚陸城

 フレーバード上級男爵(?????)

第四揚陸城

 ドワイン上級男爵(?????)

 

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ヴァース軍、量産カタクラフト開発計画

 

《プロジェクトヘファイトス》

 第二次惑星間戦争初期における劣性は数的優位を欠いたからであるとの見方が強く。

 月の防衛のために小型宇宙挺を武装化した簡易量産型のステイギスを実践投入するもあくまで宇宙のみの運用としていたためヴァース本星を防衛するには不十分であるとされた。

 陸、宇宙対応可能な本星防衛のための人型の量産カタクラフト開発を目的としてスタートしたのがこの《プロジェクトヘファイトス》である。

 このプロジェクト開始はザーツバルム伯爵が地球連合軍本部にて敗北したタイミング。

 

《量産型カタクラフト》

 プロジェクトヘファイトスによって開発されたカタクラフト。

 これまでのカタクラフトは伯爵階級以上か一部の男爵のみが保有する権力の象徴であったが戦力の強化などを名目に生産された。

 階級持ちを含む、一部の一般兵にも配備された。

 

 

MR-01ステイギスⅡ

 試作量産型カタクラフト。

 ステイギスのシステムをそのまま移植し人形にしようとした機体。

 見た目はステイギスを人形にしたような形。

 だが射撃をメインに設計されていたため首都防衛には不向きであり、宇宙においてもステイギスより被弾面積が大きく、機体構造が脆弱であったことから数機の試作機を残し不採用。

 

MR-02ジェム

 開発元をステイギスからアルギュレに変更し再開発。

 近接戦闘を主眼においたカタクラフト開発へと舵を切る。

 所有権を持っていたブラド男爵は死去しているため現所有者でかるクランカインがデータを提供したためアルギュレを参考に開発。

 ヴァース制量産型カタクラフトの元となった。

 

 

MR-03ベルガ・ギロス

 ジェムを基本として鹵獲したアレイオンのデータを元に汎用性を持たせつつ機動性を重視して開発された。

 最大の特徴は近接兵器と遠距離兵器を組み合わせたショットランサーで対カタクラフト、対艦戦闘でも十分な戦果を挙げた。

 戦闘データ収集を目的として月基地配備予定の親衛隊に配備された。

 このベルガ・ギロスの戦闘データによりステイギスが機動遠距離攻撃し撹乱し人形カタクラフトが接近戦闘を行う戦術が確立された。

 

MR-04フラハート

 ベルガ・ギロスは量産機としては高価であったためビームシールド等の高価な装備をオミット。

 低コスト、高機動を求められた実験機。

 後のシュヴァリエとリッターの原型となった。

 地球軍の機体がツインアイであったことからそれを嫌がり、この機体からツインアイから単眼のカメラアイに変更する。

 

MR-05リッター(ガルスS)

 量産型カタクラフト。

 細い騎士のようなデザインのカタクラフトで特筆すべき性能はないが操作性、整備性、拡張性に優れる。

 全身に細かなスラスターを備えているため細かな機動を取れ、市街地やデブリ群においても問題なく稼働できる。

 典型的だがひとまずの完成形。

 本土防衛軍は白、本星防衛軍は黒の塗装がされそれぞれヴァイスリッター、シュヴァルツリッターという名称で呼ばれている。

 

 

ヴァイスリッター《本土防衛軍仕様》

 細く騎士のような見た目。

 アルギュレを彷彿とさせる腰部が特徴で腰部を中心としてホバー機能がある。

 武装は大楯とショットランサーが基本装備。

 

シュヴァルツリッター《本星防衛軍仕様》

 バックパックに大型スラスターがあるのが特徴。

 基本武装はショットランサーと他に試作兵器を優先的に配備されている。

 

MR-06シュヴァリエ(リーベン・ヴォルフ)

 親衛隊用に開発された新型カタクラフト。

 汎用性と拡張性、整備性を犠牲に機体性能の追求が行われており、複数の推進機関を有した結果、操縦には高い練度が必要となり、乗り手を選ぶ機体として完成している。

 

 

 



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