気が付くと俺は地球の目の前にいた。きれいな星だ。宇宙から初めて見たとき言葉が出ないほど感動したのを覚えている。...なぜこんなにもきれいな所に戦火が満ちているのだろうか。人類は分かりあうことなど不可能なのだろうか。...頭がぼうっとして意識が冴えない。視界が霞む。
___俺もここまでか。
走灯間が過る。クルジスの一般家庭に生まれ先進国と比べて不自由に違いないが幸せだった。父がいて母がいて親戚のおじさんたちがいて友達がいて、毎日がきらめいていた。アザディスタンと戦争をするまでは...家族を大切な人たちを守りたかった。何も為さず逃げることだけはしたくなかった。少年兵に志願した。その時はそれが最善の道と信じて...俺の意思は霞の如く消え去った。ただの子供が正気で居続けれる訳がなかったのだ。俺は、俺らは神に縋った。その結果親さえ殺す慈悲無き存在へと塗り替えられて。
___この世界に神はいない。
俺があの紛争で唯一得たものだった。銃声が響く中先ほどまで会話をしていた仲間が凶弾に倒れる。ある者は巨人に踏みつぶされる。地獄だ。俺が生きていた世界は優しくなんかなかった。巨人の銃がこちらのほうに向き、遂に俺は死ぬと思った。巨人の銃が破壊された。瞬く間に敵が一掃される。俺は空を見上げた。美しかった。戦場にいるのに我を忘れた。緑色の暖かな光が広がる。まるで天使のようだった。この世に神はいないのに...憧れを抱いた。自分もあんなふうになりたい。誰かに踊らされず自分の意思で戦争をなくす。今度こそ必ず...結局成し遂げることはできなかった。罰なのかもしれない。高尚な考えを持った汚れた存在への...ふと、一人の少女のことが気になった。彼女は無事なのだろうか。家族を目の前で失った少女は脆かった。数える程しか顔を合わせていないけど彼女はいつも明るかった。だから彼女の泣き顔を見たとき感心すると同時に少し胸が高鳴った。こんな顔をするのかと。彼女は冷酷残虐な殺人鬼なんかではない。家族が亡くなったことを悲しめる人だ。死を慈しむことができる人間だ。ただそれが家族だけであって...彼女はきっと変われる。
「日本の東京という都市に俺名義で借りたマンションがある。そこにはCBに関連する物は何一つない。だからお前の潜伏先には十分なはずだ。俺の口座が使えるようにしとく...それから」
的外れなことを言っていた。動揺していたのかもしれない。しかも己の口がこれ程回ることに、個人を気に掛けることに驚いた。何の打算も無しに、ただ彼女を助けたかった。泣いていた顔を彼女は上げる。目と目が合い、少女は一層顔をくしゃくしゃにする。縋りつくような響きだった。
「せつ...な、せつな、刹那!! 」
少女が俺の胸に飛び込んだ。俺は少女を受け止める。普段の自分ならば身体的接触に嫌悪を示すだろう。しかしそんなことは感じなかった。
「ネーナ・トリニティー...」
体験したことのない事態に何をすれば良いのか分からなかったが、今ここで少女を拒絶することは絶対駄目だと思った。朝日がきらめいていた。
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