マボロシ少年の航海日誌 (ネメシスQ)
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序章
ぷろろーぐ


 

 

 拝啓、ばあちゃん

 おれは今日初めて魚人と会いました。意外と人間と外見変わらないですね。色々話もしました。そして今、その魚人はものすごい形相でおれたちを追いかけております まる

 

「ふむ、魚人って陸上でも中々足速いのな。しかし、十傑集走りを極めたおれの走りにはついて来れまい」

「確かに速いけどその走り方は一体何!? どうやったら上半身ぶれずにそんなスピード出せるのよ!? しかも足の動きは見えないし、なんか気持ち悪いわ!」

「努力のたまもの。そして気持ち悪いとは失敬な。この素敵走りは無駄に洗練された無駄のない無駄な技術を結集したものだというのに、それが分からんとは……やはり年増にはこのセンスが分からんらしい」

「殺すぞ」

「申し訳ありません」

 

 隣を並走するノジコなるおねーさんからものすごい殺気を向けられたので即座に訂正した。

 それはともかく、魚人とのリアル鬼ごっこが始まってから、かれこれ十五分程経った。かなりしつこく追ってくるため、中々撒くことが出来ない。

 これ以上やっても不毛なだけなので、その場でブレーキを掛けて立ち止まる。

 

「追われるのも飽きてきたので、そろそろ吾輩の真の力を解放するとしよう。ノジコ、遺書の用意はできてるか?」

「できてる訳あるか! 真の力はどうした!? 勝算があるんじゃなかったの!?」

「勝算などある訳ないだろう常考。おれ10歳児。戦闘能力皆無なおれが魚人に勝つなぞ逆立ちしても無理。でも逃げ切ることはできるよ!」

「どうやって?」

「こうやって。チンカラホイっと」

 

 某青狸に登場した魔法の呪文を唱えると、あら不思議。今までおれたちを追いかけていた魚人が踵を返して帰っていくではあーりませんか。

 

「何……したの?」

「イリュージョン」

 

 ドヤ顔で答えたら頭をはたかれた。解せぬ。

 

「よく分かんないけど、とりあえず助かったみたいね」

「ふっ、おれのおかげだな。感謝するがよいぞ」

「追いかけられたのもあんたのせいだけどね」

「そうだっけ? おれのログには何もないが」

「とぼけんな。あんたが魚人をおちょくったからこうなったんでしょうが」

「そんなことより腹が減ったでござる。どっかに美味い店ない?」

「人の話を聞かないガキんちょね。教えてもいいけど、あんた金持ってんの?」

「…………この世には宝払いという支払い方法が……」

「無銭飲食する気か! はあ……こうなったのも何かの縁だし、家に来な。一食ぐらいは奢ってあげる」

「なんと、飯を恵んでくれるとは。感謝っ……圧倒的感謝っ……! よっしゃ! 今夜は飲み明かすぜ!」

「あんた未成年でしょうが。酒は出しません」

「なん……だと……?」

「当たり前でしょ。ほら、行くわよ。着いてきなさい」

「承知」

 

 そうして歩き出したノジコの後に続く。

 

「あ、そういえば……あんたの名前、まだ聞いてなかったわね。何て言うの?」

「テンセー=シャと申す。ちなみに偽名です。よろしこ」

「自分から偽名だってバラす奴なんて初めて見たわ……なんか事情があるんでしょうし、深くは聞かないでおくわ。それでいいでしょ?」

「気づかい乙。しかし特に深い理由はないのだが」

「ないんかい!」

 

 真っ昼間のココヤシ村にノジコのツッコミが響き渡った。

 

 

 



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いち

 

 

 ヒマすぐる→よろしい、ならば冒険だ→

いくえ不明

 

「そんな訳でここに来ました」

「うん、よく分かった。あんたの頭の悪さが」

 

 失敬な。ノジコのおバカな子を見る目におれの怒りが有頂天。これは抗議せざるを得ない。出されたパスタをウマウマ頬張りながら文句をぶつけてみたが、

 

「たったこれだけで経緯を把握しろって無茶すぎるでしょ。バカなの? 死ぬの?」

 

 容赦ないもの言いにおれの心は深い悲しみに包まれた。慰めを要求する。

 

「うるさい。で、本当のところはどうなの?」

 

 要求は無視されたようだ。しかしこのままでは話が進まないのも事実。仕方ない、ちゃんと話すとしよう。

 

「どうも何も言った通りザマス。ヒマすぎてついつい知り合いの船に潜入。そのまま航海して辿り着いた島に上陸。一人で探検してたらそのまま置いてかれた。まあ、向こうはおれが船に乗ってたこと知らなかったから仕方ないけど。そんで適当に旅してたらこの村に着いた」

「あんた絶対ただの10歳児じゃないでしょ……。じゃあ次、魚人に絡まれてた理由は?」

「この島から出る船がないことに気づいたので話を聞いていた次第。素敵な顔色ですね、刺身にして醤油かけたら美味しそうと褒め称えたところ、何故か怒り心頭に殴りかかってきた。襲われた理由がさっぱりんぐ」

「あたしはあんたの頭の悪さに脱帽した」

 

 顔をしかめながら頭を抱えるノジコ。

 

「頭痛か? 鍛え方が足りんな未熟者め」

「あんたのせいだ、あんたの!」

「いつの間にか犯人にされていた。これが孔明の罠……!」

「あんたが何を言っているのかさっぱりわからない」

「おれも詳しくは知らぬ。知らないうちに口をついて出る模様。それより何で陸に魚人がいんの?」

「…………長い話になるよ」

「じゃあいいや。パスタお代わり」

 

 無言でガッされた。

 

「聞きなさいよ。今のはこの島の過去を語る流れでしょうが」

「暗すぎる過去話なんて誰得な話を聞いたところで、おれに出来ることは何もないし、興味もない。それよりもっとパスタ食いたい」

「あんたって本当に……。はあ、ここまで図々しい子供も珍しい気がするわ」

「褒めんなよ」

「照れるなよ」

 

 あれこれ言いながらもお代わりをよそってくれたので、お礼を言って受け取り、食事を再開する。

 そして数分後、空になった皿の前で手を合わせる。

 

「ごっそさん。美味でござんした」

「お粗末様」

 

 おれより先に食い終わってたノジコが皿を下げる。

 

「片付け手伝うってばよ。世話になりっぱなしで悪いし」

「そう? じゃあお皿洗っといてくれる? あたしはその間にみかんの収穫してくるから」

「お安いご用だっぜ! 街の皿洗い大会ベスト64の力を見せてやる」

「微妙な順位ね……」

 

 若干不安そうにしながらも籠を背負って畑に出掛けていくノジコ。どうやらある程度は信頼されている様子。

 黙々と皿洗いすること数分、二人分しかないことも手伝って早々に終わってしまい、手持ち無沙汰になってしまった。

 

「仕方ない。島を散策するか」

「あんたはここで大人しくしてな」

 

 島を散歩しようとwktkしながら家を出ようとしたらノジコに止められた。

 もうみかんの収穫終わったのか? 早くね?

 

「あんたが心配で様子見に一度中断したの。案の定だったわね」

「そこまで心配されるとは……これはノジコにフラグが立った模様。しかし、この歳の差はマズイ気が……モテる男はツラいぜ」

「意味は知らないけど不快なことを言ってるのはよく分かったわ。それとあたしが心配してたのはあんたが何かしでかさないかどうかだっての」

 

 グリグリ攻撃されたので撤回しておく。さすが嵐を呼ぶ5歳児をも黙らせる技。かなり痛かったと明記しておく。

 

「あんだけ魚人を怒らせたんだ。今出てったら何されるか分かんないでしょうが」

「え~……じゃあ仕方ない。自宅警備員しながら天井の木目でも数えてる」

「なんて意味のない行動。てかここはあんたの自宅じゃないし。それよりヒマならみかんの収穫手伝ってくれない? すぐに切り上げてきたからまだ途中なのよ」

「いいだろう。では行こうか蜜柑王。籠の容量は十分か?」

「誰が蜜柑王か。あんた度々変な口調になるわよね」

「生まれた時からこうみたいです。それより収穫ってどーやんの?」

「見せてあげるからついてきなさい。余計なことするんじゃないよ」

「おれがいつ余計なことをした?」

「会った時からずっとしてるわね」

「マジか」

「マジよ」

 

 初耳です。

 随分と高性能な耳ね。

 

 そんなこんなでみかん収穫して過ごしました まる

 

 

 



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 行く宛もないのでノジコの家に世話になることになった。

 現在夕食中。シチューうまかっ、です。

 

「ふーん。アーロン一味ねぇ……」

 

 とりあえず島の現状だけは聞いておいた。何やらこの島は8年前からアーロン一味という魚人の海賊団に支配されているらしい。

 

「海中に生息するくせにお金を要求するとかイミフ。店で食い物買うわけでもないのに何に使うんだろね」

「国を作ろうとしてんのさ。東の海をまるごと魚人の帝国にするつもりなんだ。奉具はそのための資金らしい」

「それこそ余計にわからん。魚人が人間を力で支配するのにお金は必要ないだろ。ぶっちゃけそいつらの野望は夢物語。人間より圧倒的に数の劣る魚人が東の海を丸々支配するとかどう考えても無理ゲー。数の暴力はバカにならんよ」

「あんたは魚人の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるのよ」

「かもしらんね。まあ、本気でまるごと支配を考えてるなら、奉具の使い道は十中八九海軍への賄賂か。手の回らない地域を支配、かつ本部に連絡がいかないようにするために金で支部を買収する心算にちまいない。海軍本部に来られたらさすがに魚人たちもたまったもんじゃないだろうし」

「なっ……!」

「そもそも8年前から高額賞金首がうろついてると分かってる島に海軍が攻め込まない理由がないし、いくら本部が忙しいと言っても、視察に来た本部の船についでにアーロン捕らえろって命令があってもおかしくない。それがないってことはつまり、ここの海軍がアーロンからうまい汁啜ってるのは確定的に明らか」

「嘘でしょ……仮にも海軍がそんな事を……」

 

 何やらショックを受けた様子のノジコだが、これくらいの事なら別のとこでもやってる海軍はいる。しかし、どうするか。告げ口しようにも連絡手段がにぃ。さすがにお手上げ状態である。

 

「おろ?」

 

 そうして、あれこれどうするか考えていたら、ふいに頭の中にいくつかの映像が浮かんで来た。

 おお、久しぶりだな、これ……

 

「まあ、でも大丈夫じゃね? 麦わら帽子被ったゴム人間が助けてくれるって」

「何よそれ」

「や、たまーに見覚えのない光景がふっと頭に浮かぶんだよね。一種の未来予知? それでキザっ鼻がぶっとばされんの見た。ただし、今んとこの的中率は不明」

 

 つい今しがた頭に浮かんだ光景をノジコに話す。多分ここでの出来事で間違いないはず。村で見かけた風車のおっさんがちらっと見えたし。

 

「………………ぷっ、それ本気で言ってる?」

 

 正直に言ったんだが、嘘だと思われたようだ。しかし先程より雰囲気は明るくなった様子。

 

「そういやあんた、家族は? 心配してるんじゃないの?」

「ばあちゃんが一人いるが、大丈夫だと思う。おれがいなくなるのは割りと日常茶飯事だし」

「こんな孫を持ったおばあさんが気の毒すぎる……まあ、あんたは危険な目に巻き込まれてもけろっとしてそうだから確かに心配は要らないのかもしれないけど……」

「ん。何よりばあちゃん、おれのビブルカード持ってるから生死の確認はできてる筈」

「ビブルカード?」

「詳しくは知らんけど、持ち主の居場所の大まかな方角を教えてくれる不思議アイテム。命の紙とかいう厨二な別名がついている。何故か持ち主が死にそうになると焦げるらしい」

「つまりそれがあれば安否は確認できるって訳ね」

「そゆこと。てな訳で家族の心配はしなくてもよいかと」

 

 ノジコも納得したようなのでこの話は打ちきり。シチューの残りをかっこむ。美味しゅうございました。

 夕食を終え、食器も片付け終わるとすることがなくなる。

 

「元々ヒマ潰しのために家を出たというのに、出た先でヒマをもて余しているとはどういうことか」

「そんなにヒマなら寝れば?」

「その発想はなかった。しかし食べてすぐ寝ると牛になるという呪いが……」

「太るだけでしょ」

 

 太るのも嫌なのでまだ起きることにする。

 結局ノジコとしばらく雑談した後、就寝した。久しぶりにフカフカのベッドで寝れたので朝までぐっすりでした。

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 という間に一週間が過ぎた。何となく居心地がいいので住み着いてしまっている。まあ、この島から出る手段がないのもあるが。

 さすがにいつまでもヒモでいるのは心苦しいので、魚を釣って家計の足しにしている次第。

 

「どうだい、釣れてるかね?」

「んー?」

 

 今日も今日とて、朝っぱらから崖に腰かけて釣糸を垂らしていると、ふいに声をかけられたので振り返る。

 そこには最近仲良くなった、警官帽に風車を刺したおっちゃんが。

 

「ゲンゾウのおっちゃんか。まあ、ボチボチかな」

「そうかい」

「おお。さっき魚人が釣れたんだけどな、不味そうだったんでリリースした」

「ブーッ!」

 

 先程釣った大物の話をしてみたらおっちゃんが吹いた。きちゃないな。

 

「なっ、なななな……っ」

「おっちゃんが壊れたようです。斜め四十五度で叩けば直るやも」

「壊れてないわっ!」

 

 どうやら叩く前に復活した模様。で、どしたん?

 

「いや、ノジコの奴に頼まれてな。ほれ、差し入れだ。朝食も食べずにここに来たのだろう?」

「あ、忘れてた。感謝感激雨あられ。お礼に魚人の釣り方を教えてしんぜよう」

「そんな心臓に悪い釣り技術はいらんよ。それにしても、ノジコの言った通り本当に変な子供だな、お前は」

「ふっ、照れるぜ」

「誉めてないのだが」

 

 結局おっちゃんは差し入れを届けに来ただけのようで、すぐに帰っていった。おれは帰ってもヒマなだけなので、籠の容量が一杯になるまでは続けることにする。そうこうしているうちに釣竿に反応が。

 

「おっ、かかったかかった。今度は何が釣れるやら」

 

 一気に引き上げる。

 牛が釣れた。

 ココヤシ村は今日もいい天気である。

 

 

 



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さん

 

「誰よあんた」

「そちらこそ、どちら様で候」

 

 釣りから帰って来たが、ノジコはみかんの収穫のためにいなかったので、一人寂しくズンドコ節を熱唱していたところ、オレンジ髪の女がノックもなく入り込んできた。しかもかなり機嫌が悪いと見える。

 

「ここ、あたしん家なんだけど」

「把握。なるほど、あなたがベルメールさんですね、お邪魔してます。しかしまさか化けて出るとは。これはノジコに知らせてやらねば」

「誰が幽霊か! 私はナミよ! ベルメールさんの事まで聞いてんのなら予想つくでしょ!」

「あいにくだが、おれのログには何もない。おれからすれば空き巣に入った怪しい人物でしかない。シチュから見て襲われるのは明らかにおれ。お巡りさん、こいつです」

「私からしたらあんたの方がよっぽど怪しいんだけど!?」

「そうカッカすんなって。体に悪いぞ?」

「あんたのせいでしょうが! ああ、イライラする……何でこの私がこんな奴に振り回されてるのよ……」

「坊やだからさ」

「あんたの方がガキでしょ!」

「そう言う奴ほど中身がガキなのがテンプレ。ほれ、飴ちゃんあげようか?」

「子供に殺意を覚えたのはこれが初めてだわ……」

 

 殺されるのは勘弁なのでローリング土下座で謝罪する。怒りは収まったようだが、おれのローリング土下座が引かれていたのは何故だ。

 

「あらナミ。あんた帰ってきてたの?」

「ノジコ……」

 

 落ち着いたところでノジコが帰宅。みかんの収穫が一段落して戻ってきたとのこと。

 

「で、結局こいつ誰なの?」

 

 少し落ち着いたところで改めてナミがノジコに尋ねた。

 

「ちょっと前に魚人に追われてたところを拾ったのよ。名前は……何だったっけ」

「知らないの!?」

「本名を教えた覚えはないな」

「特に必要性も感じなかったしねぇ」

 

 ハハハ、と笑い合っているおれたちに、ナミはついていけねえとばかりに頭を抱えて蹲る。

 

「そんな訳で、ちょっと前からこの家でお世話になってます、モブ太です。よろしく」

「モブ太? 変な名前ね」

「それ偽名でしょ」

「よく分かったな」

 

 ナミは偽名に気づいてなかったが、ノジコは普通に見破ってた。おのれ、腕をあげたなノジコ。そしてナミは青筋を立てている。短気なやっちゃ。

 

「毎日あんたの相手してれば嫌でも分かるわよ」

「なるほど、おれの言動に慣れてきたと。ならばもっとはっちゃけても構いませんねっ」

「構うわドアホ。これ以上はさすがに対応しきれんわ」

「はっ、それくらいで音を上げるとは。You still have lots more to work on(まだまだだね)」

「生意気なことを言うのはこの口か」

 

 ほっぺを縦縦横横に引っ張られた。痛いでござる。てかよく伸びるなおれの頬。それを呆れた様子で見つめるナミ。

 

「ずいぶん仲良いわね……」

「そう? まあ確かにこいつが来てから退屈はしてないけどね」

「おれはわりと暇してるけど。でもここの食事に餌付けされて離れられないでござる。あ、メシと言えば忘れてた。ノジコ、これさっき釣ってきたやつ」

 

 お仕置きから逃れ、バケツに入った本日の戦果をノジコに渡す。

 

「へえ、結構釣ってきたじゃない。あんた釣りの才能あるかもね」

「中々釣れる穴場見っけた。ただ、少し惜しいの逃がしたんだよな。海で釣れる牛なんて珍しかったのに」

「牛?」

「なんかでっかい牛が釣れたんだ。鼻に輪っかあったから誰かのペットだと思ってそのまま泣く泣くリリースしたけど」

「それ……アーロンとこの海牛のモームじゃ……」

「何ですと!? それならおれが食っちまっても誰も文句言わないよな? よし、早速釣ってくるっぜ! 今夜はステーキだ!」

「「やめい!」」

 

 釣竿片手に張り切って出かけようとしたらノジコとナミに揃って止められた。解せぬ。

 

 

 

 




とりあえず、これで打ち止めです。続くかどうかは評判次第。


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よん

 今話を始める前に言っておく! おれはちょっぴりだが作者の陰謀を体験した!
 い、いや……体験したと言うよりは全く理解を越えていたのだが……
 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
 ちょっと散歩に行って帰ってきたら、何故か村人たちが魚人の支配から解放された喜びの宴を開いていた。
 な、何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……
 頭がどうにかなりそうだった……
 場面転換だとか視点切替だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 結論:いつの間にかアーロンパークが崩壊していたらしい。仮にもこの小説の主人公のおれが原作に全く関わらないってどうよ?

 メタ発言だらけの前書きでした。それではスタートです。
 て、手抜きじゃないですよ? 本当ですよ?
 真面目なシーンが書けない訳じゃないですからっ!
 今回はちょっぴりシリアスな場面のある話です。




 よくわからんが、有限会社アーロン商事が倒産したらしい。なんでも多額の借金を抱えていて、借金の取り立て屋に会社を物理的に潰されたのだとか。取り立て屋スゲー。

 それにともない、巻き上げられていた地上げ料も帰ってきたらしい。ふむ、ハッピーエンドってやつですな。

 みなさん大喜びで宴を開き、どんちゃん騒ぎをくり広げています。

 

「そして現在、時刻は0時。夜中になってもまだ宴はヒートアップしていっています」

「誰に説明してんのよ」

「三次元の方々」

「?」

 

 ノジコが訳わからんといった顔をしている。当然だな、おれも口をついて出ただけで意味はわからんし。

 

「それじゃ、少し盛り上げてきますか。見よ、おれの一発芸! アーロンのものまね!」

「やめんか!」

 

 ノジコにはたかれた。実に痛い。

 

「よく考えたらおれ、実物のアーロン見たことなかったわ」

「ああ、そういえば昼の騒ぎにもいなかったもんね、あんた」

「知らない間に全部終わってて悔しかったとです」

「あんたがあの場にいたら絶対ロクな事にならなかっただろうし、むしろ助かったわ」

「失敬な! いくらおれでもTPOはわきまえているぞ!」

「じゃあ魚人が倒れてたら?」

「魚拓取る」

「それ見たことか」

「くそっ、ノジコめ! こんな屈辱は初めてだ!」

 

 閑話休題

 

「そろそろノジコと話すのも飽きてきたんで、ゲンゾウのおっちゃんでもからかってくるわ」

「はいはい、いってらっしゃい」

「なっ、ノジコがツッコまない……だと? どうしたノジコ、病気か?」

「あんたにいちいちツッコんでたらこっちの気力が持たないってようやく気づいたのよ」

「なん……だと……」

「いや、何でそんなショック受けてるのよ」

「……そっ……か。そう、だよな……おれ、ノジコに迷惑かけてたよな……おれのせいでノジコに負担がかかるなら、おれは……」

 

 とぼとぼと肩を落とし、ノジコから離れる、離れる、離れる……

 ちらっ、

 

「いや、バレバレだから」

「ですよねー」

 

 さすがノジコ。同情を誘う作戦は通じなかったようだ。

 

「ったく、心にもないことを」

「ふひひ、サーセン」

「気持ち悪いからその笑い方やめなさい」

「ノジコの辛辣さに全おれが泣いた」

 

 悲しかったのでふて寝した。嘘です。もう夜遅かったのでフツーに寝ました。

 おれ10歳児。さすがに睡魔には勝てません。ぐー。

 

 

 

 

 その後幾日かが過ぎ、麦わらさんたちの出発の朝がやって来た。

 村人たちは総出で麦わらさんたちの見送りに来ている。

 話を聞くに、当のナミは今まで盗んできた1億を村に置いてくらしい。ならおれにくれ、と言ってみたが、返ってきたのは拳骨だった。

 そろそろ出港の時間が迫ってくる。遅いな、と麦わらさんたちがぼやいていると、ようやくナミが姿を表した。おれたちの後方、船から一直線上にある道の上。

 

「船を出して!」

「えっ、第一声がそれ?」

 

 おれのツッコミはむなしく宙に消え、ナミは全速力で船に向かってダッシュする。

 麦わらさんたちは戸惑いながらも錨を上げて、帆を張り、船を出す。

 お礼参り……間違えた、お礼も言わせずに立ち去るなど許さんとおっちゃんらがナミを止めようとするも、するするとスっていきながらナミはおっちゃんバリケードを抜け、船に向かってアイキャンフラーイ!

 見事に着地したナミは、懐からバサバサと財布を甲板に落とす。

 

「みんな、元気でね♥」

「や、やりやがったあのガキャーーッ!!」

 

 諭吉……あ、違った、一万ベリー片手に笑うナミに、おっちゃんらの怒りが有頂天。ノジコもさり気に盗られていた模様。

 みんなナミに向かって怒鳴り付けるも、徐々に内容が変化していく。

 

「いつでも帰ってこいコラァ!」

「元気でやれよ!」

「お前ら感謝してるぞォ!」

 

 ではおれも一言。

 

「バルス!」

「そんな物騒な単語叫ぶな!」

 

 ノジコにしばかれた。

 そして一通り叫び終わると、みんなして地面に座り込む。なんだかんだ言って楽しく別れたようだ。

 

「んじゃ、そろそろおれも帰りますわ」

「……………」

 

 言うと同時におれの体が透けていく。村のみんながざわめきだすが、ノジコが手で制すると、即座に静まった。

 

「行くんだね」

「まあ、そろそろ帰んないと、ばーちゃんに迷惑かかるしな。楽しかったぜ」

「こっちは気の休まる暇もなかったよ」

「HAHAHA! 子供ができたらそんなもんだ。ノジコも早くいい人見つけないと嫁き遅れるぞ」

「余計なお世話だよ!」

 

 そろそろ時間だな。

 

「んじゃ、また遊びに来るわ」

「…………いつでも待ってる。楽しくやれよ、バカ弟」

「! おう!」

 

 そして、おれは自身の体を消した。

 

 




シリア……ス?


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えぴろーぐ

今回はほぼノジコさん視点です。


 

 

「ふう……」

 

 宣言通り、あいつは文字通り、あたしたちの前から消えた。事前に聞いてはいたけど、本当デタラメよね。

 

「ノ、ノジコ……今のは一体……」

「いきなり消えちまったぞ!」

「まさか、幽霊か何かか!?」

 

 何が起こったか理解できていないゲンさんたちがざわめきたつ。ま、それも仕方ないけど。

 

「違うわよ。あの子は人間。ちょっと手品ができるだけの、ね。今ごろは海の上よ」

「しかし、あれは手品なんてレベルじゃ……」

「悪魔の実の能力らしいわよ。詳しくは知らないけど」

「あ、あの子も能力者だったのか!」

「そういうこと」

 

 麦わらといい、あいつといい、能力者は変人ばかりなのかしら。

 

「よかったのか?」

「……何が?」

「何がって、アーロンが来て以来、あんなに楽しそうにしてたお前は初めて見たぞ。それなのに……」

「いいのよ」

 

 ため息ひとつ吐いて、立ち上がる。

 

「あの子には家族がいる。帰るべき家がある。こんな所にいつまでもいる訳にはいかないでしょ」

「ノジコ、お前……」

 

 ゲンさんからの視線を振り切るように、あたしはその場を立ち去ろうと歩き出す。

 

「ノジコ、どこへ?」

「帰る」

 

 なんだろう。胸がポッカリ空いたような気がする。

 

「らしくないわね、同居人が一人いなくなっただけで、こんな気分になるなんて」

 

 沈んだ気分のまま、帰宅すると、テーブルの上に一通の手紙が置いてあるのに気づいた。

 これ、あいつが……?

 封を切り、便箋を広げる。

 

『よう、もしかして寂しくて泣いてるぅ? もう、ノジコちゃんったらかわいいところもあるじゃ……』

 グシャ

 

 思わず手紙を握りつぶしてしまった。けど、あたしは悪くない。

 

「あれ? もう一通……」

 

 一通目の下にもう一通の手紙があるのに気づいた。

 

『おれの秘蔵のせんべえは二番目の棚にしまってあります。食べちゃっていいよ』

 

「もうちょっと他に書くことあるでしょうが」

 

 最後の最後まで相変わらずな元同居人に、思わず苦笑がこぼれる。

 沈んでいたはずの気分は、いつの間にか元に戻っていた。

 あいつがここで過ごしたのはほんの一週間だったけど、もっと長い間一緒にいたような気がする。

 突然現れて、魚人に追いかけられてるところを助けて……

 なんか流れでウチに住むことになって……

 四六時中ボケ続けて、それにあたしがツッコんで……

 ゲンさんや村のみんなをおちょくっているのをシバいて……

 

「よくよく思い出してみると、ほとんどの時間、あいつに振り回されてたわね」

 

 思えば、誰かと一緒に気兼ねなくご飯を食べたりしたのは、ベルメールさんが死んで以来だった。

 こうして静かになった家にいると、まるであの日々が幻のようだけど……確かにあいつはここにいた。

 

「あたしも楽しかったよ、あんたと過ごした日々は……」

 

 手紙を机の引き出しにしまい、収穫用の籠を持って外に出る。

 

「さーて、今日も元気に仕事しますか!」

 

 今度会ったときに辛気くさい顔してたら、あいつに笑われちゃうしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ゴーイング・メリー号の甲板にて、

 

「これ、何かしら」

「あっ」

 

 オレンジ髪の女によってダンボールが取り払われる。

 バカなっ、かの有名な蛇男御用達のスニーキングアイテムがこうも簡単に!?

 こやつ、できる……!

 

「あ、ああああああんた!?」

「どうも、この度、麦わらの一味の捕虜として乗船させていただきました。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 おれたちの冒険はまだまだ続くっぜ!

 

 

 

 




 はい、という訳で、ひとまずここで終わります。
 まさか、原作主人公が一言も喋らずに終了するとは想定していなかった。てか、ノジコさんとゲンさん、ついでにナミぐらいしか喋ってねえ……
 まあ、リハビリ作品らしく、無駄に広げずにパパっと終わらせました。これからは本命の作品の構成に戻りたいと思います。
 もしかしたらこの作品も続けるかもしれませんが、その時はここまでの話を序章。次からを一章という形にすると思います。
 それでは皆様ごきげんよう。


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第一章
One


前章のあらすじ

・逃げるんだよぉ!
・ヒモ化
・フィーッシュ!
・ナミアミダブツ
・バルス!
・こちらスネーク、敵に発見された←今ココ




 

 どうも、主人公です。ただいま、麦わらの一味の船の上で尋問されています。

 まったく、密航くらいで大袈裟な。

 四方を麦わらの一味一行に囲まれる中、一味内で唯一おれと面識のあるナミが話を切り出した。

 

「何であんたがこの船にいるのよ!?」

 

 バン、と机を叩きながらナミが詰め寄ってくる。その表情には苛立ちがありありと見える。

 ふむ、何て言おうか。適当でいいか。

 

「そんなの決まっているだろう。ナミ、君に会いたかったからさ( ・`д・´)キリッ」

「あんたねえ……」

「ナミさんに色目使ってんじゃねえクソガキ!」

 

 決め顔で事情を説明したところ、何故突然かぐるぐる眉毛の黒スーツ男が因縁つけてきた。

 すごい剣幕だ。命は惜しいので、ここは素直に弁明しておくとしよう。

 

「まさか、天下のナミさんに向かって色目なんて使うわけないじゃないデスか」

「そうよ、サンジくん。こいつまだ10歳よ? 今のは単に――」

「バカにしてんですよ」

「殴るわよあんた!」

「サーセン」

 

 たんこぶ作るのは嫌なので、謝罪する。

 しかし、おれの謝罪がナミの気に障ったようで、結局殴られた。

 おのれナミめ……貴様には後で海苔が歯にくっついて離れなくなる呪いをかけてやる。

 

「なあ、お前、名前何て言うんだ?」

 

 おれがナミへの復讐を考えていると、麦わら帽子の船長さんがおれの名を尋ねてきた。

 ほほう、この私の名前が知りたいとな?

 

「そこまで言うのなら教えてやろう! 我が名はフミ=ダイ! いずれ世に現れるであろうオリシュに蹂躙される運命を背負う者だ!」

「また変な名前を……。いい加減真面目に答えなさいよ」

 

 呆れたように言うナミ。

 確かに、今までおれは真面目に本名を名乗ったことはない。ナミが先のような発言をしたのも無理はないだろう。

 だが、おれは今のナミの物言いに黙っていることはできなかった。

 

「おい、ナミ。今のはおれに対する侮辱だぞ」

「え?」

「例え世間一般では変だとされるような名前でも、そいつにとっては親からもらったたった一つの大切な名前なんだ。それを変だと嘲笑って、恥ずかしくないのか」

「そ、それは……」

「名前には一つ一つに意味が込められてんだ。それをバカにするのは、人として最低の行いだぞ……!!」

「ご、ごめん……私が間違ってた。そうよね、少し変わってても、本人にとっては大切な――」

「まあ、今回のも偽名なんだが」

「いい加減ぶっとばすわよ、あんた!!」

 

 殴ってから言っても遅いです。拳を振りきった状態で怒りを表すナミを白い目で見つめる。もっとも……

 

「ナミよ、いつからおれを殴ったと錯覚していた?」

「え? キャー、ウソップ!?」

「どうなってやがる……」

「ああ、確かにナミさんの拳はあのガキの顔を捉えて――」

「おい、しっかりしろウソップ! ナミ、お前なんて事を!」

「私のせいじゃない、私のせいじゃない!」

 

 騒ぎの中心には、顔を陥没させた長鼻さんが倒れていた。

 そう、ナミが殴ったのはおれではなく長鼻さんだったのだ!

 なんてひどい女だ。自分の仲間を腹いせに殴るとは……

 おれは長鼻さんの元まで近づき、容態を見る。

 っ、これはひどい……

 

「おい、しっかりせい工藤! アカン、手遅れや……もう、脈が……くっ、惜しい奴を亡くしたで」

「いや死んでねえし、工藤って誰だよ!」

「あ、復活した」

 

 それならもう用済みだ。放置で。

 

「うぉい!」

「ああ、そうそう。お土産持ってきたんだ」

 

 無視するな、と騒ぐ長鼻さんをスルーしつつ、麦わらさんに1枚の紙を手渡す。

 それを受け取った麦わらさんは、目を輝かせた。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

 他のクルーたちも気になったのか、麦わらさんの持つ紙を覗き込んでくる。と同時に、目を見開いた。

 

「えっ」

「おいおい」

「こいつぁ……」

「マジかよ!?」

 

 みなさんその紙の内容に驚いてらっしゃるご様子。

 

「そう、これはデッドオアアライブのお尋ね者の張り紙。つまり、麦わらさんは何と3千万ベリーの賞金首になったんだよ!」

「な、なんだってー!?」

 

 一斉に驚きの声をあげる麦わらさんたち一行。わりとノリいいですね。

 

 

 




気分転換に投稿。ダンまちのと比べて短いから楽です。
超不定期更新なのでご注意を。
もう1話分だけ投稿します。


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Two

今回はここで打ち止め。
続きはいつになるかわかりません。
気が向いたら投稿します。


 

「改めまして、タダ・NO・コドモです。捕虜という名目でこの船に乗船させていただきました。短い間ですが、どうぞよろしくオナシャス」

「おう! よろしくな、コドモ!」

「「ちょい待てい!」」

 

 おれの自己紹介に対してにこやかに返してきた麦わらさんは、ナミと長鼻さんからのツッコミを食らっていた。

 

「明らかに無視しちゃなんねーとこがあんだろうが! 捕虜ってなんだ捕虜って!」

「それにどう考えても今の名前も偽名に決まってるでしょうが! 何がただの子供よ! あんたほど変わった子供は世界中探してもいないっての!」

「? こいつ、自分でコドモだって名乗ってたじゃねえか」

「だからそれは嘘なの、う・そ!」

「何ー!? 嘘なのか!?」

 

 うん、ナミたちがツッコんでくれて助かった。麦わらさん、あんた純粋すぎだよ。心が痛ぇ……

 

「ナミさん、こいつ本当に何者なんだ? ナミさんと知り合いみたいだが……」

 

 この状況を見かねたのか、ぐる眉さんが尋ねた。

 

「私にもよくわかんないのよ。わかってるのは、こいつの頭がおかしいことと、少し前からノジコと一緒に暮らしてたらしいってことだけ」

「異議あり! おれは頭おかしくなんかありませーん!」

「ぬぁあにぃいいい!? おのれクソガキ、ナミさんだけじゃ飽き足らず、お姉様まで手込めにしようってか!?」

「聞いてよ」

 

 おれの主張が無視されたばかりか、理不尽な怒りまで向けられ、おれの寿命がストレスでマッハ。

 このままでは、余命幾ばくもないか。

 ばあちゃん、今そこに行くぜ……ってばあちゃん死んでなかったわ。

 いかん、すでに思考がズレかけている。

 自分の集中力のなさに戦慄した。

 

「少し黙ってろクソコック。話が進まねえ」

「誰がクソコックだこのマリモ野郎!」

 

 売り言葉に買い言葉で即ケンカに発展するマリモさんとぐる眉さん。

 目にも止まらぬ早さで抜刀し、切りかかるマリモさんに、ぐる眉さんも負けじと反撃。鋭い蹴りがマリモさんに襲いかかる。

 二人の実力は伯仲しており、次第に激しさを増していく。

 それでいて周囲には被害を与えていないのがすごい。

 それにしても……

 

「ケンカするほど仲がいい、ですね。わかります」

「「誰がこんなやつと! って真似すんじゃねえ!」」

 

 二人揃って反論した。全く同じタイミングだ。

 やっぱり仲いいじゃないですか。

 

 

 

 

 その後、ナミの怒りが爆発し、場を(物理的に)収め、おれへの質問タイムに戻った。

 

「で、本当のところ、どうしてこの船に便乗してきたの?」

 

 心底疲れた顔で、しかし、嘘は許さないといった目で問われた。

 さすがに不憫に思えてきたので、正直に答えてやる。

 

「いや、そろそろ家に帰ろうかと思ってさ。知り合いの当てがあるローグタウンまで乗せてってもらおうかと思って」

「何で行き先がローグタウンだって……ううん、偉大なる航路に入るにはどっちにしろ近くまで寄る予定の街だったし、やろうと思えば予測はできるわね」

「いや、無理矢理にでも連れてってもらうつもりだったぞ? お前らの予定とか知らんし」

「あんたは慎ましさってものを学びなさい……!」

 

 ナミの手がおれに向かって伸びてくる。

 

「な、なにをするだぁー!?」

「ふん!」

 

 ナミのアイアンクロー! こうかは ばつぐんだ!

 

「痛いジャマイカ」

「全く痛そうに見えないのがムカつくんだけど……」

「てへぺろ」

「かわいくないからやめなさい」

 

 失敬な! おれのプリティーフェイスを侮辱するとは。

 

「おのれナミめ、許すまじ。貴様には後で、みかんの汁が目に入る呪いをかけてやる」

「やめいっ!」

 

 拳骨が下った。痛かです。

 

 



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Three

一年以上空いてしまった。超不定期更新の名に違わず久しぶりの投稿です。例に漏れず短いですが、よければ読んでやってください。
ちなみに、まだ続きは書いてません。


 

 なんやかんやあって、乗せてもらえる事になりました。ただし、乗船するからにはしっかり働いてもらうとナミから釘を刺された。

 ふむ、乗せてもらっているという立場上、逆らうことはできない。

 俺にできることといえば……

 ティンと来た。

 おれはメガホン片手に甲板に立った。

 

「フハハハハ! さあ下僕達よ! 我が手となり足となり働くがいい!」

「(自称)捕虜のくせして何ふんぞり返ってるのよあんたは!」

「やたら偉そうに指示を出すくせして自分は何もしないダメ上司のモノマネで場を和ませてみました」

「和むどころか苛立ちしか沸かんわ!」

 

 キレたナミが後ろから拳を落としてきた。

 いい加減こういった展開も慣れてきたので避けてみる。見事なスウェーで回避に成功。

 空振った体勢のまま、プルプルと体を震わせるナミを鼻で笑ってみた。

 

「………………」

「ちょっ……待っ……やめ……!!」

 

 癪に障ったのか無言でボコボコにされた。

 

 

 

 

「たん瘤できたでござる」

 

 呆れた目でその様子を眺めていた長鼻さんに被害状況を報告する。

 

「おめえも懲りねえよな~」

「ナミで遊ぶのは最早日課なので」

「また殴られんぞ、おい」

「どこぞの業界ではご褒美だそうですよ。どう、興味ある?」

「心底関わりたくねえよ、そんな業界」

「残念。いい羊ができると思ったのに」

「生け贄にする気か!!」

 

 いやー、いつ見ても長鼻さんのツッコミは惚れ惚れするね。キレが違うよ、キレが。

 

「というか、本当にお前って謎な存在だよな」

「ミステリアスな男はモテると聞いたもので」

「いや、妙ちきりんではあるがカッコよくはないぞ、決して」

 

 なん……だと……?

 

「いや、何でそんなショック受けた顔してんだよ」

「自分では美少年だと思っていたもので。けど、少なくとも長鼻さんよりはモテると断言できます。ぷっ」

「喧嘩売ってんのかコラァ!」

 

 キレられそうなので素直に謝る。長鼻さんも子供相手にムキになるほどではないらしく、すぐに頭を冷やした。

 

「ところで、何でうちの船に……海賊船なんかに乗ったんだ? 聞いた限りじゃ、海賊志望って訳でもねえだろうに」

「いい暇潰しになりそうだったからですが、何か?」

 

 馬鹿を見る目を向けられた。解せぬ。これは抗議せざるを得ない。

 

「いや、暇潰しのために海賊船に潜入するとか馬鹿以外やらねーだろ」

「元々暇潰しのために旅に出たので間違ってはいないとおれの灰色の脳細胞が告げている」

「間違いなく誤作動起こしてるぞ、お前の脳みそ」

 

 結局見返すことはできなかった。

 

「そういやおめー、ココヤシ村の住人じゃねーんだよな。どこから来たんだ? やっぱりローグタウンか?」

「うんにゃ、聖地マリージョア」

「へー…………はぁ!?」

「嘘でござる」

「おい!」

「本当はマリンフォードです」

「どっちにしろヤベェよ!」

 

 何をそんな大げさな。海軍本部がある町出身なことぐらい、大したことないでしょうに。

 

「おいおいおい、何かヤベェの乗せちまったんじゃねえのか……?」

「気にしなくていいんじゃない? 麦わらさんだって海軍の英雄とか呼ばれてるガープのじーさんの孫なんだし」

「それもそっかぁ……って何だとぉ!?」

「だからさらに別の海軍将校の孫が海賊船に乗ってたって問題ないない」

「今すぐこいつを船から降ろせー! 危険だぁー!!」

 

 長鼻さんの絶叫が船上に木霊した。

 

 



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Four

なんか書けたので投稿。
一日だけだけど、日間ランキングに載ってました。お気に入りが倍に増えてびびってます。例のごとく次話の予定は未定です。


 結局、おれのことはモブ太と呼ぶことになったそうな。これは初めてナミに会った時に名乗った偽名である。

 さっき話した長鼻さんからおれの素性が一味に伝わったのか、面倒事は避けた方がいいと判断したっぽい。できるだけ周りから存在を隠して、穏便にローグタウンまで送り届ける方針らしい。

 なんか、一味の中の潜む謎の人物っぽくて厨二心をくすぐってきやがるぜ。これは仮面にマントとかの素敵ファッションの出番か!?

 なんだか胸が熱くなってきやがったぜ。

 悪目立ちしまくって出番も増し増しだー! 増し増しだー!

 いや待て、俺はもう厨二は卒業したはずだ。

 ふ、ふふ、俺自重www俺自重しろwww

 ……何て考えてる時点で厨二思考におかされているのだが。

 ま、細かいことは気にしない。今はこの得難い海賊船での航海という貴重な体験を楽しむとしよう。

 という訳で、麦わらの一味が捕虜、モブ・モブ太の提供でお送りしております。

 

「おー、ぐる眉さんの料理めちゃうまし! うーまーいーぞー!」

 

 大事なことなので2回言いました。現在船室でディナータイム。

 ぐる眉さんの料理が猛威を振るっております。うまうま。

 

「当たり前だクソガキ。おかわり食うか?」

「いただこう!」

(サンジくんが懐柔された……)

 

 料理の素直な感想を告げたら、なんかぐる眉さんの雰囲気が柔らかくなった。

 テーブルの向かい側でナミが頭を抱えている。どうした、あいつ。生理か?

 

「あんた変なこと考えてない?」

「滅相もない」

 

 真顔で否定する。

 殴られずに済んだけどジト目で睨まれました。

 なんとか誤魔化し、その後もうまーい料理を堪能した。今はデザートの時間。

 

「うまうま。ふむ、ノジコの所にいた時から食ってたが、みかん美味し。こたつがあったらパーフェクツ」

「何であんたが私のみかん食ってんのよ!」

「そこにみかんがあったから」

「登山家みたいなこと言うな!」

 

 手を伸ばすナミから逃げ回る。まったく、みかんくらいで大袈裟な。

 結局ぐる眉さんもグルになって捕まえにかかったので降参する。

 持ってたみかんは没収された。

 

「まあ、すでに三個ほど腹の中に収まっているのだが」

「え~、ずりぃーぞモブ太! なんでおれにもくんなかったんだよー!」

「だって麦わらさん騒がしいし。ワシの完璧なスニーキングに支障が出る」

「おれも食いたかったのに~」

「まったく、仕方ないなぁ麦太くんは」

 

 やれやれ、と麦わらさんにへそくりとして隠していたみかんを手渡す。

 麦わらさんが目を輝かせて受け取る。

 

「没収」

「「ああっ」」

 

 食べる前にナミに回収された。

 

「おいナミ! 横暴すぎるぞこれは!」

「そうだ、断固抗議する!」

 

 麦わらさんと二人でブー垂れるが、ナミは取り合わない。

 はあ、と一息吐いた後、振り返って言った。

 

「いい? あんた達のものは私のもの。私のものは私のものなのよ! 覚えておきなさい!」

「「「「おい、ちょっと待て」」」」

「冗談よ」

 

 目が笑ってないのだが。なんというジャアイニズム。

 

「ナミ島さんたら、あんなこと言ってますわよ。どう思いますウソ川さん」

「どー見ても目が本気でしたわよね、モブ田さん」

「まったく、ナミ島さんったら油断も隙もあったもんじゃないわ。私たちを食い物にする気よ」

「皆様もお気をつけあそばせ。骨の髄までしゃぶり尽くされるわよ」

「ナミ、いくらなんでも仲間を食うのはダメだぞ」

「そんなナミさんも素敵だぁ!」

「アンタらぁ……っ!」

 

 おばはんトークしてただけなのに拳で制圧された。

 やはり貴様一度泉に落ちて綺麗なナミになって帰ってこい。

 

「次嘗めた真似したら小遣い抜きだから」

「「「「ごめんなさい」」」」

 

 金の力は偉大だった。

 

 

 

 

 いや、待て。そもそも捕虜のおれには小遣いとか関係ないじゃん!

 ぐぬぬ……

 おのれナミめ! この闇夜に乗じてみかんを狩り尽くしてやる。

 いざ、段ボールを用意し、ミッション開始!

 瞬間、段ボールの外側から衝撃が。

 っ、バカな、動けん!?

 

「ルフィ、ウソップ、そのまま押さえてて」

「ラジャー!」

「サンジくん、テープ。念のためロープも」

「はい、ナミさん!」

「ちょっおま」

 

 捕虜から箱入り息子にジョブ変しました。

 

「おのれ裏切り者共め!」

「悪いモブ太。小遣いの元締めには逆らえなかったんだ」

「お前捕まえなきゃ、ナミが肉抜きって言うからよぉ……」

「おれは元々ナミさんの恋の奴隷だ。観念しろクソガキ」

 

 くそぅ、謀られたかっ!

 

「だが、これで終わりと思うなよ。いずれ第二、第三のおれが現れ――」

「倉庫に放り込んでおきなさい。明日には開けてあげるから」

「あー」

 

 抵抗むなしく、倉庫に放置された。

 

 

 

 

 翌朝。甲板でナミのみかんを頬張っていると、

 

「何で脱出してんのよ!?」

「第二のおれを呼び出してマリモさんに助けてもらった」

 

 マリモさん共々拳骨食らった。

 マリモさんは何で殴られたのか不思議そうだった。正直すまそ。

 

 そして、数刻後、ようやくローグタウンが見えてきた。

 




マリモさんはずっと寝てたので事情を知らずに主人公を助けてました。
そして次話はついにローグタウンへ! どうなる!?


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Five

生存報告を兼ねて。
とりあえずキリのいいところまで上げることに。
そしてまたすぐに失踪します。


 

 

「で、ローグタウンが見えてきた訳だけど、アンタはこれからどうすんの?」

 

 海賊王が処刑された町が見えてきたところで、ナミにこれからの指針を尋ねられた。

 ふむ、とりあえずは……

 

「海軍を顎で使って家に帰る」

「冗談は抜きにして本当にどうするの?」

「え、冗談じゃないけど」

「なんつー恐ろしい事しようとしてんのこのガキんちょは!?」

 

 えー、ばあちゃんの名前出してお願いすれば、大体の人は聞いてくれるんだけど。

 

「まあ、何はともあれ、色々お世話になりますた。あ、餞別はみかんいくつかもらえればそれでいいよ」

「あげないわよ。勝手に乗り込んだくせに本当に図々しいわね」

「まあ、モグモグ……もう勝手に……モグ……もらっちゃってるけど」

「返せ!」

「はい」

 

 剥いた皮を渡したらアッパー食らった。

 

「ちゃんと返したというのに何が不満だと言うのだね?」

「不満しかないわ!」

「怒ると小皺が増えるぞ」

「うっさい!」

 

 ナミの頭に角が生えたので、すたこらさっさと退散する。

 

「という訳で、ナミはもうちょっと謹み深さを身に付けてほしいと思うのですよ。あ、これうっめ」

「つまみ食いしてんじゃねえクソガキィ!」

 

 ぐる眉さんの踵落とし!

 こうかは ばつぐんだ!

 まったく、ちょっと夕食の仕込みの一部を食べたぐらいで……

 

「ひどいわっ! こんないたいけな美少年に暴力を振るうなんて……」

「気持ち悪いからその口調やめろ。つまみ食いするなら、厨房から出ていけ」

「何を言いますか。拙者はただ味見をしていただけでござるよ。うまうま」

「言ってる側から食ってんじゃねえ!」

「変わり身の術」

「ぶへぇっ!?」

「んな!? ルフィ!?」

 

 我輩同様つまみ食いしようと、こっそり皿に手を伸ばしていたしていた麦わらさんを身代わりに、厨房脱出成功。

 したのだが、結局すぐに捕まって説教されたのであまり意味はなかったです。まる

 

「おら、もう島に着くんだ。降りる支度でもしてろ」

「支度も何も、着の身着のままなんですが」

「じゃあ大人しく海でも眺めてろ」

「もう見飽きたでござる」

 

 何日も海の上にいて今さら何を見ろというのか。

 

「仕方ない、またナミで遊んでくるか」

「ナミさんを弄ぶだと! 三枚におろしてやる、そこに直れクソガキ!」

 

 何故かぐる眉さんの中で、おれはイタズラ小僧からチャラ男にクラスチェンジしているようだ。

 言いがかりにも程があるのだが、つまみ食いの時の比じゃないくらいの怒りを見せたので、トルネード土下座を披露してやった。

 ものすごいドン引きされた。解せぬ。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに船は目的地へと到着。人目につかない海岸沿いに錨を下ろした。

 

「いやー、お世話になりました。このご恩は忘れるまで忘れません」

「いや、結局忘れるんじゃねえか」

 

 さすが長鼻さん。ちゃんと拾ってくれた。これからもツッコミ道を極め続けてください。

 

「貸しにしておくわ。だから忘れるんじゃないわよ」

「わかった。いつか仇で返すよ」

「普通に返せ!」

 

 本日最後の右ストレート。

 この拳とも今日でおさらばかと思うと感慨深い。いや、そうでもなかった。痛いもんは痛いわ。

 後でドアノブをさわると必ず静電気が走る呪いをかけておこう。

 

「これでつまみ食い犯が減ると思うとせいせいするぜ」

「ぐる眉さんの料理が美味すぎるのがいけないと思うんだ」

「けっ」

「あれ? もしかして照れてるぅ? 男のツンデレなんて見苦しいだけだゾ☆」

「やっぱり三枚におろしてやろうかクソガキがぁ!!」

 

 はいはい、ツンデレツンデレ。実はぐる眉さんの料理少しくすねてきたんだが、この分だとバレてなさそうだな。ごちになりまーす!

 

「お前は色々と興味深かった。一度手合わせしてみたかったが、まだガキだしな。お前が成長するまで楽しみはとっておくことにする」

「ほほう、我に喧嘩で勝つつもりか? 自慢じゃないが、おれはカラスにも負ける程度の戦闘力しかないぞ」

「本当に自慢じゃねえな。それマジかよ」

 

 能力なしならこんなもんです。

 マリモさん、箱入り息子事件の時は、お世話になりました。お礼に感謝の舞を踊ってしんぜよう。え、ノーサンキュー? そうですか、いらないですか。

 同感です(笑)

 

「なぁモブ太、お前も一緒に海賊やろーぜ! お前すっげー面白ぇし、一緒に冒険すると楽しそうだ!」

「ふむ、確かに麦わらさん達と過ごしたこの数日は楽しい日々でござった。だが断る」

「えぇーー?」

「ほらルフィ、断られたんだから、潔く諦めなさい。というかこんな奴を仲間に入れたら、胃がやられそうだわ」

 

 麦わらさんはまだ渋っていたが、ナミに諭されて諦めてくれたようだ。

 

「それじゃ、お世話になりますた。お互い死んでなかったらまた会いまっしょい!」

「「縁起でもないこと言うな!」」

 

 こうしておれは麦わらの一味の捕虜を卒業し、モブの一人へと生まれ変わりましたとさ。

 

 

 

 




次で第1章は終わりです。
午前6時に投稿予定。


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Six

これで第1章『東の海編』(ろくに航海してねえ)は終わりです。



 モブ太は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の大佐を除かなければならぬと決意した。モブ太には軍規はわからぬ。モブ太は、齢十歳の子供である。ホラを吹き、将校をおちょくって暮らして来た。けれども正論に対しては、人一倍に敏感であった。

 

「野郎、おれを置いていきやがった」

 

 数時間前――

 街行く人に話を聞き、この街に海軍本部から来た大佐がいるという情報を手に入れたおれは、すわ3分間待ってくれる大佐か、雨の日無能な大佐かと(0゚・∀・)wktkしながら支部の扉を叩いた。

 出てきたのは、ただのヘビースモーカーだった。

 

「何だその目は? というか、何でお前がここにいる?」

 

 期待外れの展開にやれやれだぜ、と呟けば、奴のアイアンクローが我輩の顔面を陥没させた。

 相変わらず容赦がない。おれの財布の中身もない。

 

「しょうがない。ケムリンで我慢してやるから、家まで送って」

「自分で帰れ」

 

 首根っこ掴まれて外へポイされた。

 これは抗議せざるを得ない。

 

「うわーん! 海軍本部大佐のスモーカーにセクハラされたよー! まさかあの人にショタ趣味があったなん――」

「わかった! わかったから今すぐ口を閉じろォ!」

 

 快く中へ入れてもらえました。

  

「で、何でお前がここにいる?」

「本部で拳骨じーさんの船に潜入したら成り行きで」 

「相変わらずロクなことしねえな、お前」

「それほどでもある」

「誉めてねえよ」

 

 ケムリンのホワイトブロー!

 こうかは ばつぐんだ!

 

「民間人に暴力振るうなんて、いーけないんだ、いけないんだ。ばーちゃんに言ってやろ!」

「お前のそれは洒落にならないからやめろください」

 

 さすがのケムリン大佐もばーちゃんには逆らえない。まあ本気でチクるつもりもないので、話を進める。

 

「まあ、そういう訳だからおれのアッシーになってよ」

「言い方が気に食わねえが……お前をここに置いとく方がダメージでかそうだからな。折よく、数日後に本部からの視察船が来る。それに乗って帰れ」

「え、何言ってんの。ケムリンが送ってくれればいいじゃん。バカなの?」

「調子に乗るなよクソガキがぁ……!!」

「ごめんらはい」

 

 ワイのほっぺたをむんずと掴むスモーカー。

 額に浮き出た青筋がビキビキ言っててなんか面倒くさそうなので、素直に謝りました。

 

「それにしても数日後か……暇だな。ドジっ子曹長さんでもからかってくるか」

「やめてやれ。お前に会う度あいつのメンタルが削れて使い物にならなくなる」

「ふむ。おれのあまりのイケメンさにドキドキしすぎてしまったのかな?」

「はっ」

「絶許」

 

 鼻で笑ったスモーカーがムカついたので、奴の予備の煙草に水をぶっかけてやった。

 拳骨が下った。

 

「スモーカー大佐! 大変です、死刑台の広場で海賊達が騒ぎを!」

「海賊だと?」

 

 そうこうしてスモーカーをからかっている内に、海兵の人がやって来て緊急事態を報告してきた。

 

「よし、全軍を広場に向かわせるのじゃ!」

「え、ええ……?」

「勝手に指示すんなバカ。一等部隊を港へ向かわせろ。二等部隊は通りから広場を隠密包囲。残りは広場の射程距離で待機」

「そして広場の中心でぬるぽと叫ぶ!」

 

 スモーカーにガッされた。

  

「こいつの言葉は無視しろ。それより早く、今言った指示を各部隊に伝えろ」

「は、はい! ところで、この子供は……」

「この人の隠し子です」

「ええっ!?」

「ふざけるな! 下らねえ冗談はやめろ! おい、こいつの言うことは一切耳に入れるな。早く行け!」

「わ、分かりました」

 

 スモーカーに急かされて、海兵の人は走って行ってしまった。

 

「それじゃあ、おれも広場に向かうとしますね」「逃がすか」

「ぐぇっ」

 

 さらっと離脱しようとしたが、首根っこ捕まれて動けない。

 HA☆NA☆SE!

 

「てめえはおれの側を離れるな」

「え、もしかして口説いてるんですか? すみません。おれにそっちの趣味はないんで男の人はマジ勘弁」

「誰がお前なんざ口説くか! 野放しにしておくと何やらかすか分からねえから勝手に動くなっつってんだよ! 本部で何回やらかしたことか!」

「ついカッとなってやった。今は反省している」

「黙れ」

「はい」

 

 そのままスモーカーについて歩き、途中でドジ子さんも合流。そして広場に面したホテルに到着し、待機してた海兵さん達から話を聞きつつ、ベランダから外の様子を窺う。

 なんとそこには、処刑台の上で拘束されている麦わらさんの姿が!

 おお、なんかヤバそうな状況。助けたほうがいいんかな?

 と、そんな時にまた浮かび上がる予知じみたイメージ。

 

「雷様が降ってくる」

「あ、何か言ったか?」

「何か」 

「やっぱてめえは黙ってろ」

「律儀に答えてやったのになんて理不尽な。ハゲろ」

「てめえがハゲろ」 

 

 スモーカーと殴り合う。

 負けた。

 

「紙一重か」

「ずいぶんと厚い紙一重があるもんだな」

「あー、あー、聞こえなーい」 

 

 ケムリヤローが何か言ってるが聞こえないなー。

 それよりも麦わらさん、ヘソ取られないといいけど。って心配するとこ違うか。

 とにかく麦わらさんは放置しても問題ないようなので、ナミからパクったミカンでも食べてまったりしよう。

 うまうま

 

 で、油断してたらあっという間に事態が進んでしまい、置いてけぼりを食らった。

 雷が落ちたりと、なんやかんやで助かった麦わらさん達が広場から脱出に成功、スモーカーもそれを追うために動き出した。

 しかし、雨の日でも能力の使える大佐の必死の追跡むなしく、結局邪魔が入ったとかで出航を許してしまったらしい。

 自分の管轄を無視して麦わらさんを追おうとしていたので、これ幸いとスモーカーの船に乗り込もうとしたのだが、海賊追うのに子供を連れていけるか、と置き去りにされた。

 そして今、荒れた大海原を前に港で立ち尽くす現状に至る。

 

「くそっ、こんな台風じゃコロッケ食うしかねえじゃねえか」

 

 仕方ないので駐屯地に戻ってコロッケ食べる。うまし。

 しかし、このままじゃ(お腹は膨らんだが)腹が収まらないので、海の向こうのスモーカーに向けて、しゃっくりが止まらなくなる呪いをかけてやろう。

 とはいえ、置き去りにされた事実は変わらぬ。

 まったく煙ヤローめ、自分はルール破りまくる不良の癖に、こんな時だけ子供扱いして正論持ち出しやがって。

 ぐぬぬぬぬ…………

 だが、ワシは理に縛られぬ男! 正論という名の暴力には屈しない!

 ここで取り出したるは、海軍本部直通の電伝虫! そして、とある中将の連絡先を打ち込む!

 

「という訳で権力行使っと。あ、ばーちゃん? ローグタウンでスモーカーに置き去りにされたから家帰るの遅れるわ。んじゃ、またねー」

 

 ガチャリ。これでよし!

 それじゃあ、一息ついたら海王タクシーでも使って帰るとするか。

 

 

 

 




第2章につづく……のか?

次に投稿できるのはいつになるか……
忘れた頃にまた来ます。


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