インフィニット・ストラトス 龍の魂を受け継ぐもの (すし好き)
しおりを挟む

始まりの始まり

はじめまして、すし好きというものです。
今まで読み専だったのですが、思いきって書いてみました。

*後々出す予定だった設定を使って、少し変更しました。


誰も知らないどこかの場所で、動きを見せるものがあった。

 

「くくく、ははははは!!!

 動く!動くぞ!体が動く!!!」

 

そのものは、余程うれしいのか笑い続けた。だが、それは歓喜よりもどこか狂気を孕んでいた……。

 

「これで……これでようやく奴らをつぶすために動くことができる!

 だが、そのためにはまずは力を蓄えなければ……。

 待っていろ、世界の害悪ども!

 お前たちの存在を……俺は否定する!!!」

 

そう言い放ち、そのものはそこから姿を消した。

これが、次元世界を大きく震撼させる事件になることのきっかけになることをこの時、誰も知らなかった――。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時空管理局。それは数多く存在する次元世界を管理・維持するため、軍隊・警察・裁判所の3つを統合した、強大な組織である。

この時空管理局では、地球ではおとぎ話にしか存在しない魔法の力を用いて数多ある次元世界の平和を守っているのだが……。

 

 

管理局のとある一室。そこは、今異様な空気に包まれていた。

 

「以上が、回収された映像になります」

 

司会が戸惑いがちにそうしめると、一斉にその場にいたものたちはガヤガヤとし始めた。

 

「これ、何の冗談なん?クロノくん?」

「信じられないのは、わかるがこれは動かしようのない事実だ、はやて」

 

その部屋にいた一人である八神はやては、今見た映像が悪い冗談であってくれと僅かな願いを長年の友人の一人であるクロノ・ハラオウンに否定してほしかったが、残念ながらそれは敵わなかった。

 

今、この部屋では数カ月前から、起こり始めたある事件についての会議が開かれていた。

管理局が管理をしていない世界への入り口を監視する基地が、次々と襲撃を受けたのだ。

そのほとんどが、基地の跡形もなく壊滅させられ死者も多数である。

 

何とか、生き残った局員もいるが、その大半は意識不明の状態で発見され、他の局員はまともな受け答えができないほどの錯乱状態で回復の目途も立っていない。

 

跡形も残っていない基地はもちろん他の基地にも、監視カメラ等の映像も何も残っておらず、手掛かりの一つも得られなかったが、一番最近の襲撃で何とか救援に向かった応援部隊が駆け付けることができた。

襲撃者は増援を感づいたのかその場からすぐに姿を消したが、映像が残っている機材の回収に加え何人かの局員の救出にも成功したのだ。

 

ここから、事件解決の糸口をと誰もが思ったが入手した映像と生き残った局員たちの証言は、想像をはるかに超えたものだった――。

 

襲撃者は、まるで騎士のような黒い鎧を全身に纏ったものだったが、放たれていた空気は騎士と呼べるものではなかった。

 

まるで、目に映るもの全ての存在を憎むかのような濃厚な殺気。

ほとんどの局員がその殺気に呑まれ、委縮したとこを攻撃されたみたいなのだ。

 

そして、襲撃者の戦闘方法、それも管理局からしたら異常の一言だった。

 

・数十メートルの距離をまばたきの一瞬程でつめる驚異的な脚力。

・管理局でも多くないAAAランク魔道士の防壁をまるで紙切れのごとく切り裂く剣。

・砲撃魔法をまるで意に介さない防御力。

 

何よりもその場の者たちが信じられなかったのは、襲撃者の記録映像や現場からは、魔力を検知することができなかったのである。

これほどの襲撃を行ったにも関わらず、現場には魔法を使った際に残る魔力の残滓が一切検出されなかったことも大きな謎の一つだったのだが、この映像から襲撃者は魔法とは別の力を使って襲撃を仕掛けてきたと管理局は認めざるを得なかった……。

 

だが、得られた手掛かりが他にないわけではなかった。

 

終始言葉を発さなかった襲撃者だが、逃亡に使用したその基地の転送装置の監視カメラの映像でつぶやくように言っていたのだ。

 

「次は、地球か……

 どこまで、腐っているんだ!こいつらは!」

 

そう言い残し彼は姿を消した。

 

それを証明するかのように、転送装置の転送先も地球と記録が残っていた。

これらの手がかりから、襲撃者は地球にいる可能性が濃厚となり直ちに調査が行われたのだが……。

 

「これ、地球から借りてきたビデオとかじゃないんだよねクロノ?」

「私もちょっと信じられないんだけど、クロノくん」

「残念だが、この映像もまごうことなき本物だ。フェイト、なのは」

 

管理局の中でも特に有名な魔導士である、フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンと高町なのはは、今映っている映像が信じられなかった。

 

それは地球に調査に向かった局員が撮影したものであり、そこには地球の特撮番組に出てくるような白い鎧を纏った青き剣士と赤き銃士が映っていた。

 

調査員の報告によると、調査をしていたら突然空間を切り離す結界魔法のような空間に迷い込み、そこで紫と黄色の縞模様にこうもりの羽のような装飾を頭につけた一つ目の異形に襲われたのだ。

一体ぐらいなら、何の問題もなかったのだが射撃魔法で攻撃している間に次から次に湧いてきて数で押されてしまったのだ。

 

調査員が窮地に陥ったその時、リュウケンドーとリュウガンオーと名乗る剣士と銃士が現れて次々と調査員とは比べ物にならない速さで次々と異形の者たちを倒していった。

 

だが、映像はそこで途切れた。

背後から何者かの襲撃を受け、カメラの撮影機能が故障してしまったようなのだ。幸いにも、録音機能は辛うじて生き残っており途切れ途切れだが、彼らの言葉を何とか聞くことができた。

 

「お前…は、何…ISを狙…!」

「さ…、何故で………ね?」

「何……ろうと、…前…の好……はさせ……!」

 

二人の戦士が何者かとしゃべっているようだが、調査員が意識を取り戻した時は全て終わっており、慌てて転送魔法を用いてその場を退いたのだ。

 

 

「このタイミングでISが絡んでくるなんて、

 今回の襲撃犯と“例の男の子“の件……、何か関係があるのかな?フェイトちゃん?」

「全くの関係が無いことだけど、

 そう言いきるにはあまりにもタイミングが重なりすぎているよね」

 

フェイトに尋ねるなのはだが、歯切れの悪い言い方で答えるフェイトだった。

 

インフィニット・ストラトス<Infinite Stratos>、それは通称ISと呼ばれるパワードスーツである。地球において宇宙開発を目的として開発されたが、既存の兵器を遥かにしのぐ性能から軍事転用へと本来の目的から外れた道へと進んでしまった。

そして、ISには重大な欠点があった。それは女性にしか起動させることができないということである。

 

現在、「スポーツ」としてその立場は一応落ち着いているが、それでも高性能なISと優秀なIS操縦者はそのまま国の力へと繋がるので、女性が優遇される制度が各国で数多く施行された。

そんな中で、女性しか動かすことができないはずのISを動かすことができる少年が、現れたのだ。

 

当初ISは、現地の世界の技術水準を大きく超えたものでも、地球に存在しているものとしか認識されていなかった。

だが、男性操縦者の発見、リュウケンドーなるものたちの会話からISには何か秘密があり、基地の襲撃者はそれを狙って何を企んでいるのでは?という推測から急遽、地球での襲撃犯探索に加えISと謎の戦士たちの調査が決定された。

 

ISの調査には、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてが行うこととなった。

 

これは地球で唯一のISを学ぶ場、IS学園で生徒として潜入するためである。

加えて、この三人は幼い頃は地球で過ごしており、当時から大人でも解決するのが難しい事件をいくつも解決してきたエリート魔道士のため、何か起きても問題もないと大半のものが何の心配していなかったのだが――。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ええ、あなたの予想通りIS学園での調査が決定しましたよ。

 しかも、調査員までドンピシャとかやはりあなたはとんでもないですね」

 

明かりも付いていないある部屋で、あるものが何者かと連絡をしていた。

 

「・・・・・・・」

「なるほど。確かに上の連中は、魔法以外の力にはいい顔をしませんからね」

「・・・・・?」

「覚悟?そんなものとっくにしていますよ。

 あなたたちと共に強くなると決めた時からね……」

「・・・・・・・」

「わかっています。うまくやりますよ。

 それじゃ、そろそろ仕事の方に戻ります。

 皆そろそろ、アイツのせいで参っているでしょうから」

 

そう言って、その者は部屋を後にした……。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「いや~まさか、アリサちゃんやすずかちゃんと、

 こんな形で一緒に学生生活を送れるとは思わんかったわ~」

 

「そうだね、はやて」

 

地球で意外な形で再び、学生生活を送ることになったなのは、フェイト、はやては廊下を歩いていたが、さっきまでの会議の空気が重たかったせいか、彼女たちの言葉にはどこか覇気がなかった。

 

「確かに、大変な任務になるだろうけど前向きに考えよう♪

 三人力を合わせれば、何とかなるよ!」

「なのは」

「なのはちゃん」

 

それは、重い空気を吹き飛ばすための鼓舞だったが、

不思議とフェイトとはやてには力が湧いてきた。

この親友は、いつもこうやって私たちに元気をくれる。

だから、私たちもがんばろうという気持ちになっていった。

 

確かに難しい任務になるけど自分たちが力を合わせれば、

何とかできるという自信が彼女たちにはあった。

 

一人では勝てなくても三人の力を合わせれば、倒せない敵も切り開けない道もないと。

 

自分たちにはそれだけの力があると信じていた。

 

 

 

しかし、彼女たちはまだ知らない。

 

――世界の裏側を、歪みを……

 

――“力“を持つということの本当の意味と覚悟を……

 

――今、この瞬間も自分たちの運命が動き出していることを……

 

 

 

運命の悪戯によって、3人の魔導師、星を司る少女、金色の閃光、最後の夜天の主は、IS学園へと赴くこととなった。

 

そこで待ち構えている未来は果たして、如何なるものか……

 

 

 

 

 

ここは、とある剣道場。

そこで長い黒髪をポニーテールにまとめた一人の少女が竹刀を持って素振りをしていた。

 

「(もうすぐだ。もうすぐ、一夏に会える!)」

 

その顔は少し緩み頬は、ほんのりと赤色に染まっていた。

その様は恋する乙女であり、彼女の人となりを知るものが見れば、ねほりはほり問い詰められることだろう。

 

素振りが終わると、彼女は息を整え正座して精神統一を図るが、一度火のついた恋する乙女の思考を止めることはできなかった。

 

「6年ぶりか。一夏は、私のこと覚えているだろうか?

 会ったら私だと気付いてくれるだろうか?

 もしかしたら・・・・・いや!そんなことはない!

 一夏はそんな薄情な男では!

 でも、もしかしたら、いや……」

 

前向きな考えと後ろ向きな考えはエンドレスで続き、彼女が思考のループから抜けたのはしばらくしてからだった。

 

「はっ!い、いつの間にこんな時間に!?

 いかんいかん、こんなことでは!

 一夏にも会えるんだ、なのはたちにもまた会えるだろうか……」

 

想い人と同じように自分を救ってくれた友のことを思い少女、篠ノ之箒(しののの ほうき)はつぶやくが、彼女が彼らの驚くべき秘密を知るのはまだ少し先のことである――。

 

 

イギリスのとある訓練場で、青いISを纏った金髪の少女が訓練を行っていた。

 

「ふう~」

「お疲れ様です、お嬢様。お飲物をどうぞ」

「ありがとう、チェルシー」

 

メイドから飲み物をもらった少女の名は、セシリア・オルコット。イギリスの名門貴族のお嬢様である。

 

「そう言えば例のISを動かした少年、お嬢様の同級生になるそうですね」

「ふん。私には関係ありませんわ。

 大体、IS学園には曲芸を見に行くためではありませんわ!」

「そのように」

「もし、私の前に立ちふさがるなら・・・」

 

ドヒューーーウ!!!

 

「打ち抜くだけですわ」

 

彼女がそう言い、メイドのチェルシーと共に訓練所を去るとそこに残ったのは真ん中を打ち抜かれて煙を上げる的だけだった。

 

彼女がかの東の地で、その瞳に映すのは今までと同じ味気ない景色か、それともまだ見ぬ光り輝く光景か――。

 

 

 

 

 

中国のとある山奥その一角で煙が上っており、拳法家風の服を着た一人の少女が目を回して伸びていた。

 

「あう~~~~~」

「大丈夫、鈴?」

 

伸びているツインテールの少女、凰鈴音(ファン リンイン)を同じく青い髪をツインテールにまとめた9歳ぐらいの女の子が、安否を尋ねた。

どうやら、この子が鈴を気絶させたようだ。

 

「はぁ~、これで一体何敗目だシュテルよ?」

「レヴィに通算57敗目ですね、ロード」

 

その近くで、銀色の髪のショートカットのロードと呼ばれた女の子がショートカットの栗色の髪のクールビューティという言葉が似合う女の子、シュテルに若干呆れを含んだ声で鈴の戦績を訪ねていた。

 

「全く!意中の男のためとはいえ、飛ばしすぎだ!バカモノ!」

「まあまあ、ロード。

 私たちにはまだ解りかねますがそれだけ、

 鈴があの織斑一夏という殿方を好いているのですよ」

「愛の力ってやつだね~♪」

「何、好き勝手言ってんのよ!

 シュテル、レヴィ!!!」

 

伸びていた鈴がガバッと起き上がり、ひやかす二人にかみついてきた。

一体、どこにそんな元気があったのやら。

 

一見仲の良い女の子のやりとりのようだが、彼女たちがいる場所を見たら、普通の人はこう思うだろう。

――何かおかしい、と。

 

今、この場はどこか色彩が欠けている空間だった。

まるで、そこだけ周りから“その場だけ、切り離した”ように。

 

 

「それでは、今回の反省会を始めるぞ」

「解説は私が」

「は~~~い!」

「むぅぅぅ~!」

 

ロードことディアーチェが促すと、どこから出したのかシュテルは眼鏡をかけて解説を。レヴィは元気よく返事するが、鈴はどこか不機嫌だった。

まあ、自分よりも小さな子に負けたのだから仕方がないだろう。

 

彼女たちが今いるのは、魔法で作った結界の中である。

ある事件で本来なら、消えるはずだったディアーチェ、シュテル、レヴィの三人は何の因果か生き残りここ中国で一人の少女、鈴と出会った。

 

普通なら魔法なんて信じられないが、散歩していた自分の目の前に現れたのだから信じるしかないだろう。

 

ことの経緯をおおまかに聞いた鈴は、彼女たちにあることを尋ねた。

 

――私にも魔法って使える?――と。

 

調べたら、鈴からは魔法を使うのに必要なリンカーコアがあることがわかり自分を強くしてくれと三人に頼み込んだ。

 

当然、ディアーチェたちは戸惑いを隠せなかった。

どうして、魔法を使えるようになりたいのかと聞いたら、

――力になってやりたい奴がいるのよ。――

と鈴は、答えた。

根負けした三人は、すぐにあきらめるだろうと思ったが、鈴は挫けなかった。

うまく飛べなくても、何度模擬戦でディアーチェたちに負けても鈴は歩みを止めなかった。

 

そして、ディアーチェたちにも当初の考えはなく、

今や弟子を鍛える師として日々を過ごしている。

 

 

「というわけで、今回の鈴の敗因は得意な距離に持ち込んだものの

 レヴィのパワーに真正面から対抗しようとしたことです」

「相手の得意分野にわざわざ、合わせる奴があるか」

 

「おっしゃる通りです……」

 

「ねぇねぇ、お腹が空いてきたからそろそろご飯にしない?」

 

のんきにそう言うレヴィにガクッとディアーチェと鈴がズッコケ、シュテルがため息を一つこぼした。

 

「お、お主という奴は」

「仕方がありません、ロード。

 続きは食事の後にし、本日の訓練はそれでお開きにしましょう。

 鈴は、ISの訓練もあることですし」

「そ、そうね」

 

何もない闇から生まれた三人の少女は、一人の少女と出会い本来とは違う運命を歩み始めた。

 

本来なら交わることのなかった運命が、更なる運命をもたらす時は遠くない――。

 

 

 

フランスのとある屋敷で、一人の少女が自室で荷造りをしていた。

 

「ふぅ~これで準備はOK♪

 後は、日本に行くのを待つだけか。

 彼に、会えるのが今から楽しみだよ~」

 

上機嫌に鼻歌を歌う彼女の名は、シャルロット・デュノア。

量産機ISのシェアが世界第3位の大企業、デュノア社の令嬢である。

 

「彼に会ったら、まずは改めてお礼を言ってそれから……、いや~ん♪

 もう、男の子はエッチなんだから/////」

 

両手を頬に当てながら自らの妄想に浸り、思考がエンドレスになるというのは、全世界の乙女の共通事項なのだろうか?

 

彼女がそんな自分の妄想に浸っていると、コンコンと部屋のドアが叩かれた。

 

「シャルロット、少しいいか?」

「えっ!?お、お父さん!ち、ちょっと待って!」

 

部屋の前にやってきたのは、彼女の父親、エリック・デュノアであった。

荷造りのために散らかっていた衣服等を簡単に片付けて彼女は、父親を部屋に通した。

 

「ど、どうしたの、お、お父さん?」

 

「いやそ、その~

 大したことではないが、もう少ししたらしばらく会えないから夕食を一緒にでもと

 思ってな」

 

とエリックは照れ臭そうに頬をかきながら言葉を紡いだ。

 

「う、うん。一緒に食べよ/////」

 

一見、久しぶりに会ってどうコミュニケーションしたらいいのかわからない親子の光景だが、二人は別に悪い気はしていなかった。

すれ違っていた二人は、“彼ら“がいなければこうやって家族としてわかりあえることはできなかったのだ。

”彼ら”が言ったように少しずつ歩み寄っていけばいいのだということも二人はわかっていた。

 

「シャ、シャルロット。日本はフランスとは気候が違うから、体調には気をつけるんだぞ」

 

「う、うん。(日本か~。どんな国なのかな~。あんな素敵な人の国なんだから、いいとこな んだろうな~。

 し、将来住むことになるかもしれないから、しっかり勉強しないと!

 あっ!彼に、こっちに来てもらうっていうのもアリだよね//////)」

 

「……」

 

再び、乙女の妄想に入るシャルットに、娘を持つ父親特有のセンサーが反応するエリックだったが、この手の話にどう対処すればいいのかわからないし、下手にちょっかいを出して娘に嫌われたくないという思いが強いので何も言えなかった。

 

一度は失った家族という絆を取り戻した少女が、新たな絆を紡ぐ時は近い。

 

 

ドイツのとある軍の基地の一室で、銀髪の少女が静かに黒い感情をメラメラと滾らせていた。

 

「あの人の唯一の汚点、織斑一夏・・・必ず排除する!」

 

かつて、彼女は栄光の座から一気に奈落の底に突き落とされ、ある女性に救われた。

その人は誰よりも気高くなければならない、完璧でなければならない。

そんな思いから、ある感情を強く燃やしているのだ。

その考えはひどく傲慢で身勝手なものだが、残念ながら彼女がそれを理解するにはあまりにも“人間”として過ごす時間が少なすぎた――。

 

「日本……“あいつ“もいるのだな。

 ……今度会ったら、絶対に!

 絶っっっ対にぎゃふんと言わせてやるからなぁぁぁ!!!!!」

 

黒い感情を燃やしていた姿とうって変わって、

若干涙目になりながら、年相応な姿でリベンジを叫ぶ少女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

この姿を見たら大半の人間が彼女と“あいつ”と呼ばれた者の関係をなんとなく察するだろう。

 

彼女が、どんな想いからその叫びをあげるのかを知るのはまだ少し先のことである。

 

――余談だが、ラウラが叫んだ姿を黒ウサギ見守り隊という彼女のファンクラブ(本人非公認)の会長がカメラで録画していたのだが、リベンジに燃えているラウラはそのことに気付かなかった。

 

その会長の姿を目撃した会員たちの証言によると、

 

・ホクホクしてました。

・お姉さまはすごく上機嫌でした。

・まるで、妹のかわいいとこを見た姉みたいにルンルンでスキップしていました。

 

とのことである。

ちなみに、その映像を見た会員たちも、

 

「かわいいな~うちの隊長は、もう/////」

 

となったのは言うまでもない。

 

 

 

日本のとある武家屋敷。

ここでは、来る学園での寮生活のために荷造りしている少女たちがいた。

 

「かんちゃ~ん♪もうすぐ、憧れの王子様に会えるね~」

 

「ちょっ!ほ、本音~」

 

顔を真っ赤にして、狼狽している水色の髪をして眼鏡をかけた少女は更識簪(さらしき かんざし)。

この家、対暗部用暗部「更識家」の次女である。

そして、そんな彼女をからかう袖丈が異様に長い服を着て、のんびりとした空気を出している少女は布仏 本音(のほとけ ほんね)である。

そうは見えないが、彼女は「更識家」に仕える家系であり、簪のメイドなのである。

 

だが、二人の間に流れるのは主従のものではなく、気のおける友達そのものであった。

 

「そ、そういう本音だって、彼の仲間のあの人に会いたいんじゃないの/////」

 

「ふ、ふぇっ!そそそそ、それは/////」

 

思わぬ反撃に慌てる本音だったが、突然、彼女たちの部屋がバッ!と開き、簪と似た顔で同じ水色の髪をした少女が入ってきた。

その手には、扇子が握られており、開かれたそれにはコイバナ!と書かれていた。

 

「話は聞いたわよ!恋に燃える乙女たちよ!!!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「あっ、お嬢様だぁ~」

 

彼女は、更識楯無(さらしき たてなし)。簪の姉であり、更識家の現当主である。

楯無というのは、当主に受け継がれる名で彼女の本名は別のものであるが、それを明かすのは別の機会にしよう。

 

「お姉ちゃん、どうして家に!?」

 

「私も荷物を整理するために、仕事を片付けて久々に帰ってきたのよ♪

 おかげでおもしr、じゃなくて、いいことを聞けたわ~」

 

「今、おもしろいって言おうとしてませんでした~?」

 

「細かいことは、

 気にしないの本音♪

 簪ちゃんや本音に春が来て、お姉ちゃんうれしいわ~

 でも、お姉ちゃんはちょっとさびしいかも~」

 

ヨヨヨ、と泣く真似をしていると。

 

「王子様に会えるのを楽しみにしているのは、お嬢様もでは?」

 

彼女の後ろから、眼鏡をかけ髪を三つ編みにまとめた、いかにも真面目な委員長に見える少女が入ってきた。

 

「なっ!ううううう、虚ちゃちゃちゃんんん!?

 ななななな、何ヲイッてルのカカかカかナ?」

 

彼女は布仏 虚(のほとけ うつほ)、本音の姉である。

簪の姉である楯無のメイドだが、小さい頃から一緒に育ったので、楯無からしたら気のおける友人であると同時に姉のような存在なのだ。

 

幼少時から一緒にいるため、他人には知られたくない秘密も知られているので、いろんな意味で楯無は彼女に頭が上がらなかったりする。

 

本音にからかわれた簪以上に慌てふためく、楯無に虚は、

 

「王子様に会えるのを楽しみにしているのは、お嬢様もでは?」

 

ときれいにもう一度言った。

 

「なんで、同じことを言うの!」

 

「大事なことなので、二回言いました♪」

 

虚は眼鏡をクイッと直しながら、表情を変えずに返した。

 

「おおお~、いつもお嬢様に振り回されてるお姉ちゃんの反撃だ~♪」

 

楯無の性格はよく言えば明るく周りを笑顔にするのだが、裏を返せばそれだけ他人を振り回しているのだ。

そして、その後始末をするのは彼女の従者である虚なのでいろいろ溜まっていたのだろう。心なしか、彼女の顔は楽しそうにも見える。

 

普段、人をからかう側である楯無が年相応に慌てふためく姿は見ていて飽きないのだろう。

 

「ううううう虚ちゃんだって、本音と同じように、

 あああああ赤い髪のあの人に会いたいんj」

 

「お嬢様。簪さまに内緒にされているあの部屋のことですが……」

 

「私が悪かったです。ごめんなさい~」

 

妹の簪と同じように楯無も反撃しようとしたら、自分の秘密をちらつかされてあっさりと敗北を認めた。

 

この秘密を知られたら、絶対に簪に引かれてしまう。

 

妹が大好きで大好きでたまらない自分に、そんな未来は想像しただけでもゾッとしてしまう彼女だったが、

 

「虚さん。あの赤髪の人の写真を渡すから、その部屋について教えて」

 

「簪ちゃん!?」

 

楯無の心境を知ってか知らずか、その秘密を知ろうとする簪に、

 

「わかりました♪」

 

「ちょっ!虚ちゃ~ん」

 

あっさり、自分の主人を裏切る虚だった。

 

「こうして、更識家の平和な日常は過ぎていくのだった~」

 

「何を言ってるの、本音?」

 

国の裏側を担う一族に生まれた少女たちも、どこにでもいる女の子と変わらないようだ。平和なこの日常が、もう少し騒がしくなるのも遠くない――。

 

「どこが、平和なのよ!」

 

秘密がばれそうになっている楯無の叫びが、夜の闇に虚しく消えた。

 

 

 

 

 

 

『え~、では本日は、現在話題の織斑一夏くんについてです』

 

『やっぱり、大変なことなのコレ?』

 

『まあ、世界初のことですからね~』

 

『政府としては、女性にしか動かせないISを動かせたことの解明や保護を兼ねて

 あそこに行かせることになりますね。世界で唯一のIS教育機関、IS学園に』

 

『では、この先彼がどうするかについてですが』

 

 

 

「どこもかしこも、同じこと言っているな」

 

現在、世界で最も注目を浴びている少年、織斑一夏は自宅で見ていたテレビを消して若干呆れながらながらぼやいた。

 

『当然と言えば当然だが、それでもすごい反応だな』

 

「全くだ」

 

と一夏は誰かと会話をしているが、今この家にいる“人間“は彼一人である。

それに謎の声はどこか機械的な音声をしており、一夏の手首辺りから聞こえていた。

 

「それにしても、あの人が突然俺や“あいつら“にISのことを勉強させたのは俺がこうやっ  て、ISを動かすことを予測していたからなのか?」

 

『その可能性は十分に考えられるな。

 “あいつ“は一体どこまで先のことまで考えているのか・・・』

 

「俺たちなんかが考えても多分無駄だぞ、それ?

 “あの人“の頭の良さは束さんと同じで完全に人間の域を超えてるし」

 

『そうだな。

 それを言ったらいろんな意味で、“あいつ”は本当に人間なのか?という疑問も出てくるし な』

 

「そういうお前は、どんどん人間くさくなってきたな、“ゲキリュウケン“」

 

 

長年付き合った友人のように、“ゲキリュウケン”と呼ばれた龍の顔を模したブレスレットと談笑する一夏は半年ほど前のことを思い浮かべた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「じゃあ、というわけでお前たちには今日からISのことを勉強してもらうね♪」

 

「何で、ISのことなんか勉強するんですか?

俺たち男ですから動かせませんし、他の連中にしたって別に関係ないんじゃ?」

 

「知識として知っておいて、損はないからさ。

 これから先、ISと戦うことがないとも言えない。

 それにいつも言ってるだろ?

 知識はありすぎて困るということがないってな♪」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、先日。

めでたく勉強した知識を生かせることになった一夏だが、ISを動かした経緯を知った仲間たちの反応を思い出すと彼は頭が痛くなってきた。

あまりにもマヌケすぎて、一夏らしいと呆れるもの、大笑いするもの、そしてモテない男連中が涙を流しながら羨ましがり、

 

「「「ふざけんじゃねぇぇぇ!!!何でお前やアイツらばっか、いっっっつもそんなおいしい思いをするんだぁぁぁ!!!」」」

 

魂の叫びをあげながら一夏に襲いかかったが“あの人“に一瞬で鎮圧されてしまった。

 

そんな風に、一夏が若干現実逃避気味に物思いに耽っていると、

 

「ん?なんか家の周りが静かになってきたな」

 

『ああ。周囲にあった人間の気配が、どんどん減っているぞ。

 それもすごいいきおいで』

 

一夏がISを動かせることが分かった日から連日、マスコミやら怪しげな研究員らが家に押し掛けて出かけることもままならない程騒がしかったのだが、その騒がしさが急に収まってきたのだ。

 

不審に思い、一夏とゲキリュウケンが警戒を強めようとしたら家のドアが開く音がして――。

 

「ただいま~」

 

若い女性の声が聞こえた途端、一夏とゲキリュウケンは人がいなくなった原因がわかり、警戒を解き、ゲキリュウケンは黙り込んだ。

 

そして、部屋に入ってきたのは長い髪をリボンでポニーテールにまとめ、エプロンを着たどこにでもいる主婦であった。

 

「ああ、ここにいたのね一夏」

「おかえりなさい、雅さん。帰ってくるのは明日じゃなかったっけ?」

 

主婦の名は、吉永雅(よしなが みやび)。

“行方不明”となっている一夏の両親に代わって、彼とその姉である織斑千冬を育てた人物である。

 

何故、この人が家の周りにいたマスコミ達がいなくなった原因なのかと言うと、

 

「ふふふ。一夏、ISを動かしちゃったでしょう?

 それでいろいろ困ってるだろうな~って思って、予定を早めに済ませて帰ってきたの。

 ついでに、家の前で騒いでいた常識もマナーもなってない人たちには“今日は帰ってくださ いね♪”ってお願いしておいたから♪」

 

「ははは、“お願い”ねぇ……」

 

彼女のお願いという言葉に顔を引き攣らせる一夏。

彼はその“お願い”というのが、世間一般的に思い浮かぶお願いではないことを知っているのだ。

 

一夏の子供時代、彼女と一緒に買い物に行った一夏は、帰り道にガラの悪い不良連中に絡まれてる老人を見つた。

そして雅が、

「少しここで待っててね、止めてってお願いしてくるから♪」

と言って現場に行ったのだ。

 

危ないよと言おうとした一夏が見たのは、

 

――文句を言ってる不良たちの一人の顔が一瞬ぶれたかと思ったら、そいつがその場で倒れ

 

――何が起きたのかわからず、惚けている不良連中のみぞおちに次々と拳が入り

 

――最後の一人の頭を握ったかと思ったら、そいつを持ち上げる

 

と普通の主婦がアクション俳優もビックリな大立ち回りをするという、仰天な光景だったのだ。

 

その時、持ち上げられた不良の頭からミシミシと言う音が聞こえたのだが、本能的にこれは頭から出ちゃいけない音だと幼い一夏は子供ながら悟った。

持ち上げた不良に何か言ったかと思ったら、握っていた手を離し、一目散に仲間たちと一緒に逃げるのを確認した後、彼女は一夏の元に笑顔で戻ってきて、

 

「さあ、“お願い“も終わったから早く帰りましょう♪」

 

何事も無かったかのように言う彼女を、絶対にこの人を怒らせちゃいけないと一夏が思ったのを誰が責められよう。

 

似たようなことはたびたびあり、時には一夏がわからない言葉でどこかに電話をしたり、子供でも分かる頭にヤとかマの字がつく職業の人たちの相談にものっていたこともあった。

 

更にISを動かしたことで、家にやってきて一夏を実験台にしようとした如何にも偉そうな政治家連中の襟首を締め上げた後に、土下座させたのは記憶に新しい出来事だ。

 

……その時、彼女はニコニコと終始笑顔だったことを記しておく。

 

これだけでも、人間やめてんじゃねぇ?と思える身体能力を持っている自分の姉と同じく

とんでもない人物だと思う一夏だが、ふと視線を飾ってある写真へと移す。

 

その写真にはつい最近撮ったものから、行方不明となっている親たちが子供のころのものまである。

当然雅と一緒に撮っているものもある。

 

 

――今一夏の目の前にいる姿と全く変わらない姿で――

 

 

 

この吉永雅なる女性は下手したら、一夏の姉である織斑千冬よりも若く見えるほどの容姿を一夏が子供のころから維持しているのだ。

 

さすがにどうなっていて、本当はいくつなのかと千冬と一緒に頭を捻ったこともあるのだが、考えているといつからそこにいたのかいつの間にか二人の背後に彼女が立っており、

 

「二人ともどうしたの?」

 

と笑いながら普段と変わらない口調で尋ねてきたのだが、その目は笑っておらず、どうしても聞きたいの?と雄弁に語っていた。

 

もしも聞いたら“アレ“が来ると二人は瞬時に理解し、

 

「な、何でもないぞ雅さん!なあ?い、一夏?」

「あ、ああ!そ、そうきょ、今日の晩御飯は何にしようかって相談してたんだ!」

 

冷や汗をかきながら二人は慌ててごまかした。

 

 

この一件以来、雅の年齢には決して触れてはいけないことが姉弟の間で決まった。

そして、彼女のことを語る上で最も欠かせないのが“アレ”なのだが、それを語るのは別の機会にしよう。

 

 

「さあさあ。碌に買い物もできなかったでしょう?

 材料いろいろと買ってきたしそれにもうすぐ、

 千冬も帰って来るから早く晩御飯の準備をしちゃいましょう♪」

 

そんなとんでもないことができる人物とは微塵も感じさせない雅の笑顔に、一夏は最早ツッコム気にもなれなかった。

 

一夏と雅が晩御飯の準備をしていると、一夏の姉である千冬が帰ってきた。

 

「雅さん、帰ってたんですね」

 

「あっ、千冬姉おかえり」

 

「おかえりなさい、千冬。疲れたでしょう。

 晩御飯、もうすぐできるから少し待ってね」

 

「いつもすみません。私も何か手伝いを……」

 

「いいのいいの、千冬はゆっくりしてて♪

 一夏、机の上を片付けてくれる~?」

 

「……わかりました」

 

料理の手伝いをかってでた千冬だが、やんわりと断られてしまった。

この家の力関係は、雅>千冬>>一夏となっているが

こと料理等、家事関係になると雅>一夏>>>千冬となるのだ。

 

女として、弟よりも家事のレベルが低いというのはどうなんだろうと思ってると料理が運ばれてきたので、千冬はそこで考えるのをやめた。

 

これ以上、考えるとますます女として何かが、負ける気がするからだ。

 

「ほら、一夏これ」

「何だよ、コレ?」

「制服だ。IS学園のな」

 夕食を食べ終わると、おもむろに千冬はIS学園の制服を一夏に渡した。

 

「俺まだ行くって言ってないんだけど」

「入学手続きは、もう済んでいるぞ」

「まあ、そういう流れになるわよね~」

「俺の意見は無視ですか」

 

自分の知らぬ間に、進路がドンドン決められ呆れ気味にぼやくが、自分が未だいろいろと勝てた例がない二人にこう言われるともう笑うしかない一夏だった。

 

「あそこに入学すれば、どこの国もおいそれと手出しはできない。

 少なくとも在学中は安全と言うわけだ」

 

「さらわれたりして、どこかで実験動物になるよりかはマシってわけね」

 

「お前にしては頭が回るな?

 明日は大雪か?」

 

「ひどくね!」

 

「だって、一夏だし~」

 

「一夏だしな」

 

『(一夏だからな)』

 

「……泣いていい?」

 

姉だけでなく、親代わりの人や相棒の酷評に泣きたくなる一夏だが、以前に比べれば多少マシになったとはいえ、普段の彼の鈍さを考えるとこれは間違った評価とはあながち言えなかった。

 

「まあ、IS学園も普通の高校とそう変わらん。どんな高校生活を送れるかは、お前次第さ。

 求めよ さらば与えられん ということさ」

 

(俺が心配しているのはそういうことじゃないんだけどなぁ~)

 

女の園とも言える場所に行くのもそうだが、それ以上に一夏が心配なのは別のことだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ああ、そうそう言い忘れてたけど一夏。

 俺もIS学園に行くから」

「はっ?」

「女ばかりじゃ、いろいろと大変だろうからな。大船にのったつもりでいろよ~」

「ちょっ!」

「それにいざというときの戦力としてその内、誰かよこすから♪」

「それはありがたいですけど……で?

 本音は?」

「いや~そろそろちいちゃんに会いたいし、そ・れ・に♪

 こ~んなおもしろそうなこと間近で見なきゃ損だろ♪」

「それが目的か!」

『あきらめろ、一夏。

 コイツが自分がおもしろいと思うことのためなら手段を選ばないのは、

 お前も知っているだろう?』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(はぁ~

 あの言い方だと多分、千冬姉には何も言ってないなあの人。

 てことは、俺までとばっちりが来るな、絶対)

 

逃れる術のない未来に対して、気が重くなる一夏である。

 

(それに、あの言い方だと俺が困る姿を見るだけが目的じゃなさそうだし……

 ほんと、どうなるんだ?

 俺の高校生活?)

 

様々な思いが、渦巻く青春の学びやで何が起こるのか。

それは誰にもわからない……

 

空を駆ける翼を持った少女たちと、龍の魂を受け継ぐ少年たちの物語が交わるまであと僅かである――

 




如何だったでしょうか?
楽しんでもらえたら幸いですwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波乱な始まり

早くもお気に入りしてくれる人がいて、すごくうれしいです♪
執筆は大変ですが、それ以上に楽しいです。
ここから先は、すごく遅くなると思いますが、がんばっていきます!


この世には、世間一般で知られている常識から逸脱した非日常な出来事が存在する。

 

――助けを呼ぶ声が聞いたら、魔法の世界への扉を開ける

――初対面の女性に首輪をはめられる

――世界を手に入れようとした異形の者たちから世界を救う

 

えっ?そんなこと起きるわけがない?本やテレビの中だけ?

いえいえ、何かの歯車が天文学的な確率でかみ合った時、運命とも言える非日常との出会いが起きるのです。

 

女性にしか動かせなかった飛行パワードスーツIS。

 

それを男なのに動かすことができ、世界で知らない人間はいないほど有名になってしまった少年織斑一夏もそんな非日常な世界への扉を開けた一人である。

 

だが、彼が開けた非日常への扉が一枚だけではないことを知っているのは、彼が現在いるIS学園の教室にはほとんどいなかった……。

 

そんな人よりも多くの不思議な出来事を経験してきた一夏も今の状況には、すっかり戸惑っていた。

 

 

「こ、これは想像以上にきつい……」

 

彼がこう思うのも無理はない。

何故なら、彼を除くクラスメート29名全員が女子であり、しかも席が最前列の真ん中と彼女たちの興味津々な視線が全て座っている一夏の背中に向いているのだ。

落ち着けと言うのが無理だろう。

 

『(私に視線が向いているわけではないが、確かにこれは落ち着かないな)』

「(なんとかしてくれ、相棒!)」

『(無茶を言うな!)』

 

共に戦ってきた相棒、ゲキリュウケンにテレパシー?で助けを求めるが、手足の無い彼ではどうしようもないだろう。

 

「動物園にいる動物たちの気持ちが、わかるぜ・・・」

 

一夏がどうしたものかと途方に暮れていると、窓際の席に見知った顔を見つけた。

 

「箒?」

 

長い髪をポニーテールにまとめた少女は、一夏が6年前にわかれた幼馴染みの少女であった。

ふと、一夏と視線が合うと慌てて逸らされてしまった。

 

「(おいおい、それが久しぶりに会った幼馴染みへの反応かよ)」

『(彼女にとっては、お前は幼馴染みではないとうことだろ)』

 

相変わらず、その手のことに鈍い一夏にツッコミをつぶやくゲキリュウケンだが、それは誰の耳にも入ることはなかった。

 

そこでプシューと空気が抜けるような音がして、教室のドアが開き一人の女性が入ってきた。

 

 

「始めまして、皆さん。私はこのクラスの副担任の山田真耶です。

 今日から一年間、よろしくお願いしますね♪」

 

自己紹介した彼女は、身長がやや低めで雰囲気が若干ほわっとしていた。

それに加え、着ている服もサイズがあっておらず、子供が無理して大人になろうと背伸びをしている感がいなめない。

それでも普通なら、ここであいさつが返って来るものだが、皆一夏に集中しているため教室の中は無言である。

 

「え、えっとそ、それじゃあSHRを始めますので自己紹介を出席番号の順でお願いします」

 

変な空気に泣きそうになる山田先生だが何とか、場を和ませようとした。

そんな彼女に大丈夫かと思う一夏だが、原因は自分にあるのですみませんと心の中であやまっていた。

 

 

 

一夏がいろいろとテンパっている中、

彼とは違った意味で心中穏やかではない者たちがいた。

 

「(むぅ~、いかん。

  まさか、一夏と同じクラスになるなんて/////

  まあ、確かに同じクラスになれたらと思わなかったわけではないが、

  いきなり目が合うとか、私にも心の準備というものが、だな/////

  しかし、一夏の奴テレビで見るよりずっと……って、

  何を考えているんだ私は!)」

 

「(ふふふ、なんかますますカッコよくなったな一夏♪

  これからは一緒に屋上でお昼を食べたり、放課後一緒にそうじとかしたり、

  それから……キャッ♪)」

 

「(フンフ~ン♪よ~し、かんちゃんのためにがんばるぞ~

  そして、私もあの人をGETだZE~☆)」

 

久しぶりに会って戸惑う者、企む者、友達のために頑張ると意気込む者もいれば、

 

「ふ~ん?あいつが世界初の男子操縦者ねぇ~

 なんか、パッとしないかも」

 

「ちょっと、失礼だよ~」

 

ヒソヒソと感想を漏らす者、

 

「(彼が、調査対象の織斑一夏くん……)」

 

「(見た感じ、普通の男の子やけどなぁ~)」

 

「(何にも知らない普通の人を調べるのは、あまり気が進まないね……)」

 

やるべきことに、抵抗を感じる者と様々な思惑が交錯していた。

 

 

 

 

「(はぁ~。これだったら、みんなと初めて会った時の方がマシだったかも)」

 

自己紹介が続く中で、一夏は早くも現実逃避に過去のことを思い出していた。

それは、ある人物にこれから共に戦う仲間を紹介すると言われた時のことである。

 

目的の部屋に行く途中で出会った、服のセンスはイマイチだけど気のいい奴とあっという間に打ち解け、他のメンバーがどんな奴らなのかと心を躍らせ、その部屋に入ったらそこにいたのは…………、

 

大柄で拘束具に覆面という、怪しさ満載の人物だった――。

 

その後も、無表情で何考えているんだかわからない大食いの姉妹に、オネェな科学者、女よりもそっちに興味があるという噂の軍人、女好きなお調子者、ものすごく頭いいけどものすごいシスコンな奴、天然、、騒ぐのが楽しいお姉さん、等々。

 

一癖どころではない連中が出るわ出るわ。

 

こんなのとやっていけるのかと当初は不安だったが、今ではかけがえのない仲間たちである。

 

閑話休題。

 

「(あれ?こう思うと、やっぱりこの状況の方がマシかな?)」

『(一夏。現実逃避もわからなくはないが、そろそろ前を向いた方がいいぞ)』

「(前って?あっ!)」

 

「――り斑君……織斑君!」

 

「っ!はいっ!はいっ!?」

 

呼ばれていることに気付いて思わず大声で反応してしまった一夏の姿がおもしろいのか、周りからクスクスと笑い声が聞こえる。

 

「驚かせて、ゴメンね?

 でも、自己紹介が『あ』から始まって、今『お』で織斑君の番なんだよね。

 自己紹介してもらっていいかな?ダメかな?」

 

山田先生が、本当に大人のかなという感じで一夏にお願いをしてきた。

 

「は、はい。わかりました」

 

席から立ち上がり、後ろを振り向くが女子たちの視線に気押されそうになる。

気のせいか、彼女たちの目が一瞬ピカーン!と光ったように見えた。

 

「うっ!」

 

今まで味わったことのない迫力に気圧される一夏だが、意を決して言葉を発し始めた。

 

「お、織斑一夏です。

 特技は家事全般、趣味というより日課はトレーニングと料理かな?

 見ての通り男ですが、そんなのに関係なく仲よくしてくれればうれしいです」

 

自己紹介としてはまずまずな方だと思うが、女子たちは「もっと、何か言って――」と目で語っているので、終わるに終われない空気となり

どうしたものかと一夏が考えていると、

 

「すまない、山田君。遅くなった」

 

背後からよく知った声が聞こえ、振り向くとそこにいたのは彼がよく知る人物だった。

 

「なっ!?や、ヤマタノオロチ!?」

「誰が、頭が八つある伝説の怪物だ!」

 

スパッ――ン!と

振り落とされた黒き宝剣(出席簿)を真剣白刃取りで受け止め、振り下ろした人物を改めてみるとそこにいたのは、黒いスーツを着こなした一夏の実の姉である織斑千冬だった。

 

 

「な、何で千冬姉がここに?」

「ここでは、織斑先生だ!」

「ちょっ!

 タンマ!タンマ!」

 

振り下ろされた出席簿にさらに力が込められ焦る一夏だが、ふいに込められた力が抜かれた。

 

「はぁ~全くお前という奴は~

 まぁいい。

 私がここにいるのは、私がこのクラスの担任だからだ」

 

「えっ?」

 

「さて、諸君!

 私が君たちの担任の織斑千冬だ!

 私の仕事は、お前たちが大人になるための一歩を手助けすることだ。

 わからないことがあったら、いつでも聞きに来い、わかるまで指導してやる。

 聞くこと、理解できないことがあることを恥じるな!」

 

一夏はある人物からこの学園に姉の千冬がいることつい最近知ったのだが、まさか自分の担任になるとは思っておらず、思わぬ展開に少し呆けてしまった。

 

そんな一夏を無視して、担任としてのあいさつをする千冬だが、そんなんじゃみんなから引かれるぞと一夏が甘いことを考えてると…………

 

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!!!!」」」」」」」

 

窓ガラスが震えるほどの黄色い悲鳴があがり一夏は思わず耳をふさぐが、一瞬遅れたため脳が揺れるような感覚を覚える。

 

「千冬様よ!本物の千冬様よ!!!」

「ずっとファンでした!!」

「私、お姉さまに憧れてやってきました!北九州から!」

 

そんな数々の言葉とは逆に千冬はうっとうしいとばかりに頭を押さえた。

 

「全く、毎年毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。

 私のクラスにだけ、集中させているのか?」

 

千冬が本気でうっとうしいと思っているのを、弟の一夏はわかったがそれでもクラスメートからしたらそれは、ご褒美だったみたいだ。

 

「その顔も素敵!!」

「私と是非姉妹の契りを!」

「罵って!」

「私をしつけて――!!!」

 

後半からだんだん危ない感じになっているが、それを止められるものはいなかった。

 

「(相変わらず、すごい人気だな)」

 

一夏が口には出さずに苦笑いしているが、千冬のこれ程までの人気はある意味当然のものなのである。

彼女は、第一世代のIS操縦者であり、元日本代表なのだ。

更にスポーツとしての形に落ち着いたISの世界一を決める大会、モンド・グロッソ。

その大会で見事総合優勝を勝ち取り、世界一の座に君臨したのが織斑千冬なのであり、多くの女性にとって憧れの人物なのである。

ある日突然、引退したが今なおその人気は衰えてはいないのを実感した一夏だった。

 

「で?お前は自己紹介も満足にできないのか?」

 

ギロリと効果音がつきそうな目つきで、千冬は一夏を睨む。

 

「い、いや~千冬姉、俺は普通にやったはずなんだけど~」

 

スパッ――ン!と再び黒き宝剣(出席簿)を一夏に振り下ろし、一夏もまた再び真剣白刃取りでそれを受け止めた。

 

「織斑先生だ。二度も言わせるな」

 

「わ、わかりました織斑先生」

 

冷や汗を流しながら、千冬の攻撃を受け止める一夏だが、

このやりとりで二人が、姉弟であることわかり周りが再び騒がしくなった。

 

「織斑くんって、千冬様の弟?」

「じゃあ、男なのにISを動かせるのもそれが関係してるのかな?」

「千冬様の弟ということは、彼と結婚すれば千冬様が本当のお姉さまに……」

「静かに!」

 

また騒がしくなる前に、千冬は一喝して場を鎮めた。

 

「確かにこいつは私の弟だが、だからと言って特別扱いするつもりはない」

 

「そんなこと言って~

 本当は大~好きな弟が、自分の生徒になってすっっっごくうれしい・く・せ・に♪」

 

突如、千冬の後ろから一夏とは別の男の声が聞こえてきた。

 

「だ、誰だ!?」

 

背後から何の前触れもなく聞こえてきた声に、千冬が振り向くとそこにいたのは……

 

 

 

 

緑色の体に……

 

タレ気味な目……

 

首に貝殻を下げたラッコの着ぐるみ……

 

 

 

タバ○ッ○であった。

 

 

「やぁ♪」

 

「……」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「?」

 

タバ○ッ○はあいさつするが、そのあまりにも予想外な姿に千冬を始め、山田先生もクラスのみんなも声を失ってしまう。

 

そんな周囲の反応に首をかしげるタバ○ッ○であったが、そんな中唯一着ぐるみの正体がわかった一夏が謎の着ぐるみに呆れを含んで問いかけた。

 

「何しているんですか?カズキさん?」

「ははは♪

 よく俺だってわかったな、一夏♪」

 

カポッと着ぐるみの頭部を外して顔を覗かせたのは、黒髪のツンツン頭で誰もが美形だと答えるような顔立ちをした青年だった。

 

気のせいか彼が顔を見せた瞬間、少女マンガでイケメンが登場した時のようにバッグに花が一斉に咲き誇り、風が吹いたような感じがした。

 

それを証明するかのように山田先生をはじめ、みんな頬を赤く染めている。

 

「何でって、アンタ」

『(そんな恰好を好き好んでするのは、お前ぐらいしかいないだろう)』

「それで、何なんですか?

 その着ぐるみは?」

「これか?

 これは、タバ○ッ○だ♪」

「そういうことじゃなくて……、いえもういいです」

 

互いに知っている一夏と謎の青年は普通に会話しているが、周りは謎の人物の登場に混乱していた。

 

「えっ!誰、あのすっごくかっこいい人!!!」

「織斑くんの知り合い?」

「謎の青年に迫られる織斑くん・・・これは売れる!」

「な、なんか織斑くんとは違う大人の男の色気が/////」

「あ~ん、私の耳元で甘~い言葉をささやいてほし~い」

 

ヒソヒソ声だが、先ほどの千冬にも劣らない人気を得たようだ。

そして、そんな中で一番混乱していたのは……、

 

「なぁっ!カカカカカ、カズキ!?

 何故、お前がこんなところにいる!!!」

 

先ほどまでの冷静さはどこにいったのやら、軽くパニックになっている千冬だった。

 

千冬の予想もしない姿に、クラスメートたちは一斉に騒ぎ始めるがそんなの知ったことではないと言わんばかりに千冬と向き合った。

 

「何故、ここにいるかって?

 そんなの、千冬ちゃんに会うために決まっているじゃん♪」

「なぁっ!?」

 

顔を真っ赤にする千冬。

そんな彼女を見て更に教室は騒がしくなっていった。

 

「ひょひょひょっとして、あの人って千冬さまの/////」

「誰か!うそだと言ってぇぇぇ――!!!」

「千冬さまって意外と初心?」

 

各自好き勝手言ってるが、関係者である一夏は涼しい顔をしているが千冬はそうはいかない。

 

「おい!!!

 どうするんだ、これ!!!」

 

「ははは、俺は別に変なことはしてないよ~♪

 千冬ちゃん♪」

 

「千冬ちゃんって言うなぁぁぁ!!!」

 

最早、完全にいじりいじられている彼氏彼女の図である。

 

 

「千冬姉。

 もういい加減、素直になろうよ。

 できないのに料理をしに部屋にいったり、手作りのプレゼントを渡したり、

 自分からキスもしたんだからさぁ~」

 

進まない状況に痺れを切らしたのか一夏がサラリと、

口に出した言葉にクラスは一瞬で静まり返った。

そして1秒、2秒、と時が過ぎていくと……

 

「「「「「「「「えええええぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!?」」」」」」」」

 

今までで最大の叫びがIS学園全体を揺らした。

 

「千冬さまが、そんな!?」

「あんなかっこいい人が彼氏だなんて、羨ましすぎるぅぅぅ!!!」

「イケメン部下にいじられる気の強い女社長……、

 今年の夏は攻め攻めのイケメンで決まりよ!」

 

「みみみ、みなさ~ん!

 落ち着いてくださ~~~い」

 

教室は最早収拾不可能なカオスな状況となり、山田先生が落ち着かせようとするものの焼け石に水であった。

 

「一夏ぁぁぁ――!

 お前、何でそれを知って、って貴様か!カズキ!!!」

 

「やだな~千冬ちゃん。

 俺が、二人の大事な思い出をそんな簡単に言いふらすわけわけないじゃん」

 

「嘘をつけ!

 貴様が教えたのでなければ、どうして……」

 

この混乱の中心人物である千冬は、カズキが自分の弟にいろいろと暴露したのだと思い詰め寄るがその瞬間、

 

キュピ――――ン!

 

とどこぞの○ュータ○プみたいな直感が、千冬の脳裏に走った。

その直感に従い、自分の後ろをおそるおそるゆっくりとふりむくとそこには、

 

「へぇ~

 そういうことしたことあるんだ~♪」

 

してやったりと笑う一夏がいたのであった。

 

ニタ~リと笑うその笑顔は、今後ろで着ぐるみを着ている男のそれとそっくりだった……。

そう、学生時代にいろいろと策を巡らして自分を罠にかけて楽しんでいた男のものと……。

 

千冬が後ろを振り向くと、カズキはいつの間にか再び着ぐるみをかぶっており、口元を押さえて笑いを堪えていた。

 

その瞬間、ブチッ!と何かが切れる音が聞こえクラスは一瞬で静まり返った。

本能で悟ったのだ。

自分たちが今まで経験したことのないような嵐が来ることを。

 

「お前の……」

「うん?」

「お前のせいで一夏がぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うおっと!」

 

音の発生源である千冬は何かをタバ○ッ○を着たカズキに振り下ろし、カズキがそれをかわすと……、

ズルッと教卓が斜めに斬られた。

 

千冬の手を見ると先ほど、一夏に振り下ろしていた出席簿が握られていたが、

出席簿で斬れるものなのだろうか?

 

 

「くたばれぇぇぇ!この変態宇宙人!!!」

「ははは♪

 一夏が自分から離れるのがさびしいのわかるけど、

 千冬ちゃんも少しずつ弟離れしないとねぇ~

 いい加減、一夏くん人形を抱いて寝るのも卒業しないと……」

「大きなお世話だぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

千冬の常人を遥かに超えた出席簿による斬撃を、ひらりひらりとかわすカズキ……。

……着ぐるみを着た状態で。

 

また自分の秘密をばらされた千冬だが、頭に血が上っている状態なのでそれに気付くのはもう少し先のようだ。

 

「あ、あの~

 お二人とも落ち着いてくださ~い!」

「山田先生。あの二人はほっといて、自己紹介を続けましょう」

 

山田先生や生徒そっちのけでじゃれ合う?二人に、涙ながらに訴える山田先生だが一夏によって止められる。

この状況を生み出した原因だが、一夏はどこか慣れているような涼しい顔をしていた。

 

「え?い、いいのかな?あのままほっといて……」

 

「あの二人にとって、あれが普通なんですよ。

 それに下手にツッコンだら、これから山田先生が

 ずっっっとアレにツッコまなければならなくなりますが、いいんですか?」

 

「え、遠慮させてもらいます……」

 

一夏からの忠告にあっさりと折れた山田先生だった。

そんな彼女やクラスのみんなに向かって一夏は、

 

「大丈夫ですよ♪

 今回は軽めだからすぐ終わるし、

 これから毎日やるだろうから、みんなすぐにこれに慣れますって♪」

 

と本人からしたら励ますつもりで言ったのだが、

彼女たちからしたら聞き捨てならない言葉が出てきた。

 

「「「「「(えっ?これで軽めって。

      てか、毎日これが起きるの!!!!!?)」」」」」

 

どうやら、非日常な世界への扉を開けたのは一夏だけではないようだ。

 

 

 

こうして、1人の少年と29人の少女たちの高校生活が始まった――。

 

 

 

「とっととくたばれぇぇぇ!!!」

「ははは。千冬ちゃんの愛情表現は、相変わらず激しいなぁ~♪」

 

 

始まるったら始まる。

 




如何でした?
これからも千冬さんは、からかわれていきますwww
最後に彼女がブラコンなのは真理です(キリッ)

一夏の仲間たちが登場するのはまだ先ですが、これでわかった人はすごいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想もしない伏兵

今回、細かいとこで捏造設定が出てきます。

感想をくれる皆さまには、感謝感激ですm(_ _)m


千冬とカズキによる壮絶な鬼ごっこ(恋人のじゃれあい?)をよそに、自己紹介は順調に進み、ちょうど最後の一人が終わったところでSHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

そして、それを合図に二人の鬼ごっこも一応の終わりとなり、カズキが着ぐるみを脱いでななめに斬られて半分になった教卓に立った。

 

千冬は肩で息をしているにも関わらず、ケロリとしている。

 

「それじゃあ、改めましてみんな。

 俺は、碓氷カズキ。

 今日から、ISの実技実習で織斑先生の補佐をすることになったからよろしく。

 まあ、ISを動かせない男が補佐なんかできるのかって疑問もあるだろうけど、

 それは実習が始まってからのお楽しみということで♪

 

 織斑先生が俺のことを知らなかったのはさっき言ったように、千冬ちゃんの

 驚く顔が見たかったからさ☆」

 

そう言いきった瞬間、再び出席簿が振り下ろされ、カズキはそれをヒラリとかわした。

 

「はぁはぁ。

 と、とにかくこれでSHRを終わる。

 それと分かっていると思うが……」

 

これ以上、カズキに余計なことを言わせないためにSHRの終了を宣言する千冬だが、その目は雄弁に語っていた。

 

――コイツのことを聞いてきたら……ワカッテイルナ?――と

 

瞬間、二人のことを知っている以外の面々はすごいいきおいで首を縦に振った。

初日にも関わらず、クラスのシンクロ率は100%超えのようだ。

 

 

 

 

 

「では、これで一時間目を終了します」

 

ここIS学園は、将来国を担う人材育成の場であるため入学初日から授業がある。

 

一夏が在籍する一年一組に一時間目が終わった現在、担任である千冬の姿はなく山田先生が授業を行っていた。

 

 

何故ならSHR後、

 

「それじゃ、他のとこにも挨拶してくるから。

 俺はこれで♪」

 

とカズキが言い残し教室を去ると一夏が千冬に尋ねたのだ。

 

「ねえ、千冬姉?

 カズキさん、このままほっといていいの?」

「織斑先生だと、何度言えば……。

 それに一体、何を言って……」

 

瞬間、千冬の脳裏に自分とのあることないことを言っているカズキの姿がよぎった。

そして、とてもスーツを着ているとは思えないスピードで教室を飛び出していったのだ。

 

唖然とするクラスメートを余所に、一夏は一人ぼやいた。

 

「まっ、俺がこう言うことが本当の狙いかもしれないけど……」

 

それを証明するかのように授業中、どこからか怒声とそれを煽りながら笑って逃げるような人物の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

そして何とか、嵐をやり過ごした一夏だが、彼を囲う視線の数はSHR前の比ではなかった。

 

ただでさえ、恋に憧れる花の十代乙女。

女の園であるここIS学園では、恋とは無縁の学園生活だと思ったところに現われた男性操縦者に、勝ち組となって青春を謳歌しようと意気込む子も多かった。

更に、憧れの千冬の弟ということからその数はとどまることをしらなかった。

 

余談だが、千冬にやったからかいを見て、

内心“是非私もいじめて~”という子もいたりする。

 

 

「う~ん」

 

IS学園への入学前に配布された参考書に顔を隠しながら、

一夏は視線を左右隣に移していた。

 

そして、視線を移した先にいた女子は、恥ずかしさからか慌てて目をそらし、一夏を見ていたことをごまかそうとした。

 

「(あの~、ゲキリュウケンさん?

 ホント、どうにかなりませんかね?)」

『(無理だ)』

「(そんな、即決でズバッと斬らずに何とかしてくれ!)」

『(……ガンバレ♪)』

「(この人でなし!)」

『(人ではないからな)』

 

何とも言えない空気の中で、先ほどよりも切実に相棒のゲキリュウケンに助けを求めるものの、如何に神秘の力を宿した彼でもどうしようもないと斬って捨てられ、カズキと千冬のやりとりのようなコントが二人?の間で繰り広げられていた。

 

そんな人には見えないやりとりをしている一夏を、興味本位とは別の視線を送っている者たちがいた。

 

「えらい人気者やね、彼」

「ははは、そうだね」

「にゃははは」

 

からかうような感じで茶化す、茶髪でショートカットの少女八神はやてがそう言うと、金髪でストレートロングの少女フェイト・T・ハラオウンと栗色でサイドポニーテールの少女高町なのはは、苦笑した。

 

「何やってんのよ、アンタたちは」

「久しぶりって言うほどじゃないけど、久しぶりだね。

 はやてちゃん、フェイトちゃん、なのはちゃん♪」

 

三人が一夏のことを観察していると、ヒソヒソと一夏への感想をもらしていた金髪で勝気な印象の少女と穏やかな空気を纏った紫髪の少女が話しかけてきた。

 

「あっ!アリサちゃん、すずかちゃん!」

「あっ!じゃっ、ないわよ!もう!」

「アリサちゃん、落ち着いて~」

 

彼女たちの名はアリサ・バニングスと月村すずか、なのは達三人とは小学生からの付き合いのある友人でありなのは、フェイト、はやてが魔法を使う魔導士であることを知っている人物でもある。

 

「全く!

 中学を卒業して、しばらくは会えないかと思ったらこんなとこにいるし!

 いたらいたで、私たちに挨拶にも来ないし!」

「ごめんな~アリサちゃん~

 急なことやったから、かんにんなぁ」

「まぁまぁ~。

 アリサちゃんは、なのはちゃんたちと高校生活を送れるからうれしいんだよね~」

「ちょっ!ばっ!

 何言ってんのよ、すずか!」

 

アリサが、なのは達に文句を言うがすずかに本心をバラされテンパる。

見ているなのは達は、楽しそうに笑っている辺りこれが彼女たち5人の普通のようだ。

 

「と、とにかく!

 アンタたちがここにいるのは“アレ(魔法)”関係なんだろうけど、

 手伝えることがあったら、遠慮なく言いなさいよ。

 小学生の時みたいに、内緒にしていたら承知しないわよ!」

「そこは、私も同じだね。

 三人とも私たちの大切な友達なんだから」

「アリサちゃん、すずかちゃん……」

「ありがとな、二人とも」

 

アリサとすずかの変わらない優しさに、感謝する三人だった。

 

「まあ、アンタたちと同じように一言言わなきゃいけない子は、

 もう一人いるけどね~」

 

ある一人の少女を見て、アリサは獲物を見つけたような目で不敵に笑った。

 

 

 

 

「(どうすればいいのだ!)」

 

一夏の幼馴染みである箒は、頭を抱えて悩んでいた。

 

彼がこのクラスにいるとわかると、どうやって再会の言葉をかけようかと悩んでいたが、先ほどの自己紹介で他にもよく知る友人たちがいるのがわかったのだ。

 

「(なのは達にも会えたらと思っていたが、まさかこうもあっさり叶うなんて/////。

 でも、言えない。

 

 一夏のことしか目に入らなくて、気がつかなかったなんて――)」

 

そう想い人が目に入った瞬間、彼のことで頭が一杯になり自己紹介の瞬間まで彼女たちのことに気がつかなかったので、自己嫌悪に陥っているのだ。

 

「(また会おうと約束していたのに、何をやっているんだ私は!

  怒っていないだろうか?

  なのは達はそんなことで怒らないだろうが、いやしかし!)」

 

彼女は一途に一人のことを想える子なのだが、一端それが負の方向に考え行くとなかなかその流れから脱することができないのだ。

 

「とりゃっ!」

「~~~~~っ!な、何が?」

 

そうやって、箒が悩んでいると突如に頭に衝撃が走った。

 

「な~にやってんのよ?アンタは」

「ア、 アリサ?」

 

痛む頭をさすりながら顔を上げると、そこには懐かしい友の顔があった。

 

「久しぶりね、箒。

 で?小学校以来の友達に挨拶もしないで何やってんのよ?」

「い、いや。そ、それは~」

「まっ。アンタのことだから?

 昔、言ってた一夏って子と再会できたけど、私達には気がつかなかったから

 どうしよ~とかなんだろうけど?」

「ど、どうしてそれを!」

「なめんじゃないわよ!

 それぐらい、わかるに決まってるでしょう!

 友達なんだから!」

「っ!」

 

友達なんだからという言葉に、息をのむ箒。

 

「そうだよ、箒ちゃん」

「どんだけ、離れてようが友達やって言ったやん♪」

「すずか、はやて」

 

会ったときから変わらない、彼女たちに箒は視界が滲んできた。

 

「久しぶりだね。箒ちゃん」

「なのは……」

 

最後に荒れていた自分の世界に優しい光をくれた友人に再会し、

箒は静かに涙を流した――

 

「はいはい。

 湿っぽい空気はここまでにして。

 皆、気になっているのは別ことでしょう?

 箒。やっぱり彼がアンタの言ってた初恋の子なの?」

 

アリサが皆を代表して、気になっていることを箒に問いかけた。

 

「なっ!ア、アリサ!ななななな何を!」

「忘れたとは言わせないわよ~

 お泊まり会で、カミングアウトしたじゃん♪」

「あっ!それ、私も気になってた♪」

「す、すずかまで~」

 

友達の中に現在進行形で恋をしている者がいれば、

必然的に話題はコイバナにシフトするのは女の子の性なのか。

 

それが、転校して分かれることになって再会したという運命的なものなら、なおさら興味は倍増のようだ。

 

「ねぇ?アリサ、すずか?」

「何?フェイト?

 今、取り込み中よ!」

「その織斑くんに、誰か話しかけているんだけど?」

「なのはも、後にして……

 はぁっ!?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(さてと。

 他の子達は、まだ話しかけられないみたいだし今がチャンスだね!)」

 

戦場に行くかの如く、意気込む彼女の名はシャルロット・デュノア。

その空気は武人のそれと呼んでさしつかえなかった。

 

「(他の子よりもリードするためにも先制攻撃は大切だよね!

 いろいろと、戸惑っているみたいだし、これで相談相手になれれば、

 一気に距離を縮められる!

 そしたら……イヤン、もう♪)」

 

頭の中は武人のそれとは程遠い、ピンク一色だったが。

 

 

ここで一つ、戦場における知識を紹介しよう。

 

相手の戦力が未知数だったり、自分のものより上だった場合は、自分のペースに巻き込むために奇襲による先制攻撃が有効である。

そして、その際に重要なのは機を逃さないことである。

 

早ければ自分が返り討ちに合ってしまい、

逆に遅いと誰かにその機をかすめ取られてしまう。

 

えっ?ここは学校だから、そんな戦場の知識はいらない?

いえいえ、よく言うでしょう?

恋は戦だと。

 

今回シャルロットが犯したミスは策に溺れて、同じ考えを持っていた者を見逃していたことでしょう。

 

もっとも、その子がそんなことを考えていたかはわかりませんが。

 

「ちょっと!

 織斑くんに誰か話しかけてるけど、誰!あの子!」

 

その声に、我に返るシャルロットだが、時は既に遅かった。

 

「えっ?

 えええぇぇぇ!!!?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「マジで何とかしてくれ~」

 

初日でこれで、これから大丈夫なのかと一夏は悩んでいたが、そのため彼は自分に近寄る者がいることに気付かなかった。

 

「大丈~夫?

 おりむ~」

「うん?」

 

一夏が声の方に振り向くと、そこにいたのは眠そうな目をして、普通のものよりも袖が長い制服を着た少女だった。

 

「君は確か、あの時の」

「うん。布仏 本音だよ~

 あの時は助けてくれてありがとね、おりむ~」

「ははは。助けたのは俺の仲間だけど、どう致しまして。

 ところでおりむ~って?」

「へへへ、私が三日三晩寝ながら考えた名前だよ~

 いいでしょう~」

「ははは、寝ながらって」

 

楽しげに会話するその光景に、

皆大いに慌てるが最も慌てているのは箒とシャルロットだった。

 

「いいいいい、一体これはどういうことだ!?」

「ありゃ~

 どうやら、織斑くんと知り合いやったのは箒ちゃんだけやなかったんやな~」

「のんきなこと言ってる場合じゃないわよ、はやて!

 完全に出遅れてんじゃない!」

「でも、それってアリサとすずかが箒に詰め寄ってたからじゃ……」

「にゃははは、そうだよね~」

「うっさいわよ、そこ!」

「落ち着いて、アリサちゃん。

 大事なのは、こっちも早く話しかけることだよ!」

 

なのは達5人と箒は、予想もしない事態に軽く混乱していた。

 

「誰かな~?あの子は?

 一夏もなんか楽しそうだし、フフフ……」

「ヒッ!」

 

シャルロットの周りの子は、突然彼女から放出された黒いオーラのようなものに恐怖を感じていた。

 

慌てふためく恋する乙女たちだったが、

その所為で一夏に近づく新たな人影に気づかなかった。

 

「少し、よろしいですか?」

「えっ?」

「ほぇ?」

 

談笑していた一夏と本音が振り向くとそこにいたのは、千冬と同じように黒いスーツを

その身に着た金髪の女性だった。

 

「半年ぶりになりますかね?一夏」

「エ、エレン姉!?」

 

再び、思わぬ人物と再会して呆然とする一夏だったが、周りの者たちは本音がしゃべりかけた時とは違う意味で騒然となっていた。

 

「ちょっ!あれって、エレン・ミラ・メイザース!!!?」

「うっそ~! 世界大会で唯一、

 千冬様と互角以上に戦ったお姉さまが、何で織斑くんに話しかけてるの!?」

 

 

 

エレン・ミラ・メイザース。

千冬同様、彼女の名を知らない者の方が少ないだろう。

 

千冬がその名を世界に轟かせるきっかけになった、第一回世界大会モンド・グロッソ。

圧倒的な強さで勝ち上がった千冬との決勝戦で、彼女はギリギリの接戦を繰り広げてみせたのだ。

諸事情で、第二回大会では出場しなかったもののその華麗な戦い方に未だファンも多い。

 

 

「何で、エレン姉までここn」

 

そこまで言いかけた一夏の唇にそっと、指が当たり言葉が遮られる。

 

「だめですよ、一夏。

 ここでは、メイザース先生ですよ♪」

「「「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

「「なぁっっっっっ!!!!!?」」

 

突然のエレンの行動に、周囲はパニック寸前である。

 

「私がここにいるのは千冬同様、私もこの学園の教師だからですよ。

 隣の2組の担任をやっています。」

「はぁ~」

「ねぇねぇ、おりむ~

 メイザース先生とはどういう関係なの~?」

 

周りが最も聞きたいことを本音がストレートに、一夏へ問いかけた。

 

「えっと、エレンあnじゃなくて、メイザース先生は千冬姉の友達で

 昔から宿題とか見てもらってたりしたんだ」

「え~っと。それって、昔馴染みのお姉さんってこと~?」

「まあ、そんなものかな?」

 

一夏のその答えに周りは再び騒ぎ出した。

 

「ちょっ!まさか、あんな美人がライバルなの!?」

「これは、予想しなかった展開ね……」

「神よ!どうして、このような試練を我に与えるのですか!」

 

悲観的な意見もあれば、観察に興味深くなったものと様々な反応が返ってきた。

 

「何を騒いでいるんだ、みんな?」

『(そういうとこは、全然成長しないなお前は)』

 

周りの反応に?を浮かべる一夏に、

誰にも聞こえないツッコミをするゲキリュウケンであった。

 

 

「女の子ばかりで、困っていると思ってきたのですが来てよかったですね。

 これから、困ったことがあったら千冬だけでなく“私”にも相談に来てくださいね」

 

私というとこを強調して、エレンは立ち去ろうとした。

 

「(ふふふ、これで頼れるお姉さんを演出できたでしょう。

 まさか、一夏がこの学園にくるとは思っていませんでしたが、

 この千載一遇のチャンス!

 何が何でもモノにしてみせます!)」

 

内心、ガッツポーズをしながら意気込むエレンであった。

どうやら、彼女が一夏の元に来たのは親切心からではなく、他の子達と同じ気持ちからのようだ。

 

「おりむ~はモテモテだね~」

「そうかな?」

「ありゃりゃ~

 これは、かんちゃんも大変だぁ~」

「かんちゃん?」

「こっちの話だよ~

 でも、すごいよね~

 織斑先生だけでなく、あんな美人なお姉さんと知り合いだなんて~」

「でも、あの人は結構……」

「うわっ!?」

 

一夏が本音と話してると、誰かが転ぶような音が聞こえそちらに向くと……。

 

「イタタタ……」

 

話の中心になっていたエレンが転んでいた。

 

「えっ?」

 

それは誰が言ったのか、何とも言えない空気がその場に漂った。

 

――千冬様のライバルのお姉さまが、何もないとこでコケた?

 

 

「はっ!

 コ、コホン/////

 で、では私はこれで/////」

 

そんな空気を察したのか顔を少し赤らめながら、急いでその場を後にしようとしたエレンだが、再びコケてしまった。

何もない場所で――。

 

「おりむ~?

 メイザース先生って……」

「ああ。この人、ISを使えば千冬姉と同じくらいすごいけど、

 普段はかなりのドジなんだ」

「ドジじゃありません!

 ただ、その……う、運動が苦手なだけです!」

 

頼れるお姉さんを演出しようとしてた所為で、余計にドジが強調されていることに彼女は気付いていない。

 

「ふ~ん」

「苦手、ねぇ~」

 

所謂ジト目というもので、エレンを見る本音と一夏。

 

「な、なんですかその目は!

 わ、私はドジじゃないも~ん!

 うわ~~~ん!!!」

 

ジト目に耐えられなくなったのか、素の言葉に戻って泣きながら立ち去るエレンであったがその走りはかなり遅く、さらに三度転んだ。

 

「ううううう~

 そ、それじゃ、自分の教室に戻りますね……」

 

そう言い残し、今度こそエレンは一組の教室を去った。

 

その場は、SHR時に千冬の意外な顔を見た時とはまた違った空気で皆どう反応していいのかわからなかった。

その内、2時間目のチャイムが鳴り皆自分のクラスや席に戻っていった。

 

「では、今から2時間目を始めるが……どうした?お前ら?」

 

カズキとの鬼ごっこが終わったのか、千冬が戻ってきたが皆どうすればいいのかわからずあいまいな笑みでごまかした。

 

ちなみに、千冬はどこからもってきたのか日本刀を所持しているのだが、それにツッコム気力があるものはいなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「え~っと、これがああなって、こうなって?」

「――ですからISを運用するには……」

 

2時間目の授業が始まり、山田先生がスラスラと教科書を読みあげ時折、ノートにペンを走らせる子がいる中、一夏は一人唸っていた。

 

『(大丈夫か、一夏?)』

「(な、なんとかな)」

 

IS関連の勉強は、早ければ小学校高学年から行われるが、基本的にISの整備士を目指しでもしないかぎり男がその手の勉強をすることは、ほとんどない。

 

一夏は、半年前からIS関連の勉強を始めてはいるが彼の勉学方面の成績は悪くもなければよくもないというものであり、加えてこの半年は様々なことが起こり想定していたよりもISの勉強はできなかったのだ。

 

「織斑くん、どこかわからないとこはありますか?」

 

そんな一夏の様子に気付いたのか、山田先生が声をかけてきた。

 

「わ、わからないとこが数えきれないぐらいあるんですが……」

「えっ……。数えきれないぐらいですか……?」

「はい……」

 

一夏の答えに言葉を失う山田先生だったが、そこに千冬が割り込んできた。

 

「織斑。入学前に渡された参考書はどうした?」

「あの電話帳みたいに分厚い奴ですか?

 正直、あれよりカズキさんが持ってきてくれたコッチの方が

 分かりやすかったんですが、いろいろあってなかなか進められなくて……」

「アイツが持ってきただと?」

 

カズキが持ってきたと聞き、

嫌な予感しかしない千冬は一夏が見せたソレを手にとって見てみた。

 

手にとったその本は“これで完璧♪目指せ、ISマスター!”というタイトルであり、金色の奇抜なマスクをした男がサムズアップしていた。

ペラペラとページをめくって中身を見ると、入学前に配布される参考書よりもわかりやすい内容になっていて、千冬の目が驚きで軽く見開かれる。

 

「ははは、驚いた?千冬ちゃん♪」

 

いつから、そこにいたのか突然カズキが教室の後ろに現われた。

今度は着ぐるみを着ずに、スーツ姿だ。

 

「カズキ?なんだ、これは?」

 

そんなカズキの出現に千冬は動じることなく、尋ねた。

 

「それは、初心者でもすぐにISのことがわかるように作った

 俺のお手製の教本だよ~

 欲しい人がいたら、言ってねぇ~♪

 

 今なら初回特典に、このお昼寝している子供一夏と

 それを見守る千冬ちゃんの写真を……」

 

ダダダダダッッッッッ!!!!!

 

瞬間、弾丸のようなスピードで放たれたチョークがカズキに襲いかかるが、

カズキは難なくそれを全てかわした。

 

ちなみにチョークが当たった壁には、弾痕のような痕が残った。

 

「何で、お前がそんなものを持っているんだぁぁぁ!!!?」

「雅さんにもらったんだよ~♪」

「雅さ―――ん!」

 

思わぬ人が絡んでいて叫ぶ千冬だったが、その時一夏はどこから“フフフ♪“と楽しそうに笑う雅の声が聞こえた気がした。

 

「お昼寝しているちんまい織斑くん……見たい!」

「在りし日のお姉さま、是非とも!」

「これも、夏の本に使えるかしらね……?」

「(子供の一夏のお昼寝姿だと!?

 ほ、欲しい!)」

「(子供のころの一夏か~

 かわいんだろうな~♪)」

 

千冬の心情など関係なく、各々の女子が率直に欲望を解放していた。

ここに、欲望のメダルの怪人たちがいれば狂喜乱舞だろう。

 

「そんなお宝しゃsじゃなくて、恥ずかしい写真を小娘どもにやれるか!

 ネガごと私に全て渡せっっっ!!!」

 

千冬も欲望を解放するが、ごまかすようにもっともらしい理由をつけてカズキから写真の回収を図る。

 

「ははは♪

 それじゃあ、俺はこれで♪

 とう!」

 

しかし、そんなのはお見通しとばかりにカズキは窓から逃亡した。

 

補足すると、ここ一年一組は三階に位置している。

そのため……、

 

「「「「「えええぇぇぇっっっ!!!?」」」」」

 

このように皆叫ぶ結果となる。

 

だが、カズキの身体能力が千冬と同じく、常識?ナニソレ?であることを知っている一夏は全く動じなかった。

 

「すいません、山田先生。このPICについてなんですが……」

「この状況で、聞くんですか!?」

 

早くもツッコミ役が、定着しつつある山田先生であった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「やっぱり、素人が一人でやるには限度があるよな~」

 

授業後、カズキの教本や配布された参考書とにらめっこをしながら一人勉強を進める一夏だが、状況は芳しくなかった。

 

そんな一夏を見て、行動を起こそうとするものたちがいた。

 

「チャンスよ、箒!

 ここで、勉強を口実に一気に巻き返すのよ!」

「おい、アリサ!」

「何か、燃えてるねアリサ」

「いろいろと、自分に重ねてるんやろ」

「そこ、うっさいわよ!」

 

煮え切らない箒に対して、元来の世話焼きか自分とそっくりだから放っておけないのか、あれこれと策を考えているアリサだった。

 

「(よ~し、今度こそ話しかけるぞ!

 勉強で困っているみたいだし、僕の出番だよね!

 そうなると一夏が僕の生徒だから……ダメだよ!そんな恥ずかしいこと!

 でも、一夏なら/////)」

 

自らの妄想の世界に浸るシャルロットだが、またも予想外なことでその世界から帰って来ることになる。

 

 

 

「ねぇアリサちゃん、箒ちゃん?」

「なによ、すずか」

「どうしたのだ、すずか?」

「また、織斑くんに話しかけてる子がいるんだけど?」

「「何(ですって)だと!?」」

「!?」

 

すずかのその言葉にアリサと箒、そして偶々耳に入ったシャルロットが驚き一夏の席に目を移すと、金髪をロール風にまとめた子が彼に話しかけていた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 




はい、というわけで多重クロスということでまずは「デート・ア・ライブ」からエレン・ミラ・メイザースさんに出演してもらいました。
出てもらうのは、彼女だけで向こうの世界観とかは関係ないです。

三話でここまでだと一夏が、変身できるのはいつになるやら(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知らぬものたちと知るもの

最近、伝ポケの厳選が終わって全国図鑑が完成し、
強いポケモンの育成にはまっているすし好きです。

最新話、できあがりました♪


 

「ちょっと、よろしくて?」

 

一夏が悪戦苦闘しながらも、勉強を進めていると誰かに話しかけられそちら顔を向けた。

 

「うん?」

「まぁ、なんですの!その返事は!?

 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、

 それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

そこにいたのは、いかにも身分の高いような高貴なオーラを出していた女子であった。腰に手を当てた姿がより一層、様になっていた。

 

「(この子は、確かイギリス代表候補生の……)」

『(名をセシリア・オルコットと言ったか……)』

 

一夏とゲキリュウケンは、目の前の人物が前もって“知らされていた”重要人物の一人であることを記憶の棚から引き出して思い出した。

 

「聴いていますの?お返事は?」

 

そんな内心での彼らのやりとりが、気にいらなかったのか先ほどよりきつめに問いかけてきた。

 

「ああ、聞いてるよ。それで?

 俺に何か用か?

 俺は、君のことなんか知らないんだけど」

 

知らないのは、嘘ではない。確かに資料で見て、知ってはいるが面と向かって合う初対面はこれが初めてである。

 

「わたくしを知らない!?このセシリア・オルコットを!?

 イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

「(なんか、めんどくさい子だな)」

『(そうだな)』

 

“いかにも”現代の子であるセシリアに対し、一夏とゲキリュウケンはあまり関わりたくないなと感じていた。

 

現在ISを動かせるのは女性だけということから、女性=偉いという風潮が流れて街中ですれ違っただけの男がパシリにさせられるというのも珍しくない。

 

目の前の少女もそんな風潮に染まっているようだ。

 

「全く男で唯一ISを操縦できると聞いていましたが、とんだ期待はずれですわね。

 大体、そんなISのことをしらないような有様でよくこの学園に入れましたわね」

「そっちが、勝手に期待しててもなぁ~」

 

確かに、他の人よりも不思議な出来事と遭遇することは多かったかもしれないし、できることも普通の人より多いかもしれないが、だからといって自分が優れていたり特別だとは一夏は思わなかった。

 

どんなに力を持とうとも、自分が“ちっぽけな人間”であることに変わりはないのだから――。

 

「ふん。本来、わたくしのような選ばれた人間と

 同じクラスになれただけでも幸運なことなのですよ?

 その現実を、理解していないようですわね。

 まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてさしあげますわよ」

 

明らかな上から目線で、セシリアはしゃべり続けた。

 

「ISのことでわからないことがあれば、そうですね。

 泣いて頼めば教えて差し上げてもよくってよ。

 何せわたくしは、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

「俺も倒したぞ、それ」

「は……?」

 

信じられない言葉でも聞いたのか、セシリアの表情が固まった。

 

「まあ、倒したって言ってもただこっちに突っ込んできたのをかわして、そのまま壁にぶつかって

 動かなくなっただけだから、勝たせてくれたって言った方がいいかもな~

 ん?どうしたんだ?」

「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

ビシリと何かに亀裂が走る音が聞こえた。

 

「あ、あなたも教官を倒したと言うのですか!?」

「いや、倒したんじゃなくて倒されてくれたというか、とにかく落ち着け」

「これが、落ち着いていられますか!」

 

ドンと一夏の机をたたくセシリアだが、そう言い放った後すぐに休憩時間の終了を知らせるチャイムがなり響いた。

 

「っ……!この続きはまた後で!

 逃げたら許しませんことよ!」

 

そう言い残しセシリアは一夏から去っていった。

 

「何だったんだ、一体……」

『(あの調子だと、本当にまた絡んでくるぞ)』

「(勘弁してほしいぜ。でもさ~?)」

『(どうした?)』

「(逃げるって……、どこに逃げる場所があるんだ?)」

『(さてな)』

 

一夏はさして気にせず次の授業の準備をするが、そうはいかない者たちがいた。

 

「っっっ!」

「あの女、何なのよ!あの態度は!」

「ずいぶん、上から目線の子やったな~」

「代表候補生って、国を担う将来のエリートなのにあの態度はよくないよね」

「“おはなし”が必要かな?」

「な、なのは。そ、それはっ……」

 

箒たちはセシリアの態度に思うものがあり、フェイトはなのはが出した言葉に冷や汗が流れるのを感じた。

 

「……クスッ」

「だ、誰か……席、変わっ……て……ガクッ」

 

シャルロットも箒たち同様、憤りを感じていたが彼女の放つ冷たく黒いオーラに、隣の席の子は最早限界だった。

 

 

 

三時間目開始時に千冬は、逃亡したカズキと一緒に教室に入ってきた。

カズキがピンピンしてるのに対し、千冬は何日も徹夜したかのような疲れ具合である。

 

「授業の前に、クラス代表を決める。

 クラス代表とはその名の通り、クラスを代表して会議や委員会への出席、

 代表者同士で行う対抗戦にも出てもらう。自他推薦は問わん」

 

ようするに学級委員のようなものかと一夏は感じていたが、一つ疑問があった。

 

「千冬ちゃ~ん。そういうのは普通、1時間目とかに決めるんじゃないの?

 ひょっとして、忘れてたとか?

 千冬ちゃん、意外とうっかりさんだからね~」

 

一夏の心でも読んだのか、感じていた疑問をカズキが代わりに問いかけた。

そして、言い終わるや否やカズキに日本刀が振り下ろされ、それを一夏がしたみたいに白刃取りで受け止めた。

 

「な~に、どこぞの変態宇宙人の退治に頭がいっぱいになっててつい、なぁ~」

 

笑ってはいるがギラギラした目で、カズキに斬りかかる千冬だった。

 

「ははは。それは大変だね~」

 

少し間違えば、スパッと斬られる事態にも関わらず、カズキは余裕な態度を崩さない。

 

「そうだ、大変なんだ。フフフ……」

「ははは……」

 

刀を振り下ろし、受け止めている状態で笑いあう千冬とカズキだが、

その空気ははっきり言って怖い。

 

「じ、じゃあ誰かクラス代表をやりたい人はいますか?」

 

耐えかねた山田先生が、涙ながらにクラス代表の話へと若干無理やりにもっていった。

 

「(大変だな。山田先生も)」

『(その大変なことの何割かは、お前のせいだと思うが?)』

 

そんな山田先生の苦労を察する一夏だが、ゲキリュウケンの言うように彼も苦労の原因の一端であることは否定できない。

 

「(とにかく、このクラス代表だけどさ。

 本当に“あの人”が言ったとおりになるのかな?)」

『(私もそんな馬鹿なと思ったが、彼女たちを見てるとおそらく……)』

「はいはいは~い!織斑くんを推薦しま~す♪」

「私も私も!織斑くんに一票♪」

「『(やっぱり~)』」

 

当たってほしくない予想が当たってしまい、嘆く一夏とゲキリュウケンだった。

 

「候補者は織斑一夏か……。他にはいないのか?」

 

刀を鞘に戻しながら、クラスに問いかける千冬に一夏が問いかけた。

 

「千冬姉じゃなくて、織斑先生。これって辞退することは……」

「推薦された以上、できるわけないだろ。

 ケガ等の、特別な理由でもない限りな……」

「ですよね~」

「待ってください!納得できませんわ!」

 

一夏が世界の理不尽?に半ばあきらめた時、突如甲高い声で反論が上がった。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!

 わたくし、セシリア・オルコットにそんな屈辱を味わえと!」

「(ああ~やっちゃったな、あの子)」

 

自分のことを貶められているのに、一夏は冷静だった。

 

「いいですか!?クラス代表は実力がなければつとまりません!

 こんな素人にそんな実力があるはずもありませんわ!」

 

頭に血が上っているのか、どんどん言葉が苛烈になっていく。

 

「大体、文化としても後進的な国で――」

『(言いたい放題だな)』

「(だな。周りの目が入らないのかね~)」

 

このIS学園では、様々な国から学びに来ている子も多いが、

それでもクラスの大半を占めるのは日本人である。

 

ヒートアップするセシリアは、そのことが頭に無いのか先ほどから鋭い目を向けているクラスメートに気がつかない。

 

「(大物なのか、よっぽどの鈍感なのか)」

『(お前に鈍感と言われるとは、アイツもかわいそうに……)』

「(どういう意味だ、そりゃ)」

『(言ったままの意味だ。

 それにしても、あらかじめ話を聞いていてよかったな)』

「(確かに少し前の俺なら、とっくにつっかかっていたよな~

 いつもながら思うけどここまで……”あの人”、カズキさんの予想通りだなんてな)」

「ちょっと、聞いていますの!」

 

自分が熱弁してるにも関わらず、他人事のような感じの一夏にセシリアがくってかかってきた。

 

「……」

「何か言ったらどうですの!これだから男と言うのはっ!」

「……ぷっ、……ははははは」

「なっ!」

 

突然、笑いだした一夏にセシリアだけでなく皆が唖然とした。

 

「いや~悪い悪い。あんまりにも聞いてたとおりだったから、つい」

「一体、何を言ってますの!」

「それは、俺が教えてあげるよ」

 

千冬とのじゃれあいの後ここまで何も言わず、おとなしくしていたカズキが会話に入ってきた。

 

「山田先生、例のものを読みあげてください」

「は、はい!」

「例のもの?何だそれは?」

 

突然、カズキに話しかけられ慌てる山田先生だが、そこへ千冬が少し不機嫌そうに問いかけた。

 

「え~っとですね、3時間目が始まる前に碓氷先生に渡されたんです。

 ”これは預言書だ”って」

「ははは♪ラブレターかと思ったの?

 やだな~もう。俺は千冬ちゃんに、ベタ惚れなんだからそんなことするわけないじゃ~ん。

 相変わらずのヤキモチ屋さんなんだ・か・ら~♪」

「誰が妬くか!!!」

「織斑先生、落ち着いてくださ~~~い!」

 

顔を赤くして、再び斬りかかろうとする千冬に山田先生が、後ろから必死に羽交い絞めして止めにかかる。

 

「織斑先生、先に進みませんよ~」

 

一夏にそう指摘され、舌打ちしながらも千冬は刀を納め、

山田先生にその予言書を読むように促した。

 

「それでは。

 ” 織斑先生がクラス代表を決めると言うと、クラスの皆はこぞって一夏を推薦する。

 一夏が、辞退できるかと織斑先生に尋ねるも推薦されたからとケガ等の理由もないため

 却下される。

 男が代表をすることに納得がいかないセシリア・オルコットは

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!

 わたくし、セシリア・オルコットにそんな屈辱を味わえと!」

 

 と反論する。

 その後も日本は後進的で、クラスのも耐えがたい屈辱であると言う。

 そして、素知らぬ顔をしてる一夏に

 

「何か言ったらどうですの!これだから男と言うのはっ!」

 

 と聞く。

 すると、一夏が突然笑いセシリアだけでなく、クラス全員が驚く。

 その後、俺が渡したこの予言書を山田先生が読み上げて皆固まる”

 って、えっ?

 えええええぇぇぇぇぇ――!!!!!?」

 

山田先生が読み終わった途端、驚きの声をあげた。

彼女だけでなく、クラス全員が驚きで固まりセシリアにいたっては、開いた口をしまらない状態になっていた。

 

「ううううう碓氷先生!

 何なんですか!これは!!!」

「何って、預言書だよ~

 クラスの名簿を見てたら、彼女が何か問題を起こしそうだったからね~

 このままじゃ、一夏もくってかかるだろうから、彼女の性格から

 言いそうなことを推測してあらかじめ教えてたんだ♪」

 

しれっと答えるカズキだが、推測だけでここまで言い当てることができるのだろうか?

 

「山田先生。考えるだけ無駄だ。

 癪だが、この変態はとんでもなく頭がいい。

 特に人を嵌めてからかう時の回転は、束以上だ。

 私もそれで……、何度っ!」

「束って、篠ノ之束博士ですか!?」

「そう!ただの千冬ちゃんにベタ惚れで、かっこいい男ではないのです!」

「黙ってろ!この変態宇宙人!」

「まあ、それはおいといて。山田先生?まだ予言はありますよ~」

「えっ?あっ!ホントだ」

 

まだあるの!とクラスの誰もが思い、一夏もここから先は初耳なので驚いていた。

 

「これですね。

 ”ps.

 セシリアが一夏のことを馬鹿にした時、千冬ちゃんは内心

 

「この小娘、よくも私の大事な大事な大事な弟のことを虚仮にしてくれたな……。

 たかが、代表候補生ごときが随分となめた口を……。

 まあ、そんな生意気な生徒を指導するのも教師の務めだ、ククク……。

 じっ~~~くりたっ~~~ぷりと、指導してやる。

 そうSI・DO・Uをな!」

 

 と思って、弟命な千冬ちゃんはセシリアへの制裁を決めていましたとさ♪”」

 

ズバッッッ!!!と山田先生が読み終わったと同時に刀を振り下ろすような音がクラスに響いた。

 

「おい……。貴様は何をないことないこと書イテイルンダ?」

 

地の底から響くような低い声で千冬が、カズキに問いかけた。

振り下ろした日本刀を持ちながら、ユラリと体を揺らすその姿は

黄泉よりまい戻った幽鬼のようだ。

 

その姿に固まっていたクラスの皆はガタガタと震え出し、千冬の近くにいる山田先生なんか腰を抜かして気絶寸前である。

 

「何言ってるのさ~♪

 あることあること書いてるんじゃん♪ってあっ!

 ごめんごめ~ん。

 大事な大事な大事なじゃなくて、“かわいくて自慢で大好きな”だった?」

「いっぺん、地獄にいってこい!

 この変態宇宙人がぁぁぁ!!!!!」

「とまぁ。冗談はここまでにしてと」

 

日本刀を振り上げ必殺の一撃を放とうとする千冬だったが、カズキは今までの飄々とした態度から真面目な顔になり千冬に向き合ったので、その動きを一端止めた。

 

「千冬。俺が、ただお前をからかうためだけにこんなことをしたとでも?」

「どの口が、そんなことほざく……」

 

千冬ちゃんから千冬と呼び方を変え、真剣な口調へと変えるカズキだがみんなも千冬同様、内心「えっ?違うの!?」と思っていたりする。

 

「千冬は、不器用だからね。

 皆勝手なイメージを押し付けてるけど、本当は不器用で照れ屋だけど弟思いな

 優しいお姉さんだってことを皆に知って欲しかったんだ」

「なっ/////」

 

カズキの思わぬ言葉に、本日一番顔が赤くなる千冬だった。

 

「ななななな何を言って……」

「そのためには、こうやって千冬の素顔を皆に見てもらうのが一番だから、

 こんなことをしたんだ」

「おおおおおお前はいつもそうやって//////////」

 

周りの目が入らないのか、ピンクな砂糖空間を形成する二人だった。

そして、先ほどまでの震えはどこにいったのか、皆甘ったるい空気に胸焼けを起こしかけていた。

 

「でも、半分ぐらいは千冬姉の慌てる顔を見るのが楽しいからやっていたんですよね?」

「半分どころか、七割ぐらいは♪」

 

空気を読めなのかそれともわざとなのか、一夏が問いかけるとカズキはあっさりと本音をバラし、今度は空気がビシリと固まった。

 

「お、お前らなぁ~~~」

 

先ほどとは違った意味で顔を真っ赤にした千冬が、ワナワナと拳を握りしめる。

まるで、噴火寸前の火山のようだ。

 

「何してるのさ、千冬ちゃん。

 早く、クラス代表を決めないと」

「そうだよ、織斑先生。時間がもったいないですよ~」

 

カズキと一夏がわざとらしくそう促すが、

今までのやりとりを見たら、全員同じことを言うだろう。

 

――決まらないのは、お前らのせいだ――と。

 

「で、では。オルコットの言うように、織斑にクラス代表ができる実力があるかどうかを

 見るために一週間後の月曜。放課後第三アリーナで勝負をしてもらう。

 結果に関わらず、その後再びどちらがクラス代表にふさわしいかの採決をとる。

 二人は、各々準備をしておくように」

 

プルプルと二人への怒りを我慢しながら、そう宣言する千冬であった。

これで、とりあえず終わるかと誰もが思ったがそうはいかなかった。

 

「後オルコットは放課後、生徒指導室に来い……」

「な、何故ですの!?」

 

突然の指名に、驚くセシリアだがその答えは意外なとこから返ってきた。

 

「あのさ?お前、代表候補生なんだろ?

 そんな、お前があんなことを言ったんだから当然だろ」

「どういう意味ですの!」

 

呆れを含んだ声で一夏が、答えるもセシリアは納得できないようだ。

 

「候補生とはいえ、国の看板を背負っているんだ。

 つまり、君の発言は祖国であるイギリスを代表するものとして捉えられる。

 ここでさっきの発言を出すとこに出したら、君も国も面倒なことになるんだよ、セシリア?

 IS誕生の国に対してなんて言った?

 だから、千冬ちゃんはとりあえず1回目だから、ありがた~~~いお説教で

 済ましてあげようっていうんだよ?」

 

カズキが補足の説明をすると、そこでようやく分かったのかブルブルと顔が青くなっていた。

 

「そういうことだ、オルコット。

 代表候補生というものが何なのか、キッチリ理解させてやる。

 ありがたく思えよ?」

 

口角をあげて微笑む千冬だが、その目は全く笑っていない。

どうやら、一夏のことを虚仮にされたのが相当頭にきているようだ。

 

「~~~っ!こうなったのもあなたのせいですわよ!」

「何でだよ……」

 

逃げ場がなくなったセシリアは、一夏に八つ当たりをするが一夏はめんどくさそうに返した。

 

「一週間後の決闘で、ケチョンケチョンにしてあげますから覚悟なさってなさい!」

「お前に、できるかな?

 なんなら、ハンデでもやろうか?」

 

どこか千冬をからかうカズキが見せる余裕な態度とは、少し違う余裕を見せる一夏だが発した言葉に今度はクラスの女子が笑いだした。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女よりも強かったのは、大昔の話だよ?」

「むしろ、織斑くんがハンデをもらわなきゃ~」

 

次々に女子たちは好き勝手なことを言う。それも本気で。

 

ISが登場して以来、既存の兵器は過去の遺物扱いとなり男と女で戦争をすれば、男性陣は三日ともたないとされているのが世間の常識となっている。

そのため、クラスの大半は一週間後の戦いで勝つのはセシリアであり、一夏は精々よく戦ったぐらいで勝負は終わるだろうと思っているのだ。

 

「ふふっ、日本の男子というのはジョークセンスがありますわね」

 

そんな、クラスの雰囲気に気分を良くしたのか、若干上機嫌でセシリアも嘲笑を浮かべた。

だが、一夏はその空気の中でも余裕な態度を崩さなかった。

 

「やれやれ。これだから、何も知らない素人っていうのは困るんだ」

「それどういう意味?」

 

一夏が挑発するように言葉を発すると、隣の席の子が尋ねてきた。

 

「簡単なことさ。確かにISは最強の兵器だ。

 だけど、最強=無敵という方程式は成り立たないのさ」

「男と女が戦争をすればISがある分、女性側が有利に戦局を運べるだろうけどそれだけじゃ、

 勝敗はつかない。

 戦車や戦闘機でも、ISに全くダメージをあたえられないってわけでもないからね」

 

一夏に続くように、カズキも会話に入ってきて説明を始める。

 

「そもそもISは人が乗らなきゃ、ただの金属の塊だから搭乗前に攻撃したり機動性を封じるために

 屋内で戦うとか、いくらでも戦いようはあるんだよ」

 

そうはいっても、まだ納得できないのかほとんどの子は不機嫌そうにしていた。

 

「それに、ここにISを動かすことのできる男が一人いるんだ。

 これから先も出てこないとは言いきれない。

 つまり、戦力差はひっくり返る可能性もあるんだよ?」

「付け加えるなら一昔前の人からしたら、人間が機械を纏って空を飛ぶなんて夢物語……、

 ありえないことなんだ。

 そんなありえないことが、今現実になっているんだ。

 それなのに、どうして俺が絶対に勝てないようなことを言い切れるんだ?」

「“ありえないことなんて、ありえない”んだ

 よく、覚えておくといいよ……」

 

一夏とカズキがそう言うと、今度こそ皆黙り込んだ。

 

「それと、オルコット。それほど織斑に勝つ自信があるというのなら、

 私の訓練に付き合ってくれないか?

 最近、体がなまっていてなぁ~

 ああ、安心しろ。もちろん、ISではなく生身でのことだ」

「な、何を言ってるんですの!?」

 

千冬がニタ~リと笑いながら、拳をボキボキ鳴らしてセシリアへとにじり寄った。

それに、講義するセシリアだが当然である。

生身とはいえ世界最強である千冬の訓練相手など、自分などに務まるわけがない。

 

「だから、訓練に付き合えと言っているんだ。

 何せ、この私を“追い詰めた”ことがある一夏に勝てるんだから、私の相手も余裕だろ?」

「「「「「えええええっっっっっ!!!!!?」」」」」

ゴンっ――!!!

 

千冬のその言葉に周りは大いに驚き、一夏は机に勢いよく頭をぶつけて突っ伏した。

 

「ち、千冬様を追い詰めた!?」

「じゃ、織斑くんって超強いの!?」

「何言ってんだよ、千冬姉!!!

 あれは、千冬姉が油断してくれてただけだろ!

 それに、アレ以降はボコボコにされてるんだから!!!

 ……ってぇぇぇ!」

 

みんなが騒ぐ中、一夏がちょっと待て!と言わんばかりに真実を言うが、千冬からげんこつをもらってしまった。

 

「織斑先生だと、何度言えば分かる?

 油断だろうが、何だろうが私を追い詰めたのは事実だろうが」

「とか言って、ホントはただ一夏のことを自慢したいだけなんじゃ~」

「……」

「図星みたいだね~」

 

カズキの指摘に、目をそらす千冬だが彼の言うように事実のようだ。

 

実際、一夏が千冬を追い詰めたことは一度だけだが確かにある。

数年前国家代表を引退した後、家に帰った時に一夏が鍛錬をしていたのをたまたま見た千冬は、

好奇心から勝負を持ちかけたのだ。

胸をかしてやるつもりであったが、一夏の強さは千冬の予想を超えており彼女は、油断があったとはいえ後少しと言うとこまで追い詰められたのだ。

 

それ以降、家事だけでなく強さまで追い越されたら姉の威厳に関わると危機を感じた千冬は、自主練を現役時代のものより増やしたのだ。

一夏にも時折、相手をしてもらっているが姉の意地か、一夏は毎回ボコボコに負けている。

 

「まあ、とにかく一夏はそんじょそこらの奴らより強いってことだから、

 なめていたら痛い目を見ちゃうよ?」

「ふ、ふん!た、例えそうだとしても、勝つのはわたくしですわ!」

 

げんこつをもらって頭を抱えている一夏や明後日の方向を見てる千冬に代わって、忠告をするカズキだが、意地からかセシリアは聞こうとしなかった。

 

「やれやれ。仕方ない、一夏。

 このお嬢様に、世界の広さって奴を教えてやるといいよ」

「……テテテ。

 他人事だと思ってのんきですよね、アナタは。

 まぁいいや。

 セシリア・オルコット……、いやこのクラスの全員に見せてやるよ。

 お前たちの常識って奴が、ぶっ壊れるとこをなっ!」

 

立ち上がってセシリアに向き合い、怯むことなく真っ向から挑むような一夏のその姿を

カズキと千冬はおもしろそうに見つめていた。

 

 

 




なんか、原作のとこよりオリジナルのとこが書きやすかった。
何故だ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライジン!

遅くなりました(汗)
社会人の天敵である残業の襲撃に加えて、休日出の奇襲まで受けていました(泣)

とにかく、最新話完成です。

そしてついに!


教室にいた子たちは、息を呑んだ。

一夏が言ったことは、戯言。

 

所詮、男が言う負け惜しみのはずなのに、言い返す言葉が出てこなかった。

 

一夏の迷いのない瞳が、纏う空気がそうさせているのか、自分たちが知る男という存在と彼は何かが違うと本能で悟った。

 

いや、そもそも自分たちの男への認識が間違っていたのか……。

 

そんな中、セシリアは自分がこの男に気圧されていることが信じられなかった。

 

ひょっとして、自分はとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのでは?という考えが頭をよぎるが、すぐにそんな考えを振り払う。

 

自分は、代表候補生だ――!

男に気圧されることなんてない――!

 

必死に、そう自分に言い聞かせるが一瞬でも頭をよぎった不安というのは簡単に拭うということはできなかった。

 

皆が固唾を呑む中、そんな空気自分には関係ないとばかりにカズキが動いた。

 

「ところで、一夏。これ、渡しとくね」

「何ですか、コレ?」

「アリーナと訓練用ISの使用許可書。

 とりあえず、来週までの一週間でとれたのは二日分だからね~」

 

カズキが一夏に渡したのは、練習用のISと訓練に使うアリーナを

使用する際に必要な許可書だった。

 

「ちょっ!碓氷先生!

 何で、もう持っているんですか!!!?」

 

山田先生が驚いて問いかけるが、当然である。

本来、ISの訓練に必要なこの許可書は、最低でも数日前に

予約をとらなければとれるものではないのだ。

そんなものを何故、カズキが持っているのか?

 

「ああ、コレ?

 予約とれないかな?って担当の人にお願いして、

 “コレ”見せたら快~~~く取らせてくれたよ♪」

 

“コレ”といって、カズキが見せたのは黒い表紙に白いオドロオドロシイ文字で

 

――“悪魔手帳”――

 

と書かれた手帳だった……。

 

「やっぱり、それだったか……」

 

その手帳のことを知っているのか、一夏の頬は引きつっていた。

よく、見ると千冬も苦虫を噛んだような顔をしている。

 

「な、何なんですか?それ?」

「それは、カズキさんが集めたいろん~~~な人たちの知られたくない黒歴史や秘密が

 つまった手帳ですよ」

「く、黒歴史にひ、秘密ですか……?」

 

山田先生がおそるおそるといった感じで尋ねると、その手帳の使い方を見てきた一夏が答えた。

 

「うん、そうだよ。

 例えば、……。

 弟とその友達の絡みに興奮したり、夜にオバケが怖くて一人でトイレにいけなかったり、

 照れ隠しで相手の顔にグーパンチをかましちゃったとかね☆」

「「「なぁっっっ――!!!?」」」

 

使い方の例としていくつか、手帳に書いてあることをしゃべったら、心当たりがある子が驚きの声をあげた。

 

「ハハハ、別にオバケが怖くても気にすることないと思うんだけどな~♪

 千冬ちゃんだってその手の映画を見た時は、一人でお風呂に入ることも寝ることも

 できなかったから、一夏を引っ張ってきて一緒に……」

 

ザシュ!

さらっと千冬の黒歴史を暴露したカズキに、ためいらなく刀を振り下ろす千冬

だが、カズキが持っていた出席簿を斬るだけに終わって、見事にかわされてしまった。

 

「お前と言う奴は……、余程命が惜しくナイノダナ?」

 

再び降臨した幽鬼に皆が震える中、カズキは飄々とした態度を崩さなかった。

 

「別に恥ずかしがることは、ないじゃん。

 俺だって、昔はオバケが怖かったんだよ?」

「うっそだぁ~」

 

フォローなのかカズキも自分がオバケを怖いとバラすが、一夏が否定の声をあげた。

それはクラスの面々も同意見だった。

 

千冬をここまでおちょくるもとい、振り回す人がオバケを怖がるなんてとても信じられなかった。

 

「ほんとだって。

 後ろにオバケがいるって聞いたら、どこかのマヨラーみたいにマヨネーズ王国の入り口

 を探したり、知り合いが百物語とかした時は、家で一人寝ていたら怖くなって、

 みんなのとこに突っ込んだこともあるんだよ~。

 それも頭から、ハハハ♪」

「信じられないな……」

 

笑いながら、話すカズキに一夏をはじめとしたクラス全員が、疑いの目をするのをやめなかった。

 

「まあ、でも今は大丈夫だけどね♪

 実際、話してみたらいい奴らだったからね~♪」

「へぇ~、なるほど。…………ん?」

「「「「「えっ?」」」」」

「むっ?」

 

もう、オバケは怖くないと言うカズキだが、その言葉の変なところにカズキ以外のクラス全員が疑問を浮かべた。

 

「「「「「(……話したって……、一体“誰”と!!!?)」」」」」

「アハ☆」

 

誰と話したのかは、わかるが果たして事実なのか冗談なのか……。

 

カズキのつかみどころのない笑顔から、それを判断できる者はその場にいなかった……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「では、これで4時間目を終了する……」

 

授業の終わりを告げる千冬だったが、どこか覇気がなかった。

それは、生徒の皆も同じであった。

 

あの後、授業を始めるものの皆どこかぎこちなかった。

カズキは、そんな様子がおかしいのか、これといって千冬をからかうこともなく授業を過ごし、教室を後にした。

 

「ふぅ~。

 やっと、昼か。

 ここまで、長く感じた時間も初めてだな~

 でも、皆さっきからどうしたんだ?」

『(事の発端がどの口で、言うんだ?)』

「ん?」

 

そう。

あの発言のせいで、一夏は初日からクラスメートに少し距離を置かれているのだ。

だが、一夏からしたら別におかしなことをしたという自覚がないため、何故彼女たちがよそよそしいのか理解していないのだ。

 

そんな中、カズキと同じく教室に流れる異様な空気なんか関係ないZ・E☆

と動く少女がいた。

 

もっとも、彼女がそんな空気を呼んでいるのかは甚だ疑問だが……。

 

「おりむ~

 一緒にご飯、食っべよ~♪」

「そのおりむ~っていうのは、決定なのかい?のほほんさん?」

「細かいことは、気にしな~い気にしな~い♪」

 

一夏に話しかけたのは、眠そうな目をして長い制服の袖をパタパタと振っている

布仏 本音であった。

 

「ところで、のほほんさんって?」

「ああ、それ?なんか名字は呼びにくいし、かといって名前で呼ぶってのもあれだから

 俺もあだ名を考えたんだ」

『(いきなり、あだ名というのもどうかと思うが……)』

「おお~。いいねいいね♪

 おりむ~、いいセンスしてるよ~。

 でも、なんでのほほんさん?」

「なんか、空気がのほほんとしてるから」

「なるほど~」

「ところで、何の用だったけ?」

「え~~~っと……、なんだったけ?」

「あらら~」

 

本音ことのほほんさんは、ボケかツッコミかと聞かれたら大半のものが前者だと答えるだろう。そして、一夏も非常識な仲間たちからしたら基本ツッコミ役であるが、ボケる時は誰かが止めないとそのボケが止まることはない。

 

まあ、ようするにツッコミがいないとボケ同士はいつまでもちょっと待て!みたいなおかしな会話を続けるということだ。

 

本来なら、昼食に行くはずなのにのほほんさんと一夏の間にはほにゃ~とした空気が流れていた。

 

「うぉい!何ボケ同士で、漫才してんのよ!あんたたちは!!!」

「ツッコミなしの漫才って、あれかい?私への挑戦か!!!」

 

そんな空気を見かねたのか、元来の世話焼き体質かはたまたツッコミの血が騒いだのか、ほにゃ~とした空気を切り裂くものたちが現れた。

 

「「うん?」」

「あんたたち!

 昼ごはんの話してたのに、何であだ名の話になってんのよ!」

「ツッコミもおらずに漫才とか、舐めとんのか!」

「アリサちゃん、落ち着いて~」

「お、おい。アリサ」

「はやてちゃんも落ちつこう?」

「はやても、何か話ずれているよ~」

 

一夏と本音にツッコミを入れたのは、アリサとはやてであった。

その後ろから、彼女たち二人をなだめるすずかと箒、なのは、フェイトが現れた。

 

「のほほんさんの知り合い?」

「ううん。違うよ~」

「だ~か~ら~!

 ええ~い!まどろっこしい!

 ほら、箒!」

「お、押すな!」

 

再び、ツッコミのいないボケ同士の漫才が始まってはたまらないと、アリサは自分たちの目的である箒の背中をグイグイと押して前に出した。

 

「箒?」

「えっ、あっ、そ、そのだな……、ひ、久しぶりだな一夏/////」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へぇ~。箒の小学校時代の友達か~。

 それが、こんなとこで再会なんてすごいな」

「いやいや。すごいのは、あんたもやで織斑くん。

 男のあんたと女の園のIS学園で再会とか、お釈迦様もびっくりやで♪」

 

一夏たちは現在、食堂にいた。

あのまま、教室で話をするのもあれなので食堂へと場所を移したのだ。

もっとも、はやてやアリサは再会した初恋の相手にどうすればいいのか途方にくれている箒のための場所をセッティングするのが目的であったが……。

 

「この場合、知り合いの女の子を引き寄せる一夏の体質がすごいんじゃないかな?

 フランスで会った僕まで、いるんだからね♪」

「そうだな、昔離れ離れになった“幼馴染み”の私と再び会えたのだからな……」

「もう一度会えるかわからなかった、

 別の国の”私”とまた会えた方がすごい気がするけどな~」

「ハハハ……」

「フフフ……」

「何で、二人とも笑っているのにこんなに怖いんだろう……?

 というか……、誰か席変わってくれ!」

『…………』

 

ごらんのように、一夏は今箒とシャルロットに挟まれる形で座っている。

教室から食堂へ行こうとした時、これ以上ライバルたち出遅れてなるものかと

シャルロットも一夏たちに声をかけ、現状にいたるということである。

 

目が合った瞬間、互いの気持ちを察した恋する乙女たちは早くも牽制をし、その場で感じる体感温度は春になったばかりだというのに真冬のように寒い。

特に二人の間にいる一夏は、氷の世界にいるかのようだ。

そして、ゲキリュウケンは触らぬ神にたたりなしと言わんばかりに沈黙を続けていた。

 

「うっわ~!これが修羅場って奴なんやね~」

「なんかすごく楽しそうだね、はやてちゃん」

「のんきにしている場合じゃないわよ、なのは!

 ただでさえ、できる大人とみせかけたドジっ子お姉さんっていう強敵までいるのに、

 あのシャルロットって子、油断ならない感じの子よ!

 私たちがしっかり、箒を応援しないと!!!」

「やっぱり、なんか燃えてるね。アリサ」

「自分を見てるみたいで、ほっとけないんじゃないかな?

 それにしても、本音ちゃん遅いね」

 

そんな一夏たちを見ながら各々それぞれの反応をするなのはたちだが、食堂に集まるきっかけとなった本音の姿は見えなかった。

 

教室を出る前に、「私のともだちを連れてくるから、先に行っててねぇ~」といったきりで姿を見せていないのだ。

何かあったのかと、すずかが少し心配してると気の抜けるような声が聞こえてきた。

 

「ほらほら~、かんちゃ~ん♪

 はやく、はやく~♪」

「ほ、本音!押さないで~」

 

火花を散らしている箒とシャルロット、その間にいる一夏以外のなのはたち5人がその声がする方に顔を向けると、にこにこと楽しそうに笑いながら、小動物を思わせるような感じの水色の髪に眼鏡をかけた子の背中を押しながらこちらにやってくる本音の姿を見た。

 

「やぁ~やぁ~、皆お待たせ~」

「遅かったわね。で?その子が、言っていたお友達?」

「そうだよ~

 私の親友のかんちゃんだよ~」

「は、始めまして!さ、更識簪って言います……」

 

人見知りなのか最後の方は、消え入りそうな声で簪はあいさつをした。

 

「ほらほら、かんちゃん♪おりむ~にもあいさつあいさつ♪」

「ちょ、ちょっと待って、本音!

 こ、こころの準備が……」

「お~い、おりむ~」

「ほ、本音!」

 

若干興奮気味の本音に、一夏が呼ばれて焦る簪の姿になのはたちはまさかと思った。

 

「な、なんだいのほほんさん?

 あれ?君は……」

「はははははいいいいい!!!

 さささ更識かかかかか簪とももも申しますすすすす!

 先日は、あああ危ないとこをたたた助けてもらって

 ああああありがとうごごごございまひゅひた!!!」

「?ああ、どういたしまして」

「はう~~~//////////」

 

先ほど、なのはたちに名前を言った時とは比べ物にならないぐらいにテンパる簪。

誰が見ても箒やシャルロットと同じだということが分かるが、一夏は人としゃべるのが苦手なのかな?ぐらいにしか思わず、安心させるために笑顔で答えるが、簪は逆にその笑顔でオーバーヒートを起こしてしまった。

 

ついでに、周りで見ていた興味本位の子たちもその笑顔にハートを打ち抜かれていたが一夏がそのことに気づくことはなかった。

 

「「一夏?」」

「ひっ!?」

 

そんな一夏に、爽やかな笑顔と声で問い掛ける箒とシャルロット。

 

一見爽やかと言う言葉が、これ以上ないぐらいに合う笑顔だがその背後に湧き出る赤黒いオーラが見るものを震え上がらせた。

 

「一夏?しばらく見ない内に、とんでもない女たらしになったなぁ~?」

「一体、あの子とはどういう関係なのかな……?」

「ど、どういうって。シャ、シャルロットと同じだよ!」

「僕と?」

「どういうことだ……?」

 

簪との関係を問い詰める二人だが、自分と同じだとシャルロットは赤黒いオーラを霧散させ、箒は不機嫌に先を促した。

 

「どうもなにも、さっき言ってただろ?

 ガラの悪い奴らに絡まれてたのを助けたんだよ。

 シャルロットと“同じ”ようにな」

「なるほど~」

「そういうことなら……」

 

“同じ”ということを強調されて、自分と同じかとシャルロットは納得し、

箒も渋々と言った感じだが一応引いた。

 

「どうやら、一段落みたいやな」

「あの笑顔はこわかった……。どうしたの皆?」

「「「「……いや、別に……」」」」

 

箒とシャルロットの阿修羅すら凌駕するオーラに肝を冷やしていたなのはたちだったが、なのはの言葉に皆同じ言葉で返した。

その目は、“それをなのは(ちゃん)が言うの?”と語っていたとか――。

 

「ねぇねぇ、おりむ~。来週の決闘ってどうするの~?」

 

どこまでも自分のペースでのんびり進んでいく本音が、セシリアとの決闘について尋ねてきた。

 

「そうだな、このままいけば99%負けるだろうな……」

「何を弱気なことを言っているんだ、一夏!

 戦う前からそんなことを言うとは!」

 

あれだけの啖呵をきったにも関わらず後ろ向きな発言に箒は声を荒げるが、これには今の一夏のことを知らない者は同意見だった。

あの時、感じた空気は錯覚だったのかと思うが……。

 

「あのな、箒。向こうは、あんなのでも一応は代表候補生だぞ?

 ということは、ついこの間ISを動かした俺とは

 ISに対する理解も熟練度も桁違いなんだぞ?

 普通に考えたら、100回戦って1回隙をつければ良い方だろ。

 

 竹刀を握って、一週間のルーキーが全国優勝のお前に勝てるのか?ってぐらい

 無茶なことなんだよ……」

「ぐっ!た、確かにそうだが……しかしだな!」

 

一夏の正論に言葉が、詰まる箒だがそれでもあんな奴に好きな男が負けてほしくないのか

尚、言い返そうとした。

 

「そんなに心配すんなよ。言っただろ?

 100回やれば1回は隙をつけるって。

 その1回を今度の決闘に持ってきて勝ちにつなげればいいんだし、

 それにその1回は“このまま”だったらって、話だ。

 この一週間で、10回も20回もできるように徹底的にやるだけさ」

「「「っっっ//////////!?」」」

 

面をくらうとはこのことか。

不敵に笑うその笑みは、誰が見てもカッコイイと言えるものだった。

 

特に、彼に恋心を持つ者には効果はバツグンどころではなく、簪は再びオーバーヒートし、箒もシャルロットもその一歩手前ぐらいに顔が真っ赤になった。

 

「カッコイイこと言うやん~、織斑くん♪

 箒ちゃんの話と違って、しょうもない男やったらどうしたろうかと思っとったけど

 気にいったで!

 私のことは、はやてって呼んもええよ。

 みんなも名前で呼ばれてもかまへんよな?」

「私は別にいいよ」

「私もフェイトでいいよ」

「まあ、しょうがないわね」

「私もかまわないよ」

「ははは、ありがとな。俺も一夏でいいぜ。

 でも、実際訓練どうするかな~

 ISをうまく動かすにはどうすればいいんだ?」

 

はやてのおかげで、一気に距離が近くなった一夏だったが来週の決闘に頭を悩ませた。

何せ、自分が今まで触れる機会がほとんどなかった領域だ。

多少の知識があるとはいえ、何をすればいいのか皆目見当がつかなかった。

 

「ほら、箒。チャンスよ。

 一緒に訓練して、一気にライバルとの差をつけるのよ!」

「う、うむ/////

 確かにそうだな/////」

「ほら、かんちゃ~ん。ガンバ!だよ~」

「が、がんばる/////!」

「こ、今度こそ!」

 

そんな悩める一夏に、各自我先にとヒソヒソ声で後押しされたり

決意したりして行動を起こそうとした。

 

「「「い、一夏!」」」

「じゃあ、私がISのこと見てあげましょうか?」

「「「えっ?」」」

 

意を決した三人だったが、そこに謎の人物が突如乱入してきた。

手には扇子を持っており、開かれたそれには“真打登場♪”と書かれ、

簪と同じ水色の髪をしていた。

 

「な、何よアンタ!突然、やってきて!」

「アリサちゃん、落ち着いて!」

「リボン見て!先輩だよ!」

「こらまた、すごいな~

 箒ちゃんやフェイトちゃんに負けてないんとちゃう?」

「どこ見てるの、はやて!」

 

アリサが突然やってきた謎の人物に抗議の声を上げるが、それをなのはとすずかがなだめる。

ここIS学園では、学年別にリボンの色が異なっている。一年は青、二年は黄、三年は赤である。

そして、この人物のリボンは黄であり自分たちの先輩に当たるのだ。

 

そんな興奮するアリサをしり目にはやては、ある部分に注目していた。

それは女性を象徴するものの一つであり、持たざる者は血の涙を流して持つものをうらやむものであり、大半の男が目を奪われるものである。

はやては女だがそれに、非常に興味を持っており

同等ぐらいであるフェイトのそれと見比べていた。

そんなはやての視線に気づいたのか、フェイトは手で隠すが隠し切れていなかった。

 

それがなんなのかは、お察しあれ。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「「「「「「「「お姉ちゃん!?」」」」」」」」

「そう、私はそこのかわいいかわいい簪ちゃんの姉、更識楯無♪

 そして、この学園の生徒会長よ!」

 

後ろに効果音がつきそうなポーズを決め、口元に持ってきた

扇子には先ほどとは違い“生徒会長”と書かれていた。

 

「ねぇ、簪。ひょっとして、お姉さんも……」

「うん。お姉ちゃんも私たちと同じ」

「もう、どんだけなのさ」

 

簪の姉と聞いて、嫌な予感がしたシャルロットは簪に尋ねるとその予感が当たりであると肯定され、一夏の予想をはるかに超えたジゴロっぷりに呆れ果てた。

 

「それじゃ、早速一夏くん。ちゃんと受け止めてね♪」

「はい?」

「とう!」

「えっ?

 ちょちょちょ、ちょっと!?

 うわぁ!?」

「「「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

「「「「「「おおおおお/////!」」」」」」

「「「「きゃぁぁぁぁぁ//////////!!!!!?」」」」」

 

楯無が唐突に、一夏に尋ねるとその場でジャンプをして机を飛び越え一夏の頭上に飛びあがった。

突然の出来事にあせる一夏だが、条件反射で両手を前に出して受け止めようとする。

そして、楯無を受け止めるがその体勢に食堂にいたもの全員が驚きの声をあげた。

一夏は楯無を女の子の永遠の憧れの一つである、“お姫様だっこ”で受け止めたのだ。

 

「あはは♪流石だね♪」

「なんなんですか、いきなり」

「お、お姉ちゃん!すぐ降りて!」

「何をしてるんですか、あなたは!」

「……ニコッ♪」

 

当然、箒たちが黙っているはずがなく、シャルロットに至ってはブリザード級の

笑みを浮かべている。

 

「だって、このテーブルはもう空いている席はないし

 話をするにはこうするしかないじゃない?」

「話だけなら、立ったままでもできるでしょう!」

「細かいことは気にしない~気にしない~」

「お、俺の意見は……?」

「ねぇ?流石にこれは、止めないとまずいんじゃない?」

「そうだけど、どうやって止めるの?あれ?」

 

本音とは違った楯無のマイペースぶりに、一夏たちのテーブルは一触即発の空気となり、アリサたちが何とかしようとした時、この場を収める救世主が現れた。

 

「会長、皆さんをからかうのはそれぐらいにしては?」

「虚ちゃん!どうしてここに!?」

「あっ。お姉ちゃん、やっほ~」

「お姉ちゃんって、のほほんさんのお姉さん?」

「はい、本音の姉で生徒会の会計を担当しています」

 

やってきたのは、楯無の付き人であり、本音の姉である布仏 虚であった。

 

「まったく、はりきって仕事を終わらせたのは王子様に会うためだったとは」

「王子様?」

「ななななな何をいいいい言ってるるるるるのかな、虚ちゃんは!」

 

楯無の慌てっぷりに、簪と本音以外のその場にいた全員が二人の力関係を理解した。

 

「ほら、会長。もうすぐお昼休みも終わりですから、今日は帰りますよ」

「えっ!いや、でも……」

「か・え・り・ま・す・よ?」

「はい……」

「では皆さん。会長がお騒がせしました。

 皆さんも次の授業に、遅れないようにしてください」

 

有無を言わせない迫力の虚に、楯無はあっさり折れた。

その光景に残された者は、唖然とするしかなかった。

 

「俺たちも、教室に戻るか」

「そうやね」

 

こうして、昼休みの一幕は終わった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時間は流れて、放課後。

 

「やっと、一日が終わった……」

『(まだ一日目だぞ。そんな調子で、大丈夫か?)』

 

一夏は疲労困憊といった感じで、机にうなだれていた。

 

「ああ、よかった~

 織斑くん、まだ教室にいたんですね」

「山田先生?」

 

一夏が声をした方に顔を向けると、山田先生が書類を片手に立っていた。

 

「織斑くんの寮の部屋が決まったので、知らせに来ました」

 

ここ、IS学園は全寮制であり生徒は全て寮で生活することを義務づけられている。

 

「寮の部屋?でも確か、一週間は自宅から通うって聞きましたが?」

「そうだったんですけど、織斑くんの事情が事情ですから

 部屋割が急遽変更になったんです」

「わかりました。でも、荷物は家にあるので一回帰ってもいいですか?」

「あっ、荷物なら――」

「荷物なら、雅さんが送ってくれたぞ。後でお礼を言うように」

「ちふ、じゃなくて織斑先生!」

「荷物はきれにまとまっていたが、何故だ?まさかと思うが……」

「多分、織斑先生の考えている通りだよ。カズキさんが言っていたんだ。

 “寮で生活する荷物は自分でまとめといた方がいいよ。

 雅さんならともかく、千冬ちゃんにまかせたら着替えと携帯の充電器

 だけになるだろうからね~”って」

「ほおぅ~……」

 

千冬は一夏の荷物の纏め方を尋ねたが、予想通りの人物が予想通りに絡んでいてしかも小馬鹿にされたと思ったのか、肉食動物を思わせるような笑みを浮かべ拳をワナワナと震わせた。

 

「えええっと……、あっ!大浴場は使えないので、申し訳ありませんが

 織斑くんは部屋のシャワーで済ましてください」

「まあ、女生徒の中に男子生徒一人ですから当然ですね」

 

山田先生が話題を変えようと、他の注意事項を話しかけた。

 

「それじゃ、私たちは会議があるので失礼しますが、

 道草をくわずにまっすぐ寮に帰ってくださいね」

「カズキめ、どこまで人をおちょくれば気が済むのか……

 今度という今度は……」

「じ、じゃあ俺はこれで!!!」

 

不穏なことを言う千冬にとばっちりをくうのはゴメンとばかりに、

一夏はすばやく教室を後にした。

教室に残された山田先生がどうなったかは、誰も知らない――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

カチカチカチ――

“ソレ”はその場で周囲を一瞥していた。

何故、自分はここにいるのか?

ここはどこなのか?

自分は何者か?

様々な疑問が“ソレ”の頭によぎるが、すぐに振り払われた。

何故なら、その疑問よりも強烈に自分のなすべきことが頭に浮かんだのだ。

 

“ソレ”は獲物を求めて動き出した…………

 

 

 

 

 

 

「しっかし、校舎から寮まで50メートルぐらいなのに

 どこで道草をくえばいいんだろうな?」

『よくも悪くも真面目なんだろ、彼女は。

 もっとも、それゆえにこれから苦労しそうだがな』

「違いない。カズキさんや千冬姉のイチャつきのせいでな」

『その苦労の原因に、お前も含まれることになるだろうがな。

 ほぼ確実に』

 

一夏は寮へと足を向けており、周りに誰もいないことを確認してからゲキリュウケンと雑談をしながら歩いていた。

すると……。

 

「俺が苦労の原因って、なんだよ……っ!」

『一夏!』

「ああ!どうやら、道草をしなくちゃいけないみたいだな!」

 

一夏とゲキリュウケンは何かを感じたのか、走り始めた。

 

 

 

カチカチカチ

“ソレ”は、本能なのか一直線に大量の獲物が、いる場所に向かっていた。

その姿を見たものは、言葉を失うだろう。

何故なら、地球の生き物の姿とは異質すぎるからだ。

それでも、敢えて言葉に出すならこう言うだろう……。

“カマキリ”と――

 

だが、“ソレ”は当然普通のカマキリではない。

まず大きさである。

普通のカマキリは、人間の子供が手で捕まえられるぐらいに対して“ソレ”は人間の大きさを一回りも二回りも大きく、全長数メートルはあるのだ。

 

さらに、カマキリの特徴と言っていい両手のカマがまるで人間が使う鎌のように金属の光沢を放ち、体とは離れて磁力で浮いてるかのようなのだ。

加えてその体は、まるでハサミを立てたかのようであり持ち手に目があるのだ。

 

“ソレ”が獲物がいるであろう場所に進んでいると、突如世界の色が変化した。

その変化に“ソレ”は、何事かと周りを見渡す。

 

すると、こちらに向かってくる一人の獲物、人間の姿を見つけた。

 

「なんだ、コイツは?

 でっかいカマキリ?」

『どう見ても、普通のカマキリじゃないだろ』

 

現れた人間、一夏に“ソレ”は後ずさった。

目の前にいるのは、獲物の中の一匹のはずなのに感じてるコレは何なのかと思うが、この世界に現われたばかりの“ソレ”にその感情は理解できなかった。

それこそ、生物にとって最も重要な感情、

「恐怖」であることを“ソレ”が知ることは最後までなかった……。

 

「相手がなんだろうと、俺たちがやることは変わらない!」

『結界は既に張ったから、遠慮はいらん!

 いくぞ!一夏!』

「おう!ゲキリュウケン!!!」

 

一夏が左腕に巻かれているゲキリュウケンに、右手をかざして引き抜くようにするとゲキリュウケンは腕輪から巨大な剣に姿を変えていた。

 

「リュウケンキー!発動!」

 

一夏はどこからか取りだした鍵を、その剣に差し込み……

 

『チェンジ!リュウケンドー!』

「ゲキリュウ変身!」

 

剣から青い龍が空へと飛びあがり、咆哮すると一夏へと向かっていきぶつかったと思ったら、まばゆい光が一瞬彼を包み込んだ。

 

光がおさまると、そこにいたのは青いスーツに白い鎧をまとった戦士であった。

 

「光と共に生まれし龍が 闇に蠢く魔を叩く!リュウケンドー!ライジン!」

 

 

 




ようやく、変身までいけました~

次回も初の戦闘描写なので時間がかかると思います。

評価、感想待っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

画策

最新話、できました。
初めて、戦闘シーンなるものを書いたのでいつもよりドキドキしております(汗)

展開の都合上、いつもの半分ぐらいの長さになっています。

そしてUA5000、お気に入り50件を突破しました!
ありがとうございます!


「ギギギ……、ギィィィ!!!」

 

カマキリに酷似した“ソレ”は、リュウケンドーへと変身した一夏の気迫に押されるものの先手必勝とばかりに両手のカマを勢いよく回してリュウケンドーに“飛ばしてきた”。

 

「……っと!

 なんで、カマキリみたいな姿なのにカマを投げるんだよ!」

『無駄口をたたく暇はないぞ!』

「ギィィィィィ!!!!!」

 

その姿から、てっきり斬りかかってくるかと思いきやカマを飛び道具として使ってきたのにリュウケンドーは驚くが、そのカマを難なくかわす。

 

しかし、そのカマは使い捨てなのか一回打つと瞬時に新たなものが現れ次々とリュウケンドーへと飛ばしていく。

 

「くっ!

 武器を飛ばしたから、その隙を突くってのはムリそうだな!」

『無限というわけではないだろうが、時間をかけての持久戦は得策ではないな……』

 

飛んでくるカマを喰らうまいと走り回って、避けていくリュウケンドー。

たちまち、周囲は避けられたカマで斬り裂かれていく。

斬られたモノの切り口はきれいにスパッ!となっており、もしも人間の体に当たったらタネも仕掛けもないお手軽な切断マジックを見ることができるだろう。

 

リュウケンドーは武器であるゲキリュウケンを見ても分かるとおり、近接タイプの戦士であり、こういった飛び道具主体の敵とは相性が良くなく更に、時間をあまりかけていられない理由がリュウケンドーにはあるため、戦局は客観的に見てイイとは言えなかった。

 

……だが、それはリュウケンドーが普通の戦士であったらの話である――。

 

『どうする?このままでは埒があかないぞ?』

「決まっているだろ?こうするんだよ!!!」

 

言い終わるや否や、鎧を纏ったリュウケンドーでも当たればイタイでは済まないカマの弾丸の中へと突っ込んでいった。

 

「うぉぉぉぉぉ――!!!!!」

 

すると、リュウケンドーは飛んでくるカマを片っ端からゲキリュウケンで斬り落して“ソレ”との距離を縮めていった。

 

「ギ、ギィィィ!?」

 

あまりの突拍子のない光景に、“ソレ”は目を見開く。

驚きで一瞬動きを止めた隙を逃さず、リュウケンドーは一気に懐へと潜り込む。

 

「おりゃぁぁぁ!!!」

 

咆哮と共に、袈裟切りで“ソレ”の体を斬り裂き、反撃をさせる間もなくゲキリュウケンを振り上げて今度は左のカマの根本を叩き切った。

斬られたカマは新しいものが出てくることなく、残された部分がただ浮いている形となった。

 

「どうやら、カマの一部でも残っていたら新しいのは出せないみたいだな!」

「ギィィィヤァァァ!!!」

 

だが、“ソレ”もこれ以上舐めるなとばかりにカマをリュウケンドーに振り下ろす。

 

そのカマを避けることなくゲキリュウケンで受け止めようと構えるが、

リュウケンドーはその攻撃を受けるのではなく、受け流すかのように体とゲキリュウケンをコマのように回転する動きでかわしてみせた。

 

攻撃をかわされたことでバランスを崩した“ソレ”の横腹を蹴り飛ばして

ダメージを蓄積させていく。

 

「ギ……ギィィ……」

 

蹴り飛ばされた“ソレ”はうめき声を上げるが、最初の袈裟切りが効いているのか、動きは鈍い。

 

「経験を積む前に、俺たちと出会ったのが運のつきだったな」

『このまま、一気に決めるぞ!』

「ああ!ファイナルキー、発動!」

 

決着をつけるべく、リュウケンドーは変身に使ったものとは別の鍵を取り出し

ゲキリュウケンに差し込んだ。

 

『ファイナルブレイク!』

 

ゲキリュウケンの刀身は力を溜めているかのごとく光輝き、リュウケンドーは一直線に“ソレ”へと走り出す。

 

「はぁぁぁぁぁ――!!!!!」

 

そして、“ソレ”の頭上へと高く飛びあがった。

 

「ゲキリュウケン魔弾斬り!!!」

 

上段に構えたゲキリュウケンを振り下ろし、“ソレ”の体を文字通り真っ二つに斬り裂いた。

 

「……ギ…ギ……ギ…………」

「闇に抱かれて眠れ――」

 

見送るかのごとくリュウケンドーが静かに、

言葉を紡ぐと“ソレ”は光の粒子となって消滅した――。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時は少しだけ遡り、一夏が“ソレ”と対峙する前へと戻る。

 

「(そんじゃ、あらためて今回の任務の確認をするで)」

 

はやて、フェイト、なのはの三人は寮への道を歩きながら念話という

魔法が使えない者には盗聴されることのない一種のテレパシーで会話をしていた。

 

「(一つ目は、この世界に逃げ込んだと思われる監視基地の襲撃犯の調査)」

「(二つ目は、派遣された調査員を襲った謎の怪物とそれと戦ったリュウケンドー、

 リュウガンオーについて)」

「(最後に、それらと関わっているかもしれないISや)」

「(こうして、考えると雲をつかむよりも難しそうだね……)」

「(そうだね。特にISは、本当に関係してるかもわからないし……)」

「(せやけど、襲撃犯やリュウケンドーは何の手がかりもない以上、

 調べられるISのことから始めやんと一歩も進まへん。

 何事も小さなことからコツコツとや!

 ……と言いたいけど、碓氷先生がなぁ~)」

「「(ああ~)」」」

 

三人は今回の調査について話し合っていたが、襲撃犯や謎の怪物の唯一の手掛かりかもしれないISの調査に早くも暗雲が立ちこみ、消沈していた。

ISの調査の対象として、開発者である篠ノ之束、世界から逃亡している彼女と連絡する手段を持っている可能性が高い親友である千冬と束の妹である箒、そして世界初の男性操縦者である一夏が上がっていたのだが、イレギュラーが発生したのだ。

 

碓氷カズキの存在である。

今日一日見ただけでも、千冬や一夏と浅い関係でないのは火を見るよりも明らかであり、そうなると必然的に開発者であり、二人とも親しいであろう篠ノ之束との関係も怪しくなってくるのだ。

 

どうやら他人の秘密を探ることが得意であるみたいなので、ひょんなことで

自分たちのことを知られたら、何の関係もない一般人を余計な騒動に巻き込んでしまうことを危惧しているのだ。

 

自分たちの秘密を守りながら、相手のことを調べるという難しさを噛みしめながら三人は寮への道を進んでいた。

 

「(う~ん。誰かが、碓氷先生を足止めしてその間に調べるって言うのは?)」

「(悪くないけど、もうちょっと考えてみよ)」

「(そうだね。まだ一日目だし、焦ってもいいことはないからね)」

 

とりあえず今日のところはここまでということでまとまったが、

突如はやての鞄から光があふれた。

 

「マイスターはやて大変です~~~!」

「リイン!どうしたん、そんなに慌てて?」

 

鞄の中から、妖精のような子が慌てながら飛び出しはやての目の前に現れた。

 

彼女の名はリインフォースⅡ(ツヴァイ)。

はやての人格型ユニゾンデバイスである。

 

デバイスとは、魔道士が魔法の補助として使用する機械の総称であり、

様々な種類が存在し、リインはその中でも珍しい部類だが普段は剣十字のアクセサリーで待機しており、今日も寮の部屋に着くまでは大人しくしているように言っていたはずなのだが……。

 

「大変なんです~~~!!!

 この学園内で、結界反応をキャッチしたんです~~~!!!」

「なんやて!」

「はやて!ひょっとしたら、あの謎の怪物たちが!」

「だとしたら、皆が危ない!」

「リイン、場所はどこや!」

「そ、それが反応が途切れ途切れで正確な位置は……」

「かまわへん、大体の場所が分かればそれで十分や!」

 

そう言って、なのはたちは反応がある場所へと駆けて行った。

 

そして、魔道士なら感知することができるような空間の歪みとも言えるドーム状のものを遠目に見つけることが出来たのだが、その途端彼女たちの目の前でそれは消失してしまった。

 

「ああ!」

「とにかく、急ぐんや!」

「うん!」

 

結界があったと思われる場所に辿り着いたが、やはりというか何の痕跡も残ってはいなかった。

結界は、空間を別の空間へと切り離すので結界内での戦闘による破損はほとんどの場合、元の空間には残らないのだ。

 

「一足、遅かったみたいだね……」

「で、でもここに結界があったことは間違いないから、魔力残滓を調べれば何か……」

『Sir!』

「どうしたの、バルディッシュ」

 

何か手掛かりをと思ったら、金色の三角形のペンダント、フェイトのデバイスであるバルディッシュが話しかけてきた。

 

『周囲に拡散している魔力が、どんどん消失しています!』

「なっ!?」

「っ!レイジングハート!」

『ダメです!魔力反応、計測可能レベルを下回るまで残り2.7秒……、

 ロストしました……』

 

ありえない事態に、なのはも自分のデバイスであるレイジングハートに呼び掛けるが無情にも手掛かりは消失してしまった。

 

通常自然界に存在する魔力を除いて、例えば大気中に散布された個人の魔力は消えるまで、状況にもよるが数日間は残留したままなのである。

それが、ほんの数秒で全て消えるなどなのはたちはとても信じられなかった……。

 

「どうやら、今回の調査任務は一筋縄ではいかんようやな……。

 いつまでもこんなとこにおるわけにはいかんから、寮の部屋にいこか…」

 

大きさも厚さも良く分からないような、得体のしれない壁が目の前に立ちふさがった感覚を覚えながらも彼女たちはその場をあとにした。

 

……自分たちのその姿を見ていたものに、最後まで気付くことなく――。

 

 

 

『やれやれ、魔力を察知されないようにしただけで俺たちに気がつかないなんてな』

「まあ、当然だろ。

 普通、誰かの秘密を探ろうとしている自分たちが、逆に調べられたりするなんて

 思わないもん」

 

その場にある一本の葉に覆われた木の上部に立ちながら、なのはたちを見ていたのは彼女たちの悩みのタネであるカズキであった。

そんな彼は、ゲキリュウケンに似た機械的なそれでいて明るさを感じさせる声と会話をしているがどこにもカズキ以外の“人影”は見当たらなかった。

 

『それにしても、なんで駆け引きに向いてなさそうなのを調査員に選ぶのかねぇ~?

 しかも生徒って』

「一回、調査員を送って失敗しているからな。

 それに対抗することを第一に考えて、そういうことは頭に入っていないんだろうよ~

 向こうのお偉いさん達は。

 もちろん、一夏たちもあまり向いているとは言えないから

 化かし合い探り合いは俺たちの仕事だぜ、“ザンリュウジン”」

『全く、世話がかかる連中だぜ』

 

カズキが話をしていたのは、

ザンリュウジンと呼ばれる龍の顔を模したブレスレットであった。

そして、カズキは携帯を取り出し誰かにかけ始めた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ~。何とか、無事に終わったな」

『まさか、初日からいきなりとは予想外だ』

「それはそうと……ここは屋上か?」

 

一夏とゲキリュウケンは、さっきまで戦っていた場所とは違い、校舎の屋上にいた。

 

Prrrrr!

 

「うん?あっ!カズキさんからだ。

 はい、もしもし?」

「よう!どうやら、無事に離脱できたみたいだな」

「おかげさまで。

 いきなり、あんな指示をされた時は焦りましたけどね」

 

カズキからの電話をとりながら、一夏は先ほどのことを思い出していた――。

 

 

 

 

 

 

 

一夏とゲキリュウケンが感じ取った気配を追って駆けていた時、

カズキからの電話が鳴り響いた。

 

「カズキさん?今、あいつらの気配を……」

「分かっている。俺たちも感じた。

 ところで、あの鍵はちゃんと持っているな?」

「ああ、持ってるぜ“ワープキー”」

 

ワープキー。

それは、ある協力者の力を借りて開発された新タイプの魔弾キーである。

 

魔弾戦士であるリュウケンドーは、この魔弾キーの力を用いて戦うのだが、元々魔弾キーも魔弾龍と同じく太古から存在しており、その製造法は永らく失われていた。

 

しかし、近年現代の技術とのハイブリッドによって、全く同じではないがいくつかのキーの作成に成功したのである。

 

その一つ、ワープキーとはその名の通り、

発動した場所から違う場所へと瞬間移動するのだが……。

 

「確か、これってあらかじめマーキングをした場所にしか移動できないんでしたよね?

 俺、そんなのしていないですけど……」

「それは、大丈夫。

 この学園のあちこちに人払いの法と一緒に、俺がしかけといたからそこで

 でかい声とかをあげない限り、突然その場に現われても気付かれる心配もないよ」

「ハハハ、流石ですね」

 

カズキの抜け目のなさに、笑うしかない一夏である。

 

「今回は、敵を隔離する遮断結界を使用して撃破した後、すぐにワープキーを

 使ってその場から離脱しろ」

「でも、それだと管理局……、なのはたちにバレません?」

「バレるかじゃない、バラすんだよ。

 ただし、なのはたちが来る前に決着をつけて離脱するんだ。

 ワープキーに追加した機能も合わせて、その内おもしろいことになる、フフフ……」

 

一夏とカズキは、なのはたちが時空管理局の調査員であることを既に知っていた。

 

彼らは、管理局の中にいる協力者から内情を掴んでおり、この世界にやってくるであろう調査員にある程度の絞り込んでいたのだが、変装すらしていない姿でやってきたことに逆の意味で驚かされていた。

 

「まあ、ともかくこの気配からして、そんなに強くないだろうけど油断だけはするなよ」

「もちろんですよ!」

 

一夏はそう言って、携帯をきり現場へと急いだ。

 

 

 

 

 

「で、あのカマキリもどきを倒した後、すぐにキーを使って離脱したわけですけど、

 どういう作戦だったんですか?」

「なぁ~に。

 人間、目の前で非常識なことが起きると冷静に行動できなくなるってことさ♪」

「はっ?それって、どういう……」

「あいつらは、目の前に壁があったらよく言えば真正面から、悪く言えば力づくでしか

 ぶつかったことがない。

 あの手この手で、やりこめる変化球な戦法の敵とは戦ったことがないし、

 自分たちもそんなやり方を思いつかない」

「確かに、そんな感じでしたね」

「今回は、キーに追加した痕跡消去の機能で魔力残滓が自分たちの目の前で

 消えていくという現象を体験してもらった。

 これだけでも、軽く混乱して周囲への注意がおろそかになる、

 つまりは行動が読みやすくなるのさ♪」

「相変わらず、腹の読み合いとかであなたと勝負したくないですね」

 

相手の性格や癖を読みきり、自分の手のひらの上で相手を翻弄するカズキのやり方にそういう土俵では戦いたくないと心底感じた一夏だった。

 

「そんなに褒めるなよ~///」

「いや、褒めてませんって」

 

こうして、一夏の長~~~い一日は終わろうとしていた――。

 




戦闘シーンは初めてなので、どこかおかしいかもしれません。
そういう点は遠慮なく指摘してもらって結構です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奇襲

筆がのって書いてたら、想像以上に長くなりました(汗)
今回、ゲキリュウケンがさらっと重要なことをもらします。

IS10巻ついに発売が決定されましたね♪


「それで、カズキさん。

 相手の行動が読みやすくなるって、なのはたちが何かしてくるのを

 待つってことですか?」

 

一夏は今後のなのはたちへの対応を聞くが、カズキの性格からしてそんなことはありえないと確信していた。

カズキは、緻密で大胆な相手がまさかと思うような作戦で、攻めて攻めまくるタイプなのでそんな受け身的なことをするとは思えなかった。

 

「いや。

 あいつらがこっちに仕掛けてこない限り、こっちから攻めるってことはしないぞ。

 そう。相手が先に仕掛ければ、後は正当防衛ということでな~~~んの遠慮もなく

 やりあえるからな、ククク……」

「そ、そうですか」

 

相変わらずのエグイ考えに、頬が引きつるのを止められない一夏であった。

 

「まあ、だからといって何もしないわけじゃない。

 戦いの主導権を握るのは、何も殴り合いだけじゃないっていうのを

 あいつらに教えてやるさ、フフ♪

 そのために、お前には――――」

 

 

 

 

「……というわけだ。

 これも修行の一環だと思って、がんばりな♪」

「は、はぁ……」

「それじゃあなぁ~」

 

カズキからの指示もとい修行?を聞き、

一夏は肩を落としながらため息をついて電話をきった。

 

「まじで、面倒なことになったなぁ……」

『だが、心理戦を学ぶという意味ではいい機会だ。

 それに、これでお前の鈍感も少しは改善するかもだぞ?

(実際、こんなことでよくはならないだろうがな……)』

「はいはい。わかりました。やりますよ、やればいいんだろ」

 

~~~♪

 

一夏が半ば自棄気味に、叫ぶと握っていた携帯からメールの着信音が鳴った。

 

「誰からだ?」

 

差出人の名を見た瞬間、一夏は――

 

 

 

その後、屋上から寮への道で

鼻歌を歌いそうなぐらい上機嫌な男子生徒が目撃されたそうだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『それにしても、最近“アイツら”の出現が多くないか?』

「そうだな……。

 ただ、単に俺たちに負け続けて焦ってやみ雲になっているだけか、

 はたまた本当の目的から俺たちの目を逸らすための陽動か……」

 

一夏への電話を終えたカズキは、ザンリュウジンと共になのはたちとは

別の本来の自分たちの敵たちについて考えていた。

 

『ぶっちゃっけ、どうなのよ?

 ISとか管理局の魔道士は、“アイツら”との戦いで戦力になるのか?』

「さっき、一夏が戦ったレベルのザコ相手なら

 並の操縦者や魔道士でも1対1で戦うことはできるだろう。

 それより上でも、代表候補生や魔道士のエースレベルでAランク以上なら、

 複数で連携を取れれば戦える……。

 まあ、そんな単純な問題じゃないけどな」

『と言うと?』

「まずIS、これは圧倒的に戦闘経験が少ない。

 試合形式ならともかく、命をかけた戦闘をしたIS操縦者なんて、世界で見ても

 数えるぐらいだろ。

 ましてや、見たことのない化け物に襲われたりしても本来の実力を発揮できる奴なんか

 そういないだろう……」

『いくら、とんでも兵器を使えるって言っても、女の子だからねぇ~』

「次に、魔道士。これは非殺傷設定がまずい」

 

非殺傷設定。

それは、物理的ダメージを伴わずに魔力ダメージを与えることで

相手を死傷させずに制圧できる攻撃法である。

ただし、それを使う魔道士の技能が低かったり当たり所によっては、大怪我を負うこともある。

 

「非殺傷設定自体は、別に悪くない機能さ。

 砲撃をぶっ放しても、相手を傷つけることなく気絶させられるわけだし。

 だが、それが戦いに最も必要なもの……、“覚悟”を鈍らせる――」

『だな』

「自分が持っている力が如何に、危険で恐ろしいものかの自覚が薄れ、

 覚悟で引くべき引き金も軽くなる……。

 しかも、相手が傷つかないから自分も傷つくわけがないと

 心の片隅で考えるようになる。

 そうなると、自分よりも強大な敵に会った時、何もできなくなってしまう……。

 それに、そもそも“アイツら”には非殺傷の魔法が効きにくいみたいだしね」

『てことは、やっぱり俺たちで何とかするしかないと?』

 

ISと魔道士。

どちらも、それぞれの長所があるが、それでもリュウケンドーとは違い戦ったことがあるのは人間が主であるため、未知の敵相手にパニックになって本来の実力を発揮できないとこを想像するのは難しくない。

そのため、対処は自分たちがすることになるとカズキはザンリュウジンの問いに無言で頷いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「え~っと1025、1025は……、あっ!

 あったあった♪」

『(わかりやすいぐらい、上機嫌だな)』

 

屋上で送られてきたメールを見てから上機嫌な一夏に、

ゲキリュウケンはいろんな意味で呆れていた。

 

ちなみに、一夏とゲキリュウケンは念話とは

異なる魔弾戦士と魔弾龍特有のテレパシーで会話している。

他の魔弾戦士や魔弾龍と会話することはできないが、魔弾龍の感覚を魔弾戦士が共有することもできるので日常、戦闘問わず重宝している。

 

一夏はゲキリュウケンの呆れなど気にせず、渡された部屋の鍵をドアにさしこんだ。

 

「あれ?」

『(どうした?)』

「鍵があいてる……」

『(何?むっ!おい、一夏)』

「な、なんだよって、……」

 

ゲキリュウケンはその耳の感覚を一夏に送ると、部屋の中の音が彼の耳にも聞こえてきた。

 

ザァァァ――

 

「(……、これってシャワーの音?)」

『(どうやら、誰かと相部屋みたいだが、どうする?

 このまま入ると、向こうは女だと思っているから

 確実に面倒なことが起きるぞ?)』

「(さ、流石に今日はもう、騒動はゴメンだぜ~)」

 

男の自分が女子と同室なのも驚きだが、ゲキリュウケンの言うように

このまま部屋に入ると……

 

・シャワーに浴びている子が、男だと思わず体にタオルだけ巻きつけて

 自分の前に現れる。

・相手がパニックになって追い立てられる。

・部屋を出た後、必死に許しを請って入るものの結局ブッ飛ばされる。

 

そんな未来が、一夏の頭をよぎった。

 

「(参ったなぁ~

 山田先生が会議って言っていたから、カズキさんも遅刻だけど参加しているだろうから

 あの人のとこで時間をつぶすってわけにもいかないし……)」

『(それより、あいつがこんなおもしろそうなことをわざわざ潰すと思うか?)』

「(た、確かに。

 でも、このままドアの前に立っているわけにはいかなし、う~ん)」

 

一夏がどうしたものかと悩んでいると、こちらに近づいてくる子たちがいた。

 

「なにしてんのよ、一夏?」

「ア、 アリサ!それに、みんなも!?」

 

一夏が顔を向けるとそこにいたのは、ありさ、すずか、なのは、フェイト、はやて、そしてシャルロットであった。

 

「部屋にいても暇だから箒ちゃんのことが心配だし、

 遊びにいこうって……アリサちゃんが♪」

「ちょっ!すずか!!!」

 

本当は、目の前にいる朴念仁をおとすための作戦を練るつもりだったのだが、そんなことを本人の前で言えるわけもなく、すすかはすばやくフォローした。

アリサが、温かい目で見られるという代償に。

 

「にゃははは。

 それで、私たちもってことになって」

「はやてを呼びに行ったら、シャルロットが出てきて」

「僕、はやてと同室なんだ」

「で、せっかくやからみんなでGO!して驚かせよう♪ってことになったんやけど、

 何で一夏くんは箒ちゃんの部屋の前におんの?」

「えっ?ここって箒の部屋なの?」

「そうやで。昼休みのうちに電話番号を交換しといたから、携帯で

 部屋番号を聞いたから間違いあらへんよ?」

「マジかよ……」

 

一夏は、部屋に入らなくて安堵した。

もしもゲキリュウケンが止める前に入って、想像したようなハプニングが起きたら知り合い、

それも幼馴染みとかなり気まずい空気となっていただろう。

 

「ねぇ?一夏くん。ひょっとして、一夏くんの部屋って……」

「ああ。どうやら、俺と箒は同室みたいなんだ」

 

すずかの問いに、一夏が苦笑いしながら答えた。

 

「「「「えええええっっっっっ!!!!!?」」」」」

「…………」

 

シャルロットとすずか以外は驚きの声を上げるが、シャルロットは一夏の答えを聞いたとたんにニコニコと笑っている。

絶対零度の空気を纏いながら……。

 

「男と女が一つ屋根の下……」

「そそそそそれって、同棲ってこと……はぅ/////」

「フェイト、しっかりしなさい!

 何を想像したのかだいたいわかるけど……、とにかく落ち着きなさい!」

「ちょい待ちぃ!

 だったら、なんであんたドアの前にぼけ~っと立っとんの?」

 

みんな何を想像したのか顔を赤くしながら、

軽く混乱する中ではやてがふと疑問を一夏へ投げかける。

 

「えっ!あっ!あああ~、へ、部屋の中から水が流れるような音が聞こえて、

 シャワーでも浴びていたら、今はいるのはまずいと思ったんだ」

 

ゲキリュウケンの感覚を通してシャワーの音を聞いたなんて言えるわけもなく、ちょっと無理があるかなと思ったが嘘ではないので、そう答えた。

 

「あんた、何考えとんのやぁぁぁ!!!!!

 そのまま部屋に入ったら、シャワーあがりの女の子と対面っちゅう

 ドッギドッギイベントを何スルーしようとしとんのやぁぁぁ!!!!!」

「はぁ!お、お前何言って……!ひっ!?」

 

はやてがとんでもないことを熱弁して、咎めようとしたらシャルロットから発せられていた空気がさらに冷たくなり、一夏は思わず悲鳴をあげてしまう。

 

「だったら、私たちが入って簡単に説明してこようか?」

「そうだね。知らない人がやるより、いいかも」

 

いつの間に立ち直ったのか、悲鳴をあげる一夏はスルーしてフェイトが提案してきた。

 

「そりゃあ、グッドアイディアや!

 じゃあ、私が説明してくるわ♪」

 

ピコーン!といいアイディアが閃いたかのように、はやてはすばやく部屋の中に入った。

 

「はやての奴、なんであんなはりきって……まさか!?」

「フェイトちゃん!すずかちゃん!」

「うん、なのは!」

「急ごう!」

 

はやてが何をしようとしているのかわかったのか、アリサ、なのは、フェイト、すずかも部屋に入った。

 

……笑いながら、絶対零度の空気を纏っているシャルロットと一夏を置いて。

 

「お、おいちょっと待って!俺を置いていかないでぇぇぇ!」

「一夏?そんなにドッギドッギイベントを発生させたいの?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

部屋に入ったはやては、自分の部屋を見て分かっていたのかシャワールームのドアに耳を当てて、音を聞いていた。

 

「どうやら、ビンゴみたいやね♪

 では、早速……」

 

何を考えているのかウシシ♪と笑いながら、シャワールームのドアをノックした。

 

「同室のものが来たのか?」

 

長い黒髪を濡らしながら、箒はシャワーを止めて体をふき、バスタオルを巻いただけの体でドアを開けた。

 

「こんな恰好ですまない。私は、篠ノ之箒。

 今日からよろしくたの……」

「やっほ~♪箒ちゃん♪」

 

髪をふきながらドアを開けると、そこにいたのは再会したばかりの友達であるはやてだったので、箒は驚きで固まってしまった。

 

「は、はやて!

 お前が私の同居人なのか!?」

「いんや~、同居人は私やのうて、一夏くんやで♪」

「な、何ぃぃぃぃぃ!!!

 どどどどどどういうことだ!!!!!?」

 

予想もしなかったカミングアウトに、箒ははやての肩をつかみながら問いただした。

 

「せやから、一夏くんが箒ちゃんの同居人なんや♪

 もう部屋の前におるんやけど、中からシャワーを浴びとる音が聞こえたから

 どうしようかと悩んでる時に私らが、やってきて説明することになったんや~」

「そ、そうか……。

 うん?私“ら”?」

「そう。私だけやのうて、なのはちゃんたちもおるよ♪」

「なのはたちもいるのか……」

 

はやてから手を離し、箒は多少混乱から立ち直った。

そして、待ってました♪と言わんばかりにはやての目がキュピーン!と光った。

 

「ところで、箒ちゃん?

 箒ちゃんもフェイトちゃんやあの会長さんに、負けないぐらい大きくなったねぇ~」

「ど、どこを見て言っている!

 それに、なんでこっちに近づいてくるのだ!

 そしてその手の動きは、何だ!!!」

 

はやての言葉に箒は、彼女が見ていた部分を反射的に腕で隠すが昼休みにフェイトがやったのと同じくとても隠しきれていなかった。

むしろ、柔らかそうに押しつぶされてますますはやては、フフフと怪しい笑みを浮かべて手をワキワキさせながら箒にジリジリと近づいた。

 

「な~に、このはやてちゃんがその見事なものをテイスティング

 したろうかなぁ~と思って……、なぁ!」

 

言い終わるや否や一瞬ではやては、箒の後ろに回り込み知り合った時から

かなり大きくなったそれを握りしめた。

 

「ひゃっ/////!!!」

「おおお~

 これはこれは、エエ仕事してますね~♪」

「は、はや……て、やめ……ろ/////」

「ええやんええやん♪

 これを武器にして、一夏くんに迫ったらええんとちゃう?」

「な、何…言っ…て……/////

 いい、か……げんに……/////」

 

男どころか、同姓が見ても鼻血ものな光景にはやても息が荒くなりヒートアップしてきた。

 

「あかんこっちまで変な気分になってきた/////」

 ほ、箒ちゃん。こ、今度は邪魔なそれをとって直接……/////」

「なにしとんのじゃあぁぁぁ!!!

 このセクハラ狸!!!!!」

「ぼぎゃぁぁぁ――!!!!!?」

 

危うく変な扉をあけそうになったはやては、どこからとり出したのかハリセンを持ったアリサに

強烈なツッコミを喰らった。

 

「はやてちゃん……」

「大丈夫、箒?」

「す、すずか……。フェ、フェイト……」

 

すずかとフェイトは、吹っ飛ばされたはやてはスルーして箒の元にやってきた。

 

「はい。それじゃ、すずかとフェイトは箒を介護して。

 私はこのセクハラ狸に説教するから」

 

アリサはテキパキと指示を出して、シャワールームから箒たちを退出させた。

 

「いやな予感がしたと思って、慌てて駆け付けたと思ったら、アンタは!」

「いや~あんな見事なものを見たらつい♪」

 

アリサに説教されても、はやては悪びれもせず照れ臭そうに頭をかいて

ごまかそうとしていた。

 

「まあ、いいわ」

「あれなんか、あっさりやね?」

 

いつもならもう二、三発ぐらいツッコミが来るのにはやてはアリサの対応に首をかしげた。

 

「後は、アンタの後ろで笑っている奴に任せるわ」

「後ろ?」

 

そう言われて、後ろを振り向いたことをはやては後悔した。

そこにいたのは、先ほどのシャルロットのように笑いながら同じ……、いやそれ以上の

冷たい空気を放っている白い魔お……ではなく、なのはがいた。

 

「あっ……、あああ――」

 

その迫力に、逃げなければマズイと察するが体はヘビに睨まれたカエルのように

固まって動かなかった。

 

「じゃあ、なのは。

 セクハラ狸のお仕置きは、任せるわ」

「うん、任せて♪

 ちゃんとO・SI・O・KIするから♪」

「なんか、発音の仕方が普通とちゃう!!!」

「それじゃあ、ごゆっくり~」

 

アリサはそう言って、シャワールームから出て自分も箒の介護に向かった。

 

「待って!アリサちゃん!

 このままやったら私、永遠にゆっくりするはめに!!!」

「落ち着いて、はやてちゃん。

 ゆっく~~~りと頭冷やしながら……、O・HA・NA・SIをしようか♪」

『あきらめて、反省してくださいはやて』

 

瞬間、はやての視界は桃色一色に染まった――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ?どうなの?

 そんなに女の子との嬉し恥ずかしイベントに遭遇したいの?

 そんなに、大きいのがいいの?

 ねぇ?ねぇ?ねぇ?」

「シャ、シャルロット。と、とりあえず落ち着こう?な?」

「落ち着く?

 何言っているの?

 僕は、至って落ち着イてイるヨ?」

 

1025室の前では、一夏がまだシャルロットに問い詰められていた。

あれだけ、大きな声ではやてたちが騒いでいたので、他の子たちも話題の男の子がそこにいるのは分かっているのだが、シャルロットが放つ空気が怖くて誰も近づこうとはしなかった。

 

一夏も暴走?するシャルロットを何とかしようとなだめているが

目立った効果はなかった。

いつまで、こうしていればいいのかと思っていると一夏は不自然な揺れを感じた。

 

「(何だ?今の揺れは?)」

『(部屋の中からだな)』

 

一夏とゲキリュウケンが身構える中、部屋のドアが開きすずかが顔を見せた。

 

「一夏くん、シャルロットちゃん、もう入っていいよ」

「わかった。じゃあ、とりあえず入ろうぜ」

「……」

 

すずかに促されて、一夏とシャルロットは部屋に入った。

何で、自分の部屋に入るのにこんなに疲れるんだと一夏は心の中で嘆くが、

その思いは誰にも届くことはなかった。

 

 

 

「それで……、これどういう状況?」

「どういう状況なんだろう?」

 

部屋に入った一夏が、感じたのはそんな疑問だった。

どう答えていいのかわからず、フェイトも苦笑を浮かべていた。

 

頬を赤らめながら、剣道着を着てベッドに座っている箒、ひきつった笑いを浮かべているアリサとすずかにフェイト、すっきりしたような清々しい笑顔をしているなのは。

 

そして、うつぶせになりながら煙を上げているはやて……、こころなしか焦げ臭いにおいがする。

 

「簡単に言うと、オイタをした狸にもうだめだよって、O・HA・NA・SI

 をしたんだよ♪」

「お話?」

「そう。O・HA・NA・SI♪」

「(なんだろう……、俺が知っているお話となんか違う……)」

 

なのはからの説明に背筋が寒くなるのを止められない一夏であった。

 

「う、うううっんん!

 そ、そろそろいいか一夏?」

 

そこで、箒がわざとらしく咳払いをして一夏に話しかけてきた。

 

「えっ?あっ、ああいいぞ、箒」

「お前が、私の同居人というのは本当か?」

「そうみたいだな。山田先生からもらった鍵もここのだし、間違いないぞ」

「ど、どういうつもりだ/////」

「はい?」

「だから、どういうつもりだと聞いている!

 男女七歳にして同禽せず!常識だ!」

「あれ、本心では喜んでるわね(ボソッ」

「箒ちゃん、相変わらず恥ずかしがり屋だね(ボソッ」

 

内心ではすごくうれしいのだが、

照れ隠しでちょっと責め気味に箒は一夏に問いかけてきた。

そんな箒の心情を、アリサとすずかはあっさり看破していたのを箒は知らない。

 

「まあ、俺も十五の男女が同居するのは問題あると思うが……」

『(相手が“アイツ”だったら、そんなことはほざかないだろうな……)』

 

何か、重要なことが関係することを絡めて冷ややかなツッコミをするゲキリュウケンだが、

それを知る者は当然この場にはいない。

 

「お、お、お……」

「お?」

「お前から、希望したのか……?私と一緒の部屋にしろと……」

「いやいや。そんな生徒の我がままなんか通じるわけないだろ?

 大方、束さんの妹のお前と男の操縦者を纏めた方が護衛をしやすいとか、そんなんだろ」

「そ、そうか……」

 

頭をガクッと下げて落ち込む箒だが、一夏はなんで落ち込むのかわからなかった。

それを見て、なのはたちは改めて一夏の鈍感具合を再確認して頭を抱えた。

 

「話に聞いていた以上ね、これは」

「箒ちゃん、がんばれ~♪」

「一夏くんもO・HA・NA・SIが必要かな?」

「なのは、それは待って!」

「そっか~。やっぱり、箒が一夏と同室なんだ~」

 

気絶しているはやてはほっといて、ヒソヒソと話し合うなのはたちと笑顔を崩さないシャルロット。この部屋は、現実世界から切り離されたように、異様な空気に満ちていた。

 

「あっ!そうだ。

 さっき、部屋から揺れを感じたんだけどさ……」

「一夏くん?それは……」

 

一夏は急に思い出したかのように、先ほど感じた揺れのことを話そうとして、

なのはに遮られてしまった。

だが……

 

「なんか揺れ方が普通と違ったから……、

 なのはたちが何か不思議な力でも使ったのかって思ってな?」

「「「っっっ!!!!!?」」」

「いっ!」

「っ!」

「はっ?」

「へっ?」

 

一夏がズバリと真実を言ったことで、関係者は驚き、

箒とシャルロットは呆れたように目を丸くした。

 

「ひょっとしてさぁ~

 なのはたちはいろんな世界を守っている警察みたいな組織の一員で

 IS学園に来たのも、男なのにISを動かした俺を調べるためだったりして……」

 

一夏が目を細めながら、まるで全部わかっているぞ?と言わんばかりにニタニタと笑って

なのはたちから視線を外さなかった。

 

「(どどどどうしよ、二人とも!!!)」

「(おおおおお落ち着いて、ななななのは!)」

「(フェイトちゃんが一番落ち着きぃぃぃ!!!)」

 

秘密裏に行動しなければならないのに、よりにもよって調査対象に自分たちのことがバレたとなのはとフェイトはとんでもなくパニックとなり、そんな二人をいつの間に復活したのかはやてが落ち着かせたようとしていた。

 

「な~んて、冗談だよ。じょ・う・だ・ん♪」

「じょ、冗談?」

「そ、そうだよね~。冗談だよね」

「全く、何を言っているんだお前は……」

「ハハハ……」

「なんや、冗談かい……」

「「ほっ」」

 

冗談と言う言葉にアリサとすずかは安心し、箒とシャルロットは呆れていた。

当人のはやてたちも、ほっと胸をなでおろした。

 

「ごめんごめん♪

 でも、もしもそんな奴がいてこんなとこで不思議な力を使ったら……、

 相当の“バカ”だよな~♪」

 

瞬間、ビシリと空気が固まる音を関係者であるフェイト、はやて、アリサ、すずかの4人は聞いた。

 

なのはの周りから――。

 

「どういうことだ、バカとは?」

「周りに知られないようにしているならともかく、こんな人目につくような

 とこで力を使ったら、バレる危険がとんでもないだろ?

 そんなのにぶいにぶい言われる俺でもわかるぞ?」

 

箒が一夏にどういうことかと説明を求めるが、またも空気がビシリと音を立てた。

 

なのはの周りから――。

 

「(に、にぶい!?)」

「自分の都合で、そんな簡単に使うとかどんな単細胞って話だ」

 

知ってか知らずか、一夏の“口撃”は続く。

 

「(た、単細胞!?)」

「バレることを考えてやってなかったら、俺以上の

 バカでにぶくて、とんでもなく単細胞な突撃思考なんだよっていうんだよな~♪

 ハハハハハ」

「ふっ、そうだな。確かにそれはな」

「そうだね。こういうのを日本で“ちょとつもうしん”って言うんだっけ?」

 

自分で話しておきながら、よほどおもしろいのか一夏や箒、シャルロットは笑い転げた。

 

一方で、はやてたちは戦々恐々としていた。

なのはのまゆがつりあがり、頬も必死に何かを堪えているのかすごくひくついているのだ。

 

「そ、それじゃあ、私たちはこれでお邪魔するわ!いくわよ、すずか!」

「う、うん!じゃあまたね!箒ちゃん!」

「私らもいこか!シャルロットちゃん!」

「えっ!ぼ、僕はまだ!」

「ほ、ほらいこう、なのは」

「……そうだね。……バカ、にぶい、単細胞、突撃思考、猪突猛進……」

 

耐えかねたアリサを皮切りに、みな自分の部屋へと帰って行った。

なのははブツブツとつぶやいていたが。

 

「どうしたんだ、急に?」

「どうしたんだろうな~

(とりあえず、こんなものかな?)」

『(まずまずといった感じだな)』

「(それにしても、予想以上に動揺していたなあいつら……

 なんか癖になるかも……)」

『(ああ、とうとう無自覚だったものを自覚し始めたか……)』

 

なのはたちの急な行動に箒はいぶかしむが、一夏ははぐらすかのように返事をした。

内心では、少々危ないことを考えていたが――。

 

相棒が、新たな扉を開き始めてゲキリュウケンは遠くを見るような感じでつぶやき、屋上で聞いたカズキからの策を思い返した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そのために、お前にはズバリと真実を言ってもらう」

「ズバリと真実?」

「簡単なことさ、“お前たちは、違う世界からきた魔法使いか?”とか聞いてみるんだ」

「そんなことを直接言って、大丈夫なんですか?」

 

そんな、相手にスパイですか?と尋ねるようなド直球な質問をしたらかなりややこしいことになるのでは、一夏は危惧するが……。

 

「なぁ~に、そのすぐ後に冗談とか言えば軽く流されるさ♪」

「そんなに、うまくいきますかね?」

「まあ、これ自体はそんなに重要じゃない。

 これは、仕込みさ♪」

「仕込み?」

「そう、仕込み♪

 どんなことが起きるかは、その時のお楽しみということで♪」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『(本当にいろんな意味で、影響を受けたのを喜ぶべきなのか嘆くべきなのか。

 しかし、言われたことだけでなく挑発までするとは、お前もやるな)』

「(挑発って、なんのことだ?

 俺は思ったことを口にしただけだぞ?)」

『(す、素だったのか……。

 この調子でコイツが成長を続けていったら……、やめよう。

 何か考えるのが怖い……)』

「?」

 

一夏の成長はうれしくもあるが、カズキの影響を受けたこれからの未来に

一抹の不安を覚えるゲキリュウケンであった。

 

「と、ところで一夏。

 い、一緒に暮らすのだから、ルールというか線引きを決めようと思うのだが……」

 

話題を変えるように、箒が部屋の決まりごとを決めようともちかけてきた。

緊張しているのか、頬も赤くなっている。

 

「そうだな。じゃあ、まずは何から決める?」

「ま、まずはシャワーの使用時間だ。私は七時から八時で、一夏は八時から九時だ」

「う~ん、俺は早い方がいいんだけど……、まあいいか」

「そ、それでは次に……」

 

こうして、一夏と箒は部屋のルールを決めていき、そのまま眠りについた。

 

余談だが一夏は余程疲れたのかすぐに眠りにつき、グッスリだったのとは対称に箒は想い人が隣で寝ているせいで、ドキドキしてなかなか眠れなかったのは完全に余談である。

 

 

 

 

 

「話に聞いていた以上の鈍感だったわね、一夏って~

 おまけに、ライバルも多いし」

「ふふ。

 アリサちゃんも、それだけ積極的にいけばいいのに……、

 自分のこと♪」

「ななななな何を言ってるのよ、すずか!」

 

「~~~♪

 今日は後れちゃったけど、これから僕もドンドン責めていかないとね♪」

「(はやてちゃ~~~ん、なんかこわいですぅぅぅ~!)」

「な、なんかシャルロットちゃんの後ろに、

 怒った時のなのはちゃんが見えるわ……」

 

「かんちゃ~ん♪明日もおりむ~に、アタックがんばろうね♪」

「ほ、本音もあの人のこと聞けるようにがんばろうね/////」

「ふぇ?ふぇぇぇ~~~!?」

 

「さ~てと、次はどんな感じでいこうかしら?」

 

「はぁ~。お嬢様が仕事を早く片付けるのはいいのですが、

 その後の騒ぎは、どうにかしてほしいですね。

 織斑くんもトラブルを呼び込むような体質みたいですし……、はぁ~~~」

 

「ううううう~。

 あの後会いにいけませんでしたが、私はドジでないとちゃんとわからせないと……」

 

「カズキの奴め、今度ふざけたことをしたら……」

 

「な、なのは?一夏も別に悪気があったわけじゃないんだし……」

「何を言っているのかな、フェイトちゃん?

 私は、なにも怒ってナいヨ?」

「(だったら、その怖い笑みはなにぃぃぃ!!!?)」

 

恋に燃えるもの、応援するもの、同室のものに戦々恐々とするもの。

様々な思いが渦巻く中、運命の始まりである一日目の夜は更けていった――。

 

 

 

「これ、うまいな箒」

「そ、そうだな/////」

 

翌日の朝、一夏と箒は一年生寮の食堂にて朝食をとっていた。

どちらも、日本人だからか和食セットだ。

 

いい食材を使っているだろからか、二人の箸はすすんでいた。

 

「ねぇねぇ、彼が噂の男子だって~」

「なんでも千冬お姉さまの弟らしいわよ」

「へぇ~、姉弟そろってIS操縦者かぁ。やっぱり彼も強いのかな?」

 

周りでは「興味津々ですよ。でもがっつきませんよ」と一定の距離を保ちながらも、がっつりと一夏を観察もとい凝視していた。

 

「あっ!いたいた♪

 お~い、おりむ~」

「おおおおお、おはようございます/////」

「おはよう、一夏♪」

 

一夏と箒が朝食を楽しんでいると、きつねの着ぐるみ?をきたのほほんさんこと本音を筆頭に、簪、シャルロットが近づいてきた。

少し遅れる形で、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの5人もやってきた。

 

「おう、おはようみんな」

 

あっという間に、一夏の周りの席が埋まると周囲からざわめきが聞こえてきた。

 

「ああ~っ、私も早く声かけとけば……」

「まだ二日目。焦る段階じゃないわ!」

 

「なんか、目立っているね」

「そりゃあ、そうでしょう。

 ただでさえ一夏は有名なのに、こんな美人たちが周りにいたらね」

「び、美人って、アリサちゃん」

 

目立つことがあまり好きではないフェイトは周囲の反応に苦笑するが、アリサは誇らしげに返してきた。

その反応に、すすかもまた苦笑したが。

 

「一夏って、朝ごはんすごく食べるんだね」

「食事はきっちりと、取るからな俺は。

 逆に、女子はそれだけの量で足りるのか?」

「え~っと、私たちはこれだけで/////」

 

何気に一夏の隣に座ったシャルロットが、話しかけるが相も変わらず一夏はデリカシーというものが欠けたことを言ってきた。

 

「ははは♪

 一夏、そういうことを女子に言うから鈍感鈍感言われるんだぞ?」

 

すると、なんの前触れもなくたった一日である意味一夏以上に有名になった男、

碓氷カズキが彼らの前に現れた。

 

「カズキさん!」

「碓氷先生!」

「やぁ♪少年少女たち、おはよう♪今日もがんばっていこう!」

 

朝から、ハイテンションなカズキに何かあるのかと、皆自然と警戒を強めた。

そんな様子を気にすることもなく、カズキは話を続けた。

 

「ははは♪

 みんなにちょ~~~っと、聞きたいことがあったから早起きしちゃった♪」

「聞きたいこと?」

「そう。

 ねぇ、みんなはさ…………、

 時空管理局ってどう思う?」

 

 




どうでしたか?
ラッキースケベは一夏の代わりにはやてにやってもらいましたwww
O・HA・NA・SIされるというオマケつきで~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝つために

遅くなってすいませんm(_ _)m
残業につぐ残業に休日出勤で書く時間がなかなかとれませんでした(汗)

ほんと、休日出勤は勘弁してほしい……


カズキからの予想外すぎる発言に、関係者である面々は突然のことで数秒ほど思考が停止してしまった。

 

「(……ばばばばば、ばれちゃったぁぁぁ!!!?)」

「(ななななな、なんでぇぇぇぇぇ!!!?)」

「(まてまてまて、まてぃ!

 私らが魔法を使ったのは、なのはちゃんが私にしたO・HA・NA・SIの時だけ。

 でも、あの部屋に碓氷先生はいなかった。

 やっぱり一夏くんの昨日のあれは、わざとやった?

 それとも……)」

「ちょっと、これってマズイんじゃない?」

「もしかしなくても、そうだよ」

 

なのは、フェイトはパニックとなりはやても混乱する中、必死に思考を巡らせていた。そんな3人を見て、アリサとすずかもヒソヒソ声で今の状況のマズさを話し合う。

 

一方で、一夏とゲキリュウケンも彼女たちとは違った意味で混乱していた。

 

「(おいおいおい、いきなり何言ってんだ!この人!)」

『(そうか、昨日言っていた仕込みとはこのためのものか)』

「(どういうことだよ?)」

『(お前たちは魔法使いか?と聞かれて、すぐに冗談と流されたのに再び

 同じようなことを聞かれたら、いくらなんでもお前たちを怪しいと思うだろ?

 だが、向こうは表だってこちらに聞き返すことはしにくい。

 何故なら……)』

「(そうか!俺たちは、あいつらの正体が分かっているけど、向こうは本当に

 俺たちがあいつらと同じような人間だっていう証拠がないから、

 下手なことを言えないんだ!)」

『(正解だ。

 しかも、昨日からのカズキの行動のおかげで、

 何も知らない奴に聞かれてもカズキなら変なことを言ってもおかしくないという

 空気が少なからず作られている)』

「(変に勘ぐられたりしても、こっちはうまくはぐらすことができるってことか)」

『(そういうことだ。

 付け加えるなら、こっちにはあちらにない強みがある。

 それは……)』

 

「(例え、俺や一夏の正体が他の奴らにバレてもそのリスクはあちらよりかなり

 低いということだ♪)」

 

目の前で相当慌てているなのはやフェイトをおもしろそうに見ながら、

カズキは今の状況を楽しんでいた。

 

「(向こうは、バレたら次元レベルでややこしいことになる可能性があるけど、

 俺たちは別に“この世界”でやましいことなんてしていない。

 そもそも、敵さんたちにはバレてるわけだしなぁ~。

 それでもバレないに、越したことはないけど……。

 

 まあどちらにせよ、これでこいつらは俺への注意をずっと気に掛けなければならない。

 いつ、自分たちのことがバレかもしれないというプレッシャーの中でな♪

 

 逆に俺のことを調べようとしたら、ククク。

 

 さあ、どう動く?管理局のお嬢さん方?)」

 

内心でケタケタと、悪人が浮かべる笑みをしながらなのはたちの出方を窺っていたカズキだが、

思わぬところからその計画は崩れ去ってしまう。

 

「カズキン先生~

 時空管理局ってなんですか~?」

 

ゆったりした口調で、マイペースに生きていく少女。

のほほんさん(一夏命名)こと本音が、逆にカズキに質問してきた。

 

「(ちょっ!のほほんさ―――ん!?)」

「(っ!助かった!

 これで、碓氷先生の狙いが分かる!)」

 

本音の質問に一夏は焦り、はやてはカズキの目的が分かるかと身構えるが、当のカズキには何の動揺も見られなかった。

 

「(このパターンできたか。

 当然と言えば、当然だな。だが、何の問題もない……)

 ハハハ♪ごめんごめ~ん。

 説明しなきゃわからないよね。

 実は、最近小説なるものを書くのにはまっていてね?

 平凡な高校生が、平行世界を駆け巡って悪と戦うってものなんだけど、

 時空管理局って名前が思った通りの印象を与えるのか知りたくてね~

 

 ところで、カズキン先生って俺のあだ名?」

「そうで~す♪」

「ほ、本音失礼だよ」

 

スラスラと息を吸うかの如く自然に、嘘の理由を述べてごまかすカズキだが、本音の言葉に疑問を投げかけた。

 

気楽にその疑問に答える本音に簪は、彼女をたしなめた。

 

「別に気にすることないよ~

 そんな風にあだ名をつけられたことないし、何より気にいったよその名前♪」

 

あっけからんと教師がそんなのでいいのか?というぐらいのノリで

あだ名を了承するカズキであった。

 

「ところで、碓氷先生。平行世界って何ですか?」

「うむ。確かにさっきの説明だけでは、よくわかりません」

 

本音の意外な活躍?によってある程度、緊張感あふれる空気から朝のさわやかな空気へと戻りシャルロットと箒がそれぞれ、カズキの言った平行世界についての説明を求めてきた。

 

「平行世界っていうのは、簡単に言うと“もしも”の世界だね。

 例えば、初めてISを動かした男は一夏じゃない世界、ISが発明されなかった世界も

 ひょっとしたら、あるかもしれないってことさ♪」

「へぇ~。おもしろい考えですね」

「だろ?」

「(っ!あかん!この人の考えが全然読めへん!

 これが素でも、本性を隠してたとしても腹の探り合いはこの人の方が何枚も上や!)」

 

カズキのように、腹の探り合いを図っていたはやてだったが、この数分間のやりとりで彼の方が完全に上手であると悟ってしまった。

 

「それで?みんなは時空管理局って聞いてどう思った?」

「えっ!?ええ~っとへ、平和を守る正義の味方……かな?」

「わ、私もそんな感じです……」

 

カズキからの質問に、フェイトとなのはの二人は本当のことを言うわけにもいかなにので無難な回答をしてやりすごそうとした。

 

「……俺は、きなくさい感じがしますね。なんとなく」

 

そんな、なんとかのりきって安堵しかけたなのは達に追い打ちをかけるかのように一夏が彼女たちにとって爆弾となるようなことを答えた。

 

「き、きなくさいってどういうこと……?」

「ん?いや~、正義っていうか平和を守ってはいるんだろうけど、自分たちは絶対正しい!とか

 間違うことなどあり得ない!とか思ってるような部分がありそうだな~って」

「「「……」」」

 

たどたどしく聞いてきた簪に、一夏は自分の考えを述べ件の本人たちは静かに耳を立てていた。

 

「それに、組織っていうのは上にいくほど腐る奴も出てきやすいし、

 下の奴が本分を全うしていても、上のせいでねじ曲がってしまうかもしれないしな……」

「確かに、私もそう感じたな」

「うん。いきなり、平和を世界を超えて守っている組織のものですとか言われても

 簡単には信じられないよね」

「おお~、みんなよく考えてるね~」

「本音もちょっとは考えて……」

 

思い思いのことを言う一夏たちに、なのは達は少々呆然とし

それを見守るアリサとすずかも苦い表情を浮かべた。

 

「なるほどなるほど♪ 

 ありがとう、大分参考になったよ♪

(まずまずだな……)」

「いつまで食べている!食事は迅速に効率よく取れ!授業に遅れた奴はグラウンドを

 走らせるぞ!」

 

カズキが仕掛けた先手の成果にほくそ笑んでいると、そこに千冬が現れ食事を促した。

 

「やぁ、千冬ちゃんおはよう♪

 昨日はよく眠れたかい?

 大好きな弟が来たことがうれしくて、一夏くん人形をいつもより強くだきしm……」

 

ドガァァァ―――ン!!!

 

カズキが言ったことをきっかけに、二日目で早くも恒例となった

千冬とカズキの激しいじゃれあいをBGMにしながら、食堂に居るものは急いで朝食をすますのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そして、時間は進み、本日の授業2時間目が終了した時点で一夏はかなり疲労していた。

更に……

 

「(な、なんかきまずい……)」

 

ISの基本知識の一つである、操縦者の保護や補助機能の説明の際、何故か下着の話や彼氏彼女の関係という話が出てきて、男にはいづらい空気となっているのだ。

 

そんな少しグロッキーな一夏のことなどおかまいなしに、千冬があることを説明するために彼の元にやってきた。

 

「織斑、お前のISだが準備に時間がかかる」

「俺のIS?」

「予備機がないから、学園で専用機を用意することとなった」

 

千冬の言葉に周囲がざわつき始める。

 

「せ、専用機!?一年でもう!?」

「いいなぁ~。私も欲しい~」

 

現在、世界に存在するISは全部で467機と数が限定されている。

 

ISにはコアという心臓部があり、これがあってISは初めてIS足り得るのである。

このコアは開発から10年経った今でも、その機能の全容が解明されていない完全なブラックボックスとなっている。

 

そのため、コアの量産の目途は未だに立っておらず、新しくコアを開発できるのは開発者の篠ノ之束だけとされている。

 

本来、専用機というのは国家あるいは企業に属する人間にしか与えられないものであり、その内の一機を数カ月前まで“平凡な一般人”であった一夏に渡されるのだから、騒ぐのもむりないことである。

 

「それって、要約するとデータ収集のための実験体ということだよね?」

「身も蓋もない言い方をすればな……」

 

教師ではなく姉としゃべるような言い方でも、千冬は一夏を咎めなかった。

彼女自身も弟にそんなことをさせたくはないのだが、良くも悪くも世界中から注目されている一夏には、自衛のための力が必要であるのもまた事実であるため、思い悩んだ末専用機を渡すことを了承したのだ。

 

「まあ、もらえるものはありがたくもらっときますよ」

「……」

「そんなに、心配しなくても大丈夫だよ千冬姉♪

 俺には頼りになる連中がたくさんいるし、

 千冬姉が大好きなカズキさんもいるんだし……、いたっ!」

「余計なことを言うな!後、織斑先生だ!」

 

苦虫を噛んだような顔をする千冬に向かって、一夏は軽い口調でからかいを含んだ気遣いをするが、照れ隠しに頭を叩かれてしまった。

しかしそれは軽くはたく様なもので、千冬自身も一夏の気遣いだと気付いているようだ。

 

「あ、あの織斑先生。篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者なんですか?」

 

一人の生徒が、千冬にある質問をしてくると箒がギクッ!

と反応をするのを一夏は目撃した。

 

「……、いづればれることだが、確かに篠ノ之は束の妹だ」

 

篠ノ之束。

この名前を世界で知らない者は、千冬やエレンの名を知らない者以上にいない。

彼女こそISを開発、完成させた張本人であり、自他共に認める稀代の天才なのである。

 

もちろん一夏やカズキも面識はあるが、どういう人物なのかと尋ねられたら……

 

「う~ん、なんていうか“天才”?」

「ただの“ガキ”だよ」

 

となんと答えていいのかわからないような感じと若干トゲを含んだ言い方で答えるだろう。

 

「やっぱり、そうなんだ!すご―――い!!!」

「有名人の身内が二人もいるなんて!」

「ねぇねぇっ!篠ノ之さんも天才だったりするの!?

 ISの操縦の仕方教えて~!」

 

本人の気も知らず各々勝手なことを口走りながら、箒に詰め寄るが彼女自身は多少人見知りがあることも手伝って、軽いパニックとなった。

 

みかねたアリサやはやてが助けようとしたら、パンパンと手を叩く音が鳴り響いた。

 

「騒ぐなガキども。

 家族なら似ているところも当然あるが、基本別の人間だ。

 現に、私と織斑を見てみろ。

 こいつと私が全く同じように見えるか?」

 

千冬がそう言い放つと、騒いでいたクラスメートは静まり返った。

 

「そうだよね。ごめんね、篠ノ之さん。勝手なこと言って騒いで……」

「私もお姉ちゃんがいるけど、比べられて嫌なことあったもん」

「私もそういうことあったから……」

「えっ!あっ!い、いやわ、私もその……」

 

皆、頭が冷えて箒に謝罪していくが当の本人もどうしていいのかわからず、オロオロするはめになった。

その様子をほほえましそうに、アリサをはじめ千冬や一夏も見ていた。

 

「で?カズキさんはいつまでそこで見ているんですか?」

 

一夏がそうつぶやくと、彼以外のものが頭に?を浮かべ周囲を見てみるとドアのすき間からこちらを見ていたカズキの姿を捉えた。

ビデオカメラを構えた姿を――。

 

「いや~、青春してるな~と思ってつい♪」

「お前と言う奴は……。

 まあいい山田先生、号令を」

 

カズキの行動にツッコム気になれなかったのか、千冬はため息をはきながら次の授業を始めた。

 

 

 

「あっ、そうだ。カズキさん、いいですか?」

 

授業が終わり、教室を去ろうとしたカズキを一夏が引きとめた。

 

「なんだい、一夏?」

「セシリア・オルコットの戦闘映像が欲しいんですけど、準備にどれくらいかかります?」

 

一夏の問いかけに、先ほどのように周囲がざわつき始める。

 

「おいおい、本人がいる前でしかも教師にそんな贔屓をさせるようなことを

 尋ねるの?」

「勝負に勝つ可能性が0.1%でも上がるなら、なんでもするアナタが言いますか、それ?

 それにアドバイスは求めていませんし、もしも彼女が俺の戦闘映像……、

 といっても入試の時のものしかないけど、見たいといったらあなたは見せるでしょう?」

「確かにね♪

 こういう勝負は、フェアじゃなきゃおもしろくないからね~」

『(どの口が、そんなことをほざくか!)』

 

セシリアに勝つための手段を講じる一夏に、彼女も助けを求めるなら手助けをするのがフェアと言うカズキにゲキリュウケンは、ツッコミを入れた。

 

一見、不利に見えるが客観的に見てうまく突いていけば一夏が有利な点が数多くある。

それに気付かないカズキではないのだ。

何故なら、一夏に戦術や戦略を叩きこんだのは、他ならぬカズキなのだから――。

 

「そんなものは、結構です!

 専用機を使おうが、わたくしの勝利に変わりはありませんわ!」

 

机を叩きながら、件の人物であるセシリアが立ちあがるがその体は震えていた。

 

「その様子だと、昨日の千冬ちゃんのお説教が相当堪えているみたいだね。

 そんなので大丈夫なのか?」

「問題ありませんわ!」

 

癖なのか狙っているのか腰に手を当てたポーズで、セシリアは教室を出ていった。

 

 

 

時間は更に進み、放課後。

一夏は、箒やシャルロットといった昨日一緒に昼食をしたメンバーで剣道場にいた。

そこで箒と対峙しているが、箒が剣道の防具をつけいてるのに対し、一夏は道着を着ているだけである。

 

「一夏、本当にいいのか?」

「いいっていいって♪」

 

何故こんなことになったのか。

それは昼食時、昨日と朝食時と同じメンバーで食事を取ろうとした時、会長である楯無が今度は最初から待ち構えており、昨日の訓練の話の続きをしてきたのだ。

 

楯無は、現役の国家代表であり学園内でも彼女に勝てるものは教師でも千冬やエレンを除いて

ほとんどおらずIS学園最強の生徒なのだ。

 

今年入学した一年を除いて、その強さは全生徒が知るところであり、

ひそかに一夏にコーチを申し出ようとしていたとある三年生は泣く泣くあきらめたというのは今は関係ないことである。

 

教えを請うのにこれ以上ない人物だが、そう簡単に納得できないのが乙女心。

箒たちが文句を言おうとすると、楯無の背後に虚が現れた。

会長としての仕事をトラン○ムよろしく終わらせたのだが生徒会ではなく、実家の更識家から急な仕事が入ったということで、楯無を呼びに来たのだ。

 

文句を言う楯無であったが、虚の背後に湧き出た白い魔○並の黒いオーラに黙り込み、

そのまま連行されていった。

 

唖然とする残された面々を余所にして、一夏は箒に剣道場で打ち合いたいと頼んだのだ。

当然他のメンバーがそのまま行かせるわけもなく、全員で剣道場にいるというわけである。

 

そして、箒はルンルン気分で剣道場で一夏を待っていたのだが、

一夏は防具をつけずに現れたのだ。

どういうつもりだと、問いただすがこのままで打ち合い先に一本を取った方の勝ちと一夏は言ってきたのだ。

 

流石に、ふざけているとしか思えない言葉に箒は怒るが、一夏は剣道はもう辞めて今は剣術を習っていることとどうしても、この勝負が必要だと真剣な顔で言うものだから箒は顔を赤くしながら、渋々了承して今に至る。

 

ちなみに、そんなやりとりが気にいらず約二名終始不機嫌だったのをここに記しておく。

 

「しかしだな、いくらなんでも防具なしというのは……」

「大丈夫だって♪

 千冬姉やカズキさんには、竹刀じゃなくて木刀でいつもボコボコにされてるんだぜ?

 それに比べたら……」

 

何度も確認する箒に大丈夫だと一夏は答えるが、

最後の方はどこか遠くを見るような目をしていた。

 

「……わかった。お前が言い出したんだから、手加減はせんぞ!」

「おう、こい!」

「はぁぁぁ!!!」

 

 

 

数分後、その場にいたなのは達や噂の男子を見に集まってきたたくさんのギャラリーがいるとは思えないほどその場は静まり返っていた。

 

「どういうことだ」

「どういうことって、言われても……」

「どうして、どうして…………そこまで強くなっている!!!」

 

そう、打ち合い始めたら箒は一夏に竹刀を当てることは一切できなかったのだ。

 

どんなに速く、鋭く、打ち込んでものらりくらりとかわされ続け、呼吸が崩れた一瞬のうちに打ち込まれ決着がついたのだ。

 

「どうしてって言われても、鍛えたから?」

「それは、そうかもしれないが……。

 だが、これでは私は何も必要ないではないか……」

 

涙ながらに言葉を紡ぐ箒であったが、彼女は悔しかったのだ。

いくら、開発者の妹とはいえ自分はISに特別詳しいというわけではない。

そんな自分を一夏は頼ってくれたのだ。

一夏と一緒にやっていた剣道。転校して離れ離れになった後も、これが彼と繋がっていた証明と言わんばかりに鍛錬を続けてきた。

 

なのはたちに出会わなければ、その剣はただ相手を打ち負かすだけの暴力になっていたかもしれなかったが、彼女たちのおかげで道を誤らずに済み、中学では全国優勝までしたのだ。剣道なら力になることができる。

そう思ったが一夏に決められた瞬間、彼女は分かってしまったのだ。

 

彼の実力は、自分が教えられることのないぐらいの高みにあることを――。

 

「悪かったな、箒。

 ISの練習をする前に、どうしてもお前の剣を見て自分を見つめなおしたかったからさ」

「……どういうことだ?」

 

頭をかきながら、照れ臭そうに一夏はこの勝負をもちかけた理由を話し始めた。

 

「剣術を学んだって言っても、その基本は剣道からきてるからさ、

 初心に返りたい時はそれを見るのが一番なんだけど今の俺じゃ全然できない。

 

 そこで全国優勝をしたお前の剣を見れば、って思ったんだけど……

 すごいな箒。

 どれだけ、剣道を一生懸命やってきたのかわかるきれいな剣だったぜ」

「/////」

 

箒が一夏の強さを分かったように、一夏もまた箒の剣道に打ち込んできたひたむきな想いを理解していたのだ。

もっとも、一番肝心な部分は分かっていないが。

 

箒も剣のこととはいえ、一夏にそんなことを言われるとは夢にも思わず昨日の簪のように顔を真っ赤にしてオーバーヒートしてしまった。

 

「どうした、箒?顔が赤いぞ?」

「「「「「「「「「「『(お前のせいだよ!)』」」」」」」」」」」

 

ゲキリュウケンと皆の心が一つになったツッコミが炸裂したが、

一夏に届くことはなかった。

そんな中、重い空気を出しているものが二人ほどいた。

 

「「…………」」

「かんちゃん~ 

 そんなにふくれないで~」

「あかん。シャルロットちゃんが、なのはちゃんと同じ道に……」

「私と同じ道って、どういう道のことなのかな?はやてちゃん?」

 

どうやら、また嵐が起きそうである。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それじゃ、今日は張り切っていくわよ!」

「はい、お願いします楯無さん」

 

一夏は今ISの訓練を行うために、アリーナに楯無と共にいた。

急な仕事が入ってこないよう念入りに準備をして、

楯無は多少強引にコーチ役を買って出たのだ。

 

もちろん、いつものメンバーも一緒である。

現役の国家代表の手ほどきなど、滅多に見られるものではないから私たちもと建前は立てているが、本当はこの油断ならない女と一夏を二人っきりしてなるものか!という思いがあったりする。

 

そんな恋する乙女たちの燃える想いなど知らずに、一夏は準備運動を念入りにしていた。

何故かマスクをしていて。

 

「おりむ~。

 風邪でも引いたの?」

「いや、違うよのほほんさん。

 これは、お手軽な心肺機能養成ギプスだよ」

「いや、どう見てもただの濡れているマスクにしか見えないのだが……」

 

箒の言うように、一夏がしているのは正真正銘ただ濡れているだけのマスクである。

 

「こうやって、濡らすことで通気性最悪になって取り込む酸素が少なくなるんだよ」

「それって、高地トレーニングのこと?」

「そんなの決闘までに効果あるのかな……?」

 

シャルロット、簪が一夏がやろうとしていることを理解するが決闘までの少ない期間で効果が出るのか疑問であった。

 

「効果がないと言えばないし、あると言えばあるな。

 少なくとも、重い荷物を持って下ろしたとき体が軽くなったような気がするぐらいの

 効果はあるさ。やれることは、なんでもやらないとな……」

 

一夏がそうやって、特訓の説明をしている傍らではやては満悦をしていた。

 

「それにしても……イイ光景やね~

 眼福眼福♪」

「はやて、おじさんくさいわよ……」

「なんか、フェイトちゃんは着なれているって感じがするけど……」

「そうかな?」

「フェイトちゃんのバリアジャケットと似ているもんね。ISスーツって」

 

彼女たちは、ISスーツというISを動かすための服を着ている。

肌の微弱な電位差を検知できるため、操縦者の動きをダイレクトに機体に伝えることができるものだ。このスーツを着なくてもISを動かすことはできるが、反応速度は着ている状態よりも低い。

 

見た目は、スクール水着やレオタードに近いためスタイルがそのまま出るので、はやてみたいなものにはたまらない光景となるわけである。

 

「と・こ・ろ・で♪

 一夏く~ん、どうして私たちと目を合わせないようにしているのかな~?」

「うっ!」

 

そう、先ほどから一夏は楯無をはじめ、その場にいるものたちと

まともに目を合わせようとはしなかった。

 

皆、アイドルやモデルでもおかしくないかわいい子たちなのだ。

そんな子たちが、ISスーツを着ている光景は健全な男子にとっては、まぶしすぎるのだ。

 

「ひょっとして、照れてる?照れてるのかな~?」

「(わかってて、言ってるよこの人!)

 め、目のやり場に困るということで/////」

「いや~ん、一夏くんのエッチ♪」

「は、早く始めましょう!」

 

楯無のからかいをごまかすために、一夏は練習を急かした。

でなければ、背中に刺さる鋭い眼光や冷たい眼差しに耐えられそうにはなかった。

 

約一名は、一夏のその様子を楽しんでいたりする。

 

「じゃあ、今日一日はISの基本的な動かし方がリクエストみたいだけど、

 本当にそれでいいの?」

「はい。どっちにしろ、こんな短期間で大したことは覚えられるほど器用じゃないので

 今日は、動かし方をとにかくマスターしてアリーナを使える残り一回で

 模擬戦とかをするのがbetterだと思うんです」

「わかった、それじゃみっちりきっちりやるから覚悟してね♪」

 

 

 

 

 

「さて、今日はこれでお開きとしましょうか」

「は、はい。あ、ありがとう、ございました……」

「「「「「「「「「お、おつかれさまでした……」」」」」」」」」

 

日が沈むころには皆疲れきって、ほとんどのメンバーが座り込んでいた。

一夏も、立ってはいるが汗だくで息も若干きらしている。

楯無も多少汗はかいているが、けろりとしている。

 

「じゃあ、最後にクールダウンして部屋に戻ってね♪」

「「「「「「「「「「は、はい……」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

「ふぅ~、疲れた」

「改めてやってみると、基本も難しいね……」

「みんな、ありがとうないろいろと手伝ってくれて。

 部屋でお茶でも出すよ」

「やった~♪」

「この気配りを普段から箒ちゃんにできてたら、文句なしなんやけどな~」

「「「「うんうん」」」」

 

練習後、部屋に戻る帰り道で一夏は、皆に手伝ってくれたお礼にお茶の提案を出す。

この気配りのほんの1、2割でも女心の気配りに回せればいいのにと漏らす者もいた。

 

だが、この時の一夏は気付いていなかった。自分が嵐に近づいていることに……

 

 

 

「俺が、お茶を入れるから皆はゆっくりしていてくれ」

『(おい、一夏。部屋の中に誰かいるぞ)』

「(みたいだな。

 でも、敵意や悪意は感じないな。

 いつでも、対応できるようにゆっくりと……)」

 

ガチャと一夏は自室である1025室のドアをゆっくり目に開けた。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

ドアを開けて聞こえてきた声を聞き終わるや否や、一夏は素早くドアをバタリと閉めた。

 

「……」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

「え~っと、ここは1025室。俺と箒の部屋に間違いなし。

 ……相当、疲れているのかな?

 裸エプロンをしている楯無さんを見るなんて、ははは」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

『(お~い、一夏~)』

 

一夏は、今見たことが余程信じられないのか口に出しながら必死に否定しようとする。

 

「うんうん、きっと俺は疲れているんだ。

 特に今日は、慣れないことをしたからな~、ははは。

 さっき見たものは幻、夢だ。

 

 そして、俺の背中に刺さる鋭かったり、

 冷たかったり笑っているけど笑っていないような視線も

 きっと気のせいだ!」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

『(目を逸らすには無理があるぞ――)』

 

一夏は、背中に刺さる視線を振り払うかのように現実逃避を図るが、その視線がそれを許しそうになかった。

 

「気のせいったら、気のせいだ。

 ついでに、たぬきの耳と尻尾がよく似合う奴からカズキさんがおもしろいものを

 見つけた時と同じような視線を感じるのも気のせいだ!

 ドアを開ければ、そこには誰も!」

 

意を決して、一夏が再びドアを開けた。

 

「お帰り。私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」

「幻でも夢でもなかった!そして、選択肢が一つしかない!!!」

 

どうやら、裸エプロンをした楯無というのは現実だったようだ。

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

「っ!ていうか、何してるんですか楯無さん!?」

 

一段と鋭さや冷たさが増したような視線を背中に受けて、

一夏は慌ててその視線から逃げるように楯無に問いただした。

 

「何って、特訓をがんばった男の子をもてなそうかと~♪」

「はぁぁぁ~。

 楯無さんにもお茶出しますから、皆と待っていてください……」

「むぅ~。こんな美人のお姉さんがこんな恰好をしているのに反応薄くない?

 そんな子には、こうだ♪」

「うわっ!?」

「「「っ!!!!!」」」

「「「「「「なっ/////!!!?」」」」」」

 

あろうことか、楯無は一夏の後ろに抱きつき豊満な大きさを持つものを

これでもかと押し当ててきた。

 

その光景に、一夏に恋する者は声にならない声をあげ、

他のものは顔を真っ赤にして驚きの声をあげた。

 

「ちょっ!楯無さん!」

「よいではないか~よいではないか~♪」

「楯無さん、いい加減にしてください!

 後、一夏もだらしない顔をするな!!!」

「お、お姉ちゃん!」

「会長もだいた~ん」

「一夏?やっぱり、大きいのがイイノカナ……?」

「(男の子って、こういう恰好が好きなのかな?

 わ、私もこの恰好をすれば/////)」

「フェイト?あんた、何考えているのかまるわかりよ?」

「一夏くんも男の子なんだねぇ~」

「やっぱり、OHANASIが必要かな?」

「いや~青春の1ページやね~」

「だぁぁぁ!皆、落ち着け!

 後、楯無さんも水着でも恥ずかしいんでしょう!その格好!

 とっとと服着てください!!!」

 

部屋はあっという間に青春と言う名の嵐が吹き荒れたが、一夏の言葉で楯無が固まった。

 

「えっ?何でエプロンの下が水着って分かったのかな?

 後、私が恥ずかしいって/////」

「抱きつかれた時に、心臓が速くなっているを感じたので……

(ゲキリュウケンの感覚越しだけど)」

 

そう、裸にエプロンという恥ずかしい恰好と見せてその下に楯無は水着を着ていたのだ。本人も余裕のある態度で、一夏をからかっていたが内心相当恥ずかしかったようだ。

 

「じゃあ、水着だってわかったのは?」

 

乙女の直観か、これは問いただしておかないといけないと本能で悟ったシャルロットは一夏が答えなかったことについて楯無と同じように聞いた。

 

「ああ、それか?

 服越しに伝わる感触が、なんか違ったからさ」

「と言うと?」

 

取り敢えず、みんなが落ち着いたのに安堵したためか一夏は自身が答えを誘導されていることに気がつかなかった――

 

「いや~、あねさん……知り合いのお姉さんがよく“私の乳をくらえ!”とか言って、

 俺や友達の顔を胸に押し付けてからかってくるんだけどさ~

 その時の感触と楯無にさんに抱きつかれた時の感覚が違ったから、エプロンの下に

 何か着てるってわかったんだ」

「「「「…………」」」」

『(おい、バカ!)』

 

一夏は、部屋の温度が真冬並のなったことに気がつかない――。

 

「まあ、俺をからかうのは“アイツ”をからかうついでなんだろうけど、

 勘弁してほしいぜ~

 おかげで、いろいろと慣れちまったけど/////」

「なあ、一夏。

 その人は、どんな人なんだ?」

「どんなのって……、所謂肉食系って奴かな?」

「美人?」

「ああ、美人だな」

「……押し付けるって、大きいの?」

「そうだな、大きいぞ」

「私や箒ちゃんよりも?」

「う~ん、そうですね」

『(……)』

「「「「「「……」」」」」」

 

先ほどから、ゲキリュウケンやなのは達は一言もしゃべっていない。

いや、しゃべれないのだ。

 

「「「「「「……、じ、じゃあ私たちはこれで!」」」」」」

「うん?お茶はいいのか……って、あの箒さんシャルロットさん?

 なんで二人は、まるで俺を逃がさないようにするみたいに腕を組んでいるのかな?

 なんで、楯無さんと簪さんも拳をバキボキならしてアップをしているのかな?

 ねえ!!!」

『(一夏、お前のことは忘れん!)』

「(なんだよ、その今生の別れみたいな感じは!)」

「「「「「「それじゃ!!!」」」」」」

 

そう言って、なのは達は1025室の部屋を後にした。

 

数秒後、とある朴念仁の悲鳴が学生寮に響き渡ったが、

その翌日一夏は昨日部屋に戻った後の記憶がなかったそうだ。

 

唯一、真相を知っているゲキリュウケンは決して

何が起こったかを語ることはなかった。

 

 

 

そして、時はまたたく間に流れセシリアとの決闘当日となった――。

 

 




次の更新も同じくらい長くなるかもです。

ですが、途中でやめるなんてことは絶対にしたくないので、温かく見守ってもらえれば幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『白』の飛翔

最新話、できました。
なんとか夏コミ前に投稿できたけど、もう少し更新スピードを
何とかしなければ(汗)

さて、戦闘描写第二弾。
うまくできたかどうか・・・


「(やれることは、やった。後はそれをぶつけるだけだ――)」

 

セシリアとの試合直前、ピット内にて一夏は目を閉じながら精神統一を図り

自身のコンディションを調えていた。

 

『(ところで、一夏。一ついいか?)』

「(別に、いいぜ。多分、俺たち同じこと考えているから……)」

 

ゲキリュウケンの言いたいことが分かるのか、一夏はゆっくりと目を開けて、

応援に来てくれた箒たちにある疑問を投げかける。

 

「『なんで、俺の機体がきていないの?

 (なんで、お前の機体がきていない?)』」

 

そう、千冬が言っていた一夏に支給されるという専用機が、

決闘当日の今日になってもまだ手元に来ていないのだ。

 

「な、なんでだろうね……?」

「わ、私に聞くな!」

「流石に予想外……」

「まあ、最悪訓練機を使えば……」

「大体今日は、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」

「今日まで特訓と言いながら、

 お手玉をしたりパズルしたりと大半は遊んでいたではないか!」

 

自分たちもノータッチな一夏の専用機についてシャルロット、箒、簪、楯無が

それぞれ反論と今からの戦いについて述べる中、箒は今日までの特訓内容に

声をあげて一夏に問いかける。

 

「あれか?あれもちゃんと特訓になってるんだぜ?」

「お手玉が特訓って……」

「お、織斑君織斑君織斑~~~君っ!」

 

簪がお手玉がどう特訓に繋がるのかを聞こうとしたら、

山田先生が今にもこけそうなぐらいバタバタした足取りで走りながらやってきた。

男子だけでなく、多くの女子がうらやむものを大きく揺らしながら。

 

「山田先生、落ち着いて。まずは、落ち着いて深呼吸を。

 はい、吸ってはいて~」

「は、はいっ。す~~~は~~~」

「何をしているんですか、山田先生」

 

慌てている山田先生を一夏が落ち着かせようとしたら、

その後ろから千冬が呆れながら現れた。

 

「あっ!千冬姉!」

「織斑先生だ!いい加減学習しろ。後、何でお前たちがここにいるんだ?」

 

相変わらず、そういうとこは成長しない一夏に頭を痛めながらも千冬は、

特訓に付き合ってもらったとはいえ、正規の関係者でない箒たちに視線を若干鋭くしながら移す。

 

「え、えっとそ、それは……」

「あははは……」

「はわわわ……」

「問題ないですよ、織斑先生?

 ちゃ~~~んと碓氷先生から許可はもらっていますから♪」

「あいつのだと?」

 

一夏に恋する一年トリオがあたふたする中、楯無はいつもと変わらない調子でここにいる許可を

カズキからもらったと千冬に伝えるが、ピクリと彼女の眉が反応した。

 

「……まあ、許可を取ってあるなら何も言うまい……」

「とか言いながら、本当は初めてのISを使った試合に緊張している一夏を

 姉として励ましてやれる姉弟水入らずのとこを邪魔されて、

 おもしろくないんじゃな~い?」

 

ブッン!!!

 

何の前触れもなく背後から聞こえてきた声の主に向かって、千冬は何のためらいもなく

風をも切り裂くような速度で振り抜いた拳を叩きこむが、声の主であるカズキは顔色一つ変えることなく紙一重でその拳をかわしてみせた。

 

「貴様と言う奴は、毎度毎度あらぬことを……!」

「ははは、いや~何を今更照れてるの?

 もう、千冬ちゃんが弟大~~~好きないわゆるブラコンって奴なのは、

 み~~~んな知っているんだからさ☆」

 

その言葉がゴングとなって、二人の姿がその場から一瞬で消えたと思った直後に千冬が腕が消えたように見える速度で拳を放ちつつ、その拳をカズキが某勇者王に出てくるライバルキャラみたいに“遅い!遅い!遅いよ、千冬ちゃん♪”と言いながら、余裕でかわしまくるという、どこの戦闘民族だよ!な戦闘が開始された。

 

「相変わらずだな~あの二人は」

「そうだな」

「あわわわわわ!」

 

二人のことを子供のころから知っている一夏と箒は、

どこか呑気な会話をするがそうでない者はそうはいかなかった。

ちなみに、山田先生を突然の事態にオロオロしていた。

 

「ねえ?僕の気のせいかもしれないんだけどさ……」

「大丈夫、私も同じように見えてると思う……」

「……二人もそう見える?」

「「「……あの二人、なんか宙に浮いていない?」」」

 

そう。

千冬とカズキ、両名の体は地面から浮いて頂上バトルを繰り広げているのである。

 

「それは、ほら。あれだよ?」

「うむ、そうだな」

「「だって、千冬姉(さん)とカズキさんだから」」

「「「…………」」」

 

さも当たり前のことのように言う二人に、誰も何も言えなくなってしまった。

 

「た、確かにそれで納得してしまう自分がいるわ……」

「僕も……」

「わ、私も……」

「さてと、それじゃ山田先生。

 将来のための夫婦喧嘩の練習をしている二人は放っておいて、来たんですか?

 俺の専用機?」

「えっ?は、はい!

 やっと来ました!織斑くんの専用機!」

 

ピット搬入口がゆっくり重い駆動音を響かせながら開くと、そこには

『白』がいた――。

 

「これが、俺の……」

「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!」

 

自身のもう一つの姿であるリュウケンドーが纏う鎧と同じく、

真っ白なそれは自分を待ち焦がれていたように思えた。

ただ、織斑一夏が自身を纏う、この時を――。

 

「フォーマットとフィッティングを行っている時間はないので、

 実戦でやるしかないですが問題ないですね?」

「やるもやらないも、やるしかないでしょう?

 というか、何でメイザース先生がここにいるんですか?」

 

ゲキリュウケンのように、自分の相棒となる機体を見つめているといつからいたのか

エレンが一夏たちの後ろから姿を現した。

 

「ふふふ♪

 千冬はどうせ、カズキといつもの痴話喧嘩をして一夏へのアドバイスができないと

 思いましたから♪

 (この一週間、一緒にいるタイミングを逃し続けてきましたが、この時なら

 別のクラスだとかそんなの関係なく堂々とアドバイスを送れますからね。

 これ以上、彼女たちに後れをとるわけにはいきません!)」

 

どうやら、箒たちに出遅れた分を取り戻すために現われたようだ。

 

「(それに、ISを装着する一夏を映像とかでなく、直に見たいですからね/////)」

「「「「……」」」」

 

同じ恋する乙女だからか、箒たちにはエレンが考えていることがなんとなく

分かったようだ。

 

「じゃあ織斑くん、まず「山田先生、ここは“私”が」

 はう~」

 

山田先生が、一夏にISの装着の仕方を教えようとしたらエレンが私と言う部分を強調

して話に割って入り、山田先生はしゅんとなった。

 

「では、一夏。装甲が開いている部分に「背中を預けて、座る感じで搭乗しろ」

 そうそう……って、千冬!いつの間に!」

「全くお前と言う奴は、油断も隙もあったものではない……」

 

エレンと同じように、千冬も何の前触れもなくその場に現われた。

カズキといい、人体の常識?ナニソレ?な者たちは、

忍者のような気配遮断の術を身につけているのだろうか?

 

いつもビシッ!と決めている千冬のスーツ姿は、現在若干崩れ息も乱れている。

カズキとの戦闘ならぬ、痴話喧嘩は千冬の身体能力をもっても簡単にはできないようだ。

 

「ははは。大好きな弟のデビュー戦に、これ以上遅れたらダメかな~?

 と思って早めに切り上げちゃった♪」

「っ!

 ええい!とにかくだ!

 一夏、さっき言ったようにな。後はシステムが最適化する」

「おっと!その前に~♪」

 

同じように気配を消して現れて、いつもの調子でしゃべるカズキに千冬は拳が出そうになるものの、こっちが先だと言わんばかりに、一夏にISへの搭乗の仕方を説明しカズキは何かを思い出したかのように一夏に近づいた。

 

「カズキさん?」

「なぁ~に、そんなたいしたことじゃない。

 ただ、待機状態のゲキリュウケンを身につけたままでもISには乗れるってだけさ。

 まあ、白式が面倒なシステムを搭載していたから、その改造は少し手間取ってな」

「そんな改造どうやって……って、ああそれですね」

 

カズキが小声で白式に施した簡単な改造を説明し、

いつの間にそんなことをしたのかと一夏は思うが、カズキが懐から取り出そうとした

黒い手帳で全てを察した。

 

おそらく、その改造を行った研究者や技術者たちは今頃“それをばらすのだけは……”とか

言いながら悪夢にうなされていることは想像に難しくないが、自分にはどうしようもないと

一夏は気持ちを切り替え、白式に乗り込んだ。

 

「あれ……?」

 

機体の各部からかしゅっ、かしゅっ、と空気が抜けていく音が響く中で

一夏は、戦いでゲキリュウケンと一心同体となる感覚とは違った一体感を感じていた。

 

「(わかるぞ。これが何のためにあるのか、何のか。

 ……でもなんでだ?

 ちゃんと勉強してきたからか?)」

 

そうこうしているうちに一夏と白式の『繋がり』が完了し、彼の視界が、世界が

靄が晴れるかのように広がっていく。

 

・戦闘待機状態のISを確認。

・操縦者セシリア・オルコット。搭乗機体『ブルー・ティアーズ』。

・中距離射撃型。

 

白式から送られてくる情報も普段から使っているものかのように、違和感なく

一夏は認識できた。

 

「ISのハイパーセンサーの作動に問題はないようだな。

 一夏、気分は大丈夫か?」

 

一夏のことを名前で呼んだことから、教師ではなく彼の家族として姉として

心配しているのだとわかったのは、この姉弟のことを昔から知っている

箒とエレン、そしてカズキだけだった。

 

そのカズキもからかいの言葉は、出さなかった。

流石の彼もからかっていいのかそうではないかは、わかるようだ。

 

「大丈夫。何の問題もないよ、千冬姉」

「そうか」

 

一夏はそう言うと、ピット・ゲートへと足を進めるが突如その歩みを止める。

 

「……みんな」

「な、何だ一夏」

「どうしたの?」

「な、何?」

「ひょっとして、戦いの前にお姉さんに告白?」

「勝ってくる」

「「「「「「っっっ/////!!!」」」」」」

 

一夏が不意打ちで見せた、不敵に笑ってみせる“男”の顔に千冬を除く女性陣が

顔を赤らめた。

 

「(じゃあ、いきますか。相棒!)」

『(ああ。あのお嬢様に世界の広さというのを見せてやれ!)』

 

一人の少年と一匹の龍は、鋼の鎧をその身に纏って青空へと飛翔した――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さてと、これから試合になるわけだけど箒はうまくやれたかしたね?」

 

第三アリーナの観客席には、大勢の生徒が初の男性操縦者と代表候補生の戦いを見ようと

集まっており、その一角にはなのはたち5人の姿もあった。

箒に、とにかく攻めあるのみと助言をし自分たちは観客席にいるわけである。

 

「う~ん。シャルロットちゃんたちもいるから、うまくいってないんじゃないかな?」

「そうやね~。一夏くんも鈍感さんやしなぁ~」

「にゃははは。ところで今日の試合、みんなはどっちが勝つと思う?」

「一夏くんには悪いけど普通に考えれば、オルコットさんなんだけど……」

 

今から始まる決闘の勝敗を予想するフェイトは、一夏では勝てないと言うが

その言葉にはどこか自信がなかった。

 

「うん。

 特訓の時の動きを見たけど、あれはついこの間まで学生だった人の動きじゃないよ」

「普通に銃を向けられても、ビビッたりせへぇんかったしなぁ~。

 なんか、戦い慣れているって感じもしたし……」

 

ISには、操縦者を保護するための機能が備わっているが、例えば野球場でフェンスが自分の前にあったとしても、ボールが飛んできたら反射的に避けようとしてしまうように、

ISに搭乗していても銃や剣を向けられたりしたら、身構えたりひるんだりもする。

ISに慣れていない初心者なら尚更である。

 

しかし、特訓時の一夏にそんな様子は見られなかった。

死角からの突然の攻撃に、驚くことはあってもそこからの立て直しはとても

素人とは思えない動きと早さであった。

 

「それってやっぱり、一夏くんもなのはちゃんたちみたいに魔法使いだったり

 するってこと?」

「すずかちゃんの考えとることの可能性は高いと思うけど、

 確証がないから、なんとも言えへんね。

 単に、織斑先生や碓氷先生にしごかれたからってことも否定できへんし……」

「まあ、今あれこれ考えてもしょうがないわよ。

 あっ!出てきたわよ!」

 

一夏が見せた動きについてあれこれ考えるはやてたちであったが、アリサの言葉に

意識を切り替えるのであった。

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

一夏が、アリーナに行くとそこには腰に手を当てたいつものポーズで

セシリアが彼を待ち構えていた。

完全に一夏を下に見ている発言をしているが、一夏はその言葉を聞き流して

彼女の機体に意識を集中していた。

 

「(あれが、あいつのIS。その名の通り、青いな。

 で、持っている武器は〈スターライトmkⅢ〉っと。

 このアリーナの直径はだいたい200メートルぐらいだから、

 撃たれたビームが俺に届くまで、一秒もかからないな。

 それに、武器はあれだけじゃないから、どうかわしていくか……)」

 

一夏がどう戦っていくか、考えているとアナウンスが鳴った。

 

「ああ~。テステス。

 おっほん。それじゃ、今から織斑一夏とセシリア・オルコットの試合を始めるよ~。

 どちらが勝ってもクラスの皆に代表はどっちがいいかを決めてもらうことだけど、

 それだけじゃ、つまらないから負けた方は“これ”がクラスの皆に

 ばらされるっていうのはど・う・か・な~?」

「「はっ?」」

 

アナウンスを流したカズキの提案に呆然とする一夏とセシリアだったが、

自分のISに送られてきた画像に言葉を失ってしまう。

 

「「っっっ!!!ここここここれはぁぁぁ!!!!!?」」

 

二人の顔は、

工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工

という感じになっていた。

 

観客がなんだなんだとざわつく中、スピーカーから

カズキの心底楽しそうな声が流れてきた。

 

「ははははは♪

 二人とも、そんなに慌てる必要はないよ~。

 ばれたくなかったら、勝てばいいんだよ~。

 

 ちなみに、一夏のは彼のおしめを換えたり、女の子の恰好をされたりしたのを

 見たことある千冬ちゃんでも知らないものだよ~」

「ちょっと待て、アンタ!!!

 それ、ばらさないでくれって頼んだじゃねぇか!!!」

「いや~おもしろくなりそうだから、つい☆」

 

よっぽど知られたくない秘密なのか、一夏は声を荒げて抗議するが、

カズキにはどこ吹く風である。

 

「おい……。

 私の知らないものを何故、お前が知っている……」

 

カズキの楽しそうな声が響く中、スピーカーから聞こえる

千冬のドスのきいた声がアリーナを静まりかえらせた。

 

「う~ん。これは、俺の前でやったことだからね~。

 俺の他に知っているのは、雅さんだけさ。

 一夏がど~~~~~うしても、千冬ちゃんには内緒にしてくれって言うから

 黙ってたんだけど、上目づかいで欲しいですって言ってくれたら、

 今、千冬ちゃんに教えてもいいけどどうする?」

「うぉぉぉい!もう黙れ、この外道悪魔!!!」

「う、碓氷先生。そんなばらされたくない秘密をばらしていいんですか?」

「そうです。千冬だけでなく、私にも教えてください」

「大丈夫大丈夫♪

 ばらすのは、その時の写真だけだから~。

 一夏が一番知られたくないのは、その時に言った言葉だから、さすがに

 それをばらすことはしないよ~」

 

一夏には千冬がこの後、何をするのかわかっているのか何とか止めさせようとするが、

アリーナ内からの言葉だけで止めようがなかった。

 

「……ほ」

「「「ほ?」」」

「…………ほ、欲しい……です/////」

 

スピーカーから流れてきたかぼそい千冬の声に、

アリーナは先程とは違った意味で静まり返った――。

 

「ははは、もう本当に一夏が大好きなんだね~千冬ちゃんは♪」

「うるさい/////

 いいから、ささっと教えろ!」

「はいはい。

 これだよ~」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

一夏が頭を抱えて叫ぶが、その叫びは青空に空しく消えた。

 

「……」

「こ、これは/////」

「あらあら」

 

千冬が受け取った写真をエレンと山田先生も見て、ほほえましいものを見るかのように

ほおを赤く染めた。

その写真には小学1、2年生ぐらいの一夏が、ズボンの裾を握りしめながらプルプルと

震えて涙を流している姿が写っていた。

 

「確かに、怒られたり怖がったりして泣いたものではないが、何でお前の前で

 泣いたりしたんだ?」

「う~ん、原因は確かに俺だけどなるべくしてそうなったというか、

 予想外というか」

「……つまり、お前はこんないたいけな子供を泣かせたと……?」

「あっ、やばい」

「あの、織斑先生?」

「ち、千冬?」

 

 

千冬の様子が何かおかしいと山田先生とエレンが、勘づくが時すでに遅しであった。

 

「…………こんなかわいくて小さい一夏を泣かせるとは……、

 お前の血は……ナニイロダァァァァァ!!!!!」

「うおっと!」

「織斑先生!」

「千冬落ち着きなさい!」

「あちゃ~、一夏の初めておつかいで逆ナンしようとした子を見ていた時

 と同じ目をしているね~」

「そ、それでは二人とも10カウント後に試合を開始してください!

 織斑先生!落ち着いてくださ~~~い!」

「キルキルキルキルキルゥゥゥッッッ!!!!!」

 

一夏とセシリアをそのままにしておくわけにもいかないので、山田先生が

とりあえず試合の指示をして、自分はブラコン教師の鎮圧に取り掛かった。

 

そこで、放送は途切れたが観客席にいた生徒たちは

背中に流れる冷や汗が止まらなかった。

 

もっともそんな観客達以上に、

試合に臨む一夏とセシリアの心中は穏やかではなかった。

 

「負けられない……、負けられませんわ!」

「……俺は負けられない!負けるわけにはいかないんだ……!」

 

この光景だけを見れば、とてもかっこいいシーンなのだが

そうなる理由はそんなものから程遠かった。

 

「最後のチャンスをあげますわ!

 私が勝利するのは必然!

 ボロボロで惨めな姿をさらされた上に、恥ずかしい秘密まで

 明かされるのは不憫ですから、今ここで謝って降参すれば

 秘密がばれるだけですみますわよ!」

「言ってろ!大体、試合前にそういうことは言う奴の方が

 負けるのが定番なんだぜ?

 むしろ、お前の方が降参した方がいいんじゃねぇのか!」

「なっ!そうですか、なら――」

 

ビシリとセシリアの額に青筋が浮かび上がり、持っていたライフルのロック解除が

行われる中、試合開始までのカウントが進んでいく。

 

―― 警告! 敵IS攻撃体勢に移行。トリガー確認、エネルギー装填。――

 

そして――。

 

「これで、お別れですわね!」

 

試合開始のブザーが鳴り響くのと同時にセシリアが攻撃を行った。

 

瞬間、観客にはそのビームに打ち抜かれる一夏の姿がよぎったが次の瞬間に目にした光景に

その場にいたもの全員が驚愕した。

そう。その場にいたもの全員が……。

 

―― ダメージ23。シールドエネルギー残量、577。――

 

「っ!躱された!?」

「躱しきれなかった!?」

 

セシリアが放ったビームを一夏は体を逸らすことでかわしたが、

僅かに掠ってしまいダメージを受けてしまう。

セシリアは必中を確信していた攻撃を躱されて、一夏は完全に避けたつもりの攻撃が当たったことにそれぞれ、驚いていた。

 

「い、今のは、まぐれですわ!

 今度こそ踊りなさい!

 わたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲<ワルツ>で!」

「こなくそ!」

 

双方驚きで、数瞬呆けるがすぐに我に返り次の行動を起こす。

 

セシリアは、ビームの雨と言わんばかりの連続射撃を行い一夏はそれを躱し続ける。

しかし、双方とも試合前に臨んでいた試合展開にならず若干混乱していた。

 

セシリアは自分の攻撃が当たらないことに。

一夏は、思うように相手の攻撃を躱せないことに。

 

 

 

先程述べたように、ISには操縦者を保護する機能。『絶対防御』という機能がある。

この機能によって、操縦者はあらゆる攻撃から身を守られているわけだが、

これが発動するとシールドエネルギーを大きく消費する。

ISの試合というのは、このシールドエネルギーの削り合いであり、先に0にしたものが

勝者となるのである。

 

セシリアは直撃こそできていないものの、一夏のシールドエネルギーを少しづつ削っているので、このままの展開が進むと先にシールドエネルギーが0になるのは一夏の方である。

 

 

 

「織斑くん。やっぱり苦戦してますね」

「いや、あれは苦戦とは少し違うな」

「セシリアは、このチャンスをものにできるかね~」

「はうぅぅぅ~」

 

管制室では、現在行われている試合を山田先生をはじめとした教師陣が観戦をしていた。

その傍らで、目を回しているエレンに頭にクナイとか日本刀が刺さり、噴水のように血を噴き出しているカズキがいるが、ツッコンではいけない。

 

「違うって、何がですか?」

「あれは、機体と織斑の反応にずれがあるだけだから、

 それに気付けば一気に試合は動くぞ」

「じゃあ、オルコットさんのチャンスっていうのは?」

「ああ、あいつにあるチャンスっていうのは、一夏がISに慣れていない

 試合開始直後の数分間のことだよ。

 そこがあいつにとって、最大の勝機なんだけど……おっ♪

 見てみなよ。おもしろいものが見れるよ♪」

 

 

 

「(そうか!今、白式は俺に合わせようとしている最中なんだ!

 そんな状態で、いつものように動けるわけがない。

 ということは、いつもよりもっと……。

 相手の動きを2手、いや3手先まで予測して……)」

 

一夏が静かに目を閉じて、再び開くとその目は鋭く光っていた。

しかしそのため、一瞬動きが止まってしまう。

 

「もらいましたわ!喰らいなさい!」

 

今度こそ当たると確信するセシリアだが、その思惑は裏切られることになる。

 

「っと!」

「そんな!?」

 

先程までと違い、一夏は完全にセシリアの攻撃を躱してみせたのだ。

セシリアが驚いている隙に、一夏は今いる高度から地面に近い低空へと飛翔する。

 

「逃がしませんわ!」

 

慌てて、追撃するセシリアだがその射撃は精密さを欠いており、

一夏に当たることはなかった。

 

「さてと、こっちの武器は?

 って、まじかい」

 

一夏が白式に搭載されている装備武器の一覧を見てみると

『近接ブレード』

と書かれた装備しか表示されなかった。

 

『まあ、銃一丁とかよりマシなのではないか?

 これ程、お前にふさわしい武器もないだろ』

「だな!でも、これ以上の口出しは無用だぜ、相棒!」

『ふっ。無論だ』

 

ゲキリュウケンと軽口を叩きながら、一夏は白式に装備された唯一の武器を

呼び出し、展開する。

すると、彼の手に渡り一・六メートルはある長大な“刀”が出現した。

 

「射撃型のわたくしに、格闘装備で挑むなんて……笑止ですわ!」

「それは、どうかな!

 銃は、構える、狙いをつける、引き金を引くの三ステップが必要だけど、

 剣は斬るだけでいいからな!」

「へらず口を!なら!」

 

一夏の挑発に、セシリアは手持ちの切り札(カード)を一枚きった。

ブルー・ティアーズから四つの物体が切り離され、彼女の周りに浮遊する。

 

「きたか!」

「おいきなさい!ティアーズ!」

 

ティアーズと呼ばれた物体が、縦横無尽に飛び回り、一夏に襲いかかった――。

 

 

 

「思ったよりやるわね、一夏の奴」

「うん。びっくりだね」

 

試合を観戦していた、アリサとすずかは一夏の想像以上の善戦に半ば呆然としていた。

 

「それでは、解説をお願いします。なのは教官♪」

「はやてちゃん……。

 では、コホン。最初は、二人とも予想外のことで戸惑っていたみたいだけど、

 今は一夏くんのペースだね」

「でも、なのは。一夏は、あいつにずっと攻撃できていないわよ?」

 

時空管理局で、新人を教え導く教官を目指しているなのはに解説をお願いするはやてに

苦笑しながらも、なのはは律義に解説を始めた。

その中で、アリサがもっともなことを聞いてくる。

試合が始まって約10分。

一夏は未だに攻撃に移れていないのだ。

 

「攻撃できないんじゃなくて、攻撃しないんだよ」

「攻撃しない?」

「うん。一夏は何かを待っているんじゃないかな?

 だから、あのポジションを選んだわけだし」

「選んだって、どういうこと?フェイトちゃん?」

 

フェイトも解説に入り、一夏の戦術の説明をする。

 

「一夏は、今オルコットさんより低い位置にいるでしょう?

 そうすることで、攻撃がくる方向を限定させているんだよ」

「もしも、オルコットさんと同じ高度にいたら、下からも攻撃が来るかも

 しれないから、そっちにも意識を向けなくちゃいけないからね」

「「なるほど~」」

 

戦闘に関して素人な二人は、感心して納得した。

 

「セシリアちゃんも、腕は悪くないんやけどな~」

 

 

 

「彼女の射撃は、素直すぎるわね」

 

ピット内でも客席同様、楯無たちが試合状況を分析していた。

 

「素直すぎるとは?」

「基本に忠実だけど、それゆえに読みやすいってことよ☆」

 

楯無が箒の質問に扇子を開きながら、答えるとそこには“心理戦”と書かれていた。

 

「ねぇ、箒ちゃん?

 動かない的と動いている的に当てるのに必要なのは、同じ技術だと思う?」

「えっ?」

「動くモノに当てるのには、いかにそれを動かないモノにするかって

 いう、将棋やチェスみたいな相手の心理を読む技術が必要なんだよ」

 

生粋の剣士である箒に、楯無やシャルロットが射撃についての説明を行う。

 

「一夏は、今言葉も使ってISの試合から、自分の土俵にオルコットさんを

 引きずり込もうとしてる……」

 

簪がそう言うと、皆ピット内のモニターに視線を戻した。

 

 

 

「なんで当たりませんの!」

 

セシリアは手に持っている、ライフルと分離した4つの『ブルー・ティアーズ』、

計5つの銃口で、攻撃を行っているのだが、たまに掠るぐらいでほとんど

一夏に躱されているのだ。

 

「何で、俺に攻撃が当たらないのか教えてやろうか!

 お前は、攻撃を当てようとするときしっかり狙いをつけるために手に

 力を強く込める。

 ライフルなら、支える左手に!

 飛び回っている奴なら、攻撃を仕掛けようとする向きの手をな!」

「そ、そんなデタラメを!」

「うん、デタラメだよ♪」

「はあっ!?」

 

一夏が、自分の躱し方のタネを明かしデタラメと言うセシリアに対して一夏は

あっさりとそれを否定した。

 

「だって、お前ISを装着してるんだぜ?

 生身の手ならともかく、そんな微妙なことをIS素人の俺がわかるわけ

 ねぇじゃん♪」

「あああ、あなたは人をおちょくって……!」

「本当は、お前の視線さ!

 銃っていうのは、狙いをつける以上どうしても相手を見るからな。

 その目を見れば、どこを狙ってくるか分かるのさ!」

「どうせまたデタラメ……」

「嘘の中の真実、真実の中の嘘。

 さて、俺の言葉はどれが嘘でどれが真実かな?」

「っ、この!」

 

最早、誰の目にもこの戦いの主導権を握っているのは誰なのかは明らかであった。

 

 

 

「す、すごいですねぇ、織斑くん」

「まあ、あれぐらいは……ね?」

 

管制室にいる山田先生は、一夏の試合運びに感心しカズキは誇らしげであった。

 

「(確かに、一夏のペースで試合は動いている。

 しかも、浮かれた時のあの癖。

 左手を閉じたりする開いたりするクセもなくなっているが……、

 明らかに一夏は飛ぶことに慣れている……。

 何故だ?)」

 

千冬も一夏の戦いに魅入っているが、明らかに素人の動きではないそれに

違和感を感じる。

しかし、それは次の一夏の動きで頭の隅に追いやられる。

 

「あっ!織斑くん、オルコットさんのビッドを一機破壊しましたよ!

 他のも!」

「あの武器にある、致命的な弱点に一夏は気付いていたから、そろそろ

 反撃の頃合いだと判断したみたいだね」

 

 

 

「なんですって!?」

 

アリーナにセシリアの驚愕する声が響くが、

一夏は気にすることなくビッドを斬り裂こうと接近する。

 

「この武器は、お前が毎回攻撃命令を出さないと動かない!

 そして、その間お前は動くことができないよな!」

「……!」

 

自身の武器の弱点を見破られセシリアの顔が引きつる。

 

「更に、お前の射撃は正確だ!

 本命の攻撃を当てようとする時は、俺が“反応しきれない”とこから狙ってくる!

 だから……!」

 

一夏は接近していたビッドにもう少しで、攻撃が届くというところで

体の向きを反転し、自分を狙っていた他のビッドの攻撃を体をこまのように回して

かわすと、そのビッドに急接近し、上段に構えた刀を振り下ろして破壊した。

 

「こうやって、動きを読むことができる」

 

一夏は、刀の切っ先をセシリアに向けて言い放った。

 

「こ、こんなことが……」

 

セシリアは自分の目の前で、起こったことが信じられなかった。

本当なら、自分の華麗な技であの生意気な男が地べたに這いつくばっているはずなのに、

何故、自分の方が追い詰められているのか?

このまま自分が負ける?

その考えが頭をよぎった瞬間、セシリアは頭をふってその考えを振り払おうとした。

 

「(こうなったら……)」

 

セシリアはここから、逆転するためにもう一つの切り札(カード)をきることを

決断する。

だが――。

 

「ああ、そうだ。俺が近づいたところをミサイルで

 撃ち落とそうとしても、無駄だぜ」

「な、なぜわかりましたの!?」

 

自分が考えていた逆転のための手を見事に

言い当てられ、セシリアは今日最高の驚きを見せる。

 

「なぜかって?

 カマかけただけだよ。

 やっぱり、接近された時のための装備があったか……」

 

一夏は刀を肩にかけながら、不敵な笑みを見せた。

 

「カマって……」

「俺の仲mじゃなかった。よく遊ぶロボットゲームで射撃タイプの

 ロボットでも、敵に近付かれた時のために迎撃用のミサイルを

 持っていたからな、もしかしたらと思って、カマをかけたのさ。

 さてと、フィナーレの準備が整ったみたいだぜ?お嬢様?」

 

一夏はそう言うと、目の前に現れたウインドのボタンを押した。

すると、彼の体は閃光に包まれた――

 

 




今回で、セシリア戦の決着までいく予定だったんですが、想像以上に長くなったので、ここで一度きります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇気の獅子

最新話、出来上がりました。
そして、PVが一万を突破しましたヾ(*´∀`*)ノ
ありがとうございます♪

今回は、タイトルで何が登場するか分かる人にはわかるというwww


「な、何が……!」

 

突如、一夏が目も眩むほどの閃光に包まれて困惑するセシリアであったが、その中から見えてきた人影が、閃光を振り払うかのように左手を横に振り抜き表した姿に言葉を失ってしまう。

 

一夏の白式は、工業的なゴツゴツしたフォルムから、

どこか騎士を彷彿させるスマートな形へと姿を変えていた――。

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!?

 あ、あなた、今まで初期設定の機体であれだけの動きをしていましたの!?」

 

驚くセシリアをよそに、一夏は本当の意味で

自分の専用機になった白式の感触を確かめていた。

 

「これで、やっと俺専用になったわけだけど……」

 

一夏の目は、機体と同じく姿を変えた武器の名称とその機能にとまっていた。

 

『近接特化ブレード・雪片弐型』

・単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、零落白夜(れいらくびゃくや)使用可能

 

「雪片……、千冬姉が使っていた刀か……。

 でも、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って、最初から使えるんだっけ?」

「あなた、何をブツブツ言っていますの!」

 

自分を無視するかのような一夏に、セシリアが怒鳴り声をあげた。

 

「ん?いや、なに。

 どんな思惑があるのか知らないけど、俺は俺のやり方で

 歩いていくってことさ」

「はぁ?一体何を……」

 

困惑から抜け切れていないセシリアにかまうことなく、一夏は高度を下げ

アリーナの地面に降り立った。

 

「眼・耳・鼻・舌・身・意・・・人の六根に好・悪・平!!

 またおのおのに浄と染・・・・・・・・・!!

 一世三十六煩悩」

 

一夏は雪片を左手に持ち替えて右肩に担ぐような、

独特な構えをしてセシリアを見据える。

 

「今、俺はお前に大砲を向けている。

 間合いも威力もお前のライフルより上だ。

 お前もがんばったが、これでチェックメイトだ!」

「っ!そんなみえみえのハッタリに、だまされるとでも!!!」

 

どこまで、自分をコケにするのかとセシリアは頭に血が上り、

先ほど一夏に看破されたミサイルをフェイント等をかけることなく撃った。

 

「言っただろ?お前たちの常識をぶっ壊すって!

 くらえ!

 “三十六”……煩悩鳳(ポンドほう)!!!」

 

一夏は雪片をふり抜き、斬撃を……“飛ばした”。

 

「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

カズキ以外のアリーナにいた全員が、ありえない光景に大声で驚いた。

 

その中でも、一番驚いたのは対峙していたセシリアである。

一夏が飛ばした斬撃が、自分が放ったミサイルを斬り裂く光景をまるで

スロー再生させたビデオを見るみたいな感じで、半ば放心状態で見つめるが

飛ばされた斬撃が後、コンマ数秒で自身を襲うというところで我に返り

急いで回避しようとするものの間に合わなかった。

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

主力武器であるスターライトmkⅢが斬り裂かれ爆発し、

セシリアはその爆風で吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ!」

 

代表候補生は伊達ではないのか、数秒で態勢を整え状況を確認しようとするが

一夏にとっては、数秒もあれば十分だった。

 

「おおおおおっ!」

「っ!?

 イ、インター……!」

 

一夏が雪片を左脇に構えて、先ほどとは比較にならないスピードで

こちらに真っ直ぐ向かっているのを見て、セシリアは急いでブルー・ティアーズの

近接武器を展開しようとするが、既に遅かった。

 

「おおおりゃぁぁぁ!!!!!」

 

下段から上段への逆袈裟払いが放たれ、勝負はついた。

 

 

「試合終了。勝者、織斑 一夏」

 

決着を告げるブザーと共に、勝者を告げるアナウンスが青空に

鳴り響いた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ISを使って初めての戦いにしては、よくやったな。

 だが、相手が油断していから勝てたとも言える。

 決して、自分の強さにあぐらをかくなよ」

「そう言ってる割には、うれしそうだよ、顔?」

「そうですよ!こんな短期間に代表候補生に、勝てるぐらいに

 なるなんてすごいですよ!!!」

「それは、やはり一夏ですからね♪」

 

試合終了後、ピット内で一夏は観戦していた教師陣の各々の感想を受けていた。

勝てたのは、あくまでも相手が油断していたからと千冬は釘をさすが、

その顔はうれしそうだとカズキはニヤニヤと指摘し、

山田先生は一夏の戦いっぷりに興奮しっぱなしでエレンは、何故かムフッ!

とした顔で自慢気だった。

 

「あははは……」

「そ、それよりも一夏!

 なんだ、あの技は!」

「あの技って、煩悩鳳(ポンドほう)のことか?」

 

教師陣の感想を一夏が困ったような笑いで、受けていると箒が一夏が最後に放った技に

ついて聞いてきた。

それには他のメンバーも同じで、一夏に視線が集まる。

 

「あれは、遠くにいる相手を斬るための技だよ」

「と、遠くの敵を斬るための技って……。

 い、いや私が聞きたいのはそういうことではなくて……」

「必要性はわかるけど……」

「お姉ちゃん……できる?」

「いや~、流石に斬撃を飛ばすのは……」

 

簡単だろ?と言いたげな一夏に、箒をはじめ国家代表である楯無も

あまりの常識外れっぷりに乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「斬撃を飛ばすか……」

「私たちは、如何に相手の攻撃を回避するなりして近づくという

 タイプでしたからね……、今度試しにやってみましょうか?」

「うむ。おもしろそうだしな」

 

一方で、世界最強とそのライバルは一夏の技に興味を持ちやってみようと言うが、

何故できると思うのだろう?

 

「あっ、そうだ!

 ち、じゃなくて織斑先生。

 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)について聞きたいんですけど……」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。

それは、操縦者とISの相性が最高まで高まった時に発現する固有の特殊能力のことである。

通常は、ISが操縦者に合わせてその能力を最適化する

一次移行(ファースト・シフト)の次に行われる稼働時間や経験の蓄積によって起こる

二次移行(セカンド・シフト)することで発現するのだが、一夏の白式は

一次移行(ファースト・シフト)を終えた時点でそれを発現したのだ。

しかも――

 

「私が使っていた零落白夜(れいらくびゃくや)か……」

「零落白夜(れいらくびゃくや)。

 自身のシールドエネルギーを代償に、

 バリアー無効化攻撃を行い、相手のシールドエネルギーを大きく削る

 千冬の代名詞である、諸刃の剣……」

「千冬ちゃんは、その技を使いこなすことで世界の頂点に

 たったわけだけど、今まで家族……例えば姉妹の操縦者が同じ

 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発現した

 事例は確認されていない……」

「つまり、どういうことになるんですか?」

「白式は、束さんが作ったかもしれないってことですよ。山田先生」

 

一夏の推測に、皆が息を呑み千冬は目を鋭くした。

 

「その可能性は大だね。

 「せっかく、いっくんがISを使うんだからとびっきりのを

 用意しないとね♪

 そうだ!せっかくだから、ちいちゃんが使ってたのと

 同じのを載せちゃおう♪

 いっくん、ちいちゃんと同じでお姉ちゃん大好きっ子

 だから喜ぶぞ~~~!」

 ってところだろうね~」

 

カズキが呆れ気味に、束の心情を推測して言うと関係者たちは苦笑したり、頭を

押さえたりした。

 

 

「あれ?でも、何で織斑くんは零落白夜(れいらくびゃくや)を

 使わなかったんですか?

 もし使っていたら、シールドエネルギーが尽きて自滅してたかもしれませんが……」

「ああ。

 だって、零落白夜(れいらくびゃくや)は千冬姉のだから、俺なんかが

 いきなり使いこなせるわけないですし、前にそうやって新しい力を調子に

 のって使って、とんでもなく痛い目に合ったことがありますから」

「ようするに、これからはお姉ちゃんにおんぶされるだけでなく、

 自分の足で歩いて強くなっていくってことだね♪」

「言い方が、微妙に気になりますがそんなとこです」

 

一夏の考え方に山田先生は感心し、他のものは恋する乙女特有のフィルターで

数割程かっこよく見える一夏に顔を赤くした。

ちなみに、千冬はそこまで考えて大きくなった一夏の成長にうれしさを感じる反面、

自分から離れて寂しくもあるという、複雑な顔をしていた。

 

「さてと、これからもがんばっていかないとな。

 次にあいつと戦ったら、多分俺が負けるし」

「何を言っているのだ!」

「そうだよ。あの技があれば……」

 

一夏の思いがけない言葉に、箒とシャルロットが慌てて言葉をかける。

 

「だって、今回俺は相手の動きや手の内をある程度調べたりして知ってたけど、

 あっちは知らなかったんだぜ?

 それに、俺が男でドがつく素人って、油断もしてくれていた上に

 煩悩鳳(ポンドほう)っていう切り札がこっちにはあった。

 

 でも今度戦ったら、それの警戒もするし素人だからって

 油断もしてくれないに加えて、煩悩鳳(ポンドほう)は多分、もう通じない」

「通じないって、どういうこと?」

「あの技は、ためが必要で隙がでかいし

 構えでどこからくるっていうのがバレバレなんだよ。

 しかも、斬撃を飛ばすなんて無茶をするから腕への負担も

 洒落にならないんだ。

 実際、今撃った左腕はちょっと痺れて力が入らないし……

 って、何だよみんな。その目は?」

 

一夏が冷静に、自分のことを分析したことを述べたら周りの面々はポカ~ンとした

顔になっており、カズキは面白そうにクククと笑っていた。

 

「お前……、本当に一夏か?」

「ああ、前はすぐに調子にのっていたのに……」

「うん。そうやって、調子にのって痛い目を見たりするやんちゃ坊主だって

 僕、思ってた」

「私も……」

「実際あの時、後先考えず突っ込んでいたしね~」

「昔のバカみたいに一直線も悪くないですが、冷静な一夏もまた/////」

「ち、ちょっと、みなさん!」

「ははは……、あんたら俺をなんだと思っているの?」

『(後先考えずに行動して、すぐに調子にのるバカだろ)』

 

冷静に自分や相手のことを分析する一夏が余程信じられないのか、各々好き勝手なことを

述べるが当の本人は心外と言わんばかりに、頬がひきつっていた。

 

「はぁ~。

 今回は、時間もあったしたまには頭を使ってみようと思って、戦ってみたんだよ。

 でも、やっぱりダメだな。

 疲れるし、俺には合ってないな~」

「だけど、いい経験にはなっただろ?

 お前は、頭を使って戦うタイプじゃないけどおかげで

 戦いの幅が広がったんだから、決して無駄なことじゃないさ」

「確かにそうですけど……」

 

カズキと一夏の師弟とも兄弟とも見えるやりとりに、山田先生以外の

羨望のまなざしはすさまじかった。

特に、千冬は会話がはずむにつれて眉間にしわを寄せていった。

 

途中、そのことを指摘していつもの痴話喧嘩が始ったり、山田先生に渡された

「IS起動におけるルールブック」という規則本のぶ厚さに驚いたりして、

一夏のIS初試合は幕を閉じた――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「負けた、このわたくしが……」

 

一夏たちとは反対のピットで、セシリアは呆然としていた。

相手は所詮、礼儀も何も知らない男。

自分が負けることなど万に一つもないと思っていた……。

 

だが、結果は敗北。

それも一夏が立てたほぼ筋書き通りに――。

 

「…………」

 

いつまでも、ここにいるわけにはいかないとセシリアはピットを後にしたが、

その足どりは重かった。

 

思えば、一夏は今日の試合に勝つために自分の戦闘映像を見たりして

少しでも勝率を上げるための努力をしてきたのに、自分はどうだ?

 

イギリスでやっていた通常のトレーニングはしていたが、今日の試合に

備えて何かやっただろうか?

 

本当なら、もっと戦えたのに――。

もっとうまく、ブルー・ティアーズを駆れたはずなのに――。

 

「っ!」

 

そう思うと、セシリアの胸に悔しさが今になって湧いてきた。

それは敵愾心などではなく、強者に勝ちたいという勝利の渇望でもあった。

 

「次は必ずっ……!」

 

セシリアが次に戦う時は、自分が勝つと決意すると同時に、世界から

色が消えた――。

 

「い、一体何が!?」

 

突然の事態に慌てて、周りを見ると周囲の風景は色が失われた以外は、

何も変わっていないように見えるが、人間が生活しているという生気が

全く感じられないことに、セシリアは冷や汗が背中に流れるのを感じた。

 

人間のいや、生物としての本能がここにいたらマズイと警鐘を鳴らし、

すぐにこの場から離れようとした時、背後からガサリと何かが草を踏む

音が聞こえセシリアは何かに操られたかのようにゆっくりと、振り向いた――。

 

「クフフフ――」

 

そこにいたのは、人であって人でないものだった。

姿かたちは人間のようだが、その顔はヒョウそのものであり、体もヒョウが二足歩行

になったかのように、しなやかな足と爪を持ち合わせていた。

 

「あ、あああ……」

 

いつものセシリアなら、例え目の前に常識を疑うような“怪人”が現れたとしても

ISを起動して迎撃に移っただろうが、彼女はそれをできなかった。

体の内からあふれる恐怖が、彼女の体を強張らせ動けなくしていたのだ。

 

現れた“怪人”は、そんなセシリアを心底おもしろそうに嘲笑い、

その気になれば1秒とかからずつめられる距離を

わざと一歩一歩ゆっくりと彼女の恐怖心を煽るように近づいていった――

 

「ブ、ブルー・ティアーズ!!!」

 

セシリアは強張った体を何とか動かし、

自身の愛機であるブルー・ティアーズを起動するが

一夏との試合で武装はほぼ全て破壊されている上に装甲にも亀裂が走っていた。

だが、ブルー・ティアーズが展開されたのと同時に、“怪人”は一気に距離を詰め、

セシリアに襲いかかって殴り飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁ――!!!!!」

 

とっさに、両腕をクロスしてガードするもののその衝撃を受け止めきれず、

10数メートル程後ろに吹き飛ばされ、地面に横たわってしまう。

 

「うっ……」

 

セシリアは、消えそうになる意識と鳴り響くアラームの中で驚愕していた。

いくら、試合後でダメージが残っている状態とはいえ、ただの拳でISに

ここまでのダメージを与えたこととそれから導き出される事実に。

 

「(あ、相手はふ、普通ではありませんわ!

 に、逃げないと……はっ!?)」

「フフフ――」

「イ、インターセプター!!!」

 

セシリアの頭に反撃するという行動はよぎらず、

とにかくこの場から、あの怪人から逃げようとする。

それは、頭で考えたことではなく根源的な生物としての本能からだった。

 

しかし、逃げようと立ちあがった彼女のすぐ目の前まで“怪人”は接近しており

その爪で引き裂こうと右腕を振り上げるのを見て、セシリアは反射的に近接武器を

呼び出した。

 

「フンッ!」

「くっ……!」

 

振り下ろされた爪をショートブレードのインターセプターで受け止めるものの、

想像以上の“怪人”の腕力に顔を歪めてしまう。

 

“怪人”は、今度はこっちだ!と言わんばかりに左の爪を下から振り上げるが

セシリアは何とか、体を捻ることでインターセプターを滑り込ませることで

防御するが、すると必然的に“怪人”は右の爪で攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ!このっ!」

 

そんな攻防が続く中、セシリアはふとあることに気付いた。

今日、戦った一夏と違い自分の近接戦闘の能力はそれ程高くないのに、

どうして“怪人”の攻撃をさばけているのか――。

どうして“怪人”は攻撃を防がれているのに愉悦そうに顔を歪ませているのか――。

 

「(まさか、遊ばれている?

 この、セシリア・オルコットが!!!?)」

 

辿り着いた答えにプライドの高い彼女は一瞬で、頭が沸騰しそうになるが、

攻撃を受け続けて罅割れたインターセプターが砕かれてしまい、一瞬だけ

そのことに意識が向いてしまう。

 

戦闘において、一瞬でも意識が逸れてしまうのは致命的であり、その一瞬が

セシリアと“怪人”の戦いにもならない戦いの勝敗を決定づけてしまった。

 

「―――ッッッ!!!」

「……っ!?」

 

形容しがたい咆哮と共に、“怪人”は今までとは比べ物にならない速度で拳を

ふり抜き、セシリアは声を出す間もなく吹き飛ばされてしまった。

 

「……っ、げほっ!げほっ!」

 

再び横たわってしまったセシリアは、必死に空気を取り込もうとせき込むが

目を開けたすぐ横におかれた爪を見て、おそるおそる視線を上げた先にあるものに

声を失ってしまった。

 

「クフフフ――」

 

「これで、ゲームセッッット♪」、そう言わんばかりに歪んだ“怪人”の顔が

そこにはあり、自分に向かって振り下ろさんとされる爪を見て、

セシリアはもうダメだと目を瞑った……。

 

だが、振り下ろされた爪がセシリアを斬り裂くことはなかった――。

 

ガキ―――ン!!!

 

金属と金属がぶつかるような音が響き渡り、

セシリアが目を開けるとそこには――

 

「……ったく、カマキリもどきの次はヒョウ人間かよ。

 虫、動物ときたら、この次に出てくるのは魚か?」

『そんなのが出てきたら、さばいてやれ』

 

巨大な剣で“怪人”の爪を受け止めた織斑一夏であった――。

 

 

 

「うおりぃぁぁぁ!!!」

 

一夏は、受け止めた爪を押し返すのではなく、円を描いて力を受け流すように

ゲキリュウケンを動かして弾き、“怪人”を蹴り飛ばした。

 

「あ、あなた何で……。

 それに、さっきの聞こえたもう一人の声は……」

「質問は、あいつを倒した後でいくらでも答えてやる。

 いくぞ、ゲキリュウケン!」

『いいのか、無関係の人間の前だぞ?』

「そんなことを言っている場合じゃないだろ」

『そう言うと、思ったよ』

 

呆れ気味に応えるゲキリュウケンであったが、その声はどこか誇らしげでもあった。

 

「リュウケンキー!発動!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

「ゲキリュウ変身!」

 

ゲキリュウケンから飛び出た龍が、一夏に向かい瞬時に変身が完了する。

 

「光と共に生まれし龍が 闇に蠢く魔を叩く!リュウケンドー!ライジン!」

 

 

 

セシリアは、目の前で起こっている事態に思考がついていかなかった。

突如、世界から色が消えたと思ったら、“怪人”としか言いようのない

怪物に襲われ、極め付きは自分を倒した男が日本の特撮ヒーローのような

姿に“変身”したことだ。

 

「行くぜぇぇぇ!!!!!」

 

リュウケンドーと名乗った彼は、蹴り飛ばした“怪人”に向かって走り出し、

手に持つ巨大な剣を振り下ろして戦闘を開始した。

 

果敢に攻めていくその姿に、彼女は気付かぬうちに拳を握りしめていた――。

 

 

 

「はっ!」

 

リュウケンドーは、先手必勝とばかりにゲキリュウケンを上段に構えて

振り下ろすが“怪人”は、両手の爪でそれを受け止めた。

 

「っ!……、なら!」

 

だが、リュウケンドーは慌てることなく数歩ほど下がり

大きく振りかぶるのではなく、連撃で攻め始めた。

威力よりも、速さを重視した連続攻撃に“怪人”は防戦一方になるが、

こちらもまた、隙をついて後ろに大きく飛んで後退して距離をとった。

 

そのまま追撃を仕掛けようとするリュウケンドーだったが、戦士としての勘が

危険を知らせ、その場に踏みとどまった。

 

「何かあるな……」

『あのカマキリは、本能で動いていたがコイツは明らかに知性がある……。

 油断するな!』

 

互いの武器である、ゲキリュウケンと爪を構え睨みあう二人だったが、

先に“怪人”が動いた。

 

地面を確かめるように足を動かした次の瞬間、リュウケンドーの目の前に移動した。

 

「『なっ!?』」

「は、速……!」

 

その速さに驚くリュウケンドーたちを余所に、“怪人”はその爪を振り上げた。

 

「うわぁぁぁ――!」

 

攻撃を受けて火花を散らしながら、吹き飛ばされたリュウケンドーを逃さんと

今度は、“怪人”が連続攻撃を仕掛けてきた。

 

「なめるなぁッ!」

 

先程の“怪人”のように防戦となるリュウケンドーだが、ゲキリュウケンで

爪をなんとかはじき返すものの、“怪人”は瞬時に距離を開けてその攻撃を回避すると

先ほどと同じ速さで距離をつめ攻撃を仕掛けてきた。

 

「おわっ!」

『一撃一撃の攻撃の重さはともかく、この速さはっ……!』

 

“怪人”の攻撃は、さほど重いものでもなく、“攻撃”の速さも対処できる

ものであったが、離脱と接近の際のスピードのせいで攻めあぐねていた。

 

こちらとの距離を瞬時に詰め、攻撃を仕掛けそれをさばいて、反撃の攻撃を

しようとしたら離脱してそれをかわし、再び攻撃を仕掛けてくる。

そうやって持久戦に持ち込まれたら、リュウケンドーの敗北は必至であった。

 

リュウケンドーこと一夏の体力は、鍛えているため普通の人間よりもあるが、

それは人間の領域内の話である。

前回、倒したカマキリや現在戦っている“怪人”という

常識の枠から外れている存在と持久戦による体力比べをしたら、

先に体力が尽きるのは、人間である一夏の方である。

 

『このままでは、まずい!

 獣王を呼べ!』

「わかった!

 レオ……、やばい!」

 

ゲキリュウケンから、状況を打開するための魔弾キーの使用を促されるが、

“怪人”が取った行動にリュウケンドーは驚愕した。

 

「えっ……?」

 

“怪人”は、突如矛先をリュウケンドーから戦いを見ていた

セシリアへと変えたのだ。

思考が追いつかないセシリアは、呆けた声を出し無防備な状態であった。

 

そんなセシリアの視界に映ったのは、“怪人”の爪ではなく鎧に包まれた

背中であった――。

 

 

 

「くそぉぉぉ!!!」

 

“怪人”の狙いに気がついたリュウケンドーは、

セシリアを助けようと駆けだした。

幸いにも、リュウケンドーの方が“怪人”よりもセシリアに近かったが、

それでも移動スピードを考えると、間に合わうかどうかはギリギリであった。

 

リュウケンドーは、セシリアと“怪人”の間に何とか体をねじ込ませるが、

防御態勢をとる間もなく、“怪人”の攻撃が直撃してしまう。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

『一夏!』

 

スピードにのって繰り出された攻撃は、今までのものよりも重く、

リュウケンドーは衝撃でゲキリュウケンと、握っていた魔弾キーを落としてしまう。

 

吹き飛ばされ、地面を転がされたリュウケンドーは攻撃を受けた箇所を押さえながら

ふらふらと立ちあがろうとすると、彼の体を衝撃が襲った。

 

「がはっ!」

「クフフフ――」

 

“怪人”は、武器を失ったリュウケンドーにここぞとばかりに攻撃を仕掛け始めた。

 

『くっ!あいつめ、彼女を狙えば一夏が庇うと分かっていたな!

 このままでは……』

 

ゲキリュウケンは“怪人”のやり方に歯噛みし、同時にそこまで

頭が回ることに驚愕していた。

今まで倒してきた敵ならここまで“成長”するのに、もっと

時間がかかったはずなのだ――。

 

「わ、わたくしのせいで……!」

『おい、セシリア・オルコット』

「誰ですの!?」

 

自分を庇ったことで、窮地に陥った一夏を見て顔を青くするセシリアに、

ゲキリュウケンは話しかけるが、姿が見えない声に驚かれてしまう。

 

『ここだ、ここ。

 一夏が持っていた剣だ!』

「け、剣がしゃべった!?」

『いろいろと聞きたいことがあるのはわかるが、

 今はこの事態を打開するのが先だ。

 とにかく、私とそこに落ちている鍵を一夏の元に届けてくれ!』

「届けろって……」

 

セシリアは、戦闘を続けている一夏と“怪人”の方を見ると

さっきと同じヒット&ウェイの攻撃を手の装甲で防いでさばいている

リュウケンドーの姿が映った。

 

『このままでは、いずれ敵に押し切られてしまう。

 投げるだけでいい!早く私を一夏の元に!!!』

「で、ですが……」

 

助けを求めるゲキリュウケンに、セシリアは答えられなかった。

もちろん、一夏が男だから助けないとかそんな理由ではない。

一夏と“怪人”の戦いを見て、分かったのだ。

自分と戦っていた時の“怪人”は完全に、獲物をいたぶる感覚で

いたことを。

 

もしも、今繰り出しているような攻撃を最初から仕掛けていたと思うと

体が恐怖で震えるのを止めることができなかった。

その恐怖から、戦いに割って入るのを躊躇わせたのだ。

 

『教室での威勢は、どうした!

 自分よりも強い奴には敵わないと尻尾を巻いて逃げるのか!』

「ば、馬鹿にしないでください!

 このセシリア・オルコット!

 命を救ってくれた恩人を見捨てるような、恩知らずではありませんわ!」

 

ゲキリュウケンは、後込むセシリアに発破をかけるようなことを言い

見事にのせることができた。

その時、ゲキリュウケンが内心でニヤリと笑ったのに、彼女は気付かなかった。

 

「こ、これは……!」

 

セシリアはゲキリュウケンを握ると、自身の恐怖心が薄れていくのを

感じた。

 

『気がついたか?

 今、この辺りは人間の恐怖心を増大させる結果に覆われているんだ。

 君が必要以上に、恐怖を感じていたのはそのためだ。

 そして、私は人間が持つその恐怖を打ち払う力を増大させることができる。

 もっとも、その力を持っていなければ増大させることなどできないがな』

「恐怖に打ち勝つ力?」

『説明は、後回しだ!

 とにかくタイミングを見て私を一夏に向かって投げ、

 その後に鍵も投げるんだ!』

「分かりましたわ!」

 

セシリアは、力強く答えるとゲキリュウケンを握る力を強め、

一夏に渡すチャンスを窺った。

 

そして、“怪人”が離れた時を見計らって……

 

『今だ!』

「はい!織斑さん!」

「っ!」

 

セシリアはゲキリュウケンを投げ、リュウケンドーはそれを受け取ると

そのまま体を勢いに任せて回転させ、向かってきた“怪人”を斬りつけた。

“怪人”は、反撃されるとは思わず、

その攻撃をまともに喰らってしまい、のたうち回った。

 

『セシリア・オルコット!

 今のうちに鍵を!』

「はい!」

 

セシリアは拾い上げた鍵をリュウケンドーに投げ渡した。

 

「よっしゃぁ!

 今度こそ。レオンキー!召喚!」

『ブレイブレオン』

「いでよブレイブレオン!」

 

ゲキリュウケンから光が放たれそれが、魔法陣を描くとそこから

リュウケンドーと同じく白い装甲に包まれ、しかしどこか生命の息吹を

感じさせる獅子が召喚された。

これこそ、魔弾戦士と共に戦う地球の精霊の一体、ブレイブレオンである。

 

「グオォォォ!!!!!」

 

ブレイブレオンは、吠えるとすぐに“怪人”へと向かっていき攻撃を仕掛けた。

爪で引き裂かれ、牙で噛みつかれて振り回された地面に叩きつけられた“怪人”は

分が悪いと判断したのか、持ち前のスピードを最大にして逃亡を図った。

 

「逃がすか!

 ブレイブレオン、ビークルモード!」

 

リュウケンドーがそう叫ぶと、ブレイブレオンの足は全て折りたたまれ収納され

変わりに車輪が押し出されブレイブレオンは三輪のバイク、レオントライクへと

変形した。

 

「はっ!」

 

リュウケンドーは、レオントライクに乗り込むと“怪人”を追跡するために

走り出した――。

 

 

 

走り続ける“怪人”は、やられた傷を押さえながら逃亡していたが

目的は果たしたのかほくそ笑んでいた。

だが、次の瞬間に聞こえてきた音にその笑みは崩れてしまう。

 

「ッ!?」

「待てぇ!!」

 

自分と戦っていたリュウケンドーが追いかけてきたのだ。

慌てて“怪人”は、走るスピードを上げるものの、またたく間に追いつかれてしまう。

 

「ヒッ!」

「はぁぁぁ……はっ!」

 

“怪人”は悲鳴を上げるものの時既に遅く、

リュウケンドーはすれ違いざまに、ゲキリュウケンで足を斬りつけた。

 

「ッッッ!!!!!」

 

“怪人”は声にならない悲鳴を上げ、地面を転がった。

 

「止めだ!ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

 

リュウケンドーは、レオントライクを反転させ止めの一撃を放とうとする――。

 

「三位一体!ゲキリュウケン魔弾斬り!!!」

 

レオントライクを走らせ、その勢いを上乗せしてゲキリュウケンを

ふり抜きリュウケンドーは“怪人”の体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「闇に抱かれて眠れ――」

 

リュウケンドーが、静かに言い終わるのと同時に“怪人”はこの世界から

消失した――

 

 




今回のサブタイはずっと前から、決めていたんですがこれだと某勇者王の獅子にもとれると気がつきましたwww

感想、評価待ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動の終結と新たな嵐の前触れ

最新話、思ったより早く仕上げられました。


IS学園の屋上。

もうすぐ、日が沈む時間帯であるためかそこに人影は見当たらなかったが、

屋上のとある一角に突如リュウケンドーがブレイブレオンを呼び出した魔法陣

によく似たものが出現し、その中からレオントライクに乗ったリュウケンドーと

セシリア・オルコットが姿を現した。

 

「ふぅ~」

『何とか、終わったな』

「な、なにがどうなっていますの……?」

 

息を吐き、気を抜くリュウケンドーとゲキリュウケンとは対照に、

セシリアは混乱していた。

 

リュウケンドーが呼び出した白いライオンがバイクに変形して、自分を

襲っていた“怪人”を追いかけたと思ったら数分で戻ってきて、

更に新たに取り出した鍵をゲキリュウケンに差し込んだと思ったら、

足元に魔法陣が現れそれが上にあがり、自分たちの体を通過したかと

思ったら屋上にいたのだ。

混乱しない方がおかしいだろう。

 

「しっかし、驚いたぜ。

 いきなり、奴らの結界の気配を感じた時は……」

『全くだ。

 だが、展開されたのが私たちの近くだったのは幸運だったな……』

 

 

 

セシリアとの試合後、ISの規則本を渡された一夏は部屋への帰り道を

同居人である箒だけでなく、シャルロットや楯無、簪とともについていた。

 

当然、箒は何故かと噛みつくが楯無は“鉄は熱いうちに叩け”と試合の反省会を

一夏の部屋で行うと言うのだ。

初心者である一夏では、気付かない問題点等を指摘して今後の訓練課題を

試合の感覚を忘れない内に一夏にも自覚してもらおうと。

 

もちろん、これを建前にして一夏にアタックするのは目に見えているので

シャルロットと簪も自分たちも参加すると言ってついてきたのだ。

 

正論ゆえ、箒は悔しそうにするしかないのだが一夏は

何故、箒がそんなに悔しがるのかわからず頭を傾げるだけであった。

 

そんな中、何の前触れもなく一夏とゲキリュウケンは結界の気配を

感知し、持っていた本を箒に預けて現場に駆け付けたのであった。

 

 

 

「お前の言うように、結界が展開される時に近くにいれたのは

 ラッキーだったな」

『ああ、奴らが標的を逃がさないようにする結界は近距離まで

 近づかなければ、存在自体を認識することさえ難しいからな……』

 

一夏たちが先程までいた結界は、以前ゲキリュウケンが展開したものとは

異なり、見つけたり感じたりすることが困難なのである。

 

ゲキリュウケンが使用したものは、彼ら魔弾龍の力を扱える才を

持っている者やなのは達のように魔法を扱えるものなら見ることも

何かあると感じることもできる。

そして、“怪人”が使ったのは獲物を逃がさずまた余計なものに

邪魔をされないようにするために隠密性に優れており、目と鼻の

先ぐらいまで近づかなければ何かあると違和感さえ覚えることが

できないのだ。

 

「まあ、とにかく無事に終わったからめでたしめでたし♪

 ……とは言えないよな~」

『一週間で二体……、私たちの知らないところで

 かなりの数が潜伏している可能性があるな……』

「あなた!その傷は!?」

 

一夏とゲキリュウケンが、当たって欲しくない予想を考えながら変身を解くと

セシリアが、驚きの声を上げた。

一夏は制服を着ているのだが、いたるところがボロボロで

血が滲んでいる箇所もあるのだ。

 

「ん?

 ああ、さっきの戦いのだな、こりゃ。

 部屋に戻る前に、カズキさんとこにでも行かないと」

「な、なにを呑気なことを言って……!

 早く手当てしないと!」

 

まるで、すりむいた程度でしかないという一夏の態度に、セシリアは

若干、呆れを含んだ怒鳴り声を上げる。

 

「そんなに、怒鳴るなよ。

 こんなのいつものことだし」

「いつものことって……」

 

何でもないように言う一夏に、セシリアは言葉が詰まってしまう。

目の前の彼は何と言った?

いつものこと?

こんな傷を負うような戦いを、何度も経験していると言うのか?

 

「あ、あなたは一体……」

「俺か?俺は、この相棒のゲキリュウケンと力を合わせて戦う

 魔弾戦士リュウケンドーの織斑一夏だ♪」

「魔弾戦士リュウケンドー……。

 あなたは……あなたは何故、わたくしを助けたんですの?」

「はい?」

 

呆然とするセシリアの問いに、一夏は間抜けな声を出した。

 

「だって、そうじゃないですか!

 散々、あなたのことを侮辱したわたくしを何故、そんな傷を

 負ってまで助けたんですの!!!」

「お前……馬鹿なのか?」

「なっ!?」

『典型的な頭でっかちだな』

「あ、あなたたち!」

 

真剣に問い掛けるセシリアに対し、一夏とゲキリュウケンは呆れ声で答えた。

 

「あのな、人を助けるのにいちいち理由なんかいらないだろ?」

『セシリア・オルコット。

 こいつに大層な理由を求めるのは、無駄だぞ。

 困っているやつを見かけたら、考えるよりも先に体が動く

 正真正銘の“バカ”だからな』

「おい、バカって何だよ!」

『そのままの意味だが?』

 

開いた口がふさがらないとはこういうことを言うのだろうか?と

セシリアは、自分を無視して口喧嘩を始める二人?を見て

何故自分を助けたのかと真剣に考えていたことが馬鹿らしく

思えてきた。

 

「と・に・か・く!

 お前の言う通りなら、お前も何で俺を助けたんだ?」

「そ、それは……」

「そういうことさ。

 人間、追い詰められた時はうだうだ考えるんじゃなくて、

 魂に刻まれた本能で動くのさ」

「本能……」

 

あっけからんと言う一夏の言葉を反芻しながら、セシリアは自身の胸に

今まで感じたことがない暖かなものが湧きあがるのを感じた。

 

「さてと!

 今日はもう遅いから、詳しい説明は今度でいいか?

 他にも同じように、説明しなきゃいけないメンツは結構いるからさ。

 後、今日のことは内緒にしてくれるか?」

「えっ?ええ、構いませんわよ……!」

『これは……落ちたな』

 

一夏の頼みに、先ほどまでとは違う赤い顔であたふたと答えるセシリアに

ゲキリュウケンは、またかな感じでため息をついた。

 

「それじゃ、一緒にカズキさんとこに行くか。

 俺だけじゃなく、お前の手当てもしないといけないからな」

「……!!!?」

『(ああ……。カズキが笑い転げる姿が目に浮かぶ……)』

 

セシリアの手を握り、屋上を後にしようとする一夏と

更に顔を赤くするセシリアの姿を見て、ゲキリュウケンはこれからのことを

考えて遠い目をしながらつぶやいた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それ、本当なん。リイン?」

 

一夏たちが屋上を後にしたのと同じころ、

はやては、自室でなのはとフェイトの二人と一緒に今日の試合についての

話をしていた。

ちなみに、同室であるシャルロットは箒たちと一緒に一夏の部屋で

彼の帰りを待っていたりする。

 

飛び方こそ、ぎこちなかったが一夏の戦い方や動きは素人ではなく、

明らかに“戦い”を経験したものであったからだ。

 

普通の一般人だと思っていた一夏が、只者ではないことから今後の

動きを相談していたところリインが一瞬だけだが魔力反応を感知したのだ。

 

「はい。一瞬だけでしたが、Sランク相当の魔力を感知しました」

「何かの間違いで済ますのは簡単だけど、Sランクって……」

「一週間前に見た結界もあるし、

 もし本当なら私たちと同ランクもしくは

 それ以上の人がいるということ……まさか一夏が?」

 

魔導士には、持っている魔力量及び技量を考慮した上でのランクが存在する。

あくまで、目安ではあるがおおよその強さを測ることができる指標でもある。

今回リインが感知したのは、Sランクと時空管理局でも数えるぐらいしかいない

ものであり、なのはの言うように何かの間違いと断ずるにはあまりに大きすぎた。

 

「う~ん、一夏くんか……。

 もし、そうやと仮定すると碓氷先生あたりが魔力を察知されないように

 細工を講じているとしてもおかしくないけど、何の確証もない……」

「そうだね」

「何より、そうやったとして二人とも何か悪いことをしとるわけやないしなぁ~

 でも、一夏くんが私らのように普通ではないことを経験しとるのは明らかや。

 今必要なのは、とにかく情報。

 気が引けるけど、一夏くんをはじめ碓氷先生のデータも見直してみよ!」

 

 

 

「――てなことになっているだろうね、今頃~」

『だろうね~って、おいおい大丈夫なのかよ。そんなんで』

 

場所は変わりここは教職員の部屋の一つ、カズキの部屋である。

そこでは、カズキがパソコンをいじりながら、ザンリュウジンと

雑談をしていた。

 

「大丈夫も何も、一夏のことは調べられてもよく俺に鍛えられた

 ぐらいしかわからないさ。

 リュウケンドーの戦いは主に現実から切り離される結界の

 中でやっていたから痕跡は、ほとんど残らないしね~」

『一夏はそうだが、お前のことはどうなんだよ?

 お前、元々“この世界”の住人じゃないだろ?』

 

そう、カズキは別の世界からやってきた人間なのだ。

そうなると、戸籍等から足がつく可能性があるのだが……

 

「そこら辺のでっち上げにぬかりはないさ。

 まあ、それでもなのは達はともかくクロノとか言う奴やはやて当たりは

 何かおかしいって思うだろうけどな~♪」

『その割には、楽しそうだな』

 

自分のごまかしがばれるかもしれないというのに、カズキに焦りはなかった。

 

「俺の故郷やこの世界は、管理局が管理していない管轄外の世界。

 あいつらに罰することなんて、できやしないさ。

 それに、あちらも別世界の住人をこの世界の人間としてごまかしているしね。

 そんなことより、こっちの方が重要だ……!」

 

カズキはおもむろに度の入っていない眼鏡をかけ、指でクイッとあげた。

 

「ふふふ、こうも早く新しい奴を落とすとは、一夏め」

『ああ~あの金髪の子か~』

「相手は、お嬢様だから感覚や常識は多少独特のはず……

 ということは、これまでとは違ったおもしろいものが

 見られるということだ!!!」

 

自分たちの元に手当てと服のごまかしを頼みにきた一夏たちの

姿を思い出しながら口角を上げて、

心底楽しそうにカズキはガッツポーズをした。

 

『俺たちの本来の仕事よりも優先するのがそれかよ、……はぁ~。

 ……まっ、俺も同感だけどな♪』

「当分は、いろいろと退屈しなくて済みそうだね~ザンリュウ♪

 フフフ……、ハハハハハ!!!!!」

 

マッドサイエンティストのように笑い声をあげて、

部屋の光に映し出されるカズキの影にこうもりのような羽や尻尾が

生えているように見えるのは気のせいだと思いたい――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

サァァァァァ……。

 

セシリア・オルコットは、いつもより熱いシャワーをその身に浴びて物思いに

耽っていた。

 

「今日はいろんなことがありすぎですわ……」

 

圧勝で終わると思っていた試合は、いいように踊らされて敗北。

その後に、見たこともない怪物に襲われ、自分を負かした男に助けられ――

 

「……/////」

 

そこまで考えてセシリアは、体中が熱くなるのを感じた。

シャワーを浴びるのとは違うそれは、どこか心地よかった。

 

そこまで考えると、セシリアは自分の父のことを思い浮かべた。

名家であるオルコット家に、婿入りした彼はどこか人の目を気にしてばかりの

人であった。

 

反対に彼女の母は強かった。

世の中が今のような女尊男卑になる前から、いくつもの会社を経営し成功を

収めていた。

厳しかったが、セシリアは母の自分を撫でる手が好きだった。

自分もこんな強い女性になりたいと憧れた。

 

しかし、ISが発表されると父の態度は卑屈になっていき、母はそんな父を

鬱陶しいと思ったのか、家族三人で過ごす時間は減っていった。

 

そんな二人を見て、セシリアは父のような情けない男とは結婚しないと

思うようになっていった。

 

そんな中、一つの事件が起きる。

セシリアの両親が鉄道事故に巻き込まれ、帰らぬ人になったのだ。

 

いつも、別々であった二人が何故その日は一緒にいたのかは

セシリアにも誰にもわからなかった。

 

残された彼女は、悲しみに浸る間もなくオルコット家当主として

動き始めた。

 

母が築き上げた財産を金の亡者から、守るために彼女はあらゆることを学び、

たまたま受けたIS適正テストでA+という結果を出した。

政府は、彼女の国籍保持のために様々な好条件を提示し、

セシリアは両親の遺産を守るためにその条件を呑んだ。

 

そして、イギリス代表候補生として、第三世代ブルー・ティアーズを

与えられIS学園にやってきて、織斑一夏という“龍”に出会った――

 

最初はどこにでもいる女に媚びるしかない男だと思っていた。

だが、違った。

 

彼は、自分よりも広く世界を見ていた。

彼は、我が身を楯にしても馬鹿にしてきた自分さえ助ける騎士だった。

彼は……自分よりも気高い魂を持っていた――

 

そこまで考え、ふと思った。

空が青く、赤くなるという面があるように

両親にも自分が知らない面があったのではないだろうか?

自分が、彼のことを何も知ろうとしなかったように……。

 

「織斑一夏……」

 

何気なしにその名を呟くと、彼のことで頭がいっぱいになった。

彼に自分の名を呼んでほしい――

その目で見つめてほしい――

彼と――

 

 

 

余談だがその晩、唐変朴Iに恋する乙女たちは自分たちと同じであり敵となるものが

現れるという予感を感じていた。

 

 

 

 

 

「それでは、一年一組の代表は織斑一夏くんに決定しました♪

 がんばってくださいね、織斑くん!」

「はい?」

 

翌日、一組のSHRで告げられたことに一夏は呆けた声を上げた。

 

「あの~、山田先生?

 確か、クラス代表は勝敗にかかわらずもう一回採決を

 取るんじゃありませんでしたっけ?」

「それは、わたくしが辞退したからですわ」

 

一夏の疑問に、山田先生の代わりにセシリアが立ちあがって説明した。

その佇まいは、凛としていた。

 

「昨日、わたくしに勝利した一夏さんをみなさんが代表に選ぶのは

 至極当然の流れ……

 だからこそ、自分でその身を引いたのですわ。

 

 そして、この場を借りて皆さんに謝罪します。

 先日の代表候補生にあるまじき発言の数々、申し訳ありませんでした――」

 

深く頭を下げて謝るセシリアの姿に、クラスメート達は唖然とした。

 

「ちょっ、あれどうしたのよ。急に?」

「う~ん、なのはちゃんがO・HA・NA・SIしたわけやないし」

「はやてちゃん、放課後遊びに行くからね?」

 

昨日までの姿と打って変わった姿に、アリサがヒソヒソ声でつぶやき、はやては

余計なことを言って、また“ゆっくり”するはめになりそうである。

 

「そ、それでですね?

 数々の無礼のお詫びに、一夏さんにはISのことをご教授しようかと/////」

 

先程までのいいとこの令嬢な雰囲気はどこにいったのやら、頬を染め

誰が見ても恋する乙女だと答える姿で、一夏にISのことを教えようかと

提案してきたが、そうはいくかと行動するものたちがいた。

 

「そんなものは必要ない。

 一夏に教官は事足りている。

 何せ、国家代表や私が教官をしているのだからな!」

「うん、それに僕もケガが治って、今日からISも使えるしね!」

 

セシリアに反論するのは、恋する乙女の箒とシャルロットであった。

二人とも、もっともな理由で退けようとするが本心ではこれ以上

ライバルが増えてたまるかと思っているのがバレバレである。

 

ちなみに、シャルロットのけがはねんざで

それ程重いものではなかったのだが、

父親から治らないうちにISに乗ったりしたら、IS学園の入学は

代表候補生だろうが、テストパイロットだろうが

遅らせるとまでも言われていたため、クラス代表には立候補せず

今までの一夏の特訓も座学を見るのがメインだったりしたのだ。

 

「くっ!で、ですが一夏さんは明らかに近接戦闘型。

 一人ぐらいは、遠距離のスペシャリストがいてもよろしいのでは?」

「じゅ、銃なら僕が教えられるもん!」

「そうだ!一夏は剣がメインなのだから

 ……そのわ、私なら訓練相手にちょうどいいのだ/////」

「いや~ワクワクするね、こういうの♪」

「くっ!こんなにあっさり、女の子を落とすなんて聞いていないわよ!」

 

箒、シャルロット、セシリアの間で一触即発の空気が流れ、一方で

はやてはその空気を楽しみ、アリサは一夏のジゴロ能力のスペックに

驚愕していた。

 

「騒ぐな、ガキども」

 

そんな立ち入るのに躊躇するような空気をものともせず、

三人の頭を出席簿で叩き鎮圧したのは、一夏の実姉にして彼女たち

の最大の壁である千冬であった。

 

「十代の乙女が力を有り余しているのはわかるが、あいにく

 今は、私が担当する時間だ。

 騒ぎたければ、放課後にしろ」

「ははは……」

「さ~~~てと、うまい具合に話がまとまったところで、

 賭けの清算をしようか~♪」

 

千冬が力ずくでその場を制圧したのを見て、

一夏は苦笑いを浮かべこれでこの騒動は終わりかと思ったら、

カズキが邪悪な笑みを浮かべて、話に入ってきた。

 

「賭け?」

「負けた方が恥ずかしい写真をバラされるってやつ♪」

「はっ!」

「ああ~」

 

今の今まで忘れていたのか、セシリアは驚きの声を上げ一夏は呑気な声を上げた。

 

「それじゃ、公~~~開」

「ちょ、まっ……!」

 

セシリアが止める間もなく、黒板に一枚の写真が映し出された。

 

「どんな秘密なのかな~って……、オイィィィィィ!!!!!」

 

写真が映し出されるや否や一夏は大声を上げた。

そこに映っていたのはセシリアの写真ではなく、千冬や山田先生が見た

ズボンの裾を握りしめながらプルプルと震えて涙を流している

ちんまい一夏だった。

 

 

「あっ!ごめんごめ~ん、間違えちゃった☆」

「間違えちゃった☆、……じゃねぇぇぇぇぇ!!!

 わざとだろ絶対!!!!!」

 

完全な不意打ちに、一夏はパニックである。

 

「「「「「きゃぁぁぁぁぁ/////!!!!!」」」」」

「何!なんなのよコレ!?」

「こんなかわいい生き物がこの世にいていいの!!!?」

「ちんまい子が、羞恥に染まる姿……ハァハァハァ」

 

パニックになる一夏以上に、クラスメートたちはヒートアップして狂喜乱舞である。

 

「「「…………//////////」」」

 

そんな中、恋する乙女たちは静かだった。

どうやら、ちんまい一夏のあまりにかわいい姿にフリーズしてしまったようだ。

 

「ええ~い!静かにしろ、馬鹿者ども!

 子供の写真一枚でいちいち騒ぐな!!!」

「……(それを織斑先生が言うんですか?)」

 

止まることのない花の乙女の暴走を

同じく(恋する)乙女である世界最強のお姉さんが止めようと動くが

その言葉を聞いて、山田先生は何とも言えない表情となった。

 

「山田先生、放課後に格闘戦闘の訓練をしようか?

 相手が気絶するまでのサドンデスだ」

「ひぇ~~~!」

「いや~、平和だね~」

 

カオスとしか言えない教室の中、カズキはどこから出したのか湯呑に注がれた

お茶を飲みながら呑気に空を眺めていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「では本日より、本格的にIS操縦の実戦を行っていく。

 まずは、基本的な飛行からだ。

 織斑、オルコット、デュノア。

 試しに飛んでみろ」

 

クラス代表が一夏に決定してから、二週間後。

ISに関する基本的な座学もほぼ終わり、今日から実際にISを

動かしての授業がスタートしようとしていた。

 

千冬に呼ばれた三名が前に出ると、その体は光に包まれ

それぞれの専用機、

一夏は白式、セシリアはブルー・ティアーズ、

そしてシャルロットは、白式とは違ったスマートな翼と左腕と一体化した

シールドが目につく橙色のラファール・リヴァイヴ・カスタムII

を展開した。

 

「流石にオルコット、デュノアは展開に問題はないな。

 織斑もまずまずの展開速度だが、熟練した者は1秒とかからず

 展開できる。驕らず焦らず、励めよ」

「本当は、よくできたと言いたいけど、教師っていうのは

 大変だよね~」

 

カズキが千冬の本心?を代弁し、それにふり変えず千冬が裏拳を繰り出し

かわされる光景にも彼女たちはすっかり慣れていた。

 

「この馬鹿は無視して……だ!

 三人とも飛べ」

 

そう言われてセシリア、シャルロットはあっという間に飛び立った。

一夏もそれに続くが、二人に比べて上昇速度は少し遅かった。

動きは悪くないのだが、どこか一歩劣る部分があるのだ。

 

「やっぱり、一夏は飛ぶことにはまだ慣れていないみたいだね~」

「えっ?でも、オルコットさんとの試合の時は……」

「あの試合では、飛ぶっていうより浮いて相手の攻撃を受けるんじゃなくて

 受け流すように動いていたからね~」

「最後の攻撃でも、飛んだというよりISのアシスト機能を利用した

 ジャンプという意味合いが強い。

 飛行能力は代表候補の二人と比べたら、あんなものだろ」

「(それに、一夏は獣王の力を借りて飛ぶことに慣れている分、

 とまどいもあるだろうしね~)」

 

教師陣が一夏の飛行技術を評価しているうちに、

三人は上空約二百メートルの地点まで到着した。

 

「う~ん。やっぱり、なんか違うな~」

『(獣王と心を通わせる感じでやってみてはどうだ?)』

「(やってはいるんだけど、うまくいかないんだよ)」

「一夏、飛ぶときはどんなことをイメージしているの?」

「授業で習った“自分の前方に角錐を展開するイメージ”かな。

 結果は見ての通りだけど」

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分に合っているやり方を

 模索するのが建設的でしてよ」

 

自分の飛び方にしっくりこない一夏に、

ゲキリュウケンやシャルロット、セシリアがアドバイスをするが

その時、乙女の間に火花が散ったのを一夏は気付かない。

そんな乙女がもう一人。

 

「(一夏の奴め。なにをやっているのだ!)」

 

他のクラスメートたちと列に並んでいた箒は、上空から降りてこない

三人を睨んでいた。

会話や、表情など地上から見えるはずもないのだが

なんとなくイチャついているように見えるのは、恋する乙女故か。

ここからでは、どうすることもできない彼女は悔しそうに

拳を握りしめるしかなく、なのは達はそんな箒を

苦笑いして見つめていた。

 

「三人とも、次は急降下と完全停止をやってみろ。

 目標は地表から十センチだ」

「了解です。それではお二人とも、お先に」

 

そう言うとセシリアは、急降下を開始しもう少しで地面にぶつかるという

ところで、体を返し急停止してみせた。

 

「次は僕だね」

 

負けてられないとシャルロットも同じように、急降下と完全停止を

やってのけた。

 

「やるな、二人とも」

 

二人の見事な飛行技術に一夏やクラスメート達だけでなく、なのは達

魔導士も感心していた。

飛行技術の基礎をしっかりしてなければ、今のようなことはできないからだ。

 

「さてと。次は俺の番か」

 

自分も負けてられないと、二人のように一夏は急降下を始めた。

そして、二人が速度を若干緩めて反転した地点より少し手前で

体を反転させようとしたら――

 

 

 

 

 

「誰が激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「す、すいません……」

 

速度を緩めることなく反転しようとした一夏はそのまま、バランスを

崩して縦回転しながら隕石のごとく、墜落してしまったのだ。

 

『(あちゃ~、やっちゃったね~)』

「(リュウケンドーで飛ぶ感覚でやったみたいだね。

 変身すればセシリアやシャルロットがやったのとは

 違って速度を落とすことなく急停止とかできるから。

 練習あるのみだね)」

 

カズキとザンリュウジンが一夏の墜落の原因を分析し

対策を講じている横で、箒とセシリアは一夏を説教したり心配したりして

口喧嘩をはじめ、その隙にシャルロットが一夏の横について

今の飛行についてレクチャーしていたりした。

 

その後も授業は続き、武器の展開でセシリアが展開時のポーズに

ダメだしをされたり、一夏の展開速度がいまいちだけど

さっきのように本当は褒めたいのにねぇ~とカズキが

千冬の心境を指摘して、いつもの痴話喧嘩を始めるなど

概ね、平和?に授業は終わった。

 

ちなみに、墜落してできた穴は一夏が埋めてなおしました。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一年ぶりになるのかしらね……日本」

 

ある空港に髪をツインテールにまとめた一人の少女が、到着していた。

 

「さぁ~て、待っていなさいよ一夏!」

 

小柄な体には比べて、大きなボストンバッグを肩にかけ、

IS学園に向かう少女、凰鈴音がどのような嵐を巻き起こすのか。

彼女の目的である一夏は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

「……というわけで、お前の力を借りたいんだ」

「ふん!冗談じゃないですよ……。

 旦那の頼みに碌な事があった例なんてなかったじゃないですか」

 

草木も眠る丑三つ時に、人里離れた山奥で一人の男が

腰かけて横に座るものに、頼みごとをしていた。

 

もしも、この光景を見た者は我が目を疑うだろう。

何故なら、男がしゃべりかけて頼んでいる者は……

着物を着た“タヌキ”なのだから。

 

「俺の頼みが……聞けない……ということかな?」

「へっ!ふ、腑抜た旦那なんかこ、怖くなんかないやい!」

 

男の頼みを聞きたくないタヌキだが、

その言葉は強がっているだけであるのは見て取れた。

それを聞くと男は、笑みを浮かべて立ちあがった。

 

「少し……、散歩しながら昔話でもしようか?」

「……」

「どうしたんだい?さぁ……」

 

男は笑顔なのだが、どこか有無を言わせない空気を纏っており

タヌキはゴクリと息を呑み男と共に森の奥へと消えていった……。

 

『コイツと出会ったのが運のツキだね~

 タヌキよ~』

 

 

 

「てめぇ!

 散々、世話してやったこの俺の頼みが聞けないとはイイご身分だな!

 あ゛あ゛あ゛~~~!」

「ぎゃあああああ!!!!!」

 

哀れなタヌキの叫び声が、森に響き渡るが誰の耳に入ることはなかった。

 

「そうか!引き受けてくれるか、ハチ!」

「ええ。わかりやした、何でも協力いたしやす。

 カズキの旦那……」

『ははは……』

 

うれしそうにタヌキことハチの肩を叩くカズキとは対照的に

ハチの頭はタンコブだらけであった。

 

「さてと、後は……」

 

 

 

 

 

「ふふ。そろそろ、次の実験を開始しますか……」

 

新たな嵐の前触れがすでに起きていることを誰も知らない――

 




今回最後に登場したのは、犬夜叉に登場する弥勒の舎弟妖怪、
阿波の八衛門狸(あわのはちえもんだぬき)ことハチという妖怪狸です。
原作同様、カズキにはいいようにパシリにされてますwww
個人的に弥勒が、不良法師として口調が悪くなるシーンが結構好きです♪

今更ですが、一夏が最初に倒したカマキリもどきは
「元気爆発ガンバルガー」の最初の敵、ジョキラー。
ヒョウ怪人は「仮面ライダーアギト」に登場するジャガーロード、
パンテラス・ルテウスをモデルにしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明かされる敵と一夏の○○

今回は、敵の一端と7話でゲキリュウケンがぼやいていたことが
明らかになりますwww


「では!織斑くんのクラス代表決定を祝して~~~、乾~杯!」

「「「「「乾~~~杯!!!」」」」」

「あははは……」

 

夕食を食べ終わり部屋に戻ってゆっくりしていた一夏は、クラスメートに食堂に

呼び出され、熱烈なクラッカーの雨をその身に受けた。

一夏がクラス代表に決まった祝いの催しだったのだが、女子特有のテンション

の高さに主賓である一夏は、苦笑を浮かべていた。

 

「(何もここまで騒がなくても……)」

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」

「ほんとほんと」

「ラッキーだよねー。同じクラスになれて」

「ほんとほんと」

『(どうやら、何かしらの理由をつけて騒ぎたいだけのようだな)』

「(みたいだな)」

 

やれやれといった感じで、一夏が食堂を見渡すと教室で見た覚えのない顔を

チラホラと見かけた。

一夏のクラスである一組は全員が参加しており、教室で見た覚えがない

ということは、別のクラスのものまでこのパーティーに参加しているということである。

 

「いや~、相変わらずの人気だね~。

 一夏くん?」

「わたくしを倒したのですから、当然のことですわね」

「一夏、何飲む?」

「い、一夏……ケ、ケーキ食べる?」

「一夏、疲れているだろ。私が食べたいものを持ってきて……

 そ、その……た、食べさせてやる……」

「どうした、箒?

 最後の方が、聞こえなかったんだけど?」

「う、うるさい!なんでもない/////!」

 

当然、別のクラスの簪やクラスどころか学年も違う楯無も参加していた。

素早く一夏の周りに陣取った箒、セシリア、シャルロット、楯無、簪の

5人は互いに火花を散らして牽制し合い、一夏への軽めのアタックをしながら

相手をどうやって出し抜くか機をうかがっていた。

 

いつも、専用機持ちや幼馴染みと一緒の一夏とここでお近づきになろうと

思っていた子達は、彼女たちが放つ闘気の凄まじさにひるみ早々にあきらめていた。

 

「うわ~何あそこ?

 あそこだけ、別の空間みたいね」

「一夏くんは全く、気付いていないみたいだけど」

「どうなるか、ワクワクするね♪」

「はやて、なんかうわさ好きの近所のおばちゃんだよ」

「箒ちゃん、がんばれ~」

 

そんな一夏たちを遠巻きに見ていた、なのは達は恋する乙女たちの戦場に

驚いたり楽しんだりしていた。

この場に、彼女たちのことを知る者が一夏を巡る乙女たちの戦いを見たら

こう言うだろう。

“君たちにそっくりだな”と――

 

「はいは~い!

 私、二年の黛薫子。新聞部の部長で~す♪

 今話題の織斑一夏くんに、特別インタビューをしに来ました~!」

 

皆がジュースを飲んだりして騒いでいると、突如カメラを

引っ提げた二年生が登場し、一同はますますヒートアップした。

 

「な、なんでみんなそんなに盛り上がるんだ?」

『(女子というのは、騒ぐのが好きな生き物だからな)』

「それじゃあ、早速インタビューいってみよーーー!

 では、まず織斑くん!クラス代表になった感想を!」

 

一夏がゲキリュウケンと呑気にしていたら、黛が不意打ち気味に

質問を開始した。

 

「えっ!?と、とりあえず昨日の自分よりは強くなれるよう

 がんばります……?」

「おおお!かっこいいね♪

 捏造の必要は、なさそうね」

「ね、捏造って……」

「対戦相手のセシリアちゃんもコメントちょうだい~」

「わたくしもですか?

 こういったコメントはあまり好きではないのですが……」

 

インタビューは一夏だけでなく、セシリアにまで行われた。

気が進まないようなことを言っているが、満更でもないようだ。

 

『(平和だな、一夏)』

「(ああ。でも、続けられるのは俺たち次第だな……)」

 

騒々しいパーティーの光景を見ながら、一夏とゲキリュウケンは

日常という何にも代えがたい、“今”を噛みしめながらこれから

起こるであろう戦いに気を引き締めていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一夏とセシリアの試合から数日後。

一夏、セシリア、シャルロットの三名は

専用機持ちに話があるとのことで放課後、楯無に生徒会室へと呼び出された。

 

三人が生徒会室に入ると、楯無だけでなく簪、虚、本音、そしてカズキが

彼らを待っていた。

 

「さて、全員そろったようだね」

「先生、専用機持ちに話があるんじゃ……?」

『それは、ここに集まるためのカムフラージュだぜ、

 ムッツリのお嬢ちゃん?』

「今の声は誰ですの!?」

 

カズキとも一夏とも違う男の声に、セシリアが驚きの声をあげる。

すると、カズキは腕につけていたブレスレットを外して机の上に置いた。

 

『ハッハッハッ!

 俺こそ、カズキの相棒の魔弾龍、ザンリュウジンだ!』

「ザンリュウジン……っ!

 碓氷先生も一夏さんと同じ魔弾戦士ですの!?」

「ああ、そうだぜ」

『しかも、コイツにいろいろと叩きこんだ師でもある』

「それよりも!僕はムッツリじゃないよ/////!」

 

セシリアの問いに、一夏とゲキリュウケンが付け加えるように答え、

ムッツリ呼ばわりされたシャルロットは抗議の声をあげた。

 

「それよりも、碓氷先生。

 今日は私たちにあなたと一夏くんが何と戦っているのかを説明してくれる

 とのことですが?」

「スルーしないでぇぇぇーーー!」

「カズキさん、今更だけど皆に説明してもいいんですか?」

 

シャルロットの抗議をスルーして、一夏が彼女たちを巻き込んでもいいのかと

遠まわしにカズキに尋ねると、彼はにっこりと見たら背筋が凍りつくような

笑みを浮かべて一夏の方を向いた。

 

「いや~どこかの誰かさんが、近くに彼女たちがいるにも関わらず、

 ポンポンポンポンと変身して戦うもんだからさ~?

 もう、関係ないからって俺たちのことを話さないわけにもいかないだろ?

 いろん~な後始末とかホ~~~ント、大変なんだけど

 君が責任を感じる必要なんか“これぽっっっち”もないんだからね?

 ハハハ♪」

「す、すいません……」

 

黒いオーラを出しながら、笑っているけど笑っていない笑顔を浮かべるカズキに、

一夏は視線を逸らして謝るしかなかった。

 

「さてと、そろそろ説明を始めようか。

 まずは俺たちの相棒である魔弾龍から。

 

 彼らは、太古の昔から地球を守ってきた守護者(ガーディアン)で

 この星を狙う様々な敵と戦ってきたんだ」

「そして、ある戦いで生物の不安や恐怖から生まれるマイナスエネルギー

 を利用するものが現れ、魔弾龍は窮地に立たされるんだけど

 共に戦おうと立ちあがった人間たちがいたんだ……」

『最初は止めたんだが、偶然にも私たちの力とその人間たちが

 持っていたある力が共鳴し合い、マイナスエネルギーによって

 強化された敵を上回る力が発揮されたんだ』

「ある力って?」

『全ての生物が持っている、恐怖に立ち向かい明日への道を

 切り開く力……“勇気”さ♪

 魔弾戦士は、マイナスエネルギーとは逆の力、勇気や希望と

 いったプラスエネルギーを力に変えて戦うのさ』

 

ザンリュウジンから明かされた、一夏たちの力の源に彼女たちは

息を呑んだ。

 

「そこから魔弾龍たちは、人間と共に戦うためにこういう風に姿を変えて

 戦うようになったんだ」

『そして、ある時ジャマンガという軍団が攻めてきた』

『ジャマンガの支配者であるグレンゴーストは今までに、俺たちが倒してきた

 奴らが残した恨みをマイナスエネルギーごと取り込んで挑んできたんだ』

『その力は凄まじく、やっとの思いでグレンゴーストごとジャマンガを

 異次元に封印することができたが、同時に私たちも眠りについた。

 その封印が今から三年ほど前に解かれてしまった』

「解き放たれたジャマンガと戦うために、現代の魔弾戦士として

 こいつらに選ばれたのが俺や一夏ともう一人の男ってわけ」

「ちょっと待ってください。

 三年ほど前って、碓氷先生はともかく織斑くんは中学生になるかどうか

 ですよね?

 そんな子供のころから、戦ってきたんですか!?」

 

虚の指摘に皆の視線は一夏に集まり、一夏は一瞬たじろいでしまう。

 

「ま、まぁ~なりゆきというか何というか……」

『子犬を助けるために、ジャマンガの先兵に向かって飛び出した

 勇気が眠りについていた私を呼び起こすきっかけとなり、

 一夏はリュウケンドーとなったんだ』

 

リュウケンドー誕生のきっかけである一夏の無茶を聞いて、皆唖然とする。

 

「そこら辺の詳しい話はまた今度ということで、話を続けていくよ。

 俺たち三人と魔弾龍が力を合わせて、ジャマンガを倒すことが

 できたんだけどそれで戦いは終わりじゃなかったんだ。

 別世界、パラレルワールドからも敵がやってきたりしてね~。

 俺たちは、日夜戦い続けたんだ」

『そして、今問題になっているのがセシリアだけでなく

 この場にいる者が遭遇した奴らだ』

 

そう、セシリアと同じようにシャルロット、楯無、簪、虚、本音の

5人も“怪人”に襲われたことがあるのだ。

話は自分たちに大きく関わってくるものになり、一同は自然と固唾を呑んだ。

 

「奴らは自分たちを世界をあるべき姿に導く“創生種”と

 名乗っているんだけどわかっていることはかなり少ない……。

 はっきりと分かっているのは

 ジャマンガと同じく、マイナスエネルギーを集めていること。

 そして、俺たち人間をなめていないという

 今までにない強敵だってことだ……」

「でもでも、カズキン先生もおりむ~も

 今までいろんな敵と戦って勝ってきてるんだから大丈夫なんだよね~?」

 

カズキの思わぬ発言に、本音が反論を投げかけた。

今までの話を聞く限り、彼らが力を合わせれば大丈夫だと彼女たちは

思ったのだが――

 

「いや、この敵は今までのようにはいかないね」

『まず、マイナスエネルギーの集め方だな。

 ジャマンガは、セシリアが閉じ込められたような

 人間の恐怖心を増大させるマイナス結界を展開させて、

 閉じ込めた人間を襲うことで量を優先した集め方をしていた。

 だが、このやり方は多くのマイナスエネルギーを集められる分、

 その時のエネルギー反応や何かしらの痕跡が発生し

 私たちが気付かれてしまうんだ。

 隠密性に優れたマイナス結界でも限度があるからな』

『気付くことさえできれば、ジャマンガの後を追ったり

 して目的を叩きつぶすことができたんだけど……』

「今回の敵は、その痕跡を残さないように慎重に動いている……」

「オマケに、集め方も何十人の人を一度に傷めつけたりして

 恐怖を煽るんじゃなくて、一人に恐怖が深層意識に根付く様な

 痛めつけ方をしてから、わざと解放しているんだ。

 そうやって、恐怖を根付かせるようにして

 生きている限りマイナスエネルギーを発するようにしている」

『しかも生きている限りと言っても、例えば悪夢を見てうなされるという

 人間や生き物が自然に発生させている極めて低いレベルのものだから、

 私たちも本人も異常に気付きにくい。

 もっとも、エネルギーの質としては心からの恐怖の方が

 何倍もいいようだがな』

「そんな低いものを集めて、問題あるんですの?」

 

カズキたちの重い口調でされた説明では、そこまで問題がないのではと

セシリアは口を開くが、カズキは首を横に振った。

 

「問題なのは、エネルギーの量じゃない

 奴らがそうやって、気付かれないように事を進めているところさ……」

「よくわからないんですが……?」

 

シャルロットだけでなく、事態を知っている一夏や魔弾龍以外のものは首をかしげた。

 

「いいかい?

 さっきも言ったけど、マイナスエネルギーを多く確保しようとすれば

 感知されたりして必ず足がつき、俺たちに邪魔されてしまう。

 ジャマンガだけでなく大抵の侵略者は、それでも返り討ちにしてやると

 考えているけど、どこかで俺たち人間をなめているところがある。

 だからこそ、付け入る隙がある」

『だが、創生種は人間の力を恐れているのか気付かれないことを重点に

 置いて活動している』

「つまり、俺たちを最大限に警戒しているってことさ」

『しかも奴らは、ジャマンガが復活するよりも前から活動している

 可能性があるんだよなぁ~』

「俺たちが奴らと最初に遭遇できたのは、全くの偶然だったんだが

 その時に戦った奴から感じたマイナスエネルギーは、

 ジャマンガを倒した後から集めたものとは思えない量だったんだ」

『私たちが眠っている間か……下手をしたらもっと前から

 動いているかもしれないということだ……』

「そうやって、集められたマイナスエネルギーは塵も積もれば山となる

 と言う言葉があるように、とんでもない量になっているはずだ。

 ジャマンガがグレンゴーストを蘇らせるためにマイナスエネルギーを

 集めていたように奴らの目的も同じだとしたら……」

 

想像以上に、スケールの大きい話に彼女たちは言葉が出なかった。

 

『固まっているところ悪いんだけど、

 不安要素はまだあるんだよね~』

「近頃、奴らはジャマンガのように魔物に襲わせて、

 マイナスエネルギーを集めるっていう、

 やり方を変えてきているんだ」

「それには、いくつかのことが考えられる。

 一つは実験。

 発生するマイナスエネルギーをどう使えば、効率よく自分たちの

 手駒である魔物を強化、進化させられるかということ。

 そして、もう一つは陽動。

 俺たちの目を本命から逸らすために、わざとあちこちに

 魔物を放つんだ。

 普通の人間じゃ、まず魔物には勝てないから俺たちが

 対処するしかないからね」

『更にここ最近は、IS操縦者に狙いを付けている。

 君たちのようにな』

 

彼女たちは襲われたことを思い出し身震いする。

 

「IS操縦者というよりは、狙われるのはISの適正が

 高い子なのかもしれない。

 標的となる理由もいくつかには絞り込んでいるけど

 どれも決め手に欠けるから、なんとも言えないのが現状だ」

『そんなに深刻になるなって♪

 こっちだって、やられっぱなしってわけじゃないんだぜ?』

 

重くなった空気に耐えかねて、ザンリュウジンが陽気な声を上げた。

 

「セシリア、俺を助けようとしてゲキリュウケンを

 握った時の感覚を覚えている?」

「もちろん、覚えていますわ。

 なんだか体の内側から、力が溢れてくるのを感じましたわ」

『そう、それこそが魔弾戦士の力の根源である“勇気”の力、

 プラスエネルギーだ。

 あの時も言ったが、私たち魔弾龍にはプラスエネルギーを

 増幅させることができる。だが、あくまでも増幅だから

 ゼロのものを増幅させることはできない。

 あれは、君自身の勇気なんだ』

「それはここにいる全員に言えることでもある。

 皆それぞれマイナス空間内での恐怖を乗り越えているから、

 またマイナス空間に閉じ込められても、恐怖で動けなくなる

 ってことはない。

 そして、それは俺たちが創生種に対するアドバンテージでもある」

『いつの時代や世界でも、戦うものを支えるものたちが

 思わぬ活路を切り開くことは多々あるんだ』

「本来なら無関係の君たちにこんなことを

 頼むのは筋違いもいいとこなんだけど、

 俺たちに力を貸してくれないかい?」

 

カズキと同じ考えなのか一夏もゲキリュウケン、ザンリュウジンも

まっすぐに彼女らを見据えた。

その視線に気圧されそうになるものの、彼女たちを代表するように

楯無が愛用の扇子を広げて不敵に笑って見せた。

 

「あまり見くびらないでほしいですね、碓氷先生?

 学園の長として、生徒を守るのは当然ですよ」

「わ、私もがんばります/////!」

「僕も一夏や先生たちに、守られているだけなんて嫌です/////!」

「微力ながら、力をお貸しいたします」

「わたしもがんばりま~~~す」

「このセシリア・オルコットが、そんなことで臆するとでも?」

「……ありがとう、みんな」

 

彼女たちの勇気にカズキは心からの感謝を述べた。

 

『しっかし、お前も変わったなカズキ。

 昔なら子供や関係のない奴を関わらせるなんて考えられないぜ。

 一夏や“アイツ”だって、最初は魔弾戦士をやめさせるために

 ボコボコにしたこともあったっていうのに』

「……力のない子供や関係のない奴が関わるべきじゃないっていうのは

 変わらないさ。

 でも、それ以上に相手の動きや狙いが読めないいじょう、

 揃えられるだけの戦力は揃えるべきさ」

 

ザンリュウジンの言葉に、カズキは背を向けて答えた。

まるで、今の顔を見られたくないように。

 

『(とかなんとか言ってはいるが……)』

「(あれ、絶対照れてるなカズキさん。

 千冬姉に素直になれよとか言っているけど、

 この人も相当の照れ屋だよな~)

 ……、ってあだだだだだ!!!」

「あっ、悪い一夏。

 よくわかんないけど、急にシバきたくなったからさ♪」

 

ゲキリュウケンと一夏が、余計なことを考えているのを察したのか

カズキは笑顔を浮かべて一夏に、アイアンクローを喰らわせた。

 

「さてと、今日のところはこれで解散としようか。

 あんまり、いるとある連中に怪しまれるからね」

「ある連中って、誰ですか?カズキン先生?」

「それはまた今度だね。

 あまり、いっぺんに話しても頭がこんがらがるしね~」

「それはそ・う・と♪

 碓氷先~生?聞きましたよ~。

 一夏くんの恥ずかし~~~い写真を一組で公開したって。

 私や簪ちゃんにも見せてほ・し・い・な☆」

「お、お姉ちゃん!

 何言ってるの!」

「あれ、簪ちゃんは見たくないの?

 じゃあ、私だけでも……♪」

「ま、待って!だ、誰も見たくないなんて/////

 ……私も見たいです/////」

 

一夏の例の写真を見たいと楯無が言うと簪も顔を赤らめながら

見たいと言った。その時、楯無の顔も若干赤かった。

 

「ちょ!何、言ってんだ二人とも!?」

「別にいいよ?

 なんなら、現像しようか?」

「アンタも何言ってんだ!!!」

「「「「是非、お願いします!!!!!」」」」

 

一夏の主張よりも、自分の欲求が優先なのか彼の叫びが届くことはなかった。

 

余談だが、そのちんまい一夏の写真が欲しいと学年関係なく問い合わせが

殺到したので高額で取引されるようになるのだが、とある教師Tにほとんどが

取り押さえられるのは、また別の話である。

 

「ああ、君たちはこっちの写真の方がいいかな?」

「……/////」

「わ~い/////♪」

 

一方で、虚と本音は自分たちを助けてくれた者の写真をもらって

ご満悦であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(正直、不安がないわけじゃないが……

 お前やみんながいれば何とかなる気がするよ)」

『(ふっ。そうだな)』

 

一夏とゲキリュウケンがこれからの戦いに向けて、互いの覚悟を

確認し合った。

 

「はいはい、織斑く~ん!

 そんなとこにいないで、インタビューの続きよろしく♪」

「あははは……」

「今度は趣向を変えて、碓氷先生に関しての質問です!」

「カズキさんのですか?」

 

意外な質問に一夏は思わず、薫子に聞き返した。

 

「そうそう♪

 あの織斑先生と恋人みたいだけど、そこんところ弟として

 どう思っているのかな~って☆」

 

すごく興味があるのか、周りの者は目をランランと輝かせて

一夏に目を向けた。

 

「どう思っているのかって……」

「ほらあるでしょう?

 お姉ちゃんを盗られてさびしい~!とか?

 恋人なんて、絶対認めなーーーい!とか?」

「あなたは、俺を何だと思っているんですか。

 まあ、でも……もしもカズキさんが千冬姉を泣かしたりなんかしたら…………、

 ブッタ斬りますけどね♪」

 

薫子の回答の予想にため息を漏らす一夏だったが、

誰もが見惚れるほどのきれいな笑顔で出した答えに、みなが同じことを思った。

 

「「「「「「「「「「(こいつ……本気(シスコン)だ!!!)」」」」」」」」」」」」

 

「そ、それじゃ気を取り直して、皆が一番気になっていることを

 質問しようかな~」

 

頬を引き攣らせながらも、場の空気を変えるために薫子は次の質問をした。

それが、学園中に激震を走らせるとは思わずに――

 

「では、織斑くん!

 ズバリ、好みの女の子のタイプは!!!」

「好みの女の子のタイプ?」

「「「「「っっっ!!!!!?」」」」」

『(あっ、バカ!何という質問を……!?』

 

薫子の質問に一夏に恋する箒、セシリア、シャルロット、簪、楯無を

中心として彼女たちの耳が一瞬ゾウのように大きくなったように見えた。

なのは達も、興味津々といった感じで一夏を凝視した。

 

「好みのタイプか~。

 そうですね……ネコみたいな感じですかね?

 あいつは」

「ふむふむ、具体的に言うと?

 ……って、あいつ?」

「こっちが構ってやるとうるさいって追い返すくせに、

 いざ離れるとさみしそうにするんですよね~。

 てか、何なんですかねその時のかわいさは?

 反則ですよ反則♪

 他にもかわいいものが好きで、それに目を輝かせているところ

 を見られた時の反応は……」

「え、えっと織斑くん?」

『(こうなると、長いんだよな~、コイツ。はぁ~)』

 

想像していた回答の斜め上どころか、大気圏を軽々突破する程の

予想外な一夏の答えに薫子は目を丸くし、ゲキリュウケンは延々と

喋る一夏に諦めに近いため息をもらした。

ちなみに、一夏はうれしそうに5分以上しゃべり続けている。

 

「あ、あの織斑くん。そ、それくらいで……」

「えっ?それくらいって、こんなのまだまだ序の口ですよ?

 あいつのことは、一晩あっても語りきれませんからね~」

「……ねぇ、織斑くん。

 ひょっとして、織斑くんって……彼女いるの?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

おそろおそる薫子は、一夏に尋ね周りの子達はゴクリと息をのみ、

一夏が“いませんよ”と答えてほしいと願った。

しかし、現実とは……無情なものである――

 

「はい、いますよ」

「「「「「…………」」」」」

「……あれ?」

『(言っちまったよ、コイツ……)』

 

一夏の答えにあれだけ騒いでいた子らは、石になったかのように

固まって声を失い、一夏はどうしたのかと思っていると……

 

「「「「「「「「「「えええええぇぇぇっっっ!!!!!?」」」」」」」」」」

「うわっ!?」

 

学園全体が揺れるほどの大声を上げ、近くにいた一夏だけでなく

遠く離れた職員室にいる教師たちまで飛びあがらせるほど驚かせた。

 

「私の青春が始まる前に終わったぁぁぁ!!!」

「この世界に神はいないっっっ!!!」

「うわーーーん!」

「こんな不条理が許されるのか!」

「あの朴念神の織斑くんが、あれだけ惚気るなんてっ!?」

「不幸だぁぁぁ!!!!!」

「(なあ、ゲキリュウケン。

 なんで、皆こんなに驚いているんだ?)」

『(もう、お前は黙っていろ……)』

 

最早、食堂は神や己の不幸を嘆く声で一杯であったが、元凶である

一夏は一ミリも事態を理解していなかった。

 

「…………」

「箒、しっかりしなさい!」

「あかん。箒ちゃん、ショックで完全に固まっとる!」

「ガクッ……(orz」

「あ、アハハ……い、一夏は冗談がうマいナぁ~……」

「セシリア、シャルロットしっかりして!

 こっちに戻ってきてぇぇぇ!!!」

「こここれは、よよよよよ予想外ねねねねね。

 かかかかか簪ちゃんんんんん???」

「エッ?ナニドウシタノ、オネエチャン?」

「会長さん、すごく動揺しているね」

「うん、簪ちゃんもロボットになっているよ……」

「かんちゃ~ん、会長~、しっかりして~~~」

 

一際衝撃が大きかった箒たち5人は、固まったり床に手をついたり

現実逃避をしたりと他の子よりも絶望が大きく、なのは達が慰めたりするも

効果はなかった。

 

この騒動は、いつまでも寮に戻ってこない生徒を探しにきた千冬が来るまで

続き、嘆く彼女たちを叱り飛ばして寮に戻すも千冬もまた騒動の原因を聞くと

何でもないように自分の部屋に戻っていったが、戻る前に飲もうとした水に

お酢を入れたり、ガクガクとコップを持った手が震えてびしょ濡れになった

ことをここに記しておく。

そうやって、フラフラと歩く千冬が通り過ぎた廊下で、ハラリと壁と同じ模様の

紙が落ち、三日月の如く楽しそうに口を歪めたものが彼女を見ていたことを

千冬は知らない――

 

 

 

 

 

「おはようーって、朝からなんでそんなに落ち込んでいるんだ、皆?」

「一夏くん?何でも、朴念仁で唐変朴やからやって許されるとは限らへんのやで?」

『(うむうむ)』

「はっ?」

 

翌日、一夏が教室に向かうと未だにショックから抜けきれない子が

多数で教室内の空気はどんよりしているが、自分が原因だとは欠片も

思わない一夏は首をかしげるだけだった。

 

「そ、そう言えば2組に転校生が来たんだってね。

 アリサちゃん!」

「ええ!何でも代表候補生だとか!」

 

少しでも場を明るくしようと、すずかとアリサは話題を一夏から

変えようとした。

 

「転校生?こんな時期に?」

「うん、中国からだって」

「中国か……」

 

中国と聞いて、一夏はある少女の顔を思い浮かべた。

元気にやっているかと思っているとアリサがしゃべりかけてきた。

 

「ちょっと、何ぼ~っとしているのよ!

 アンタには、学食デザートの半年フリーパス

 がかかっているのよ!」

 

IS実習が本格的に始まるこの時期、クラス間同士の交流やクラスの

団結のために、クラス対抗戦というものが行われ

優勝クラスには、アリサの言った学食デザートの半年フリーパス

が与えられる。

 

アリサのその言葉に落ち込んでいたクラスメートたちは一斉に顔を

上げ、目をキラーン!とぎらつかせた。

 

「そうよ!がんばって、織斑くん!」

「織斑くんは、私たちにデザートを献上する義務がある!」

「こうなりゃ、やけ食いだぁぁぁ!!!」

 

どうやら、失恋のショックは甘いものを食べることで発散させようという

方向に向いたようだ。

 

「ま、まあ、やれるだけのことはやるけどさ。

 それにしても、転校生ってどんな奴なのかな?

 代表候補ってことは、実力もあるだろうし……」

「気になるのか、一夏……?」

「あら、恋人がいるのに他の女の子に目移りするなんて、

 一夏さんったらフフフ……」

「ヘェ~、女の子なら誰デモいいノかナ?」

 

一夏が、クラスメートたちの気迫に押されて話題を転校生に

変えようとすると、目から光を消した箒、セシリア、シャルロットが

彼の周りを取り囲んだ。

 

「お、お前ら何を怒っているんだ?

 (ゲキリュウケン、ヘルプヘルプ!)」

『(……グゥ~グゥ~zzzzz)』

「(狸寝入りしないでぇぇぇ!)」

「織斑くん、がんばってね!」

「私たちのフリーパスのために!」

「他のクラスの代表で専用機持ちなのは、4組の簪さんだけだから

 彼女に勝てば、後は楽勝よ!」

 

一夏の状況が見えていないのか、彼女たちは好き勝手なことを言い始めた。

 

「その情報、古いよ」

 

唐突に、教室の入り口から声が聞こえみんなそっちに目を向けた。

 

「二組のクラス代表はこの私、中国代表候補の生凰鈴音に変わったから

そう簡単にはいかないわよ!」

 

腕を組み、片膝を立てて小さく笑みを漏らしながら

トレードマークであろうツインテールを揺らして

一夏の幼馴染みである、凰鈴音がそこに立っていた――

 

 

 

 

 




今回のことをまとめますと
・敵は創生種と名乗る者たち
・恐怖や不安といった負の感情、マイナスエネルギーを集めている
・集め方は慎重で、人間を警戒している
(『灼眼のシャナ』に登場する“屍拾い(しかばねひろい)”ラミーのような集め方)
・一夏には既に彼女がいる(笑)

千冬の動揺っぷりは、仮面ライダードライブで進ノ介や霧子がチェイスに
恋バナをふられて慌てまくったのと同じ感じです♪

ダラダラと敵について述べましたが、何か矛盾やおかしいところが
あるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巻き起こる嵐

最新話、完成しました。
今回は細かいネタをちょこちょこ入れてみましたwww


「鈴?お前、鈴か?」

「そうよ、今日は噂の一組代表に宣戦布告しにきたってわけ」

 

鈴と呼ばれた少女はまるで百戦錬磨の大人のような余裕の態度を見せ、

一組をざわつかせた。

 

「何やってんだよ、お前。

 あれか?朝起きたら、ベッドにタマゴがあって、

 そこから生まれたしゅ○キャ○で○ャラチェン○でもしているのか?」

 

もっとも付き合いの長い一夏には、ただの格好付けであることは

瞬時にバレてしまった。

 

「そうそう、あたしの心をアンロックして

 キ○ラ○りを……って、

 違うわよ!何やらせるのよ、一夏!」

「おい……」

「なによ!?」

 

鈴が一夏と漫才みたいなやりとりをしていると、

彼女の後ろから地の底から響く様な声が聞こえ鈴が、

いきおいよく振り向くと彼女の視界は黒い影に覆われた。

 

「……痛っ!」

「さっさと自分の教室に戻れ。SHRの時間だ……」

「ち、千冬さん……」

 

鈴の前に現れたのは、いつにも増して鋭い眼光を放つ

IS学園最強教師、千冬であった。

昔から、千冬のことが若干苦手な鈴は彼女の迫力に涙目となり

後ずさってしまう。

 

「織斑先生だ。そこの馬鹿と同じことを言わせるな。

 そして、道を塞ぐな。邪魔だ……」

「は、はいぃぃぃ!」

 

コンマ数秒で姿勢をただし、教室を出ようとする前に

鈴は再び一夏の方を向いた。

 

「またあとで来るから、逃げるんじゃないわよ!一夏!」

「いいから、早く戻れ……」

 

千冬がゆっくりと黒き宝剣(出席簿)を構えようとしているのを目に入れた瞬間、

鈴は電光石火の早さで自分のクラスへと逃亡した。

 

風になびくツインテールは、何とも様になっていた。

 

「やれやれ、何だったんだ?

 というかアイツが、中国の代表候補生だって?」

 

何気なく今の嵐について、ぼやく一夏だったがそれがいけなかった。

 

「おい、一夏。今のは誰だ?やけに親しそうだったが……」

「一夏さん?納得のいく説明を――」

「一夏?後ろには注意した方が、いいかもしれないよ?」

 

箒、セシリア、シャルロットが一夏の周りを包囲して質問という

集中砲火をはじめ、他のクラスメートたちも同じように質問を投げかけ

援護射撃を行うが、一夏は何も答えず心の中で彼女たちに合掌をしていた。

 

「席につけ、馬鹿ども!」

 

構えていた黒き宝剣(出席簿)が振り下ろされ、

一夏の周りには、頭から煙を上げるものが多数横たわった。

 

「もう~、千冬ちゃん。

 大好きな弟が自分以外の女に取られたからって、

 八つ当たりはダメだよ~?」

 

その日のSHRで、行われた痴話喧嘩はいつもより激しかったという――

 

 

 

「(さっきの女は、誰だ?

 私たちに接するみたいに仲良さげであったが……)」

「(何なんですの、さっきの人は!

 ただでさえ、恋人という以前から知り合いである箒さんたち以上の

 ライバルがいるというのに!)」

「(これ以上、ライバルが増えるのはゴメンだよ~

 あれ?でも一夏の彼女って、確か……)」

 

SHR前に嵐のようにやってきた少女のことが、余程気になるのか箒たちは

授業そっちのけで自分たちのライバルかもしれない鈴のことを考えていたが、

ふとある考えに至った。

 

「(いや~、三人とも考えとることまるわかりやな~♪

 恋人がおると思ったら、またライバルやなんて♪)」

「(ああ、はやてったら楽しそうに笑って。

 でも、一夏の恋人ってネコみたいな人で……)」

「(構ってほしいけど構ってほしくないって言っちゃう、

 アリサちゃんみたいなツンデレさん……)」

「(なんかわかんないけど、失礼なこと考えてるわね、すずか。

 まあ、それは後にして昨日一夏の奴言ってたわね、

 恋人はかわいいもの好きって。

 あの鈴て子、なんか動物とか好きそうだったし……)」

「(さっきやってきた子は、まるでネコさんみたいでかわいかったなぁ~)」

「「「「「「「(まさか、さっきの女の子が一夏(くん)(さん)の

 彼女!!!?)」」」」」」」

 

授業の内容なんて、まるで頭に入っていない様子の箒たちを見てフフフと

笑うはやてであったが、彼女やフェイトたちも鈴のことが気になっており、

箒たちと同じ考えに辿り着いた。

約一名は、全く別のことを考えていたが。

 

昨日、一夏が惚気ていた内容はピタリと鈴に当てはまる。

まさか、鈴が彼女なのかと思うが彼女たちはある重要なことが頭から

抜け落ちていた。

それは、IS学園の生徒なら決して忘れてはならない掟。

すなわち――

 

「お前ら、そんなに私の授業は退屈か……?」

「「「「「「「はっ!?」」」」」」」

 

千冬が授業をしている時に、考えごとは命に関わるということである。

バババババババシ――――ン!!!!!!!

その授業中、教室の7か所で煙があがった――

 

 

 

「……」

「う~~~」

「むぅ~」

「どうしたの、三人とも?」

「何か、あったんでしょう?

 一夏くん関連で」

「何で、俺が原因みたいなことを言ってるんですか、楯無さん」

「「「「(いや、実際事実だし)」」」」

 

午前の授業も終わり、昼食と言うことで食堂に向かう途中に一夏たちは

同じように彼らを誘おうとしていた楯無、簪と合流していたが、

箒、セシリア、シャルロットの三人は一夏のことを恨めしそうに見ていた。

 

千冬の後の授業でも同じように先生たちに注意され、元々の原因である一夏が

それを不思議そうに見ているものだから、自業自得なのはわかっているが

睨まずにはいられないのだ。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

そんな彼らの前に、もう一人の原因である鈴がドーン!と

効果音でも上げたかのように立ちふさがった。

 

「……、鈴まずはそこをどいてくれ。

 食券が出せないし通行の邪魔だぞ?」

「う、うるさいわね!

 アンタを待っていたのに、何ですぐに来ないのよ!」

「いや、俺は一日18時間寝ているポ○モンじゃないから、

 テレポートなんてできないぞ?」

「うぐっ……!

 と、とにかく席取っておくから早く来てよね!!!」

「あいかわらずだな~

 あいつは」

「なるほど、そういうことね……」

 

一夏と鈴のやりとりを見て、何があったのか察しがついたのか

楯無と簪はジト目で一夏を見つめるのであった。

 

「まっ、なにはともあれ、久しぶりだな鈴。

 大体一年ぶりくらいか?」

 

それぞれの昼食を受け取った一夏たちは、鈴がとっていたテーブルに

座り、早速一夏が質問を彼女に投げかけた。

箒たちをはじめ、皆食事そっちのけで興味津々である。

 

「そうね。アンタも元気そうじゃない?

 でも何?

 何で、ISなんか動かしてるのよ」

「まぁ、いろいろとあってな」

『(ほぼ、お前のドジだろうが……)』

 

まるで、休み明けに会った友達のように自然に会話をする二人だったが、

それをおもしろく思わないのが乙女心である。

 

「い・ち・か・く~ん?

 そろそろ、お姉さん達にも説明してほしいんだ・け・ど・なぁ~?」

「……(コクコク」

「そうだぞ!一夏!」

「僕たちに、ちゃんとわかるようにね?」

「ままままさか、こちらの方が昨日言っていた一夏さんの彼女ですの!?」

 

楯無とシャルロットは、目が笑っていない笑顔で一夏に迫り、簪は頷きながらも

無言の圧力を送った。

そして、箒とセシリアがグイっと鈴を指さし、

学園中の誰もが気になることをズバリと問いかけた。

 

「かかかかか、彼女!!!!!?

 いや、それは、なったらうれしいというか、これからなりたいというか……

 じゃなくて!

 えっ!?

 いいいいい、一夏どういうことよ!かかか彼女って!?」

 

予想外にも程がある質問だったのか、慌てに慌てて取り乱して

一夏に問いただす鈴だったが、そこまで言ってあることが頭に浮かんだ。

 

「(ひょっとして、一夏もあたしのこと好きで

 こいつの中じゃ、あたしはもう彼女ってことになってるの!?

 やだもう/////!

 そうならそうと、男らしく言いなさいよ/////)」

 

しかし、悲しいかな。

人の夢と書いて儚いと読むように、乙女の夢ならぬ乙女の妄想もまた

儚いものである……

 

「いや、鈴は俺の彼女じゃないぞ。

 鈴は箒と入れ替わるように、転校してきた

 幼馴染みだよ。

 で、俺の彼女とは、昨年の秋ぐらいから付き合い始めたんだ」

 

乙女心を一ミリどころか、一ミクロンも理解できていない一夏は

今日も平常運転である。

 

「はっ?

 ……、はぁぁぁぁぁ!!!か、彼女!!!?

 あああああ、あんたが!!!!!?

 どどどどどどいうことか説明しなさい!!!!!」

「説明って言っても、好きな子ができて告白して

 付き合っているとしか言いようがないぞ?

 (そう言えば、“あいつ”は鈴とはある意味初対面になるのか?)」

「告っ……!」

 

掴みかからんとするぐらいの勢いであった鈴だったが、一夏の

そのまますぎる説明を受けて、瞬く間に真っ白になってしまう。

同時に、肩を落としこの世の終わりみたいに意気消沈するもの、

バカヤローと叫んで走り出すものなど多数であった。

 

「あちゃ~、冗談やなかったんやねぇ~」

「あ、口から魂出てる子もいる……」

「あの唐変朴が告白って、どんな子なのよ!」

「箒たちも、落ち込んでるね……」

 

はやて達が眺めていると、真っ白になって

机に手をつき顔を俯かせていた鈴がガバッ!と顔を上げた。

 

「ふふふ……、ああああんたもおもしろいジョークができるように

 なったじゃない……ま、漫才師でもめめ目指したら?

 あっ!わかった!

 どうせ、カズキさんが仕掛けたドッキリでしょう!」

「はっ?何言って……」

「そうよそうよ!

 でなきゃ、あんたが告白なんてするわけないし~

 (うんうん、きっとそうよ!

 あんにゃろ~、人の一世一代の告白を覗くだけでなく

 こんなことまでするなんて!

 どこまで、人をおちょくれば気が済むのよ!!!)」

 

一夏が告白したということをカズキが仕掛けたドッキリと一人

納得する鈴であったが、それには理由があった。

実は、彼らが小学六年のある日に鈴は一夏に、

告白しようとしたことがあるのだ。

 

よくある“毎日味噌汁を~”なセリフをアレンジして

勉強中であった酢豚でやろうと誰もいない夕方の教室で

実行したのだ。

だがその途中で、窓の外にカメラをかまえたカズキを見つけ、

さらに彼は自分を見つけたことに気付くと、

にんまりと笑いながらスケッチブックに

“気にせず続けて続けて♪”

と書いて見せるものだから、鈴は一気に顔が赤くなって

恥ずかしさのあまり一夏をブッ飛ばして、その場から逃げたのだ。

 

まあ、その後流石に悪いと思ったカズキが何回か二人きりになる

よう取り計らったのだが、一夏の鈍感や鈴のツンデレ体質などで全て

無駄に終わっていたりする。

 

「(見つけたら、今度こそケチョンケチョンにして、

 ついでに“アレ”や“ソレ”もこの世から消してやる!)」

「そんなに言うなら、後で本人に直接聞いてみたらどうだ?」

「何言っているのよ?

 男のカズキさんが、このIS学園にいるわけ……」

「呼んだかい?」

「…………、っっっっっ!!!!!?????」

 

カズキと会ったら、いろいろなかりをまとめて返そうと決意する鈴で

あったが、唐突に姿を現したカズキを見て声にならない悲鳴をあげて

いすから飛び上がった。

 

「やぁ、鈴。久しぶりだにゃあ~♪」

「あああああ――」

 

両手を使って、自分の体を抱きながら鈴はまるで幽霊に

出会ってしまったかのようにガタガタと震え始めた。

 

実際は、幽霊の方がマシなのかもしれないが……

 

「あれ、どうしたのかな?

 何か俺をケチョンケチョンにしてやるとかって、心の声が聞こえた

 気がしたんだけどなぁ~?」

 

“いや、心の声って、あなたエスパーか!”と食堂にいたものが

心の中でツッコんだのは言うまでもない。

 

「ききききき気のせいではないでしょうかかかかか?」

「なぁ、一夏くん?鈴ちゃんなんで、あんなに碓氷先生に

 ビビッとるん?」

「あれか?

 俺にもよくわからないんだよな~

 何か、会うごとにビビるようになったような……」

 

あまりの鈴の怯えように何事かとはやては、一夏に尋ねるが

彼にも理由はわからなかった。

 

「(言えるかぁぁぁ!!!

 家でこっそりやっていた中二的なアレコレや

 ポエム手帳とかを書いてたのを誘導尋問でバレたりしたなんて!!!)」

 

そう、鈴がカズキにビビっているのは単に彼女の人に知られたくない

黒歴史の大半が悪魔手帳に記されているからであったりする。

もっとも半分はカズキが自分から調べたのではなく、たまたま目撃したもので

あることを鈴は知らない。

 

「ははは♪

 俺はもう食べ終わったから、行くけど

 これからも“い・ろ・い・ろ”とよろしくね?

 鈴ちゃ~~~ん♪」

 

そう言ってカズキが食堂から立ち去ると先程とは違った意味で

鈴は真っ白になり、今度は口から魂のようなものまで出して座り

こんだ。

 

「お、おい。鈴……」

「……う、うっっっがぁぁぁ!!!

 一夏、あんた放課後どこかつきあいなさい!

 とういうか、何かおごりなさい!!!」

「あ~ら、ごめんなさい♪

 一夏くんは放課後、私たちとISの特訓をすることになってるのよ~♪

 なのはちゃん達も簪ちゃんも今日は一緒にやりましょう~」

「えっ?でも私4組……はっ!

 うん、わかった!」

「何よ、私が先に話しt「鈴この人ここの生徒会長で、国家代表」うぐっ!

 じゃあ、それが終わったら待ってなさいよ!」

 

予想外のことが起こりすぎて、八つ当たり気味に一夏に迫った鈴だったが

やんわりと楯無に断られてしまい、尚も噛みつこうとするも一夏に楯無が

生徒会長かつ国家代表と言われて悔しそうに引きさがり、食堂を去っていった。

 

「じゃあ、放課後の特訓がんばりましょうね~」

「うん、一夏。がんばろう♪」

 

そう言う楯無と簪は同じような笑みを浮かべた。

まちがいなく笑顔なのだがそれは、逆らったら何が起こるか分からないというか

渡ってはいけない川を渡ってご先祖さまと会ってしまうかもしれないという

一夏が最も恐れる人物、彼や千冬を育てた吉永雅がたまに浮かべる

笑みと同じであった。

そのため、一夏に断るという選択肢はなかった――

 

そして、今だ落ち込む箒、セシリア、シャルロットに楯無が

何か耳打ちし“いい”笑顔になったことを一夏は知らない……

 

 

 

「え~っと……、どういうこと?」

 

放課後、アリーナに来た一夏はその場の光景に唖然としていた。

そこには、セシリア、シャルロットが自分の機体を展開しており

簪、楯無も自分の専用機を展開していた。

簪は、機動力と火力を兼ね備えた打鉄弐式(うちがねにしき)を

楯無は、他のISに比べて装甲が少ないが機体を覆う水のヴェールと

ランスが特徴のミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)を

その身に纏っていた。

そこまでは、まだわかる。

だが、問題は他のメンバーであった。

 

「なんで、箒やなのはたちもISを展開させているんだよ!」

「なんだ?私たちがいては、ダメなのか?」

「へぇ~こんな風になってるんだ~」

「アハハハ……」

「いや~会長さんから、頼まれてなぁ~」

「うふふふ……」

「さあ覚悟しなさい、この朴念仁!」

 

そう、箒をはじめなのは達5人も生徒が使う訓練機を

展開してその場にいたのだ。

素直に感動するもの、苦笑するもの、寒気を覚えさせるような

笑みを浮かべるもの様々であった。

 

箒、フェイト、すずか、アリサは簪の専用機に

似た打鉄(うちがね)を。

なのはとはやては、シャルロットとは違ったネイビーカラーのラファールを

それぞれ、展開していた。

 

これらの機体は第二世代の量産機であり、打鉄は安定した性能で

初心者にも扱いやすく、ラファールは汎用性が高く操縦者を選ばないので

多様な機能の切り替えを行うことができる。

簪とシャルロットの機体はこれらの後継機やカスタム機に当たる。

 

「ISに慣れるためにも、そろそろ本格的な実戦が必要だと思ってね。

 一夏くんは、ISの技術はともかく戦闘経験はすごいみたいだし

 こうやってみんなで戦えば、手っ取り早く強くなれるかな~って思って♪」

「みんなで戦えばって、まさかここにいる全員といっぺんに

 戦うんですか!?」

「うん、そうだよ一夏♪」

「覚悟してね♪」

「代表決定戦のリベンジを、させていただきますわ!」

「いやいやいや!

 いくらなんでも、10人がかりは無理ですって!

 そもそも訓練機って、こんなに簡単に借りれるものなんですか!?」

 

さらっととんでもない訓練内容を言う楯無に必死に、なんとかしようとする

一夏は訓練機が6機も同時に借りれたことを指摘したが、

そんなものは予想通りなのか、楯無が笑顔で答えた。

 

「その心配はいらないわ♪

 今日訓練するはずだった子と例の一夏くんの恥ずかしい写真で

 取引したから♪」

「うぉい!それでいいのか生徒会長!!!」

「ええい、一夏!お前も男なら潔く、覚悟を決めんか!」

「ごめんね、一夏。

 でも、一夏も悪いと思うから……」

「そうやで、一夏くん?

 乙女心を弄んだ罪は重いでぇ~」

「大丈夫。

 別に訓練にかこつけて、乙女心を一欠けらもわかっていない

 一夏くんをおしおきするわけじゃないから♪」

「そうよ?私たちは“純粋”に、アンタが強くなる手伝いをする

 だけなんだから!」

「よ~し、それじゃみんなで張り切って一夏くんに

 O・HA・NA・SIしよう♪」

 

一夏の言い分など最初から関係ないのか、みんな乙女心をわかっていない

この朴念仁をや(殺)る気まんまんである。

 

「ちょっと待て!

 それ絶対、普通のお話じゃないだろ!?」

「もう、心配しすぎよ一夏くん?

 碓氷先生からも

 “あいつは、ピンチになればなるほど限界を

 超えて強くなるから遠慮なくやっていいぞ♪”

 って、許可をとってあるからがんばって、

 自分の限界を超えてみよう♪」

「ちょっ!?」

『(一夏……、時には諦めも必要だ)』

「それじゃ、みんな?

 ……、思う存分やっちゃいましょう!!!」

「ま、待っt………、どわぁぁぁぁぁ…………!!!!!?」

 

飄々とした笑みから一転して、鋭い目となった楯無の合図と共に、

アリーナの使用時間一杯まで、乙女心を全くもって理解していない

朴念仁の悲鳴が止まることはなかった――

 

 

 

「ふぅ~。それじゃ、今日はここまでにしましょう。

 みんな、お疲れ~♪」

 

訓練と言う名の朴念仁へのおしおきが終わると、一夏は息も絶え絶えに

寝転がっていた。

他のものも、息を切らしていたがどこかスッキリしたような顔をしていた。

中でもなのはは、とてもイキイキとしていたと述べておく。

 

「い、一夏。大丈夫?」

「だ、大丈……夫じゃな……いかも……」

 

このメンバーの中で比較的同情気味であったフェイトが、一夏を心配するも

彼はすっかり疲れ切っていた。

 

『(まあ、無理もないがな。

 とても初めてとは、思えない連携だったからな……)』

 

そう、彼女たちは始めて組んだとは思えない連携で一夏を追い詰めたのだ。

一夏と同じ近接タイプの箒、フェイト、アリサが三人同時に斬りかかり、

指揮能力に優れたはやてとすずかの指示の元、残りのメンバーが

遠距離から攻撃を仕掛けたのだ。

すぐには、終わらせないようジワジワといたぶる様な射撃に加えて

こちらに迫りながら笑顔で撃ってくるものだから、精神的な

疲労は肉体的なものとは比較にならないものであり、彼女たちより

遥かに体力がある一夏がへばる程であった。

 

「それじゃあ、一夏くん?

 私はあきらめないからね♪」

 

そう言って、楯無は扇子を広げ“Never Give Up”と書かれた文字を

一夏に見せた。

 

「……はい?」

「私もだ。勝負はこれからだからな!」

「このまま引き下がると思わないでください」

「絶対に、僕の方を見させてみせるからね!」

「私も……、もうあきらめるなんてことはしない……!」

「あらら、皆どうやら一夏くんにまだまだアタックし続ける方向で、

 いくみたいやね~」

「のんびりしてんじゃないわよ、はやて!

 こうなったら、同室の箒が何かと有利なんだから

 ガンガン行けるよう、作戦を考えないと!」

「ふふ♪

 ほんと、アリサちゃんって友達思いだよね~」

「た、楽しそうだね、すずか……」

「なんか、碓氷先生に似てるかも……?」

 

例え恋人がいようが、あきらめないと改めて決意する友達を応援しようと

燃えるアリサたちであったが、そんな光景を楽しそうに見るすずかに

一抹の不安を覚えるフェイトとなのはであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、箒?なんで、こっち側に来るんだ?」

「わ、私がどっちのピットにいようといいではないか!」

 

何とか動けるまで回復した一夏が、ピットにいくと何故か箒まで同じピットに

きたので口をはさむ一夏だったが、にべもなく返されてしまった。

無論、同じピットに行くよう口添えをしたのは、狸の耳や尻尾がよく似合う

少女であるのは言うまでもない。

 

「ふぅ~、それにしても今日は疲れたなぁ~」

「私としては、あんなに疲れていたのにどうして

 もうそんなに動けるのか疑問なんだか?」

「まあ、あれ以上のことは前にカズキさんに何度かされてるし……。

 知っているか箒?

 生きるってことは、おいしいっていうことらしいんだぜ?」

『……』

「どういう意味だ?」

 

脈絡のない話を始めた一夏に箒は顔をしかめるが、

そんな彼女が目に入らないのか、一夏は天井を見上げて話を続けた。

 

「肉を食べても魚を食べても、もしかしたら空気を吸っても

 おいしいらしいんだ~。

 俺も最初はわらなかったんだけど、“アレ”を生き延びて

 やっっっっっとわかったんだよなぁ~。

 おいしかったなぁ、あの時の空気は~」

『(そうだな、あの味は忘れられないな)』

「何を言いたいのか、何となくわかったが

 こっちに戻ってきてくれ、一夏!!!」

 

一夏だけでなく、ゲキリュウケンまで遠い目をして

どこか別の世界にいきそうになり、慌てて箒は一夏を呼び止めた。

 

「ははは、わりぃな箒」

「き、気にするな……」

 

呑気に笑う一夏が、あんな悟りに至ったような目をするなんて、

どんなことがあったのか気になるが、聞いたら自分も帰ってこれないような

気がするので聞くに聞けない箒であった。

 

「で、では一夏。悪いが今日のシャワーは……」

「一夏っ!」

 

気を取り直して一夏に話しかけようとする箒だったが、

そこに、猫のようにしなやかな動きで鈴が乱入してきた。

 

 

 

時は、一夏の訓練が終わる少し前。

鈴はあるもの達に電話をつなげていた。

 

「はい。どうしました鈴?

 こちらは、かつてフェイトがやったようにマンションを借りて

 引っ越し等がまもなく終わるところですが?」

「やっほ~鈴!

 こっちは元気だよ~!」

「やかましいぞ、レヴィ!

 静かにせんか!!」

 

そう電話をかけた相手は、魔法の師匠である

シュテル、レヴィ、ディアーチェであった。

彼女たちも、鈴と一緒に日本に行きたいと言うので

かつて、別の世界からやってきたフェイトのように、いろいろ

表沙汰に出せないような技能を駆使して、IS学園近くのマンションに

いるのだ。

 

「ちょっと、聞いてよ!

 実は――」

 

鈴は昼の出来事をありありと語った。

好きだった一夏には、もう彼女がいたこと。

自分が最も苦手とする人物がいたことなどをシュテルたちにこぼした。

 

「なるほど、それは……」

「一夏って、鈍感さんなんだね~」

「ふん、乙女心をわからないとは男の風上にもおけんわ!」

「それでね……、

 アンタたちのモデルになったって子にも会ったんだけど……」

「っ!

 なのはにですか!?」

「オリジナルがいるの!」

「何故、あの子鴉がいるのだ!!!」

 

一夏の鈍感に三者三様の反応をするシュテルたちであったが、

自分たちのオリジナルとなったなのはたちがいることに驚愕した。

 

「いえ、ロード。

 織斑一夏は、現在世界で唯一ISを動かす存在。

 時空管理局が何かしらの調査を行っても、

 おかしくないかと」

「う、うむ……」

「まあ、見た感じ悪いようには見えなかったんだけどさ……。

 そうじゃなくて、……ったのよ……」

「鈴?」

 

鈴は、なのはたちがいることなどどうでもいいのか、急に歯切れが

悪くなりシュテルは、不審に思う。

 

「大きかったのよ!

 アンタたちのモデルも!一夏の周りにいる子たちも!

 みんなみんな、あああああアレが大きかったのよ!!!

 喧嘩売ってんのか、コラァァァ!!!!!」

「はい?」

「?」

「はっ?」

 

血の涙を流さんばかりの鈴の魂の叫びだが、シュテルたちは頭を

傾げるばかりであった。

 

鈴も自分の“アレ”が他の同世代の子と比較してひかえめであるのは

認めたくはないが自覚してはいる。

しかし、何も自分が好きな男の周りにいる子全員が

自分のより、ボリュームがあったら叫びたくもなるだろう。

 

更に、なのはたちはシュテルたちのモデルであるから、もしも

シュテルたちが自分と同い年ぐらいに成長したらその姿は、

なのはたちが一番近いのだ。

一夏に恋人がいたこと、周りにいたライバルたちだけでなく、

妹分兼師匠にまでスタイルで負けるかもとなって、鈴の精神は

現在荒れに荒れていた。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください鈴。

 確かに男性は、大きい方を好むと聞きますが鈴には鈴の良さが

 あるわけですし、ないものを嘆いていても始まらないのでは?」

「うぐっ……」

「でもでも!その一夏って、もう彼女さんがいるんだよね!

 じゃあ、鈴は失恋ってやつをしたの?」

「どうなのだ、鈴よ?」

「そう簡単にあきらめられたら苦労するかぁぁぁ!!!

 相手が誰であろうが、負けられるかぁ!!!」

 

どうやら、鈴も箒たち同様顔も知らぬ一夏の恋人と戦う道を

選ぶようである。

 

「そうですか。

 ならば、我らも全力でサポートするとしましょう。

 私が入手した情報を検討したところ、鈴のようなタイプは

 部活のマネージャーのようにして、攻めるのが効果的かと。

 一夏の訓練が終わったら、ドリンクやタオル等を

 持っていてどうでしょう?」

「ナイスアイディアよ、シュテル!

 早速、行ってくるわ!」

「やれやれ、落ち着きのない奴だ」

 

そう言って、鈴は通話をきり、ディアーチェはそんな鈴に対して

やれやれといった感じである。

 

「それではレヴィ、ロード。

 今後の鈴のサポートのために、共にこれを

 読みましょう」

「シュテルん、何それ?」

「これは、いつの時代でも恋に悩む少女たちの心強き味方の

 “恋愛のバイブル”です。

 これを読めば、我らでも鈴の力になれます」

「しかし、やけに多いな?」

「恋愛とは多種多様、一人一人によって違うものらしいので」

「ふ~ん?」

「なるほどな……」

 

そう言うと、彼女たちはシュテルが集めた書物を読み始めた。

恋愛のバイブル……“少女漫画”が鈴の恋の手助けになるかは

まだ誰もわからない――

更にもしも近い未来で、彼女たち三人と同じように少女漫画を

恋愛の教本としている本人非公認のあるファンクラブが

シュテルたちと知り合い同盟を組んだらどうなるかも

誰もわからない――

 

ちなみにマンションの家賃や少女漫画の購入費は、

シュテルが株取引で稼いだお金を使っていたりする。

 

 

 

 

 

 




はい、というわけでシュテルたちにも再び登場してもらいました。
電話は普通の携帯からしているので、なのはたちは気付いておりません。
書いているうちにすずかに、カズキに似たような属性が付加されてしまいましたが
何故、こうなった(汗)

ラブ アンド パージ購入しましたがおもしろいですね~

箒たちヒロインズは、一夏に恋人がいようともまだあきらめない
方向でしばらくいくつもりです。
まあ、その恋人とのイチャイチャ空間を見せられたら
あきらめるかもですがwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!一夏VS鈴


お気に入りが100件を突破しましたO(≧▽≦)O

私のような未熟者の初心者が作る作品を読んでいただき
ありがとうございまーーーす♪

これからもがんばっていくので、楽しんでいただければ幸いです♪


「はい、これ!

 タオルとスポーツドリンク!

 ドリンクは、ぬるめでよかったわよね!」

「お、おう。サンキュー……」

 

ピットに走りこんできた鈴はまくしたてるようにしゃべりかけ、

一夏はその勢いに思わず押されてしまう。

 

「はン!」

「むっ!」

 

そして、立ちすくんだ箒に鈴は勝ち誇った目を投げかけ

カチンと頭にきた箒にはそれが“やーいやーい!!残念だったわね!”

と言っているように見えたという。

 

「そ、それにしても運動の後はぬるめの方がいいなんて

 若いくせに体のことを気にするのは変わってないのね、アンタ」

「いつ、何が起こるか分からないんだ。

 体は大事にしとくに、こしたことはないさ」

「ゴホンゴホン!

 一夏、私は先に部屋にもどるから、“また後で”な」

 

仲よさげに話す鈴と一夏に聞こえるようなわざとらしいせきばらいをして箒は、

“また後で”の部分を強調してピットを後にした。

 

「……ねぇ、一夏。

 今の“また後で”ってどういうこと?」

「ん?ああ、俺と箒は同じ部屋だから、戻ったらって意味だろ?」

「お、同じ部屋!?」

「俺の入学って、特殊だから一人部屋の準備が間に合わなかった

 らしいんだよ。

 だから、部屋の都合がつくまでな。

 まっ、相手が箒で助かったよ。

 昔からの付き合いだし、変に気を使わなくていいしさ~

 って、鈴?」

「気を使わない、知り合いならいいのね……」

「うん?」

「いい、一夏!

 気を使わない幼馴染みは、一人じゃないんだからね!」

 

そう言い残し、鈴はピットから走り去った。

一人残された一夏は、呆然とするしかなかった。

 

「何だったんだ、一体?」

『さぁな。

 だが一つ言えるのは、お前の唐変朴でまた嵐が起きるということだ』

「なんだよ、それは……」

 

一夏だけでなく、世の男性が解読に頭をすこぶる悩ます乙女心に

頭をかしげるばかりである。

 

 

 

「――というわけだから、部屋代わって♪」

 

時刻は八時過ぎ、夕食を食べ終わり学生の貴重なくつろぎタイムに

鈴は一夏と箒の部屋、1025室にボストンバッグを引っ提げて突撃してきた。

 

「ふざけるなっ!なぜ、私が代わらなければならないっ!」

「いやぁ~、篠ノ之さんも男と同室だと気が休まらないでしょう?

 その点、あたしは幼馴染みだから大丈夫だし代わってあげようかなって♪」

「誰が、そんなことを言った!

 そもそも、これは私と一夏の問題だ。

 部外者のお前には、関係ないだろ!」

「大丈夫大丈夫♪私も幼馴染みだから」

「だから、何だと言うのだ!」

『(おい、どうするんだコレ?)』

「(俺にどうしろと?)」

 

ゲキリュウケンと一夏は、互いに意見を曲げようとしない二人の少女の

言い争いに途方にくれていた。

箒と鈴。

互いに、悪い人間ではないのだが決定的に相性が悪かった。

鈴は我が道を行く性格で、箒は人一倍頑固なところがあるため

話はずっと平行線のままである。

 

「くっ!一夏からもなんとか言ってくれ!」

 

強敵ぞろいのライバルに対して同室というアドバンテージを

失うわけにはいかないと、箒は一夏に助けを求めた。

 

「なんとかって、言われてもなぁ~。

 カズキさん、なんとかなりません?」

「う~ん、そうだね……」

「ひゃっ!?」

「なっ!?」

「うわっ!?本当にいた!?」

『(まあ、カズキだからな)』

 

一夏が何気なしに、箒と同じようにカズキに助けを求めたら

ドアをガチャリと開けてカズキが部屋に入ってきたので

三人とも飛び上がるぐらい驚いた。

 

「ははは♪

 おもしろいことが起きるにおいをかぎつけてね~♪」

「何ですか、おもしろいことが起きるにおいって……」

「ひ、ひぃぃぃ!!!!!」

「ま、それよりも鈴?

 部屋を代わるって、話だけど今変わっても無駄だよ?」

「へっ?」

「後一カ月ぐらいしたら、部屋の調整がついて一夏は

 一人部屋になるから、もし今変わってもその時強制に

 鈴も移動だよ?」

「なっ!?」

「そ、それは本当ですか碓氷先生!」

 

カズキからの思わぬ事実発覚に鈴だけでなく、箒も驚く。

 

「まあ、年頃の男女が一緒の部屋で生活するってのも

 何かとおもしろいんだけど一夏には彼女もいるしね~」

「あんたって人は……

 あっ!そうだ、鈴。

 お前そもそも、寮長の千冬姉に許可とったのか?」

「ち、千冬さんが寮長なの!?

 そんなの絶対許してくれないじゃない!」

「いろんな書類と格闘している千冬ちゃんに、何も知らない

 鈴ちゃんを突撃させるのもおもしろそうなんだけどねぇ~」

「こ、こいつは~

 ぐっ!き、今日のところは帰るけど

 これで終わったと思わないでよね、一夏!」

 

これ以上いたら、どんな風に遊ばれるかわからないと鈴は逃げるように

立ち去っていった。

 

「あ、あの碓氷先生。

 一夏が一人部屋になるというのは……」

「そうだね、大体6月ごろを目安に調整しているところだよ。

 (このまま、何事も起きなければ……ね?)」

「そ、そうですか……?」

 

箒は、自分のアドバンテージのタイムリミットに焦りを覚えるのであった。

 

翌日、生徒玄関前廊下にクラス対抗戦の日程表が

張り出された。

一組の最初の相手は二組。

何の因果か、鈴との対戦であった――

 

後日、何かと話題である一夏とその幼馴染みということで

例年以上に観客席の争奪は激しく、それを“指定席”として

売りさばいて一儲けしようとした二年生が、千冬に魔王様式の

O・HA・NA・SIを受けて部屋に引きこもったのは完全な余談である。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

鈴の部屋代わり騒動から数週間たった5月の中頃。

一夏は、対抗戦に向けての仕上げを行っていた。

もっとも、特にこれといった変わったことはしていない。

というよりできないのだ。

 

ISには機体ごとに専用装備、“初期装備(プリセット)”を持っている。

セシリアのブルー・ティアーズで言うと、ビットのブルー・ティアーズ

が該当する。

そして、戦術の幅を増やすために“後付装備(イコライザ)”というもの

が存在する。

この後付装備を使用するには、“拡張領域(パススロット)”がなければ

ならないのだが、通常のISには最低でも二つは装備できる拡張領域が

白式にはないのだ。

付け加えて、初期装備の変更はできないので、一夏は近接ブレード一本で

戦っていかなければならないのだ。

 

「(クラス対抗戦はいいけど、あのヒョウみたいな怪人から

 奴らの動きがないけど、どうなっているんだ?)」

『(他のところでも、動きは確認されていないようだが

 もしも動くとしたら……)』

「『(クラス対抗戦!)』」

 

セシリアを襲ったヒョウに似た怪人以降、動きが見られない

創生種に対して、まもなく行われるクラス対抗戦に何か仕掛けてくるかも

しれないと、一夏とゲキリュウケンは読んでいた。

もしも、試合中に現れて選手を痛めつけるだけでも、観客には

不安や恐怖を与えることができて、大量のマイナスエネルギーが手に入るからだ。

 

『(更に、俺たちが無用な混乱を避けるために人前には極力姿は現さない

 ようにしていると踏んでいれば尚のこと……だが!)』

「(そうなったら、俺はカズキさんやお前が止めようが

 千冬姉にばれようが、変身するぜ相棒?)」

『(止めても、無駄なのは分かりきっているからな、

 そうなったらお前の好きにしろ)』

「(サンキュー♪

 でも、カズキさんも何か対策を立てているみたいだし

 変に気を張りすぎず、油断しすぎずいこう!)」

「待ってたわよ、一夏!」

 

クラス対抗戦で創生種が何か仕掛けてくるかもしれないと

ゲキリュウケンと共に気合いを入れなおす一夏の前に鈴が現れた。

 

「どうしたんだ、鈴?

 何か用か?」

「ええ、そうよ。

 今度の対抗戦が終わったら、体育館の裏に来なさい!」

「はっ?」

「いい、わかった!」

 

そう言い終わると、鈴はその場を後にした。

 

「(なあ、ゲキリュウケン。

 体育館の裏って……決闘でもする気なのか、あいつ?)」

『(お前と言う奴は……)』

 

一夏のあまりにも的外れな予想に呆れるゲキリュウケンだったが、

どういう運命の悪戯か、今回は一夏の予想が当たっていたりしたのだ――

 

 

 

「(見てなさいよ、一夏!

 今のあたしなら、リュウケンドーのアンタに力を

 かせれるってところを見せてあげるわ!)」

 

一夏のように、鈴もまた気合いを入れなおして廊下をズンズン歩いていたが、

それを見つめる人物がいたことには気付かなかった。

 

「話には聞いてたけど、変わってないなあいつは」

「お~い、次のとこいくぞ~」

「ああ、今行く!」

 

帽子を深くかぶり、上下青のジャージを着ている赤い髪の清掃員は

相方に呼ばれてそこから移動した。

その右腰には、龍の顔がついた何かがついていた――

 

「そう、もしもの時はそういう風にお願いします。

 はい……、はい。

 それでは……、ふう~。

 さてと!これからた~~~っぷりと働いてもらうから

 へまをするなよ?ハチ」

「わかりやした、カズキの旦那……」

 

どこかに電話をかけていたカズキは、それをきると“いい”笑顔を

そばにいたハチに向けた。

 

 

 

「さてと、これで終わりか?リイン」

「はい、これで設置作業終了です!」

「はやてちゃ~ん」

「サーチャーの設置、こっちは終わったよ。

 そっちは?」

「こっちも今終わったとこや」

「でも、思った以上に時間かかっちゃったね……」

「そうだね、フェイトちゃん。

 見回りをする碓氷先生や織斑先生の目をかいくぐってだからね、

 仕方ないよ」

 

なのは達三人は、学園で何か起こった時、映像を記録できるよう

魔力を検知したら起動する探査機、サーチャを学園のあちこちに

設置し、学園全部をカバーできる数を今設置し終わったのだ。

入学から一カ月以上も時間がかかったのは、設置しようとした

位置にちょくちょく見回りの先生、特に彼女たちが警戒している、

カズキや千冬が狙ったようにやってきたため、

なかなか進めることができなかったのだ。

 

「これで、やっと調査ができるような環境に

 なったわけやけど、あくまで私ら魔導士にとっての

 調査環境や。

 目の前で、消えた魔力残滓のこともあるから

 これでうまくいくかは、正直わからん……」

「でも、今できることをやっていくしかないよ」

「そうだね。

 気を取り直して、一夏くんが優勝した時のために

 デザート何食べるか、考えよ♪」

「それは、ちょっと気が早いんじゃないかな、なのは?」

 

気の早いなのはに苦笑しながら、三人はその場を後にした。

 

そして、様々な思惑が混じり合うクラス対抗戦(リーグマッチ)が

始まる――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

クラス対抗戦、第一試合。

アリーナは全席満員となっており、立って見ようとするものまで

いるほどこの試合の注目度は高かった。アリーナに入ることが

できなかったものは、リアルタイムモニターで鑑賞を行っている。

 

そんなことは関係ないのか一夏と鈴はそれぞれの専用機、『白式』と

『甲龍(シェンロン)』を展開し、静かに試合開始の時を待っていた。

 

「(シェンロン……龍か、ゲキリュウケン。

 お前の親戚?)」

『(なわけあるか。

 それにしても、あの肩の横に浮いたものは……)』

「(なんか、中国に丸っこいものに取っ手を付けたような

 武器があったけ?そんな風に、変形するのか?

 でも、シェンロン……集めたら願いを叶えてくれる

 龍が頭に浮かぶなぁ~

 よし、俺はあれを“こうりゅう”と呼ぶことにしよう)」

『(で、こんな無駄話をしていていいのか?)』

「一夏、頼めば手加減ぐらいしてあげるけど?」

 

一夏とゲキリュウケンが、のほほんと試合とは関係のないことを

しゃべっていると鈴が話しかけてきた。

 

「手加減って、雀の涙レベルだろ?いらねぇよ」

「一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。

 シールドエネルギーを突破できれば、本体にダメージを

 与えられるんだから!」

 

そう、世の中に完璧な存在などないように、ISには男は乗れないことの他にも

欠点がある。操縦者にダメージを与えて、“殺さないようにいたぶる”ことは

できるのだ。

 

しかし、そんなことで怯む一夏ではない。

相棒のゲキリュウケンや背中を預けられる仲間と共に、そんな痛みや危機を

何度も乗り越えてきたのだ。

こんなことで立ち止まる理由などなかった。

 

『両者、規定の位置についてください』

 

アナウンスに促されて、一夏は雪片弐型を鈴は青竜刀のような巨大な刃を

つけた双天牙月(そうてんがげつ)を構える。

 

『試合……開始!』

 

試合開始のブザーが鳴り響くと同時に、両者共に真っ直ぐに

相手へと飛翔し得物をぶつける。

そして……、一夏がはじき返された。

 

「くっ!」

「初撃を防ぐなんてやるじゃない!

 なら――これはどう!!!」

 

鈴は双天牙月をもう一本取り出し新体操のバトンを回すかの如く操り、

縦横斜めと一夏に斬りかかり、押していく。

 

「ほらほら、どうしたの!?

 手も足も出せずに終わりなの!!!」

「……」

 

攻められる一夏は、鈴の猛攻や挑発に何も返すことなく、

ただ静かにそれを目を鋭くしながら、さばくだけだった――

 

 

 

「一夏くん、押されてるね」

「ああもう!何やってるのよ、あいつ!」

 

観客席にいたすずかとアリサは、一夏の苦戦をハラハラしながら

見ていた。

 

「違うよ、二人とも」

「違うって、何がよフェイト」

「よく見てみぃ、一夏くん押されてるように見えて

 まだ一発も鈴ちゃんの攻撃を受けていないで?」

「そういえば……」

 

そう、一夏は押されてはいるが鈴の攻撃を全てさばいているのだ。

 

「多分だけど、一夏くんは鈴ちゃんの攻撃のくせとかを

 見抜こうとしてるんじゃないかな?

 特訓は続けてきたけど、やっぱりISの操縦技術は

 鈴ちゃんの方が上みたいだし……」

 

なのはの観察眼に舌を巻くすずかとアリサであった。

 

 

 

「少しは反撃してみたら!

 (こっちの攻撃が全然当たんない!

 まるで、雲を攻撃しているみたいだわ!)」

 

傍目には鈴が押しているように見えるが、なのはたちの言ったことを

最も肌で感じているのは、対戦している鈴自身であった。

いくら、攻撃してもまるでダメージを与えている手ごたえを感じない

ことに焦りを募らせていく。

 

「(パワーやISの操作技術は、明らかに鈴が上だ……!

 でも、太刀筋は見切ったし、焦り始めているな。

 反撃するなら……ここだ!)

 うおりぃぃぃゃあああ!!!」

 

鈴の焦りを見抜き、一夏に攻勢に出た。

迫る双天牙月を雪片で受け止めるのではなく、その勢いを

受け流すようにすることで、鈴の態勢を一瞬崩しその隙を逃さず

一夏は鈴を蹴り飛ばした。

 

「くっ!」

「うおぉぉぉ!!!」

 

一夏の思わぬ動きと予想外の体術による攻撃を受けた鈴だが、

素早く態勢を立て直して、追撃に備えようとするが一歩遅かった。

パワーでは負けていても、機動性やスピードは白式の方に分があり

鈴が立て直すより一歩早く、一夏は攻撃を仕掛けられる距離まで

迫っていた。

 

「このぉ!これでも、喰らえ!」

「っ!」

 

甲龍の肩アーマーがスライドした瞬間、一夏の脳裏に嫌な予感が

駆け巡り、何かを避けるように動いた。

直後、一夏が避けた先で何かが地面をえぐった。

 

「なんだ、今のは!?」

「なっ!

 龍哮(りゅうほう)を避けた!?

 なら、連射はどう!!!」

「くっ!」

 

鈴の“見えない”攻撃に、一夏は受け流すのではなく回避に全力を注いだ。

 

 

 

「なにが起きているんだ……?」

 

管制室にいた箒は鈴が何をしているのか分からず、呆けた声を

出してしまう。

 

「あれは『衝撃砲』……」

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成して、

 余剰で生まれる衝撃をそのまま砲弾として打ち出す……」

「わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器

 ですわね」

「しかも砲身斜角に、ほぼ制限がないみたいだから死角と

 呼べるものが存在しない。

 その上、鈴ちゃん自身基礎をしっかりと身につけているわ」

 

箒の問いに代表候補である簪、シャルロット、セシリアが鈴の使う

武器を解説しそれに付け加えるように楯無が、鈴への評価を述べた。

 

「相手が射撃攻撃をするなら、一夏もあの飛ぶ斬撃を使えば!」

「無理よ」

 

一夏の厳しい戦況に、箒がならばと打開策を提案するが楯無に却下された。

 

「な、なぜですか!?」

「前に一夏くんも言っていたけど、あの技は溜めが必要なのよ。

 でも、鈴ちゃんの衝撃砲の発射速度はその溜めより短いから

 構えて動きを止めたら一夏くんは、恰好の的になるわ。

 セシリアちゃんの時は、虚をついた形で放ったけど

 鈴ちゃんは、一夏くんをなめていないみたいだから

 普通にやったら、当てるのはまず無理ね」

「そんな……」

 

楯無の厳しい分析に、箒は何も言えなくなり視線をモニターに移す。

そこには、龍哮をかろうじてかわしている一夏の姿があった。

 

「織斑くん、押されてますね……」

「思ったより、やりますね凰鈴音……!」

「鈴ちゃんは、一夏との付き合いもそれなりにあるから、

 ある程度は一夏の動きも分かるんだろうね~

 (それにしても、動きがしっかりしているな。

 余程いい教官がいたようだね~)」

「お前ら、するなとは言わんがあまり贔屓するような発言はつつしめ。

 それと、メイザース。凰はお前のクラスだろが」

 

箒たちと同じように、試合を見ていたエレンに真耶、カズキが

一夏よりの発現をしたため千冬はそれをたしなめた。

特に、エレンは自分のクラスの代表が優勢なのに厳しい顔をしているのは

いいのだろうか。

 

「千冬こそ、自分の弟が劣勢なのにかまわないんですか?」

「教師は、贔屓せず対等に生徒に接さなければならん。

 弟が負けそうだからと言って、いちいち騒いだりするものか。

 とりあえず、コーヒーでも飲んで落ち着け」

 

そう言うと、千冬はコーヒーを入れ始めた。

 

「その割には、千冬ちゃんも一夏が負けそうで心配なんじゃな~い?

 今コーヒーに入れてるのは、なん~~~だ?」

「何って、砂糖を……」

 

そこで、千冬は動きを止めた。

自分が持っているスプーンは、砂糖と書かれた容器ではなく

塩と書かれた容器に入っている粉末を掬っていたのだ。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

「ぷっ!くくく……」

 

箒たちは千冬の姿を何とも言えない目で見て、カズキは腹を抱えて笑いを堪えていた。

 

「……、何故こんなところに塩が?」

「さ、さあ……?

 でもあの、なんか砂糖の文字より大きく塩って書いてありますけど……

 あっ!やっぱり、何だかんだ言って弟さんのことが心配なんですね♪

 だからそんなミスを――」

 

一度出した言葉は、消すことができない。

真耶は千冬がやけに静かなのを見て、まずいと察するが

千冬はにっこりと真耶に笑いかけてきた。

 

「山田先生は、コーヒーは甘いのが好きでしたよね?

 どうぞ……」

 

塩が入った容器を傾けてドバドバと塩をコーヒーに注ぎ、それを

真耶に勧めてきた。

 

「へ?い、いやそれ塩!塩がたくさん入って、えええ!?」

「どうぞ……

 熱いので一気に飲むといい」

「だ、だから塩があああ!」

「どうぞ……」

 

何か言ったら、自分も巻き込まれると他のものは目を逸らしているので

真耶に逃げ場などなかった。

 

「ゲホァ!」

「くくくくく……」

 

塩入りコーヒーを飲まされた真耶を見て、更に笑いを堪えているカズキから

“ああ、コイツが仕掛けたな……”

と箒たちは悟った。

 

 

 

管制室でそんなやりとりがされているとは知らず、一夏は必死に

見えざる攻撃の攻略を模索していた。

 

「(セシリアと同じように、鈴の視線から大体の狙いたい箇所

 はわかるけど、このままじゃジリ貧だ。

 何とかして、先手をとらないとこのままじゃ押し切られる!)」

「見えないのに、何でちょこまかちょこまか避けられるのよ!」

「(見えない?そうだ!一か八か……!)」

 

この状況を打開する策を思いついたのか、一夏はワザと隙を作り

鈴の攻撃を誘った。

 

「隙ありっ!

 ……って、えええ!?」

 

必中を確信した鈴だったが、一夏がとった行動を見て驚き固まってしまう。

それは、観客も同じだった。

一夏は龍哮の砲弾をまるで、見えているかのように斬り裂いたのだ。

目をつぶりながら――。

 

「はぁぁぁ!!!?

 り、龍哮の砲弾を斬った!?マ、マグレよマグレ!」

 

信じられない光景に、目を見ていた者全員が目を疑うが一夏は尚も

自分に迫る龍哮の砲弾を目をつぶりながら、斬り裂いていく――

 

「そろそろ、決めるぜ?鈴!」

 

 

 

「なるほど~

 お前はそう来るわけね~♪」

「あの、碓氷先生?

 一夏くんは、何をしたんですか?」

 

管制室でも、一夏の行動にみなが口をあんぐりして驚く中

カズキだけはおもしろそうに笑っていた。

いち早く驚きから回復した楯無が、一夏がやった龍哮の攻略法に

ついて聞いてきた。

 

「あいつは、見えない攻撃を目じゃなくて別のもので見ることに

 したんだよ」

「目じゃない別のもので見るって……」

「よく意味が分からないのですが……?」

「人間は外部からの情報の7割ほどを、視覚から得ている。

 じゃあ、もしもその視覚を封じたら他の感覚はどうなると思う?」

「どうなるって……」

「封じられた視覚を補おうとして、鋭くなりますね」

「そう。

 視覚に回していた分の力と補おうとする分を合わせて

 聴覚はより小さく遠い音も聞こえ、

 嗅覚はかすかなにおい、空気が焦げるようなにおいも嗅ぎわけ、

 肌は空気の流れを感じるようになる」

 

カズキの説明に、彼女たちは言葉を失っていった。

確かに理屈でいけば、そうかもしれないがそんな簡単に実行に

移すことができるものなのか。

 

「一夏は今、龍哮が撃たれる際の発射音、空気の流れや砲弾が

 通ることによる空気がこげるにおいとか、目を開いていちゃ

 見ることも感じることも難しいものを、“目”以外で見ることで

 戦っているんだよ。

 

 ISのハイパーセンサーなら、

 それを見ることは朝飯前なんだろうけど一夏はまだ完全に

 使いこなすことはできない。

 だから――」

「まだ信頼できる自分の感覚で戦うために、目を閉じたのだろ?」

「さっすが、千冬ちゃん♪

 一夏のことよ~くわかっていらっしゃるぅ♪」

「うるさい……」

「それに一夏は空間認識能力も鍛えているから、

 目をつぶっていても、いやつぶっているからこそ

 相手の位置がわかるからね」

「空間認識能力って、ものを立体的にとらえるあの……?」

「そう、それ。

 空中だと、自分や相手の位置を把握する上で重要な力さ。

 お手玉とか絵柄の書いていないパズルなんかが、鍛えるのに

 いいんだよね~」

「だから、一夏はセシリアと戦う前に……」

「おっ!どうやら、決めるみたいだね~」

 

 

 

一夏が見せた思わぬ龍哮破りに、未だに鈴が混乱から抜けきれないことを

感じた一夏は一つの切り札<カード>をきった。

 

『瞬間加速(イグニッション・ブースト)』、外部からエネルギーを

取り込み一瞬でトップスピードまで加速する技法である。

間合いが重要な近接タイプには、役立つ技法だと千冬に叩きこまれたのだ。

その傍らで、カズキがおもしろそうに見ていたのは

今はどうでもいいことである。

 

「うおおお!!!」

「っ!?」

 

瞬時に自分との間合いを詰める一夏に対し、回避は不可能と判断した

鈴はとっさに腕を交差して防御の姿勢をとった。

 

ドガアアアァァァァァンンンンンッッッ!!!!!!!!!!

 

一夏の攻撃が鈴に当たろうとした瞬間、アリーナ全体に衝撃が走り

ステージ中央から土煙が上がった。

同時に、緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。

 

「なんだ!?」

 

一夏は土煙が上がっている中心を油断なく見据えて、何が起きても

対応できるよう雪片を中段に構える。

アリーナにはISの攻撃が観客席に、届かないよう遮断シールドという

ものが張られている。

ISの武器でも破ることが困難なシールドを破って“何か”が、

侵入してきたことから一夏は警戒度を最大限に上げていた。

 

『一夏、試合は中止よ!すぐにピットに……』

 

鈴からの個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)が飛ぶやいなや

白式のハイパーセンサーが緊急通告を行う。

 

――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

「あぶねぇっ!?」

 

同時に一夏はその場から鈴の元へと飛び彼女を抱き抱えて

上昇すると、先程まで一夏と鈴がいたそれぞれの場所を

熱線が通り過ぎた。

 

「喰らったら、火傷で済みそうにないな……」

「ちょっ、ちょっと、馬鹿!何してるのよ、離しなさいよ!

「馬鹿はお前だ!こんな時にって

 お、おい、コラ!暴れるなって!」

「もう、バカバカバカバカバカァ!」

 

一夏は鈴を横抱き、つまり女の子の永遠の憧れの一つお姫様だっこを

している。思わぬ形で想いを寄せている男に、そんなことをされたら

恥ずかしがるのも無理はない。

 

その光景を見ていた管制室で、氷河期が訪れていることを

一夏は知らない――

 

「落ち着けって!

 お客さんが姿を見せるぞ!」

 

一夏がそう言うと、先程の熱線で土煙が晴れていき

乱入してきたものの姿が現れてきた。

 

ISに関して素人である一夏からしてもその侵入者の姿は、

『異様』だった。

手は異常に長く、地面にまでついており、肩には甲龍の龍哮に

似た砲門が付いてた。

そして全身の至るところには、姿勢制御のためと思われるスラスター

がついており何よりも目につくのは

『全身装甲(フル・スキン)』であることだ。

ISの防御はほとんどが、シールドエネルギーによって行われるため

装甲と言うのは部分的にしか存在しないのだが、この侵入者は

全身が装甲で覆われているのだ。

 

「お前は何者だ……」

「…………」

 

一夏はいつもより声を低くして侵入者に問いかけるが、

反応はなかった。

 

『織斑くん!凰さん!

 今すぐアリーナから脱出を……』

「っ!」

 

真耶からの通信が入るが、一夏はそれを無視して鈴を抱えていた腕を

離すと侵入者へと斬りかかった。

 

『織斑くんっ!』

「一夏っ!」

 

ガギィーーーン!!!

 

一夏が振り下ろした雪片は、容易く侵入者に腕でガードされてしまう。

 

「おりゃあ!」

 

だが、一夏は防がれることをわかっていたのか、侵入者に両足で蹴りを

入れその反動を利用して距離をとり、侵入者の上空周りを旋回し始める。

 

侵入者は頭部についていたセンサーレンズを不気味に動かして

一夏に狙いをつけて、ビームによる攻撃を仕掛ける。

 

「ちっ!やっぱりか!」

「何してんのよ、一夏!」

 

龍哮で牽制しながら、鈴は一夏の元にかけつけた。

 

「あんなのあたしたちが、やらなくても学園の先生たちが

 対処してくれるのに、何で倒そうとしてんのよ!」

 『凰さんの言うとおりです!

 すぐに、教員部隊を向かわせますから無茶しないでください!』

「いや、そういうわけにはいかないみたいです。

 アイツ最初に、俺や鈴に向かって攻撃してきました。

 今も観客席には攻撃せず、俺に向かって攻撃してきている。

 となると奴の狙いは俺か鈴の可能性が高い。

 もしもここから避難したら、最悪……」

「観客に向かって攻撃する……」

「しかも、観客席を守るためのシャッターも下りていない上に

 避難もできていないようですし、ここは俺と鈴で

 何とかしますから先生たちはみんなの避難をお願いします!」

『ダ、ダメです!生徒にそんな危ないことをさせられません!』

「鈴はどうする?

 俺がやるから、お前は別に山田先生の言うように、避難してもいいんだぜ?」

「バカ、言ってんじゃないわよ!

 あんた一人置いて尻尾巻いて逃げろって言うの!

 あたしだってやってやるわよ!」

「決まりだな。

 じゃあ、先生。そういうわけなので、よろしく!

 通信、終わり!」

『ちょっ!織斑くん!』

「それじゃ、行くぜ鈴!」

「ええ。足引っ張るんじゃないわよ!」

 

一夏は通信を切ると、鈴と共に謎の侵入者へと向かっていった――

 

 

 

「くくく、さぁ~て?どうなりますかね~?」

 

 

 

 

 




今回は、前からやりたかった目をつぶって見えない龍哮を斬る
というのを一夏にやってもらいました~

活動報告でちょっとしたお知らせがあるので、よかったらそちらも見てください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙からの使者(笑)と赤き銃士


今回からやっと多重クロスオーバーらしいことができます(苦笑)
タイトルからも分かるように皆さん待ちに待った彼。
ゲキリュウケンと同じくリュウケンドーの相棒の赤い彼が出てきます♪
そして、一夏の仲間も登場!
ある作品からなんですが、正直ファンの方や知っている人達からの
反応が心配なんですよね(汗)

そして、宇宙からの使者(笑)とは何を意味するのか!

次話は、この後すぐ投稿します。


「織斑くん!凰さん!だめです!二人とも通信を切っています!」

「ちっ!勝手なことを……!」

「でも、あながち間違いじゃないんだよね~」

 

こちらの指示を無視して行動を起こした、一夏と鈴に舌打ちをする千冬

だったが、いつの間にか端末を操作していたカズキに目を移す。

 

「ほら、これ見て」

「遮断シールドがレベル最大……、しかもアリーナへの扉が全てロック……、

 あのISの仕業!?」

「これじゃ避難も救援もっ!」

 

カズキが端末の画面に、アリーナの状態を表示するとそれを見た

簪と真耶は驚愕する。

 

「で、でしたら政府に救援を!」

「もう、やっています。

 現在も三年の精鋭がシステムをクラック中ですが、まだ時間が

 かかります。

 解除次第、すぐにアリーナに突入します」

「先生、僕たちにISの使用許可を!」

「だめよ、シャルロットちゃん」

 

エレンの言葉に、一緒に突入しようとするシャルロットを楯無が止めた。

 

「確かに、一夏くんと鈴ちゃんの救援も大事だけど、今一番優先しなきゃ

 いけないのは、一般生徒の避難よ。

 二人とも、相手のビーム兵器を撃たせないようにできるだけ、

 接近戦で戦っているけどそれもいつまで持つかわからない。

 

 ――織斑先生、避難誘導に向かいますから障壁等を破壊しても

 よろしいでしょうか?」

「かまわん。

 避難のために必要なら、いくらでも破壊しろ。

 生徒の安全と違って、壁などいくらでも修理できるからな……」

 

普段のカズキと痴話喧嘩してたり、一夏をからかうような飄々な態度ではなく

真剣な千冬や楯無の表情を見て、改めて事態の重さを認識する箒たちだった。

 

「じゃあ、まず楯無、セシリア、シャルロットの三人は

 観客席に閉じ込められた観客の避難。

 ドアだろうが壁だろうがブチ壊して、一刻も早くアリーナから

 逃がすんだ。

 メイザース先生は、突入部隊の指揮を。

 織斑先生と山田先生は、ここで侵入者の解析と一夏、鈴のサポートを。

 箒は山田先生の手伝いを頼む」

「碓氷先生、私は?」

 

すごく自然な感じで、それぞれに指示を出したカズキに自分だけ

呼ばれなかった簪はおずおずと聞いてきた。

 

「簪は、俺と一緒に三年のシステムクラックに加勢だ。

 それをクリアできれば他がスムーズにいくから、

 人手は一人でも多い方がいいからね」

「一夏さん、待っていて下さい。

 避難誘導を終えたらすぐに、このセシリア・オルコットが

 助けに参りますわ」

「いや、更識姉以外は突入部隊には参加させん」

 

セシリアと同じことを考えていたのか、シャルロットや簪も

突然の千冬の言葉に、驚く。

 

「ど、どうして……!」

「連携訓練をしていないものがいても、ただの足手まといに

 なるだけだ」

「で、ですが!」

「一夏の訓練での連携攻撃はうまくかみ合っていたことは聞いているが、

 教師陣ともうまくいくとは限らん。

 更識姉は何度か、今回のような緊急時を

 想定した教師陣との訓練はしているが、お前たちは?

 大体、突入した時の自分の役割は?

 どの武器をどう使う?味方の構成は?敵はどのレベルを想定してある?

 連続稼働時間は――」

「わ、わかりました!もう結構ですから!」

「ごめんね、セリシアちゃん。気持ちはわかるけど、今回はこらえて」

「くそっ!私たちは見ていることしか、できないのかっ!」

 

その場にいたもの達の思いを代弁するかのように、箒は悔しそうに

一夏が戦う姿を映すモニターをにらみつけた。

 

「心配は無用さ。あいつはそう簡単にやられはしない……。

 なんたって千冬ちゃんの弟で、俺の弟子なんだからね♪」

 

そう言って、カズキは簪と共に管制室を後にした――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「きゃあああぁぁぁ!!!」

「なんなのよ、アレ!」

「なんで、ドアが開かないの!?」

 

一方、観客席はパニックに陥っていた。

いくら、ISが昨今の常識を超えた発明であっても、自分たちはそれを

持たないただの高校生。

ひょっとしたら、命を失うかもという恐怖が彼女たちから

冷静さを奪っていた。

 

「みんな、落ち着いて!!!」

「こういうときに、一番怖いのはパニックになることだよ!」

「ちょ~お、どいてな?

 ドアにハッキングして、開けれるかやってみるわ

 (リイン、できるか?)」

「(まかせてくださいですぅ~!)」

 

そんな中で、なのは達は慌てず観客を落ち着かせて避難誘導をしていた。

彼女たちは災害時に救援要請を受けることもあるので、こういった

非常事態でもやるべきことをわかっているのだ。

 

「(本当なら、この壁を壊すのが一番早いんだけど……)」

「(みんなの前で魔法を使うわけにはいかないから、

 ここは我慢して、なのは……!)」

「(こういう時にこそ、私らの力はあるのに……!)」

 

自分たちの力を使えば、みんなを助けられるのに使えないことを

歯がゆく思うなのはたちであった。

 

 

 

「おおおりゃぁ!」

「はぁぁぁっ!」

 

一夏と鈴が左右から、斬り込むも敵ISは両腕を使って

その攻撃をやすやすと防ぎ、スラスターを用いて体をコマのように回して

二人を弾き飛ばす。

 

「おわっ!?」

「っ!こんのぉ!」

 

二人とも素早く立て直して、鈴はオマケとばかりに立て直しながらも

龍哮を連射するものの、敵ISはその見えざる攻撃をスケートを

滑るかのようにジグザグに動いて、全てかわしてみせ、二人から

距離をとった。

 

「させるかよっ!」

 

距離をとられたら、ビームが飛んでくるかもと一夏は

イグニッション・ブーストを使って距離を詰め、近接戦闘に持ち込む。

 

「はっ!」

 

一夏が右切り上げで斬りかかるも、侵入者は後退して回避する。

 

「どいて、一夏!」

 

鈴の言葉を聞くや否や、右へ横っ跳びしそこを龍哮が通り過ぎる。

だが、侵入者はそれを体を再びコマのように回すことで防ぎ、おまけとばかりに

ビームを乱射する。

幸い、回りながら連射するためか威力は低く遮断シールドに

当たってもはじかれている。

 

「ああもうっ!なんなのよ、コイツは!」

「鈴、エネルギーはどれくらい残っている?」

 

どんなにフェイントをかけて、接近しても容易くこちらの攻撃を

防ぐか弾くかして距離をとられることの繰り返しに、鈴は

地団駄を踏む勢いで悔しがる。

そんな、鈴をなだめることも含めて一夏は敵ISを見据えながら

落ち着いた声で問い掛けた。

 

「残り230ってとこね。アンタは?」

「150を切ったところだ。

 ここらで、相手にダメージを与えないとマズイな……

 (ゲキリュウケンどう思う、アイツ?)」

『(お前が考えていることは、ほぼ間違いないだろう……)』

「今の火力でアイツのシールドを突破して機能停止に

 追い込められる勝率は、一ケタあったらいい方じゃない?

 厳しいわね……」

「十分さ、勝率なんてゼロじゃなきゃそれでいいさ」

「……アンタってさ、よくジジくさく健康第一って

 現実的なことを言うけどさ、ホントは宝くじとかに夢を

 求めるタイプよね」

「男は夢を追いかけてなんぼなんだよ。

 お前は勝率が低いからって勝負どころから逃げるのか?

 別に止めないけど」

「寝ぼけたこと言わないで!あたしは代表候補生なのよ!

 こういう時に、体張ってなんぼでしょうが!」

「じゃあ今、お前の背中は俺が守ってやるよ」

「うぇっ?あ。う、うん……」

『……』

 

鈴が一夏の言葉に赤くなりゲキリュウケンがジト目をすると、

侵入者がビームを撃ち彼女の横をかすめた。

 

「ところでさ、鈴。

 代表候補生のお前から見て奴をどう思う?」

「はぁ?どうって……」

「なんかあいつ機械じみているっていうか、ロボットっていうかさ。

 ……アレ、ホントに人が乗っているのか?」

「は?人が乗らなきゃISが動くわけ……

 そういえばアレ、あたしたちがこうして会話してても

 あまり攻撃してこないわね。

 それに今までの動きも……」

「ああ、どこかパターンじみている。

 しかも人間のような、不自然な呼吸を感じさせない

 規則正しいリズムで動いていやがる」

「でも、ありえない。無人機なんて……」

「男がISを動かすって、ありえない実例がお前の目の前にあるんだぜ?

 無人機をどこかの国や研究所が、完成させていてもおかしくはない」

 

一夏の言葉に敵ISの正体がうっすらとだが、見えてきた。

 

「それで?あれが無人機ならどうだって言うのよ?」

「簡単なことさ。

 人が載っていないなら、“全力”で攻撃できる」

 

そう言いながら一夏は雪片弐型を握りしめ、千冬が

イグニッション・ブーストを教えた時のことを思い返す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「一夏、『バリアー無効化攻撃』について

 改めて詳しく教えておく。

 <雪片>の特殊能力だが、これは相手のバリアー残量に関係なく

 それを斬り裂き、本体に直接ダメージを与えられる。

 そうすると、どうなる?」

「え~っと、相手の絶対防御が無理やりに発動させられるから、

 大きくシールドエネルギーを削れる?」

「そうだ。私がモンド・グロッソの大会を勝ち抜けたのも

 この力によるところが大きい」

 

さらりと言うが、つまり千冬は刀一本で

世界の頂点に立ったということである。

 

「そして、この能力は自分のシールドエネルギーを使って

 発動する……、つまり欠陥機だ」

「欠陥機っ!?」

「いや、ISはそもそも完成していないから欠陥も何もない。

 『白式』は、他の機体より攻撃特化ということだ。

 私が使っていた『暮桜』のように、拡張領域も埋まっていないか?」

「そうだよ。だから、他の武器を装備できないって……」

「本来、他の武器を使うのに空いている処理を全て

 使っているからこそ<雪片>の攻撃力は、全ISでもトップレベルなのさ」

 

千冬の話を聞いて、改めて一夏は自分の目標のデカさを認識した。

仮にリュウケンドーに変身してゲキリュウケンと共に、闘えば千冬にも

勝てるかもしれないが、今の自分が白式を駆って千冬と同じように

世界一になることなどできないだろう。

 

「でもなぁ~。

 センスないのは分かりきっているけどせめて、一丁ぐらい銃とか在っても……」

「お前も言っていただろうが?

 射撃には3ステップ必要だと。

 それ以外にも弾道予測や反動制御、環境の影響など……、

 戦闘中にも思考しなければならないことが山のようにあるが、

 お前にできるのか?」

「ははは……無理です」

 

射撃に必要なことを述べられて、一夏はガクリと肩を落とした。

 

「わかればいいさ……」

「(そう言えば、“あいつ”はそういうことどうしてんだ?

 ――やっぱ、射撃に関しては天才なのかね?あいつは~)」

「一夏、確かに雪片の真の力、零落白夜は強力だが威力が

 ありすぎて使い方を一歩間違えば最悪なことも起こり得る……。

 力をいつ何のために、使うかのかを決して忘れるな……。

 まぁ心配はしていないさ、なにせ私の弟だ。

 一つのことを極めれば、自ずとわかるさ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「鈴、俺が合図したらフルパワーで、衝撃砲を撃ってくれ」

「それはいいけど、アイツには当たらないわよ?」

「いや、衝撃砲はアイツじゃなくて俺に撃つんだ」

「はあっ!?何言ってんのよ!

 あんたブッ飛ばされすぎて、頭のネジが飛んだの!?」

「イグニッション・ブーストと合わせるんだよ。

 イグニッション・ブーストは、スラスターから放出した

 エネルギーを取り込んで放出する。つまり、エネルギーなら

 何でもいいんだ。

 加えて、衝撃砲の威力を加速につなげれば

 アイツの反応速度を超えてダメージを与えられるかもしれない」

「理屈じゃ、そうかもしれないけど上手くいく保証なんて……!」

「そう、普通こんなバカなことをする奴なんていない……

 だからこそやるんだ!

 それに、早くアイツを早く倒さないとヤバイ気がするんだ。

 もう、迷っている暇はないんだ鈴!」

「ああもうっ!どうなっても知らないんだからね!」

 

一夏の突拍子もない作戦に、お手上げだと言わんばかりの大声を出して

鈴は作戦に同意した。

 

「よし。

 それじゃ、さっきのように二人で左右から攻撃して

 アイツが防御したら、やるぞ!」

「わかったわ!」

 

そう言うと、一夏と鈴は再び左右から斬り込んだ。

そこで、一夏の考えを裏付けるように敵ISはさっきと同じように

腕で防御した後、体を回転させて二人を弾き飛ばそうとした。

だが、二人はそう来ると読んでいたため、回転の勢いを利用して

距離をとった。

そして、一夏は相手の回転が止まるタイミングを図って――

 

「今だ、鈴!」

「行っけぇぇぇ!!!!!」

「ぐっ!」

『(一夏っ!)』

 

背中に巨大なエネルギーの塊がぶつかるのを感じながら、一夏は

飛びそうになる意識を歯を食いしばって引きとめる。

そして、一夏は加速する――

 

「うおおおぉぉぉ!!!!!

 (守ってやるさ――!あいつも、千冬姉も、雅さんも、相棒も!

 俺に関わる人達みんなを!

 そして――――俺自身の“明日”を切り開く!!!)」

 

一夏の想いに呼応するかのごとく、雪片弐型は展開しそこから

雪片よりも大きいエネルギーの刃が形成される。

電光石火を超える速さで、接近した一夏は上段に構えた雪片を

敵ISの右腕に振り下ろす。

 

「おおおおお!!!

 (っ!?この気配は!?)」

 

瞬間リュウケンドーとして、命がけの戦闘を経験して得た

第六感ともいうべきものが警鐘を鳴らした――

 

『(いかん!)』

「(すぐに、コイツから離れないと!)」

 

ほんの数コンマの判断で、攻撃をやめ退避しようとする一夏だったが、

遅かった。

 

「うわぁ!?」

「一夏っ!」

 

その場にいた鈴が、観客が、千冬が、戦いを見ていたもの全員が言葉を

失った……。

一夏はアリーナの壁に叩きつけられたのだ。

敵ISが“伸ばした”左腕によって――

 

「なに……アレ?」

 

それは誰がつぶやいた言葉だったか……。

今の侵入者の姿は、更に異様なものへと変貌していた。

 

一夏によって、斬り裂かれようとした右腕は途中まで切断されているが、

その切断面にはケーブルが露出しており、それらがまるで

生物のように唸り始めたのだ。

極めつけは、一夏を壁に叩きつけている左腕だ。

植物のツタのように形成されたそれは、一夏まで伸びて

ガッチリ拘束していた。

 

「くそっ、動きがっ!」

『(マズイぞ、一夏!奴が!)』

 

動きを封じられた一夏は、ゲキリュウケンの言葉を聞いて侵入者に目をやると

離れたここまで、聞こえるほどのエネルギーのチャージ音をさせて肩の砲門で

一夏に狙いをつけていた。

 

「一夏を離しなさいよ!このっ!」

 

敵の予想外の行動に対して、鈴は両手の双天牙月をつなげ、

両刃となったそれをブーメランのように投げつける。

 

カァァァーーーン!

 

アリーナに甲高い音が響くと敵の装甲にはじかれ、双天牙月は

地面に突き刺さってしまう。

 

「だったら……!」

 

双天牙月がはじかれたのなら、龍哮でと思った鈴だったが、

一夏が斬りつけた腕の切断面から植物のつるが伸びて、

鈴に襲いかかった。

 

「っ!?

 ちょっ!きゃあっ!!!?」

 

あまりに常識の枠を外れた出来事の連続に、鈴は取り乱してしまい回避

が遅れ、地表に叩きつけられてしまう。

と同時に、砲門の光が収束される。

その瞬間、敵のチャージが終わり一夏がビームに焼かれる光景が

鈴たちの脳裏によぎった。

 

「や、やめてぇぇぇーーーーー!!!!!」

 

聞く気などないと言わんばかりに、鈴の叫びに応えることなく敵ISは

無慈悲に一夏へ、ビームを放ちそして……、アリーナ“上部”の遮断シールド

を撃ち抜いた。

 

「へっ?」

「はっ?」

 

叫んでいた鈴も助かった一夏も、間の抜けた声を出した。

いや、この戦いを見ていた者全員が間の抜けた声を出すか、

先ほどとは違う意味で声を失っていたりした。

 

侵入者がビームを放とうとした瞬間、一夏のピットから黒い影が

飛び出し、敵ISを蹴り飛ばして地面に刺さった双天牙月の

刃の上に降り立った。

そのおかげで、ビームの軌道が逸れ一夏の拘束も解けたのだが、

その姿はこの場に合わないような、異様なものだった。

 

全身を黒タイツで着こみ、手足には白の手袋とブーツ、首には赤いマフラーを

かけ、顔には二つの緑の丸と三日月のような円が顔を構成するよう描かれた

黄金のマスクをしていた。

それはかつて一夏が持っていた“これで完璧♪目指せ、ISマスター!”の

表紙にのっていたものの姿そのものである。

そして、それはどう見ても――

 

「フフフ……ハハハハハハハハ!

 遠い銀河の彼方から、青く輝く地球を守るため流れ着いた、

 一筋の流れ星!

 そう!私の名は、宇宙ファイターX!!!」

 

宇宙ファイターXと名乗ったその者は、双天牙月から

飛び降りると体でXの文字を現すようにポーズを決めた。

 

それを見ていた者は、時が止まったような感覚を体験した……

 

「「「「「…………」」」」」

「(なぁ、あれってさ、あの人だよな?)」

『(あんな恰好をして、アレを蹴り飛ばせるような奴が他にいるのか?)』

「(何してんのよ、あの人!)」

「「『(カズキ(さん)!!!)』」」

 

そう異様な姿とはいえ、敵ISを蹴り飛ばし一夏の窮地を救ったのは、

変なコスプレをしたカズキだったのだ。

 

「(ふっ、決まった!

 見ろよ、ザンリュウ。皆、あまりのかっこよさに言葉を失ってるよ♪)」

『(そう~か?)』

「(ちょっ、一夏!

 アレ、何とかしなさいよ!弟子なんでしょう!)」

「(何とかって、ツッコめって言うのか!?アレに!)」

『(見るからにノリノりだな)』

「(鈴!お前がなんとかしてくれ!

 大丈夫、お前ならできる!!!)」

「(できるか!)」

 

みんな、どんな反応をしていいのかわからない中、鈴と一夏が

この空気をなんとかしろと目で押し付け合いを始めた。

 

「(っていうか、誰かツッコんでぇ!300円あげるから!)」

「(いくら、あたしがツッコミ体質つってもね、できるもんと

 できないもんがあるのよ!)」

 

あまりの空気のおかしさに、一夏と鈴は若干壊れ始める中で

救世主が現れた。

 

「何をしているんだ…………この大バカものがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

アリーナ中にハウリングした声の主は、世界最強の教師にして

世界最強の恋する乙女、織斑千冬であった――

 

「「『(よかったぁ!ツッコミ入った!)』」」

 

カズキと最も近くにいた二人と一匹は、この状況をツッコめる人がいて

安堵した。

 

「違うぞ、織斑教諭。

 私は宇宙ファイターXだ。

 断じて君が、大好きだけど素直に気持ちを表せない想い人の

 カズキという男ではない!」

「貴様、こんな非常時になにをふざけたことを……」

「あ、あの~すいません……」

 

カズキの空気の読まなさにキレる数秒前であった、千冬に

おずおずとした声で通信が入った。

 

「誰だ……」

「ひっ!?さ、更識簪です……」

「何の用だ、更識妹」

 

通信を入れたのは簪であり、千冬の地の底から響くようなドスのきいた

声に一瞬で涙目となる。

 

「あ、あの、そ、その~、そ、そこにいるのは碓氷先生じゃ

 ありません……。

 う、碓氷先生は今ここでシステムクラックしています……」

「何?」

「そうだよ、千冬ちゃん?

 大~好きな俺のことを間違えるなんてひどいなぁ~」

 

管制室の端末に、簪や他の生徒たちと共にシステムクラックを

しているカズキの姿が映し出された。

 

「えっ?それじゃあ、あそこにいるのは……?」

「(簪と一緒にいるのって、影武者?)」

「私のことより、アレを見ろ!」

 

疑問に頭を傾げる鈴と一夏を無視して宇宙ファイターXが指さしたのは、

立ちあがろうとしていた敵ISだった。

体を大きく、揺さぶらせて俯いたかと思うと顔を一夏たちへと

向け背中の装甲が吹き飛ぶと、そこから植物のツタのような

ものが飛び出した。

 

「おいおい……」

『(まさか……)』

 

一夏だけでなく、見ていた者たちが驚く中でもどんどん装甲は

弾き飛ばされ、その中からツタが集まり体のようになったと

思ったら、巨大な花が姿を現した。

 

「キィシャッッッ!!!」

 

花から目と口を出し雄たけびを上げる“ソレ”は、胸と思える部分に

黒い球体を輝かせジロリと、一夏たちを睨むと、ツタを数本伸ばして

小さめの花を咲かせ、その花が割れるとギザギザの歯を見せた。

 

「な、何よアレ……?」

「(魔物!?

 でも、なんで無人機の中から!?)」

『(いや問題なのはそんなことより、アレはかなりのレベル

 だということだ。

 しかも、攻撃を受けるまで気配を感知できなかったぞ!)』

「……」

 

無人機の中から姿を現した魔物に驚愕する一夏とゲキリュウケンだったが、

周りはそれどころではなかった。

 

「あ、あああ……」

「バ、バケモノ……」

「もう……お終いよ」

 

突如として現れた魔物の姿に恐れ、

その場に座り込むもの、あきらめるものが出始めてなのはたちは

しぶい顔をした。

 

「みんな、しっかりして!」

「(はやてちゃん、あれって!)」

「(十中八九間違いない、調査員を襲った謎の怪物の仲間や!

 こうなったら、正体がバレるとかそんなん言ってられへん!

 みんなを守るためにもいくで、二人とも!)」

「待って、はやてちゃん」

「あの宇宙ファイターって奴、何かするみたいよ」

 

魔物の姿を見て、自分たちの正体などかまわず戦おうとする

はやてに、すずかとアリサが小声で話しかけてきた。

 

「結界……発動!」

 

宇宙ファイターXが地面に手を突くと、そこから何かが広がって一夏や鈴、

魔物を呑みこむと球状の何かが形成された。

 

「これはっ!」

「結界!」

「(リイン!すぐに解析や!)」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今度は何なのよ……?」

「カズk「宇宙ファイターXだ」、う、宇宙ファイターX、

 アレは一体?」

「それは、そこにいる奴が説明してくれる……さっ!」

 

結界の中では、何が起きているのか分からず混乱している

鈴とは反対に、一夏がカズキこと宇宙ファイターXに

どういうことかと聞くと、彼は足元にあった石ころを

拾うと何もない上空に投げつけた。

 

「ほう~、私を見つけるとはなかなかやりますね~」

 

投げつけられた石は何かによって砕かれ、そこから

白い布に体を包み肩や頭には、灰色の骨を象ったような

装飾品を身にまとった神官のような男が現れた。

 

「お前はっ!?」

「私は、ムドガ。

 この次元世界において、絶対なる創生種の一人」

「ムドガ……アレを差し向けたのはお前の仕業だな」

「ふふふ、如何にも」

 

姿を現したムドガに、カズキは無人機を差し向けたのかと

聞くとあっさり白状した。

 

「あなた達が纏っているおもちゃを作った女が、作ったものでしてね~。

 実験に使えそうだったので使ったのですよ~」

「実験って、何よ!」

「おそらく、ISコアを使ってのマイナスエネルギーの

 増幅ってところだろ」

 

実験と言うムドガの言葉に、反応する鈴にカズキが答えた。

 

「ほう~、よくわかりましたね~」

「通常、魔物が成長するには大量のマイナスエネルギーが

 必要だ。人間を襲い、マイナスエネルギーを吸収していくことで

 魔物は強さを増し、知恵もついてくるようになる。

 だが、それにはかなりの時間も必要なのに、アレはいきなり

 中の上ぐらいの強さで姿を現した。

 おそらく、魔物の幼生でもISのコアに寄生させ、

 学園を襲わせることで発生する、生徒のマイナスエネルギー

 を吸収させたんだろう」

「ちょっと待ってください。そうやって、吸収するなら

 気配が小さくて感じ取れない幼生はともかく、

 少しずつ成長する魔物なら、気配を感じれるはず。

 でも、あいつはいきなり気配を出しましたよ!」

「簡単なことですよ~。マイナスエネルギーは少しずつ

 与えたのではなく、一定量まで溜めてISコアによって

 増幅したところを与えて一気に成長させたのです♪」

「なるほどなISコアには、エネルギーを増幅させる機能があると

 されているから、俺たちに感知されないような少量で集めたところで

 増幅させたということか……」

 

カズキの推理に、一夏は自分たちがもっと早く

侵入者を倒せばこんなことには、ならなかったのにと

苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 

「実験は大成功ですね♪

 後は、あなた方を片付ければ最早我ら創生種の

 邪魔者はいなくなります~」

「寝言は寝てから言えば?

 確かに、アイツはそこそこの強さだけど

 あの程度じゃ、俺たちを倒すには役不足だぞ?」

「でしょうね。ですが……これならどうです!」

 

ムドガはそう言って指を鳴らすと、空中に映像が映し出された。

 

「こ、これは!?」

「……」

 

そこには、アリーナを取り囲む紫と黄色の縞模様に

こうもりの羽のような装飾を頭につけ剣を持った一つ目の

異形の集団が映っていた。

 

「あなた達が、半端な魔物で倒せないことは

 既にわかりきったこと。

 ですが、弱点も然り。

 こうやって、あなた達が守ろうとするものたちの命が

 かかれば、私に従うしかありませんよね?

 全く、地球を守る魔弾戦士とはいえこんな簡単なことで

 倒せるというのに、あの方々は何を恐れているのか」

「卑怯よ、アンタ!」

「構うな、鈴。

 奴の戦術は一つのやり方としてはアリだ」

「相手の弱みを狙うのは、戦術の基本だからね~」

 

勝ち誇った声を出すムドガに、反論する鈴だったが一夏とカズキは

慌てることなく、人質をとるやり方を肯定した。

 

「まっ、俺たちもやるかと聞かれたらNoだけどね」

「ふふ、負け惜しみですか?

 結界を展開され、私まで閉じ込められるのは想定外でしたが、

 後はあなた達を抹消するだけ。

 それとも、外の人間達を見捨てて戦いますか?」

 

自分の勝利を信じて疑わないのか、ムドガの余裕は崩れなかった。

アリーナを取り囲んでいるのは遣い魔(つかいま)といい、

魔物としての強さは最低クラスだが、それでも人間の4倍ほどの力

をほこり武器を持たない普通の人間が襲われたらひとたまりもないだろう。

 

「確かにお前の言うように、俺たちだけならこれで

 負けがほぼ確定だな……。

 “俺たち”だけだったらな……」

「何を言って……」

『グランフォール!!』

 

意味深なことを言うカズキに訝しむムドガだったが、突如として

映像から聞こえてきた声に、視線をそちらに移す。

 

『オラオラオラオラ!!!

 お前らの相手は、この“修羅化身、グランシャリオ”がしてやる!

 いくらでも、かかってこいザコども!!!』

「こ、これは!?」

 

そこには、遣い魔を次々と蹴散らしていく黒い鎧を纏った戦士が

映し出されていた。

 

「残念だったなぁ~、ムドガ?

 こっちもお前たちの襲撃に備えて、こっそりと仲間を呼んでいたのさ~」

「な、何だと!?」

「ついでに、言っておくと屋上に配置した

 マイナスエネルギー回収班の方にも向かっているぜ?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ギジャァァァ!」

 

屋上では、リュウケンドーによく似た戦士が

遣い魔たちと戦っていた。

白いスーツに赤いラインを走らせ肩と膝、胸に赤い宝石を身につけ

赤き銃を持って、戦う戦士――

 

「リュウガンオー!ライジン!」

 

リュウケンドーと共にジャマンガと戦いこの世界を守り抜いた銃士、

リュウガンオーがIS学園に降臨した。

 

「しっかし、なぁんで俺はいつもこういう裏方というか、

 縁の下みたいな役割なのかね?ゴウリュウガン?」

『その考えは否定する。

 目立たないだけで、これも重要な役割である』

「まっ、言われなくても分かってるけど……さっ!

 ほんと、一夏は俺がしっかり支えてやらないとダメだよな……っと!」

『お前は本当に男前だな、弾』

「褒めても何も出ねぇぞ!」

 

リュウガンオーこと五反田弾(ごたんだだん)はゴウリュウガンを使い、

次々と遣い魔たちを倒していった――

 




はい、予想した方もいらっしゃったでしょうが、リュウガンオーは
五反田弾でした~。
彼は縁の下の力持ちということで、一夏を支えてきました。
そしてもう一人の仲間は、「アカメが斬る」からグランシャリオ。
当然、中の人は服のセンスがいまいちで海の男の彼です。

宇宙ファイターXと名乗ったカズキの姿は、
アニメ「メダロット」に出てきた、宇宙メダロッターXの恰好です。
かなりノリノリでやっておりますwww
加えて、もう一人のカズキの正体は誰なんでしょう?
ヒントはカズキが、最初に千冬たちの前に現れた時
何のアニメに出てきた着ぐるみを着ていたかです。

書いてて気付きましたが、千冬さんのISが完成していないというのは
何か意味があるのか……

コアのエネルギー増幅に関しては完全な捏造です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

燃えろ!炎の力!


まさか、自分が連続投稿なんてできるとは思いませんでしたwww
今回、鈴が……


「何だ、アレは!?」

「一夏っ!」

「わ、わかりません!!?」

 

千冬と箒、真耶は宇宙ファイターX(カズキ)が、展開した

正体不明の球状のものに驚いていた。

そして、息つく暇もなく管制室に異常を知らせるアラームが鳴り響く。

 

「今度は何だ!?」

「これは……っ!

 織斑先生っ!!!」

「何だコレは……」

 

目の前で宇宙ファイターXが展開したものと同じく、

理解の範囲を超えた光景に、流石の千冬も言葉を失う。

 

画面には、地面から次々と紫色の水がわき出たかと思ったら

たちまち遣い魔の姿となって、出現する様が映し出された。

 

「アリーナ前に、この未確認の生命体が多数出現しています!」

「(くっ、どうする!

 メイザースたちを向かわせるか?

 だが、一夏たちを放っておくわけには!)」

 

思いもよらない事態に千冬がどうすべきかと、判断を迷っていると

再び動きが起こった。

 

『グランフォール!!』

 

上空から何かが降ってきたと思ったら、そこにはクリアーな

フェイスカバーと背後に浮いているパーツが目につく、

黒い鎧を纏った戦士が降り立っていた。

 

『オラオラオラオラ!!!

 お前らの相手は、この“修羅化身、グランシャリオ”がしてやる!

 いくらでも、かかってこいザコども!!!』

「何だ……この強さは……」

 

突如として現れたグランシャリオと名乗る者の強さに、箒は

目を奪われた。

拳や蹴りを放つだけで、何体もの遣い魔が吹っ飛ばされ消滅していくのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「えっ!?どういうことですか!

 アリーナを謎の生命体が囲んでいるって!?」

『そ、それがいきなり紫色の水たまりがわいたと思ったら、

 一つ目のオバケみたいのになって、それを黒い鎧を纏った

 人が倒しているんですぅ~』

 

セシリア、シャルロット、楯無の三人は観客席に閉じ込められた生徒を

避難させるためにアリーナに向かっていたが、その道中で下されていた

シャッターに足止めされていた。

その途中で、真耶からアリーナを遣い魔が取り囲んでいること、それを

倒している者がいることを通信で伝えられた。

 

「山田先生。その映像を見せてもらってもいいですか?」

『はい、わかりました』

「これって!」

「……山田先生、この黒い鎧の人は一つ目のオバケと戦って

 くれているんですよね?

 目的も正体も不明ですが、それ探るのに時間を割くよりも

 観客の避難を行います。

 今は、彼が私たちの敵ではないことを信じるしかありません」

 

グランシャリオの映像を見た楯無は、そう言うと通信を切った。

 

「た、楯無さん、そのグランシャリオという人を放っておいて

 よろしいんですの?」

「大丈夫だよ、セシリア。

 彼、あの一つ目オバケと戦っていたでしょう?

 あれ、一夏たちが戦う敵で僕も襲われたことがあるんだ」

「シャルロットちゃんの言うとおり、彼も一夏くんの仲間。

 私たちの味方ってことよ♪」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「“敵がマイナスエネルギーを回収する際、アリーナにいる

 俺たちに見つからないように、ここから行う可能性が高い”

 って、カズキさんが言ってたけどまさかドンピシャとは~」

『敵の目的、行動の分析によるカズキの推測の的中率97.8%』

「ギジャ!ギジャ!」

 

屋上では、清掃員の恰好をして赤い髪にバンダナを巻いた

五反田弾が、相棒のゴウリュウガンを手にして遣い魔たちと

対峙していた。

 

「まあ、とにかく行くぜ!

 リュウガンキー!発動!」

『チェンジ!リュウガンオー!』

「ゴウリュウ変身!」

 

弾が取り出した魔弾キーをゴウリュウガンに差し込むと白銀の龍が

紅い火花を巻き起こして咆哮すると、弾へと向かっていきまばゆい光が

彼を一瞬包み込むとそこには――

 

「リュウガンオー!ライジン!」

 

魔弾戦士の一人、リュウガンオーが絶望を撃ち抜くために降臨した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(どうや、リイン?)」

「(ダメです!この結界はリイン達のものとは

 全くの別物です!構造も、中の解析もできません!)」

「(私達の魔法とは別の魔法?そんなことって!?)」

『(Sir。結界内から、強大な魔力反応を感知!)』

『(マスター、サーチャーにも反応があります。

 魔力照合……アリーナ周囲に例の生命体、学園内に

 リュガンオー、結界内にリュウケンドーのものを確認)』

「(結界内にリュウケンドーって、さっきの宇宙ファイターって人が?

 それとも鈴ちゃん?一夏くん?)」

 

なのは達も次々に起こる事態に、思考が追いつかなかった――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これは、一体どういうことだ!!!

 なぜ、マイナスエネルギーを回収するものたちまで!!!?」

 

結界内では、グランシャリオとリュウガンオーに遣い魔が倒されていく

様を見てムドガが信じられないと大声を出していた。

 

「お前が言う、俺たちの弱点。

 それを狙った奴が、今までにいなかったと思うのか?

 伏兵ぐらい、忍ばせておくに決まってるじゃん。

 

 しっかし、この対抗戦に何か仕掛けてくるとは思ったけど

 まさかお前のような小物が来るとはねぇ~。

 他の連中なら、魔物の実験だけにして

 後は、観客のマイナスエネルギーをついでに回収

 することができれば良しとしただろうに~。

 まあ、せっかく欲を出して来てくれたんだ、

 持っている情報を洗いざらい吐いてもらうよ?」

『この結界には、転移を封じる機能もある。

 観念して、素直に捕まって吐いた方が身のためだと

 思うよ~?』

「こ……んの虫けら風情がぁ!!!」

 

カズキとザンリュウジンの小馬鹿にしたような態度に、プライドを

刺激されたムドガは、今までの冷静さをかなぐり捨てた。

 

「これで終わったと思うなよ!

 デスブロム!!!遣い魔ども!!!」

「マだン戦し……倒ス!」

「「「「「ギジャ!ギジャ!」」」」」

 

ムドガが腕をふるうと、夥しい数の遣い魔が次々と現れ

それに呼応するかのようにジッとしていた魔物、デスブロムも動き出した。

 

「敵さん、本性出してきましたね」

「薄っぺらい奴ほど、挑発すれば簡単にのるからね~。

 さてと、あいつや遣い魔の相手は俺がやるとして、

 魔物の方は任せるよ一夏。

 鈴への説明は、後で何とかするから遠慮なく行け。

 あいつは急激に成長した分、知能は低いみたいだけど

 時間をかければどうなるかわからないから、短期決戦で

 一気に決めろ」

「はい!」

「それと鈴?

 止めても無駄だろうから言っておくけど、

 エネルギーが残り少ない甲龍でも、遣い魔ぐらいなら

 倒せるだろうけど無理だけはしないように」

『へぇ~てっきり、おとなしくしてろって言うと

 思ったのに』

 

一夏だけでなく、若干呆けていた鈴にまで指示を出したカズキに

ザンリュウジンは意外そうな声をもらす。

 

「言っただろ?止めても無駄だって。

 だったら、余計なことをされるより最低限の指示を出して

 一緒に戦ってもらう方がまだ安全だよ」

「ちょっと、人をおてんば娘みたいに言わないでよ!」

「「『『…………』』」」

「何でそこで、目を逸らす!」

 

鈴の言葉に一夏も魔弾龍二体もカズキも、それとなく視線を

逸らした。

 

「じゃあ役割も決まったことだし、ちゃちゃっと片付けますか♪」

「『『おう!』』」

「ごまかすな!」

 

鈴の叫びを無視して、一夏は白式を解除しゲキリュウケンを出現させる。

 

「リュウケンキー!発動!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

「ゲキリュウ変身!」

 

デスブロムへと駆けだし、一夏は魔弾キーをゲキリュウケンへ差し込む。

 

「リュウケンドー!ライジン!

 おりゃあああ!!!」

 

リュウケンドーへと変身した一夏は、向かってきたデスブロムの

口のついた触手を片っ端から斬り裂いていった。

 

「それじゃ、俺たちもいきますか」

「これ終わったら、覚えてなさいよ!」

 

一夏に続くように鈴とカズキも遣い魔たちに突撃していった。

その様子をガレキに隠れて覗いているものがいたことは、

カズキ以外誰も気付いていなかった。

 

『ところで、鈴の奴。一夏が変身したことや俺がしゃべったことに

 あんまり驚いていなかったな?』

「あっ」

 

ザンリュウジンが漏らした疑問に、カズキは間の抜けた声を上げた。

 

 

 

「このっ!」

 

デスブロムが伸ばした触手が四方八方から襲いかかり、リュウケンドーは

苦戦をしていた。

 

『言葉は話せないのに、的確にこちらの死角をついてくるな』

「ああ、おまけにこの数と……これだっ!」

 

的確に襲いかかる触手を斬っていくリュウケンドーだったが、斬られた触手

はそこから、新たなものを生やし襲いかかってくるので一向に

数が減らなかった。

 

『相手は植物に似ているからあのキーが有効だと思うが、

 これでは……』

「こんなことなら白式使って、もっと近づいとけば良かったかな?」

『さっきの零落白夜でほとんどエネルギーが、残っていなかっただろうが』

「ははは、そうでした」

『っ!何か来るぞ!』

「おわっ!?」

 

ゲキリュウケンとしゃべりながら、戦っているとどこからか光線が迫り

何とかかわすことができたが、かすった肩の鎧が焦げていた。

 

「これは……ビーム?」

『どうやら、ただツタを伸ばして攻撃するだけではないようだな……』

 

リュウケンドーとゲキリュウケンが目を向けると、そこには

触手の先の口から煙を上げているデスブロムがいた。

 

「キィシャッッッ!!!」

「まさか、無人機の攻撃を使えるのか!?」

『厄介な……来るぞ!かわせ!』

 

ゲキリュウケンに言われるまま、リュウケンドーは走りながら触手

の先についているキバとビームの攻撃をかわし始めた。

 

「おっ!なんか苦戦してるね~」

「のんきなこと言っている場合!

 こっちは、私一人でも大丈夫だから早く

 一夏を助けに行って!」

 

一方、遣い魔たちを相手にしていたカズキは一夏のピンチを

のんきに見ており鈴は、助けに行くよう急かした。

 

「心配ないよ。こんなピンチはよくあることだし、俺が助けなくても

 自力で何とかするさ。

 それよりも、俺があっちにいったら君がピンチだろ?」

『うんうん』

「うっさいわね!

 っ!本当にもぅ~、こいつらは次から次にっ!」

 

カズキが結界を張る前に受けた攻撃によって、甲龍のエネルギーは

100を切っており、鈴は現在エネルギーの消費が少ない双天牙月

を両手に持って、遣い魔たちと戦闘をしていた

双天牙月を一振りするだけで、簡単に倒せているが2、3体を倒している

間に、ムドガが10体ほど出すものだから、体力は消耗するばかりであった。

 

「ひゃひゃひゃっ!

 どうした!さっきまでの威勢はどうしたんだ、オイ!」

「(一気に遣い魔を倒してもいいが、創生種の力は未だに

 未知数。負ける気はしないが、怒り狂って

 万一暴走とか自爆とかされたら鈴や結界の外にいる皆が危ない。

 さて、どうしたものか……)」

 

ムドガの挑発をスルーして、カズキは向かってくる遣い魔たちの攻撃を

軽く運動するみたいにかわしながらデコピンで倒していき、

戦況を分析していた。

 

自分がその気になれば、アリーナにいる遣い魔は簡単に一掃できるが

もしそれでムドガが激怒し、隠し持っていた何かしらの力を

使われたらどうなるかという可能性があるため、攻めきれないでいた。

 

『(カズキ。アイツ、リュウケンドーが自分が作った魔物に

 勝てるわけないって顔してるぜ?)』

「(みたいだな。となると、リュウケンドーが魔物を

 倒して奴が驚きで固まる瞬間が勝負か……)」

 

カズキがリュウケンドーの勝利を信じて、攻め手を考えていると

鈴が予想もしない行動に出た。

 

「っああ~もう~!うっとおしいぃぃ!!!

 こうなったら、奥の手よ!」

 

言うが早いや、鈴は周囲の遣い魔を龍哮を使って倒すと、甲龍を

解除し、青いブレスレットがついた左腕を突きあげる。

 

「セットアップ!青龍(せいりゅう)!!!」

 

瞬間、鈴は光に包みこまれた。

光が晴れるとそこには、少し露出が多い青いチャイナドレス風の

バリアジャケットを纏い、槍を手にした鈴が立っていた。

 

「何っ!?」

「『なっ!?』」

「おいおい……」

『マジかよ……』

「さあ、いくわよ!」

 

驚く、リュウケンドーたちを尻目に鈴は手に持った槍、ウォータランス

を構えて、遣い魔たちに突撃した。

 

「おりゃあ!」

 

ウォータランスを大薙ぎして、近くにいた遣い魔たちを倒すと

その場に止まることはせず、飛翔してその場を離れる。

 

「はあっ!」

 

着地した鈴は素早く、ウォータランスを地面に突き刺すとそれを軸にして

回し蹴りをし、遣い魔を一度に何体も倒していく。

 

「おそいわよ!」

 

押し寄せる遣い魔たちを、鈴はウォータランスと一体化したような

見惚れる動きで次々と倒していった。

 

「(私のバリアジャケットは、そんなに防御力が高くないから

 攻撃を受けないように気をつけないと!)」

 

バリアジャケットとは、魔導士が用いる防護服である。

強度や性能は、千差万別であるが鈴のものは機動力を重視した分、

防御力が低いようだ。

 

「ええい!何をしている!そんな小娘ごときに!」

 

思わぬ出来事で、戦況は一気に動いていく――

 

 

 

「鈴の奴いつの間に……」

『ボサとしている場合じゃないぞ!

 敵も固まっている。今がチャンスだ!』

 

自分と同じように、普通ではない力を奮う鈴にリュウケンドーは

いろんな疑問が頭をよぎるが、ゲキリュウケンの言葉で我にかえる。

 

「っと!そうだな!それじゃ、いくぜ!

 ファイヤーキー!発動!」

『チェンジ!ファイヤーリュウケンドー!』

「火炎武装!」

 

ゲキリュウケンから、炎の龍が飛び出しリュウケンドーと一つになると、

リュウケンドーは炎を象った赤い鎧を纏っていた。

 

「ファイヤーリュウケンドー!ライジン!」

「魔ダんせん士っっっ!!!」

 

デスブロムが伸ばした触手を先程のように、斬り裂く

Fリュウケンドーだったが、違う点があった。斬られた触手は燃え上がり、

再生ができていなかった。

炎は本体へ触手を伝って本体へと向かっていくが、デスブロムは

燃える触手をビームで撃つことでちぎった。

 

デスブロムがFリュウケンドーに目をやると、その手に持つ

ゲキリュウケンは、刀身に炎を纏っていた。

 

「自分で自分の体をブッ飛ばしやがったぞ!?」

『あの再生力があれば、あまり問題ではないのだろう。

 決着をつけるには、本体に直接攻撃するんだ!』

「おう!」

 

 

 

遣い魔を倒していた鈴は、流石に体力が厳しくなっている状況だった。

 

「ま、まだまだ……」

「おい、鈴。無理はするなって言ったろ?

 お前は一夏との試合もあって、かなり消耗している。

 後は俺と一夏に任せて、防御に徹しろ」

 

カズキは、ウォータランスを支えにして立つ鈴の背に立ち、

遣い魔たちを殴り飛ばしていく。

 

「何故だ!何故、こんな小娘に戦況をひっくり返されたのだ!」

 

ムドガは、最初の平静な様は見る影もなく、喚き散らしていた。

 

「それは、簡単さ。

 鈴のことを戦力として、舐めていたからさ。

 お前も……俺も」

「黙れ!黙れ!

 この私が!創生種であるこの私が!

 そんな、無いものを見せつけるようなかわいそうな思考の人間

 のせいで負けるなどあるわけがない!!!」

 

その時、敵味方関係なくビシリと特大の

ひびが入る音が聞こえ、みなが動きを止めた。

 

「……」

「そんな見せるものがないのに、見せるものを見せるための

 隙間がある服を着るという、愚か者に私の計画が崩れるだと!

 馬鹿なことを言うな!!!」

『なあ、これってマズイこt「しっ!黙っていろザンリュウ……」』

「ギ、ギジャ……」

「なあ、ゲキリュウケン?

 俺、炎の力を纏っているのにものすごく寒気がするんだけど……?」

『何も言うな……命が惜しければな……』

「キィ……キィ……」

 

ムドガの言うように、鈴のバリアジャケットは、“あるもの”を

見せつけるかのように胸元が大きく露出しているのだ。

そう、まるで箒や楯無、フェイトなどが着たら

似合うように。何故似合うかはご想像にお任せします。

 

遣い魔たちもカズキもソロリ……ソロリ……と鈴から距離を取り、

デスブロムもFリュウケンドーもおそるおそるといった

感じで後退していくが、ムドガはそれに気付かずしゃべり続ける。

俯むいて、表情が見えない鈴に向かって。

 

「おい!そこの残念な思考の小娘!聞いているのか!

 自分に似合う服も分からないような、貴様にこのわたしの

 「残念残念うっさいわ、ボケェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」」

 

鈴は一瞬で、ムドガに接近して結界の壁まで殴り飛ばした。

 

「面かせや!!!オラァァァァァァァァ!!!!!」

「うっわ~痛そう~」

『だな』

『おっかねぇ~』

「すごいな、俺でも見えるのがやっとのスピードで動いたぞ」

「「「ギィ、ギィ!」」」

「キキキキキキィ……」

 

一夏、ゲキリュウケン、ザンリュウジンは、タコ殴りにされるムドガを憐み、

カズキは鈴の移動スピードを素直に賞賛していた。

反対に、遣い魔たちは目を刃の如く鋭くして咆哮しながらムドガに拳を

突きたてる鈴を見て、互いに抱き合いながら怯え、デスブロムも

すっかり怯んでいた。

 

「がっ!ごっ!」

『ところで、このまま鈴の奴があいつを殴り続けたら

 結界壊れないか?』

「ははは、それは大丈夫だよザンリュウ。

 この結界を壊すには、ファイナルブレイク級の力がないと~」

 

バキーーーン!

空気などではなく、物理的にひびが入る音が結界内に聞こえ渡った。

 

「ん?」

『お、おいあれ……?』

「結界がわ、割れ……た?」

『女の怒りは、ファイナルブレイクに匹敵するというのか……!?』

 

武器などに頼らず、拳だけでムドガを戦闘不能にまで追い込み、

結界をも破壊せんとする鈴の底知れぬ力に、驚愕する魔弾戦士たちだった。

 

「うっっっがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

乙女の純情を踏みにじられたから、怒りのまま鈴はムドガを

結界をぶち破って外にまで殴り飛ばした。

 

『おおお、飛んだね~』

「あっ、鈴がぶっ倒れた。

 あれで全パワーを使いきったのか

 って、感心してる場合じゃねえーーー!?」

『このまま結界が壊れたら、お前がいないことが

 外の連中に見られて面倒なことになるぞ!』

「任せろ!

 出番だぞ!来い、ハチ!」

 

結界が壊れていく様を見ながら、急いでごまかしに入る

カズキたちだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「喰らえッ!」

 

リュウガンオーは、向かってくる遣い魔の刃をゴウリュウガンや

腕の装甲で受け止めて至近距離から撃ったり、蹴り飛ばすなど

射撃だけでなく格闘術も使って、確実に遣い魔の数を減らしていった。

 

「これで決める!

 ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』

「はあああっ!!!」

「「「「「ギジャアアアーーーーー!」」」」」

 

ゴウリュウガンをマシンガンモードに切り替え、リュウガンオーは

遣い魔たちを一掃した。

 

「残るは、あれか!」

『ISのセンサーにも引っかからないよう、巧妙に

 隠したマイナスエネルギーの回収装置のようだが、

 私たちの目はごまかせない』

 

リュウガンオーは上空に目を向けると、どこか風景が歪んでいる

箇所を見つける。

それこそ、ムドガが発生させた大量のマイナスエネルギーを

回収することも兼ねた地上を攻撃する兵器だった。

ISのハイパーセンサーにも反応しないステルス機能を持っていたが

ゴウリュウガンは、大気中をサーチして何も

感知できない箇所を見つけることで回収兵器の場所を特定した。

 

「行くぜ!ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

 

リュウガンオーが、ファイナルキーを発動させると足から肩から、

胸の宝石にエネルギーが集まるように光が集約しゴウリュウガンへと

チャージされていく。

 

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

 

ゴウリュウガンから、紅い龍型のエネルギーが放たれ

リュウガンオーが反動で後ずさる。

その後には火が走り、ドラゴンキャノンの威力がうかがい知れる。

そして、ドラゴンキャノンは敵の兵器に命中し、跡形もなく破壊した。

 

「ジ・エンド」

『任務達成』

「お~い」

 

リュウガンオーがマイナスエネルギーの回収兵器の破壊を確認すると

そこへ、グランシャリオがやってきた。

 

「こっちは片付いたぜ。そっちは?」

「今、終わったところだ。後は一夏の方だけど……」

 

バリーーーーーン!!!

 

互いに敵の殲滅を確認し合うと、一夏がいるアリーナの方向から

何かが割れるような音が聞こえた。

 

「な、何だぁ!?」

『結界の破壊を確認』

「は、破壊って、結界を壊されたってことか!?」

「そんな……。応援に行くぞ!」

「おう!」

『待て。ゲキリュウケンより連絡。

 怒る乙女によって結界を破壊されるも、問題はないとのこと。

 予定通り、撤退を開始せよとのことである』

「「怒る乙女?」」

 

ゴウリュウガンオーとグランシャリオは顔を見合わせて傾げるばかりであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(っ!結界が壊れた!)」

「(何か出てきたけど……何アレ?)」

 

観客席で宇宙ファイターXが、展開した結界を見守っていた

なのは達は、内側から結界が壊れたことに驚くが、飛び出たモノに

目がいった。

人のような形をしているが、飛び出たソレは腕や足がありえない方向に

曲がっており、ピクピクと震えてもはや瀕死の状態であった。

 

結界が完全に消えるとそこには十数体の遣い魔にデスブロム、

Fリュウケンドー、そして気絶した鈴と“一夏”を抱える

宇宙ファイターXがアリーナに立っていた。

 

「リュウケンドー!

 この気絶した少女とそれかばって倒れた少年の二人は私に任せて

 心おきなく、奴らを倒せ!」

 

宇宙ファイターXはどこかわざとらしくそう言うと、

自分がここに入ってきた一夏側へのピットへと二人を

抱えて向かった。

 

「何と言うか、あの人も良くやるよな」

『まさか、結界が壊されて一夏がいないのをごまかす必要が

 出た場合に備えて、変化(へんげ)能力をもったタヌキを

 呼んでいたとは恐れ入る』

 

そう、宇宙ファイターXに抱えられていたのは、一夏に化けた

ハチなのだ。アリーナに侵入した際に、石ころに化けさせ

潜ませていたのだ。

 

「まっ!ともかく、そろそろいきますか!」

『リュウケンドー、炎の獣王も呼んで一気に決めるぞ!』

「おう!コングキー!召喚!」

『ファイヤーコング!』

「いでよファイヤーコング!」

 

ゲキリュウケンから光が放たれ魔法陣が描かれると

そこからブレイブレオン同様、赤い機械の体でありながら

生命の息吹を感じさせるゴリラが召喚された。

炎の獣王、ファイヤーコングである。

 

「(あれは召喚魔法と使い魔!?)」

「(すっごくパワーありそう~)」

「(いや、それよりもリュウケンドーはいつどうやって

 ここに現れたんや!?

 リイン、映像を一瞬も見逃さんと記録するんや!)」

「(はいですぅ~!)」

 

フェイトとなのはがファイヤーコングに驚く中、はやては

リュウケンドーがいつここに現われたのか疑問に思い、素早く

リインに記録するよう指示を出した。

 

「おりぃやあああ!!!」

「「「「「ギジャアアアーーーーー!」」」」」

 

Fリュウケンドーが、ゲキリュウケンを横薙ぎに振るうと

それに沿うように炎が放たれ、使い魔たちが倒されていく。

 

「ヴオゥ!ヴオゥ!」

「キィシャアアア!!!」

 

ファイヤーコングは、そのパワーを大いに発揮しデスブロムが

攻撃に伸ばしてきたツルを逆につかみ振り回していた。

 

「ち、調子に乗るなよ……虫けらども!

 こうなればっ!」

 

Fリュウケンドーが戦っていると、鈴にスタボロにされたムドガが

よろよろと立ちあがり、手を光らせデスブロムと残っていた

遣い魔たちに向けると自身へと引き寄せた。

 

「がああアあアあアア!!!」

 

すると彼らは、禍々しい光に包まれ巨大な植物へと姿を変えた。

 

「うお!なんじゃこりゃ!」

『まさか、観客達から生まれたマイナスエネルギーごと

 魔物と遣い魔を吸収したと言うのか!』

「ハはは!虫けラハむシけららしく、潰レロ!」

 

一番上に咲いた花の中央に、ムドガは鎮座しツルを伸ばして

花をつけると、光が収束されていった。

 

「あれは、無人機の!」

『マズイ、エネルギーの量はケタ違いだ!』

「なら!ファイヤーコング!キャノンモード!」

 

Fリュウケンドーがそう叫ぶと、ファイヤーコングは

ジャンプし、体を上下逆さまになると大型砲へと変形して

背負われる形でFリュウケンドーと合体する。

 

「ファイヤーキャノン!」

 

Fリュウケンドーは巨大化したムドガに火炎弾を発射し

ビームを撃とうとした花を破壊した。

 

「きィ、キザマァぁぁ!!!」

「出鱈目に、力をつけても無駄だ!

 俺たちの本当の力を見せてやる!」

『ああ、やるぞ!ファイヤーコング!』

「ヴオゥ!ヴオゥ!」

 

ファイヤーコングは、キャノンモードを解除すると何かを

持ち上げるように腕を組む。

 

「はあああっっっ!!!!!」

「ヴオゥゥゥゥゥ!!!」

 

Fリュウケンドーは、ファイヤーコングに向かって走り出すと

腕に飛び乗り、ファイヤーコングはFリュウケンドーを巨大ムドガよりも

高く放り投げた。

 

「ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ゲキリュウケン火炎斬り!」

 

Fリュウケンドーは炎を宿した赤く光るゲキリュウケンを振り下ろし、

ムドガの体を斬り裂いていく。

 

「ガァァァ!!!!!」

「燃え尽きろ、その怒りと共に――」

 

Fリュウケンドーの言葉と共に、ムドガは崩れ去った。

 

「ん?」

「がっ……くっ……」

『ファイナルブレイクを受けて、まだ生きているのか』

 

ムドガの体は、焼け焦げていたが、まだ生きていた。

だが、もう戦う力は残っていないようだ。

 

「へぇ~存外しぶといんだね~」

「宇宙ファイターX!」

 

すると、宇宙ファイターXことカズキがやってきた。

 

「まあ、ちょうどいい感じで動けなくなったみたいだし

 後は持って帰っていろいろと……」

「ゴヘッ!」

 

カズキが、ムドガを捕獲するために近づこうとしたら、彼の体を

光の槍が貫き、塵も残さず消滅した。

 

「っ!?」

「どこからっ!」

 

Fリュウケンドーとカズキが空に目を向かるとそこには手だけが、

空中から生えていた。

 

「(馬鹿な!“風”は全く気配も殺気も感じなかったぞ!?)」

 

カズキが驚いていると、その手はふっと消えた。

 

「っ!こいつの口ぶりからして、独断で動いていたみたいだが

 こうも簡単に口封じをするとは……」

「仲間じゃないのかよ……」

「とにかく、戦闘は終了だ。

 ここから……」

「動かないでください!」

 

とりあえず、Fリュウケンドーとカズキがここから離脱しようと

するとラファールを展開したエレンが二人に銃口を向けてきた。

それを皮切りに、訓練機を纏った教師陣が次々とアリーナに

やってきて、二人を取り囲んだ。

 

『あの怪物と戦い、生徒を守ったお前たちが悪い奴ではないのは

 分かっているがこちらもはい、そうですかと

 お前たちを解放するわけにはいかん。

 とりあえず、話しぐらいはしてもらうぞ』

「悪く思わないでください」

 

管制室と目の前で、千冬とエレンがすまなさそうな声で

投降を二人に呼び掛けた。

 

「気にすることはないよ~。

 それが当然の対応だし、それに俺たちは捕まらないよ?

 リュウケンドー!ここに来た時みたいに、“アレ”で

 逃げるぞ!」

「アレ?……あっ!

 ワープキー!発動!」

 

Fリュウケンドーはワープキーを発動させ、カズキと共にそこから

離脱した。

 

「消えたっ!?」

『山田くん!』

『だめです!レーダー類に反応ありません!

 追跡は不可能です!』

『わかった。

 聞いての通りだ、メイザース。お前たちは、とりあえず

 更識姉達と協力して、観客席の生徒達を解放してやってくれ』

「了解……」

 

多くのものが苦い思いを呑みこんで、戦いは終わった――

 




鈴のバリアジャケット姿は、アライブ版ISコミック第二巻の扉絵
の恰好を青くして胸元が見えるようになったものです。
それがムドガのボコりに繋がり、元ネタは「俺、ツインテールになります。」
からになります。
あまりにそっくりだったのでやっちゃいましたwww

そのムドガですが、ボウケンジャーに登場するジャガの恰好で
顔は強化形態のガジャドムです。
ボウケンジャーでは、ラスボスでしたがここでは実力は遠く
及びません。
デスブロムは、デジモンのブロッサモンを参考にしています。
名前はモデルとしたものの名を並べ替えただけなので、特に
深い意味はありません。

今回、ムドガは巨大化する際に観客たちが発生させたマイナスエネルギー
も吸収しているので、敵が回収できたエネルギーはそれ程ありません。

カズキの無双ぶりを描きたかったんですが、遣い魔相手だと
上手く出来なかった(汗)
あの恰好は、ISスーツくらいの防御性能はありますがそれだけです。
ほぼ生身の力で、蹴飛ばしたりしてます。

鈴のデバイスや武器の名前といい我ながらネーミングセンスがない(苦笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真夜中の話し合い


最新話、完成です。
いつもより長くなっています。

活動報告に一夏の恋人についてのアンケートを載せましたので、そちらの方も是非。



「あ……れ?」

 

一夏が目を開けるとそこには白い天井が、広がっていた。

 

「ここは……?」

『(気がついたか?)』

「(ゲキリュウケン?俺は確か……)」

 

起きたばかりで頭が働かない一夏は、どうして自分がこの部屋で

寝ていたのかを思い出し始めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ~」

『無事に離脱できたみたいだな』

「二人とも、お疲れさん」

『リュウガンオーとグランシャリオも無事に離脱できたみたいだぜ』

 

一夏とゲキリュウケン、カズキ、ザンリュウジンはワープキーを使って

屋上に移動し、変身と仮面をそれぞれ解いていた。

 

「それにしても、ムドガを攻撃したあれは……」

「そっちは、俺の仕事だから任せておきな

 それよりお前に化けたハチと鈴は、保健室に運ばれただろうから

 ボロが出る前に入れ変わらないと」

「そうだった!

 あっ!そういえば、ハチが俺に化けたならカズキさんに

 化けてるのって一体……って、

 何でカズキさんはハンマーなんか構えてるんですか?

 そもそも、どこから出した!」

「だって、お前気絶してる設定だろ?

 だったら、ちゃんと気絶しておかないと♪」

「ま、待って……あああああっ!」

 

にっこり笑うカズキと振りかぶったハンマーが視界に入ったのを

最後に、一夏の意識はそこで途切れた

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(そうだ。俺、カズキさんに気絶させられたんだった……!)」

『(あの後、カズキはお前をこっそり運んだ後、弾たちの

 元に行ったんだ)』

「(あの人は……)」

「気がついたようだな」

 

一夏がカズキのマイペースぶりに、うなだれていると千冬が姿を現した。

 

「千冬姉……」

「目立った傷はないようだが、全身に打撲と頭部にコブが

 あるそうだ。数日もすれば治るだろう」

「ハハハ……コブねぇ~」

 

まさか、カズキに殴られてできましたとは言えない一夏であった。

 

「それと凰だが、こっちは疲労だそうだ。寝てれば、その内起きるだろ」

 

一夏が隣に目をやると、ベッドの上で眠る鈴の姿が目に入った。

 

「こちらの指示を無視したとはいえ、あのような状況で

 二人ともよくやったな。

 お前たちがあの宇宙ファイターとか言う奴が

 作ったものに閉じ込められた後のことは、後日

 話を聞くことになるから、忘れない内にその時のことを

 何かメモとかしておけ」

 

そう言う千冬の顔はどこか安堵したようなものだった。

 

「千冬姉……」

「何だ?」

「心配かけてゴメン……。

 そ、そのできるだけ心配かけないよう……

 強くなるから……さっ」

「生意気なことを……。

 別に心配などしていないさ。私の弟だからな。

 しぶといに決まっている」

 

一瞬虚をつかれたように、驚く千冬だったがすぐに笑みを浮かべ

一夏の頭をクシャクシャとなでる。弟の成長がうれしいようだ。

 

「では、私は後処理に戻るがお前はもう少し休んでから、部屋に戻れよ」

 

そう言って、千冬は保健室を後にして壁にもたれかかるカズキと遭遇した。

 

「……」

「何も聞かないの?」

「……聞いたらお前は答えるのか?」

「質問にもよるね~」

 

いつもとは違う少し張りつめた空気が二人の間に流れる。

 

「まあいい。

 だが、一つだけ答えろ。

 一夏がやっていることは、お前がやらせ始めたのか?」

「やっぱり、気付いていたんだ。

 その質問だけど、答えはNoだよ。

 あいつは、自分で考えて自分で決めたんだよ」

「……ならいいさ」

 

千冬は、肩をすくめ力を抜くとやれやれといった感じで

その場を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もう二人とも!そんなに緊張しなくていいのに~」

「い、いや!そそそそんなことないっすよ!」

『体温上昇、心拍数増加。

 いわゆる緊張している状態である』

「ばっ!何言ってるんだお前!」

「ははは……や、やっぱ緊張しますね、こういう状況」

 

現在、生徒会室では魔弾戦士のことを知っているメンバーと

清掃員の恰好をした二人の男がいた。

 

一人は赤い髪でバンダナを巻きゴウリュウガンと言いあいをしている

少年、五反田弾。

 

もう一人は、いかにも面倒見がよさそうでいい奴だがどこか

苦労人な感じを漂わせる少年、ウェイブ。

グランシャリオの装着者である。

 

「ワープーキーを使って、屋上から離脱したのはいいけど……。

 ウェイブ、なんだよこの美人さんたちは!」

「一夏の奴、こんな美人に囲まれて生活してるのかよ……」

『報告によると、本人は中学時代と大して変わらない生活態度のこと』

「まっじかよ!?

 いくら、恋人の”あいつ”がいるとしても、なんかあんだろ普通!」

「というか、何か視線が落ち着かないな……」

 

世間一般的に言って、今生徒会室にいるものたちは

アイドルやモデルといってもいいぐらいの美人ぞろいである。

そんな彼女たちと同じ空間にいるということは、一夏とは違い

普通の感性をもつこの少年たちには落ち着かないものがある。

 

ヒソヒソ声でしゃべる弾とウェイブを見て、セシリア、シャルロット、

簪は興味深そうに見て、本音はウェイブを見てきゃっ♪と頬を染めながら

イヤンイヤン♪と頭をふり、虚は興味無さそうにしているが

弾のことをチラチラと見ていた。

楯無は、幼馴染みの二人の様子を見て扇子を広げながら“ふふふ”と

笑っていた。

 

「ごめんごめん~、遅くなったみたいだね」

「カズキさん!」

「遅いっすよ!」

 

弾とウェイブがどうしたものかと思っているとカズキがやってきた。

 

「まさかと思いますけど、俺たちがオロオロするのを

 外で見てて入るタイミングを見計らっていたなんてことないですよね?」

「ははは、まっさか~」

 

ジト目で見るウェイブを気にすることなく、いつもの飄々とした

態度で返すカズキであった。

 

「さてと、とりあえず互いに自己紹介から始めようか」

「それじゃ、私から♪

 私は更識楯無、ここIS学園の生徒会長をやっているわ。

 それで、こっちが私のかわいいかわいい妹の「お姉ちゃん!」」

「い、妹の更識簪です。よろしくお願いします」

「布仏虚です。生徒会の会計をしています」

「お姉ちゃんの妹の布仏本音だよ~。生徒会では、書記をやってま~す。

 そして、更識家のお手伝いをやってま~す♪」

「わたくしは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。

 以後お見知りおきを」

「僕は、シャルロット・デュノア。フランスの代表候補生です」

「俺はリュウガンオーの五反田弾。こっちは相棒のゴウリュウガンだ」

『よろしく、頼む』

「俺の名はウェイブ。海の男だ、よろしくな!」

「ウェイブは別の世界から、応援に来てもらったから

 そうは来れないけどこの二人が主に援軍として来てくれるから

 仲良くしてくれ」

『でもよ、カズキ?一夏の相棒でこの世界の住人の弾はともかく、

 なんでウェイブなんだ?他にもいるだろ?』

 

自己紹介がそれぞれ終わると、ザンリュウジンはカズキへと

疑問を投げかけた。

 

「確かにそうだけど、この学園に潜入できてすぐに姿をくらませて

 教師や生徒に正体も隠せるように奴らと戦えるとなると

 ウェイブやアイツくらいだろ?

 でも、アイツがここに来たら……」

「“あの人”が黙っていないですね……」

 

ウェイブはそう言って、“あの人”が心底惚れている“アイツ”が

任務とはいえ女の園に行くとなったらどうなるか……、

考えただけで頭が痛くなるのであった。

 

「それはそれでおもしろそうなんだけどね~

 それとアイツらは今……」

「失礼します」

 

カズキが何か言おうとしたところで、“カズキ”が忍者のように現れた。

 

「う、碓氷先生が二人!」

「ふ、双子!?」

「あわわわ~」

「落ち着きなよ、皆。この人は味方だよ。

 ご苦労だったね、咲世子さん」

 

カズキがそう言うと、後から現れた“カズキ”は顔に手を当てると、顔が

マスクのようにはがれ別人の顔が現れ、髪に手をやるとカツラだったのか

それが外れるとおかっぱ頭の女性が姿を現した。

 

「はじめまして、皆さん。篠崎咲世子(しのざき さよこ)と言います。

 今回、碓氷さんの依頼で参上いたしました」

「彼女は、ある世界のSPでね。助力を頼んでいたんだ。

 その実力は、ここに現われたのとここまで正体を見抜かれなかった

 ので証明済みさ♪」

 

皆が呆気にとられる中、咲世子はうやうやしく頭を下げた。

 

「それで、どうだった咲世子さん?」

「はい、この機に潜入しようとしていた者たちは全員捕獲。

 いつでもお帰りいただける準備はできています」

「何の話ですか?捕獲?」

 

話が見えない弾とウェイブは、頭をかしげた。

 

「このIS学園には、どんな国だろうが組織だろうが干渉できないっていう

 国際規約があるんだけど、それでも隙あらば学園内の専用機のデータとかを

 奪おうと虎視眈々と狙っている奴はいてねぇ~。

 更に、今年は男なのにISを動かした奴がいるから余計にね?」

「ああ~」

「そこで、咲世子さんには俺が前線に出た時の影武者と同時に

 騒動の後処理で隙ができる

 このタイミングを警戒してもらったんだけど、見事に網に

 かかってくれたみたいだね~。

 さぁ~て、お客さんにはどうしてもらおうかな~?」

 

クククと楽しそうに笑うカズキに、寒気を覚える皆であった。

 

「話を戻すけど、咲世子さんはウェイブと同じように違う世界から

 来てもらったんだ。そこにも力を貸してくれる仲間はいるんだけど、

 今手が離せなくてね。

 それで、今回は弾とウェイブに咲世子さんの三人に来てもらったんだ」

「そう言えば、何で俺たちアルバイトって形で

 潜入させられたんですか?」

「簡単なことさ、アルバイトなら書類さえ通れば

 自然な形でIS学園に入れるし、その後の隠滅も比較的

 楽で足取りを掴ませにくいからね」

「へぇ~でも、そのおかげで中間の勉強が……」

『日ごろサボっている結果である』

「お前も大変だな、弾……」

「だったら、勉強見てもらったらどうだ?彼女に」

「へっ?」

「えっ?わ、私ですか!?」

 

いきなり話を振られて虚は、驚いた声を上げる。

いつもなら、こんな風に話を振られても落ち着いて対処するのだが、

今の虚はオロオロするばかりであり、カズキと楯無はその様を

ニタァ~とした目で見ていた。

 

「彼女は三年で優秀だし、君も弾に助けてもらったお礼をしたかったんだろ?

 だったらちょうどいいじゃないか~♪」

「そうね、虚ちゃんの教え方と~~~っても分かりやすいし♪」

「う、碓氷先生!?お嬢様!?」

「カズキさん、何言って!

 そりゃ、俺好みの美人さんというかかわいい人なら大歓迎というか

 こっちから、お願いしたい……じゃなくてっ!」

『弾の好みと比較した場合、95%以上でストライクの部類に入る』

「ちょっ!おまっ!黙ってろ!」

「え~っと、どういうこと?」

「ふふ~、虚ちゃんはね?

 私たちが一夏くんに助けられたように、弾くんに助けられたのよ

 シャルロットちゃん♪」

「しかも、一夏が君達を助けた時以上に体を張ってだから

 そりゃねぇ?」

「どういうことですの/////!」

「ぜ、是非詳しく/////!」

 

顔を赤くして慌てふためく弾と虚を尻目に、セシリアとシャルロットは

息を荒くして、カズキに楯無、簪に詰め寄った。

 

「虚ちゃんねぇ、敵に捕まって人質になっちゃったのよ。

 で、敵は弾くんに変身を解くように言って彼をタコ殴りにしたの」

「虚さんは、自分に構わず戦ってって言ったんだけど

 あの人笑いながら虚にこう言ったんだって」

「“女の子を守ってできた傷なんて、男にはこれ以上ない勲章っすよ……”

 ってね♪

 まあ、もちろんそこから見事に逆転勝利もしたから、そんなとこを

 見せられたらね?」

「「……/////」」

「二人とも、何を想像してるのかわかりやすいわね~」

「でも、気持ちはわかる/////」

 

セシリアとシャルロットは、もしも一夏にそんな風に守られたらと

想像して赤くなった。

そんなカッコイイことをされたら、何も感じないということはないだろ。

 

現に弾と虚は、顔を真っ赤にして何故か互いを褒め合っている。

 

そして、カズキはチラリとウェイブの方を見た。

 

「ねぇ~ねぇ~ウェブウェブは、海の男って言ってたけど

 海の近くで育ったの?」

「ウェブウェブって、俺のこと?」

「ダメだったかなぁ~?」

「い、いやそんなことないぞ!

 だから、そんな目はしないでくれ!」

 

ウェイブは本音としゃべっており、付けたあだ名がダメかと

涙目になる本音だったがウェイブは慌てて慰めた。

どうやら、海の男は女の子に弱いようだ。

 

「ひょっとして、布仏さんも?」

「うん、虚と同じように人質にされてあのウェイブって人に

 助けられたの」

 

シャルロットが簪に聞くと、本音はいつもののほほんとした

感じではなくはにかみながら話すという、恋する乙女オーラを全開

にしていた。

 

『この部屋の桃色空間度、現在87%。

 尚も上昇中』

『俺らにもわかるぐらい、空気が甘くなってきたな』

「青春だね~」

「碓氷さんこちら、頼まれていた例の……」

「いつもありがとう、咲世子さん♪

 おお~こっちも相変わらずのようだね~」

「別にこれぐらいかまいません。私も見てて楽しいですし♪」

 

カズキが咲世子からもらった写真には、一夏のように

整った顔立ちの一人の少年が複数人の女の子から取り合いをされている

姿が映っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どうだ、山田くん」

 

ここは、IS学園にある地下空間。

特別な権限がある者しか入れず、デスブロムが出現する際に

弾き飛ばされた無人ISの残骸はここに運び込まれ、解析が行われていた。

 

「破損はひどいですが、人がのっていた形跡は見られません。

 やはり、無人機である可能性が高いかと」

「やはりか……」

「遠隔操作(リモート・コントーロル)か独立起動(スタンド・アローン)。

 どちらにしても、それ以上に問題なのは……」

 

エレンがそう言うと今日の戦闘映像、リュウケンドーが姿を見せた

辺りに千冬と真耶は視線を移す。

 

「一体、何者なんでしょう……」

「カズキから話は聞けないのですか?」

「ダメだな。

 アイツが関わっていると明確な証拠でも、突き付けなければ

 話す気はないだろう……。

 逆に言えば、それができなければ関わる資格はないということか……」

「でもあの宇宙ファイターXはどう見ても……」

「あの後、私たち二人は更識妹と一緒にいるのを見ているからな、

 はぐらかされるだけだ」

「恋人としての勘というのはダメなんd、グエッ!」

 

リュウケンドーに深く関係していると思われるカズキにどう話を聞こうかと

三人は頭を抱える中、エレンがこれはダメかと提案したら千冬に

撃墜されて床に沈んだ。

 

「コアの方は見つかったか?」

「は、はい!カケラと思われるのは見つかったので、

 おそらくは破壊されたのかと!」

 

怯える真耶や頭から煙を上げて沈むエレンを無視し、千冬はもう一度

戦闘映像に目をやった。

かつて世界最高の座にあった戦士の顔で――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「入って行ったね……」

「一体何をするつもりなんだろ……」

「それを今から、確かめに行くんや!」

 

なのは、フェイト、はやての三人は今日一夏と鈴の試合があり、

無人ISとの戦いがあったアリーナの入り口前にいた。

あんなことがあったので、アリーナは立ち入り禁止となっている。

 

「でも、こんなこと……」

「何を言うてるんや、なのはちゃん!

 あの宇宙ファイターXは誰が見ても、碓氷先生なのは間違いない!

 リュウケンドーや戦っていた相手、おまけに反応が途絶えた

 サーチャーにもSランク超えの魔力が確認された。

 もし、そんなのが他にもいて戦い合っているんやったら、

 世界が大変なことになる!

 それにひょっとしたら、基地の襲撃犯についても

 何か知っとるかも……」

「だから、直接話を聞こうと碓氷先生を探していたら、

 どこかに行くみたいだったから後を付けたわけだけど……」

「フェイトちゃんの言いたいことは、わかるで。

 如何にもな、ワナの匂いがプンプンや。

 でも、今は行くしかない!」

 

はやての言葉にうなずき、三人はそれぞれのデバイスを構える。

 

「結界を張ったと同時に、バリアジャケットを展開して突入や。

 ……行くで!」

 

はやてがそう言うと、結界を展開し、三人はそれぞれのバリアジャケットを

展開した。

 

なのはは白を基調として、どこかの学校の制服を思わせるバリアジャケットを

展開し、サイドポニーテールをツインテールと変えて

杖に変形したレイジングハートを左手に握る。

フェイトはロングヘヤーをツインテールとし藍色のコートの上から白いマントを

羽織り、左手に手甲を右手に斧へと変形したバルディッシュを構える。

はやては、黒を主体として金のラインが入ったバリアジャケットに

白のジャケットとベレー帽をかぶり、背中から3対6枚の黒い翼を生やし

杖を掴む。

 

それぞれのバリアジャケットを展開すると飛行魔法を発動し、

上空からアリーナに降り立つ。

 

「特に変わったところは、ないね……」

「油断したら、あかんでなのはちゃん……」

「バルディッシュ、結界内のサーチを……」

「その必要はないよ?」

 

前触れもなく聞こえてきた声に、辺りを見回すとアリーナの外壁の上に

月をバックにして立つ、宇宙ファイターXの仮面をつけたカズキがいた。

 

「遠い銀河の彼方から、青く輝く地球を守るため流れ着いた、

 一筋の流れ星!宇宙ファイター……X!

 とう!」

 

カズキ?は名乗りを上げると飛び降り、アリーナにクレータを

つけながら着地した。

 

「ふふふ……、私に何か用かな?時空管理局のお嬢さん方?」

「(待ち伏せされてた!)

 昼間の事件、そしてリュウケンドーに関する話を聞かせてください。

 碓氷先生」

「違う、私は宇宙ファイターXだ」

「いやいや。ごまかすのは、無理ありますって。

 だって……同じ服やないですか!」

 

フェイトが、話を斬りだすもカズキ?は頑なに宇宙ファイターX

だと言うが、はやてがばっさりと斬りにかかった。

何故なら、彼は先程からつけていたカズキと同じスーツ姿で、

宇宙ファイターXの黄金のマスクをしているだけなのだ。

 

「やれやれ、君達思いこみで話を進めるのは良くないよ?

 服は同じでも、このマスクの下にあるのは別人かもしれないじゃないか?」

「せやったら、そのマスクをとって顔を見せてください

 (これやったら、まず断るはず。

 そこから本命の要求や質問をして、一気に話の主導権を握る!)」

「うん、いいよ」

「「「えっ?」」」

「だから、マスクを取ればいいんだろ?」

 

話の主導権を握るために、確実に通らないと思った要求があっさりと

通って、なのはたちはそろって目を開いて驚く。

 

「ふっふっふっ……。

 さあ、見るがいい!この私の真の姿を!」

 

右手でマスクを左手でスーツの肩を握って、スーツを脱ぎ去ると

そこにいたのは……

 

「うそっ!?」

「なんやてっ!?」

「お、お義兄ちゃん!?」

「どうしたんだ、三人とも?そんなハトが豆鉄砲を喰らったような顔をして?」

 

なのはたちにとって縁の深い人物、フェイトの義兄クロノ・ハラオウンが

そこにいた。

 

『お待ちください、Sir』

『マスター、目の前の人物はクロノ・ハラオウンではありません。

 魔力の測定ができません』

「その通り!私はクロノ・ハラオウンではない。

 私は宇宙ファイターX。

 Xとは、未知を表す。ゆえに、その顔を知る者はおらず、

 誰かの顔と姿を借りて現れる。

 こんな風に!」

 

宇宙ファイターXが再び服に手をかけて脱ぐと、そこには

またも彼女たちに縁がある人物が立っていた。

 

「シ、シグナム!?」

「そうです、主はやて。

 私、宇宙ファイターXは

 このように姿、顔をいくらでも変えられるのです。

 ……だから、この碓氷カズキの姿も仮の姿の一つ。

 理解できたかな?」

 

宇宙ファイターXはシグナムと呼ばれた者の姿からカズキの姿を

取ると、再びマスクをつけた。

 

「だが、君たちは何を持って私をカズキやクロノ、シグナムでないと

 判断するのかな?魔力を測れないようにするなど

 そう難しくないし、第一何故私が嘘を言っていないと

 分かるのかな?

 私が悪人で君たちを騙そうとしているのかもしれない。

 でも、本当は君たちを混乱させるために仮の姿と言って

 自分の姿をカズキが出したかもしれない。

 さあ、どうする?」

「(あかん!いつの間にか、主導権をあっちに握られとる!)」

 

なのは達は、宇宙ファイターXの言葉に後ずさりはやては自然に

話の主導権を握った彼に、畏れを感じ始める。

 

「(悪いね~はやて。お前たちがつけていたのは“風”を通じて筒抜け

 なんでねぇ~。そもそも尾行はバレバレだったけどね)」

 

宇宙ファイターXことカズキは仮面の下でほくそ笑んでいた。

彼は、彼女たちが自分をつけていたことも彼女たちが設置したサーチャーの

場所も既に探し当てていた。

 

精霊魔術。

世界に存在する精霊の力を借りて、物理現象を超えた

事象を引き起こすことができるこの世界に存在する魔術。

カズキは、この精霊魔術の一つ風を操る風術を用いて彼女たちを見ていたのだ。

風は、質量が軽いため戦闘には向かないがほぼ地球上全てに存在しているので、

探査・索敵に優れておりまた速さもあるため、

カズキとしてはこの術をかなり気に入っている。

 

風は戦闘には向いていないので、他の力を扱うものからは軽視されがちだが

中には、最強の攻撃力を誇る炎の術者を圧倒するほどの風を扱うものが

いるという噂があるが、真相は定かではない。

 

「……あなたの正体はもういいです。

 その代わり、話を聞かせてもらってええですか?」

「内容にもよるけど、構わないよ」

「ありがとうございます。それではまず……」

 

はやて達は語り始めた。

自分達管理局の基地を破壊するもの、

そのものが地球に来ている可能性が高いこと、その調査に来たら

怪物に襲われリュウケンドーたちに助けられたこと、ISが関係している

可能性があること、包み隠さずに。

 

「話は以上です……」

「お願いです!何か知っていることがあったら、教えてください!」

「確かに全てじゃないけど知っていることは、ある。

 でも、さっきも言ったけどそれが嘘じゃないって君たちは

 どう判断するのかな?」

「そ、それは……」

「それでも、話を聞かせてください。

 あなたが話すことは嘘かもしれませんが、本当のことかも

 しれへんのでしょう?

 私達にこれ以上の手がかりがない以上、今はあなたの話を

 聞いて判断するしかありません」

 

はやての言葉に、カズキは少し考えるそぶりを見せた。

 

「……いいだろう。話をしよう。

 まずは、基地の襲撃犯だけど“破壊”をやった奴のことは

 生憎だが、知らないし答えようがないね」

「そうですか……」

 

カズキの言葉に落胆するなのはだが、そこに隠された真意に

気付かなかった。

 

「次にリュウケンドーだけど、彼と私は仲間でこの世界を守っている」

「でもそれなら何で私たちは、今までそれに気付かなかったんだろう……?」

「君は、随分傲慢だね?

 この世界のことを一体どれくらい知っているんだい?

 誰も知らない語られない歴史とかもあるかもしれないんだよ?」

「どれくらいって……」

 

カズキの言葉にフェイトは言葉を詰まらせた。

 

「最後に襲ってきた敵だけど、残念ながら私たちもほとんど

 把握していないんだ。分かっているのは、奴らが人間の

 負の心から生まれるマイナスエネルギーを集めていることぐらいさ」

「マイナスエネルギー?」

「人の恐怖や不安といった感情から生まれるエネルギーのことさ」

 

はやての問いかけにカズキは答える。

 

「私が話せるのはこれぐらいだ。

 それじゃ、この辺で……」

「待ってください!

 あなた達が戦っている敵が、別世界に現われる可能性が

 あるんやないですか!?」

 

立ち去ろうとするカズキに、はやては疑問を投げかける。

 

「そうか、あの怪物たちがこの世界だけで暴れているっていう保証は

 ないから、他の世界でも……」

「まあ、その可能性を否定できる要素はないね」

「っ!あんなのが、たくさん現れたら大変だよ!

 お願いです、宇宙ファイターXさん!

 私達に力を貸して下さい!」

「それは、君達時空管理局に強力しろと?」

「そうです!あなたやリュウケンドーと力を合わせればきっと……!」

「ここで、答えを迷う奴はいないな」

「それじゃっ!」

「ああ……断る!」

「えっ?」

 

管理局に協力してくれという頼みに、頷いてくれると思った

なのは達は何を言われたのか分からないと言う表情を浮かべた。

 

「聞こえなかったのか?断ると言ったんだ」

「ど、どうして……」

「個人的に、お前たち管理局の考えというのが嫌いでね~。

 もし協力したとして、そっちの法でがんじがらめにされて

 いいように使われるだけさ」

「そんなことありません!」

「それじゃあこっちからも質問だ。

 君達管理局に協力したとして、私たち側のメリットは何だ?」

「メリットって……」

「お前たちからしたら、未知の相手に対して有効な手段を確保できるが

 私たちは?

 こちら側からしたら、別に管理局の力がなくても困りはしない。

 別世界へ行く手段もこちらにはちゃんとある。

 わかるか?仮に協力体制をするにしても私たちが協力するんじゃない。

 お前達管理局が私たちに協力するんだ」

 

世界の危機となれば、自分達に力を貸してくれると思っていたので

まさか、こんな反論をされるとは思っていなかったのか、カズキの

言い分になのは達は何も言えなくなってしまう。

 

「更に言わせてもらうなら、お前たちは確かに魔導士としては

 優秀で魔法で勝てる奴を探すのは難しいだろう。

 だが、だからといってお前たちの力が奴らに通用するとは限らない。

 もしも、完全に魔法が通じない相手が出たらその時

 お前たちはどうする?」

「そ、それは……でも!」

「話は終わりだ。私はこれで失礼する」

「……待ってください!

 それじゃ、私たちが怪物と戦えるってわかったら

 管理局じゃなくて私たちに協力してくれますか!」

「「な、なのは(ちゃん)!?」」

 

とんでもないことを言い出すなのはに、フェイトとはやては驚愕する。

 

「……それを私が確認する義理も義務もないな」

「ちょ~待ってください。

 さっき、あんたは別世界に行く手段があるゆうてましたよね?

 許可のない次元移動は違法です。

 そこんとこで、話を聞かせてもらいます!」

「は、はやてまで!」

「(落ち着いてフェイトちゃん!

 今はこうやって、適当な理由をつけてでも手掛かりを掴まんとどうにもならん!

 あの人はまだ、何か知っているかもしれへんし、逮捕やのうても

 いつでも、連絡できるぐらいはしとかんと!

 何も攻撃するわけちゃう。

 バインドで動きを封じて、もう一回話をするんや)」

「(そうだね……今はさっき言ってたようながんじがらめなんか

 しないってわかってもらわないと!)」

「(決まりだね!)」

「何だ?言うことを聞かないから、力ずくでくると言うのか?

 それなら、こちらも容赦はしないぞ?」

 

カズキはスーツの懐に手を入れると、一枚のカードのようなものを取り出した。

 

「それは!」

「デバイス!?」

「やっぱり、そうやったか。

 昼間あのISを吹っ飛ばしたのも魔法を使っとたんやな!

 そんで、あの恰好があんたのバリアジャケット!」

「さぁ、どうだろうねぇ?」

 

カズキはそのカードを空にかざすように持ち上げ……

 

「させへん!」

「そこっ!」

「ごめんなさいっ!」

 

それぞれ白色、桃色、金色の輪、バインドをカズキがデバイスを起動する前に

かけようと三人は動いた。

 

「「「なっ!?」」」

 

だが、カズキはそれを消えたかと思うほどの速さで上空へとジャンプ

することでかわし、するりと着地する。

 

「やれやれ、仕方ないなぁ~

 でも、仕掛けてきたのは君たちが先だから正当防衛ってことでいいよね?」

「(まさか、私たちに先に仕掛けさせるつもりでっ!)」

「それじゃ、行くよ?」

『OK!行くぜ、相棒!』

 

カズキが手にしたカードから声が流れ、彼はそれを上へと放り投げた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(……あれ?いつの間にか寝ていたのか……。

 んっ?誰か覗き込んでいる?)」

 

保健室で一夏は、千冬が部屋を出た後もう一度眠りにつき、

目覚めようとしたら、そのぼやけた視界に誰かの顔が映る。

 

「……鈴?」

「ひゃっっっ!!!?」

 

鈴は頭をぶつけんばかりに驚き、一夏から飛びのく。

 

「ああああんた、どこから起きて/////!」

「ん?いや、今起きたとこ。

 何してたんだ、お前?」

「べべべべべ別に何もないわよ/////!!!」

『(寝ている一夏に……、なんて言えないよな~)』

 

顔を真っ赤にする鈴に対して、ゲキリュウケンはおもしろそうに笑った。

 

「そうだ、前に言ってた対抗戦が終わったら体育館の裏って

 ……あの姿関係か?」

「うん……あんまり驚かないんだね。あたしが魔導士だったって」

「いろんなことがあったからなぁ~。

 ちょっとやそっとじゃ、驚かないさ。

 お前も俺がリュウケンドーだって知ってたのか?」

「中1の中頃には知ってた」

「そんな前からかよ……」

 

何とも言えない微妙な空気が二人の間に漂う。

 

「そう言えば、親父さんたちは?

 こっちに戻ってきてるなら、店やってるんだろ?

 うまかったからな~、親父さんの料理。

 夕飯をそこで済ましたりしてさ」

「……ごめん。お店はしないんだ……。

 お父さんとお母さん、離婚しちゃったから……。

 あたしの帰国もそのせいで……さ」

「えっ?」

 

鈴の思いもよらぬ言葉に一夏は目を丸くした。

それ程衝撃的だったのだ。

物心ついた頃から、両親はおらず雅と千冬に育てられてきた

一夏にとって、鈴の家族は理想だったのだ。

気前がよく馬鹿なことをいっては奥さんに、叩かれていた

親父さんとそれに呆れる鈴。

家族とは、こういうものだと思っていたのだ。

 

「で、でも今なんかより戻そうかって話になってて!

 二人とも、素直じゃないからなかなか進まないんだけどねぇ~」

「『……』」

 

笑うことをせず、一夏はゲキリュウケンと共に真剣に鈴の話を聞いた。

 

「……離婚するって聞いた時あたしいらない子なの?って

 思ってさ……。

 それでたまたまIS適正のテストで高い数値が出て、それから

 魔法を教えてくれる子たちと会ってさ……。

 強くなったら……一夏がその……相棒として必要としてくれる

 かもって、がんばってさ……」

「鈴、今度の休みに遊びに行くか」

「えっ!?それって!」

「みんなでさ、騒ごうぜ?弾とかも誘ってさ!」

「……そうよね、あんたは……一夏だもんね……」

 

鈴を元気づけようと遊びに誘う一夏だったが、鈴は一瞬顔を

明るくするもすぐにズーンと沈んだ感じとなる。

 

「何言ってるんだよ?」

『お前が女心を理解しない馬鹿だと言うことだ。

 すまないな、鈴。

 こいつはこういう馬鹿なんだ』

「なっ!誰っ!?」

「誰って、コイツだよ。ゲキリュウケン。俺の相棒」

『はじめましてだな、凰鈴音。

 私はゲキリュウケン。一夏の相棒をしている』

「あ、相棒!こんなのが!?

 じゃあカズキさんが持ってたのも!

 ……ってここにいたってことは、まさかさっきの/////!?」

「さっきの?」

『……安心しろ。私は何も見ていない。

 寝ている一夏にお前がk「わあああああ/////!!!!!」』

 

鈴はゲキリュウケンのことを知らなかったのか、仰天し

先程のことを見られていたと分かり顔を真っ赤にして

大声を上げてごまかす。

 

「どうしたんだよ、一体?」

「な、何でもないわよ……」

 

肩で息をしながらぜぇぜぇ言っていると、保健室のドアが開き

なだれ込むように人が入ってきた。

 

「はぁ~い、一夏くん!具合はどうかな?

 お姉さんが看病してあげちゃうわよ~♪」

「一夏さん!お体の具合は!?」

「一夏……汗かいたなら、私が拭いてあげる/////」

「一夏!ぼ、僕が一夏専用のナ、ナースになっても/////!」

「何なのよ、アンタたちは!!!!!」

 

やってきたのは、先程まで生徒会室にいた面々であった。

カズキが

“そう言えば、今保健室では一夏と鈴が二人きりで寝ていたなぁ~”

等と言うものだから、ここに走り込んできたのだ。

もっともゲキリュウケンもいるから、正確には二人きりではないが。

 

「あら~私はがんばった後輩のお見舞いに来ただけよ?

 それともな~に?

 私たちが来たら、何かマズイことでもし・て・た・の・か・な?」

「ななななな何言ってんのよよよよよ!!!」

「そこのところ、どうなのゲキリュウケン?」

『そうだな、彼女は……』

「黙ってろ!KYリュウ!」

「ねえ、一夏?お腹すいてない?

 今から食堂に行って一緒に食べない?」

「シャルロットさん!何抜け駆けしようとしてますの!」

「……俺がんばったのに、なんでこうなるの?」

『お前が一夏だからだろ』

 

一夏のことなどおかまいなしに騒ぐ彼女たちに

ため息をつきたくなる一夏であった。

 

「そう言えば、カズキさんは?」

「なんかなのは達に用事があるんだって……」

 

いつの間にか、一夏のベッドの隣に座っていたシャルロット

と同じく反対側に座っていた簪が答えた。

 

「なのは達と用事?あいつらとドンパチする気かな?」

「なのはさん達とってどういうことですの?」

「彼女たちは普通の生徒じゃないわ。

 一夏くんやリュウケンドーのことを調べに来た

 時空管理局の人間なの」

「時空管理局って、前に碓氷先生が言ってた?」

「ああ。あれはカズキさんの作り話でもなんでもなく、

 本当のことなんだ。

 管理局は魔法の力を使っているんだけど、なのは達の

 魔法を使っての実力は多分楯無さんぐらいだと思う」

「お姉ちゃんと互角っ!?」

 

一夏の言葉に、楯無の実力を知る簪、シャルロット、セシリア

は驚いた。4人とも特訓の合間にやったISの模擬戦で、一度も

楯無に勝ったことがないのだ。

 

「ちょっとマズイじゃない!

 国家代表クラスが3人って、いくらあの人でも!」

「大丈夫さ、鈴。

 だってあの人、生身で俺たち……リュウケンドーとリュウガンオーを

 ……ボコボコのギッタンギッタンにできるんだぜ?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

カツ―――ン

何かが、地面に落ちる音がアリーナの中に響き渡った。

 

「(何が……起きたんや……!?)」

 

アリーナに横たわり驚きに顔を染めるはやての目には、自分と

同じように驚きの表情を浮かべ倒れているなのはとフェイト、

そしてレイジングハートを

肩にかける宇宙ファイターX……カズキの姿が映っていた。

 

「やれやれ、予想はしてたけどここまでとは……。

 君たちこれがデバイスだと思ったみたいだけど、

 ただのおもちゃだよこれ?」

『OK!行くぜ、相棒!』

『了解、マスター!』

『行きましょう、ボス!』

 

カズキは、自分が放り投げて地面に落ちたカードを拾い上げて

スイッチを押していくと、セリフが発音されていく。

 

「お前たちは勝手に私が自分たちと同じように、魔法を使って戦うと思いこんだ。

 だから、このデバイスのようなおもちゃを

 本物だと警戒し放り投げたから、それを一瞬追って俺から意識を外した。

 私には、その一瞬あれば十分なのさ。

 お前たちを倒すにはな……。

 それに、これから戦おうっていうのに、お前たちは

 戦闘態勢にすら入っていなかった。

 その反応の遅さが、勝敗の決め手さ」

 

つまり、カズキはなのは達の視線を一瞬だけ外し、その一瞬で

彼女たちの懐に入り、手刀を当てて倒し、なのはが手放したレイジングハート

をキャッチしたのだ。

ケガをしないよう可能な限り、手加減して。

僅か1~2秒間の出来事である。

 

「そして、お前たちはどこかで魔法を使う自分たちが

 負けるわけがないと慢心していた。

 魔法以外に自分たちと戦える力はないと思ってな」

「「「っ!」」」

「もし私が奴らの仲間だったらどうする?

 今頃、お前たちは天国の扉をくぐってたかもしれないぞ?

 加えて、これぐらいできる奴は世界にはゴロゴロいる。

 悪いことは言わない。

 もう、私たちに関わるのはやめろ」

 

攻撃され痛む場所を押さえながらも、なのは達は何も言い返すことができず

ただその場で倒れているしかなかった。

 

「それと、そこに隠れている奴。

 あいつらは、軽く当てただけで大した傷は負っていないから

 安心するといい」

 

レイジングハートをなのはの元に放り投げて、

アリーナから立ち去ろうとしたカズキは、足を止め誰もいない観客席に

目を向けて、こう言い放った。

そして、カズキが今度こそアリーナから

立ち去ると、ある席からリインが顔を出した。

彼女は、万一なのは達がカズキと戦闘になった場合や証拠を

得るために離れた場所で映像の記録を頼まれていたのだ。

 

完全にカズキがいなくなるのを確認すると、リインは急いで

なのは達の元へと駆け付けた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一夏、起きているか……って、何をしているのだお前たち!!!」

 

カズキとなのは達がそんな戦いとも呼べない戦いをしているとは

思っていなかった一夏たちの前に、手に何かを持った

箒がやってきた。

 

「何って、一夏くんのお見舞いよ」

「うん」

「そうそう」

「そういう箒さんこそ今頃お見舞いですか?」

『(いや、お前たちもさっき来たところだろ)』

「う、うるさい!

 それよりも、一夏!ここここここれをだな/////!」

 

箒はしどろもどろになりながら、手に持っていたものを一夏に

差し出してきた。

 

「箒、何だよこれって、この匂い……食べ物か?」

「そ、そうだ。腹が空いていると思ってな。

 作ってきた/////」

「おお~サンキュー!

 ちょうど腹減ってたんだよ!

 あれ、これチャーハン?」

「な、なんだ!なにか文句でもあるのか!」

 

箒が作ってきたのは、ほかほかのチャーハンであった。

 

「作ってくれたのに、文句なんかあるわけないだろ?

 ただ、箒が作るのだと和食のイメージがあるからさ、意外と言うか

 なんというか」

「そ、それは偏見と言うやつだ!

 べ、別に和食以外も作れるというのを見せたかったわけではない/////!」

 

赤くなりながら顔を背ける箒を、楯無たちはジト目で見ていた。

 

「じゃあとにかく、いただきます!

 ……ん?」

「ど、どうした?」

「味がしない」

「な、なにっ!?」

「えっ?」

「どういうこと?」

「見た目は普通ですわね……」

「匂いもちゃんとするわよ?」

「箒ちゃん、これ味見した?」

「一夏!貸してみろ!」

 

箒は一夏から皿をひったくるとレンゲを口に運んだ。

 

「……」

「う~ん、調味料が足りていないのか?

 でもそんなんであの匂いや色がつくわけないし……」

「こ、これはあれだ!たまたまだ!

 たまたま入れ忘れただけだ!」

「どうやったら。調味料を全部入れ忘れるんだよ」

「ええ~い!私が食べればいいのだろ!私が!」

「そんなこと言ってないだろ?

 それより早く返してくれよ。

 せっかく作ってくれたモノを残すほど恩知らずじゃないぞ?」

 

今度は一夏が箒から、皿をひったくると瞬く間に

チャーハンを食べ終わる。

 

「ごちそうさまでした」

「勘違いするなよ!今回はたまたま失敗しただけだ!

 こ、今度はちゃんと成功したものを食べさせてやる////!」

 

箒がそう言うと、彼女を押しのけるかのように鈴たちが一夏に詰め寄った。

 

「一夏っ!だったら、私の酢豚食べなさいよ!」

「一夏さん、わたくしの手料理を是非!」

「一夏?一緒に作ろう?」

「一夏?お菓子……好き?」

「一夏く~ん。今度お姉さんおっっっいしい

 ごはん作ってきてあ・げ・る♪」

「お前ら~。一夏から離れろ!」

「み、みんな、落ち着け!

 (なんで、こんなに必死なんだ?)」

『(お前なぁ~)』

「(なんで、俺の周りっていつもこんなに騒がしくなるんだ?)」

『(ふっ、それがお前と言う人間だからではないのか?)』

「(なんだよ、それは)」

 

保健室なのに、騒ぐ彼女らを眺めながら一夏は夜空に輝く

月を見上げて感慨にふけるのであった――

 

 

 

 

 

「そう言えば、さっきの箒って一夏と間接キス……」

 

簪の言葉を皮切りに保健室では、嵐が吹き荒れることになり

千冬が鎮圧にくるまで続いたと言う。

 

 




はい、これにて1巻の内容は終了です。
カズキの影武者をしてくれたのは、コードギアスの篠崎咲世子さんでした。
性格、能力は原作と変わらずですwww

風術は「風の聖痕(かぜのスティグマ)」から。
カズキは、原作に登場した正統派風術師よりも上の術者ですが、
規格外の風術師である原作主人公に風術では勝てません。主人公のことは、噂程度の認識です。

なのは達クラスはISだと楯無クラスの設定にしてますが、
ISは魔導士相手だと厳しいです。
魔導士側からしたら、ISはパワードスーツだとわかりますが
IS側にはバリアジャケットという概念が無いので、
普通の衣服を着ているようにしか見えない魔導士を攻撃するのは躊躇があるためです。

今回カズキがなのは達の戦いに使ったのは、自分への意識を逸らすこと。
そして自分の存在を希薄化することで、自分のことを一瞬だけ彼女たちの意識から外しました。
なのは達はバリアジジャケットを展開して、戦えるようにしていましたが相手が生身なので捕まえればいいという考えが攻撃という選択肢を最初から捨てていました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 妹を思う兄心


今回は幕間ということで日常回、一夏たちの話です。
そして、本作品最強のお方が登場します。

活動報告にアンケートを載せているので協力お願いしますm(_ _)m


「で?」

「で?って何がだよ?」

 

6月のある日曜日、一夏は五反田弾の家にいた。

今は弾の部屋でTVゲームに興じている。

 

「だ~から!女の園の話だよ!いい思いしまくってんだろ、お前!」

 

血の涙を流さんばかりに叫ぶのは、外側にはねたような髪形の少年、

リヴァル・カルデモンドであった。

 

「嘘をつくなよ、嘘を。ついてもすぐわかるからな?

 さぁ吐け!お前が毎日過ごしている天国を!

 男の夢のヘヴンのことを全部吐け!!!」

 

リヴァルと同じように血涙を流す勢いで一夏に詰め寄るのは、少し

お調子者のように見えるラバックという少年である。

 

「いい思いも何も特にないぞ?

 創生種は襲ってくるし、ISの特訓はきついし、

 トイレの数は少ない、力仕事は押し付けられる、

 そしてISスーツ目のやり場には困るし、

 飯を食いに行こうとしたら両手を誰が組むとかで喧嘩に

 なって俺まで怒られて……」

「「それがいい思いだっつ――――の!!!」」

「お、落ちつけよ二人とも」

『こいつの“コレ”はいつものことだろ?』

「気持ちはわかるけど、叫んだってしょうがないだろ?」

 

一夏の言葉に天を衝かんとばかりに叫ぶ、リヴァルとラバックを

なだめるのはウェイブとゲキリュウケン、そして元気がよさそうな

少年タツミであった。

彼らは一夏たちと共に戦う仲間であり、住む世界は違えど

歳も近いためかよくこうやって、集まったりする。

 

「うるせぇ!お前らみたいなモテる奴らはすっこんでろ!」

「そうだ!そうだ!」

『聞く耳もたんか』

「お前らいい加減にしろ!!!」

 

嫉妬に狂う二人にゲキリュウケンが呆れていると、彼らがいる部屋の

主である弾が大声を上げた。

 

「こっちはこれからお客さんが来るって言うのに、

 何でお前ら俺の部屋で騒いでんの!?

 早く片付けして、服も準備しなきゃいけないってのに!!!」

『昨晩、興奮と緊張のために寝れなかったための寝坊が原因である』

「何そんなに慌ててるんだよ弾?」

 

ああでもないこうでもないと部屋を右往左往する弾に、一夏が問いかけるが

その答えは突然の訪問者によって聞けなくなる。

 

「お兄(にい)!さっきからうるさい!

 それとお昼だからさっさと――って、い、一夏さん!?」

 

ドアを蹴破って入ってきたのは、五反田蘭。弾の一つ下の妹である。

 

「あ、久しぶりだな蘭。お邪魔してるぞ」

「おー!なになに、このかわいい子!」

「はじめましてかな?俺はウェイブ」

「俺はタツミ、弾の友達だ」

「リヴァル・カルデモンド、よろしくー♪」

「へっ!あ、あのっ!こ、こちらこそよろしく……。

 そ、それよりもき、来てたんですか……一夏さん?」

「ああ、家の様子を見に。後はちょっと、野暮用」

「そ、そうなんですか……はっ!」

 

次々に彼らは自己紹介をするが、蘭の耳には届いておらず

一夏しか目に入っていないようである。

そんな蘭が視線を落とし、自分の恰好を見てばつが悪そうになる。

彼女の恰好はタンクトップにショートパンツ、長い髪もクリップで

止めてあるだけという、かなりラフな恰好なのである。

 

「蘭、お前もノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――」

 

ギンッ!

・蘭(妹)のにらみつける攻撃

・弾(兄)には効果バツグンだ!

・弾(シスコン)は怯んでしまった。

 

「……何で言わなかったのよ……」

「あ、あれ?言ってなかったっけ?ハ、ハハハ……」

 

古今東西どこでも、ISとか関係なく女性の家族に男は

勝てないようである。

 

「はぁ~。それじゃ、皆さんや一夏さんもお昼ご一緒にどうぞ」

「元から、そのつもりだよ。ありがとな」

「い、いえ……」

 

そう言って、ドアを閉じて蘭は去っていった。

 

「しっかし、蘭の奴もう会って三年ぐらいになるのに

 敬語とか……まだ俺に慣れないのか?」

「「「「「『『は?』』」」」」」

 

一夏の言葉に、人間や魔弾龍関係なく“何言ってんだ、コイツ?”な顔となる。

今のやり取りで、蘭が一夏のことをどう思っているかなど

誰が見ても明白である。

 

「だって、なんかよそよそしかったじゃないか?

 すぐに部屋からも出てってたし」

「お前ってさ……たまにわざとやっているのかって

 思う時があるよな~」

「弾、お前の気持ちはよ~くわかるぜ?」

「よかったじゃねぇか?こんな義弟ができなくてさ?」

「はっ?なんで弟なんか出てくるんだ?

 わけわからん」

『それはこっちのセリフだ』

『同意する』

 

頭に?を浮かべる一夏に呆れながら、彼らは部屋を出て下に降りた。

 

弾の家は、食堂を営んでおり昼食をとるために6人は

テーブルにつこうとするとそこには先客がいた。

 

「うげ」

「なによ?何か文句があるの?

 あるならお兄ひとりで外で食べれば?」

「聞いたかよ、皆?

 今の優しさに満ち溢れた言葉。泣けてくるぜ~」

 

一夏の肩をつかみ弾はヨヨヨと泣く真似をする。

だが、一夏は知っていた。

如何に憎まれ口を言われようが、弾が蘭のことを大切に思っていることを。

妹を守るために戦う勇気をゴウリュウガンに認められて、

リュウガンオーになったことを――

 

「別にいいじゃないか。みんなで食べた方が飯もうまいだろ?」

 

一夏がそう言うとタツミ、ウェイブ、ラバック、リヴァルが同じ

テーブルに、残りの一夏、弾、蘭が相席することになった。

 

「あれ?蘭、着替えたのか?

 この後、どこか出かけるのか?」

「こ、これはですねっ?」

 

蘭の恰好は先程のラフなものではなく、清楚なものになっていた。

髪はおろしてロングストレートにし、薄手で半そでのワンピースを纏って、

健康的な脚にはフリルのついたニーソックスを履いている。

 

「あっ!彼氏とデートか!」

「違いますっ!」

 

頭に電球を光らせた一夏の言葉に、超反応で否定する蘭だった。

 

「「「「『『はぁ~』』」」」」

「まっ、兄としてはお前の言うとおりであってほしいけどな。

 何せコイツが家でこんな気合いの入った恰好をするのは

 数か月ぶりゅう!」

 

瞬間、弾の口は蘭の手によってふさがれ、いすから持ち上げられた。

こんなきゃしゃな腕のどこに、そんな力があるのだろ?

 

「オニィ…………?」

「ゴゴゴゴゴメンナヒャイイイイイイ!!!!!」

 

瞳から光が消えた氷点下の眼差しに、数々の戦いを乗り越えてきた

魔弾戦士はあっさりと白旗をあげた。

 

「なんて言うか……すごいな」

「ああ、俺一人っ子でよかったかも」

「アイツも妹に勝てないからな~」

「ああ~、あの頭はすごくいいけど体力ナシのあいつか~

 て言うか、蘭ちゃん。一夏に彼女いること知らねぇのか?」

「相変わらず、仲がいいみたいだね君達?」

「「「「「「「うん?」」」」」」」

 

全員が声が聞こえてきた入り口を見るとそこには、カズキが立っていた。

しかも、一人ではなく――

 

「やっほう~一夏くん♪」

「こ、こんにちは/////」

「久しぶりね、ここも」

「き、奇遇だな一夏/////」

「わ~、ウェブウェブだぁ~」

「お、お邪魔します/////」

「ふむ、いいにおいがするな」

「そうだね、お姉ちゃん。すごく楽しみ」

「カズキさん!それに、楯無さん!簪!鈴!箒も!」

「ほ、本音ちゃん!」

「う、虚さん!もう来たんですか!?」

「アカメにクロメまで!」

「なんか、嫌な予感しない?ラバック?」

「今の内に、離れておくか……」

 

楯無を筆頭にIS学園の恋する乙女を引き連れてやってきた。

アカメ、クロメと呼ばれた二人は、驚く一夏たちは目に入らず、

入った瞬間に漂う匂いに食欲をそそられていた。

 

 

 

「で?何しにきたんですか、カズキさん?」

「何しにきたって、久しぶりにここの料理を食べに来ただけだよ?

 リヴァル」

「じゃあ、そのビデオは何なんすか?」

「決まっているだろ、ラバック?

 あれだよ、あれ」

 

カズキは、リヴァルとラバックの近くに座りビデオカメラを回して

三人の目の前で行われている出来事を録画する。

 

「ねぇ~、一夏くん?

 ここに来るまでに疲れちゃったから、食べさせて~」

「お姉ちゃん、ずるい!」

「そ、それなら私も同じだ!た、たべたたべべべべ/////」

「何なのよ~、この美人さん達は~」

「ら、蘭にも負けてる……」

「ちょっ!落ち着いてくれ!」

 

一夏の周りでは、楯無が一夏に甘えようとしそれを見た簪と箒が

同じようなことをしたり、一目で彼女たちがライバルだと理解した蘭が

彼女たちのあまりのレベルの高さに落ち込んだり、

鈴が年下の蘭にまで“あれ”の大きさが負けてorzになっていたりと

なかなかに混沌としていた。

 

「わ~い♪ウェブウェブとごはん♪ごはん♪」

「…………」

「ほ、本音ちゃんちょ!近いって!

 ……イデデデデデ!ク、クロメ!?

 なんで、つねってるんだよ!」

 

ウェイブの隣では、両方にそれぞれ本音とクロメと呼ばれた黒髪でセーラ服を

着た女の子が座っている。本音はウェイブの腕にくっつきながら、ご飯を

食べ、それを見たクロメが普段は何を考えているか読めない顔を

若干ふてくされたように歪め、食事しながらウェイブの脇をつねるという

器用なことをしていた。

ちなみに、本音のあれは箒や楯無と変わらない大きさであり、

ウェイブの腕にはそのやわらかいものが当たっていたりする

 

「うむ、店主。なかなかの腕だな!」

「いつもながら、どれだけ食うんだよお前は」

 

一夏とウェイブに比べて、タツミとクロメに似た容姿で黒い長髪の

アカメは比較的平和であった。この店の料理が気にいったのか、

サムズアップをしながら、何杯もお代わりをしている。

 

「いや~、やっぱりこういうのは見てておもしろいよね~

 ククク。

 本当は、一夏には後二人いるんだけど、今日は用事が

 あるみたいでね~。

 ちなみにあいつも実家に帰ってるところ。

 ここにいたら、もっとおもしろいことになったのにねぇ~」

「相変わらずっすね、アンタは……」

「うるせーぞ、おめぇらぁ!

 おとなしく食わねえなら下げるぞ!」

 

怒鳴り声を上げたのは、ここ五反田食堂の大将で弾の祖父、五反田厳(げん)

である。齢は80を超えているというのに、中華鍋を一度に二つも振れる

豪快な人であり、マナーの悪いものには例外なくお玉が飛んでくる。

孫娘溺愛歴14年でもある。

 

「それより、何すか?あれ?」

 

ラバックが指さしたのは、互いに向き合って座りカチンコチンに

固まっている弾と虚であった。

 

「……(ぐほっ!なんだ今日の虚さん!かわいすぎて、直視できねぇ!)」

「……(五反田さん、どうして黙っているのでしょう?

 ど、どこかおかしかったでしょうか??)」

「「あ、あの!」」

「う、虚さんからどうぞ/////」

「い、いえ五反田さんから/////」

「いや~甘酸っぱいね~青春だね~♪」

「ラバック、なにこれ?」

「弾の野郎、いつのまにあんな美人と」

 

付き合い始めたカップルがごとく、話が進まない二人をカズキは

にんまりとして録画し、リヴァルとラバックはついこの間まで

自分たちと同じだった弾を背後に炎を燃やしながら、睨んでいた。

 

「お姉ちゃん朝から気合い入れて服選んでたのに、

 ダンダンったら、気のきいたこといわなきゃダメだぞ~」

「あ、あのカズキさん。お兄と一緒にいる人って……」

 

本音の言うように、虚は学園での生真面目な印象とは違い蘭と同じく

清楚な服装であるが、そこに知的という印象もプラスされているので

街中にいけば、男たちが我先とばかりに声をかけてくるだろう。

もっとも、彼女は更識家の従者であるため護身術も体得しており

並の男より強いのであるが。

そんな彼女が本日、ここ弾の家に来るためにいつも整理整頓している

部屋をひっくり返すほどの勢いで服を選んでいたなど

余裕のない弾には知る由もなかった。

 

一方、蘭はふと静かな兄の方に目をやると自分の想い人の周りに

いる者たちに優らぬとも劣らない美人と一緒に初めてのお見合いの

ようにしてるものだから、カズキにおずおずと尋ねてきた。

 

「うん?彼女は、布仏虚と言ってね~。

 まあ、簡単に言うと君の将来のお姉さん候補ってところかな~?」

「え?……えええええええええ!!!!!?

 おおおおおお姉さん候補って……ええええええええええ!!!!!」

 

余程信じられないのか、蘭は目を見開いて驚く。

 

「おおおおお兄に彼女!!!?

 だってお兄は、お兄で!だから……えええええ!!!!!」

「蘭、何言ってんだ!!!そりゃ、こんな美人が彼女ならうれしい、

 じゃなくて!!!」

「わわわわわ私が彼女、恋人、お嫁さん……キュウ~」

「わ~、お姉ちゃんタコさんみたいに顔真っ赤~」

「あらら、あんなかわいい虚ちゃんは始めてみるわね、簪ちゃん?」

「うん、意外」

「彼女か……」

「あれが普通よね。なのにコイツは……」

「何見てんだよ二人とも?」

「ククク♪ちょっと、予想外だったけどいいね~いいね~」

 

蘭の暴走に、弾だけでなく虚までいつかの簪みたいにオーバーヒートし、

楯無と簪は見たことのない彼女の様子をアラアラと見て、

箒と鈴は、これが普通の反応だよな~と思いながら少しも

今の状況がわかっていない一夏に目をやった。

しかし、そんな二人に我慢できないのが……

 

「嘘だろ……弾も結局“そっち側”かよ……」

「だぁぁぁ!!!一夏は、天然ジゴロ!

 ウェイブはクロメちゃんだけでなく、天然っぽいかわいい子にも

 懐かれてるし!タツミは年上受けするし!

 他の連中もなんだかんだで、女の子とイチャイチャしてるし、

 ふざけんじゃねぇぇぇ!!!」

 

リヴァルは手をつきながらこの世の不公平を嘆き、ラバックは頭を抱えて

嫉妬の声を天高く上げた。

 

「こうなったら、弾が俺から借りてきたお宝本の数々を暴露して……」

「あら~?せっかく、咲き始めた恋の花をつまもうとする

 悪い子はだぁ~~~れ?」

 

男ならばれたくないヒミツを明かそうとした、ラバックの後ろに

いつの間にいたのか、笑顔に影を纏った吉永雅が立っていた。

 

「「「「雅さん!?」」」」

「おお~きれいな人だね~」

「一夏くんの知り合い?」

「きれいだけど、なんだろう?何か近づきたくない……」

「あら、雅さんお久しぶりです♪」

 

突然やってきた雅に、彼女を知る一夏、箒、鈴、蘭は驚きの声をあげた。

一夏たちの驚きに疑問の声を出す、楯無たちだが簪は雅の

言いようのない迫力に怯えてしまう。

 

そして自称、五反田食堂の看板娘、五反田蓮(れん)が

久しぶりの雅の来店を喜んでいた。

この人は弾と蘭の母親であるのだが、実年齢は二人とも知らない。

“28から歳をとっていない”とのことである。

 

「ちょっと待てよ!」

「あの人、ラバックの後ろを取ったぞ!?」

「……できる」

「……」

 

ウェイブとタツミは、雅がラバックの後ろをとったことを驚いていた。

彼らの気配察知能力は、裏の世界を知る楯無や

魔弾戦士である一夏、弾以上なのだがそれに気付かれることなく

現れたことから、警戒を強める。

 

「はは、落ち着きなよ皆。

 この人は吉永雅さん、一夏や千冬ちゃんの保護者だよ」

「みなさん、こんにちは。

 吉永雅です。

 さて、厳さん?奥の部屋を借りてもいいかしら?」

「へ、へい!いくらでも好きに使ってくだせぇ!!!」

 

頬に手を当てて顔を傾げながら、尋ねてくる雅に対して

一夏たちを怒鳴った時の勢いはどこに行ったのか、厳は

背筋を伸ばし、ビクビクしながら答えた。

 

「うふふ、ありがとう。

 じゃあそこの君?カズキくんみたいに、さりげなく

 バラすんじゃなくて、直接人様の恋路を邪魔する悪い子が

 どうなるか、教えてあげるね♪」

「えっ!ちょ、待って!

 てか何?この人!すっげぇ力なんだけど!ちょっ!」

 

微笑みながら、うっすらと開けたその細めた雅の目は

笑っておらずラバックの襟首を掴んでズルズルと奥の部屋へと

有無を言わさず連れていった。

 

「ラバック……お前のことは忘れない」

「友よ、安らかに眠ってくれ……」

「いい奴だったよね~」

「えっ?何?何が起きるの?」

「何であきらめモード?」

「楯無さん、簪、何も言ってはいけない」

「そうよ、あの人だけは絶っっっっっ対に敵に回しちゃいけないのよ。

 千冬さんだって、敵わないんだから……」

 

一夏たちが、ラバックとはもう会えないかのごとくふるまう中で

なにがなんだか分からない面々は傾げるだけだったが、

その理由はすぐにわかった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

ラバックの悲鳴が店の中に響き渡った。

 

「あ゛あ゛あ゛っ……あ゛あ゛!

 ……あ゛……………」

 

悲鳴がどんどん小さくなって、静まり返って数分が

過ぎると、雅が戻ってきた。

 

「は~いみん~な♪お説教は終わりましたよ~♪」

「…………」

 

笑顔を浮かべる雅とは対象的に、ラバックはほにゃ~とした

放心状態であった。

 

「……何が起きたの?」

「なあ、一夏。お前たちなら知ってる……ってどうした!?」

 

楯無が扇子を開いて摩訶不思議の文字を浮かべ、

ウェイブが詳細を知ってるであろう、一夏たちに話を聞こうとしたら

一夏、箒、鈴はこれでもかと言うぐらいガタガタと震えていた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「あああああああああ……!!!!!」

「ひぃっ!ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「一体何が……」

「タツミ、それにみんな。

 世の中には、知らなくてもいいことがあるんだよ?

 俺も、アレを受けるのは流石に勘弁だね~」

「ふふふふふ……」

 

ラバックの身に何が起きたのかを知っているのか、カズキは

知らない者たち忠告をし、自身もそれを受けるのはゴメンだと言う。

異様な空気の店の中で雅の微笑みだけが静かに響き渡った――

 

その後、雅も交えて一同は昼食を再開した。その中で、

一夏とのやりとりも再開した箒たちを見て、蘭は立ちあがった。

 

「私、決めました。来年IS学園を受験します!」

「はあっ!?お前何言って――」

 

ガツ――――ン!

弾の顔にお玉が命中して、顔を押さえてうずくまり、みんなの視線が

蘭に集まる。

 

「待てよ蘭。受験って、確か蘭の学校は大学までエスカレータ式だろ?

 おまけにネームバリューまであるし……」

「大丈夫です!お兄と違って、私の成績は優秀ですから筆記でも余裕です!」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「待て待て待て!た、確かIS学園って、実技があるだろ!?」

「ええ、あるわよ。IS起動試験っていうのがあって、

 適性のない子はそこで落とされるの」

 

蘭の言葉に大慌てで弾は、なんとか諦めさせようとし楯無が試験に

ついて簡単に説明する。

 

「心配ご無用です!」

 

蘭はポケットから、何かの紙を取り出し弾に渡した。

 

「何だコレ?IS簡易適性試験……判定Aっ!?」

「というわけで、問題は既に解決済みなのです!」

「で、でも待てよ!適性があるからって、うまく動かせるとは

 限らないんだろ!?なっ!」

「う~ん、俺はあまり気にしたことないけど……」

「蘭、あんまISのこと甘く見ない方がいいわよ?

 適性が高ければいいってもんじゃないし……」

「そうね、適性なんてあくまで目安みたいなものだしね~」

「うぐっ!と、とにかく受験しますから一夏さんには

 先輩として是非ご指導を!」

「だ~か~ら~待てっての!

 そんな簡単に学校を変えるのを決めんなっての!」

「何だ、弾。おめぇ蘭が決めたことに文句あるのか?」

 

ああ言えばこう言うな感じで、受験を止めさせられそうになるが

蘭は強引に話をまとめようとする。

尚も反対する弾に厳がギロリと睨みをきかした。

いつもなら、これで弾がビビって終わりなのだが――

 

「文句ありまくりだろうが!俺は絶対反対だぞ!」

「ほぅ~」

「お兄!」

「俺も反対だな」

 

頑なに反対する弾に対して、一触即発の空気が流れるが

弾と同じように一夏も反対した。

 

「一夏さんっ!どうして!?」

「蘭は簡単にISを学ぶとか言ってるけど、実際はそんな簡単なことじゃ

 ないんだ。

 そうだな……例えば今俺たちが食べているご飯があるだろ?」

「はい?」

 

何故ここで、食事の話が出てくるのか分からなかったが一夏の目は

至って真剣だった。

 

「この料理は、厳さんが丹精込めて作ってくれて、食べた人を笑顔に

 してくれるけど、このご飯を作るのに使った道具……包丁とか

 使い方を間違えたら逆に人から笑顔を奪うだろ?」

「そ、それは……」

「厳さんのように、正しく使えば包丁は多くの人を笑顔に

 できるけど人を傷つけることもできる……。

 ISも同じさ。

 今は競技で落ち着いているけど、

 あれは人から笑顔を奪う力でもある。

 それを使う意味を本当に分かっているか?」

「……」

 

一夏の言葉に、蘭は言葉を失ってしまう。他のみんなも一夏の話に

耳を傾けていた。

 

「弾もさ、意地悪で反対してるわけじゃないぞ。

 お前のことが心配だから、こう言っているんだ。

 だから、よく考えて決断した方がいい」

「……わかりました」

「厳さん?甘やかすだけが、家族じゃないのよ?

 時には嫌われてでも厳しくしないと!」

「雅さん……面目ねぇ……」

 

一夏の言葉に続くように、雅も視線を鋭くして厳に説教をした。

 

「かっこいいねぇ~一夏くん」

「うん/////」

「……/////」

「い、一夏のくせに/////」

「あらあら、一夏ったら♪

 ほ~~~んと、あの子に似てるんだから~」

「あの子って、誰のことですか?」

 

一夏の言葉に顔を赤くする、箒たちを見て雅は昔を懐かしむような

顔で一夏が誰かにそっくりだと言う。

それを聞いていたタツミが、どういうことか尋ねてきた。

 

「あの子っていうのは、一夏の父親よ~。

 一夏以上に女の子が集まってね?

 でも、周りの子達なんか目に入らないで幼馴染み、一夏の母親に

 ずっ~と夢中だったもんだから、一夏より大変だったのよ?」

「こ、これ以上って……」

「どんな父親だよ……」

 

目の前で行われた恋する乙女の戦場ですらかなりのものなのに、

それ以上のものとは……、

ウェイブとリヴァルは顔も知らぬ一夏の父親に畏怖を覚えるのだった。

――何でそんな20代の容姿で、一夏の両親の昔話を知っているのかと

疑問を抱くのを忘れるほどに。

 

その後、食事を済ませ弾と虚が連絡先を交換し合いなどして、

五反田食堂での一幕は終わった。

 

ちなみに弾とウェイブは本音と虚にそれぞれ

“お姉ちゃん(妹)を泣かしたら……夜道には気をツケテネ(クダサイネ)?”

と、笑っていない目をしながら満面の笑みでこんなことを言われていたりする。

 

 

 

 

 





久々に本人登場の雅さんでした~。
一話目で言っていた”アレ”とは、おイタをした子を
部屋に連れ込んで……(´°ω°`)となることをします。
えっ?内容?……どうしても……知りたいんですか?

布仏姉妹は普通に互いが好きな普通のシスコンですwww



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 もう一つの少年を巡る恋模様 そして――


幕間その2、なのは達サイドです。
本作品を作るに当たってやりたかったことの一つをやっとできました~。

雅が本作中、最強なら最凶の戦士が登場します!

一夏のヒロインについてのアンケートに、ご協力お願いします。




「「「はぁ~~~~~」」」

「元気出しなさいよ、三人とも」

「そうだよ、ほら桃子さんのシュークリームでも食べて……ね?」

 

なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの5人は海鳴市にある

なのはの実家、翠屋に来ていた。

カズキこと宇宙ファイターXとの戦いにもならない戦いに

負けて以来、三人はどこか覇気がなかった。

 

「ありがとな、すずかちゃん……」

「あんた達だって結構強いのに、そんなに強かったの?

 あの宇宙ファイターXって?」

「私達よりどれぐらい強いのかわからないぐらい……」

「と言うより、何をどうすれば勝てるのかもわからないぐらいかな?」

「そうなんだ……」

 

なのは達は決して、弱くない。

9歳の頃から、魔法の力で空を駆け

いくつもの難事件も解決してきたし、今回のように敗北も経験もした。

自分より強い相手とも弱い相手とも。

そのどちらの場合もどうすればいいのか自分に足りないモノは

何かとハッキリとした道筋があった。

その道を突き進むことで、彼女たちは強くなってきた。

 

だが、今回の宇宙ファイターXとの戦いでは、その道筋が片鱗すら見えないのだ。

ただそこに立ちすくみ、前に進むのか後ろに後退するのか、

道は細いのかどこまで続いているのかも分からず立ち止まっている状態なのだ。

 

「な~に、落ち込んでんのよ」

「あっ、お姉ちゃん」

 

彼女たちの前に現れたのは、なのはの姉で眼鏡をかけ髪をおさげに纏めた

高町美由希であった。

 

「聞~いたわよ~。

 コテンパンに負けたんだって?」

「うん……」

「コテンパンなんてもんやないですよ~。

 相手は本気のほの字の欠片も出していなかった上に、

 私達にあまりケガをさせないように手加減までされたんですから

 そりゃ、落ち込みたくもなりますよ」

「で、今はどうしていいのかわからないと?」

「はい、そんなところです……」

 

生徒の悩みを聞く教師が如く、美由希は三人の話を聞いていた。

 

「私はその……宇宙ファイターだっけ?

 そいつもあんた達の戦いも見たことないから、偉そうなこと言えないけど

 これだけは、言える。

 今のまま、立ち止まっていたんじゃそいつには絶対に勝てない」

「えっ?」

「私も恭ちゃんには何度も稽古で負けたけど、

 負けた時と同じ自分のままじゃ絶対に勝てないの。

 知ってる?あるスポーツのコーチの言葉にこんなのが、あるの

 “フィールドでプレーする誰もが必ず一度や二度屈辱を味わわされるだろう

 打ちのめされた選手など存在しない

 ただ一流の選手はあらゆる努力を払い速やかに

 立ち上がろうとする

 並の選手は少しばかり立ち上がるのが遅い

 そして敗者はいつまでもグラウンドに

 横たわったままである”」

「「「……」」」

「負けてもいいの。その次に勝つためにゆっくりでも、

 立ち上がればいいの。

 なのは達は、あんまり負けたことがないから

 立ち上がり方がよくわからなくて時間がかかるかもしれないけど、

 一番良くないのは、立ち上がろうとしないこと」

「ゆっくりと……立ち上がる……」

「立ち上がるのが大変だったり、立ち上がり方がわからないんなら

 私やお母さん、お父さんに恭ちゃん、み~んなが手を貸してあげるから」

 

美由希の言葉になのは、フェイト、はやてが

後ろを振り向くとそこには微笑むアリサとすずかがいた。

 

「そう~よ、あんたたち?」

「いくらでも力になるからね♪」

「アリサちゃん、すずかちゃん……」

「うぅぅぅ~~~」

「おおきにな、二人とも」

 

二人の言葉に涙目となって、感謝するなのはたちであった。

 

「どうやら、元気になったみたいね?」

「お母さん!」

「「桃子さん!」」

 

声をかけてきたのは、なのはの母親である高町桃子。

なのはが大きくなった感じで姉だと言われれば、信じてしまう

容姿をなのはが9歳以前から保っており、夫の士郎とは

今も新婚みたいに熱々である。

 

「元気も出たことだし、新作ケーキはいかがかしら?」

「「「「「ありがとうございま~す♪」」」」」

「美由希、ありがとうね」

「このぐらい、お安い御用だよ。

 フェイトちゃんもはやてちゃんも妹みたいなものだし、

 姉として当然のことをしただけだよ」

「お姉ちゃ~ん!

 お姉ちゃんも一緒に食べよ♪」

「やれやれ~」

 

昔と何も変わらない妹に、若干呆れながらも美由希もテーブルについた。

 

 

 

「へぇ~、そんなに鈍感なの織斑くんって?」

「そうなんですよ!

 あいつったら、これでもかってアピールしている子が

 いるのに、全然気がつかないんですよ!」

「しかも、IS使っているところは真剣そのもので

 かっこいいから、これからもっと増えていくやろうな~」

 

先程までの暗い空気は、どこにもなくなのは達は美由希に

IS学園のことを話していた。

内容は、一夏の愚痴が中心であるが。

 

「こんにちは~」

「いらっ、あらユーノくん。

 いらっしゃ~い♪」

「「「「「ユーノ(くん)っ!!!?」」」」」

 

なのは達5人はそろって、驚きの声を上げた。

今店に入ってきたのは、ハニーブロンドの髪を一束にまとめ眼鏡を

かけた少年で彼女たちの幼馴染みユーノ・スクライアであった。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます、桃子さん」

「ユーノくん、なんでこんなとこにおるん?」

「無限書庫は、今すごくいそがしいんじゃ……」

 

テーブルに座り、注文したコーヒーを飲むユーノにはやてとフェイトが

質問をしてきた。

彼は無限書庫と言う、時空管理局のデータベースの司書長なのだ。

無限の言葉が示す通り、時空管理局が管理している世界の情報が

日々無尽蔵に増えていくので、碌に機能していなかったそれを

使えるレベルにまで押し上げたのが、このユーノなのだ。

それにより、管理局の仕事効率は遥かに上昇したのだが、その機能

ゆえ職員はなかなか休みを取ることができない。

司書長ともなれば、尚更取るのが難しいのだが、ユーノは

そんなことを気にせずにコーヒーを味わっていた。

 

「ああ、それね。

 今後のためにも一度リフレッシュしとかないとって思って、

 あの腹黒に頼んだ。

 もちろん、首は縦に振らなかったけど、

 あいつがビデオ屋で借りたものをフェイトやエイミィさんに

 教えてもいいのか?って言ったら、快~く承諾してくれたよ♪」

「こ、快くって……」

「それって、脅迫じゃ……」

「なんや、ユーノくんの笑顔に碓氷先生の影が見えたで……」

 

何でもないように笑いながら答えるユーノに、カズキの顔が横切り

背筋にうすら寒いものを覚える、アリサ、フェイト、はやてであった。

 

「ねぇ、ユーノくん?IS学園の勉強でわからないところが

 あるんだけど教えてくれるかな?」

「えっ、ちょっ!すずか!

 あた、ああ当たって……/////」

「な~に?」

 

するりとユーノの隣に座ったすずかは、彼の腕に抱きつき足まで

絡めて勉強を教えてくれと頼むが、そうすると必然的にユーノの腕に

柔らかいものが当たるわけで、純情な彼はすぐに顔を赤くした。

しかし、すずかは当たっているからどうしたと言わんばかりに

微笑み、妖艶な色気というのをかもし出していた。

 

「すずか!

 だったら、ユーノ!アンタ今日休みってことは、暇なのよね!

 私の買い物に付き合いなさい!

 つ、ついでにアンタ碌な服持っていないだろうから、

 見繕ってあげるから、感謝しなさい/////!」

「ア、 アリサ!アリサも、そ、その当たって/////!」

「ユーノく~ん♪

 桃子さんにキッチン借りて、はやてちゃん特性

 フルーツヨーグルト作ってきたで♪

 普段、不規則な生活をしとるやろうから栄養満点かつ

 吸収もいいこれで健康はバッチリやで♪」

「は、はやて!?」

 

すずかの行為を見て、アリサも負けじとユーノの腕に抱きつき

はやては、いつの間にとも思えるスピードで手料理を持ってきた。

 

「ご、ご主人さま何なりとお申し付けください/////////」

「フェ、フェイト!?

 何なのその格好は!!!?」

 

姿を少し見せなかったフェイトは、大胆に胸元を見せた

ミニスカのメイド服を着て、ユーノの前に現れた。

 

「お、男の人はこういうのが好きって、本に書いてあったから/////。

 に、似合わないかな?」

『Sir。何故、男性が好む本を購入しているかと思いましたが……』

「い、いやそりゃ似合ってるけど……じゃなくて!

 何で僕がご主人さまなのさ!?」

「フェイトちゃん、あんなバリアジャケット着とるくせに、

 ここでモジモジと恥ずかしがるとかどんだけハイスペックなんや!?」

「ユーノ!アンタが着てほしいっていうなら、

 私もききき着てあげてもいいわよ/////!」

「ユーノくん?私もいいよ?部屋で二人っきりでも――」

「いや~モテモテだね、ユーノ♪」

「あらあら♪」

 

4人の乙女がそれぞれアタックする様を美由希と桃子は

弟や息子のほほえましいとこを見るように眺めていた。

 

「ところでなのははいいのって……どうしたの?」

「う~ん?何が?」

 

美由希はなのははどうかと目をやると、笑顔だが眉がピクピクと

つり上がっている妹の姿を目撃した。

 

「何がって……アンタ……」

「なんでかわからないけど、こう無性にみんなに

 スターライトブレイカーを撃ちたくなってきたんだよね~。

 ……イコウカ?レイジングハート?」

『All right。マスターの思うままに……』

「な、なのは!?こ、これは誤kイテッ!」

「「「「ユーノ(くん)?」」」」

「す、すいません……」

 

ユーノが“いい”笑顔のなのはを見て慌てて弁明しようとするも

同じく“いい”笑顔をする4人に迫られて何も言えなくなってしまう。

 

「まてまてまてまて!

 それ、確かあんたの一番の魔砲でしょう!

 こんなとこで撃っちゃダメェェェ!!!」

「冗談だよ、お姉ちゃん♪

 でも、ホントなんだろうこの胸のモヤモヤは?」

「なのは……アンタさっき織斑くんが鈍感って、言ってたけど

 アンタもだよね……」

「?」

「はぁ~(ここは姉として、一肌脱ぐべきか……)。 

 それにしても、ユーノはいい男になってきたよね。

 年下の彼氏っていうのもありかな……?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

噂の一夏と同じような鈍感ななのはのために、美由希は

姉心で発破をかけようとするが……

 

「(これでどうかな?)」

「お姉ちゃん?」

「何、なのは?……って。

 何でレイジングハートを構えているんでしょうか、なのはさん?」

「なんでだろうね?」

「「「「美由希さん?」」」」

「ひぃっ!?」

 

瞬間、美由希は発破をかけたことを後悔した。

今彼女の目の前には白い魔王と同じく、すごく優しい声で黒いオーラを放つ

金色の死神、夜天の王、炎の姫、夜の女帝が立ちはだかっていた。

 

「「「「「それじゃ、O・HA・NA・SIしようか♪」」」」」

「待って!冗談だから!

 冗談だからちょっと待って!!!」

「あははは……」

 

美由希の命が消えゆかんとしている光景をユーノは、苦笑しながら

眺めていた。

 

しかし、なのは達がそうやって日常を過ごしている裏側で

憎しみは静かに確実に、彼女たちへと迫っていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐあっ!」

「「お父様っ!」」

 

イギリスのある場所。

そこで老人と二人の女性が血を流し、周りは炎に包まれ瓦礫も散乱していた。

 

だが、ここには三人と“もう一人”以外の生命の気配はせず

空も夜の闇ではなく、奇妙なまだら模様に覆われていた。

 

「お前たちは……存在してはならない」

「こいつ、例の襲撃犯!」

「まさかここまでなんて!?」

「き、貴様の目的は一体何だ……!」

 

彼らの命を奪わんとする死神は、騎士のごとき鎧を

纏いながら憎しみだけで人を殺せると思わせるほどの殺気を

放っていた……なのは達の調査対象の一つ。

監視基地の襲撃犯であった。

 

その襲撃犯と対するのは、かつて管理局で高官をしていた

白髪のギル・グレアムと使い魔のリーゼアリアとリーゼロッテだった。

とある事件で、管理局を去り前線から一線を退いているが

管理局でもトップレベルだったその実力は健在である。

その力を持ってしても襲撃者、黒き騎士には全く歯が立たなかった。

 

「目的だと?

 決まっている……貴様たちのような存在してはならないもの

 全ての抹殺だ!」

「存在してはならないって……どういうことよ!」

「そのままの意味だ。

 お前たち……時空管理局は次元世界の害悪!

 その存在は許されないもの!

 ゆえに滅ぼす!」

 

黒き騎士は手にしていた剣を高く上げると、バチバチと雷を轟かせる。

 

「滅びよ……世界に害なすものたちよ!!!」

 

剣が振り下ろされると、グレアムたちの視界は白に包まれ

周囲は光に覆われた。

 

 

 

「逃げたか……。

 まあいい、それよりも次は日本……確かIS学園と言ったか――」

 

黒き騎士がその場から消えると、先程の攻撃で荒野となったその場所は

奇妙なまだら模様が消えていくに従い、住宅街へとその姿を変えていった。

そこを行きかう人達は、今まさにこの場所で自分たちの日常とは

かけ離れた非日常が広がっていたなど知る由もなかった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ、はぁ……」

 

地球とは違う雪が吹雪く、極寒の世界。

そこで、桃色の髪をポニーテールとした女騎士が

愛剣を支えとして立ち、息をきらしていた。

 

「大丈夫か、シグナム?」

「なん……と、かな……。

 お前は……ザフィーラ?」

 

鍛えられた屈強な体を持つ、褐色で頭に狼の耳をつけたザフィーラと

呼ばれた青年は仲間のシグナムを気にかけるも、防御に秀でた彼自身も

ボロボロであり、いたるところから出血していた。

 

しかも、周りには同じバリアジャケットを纏ったものたちが

何人も横たわっていた。

だが、それは現状を打破する力には成りえなかった。

 

――ある者は、頭と胴体が切断され

――ある者は心の臓を貫かれ

――ある者は氷に包まれ二度と動くことはなかった

 

ほんの数時間前まで、語り合っていた仲間たちがもの言わぬ骸となり、

残っている者たちも腰を抜かしたり、体を抱えて震えている様を見て

シグナムとザフィーラは表情を曇らせ、この事態を引き起こした

元凶を睨むもまだ信じられなかった。

“たった一人”に自分たち二人を含む20人近い魔導士が5分と

かからず倒されたことが――

 

「どうした、これで終わりか?もっと私を楽しませろ」

 

異様だった。

その者は女であり、一目見れば誰もが言葉を失うような美貌を持ち

ながら、纏う空気は人のそれではなかった。

例えるなら人が空想する生物、竜。

そしてその竜ですら相対することを躊躇するだろう。

それ程までに異様な殺気だった。

何より、彼女は笑っているのだ。

侮蔑するわけでもなく、楽しんでいるのだ。

命のやり取りを――

 

「来ないのなら、こっちから行くぞ?」

 

女はそう言うと、持っていたサーベルの切っ先をシグナムたちへと向ける。

 

「ザフィーラ!私が時間をかせぐ!

 お前は、生き残っているものを連れて撤退しろ!」

「待て、シグナム!」

 

ザフィーラが止めるのも聞かず、シグナムは敵へと突貫した。

 

「(下手な小細工は無用っ!)

 レヴァンティン!カードリッジロード!」

「ほぅ……」

 

シグナムが手にした剣より薬莢が排出されると、彼女の魔力が

膨れ上がり、その剣は炎に包まれ、女は興味深そうにそれを見ていた。

 

「紫電一閃!」

「ドーピングのようなものか……だが!」

 

シグナムの炎の剣が袈裟切りに振り下ろされ、女はサーベルを

一閃して二人は交錯し、一瞬の静寂が訪れる。

 

「……がはっ!」

「私に傷をつけるには、及ばないな」

 

レヴァンティンの刀身と自身を斬り裂かれ、大きく吐血しながら

倒れるシグナムに対し、女は傷一つ負っていなかった。

 

「シグナムっ!!!?鋼の軛!!!」

「ふっ!」

 

ザフィーラは、拘束用の魔法でありながら、攻撃にも使える鋼の軛を

使用し、地面からいくつもの拘束条を出現させるが女はそれを足場にして

ジャンプしながら軽やかにかわしていく。

しかし、ザフィーラはかわされることがわかっていたのか、

女に目をくれることなく一直線にシグナムへと向かう。

 

「ザ……フィ……ーラ」

「しゃべるな。とにかく今は!」

「どうするというのだ?」

 

ザフィーラがシグナムを肩に担ぐと、女が後ろに立っていた。

鋼の軛は、この女を攻撃するためではなく倒れたシグナムから

離すためのものでもあったのだが、足止めにもならなかったようだ。

 

「っ!(どうする!シグナムは最早、戦えん。

 俺が殿(しんがり)をしたとしても、どれほど稼げるか……)」

 

異常なまでの戦闘力を誇る目の前の女に対して、取るべき行動を

決めかねるザフィーラだったが、その女は唐突に武器を納めた。

 

「戦い方から察するに、お前たちはチームで戦えばより強い力を

 発揮するな?

 いいだろう。私は慈悲深いからな、ここは去ることを許そう」

「なっ!?どういうことだ!」

「言った通りだ。今のお前たちでは、話にならないから

 今度は仲間を連れて挑んで来いと言っているのだ。

 そして、覚えておけ。そこに転がっているお前たちの仲間は

 弱かったから、死んだのだ。

 弱い者は強いものに蹂躙されて当然。

 悔しいのなら、強くなって私を殺してみろ」

「……後悔するぞ」

「それは楽しみなことだ」

 

苦すぎる苦渋を飲みこみ、ザフィーラは生き残った数人を連れて

この世界から撤退した。

 

「……我ながら甘くなったものだ。

 それもこれもお前の所為だぞ?」

「隊長」

「どうしたラン?」

「ここの基地のデータは調べ終わりましたが、

 目的のものはありませんでした」

「そうか。ならば、長居は無用だ!こちらも撤退するぞ!」

「了解しました、エスデス隊長」

「さあ、久しぶりにお前に会えるな……タツミ♪」

 

先程までの、獲物を狩る獣のような笑みから一転して

恋する乙女の笑みを浮かべるエスデスと呼ばれた女戦士は

ランと呼んだ青年を連れて、この世界から姿を消した。

 

エスデス。

彼女は最凶の戦士であり、恋する乙女である。

性格は……ドSを人の形にしたと言われるほどのドSである――

 

 

 

 

 





ユーノ登場でしたが、彼にも一夏と同じハーレムを作ってもらいました♪
ただし、本人には本命がいますがその本命さんは欠片もユーノの気持ちに
気付いていない一夏と同じ鈍感さんですwww
アニメを見た時から、なの×ユー派でしたがアニメでは進展も何も
なく、そしてただくっつけるだけでは面白くないと考え(オイ)
ユーノのことを好きな他の子や、一夏とは違う気持ちに気付かない
鈍感さんになってもらいました(爆)

美由希に詰め寄った、アリサとすずかの別名、炎の姫、夜の女帝というのは
印象や中の人からの勝手イメージですので、深い意味はありませんww



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実は、誰の目にも触れない


はい、連続投稿3話目です。
ここまできたら一気にいこうかなと思って、投稿しました。

例によって会議的なものですが。
ここでカズキ達、魔弾戦士側の味方勢が大体判明。

アンケートのご協力お願いします。



ミッドチルダ。

時空管理局が管理する世界でも魔法文化が最も

発達した世界であり、管理局の地上本部がある世界でもある。

その世界のある病院で、一人の少女がある部屋を目指して走っていた。

 

「シグナムっ!」

「あ、主……」

「動いちゃ、ダメよシグナム」

 

病室に駆けこんできたはやてに、体中を包帯で巻かれたシグナムが

横になっているベッドから起き上がろうとしたが白衣を着た金髪の

女性、シャマルに止められてしまう。

 

「シグナムさん、大丈夫ですか!?」

「シグナム!?」

「シグナ~ムゥ~」

「なのはちゃん、フェイトちゃん、リイン!

 気持ちは分かるけど、病室では静かに!!!」

 

はやてに遅れてやってきた、なのは、フェイト、リインは

シャマルに注意されてしまう。

 

「それで、シグナムはどうなん?シャマル」

「しばらく安静と入院が必要ですが、命に別状はありません」

「よかったです~」

「でも、一体何があったのシグナム?」

「それは、僕の方から説明するよ」

「お義兄ちゃん!」

「主、私からも……」

「ザフィーラ!それに、ヴィータちゃんも!」

「よう」

 

事情を聞こうとしたフェイトに続くように、彼の義兄クロノと

共に腕などに包帯を巻いたザフィーラと赤毛の三つ編み少女、ヴィータが

入ってきた。

 

「例の基地襲撃犯なんだが、ある可能性が浮上してきたんだ」

「ある可能性?」

「襲われた全ての基地で、違法な人体実験が行われていたかもしれないんだ」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

クロノの言葉に、聞かされていなかったものたちは絶句する。

 

「どういうことだよ!それ!」

「管理外の世界から侵入したり逃亡するものがいないかを

 見張るための基地だが、逆に言えば辺境にあるために不正等が発覚しにくい。

 そこをついて、管理外の世界から誘拐などして

 様々な人体実験をしていたらしいんだ」

「そんな……」

「他にもまだある。

 この襲撃事件は、そのほとんどが跡形もなく壊滅させられているが

 施設が残っている基地もあるのは知っているな?

 今まで単独犯かと思われていたこの事件は、

 どうやら、二つのグループで行われているようなんだ」

「その根拠は、なんなんや?クロノくん?」

「破壊されずに残っていた基地は、時間がなかったとか

 抵抗が激しかったため破壊できなかったと思われていたんだが、

 それにしては基地のデータ消去や、侵入の隠蔽工作が

 毎回同じように行われていたんだ。

 もし、これが時間や抵抗に追われての行為なら

 毎回同じようにできているというのはおかしい。つまり……」

「回収された映像に、映っていた襲撃者以外に

 基地を襲っているものがいる……!?」

 

クロノの推測に、フェイトだけでなくその場にいたもの全員が驚愕する。

 

「そこで、何かしらの手掛かりを得るために

 違法な人体実験をしている可能性がある

 監視基地を秘密裏に調査するようシグナムをはじめとしたザフィーラ

 に依頼したんだが……」

「そこからは、私が説明する」

 

ザフィーラは、クロノの前に出て説明をはじめた。

 

「私とシグナムはクロノ提督の依頼で、

 何人かの魔導士たちと一緒に、次に襲撃される可能性が

 高い基地へと向かった。

 待ち伏せして、襲撃犯を捉えるためだ。

 だが、私たちが着いた時に既に基地は落とされていた」

「それも魔法を使わないたった一人にです……」

「ひ、一人!しかも魔法を使わずにって、冗談だろ!?」

 

ザフィーラとシグナムの語りに、ヴィータは信じられないと

驚きの声をあげる。

 

「いや、事実だ。

 私たちが現場に着いた時は、基地は氷で覆われ

 何人もの骸が転がっていた。その時奴が、今まさに

 襲撃を終え入口から出てきたんだ」

「そして、私とザフィーラは奴を視界に入れた瞬間、

 奴がこの惨状を引き起こしたものだと直感した。

 感じたんだ、奴から今まで感じたこともない

 濃厚な血のにおいと恐ろしいまでの殺気を――」

 

その時のことを思い出して、ザフィーラとシグナムは身震いする。

 

「どないしたん?シグナム?ザフィーラ?」

「震えてるけど……」

「……私たちは、過去に闇の書の騎士として様々な戦場を

 駆け巡った……」

「中にはかなりの腕を持つ強者もいたが……奴は違う!

 強者と言う言葉に当てはまるものではない!

 戦いを……いや、命を蹂躙することを楽しんでいた!」

 

今まで見たことが無いほど声を荒げるシグナムに、聞いていたものは

唖然とする。

シグナムは強いものとの戦いを好み、管理局でも

バトルマニアとまで呼ばれるほどである。

そんな、彼女が楽しそうに笑うでもなく、己を鼓舞するかのように

声を上げるなどなのは達は見たことが無かった。

 

「私たちは、基地から出てきた奴に投降するよう言ったのだが、

 普通なら身構えて警戒するところを奴は、笑ったのだ。

 “これで、また愉しめる”と言わんばかりに……」

「そこから、奴は何でもないことのように基地の局員を

 全滅させたと言い、私たちに自分と戦うのかと聞いてきた……」

「そして、戦いとも言えない戦いが始まった――」

 

ザフィーラが語りだしたその戦いの内容は、もしも映像に

残っていたら、なのはやフェイト、はやてには耐えられなかった

だろう。

かつて、戦場で命が消える瞬間を幾度となく見ている

シグナムたちですら見るに堪えない惨劇とも言えるものなのだから――

 

「そ、そんなことって……」

「にわかには信じられないが、生き残った他の局員も

 同じことを証言していた……間違いないだろう……。

 つまり、襲撃犯にはシグナムでもたやすく倒せる者が

 いてかなりの危険人物ということだ。

 ……消沈しているところ悪いが、嫌な知らせはまだあるんだ。

 もう一人の騎士みたいな襲撃犯にグレアム元提督が

 襲われた」

「グレアムおじさんが!?」

「同じようにロッテとアリアも重傷は負ったが幸い、

 命は無事だそうだ」

「よかった~」

「だが、彼らが力を合わせてもほとんど

 ダメージを与えることはできなかったそうだ……」

「えっ?でも、確かグレアム元提督もリーゼ姉妹も管理局でも指折りの

 実力者って聞いたことがあるのですが?」

 

自分たちの知り合いが、襲われたと聞いてなのは達は驚くが

無事と聞いてとりあえず、ほっとする。

しかし、クロノがもたらした情報にリインが疑問を挟む。

 

「そうだ。それでも、シグナムが戦った相手同様に

 傷を負わせることさえできなかったんだ――」

 

沈痛な顔で言うクロノに、誰も何も言えなくなってしまう。

 

「聞いた話によると、襲撃者は時空管理局のことを

 世界に害なすものと言っていたらしい。

 つまり、これはテロなどではなく管理局への恨みによる犯行

 の可能性が高い」

「管理局への恨みって……」

「少なくとも逆恨みとかそんなんやないやろうな」

「はやての言うとおりだ。

 奴は、局を止めたグレアム元提督までターゲットにしている。

 少しでも関わりのあるものなら見境なしということだ。

 なのは、フェイト、はやて。

 引き続き、調査はしてもらうが遭遇しても

 戦闘は行わず、すぐに撤退するんだ」

「うん……」

「わかった……」

 

自分たちと変わらない実力者のシグナムを打ち倒した敵の存在に、

襲撃者の目的に、なのはたちは覇気を失っていた。

彼女たちは様々な事件を解決し、人の悪意というものと戦ってきたが

そこには欲望が混ざっていたある意味普通の悪意であった。

しかし、今彼女たちが戦おうとしているのは欲望が混ざっていない

純粋な悪意……いや、最早悪意を超えた信念とも言うべきもの

なのかもしれない。

今まで相対したことのない敵に、彼女たちは恐怖するが

彼女たち自身、自分たちが恐怖していることに気付いていなかった――

 

「失礼するよ」

「「「ユーノ(くん)!」」」

「ユーノ、どうしたんだ?

 お前には、襲撃者やリュウケンドーのことやら

 調べるよう頼んでいたはずだろ?」

「ああ、おかげでコーヒーとますます仲良くなれたよ、腹黒」

「そうか、その貧弱な体が健康になってよかったじゃないか

 フェレットもどき」

 

病室に入るなり、火花を散らすユーノとクロノに

なのはたちはあわわなことになる。

 

「二人とも、落ち着いて!」

「せ、せやでせっかくシグナムのお見舞いに来てくれたのに!」

「まあ、それもあるけどリインに用があってきたんだ」

「私にですか?」

 

自分に用があると聞いてリインはキョトンとした顔をした。

 

「君は確かIS学園で一瞬だけど、Sランクを超える魔力を

 感知したそうだね」

「はい、そうです」

「本当に?間違いないんだね?」

「ほんとにほんとですぅ~!」

 

念押しして確認するユーノにリインは怒り気味で返答した。

すると、ユーノは考え込む素振りを見せる。

 

「どうしたの、ユーノ?」

「急に黙り込んで?」

「もう知っていると思うけど、この間姿を現した赤い鎧を

 纏っていたリュウケンドーはS+クラス、使い魔みたいなゴリラは

 AAA+クラスの魔力を持っていて、

 怪物に止めを刺す時は計測不能だったよね?」

「せやで、最初は何の冗談かと思ったで」

「でも、彼らの結界を張ってあった時の魔力は

 Sクラスじゃなかったんだよね?」

『YES。ジャミング機能があったのか、正確な測定はできませんでした』

「それがどうかしたの?」

 

結界の中と外で測定したデータの違いに、何の意味があるのかと

なのは達は傾げるが、ユーノの顔は険しくなっていった。

 

「結界の中にいたリュウケンドーはSクラスで測定できなかった――

 じゃあ、リインが測定したSランク相当の魔力はなんだと思う?」

「そ、それは……」

「もしもリュウケンドーが怪物に止めを刺す時の測定不能レベルのものを

 感じたのだとしたら……これを見て!」

 

ユーノはポケットから紙を取り出し、みんなに見せた。

そこには、地震の揺れを測定したようなグラフが描かれていた。

 

「ユーノくん、なにこれ?」

「3年前に観測された次元振の記録だよ。

 これは、自然発生レベル規模の小さいものだけど

 観測された場所は、そんなことが起きるような場所じゃないんだ……」

「どこなんだよ、その起きた場所ってのは?」

「――地球だよ。

 でも、これをもう一度詳しく調べてみると次元振じゃなくて、

 次元振によく似たものだってわかったんだ。

 その似たものを起こしたと思われるものは、なのは達が見ている」

「私たちが?」

「でも、そないなもの……まさか!?」

「そう、リュウケンドーが放った技だよ。

 規模は違うけど怪物に止めを刺した時に発生した空間の揺れとも

 いうものが、観測されたものと非常に似ているんだ」

 

ユーノの言葉に、全員が息をのんだ。

 

「つまり、リュウケンドーには自然発生レベルの小さいものとはいえ、

 次元振レベルの技があるということ、それもこれが彼らの結界内で

 起こったものだとしたら……」

「ユーノ、リュウケンドーの調査はどれくらい進んでいる?

 お前ならもう情報は、集まっているんじゃないか?」

 

ユーノがもたらしたリュウケンドーの可能性に、誰もが言葉を失う中

クロノが以前から依頼している調査について聞いてくる。

 

「残念ながら、今でもほとんどないんだ。

 無限書庫は管理局が管理している世界の情報が全て集まっているけど、

 ここまで無いとなると管理外世界のものなのか、もしくは

 かなり重要度の高い情報で危険度の高い未整理の箇所にあるかだから――」

「思うように進まない……か」

 

クロノは増えていく一方の悩みのタネに、頭を抱え込む。

 

「このままじっとしていても始まらない。

 数日中には、このことについて対策会議があると思うから

 君たちもデータを纏めておいてくれ。

 リュウケンドーのことも、君たちを倒したと言う

 宇宙ファイターXのことも……」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、これがその後に行われた会議の内容と結論です」

「ご苦労さん。

 騎士の襲撃者はリベリオンナイトと呼称、

 必要なら非殺傷設定を解除しての攻撃。

 エスデスに対しては、逮捕。非殺傷設定解除については同様。

 リュウケンドーや宇宙ファイターXに関しては、

 無許可の魔法使用および公務執行妨害で捕獲……か。

 まっ、こんなもんだろ」

「でも、よかったんですか?

 あなた達が次元振クラスの力を有しているかもとバラして」

「別に、問題はないさ。

 対策としても魔法を基準にして考えるだろうし、こっちにも

 切り札はあるしな」

「まあ、そう言うなら何も言いませんけど」

「お前の方こそ大丈夫か?

 話を聞く限り、はやても鋭そうだしクロノと言う奴も

 できそうだぞ?」

「そっちの方は、こっちでなんとかしますよ。

 それじゃ、引き続き創生種やリベリオンナイトの調査

 を行います――――カズキさん」

「ああ、頼む……ユーノ」

 

カズキは、ユーノとの通信を終えるとクロノの悩みの種と

同じくらい抱えている問題に頭を悩まして、立ち上がるとその部屋を

後にした。

 

「みんな、待たせてゴメn――」

 

カズキはある部屋のドアを開けるとそこには――

 

「おめでとうぅぅぅ~~~♪

 いや~すごいね~。

 機体各部に小型のサブ動力を組み込むことで、稼働時間や出力が

 20%もアップしてるよ~♪」

「すばらしいぃぃぃっっっ!

 AMFを発動させるのではなく、機体装甲へのコーティング

 として走らせることで、エネルギー消費が試作段階の7割に抑え

 効果が1.25倍になってるよ!

 我が友よ!!!」

「もうあの人ったら、一度スイッチが入ると

 周りのことなんか目に入らないんですよ!

 オマケに面倒な部品の発注手続きとかは、全部こっちに

 押し付けてくるし……!」

「わかります!

 こっちがあれこれ世話をしているのを、何でもできると

 勘違いして、次の日に実験やるからとか気軽に言ってくるんですよ!

 そんな簡単に準備できるか紫マッド、ゴラァァァ!」

 

知らない人が見たらドン引きするぐらいのハイテンションで互いの

発明を語り合う、おどけた感じで丸眼鏡をかけた研究者と

紫のロングヘヤーでマッドサイエンティストをにおわせる科学者。

その傍らで、OLの愚痴り合いみたいなのをしている二人の

秘書と思われる女性二人。

 

「ハハハ~、私の酒が飲めないって言うのか~?

 一番最初にコイツにツバつけたのは、私だからな!

 ドSには渡さんぞ――!」

「ふっ、ならば奪い取るまでだ。

 さぁ二人で、将来のことを話し合おうじゃないか♪」

「ふふ~♪

 こ~~~んな美人お姉さんに囲まれて幸せだね~」

「ふぇ~~~、男なんて所詮アレの大きい女が好きなのよ~。

 男なんて男なんて!」

「いいぞ!もっとやれやれ!」

「……」

「みんな、酔っ払ってるよね!?

 落ち着いてくれ!というか、誰か助けてぇぇぇ!!!」

「ちょ、皆さん!タツミをそろそろ離して!

 そして、アカメとクロメの二人は何してる!」

「肉を食べてる」

「おかしを食べてる」

 

酒瓶を抱えながらタツミを自分の胸に抱き寄せる、サバサバした印象の

快活な女性と反対側に陣取るエスデス。そんな三人の後ろから

タツミをおもしろそうに見る、頭にリボンをつけキャンディーを加えた

女性に鈴と同じくツインテールで机に泣き伏せる少女に

大笑いしながら、煽る眼帯に右手が義手の女性。

女性たちは、顔を赤くしているところから酔っているようだ。

そんな彼女たちの足元には酔いつぶれたラバックが、転がっていた。

 

肉食動物に囲まれた小動物の如く助けを求めるタツミを

ウェイブが何とかしようとするも効果はなく、アカメとクロメは

黙々と食事をしていた。

 

「大体、アンタはいっつもいっつも妹のことばっかで、

 たまにはあたしのことをかまいなさいって――の!」

「うぇ~~~私なんか私なんか~~~~~!」

「あははははは♪

 み~~~んな顔が三つもある~あはははははははは♪」

「ふん、大体お前は細かすぎなんだよ。考えすぎなんだよ。

 そんなんだから、いつまでたっても妹離れできないのだ。

 おい!聞いているのか!」

「…………」

「…………」

 

ラバックのように酔いつぶれているリヴァルと黒髪で整った顔立ちの少年に

は4人の少女が絡んでいた。

一人はハネっ気の赤髪で気が強そうな少女。

泣きながら自分を卑下している橙色のロングヘヤーの少女。

金髪でどこか楯無に似たお祭り好きそうな少女。

そして、緑の髪で唯我独尊な少女。

4人とも少年たちが気絶していることに気付くことなく、

顔を赤くして絡んでいた。

 

そんな無礼講な光景の中、ふとカズキはタツミとウェイブの目と合うと

ニッコリと微笑み静かに開いたドアを閉めた。

 

「ちょっ!カズキさん!」

「見捨てないで、何とかしてくれ!」

 

二人の声を聞き流しながら、カズキはその部屋を後にした。

 

「戻るのは2、3時間後だね」

『騒がしい連中だな、ホント~。

 だけど、リベリオンナイトか~。

 敵になったらメンドそうだな』

「その心配は、ほぼないと思うよ。

 あちらさんの目的は時空管理局への復讐みたいだし、

 こっちに被害がないなら、敵対する必要もないしね。

 ……もっとも、俺たちが邪魔と判断したら

 容赦なく消しにかかるだろうけどね――」

『ふ~ん。まるでリベリオンナイトのことをよく知っているみたいだな?』

「会ったことはないけど、わかるさ。

 俺も“同じ”だったんだから……。

 それよりも、問題なのは創生種だ。

 奴らは、マイナスエネルギーを自分の強化に使えるのに

 使わないと言うことは……」

『やっぱりジャマンガのように、何かを復活させようとしている

 可能性が高いってことか』

「そして、一番の問題は奴らがいつから行動をしているかだ。

 少なくともジャマンガの封印が解かれる前からは、活動している。

 砂の一粒一粒を集めるような集め方でも相当の量になっているはずだ」

『それでもまだ集めてるってことは、マイナスエネルギーが

 足りていないってことだよな?

 どんな怪物を復活させる気だよ』

「怪物で済めばいいけどな……。

 とにかく、こっちもやれることは全部やらないと。

 俺や一夏、弾のレベルアップに、あの魔弾キーを早く探さないと」

『全くどこに行ったのやら~』

 

カズキはいつもの掴みどころのない顔ではなく、戦士としての顔で

廊下の窓から見える月を見上げた――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

誰もいない夜のIS学園アリーナで、千冬は電話をかけていた。

 

「もしもし?お嬢さん、今日の下着は何い……」

 

ぶつっ。

相手が言い終わらない内に、千冬は通話を切った。

やはり、かけたのは間違いだったと電話をしまおうとすると

先程の相手から電話がかかってきた。

出たら面倒なことになるのは、わかりきっているのでこのまま

無視しようかと一瞬思ったが、そうすると更にまた面倒なことに

なりそうなので、とりあえず電話に出た。

 

「もうちーちゃん、そっちからかけてきたのに

 いきなり切るなんてヒドイよ~!」

「お前が変なことを言うからだろ……束」

 

千冬が電話をかけたのはISの生みの親にして、希代の大天才、

そして箒の姉である篠ノ之束であった。

 

「それでそれで?

 ちーちゃんのためなら、この束さんは120%どころか200%の

 力を発揮しちゃうよ♪

 さぁさぁ、ちーちゃんは何を悩んでいるのかな?

 それとも愛しのいっくんと触れ合う時間が少ないから

 寂しくて束さんに電話してきたのかな~?」

「斬るぞ?」

「何か文字が違う!?」

「はぁ~……まあいい。

 この間、学園に無人のISが襲撃してきたが、あれを作ったのは

 お前だな?」

 

カズキとは違う意味で相手をするのに疲れる束に、千冬は先日襲ってきた

無人機について尋ねた。

あんなものを作れるのは、世界でも束ぐらいしかいないからだ。

もっとも、千冬は束があれを送り込んだとは思ってもいないが。

 

「ああ、ゴーレムⅠね。

 あれね、盗まれちゃったんだよ~」

「何?」

「ホントは、深海とか宇宙とか、まだISでも厳しいところでの

 活動を実験するためのものだったんだけど……」

「それが盗まれたと……」

「そうなんだよ――!

 ち~~~ょっと目を離した隙にお空に

 飛んでいって、探しまくったらいつのまにかいっくんを

 襲っているし!

 束さんの言うことなんか全~~~然聞かないし!

 あげくには、あんな不細工になっちゃうし!

 わ~~~ん!!!」

「……」

 

自分と同い年なのに、ガチで泣く束に少し引く千冬だったが、

今の話を聞いて一つの可能性を想い浮かべた。

 

「つまり、無人機を盗んだのは白騎士事件を引き起こした黒幕

 かもしれないということか?」

「……うん。

 どこのどいつか知らないけど、ふざけたことをしてくれるよ

 ホント――」

 

先程までのおどけた感じから、声のトーンを低くして

忌々しく束は吐き捨てた。

 

『白騎士事件』

それは何者かが、ハッキングして日本へと発射した二千発以上のミサイルを

一機のIS『白騎士』が破壊して、日本を守った事件である。

『白騎士』を捕獲しようと各国が動いたが、最新式の軍事兵器は次々と無効化

され、しかも死者を出さずに行ったという圧倒的なまでの力の差を

見せつけられて世界は『白騎士』に敗北した。

この事件をきっかけとして、ISは世界に広く認知されることとなる。

――というのが表向きの見解である。

 

「最初はお前がISのことを認められなかったことに腹を立てて、

 自作自演をしようとしたが雅さんにバレて……」

「それ以上は言わないで、ちーちゃん……。

 雅さんのアレは思い出したくないから……」

「……すまん」

 

二人とも、雅のアレを受けたことがあるので自然と口数が

少なくなった。

 

「まあ、それでいろいろと反省した束さんは

 別の方法を考えようとしたわけだけど……」

「ある日、お前の研究所に行ったらお前が黒い何かに

 まとわりつかれていてハッキングを行い自棄気味に立てた計画通り

 ミサイルを発射」

「そして、ちーちゃんが急いでIS一号機の『白騎士』

 に乗りこんで、白騎士事件のできあがり~♪

 ……で、あれよあれよと言う間に今のバカみたいな

 世の中と……。

 あれだね、束さんは初めて無力っていうのを思い知ったよ――」

「それは、私も同じだ。

 世界最強だの何だのと言われているが、弟も守れず、友の夢も

 守れないちっぽけな人間さ……」

 

互いに自虐的なことを言い合い、千冬と束は黙り込んだ。

 

「はぁ~そもそもいっくんが、テレビの空飛ぶカッコイイヒーロー

 に憧れたから、ISを作ろうと思ったんだよね~」

「更に妹の箒が星空に憧れたから、宇宙でも活動できる

 ようにした……まったく、シスコンここに極まるだな」

「なに一人だけ普通ぶってんのさ!

 ちーちゃんだって、いっくんに憧れの眼差しをされるの

 想像してノリノリで手伝ったし、デザインだって

 もっとかっこよくしろとかアレコレ注文してきたじゃんか!!!」

「何を言っている?

 姉が弟を喜ばすために、妥協などするわけないだろ?」

 

さも当然の如く言い放つ千冬だが、ここに第三者がいれば

どっちもどっちであり、二人ともシスコン、ブラコンであると

言うのは間違いないだろう。

 

「まあ、お前がシスコンだというわかりきったことは

 置いといてだ……」

「その言葉そっくり返すよ、いっくん命なちーちゃん?」

「怪物となった無人機やそれを倒したリュウケンドー、

 そして宇宙ファイターXの映像を調べてほしい。

 お前なら、学園の施設でもわからないことも調べられるだろ?」

「そりゃ、できるけどさ。

 そんなのあのドロボウ宇宙人に聞けばいいんじゃないの~?

 あれ、どう見てもアイツじゃん~」

 

千冬の依頼に、束はドロボウ宇宙人と口にすると文句を言うように

口を尖らした。あまりその宇宙人のことが好きではないようだ。

 

「そうしたいのは山々だが、アイツと宇宙ファイターを

 結び付けるような明確な証拠がないから

 こうして頼んでいるんだ」

「ふ~ん、まあドロボウ宇宙人の悔しがる顔が見れるかもだから

 束さん全力全開でやっちゃうよ――――♪」

「そう言ってアイツに……カズキに勝ったことがあるのか?」

 

全力全開という言葉に何故か白い服を着て赤い宝石がついた杖を手にした

束が頭をよぎった千冬だったが気にせず、からかうような口調で勝てるのかと問う。

 

「今度という今度は絶対勝つよ!

 勝って、束さんの偉大さを分からせてやるんだから――――!!!」

 

そう言うと束は、電話をきった。

 

「やれやれ……」

 

束とカズキが出会ったら、昔と変わらないやりとりをするのが

目に浮かんだのか、千冬はその時に起こる頭痛に早くも

頭が痛くなってくるがどこか楽しそうでもあった。

 

「どこの誰かは知らんが、これ以上一夏や束、生徒に

 ちょっかいをかけるなら容赦はせんぞ……!」

 

姉として、友として、教師として決意を新たに決めた千冬。

 

一つの幕が下がり、新たな幕が上がるのもそう遠くはない――

 

 

 

 





ここの束は、千冬を巡ってカズキとケンカしたり雅に”アレ”を
されたりして、人づきあいは多少改善されています。
カズキとは、トムとジェリーやサドスティック王子とマヨラーみたいな
関係ですね。喧嘩友達というかwww

ISを作ったのは千冬と一緒になって箒と一夏を喜ばせたいという
シスコン、ブラコンからでした。
どこかおかしくないかな(汗)

感想、評価待ってます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去からの挑戦


最新話、出来上がりました。
オリジナル回なので、いつもよりクオリティが低いかもしれません(汗)
ある魔法について独自解釈とオリジナルの考えが出てきますので
何かおかしな箇所や矛盾があるかもしれませんが、ご容赦をm(_ _)m

アンケートはまだまだ募集していま~す。


「待てっ!」

『ちょこまかちょこまかと!』

「どこに行った!」

『現在、索敵中』

 

月が輝くある夜。

リュウケンドーとリュウガンオーはそれぞれ、ある魔物を追っていた。

 

「見つけた。

 リュウガンオー、そこから南西へ730mの地点に。

 リュウケンドー、今追っている奴をうまく廃工場後に追い込め。

 ……今回は、奴らにやられたな」

『全くだぜ。昔、倒したあの魔物がこんなに厄介になるなんてな……』

 

カズキは、宇宙ファイターXの姿をしてビルの屋上から風術を用いて、逃亡する魔物を

探索しリュウケンドーたちをサポートしていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時は、5日前に遡る。

都内の各地で電柱やコンクリートが、刀で斬られたように切断

されていたり、何かにかじられた跡が見つかったのだ。

一夏達は、過去に倒したジャマンガの魔物でこれと同じことをしたものが

いたのですぐに魔物を使った創生種の仕業だとわかり、目撃情報からも

同じ魔物だと断定しすぐに行動に移った。

 

この魔物は、約5億年前の地球で生態系の頂点に君臨していた生物、

“アノマロカリス”を模したものである。

戦闘力や知能はそれほど高いものではないが飛行して移動し

機動力が高い上、遣い魔同様かなりの数が一度に現われたので

早急に倒さなければならなかった。

 

何故、一度倒した魔物を創生種が使うかはわからなかったがその理由は

数日経って判明した。

とにかく、逃げるのだ。

ジャマンガのものは、動物の本能のまま動いていたが今回のものは、

街中で暴れては誰かに見つかるとそれ以上暴れることはせずに、

すぐ姿をくらますのだ。

昼夜問わず、暴れるため人々はいつ自分が襲われるのかと怯え、

マイナスエネルギーが終始発生し続けていた。

更に、IS学園に襲撃してきた無人機や魔物、リュウケンドー等のことは

外部に漏らさないよう目撃した生徒たちには緘口令がしかれたが、

人の口に戸は立てられず、

IS学園でISと戦える怪物が暴れたという噂が立ち、

マイナスエネルギー発生に拍車をかけていた。

 

すぐに逃げるこの魔物を結界に閉じ込めることは難しく、

必然的に戦闘は結界を張らずに行われた。

そのため、リュウケンドーやリュウガンオーも人目につくようになり、

特撮ヒーローのような戦う姿を一目見ようと野次馬が集まるようになった。

その人達に、被害が出ないよう注意を払わなければならないため

魔物退治は思うように進まず、鈴にも戦闘に協力してもらったが

倒せた魔物は十数体。

かつて、ジャマンガがこの魔物を出現させた時は、最終的に数百体出現したことを考えると

焼け石に水であった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これが、この5日間で魔物が目撃された箇所です」

「うん、ありがとう」

 

カズキ達は翌日の放課後、生徒会室に集まり魔物アノマロカリスに

ついての対策を練っていた。

 

「目撃情報だけで100は、超えていますわね……」

「目撃されていないモノも考えると、何体いるかなんて考えたくもないな」

「ISで攻撃するわけにはいかないんですか?」

「無理ね。実際戦った鈴ちゃんの報告からこの魔物はISでも倒せるみたいだけど、

 この魔物、逃げる際にISじゃ追えないような狭い道を選んでいるから下手に攻撃

 しようものなら建物ごと倒してしまうわ。

 かといって、火力の低い攻撃だと今度は倒せないし。

 それにお偉いさん達は、被害がそんなに大きくないから

 魔物のことをISを出すほどじゃないって、考えているのよ。

 下手にこの間の襲撃のことを、言ってどれだけ危険か説明しても信じないか、

 リュウケンドーまで捕獲か討伐対象になりかねないわ」

 

楯無は、融通が効かない上層部に呆れながら自分たちにできることの少なさに苛立った。

 

「カズキさん。

 風術って、かなりの遠距離攻撃ができるんですよね?

 それで、一掃できないんですか?」

「無理だね。

 試しに一体、それで倒してみたけど

 風術はそもそも攻撃に向いていないから、

 倒せる攻撃をあの移動スピードに

 当てるとなると一度にできる数は限られてくる」

 

一夏の提案に、カズキは自分の力でも厳しいと返した。

 

「この魔物は、前に倒したことがあるんだよね?

 その時は、どうやって倒したの?」

「ああ、最初は4体だけだったから俺と弾ですぐに

 倒せたんだけど、その後に空を覆い尽くすくらいの数が現れたんだ。

 でも、奴らが何かする前に固まっていたところを

 攻撃して一気に倒したんだ」

 

簪が以前の倒し方を聞くが、魔物が行動を起こす前に

ゆっくりと飛行していたところを叩いたので、同じ戦法は今回はできないだろう。

 

「とにかく、大人数に警戒させて恐怖させるところは

 変わらないけど、今回は見つかったらすぐに逃げるのと

 攻撃能力を少し落とした分の力を防御に回して、かなり

 倒しにくくしているな」

『ここにきて、一気に集めに来たな』

「本腰をついに入れたのか、必要なマイナスエネルギー

 の量が目前だから大量に集めに来たのか……。

 不幸中の幸いは、こういうことでマイナスエネルギーを

 発生させやすい小さな子がリュウケンドーの噂のおかげで

 それほど発生させていないということかな」

 

カズキはそう言うものの、この流れも敵の思惑通りであるという

嫌な予感がしていた。

 

『とにかく、今はこのアノマロカリス型の魔物を何とかすることが

 先決だ』

「こういう時って、敵の好物とかで一か所に集めて

 殲滅っていうのがセオリーだけど……」

「特にこれと決めて、かじっているわけじゃなさそうだし、

 魔物だから本物のアノマロカリスの好物で集まるってわけでも

 ないしなぁ~」

「いや、鈴の考えは間違っていない。手はあるよ」

 

目撃情報の場所が書き込まれた地図を見ながら、カズキは立ち上がった。

 

「そのための仕込みももうすぐ、終わる。

 チャンスは一度、今夜が勝負だ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「準備はいいか、ユーノ?」

「できてますよ……」

『どうした?なんか元気ないじゃないか?』

 

その日の夜、再びビルの屋上で宇宙ファイターXの姿をしたカズキと

民族衣装のようなバリアジャケットを纏ったユーノが立っていた。

だが、ユーノはどこか疲れたような顔をしており、ザンリュウジンが

気にかける。

 

「当たり前だよ、3日前にいきなり連絡して

 今日の作戦に必要な“アレ”を発動させるための

 複雑な魔法陣をあちこちに準備したんだよ!

 しかも、本業を休むわけにはいかないから、この3日間は

 一睡もしていないし……。

 まあ、そのぐらいはいつものことなので別に

 どうということはありませんが、あの魔法陣の

 準備がホント大変でしたよ~」

「でも、最初はしぶってたけど報酬として

 なのはのIS学園の制服姿やISスーツ姿の写真を

 渡すって言ったら、二つ返事でOKしたよね?」

『へぇ~張り切って準備していると思ったら、そういうことか~』

「……」

 

ザンリュウジンのからかいに、ユーノは目を逸らした。

 

「さて、ムッツリフェレットも準備できたみたいだし、

 君たちも準備はできているか?」

「ちょっ!ムッツリって、なんですか!?」

「リュウケンドー、いつでもいけるぜ!」

「リュウガンオー配置完了!」

「あたしも準備OKよ!」

 

リュウケンドーたちもカズキ達同様、ビルの屋上にそれぞれ配置していた。

 

「よし……作戦開始!」

「広域結界……発動!!」

 

カズキの合図とともに、ユーノが3日間かけて設置した魔法陣を

用いて、街を2、3つ覆えるような巨大な結界を発動させる。

 

ユーノは結界魔導士と呼ばれる、防御や治癒の補助魔法を得意としているが

今回のような巨大な結界を一人で発動させるのは不可能である。

そこで、カズキは一つの結界を発動できる魔法陣をより巨大な魔法陣を

描くようにあらかじめ各所に配置させることで、一人による巨大結界の発動を

提案しユーノは見事に成功させた。

だが、これは僅かでも配置がずれると想定の効果や強度は弱まってしまう。

それを一寸の狂いもなく構築、発動させたユーノの才覚は

とんでもないものだろう。

 

「結界の発動を確認。

 内部探索開始……作戦通り魔物の閉じ込めに成功。

 続いて、第二段階に入る」

「了解、結界の縮小を開始」

 

カズキの報告を聞き、ユーノは発動させた結界の縮小を開始した。

 

見つかったら即、逃げる今回の魔物をいちいち結界に閉じ込めることは

困難だが、カズキは目撃情報と自身の探索により魔物の出現範囲を

算出し、それを取り囲むように結界を発動させることで

一網打尽に魔物のみを結界に閉じ込める作戦を考え付いた。

 

そして、巨大な結界を一か所に、しかも撃ち落としやすいように

空中に追い込む形で縮小したところで撃破する。

それが今回の作戦だった。

 

「よし、魔物が大体一か所に固まったな」

『このまま上手くいくといいが……』

「今のところ作戦通りだな」

『では、始めよう』

「ああ、ファイナルキー発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

 

リュウガンオーが追い込んだ魔物たちにドラゴンキャノンを

撃ちこむが、攻撃を逃れたものが逃亡を図った。

 

「そうは問屋が!」

「下ろさない!」

 

だが、あらかじめドラゴンキャノンだけで倒しきれるとは

思っていなかったため、上空に逃げたものを鈴が。

地上へと逃げようとするものをレオントライクを駆る

リュウケンドーが追撃を始めた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「なんとか、無事に終わりそうですね」

「まだ終わっていない。最後まで油断するな、ユーノ」

『それにしても、スゲェ~よな~』

「そうだね、ザンリュウジン。

 まさか、巨大な結界を使って更にそれを小さくすることで魔物全部を捕まえるなんて

 普通思いつかないよ」

『違ぇ―よ。スゲェって言ったのは、お前のことだよ』

「僕?」

 

ザンリュウジンの言葉にユーノは首をかしげた。

 

『張ってある結界を小さくするなんてこと、できないんだろカズキ?』

「ああ。

 結界は発動する時に、大きさも決まるから、サイズを小さくしようとする

 なら新しく張らないと無理だ」

「その無理を、一定時間に部分ごとに解除、再構築を繰り返すことで

 可能にしたのは誰ですか」

「確かに理論上はそれでできるようにしたが、それだと

 逐一、膨大な魔法式を計算、構築しなければならないから

 並の奴ならすぐに脳が焼き切れるぞ?

 俺でもやったら、倒れかねないものを平然とやっているお前も

 タイプは違うがなのは達と同じ天才だよ」

「天才なんかじゃありませんよ、僕は……

 一人の女の子さえ、守れないちっぽけな人間です……」

 

カズキとザンリュウジンはユーノの才覚を賞賛するが、彼は

自虐的に笑うだけだった。

 

『(やっぱり、まだ自分を許せないのかねコイツは?)』

「(だろうな。話を聞く限り、辿っていけばユーノが始まりだけど

 全部が全部コイツの所為というわけじゃない。

 でも、これは理屈の問題じゃないからね。

 俺たちにできるのは、捌け口になってやることぐらいか……)

 ん?」

 

ユーノの抱える闇について考えていると、カズキは結界内に残っていた

魔物が妙な動きをするのを感知した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あれ?」

「魔物が一か所に集まり始めた?」

『マズイ、何かする気だぞ!』

『先制攻撃を推奨』

「分かっている!ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』

「ナックルキー!召喚!」

『魔弾ナックル!』

「ナックルスパーク!」

「ウォータアタック!」

 

生き残った魔物たちは一か所に集まり、何かを形成する。

リュウケンドーたちはそれぞれの技を発動させて、魔物たちの塊に

攻撃を仕掛けた。

爆発が魔物たちを覆う――

 

「やったの?」

「バカ!余計なことを言うな鈴!」

「それ、やられていないフラグ!」

『奴らから目を離すな!』

『エネルギー反応増大』

 

ゲキリュウケンとゴウリュウガンの注意を聞き、警戒を強めると

煙が晴れていき、そこから球状の黒い物体が現れた。

何なのかと、リュウケンドーたちが行動を起こす前にその物体に

ひびが走り、だんだんと大きくなっていった。

 

そして、ひびが全体に走ると中から全身が殻のようなもので

覆われ、二足歩行のカニのような魔物が姿を現した。

 

「シャァァァァァ!!!」

「ほら見ろ、鈴が余計なこと言うから、あんなのが出てきたじゃねぇか!」

「なっ!あたしの所為だって言うの!」

「漫才するのは、後にしろよ二人とも!

 先にいくぜ!」

 

喧嘩するリュウケンドーと鈴をおいて、リュウガンオーは出現した

魔物にゴウリュウガンの弾丸を撃ち込んでいく。

 

「シャアアア!!!」

「何っ!?」

 

ところが、魔物は両手のハサミを楯のようにクロスさせることで

攻撃を防御して、リュウガンオーに突っ込んでいき、振り上げた

ハサミを振りおろそうとした。

 

「ゴウリュウガン、ブレードモード!」

『了解』

 

リュウガンオーは、ゴウリュウガンの接近戦用ブレードを展開して

攻撃を受け止めようとするが――

 

「がっ!」

『っ!?』

「リュウガンオー!!!」

「嘘っ!」

『何だと!?』

 

魔物はそのハサミでゴウリュウガンのブレードを切り裂き、

リュウガンオーの鎧をも切り裂いた。

 

「この!ナックルスパーク!」

「無ダっ!」

 

リュウガンオーに追撃しようとする魔物に、攻撃するリュウケンドーだったが

その攻撃もハサミに切られてしまった。

 

「なら、これはどう!」

「シャッ!」

 

鈴がウォータランスで突き刺そうとすると魔物は背を向け、

攻撃を受け止めた。

 

「硬っ!」

「喰ラえッ!」

「鈴っ!」

 

殻のあまりの硬さに、鈴が手を痺れさせて動きを止めた一瞬をついて

魔物が回し蹴りを喰らわせようとするが、リュウケンドーが二人の

間に走り込む。

 

「……っは!!」

「きゃっあああ!」

 

だが、魔物はリュウケンドーごと鈴を蹴り飛ばした。

 

「なんだよ、コイツは!?」

『複数の魔物が統合されたことで、防御と切断能力に優れた

 新たな魔物になったものと推測。

 先日、リュウケンドーたちが遭遇した魔物同様、

 知能はそれ程高くないと思われる。

 破損具合から、奴の切断攻撃を防御するのは困難と判断する。

 回避せよ』

 

ゴウリュウガンが魔物を分析し、その特性から防御より回避を

優先するよう言い、リュウガンオーがよろよろと立ち上がる瞬間、

大型トラックがぶつかった時以上の衝撃が彼を襲った――

 

「ごほっ!?」

 

吹き飛ばされるリュウガンオーの目に映ったのは、肩を突き出し

タックルの態勢となっていた魔物だった。

 

「な、何なのよあの速さは!?」

「今行くぞ、リュウガンオー!

 ……って、うわっ!」

 

蹴り飛ばされたリュウケンドーは、倒れ伏すリュウガンオーを助けるために

走り出すか、その途中で足を滑らせこけてしまう。

 

「こんな時に、何やってんのよ!」

「……ってて、何か足が滑って……何だコレ?」

 

リュウケンドーが足元を見ると、泡のようなものが地面にあった。

 

「これは……」

『そうか、あの魔物はその泡みたいなもので摩擦を減らすことで

 氷の上を滑るようにして、高速で移動したのか!』

「どうやら、一筋縄じゃいかないようだね」

 

ゲキリュウケンが泡の正体を推測すると、カズキの声が聞こえ

その直後に顔を覆ってしまうほどの風が吹き荒れた。

 

『大丈夫か、お前ら?』

「ザンリュウジン!宇宙ファイターX!」

「これはまた面倒なことになったねぇ~」

 

風が収まると、リュウケンドーのそばにリュウガンオーを抱えた

カズキが立っていた。

 

「だ……じゃなかった。大丈夫なの、リュウガンオー?」

「な、なんとか……」

「無理するな、軽いダメージじゃないだろ。

 それにしても、あいつ硬いな。

 リュウガンオーを助けるついでに、殻と殻のつなぎ目に

 風で攻撃したけど、傷一つつかないとはねぇ~」

「オれの殻、すごク硬イ。お前タちの攻げキ、効カナイ。

 ソレに、コのはサみ、何デもキレル」

 

魔物たちの妙な動きを感知したカズキは、すぐに結界内に入った。

そして、風で魔物の目をくらますと素早く、リュウガンオーを

抱えて離脱し、その際に攻撃を繰り出していたのだが、魔物に

目立った傷もダメージもなかった。

そのことが、誇らしいのか自慢げに魔物は自分の能力を語る。

 

『オマケに、あいつは摩擦を小さくする泡を使って

 移動するから、スピードもかなりのものだぞ』

「摩擦を小さくするってことは、全身に纏えばこっちの

 攻撃も滑って、あのカニに当たらなくなるね。

 俺の風で、その泡を吹き飛ばすことはできるけど

 問題は殻とハサミか……。

 あのハサミで斬れないモノで殻を

 切り裂かないといけないってことか……」

「そんな都合のいいモノが、あるわけないでしょう!」

 

状況は芳しくなかったが、カズキは焦ることなく状況を見定める。

それが癪に触ったのか、鈴は大声を上げる。

 

「落ち……着けよ……鈴」

「リュウガンオーの言うとおり、こんなピンチは

 いつものことだ。焦ることはない」

「そうは言うけど、どうするだい?なんなら、俺がやるけど?」

「いや、大丈夫です。

 要はアイツのハサミより、切れ味のあるもので攻撃すれば

 いいんでしょう?」

「それが無いから、アタシたちピンチになってるんでしょうが!」

「おレのハサみで、きれナイもの無イ。

 オマエ達、こコで負けル」

 

自分が負けることなどありえないと、魔物は自信にあふれた

言葉を言い放つも、リュウケンドーたちは揺るがなかった。

 

「お前の敗因を教えてやる。

 自分の武器を過信しすぎたことだ。

 行くぜ、ゲキリュウケン」

『いつでも、いいぞ』

「アクアキー、発動――!」

『チェンジ、アクアリュウケンドー!』

「氷結武装――」

 

ゲキリュウケンから水の龍が現れ、リュウケンドーと一つになる。

リュウケンドーは一瞬、光に包まれると水と氷を象った水色の

鎧を纏っていた。

 

「アクアリュウケンドー……ライジン!」

 

Aリュウケンドーは、モードチェンジするとゲキリュウケンを

静かに脇に構える。

 

「シ、シャ……」

 

リュウケンドーが纏う空気が変わったのを感じ取ったのか、

魔物は後ずさるが、すぐに動きを止めてハサミを構える。

 

両者は、相手の隙をうかがいずつ武器を構えたまま少しずつ

歩み寄っていき、同時に走り出してハサミとゲキリュウケンを

交錯させ…………

 

カ――――ン

 

何かが落ちる音が響き渡り、魔物が膝をつく。

 

「バ、ば鹿なッ!?

 何デ、俺ノハさみが!!!」

 

魔物のハサミは切り裂かれ、凍りついていた。

 

『Aリュウケンドーは、水の力を自在に使うことができる』

「高速、高密度の水は、ダイヤすら斬ることができる。

 しかも、水は形というものがないから斬られることが無い上、

 お前の泡も流すことができる」

『勝負ありだな』

 

Aリュウケンドーはゲキリュウケンに高密度の水を纏わせながら、

その切っ先を魔物へと向けて静かに言い放った。

 

「クっ!ならバっ……!」

 

魔物は、残った片方のハサミで足元のコンクリートを切り刻むと

それをAリュウケンドーやカズキたちの元へと投げつけた。

 

「こんなモノ!」

「っ!」

 

ゲキリュウケンと風でそれぞれ瓦礫を防御するも、

魔物はもういなかった。

 

「あいつ、どこに!?」

「どうやら、逃げたようだね

 東の方に向かって、あの泡で滑りながら移動しているよ。

 入り組んだ道をスケート選手みたいに

 滑っているから、ブレイブレオンでも追いつけないだろう」

「のんきにしている場合!!!」

「いくらユーノの結界っていっても、切り裂きかねないぞアイツ」

『彼が普段使う結界なら、問題ないが

 複雑な機能を取り入れたこの結界は、若干強度が下がっている。

 リュウガンオーの言うことを否定はできない』

 

風術で魔物の姿と逃げた方向は特定できたが、追いつくことは

困難な上、結界を破られてしまう可能性まであるというのに

Aリュウケンドー達には焦りはなかった。

 

「のんきっていうか、慌てる必要はないのさ。

 行くぜ!シャークキー!召喚!」

『アクアシャーク!』

「いでよアクアシャーク!」

 

ゲキリュウケンから放たれた光は、魔法陣を描き

そこから、青い機械の体のサメが空中を泳ぐようにして現れた。

水の獣王、アクアシャークである。

 

「そ、空飛ぶサメェェェ!!!?」

「初めて見たら、驚くよな~」

『のんびりしている暇はないぞ』

「そうだった!

 アクアシャーク、アクアボードモード!」

 

予想外すぎる援軍に驚く鈴に、自分も初めて見た時は驚いたと懐かしむ

Aリュウケンドーだったが、ゲキリュウケンの言葉で

慌てて、アクアシャークをビークルモードのアクアボードへと

変形させる。

 

「それじゃ……行くぜ!!!」

 

Aリュウケンドーが、アクアシャークに飛び乗るとエンジンがうなりを

上げ、いきおいよく発進し、瞬く間に鈴たちの視界から消え去る。

 

「早っ!?」

「アクアシャークは、ブレイブレオンでは追跡できない

 水上でも進むことができるし、縦横無尽の機動力も有している。

 その追跡から、逃れられる者は……いない!」

 

カズキがそう言うのとほぼ同時に、Aリュウケンドーは逃亡する

魔物を視界に捉えていた。

 

「見つけたっ!」

「シャッ!?」

 

魔物はAリュウケンドーの姿を見ると、スピードを上げ

入り組んだ脇道へと入り込み振り切ろうとする。

 

「なめるなよ!」

『アクアシャークの力を見くびるな!』

 

だが、そんな小細工は関係ないと言わんばかりに、Aリュウケンドーも

アクアシャークのスピードを上げ、水中を泳ぐが如く進み

グングンと魔物との距離を縮めていく。

 

『奴は、まだ距離があると油断しているはずだ』

「ならここで決める!ファイナルキー!発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ゲキリュウケン氷結斬り!」

 

Aリュウケンドーがゲキリュウケンを振り下ろすと魔物に向かって

冷気が放出された。

 

「アガッ!ガ……シ、シャ」

 

冷気が魔物に当たると、その体は一瞬で氷に包まれ動きが止まる。

 

「はぁぁぁぁぁ……はっ!」

 

氷漬けになった魔物をアクアシャークが追い越す瞬間、Aリュウケンドーは

ゲキリュウケンを一閃する。

瞬間、氷に一筋の切れ目が走りひびが氷全体に広がっていき、

魔物は木っ端微塵に砕け散った。

 

「氷河に包まれ……砕け散れ――」

 

砕けた氷が雪の如く降り注ぐ中で、Aリュウケンドーの言葉が

静かに響き渡った――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お疲れ、一夏」

「お前もな、ユーノ」

 

戦闘を終えた一夏は、ユーノの転送魔法で彼の元へと戻っていた。

同じように転送された、カズキたちもバリアジャケットや変身を

解いており、弾はユーノの回復魔法を受けていた。

 

「あ~~~、つッッッかれた!!!

 帰ってゆっくり眠りたいわ~」

「そうだな、たくさん眠れば大きくなれるかもな、イロイロと」

「ユーノだっけ?ごめんね、これからもう一仕事増えるわ……」

「ちょっ!落ち着け!冗談だからっ!!!」

 

余計なことを言った弾は、再びバリアジャケットを纏い

背後に般若を召喚する鈴の姿を目撃する破目となった。

 

「あはは。どうしたんですか、カズキさん?」

 

弾と鈴のどつき漫才(一方的に弾がボコられるだけ)を苦笑しながら、

見ていたユーノはキョロキョロと周囲を見るカズキにどうしたのかと

尋ねる。

 

「ん?いや、なのは達に代わりの局員が来ないな~って思ってね」

「ああ、確かあの三人は別件でミッドチルダに

 行ってるんだっけ、ユーノ?」

「管理局が追っていた、犯罪組織のアジトが見つかったから、

 その応援にね。なのは達がいない間の、調査は別の局員が

 行うことになっているはずだよ」

「IS学園内は、なのは達が設置したサーチャーがあるから

 主に付近の調査がメイン。俺たちが今いる町は

 学園から離れているから手が回らないんだろうけど

 今回の結界クラスなら、異変を察知してやってくると警戒していたんだけどねぇ~」

「確かに、変ですよね?

 いつ来てもいいように、僕も準備してたんですけど……」

 

ユーノはそう言うと、六角形の金属塊を取りだした。

 

「まあ、とにかく今回の戦いはこれで終了だ。

 みんな帰るぞ~」

「「「「はぁ~い」」」」

 

カズキはそう言って、その場を纏めるが少し顔をしかめて夜空を見上げる。

 

「(今回の創生種の目的は、本当にマイナスエネルギーを

 集めることなのか?

 今までの魔物はほとんどが、一芸に特化したモノで

 確かに苦戦こそするが、それでもリュウケンドーやリュウガンオーを

 倒せるほどのものは出てきたことが無い……。

 だが、それなら目的は何だ?

 本命のための陽動?時間稼ぎ?

 ――待てよ?時間稼ぎ?

 何かの時が来るのを待っているのか!)」

 

思考の中、辿り着いた一つの可能性。

果たして、それが的中した時世界に何が起こるのか――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これで全員だな……」

 

IS学園付近のある町で、一つの影が剣についた何かを取るために

手にしていた剣を軽く振り、鞘に戻していた。

月明かりもない闇の中、雲のすき間から差し込んだ淡い光が

影を照らし出し、その姿を浮き上がらせた。

黒い騎士のような存在――リベリオンナイトである。

 

彼の鎧には、液体のようなものが付着しており、足元にも

水たまりと何かの塊が広がっていた。

やがて、雲が晴れていきリベリオンナイトの足元に

あったものが、姿を現していった。

 

そこにあったのは、赤い水…………血の海としか言いようのない

モノが広がっていた――。

その赤い水たまりには、同じ服を着た者たちが横たわっていたり

壁にもたれかかるようにして浮いていた。

なのは達がいない間の調査を行っていた、管理局員である。

 

「あそこにいるのは、今までとは違うオーバーS魔導士……。

 ――だが、相手が誰であろうと関係ない。

 世界の害悪は俺が消し去るっ!」

 

リベリオンナイトは、自身が浴びた返り血のことなど気にすることなく

IS学園を見つめながら、血が出んばかりに拳を握りしめた。

まるで、何かに誓うように――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ~」

 

とある、アパートの一室。そこで部屋の住人が、Tシャツに

ハーフパンツというラフな恰好をして一息ついていた。

その部屋は、きれいに住人の性格を表すかのようにきれいに整理整頓されていた。

ただ一つ、机の上に分解された銃やクナイが置いてあることを除けば。

 

Prrrrr――

 

「ん?メール?誰からだ?」

 

このメールをきっかけとして、新たな幕がIS学園で上がろうとしていた――

 

 

 

 

 





アクアリュケンドー登場回でした。
最初は別の敵にするつもりだったんですが、とある方の作品に
登場する敵の能力に似ていたので、何でも切れて攻撃も効かない
人型のカニにしました~。
ハサミの切れ味は、ユーノのシールドでも何度か切りつけば
切れる程のものです。
オマケに、アノマロカリス型魔物時同様逃げ足も速いという。

ユーノはカズキ達と出会ったことで、大幅に戦闘力を
上げています。

リベリオンナイトの影もチラホラと出てますが、どうなるのか。

最後に登場したキャラは――



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やってきたのは――


アンケート結果がどっちになってもいいように両方作っていたので、
最新話投稿します。

今回から、皆さんお待ちかねの2巻の話がスタートです。


「はい、というわけでお引っ越しです」

 

創生種が作ったアノマロカリス型の魔物を倒した翌日、休みなしで対応に当たっていた

一夏はカズキから今日はゆっくりするよう厳命され、部屋でくつろいでおり、そこへ

部活を終えた箒と共に山田先生がやってきて、以前カズキが言っていた引っ越しを告げてきた。

 

「や、山田先生そ、それは今すぐにですか……?」

「はい♪先生も手伝いますから、パッパッとやっちゃいましょう♪」

「……わかりました」

 

本心では、引っ越しなどしたくないがそんな我がままを言うわけには

いかず箒はトボトボと引っ越しを行った。

 

「う~ん、急に人がいなくなると広くなるけど

 寂しいな、やっぱり」

『それはわかるが、何も二度と会えないというわけでもあるまい』

「それにしても、訓練とかもできないし……暇だな~。

 カズキさんから、何か戦闘記録でも借りてくるか」

 

コンコン――

一夏が時間を持て余し、自分や仲間の戦闘映像でも見て反省や研究でもしようかと

思ったら、ドアを叩く音がしたのでドアを開ける。

 

「はい、どちらさmって、箒?どうした、何か忘れものか?」

「い、いや、そうではないが……な、中に入ってもいいか?」

「別にいいけど……?」

 

どこか決心したはいいけど、やっぱり抵抗があるみたいな感じで

ソワソワする箒をどうしたのかと一夏は首を傾げるが、とりあえず

部屋に招き入れた。

 

「…………」

「え~~~っと、用が無いのなら俺カズキさんのとこに

 行きたいんだけど……」

「よ、用ならある!ちょ、ちょっと待ってくれ、すぅ~はぁ~……。

 よし!

 ら、来月に学年別個人トーナメントがあるな?」

「ああ、6月の終わり辺りに」

 

これは一夏と鈴が戦った対抗戦とは違い、自主参加の個人戦のことである。

 

「そ、そのトーナメントでわ、私が優勝したら――

 か、買い物に付き合ってくれ//////!」

「……はい?」

『(ほう~同室というアドバンテージがなくなったから、デートでもして

 距離を縮める気か。

 だが、この馬鹿のことだ。デートとは思わず、文字通りの買い物と

 思うだろうな)』

 

箒の思わぬ発言に、ゲキリュウケンは自分の相棒は欠片もその言葉の

真意を理解していないと確信し、一人ため息を吐くのであった。

 

「ま、まあ、お前の恋人に変な誤解をさせてもいけないし

 そ、その時は電話して許可をだな……」

「「「「「ちょっと待った!!!!!」」」」」

 

これに乗じて、一夏の恋人と話をしようと思った箒だったが

鈴やセシリア、シャルロット、そして簪に楯無が部屋に

なだれ込んできた。

 

「わっ!?何だいきなり!?」

「話は聞いたわよ~箒ちゃん?」

「一夏さん!それなら、わたくしが優勝したら

 一緒にお買い物を//////!」

「何言ってんのよ!ここは、幼馴染みのあたしでしょうが!」

「それは鈴も同じでしょう?

 とにかく、優勝したら僕と一日付き合ってね、一夏♪」

「わ、私もがんばるから優勝したら

 行きたいお店があるから、一緒に行こう/////」

「というわけで♪

 一夏くんは今度の学年別トーナメントで優勝した子と一日

 デートということで♪

 もちろん、お姉さんが優勝してもよろしくね~♪」

「はっ?えっ?デ、デート?」

「ま、待て!それは私が!」

 

自分の一大決心が、かっさらわれていくのを何とかしようとする

箒だったが、今この部屋にいる乙女達はみな基本は負けず嫌いであるため

最高に燃えあがった状態で他人の主張などを聞く耳など持つはずもなく、

一夏もまた突然の事態についていけなかった。

だが、そんな風に燃える楯無達は一つのことを見落としていた。

部屋のドアがあいているということに――

 

「あちゃ~こうなってもうたか~」

「くぅ~~~!後少しで、作戦通りに押しきれたのに!

 何で、部屋の鍵をかけとかないのよ箒!」

「一夏くんをデートに誘うことで、頭が一杯だったんだろうね~」

「それで、なんで私達はこんなところから

 見ているのかな、フェイトちゃん?」

「あははは……なんでだろう」

 

部屋の外の廊下の曲がり角で、なのは達が揃って一夏の部屋を見ていた。

どうやら、箒を焚きつけたのは彼女達のようだ。

彼女たちが部屋の中で何が起きているのか、分かるのはドアが

開いているため、中で言ったことが筒抜けであるからである。

つまり、それはなのは達だけでなく偶々いた者の耳にも入るということである。

 

この出来事が、ちょっとした嵐のきっかけになるわけだが

予知能力を持たない彼女らが知る由もなかった――

 

更に、その嵐に隠れて巨大な嵐が来るなどと夢にも思わなかった――

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっぱり、ハヅキ社製のがいいよねぇ~」

「え~~~?ハヅキのって、デザインだけって感じしない?」

「そのデザインがいいんじゃない!」

「性能なら、私はミューレイかなぁ~。特にスムーズモデル」

「でもあれって、高いじゃん」

 

授業前の休憩時間、クラスの女子たちはカタログを手にして

ISスーツの話で盛り上がっていた。ISはそれぞれの操縦者

に合わせて変わっていくため、自分に合ったモノを選ぶのが

重要であるのだが、全員が専用機を持てるわけでもないのに

何故とも思うが、そこは花の十代乙女、少しでもおしゃれをしたい

というのが乙女心である。

 

「そういえば、織斑くんのISスーツってどこのやつなのかな?」

「見たことないタイプだよね?」

 

話は、一夏のISスーツにまで及んでいき、そこへ図ったように

一夏が教室に入ってきた。

 

「あっ!織斑く~~~ん♪

 ちょうど、よかった!あの織斑くんのISスーツってどこの……」

「やあ、みんな♪おはよう♪」

『……』

 

爽やかという言葉が似合う笑顔をする一夏に、教室にいた者たちは

その爽やかさに言葉を失い、ある者はその笑顔を見て固まった。

 

「えっ?あ、あの織斑……くん?」

「いや~今日もいい天気だね~」

「何や、えっらい機嫌ええな~一夏くん「違う、逆だはやて……」

 へっ?」

 

今まで見たことない上機嫌な一夏に驚く、はやてだったが

そこに青ざめた顔の箒が待ったをかけた。

 

「逆って、どういうことですか箒さん?」

「そのままの意味だ。

 一夏は、今すごく機嫌が悪い……」

「機嫌が悪いって……僕にはそうは見えないけど……」

「よく見ろシャルロット。一夏の目……全く笑っていない」

「あっ、ホントだ!」

「――昔、姉さんと千冬さんがくだらないことで喧嘩したことがあったんだが

 その時しびれを切らした一夏があんな風に笑って……」

「どうしたのよ、箒?」

 

言葉を詰まらせた箒にアリサが不審に思うが、突然箒は体を震え出した。

 

「すすすすまない。ああああれはできるだけ思い出したくない……」

「それって、つまり一夏くんはガチで怒ると織斑先生も黙らせられる

 ってことかい?

 笑いながら怒るって、

 まるでなのはちゃんやすずかちゃんやないかい……」

「はやてちゃん?」

「放課後、一緒に訓練しようね~」

「すいません、それは勘弁してください」

 

明かされた一夏の意外な一面に、余計なことを漏らしたはやては

命の危機に頭を下げて許しをこうのであった。

 

「諸君、おはよ――う!?」

「おはようございます、織斑先生」

 

朝のHRが始まる時間となり、教壇の前であいさつをする千冬だったが、

目の前にいる笑顔を浮かべた一夏を見て驚いたように目を見開く。

そんな千冬をどうしたのかとクラスの者たちは、頭を傾げる。

 

「え~あ~んんんっ!

 きょ、今日から本格的な実戦訓練を開始する……」

「逃げたね?千冬ちゃ~ん」

「?」

 

千冬の後に続いて入ってきたカズキはそんな千冬を

おもしろそうにからかい、真耶は生徒達と同じく首をかしげるだけだった。

 

「ISを使っての授業になるので、気を引き締めて取り組むように。

 各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので

 忘れないように気をつけろ。忘れたものは、学校指定の水着で

 授業を受けてもらう。

 それも忘れたものは、下着で……男が二人もいるから無理なので

 取りに走らせる」

「ちなみに山田先生は、去年2回下着で授業をしたらしいね~」

「/////」

「「「「「(何してんの、この学園!!!)」」」」」

 

下着でも授業をやらせようとした千冬は、一夏とカズキを見て言い直す。

それに便乗したカズキが、悪魔手帳を開きながら真耶の失敗を暴露するが、

顔を赤くする彼女の反応が本当のことだとものがたっていた。

 

「な、なんやと!?

 あの箒ちゃんやフェイトちゃん、会長さん以上のスタイルで

 下着姿やと!?

 くっ!なんで、私はそこにおらんかったんや!

 ――箒ちゃん、フェイトちゃん、ちょっとお願いが……」

「断る!」

「お断りです!」

「はやてちゃん?全力全開でO・HA・NA・SIする?」

 

メダルの怪人が真っ先に目をつけそうな己の欲望に忠実な

はやては、桃色の光に飲みこまれようとしていた。

 

「では山田先生、本日のホームルームを」

「は、はいっ!

 ええとですね、今日はまず転校生を紹介します!

 しかも二人です!」

「「「「「えええええっっっ!!!?」」」」」

「……」

『(お、落ち着け一夏……)』

 

前触れもなく告げられた転校生に、クラスが驚きの声で包まれる。

噂好きな乙女の情報網をくぐっての二人の転校生だから、この反応も無理はない。

ただ、転校生と聞いても一夏は笑顔というよりますます笑顔になって、千冬や箒を焦らせた。

 

「失礼します」

「……」

 

教室に入ってきた転校生を見て、クラスのざわめきはピタリと止まった。

何故なら、一人は一夏と同じ男子の制服を着た男だったのだから――

 

「はじめまして、みなさん。原田明(はらだあきら)と言います。

 どうぞよろしくお願いします」

 

大きなきりっとした目の少年は、礼儀正しくあいさつした。

 

「お、男……?」

「はい。ケガで入院していたので春に行われた

 男性のIS起動確認検査を受けれず、先日受けたところ

 起動することができたので、このたび転入を――」

 

丁寧なたたずまいと一つ一つの動作がまるで芸術のように美しい

その少年は、主人を命がけで守る執事のようであった。

 

「き……」

「ん?」

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!!!!!!」」」」」」」

 

瞬間、教室の窓を揺らすほどの歓喜の声が上がった。

 

「男子!織斑くん、碓氷先生に続くカッコイイ男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形!その身を呈して、守ってくれそう!」

「私のハートを撃ち抜いて~!」

「そして、時にはいけない私をイジメてぇ~」

「…………」

『(おい!何私を抜こうとしているんだ、お前は!

 頼むから落ち着け!)』

 

美形の転校生に女子たちは大喜びだが、朝から一夏の笑顔が

全く変わっていないのに気付いておらず、そんな一夏は何を

考えているのかゲキリュウケンを抜こうとして、彼に止められていた。

 

「……ひ、久しぶりだな一夏」

「ああ、久しぶりだな明……」

「あれ?織斑くんと原田くんって、知り合いなんですか?」

「そうだよ~。この二人は、中学時代からの知り合いでね~」

 

少し遠慮気味に一夏へと挨拶する明を疑問に思った真耶に、カズキが答えた。

 

「二人は仲良しでね~。

 確か、プールで溺れた明を一夏が助けたこともあったけ?

 濡れた服も脱がしたんだよね~」

「なっ/////!?」

「そんなこともありましたね~」

「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!!!!!!」」」」」」」

 

カズキの思わぬ暴露に、明は瞬時に顔を赤くし一夏は何でもないことのように

言うが、クラスメート達は先程以上の歓声を上げた。

 

「美少年執事に守られる美少年の主従を超えた絆!

 いける!いけるわ!燃えてきた――!」

「そこに、年上の青年が加わって……ハァハァ……」

「今年の夏はMAXを振り切ってやるわ――!」

「そ、そういう世界って本当にあるんだ……」

「何言っているのよ、すずか!戻ってきなさい!」

「男と男……友情を超えた想いは――」

「う~ん、フェイトちゃんは一度足を入れたら

 閃光の如くどっぷりつかりそうやな~」

「なんで、仲良しなだけでそんなに騒ぐのかな?」

「い、一夏……お、お前はそっちだと……言う……のか……?」

「そ、そういう世界があるとは知っていましたが、まさか

 一夏さんが……」

「い、一夏が望むならぼぼぼ僕は……!」

 

はやてと同じく自分の欲望を存分に燃やして、薄い本の創作に燃える者や、

そっちの世界に踏み入りそうになる者、よくわかっていない者、混乱する者等

反応は様々であったが、件の中心である一夏は笑顔を崩さなかった。

 

「騒ぐな!まだ終わっていないぞ!」

「みなさ~ん!お静かに~!」

 

千冬が注意することで、ようやくもう一人の転校生に視線が集まった。

輝く銀の髪を腰まで伸ばし、小柄な体格から人形やお姫様を連想させるが

纏う空気は氷のように張りつめたものだった。

そして、一番目につくのは左目の眼帯である。医療用のモノではなく、

ガチの黒眼帯である。

先程の騒ぎにも動じず、腕組をした状態で軍人のように待機していた。

 

「…………」

「はぁ~……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ここでは織斑先生だ。ここは学園で、お前は生徒、

 私は教師だ」

「了解しました」

 

千冬に敬礼して返事をする転校生――ラウラに千冬は

ため息交じりで、注意するがその後ろではカズキがクククと笑っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「………………」

「あ、あの~以上……ですか?」

「以上だ」

 

ラウラは、自分の名前だけ言うと口を閉じてしまった。

微妙な空気を何とかしようとする真耶も涙目である。

 

「貴様が――!」

「は~い、ラウラちゃ~ん♪

 よくあいさつできたね~♪

 いい子いい子~」

 

ラウラは一夏を見ると近づこうとしたが、その前にカズキが

彼女の頭を妹を褒めるかのように撫で始めた。

 

「こ、こら!何をする、キサマ!」

「何って、ラウラちゃんがちゃん~~~と自分の名前を

 皆に言えたから褒めてるんだよ~♪

 いや~、何も言わなかったどうしようかと思ってたよ~」

「私を何だと思っているんだ!私は子供ではない!」

「は~い♪そうでちゅね~♪

 まぁ、そんなに興奮しないでほら大好きなミルクでも飲んで落ち着いて♪」

「ふんっ!」

 

反抗期な妹をなだめるかのように、ニコニコとラウラと対話するカズキ。

見た目は、子猫とじゃれ合う飼い主である。

そんなカズキは、どこから出したのかミルクをどうかと勧めると

ラウラはそれを奪うようにひったくった。

 

「ゴクゴク……ぷっはぁ~♪…………はっ!?」

「「「「「じぃぃぃ――――」」」」」

「ぷっ……くっくっくっ――」

 

ラウラは奪ったミルクを飲み干すと、満足そうに笑顔を浮かべると

教室にいる者たちが自分を見ていることに気がついてハッ!と

我に返り、カズキは腹を押さえて笑いを堪えていた。

 

「――っ/////!貴っっっ様!!!」

「あっはっはっ!!!

 別にいいじゃん~♪これで、みんなにラウラが

 ホントはかわいくていい子だってわかってくれたんだし~。

 たくさん友達もできるよ~?」

「そんなものいるかぁぁぁ!!!」

 

最早、完全に兄におもちゃにされている妹である。

 

「落ち着けラウラ。気持ちは分からんでもないが、

 この後すぐに授業だから、続きは後だ」

「ううう~~~~~!

 認めない!私は認めないぞ!

 貴様やお前が教官の大切な人で!

 教官のファンクラブの会長、副会長なんて!!!」

 

千冬がラウラをなだめるものの、余り効果はあらずラウラは羞恥で

顔を真っ赤にしながら涙目で、カズキと一夏を指さし彼らを否定した。

千冬のファンクラブの会長、副会長であることを――

 

「えっ?何ですか、織斑先生のファンクラブって?」

「ああ、俺が会長で一夏が副会長の“放課後☆千冬CLUB”のことだね。

 主な活動内容は、千冬ちゃんを愛でることと

 礼儀知らずな、えせファンをしめr……じゃなくて

 マナーを叩きこむことだね~。

 ちなみに、千冬ちゃんは“放課後☆弟LOVE CLUB”の

 会長で、俺が副会長だね~」

「余計なことを言わんでいい!

 というか、まだ続けていたのかその恥ずかしいものを!」

 

カズキの言葉に一同唖然となり、千冬が飛び蹴りをするも

あっさりカズキに避けられてしまう。

 

「ははは♪

 それじゃ、HRはこれで終わりにして、皆。

 今日は第二グラウンドで二組と合同授業だから、遅れないようにね~。

 後、一夏。明の面倒を見てあげたら?

 知り合い同士なら、何かと気が楽だろうしね~」

『(いや、この場合はむしろ気まずいんじゃねぇの?)』

「待て!まだ話は終わってないぞ!」

 

そう言って、カズキは教室から逃亡し千冬はそれを追いかけた。

 

「それじゃ、急ぐぞ明。女子が着替え始める」

「ああ、わかった」

 

一夏は、明と共に教室を出ると走りだした。

 

「男子はアリーナの更衣室で着替えるから、実習の時は早めに

 移動するんだ」

「それはわかるが、少し急ぎすぎじゃないか?」

「それはだな……」

「転校生発見っ!」

「織斑くんと一緒だ!」

 

一夏と明がアリーナに向かって走っていると、HRを終えた他のクラスや

上級生などが彼らを見つけ、我先にといかんばかりに突撃しようとしていた。

 

「いたっ!こっちよこっち!」

「者ども出会え出会えい!」

「……この学園は武家屋敷か何かか?」

「ホラ貝が聞こえてきそうだな」

「見て!転校生の子、肌つやつや!」

「足、長~い!」

「悪魔で執事なあの人みたいに、冷たい目で私をゾクゾクさせて~!」

「生んでくれてありがとう、お母さん!

 今年の母の日は、ちゃんとお花屋さんの花を買うからね!」

『(いつもは、何を送っているんだ?)』

 

一夏とは違うクラスのため、フラストレーションが溜まっているのか

やってきた子は一組の生徒よりもテンションが高かった。

 

「おい、いつもこんなに騒がれているのか?」

「何かするたびにワイワイ言われて、珍獣扱いだよ……」

「ふぅ~ん……?」

 

アイドルのコンサートのような騒ぎっぷりに、明が一夏に問いかけるが

いつものことのように答えると、明はジト目を一夏に送った。

 

「何だよ、その目は?」

「別に……」

『(ぷっ!くくく……)』

「とにかく、これを何とか突破しないとな。

 これが原因でも遅刻したら、千冬姉は容赦してくれないぞ」

「安心しろ学園の地理は、既に頭に入れてある。こっちだ!」

 

明は、そう言うと近くにあった窓を開けるとそこから飛び降りた。

 

「「「「「「「えええええっ!!!!!?」」」」」」」

「あっ!おい、待てよ!」

「「「「「「「えええええっ!!!!!?」」」」」」」

 

予想外な明の行動に驚く面々だったが、同じようにつづいた一夏にも

驚きの声を上げた。

 

「ふぅ~何とか到着……っと」

「あまり時間が無いな、早く気がえないと」

「そうだな、ISスーツって結構着替えにくいし!」

 

着替えが見えないようにロッカーのドアを開けて、一夏は

自分の体を隠すと一気に服を脱いでいく

 

「っ!おいっ/////!」

「なんだよ……あっ!

 いくら男同士だからって……覗くなよ?」

「だれが、覗くか!!!」

『(いつもならここで、からかいの一つでもいれるが

 今の一夏を下手に刺激するのは危険か……)』

 

明は顔を真っ赤にして大声を上げ、その様子を見てゲキリュウケンは

彼らをからかいたいと思うものの、そんなことをしたら今の一夏は

何をするのかわからないので何も言わなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「間に合ったな」

「そうだな……」

 

女子のものとは違い、ダイビングの全身水着のような男性用ISスーツ

を着た一夏と明は、整列を始めていた一組女子の列に混じって並んだ。

 

「あれ、明じゃない?何、転校してきた二人目のIS操縦者って

 アンタなの!?」

「凰鈴音!何の因果か、こうなってな」

「鈴さん、原田さんのことを知っていますの?」

「中学時代は、鈴や弾と同じクラスだったからね~」

「そうそう……って!?どうしたのよアンタ……」

「どうしたのって、何が?」

 

中学時代の同級生であったため、驚いた声を上げる鈴だったが

笑顔を浮かべる一夏を見て青ざめる。

 

「ちょっ!何があったのよ、セシリア!

 一夏の奴、すっごい機嫌が悪いじゃない!」

「箒さんも同じことを言ってましたが、本当なんですの?

 どう見ても上機嫌にしか見えないのですが……」

「それが怖いのよ……。

 アイツがガチで怒る時は、それを顔に出さないのよ。

 一体、どこのバカよ!アイツをあんなに怒らせたバカは!!!」

「バカを探しているのか?それなら、私の目の前に二人いるぞ――」

 

思わぬ知り合いに再会したのと不機嫌モードの一夏に驚いて

授業が始まっているのに気がつかなかった鈴は、学園最強教師の

黒き宝剣(出席簿)を振り下ろされた。

話しかけられていたセシリアは、完全なとばっちりである。

その光景を千冬の後ろでカズキは、笑って見ていた。

 

「ううう……。何かというとすぐに人の頭をポンポンと……」

「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

「(変わらないな、凰鈴音)」

 

頭を押さえながらうずくまるセシリアと鈴を見て、明は

昔から変わらない鈴に安心するのであった。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する。

 ちょうど活力が有り余っている者もいるようだし、

 まずは戦闘を実演してもらおう。

 ――凰!オルコット!」

「うぇっ!」

「な、なぜわたくしまで!?」

「専用機持ちならすぐにはじめられるから……でしょ?

 千冬ちゃん?」

「そういうことだ、早く前に出ろ」

「だからってどうしてわたくしが……」

「一夏のせいなのになんであたしが……」

「お前ら――アイツにいいとこを見せたくはないのか?」

 

不満を述べる二人に、千冬が小声で耳打ちすると――

 

「このわたくし、セシリア・オルコットの華麗な実力を

 ご覧にいれましょう!」

「あたしの隠した実力、見せてやろうじゃないの!」

「「「「「(わ、わかりやすい――)」」」」」

「「?」」

 

急にやる気を見せた二人に、一夏と明を覗く面々は何を言われたのか

大体察した。

 

「それで、お相手はどなたですか?

 なんなら、鈴さんでも構いませんが」

「へぇ~おもしろいじゃない。

 返り討ちにしてやるわ!」

「慌てるな、バカども。対戦相手は――」

「うん?なんだ?」

「ん?どうした一夏?」

「急に空何か見て?」

「何かいる……?と言うより、こっちに来る?」

 

早くも戦闘を始めようとした二人を千冬が止めていると、

一夏はいぶかしげに空を見上げたので、箒やシャルロットが

不審に思っていると明も目を細めて空を見るとこちらに

キィィィン!と空気を切り裂くような音と共に向かってくる何かを見つけた。

 

「あああっっっ!どどどどいてくださ~~~いっ!!!」

「なっ!山田先生!?」

 

明だけでなくその場にいた者が飛んできた何かを真耶と認識すると

クモの子を散らしたようにその場から退避しようとした瞬間、

白い影が明の後ろから飛び出した。

 

「はっ!」

「ひゃっ///!きゃあああああっ!!!」

 

見ると一夏が白式を展開して、何かを投げ飛ばしたような姿勢で

着地しており、真耶はあさっての方向に飛ぶというより飛ばされていた。

 

「えっ?何?」

「今、何が起きたの?」

 

今起こったことに思考が追いついてきたのか、皆がガヤガヤと騒ぎ始めた。

 

「静かにしろ!」

「ははは、今一夏は落下してきた山田先生を受け止めるんじゃなくて

 落下の力をうまく受け流して地面じゃなくて、飛んでいった空の方に

 向けることで落下を阻止したんだよ。

 まあ、タイミングを間違えたら下敷きになるけどね~」

「「「「「おおお~!」」」」」

 

カズキの説明に、一同感心した声をあげた。

 

「す、すいませ~ん」

「山田くん……」

 

そうしている間に、体勢を整えラファールを纏った真耶が降りてきたが、

千冬は初心者のような失敗をしそうになったことに呆れて頭に手をやっていた。

 

「大丈夫ですか、山田先生?」

「ひゃあっ!ひゃい!だいじょうびゅでふぅ/////!」

 

真耶を投げ飛ばした本人である一夏が大丈夫かと尋ねたが、

彼女は何故か顔を真っ赤にして体を隠すようにして、盛大に噛みながら答えた。

 

「ええっと……ああこれが原因か。

 一夏。お前、投げ飛ばす時……」

「あっ」

 

どこから出したのか、カズキはタブレットを操作して、全員に見えるように

向けると先ほどの投げ飛ばしのワンシーンが映し出され、

そこには一夏が真耶の大きな“アレ”に手を触れている場面が出ていた。

事故を回避することに、専念していたためか一夏は今気付いたような声を

上げ、次の瞬間には戦士としての勘に従い体を若干後ろに逸らすと

そこをレーザーが通り過ぎた。

 

「あら残念♪外してしまいましたわ、ホホホホホ……」

 

そこには、頭に血管を浮かべながら笑顔を浮かべるセシリアがいた。

 

「ほぅ~。一夏……ドサクサに紛れて貴様ぁ~」

「ふぅ~ん。やっぱり、大きいのが好きなんだ……」

「…………」

 

同じように箒とシャルロット、そして何故か明が冷気を纏った

鋭い視線を一夏に送ると、

ガシ――ン!と

何かを組み合わせる音が響き渡った。

 

「あれま」

「うぉぉぉぉぉりゃあああああ!!!!!」

 

間の抜けた驚く声を上げた一夏が見たのは、セシリアたちとは違い

火山の如く自らの怒りを噴火させた鈴が双天牙月を連結状態で

力いっぱい自分にブン投げた姿だった。

 

ドンッドンッ!

 

投げられた双天牙月は、銃声が二回鳴ると一夏に

当たることなく地面に突き刺さった。

 

何が起こったのかと、一夏をはじめ鈴たちが視線を向けると

そこにはアサルトライフルをしっかり構えた真耶がそこにいた。

彼女はいつものバタバタと落ち着かない小動物のような雰囲気ではなく、

落ち着いた戦士の顔をしていた。

 

一夏は入学試験の時に、勝手に壁に突っ込んで自滅した人と

同一人物とは思えず特に驚いていた。

 

「山田先生は元代表候補生だ。今くらいの射撃は、造作もない」

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」

「人は見かけによらないってことだね。

 今、こうしてキリッとしている千冬ちゃんも

 休日だと……おっと!授業を遅らせるわけにはいかないから

 これぐらいで♪」

 

いつものごとく、千冬をからかおうとしたカズキだったが

授業を進めるのを優先するために、今回はこれで済ました。

 

「さていつまで惚けている凰、オルコット。さっさとはじめるぞ」

「えっ?始めるって、あの……2対1で……ですか?」

「いや、さすがにそれは……」

「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」

「だよね~」

 

千冬とカズキが挑発するように負けると言うと、負けず嫌いである

二人はあっという間に、闘争心を燃やし臨戦態勢に入る。

 

「いいでしょう……全力でいきます!」

「あたしの本気、見せてやろうじゃないの!」

「い、行きます!」

「準備はいいようだな。それでは……はじめ!」

 

それぞれ飛翔し、空中で待機したのを確認して

千冬は開始の合図を出した――

 

 

 

 

 

 

 





如何でしたか?
一夏は、箒の言うように笑っていますがすっごく不機嫌です。
煮えたぎる苛立ちが表に出ないようそっ――とフタをしているだけです。
それが、外れたら……

ラウラは最初は原作通りでいこうかと思ってましたが、気付いたら
こんなキャラにwww

今回出てきたファンクラブには会長よりも、上の人がいたりして――

明の容姿等は次回の後書きにでも。

感想、評価待ってま~す。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

笑顔にご注意


少し間が空きましたが、最新話できました。

今回でストックがつきましたので、次からまた時間がかかると思います。

以前感想欄で「デート・ア・ライブ」からはエレンだけ登場すると言いましたが
ある人を追加登場しちゃいました(汗)



実戦訓練ということで、戦闘の実演を山田先生を相手にすることに

なったセシリアと鈴だったが……

 

「あ、アンタねぇ……何面白いように回避先を読まれてんのよ……」

「それは鈴さんもでしょう……考えなしにつっこんだり

 ドカドカと撃ったりして!」

 

結果から言うと、二人の惨敗だった。

真耶は二人の動きを射撃でセシリアが攻撃しようとしたら鈴が、鈴が攻撃しようと

したらセシリアが邪魔になるように誘導し終始二人を翻弄したのだ。

極めつけはわざと狙いの甘い射撃をすることで

二人が油断しぶつかったところをグレネードで落とされたのだ。

 

「これが一対一ならまた別の結果になったかもしれないけど、

 タッグを組んでうまく機能しなければ、今回のように戦力は

 倍増どころか半減以下になっちゃうから、気をつけるように」

「碓氷の言うとおりだ。

 二人とも、なぜ回線をリンクさせなかった?

 そうすれば、互いの位置と動きを把握できて同士打ちは避けれたはずだぞ」

「それは……」

「面目ありません……」

「まあまあ二人とも、そんなに落ち込まないで~。

 この後、もう一戦実演をするけどその前にこれでも飲んで回復するといいよ♪」

 

実演の失敗箇所を指摘されて落ち込むセシリアと鈴に、カズキは

いつのまに持ってきたのか飲み物を入れた透明な紙コップを差し出したのだが……

 

「あ、あの~碓氷先生?」

「何……コレ?」

「ふふふ、カズキ印の特製野菜ドリンクだよ♪」

 

不気味な研究所で夜中に高笑いする科学者の如く笑うカズキが、

手に持つのは、緑色の“液体”であった。

 

「な、何が入っているのよ……コレ?」

「食べ物だよ♪」

「それはカズキさんにとっての食べ物で、他の人からしたら

 食べ物でない可能性があるんじゃないんですか?」

「「ア、アハハハハハ……」」

「ハハハハハ♪」

 

得体の知れない不気味さに加えて、一夏が余計なことを言ったのでセシリアと鈴は

引きつった笑いをし、カズキは楽しそうに笑った。

 

「味も調整してあるよ♪」

「「……(ゴクっ)」

 

二人はおそるおそる紙コップを手にして、意を決するとそれを口にした。

他の子たちや千冬が見守っていると――

 

「あああああ!!!」

「水水水!水ぅぅぅぅぅ!!!」

「……さてと。それじゃ、次行ってみようか♪」

「「「「「(流した!?)」」」」」

「すいません、遅くなりました」

 

セシリアと鈴がコップを放り出して、走り去ったのをカズキは満足そうに笑い

授業を進めようとすることに、見ていた者たちは戦慄を覚えた。

そうこうしている内に、2組の担任であるエレンが打鉄を纏って現れた。

その後ろに、真耶と同じくラファールを纏い疲労困憊といった感じの副担任を引き連れて。

 

「どうしたのですか、燎子?これから授業だというのに、情けない」

「だ、誰の所為だと……」

 

どうしたのかと首をかしげる1組とは、対象に2組は苦笑を浮かべていた。

 

「2組副担任、日下部 燎子(くさかべ りょうこ)。

 山田先生と同じく元日本代表候補生であり、どちらかと言えば

 射撃中心な彼女とは違い、距離に関係なく戦えるオールラウンダー。

 面倒見がいいせいか、貧乏くじを引くことが多く

 メイザース先生がやらかす、ドジの後始末は彼女の仕事の7割に該当する。

 今日も一夏にISスーツ姿を見られると昨夜遅くまで興奮していて、

 寝坊したメイザース先生を起こす、忘れていた本日の訓練機使用申請を

 超特急で行うなど、姉御肌もしくはおかん属性を存分に発揮して

 2組では副担任ではなく真の担任として認識している者も多い。

 最近の悩みは、実家の両親から早く孫の顔が見たいと催促されていること。

 しかしこの職場では出会いに恵まれないため、一夏が結婚できる歳になったら

 自分はピィ――!歳だが、アタックするかどうかを真剣に悩でいたりする」

「なんで、そんなこと知ってんだアンタっ!!!?」

 

悪魔手帳を開きながら燎子の説明をするカズキだったが、

本人からツッコミが入った。

 

「あれ?一夏くんにアタックって、碓氷先生にはしないのかな?」

「碓氷先生にアタックゥ~?

 ――んなことできるかぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

カズキがさらりと暴露したことに、そのカズキにアタックをしないのかと

すずかがぼやくが、それを耳にした燎子は大声を上げた。

 

「な、なんや一体?」

「大方、職員室でも千冬姉と痴話げんかとか二人だけの桃色空間とかを

 形成しているんだろ」

「あ、あははは……」

「ちっくしょうぅぅぅ!!!

 独身女性に対する当てつけかってのぉぉぉ――――!!!!!」

 

一夏がボソッとつぶやいたことを肯定するかのように真耶は

苦笑し、燎子は血涙を流さんばかりの勢いで叫んだ。

 

「毎日毎日毎日毎日、仕事が片付くと織斑先生をじっ~~~と

 見てはちょっかいをかけなおかつ!

 手作りのケーキをあ~んしたり、肩もみをしたりして

 他の女なんか最初から興味

 ありませんな男に声なんかかけられるかぁ!!!

 あんたらには想像できないだろうけど、いろいろと焦る中で

 そんな甘々な空間を日々見せつけられる私らの気持ちがわかるか!!

 おかげで、ブラックコーヒーが足りねえよ!

 しかも、当の織斑先生はいちゃついている自覚がないし!!!!!」

「まぁ、千冬のあれは一夏と同じで昔からですからねぇ~」

「メイザース先生も日下部先生も何を言っている?

 あれは、こいつが私を怒らせてからかっているだけで

 別にいちゃついてなどいない」

「「「それをいちゃついているって言うんです!!!」」」

 

燎子の魂の叫びに、エレンも同意するが千冬は何でそんなに叫ぶんだ?

な感じで答えるも、他の三人の教師にきっぱりと否定された。

 

「ねぇ、織斑くんも……アレだけどさ?」

「うん、千冬さまも結構……」

「織斑くんそっくり……というかこの場合は、弟の織斑くんが似たのかな?」

「はぁ~い!

 それじゃ、千冬ちゃんと一夏が似たもの姉弟とわかったところで

 次の実戦訓練を山田先生と日下部先生のタッグvsメイザース先生

 でやってもらうから、集中しようね~」

 

ヒソヒソと千冬と一夏がそっくりだと飛び交う中で、カズキはパンパンと

手を叩き、次の対戦カードを告げた。

その時の言葉で鋭い視線をするラウラをスルーして――

 

「さっきの代表候補生コンビの連携は、悪い例だけど

 今度はちゃんとしたコンビプレーの例だから、よ~く見るようにね~

 そして、一見いつもと変わらない千冬ちゃんも一夏がどうであれ自分と

 似てるって言われてご機嫌だから覚えておくといいよ~♪」

「やかましい!」

 

いちゃついていないと言っておきながら、千冬とカズキは目にも止まらぬ

拳とそれを回避するといういつもの痴話喧嘩を始めた。

 

「あれでよくいちゃついていない等と言えますね、山田先生?」

「そうですね」

「いい加減にしろよな!

 このバカップルがぁぁぁ!!!」

 

教師三人はもう慣れたのか、呆れるが約一名は叫びを上げた。

 

「もう、あのバカップルは無視して授業を進めた方がいいんじゃないんですか?」

「あれ?なんか織斑くん……」

「ちょっと棘がある様な……?」

「本当に何があったんだ一夏……!」

 

朝から一向に変わることのない笑顔にどこか合わない言葉を言う

一夏に、箒たちはただ引きつるだけであった。

 

「あっちが何か騒がしいみたいだけど、そろそろ始めるわよ二人とも!」

「はい!」

「いつでも」

 

燎子がそう言うと、三人とも空へと上がると教師としてではなくIS操縦者としての顔に

変わり、生徒達は自然と固唾をのんだ。

そして未だに、痴話喧嘩をする二人が巻き上げた石ころが地面に落ちたのを

合図に模擬戦が開始された。

 

「はっ!」

「くっ!」

「日下部先生!」

 

最初に動いたのは、エレンだった。

量産機の打鉄でありながら、専用機にも劣らないスピードで燎子の懐に入り込み

呼び出した近接ブレードで切り込むもののその攻撃を読んでいたのか、

彼女も開始と同時に後ろへと後退し、シールドを呼び出してその攻撃を防いでいた。

エレンはそのまま追撃することなく燎子と

同じように素早くバックステップで、その場から後退すると同時にそこに真耶が撃った

マシンガンの弾が襲いかかった。

 

「やります……ね!」

 

エレンは後退するのと同時に、アサルトライフルを呼び出し

ジクザグな軌道をしながらも正確な狙いで真耶の動きを制限して

接近すると、先ほどのバックステップのように突如として高度を上げると

そこを弾丸が通過した。

 

「おりゃあああ!!!」

 

見るとエレンに弾き飛ばされた燎子がガトリングガンを手に持ち、

これでもかという剣幕で撃ちまくっているのだ。

鬱憤を晴らすかのように見えるのは気のせいだと思いたい――

 

「あんたはしょっちゅうドジやらかしてるけど、

 ワザとやってんじゃねぇだろうな、オイ!

 少しは私の苦労も考えろってんだ!

 おかげでストレスと寝不足で肌年齢キープに必死なんだよ!

 こないだ機械で測ってみたら30代って、ウチはまだ

 ピチピチの20代じゃゴラァ!!!」

 

気のせいであるはずである。

 

「流石燎子ですね……っと!

 あなたも、面倒ですね。真耶!」

「それをメイザース先生が言いますか!」

 

ガトリングガンによる弾幕を回避していたエレンは、体を回転させて

自分を狙った真耶の弾丸を避けるもののその際に、弾幕にかすってしまう。

 

「真耶!とにかく撃って撃って撃ちまくって、近づけさせないわよ!」

「はい!」

 

普段の姿からは想像できないのか、戦っている三人を知る者たちは

呆然としていた。

 

「驚いたかい?普段は天然でドジでツッコミに見えても、三人とも

 やるときはやるんだよ~」

「先ほどの凰とオルコットとは違い、山田くんが攻撃する時は、日下部先生が。

 日下部先生が攻撃する時は山田君が、攻撃を当てやすくするためにメイザースの

 動きを牽制してサポートしている。

 タッグを組めば、できることは単純に2倍だ。

 パートナーが動きやすいようにサポートし合えば、更にできることは増える」

「あの二人ほどの腕で力を合わせれば、例え量産機でも国家代表とも

 戦える力を発揮することもできるんだ。

 でも、流石は千冬ちゃんと戦えたというか全力を出せなくても

 メイザース先生相手だと厳しいみたいだね~」

 

カズキがそう言うと、被弾しながらも真耶と燎子に斬りかかるエレンの姿が

皆の目に入った。

 

「メイザースに打鉄を使って模擬戦をするように言ったのは、このためか?」

「今の鈴ちゃんやセシリアじゃ連携はとれないからね~。

 悪い例だけじゃなく、いい例も見せないと。

 それにあの二人には悪いけど、メイザース先生が

 専用機使ったら、勝負にならないだろうし」

「そうだろうな。

 山田君も日下部先生もそれをわかっているからこそ、メイザースの

 弱点を突く戦い方をして勝ちにいっているしな」

「あの~織斑先生?」

「メイザース先生の弱点って……?」

 

カズキと千冬が模擬戦の解説をしていると、その中に出てきたエレンの弱点

について疑問の声が上がった。

 

普段は真耶に負け劣らずなドジの印象があるとはいえ、エレンはかつて世界最強の

千冬と互角に戦った人物なのだ。いくら量産機を使っているとはいえ、

自分達にはできない世界レベルの技術を見せてくれている彼女に弱点など

信じられないのだ。

 

「メイザースの弱点は、奴の強さを支えるものに起因している」

「彼女の普段のドジの半分はそれが原因でもあるんだよね~。

 まっ、元からそういう素質はあるみたいだけど」

「あいつの強さは、異常ともいえる反射神経の速度にある」

「反射……」

「……神経?」

 

千冬の答えに生徒達は揃って首を傾げた。

 

「人間の反射は外部から、刺激や情報が入ってきてそれを脳が理解して

 それに対応する動作を行うことでその速度は、だいたい0.3秒前後。

 どんなに鍛えたとしても0.1秒をきることはできないんだけど、

 メイザース先生の反射速度はそれを超える0.08~0.07秒。

 つまり、どんな攻撃にも見てから後だしで反応することができるんだ」

「反面、その反射速度に肉体はついてこないから、あいつは生身だと

 よく転んだりする」

「ISが登場するまでは、周りからどんくさいやドジと思われていたけど

 自分の反射速度についていけるISに出会えたことで、ようやく

 彼女本来の動きができるようになったわけ」

「それでも、量産機ではメイザースの動きについていくのには限界が

 あるから……」

 

ガガガガガ!!!!!

 

千冬がそう言うと、麻耶と燎子の弾幕がエレンを捉え集中砲火を受けていた。

 

「なるほど、あれがエレン姉の弱点なんですね」

「気付いたのか、一夏?それじゃ、答え合わせもかねて言ってもらおうかな~」

「はい。エレン姉ことメイザース先生の弱点は……スタミナの消費が激しい、

 ですよね?」

「正解。相手の動きを見てから反応して追加で行動できるということは、

 相手よりも動く量が多くなりスタミナの消費も数倍になるんだ」

「しかも、あいつは激しい筋トレをしようものならすぐに筋肉痛で

 動けなくなるから克服しようとしてもなかなかできない。

 必然的にあいつの戦闘スタイルは、超短期決戦型になり山田君や日下部先生

 が行っている持久戦に非常に弱い」

「それに量産機は誰でも使えるっていうコンセプトだから、エレン姉

 の反応速度に追いつけなくなってきたから、勝負はあったかな?」

「まっ、確かに~?

 実力が上の相手でも相手の長所を潰して自分の長所を全力で発揮すれば、

 勝つこともできるっていうのがこの模擬戦の意味の一つだけど、

 それに加えて人間って奴は何がきっかけで、限界をぶち破るかわからない

 っていうのを知って欲しいんだよね~」

「「「「「???」」」」」

 

皆が頭に?を浮かべる中で、カズキはタブレットを出したみたいにどこからか拡声器

を取り出し、息を吸い込んだ。

 

「メイザース先生っっっ!!!

 そのピンチから逆転してカッコイイ所を見せてくれたら明日――

 一夏がお昼の弁当を作ってくれるみたいだよ~!」

「は?」

「「へ?」」

 

カズキの予想外すぎる発言に、一夏はもちろん千冬や他の子も戦っている二人も

呆けた声を出すが、次の瞬間その場にいた全員がエレンの耳が象みたいに大きくなり

カズキの言葉が現実化して吸い込まれていく様子を見た気がした。

 

「……ふふふ……ははは!!!!!

 一夏のお弁当!手作りの!愛情たっぷりの手作り弁当!!!!!」

 

オーラのようなものを体から放出してそう叫ぶと、エレンはその姿を一瞬ブレさせ

その場から消えた。

 

「き、消えた!?」

「ど、どこに!?」

 

麻耶と燎子はハイパーセンサーを使って、

エレンを探そうとするが突如として麻耶の目の前に、エレンが現れた。

 

「うりゃりゃりゃあぁぁぁ!!!」

「なんか、目が怖い!?」

 

目を大きく見開き、手にした近接ブレード振り回す姿ははっきり言って

かなり怖い。加えて無茶苦茶なように見えて、麻耶が反応しにくい角度で

斬りかかっているのがまたなんとも恐ろしい。

 

「愛情弁当っ!!!」

「きゃふん!」

 

エレンが振り下ろしたブレードが顔に直撃し、麻耶は撃墜された。

 

「ははははは!一夏の愛情弁当があれば私は無敵無敵無敵!!!」

「そのパワーを少しでも、仕事に向けてもらえませんかね!?」

 

両手にサブマシンガンを呼び出した燎子は、涙目になりながら

叫ぶもエレンの耳には入らず、あっさりと撃墜となった。

 

 

 

「それでは一夏、明日のお弁当には――タコさんウインナーをお願いします」

 

劣勢から見事に逆転してみせたエレンは、着陸するなり真剣な表情で

一夏におかずのリクエストをした。

 

「――んっ!さて、これで一応諸君にもIS学園教員の実力はわかっただろう。

 今後は敬意を持って接するように……」

 

そうは言うものの、千冬の言葉は歯切れが悪かった。

その敬意を持たなければならない教員のエレンは、遠足を楽しみにしている

小学生のようにワクワクしているし、麻耶と燎子は足元で気絶していた。

二人の手には紙コップが握られており、倒れた際に入っていた緑色の液体が

こぼれていた――。

 

「ではこれより、グループに分かれて実習を行ってもらう。

 グループのリーダーは専用機持ちの5人がそれぞれ担当しろ。

 原田は織斑のグループに入れ。

 では、分かれろ」

 

千冬が指示を出し終わると、ほぼ全員が一夏と明の元に向かった。

 

「織斑くん、一緒にがんばろう!」

「手とり足とり、いろいろ教えて~」

「むしろ、イケナイことを!」

「原田くんには私たちが教えてあげる。い・ろ・い・ろ・と♪」

 

並ならぬ迫力に明は押されるも、一夏は変わらず笑顔であり

その光景を箒はおもしろくなさそうに見て、シャルロットは一夏にそっくりな

笑顔を浮かべていた。

 

「この馬鹿者どもが!グループは出席番号順に分かれろ!

 もたつくようならそいつはISを背負ってグラウンドを百周してもらうぞ!」

「心配しなくても、ちゃんと百周できるようこれで

 スタミナをつけるようにするからね」

 

千冬の怒号に続くように、カズキが野菜ドリンクを手にして“イイ”笑顔を浮かべた。

 

「今から5秒以内ね?はい、い~ち……」

 

カズキが2と言う前のコンマ数秒で、グループが完成した。

 

「できるなら、何故最初からしない……」

「そんなに飲みたくないのか……おいしいのに」

 

千冬が呆れる中、カズキは4人を撃沈させた野菜ドリンクをゴクゴクと

飲み干した。

 

「やったぁ♪織斑くんと原田くんの班だっ!」

「うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。あれ……?」

「凰さん、後で織斑くんの話をいろいろと聞かせてよっ♪

……って、大丈夫?」

「デュノアさん、よろしくね♪」

「…………」

 

各班に分かれると早速、おしゃべりが始まるがカズキの野菜ドリンクから

回復しきっていないのかセシリアと鈴は、班の子に心配されていた。

反対にラウラは、思いっきり自分に近づくなというオーラを放っていた。

 

「も、問題ありませんわ……」

「だ、代表候補生を舐めないでよね……」

「そんなフラフラの状態だと説得力無いよ?」

 

シャルロットが言うように、二人は生まれたての小鹿のように足をフルフル

させて立っていた。

 

「それでは、みなさん。本日使う訓練機を取りに来てください。

 打鉄が3機、リヴァイヴが2機なので好きな方を早い者勝ちですよ」

「てきぱきと指示しているな、メイザースは」

「いつまで持つかね~」

 

一夏に弁当を作ってもらえるからか、普段の数倍はしっかりした様子で

エレンは生徒に指示を出していく姿を千冬とカズキは眺めていた。

 

 

 

「さてと、それじゃあ始めようか。

 出席番号順に装着と起動をしてそれから歩行。まずは――」

「はいはいは――いっ!

 出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!

 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

「?なんで、自己紹介?」

「ん?」

『(…………)』

 

一夏の班は、一夏が接近戦タイプなので同じ近接タイプの打鉄を選んで

準備を済ませたら、何故か元気のいい返事で一夏にアピールしてきた。

どういうことなのか、一夏と隣にいる明は首をかしげるだけだった。

 

「よろしくお願いしますっ!」

「ああっ、ずるい!」

「なら私も!」

「第一印象から決めていました!」

「「「「お願いしますっ!」」」」

 

同じ班になった箒とはやて以外の者は、一夏と明にお辞儀をして

握手を求めてきた。

 

「これ……どういうことなんだ?」

「いや、私にも……」

「ははは~。一夏くんだけやなく、原田くんもおもろいな~」

 

状況をのみ込めていない一夏と明の様子を笑うはやてだが、それは当然

他の班の目にも入るわけで……

 

「さぁ♪みんな、はりきっていこうか♪」

「デュ、デュノアさん?何か、笑顔が怖いよ……?」

「ふっ、ふふふ……わたくしがこんな状態なのに一夏さんったら……?」

「セ、セシリア?」

「ほら、ぼさっとしてんじゃないわよ!

 あの馬鹿より、上手く指導してあげるからちゃっちゃっとやるわよ!」

「鈴、落ち着いて!」

 

ラウラの班以外は、燃えあがった炎の鎮火に奔走するはめとなった。

同様に、一夏の班の女子も何とか落ち着かせて訓練に入った。

 

「相川さん、ISには何回か乗ったよな?」

「うん。授業でだけど」

「じゃあ、装着と起動は分かるな。それができたら――」

「う~ん、箒ちゃんの言うように朝から一夏くん、笑顔のままやけど

 今のところ何の問題もあらへんなぁ~」

「そうだな。このまま何事もなく、終わればいいのだが……」

「……」

 

相川に指示を出す笑顔を崩さない一夏を眺めながら、この時の一夏の

怖さを知っている箒は、無事に終わることを切に願う傍らで

明は先程の箒のようにおもしろくないものを見るかのように一夏を見ていた。

 

「そうそう。背中を預けるようにして……うん。

 次に腕のアーマーが自動でロックされるから、パージしても大丈夫だ」

「よっと。

 起動ならびに歩行、帰投訓練終わり♪」

「いや、あのさ、コックピットに届かないんだけど……」

「あっ!」

 

相川は打鉄を立ったまま固定してしまい、コックピットが高い位置になったのだ。

 

「う~ん。千冬ちゃんや俺ならジャンプで簡単に届くけど

 君達には無理だからね~」

「「「「「碓氷先生!」」」」」

「一夏は人にISを教えるなんて、初めてだから気にかけてたんだけど……

 これは、一夏が白式で誰かを運んでしゃがませるしかないね~。

 抱っこで」

「ですね。

 あっ!だったら、明。やってくれるか?」

「わ、私が!?」

 

一夏は何かを思いついたように、白式を起動させると明へと向かい立った。

 

「えぇぇ――!」

「織斑くんに、抱っこされるなんてズル――イ!」

「イケメン同士の抱き合い――なんてすばらしいの!!!」

「私がしゃがませるから、私を抱っこしてぇ!」

 

これを許したら、一夏に抱っこされる機会はないと非難の声が上がるが

箒はそれどころではなかった。

笑顔は変わらないが、明らかに一夏の“何か”が変わったのを察したのだ。

 

「ま、待つんだみんな!

 一夏の言うとおりにしよう!というか、このままだとマズイ!」

「箒、お前がああなった一夏を見た時はどんな時だったんだい?」

「昔姉さんが、小さかった一夏に女の子の服を着せてそれを見た千冬さんも

 悪ノリして二人がエスカレートしていった時に……えっ?」

「ふふふ♪」

「「「「「えええええぇぇぇぇぇ!!!!!?」」」」」

 

カズキは焦る箒を誘導して上手くいくと、してやったりな笑顔を浮かべ

聞いていた女子たちは驚きの声を上げた。

 

「年上のお姉さんにお着替えされるチビッ子!」

「何ソレ?かわいすぎるぅぅぅ!!!」

「見たい!涙目になりながら、顔を赤くする織斑くん!」

「篠ノ之さん!その話詳しk……」

 

キィ――ン!

 

みんなが小さい一夏が顔を赤くしてプルプルと震える姿を想像して

もっと話を聞こうと箒に詰め寄ろうとすると金属音が鳴り、それに続くように

何かが落ちる音がした。

 

「えっ?」

 

音がした方に顔を向けると、打鉄の肩アーマーの一部らしきものが落ちていた。

視線を上げていくと、ハンガーに固定された打鉄の肩アーマーがスッパリと

斬られており、その前には雪片を振り下ろした一夏が立っていた。

一夏は騒いでいた面々に背を向けているのだが、立ち位置的に顔が見えたのか

明は顔をひきつらせて、少しずつ後ろに下がっていた。

そして、一夏はゆっくりと皆に振り向いて“満面”の笑みを見せた。

 

「ははは、驚かせてごめんごめ~ん♪

 急に、雪片の試し斬りがしたくなってさ~。

 それで、俺が女の子の恰好されたことだっけ?

 確か千冬姉がその時の写真を持ってるから、見せてくれるようお願いしようか?

 俺と勝負して、一太刀でも当てればだけど♪

 大丈夫大丈夫♪

 IS同士で、俺はその場から動かないから♪

 だけど、俺は未熟者だから間違ってスパッ!――と斬っちまう

 ……かもだけど……ね?」

 

一夏は笑顔のまま目を細めてそう言うと雪片の刀身を指で撫でた。

 

「「「「「調子にのってすいませんでしたぁぁぁ!!!」」」」」

 

ここで頭を下げなければ、命が危ないと感じた女子たちは

一切のズレもなく動きを合わせて土下座した。

 

この後、一夏が明をお姫様だっこで運んだことで、黄色い声が上げるが

それ以外は特に問題なく進んだ。

お姫様だっこされた明は、顔を真っ赤にしてバクバクする心臓を

押さえるように胸に手を当てていた。

 

授業終了後、グラウンドに置いて行かれた麻耶と燎子が

できなかったその日の仕事やエレンのドジの後始末に再び気絶しかけることは

生徒達には関係ないことである。

 

「ところで、一夏?

 メイザース先生だけじゃなくて、お弁当は千冬ちゃんにも作ってあげてね?

 “一夏の手料理は私も最近食べていないのに!”って、思っているから♪」

「黙れ、この変態宇宙人!」

「全く次から次にあなたは……ちょっとそこでじっとしててもらえます?

 一回ブッタ斬るんで。

 大丈夫、痛くしないので」

「謹んで、断るよ♪」

 

その日の鬼ごっこは、いつもの修羅に加えて笑顔で真っ黒オーラを

放ちながら剣を振り回す剣鬼が目撃されたとのことである。

 

 

 





登場したのは、原作でも何かと気苦労が絶えない日下部 燎子さんでした。
彼女にはツッコミをがんばってもらいますww

そして、カズキが作ったドリンクは「テニスの王子様」に登場するモノと
同種のものです。

エレンはIS世界では、どうやって強くしようかと考えましたが
現在作者が嵌って、アニメも放映中の「落第騎士の英雄譚《キャバルリィ》 」や
昔読んだ、現実世界だと反応に体が追いつかないけど
電脳世界なら思い通りに動くというものを組み合わせました。
やはり、戦闘描写は難しい(汗)

一夏が今の笑顔を最初にしたのは、小学生の時。
何を思ったのか、束が一夏に無理やり似合うからと女の子の恰好を
させそれを見た千冬も最初は、束をシメるもののあまりのかわいさに
束と共に暴走して、我慢できなくなった一夏の勘忍袋の緒が切れたのが
キッカケです。
噂では、過去に同じような怒り方をした女性がいたとか……








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人として、それはできる?できない?

前回、明の容姿を載せると言っておきながらすっかり忘れていました(汗)
申し訳ありませんm(_ _)m

個人的なことですが、いつも利用している映画館で何故か仮面ライダーをやらなくて少し遠出して前売りを買いにいきました。

ドライブとゴースト。本当の始まりとありましたが、今から楽しみです♪

設定は次話と同時に載せようと思います。



寮のある部屋で、頭を抱える者がいた。

 

「くっ!だ、だめだ!これは人として、やっちゃいけない!

 したら“戻れなくなる”!

 で、でも……これは……」

 

その者は悶々と頭を抱えながら、時間だけが過ぎていった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で?どう思う、二人とも?」

「う~ん、どうって言われても……」

「ねぇ?」

 

時は放課後の屋上。

ここで、はやてとなのは、フェイトが転校生の原田明について話をしていた。

 

女性にしか起動することができないパワードスーツ、IS。

それを男なのに動かしてしまった、イレギュラーな存在の織斑一夏。

彼のようなイレギュラーは、他に現われることはないと考えていたのに

現れてしまった、二人目の男性操縦者になのは達は頭を悩ませていたのだ。

 

「今日一日だけど、かなりの紳士だったよね」

「うんうん。お昼の時も、歯の浮く様な言葉で

 女の子達のお誘いを断っとったけど、絵になってたしなぁ~。

 フェイトちゃんらがその言葉をユーノくんに言って欲しいなぁ~

 って、思うほどやったし……」

「そうそう……何言ってるのはやて/////!!」

「フェイトちゃん?」

「な、なのは!?そんな怖い笑みで私を見ないで!!!」

 

フェイトがなのはの無自覚な嫉妬のオーラを浴びているのを眺めながら、はやては

昼食の時のことを思い返していた。

 

ISの実習時、隙をみて箒は一夏と昼食を屋上で食べることをこぎつけたのだが、

みんなで食べた方がおいしいだろうと一夏はいつものメンバーにも声をかけたのだ。

がくりと肩を落とす箒だったが、自分が作った弁当で一夏を落とせばいいと

前向きに考えるが、全員考えることは同じなのか互いに膝に手作り弁当を抱えて

不敵な笑みを浮かべているのをはやて達は、苦笑しながら見ていた。

 

だが、ここで大きな誤算が生じた。

男一人で女に囲まれる苦しさを知っているためか、一夏は明も誘ったのだが

箒たちはそっちのけで一夏は明にばかりかまったのだ。

 

しかも彼女たち同様明もまた弁当を自作しており、長年台所を預かり味にはうるさい

はやてから見ても、かなりの出来で一夏は絶賛しまくりであった。

その上、一夏は褒められて顔を赤くした明の口元についていたオムライスの

ケチャップのソースをためらうことなく、指でとるとそのまま舐めるということを

平然とやったのだ。

 

驚きで固まるはやて達を余所に、明は頭から湯気が出るほど赤くなり、反対に

箒たちは一夏が“そっち”なのかと恋人がいることを知った時とは、違う絶望を味わっていた。

 

「まあ、彼女がおるってゆうてたし本人からしたら友情の範囲内なんやろうけど

 ……のはずやよ……な?」

 

まるで乙女のような反応をする明に、千冬をからかうときのカズキのような笑みを

浮かべていた一夏にはやては自信なさげにつぶやいた。

 

「それに、問題はこれだけやないし……」

 

はやての頭を現在一番悩ませているのは、前触れもなく現れた二人目の男性操縦者では

なく、リベリオンナイトのことであった。

 

つい先日ミッドチルダに応援を要請され、留守の間の調査を任された調査員の全滅。

 

基地をいくつも壊滅させてきたことやグレアム元提督を退けたことからなのは達には一歩劣るものの、連携や集団戦に長ける優秀な隊員たちが交代要員に選ばれたのだが、結果は全滅という

最悪の結果だった。

この結果を受け管理局は、クロノをはじめとした一端ISやリュウケンドーの次元世界に害悪をもたらすとは考えにくいものの調査を打ち切り対策を考え直すものと、リベリオンナイトが時空管理局に関係するものを目の敵にしていることを利用してなのは達3人自身に囮となってもらい襲ってきたところを逮捕するという意見に別れてしまった。

 

はやて自身は自分たちが囮にされることに思うところがないわけではないが、相手の

居場所が分からない以上一理ある考えでもあると考えている。

しかし、戦うとなったらこちらも全力でいかなければならないことがこの策で行くのに

まったをかけていた。

自分たちが全力で力を解放すれば、並の結界では例え張ったとしてもその結界ごと今いるIS学園を更地にしてしまうのは容易に想像ができた。

特に、今親友に笑顔で嫉妬のオーラを放っている彼女なら容易いことだ。

かといって、リベリオンナイトは手加減をして勝てる相手でもない。

 

「難しいところやな、ホント……」

 

柵にもたれて空を眺めながらつぶやくはやての言葉は、風へと消えていくがこの時彼女たちも、

学園に侵入者が入らないよう目を光らせているカズキも気付かなかった。

自分たちがいるこの場所を遠くから、見ている復讐者に――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それじゃあ、ゲキリュウケンは預かるね~」

「はい、お願いします」

 

一夏は現在、カズキの部屋にやってきていた。

ゲキリュウケンのメンテや調子を見るためであると一夏を呼び出したカズキだったが、その顔は

どこかイタズラを企むような笑みを浮かべていた。

 

まあ、カズキのその顔は日常茶飯事のことなので一夏は大して気をとめることなく

朝からずっと浮かべている笑顔のまま部屋を後にした。

 

『――で?わざわざ理由をつけて、私を一夏から離したのはどういうことだ、カズキ?』

「ふふふ♪それはねぇ~……」

 

 

 

「さて、まずはシャワーでも浴びて汗を流すかな……っと!」

 

一夏は真っ直ぐに自分の部屋に戻るとシャワーを浴びるために着替えを

とろうと進むと――

 

「ふふふ……へへへ……」

 

自分の布団に包まって不気味に笑いながら、ベッドをゴロゴロ転がる明の姿が

一夏の目に入った。

 

「……はっ!」

「――何…………しているんだ?」

 

じぃ~っとこちらを見下ろす一夏の姿に気がついて、明は動きを止めて

ダラダラと冷や汗を滝のように流す。

 

「いいいいい一夏!!!?

 ちちち違うんだ!!!こここここれは、その!!!!!

 ――うわっ!?」

 

弁明しようと明は急いで立ち上がるが、布団に足を取られてベッドの横に

落ちてしまい、その姿があらわになる。

それを見たら、誰もが目を奪われるだろう。

明は何故か下着姿であり、その胸にははやてが思わずル○ンダイブをかまし、

鈴がどこぞの髪形を愛する心を力に変える青き戦士のごとく修羅とかすような

大きな揺れる“もの”がついていた。

 

「…………」

「…………/////」

 

一夏と明は時間を止められたかのように、無言で見つめ合うが明が顔を羞恥で

真っ赤にする一方で、一夏は隣のベッドの上にあるジャージに目を移していた。

 

「……とりあえず、俺シャワー浴びてくるから、その間に着替えとけよ?」

「あ、ああ……/////」

 

一夏はそう言うと、着替えをとってシャワールームへと足を運んだ。

その姿を見て、やや呆然としていた明は急いでジャージに着替えるのだった。

 

「ふぅ~…………っぶねぇ~!!!!!

 もう少しで本能が理性を倒すところだった!

 くそ!カズキさんの仕掛けはこれか!」

 

さっきまで、笑顔だった一夏はシャワールームに入るなり顔を赤くするとうずくまり、

カズキが仕向けたイタズラに気付いた。

 

「全くいっつも、俺たちをからかいやがって!

 そりゃ、あいつのあんな姿を見られて役得と言うかなんというか……

 それにまた胸が大きくなったような……じゃなくて!!!

 はぁ~、頭冷やそう……って、あちぃっ!」

 

ブツブツと文句を言う一夏は、シャワーの温度を間違って高くしてしまい

熱い目に合うのであった。

 

 

 

「明の部屋は、同じ男ってことで一夏と同室になったんだけど、

 今あいつはその部屋に一人。

 これが何を意味するか、わかるか~い?」

 

ケラケラと掘った落とし穴に落ちないかな~と、ワクワクするイタズラ小僧のように

楽しそうにカズキはゲキリュウケンとザンリュウジンと話をしていた。

 

「部屋に自分一人ということは、何かしても誰にも見られない。

 そして目の前には、自分が好きな男が使っているベッドがある。

 そんなの見たら、あのムッツリがにおいを嗅いだり布団に包まるのを

 我慢できると思う?」

『……まあ、無理だな』

『だよなぁ~』

 

どうやら、人とは感覚が違う魔弾龍からも明はそう認識されるムッツリのようだ。

 

「あの一見、堅物に見える箒だって部屋に一人の時は理性と本能が

 凌ぎ合っているんだぁ~。

 ひょっとしたら、服を脱いで包まっているかもよ~?」

『まっさかぁ~』

『それはマズイだろ、いろいろと』

 

そのマズイことをしていることをザンリュウジンとゲキリュウケンは、まだ知らない。

ちなみに、そのマズイことをなのは達はいろいろな手段でやっていたりする。

 

「さらにそうやって本能が勝った時、人間は時間の経過って奴を忘れてしまう……。

 その現場に一夏がはち合わせたら――すっっっごくおもしろいと思わない?」

『それは、まぁ……』

『……確かにな』

「それに…………フフフ♪」

『『……はぁ~』』

 

まだ何かあるのか、怪しげにそして楽しそうに笑うカズキに最早

二体の魔弾龍はため息をこぼすしかなかった。

 

 

 

「……それで?」

「……はい」

 

一夏はベッドに腰かけ、明は床に正座という形で向かい合っていた。

その様は、取り調べを行っているようであった。

 

「原田明、15歳。

 魔弾戦士に力を貸すために作られた戦士の村出身であり、一番の実力者。

 俺たちに気取られないよう影から支援するために女としてではなく、男の姿をして

 俺や弾のいた中学にやってくる。

 様々な武器や武術を使い、室内といった密閉空間では恐ろしい戦闘力を発揮する。

 性格は至って真面目で礼儀正しいが、かわいいものに目がない」

「うっ……」

「照れ屋でいわゆるツンデレという奴であり、エレン姉のようなドジな面も

 あったりする」

「……うぅ~」

「男子中学生かと思えるほど妄想力豊かで、ムッツリで俺の恋人」

「ううううるさい~い/////!」

 

一夏の説明に抗議を上げるが、真っ赤に染まった顔ではなんとも説得力がなかった。

 

「でも、何で男装を解いていたんだ?」

「そ、それはカズキさんが急なことでも対応できるよう

 部屋では男装を解いておけって……」

「あの人は……」

 

もっともらしい理由をつけて、相手を言いくるめる……

カズキが誰かをからかう時の、常套手段である。

明はカズキの言葉をその通りに受け取っているが、要はこの部屋で戸惑いながら

暮らす一夏と明をおもしろおかしくからかうのが目的だろう。

 

「男装を解いていた理由は、わかったけど何で俺のベッドでゴロゴロと

 転がっていたんだ?」

「そ、それは……/////」

「……ど・う・し・た・の・か・な?」

 

一夏はニタニタと目を細めながら意地の悪い笑みをしながら、顔を赤くする明へと迫った。

 

「長いこと会えなかったから、寂しかったのかな?

 それとも、単に俺の匂いをかぎたいっていうアレなことなのかな?」

「うっ!な、なんかお、怒っていないか?お前……/////」

「えっ?何で俺が怒っているのかわからないのか?」

 

意地の悪い笑みから一転してニッコリと微笑み影をさした笑顔で、

一夏はグイッとさらに明に近づいた。

 

「お前は普段、無茶をする俺に怒るけど今回の……

 俺を狙う奴らをおびき出すための囮になるっていうのは……無茶なこと

 じゃないのかな?」

「うぐっ……!」

 

一夏の指摘に明は、言葉が詰まってしまう。

若さゆえか、一夏や弾は周りが見てられない程の無茶を度々やらかしたことが

あるのだ。

様々な経験を通して、そういったことは減ってきてはいるがその度に一夏は

明に雷を落とされてきた。

 

そうやって、苦言をされてきたのにその本人が無茶をやらかそうとするのだから

誰だって一言言いたくはなる。

 

まして――

 

「好きな女の子が、自分のために囮なんて危ないことをするのを黙っている男が

 いると思うか?」

「し、しかしだな!」

「お前はリュウケンドーたち魔弾戦士の力になるためにやってきたわけだから、

 それ関係の敵を倒すためなら、百歩ぐらい譲って理解はするさ……

 でも、こんなことにまで首を突っ込んで危ない目にあってほしくない――」

「じゃあ、お前は私にお前が傷つくのを黙って見ていろって言うのか!」

 

明は、一夏に迫られていた時と変わって怒りながら立ち上がった。

 

「そうじゃねぇよ。お前いつも言っているじゃないか。

 一人で何でも抱え込むな、もっと仲間を頼れって。

 だから、俺はお前一人に無茶をさせない」

「一夏……」

 

これは決してゆずらないとばかりの言葉に、明は気圧され二人は

見つめ合う形になる。

 

「ところで、カズキさんはいつまでそこにいるんですか?」

「ははは♪バレた?」

「やっぱり、いやがった……」

 

明と見つめ合いながら一夏は、何の脈絡もなくそういうと部屋の天井の一部が動き

そこからひょっこりとカズキが顔を出した。忍者装束で。

 

「――っと♪」

「ななななな!?いいいいつから!」

「どうだった、明?一夏の布団に服を脱いで包まった感想は?」

「*☆&%#!!!!!」

「その反応……したんだね?」

『オイオイ』

 

ニタ~リという音が聞こえてくるような邪悪な笑みを浮かべるカズキに明は

自分が嵌められたことを察した。

 

「~~~~~っ/////!!!」

「はいはい、カズキさん。それぐらいで。

 本題に入りましょう。後、明をからかってイジっていいのは俺だけです」

「お前にもないわ/////!」

『お前ら……』

「『ははははは♪』」

 

一夏の言葉に顔を真っ赤にして反論する明に、ゲキリュウケンは呆れ

カズキとザンリュウジンのコンビは笑うのであった。

 

「まあ、とにかくだ。俺たちの目的である奴らのあぶり出しは、

 早めにケリをつけるつもりだから、その報告をね」

 

カズキは、ゲキリュウケンを一夏に返しながら今後の方針を二人に告げた。

 

「知っての通り、時空管理局には無限書庫というデータベースがある。

 管理局が管理している世界だけとはいえ、明が本当は女だってことはその機能を

 使えば難しくないはずだ。

 幸いにも、今はリベリオンナイトの情報が優先されているから

 ユーノの力添えで学園に提出された偽装書類のようなことしか知られていない。

 とはいえ、ユーノの優秀さを考えるといつまでも気付かないというのも

 怪しまれるから、何とか一週間以内にはこちらのかたをつけたいね」

「そんなに、上手くいくんですか?」

 

カズキの考えに、明は反論を上げた。

管理局の方は、ユーノのおかげで何とかなるかもしれないが自分たちの

目的の敵がこちらの思惑通りに動いてくれるのかという懸念があるからだ。

 

カズキ達が今回戦おうとしているのは、創生種のような魔のものではなく人間である。

ISを使えるのは女性だけだから、女の方が男よりも優れていると考えている者達と

男がISを使える理由を解明して利益を上げようとするもの達である。

 

女性優遇の制度が数多く施行されているとはいえ、多くの女性は多少男を小馬鹿に

するぐらいだが、一部の増長したもの達は自分達の利権を守ろうと。

そして、ISを男でも動かせるようにすることで兵器として利用し金儲けを企む者たちに

カズキはまとめて消えてもらうつもりなのだ。

 

一夏は世界最強のIS操縦者である千冬の弟で開発者である束とも浅い仲ではないので、

誰も手出しができなかったが、明にはそういった後ろ盾となるものがないので奴らも

動きやすいのだ。

それこそが、カズキの狙いだとも知らずに――

 

「大丈夫♪ハチにいろいろとがんばって、もらっているから♪」

「「『『(ご愁傷様、ハチ)』』」」

 

二人と二体の龍は、目の前の男にこき使われているタヌキを憐れむのであった。

 

「まあ、それまでは普通に過ごしてこの部屋では将来のための

 同棲生活を楽しむといいよ♪」

「同棲……/////!!!?」

「ああ~そうなるのか~」

『こいつ……箒との同居を何とも思っていない』

『しょうがねぇ~よ、ゲキリュウケン。男にとっちゃ惚れた女は、何よりも特別なんだ。

 それにこの場合、心配するのは一夏が明に手を出すんじゃなくて

 明が一夏に手を出すのが心配なんj……』

 

その瞬間、ザンリュウジンはカズキの元から離されポッドの下の茶碗の中へと

移動された。

そして、茶碗へと入れた明は迷うことなくそれへお湯を注いだ。

僅かゼロコンマという時間の出来事である。

 

『あぢぢぢぢぢ!!!煮える!煮えちまう!!!

 ――って、待って!ふたをするのは待っ……』

「はぁ……はぁ……」

 

顔を真っ赤にした明は、息を切らして茶碗にしたふたを押さえた。

 

「さてと、俺はそろそろ帰るとするよ。おっとっと、こっちじゃなかった」

 

カズキは、ザンリュウジンが入った茶碗を持って部屋の入口にいこうとしたが

やってきた天井の方へと戻っていった。

 

「帰ったか……」

「全く……」

「ああ、そうそう♪」

「「『うわっ!?』」」

 

帰ったかと思ったカズキが再び天井の板を外して、顔を出したので一夏達は

驚きの声を上げた。

 

「一夏はどっちのベッドで寝るのかなと思ってね~

 箒が使っていた方は、もうシーツとか変えたけど……」

「そうか、このまま寝たらさっきまで明が俺の布団を使ってたから

 今度は俺が明の匂いに包まれるのか」

『逆に明が一夏のベッドを使えば、明は一夏の匂いに包まれるか……』

「はっ?えっ?」

「それじゃ、明日もあるから遅刻しないようにねぇ~」

 

混乱する明を置いて、カズキは今度こそ一夏の部屋を後にした。

 

「で?どうするんだ?」

「ど、どうするって/////」

「俺としてはどっちでもかまないけど、明はどっちがいいのかなぁ~って♪」

「だ、だから……それは……/////」

 

ニタニタと笑いながら、一夏はうろたえる明に判断を委ねた。

 

「(ど、どうする!

 普通に、使えばさっきまで私が使っていた布団を一夏が/////!

 だ、だけど一夏がこっちを使えば私が一夏のを使うわけで

 そしたら……今度は止められない////////!!!!!)」

「ふふふ♪どうするんだ?」

『(楽しそうだな……コイツ)』

 

顔を真っ赤にする明を見て楽しむ一夏に、ゲキリュウケンは味覚がない自分が

甘味を感じているのが分かった。

 

『(……というか私は、これから一人でこの甘ったるい空間にいなければならないのか?)』

 

普段は、仲間の誰かがツッコンだりして終わる一夏と明のやりとりだが

ストッパーとなるものがいないこの状況で、自分は一体どうなるのか不安に

なるゲキリュウケンであった。

 

明がどっちを選んだのか……それを知るのは一夏とゲキリュウケンだけである。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

明が転校してきて5日が経過した土曜日――

 

「だぁっっっ!!!また、負けたぁぁぁ!!!!!」

 

一夏達は、全面開放されたアリーナでISの特訓をしており鈴の叫びが

こだましていた。

 

「なんか戦うたびに強くなっているね、一夏」

「ああ。昔は私より少し強いぐらいだったが、随分と先に行かれたようだ」

「それにしても、絶好調すぎませんか?」

「この分だと、お姉ちゃんを倒すのも遠くないかも……」

「あんた達!少しはあたしを慰めようとは思わないわけ!」

「「「「ははははは……」」」」」

 

一夏達が行う訓練は特別なことをせず、とにかく基礎トレーニングがメインである。

体力作りに基本操作の繰り返し、そして仕上げに模擬戦を行いISに関して“新人”な

一夏たちに代表候補生組がレクチャーをする形になっている。

その筆頭たる国家代表の楯無は生徒会の仕事のため、本日は欠席している。

今は、一夏と鈴の模擬戦が終わりその反省会中である。

 

「まあ、でも明までこんなに強いのは驚いたわ」

「せやな。さっきなんかシャルロットちゃんと引き分けたし」

「すごかったよね~。二人とも次から次に銃を出して~」

「そうですか?私よりなのはやフェイト、はやての方がすごいと思いますよ?

 私は武器を扱う家の生まれで、子供のころから訓練していますがお三方は

 とても銃を持って数カ月とは思えません。

 銃を持ったのは、ISに触れてからなんですよね?」

「「「(ギクッ!)」」」

 

鈴が一夏たちに噛みついているのを眺めながら、アリサは一夏達の前に行われた

明の模擬戦の感想を述べていたら、思わぬところで墓穴を掘ってしまった。

 

「明は、カズキさんにもいろいろ教わったみたいだから、それで説明できるけど……」

「そういえば、そうですわね。

 特になのはさんの精密射撃の腕は私と互角以上ですし」

「フェイトの戦闘スタイルの切り替えもだよね。

 接近戦も強いのに、射撃も正確だもん」

「はやても個人戦だと弱いけど、指揮能力は高いから集団戦で力を発揮すると思う」

「ええっ~と……」

「そ、それは……」

「その……」

 

国の将来を担う代表候補生から見ても、なのは達三人の能力は一目置く程で

どうごまかせばいいのか分からず、なのは達は見るからにオロオロしてしまう。

 

「(ちょっ!二人が本気で勝負したりとかするから!)」

「(だって~ISって、魔法で飛ぶのとは違った動きができておもしろいんだも~ん)」

「(それに、力をセーブしてわざと負けるっていうのも……)」

「この三人が戦い慣れているのは、明と同じよ」

 

念話ではやてが二人に文句を言っているのを察したのか、アリサが助け舟を出した。

 

「なのはちゃんの家族は、武術をやっているから時々教えてもらってたんだよね?」

「えっ?あっ!そうそう~なのはちゃんのお父さんやお兄さんにいろいろとなぁ~」

「「そうなのそうなの!」」

 

アリサに続くようにすずかも援護することで、はやては二人の意図を察し

なんとか合わせた。

 

「ふぅ~ん?そうなんだ……」

「お~い。そろそろ、反省会に戻っていいか?」

「ん?まだ、終わっていなかったのか?」

「何よ!あんたがあたしがあたしのことを分かっていないとか

 訳のわかんないこと言うからでしょうが!」

 

鈴が納得していなさそうな目をしていると、一夏が会話に入ってきた。

どうやら、彼女は途中で反省会を抜けたようだ。

 

「別に難しいことじゃないさ。鈴だけじゃなく、皆もだけど

 自分の長所は分かっていても、できないことや弱点をよくわかっていないんだよ」

「どういうことだ、一夏?」

 

言っていることがよくわからず、箒が聞いてくるが彼女だけでなく他の者も

分からないという顔をする。

 

「いいか?どんな機体や技にも一長一短がある。

 例えば、自分の攻撃の弱点を知っていれば相手がそれを突いて反撃されても

 驚きで固まらず対処できるってことさ」

「「「「「「「「「「おお~!」」」」」」」」」」

「かっこつけているが、カズキさんからの受け売りだろ?それは」

 

皆が感心する中で明は呆れ気味に、一夏へツッコミを入れた。

 

「ははは、別にいいじゃないか。それよりも、接近戦での弾丸のかわし方だけど……」

「ああ、それは……」

「あの二人……仲良すぎでは?」

「うん……」

「二人だけの世界って感じ……」

「なぜか分からないが……油断してはいけない気がする……」

「昔から仲は良かったけど……前とは何か違うような……」

「ほ、箒?皆?」

「アンタたち、何か黒いオーラが出てるわよ」

「あれやったら、なのはちゃんの弟子にしてもうたら?

 なにせ、なのはちゃんは白い悪m……」

「……」

「もう、はやてちゃんは~

 うん?あれって……」

 

男同士のはずなのに、一夏と明の仲に焦りを感じるのは恋する乙女特有の直感なのか。

黒いオーラをうっすらと纏う箒たちに、アリサたちはたじろぐがそれを見たはやては

余計なことを口にして、ニッコリと笑う白い何かに見つめられた。

そんなはやてに呆れるすずかは、こちらを見つめる人影に気付いた。

 

「ねぇ、ちょっとアレ……」

「ウソっ!?ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国のトライアル段階だって聞いてたけど……」

「…………」

 

そこにいたのは、明と共に転校してきたラウラだった。

転校してきてから、誰ともつるもうとせず会話せず孤高の女子といった感じで

こちらを睨んでいる――

 

と本人は思っているのだろうなぁ~とその場にいた者たちは考えていた。

 

初日でやったからかいを、カズキは毎日しているのだ。

しかも、千冬以上に過剰に反応するものだから、すっかり学園中に生意気だけど

かわいい子と認識されているのだが、ラウラ本人は全くそのことに

気がついていなかったりする。

 

「おい」

「何だよ?」

 

一夏達と少し距離を取ったところにやってきたラウラは、戦いの意思を隠すことなく

しゃべり続ける。

 

「私と戦え!」

「お前と戦う理由が俺にはないんだけど?

 訓練なら一緒にすればいいじゃないか」

「貴様になくとも私にはある!

 私は貴様にも……あの男にも負けるわけにはいかんのだ!」

「……って言われてもなぁ~」

「本来なら専用機持ち同士。IS同士の戦いが一番なのだが、それはできないからな」

「ん?ISで勝負するのではないのか?」

 

腕を組みながら、睨んでくるラウラに明は疑問の声を上げた。

今までの流れから、ISの勝負を仕掛けてくると思ったからだ。

 

「それをするには、百番勝負をしなければならないからな。

 不本意だが、まずは下の勝負からだ」

「百番勝負……ですか?」

「何それ?」

「日本に来たくせに知らんのか」

 

ラウラが言った百番勝負というものが分からず、首をかしげるセシリアとシャルロット

に対して、ヤレヤレとでも言いたげに首を振った。

 

「百番勝負。

 それは、日本に古来より存在する高みを目指す戦士たちが無益な争いを

 無くすために生まれた勝負。

 様々な方法で戦士のランクを定め、下のランクが上の者に挑む時は

 下のランクに許された勝負でしか戦うことを許されない。

 その勝負に一定数勝つことで、ランクを上げる勝負をすることができる。

 教官やあの男、そして貴様は私よりも上のランクだ。

 ISによる戦いは、私のランクではできないっ!」

 

拳を握りながら悔しがるラウラだったが、聞いていた面々は唖然としていた。

 

「ねぇ、百番勝負なんて本当にあるの?」

「うんうん」

「聞いたことないわよ、そんなもの」

「これって、やっぱり……」

「鈴の言うとおりだろうな……」

「それ以外にないだろうな」

「じゃあ、聞いてみるか。

 お~い、ところでその百番勝負って誰から聞いたんだ?」

 

ひそひそと話し合う面々を代表して、一夏が質問を投げかけた。

 

「あの男、碓氷カズキからだが?」

「「「「「「「「「「「やっぱり~」」」」」」」」」」」

「……日本にそのような文化があるとは……

 なかなか奥深いですわね……」

 

ラウラの予想通りの答えに、何を吹きこんでいるのだと皆の心は一つになったが

セシリアは彼女同様、勘違いを続けた。

 

「それで?その百番勝負って何をするんだ?」

「ふっ。それは…………ババ抜きだ!!!」

 

 

 

 

 

「うぅぅぅ~~~」

 

数十分後、食堂でラウラは悔しそうに唸っていた。

 

「ははは……」

「これは何と言うか……」

「弱いな」

「弱いわね」

「う~~~」

「もう!箒もアリサもはっきり言いすぎだよ!」

「それもあるが、一夏。お前も少しは手加減したらどうだ」

「やだね」

 

今日の訓練を終えた一夏達は、食堂でその百番勝負のババ抜きをすることになったの

だが、ラウラは一夏がジョーカーを取ろうとするとパァーっと笑みを浮かべ、逆に他の

カードだとあっ……っとそれはダメェ~みたいな顔をしたりと簡単に顔に出るので

勝負にならなかった。

そして、一夏も何故かニコニコ顔で容赦をしなかった。

 

「なんでかわかんないけど、なんかムカついたから」

「なんだそれは……」

「やぁやぁ~みんな♪楽しくやっているかい~?」

「っ!?」

 

明が一夏の言い分に呆れていると、カズキがやってきてラウラは体をビクッと震えた。

 

「あれれ~?ラウラちゃん?一夏に百番勝負で負けたの?

 でも、あれを言ってないみたいだね?」

「うっ!」

「ほらほら♪負けたら、相手になんて言うんだっけ?

 ちゃんと教えたでしょう?さぁさぁ♪」

 

千冬や皆をからかう時とは違う、まるでいじめっ子のような意地悪な笑みを浮かべて

カズキはラウラに笑いかける。

 

「――――ま……」

「「「「「「「「「「「「ま?」」」」」」」」」」」」

「ま……げ…………まじ……だ……/////」

「は~い♪よ~く言えました♪」

 

羞恥と悔しさで顔を真っ赤にして、目尻に涙をためながら敗北発言をしたラウラに

カズキは、うれしそうに頭を撫でるが、一夏たちは小さい妹を泣かしてしまったような、

なんとも言えない気分になった。

 

「ああ~もう~。碓氷先生それぐらいで!ほら、ラウラ。泣かない泣かない」

「ううううう~~~~~//////」

「そや!ラウラちゃん。今度はうちらとやろか?

 勝てるように特訓や!」

「……うん――グスっ……」

 

見ていられなくなったのか世話焼き体質が発揮したのか、シャルロットとはやての

両名によってラウラは慰められた。

 

「ははは♪

 それじゃあ、俺は“お客さん”を出迎える準備をしなきゃいけないからこれで♪」

「「「「「「「「「「「「……はぁ~~~」」」」」」」」」」」」

 

自分のペースを少しも乱さないカズキに、ため息を漏らす一夏達だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はやてちゃんは、まだラウラちゃんとババ抜きしてるのかな?」

「うん。最初は冷たいって印象だったけど、本当はいい子なんだよ」

「ヴィータちゃんみたいだね♪」

「ははは」

 

なのはとフェイトは、二人で寮への道を歩きながらラウラについて話していた。

なのはは最初は似たような感じだったヴィータのことを思い出して、二人で笑っていた。

だが、平穏と言うのは守り維持するのは難しくても崩れるのは一瞬である――

 

「え?」

「これは……結界!?」

 

二人の周りはいつの間にか、“色”が消えた世界になっていた。

 

「かかったのは二人。本当は一人一人といきたかったが、まあいい……」

「「っ!!!?」」

 

不意に聞こえた声になのはとフェイトは身構えた。

 

「消えろ。世界の害悪――!!!」

 

憎しみで塗りつぶしたかのような黒い鎧をその身に纏った、リベリオンナイトが

憎悪に満ちた刃を二人に振り下ろした――――

 

 

 

 




明のモデルはニセコイの鶫 誠士郎(つぐみ せいしろう)です。スタイルは箒や楯無、フェイトに負け劣らずでフェイトやセシリアのようなムッツリですwww

部屋割ですが、明が一夏と同室になったことで箒ははやてとラウラはシャルロットと
同室になっています。
何故、箒とラウラではないのかですが、なのは達のおかげで丸くなったとはいえ少し
人見知りな箒に、転校したばかりのラウラの相手は難しいのでは?と考えたからです。
そして、箒はいろいろと疲れたから癒してくれー!とはやてにセクハラ
されて木刀で天誅を下しています。(セクハラだから、木刀でもいいよね?もちろんある程度
手加減はしています)そして、にっこりとほほ笑む白い悪魔様が(汗)
ラウラは、シャルロットに女の子なんだから裸やそんなパジャマはダメと
世話を焼かれております。
本能から、逆らったら何か恐ろしいことになりそうなのでなすがままです。

明が一夏の布団に包まってゴロゴロしましたが、他のヒロイン達は……
箒:冒頭の明のように理性と本能が火花を散らし、本能が勝とうと
  したところで誰かが部屋にやってきて、断念。
セシリア:一夏の部屋にやってきて、ベッドに腰かけた時にトリップ。
鈴:中学時代に、一夏の実家で枕のにおいをかいだ経験あり。
シャルロット:隙を見て、一夏の部屋の枕カバーをすり替えて自室でヘヘヘ。
楯無:一夏の部屋に忍び込んで、シーツを新品に変えてゴロゴロ。
簪:姉を脅して、交代で使用。

そして、なのは達がやったヤバイことは
フェイト:ユーノの部屋に遊びに行った時に、シーツを入手。閃光の速さで行ったので計画的犯行
     の可能性あり。服を全部脱いで包まって、妄想の世界へトリップ
はやて:ユーノの部屋に食事を作りに行った時に、シャツをちょろまかしてクンカクンカ。
アリサ:自宅に泊まりにこさせた時のシーツや貸したパジャマを寝る前にギュッと抱きしめる。
すずか:アリサと同じように自宅に招待した時に、シーツやパジャマだけでなく食事の時に使った
    箸やスプーンを眺めながら怪しく微笑む。
なのは:ユーノの部屋に遊びに行った時、たまたま眠くなり”ユーノ”のベッドで夢の世界へ。
    その間、ユーノはその無防備な寝顔に理性と本能がガチバトルwww

ラウラは書いていたら、生意気だけどかわいい子になってしまった(苦笑)
百番勝負は、カズキがドイツにいる千冬の元へ行った時にラウラに絡まれた時に
いちいち相手をするのがめんどくさくなったから吹き込んだデタラメです。
そんなのを信じてしまう、純粋なピュアっ子です。うちのラウラは♪
”ま……げ…………まじ……だ……”のところは、いじめっ子にしすぎたかな?

ちなみに、一夏に弁当を作ってもらったエレンはルンルンスキップをするぐらいにご機嫌で、
千冬は作ってもらった弁当を山田先生に愛弟弁当と言われて、問答無用で訓練場へ連行ww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実は美しく残酷で――

最新話、投稿です。
皆さん気になる、なのは&フェイトVSリベリオンナイトの
戦いはどうなるのか!



ドゴォ――――ン!!!

 

リベリオンナイトがなのはとフェイトへと振り下ろした剣によって、凄まじい轟音と

土煙が辺り一面を覆った。

 

「ちっ!」

 

彼が舌打ちすると同時に、土煙から二つの影が空へ飛び出した。

 

「大丈夫、フェイトちゃん!」

「うん、ギリギリだったけどバリアジャケットが間に合ったから。

 ありがとう、バルディッシュ」

「レイジングハートも」

『油断しないでください、Sir』

『来ます!』

 

突然の奇襲にも反応できた二人だったが、その直後のバリアジャケット展開は完全に

愛機たちのおかげであった。

しかし、息つく暇もなく空中へと移動したなのはとフェイトの目の前に

リベリオンナイトが跳躍して迫ってきた。

 

「ふんっ!」

 

手に持つ剣を横薙ぎに振り抜き、一夏が見せたものよりも大きな“飛ぶ”斬撃を二人に放つ。

 

「くっ!」

「お……重いっ!」

 

なのはとフェイトは手をかざして障壁を張って防御するが、その重さに押され

弾き飛ばされてしまう。

その隙にリベリオンナイトは着地すると二人の足元まで移動すると、再び跳躍する。

 

「(っ!この攻撃は囮っ!本命は、砲撃がメインのなのはへの接近戦!?)

 なのはっ!」

 

なのはの元へ跳躍するリベリオンナイトを見て、フェイトはその狙い推測する。

砲撃を得意とするなのはだが、敵に接近された時を想定した訓練は行っており、

接近戦に持ち込まれても簡単には苦戦はしない。

だが、報告に聞くリベリオンナイトの異常な戦闘力を一回の攻撃で直接肌身に

感じたフェイトは、接近戦ではなのはに勝ち目がないと察し彼女の元へと援護に向かう。

それを見ていたリベリオンナイトが、内心でほくそ笑んだことに気付かず――

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

持ち前のスピードで、跳躍したリベリオンナイトに接近しフェイトはバルディッシュを

斧から鎌型のハーケンフォームへと変形させ肩に担ぐように大きく振り上げる。

身動きがとれない空中での奇襲。

確実にヒットすると思ったフェイトの目に映ったのは、何もない虚空であった。

そして――

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはの叫び声と共にフェイトに飛来したのは、鳩尾を殴られたような鋭い痛みだった。

 

吹き飛ばされながらも目をやると、拳を振り抜き“空中”へと立つリベリオンナイトの

姿が映った。

 

「ディバインシューター!!!」

 

なのはは誘導弾をリベリオンナイトに撃ち込みつつ、その動きを牽制しフェイトの元へ

向かった。

 

「(迂闊だった!管理局に恨みを持っているんだったら、空を飛ぶ魔導士に対抗する

 手段を持っているはずだ!)」

 

フェイトの奇襲をかわせたのは、自分達の飛行魔法のようなもので空を飛び身を

ひるがえしたからだ。

 

「どこへ行く?」

 

殴り飛ばされたフェイトを助けに向かうとすぐ後ろから声がして、なのはが振り向くとそこには、一瞬で距離を詰めたリベリオンナイトが拳に雷を宿していた。

 

「落ちろ……!」

「レイジングハート!」

『All right』

 

“飛ぶ”斬撃を防いだのとは違い、今度は全力の障壁を張ってなのはは防御した。

 

「うっ……くっ……!」

「流石に硬いな……。っ……!」

 

互いに拮抗するものの金色の光がリベリオンナイトに襲いかかり、それを

回避するとフェイトがなのはと合流した。

 

「……浅かったか!」

「なのは!」

「フェイトちゃん!大丈夫なの!?」

「何とか……っぅ!」

『無理しないでください、Sir。バリアジャケットを貫通して内臓にまで、

 ダメージがあります。長時間の戦闘は、危険です』

 

バルディッシュの言葉を聞いて、なのははレイジングハートを砲撃重視のバスターモードへと

変形させると自分たちを見据えるかのように佇むリベリオンナイトへとその砲身を向けた。

 

「――どうして……どうしてこんなことをするんですか!!!」

「どいつもこいつも言うことは同じだな……。

 自分達に罪はない……自分達が正義だと信じて疑わないその傲慢さ……。

 それが自分達の故郷さえ滅ぼすことにも気付かない……」

「何を言って……」

「お前達のような世界に害悪をもたらすものは滅びなければならない……

 ということだ!!!」

 

フェイトの問いかけに答えになっていない答えを返しながら、溢れんばかりの憎悪を

その剣にのせてリベリオンナイトは二人に斬りかかった――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あ~それで?これはどういう状況?」

「ええっとですね、旦那……」

 

指で頭をかきながら、冷や汗をかくハチに問いかけるカズキの目の前には

オロオロしている明と……

 

「どうしたんだ?反撃しないのか?男が女に勝てるわけないんだろ?」

「だ、だすげでぇ……」

「ところで?もう一回言ってみてよ?お前達は明になんて言ったの?

 ん?さぁ?」

「い、一夏。その辺で……」

 

口元は笑っているが、目はうっすらと細めながら防弾チョッキのようなものを着こんだ

女の背中をグリグリと踏んでいる一夏がそこにいた。

 

ハチの話のによるとこうだ。

 

自分とカズキの仕込みによって、二人目の男性操縦者を狙っていた二つのグループが

襲撃する日を今日に、上陸ポイントを離れた場所に設定することができた。

後は、カズキと囮役の明とその護衛である一夏がそれぞれの場所で襲撃者達を

撃退し捕獲するだけだった。明を囮にする際、一夏は自分が作戦時に護衛をするという

条件で明が囮になることを承諾したのだ。それでも渋々だったが。

カズキの方は数分もせずに決着がついたのだが、明の方で問題が起こった。

明と一夏の方は、自分達はすごいと増長した女達でたかが男だと侮ってくれたおかげで

大した苦戦もしなかったのだが、捕まえた女達が明に対して暴言を言いまくって

一夏がプッツンとキレたらしいのだ。

二人についていたハチは、自分の手には負えないとカズキを呼びに来て今に至る。

 

「全く、一夏もこれぐらいでキレるとはまだまだだね~」

「じゃあ旦那は、自分が千冬さんでしたっけ?その人の悪口言われたら

 どうするんですかい?」

「そんなの生まれてきたことを後悔させるに決まっているじゃないか~♪」

「ですよね~」

 

爽やかにそう言い返すカズキに、ハチは引きつった笑みをした。

 

「お~い、一夏。そろそろやめとけよ~。コイツら同様、ソイツらには

 いろいろ聞かなくちゃいけないんだから~」

 

カズキが手に持った縄を引くと、一夏が踏んでいる女達と似たような装備をした

男達が一人一人縛られて現れた。

 

「……き、聞いていないぞ。こんな奴がいたなんて……」

「情報収集ってのは、大事だよね~。

 さあ、キリキリ吐いちゃおうか♪君達を動かしたお偉いさんとかね☆」

 

息も絶え絶えに、縛られていた一人がそう言うとカズキは笑いながら、質問を

始めた。男の額に懐から出した拳銃を出して――。

 

「ふん!そう言われて素直にしゃべる奴がいると思うのか!」

「あれ?自分の立場が分かってないのかな?

 俺は質問しているわけじゃないんだよ?しゃべれって言っているんだよ?」

「悪いことは言わないから、素直に言うこと聞いた方がいいですぜアンタ。

 この人、ドSだから何されるかわかったもんじゃないですぜ~」

「う、うるさい!しゃべらんと言ったらしゃべらん!」

 

余程とんでもない目に合ったのか、タヌキがしゃべっていることにも気付かず

男は口を割ろうとしなかった。

 

「いいか!男がISを動かせるようになれば、世界h……」

 

強がっているのがバレバレだったが、男はカズキに反論を続けるも途中で言葉は

途切れて頭がのけ反ってしまう。

一夏や明が、男の声が聞こえなくなったので視線を向けるとカズキが持つ銃から

煙が上がっていた。

 

「……普通、撃ちやすか?」

「これ以上……人間の醜さってやつを見たくなかったんだ……」

 

カズキは目を手で押さえながら、だらんと銃を持った手を下す。

縛られた他の者たちは、躊躇なく撃ったカズキに驚きで声を失った。

 

「ハチ……人間ってやつはどうしてこう……」

 

ハチの肩に手をかけ顔を俯かせながら、カズキはそっとハチの手に持っていた

銃を握らせた。

 

「あり?」

「普通、撃つか?お前」

「ちょっ!何あっしが撃った感じにしてんすか、アンタ!?」

 

あろうことか、カズキは男を撃ったことをハチに押し付けた。

 

「お~い、大変だ。ハチの奴が、せっかく捕まえた奴を撃っちまったよ~」

「棒読みで、何言っちゃってくれてんですか!ちがいやすからね!

 あっしは、無実だ!!!」

 

カズキの首をしめて揺らしながら、ハチは必死に一夏と明に無実を訴えた。

その声を聞きながら、一夏は撃たれた男に近づくと撃たれた額についた赤い水を

指につけた。

 

「これ……血ノリですね」

「へっ?」

「そう♪新開発の血ノリ麻酔銃♪

 撃つと血ノリに混ぜた麻酔薬によって、相手は眠りまるで撃たれたようになるから

 今みたいに使えば、こうなりたくなかったらしゃべれよって脅しにもなりま~す。

 びっくりした?」

 

イタズラが成功した子供のような顔で笑うカズキに、一夏と明はため息を漏らし

ハチはヘナヘナ~と座り込んでしまう。

 

「さ~て♪お遊びはこれぐらいにしてと!

 こいつらからの情報の引き出しは、あっちとこっちの人間の違いを知りたいって

 言っていたエスデスに任せるとして♪」

「エ、エスデスさんですか……」

「それはまた……」

 

カズキとは違い、ガチで拷問が趣味な人に尋問されると知り自業自得とはいえ

襲撃者達に若干同情を覚える一夏と明だった。

 

「こいつらの報告を待っている連中に“お話”を……ん?」

「どうしたんですか?」

 

カズキが“お話”の準備をしようとしたら、突然動きを止めたので何事かと明が尋ねた。

 

「大きな魔力が二つ……いきなり消えた……」

「え?……っと!

 ――あっ!本当だ!魔力が一つしか感じられない!」

 

一夏はゲキリュウケンを取り出し、天に突きだすように構えて目を閉じて集中すると

学園の中で感じる魔力が一つだけしか感じ取れなかった。

この魔力の持ち主はもちろん、なのは、フェイト、はやての三人のことである。

 

「一つしか感じられないって……まさか創生種に!?」

「いや、結界に取りこまれるって感じじゃなかった。

 本当に煙のように気配が消えたんだ……?いや、ちょっと待て。よくわからないけど、

 何かおかしな場所がある」

「それじゃあ、そこに!」

「ああ。明、ハチ。俺と一夏はその場所に行くから、こいつらのことは頼む!」

「はい!」

「わかりやした!」

 

カズキと一夏は、襲撃者達を明とハチに任せると魔力が途絶えた場所へと向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ……はぁ……。これで、こちらを殺す気が無いとは恐ろしいな……」

「……あっ……っ……」

『ま、m……スt-……』

「う……あっ……」

『Ss――iいいいいいrrr――』

 

なのはとフェイトのバリアジャケットは、ボロボロで血が滲み二人は横たわっていた。

相棒であるレイジングハートとバルディッシュも本体の部分に亀裂が走り、発声も

できていないので、大破寸前だろう。

だが、相対するリベリオンナイトも無傷ではなかった。

肩で息をし、鎧が砕け血を流していた左腕を押さえているものの倒れている二人よりも

どこか余裕があった。

何故なら、なのはとフェイトの傷は彼女達にとって予想外のものだったが、リベリオンナイトの

傷は彼にとって想定内のものだったからだ。

 

リベリオンナイトの隙を突いて、なのはが砲撃の態勢に入り撃とうとした瞬間彼は

避けるでも防ぐでもなく、あろうことかレイジングハートの魔力をチャージした砲門に

雷光を纏わせた左腕の拳をぶつけてきたのだ。

その瞬間、ゼロ距離で爆発が起こり三人は巻き込まれてそれぞれダメージを負ったのだが、

あまりにもありえない行動をされたなのはとフェイトと自分から傷を負いに行った

リベリオンナイトでは、精神的な衝撃に明確な差が出ていた。

 

「信じられないといった顔だな?時空管理局でも上から数えた方が早い程の

 強さである貴様達を腕一本の代償で消せれるのなら、安いものだ……」

 

そうは言うものの内心リベリオンナイトには焦りがあった。

地球に来る前にも何度かなのは達と同じSランクの魔導士と戦い倒してきたリベリオンナイト

だったが、この地球に来てから全力を出すことができなくなっているのだ。

グレアム達と戦った時は、相手が最前線から退いていたこともあり目立った苦戦は

しなかったが、今ぶつかっているこの戦いも本来の力を出せたのならここまでのケガを

負うこともなかったのだ。

 

「(あの老害や猫、あいつらの時は気のせいかと思ったが、間違いない。

 私はこの世界では、力を出しきれない。

 この二人が、“戦い”を知らなかったからなんとかなったが、“あの時”のような

 奴らが現れたら……とにかく今は――!)

 では、さらばだ。世界の害悪よ!!!」

「っ!!!?」

「くっ……!!!」

 

空へと掲げたリベリオンナイトの剣が雷を帯び、二人がもうダメかと目をつぶった

瞬間――

 

「グオォォォ!!!!!」

「ちょっと待った!!!!!」

 

獅子の咆哮と共に、レオントライクを駆るリュウケンドーがその場に現れた。

 

「あれは……!」

「嘘っ!?」

「貴様はっ!!!?」

「おおおりゃあああ!!!!!」

「ちっ……!」

 

リュウケンドーはレオントライクでリベリオンナイトに体当たりしようとしたので、

リベリオンナイトは舌打ちしながら、飛び退いてその攻撃をかわしリュウケンドーは

丁度彼らの間でレオントライクを止めた。

 

「お前が時空管理局の基地を襲っているって言う噂のリベリオンナイ……って、

 そういえばこれは勝手に決められたから、本当の名前じゃないのか。

 なあ。あんたの名前はなんなんだ?」

「私の名などどうでもいいことだ。

 それよりも貴様は、この世界を守護する戦士だな?

 どうやって、ここに入ってきた……」

「ああ。光と共に生まれし龍と力を合わせ、魔を叩く――リュウケンドー!

 入ってこれたのは、企業秘密ってことで」

 

リュウケンドーは挨拶をするかのような軽い口調だが、ゲキリュウケンを油断なく構えて

いつでも攻撃に移れるようにしていた。

 

「リュウケンドー……。

 私は別にこの世界をどうこうしようとするつもりはない。私の目的は、そこに

 転がっている連中を消すことだ。……そこを退け!」

「今から命奪いますって言われて、退く奴がいると思うか?」

「だろうな……やはり、貴様は真の戦士だ。関係の無いものを極力傷つけたくはないが

 ――仕方ない!」

 

リベリオンナイトが剣を構えて臨戦態勢に入った瞬間、二人の闘気が大気を震わせ

横たわっていたなのはとフェイトは、自然に息をのんでいた。

 

『気をつけろ、リュウケンドー。こいつは……』

「わかっているよ、こいつ……ジャークムーン以上だ――!」

「……」

 

リュウケンドーとリベリオンナイトは互いに向かい合ったまま一歩一歩、ゆっくり

横へと移動していくとだんだんとそのスピードを上げていき、そして――

 

「はぁぁぁっっっ!!!」

「うおりゃぁぁぁっっっ!!!」

「きゃあああっ!!!」

「……なっ!?」

 

二人が剣を交えた瞬間の凄まじい勢いでなのはとフェイトは吹き飛ばされてしまう。

 

「くぅっ……!」

「……っ!」

 

リュウケンドーとリベリオンナイトは鍔迫り合いになり、半回転すると互いに

後退する。

 

「うおぉぉぉっ!!!!!」

「――っ!!!」

 

だが、二人とも一瞬も動きを止めることなく走り出し、再び剣を交える。

 

「くらえっ!」

「はっ!」

 

リュウケンドーとリベリオンナイトは、相手の攻撃を時に剣で受け止め時に体を回して

かわし時に拳や蹴りを交えて攻撃する……まるで舞をまっているかのような動きで、

なのはとフェイトの目を釘付けにした。

 

「すごい……」

「うん。一撃一撃が相手に止めを刺すつもりだ……多分、勝負は一瞬で動く」

 

フェイトがそう言うと、いつのまにかリュウケンドーが上から押し込まれる体勢となった。

 

「沈めっ……!」

「ぐっ!……ならぁっ!!!」

 

だが、リュウケンドーはリベリオンナイトの剣を受け止めていたゲキリュウケンを一瞬だけ斜めにして、自分へと向けられていた力を受け流すと同時にリベリオンナイトの脇腹に蹴りを入れる。

 

「がっ!?」

『今だ、リュウケンドー!』

「おう!ダガーキー!召喚!」

『魔弾ダガー!』

「いでよ魔弾ダガー!」

 

ゲキリュウケンから光が放たれ、獣王を呼び出すような魔法陣が描かれると

鍔に球がついた短剣が現れた。

 

「ダガースパイラルチェーン!」

「な、何っ!?……このっ!」

 

リュウケンドーは魔弾ダガーを普通とは違い、逆手に持ち球から光の鎖を放ち

リベリオンナイトを拘束した。

 

「あれって、バインド!?」

「違う……似ているけど、何か違う!もしかして、ロストロギア!?」

 

自分達がよく使う魔法と似たものをリュウケンドーが使ったことに、驚くなのはだが

フェイトはそれが違うものだと見抜き、管理局が回収しているロストロギアなのかと

疑いを持った。

 

「悪いが一気にいかせてもらうぜ!」

『ツインパワー!』

「ツインエッジゲキリュウケン!」

 

魔弾ダガーはゲキリュウケンと合体すると刃が伸び、両刃の剣となった。

 

「はぁぁぁ……はあっ!!!」

「スパイラルチェーンを力ずくで!?」

『やはりただものではないな……』

 

自分達の拘束技を力ずくで破られたことに、リュウケンドーは驚きを禁じ得なかったが

それが隙となってしまった。

 

「ふんっ!」

「っ!……このっ!」

 

隙を突かれてもリュウケンドーは慌てることなく、鈴のように両刃となった

ゲキリュウケンを巧みに操り、攻め返した。

 

「がはっ……!」

『止めだ!』

「ファイナルキー、発動!」

『ファイナルクラッシュ!』

「ツインエッジゲキリュウケン超魔弾斬り!」

 

光り輝くゲキリュウケンをリベリオンナイトへと振り下ろすべくリュウケンドーは

駈け出した。

 

「まだだ!建御雷神(たけみかづちのかみ)!!!」

 

リュウケンドーの決め技に対し、リベリオンナイトも同じように剣に雷を滾らせ自身の決め技らしきものを放ち、両者を中心として強い光が放たれた。

 

「こ、これは!」

「いくらなんでもすごすぎぃ――!」

「「おおおおお!!!!!」」

 

なのはとフェイトの驚きの声をかき消すかのように、リュウケンドーとリベリオンナイトの咆哮が永遠に続くかのように響き渡り――両者は弾き飛ばされた。

 

「どわっ!?」

「――っ!?」

 

二人は弾き飛ばされながらも、ヨロヨロとその場に立ちあがった。

 

「な、なんて奴だ……ケガしているのにここまでやるなんて!」

「ぐっ!す、清々しい程真っ直ぐな剣だ……。貴様とは……違う形で会いたかったよ――」

『確かに奴は強いが、それ以前にリュウケンドー。お前、力を出し切れていないぞ!』

「やっぱり?」

 

剣を交えてリベリオンナイトが自分よりも強いのは分かったが、ケガを負っている

この状態なら魔弾ダガーを呼び出し力を出し切れば、押し切ってもおかしくはなかった。

しかし、何故かリュウケンドーは全力を出せなかった。

そして、それはリベリオンナイトも同じだった。

 

「(何でだ?こいつと面向かうと……)」

「(さっきの感覚が強くなった……)」

「「(こいつ(彼)とは戦いたくない――!!!)」」

 

相対する二人の戦士は、奇しくも同じ感情を抱いていた。

 

「嵐脚(ランキャク)」

 

リュウケンドーの後ろになのはとフェイトがいる状態で、リベリオンナイトと

向かい合っていると両者の間を突然、巨大な鎌風が通り過ぎ溝を作りだした。

 

「両者とも、一端そこで剣を納めてくれ」

 

驚く間もなく聞こえた声の方に、その場にいた全員が顔を向けるとそこには

脚を振り上げた体勢の宇宙ファイターXの恰好をしたカズキがいた。

 

「あなたは!」

「宇宙ファイターX!まさか、今のは!?」

「新手か……ふざけた姿だが、相当の実力者だな……」

「お褒めに上がりありがとう。だが、それは君も同じだろ。

 そこの二人を閉じ込めたこの結界……まさか俺の探知外になる高高度の上空から

 の発動とは驚いたよ。

 しかも相当頑丈な上、見たことのない術式だったから下手に破壊でもしたら、

 どうなるかわからなかったから、リュウケンドーを侵入させるだけでも苦労したよ」

 

何でも無いように言うが、これはとんでもないことである。

見たことのない術式を解析するというのは、比較して意味を推測するものがない

新発見した大昔の言葉を今の言葉に翻訳するようなものである。

スーパーコンピューターでも何十、何百時間もかかるものを数十分で解くというのは

まさに規格外である。

 

「それで、どうする?こっちとしてはできれば、このまま君には引いて欲しいんだけど?」

「そうはいかん。そこにいる害悪どもは、消さねばならん!」

「どうして!どうしてそこまで私達を消そうとするの!」

「多分、誤解があると思うんです!時空管理局は……」

「黙れ!!!!!」

 

友人に話しかけるような気さくな感じでお願いをする宇宙ファイターXに対し、

リベリオンナイトは頑として譲ろうとせず、なのはとフェイトはそんな彼に悲痛な

叫びを上げるが、凄まじい怒声に黙り込んでしまう。

 

「まだ解らないのか……?自分達が何をしているのかも理解せず、手にした力が

 何をもたらすのかも知ろうともしないその無知がどれほどの罪かということを――!!!」

 

怒りの中に悲しみを含んだ叫びに、リュウケンドーやゲキリュウケンも声を失ってしまう。

 

「やめておけ。君達の言葉はいたずらに彼の怒りに、油を注ぐだけだ。

 そう……彼の故郷を滅ぼした時空管理局の言葉は……ね」

「『なんだってっ!!!?』」

「「なっ!?」」

「――知って……いたのか?」

 

宇宙ファイターXの言葉にリュウケンドーとゲキリュウケンは驚き、なのはとフェイト

の目は驚愕で見開かれる。

そんな彼らのことなど気にもかけず、リベリオンナイトは宇宙ファイターXに

問いかけるも首を横へと振った。

 

「いや。単純にカマをかけただけさ。

 でも、大体の見当はつけていたよ……確認できた言動にこうして直接会って

 感じるその空気……。

 昔、いたんだよ。その空気と似たモノを纏っていた奴を……。

 大切なものを奪われた奴を……ね」

「そうやって、カマをかけられて見事に引っかかったというわけか……。

 そうだ。そこの男……宇宙ファイターXの言うとおりだ。

 私は、時空管理局に故郷を……仲間を……家族を奪われた……」

 

今にも消えそうな声でリベリオンナイトは語りだした。

ささやかだが、何にも代えがたい日々のことを――――

 

「私の故郷は決して豊かとは言えなかったが、自然と共存し平和に暮らしていた。

 だが、人間と言うのは悲しい生き物だ。どんなに平和な世界でもよからぬ考えで、

 他人を傷つける者は必ず現れる。

 私は、そんな奴らと戦う戦士だった……」

 

リベリオンナイトが顔を上げ、虚空を見つめながら語るのをリュウケンドー達は

黙って聞いていた。

 

「ある時、時空管理局と名乗るもの達が現れた。

 奴らは私達の秘宝、“星の大樹”をロストロギアだから回収するためにやってきたと

 言った」

「星の大樹?」

「それは一体……」

 

宇宙ファイターXとリュウケンドーは疑問の声を上げて、問いかけた。

 

「一見植物のように見えるが、金属でできた巨大な構造物だ。

 木が水を吸い上げるように、星の力を吸い上げ大気に放出し地上に生きる生命たち

 にその力を分け与える……」

『待て。そんなことをしたら、やがて星の力は尽きて滅ぶのでは?』

 

ゲキリュウケンの指摘に、リベリオンナイトは首をふって否定した。

 

「いや。恩恵を受けた生命は、その命が尽きるまでに受けた恩恵以上の命の力を

 発し結果的に星から生き物に、生き物から星へと力は循環していた。

 記録によると、大災害が起きて全ての生命が危機にひんした時にある賢者が

 作り上げたらしい……」

「ということは、その“星の大樹”が機能しなくなるかなくなったら、

 循環は止まり……」

「星も生き物も死んでしまう……!?」

 

宇宙ファイターXとリュウケンドーの言葉に、なのはとフェイトは口を手で覆い、

リベリオンナイトは血が出るほど拳を握りしめた。

 

「そう……奴らは、危険だからロストロギアだがらと言うばかりで

 私達の言うことなど一切聞かず……星の大樹を……奪い去った!」

「そ、そんな……」

「管理局がそんな盗賊のようなことを……」

「盗賊のようなではない!盗賊そのものだ!!!」

 

なのはとフェイトの信じられないといった感じの言葉は、リベリオンナイトの

叫びにかき消された。

 

「奴らは卑劣にも、最後まで話し合おうとした長を殺し一方的に私達へ攻撃してきた!

 突然の奇襲だったが、私達はなんとか態勢を整えた……だが……!」

 

リベリオンナイトは俯き言葉が止まると、拳の震えが体全体に広がっていた。

 

「管理局は人質でもとって、降伏を要求した――か?」

「は……?……はぁぁぁ!?」

「――っ!!!?」

「そんなこと、管理局がするわけ……」

「…………そうだ」

 

宇宙ファイターXの推測に皆が驚きの声を上げるが、フェイトの否定の言葉は

リベリオンナイトが発した何かを堪えるような低い声の前に途切れた。

 

「奴らは、これ以上攻撃したら命はないと人質を取った……子供をな!」

「「「『っ!?』」」」

「……」

「私達は攻撃を迷い、その隙を突かれ敗れた。

 人質の子供の命も奪われた……ついでと言わんばかりにな!」

 

その場にいた者は、鎧に包まれて見えないはずのリベリオンナイトの眼光が

憎しみに染まっているのが見えた――

 

 

 

 

 

 

 




明を狙ってきた襲撃者達ですが、油断させるためにカズキ達は楯無や千冬にはしらせていません。
敵を騙すにはまず味方からですwww

リベリオンナイトは、何故か地球では全力を出せません。今までは相手が前線を退いていたり、こちらの土俵に引きずり込んで勝てましたが、なのは達には肉を切らせて骨を断つ戦法を(汗)
そして、同様にリュウケンドーこと一夏も彼に対して全力で戦えていません。
互いに無意識に、戦うことを拒絶しています。

星の大樹の恩恵というのは、肉食動物が死んで微生物に分解されてやがて植物の成長に繋がる様なイメージです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定1


要望のあった設定です。
ちょくちょく、追加&修正していく予定です。
まずは、主なメンバーから。
少しネタバレがあるかもwww


世界観:

地球に生きる命を守護龍である魔弾龍たちが、守っている世界。

命を脅かすものが現れると自分達と共に戦う魔弾戦士を選び、戦ってきた。

かつて、封印したジャマンガの目覚めと共にゲキリュウケン、ゴウリュウガン、

ザンリュウジンの3体が復活。

一夏、弾、カズキと共にジャマンガを倒し眠りにつこうとするも、ジャマンガとは

似て異なる魔物が出現し始めたので今も戦い続けている。

かつての魔弾戦士のことを描いたような壁画がある遺跡や言い伝えが各地に

残っているが、そこに現れる魔弾龍は3体以上のものもあるらしい――

 

 

織斑一夏:

本作品の主人公であり、魔弾龍ゲキリュウケンに選ばれ魔弾戦士リュウケンドー

へと変身する。

物心がつく前に両親が行方不明となり、姉の千冬と両親の古くからの知り合いで

ある吉永雅に育てられる。

 

千冬の恋人であるカズキが彼女を泣かせたら、ブッタ斬る発言をするなど

シスコンである。

 

学業の成績は中の上と中の中をいったりきたりぐらいだが、戦闘では臨機応変な

機転や鋭い直感を発揮する。

反面、色恋になるとわざとやっているのではないかと思えるほどの鈍感を発揮する。

恋人の明とのやりとりでも健在であるが、彼女をからかう時には感情の機微を

鋭く理解し慌てる姿を楽しんで見ている時がある。つまり、Sの気がある。

 

他人の悩みを自分のことのように捉える優しい性格だが、自分勝手な理由で

誰かを傷つけたりするものには、強い怒りを表す。

日常生活で本気で怒る時は、それを顔に出すことなく笑顔となり、

この時の一夏は千冬でも敵わず、カズキも逃げの戦略をとる。

 

魔弾戦士としての基本の戦闘スタイルは、相手の攻撃を受け流して反撃に移る

カウンター型。これはリュウケンドーになったのが12歳の時であり、敵の攻撃を

受けきるための体ができていなかったため、将来を見越してカズキが防御や

回避のやり方と共に叩きこんだ。

 

ある事件をきっかけに、別世界にいる仮面の戦士やチームを組んで悪と戦うものたちと知り合い、とても尊敬しており交流を行っている。戦士として今もなおその成長は、止まることを知らない。

 

 

 

ゲキリュウケン:

地球を守護する魔弾龍の一体。

蘇ったジャマンガの侵略作戦にたまたま居合わせた一夏が

巻き込まれた子犬を助けた勇気がきっかけで彼を自分のパートナーに選ぶ。

真面目で口うるさい面があるが、それは未熟な一夏を心配してのこと。

当初は一夏とはぶつかってばかりだったが、戦いを通して以心伝心のコンビとなる。

 

最近は、カズキの影響を受けて黒くなったりSっ気を発揮する一夏の将来に一抹の

不安を覚えている。

個性的な彼らの中でも、貴重なツッコミ役だが時折ボケに走るというより

現実逃避する時がある。

 

五反田弾:

赤い長髪にバンダナを巻いた一夏の親友。

自分の身を投げ打っても妹の蘭をジャマンガから助けたことをきっかけに

ゴウリュウガンにリュウガンオーとして選ばれる。

世話焼きなところがあり、貧乏くじを引くことが多い。

蘭には、頭が上がらないがとても大切に思っておりシスコンであることも自覚

はしている。

祖父の厳からも厳しい扱いを受けているが、内心ではお客を笑顔にできる

料理を作れる彼のことを尊敬しており、五反田食堂を継ぐのが夢である。

容姿は悪くないのだが、どこか残念な面があり仲間の中でももてない同盟を

組んでいたが、危ないところを助けるという王道展開で布仏 虚といい感じとなり、

他のメンバーから一夏のように嫉妬の念を送られている。

 

どんどん強くなる一夏と戦士としての才能の差を感じることもあるが、それでも心を

折ることなく努力を続けている。

 

一夏と同じくリュウガンオーになったのが、12歳の時なのでカズキから防御、回避、

受け流しの技術を優先的に叩きこまれる。

戦闘スタイルは、相手の攻撃を受け流し動きを止めたところを撃つという近距離寄りの

射撃型だが、ゴウリュウガンのブレードモードや魔弾ナックルを使ったりと全距離対応型

のスタイルである。

 

ゴウリュウガン:

地球を守護する魔弾龍の一体。

ジャマンガから、その身を犠牲にしても妹の蘭を助けた弾の勇気を認めて

彼をリュウガンオーとして戦う、自身のパートナーとして選ぶ。

礼儀正しい性格と口調だがたまにボケ気味な発言もし、それが天然なのか

わざとなのかは誰にもわからない。

 

弾とは深い信頼関係であり、彼の恋愛事情も応援している。

 

 

碓氷カズキ:

常に飄々とした余裕の笑顔を崩さず、自分の底を見せないどこかミステリアスな

人物。その正体は、別世界からやってきた亡命者。

容姿端麗、文武両道でありおおよそ弱点や苦手なことなど見当たらないが

子供の遊びに興味を持ったり、奇抜な恰好や着ぐるみを好むなどどこかズレた面を持つ。

小動物のやりとりのような、ほんわかした癒される光景を見るとほわぁ~なことになる。

悪ぶっている面があり、助けを求められても助ける義理も義務ないと最初は断るが、

何だかんだで適当な理由をつけて助けてしまうお人好しである。

特に、理屈で動かない子供は特に嫌いと言っているが、それを傷つけたり未来を奪おうとする者は、地獄行きと決めている。

また自分の勝手な都合で、命を奪うモノには一切の容赦もなく生き地獄を味あわせる。

 

何故か「借金」という単語を聞くと、非常に動揺する。

貪欲であり役に立たないと思われるような力にも興味を示し、忍術や地球の魔術の一つである精霊魔術も身につける等、その実力は底が知れない。

世界を移動する方法を持っており、時間がある時はいろいろな世界を渡っている。

 

一夏の姉である千冬とは、高校時代からの恋人であり彼女のからかいでは、互いの

常人離れの身体能力を駆使した痴話喧嘩がIS学園の名物となりつつある。

千冬と会った当時は、どこか冷めた目をしており積極的に人と関わろうとはしなかったが

ある時に、千冬と交流を深める出来事があり彼女やその周囲の人と関わっていくうちに

だんだんと笑うようになった。

悪魔手帳という人のばらされたくない恥ずかしい秘密や黒歴史が書かれた?手帳を

所持している。その内容は個人のものから国家秘密まで様々であり、

警備が厳重な建物でもそれを見せたら赤絨毯を引かれて歓迎されるとの噂がある。

人が慌てふためく姿や信じられないという顔を見るのが好きなドSであり、

最近は栄養ドリンクという名の飲みモノとは思えない“液体”を作り他人に飲ませることに

嵌っている。

 

一夏と弾よりも前に、魔弾龍ザンリュウジンに選ばれた魔弾戦士であり二人に

戦いを教えた師匠でもある。

当初は、まだ子供と言える一夏と弾が戦うことにすごく反対であった。

“戦い”を教えるために二人は変身し自分は生身のハンデ戦を行い圧勝するが、

戦いの厳しさも怖さを実際に見せ体験させても戦う意思を見せた二人と魔弾龍達の

説得に折れ、少しでも生き残れるための術を彼らに叩きこんだ。

 

カズキが地球にやってきた辺りから、あちこちの管理世界にあるテロリストの基地が消滅する

という事件がパタリと途絶えている――

 

ザンリュウジン

地球を守護する魔弾龍の一体。

カズキが復活したジャマンガと初めて戦った際、いつの間にか弱くなっていた自分に

驚くが、この弱さが命を賭けても守りたい大切なものができたことの証でありあっても

悪くないと、自分の弱さを認めた勇気を見せたことで彼をパートナーとして選んだ。

 

明るく陽気なムードメーカーであり、カズキのからかいを共に楽しんでいる。

しかし、たまに失言をして痛い目に合うこともある。

 

織斑千冬:

一夏の姉であり、ISの世界大会モンド・グロッソ第一回で優勝した人物。

第二回大会では決勝で棄権をしているが、それでも世界最強と聞かれれば千冬と

答えるものは多い。

その厳しい性格から、厳格な人物と思われがちだが弟の一夏をはじめ、後輩の真耶を

からかって遊ぶことがある。

私生活では家事能力は低く料理はなんとか食べれるモノ(味の保証はできない)が

作れる程度である。負けず嫌いな一面もあり、一夏に危うく負けそうになってからは訓練

メニューを増やしたりもした。

 

両親が行方不明になって知り合いの雅と共に暮らすようになった直後は、

自分が一夏を守るという態度だったが、一度本気で彼女に怒られて心を開く。

 

一夏のことを大切に思っており、それが周囲にはバレていないと本人は思っているが

バレバレであり、誰もが認めるブラコンである。

一夏が初めてしゃべった言葉がパパでもママでもなく自分の名前だったから親にドヤ顔をして自慢したり、抱っこさせてとねだった束が抱っこした途端一夏が泣くと、本気のアイアンクローを喰らわせたりなど数えきれないほど。

また、一夏の鈍感に呆れることが多々あるが自身も、学生時代は誰が見ても丸わかりなカズキの

アピールにじれったくなるほど気付かない鈍感なところがある。

恋人になった現在は、自分の気持ちを面と向かって出すのが恥ずかしいので

表に出すことは少ない。ただし、これも照れ隠しなのは周知の事実である。

 

カズキとは高校時代からの付き合いであり、当初は周りにあまり関心を持たないカズキ

を気にくわなかったが、ある出来事で助けてもらったことをきっかけに交流が始まる。

そのおかげか、両親が行方不明になってから少し張りつめていた空気が和らいでいると

友人達は述べている。

 

吉永雅:

一夏と千冬が子供のころからの知り合いの人物であり、本作品最強のご婦人。

容姿は二十代前半であるが、二人の両親が子供の時に一緒に写っている写真には

変わらない姿が写し出されており、実年齢は不明である。

探ろうとした人物は、次の瞬間には朝日を拝んでいると言われている。

自称、ただの家事万能な主婦だそうだが千冬でも敵わないパワーの持ち主であり、

千冬をはじめカズキや近所の力自慢の男性十数人をまとめて引きずるほど。

一夏によると、頭文字にヤとかマがつくと思われる職業の人達の相談にものったことがあり、彼の専用機白式を準備するため、簪の専用機が遅れそうになると偉い人たちに

直接殴りこみにいって、後から話をしに到着したカズキを驚かせた。

 

若い頃は何百人の族を纏めるリーダーだとか、一人でいくつもの組を潰したなど

の噂があるが噂の域を出ず、真実を知るものは皆無である。

カズキも好奇心から調べようとした瞬間、これ以上動いたらヤられると確信し

二度と調べることはなかった。

 

ひとたび怒りを買うと、手近な部屋に連れ込まれほにゃぁな顔→(´°ω°`)と放心されるような

ことをされる。体験したものはそれを思い出すと、大量の冷や汗をかき口に出すのも恐ろしいのかと思えるぐらい震え上がる。

千冬や束は二度と、受けたことのないカズキでさえ体験したくない。

 

一夏やカズキが魔弾戦士であることを知っているかのようなことを、

におわせることがある。

 

原田明:

大昔、魔弾龍と魔弾戦士と共に戦った人間達が再び彼らが現れた時に力を

貸すために作られた村の出身の戦士で一夏の恋人。

体術、知識、技のキレ等どれをとっても一流であり、IS抜きの生身の勝負なら

楯無と互角以上の実力者。

 

ジャマンガが復活し、リュウケンドーも現代に蘇ったのを察知し彼らの力になるために

敵の目を欺くことも含めて女であることを隠し男として一夏達の元にやってきたが、

すぐに自分にリュウケンドーの正体がバレるなど戦士としての自覚が薄いと感じる

一夏と弾にイラだち、勝負を仕掛ける。

その勝負の最中に学校のプールに落下し、男だと思っていた一夏に着替えのために服を

脱がされて女であることがバレる。

その後もたびたび一夏と弾の態度に怒るが、彼らなりの心構えや優しさを見ることで

こんな戦士もいるのだと態度を軟化させていく。

 

ずば抜けた強さゆえ村でも親以外はあまり女の子扱いをしなかったが、一夏は一人の女の子として接してきたので、感じたことのない感情に振り回され、それが恋だと気付くのに

時間がかかった。

また、戦闘面だけでなく家事の方も平均的な女子のそれを大きく上回っており、

仲間の間ではいいお嫁さんになれるとよく言われる。

 

勉学の方も優秀であり、特に語学が得意で人に教えるのも上手い。

本人は邪魔だと感じているが、スタイルも良く今もなお成長中らしい。

真面目な性格だが、たびたび一夏に迫られる場面を想像しては顔を赤くする。それが

かわいいので一夏のSに火がついてからかわれると一種のループが生まれる。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

復讐者が最も憎むモノ


最新話です。
おそらく今回が、今年最後の投稿になると思います。
冬コミの準備やいろいろとありますので(コラ)

リベリオンナイトの真の名が――


「やがて、意識を失った私の目に映ったのは星の大樹を奪われたことで

 氷に包まれて滅びてしまった変わり果てた故郷と仲間達の亡きがらだった……。

 私には、星の大樹がなくなったことでやがて消える命と

 全てを奪った時空管理局への憎しみだけが残った。

 奴らを滅ぼすために、私は体の傷だけでも治すために仮死状態で長い時を

 過ごしその上で力を蓄えこの次元世界に舞い戻った……。

 いつ目覚めるともわからない時間を、復讐心を糧にしてな!

 分かったか……そこにいる管理局の者達は世界を滅ぼす害悪そのものだ!!!」

 

剣の切っ先をなのはとフェイトに向け、リベリオンナイトは声を張り上げた。

 

「『……っ!』」

「あ……あああっ――!」

「か、管理局がそんな……」

「信じられないか?だが、これは揺るがざる事実だ!

 目覚めた私は、なんとか命を長らえる方法を見つけ奴らを探すあてのない旅に出た。

 何年かかろうが探し出すつもりだったが、すぐに見つけられたよ……

 変わることなく、平和な世界を蹂躙する奴らをな!!!」

 

リュウケンドーとゲキリュウケンはリベリオンナイトの憎しみに息をのみ、なのはと

フェイトは体を震わせながら否定しようとするが否定しきれなかった。

そして、宇宙ファイターXは黙ってリベリオンナイトの話しに耳を傾けていた。

 

「私は情報を得るために、略奪を繰り返していた奴らを捕まえ知っていることを

 引きずり出した……。

 罪人の罪を暴くのに使っていた心を覗く術を使ってな。

 負担を度外視して使ったことでそいつらの精神は崩壊したが、全てを見ることができ

 真実を知った……。

 奴らは、時空管理局のトップである最高評議会という連中直属のいわゆる暗部で、

 私の世界のように、いくつもの世界を滅ぼしてきたことを!

 その目的が、自分達が永遠に世界を管理するために不老不死を得るなどという

 馬鹿げたことだと!

 自分達が生んだ犠牲を平和のために、当然のものだと思っていることをな!!!」

『だから滅ぼすか……』

「――俺はあんたみたいな目にあったことないから、偉そうなことは言えない……。

 話を聞く限り、そいつらがやったことは絶対許せないし、なんとかしなくちゃ

 いけない……けどさ!」

 

リュウケンドーも時空管理局が行った裏の行いに怒りを感じ、リベリオンナイトの

行動理由を理解できたが、それでも納得できないとばかりに悲痛な声を上げた。

 

「他に……他に方法はなかったんですか……?」

「あなたの怒りは当然ですが、それでも復讐なんて「……でもか――?」……えっ?」

 

なのはは心が入っていない言葉でリベリオンナイトに問いかけ、フェイトも

復讐を止めるように言おうとしたので、宇宙ファイターXはマズイと思ったが一歩遅く

消え入るようにつぶやいたリベリオンナイトの言葉でフェイトの言葉は止められた。

 

「復讐をやめろと言うのか?人質にされ、私の目の前で殺された子供が…………

 私の弟でもか!!!!!」

 

憎悪のみが宿った言葉をぶつけられ、なのはとフェイトは完全に言葉を失ってしまう。

 

「やめろ。それ以上言ったら……私は君を殴らなければならなくなる……。

 いくつか質問をいいかい?」

 

宇宙ファイターXはやんわりとフェイトに釘をさすと、リベリオンナイトへと向き合った。

 

「君の行動目的と理由は分かった。

 だが、君の行動は復讐……自己満足に過ぎないのをわかっているのか?」

「ああ……。これは、誰のためでもない自分のためだ……」

「戻ってくるものは何もないぞ?」

「わかっている……。奴らをこの世界から消しても、何も帰ってこない……。

 そして、私は弟や仲間達のいる場所にはいけないだろう……」

「君から全てを奪った奴らと“同じ”に成り下がっても、やるのか?」

「だからどうした?

 奴らは、私の故郷を!仲間を!

 夢や希望に満ちていた弟や生まれてくるはずだった命の明日を奪った!

 何故そんな奴らが存在していることを許さねばならない!!!

 例え、取り戻せるものが何もなくても……全ての人間が悪だと言おうとも……

 奴らと同じに成り下がろうとも!その存在など、認めてなるものか!!!!!」

「それがわかっているなら、私が言うことは何もないな」

 

肩をすくめてやれやれといった感じで言う宇宙ファイターXに、リュウケンドー達は

驚きの目を向ける。

 

「私は君がこの世界に害をもたらしたりしない限り、邪魔はしないし助けもしない……」

「お、おい何を言って……!」

「落ち着け。“私”はと言ったろ。お前が彼を止めたいのなら、それはお前の自由だ。

 それを止めることはしない。

 だけど、こちらに理由がある時は立ち塞がらせてもらうよ?

 そう、ちょうど今のようにね……」

 

リュウケンドーがくってかかるも気にすることなく宇宙ファイターXは言葉を続け、

なのはとフェイトを庇うようにリベリオンナイトの前に立ち塞がった。

 

「私を倒すと……?」

「生憎、この二人を助ける理由がこっちにはあってねぇ~

 (教師っていうのは、生徒を守るものだからね……)

 このまま引いてくれるなら、追いかけないけど?」

「…………(どうする?数えるほどしかいないオーバーSランクを消せれる

 またとないチャンスだが、力を出しきれない以前にこいつはリュウケンドーよりも

 強い……

 おどけた態度だが現れてから一瞬も隙が無い……)」

「どうやら、迷っているようだね。

 でも、ここは君が命を賭けてでも絶対に勝たなくちゃいけない場面なのか?

 私の後ろにいるのが、例えば指示を出した最高評議会なら何が何でも邪魔者は

 排除すべきだが、この二人を倒すチャンスならまたあるかもしれない」

「何が言いたい……」

「復讐を果たしたいなら、引き際は見極めろってことさ。目的を果たすには

 時に、引くことも大事なことだぞ?

 経験者の言うことは聞いておくもんだ」

「経験者?」

「そう。私も君と同じ、大切なものを奪った連中を消すことを決め、成し遂げた

 元復讐者さ」

 

自然な流れで発した言葉をその場にいた者達が理解するのに、数秒ほどかかった。

 

「私も君と同じく、ある奴に故郷や家族を奪われてね~。

 同じように、そいつから全てを奪い去るために力を磨き抜いて全~~~部

 奪ってやったよ~。

 体は細胞の一欠けらの残らないようにすり潰して、魂は地獄に直接運んでやった」

 

誇るでもなく、後悔するわけでもなく淡々と宇宙ファイターXは言葉を述べた。

 

「だから、少なくとも他の連中よりは君の気持ちを理解できる部分はある……。

 私は君の復讐を否定しないし、肯定もしない……。

 復讐を成し遂げて、満足できるかどうかは結局本人次第だしね」

「…………いいだろう。ここは引くとしよう。

 どうやら、この世界は私には居心地がよくないみたいだしな――」

 

宇宙ファイターXの言葉に、リベリオンナイトは少しだけ悩むがやがて脱力したように

剣を下し、その場から立ち去ろうとした。

 

「……って!ちょっと待てよ!」

「何だ……?」

 

立ち去ろうとするリベリオンナイトに、リュウケンドーは慌てて呼び止めた。

 

「名前だよ、あんたの名前!俺はあんたを管理局が決めた名前で呼びたくない。

 だから教えてくれ。あんたの本当の名を!」

「――オルガード……星守の騎士(テラナイト)オルガード……」

「オルガード…………」

 

リュウケンドーの問いかけに、自身の名を明かしたオルガードはこちらを振り返ることなく

その場を立ち去り、姿を消した。

 

「それじゃ、俺達もそろそろ帰るか」

「あ、あの……さっき言ってたというか、前から言ってたことって本当だったんですか?」

「本当だよ」

 

ためらいがちなリュウケンドーの問いかけに、あっさりと宇宙ファイターXは肯定した。

 

「あの頃の俺は、とにかく奴の存在だけは許せなかった。

 奴の命を奪うことで世界が滅びようとも、絶対に奴が生きていることは

 我慢できなかった……」

「あなたは……」

 

遠い空を見るように顔を上げて、言葉を述べる宇宙ファイターXに

俯き言葉を失っていたなのはが問いかけてきた。

 

「知っていたんですか、あなたは……時空管理局があんなことをしていたって……」

「噂程度にはね。本格的に知ったのは、つい最近だよ」

「そんな……」

「人間は不完全な生き物だ。そんな生き物が集まって、作った組織が清廉潔白なわけがない。

 最初はそうでも、いずれ何かしらの歪みが出てくる……。

 勘違いしてはいけないのは、組織にいる全員が彼が言っていたような考えでは

 ないということだ。

 君達が信じていることを、同じように信じがんばっているものもいる。

 だが、君達にしろリュウケンドーにしろオルガードと戦うのはやめた方がいいだろう」

「お、おい!さっきは……!」

 

先ほどと言っていたことと反対のことを言う宇宙ファイターXに、リュウケンドーは驚く。

 

「では聞くが、彼が時空管理局以上に許せないものがあることをお前達は

 わかっているのか?」

「時空管理局以上って……」

「それが分かるまで、彼と戦うのは禁止だ。

 なに、お前なら考えればすぐにわかるさ。宿題みたいなものだと思って、考えてみろ」

「宿題って……」

 

リュウケンドーの肩を軽く叩きながら、宇宙ファイターXは後ろにいるなのはとフェイトに

顔を向けた。

 

「ああ、そうだ。さっき話に出てきた最高評議会だけど、これも調べるのは

 やめた方がいいぞ」

「どういうことですか?」

「だって、その人達が元凶なんだからなんとかしないと!」

 

宇宙ファイターXは二人に忠告をするが、納得できないとばかりに二人は反論した。

 

「相手は、君達が所属する組織のトップで権力と言う、おそらく君達が戦ったことの

 ない力を持った連中だ。

 組織の外側にいる私達はともかく、その気になれば君達は簡単に消されるぞ?

 家族や友人を人質を取られるか、洗脳という手段もある」

「「……っ!」」

 

述べられる非道な手に、なのはとフェイトは手で口を押さえ、悲鳴を押し殺した。

 

「悪いことは言わん。

 今日の出来事は知らせるのは、上司でも古くから付き合いのある者だけにしておいた方

 がいい。死にたくなかったらな……

 そして、考えろ。お前達が手にある魔法の力は、誰かを守る力にもなれば

 奪う力にもなるということを――何のためにその力を手にしたのかを……」

 

そう言うと宇宙ファイターXは、忽然とその場から姿を消し、驚いたリュウケンドーも

追いかけるようにその場を走り去った。

後に残ったのは茫然とするなのはとフェイト、そして点滅を繰り返す

彼女達の愛機のレイジングハートとバルディッシュだけだった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

明を狙った襲撃者達とリベリオンナイト改め、オルガードの襲撃から数日後。

なのはとフェイトは、見るからに落ち込んでいた。

授業も上の空で千冬の黒き宝剣(出席簿)を幾度となく喰らい、実技でも

今の状態で乗るのは危険だと千冬は判断しさりげなく乗せないようにしていた。

 

「(はやて達の励ましも目立った効果はなしか……)」

『(無理もない。自分が信じていたモノの根底が、揺るがされたんだからな。

 お前や弾だってそうだったろ?)』

「(そうだけど、俺達にはお前やゴウリュウガン、ザンリュウジンが

 支えて、教えてくれたから立ち上がれたけどあいつらは……)」

 

一夏は、“手を動かし”ながらも先日の襲撃のことをゲキリュウケンと話し合っていた。

 

『(力を手にし、戦士となったものは時に迷い、時に間違い仲間とぶつかってゆくことで

 自分だけの戦う理由というものを見つけていく。

 だが、なまじ彼女達は才能がありすぎたな。

 聞くところによると、力を手に入れた当初以外は自分達の行動や思いを否定されたことも

 ほとんどなく、人間と言う生き物の裏の面を知らずに、今まで過ごしてきたらしいからな)』

「(普通の犯罪は、言ってみれば表面的なもの。

 コインの表と裏みたいに、すごくいい人もいれば真逆の考え……

 信じられないぐらい残酷な考えをすることができる人間もいる……か)」

『(ところで、カズキから出された例の宿題は分かったのか?)』

「(う~ん?)」

 

手に持ったカードの中から出すカードを決めて、一夏は頭をひねる。

 

「(多分だけど……正解かもって答えはわかったよ。だけど……)」

『(何だ?)』

「(もし、これが正解だとしたら……オルガードは絶対に止めないといけない!

 だってそうだろ?

 一番許せないのが――大切なものを守ることができなかった、自分自身なんて!)」

『(…………)』

 

一夏の答えをゲキリュウケンは、黙って聞いた。

 

「(もしも俺が同じように明や千冬姉、弾、ゲキリュウケンを失ったらって、考えたら

 相手への怒りより守れなかった無力な自分に怒りが湧くと思う……。

 でも、上手く言えないけどそんなのってさ――!)」

『(大丈夫だ。言いたいことはわかる。

 だが、そうなったらお前は彼とちゃんと戦えるのか?

 カズキの宿題はともかく、オルガードと全力で戦えなかったのは

 分かっていないんだろう?)』

「(うぐっ!)」

 

一夏はゲキリュウケンの指摘が、胸に突き刺さるような感覚を感じた。

 

「(お、お前の言うとおりだけどさ……なんて言うかあの時感じたのは

 戦いたくないって言うより……懐かしい感じがしたんだ――)」

『(懐かしい?彼とは初対面のはずだろ)』

「(ああ。そのはずなんだけど、どこかで会った気がするんだ……。

 どこでだ……?)」

『(それはそうと、今は目の前の子を何とかしたらどうだ?)』

「(ははは。そうだな)」

 

意識をゲキリュウケンとの会話から目の前で行っていたUNOに向けると、

敗北し体をプルプルと震わせるラウラが、一夏の目に入ってきた。

 

「うぅぅぅ……ううう~~~。

 ま……まげ……まげまじだ/////」

 

目尻に涙を一杯に溜め、恥辱で顔を真っ赤にしながらラウラは敗北宣言をした。

 

「おい、やりすぎだぞ」

「明の言うとおりだぞ、一夏」

「そうやで」

「いくらなんでも……」

「えぐすぎるわよ、あの戦法は!」

「お姉ちゃんみたいに大人気ない」

「ちょっ!簪ちゃん!?」

「そうかな?」

「そうよ!」

「あれはねぇ~」

「はいはいラウラ。よ~しよ~し」

「うぅぅぅ、ひっぐ……」

 

その場にいた明達だけでなく、勝負を遠巻きに見ていた生徒もうんうんと頷いて

同意した。

最初の内は、一夏もラウラも1,2枚ずつカードを捨てていたのだがある時、

一夏がニヤリと笑うとリバースやスキップといったカードでラウラに番を回さずに

カードを捨てたのだ。

ラウラは、訳が分からずといった顔で見ていることしかできずあっという間に勝負は

ついてしまった。

 

「手を抜くのはよくないが、それにしても少しやりすぎだと思うぞ」

「うん。お姉ちゃんもたまにやるけど、むきになりすぎ」

「そう言われても、な~んかラウラを見ているとこう……イラっとするというか、

 負けたくないというか~」

「なんだそれは……」

 

明と簪の指摘に、一夏ははっきりしない言い方をして箒は呆れた声を上げた。

ちなみに、今まで一夏とラウラが勝負したのは七並べや神経衰弱、トランプによる

タワー作り等である。

いずれも一夏は初心者相手にやることではない、上級者の戦法を使って勝利している。

 

「言っておくけど、カズキさんと比べればかわいいもんだぞこれ?

 あの人相手が誰だろうと容赦しねぇし、相手がズルしてるって見抜くと

 もっとえげつないイカサマをするぞ?」

「なんや、簡単にその光景が浮かぶわ~」

「うぅぅぅ~わだじは、がだなぐちゃいげないのに/////」

 

一夏がはやてと話していると、シャルロットに抱きしめられて慰められているラウラが

涙声になりながら、声をもらした。

 

「あのおどごにも……ひっぐ、ぎょうがんのがおにどろをぬっだそいづにも……ひっぐ、

 がだなぐぢゃ……いげないのに……ひっぐ」

『(千冬の顔に泥を塗る?どういうことだ……って、ん?)』

「(あれだろうな~)」

 

ラウラが言う、一夏が千冬の顔に泥を塗ったというのはISの世界大会、

モンド・グロッソの第二回大会決勝で起きた事件のことである。

誰もが千冬の世界大会二連覇を疑わなかったが、

千冬は決勝を棄権しそのまま不戦敗となったのだ。

公にはなっていないが、決勝戦の裏側で一夏が誘拐されるという事件が起きていた。

千冬は、それを知るや否や愛機の暮桜を駆って、文字通り飛んで一夏を助けに駆けつけたのだ。

その時、一夏が監禁されている場所の情報を提供されたという“借り”を返すために

千冬はドイツで教官をすることになり、その後現役を引退しIS学園の教師に至っている。

 

――というのが表向きの“歴史”である――

 

『(本当は、異世界から侵略者がやってきて……)』

「(それを追いかけてきた、俺達のように何かを守るために戦う戦士……

 仮面ライダー達と一緒に時間を駆けて戦ったから、こうなったなんて……

 言えるわけないよな~)」

 

一夏の脳裏には、特に印象に残る自信家で連れの女性にあるツボを押されてしょっちゅう

笑い転がる写真家?と異様なほど運が無くセンスもどこかズレている青年、そしてお笑い

チームのような騒がしい面々の顔が思い浮かんだ。

 

彼ら仮面ライダー達と協力して、次元を超えて時間を破壊していくその敵を倒したまでは

良かったのだが時間が修復される際、一夏達の世界では一部の歴史が次元を超えた弊害か、

一夏達が魔弾龍と出会わず一般人として過ごした世界として修復されたのだ。

そのため戻ってきた一夏が気がついた時は、既に捕まった状態であり自力で脱出する前に

千冬が助けに来てしまったのだ。

 

「(まあ、でもその誘拐が千冬姉のデータや何やらを手に入れるためにドイツ軍が

 “ある組織”と協力してやったってカズキさんから聞いた時は驚いたなぁ~)」

『(それもそうだが、その情報をどうやって手に入れたのかも疑問だ……)』

 

誘拐事件後、何かを感じたカズキは独自にその事件を調査し真相を探り当てたのだ。

しかも……

 

「(“悪いことはもうしちゃダメだよ~って言ったら、”快く“ドイツの人達は俺達に力を

 貸してくれることになったから♪”って笑顔で言った時は、まじで引いたぜ――)」

『(だな)』

 

カズキはとかげのしっぽ切りみたいに、捨て駒を用意される前に迅速に包囲を固め

ドイツという国を丸ごと自分のパシリにし、千冬がドイツで教官をするのも一年間から

半年間に縮めたのだ。

 

『(だが、今問題なのはラウラをどうするかだ)』

「(別にこのままでいいんじゃね?って思ったけど、わかったよ。

 俺がこいつにイラついた理由が。だから、ここは……)」

 

一夏は、未だにシャルロットの胸に顔をうずめて泣いているラウラへおもむろに

近づいていった。

ラウラが顔を動かすたびに形が“変わるもの”を見て、ある者は舌打ちし、

ある者は指をワキワキさせていたのをスルーして。

 

「なあ、ラウラ。

 百番勝負でお前が、俺にISの勝負を持ちかけるのはできないけど……

 “俺が”お前に持ちかけることはできるのか?」

「え゛っ?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

翌日、第三アリーナで二機のISが向かい合っていた。

 

「ふっ。まさか、貴様からわざわざ勝ち目のない勝負を挑んでくるとはな!

 私の力を見せてやる!」

「かっこよく決めているところ悪いけど、あんまり意味ないぞ?

 もう、全員にお前が小動物みたいに生意気だけどかわいい子ってのは

 知れ渡っているんだから」

「うるさい!かわいいとか、言うな/////!!!」

 

ラウラは自身の機体、メインカラーが黒で肩部にある大型のレールガンが特徴の

シュヴァルツェア・レーゲンを展開して、堂々とした態度をとっていたが一夏によって

あっさりとペースが崩された。

 

何故こんなことになったのか。

昨日、一夏がラウラに質問したらいつの間にか彼らの近くにカズキが座っており、

彼が彼女の代わりに答えたのだ。

百番勝負で上のランクのものが自分達のランクでできる勝負を下位ランクのものに

申し込む場合、申し込んだランクの者と同位以上の者が了承すれば、

その者が審判をすることで可能とのことで、こうしてISの勝負となったのだ。

噂の“かわいい”転校生のラウラがいろいろと話題の中心であるルーキーの一夏と

勝負すると聞きつけて、観客席には多数の生徒が押し寄せていた。

 

「全く何考えてんのよ、あのバカ!」

「鈴の言うとおりだ。何故こんな勝負を……」

「落ち着いて鈴、箒。一夏にも何か考えがあるはずだ……多分……きっと

 メイビー……」

「信じているって顔ではありませんわよ、明さん?」

「でも、明が心配するのも仕方ないよセシリア。ラウラは僕達と同じ代表候補だけど、

 その強さは僕達より上だよ」

「本当なん、シャルロットちゃん?」

「多分、その通り……」

「うん。普段は、かわいいところに目が行くけど軍人さんだからかな?

 体さばきは、スムーズだし授業でも頭一つ飛び出てるよ」

「今の皆だと、1対1でやったら10回勝負して下手したら10回とも負けちゃうかもね……

 オマケにラウラちゃんの機体に装備されている機能は、一夏君とは相性最悪なのよね~」

「それを知っているのかしらね、あいつ?」

「う~ん……」

「どうだろうね……」

 

明達も一夏の意図がわからず、勝負をもちかけて呆れる者とラウラの強さを見抜いて

渋い顔を浮かべる者に別れた。

 

『それじゃ、二人とも準備はいいかい?』

「いつでも!」

「問題ない!」

 

管制室にいるカズキの声に、一夏は雪片を構えラウラは相手の攻撃をねじ伏せる

ように構えた。

 

『それじゃあ、試合…………開始!!!』

「おおおっ!」

「(予想通り)」

 

開始と同時に、一夏はラウラへ接近を試みそれを見たラウラはほくそ笑んだ。

 

「(確かにこいつの近接戦闘の技術は脅威だが、そのためには私に近づかないことには

 始まらない。来るとわかっていれば、“アレ”で止められる!

 斬撃を飛ばすという、遠距離対応の攻撃も試合開始直後に使うわけが……)」

 

そこまで思考し自分の機体、レーゲンの“アレ”を発動させようと右手を

かざそうとしたところで、ラウラの脳裏にニタァ~リと笑うカズキの顔がよぎり

背筋に冷たいものを感じた。

瞬間、ラウラの目に脳裏をよぎったカズキの笑みとそっくり笑みを浮かべる一夏の

顔が映った。

 

「おおおりゃっっっ!“三十六”煩悩鳳(ポンドほう)!!!」

「なっ!?この!!!」

 

一夏は、猛スピードでラウラへ接近する途中で足を使って無理やりブレーキーをかけ

セシリアとの戦いで見せた飛ぶ斬撃、“三十六煩悩鳳(ポンドほう)”を放った。

驚いたラウラは、右手を反射的な動きでかざし

切り札とも言えるAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を発動させた。

AICとは、ISに搭載されている浮遊、加速、停止を可能にしている基本システム

PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を発展させた慣性停止能力である。

これを発動させれば、対象の動きを封じることができ、一夏のような近接戦闘中心の

相手は恰好の的になるのだ。

だが、ラウラは予想外の攻撃にAICを発動“させられて”しまった。

 

「そこっ!」

「くっ!」

 

煩悩鳳を放った一夏は、そこで動きを止めず再び加速しラウラの上を取り雪片を

振り下ろすが、ラウラは接近戦用のプラズマ手刀を左手から出現させ一夏の攻撃を

受け止め鍔迫り合いになる。

 

「ふっ。腕にも負担がかかって、一試合に1回ぐらいしか使えない技を試合開始直後

 に使うわけがない……だからこそ使う!!!」

「……っ!あの男の弟子というわけはあるという……ことかっ!」

 

ラウラは気合いと共に、一夏を押し返そうとするが一夏はその勢いを利用して

バク転し身をかがめてラウラに足払いを行う。

 

「その程度っ!」

「どうした……って?」

 

一夏の足払いを難なくかわすラウラだが、そんな彼女の目の前に一夏が現れる。

 

「負けるかっ!!!」

「まだまだっ!!!」

 

ラウラはプラズマ手刀を両手に出現させ、一夏の攻撃に対抗し両者は目にも止まらない

攻防を展開する。

 

「まさか、いきなり私との戦いで見せたあの技を使うとは……」

「それも接近するための囮とは……」

「そうね。一夏君も言ってたけど、誰もいきなり切り札とも言えるあの技が

 来るなんて思ってなかったから最高の奇襲になったわ。

 しかも、防がれるって予想してたみたいね」

「だけど、ラウラちゃんが見せたあれって何かな?」

「あれはアクティブ・イナーシャル・キャンセラー、AICって言って簡単に言うと

 相手の動きを止めちゃうの」

「はぁ!?反則みたいなものじゃない、それ!」

「楯無さんが言ってたのはこれなんですね。

 AICは1対1だとアリサの言うように反則的な効果を発揮するよ。

 特に一夏みたいに近接戦闘主体にはね」

「待ってくれ、シャルロット。お前の言う通りなら、何故ラウラは今AICを

 使って、一夏の動きを止めないんだ?」

「止めないんじゃなくて、止められないのよ箒」

「どういうことや鈴ちゃん?」

「一夏くんは、ただいつものように接近戦をやっているようにしか見えないけど……?」

「待って、なのは。一夏の動きがいつもとちょっと違うような……?」

 

フェイトの言葉に、皆が一夏の動きに注目する。

 

「へぇ~AICの弱点を見抜いたか」

『何だよ、その弱点って』

「AICを使うには集中力が必要でね、どうしても相手を自分の視界にいれておく

 必要があるんだ。

 人間の目っていうのは、縦と横の動きに比べて斜めの動きを追う力は弱い。

 だから、一夏はラウラの視界に斜めに映るように動いている。

 まあ、追いにくいって言ってもゼロコンマぐらいの差だろうけど、それだけ

 あれば……結果は見ての通りさ」

 

管制室からは、一夏が二刀のプラズマ手刀を雪片でさばいて若干押し気味になって

いるところが見えた。

 

『それじゃ、この勝負は一夏の勝ちなのか?』

「それはどうかな~?

 ラウラだって、俺や千冬ちゃんの教えについてきたわけだし、

 一夏がラウラのことをいろいろ聞いてきたのと同じように、ラウラも一夏の

 戦闘記録とか調べにきたからね~

 さてさて――?」

 

カズキは見極めるように、二人の戦いを観戦するのであった。

 

 





リベリオンナイトの本当の名はオルガードと判明。
星の大樹がなくなったことで、彼の命は長くないですがある方法で
延命しています。その方法が、オルガードが地球で全力で戦えず
また一夏が全力で戦えない理由になります。
オルガードは地球以外なら、リュウガンオーやカズキなら真実を
知って戦えにくいというの理由を省くなら全力で彼と戦えます。

今回、なのはとフェイトが挫折しましたが一夏と弾もまた人間の裏側を
知ったりして挫折したことがあります。

仮面ライダーと出会った事件。何とか力を合わせて、解決できましたが
全てが上手くいったというわけではなく(汗)

カズキがドイツに殴りこむ前にある程度、黒幕のお偉いさん達はやられていました。
噂では同じように真実を探り当てた人物が、カズキよりも前に
ドイツに単身乗り込んでやったとか。
その人物は日本の主婦がするようなエプロンをしていたとか……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密というのはいつかはバレる


今年、最初の更新です。
今回は笑いのテイストにしましたので、楽しんでもらえれば幸いです。


「はぁぁぁっっっ!!!」

「うおぉぉぉ!!!」

 

一夏とラウラは、しばしの間互いの得物をぶつけ合うこう着状態となった。

 

「これはどうだ!」

 

ラウラは、一夏がいつもやっている相手の力を利用して距離を取ったり、体勢を

立て直す方法で一端距離を取ると、その場で回転しながら両肩のワイヤーブレードを

時間差をつけて一夏へと飛ばす。

 

「……っと!」

「それで終わりではない!」

 

一夏はワイヤーブレードを雪片で捌くが、ラウラは残りのワイヤーブレードを出し、

合計6本による同時攻撃を行う。

 

「数は多いけど、これぐら……っ!?」

 

6本のワイヤーブレードの攻撃を捌く一夏だが、ラウラがレールカノンの発射態勢に

入るのを見て急いで回避行動を取る。

 

「これで終わりではないぞ!」

 

レールカノンを避けられるのを想定していたのか、ラウラは一夏が回避した先をAICで

止めようとする。

 

「まずいっ!――瞬間加速(イグニッション・ブースト)!」

 

AICの効果範囲がどれほどかわからないが、このままではそれに捕まると察した一夏は

イグニッション・ブーストを使ってAICは発動するより先に効果範囲を通過する。

 

「ちっ!逃げるのは上手いようだが、いつまで逃げられるかな!」

 

ここぞとばかりに、ラウラは先ほどよりも鋭い6本のワイヤーブレードによる同時攻撃を

再び一夏へと行う。

 

 

 

『ありゃ~。一気にラウラが流れを掴んだね~』

「へぇ~。

 昔みたいに単純にAICを使って、相手の動きを止めて倒すんじゃなくて

 他の武器を混ぜたコンビネーションができてるね~。

 おまけに俺が教えた力の受け流しも組み込んでるな」

『コンビネーション?』

「ああ。ドイツに行った時、お前も見ただろうけどラウラはAICならAICだけを、

 レールカノンだけならレールカノンだけで相手を倒そうとして、何かを囮にして

 本命を叩きこむって発想がなかった。

 もちろん、全ての攻撃で相手を倒すようにするのは悪くないけど、それだと

 防御されたり、かわされたりした時、次の攻撃に移る際一手遅れてしまう。

 実力が互角同士だと一手の遅れはかなりデカい。

 だけど、今はワイヤーブレードで攻めつつ時折レールカノンを叩きこんでいる。

 当たればそれでよし。防御されたりかわされても、相手は動きを止めたり態勢を崩す

 からそこをAICで動きを止めて攻撃する。

 連携って奴ができているのさ」

『てことは、一夏の奴かなりヤバイんじゃねぇの?』

「そうだね~。攻撃したくても距離を取られちゃったし、煩悩鳳(ポンドほう)の

 奇襲も通用しないだろうね。

 さぁ、どうする一夏?」

 

管制室でカズキは、おもしろそうに一夏のピンチを見ていた。

 

 

 

「ちょっと、一夏の奴押されてるじゃない!」

「ええ。アリサさんの言うように、厳しい状況ですわね」

「近づこうにも、あのうっとおしいワイヤーブレードを何とかしないとダメね」

「鈴が言ったことができても、それにもたついてたらレールカノンで狙い撃ち……」

「そして、それをかわせてもAICに捕まったらアウト」

「それでは八方ふさがりではないか、簪!」

 

観客席で見ていた箒達は、一夏が今までになく苦戦する様を見て焦る。

 

「落ち着いてください、皆さん」

「しかしだな、明!」

「一夏君を見てみて、箒ちゃん」

「彼、ちっとも焦ってないわよ?」

 

すずかと楯無に促されて箒達は一夏を見てみると、そこには追い込まれて苦しむ顔ではなく冷静に反撃を窺っている戦士の顔が浮かんでいた。

 

「あいつにとって、こんなピンチなんていつものことだと言うことです」

 

どこか呆れてそれでいて絶対の信頼がこもっているように明はつぶやいた。

 

 

 

「これでも……喰らえ!」

「何っ!?」

「「「「「えええぇぇぇっっっ!!!?」」」」」

 

皆が見守る中、一夏は信じられない攻撃を行った。

雪片を槍のごとく、ラウラへとブン投げたのだ。

 

「こんな苦し紛れが……!」

 

意表をついた攻撃だったがラウラには通じずAICによって、投げられた雪片は止められてしまう。ラウラはそのまま、レールカノンを放とうとするがそこで言葉が途切れてしまう。

 

「どっっっせいぃぃぃ!!!」

 

見ると、一夏がワイヤーブレードの一本をその手に絡ませてラウラを自分の元へと

引き寄せていたのだ。

 

「相手に近づけないなら、相手に近づいてもらえばいいのさ!」

「……っの!」

「おりゃぁぁぁっ!」

 

一夏は、ラウラがAICを発動させるためにブン投げた雪片に意識を集中させた隙に

ワイヤーブレードを自分の手に絡ませたのだ。

そして、反撃とばかりに引き寄せたラウラに拳を叩きこむ。

 

「!!!?」

「おりゃりゃりゃ!!!」

「……舐めるなっ!」

 

連続で拳を叩きこまれるラウラだったが、いつまでもやられっぱなしではないと同じように

拳を叩きこもうとする。

 

「甘いぜ!」

「なっ!?」

 

一夏はラウラの拳をしゃがみ込んでかわすと、そのまま逆立ちしカポエイラの要領で

蹴りを放った。

 

「……がっ!」

「剣だけが取り柄だと思ったか?

 生憎と、武器や一つの力に頼りきったらそれが無いと何もできないからって

 いろいろと叩きこまれたんで――ね!」

 

ダメージからふらつくラウラに、一夏は彼女を殴り飛ばすと素早く先程投げた雪片を回収する。

 

「どうした、それで終わりかラウラ?俺に勝ちたいんじゃないのか?」

「負けられない……お前にもあの男にも負けるわけにはいかない……!」

「……なあ。どうして、そこまで俺やカズキさんに勝つことに拘る?」

「決まっている……!

 教官の輝かしい経歴に傷をつけ、堕落させるお前たちは倒さねばならんのだ!」

 

息を大きく乱しながらも、ラウラは立ち上がるとそう言い放った。

 

「……ふぅ~ん?けどさ、それじゃカズキさんにも俺にも勝てないぜ?

 そんな嘘ぱっちの理由じゃな」

「嘘ぱっちだと!」

「ああそうさ!お前が俺達を倒したいのは、そんな理由なんかじゃない!

 もっと単純で、バカらしいけど絶対に譲れないこと……!自分のためなんだよ!」

「貴様っ!!!」

 

一夏は雪片の切っ先を真っ直ぐラウラへと向けて挑発するようなことを言うと、

煽られたラウラはプラズマ手刀を掲げ突貫してきた。

 

「自分の憧れる人が、自分以外の誰かに笑顔にされる……」

「このっ!」

 

先ほどまでとは違いラウラは子供のようにプラズマ手刀を振り回し、一夏はそれをかわしていく。そんな中でラウラの脳裏に、ドイツで見た鬼教官というのを体現したような千冬が優しく微笑む顔がよぎる――

 

「自分が見たことない表情をそいつは、簡単にさせることができる……」

「うるさい!」

 

苦々しく言うが、頬を赤く染め照れ臭そうにカズキのことを語る千冬――

 

「自分にはできないことをあっさりやってのけるそいつのことが羨ましくて、自分から

 その人を取ってしまうかもと考えると怖くなって……」

「黙れぇぇぇ!!!」

 

一夏への怒りではない何かをごまかすようにラウラは、叫びを上げる。

 

「自分の気持ちにはきちんと向かい合わないと、見えるものも見えなくなるぞ?

 大体、経歴とか堕落とか言うけどお前は千冬姉のことをどれぐらい知っているんだよ?」

「何を言うかと思えば、私は全て知っている!

 あの人は何よりも気高く、誇り高い人だ!」

 

プラズマ手刀と雪片がぶつかり火花が両者の間に散る。

 

「そんなのは、誰が見ても思うことだと思うぞ?

 例えば休みの日で千冬姉が、家でどんな風に過ごしていると思う?」

「どんな風に過ごしているかだと!そんなの……」

「いつも昼近くまで寝て、だらしない恰好ですごしているんだ――ぞ!」

 

観客が一瞬声を失うのも気にせず、一夏はラウラを思い切り弾き飛ばし、追撃していく。

 

「IS学園で気を張っている反動か、家だと服は脱ぎっぱなしだし、返事も生返事!

 床で昼寝して足でモノをとるなんてこともしょっちゅう!

 オマケに負けず嫌いだから、ゲームとかで負けるとすっげぇ~ムキになって

 リベンジしてくるし、家事もイマイチだ!

 正直、カズキさんがいなかったらちゃんと嫁にいけるのかどうかも怪しいな!」

「ふざけるな!教官がそんなダメ人間なわけないだろ!」

「そういうダメなところがあるんだよ!千冬姉には!

 典型的な仕事はできるけど、家だとアレないわゆるまるでダメな大人な

 “マダオ”なんだよ!」

 

きっぱりと言い切る一夏に面食らうラウラだったが、それを見ている観客、

特に明達はそれどころではなかった。

背後からヒシヒシと感じるプレッシャーに冷や汗が止まらなくなっているのだが、アリーナーで戦っている一夏はそれに気付かず、管制室のカズキは腹を抱えて笑いを堪えていた。

 

「ラウラ!お前にとって、千冬姉はなんだ!」

「さっきから一体何を……!」

「俺にとって千冬姉は、千冬姉だ!

 世界最強だろうがそうでなかろうが!マダオだろうが!

 自分の気持ちに素直になれない恋愛不器用だろうが!

 千冬姉は俺の最高の姉さんだって、事実は変わらない!

 例え、俺のそばから離れたとしてもな!」

「!?」

 

一夏の言葉にラウラは動きを止めて固まり、決定的な隙を作ってしまう。

 

「大切な人……大好きな人とずっと一緒にいたいっていうのは当たり前の感情だ――。

 けどな!それじゃダメなんだ!

 いつまでも手をつないで引いてもらっているだけじゃ、一人で歩いていけない

 子供のままだ!」

「……っ――」

 

零落白夜を発動させて雪片を振り下ろす一夏の姿をラウラは、驚きで見開いた目で映しながら、

ドイツでの千冬とのあるやりとりを思い浮かべた。

 

 

 

ラウラは、戦いのために生み出された試験管ベビーだった。

教えられたのは敵を倒すための知識と技術、武器の使い方で彼女はそれらを高水準で

身につけていった。

そんな時、ラウラに転機が訪れる。

世界最強の兵器として認識されてしまったISの登場だ。

 

ドイツはISの適合性向上のために“ヴォーダン・オージェ”という処置をラウラと同じように

生みだされた姉妹たちに施した。

それは擬似ハイパーセンサーとも呼べるもので視覚の認識速度、動体視力の爆発的向上をもたらすものであった。

 

理論上は、危険性もなく不適合も起きないはずだったのだが、それが“起きて”しまった――。

ラウラは処置された“ヴォーダン・オージェ”が、常時発動状態という制御不能となってしまった。

そのため、ラウラはIS訓練で後れを取ることとなり、“出来損ない”の烙印を押されてしまう。

 

そんな彼女に二度目の転機、一夏が誘拐された時の情報提供の借りを返すためにドイツに

教官としてやってきた織斑千冬との出会いが訪れる。

千冬は特別な訓練をしたわけではなかったが、一か月ほどラウラが千冬の訓練についていくと

彼女は部隊のトップに立っていた。

そして、ラウラは千冬に憧れるようになる。

子供がテレビの中のヒーローを見て、こんな風になりたいと思うように純粋に真っ直ぐに――。

 

ある時、ラウラは千冬へと尋ねる。

“どうしてそんなに強いのか?どうすれば強くなれるのか?”と。

千冬は少し驚きながらも微笑みながら答えた。

 

「難しいな。私が思うに守るものと追いかけるものがあることが、一つの

 答えだと思う」

「守るものと追いかけるもの……ですか?」

「そうだ。私には、弟がいる。何かと手のかかる奴でな?

 あいつを守るために強くなろうと鍛えていたら、いつの間にか今のようになった。

 それだけだ」

「弟……」

 

優しく笑いながら、どこか自慢げな千冬の顔にラウラの胸にチクリと痛みが走った。

 

「そして、追いかけるものだがこれは目標だな。

 勝ちたい、超えてみたいと思うものの存在だ。それがあると自分の

 鍛え上げがいがあるだろ?いつかあいつに目にモノを……」

 

不敵に笑ったかと思ったら、拳をグヌヌと握りしめ燃えているかのような気迫を放つ千冬に

ラウラは後ずさる。

そんな中でラウラは、今まで感じたことのない感情が心を染めていくのを感じていく。

 

その数日後に千冬が追いかけるものと出会い、心を染めていた黒いモノが灰色になるのは

また別の話である。

 

「はっ!――ゴホンゴホン!とにかくだ!

 強さというのに、明確な答えというのはない。

 様々な出会いによって、自分なりの答えが見つかっていくものだ。

 いつか日本に来ることがあったら、一度会ってみるといい。

 だが、忠告しておくぞ?あいつらは――」

 

 

 

「あ、ぁぁぁ……」

 

ラウラの視界には青空が映っていた。

どうやら、数瞬ほど意識が飛んでいたようだ。

 

「お~い、大丈夫か?」

「自分でやっておいて……よく言う……」

 

結論から言うと、一夏の勝ちであるがラウラは倒れた自分を心配する一夏にどの口がそう言うのかと若干恨みがましく言いながら立ち上がる。

 

「二人ともお疲れ様~」

「カズキさん!」

「…………ふん」

 

管制室からやってきたカズキに、一夏は挨拶するもののラウラはそっぽを向いた。

 

「ラウラちゃ~ん?

 一夏に負けて、その上自分がやっていたのがお姉ちゃんを取られたくな~いって

 いう子供のような嫉妬だったからって、そんなに照れるなよ~」

「なっ!?ち、違っ……!」

「違うのか?」

「あっ、えっ?……う、ぅぅぅ~~~/////!!!」

 

カズキに自分の心情をバラされ、違うと言おうとした自分を心底不思議そうに見る一夏に

ラウラは顔を真っ赤にして唸るしかなかった。

 

「もう!碓氷先生も、一夏もラウラをイジめちゃだめだよ!」

「ええ。シャルロットの言うとおりです。二人ともからかいすぎです」

「せやけど、シャルロットちゃん?明君?

 見てみぃ~あのプルプルと顔を真っ赤にして震えるラウラちゃんを♪」

「はやてちゃんったら~。……今度ユーノくんにやってみようかな?」

「ちょっ、すずか!?何言ってんのよアンタ!!!」

「あんな風に私も一夏さんにイジめられたら……」

「待ちなさいセシリア!そっちに行くのは、ヤバすぎるわよ!」

 

観客席の中でも一夏達と一番近い場所に降りてきたシャルロットや明が、ラウラをからかう一夏とカズキに注意するが一部に同じような危ない快感を覚えるものもいたりした。

 

「しかし、一夏。勝ったのはいいが、いささかズルイのではないか?」

「うん。口でラウラのペースを崩していたから、実力で勝ったとは言いがたい……」

「箒ちゃんと簪ちゃんの言うとおり。ちょ~~~っとこズルすぎるんじゃないかしら?」

「うぐっ!」

「そうだよね」

「碓氷先生なら、やっておかしくないかもだけど……」

「君も言うことは言うね~フェイト~」

 

今回の一夏の戦い方への非難に加えて、さりげなくカズキにもその煽りが向けられた。

 

「まあ、何はともあれ。一夏、今回の勝負を仕掛けた理由をそろそろ話したら?」

「そうですね。

 もう皆は分かっていると思うけど、こうやって一回ラウラが溜めているモノを

 吐き出させるのと、俺やカズキさんに絡んでくるのがなんでかっていうのを気付かせる

 ためだったんだよ。

 それで、俺がラウラにイラついていたのは……昔俺もその……あれだ……」

「同じようなことをしたからっていう、同族嫌悪って奴だね♪」

「うっ……」

 

ラウラに試合を申し込んだ理由を話す一夏だが、だんだんと歯切れが悪くなりカズキが

“いい”笑顔で一夏が言いたいことを纏める。

 

「「「「「「「「「「「「ふ~ん……?」」」」」」」」」」」」

「あは…………あははは……。

 ま、まあ俺もまだまだ子供で成長中ということで……!」

「要するに、一夏もラウラちゃんと同じように子供じみたことはしたことがあるから

 そんなに恥ずかしがることはないってことだよ~」

「う~~~~~//////」

 

明達にジト目で見られ一夏は明後日の方向を向いてごまかし、ラウラはカズキに

一応フォローされるもののまだ顔を赤くして唸っていた。

 

「そうだな……ないことないことを楽しそうに話しているようでは

 まだまだガキだな――」

 

地の底から響く様なその声が聞こえた瞬間、一夏達は重力が数倍になったかのような

感覚を体感した。

 

「ち、千冬姉……」

「どうした?せっかく、先ほどの戦いを褒めに来たのにどうしてそんなに逃げ腰なんだ?」

 

影が差した笑顔を浮かべながら、拳をバキボキと鳴らしてやってきた千冬に明達や離れたところにいる観客達も震え上がり、一夏も弟としてこれはISを装着しててもヤバイと本能が警鐘を鳴らしていた。

 

「ち、千冬姉……?ほ、褒めに来たならなんで拳を鳴らしているのかな~なんて……」

「これか?いや、何。

 最後の方は実力で追い詰めたとは言えないから、これから直々に鍛えてやろうと

 思ってなぁ~?」

「い、いや~そ、そんない、忙しい織斑先生の手をわざわざ煩わすわけには……」

「生徒がそんなことをいちいち気にするな……。

 後で、山田君にでも押し付k……ではなく手伝ってもらうから問題なしだ……」

 

顔をひきつらせながら、一歩一歩後ろに下がる一夏に近づいていく千冬を傍でおもしろそうに

見ているカズキ以外の者は、近くにいたラウラも含め退避し始めた。

 

「全く試合中に、嘘八百な余計なことをほざくとは……フフフ」

「う、嘘八百も何も全部本当のこと……て、てかそれが本音……」

「ほぉ~?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」

 

口元は笑っているが目は得物を狙う獣ように鋭く輝いており、一夏は目で助けを

周りに求めるものの皆、視線を逸らした。

 

「まぁまぁ、落ち着いて千冬ちゃん♪

 一夏も昔の自分にそっくりだったラウラちゃんをほっとけなくて、

 いきおいがついちゃったんだよ~。

 それに千冬ちゃんのことをそんなに知っているのは、それだけ大好きだって

 ことなんだからさ~。

 こんなこともするぐらいだよ?」

 

一夏に自分の私生活を暴露されて落とし前をつけるために、にじり寄る千冬をなだめながら、

カズキは手に持つリモコンのスイッチを押すとアリーナーにある大型スクリーンが起動した。

 

“ぢふゆねぇをどらないでよ~/////ちふゆねぇ……どっぢゃ……やだ//////”

 

以前カズキがバラしたズボンの裾を握りしめながらプルプルと震えて涙を流して

学生の頃と思われるカズキに懇願するちんまい一夏の姿の……動画が流された――。

 

「なっ!?」

『は?』

『へ?』

「「「「「「「きゃあああああぁぁぁぁぁ///////////////!!!!!!!!!!」」」」」」」

「ぎゃあああああぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

映像が流れて一拍ほど後に、アリーナーが揺れる程の歓声と叫び声が上がった。

 

「天使よ……この世に舞い降りた天使よ!!!」

「ちんまい子が涙目でおねだり……ハァハァ……」

「これは――濡れるっ!」

「我が人生に一片の……悔い……無し!ガクッ……」

「しっかり!傷は浅……くはないしわかるけど、戻ってこい!」

 

映像を見た観客席は、いろんな意味で大混乱だった。

そして明達は――――

 

「「「……ぶはっっっっっ!」」」

「ちょっ!セシリア、鈴、楯無さん!

 何、鼻血出して倒れるんですか!」

「はぁはぁ……お、お前だってそうじゃないかシャルロット……」

「あ、あなたもですよ箒……はぁはぁ」

「明もね……。

 涙目の一夏――記録記録っと」

 

セシリア、鈴、楯無の三人はちんまい一夏のあまりのかわいさに鼻血を吹き出し真っ赤な海に倒れこんだ。駆け寄るシャルロットも倒れはしていないが、鼻血を流していた。それを指摘する箒と明もまた、地面に手をつき鼻を押さえたもう片方の手からは赤い水が滴り落ちていた。

簪は、男の明が何故姉達と同じ反応をするのかと疑問に思うが、そんなことより映像の記録に

勤しんだ。

 

「あ~あ~、箒達すっかりやられたわね」

「仕方ないよ、アリサちゃん」

「せやで。あれは、ある意味なのはちゃんの魔砲より破壊力あるで~」

「どういう意味かな、はやてちゃん?でもあれはかわいいね/////」

「うん。もしもユーノが同じことをしたら……」

「「「「――――ぶはっ!!!!!」」」」

「ちょっ、皆!?どうしたのいきなり!!!」

 

なのは達は、顔を赤らめながら明達の姿を見ていたがフェイトの何気ない言葉になのは以外の4人が同じように鼻血を出して倒れ込んだり、悶えたりした。

 

「ほぎょえああああああああああ!!!!!!!!!!」

「………………」

「ふふふ。どうやら、一夏が自分のためにそんなことをしていたのかと感激して

 顔に出ないように内心で悶えているようだね~」

『(ガチで悪魔だなこいつ……いろんな意味で)』

「ふむ、これがかわいいという奴か……皆が騒ぐのも納得だな/////」

 

一夏は顔を真っ赤にして手で顔を隠し、地面をゴロゴロと言葉にならない悲鳴を上げて転がっていた。ISを装着したままで。

映像を見た千冬は、時が止まったかのように固まりカズキはその様子をみてケラケラと笑い、

ザンリュウジンは苦笑していた。

その傍らで、ラウラはかわいいというモノがどういうことか学んでいた。

 

余談だが、後日流された映像を見たあるクラスの担任も明達と同じ反応をして幸せに満ちた顔で気絶した。そのため、その日は副担任が担任の分まで仕事をしてストレスがとんでもないことになったのは一夏達には関係ないことである。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「準備は整いました。後は時を待つだけ。

 残る不安要素は……やはり、魔弾戦士ですね」

「そうなるな……」

 

暗くどこまでも暗く、温かさというものが一切感じられない空間で二つの影が

話し合っていた。

 

「魔弾戦士だけでなく、仮面ライダーなる戦士達も要注意です。

 彼らを倒さんとした者達の敗因は、彼らを侮ったこと。人間を舐めていたことです」

「確かにそうだが、戦士達はともかくあのような愚かな生き物のどこにあれ程の力が

 宿っているのか未だに理解できん……」

「その愚かしさも含めて、人間の強さなのでしょう。

 ……魔弾戦士を倒すには、こちらもある程度のリスクを覚悟しなければなりませんね」

「下手に戦えば、奴らの力が増大してしまうからな……」

「ええ。彼らは土壇場に追い込まれると、想像もしない力を発揮します。

 ここは危険ですが、彼らを倒すために敢えて逆鱗に触れるようなことをしようと

 思います」

「感情によって、どれほど能力が上がるのかというデータを取るのと時間稼ぎだな?」

「倒せれば、それでよし。倒せなくてもコレのいい実験になるでしょう……」

「ほう~コレは……」

「人間は侮れない生き物ですが、同時に愚かな生き物でもありますからね……」

 

誰も知らない場所で、悪意は着々とその刃を研いでいた――

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オ マ ケ ☆

 

「はぁはぁ……一夏ったら、あのかわいさは反則よ/////

 ルール違反よ/////」

 

鼻にティッシュを詰めて顔を赤くしながら、鈴はアリーナの更衣室へと向かっていた。

一夏がやけに明と一緒にいるから、そっちの気があるのかとシュテル達に相談したところ女の園で同年代の友人がいるからうれしいだけだろうと言うことで、ライバル達にも差をつけるために食事でも誘おうとしているのだ。

 

「あら、あれは鈴さん?一体何を……はっ!まさか抜け駆けを!

 そうはいきませんわよ!」

 

一夏がいる更衣室に向かう鈴を目撃したセシリアは、瞬時に鈴の目的を察し

追跡を開始した。鈴と同じように鼻にティッシュを詰めながら。

 

 

 

「あう~/////」

「そんなに落ち込むな、一夏」

『子供だったのだし……な?』

 

更衣室で座りながら、未だ一夏は顔を赤くして手で隠していた。

明やゲキリュウケンがフォローするも、大した効果はなかった。

 

「まあ、いいではないか。自分の恥ずかしいことがばれるのもまた青春だ♪」

「顔とセリフが合ってないぞ……」

 

明は普段からかわれていることの仕返しか、にこにこしながらチクチク攻撃をしており、

一夏はそれを恨めしそうに見ていた。

 

「そんなに言うなら、お前も恥ずかしいことをばらして青春してみるか?」

「な、何を言って……るんだ?」

 

口を怪しく歪ませながらユラリと立ち上がった一夏に、明は後ずさる。

 

「部屋での着替えは、どっちかがシャワールームに入ってやるけどお前……

 俺の着替えしている時、聞き耳を立てたり覗いたりしてる……よな?」

「にゃ、にゃにをっ!?」

 

一夏の口から出た思わぬ言葉に、明は言葉が裏返ってしまう。

 

「ISスーツに、着替える時もこっちをチラチラと見ているよな?

 そんなに俺の着替えに興味があるのかな?」

「い、いや……だからそれは……」

 

明を逃がさないようにジリジリと近づいていくと一夏はロッカーに手をつけ、明の退路を断った。所謂壁ドンという奴である。

ちなみに一夏の上半身は、シャツを着ているだけでありボタンも閉めていない。

にじりよられた明は顔を逸らしながらも、チラチラとそこから見える一夏の体を見ていたりする。

 

「そんなに見たいなら、いっそのこと一緒に着替えるか?」

「い、一緒に着替え/////!?」

「お前次第だけど……どうする?」

『(こいつら、私もいるということを忘れていないか?)』

 

ここぞとばかりに普段の反撃をした明だったが、結局いつものように一夏にからかわれ顔を真っ赤にしてオロオロしてしまう。そして、からかうことに夢中な一夏も頭に血が上って周りが見えない明も桃色な空間に放り込まれて現実逃避したいゲキリュウケンも気がつかなかった。

このやりとりを見ている者達がいたことを。

 

「(て、手遅れ…………!!!!!?)」

「(どどどどどどういうことですの!!!!!)」

 

一夏と明のやりとりの一部始終を見ていた鈴とセシリアは、顔を真っ青にして信じられないとばかりにガタガタと体を震わせた。

 

 

 





一夏がラウラにイラついたのは、昔の自分に重なったからでした~
千冬とカズキが知り合うようになるとラウラに言ったように、見たこと
ない笑顔を千冬がするようになっていったので、自分から取らないでぇ~
とおねだりしました。涙をポロポロとこぼしながらwww
その時、カズキは驚きましたが少し考えて一夏に諭すようなことを言っています。
これをきっかけに一夏はカズキに懐くようになるのですが、そうすると今度は千冬の視線が
とんでもないことにwww

オマケはこの後、二人とも泣きながら逃亡し、そのわけを聞いた一部の”ふ”女子が喜ぶことに。

今年も応援よろしくお願いします。m(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悩める龍と恋する乙女達


今回も前回に続いて笑いのテイストに仕上がりましたwww


「ええ。そちらの映像が、あのおねだりがバレた時の一夏とそれを見た千冬ちゃんの

 反応になります。

 ――そうですか。楽しんでもらえたなら、こちらとしても幸いです……はい」

 

薄暗くなった自室で、誰かと電話しているカズキだが内容からして普段のからかいに近い

ものの、変に真面目にやっているせいで妙な空気が漂っている。

 

「もちろん、これからも二人のおもしろい映像は随時送ります……そのように――。

 それではこれで失礼します、全放課後CLUB統括名誉会長――雅さん」

 

カズキは怪しげな笑みを浮かべながら、電話を切った。

 

「お~っといけないいけない。彼女達に、ラウラちゃんの写真を送るのを忘れるところだった♪

 え~っと、暗躍忍者からオタク軍人へ……っと!」

 

カズキのパソコンからある人物に、ラウラが百番勝負に負けてプルプル震える等の

画像データが送られると数分後、ドイツ軍である部隊の副隊長が悶えるのを合図に

隊員全員が一日中奇声を上げて悶えたらしい。

 

『やれやれ。お前もホントよくやるよな、イロイロと』

「ふふふ。だってさ、ザンリュウ?こんなおもしろいことが、他にあるのか?」

『それは……そうだな♪』

 

ザンリュウジンと他愛無い会話をしながら、カズキはIS学園に来てから撮りためた様々な

画像のデータを整理していた。無論、それは映っている者が見たら声にならない叫びを

上げるものだと言うのは言うまでもない。

 

「とりあえず、これでラウラちゃんの問題はほぼ解決っと。

 それにしてもこんなかわいい子に、こんなことをしようとするなんて

 何考えているんだか……」

 

先ほどまでの楽しそうな笑みから一転して、攻撃的な笑みを浮かべたカズキは

机の上へ無造作に、Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)と書かれたファイルを放り出した。

通称、VTシステムと呼ばれるそれは、優秀なIS操縦者の動きをIS自身で再現させるシステムで

あり、パイロットに自身の限界以上の動きを強要させるため、命の危機もありうる

危険なシステムである。

現在、あらゆる企業や国家で開発が禁止されている。

しかし、歴史が修正されて一夏が誘拐されたことになった際、その情報がドイツから千冬に知らされたことに引っかかるものを感じたカズキが調べたところ、秘密裏にVTシステムの研究が行われていることを知り、それに千冬のデータを利用しようとしていることも分かったのだ。

 

「全く、純粋に弟を守るために鍛えた千冬ちゃんの力だけでなく、自分達が生み出した

 命も“モノ”として扱うなんて――ほ~~~んとおもしろいことをしてくれたよね~。

 まあその分、久しぶりに“いい声”が聞けたからいいんだけどさ~ククク」

 

口角をこれでもかと鋭く吊りあげながら、カズキは地の底から響き聞いただけで震え上がりそうな笑い声を静かに部屋に響き渡らせた。

 

そう、VTシステムの研究者達は適性があるからと密かにラウラのシュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムを仕込んでいたのだ。システムの発動には、一定以上の機体の破損具合と搭乗者の願望で起動するよう設定されており、起動したらデータを取るだけ取って、後は知らぬ存ぜぬでラウラを切り捨てる算段であったようだ。

 

『けどよ、カズキ?何で、あいつら全員を地獄に送らなかったんだ?』

「おいおい、ザンリュウ。俺は、争いごとを好まない平和主義者だよ?

 無暗に、三途の川を泳がせるなんてことするわけないじゃないか~」

『よくもまあ、そんなことをペラペラと言えるよな。

 あれを見る限り、いっそ楽にしてやった方がいいような気もするんだが……』

 

ザンリュウジンの言葉に心外だと言わんばかりに、平和主義者と主張するカズキだったが、

実際に研究者達に行ったことはその言葉からは程遠かった。

カズキはVTシステムの研究所を襲撃した際に、そこにいた者達を半殺しにしたり、研究されていたシステムの実験にそいつら自身を使って代わりに行ったりしたのだ。

 

“自分達の研究を自分達で体感した方が、いいデータが取れるじゃないか~♪

それで、何か起こってもそんな半端なモノを作ったお前らにも責任はあるよね☆”

 

と言い放ち嬉々として、システムを起動させた。

おかげでそいつらはベッドを一生の友として過ごしたり、精神がおかしくなってしまったりした。

また、女よりも男の方が好みなたくましい者達の元に送られた男性研究者達もいるのだが、

送られた後にどうなったかは誰も知らない……。

 

「まあ何はともかく、こいつを研究していたところは全て叩きつぶせたから

 これはもういらないな。

 一夏や彼女達の明日にこんなものは――――必要ない――!」

 

カズキは、ライターを取り出すとVTシステムのファイルを燃やし、パソコンに記録した

データも全て消去した。

 

「さぁ~て、コレのことを考えるのは後にして、この間録画した

 “世界の動物の赤ちゃん、寝顔特集♪”でも見て癒されますか~♪」

 

そう言ってテレビの前に移動した後、机にあるパソコンには

“学年別トーナメントにおけるタッグについて――”という文字が浮かんでいた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そ、それ本当なの!?」

「う、ウソじゃないよね!?」

 

一夏とラウラの対決から数日程すぎたある日の朝、一組の教室では廊下に響き渡る程の

興奮した声が飛び交っていた。

 

「本当なんだって!今、学園中で持ちきりなのよこの噂!

 今度の学年別トーナメントで優勝すれば、織斑君と付き合え――」

「俺となんだって?」

「「「きゃああっ!?」」」

「うおっ!な、なんだ……?」

 

話こんでいた者達は、夢中になるあまり教室に入ってきた一夏と明に気付かず驚いた

声を上げる。

 

「それで、何を話していたんです?一夏の名前が聞こえてきましたが……?」

「あ、あれ?そ、そうだったかな~?」

「さぁ~て、はやく席につかないと~」

 

明の問いかけにもよそよそしく答えた女子たちは、それぞれの席に戻りその場を離れた。

 

「どうしたんだ?」

「さあ……?」

 

一夏と明は首をかしげて、肩をすくませるしかなかった。

 

「(どうしてこうなった!)」

「(どうなっていますの!)」

「(なんで~!)」

 

一夏と明が頭に?を浮かべている時、箒、セシリア、シャルロットは周囲にバレないよう心の中で頭を抱え涙を流していた。

月末にある学年別トーナメントにおいて“優勝した者は、織斑一夏と交際できる”という噂が、

流れているのだ。

 

箒達が、一夏の部屋で優勝したらデートという約束をした時部屋のドアが開いていたためそれを

聞いていた子達が何人かいて、そこから約束が漏れてしまったようである。

しかも噂というのは尾ひれがついてしまうものであり、優勝したらデートのはずが交際に飛躍しているのには、関係者一同驚いており、2組や4組そして2年生のあるクラスでも箒達のように

どうしてこうなったと頭を抱えている者がいることを記載しておく。

 

「(こうなったら手は一つ!)」

「(何が何でも……)」

「(ライバル達を倒して……)」

「((私)(わたくし)(僕)が優勝するしかない!)」

 

噂の発端である箒達は、優勝の決意を固めて激しく火花を散らした。

 

「おうおう~箒ちゃん達燃えとるなぁ~」

「呑気にしている場合じゃないでしょ!はやて!

 こうなったら、この噂を利用して一夏と箒の距離を一気に縮めるのよ!」

「アリサちゃんが激しく燃えてるっ!」

「あ、あははは……」

「ほ~~~んと、アリサちゃんって友達思いだよね~」

 

そうやって、なのは達が話していると千冬達がやってきてSHRを始めた。

 

 

 

「では、次に月末の学年別トーナメントについて連絡事項がある。

 山田先生」

「はい。え~今回の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うために

 二人組のタッグで行います」

「え?」

「「「「「えええええっっっ!!!?」」」」」

 

教師からの思わぬ言葉に、教室は騒然となる。

 

「静かにしろ!連絡事項は、まだある!」

「そのタッグなんだけど、専用機持ちの子は専用機同士では組めないことに

 なったからね~。

 もし、組んだら一般の子達には厳しいからね。

 後、当日までにタッグを組めなかったら、当日に抽選で決まるよ~」

「なっ!」

「そ、それじゃ……!」

 

カズキの言葉にセシリアとシャルロットは、一夏とは組めないと愕然となり、他の者達は獲物を

狙う獣の如く目を光らせた。

 

「だったら、私と組もうよ織斑君!」

「あっ、ズルイ!なら、原田君は私と組んで!」

 

我先にとばかりに、彼女達は一夏と明にタッグを組もうとした。

何人もの手がこちらに向かって、伸びてくるのはリアルなホラー映画のようでかなり怖い……。

そして、その者達もまた恐怖を体感することになる。

 

「ほう~私の言ったことをすぐさま忘れるとはなぁ~?」

 

まるで肉食獣のような鋭い笑みを浮かべた千冬の言葉を聞き、皆一斉に石のように

固まってしまった。

 

「悪いけど、皆。タッグは明と組むから」

「「「「「へっ?」」」」

「はっ?」

 

千冬の笑みで皆が固まっているのを気にすることなく、一夏はあっけからんと自然に明と組むと

言い放ち、その明も突然のことで間の抜けた声を出し教室は静まり返った。

 

「……まあ、そういうことなら」

「他の女子に組まれるよりは……ね?」

「男同士のタッグ……新しいネタが……グフフフ♪」

 

各々様々なことを口にしながら、一夏と明のタッグに納得し各自の席へと戻っていった。

 

「全く、お前らは――はぁ~。

 まあいい。タッグが決まった者は、申請書類を期日までに提出するように。

 タッグ相手を探すのは、休憩時間や放課後に行え。

 では、授業を始めるぞ」

 

生徒達の一瞬の変わりように千冬は呆れながら、細かい注意事項を述べ本日の

授業を開始した。

 

 

 

「おい、朝のあれは何だ?」

「うん?」

 

一夏と明は昼休みの現在、二人で屋上に来ていた。

ここで昼食をとる者もチラホラといるが、二人が来た途端ソワソワと野次馬の如く遠巻きに

一夏と明を観察している。

 

「学年別トーナメントのタッグだ。何故、私を選んだんだ?

 まあ、私としてはうれしいのだが……/////」

「何でって、単に俺が組みたかったのと他の子と組んだら何かの拍子に、お前の男装が

 バレるかもしれないだろ?

 お前って、意外に抜けているところがあるからな~」

「なっ/////!」

『(それよりも、明が他の者と仲良くなんかしているところを見たら、こいつが

 何をしでかすかわからんからな……)』

 

周りにあまり聞こえないようヒソヒソと話す二人だったが、一夏の指摘に明は驚きの声を上げ、

ゲキリュウケンは心の中でヒッソリとツッコむのであった。

 

「お、お前は/////!」

「ははは♪そう、怒るなよ。頼りにしているのは、本当なんだから頼むぜ?」

「ふん!言われるまでもない/////」

『(私がいようといまいとおかまいなしか……)』

 

カズキと千冬のようなやりとりを自然とやる二人のそばにいるゲキリュウケンは、誰にも

聞こえないことはわかってはいるが、つぶやかずにはいられなかった。

 

そんな一夏と明の様子を見ていた者達は黄色い声を上げ、興奮のあまり倒れて本日、

保健室のベッドは満員になったそうだ。

 

一方、場所は変わり食堂。

ここでは来る決戦に向けて、恋する乙女達が頭を悩ましていた。

 

「はぁ~。その様子だと、どのクラスも同じようね……」

 

ため息を吐きながら、楯無は目の前で沈んでいる箒達を見まわした。

朝のSHRで、各学年の全クラスで学年別トーナメントの連絡事項がされてから優勝する確率を少しでも高くするために、専用機を持つ代表候補であるセシリア達に、タッグの申し込みが次々とやってきたため、皆疲労困憊なのだ。

これは何も一年生だけでなく、学年全体で同様の動きが見られた。

花の十代乙女は恋に憧れる生き物であり、オマケに一夏は年下だが頼りになるのは先日のクラス対抗戦や襲撃事件でも知られており、家事も万能という、まさに優良物件であるため、皆青春の勝ち組になろうと必死なのだ。更に――

 

「もし、優勝できてもタッグを組んだ子と確実にもめる……」

 

そう。簪が言ったように、彼女達の頭を悩ませているのはどうやって優勝するかだけでなく

タッグの相手もなのだ。

一夏を狙う者は彼女達が考える以上に多く、例の約束を滞りなく果たすには一夏を狙わない子と

組み、強敵たちを倒さなければならないのだ。

 

「だから、本音。私と組んで」

「かんちゃんと~?いいよ~。でもでも~優勝できたら、私もウェブウェブと

 デートできるように手伝って~/////」

「お安い御用」

 

それらのことを素早く分析した簪は、自分の専属メイドでありよく知る仲でもある本音を

タッグ相手とした。交流のない者よりも、コンビネーションは取れるだろうし本音はやる時は

やる子でもあるからの判断であり、何より彼女の本命は一夏ではない。

本音も本音で、断る理由はなかったがちゃっかり自分とウェイブのデートの取り付けの手伝いを

お願いし、簪は眼鏡をクイッと上げながら親指を立ててそれを了承した。

 

「おっ!早くも一組、決まりやね~」

「決まるのが早ければそれだけ、練習できる時間が取れるもんね」

「うぐっ!た、確かにすずかの言うとおりよね……。

 ただでさえ、一夏と明って昔からよく二人三脚とかでも息ピッタリだから、

 かなりの強敵だけど……」

「簪さんのように、そうそう決まりませんものね……」

 

すずかに言われて、強力タッグへの対策や何やらを焦る鈴だったが条件に合うような者は

そううまく思い浮かばず、頭を悩ませた。

 

「そうだよね~。専用機の相手は専用機持ちの僕達がするとしても、もう一人を

 うまく足止めしたりこっちを援護できるぐらい操縦が上手くて、それでいて噂に

 興味が無い子……」

「私の場合は、それに専用機持ちと戦えるがプラスされるんだぞ……」

「そんな子は……って、あああっ!!!」

「いたぁぁぁっ!」

「えっ?」

「な、何よ!」

「私?」

 

突然気付いたのか鈴とシャルロットは、大声を上げてなのは達5人を指さした。

 

「そうですわ!高町さん達が、いましたわ!」

「うん♪みんな、なんだかんだで楯無さんの特訓にもついてきているし、

 何より一夏にも興味がない♪」

「え?え?え?」

「つまり?あたし達に、あんた達と一夏がうまくいくように手伝えってこと?」

「そういうこと♪協力してくれるわよね、ア~リ~サ♪」

「はぁ~まあ、原因の一端は私らにもあるわけやしな~。

 しゃ~ない!みんなのため、友情のため!私らが一肌脱いだろ!」

 

混乱するフェイトを余所に、はやてが箒達に協力することを承諾した。

 

「全く、あんたはいつもいつも……わかったわ。

 でも、あたし達が協力するからには狙うは優勝のみよ!」

「ふふふ。アリサちゃんは、負けず嫌いだね~」

「いや~友情って、いいわね~」

「楯無さん?そんなに余裕で、大丈夫なんですか?」

「ノープロブレムよ、フェイトちゃん♪

 この私、更識楯無はIS学園生徒会長にして学園最強(生徒限定)なんだから♪

 恋愛感情のない薫子ちゃんでも誘って、勝ちに行くわよ~!」

 

呑気に言う楯無だが、2年3年の上級生の間では、自分達が勝っても噂の付き合いというのは

有効なのかともめまくっていたり、楯無を倒すために死に物狂いで勝負を仕掛けてくるのを

彼女はまだ知らない。

 

「でも、皆?組むのはいいけど、誰が誰と組むの?」

「すずかちゃんの言う通りやな。息が合えば、力は2倍にも3倍にもなる。

 これは、結構重大やで~」

「う~ん、セシリアちゃんはアリサちゃん、鈴ちゃんははやてちゃん、

 シャルロットちゃんはすずかちゃんかな?」

「その理由は何、なのは?」

 

条件に合うタッグ相手が見つかり、残りは誰が誰と組むかになりなのはが、これはどうかと

それぞれの相手を提案した。

 

「うん。まず、セシリアちゃんは遠中距離の射撃攻撃が中心でアリサちゃんは接近戦

 タイプだから、全距離に対して攻撃手段ができる。

 次に、鈴ちゃんは一人で距離に関係なく攻撃できるけど前に出がちだだから、

 後ろで視野の広いはやてちゃんが指示を出せば、相手の奇襲とかも対応できるし

 こっちからの奇襲もできるようになる。

 シャルロットちゃんとすずかちゃんは、なんでもできるオールラウンダーだから

 隙の少ない戦いができると思う……って、偉そうに言っちゃったけどどうかな?」

 

簪の質問にそれぞれの理由を述べていくなのはだったが、話していく内に皆ポカ~ンと唖然としたので、最後は自信なさげとなった。

 

「……いい。すごくいいよ、なのは!」

「シャルロットさんの言うとおりですわ!」

「なのはちゃんって、よく皆のことを見てるんだね~」

「せやな。ほんじゃ、鈴ちゃん。早速コンビネーションを磨くためにも、一緒に

 お風呂に入って、小ぶりなそれのマッサージでも……」

「やかましいし、大きなお世話じゃ!このセクハラ狸!!!」

 

それぞれのコンビが賞賛する中、はやては鈴にドロップキックを喰らう羽目になった。

 

「では、なのは。私はどうなるんだ?」

「えっ?ああ、箒ちゃんは完全に接近戦タイプだから射撃中心の私か、射撃もできて

 接近戦も箒ちゃんと同等くらいにこなせるフェイトちゃんがいいと思うんだけど、

 箒ちゃんはどっちt「助けてくれぇぇぇ~~~!」ん?」

 

残る箒が、自分の相手をなのはに尋ねると少し戸惑いがちに自分達と組むかとなのはが聞こうと

したらどこからか涙声で助けを求める声がしてきた。

 

「あっ、ラウラ……」

「あああ!ちょうどいいところに!頼む、かくまってくれ!」

 

食堂に駆け込んできた涙目のラウラは、箒達を見るや否や彼女達のいるテーブルの下に

滑り込んだ。

 

「えっ?」

「ちょっ!なんなのよ!」

「「「「「ラウラちゃ~ん!!!」」」」」

 

驚いている鈴達を余所に、多くの者が食堂に流れ込んできた。

リボンの色からして、全員一年生のようだ。

 

「どこにいったの!」

「ラウラちゃ~ん♪私とタッグを組みましょう~♪」

「ちんまいラウラちゃんと……グヘヘ」

 

どうやら、ラウラにタッグの申し込みをしているようだがはっきりいって目や手の動きが

少し――いや、かなり怖い……。

 

「あっ!篠ノ之さん達、ボーデヴィッヒさん見なかった?」

「い、いや~ラウラは……」

 

尋ねられた箒は、やってきた者達の迫力に押されたが足元のラウラは子犬のように潤んだ目で

言わないでと訴えてきた。当然、それは席についていた他の者の目にも入った。

 

「ラウラなら、あっちの方に行ったよ」

「ありがとう、デュノアさん!」

「いや~織斑君と戦ってから、ボーデヴィッヒさんますますかわいくなっちゃったでしょ?」

「そうそう!まだ“おはし”のことを“おはち”って、言うんだよ~!」

「そんなかわいい子と放課後に、一緒に訓練とか……たまらん!!!」

「私とがんばりましょう、ラウラちゃ~~~ん!」

「ああ、ずるい!」

「ロリはわ・た・さ・ん!!!」

 

地響きを立てながら、ラウラを追いかけてきた者達は嵐のように去った。

 

「……何だったんだ?」

「さ、さあ……?」

「人気者は大変ですわね……」

「ううう~~~ごわがっだよ~/////」

 

怒涛の勢いで駆けていく彼女達を見て、箒達は唖然となり後にはラウラの涙声が食堂に

響いた。

 

「ほ~ら、ラウ~ラ?もう大丈夫だからね~」

「ジャルロッド~~~/////」

 

余程怖かったのか、泣きながらシャルロットに抱きつくラウラ。

一夏との戦い以降、生意気だけどかわいいという印象のラウラは、棘がとれたのかのように

感情をよりストレートに表現するようになり、いろいろお世話したいぐらいかわいい子として

認識されるようになったのだ。

戦闘技術は頭一つ分抜き出でていても、こういう事態への対処の仕方は人よりも苦手なようだ。

 

「な~んか、泣き虫な妹と世話焼きな姉みたいね」

「でも、鈴ちゃん?どっちかっていうと、娘と母親にも見えない?」

「は、母親!?」

「あ~確かに見えるな~」

「ジャルロットが、母親?……ママ?」

「っ!?らっ……ラウラに言われると悪い気がしない……!!」

「あんた達?漫才はその辺にしときなさい~」

 

鈴や楯無の言葉によって、その気になりかけるシャルロットだったがアリサが

冷静にツッコミを挟んだ。

 

「でも、このままじゃまたあんな目に合うんじゃ……」

 

簪の言葉にラウラはビクッと体を震わせ、潤んだ瞳で箒達に何とかしてという眼差しを

送った。

 

「あ~なのは、フェイト。タッグを提案してもらっておいて、悪いんだが……ラウラ。

 よかったら、私と組むか?」

「え゛?」

 

箒の突然の申し入れに、ラウラは目が点となってキョトンとなる。

そのかわいらしさに、皆がキュンとなったのは必然であろう。

 

「私はまだタッグが決まっていないし、お前なら実力も申し分ないしな」

「い、いいのか……?」

「そうだね。箒ちゃんの剣術をラウラちゃんのAICでサポートできるし、逆に

 AICの隙を箒ちゃんが埋められるかも……」

「では、決まりだな。よろしく頼む、ラウラ」

「っ!ああ!こっちこそ頼む!そして、ありがとう!!!」

「ラウラが、友達とあんなに喜んでっ!」

「完全に、我が子を見る目になってるわよーシャルロットー」

 

泣きながら箒の手を握りブンブンさせるラウラを見て、シャルロットは感激するが

アリサのような冷静なツッコミを鈴に入れられた。

 

「あははは……本当にすまない、なのは、フェイト」

「ううん。気にしないで、箒ちゃん」

「そうだよ」

「それにしても、改めてみるとなかなかなタッグになったんじゃない?」

「ええ、楯無さん。ですが、私……いえ私達は誰が相手でも負けません!」

「それは、こちらのセリフでしてよ箒さん?」

「あたしも狙うのは、優勝だけなんだからね!」

「僕だって!」

「私も忘れちゃ困る……」

 

タッグが無事にできた箒達は、皆同じようにやる気に満ちた顔で向かい合い

火花を散らした。

 

「いや~一人の男を巡って、火花を散らす乙女!

 う~ん!青春やね~。

 そういえば、箒ちゃんがラウラちゃんと組んだからなのはちゃんとフェイトちゃんで

 組むん?」

「えっ?あっ……どうしようかなのは?」

「せっかくだけど、今回は見学しようかな……」

「?珍しいね?」

「てっきり、あんた達も参加すると思ってたのに」

 

はやて達の問いかけに、歯切れが悪そうになのはとフェイトは答えた。

 

「そっか……まあ、このトーナメントは参加自由やしな~

 (どうやら、二人ともまだオルガードに言われたことを気にしとるようやな……。

 私もそうやけど……考えなあかんな、魔法のことも管理局のことも……)」

「やあ~やあ~皆♪

 それぞれ、特色のあるコンビができたようだね~」

 

皆がそれぞれの想いを胸に抱いていると、そこにカズキがやってきた。

 

「あ~カズキン先生だ~」

「どうしたんですか?」

「いやな~に。

 突然のタッグ戦への変更だからさ、トーナメントまでの間、志望者へ

 タッグ戦特別講座が開かれることになったから、そのお知らせをね~」

「特別講座……ですか?」

「そうそう。個人戦とタッグが全然違うのは、セシリアと鈴でわかっていることだから

 急遽ね♪」

「うっ!」

「ぐっ!」

 

カズキの言葉に傷をえぐられたセシリアと鈴は、胸を押さえてうめき声を上げた。

 

「この講座では、もう少ししてから学ぶタッグで戦う時の注意点や戦術を

 俺が教えるんだけど、君達もどうだい?」

「「「やります!!!」」」

「「「ちょっ!」」」

 

挑戦的にニヤッと笑いながら問いかけるカズキに、二つ返事で了承する者達とそれに待ったを

かける者達の二組に分かれた。

カズキが実技で教えることは、ほとんどが歩行などの基礎的なことなのだが土台となる基本が

しっかりと身につく内容なので、生徒達の操作技術は回を重ねるごとに上がっていて

評判なのだ。

そんな人物が、先頭に立って教えるとなれば相当のレベルアップが期待できると

考えたのだが、カズキのことを知っている箒や鈴、ラウラはそんなセシリア達を見て

冷や汗を大量に流し始めた。

 

「はいは~い♪それじゃ、ここにいるタッグを組んだメンバーは参加決定だね~。

 最近は女の子相手のゆる~~~い内容だったから、久々に燃えるね~♪」

「へっ?」

「ゆ、ゆる~~~い……内容?」

 

セシリアとシャルロットは、耳に入ってきた内容が信じられないのかブリキのおもちゃのような

動きで聞き返した。

カズキの教えは、技術は向上するが当然内容も厳しいモノになるのだ。

故郷の国で一般の者より厳しい訓練をしてきた代表候補の二人でも、授業が終わる頃はヘトヘトになってしまう。それがカズキからしたら緩いモノ……?

それが事実だと知っている箒達は、ここからすぐに逃げたかったがそんな隙を

カズキは見せなかった。

 

「フフフ♪女の子相手に教えるっていうのは、俺も初めてだからさ~。

 結構抑え気味な訓練内容にしてたんだ~♪

 でも、ここにいる皆は他の子よりも鍛えているし、レベル高めでも問題ないよね。

 それに新作ドリンクもできたし……」

 

非常に楽しそうに笑うカズキは最後にボソッと、聞き捨てならないようなことを

つぶやいた。

 

「場所とかは放課後のSHRで連絡されるけど、特別講座は今日からだから

 そのつもりでね~」

 

顔が引きつっていたり、信じられないと体を震わせている箒達を残してカズキは

食堂を後にした。

 

「……い、いやだぁぁぁ!!!ああああああれみたいなことをするなんて

 いやだぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ちょっ!ラウラちゃん、落ち着きぃっ!?」

「あれは、私があの人に会ったばかりの頃だった……。

 好奇心から、カズキさんが千冬さんと一緒にやっていた訓練を私も

 やったんだが……少ししただけ……きれいなお花畑が垣間見えたよ……」

「ほ、箒ちゃん?」

「一夏があいつの特訓を受け始めたら、一夏の奴……しばらく口から魂が

 出てたのよね……」

「鈴!なんか遠いところを見る目になっているわよ!」

「さ、参加しなくてよかったかもね、フェイトちゃん……」

「そ、そうだね、なのは……」

 

ドイツでカズキと会った時に何かあったのか、ラウラは頭を抱えて悲鳴を上げ

箒と鈴もいつかの一夏のように遠い目をし、その様子を見ていた

なのはとフェイトは密かに安堵するのであった。

それからしばらくの間、特別講義に参加した者達は授業以外は口から何かが飛び出したり、

見えない蝶でも追いかけるような動きを見せるようになったという――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「全くカズキさんは、いつもいつもこっちの都合をお構いなしに!!!」

 

時空管理局本局にある無限書庫の一室。そこで、司書長のユーノが頭をかきむしりながら

何かの作業をしていた。

 

「とりあえず、頼まれていたモノはこれでよしと。

 後は……」

「は~い♪元気にやっているかな、少年~♪」

「うわっ!ド、ドゥーエさん!?」

 

ユーノは、どこかイタズラ好きそうな金髪の女性に背後から抱きつかれ驚いてしまう。

 

「ふふふ♪私程度に後を取られるようじゃ、まだまだね~。

 あっ!それって、今度の作戦に使うアレ?」

「ちょっ!ドゥーエさん!

 こんなところを誰かに、見られたら!」

「大丈夫大丈夫♪

 鍵はかけてあるし、人避けの術は使っているんだから見られる心配はないわよ~♪

 それともな~に?

 人に見られたら困る様な事をして欲しかったのかな~?」

「……んなっ//////!?」

「あははは♪ほ~んと、君はかわいいわね~」

 

純情を絵にかいたようなユーノは、近所のお姉さんと男の子のようにいいようにからかわれ顔を真っ赤にしてしまう。

 

「それにしても、あの真っ黒提督みたいにカズキにも無茶ぶりを吹っかけられるのに

 毎回よくやるわよね~。こういう報酬で♪」

「あっ!いつの間に/////!」

 

ドゥーエが手に持って見せた写真を見て、慌ててユーノはふところを見ると

一瞬で掏られたようだ。

 

「好きな女の子の写真が、報酬とは~。

 君も男の子だね~」

「ほっといて下さい/////」

「そんなに拗ねないの!お・詫・び・に……うりゃ♪」

「うぉわっ/////!」

 

突然、自分の頭を握ったのかとユーノが思うとドゥーエはユーノの顔を自分の胸にと

押し付けた。

 

「そんでもって、隙あり♪」

「ドドドドドドゥーエさん//////!!!?」

 

動きが固まったユーノの隙を突いて、ドゥーエはその光景を写真に収める。

 

「ははは♪まだまだよの~ユーノ~♪」

「くっ//////」

 

完全に男ではなく男の子という子供としてからかわれたことを悔しがるユーノだが、

未熟なのは事実なため何も言い返すことができなかった。

 

余談だが、同時刻にIS学園で何かを察知した5人の生徒が一瞬ものすごく爽やかな笑顔で黒いオーラを放出し、それを目撃した者達は口を揃えて“ま、魔王……”とつぶやいた後、数日間部屋に閉じこもりガタガタと震え上がった。

 

 

 





はい。というわけで、VTシステムの件はもう片付いちゃいました。この片付けには、
天災兎も一枚噛んでいますが彼女もカズキも命を奪うことはしていません。
”奪う”ことは……(黒笑)

ゲキリュウケンは、毎日胸焼けに悩まれているらしいですwww

タッグを考えていたら、ラウラがこんなポジになってしまいました(苦笑)

最後に近所のお姉さんポジで、ドゥーエが登場しました。
かなり悩みましたが、彼女達はイノセント世界を参考にしたキャラでいきます。
黒オーラを発する5人には、魔王の素質があるということで(大汗)
もし、この時撮られた写真を見られたらユーノはお星様になってしまうかも。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コンビネーション

最新話です。
今回も前からやりたかったことができましたが、上手く書けたかどうか(汗)


日差しが強くなり、夏が本格的に始まろうとする6月の終わりに、IS学園の生徒

が待望していた学年別トーナメントがついに開幕となった。

観客には外からも各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント等の顔ぶれが揃っている。

例年なら、3年生は今までの集大成、2年生は一年間の成果を確認され将来を見越しての

スカウトの基準となる。

無論、1年生にもチェックが入るのだが、参加する者達はそんな大人の都合など頭にはなかった。

彼女達の頭にあるのは、どうやってトーナメントという戦(いくさ)を勝ち抜き、噂の商品を

ゲットして青春を謳歌するかという、夏の太陽よりも熱く燃える想いだった。

 

「すごい人だな……」

「今回は、ISを使える男が出るからな。注目されるのは、仕方がないさ」

 

一夏と明は二人だけで、男子用の更衣室にいた。

男女別という、至極当然のことなのだが何十人も入ることができる更衣室に、

ポツーンという音が聞こえてきそうな感じでいるのは、何とも言えないモノがある。

 

「俺達は、見せものかよ……。まっ、どうでもいいけど」

「言うと思ったよ」

 

二人は緊張しすぎず、緩みすぎず、普段通りにコンディションを整え対戦表の

発表を待っていた。

一方、女子の更衣室では――

 

「全項目チェック完了。システムオールグリーン。

 いつでも行けるな。そっちは、どうだ箒?」

「問題ない、ラウラ」

 

ラウラと箒は、専用機の確認と準備運動を行っていた。

箒は、少々緊張しているようだがいい感じで過ごしていた。

 

「いよいよですわね、アリサさん……」

「ええ。地獄の特訓の成果……見せてあげるわ!」

「「ふふふふふ……」」

 

セシリアとアリサは、カズキの特訓で何かあったのか体から黒いオーラを放出して

周りの者達を怯えさせていた。

 

「さあ、首を洗って待っていなさいよ!一夏!!!」

「その意気やで、鈴ちゃん!恋する乙女の意地を見せたりぃ!」

「強敵ばかりだけど、待っててね一夏♪」

「腕が鳴るね~。シャルロットちゃん♪」

 

鈴とはやては他の子達のように、熱く燃えているのだがすぐそばにいるシャルロットと

すずかは笑顔のはずなのに、どこか近寄りがたい異色の空気をその空間に放っていた。

 

「勝つよ……本音」

「任され~た~♪」

 

簪は静かに、しかし瞳に確固とした炎を灯して言葉を放ち、本音はいつもと変わらぬ

調子だったが、簪は気合いが入っているのがわかった。

 

各々がそれぞれに気合いを入れている中、彼女達とは違った緊張がある部屋で漂っていた。

 

「試合の組み合わせは、無事に完了したようだな。

 そっちはどうなっている、山田先生?」

「はい。各アリーナのピットに、それぞれ教員が待機しています。

 メイザース先生の部隊も上空に配備完了です。

 これなら、前回みたいなことにはなりませんね!」

「だといいがな……」

 

管制室で、千冬は真耶と共にトーナメントの進み具合だけでなく万一の時の

防衛面のチェックを行っていた。

クラス代表戦では、アリーナに入ることもできなかったが今回はピット内に教員を

待機させているので、入れないということなない。

更に、空中ではエレンが率いる部隊が上空で待機しているため、空中での迎撃を

行うこともできるだけでなく、地上でも順次見回りが行われている。

 

「最初は、そんなに必要ないって意見もありましたけど……」

「あいつが何を言ったのか、渋っていた連中も即座に了承して、非常時のための

 訓練も見直しされたからな。

 ……で?それを提案した張本人のカズキは、ドコにいった……?」

「はははははいぃぃぃ!ななな何でも、この間侵入してきた人達を

 動かしていた人と話をしてくるそうですぅぅぅ!!!」

 

自分が怒っているということを隠そうとしていない千冬の言葉に、真耶は自分に

矛先が向けられているわけではないが戦々恐々として答えた。

今日、この日にカズキはIS学園にいない。

先日襲撃してきた二グループを千冬や楯無にも黙って、撃退したカズキはあの手この手で

指示を出していた者達の居場所や何やらを突き止め、“話し合い”に行ったのだ。

……話し合いと言ったら、話し合いである。

 

千冬は、一人でいろいろと片付けようとするカズキにイラだっているのだ。

無論これはカズキが楽しむのが半分だが、もう半分は自分達に人の醜い部分を見せたくないという配慮なのは千冬も理解しているが、それでも自分をもう少し頼って欲しいのだ。

まあ、そんなことを言葉にしたら周りがどんな反応をするかは火を見るより明らかなので

口にはしない。

 

「……ふぅ~。とにかく、始めるぞ」

 

胸にあるモヤモヤを吐き出すかのように、千冬はため息を吐き、皆が待っている

トーナメント表を発表した。

 

「おいおい……」

「これは……!」

「何……だと!?」

「こんなにも早く、借りを変えせれるとはなっ!」

 

男女それぞれの更衣室で、発表されたトーナメント表を見た4名が驚きの声を上げていた。

 

――第一回戦 織斑一夏&原田明 VSラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒

 

 

 

「まさか、いきなり当たるなんてな!」

「今回は前のように、いくと思うなよ!」

「落ち着いていこう、一夏」

「行くぞ、ラウラ!」

 

4人ともアリーナ中央で、それぞれの武器を構えながら試合開始のゴングを静かに

待った。

 

残り5秒。4、3、2、1――開始のブザーが鳴り響く。

 

「行くぜっ!!!」

 

開始と同時に一夏は雪片を突きに構え、前と同じようにラウラに真っ直ぐ突っ込んだ。

ただ一つ違うのは、スピード……瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使っての

突撃である。

 

「そう来ると思った!」

 

だが、ラウラはそれを読んでいたのか、こちらは一夏とは違い開始と同時に後退して

右手を上げてAICを構えていた。

 

カズキは訓練の際、ラウラのというよりAICの弱点の一つである奇襲を克服するように

メニューを組んでいたのだ。

前回、ラウラが負けたのは一夏の奇襲によってAICをいいように発動“させられた”ため、

十分にその威力を発揮できなかったのが大きい。

AICは強力だが、その分集中力が要求され想像もしない奇襲等にはとっさに発動できなかったり、100%の力で発動できなかったりする。

そこでカズキは、もしもラウラが同じAICを持つ相手が敵で自分の武器が一夏と同じ

ブレード一本だったら等、自分が不利な状況で自分と相対する場合どう戦うかを考えさせたのだ。

今まで、自分の高い力を使って正面から相手を叩きつぶす戦い方だったラウラは

戦いの幅が増えただけでなく、視野も広くなり仲間との連携も取れるように成長していた。

 

「(やはり、イグニッション・ブーストを使って開始直後に奇襲を仕掛けてきた。

 前回と同じ戦法で来るわけがないと私が考えると思っての攻撃だが……

 このままAICで動きを封じてもよし。

 できなくても、おそらくこの奇襲の本当の狙いは……)」

「いっけぇぇぇっ!」

 

イグニッション・ブーストを使ってラウラに接近していた一夏は、接近しきる前に

突きの構えのまま雪片を押し出す形で、ラウラに攻撃した。

そのまま雪片はAICによって、捕まるが同時にラウラも動きを止めた。

 

「(雪片を投げての中距離攻撃!)

 今だ、箒!」

「一夏、覚悟!」

「っ!」

 

雪片を突き出して、一瞬スピードが緩んだところに打鉄を纏った箒が一夏に接近していた。

一夏の奇襲を読んでいたラウラは、箒に試合が始まったら、明と戦うかのように移動

すると見せかけてそこから自分と一夏の直線間に突撃するように指示していたのだ。

一対一で戦うと見せて、片方を囮とした奇襲に対する奇襲攻撃である。

奇襲を仕掛けた自分がまさか奇襲を仕掛けられるわけがないという隙をついて、

見事に一夏と明は、ラウラの策に嵌った……かと思われたが……

 

「甘いですよ、二人とも!」

 

ラファールを纏った明は、身を翻しながら飛翔して攻撃を仕掛ける。

ラウラと箒への二人同時に――

 

「なっ!」

「ちぃっ!」

 

明は空中で体をひねりながら右手のアサルトカノンでラウラを狙い撃ち、箒は左手に

展開した近接ブレードを投げつけた。

箒とラウラは明の攻撃を剣ではらったり、回避するが一夏から目を離してしまう。

 

「隙ありだぜ、箒!」

「しまっ!」

 

投げつけられた近接ブレードを払い終わった瞬間を狙って、一夏は箒の懐に

潜り込みその腕を掴んで、箒を背負い投げた。

 

「おおおりゃっ!」

「うあっ!」

「箒っ!」

 

投げ飛ばれる箒だったが、ラウラはAICを使って箒の動きを止めダメージが入るのを

回避した。

 

「す、すまんラウラ……」

「気を抜くな!来るぞ!」

 

助けられて一瞬、気が緩む箒だったがそこへすかさず明が空いた左手にショットガンを

展開し攻撃を仕掛ける。

 

「っ!なんて正確な射撃だ……!」

「このままでは……箒、悪く思うなよ!」

「どういう……うわっ!?」

 

明の銃撃にラウラはAICで防御し、箒はかわしたり肩アーマーで防御するものの

圧倒的に、回避できるモノよりも被弾する弾の方が多かった。

このままでは、マズイと判断したラウラは一端AICを解除し、少し離れた位置にいる箒に

ワイヤーブレードを巻きつけ、明の攻撃範囲から投げ飛ばして逃した。

そして、レールカノンを明へと発射する。

狙いをつけている暇などなかったが、おおよその位置へ攻撃したので

当たらなくても、目くらましや箒と反撃の打ち合わせをするぐらいの時間は稼げるとの

判断である。

 

「ところがどっこい!」

「織斑一夏っ!」

 

地面に着地したところで、いつの間に雪片を回収したのか一夏が斬りかかってきた。

雪片の攻撃をプラズマ手刀で捌くラウラは、箒の方に目をやると自分と同じように

両手に近接ブレードを呼び出し、逆手に持って攻撃してくる明に押されている姿が映った。

 

「(まさか、もう一人の男がこれ程の戦闘力……いや連携に優れていたとは!?)」

 

ラウラは明の戦闘能力というより、戦いの運び方に舌を巻いていた。

体をひねりながら、射撃と投擲を行い戦況をみて時間稼ぎの攻撃を行うなど、

自身の戦闘力もさるもののその判断力もかなりのものである。

もちろんラウラは、一夏だけでなくセシリア達代表候補の戦力を分析するだけでなく

明のような隠れた実力者も警戒していたのだが、そこに落とし穴があった。

分析した映像やデータは、授業での個人技が中心で連携した時のものを想定していなかったのだ。

ましてや、明は一夏と共に背中を預けていくつもの戦いを経験し、相手の目を見ただけで

何をしようとしているのか察することができるため今回のトーナメントで一、二の連携を

発揮できると言っても決して過言ではない。

実際、一夏と明が最初に打ち合わせていたのは最初のイグニッション・ブーストを使ってラウラに奇襲を仕掛けて明が箒と戦うだけで、ラウラと箒の奇襲からは全てアドリブである。

 

「(まずい、このままでは……!)」

 

一夏の攻撃にラウラが焦り始めると、突然一夏は何かを感づいたのかラウラから距離を

取った。その瞬間、一夏がいた場所を弾丸が通り過ぎた。

ラウラが見やると、そこには驚いた表情の明に、ところどころにダメージを受けながらも

打鉄の標準装備であるアサルトライフル“焔備(ほむらび)”を構えて、こちらに近づいてくる

箒が目に入った。

 

「大丈夫か、ラウラ!」

「なんとかな……。そっちは?」

「すまない。明の意表をついて、さっきの攻撃を仕掛けるので精一杯だった」

 

涼しげな顔で一夏と合流する明に対し、箒は肩を上下させ激しく息を乱していた。

それだけ、明と箒には差があることを示しておりラウラは厳しい顔になる。

 

「やられたよ。箒は、私と斬り合っている時に剣を手放し、それに驚いた隙を

 ついて焔備で牽制してきたんだ」

「俺達は、勝手に箒は剣しか使ってこないって決め付けがあったから、余計に効果は

 あったな……。

 ――ったく~、カズキさんも面倒なことを教えてくれるぜ」

「その筆頭が何を言っている……」

 

自分達が教えられた、“こんなことをするわけがない”という意表を突く攻撃を

仕掛けられた明と一夏は気を引き締めなおした。

どうやら、カズキは本当にいろんなことを彼女達に教えたようだ。

箒が行った攻撃はいつも一夏がやっている、相手の裏をかく攻撃だが、

その相手の裏をかく攻撃はそれ自体が囮なのだ。

囮となる裏の攻撃があるから、表の攻撃をする時に“もしかしたら”裏をかいてくるかも

と相手に疑念を持たせられ、表が生きてくるのだ。

 

 

 

「すごいですねぇ~、織斑君と原田君。こんな短期間の訓練で、あそこまで連携が

 できるなんて」

「あいつらの付き合いは、その訓練以上にあるらしいからな。

 それにあれは原田が織斑の動きを見て、合わせているだけだ。

 織斑自身は、何も考えていない(まあ、敢えて原田の動きを考えていないようにも

 見えるがな。原田なら言わなくても自分の動きが分かると信頼していると

 言うことか……?)」

 

管制室で試合を見ていた真耶は感嘆の声をもらすが、千冬は辛口気味の評価を下した。

最も内心では、明のことを信頼しているからこその動きであると見抜いているが、

何とも言えない感情が胸に占めていた。

具体的には姉の勘、またの名をブラコンレーダーなるものが警鐘を鳴らしているのだ。

 

「それにしても……つくづく私は教師というのが向いていないな」

「えっ?」

 

試合を見ていた千冬は、自嘲気味に自身を貶す発言をして真耶を驚かせた。

 

「私がボーデヴィッヒを教えていた頃、あいつは強さを力があることと勘違いしていてな。

 違うと教えようとしても、昔から口下手だから上手く伝えられなかったのだが

 あいつが……カズキが、私の言いたかったことを代わりに代弁してくれたんだ。

 そして、一夏や他の奴らのおかげでボーデヴィッヒは変わっていった……」

 

試合を見ながら、千冬はもしもカズキがドイツにこなかったら

ラウラは今みたいに、箒を助けたようなチームプレイはしなかっただろうと考えた。

 

「世間からいろいろ騒がれても、私はいろいろと未熟だということだな……」

「……未熟なら一緒に学んでいけばいいんじゃないんでしょうか……生徒達と一緒に」

「ん?」

 

ポツリとつぶやくような真耶の言葉に、千冬は顔を向けた。

 

「教師だから……大人だから、教えてばかりじゃないと思います。

 生徒から学んで、教師だって成長できるはずです!」

「……ははははは!そうだな、教師だって成長はできるよな!」

 

目から鱗のように、真耶の言葉に千冬は大笑いした。

 

「だがな、山田先生……少し生意気だ!」

「えっ!あっ!ちょっ!ギブです!ギブぅぅぅ!!!」

 

真耶の言葉に、納得したものの後輩に諭されたのが悔しかったのか、千冬は照れ隠しで

ヘッドロックを真耶にかけた。

二人がそうやって、じゃれ合っている間に試合は動こうとしていた。

 

 

 

「それで、どうする?

 今はこっちが若干押しているが、時間がかかるとこっちが危ないぞ。

 箒はおそらく、お前と同種だ」

「同種って、何だよ?」

「成長速度が異常ということだ、お前も箒も。

 剣を交えてわかったが、最初は私に翻弄されていたのにだんだんと

 ついてこれるようになっていった……。

 追いこんだら、何が飛び出すか分からないぞ」

「なら、アレをやりますか♪」

 

互いに向かい合う形となり、明は先程の戦闘で箒の危険性を感じ取っていた。

このまま時間をかけたら思わぬ成長を見せて、足元をすくわれるのではないかと。

それを聞いた一夏は、ある提案をする。

 

「あれって……アレかっ/////!?

 い、いやしかし/////!」

「大丈夫だって。確かにISでもできるか試した程度だけど、俺とお前ならできるさ!」

「わ、私が言いたいのはそう言うことじゃなくて……/////」

 

一夏の提案に何かわかり、明は何故か顔が赤くなった。

しかし、肝心な伝わって欲しいことが伝わらず、だんだんと声が小さくなる。

 

「~♪」

「はぁ~~~、わかったよ/////」

 

そんな明のことなどおかまいなしに一夏は、準備を終えてにこっと笑いかけ、

明は観念した。

 

「箒、まだ行けるか?」

「大丈夫だ……と言いたいが、正直厳しいな。明の腕は、相当なものだ。

 さっきのは意表をついただけだから、次はないだろう」

「……なら一か八か、二人で原田を攻めて倒して……どうした?」

「い、いやあれは……」

「……はっ?」

 

一夏と明にどう攻めるか考えていたラウラと箒はここで賭けに出ようかとしたら、

目の前で二人は意外な行動に出た。

 

「入りは2カウントからダブルホールド……ベーシックステップで行くぞ」

「なら、テンポは?」

「一夏に任せる」

「よし……それじゃ……」

「「レッツ……!!」」

 

一夏と明は互いに武器をしまって、まるでダンスをするかのように手を握り合い

箒とラウラに構えたのだ。

これには、見ている者全員が騒ぎ始めた。具体的には、何だと怪訝に思う者達と黄色い声を上げる者達に大別できた。比率は2対8ぐらいである。

どちらが、どの数字かは……皆さんわかると思います。

 

「な、何だあれは……?」

「わからん。カズキさんから、教えてもらった何かだと思うが……」

「どうした、箒?」

「何故だがわからないが……今の二人を見てたら、すごく腹が立ってきた……!」

 

普通ならふざけたことのように見えるが、一夏と明の二人もまた箒達と同じく

人をおちょくるのが大好きなカズキに師事しているのだ。

これもまた、何かの策と考えるのが自然だが、女の勘とも言うべきものが

箒に苛立ちをもたらせていた。

無論、これを見ていて箒のように同じ苛立ちと焦燥を感じていた者達もいたりする。

 

「ラウラ!8で行くぞ!!!」

「8だと!?だ、だがあれはまだ……」

「や る ぞ!」

「わ、わかった……」

 

体からオーラのようなものを発した箒は、何か取り決めでもしていたのか謎の言葉を

ラウラに投げかける。

それを聞いて躊躇するラウラだが、箒の迫力に押され承諾すると箒の背後に回った。

 

「何故だがわからないが、成敗しなければいけない気がするから……一夏!

 覚悟!!!」

 

箒は両手に近接ブレードを呼び出し、どちらも突きをするかのように構えて

一夏と明へと突撃する。

それに一拍程、遅れてラウラが6本のワイヤーブレードを箒の後ろから追撃する。

二人が8と呼んだこの攻撃は、箒が二本のブレードを持って敵に突撃し、ラウラが

後方からワイヤーブレードを使って全方向から攻撃するコンビネーションである。

 

正面から破ろうとすれば箒が、それを回避しようとすればラウラのワイヤーブレードか

レールカノンの攻撃が襲いかかる……のだが――

 

「よっ……と!」

「……っ!」

「「何っ!?」」

「「はっ!」」

 

箒とラウラ、試合を見ていた者達は目を見開いた。一夏と明は、手をつないだままその場から動かず、箒の二刀の攻撃が決まるかと思った瞬間二人は、背中合わせで箒の背後に現れたのだ。

驚く者達を余所に、一夏と明は無防備となった箒の背に同時に蹴りを叩きこむ。

 

「がはっ……!」

「箒っ!……ならばっ!」

 

この攻撃が決定打にはならなくとも、流れを変えることはできるかもと考えていた

ラウラだったが、予想外の動きでやぶってみせた二人に驚くもののすぐに気持ちを切り替え、

二人の死角をワイヤーブレードで攻撃する。

 

「一夏!」

「ああ!」

 

一夏と明は、合図すると回りながら……本当にダンスを踊るようにワイヤーブレードの

攻撃をかわしていく。

 

「くっ!(何だこの動きは!?ワイヤーブレードの軌道を読まれないよう、僅かに制御を

 外してランダムな動きとなっている攻撃を、どうして手を繋いだままでかわせる!)

 ならば!」

 

未知の動きを見せる二人に、ラウラはレールカノンを放つが、

それも次々とかわされていく。

 

「今だ!」

「うおおお!!!」

 

だが、ラウラの狙いは別にあった。自分の攻撃に二人を集中させて、背後から箒が

仕掛ける時間を稼いだのだ。

今、一夏と明の意識は自分に向いているから、この攻撃は通ると箒とラウラは確信するが……

 

「あらよ……っと!」

「おわっ!」

 

そんな二人の考えはお見通しと言わんばかりに、一夏と明は片手を離し数歩下がって箒の攻撃を

空振りさせてつんのめさせる。

 

「ふん!」

「ぐあっ!」

 

間髪いれず、一夏が軸となる形で半回転して明が勢いをつけて威力を増した蹴りを

入れることで箒の機体は、シールドエネルギーが0となり機能を停止する。

 

「まだだぁっ!!!」

 

そこに、ラウラが右手を前に突き出し左手にプラズマ手刀を展開して突撃する。

 

「(奴らの今の動きを捉えるのは困難……ならば!

 ギリギリまでAICを発動させる構えで接近して、発動するかどうか迷わせる!

 AICで動きを止められたらゼロ距離で、レールカノン!

 できなかったら、一瞬分断した隙をついて!)」

 

ラウラは、逆転するために最後の賭けの攻撃を仕掛ける。

 

「「ダブルスピン」」

 

一夏と明は、互いの次の行動がわかるのかタイムラグなしに、回避行動をする。

 

「「そして(アンド)……フィニッシュ!!」」

 

テレパシーで会話しているのかと疑うほど、全く同じフォームで一夏と明は、

ラウラへと蹴りを放った。

その瞬間、ラウラや箒そして、この戦いを見ていた者達は、一瞬燕尾服を纏った一夏とドレスを纏った明の姿が見えた――

 

「試合終了。勝者、織斑 一夏&原田明ペア」

「(はは。負けたか……だが不思議と悪くないな)」

 

試合終了のアナウンスと湧きあがる歓声を少し遠くに感じながら、ラウラは

どこかすっきりした笑顔を浮かべた。

 

 

 

「うん?どうやら、どこかの試合が終わったようだね~」

「はぁ~そっすね……」

 

ここは、IS学園の監視が手薄な場所で外部からの侵入するにはもってこいな

ポイントの一つ。

そこで今日は学園にいないはずのカズキが手に付いた汚れを払っており、

清掃員の恰好で気の抜けた声で返事をするウェイブがいた。

 

――足元に転がっている、何人もの人間のうめき声を背景にして……

 

「な、なん……で」

「情……報では、このお……とこは今日は……いないはず……」

 

転がっている者達は、手足が変な方向に曲っていたり顔が女性なのにすごく腫れていたりしたが、何とか口を動かして疑問を投げかける。

 

「ははは♪びっくりした?

 俺が今日いないって、情報を流せば忍びこんで来るやつらがいるだろうと思ってね♪

 ついでに言っておくと、ここの監視が手薄なのもワ・ザ・と♪なんだよね~。

 で、俺がいないと思って油断している連中を釣ってしまおうって思って……さ♪」

 

イタズラが成功した子供のように、嬉々として笑いかけるカズキに侵入者たちは

背筋に冷たいモノが流れるのを感じた。

侵入者たちも日の当らない裏の世界で生きてきた者達だが、その世界で培われる勘が

言っているのだ。

 

――自分達の目の前にいる男は、ヤバすぎる!

 

嘲るわけでも見下すわけでもなく、自分達を嵌めたことを楽しんでいるカズキに

対して言い知れぬ恐怖が、侵入者達の心を支配していく。

 

「さぁ~て、ここからは質問タイムだ。いろいろと答えてもらうよ?

 ――亡国機業(ファントム・タスク)」

 

カズキがそう言い放つと同時に、凄まじい爆音が鳴り響いた――

 

 

 

 

 

「あれ何ですか……織斑先生?」

「わからん。

 私もいろいろな武術を見てきたが、あんな風に手を握って戦うものは初めてだ……」

 

歓声が鳴り響いているアリーナとは逆に、管制室は呆然としていた。

 

「確かに、世界には踊りの要素を取り入れた武術があるが、あれはそういったものとは

 別物だ。

 織斑と原田のあれは、二人で共に戦うことを前提にしているようだな……」

「そ、そんな戦い方があるんですか!?」

「私の知る限りでは、そんなものは存在しない……ということは一から作り上げたのか?

 (何故だ?あれを見てたら、ますます何か嫌な予感が……)」

 

一夏と明の戦い方に思考を巡らせる千冬だったが、それ以上に自分の勘が告げる警鐘に

難しい顔をした。

 

 

 

「大丈夫か?ラウラ」

「ああ、大丈夫だ」

 

アリーナでは、試合を終え最後に蹴り飛ばされたラウラを箒が心配していた。

 

「お前の方はどうだ、箒?」

「エネルギーがゼロになっただけだから、大したことはない。

 ……だが負けた以上に、何か悔しい……!」

 

そう言う箒の視線の先では、一夏と明が何やら言い合っており、明が顔を赤くしていた。

手をつないだままで――

 

「そ、そうか……。とにかく、次の試合があるから早く退場して……」

 

ラウラがそう口にした瞬間、空間が波紋のように揺れそこからミサイルが飛び出した。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

突然のことに一夏は反射的に明を庇うようにし、ラウラも箒の前に立つがミサイルは

地面に激突しても爆発することなく、落ちた時の音と煙がアリーナに舞うだけだった。

 

「い、一体何が……?」

『(気をつけろ!何か来るぞ!)』

 

疑問に思う一夏にゲキリュウケンが、警告を放つと同時にミサイルの一部が開き

何かが飛び出す。

次の瞬間一夏達の足元に魔法陣が現れ、アリーナ内部に目がくらむ程の光を放った。

 

「何がどうなって……!?」

 

光が収まり、観客席にいた生徒がつぶやくとそこには、

アリーナが“えぐれた”光景が広がっており、一夏達4人の姿はなかった……

 

 

 

「こ、これは……」

「わ、私は夢でも見ているのか?箒……」

 

信じられないという口調で、箒とラウラは言葉を発する。

まばゆい光に目が眩んだと思ったら、まだら模様の紫に見える空が彼女達の視界に

映っているのだ。

 

「おい、一夏!」

「間違いないな……これは!」

 

一夏と明は、この事態を理解し原因であるミサイルに目をやるとそこから、

黒い煙のようなものが現れた。

 

“ふふふっ……”

 

聞いたことのない音……声のようなものが黒い煙から発せられ、4人は最大まで

警戒を強める。

 

“っ!”

「がっ……あああああっっっ!!!」

「ラウラ!?ぬっ……うわぁぁぁっ!」

「箒!」

「何もんだ、お前!ラウラから離れろ!」

 

黒い煙は一夏達に攻撃せず、ラウラに向かって纏わりつくと彼女の体を包み込み、

近づこうとした箒を弾き飛ばした。

一夏が、煙に向かって今までにない緊張をはらんだ声で問い掛ける。

 

「“わかりきったことを聞いてくるとは、少々がっかりですよ?織斑一夏。

 いや――リュウケンドー?”」

 

警戒する一夏とは逆に、ラウラの声に重なって語りかける”何か”は落ち着いた様子で

一夏に返してきた――

 

 

 




トーナメントは、他のメンバーのも書こうかと思いましたが
とんでもない量になると思い断念しましたが、それに伴う案を
思いついたので次回をお楽しみに♪

原作とは違い、ラウラはチームプレイをさせ、箒には成長のフラグを
建てました。実際、専用機を手に入れてからの箒の成長は
驚くモノがあるようで。

戦いの方は、タッグとしての年季の差で一夏と明が勝利。
この二人が使った武術は、かつてある病気が蔓延した世界で
手を離したら死んでしまう男女が編み出したものを
一夏と明ならできるんじゃね?なノリで、カズキが教えてみましたwww
というか、いつか一夏にコレをやらせてみたかったのだ!
ちなみにそれを見ていた千冬と箒達は、訳の分からない苛立ちを覚えて(爆)

カズキは、学園にいないと見せかけて侵入者たちを待ち伏せしていました♪

しかし、敵は思わぬ形でやってきて!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

形となる悪意

お待たせしました。
皆さん気になる、前回から始まる戦闘回です。
一夏達は、黒い影の正体は、トーナメントの行方がどうなるのか……
楽しんでいただければ、幸いです(;´∀`) 


「何が、起きた!」

「わ、わかりません!?レーダーには何も……。

 皆さん!誰でもいいから返事をしてください!!!」

 

一夏達がアリーナから消えた直後、管制室は騒然となっていた。

自分達の目の前で、何もない空間からミサイルが飛び出ただけでなく、

アリーナにいたメンバーが全員消えたのだ。

想定外すぎる事態に、管制室はパニック寸前である。

 

「管制室、聞こえますか!緊急事態です!」

「メイザースか?緊急事態はこちらも……」

「た、大変です!!!」

 

内心、一番パニックの手前であった千冬はエレンの通信に苛立ちを覚えるも

その言葉に引っかかるものを感じ、冷静さを少し取り戻す。

それと同時に、真耶が切羽詰まった声を上げ、エレンと同じ言葉を発した。

 

「「IS学園に巨大な飛行物体が接近しています!!」」

 

 

 

IS学園に向かって突如としてその姿を現したのは、大型の爆撃機であり、

その機首に一つの影が佇んでいた。

飛行による突風を意に介さず、両腕を組む様は戦士でありながら王者の風格を漂わせていた。

 

「あまり気が進む策ではないが、仕方あるまい……。

 魔弾戦士達以外の者達のお手並み拝見だな――」

 

爆撃機と共にIS学園へと近づいていくその者は薄黒い鎧を纏い、右腕には腕と一体になっている

砲門、足には高速移動を目的としたローラーが、背には羽のようなウイングが付いており、

目に当たると思われる部分はバイザーで覆われていた。

人に近い形をしているが、人間でないことは明らかであり、その体からは闘気があふれ出ていた。

 

「まずは軽く、50機と行こうか?

 さあ――ゆけ!!!」

 

組んでいた右手を前に突き出すと、爆撃機のハッチが開かれISとほぼ同じサイズの

小型戦闘機が次々と発進していく。

戦闘機は、凄まじいスピードで一気にIS学園に接近すると人型へと変形する。

 

「マイナス結界を展開したりこれといった特殊能力はもたないが、

 空戦能力に優れたスカイバトラー。

 魔物のように生物のような柔軟な行動はできんが、その分連携や制圧力に長けた

 これにどう戦う?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……了解しました。皆、聞こえる?

 緊急事態につきIS使用許可が、下りたわ。

 まずは、来賓と一般生徒を直ちにシェルターに避難。その後、メイザース先生達と

 共にこちらに接近する未確認の機体の迎撃を行うわ。いいわね?」

「「「「はい!」」」」

 

ピットで試合のために待機していた、全学年の専用機持ちは全員楯無の指示の元

行動に移り始めていた。

一夏達が消えたことで、大半が崩れ落ちたり呆然としていたが、秘密裏に伝えられた

宇宙ファイターXから、彼らは異空間に飛ばされただけで無事だとわかり、

もちなおしていた。

 

「セシリア。あんた大丈夫なの?さっきまで、真っ青だったじゃない!」

「ご心配なく、アリサさん。このセシリア・オルコット。

 代表候補生として、責務は果たしますわ!」

「どないしたん、鈴ちゃん?か、顔が怖いで……?」

「ふふふふふ……これで、トーナメントは中止よね?

 カズキから受けた特訓の苦労が全部、水の泡……ふふふふふ」

「マナーのなっていない人に、どういうものか叩きこまなきゃ……だよね?

 シャルロットちゃん?」

「もちろんだよ、すずか♪早く避難を終わらせて、礼儀を教えてあ・げ・な・きゃ・ね♪」

「かんちゃ~ん。気をつけてね~」

「うん。本音も早く避難して」

 

簪を除いた一年の専用機持ちが、この騒動でトーナメントが中止となって

今日まで行ってきたカズキ考案の(地獄の)特訓が意味を成さないと察し、自分達に

ケンカを吹っかけて来た者達にその鬱憤を晴らそうと燃えていた。

それを感じ取ったのか、爆撃機に乗っていた者は背筋に得体の知れない冷たいモノが

流れるのを感じた。

 

 

 

「さてと、これであいつらや千冬ちゃんへの連絡は良し……。

 それにしても、ESミサイルとはねぇ~」

 

カズキは敵が現れたのを察知すると、亡国機業(ファントム・タスク)からの侵入者達全員の意識を瞬時に刈り取り、ワープキーを使ってその場から転送すると、宇宙ファイターXの姿となって

千冬達に一夏が無事なことを知らせた。

侵入者を撃退しつつ、風術で一夏の試合を見ていたカズキは、彼らが消えた原因であるミサイルの正体と違う空間に飛ばされただけなのを見破っていた。

 

「ESミサイル?なんすか、それ?」

「空間転移するミサイル、つまりワープキーの能力があるミサイルだ。

 しかもミサイルである分、離れた場所からの攻撃や奇襲にも使える。

 最も、理論はできていても技術的に課題がいくつもあるから、

 俺達はまだ使えないけどね。

 今回はそれを使って監視の目を潜って、一夏達がいる場所に転移し更にあいつらを

 アリーナごと異空間に飛ばしたんだ」

「飛ばしたって……そんなのどうやって助ければ!?」

 

カズキはウェイブに一夏達が消えた原因を教えると、声を荒げるウェイブを手で制し、

こちらに向かってくる敵がいる方角へと顔を向けた。

 

「一夏達が消えたアリーナに行けば、何か手掛かりが分かるだろうけど、

 残念だがこちらにやってくる敵がそれを許しそうにない。

 ――どうやら、先兵に遣い魔もいるようだし……。

 お前は、遣い魔の迎撃に当たってくれ。

 俺は、ユーノに弾をこっちに送ってもらうよう連絡したら、空の方を叩く」

「叩くって……一夏を見捨てるんですか!」

「違う。一夏達のことは、現状――あいつら自身に何とかしてもらうしかない。

 な~に、こんなことでやられるようなヤワな鍛え方はしてないさ」

「……わかりました」

 

カズキは、ウェイブに指示を出しグランシャリオを纏って、そこから離れるのを

見送ると仮面の下で渋い顔をした。

 

「……とは言ったモノの、今回はちょっと厳しそうだなザンリュウ――」

『ああ。ビシビシ感じるぜ。とんでもない気配を……』

「“あいつ”が来れば空の方は大丈夫だけど、この気配の主を俺達が

 どうにかできるかが、事態を左右するな……気合い入れていくぞ!」

『おうよ!』

 

カズキはそう言うとしゃがみ込み、空高く跳躍した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「リュウケンドー?一夏、あいつは何を言って……」

「明、箒を頼む!」

「気をつけろ、一夏。奴は、ただものじゃない!」

 

ラウラに纏わりついた黒い煙と相対した一夏と明は、今までの敵とは違うことを

悟り、打鉄のシールドエネルギーがゼロとなって無防備に近い箒を庇うように移動し、

雪片とアサルトライフルを構える。

 

「“私の力を察し、瞬時に戦えぬ者を守り、いつ攻められてもいいようにする。

 やはり、油断できませんね……ですが――

 あなた方は、人間の愚かさを知らない!”」

 

ラウラと共に言葉を発する黒い煙の“何か”は、そう言うと完全にラウラを

シュヴァルツェア・レーゲンごと包み込んで、一夏達から見えなくする。

 

“さあ、さらけ出しなさい。あなたの秘めた願いを!

欲しいのでしょう?あなたを暗闇から救った織斑千冬のような『強い』力が!”

(やめろ!私の中に……入ってくるな!)

“怖がる必要はありませんよ?これは比類なき、唯一無二の力……。

あなたの敵を全て倒すことができるほどの……”

(違う違う違う!!!力は欲しい……でも、それは私が欲しかった力じゃない!)

 

煙の中で、“何か”は甘い誘惑をラウラに語りかけるが、ラウラはそれに必死に抵抗した。

以前の自分なら、容易くその誘いに乗ったかもしれないが、今は自分が目標として憧れた力が

なんなのかわかり、この誘いで手に入る力とは全く別のものであることを知っていた。

 

“それでは……また戻るのですか?あの暗闇の中に――”

(っ!!!?)

 

ラウラの脳裏に、“出来損ない”の烙印を押されてしまった時の記憶が駆け巡った。

 

「あああああっ!!!」

「っ!」

「ラウラ!?」

「何をした、お前!」

 

煙から聞こえてきたラウラの悲鳴に、一夏が煙に向かって怒鳴ると、煙は

だんだんと人のような形を取り始めた。

 

“別に、特別なことはしていませんよ?

心に負った傷というのは、克服できたと本人は思っていても簡単には治らないモノ……。

彼女の奥底にあるそれを思い出させ、マイナスエネルギーを生み出して

もらったんですよ……。

ふふふ……光の中にいる日常から、どん底に落とされて生まれるマイナスエネルギーは

極上ですね~”

「貴様!」

「この下種が!」

 

煙が放つ言葉に、箒と明は怒りをむき出しにする。

 

“加えて、この者が纏っているおもちゃにはVTシステムというモノが組み込まれて

いましてね~”

「VTシステム?」

「確か、それは優秀なIS操縦者の動きを再現するシステム。だが、パイロット

 に多大な負担が掛かるため、禁止されているはず!」

“言ったでしょう?あなた達は人間の愚かさを知らないと。

あなた達のように、他人のために自らを盾にしても守ろうとするのが人間ならば、

自らの欲望のために、他者など道具としてしか見ないのもまた人間……。

最も、システム自体は外されていますが、その者にとって計算外なのは、

このおもちゃがVTシステムに対応できるということ……。

つまり、同じように別の何かを再現するシステムを起動すると――このように!!!”

 

形を取り始めていた煙は、徐々に何かを形作りはじめた。

 

――両手の五指は鋭いカギ爪となり

――その肩には、見るもの全てを見透かすような紅い宝石が埋め込まれ

――サソリの尾のようなものが背から生え

――コウモリを思わせる黒い翼を広がせ

――吸血鬼を思わせる頭部

 

ラウラがかつて味わい、自らの欲望のために良心を捨て去った……

人間の悪意が形となって、一夏達の前に立ちはだかった――

 

「な、何だこれは……」

「こんなものが……存在……するのか?」

「これは、ちょっと洒落にならないぞ……」

『(一夏達を隔離した上に、これ程の力で挑んでくるとは!?

 今までの敵と何かが、違う!)』

 

箒は目の前に現れた異形のモノに言葉を失い、明もそれが信じられないとばかりに

体が凍りついたかのように、動きを止める。

一夏とゲキリュウケンは、現れたソレから感じる強さに驚くも、どうやって

戦うかを思案していた。

 

「ふむ……確かめてみなければわかりませんが、感覚は悪くないですね。

 とりあえず、このおもちゃの名をもじって“シュヴァルツ・バイザー”とでも

 名乗りましょうか」

 

シュヴァルツ・バイザーと名乗ったモノは、手を開いたり閉じたりして自身の

具合を確かめていた。

 

「――さて。こちらの準備は、整いました。

 もう既に分かっていると思いますが、私は創生種の一人です。

 私を倒せば、この空間から抜け出すことができます」

「帰る方法を教えてくれるとは、随分気前がいいじゃないか?」

「挑発して、情報を引き出さそうとしても無駄ですよ?

 私の目的は、あなたを倒すことですから……。

 それともう一つ。

 早く私が、取りこんだ娘を助けないと手遅れになるかもしれませんよ?

 これを動かすためのマイナスエネルギーを生み出してもらうために、

 悪夢を見続けていますから……」

「「「『なっ!!!?』」」」

「では――行きますよ!」

 

一夏は、少しでも何かを聞き出そうとするが逆にシュヴァルツ・バイザーが、

何気なく発した言葉に驚きで一瞬体が固まってしまう。

それを狙っていたのか、シュヴァルツ・バイザーは右手を振りかざし一夏達に迫る。

 

『っ!マズイ!!』

「明、箒を!」

「くっ!」

「うおわっ!?」

 

ゲキリュウケンの声に反応して、一夏は明に指示を出し攻撃を回避するために斜め後ろに

後退する。

明も箒を抱きかかえ、同じように回避行動を取る。

そして、その直後にシュヴァルツ・バイザーの拳が地面にぶつかり、ISを纏っている

一夏達を吹き飛ばすほどの衝撃が引き起こされた。

 

「うっ!」

「……このっ!」

「な、何っ!?」

 

吹き飛ばされた一夏達は何とか体勢を立て直すが、箒は目に映る光景に驚きの声を上げた。

シュヴァルツ・バイザーは拳を放っただけで、一夏達と共に飛ばされたアリーナの地面の

3分の1を消し飛ばしたのだ。

 

「ふむ……人間が作ったおもちゃをベースにしているには、パワーも

 とりあえず及第点といったところでしょうか?」

「はっ!」

「明!?」

 

自身のパワーを確認しているシュヴァルツ・バイザーの足元に向かって、明は

サブマシンガンを発砲し、無謀な攻撃に見えた箒は驚きの声を上げる。

 

「こんなもので私を倒せると考えるほど、浅慮ではないでしょう。

 何を狙って……」

「一夏っ!!!」

 

明の攻撃を気にもしないシュヴァルツ・バイザーだったが、その行動に疑問を

感じると明は、一夏に合図すると同時に閃光弾を投げつけシュヴァルツ・バイザーの

目をくらませた。

 

「っ!?そういうことですか!」

「そういうことだ!

 リュウケンキー!発動!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

「ゲキリュウ変身!」

 

明の意図を読んだシュヴァルツ・バイザーと同じように目をくらませた箒は、

うっすらと聞こえてきた一夏に目をやると、いつの間に白式を解除したのか

ISスーツ姿となり、巨大な剣を掲げているのが目に入った。

 

「リュウケンドー……ライジン!」

「い、一夏――!?」

 

自分の想い人が特撮ヒーローのような姿になったことで、箒の混乱はピークに達した。

次々と起こる常識を破壊していく出来事に、冷静な思考を保てと言う方が無理であろう。

 

「私の強さも出方も分からない中、まずはISで様子を見ようとしましたが、

 想像を超える事態となり、ISでの対処は困難と判断。そこで、彼が変身するための

 隙を作るために、第一撃ではなくそれを囮とした第二撃を本命とする。

 ……これほどの戦略を一瞬で思いつき、更にそれを理解し互いに信頼し行動に

 移してみせた――見事です」

 

シュヴァルツ・バイザーが一夏と明の連携に感服している間、一夏ことリュウケンドーは

ゲキリュウケンを構え、ゆっくりと慎重に横に移動しながらシュヴァルツ・バイザーに

接近した。

 

『リュウケンドー。急がなければならないが、焦るなよ』

「わかっているよ……。こいつは、がむしゃらに突っ込んで勝てる相手じゃない――!」

 

シュヴァルツ・バイザーの強さを感じたリュウケンドーは、初手から魔弾キーを使って

攻めていきたいのだが、魔弾キーを使う隙が見つからなかった。

それに加え、先ほどの明との連携も、二度は通じないと二人は理解していた。

迂闊に連携をしようものなら、シュヴァルツ・バイザーはためらうことなく明と箒を

攻撃するだろう。

 

「普通ならこのまま攻めればいいのですが、こちらも力任せな攻めを

 したら、どうなるかわかりませんね~。

 ……慎重に、確実に攻めて……倒させてもらいます!」

「やれるもんならな!」

『いくぞ!』

 

ゲキリュウケンの掛け声を合図に、リュウケンドーはシュヴァルツ・バイザーへと

走り出す――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はあぁぁぁっ!」

「こんのっ――落ちろぉぉぉぉぉっ!!!」

 

IS学園より数十キロ離れた海上では、昼間にも関わらず僅か数秒ほどだけ咲く

火の花がいくつも咲いていた。

襲撃が起きた時の防衛のために空中で待機していたエレン達は、爆撃機から発進された

スカイバトラーを視認すると迎撃に向かうが、苦戦を強いられていた。

小型の戦闘機が、人型に変形したのも驚愕だが、襲いかかってくる数以上に

連携が恐ろしく精密なのだ。

最初は十数人いた教員部隊も、瞬く間にその数を半数ほどに減らしていた。

教員部隊は、全員がかつて真耶のように代表候補生だったりそれに準ずる実力者ばかり

なのだが、敵は人間なら見せる感情の機微というのを一切見せない機械に加え、自分達の

数倍の数、初めてと言ってもいい命をかけた実戦の空気、それらに呑まれ本来の実力を

発揮できず何人もの教員がスカイバトラーに落とされていった。

奇しくもカズキが懸念していたことが、現実となってしまったのだ。

幸い、ISの絶対防御によって最悪の事態は免れて海に浮いている状態だが、

機体は戦闘不能までに破壊され、教員の傷も浅くはなかった。

 

残った者達は、いち早く戦況の悪さを理解したエレンと燎子らの指示によって、

応戦しているが、スカイバトラーは破壊されると爆撃機から順次に発進され一向にその数を

減らさなかった。

 

「ちぃっ!次から次に……一体どんだけいんのよ!!!」

「もうへばったんですか……?だらしがないですよ、燎子」

 

現在、エレンが前面に立ち燎子が指示を出す形で戦闘が行われていた。

二人はスカイバトラーが見せる精密で正確な動きを、逆手にとり応戦していた。

状況に対応した動きを見せるので、誘導と予測がしやすいのだ。

しかし、一機を落とせば三機が発進されるので、体力やエネルギー以上に精神がかなり

消耗していた。更に――

 

「言いたくないけど、泣きごとも言いたいわよ!あんたもわかってるでしょう?

 あれに乗っている奴、下手したら千冬よりもヤバイわよ……」

「……そうですね。せめて、私の専用機があれば――」

 

ハイパーセンサーで確認した、爆撃機の機首に佇んでいる者の存在が彼女達に

重くのしかかっていた。

ただこちらを見ているだけだと言うのに、感じる強烈なプレッシャーが奴の強さを教えていた。

終わりの見えない戦闘に、ISよりも先に自分達がまいるかもという思考が脳裏をよぎった時、

閃光と見えない衝撃がスカイバトラーを撃墜した。

 

「今のは!」

「メイザース先生!日下部先生!」

「遅くなりました!」

「みなさん!」

「観客達の避難がほぼ終わったので、あちらはダリルちゃんとフォルテちゃんに

 任せてきました♪」

「前に襲ってきた、一つ目の怪人も出てきたけどリュウガンオーとグランシャリオも

 駆けつけてくれたから、こっちの応援に来ました」

 

エレン達の元に、援軍として楯無達専用機持ち達とトーナメントで生徒が訓練機を使うために

上空の防衛から外れていた教員達がその訓練機を纏って駆け付けた。

そして、援軍が合流すると同時に爆撃機の方でも爆発が起きた。

 

「今のは!?」

「うわー。あいつも来たんだ……」

「そんなげんなりした声を出さないの、鈴ちゃん。

 あの人、強いんだからあっちは任せましょう。

 さぁ、みんな――行くわよ!」

 

楯無の合図と共に、第二ラウンドの幕が上がった。

 

 

 

「……こちらの損害は、スカイバトラー46機。

 魔弾戦士以外の戦士も、なかなかやるな。

 既に落とされた分も含めて3分の一を出撃させたが、勝ちに行くにはもう100機ほど、

 搭載するべきだったか?

 奴らの援軍も来たがこちらは――お前の相手をするとしよう!!!」

 

爆撃機の上から戦闘を見ていた者は、エレン達の奮戦に感心しながら唐突に右手に剣を

取り出すと何もない空間を振り抜いた。

金属がぶつかり合うような甲高い音が響くと、何かが爆撃機に着地した。

 

「リュウジンオーか!」

「違う。私は――宇宙ファイターX!」

「ふふふ、XだろうがYだろうが構わん。

 魔弾戦士と戦うのを心待ちにしていたのでな……楽しませてもらうぞ!」

「俺達が目的なら……なんで結界も張らず、こんな派手なことを?」

「こちらにもいろいろと考えが、あるのでな……。

 だが、目的は達したのも同然!

 俺は創生種の一人、クリエス・ベルブ!

 貴様の命……貰い受ける!!!」

「(思っていた以上に、やばいなこいつ……。最初から全力で行かないと!)

 そう、うまくいくかな?

 俺は、ともかくリュウケンドーやあいつらを舐めていると痛い目に合うよ?

 ――剃(ソル)!」

 

宇宙ファイターXは、腕についている龍を象ったブレスレットになっている

ザンリュウジンを本来の双頭の斧の姿に変えるとベルブの剣とぶつかり合う――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うわぁぁぁっ!」

 

飛ばされた異空間で、リュウケンドーはシュヴァルツ・バイザーの圧倒的なパワーに

苦戦を強いられていた。

 

「ふん!!!」

『避けろっ!』

「っ!?」

 

シュヴァルツ・バイザーの拳を受けて、弾き飛ばされたリュウケンドーに休む暇を

与えることなく追撃が襲いかかる。

 

「……まずい。私達は、奴の策に嵌ってしまった……」

「どういうことだ、明?」

「さっき、奴が地面を砕いたのは、自分のパワーを見せつけるためだったんです。

 リュウケンドーは……一夏は、相手の攻撃をかわしたり受け流したりして

 反撃するカウンタータイプの戦い方ですが、無闇に相手の攻撃をかわしたら

 かわした攻撃で足場が破壊されてしまう……。

 空中戦に持ち込もうにも、ISでは勝ち目はない。

 だから、自分の攻撃をかわさせないように奴は――」

「そ、そんな!」

「それに奴の体内には、ラウラが捕らわれている。

 あの強固な装甲を破壊できる程の強力な攻撃を仕掛ければ、ラウラも……!」

 

明は、シュヴァルツ・バイザーの攻撃で地面を破壊しないように、直撃を避けながら

なんとか攻撃を受け流そうとするリュウケンドーの姿を見て、悔しさで拳を握りしめる。

 

「だったら、私達も加勢を!」

「だめです。それこそ、最悪の悪手です」

「何だと!」

「下手に攻撃をしかけようとしても、奴は瞬時にこちらに矛先を

 変えて攻撃してくるでしょう。

 一夏が、庇うとわかっていてね……」

「まさか、私と明は!?」

「ええ、私達もラウラ同様に奴からしたら人質なんですよ。

 こうやって、私達をこの空間に飛ばしたのも、戦うフィールドを浮島のように

 したのも全て奴の策……!」

 

明の推測に、箒は言葉を失ってしまう。そもそも箒が纏っている打鉄は、エネルギーが

尽きているため、まともな戦闘はできないが、それでも自分達が足手まといの人質という

のは言葉にできないほど悔しいものである。

 

「落ち着いてください。今の話は、“下手に”攻撃したらです。

 だったら、下手に攻撃しなければいいのです」

「それは一体……」

「箒……あなたは、一夏のために命を賭けれますか――?」

 

 

 

「くそっ!キーを使う隙が無い!」

『せめて、奴が違う攻撃をしてくれればっ……!』

 

時折、衝撃波や光線といった遠距離攻撃をしかけているがシュヴァルツ・バイザーは

主に殴る蹴る等の肉弾戦で攻撃を行っていた。

別段変わった攻撃をしているわけではないのだが、リュウケンドーは

確実に追い込まれていた。

明が言っていたように、今までにない強力な拳をかわせないようにすることで

ダメージを蓄積させているのだ。

その上、魔弾キーを発動させる隙を与えない止まない攻撃に加え、

捕らわれたラウラを気遣って、リュウケンドーは思いきった攻撃ができないでいた。

 

「あなたを倒すには、変に練った策よりも単純な……攻撃をかわせないようにする方が

 効果的と推測しましたが想像以上の成果です。

 後は、私達が確実に勝利できる体力勝負で――攻め続けさせてもらいます!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(クラス代表戦の時に、戦ってくれたグランシャリオって人が蹲っている……。

 あっちでは、リュウガンオーとはやてちゃんが何か叫んでいる……)」

 

なのはは、どこか他人事のように目の前のことを見ていた。

自身のバリアジャケットがボロボロになりながら――。

 

「(これは、夢?

 夜中に飛び起きてしまう……悪い夢なの?)」

「なのは!しっかりして!」

「フェイ……トちゃん?」

 

呆然とするなのはを、同じようにバリアジャケットをボロボロにしたフェイトが

肩を掴んで揺さぶる。

 

「キュァァァッ!」

 

その後ろで、体が五角形で鳥のような顔をした魔物が叫び声を上げていた――

 

「(記憶が、一時的に飛んでいるの?)

 なのは!なのは!」

「ぼさっとするな!!!」

 

リュウガンオーは怒鳴りながら、なのはとフェイトの頭を押さえて倒れ込むと、その上を

魔物が通り過ぎた。

 

「そ、そうだ。私達は……」

 

なのはは、自分達の上を通り過ぎた魔物の姿を見て記憶が戻ってきた。

緊急事態の警報が鳴った後、観客席にいたなのはとフェイトは教師陣と共に避難誘導を行い、

その後念話を使ってはやてと合流をした。

目の前で消えた一夏達とこちらに向かってくる謎の飛行物体に、対処するため

人目が付かない場所でセットアップし、正体がばれないよう変身魔法で姿を変えようとした

ところを、オルガードの結界のように謎の結界に取り込まれてしまったのだ。

そこで、なのは達を待ち受けていたのは謎の魔物であり、こちらを見るや否や

攻撃を仕掛けてきたので、戦闘となった。

しかし、戦闘は一方的なものとなった。

魔物はなのは達の魔法を吸収したり、跳ね返したりしてきたのだ。

それだけでなく、パワーも相当なもので体当たりやくちばしの攻撃で、なのは達を苦しめた。

そんな彼女達の元に、リュウガンオーとグランシャリオもこの結界を感知したのか、

どこからともなく駆け付けてくれたが、状況は変わらなかった。

彼らの攻撃も魔物の弾力ある体には通じず、ダメージを与えることができなった。

 

「まだ行けるか、グランシャリオ?」

「もちろんだぜ!あの鳥野郎……から揚げにしてやる!」

『否。親子丼を推奨する』

「よっし!問題なしだな!後、あれは焼き鳥にするぞ!」

「元気やな~流石、男の子ってとこやろか?

 わたしは、照り焼きにするで!」

 

震えるなのはとフェイトとは逆に、

押されながらも彼らの士気は折れるどころか高まっていった。

 

 

 

 




今回はいろんな敵を出しましたが、敵側の方が一夏勢よりクロスオーバー
をしていることに(汗)

まず、爆撃機に乗っていたクリエス・ベルブは『小さな巨人 ミクロマン』
に登場したアーデンダークのような姿です。強者と戦うことを喜びとする武人で、創生種の幹部の一人です。
自分達の目的のためなら仲間が提案したまどろっこしい策もします。
そんな彼が、率いていたのは意思を持たない機械兵スカイバトラー。
ISなら撃破可能ですが、機械であるため人間以上の精密な動きと計算されつくした連携で敵を淡々と追い詰めます。
『勇者警察ジェイデッカー』でジェイデッカーが初めて戦ったフライトバトラー。もしくは、マクロスシリーズのバルキリーを想像してもらえれば。

一夏と相対した黒い煙は、クリエス・ベルブと同じく創生種の幹部ですが今回はラウラに憑依する形で、彼女の心の傷を利用して登場。
現れた姿はこちらも同じく『小さな巨人 ミクロマン』に登場する
アクロボットマンのヘルバイザーです。
VTシステムに対応できるシュヴァルツェア・レーゲンに似たようなシステムを
使うことで出現しました。
明が言っていたように、何重にも練った策で一夏を追い詰めます。

最後になのは達と戦う魔物は、丸わかりだと思いますが次回で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

駆け引き

長い間共に歩んできたパソコンという相方がいなくなったのと
4月から新生活になるのでいろいろと準備していたら、遅くなりました(苦笑)

この作品を書き始めて、本日で丁度一年。なんとか最新話が間に合いました(汗)

前回から引き続き戦闘回です。


IS学園に攻め込むかのように接近していた爆撃機は、現在空中で停止しており、

その上では奇妙な光景が展開されていた。

何もないその場所で、金属がぶつかり合う甲高く重い音が響き渡り火花が散っているのだ。

それは二つの黒い影が交錯する度に起きているのだが、あまりのスピードに

ISのハイパーセンサーをもっても、残像を捉えるのがやっとなそれらは、

やがてその動きを止めて姿を現す。

 

「ははは!やるな貴様!

 戦いとはこうでなくては、おもしろくない!」

「そりゃ、どうも」

 

心底楽しそうなクリエス・ベルブに対し、宇宙ファイターXは苦笑しながら返した。

両者ともそれぞれの鎧と服が多少汚れているだけで、目立った傷は無いが

油断なくザンリュウジンを構える宇宙ファイターXとは逆に、クリエス・ベルブは両手を

広げて喜びを表しているのを見ると、精神的な余裕がどちらにあるのかは明らかだろう。

 

「(さて……リュウケンドーがどうなったかはわからんが、ISと魔導士の小娘達への

 目的はほぼ果たしたも同然。後は、俺の好きにさせてもらうとしよう……)

 そろそろ準備運動は、これぐらいでいいだろう?お互いにな……。

 始めるぞ、“戦い”を!」

「そうだな。

 こっちもいろいろと助けに行った方が、良さそうだし……決着(ケリ)を

 つけさせてもらう!」

『あげていこうぜ!』

 

両者はそう言うと、大気が震えるほどの気合いを放ち、先ほどよりも数段速い

高速戦闘が開始された――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「グランフォール!」

「キュゥゥゥ……アッ!」

「どわぁぁぁっ!?」

「リイン、補助頼むで!」

「はいです!」

「ブリューナク!」

「ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』

「いっけぇぇぇ!!!」

 

周囲の色がどこかちぐはぐな場所……結界の中でリュウガンオー達と魔物の戦闘は、

リュウガンオー達の苦戦という形で続いていた。

グランシャリオが決め技のグランフォールを放つも、鳥顔の魔物ベムードのゴムのような

体には通じず、跳ね返されてしまう。

その瞬間を狙って、リインとユニゾンしたはやてとリュウガンオーが同時に攻撃を仕掛ける。

弾力を生かして、攻撃を跳ね返すのなら一撃目でそれが伸びきって意味を成さなくしたところを、

二撃目で仕留めようと連携攻撃するが……

 

「キュアッ!」

「あっ!」

「ちっ!またか!」

 

ベムードの腹部に当たる五角形の模様が、口のように開き二人の攻撃を吸収してしまい、

リュウガンオーは舌打ちする。

 

「キュウ?」

 

攻撃を吸収し終えて腹部の口を閉じたベムードは、顔をこてんと横に傾けて“何かした?”と

言いたげな鳴き声を上げる。

 

「あの野郎っ……!」

「何気にちょっとかわいいのが腹立つなぁ~」

 

思いついた攻略法が通じず、リュウガンオー達は手詰まりとなる。

打撃や魔力刃による物理的攻撃は、ベムードの柔らかい体には効果がなく、

リュウガンオーの光弾やなのは達の射撃魔法も腹部の五角形に吸収される上に、

一定量を吸収するとそれを跳ね返しもするので、これ以上の迂闊な攻撃ができなくなる。

 

「くっそ~。どうすりゃいいんだ!」

「射撃は意味ないし、打撃も斬撃も……待てよ?ひょっとしたら……よし!」

 

打つ手なしと思われる状況にグランシャリオは嘆くが、リュウガンオーは何か思いつき

ベムードへ走り出す。

 

「はあああ――はぁっ!

 ゴウリュウガン、ブレードモード!」

 

リュウガンオーは跳躍してベムードの上をとると、ゴウリュウガンの近接ブレードを

腹部の五角形へと向けて降り下ろす。

 

「(こいつは、吸収も反射も腹のここでやっている。

 ――ということは、ここを使えないようにすれば!)」

「キュッ!」

「はぁぁぁっ!?」

「なんやて!」

「うそ……!」

「えええっ!!!?」

 

リュウガンオーの攻撃に対するベムードの対応に、皆驚きの声を上げた。

ベムードは、ブレードモードとなったゴウリュウガンを両手の爪で挟むように受け止めたのだ。

 

「し、白刃取り!!!?」

「キュ!」

「ごあっ!」

 

ゴウリュウガンを受け止められたリュウガンオーは、ベムードの蹴りを受けて

吹き飛ばされる。

 

「リュウジンオー!」

「なんて器用な鳥なんや!」

「キュキュッ♪キュッキュッ~♪キュキュ~キュッ♪」

 

蹴り飛ばされて、地面を転がるリュウガンオーを見てベムードは楽しげにリズムにのって、

体を揺らしリュウガンオーに体の横を向けると手でペシペシと体を叩いた。

 

『声色と仕草からして、いわゆる“おしりペンペン”をしていると推測』

「よ~し、それは俺達をバカにしているってことだな!」

「ぜっっってぇ~~~、から揚げにしてやる!」

 

ダメージでボロボロになりながらも、ベムードの行動の意味を知りリュウガンオーと

グランシャリオは逆に闘志を燃え上がらせて立ち上がり、再度ベムードへと挑みかかった。

 

「男の子二人は、燃えとるけどこっちはどないしよか?

 下手に高火力の魔法を使ったら吸収された後が怖いし、効きそうなミストルティンも

 吸収以前に射程に入れるかどうかが問題や……。

 こんなことなら、もっと個人技なんとかするんやった!」

「マイスター。さっきみたいに、あの鳥さんの柔らかさを何とかするなら

 凍らせればいいのでは?」

「私も考えたけど、多分魔法やからそれは吸収されてまうと思う。

 それよりも……」

 

桃色と金色の光が飛び交う中で、諦めずにベムードに拳を放つグランシャリオと

光弾を撃ち込むリュウガンオーを見ながら必死に打開策を模索するはやてだったが、

いい案は思い浮かばず、視線を上の方に移す。

 

「この!この!このっ!」

「っっっ!」

 

なのはとフェイトもベムードに射撃魔法で攻撃しているが、

ベムードはそれを意に介していなかった。

更に二人の攻撃は精細さを欠いており、時折グランシャリオとリュウガンオーの攻撃を

阻害していた。

 

「どうしたんや、二人とも……」

「なのはさんもフェイトさんも……焦ってる?」

 

リインの考えは、当たっていた。

先日のオルガードとの戦いで沸き上がった時空管理局への不信感、自分達が持つ魔法という力への疑念が幾重にもなのはとフェイトの心に鎖をかけているのだ。

頭をよぎらなかった力というものの裏側……。

力を合わせればと信じて疑わなかった、自分達の強さがどれほどもろいものだったのか……。

そして、それらを体現するかのようなベムードとの戦いに二人の心は、焦りで曇ってしまう。

 

「なんで……なんで当たらないの!」

『落ち着てください、マスター!』

「倒さなきゃ……倒さなきゃ!」

『冷静になってください、Sir!』

 

愛機の声も届かず、なのはとフェイトの攻撃はどんどん単調となっていきいたずらに魔力だけが

消費されていった。

 

「「うわぁぁぁっ!」」

「あかん!二人とも逃げて!!!」

「えっ?」

「はやて?」

 

グランシャリオとリュウガンオーの叫び声とはやての呼びかけに、なのはとフェイトはハッと顔を上げると、こちらに向かって飛んでくるベムードの姿が映った。

 

「キュァッ!」

 

二人は時が止まったかのように、体が硬直しベムードはそれに構うことなく襲い掛かろうとする。

 

「なのはちゃん!フェイトちゃん!」

 

ベムードの攻撃を体を張って防ごうとして弾き飛ばされたはやての声が、結界の中に

響き渡る――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐあっ!」

「ふぅ。流石にタフですね」

 

“全力”ではないとはいえ、自分の攻撃を何度も受けたのに立ち上がろうとする

リュウケンドーにシュヴァルツ・バイザーは関心の声を上げる。

 

「(ふぅ~む。どうしましょうか?

 実験やその他諸々のデータはとれましたが、肝心のリュウケンドーは想像以上に

 しぶといですね。

 あまり時間をかけると外からの救援や逆転の手を思いつかれてしまうかもしれませんし、

 何より後ろの二人にも何か仕掛ける時間を与えてしまう……ここは――)

 ですが、そのタフさがどこまでもちますか――ね!」

 

状況と不安要素を検討し、シュヴァルツ・バイザーは繰り返していた攻撃のスピードを

上げて、再びリュウケンドーに攻撃する選択を選んだ。

焦って威力のある攻撃をして隙ができる危険性より、確実にダメージを増やす方法だったが、

シュヴァルツ・バイザーは懸念していたことが既に起きているのに気付かなかった。

 

「行きますよ!覚悟はいいですか、箒!」

「こいぃぃぃ!」

 

明は箒の打鉄の手を持ちながら一回転し、遠心力による勢いをつけて箒を

シュヴァルツ・バイザーへと“ブン投げた”。

 

「やはり来ましたか!……む?」

 

リュウケンドーに迫るシュヴァルツ・バイザーは、自分に仕掛けてきた明と箒に

対処しようとするが、こちらに向かってくる箒に違和感を感じ取った。

 

「(おかしい。投げられただけにしては、速すぎる……ん?

 スラスターが動いている?あの者のおもちゃのエネルギーは、尽きていたはず……。

 まさか、もう一人の者がエネルギーを分けたのか?)」

 

明がまず行ったのは、自身のラファールから箒の打鉄へエネルギーを分け与えることだった。

普通のISではエネルギーの譲渡などまずできないのだが、一夏の白式は燃費が

よくないので、エネルギーを試合中でも渡すことができれば戦略の幅が広がるのではと

学年別トーナメントのために、明はその手段を準備していたのだ。

これにより、箒は無防備な状態ではなくなったが、ラファールのエネルギーも試合後で

消耗しているため、譲渡できたのは数分程動かせられる程度であり、絶対防御も完全に

機能するかどうかわからなかった。

それでも、箒は明の提案を承諾しシュヴァルツ・バイザーに挑むため、

右手に近接ブレード、左手にアサルトライフルを展開する。

 

「(狙いは、戦えないと思っていた者による奇襲……それも剣士なのに遠距離武器を

 取り出しただと……!?)」

「(そう。私や一夏がかかったように、普段使わない武器を取り出したら

 驚き意表を突かれる。実力差がわかっているのに、そんなことをすれば何かしらの

 意味があると勘ぐり、箒の動きに一瞬だが注意するはず!

 その隙をリュウケンドーが、つければ!)」

 

このような状況で仕掛けるのならば何か策があるはず――

だからこそ、何も策を仕込まないという策で明は奇襲を仕掛けた。

 

シュヴァルツ・バイザーは自分に向かってくる箒を見やると、それに背を向けて

リュウケンドーに“向き直った”。

 

「(甘いですね。この策の狙いは、何かあると勘ぐらせて

 私の目を奇襲を仕掛けるために向かってくる者に注目させて隙を作ること!

 となれば、向かってくる者に策はない……。

 ならば!リュウケンドーに止めを刺す!)」

「ちっ!」

「くそっ!」

 

自分達の策が空振り、箒と明は焦りを見せる……

 

「(こちらの動きを読まれた!?

 くっ!これでは……となると思ったか!)」

 

明はシュヴァルツ・バイザーが自分と箒に背を向けた瞬間、

瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使って飛翔する。

 

「(貴様が策を弄するタイプなら、私程度の策など見破ると思ったよ!

 本命は、そうやって背を向けて隙ができたこの瞬間!!!)」

 

イグニッション・ブーストによる加速の中、先に先行した箒を追い抜くと明は

ナイフのようなショートタイプの近接ブレードを呼び出して逆手に持ち、

シュヴァルツ・バイザーへと迫る。

 

「(読みも何も関係なく、向かってくる者は問答無用で攻撃されていたら

 箒は危なかったが、こちらの動きを読んでくれて助かったよ。

 オマケに今ここで初めて使う、このイグニッション・ブーストなら気付く前に……)」

「(“奇襲を仕掛けられるはず!”と思っているのでしょうね……)」

 

シュヴァルツ・バイザーは、リュウケンドーに向かって拳を振り上げるのと同時に

肩の宝玉に力を溜めていた。

 

「(ふふふ、あなたほどの者なら戦力差を考えて二段構えの策ぐらいは、

 仕掛けてくると思いましたよ。

 ですが、私があちらの策を読むと踏んでの奇襲ならば、二段構えどころか

 幾重もの策を仕込む可能性が高い……。

 だからこそ、ここは敢えて相手の策を読むのではなく真正面からの

 力技を使うとしましょう――)」

 

シュヴァルツ・バイザーは拳を振り下ろすと見せかけて、再び反転し自分に奇襲をしようとする

明と箒の方を向くと即座に、肩から光弾を放とうとした瞬間、視界が煙に覆われた。

 

 

 

「(ここが勝負!)」

 

何も策を持たないことで囮となると思われた箒は、明が自分を追い抜くと同時に、

近接ブレードを槍のように投擲する構えに入っていた。

 

「(明の読みだと、こちらがいくら策を用意してもおそらく相手には全て見透かされてしまう。

 ――だが、相手が手練れであるほど必ず隙を作れるという明の“必殺技”のために

 これは外さん!)」

 

箒は明が追い抜く際に、空中に置くように手放した煙幕弾に向けて近接ブレードを投げた。

一夏と同じく、銃などの遠距離攻撃を苦手とる箒だったが明は、試合で見せた射撃から

カズキが完全に克服できるほどの時間がないとはいえ、何かしらの訓練をしていたと判断し、

シュヴァルツ・バイザーに接近するための要を箒に託した。

 

「(ここで、古典的な目くらましですか。

 あちらにとって、肩で光るこれのおかげでこちらの居場所がわかるという予想外の

 展開でしょうから、とっさに隙を作るためのとっておきのものを出すはず……。

 そして、もう一つ予想外なのはこちらもまた相手の位置がわかっているということ)」

 

煙幕という敵の視覚を奪う戦闘の常識であるがゆえ、当然相手も警戒しているから

打ってくるはずがないと考えていた警戒外の策に直面しても、

相手の居場所がわからないからとシュヴァルツ・バイザーは慌てることはなかった。

そもそもシュヴァルツ・バイザーは、ラウラのISシュヴァルツ・レーゲンを取り込んでいるため

ハイパーセンサーの機能が魔物としての五感と融合し、微かな空気の流れと音だけでも明の位置を捉えていた。加えて――

 

「(見えていますよ。あなたの気配が!

 戦士というのは、攻撃する時に武器へ敵意や殺気というものを乗せる。

 先ほどまでは、私はあなた達への警戒を最小限にしてリュウケンドーへ

 意識の大部分を向けていますが、今は逆!

 あなた以上に、意識を込められた武器が丸見えです。

 繰り出されるであろうとっておきの切り札を切られる前にこちらが攻撃し、

 倒させてもらいます。

 そして、激昂したリュウケンドーをカウンターで止めを刺す!!!)」

 

シュヴァルツ・バイザーは、気配が見えるその場所に光弾を放ち煙幕ごと明を

吹き飛ばす。

 

「(なかなか楽しかったですよ……む?

 おかしい。手応えがない……?)」

 

攻撃による手応えがないことを怪訝に感じたシュヴァルツ・バイザーは、瞬時に警戒

を強めて頭上に明を見つけると、顔を上へと上げた。

明は上下逆さまとなって、こちらを向くシュヴァルツ・バイザーの目の前で

何も持たない両の手を強く叩いた。

 

「っ!!!?あっ……がっ……!」

「(クラップスタナー。いわゆる、猫だましと言う奴ですが、

 警戒し意識が最も敏感になる瞬間に放てば、相手の神経を麻痺させ動きを

 奪うことができる!)」

 

予想もしない明の必殺技により、よろめくシュヴァルツ・バイザーを

箒は驚きの表情で眺める。

 

「(ラウラやISを取り込んだのだから、感覚も人間に近いし生身の人間よりも

 鋭くなるだろうから、効くとは思ったよ。

 今回は、貴様がこちらを警戒し侮らなかったおかげで、意識を集中させて手放した

 武器に攻撃を向けさすことができた!

 警戒を強めたおかげで、クラップスタナーをきれいに決めることができた!

 感謝するよ――私達を最後まで油断できない敵と見てくれて!)」

 

もしも、シュヴァルツ・バイザーが明と箒を見下していたら、

最初の突撃で返り討ちにあったかもしれない。

攻撃を仕掛けても取るに足らないと相手にされず、リュウケンドーに止めを刺すかも

しれない。

だが、明はシュヴァルツ・バイザーが本質的にこの場にいる全員を警戒していると見抜き、

この綱渡りな策を見事に決めてみせた。

そして、明が動くのを見て反撃のチャンスが来ることを信じ動いていた者がいた――

 

「サンダーキー!発動!」

『チェンジ!サンダーリュウケンドー!』

「雷電武装!」

 

隙ができる前から隙ができると確信しシュヴァルツ・バイザーへと駆けながら、リュウケンドーはゲキリュウケンから雷の龍を呼び出し、シュヴァルツ・バイザーに飛び乗り首元にゲキリュウケンを突き立てる。

 

「――っの!!!」

 

明の攻撃から回復したのか、シュヴァルツ・バイザーは振り返りながら拳を放つ。

 

「っ!」

 

リュウケンドーはバク転でそれをかわして着地すると同時に、雷の龍と一つになり

雷を象った黄色の鎧を纏った姿となる。

 

「サンダーリュウケンドー!ライジン!」

「やってくれましたね。

 油断していたつもりは、ないのですが……ぐっ!」

 

突如として、シュヴァルツ・バイザーの身体に電気が走りその動きが止まる。

 

「ラウラには、悪いがさっきお前の体に電気を流し込ませてもらった。

 エネルギー源として、ラウラを取り込んだんならあいつやISの動きを俺の雷で

 麻痺できればお前の動きも止められると思ったよ。

 さあ、ここからは一気に行くぜ!ダガーキー!召喚!」

『魔弾ダガー!』

「いでよ魔弾ダガー!」

 

Tリュウケンドーは、魔弾ダガーを呼び出し逆手に持ち二刀流の構えをとった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「しっかし、先輩?なんなんすかね、ザコ臭ただようこの一つ目オバケ」

「俺が知るかよ……」

 

IS学園のある一角で、数えきれない数の遣い魔達が倒れ伏し、それを見下ろす

二人組がいた。

特徴的な口調で質問を投げかけたのは、二年生のフォルテ・サファイア。

長い髪を三つ編みにした小柄な生徒であるが、専用機を持つギリシャの代表候補生である。

そんな彼女に返答したのは、三年生のダリル・ケイシー。

身長が高く、男勝りな性格と口調から“兄貴分のお姉様”と下級生に慕われている。

彼女もフォルテと同じく、アメリカの代表候補生である。

 

トーナメントの自分の試合に向けて待機をしていた彼女達は、避難誘導を終えて

学園に現れた遣い魔の迎撃を行ったのだ。

元々の地力の高さと一夏と明顔負けのコンビネーションで、迎撃に問題はなかったのだが……

 

「さっきあっちに走ってたのって、一人はこの間現れたリュウケンドー?

 とそっくりだったから、お仲間さんだと思うすけど……もう一人のあの格好って」

「どっから見ても、不審者だろ。あれ……」

 

 

 

「な、何……これ?」

「え?え?え???」

 

なのはとフェイトは、混乱していた。

ベムードが自分達に攻撃してきたはずなのに、そのベムードはくちばしを押さえて

苦しがっており、自分たちは立方体の“何か”の中にいるのだ。

どうやら、この“何か”がベムードの攻撃から守ってくれて、逆にベムードへと

ダメージを与えたようだ。

 

「遅くなってすまない、リュウガンオー、グランシャリオ」

 

何者かの声を聞いた二人は、聞こえてきた後ろを振り向いた。

そこには――

 

「だ、誰やアンタ!!!」

「あんな恰好して、暑くないんでしょうか?」

 

はやてとリインが大声と疑問の声を上げるが無理もなかった。

なのはとフェイトを助けてくれたと思える者は、片手で印を組み

全身を覆う銀色のコートを着用しテンガロンハットのような帽子を深くかぶって

顔を隠していた。

 

「おお!」

「待ちくたびれたぜ、レイジング・ガードナー!」

「思ったより、遣い魔が多くてね。状況は?」

 

リュウガンオーがレイジング・ガードナーと呼んだ者は、驚くはやて達を他所に

彼らに合流する。

 

「レイジング……ガードナー?」

「あの人たちの仲間?」

 

友人に話しかけるようなのりを見せる彼を見て、なのは達は敵ではないと判断する。

 

「見てのとおりだよ。あいつをなんとか料理しようとしてるんだが、

 体が柔らかくて打撃技の衝撃が効かねぇんだ」

「おまけに、腹にある口みたいなので俺の攻撃もあいつらの魔法も吸収して

 跳ね返しやがる。それに、切り裂こうとしても白刃取りまでやりやがる」

「キュゥゥゥアアアッッッ!!!」

『先ほどのカウンターで、怒っている模様』

「大丈夫。手なら、100ぐらい思いついたよ」

 

あっけからんと言ったレイジング・ガードナーの言葉に、その場にいた者たちは驚く。

 

「マジかよ!」

「さっすが~♪頼りになる!」

「任せて。後は……僕がやる――!」

 

レイジング・ガードナーがそう言って印を解くと、

なのはとフェイトを囲っていた“何か”も消えた。

 

「消えた!?」

「今のって、結界?」

「あんたら、あの人一人で戦わせる気なんか!?」

 

なのはとフェイトは、はやての方を見るとリュウガンオーとグランシャリオに

詰め寄っており、いつの間に接近したのかレイジング・ガードナーは一人でベムードと

相対する形になっていた。

 

「ん?ああ、心配いらねえよ」

「あいつは否定するだろうけど、あいつは強い。

 それに手があるって言ってるんだから、問題ないさ」

 

リュウガンオーとグランシャリオは、自分達が束になっても敵わなかった相手と一人で

戦おうとするレイジング・ガードナーを見ても少しも慌てなかった。

 

「キュアッ!!」

「君は生まれてから、苦戦をしたことがないようだね。

 その余裕は強さからくる自信じゃない……

 危機に直面したことのない“無知”からのもの……だ!」

 

ボギュッ!

目の前の存在は、さっきまで自分が狩っていたのと同じ“獲物”だと思っていたベムードの体に、

突如として初めて走るものが流れた。

視線を下にやると、腹にめり込むレイジング・ガードナーの拳が目に入った。

 

「はぁぁぁっ……はいぃぃぃ!!!」

「キュッ!?キュッ!キュゥゥゥ!!!」

 

それを合図にベムードの体が浮き上がり、次々とレイジング・ガードナーが放つ拳が

叩き込まれる。なまじ、体が柔らかいためその様子はよくわかるが、拳によってのびる数は

とんでもないものだった。

そして、それを見ているリュウガンオー達からはレイジング・ガードナーの拳は、

放たれる残像しか捉えることができなかった。

 

「はいはいはいぃぃぃ……やぁぁぁっ!!!」

「キュアアアッ!!!」

 

止めと思われる拳がベムードの顔に命中し、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。

ベムードは気付く。自分の体に流れるものが、“痛み”だということを。

 

「君は確かに、こちらの攻撃を無効にできるようだけど、穴がないわけじゃない。

 衝撃を吸収することで、打撃を無効にするのなら衝撃が吸収される前に次の

 拳を叩き込めばいい……!」

 

吹き飛ばしたベムードに向かいながら、レイジング・ガードナーは拳を握りしめる。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「明!」

「!」

 

Tリュウケンドーは、明の名を呼んで動きを止めたシュヴァルツ・バイザーへと駆けだすと、

箒を連れて離脱した明は、その意図を読み取り再びラファールを駆って動き出す。

 

「まだまだっ!」

 

流し込まれた雷によって、動きを鈍らせながらもシュヴァルツ・バイザーは

拳を振り下ろそうとする。

 

「はっ!」

 

Tリュウケンドーは、防御するでも回避するのでもなく駆けるスピードを上げることで、

攻撃をいつものように下方に受け流しつつ、前方へと加速した。

 

「おりゃぁぁぁ!」

「がっ!」

 

加速の勢いを殺さぬままゲキリュウケンを左切り上げで胸部を振り抜き、Tリュウケンドーは

シュヴァルツ・バイザーの強固な装甲を切り裂く。

サンダーキーを使った時の攻防で、ラウラの居場所も探り当てていたので、

傷つけてしまうかもという心配もなくTリュウケンドーは、シュヴァルツ・バイザーの装甲を

切り裂くほどの力をゲキリュウケンに込めることができた。

 

「見えた!

 ダガースパイラルチェーン!」

「うおっ!?」

 

間髪入れず、切り裂いた傷に向けてTリュウケンドーはスパイラルチェーンを放つ。

 

「うおりゃぁぁぁっっっ!!!」

 

スパイラルチェーンを放っている魔弾ダガーを一本背負いの要領で、勢いをつけて回すとダガーごとチェーンに繋がれたラウラが引き抜かれる。

 

「――っと」

 

空中へと放り出されたラウラと魔弾ダガーは、明に受け止められる。

 

「ぐっ!……がぁっ!」

「これで止めだ!ファイナルキー!発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ゲキリュウケン雷鳴斬り!」

 

エネルギー源として利用していたラウラを失ったことで、シュヴァルツ・バイザーは

その体がドロドロに溶けていき、その隙を見逃さずTリュウケンドーは雷を放つ

ゲキリュウケンを電光石火のスピードで振り抜く。

 

「ぬおっっっ!!!!!」

「電光に……斬れぬものはない――!」

 

シュヴァルツ・バイザーの叫びを背にしながら、ゲキリュウケンに残る雷を

振るい落とすと同時に、その場はまばゆい光に包まれる――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「方位(ほうい)!定礎(じょうそ)!結(けつ)!」

 

ダメージを負いよろけてこちらに背を見せたベムードに向けて、レイジング・ガードナーが

印を結んで叫ぶと、ベムードの両手両足に正方形の“何か”が形成され、ベムードの動きを止める。

 

「おお!」

「あれが“結界術”ってやつか!」

「結界……術?」

 

リュウガンオーが言葉に出した聞きなれない単語に、首をかしげるはやて達だったが

それを彼らに質問する前に、レイジング・ガードナーが指示を飛ばす。

 

「今からあいつの弾力をグランシャリオと一緒に無力化するから、

 みんなで止めを刺してくれ!」

「それはいいけどよ、あんな小さいので捕まえるんじゃなくて、すっぽり閉じ込めて

 倒せばいいんじゃないのか?」

「残念だけど、捕まえるのはともかくあのクラスの魔物を倒すのは、まだ無理なんだ。

 それに、外で大分力を使ったから、今はあの大きさの結界が精一杯だよ」

 

レイジング・ガードナーは、グランシャリオに自分の消耗を伝えると

なのはとフェイトへと顔を向ける。

 

「君達が何を迷っているのか宇宙ファイターXから聞いたけど、

 起きてしまった過去と事実はどんなことがあっても変えられないし、逃げられない。

 だけど、過去を知ってそれ変えて過去とは違う明日は掴めるんだ……

 現代と言う今を戦えば!」

「「!?」」

 

初対面のはずなのに、二人の心にレイジング・ガードナーの言葉は、温かく染みわたり

心の曇りを晴らしていった。

 

「それじゃ――行くよ!」

「おう!」

 

レイジング・ガードナーとグランシャリオは同時に駆け、四肢を封じられて何とか抜け出そうとするベムードの頭部を殴り飛ばす。

 

「方位(ほうい)!定礎(じょうそ)!結(けつ)!」

 

四肢を動けなくしたことで、殴った頭部は衝撃でゴムのように伸ばされ、レイジング・ガードナーは、結界術を使って伸ばされた頭部を固定する。

 

「キュッ!?キュッッッ!!!」

「今だ!伸びきったこの状態なら、弾力は意味を成さないし、

 背中から攻撃すれば吸収もされない!」

「俺達が狙ったことを簡単にやりやがって……

 ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「私らも負けてらへんで!二人とも!」

「うん!」

「行こう!」

 

リュウガンオーはファイナルキーを発動し、なのは達もそれぞれのデバイスや手に

魔力をチャージさせていき、その様子は小さな太陽のようだった。

 

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

「エクセリオンバスター!!!」

「プラズマスマッシャー!!!」

「クラウ・ソラス!!!」

 

レイジング・ガードナーとグランシャリオが離脱するのを確認すると、

それぞれがトリガーを引いて砲撃を放つ。

紅い龍に続くように三色の砲撃は混じり合い螺旋状にまとまり、ベムードを飲み込んだ――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よし、到着だ。

 まずは状況確認を頼むぜ、相棒」

『了解した。――状況確認完了。

 リュウケンドーとリュウガンオーの反応は確認できないが、

 先ほどファイナルキーと思われる魔力反応を観測。

 戦闘は終了したと思われる。

 宇宙ファイターXは戦闘を継続中だが、敵の爆撃機から発進される

 無人機に迎撃部隊が苦戦しているようだ。

 私達の能力を考慮すると彼女達の援護を推奨する――』

「わかった。それじゃあ、やりますか――

 “狙い撃ち”ことティーダ・ランスター、デュナメス!

 目標を狙い撃つ!」

 

IS学園近海で行われる戦場より遠く離れた位置に現れた謎の人物は、

モスグリーンと白を基調としたパワードスーツのような装甲を纏っていた。

パワードスーツに搭載されていると思われるAIと会話した青年、

ティーダ・ランスターは、V字形センサーを目元におろすと額のカメラアイからの

情報を元に、スナイパーライフルによる戦場への射撃を開始する。

 

 

 

「戦場では、終わりが見えてきた時が一番気を抜きやすく危ないって言うけど、

 ビンゴとはね……」

 

IS学園の人気のない場所で、橙色の髪を鈴と同じくツインテールに

まとめた12~3歳と思われる少女は、十数体の遣い魔を目にして気だるげにつぶやく。

 

『ぼやかないで、誰かに気付かれる前に早く片付けてしまいましょう。

 “ツンデレガンナー”』

「やかましい!

 さっさと片付けるわよ、クロスミラージュ!」

 

バリアジャケットと顔を隠すマスクを展開した少女、ティアナ・ランスターは

両手に拳銃型デバイスを握りしめ、遣い魔に突撃する――

 

 




前回の続きとなりますが、なのは達と戦っていた魔物ベムードはウルトラシリーズに登場する怪獣ベムスターがモデルです。
エネルギー吸収だけでなく、体がゴムのように柔らかくもあるのでパンチや蹴りは衝撃が吸収されて効きません。前回なのはの記憶の混乱シーンは、漫画版ミクロマンの一コマを参考にしました。オシリペンペンで相手をバカにする様は、ティガのレイロンスな感じですww

苦戦するなのは達の元に現れたのは、レイジング・ガードナーという謎の人物。
その姿は「武装錬金」のキャプテン・ブラボーで、使う術は「結界師」から結界術を。ベムードを倒す拳の連打は、「五星戦隊ダイレンジャー」でリュウレンジャーが見せた天火星秘技・流星閃光(てんかせいひぎ・りゅうせいせんこう)と同じ超高速打撃です。

シュヴァルツ・バイザーとの戦いでは「アイシールド21」の関東大会準決勝のように
してみました。明が見せたのは、「暗殺教室」のアレですwww

最後に新キャラ二人。リリカル側からランスター兄妹に登場してもらいました♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いの後の青春


時間を見つけて書いていたら、ノリにのっていつもの倍近くなったので
分けて投稿します。
まずは、戦いの決着です。

後半は後程。


「はあぁぁぁっっっ!」

 

気合いの声と共にティアナは、右手のクロスミラージュからアンカーを放ち木に巻き付けると

横飛びを行いスケートで滑るかのように素早く移動し、それに合わせて左手のクロスミラージュで遣い魔を攻撃していく。

 

ティアナの予想外の攻撃に遣い魔達は反応が遅れ、そのワンアクションで数を半分に減らした。

 

「遠距離の射撃は兄さんやマインさんが上……接近戦に持ち込まれても

 リュウガンオーのようには戦えない。

 でも、はいそうですかって白旗を簡単に上げられるガキでもないのよ!」

『撃ち抜け、ティアナ!』

「くらえっ!」

 

ティアナは両手のクロスミラージュを上下に構え、時間差で攻撃していく。

 

「基本を忠実に、そして相手を惑わして……確実に攻撃を当てる!」

『フェイクシルエット』

 

突如としてティアナの体が光ったかと思うと、彼女の姿は三人となり遣い魔達は更に混乱する。

 

「一気に決めるわよ!」

 

ときにアンカーを使って立体的に、ときに惑わせるティアナに対して遣い魔達は終始翻弄され、

ただその攻撃を受けるしかなかった。

 

 

 

「デュナメス。ティアナの方は、どうだ!」

『……彼女は、無事に任務を完了。現在離脱行動に移っている……』

 

スカイバトラーを遠方より次々と撃ち落とすティーダはその途中、妹のティアナがどうなったかをデュナメスに尋ねるが、彼は少し考え現状を伝えた。

 

「ははは♪さすが、俺の妹だ!これは、帰りにケーキでも買っていかないとな!」

『まだ戦闘中だぞ。妹の活躍がうれしいのはわかるが、後にしろ。

 こうなると思ったから、伝えたくなかった……』

 

ティアナの成果に一気に士気を高める狙い撃ちことティーダだったが、デバイスのデュナメスは

げんなりした様子で返した。

 

「何を言っているんだ!妹のがんばりを褒めない兄がどこにいるんだ!」

『わかったわかった。とにかく今は、こっちに集中してくれ。

(最近はだんだん鬱陶しがられてるから、寂しいのだろうがその反動で

 俗に言うシスコンとやらが、レベルアップしているな……。

 人間が家族を大切に思うのは理解できるが、妹や弟を持った兄や姉のこれは

 度を越えていないか?)』

 

家族や友人の情愛を理解できるデバイスは、それとはまた違う情愛の一種であるシスコンブラコンに一人頭を悩ますのであった。

しかし、彼は知らなかった。

シスコンブラコンに負け劣らずのめんどくさい情愛が、人間にはあることに……。

 

ちなみに、そんなやりとりを直感で感じ取ったのかティアナが遠距離射撃でティーダを

撃ち落とせるか、クロスミラージュに聞いていたりする。

 

 

「“デュナメス”と“クロスミラージュ”の両デバイス、全機能正常に稼働中。

 “ツンデレガンナー”は任務を完了し、現場を離脱。

 “狙い撃ち”の方も間もなく任務を終えます。

 何とか、無事に終わりそうですね……」

「ははははは!いいねいいね!

 自分の作ったものが動いて、活躍している様を見られるのは!

 しかも、シュミレショーンだけではわからなかった問題点も上がってきてるし、

 私の創作意欲が掻き立てられるよ!!!」

 

ある場所で、ティーダとティアナの様子をモニター越しに見ている者達がいた。

ウェーブがかかった薄紫の長髪をした女性が報告する内容を聞きながら彼女の後ろに立ち、

楽しそうに高笑いする白衣を着た科学者と思われる男性は、オーバーリアクションで喜びを

表していた。

 

「バリアジャケットのように魔力を流せば起動するような機能には、あらかじめ魔力を

 チャージしておくバッテリーを使用し、展開機能を簡略化することでAIに割ける

 領域を増やした新型インテリジェントデバイス。

 これにより従来のものよりも人間に近い思考を行うことが可能となり、

 使い手との息が合えば、一般的な魔導士に比べワンランク上の能力を発揮することが

 できる。

 もっともバッテリー式だから、その能力を最大限発揮できる時間が限られるし、個人の専用性

 も高くなっているから量産には向かないんだけどね~」

 

科学者ジェイル・スカリエッティは、画面に映るデュナメスを見ながら不敵につぶやく。

その目は子供が自分の手で作ったものをどう改造しようかと考えているように、キラキラと

輝いていた。

 

「今回の戦闘でいいデータが採れましたし、完成できるのもそう遠くはないでしょう。

 クアットロ、そっちはどう?」

「は~い、ウーノお姉さま~♪

 IS学園の監視システムへのハッキングは、完了。

 追跡の妨害はいつでもできますわ~」

 

ジェイルの秘書のように報告していた女性ウーノは、傍らでキーボードを操作している

丸メガネをかけた女性クアットロに、撤退準備の進行を尋ねた。

 

「それにしても、敵もエグイですわね~。

 数に任せて後から後からグリグリと……あ~ん!

 私もエスデスお姉さまに、あんな風に攻められた~~~い!!!」

 

突如として自分の体を抱きしめながらクネり始めたクアットロに、ウーノはひきつった顔をする。

 

「(以前行った親睦を深めるための交流合宿で、本当になにがあったの!?)」

 

以前は、カズキのようなSよりな性格だった妹の変わりようにウーノは頭を痛めるのであった。

 

 

 

「ここは……?」

「どうやら、戻ってこれたみたいだね」

 

一方、合体攻撃でベムードを攻撃したリュウガンオー達となのは達は戦っていた空間から脱出することができた。

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫……はやて?」

「勝った……の?」

「ギ……ギリギリだったな……」

『残り魔力十数パーセント』

 

ベムードに止めを刺した4人は息も絶え絶えに、地面に膝をついていた。

そこにレイジング・ガードナーがリュウガンオーに肩を貸して、なのは達から距離を

とる。

 

「向こうの方もそろそろ終わるようだから、僕達はこれで失礼させてもらうよ」

 

そう言って、背中を向けるレイジング・ガードナーになのはは何か言おうとするが、

響き渡る爆発音にかき消されてしまう――

 

 

 

「アリーナーってことは……戻ってこれたのか!」

『そのようだな』

 

シュヴァルツ・バイザーを倒し光に包まれたTリュウケンドー達は、元のアリーナに戻っていた。辺りを見回すとラウラと魔弾ダガーをキャッチした明が箒と共におり、他には

バラバラとなったラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだけがその場に残っていた。

 

「どうしたのだ、一夏?」

「ん?いや……あいつ本当に倒せたのかな?って思ってさ……」

 

キョロキョロと警戒するように辺りを見るTリュウケンドーに箒は、問いかけるがその答えに

一瞬何を言っているのかわからなかった。

 

「何を言っているのだ?あいつは、今お前が!」

「う~ん……確かに手ごたえはあったけど……」

「悩んでいるところ悪いが、まだ終わってないようだ。

 IS学園の近海で、こちらに攻め入る謎の敵と戦闘が継続中らしい。

 おそらく、いや間違いなく奴らだ!」

 

ラウラを抱えながら明はTリュウケンドーに、IS学園の現状を知らせる。

その顔は、苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。

少し悩んだそぶりを見せると、ためらいがちに魔弾ダガーを差し出す。

 

「……行くのだろ?」

「ああ……」

「無茶をするなと言っても聞かないのはわかっている……

 だけど無理はするな!これだけは約束してくれ!」

 

明の悲痛な叫びにTリュウケンドーは、静かに魔弾ダガーを受け取る。

シュヴァルツ・バイザーとの戦いでかなりのダメージを受けた上に他のキーよりも体に

負担がかかるサンダーキーまで使っているのだ。

本当なら、休まなければならないのだがTリュウケンドー……一夏はこんなことでは止まらない。それを知っているからこそ、明は止めるのではなく無理をしないようにと懇願する。

 

「……ふっ。すぐに片づけて帰ってくる!」

 

Tリュウケンドーは、ゲキリュウケンを魔弾ダガーと合わせてツインエッジにすると

明にそう言って、走り出した。

 

「イーグルキー!召喚!」

『サンダーイーグル!』

「いでよ、サンダーイーグル!」

 

ゲキリュウケンから放たれた光は空中に魔方陣を描き、そこから目に見えないほどの速さで

何かが飛び出す。

 

「――――ヒュゥゥゥヤァァァッ!!!」

 

空高くその声を轟かす鷲を模した機械の体を持つ黄色の鳥は、あまりの力から封印されていた

雷の獣王、サンダーイーグルである。

 

「サンダーイーグル!ウイングモード!」

 

Tリュウケンドーの声と共にサンダーイーグルは、首を折り曲げ2枚の翼を4枚へと広げ

Tリュウケンドーと合体する。

 

「サンダーウイングリュウケンドー!ライジン!」

 

空を駆ける稲妻の如くTWリュウケンドーは、戦場へと飛翔した――

 

 

 

「ああ~もう!次から次に!」

「文句を言っていないで、手を動かしてください鈴さん!」

「さっきからの攻撃は、僕達を援護してくれてるみたいだけど……!」

「……それでも、まだ数が多い!」

 

エレン達の援護に駆け付けた鈴達は、超遠距離からのティーダの支援攻撃も合ってスカイバトラーを押しているが、疲れを知らない機械との差が少しずつ出始めて集中力が落ちてきた。

 

「私の清き熱情(クリア・パッション)もそんなに纏めて倒せないし……」

「山嵐も弾切れ……後は、地道に倒していくしかない……」

 

有効な武器や技も効果範囲や弾切れによって、後は機械との体力勝負になりかけた時、

その場にいた全ISのハイパーセンサーがアラームを響かせる。

 

「今度は、何よ!」

「IS学園から、高速で接近する物体あり!?」

 

いち早くエレンと燎子が、接近するその物体に顔を向けると同時に黄色の影が二人の

頭上を通り過ぎた。

その場にいた全員が一瞬呆気にとられた次の瞬間、十数体のスカイバトラーが切り裂かれて

爆散した。

驚く彼女達を尻目に、TWリュウケンドーは敵の爆撃機に真っ直ぐ接近し、それを妨害しようと

襲い掛かるスカイバトラーを次々と倒していく。

 

『リュウケンドー。これ以上戦闘が長引くのは、危険だ。

 一気にあのデカイのをやるぞ!』

「おう!ファイナルキー……発動!」

『ファイナルクラッシュ!』

「ツインエッジゲキリュウケン――超雷鳴斬り!!!」

 

蓄積されたダメージも考慮しゲキリュウケンは早急に勝負を決めるように言い、

TWリュウケンドーは雷をその身に纏わせ、爆撃機へと加速し突貫する。

 

 

 

「ザンリュウジン、アーチェリーモード!」

「ははははは!ぬるい!ぬるいぞ!!!」

 

爆撃機の上では、宇宙ファイターXとクリエス・ベルブの戦闘が続いていた。

ザンリュウジンを弓へと変形させ矢を射るが、クリエス・ベルブはたやすくをその矢を

切り伏せていった。

そして両者は、距離をとって武器を構えあうというにらみ合う形となる。

 

『あの野郎~攻撃が、当たってるのに効いてないのか?』

「いや、当たっているのは布石の攻撃だけだ。

 こっちの本命の攻撃は、きっちり防御している。こいつは、単純な戦闘狂じゃない。

 相手や物事を冷静に見抜く、繊細な面を持っているんだ――」

「来ないのか?ならば、こちらから……」

 

クリエス・ベルブが先に攻撃を仕掛けようとするが、何かに気付いたのか顔を下に向け

宇宙ファイターXも同様に下に顔を向け仮面の下でほくそ笑む。

 

「どうやら、俺の戦いは決着がつかなかったけど俺“達”の戦いは終わりのようだな」

 

そう漏らすと同時に足元の装甲をぶち破って、TWリュウケンドーが飛び出す。

 

「なんと!?」

「――っりゃっ!!!」

 

TWリュウケンドーが、振り返ると爆撃機が爆発に包まれる様がその目に映った。

 

「はぁ……はぁ……」

「貴様がここにいるということは、奴を倒してきたようだな。リュウケンドーよ」

 

肩で息をしているところに前方から声が聞こえてきたので、顔を上げると

表情などあるはずもないような顔なのに、体中から喜びの感情が浮かんでいるとわかる

クリエス・ベルブが空中に佇んでいた。

 

「くっ!」

『こいつ、シュヴァルツ・バイザーと同等いや……それ以上!?』

「仮初の体とはいえ、奴を退けるとは大したもんだ。

 本当に魔弾戦士というのは楽しませてくれる!」

「『!?』」

 

闘気が膨れ上がったクリエス・ベルブに、TWリュウケンドーはゲキリュウケンを構える。

 

「おいおい。こっちの決着がついてないのに、相手を変えるような浮気性だと

 友達できないぞ~」

 

一触即発の空気が流れる二人の間に、足に風を纏わせて空を飛ぶ

宇宙ファイターXが割り込んできた。

 

「宇宙ファイターX!」

「危うく、爆発に巻き込まれるところだったぞ。少しは周りを見てくれ」

『って、それをお前が言うのか?』

『余裕で逃げられたくせに』

「ははは!すまんすまん。久方ぶりに強者(つわもの)が、ゴロゴロ出てきたからな!

 お前と決着をつけるのが先だな。何なら、二人同時でも構わんぞ!」

「いえ、ここまでですよ。ベルブ」

 

子供同士のような軽いノリで自分に不利な条件を提案してくるクリエス・ベルブの隣に

突如として黒い煙が現れる。

 

「っ!(俺の風の探知をくぐって現れた!?)」

「その声……シュヴァルツ・バイザー!やっぱり、生きてたのか!」

「その言い草からすると、あなたも私を倒せたとは思っていなかったようですね。

 あなたに倒される瞬間、急いで逃げださせてもらったのでこの通りですよ」

 

シュヴァルツ・バイザーの声を発する煙は形こそ、変えないがそれほどダメージがあるとは

思えない声色で返事を返してきた。

 

「ここまでって、おいおい!ここから面白くなりそうなんだぞ!」

「今回は、ここまでです。スカイバトラーは全滅。ベムードも倒されました。

 彼らを甘く見てなどいませんでしたが、彼らが協力した時の力は見誤っていました。

 ここは、引くとしましょう……。

 それにあなたも全力を“出せない”相手は、物足りないのでは?

 彼らが全力を出せれるようになるまで待った方が、楽しいと思いますよ」

「「『『!!?』』」」

 

クリエス・ベルブを説得するために発せられた内容に、一夏達は息をのんだ。

自分達が抱える問題を知られていたからだ。

 

「……そうだな。うまいものは最後に食べたほうが、うまいからな」

「ふぅ~。素直に納得してくれて感謝しますよ。

 それで?魔弾戦士のお二方はどうしますか?

 負け犬が尻尾を巻いて逃げるように退散しますが、追ってきますか?」

「いや、やめておくよ。藪をつついたら、何が飛び出てくるかわかったもんじゃないからな」

 

剣を下したクリエス・ベルブにどこか安堵したシュヴァルツ・バイザーは、自分達を

追撃してくるかと尋ねるが、宇宙ファイターXは肩をすくませて断った。

 

「そうですか……それではいずれまたお会いしましょう――」

 

シュヴァルツ・バイザーはその煙の体でクリエス・ベルブを包みこむと

文字通り煙のようにその姿を消した……。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「だが、忠告しておくぞ?あいつらは、こちらがばれない様に作った壁や建前

 なんかお構いなしに本心でぶつかってくる。

 特に弟には強く心を持たないと、惚れてしまうぞ?」

「教官も惚れているのですか?」

「姉が弟に惚れるか、馬鹿め」

「では、先ほど言っていた“あいつ”という者には……」

「――さあ!もうすぐ休憩時間は終わりだぞ。さっさと訓練場に戻れ!」

 

どこか現実味のない幻想的な空間で、ラウラは懐かしい思い出を見ていた。

千冬に強さを尋ねたあの時、照れくさそうにしながらもうれしそうに自慢気に語る

その姿に、今だからわかるヤキモチという感情を初めて抱いたのだ。

最後は、ごまかすように話を逸らしたが“あいつ”……カズキに千冬は惚れていたのだと

ラウラは理解した。

 

そして、自分が恩師に尋ねた強さとは何かという問いに、その弟の一夏と、

友と呼べる者達との出会いで分かったかもしれない……。

彼らは圧倒的な敵を前にしても、決してあきらめなかった。

 

「仲間が……共に戦ってくれるものがいるからお前は強いのか……?」

「それもあるだろうけど……一番は守りたいものを守るって決めてそのために、

 絶対に“負けない”ために戦うからかな……」

「負けない……ため?」

「そう。負けるもんかって意地になる奴は、負けないために自分の限界を

 超えていく……ここまでってものがないんだよ」

「お前はだから強いのか?負けないようにしてきたから?」

「強いかどうかはともかく、そうやって自分で決めて、自分の意志で進んできたからな……」

「自分の意志で進む……」

「最初は、ああなりたいって憧れでもそうしたいって想いでも

 そこに自分の意志が入っていなきゃ、なんにもならないのさ

 ――だからさ。お前も誰かのためとかじゃなく自分の意志で決めて、前に進んでみろよ。

 それができるまでは、お前も守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

瞬間、ラウラは初めての衝撃に強く揺さぶられる。そこで彼女は意識が遠のくのを感じるが、その衝撃が俗に言う“ときめき”だと知るのは、もう少し時間がかかるのであった。

 

 

 

「う、ぁ……」

 

うっすらと感じる光によって、ラウラは目を覚ました。

 

「気が付いたようだな」

「教……官?私……は……?」

 

丁度ここに来たところだったのか、こちらへと近づいてくる千冬にラウラは

自分が何故ここにいるのかも含めた質問をする。

 

「そのままでいい。ここは保健室だ。

 全身に無理な負担がかかったことで、筋肉疲労と打撲がある。

 それと体に感電したような症状もあるから、しばらく動けないだろうから

 無理をするな」

「確か……試合に負けて、それから……」

「ああ。信じられないだろうが、お前はいわゆる魔物とか呼ばれるものに

 体を乗っ取られたらしい」

 

千冬の突拍子もない言葉にラウラは言葉を失う。

 

「残念だが、現実だ。織斑達3人の証言に加えて、中破したがお前の機体からもその時の

 記録が残っていた。

 ……そして、これは重要案件でその上機密事項なのだが……」

 

珍しく歯切れの悪い言葉で千冬は語り掛けるので、ラウラは自然と不安に襲われた。

 

「VTシステムは知っているな?」

「はい……。正式名、ヴァルキリー・トレース・システム。

 モンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを

 トレースするシステムですが……」

「そう、IS条約によって研究・開発・使用が禁止されているそれが、かつてお前のISに

 搭載されていた」

「なっ……!?」

「安心しろ。システム自体は、カズキの奴がとっくに取り外して消去している。

 あいつがドイツに来た目的の一つが、それだったのさ。

 だが、システムはなくてもISはVTシステムに対応できるようになっていたため、

 似たようなシステムを使うことで、類似するようなことができたらしい。

 それを利用して、実体を得て織斑達に襲い掛かったらしい……」

「私が……望んだからですね。力を……暗闇から逃げるために……」

 

ぎゅぅっとシーツを握りしめながら、ラウラは涙声となっていく。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

いつもの凛とした声で呼ばれてラウラは、条件反射で返事をする。

 

「お前はだれだ?」

「えっ?あ、あの……私は……」

「わからないのなら、ゆっくり考えるといい。学生の本分は、学ぶことにある。

 何3年間はここで過ごすんだから、時間はたっぷりある。もちろん、その後もな。

 大いに悩み学んでいくといい」

「あ…………」

 

思わぬ千冬の言葉にラウラは、ぽかんと口を開けてわけがわからないと体が固まった。

 

「それともう一つ。いくら憧れても、誰も自分以外の何者にもなれないぞ。

 特に、アイツの姉というのはイロイロと心労が絶えないからな。なるものじゃない」

 

笑いながら冗談めかしに行って、千冬は保健室を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「なるほど……。つまり、整理すると……一夏は地球を守るためにその“魔弾龍”と

 共に今まで戦ってきたと?」

 

一夏は、食堂でなのは達と事後処理を行う楯無を除いたいつものメンバーが集まって、

箒にリュウケンドーのことを簡単に説明していた。

 

「そう。丁度中学に上がる頃からな」

「……はぁ~。にわかには信じられんが、実際に見ては……な」

「ははは。懐かしいな、その反応。僕も似たような感じだったよ~」

「いきなり、そんなことを言われてもピンときませんものね」

 

まだ受け止めきれない部分もあるが、とりあえず箒は無理やり現実として納得した。

 

「それよりも!こんなところで、話していいの!」

「大丈夫だよ、鈴。皆、私達の会話なんて聞いていない……」

 

簪がお茶を啜りながら、顔を向けるとそこには食堂のテレビを見ながら絶望に沈む

女子の一団があった。

 

『トーナメントは事故により中止となりました。再開の目途はたっていません。

 詳しいことは、各自個人端末で確認の上――』

「……優勝……チャンス……消え……」

「千載一遇の好機が……」

「……私の燃える青春計画が……」

「……うわあああああんっ!」

 

全員太陽へと走り出すがごとく、泣きながら立ち去っていき、一夏達を気にかけるものなど

いなかった。

 

「どうしたんだ?」

「さあ……?」

 

わけがわからず、一夏と明は頭に?を浮かべて首を傾げるばかりだった。

そして、それはこの場にいる者達も例外ではなかった。

 

「「「「「「……はぁっ~」」」」」」

 

重いため息を吐く“6人”の乙女達。

 

「「「「「ん?」」」」」

「あれ、楯無さん?」

「何故ここに?事件の後処理をしていたのでは?」

 

生徒会室にいるはずの楯無に一夏は、驚く。

 

「まさか、サボリですか……?」

「そんなわけないじゃない、鈴ちゃん!

 逃げてきたのよ~。あんまりにも居心地悪くて~」

 

ジト目の鈴に対して、楯無は涙目で反論する。

 

「……どういうこと、お姉ちゃん?」

「今ね……生徒会室では、虚ちゃんと本音が弾くんとウェイブくんのケガを

 手当てしながらイチャついているのよ~!

 私を空気扱いして、二人だけの世界ができてんだよ!二つも!チキショー!!!」

 

机を叩きながら、楯無は叫んだ。いつもと口調が変わるほどに。

そんな楯無のことなどお構いなしに、生徒会室では弾と虚は手が偶然重なって

時が止まったように見つめ合い、ウェイブは本音にワタワタと包帯をグルグルと巻かれて

いたりする。砂糖濃度が急上昇するその部屋で、ゴウリュウガンは無言で一人耐えているのを

誰も知らない。

 

「こうなったら、一夏くん!お姉さんを慰めるために、デートしなさい!」

「はい?」

「むっ?」

 

机に突っ伏して泣いていたかと思ったら、ガバッと起き上がり見開いた目で一夏に

迫ってきた。

突然のことに一夏は間の抜けた返事をし、明は怪訝な顔となる。

 

「ちょっ!待ちなさいよ!」

「抜け駆け禁止ですわ!」

「あっ……それがアリなら僕も慰めてもらおうかな?」

「私も……」

「待て!そもそも私が言い出したのだから、最初は私だろ!!」

「確かにそうだけど、その約束はトーナメントが中止になったのだから無効……

 だから、この際!ここにいるメンバー全員でデートっていうのはどうだ!!!」

 

背後に爆発音でもさせるかのように楯無はとんでもないことを宣言し、箒達は言葉を失い固まる。

 

「……いいかもしれないわね、それ」

「ええ、このまま何もなしというよりは……」

「おもしろそうだね♪(皆を出し抜くプランも練らないと……)」

「皆がいいのなら……」

「ああ~もう!わかった!全員で行けばいいのだろ!!!」

「じゃ決まりね♪それじゃ、一夏く~ん?早速彼女さんに電話して、デートの許可

 とってね~」

「い、いやとってね~って言われても」

 

こちらのことなどお構いなしに話を進めていく彼女らに一夏は、思考がついていけず

しどろもどろとなる。

 

「おい……最初の約束というのもデートのことなのか?」

 

そんな一夏に若干声を低くして、明が問いかける。目を鋭く細めて。

 

「えっ?ああ。今回のトーナメントに優勝したら、買い物に付き合ってくれって話

 だったんだけど……彼女がいるのにデートってことになってさ。

 で、誤解のないように断りを入れるってことだったんだけど……」

「……まあ、いいのではないか?その彼女とやらも一緒に行くのなら」

 

明に慌てて説明をした一夏だったが、明は不機嫌そうにそっぽを向いて顔を逸らした。

それを見ていた箒達は、内心苛立ちを覚えた。

まるで彼女のご機嫌を伺う彼氏の光景に見えたからだ。

 

「あ、ここにいたんですね皆さん!」

 

青春の一ページを刻んでいるとは夢にも思わない一夏達の元に、真耶がやってきた。

 

「すいません、原田君。碓氷先生が用があるとのことで、疲れているところを悪いですが

 先生の部屋に行ってもらっていいですか?」

「碓氷先生がですか?わかりました」

「それで、山田先生?他に何かあるんじゃないんですか?」

 

明が食堂を後にするのを見ながら、楯無は真耶に質問する。

 

「はい、織斑君に朗報です!

 なんとですね!今日から男子の大浴場の使用が解禁です!」

「本当ですか!?」

 

両手拳を握りしめてジャンプする真耶とその知らせに喜ぶ一夏とは対照的に、

舌打ちするものがこの場に一人いた。跳ねた時に真耶のあるものが、大きく揺れたのを見て。

 

「今日は大浴場のボイラー点検で元々使えなかったのですが、点検自体は

 終わっているので男子二人に使ってもらおうってことになりました♪」

「ありがとうございます、山田先生!」

 

目を輝かせて一夏は、真耶に頭を下げて感謝を述べる。一夏は風呂好きだったのだが、

男が入った後のお湯に入るのは恥ずかしいとか、自分達が入った後に入られるのもどう入ればいいのかわからないという、よくわからない女子達からの意見で一夏とカズキ、そして“明”の男性陣が大浴場を使うことは揉めにもめていたのだ。

 

「いえいえ。これが私達の仕事ですから。ああ、原田君には碓氷先生が知らせる

 とのことなので、織斑君お先にどうぞ!」

 

そう言われて、一夏はスキップしそうな足取りで着替えをとりに部屋に戻った。

 

 

 

「すっげー!」

『まさに圧巻だな』

 

大浴場へとやってきた一夏は、その広さに驚いていた。

ジェットやバブルがついたものもあれば、サウナに果ては打たせ滝まで完備されている。

しかも、今はカズキも来ていないのでこの大浴場をゲキリュウケンと共に独占できるため

一夏のテンションは自然と上がっていた。

 

「ふうううぅ~~~」

『生き返る心地だな……』

 

体を洗い終え、ゲキリュウケンを洗面器に入れてその頭に彼用のタオルをのせた一夏は、共に戦いで疲れた体を湯船に沈めて久方ぶりの風呂を満喫した。

 

『風呂は、人間が作り出したものでもトップレベルの素晴らしさだな……』

「だよな~……」

 

カポ~ンという擬音が聞こえてきそうな空間にエコーする自分達の声も堪能しながら、

無心になりそうな感覚に陥る。

 

「……今日の戦い……明と箒がいなかったら勝てなかったかもな……」

『ああ……』

「それが悪いとは思わないけど……やっぱり悔しかったな……」

『……』

「信頼するのと甘えるのは違う……もっと強くなろう……ゲキリュウケン」

『ああ』

 

目を閉じながら悔しさを吐露し、言葉数は少ないが一夏は

ゲキリュウケンと共に決意を新たにする。

 

カラカラ……。

 

そこに扉が開く音が、一夏とゲキリュウケンの耳に入ってくる。

 

『風呂を堪能して気付かなかったが、誰か来たようだな』

「カズキさんだろ?あの人も風呂好きだし……遅かったで……」

「は、入りまーーーす……」

『!?』

「ぶふっ!!!?」

 

あまりの予想外すぎる事態に、一夏は思いっきりズッコケた。

てっきりカズキが入ってくると思ったら、生まれたままの姿の明が申し訳程度にタオルで

前を隠した状態で一夏の目に飛び込んできたのだ。

 

 





スカさんが作ったクロスミラージュとデュナメスは、魔力を流せば
起動できる機能を本体と分割することで、AIに使える領域をレイジングハート達よりも増やして、リインのように人間に近い思考ができるようになっています。
特徴としては他に、バッテリーを使うことでその分の魔力を普通よりも
攻撃等に回せて強力なものが放てるということ。
時間制限があるということです。
ちなみにデュナメスは苦労人属性(爆)

クアットロは原作とは違い、痛めつけられる方に目覚めましたwww





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影でほくそ笑む者

後半投稿です!
皆さん待った入浴イベント♪戦闘描写とは違った難しさでした(苦笑)
タイトルは悪役っぽいけど、笑うのは誰なのか!
どうぞ!

*今回は激しいキャラ崩壊を起こす人がいます。
 ご注意を。


『さあさあ、やってまいりました今回のオモシロいじりタ~~~イム♪

 解説の方をお願いします、カズキン先生』

「どうも。仕掛け人兼解説のカズキです。

 今回は山田先生の協力、そして連絡の順番が重要なポイントとなっております」

『と言いますと?』

「まず、山田先生には明に俺のところに来ること、一夏への入浴の連絡そして

 俺が明に入浴を伝えるという連絡を頼みます。

 これによって、彼女が俺の頼みを順番に彼らへと伝えると一夏と明が

 二人同時に入浴の件を聞いて、一緒に大浴場に行くことが無くなります」

『なるほどなるほど~』

「その後、頃合いを見て俺の所に来た明に入浴の件を伝えます。一夏には山田先生に

 伝えてもらうのを“忘れていた”ことを話すために、ここに来てもらうと言って

 明に大浴場へ行ってもらいます。

 これで、彼女は一人でお風呂を楽しめると一夏と鉢合わせる可能性が

 頭から無くなるということになります」

『それでそれで?』

「“たまたま”連絡がすれ違って、互いにお風呂で鉢合わせることを考えなくて。

 “たまたま”お風呂に入っている一夏と連絡が取れなくて。

 “たまたま”服を脱ごうとしたら、一夏の服を見つけて頭が沸騰して困惑しながらも

 入ることを決めても……全ては“たまたま”だよね♪」

『だよねー♪』

 

自室で誰に向かって話しているのか、マイクを片手にカズキとザンリュウジンはテレビ番組の

ようなやりとりを心底楽しそうな笑顔と声で語り合った。

 

「更に重要なのが、手伝ってもらう人には仕掛けを一切話さないということ♪

 変に意識しない素の行動こそが、最高の演技なのです!」

『なのです!』

「そして、確実に成功するという保証が無いのもポイント♪

 もしも仕掛けがバレても、確実性が無いからすっとぼけられます!」

『られます!』

「だが、これは本命のための仕込み♪

 明日の本番をお楽しみに~――ふふふ………ははははは!!!!!

 ……ああ。捕まえたネズミさん達との“お話し”の準備もしておかないと」

 

悪の組織の幹部の如く高笑いするカズキの姿からは、確実性が無いと言っておきながら自分の

仕掛けが成功すると確信していることがうかがえた。

しかし、そんなカズキでもまさか箒達6人が一夏の元に突撃しようとしたけど、明が大浴場へと入っていったのを見たから突撃を諦めたなど知る由もなかった。

 

 

 

「ななななななんででででで!!!」

「こここっちを見るな!」

「はい!すみません!」

 

男の悲しい性か明をガン見していた一夏は、明に言われてすぐさま顔を逸らす。

普通に考えれば、明の方が注意される立場とか言ってはいけない。

 

『では、私は眠るから後はごゆっくり。……zzzzz』

「おい、ゲキリュウケン!」

 

この場で唯一の味方が早々に離脱して本格的に焦り始める一夏のことなどお構いなしに、

明は湯船に体を沈め一夏に近づいてきた。

 

「お、おい。風呂場であまり騒ぐな……」

「なんで、俺が悪いことになってるの!?」

 

そのツッコミを最後に一夏は、顔を半分まで沈め互いに無言となる。

鈍感だなんだと言われたりカズキのようにからかったりしても、やはり15歳の少年。

人並みにそういうことに興味はあるし、こういう状況も初体験である。

もっとも下着を見たり等のイベントは結構あったりするが。

背を向けているからわからないが、明が自分の近くにいることはわかるので

心臓は破裂してもおかしくないほどバクバクしていた。

 

数秒かはたまた数分の時間が流れると、明の方から口を開いた。

 

「これはその……カズキさんが今日は男子がお風呂に入れる日と聞いて

 入らないのはおかしいかな~と思って……な?

 それに、その……彼氏は彼女と一緒にお風呂に入るのが好きって聞いたから……」

「誰だ!いらんことを吹き込んだ奴は!でも、ありがとうございます!」

 

か細くなっていく明の声に、一夏も本格的に混乱していく。

 

「あ、後……戦いで疲れているだろうから……身体を洗ってあげよう……かと」

「――――えっ?」

 

静まり返った大浴場で、ワシャワシャと体を洗うタオルだけが音を立てる。

 

「(どうしてこうなった!?)」

 

腰にタオルを巻いて座りながら、視線を下の方に向けて一夏は自問をした。

既に体は洗い終えていたのだが、疲れてろくに洗えてないだろうと明に押し切られ

彼女に背中を洗ってもらう形となっている。

しかも両手を使っているため、明の体を隠すものは何もない状態である。

一夏は理性が焼き切れないよう、頭の中で円周率や素数を数えたりお経を唱えたりするも

焼け石に水にもならなかった。

風呂から上がる際、チラリと視界に入った明の姿が頭から離れないのだ。

ほどよく濡れた髪に、女子特有の柔らかい肌、そして平均を大きく上回る胸とその揺れる様。

男にとってこれ以上ないほど、凶悪な組み合わせである。

 

「(さっきから、ずっと見てる……)」

 

背中を洗っている明は、一夏の視線が目の前の鏡へチラチラ動いてそこに映る明の姿を

見ようとしているのに気付いていた。

最も一夏自身の体に隠れて、ほとんど見えてはいないのだが。

見ている人はバレていないと思っても見られている人からは、視線が丸わかりなのだ。

特に女は、男よりも遥かにそういった視線に敏感である。

 

「(うぅぅ~~~/////。

 ただ体を洗っているだけなのに、のぼせそうだ//////)」

 

明も一夏同様、頭が沸騰寸前であり原因の一つが一夏の視線にあるのは明白だが、明は

何故か一夏に注意しない。その理由は、明だけが知る。

 

「よ、よし。洗い終わったぞ……。つ、次は前を……」

「っ/////!!!!!?おおおおおい!!!あああああ当たって……!!!!!」

「へっ?…………~~~~~っっっ#$%&☆///////////!!!!!!!!!」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった明は、自分の体勢を見てようやく気が付く。

背後から前を洗おうとしたら、自然と一夏の背中に密着してしまうのだ。

頭に血が上っていた明はそんな当然のことにも言われるまで気が付かず、顔をトマトよりも真っ赤にして両手であるものを隠して後ろに後ずさる。

最も密着したのが数秒程とはいえ……いや数秒だからこそ、その柔らかい感触はしっかりと一夏の体に残った。

 

「おい!大丈b「見るなぁぁぁぁぁ!!!!!」ごへっ!!!」

 

純粋に明を心配して反射的に振り返る一夏だが、明の拳によって吹き飛ばされる。

他意はないが、この場合は一夏が悪いということにしておこう。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………そろそろ上がるか……」

「……………………そうだな//////」

『……zzzzz~』

 

 

再び湯船に浸かった二人は終始無言で20分ほど入ると、風呂場から上がった。

着替えは順番に行い部屋に戻っていくが、そこでも互いに顔を赤くして無言だった。

その様子を見てケタケタと悪魔のように、笑う者がいたことを二人は知らない。

 

部屋に戻った後は、そのまま一夏も明もすぐにベッドで眠りについたのは今日の戦いで

疲れていたからだであろう。……そのはずである。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(ね、寝た気がしない……)」

『(ツッコまんぞ。昨日私が眠っている間に何があったのかなんて、

 絶対にツッコまん!)』

 

夜が明けて翌日。一夏が目を覚ますと明の姿はなく、先に行ってくれとの書置きが

残っていた。

朝のホームルームを待つ一夏は、睡眠をきちんと取ったはずなのに眠った気がしていなかった。

その原因をなんとなく察しているゲキリュウケンは、完全に回復していない状態で

これ以上のダメージはゴメンとばかりに無言を貫いた。

 

そこに、ふらふらと疲れているのが見てわかる真耶と眉間に皺を寄せて難しい顔をする

千冬、そしてワクワクしている様子のカズキが教室に入ってきた。

 

「み、みなさん……おはようございます……。

 ……織斑君、何を考えているかわかりませんが、先生を子供扱いしようとしているのは

 わかります……はぁ……」

「?」

 

一夏を咎めるようなことを言う真耶だったが、その言葉に覇気はなかった。

 

「ええと……転校生を紹介します……あっいえ、すでに紹介は終わっているというか

 何と言うか……」

 

自分でも何を言っているのかわからいのか歯切れの悪い真耶の言葉に、クラスの皆も

騒ぎ始める。

 

「もう見た方が早いです、はい……。では、入ってきてください」

「し、失礼します/////!」

 

どこか恥ずかしそうな声で、呼ばれた転校生?は教室に入ってくる。

 

「は、原田……明です/////。あ、改めてよろしくお願いします//////」

 

入ってきたのは、スカート姿で顔を赤くした明だった。

よほど恥ずかしいのかスカートの裾を押さえて、誰とも目を合わせようとしなかった。

 

「「「「「……へっ?」」」」」

「つ、つまり原田君は原田さん……ということでした。

 はぁ~、また寮の部屋割りを組み立てなおしです……」

 

よよよと聞こえてきそうな感じで、真耶は落ち込む。

 

「簡単に言うと、明はボディーガードのような仕事をしていてね~。

 その関係で、男の恰好をしてもらってたんだ」

 

カズキが前に出てきて説明をするが、その顔は笑うのをこらえているように

引くついていた。

だが、そんな言葉など最早誰の耳にも入っていなかった。

 

「え?原田君が……女……?」

「ははは……わ、私ったらまだ部屋で寝ているみたい……。

 そうよ、これは夢よ……夢に決まっているわ」

「神様はどれだけ、私達をあざ笑えば気が済むの!

 訴えてやる!!!」

「……篠ノ之さんやハラオウンさんと同じくらい大きい……」

「一×明が……明×一が……ネタが全部パァー……」

「って、織斑君!原田君とは前からの知り合いで同室なんだから

 知らないってことは――」

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場を使ってなかったけ!?」

 

事実という刃に指輪の魔法使いの敵を生みださんばかりに絶望する者、

神様に怒る者、ギリッと歯ぎしりする者等様々な反応が飛び交う中、

ポロっと呟かれた指摘に、全員が一夏へと視線が集まるがその瞬間彼女達は

後悔した。

 

「へぇ~~~。女子の制服も似合うじゃん♪」

「ううううるさい!お世辞なんかいるか/////!」

「おいおい。俺は、素直な感想を言っているんだぞ?

 こんなことで、お世辞とか言ってなんになるんだよ。

 それに昨日あんなことをしてきたのに、今さら何を恥ずかしがっているんだ/////?」

「うっ!そ、それは……うぅぅぅ~~~//////」

 

こちらも彼女達とは別の意味で、周りの言葉が耳に入っていなかった。

 

「……ゴヘッアッ!!!?な、なに……アレ?」

「ま、まぶしい!なんか知らないけどアレは、私にはまぶしすぎる!!!」

「桃色空間度が一万……一万五千……なおも上がって……バカな!?

 織斑先生と碓氷先生のそれを上回っただと!!!?」

「だ、誰か取って!この胸の中にある黒いモノを取って!!!」

「王子様に変装したお姫様のデレ……ギャップ萌えぇぇぇ!!!!!」

 

周りのことなど耳だけでなく目にも入っていない、一夏と明のやりとりに教室の

混沌は加速を増していく。

納めるべき教師達は、ある者は顔を赤くしてアワワとなり、ある者はおもしろくないと

ばかりの顔で睨みつけ、またある者はまだ我慢とばかりに顔を上に向けて笑うのを必死に

堪えていた。

 

「一夏ぁっ!!!」

「一夏く~~~ん?」

「一……夏?」

 

混沌に呑まれる教室の前後のドアが吹き飛び、前の方はドアを蹴り飛ばしたと思われる足が、後ろの方は吹き飛ばした槍の先端と薙刀の刃が顔を出した。

そこにISの腕だけを展開して、怒りのあまりツインテールを逆立てて双天牙月を肩にかけた鈴と、きれいすぎるぐらいきれいな笑顔を浮かべて鈴と同じく蒼流旋(そうりゅうせん)を構える楯無、鈴や楯無とは違い一切の感情を見せない冷たい無表情で目から光を消した

簪が夢現(ゆめうつつ)を手にして、入ってきた。

 

「明が女って……どういうことよ!!!」

「お姉さんにも~わかるように説明してほしいなぁ~♪」

「一夏……一緒にハイッタノ?」

「ええ。わたくしも是非とも聞きたいですわ。オホホホ……」

「ちゃんと説明してくれるよね?」

「詳しく聞こうか……?」

 

鈴達に続いて、先ほどまで驚きで固まっていた箒達もジリジリと一夏に迫ってきた。

血管マークを浮かべたり、何故か寒気を覚える笑顔をしたり、頬を引くつかせて

スターライトmkⅢや盾に内蔵されている盾殺し(シールド・ピアース)、木刀を

取り出す。

 

「おいおい……」

「み、みなさん!ISの武器を生身の人間に向けるのは……」

「大丈夫よ、明ちゃん」

「確かにこのままじゃ危ないけど……」

「一夏さんもISを展開すれば、問題ありませんわ♪」

「うん、ソノ通リ。だかラ、早ク白式出しテ?」

「ISだったら、木刀など危なくもないだろ?」

「ていうか、明!あんたにも話を……」

 

流石に生身の人間に対してISの武器を使う気はないようだが、それでも白式を

出したが最後。話を聞く気はないだろう。

そうやって、一夏に詰め寄る中、鈴は明に目を向けると愕然とした。

 

「……なんで……なんで男の恰好できるような奴が、あたしよりも大きいのよ!!!」

「えええ!?」

 

鈴の血涙を流さんばかりの魂からの慟哭に、何人かの女子はぐっ!と胸を押さえて

うずくまった。その子達は鈴と似ているとだけ、記しておく。

 

「皆さん、とにかく落ち着いてください!

 黙っていたのは悪かったですが、べ別に一夏と変なことはしていません!

 そ、そりゃあ昨日は一緒にお風呂に入りましたが、私と一夏は恋人同士ですし……」

 

この場を納めるために落ち着くよう言う明だが、だんだんと小さくなっていく声で

人差し指をツンツンしながらとんでもない爆弾を投下したことに気が付いていなかった。

 

「ん?あれ?」

「おい、どうしたんだ?皆?」

『(知らん。私は知らんぞ!)』

 

時が止まってしまったかのように固まる彼女らに、明と一夏は首を傾げゲキリュウケンは

我関せずとばかりに叫んだ。

 

「う……」

「嘘ですよね!!!!!」

 

誰かが言葉を発しようとした瞬間、教室にエレンが駆け込んできた。

 

「は……ははは。いいいいい一夏?エエエエイプリルフールはとっくに

 過ぎましたよ……?そそそそそその冗談は笑えませんよ……ハハハ……」

 

目を見開き、信じられないとばかりにフラフラとした足取りでエレンは教室に

入った。

実は、エレンは一夏に彼女がいると聞いてもカズキが吹き込んだ冗談と信じていなかったのだ。

 

「冗談じゃないぜ、エレン姉。明と俺は恋人だよ」

「ほ、本当だよ……もう俺と千冬ちゃんが昔やったことは

 大体やったかな……」

「「「「「…………ええええええええええ!!!!!?」」」」」

「カズキと千冬がやったことを?……グハッ!!!」

「あう~~~//////」

「…………」

 

一夏と笑いを堪えながら口にしたカズキの言葉にエレンと同じく何かの間違いだと

信じたかった者達も驚きの声を学園中に響かせ、エレンは血を吐いて気絶した。

学生時代のカズキと千冬を知る彼女は、それを一夏と明がしたと知って

一番のダメージを受けたようだ。

教室が驚きに包まれる中、明は頭から煙を出していた。

 

「ちょっ!えっ!?だって……えええ!!!?」

「ふふふ……ハハハ!神様の大馬鹿野郎!!!」

「私の青春は……終わった……」

「あの織斑君にあんなこと言わせるなんて、一体何をしたの原田さん!?」

「恋なんて知るかぁぁぁ!!!!!私はISに生きるんじゃ!!!」

「あわわわわわ!!!どどどどうしましょう、織斑先生!」

 

箒達は一夏の言葉に石像の如く固まり、動かなくなった。

他の生徒は気絶するものもいれば、泣き叫びまくった。

まさに阿鼻叫喚となった教室で、真耶は千冬へと助けを求めるが彼女もパニックに

なって気付いていなかった。カズキが口と腹を押えてうずくまっているのを。

千冬が少しも表情が変わっていないことを――。

 

「落ち着き給え、山田君。たかが生徒の恋愛で騒ぎすぎだ。

 こういう時はまず――――机の引き出しにあるタイムマシンに乗ってだな……」

 

千冬は22世紀のネコ型ロボットの道具を使うように机の引き出しを引っ張ると、

そこに片足を入れようとする。

 

「ブフッ!」

「えっ!?ちょっ!落ち着いてください、織斑先生!!!」

 

現実逃避しようとする千冬を真耶が羽交い締めで引き止め、それを見たカズキは地面を

叩き始めた。

 

「あ~あれ絶対最初から狙ってたわね、碓氷先生」

「そうだね、アリサちゃん。なのはちゃん達は具合が悪いってことで、今日は

 休んでるけど、はやてちゃんは“これ”見れなくて悔しがるんじゃないかな?」

 

一組の教室で唯一パニックになっていないアリサとすずかは、この騒動の原因が

わかり半ば呆れていた。

なのは達は、昨日の戦いを報告するために体調不良ということで休みをとって

クロノ達と通信をしていた。

 

「ん?何か騒がしいな」

「ラウラ!もう動いて大丈夫なのか?」

 

隣どころか学園中に響くような騒動に包まれる教室に、ラウラが入ってきた。

 

「ああ。しばらく、大事をとらなければならないが日常生活に支障はない。

 それと……今までいろいろと迷惑かけた。皆にもだ。すまない」

 

いきなり、頭を下げて謝罪をするラウラに皆驚いた。

 

「そして、今日からあなたをお兄ちゃんと呼ばせてもらう!」

「はい?」

「女の子を時にからかい、時に叱り、時に導く男性をお兄ちゃんと呼んで慕うのが

 日本流だと聞いた!それに、お兄ちゃんと呼ばれてうれしくない男もいないと!」

「なんか日本が勘違いされてる!?」

 

一夏と明の恋人関係がバレた衝撃からもう立ち直ったのか、黄色い声が沸いた。

最もラウラにそんなことを教えたオタク軍人は、相手がカズキだと思って教えたのだが

その勘違いを教えられる者はいなかった。

 

「ねぇ、一夏?……今から模擬戦……シヨウ?」

「ええ……私達全員と一夏さんデヤリマショウ?」

「…………(ニコッ♪」

「織斑一夏に対して最も有効なのは、射撃武装による遠距離攻撃……

 まずは、スラスターを破壊して動きを封じたところをジワジワと攻めて……」

「ふふふふふ……お姉さん久々に張り切っちゃうわよー♪

 もちろん、箒ちゃんもね。会長権限で訓練機を貸し出すわ」

「ありがとうございます、楯無さん……一夏……覚悟シロヨ?」

 

怒りが振り切れたのか、箒達は硬直から回復すると体から黒いオーラのような

ものを放出し、全員一夏へ目から光を消したまぶしい笑顔を向けた。

そこに、断るという選択肢はなかった。

 

「あれ?なんで、俺が悪役みたいなことになっているの?

 (ゲキリュウケンさーーーん!お助けーーー!!!)」

『(空が……青いな……目に染みるぜ)』

 

一夏は、昨日のお風呂でも浮かんだ疑問にゲキリュウケンへ助けを求めるも

軽くスルーされてしまった。

 

「俺に味方はいないの!?」

 

ゲキリュウケンから周りへと助けを求めようとするも、皆視線を合わせようとしなかった。

今の箒達の相手はヤバイとわかっているからだ。

 

「はぁ~流石にこれはな……仕方ない私が一緒にやろう」

「私は戦えないが……がんばれ、お兄ちゃん!」

 

見かねた明とラウラが手助けを申し出た。その際、応援するラウラの姿がいじらしくて悶える者達がいたのは余談である。

 

「おお!ありがとう、明!」

「べ、別に礼を言われる程じゃ……」

 

一夏が明の手を取って感謝するが、それを見た箒達は数倍の黒いオーラを放出する。

この模擬戦は、IS学園を揺らすほど激しいものになり、使用したアリーナがしばらく

使用不能となって復活した千冬にダイカイガン!オオメダマ!されることになるのだが、

この時の一夏達が知る由はない。

更に、エレンと千冬がまともな授業ができなかったので真耶と燎子が走り回って

疲労困憊になるのだが、それも一夏達が知る由はなかった……。

 

 

 

「さてと、もうすぐゾロ目の時間帯になるな。

 ドアを開けて時の列車に乗って、時間を修正……」

「織斑先生!戻ってきてくださーーーい!!!」

 

千冬が時間の彼方より帰還するのはまだ先のようだ。

そんな千冬を見て、カズキは両手で腹を押さえて笑い転げて、腹筋が筋肉痛になるのは

先の話。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オ マ ケ 2 ☆

 

時間の彼方より帰還した千冬と復活したエレンは、後日明と話をすることで

落ち着きを取り戻した。

 

「ふっ。恋人ができたからといって、いちいち騒ぐものか」

「そう、私達は大人なのですから大人として弟分の幸せを素直に祝福しますよ」

 

職員室でそう漏らす二人だったが……

 

「「――って、納得できるかぁぁぁ!!!!!」」

 

ある夜、二人の姉の叫びが寮長室に轟いていた。

 

「うぇぇぇ~~~、一夏はてっきり千冬みたいにかっこいい大人の女が

 好きだと思って頑張ってきたのに~~~」

「ふふふ……昔は“ちふゆねぇ、ちふゆねぇ”と私の後をトコトコと

 ついてきたのになぁ……ふふふ」

「あの~もうその辺にした方が……」

「飲みたいのはこっちよ……」

 

ジョッキを片手に持ち酒を注ぐ二人だったが、その手は震えまくって酒をこぼしていた。

足元に転がっているビンを見ると、相当の量を飲んでいるようだ。

無理やり連れてこられた真耶と燎子が止めたりしたり愚痴るも、酔っ払いの耳には入らなかった。

 

「うるさーい!姉のものだった弟がろことも知れないろんなにとられらんたぞ!

 飲まずにやってられっか!」

「そうらそうら!やってられっかーーー!」

「あらら、すっかりでき上がってるね~」

 

完全な酔っ払いと化した二人の元に、カズキがやってきた。

 

「なんら!カドゥキ!弟をとられたわたひを笑いに……ヒック!……きらのか!」

「う~ん、おもしろい姿の千冬ちゃんを見に来たってのもあるけど……

 愚痴を聞きに?」

「ヒューヒュー!熱いぞご両人!ぐえっ!」

 

茶化すエレンだったが、千冬に殴られて黙らせられる。

 

「まぁまぁ、千冬ちゃん。雛っていうのはいつかは自分の翼で

 飛び立つんだからさ、お姉ちゃんも弟離れをしないとね~」

「うるら~い!そんなことわーってるんだよ!でも、もう少しお姉ちゃんのうちろを

 ろんでいて……ヒック!……ろしかっら!」

「はいはい。じゃあ、後は俺が横で一緒に飛んであげるから」

「ちょのことら!わちゅれるなよ!」

 

まるで娘を嫁に出す父親のような千冬に、カズキはうまいこと言葉を伝えていく。

 

「……ねぇ、真耶?なんで、私達はわざわざバカップルのいちゃつきを

 見せらレテイルワケ?」

「さ、さぁ~?」

 

独身貴族には目に毒な光景を見せつけられた燎子は、中身の入った缶ビールを握り潰しながら拳をワナワナと震わせる。

翌日、千冬とエレンは二日酔いとなるがなんとか立ち直った。

しかしこれからしばらく、一夏と明がカズキと千冬のようなやりとりをしているのを見るたびにエレンは燎子を自棄酒に付き合わせて、燎子の肌や何やらがマズイこととなる。

 

 

 




明もまた仲間からいろいろと吹き込まれているので、恥ずかしがり屋なのに
男と一緒に入るという大胆な行動をwww
千冬の現実逃避は、前々からやってみたかったことです♪

ラウラにお兄ちゃん云々を吹き込んだのは、もちろんオタクな副官さんです。
ですが、連絡した時ラウラは一夏の名前を出さなかったので
カズキと勘違いされこんなことにwww
恋愛感情を兄妹と思い込む形で進めていきます。

オマケで千冬の言葉がおかしいですが、それは酔っているという表現
というのをご了承ください。

戦いの後の事後処理等は、次回で!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの楽しみ方


遅くなりました(汗)
4月から新生活とそれに伴う用事の連続でなかなか執筆の
時間が取れませんでした(苦笑)
今後も大体これぐらいのスピードになりそうです。

そして、GWに向けて映画ラッシュでもありますが、何から見ようか
迷いますwww


「いやーーーーー!!!もうやめてぇぇぇ!!!!!」

 

薄暗いある部屋の中で、女性の悲鳴が響き渡っていた。

 

「ふふふ……残~念♪

 そんな演技に、騙されませんわよ?苦痛が快感に変わるまでは、人間って

 余裕がありますからね~」

 

悲鳴を上げる女性に対し、丸メガネをかけた女性クアットロは甘ったるい逆撫でするような声で

目の前の女性を挑発する。

 

「もう、知っていることは全部しゃべったから……お願い……許して……!」

 

女性は涙を流しながら、クアットロに懇願した。彼女は、学年別トーナメントの際カズキが捕らえた亡国機業(ファントム・タスク)からの侵入者の一人である。

だが、今の彼女を組織の者達が見たら驚き、自分の目を疑うだろう。この女性は、男を道具として見る典型的な女尊男卑に染まった人物でいつも男に威張り散らしているのだ。

そんな彼女が涙を流しながら、許しを請う姿など誰が想像できるだろう。

……それほどクアットロが、カズキと共に考案した拷問手段が恐ろしいと言える。

 

「そんな風に口を動かせる元気があるなら、まだまだいけますわね……。

 じゃあ、次は“コレ”でいきましょうか♪」

「いやーーーーー!!!!!」

 

クアットロが喜々として、手元の機械を操作すると――――女性の体は、“ムカデ”となった。

 

「ふふふ♪どうですか~?私達のデジタル合成技術は?

 顔はそのままに、体だけ別の生き物になったように感覚を味わえるという優れもの~♪

 肉体的な痛みは訓練できますけど……精神攻撃は鍛えるのが難しいですからね~。

 次は、トノサマガエルにしましょうか?」

「やめてぇぇぇーーー!!!」

 

そんなクアットロの楽しそうな声と女性の悲鳴を別の部屋で音がうまく拾えないようなレコーダーで、聞かされた他の者達は体が震えるのを止められなかった。

音声だけを聞かされたので、想像力が下手に働いて恐ろしい光景を

頭に思い浮かばせてしまったのだ。

しかも、イスに縛られた彼らの前には仮面で表情を隠した宇宙ファイターXが座っていた。

部屋に入ってくるなり、無言でレコーダーのスイッチを入れた彼の表情は仮面に隠れて

うかがい知れない――。

 

「どうだい?少しは、喋る気に……なっていたら喋るよね。

 話を聞くために水以外は、出してなかったけどそれじゃ体が持たないと思って、

 こういう時の定番“カツ丼”を用意したよ」

 

宇宙ファイターXが苦笑しながら、指を鳴らすと彼らの腕は自由となり動かせるようになった。

それを確認すると、宇宙ファイターXはどこからドンブリを取り出し彼らの前に出した。

 

「…………」

「どうしたんだい?ああ、もちろん毒や自白剤なんか入ってないから大丈夫だよ♪」

 

予想外の対応に怪訝な表情をして警戒する彼らに、宇宙ファイターXは如何にもな

明るい声をわざとらしく出した。

 

「……それじゃ、いつまで警戒していても始まらないしいただきましょうよ、みなさん」

「おい!」

「大丈夫ですって。まずは、一番下っ端の俺が毒見しますから、他の皆はその後にでも♪」

「そうだな……なんにしても、食える時には食っとかないと……」

「でしょ♪それじゃ早速……」

 

彼らの中でもムードーメーカーなのだろうか、自分から食べると言い出した者のおかげで

若干空気は明るいものになり、ドンブリのふたを開けようとしたら――

 

ゴトリッ……

 

「あれ……?今、ドンブリ動かなかった?」

「き、気のせいじゃね?」

 

目の前のドンブリが動いたように見えて、取ろうとした手が止まり気のせいだと

彼らは自分に言い聞かせるが……

 

ガタガタガタガタガ…………!!!

 

そんな彼らを嘲笑うように、ドンブリは揺れ動く。

 

「やっぱり、気のせいじゃねぇよ!なんだよ、コレ!」

「何って……“カツ丼”だよ?」

「嘘つくんじゃねぇよ!じゃあ、材料を言ってみろよ!」

「そりゃ、“カツ丼”なんだから主なのは玉ねぎ、卵、ごはんに、後は肉だよ」

「肉って……なんの肉だよ……?」

「…………肉は“肉”だよ?」

「絶対、普通の肉じゃねえだろ!!!」

 

仮面だから表情は変わらないはずなのに、彼らは宇宙ファイターXの仮面の瞳が

妖しく光るように見えた。

 

「落ち着け、お前ら。大方、ふたの裏にでも仕掛けがあるんだろ。

 こうやって、俺達をビビらせて楽しんでいるのさ。ふたを開ければ全部……」

 

ズル……グチャっ!

 

彼らの中でも冷静だった者は、動いたのは宇宙ファイターXが仕掛けたイタズラだろうと判断し、ドンブリのふたを開けるがその瞬間……ドンブリとふたの間から植物のツタのようなものが

飛び出しその者をドンブリの中に引きずり込んだ。

 

「「「「「…………えええええっっっ!!!!!?」」」」」

「……ククク」

 

 

 

数十分後……

 

何とか、ドンブリの中に引きずり込まれた者を救出できた彼らだったが、ドンブリの中で

何があったのか、助けられた者は部屋の隅っこで体育すわりをしながら虚ろな目でブツブツと

何かを呟き続けた。その間、真っ白になった髪の毛がハラリハラリと落ちていった。

 

「う~ん……この“カツ丼”は、君達には合わないみたいだね。

 他にもあるけど、どうする?」

 

そう言って、宇宙ファイターXは両手に“カツ丼”とは別のドンブリを出すが、

片方のドンブリからは黒い“何か”が漏れ出しており、もう片方のドンブリはカタカタと

揺れて気のせいか鳴き声のような音が聞こえていた。

 

「「「「「すいません!何でも、しゃべりますからもう勘弁してください!!!」」」」」

 

命の尊さを知った裏の住人達は、プライドを殴り捨て頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それで、捕まえた人達から亡国機業(ファントム・タスク)について

 何か聞き出せました?」

「い~~~んや、な~~~んにも。

 元々大した情報を聞けるとは、思ってなかったけどね~」

 

向かい合って座りながら、宇宙ファイターXとレイジングガードナーは新しい情報が

手に入ったかどうかを確認していた。

 

「思ってなかったって……じゃあ、あの合成技術とか“カツ丼”は何だったんですか?」

「それは……ぶっちゃけ俺の趣味だ!」

 

宇宙ファイターXの言葉にレイジングガードナーは、ずっこける。

 

「あういう連中が苦しむ顔を生かさず殺さず楽しみながら見るためには、手間暇を

 惜しんではいけないのだよ……フフフ……」

「あ、あなたって人は……」

 

両腕を顔の前で組んで楽しそうに笑う宇宙ファイターXに、レイジングガードナーは

脱力する。

 

「まあ、冗談はこのぐらいにして……」

「(絶対に冗談じゃない……)」

「管理局では、例の鳥の魔物についてどうなったんだ……ユーノ?」

「どうもこうも、あなたが考えていたようになりましたよ」

 

レイジングガードナーは、顔の前まで閉じたファスナーを下して被っていた

テンガロハットのような帽子を脱いで素顔をさらけ出した。

ハニーブロンドの長髪をなびかせるユーノの顔が、そこにあった。

 

「魔法をほぼ無効化する敵が現れたっていうのに、ほとんどの人は何の危機感も

 感じていません。

 “エースオブエースならそのような敵でも倒せる”、

 “管理局にそのような小細工など意味はない”

 ……クロノや地上本部トップのレジアス中将といった先が見える一部の人達だけが、

 対策を急いでいます」

「こっちも似たようなものだね。

 勝てたという結果だけを見て、戦いの中身を見ていない……。

 なまじ、大きな戦いがないことが要因の一つなんて、笑えない皮肉だな」

 

ユーノと宇宙ファイターXことカズキは、それぞれの世界の現状に頭を痛くする。

世界の争いは絶えないが、それでも少しずつ縮小はしている……しかしそれ故に

戦いの恐ろしさというのを知る者が、少なくなっているのもまた事実なのだ。

ISは最強の兵器、管理局では魔法は兵器よりもクリーンな力という

謳い文句がそれに拍車をかけていた。

 

「もっとも、これは想定の範囲内だからそれ程問題じゃない。

 問題なのは、この襲撃における創生種の“目的”だ」

「そうですね。十中八九、あなた達魔弾戦士を倒すことではありませんね……」

「ああ。それが無いってわけじゃないけど、それにしてはやってきた敵が何かおかしい。

 まずは、飛行ロボット。あの中に数体、性能を高めた指揮官機でもいればより戦闘は

 効率がよくなったはずだ。

 鳥の魔物もだ。あんなロボットを作れるなら、遣い魔のような量産に向いた

 魔物を作って、サポートをつけることだってできたはずだ。

 そして、シュヴァルツ・バイザーとクリエス・ベルブ……

 奴らは本気を出していなかった。

 本気を出されていたら、俺達は負けていたかもしれない――」

 

いつになく深刻な声を出すカズキに、自然とユーノは固唾を飲む。

 

「この襲撃は、新しい戦力のテストでそれで俺達を倒せるとは思っていないけど

 倒せたら儲けものという感じがする……

 だが、それだけじゃない。それだとシュヴァルツ・バイザーはともかく

 クリエス・ベルブのような奴まで出てくる意味がわからない……。

 だとしたら、本当は何が目的だ?

 そして、何より――奴らは俺達がここまで気づくことを分かっている気がする……」

 

ユーノも同意見なのかカズキの推測に反論せず、ただ静かに時計の針の音だけが

響き渡った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ~……」

「調子はどうですか、ベルブ?」

 

カズキ達も時空管理局も知らない世界で、クリエス・ベルブは剣を振るったり拳を放ったりして

自分の体の様子を確かめていた。

IS学園を襲撃した薄黒い鎧ではなく、漆黒の鎧を纏いながら……

 

「問題ない。出撃前にお前が制限した俺の力は完全に戻った、クリエス・レグド」

 

クリエス・ベルブが問いかけてきたシュヴァルツ・バイザーの声に振り向くと

そこには、鎧の色が橙と白である以外クリエス・ベルブと同じ姿の者が立っていた。

 

「こちらも肉体から分離した魂を、無事に戻せました」

「ふ~ん……それでいろいろと小細工をしたけど、無様に尻尾を巻いて逃げてきたの?

 クリエス・レグドとあろうものが?」

 

呆れながらもどこか楽しそうな声で、姿を現した者がいた。その者は、ベルブともレグドとも違う人間で黒の長髪をした女性だった。

妖艶という言葉を体現したような美貌は、見る者全てを妖しく惑わすだろう。

 

「クリエス・リリスか……」

「尻尾を巻いて逃げた……ですか……。

 そうですね、量産したスカイバトラーも相手の攻撃を無効にする手段を携えた

 ベムードも倒され、私自身も魂だけとはいえリュウケンドーに……

 いえ、リュウケンドー“達”に敗れました。

 つまり、今回の戦闘は――私達の勝利ということです」

 

レグドが発した勝利という言葉に、ベルブもリリスも微笑む。

 

「この戦闘の目的は、三つ。

 一つは、新たな戦力の性能テスト。彼らが奮闘し打ち破ってくれたおかげで、

 問題点や改良点を見つけることができました。

 二つ目は、魔弾戦士達の抹殺。まあ、こちらはテストのついでに完遂できたら

 儲けものだと考えていたので、成功しても失敗しても大した問題ではありません。

 そして、三つ目は来るべき時のための“仕込み”!」

 

その三つ目こそが本命の目的とばかりに、レグドは指を鳴らす。

 

「スカイバトラーやベムードで、魔導士やISを倒せればそのままマイナスエネルギーを

 集めやすくなります。

 自分達が最強だと信じているものが敗れ去れば、多くの者の心が折れるでしょう。

 仮に倒せなくても、奴らが格上の存在や相性の悪い相手にどう立ち向かい、成長するかも

 見ることができます。

 そして、奴らは勝ったことで“苦戦したけど、やっぱり自分達は強い!”

 “どんな敵が来ても勝てる!”と思うようになる。

 次に攻めてきても、自分達なら勝てると思うようにね……。

 しかし、勝てると思っていた敵が自分達よりも強くなっていたら?

 力の差に絶望した時、一層のマイナスエネルギーが発生することでしょう。

 無論、安易にそう考えない者もいるでしょうが、それはごく少数……。

 リュウジンオー辺りは、私達の目的が自分達を倒すことだけではないと

 気付くでしょうが、そこまで……。

 私達の先の先の目的までは、気づけないでしょう。

 ここからは、再び慎重に準備を進めますからね……」

「気になってたんだけど……変わったよね、レグド。

 前から策を練って戦うタイプだったけど、昔は淡々としていたっていうか

 機械的だったのに今はなんか楽しそう。

 自分の魂を体から引っこ抜いてまで、自分で実験もするし」

 

リリスの言葉にレグドは面食らってパチクリとなったように固まるが、

自然と笑みをこぼし始める。

 

「楽しそう……そうですね、楽しいのでしょうね。

 人間は愚かな生き物で簡単に思い通りに、掌で動かすことができますが

 何かを守ろうとする戦士達は違う――。

 彼らは、常に私の考えを越えていき思い通りにならない……そんな彼らに

 対抗するにはこちらも普通ではしないことをしなければならない。

 自分の思い通りに進ませにくい相手に、策を練るのは……本当に楽しいですよ――」

「そうだな……真に強い者と戦うのは心が躍る!」

「全く、男ってのは創生種も人間も関係なく単純ね」

 

レグドとベルブの反応に呆れながら、リリスは踵を返した。

 

「それじゃあ、私はもう行くわね。準備ってのには、時間がかかりそうだしそれまで

 のんびりと羽を伸ばさせてもらうわ」

「それは構いませんが、一ついいですかリリス?」

「うん?」

「俺達にとって、姿を人間に見せるのは造作もないことだが……

 その恰好は一体何だ?」

 

ベルブも同じことを疑問に思っていたのか、問いかけるとレグドも同意するようにうなずいた。

創生種の美に関する感性は、人間とあまり変わらず姿を変えても、もしも人間だったらという容姿になる。多少いじることはできるが、大抵はそのままで大きく変えることはしない。

だが、服装ばかりは自分の意志で具現化したり人間のモノを使うのだが、

リリスがしている服はボンテージ服で、まるでとある場所にいる女王様のようなのだ。

 

「ああ、これ?なんでかわからないんだけど、この恰好で鞭を叩くと

 すっごく喜ぶ人間達がいて、試しにやってみたらすっっっごくおもしろくて♪

 男も女も叩かれるたびに、涙を流して喜ぶもんだからアハハハ♪」

 

完全なドSの顔で笑うリリスに、ベルブとレグドは顔を向け合うと何とも言えない

空気が流れる。

 

「まあ、お前が楽しいのなら別に……な?」

「……そうですね、趣味は人(?)それぞれですから……」

「ギジャ!」

 

とりあえず、リリスの服と目覚めた何かについてはここまでにしようと無言で了承した

ところで、一匹の遣い魔が敬礼してやってきた。

 

「おお、アレか!待っていたぞ!」

「何ですか?」

「これか?これは、今週のジャ○プだ♪」

 

遣い魔が持ってきたジャ○プを子供が友達に自慢するように見せるベルブに、

レグドは何も言えなくなる。

 

「たまたま拾ったものを気まぐれに読んでみたのだが、これがなかなか燃えてな?

 以来、欠かさず読んでいるのだ」

 

いわゆるドヤ顔というもので、胸を張るベルブにレグド呆れ交じりのため息をこぼす。

 

「はぁ~二人とも、楽しむのは構いませんがほどほどにお願いしますよ?

 ……こんな時は、“アレ”を作りますか――」

 

レグドは、そう言って自分の部屋に戻るとゆっくりと椅子に腰かけた。

 

「さ~て、今度は何色にしますかね?」

 

鼻歌交じりに上機嫌に手を動かして、レグドが作っているのは――“泥団子”だった。

それもただの泥団子ではない、光る泥団子である。

部屋にある棚には、様々な色の宝石のような光輝く泥団子がいくつも飾られていた。

 

「ふふふ……人間の生みだす力というのは、すごいですね。

 よもや泥から、このような美しいものを作り出す術を編み出すとは!」

 

うっとりと、手に持った泥団子を眺めながらレグドは黙々と作業を続けた――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で?」

 

放課後のIS学園の食堂。そのあるテーブル席は、異様な空気に包まれていた。

周りの者達は、巻き込まれないよう離れてはいるがそれでも興味津々とばかりに

聞き耳を立てて傍観していた。

 

「で、と言うのは何でしょうか鈴……」

 

そのテーブルに座っている明は、同席している者達からのプレッシャーに押されていた。

 

「何でしょうかでは、ないのではないですか明さん?」

「ええ……。普段は男の恰好をしてたけど、部屋の中では一夏くんとどんなことを

 していたのかな~って話よ?」

 

セシリアも楯無も目が全く笑っていない笑顔で、机の上にグイッと乗り出す。

 

「い、いやどんなことと言われても……」

「セシリアもお姉ちゃんも落ち着いて」

「そうだよ、皆。そんなに詰め寄ったら、喋れなくなっちゃうでしょう?」

 

言葉に詰まる明に簪とシャルロットが、助け舟を出す。

 

「だがな、シャルロット。お前も見ただろ、普段の一夏と明を。

 へ、部屋の中で二人きりとなれば……その/////」

 

箒は顔を赤くして、明から視線を逸らす。

男装をしていても一部の女生徒が、喜ぶようなことをする二人である。

部屋で二人きりともなれば、人目が無い分いろいろと我慢しないかもしれない。

 

「まあまあ。あっ、明。喉、渇いてない?」

「オレンジジュース、あるよ」

 

簪から受け取ったジュースをシャルロットは、明に手渡した。

 

「あ、ありがとうございます……」

「……それで、実際はどうなノカナ?」

 

明がジュースを一口飲んだ瞬間、シャルロットは獲物を狙うような鋭い眼をしながら

尋ね、簪は眼鏡を光らせながらクイっとレンズを動かした。

それぞれの反応をする箒達だったが、その思いは“さっさと話せ!”と一つになっていた。

 

「ど、どうと言われても……べ、別に普通ですよ……?

 朝は、早く起きた方が相手を起こしてその後、一緒にお弁当を作ったり……」

 

観念した明は、自分達の生活内容を話すがそれを聞いていた周りの者達は、

盛大に舌打ちしたりブラックコーヒーの注文に走った。

 

「いやそれ……もう夫婦じゃないの?」

「うん。ナイスツッコミやで、アリサちゃん」

 

なのは達5人も明達のテーブルの近くに座り、話を聞いておりアリサの

冷静なツッコミにはやてはグッ、と親指を立てた。

 

「にゃははは。夫婦って、別に結婚しているわけじゃ……」

「甘い!甘いでなのはちゃん!リンディさんのお茶並みに甘い!!!

 普段から織斑先生とイチャついとる碓氷先生の弟子な一夏君が、二人きりの部屋の中

 で何もしとらんとわけがない!」

「そうだね……明ちゃんもむっつりっぽいし」

「むっつりって……まさか!」

 

熱弁するはやてに、すずかがボソっとつぶやくとフェイトの脳裏に閃光の速さで

ある光景が思い浮かぶ。

 

“お。お帰りなさい/////。ご、ご飯にしますか/////?お風呂にしますか/////?

 そ、それともわ、わ・た・し/////////?”

“そうだな……”コレ“をもらおうかな?”

“ひゃっ/////!?そ、そこは……ん/////”

 

「ぶはっ!」

 

以前、楯無が着た衣装の水着無しの明と狼な笑みをする一夏を想像して

フェイトは鼻血の海に沈んだ。

 

「フェイトちゃん!?」

「あちゃ~こっちのむっつりさんが、沈んだで。

 まあ、おおかた前に会長さんが着とったエプロン姿の明ちゃんと意地の悪い顔をする

 一夏君を想像したんやろうけど」

「何やってんのよ……フェイト」

「ふふふ……。

 それにしても、あれ……かわいいね♪」

 

フェイトの反応に呆れるはやて達だったが、そんな中すずかは明達のテーブルを見て微笑む。

 

「意地の悪い顔とは、なんだ?お姉ちゃん?」

「ラ、ラウラはまだ知らなくていい/////!」

 

明の膝の上にはぬいぐるみのように、ラウラが座ってもぐもぐとおやつをほおばっていた。

 

一夏へのお兄ちゃん発言の後、カズキが

 

“じゃあ、明はラウラのお姉ちゃんだね♪

 お兄ちゃんに何かする時は、お姉ちゃんと一緒にやるといいよ~”

 

と言ったので、ラウラはすっかり明のことをお姉ちゃんと呼んで慕うようになったのだ。

トコトコと明の後ろをついていったり、コテンと顔を傾げる様にハートを打ち抜かれる生徒が

続出し、それに伴いドイツに本部を持つ黒ウサギ見守り隊の会員も急激に数を増えた。

中には、娘を盗られたと少し不満を漏らす母親のような生徒もいたとか……。

 

「すっかり、マスコットポジね。ラウラちゃんは♪……お姉さんとも仲良くなりましょう~」

「お姉ちゃん……手がいやらしい……」

「ぐへっ!」

 

手をワキワキさせながら、ラウラに近づこうとする楯無に簪の冷たいツッコミが入り

楯無は机に沈んだ。

 

「な~にやってんだか……。

 それと、ラウラ?意地の悪い顔ってのは、アレよ?

 カズキさんが、千冬さんをからかうときのような顔よ……」

「教官をということは……ああ、あれのことか!」

 

更識姉妹の漫才に呆れながら、鈴が投げやりに説明するとラウラが思い出したように

ポンと手を叩いた。

同時に、明はビクッと体が強張り箒達はむぅ?といぶかしむ。

 

「あれ……って、何?ラウラ?」

「うむ。昨日の夜、お兄ちゃんの部屋に遊びに行こうとお姉ちゃんを誘ったのだが

 見つからず、一人で行ったら部屋の中でお姉ちゃんがお兄ちゃんに猫のように

 あごをナデナデされていたのだ!

 にゃ~んとか鳴いたりして、すごくかわいくてうらやましかったぞ!

 私に気が付いたら止めたけど、私もナデナデされたかったぞ!」

 

手をブンブンと動かして不満を言うラウラだったが、周りはそれどころではなかった。

明は逃げ出したくても、膝の上にラウラが座っており、両隣には目から光を消して顔を

傾ける鈴に無言の笑顔を向けるシャルロットがいて逃げ出せなかった。

箒とセシリアは顔を真っ赤にし、簪は光り輝く眼鏡を再び動かし楯無は

追撃をもらって沈んだままだった。

同じように他のテーブルでは、楯無のように机に沈む者や机や壁を壊さんばかりに叩く者、

太陽に向かって走り出す者が続出していた。

 

「明?どういうことか……」

「説明……シテクレルワヨ……ネ?キッチリと……」

「詳細を……求ム……」

「あっ!いや!それは……その……!」

「あれ?みんな集まって、どうしたんだ?」

 

明が詰め寄られていると、話のもう一人の中心である一夏がやってきた。

 

「な~に、どうせみんなにお前と明がどんな風に生活していたか聞かれていたんだろ?

 朝起きたら、お互いに相手の寝顔にときめいて先に早く起きようと必死になったり、

 耳元で“起きて、ア・ナ・タ”とか言って顔を赤くしたり、

 お弁当を作る時に明のほっぺについたソースとかをなめとったりとか♪」

 

のんきに尋ねる一夏の後ろから、クククとおもしろそうに笑いながらカズキが現れて、

その場にいた者達を唖然とさせた。

 

「ちょっ!覗いてたんですか!?」

「あっ!おい、明!」

 

いち早く、明が驚き一夏が待ったをかけるも一足遅く、カズキの顔は愉悦にゆがむ。

 

「へぇ~なるほどね~~~」

「…………あああああっっっ//////!!!」

 

カズキのいつもの策に謀られたと気付き、明は頭を抱えて叫び一夏はヤレヤレと

頭を振った。

だが、他の者達はそうはいかない。

箒達は全員目から光を消して、一夏に笑みを向けていた。

 

「周りを気にするから、恥ずかしいんだよ~。一夏みたいに開き直ればいいのに~。

 ところで、ラウラ?昨日の夜、一夏に熱くて白いドロッとしたものを顔に

 かけられるようなハプニングにあった明は、あの後どうしてたんだい?」

「ちょっ!待っ!?」

「っっっ/////!!!!!」

「あの後?お姉ちゃんは顔を見たことないぐらい真っ赤にしてアワアワしていたぞ!兄様!」

 

背後に悪魔を幻視させるほどの邪悪な笑みを浮かべるカズキと、悪気など一ミリもない

ラウラの発言によって食堂は水を打ったように静まり返る。

ちなみにカズキはラウラに自分のことは好きに呼んでいいよ、と言ったら

兄様と呼ばれるようになった。

 

「待て、みんな。誤解だから、まずは話wどわっ!?」

 

静まり返ったみんなの反応から、とんでもない勘違いをされていると察した一夏が

説明をしようとするが、その瞬間に猫のように跳躍した鈴の回転ドロップキックを顔面に

受けてふっ飛ばされた。

 

「ふんっ!」

「がっ!」

 

ふっ飛ばされた所に移動したシャルロットが、一夏のみぞおちに拳を叩きこみ、一夏は

ボールのようにバウンドする。

 

「――っせい!」

「ぬふっ!」

 

バウンドして見えた背中に楯無のハイキックが綺麗に決まり、一夏は完全に沈黙する。

 

「「……」」

 

倒れ伏す一夏の両脇を捕らえた宇宙人のごとく抱え、箒とセシリアはズルズルと一夏を

食堂から引きずっていった。

それに続くように、うつむき具合の鈴シャルロット、楯無が続いていく。

 

「兄様、みんなどうして黙っているのだ?ただ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが

 アツアツのクリームパンを食べただけなのに?」

「「「「「……へっ?」」」」」

 

顔を真っ赤にする明の膝の上で、ラウラが口を開くと食堂にいた者達の口から

間の抜けた声が漏れる。

 

「――プッ!ククク……君達は一体な~にを想像したのかな?」

「「「「「/////////」」」」」

「「「???」」」

 

ニタニタと笑うカズキに、みんな視線を逸らすが何もわかっていないラウラとなのは、そして箒達に置いて行かれた簪だけが頭に?を浮かべていた。

 

「……ほな、明ちゃ~ん?今度は、一夏くんとの馴れ初めや何やらを聞かせてもらおうか?」

「へっ?」

「あれで、終わりなわけないでしょ!

 そ、そのあれよ……私達にも恋人を作る方法を教えなさいってことよ//////!!!」

「こ、今後の参考に//////!」

「素直にしゃべった方が……楽になれると思うな~♪

 それとラウラちゃんは、向こうで簪ちゃんとケーキ食べててくれる?」

 

今度ははやて達が、明の周りに座りすずかはラウラを簪と共に席を外してもらう。

更に、するりと腕と足を絡めて明を逃がさないようにした。

一部の者は、その妖しげな空気にはぁはぁと息を荒くしていた。

 

「明も大変だね~。それにしても、あごをナデナデ……か~。

 ――今度、やってみようかな?ネコミミもつけて♪」

「ほぉ~~~?誰に何をしようと言うのだ?」

「そりゃあ、もちろん弟大好~~~きな千冬ちゃんに♪」

 

いつの間にやってきたのか拳をバキボキと鳴らす千冬に向かって、あっけからんと話すカズキに

みんな戦慄するが、次の瞬間には食堂に響き渡る爆音に耳をふさいだ。

 

「毎回見てて思うけど、二人とも……戦闘民族なのかな?」

「う~ん……否定しきれないね」

「ハムハム」

 

天井を突き破って、拳を交える千冬とカズキに簪は疑問を口に出すがなのはは苦笑しながら

否定しきれなかった。

そして、ラウラはケーキを頬を緩めながらほおばり、一部の者達に鼻血を垂れさせていた。

 

 

 

 

 

 





捕まえた亡国機業(ファントム・タスク)さん達には、拷問を
受けてもらいましたが、暴力は振るっておりません。
冒頭のアレは、映画「クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦」
に出てきたものです。精神的なダメージへの耐性は、鍛えにくいし
暴力よりも効果的ですwww

カツ丼の方は、『繰繰れ! コックリさん』(ぐぐれ コックリさん)から
持ってきました。引きずり込まれた人は何を見たのか!

そして、明らかになる創生種のみなさん。
レグドはベルブと同じく、『小さな巨人 ミクロマン』に登場する
アーデンフレイムのような姿です。
リリスという女性も出ましたが、彼女も本来の姿はベルブ達と色違いです。
何より、彼らもそれぞれ人間の文化というのを満喫していたりしますwww

明の尋問で出てきた顔への白いものをかけられたは、ソードアートオンライン
のコミックであった、アツアツのクリームパンがブチュッとなっただけです。

引きずられた一夏は道場に連れていかれて、訓練と称したおしおきを(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏のある日と龍でもどうにもならないこと

何とか、GW中に完成できました(汗)
臨海学校前の一幕です。


「さぁ、一夏さん!あちらのお店で、素敵な服を見立ててあげますわ!」

「一夏!久々に、ゲーセンで勝負よ!」

「もうみんなったら~……あっ一夏。あそこの喫茶店で休憩しようか?」

「おお~!なんだここは!」

「一夏く~ん?あっちで、お姉さんに着て欲しい下着を選んでもいいのよ?」

「一夏……あの店でヒーローの衣装を……」

「はわわわ/////そ、そんなまぶしい目で見るなぁ~/////」

「い、一夏?この服が似合うか、見てほしいのだが……」

「お前ら、ちょっと落ち着けぇぇぇ!!!!!」

 

自分をあっちこっち、それぞれの店に連れて行こうとしたり、あまりの広さに目を

輝かせたり、ペットショップの子犬に見つめられてハワワワなことになっている者達に

向けて一夏はあらんかぎりの声を上げた。

 

彼らがいるのは、駅前のショッピングモールレゾナンスである。

電車やバス、タクシーと交通網の中心でもあり、市のどこからでもアクセスできるのだ。

品ぞろえも豊富で、飲食店はジャンルを問わず完備され、衣服も量販店から一流ブランドまで、

さらには各種レジャーもあり子供からお年寄りまで多くの客層に利用されている。

 

先日の学年別トーナメントで、優勝したら一夏とデートする事になっていた約束は

明も含めて全員で出かけるという形に収まり、どうせなら今度一年生で行われる臨海学校に

必要なものも買おうということになったのだ。

そして、到着するや否や我先にと一夏の腕を掴み、それぞれが目につけた店に

向かおうとして、人の注目を集める事態となってしまったのだ。

モデルやアイドルと間違われても仕方のない美少女に取り合いをされている

一夏を見て、その場にいた多くの独り身の男性陣は血の涙を流さんばかりに嫉妬の念を送り、

同じように女友達と来ていた女性達も“リア充がっ……!”と舌打ちしていた。

一部の勝ち組みに分類される新婚やカップルの面々だけが、“青春だね~”と

温かい目を一夏達に送った。

 

 

 

「――っはぁ~。疲れたぁ~」

 

一夏は両手に抱えていた荷物を下してイスに座ると、一息をついた。

 

「なんか、修行するよりも大変だったぞ……」

『(すっかり、彼女達の荷物持ちだったな)』

 

愚痴をこぼす一夏に、ゲキリュウケンは苦笑いしながら返す。

一夏が叫んだ後、じゃんけんをしてそれぞれが行きたい店に順番に回ろうということに

なったのだが、こういう時の男の悲しい立場というか一夏は女性陣の荷物持ちとなったのだ。

もちろん、一夏自身も力仕事に入る荷物持ちを断るつもりなどなかったが、ゲームセンターや

ペットショップで遊んだり見たりするものはともかく、モノを買う者はとにかく買ったのだ。

特に、ラウラの無いに等しい私服を買うのが半分目的だったシャルロットやショッピングが趣味の一つであるセシリア等は一夏一人では持ちきれないほどに。

 

「何で、女っていうのはこう買い物が好きなんだ?」

『(さあな。だが、それに付き合うのも男の甲斐性というやつだ。

 諦めて、受け入れろ)』

「さぁさぁ~一夏くん?今日のメインの買い物をするわよ!」

 

疲労困憊の一夏やシャルロットや楯無の着せ替え人形となったラウラとは逆に、

元気が有り余っている一同が楯無に連れられてやってきたのは、水着売り場だった。

 

「というわけで、一夏君にはみんなの水着を選んでもらいま~す♪」

「はい?」

 

楯無の提案に、一夏は首をかしげる。同じようにラウラや明も首をかしげるが、箒達は

若干頬を染めた。

 

「いや~たまには、自分で選ぶんじゃなくて誰かに選んでもらうのもいいかな~って。

 別に、臨海学校に行けないから別の機会に見せることになってなんやかんやで全員で

 行くことになっても、他の子よりも初見な分インパクトがあるだろうな~なんて

 思ってないから~」

「お姉ちゃん、地味にセコい……」

 

楯無の策に簪がつぶやくも気にすることはなく、とりあえず簡単にすむ一夏が先に水着

を買うことになった。

 

「――これで、いいだろう。それにしても……」

 

水着を選び始めて、5分と経たないうちに一夏は白の生地に青のラインが入った

サーフパンツタイプの水着に決めるが、後ろを振り返って苦笑いをこぼした。

 

「あっちの水着は、すごい数だな」

『(女は男よりもおしゃれに気をつかうらしいいから、そういうことだろ)』

 

一夏の目には男性用の水着とは、比較にならない様々な種類の女性用水着が映った。

申し訳程度のそのスペースにいると、女性がターゲットの店にいるような

錯覚を覚えて気恥ずかしさを感じる。

 

「さてと。買うものは買ったし、次はあいつらの……」

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

会計を済ませて、明達の元に行こうとした一夏の袖をいつの間にやってきたのか

ラウラが引っ張った。

 

「あれ、ラウラお前……」

「こっちに来てくれ」

 

何故ここにいるのかと聞こうとするが、ラウラはマイペースに一夏を女性用水着売り場へと

連れて行った。

 

「おいおい、なんだよ一体……」

「あれ、一夏?」

 

一夏は、ラウラに連れていかれるとそこにたくさんの水着の前でオロオロしている

明がいた。

 

「うむ!兄様からお姉ちゃんはどんな水着を選んでいいのかわからないだろうから、

 お姉ちゃんの友達から聞いたというお姉ちゃんに似合いそうな水着をお兄ちゃんに

 見てもらって決めてもらうといいと言っていたから、好きなのを選んでくれ!

 ちゃんとどんな水着か、メモもしてあるぞ!」

 

おつかいがちゃんとできてどーだ!と言わんばかりに胸を張るラウラに、一夏と明は

苦笑するが、兄様という単語に嫌な予感が走る。

 

「メモには二人きりで選ばせるようにとあったからみんなに隠れてここにきたが、

 私はいてもいいのか?

 それにこのセクシー系とか、きわどい系というのはどんなものなのだ?」

「「何言ってんだ、あの人は/////!!!」」

『ははは……』

 

ラウラが口走った言葉に二人はずっこけて、大声を上げた。

そういうことをカズキが自分で吹き込まないのを知っている二人は、そんなものを提案した

ある仲間の顔を思い浮かべて顔を赤くする。

 

「うん?お~い、そこの店員。お姉ちゃんに似合う、このセクシー系とかきわどい系という

 水着を探してくれ」

「かしこまりました♪」

 

頭を抱える二人に構わず、ラウラは店員を呼び止め水着を頼む。

店員の女性は明と一夏を見ると、イイ笑顔を浮かべて注文の水着を探し始める。

 

「おい、ラウラ////!」

「こちらなどいかがでしょう?あちらで、試着もできますよ」

 

明が止めに入ろうとするが、一足遅く店員は注文にあう水着を何着か持ってきて

手渡してきた。

 

「ふふふ……。久しぶりの逸材だわ!燃えてきた――!!!」

 

何かのスイッチが入った店員は、目に炎を燃え上がらせて再び水着を探し始めた。

 

『これは、早く決めないととんでもない水着になるのではないか?』

「ええ~!?し、しかし……これは/////」

 

ゲキリュウケンの言葉に、焦る明だったが渡された水着も明からしたら相当恥ずかしいもので

どうすればいいのかわからず、混乱し始める。

 

「う~ん……この中だとこれが一番マシかな?」

 

明の腕の中にある水着から一夏はあるものを選ぶが、手渡されたモノの中では確かに

普通の部類だろうが、それでも明からしたらかなり冒険するようなもので顔を赤くする。

 

「ちょっと、ラウラはどこに行ったのよ!」

「明さんと一夏さんも戻ってきませんし……」

「怪しいにおいがプンプンだね」

 

そうやっていると、一夏達の近くに鈴達がやってきた。

いつまで経っても戻ってこない一夏だけでなく、姿を消したラウラと明にも不審を感じ

探しにきたのだろう。

 

「むっ!まずい!このままだと見つかってしまう……お兄ちゃん!お姉ちゃん!

 とりあえず、そこに!」

「うえっ!?」

「お、おい!?」

 

いち早く状況を確認したラウラは、一夏と明を試着室へと押し込む。

 

「私が時間を稼ぐから、その間に兄様が言っていたイチャイチャというのをしてくれ!」

 

ラウラは静かにサムズアップすると、呆然とする二人を置いてその場を後にする。

 

「「………//////」」

『…………』

 

試着室というのは、一人の人間が着替えるスペースしかなく、そんな場所に二人の人間が

押し込まれれば、当然密着に近い形となり互いの胸の鼓動が聞こえそうになる。

何とも言えない空間に、二人と一匹は無言となる。

 

『(何を今さら照れているのだ、この二人は……。こんな状況は、昔ロッカーに

 入った時よりマシではないか……。

 ――ブラックコーヒーを飲めるようになりたい!)』

 

ゲキリュウケンの魂の叫びは、一夏と明に聞こえることはなく二人は互いに

見つめ合った。

 

「……ちょっとあっち向いて、目をつぶっていろ――」

「へっ?」

「いいから、さっさとしろ////!!!」

「はいぃぃぃ!!!」

 

明ににらまれて、一夏はすぐさま回れ右で背を向けた。

 

「おい、一体何を……」

 

する気だと聞きかけるも、背後から何かが布がこすれるような音が聞こえてきて

一夏は言葉を失う。

 

「(おいおい、まさか――//////)」

「(だぁぁぁぁぁ////////。何をしているんだ私は/////////!!!!!)」

 

明は、自分で自分がやっていることにパニックになっていた。

試着室の空気にのまれたのか、後ろを向いているとはいえ一夏がいるにも関わらず

水着への着替えを始めた。

ハプニングで下着姿やそれに近い姿を見られることは数あれど、そばで着替えなど

初体験である。

 

「(ええい!こうなったら、やけだ//////!)」

「(おいぃぃぃ!なんなんだ、この天国と地獄の空間は!?)」

『(こいつら、いい加減私もいるということを忘れないでくれるかな……)』

 

互いに理性と本能の戦いが行われる中、ゲキリュウケンはその空気に体の機能が

おかしくなりそうになっていた。

 

「……もう、こっちを見てもいいぞ///――」

「お、おう……」

 

一夏が振り向くと顔を赤くして落ち着かないのかソワソワしている明が、赤のビキニを

着ている姿が目に入ってきた。

測ったわけでもないのに体にピッタリなサイズであるものが選ばれたのは、

店員の手腕の技だろう。

もっとも、若干水着が小さいのか見たら鈴が鬼神になりそうなものが窮屈そうに

形を変えているが、それすらも計算した店員のチョイスかもしれない。

そのせいで、大きさだけでなく弾力まで触らずとも伝わってきそうだ。

 

「な、何とか言ったらどうだ//////……」

「えっ!あっ、ゴメン。似合いすぎてて、言葉が出てこなくてさ/////」

「そ、そうか……/////」

『(……かゆい!体中がかゆい!誰か!私に体をかく腕をくれぇぇぇ!!!)』

 

二人だけの空間と呼ばれるモノを形成した一夏と明に、

限界を超えたゲキリュウケンの悲痛な叫びが届く時は残念ながら来ることはないだろう。

しかし、この空間は視認できるものでもあるため――

 

「何…………してルノカナ?」

「よし――殺ソウ」

「おおおおおお前達、ははははは破廉恥だぞ//////!!!!!」

 

試着室のカーテンが開かれるとそこには、目から光を消したシャルロットと鈴、

顔を真っ赤にした箒がこちらを指さしていた。

他の者も後ろで、うつむいて変な笑いやきれいな笑顔を浮かべていた。

一番後ろでは、ラウラはオレンジジュースをゴクゴクと飲んでいた。

 

彼女達は、乙女の勘が鳴らす警鐘に従い店の中を探していたら、試着室から漏れ出る

明らかに他とは違う空気、二人だけの空間を察知してやってきたのだ。

もちろん、ラウラはここから遠ざけようとしたが簪に渡されたオレンジジュースを

堪能するのに夢中で箒達から目を離してしまったのだ。

店員達も店内にいた客達も彼女達から発せられるオーラに、本能がヤバイと訴えかけ

気付かれないようにコソコソとその場を後にした。

とても人に見せられない現場を見られて慌てる一夏と明に、一般人でも視認できるオーラ

を出す箒達はまるで、並々と注がれたガソリンに特大の火種が引火するまであと数秒

といった感じだったが、その火種が引火することはなかった。

 

「何をしているんだ――お前達?」

 

地獄の住人すら聞いただけで、固まってしまうような声に一夏達は全員石像のように

動きを止めた。

そして、できるならその場からすぐに逃げたい衝動が起きるが逃げられないという

ことも理解しており、全員壊れたブリキのおもちゃのようにギギギと音を

たてながら、声の主の方を向く。

そこには、不機嫌そうに腕を組んで指をトントンと叩く千冬と

顔を赤くしてパニックになっている真耶がいた。

 

 

 

「はぁ~水着を買いに来てこうなったと。

 ダメですよ、原田さん、織斑君。いくら恋人同士とはいえ、試着室に一緒に入るのは

 関心しません。他の皆さんも、お店の人や他のお客さんに迷惑をかけてはいけません」

「「「「「「「「「はい、すいません」」」」」」」」」

 

水着から着替えた明も含めて一夏達は全員正座させられて、真耶のお叱りを受けていた。

 

「と、ところで、お二方はどうしてここに?」

「私達も水着を買いに来たんですよ。去年の水着が、入らなくなってしまって……」

 

話題を逸らそうと楯無が話を振ると、真耶はがっくりと首を落とした。

その理由をなんとなく察した箒と明は、同情のまなざしを送るが約一名は舌打ちをして

殺気を放った。

 

「あっ!いたいた!」

「おや、何か賑やかと思ったら……」

「む?お前達は!?」

 

正座している同僚と生徒達を見ていた千冬は、突然聞こえてきた声に顔を向けると

驚きの声を上げた。

 

「あら、どうされたんでしょう織斑先生?」

「知り合い……かな?」

「あれ?さくらさんとしず子さん?」

「えっ一夏君!?」

「お久しぶりですね」

 

セシリアと簪が疑問を口にすると、一夏はその二人のものと思われる名前を口にする。

 

 

 

「つまり、お二人は織斑先生の高校生時代のご友人なんですね?」

「はい、加賀しず子と言います」

「桜井さくらだよ♪」

 

明の問いに眼鏡をかけ千冬とはまた違った形でスーツが似合う、仕事ができる女性という印象を与える加賀しず子とナンパされそうなかわいらし顔だちで真耶のように実年齢よりも幼く見られそうな桜井さくらは混乱気味な一夏達に自己紹介をする。

 

「いや~千冬は相変わらずカッコイイね♪」

「そうですね、元気そうで何よりです」

「それは二人もだろ?そっちは最近、どんな感じなんだ?」

 

学園での教師としてや一夏に向ける顔とは違った穏やかな顔で、千冬は再会したしず子と桜と会話を始める。

 

「それより、碓氷さんとはどうなんですか千冬さん?」

「私達、碓氷君に頼まれてここに来たんだけど?」

「何……?」

 

二人が語った言葉に千冬は一転して怪訝な表情を浮かべ、一夏達はマズイと感じ始める。

 

「何でも、弟の一夏君に彼女ができてささやかな姉弟デートも

 できなくなってへこんでいるから、私達に励ましてほしいのだと……」

「今日は外せない用事があるからって、言ってたけどあの千冬にベタ惚れな碓氷君

 がそんなことで私達に任せたりするかな?」

「…………」

 

純粋に二人なりに千冬を知っての言葉だが、それを聞いても無言な千冬が

一夏達に言いようのない不安を与えていた。

 

「ちょっと、一夏。マズイんじゃないの、コレ?」

「マズイなんてもんじゃねえよ、鈴……」

「顔を見なくてもわかる。あれは相当マズイ……」

 

このメンバーの中でも千冬のことをよく知る一夏、鈴、箒はヒソヒソと現在の状況の

危険性を話し合う。

 

「い、いかん……。今の教官は、兄様と最も激しくケンカ(痴話げんか)した時と

 似た空気を出している――」

 

冷や汗を流して後ずさるラウラと同じく、楯無達も千冬から逃げたかったのだが

体が動かなかった。

 

「あいつめ……一度、本気で頭の中身を引きずり出す必要があるな――」

 

風もないのに髪をゆらめかせ、千冬は口元を怪しく歪ませる。

 

「そうはいっても、前から一夏と一緒にいる時間が減って落ち込んでたのは

 事実だよね、千冬ちゃん?」

 

何の前触れもなく最初からそこにいたかのような自然な感じをさせる声に、

みんなが目を向けると――――とある天才漫画家のように黒のスウェットに背中に

羽ぼうきを何本も刺したカズキがそこにいた。

 

「シュピーン!ってね♪」

「…………何をしている?」

「いや~近くでコスプレ大会があってね~。

 それに参加してたんだよ~。残念ながら、優勝は逃しちゃったけどね」

 

怒りを通り越して呆れた視線を送る千冬に気にせず、カズキはいつものように

飄々と楽し気に今の恰好の理由を話す。完全に余談だが、そのコスプレ大会の優勝者は

マッハ20で動けるタコのような教師のコスプレだったとか――。

 

「さ~て、二人とも久しぶりだね~。でも、あんまり仲良さそうにしてると

 千冬ちゃんの機嫌が悪くなっちゃうからこの辺で♪」

「……ふっ。ふふふふふ……」

「相変わらずのようですね」

「だね」

 

俯きながら笑う千冬に一夏達が逃げ腰なのに対し、しず子と桜は見慣れた光景なのか懐かしいものを見る温かい目をしていた。

 

「さ~て、みんな?一夏とデートしているところ悪いけど、少しの間

 千冬ちゃんと交代してもらってもいいかい?

 一夏と一緒にいる君達をうらやましそうに見る千冬ちゃんを見るのも

 楽しいけど、そろそろ発散しないと爆発しちゃう……」

 

カズキは途中で体を右に動かして、言葉を“止められた”。

彼の顔の横には、煙を発している千冬の拳があり、数秒後その拳の延長線上にある壁に

拳を押し付けたようなへこみが発生した。

 

「……ちっ!」

「ははは♪じゃあ、行こうか♪」

 

忌々し気に舌打ちする千冬にカズキは余裕を崩さず、放心気味の明達を

連れてその場を後にした。一夏を残して。

 

「……はぁ~。まっ、せっかくだしな。癪だがあいつの気遣いに乗らせてもらおう」

「はいはい」

 

素直じゃない千冬に一夏は、苦笑して返事をする。

 

「で、一夏。どっちの水着がいいと思う?」

 

久しぶりの姉弟の水入らず(一匹一緒だが)に、千冬はどこか楽し気に

両手に取った水着の良しあしを一夏へと聞いてくる。

 

「う~ん、難しいな。

 どっちかって言うと黒の方だけど、こっちの白の方も捨てがたいし……」

 

千冬が手に取ってみせたのは、スポーティーながらもセクシーさも合わせた黒の水着と

機能性重視の白の水着。

どちらもビキニタイプで、男が見たら彼女や奥さんがいても振り返って思わず

見とれてしまうだろう。

 

「ほう?珍しいな。お前なら、黒の方がいいのに余計な気を使って

 白だと言うと思ったが?」

「何だよ、それは。

 確かに、黒の方が千冬姉らしいけど、白は白で似合うんだよ。

 カズキさん曰く、千冬姉は何物にも染まらない白色が似合うけどだからこそ

 自分の色に染めたくなるって言ってたし」

「――んなっ/////!?」

「あっ!いっそのこと、両方買ってどっちかは二人きりの時に見せるとか?」

 

一夏からの思わぬ言葉に顔を赤くする千冬は、続く一夏の言葉を聞くや否や

彼の体をくの字に抑え込むと、みぞおちに膝蹴りを何度も叩き込んだ。

知る人が見れば、全員完全な照れ隠しだということがわかるだろう。

そして、それを口にすれば同じような目に合うのも察するだろう。

 

その後、千冬は床に倒れ伏す一夏を置いて会計に向かったのでどちらの

水着を買ったのかは臨海学校まで誰もわからない――

 

 

 

 

 

「それで?これからどうするんですか?碓氷先生」

「このまま、一夏を待つにしても……」

「それは、大丈夫。さっき、おもしろいものを見つけてね~?

 みんなで見に行こうと思ってね♪」

 

水着売り場を後にして、しず子と桜と別れた一同は暇を持て余しどうするのかと

楯無と明が尋ねると、爽やかな笑みでカズキは返事をした。

彼が手招きして指を指すと、そこにはおめかしして照れながら談笑する

弾と虚の姿があった。

 

 

 

「いや~そ、それにしてもだんだん熱くなってきましたね///」

「そ、そうですね//////」

 

互いに照れているのが丸わかりな顔で、ぎこちなく会話する二人に

自然に周りの目も温かいものとなる。

 

「ああ~もう!お兄(にい)ったら、何やってんのよ!」

 

その様子を物陰から帽子をかぶり、サングラスで変装した蘭がじれったそうに

見ていた。普段、なんだかんだと邪険にしていても兄の恋路は妹としても気になり

応援したいようだ。

もちろん、カズキ達が自分のことを見ているとは彼女は夢にも思わないだろう。

 

「弾のくせにデートなんて、生意気な……」

「あんなに落ち着いていない虚ちゃんなんて、初めて見るわね簪ちゃん」

「うん。虚さん……かわいい」

「ダメですわよ、みなさん!人のデートをののの覗くなんて/////」

「そう言っているけど、バッチリ見てるじゃんセシリア」

「なるほど。あれが、初々しいというやつか」

「うらやましいな……」

「そうですね……」

「なんで、こっちを見るんですか?箒?山田先生?」

 

弾と虚のデートを壁に隠れてこっそり見ていた面々は歯ぎしりしたり、滅多に見れない

シーンを見てあららとなる者もいれば、恋人がいる明に妬ましそうな視線を送ったりした。

 

「さ~て、せっかくの初デートだし見守るのはこれぐらいにして、

 そろそろ退散しますか。“たまたま”見つけたから、カマをかけたことを言えば

 おもしろくなりそうだし♪

 覗き、もとい二人の恋路を応援するためのセッティングは次の機会に……うん?」

 

二人に見つかる前にその場を後にしようとしたカズキは、その視界に

女性に詰め寄られている一夏達と同年代の少年の姿が映った。

 

「だから!この服を片づけておいてって言っているの!」

「いや、その服を出したのは僕じゃないし……そもそもどうして初対面の

 あなたにそんな事を言われなくちゃいけないんですか?」

 

どうやら、女性が見ず知らずの少年に命令しているようだ。

世界最強の力として認識されているISを動かせるのは、女性だけということから

こんな風に男が小間使いとして扱われるのは、少なくなってきたとはいえまだまだ

起こっているのだ。

ちなみに一夏達はIS学園の制服を着ていたのだが、それはいらぬトラブルを回避するために

カズキが忠告したためである。

 

「どうやら、自分の立場が分かっていないよう……ひっ!?」

 

女性は、少年に濡れ衣を着せるために警備員を呼ぼうとしたら、突如として

感じる殺気に悲鳴を上げる。

 

「お姉さん?私達の友達に何のご用ですか?」

「あんたねぇ!いい大人が、セコイことして恥ずかしくないの!」

「もう一度、小学生から常識を学び直したらどうですか?」

「みんな!」

 

女性の背後にいたのは、笑顔なのに冷や汗が止まらない空気を発している

すずかと怒り心頭のアリサ、そして鋭い目で女性をにらむフェイトだった。

彼女達の登場に、詰め寄られていた少年――ユーノは安堵の声を上げる。

 

「くっ……。子供が大人に盾突くんじゃ……」

「お姉さん?悪いこと言わんから、その辺にしておいた方がええですよ?

 でないと、怖~い魔王様からOHANASIをされることになりますよ?」

「…………」

 

反論しようとする女性に、すずか達に続いて現れたはやてが忠告すると

背後にいる無言の笑顔をするなのはが赤い宝石を握りしめていた。

 

「うっ……ぐ。大人をなm……」

 

勝ち目などゼロを通り越してマイナスとなっているのに、ちっぽけなプライドから

敗北を認めようとしない女性はなおも反論しようとしたら、突然糸の切れた人形のように

倒れてしまった。

 

「なんや?」

「何かの演技……じゃないよね?」

「すいませーん」

 

倒れた女性に怪訝に思うはやて達だったが、そこに警備員がやってきた。

 

「先ほど、迷惑行為をしている女性がいると通報を受けたのですが……」

「あっ、はい。そこで、倒れてます。貧血か熱中症じゃないでしょうか?」

 

駆け付けた警備員に笑顔でスラスラと説明するすずかに、はやて達はカズキの

影がちらついたとか……。

 

「仕方ありませんね。通報した人はその時の動画も送ってくれたので、

 この人を警備室に運んで話を聞くとします。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 どうぞ、レゾナンスを引き続きお楽しみください」

 

そう言って、倒れた女性を運んでいく警備員を見送るとはやて達はユーノを連れて

その場を後にした。壁に隠れて、吹矢をクルクル回すカズキには気づかず。

 

 

 

「全く!なんなのよ、あの女!」

「まあまあ、アリサちゃん気持ちはわかるけど落ち着いて……」

「大丈夫だった、ユーノ?」

「うん。目をつけられたのはあの人だけだから、大丈夫だよ」

 

未だに怒りが収まらないアリサをなだめながら、ユーノ達はレゾナンスを散策していた。

彼女達も一夏達同様、臨海学校に必要なものを買いに来たのだが何故関係のないユーノが

いるのかと言うと、なのは達がユーノとデートするために休みをクロノと掛け合ったからである。なのははデートというより、一緒に買い物の意味合いの方が強いが。

元々ユーノは、半年以上の有給が積もりに積もって貯まっており、いつでも休みは取れるのが普通なのだが、勤務している無限書庫の性質上、今の今まで碌に利用することができなかったのだ。

もちろん、最近は特に忙しい管理局でユーノに休まれるのは非常に痛いのだが

無限書庫の職員となのは、フェイト、はやてによる最強レベルの魔導士トリオによる

“お願い”により、本日休暇を取ることができたのである。

 

「はいはい、さっきのことはその辺にしとこ」

「そうだね、せっかくのお出かけなんだから楽しまないと♪

 あっちにおいしそうな喫茶店が、あったからそこに……」

「あれ~?ユーノじゃない♪」

 

なのはが、気分転換もかねて喫茶店に行こうと提案しようとしたら、

おしゃれな服でおめかししたドゥーエが彼らに声をかけてきた。

 

「ねぇ、ユーノ?」

「誰?この人……」

「は~い♪はじめまして。

 ユーノと同じ無限書庫で司書をしている、二乃(にの)よ♪

 こんな名前だけど、生まれはミッドよ。

 今日は前から興味があった地球に、遊びに来たのよ~」

「え~っと、彼女はまだ司書一年目だけどすごく優秀でね。

 いろいろと助けてもらっているんだ……ってどうしたの、みんな?」

「べ~つに~?な~~~んもあらへんよ?」

「そうそう♪」

「きれいな人だね……」

 

声のトーンを落とした声で、アリサとすずかはユーノと腕を組みながら問いかけ

はやて、フェイト、なのはの三人はニコニコと笑う笑顔をユーノに向ける。

 

「あの~みんな?どうしたの?どうして、そんな笑顔を僕に向けるの?」

「ふふふ♪私とユーノの関係が気になるようね、ガールズ?

 ええっと、簡単に言うと配属されてから数週間ぐらい勤務後に

 二人っきりで一緒の部屋にいて(探索魔法の使い方をマンツーマンで教えてもらって)、

 もうダメって言っているのに、ガンガン攻めてきて~(ビシビシと鍛えてくれて)

 何度も朝日を見たりしたわね~(徹夜でみんなと一緒に)」

「「「「「…………」」」」」

 

二乃の言葉に、初夏とはいえ日差しがまぶしく真夏日と呼ばれるのも後数日となる本日、

彼女達を中心として、体感温度は瞬く間に氷点下となった。

周りにいた人達は、突如として襲い掛かった冷気に発生源へと視線を移すがその瞬間に

体が凍ったように固まってしまう。

発生源には輝く笑顔のはずなのに、見たら泣く子も気絶するような笑みを

浮かべる5人の恋する乙女がいた。

体が動かなくなった人達は、動かなくなった理由を考えるより先に何とか体を

動かそうとして、その場から逃げていった。

 

「じゃあ、デートの邪魔をするのも悪いし、私はこの辺で♪じゃ~ね~~~♪」

「ちょっ!?こんな状況にしておいて、何を……!」

「「「「「ユーノく~~~~ん?」」」」」

「ひっ!?」

 

ユーノは立ち去る二乃を呼び止めようとするが、自分の横と背後からの

呼ぶ声に金縛りにあってしまう。

 

「どういうことか、詳し~~~く聞こか?

 ……模擬戦っていう、物理的に――」

「うん♪一から百まで全部ね♪」

「それが終わったら、次は私達とお茶会をしましょ?」

「じっ~~~くり、太陽が昇るまで……ね?」

「…………少し――頭冷やそうか?」

 

誰もが見惚れるまぶしい笑顔を向けられているというのに、ユーノは

冷や汗が止まらず仕舞には、覚えているはずのない赤ん坊の頃の記憶が脳裏をよぎった。

 

「(――って!これじゃまるで、走馬燈じゃないか!?)」

「それじゃ……ユーノくん?」

「逝こうか……?」

「待って!その“いこう”は絶対普通の“いこう”じゃないよね!

 お願いだから話を聞いて――」

 

哀れな少年(贄)の声は、魔王と化した恋する乙女達の耳に届くことはなく、

助けを出したら自分も哀れな贄の仲間になると通行人達も目を合わせることはなかった。

 

「悪いね、ユーノ。流石にあの魔王達から助けるのは無理だ。

 どうか、安らかに成仏してくれ」

 

物陰から一部始終を見ていたカズキは、ハンカチで涙を脱ぎながら手に持った

白黒のフェレットの写真を入れた写真入れを抱きしめた。

 

この後、管理局のある訓練場が修理不可能なほど粉砕されたらしい――

 

 

 




前回登場した拷問方法ですが、他には悪魔手帳によるいつもの黒歴史暴露や
作文の読み上げを考えていました。
穢れを知らない幼稚園児時代の作文とかを、感情たっぷりに読まれて
聞かされたら、いろいろとくると思います。精神的に(黒笑)

ゲキリュウケンはそろそろ、糖尿病の危険があるかもしれませんwww

登場した千冬の友達は、その場の思いつきで今後登場するかは未定です。
高校時代に一緒にいることが多かったのですが、カズキと千冬の
やりとりは学外がメインだったので、半分ぐらいしか見てません。
モデルは「会長はメイド様!」に登場したキャラです。

カズキのコスプレは、「バクマン」の新妻エイジです。

千冬の一夏への照れ隠しによる攻撃は、コスプレ大会で優勝した教師が
主役の作品で、二学期期末テスト前に中二半が鷹岡もどきをしばいた奴です。

粉砕された訓練場には、黒い何かが煙を上げていたとか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日差しが強くなると影も濃くなる――


少しずつ書いて、できあがりましたが物語としては
あまり進まず(汗)
更新と共に話のスピードもなんとかせねば。


ピピピピピ――

人知れぬある部屋で、キーボードを叩く音が鳴り響いていた。

 

~~~♪

 

そこに突如として、部屋の雰囲気にそぐわない軽快な音が流れ、この部屋の主である女性が

頭につけているメカニカルなウサミミカチューシャがピンと反応すると

その女性、篠ノ之束が音の発生源である携帯電話へとダイブする。

 

「もすもす?終日(ひねもす)?」

「…………」

「わー!待って待って!」

 

電話をかけてきた相手は束の態度が頭に来たのか、電話越しでも伝わる怒りのオーラが

発せられ、周りのことなど普段は気にもかけない束も命の危機を感じ取り平謝りする。

 

 

 

「――ほいほい、そういうことならまっかせといて―♪」

 

束は、電話の相手から何かを頼まれると腕や背筋を伸ばしてストレッチをして体をほぐした。

その際、彼女が着ている童話の世界に出てくるような服に包まれたある膨らみが悩まし気に

揺れた。もしも、IS学園のとある代表候補が見ていたら、阿修羅となっていただろう。

 

「さ~て、久しぶりに本気を出しちゃおうかな~♪」

 

いくつもの機械の腕や何やらがついた怪しげなイスに座ると、束は挑戦的な笑みを

浮かべてキーボードを操作し始めた。

彼女の目の前にある画面には、あるISの姿が描かれていた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さて、どうしたものですかね?

 間もなく、時が来ますが……この辺りでもう一回程彼ら魔弾戦士の目を

 逸らしたいところですが――」

 

昼か夜かもわからない暗い世界で、創生種の一人クリエス・レグドは頭を捻っていた。

 

「単純に魔物を送り込んでも、何かしらの時間稼ぎのための陽動だとすぐに

 バレるでしょうし、それで警戒を強められたら計画に支障が出てしまう……。

 かと言って、何もしなければこちらの動きに勘づかれる恐れもありますし……

 何とか、彼らをそれなりに追い込んでかつこちらがあまり消耗しない手を

 上手いこと考えなければ……」

「お悩みのようだね、レグド様?」

 

レグドが次の手を考えていると背後から、人を食ったような印象を抱かせる軽い声が

聞こえてきた。

 

「あなたですか……何の用です?

 後、敬語はやめなさい。

 敬意を持っていな敬語をされるより、普通にしゃべりかけられる方がマシです」

「そ~んなに邪険にしないでよ~。

 魔弾戦士達の目を逸らす手を考えているんでしょ?

 だったら、僕に任せてよ♪

 彼らとは一回、遊んでみたかったし~。

 それに、僕みたいなのがいけば、独断で動いたかもって思われるかもしれないでしょ?」

「ふむ……そうですね」

 

声の主にそう言われて、レグドは思考を巡らせる。確かに彼なら、自身が言うように

思惑等関係なく愉悦のために動いたと思わせられるかもしれない。

加えて、彼の力なら上手くいけば魔弾戦士達を倒すことも不可能ではない。

しかし、同時にリスクもあった。

彼は所謂愉快犯な思考をしており、わざと余計なことを口にしてこちらが不利になるような情報を漏らすかもしれない可能性があった。

更に言えば、おもしろくなるからと魔弾戦士達に寝返る危険性もあった。

 

「……では、こうしましょう?

 私と一勝負してあなたが勝てば全てあなたの意志で行い、

 逆に私が勝てば“一つだけ”あなたに指示を出させてもらいます――」

「わ~お♪レグド様と勝負?

 すっごい、ワクワクするんだけど♪」

「その話、僕も混ぜてもらっていいかい?」

 

一触即発な空気が醸し出される中、そこへ割って入る者がいた。

暗闇の中から、姿を見せたのは端整な顔立ちをした少年だった。

厳かな音楽でも流れれば、彼の事を天使と錯覚する者もいるかもしれない。

しかし、それも一瞬の事。少年の顔はたちまち憎悪に満ちた笑みを浮かべ、その顔立ちと

合間見って、歪みが際立っていた。

 

「……ちっ。何だよ~いいところなんだから、邪魔しないでよ~」

「奴らの目を逸らすとは言っても、殺してしまってもいいんだよね?」

 

彼の文句には耳を貸さず、少年はレグドに問いかけるが答えなど聞かなくても

実行するつもりなのは火を見るより明らかだった。

 

「もう、僕には我慢できないんだ。あの男……碓氷カズキと名乗っているあの男が

 のうのうと生きているのが!」

「意気込みは結構ですが、何か策はあるのですか?

 彼にはいくら警戒をしても足りないのですよ?」

「もちろんさ。あいつは、昔と違って弱点がたくさんできたからね……。

 あなたの策を参考にして、この世界のおもちゃを使うとするよ」

 

必ず勝てるという確信に満ちた顔で、少年はレグドに挑戦的な視線を送る。

 

「――いいでしょう。好きにしなさい。ただし、同時に彼にも動いてもらいます」

「監視って、わけだね。別にいいさ、僕の邪魔をしなければ……」

 

そう言うと少年は、暗闇の中に消えた。

 

「ちょっとちょっと!いいの?あいつ、僕達を利用してやるっていう魂胆が

 見え見えだよ?」

「ええ。あれは、典型的なかませ犬ですし、魔弾戦士に返り討ちに合うだけでしょう。

 ですが、あなたも加われば話はまた別になります。

 それに……ちょっとした余興も思いつきましたしね――」

 

口に手を当てて笑うレグドの姿を見て、彼の背筋にはゾクゾクした快感が走る。

 

「うっわ~。噂に聞くカズキって奴もこんな悪~い顔をしているのかな……

 ――彼らと遊ぶ時もこんな風にワクワクできるなら、自由にやりたいから

 この勝負は絶対に負けられないね♪」

 

彼は関節をポキポキと鳴らして、気合いを入れるとレグドへと向き合った。

 

「な~んか、おもしろそうなことになりそうね……。

 私も参加しようかな?あの子にも会ってみたいし♪」

 

それを眺める妖艶な女王は、嗜虐的な笑みを浮かべるのだった

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「海っ!見えたぁっ!」

 

トンネルを抜けて見えてきた、太陽の光を反射して輝く海にバスの中にいる

女子達のテンションは、グングンと上昇していく。

席から立ちあがり、窓に映るその光景に目を奪われていく。

 

「海かー。久しぶりだよな、明」

「えっ?ああ、そうだな/////」

「本当なら、二人で行きたいところだったんじゃないのか?」

「まあ、そうですけど、それは次のお楽しみと言うことで♪」

『(カズキのからかいにも普通に返してやがる、コイツ……)』

 

海を見る彼女達とは違う意味で、テンションを上げている一夏に気付いたカズキは

茶化そうとするが一夏は慌てることなく普通に返し、ゲキリュウケンはおののいた。

その返しに、カズキはヤレヤレと肩をすくめるがそんな達観した境地にいられない

乙女達は、それどころではなかった。

 

「ふふふ……一夏さん?このセシリア・オルコットの華麗な水着姿で

 あなたの心を打ちぬいて差し上げますわ!」

「覚悟しておいてね、一夏?」

「ええい!あんなだらしない顔をしおって!……別に羨ましくなんか……羨ましい!」

「お~お~、燃えとるな~みんな♪」

「多分、他のバスでも同じように燃えている奴がいるわね。間違いなく」

「おもしろいことに、なりそうだね♪」

 

一夏の隣の席と言う聖域を手に入れるために、壮絶なジャンケン大会が行われたのだが

本命の意地か、その聖域に座る権利を勝ち取ったのは明であった。

そんな明を妬ましい目で見る箒達だったが、一夏と明の空気を感じ取ったのか

二組と四組のバスでも同じ視線を一組のバスの方向に向けている者達もいた。

彼女達はこの海のために備えた水着という切り札で勝負を仕掛けるつもりだったが、

アリサは疲れたように溜息をつく一方で、はやてとすずかは楽しげだった。

 

「海よ!バカップルのイチャイチャ空間で、疲弊した私の心を優しく受け止めて!」

「いや~日差しが眩しい♪

 ……これなら、バカップルのイチャイチャも目に入らないかな?」

「ちっ!私達なんか、眼中にないってか……!」

 

海を見ていた者達は、そこから顔を動かそうとしなかった。

動かしたら、一夏と明の二人だけの空気に当てられてしまうからだ。

カズキと千冬とはまた違った空気に、みんな相当まいっているので、臨海学校でまで

そんなのはゴメンとばかりにみんな海へと意識を集中していた。

 

「海で遊ぶというのは初めてだな」

 

混沌とした空気の中で、ラウラは未知への期待に胸を躍らせていた。

 

「お前達、そろそろ目的地だ。早く席に戻れ」

「ぷっ……くくく」

 

バスの旅も終わりが見えて、千冬が注意を促すがその声にはどこか苛立ちが

混ざっていた。

その理由を見抜いたカズキは、おもしろそうに笑っていた。

 

「ここが、今日から三日間お世話になる花月(かげつ)荘だ。

 全員、従業員のみなさんの仕事を増やすことのないように」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

目的地である旅館に四台のバスが到着すると、千冬に続いてIS学園一年生一同が

挨拶をする。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

この旅館には毎年お世話になっているようで、着物姿の女将さんが自然な仕草で

お辞儀をした。

年は千冬達、教師陣より少し上のようだが纏う空気は穏やかながらも千冬達とは

また違った大人のものであった。

 

「それで、こちらが噂の……」

「はい。今年は、生徒と教師にそれぞれ男がいるせいで浴場分けに

 お手数をかけてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずに。それにしっかりしてそうないい男の子

 じゃありませんか。それに、もう一人の方は……」

 

女将の視線が一夏とカズキに向かうと、千冬は難しい顔をするが女将はカズキを

見ると含んだような笑みを浮かべ、カズキも軽く会釈する。

 

「感じがするだけですよ。お前もぼーっとしてないで、挨拶しろ」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

「碓氷カズキです。お世話になります」

「ご丁寧にどうも。清州景子です」

 

女将の笑みに千冬は嫌な予感がしたのか、話題を逸らすために一夏に挨拶を

させるが、その意図に気が付いたのか一夏は苦笑しながら挨拶をし、カズキもまた

笑顔で挨拶をした。

 

「さーて、みんな?今日は一日自由時間だけど、海に行く時は持ち物に書いてあった

 ブラックコーヒーを忘れないようにね~。

 ここでも手に入るように手配はしているけど、持っていくのを忘れて

 今日一日寝て過ごすことになってもそれは自己責任だからね~」

 

割り当てられたそれぞれの部屋に荷物を置きに行こうとする女子達にカズキは、

意味の分からない連絡を伝える。

臨海学校の持ち物欄に、各自でブラックコーヒー持参(忘れたら自己責任)と

あって、全員頭を傾げていたのだが、彼女達はこの後否応なしにその意味を

その身を持って知ることになる。

 

「ねぇ~ねぇ~。おりむ~。

 おりむ~やカズキン先生の部屋ってどこ?

 後で、遊びに行くから教えて~」

 

部屋への移動中、のほほんさんこと本音は眠たそうに見える顔で、ゆったりとした

遅い動きで一夏の部屋はどこかと尋ねてきた。

瞬間、全員の耳がゾウのようになり、聞き耳を立てる。

 

「いや、俺も知らないんだ。カズ……碓氷先生が旅館に着いたらわかるって

 言ってたけど……。

 まさか、廊下で寝るとかじゃないよな……?」

「お~、それは涼しそうでいいね~。私もそうしようかなー」

「織斑、お前の部屋に案内するからついてこい」

 

一夏と本音がどこかズレた会話をしていると、千冬が一夏にこっちに来るように

呼びかける。

 

「あのー。俺の部屋って、どうなる……」

「黙ってついてこい」

 

余計なことは聞くなと言いたげに千冬がそう言うと、二人は無言でしばらく

旅館の廊下をあるいていくと、一つの部屋にたどり着いた。

 

「ここだ」

「教員室?」

 

部屋のドアには“教員室”と書かれた張り紙が張られていた。

 

「最初は、お前と碓氷を同室にという話だったんだが、それだと確実に

 就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうということになってな。

 それにあいつなら、おもしろいからという理由で、尚更押し掛けを

 促しそうだしな……。

 結果、私と同室になったということだ。これなら、誰もおいそれとは

 近づかないだろう。

 後、碓氷の奴は自分で何とかするそうだ」

 

ため息を吐きながら、千冬は疲れたように肩を落とす。

 

「ご迷惑をお掛けします……」

『(ある意味、明以上のボディーガードだな。

 しかし、自分で何とかするって、カズキはどうするつもりだ?)』

「それと、臨海学校はあくまで授業の一環だ。私が、教員だということを忘れるなよ」

「わかりました、織斑先生」

「それでいい」

 

そうして、二人は部屋の中に入るとそこには、二人部屋だというのに広々とした間取りの

空間が広がっていた。外側の窓からは、海がばっちり見渡せ日の出も絶景になることだろう。

更に、トイレやバスはセパレートになっており洗面所は専用の個室となっていた。

備え付けられた浴槽は、一夏だけでなく大人のカズキが足を伸ばせるほど広い。

 

「すげーな」

「一応、お前とカズキも大浴場は使えるが時間交代制だ。

 普通なら男女別だが、何せ一学年全員だ。お前達二人のために、残りの全員が

 窮屈な思いをするのもあれだからな。使えるのは一部の時間だけだ。

 深夜や早朝に入りたければ、部屋の方を使え」

「わかりました」

「さて、今日一日は自由時間となっているから、荷物を置いたら好きにしろ」

「織斑先生は?」

「私は他の先生達と今後の打ち合わせとか、色々あるが――」

 

誰も見ていない姉弟の二人きり(+ゲキリュウケンだが)にも関わらず、教師の姿勢を

崩さなかった千冬は何かをごまかすように、咳ばらいをする。

 

「久々の海だしな……軽く泳ぐぐらいはするとしよう。

 どこかの弟と共に買ったのもあるしな」

「カズキさんにも見てもらわないとだもんね♪」

『(おい!)』

 

さらりと口にした一夏の言葉に千冬は、一瞬固まると一夏の振り返り

鋭く睨みつけるが……

 

「織斑先生、ちょっといいですかー?」

 

ドアを叩く音がすると真耶の声が聞こえてきて、千冬の視線はドアに向かう。

 

「……どうぞ」

「えっ!?織斑君!」

 

部屋に入るなり、一夏と目が合った真耶は驚きの声を上げる。

 

「山田先生……確か私と織斑を同室にというのはあなたが提案したことだった

 はずだが……?」

「はいぃぃぃっ!そうでした、ごめんなさい!」

「じゃあ、俺は海に行きますね。

 ――ああ、そうだ……夜は碓氷先生と二人きりになれるよう

 どこかに行ってましょうか?織斑先生」

 

蛇に睨まれた何とやらになったような真耶を見て、一夏は頭に電球が光ったような

顔をすると、水着や替えの下着等を持ってそそくさと部屋を出ようとするとその際に、

置き土産とばかりの爆弾を親指を立てながら投下していった。

そして全力でその場を後にするが、直後に哀れな教師の悲鳴にならない悲鳴が

旅館中に響き渡ったとか……

 

 

 

「…………」

「…………」

 

一夏は、更衣室に向かう途中で箒と出くわし、共に目の前の光景にどうしようかと

悩んでいた。

道ばたに、ウサミミのような何かが生えているのだ。

しかもご丁寧に“引っ張ってください♡”という看板まで立っていた。

 

「なあ、これってもしかしなくても――」

「聴くな。私は何も見ていないから、何も知らない……」

 

二人の脳裏には、こんなことをする人物の姿がよぎったが、箒はどこか疲れたように

つぶやくと初めから、それを見つけなかったことにしてその場を後にした。

 

『で?どうするんだ、これ』

「そうだな……とりあえず、早く着替えて海にいこう!」

 

一夏も箒と同じく、何も見なかったことにしてその場を後にして更衣室に向かうと

今度はカズキがやってきてウサミミと看板に目をやる。

 

「…………」

 

しばらく、無言でその光景を見ていると看板を引っこ抜き、どこから出したのか園芸用のスコップを取り出すと、ウサミミに土をかけて看板と共に何もなかったことにした。

 

「――よし!後は……」

 

カズキは風術を使って遥か遠くの頭上に目を見ると、ミサイルのようにこちらへ

とんでくる機械仕掛けの巨大ニンジンを発見した。

 

「――か~○~は~○……」

 

その巨大ニンジンに対処するために某戦闘民族の必殺技の構えを取るとその掌に、膨大な風が収束していく。

 

「―――波っ!!!」

 

カズキの掌から放たれた風の塊は、竜巻のようにまっすぐ巨大ニンジンへと進んでいき

それをもみくちゃにして、海の彼方へと吹き飛ばした。

 

「さて、俺も海に行きますか♪」

 

巨大ニンジンが吹き飛ばされる途中、“ほぎゃぁぁぁ!!!”という叫び声を

カズキは耳にしたが、彼はそれを気に留めることはなく更衣室へと向かった。

 

 

 

「う~ん……」

 

更衣室へと向かった一夏は気まずい思いをしていた。

一夏とカズキのために用意された男子用更衣室に行くには、女子更衣室の前を

通らなければならなかった。

すると当然のように行われる女子同士のスキンシップを交えた、会話が聞こえてくるので

青少年にはかなりきつかった。

さっさと通り過ぎようとするが、突如としてその足を止める。

 

「いや~明ちゃん、やっぱりええ仕事してますなぁ~♪」

「ひゃっ//////!は、はやて!」

「大きいだけやなく、触り心地も抜群!

 これが将来、一夏君のモノになると思うと……今のうちに堪能させてもらお♪」

「ちょっ///!いい加減に……ひゃん////!」

「……………」

『お、おい……一夏?』

 

偶然耳に入った会話に一夏は、燦々と輝く太陽のような笑みを浮かべ

ゲキリュウケンは、流れるはずのない冷や汗をダラダラと流しながら、一夏に今の状態を

問う。

 

「今夜の夕飯は……タヌキ鍋になりそうだな~♪」

『……セクハラタヌキことはやてよ。私にはどうすることもできない。

 ――安らかに成仏してくれ……』

 

避けられない未来に、ゲキリュウケンは人知れず黙とうを捧げるのであった。

 

 

 

「ふぅ~あっついなぁ~。……さてと」

 

水着へと着替えた一夏は、働き真っ盛りである夏の太陽の日差しを浴びながら

熱せられた砂浜の熱さを堪能すると、いそいそと何かを準備し始めた。

 

「あ、織斑君だ!」

「えっ、うそ!私の水着変じゃないよね!大丈夫だよね!?」

「うわ~細身だけど、すっごくかっこいい~」

「あの筋肉、相当鍛えているわね……じゅるり……」

「早速、乙女達の目が輝いとるね~。

 そして、なんちゅう素晴らしい光景なんや!!!」

「相変わらず、ブレないわねあんた」

「ほら、明ちゃん。もう大丈夫だから」

「あ、ありがとうございます、すずか……。

 それにしても……何をしているんだ一夏?」

 

一夏の登場に、いち早く海に来ていた子達は黄色い声を上げ、はやてはその光景を

拳を握りしめながら満足そうに眺めていた。

そんなはやてに呆れるアリサとすずかの後ろに隠れるように、パーカーを羽織った

明が姿を見せ、先ほどから女子達の姿に目もくれず何かをしている一夏に声をかける。

 

「ああ、明。な~に、今夜の夕食の準備をちょっと……な♪」

 

一夏はどこから持ってきたのか砥石を使って、雪片を包丁のように研いでいたのだ。

満面の笑みを浮かべて――。

 

「いや~全員に行き渡る様に、肉を細かく刻まないといけないからさ……タヌキ鍋。

 でも、まあ人数は一人減るからなんとかなるかな。

 ……なあ、セクハラタヌキのはやて?」

 

細く開いたまぶたから覗く目は光が消えており、見つめられたはやては自分がとんでもない地雷を踏んでしまったと悟るが、時は既に遅かった。

アリサをはじめ、他の子達も今の一夏がとてつもなくヤバイ状態と悟り、夏真っ盛りのこの日に

氷河期のような寒さを体感した。

 

「い、いや~どどど、どうやろな~。夏に鍋っていうのは……」

「夏だからこそ、熱いものを食べるのがいいんじゃないか♪」

「そ、それはそうやけど……」

 

雪片を無造作に下げてジリジリと近づいてくる一夏に、なんとか逃げようとするはやて

だったが、逃れられないのは本能で理解してしまった。

何とか、助けを求めるが誰も目を合わせようとはせず、八方ふさがりであった。

 

『(お、おい。落ち着け。冷静になれ、一夏!)』

「(な~に、言っているんだよゲキリュウケン?俺はこれ以上ないぐらい、冷静だよ?

 さっきから、はやてがどんな逃げ方をしてもさばける自信があるよ~)」

『(聞く耳、持たないとはこのことだな……)』

「明ちゃん!助けてっ!」

「……はぁ~。一夏、私はもういいからその辺にしたらどうだ?」

 

はやての懇願に明は、ため息をつきながら助け船を出す。

 

「ははは♪何を言ってるんだよ、明?俺はおいしい料理をみんなに食べてほしい

 だけだよ?」

「それなら、はやてがみんなに何かをおごるというのはどうだ?」

「仕方ないな……それで手を打つとしよう――ちっ。

 でも、はやて?今度明に変なことしたら……」

 

明の説得でようやく、矛を収めた一夏だったがその目は雄弁に語っていた。

 

――明日の太陽を見られると……オモウナヨ?

 

「……(コクコクコクコク)」

『(やれやれ……)』

 

明の案に一瞬驚くはやてだったが、命の前にはそんなものは安いものとばかりに

残像が見えるほどの速さでうなずき続けた。

その光景を見ていたものは、キレた一夏を止められる明が真の最強じゃね?と

思ったそうだ。

 

「じゃ、じゃあまず一夏君と明ちゃんにお詫びを……。

 一夏君はちょっとこっちに来てもらって、明ちゃんはちょっとバンザイ

 してくれへん?」

「ん?」

「バンザイ?こうですか?」

 

はやてに言われるまま一夏が明のそばにやってきて、明は両手を高く上げた。

 

「ほな……ほい♪」

「なぁっっっ///////!!!!!」

「ひゃあああああっっっ/////////////!!!!!!!!!!?」

 

はやては一夏の手を持つと明の胸へとその手を持って行き、突然のことに

二人は顔を赤くして大声を叫ぶ。

 

「なにしとんのじゃ!このセクハラタヌキ!!!」

「ほべぇっ!!!」

 

タヌキの耳と尻尾を生やしたような彼女に、朱色の水着を着たアリサの

炎のツッコミという蹴りが入る。

 

「あんたの辞書に、反省の文字はないんかい!!!」

「い、いや~一夏君も男の子やし喜ぶかな~って」

「はやてちゃん。それ、完全に逆効果みたいだよ?」

「えっ?」

「「「「「ごふっ……!」」」」」

 

砂浜に転がるはやては自分の前に仁王立ちするアリサに言い訳をするが、

その言い訳はすずかによって、止められた。

見ると、周りの子達は砂浜に手をつけ口から砂糖を吐いていた。

 

「すすすすまん明!」

「うぅぅぅ~/////。このスケベ……」

「ぐはっ!い、いやこれはうれしい事k……じゃなくて、回避できない事象であって!」

「……触った時、顔が緩んで数秒……手を離さなかった……」

「それはびっくりしたからで……!

 第一この間の風呂ではお前から……//////」

「自分からするのとされるのでは全然違う!

 そもそも、こういうことはもっと雰囲気というか二人っきりでというか……」

 

人目を一ミリも気にすることなく、潤んだ涙目の明と慌てふためく一夏は

普段とは違った痴話喧嘩で夏の海辺を甘ったるい空間へと変えていた。

 

「なるほど……碓氷先生が言ってたのはこういうことだったのね」

「確かにこれは必要やわ……」

「私も流石に、ちょっと……」

 

アリサ達をはじめ、カズキが言ったようにブラックコーヒーを持ってきた面々は

腰に手を当て水筒やペットボトルを直接口に当てて、自棄酒の如く飲み始めた。

そして、忘れてしまった者達は一夏と明が作り出した甘い空間に太陽がブレンドされたものを

味わう(強制的に)羽目となった。

 

「お待たせ~♪……って、どうしたのみんな?」

「コーヒーなんかガバガバ飲んで」

 

そこに着替えを終えて、それぞれピンクと藍色のビキニをしたなのはとフェイトが

やってきた。

 

「いやな?み~んな青春の苦い、一ページを刻んどるんよ」

「青春?」

「はいはい。なのはにはまだ早いから、あっちで泳ぎましょ」

「ところで、どうしたの鈴ちゃん?」

「う~ん……さっきから、あの調子なんだ――」

 

この甘ったるいことこの上ない空間から、逃げられる口実を見て離脱しようとする

面々だったが、鈴のようなものがすずかの目にとまる。

何故そんな表現なのか。

それは、現在鈴は人の形をした黒い“なにか”になっているからだ。

 

頭のツインテールは今の鈴の感情に呼応するかのように、逆立ちゆらゆらと揺れ

彼女の目と口はまるで妖怪のように赤く光っていた。

なのは達についてきている所を見ると、最低限の理性は残っていると考えられる。

 

「着替えている時から、呆然としてたんだけど海についてから急に

 あんな風になっちゃって……」

「あ~」

「なるほどな~」

 

フェイトの説明に、アリサとはやては得心した。

ただでさえ、鈴の地雷原が多めのIS学園である。その地雷が人目に触れる機会が多くなる

海に加え、トップレベルの破壊力を秘めたフェイトや普段は服の下に隠されたそれが

太陽の元にさらされているダークホース達に、鈴の何かは限界にきていたのだろう。

具体的には空色のワンピースタイプの水着を着ているすずかとか。

そして、止めとばかりに一夏と明がいつも以上の二人だけの空間を作っているのを見て

限界を超えてしまったようだ。

その場にいた者達は鈴の口から出る不気味な笑い声が、何故か文字の形となって

いるように見えた。

 

「え~ブラックコーヒー、ブラックコーヒー。

 バカップルのイチャイチャ空間対策のブラックコーヒーは、

 いかがですか~?ゴーヤを配合した特別仕様だよ~」

「今なら、ワサビや唐辛子を入れた辛口バージョンもあるよ~」

 

そこに、麦わら帽子を被り半袖半ズボンのラフな格好で背中にのぼりを背負った

ウェイブと弾が現れた。

 

 





今回は一夏達の日常の裏側から始まりました。
これがのちにどうなるのか。
まあ、その日常でも鈴が人ならざる者にメタモルフォーゼしてwww

カズキがか○は○波の構えをしましたが、あくまで構えで放ったのは
圧縮した風の塊です。某甘党侍がうらやましがるかも。

最後にウェイブと弾が登場しましたが、彼らは海の家のバイトです。
詳しくは次回!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海辺で感じる味は、海の水?それとも……


今回登場する人数が多くて、難しかったです(汗)
季節はもうすぐ作中と同じ夏になりますが、何とか季節感が
同じうちに一気に進ませたいです。



「ほら、本音はやくはやく!」

「置いてっちゃうよ~!」

「うえぇ~待ってよ~」

 

先に行く友達を追いかけて、全身をすっぽり覆うキツネの着ぐるみを着た少女

のほほんさんこと本音が海へ向かって駆けていく……のだが、そのスピードは走っている割には

どこかワンテンポ遅かった。

 

「おお!織斑君……と誰?あの二人?」

「海の家、いぇ~が~ず?てか、何気にかっこよくない!?」

「ほぇ~やっと追いついた……うん?

 …………うぇぇぇ~~~!なんで、ウェブウェブが~~~!!!」

 

 

 

「バカップル対策の特製ブラックコーヒーは、いかがですか~?

 ……なあ、弾。これ俺達も飲んじゃダメかな?

 さっきから、口の中が甘くてさ……」

「気持ちはわかるぜ、ウェイブ……あのバカップル、こっちに気づいていねぇぞ……」

『(周囲に人がいることを完全に無視している模様)』

 

炎天下の中、こっちは任務とはいえ働いているのに恋人とイチャイチャしていて

こちらに気が付かない一夏と明に、ウェイブと弾は歯ぎしりして悔しがる。

 

「弾さん、ブラックコーヒーを一つ……」

「あっ、は~い♪って、簪ちゃん?」

 

注文を受けたことですぐさまスマイルを浮かべる弾だったが、声をかけてきたのが

知り合いの簪であることに驚く。

 

「いくら……」

「簪ちゃん、目が怖い……よ?」

 

目を鋭く細めて睨むようにこちらに視線を送る簪に気おされて、弾は数歩ほど後ろに下がった。

彼女はフリルのついた黒のビキニを着ており、普通なら可愛らしい印象を与えるはずなのだが、

今は水着と同じ色のオーラを放っており歴戦の戦士をおののかせていた。

そして、それは何も簪だけではない。

 

「一夏め……いつから、そんな破廉恥な男になったのだ……」

「一夏さんったら……オホホホ」

「…………」

「お~い、お兄ちゃん!お姉ちゃん!ビーチバレーというのをやろう!」

 

簪と同じように、恋する乙女達は体から何かのオーラを発して鋭い視線を送ったり、無言の笑顔や手にしたパラソルをタオルのようにねじったりで、海辺は甘い空間と黒いオーラの空間の巣窟と

なって収集がつかなくなってきた。

その中で、ラウラは無邪気に甘い空間に突撃して二人をビーチバレーへと誘う。

 

「すげぇな、あの子……」

「そうだけど、お兄ちゃんとお姉ちゃん?」

『(報告によると、彼女の部下とカズキの入れ知恵で二人をそう呼ぶようになったらしい)』

 

一見すると大人の下着(セクシー・ランジェリー)と見間違えてしまうような黒の

ビキニを着たラウラは、小柄な体格が手伝って背伸びした子供のように見えて、見る者達の

ちょっとした癒しになっていた。

周りの殺伐とした空気を気にせずに目を輝かせながら一夏と明の元へと向かっていく

そんなラウラを見て、弾とウェイブの脳裏に無垢な子供によからぬことを吹き込んで

遊ぶカズキの姿がよぎった。

 

「ところで、あんた達?今更だけど、なんなの?

 ここって、確かIS学園の貸し切りになっているはずよ?」

「まさか、女の子のまぶしい水着姿を覗くために不法侵入したんやないやろな……」

 

バカップルのオーラにある程度耐性があるアリサが、弾とウェイブに何者かと問い

続くはやての言葉に、二人はずっこけた。

 

「違う違う違う!」

「俺達は、ただのバイトだよ!あの海の家“いぇ~が~ず”の!」

「そうそう。せっかくの海なんだし、海の家があった方がおもしろいかな~ってね♪」

「「「「「うん?」」」」」

 

何の前触れもなく聞こえてきた声に、その場にいた全員が声の方へと顔を向ける。

 

「やあ♪」

 

そこには、みんなが予想した通り黒と灰色のトランクスタイプの水着を着て

上半身にパーカーを羽織ったカズキが立っていた。

 

「いや~どうせ、あの二人のせいで手荷物に入れられるブラックコーヒーなんて

 一日持たないと思ってね~。

 そこで、ブラックコーヒーを手配出来て尚且つ!楽しむことができる

 場所として海の家を用意したのさ!

 もちろん、従業員は全員信頼のおける人達だから問題なしだよ♪」

 

夏の太陽の影響か若干テンションが上がっているように見えるカズキに、

みんな呆然となる。

 

「あ~で、どうする?ブラックコーヒー……買う?」

「それとも、あっちで焼きそばでも食べるか?浮き輪とかのレンタルもできるぞ」

 

この場の空気を何とかしようとウェイブと弾が、はやて達に商品を勧める。

 

「あれ、ウェイブに弾?」

「何で二人がここにいるんだ?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんの友達か?」

「てめぇら~今頃気づきやがって……」

 

ラウラを連れてやってきた一夏と明に、弾はがっくりと肩を落とす。

 

「ははは……とりあえず、立ち話でもなんだし店の方で「ウェブウェブ~♪」

 どわっ!?」

 

ウェイブが、こんなところで立ち話も何だと海の家の方に行こうとしたら

背後からキツネに抱き着かれた。

 

「えっ!何!?って、本音ちゃん!?」

「やっほ~♪」

「ちょっと、何あれ?」

「まさか、本音まで勝ち組だったの?」

「この世界に……神はいない!!!」

 

不意打ちに後ろから本音に抱き着かれてもウェイブは、何とか踏みとどまるも

海辺は再び混沌とした空気に包まれる。

花より団子だと思っていた本音にまさかのいい人がいるなんて、誰が想像できよう。

一夏と明が出す空気に耐えていた面々は、新たな嵐に歯ぎしりして嫉妬の念を放出する。

顔を赤らめながらウェイブにコアラのように抱き着く本音は、幸せオーラ全開であった。

 

「えへへへ~/////」

「ほ、本音ちゃん?お、下りて……イダダダ!」

「…………」

 

ウェイブが、オロオロしているといつの間にいたのかピンクのワンピースの水着を着た

クロメがウェイブの隣になっており、ムスっとした顔で彼の脇を思いっきりつねっていた。

 

「ああ、彼女も海の家のメンバーだよ。それにしても……いや~青春だね~♪」

「何あの子?……って、まさかの三角関係!」

「ええい!どいつここいつもリアルを満喫しやがって!」

 

ウェイブを取り合う、本音とクロメを見てカズキは心底楽しそうに笑い、

バカップルオーラに耐性のあるなのは達は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「――ウェイブ後、弾……ボルスさんが呼んでるよ……」

「ででで……ボルスさんが?」

「何だろう?」

「えっ?ボルスさんも来てるのか?」

 

不機嫌な声でクロメから伝えられた内容に、ウェイブと弾だけでなく一夏も驚く。

 

「そういうことは、先に言えよな……」

「……」

「とにかく、早く行こうぜ!」

「俺も!」

 

本音を背中から下したウェイブを先頭に、男子三人とクロメは海の家へと走っていく。

 

「どうしたんだろう、あんなに急いで?」

「明、何か知ってる?」

「多分、ボルスさんがいるからでしょうね。三人ともすごく、尊敬してますから」

「「「「「……」」」」」

 

なのはとフェイトの疑問に明がやれやれと言いたげに、答えるとそれを羨ましそうに

見つめる者達がいた。

 

「お姉ちゃん!私達も行こう!」

「あっ!おい、ラウラ!」

「私も突撃~♪」

 

そんな明の手を引っ張り、ラウラも海の家へと向かう。本音も続くがそのスピードは

やはり少し遅かった。

 

「おもしろそうやな……私らも行こか?」

「そうね……ちょっとっていうか、かなり疲れてきたし」

「あははは……」

 

海に来て、泳いでもいないのに疲れた声を出すアリサにすずかや他のみんなは乾いた

笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

 

「戻りましたよ、ボルスさん!何かあったんですか!」

「ああ、ゴメンねウェイブくん。急に呼んじゃって……」

 

ウェイブ達に遅れる形で続くはやて達は、ボルスと呼ばれる人が海の家から

現れるのを目撃した。

店の奥から姿を現したのは、拘束衣とマスクで身を固めた胸に大きなひっかき傷がある

筋骨隆々の大男であった。

 

「「「「「…………」」」」」

「いや、大したことじゃないよ。

 浮き輪を運ぶ時に、うっかり引っ掛けて破っちゃってね。

 予備の浮き輪は、どこにあったかなって……ははは」

「ボルスさん!」

「ああ、一夏君!久しぶりだね~」

 

想定を遥か斜め上を行く人物の登場に、はやて達が固まる中

一夏は気のいいお兄さんに久しぶりに会うかのような明るい声で話しかける。

 

「どうだい、学校の方は?」

「中学までとは全然違って、てんてこ舞いの毎日ですよ。

 でも、新しい料理ができるようになったので、今度食べてみてください!」

「それは、楽しみだね♪」

「じゃあ、ボルスさん。俺とウェイブは、予備の浮き輪を取ってきます」

 

一夏と同じく明るい声で、浮き輪を取りに行く弾。雰囲気だけなら、近所のお兄さんと

子供、甥っ子と叔父のようなものだろうが、ボルスの見た目が残念なことにその雰囲気を

異様へと変えていた。

 

「えっ、ちょっ何あれ?拷問官?」

「脱獄囚?」

「でも、織斑君やウェイブって人は仲良さそう……」

「碓氷先生。あの人は一体……」

「彼はボルス。見た目は、通報モノの怪しい奴だけど、気さくないい人だよ。

 君達の相談にも乗れるんじゃないのかな?」

 

いつもの何かを企んでいるような意味深な笑みをするカズキに、周りは?を

浮かべるのであった。

 

「お久しぶりです、ボルスさん」

「明ちゃん!元気そうだね~。一夏君とはどうだい?」

「そ、それはですね……//////」

「変わりなく、かわいい明を愛でる毎日ですよ♪」

「ななな何を言って////!」

「うんうん。ますます、仲良くなっているみたいだね♪」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……この人は……」

 

明も混じってボルスと談笑をしていると、明の背中から小動物が初めて見るモノに興味津々だけど警戒もしているようにラウラがそ~っと顔を出してきた。

 

「ラウラ。こちらは、私達がいつもお世話になっているボルスさんだ」

「お世話だなんて、そんな……」

「それはそうと、ボルスさん?何で、こんなとこでもマスクしてるんですか?」

「「「「「(コクコクコクコク)」」」」」

 

一夏のもっともな質問に、全員が同意する。

 

「そ、それは……ほら。私なんかの顔を見たら、海を楽しんでいる子達に

 悪いじゃない?

 せっかくの楽しい海なんだし……!」

「ああ!もう!

 ボルスさん、イケメンなのに何言ってるんですか!」

「そうですよ。自分を卑下しすぎるのもどうかと思いますよ?」

「うんうん。明の言う通り!

 俺、将来ボルスさんみたいになりたいって思っているんですよ?」

「ボルスさんみたいとは……こんな風に鍛えるということなのか、お兄ちゃん?」

 

自分なんかと思っているボルスに、一夏と明は鼓舞の言葉を送るが

その最中に漏らしたラウラの言葉に、聞いていた者達にボルスのように筋骨隆々となった

一夏を思い浮かばせた。

 

「違う違う!そういう意味じゃなくて!

 ボルスさんみたいな優しい大人になりたいってことだよ!」

 

みんなの反応を見て一夏が慌ててその想像を否定し、口にした言葉の本当の意味を話す。

 

「一夏君……私は、優しくなんかないよ……」

「そんなことはありません!ボルスさんがどういう人かっていうのは、俺も明も

 弾やウェイブ、みんな知ってます!」

「ええ。例え、周りやあなた自身が何と言おうとも

 私達にとって、あなたが尊敬できる大人であることに変わりありません」

「二人の言う通りだよ。少なくとも、俺なんかよりはマシな大人なのは間違いないさ」

 

一夏と明に続くように、カズキもボルスの言葉を否定する。

 

「そうやって、過去の行いを悔いれることができるのなら、

 まだ“普通”だよ……」

「ボルス。下ごしらえは済んだから、少しの間休憩したらどうだ?」

 

カズキが自虐じみた笑みを浮かべると店の方から、また別の声が聞こえ、

姿を現したのは、ボルスと同じくらいの大柄な白い袴を着て頭に牛の角のようなものを

つけた男だった。

 

「スーさん!スーさんも来てたんですか!」

「うむ。この海の家を任されたのでな」

「またなんか、出てきたで」

「見てるだけで暑そうね……」

「彼の名はスサノオ。ちょっと神経質なところがあるけどいい人?だよ」

「何で疑問形なんですか?後、その名前……」

「……コスプレが趣味だからなりきっているんだ」

 

新たな人物の紹介をするカズキだったが、すずかの指摘にやや視線を

逸らしながら若干苦しそうに答える。

 

「今考えたな、あれは……」

「そうだな、あの人たま~に抜けているところがあるよな……」

 

明と一夏はヒソヒソ声で今のカズキの対応を話す。

 

「それでだ。ボルス。少しの間なら俺や弾達でも店は回せるから、その間

 家族と海を楽しんだらどうだ?」

「いや、でも……そんな」

「家族?」

「ああ、ボルスさんは結婚してて子供もいるんだ」

「「「「「……へっ?」」」」」

 

一夏からの言葉に、聞いていた面々は間の抜けた声を出す。

 

「うん♪結婚六年目でね?ほ~~~~~んといい人♪

 私なんかにはもったいないぐらいで/////!」

 

唖然とするみんなは気にせず、

両手を頬に当てて、ボルスは照れくさそうに幸せ自慢をする。

 

「パパー♡」

「あーなたっ♡」

 

そこへ綺麗なロングヘヤーの女性と可愛らしい女の子が水着姿でボルスの元へと、

やってくる。

 

「ややっ!お前達、その恰好は!」

「スサノオさんから、折角だから家族水入らずでって♪」

「パパー♡早く遊ぼう!」

「ははは……まいったな……。

 それじゃ、スサノオさん。お言葉に甘えさせてもらいます!」

「ああ。楽しんでくるといい」

「ま、まぶしい!!!」

「こ、これが……愛っ!!!?」

 

美人な母娘の登場に本日何度目になるか分からない硬直を受けた面々は、

続くバカップルが放つオーラとは違う、幸せな家族のオーラに目を覆う。

 

「お~い、戻ったぞ……って」

「どうしたんだ、みんな?」

「何か、ボルスさん達を見たら急にああなって……なんでだろう?」

「そうだな。何かまぶしいものを見る目になっていたが……」

 

空気が入っていない浮き輪を持ってこれるだけ持ってきた、弾とウェイブは

目を手で覆うみんなに首を傾げる。

 

「そう言えば、なんでタツミがいないんだ?

 あいつもこういうのに向いていると思うんだけど……」

「確かに姿が見えないな……」

「タツミなら……」

「今頃……肉食動物に囲まれているよ……」

「「肉食動物?」」

 

一夏と明が漏らした言葉に弾とウェイブは目線を逸らしながら、同情的に苦笑した。

 

 

 

「さあ~さあ~♪誰の水着が一番似合っていると思っているのかな?

 タツミ~♪」

「もちろん、私だよなタツミ♡」

「正直に言っていいんだよ~」

「……ひ、人の魅力はそれぞれなんだからね!」

 

一夏達がいる砂浜とは少し離れたところで、別の一団が海水浴を楽しんでいた。

そこでは、一人の少年……タツミの周りを四人の女性が取り囲んでいた。

 

「い、いや~そ、それは……というか何で俺は縛られているんでしょうか?」

 

暑い日差しとは逆の冷たい汗がダラダラと流れて、グルグル巻きにされたタツミの肝は

かなり冷えていた。

 

「ヘタレて、逃げ出さないようにだよ♪」

 

黄色とオレンジの縞模様のビキニを着こなす、金髪でグラマーな女性、レオーネは

獰猛な笑みを浮かべてタツミの疑問に答える。

 

「それで……どうなんだ?」

 

シンプルな白のビキニが肌の色と合っているエスデスは、あどけない笑顔で

タツミに迫る。

 

「お姉さん……すっっっごく興味あるな~~~♪」

 

イタズラッ子の笑みを浮かべるキャンディーを加えたチェルシーは、タツミに見せるように

胸を強調して迫ってくる。

 

「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!……ケッ!」

 

傍らでそれを見ていた鈴のように桃色の髪をツインテールにまとめた、如何にも素直に

なれなさそうな少女、マインが舌打ちする。

髪型や性格だけでなく、体型も鈴と似ており彼女と同じようにタンキニタイプの

水着を着ていると記しておく。

 

「だ、だからですね?そそそそれは……」

 

しどろもどろになるタツミは、確信していた。

ここで答えを間違えたら、明日の朝日を見れないと。

一見、聞くだけなら男が見たら泣いてうらやましがる光景だが、実際に見ると

そこから誰もがこっそりと逃げ出すだろう。

何故なら、それは犬ぐらいの大きさになった竜が大型ネコ科肉食動物達に

囲まれているのを目撃し、声をかけようものなら自分が刈られると本能が告げるからだ。

しかし、その本能が聞こえながらも退避しようとしない者が一人いた。

 

「ぢぐじょう~~~!

 一夏は明ちゃんとイチャイチャしてるだろうし、ウェイブと弾はIS学園の

 可愛子ちゃん達の水着姿を見れるんだろうし、タツミやねえさん達と

 相変わらずだし、何で俺だけ!!!」

 

緑色のトランクスタイプの水着を着て、一人寂しくラバックは叫びを上げるのであった。

 

「落ち着け、ラバック。私も可愛いクロメの水着姿を見れないのは、残念だが

 これも任務だ。これでも食べて、元気出せ」

 

フリルのついた真っ赤なビキニを着て、アカメはラバックに目の前の海で取ってきたと

思われる魚を焼いたものを差し出すのであった。

 

 

 

「タツミなら、その内会えるだろうさ(肉食動物達から生きて帰ってこれたら……)」

「はぁ……」

「さぁ~て、みんな?準備体操を終わらせて、そろそろ泳ごうか♪」

 

弾とウェイブの言葉に、カズキが補足を入れるも一夏はまだどこか釈然としなかったが、

彼の言うように準備体操を始めた。

 

「(俺の考えすぎならいいけど……奴ら創生種の今の目的が本命のための

 時間稼ぎならこの辺りで陽動かつ俺達を倒すような何かしらの手を打ってくる

 可能性は高い……。

 そのための援軍として、彼らにちょっと強引な形だけど助っ人に来てもらったし、

 学園の方も狙い撃ちにツンデレガンナー、“彼ら”にも待機してもらっている。

 できれば、この備えが無駄に終わってほしいものだね~)」

 

海辺で準備体操をする一夏達を見ながら、カズキは自分の予測が考えすぎに終わることを

願った。

 

「(まあ、今は俺も楽しませてもらうとしますか♪)」

 

カズキは頭を切り替えて、目の前の光景を楽しむことにした。

 

「ウェイブ、約束通りいろんな泳ぎ方を教えて」

「いいぞ、クロメ!海ならこの海の男に任せておけ!」

「むむむ~~~

 こう~なったら~~~キャスト○フだぁ!!!」

 

クロメに手を引かれて、テンションが異様に上がっているウェイブは

藍色の水着で張り切って準備運動をしており、そんな二人を本音はハムスターの

ように頬を膨らませて見ていた。

そして、何を思ったのか着ていたキツネの着ぐるみ水着を脱ぎ捨てると

そこには……大胆な白いビキニが隠されており、包まれていたものは箒や明にも

負けていなかった。

ちなみに、本音が着ぐるみ水着を脱ぎ捨てた瞬間、砂浜に手とひざをついてorzに

なる者が続出した。

 

「ウェブウェブ~♪私にも泳ぎ方教えて~」

「ほ、本音ちゃん!?み、水着似合っているね……」

「…………ウェイブのスケベ」

「ほ~ら、できたよ~♪砂のお城だ!」

「うわ~パパすご~い!」

「あらあら♪」

「へぇ~流石に泳ぐ時は、パーカーは脱ぐんだね♪」

「う、うるさい////!あまりジロジロ見るな/////!」

「なるほどなるほど~。これが夏のカップルというやつか……フムフム」

「ちきしょう~。あいつら、存分に夏と海を堪能しやがって……。

 だけど、今年の俺は一味違うぜ!

 このバイトで軍資金を稼いで、虚さんと……!」

 

一夏達が海を楽しんでいるのとは反対に、他の女子達のテンションは下がりまくっていた。

 

「ねぇ?何でかな……海に入っていないのにすっごくしょっぱい気持ちなんだけど」

「何なの……この差は一体何なの!?」

「神よ、私達は後いくつの試練を超えればあちら側にいけるのですか!」

 

10メートルにも満たない距離のはずなのに、近づける気がしない一夏達との距離の差に

絶望する乙女達とそれを気にも留めず、海を楽しんでいる一夏達を見てカズキは

楽し気な笑みを浮かべる。

 

「いや~やっぱり海はいいね♪」

「あんたは、悪魔ですか……」

「いや、アリサちゃん。それは、むしろなのはちゃんやで」

「はやて、OHANASIされるよ?」

「私達も泳ごうか?」

「そうだね、すずかちゃん」

「鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって……海ノ藻屑ニシテヤロウカ?」

「一夏さん?わたくしを無視するとはいい度胸ですわね……フフフフフ」

「僕達……一発ぶん殴っても許されるよね?」

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

「……特製ブラックコーヒーおかわり――」

 

落差のある光景を楽しむカズキに、脱力するなのは達は自分達も自分達で楽しもうと

海へ行こうとする。後ろで、夏の夜の風物詩になりつつある箒達を視界に入れずに。

 

「全く、どうしてお前がいるとこうも騒がしくなるんだ?」

 

そこへ呆れ果てた声で、水着に着替えた千冬が真耶を伴ってやってきた。

一夏と共に購入した黒のビキニをモデルのように着こなしていた。

更に後ろにいる真耶は黄色のビキニを着ており、二人の姿にみんな圧倒された。

色々な意味で。

片や芸術のような美しさに。片やあるものの破壊力に……。

そして、セクハラタヌキがある怪盗の三世のように真耶へとダイブしようとして炎の姫に

捕獲され、夜の女帝によって気絶させられ、白い魔王と金色の死神によって人目のつかない

岩場の陰へと連行された。

 

「へぇ~今回はちゃんとした水着なんだね~。

 いつかみたいに、学校の水着かもってちょっと心配しちゃったよ~」

「馬鹿を言うな。流石にあんなもの着れるか」

「でも、ISスーツも似たようなものじゃない?」

 

何気ない会話をするカズキと千冬だったが、それでも海の家に駆けこむ者達を

増加させた。

 

「すいません!特製ブラックコーヒーをください!」

「私、辛口バージョン!」

「私は両方で!大至急!」

「わかった。すぐに用意しよう。弾、手伝ってくれ」

「ひぃぃぃ~~~!」

 

雪崩のように駆け込む女子達にスサノオは存分にスキルを発揮し、弾はゾンビのように

手を伸ばしてくる光景に悲鳴を上げながら、動き回る。

 

その後、ビーチバレーをすることになって、貯めさせられた鬱憤をバカップルどもに

ぶつけようと白熱し逆に、コンビネーションというイチャイチャを見せつけられて

続行不可能となるものが後を絶たなかった。

また、カズキが前に千冬が夏のある夜に驚いて自分に抱き着いてきたことを暴露して

超人ビーチバレーが開始され巻き起こる砂嵐や切り裂かれる風によって、何人も海へとダイブ

していった。

そして、ビーチバレーが行われている時、女子達が動くたびに揺れるものを見て

ボロボロになったセクハラタヌキが全快し、ある少女が黒い龍へと変貌しようとしていた。

 

「ふふふ……さあ!今日の日のために用意したこの勝負水着で、

 一夏を大人の魅力でメロメロにしてあげます!」

 

白銀の競泳水着で意気込むエレンだったが、既に一夏達は旅館へと戻った後だった。

 

「……何か食べるか?」

「……焼きそば一つください――」

 

やってきたスサノオの申し出に、エレンは普通より塩味のきいた焼きそばを

一人食べるのであった。

 

 

 

「うまい!しかもこれ、本わさじゃないか!」

「まあまあね」

「うっわぁっ!これカワハギやんか!」

 

時間は流れ、現在一夏達は大広間で夕食を堪能していた。

メニューは刺身と小鍋、山菜の和え物が二種類に赤だし味噌汁とお新香。

聞くだけなら、普通だがその材料は一級品のものであるため味は普通ではなく、

普通ではない超一流の腕前を持つスサノオの料理で舌が肥えていた一夏や明、

お嬢様で味にうるさいアリサも満足できるものであった。

 

「本わさって?」

「ああ、本物のわさびをおろしたやつのことだよ」

 

一夏の右に座るシャルロットが、本わさについて質問する。

わさびは知っていても、外国育ちの彼女はその種類までわからないようだ。

ちなみに、全員が浴衣姿である。この旅館の決まりとして、「お食事中は浴衣着用」

とのことらしい。

 

「本物ってことは、学食のは……」

「あれは練りわさだな。ワサビダイコンとかセイヨウワサビを着色した奴なんだ」

「へぇ~……はむ」

「えっ?」

 

一夏がわさびについて説明していると、何を思ったかシャルロットはわさびの山を口へと

運ぶ。

 

「――っ~~~~~!!!」

 

瞬く間にシャルロットは涙目となり、鼻を押さえる。

 

「お、おい。大丈夫か?」

「ら、らいひょうぶ……ふ、風味があって……お、おいしいよ?」

「いや、わさびは香辛料で、他の食べ物と一緒に味わうものだから」

 

シャルロットに注意する一夏だっだが、同じようにラウラもわさびを丸ごと口にし

明に介抱されていた。

 

「っ……ぅ……」

「で、セシリアも大丈夫か?

 さっきから、箸が進んでいないけど……」

「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 

一夏の左に座っているセシリアは、正座で足がしびれていた。

本来、多国籍や多民族・多宗教を考慮して正座ができない生徒のための

テーブル席があるのだが……

 

「この席を獲得するのにかかった労力を考えれば……」

 

そう。夕食時の座席もバスの座席同様、熾烈な争いがあったのだ。

バスの席を獲得したのだからと、明は強引に参加できずシャルロットとセシリアの

二人が一夏の隣という特等席を得るに至った。

 

「仕方ないな。ほら、箸を貸してくれ……はい、あーん……」

「あーん…………はっ!?」

「ああっ!!!」

「何っ!!!」

「セシリアずるい!何してるのよ!」

「織斑君にあーんしてもらってる!卑怯者!」

「ズルイズルイズルーーーイ!!!」

 

見かねた一夏がセシリアに食べさせてあげたら、しびれに気を取られて我に返って

何をしてもらったのか気づく前にその光景を見ていた者達が騒ぎ始めた。

 

 

「何で、あいつはあういうのを自然にできるのかしら?」

「う~ん……織斑君だから?」

「それで説明できるのが、またすごいわ~」

「…………(バキッ)」

「ほ、箒お、落ち着いて」

「にゃははは……」

 

一部始終を見ていたなのは達は一夏の行動に呆れ、箒は手に持った箸を無言で

へし折った。

 

「お前たちは静かに食事もできんのか!」

 

そこへ、IS学園の秩序の番人千冬が鎮圧しにやってきた。

 

「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるこちらの身にもなれ」

「す、すいません」

『(まあ、それも無茶なことなのだろうな)』

 

千冬の愚痴に聞こえる忠告を、ゲキリュウケンは無理だろうなと思い苦笑した。

 

「じ、じゃあセシリア。後は自分で、なんとか……」

「むぅ~~~……」

 

千冬が帰るとセシリアに箸を返そうとした一夏はすっごいふくれっ面で、にらまれた。

 

「ええと……あっ!じゃあ代わりと言っちゃなんだけど、後で部屋に来てくれ」

「…………へっ?」

 

一夏の言葉が脳に染みわたったのか、セシリアは間の抜けた声を漏らす。

少年と少女達の夏の夜はまだまだ続いていく――

 





人数が多くて今回は思うように喋らせることができませんでした(汗)
ボルスは原作でも好きなキャラでしたので、スサノオ共々頼れる
大人ポジに。

肉食動物達に囲まれたタツミは、明日の太陽を見ることができるのか(笑)

キャスト○フは前々から、本音に恋させるなら
やってみたかったことですwww



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

来訪者は、こちらの都合を気にしない

遅くなりましたが、最新話完成です。
8割がたできたところで、いろいろと時間がとられてしまいました(汗)
何とか月に3回ぐらいは更新したいものです(苦笑)


「…………」

 

無数の屍の上で黒い鎧を纏った復讐の騎士、オルガードは自身の手を開いたり

閉じたりして自分の体の具合を確かめていた。

 

「やはり、俺があの世界……地球で力を出し切れないのはそういうことか?

 厄介だな……ぐっ!」

 

壊滅させた管理局の施設を後にしようとした瞬間、オルガードは胸を押さえて崩れ落ちる。

 

「……ま……だだ!まだ……止まるわけには……!」

 

オルガードは、フラフラと立ち上がりその場を後にした。

数時間後、駆け付けた局員が見たのは壊滅させられた基地の跡だった――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「~~~♪」

 

食事の後、セシリアは誰が見ても上機嫌と言える状態だった。

具体的には、風呂とシャワーをそれぞれ浴びていつもとは違う“特別”な下着を

着るぐらいにである。

 

「(ああっ、もしものときのために用意していた甲斐がありましたわ!)」

 

まさに天にも昇るような感じで、セシリアは浮足立っていた。

そう、冷静な考えができないほど……

 

「ねえ、セシリア。何かいいことあったの?」

「いえ、何も♪」

「いや、それ真に受ける子はいないと思うよ?」

「あ~~~!せっしーがえっちぃ下着つけてる~!」

 

同じ部屋の者達が声をかけると、いつも眠たそうな目をしている本音がピコーン♪と

顔を赤らめて爆弾発言をする。

そうは見えないが、本音は意外と観察力と洞察力に優れているのだ。

 

「なにぃっ!?脱がせ脱がせぇ~!」

「剥け剥け~!」

「きゃあああっ!ちょっ、ま……って……引っ張らないで~!」

「よいでないか~よいでないか~」

 

抵抗するセシリアだが、昼間の海であまり泳げなかった分体力を持て余している

女子達の前では、無力であった。

 

「わ。本当にエロい……」

「えろい~えろい~」

「勝負下着ってやつ?織斑君のところに行けないのにそんなの着るってことは……」

「「「セシリアはエロいなぁ~」」」

 

好き勝手に感想を述べた後、最後に声を重ねてまとめる女子達。

 

「え、エロくありません!こ、これは……身だしなみ……そう!身だしなみですわ!」

 

顔を真っ赤にして反論するセシリアだったが、一度火が付いた女子達の鎮火は

困難を極めるのを彼女は失念していた。

 

「そういえば、お風呂念入りに体を洗ってたよね?」

「その後で、シャワーも浴びてたし、今も夜なのにメイクしてるし」

「あやしいなぁ~♪」

「あああ、あやしくなどありませんわ!ここここれは女として、当然の身だしなみ。

 ……わたくし、用がありますのでこれで!」

 

先ほどまでの行動を指摘される度に、ギクッとなりながらも気分を害されたようにして

外へ行こうと脱出を試みるセシリアだったが……。

 

「くんくん。なんかせっしーの香水いつもと違う……。

 おお!これは、レリエルのナンバーシックスだ!」

 

本音の言葉に女子達が、ガタリと立ち上がり、脱出のタイミングがつぶれてしまう。

 

「レリエルのナンバーシックスって、一振り十万円って言うあの!?」

「しかも毎年百個しか生産されないシリアルナンバー入りよ、あれ!」

「見せて見せてーーー!」

「み、見ても構いませんから、わたくしはこれで――」

「「「ダメ!!!」」」

 

泥棒を捕まえるかのように彼女達はセシリアの腕を掴み、逃がそうとしなかった。

 

「さあ、者ども!セシリアのエロい香をかぐのだ~!」

「かげかげ!」

「私も香水つけて、せっし~みたいなえっちぃ下着つけた方がいいのかな~?」

 

セシリアにジリジリと怪しく指をワキワキさせて近づいて彼女達は、本音が

何気なくもらした言葉にビシリと固まり、一斉に本音の方へグルリと顔を向ける。

 

「あ、あれ……?」

「ねぇ、本音……何で私達に好きな人がいるって黙ってたのかな……?」

「オマケにそのわがままボディを存分に生かせる水着まで……」

「その破壊力……まず、私達が確認してあげる……」

 

目から光を消してユラユラと体を揺らしながら、彼女達は本音にジリジリと

迫っていった。

ターゲットが自分から本音に変わったこの隙をついて、セシリアは忍び足で

部屋を後にした。

 

「「「覚悟しなさい、本音!!!」」」

「ふぇぇぇ~~~!!!」

 

 

 

「な、何とか抜け出しましたわ……。

 ですが、これで!」

 

疲弊してフラフラな足取りだったセシリアは、ようやく一夏の部屋へと

向かえると思うと今までの疲れが吹き飛びルンルン気分で目的地へと足を進める。

 

「あら?」

 

しかし、目的の部屋へとつくと既にそこには明、箒、鈴、シャルロット、ラウラ、簪

といつものメンバーが入り口のドアに耳を張り付けていた。

 

「みなさん?一体、何を――」

「しっ!」

 

何をしているのかと疑問の声を上げるセシリアに鈴が口の前に指を立てて静かに

と合図を送ると、セシリアもドアに耳をつけると――

 

「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

「そんな訳あるか、馬鹿者。――んっ!少しは加減を――!」

「はいはい。それじゃあ、ここは……」

「くあっ!そ、そこは……やめっ――――!!!」

「だいぶ溜まっているみたいだね……というか、こういう千冬姉を

 どう思います、カズキさん?」

「千冬ちゃんも人の子ということで♪」

「なあっ//////!!!?」

 

ドアの前のいた者達の間には沈黙が流れる。

 

「ここここれは一体、何ですの……/////!?」

 

口元をヒクヒクと震わせ、言葉を絞り出すセシリアだったがその問いに答えられる者は

おらず、沈黙がその場を支配する。

唯一、ラウラのみが訳が分からず頭に?を浮かべていた。

真実を確かめるべく、一端離した耳をドアにつけようとすると

そのタイミングに待っていたかのようにドアが開き、みんな部屋の中に倒れて

雪崩れ込む。

ドアを開けた張本人であるカズキは、クククと笑いながらその様子を見ていた。

 

「あれ、みんな?」

「何をしているか……」

 

横になっている千冬と横で座って彼女の腰に指を当てている一夏は、

雪崩れ込んできた彼女達に呆れた声を上げる。

 

「マ、マッサージだったんですか……」

「そ、そうですよね……」

 

倒れながら、先ほどまでの一夏と千冬のやりとりの正体がわかったシャルロットと

明はほっとして、胸を撫で下ろした。

 

「兄様。さっきから、みんなどうしたのだ?」

「みんな、ムッツリってことだよ~」

 

爽やかだけどどこか真っ黒な印象を与える笑顔をしながら、カズキは

ラウラの疑問に答えた。

 

「さてと……それじゃあ始めようかセシリア」

 

明達が倒れた拍子に崩れた浴衣を直していると、一夏はポンポンと布団を

叩いてセシリアを呼ぶ。

 

「え~っと……わたくしを部屋に呼んだのって……」

「ああ、マッサージをサービスしようと思ってな」

「…………」

 

あっけからんと答える一夏にセシリアは、自分の滑稽さに呆然となる。

そんな彼女の耳には、“セシリアはエロいなぁ”という声が

聞こえたとか聞こえなかったとか……

 

「……では、お願いします……」

「おう、任せとけ!」

 

意気消沈しながら、布団に横になるセシリアだったがたちまちそんな気持ちは

吹っ飛んだ。

 

「どうだ?痛くないか?」

「大丈夫です……とっても……気持ちいいです」

 

強すぎず弱すぎずな絶妙な力加減で、ほぐしていく一夏のマッサージに

セシリアは、快感の声を上げる。

 

「腰のコリがひどいな。セシリアって、何かやっているのか?」

「ええ……バイオリンを少々……んんっ~!そ、そこはちょっと……/////」

「ああ、悪い。ここは指じゃない方がいいな……」

 

指から手全体を使ってのマッサージは先ほどより緩やかな快感を

セシリアに与え、ウトウトと眠気がやってくる。

眠りそうになっているだけなのだが、どこかその光景は桃色のフィルターが

かかっているように明達には見え、頬を赤くさせていることに一夏とセシリアは

気付かない。

セシリアは快楽に身を任せて、夢の世界へ旅立とうとしていると――

 

もみゅん!

 

「ひゃぁっ!?!?!?」

 

突然お尻を鷲掴みにされたセシリアは、夢の世界の入り口から一気に

現実へと引き戻された。

 

「いいい一夏さん!?そそそそんな、みなさんが見てる前で//////」

 

パニックになってセシリアが後ろを振り向くとそこには……。

 

「ふふふ……」

 

イタズラが成功したと、カズキそっくりな笑みを浮かべている千冬の姿が

そこにあった。

 

「……ほれ」

「きゃあああああ///////!!!?」

「おーおー。マセガキめ」

 

獲物を捕らえた肉食動物のような笑みを浮かべていた千冬は、セシリアの

浴衣を捲り上げて、その下にあるものを拝見する。

 

「随分と気合いの入った下着だな。その上、黒か……。

 何を考えてたんだ?」

 

そこにあったのは……とりあえず、高校生が着るような下着ではないと

だけ述べておこう。

カズキは、あらかじめ千冬がやることを予想してたのか捲り上げても

中が見えないような位置にいるが、それでも腹を押さえて笑いを堪えながら蹲っていた。

一夏は顔を逸らしているが、その顔は赤かった。

そして、千冬の後ろから顔を覗かせる明達は、赤くなりながらもバッチリと

その黒い下着をガン見していた。

 

「せせせ先生!離してください/////!」

「夢見るのはいいが、教師の前で淫行を期待するなよ、十五歳」

「いいいいいインコっ……/////!」

 

千冬の言葉が止めとなり、セシリアは沈んだ。

 

「ふう~。さすがに連続でやると、汗かくな」

「手を抜かないからだろ。少しは要領を考えろ」

「いやいや、それはせっかく時間を割いてくれた相手に失礼じゃんか」

「愚直だな」

『(だが、そこがこいつの長所でもある)』

「そんなこといっているけど、マッサージされてる時すんごく気持ちよさそうな顔を

 して声を上げてたよね~。

 久々の弟とのスキンシップが嬉しかったのかな~?」

 

いつものように始まるカズキのからかいに、自分も一夏にマッサージされたらと

考えていた明達はビシリと固まる。

ちなみにこの男、以前一夏の部屋に突然現れたように天井の板を外して、

この部屋にやってきたりする。

 

「…………」

「ち、千冬姉!ここ旅館だし、せっかく臨海学校なんだから落ち着いて!」

 

無言で拳をバキバキと鳴らす千冬に一夏が慌てて止めに入り、それをまた

カズキは面白そうに見ていた。

 

「……まあいい。それより、お前はもう一度風呂にでも入ってこい。

 部屋を汗臭くされてはたまらん」

「わかったよ」

 

千冬にそう言われて、一夏はタオルと着替えを持って部屋を後にした。

 

「おい、やけにおとなしいな。いつものバカ騒ぎはどうしたんだ?」

『(そのバカ騒ぎの半分は、アンタとコイツが起こしてるんだけどなぁ~)』

 

一夏が部屋を出ていった後、片や世界最強の教師にその最強をからかえる

変人にどうしたらいいのかと途方に暮れる明達に千冬がどうしたのかと

聞くが、その言葉にザンリュウジンがひっそりとツッコミを入れるのだった。

 

「い、いえ、なんというか……」

「織斑先生とこうして、面と向かって話すのは初めてなので……」

「そんなにかしこまる必要はないよ?

 プライベートな時の千冬ちゃんに、教師の面影なんかないっていうのは、

 知っているだろ。箒、鈴?」

「……ほう~?そんなことを思っていたのか、二人とも……?」

 

シャルロットと簪が緊張した面持ちをしていると、カズキが何気なしに箒と鈴に

話題をふったことで、千冬のターゲットにロックオンされてしまい、二人はものすごい

勢いで顔をブンブンと横に振った。

 

「ふっ、冗談だ。とりあえず、飲み物でも奢ってやろう」

「そう言うと思って、用意しておいたよ♪」

 

カズキがいつの間にか部屋の冷蔵庫から取り出しのか、冷えた飲み物を明達に

手渡した。

 

「で、ではいただきます……」

「飲んだな?」

 

遠慮がちに全員が渡された飲み物に口をつけると、千冬がしてやったり

と笑みを浮かべた。

 

「え?」

「な、何?」

「ま、まさか何か入ってましたの!?」

「なわけあるか。ただの口止め料さ」

 

千冬はそう言うと、手に持った缶ビールをヒラヒラと見せると

ふたを開けて、喉に流し込む。

 

「くぅ~~~!」

「千冬ちゃん。一応仕事中なんだからお酒は、まずいんじゃないの?」

「そのための口止め料だ。それに、お前だって飲むだろ」

「まあね♪」

 

千冬に続くようにカズキも缶ビールを取り出し、飲み干していく。

見慣れているのか箒と鈴はやれやれと苦笑気味だが、他の者達は呆気に取られていた。

特に、ラウラは目をパチクリして呆然としていた。

 

「さて、本題に入るか……」

 

ビールを飲み終わると千冬は、不敵な笑みを明達へと向ける。

 

「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」

『(わざわざ、一夏を追い出して何を聞くのかと思ったらそれかよ)』

「(まあ、千冬ちゃんは弟命なブラコンだから)」

 

カズキとザンリュウジンが内心でヒソヒソ話しているのに気づかず、女子一同は

面食らうが千冬の言うあいつなど一夏しかいない。

そもそもカズキを狙うとなると自然と世界最強の乙女とやり合うことになるので、

誰もが最初から白旗を上げている状態である。

 

「別に俺のことは、気にしなくてもいいからね?」

 

明達が戸惑っている所にカズキはそう言うが、どこから出したのかメガネを

かけて、悪魔手帳とペンを手にしている時点で気にしないことなど無理である。

しかし、このまま黙っていることもできないので観念して、口を開いていく。

 

「わ、私は……昔よりも強くなっているところが……」

「わたくしは、あの魂の気高さに……/////」

「あ、あたしは別にただの腐れ縁で……まあ、馬鹿みたいに真っ直ぐなとこは

 認めてもいいけど……」

「僕は、優しいところかな/////」

「私は強くてカッコイイところだ!」

「……私はヒーローみたいに、諦めない心かな……」

 

それぞれ、頬を赤らめながら胸の内を話していく様を千冬とカズキはフムフムと

聞いていた。約一名はムフッ!と、ドヤ顔なので何か勘違いしているようだが。

 

「それで?一番肝心の君は、どうなのかな明?」

「っ!」

 

カズキの言葉に全員の視線が、明に集まる。

ラウラはカズキのようにワクワクといった感じだが、他の者達は千冬も含めて

明のことが相当気になるようだ。

 

「えっ!あっ、いや……そのなんとういうか……

 わ、私は……です――」

 

千冬達からの視線に耐えられないのか、明は顔を赤くしてうつむきながら

呟くように答える。

 

「全部です!みんなが言ったこと、全部!

 強いところも、気高いところも、真っ直ぐなところも、優しいところも、

 カッコイイところも、諦めないところも全部好きです/////!!!」

 

真っ赤になって叫ぶように答えると、明は両手で顔を隠して悶えた。

追い詰められて逆に開き直っていきおいで、叫んだようだが聞いている方が

恥ずかしかったのか箒達も顔を赤くして言葉を失った。

一方で、カズキはほう~と温かい視線を送り千冬は敵を見据えるような眼差しを

した。

 

「……まあ、確かにあいつはいろいろできる。

 家事も料理はそこら辺の小娘どもより上だし、マッサージもうまい。

 最近は日曜大工もかじっているようだしな。

 どうだ?欲しいか?」

「「「「「く、くれるんですか?」」」」」

「やるか、バカ」

 

明とラウラを除く5人が、千冬の言葉に目を輝かせるがそれも一瞬のこと。

続く千冬の言葉にガクっとなる。

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」

「でも、千冬ちゃん?一夏の心はとっくに明に奪われてるんじゃないの?」

 

次のビールを飲もうと立ち上がる千冬にカズキが指摘すると、千冬はビシリと固まる。

 

「一夏と同じ部屋だった時は、いつ一夏が狼になってもいいように

 体はきれいに洗ったり身だしなみは普段の数倍は気をつかってたから、

 俺や千冬ちゃんが先に伯父さん伯母さんになるかもね~。

 そういえば俺、二人がどうやって付き合うようになったのか知らないんだよな~。

 一夏の奴、俺に相談したかと思ったら三日もしない内にくっついたからさ。

 いや~あれは驚いたね~」

「そそそそそそれは////////」

「馴れ初めというものか……是非とも聞きたいぞ、お姉ちゃん!」

 

キラキラと輝く眼差しを送るラウラだったが、その背後には獲物を狙う様な視線を

送る乙女が五人に加え、未だ回復できず固まった千冬がいた。

 

「それなら///!カズキさんはどうなんですか!

 お、織斑先生とはどうやって恋人同士になったんですか!」

「っ!」

「う~ん、俺?

 俺はねぇ~……千冬ちゃんに自分の心が奪われてるって気づいた時、

 学校の屋上で……」

「うぉらぁ!」

 

自分に向けられた矛先を変えるために話題をカズキに振る明だったが、

復活した千冬が浴衣姿でカズキに回し蹴りを放つ。

 

「お・ま・えと言うやつは!!!」

「ははは♪いや~あの頃は、千冬ちゃんも照れまくってかわいかったよね~」

「ブ・チ・の・め・す!!!!!」

 

部屋の中で互いに浴衣にも関わらず、いつものケンカを始める二人だったが

それに構わず箒達は明に詰め寄っていた。

 

「では、明……」

「キリキリと吐いてもらいましょうか?」

「あれで、ごまかせると思った?」

「是非とも知りたいな……全部ね……」

「お姉ちゃん、早く早く♪」

「詳細、求む……」

「うぇぇぇ~~~!!!?」

 

少女たちの夜はまだまだ長い――

 

 

 

「いや~露天風呂は、最高だな♪

 極楽~極楽~」

『ああ。星の海を見ながらの風呂というのは、最高の贅沢だな』

 

何も知らない一夏とゲキリュウケンは、幸せな時を堪能していた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ~今頃みんなワイワイ楽しい夜を過ごしているのに、

 何で私たちは書類と格闘しているのかしら?」

「それは、お嬢様が碓氷先生の頼みを安請け合いしたからでしょう……」

 

夜中のIS学園生徒会室で、楯無は机に山積みされた書類を見て落ち込むが

虚はその原因を指摘してバッサリ切り捨てる。

 

「だって、仕方ないじゃない!こんなに多い上に面倒だとは思わなかったんだもん!」

「それを確認する前に、幼少時の織斑君の写真をちらつかせられて、了承したのですから

 自業自得です」

「あんな、かわいい一夏君の写真見せられたら誰だって、即決するわよ!」

「なんか、すいません」

「どうでもいいが……手も動かしてくれないか?」

 

楯無と虚の主従コントに、色素の薄いくせっ毛な人の良さそうな少年スザクが

すまなさそうに言うとその隣で作業をしているまっすぐな黒髪の少年ルルーシュが

少しイラついた口調で咎める。

 

「ああ、すいません。二人とも、本当は碓氷先生達がいない間に万一敵が来た時の

 学園の警備を任されているのにこんなことまで……」

「はぁ~全くあいつは、人を便利屋何かと勘違いしているんじゃないだろうな?」

「そうやって、渋々だけどやっちゃうから任されるんじゃないのか?」

「違うぞ、スザク。任されるんじゃなくて、押し付けられたんだ」

「……何か他人事とは思えませんね」

 

頭を抱えるルルーシュに虚は、共感を覚えるのだった。

 

「ああ、そう言えばカズキさんから預かっていた手紙があったんだ。

 何でもルルーシュが、愚痴り始めたら渡すようにって言ってたけど……」

「俺に?どうせ、碌なものじゃ……」

 

スザクから渡された手紙を読むとルルーシュは、動きが固まったので楯無達は

怪訝に思う。

 

「ふふふ……ははははは!!!

 任せておけ、ナナリー!この兄が万事全てを整えてみせる、全力で!!!」

 “お兄様へ。

 大変でしょうけど、ナナリーはそちらの世界でもお兄様と一緒の学校に行けるのを

 楽しみにしてます。

 頑張ってください♡”

 

異様なほどやる気を見せるルルーシュだったが、渡した手紙の中身を見たスザクは

納得した。彼が溺愛する妹のナナリーからのメッセージだったようだ。

この少年、ルルーシュは千冬や楯無と同じように弟や妹のためなら

世界と戦うこともいとわないだろう。

 

「この人もお嬢様と同類ですか……」

「あれ。でも、虚さんにも妹がいるって聞きましたけど……ルルーシュとは違うんですか?」

「虚ちゃんは、ドライなのよね~。

 本音をもっと愛でればいいのに」

「言っておきますが、私達ぐらいが普通でお嬢様達の愛でぶりがいきすぎ

 なのですからね?」

 

ハイテンションで次々と書類を片づけていくルルーシュを見て、どこか悟りを

開けるような気がする虚であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いよいよ明日ね。一緒に、がんばりましょう」

 

ある軍の基地で、鮮やかな金髪をした女性が我が子を見るような自愛の目をして

一機のISに話しかけていた。

彼女の名は、ナターシャ・ファイルス。アメリカのテスト操縦者であり、

明日この新開発されたISのテストを行うのだ。

 

「それじゃ、お休みなさい」

 

ナターシャはそう言って、部屋を後にすると明かりが消えたその部屋に

一人の少年の姿が浮かび上がる。

ここは、軍の基地でありISを扱うため通常の基地よりも警備は厳戒のはずだが、

その者にはそんなことは、無意味だった。

 

「これが、新しく作られたおもちゃかぁ~。

 悪くないセンスだね……」

 

現れたのはレグドの前に現れた少年だった。

彼は興味深そうに目の前のISを眺めるが、その目には残虐な光が宿っており、

心なしかISはその目に恐怖を感じてカタカタと震えているような気配を漂わせる。

 

「待っていろ……お前の全てをブチ壊してやる――!」

 

少年が初めからその場にいなかったように消えると、ISだけがそこに

残されたが、その装甲の輝きが鈍くなっているのは気のせいなのか――

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いや~千冬ちゃんは、相変わらず激しかったね♪」

『毎度のことだけど、お前もよくやるよな~』

 

波の音が心地よく聞こえる崖の上で、浴衣から宇宙ファイターXの姿へと

着替えたカズキが立っていた。

 

「それはもちろん、楽しいから以外の理由はないさ。

 後、一夏と明はこの臨海学校で是非とも関係を進めてほしいね~。

 多分だけど、あいつらまだキスもしてないからさ」

『へっ?あんだけ、毎日イチャついてるのにか!?』

 

カズキの言葉にザンリュウジンは、驚きの声を上げる。

 

「どっちも今の関係にある程度満足して、一歩先に踏み込むのを

 ためらっているんだから、かわいいもんだよ。

 ……おしゃべりはこのぐらいにしよう――。

 シャドウキー!召喚!」

『デルタシャドウ』

「いでよデルタシャドウ!」

 

ザンリュウジンから夜の闇に向かって光が放たれると、魔方陣が描かれ

黒色の体に黄金のラインが走った烏、デルタシャドウが夜空に君臨する。

 

「――~♪」

「――アアアァァァ」

 

仮面越しに宇宙ファイターXが口笛を吹くと、デルタシャドウが彼の元へと舞い降り、

宇宙ファイターXはその背中に乗り立つ。

 

「本当は、姉弟水入らずで久しぶりに一緒に

 一夏と寝られる千冬ちゃんが何をするのか見たかったんだけど、

 それはまたの機会にセッティングするとしよう。

 さあ、行きますか!

 俺達の力を取り戻しに!」

『おうよ!』

 

宇宙ファイターXを乗せたデルタシャドウは、夜の海へと飛翔し、その姿を闇に

消した――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よし、全員揃ったな」

 

臨海学校二日目。この日は、丸一日かけてISの各種装備試験用とデータ取りに

追われる。特に専用機持ちは、大量の装備があるためその心は眩しいほどの晴天とは

逆の曇り空である。

 

「では、各斑に分かれて装備試験を行ってもらう。

 専用機持ちは、こっちに来てもらう……篠ノ之もこっちだ」

「?わかりました」

 

専用機持ちではない箒は、一般の生徒達と共にテストにとりかかろうとしたら

千冬に呼ばれ一夏達の元にやってくる。

 

「織斑先生……?」

「どうして、箒さんがこちらに?」

「それはだな……」

 

疑問を浮かべる箒達に千冬が歯切れを悪くすると、突如として地響きが聞こえ

こちらに近づいているのか、どんどんその音は大きくなる。

 

「ち――――ちゃぁぁぁぁぁ~~~ん!!!!!」

 

崖の上から土煙を上げて、暴走車のように爆走する人影は千冬に向かって

抱き着こうと跳躍する。

そばにいた者達は、その光景よりも爆走してきた者の出で立ちに唖然とした。

「不思議の国のアリス」が着るような青と白のワンピースに、メカニカルなウサミミ

を頭につけた紫がかったピンクの髪をした女性。

その上、胸元が開けたワンピースに窮屈そうに押し込まれたモノを見て

一部の生徒は舌打ちをしていた。

そんな彼女達のことなどお構いなしに、来訪者は千冬に抱き着き頬ずりを始める。

 

「会いたかったよぉぉぉ!ちーちゃんんんんん!!!

 さあ、ハグハグしよう!

 あの泥棒宇宙人とは違う、二人だけの本当の愛を確かめtグゲッ!」

 

頬ずりをしていた女性は、千冬に顔面を掴まれる見事なアイアンクローをされて

宙づりにされる。

顔に食い込む指が、千冬が本気で握り潰そうとしているのを物語っていた。

 

「……このまま、魚のエサにすれば世界は平和になるかもな……」

「もう~。相変わらずちーちゃんは、照れ屋さんだね♪」

 

片手で人間一人を持ち上げる千冬もそうだが、そんな千冬のアイアンクローから

するりと抜け出した彼女も、人体の常識というのを投げ捨てている。

 

「……ちっ。まあいい。とりあえず、自己紹介ぐらいしろ。

 生徒達が固まっているだろ」

「めんどくさいけど、しょうがないな~。

 はろー♪みんなの天才、束さんだよ♪

 この束さんに会えたことに泣いて喜ぶがいいー!」

 

両手でVサインをしながら、挨拶をする束に一同ぽかーんとしてフリーズする。

相変わらずの親友に千冬は頭を抱え、一夏は苦笑いを浮かべていた。

そして、妹である箒は予想もしなかった姉の登場にみんなから隠れるように

うずくまっていた。

 

「ふっふっふっ……。

 ではでは、皆の衆!これを見ろ!!!」

 

マイペースに行動する束が、腕を広げるとその背に布が被せられた板のようなものが

現れた。

 

「喜び、おののくがいい!これが――自分で歩けるようになった

 マイスウィートエンジェル箒ちゃんの姿だ!」

 

布をとるとそこには、デカデカと大きな電光掲示板のような板に

赤ん坊特有の無垢な目をして、おぼつかない足で立っている……箒の画像が

映し出されていた。

 

 

 

 




楯無は二日目に、教師陣の手伝いとして潜り込もうと計画していたら
眩しい笑顔をする虚に捕獲されましたwww
現在、学園にはルルーシュやスザク達が護衛をしています。

束が最後に出したのは鋼の錬金術師で、ヒューズさんが
出したような娘さんの写真のようなものです(笑)
当然、次回は(爆)

現在、カズキはいないのでこの天災にツッコめるのは千冬だけww

今回なのは達は出ませんでしたが、部屋ではもちろん
恋バナが展開されてました♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪意が鐘を鳴らすのを誰も知らない――


連日の猛暑に加えて、残業の毎日でフラフラなすし好きです。
来月には夏コミもありますから、そっちの準備もしないと(汗)


「……オルガードの世界の星の大樹……管理世界とそうでない世界……

 そして――」

 

ある部屋で、乱雑に本を散らかし手にした資料を見ながら

ユーノはワナワナと体を震わせていた。

 

「待て待て……一体誰だよ、こんなことを考えたのは……!

 早く、みんなに知らせないと……」

 

瞬間、ユーノは世界が変わったのを感じ取った――

 

「魔弾戦士達とは違った意味で、警戒しておいた方がいいと思っていましたが……

 私の勘が当たったようですね」

「お前は、一夏達を襲った……!」

 

ユーノが振り向くと、そこにはクリエス・レグドが腕を組んで佇んでいた。

 

「ふふふ……そう身構えなくてもいいですよ。

 これは誰にも気づかれないようにするための、分身で戦闘などできないんですよ

 ……ですが、こんなことぐらいはできます!」

 

レグドが、腕を突き出すと足元の影が伸びそこから三つの姿が現れる。

 

「我らを呼び出すと思えば、まさかこのような者が相手とは……」

「そうやって、いつも相手を舐めてるからお前は半端なんだよ」

「まあまあ、お二人とも落ち着いて。

 ……あなたに恨みはありませんが、消えてもらいますね?」

 

ユーノの前に現れたのは体の色が赤、青、緑と違うだけで姿形が

全く同じ3体の怪人だった。

しかも、ただの怪人でないことをユーノは放たれる気迫で感じ取っていた。

 

「彼らは、言ってみれば魔物を率いる将軍のようなものでしてね~。

 まともにぶつかれば、魔弾戦士や他の世界の戦士達も退屈させないぐらいの実力を

 持っています。

 まあ、恨むなら私だけでなく自分の頭の良さも恨むのですね……」

 

レグドがそう言い放つのを合図に、呼び出された怪人達は右手の砲門を

ユーノへと向ける。

 

「っ!」

 

そして、ユーノが何かを取り出すのと同時に彼の視界は光に覆われた――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

とある海の一角で、たくさんの人がいるにも関わらず静寂の空気がその一角を

支配していた。

 

――肩で息をする箒

 

――呆然とする一夏達

 

――箒の写真を映し出したモノに突き刺さり、下半身だけがブラリと出ている束

 

「もう、いきなり何するのさ箒ちゃん!

 束さんが三日三晩、昼寝だけして作った自信作が~。

 せっかく立体映像でも見れるようにしてたのに~!」

 

突き刺さっていた束が、何事もなかったように抜け出して文句を言うと

箒は顔を真っ赤にして束をにらみつける。

 

「それはこっちのセリフです!どういうつもりなんですか、姉さん//////!!!」

 

束が箒の写真を映し出した瞬間、箒は束の懐に入るとみぞおちに拳を叩き込み、

空へと蹴りあげると、その写真へと束を蹴り飛ばして突き刺したのだ。

わずか数秒間の早業に、みんな呆然となった。

 

「だってだって~!あの人見知りで、人一倍恥ずかしがり屋でついツンしか出さなかった

 箒ちゃんが、今では友達もできて楽しく過ごしてるんだよ!

 これは、もう箒ちゃんのかわいいところを知ってもらって、もっとも~~~っと

 箒ちゃんのことを好きになってもらわなきゃ!ってなるじゃん!」

「だあああ~~~////////!!!!!」

 

束の主張に箒は頭を掻きむしり、声にならない叫びを上げるしかなかった。

それを見ていた者達は、苦笑したり温かい視線を箒へと送った。

 

「箒も大変ね~」

「もしも、アリサちゃんが箒ちゃんのお姉ちゃんだったら違う形で

 愛でるだろうけどね♪」

「そうそう……って、すずか////!」

「(あれが、ISを生みだした箒ちゃんのお姉さんの篠ノ之束さん……)」

「(私達の調査でも重要な人……)」

「(小学生の時は、話だけで会ったことなかったけど……

 箒ちゃんよりも大きいとちゃうんか!?)」

 

アリサとすずかが漫才をしている傍でなのは、フェイト、はやての三人は

難しい顔をしていた。約一名は、桃色の光に飲み込まれそうなことを考えているが。

 

「相変わらずだな、お前は。少しは、大人になれ」

「だ~か~ら~!

 何、一人だけ常識人ぶっているのさちーちゃん!

 昨日、ちんまくなってイヌ耳を生やしたいっくんが

 “ちふゆねぇ~だ~っこ♪”って、おねだりする夢見てご機嫌だったくせに!!!」

「にゃ、にゃんのことだ……?」

 

子供扱いされて心底心外だと言わんばかりの束の言葉に、顔を逸らす千冬だったが

噛んでいる言葉がそれが真実だと告げていた。

 

「子供の頃から、変わらないな束さんは。

 そういえば、カズキさんの姿が見えないけどいなくてよかったかもな」

「どういうことだ、一夏」

「いや、カズキさんと束さんが顔を合わせる度に、

 毎回互いを潰そうとしあって、大変なんだよ。

 しかも、いつもの千冬姉とのイチャつきと違ってガチでやるからさ

 ……あだっ!」

 

一夏が明に、カズキと束のことを説明しているとその頭に痛みが走る。

そこには、黒き宝剣(出席簿)を振り下ろした千冬の姿があった。

 

「織斑先生だ!

 後、碓氷の奴は今日は用事があるから後はよろしくと書置きを

 残して、姿を消した……。

 全く、どいつもこいつも……」

 

千冬がワナワナと震えていると、束が何かイタズラを思いついたような笑みを

浮かべていた。

 

「そうだ!

 ちーちゃんが如何にいっくんのことが大好きなのか、

 子供の時におねしょしちゃったいっくんを

 ちーちゃんが優しく着替えさえてあげたこの写真を見せて……」

 

ガッツポーズをして、ナイスアイディアだぜ!な勢いで実行しようとした束は

途中でその動きを止めた。

具体的には首に感じる冷たい感触によって、“止めさせられた“

 

「なあ、みんな……今日の夕食の……ウサギ鍋だけど……

 何味がいい?」

「あ、あのいっくん……?」

 

一夏は、雪片を束の首に当てながら眩しい笑顔を浮かべて、周りの者達を

戦慄させた。昨日のアレがまたか!と……。

 

「それで?束さんはどこからさばいてほしいか、リクエストはありますか?

 上半身と下半身を分けますか?それとも縦に真っ二つといきますか?

 それとも、このまま首からですか?」

「いや、だからそうじゃなくて――――チョーシにのってすんませんでした!!!!!」

 

一夏が冗談でも何でもなく、ガチの本気で自分の命を狩りにきていると

確信した束はその場でバク転を決め土下座をして許しを請うのであった――

 

 

 

「うぇぇぇ~~~。かわいかったあのいっくんが、黒くなっちゃったよ~」

 

土下座して何とか一夏の怒りを納めることができた束は、うずくまりながら

よよよ~とすすり泣いていた。

千冬も一夏が黒くなったことを嘆くのは同感とばかりに、ウンウンとうなずいていた。

最初は世界で最も有名な天才の登場に、呆然となっていた生徒達だったがカズキや千冬、

そして黒一夏で突拍子もないことに慣れてきたのか、すぐに立ち直りテストに

取り掛かる準備を始める。

 

「ね、姉さん……。い、一夏がああなったのは……その……

 そ、それだけ成長したということで……」

「…………ひゃっほぉぉぉ!!!

 箒ちゃんの慰めで、束さん大・復・活♪

 いや~箒ちゃんも本当に大きくなったよね~♪

 特に、おっぱいが!」

 

ドスっ!

 

流石に見かねた箒が束を慰めると、一転してハイテンションで叫びを上げて立ち直った。

そして、箒の成長を喜ぶが、最後の言葉を言うなり箒に木刀でぶっ飛ばされた。

どこから出したのだろうか?

 

「殴っていいですよね?」

「殴ってから言ったぁ……。ひどいよねちーちゃ~ん、いっく~ん!」

「そうだな……確かに、踏み込みは良くなかったな。

 もう、半歩ほど前に出した方が威力が出るぞ」

「?何か、箒間違ったことしましたか?」

「が~ん!ふ、二人ともあの変態宇宙人の影響を受けまくってる~~~!

 ……でも、その冷たい扱いが癖になるかも……♡」

 

一夏と千冬の自分への扱い方を嘆く束だったが、どこを間違えたのか

新しい扉を開けようとしていた。

 

「なんか、すごいね。いろいろと」

「すずかの言うとおりね。IS学園に入ってから、退屈しないわ。ほんと」

「なんか、束さんってはやてちゃんに似てるね」

「うん。何ていうか、初めて見る光景って気がしないね。

 声はなのはに似てるんだけど……」

「そうです!そうですよね、束さん!

 箒ちゃんのおっぱい、すっっっごく成長しましたよね!

 ティスティングしたい気持ちはよう~~~わかります!!!」

「ほほう~。なかなかいける口だね~。

 君、名前は?」

「はい!八神はやてと言います!」

 

束とはやてが、互いに見つめ合うと突然目をクワッと見開き

熱い握手を交わした。

 

「私達、いい友達になれそうだね」

「ええ」

「じゃあ、早速ちーちゃんにいろいろと優しくされてるあのおっぱい魔人の

 立派なものを味わおうではないか~!」

「了解です!」

「え?……えええええ!!!!!?」

 

握手を交わしてニヒルに笑ったかと思ったら、早速友情を深めるために

獲物を捕らえようと意気込む二人は手をワキワキさせ、ターゲットに定められた真耶は

思考が追いつくと驚きの声を上げる。

 

結論から言うと、真耶は捕まることはなかった。

世界最強の教師と、別世界で名を馳せる友人達によってイタズラ好きなウサギと

タヌキは、沈められたからである。

白い服が似合うクラスメートNは、赤い宝石をいじりながらご機嫌な鼻歌を

歌っていた。まるで、哀れなタヌキへの鎮魂歌(レクイエム)のように――

 

「全く、お前は……遊びに来たのなら邪魔だからさっさと魚のえさになってこい」

「ううう~、ちょっとした冗談だったのに……。

 じゃあ、そろそろ本題に行こうか!

 それでは、皆の衆!大空をご覧あれ!」

 

未だはやては沈んだままだというのに、同じぐらいのダメージを受けたはずの束は

何事も無かったように復活し、空を指差す。

その言葉に続いて、全員が空を見上げると何かがキラリと輝くのが見え、次の瞬間には

銀色のひし形をした金属の“なにか”がその場に落ちてきて、衝撃が走る。

 

「な、なんだ……!」

「ふっふっふっ……これぞ、束さんが心血注いで作り上げた箒ちゃんの

 専用機――“紅椿(あかつばき)”!

 全スペックが現行ISを上回るスペシャルなISだぜ☆」

 

落ちてきたものは、コンテナのように展開すると中から赤い装甲の一機の

ISが姿を現す。

 

「……はっ!ちょっと待ってください、姉さん!

 専用機?私の?

 き、聞いてないですよ!」

「なっははは!明日、箒ちゃんの誕生日でしょう?

 いろんな意味で成長している箒ちゃんへのプレゼントってことで、

 サプライズで用意したんだぜ☆」

 

自分の専用機と寝耳に水なことに、箒は慌てるが束は親指を立てて

笑顔で答えた。

 

「さらにさらに!

 今の箒ちゃんなら、自分だけ専用機をもらうなんてって思っちゃうんだろうから、

 他の子達にもサプライズを用意したんだぜ!」

 

続いて、束は胸の谷間に手を突っ込むとメモリーカードのようなものを取り出した。

 

「じゃっじゃ~ん♪

 これぞ、自分の専用機を持てる夢のアイテム!“そめる”くんだ!

 訓練機は動かすたびにフォーマットされて、レベル1になるけど、こいつを

 差し込んで使えばそれぞれの動きのデータが蓄積されていくんだよ~。

 つまり!ISを動かしてこれに自分のデータを入れれば入れるほど、自分色に“染める”

 ことができるのさ~♪

 さあ、者ども!この天才束さんをほめたたえるがいい!!!」

 

胸を張りながら、自慢をする束だったが周りはそれどころではなかった。

“そめる”くんの話が本当なら、訓練機全てがそれぞれの操縦者の専用機に

できるということである。

ISのコアの数の関係上、自分の機体を持てない操縦者は珍しくない。

世界のバランスが、再び崩れるかもしれないのだ。

 

「ほう~。無茶苦茶とはいえ、お前が他人のためのようなものを

 作るとはな……」

「束さんだって、いつまでも子供じゃないのさ~♪

 ――それに、私が絶対しないようなことがあいつらを出し抜く

 鍵になるかもしれなし……。

 それと、例のアレはもうちょい調整にかかりそうだから、もう少し待ってね♪」

「ああ、頼む――」

 

困惑する生徒達を余所に、千冬と束は静かに言葉を交わした。

 

「紅椿……私の専用機――」

 

箒は、太陽の光を浴びて輝く紅のISを見つめていた。

一夏がリュウケンドーとして、戦っていると知って以来、箒は何とか一夏の力に

なりたいと考えていた。

まず頭に浮かんだのは、姉に専用機を頼むことだったが、明はそんなことをしなくても

自分の力で一夏を助けていることを聞いた箒は、その案を実行するのをとどまった。

それをすれば、明にはもう勝てない気がしたからである。

そこで、箒はトーナメントのために受けていたカズキの特訓を引き続き受けていたのだが、

文字通り天から降ってきたこのチャンスに彼女は揺れていた。

 

「(正直、願ってもないことだが……妹だからと簡単に受け取っていいのか?

 セシリア達のように努力してきたわけではないし、だが……しかし――)」

「篠ノ之さんもこれで、専用機持ちか。いいな~」

「でもさ、碓氷先生の特訓を今も続けてるらしいよ?

 それなら、専用機をもらえるぐらいの実力になってもおかしくないよね~」

「だよね。ほとんどの子が一日目で脱落したのに。

 ああ~努力に勝る才能はないってことか~」

「そういうことは、努力してから言いたまえ」

「おっ!わかっているじゃないか、君達♪

 束さんも箒ちゃんならこの紅椿をちゃんと使えるって思ってるし、何より!

 間違えたら止めてくれそうな友達もたくさんいるからね~♪」

 

身内だからといろいろ言われると思っていた箒は、クラスメート達の

反応に驚いていた。更に束の言葉を聞いて、アリサ達が挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「いいじゃない、箒。もらっちゃいなさいよ」

「箒なら大丈夫だよ」

「せやで、箒ちゃん。そんで、その見事なものが揺れる様をぜひ拝ませt……ごへっ!」

「はやてちゃん?」

「全力全開の三連続OHANASI……逝ってみる?」

「まあ、碓氷先生のアレを続けてるのですから……」

「例えISの生みの親お手製でも、あたし達には簡単に勝てないわよ」

「でも、あまりアレは思い出したくないね」

「ですね……」

「約一名、もう手遅れ……」

「ひ……ひぃぃぃ!!!!!」

 

それぞれが意見を述べる中、ラウラはカズキのアレを思い出し狂乱する。

 

「みんな……姉さん。紅椿、使わせていただきます」

「はいは~い♪それじゃ、フィッティングとフォーマットをやっちゃおうか。

 束さんにかかれば、ちょちょいのちょいと終わるよ~ん♪」

 

空中投影のディスプレイを12枚呼び出すと、束は演奏するかのように滑らかに

指を動かして紅椿の調整をしていく。

無論、1枚ならともかく12枚ものディスプレイを前にこんなことができるのは

束ぐらいである。

 

「ほい、完了~。後は、自動処理を待つだけだね。

 ああそうだ、いっくん白式見せて~。男が動かすISで束さんは興味津々なんだよ~」

「あ、はい」

 

一夏が白式を展開すると、束はコードを突き刺しデータを呼び出す。

 

「へ~不思議なフラグメントマップだね~。

 見たことないパターンだね、こりゃ。いっくんが男の子だからかな?」

 

フラグメントマップというのは、ISの遺伝子のようなもので各機体によって

独自のものになる。

 

「それで、前から聞きたかったんですけど束さん。

 どうして、男の俺がISを使えるんですか?」

「ん~なんでだろうね?私にもさっぱりわからないんだよね~。

 ナノ単位まで分解すれば、わかるだろうからしてもいい?」

「その時は、分解される前にこっちが逆にナノ単位まで切り刻みます」

「はうっ!その冷たい笑顔……いい/////!!!」

 

その場にいた全員が、思った。

“この天才――もうダメだ”と……

 

「――っと!紅椿の方は終わったみたいだね。

 それじゃ、箒ちゃん。試運転と行こうか♪」

「はい。それでは――行きます!」

 

紅椿につながれていたケーブルが外れると、箒は紅椿と共に空へと舞い上がった。

 

「きゃっ!」

 

飛翔時の余波で砂浜の砂が巻き上がり、悲鳴が上がるが箒はそのことを気にかける余裕は

なかった。

ただ、飛んだだけでわかったのだ。訓練機とはまるで違う紅椿の性能に。

 

「すごいでしょう~。箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

「え、ええ、まぁ……」

 

いつも授業で打鉄を使ってやっている基本飛行を行う箒だったが、その一つ一つに紅椿の

性能のすごさを感じ取っていた。

 

「じゃあ、次は武器のテストね。腰の刀を抜いて……右が雨月で左が空裂だよ。

 雨月は対単一仕様の武装で、打突に合わせてエネルギー刃を放てるよ~。

 いっくんの技を見て、再現してみました♡」

 

束の説明を聞き、箒は試しに雨月で雲へ突きを放つと赤色のレーザー光が

雲を貫いた。

 

「それでね?空裂は、逆に対集団仕様で斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーを

 ぶつけるんだよ~。まあ、百聞は一見にしかずってことで、これを撃ち落としてみてね♪」

 

そう言うと、束は十六連装のミサイルポッドを呼び出し、箒に向かって撃ち出す。

 

「はぁぁぁっ!」

 

箒は空裂を振るうと、雨月が放ったような赤いレーザーが帯状に広がり

ミサイルを全て撃ち落とした。

 

「すごい……」

 

自分でやっておきながら、未だ紅椿の力が信じられないのか箒は呆然としていた。

 

「おおおおお織斑先生!たっ、たたた大変ですぅぅぅ!!!」

 

箒と同じように、みんなが紅椿の性能に言葉を失っていると、突然真耶が

大声で慌て出す。

 

「どうした?」

「こっ、これを!」

 

真耶に見せられた端末を見て、千冬の顔は一気に険しくなる。

 

「特務任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」

「はい。ハワイ沖で試験テストをしていた……」

「待て、山田君」

 

千冬は真耶の言葉を遮ると手を動かして、手話でやりとりをはじめる。

 

「なあ、明。確かあれって……」

「ああ。軍用の暗号手話だ」

 

一夏と明は、カズキから誰にも知られないようなやりとりをするためのイロハを

教えられているので、千冬の手話の正体がわかった。

 

「では、山田君。他の先生達への連絡を……」

「は、はい!」

「全員、注目!現時刻より、IS学園教師は特殊任務行動へと入る。

 今日のテストは全て中止。各班、速やかにISを片付けて旅館へと戻り、

 連絡があるまで各自室で待機!」

「え?」

「ちゅ、中止?特殊任務行動?」

「なのは、これって……」

「うん、何かマズイことが起きたのかも……」

 

突然の事態に、一同は騒ぎ始めるが、それも束の間だった。

 

「早くしろ!以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する!

 わかったら、返事をしろ!」

「「「は、はいっ!」」」

 

千冬の一喝で、女子達は慌てて行動に入った。

 

「それと専用機持ち、織斑、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰、更識そして

 篠ノ之はこっちに集合!」

 

千冬に呼ばれた面々は、彼女の後に続き移動する。

 

彼らの長い一日がこうして始まった――――

 

 

 

「では、状況を説明する」

 

宴会用に設けられた大座敷・風花の間。

だが、そこは現在普段とは違う使われ方をしていた。

照明が落とされ薄暗くなっており、様々な機械が運び込まれていた。

そして、中央には大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験テストを行っていたアメリカ・イスラエルで

 共同開発された第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。

 監視空域より離脱したとの連絡が入った。

 そして、衛星による追跡の結果、ここから2キロ先の空域を50分後に

 通過するとわかった。

 ……諸君には、この事態に対処してもらう」

 

千冬は事態を説明するが、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

説明を受けていたセシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪の正式な国家代表候補

の5人は真剣な表情で、表示されているデータを見ていた。

一方、箒はただ困惑し一夏はどこか厳しい表情をしていた。

 

「教員部隊は、周辺の空域および海域を封鎖するので、本作戦は専用機持ち

 を中心に行う。意見のある者は挙手しろ」

「はい」

 

千冬の言葉に、セシリアが手を上げる。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは二か国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。

 情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が

 つけられる」

「了解しました」

 

そうして、中央に『銀の福音』のデータが映し出され、みな顔を険しくする。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を

 行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。しかも、このスペックだとまともにぶつかったら

 厳しいわね……」

「一番の警戒は、この特殊武装だね。防御パッケージを使っても、完全に防ぐのは

 無理かも」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だな。何が、出てくるかわからん」

「それに、このデータが全部正しいとは限らない……」

 

代表候補達は、次々と意見を出していくが一夏は黙り込んでいた。

 

「(どう思う、ゲキリュウケン?)」

『(……暴走したISに“たまたま”お前達が対処できるところにいた……。

 偶然と言うには、あまりにタイミングが良すぎる)』

「(ということは……)」

『(奴ら……創生種の仕業と考えるのが普通だな)』

 

一人、ゲキリュウケンと違った会議をしていると福音の方は、

偵察ができないかという話になった。

 

「このデータを信じるなら、アプローチは一回が限界だな」

「つまり、一撃で落とせる攻撃力を持った機体でないといけませんね……」

 

真耶の言葉に一同の視線が、一夏に集まる。

 

「つまり、白式の零落白夜しかない……ってことか?」

「うん、そうなる……」

「織斑、これは訓練ではなく実践だ。別に無理強いはしない」

「いや……やるよ。やってやる……」

 

教師としてだけでなく、姉としての心配を含めての言葉だったが、一夏は

自ら志願した。

もしもこれが創生種の襲撃だった場合、奴らに対抗できるのはここには

自分しかいないからだ。

 

「問題はどうやって、一夏を目標まで運ぶか、だね。

 エネルギーは全部攻撃に回さないといけないし、移動をどうするか……」

「それも、目標に追いつけるスピードを出せる機体じゃないと」

「それに、超高感度ハイパーセンサーも必要だぞ」

「それなら、わたくしのブルーティアーズが。ちょうどイギリスから

 強襲用高機動パッケージ“ストライク・ガンナー”が送られてますし、

 超高感度ハイパーセンサーもついてます」

 

パッケージとはISの換装装備であり、これを装備することによって、機体の性能や性質を

大幅に変更し、様々な状況に対応することができる。

 

「オルコット、お前の超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

「よし、それなら何とかいけるな。

 織斑と共に――」

「ちょ――っと待った!もっといい作戦が私の中にナウ・プリンティング♪」

 

作戦が決まるかというところで、天井から場に似合わない明るい声がそれを遮った。

見ると、束が逆さまに天井から顔を見せていた。

カズキと同じことをしていることを本人は気づいていなかったりする。

 

「……織斑。雪片を貸せ。今夜は私が、夕食を作ろう……」

「どうぞ、織斑先生♪」

 

千冬の言葉に一夏は躊躇なく、雪片を呼び出し千冬へと渡す。

 

「待って待って!こんなことで、息を合わせないでよう~。

 いいから聞いて!ここは、紅椿の出番なんだよ♪」

「何?」

 

雪片といつもカズキを追うのに使っている日本刀を下すと、千冬は

どういうことだと目で訴える。

 

「紅椿の展開装甲ならあ~~~っという間に、音速飛行ができるようになるよ!」

 

展開装甲という聞きなれない言葉に一夏だけでなく、千冬達も首をかしげる。

 

「説明してしんぜよ~。展開装甲というのは、この束さんが作った第四世代ISの装備だよ♪

 ISの完成を目指した第一世代、後付け武装による多様化を目指した第二世代、

 そんで操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装を試す第三世代。

 そしてそして!その先へとゆく、パッケージ換装を必要としない

 万能機となるのがこの第四世代なのさ!

 ちなみに、実験的に白式の雪片弐型にも突っ込んでみました~♪」

「は?……はぁぁぁ!?」

 

100点のテストを自慢する子供のようにムフッと胸を張って説明する束に、当事者で

ある一夏だけでなく、千冬を除く全員が驚愕する。

 

「紅椿は、全身のアーマーがそれだから箒ちゃんが使いこなせたら、

 攻撃・防御・機動と瞬時に切り替えることができる最強の機体になるね~。

 これぞ、第四世代の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつさ。ぶいぶい♪」

 

世界がまだ第三世代の開発に躍起になっているところに、次世代の機体が

完成したことに、全員驚きを通り越して言葉も出なくなる。

 

「…………オルコット。先ほど言っていたパッケージは、もうインストールしているか?」

「えっ?あっ、いえ。まだです」

「……ならば、本作戦は織斑と篠ノ之の両名を中心に行う」

「なっ!?織斑先生!わたくしとブルー・ティアーズなら、必ず……!」

 

千冬はセシリアに、作戦の要になる装備のことを聞いて少し思案して

作戦内容を変更する。

 

「話は、最後まで聞け。中心で行うと言っただけで作戦は、まだ決まっていない」

「おや?ちーちゃんは、この作戦に不満があるの?」

「大ありだ、馬鹿者。いくら機体がすごかろうが、篠ノ之に実戦経験は

 ほとんどない上に、織斑も零落白夜を自在に使いこなせん。

 予想外のアクシデントに、何かしらのミスが起きてしまう可能性は十分になる。

 ならば、それをカバーするための第二、第三の策を用意するのは当然だ」

 

千冬の言葉に束は、ブスッとして不満気な顔になる。

 

「あの~束さん?もしもカズキさんがいたら

 “へぇ~君はたった一つの作戦しか思いつかなかったんだ~。

 俺なら、千の作戦を思いついて百ぐらいを実行できるよう準備するけどな~

 ククク”

 ……とか言うんじゃないでしょうか?」

 

カズキそっくりの口調とバカにしたような顔をマネした一夏の言葉に、

束はビシリと固まった。

 

「…………うがぁぁぁ!!!

 束さんをなめるなよ、変態宇宙人!

 そっちが千個の作戦を考えるなら、こっちは一万……十万の作戦を

 考えてやるぅぅぅ!!!!!」

 

実際に、カズキがそう言うのを想像したのか束は頭をムキィィィッ!と

かきむしると負けてたまるかと、とんでもないことを言い出す。

 

「でも、他の作戦って言ってもどんな……」

 

真耶がポツリと漏らすと、部屋にある全てのディスプレイにノイズが走る。

 

「どうした!」

「ふふふ……ははははは!お困りのようだね、諸君!」

 

束と同じく場に合わない明るい声を出して、宇宙ファイターXの姿が

大型ディスプレイに映し出された――

 

 





前回に引き続き、某錬金術師ネタを入れましたがユーノは
あの人のようにはなりませんので、ご安心を(苦笑)
現れた3体の怪人は、レグド達と同じく『小さな巨人 ミクロマン』
に登場したデモン三幹部の姿です。

箒は、原作よりも丸くなっていますがそこはなのは達と
友達になれたのが大きいです。

束を手遅れ方面に動かしても違和感を感じないなwww



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憎悪の叫び


何とか7月中に完成できました(苦笑)
それにしても・・・・・滅べ!残業ぉぉぉ!!!なこの頃です(汗)


太陽がその身から発する光が、降り注ぐ海岸に一夏と箒は並んで立っていた。

 

「来い、白式!」

「行くぞ、紅椿!」

 

二人の体が光に包まれると、白と紅の翼をそれぞれの身に纏う。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何をしている、貴様……?」

 

突然、映像に現れた宇宙ファイターXに千冬は、地の底から響くような

低い声を出す。

気のせいか、宇宙ファイターXの姿を見た途端、何かが切れる音を一夏達は耳にし

震えあがっていた。

生徒を危険な戦場に送らなければならないことに加えて、束の引っ掻き回しに、

止めと言わんばかりの宇宙ファイターXの登場に千冬の我慢も限界だったようだ。

 

「話は、聞かせてもらったよ。暴走したISに追いつけるのが

 たった一回のワンチャンスなのに、不安がある素人二人をメインとした

 作戦しかなくて困っているんだろ?

 だったら、こういうのはどうだい?

 まず、最初の作戦通りにその二人には出てもらう。

 そして、失敗したら第二陣が到着するまでの時間を稼いでもらう」

「第二陣って、ですから追いつける機体が……」

「だから、その第二陣を運ぶのを俺達がやってあげるんだよ」

 

宇宙ファイターXの提案に、言葉を挟む真耶だったが次に発せられた言葉に

呆然となる。

 

「丁度、こちらも新しい飛行装備のテストをしたくてね。

 ISほどじゃないけど、それなりのスピードは出るから第一陣の一夏達に

 追いつくのは十分可能だ。

 だが、俺達もあまり目立つことはしたくないから、高機動パッケージの

 インストールができる機体はインストールしてもらって、協力は

 最小限にしてもらう。

 おい、そこの天才(笑)。お前なら、彼女達の機体にパッケージを

 インストールするのは簡単だな」

 

突然の提案に、みんながついていけない中どんどん話を進めていく

宇宙ファイターXは束に話を振るが、どこかその声には棘が含まれていた。

 

「ちょっとちょっと~。勝手に話に割り込んで、何言っているのさ!

 だ~~~れが、お前の言うことなんか……」

「あっ、できないのか……」

 

子供のように拗ねた声を出していた束は、ポンと手を叩くかのような

宇宙ファイターXの言葉にビシリと固まる。

 

「今……なんて言った……?」

「だから、“できない”んだろ?自分のことを天才だ天才だと言っても、

 たかが数機の準備を十数分ですることが、お前は“できない”んだろ?

 そうかそうか~。いや~、お前ならできると考えての作戦だったんだが

 “できない”のなら、仕方ないな。“できない”のなら――」

 

“できない”と言う言葉を強調する、宇宙ファイターXに束は体を

ワナワナと震わせる。

 

「なめるなよ、この変態宇宙人!

 私の実力を目ん玉開けて、とくと焼き付けろ!

 小娘ども!さっさとお前たちのISを見せろ~い!!!」

「はっはっはっ。変態宇宙人って、何を言っているんだか。

 やはり、お前は物事の見方が小さいな~。

 広く見れば、人間は地球をひっくるめて宇宙に生きている

 宇宙人でもある。そんな当たり前のことを言われてもね~。

 ああ、そうか。君はそんなこともわからなかったのか……くくく」

「むっっっきぃぃぃ~~~~!!!」

「あの、お二方?時間が無いんですよ~」

 

仮面をかぶっていて表情は分からないはずなのに、その場にいた全員は

宇宙ファイターXがものすごく意地が悪くて馬鹿にした笑みを浮かべているのが見えた。

そして、このままではいつものように延々と続くことになっていつまでも終わらない

と思った一夏が仲裁に入る。

 

「でも、どうして協力を?」

「簡単なことだよ。今回の事件は、俺達の敵が絡んでいる可能性があるからさ」

「何だと?」

 

真耶の疑問に答えた宇宙ファイターXに、頭に手を当てていた千冬は怪訝な表情となる。

 

「今回、起きた暴走をこっちでも簡単に調べてみたけど、暴走が起きるような

 要素は見当たらなかった。それこそ、どこかの妹命なシスコン兎が仕掛けでも

 しない限りね………。

 だけど、昔ならともかく今のそいつがそんなことをする可能性は低い。

 となると、人の考えを超えた何かが起きているのかもしれない。

 無論、何の証拠もない推測に過ぎないが、それでもISだけでは対応するのが厳しい

 ことが起きる可能性はある……。

 可能性があるなら、備えるべきだ」

「……いいだろ。お前の申し出を受けよう。責任は私がとる!

 各員、ただちに準備にかかれ!」

 

千冬の号令を皮切りに、全員が作業に入る。

その後、千冬は宇宙ファイターXと作戦を詳しく話し合い、内容が正式に決定した。

まず最初の作戦通りに一夏と箒で攻撃を仕掛る。

その後を追うように宇宙ファイターXがラウラを、

機体に高機動パッケージをインストールしたセシリアとシャルロットが、鈴と簪を

運搬し、一夏と箒が迎撃に失敗した場合、共闘できるようにする。

更に、一夏達だけでは落としきれない又はIS学園に襲撃を仕掛けてきた者達が

出てきた場合は宇宙ファイターXとその仲間も参戦することとなった。

 

「むぅぅぅ~~~。何で、この束さんがあんな奴の作戦に協力しないと

 いけないのさ~」

 

部屋から出て、箒達の機体を調整したりパッケージをインストールしながら

愚痴をこぼすが、その作業スピードは砂浜で見せたものと変わりなかった。

 

「まぁまぁ、束さん。

 文句なら終わった後に、いくらでも言えばいいじゃないですか」

「まあ、不確定要素を考えれば~?これが最善に近い作戦だけどさ~。

 でも、海か~。

 白騎士事件を思い出して、束さんはいい気分じゃないよ」

「……そうだな」

 

一夏になだめられるも束は嫌な思い出があるのか、渋い顔をして千冬も

似たような表情を浮かべる。

 

「全く世間もおバカさんばかりだよね~。

 私が、丹精込めて作ったISをよりにもよって兵器としか見ないんだからさ~。

 白騎士も、いろんな噂が流れているけど本当は超~超~超~~~弟大好きなブラコンで

 バストが八十……ふぎゃぁっ!」

 

ため息を零しながら、かなり重大なことを漏らそうとした束の頭に黒き宝剣(出席簿)

が振り下ろされた。心なしか、いつもより重そうな音が響いた。

 

「おしゃべりをしている暇があったら、さっさと作業を進めろ……」

「ううう~もう終わったよ~。

 頭が二つに割れたかも……」

「(普通に考えて、千冬姉だよな。白騎士って……)」

 

こうして、装備や高速飛行における注意点などの

準備を終えた彼らは宇宙ファイターX達との合流ポイントである

砂浜へと移動すると、そこには宇宙ファイターXとリュウガンオーが待っていた。

 

「来たね……。

 作戦を確認するよ?まずは、そっちが考えたように一夏と箒が

 先行し、私達がそれを追うように『銀の福音』へと向かう。

 二人が、迎撃に成功すればそれでよし。

 もし失敗したらあるいは、未知の敵が出てきたら私達も参戦する形となる。

 何か質問はあるかい?」

「あの……リュウガンオーはどうやって、行くんですか?」

 

宇宙ファイターXが作戦内容を確認して、質問があるかと聞くと

簪がリュウガンオーはどうするのかと尋ねた。

彼には、リュウケンドーのように飛行する手段などなかったはずだからだ。

 

「ああ、それは……」

「――ォォォン!」

「――アアアァァァ!」

 

リュウガンオー自身が説明しようとすると突然、獣のような声を聞こえ、

簪達は辺りを見回すと

空からデルタシャドウとそれに抱えられた狼のような“何か”が、降りてきた。

 

「バスターウルフ!」

「紹介しよう。俺達の頼れる相棒、デルタシャドウとバスターウルフだ。

 さあ、リュウガンオー」

「ああ。バスターウルフ、ビークルモード!」

「――ォォォン!」

 

リュウガンオーの声に従い、バスターウルフはブレイブレオンのように

その姿をバイクへと変形していき、その後部には翼のようなものが折りたたまれていた。

 

「こいつは、リュウガンオー専用の飛行装備だ。これで空中戦も対応できる」

「いつの間に、こんなのを……」

「カッコイイ……」

「あ、あの碓氷……じゃなくて宇宙ファイターX。わ、私も一夏のサポートを

 した方がいいのですか……?」

 

相棒の新しい力を自慢気に見せるリュウガンオーに、一夏は驚き簪は目を輝かせた。

そんな中、遠慮がちに箒は宇宙ファイターXに自分も戦うべきか尋ねる。

 

「……できたらね。だけど、今回は自分の身を守ることを最優先に考えて

 やった方がいい。その専用機を使っての戦闘は今回が初めてだから、極力

 戦闘は避けるように」

「わかりました……」

「織斑、聞こえるか?」

 

箒と宇宙ファイターXのやりとりを見ていた一夏に、千冬から

秘匿のやりとりに使われるプライベート・チャンネルで通信が入る。

 

「無理もないが、篠ノ之はかなり緊張しているようだ。

 できるだけ、サポートしてやれ」

「わかりました」

 

千冬からの懸念を受け取り一夏、鈴、ラウラ、簪はそれぞれ箒、セシリア、

宇宙ファイターX、シャルロットの背中へと乗る。

 

「よし――作戦開始!」

 

千冬の合図で、全員浮かび上がると一夏を乗せた箒が先行して飛び上がり、

他のメンバーを置いていくスピードで飛翔した。

 

「な、何よあのスピード!」

瞬間加速(イグニッション・ブースト)と同等以上に速い!」

「俺達、ちゃんと追いつけるんすかね……」

 

紅椿の性能に、鈴とシャルロットが驚愕しリュウガンオーは苦笑した。

 

「な~に、私達が追いついた時に全部終わっているなら、それに越したことはないさ。

 とにかく行くぞ!」

 

一夏達を追いかけるように、宇宙ファイターX達も飛翔した――

 

 

 

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認。

 一夏、一気に追いつくぞ!」

 

目標高度500メートルに到達し、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の位置を確認すると

箒は紅椿の展開装甲を稼働させ加速する。

その姿は、さながら紅い弾丸のようであった。

 

「(サンダーイーグルほどじゃないけど、かなり速い!

 でも、これだけのエネルギーを一体どこから……)」

「いたぞ!『銀の福音』だ、一夏!」

『(考えるのは、後だ!)』

「っ!!」

 

紅椿に疑問を感じた一夏は、箒とゲキリュウケンの言葉に意識を思考から引き戻す。

ハイパーセンサーで捉えた『銀の福音』の姿は、その名の通り銀色をしており、

その頭部からは一対の巨大な翼が生えていた。

資料によるとその翼は、『銀の福音』に搭載されたスラスターでありながら武器でもある

新システムであるらしい。

一夏は、『銀の福音』の姿を確認すると雪片弐型を呼び出し、射抜くような鋭い目をして

握りしめる。

 

「目標に接触するまで、後10秒!一夏!」

「ああ、わかっている」

 

箒は紅椿の出力を上げると、『銀の福音』との距離をどんどん縮めていくが、

一夏の視界はスローモーションになったかのように景色が映っていた。

零落白夜の一撃で決めるべく、一夏は感覚を研ぎ澄まし攻撃のタイミングを計る。

 

接触まで後5秒……4……3……2……1――

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

箒の背から飛び出すと一夏は、零落白夜を発動するのと同時に

瞬間加速を使って、『銀の福音』に接近し、雪片を抜刀術のように振り抜く。

加速した紅椿から飛び出した勢いに瞬間加速を合わせての高速攻撃。

指令室でモニターを見ていた教師達も、その場にいた箒も決まると思った一夏の攻撃は、

『銀の福音』の側面を通り過ぎて、空振りに終わる。

 

「何っ!?」

 

自分の攻撃を避けられて、驚きの声を上げる一夏だったが、それは避けられたことよりも

避けた“方法”に対してだった。

『銀の福音』は、一夏の攻撃が当たる直前に体を回転して、飛行コースをわずかにずらすことで

雪片の一太刀を文字通り紙一重で、回避したのだ。

一夏自身もTWリュウケンドーで、同じ回避の仕方をやったことはあるが、

こんな高速飛行下で相手の攻撃を見切って紙一重での回避は難しい。

 

“敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘』(シルバー・ベル)、稼働開始”

「!」

 

『銀の福音』は回避するや否や、一夏へとフルフェイスで覆われた顔を向けると

機械音声を発し、その翼を広げる。瞬間、一夏の背にゾクリと悪寒が走る。

 

「第一作戦失敗!第二作戦へ移行します!

 箒、援護を頼む!」

 

一夏は、その悪寒に自分と箒だけでは『銀の福音』の撃破はできないと直感し、

零落白夜を解除して宇宙ファイターX達第二陣が駆け付けるまでの時間稼ぎへと作戦を

移行する。

 

「わかった!はっ!」

“La……♪”

 

箒は雨月と空裂の攻撃を交互に行い、『銀の福音』はそれを先ほどのように

紙一重でかわしていくが、一瞬だけ体勢を崩す。

 

「三十六煩悩鳳(ポンドほう)!」

“La……!”

 

そこへ、一夏が飛ぶ斬撃を放つが『銀の福音』は翼から“弾丸”を放ち、煩悩鳳を相殺する。

更に、天使が落とした羽を思わせる“弾丸”は一発にとどまらず、次々と放たれる。

その羽が、ISのアーマーにかすると爆発して一夏を吹き飛ばして体勢を崩す。

 

「これは直撃したら、マズイな……。

 そんでもって……!」

 

一夏は体勢を立て直すと、弾丸の破壊力に目を見張り苦虫を噛み潰したような表情を

浮かべる。

『銀の福音』はそのまま、弾丸を雨のように連続で放ってきたからだ。

すぐさま、一夏と箒は回避行動に専念する。

一発でも当たれば、それを皮切りにそのまま弾丸の雨をその身で受けることになるだろう。

 

「くそっ……。箒、左右から同時に攻めるぞ!

 ……箒?」

 

一夏は箒と左右から接近して、少しでも弾幕を広げさせて回避できる隙間を

作ろうとするが、箒の様子がおかしいことに気付く。

 

「こ、このっ……!」

 

箒も一夏と同じく回避に専念していたが、その呼吸は大きく乱れひどく消耗していた。

何故、ここまで消耗してしまったのか?

第四世代である紅椿とその技術が組み込まれた白式に、リュウケンドーとして

戦ってきた一夏を相手にして、翻弄してくる『銀の福音』に箒は

シュヴァルツ・バイザーと戦った時の記憶が呼び起されているのだ。

あの時は、明の叱咤もあり直接刃を交えたわけではなかったが、今は自分の身に

ISを纏い戦っていることで、戦いの恐怖がダイレクトに箒に伝わり彼女の動きに

大きく影響を与えていた。

更に、白式と紅椿のハイパーセンサーが一つの影をキャッチした。

 

「なっ!船だと!」

「先生達が海上を封鎖したのに!?まさか、密漁船!」

『(マズイぞ、一夏!奴が!)』

 

一夏と箒が、海域に侵入してきた船に一瞬気を取られた隙を見逃さず、『銀の福音』

は翼の砲門を箒へと向ける。

いち早く気がついたゲキリュウケンが警告するも一足遅く、箒は

自身に裁きを下そうとする無慈悲な天使の姿に、体が硬直してしまう。

 

「あっ……あっ……」

「箒!」

 

一夏は『銀の福音』が箒へ攻撃した瞬間、最大出力で瞬間加速

を発動し、強引に紅椿と『銀の福音』の間に割って入る。

 

「このぉぉぉっ!!!」

 

エネルギーを消失させることができる零落白夜を発動し、盾となるも代償に白式の

シールドエネルギーはみるみる減っていく。

 

「(このままじゃ、本当にマズイ!

 だけど、何なんだコイツは!

 何でコイツからもうこんなことをしたくないって苦しみと

 もっと相手をいたぶりたい様な愉悦の――“二人分”の感情を感じるんだよ!)」

 

数秒が数十分にも感じる時間の中、一夏は焦りながらも

『銀の福音』から感じる感情に戸惑いを感じていた。

そもそもISには人格が存在すると言われており、人とISの二つの感情を感じるのは

おかしくないのだが、それでも『銀の福音』から感じる相反する真逆の感情に

一夏は困惑する。

 

“LaLa……!”

 

羽を羽ばたかせ攻撃していた『銀の福音』は、突如として攻撃を止め自身に向かってくる

ビームを回避する。

 

「お持たせしましたわ、一夏さん!」

「真打ち登場よ!」

「僕の一夏にこんなことをする奴は、OSIOKIだね♪」

「お兄ちゃんは、お姉ちゃんのではないのかシャルロット?」

「みんな、油断……しないで――」

 

第二作戦の要とも言える第二陣が、一夏達に追いつき『銀の福音』に攻撃を

行っていく。

一夏は、零落白夜を再び解除して船の方に目をやるとデルタシャドウに乗った

宇宙ファイターXと飛行できるようになったバスターウルフに乗るリュウガンオー

が向かっていた。

まずは、安全のために船の避難を行うようだ。

 

「船の方は、大丈夫みたいだな。それで、お前は大丈夫なのか箒?」

「す、すまない一夏……こんな無様な醜態を……っ!」

 

箒は震える体を抱きながら、悔しそうに唇を噛んだ。

 

「……戦えると思ったんだ……カズキさんに鍛えられて、姉さんから貰った

 この紅椿があればお前や明達のように戦えるかもと……でもできなかった!

 怖くて、体が動かなかったんだ!」

 

シュヴァルツ・バイザーは箒のことを明と同じく障害として認識はしていたが、

『銀の福音』は明確に倒すべき敵として攻撃をしてきた。

つまり、箒にとって今回が本当の意味で初めての“戦い”であり、戦いの恐怖に

呑まれてしまったのだ。

 

「――それって、別に普通だろ?」

 

涙を流しながら、心情を吐露する箒に一夏はあっけからんと答え、箒は

思わず呆ける。

 

「“戦いは怖いもので、怖いものを怖いって思うのは生き物として当たり前の感情。

 何も恥じることはない。そして、人間はその恐怖と戦う術を持っている生き物でもある”

 前にカズキさんに、そう教えられたよ。

 俺もな、箒。戦いの怖さを知って、何もできなかったことがあるんだ。

 運よく勝ち続けて、仲間がいたからなのにそれを自分が強くなったと勘違いして……。

 でも、本当に強い奴に負けそうになって怖いって思った。逃げ出したくなった。

 だけど、ここで逃げたら俺の後ろにあるものが無くなるってことにも気づいて、

 気がついたらそいつにがむしゃらに立ち向かっていたよ……」

 

一夏は穏やかな口調で、自らの失敗の経験を箒に話していく。

 

「難しく考える必要なんてないんだ。

 怖いなら逃げればいいし、戦うっていうなら信じればいい。

 一緒に戦ってくれる仲間達を」

 

一夏が指を指した方を見るとそこには、『銀の福音』に立ち向かう彼女達の姿があった。

 

「数には数……マルチ・ロックオン・システム作動……『山嵐』全弾発射……!」

 

簪は迫りくる弾丸に対し、自動追尾機能を搭載した四十八発のミサイルで迎撃する。

 

“防御は危険。回避します”

「喰らいなさい!」

 

『銀の鐘』の砲撃と『山嵐』がぶつかったことによる発せられた衝撃波を

防御するのは、困難と判断した『銀の福音』は回避行動をするが回避した先に、

鈴の不可視の弾丸、衝撃砲が放たれる。

しかし、『銀の福音』は衝撃砲が見えているかのようにアクロバティックな動きで

かわしていく。だが――

 

「捕らえたぞ!」

 

『銀の福音』は体が突然動かなくなり、声の方を見やると右手を突き出してAICを

発動させているラウラの姿を確認する。

AICの発動には、集中力が必要であり『銀の福音』のような機動特化した機体を

捕らえるのは困難であるが、ラウラは『銀の福音』が来るであろうという場所に

AICを発動させたのだ。

つまり、簪と鈴の連携はAICで動きを封じるための追い込みのものであったのだ。

 

「いくよ、セシリア!」

「ええ、撃ち抜きますわ!」

 

動きを止められた『銀の福音』に、シャルロットとセシリアのアサルトカノンと

大型レーザーライフルの射撃が襲い掛かる。

 

“La――!!!”

 

攻撃による煙の中からマシンボイスが聞こえたかと思うと、『銀の福音』は煙を

吹き飛ばすかのように一回転し、セシリア達に向かってその翼を広げる。

 

“『銀の鐘』最大稼働――!”

 

翼と一緒に両腕も広げ、『銀の福音』は一気に攻撃範囲を広げエネルギー弾を放ち、

セシリア達はたまらず回避か、防御に専念させられるも誰一人その目から闘志は

消えていなかった。

 

「すげぇよな。5人がかりとはいえ、俺達が押されていたのと

 戦えているよ。

 あんな、頼りになる仲間が一緒に戦ってくれるんだ。

 いけるか、箒?」

「……ああ!怖いけど、みんなと共にならこの恐怖とも戦える!」

 

震えが消えた箒と共に、一夏は仲間達の元へと飛翔する――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「俺達の出番は、無いみたいですね」

 

船を誘導するために近づいたリュウガンオーは、遠目に一夏達の動きを見て

肩の荷を下ろしたような声を出す。

 

「安心するのは、まだ早そうだぞ?この船……何かおかしい」

 

リュウガンオーをたしなめる宇宙ファイターXは、目の前の船に感じる違和感に

警戒を強めると船の甲板への扉が独りでに開き、中から“ナニ”かが姿を現した。

 

「何だよ、アレ……」

「コイツは……!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うぉぉぉぉぉっ!!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

一夏と箒は、先ほどやろうとした左右からの同時攻撃を行おうとしていた。

ジクザクに交差し、狙いを絞らせまいとするがならばとばかりに『銀の福音』は

再び『銀の鐘』による最大稼働攻撃を行う。

しかし、一夏と箒は迫るその攻撃を回避しようとも防御しようともしない。

何故なら、する必要が無いからだ。

 

「私達がいることもお忘れでなくて!」

「一夏と箒には、指一本触れさせないわよ!」

「二人は、僕たちが守る!」

「だから、遠慮なく行けぇぇぇ!」

「決めて……!」

 

『銀の福音』の攻撃は、セシリア達によって撃ち落とされたり防御されたりして、

二人に届くことはなかった。

これが、一夏が立てた作戦である。

白式のエネルギー残量を考えると、攻撃を行えるのは接近も含めてあと一回が限度。

それも一発も被弾しないという条件付きである。

ならば、防御を仲間達に任せて自分達は攻撃に専念するという、博打に出たのだ。

もちろん、彼女達からは反対された。

防御役が一つでもミスをすれば、それで終わってしまうのだが一夏は全員を信じている

と言い切り、この作戦が実行されたのだ。

普通なら、もしものことを考えて動きが鈍くなるが、彼女達は一夏に頼られたことにより

逆に心が燃えて、いつも以上の動きをしてみせ完璧に『銀の福音』の攻撃を防御してみせた。

 

「「これで、決める!」」

 

そして、紅椿の二刀と白式の零落白夜が『銀の福音』を切り裂き、海へと落ちていく。

 

ドォォォ――ン!!!!!

 

――その直後に、彼らの背後の海に巨大な水柱が立ち上った。

 

「全員、今すぐそこから離れろぉぉぉ!」

「ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「ドラゴンキャノン……発射!!!」

 

宇宙ファイターXが大声で落下していく『銀の福音』を助けようとする

一夏達に退避を伝えると、リュウガンオーはドラゴンキャノンを『銀の福音』に向けて放つ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

時は数分ほど巻き戻る。

 

船の甲板に現れたのは、ゲル状のようなものに口と鼻以外を覆われた人だった。

 

「た……たす……け……」

 

現れた人は、言葉を最後まで口にできなかった。

ゲル状の“何か”は口と鼻も覆い隠し、その人間を飲み込んだのだ。

 

「っ!こいつ!」

「待て……こいつはちょっとマズイかもしれない……」

 

リュウガンオーは、反射的にゲル状のスライムのようなものに攻撃しようとするが

宇宙ファイターXはそれを制する。

そして、見る見るうちに甲板の隙間やドアからスライムがワラワラと姿を現した。

 

「何だよコイツらは……」

「知性のない、ただ本能のまま獲物を捕食するタイプの魔物みたいだけど……

 全部で一つの存在だな、コレは。

 一匹一匹は、遣い魔レベルでも一つになることでその能力は飛躍的に上がる

 ……だとしたら、こいつらに指令を出している本体……核がいるはず……

 っ!!!」

 

宇宙ファイターXは船にはびこるスライムの正体を見破ると、ある考えに至り

ザンリュウジンを取り出し、アックスモードにするとその刃に風を纏わせ

斬撃を放ち、船を両断した。

 

「うおっ!?」

「リュウガンオー!一夏達が、『銀の福音』から離れたらドラゴンキャノンを

 『銀の福音』に撃て!あのスライムを操っていた奴は、おそらく『銀の福音』に

 取り憑いている!」

「ええっ!一体どういう……」

「説明は後だ!とにかく、今は……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

リュウガンオーが放ったドラゴンキャノンが『銀の福音』に命中すると思われた

瞬間、『銀の福音』は姿を消してドラゴンキャノンを回避した。

 

「ちっ!」

「消えた……!?」

 

あまりに突然のことに、リュウガンオーだけでなく一夏達も困惑し、宇宙ファイターX

の元へと集まる。

 

「一体何が……」

「あ~あ~せっかく、あと少しで何人か殺せたのにな~」

 

何の脈絡もなく、あどけない声が聞こえ、全員がその方向に顔を向ける。

そこにいたのは、少年だった。

金色の巻き毛に慈愛に満ちた笑みは、見る者が見れば畏怖を抱かせるだろう。

ただし、一夏達は瞬時に警戒に入った。

その少年は、ISを纏っているわけでも宇宙ファイターXやリュウガンオーのように

飛べる仲間に乗っていないのに宙に浮いているのだ。

 

「お前が、今回の事件を起こした張本人だな?

 あの船にいたスライムもお前が操っていたのなら、乗っていた人達はどうした?」

「ああ、全員餌になってもらったよ。

 全身に纏わりつくことで、自分が消化されて喰われていく様を数日間かけて

 たっぷり味わってもらったから、マイナスエネルギーも大量に手に入ったよ」

 

何でもないことのように、笑顔で述べる少年に先ほどのスライムを見ていない箒達でも

身の毛がよだつおぞましさを感じた。

 

「自分のために赤の他人が死んでいく……昔ならともかく、今の君は

 心が痛いんじゃな~い?」

「私のためって……手を下したのはお前だろうが」

「その傲慢さ……やはり君は生きてちゃいけないよ……。

 碓氷カズキィィィィィ!!!!!」

 

少年の挑発にのることなく静かに返す宇宙ファイターXに対して少年はこれでもかと

目を見開いて、ありったけの憎悪を込めて叫んだ。

 

 





バスターウルフによる飛行はWのハードタービュラーのように
後付け装備です。

宇宙ファイターXの参戦理由は無理やりすぎたかな(苦笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憎悪の翼


お待たせしました。
夏コミ前に投稿したかったのですが、残業続きで時間がとれず(汗)
オマケに会社の休みの都合で、一日目参加できなかったんですよね(苦笑)

シン・ゴジラをようやく見に行けましたがいろんな所で
エヴァを感じましたwww


「おいおい。

 私は、銀河の彼方からこの地球を守るためにやってきた流れ星、

 宇宙ファイターXだぞ?

 碓氷カズキのことを知らないわけでないが、彼と私は別人だ」

「あっ、いや、そういうのはもういいですから。

 あの変態と知り合いなら、何とかしてくださいよ~」

 

少年の憎悪が籠った言葉などどこ吹く風のように、とぼける宇宙ファイターXだったが

隣にいるリュウガンオーがツッコミを入れる。

 

「知り合いなわけないだろ?

 ……と言いたいけど、私に恨みがある奴なんて、心当たりがありすぎて

 見当がつかないなぁ~。

 大方、昔気に入らないから叩き潰した連中の生き残りとかそんなところだろ。

 ああ別に、教えてくれなくていいぞ?

 潰した奴らのことなんかいちいち覚えていないから」

「覚えていないだと……くくく。いいさ!

 我らの同志を意識することさえ、貴様には過ぎたこと!

 せめて、僕の名を刻み、地獄で貴様の罪を永遠に悔いるがいい!

 我が名は、ミール・マーセレ!我らが夢のために、怨敵碓氷カズキを打ち滅ぼさん!」

「――――っ!」

 

宇宙ファイターXの挑発じみたとぼけに、負けじと挑発する少年ミールが

最後の言葉を口にした瞬間、

宇宙ファイターXことカズキは仮面の下で目を見開いた。

 

――我らが夢のため――

 

それは決して、カズキが生涯忘れることがない言葉……かつてカズキの全てを壊し、

今のカズキを作ったという矛盾をはらんだ言葉である。

10になるかならないかの少年だったカズキの目の前で“ある男”が、傲慢に言い放ったのだ。

 

――全ての人々に光を――

 

「……なるほどなるほど……つまり、お前はご主人様のいる地獄に行きたいと

 ……そういうことか?」

 

顔を俯かせながら笑い出した宇宙ファイターXを見て、一夏達の背中に寒気が走った。

いつもの相手をからかうようなイタズラ小僧のような笑いではなく、狂気が混じった

笑いに生物としての本能が危険を知らせる。

 

「言っても無駄だがあえて言うぞ……先に奪ったのはお前達だろうが!

 嵐脚(ランキャク)!」

 

宇宙ファイターXが脚を振り抜いて巨大な鎌風をミールへ放つと、その体はたやすく切り裂かれ霧のように霧散する。

 

「き、消えたっ!?」

「まっ、当然幻だよな……」

 

最初からミールの姿が幻影だとわかっていた宇宙ファイターX以外の者は、キョロキョロと辺りを見回していると、どこからともなく彼の声が聞こえてきた。

 

「ふははははは!何故、僕が姿を見せたのかわかっていないようだね。

 それは、確実に貴様を殺せるからだよ!」

 

再びミールが姿を現すと、その横にぐったりしたように動かない『銀の福音』がいた。

 

「あの時、落ちるこのおもちゃを誰かが助けようとすれば、中に隠れていた僕が

 不意打ちで殺せたけど今は些細なことだ。

 さあ、見るがいい!咎人に裁きを下す、偉大なこの姿を!!!」

 

ミールは両手を広げて天を仰ぐと、その体は黒い煙となる。

それと同時に『銀の福音』に、ミールが召喚した

先ほどのスライムがいくつも纏わりつき、あっという間に

薄気味悪い黄緑色をした球体となる。

 

「あ、あれは!」

「シュヴァルツ・バイザーと同じ!」

「何が起きますの……?」

「はっ!いくら、スライムが合体したところで所詮スライムよ!」

「それより、操縦者の人がマズイよあれは!」

「いくら、絶対防御があるとはいえ……」

「うん。悪い予感しかしない……」

「というか、あいつひょっとして……」

 

黒い煙を見たことがある一夏と箒は驚愕し、リュウガンオーは信じられないものを

見たような声を漏らす。

 

「お前……人間捨てたな……?」

 

リュウガンオーの答えを肯定するかのように、宇宙ファイターXは吐き捨てるように

言葉を紡ぐ。

 

「そうさ。僕は、貴様が戦っている創生種とか言う奴らを利用して

 創生種になったのさ!これで、僕は人間の体では制御できなかったような力も

 制御できるようになった!

 ――加えて、この極上のマイナスエネルギーとおもちゃとはいえそれを

 増幅できるこれが手に入った今!僕に敵はない!」

「創生種になったって……そんなことできるのか?」

 

ミールの人間を止めたという言葉に信じられないと言葉を失う箒達と

同じく、一夏を無駄と思いつつも言葉を絞り出す。

 

「……別に人間を止めるというのは、珍しいことじゃない……。

 吸血鬼や狼男に噛まれると同じになるって聞くだろ?

 ……他にも超常の存在と契約して、人の身を超える……体を改造される……

 忌避すべき魔の存在と混じり合う……。

 世の中には、結構人間を止める術が満ちあふれているのさ」

 

何でもないことのように語る宇宙ファイターXに一夏とリュウガンオーも

箒達と同じく言葉を失う。

 

「おしゃべりは、もういいかい?」

 

ミールが問いかけると、『銀の福音』を包み込んだ球体は収縮し形を変え始め

元の『銀の福音』に近いシルエットとなっていく。

だが、体を覆うアーマーは銀色から輝きが失われたようになり、一夏達を苦しめた

天使のような純白の翼は5対の悪魔のような翼へと変貌を遂げる。

そして、フルフェイスのマスクには×のような装飾が現れた。

 

「さあ……碓氷カズキを断罪する、“ブラック・ゴスペル”の完成だ!」

 

シュヴァルツ・バイザーのように、黒い煙となったミールが『銀の福音』“だった”

ブラック・ゴスペルと同化すると10枚の翼を広げ、大気が震えるほどの威圧を放つ。

 

「……って、なんでスライムが堕天使というか魔王というか……

 そんなのにクラスチェンジするんだよ!」

「それはゲームとかの話だ。実際、あれは戦いやすい姿になっただけだ。

 後は、本人の意思が反映されている。

 問題なのは、あのスライムどもだ。

 一つになったことで、巨大なシステムを制御できるような回路を形成している。

 それこそ、純度の高いマイナスエネルギーを増幅しても

 制御できるほどの……」

 

リュウガンオーの叫びに、呆れ交じりのツッコミを入れる宇宙ファイターXだったが

その後の言葉は苦虫を噛んだものへと変わる。

 

「レグドと違って、僕は肉体も憑依させているからね。

 シュヴァルツ・バイザーよりも、強く僕の意志を反映させられるよ。

 まあ、万が一僕が倒されたら中のおもちゃの操縦者も死んじゃうけどね♪」

「……」

 

ゲームやテレビで悪役が使う常套手段を現実に目の前にして、

宇宙ファイターXだけでなく、一夏達も攻撃するのを躊躇する。

 

「……お前達は、撤退しろ。こいつの相手は、俺がする」

 

少し考える素振りをして、宇宙ファイターXは一夏達に指示を出すが、その内容は

信じられないものだった。

 

「全員、特に一夏と箒はさっきの戦いでほとんどエネルギーが残っていないだろ。

 そんな状態でこいつと戦うのは、危険を通り過ぎて無謀だ。

 リュウガンオーは、こいつらの護衛で一緒に離れろ」

 

誰かが反論する前に、正論を使って宇宙ファイターXは指示を飛ばす。

彼の言うように、現在この場で戦えるのは『銀の福音』と戦っておらず消耗していない

宇宙ファイターXとリュウガンオー、そしてリュウケンオドーへと変身できる一夏だけ

である。

だが、宇宙ファイターXは彼らも下がらせようとする。

 

「護衛って……あんなのと一人で、戦うつもりですか!?」

「ああ、あれは私がまいた種みたいだからね。私が決着をつける

 (それにまだリュウケンドーの正体を千冬ちゃんに知られるわけには、

 いかないからね)」

 

そう、ミールが現れたこと、『銀の福音』を異形へと変えたことは映像越しに千冬達がいる

作戦室にも伝わっており、あまりの想定外の事態に混乱していた。

宇宙ファイターXは、自分が原因だからだけでなくリュウケンドーの正体を

知られないためにも下がらせようとしているのだ。

 

「(というわけで、無茶に付き合ってもらうよ。ザンリュウジン?)」

『(何言ってるんだ。水臭いぜ、相棒)』

「そうはいかないよ!」

 

正体がバレることなど、お構いなしに助太刀するかもしれない一夏に

もう一言ぐらい言おうとしたところで、ブラック・ゴスペルはその翼から

『銀の鐘』(シルバー・ベル)のような攻撃を行う。

ただし、一発一発が『銀の鐘』(シルバー・ベル)の数倍はあり弾の数は単純に5倍である。

 

「「総員、散開!!!」」

 

いち早く気がついたラウラと宇宙ファイターXが、指示を出し全員攻撃を

避けていく。

 

「あ~こういう戦い方をするのね……」

「はっはっはっ!

 こいつらが、余程大事なようだな!

 どうする?こいつらを見捨てて、戦うかい?」

 

ミールことブラック・ゴスペルは、一夏達ごと宇宙ファイターXを抹殺する算段のようだ。

シールドエネルギーが残り少ない彼らに、一発でもブラック・ゴスペルの攻撃が

当たれば命の保証はできないだろう。

そんな彼らを狙えば、宇宙ファイターXは必ず助けに入るし自分の身が危なくなっても

一夏達を狙えば危機も回避できる。

 

「ほらほら、どうしたんだい?

 早くしないと、僕の中の人間は壊れちゃうかもよ?

 制御できるって言っても、負担がゼロじゃないから彼女にも手伝ってもらっているからね」

「こいつ、性格悪すぎだろ!」

 

自分の絶対的な優位を微塵も疑わないブラック・ゴスペルは、嘲笑いながら

挑発をし、一夏が怒りの声を上げる。

 

「(参ったな……本気でマズイぞこれは……。

 とにかくまずは、何とかして一夏達を逃がさないと、攻撃のしようがない。

 旅館の方は、ウェイブ達がいる分まだマシか……)」

 

ブラック・ゴスペルの攻撃を避けつつ一夏達のフォローをする宇宙ファイターXは、

手詰まりな現状に顔を険しくする一方で、旅館の護衛をウェイブ達に任せたことを

正解だったと感じていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いや、いくらなんでも舐めすぎでしょコイツら?」

「だな」

 

花月荘から少し離れた林の中で、クモの巣にかかったように糸で縛り上げられ

物言わぬ姿となった者達の骸の前で、ラバックとグランシャリオを纏ったウェイブが

呆れた声を上げていた。

 

「管理局の連中が新しい魔導実験のためにIS適正のある子を利用しようとしていて、

 学園から離れるこの臨海学校を狙ってさらいに来るかもだから、

 こうやって、護衛していたわけだけど……」

「無価値の存在に意味を与えてやるだの、魔法を使えない俺達をゴミ扱いするわ、

 怒りを通り越して呆れ果てるぜ……」

「まあ、そのバカさ加減でこっちは仕事が楽にできるからいいんだけどさ」

 

ラバックは、苦笑交じりに肩をすくめる。

自分達のことを格下だと舐めて勝手に油断してくれるのだから、これほど

倒しやすい敵はいないだろう。

 

「それにしても、こいつらのこの顔……自分達が負けるどころか、命を落とすなんて

 考えもしなかったって顔だな……」

 

ウェイブは、亡骸の信じられないという顔や苦しみに歪んだ顔の目を閉じていく。

 

「戦場に出れば、どんな力を持っていても生きるか死ぬかっていうのが

 ついて回るのに、危機感無さすぎだぜ。

 まっ、俺達に出会ったやつらはまだ運がいいよな。

 他のみんなはいろいろとエグイし、生き残った奴らも……」

「“あれ”だよな……」

 

二人は足元で、縛られ気絶している数人に憐みの視線を送ると

この任務をカズキから頼まれたことを思い返す。

カズキは、何人かは捕縛するように言いその後こう言ったのだ。

 

「捕まえた連中からいろいろと聞き出したり、持ち物から

 管理局の一員だということがわかれば、こちらから攻めることもできるようになる。

 頼むから、気絶とか捕縛とかぬるい手で来るなんてことはしないでくれよな?

 そうなればこっちが反撃しても、悪~いのは向こうだからやりたい放題攻め放題だ。

 くくく……」

 

笑いながら獲物を追い詰めるというドS全開の笑みを浮かべ、カズキは向こうが

邪魔をした自分達に攻撃してくれることを願っていた。

そうすれば、大義名分はこちらにいくらでも立てられるからだ。

 

 

 

「何だ、この程度か。つまらん……」

 

心底くだらないとばかりに、エスデスは一人海岸で自分の周りの氷を見ながら

吐き捨てるようにつぶやいた。

氷の中には、ラバックとウェイブが倒したのと同じ、管理局員が閉じ込められていた。

 

「この間の炎の剣を使う女や、あの男のような奴はそうはいないということか……。

 護衛といった守りの姿勢はやはり、私には合わんな……」

 

エスデスはそう言うと、指を鳴らして氷を砕きその場を後にした。

 

 

 

「葬る――」

「ぐあっ!」

「な、何だこれは!!!」

「た、助けてくれ!死にたくない!」

 

ラバックとウェイブがいるのとは違う場所でアカメは、次々と手に持つ

日本刀で管理局員を切り伏せていった。

斬られた者達は、バリアジャケットを着用しているにも関わらず

ケガを負ったことや傷口から広がる呪詛のような模様に恐怖し、助けを求めるも

一人また一人とその瞳から光が消えていく。

 

「うおらぁっ!」

「ぎゃあああっ!!!」

 

その傍らで、獣の耳や尾を生やしたレオーネが獅子の手のようになっている拳で

敵を殴り飛ばしていった。

 

「こんな美女に逝かされるんだ、十分いい思い出になっただろ?」

「二人ともお疲れ~」

「全く、口ほどにもないとはこのことね」

「案外簡単に、終わったな」

「うん。普段の訓練の方が、きつい」

「ごめんね、みんな。ほとんど役に立てなくて……」

 

大方の管理局員を倒すとアカメ、レオーネと共にタツミ達も一息つく。

 

「そんなことないっすよ、ボルスさん。

 ボルスさんが最初に攻撃したおかげで、敵を分断できたんですから」

「ははは……。でも、それを考えたのは私じゃなくてカズキ君なんだよね……」

「お~い、みんな~」

「遅いわよ、ラバック」

「ウェイブ、肝心なところで失敗しなかった?」

「どういう意味だよ、クロメ!」

 

アカメ達の元にラバックとウェイブが合流し、互いの状況を報告し合う。

 

「とりあえず、これで任務は完了か?」

「いや、増員や他の敵が襲ってくる可能性がある。

 もうしばらく、警戒した方がいいだろう」

「ははは、アカメは真面目だね~」

「そういう、ねえさんが能天気すぎなのでは?」

「あれ?」

「どうしたの、ラバック君?」

 

タツミ達が、敵の更なる襲撃に備えようとするとラバックの手袋が何かを察知する。

 

「糸に何か引っかかったけど……

 これ外からじゃない、旅館から誰か外に出たぞ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

自分達が旅館から抜け出したことを知られているとは夢にも思わない

なのは、フェイト、はやての三人は人目のつかない場所でバリアジャケットを展開し終えていた。

 

「まさか、オルガードさんがこの近くに来てるなんて……」

「それに包囲の準備ができているから、討伐に参加せよって……」

「気持ちはわかるで、二人とも……。

 この間の話を聞く限り、宇宙ファイターXやリュウケンドーは

 邪魔もしなければ、協力もしないみたいやけど動かないわけにはいかへん。

 今度こそ、何とか話をするんや!」

 

千冬に部屋に戻るよう言われた彼女達はしばらくしてから、通信が入り追跡に成功した

オルガードの討伐任務への参加を命じられたのだ。

最初はとまどっていたが、今度こそ話をと意気込み同室だったアリサとすずかに

抜け出すことへのごまかしを頼み、旅館を後にしたのである。

 

「う~ん……でも、マイスター。

 さっきの通信何で、クロノ艦長からではなかったんでしょうか?」

「それはね~?こうやって、君達をおびき出すためだよ」

「「「っ!!!?」」」

 

背後から突如として聞こえてきた声に、三人が振り向くと同時に空が薄暗くなる。

 

「結界!?」

「この結界はあなたが!それにおびき出したって、どういうこと!」

 

なのは、素早くレイジングハートを謎の声の主へと向ける。

彼女に続いて、フェイトとはやても戦闘態勢に入る。彼女達は、デバイスを握る手に

自然と力を入れていた。

何故なら、木の枝に腰かけこちらを見下ろす声の主の姿を見た途端、油断できないと

直感したのだ。

声の主は人の形をしていたが、その体は鱗で覆われており背には翼が生え、

顔はまるで竜の顔を人へと変えたようなものであった。

 

「よ……っと!初めまして♪

 僕の名前は、グムバ。君達が戦った鳥の魔物、ベムードを作った者達って言えば

 わかりやすいかな?」

 

木から飛び降りたグムバは、初めて会う友達の知り合いにあいさつするかのように

軽い感じでなのは達に話しかけてくる。

 

「それで質問だけど、どういうことも何も君達と遊ぶために

 さっきの通信は僕がしたんだよ。見事に騙されちゃったね~♪

 本当は魔弾戦士達と遊びたかったんだけど、レグド様との勝負に

 負けちゃったからね~。

 指示通り、君達は僕とちょっと遊んでもらうよ♪

 ちなみに、君達の拒否権はあんまり意味ないからね。

 この結界から出るには、僕を倒すしかないよ~」

「……だったら、遠慮なくそうします!

 ディバイン――――」

「ああ、それとね~この結界の中では……」

「――バスター!」

 

グムバの言葉に、ならば話は早いと言わんばかりになのはは自分の十八番の攻撃を

行うが、それは発射と同時に霧散してしまう。

 

「っ!?き、消えた……!?」

「このっ!」

 

今度は、フェイトが瞬間高速移動魔法のソニックムーブを使ってグムバの死角に

回り込み、バルディッシュを振り下ろすがその刃はグムバの体に当たる直前で

止まってしまう。

 

「な、なんや!何が起きとるんや!」

「ふふふ、せっかちだね~君達は。

 人の話は、最後まで聞こうね~。この結界は、ちょっと特殊でね。

 相手を傷つけるような暴力行為は、許されないのさ。

 つまり、君達の魔法じゃ僕を倒せないってこと♪」

 

イタズラに引っかかった相手に、ネタバレするかのようにグムバは楽しそうに話すが

なのは達は言葉を失う。

これでは、自分達が一方的にやられるだけではないかと。

 

「心配しなくても、大丈夫だよ。この結界の中にいる全員に、そのルールは適用

 されるから、僕も君達を傷つけることはできないんだよ。

 こんな風にね♪」

「っ!」

 

一瞬姿が消えたように見えたグムバは、はやての目の前に現れ手にした剣を

はやての心臓へと突き刺そうとしていたが、その動きはフェイトのように

止まっていた。

だがそんなことは、はやてにとって些細なことだった。

グムバの動きを彼女は捉えることができず、もしもこの結界がグムバの言ったような

ものでなかったら、はやては心臓をこのまま貫かれていただろう。

自分が直面していた死という現実に、頭が理解し始めるとはやての体に震えが走る。

 

「――とまあ、普通に戦ったら今みたいにすぐに決着がついちゃうからね~。

 それじゃあ、おもしろくないからここではゲームで勝負するんだよ♪」

「ふふ……♪

 私も混ぜてもらっていいかしら?」

 

互いに相手を攻撃できないのにどうするのかとグムバが説明しようとすると、

そこへ割って入る者が現れた。

 

「あれ~?リリス様じゃん?何で、こんなところに?」

「ふふふ♪ちょっ~と、私も遊びたくなってね♪」

「うおっ!何や、あのフェイトちゃんの恥ずかしいバリアジャケットよりも

 刺激的な格好をしとるお姉さんは!

 是非、その素敵なものをモミモミさせて!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!はやてちゃん!」

「恥ずかしいバリアジャケットって、どういうこと!」

 

どこぞの業界の女王様の恰好で現れたリリスに、はやてはいつもの病気とも言える癖が

出るが、なのはとフェイトからたしなめられる。

最もリリスもはやての言うように、フェイトのバリアジャケットの別形態や

ISスーツよりも露出が激しいので、大半の男がリリスの姿を見たらはやてのように

歓声を上げるだろう。

 

「まあ、別にレグドやあんたの邪魔をするつもりはないわ。

 私が遊びたいのは……」

「っ!?」

「この子だけだから♪」

 

リリスは、フェイトの背後に瞬時に回り込むとフェイトの足や腰に手を回す。

 

「それじゃ、私達は二人っきりで楽しんでくるから後はよ・ろ・し・く♪」

「待っt……」

 

なのはがフェイトに手を伸ばそうとするも、その手は空をきり

フェイトとリリスはその場から姿を消した。

 

「あ~あ~。あの人も勝手なんだから……」

「あんたら、フェイトちゃんをどこにやったんや!」

「さあ~ね~。これはリリス様が勝手にやったことだから、僕にとっても

 予想外なんだよね~。

 でも、僕に勝てたら知っているかもしれないレグド様っていう幹部に、

 連絡を取ってあげてもいいよ♪」

 

あまりに自分勝手な発言に残されたなのはとはやては、唇を噛みしめるが

自分達の力ではどうしようもなかった。

 

「それじゃあ、勝負するゲームは……」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くそっ!このままじゃ、じり貧だ!」

 

ブラック・ゴスペルとの戦闘が開始されて数分。

絶え間なく降り注ぐ破壊の雨に、一夏達は回避に専念せざるをえなく反撃の糸口を

掴めないでいた。

 

「調子にのりやがって、あの野郎~。バスターウルフ、スカイモード!」

「――ォォォン!」

 

リュウガンオーが声をかけるとバスターウルフから、後部の飛行ユニットが外れ

その体が左右に開く。

そして、飛行ユニットと共にリュウガンオーの背後へと装着される。

 

「これで、俺も空で自由に動けるぜ!

 ショットキー!発動!」

『ドラゴンショット!』」

 

空での機動力を手にしたリュウガンオーは、ブラック・ゴスペルの攻撃を避けながら次々と

ブラック・ゴスペルの攻撃を撃ち落としていく。

 

「ちょこざいな……!」

「余所見してていいのか?」

 

力の差も分からず、自分に刃向かってくることにブラック・ゴスペルが苛立つと

その隙を見逃すことなく、宇宙ファイターXはザンリュウジンを振るって風の斬撃で

ブラック・ゴスペルの翼を数枚斬りおとす。

 

「碓氷カズキィィィ!!!」

「うおぉぉぉ!」

『チェンジ!リュウケンドー!』

 

翼を切り落とされたことで、自分にある人質と言うアドバンテージを忘れてブラック・ゴスペルは

激昂し、宇宙ファイターXを睨み付け隙だらけとなる。

一夏は、白式に残されたエネルギーで最後の瞬間加速を行い、ブラック・ゴスペルとの間合いを詰めると白式を解除し、リュウケンドーへと変身する。

 

「――りゃあ!!!」

「くっ!足手まとい風情が!!!」

「あらよっと」

 

ゲキリュウケンをブラック・ゴスペルに振り下ろすも、その装甲にはじかれてしまう。

ブラック・ゴスペルも宿敵の荷物程度としか考えていなかった一夏達に、反撃されて

苛立ちがピークとなり、空中で無防備なリュウケンドーに拳を叩き込もうとするが

ザンリュウジンをアーチェリーモードーにした宇宙ファイターXの攻撃によって

空振りに終わる。

 

「――っと!」

「乗せてくれて、ありがとう!」

 

海へと落ちていくリュウケンドーをリュウガンオーが背中で、キャッチする。

 

「お前なぁ~、これでリュウケンドーの正体がバレちゃったじゃないか。

 一体、どうするんだ?」

 

リュウガンオーとリュウケンドーのコンビプレーに感心しつつも、宇宙ファイターXは

呆れた声を出す。

実際、この戦闘を見ていた教師陣はリュウケンドーの正体に驚きの声を上げ、

千冬は鋭い目で画面を睨み付けていた。

 

「そんなことを言ってられる相手じゃないでしょ、コイツは。

 そういうことは終わった後に、考えましょう」

「そうっすよ。俺達が力を合わせないと、勝ち目ないですよ!」

「わかったわかった……。とりあえず、一端撤退という方針はそのままで

 私達に奴を引き付けるぞ!」

『『「「おう!」」』』

「(全く……変わらないよな、こういう真っ直ぐなところは――)」

 

宇宙ファイターXは観念したように折れ、ブラック・ゴスペルへ連携攻撃を開始した。

 

「調子に……乗るなぁっ!!!!!」

 

切り裂かれたブラック・ゴスペルの翼はスライムへと戻ると、体へと吸収され再生し、

再びその翼から破壊の雨を降らせる。

しかし、今度は全員にではなく宇宙ファイターXとリュウケンドー、リュウガンオーに

集中している。

プライドを傷つけられたことで、目の前の敵しか映っていないようだ。

 

「さっきまでの余裕はどこ行ったんだ、コイツ?」

『大方、気にも留めなかった相手に攻撃されて、しかもそのせいで

 宇宙ファイターXに傷つけられたのが勘に触ったのだろう』

「何だよ、見た目通りのお子ちゃまだったのか」

『だが、そのおかげでこちらに攻撃の目が向いているのは好都合。

 せっかくの巨大なパワーも持て余しているようだ』

「人質がいるってことを忘れるなよ。あくまで目的は、こっちに引き付けることだ。

 彼女達が撤退できたら、私達も一端引くぞ」

「わかってますよ。さっきの攻撃でどれぐらいの硬さかは、分ったからな……

 月歩!」

「何だと!?」

 

リュウケンドーはリュウガンオーの背から飛び出すと、空にある足場を蹴るかのように

飛行し、ブラック・ゴスペルに接近し斬るというより殴り飛ばすように攻撃する。

 

「このまま一気に行くぜ!」

「今の内だ!撤退しろ!」

「「「「「「は、はい!」」」」」」

 

ブラック・ゴスペルの体勢が崩れた所をリュウガンオーと宇宙ファイターXが集中砲火を

浴びせ、箒達を逃がそうとする。

 

「GAAAAA――!!!!!」

 

怒りが頂点に達したのか、ブラック・ゴスペルは

最早言葉にならない叫びを上げて大気を震わせて、

リュウケンドー達を一瞬ひるませると、体の前に7つの暗黒の光弾を作り出す。

 

「吹っ飛べぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ブラック・ゴスペルは作り出した光弾を四方八方に、撃ち出す。

狙いも何もないその攻撃を、リュウケンドー達は辛うじて避けるがかわした光弾が

海に着弾すると先ほど、宇宙ファイターXが起こしたものよりも巨大な水柱が起こり

その衝撃で今度は、リュウケンドー達が吹き飛ばされる。

 

「くっ……かはっ!」

 

中でも、最も機体のエネルギーが少なかった箒は、今の衝撃で完全にエネルギーが切れて

しまい、無防備に近い状態になってしまう。そんな彼女に、残る光弾が目前に迫る。

 

「マズイ!」

「箒さん!」

「避けてっ!」

 

それを見ていたラウラ達が叫ぶも、距離がありすぎて助けに行くことができない。

 

「(死ぬのか……私は……?)」

 

逃れられない死に対し、箒はスローモーションの世界でどこか他人事のように

感じていた。極限状態になると、冷静ながらもどこか思考が抜けてしまうのかもしれない。

だが、箒はそんな世界から無理やり現実に引き戻される。

 

「箒ぃぃぃ!!!」

 

他の者より箒の近くにいたリュウケンドーは、月歩で彼女に近づくと

体当たりで彼女を突き飛ばし、光弾から救う。

――自分がその光弾の射線に入るという、代償に。

 

「い、ちか……?

 一夏ぁぁぁっっっ!!!!!」

 

防御する暇もなく、光弾をまともに受けてしまったリュウケンドーの体は凄まじい

爆発に包まれ、その中から砕かれたアーマーの欠片をまき散らしながら変身が解け、

一夏は海へと落ちていく。

敵を足止めするために、敢えてモードチェンジをしなかったのが裏目に出てしまった。

 

「もらったぁぁぁ!!!」

 

落下する一夏を見て、冷静さを取り戻したのかブラック・ゴスペルは一夏に

止めを刺そうとする。

 

「させるかぁっ!」

「この野郎!!!」

 

そんなことを宇宙ファイターXとリュウガンオーが許すはずもなく、

ザンリュウジンとゴウリュウガンブレードモードを振り下ろす。

 

 

 

「一夏っ!」

「一夏さん!」

「このっ!」

「一夏!」

「くっ、ダメだ!間に合わない!」

「最後まで……!」

 

海へと落ちていく一夏を箒達が助けようとするが、エネルギーが無いので速度が

出なかったり、距離が離れてとても間に合いそうになかった。

 

「一夏ぁぁぁ!!!」

 

もうダメだと、箒が涙を流しながら叫ぶと一筋の光が流れ星のように一夏に向かう。

 

 

 

そして、光が収まるとそこには一夏を脇に抱えた黒い鎧を纏った騎士、オルガードが

佇んでいた――。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

その時、花月荘近くの林でまた新たな侵入者が現れていた。

 

 




今回はいろいろと出しました。

ミールの登場と行動理由は、風の聖痕2巻を参考にしています。
ミールがカズキを許せない様に、カズキもまたミールが言う同志の
存在が許せませんでした。

“ブラック・ゴスペル”の姿は、デジモンフロンティアに登場した
ブラックセラフィモンを少しメカニカルにした感じです。

なのは達が出会ったグムバは、姿はマジレンジャーの冥府神ワイバーンで
性格は彼やウィザードのグレムリンのように狡猾で刹那的な快楽のために
全力で遊びます。
彼が展開した結界のモデルは、ACMA:GAMEの閉鎖空間で、この中では
敵味方関係なく相手を傷つけるようなことはできません。

バスターウルフ、スカイモードはまんま、仮面ライダーゴーストの
マシンフーディーです。
この作品で、リュウガンオーも飛べるようにしないとと考えて
思いついたのがこれだったのですが、先に同じようなものが
出てきて驚きましたwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

消せない闇――


いつもより時間がかかりましたが、何とかできました(苦笑)
しかし、あまり話は進まず(汗)
これから少しの間、月一ぐらいになるかもしれません。


何故だ――?

 

滅ぼされてしまった故郷のように青く美しい世界、地球。

地球で力を出し切れない理由が分かった私は、しばらく地球から離れることに

したが、何故か妙な胸騒ぎを覚えそれに従って地球に来てしまった。

そして、やってきた私の目に飛び込んできたのは、以前私と剣を交えた戦士、

リュウケンドーが仲間をかばい海へと落ちていく光景だった。

彼の鎧が消え、仮面に隠れていた顔を見た瞬間、私はリュウケンドーを

助けるべく動いていた……助ける理由も義理もないのに――。

復讐のためなら、世界が滅ぼうが誰が死のうがどうでもいいはずなのに、

何故私はこの少年を助けたのだ――――?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐっ……ええい!次から次に邪魔を!」

 

宇宙ファイターXとリュウガンオーの攻撃を両腕でガードし、そのままはじき返した

ブラック・ゴスペルは未だに宇宙ファイターXも

リュウガンオー達も抹殺することができず、仕留めたと思ったリュウケンドーも

予想外の救出が入ったことに苛立っていた。

 

「あれって、例の管理局襲撃者?何で一夏を助けてくれたんだ?」

「それを考えるのは、後にした方がいいぞ!」

「今度こそ――消えろ!」

 

オルガードが一夏を助けたことに、リュウガンオーも困惑するが

そこにブラック・ゴスペルは先ほどの暗黒の光弾を再び作り出し、今度は“的確”に

リュウガンオーと宇宙ファイターXを狙って攻撃する……。

オルガードの姿に固まっている箒達に向かって――。

 

「あの野郎っ!」

「ちっ!」

 

盛大に舌打ちしながら、リュウガンオーと宇宙ファイターXは最大速度で

一夏達の元に向かう。

 

「くそ!スカイモードは、機動力があってもスピードが!」

「これじゃあ、間に合わない……なら……剃(ソル)!そして、月歩!」

 

宇宙ファイターXは、デルタシャドウから飛び出すと空中を瞬間移動しているかのように

消えては現れるように移動し、光弾と一夏達の間に割り込む。

 

「嵐脚……乱(みだれ)!」

 

ザンリュウジンの斬撃に加えて無数の嵐脚を放つ宇宙ファイターXだったが、

光弾を相殺するには至らなかった。

 

「そこのお前。……こいつを頼む」

「えっ!?」

 

オルガードもまた、自分の近くにいた箒に一夏を預けると剣を抜き光弾を

切り裂いていった。

 

『(おい、カズキ!)』

「ぐっ!」

 

7つあった光弾のうち、オルガードと共に6つまでは防げた宇宙ファイターXだったが

最後に一つ残ってしまい、かわせば一夏を抱える箒や他の者達に当たってしまうため、

一夏と同様その身を楯代わりにして爆発にのまれる。

 

「あ~あ~、仮面が割れちまったよ……。俺まで正体バレちゃったなぁ~」

「いや、何でそんなピンピンしてるんですか?」

 

宇宙ファイターXが爆発の中から飛び出すとデルタシャドウが追いつき、その背に

着地する。宇宙ファイターXことカズキは、仮面は割れ服も所々

破れていたり血を流しているが、リュウガンオーが言うように

大したダメージを受けているようには見えなかった。

 

「攻撃が命中する瞬間、防御するのではなく風を操って衝撃を受け流したのか。

 やるな――」

 

オルガードは、光弾が当たる瞬間にとったカズキの行動に感心する。

 

「まだ、油断するのは早いみたいだよ?」

 

カズキがそう言うとオルガードとリュウガンオーが見たのは、三度暗黒の光弾を

放とうとするブラック・ゴスペルだった。

 

「今度こそ、消えろ!!!」

 

ブラック・ゴスペルの攻撃にリュウガンオーや箒達がそれぞれ防御や迎撃しようと

した瞬間、赤黒い光線がブラック・ゴスペルの後方から襲い掛かった。

 

「ガッ……!何だっ!」

「おおりぃあっ!」

 

背後からの攻撃を手をかざして障壁のようなものを展開して防ぐブラック・ゴスペル

だったが、体勢は悪く防いでいるところを更に上方から飛翔した青い何かに攻撃され

吹き飛ばされる。

 

「お待たせっ!」

「ジノ!」

「やれやれ。やっと来たか。

 でも、いきなりシュタルクハドロンはやりすぎじゃないのかアーニャ?」

「そのおかげで、敵の攻撃を防げたから結果オーライ」

「味方……?」

「――って!一夏の他にもISを動かせる男がいたの!?」

 

突然現れた援軍らしい二人に簪は呆然とし、あいさつ代わりに

一人は爽やかにもう一人は対照のようにどこかテンションは低いが、

遊び心を秘めたような声を上げて親指を立てる。

しかし、ブラック・ゴスペルを吹き飛ばした青と白の装甲に赤い翼の機体を

纏っているのは一夏と同じく男であり、そのことに鈴が驚愕の声を上げる。

 

「ちょっと、違うな。そもそもあの二人の機体はISじゃないんだ。

 まあ、それはここから帰れたら説明するよ」

「どいつもこいつ調子に乗りやがって……!」

「調子に乗っているのは、貴様だろ――」

 

吹き飛ばされたブラック・ゴスペルが、カズキ達を睨み付けると

刀のように鋭い声が耳に届く。

 

「誰だっ……GAAAAAっ!」

「しばらくおとなしくしてろ!」

 

ブラック・ゴスペルが声が聞こえた背後に振り向くと、相手を見つけるよりも前に

体に網がかかったと思うと、電流が流れその動きを止める。

それを行った左腕にロケットアンカーを、右腕に盾とライフルを複合した武器を

装備した黒いISを纏った明は、静かに怒りを燃やす。

 

「あ、明っ!?

 何で明が!それにあれって、専用機!」

「簡単なことさ、シャルロット。明は、ただ王子様の帰りをおとなしく

 待っているタイプのお姫様じゃないってことさ。

 普段は、一夏にからかわれ姿に目が行くけど、彼女もまた爪を隠している鷹でも

 ある。

 特殊なステルスシステムを搭載した強襲用IS“ブリッツ”。

 明との相性は、想像以上だな。

 とりあえず、いい加減この三文芝居の幕を閉じようか!」

 

カズキが、そう言うのと同時にブラック・ゴスペルは電流が流れる網を

引き剝がす。

 

「ジノ、近接格闘に持ち込んでこれ以上光弾を撃たせるな。

 明は中距離から援護!」

「わかった!」

「了解!」

 

ジノと呼ばれた金髪の青年は、ザンリュウジンと同じ斧剣を取り出すと『銀の福音』

以上の超高速機動でブラック・ゴスペルに斬りかかり、続くように明も

ビームライフルと杭状のロケット推進弾で牽制する。

 

「ちまちま……と!」

 

元から格闘が苦手なのか、ブラック・ゴスペルは倒されはしてないがジノの攻撃に

反応できず攻撃を受ける装甲に傷を増やしていく。

更に、死角を突いて明の援護射撃で動きを止めにかかるので戦闘は一夏達と一転して

一方的なものへとなっていった。

 

「アーニャ、奴の真下の海面を爆撃して水柱を上げろ」

「了解……全弾……発射――」

 

長めの髪を結い上げ、どこか達観したかのような少女アーニャは、その身に纏う

赤紫の鎧の全身からミサイルを放つ。

 

「ぬおっ!」

「何て、火力ですのっ!」

「しかも、先ほどの飛行を見る限り、機動力が低いというわけでもなさそうだ」

 

アーニャが放ったミサイルにより海面は爆発しそれによって生じた水柱に、

ブラック・ゴスペルは飲み込まれる。

その光景に、セシリアとラウラは息をのむ。

 

「仕上げだ、リュウガンオー!」

「おう!」

 

リュウガンオーはゴウリュウガンの後部に何かをセットする。

 

『二つの魔弾キーを同時に発動するために試作されたユニット。

 実験段階のため、何が起きるかは予測不能』

「それでも、やるしかない!」

 

リュウガンオーはファイナルキーとカズキが一夏から拝借したアクアキーを

差し込み、引き金を引く。

 

「いけぇぇぇ!!!」

 

リュウガンオーは発射の反動でひっくり返りながら吹き飛ぶが、発射された

ドラゴンキャノンは水色のエネルギーを螺旋状に纏いながら水柱に着弾し、

ブラック・ゴスペルごと水柱を凍らせていく。

 

「ちっ!こんな氷、すぐに壊しt……な、何だ!体が動かな……。

 お、お前まだ意識が――」

 

凍っていく水柱から脱出しようとしたブラック・ゴスペルだったが、突如として

動きに異変が現れ、そのまま凍った水柱に閉じ込められた。

 

「仕留めたのか?」

「いや、動きを封じただけだ。今は、撤退が優先だからね。

 態勢を立て直した第二ラウンドが、本番さ。

 それよりも、一夏を助けてくれたことに礼を言うよ、オルガード。

 俺達は急ぐから、これで失礼!

 箒、ジノに一夏を渡してくれ。

 この中で一番早いのは、エネルギーに余裕のあるジノのトリスタンだ」

「任せとけ!」

 

ブラック・ゴスペルの動きが封じられたのを確認すると、カズキは

オルガードに礼を言い、指示を出して未だ某全気味な者達と共にその場を後にした。

残されたオルガードは、凍った水柱を一目見やるとしばらく青く染まる空を見上げ、

姿を消した――――

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

花月荘に臨時で設置された作戦室では、重苦しい空気が流れていた。

部屋には、作戦に参加した専用機持ちの他に救援に来てくれたジノ、アーニャ、明、

変身を解いた弾そして、いつの間にか姿を消し再び現れた束に加え、

なのはとはやてがいてそれぞれが沈んだ表情を浮かべていた。

この二人は、一夏を抱えたジノ達が帰還した海岸にウェイブ達と共に

姿を見せたのだ。

傷だらけのユーノと共に……。

 

誰かが旅館から抜け出したのを察知したウェイブ達は、それを追跡していると

血を流しながらおぼつかない足取りのユーノと出会った。

レグドの襲撃を受けたユーノは、迎撃ではなく撤退を即決しレイジング・ガードナー

としての力を発動すると見せかけて、攻撃を受けた瞬間に転送魔法を発動させて地球へと逃亡したのだが、完全にはかわせずかなりの深手を負ってしまったのだ。

すぐに手当てをしようとするウェイブ達だったが、ユーノは微かに結界の気配を感知し

ケガを押してウェイブ達と共に気配を感じる場所へと向かった。

この時、ウェイブ達は旅館から抜け出してグムバの結界に囚われてしまった

なのは達を見失っており、それを聞いたユーノは抜け出したのは、なのは達でこの結界の中にいるのかもと考え制止するウェイブ達を振り切ってその結界に侵入して、

そこにいたなのはとはやてを救出した。

結界を解き姿を見せたグムバは、目的はある程度達したしおもしろいものも見れたから

今日はもういいやと言って、姿を消してその場での戦闘にはならなかったらしい。

ユーノはそこで力尽き“時空……管理局は……危……険だ”と言って、

気を失ってしまう。

 

その後、もう隠しておくのは無理だと判断したのか、カズキは弾に変身を解くように言い

鈴のようにジノを見て驚愕する者達の混乱をおさめて、全員に作戦室に集まる様に

伝えた。

一夏とユーノは、護衛のために戦力を分けるのを避けるために旅館の一室へと

運ばれて束の治療を受け、ウェイブ達は旅館の周りを再び警備している。

 

「それで?何から聞きたいのかな?」

「全部だ……お前が隠していることを全部話せ……。

 あのミールという輩が言っていたこと。

 高町達のことも、一夏と五反田がお前と共に戦っていたこと全部だ!」

 

部屋にいる者達の気持ちを代表するように、千冬は静かでいて有無を言わせない

剣幕で言葉を絞り出し、カズキを睨み付ける。

 

「そうだね……それじゃあ、何から説明するか……。

 まずは、俺達魔弾戦士のことかな?」

『そうなるな』

「だ、誰ですか!」

 

カズキの腕から聞こえてきた声に、真耶が驚きの声を上げる。

 

「今の声は、こいつさ」

『直接話すのは、初めてだな山田先生?

 俺の名は、ザンリュウジン。よろしく』

「そんでもって……」

『同じく、ゴウリュウガンだ』

 

カズキがザンリュウジンをみんなに見えるように机に置くとそれに続いて、

弾もゴウリュウガンを置く。

 

「こ、これってデバイス?」

「いや、違う。彼らは、魔弾龍。この地球を守ってきた守護者(ガーディアン)だ。

 この守護者(ガーディアン)である魔弾龍と共に戦う戦士が魔弾戦士……

 それが俺や弾、一夏だよ」

 

カズキの説明に、知らなかった面々の千冬達は目を丸くする。

そこからカズキは、楯無達に話したようにかつて戦ったジャマンガのことや

創生種のことを話していった。

 

「地球(ほし)を守る戦士、魔弾戦士か……大体のことはわかった。だが、なぜ――」

「このことを黙っていたのか?でしょ?」

 

ゆっくりと飲み込んで何とか理解しようとする千冬は、次の質問をカズキに

言い当てられ、黙り込む。

 

「理由は、単純なことさ。“心配をさせたくなかった”それだけだよ。

 後は……男の意地って奴かな?」

「男の意地……だと?」

 

苦笑いを浮かべて肩をすくませながら答えるカズキに、千冬は眉をひそめる。

 

「こんな危なくて怖いことを他の誰にも知ってほしくないし、

 味合わせたくないっていう、傲慢で自分勝手な考えだけど……

 残念ながらその男の意地に命をかけれない奴は男じゃないんでね……。

 分かってやってくれ」

「だから、いつも女は苦労するんですよね」

 

自虐気味に話すカズキに、明は諦めを感じさせるため息を吐いて呆れた声を出す。

 

「さてと……!少しだけ落ち着いたみたいだし、次のことを話す前に二人のことを

 紹介しておこうか」

「そう言えば、まだ自己紹介もしてなかったな」

「すっかり、忘れてるのかと思った……」

「あははは……」

 

ふと思い出したようにジノが手を叩き、アーニャが気だるそうに言うのを聞いて

弾は苦笑いを浮かべるのであった。

 

「俺は、ジノ・ヴァインベルグ。一夏達の協力者ってところかな?」

「アーニャ・アールストレイム。以下同文……」

「彼らは、ウェイブ達と同じく別世界の住人で使っているのはISじゃなくて、

 KNF(ナイトメアフレーム)と呼ばれるもので、リュウケンドーのように

 防衛のために作られたから男女関係なく使うことができるんだ」

「そういうことだったんですか……」

「別世界というのは、何のことだ?」

 

カズキの言葉に簪が納得の声を上げるが、そこにラウラが疑問の声を上げた。

 

「簡単に言うと、もしもの世界のことだ。もしもああだったら、こうだったらという

 世界が私達の世界の他に存在しているという考えだ。

 パラレルワールドとも言うな」

「そう、明の言うように世界は気づかないだけで無数に存在し

 普段は互いのことを知る由もないんだけど、たまに異世界を行き来できる技術が

 生まれたりすることもある。

 実際、俺もこの地球とは別の世界の出身で、なのはとはやてはそのたくさんの世界を

 一応守っている組織の所属なんだ」

「「ちょっ!?」」

 

ついでと言わんばかりに、自分達のことをバラされなのはとはやては驚愕する。

 

「この二人とフェイトは、時空管理局って世界を管理・維持する組織の一員で、

 今回は自分たちの基地を襲撃して、何故か一夏を助けたあの

 黒騎士オルガードとISについて調べるためにIS学園にやってきたんだよな?」

「……最初から知ってたんですね、うちらのこと」

 

よどみなくスラスラと述べるカズキに自分達は最初から、彼の掌にいたのだと

はやては降参した。

 

「まっ、俺達も管理局のことを知ったのはユーノと出会った偶然からだけどね」

「ユーノ君と出会った?」

「たまたま、俺達が特訓のために行った世界でユーノが遺跡を調査していたんだ」

 

ユーノがカズキ達と顔見知りだと言う事実になのはは驚き、それに構わず弾は

説明を続ける。

 

「そして、これも偶然だったのかその遺跡に創生種の奴らが

 創った魔物が現れてユーノに襲い掛かって、それを助けたことが出会いのきっかけ

 だったんだ。

 そこから、互いのことを話して俺達は時空管理局のことを知ったんだ。

 聞いた瞬間に胡散臭い組織だとは、思ったけどね~」

「どういうことですか、胡散臭いって?

 確かにオルガードさんの話を聞くとあれですけど……でも!」

「理由はいろいろあるけど、その一つに権力が集中しすぎているんだよ」

 

カズキの言葉に反論するなのはだが、それをバッサリ斬るようにカズキが問題点

を述べる。

 

「時空管理局は地球で言う軍隊、警察、裁判所……この3つの権力を

 一か所に集中させている。

 だからこそ、たくさんの世界を管理できる巨大な組織であると言えるが、

 逆を言えばその中で犯罪が起きても、誰も気づけないし捕まえることも難しくなると

 言える……オルガードの世界を滅ぼした連中に指示を出した奴とかね……」

「「っ!?」」

「そこで、俺達は時空管理局を調べるためにユーノと協力関係を結ぶことにしたんだ。

 場合によっては、魔弾戦士のことを知って何かしらのアクションを

 起こすかもしれないからね。

 幸いにも彼は、情報という大きな武器を扱える部署にいたから

 情報戦は俺達に圧倒的に優位だったんだけど……」

『どうかしたのか?』

「さっき、ユーノが気を失う前に“時空管理局は危険だ”って言ったろ?

 そんなことは、俺達は既に知っているのに何で今さらそんなことを

 言ったのかが気になってね……。

 そもそも俺達が時空管理局のことを気になったのは、

 創生種の奴らが利用するのにうってつけの組織だからってこともあるんだ。

 いろんな世界に行けたりするからね……

 (まさか、考えられる最悪のパターンが当たっていたのか?)」

「それもいいけど……今はあのミールって奴をどうにかするのが先じゃないか?

 管理局のことはユーノが目を覚ましたら聞けばいいわけだし」

「後、敵に攫われたって子も……」

 

考え込むカズキに、今考えてもしょうがないとジノとアーニャが目の前の問題を

何とかしようと話を振る。

 

「そうだよな~。

 何とか凍らせて動きを封じたけど、どれくらい持つか分からないし……」

「あ~それね?

 今、衛星をハッキングして見てるんだけどあの氷の内部温度が

 どんどん高くなっているから、後3~4時間ぐらいで復活するんじゃないかな?」

「3、4時間か……それまでに準備をしないと……」

 

束の情報を聞いて、話の内容をブラック・ゴスペルの迎撃に移すとするカズキだったが

それに待ったをかける人物がいた。

 

「待て、カズキ。

 あのミールとやらが言っていたことの説明が、まだだぞ?

 このまま、有耶無耶にするつもりか?」

 

千冬の指摘に全員がハッ!と思い出したように気づいて、カズキの顔を見る。

 

「……はぁ~。やっぱり、ごまかせないか~。

 しょうがないね。でも、言っておくけどつまんない話だよ?」

「いいから、さっさと話せ」

 

上手く話しを誘導して、自分の過去を話すのを避けようとしたカズキだったが

千冬にあっさり看破され、観念して重たそうな口を開く。

 

「千冬ちゃんには、さっき言ったことを昔話したよね?

 俺が別世界からやってきて、この世界に来るまではある男への

 復讐のために生きてきたって」

「ああ。最初は信じられなかったがな……」

「えっ!?」

「千冬さんは、知っていたんですか!」

 

千冬が既にカズキが別世界の人間であることを知っていたことに、真耶と弾は

声を上げて驚く。

 

「ある男への復讐って……」

「その場にいたなのはとフェイトから聞いていると思うけど、俺も君達が

 追っているオルガードと同じく、故郷を滅ぼされて家族も友達も……

 命以外の全部をそいつに奪われたんだよ……」

 

カズキの言葉にまさかとばかりの声を出すはやてに、カズキは淡々とどこか

遠くを見るように自分の過去を話し始めた。

 

「それで、奪われた俺は今度はそいつから全てを奪うために

 力を求め、鍛え続けた。毎日血反吐は吐いたし、全身の骨で

 折れなかったところは探す方が難しいかな?

 そしてそいつに関わりのある人間とか組織を片っ端から、

 潰しまくって地獄に送ったから、

 ミールっていうガキはその生き残りってところだろ。

 あの連中は、相当しぶとい上にそいつのことを異常なまでに崇拝していたからな~。

 そいつらからしたら、自分達の主を地獄に送った俺の存在は許せないんだろ。

 ――俺があいつの存在を否定するようにな……」

「で、でも……そんな……復讐って……それじゃあ、その人と同じじゃないですか!」

「せや!そんなことしたって、碓氷先生の家族も友達も喜ばへん!

 先生ならそれぐらい、分るはずや!」

「奪われたから奪うって……そんなの絶対間違ってる!」

「間違っているから、何だい?」

 

悲痛な声を上げる真耶、はやて、なのはだったがカズキは少しも動じることなく

聞き返す。

 

「何だ……って、どういう……」

「同じになる?だから、あいつを許せばよかったと?

 喜ばない?

 当り前じゃないか、死んだら誰も喜ばないし、悲しまない……何も感じない。

 死は絶対の終わり……どんなに言いつくろたって、復讐は自分のための

 自己満足さ。

 間違っている?そんなことはわかりきっているし、知ったことじゃない。

 例え、あの時あいつがみんなの命を奪わなければ世界が

 滅んでいたとしても、俺があいつを許す理由にならない……。

 まあ、他にすることもなかったっていうのも理由の一つかな……?」

 

憤るでもなく悲しむわけでもなく、感情が籠っていない声で過去を語る

カズキにその場にいた全員が言葉を失う。

間違っている狂っていると言うのは簡単だが、カズキの心に

響かせることはできないだろう。

自分でも普通じゃないと理解していて狂った道を進んだ者に、言える言葉を

誰も見つけることができなかった。

 

「俺のつまんない過去話はこれぐらいにして、話を戻すけど

 次の戦いは、おそらく最初よりもきつくなる。

 銀の福音の意志が、完全に封じられるだろうからね」

『どういうことだよ?』

「あいつが戦闘に慣れていないとしても、自分のパワーに振り回されすぎだ。

 多分、銀の福音が抵抗していたからだ。

 現に最後の言葉は……」

『確かに意識がどうとかって……』

「だが、氷に閉じ込めたことで、支配する時間も与えてしまった。

 操縦者のことも考えると――。

 千冬ちゃん。ここからは、俺達だけで何とかするよ」

 

何事もなかったようにブラック・ゴスペルの迎撃を検討するカズキは、信じられない言葉を

放ち、周りを驚かせる。

 

「どういう意味だ……?」

「もう事態は、ISで対処できる範囲を超えつつある。

 こういう事態が起きた時、俺達魔弾戦士が対応を行うことは

 既に国の方とも秘密裏に話をつけてあるしね」

「い、いつの間に」

「ははは、流石カズキさん♪」

「抜け目なし……」

 

千冬が低い声で尋ねると、カズキはイタズラのネタばらしをするように口角を

上げていつもの笑みを浮かべ、弾達は苦笑したりおもしろいと笑みを浮かべる。

 

「……つまり私達では、足手まといということか?」

「そうじゃない。

 ここからは、本当に揺るがない――何があっても絶対に生き残るっていう

 決意をする必要がある。

 だから、俺は君達に一緒に戦ってくれとも危ないから戦うなとも言わない。

 ここから先、戦うか戦わないかは自分で考えて、自分の意志で決めてほしい……」

『へぇ~。一夏や弾は、戦いを止めろってボコボコにしたのに、

 どういう風の吹き回しだ?』

「彼女達は、もう一緒に何回か戦っているだけでなく、今回の戦いで

 俺達でも負けることがあるって知ったからね。

 後は、彼女達がどうしたいかさ。

 残る問題は、連れ去られたっていうフェイトだけど……」

 

足手まといだと言われたかと思ったら、自分達で戦うかどうかを決めてほしい

と言われ、困惑する箒達を置いてカズキはなのは達を襲ったグムバに話を移す。

 

「確か、その中だと互いに攻撃できないんだっけ?」

「……ええ。それで私達は、グムバっちゅう奴が仕掛けてきたゲームで

 勝負したんですが……」

 

弾の疑問にはやては結界の中で、起きたことを話していった。

グムバは、いつも自分がやっているゲームじゃ勝手が違いすぎて

なのはとはやてが不利すぎるからと人間のゲームで勝負をしてきたのだ。

完全な上から目線の余裕に、拳を握りしめて悔しがる二人だったがどうすることも

できなかった。

ゲームは、ゲームの世界に入ったように現実と変わらないリアリティで行われたらしい。

格闘、レース、シューティング、クイズ、様々なゲームで勝負したが

どのゲームもグムバはやりこみが半端なレベルではなく、ゲームは上手いレベル程度の

なのはとはやては相手にならず、時間だけが過ぎていった。

 

「そんな時、ユーノ君が現れて私達二人と自分を……

 この間の戦いでレイジング・ガードナーが見せた結界

 で囲むと転送魔法で逃げたんです……。

 そんで、ユーノ君が着とったのは、レイジング・ガードナーの服やった……」

「ユーノ君が、レイジング・ガードナー……なんですね」

 

顔を俯かせて二人はフェイトを連れ去られた時やグムバと戦った時以上に、

拳を握りしめた。

 

「あれ?でも、その結界って転送とかできないんじゃ……」

「多分、ユーノは結界術を使って敵の結界から、自分が干渉できる

 空間を切り取ったんだ。結界術の中を別の空間と見たててね。

 普通はそんなことできないんだけど……」

「ユーノも天才……」

 

ジノの問いかけにカズキが推測でユーノがやったことを述べると、

アーニャがゲーム機のようなカメラをいじりながら、的確な言葉を発する。

 

『まずは、そのグムバを探さないとフェイトを助けようがないか』

「いや、その心配はないよザンリュウ。

 奴はまだ近くにいる」

『なんで、そんなことわかるんだよ?』

「話を聞く限り、こいつは俺達とゲームをしたがっている。

 それにフェイトを助けるには、俺達はこいつに接触するしかないことを

 見抜いているだろうから、必ず俺達が自分の前に現れるのを確信しているだろう。

 どうやって、自分を攻略してくるのかをワクワクしながらな……。

 幸いなのは、この手の相手は自分で決めたゲームで勝負がつけば約束は

 守るってことかな?」

『ああ~。お前もそういうの好きだから似た者同士で、わかるのか~』

 

ザンリュウジンが納得したという声を上げると、カズキは数秒間笑顔で動きを止めると

机の上のザンリュウジンに手を伸ばし、握り潰そうとする。

 

『アダダダダダ!!!』

「問題なのは、誰が行くかだな。

 戦闘力はハッキリ言って、意味がない。俺が行ければ、いいけど

 海の方に行かないといけないからな……」

「ルルーシュは?あいつすっげぇ~頭いいし、何とかなるんじゃ!」

「弾の言うようにそれも一つの手だけど、

 あいつは想定外のことに弱いところがあるからな~。

 もう少し、臨機応変に対応できる奴が……」

「僕が行きますよ――」

 

ザンリュウジンの悲鳴を華麗なまでにスルーして、グムバにどう対処するか

悩んでいると、ふすまを開けて包帯を巻いたユーノが姿を見せた――。

 

 

 

 





今回は、最後の方にてこずりました(汗)
一夏達の危機に、新たな助っ人としてジノとアーニャに来てもらいました。
それぞれの愛機をISのように纏っております。
明もISを纏って参戦。
忍者のような姿を考えていたので、ブリッツガンダムを選びました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貫く意地


最新話、できました。
新仮面ライダーや新規アニメに、気温の低下。
季節の変わり目を感じるこの頃です。
でも、残業は本当に何とかならないかな(涙)



「あれ?ここは……」

 

一夏は、当たり一面真っ白な空間に立っていた。

 

「なんだよ、ここは?確か俺はブラック・ゴスペルの攻撃を受けて……。

 なあ、ゲキリュウケン。一体何が……」

 

何が起きたのか、一夏は自身が覚えている最後の記憶をたどり相棒に

声をかけるが、そこであることに気がつく。

 

「ゲキリュウケンがいない!?

 そ、それに俺ISスーツを着てたのに何で制服なんだ!って、うわっ!?」

 

事態は考えていたよりもマズイのかもしれないと、察した一夏だったが

突如としてその視界は眩い光に包まれた。

 

“ほ~ら、○○~♪お前の○だぞ~”

“ふふ、これで今日から○○も○○ちゃんね♪”

“お父さん!お母さん!こんなちっちゃい手なのに、一生懸命私の手を握ってくる!“

 

光が収まると、先ほどの真っ白な空間とは違うどこまでも広がる青空と砂浜の上に

一夏は立っていた。

 

「い、今のは……」

 

息つく暇もなく展開される光景に、一夏はパニックになりそうになるが

一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 

「慌てるな……どうなっているかわからないけど、

 ここはあの世ってわけでもなさそうだから、俺は死んだってわけでもなさそうだ。

 ……とりあえず、歩いてみるか。

 それにしても、さっき一瞬見えたのは何だったんだ?

 見えたのは病室で、すっごく嬉しそうな家族だったけど……

 弟か妹でも生まれた場面だったのかな?」

 

現状を確認するために、歩き出す一夏だったがこの時見た光景が

彼にとって重大な意味があったのを知るのは、まだ先のことである――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ユーノ君!」

「目が覚めたんか!」

「って、そんな体で何してんだよ重症人!」

 

作戦室に姿を見せたユーノに、驚きと喜びが混じった声を上げるなのはとはやてだったが

弾の指摘に、ユーノがどういう状態なのかに気がつく。

直後、ふらつく体がとても戦えないことを物語っていた。

 

「無理するな、ユーノ。そこの天才(笑)の治療を受けたとはいえ、

 一夏以上に傷を負っているだろ」

「そんなことは、言われなくても……わかっていますよ……。

 でも、カズキさんだってわかっているでしょ?

 ルルーシュを呼ぶにしても、時間がない上にカズキさんもブラック・ゴスペルの

 相手をしなくちゃいけないからウェイブ達もこの世界のゲームなんかできない……。

 ランさんなら、将棋とかできますけどこちらも呼ぶには時間がかかる。

 なら、奴の相手をできるのは消去法で僕しかいないことを……」

「……」

 

ユーノの言葉に、カズキは黙り込む。ユーノの言うように今回現れたグムバは、

正面からこちらとぶつかろうとしない敵であり、しかもグムバが本来得意としている

ゲームは普通のものではない特殊なものらしい。

強いか弱いかではなく相性として

現在この場にいてそのゲームで挑まれても対応できそうなのは、

カズキの他にはユーノしかいなかった。

 

「あなたや他の皆が何を言おうと、僕は行きますよ。

 僕の意地にも関係していることなんで……。

 ここで踏ん張らないと、あなた達と出会ったことの全てが意味の無いもの

 になってしまう――」

 

拳を寸止めした風圧でも、吹き飛ばせそうな状態にも関わらず

迷いも怯えも感じさせない決意を宿したユーノの目を見て、カズキはやれやれとばかりに

肩をすくませる。

 

「こりゃあ、梃子でも動かなさそうだね~。

 噂だとなのはもこうと決めたら、頑固なところがあるって聞くけど

 師匠譲りだったのかな?」

「頑固って、何ですか!」

「なのはちゃんは、もうちょい自分の事を自覚したほうがええよ?

 いろいろと」

 

なのはのある意味、一夏と同じ鈍感属性にはやてがツッコミを入れているのを

聞きながら、カズキは苦笑する顔を引き締めるとユーノに向き直る。

 

「そこまで、意志を固めているならこれ以上何か言うのは野暮だな。

 だけど、一人で行くのだけはとても見過ごせないから何人かは一緒に

 行ってもらうぞ」

「わかりました」

「ユーノ君!?」

「本当にそんな体で行く気かい!」

「なのはもはやても心配してくれてありがとう。

 でも、二人をグムバと……創生種と戦わせるわけにはいかないんだ……」

「それが、お前が言った“管理局は危険だ”の理由が関わってくるのかい?」

「ええ。僕が手にした情報が確かならなのは達は……

 魔導士は奴らに勝てません――」

 

ユーノのためらいながらも意を決した言葉に、二人は息をのむ。

 

「ど、どういうことや?魔導士は勝てへんって……」

「そうだよ!た、確かに鳥さんには歯が立たなかったし、グムバとは

 戦いにならなかったけど……でも!」

「違うんだ、なのは。これは、そういう戦える戦えないのレベルの話

 じゃないんだ……」

「確かに、俺達と魔導士じゃ戦いの捉え方に差があるけど、

 経験でどうにかならないのか?

 実際、俺達は鈴達のことをかなり頼りにしているぜ?」

 

はやてとなのはの悲痛な叫びと弾の疑問の声にもユーノは首を横に振って、否定する。

 

「残念だけど、魔導士には隠された秘密があったんだ。

 創生種には絶対勝つことができない秘密が――」

 

はやてとなのはに負け劣らずユーノも辛そうな顔で、言葉を紡ぐ。

 

「今はこれ以上混乱させたくないから、奴らに勝って……フェイトを

 助け出したら一緒に説明するよ」

「今教えて……」

「待て、なのは」

 

なのはが追及しようとするがカズキが止めに入る。

 

「ユーノは何もお前とはやてを信用してないわけじゃない……。

 むしろ、逆だ。

 俺が千冬や一夏達のことを信じているように、ユーノも君達のことを

 誰よりも信用しているし、信頼もしている。

 だけど、魔導士が創生種に勝てない秘密って言うのは、その信頼が

 あってもヤバイものなんだろ?」

「はい。以前、カズキさんが推察して調べていたこと以上のものです。

 魔導士が奴らに勝つには、それに備えて造られた、あの新型デバイス

 を使わないと無理です」

「お前がそう言い切るってことは、本当にヤバイようだね……。

 わかった。

 グムバの件とフェイトを助けるのはお前に、任せる。

 福音ことブラック・ゴスペルの迎撃作戦会議には、ジノとアーニャ、

 それに天才(笑)にも参加してもらうとして、他のメンバーはひとまず

 体を休めてくれ。いいかい、千冬ちゃん?天才(笑)?」

「……ああ」

「けっ!とりあえず、聞いてやるよ。変態宇宙人」

 

千冬と束がそれぞれの返事をすると、何故自分達だけ除け者にされるのか弾や明達が

反論するよりも先に、カズキが口を開く。

 

「お前達は、福音とブラック・ゴスペルの連戦をしているんだ。

 体力も機体も想像以上に消耗している。弾もな。

 作戦とか小難しいのは、俺達に任せて休める内に休でおけ。

 いざという時のためにね……。

 それにさっき言ったことを考える時間が必要だろ?

 明には、他にやってもらいたいことがあるからそっちを任せたい」

「私にですか?」

 

自分も作戦会議に参加するとばかり思っていた明は、カズキの意外な指示に

首を傾げる。

 

「後ついでに判断材料の一つとして言っておくけど、俺はあの小僧を地獄に

 送るつもりだからね」

 

余りにも普通に告げたカズキの言葉に、全員が一瞬何を言ったのかわからず

呆けるが、頭がその言葉を理解していくと徐々に目を見開いていく。

 

「おい!カズキ!何を言って……!」

「言ったじゃないか、千冬ちゃん。

 あいつは俺に復讐に来たって。だったら、自分で蒔いた種は自分で狩らないとね……。

 それに、あの小僧は人間を止めて創生種になっているから、遠慮する必要もない」

「だ、だけど……そんな……」

 

相手は人間でなくなったから、問題ない……言いたいことはわかるが、簡単に

そう割り切れって言い切るカズキに、付き合いの長い千冬さえ戸惑いを隠せない。

最も動揺が表に出ている真耶が、途切れ途切れに言葉を絞り出すがそれを形に

することはできなかった。

 

「そもそも、あの小僧を含んだあいつを崇拝する連中は俺と同じように人間として

 いろいろぶっ壊れているんだよ。

 あいつらの目的は争いをなくして世界を平和にするってことらしいけど、

 自分達は世界の平和のために動いているから、そのために犠牲は出てもそれは

 平和のために仕方のないこと、必要なことだと何の疑いも持っていない。

 その上、平和をもたらそうとする自分達は、絶対の正義だとな思い込んでいるから、

 それを阻む者、邪魔する者は世界に仇なす者として排除するのに何のためらいもない。

 どこまで行っても分かり合えない平行線をたどるなら、どちらかが消えるしかないのさ」

 

どこまでも利己的でそれでいて正論なカズキの言葉に、このような極論な考えに

耐性を持っていない千冬達は完全に言葉を失ってしまう。

どちらが正義でどちらが悪と問われれば、どちらにも各々の正義がありどちらも悪

であると言えるだろう。

特に、同じように平和のため戦ってきたなのはとはやての動揺はひと際大きかった。

自分達と目的は同じはずなのに、真逆の道を進んで実現できると信じている者達が

存在している事実に大きな衝撃を受けていた。

 

「それじゃあ、作戦会議をするからさっき言ったメンバー以外は

 休憩してくれ。天才(笑)は解析の準備をちゃっちゃっとしてくれ」

「何、命令してるのさ?

 “大天才の束様、どうか哀れな私を手伝ってください。お願いします”じゃないの?」

「そっか……じゃあ、お前が大事にしている……

 毎年作っている等身大箒フィギュアや、箒を思って書いたポエム、一夏くん人形の

 ような箒ちゃん人形、着ていた服等々をコレクションしている

 お宝部屋の存在と場所を箒に教えてもいいのかな?

 そんなものがあると知ったら、抹消しようとするだろうな~」

「な、なんで束さんのトップシークレットを!!!

 卑怯だぞ、お前!人の宝物を人質(?)にするなんて!」

「バラされたくなかったら、馬車馬の如くキリキリ手伝え。

 天才(笑)」

「キィィィィィ――!!!!!」

 

他人の落胆など意に介さず自分のペースで進む二人のやりとりを耳にしながら

弾達は作戦室を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

カズキから休息を取る様に言われて作戦室を退出した後、明は真っ直ぐ

にどこかへ向かうと、なのはとはやてを除く全員が後に続いた。

これからどうするのかと相談しようとした矢先に、行動を起こしたので

何をと思ったが、目的はすぐにわかった。

明が向かったのは、一夏が眠る部屋だったのだ。

一夏の体は至る所に包帯が巻かれ、その枕元には物言わぬ状態となった

ゲキリュウケンが置かれていた。

 

「…………ばか――」

 

立ったまま横たわる一夏を見ていた明は、何かを堪えるように顔を歪めて

短く一言呟き、そのまま俯きその場から動こうとしなかった。

そんな一夏と明を見て鈴、セシリアは見てられないとばかりに顔を背け

見ることも耐えられなかったシャルロット、簪は部屋を飛び出した。

 

「――くっ!」

 

それに続くように箒も逃げるように、部屋から走り出した。

 

「――っし!ラウラ、一緒に来てくれ」

「えっ?な、なにを……」

 

そして、弾は眠る一夏を見て何かを決心したのかどうすればいいのか

わからずオロオロしているラウラを連れてどこかへと向かった。

 

 

 

箒は砂浜に立ちながら、沈む夕日で赤く染まっていく海を漠然として眺めていた。

手首にある待機状態の紅椿を握りしめながら――。

 

「私の……私のせいだ……!」

 

一夏が自分をかばったせいで、重傷を負ってしまった。

それだけでも、自分を許せないのに誰も箒を責めるたりしなかったのが余計に

彼女を苦しめていた。

 

「私にはもう――」

「一緒に戦う資格はない……ですか?」

「明……?」

 

一人で自責の念にかられている箒の背後に、ISスーツのまま

どこか呆れた様子の明が姿を現した。

 

「わかりやすいぐらいに、落ち込んでいますね。

 それで?何で私や他の皆は、どうして自分を責めないのかと……」

「……っ!」

「では、聞きますがあなたを責めれば一夏のケガは今すぐ治るんですか?

 目を覚ますんですか?」

「…………」

「それに一夏がケガを負ったのは、彼が自分で下した決断の結果で、

 彼自身の責任であなたが気にすることではありません……」

「気にすることではないだと!

 お前に何がわかるんだ!一夏の隣にいて、一緒に戦うことができるお前が!」

 

明の言葉に、沈んでいた箒の心に火が付き明に掴みかかり今まで

溜め込んでいた思いをぶつける。

目の前の女は想い人と共に戦えるのに、自分は足手まとい……

どこかで気づいていながら気づかない様に目を背けていた事実に、知らず知らずのうちに

箒は嫉妬を思っていた以上に抱え込んでいたのだ。

そして、足手まといな自分は助けられて当たり前なのだと――。

 

「…………わかりますよ、あなたの気持ちは。

 何故ならさっきのは、私自身が一夏に言われたことなんですから……」

「えっ?」

 

予想外の明の言葉に、箒は力が抜ける。

 

「最初、私と一夏の仲はそれほどよくはありませんでした。

 戦士としての自覚は低く、それでいて負けん気だけは一人前。

 そんな時、たまたま私一人で敵と遭遇し戦う時がありました。

 すぐに一夏と弾が駆け付けてくれましたが、当時彼らに反発していた

 私は一人で戦おうとして、返り討ちにあいました。

 そして、そんな私を一夏がかばったのです。今回のように――」

「なっ!」

「幸い、今回のような重いケガではなかったので弾と力を合わせて

 敵を倒せました。

 その後、どうして私を助けたのかと聞いたら……

 

 “助けるのに、理由なんかあるわけないだろ?

 体が、勝手に動いたんだよ。

 それに、これは俺が自分で動いて自分で勝手にケガしたんだから

 俺の責任だ。

 勝手に人の責任を奪うなよな!”

 

 ――と」

 

開いた口がふさがらないとはこういうことを言うのだろうかと、箒は感じていた。

普段周りの者達に砂糖を吐かせている二人が、最初は仲が悪かったというのだけでも

信じられないのに、明がそんな無茶をしたとはとても信じられなかった。

 

「今思うと、私は天狗になっていたところがあったんですね。

 一夏と弾も未熟だったとはいえ、彼らなりの信念があったのに

 私はそれを見ようとせず彼らを下に見て、自分の力に慢心していた。

 無論、ケガをしたのは一夏の責任とはいえ私やあなたに全くの責任がない訳では

 ありません。

 だからこそ、今動かなければきっと後悔します。

 箒。あなたは今、何をしたいですか?」

 

まっすぐ、自分を見つめてくる明に箒は一度目を閉じてゆっくり開けると

その目には強い決意が宿っていた。

 

「私は戦う!世界なんて守れなくても一夏を……友達のお前の背中ぐらいは守りたい!」

「へぇ~。落ち込んでいると思ったらいい顔してるじゃない♪」

 

箒が自分の決意と思いを明にぶつけるとそこに、鈴が現れそれに続くように

セシリア、シャルロット、簪が姿を見せる。

 

「鈴!それに皆も!」

「落ち込んでいるあんたの背中を蹴飛ばすつもりで来たんだけど、

 どうやら余計な心配だったみたいね」

「そういう鈴や後ろの皆さんもさっきまで箒と似たような沈んだ顔をしていたのに、

 ずいぶん頼もしい顔をしているじゃないですか?」

「別に~。ただ、あたしはこのままやられっ放しなのが気にくわないだけよ」

「ええ、そうですわ。

 碓氷先生や明さん達が戦うというのに、じっとなどしていられませんわ!」

「うん。ここで何もしなかったら、ユーノって人が言ってたように

 僕達と一夏が出会ったことの全てが意味の無いものになっちゃう!」

「今度は私達が、意地を貫く番……!」

「カズキさんから、落ち込んでいるあなた達のフォローを頼まれたのですが

 要らぬお世話だったみたいですね。

 ……ですが、本当にいいんですね?

 これからの戦いは、勝つしか前に進む道が無くなるんですよ?」

 

自分の意志で立ち上がった彼女達に、明はこうなるとわかっていたかのような

笑みを浮かべると、その笑みを消して再び問いかけた。

 

「大丈夫だ、明」

「どんな敵が来ようとも!」

「必ず勝つだけよ!」

「皆と一緒なら!」

「立ち向かえる!」

 

拳を握りしめ、決意を口にする箒達に明は不敵な笑みを浮かべた。

 

「だったら、もう私は何も言いません……。

 一緒に行きましょう!

 ……ところで、ラウラはどうしたんですか?」

 

明が聞いてきたことで、彼女達はラウラがいないことに気付き辺りを見回した。

 

 

 

「スーさん、おかわり!」

「なあ、弾のお兄ちゃん?こんな時に、呑気にご飯を食べていていいのだろうか?」

 

弾とラウラは、海の家で食事をとっていた。どれだけ、食べたのか弾の前には

皿が山のように積み上がっていた。

 

「こんな時だからこそだぜ、ラウラ。

 腹が減ってちゃ、いざって時に力が出ないからな!

 心配しなくても、一夏なら大丈夫!

 俺は一夏との付き合いはお前達以上に長いんだぜ?

 あいつは、こんなことでくたばるような奴じゃないからな。

 必ず目を覚まして、立ち上がるさ!」

 

弾の話を聞いて、ラウラはうなずくとイザという時に備えて

自分も目の前の食事を取り始めた。

 

「――何、呑気に飯食ってんだあんたは!!!!!」

「ぼげぇぇぇ!!!?」

 

最もラウラと弾を探しにきた鈴のドロップキックによって弾は、蹴り飛ばされ、

戦いの前だというのにダメージを負ってしまった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「大方の作戦の流れは、こんなところか」

「あのオルガードについては……?」

 

作戦室では、ブラック・ゴスペルへの対抗策がほぼまとまり、

後は予想外の事態に対する対応へと話は移った。

 

『アーニャの言う通りだな。もしもあいつが戦いに、入ってきたらどうする?』

「その心配は、ないよ」

「何故だ?」

 

きっぱりと言い切るカズキに、千冬が疑問の声を上げた。

 

「あいつは、昔の俺と同じ復讐者だからね。

 そう言う奴は、目的以外のことは目に入らなくなる。

 例え、目の前で何人死のうが関係ないし助けようとも思わない」

「あれ、でもそれじゃ……」

「そう。だからこそ、オルガードが一夏を助けた理由がよくわからないんだ。

 余程の理由がない限り、復讐に走る奴は誰かを助けたりしない……」

 

ジノの指摘にカズキもまた頭を捻る。

実際、この中でカズキは最もオルガードの心情を理解し察することができるだろう。

そんなカズキでも、何故オルガードが一夏を助けたのかそもそも何故あの場に

現れたのかわからなかった。

 

「現れたのはたまたま偶然ってことでも、説明できるけど……」

『なあ。一夏がオルガードの弟と似ていたからってことはないか?』

「う~ん、難しいところだな……」

「とにかく!一応、頭に入れておくとしてそんなに心配する必要はないんだろ?」

「まあな……」

 

どこか釈然としないままだが、これ以上考えても今は時間が無いため

ジノの言葉にカズキは思考を中断する。

 

「僕の方も方針は固まりましたし、後は……」

「失礼します」

 

後は、細かく策を詰めていくところで明達が部屋のふすまを開けて入ってきた。

 

「どうした……って、聞くまでもないね。

 その顔を見ると全員、誰に言われるでもなく自分で決めたみたいだね」

 

最後に見た沈んだ顔ではなく、覚悟を決めた箒達の顔を見て

カズキはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、まずはジノとアーニャから作戦内容を聞いてくれ。

 俺はユーノと用があるから少し席を外すよ」

「僕にですか?」

 

ユーノがこんな時に何をと思うが、瞬間カズキは口を三日月のように歪めた笑みを

浮かべる。

 

「な~に。いくら天才(笑)の治療や治癒魔法をかけても、まだ動くには厳しいだろ?

 だから、俺が特製回復マッサージをしてやるのさ。

 これで多少体をだますことができる…………地獄の痛みと引き換えに……ね♪」

「へっ?」

 

指の関節をボキボキと鳴らしながら、心底楽しそうに笑うカズキにユーノは顔を

引きつらせる。

 

「じゃあ、俺達は隣の部屋でやってるからとりあえずどんな作戦かは

 頭に入れてね」

「ちょ、ちょっと!地獄の痛みって!」

「それじゃあ、逝こうか?」

「ま、待って!何か発音が……!」

 

ユーノの言葉には耳を傾けず彼の首根っこを掴んで引きずりながら、カズキは作戦室を

後にした。そして、一同が唖然としていると――

 

「&%$#“?@*!!!!!」

 

数秒後、声にならない悲鳴が彼らの耳に届いた。

 

「……さぁ~てと!じゃあ、作戦の説明をしようか」

「そ、そうだなジノ!」

 

冷や汗をかきながらジノと弾は、露骨に話を逸らした。

ユーノの悲鳴が聞こえないふりをしながら……。

 

「そう言えば……」

「どうしたのラウラ?」

 

全員がジノと弾に同意して、作戦内容を聞こうとすると

ラウラがふと何かを思い出したかのような声を上げ、シャルロットが声をかけた。

 

「なのはとはやての姿が見えないが、どうしたのだ?

 てっきり、来るのだと思っていたのだが……」

「確かに……あの二人がフェイトをさらわれたのに、大人しく待っているとは

 思えん」

 

ラウラの疑念に三人の仲をよく知る箒が、続くように疑念の声を上げる。

 

「ああ、あの二人なら多分……」

「OHANASI中……」

 

その疑念にジノとアーニャが答えるが、その発音の違いに明達は首を傾げるのだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「どうしたの?エースオブエースの実力はこんなもの?」

「嘘やろ……」

「し、信じられないですぅ~~~」

 

はやてとリインは、目の前の光景に我が目を疑っていた。

時空管理局でも指折りの実力者であるなのはが、自分達よりも年下の女の子に

苦戦しているのだ。

肩で息をして地面に手をついたなのはの消耗具合とは対照的に、髪を鈴と同じくツインテールに纏めた女の子……ティアナは、特に疲れた様子を見せることなく自身の

デバイスであるクロスミラージュを油断なく構える。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「…………」」

「はやてちゃん……なのはさん……」

 

作戦室を後にしたなのはとはやては海が見える岩場に来ると、無言のまま

立ち尽くし、リインは二人にかける言葉が見つからなかった。

 

「一体、何が正しいんやろうな……」

 

今まで自分達の力を正義のため、平和のために使おうと管理局で戦ってきたが、

オルガードの復讐、管理局に隠された裏の顔の一端、そしてカズキの話を聞いて

はやては自分達の根底が崩れていくのを実感していた。

例えぶつかっても、相手の思いを受け止め自分の思いを伝えればいつか

必ず分かり合うことができると信じて疑わなかった。

しかし、オルガードやカズキの思いをどう受け止めればいいのか、自分達は

何を伝えればいいのかはやては分からなかった。

彼らに正義はない……だが、彼らを悪だと言い切ることもできなかった。

 

「……はやてちゃん。私達もユーノ君と一緒に、フェイトちゃんを助けに行こう。

 このまま、じっとしてるなんてできないよ、やっぱり。

 管理局員としても、これは見過ごせ……」

「余計なことは、しないでくれない?」

 

うなだれるはやてに、なのはが自分達も行動しようと提案するがその顔は

箒達と違って迷いが見て取れた。

そこに割って入る声が現れた。

 

「誰!」

「カズキさん達の仲間って言えばわかる?」

 

なのは達の前に現れたのは、黒い管理局の制服のようなものを着た

ツインテールの少女、ティアナ・ランスターだった。

 

「いきなり、こっちに来てあなた達を見張れって言われた時は、何でって

 思ったけど、あなた達を見てその理由がわかったわ……。

 もし、今回の戦いに参戦したいって言うなら私が止めさせてもらうわ!」

 

ティアナはカズキの指令に疑問を浮かべていたが、その真意を察し

クロスミラージュを起動させ、着ていた服とは逆の白をメインカラーとした

バリアジャケットをまとい、クロスミラージュの銃口をなのはとはやてに向ける。

 

「止めるって……何で!」

「どういうことや!」

「何でもどうも、そのままの意味よ。

 はっきり言って今のあなた達が、戦いに加わっても完全な足手まとい、

 邪魔でしかないわ。

 一夏さんも倒れている以上、勝手に動かれて敵に捕まるとかされたら

 こっちも迷惑なの」

「くっ……!」

「足手……まとい……」

 

薄々感じて無意識に目を逸らしていた事実をキッパリと突き付けられて、

二人は顔をしかめる。

 

「何を言っているんですか!マイスターもなのはさんもSランクオーバーの魔導士で、

 いろんな事件を解決してきました!足手まといなんてことは、ありえません!

 あのグムバだって、あんな結界さえなければ!」

「Sランクオーバーだから……何?」

 

ティアナの言葉に我慢できなかったリインがそれを否定するが、

返ってきたのは、問いかけだった。

 

「魔導士だから、高ランクだから勝てるなんて考えているんだったら、

 それは大きな間違いよ。

 戦場には、こうすれば勝てるこれはしちゃいけないなんてルールはない。

 強くても負けることはあるし、命も落とすことはある……。

 それにあなた達が相手にしてきたのは、あくまで人間や人間が作ったモノとかでしょ?

 人間の常識を超えた存在に、どうやって勝つの?」

「だったら……このまま、指をくわえておとなしくしてろって言うの!」

「そうよ。そう言っているじゃない」

 

自分達より年下の女の子が臆することなく、言い切ってくるので

二人の顔はどんどん険しくなる。

 

「どうしても行くって言うなら、止めにかかる私を倒していくのね。

 言っておくけど、私は仲間内じゃ下から数えた方が早い実力だから

 そんな私を倒せないなら……」

「問題外ってわけやね……」

「はやてちゃん、下がって。私がやる!」

 

なのはがはやての前に出ると、一瞬光が包み込みバリアジャケットが展開される。

 

「自分達と同じ魔導士でせいぜいBランクレベルの魔力しかない私なら、

 一人で十分ってわけ?

 いいわ。今回は、魔導士の戦いに合わせてあげる。

 クロスミラージュ、訓練モードにモード変更!」

『了解!』

 

ティアナとなのは、互いの戦闘準備が整いデバイスに光が灯る――

 

 





束の秘密部屋ですが、似たような部屋を楯無も隠してます。
千冬は・・・想像にお任せします(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻惑の弾丸と星の光


まずは遅くなってすいません(汗)
最新話、やっとできました。
逆OHANASI、楽しんでもらえれば幸いです。

さて、冬コミの準備も進めなければ。


輝く太陽が空から消え、寡黙な月が静かに見守る夜が間もなく始まろうとする中、

その夜を照ら出さんとする光が溢れようとしている場所があった。

 

「八神はやてさん?戦いに参加しないって言うなら、せめて結界ぐらい

 張ってくれないかしら?こっちが張ったら、何か小細工したと思われても

 あれだし」

 

レイジングハートを構えるなのはに、同じくクロスミラージュを構えるティアナは

視線をなのはから外すことなく、その後ろにいるはやてに結界を張ることを促す。

だが、自分が負けることは絶対にないと言わんばかりの言葉に、なのはとはやては

顔をしかめる。

 

「(だぁぁぁ~~~~~!

 何言ってんのよ、私は!!!)」

 

顔をしかめた二人を見ても、一切表情を変えないティアナだったが内心では

頭を抱えて冷や汗をダラダラと流していた。

 

「(カズキさんから、大人しくしていろと言われて大人しくしているような

 二人じゃないから、首を突っ込むようなら力づくでも止めろって言われたけど、

 こんなの無理ゲーじゃない!

 相手は、顔に似合わない砲撃をバカスカ撃ちまくる管理局の白い悪魔なのよ!

 下手したら魔王になるかもしれないのに、凡人な私がどうやって止めるのよ~~~)」

 

にらみ合いが続く中、ティアナから何かを感じ取ったのか、

少しイラっとした感情がなのはに沸いた。

 

「(まあでも、絶対に勝てないってわけじゃない……。

 さっきのやり取りだけでも、勝算があるのはわかったし。

 こうなったら、腹を決めてとことんやってやろうじゃない!)

 それじゃあ、準備はいいかしら?

 後、一人でやるって言った以上はやてさんが手を出したりしたら、その時点で

 そっちの負けだからね」

「うん、わかった」

 

はやてとリインによって結界が張られ、あくまで一対一の勝負であることを決めると

一気に空気が張り詰める。

数秒かはたまた数分かの静寂が流れ、互いに構えたままだったが前触れもなく、

岩場が少し崩れて小石が海へと落ちる。

 

「アクセルシュ……!」

「っ!」

 

小石が落ちたのを合図に、なのはとティアナは戦闘を開始した。

ホーミング機能がある魔法で多方面から一気に攻めようとしたなのはに対して、

ティアナは地面に向かって攻撃を放ち、土煙を起こす。

いきなりの目くらましに、虚をつかれたなのはだったが、すぐに自分も地面に向かって

砲撃を放ち爆風で土煙を払う。

 

「ちょっ、なのはちゃん。煙を晴らすためにこれは……」

 

爆風から腕を前にして守ったはやてが文句を漏らすと、煙が晴れたそこにティアナの姿は

無かった。

 

「どこに!」

「こっちよ!」

 

姿を消したことへの疑問の回答は、その本人からすぐに返ってきた。

ティアナはクロスミラージュを構え、なのはの右側から攻撃を仕掛ける。

 

「くっ!」

 

奇襲じみた攻撃に対し、なのははほぼ反射的に防御魔法を発動しそれを防ぐ。

ティアナの攻撃の重さから、これなら自分の防御を破ることはできないと判断して

反撃をと思うなのはの脳裏に、一つの疑念が浮かぶ。

 

「(おかしい……。姿を消して、奇襲を仕掛けるつもりなら

 どうして自分から居場所を教えるようなことをしたの?)」

 

そう、死角からの攻撃は自分の居場所がわからないようにすることで、有用性が

上がるが、自分から居場所をバラすようなことをしては、有用性は半減してしまう。

 

「はぁぁぁっ!」

 

そんな疑念などお構いなしに、ティアナはなのはの右へ右へと回り込みながら

攻撃を続けていく。

 

「(どうして、一度は姿を隠したのにすぐにそれをバラしたのかぐらいは

 疑問に思ってくれたかしら?

 姿を隠し続けて、辺り一面を吹き飛ばすような攻撃をされでもしたら、

 それだけでこっちは一発アウト。

 だったら、こうやって相手に攻撃を“させない”様にした方がまだマシよ!)」

 

ティアナは動き回り、ひたすらに攻撃を続けながらも勝つための思考も並行して行っていた。

左利きのなのはに対して右から攻撃を続けることで、体を回してレイジングハートをこちらに

向けて狙いをつけるのに数瞬だが、時間はかかるように仕向けているのだ。

攻撃を行うために防御を解除し、レイジングハートを向けた瞬間。

自分の攻撃をなのはに通せる瞬間は、そこしかないとティアナは動きながら撃ち続けた。

 

「この子のデバイス、左右で攻撃方法が少し違う……!」

 

ティアナの攻撃を防ぐなのはも、目立ったダメージこそないが少しずつ確実に

魔力を消費していく現状に、焦りを感じ始めていた。

しかも、攻撃を防ぐうちにあることに気付いたのだ。

ティアナが構える2丁タイプのデバイスは、攻撃方法が異なっていた。

右手に握っている方は、威力は低いが連射性に優れ、左手の方は連射性が低いが

威力があるのだ。しかも、それ以上にティアナの射撃は正確だった。

動きながらの射撃にも関わらず、デバイスを握るこちらの左手を狙って撃っているのだ。

更に時に連射を、時に威力をメインに攻撃するなど、攻撃のリズムが読みにくくなっていた。

もしも、ダメージを覚悟の上で防御を解除してこちらから攻撃した瞬間、

左手に攻撃され、レイジングハートを取り落として集中砲火を受けてしまうかもしれない。

 

「だったら……レイジングハート!」

『All right。フラッシュムーブ』

 

なのはは、移動魔法を用いてティアナの攻撃を防御しつつ後方へと距離を取ると

そのまま上空へと移動した。

 

「空に!」

「もらった!アクセルシュータ!」

 

上を取った自分に狙いをつける暇を与えず、なのはは攻撃を仕掛ける。

 

「まだまだっ!クロスミラージュ!」

『任せろ。シールドビット、展開!』

 

ティアナは、クロスミラージュに指示を飛ばすと、彼女の周りに細長い六角形の盾のような

モノが現れ、縦横無尽に彼女の周りを動き回り、なのはの攻撃を次々と防いでいく。

 

「そんなっ!」

「ど、どうなっとるんや!」

 

シールドビットが防いでいく光景に、なのはとはやては驚愕の声を上げる。

何故なら、なのはの攻撃はシールドビットに当たった瞬間、まるで砂糖や塩が

飲み物に溶けるように霧散して、ダメージをほとんど与えられていないのだ。

 

「無駄よ。非殺傷設定の魔法じゃ、このシールドビットは壊せないわ。

 不安や恐怖を増大させてくる魔物達の精神攻撃に対抗するために、魔弾戦士の

 鎧は、その手の精神攻撃に強い耐性があるの。

 全く同じってわけじゃないけど、シールドビットはそれを参考にして

 作られているから精神攻撃の一種である非殺傷設定の攻撃は、効きにくいの……よ!」

「っ!」

 

なのはの攻撃が途切れた瞬間を狙って、今度はティアナの攻撃がなのはを襲う。

自分の攻撃が効かないことに呆然として、完全に虚を突かれてしまい、防御が

間に合わないなのはは飛行魔法をそれを駆使してかわしていく。

 

「は、はやてちゃん……」

「あかん……あの子、的確になのはちゃんの弱点を突いとる……」

 

一気に戦いの流れを傾けたティアナに、はやては焦りの声を上げる。

 

「なのはちゃんの魔法は砲撃がメインで、威力は抜群やけどその分、チャージに

 時間がかかる。

 チャージをさせる暇もできる体勢もできないように、ピンポイントで

 攻撃をしとる……」

「それに、変ですぅ!あんな正確な射撃をしながら、あの盾を飛び回すなんて、

 パンクしちゃいますよ!」

 

どんなにすごい攻撃でも撃てなければ、何の意味もない。

なのはも反撃をしているが、その攻撃はシールドビットに全て防がれてしまう。

はやては、相手は自分達が負けた魔物でもグムバのような人外でもない女の子が相手なら

楽に勝てると思った自身の考えの甘さを悔やむが同時にある疑問を感じる。

リインが言ったように、ティアナはシールドビットを飛びまわしながら、攻撃を

行っているのだ。

しかも、シールドビットは複数が固まって合体することで巨大になったりもしている。

動き回りながらピンポイントを狙う攻撃をするのと同時に、

シールドビットのようなものを飛び回すなどデバイスの補助があったとしても、

人間の許容処理能力を超えているのだ。

 

「あの子がデバイス並みの無茶苦茶な処理ができる天才なんか、

 持っているデバイスがとんでもないんか……」

 

その先をはやては、口にできなかった。

このままいけば勝敗は……。

 

「(やれやれ、事件の捜査は優秀とか言われているみたいだけど、物事の裏を見抜けない

 ようじゃ、この先生き残れないわよ!)」

 

ティアナは攻撃の手を緩めることなく、聞こえてきたはやての言葉に呆れ半分の

考えをもらす。

 

「(クロスミラージュがとんでもないデバイスっていうのは、正解だけど

 私自身は、ただ小手先の技を使うのが上手いだけのただの凡人。

 そんな凡人が一流の天才や規格外の怪物に勝つには、考えて考えて考え抜いて、

 手持ちの10%の力しかないカードを120%の力を発揮できるカードになるように切ること!)」

『(ティアナ。魔力バッテリーの残量が、間もなくレッドゾーンに入るぞ)』

 

自分がどこにでもいる凡人であることを認めながらも、ティアナは自分よりも

強い相手に勝つ手段を模索していた。

そこへクロスミラージュから、自分達の強みであるバッテリーの残量を知らされる。

 

「(予想よりも早かったわね……)」

『(これだけ、動き回って攻撃しているんだ。当然だろ。

 だが、それでも予想の範囲内だろ?)』

「(ええ。相手も私の攻撃スタイルやパターンが分かってきたころだし、

 そろそろ仕掛けるから、防御は任せるわよ!)」

『(存分にやってやれ!)』

 

はやては、ティアナがどうやって動き回りながら正確な攻撃をしてかつ、

防御の盾を飛びまわしているのか疑念を感じていたが、それは完全な間違いであった。

クロスミラージュは攻撃のサポートを“行っていない”のだ。

つまり、ティアナは完全に自身の技量だけで動き回りながら正確な射撃を行っている。

反対にシールドビットの制御はクロスミラージュが行っており、ティアナは何の指示も

出していない。

言葉にすると役割分担をすることで、実現しているということだが言葉にするほど

簡単なことではない。ティアナがどう動くか分かっていなければ、防御のタイミングを

合わせることなどできないし、逆にティアナの攻撃も阻害してしまいかねない。

そうならないのは、たゆまぬ訓練によって互いの呼吸というものを

完全に理解しているからに他ならない。

そして、ティアナは魔導士の中でも規格外に入る、Sランクオーバーのなのはに勝つための

策を切るタイミングを決断する。

 

「(この子の攻撃は本当に正確で、私が反射的に防御してしまうような所を

 狙ってくる!

 だけど、これだけの攻撃量と動き回って分の体力を考えると、あっちの方が

 私より消耗しているはずだから、チャンスはもうすぐ来るはず!)」

 

ティアナの予想外の攻撃と防御に押されていたなのはだったが、時間が経つにつれ

冷静さを取り戻し、戦況を分析していた。

実際、今はティアナが押しているように見えるがティアナの攻撃を防御して

消費されたなのはの魔力に対し、動き回って手数で攻撃しているティアナの方が

体力も魔力も大きく消費していた。内蔵されたバッテリーによって、

同ランクの魔導士より長い時間戦えるティアナだが、それでも体力の消費は

どうしようもなかった。

 

「(それに、攻撃のパターンも大体読めてきた。

 本命の攻撃が来るのは、連射の後。次に、連射が来た時が反撃の合図……来た!)」

 

見出した勝機の瞬間を待っていたなのはは、訪れたその瞬間に反撃を狙うが

ティアナの連射はなのはの防御魔法にぶつかると、霧のように消え去った。

 

「えっ!?きゃっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

驚きによってなのはの動きは一瞬止まってしまい、ティアナはその一瞬を逃さず

今までの攻撃の中でも最も早い攻撃を放ち、再びなのはの体勢を崩し自身の周りに

大量の魔力弾を創り出し、それをなのはに向かって一斉に放った。

 

「……このっ!」

 

体勢を崩されながらも、ダメージを最小限に抑えるべく一方向しか防御できないが、

その分防御力が高いラウンドシールドを正面に張るが、放たれた魔力弾は先ほどのように

ことごとくシールドにぶつかると霧のように消え去っていく。

 

「幻術魔法っ!こんな珍しい魔法を使うなんて!」

 

ティアナの使う魔法に、なのはは驚愕の表情を浮かべる。

幻術魔法の使い手は極めて珍しく、なのはも知識としてしか知らず、ましてや

戦闘はこれが初の経験である。

 

「だけど、幻だってわかればっ!」

 

幻であるなら、防ぐ必要はないとラウンドシールドを解除して自分の十八番である

砲撃魔法を放とうとするなのはだったが、シールドを解除した瞬間、彼女は衝撃によって

吹き飛ばされた。

 

「……ぐっ!い、今のは、幻術じゃない!?」

 

吹き飛ばされたなのはがティアナの顔を見ると、ニヤリと笑みを浮かべており、

再び大量の魔力弾を創り出し、なのはへと放った。

 

「っ!今度も幻術じゃない!」

 

なのはもまた再びラウンドシールドを張ると、先ほどと違い衝撃が次々と彼女に

襲い掛かる。

 

「(一発一発は、それほどの威力じゃないけど同じところを正確に命中させてくる!)」

 

例え、一発の威力は低くてもその衝撃が消える前に同じ箇所に攻撃を続けていけば、

衝撃もダメージを蓄積していき、いつかは抑えきれなくなる。

 

「(だけど、これはこっちにもチャンスだ!

 こうやって、防いでいる間にチャージを……)」

 

この状況を利用して、砲撃のチャージをと思った瞬間、不意にシールドからの衝撃が

消え去る。魔力弾は次々と命中しているのに。

 

「今度は、本物に幻術を混ぜたの!?」

 

こんな見せかけの攻撃に何の意味があるのかと考える前に、ティアナはなのはの横に

回り込むと三度大量の魔力弾を創り出し、腕を振り抜いてそれを放っていく。

 

「さあ、これは本物か幻術か……どっちかしら!」

「っ!」

 

ティアナの言葉に、一瞬判断が遅れなのはは攻撃をまともに受けてしまう。

 

「がはっ!」

「真実の中の嘘、嘘の中の真実。

 何が真実で、何が嘘なのか……幻惑の弾丸、見抜けるものなら見抜いてみなさい!」

 

そこからは、ティアナの独壇場だった。

襲い掛かる攻撃が、本物なのか幻術なのかなのはの脳裏に疑惑がよぎり、

更に自分の分身も創り出していくティアナの変幻自在な攻撃に対応が

どんどん追いつかなくなっていき、攻撃を防ぎきれずその身にダメージが募っていった。

普段のなのはなら、ここまで翻弄されることはなかっただろう。

だが、グムバによっていいように遊ばれ、カズキやティアナからは足手まとい扱いを

受けて、なのはの思考は焦りが募り空回りしていた。

無論なのは自身、自分がそんな状態であることを分かるはずもなく、ティアナが

そうやって焦る様に戦う前から挑発して誘導していたなど知る由もなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

「どうしたの?エースオブエースの実力はこんなもの?」

 

そして、地面へと撃ち落とされたなのはをティアナは静かに見下ろす。

だが、ティアナの方も完全に優位と言うわけではなかった。

 

「(あと一押しってところだけど、こっちも魔力切れ寸前……。

 少しでも油断して、一発でも喰らったらあっという間にひっくり返される。

 欠片も余裕がないことを顔に出すな!

 全部、こっちの手のひら……思い通りって顔をしろ!)

 そろそろ、決着をつけさせてもらうわ……よ!」

 

なのはと違って攻撃を受けていないティアナだったが、実際はなのはの一手一手に

神経を張り、動き回ってもいて体力も魔力もなのはの数倍は消費していた。ティアナは

それをなのはに悟られない様、ポーカーフェイスを貫き、勝負をつけるべく一気に手持ちのカードを切りにかかる。

再度、魔力弾を創り出していくティアナだったが、その数は今までの数倍はあり、

更にティアナを守っていたシールドビットが向きを変え、セシリアのブルーティアーズ

のような体勢となっていく。

 

「っ!?あの盾、攻撃にも使えるんか!」

「なのはさん!逃げてください!」

 

ティアナの止めの一撃に、はやてとリインは悲鳴じみた声を上げるが、なのはは

その場から動こうとしなかった。

 

「(やっぱり、こうきた!

 あの子の攻撃は正確だけど、攻撃力はそんなに高くない……。

 だから、止めの一撃は数による集中砲火!そして、その制御のために足を止める!

 そこが最後の反撃のチャンス!)

 レイジングハート、カートリッジロード!」

『All right、マスター……!』

 

なのはの意図を察しレイジングハートが、稼働すると薬莢のようなものが排出されていく。

そして、先ほどよりも出力が上がったラウンドシールドを展開する。

 

「(あの子の攻撃を完全に防ぎきるのは、不可能。

 だったら、シールドを展開するのと同時に砲撃のチャージをして

 それが妨害される攻撃だけ防ぐ!

 あなたの攻撃が私を倒しきるか、私のチャージが先に終わるか勝負だよ!!!)」

「クロスファイヤー……シュート!」

 

ティアナが放った魔力弾とシールドビットからの多重攻撃が、次々となのはに

襲い掛かるが、なのはは勝利の瞬間を掴むためにそれを耐える。

防御に力を注いでのチャージのため、いつも以上に時間がかかるが

それでも確実にチャージは進んでいった。

 

「(あと、10秒……えっ?)」

 

ようやく、見えてきた勝利の光に自然と手に力が入るなのはだったが、そんな中で

突如として、聞き慣れない発砲音を耳にする。

ティアナを見ると、その右手にはクロスミラージュではなく、“拳銃“が握られており、

魔力弾ではなく鉛玉がなのはに迫っていた。

 

「し、質量兵器っ!?」

 

ティアナは攻撃の最中、右手に持っているクロスミラージュを消すと素早く懐から

拳銃を抜き出し、装填されていた6発の弾丸を神業的な速さで放ったのだ。

魔法を使わない武器を魔導士が使うとは思わず、なのはも見ていたはやて、リインも

目を見開いて驚くが、その鉛玉はシールドに当たるとあっさりと甲高い音だけたてて

はじかれるに終わるが、硬いモノ同士がぶつかる甲高い音は次々と鳴り響いた。

 

「な、これって!一直線上に、撃ったっていうの!?」

 

ティアナは、拳銃をただ撃ったのではなく、寸分たがわず同一線上になるように

撃ったのだ。

一発目ははじかれたが、同じ個所にあたった二発目はわずかながらなのはのシールドに

くぼみを作り、三発目では先端が付き刺さり、その弾を金づちで叩くように

後続の弾が命中していき、シールドにひびが走っていく。

 

「(そう……私の攻撃力じゃ、あの防御を破るのは簡単じゃないけど

 モノには急所ってものが存在する。

 そこを狙って、破壊できればどんな防御も破れる!

 今までシールドに防がれても攻撃してきたのは、その急所を見つけるため!

 しかも、拳銃何て魔導士からしたら使うことも使われることも考えない武器で

 魔力もないのなら、完全に虚を突くことができるし、これは貫通に特化した弾……。

 一発じゃ無理でも、急所に命中させ続ければ!)」

 

シールドに突き刺さった弾に6発目が当たると、ついに弾はシールドを貫通し、

なのはのシールドは完全に破壊された。

 

「そ、そんなっ!?」

 

防御に自信のあるなのはは、まさか魔法ではなく質量兵器によって自分の防御が

破られるとは思ってもみなかったので、残り数秒でチャージが完了するというのに

砕けたシールドを見て呆然としてしまう。

 

「もらった!クロスミラージュ!」

『おう!シールドビット、アサルトモード!』

「い…………っけぇぇぇ!!!!!」

 

ティアナが左手に握ったクロスミラージュから放った攻撃が4機のシールドビットが

格子状になったものを通り抜けると、なのはの十八番である砲撃魔法に劣らずの

強力なものとなりなのはに迫る。

 

「「なのはちゃん(さん)!」」

『マスター!』

「私は……」

 

自分を呼ぶ声を遠くに感じながら、なのはは光に呑まれた。

 

「ふぅ~……」

「こ、こんなことって……」

「…………」

 

はやてとリインは自分達の目の前で起こった出来事が、信じられなかった。

負けたことが無いわけではないが、なのはが魔法で負けるなど二人は思いもしなかった。

 

「ま……まだ……だよ……」

「なのはちゃん!」

「あれを受けて動けるとか、流石にタフね……」

 

決着がついたかと思われたが、フラフラになりながらもなのはは立ち上がろうとしていた。

 

「でも、もう終わりよ。決着はついたわ……」

「まだ、終わっていないよ!」

 

もう戦う気はないとばかりに、ティアナはバリアジャケットを解除するが、

なのははレイジングハートを構える。

 

「あのね……気づかないの?

 あなた達は勝つために私を倒さなきゃいけないけど、反対に

 私は別にあなた達を倒す必要なんてないことに……」

「どういう意味?」

「……しまった、そうや!うちらは、あの子を倒してグムバと戦えることを

 示さなあかんけど、あっちはユーノ君らが作戦を開始するまでの時間を稼げれば

 それでええんや!」

「っ!?」

「正解よ」

 

呆れたものを見る態度のティアナに、はやては自分達の勘違いに気付くが

もう遅かった。

 

「そう、私達が戦っている間に、こっちの作戦は始まっているの。

 敵が使う結界は、隠密性に優れたものだからあちらが意図して取り込むか、

 目と鼻の先まで近づかないと見つけるのはすごく困難……。

 だから、仮にここで私を倒したとしても意味はないし、

 今から戦いに入っても作戦の邪魔で足を引っ張るのが関の山よ」

「そ、そんな……」

 

ティアナの言葉になのはは愕然として、レイジングハートを下す。

 

「目先のことにとらわれて、戦いの意味や本質を見抜けなかった時点で、

 勝負はついていたのよ」

 

今度こそ、なのはは地面に手をついて崩れ落ち、はやても悔しそうに

拳を握りしめるしかなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「へぇ~。てっきり、あの術で戦える空間を切り取ってくると思っていたのに、

 ゲームの方で勝負を挑んでくるとはねぇ~」

 

ユーノは例の互いに傷つけることができないという結界の中で、グムバと

向き合っていた。

 

「無茶を言わないでくれ。

 君は、こういうゲームが好きだけど、それをせずに普通に戦ってもかなり強いだろ?

 ボロボロの状態の僕が、真正面から戦っても勝率は低い……。

 なら、君が仕掛けるゲームで戦った方がまだマシさ」

「ふふふ。リュウケンドー達も面白そうだけど、君ともいろいろ楽しめそうだ♪

 早速始めようよ!」

 

面白そうでワクワクするといったグムバとは対照的に、ユーノは静かに

六角形の金属板のようなもの取り出し、静かにレイジング・ガードナーの姿となる。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ……はぁ……」

「ふふ、いい恰好ね~本当によく似合うわ~」

 

クリエス・リリスにさらわれたフェイトは、ある空間で十字架に貼り付けにされていた。

バリアジャケットはいたる所が破れており、呼吸も大きく乱れていた。

 

「さぁ~て、それじゃ次は――なんてどう?」

「っ!!!?」

 

うつむき具合のフェイトの顎を持ち上げ、そっと耳元で囁いたリリスの言葉に

フェイトは信じられないと大きく目を見開く。

 

「いいわ!実にいいわ、その顔!最っっっ高よあなた!!!」

『…………』

 

グムバのように心底楽しそうに笑うリリスとワナワナと体を震わすフェイトを、

空中に鎖で縛られているバルディッシュだけが見ていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どうなっているんだ、この場所は?

 行けども行けども、何も無いじゃないか……」

 

一夏は気がついてから、ここがドコだが探るべく砂浜の上をひたすらに歩いていたが、

何も見つけることができなかった。

ゲキリュウケンがいないので、怪物や怪人などが出てきて襲われたりしないのは

幸いだが、精神的には厳しい状態であった。

吹き抜ける風に、輝く太陽。漂ってくる潮の匂いと波の音。歩くたびに感じる砂の感触。

なのに魚一匹、鳥一匹もいないのだ。

 

「本当に、なんなんだここは?」

「――。――♪~♪」

 

ふと、どこからか歌声が聞こえてきた一夏が辺りを見回すと、

白い髪に白いワンピースを着た小学5,6年生ぐらいの女の子が躍る様に、歌っていた。

 

「……」

 

一夏は何故か、その子から目が離せずいつの間にあったのか、

落ちていた流木に座ると目の前の光景を眺め始めた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

海上のある地点。

そこでは、カズキ達によってブラック・ゴスペルを閉じ込めた

凍った水柱が少しずつ振動して、氷が崩れ始めていた。

だが、その氷が崩れ切る前に赤黒い光線によって、水柱は破壊される。

 

「命中確認……」

「よし作戦通りアーニャ、セシリアはそのまま狙撃。

 ラウラ、簪、シャルロット、リュウガンオーは中距離から、

 他のメンバーは散開しつつ、接近戦だ!」

「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」

 

水柱より5キロほど離れた時点で、シャドウデルタに乗るカズキを先頭に

箒達ISを纏うメンバーと、リュウガンオー、明、ジノ、アーニャが浮かんでいた。

 

「さぁ~て、今度こそ終わりにしようか……小僧」

 

長い一日が終わるのはもう間もなく――――。

 

 





今回ティアナの使った戦法は、家庭教師ヒットマンリボーンの
霧の方のものでした。
シールドビットはもちろん、ガンダムから。
拳銃の一か所に連続というのは、技名は忘れましたが、
「グレネーダー 〜ほほえみの閃士〜」から。

今回、なのははいろいろあって普段の力をいつも通りに
発揮できていませんでした。
それを見抜いて、更に混乱させたティアナの作戦勝ちとも言えますがwww

同じ季節の内に進めたいと言ったのに、今は真逆の季節(汗)

冬コミがありますから、次回は年が明けてからですね。
来年も応援よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

輝きの翼――


新年始まって、最初の投稿です。
やっとできました(苦笑)
ほぼできたのに、最後の所で・・・
おのれ残業っっっ!!!



アーニャが纏うKNF(ナイトメアフレーム)モルドレッドの主力武装シュタルクハドロン

によって、凍っていた水柱が破壊され閉じ込められていたブラック・ゴスペルが

空へと放り出される。

 

「がっ……!」

「はぁぁぁっ!」

 

間髪入れず、瞬時にブラック・ゴスペルの懐に入ったカズキが

拳を叩き込んでいく。

 

「碓氷カズキィィィ!!!!!」

「……っと!」

 

自分の状況を理解するよりも前に、目の前に現れた怨敵を消し去ろうとブラック・ゴスペルは

デタラメに拳を振り回し始める。

だが、カズキは危なげなく振り回される拳をかわしていく。

 

「(思った通り、最初に戦った時よりパワーが上がっているな……。

 銀の福音の意識を封じ込めたことで、手に入れたマイナスエネルギーを完全に

 使えるようになったか。

 拳でこれなら、あの光弾を受けたら一夏みたいに重症程度じゃすまないな……)」

 

当たれば粉微塵になってしまう拳を紙一重でかわしながら、カズキは冷静に作戦のための

“確認”を行っていく。

 

「(そして――俺を目にしたら、周りが眼中に入らないのも想像通り!)」

 

迫るブラック・ゴスペルの拳を見ながら、カズキが笑みを浮かべた瞬間ブラック・ゴスペルを

爆発が襲った。

 

「今だ!全員、撃ちまくれ!」

 

リュウガンオーの合図で、ラウラ、簪、シャルロットがブラック・ゴスペルに

ミサイルや弾丸、レールガンを撃ち込んでいく。

 

「がっ!…っの!」

「余所見は、厳禁だぜ!」

「喰らいなさい!」

 

攻撃を受けたことで、リュウガンオー達に気付いたのかそちらに注意を払うと

左右からジノと鈴が両手に持った斧剣と双天牙月を振り下ろす。

 

「ちっ!この……っ!」

「後ろが、がら空きだ!」

「はぁぁぁっ!」

 

ジノと鈴の攻撃を受け止めたブラック・ゴスペルの背後から、明と箒の

斬撃が襲いかかり、体勢が崩れる。

 

「いつまでも調子に……」

「どうでもいいが、止まっていていいのか?」

 

海へと落下していく中、体勢を立て直し自分より上にいるカズキ達を睨み付ける

ブラック・ゴスペルだったが、そのために動きを止めた所でカズキがつぶやいた瞬間、

狙撃組と中距離組による一斉射撃が四方八方から襲い掛かった。

 

「確かにその強大なパワーや銀の鐘は脅威だが、扱うお前が使いこなせなきゃ

 意味はない。

 創生種になろうが、元々が人間である以上フェイントも有効……。

 力に溺れたな……」

『だけどよ。あんなに遠慮なく攻撃して、中の操縦者は大丈夫なのか?』

「幸か不幸かマイナスエネルギーを利用して防御力は、ISよりも上がっている。

 それに、その巨大なマイナスエネルギーのせいで、ダメージを操縦者に流すなんて

 器用なことができないみたいだ。

 加えて、天才(笑)が銀の福音のコアの状態を調べたら絶対防御の機能は

 何とか働いているみたいだ。

 ということは、おそらく……」

『意識を封じられていても、銀の福音も相棒を守るために戦っているってことか?』

「そういうこと。

 後は、こいつを使うタイミングだね……」

 

カズキは魔弾キーのようなものを手に取り、一端しまうと防戦一方なブラック・ゴスペルに

向かってデルタシャドウを駆った。

 

「いい加減に……」

「はっ!」

「キ……ザマっ!!!」

「他の事に目が行って簡単に俺のことを忘れる辺り、

 お前のアイツへの思いとは、その程度みたいだな?

 まあ、アイツの人徳とかがそれぐらいしかないとも言えるがな」

「ギザマギザマギザマっっっっっ!!!!!」

 

ザンリュウジンでブラック・ゴスペルに斬りかかるカズキは、空中にいる等関係ないかの

ように、舞を思わせる動きでブラック・ゴスペルを翻弄し、デルタシャドウと共に駆けていく。

その攻防の中で、挑発も織り交ぜることでブラック・ゴスペルは完全に冷静さが失われ、

ますます力任せの雑な攻撃となっていく。

 

「相変わらず、すごいなあの人」

「ああ。しかも俺や一夏みたいに変身してないし、お前やアーニャみたいに

 ナイトメアとかISも使っていないんだぜ?」

「大丈夫ですか、みなさん?」

「うん、大丈夫だよ明。ただ……」

「敵が人間捨てたとか言っていたけど、碓氷先生もたいがいな気がする……」

「「うんうん」」

「流石は、兄様だ!」

 

雑な攻撃とはいえ、拳の風圧だけで人間など紙切れのごとく遥か彼方まで吹き飛ばされ

そうなものをかわしたり受け流していくカズキを見て、それぞれが引きつった表情となり

簪のつぶやきに昔からカズキを知る箒と鈴が激しく頷いて同意した。

唯一ラウラだけが、素直にカズキの動きに関心していた。

 

「それにしても、あんなのと戦えるのもそうだけど、今回の作戦も無茶苦茶だよな」

「ああ、敵が自分を狙っているのを逆手にとって自分を囮にして注意を向けさせ、

 その隙に俺達に援護させる……」

『敵のパワーを考慮するとまともに、攻撃を受けたら即座に戦闘不能に

 なる危険性が大。

 そうさせないために、敢えて私達を後衛にさせることで攻撃を当てさせもしない』

「逆に、カズキさんは正面から、ブラック・ゴスペルと相対する形になってしまう」

 

カズキとブラック・ゴスペルから距離を取り、次の攻撃の機会を伺う明達は

今回の作戦を思い返し、表情を曇らせる。

この作戦は、如何に囮が敵の注意を引き付けられるかがカギとなり、

敵の恨みを買っているカズキほどその囮に適任はいないのだが、

その分危険度は明達の比ではなかった。

 

『やっぱりなかなか、硬いな!』

「そうだな。よし!この辺りで、一気に勝負をかけますか……。

 初お披露目だぜ――“グリープ”!」

 

カズキが、デルタシャドウの背部から飛び降りるて、左腕に巻いていた腕時計のようなものを

掲げると、カズキは光に包まれた。まるで、“IS”を展開したかのように――。

 

「何ですの、あれは!」

「私にもわからない……」

「カズキめ……一体何を」

「これは……エネルギー反応!」

 

それは、明達よりも離れた地点にいるセシリアとアーニャも確認でき、同じように

モニターしていた千冬や真耶も何が起きたのかと警戒していると、素早く指を走らせて

いた束が突然、その動きを止めた。

 

「何これ……推定予測エネルギーがISの約十倍!?」

 

それを見ていた面々がそれぞれの驚きを示す中、カズキを包んでいた光が切り裂かれ

その姿を現した。

体や肩は青、腕と脚は白の装甲に覆われ、背中には翼状のシールドが背負われていた。

そして、頭部にはV型のセンサーが付けられ、手には刃の部分がビームで生成された

ビームランサーが握られていた。

 

「魔弾龍の力が使えない時のために開発していた、戦闘用パワードスーツ“グリープ”。

 止められるなら、止めてみろ!」

 

全く予想だにしなかったカズキの新しい力に、ブラック・ゴスペルは動きを

止めてしまい、そこにビームランサーの突きが叩き込まれた。

 

「そらそらそらそらそら!!!」

「こ……のっ!」

 

残像によって、何十本にもビームランサーがあるように見える程のスピードで

カズキは、攻め続ける。

そのスピードは、ブラック・ゴスペルの再生速度を上回りどんどんその体に

傷を増やしていく。

 

「お前!ぼくを殺したら、憑りついている人間も死ぬってことを忘れていないか!」

「っ!」

「馬鹿め!」

 

何とか、カズキの攻撃を防いでいたブラック・ゴスペルは、人質と言うカードを切って

カズキの動揺を誘い、その隙に距離を取り一夏を落とした七つの光弾を全てカズキ一人に

向かって放った。それを見てほくそ笑む、カズキに――。

 

「ははははは!赤の他人の為に、その身を犠牲にするとは、随分お優しくなっt……。

 な、何だとっ!?」

 

ついに復讐を遂げられたとブラック・ゴスペルことミールは高笑いをするが、

着弾によって生じた煙が晴れていくと、そこに一つの影が浮かび上がり、その姿が

見えてくると言葉を失った。

 

「ちゃ~~~んと、止めを刺したかを確認せずに勝ったって

 思うのは敗北フラグだぜ?」

 

煙が完全に晴れると、そこには背中のシールドでブラック・ゴスペルの攻撃を

防いで無傷なカズキが佇んでいた。

 

「今度は、こっちの番だ!撃てぇぇぇっ!!!」

 

大型の粒子ランチャーを展開したのを合図に、リュウガンオー達と共に

ブラック・ゴスペルに一斉攻撃を行った。

 

「こんな攻撃……何っ!?」

 

すぐさま、回避しようとするブラック・ゴスペルだったが、突然体が思い通りに

動かなくなってしまい、空中に貼り付けにされたようになる。

 

「ふふふ、大したことないとあいつらの攻撃を無意味に受けすぎたな。

 天才(笑)が作ったISの動きをちょいと鈍らせる、ウイルスを攻撃の中に

 混ぜさせてもらったよ。

 効き目が出るまで時間がかったが、お前のその体の大本がISである以上、

 これからは逃げられない」

「ちっっっくしょうぅぅぅ!!!!!」

 

怨嗟の声を上げながら、ブラック・ゴスペルは爆炎に飲み込まれた。

 

「カズキさん!」

「何だよ、カズキ。そんなのあるなら、早く使えよ~」

「ふふ、こういうのはいざという時に出した方が、みんなビックリするだろ?」

「こら、男ども!呑気に話してんじゃな~い!」

「鈴の言う通り」

「そうだよ、ここで油断したら今度はこっちが痛い目に合っちゃうよ」

「しかし、シャルロット。あの全員の攻撃を受けたらひとたまりも……」

「待て、箒。あの中から、敵の反応がある」

「みたいですね……」

 

カズキと合流したリュウガンオー達は、ブラック・ゴスペルの様を見て若干気を緩めるが

ラウラと明の言葉に気を引き締める。

カズキは、倒せたと思っていなかったのか思案顔で煙を眺める。

 

「みなさん!」

「現状は?」

 

そこへ、遠距離から狙撃を担当していたセシリアとアーニャが合流したのと

同時に空間が爆発したように揺れ、その中心にブラック・ゴスペルが

自分を抱くようにうずくまっていた。

 

「な、なんだぁ!?」

「これは、まさか――『第二形態移行』(セカンドシフト)

 敵に、乗っ取られたのに起きるというのか!?」

「今の攻撃で、銀の福音に絶対防御を発動させられたと思ったんだけどな……。

 おい、天才(笑)。これは、どういうことだ?

 形態移行(フォームシフト)って言うのは、稼働時間と戦闘経験が蓄積されることで起きるんだろう?

 何で、試験運用のISに起きるんだ?」

「……推測だけど、あのISのコアと操縦者は二次移行(セカンドシフト)をしてもいいぐらいの

 時間と経験を積んでいたんだよ。

 そして、さっきの攻撃で操縦者の命が危ないと感じて……」

『操縦者を守るために、自分で発現したと……健気だね~』

「呑気な事言っている場合じゃないだろ、ザンリュウジン!

 要は、パワーアップしちまったってことだろ!?」

 

ブラック・ゴスペルに起きている現象を束が分析し、リュウガンオーの叫びと共に

全員警戒を強める。

 

「フフフ……ハハハハハ!!!

 おもちゃにしては気が利いているじゃないか!」

 

歓喜の声を上げ、手足と背中に生えたエネルギーの翼を広げて、ブラック・ゴスペルは

新たな力を手にした。

 

「……さて。それじゃあ、まずは散々邪魔をしてくれた連中から――

 片付けようか!!!」

「なっ!?」

「速っ……!?」

 

獲物を狙い定めた獣の如く、ブラック・ゴスペルが自分達を見据えたと思った瞬間、

ブラック・ゴスペルはバスターウルフをスカイモードにしていた

リュウガンオーとジノの懐に入り込みその脚をつかむと力任せに海へと放り投げた。

 

「次っ!!!」

「させるか!PXシステムON!」

 

一瞬で、リュウガンオーとジノを排除したブラック・ゴスペルがその矛先を明達に

向ける前に、ブラック・ゴスペルは尋常ならざるスピードで回り込まれたカズキに弾き飛ばされる。

 

「くっ!お前のおもちゃの能力か……だけど、さっきまでのようにはいかないよ!」

「言ってろ!」

 

カズキとブラック・ゴスペルは、ISを置き去りにするような超スピードの戦闘を

展開する。

最早、ハイパーセンサーでも残像を見るのがやっとな戦いは、二つの影が

ぶつかる度に凄まじい音を周囲に響かせる。

その最中、カズキは焦り始めていた。

 

「(まずい……まさか、PXシステムを使ってほぼ互角のスピードなんて!)」

 

PXシステム。

それは、脳波を機体制御に反映させることで、反応速度を大幅に上げられる一種のブースト機能であるが、機体や操縦者の精神に多大な負担をかかり、限度を超えて使用した場合、機体の損壊や

操縦者の精神崩壊も起こしてしまうかもしれない危険と隣り合わせなシステムである。

 

「(機体はともかく、システムの調整は完全に終わっていないからリミッターを

 解除することもできないし、使用稼働時間の60秒が来たら強制的にシステムは

 オフになる……。

 その前に、何とか!)」

「ははははは!散れ、虫けらども!」

 

カズキと攻防を繰り広げていたブラック・ゴスペルは、距離を取って回転すると

それに合わせて、形態移行前より数倍巨大な光弾が次々とばらまかれた。

 

「ちょっ!冗談でしょっ!?」

「総員、回避!当たったら終わりだぞ!」

 

でたらめに打ち出された光弾とその連射に、鈴が全員の考えを代弁するかのように

叫びラウラが急いで、指示を飛ばす。

 

「くっ!」

「うわっ!?」

「何て、衝撃……!」

 

幸いにも光弾のスピードはブラック・ゴスペルほど速くなく、かわしていける明達だったが光弾の威力は大きさに比例して昼間よりも上がっており、海に着弾した衝撃で

全員が吹き飛ばされていく。

 

「甘いよっ!」

「なっ!攻撃を曲げた!?」

 

全員が回避できたと思った攻撃だったが、その中の一つが海に着弾する前に

軌道を変え、吹き飛ばされて体勢を崩した自分に向かっているのを見て箒は驚愕する。

 

「箒!」

「明っ!?」

 

無防備な箒を救おうと背後から彼女を押しのけて明が、光弾と箒の間に

入り来むのを見て、全員に昼間の一夏が墜とされた光景が頭をよぎる。

 

「(ふっ……。こんな時に、頭に思い浮かぶのがお前との思い出ばかり

 だなんてな。一夏――)」

 

箒達とは逆に明の頭によぎったのは、戦場とは全く無縁な一夏との日常の

日々ばかりで、明は苦笑した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

少しだけ時間は遡り、カズキ達が戦闘を開始した頃、

一夏は流木に座りながら、波の音をBGMに目の前で踊る

女の子を飽きもせず眺めていた。

 

「ん?」

 

突然、女の子は踊るのをやめじぃっと空を見つめ始めた。

 

「呼んでる……行かなきゃ……」

「行かなきゃって、どこに……あれ?」

 

一夏も同じように女の子が見ていた空を見るが、そこには何もなく

視線を戻した時には、もうそこに女の子の姿はなかった。

あるのは、押しては引く波の音だけだった。

 

「何なんだ、ほんと……」

「力を欲しますか?」

「えっ?」

 

何の前触れもなく自分の背後からしゃべりかけてきた何者かに、

一夏はそこから飛びのいて身構える。

幾多の数をくぐり抜けてきた自分の後ろを簡単に取れるという事は、

声の主はかなりの力量の持ち主だと一夏は察した。

そんな一夏が見たのは、輝く白い甲冑を身に着けた女性だった。

身の丈もある大きな剣を自分の前に突き刺し、その上に両手を置いており、

その顔はガードによって隠されて、露出している下半分しか見えない。

 

「力が欲しいですか?何のために求めますか?」

「いきなり現れておいて、説明もなしかよ……。

 まあ、力は欲しいよ……。力が無きゃ何も守れないし、何も成し遂げられない」

「…………」

 

敵意は感じないが、一方的に質問してきた女性に一夏は肩をすくめるが

少し考えて口を開き、女性は黙ってそれを耳にした。

 

「でも、ただ力があればいいってわけでもない。力は、所詮力だ。

 俺は今まで、たくさんの人達に支えられて守られてきた。

 千冬姉、雅さん、カズキさん、ゲキリュウケン、一緒に戦ってくれる仲間達

 ……そして、明――」

「…………」

「俺が欲しいのは、そんなみんなと一緒に明日を歩ける力……

 自分の信念を貫ける“想い”の力だ」

「あなたの想いが道を外れ、間違ったものになった時はどうするんですか?」

「その時は……みんなが俺を殴ってくれるさ――」

 

女性の試すような問いかけに、一夏は迷うことなく笑いながら静かに答えた。

 

『だったら、いつまでもこんな所にいるわけにはいかないな』

「そうだな――ゲキリュウケン!」

 

甲冑の女性と向き合っていた一夏の背後に、青く輝く龍がたたずみ一夏はその声に

好戦的な笑みで答えた。

 

「もちろん、私も行くよ♪」

「うん?」

 

一夏の隣には、いつの間にか白いワンピースの女の子が立っていた。

 

「私だって、あなたの相棒なんだから!

 そこの龍なんかに絶対負けないんだからね!」

 

女の子がそう叫ぶと眩い白い光が、彼らを包んでいく――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

明へと迫る光弾に最悪の結果を防ごうと、それぞれが動くが距離がありすぎて

誰も間に合うことができない。

押しのけられた箒が明の背に手を伸ばすが、その手が届くことはなく

――――光弾は“両断された”。

 

「……え?」

 

それは、誰が洩らしたのか気にするものはいなかった。

九死に一生を得た明もそれを見ていた箒達も、高速の攻防を繰り広げていた

カズキとブラック・ゴスペルもただ魅入っていた。

夜空に現れた光り輝く翼を背に、絶望を叩き斬った白き龍の幻想的な

その姿に――。

 

「い、一……夏……?」

「大丈夫か、明?」

『いいタイミングで来れたようだな』

 

目の前の光景が信じられないのか明は、呆然とした声を絞り出すが

当の“新たな“白式を纏った一夏とゲキリュウケンは、なんでもないようにいつもと

変わらぬ返事を返した。

 

「さ~て……俺の分に皆の分も加えて、たっ~~~ぷりと

 お礼をさせてもらおうか!」

『存分に暴れてやれ!』

 

声高に叫ぶ一夏に呼応して、白式の新たなウイングスラスターから光があふれだす。

 

「白式・白龍(はくりゅう)!行くぜ!!!」

 

雪片を呼び出した一夏は、その瞬間明達の視界から消えブラック・ゴスペルの

翼を切り裂いた。

 

「な、何だとっ!?」

 

不意を突かれたとはいえ今の自分が全く反応できなかったことが信じられず、

背後の一夏にブラック・ゴスペルが向き直した瞬間、再び一夏はその背後に

姿を現しブラック・ゴスペルの翼が切り裂かれた。

 

ブラック・ゴスペルに取り込まれた銀の福音と同じく二次移行を果たした白式に、

追加された大型のウイングスラスター、白龍光翼(フォトン・ウイング)

圧倒的な加速を一夏に与えた。

一夏が、この戦場に駆けつけ明を救うのに間に合ったのも、この新装備

のおかげである。更に、ゲキリュウケンが自身の感覚を一夏と通常以上に

深くリンクさせることで、高速下の動きでも正確にピンポイントを狙えるという

離れ業もやってみせた。

 

「(これは速い分、瞬間加速以上に軌道を変えられないから、動きは直線的になって

 使うのはかなり難しいな。

 それに、エネルギーもかなり喰うみたいだし……でも、今は関係ないか……)」

 

実際に使ってみて、その身で白龍光翼の利点と難点を体感した一夏は、

渋い顔になるが、すぐにそれは不敵な笑みを浮かべた。

何故なら今は、その難点を気にする必要がないからだ――。

 

「……っの、ガキィィィィィ!!!」

 

怒り心頭で、一夏に負け劣らずのスピードで殴り掛からんとする

ブラック・ゴスペルだったがその拳が一夏に届くことはなかった。

 

「――っぇ!」

「言っただろ?目先の事に囚われて、俺の事を忘れるってことは、貴様の

 決意なんてそんなものなんだよ」

 

一夏への攻撃を読んでいたカズキが、ブラック・ゴスペルの腹部にカウンターの

拳を見事に叩き込み、ブラック・ゴスペルは大きく後退する。

そう、例え直線的にしか動けないことを見抜かれても、それをカバーしてくれる“仲間”が一夏にはいるのだ。

 

「どうやって回復したかはわからないが、問題ないなら

 遅れた分はきっちり働いてもらおうか?」

「ははは……」

 

にっこりと笑いかけてくるカズキに、嫌な予感をする一夏だったがすぐに気を取り直して

左腕に新装備された雪羅を起動させ、指先からエネルギー刃のクローを出現させる。

 

「行くぞ?」

「はい!」

 

カズキと一夏は、ダメージから回復しきれないブラック・ゴスペルへ

同時に斬りかかった。

PXシステムがオフになったとはいえ、カズキの攻撃は鋭く、それでいて

操縦者の命を奪わなくてもダメージが入る箇所を正確に狙っていく。

更に、今は対IS兵装とも言える零落白夜を使う一夏がいる。

雪羅のクローも加えて、注意を払わなければならない攻撃の手は単純に3倍となり、

ブラック・ゴスペルは見る見るうちに追い詰められていく。

 

「あらら~。いつの間にか、ま~た状況が変わってるよ~」

「のんきに言ってんじゃねえよ、ジノ!

 このままじゃ、一夏の奴においしいところを全部持っていかれちまうよ!」

『確かに、今回の作戦で一番の要は私と弾である以上、このままじっとしているわけには

 いかない』

「だよな♪

 やられっぱなしっていうのも、癪だしな!」

 

ブラック・ゴスペルに海へと投げ飛ばされ、何とか浮かび上がったジノとリュウガンオー

は沈んでいる数瞬の間に、再び大きく動いていた戦況に唖然とし、すぐに気を取り直すと

トリスタンとバスターウルフを駆って戦場へと飛翔する。

 

 

 

「大人しく寝ている奴じゃないってのは、わかっていたけど……

 ここまでいいタイミングだと、どこかで狙ってたんじゃないでしょうね、あいつ?」

「無駄口をたたいている場合ではないぞ、鈴」

「ラウラさんの言う通りです!私達も負けていられませんわ!」

「ダメージは、あるけどまだ打鉄弐式(この子)も私も戦える……」

「うん。女の子の扱いがなってない、礼儀知らずにお仕置きしないとね♪」

「じゃあ、全員やり返すって方向で……!」

 

攻撃を回避して分散してしまった鈴達は通信で、互いの状況を確認すると

闘志を燃え上がらせて反撃に出る。

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

「うぉぉぉっ!」

「く……っそ!」

 

一夏とカズキの猛攻に、防戦一方となるブラック・ゴスペルは、苦し紛れに光弾を

放っていくが、カズキは軽々とかわしていき一夏は背から分離した白龍光翼(フォトン・ウイング)が装着された

左腕を楯のように構える。

 

光子反射(フォトン・リフレクション)!」

 

一夏の左腕にエネルギー膜が現れると、ブラック・ゴスペルの攻撃はその膜に

吸収されていき、ブラック・ゴスペルへと攻撃を放った。

 

「何っ!!!?」

 

自身の攻撃を跳ね返されて、驚愕するブラック・ゴスペルだったが、何とかそれを

回避するものの、かすった装甲から煙が上がる。

光子反射(フォトン・リフレクション)。分離した白龍光翼が雪羅に装備されることで起動するこの盾は、

マイナスエネルギーの攻撃を吸収しプラスエネルギーへと変換して

反射する、対魔物兵装である。

 

「ほいさっ!」

「ごっ!……ガデッ!?」

 

回避したブラック・ゴスペルに間髪入れず、カズキが背後から翼を切り落とし、

そこに弾丸の豪雨が襲い掛かる。

 

「お待たせしましたわ、一夏さん!」

「あんたばっかに、おいしい所を持っていかせないわよ!」

「僕達からのプレゼント、遠慮はいらないよ!天使もどきさん!」

「私達の力を見せてやる!」

「もう、あなたのターンは……ない!」

「一気に行こうぜ、一夏!」

「必ず来るって信じていたぜ、親友!」

「これで……決める――」

「みんな――ああ!」

 

駆け付けた仲間達に一夏は力強くうなずくと、白龍光翼を輝かせ飛翔する。

 

 

 

「全く一夏は……こっちの気も知らないで――」

 

意識を失っていたかと思ったら、自分の危機に颯爽と駆け付け、今また

みんなの先頭に立って剣を振るう。

好き勝手に自分を振り回していく一夏に、明は怒っているのか呆れているのか、

それとも喜んでいるのか自分でもよくわからない声を上げながら、苦笑する。

 

「さて、私達も行きましょうか、箒。

 ……箒?」

「(……すごい。一夏も……みんなも……

 あんな恐ろしい相手に、怯むことなく立ち向かっていく――)」

 

自分達も参戦しようとした明は、返事がなくただ真っ直ぐ一夏達の戦いを

見る箒に首を傾げる。

そんな明を気に留めず、箒は一夏達の戦いをその目に映していた。

真っ直ぐに自分達の魂を輝かせて、立ち向かっていく一夏達を――――。

 

「(私も飛びたい……一夏達のように、魂を輝かせたい!)」

 

強く――ただ強く、箒は純粋に願った。

その想いに応えるかのように、紅椿の展開装甲が稼働していき、赤と金の光が

溢れ出していく。

 

「これは!?」

「エネルギーが……回復している!?」

 

力を取り戻していく、紅椿に箒と明は揃って驚きの声を上げ、

彼女達の目の前に紅椿からウインドウが表示される。

 

・『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』発動。展開装甲とのバイパス構築、完了。

 

「これは……まさか紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)!」

「箒の願いに、紅椿が応えた!?」

「うん?これは……明!手を!」

「えっ?」

 

驚くのも束の間。箒は、何かを感じたのか明の手を握る。

すると、明のブリッツもエネルギーを回復していく。

 

「っ!まさか、自分だけでなく他の機体のエネルギーも回復できるのか!」

「ありがとう、紅椿。これなら……行ける!」

 

日が昇り始め、夜が明けていく空の闇を裂くように紅と黒の機体が駆けていく。

長い一日の終わりはもう間もなく――。

 





はい。カズキと一夏は、新たな力を手にしました♪
一夏はともかくカズキは、ISみたいなのをつけるのか、またそれを
何にするのかと迷ったんですが、こういう形に着地しました。
最初はつけるなら、自由の大天使かな~と思ったんですが、
私が知る限り見たことが無い、ガンダムWの外伝のG-UNITから
持ってきました。

男心をくすぐるロボット技術に触れたリリカル世界の紫マッドと
同じくプリン伯爵に加え、便乗したカズキも参加してトンデモ機体に
仕上がっております。
そのため、高出力高機動ですが、カズキや千冬みたいな人外な身体
能力でなければ使いこなせなくなっております。

一夏は、原作のパワーアップに新装備を追加しました。
イメージとしては、武者○伝2より登場する
撃鱗将頑駄無(ゲキリンショウガンダム)の翼です。
翼だけでなく、いろんな武器になったので参考にしました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍の復活、明かされる真実――

最新話、仕上がりました。
いろいろ詰め込んだので、いつもより長めになっております。



「うぉぉぉっ!!!」

「はぁぁぁっ!」

 

零落白夜とビームランサーの刃が、ブラック・ゴスペルの翼を切り裂いていく。

だが、ブラック・ゴスペルも黙っているわけがなく、残った翼を羽ばたかせて

衝撃波を放ち、再生までの時間を稼いでいく。

 

「まずい、このままじゃ……」

 

全員の波状攻撃で、追い詰めているが後一手ほど足りない。

この数分の間に何度も繰り返された攻防の中で、一夏は次第に焦りを

募らせていく。

 

――エネルギー残量15%。残り活動可能時間150秒。

 

白式が知らせるアラートに、一夏は状況を打破するべく思考をフル回転させる。

二次移行をしたことで、大幅に戦闘力が上がった白式だったが同時にそれは

エネルギーを大量に消費するようになり、元々短めだった活動時間が更に短くなって

しまったのだ。

 

「(あいつはISのことを大分舐めているみたいだったから、リュウケンドーよりも

 負担の少ない白式で敢えて戦っていたけど、そろそろ限界だな。

 何とか、変身できる隙を作ってリュウケンドーに……)」

「一夏!」

「箒!?」

「これを受け取れ!」

 

このままエネルギー切れの近い白式では、勝てないと一夏がリュウケンドーへの

変身を考えていると、そこに箒がやってきた。

驚く一夏に構わず、箒が白式の両手を握ると紅椿から光が溢れだし、白式を

包み込んでいく。

 

「これって……エネルギーが回復した!?おい、箒……」

「説明は後だ、一夏!」

『今は、奴を倒すのが先決だ』

「ごげっ!」

 

エネルギーが回復したことに、困惑する一夏だったが箒とゲキリュウケンの言葉に

我に返り、ブラック・ゴスペルへと意識を向ける。

そこには、変幻自在に偽りの天使を翻弄する忍びの姿があった。

 

「カズキさんが言っていたようにいくら人間を止めても人間に寄生している以上、

 弱点は変わらないようだな。

 関節の動きを封じれば、思うように動けまい!」

 

明はブラック・ゴスペルの関節を狙って、特殊ジェル弾を撃ちまくっていた。

これは外気に触れると、瞬時に硬化するもので様々な応用が可能な装備である。

明がこれで、ブラック・ゴスペルの動きを封じるとカズキ達は次々と翼を

破壊していく。

 

「ぐっ……こ……のっ!」

 

ブラック・ゴスペルは受けたダメージを回復していくが、その回復スピードは遅い。

度重なるダメージに、回復に回すマイナスエネルギーが尽きてきたのだ。

それによって生まれた隙を逃さず、カズキ達は追撃を仕掛けていく。

 

「はぁっ!」

「小……娘が!」

 

追撃で怯んだところを箒が、両手の二刀を振り下ろすも防がれるが、足先から

ビームブレードを展開しブラック・ゴスペルの胸部に傷を刻む。

 

「そこだ!」

 

箒が離脱したのを見計らって、カズキはザンリュウジンを取り出し、素早く魔弾キーを

差し込む。そのままブラック・ゴスペルの胸部に、矢を放つ。

 

「舐めるなぁぁぁっっっ!!!」

 

ブラック・ゴスペルが気合いを入れた叫びを上げ、手をかざすと魔方陣が現れた。

ザンリュウジンから放たれた矢は、魔方陣に当たるとガラス細工のように砕かれてしまう。

 

「ははは!!!僕だって、切り札ぐらい準備しているさ!

 お前が、憑りつかれている人間を救うために何かしらの魔弾の力を

 使ってくるのはわかっていた!

 だから、いつでもそれを防ぐ術を発動できるようにしておいたのさ!」

 

窮地に関わらず、ブラック・ゴスペルは高笑いを上げる。

分かっているのだ。いくらカズキ達が自分を追い詰めようと、止めを刺すことはない。

何故なら、それは銀の福音の操縦者の死を意味するからだ。

それを避けるために、カズキが何かしらの策を使ってくるだろうが、それには

魔弾の力が使われるはず。後は、それを防ぐだけ。

そして、次の手をこまねいているうちに自分が逆に相手の命を刈り取ればいい。

 

「今度はこっちの……」

 

人質と言うカードとカズキの策を封じた以上、自分に敗北はないと意気揚々と

反撃に転じようとしたブラック・ゴスペルの胸に衝撃が走った。

ブラック・ゴスペルが胸をのぞき込むと、箒が付けた傷に一発の弾丸が

めり込んでいた。

 

「あれ、言わなかったけ?

 目先のことに囚われすぎて周りが、見えてないって?」

 

わざとらしく、首を傾げるカズキの背後にはゴウリュウガンを構えた

リュウガンオーがいた。

 

「わざわざ、警戒されている俺がそんな大事な策を自分ですると、

 本気で思っていたのかい?」

「ぐ……Gaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!」

「今だ、一夏!」

「おおおおお!!!」

 

心の底からの疑問の声に、ブラック・ゴスペルは怒りの声を上げる暇もなく

頭を抱えて苦しみだす。

それを待っていたとばかりに、カズキは一夏へと指示を飛ばす。

一夏は雪片弐型を前に突き出し、自身を矢のようにして飛翔するが雪片弐型は

いつもの刀の形ではなく大剣の形をしていた。

 

「雪片龍式……零落白夜・龍閃斬(りゅうせんざん)!」

 

一夏がそのままブラック・ゴスペルの胸めがけて、飛び込むと

ブラック・ゴスペルの体に風穴を開けて貫通した……“銀の福音”を

抱えて――。

 

「上手くいったな」

「それはいいんですけど、カズキさん。

 結局俺が撃ち込んだのって、何だったんですか?」

「ああ、あれね?

 俺が、魔界から引っ張ってきた魔物だよ」

「なるほど、魔物ね~……魔物!?」

「そ、魔物。と言っても、死骸だけどね。

 高位の魔物は死んでも、周りに色々影響を与えたりもするから、

 術式を仕込んで使ったのさ。

 あいつがISと自分を混ぜたように、強制的に融合する術式をね♪」

 

自分の攻撃に仕込まれていたものを聞いて、驚愕するリュウガンオーの反応を

存分に楽しみながら、カズキはネタ晴らしを続ける。

 

「そして、術式が発動すると一瞬だが銀の福音との融合が緩むから、

 その瞬間を狙って、操縦者を救出する手はずだったんだ。

 まあ、けっこうな賭けだったけど、一夏と白式のおかげで博打を

 打たなくてすんだよ」

 

新たな雪片、雪片龍式。分離した白龍光翼が雪片弐型と合体し、大剣となった

ことで取り回しは悪くなったが、破壊力は格段に向上している。

最大の特徴は、プラスエネルギーを用いたマイナスエネルギーの対消滅機能である。

以前、ムドガがISコアのエネルギー増幅機能でマイナスエネルギーを増幅したのと

同じように、白式は攻撃の際プラスネルギーを瞬間的に増幅できるように進化したのだ。

これによりマイナスネルギーを使う存在に、圧倒的優位な攻撃ができるようになり、

憑りつかれている者のマイナスネルギーだけを増幅したプラスエネルギーで

消すことが可能となった。

 

「ところで、カズキ?」

「何だい、ジノ?」

「あれは、どうするんだ?」

「うん?」

「ふぅ~~~。

 ぶっつけ本番だったけど、上手くいった~」

「で?……それは、何だ一夏?」

「うん?」

 

ジノが指さした先では息を吐いて一息つく一夏に、明がジト目で声をかけていた。

どこかトゲのあるその声を聞いて、どうしたのかと一夏が振り向くと

ラウラとアーニャを除く女子メンバーが全員、明と同じジト目をして一夏を

睨んでいた。

 

「ど、どうしたんだよ、みんな。その目は?

 何だって……何が?」

「……何がって……何で、わざわざそんな抱き方をし・て・い・る・ん・だ?」

 

明達のジト目にたじろぎ訳が分からないという一夏に、明は勿体付けて

その理由を口にする。

現在、一夏は銀の福音を“お姫様抱っこ”で抱えているのだ。

 

「へっ?そんな抱き方って……えっ?」

「「「「「「…………」」」」」」

「はいは~い。君達~。一夏をとっちめたいのは、わかるけど後にしてね~。

 まだ終わってないよ?」

「ぶえにがヴぇぢをズゲ”#%’8!!!!!」

 

明達のジト目の理由が、本当にわからない一夏は首を傾げるが、

カズキが仲裁に入った。

そして、全員の目が声にならない声を上げ、もがき苦しみながら体が

ドロドロになっていくブラック・ゴスペルへと向かう。

 

「どうしたんだよ、あいつ……」

「な~に、簡単なことさリュウガンオー。

 あいつのあの戦闘力は、銀の福音を取り込んでいたから実現できていたのさ。

 銀の福音を中心にして、制御システムを組んでいたけどそれを失ったことで、

 マイナスエネルギーの制御ができなくなっている。

 加えて、さっきあいつに融合させたものは高位のもの。

 肉体が創生種になろうが、あのガキの精神レベルじゃあっさり

 それに飲み込まれるだろうね~♪」

「でも、それって逆にとんでもない力が制御されてない……ある意味ブラック・ゴスペル

 より厄介な魔物になるんじゃ……」

 

呑気に言うカズキの言葉に、リュウガンオーは引きつった声を出すが、

カズキは少しも慌てるそぶりを見せなかった。

 

「そうだね。

 しかも、銀の福音に取りついたみたいに俺達に取りついてくる

 可能性もあるね~」

「あるね~……じゃないでしょうが!

 どうすんのよ!そうなったら、同じことの繰り返しじゃない!」

「その心配はないよ、鈴。

 魔弾戦士の鎧には、相手の恐怖心を刺激してくるような精神攻撃に耐性が

 あるから、魔弾戦士に取りつくのはかなり困難なんだ。

 だから……」

「俺が変身して弾と一緒に、止めを刺すってことですね」

「残念だけど、その答えは60点かな?」

 

あと一歩まで追い詰めたブラック・ゴスペルを倒す最後の策を尋ねる一夏に、

カズキは悪だくみをばらすイタズラ小僧の笑みを浮かべて、一夏の予想への

点数を答える。

ある魔弾キーを一夏達に見せながら――。

 

「その魔弾キーって!」

「まさか!?」

『見つかったのか!』

『ということは、リュウケンドーとリュウガンオーのあのキーも……』

 

カズキが持つ魔弾キーを見て、一夏と弾は驚きの声を上げる。

喜びの感情を混ぜながら。

何故ならその魔弾キーは、ある事件で失われたモノの一つであり、

見つけ出すのは極めて困難と思われていたからだ。

そして、それが見つかったという事はある事実を示していた。

 

「察しがいいね、ゴウリュウガン。

 当然、これ一つじゃなくて二人の魔弾キーも見つけているよ。

 調査の結果、この近海にあるのがわかったからね。

 臨海学校の初日の夜に、回収をしたのさ」

「それじゃ、今日じゃなくてもう昨日か……。

 昨日の朝に来なかったのも……」

「ああ、この魔弾キーを見つけて調整の手筈を整えていたのさ。

 それで、出撃前にその調整が終わったのさ♪

 (本当なら、まだ使いたくなかったけどそうも言っていられないからね……)」

 

一夏は、カズキが二日目の装備試験にいなかった理由に得心がいき、

カズキは内心まだ使う気がなかったが、見つけたという一夏と弾の魔弾キーを

それぞれ渡す。

 

「――と言うわけで!最後の仕上げは、俺達三人がやる!」

 

カズキは粒子ランチャーで、ブラック・ゴスペルを近くの島に撃ち落とすと

その島に向かって飛翔する。

 

「俺達も!」

「わかってる!明、この人を頼む!」

 

銀の福音の操縦者を明に、手渡して一夏とリュウガンオーもカズキに続いていく。

 

「えっ。あ……おい、一夏!」

 

一夏達の行動に明達は呆気に取られて、その場に留まった。

 

 

 

「ぐがるべv#&K!」

 

カズキに撃ち落とされたブラック・ゴスペルは、

島の砂浜の上で苦しみながらのたうち回る。

 

「さ~て、やるなら今がチャンスだけど、こうやって三人同時に

 やるのは久しぶりだな」

『ハハハ♪一夏と弾と違って、俺達のキーは一つしかなかったからな♪』

「でも、そのおかげで俺や一夏はそれが無くても!ってがむしゃらに修行して、

 強くなれた!」

『ああ。悪いことばかりでは、なかった』

「それじゃあ、いくぜ!みんな!」

『今度は私が、あの娘に見せる番だな!』

 

三人は笑みを浮かべながら、カズキが見つけたという魔弾キーをそれぞれ構える。

 

「ゴッドリュウケンキー!」

「マグナリュウガンキー!」

「リュウジンキー!」

「「「発動!!!」」」

 

魔弾キーをゲキリュウケン、ゴウリュウガン、ザンリュウジンに差し込むと

三人の体は一瞬光に包まれそれぞれ鎧が解除されたりISスーツや宇宙ファイターXの服の

代わりに青、白、黒のスーツ姿となる。

 

『チェンジ!ゴッドリュウケンドー!』

『チェンジ!マグナリュウガンオー!』

『チェンジ!リュウジンオー!』

「超ゲキリュウ変身――」

「超ゴウリュウ変身――」

「ザンリュウ変身――」

 

ゲキリュウケンはその姿を剣と盾に変え、一夏が剣を抜くと青い光を放つ龍が。

ゴウリュウガンからは赤い光を、ザンリュウジンからは金の光を放つ龍が飛び出す。

三体の龍は咆哮すると、一夏、弾、カズキへと向かい眩い光が彼らを包み込む。

 

「ゴッドリュウケンドー!」

「マグナリュウガンオー!」

「リュウジンオー!」

 

リュウケンドーとリュウガンオーは、全身の鎧に金の装飾が増えた姿となり、

リュウガンオーは左手に、新たな小型銃を手にした。

カズキは、どこか髑髏を思わせる仮面と全身にはザンリュウジンの刃のような鎧を

纏った姿となる。

 

「「「ライジン!!!」」」

 

かつて、地球をジャマンガという魔の存在から守り抜いた三人の魔弾戦士がここに

復活を果たした。

 

「いつもなら、お前みたいな奴は身の程ってモノを刻み込むんだけど、

 今日は一気に決めさせてもらう……烈風――」

 

肩をザンリュウジンで叩きながら、軽口をたたくカズキことリュウジンオーは

忽然とその姿を消し、次の瞬間ブラック・ゴスペルの背後にその姿を現す。

ブラック・ゴスペルの体に無数の斬撃による攻撃を加えて――。

 

「っっっっっ!!!!!!!!!」

「もう人質はいないから、遠慮はいらないよ~」

「そんなもん、最初からする気ないですよ!

 ゴウリュウガン!マダンマグナム!

 ダブルショット!!!」

 

マグナリュウガンオーは、ゴウリュウガンと新たな武器マダンマグナムを構えて

ドラゴンショット並みの連射をブラック・ゴスペルへと浴びせていく。

 

「ぐげあらべぼへ!!!!!」

 

元々マイナスエネルゴーを制御できず碌に動けなくなっていたところを、

リュウジンオーが関節部分を攻撃して更に動きを取れない様にされたため、

ブラック・ゴスペルは最早ただの的でしかなかった。

 

「今度は、俺だ!ゴッドゲキリュウケン!」

 

マグナリュウガンオーの攻撃を浴びたブラック・ゴスペルは、銀の福音を

取り込んでいた時よりはるかに遅いが、受けたキズが少しずつ回復し始めていた。

だが、その回復をただ見ているわけがなくゴッドリュウケンドーが、新たな姿と

なったゴッドゲキリュウケンを構えて、走り出す。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

ゴッドリュウケンドーは、ブラック・ゴスペルの体を何度も斬り付けていく。

ゴッドゲキリュウケンの刃が走る度に、ブラック・ゴスペルの体から黒い何かが

吹き出し、霧散していく。

ブラック・ゴスペルも意地とばかりに苦し紛れの光弾を放つが、ゴッドリュウケンドー

は左手に持つ盾で軽々と防ぎ、カウンターで突きを放ってブラック・ゴスペルを

吹き飛ばす。

 

「がっ!」

「流石に、制御できなくてもあれだけのマイナスエネルギーだとかなり頑丈だね~。

 それに問題は……」

「何だよ、あれ!?」

 

リュウジンオーが自分の攻撃やマグナリュウガンオーとゴッドリュウケンドーの攻撃を

受けても、倒しきれないブラック・ゴスペルの強固さを冷静に分析する。

その時、マグナリュウガンオーが驚きの声を上げる。

突然ブラック・ゴスペルの体から、黒い煙のようなものが漏れ出し、それは

人の苦しむ顔となって怨嗟の声を上げ始めたのだ。

 

『あれは、人間の怨念だな……』

『ブラック・ゴスペルが純度の高いマイナスエネルギーを得る際に、

 マイナスネルギーと共に吸収してしまったものと推測。

 死の間際に残った恐怖、無念、理不尽に対する恨み……それらが彼らを

 縛り付ける鎖となっている。

 このまま倒したら、彼らは永久に現世をさまようこととなる』

 

ザンリュウジンとゴウリュウガンが、ブラック・ゴスペルから漏れ出した黒い煙の正体

に気付き、苦虫を噛み潰した声を吐く。

 

「だけど、俺達なら何とかできる。

 彼らの怨念をファイナルクラッシュのプラスエネルギーで、浄化する!」

「……」

『ゴッドリュウケンドー。

 私達は“神”の名を冠しているが、全てを救える神様ではない……。

 納得できなくても……割り切れなくても……今できることをやるしかないんだ――』

「わかっているよ、ゴッドゲキリュウケン……。

 どれだけ強くなっても、力があっても、俺は“ちっぽけ”な人間だ。

 それでも俺は!俺達は!!!」

「“助ける”ってことをあきらめたくない!」

 

うめき声を上げる怨念を見て、無言で拳をきつく握りしめるゴッドリュウケンドーに

ゴッドゲキリュウケンが語り掛ける。

悔しさを声に滲ませるが、その悔しさを振り切るようにマグナリュウガンオーと共に

魔弾キーを取り出す。

 

「ザンリュウジン、アーチェリーモード!」

「マグナゴウリュウガン!」

『マグナパワー!』

「ゴッドゲキリュウケン!」

「「「ファイナルキー!発動!」」」

『『『ファイナルブレイク!』』』

 

リュウジンオーは、ザンリュウジンをアーチェリーモードに。

マグナリュウガンオーは、マダンマグナムをゴウリュウガンと合体させ大型銃に。

ゴッドリュウケンドーは、ゴッドゲキリュウケンを盾に収めるのとは逆の向きに

セットして大型の剣にそれぞれ形を変え、ファイナルキーを差し込んだ。

 

「ザンリュウジン――乱舞!」

「マグナドラゴンキャノン――発射!」

「龍王――魔弾斬り!」

 

放たれた光の矢が、紅い龍が、蒼い龍がブラック・ゴスペルへ向かう。

 

「ぐぎゃぁぁぁっ!!!!!」

 

ブラック・ゴスペルが断末魔の悲鳴を上げ爆発すると、怨嗟の声を上げていた怨念達は

穏やかな顔となって天へと昇って行った――。

 

「「…………」」

「恨みは現世に置いて……逝くがいい――」

 

その様子を、声を発することなく見るゴッドリュウケンドーとマグナリュウガンオー

に代わり、リュウジンオーは彼らを送る言葉を口にした。

 

「お~い」

「終わったようですね」

 

そこへ、ジノ達がやってきていつもと違う一夏と弾に

見慣れぬ姿の戦士の姿にそれぞれ驚くが、明はそんなジノ達を気にせず声をかける。

だが、ゴッドリュウケンドーとマグナリュウガンオーに勝利の喜びはなかった。

 

「どうかした……「ちょっ!あれ!」」

 

その様子を怪訝に思った明は、何かあったのかと聞こうとするがそこに

鈴の声が重なる。

 

「う……ぐ……」

「あいつ、まだ生きているぞ!」

「そんな……一夏達の必殺技を受けたのに……!?」

 

彼らの視線の先には、ブラック・ゴスペルとなっていたボロボロなミールの姿

があり、既にひん死であったがまだ息があった。

ジノの声を皮切りに、簪は一夏だけでなく弾とカズキの決めの一撃を受けたのに

生きているミールに驚く。

咄嗟に、明達は武器を構えるがリュウジンオーが手を上げてそれを制した。

 

「さっきの技は、マイナスエネルギーだけを吹き飛ばしただけだけど、

 大丈夫……今度こそ終わったよ。

 そうだろ?シュヴァルツ・バイザー?」

「ええ、その通りですよ」

 

リュウジンオーが声をかけると、まるで最初からそこにいたのか

空中で見えない椅子に座っているように足を組む、クリエス・レグドが姿を現した。

 

「この姿では初めましてですね、魔弾戦士達に共に戦う皆さん?

 私の名は、クリエス・レグド。以後お見知りおきを」

「レ……レグ……ド様。

 助けに来て……くれたん……ですね……。

 あ、ありが……」

「助ける?最早、助かる見込みの無い者を何故私が?」

「え?」

 

気さくに挨拶をするレグドに、ミールは自分を助けてくれるのかと安堵するが

そんな彼の行動に、レグドは心の底からの疑問の声を上げる。

それを皮切りにレグドへと伸ばしたミールの手が、黒炭のように変色していき

塵となって崩れ去った。

 

「な……何だこれはっっっ!!!!!?」

 

ミールにも予想外の出来事なのか、驚きと恐怖が混ざった声を上げ、

それを見ていた一夏達にも動揺が走る。

唯一、その現象を予期していたのか知っていたのか、リュウジンオーとレグドは

慌てるそぶりはなかった。

 

「やっぱりね。

 人間が、創生種になるなんていう無茶苦茶なことをやったんだ。

 ただで済むとは、思わなかったよ」

「そこまで、推測していましたか。

 あなたの考えた通りですよ、リュウジンオー。

 人間の身に、創生種の力はあまり合わないようなのです。

 力だけを行使するならまだしも、その身まで変質させて何のリスクも

 ないわけがありません」

「強大な力には、相応のリスクがあるのは当然のこと。

 こいつの様子から見るに、体だけでなく魂も消滅するねこれは。

 まあ、楽して力を得ようなんて考えたこいつの完全な自業自得だよ……」

「ふざけるなぁぁぁっ!!!」

 

学者の意見交換のように淡々と述べていくリュウジンオーとレグドに、

ミールは怒りの声を上げる。

 

「きっ……さま!最初から、僕を利用していたのか!」

「利用する?何を言っているんです?

 あなたも私達創生種を最初から、利用するつもりだったのでしょ?

 だから、私もあなたのことを利用させてもらったのですよ。

 最も、彼らを追い詰めればいいと思っていましたが、まさか自分が

 創生種になったことのリスクを考えていなかったのは、驚きましたよ」

「それは、仕方ないさ。

 こういうタイプの奴は、優れている自分が利用されるなんて考えもしない。

 そうやって、他人を見下すからこうやって負けるっていうのに……」

「まあ、そのマヌケさのおかげで人間が創生種になる際の

 新たなデータも取れましたし、世界を平和にできるという同志の計画とやらも

 知れましたしね」

「お前……」

 

レグドの言葉にリュウジンオーは、忌々し気に戦闘態勢に入る。

自分がかつて叩き潰したものを再現する気なのかと構えるが、続く言葉は

予想外ものだった。

 

「平和を望む自分の思想を全人類に植え付けることで、争いを無くす……。

 愚かな人間というのは数えきれないほど見てきましたが、彼の者はその極みですね」

「何だとぉ!!!!!」

 

心から呆れ果てているレグドに、ミールはここまでで一番の怒りの声を上げる。

 

「そうでしょう?

 平和を望んでいると言っても、それが全ての人間にとって平和とは限りませんし、

 何より……自分だけが正しい……神であるというような傲慢なこの考え――。

 反吐が出ますね……」

「気が合うね。俺もあいつと話すたびに、キレそうだったよ……」

 

ミールの怒りなど比べられない冷たい怒りと侮蔑を含んだ言葉を放ち、

その場にいた者達は、二人の静かな迫力に息をのんだ。

 

「さて、無駄話はこれぐらいにしようか?」

「そうですね。本題に入りましょうか?」

「お……前……た――」

 

最早自分のことなど眼中にないレグドとリュウジンオーに、憤るミールだったが

何ができるというわけもなく、塵となってこの世界から完全に消え去った。

それを何もなかったように、会話を続けようとするレグドとリュウジンオーに、一夏達は

空恐ろしさを感じた。

 

「本題とは言いましたが……こちらの目的は、ほぼ果たしましたし……。

 今この場で戦うと、私と言う壁を超えるために更なる強さを手に入れて

 しまうかもしれませんから、できれば避けたいところなのですが……」

「この戦いは、こっちの負けで終わっているのによくそんなことが言えるね?」

「「「「「「「「「「「はぁっ!?」」」」」」」」」」」

 

リュウジンオーが悔し気もなく自然に口にした言葉に、一夏達は驚きの声を上げる。

 

「残念だけど、今回は俺達の負けだよ。

 あちらさんの目的は、ブラック・ゴスペルという強敵をぶつけて、こっちの

 手札を確認することだったんだ。

 なのは達やユーノを襲撃したのも、そのためだろ?

 そうやって、こちらの戦力を分断させるようにして

 俺達に隠し玉の手札を切らざるを得ないようにするために……」

「正解です。

 あなた達はかつて、ジャマンガを倒すために一人しか使えないはずの究極の力を

 三人同時に使うという離れ業をやってのけました。

 同時に、上の力を引き出したり変身のためのキーも失ったようですが、

 いずれ取り戻すとは思っていました。

 実際、考えすぎということはありませんでしたしね?」

「「っ!?」」

 

レグドの自分達の評価に、一夏も弾も言葉を失う。

ジャマンガを倒すために一夏は地球に流れるプラスエネルギーの集合点とも言うべき、

パワースポットを開放した。

これにより、究極を超えた究極の力を魔弾戦士達は手にし、ジャマンガを打倒したのだ。

だが、その反動でパワースポットは暴走しかけてしまい、それを止めるために

一夏達はそれぞれの変身キーを使ってパワースポットを制御したのだ。

その際、変身キーは地球のプラスエネルギーの流れにのってしまい、カズキが

見つけるまで行方知れずだったのだ。

このことは当人である一夏達以外知る者はほとんどいないはずなのに……

クリエス・レグドはどこまでこちらのことを知っているというのか。

 

「しかし……少々こちらに都合よく行き過ぎな気がしますね……。

 こちらの目的をそこまでわかっていながらその魔弾キーを使ったとなると、

 何かを企んでいますね?」

「どうだろうね?

 そっちの考えすぎかもしれないし、そうでないかもしれないよ?

 一つ言えるのは……俺は他人が驚く顔を見るのが大~~~好きなんだよね~♪」

 

仮面の下で意味あり気な笑いをするリュウジンオーことカズキに、一夏達は

先ほどとは違った意味で、空恐ろしさを感じた。

カズキは、十八番の心理戦をレグドに仕掛けたのだ。

 

「ふむ……これ以上の腹の探り合いは、無意味ですね。

 あなたとその手の探り合い、カマの掛け合いはとても魅力的ですが……

 そちらの二人の魔弾戦士の潜在能力が未知数すぎて、今ここで考えても

 最善の答えはでないでしょう。

 まだまだ未熟ですが、それ故“可能性”というものが測り知れません――。

 今日は、引くとしましょう。

 いずれ何も気にすることなく戦う時が来るでしょうし、その時に……

 ん?」

 

レグドはカズキとの心理戦に興味を示すも、引く姿勢となった。

一見こちらを恐れての退却にも取れるが、そんな風に楽観する者はその場には

いなかった。そして、引こうとしたレグドはこちらに近づく何かを察知した。

 

「――っと。引くのはいいけど、ちょっと待ってくれるかな?」

「ユーノ!」

 

やってきたのは、銀色のコートを纏ったユーノだった。

それに続く形で、なのはとはやて、二人に連れ添う形のリイン……グムバが姿を現した。

 

「やあ、弾。こっちも何とかなったよ……」

「ごめんね~レグド様~。負けちゃった☆」

「グムバ……」

 

見るからに落ち込んでいるなのはとはやてに気にすることなく、気楽に話す

グムバにレグドは呆れた声を出す。

 

「いや~参った参った~。

 チェスで勝負したんだけど、彼ったらキングを動かして攻めてきたもんだからさ~」

「それで?

 面白そうだからとこちらもキングを動かして、こっちから与えるような勝利は

 取らないだろうとキングでチェックをかけたら、それを取られて負けたと?」

 

グムバの言葉を聞いて、どうして負けたのかを察したレグドはやれやれと言いたげに

首を振った。

 

「まあ、いいじゃないの~。

 こっちの目的は果たせたんだし、僕も楽しめたしね♪」

「はぁ~~~」

「……何か、大変だなお前も」

「わかります?」

 

どこまでもお気楽なグムバに、レグドは深いため息を吐いた。

その姿に、カズキは何となく共感するのだった。

 

「ところで、ユーノ?

 お前ボロボロなのに、何しに来たの?」

「無理は禁物……」

「心配してくれてありがとう、ジノ、アーニャ。

 でも、どうしてもあいつに確かめなきゃいけないことがあってね……」

「それは、そこの二人が聞いても大丈夫なのか?

 その様子だと、予想通りティアナに負けて自信がズタボロだと思うけど?」

「そんな鎧着てますけど、碓氷先生ですね……?

 確かに、私らの完敗でした……。

 オマケにユーノ君が言うには、管理局に隠された真実っちゅうのは、

 オルガードさんの事より恐ろしいらしいですけど……

 私らはもう“知らない”で、すますわけにはいかんのです!

 前に進むには、どんな真実でも向き合わないことには進めへんのや……」

 

ユーノが無理をしてまで、ここに来た理由を察したカズキは、消沈している

なのはとはやてに問いかけるが、はやては辛そうな顔をしながらも

真っ直ぐにカズキの顔を見た。

なのはは、それを無言で見つめ、リインは心配顔で二人を見つめた。

 

「だ、そうだよ。ユーノ?」

「この先、遅かれ早かれこの真実は知ることになります。

 だったら、僕達を交えて知った方がまだいいでしょう……」

「やはり、あなたは気付いたのですね。

 確信を持ったのは、私があなたを襲撃したからですかね?

 それが、逆にあなたの考えが正しいという証明になったと……。

 いつの時代、どの世界でも、陰から戦士を支える裏のエースというのは

 実に厄介で……おもしろい――!」

 

レグドは、忌々し気な言葉を放つもその様子は楽し気であった。

 

「それで、ユーノ。お前が気付いた真実って何だよ?」

「一夏……僕達は、奴らが管理局を利用しているって考えていたよね?」

『そうだ。時空管理局は、様々な世界を行き来して管理をしている。

 それを利用すれば、異世界の技術に触れることも、管理と称して

 力で支配することもできる……オルガードの世界のようにな』

「だけど、事はそれだけですまなかったんだよ。ゲキリュウケン。

 僕は、マイナスエネルギーを集めるって点から、それを生みだすような

 大きな戦いの記録を調べていたんだけど……。

 そういう戦いやアルカンシェルを使ったり、裏でオルガードの世界みたいに

 襲撃をかけた世界の位置を結んでみると……途方もない巨大な魔方陣を

 描く形になったんだ……」

「巨大な……」

『魔方陣……!?』

 

ユーノの言葉に、一夏とゲキリュウケンは嫌な汗が流れるのを感じ、

他の者も一夏達のただならぬ固唾を飲んだ。

 

「それも、君達が倒したジャマンガの支配者グレンゴーストを復活させるためのものに、

 よく似たものにね……」

「な、何だって!?」

「ちょっと待ってくれよ、ユーノ……。

 グレンゴーストを復活させるために、ジャマンガが使ってたやつだって、

 かなりデカイ魔方陣だったんだぜ?

 それが、次元世界レベルの大きさって……」

『仮にその魔方陣が、何かの復活させるためのものだとしたら、

 そいつは化け物や怪物なんて言葉で表現できるものではないぞ……!』

『現在の我々の戦力を結集しても、太刀打ち不可能』

 

ユーノが告げる事実に、弾と一夏は言葉を失わんばかりに驚き、

魔弾龍達も驚愕を隠せなかった。

 

「ねえ、明。グレンゴーストって奴は、そんなに強かったの?」

「強いなんてものじゃありませんよ、鈴……」

「俺達、魔弾戦士が三人がかりでも手も足も出なかったよ」

 

一夏達が驚くきっかけとなったグレンゴーストについて鈴が、明に尋ねるが

彼女とカズキから返ってきた言葉は彼女達の予想以上のものだった。

その様子をレグドは、興味深く眺める。

 

「そして、その中でも一番古いのが時空管理局が、

 次元世界に広く知られるようになったきっかけでもある、ドクシア平定。

 当時、ドクシアは日本で言う戦国時代のように乱戦乱れる世界だったんだけど、

 それを設立直後……瞬く間に収めることで、時空管理局は世界の治安組織と

 なったんだ……」

「えっ?管理局がいろんな世界でやってきた戦いが、魔方陣の点になっとって……

 それが設立からって……」

 

ユーノが言おうとしていることに、はやては気づき顔が青ざめていく。

 

「こいつらは、何かをするために管理局を“利用”しているんじゃなくて、

 何かをするために管理局を“創った”ってことだね。ユーノ?」

 

カズキがユーノが見つけた真実を口にし、それを聞いたなのはとはやては大きく

目を見開く。

 

『つまり……治安組織の方が、都合が良かったってことか?

 いろんな世界のいろんな争いに、介入することができるから?』

「合理的だね。

 しかも、相手を傷つけないことができるクリーンな力って謳い文句で、

 主な戦力として魔法を定めた。

 使うことができる人間が限られる……ね」

『そうすることで、魔法が使える奴は使えない奴を見下して、

 逆に使えない奴は使える奴を妬むようになって、更にマイナスエネルギーを

 集められるか……』

「「「っ!!!?」」」

「くく……ははは!!!」

 

続くザンリュウジンとカズキの考察になのはとはやて、

リインは完全に言葉を失い、レグドは手を叩きながら大声で笑い声を上げた。

 

「見事です!

 その読みは、正解ですよ。時空管理局は、私達創生種が創り上げました!

 ふふ、人間というのは愚かな者の方が多いですからね~。

 思い通りになりすぎて、物足りませんでしたよ」

「管理局を創ったってことは、その魔法にも何かしら細工をしているな?

 だから、魔導士は勝てないんだろ、ユーノ?」

「ええ。ほぼ間違いなく、魔法を封じる手段を持っていますよ……。

 もしも、魔物や彼らと戦っているときに、魔法が使えなくなったら……」

「普通の人間以上に、恐怖を感じてマイナスエネルギーを生み出す……か。

『てことは、非殺傷設定や異常なまでの質量兵器の禁止もそのための布石だな?

 そうやって、戦いの怖さって奴を薄れさせて、いざって時に味わせるために!』

 

ユーノとカズキの冷静ながらも憎々し気な顔とザンリュウジンの叫びに、

レグドは正解だと言わんばかりの笑みを浮かべているように、一夏達には見えた。

 

「君達みたいに、おもしろい人間はとことんおもしろいけど、

 そうじゃない奴はホントつまんないだよね~。

 今の繁栄が自分達だけの力で、できたって勘違いしているんだからさ~」

 

心底つまらなそうにグムバは皮肉をもらし、掌で躍らされている者達を小馬鹿にする。

 

「俺達がそれに気づいても、慌てるそぶりがまるでないところを見ると、

 復活させようとしているものが目覚めるのも時間の問題ってことだね?

 例えここでお前を倒せたとしても、残ったベルブとリリスが目的を果たす……」

「仮にそうだとして、どうしますか?

 やはり、ここで私と戦いますか?」

 

ここまでのやり取りでカズキが気付いた最悪の予想を聞いて、レグドは

楽しそうな声とは裏腹に、立ち上がり戦意を高めていく。

 

「そっちがやるっていうなら、戦うけど……こっちからは仕掛けないさ。

 さっき復活も時間の問題って言ったけど、逆を言えばまだ少し時間はあるってことだ。

 なら、その時間を使って力を蓄え、一気に叩いた方がいいさ」

「そんなに、上手くいきますかね?」

「さっきお前が、言ったんじゃないか。

 未熟だからこそ、こいつらの“可能性”は計り知れないって。

 なら、俺はこの二人が俺やお前の想像を超える成長をするのに賭けるさ……」

「ふふ……いいでしょう!受けて立ちましょう!」

 

お互いに憎むわけでも侮るわけでもなく、両者は闘気をぶつけ合いそれに続くように、

一夏と弾も、カズキに並び立つ。

 

「俺達を置いて勝手に進めないでくださいよ、カズキさん」

『だが、カズキのいう事も最もだ一夏。

 奴らが何を復活させようとも、私達がやることは変わりない!』

「そうだ!何が来ても、勝つだけだ!」

『根拠も計算も何もないが……同意する』

『そうこなくちゃっな♪』

「本当にわかっているのかね、君達は……」

 

かつてない程の世界の危機だというのに、能天気や楽観的にとれる一夏達

にやれやれといった感じのカズキだったが、どこか楽し気でもあり、レグドも

同じく楽しみだという空気を体から出していた。

 

「盛り上がっているところ、悪いんだけどさ~。レグド様。

 リリス様が、どこにいるか知らない?

 僕が負けたら、どこにいるかを聞いてあげるって約束だったからさ~」

「あなたという奴は、この空気でそれを聞きますか?

 まあ、私もリリスのあの行動は予想外でしたから、構いませんが……」

 

どう考えても、ここは黙ってこちらが立ち去るという空気で呑気にリリスの

ことを聞いてきたグムバに、レグドは呆れかえる。

 

「ちょっと待ってくださいね、皆さん。

 聞こえますか、リリス?

 こちらの用は、済みましたから連れ去ったという娘を彼らに返して……」

「あああぁぁぁん!!!」

 

レグドが空間に通信用と思われる魔法を展開すると、空中に

画面が映し出され、声をかけるとそこから、どこか桃色を感じさせる声が

その場に響き渡った。

 

「ははははは!

 ほ~ら、こうやって愛しの彼に縛られて、ぶたれたいんでしょ!」

「うぅぅぅんっ!しゅ、しゅごい!

 痛いけど、しゅんごく気持ちいいところを叩いてきて……いいいっ!!!」

「叩かれているのに、気持ちいいなんて……ホントいやらしい子ね!」

 

画面の向こうでは、デザイン的な衣装を纏ったリリスが磔にされたフェイトを

鞭で打ちまくっており、水を得た魚の如く生き生きとした声を上げていた。

また、フェイトも叩かれているのに恍惚とした表情を浮かべて、気持ちいい声を

上げていた。

あまりに、突拍子の無いその光景に、敵味方関係なく言葉を失い、

ただ一人グムバは、笑い転げた。

 

「え?あれ、フェイト……だよね?え?」

「フェ、フェイト……ちゃん?」

「め、めまいが……」

「大丈夫、箒?」

「何故、目隠しするのだシャルロット?」

「ラウラには、まだ早いよ/////!」

「もしも、一夏さんにされたら……」

「ななななななんという破廉恥な////////////」

「とか言いながら、ガン見する明を記録……」

「フェイトちゃん、素質があったとはいえ、あの素敵な服のお姉さんと

 息合いすぎやろ……」

 

目の前で繰り広げられるとんでもない光景に、それぞれ信じられないとばかりの

言葉を口にする者、羨ましがる者、呆れる者と様々な反応を見せた。

しかし、共通して女性陣は目を逸らしながらもチラチラとその光景を見ていた。

 

「…………。え~すいません……。

 敵対しているあなた達に聞くのもおかしいのですが、こんな時は

 どうすればいいのでしょうか?」

「どうすればって……どうすればいいのかな、弾?」

「いや~どうしようもないんじゃいかな~?」

「話には聞いたことはあるけど、あういうのが好きな奴って本当にいるんだな~」

「まあ、何とかできなくもないけどね~」

 

駆け引きも打算も何もなく純粋にどうすればいいのかわからず、レグドは

一夏達にこういう状況の対処の仕方を尋ねる。

だが、一夏も弾も混乱して頭が回らず、ジノも

お手上げとばかりに手を上げた。

こんな時に何をすればいいのか全員途方にくれるが、カズキが意味深に呟く。

 

『何とかって……どうやってだ?』

『あれは、もう手遅れというものでは?』

『お互いに楽しそうだし、放っておいた方がいいんじゃねえの?』

「そう言うわけにもいかないだろ?

 まあ、そのためには犠牲になる者が出ておもしr、ゴホン。

 大変なことになるだろうが、仕方あるまい。

 これって、こっちからも声を届けられるんだよね?」

「今、おもしろいことになるって言いかけましたよね?こっちを見て?

 何をする気なんですか?てか、嫌な予感がヒシヒシとしますから止めてぇ!」

 

カズキはユーノをちらりと見ながら、この状況を何とかしようと動き出す。

そのユーノは直感で禄でもないことになるのを感じるが、その前にカズキは

行動に移った。

 

「おいフェイト!本当は、そういうことをやりたい本命がいるんだろ!

 今なら色々とパワーアップしているから、そいつよりもすんごいことができるぞ!」

「す、すんごいこと……?」

「あら、いつの間に見てたの?」

 

カズキの言葉にフェイトは、意識をそちらに向けリリスもそこで

通信が繋がっていることに気が付いた。

 

「そうだ。

 それに、想像してみろ!自分の今の姿が、その本命に見られるところを!

 本命に力ずくでさらけ出されるところを!」

「み、見られる――!ちちち力ずくででででで!!!?」

「今もどうやって、自慢のバインドで縛り上げて犬の如く躾けて

 やろうかって企んでいる顔をしているぞ!

 ……な?ユーノ?」

「な?……じゃあ、なぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

言うだけ言って、後は丸投げな感じでカズキにバトンを渡されたユーノは

人生で一番の大声でツッコミを入れる。

 

「し、縛り上げて、犬みたいにちょちょちょ調教!?

 ――ご主人様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

カズキの言葉を聞いて、ワナワナと体を震わせたフェイトは、力づくで磔から

脱出を果たした。

 

「ねぇねぇねぇ!!!早く早く早く!!!

 私をご主人様の所に連れて行ってぇぇぇ!!!!!」

「へぇ~、私とするよりもその本命がいいのね~。

 ふふふ、おもしろそうだし、興味があるわね♪」

 

抜け出したフェイトは、リリスに目をランランと輝かせて詰め寄る。

リリスもここまでフェイトを熱くさせるご主人様(ユーノ)に、興味を

持ちあっさりと画面から姿を消し、一瞬でカズキ達の前に姿を見せた。

 

「ああ、レグド。やっほー♪」

「やっほー♪って、あなた……」

「ご主人様ぁぁぁ!!!!!」

 

自分に呑気に話しかけるリリスに、レグドはがっくりと肩を下し、

フェイトは自慢のスピードでユーノにダイブした。

 

「ぐへっ!フェ、フェイト!」

「さあさあさあ!このダメな私を、縛り上げて、罵って、好きなように躾けて~!!!!!」

 

ボロボロな状態だったユーノに、フェイトのダイブを止められるわけがなく、

そのまま彼女ごと倒れてしまう。

ユーノは抱き着いてきたフェイトに、困惑を隠せなかった。

現在、フェイトはリリスに鞭で叩かれまくったせいでISスーツのように

体にピタっと張り付くようなバリアジャケットのいたるとことが破れて

肌が見えている状態である。

健全な青少年であるユーノには刺激が強すぎな姿であり、彼女の暴走を

なだめながら何とか引きはがそうとするが…………。

 

「ユーノくん……フェイトちゃん……?」

 

――――ゾクリ!

 

その場にいた者全員が、背中に氷を入れられたような悪寒に襲われた。

おそるおそる悪寒の発生源に目を向けるとそこには――なのは(白い魔王)が立ちずさんでいた。

 

「さらわれて、心配していたのに随分楽しそうだね、フェイトちゃん?

 ユーノ君もフェイトちゃんにくっつかれて、楽しそうだね――?」

 

コテンと首をかしげながら、光が消えた無表情な目と怪しく歪んだ笑みを

浮かべて一歩一歩なのはは、ユーノヘと近づいていく。

 

「おおお落ち着いてなのは!

 フェイトも離れて!おい!そこで、カメラを回している元凶!

 何とかしやがれ!」

「ご主人様~♪」

「これが、人間の男女の修羅場という奴ですか……。

 ちょっかいをかけたり利用したことはありませんが、そんなことはしない方が

 よさそうですね。それをするには、こちらも命を懸けなければ……」

 

一歩なのはが自分達に近づくだけで、空気が重くなるのを感じた一同は

既になのはとユーノから距離を取って退避していた。

はやてもなのはと同じくユーノに迫ろうとしたが、なのはから放たれる

プレッシャーを感じて、一夏達と同じくその場から退避した。

そのやりとりを見ていたレグドは、この手のいざこざの恐ろしさを

体感し手を出すまいと誓うのだった。

そして、リリスは面白そうに遠巻きに眺め、その側でグムバは笑い続けた。

元凶であるカズキは離れたところから、カメラで撮影をしクスクスと

笑っていた。

リュウジンオーに変身したままで――。

 

 

 




まずは、白式の強化第三弾として攻撃力アップ形態を登場させました♪
普通に破壊力も増してますが、マイナスエネルギーを使う者に
圧倒的優位な攻撃が可能です。

続いて、リュウジンオーに加えリュウケンドー、リュウガンオーの
進化形も復活!
ここでは、仮面ライダーの強化フォームのような位置づけ
としています。なので、変身口上も変えております。
三大戦士の初戦闘としては、あっさり終わりすぎてしまいましたね(汗)
力量不足で申し訳ない。

カズキの宿敵ですが、こいつは「ガン×ソード」のラスボスである
かぎ爪の男がモデルです。
一見人の良さそうな老人ですが、怒りの感情が欠落し究極の
独善野郎です。

一夏達が強化形態に、変身できなかった理由も
原作リュウケンドーを少しアレンジしました。

時空管理局に隠された秘密は、とある錬金術マンガと同じ理由でした。
当然、魔法にも細工をしております。

ここまでは自分でもシリアスかなと思ったんですが、最後に(汗)
フェイトの暴走具合は「俺、ツインテールになります」の
ドMイエローと「この素晴らしい世界に祝福を!」の
へっぽこクルセイダーを参考にしておりますwww
てか、違和感ないなホント。

今のなのはに勝てる者は、この場にいません。
レグド達の魔法封じの策も通用しないでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月が輝く夜に


今回でIS3巻までを終わらせるつもりでしたが、
予想よりも長くなり、締めは次回となります(苦笑)

それでは、最新話。どうぞ!


「作戦は、完了だ。全員よくやった――」

 

カズキ達は旅館へ帰還後、作戦室にて千冬から労いの言葉を送られていた。

なのはとフェイトがいろいろと目覚めた直後、レグド達はそそくさとその場から

逃げ出し、一夏達はビデオ撮影をするカズキを除いた全員で何とかなのはを説得し

帰還することができた。

最もそれで、なのはの怒りがおさまるわけがなく、現在も微笑みながら黒いオーラを

体から放出し、千冬も含め誰もその姿を視界に入れないようにしている。

肝心のユーノは、治療を受けているため部屋にはおらず行き場を失った黒いオーラは

部屋に充満していく。

 

「あの~織斑先生?

 俺はいつまで、こうして正座していればよろしいのでしょうか?」

 

怒りのなのはから一同が目を逸らしている中、唯一人正座させられている一夏が

引きつった顔で千冬に問いかける。ちなみに正座時間は、30分は越えている。

 

「お前はこいつらと違って、独自行動による重大な違反を犯した。

 本来なら相応の厳罰を説教である程度すましてやろうというのに、不満か?

 後は、学園に帰ったら反省文と懲罰用の特別トレーニングで許してやろうと

 思っていたが、それでは足りないと自分から言うのなら……」

「いえ、寛大な処置をありがとうございます……」

 

自分を鋭い目で見降ろしてくる千冬に、一夏は涙を流しながら感謝の言葉を

述べる。一夏()千冬()に勝てるようになるのは、まだまだ先のようだ。

 

「――って言うのは、建前で。

 本当は、あんな大ケガをしてたのに無茶をして自分を心配させたことを

 怒っているんだよね~千冬ちゃん♪」

 

カ――――ン!

と、ゴングが鳴る音を全員が聞こえたかと思ったら、IS学園名物の

痴話喧嘩(将来のための夫婦喧嘩の練習)が、開始された。

 

「さてと、千冬ちゃんをからかうのはこれぐらいにして。

 一夏?みんな、お前のことを心配してたんだから、早く元気にならないと

 いけないよな?

 そのために、じゃ~ん!

 栄養満点特製回復ドリンク、リカバ(ティー)を用意したよ♪」

「っ!?」

 

痴話喧嘩から数分後、カズキが満面の笑みを浮かべて、取り出したお茶?

に一夏をはじめ明達も戦慄した。

 

「おっ!うまそうじゃん、そのお茶。

 俺にもくれよ」

「うん、いいよジノ」

「サンキュー♪」

『「「や、やめろぉぉぉぉぉっ!!!!!」」』

 

そんな一夏達を気にすることなく、ジノはカズキからコップを渡してもらい

それを口にしようとして、一夏と弾、ゲキリュウケンが止めようと大声を上げる。

 

「……☆$#%@!!!!!」

 

一夏達の制止は間に合わず、カズキから渡されたお茶?を口にしたジノは奇声を上げると

駒のように回転しながら天井まで飛び上がると頭をぶつけて、そのまま落下して動かなくなった。

 

『『「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」』』

「リカバ(ティー)。疲労回復に効果のあるものをた~~~っぷりと

 配合した栄養ドリンクだよ♪」

 

倒れ伏すジノを見て無言となる一夏達に、カズキは新作ドリンクの説明をする。

静寂に包まれる部屋の中で、カズキが持つリカバ(ティー)が入ったコップの底から

気泡がゴポリと音を立てた。

 

「これで本当に回復するのかって、疑問なんだね?

 大~丈夫だよ~。これを飲んだ山田先生は……ほら?」

「ええ。とっても美味しかったですよ♪」

 

カズキが指さした方を見ると、真耶が笑みを浮かべながら信じられないことを

口にした。

 

「これを飲んだら、疲れなんか吹っ飛んで何でも来いって感ジデス♪

 YA――HA――!」

 

混乱したように目を回して普段とは違う口調の真耶に、一夏達はガクガクと

震え始める。

 

「さあ、一夏。どーぞ♪」

「…………(ゴクッ)」

 

笑顔だが、有無を言わさないカズキの静かな口調に一夏は手を震わせながら

カズキが差し出したコップを掴み――。

 

「ごべがべぼ!#&@*」

 

ジノと同じく奇声を上げ、気絶した。

 

「気絶するほど、おいしかったようだね~。

 君達も疲れているだろうから、どうだい?」

「「「「「「「「遠慮します!!!」」」」」」」」

「YA――HA――!」

「おもしろいから、記録記録……」

「「…………」」

 

気絶しているジノと一夏をアーニャが撮影している傍で、真耶のテンションは

どんどん上がっていく――。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ~結局何があったの?教えてよ~」

「ダ~メ~!機密事項なんだから」

 

時は進み、夕食の時間。

シャルロットの周りに人が集まり、何が起きたのかを聞こうとしていた。

人付き合いのいい彼女なら、話を聞けると考えたのだろうが、シャルロットは

口を割ろうとはしなかった。

 

「あのね?聞いたら、いろいろ制約がつくけどそれでもいいの?」

「うっ!それは、嫌だな~」

「じゃあ、高町さん達のことは?

 何があったの……アレ?」

 

事件のことは諦めた女子達は、もう一つの気になることを尋ねた。

彼女達が指さした先には、笑顔で黒いオーラを未だ放つなのはと何かを思い出しては、

自分の体を抱きしめて息を荒くするフェイト。

そして、なのはと同じく黒いオーラと冷気を放つすずかがいた。

 

「あ、あれは……その……」

「何と言いますか……」

「フェイトが目覚めて、突撃したのよ……」

「「「「「???」」」」」

 

言いよどむシャルロットに、セシリアも歯切れが悪く、それを鈴がまとめるが

尋ねた女子達は頭に?を浮かべるだけだった。

 

「お姉ちゃん……さっきから、なのは達が怖い……」

「しっ!あっちを見ちゃダメだぞ、ラウラ。

 下手に刺激すれば八つ当たりと言う、とばっちりが来てしまうぞ」

「昔から怒ると、なのはは過激だったが、昔の方が可愛く見えてきたぞ……」

「触らぬ神に祟りなし……」

 

なのは達の迫力に、ラウラは涙目になって明に助けを求め、目を合わせない様にしていた。

箒は、自分の知っている過去と今のなのはを比べてため息を吐き、簪は爆弾に

触れないような対応を決意する。

ちなみに、カズキや千冬達教師陣は、諸々の事後処理を行っており、一夏はジノと

共に部屋で未だ気絶していた。

 

 

 

「はぁ~生き返るぅ~~~」

『あまり、洒落になってないぞ。色々と……』

 

月が空に上がり、夜の中盤と言った時間になってようやく一夏は目を覚まし、

ゲキリュウケンと共に風呂を堪能していた。

幸か不幸か目が覚めた時間は、ちょうど一夏やカズキのために浴場が当てられていた

時間なので、こうしてゆっくり入っているのだ。

ゲキリュウケンは学園の大浴場と同じように桶の中で、小さなタオルを

のせて浸かっている。

 

「なんか戦いが終わって、帰ってきてからの記憶が曖昧なんだよな~。

 気がついたら部屋にいたし、それに口の中に違和感が……」

『それ以上は、やめておけ。世の中には、思い出さない方がいいものがある』

「?」

 

完全に回復しきっていないのか、若干体に違和感を覚える一夏だったが、

ゲキリュウケンはそれを考えさせるのを止めさせた。

もしも、カズキお手製の飲み物を飲んだことを思い出したら、それだけで

再び気絶しかねない。

 

「ところで、俺がブラック・ゴスペルにやられてお前と一緒に会った

 あの子だけどさ……」

『おそらく、間違いないだろう』

 

一夏とゲキリュウケンは、あの不思議な空間で出会った少女について

考えていた。

あの口ぶりから考えて、二人の目は右腕に装着されたガントレットに行く。

 

「……どうやったら、話せるのかな?」

『私に、語り掛けるような感じではないか?』

 

気の抜けた声で語り合う二人は、

互いに返事をしながらも頭に入ってはいなかった。

 

「そろそろ上がるか……」

『そうだな……』

「いっちば~ん!」

 

長くも短くも浸かっていたわけではないが、今日は早く寝ようと湯船から上がろうと

すると背後から、元気のいい“女子”の声が聞こえてきた。

 

「もう、鈴!走ると危ないよ!」

「シャルロット、何かお母さんって感じ……」

「シャルロットは部屋でも、いつもあんな感じだぞ簪?」

「まあ、ラウラとならな……」

「ですわね」

「さて、折角女子の中で一番に入れるよう、カズキさんが

 取り計らってくれたんですから存分に……」

『「ん?」』

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

互いに身に纏うのはタオル一枚という状況で、8人の男女と一匹の龍は

向かい合ったまま呆然とし、時が止まるということを体感した――。

 

 

 

「さ~て、箒ちゃんはいっくんとよろしくやってるかな~?」

 

旅館の近くの崖に設けられた柵に腰かけて、篠ノ之束は何が入っているか

分からない宝箱を開けるのが楽しみでしょうがいないといった感じで足を

ブラブラさせていた。

 

「ふっふっふ~♪

 時間制で入浴を決めてるなら、ほんのちょっとずつ時間を

 ずらしちゃえば、思わぬタイミングで鉢合わせ♪~なんて簡単だもんね~。

 さ~て、いっくんは成長した箒ちゃんのナイスバディ♡を見て、

 狼さんになっちゃったかな~?」

 

束は、空中にディスプレイを表示して妹とその想い人のドキドキイベントを

覗き見しようとするが……。

 

「「「「「「「「なぁぁぁぁぁっっっ////////!!!!!!」」」」」」」

「ちょっ!なんであんたがいんのよ!」

「それは、こっちのセリフだ!

 今は俺が使える時間のはずだぞ!」

「それよりも鈴!隠して隠して!」

「へっ、隠すって何をよ、簪?……見るなぁぁぁ/////////!!!!!」

「あれ?」

 

ディスプレイに映し出されたのは、妹と親友の弟とのラッキースケベではなく、

彼と彼を慕う者達との予想外遭遇ハプニングに、束は首をかしげる。

そうしている間にも、タオルを巻いていなかった鈴が一夏に桶など色々投げつける。

 

「ままままままさか、一夏さん……私達とKONNYOKUというのを

 するために////////」

「一夏の……エッチ///////」

「KONNYOKU……なるほど、クラリッサが言っていた入浴時の男女の

 お約束イベントの一つか」

「一夏……貴様と言う奴は……」

「誤解だ!?」

「わ、私と一緒に入るのでは足らないと言うのか……」

 

腕で前を隠しながら、物を投げつけてくる鈴との攻防をしながら、勘違いをする明達に

弁明をする一夏だったが、彼女達の耳には入っていなかった。

 

「くたばれ!」

「っと!……ととと!!!!!」

「え?」

 

どっが――ん!

と、鈴の攻撃をかわした一夏は足を滑らせて、明と凄まじい音を立てて盛大にぶつかった。

 

「あいたたた……」

「ひゃん//////」

「ん?何だ、この柔らかい……」

 

一夏が立ち上がろうとすると、下から聞こえた可愛らしい声と手から伝わる

柔らかい感触に何だと目を開けるとそこには――。

 

「~~~~~////////////」

「あれ?あれ?……あれぇぇぇぇぇ!!!!!?」

 

背中からでも水着越しでもなく直に一夏に揉まれて、顔を真っ赤にして涙目な明が

そこにいた。

 

「「「「「一夏……?」」」」」

「おお~。これが、ラッキースケベというやつか~」

「ちょっ!まっ!ゲ、ゲキリュウケン!」

『……当機ハ、エネルギー不足ノタメ、スリープモードニ、入リマス……』

「そんな機能、初耳なんですけど!?」

 

聞くのが恐ろしく感じる綺麗な声と、感心する妹分の声に一夏は相棒に

助けを求めるも、返ってきたのは片言なお知らせだった。

 

「「「「「それで?いつまで触っているのかな?」」」」」

 

直後、浴場から何かが弾ける音と悲鳴が、千冬が鎮圧に駆けつけるまで旅館中に

響き渡った。

 

「あれ~~~?おかしいな~。何で、他の子まで来ちゃったのかな~?」

 

自分が浴場で一夏と鉢合わせになるよう仕向けたのは、箒だけだったはずなのに

どうしてこうなったのかと覗き見してた束が頭を捻っていると、一通のメールが彼女の

元へと届いた。

 

“自称天才さんへ

 妹の恋路を応援するために、一肌脱いだみたいだけど、忘れてないかい?

 今の彼女には、たくさんの友達がいるから、行動には多くの不確定要素が

 あるのを?

 それに、どうせやるなら大勢の方がおもしろいだろ?

 

 ps

 ところで、ねぇ~?今どんな気持ち?

 自分が馬鹿にしてる奴に、自分の計画が利用されて、どんな気持ち~?

 天才(哀)さん?

 弟命な教師さんが大好きなお騒がせ教師より♪”

「…………うっ……がぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

メールなのに、こちらを心底小馬鹿にしたメールの送り主の笑い声が聞こえた気がした

束は、手足をジタバタさせて地面を叩き声にならない悔しさをぶつけた。

 

「――て、なっているだろうね~。あの天才(笑)は。あ~~~」

 

遠くで、束が悔しがっているのを想像しながらカズキは、マッサージチェアに

座りながら気持ちよさそうな声を上げていた。

浴場から聞こえる、悲鳴やら爆発音をスルーしながら。

 

『ホント、誰かをいじるってことは天才だよな、お前。

 あっ。千冬が、浴場に行った』

「さ~て、そろそろ部屋に戻りますか」

 

カズキが、マッサージチェアから立ち上がると浴場から、凄まじい打撃音が

聞こえたのを聞かなかったことにして部屋へと戻っていった。

 

 

 

「ふぅ~」

 

一夏は海から上がって、岩場へと腰かけた。

浴場での騒動の後、一夏は旅館を抜け出して夜の海に繰り出して、泳いでいたのだ。

 

『一夏。抜け出したのが、バレたらまた千冬の説教だぞ?』

「な~に。まさか千冬姉も、あんなことの後にまたなんて思いもしないさ」

『……まあ、痛い目を見るとしてもお前だから別にいいか……』

 

少し楽観的な一夏にゲキリュウケンは、小声でこの後起きる未来の予想を呟いた。

 

「それに何だか急に、星が見たくなってさ……。

 星の海とは、よく言ったもんだよな~」

 

一夏はそう言うと、空を見上げそこに広がる夜空に魅入った。

星は夜の海にも映り、一層幻想的に見えた。

 

『それは建前で、本当は浴場での騒動で明とあったことで、

 頭を冷やしたかったんじゃないのか?』

「ぶっ!?にゃ、にゃにを言ってりゅんですかい、ゲキリュウケンさんや!」

『図星か……』

「一夏……」

 

海へとやってきた理由をゲキリュウケンに見抜かれて、一夏が狼狽えていると

その背後から、水着姿の明が姿を見せた。

肌の露出の多いビキニは、月光を浴びて煽情的に見える。

 

「旅館から抜け出すのを見かけたらから、追いかけてきたのだが……

 何をしているんだ?」

「えっ?あっ!い、いや……ははは……」

 

明は一夏の隣へと座るが、浴場での騒動もあってかぎこちない空気が流れる。

 

「……な、なあ一夏?聞きそびれていたが、ケガの方はどうなんだ?」

「ケガ?ああ~。よくわからないけど、気がついたら治ってた」

「そんなバカなことが、あるわけないだろ!?

 あんな大ケガが、起きたら治るなんて……」

 

この場に流れる空気をどうにかしようと、明は一夏が駆け付けた時から気になっていた

ケガの具合を尋ねた。

だが、自分達を心配させないために平気なように振舞っていると

思っていた一夏の思わぬ答えに、どこまで無茶をするのかと明は一夏に背を向けさせると――。

 

「本当に治ってる……」

「考えてみたら、不思議だよな~?これって、ゲキリュウケンが治してくれたのか?」

『いや。私に、そんな力はない。となると考えられるのは……』

「白式か……」

「だが、ISに操縦者を守る機能はあってもキズを治すなんて聞いたことないぞ?」

「まあ、いいんじゃないか?治ったんだし?」

「良くない!どれだけ心配したと……」

 

コンと一夏の背中に頭をぶつけ、明は声を絞り出していく。

彼女は一夏が必ず目を覚ますと信じていたが、同時に誰よりも心配していたのだ。

絞り出されたか細い声に、一夏は何も言えなくなる。

信じているというのは、心配しないとは違うのだ。

 

「ごめん……」

「謝ってもらいたいわけじゃない……。

 だけど、止まらないし止められないと分かっていても、

 お前の無茶は見ていて辛いんだ……」

「……っ!はぁ~。

 こりゃあ、何が何でも心配させないように強くならないとな~」

「じゃあ、証明してみせろ……」

 

明の吐露に、一夏は頭をかきながら決意を固めるが、明はそれで

納得はしなかった。

 

「証明って?」

「お前の強くなるは、毎回こういう無茶をする度に思っているんじゃないのか?

 それじゃあ、何の意味もないから形として証明してみせろと言っているんだ」

「そうは言っても、具体的にどうすればいいんだよ?」

「例えば……ス……」

「ん?何て言ったんだ?」

 

自分からした要求なのに、明は顔を赤くして視線を逸らして小声となり、

一夏は聞き取れず聞き返す。

 

「だ、だから!その…………キスをして強くなるって誓え!」

「…………はぁっ!!!?」

 

やけくそ気味に叫んだ明の言葉を理解すると、一夏も顔を赤くして仰天した。

 

「何言ってんだよ、お前!」

「できないのか……そ、それなら仕方ないな。

 これで、お前の強くなるというのを証明できるのは何もないから、

 お前はもう無茶も無理もできないな!うん!

 (う、上手くいった~///////!

 できもしない注文をすれば、一夏に無茶をしないと正当に

 約束させることができる!)」

 

明の要求に一夏が狼狽えていると、明はうんうんと頷いて一人納得していた。

これは、一夏に無茶をさせないと強引にでも約束させるために

考えたものだったが……。

 

「……わかった///////」

「え?」

 

月の光で岩場に映った二人の影が、一つに重なった――――

 

「…………っっっ////////!!!!!?????」

「こ、これで、もう強くなるしかないな///////」

 

明は一夏の不意打ちに大混乱し、一夏も自分のしたことが恥ずかしかったのか

ごまかすように明後日の方向を見る。

 

「いいいいい一夏!?ななな……だだだだって、え?

 あれは、お前に無茶をしないってさせるためで!初めてで、誓いとかは////!」

「自分からしろって言っておいて、お前……。

 か、勘違いするなよ!別に約束のために仕方なくとかじゃなく、

 お前とだからというか……」

「「…………////////////」」

『(口を挟むのは野暮と思って黙っていたが、この二人……。

 過去最高に私の存在を忘れてやがる!)』

 

自分でも何を言っているのかわからなくなる一夏と明は、夜の暗闇でもわかるぐらい

顔を真っ赤にし黙り込む。

ゲキリュウケンの存在を完全に忘れて――。

 

「一夏……//////」

「…………//////」

 

潤んだ眼を向けてくる明に、一夏は無言で明の肩に手を置いて顔を近づけていき……

ごつっ。

 

「ん?」

 

額に何かがぶつかり、顔を見上げるとフィン状の物体がふよふよと浮かんでいた。

そして、先端の四角いスリットに光が収束していく。

 

「どわっ!?」

 

一夏は紙一重でフィン状の物体、ビットからの攻撃をのけぞってかわす。

明と一夏が振り向くとそこには――――。

 

「一夏……こんな人目のない場所で二人っきりで……」

 

触れたものを全て切り裂く空気を放つ箒が。

 

「……よし、殺そう」

 

光が消えた瞳で笑みを浮かべる鈴が。

 

「な~にをしてい~る~の~か~な~?」

 

うっすらと細めた目から慈悲の欠片も感じられないシャルロットが。

 

「……………………」

 

眼鏡を光らせて無言な簪が。

 

「ふふっ……うふふふふふふふふっ」

 

顔を俯かせて不気味な笑いをもらすセシリアが。

それぞれのISを纏い武器(処刑道具)を構えて、一夏へと視線を突き刺す。

余談だが、この時ラウラはクラスメート達と大カードゲーム大会で遊んでいたりする。

 

「えっ?い、いや~~~。ちょ、ちょっと夜の散歩を……。

 ハハハ……」

「「「「「…………」」」」」

「……ゲキリュウケン!」

 

一夏は、何とかごまかそうとするも箒達5人の突き刺す視線が変わることはなく、

一夏はゲキリュウケンに再び助けを求める。

 

『当機ハエネルギー回復ノタメ明ケ方マデ、休息ノタメ機能ヲ停止シマス。

 グゥ~グゥ~』

 

ゲキリュウケンは、これ以上関わっていられないと一夏を見捨t……ではなく、

試練を与える。

 

「そげな!?

 に……逃げるぞ明!!!」

「きゃあっ///////!?」

 

その場から、一夏は明をお姫様抱っこで抱えて逃げ出すが、

襲撃者達には火に油ではなくガソリンを注ぐという逆効果となる。

どうやら、彼らの臨海学校最後のイベントは鬼ごっこ(鬼が変わることのない)

となるようだ。

月が静かに照らす夜に、悲鳴と銃声や斬撃の音が響き渡った――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あっ。忘れてた」

 

悔しさで手足をバタバタさせていた束は、飛び上がると再び柵に腰かけ

空中にディスプレイを展開する。

 

「え~っと、紅椿の稼働率は~?絢爛舞踏を含めて57%……。

 予想してたよりも早く、紅椿を使いこなしているみたいだね。

 さっすが、箒ちゃ~ん♪」

 

先ほどまでの悔しがりから一転して、映し出されるデータに束は上機嫌に

なっていく。

 

「そんでもって~?」

 

束がディスプレイを操作すると、新たな力を得た白式の戦闘映像が

映し出される。

 

「ふむふむ。このいっくんのしゃべるおもしろ剣に対抗するために、

 同じ力を使えるように進化したのか~。

 オマケに、操縦者の生体再生までしちゃうなんてね~。

 まるで――」

「――まるで『白騎士』だな。お前が、持てる技術のすべてを注いで

 作り上げた始まりのIS」

 

束の背後から、いつもの黒いスーツを着た千冬が現れた。

だが、二人は顔を合わせることなく束は柵に腰かけたまま、千冬は近くの

木に背を預ける。

顔を見なくても、どんな顔をしているのかわかる――そんな確かな

信頼が二人にはあった。

 

「さて、問題ですちーちゃん。コアナンバー001の『白騎士』は、

 今どこにいるのでしょうか?」

「正解は白式(びゃくしき)を『しろしき』と呼ぶ……だろ?」

 

束と千冬の間に、小さな竜巻が現れるとカズキが姿を見せた。

 

「カズキ!?」

「出たな……ドロボウ宇宙人……」

「かつて『白騎士』と呼ばれた機体は、コアを残して解体され

 第一世代の開発に大きく貢献した――」

 

二人の反応を気にすることなく、カズキは束が出した問題について答えていく。

 

「そして、そのコアはある研究所襲撃事件で行方不明となり、いつの間にか

 『白式』に組み込まれたと。

 ついでに、最初のISである『白式』の最初の妹と言うべき千冬ちゃんの愛機

 『暮桜』が、情報のやり取りをするコア・ネットワークで同じ

 ワンオフ・アビリティーを開発したと考えれば、『白式』が

 零落白夜を使えることの説明ができる」

「ちっ。ドロボウ宇宙人のくせに、束さんと同じことを考えやがったか……。

 じゃあ、お前はいっくんが何でISを動かせるのかわかる?

 悔しいけど、正直どうしていっくんが……男がISを

 動かせないのかわからないんだよね~」

「…………」

 

不機嫌を隠そうとしない束は、カズキにこの世界の歪みの根底についての

問いを投げかけ、千冬も黙って耳を傾ける。

そもそも、ISは一夏と箒を喜ばせるために作ったものであり、女性にしか

動かせないなんて機能はつけていないはずなのだ。

 

「証拠がないから推測の域が出ないけど……白騎士事件。

 あれ以降、ISは男に反応を示さなくなったらしいけど、多分それが

 なくても男は女ほどISを上手く動かせなかっただろうね」

「どういう意味だ?」

「天才(笑)。ISのコアを創る時、千冬ちゃんの思考パターンを

 トレースしたんじゃないか?」

「そうだよ。0から人間と同じくらいの思考をする人格を形成するのは、

 時間がかかりすぎたからね。

 だから手っ取り早く、人間……ちーちゃんの思考パターンをトレースして、

 それを参考にしてコアの人格を形成したんだよ」

「やっぱりね……」

 

疑問に対する束の答えに、カズキは自分の考えに確信を持っていく。

 

「多分、その時千冬ちゃんの思考パターンだけじゃなく、潜在意識まで

 トレースしたんじゃないか?そして、それはコア・ネットワークを

 通して全てのISにも伝わったていった……」

「おい。何が言いたいんだ?」

「俺と会った時の千冬ちゃんってかなりピリピリしてて、特に男なんか

 一夏以外嫌悪感丸出しだったでしょう?

 だから、その男嫌いなところも一緒にトレースしちゃったんじゃないかな?」

「「っ!」」

 

カズキの推測に千冬と束は目を見開く。

 

「まあ、トレースしたと言っても無自覚な潜在意識レベルなんだろうけど、

 白騎士事件を引き起こしたっていう……多分レグドかな?

 そいつが、事件を引き起こした時に眠っていた男嫌いを目覚めさせたんだよ。

 男が使っても動かせない様、IS自身も気付かないレベルでね。そして

 この世界を歪ませて、マイナスエネルギーを生み出しやすくするために……。

 そう考えると、一夏がISを動かせるのも説明ができる。

 千冬ちゃんは一夏のことが、大~~~好きだからね~。

 それも一緒にトレースしたと考えれば、ISが一夏に心を開いて

 動かせるようにしても不思議じゃない」

「うおっ!?確かにそれなら説明ができる!

 ちーちゃんは、いっくん命なブラコンだから、ISにまで影響を与えても

 おかしくない!」

「うんうん」

「お前ら……」

 

全く疑問を持たず納得する二人に、千冬は拳をワナワナと震わせる。

 

「……はぁ~。ということは、やはり今の世の中が歪んでいる根本は

 私が原因か……」

「違うんじゃないかな?」

「何?」

 

震える拳を下すと、千冬は自虐の言葉を吐くが、カズキがそれを否定する。

 

「千冬ちゃんの男嫌いは、千冬ちゃんと一夏の父親が母親を連れて二人の前から

 姿を消したから……。

 まあ、雅さん曰くどこにでもいる親バカらしいから、君達を捨てたなんて

 ことは天地がひっくり返ってもないらしいけど。

 俺が言いたいのは、すれ違って誤解から仲たがいすることはよくあることだし、

 嫌いになるってことはそれだけ父親のことが好きだったってことでもある……」

「カズキ……」

「帰ってきたら、気のすむまで殴ってやればいいさ。

 俺と違って、喧嘩できるかもしれないんだからさ。

 千冬ちゃんも、一夏も……」

 

口調こそいつもと同じく軽いが、紡がれる言葉は千冬の心を震わせていく。

だが、笑みを浮かべるカズキはどこか寂し気でもあった。

喧嘩したくても千冬や一夏と違い、カズキは親子喧嘩という当たり前な

日常の出来事を二度とすることができないのだ。

 

「む~~~。何二人だけの世界を作って・い・る・ん・で・す・か~!

 空気か!束さんは空気扱いか!」

「あれ、いたの天才(笑)?」

「心から頭に?を浮かべているその顔が、腹立つぅぅぅ!!!!!」

「本当に成長しないな、お前は」

 

カズキにいいようにからかわれる束に、千冬は呆れ交じりのため息をもらす。

 

「だ~か~ら~!

 何、自分は普通みたいな感じにしようとしているのさ!

 いっくんに勧められた白い水着を服の下に着て、ドロボウ宇宙人にこっそり

 見せようとか考えているくせに~~~!!!」

「ぶっっっっっ!?」

 

束の不意打ちに、千冬は盛大に吹き出した。

 

「いい歳して、ツンデレでムッツリでブラコンって、どんだけなのさ!」

「きききぎざまっ!!!!!」

 

蚊帳の外にされたのがよっぽど気にくわなかったのか、束は普段は言うのをためらう様な

ことも次々と言い放ち、顔を真っ赤にした千冬に首を絞めつけられて持ち上げられた。

 

「ぐ……ぐるじぃ……ギ、ギブ……ギブ……」

「まあ、千冬ちゃんは天才(笑)をいじめるのが好きなSだけど、

 自分を追い詰めちゃうようなフェイトと同じ属性持ちというわかりきったことは

 置いといて」

「置いとくな!」

「楽しそうで何より♪」

 

持ち上げた束を解放し、カズキに阿吽の呼吸でツッコミを入れる千冬に

カズキは満足とばかりにウンウンとうなずく。

 

「二人とも人を空気扱いするのは、いい加減にしない?

 いやマジで?」

 

よろよろと立ち上がりながら、束も二人にツッコミを入れるが

ダメージからか、弱弱しかった。

 

「……ねぇ、二人は今の世界は楽しい?」

「何だ、藪から棒に……。

 ……退屈はしないな」

「俺は楽しいっていうより、おもしろいね~。

 世界に、おもしろいことは満ち溢れている。

 それこそ、万華鏡のように見方一つでガラリと変わる。

 俺はそれをこの世界に来て、学んだよ……」

 

束からの問いに、千冬とカズキはそれぞれの答えを述べた。

 

「おもしろいことは、何も探さないと見つからないってものじゃない。

 例えば……さん……に……いち……」

 

カズキが右手を上げ3本の指を立てて、一本ずつ曲げて

カウントダウンしていくと――。

 

「どっかーん」

 

二方向(・・・)から聞こえる爆音が、夜の静寂を打ち破った。

 





前回の話の感想の中心がフェイトの覚醒についてで、
ビックリです。

一夏と明の海のイベントは、2巻の混浴イベント同様表現が難しく、
上手くできなかった(汗)

今回で本作品で男がISを動かせない理由が判明。
千冬の思考パターンをトレースしたことで、心の奥底で
思っていた男嫌いと、弟大好きもトレースされ、
一夏だけが男でISを動かせるということにwww

次回、一夏達と違う場所で起きた騒動をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本当の夏の始まり――

今回でIS原作3巻は、終了です。
まさか一年近くもかかるとは(汗)
前回と一緒にするつもりだったので、いつもより短めです。

IS最新11巻は、危惧していた延期がまたしても(呆)
人のことは言えませんが、いい加減にしてほしいです。

夏に現在はまっている「ナイツ&マジック」がアニメスタート
しますので、今から楽しみです♪


「あ~……流石にしんどい……」

 

鬼が変わることのない鬼ごっこを終えた一夏は、翌日うなだれていた。

地獄の鬼も回れ右して、逃げ出す勢いの箒達に追いかけまわされた上、

騒ぎを聞きつけてやってきた千冬にリミットブレイクしてマキシマムドライブした

オオメダマを喰らったのだ。

更にその後に、ISや専用装備の撤収作業も行い睡眠時間は昼寝程度しか

取ることができなかった。

ブラック・ゴスペルとの戦いで体力を使い果たしていたのに、騒動に続く騒動に

一夏はこれ以上何かあったら、きれいな川の向こうにいるであろうご先祖様と

対面してしまうかもと、考えていた。

 

「織斑くん、また何かしたんだね。原田さんと……」

「だね~」

「ちっ……。バカップルが……」

 

疲労困憊の一夏を見て、クラスメート達は呆れたり舌打ちしたりしていた。

彼女達の視線の先には、不機嫌というオーラを目に見えるぐらい放出している

箒、セシリア、シャルロットと、三人とは反対に顔を赤くしてもじもじしている明がいた。

そんな彼女達とクタクタな一夏を見ただけで、何があったかを察したようだ。

一人カードゲーム大会で遊んでいたラウラは、一夏達の様子に首を傾げて

見る者を和ませているのは余談である。

ちなみに二組と四組のバスでは、鈴が爆発寸前の爆弾の如く苛立っており、

簪は無言で何かのシミュレーションを行っていた。

 

「でもさ~?織斑くん達は、いつものことだからいいんだけど……」

「高町さん達は、どうしたの?」

「さあ?だけど……こっちも下手に刺激したら、ヤバイわ……」

 

IS学園の日常風景となった一夏達のドタバタはともかく、クラスメート達は

バスの中に立ち込めるもう一つの異様な空気に、戦々恐々としていた。

彼女達が視界に入れようとしない席には…………。

 

「~~~~♪」

 

鼻歌を歌っているが、何故か震えてしまう笑みを浮かべるはやて。

 

「ぅ~~~//////////」

 

おあずけをされたペットのように切ない顔で、頬を染めたフェイト。

 

「ふん!」

 

鈴と同じく、刺激したら今にも噴火するぐらい怒っているアリサ。

 

「ふふふふふ…………」

 

影が差した笑みで、見る者に極寒の寒さを感じさているすずか。

 

「はぁぁぁ~~~~~~~~」

 

そして、魂が抜けたように放心状態のなのはがいた。

 

昨夜の夕食の時も5人は似たような空気を放っていたが、一つ違うのは

なのはが心ここにあらずな点である。

時は昨晩、カズキが千冬と束に会う少し前に遡る――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「来てくれてありがとう。なのは」

「ユーノくん……」

 

一夏達が鬼の変わらない鬼ごっこをしている海岸から少し離れた、場所で

ユーノはなのはを呼び出していた。

 

「それで?何の用かな?ここでOHANASIするの?」

 

呼び出されたなのはは、フェイトが帰ってきてから浮かべている笑みのまま

レイジングハートを構える。

 

「ははは……。ちょっと、話をしたくてね……」

 

笑みを浮かべながら夜の闇のように黒いオーラを放つなのはに引きつりながらも、

ユーノはどこか遠くを見る目で夜空を見上げる。

 

「こうやって二人で、ゆっくり話すのは久しぶりだね。

 …………なのは。

 僕はね……ずっと……君と出会ったことを後悔してたんだ」

「ユーノくん!?」

「いや……正確には自分の弱さにだね……」

 

予想外のユーノの言葉に驚くなのはを気にせず、ユーノは言葉を続けていく。

 

「君と最初に出会った時、そもそも僕がレイジングハートを使えたら……。

 君と一緒に飛び続けていたら……。

 君やフェイト達との力の差を才能って言葉を使って、逃げていなかったら……。

 なのはは、こんな危険と隣り合わせな道に行かせなかったかもしれない。

 友達とかけがえのない日常を送っていられたかもしれない。

 落ちることも……なかったかもしれない――」

「っ!?違うよ、ユーノくん!

 落ちたのは私の……自分のせいで!」

 

否定の言葉を上げて、なのははユーノの言葉を遮る。

魔法という力と出会って、2年が過ぎた頃。

それまでの休むことなくハードなトレーニングや実戦を続けたなのはは、

その疲労から来る一瞬の判断ミスで、ある任務で瀕死の重傷を負ってしまった。

何とか過酷なリハビリで、回復することができたが未だに多くの者の

心に深い爪跡が残っている。

 

「それでも、きっかけが僕との出会いに変わりはないよ……。

 何百、何千回と思ったよ。どうして、僕みたいな奴がなのはみたいな

 優しい子と出会ってしまったんだろう……ってね。

 だけど、一夏やカズキさん達と出会ってわかったんだ。

 起きてしまった、過ぎてしまった過去は決して変えることができないって……。

 逃げることなんてできないって……」

「ユーノくん……」

「どんな過去も現在(いま)を作っているんだ。

 例え、それがどんなに辛く悲しいものでも……。

 だから、なのは……僕は決めたんだ……!」

 

なのはに背を向けていたユーノは振り向くと、なのはに真っ直ぐ目を向ける。

見たことのないユーノの真剣な眼差しに、なのはの胸は高鳴る。

 

「僕は、君の笑顔を守りたい。

 力が必要なら強くなればいい……どんな恐ろしい相手が来ても勝てばいい……

 一人で勝てないなら仲間と力を合わせればいい……。

 もう二度と、君の翼を折らせはしない!

 なのは……僕は君が好きだよ――」

 

ザァァァッ――――。

一際強い波が岩に当たり、風がなのはの髪を揺らした。

 

「……ふぇっ?そ、それってその////」

「もちろん友達とかじゃなくて、男が女を好きになることだからね?」

 

突然の告白に思考が停止するなのはにユーノは、誤解されない様念押しをして、

ウインクを投げ飛ばす。

 

「は?へ?え?」

「言っておくけど、ガンガン攻めていくからね?

 君に想いを伝えるには、並大抵なことじゃないから。

 全力全開で行くから、覚悟してね♪」

「…………にゃぁぁぁぁぁ//////////////////////////////!!!!!?????」

 

いつもの穏やかな少年の顔ではなく、獲物を狙う獰猛な獣の笑みで

宣戦布告をするユーノになのはは爆弾が爆発したように頭と耳から煙を

吹き出し顔を真っ赤にして奇声を上げた。

 

ドォォォォォン!!!!!

 

そして、なのはが奇声を上げたと同時に海が爆発し、

襲撃かとユーノが振り向くとそこには――――。

 

「なに…………しとるんかなぁ~。お・ふ・た・り・さ・ん?」

 

夜の闇よりも深い闇を纏ったはやてが夜天を統べる王として、空に佇み。

 

「野外?焦らし?……はぁ……はぁ……はぅっ///////!」

 

瞳を潤みさせ、息を興奮したように荒くしているフェイトが自分の体を抱きしめ。

 

「姿が見えないと思ったら……!」

 

体から炎が噴き出ているかのように、髪をうねらせワナワナと震えているアリサが

メラメラと怒りを燃やし。

 

「どうして、なのはちゃんが顔を真っ赤にしているのか……

 説明してくれるよね。ユーノくん?

 じっくりと……ね?」

 

見る者全てを凍えさせる笑みを浮かべるすずかが、深淵を宿した目を向け。

 

怒りのなのはに勝るとも劣らぬ威圧感を放っていた。約一名は若干違うが。

はやてとフェイトと違い、アリサとすずかはバリアジャケットを

着ているわけでもないのに、ユーノは空を飛んでも二人から逃げられる気がしなかった。

 

「え~っと……逃げるが勝ちってことで!」

「はにゃぁぁぁっ////////!!!?」

 

ユーノは、今の彼女達に話し合いが通じないと悟るとなのはを連れて逃亡する。

お姫様抱っこで抱えて。

 

「あああ!!!」

「ユーノ君、OHANASIやで!」

「へ~……。私達が見ている前で、そういうことするんだ……」

「ほ、放置プレイ……。ユ、ユーノ……しゅごい//////!」

 

お姫様抱っこでなのはを抱えて逃げ出したユーノに、はやて達は放出していた

黒いオーラを真っ黒いオーラに変えて、追撃を開始する。

アリサとすずかはバリアジャケットを着ているわけでも、ISを纏っているわけでも

ないのにそれに劣らない動きで追いかけ、ユーノを震撼させた。

ちなみに、騒ぎを聞きつけてやってきたカズキは、

一部始終をカメラに録画して一通り笑い転げて楽しんでから止めに入ったのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「八神さん達は、篠ノ之さん達と同じ感じだけど、高町さんのあれは……」

「原田さんに似ているよね……」

「あっ。メール見て、顔真っ赤にした……」

「私達の知らないところで、どいつもこいつも青春しやがって……ケッ!」

 

慣れ親しんだ空気を放つはやて達と、一人明と同じ恋する乙女のオーラを

放つなのはに何があったのかおおよそ察したクラスメート達は、

やっていられないとばかりに舌打ちするのであった。

 

 

 

「(よし!明は、昨日のあれで一夏を気にかけている余裕が無いみたいだから、

 ここで一気に!)」

「(最大の障害である明さんが動かない、今がチャンスですわ!)」

「(う、うむ//////!何事も迅速な行動が、大事だからな!

 勝負だ一夏!)」

 

昨晩一夏と新たなステップを踏んだ明に、焦りを覚える箒達は明がオーバーヒート

している今の内に、一夏に何かアピールをと考えていた。

そして、他の者よりも先手を打つべく、クタクタな一夏に水分をと、帰りのバスの中で

飲もうと購入しておいたペットボトルを手に持って立ち上がる。

彼女達も一夏と同じく、千冬の説教を受けて同じ作業をしたにも関わらず、一夏よりも

元気なのは千冬の威圧が主に一夏に向いていたからではない。

恋する乙女の回復力である。

そう。決して、自分はカズキと大して変わらずいつも通りだったのに、

一夏は明とちゃっかりひと夏の思い出を作ったから、

千冬の嫉妬が一夏に注がれていたからでは決してない。

 

「あ~……何か飲み物飲み物と……」

「「「一夏っ(さん)!」」」

「ねえ、織斑一夏くんがいるのはこのバスかしら?」

 

箒達三人が一夏を呼ぶのと同時に、バスの中に見知らぬ女性が入ってきた。

見た目からしておそらく千冬と同年代と思われるが、教師の中にいた記憶は

誰にもない。

鮮やかな金髪が、夏の日差しで眩しいぐらいに輝き、ブルーのサマースーツと

合わさって絵画のような見惚れる大人の美しさだった。

 

「え~っと……一夏は俺ですけど……?」

「へぇ~君がね……」

 

かけていたサングラスを開いた胸元から谷間に預けると、女性は一夏の顔を

好奇心を覗かせて観察する。

 

「私は『銀の福音』の操縦者、ナターシャ・ファイルスよ」

「あっ!どこかで見た覚えがあると思ったら、福音の!」

 

一夏がポンと手を叩く様子を見て、ナターシャはクスリと笑みを浮かべる。

 

「ふふっ♪こうして見ると、どこにでもいる男の子なのに

 空に上がると大人の男の顔をするなんて、ちょっと反則よね~」

「?」

 

ナターシャは何が言いたいのかと一夏が首を傾げていると、ふいに柑橘系のコロンが

香ると頬に柔らかい何かが触れる感触がした。昨日と明とキスしたような……。

 

「……へっ?」

「あの子と私を助けてくれてありがとう。白い騎士さん♪

 今度はゆっくり会いましょう。バーイ~」

 

そう言ってナターシャはバスから去り、後には過ぎ去った嵐を見るように呆然とする面々が残された。

 

「…………」

『(おい、一夏。後ろ……)』

 

放心状態の一夏は、ゲキリュウケンに言われるままクルリと首を後ろに向ける。

 

「一夏……」

「モテモテだね~」

「幸せいっぱいのようですわね~」

「……浮気者……」

 

振り向いた先にいたのは、ジト目や笑顔でこめかみに浮かべる恋する乙女達。

 

「えっ!あ、あれ!これ俺が悪いの!?

 って、なんでみんなペットボトルを持って振りかぶって……ぎゃあああ!!!」

 

4人が投げたペットボトルは、正確に一夏の顔面に直撃して彼を撃沈させた。

 

『(こいつは、こういう星の元に生まれたのか?)』

 

ゲキリュウケンは倒れ伏す相棒に、ため息を人知れずこぼすのだった。

そして、何かを感じ取った鈴と簪は拳をバキボキと鳴らしたりシャドーボクシングを

したりしていた。

 

 

 

「おいおい、余計な火種を残すな。

 ただでさえ、面倒な奴らが多くて大変なのに、いつの間にかそれが増えてるんだぞ?」

 

バスから降りたナターシャに千冬は頭を押さえながら、ため息をもらす。

 

「まあ、本音は私の大好きな弟にあんなことを!なんだけどね~」

 

背後から聞こえてきたお約束の声に、千冬はためらうことなく裏拳を放つ。

その裏拳を声の主であるカズキは、やすやすとかわした。

 

「ふふ。予想よりずっと素敵な男性で、将来が楽しみだったからつい♪

 あなたも噂以上に、王子様と仲いいじゃない?」

「これのどこがそう見える!」

「俺は、王子様って言うよりご主人様かな?」

 

いつもの応酬を繰り広げる千冬とカズキをおもしろそうに見るナターシャに、

千冬が抗議の声を上げるがカズキが漏らした言葉に、日本刀のように目を鋭くして

数段キレのある技を放っていく。

 

「き~~~さ~~~ま~~~は~~~!!!!!」

「ははは♪ところで、君は……っと。もう動いて大丈夫……なのかい?」

「ええ。彼だけじゃなく、『あの子』も私を守ってくれたから……」

 

ナターシャは寂しそうに空を見上げながら、拳を握りしめる。

『あの子』というのは、彼女の愛機である銀の福音のことである。

カズキが言っていたように、憑りつかれながらも銀の福音はナターシャを

守っていたのである。

 

「まあ、査問委員会もコアの凍結処理っていうのも形だけだけど、

 今は大人しくしているのを勧めるよ」

 

今回の事件は表向き、暴走事件として処理され福音のコアも凍結ということに

なっているが、実際はISが創生種に対抗するための手段を憑りつかれたコアから

得られるかもと束が修復するのと同時に解析しているのである。

もちろん、反発の声もあったがカズキが両手であるものを持って見せたら、

瞬時に“よろしくお願いします!”と頭を下げたのである。

そのあるものとは、何やら黒い手帳のようなものだったとか……。

 

「本当に色々とありがとう。お礼を返すのは、大変そうね」

「いや、こっちも戦力のアテができそうだったからね~。

 その時が来たら、千冬ちゃん共々に存分に頼らせてもらうよ♪」

「頼らせてもらう……だと?」

 

カズキが口にした言葉に、千冬は怪訝な顔となる。

 

「あいつら、創生種の力は計り知れない。

 だから、戦力は多いに越したことはないし、俺が止めた所で

 止まるような千冬ちゃんじゃないしね♪

 戦う準備も天才(笑)に頼んでいるみたいだし、それに決めたんでしょう?

 戦うって。弟を守らなければって姉の義務感でも責任感でもなく、

 一人の人間織斑千冬として――」

「……ふん」

 

自分のことなど全部お見通しと言わんばかりのカズキに、千冬は

拗ねたようにそっぽを向いた。

 

「あらあら♪

 かのブリュンヒルデも恋人の前では形無しね♪」

「何言っているのかな?

 千冬ちゃんは、どこにでもいる弟大好きなお姉ちゃんだよ?」

「やかましいわ!!!」

 

太陽が燦然と輝く青空の下で、カズキと千冬は学生時代から何も変わらない

やり取りを繰り返し、それを見たナターシャは夏真っ盛りだというのに

熱~~~いブラックコーヒーを飲みたい衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

彼らの熱い夏は、まだ始まったばかりである――――

 

 




というわけで、前回起きたもう一つの騒動はなのは達でしたwww
ユーノは、これからガンガン攻めていきます。
顔を真っ赤にしたメールは、家族に挨拶をするという
宣戦布告です♪

ちなみに、弾達も違う部屋で宴会をしてましたが――
弾:カズキと楯無が虚を言いくるめて水着にエプロン姿をさせたものを
  通信で見せられて撃沈。
  楯無は見られていると思わなかった虚に、軌跡がTになる蹴りを
  何十発も叩き込まれ絶望までのカウントダウンを数えさせられた。

タツミ、ラバック:いつものように、酒で潰される。

他のメンバー:泣き上戸や笑い上戸で宴会を存分に味わう。

ボルス:たまたま出会った教師陣や生徒達に恋愛のアドバイス。
    結婚するまで2回もふられたことから、一番大事なのは
    諦めないことだと説く。

夏休みに本格的に入って、修行やらなにやら色々なことがやっと
できます(苦笑)
4巻は混ぜやすいですが、5巻まではかなり長くなると思います。

次は最初に、カズキが言っていたご主人様についてでもやろうかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひと時の日常


会社の研修や仕事にようやく一段落ついたので、更新します。
だけど、目標としている一話一万字には届かなかった(苦笑)



「ごめんね、一夏。手伝ってもらって」

「気にするなよ」

 

日が沈みかかり、世界が赤く染まる放課後の廊下で、一夏とシャルロットは

プリントの山を抱えて歩いていた。

 

「でも、よかったの?

 今日は、明達と一緒に訓練するはずだったんでしょ?」

「あいつらには、遅れるって言ったしそれに……

 シャルロットと一緒にいたかったからな//////」

「えっ……?」

 

そう言った一夏の顔を見ると赤くなっているのは、夕日のせいだけではないだろう。

同じように自分の顔も同じように赤くなっているのも……。

 

「シャルロット……」

「一夏……」

 

瞳に互いだけを映した二人の顔が近づいていくのを夕日だけが、見守り――。

 

「……あれ?」

 

顔を近づけてくる一夏に目を閉じたシャルロットが、目を開けるとそこには

一夏の顔ではなく、見慣れた天井があった。

 

「もしかしなくても……ゆ……めってオチ?」

 

夢の内容と、状況を見たら十人が十人そう答えるであろう認識したくない“現実”を、

シャルロットは呆然として呟き、脳が徐々にそれを認識していく。

 

「はぁ~~~~~……。

 そうだよね。あの一夏が、そんな事言うわけないよね……」

 

夢でがっかりというのが見て取れるため息をこぼして、シャルロットのテンションは

朝から下降し始めた。

 

ウィ~~~ン――

 

「ん?」

 

がっくりと肩を下していると隣から、機械の音が聞こえて顔を向けると……。

 

「…………」

「…………何しているの?ラウラ?」

 

“じぃ~~~”という擬音が聞こえてきそなぐらい、ラウラはシャルロットに

視線を向けていた。ビデオカメラを持って、服を身に着けず生まれたままの姿で。

 

「うむ。たまに、シャルロットは寝ながらうなされている(?)ことが

 あるのでな?

 兄様にどうすればいいのかと、相談したらそのうなされている(?)所を

 録画して見せてみるといいと助言をもらったので、試していたところだ」

 

真顔で、自分の行動を説明するラウラにシャルロットは、聞き捨てならない人物の名が出て

額から冷や汗が流れるのを止められなかった。

 

「兄様って……碓氷……先……生が?」

「それで、これがさっきまでうなされていた(?)お前の様子だ」

 

ラウラはビデオカメラを操作して録画を再生し、シャルロットに見せた。

 

“だ、だめだよ一夏///////。

 こんなとこ……ろを……誰かに見られ……ひゃん///////!”

「兄様はこれを見せれば、うなされることは少なくなるかもしれないと

 言っていたが……どんな夢をみていたのだ、シャルロットよ?」

「…………。~~~~~っっっ/////////!!!!!!?」

 

純粋な目でこちらを心配し疑問に首を傾げるラウラの背後に、

こうもりのような翼を背に生やしたカズキが悪魔な笑みを浮かべる姿が見えたのは、

果たして本当にシャルロットが見た幻だったのかどうか……。

声にならない羞恥に染まった乙女の悲鳴が、休日のIS学園の朝を告げた。

 

 

 

「う~~~~~////////」

「さっきら、どうしたのだシャルロット?」

 

いつもより少し早い朝食を取っている二人だったが、シャルロットは

未だに羞恥で頭を抱えていた。

この時間、食堂には部活動の朝練をしている面々がちらほらといるぐらいなので、

あまり今の姿を見られていないのがシャルロットにとって多少幸いだったかもしれない。

 

「ラウラのそのマイペースには、怒る気にもならないよ……」

「?」

 

もぐもぐと朝食を食べながら、自分が原因だというのに堂々と聞いてくるラウラに

シャルロットは脱力するのだった。

 

「ところで、ラウラ?朝からステーキって……胃がもたれない?」

「そんなことはないぞ?朝に一番食べる方が、体の稼働効率はいいのだ。

 逆に後は寝るだけの夕食に、一番食べると消化されないエネルギーはそのまま

 脂肪となって蓄えられる……らしいぞ」

「それ……一夏から聞いたの?」

「うむ。よくわかったな。

 お兄ちゃんやお姉ちゃんは何かと、食事は楽しいものだと色々教えてくれるのだ♪」

 

楽しそうに話すラウラに、シャルロットや食堂にいた他の面々も何となく一夏達が

ラウラにあれこれする気持ちがわかったのだった。

 

「そうだラウラ!せっかくだから今日は、町に出て一緒に買い物をしようよ!」

「買い物?……今日は、普通に訓練をして……」

「い・く・よ・ね?」

 

買い物に誘うシャルロットに、ラウラは断ろうとするが、そんな彼女にシャルロットは

“にっこり”と笑いかけるのであった。

 

「わ、わかった!わかったから、その怖い笑顔はやめてくれ!」

 

本能から、この笑顔に逆らってはいけないと感じたラウラは瞬時に白旗を上げた。

 

 

 

十数分後、シャルロットは夏らしい白のワンピース、ラウラは“制服”でバスに乗っていた。

ラウラは私服というのを持っておらず、公用の軍服で出かけようとしたが頭を押さえた

シャルロットによって止められ学園の制服で出ることとなり、目的地に到着後――

 

「シャルロット……もうこのぐらいで……」

「ラウラ!次はこれ着てみて!」

 

ラウラはシャルロットの着せ替え人形となっていた。

まずは、ラウラの私服からということで、適当な店で試着をしてみたのだが、

絵本の中から抜け出た妖精のような容姿に、疑うということがどこか抜けている

純粋さがその服と合わさって、シャルロットの何かのスイッチが入ってしまったのだ。

オマケに従業員も同様のスイッチが入り、クール系や可愛い系等の服をあれやこれやと

着せられ、逆らうに逆らえないラウラはされるがままとなった。

 

「楽しかったね~ラウラ♪」

「う~~~」

 

ホクホクと楽しそうに笑うシャルロットとは、対照的に

ラウラは購入した服の一着を着たままテーブルに突っ伏していた。

試着時、それを見ていた他のお客が写真やら

抱き着きスリスリなどをお願いしてきて、ラウラの疲労は更に増したのだった。

 

「お昼を食べたら、次は生活雑貨を……」

「はぁ~~~。困ったわね……」

 

シャルロットが次の予定を考えていると、隣でメイド服を着た女性が頭を抱えていた。

その女性は、視線を感じたのかシャルロットとラウラの方に顔を向けると目を見開いた。

 

「あなた達!バイトしない!」

「えっ?」

「ん?」

 

救世主を見つけたと言わんばかりに、目を潤ませながら目を輝かせるメイドさんに

シャルロットとラウラは揃って、首を傾げるのであった。

 

「メイド喫茶……ですか?」

「そうなの!今日限定で、執事のサービス付きイベントをやっているんだけど、

 予想以上に助っ人に来てくれた執事君が好評で、手が足りないの!」

「それで、私達に手伝ってほしいと……。

 どうする、シャルロット?」

「う~ん。アルバイトは別に禁止されてないけど……」

「お願い!今日だけでいいから!」

 

女性の申し出に、シャルロットは少し渋るが女性は必死に説得をする。

 

「まあ、今日はこれって用事もないし……」

「私も別にいいぞ?」

「ありがとう!私はさつきって、言うの!よろしくね!」

 

そう言うと、二人はさつきにその店へと案内される。

 

「さあ、ここが私のお店。“メイド・ラテ”よ!」

「ここが……」

「ふむ、これがメイド喫茶か……」

「「お帰りなさい♪お嬢……様……」」

「へ?」

「ん?」

 

さつきに案内された店に入って、シャルロットとラウラは固まった。

扉を開けて出迎えてくれたのは、執事とメイドの衣装を身に纏った一夏と明であった。

 

 

 

「ええ~っと……それじゃ、一夏と明は碓氷先生に頼まれてここに?」

「ああ。本当は、カズキさんが来るはずだったんだけど、色々とやることができたからって

 俺達に代役をね」

「私は、ほとんど説明無しだったがな……」

「まさか、二人が一夏くんと明ちゃん、それに碓氷くんの知り合いだったなんて~。

 世間って意外と狭いのね~」

 

思わぬところでばったりと会った一夏達は、休憩室でここまでの経緯を説明していた。

 

「でも、碓氷先生とメイド喫茶って、どういう関係なの?」

「碓氷くんは、このお店の常連さんだったのよ♪」

「「ええっ!?」」

「ほ~」

 

一夏と明がここにいる理由がわかったシャルロットだったが、発端であるカズキとの

関連がピンとこなく、さつきの答えに明と共に大声で驚く。

 

「店の常連って言うより、千冬姉の常連でしょうね。

 その時の二人が簡単に想像できますよ」

「お兄ちゃん。何故、ここで教官の名が出てくるのだ?

 教官も常連だったのか?」

「いやいや。常連じゃなくて、従業員だよ。

 高校時代、ここでバイトしてたんだよ千冬姉」

「「えええええっっっ!!!!!?」」

「なにぃっ!?」

 

一夏のカミングアウトに、明とシャルロットはさっきよりも大声で驚いた。

 

「おおおおお織斑先生が、このお店でバイト!?」

「ということは、私と同じめめめメイド服を!?」

「うん。そうだよ」

「教官がメイドというものを……一度見てみたいものだ……」

「懐かしいわね~。あの時は、まさにメイド・ラテの黄金期だったわ~♪」

「そうですね。もしも、千冬姉がここでバイトしなかったり、メイド・ラテが

 なかったりしたら、今の千冬姉やカズキさんはいないでしょうね」

 

大混乱の明とシャルロットを余所に、さつきと一夏は懐かしそうに思い出話に

話を咲かす。

 

「しかし、一夏。何がどうしたら、あの織斑先生がメイド喫茶でバイト

 をするんだ?」

「まあ、確かに明の言うように千冬姉は自分からメイドをするって

 がらじゃないよな。

 流れとしては、だいたい俺達と同じかな?

 雅さんを通して、さつきさんから助っ人を頼まれたんだよ」

「雅さん?」

「雅ちゃんは、一夏くんとちゆちゃん……千冬ちゃんの保護者よ。

 昔から彼女には、色々とお世話になってね~」

 

シャルロットの疑問に、さつきが微笑みながら答える。

 

「そうやって、雅さんを通じてさつきさんからど~~~してもって頼まれて

 根負けした千冬姉がここでバイトするようになって、それを偶然見た

 カズキさんが千冬姉に興味を持つようになったのが、俺達の関係の始まり

 なんだ」

「お~。そういうのが、人に歴史ありというのだなお兄ちゃん!」

 

予想もしなかった千冬とカズキの出会いのきっかけに、明とシャルロットは

呆け、ラウラはうんうんと感心した。

 

「そうそう。さつきさんはイベント好きだから、○○DAYって感じで

 いろんなイベントをやりましたよね。カズキさんから聞きましたけど、

 巫女さん、男装、メガネっ娘、妹……アニメの魔法少女もの

 なんてものやったんですよね?」

「うんうん!やったやった♪」

「妹……?」

「魔法……少……女?」

 

もたらされた事実を何とか飲み込もうとする明とシャルロットに、またも衝撃の

事実が明かされ、顔が驚きに染まる。

自然と二人の脳裏に、一夏が口にした衣装の中でも特に信じられない

ものを着た千冬の後ろ姿が映し出されて……

 

“何を想像した――?”

「「っ!!!?」」

 

ここにいるはずのない人物の声が耳元で、聞こえた気がした二人は

後ろを振り向くが当然そこには誰もいない。

 

「どうしたのだ、二人とも?」

「い、いや……」

「べ、別に……」

 

明とシャルロットの行動を怪訝に思うラウラだったが、二人はそれを

ひきつった笑いでごまかす。

 

 

 

「きゃぁぁぁ///////!!!想像以上に素敵よ、ラウラちゃん!!!」

「似合っているぞ、ラウラ」

「自分では、よくわからないが……」

 

メイド服に着替えたラウラの姿を見て、さつきは黄色い声を上げ

一夏も関心する。そんな二人の反応が分からず首を傾げるラウラだったが、

それすらも彼女の魅力を引き立てていた。

人形のような可憐な容姿に長く伸びた銀髪。

一目見たら、自分はおとぎ話の世界に迷い込んだのかと疑うだろう。

 

「あの~……何で、僕は執事の恰好なんでしょうか?」

「どこもおかしくはないと思いますよ、シャルロット?

 普通に似合っています」

 

対してシャルロットは、若干気落ちした声で自分に渡された衣装について

尋ねる。

こちらは、一夏と同じく執事姿であり、社交界に混ざっても違和感を

感じられないほど似合っていた。

 

「うんうん♪こっちも私の想像以上ね!

 一夏くんとは違って、カッコ良さの中に可愛さがあるわ~!」

「あははは……」

 

さつきの上がりっぱなしのテンションに、シャルロットは乾いた笑いを

返すしかなかった。

 

「(僕もメイド服がよかったなぁ~。だって、メイド姿の明を見る目が

 いつもより輝いているんだもん……)」

 

心の中で、ため息をこぼすシャルロットの視線の先には明を見つめる一夏が

いた。テンションがいつもより高めに見えるのは、気のせいではないだろう。

 

「(ううう~~~。明も方向性は同じはずなのに、この差は何なの?)」

 

自分と同じく、男装をしたら“女顔の男の子”となる明との理不尽とも言える

差に嘆きながらも、接客マニュアルを読んでいく。

こうして、ラウラとシャルロットのアルバイト体験が始まった。

 

「お待たせしました、お嬢様。

 ご注文のふんわりオムライスです」

「は、はい///////♡」

「ケ、ケチャップでメッセージをお願いします//////!」

「かしこまりました」

「明ちゃん!3番テーブルにドリンク4つ!5番テーブルの片づけ!

 6番テーブルにご主人様のご案内をお願い!」

「わかりました!」

「す、すごい……」

 

シャルロットは、目をパチクリさせて接客をする一夏と明の手慣れた動きに

驚いていた。

フランスの実家にも執事やメイドがいて、その働きをよく知っているが

一夏と明の動きは本職のそれに負け劣らずものだった。

筆で書いたんじゃないかと思えるきれいな文字や♡マークをケチャップで

書き出す一夏に、沢山の品を載せたトレーを崩すことなく運ぶ明。

最早、その道を目指してもいいんじゃないかと思える二人の働きぶりに、

シャルロットは圧倒される。

 

「それに……」

「ふむ。日替わりケーキセットが二つだな?

 少し待ってくれ」

「ゆっくりでいいからね?」

「気を付けてね?」

 

不安があったラウラが意外にも、ちゃんと接客をできていることにも

シャルロットは驚いていた。

言葉遣いは、多少上から目線だが一生懸命がんばるという気持ちが感じられるのか、

客はお手伝いをがんばる妹を見守るような感じで接していた。

 

「僕も頑張らないと!」

「すいませ~ん。注文いいですか?」

「あっ!はい!承ります!」

 

結論から言うと、シャルロットとラウラが加わったことで

スムーズに回るようになった。

ラウラに感心していたシャルロットだったが、彼女もまた初めてのアルバイト

とは思えない働きを見せていた。

動きの一つ一つから気品を感じ取ったのか、お客も同僚たちもただ見入って

ため息をこぼしていった。

彼女達が来る前の忙しさは、助っ人に来た一夏や明とお近づきになろうと

色々と話しかけ、それの対応に時間を取られ他のお客に回るのに時間がかかっていた

からなのだが、今はシャルロットの方にも注目が集まり見入っているので

一夏と明にも余裕がでてきたのが大きい。

それでも、手の回らない客にはラウラがムフッと頑張って接客しているので、

客数は増えてもうまくさばけているのだ。

 

「お砂糖とミルクはお入れになりますか?よければ、こちらで入れさせていただきます」

「お、お願いします。え、ええと、ええと、砂糖とミルク、たっぷりで!」

「わ、私も!」

 

砂糖とミルクが欲しいと言うより、美形執事に奉仕してもらいたい女性陣に

シャルロットはにっこりと微笑みかけて、砂糖とミルクを紅茶に注いでいく。

 

「では、お嬢様方。ごゆっくりと楽しんでください」

「あ、あの!で、できたら一緒に食べたいなぁ~/////。

 なんて//////」

「申し訳ございません。お嬢様」

 

華麗な執事と甘い一時をとシャルロットに同席を頼もうとすると、

シャルロットが断る前に、一夏が割って入った。

 

「こちらの者は、本日入った新人でございまして、お嬢様と共に席につき

 満足させるにはまだまだ未熟。

 ここは、お嬢様方の寛大な心でお許しを頂けないでしょうか?」

「い、いえ//////!こちらこそ、変なことを言ってすいません!」

 

左手を胸に当て恭しく頭を下げる一夏に、お客は手を振って慌てて謝罪する。

 

「じゃ、じゃあ……あなたが一緒に///////」

「ふっ。わたしがお嬢様と席を共にするなど、おこがましい……。

 わたしは……あくまで……執事ですから――」

 

それは、何と言って表現していいのか。

笑顔からは程遠い冷たい感情が現れているはずなのに、誰も今の一夏の笑顔から

顔を真っ赤にして目を逸らすことができなかった。

表情と感情が合っていないのに、その場にいた全員がゾクゾクと言い知れぬ

快感に酔いしれた。

じっくりと獲物を狙う“悪魔”が浮かべたようなその笑みに――。

 

「(ふぅ~。上手くいったかな?カズキさんから、こういうお客さんが来たら

 こう言えって言ってたけど、すごい効き目だな。

 流石、カズキさんだ)」

『(いや、多分何かが違うと思うぞ?)』

 

心の中で、自分の行動にやれやれとなっている一夏にゲキリュウケンは

静かにツッコむのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ~~~~~~」

 

実家の翠屋にて、なのはは長いため息を吐いて窓から空を眺めた。

心ここにあらずとは、正にこれだというのを体現している状態であった。

 

「ねぇ?一体どうしたのなのは?」

「さあ?どうしたんでしょうね?」

「知りません!」

「ふふふふふふふふふ…………♪」

「首輪とリード?縄で縛り?それとも教師や上司で逆に……」

 

妹の様子にみゆきは、同じく翠屋にいるはやて達に何があったのかと

尋ねるが返ってきたのは、はぐらかすような返事だった。

はやてはニコニコと笑いながら、アリサはそっぽを向き、はやてと同じ笑顔のすずかは

黒い何かをその笑顔からにじませ、フェイトはブツブツと何かを呟いていた。

返事らしい返事はもらえなかったが、彼女達のそんな反応で

みゆきは何があったかおおよそ察した。

 

「あっ……うん。大体わかったわ……」

「あらあら♪」

「おい、本当になのははどうしたんだ?」

 

投げやりな返事を返すみゆきとは反対に、桃子は楽しそうに笑うのであった。

そこへ翠屋の店長でなのはの父である高町士郎が、姿を見せた。

 

「いいのいいの。お父さんには、特にどうしようもないから」

「何だそれは……」

 

娘であるみゆきからぞんざいに扱われて、士郎はしょげる。

妹の恋愛事情など、父親に相談しても余計にこじれるのは目に見えているからだ。

 

「ところで、なのはもそうだがフェイトちゃんもはやてちゃんも

 いつまでこうしてゆっくりできるんだい?」

「さぁ~どれぐらいでしょうね?」

 

話題を変えるように士郎が質問をするが、はやては苦笑しながら表情に影を

落とした。

現在、なのは達3人は療養という名目で長期休養中なのである。

クリエス・レグドから明かされた時空管理局に隠された真実。

その場にいた者には、カズキから今は口外しないように口止めをされたが、

それでも明るみになったら、次元世界が大混乱になる真実。

自ら明かした以上、レグド自身がなのは達が知ってしまったことを管理局に

知らせることは考えにくいが、それでもどこから情報が洩れ

管理局がなのは達を口封じのために動く可能性は十分に考えられた。

そのため、ユーノやカズキが手を回して、オルガードや創生種の魔物との戦い

で負ったキズを治すという理由でなのは達を時空管理局から半ば無理やり遠ざけたのだ。

無論、一夏や明達にも暗殺の可能性はあるのだがこの世界にいる以上、

暗殺をするなら向こうからこちらの世界にやってくるしかないため、常に目を光らせている

監視システムで転送の反応を察知することができ、瞬時に全員に知らせが届くようになっている。

 

「まあ人生、時に立ち止まって悩むことも必要さ。

 それもまた青春の一ページになるよ」

 

優しい口調で人生の助言をする士郎だが、彼は知らなかった。

娘を持つ父親ならいつかはやって来る、決して来て欲しくなかった時が……。

 

「こんにちは~」

「あら、いらっしゃい。ユーノくん」

「っっっ////////!?」

 

来てしまったことに――。

 

「君が来るなんて、珍しいね?」

「ええ、これから忙しくなりそうだから、何とか時間を作ってきたんです。

 今を逃すと次に、いつこれるかわかりませんから」

「うちに何か用があるのかい?」

 

士郎とユーノが会話をしている横で、なのははあわわと顔を赤くしてパニックとなり、

フェイト達はその様子をじ~っと眺めて空気を重くしていた。

その重さに耐えられず、店にいた客達は次々と店を後にした。

余談だが、ユーノが翠屋に来るために無限書庫を抜けたため、物言わぬ骸となって

無限書庫を漂っている司書が無数にいるのだが、今は関係ない。

 

「翠屋にというより、士郎さん達にですね。

 恭也さんはいませんが、それでも言います。

 今日は、皆さんへ宣戦布告に来ました。

 僕、ユーノ・スクライアはなのはを愛しています。

 そして、あなた達から奪い去ります」

 

ピシリと時が凍り付いたかのような音が店の中に響き、

全員が同じく氷像のように固まる中、ドスッとなのはは頭から煙を

上げて椅子から転げ落ち、唯一人桃子はそれをあらあら♪と見守るのであった。

 

「もう僕は、過去からも自分の想いからも逃げません。

 正々堂々となのはを振り向かせて、堂々とあなた達家族から奪い去っていきます」

 

不敵な笑みで宣戦布告をするユーノをみゆきはズレた眼鏡からポカーンと見つめ、

士郎は固まったまま何の反応も返さない。

 

「今日はまず、これを伝えたかったので。また、来ます。」

 ……言ったでしょ、なのは?全力全開で行くって?」

 

獲物を狙う様な獣の笑みをなのはに向けて、ユーノが立ち去ると、

なのはは頭からだけでなく耳からも煙を出して気絶した。

 

 





今回は本格的な夏の序章回でした。
千冬のメイド喫茶バイトはマジです。それがあったからカズキと
関わる様になりました~。
店の名前で気づいた人もいるでしょうが、モデルは「会長はメイド様」からです。
偶然見つけた時に、主役が千冬そっくりだなと思ったので
いつかやってみたかったんです♪
一夏が見せたとある執事の笑みとセリフもね。

ユーノの宣戦布告を受けた士郎さんははにわのような表情になったとか(爆)

更新スピードは更に遅くなると思いますが、これからも
応援よろしくお願いしますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常の裏の非日常――


今回は、早目に更新できました~。
そして設定を除いて、やっと50話目。ここまで長かった~。
前半はコミカル、後半はシリアスとなっております。
それでは、どうぞ!


「いい……いいわ!!!

 純粋だったあの一夏君が、あんな悪魔の微笑みをするなんて/////!!!」

「店長、鼻血!鼻血!」

 

カズキ直伝の笑みを浮かべる一夏を見て、さつきは恍惚とした表情で鼻血を滝の如く

流して、血の海を広げていく。

 

「シャルロット!お兄ちゃんのあの笑みは、何だ!

 よくわからないが、見ていると背中がゾクゾクするぞ!」

「ええ~っと、あれは碓氷先生と同じタイプの笑顔って言うか何て言うか……。

(あの笑顔で、甘い言葉を耳元で囁かれたら……あぅぅぅ~~~////////)」

「全く、一夏と言う奴は……//////

(もしも、二人きりの時にあれをされたら――)」

“ふふふ、どうしたのですか?

そんな小鹿のように足を震わせながら、期待に満ちた目をして?

そんなに私にいじめられたいのですか?”

“ば、ばか!そんなことあるわけないだろ///////!”

「(だぁぁぁぁぁっっっ!!!私は何を考えて////////////!!!!!!?)」

 

恍惚とした表情を浮かべるさつきや客以上に、顔を真っ赤にして他人には見せられない

妄想をする明達に収集がつかなくなるが、その時事件が起きた。

 

「全員、動くんじゃねぇ!」

 

突如として店内に響く怒声に、全員の視線が向かうとそこにはジャンパーにジーパン姿の

男が三人雪崩れ込んでいた。

しかも、三人とも顔を覆面で隠し背中に背負ったリュックからはお札がはみ出ており、

手に持った拳銃を店内の人間へと向けていた。

甘い夢から現実へと無理やり引き戻されたお客の何人かが、事態を理解していくと

一人が悲鳴を上げ、それを合図に次々と悲鳴が上がっていく。

 

「きゃあああっ!?」

「いやぁぁぁっっっ!!!」

「うるせぇ!静かにしやがれ!」

 

リーダーと思われる男が拳銃を上に向かって発砲すると、客達は静まり返る。

そう。メイド・ラテに強盗犯が逃げ込んできたのだ。

漫画やアニメでお馴染み?のどこかマヌケさを感じさせ、正義のヒーローに

簡単にやられるかませ犬なキャラのお約束?な格好の強盗犯だが、それでも

強盗犯は強盗犯。武器を持っている以上、従わざるを得ない。

 

「あー、犯人一味に告ぐ。君達は完全に包囲されている。大人しく投降しなさい。

 繰り返す――」

 

強盗犯がメイド・ラテに雪崩れ込んでから、然程の時間が経たないうちに店の周りを

駆け付けた警官隊が包囲を固め、投降を呼びかける。

 

「どうしやしょう、兄貴!このままじゃ……!」

「うろたえんじゃね!こっちには、人質がいるんだ。

 ビビることはねぇ!」

「高ぇ金払って手に入れたコイツもありやすしね」

「……何か、こういう警察や犯人のやりとりって、マンガやテレビで見たことある……」

「……タイムスリップしちゃったのかな、私達?」

 

人質という非日常な出来事にも関わらず、目の前で行われる一昔前の“お約束”に人質となった

客達は、呑気な感想をもらす。

そんなことを言われているとは気づかず、犯人達は大金をはたいて入手したコイツ……

ショットガン、サブマシンガンを店の前の警官達に向かって発砲していく。

 

「人質の中に、僕達みたいな厄介ごとに慣れている人間がたまたま居合わせたのも……」

「お約束ですね……」

「それじゃあ、お嬢様方の穏やかな一時を台無しにした無礼な方々を排除、ゲフン。

 もとい、掃除すると致しましょう」

「うむ」

 

発砲音で現実へと再び引き戻された人質達とは対照的に、いつもと変わらない調子の

メイドと執事がお嬢様達の平穏を取り戻すために、動き始める。

 

「うん?なんだお前!」

 

入手した銃器の発砲に満足した強盗犯の一人が振り向くと、無言のラウラがじぃ~っと

視線を送っていた。

 

「大人しくしねぇなら……」

「おい、待てよ。折角だし、接客してもらおうぜ?

 時間はたっぷりあるんだしさ~」

「何してんだ、おめぇら?」

「あっ、兄貴!いやね?

 折角のメイド喫茶なんだし、この可愛い子におもてなしを

 してもらおうかと……」

「そうだな……。おい、メニュー持ってこい!」

「お持ちしました」

 

こちらを観察するようなラウラを訝しむ強盗犯達だったが、それ以上に可愛い子と

お近づきになりたいという欲求が勝り、だらしない顔で席に座ろうとするとラウラの

背後からトレーを持った明が姿を見せる。

 

「うおっ!?こっちのメイドさんも可愛い/////!」

「胸もでけぇ!」

『(……おい。気持ちはわかるが、せめてもう少しだけ我慢しろ)』

「…………」

 

突然姿を見せた明に一気にテンションを上げる強盗犯だったが、

離れた所で待機する一夏はきれいな笑顔を浮かべる。手をゴキリ!と鳴らしながら――。

執事でありながら、“あくま”みたいなことをしやしないかとゲキリュウケンは

必死に一夏をなだめる。

 

「それじゃあ、早速……って、なんだこりゃ?」

「水でございます」

「水って……あの……」

「メ、メニューは……」

「こちらは、ご主人様やお嬢様の穏やかな一時を邪魔する方々への

 特別メニューとなっており――ます!」

「ふん!」

 

明がトレーで運んできた氷を入れただけの水道水が入った3つのコップに、強盗犯達は

戸惑い、ラウラが説明を付け加える。そして、ラウラがコップの一つを手に持ち、

強盗犯の一人に投げかけると同時に、明がもう一人の顔面めがけてトレーを投げつける。

 

「冷っ!?」

「っでぇぇぇ!?」

「ふっ!」

「てぇぇぇい!」

 

突然襲い掛かった冷たさと痛みで強盗犯の二人が目をつぶった隙を逃さず、

一夏とシャルロットは飛び蹴りを強盗犯達に叩き込む。

 

「てめぇらぁぁぁ!!!」

「遅い!」

「ふん!」

 

一夏達の奇襲に強盗犯のリーダー格は、当然のように怒り手に持つ拳銃の

銃口を向けるが、明がそれを持っていた手ごと蹴り上る。

更に、ラウラが無防備となった鳩尾に拳を放つ。

 

「ぐぇっ!?」

「はぁぁぁっ!」

 

あまりの痛みにリーダー格の男が腹を抱えて膝をついた瞬間を狙って、シャルロットが

かかと落としを決めて男を床に沈めた。

 

「やっぱり、執事服でよかったかな?思いっきり足上げても平気だし」

「このぉっ!……へ?」

 

倒れ伏す男を見ながら、シャルロットが自分の服装に安堵していると

水をかけられた方の男がダメージから回復し、サブマシンガンを構えると

その銃口には食事で使うナイフが刺さっていた。

 

「失礼」

「はっ?ごげっ……!?」

 

呆ける強盗犯の背後に回った一夏はその首に手を回すと、何のためらいもなく

グギリ!と音を鳴らして“おとした”。

 

「お、おめぇら……本当に執事とメイドか……?」

 

目の前で起きた出来事に最初に一夏に飛び蹴りを叩き込まれた一人が、床に倒れながら

信じられないという声で一夏達に問いかける。

しかし、これは当然の結果である。

軍人であるラウラはもちろん、専用機持ちとなれば『ありとあらゆる事態』を

想定とした訓練を受ける。

その中には、ISを使えない場合を想定した事態も含まれる。

付け加えるなら、一夏も同様に魔弾戦士に“変身できない”事態を見越した訓練を

受けている。

明も魔弾戦士の力となるべく、厳しい修練を積んでいるので言わずもがな。

たかが、使い慣れていない武装をした素人の強盗犯等、この4人の敵ではないのだ。

 

「ふっ。メイド・ラテの執事とメイドたる者、強盗程度を撃退できないで

 どうします?」

「くっ……ぬ……」

『(ノリノリじゃないか……)』

 

倒れ伏す男へ素敵な笑みで答える一夏に、ゲキリュウケンは呆れた声を静かにこぼす。

そんな中、男はふとあることに気付く。

今の自分の位置ならあと少しで、明のスカートの下が見えそうになり動こうとすると

……その視界を食事用のナイフが遮った。

後数センチずれていたら、永久に視界が遮られただろう。

 

「おや、すみません。私もまだまだですね。

“うっかり”とナイフを落としてしまいましたよ~。ふふ♪

 気を付けてくださいね?ひょっとしたら、また“うっかり”落として今度は

 …………ね?フフフフフ――」

「……はい」

 

笑顔だが、光を宿していない目で倒れる強盗犯に語りかける一夏に

強盗犯は本能に従って、意識を手放すのだった。

 

「制圧、完了」

「ふぅ~」

「お疲れ様でした」

「「「「「…………」」」」」

 

正しく電光石火の早業に、さつきも従業員も人質のお客達も揃って呆然とし、

事態を理解するのに時間を要した。

 

「ええ~っと、助かった……の?」

「あの華麗な動き……お姉様//////♡」

「執事さんの冷たい笑みに容赦のなさ……ぜ、是非私を下僕に/////」

 

それぞれが事態を飲み込んでいくと、強盗犯が撃退されたのに気付いたのか警官隊が

店の中へやってきた。

 

「みんな、マズイよ!

 僕達代表候補生で専用機持ちだから、取り調べとかになったら大変なことに!」

「そうですね。では、店長。私達はこれで失礼します」

「――ふざけんじゃねぇぇぇ!全部吹き飛ばしてやるぅぅぅ!!!」

 

シャルロットの言葉に一夏達が裏口から抜け出そうとすると、リーダー格の男が

フラフラながらも立ち上がり、着ていた革ジャンを広げる。

そこには、プラスチック爆弾の腹巻が巻かれており、男の手には起爆装置らしきものが

握られていた。

 

「最後までお約束にしなくても……」

「全く往生際が悪い!」

 

誰かが口にしたのを合図に、ラウラが先陣をきって一夏達が動きす。

ラウラは強盗犯が落とした拳銃を蹴り上げ、飛び上がったシャルロットがそれを掴む。

ダダダダダッ!!!

 

「「「「チェックメイト!」」」」

 

ラウラは自前のハンドガンを。シャルロットはラウラが蹴り上げた拳銃、明はクナイ、

一夏はナイフを使って、強盗犯の体に巻かれていた爆弾の信管と導線“だけ”を

的確に撃ち抜き、切り裂いた。

 

「まだやる?」

「次は、その腕を吹き飛ばすか?」

「ごめんなさぁぁぁいいい!お助けぇぇぇ!!!!!」

 

ニコリと笑うシャルロットと絶対零度の視線を送るラウラの二人に、銃を突き付けられ

今度こそ、強盗犯は敗北を認め命乞いをする。

それを見て歓喜で震えるメイド・ラテを後に、一夏達は風のようにその場から去った。

 

 

 

「ふぅ~~~。ここまで来れば大丈夫かな?」

「全く、お前といるといつも気が休まらないな」

『何かに憑かれているんじゃないか?』

「なかなか、刺激的な体験だったぞ!」

「あははは……」

 

公園へと逃げ込んだ一夏達は、そこで一息ついていた。

すると一夏はあることに気付く。

 

「あれ、この公園ってあのクレープ屋がある所じゃないか?」

「クレープ屋?」

「おいしいと評判のクレープ屋です。

 よかったら、みんなで行きますか?」

「それって、ひょっとしてミックスベリーを食べると幸せになれるって

 ジンクスがあるお店?さっき、メイド・ラテの人から噂を聞いたよ?」

「ええ、それで合ってます……///////」

 

一夏の言葉からクレープ屋に行くことが決まったが、シャルロットは

何故か頬を赤くした明に、恋する乙女の直感を感じ取っていた。

 

「おっ。あったあった♪」

 

目的となるクレープ屋は、すぐに見つかった。

客がそこそこ集まっており、大半が中学生か高校生の女子だった。

 

「じゃあ、頼もうか?すいませーん、ミックスベリーを4つ下さい」

「ざんねーん。もう売り切れみたいだよ、ミックスベリー」

「ははは……ごめんねー。ミックスベリーは人気でねー」

 

早速注文をするシャルロットだったが、同じようにミックスベリーを注文したのか、

前に注文した子から売り切れだと知らされ、店の主である30代前半と思われる男性

からもすまなさそうな声が上がる。

 

「そうなんですか……」

「じゃあ、おじさん。イチゴとブドウを二つずつで♪」

「おっ、君は……わかった。ちょっと待ってくれ♪」

「…………//////」

「?」

 

肩を落とすシャルロットに変わり、一夏は別の注文をする。

以前来たのを覚えていたのか、一夏の顔を見ると男性は温かい目で笑うと

クレープを作り始める。その傍らで顔を赤くする明に、ラウラは首を傾げた。

 

「お待たせしましたー♪」

「ありがとう、おじさん」

「あっ、一夏お金……」

「いいって、今日は俺が奢るよ。

 で、どれがいい?」

「うーん、じゃあイチゴ」

「私はブドウを」

「それじゃあ、明はイチゴでいいか?」

「わ、わかった/////」

 

クレープをそれぞれ受け取るのを見ると、一夏はイタズラ小僧の笑みを

浮かべる。

 

「それじゃあ、ミックスベリーを食べようかな?」

「え?」

「む?」

「なっ!?お前h、むぐっ//////!?」

「「「なぁぁぁっ////////////////////////!!!!!?????」」」

 

一夏は自分のクレープを一口食べると、手に持つクレープを明の口に

含ませる。その光景に周りは驚きの声を上げる。

 

「……~♪」

「……/////////」

 

ニコニコと微笑む一夏の視線に明は何かをためらうが、観念したように

自分のクレープを口にすると、今度はそれを一夏に食べさせるかのように

差し出す。

 

「……んぐっ。やっぱり、おいしいなミックスベリー♪」

「……お前はどうして、そう……////////」

『(何も口になどできないのに、口の中が甘い……)』

 

ここには、自分達しかいないかの如く振舞う一夏と明に、周りは

ただ呆然とするばかりだった。

 

「イチゴとブドウ……なるほど。

 ブルーベリーということだな、店員?」

「うん、正解」

「ブルーベリー?……あっ。あああっ!?」

 

呆然とする周囲の中、唯一人ラウラは何かに気付き店員に確認を取り、

シャルロットも遅れて気がつく。

 

「ひょっとしてミックスベリーって、イチゴのストロベリーとブルーベリーを

 一緒にしてってこと!?

 ……って、ブルーベリーはブドウじゃないよ!」

「まあまあ、お嬢ちゃん。細かいことは気にしない気にしない♪」

 

シャルロットのツッコミを店員は軽く受け流す。

つまり、食べると幸せになれるミックスベリーとは二種類のグレープを

食べ合いっこさせることで味わえるものだったのだ。

食べ合いっこできるほど仲の良い友人で、味わえばより絆も深まり幸せに

なるだろう。

ましてや――

 

「恋人同士なら、尚更ね~。いや~青春してて、おじさん羨ましいよ~」

 

苦笑いを浮かべる店員の前には、楽しそうに笑う一夏と顔を赤くする明が

じゃれ合っていた。

もちろん、周りの大半は悔しさと羨望で地団駄を踏んでいるが、何人かは

何かを決意したようにガッツポーズをしていた。

 

「では、シャルロット。私達もミックスベリーを堪能しよう。

 はむっ……。ん……」

「ラ、ラウラ?この状況で……はぁ~。

 わかったよ、あ~ん……。

 美味しいけど気のせいか、なんかしょっぱいな……」

 

マイペースにミックベリーを味わいたいラウラは、シャルロットに一口食べた

クレープを差し出す。一夏と明のようにミックスベリーを堪能するが、その味は

どこか塩味がきいていた。

そんなシャルロットを置いて、ラウラはクレープの味を楽しんでいた。

 

「それにしても、ここまで有名になるなんて、あのカップルには感謝だね」

「あのカップル?」

「そう。そもそも、このミックスベリーは10年前ぐらいにあるカップルが

 君達と同じようにして食べたのが始まりなんだよ」

「へぇ~」

「あの時は、驚いたよ~。

 彼女が食べていたクレープを彼氏がパクッと食べたと思ったら、

 顔を真っ赤にした彼女が日本刀振り回して追いかけっこを始めたからね~」

『「「「…………」」」』

 

幸せのミックスベリーの始まりを聞いて、一夏達だけでなくゲキリュウケンも無言となる。

件のカップルが、自分達の身近にいる気がしてならなかった。

 

「お兄ちゃん!何故か、兄様と教官の顔が思い浮かんだぞ!」

「奇遇だな、ラウラ。俺もその光景が頭に浮かんだよ」

「私もだ」

「僕も」

『(右に同じく)』

 

みんな顔を見合わせて苦笑いを浮かべる中、ラウラは意味が分からず

首を傾げた。

 

 

 

「う~~~。思った通り、かわいいよラウラ!!!」

「そうか?」

 

時刻は夕食の時間を過ぎ、シャルロットとラウラの寮部屋でシャルロットは

悶えていた。

本日購入したものの一つ。色違いでお揃いのパジャマを早速着てみたのだが、

ラウラの姿にシャルロットは目を輝かせ、ラウラはよくわからないと首を傾げる

ばかりで、その仕草がますますシャルロットの目を輝かせた。

 

「ところで、これは本当にパジャマなのか?」

「そうだよ。かわいいでしょう♪」

「パジャマにかわいいとか、必要なのか?」

 

はてなマークを頭に浮かべて、再びラウラは首を傾げる。

2人が現在着ているパジャマは、袋状になったパジャマに全身を入れるもので、

フサフサした耳としっぽに、手足に肉球がついた……のほほんさんが愛用するような

着ぐるみパジャマ、猫さんversionだった。

ちなみにラウラは黒猫、シャルロットは白猫である。

 

「ねぇ~ねぇ~ラウラ~。ちょっと、にゃ~んって言ってみて?

 にゃ~んって♪」

「にゃ~ん?これでいいのか?」

「~~~!ラウラ……可愛い♪」

「???」

 

シャルロットに言われるまま、猫の鳴き声をマネるラウラ。手振りまでやる

オマケつきである。

感激したシャルロットは、ラウラに抱き着き頬ずりをする。

ラウラは訳が分からず、混乱するばかりである。

余談だが、後日ラウラの着ぐるみパジャマでの猫のマネはメイド服のモノと合わせて

ドイツのある部隊に送られ、感激の声と鼻血を吹き出す音が途絶えなかったそうだ。

そして、吹き出された鼻血で赤く染まった部屋と幸せな顔で鼻血の海に沈む隊員という

異様な光景が怪談話として恐れられるのは少し先の話である。

 

「シャルロット、そろそろ放してくれ。少し熱い……」

「え~。いいじゃん、もうちょっとだけ♪」

 

何かのエネルギーチャージの音が聞こえるぐらい、シャルロットのポカポカメーターは

グングンと上昇していく。そこへ……

コンコン。

 

「は~い~。どうぞ~」

 

扉をノックする音を聞いて、シャルロットは気楽にそれに応える。

 

「邪魔するぞ……」

「へっ?お、織斑先生!?」

「教官!?」

 

部屋に入ってきた予想外の人物に、シャルロットとラウラはそのままの姿で固まる。

一方の千冬は、刀のように鋭く細めた目で二人を見下ろす。

 

「何、大したことじゃない。そんなに畏まる必要はない。

 ……カズキが一夏から聞いたのだが……今日バイトしたらしいな?

 メイド・ラテで……」

「え?あの……その……はい……」

「(ガタガタガタガタ)」

 

口元を釣り上げた笑みを向けながら問いかけてくる千冬に、シャルロットとラウラは

体を震わせながら答える。

 

「まあ、私の昔のバイト等別に隠すことでもないし、誰に話しても構わないが……。

 笑い話にされるのはちょっと……なぁ?」

「「ひぃっ!?」」

 

2人は“優しく”肩に置かれた千冬の手に、飛び上がる。

 

「ふふふ……ははははは――」

「「あ……あははは……」」

 

目元が笑っていない笑みをこぼす千冬に、シャルロットとラウラは乾いた笑いを

するしかなかった。

聞いたらギョっとする笑い声が、夏の夜のIS学園寮に響き渡った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐげっ!ごぼ……」

「一丁上がり……と」

『お疲れさん』

 

IS学園から少し離れた夜の繁華街の人気のない路地。

そこで、カズキは一仕事終えて首をゴキゴキ鳴らしていた。

切り刻んだ異形の残骸を足元に散らばせながら――。

 

「さて、安心して修行できるよう面倒ごとは、さっさと片づけますか」

『だけど、死んでも面倒ごとを残すとか勘弁してほしいぜ、あの小僧』

「同感だね……」

 

現在、カズキ達は魔物退治に勤しんでいた。

ミールが改造した魔物を――。

 

事の始まりは、臨海学校後からだった。

カズキはミールが自身を創生種に変えたことにある疑惑を覚え、近頃

行方不明や不可思議な事件が起きていないか調べたのだ。

 

“ミールの様な自分を至高と考えるような奴が、何の確証もなく

 自分の体をいじることをするだろうか?”

 

ひょっとしたら、一般人を攫って創生種に変わるための実験をしているのでは

ないかと調査を開始すると、不審な行方不明が多数起きているのがわかった。

カズキ達は、違う世界からの侵入者に目を光らせているが、ミールは大分前から

表の世界に忍び込み、その隙を突いて実験を行っていたようなのだ。

 

「だけど、その実験のほとんどは失敗だったみたいだな……」

『後に残ったのは、理性も何も失わされた哀れな被害者達の成れの果てだけ……』

 

カズキとザンリュウジンは、足元に散らばる異形の残骸がミールのように塵となって

消えていくのを目を逸らさず、見届ける。

 

「データを取るために残していたのか、わからないけど管理していた奴が

 消えたことで世に解き放たれた……」

『それで被害が増大って……はぁ』

 

ため息をこぼすザンリュウジンと同じ気持ちのカズキだが、その視線は

どこか別の方を向いていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(なんだコレ?)」

 

ある場所で、小学校の低学年と思われる一人の少年が腰を抜かして声を失っていた。

今彼の目の前に、化け物としか言いようのない巨大なクモが立ちはだかり

彼を嘲笑っていた。

 

「(なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?なんだコレ?

 なんだコレ!!!!!?)」

 

生理的嫌悪を感じさせるその姿に、少年は逃げるという選択肢が

思い浮かばないほどパニックに陥る。

 

「あ……あ……」

 

異形のクモが口を開き唾液を垂らした瞬間、一筋の閃光が真っ直ぐクモの

体に走り、文字通り真っ二つに切り裂いた。

 

「……え?」

「ケガはないかい?」

『俺達が来たからには、もう大丈夫だぜ少年!』

 

彼の前に現れたのは、不敵な笑みを浮かべてザンリュウジンを担ぐカズキだった。

 

 

 

「……じゃあ、お兄さん……カズキさんは噂の魔弾戦士なんですか?」

『おうよ!そんでもって、俺は相棒のザンリュウジンだ。よろしくな!』

 

カズキとザンリュウジンは場所を変え、助けた少年、大空秀人に自分達のことを

説明していた。

 

「それで、俺達はある事件の後始末をしているところだったんだけど、

 たまたま君が襲われているのを見つけて、助けに入ったんだ。

 ところで、君はあの怪物に何か心当たりはないかい?

 あいつは意図して、君の前に現れたような気がするんだけど……」

「……わかりません。

 数か月ぐらい前に僕の前に現れて、その時はケタケタ笑ってすぐ消えたんですけど、

 それからもたまに出てくるだけで、何もなかったんですけど……。

 あれは、一体何なんですか?」

「俺達も詳しいことは、調べている所なんだ。

 わかっているのは、新種の魔物と呼ぶべきもので俺達が片づけなきゃいけない

 ってことだ」

「そうですか……でも、ありがとうございます。

 もうカズキさんが退治してくれたから、安心ですね」

 

自分を襲ってきた怪物はカズキに倒されたと、安心する秀人だったが、

カズキは顔を横に振る。

 

『あ~……水を差して悪いんだけどよ……』

「まだ、何も終わっていないよ」

「え?」

「さっき俺が倒したのは、相手の偵察や観察に使う分身体だ。

 それを操る本体が、まだ残っている」

「そ、そんな……」

『心配すんなって!寧ろ、お前は自分のラッキーに感謝するべきだぜ?

 何てったって、俺達と出会えたんだからな!』

「ザンリュウの言う通りだ。俺達が、君を守る。

 だから、安心してくれ」

「はい……ありがとうございます」

 

知らされた事実に、震える秀人だったが、ザンリュウジンとカズキの言葉に

笑みを浮かべる。そして、ズボンのポケットからラジオを取り出す。

 

「それは?」

「……お母さんの形見です……。

 お母さん……そんなにモノを持たなかったから、これぐらいしかなくて……。

 これを聞くとお母さんが、今も傍にいてくれる気がするんです。

 おかしいですよね、そんなの……」

『ぞんなごとあ“るが――!!!』

「どんな人間だって大切な人がいなくなったら、何かに面影を求めるのは

 当然のことだし、現実として認めたくないのも自然さ。

 前を向くにも、後ろにあったものを確認するものも必要だしね」

 

渇いた笑みを浮かべる秀人にザンリュウジンは、号泣しながら彼の言葉を否定し、

カズキは助言を与えて彼の頭を撫でる。

 

「さて……と。そろそろ君を送っていこう。

 家はどこだい?」

「あっ、いえ。あそこに送ってもらっていいですか?」

 

秀人が指さした方向には、巨大なビルが建っていた。

 

「伯父さん、お母さんの弟さんが僕を引き取ってくれて、元気づけようと

 パーティーに誘ってくれたんです」

「へぇ……」

「正直、あまり行きたくなかったんですけど行きます!

 ちょっとずつ、僕も前を向かないと!」

「……わかった。あそこまで送っていこう」

「ありがとうございます!」

 

そして、カズキはデルタシャドウを呼び出し、ちょっとした空の旅を

秀人に送った。

 

『(なあ、秀人が狙われているなら

 あんな人が集まった場所に行くのはマズくないか?

 もし襲われたら……)』

「(その危険はわかる。だけど、もし秀人が狙われているのだとしたら、

 逆に現れない方が危険だ。秀人が姿を消したら、無差別に誰かを襲う可能性が

 高い……。倒した分身から感じた気配は、そういうことをするイカれ野郎だ)」

 

空の旅の中、カズキは静かに秀人を狙うモノへの怒りを燃やしていた。

いつもと少し違う彼の胸中には、何があるのか……。

 

 

 

「グフフフ……。

 秀人くん、喜んでくれるかな?僕のサ・プ・ラ・イ・ズ・プレゼント♪

 ぎゃははははは!楽しみにしててね~秀人く~ん?」

 

ドス黒い悪意は、静かに忍び寄っていた――

 

 





原作のミックスベリーにオリジナル設定を加えましたwww
千冬は、別に昔していた自分のバイトがバレても構いませんが、
それでも多少恥ずかしいし、笑われるのは・・・ね(苦笑)?

一夏の”あくま”で執事はまた出そうかな~?

最後にカズキは、修行を行うためにちょっとした後始末を。
ジャンプの読み切りがモデルです。

そして、次回……カズキがブチ切れます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平等な理不尽


最近、急に降るかもしれない雨に気を使うこの頃です。
今期のアニメも大体スタートして、見るモノが固まってきました。
夏コミの準備もそろそろしなければ。

今回の敵は、自分で書いててかなりムカつきました(苦笑)


「とりあえず、ここで降りようか?」

「はい。ありがとうございます」

『ちょっとは、元気が出たみたいだな♪』

 

カズキ達は、目的のビルから少し離れた場所に着地していた。

姿などは、風術を応用した光学迷彩でくらましているので人目につく心配もない。

 

「君の伯父さんっていうのは、あそこでキョロキョロしている人かい?」

「そうです。少し遅れたから、心配させちゃったみたいです」

「なら、早く行ってあげるといい。俺は、折角のパーティーに邪魔にならない

 ようにするよ」

「え?」

 

歩いてパーティーのビルに向かうと、その入り口で心配顔をしている男性が秀人の

伯父だとわかると、カズキはそこから風のように姿を消した――

 

「おお!いたいた。おーい、秀人!

 遅かったから、心配したぞ!やっぱり、一緒に来るべきだったかな」

「そんなことないよ、伯父さん。ちょっと、道に迷っただけだよ」

「それ、持ってきたのか?姉さんのラジオ」

「うん……」

 

駆け寄った伯父が秀人のポケットに入っているラジオに気がつくと、

どこか遠くを見る目になる。

 

「懐かしいなぁ……。姉さんが高校の時だったかな?

 急にラジオにはまって……よく付き合わされたよ。

 まさにラジオの虫ってやつ!

 ……もし、姉さんが事故で死んでなかったら、秀人もラジオの虫に

 なったのかな……」

「――……」

 

伯父の言葉に英人はうつむき、ある光景を思い出す。

 

“おい!ガレキの下に親子がいるぞ!”

“急いで応援を!”

“お、母……さん。助けが……来てくれたよ……。

ねぇ……お母さん……!

お母……さん?”

 

デパートへ買い物に出かけ、何かが爆発しガレキの下敷きになったあの日。

救助隊の声で気がついた時、目にした……自分をかばうように抱きしめていた

母の姿を秀人は生涯忘れることはできないだろう――。

 

「…………」

「(いけねっ!)

 ご、ごめん!思い出させちゃったな……」

「えっ……あっ……大丈夫だよ、伯父さん。

 僕なら大丈夫だから。

 伯父さんもいてくれるしね」

「秀人……。

 よ~ぅし!今日はたくさん食べような!

 美味しものが、たっくさんあるぞ~!」

 

しんみりとした空気になりかけたが、それを振り払うように二人は

ビルの中へ入っていった。

 

 

『それにしても、珍しいよな~』

「何が?」

『お前が、あんな励ましをするなんてさ。

 いつもなら、俺達が通訳しないとわからないような励まし方をするのに』

「ふっ。たまにはそういう時もあるさ」

『ふぅ~ん?ところで、カズキ。秀人に、ついていなくてよかったのか?』

「風術を使って見張りはしているし、近くに俺がいたら相手が何をしてくるか

 わからないからね。

 それに、ちょっと調べたいことがあるからね……」

『あの分身からして、そんなに大した相手じゃないと思うんだが……』

 

向かいのビルの屋上で腰かけながら、カズキは手持ちのパソコンであることを

調べていた。その間も風術で、秀人の見張りは怠っていない。

 

「大した相手じゃないというのは同感だけど、問題はそこじゃない。

 秀人を“狙って”いることだよ、ザンリュウ」

『どういうことだよ?』

「俺達が、今まで対処してきたミールの実験体は理性を失い、

 本能の赴くまま行動していたけど、今回の相手は的確に行動している。

 人間みたいにね……」

『おいおい……創生種の力に呑まれなかった人間がいるっていうのか!?』

「まあ、あのガキが一応は創生種になれたんだから、成功例が一つぐらいは

 あってもおかしくないけど、狙いは一体なんだ?

 ここに来るときに風術で秀人を視てみたけど、どこにでもいる普通の子供だった」

『それじゃあ、何で……』

「――そういうことか。大体の答えが見えてきたよ……。

 とりあえず、お前はこっちに定期連絡しに来ているウェイブとタツミに、

 急いで連絡をしてくれ。俺は……」

 

敵の正体を掴んだカズキは、ザンリュウジンに指示を出して立ち上がると、

屋上に秀人をつけまわしていた分身体が、無数に現れた。

 

こいつら(お客さん)の相手をしよう……。

 “邪魔になりそうだから消しとくか”……そんなところかな?

 随分、舐められたもの……だね!」

 

歯をカチカチと鳴らして、襲い掛かってくる理を外れた魔の存在へ、カズキは駆け出す――。

 

 

 

「ほー!養子もお考えですと?」

「ええ……。秀人も受け入れてくれますし……。

 何より、互いに唯一の家族になってしまいましたから、それが一番かと……」

 

パーティーへと参加した秀人と伯父の二人は、他の参加者達へ挨拶をして回っていた。

 

「うんうん。それがいい。家族は一緒にいるべきです。

 良かったね、秀人君!」

「はい、ありがとうございます!

 お母さんがいなくなった時は、すごく辛かったけど……

 伯父さんのおかげで立ち直ることができました!」

「いや~、子供なのに本当にしっかりしているね」

「そっ、そうですか?」

 

伯父やカズキの願い通り、楽しい時間を過ごす秀人だったが……

“悪意”というのはそんな時間を壊す為に牙を磨くのだ――

 

「楽しんでるかい?秀人く~ん♪」

「えっ?」

 

男とも女ともつかない声に、秀人が振り向くと伯父の顔に例の分身体が張り付いていた。

 

「ぶっ壊しにきたよ。君のぜ・ん・ぶ・を♪」

 

分身体が離れた伯父は、そのまま気絶しそれを合図にパーティー会場のあちこちで

爆発が起きる。

 

「何!?今の音!」

「ば、爆発?……爆弾!!!」

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

「お、伯父さん!」

 

パーティーに参加していた人々は、我先にと逃げていく中、秀人は倒れた

伯父へと駆け寄る。

 

「へぇ~。秀人君は逃げないんだ?

 普通、わが身大事で逃げ出すのに、ほんとうにお人よしだねぇ~。

 まっ、逃げてもムダなんだけどね♪

 後一分で、あちこちに仕掛けた僕のかわいい分身(ペット)

 ドッカ~ンってなるからさ~。

 このビルが吹き飛ぶ爆弾がね♪」

 

秀人に心底楽しんだ声でしゃべりかける分身体は、見る見るうちにその姿を

変えていき、下半身がクモで上半身が人間のガイコツのような“化け物”となった。

 

「さあ、秀人君。

 傷心を癒している君へ、僕からのとっておきのサプライズプレゼントだよ~。

 存分に楽しんでくれよ!」

「(なんだよ、コレ?何なんだ……)」

 

化け物の言葉は、秀人の頭に最早入っていなかった。

あまりに常軌を逸した現実に、思考が追いついていなかった。

 

「いいよいいよ!その顔!

 最っっっ高だよ!でも、大丈~夫♡

 君は殺さないからさ♪

 だってさ~。君、アレでしょ?

 僕が前に“爆破した”デパートの生き残りでしょ?」

「えっ?ば……くは……し、た?」

 

呆然としていた秀人は、化け物が発したある言葉に反応をして

幸か不幸か思考を取り戻してしまう。

 

「いやぁ~今思い出しても、ほんとムカつくわぁ~。

 全員殺すはずだったのに、君生きているじゃん?

 完璧主義者の僕としては許せない汚点だよ、ホント。

 だから、新しい力を手に入れて秀人君を見つけた時は、興奮したよ~」

「(何を言っているんだ?)」

「すぐにヤっちゃおうと思ったんだけど……君の周りの人間を

 目の前でヤった方がおもしろいかな?って気がついてさ~♪

 ギャハハハハハ!」

 

秀人は化け物の言葉を理解したくないはずなのに、極限に追い込まれた思考

が否応なく現実を理解してしまう。心では認めたくないのに、体は自然と目から

涙を流していく。

 

「(嘘だ……お母さんが……事故じゃなくて殺されて……

 伯父さんも殺されるなんて――)」

「それじゃあ、君の絶望が始まる記念日☆

 じっ~~~くりと、目に焼き付けて味わってよ♪

 ご~、よ~ん、さ~ん、に~、い~~~ち……」

「(嘘だ……)

 やめてぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ゼロぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

不条理を告げるカウントダウンがゼロになった瞬間、秀人の周りを風が

吹き抜けた――。

 

「……あれ?」

「遅れてすまない、秀人」

 

風が吹き抜け、声が聞こえた方を向いた秀人の目に映ったのはザンリュウジンを

アーチェリーモードで構えた、カズキの姿だった。

 

「ぐげっ!」

「カズ……キ……さん……」

「こいつが仕掛けた爆弾、無駄に数が多くてね……。

 全部処理するのに、時間がかかちゃったよ」

『後は、俺達に任せろ!』

 

化け物を躊躇なく攻撃したカズキは、秀人を守るように彼の前に立つ。

 

「ごめんなざい……ごん、な……僕が……。

 僕のせいで……こんな……」

「俺が“謝られる”意味が分からないね?」

「え?」

 

俯き涙を流しながら、謝る秀人にカズキは疑問の声を上げる。

 

「別に君は、俺に“助けてくれ”って言ってないだろ?

 助けることも、守ることも、決めたのは“俺自身”だ。

 だから、俺がケガしようが手足がぶっ飛ぼうが、それは

 “俺自身”の責であって、君が気に病む必要はない。

 寧ろ君には、“どうして、もっと早く助けに来てくれなかった!”と

 俺を責める正当な権利がある」

『……』

 

カズキの言葉に、秀人は唇を噛みしめさっきまでとは違う意味で流れる

涙が止まらなかった。不器用な言葉とは、裏腹に伝わってくるカズキの

思いやりに……。

その様子にザンリュウジンは、口を挟まなかった。

 

「とにかく、安心してくれ。君の悪夢は……

 今、終わる……!」

「お前……何で生きて……いやそれより、どういうことだよ?

 僕の爆弾(ペット)に何をしやがったっっっ!!!」

 

化け物は、起き上がると巨大な足をカズキに振り下ろすが、アックスモードへと変えた

ザンリュウジンで軽々と受け止められてしまう。

 

「――んなっ!?」

「……ふん」

「ごがっ!」

「何をしたって……言っただろ?全部処理したって?

 確かに一つ潰したら、それを感知して他が爆破するっていうのは厄介だけど、

 それなら全部を“同時”に潰せばいいだけさ。

 探査こそが、風術の真骨頂だからね」

『いや、それ。かなり規格外なことだからな?』

 

化け物を殴り飛ばしたカズキは、つまらないことだと言いたげに自分がしたことを

述べるが、ザンリュウジンが冷静にツッコミを入れる。

カズキが行ったのは、風術による探索である。

これにより、ビルのどこに爆弾があるのか、そして爆弾がどういうものかまで

調べ、風による遠距離攻撃で全てを同時に切り裂いたのだ。

ビルの中を隈なく調べ、ピンポイントで同時に遠隔で処理した等、誰が聞いても

そんな馬鹿なことと信じないだろう。

やってのけたのが、カズキ以外であったのなら――。

 

「ああ、横に注意した方がいいぞ?」

「な、に……?」

「「おおおおおりゃぁぁぁっっっ!!!!!!」」

 

倒れ伏す化け物にカズキが忠告した直後。

横の壁を破壊して、グランシャリオを纏ったウェイブと白と鋼色の鎧を

纏ったタツミが化け物を蹴り飛ばした。

 

「……」

「ご苦労だったね、二人とも。

 秀人。彼らは俺の仲間で、黒い鎧が“修羅化身、グランシャリオ”。

 白いのが、“悪鬼纏身、インクルシオ”だ。

 まだまだ成長途中だけど、秘めたポテンシャルはかなりのものだよ」

 

乱入者の登場に唖然とする秀人に、カズキは何事もなかったかのように自然に

ウェイブとタツミの紹介をする。

 

「“ご苦労だったね”じゃないですよ、カズキさん!」

「いきなり、俺とウェイじゃなくてグランシャリオに

 おつかい感覚でこっちに来てくれって、

 何の説明もなしに呼び出すんですから!」

「いや、何。それには仕方がない理由があるんだよ。

 得体の知れない化け物に襲われて、傷心の少年の心を救うには

 二人の鎧みたいに、カッコイイ姿のヒーローが助けるのが一番だろ?」

「「呼び出した理由がソレ!?」」

「……と言うのは、冗談で。二人なら護衛も戦闘も申し分ないからね。

 他のメンバーは、大体が戦闘向きだから」

『カッコイイとかの所は、半分マジだったろ?』

「あははは……」

 

漫才としか見えないカズキ達のやり取りに秀人は、苦笑を浮かべるばかりだった。

 

「はぁ~。まあ、何にせよ。ちゃちゃっと片付けちゃいましょう」

「俺とインクルシオの攻撃がもろに入ったから、ダメージも相当のはずだ」

『けど、それにしても妙に静かなような……』

「っ!離れろっ!」

 

こんなこと(漫才)をしている場合ではないと戦闘へと意識を切り替える一同だったが、

カズキが二人に蹴り飛ばされた化け物の異変に気がつくとその体から光が溢れだし……

カズキ達を巻き込んで爆発した――。

 

 

 

「……あれ?」

「大丈夫か?」

「え、あの……インク……ルシオ……さん?」

 

爆発を見て反射的に目をつぶった秀人が目を開けると、自分を心配して顔をのぞき込む

インクルシオことタツミの顔が目に映った。

タツミは爆発から秀人をかばうために咄嗟に、自分の体が盾になるように

彼を抱きかかえたのだ

 

「一体何が……」

「あの野郎~。破れかぶれで自爆しやがったな」

 

秀人が自分達の身に何が起こったのかと、辺りを見回すと部屋は見る影もなく

黒焦げの状態だった。秀人達や倒れ伏す伯父の辺りを除いて――。

 

『カズキが張った風の結界のおかげで、全員無事みたいだな』

「ザンリュウジン!」

「お前、何でそんな所に!?」

 

状況を確認しようとするタツミとウェイブの目に、床に置かれたザンリュウジンが

目に入った。

 

『あの野郎……。俺を置いていきやがったんだよ!』

 

 

 

「はぁ……はぁ……。流石に……あれなら、死んだっしょ……」

 

ビルの屋上で、先ほどまで秀人を襲っていた化け物がビルの屋上で息を荒くして

大の字で寝っ転がっていた。その下半身は、クモではなく二本足をしていた。

 

「いや~あんな化け物みたいな奴がいるなんて、予想外で焦ったけど

 最後に笑うのは僕みたいに賢い奴さ!

 まさか、自分の体を爆発させて、逃げるなんて誰も思わないでしょ♪

 体の半身が無くなったから力も大分弱まったけど、ククク。

 これで、僕が死んだと思っているだろうから、力を取り戻して現れたら秀人君

 はどんな反応をするかな~。

 ついでに、僕の邪魔をしたあいつらの知り合いにもお礼をして……」

「そんな気をつかわなくてもいいよ?」

「っ!?」

 

全身ボロボロで息も絶え絶えながら衰えるどころか、更に狂気を加速させる

化け物は、背後から耳に入った言葉に戦慄した。

後ろを振り返ると、かすり傷一つ負っていないカズキが佇んでいた。

 

「どどど、どうして!?」

「お前みたいに、他人をおもちゃとしか見ていない奴が、

 自分と一緒に誰かを道連れなんて度胸のいる真似なんかするわけないからね……。

 あの場面での爆発は、逃亡のためっていうのはすぐわかったよ」

「何なんだよ……何なんだよ、お前!!!」

「何だっていいじゃないか……。

 俺は、ただの地獄への案内人さ……。倉野伸之(くらののぶゆき)

「なっ!?」

 

狼狽する化け物に対して、カズキは笑顔で気さくに語り掛ける。

だが、その笑みから温かさは一切感じられなかった。

 

「倉野伸之。爆弾に異常なまでの執着を見せ、

 その爆発とそれに伴う悲鳴に快楽を覚えた愉快犯。

 被害者は、秀人の母親を含めて多数。

 警察との逃亡の際に事故で息絶えるが、完全に命が尽きる前に

 クソガキ(ミール)に拾われ

 人間から創生種へ変わるための実験体とされる。

 そして数少ない成功例として復活し、クソガキがいなくなった後は手に入れた力で

 再び爆弾遊びで更に被害者を増やす……何ともまぁ、大変素敵で

 不愉快極まる経歴だね~倉野くん?」

「何だって……何だって聞いているだろ!」

 

化け物は自分の正体を見破られ、笑顔で嫌悪感を隠そうともしないカズキに

言い知れぬ恐怖を感じ始めるが、既に遅かった――。

 

「言ったじゃないか……俺は……」

 

カズキはおもむろに手を上げ、手のひらを地面にかざすと――。

 

「地獄への案内人だって――」

 

倉野を中心として、魔方陣が展開された。血よりも赤い光を放つ魔方陣が――――。

 

「こ、これは!?」

「知っているかい?命を奪うっていうのにも、色々ある。

 殺されそうになって、自分の身を守るために反射的に望まずして……。

 金が欲しいっていう、欲のため……。

 愛する者を奪われた復讐のため……。

 自分の快楽のため……。

 色んな理由があるけど……人間の誇りや魂を捨ててまで

 命を奪う奴が…………“まとも”な地獄に行けると思うなよ?」

「な、何を言って……うわっ!?」

 

淡々とカズキが言葉を紡いでいくと、魔方陣の光が収まり落とし穴のような

ものが現れ、倉野は落ちそうになるが辛うじて手を引っ掛けて落ちるのを免れる。

 

「ひ……ひぃぃぃっっっ!!!!!?」

 

穴の奥を見て倉野は悲鳴を上げた。

最早、言葉にならない怨嗟の声を上げるおぞましい姿の

亡者達が倉野目がけて手を伸ばしているのだ。

 

「この穴は、ちょっと特別な地獄に繋がっている。

 お前みたいに道を外れてまで理不尽を世にもたらす奴が、永遠に苦しむための……ね?

 罪を犯した魂は、仮初の肉体を与えられていつ終わると知れない苦痛が

 地獄で与えられるけど、そこは違う。

 肉体だけでなく、魂も終わることのない永劫の苦しみを味わう。

 お前の場合は、殺した人達と同じ痛みを体験できるんじゃないかな?

 一人一人のね。

 肉体も魂もその地獄では滅びることが無いから、永遠に……フフッ♪

 良かったじゃないか。大~好きな爆弾の味をその身で、味わえ続けるなんて

 早々できることじゃない。爆弾好きには、たまらないんだろ?」

 

必死に落ちないようにしている倉野に対して、カズキは誰もが見惚れる清々しい

笑顔を向ける。

そんな、笑顔や言葉の陽気さとは異なり、うっすらと開けたカズキの目からは

夜の闇さえ凍えさせる冷たさを放っていた。

 

「俺の家系は今でいう悪霊退治、それもお前みたいに人間をやめてこの世に害なすモノを

 退治するのを専門にしていてね~。最も、直接地獄へ繋げるこれは禁術だけど。

 そんな歴史ある技で、地獄に行けるのを光栄に思うといい」

「たたた、助けてくれ!

 僕が悪かった!も、もう二度と誰かを襲ったりしない!だから!!!」

 

自分がようやく、決して怒らせてはならない存在の怒りを買ってしまったことに

気付いた倉野は必死に命乞いをする。

 

「ふふふ……。

 他人の命は平気で踏みにじれるのに、自分の命が踏みにじられるのは嫌……

 ってわけか…………

 ふざけるなぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

倉野の命乞いに顔を俯かせたカズキは、不気味な笑いをしたかと思ったら

突如として怒りの声を上げる。

普段は、自分の感情を悟られない様に飄々と余裕のある態度は今のカズキには

なかった。

 

「自分より弱い奴は踏みにじって奪いたいけど、強い奴には踏みにじられたくない、

 奪われたくない……何様のつもりだ!

 助けてほしいだと?お前は、一度でもその言葉を聞き届けたことがあるのか!

 奪われ、残された者の気持ちを考えたことがあるか!

 永遠に癒えることのない心に刻まれた傷の痛みを!

 降りかかった理不尽への絶望を!抗えない無力感を!

 怒りを!悲しみを!!!!!」

 

怒りの表情で大声を上げるカズキの脳裏に、降り注ぐ雨の中で悲しみと怨嗟の涙を上げる

一人の少年の姿が映し出される。

 

「突然の事故、病気による余命の宣告……。

 理不尽な運命っていうのは、確かに誰にでも訪れる……。

 お前は秀人や多くの人に理不尽をもたらして、今度は“俺”に理不尽をもたらされる……。

 ただ、それだけのことだ……。

 ――お前に、ザンリュウで斬る価値はない」

「いやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁ!!!!!」

「そもそも……子供に理不尽をもたらす奴は地獄行きっていうのが、

 俺の信念(ルール)なんだよ――」

 

最初から倉野の意見など聞いていないのか、カズキは一切の躊躇もなく

穴に落ちまいとしがみついている腕を風の刃で切断する。

 

「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」

「文句の続きは、そっちに行った後で聞いてやる……。

 俺もいずれそこ(地獄)に行くからな――」

 

腕を切断された倉野は、亡者達に掴まれ地獄へと堕ちていった。

穴は役目を終えたためか、何事もなかったように消え去り、後に残った

カズキは、誰に言うわけでもない言葉を静かに口にした。

 

「出るタイミングを逃しちゃったな、タツミ」

「ああ。けど、あんな感情的になるカズキさんは、初めて見たぜ」

『秀人を見て……昔を思い出したのかもな……』

 

カズキを追って、屋上へとやってきたザンリュウジン達は影からカズキを見ていた。

そして、何も言わずそこから立ち去ったのだった。

 

 

 

「伯父さんは2、3日入院する必要があるみたいだけど、

 体に分身体が憑りついているわけでもないから、安心してくれ」

「本当に、何から何までありがとうございます……」

 

カズキ達は、秀人の伯父を病院へと運び廊下でその状態を話していた。

だが、秀人の顔は優れなかった。

 

『おい秀人、そのラジオ……』

「……はい。さっきの騒ぎで、壊れちゃったみたいで……」

 

秀人は手に持つラジオのスイッチを入れるも、カバーが割れて中が露出した

ラジオからは雑音しか聞こえなかった。

 

「カズキさんに言われたようにいつかは吹っ切らなきゃっていうのは

 分かっていたんですけど、まさかこんなすぐになんて……。

 色々ありすぎて、ちょっとすぐには立ち直れない……かな……」

 

自分を脅かす存在は去ったが、引き換えに心の支えであるものを失って

落ち込む秀人に、ウェイブとタツミは励ます言葉が見つからなかった。

カズキはそんな秀人を見て、少しだけ考え込むように目を閉じて意を決したように

目を開ける。

 

「秀人。出かける時、泥棒が入らない様に家には鍵をかけるよね?」

「え?あ、はい……」

「鍵をかけるのは、泥棒が入る“かも”しれないという“もしも”を

 避けるために必要なこと……。

 このまま、“この人”を放っておいたら、その想いは歪んで面倒なことに

 なるかもしれない。君も立ち直ることができず、前に進めないまま道を踏み外して

 しまうかもしれない……。

 ……だから、これはそんな“もしも”を避けるために必要なことだ……」

 

何の前置きもなく、語り掛けるカズキに全員が首を傾げるが、カズキが秀人の

ラジオを握るとそこから光が溢れだし、人の形へと集まっていく。

 

「おい、まさか……」

「えええぇぇぇっ!?」

 “秀人――”

「あ、そんな……。

 おか……あさ、ん……」

 

半透明で光っている秀人の母が目の前に現れて、ウェイブとタツミは驚愕し、

秀人は言葉を失ったまま涙を流す。

 

“秀人を守っていただき、本当にありがとうございました”

「俺は、俺の仕事をしただけですよ。

 秀人。そのラジオに、君のお母さんが憑いていたのはすぐにわかった。

 でも、見えることもしゃべることも出来ないから、今一時的に

 君とお母さんが会話できるぐらいに俺の力をわけたんだ」

「カズ……キ……さん」

「残念ながら、触れることはできないけど……せめて別れの言葉を……」

“いいえ、十分すぎます。

秀人、ごめんね。もっと傍にいてあげたかったのに一人置いていちゃって……。

これから先も大変なことが、たくさん起きるかもしれないけど、一人で

抱え込まないで――。

誰よりも優しいあなたに手を差し伸べてくれる人達が、きっといるから――”

「……う゛ん

(傍にいてくれてたのは……気のせいじゃなかった――。

ずっと……いてくれてたんだ――)」

 

触れることはできないけど、秀人を抱きしめるように母は手を回し、別れの言葉を

紡いでいく。

その光景に、最初は驚いていたウェイブとタツミも涙を滝のように流す。

 

“これからは、空の上から秀人を見ているからね――”

「お母さん……ありがとう――」

 

秀人の言葉を最後に、母はその場から姿を消した。

今度こそ、本当に秀人の前から……。

 

「さて、秀人。これは、俺がよく行く食堂の住所だ。

 何か困ったことや相談したいことがあったら、そこに行くといい。

 俺がいなくても、赤い長髪でバンダナを巻いた奴に言えば、俺と連絡がつくから。

 まあ、何もなくてもうまい食堂だ。一度、行くことを薦めるよ」

「はい。本当に……本当にありがとうございました……!」

「で?どうする、そのラジオ?

 直そうと思えば、元通り直せるけど?」

「……これは――――」

 

秀人に、弾の実家の住所を書いたメモを渡すとカズキは、ラジオを直すか問いかける。

少し考えた後、秀人は――。

 

 

 

「“このままでいいです。お母さんとは、ちゃんと繋がっていられますから”

 ……かぁ~。しっかりしてるな~タツミ?」

「ああ、全くだ」

 

カズキ達は、カウンターに座ってラーメンを食べていた。

急な呼び出しをしたからと、カズキが遅めの夕食を奢っているのだ。

 

『それにしても、あんなことをしてよかったのかよ、カズキ?』

「うん?」

『一時的とは言え、下手に霊とかを見えるようにしたら、それをきっかけにして

 眠っていた力が目覚めちまうかもしれねぇだろ?

 そしたら秀人の奴、面倒なことになるぞ?』

「わかっているよ、ザンリュウ。

 だけど、彼をあのままにしていたら、母親を追い求める

 心の隙を誰かに狙われるかもしれないし、母親の方も母親で子を守りたいっていう

 想いが歪んで悪霊になってしまうかもしれない……。

 形はどうあれ、死んでしまった魂がこの世に居続けるのは、よくないからね……。

 例え、我が子を見守りたいという理由でも……」

 

飄々としながらも、真剣な感情を帯びた言葉にウェイブとタツミは息をのむ。

 

「確かにお前の言うように、今回俺が力をかしたことがきっかけで、秀人の

 眠っているかもしれない力が目覚める可能性はある。

 それでも、この別れは必要だったんだ。俺と同じ道を歩ませないためにも……。

 まあつまり、要約すると秀人のためって言うより俺が過去の自分を見たくないからって、

 自己満足なんだけどね~。

 それに……別れも言えない理不尽な別れっていうのはごまんとあるんだ。

 こうやって、たまたま出会えたおかげでちゃんとした別れができる

 なんて、他の人からしたら理不尽だと思わせてもいいだろう――」

「「……」」

 

カズキの言い分に、思うところがあるのか二人は何も言わない。

 

「それで?お前は、何をしに来たんだ……クリエス・レグド?」

「な~に、ちょっとした見学ですよ?」

『「「っ!!!?」」』

 

ウェイブとタツミがカズキの横に目を向けると、いつからそこにいたのか

長髪で人当たりのよい印象を与える顔だちの青年が座っていた。

 

「私もミールの実験でちょっと気になる点が、ありましてね?

 個人で調べていたんですよ。

 そしたら、驚くことがわかりましたよ。

 この実験には、時空管理局も一枚嚙んでいるようです」

「管理局が?おい、まさか……」

「ええ、私達に反旗を翻そうとしている者達がいるようなんです。

 その者達が、反旗が漏洩するのを防ぐための目くらましとして

 実験体を世に放ったようです。

 最も、無駄なことだと思い知ることになるでしょうが……」

「全くこの忙しい時に、面倒なことを。はぁ~」

「「『って……。何普通に敵同士で、会話してるんだぁぁぁ!!!!!』」」

「?だって、今戦うつもりはないんだろ?レグド?」

「ええ。今は、食事を楽しんでいるだけです。

 人間の創造する力というのは、本当に私達の想像を超えていきますね~。

 あっ。ラー油をとってもらいます?」

「それじゃあ、そっちのコショウをとって」

「どうぞ」

 

敵同士にも関わらず、ラーメンを食べるカズキとレグドにザンリュウ達は

呆れて言葉が出てこなかった。

 

「そう言えば……」

「どうしました?」

「何かを忘れているような……」

 

カズキは、ふと何かを思い出そうと頭を指で叩く。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ははははは!懐かしいな、弾!

 カズキさんに初めての課題を出されたのが、この無人島だったよな?」

「そうだな、一夏♪

 “一は全、全は一の答えを探せ”……武器に変えれなくなったゴウリュウガン達と

 ナイフ一本で放り込まれたよな~。

 いや~最初はどうなるかと思ったぜ~」

「そして、初心を思い出す為って、また放り込まれたんだよな~」

「あははは!」

「ははは!」

「ゲゲゲゲゲ!!!」

『二人とも、現実逃避している場合じゃないぞ!』

『追いつかれるのは、時間の問題である』

「「……なんでここにデビル大蛇なんかがいるんだぁぁぁっ!!!!!?」」

 

一夏と弾は背後から自分達を食わんとする猛獣から、全力で逃げていた。

二人は現在、修行前に初心を思い出す為にと、最初の修行を行ったある無人島へ

来ていた。そこで彼らを待っていたのは、

紫色の蛇のような長い体からいくつもの手を生やした三つ目の猛獣、

デビル大蛇との食うか食われるかの命がけの鬼ごっこであった。

 

『だが、データにある大きさよりも遥かに小さいな』

『恐らく、幼生であると推測。今回の為に、カズキが用意したのだろ』

「そんなことはどうでもいいんだよ、ゲキリュウケン!」

「そうだ!幼生だろうが、消化液とか毒針があるヤバイ生き物に変わりねぇだろ!

 初心を思い出す為なのに、お前達を武器に変えられない様に

 しないのはおかしいと思ったんだよ!」

「ゲジャァァァッッッ!!!」

「「助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

一夏と弾の叫びが無人島に響き渡る――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「う~ん……ウェイブとタツミに、何かさせようと思ったんだけど……

 まあ、いいか」

「何だろうな、タツミ……」

「ああ、カズキさんが忘れてなかったら一夏達と一緒にとんでもない目に

 あわされた気がする……」

 

 

 





一夏達が行った最初の修行と言うのは、ハガレンの無人島サバイバルです。
そして、デビル大蛇は原作で最初の方に出たものよりサイズは小さい
子供です。それでも危険生物に変わりありませんがwww
果たして、一夏達の運命は(笑)

レグドの人間体は、印象は人当たりの良い好青年です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女たちの夏


夏休み編がどれぐらいかかるか分からなくなってきた(汗)


「…………」

 

とある世界で復讐の騎士オルガードが、澄み切った青空を見上げながら

一人佇んでいた。

 

「あの時……リュウケンドーを助けたのは、貴様が原因か――。

 ……下らない。今更、昔のように……リュウケンドー達のような戦士に

 戻ってどうするっ!

 今の私に守るものは……必要ない!」

 

オルガードは自分の傍に誰かいるように、拒絶の声を上げる。

瞬間、彼の脳裏に失われた日常(たから)の光景がよぎった――。

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

「にいさーん!」

「クラード!星守の騎士(テラナイト)見習い、合格おめでとう!」

 

オルガードは、嬉しそうに自分に駆け寄ってくる子供に同じように

喜びの声で出迎えた。

駆け寄ってきた子供……弟のクラードの肩をつかむと祝福の言葉を

口にし、柄のない短剣を手渡す。

 

「この剣は、合格祝いのお守りだ」

「ありがとう、にいさん!

 僕、絶対にいさんみたいな星守の騎士(テラナイト)になれるよう、がんばるよ!」

「なれるさ。クラード、お前ならきっと……」

 

しかし、運命は非情な刃を日常へと振り下ろす。

 

「にいさーん!」

「クラード!」

「子供の命を助けてほしいなら、武器を捨てろ」

「貴っ様らぁぁぁっ!!!」

「オルガード、ここは奴らの言う通りにして、チャンスを待つしかない!」

「すまない……みんな……」

 

時空管理局に人質に取られた弟を救うため、掴んだチャンスの前に仲間の言葉を

聞き入れ剣を捨てるオルガードだったが……。

 

「っ!オルガード!」

「なっ!?」

「ははははは!」

 

何かに気付いたオルガードの仲間は、彼を突き飛ばすと胸に殺傷設定の

魔法を受けその命を刈り取られてしまう。

 

「うわぁっ!?」

「がっ!」

「きゃあああっ!」

 

同時に、周りの仲間達も次々と命を刈り取られていく。

 

「っ!?これが……これがお前達の正義か!!!

 時空管理局ぅぅぅぅぅ!!!!!」

「そうだ。正義の為に多少の犠牲は、必要だ。

 正義の犠牲になれるのを光栄に思え」

「ぐわっ!!!」

 

感情がない声を放つ時空管理局の先兵の凶弾に、オルガードも

倒れ伏してしまう。

 

「にいさーん!!!」

「お前も正義の為の礎になるがいい」

「っ!やめろぉぉぉっっっ!!!!!」

「あああっっっ!!!」

「クラードぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!」

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

「あの日……弟のクラードだけでなく、仲間達も卑劣な手段で殺された……。

 最早、私の生きる意味は復讐のみ!

 この命は、そのためにある……!」

“やめろ!お前が一夏を助けたのは、お前の中に復讐心以外の心が

 残っているからだ!”

「黙れ!もう、私に時間はあまり残されていない……うっ……!」

 

オルガードは胸を押さえ、地面に崩れ落ちる。

 

“待つんだ!まだ、間に合う!”

「……っ!うるさいっ!」

 

弟に渡した短剣を取り出したオルガードは、その剣を自分の胸へと突き刺した――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……」

 

ジジジジジーと太陽が燦々と地面を照らし、自身の存在をアピールするセミ達の合唱

を聞きながら、シャルロットはある家の前で表札とかれこれ、にらめっこを10分ほど

続けていた。

熱中症の心配がされるが、彼女の心は頭上で輝く太陽よりも熱く燃えているため、

流れる落ちる汗とは裏腹に暑さはあまり感じていないようだ。

その心の炎を灯している眼差しは、“織斑”と書かれた表札に注がれていた。

 

「うん、大丈夫。碓氷先生も一夏が、今日家に帰ってくるって言っていたし、

 他のみんなも用事があるって言っていたし……よし!」

 

シャルロットはようやく意を決し、インターホンへ指をおそるおそる伸ばしていく。

 

「何をしているんですか、シャルロット?」

「ひゃっ!?あ、明!?」

「あら?明ちゃんのお友達?」

 

背後から声をかけられ、シャルロットは素っ頓狂な声を上げ振り返るとそこには、

スーパーの買い物袋を提げた明と雅が立っていた。そして……。

 

「え~っと、ナビによるとこの辺りのはずなのですが……」

「ん?あれは、セシリア?」

「あらあら♪今日は、お客さんがたくさんね♪」

 

戸惑う少女達を眺めて、雅は楽しそうな声を上げる。

 

「はい、麦茶をどうぞ♪今朝作ったばかりだから、薄いかもしれないけど……」

「い、いいえ!」

「お、お構いなく……!」

 

雅に促されるまま、家へと上がったシャルロットとセシリアは緊張した顔で

ソファーに座る。

 

「それにしてもどうしたんですか、二人とも?

 連絡もなしに、一夏の家に来るなんて……」

「それは、こっちのセリフだよ!」

「どうして、明さんが一夏さんの家にいるのですか!」

 

買ってきたものを片付ける明に、二人は抗議の声を上げる。

明の手つきは、自分の家で片づけをするかの如く自然であり、昨日今日来たという

感じではなかった。

 

「う~ん、実は……これがカズキさんからの修行なんだ……」

「「修行?」」

 

雅に聞こえない様、雅が離れた隙に明は、シャルロットとセシリアに近づいて小声で

この家にいる理由を囁く。

 

「ええ。狙われていることを知らない人に狙われていることに気付かれない様に、

 護衛するというものです。雅さんには、家の都合でしばらく私は他の家に泊まらなければ

 ならないと説明しています。

 カズキさんや気配を消すのに長けた仲間達から、雅さんを守る……はずだったんですが、

 修行が始まって五日。

 一度も襲撃がないんですよね……」

「それはこの修業が、本当は私が明ちゃんのことを知るのが目的だからよ♪」

「「「うわっ!?」」」

 

明達がコソコソと話していると、いつの間にか席を離れていたはずの

雅も混ざり明達は大いに驚く。

 

「実はね~?カズキ君にお願いしたのよ~。

 ゆっくり、話したことなかったから、しばらく近くで明ちゃんを見てみたいって♪」

「そ、そうでしたか……。

 だったら、何でわざわざこんな……」

「ふふふ♪護衛なら、24時間私の傍にいるからじ~~~っくりと観察

 できると思ったのよ~」

「か、観察って何のために……」

 

ピンポーン。

シャルロットが、雅の言う観察のことを聞こうとするとインターホンが鳴り、中断される。

 

「宅配でしょうか?見てきます」

「お願いね」

 

明が玄関に向かうと、残されたシャルロットとセシリアは再び緊張した顔となり、

雅はニコニコの笑顔を浮かべる。

 

「それで?あなた達は、どうして一夏を好きになったのかしら?」

「「ぶぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」」

 

ど真ん中ド直球のストレートボールを投げられ、乙女にあるまじき

吹き出しをしてしまうシャルロットとセシリア。

 

「ふふふ♪夏休みに、わざわざクラスメート……それも男の子の家に来るんだもん。

 そう考えるのは自然よ~」

「えええ、え~っと……」

「そ、そのですわね……」

「続きは、みんなが来てからね?」

「ちょっ!何で、明が一夏の家にいるのよ!」

「おおお落ち着け、鈴。どうせ、一夏が家に誘ったとかそういうことだろrrr」

「箒、それ招き猫……」

「もう!これじゃ、ドッキリ突撃隣のあの人の家に“来ちゃった♪”計画が、

 台無しじゃない~」

「うむ!お姉ちゃん、私達はお兄ちゃんが帰ってくると聞いて、遊びに来たのだ!」

「さ~て、麦茶を用意しないと♪」

 

聞き慣れた声が玄関から聞こえたことで、シャルロットとセシリアは揃って

ため息をつくのだった。

 

「結局、お約束……」

「あははは……」

 

織斑家のリビングは現在、満員電車状態な人口密度であった。

シャルロットとセシリアに続き、鈴、箒、簪、楯無、ラウラといつもの面々が

この家に揃った。その状況に、簪がつぶやき明は苦笑する。

 

「全く、何でいつもの顔ぶれを夏休みにも見るのよ!」

「考えることは、みんな同じ……」

「と言うよりは、カズキさんと雅さんの企みでしょうね」

「大正解☆」

 

鈴の叫びと簪のつぶやきに、明が補足をすると雅は手を上に回して

○を作って、イタズラ成功♪な笑顔をする。

 

「明ちゃんもそうだけど、他の子達ともゆっくり話してみたいって

 カズキ君と話してたのよ~。でも、想像以上に皆とおもしろく会えたわ~」

「面白くですか……」

 

ニコニコと笑う雅に、箒は引きつった笑みを浮かべる。

この場合は魔弾戦士等のことを悟られない様、修行と称した計画を

画策したカズキがすごいのか、

それとも雅が大物なのかはたまたその両方か……。

少女達が、察するには二人の人物は存在が大きすぎた。

 

「ああ、そうだ。セシリアちゃん……だっけ?」

「あ、はい」

「なんか、入学初日一夏に色々と言ったそう……ね?」

 

笑顔の雅がセシリアの肩に優しく手を置いた瞬間――、

ゾクリと明達の背に悪寒が走った。

 

「え……あ、あの……その……」

 

セシリアはすぐにでもその場から逃げたかったが、体は蛇に睨まれたカエルの如く

一ミリも動けなかった。

優しく置かれたはずの手は、万力で締められているような感覚を覚え、雅の体から

発せられている(ように見える)千冬以上の威圧から、言葉もうまく口にできなかった。

見れば箒は鈴と、楯無と簪は抱き合いながら震え、シャルロットとラウラは明を盾にする

ように背後に隠れる。

 

「ふふふ♪そんなに怖がらなくて、大丈夫よ~。

 ちゃんと反省しているのは、カズキ君から聞いているから♪

 でも、反省してなかったら……ふふ……ウフフフフフ♪」

「(反省していなかったら、何ですのーーー!!!?)」

「「「「「「「(ガタガタガタガタ)」」」」」」」

 

影を差した笑みから一転して、最初に出迎えてくれた明るい笑顔に戻ってくれたと

思いきや、再び影を差した笑みとなる雅に明達は戦々恐々である。

 

「そう言えば……ラウラちゃんもカズキ君と出会ってなかったら、いちゃもんを一夏に

 つけてとんでもないことをしたかも……ってカズキ君から聞いたわね~」

「ひぅっ!?」

 

グルリと人形が首を回したような動きで、自分に顔を向けてきた雅にラウラは、

巨大生物に睨まれた小動物のように涙目で震え出す。

 

「おおおおおお姉ちゃん!この人は、一体何なんだ!

 教官でもここまで怖くないぞ!?」

「そんなの私達が聞きたいわよ、ラウラ!」

「わかっているのは、雅さんには誰も勝てないということだ。

 千冬さんだけじゃない……姉さんもカズキさんも勝てないんだ……!」

「ただの一般人……のはずなんですが……」

 

震えるラウラは明に助けを求め、鈴と箒が続いて雅のことを同じように震えながら

口にする。雅がどういう人物なのかは、明も聞きたいらしくその言葉は自信なさげである。

 

「ゴメンなさいね~。ついつい、千冬や一夏のことになると熱くなっちゃって♪

 二人とも子供の頃から見ているから、もう~色々と心配で心配で。

 特に、一夏のお嫁さんになってくれるかもしれない子にはつい……ね~?」

「「「「「「「……へ?お嫁……さん……?」」」」」」」

「お嫁さん?」

 

笑顔から影を消した雅は、自然にとんでもない発言をして明達の度肝を抜く。

唯一ラウラは、意味が分からず小動物のように首を傾げる。

 

「カズキ君に頼んで、明ちゃんを観察させてもらったのは、一夏のお嫁さんとして

 ちゃんと見てみたかったからなのよ。

 で、一夏にはもったいないぐらいのいい子っていうのはわかったけど、他の子も

 負け劣らずのいい子ばかりで、ふふふ♪

 決めるのは一夏だけど……もう!

 こんな罪作りなところまで、あの子達に似なくていいのに!」

「「「「「「「////////////////////////////」」」」」」」

「???」

 

自分の世界に入った雅は、惚気のように楽しく話しているとプンプンと

かわいく怒る。

当然、明達は言葉を口にする余裕はなく、ラウラは頭に?を飛ばすばかりだった。

 

「ああ、そうだ!折角だから、イイものを見せてあげるわ♪

 ちょっと待っててね~」

 

何かを思いついた雅は、足取りを軽くしてリビングを後にした。

残された明達は、顔を真っ赤にして沈黙を続ける。

 

「……うん?これは、教官とお兄ちゃん?」

 

沈黙を不審に思うラウラは、何気なしにリビングを改めて見回すと

棚に飾られているいくつかの写真が目に入る。

 

「ああ、それは一夏や千冬さんの昔の写真だ」

「懐かしいわね~」

「私が、昔見た時より増えているな」

「一夏さんの……」

「昔の写真……」

「それじゃあ、早速……」

「拝見するとしましょう♪……あれ?」

 

飾られた写真を懐かしそうに眺める箒や鈴を見て、興味が湧かないわけがない

他の者達は楯無の言葉を合図に見始めるが、ある違和感に気付く。

飾られている写真は、学校の入学式や卒業式、運動会、剣道の大会等様々なのだが、

写真に写っている雅の姿が服装以外、今と少しも変わっていないのだ。

一夏や千冬は、ランドセルを背負っていたり学生服だったりで時間の流れを

見て取れるが雅は全くと言っていいほど、歳をとっていないのだ。

 

「それね……うん……」

「雅さんは……その……一夏と千冬さんのご両親が子供の頃からの

 知り合いらしくてな……」

「私達が考えている以上に……その……”大人”なんだ……」

 

雅のことを知る鈴、箒、明は何とも言えない表情で写真の姿について話していく。

 

「一夏さんと織斑先生のご両親が子供の頃からの知り合いって……」

「見た目は、20代の主婦だよね?」

「日本のYOUKAIというものか?」

「未来の技術を使ったアンチエイジング?」

「どれにしたって、雅さんの本当の年齢は……」

「私の歳がどうしたのかしら?」

 

あ~だこ~だと、みんなが口にし、楯無が雅の歳を言おうとした瞬間、その肩を

セシリアの時以上に”優し~~~く”雅に掴まれてしまう。

 

「ひゃっ!?」

 

ブリキの人形のようにギギギと楯無が顔を回すと、先ほど以上に笑顔に影を差した

雅がそこにいた。

 

「楯無ちゃんだったわよね?

 ちょ~~~っと、あっちの部屋で”お話”……しましょうか?」

「は、話ならここで……」

「楯無さん……あなたのことは……忘れません!」

「色々あったけど……いざ、いなくなると……うっ!」

「どうか……安らかに」

「「「「(ガタガタブルブル)」」」」

 

雅の笑みが以前会った時に、ラバックをおしおき?した時の笑顔と同じだと

思い出した楯無は、必死に打開策を探すも箒、鈴、明の三人は今生の別れと

悲しみの言葉を口にするだけで、残りのメンバーも震えるだけだった。

 

「ちょっ!あっさり、見捨てないでぇっ!?」

「それじゃあ、乙女(?)の年齢を勘ぐる悪い子がどうなるか……

 たっっっぷりと教えてあげるわね~♪

 遠慮はいらないわよ~」

「いやぁぁぁぁぁっっっ!!!!!

 遠慮させてぇぇぇ!!!!!」

 

楯無は全力で抵抗するも首根っこを掴んでいる雅の手は、ビクともせず、

ただ引きずられていくのであった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

好奇心から破滅を自ら呼び込んでしまった哀れな少女の悲鳴が、家中に響き渡った……。

 

 

 

「じゃ~ん!これが、みんなが気になる一夏と千冬の成長の記録で~す♪」

「…………」

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

自慢の宝物を見せるように、アルバムを手に持つ雅だったが、彼女のワクワクとは

反対に少女達は気が気でなかった。

雅に連れていかれた楯無は、魂が抜けたように無反応でほにゃ~とした表情の

ままであった。

果たして、連れていかれた先で“何”をされたのか……。

 

「まずは……これからかしら♪」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ~ねぇ~レグド様~。いいでしょう~?

 魔弾戦士達と遊んできてもさ~」

「ダメです」

 

目の前のパネルを操作するレグドに、一夏達にちょっかいを出していいか

ねだるグムバだったが、レグドはあっさりと切り捨てた。

 

「あなたは、面白がってこちらの情報を口にする可能性が大いにあります。

 こちらの計画も最終段階に入っている今、不確定要素はできるだけ避けたい所……。

 そう、彼の者のように――」

 

空中へと映し出した映像には、どこかへと向かっているオルガードの姿が

映し出された。

そして、レグドの横には目覚めの時を待っている三体の獣が静かにその時を

待っていた…………。

 

「こちらが準備しているように、あちらも力を蓄えるようですから、

 ちょっかいをかけるならそれが完了した頃を見計らった方がいいでしょう。

 強くなった彼らの力を確認する意味も含めて……」

「ちぇ~、わかりましたよ~。

 あっ!そう言えば、他の二人はどうしたのさ?」

 

レグドの言葉に納得したが、それでも退屈でしょうがないと暇を持て余している

グムバが、ここにいないベルブやリリスのことを聞いた瞬間、レグドの手が

ピタリと止まる。

 

「…………」

「レグド様?」

「ベルブとリリスですか?……ベルブは“他の世界のジャンプは、ここと同じなのか?”

 と色んな世界のジャンプを探しに……。

 リリスは、“な~んか、面白そうなプールができたから遊びに行ってくるわ♪”

 と水着を手に泳ぎに行きました……。

 二人とも“調整とか計画とか小難しくて面倒なことは、お前に任した!”

 と、私に仕事をブン投げてね――」

「……」

 

レグドの背中から哀愁がただよい、グムバは“優秀すぎるのも大変だなぁ~”と

同情の視線を送るのだった。

 

「確かに、今の段階は待つ割合が多くを占めてますが、それでもやることは

 山積みなんですよ?

 “猫の手も借りたい”とは、人間もうまいことを言いますね。

 暇なら、細かい事以外で手伝うとかいう発想はないんですかね、あの二人は……?」

 

同情の視線を送っていたグムバは、ブツブツとつぶやくレグドに風向きが変な方に

向きかけているのを感じとり、この場からコソ~っと逃げ出そうとする。

 

「さて、リュウケンドー達と遊びたいということは、あなた暇なんですよね?

 では手伝ってもらいましょうか?」

 

だが、グムバが背を向けた瞬間レグドに肩を掴まれ、和やかな声の裏に有無を言わせない

迫力で迫るレグドにグムバが取れる手は一つしかなかった。

 

「……はい……是非とも手伝わせてください……」

 

涙を流しながら、協力を願い出るグムバを見たら一夏達は、優しい眼差しを

送るかもしれない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それでね……♪」

「これは、初めて見ますね……///////」

「ち、小さい一夏さん小さい一夏さん……///////」

「この頃から、千冬さんにベッタリだったのね……」

「あわわわ////////こんな写真まで//////////」

「ふむ。これが、お兄ちゃんと教官の子供時代か」

「意外とやんちゃ坊主だったんだ……」

「こんなお宝写真を見れるとは、思わなかったわ♪」

「少しも飽きませんね///////」

「ただいまー」

 

織斑家では現在、思い出のアルバム公開で大いに盛り上がっていた。

復活した楯無も含めて、全員が食い入るように一枚一枚を目に焼き付け、雅も

写真を見せれてうれしいのかご機嫌である。

そんな織斑家に新たな人物がやってくる。

 

「雅さん、一夏の奴は帰ってきましたか……うん?

 何か賑やかだと思ったら、お前達……か……」

「あら、お帰りなさい千冬♪」

 

ドアを開けて姿を見せたのは、白いワイシャツにジーパンという行動的な服装の千冬

だった。そして、雅が明達に見せているものに気がついて言葉を失っていく。

 

「一夏なら、まだ帰ってきてないわよ?

 まだ、終わらないのかしらね~。おいしいものを作るための合宿?」

「あ、あの雅……さん?机に広げているそれは……」

「もちろん、織斑家の宝物……千冬と一夏の成長記録よ♪」

「何で、こいつらに見せているんですか……」

 

頬を引くつかせる千冬はあっけらかんと言う雅に、いつもの事なのか諦めたように

ガクッと肩を落とす。

 

「せっかく来てくれたんだし、久しぶりに二人の写真を誰かに見せたかったのよ~。

 最近だと、カズキ君ぐらいにしか見せてないしね~」

「はぁ~~~……うん?ちょっと待ってください……カズキに……見せ……た?」

 

雅の言葉に引っかかるものを覚えた千冬は、嘘であってほしいと雅の顔を見るが、

彼女はニコニコと子供がイタズラを成功させたような笑顔を浮かべていた。

 

「ええ~見せたわよ。一夏のも千冬のも……ね♪」

「…………ちょっと出かけてきます――」

 

プルプルと体を震わせたかと思った次の瞬間、千冬は風を置き去りにしていく速さで

家を後にした。

明達が驚く暇もなく、ポカ~ンとしていると……

 

「た、ただ……いま……。

 今、千冬姉がすっげぇ~速さで出ていったけど、何かあった……って。

 あれ?みんな?」

 

千冬と入れ替わる様に、一夏が帰ってきた。

見るからにフラフラで服はボロボロの状態だった。

 

 

 

「はぁ~~~。よりにもよって、それを見られるなんて……」

「照れない照れない♪」

「そうよ、かわいいじゃない♪キシシ♪」

 

帰ってきた一夏は、頭を抱えて机に突っ伏していた。

明達が見ているものに気がつき、千冬のように言葉を失うと膝から崩れ落ちたのだ。

そんな一夏を楯無と鈴が、励ますが表情は笑いを堪え切れていなかった。

開かれたアルバムには、スヤスヤと眠る赤ん坊の一夏が映っていた……

ヒラヒラの女の子用の服を着た一夏が――。

 

「ちなみに、カズキ君にも見せたことあるわよ?」

「最悪だぁぁぁ!!!!!」

 

赤ん坊の自分を見られるだけでも恥ずかしいのに、一番バレたくない人に

既に見られていると知り、一夏は頭を掻きむしりながら叫びを上げる。

 

「それにしても、本当にかわいいよ♪」

「ああ、これはいいものだな//////」

「シャルロットと箒の目が輝いている……あっ。

 これは、ヒーローごっこをやっている時かな?」

「気にすることはないだろ、一夏?子供だったんだから////////」

「さっきから、顔がにやけっぱなしだぞ、お姉ちゃん?」

「一夏と千冬の母親は、演劇が好きで裁縫も得意だったから、

 自分で色々と服を作ってたのよ~。

 二人が生まれてからは、二人を可愛くするのが楽しかったみたいで

 色んな衣装を着せたのよ♪」

 

子供時代の写真を見られた一夏の葛藤を気にすることなく、

明達は黄金の時間を堪能していく。

雅も続いて、一夏や千冬が色んな衣装を着ている理由を述べていく。

ちなみに、明達が見ている写真にはお揃いのフリフリの衣装を着て恥ずかしがっている

千冬と無邪気に笑っている一夏や動物パジャマで眠っている二人、タキシード、ゴスロリ等々、

本当に多種多様な写真があった。

 

「ふふふ♪そろそろ、麦茶のお代わりを入れてくるわね♪」

 

悶えながら葛藤する一夏の姿を心から楽しむ雅は、ご機嫌で麦茶を取りに

台所へと向かった。

 

「そう言えば、一夏。あんた、そんなボロボロになるまで、どんな修行を

 弾とさせられてたのよ?」

「ああ、それは私も気になっていた」

「お兄ちゃんが、こんなになるなんて……

 きっと、とてつもなく凄まじいものに違いない!」

 

机に突っ伏す一夏に、鈴が一夏を見て気になっていた全員の気持ちを雅に聞こえない様に

小声で代弁し、明もそれに続く。

中でもラウラは、ワクワクと言った感じで目を輝かせていた。

 

「……どんな修行だった……って?

 無人島で、鬼ごっこをさせられたんだよ……ゲキリュウケンだけを持って……

 “デカイ”蛇とな……」

『我ながら、よく生き残れたものだ……』

 

デカイを強調して今にも笑い出しそうな声で修行内容を語る一夏と、

どこか遠くを見ているようなゲキリュウケンに、全員呆気にとられた。

笑いの中に狂ったものをにじませる一夏に気付かず……。

 

「蛇と鬼ごっこって……」

「それのどこが、修行なんだ?」

「無人島ということは、サバイバルか?」

「確かにラウラさんの言うように、それは大変ですわね」

「自給自足の生活……」

「大自然に心身ともに鍛えてもらう……まさに、夏休みの醍醐味ね♪」

「そんな修行、楽勝じゃない」

「……そうかそうか~。大きくなったら、ある世界で大陸を貫通しちまう鼻息を

 吐いたり、山を切り取って地球を一周させたり、月サイズの隕石を吸い込めるような

 生き物と互角レベルになる蛇との鬼ごっこを君達は、簡単と言うのだね?

 へぇ~~~……」

「「「「「「「……へ?」」」」」」」

 

鬼ごっこなんて楽勝と言わんばかりの彼女達の反応を見て、一夏は俯きながら口角を

上げて意味深な笑みを浮かべる。

そんな箒達に半ば呆れていた明を除く面々は、続く一夏の言葉にマヌケな声を上げる。

 

「俺達が相手したのは、子供の中の子供だろうけど……そこまで言うなら

 皆はそういうことができる”大人”の方の蛇と鬼ごっこできるようカズキさんに

 頼んでみるよ……ククク……」

「「「「「「「ごめんなさい!ちょっと待ってください!!!」」」」」」」

「ははは……」

『はぁ~』

「あら?どうしたの、みんな?」

 

一夏が口にしたとんでもない生き物は、普通ならそんなバカなと鼻で笑えるが、

カズキが絡むと真実味が増し、箒達は必死に一夏に頭を下げるのであった。

そこへ丁度良く、雅が麦茶のお代わりをもってやってきた。

 

「それにしても、こうしていると昔を思い出すわね~」

 

お茶を配りながら、懐かしげにつぶやく雅に一夏達の視線が自然と

集まる。

 

「ふふふ♪あの子達の周りには、自然と人が集まってね~。

 毎日が楽しかったわ~♪」

 

雅の視線は一夏と千冬の写真の隣に置かれている、二人によく似ている

男の子と女の子が映っている写真へと向かう。

一夏に似た顔立ちの男の子は、Tシャツに半ズボン姿で鼻へ絆創膏を張り、

その手には虫取り網と自慢気に見せるカブト虫という如何にもと言った

ワンパク坊主。

千冬に似た顔立ちの女の子は、本音のように穏やかな感じで動物キャップを

被って大型の犬に抱き着いていた。

 

「本当にどこで何をしているのかしら、この二人は?」

 

呆れながら寂しそうに呟く雅の顔から、一夏達は目が離せなかった。

 

 





楯無は以前ラバックがされたように、雅に(´°ω°`)な顔にされました。
具体的には、”まほらば”と言う作品の原作の方でされる「愛のある」折檻
をされています(汗)

最後の写真に写っているのは、一夏と千冬の両親です。
詳しくは、今後の夏休み編で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

復讐の襲撃


今回は一夏と千冬の親について、掘り下げていきます。
エグゼイドは、いよいよ来週ファイナル・・・。

来月は、仕事の方でちょっとした動きがあるので更新できないかもしれません。


「お待たせしましたっ」

 

大人の社交場のとある店、『バー・クレッシェンド』に走ってきたのか息を切らして

IS学園の教師の一人、山田真耶が姿を現す。

 

「いいわよ、こっちが呼び出したんだし」

「マズダー!生おがわりぃぃぃっ!」

 

真耶を待っていたのは、同僚の日下部燎子とエレン・ミラ・メイザースであった。

エレンはジョッキを片手に顔を真っ赤にしており、既に酔っ払っているのが

一目瞭然であった。

 

「それで、私を呼んだのってまさか……」

「私だけじゃ“コレ”を何とかできそうにないからね……」

「いぢがぁ~~~~~!」

 

顔を引きつらせる真耶と燎子を目に入れることなく、エレンは涙を流して

一夏の名を叫ぶ。

 

「何でも、今織斑先生の家にいつもの面々がいて、オマケに少し前から

 原田が泊まっているらしいのよ」

「泊まっ!それって原田さんと織斑くんが同棲ですか!?」

「いや、もう寮で似たようなことはしているし、保護者もいるから

 友達の家に泊まる?な感じらしいんだけど、もう耳には入らなくて……」

「わだじだって、おりょうりできぎるようれんじゅうじてるもん!

 ぞうじだっでぜんだくだっで、できるようがんばっでるもん!

 うわ~~~ん!」

 

燎子は疲れた目で、ジョッキを振り回す酔っ払いに視線をやり、ため息をこぼす。

 

「で、“コレ”の面倒で呼んだって言うのは建前で、真耶?

 ……合コンでもしない?」

「はい?」

 

真耶が自分の注文を終えると燎子が突然出してきた誘いに、目を点にして固まる。

 

「いや、ほら?私達もこのままだとこうなりそうだからさ、今の内にって

 思ってさ?

 私も後数年したら20代が終わる……し……」

「そ、そんな気にすることありませんよ!日下部先生にもすぐにいい人が、

 現れますって!」

 

体からどんよりとしたオーラを放つ燎子を真耶は、必死に励ます。

 

「……それと似たようなことを言っていた先輩が、親友に先越されたらしいのよね……。

 後数か月で20代が終わる先輩が……ね?」

 

燎子の言葉を聞いて、真耶はビシリと石像のように固まる。

 

「先輩と同じく親友さんも出会いに恵まれなくて、よく先輩に“嫁に貰ってくれ!”って

 言っていたらしいんだけど、先輩の知らぬ間に“いい人”と出会っていたみたいなのよ……。

 しかも、来月結婚するとか……」

「……」

 

とある司令官のように腕を組みながら吐露する燎子に真耶は頬が引きつるのを、

止められなかった。

 

「小学校からの同級生で、誕生日やクリスマスも毎年一緒に遊んで、

 バレンタインなんか互いにチョコを交換し合っていたらしいわ……。

 で、久々の近況報告で結婚を知ったみたいだけど、電話越しでも先輩が

 どんな顔してたのかが、簡単に目に浮かんだわ……。

 下手したらこれが、私達の未来の姿になるかもしれないっていうのもね……」

 

燎子の“重たい”言葉に、真耶の額から冷や汗が滝のように流れ落ちる。

自分達がそんな風に、呪詛の如く愚痴を吐かないという保証はどこにもなかった。

 

「何より……恋路とか一番縁が無いと思っていた織斑先生が、私達の中で

 真っ先にゴールしそうだし……」

「そ、それは……」

 

昼間にも関わらず、夜に変えられそうなほどドンヨリとした空気を放つ燎子に

真耶はかけられる言葉が出てこなかった。

 

「……こうなったらいっそのこと、私達も弟君にアタックしてみようかしら?

 大人の魅力で攻めれば、私達にも一発逆転の可能性が……」

「日下部先生っ!戻ってきてください!!!」

「うがぁぁぁ!!!いぢがは、わだじまぜんよ!!!」

 

目から光を消し、迷走する燎子を真耶は呼び戻そうとする。

まだまだ夢を見たい乙女達は、果たして人生における勝ち組になれるのかどうか……

それは神にもわからない――。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「この絵に描いたようなワンパク坊主な男の子が、二人の父親の太夏(たか)。

 面白いことが大好きな子でね~。

 ツチノコを探して夜になるまで山の中を駆けまわったり、凍った池の上を

 自転車でスケートしてみたり、数え上げたらキリがないわね~」

「ツチノコ?」

「自転車でスケート?」

「ははは……」

 

雅は出来の悪い弟や息子の愚痴をこぼすように楽し気に語ると、

明と簪は呆然とつぶやき一夏も渇いた声で笑う。

何度も聞かされたのか、一夏と同じように何とも言えない表情を浮かべる

箒と鈴を除いた他の面々は唖然とする。

 

「ふふふ♪

 でも、いつも騒ぎの中心にいるトラブルメーカーだったけど、困っている人を見たら

 ほっとけないお人よしの優しい子だったから、みんな大好きだったのよ?

 まあ、そうやって助けた女の子達を“男”の笑顔で次から次に落としていったのは

 問題だったけど」

「ん?なんだよ、みんな?そんな顔をして」

 

一夏の顔を見ながら雅が父親の困ったことを語ると、ラウラを除く全員が

雅に続くようにジト目で一夏を見る。

 

「別にぃ~~~?」

「一夏は、お父さんに似たんだなぁ~って……」

『うんうん』

 

困惑する一夏に鈴とシャルロットが皮肉気に返すと、全員(ゲキリュウケンを含む)が

頷いて一夏とラウラは首を傾げる。

 

「う~ん……全く似てないわけじゃないけど、一夏のそういうところは

 むしろ冬音(ふゆね)に似たのよね~」

「ん?冬音というのは、母上のことですか?

 母上は、お兄ちゃんより教官にそっくりですが……?」

 

そんなジト目の視線の中、雅はおもしろそうに一夏の母について語り出し、

あっているけどあっていないラウラの指摘に、笑みをこぼす。

確かに写真に写っている少女は、顔だちは千冬にそっくりであるが雅が言いたいのは

そういうことではないのだ。

 

「ふふ♪そうじゃないのよ、ラウラちゃん。

 冬音はクールというか一緒にいるとほわわわ~♪な気分になれて、

 太夏と同じかそれ以上に、みんなに好かれてね~。

 老若男女関係なく、大人気だったわ♪

 もちろん、男の子からの誘いもしょっちゅうだったけど……。

 “付き合ってください!”って言っても、素で“どこに?”とか、

 “好きです!”ってストレートに言っても、

 “うん、私もだよ。大事な友達だからね”って返事をしたのよね~」

「聞くたびに思いますけど、鈍感ってレベルじゃないですよね、それ?」

「うむ。これが噂に聞く、唐変木と言う奴か……」

『…………』

 

雅の呆れ口調と同じく呆れたという顔をする一夏と変に納得するラウラに、

明達は先ほど以上のジト目を一夏に送る。

その視線は“お前が言うな!”と雄弁に語っていた。

 

「まあ、冬音はlikeの好きは分かってもloveの方の好きは、分らなかったのよ~。

 太夏の方は、幼馴染の冬音に小さい頃からベタぼれだったから、他の子は

 目に入らなかったのよね~。

 ……一夏も千冬も二人の良いところだけでなく、そういうところまで似ちゃって……。

 まさか、見ててこけそうになる恋愛模様をまた見ることになるなんて

 思っても見なかったわ~。

 みんな、苦労してるでしょ?色々と」

 

ヤレヤレな感じで苦笑いを浮かべて、かつて太夏と冬音への想いをバキバキに

折られた者達と同じ苦労をしているであろう明達に雅が同情の眼差しを送るとみんな

深く深~~~~~く頷いた。

 

「あれ?それじゃあ、二人はどうやって結婚までいったの?」

「いい指摘だわ~簪ちゃん♪

 ふふふ♪私が一番驚いたのは、そこなのよ~。

 親子揃って、同じような告白をするなんてね~♪」

「ぶふっっっ!!!」

「同じような告白?」

 

カズキがイタズラを企んでいる笑顔と同じ笑顔を浮かべて、雅が一夏の秘密を

さりげなく暴露すると一夏が吹き出した。

そして、明がピクリと反応すると他の面々は獲物を狙う狩人の如く、目を

光らせる。

 

「へ~~~。それはお姉さん、すごく気になるなぁ~?」

「私もどうやってお二人が付き合うようになった話は、初めて聞きますね……」

「私もよ」

「是非ともお話し願いますわ」

「僕も気になります……特に一夏の方が……」

「これは、聞き逃せない……」

「私も!私も!」

「いや、あの、み、みなさん?」

「お、おいみんなちょっと落ち着けって。目が笑ってないぞ」

『(諦めて観念しろ、二人とも……)』

 

目が笑ってない笑顔で、一夏と明の退路を断っていく箒達に悪あがきの抵抗を

するも今度ばかりはどうしようもないと、ゲキリュウケンは腹をくくるように呟く。

何故なら、一人キラキラした笑顔のラウラの隣で、雅がクスクスと笑っているのだから。

 

「まあまあ、みんな落ち着いて。

 せっかくだから、その話は晩御飯の後にしてあげるわ。

 みんな、食べていくでしょ?

 その頃には、千冬もカズキくんと一緒に帰ってくるだろうから、

 そっちの方が色々と……ふふふ♪」

『はい!ご馳走になります!』

「ちょっ!」

「何を勝手に……!」

 

追い詰められる一夏と明に雅はダメ押しとばかりに、カズキも加えて話の続きを

しようと提案し、息ぴったりのシンクロで箒達は賛同する。

二人の反対に聞く耳を持つ者等、この場にはいなかった。

 

「さぁ~て、それじゃあ食材を買いにもう一回買い物に行かないとね~。

 ああ~そうだ。どうせなら、みんなの料理の腕がどれぐらいか見たいから、

 一人一品作ってもらおうかしら?

 みんな、構わない?」

 

瞬間、乙女達の纏う空気は戦士のそれとなった。

 

「微塵も問題ありません!」

「このセシリア・オルコットが、最高の一品をお見せしますわ!」

「昔のあたしとは、違いますよ!」

「一夏が好きなのは、何かな……」

「うむ、料理は初めてだが、みんなには負けんぞ!」

「私の隠してきた刃を見せる時が来たわね!」

「……負けないっ!」

「一夏は、本当に幸せ者ね~♪」

 

背後に炎を燃やす乙女達に雅は、楽しそうに笑い、一夏と明は

呆然とするしかなかった。

 

「タイムサービスまでは、まだ時間があるから買い物に出るのは、夕方前ね。

 私はちょっと出かけてくるから、みんなそれまでゆっくりしててね~」

 

火種を蒔くだけ蒔いて、雅は家を後にした。

残された一夏と明は、何とも言えない空気の中、まるで判決を言い渡される罪人

のような状況に置かれた。

 

「……き、気まずい……」

「み、みなさん……?」

 

にんまりと笑う一同に、一夏と明が話し合おうとした時、一夏の携帯が

着信を知らせる音を鳴らした――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「な、ん……だと……!?」

「…………」

 

ミッドチルダに存在する時空管理局の地上本部。

そのとある一室にて、十代の乙女が見たら黄色い声を上げるであろう端正な顔立ちの

青年クロノ・ハラオウンが苦悶の声をあげ、傍らで座る小太りの中年レジアス・ゲイズが

苦虫を噛み潰したような苦い表情を浮かべていた。

 

「……以上が、創生種が語ったことと僕達が独自に調べた時空管理局の設立と

 管理世界の成り立ちの真実だよ……」

 

彼らの正面で、ユーノは毅然とした表情で手にした資料の説明を終えるが、その手には

力が込められていた。

 

「……管理局には、表に出せない裏の面があるのは知っていた。

 それでも、この広大な次元世界を守るには管理局が必要だし、何年かかっても

 過ちを正すつもりだった……。

 僕だけじゃない……自分達の力は、力の無い人達のためにあるんだと思っている者は

 大勢いる!

 なのに……寄る辺になる管理局そのものが手遅れだなんて……」

「儂もかつて間違っているとわかっていながら、間違った道を進もうとした……。

 人々を守る力を得るために……。

 だが、それでは結局悲しむ者が出て、変えたいものを変えられないことに気付いた。

 そして、今度こそ本当の意味で守れるよう……正しいことを正しいと言える

 組織に時空管理局を変えよう!……そう思っていたのだが、まさか元から間違っていた

 とは……」

 

自分達が所属する組織が清廉潔白でないことは、わかっていたがまさか根底から

歪んでいたとは思っていなかった二人は、明らかになった事実に打ちのめされる。

 

「しかし……ここで逃げ出すのは耐えられんな……。

 自分の間違いに気づいた時から、それを恥じなかった日はない……!

 今こそ、局員としての本分を果たす時だ!」

「こんなはずじゃなかった世界……。

 今ほど、それを痛感したことはないな……。

 だから、そんな世界はここで断ち切る!」

「二人とも落ち込むどころか、逆に火がついたみたいだね。

 まあ、二人の協力を得られなくても僕達は戦うつもりだったけど」

 

事実を知ったら使い物にならないかもという、ユーノの懸念は完全に的を外れる

結果となった。

 

「レグド……創生種が時空管理局を創ったのは自分達だと明かしたってことは、

 管理局を仮に打倒したとしてもまだ先があるってことを、暗示している……。

 試されているのさ、僕達は。……光栄じゃないか」

「意外と余裕だな……ユーノ」

「そう見えるかい?

 でも、常識じゃ考えられないような化け物と戦うたびに自分がちっぽけな人間だって、

 思い知らされるよ……。

 そんなちっぽけな人間の意地を見せてやる!って、心が燃えてくるのもね……」

 

不敵な笑みを浮かべるユーノにクロノとレジアスも立場や階級関係なく、つられて

同じ笑みを浮かべる。

 

「さしあたって、まずやることは奴らが仕掛けを施しているであろう魔法に

 頼らない戦いをできるように……か?」

「そっちはこっちで目途が立っているよ、クロノ」

「人員の方も信頼に足る者達を集めておるから、何とかなるが

 一番の問題は時間だな……」

 

改めて戦う決意を固めたユーノ達は、今後の方針について話し合いある問題に

頭を悩ませる。

魔法に頼らない戦いができたとしても、実戦レベルに扱えるようになるには

時間が必要だった。

 

「ええ。今すぐと言うわけではないでしょうが、それでもこちらに残されている

 時間は多くはないでしょう……。

 でも、そこは何とかする方法があるそうです。

 文字通りの“裏”技を使って……。

 ああ、忘れるところでしたが、泳ぎの技術も必須です。

 綺麗な花畑にある川を泳いで、こっちに戻ってこれるようにね……」

 

どこか遠くを見て渇いた笑みを浮かべるユーノに、レジアスとよく空気を読めないと

言われるクロノも空気を読んで何も口にしなかった。

そうして、ユーノがこちらに戻ってくるまでそっとしておこうと二人が考えていると、

突然通信機に連絡が入る。

 

「何だ?」

「た、大変です!リベリオン・ナイトが、本局に攻め入rうわっ!?

 …………」

「おい!どうした!何があった!」

 

通信をしてきた者からの連絡は突如として切れ、レジアスが返答を求めるが

返ってくるのは雑音だけだった。

 

「リベリオン・ナイト……オルガードが本局に?

 一体、どうやって……いや……何が目的だ?」

「重要なのはそこじゃないよ、クロノ……。

 本局は基地とは比べ物にならない戦力が配置されているのは、あっちだって

 わかっているはずだ。

 なのに攻め込んできたってことは、相応の覚悟でなりふり構わずってことだよ……!」

「っ!」

 

ユーノの指摘にクロノは歯ぎしりする。

捨て身の覚悟をした復讐者など、性質が悪いなんてレベルで済むものではない。

 

「カズキさん達にも連絡を入れます!レジアス中将!」

「ああ。後の面倒ごとは、任せておけ!」

 

レジアスが力強く答えるのを見て、ユーノとクロノは飛び出していく。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ……はぁ……。こ、これだな……」

 

息も絶え絶えなオルガードは、その場にいた局員を全て三途の川の向こう側に送ると、

端末を操作してあるものを起動させようとする。

 

「時空管理局よ……自らの力で消え去るがいい――!」

 

オルガードが操作する端末の画面には、

“アルカンシェル起動シークエンス開始”の文字が浮かび上がっていた――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「オルガードが、管理局の本部を襲撃している!?」

「どうやってかはわからないが、時空の狭間にある本局に侵入して

 巡行艦一隻を乗っ取ったんだが、その艦にはある武装が積んであるんだ……」

「なんですかその武装って?ものすごく嫌な予感がするんですけど……」

「アルカンシェルだ」

「なっ!?」

 

カズキからの連絡を受けた一夏は、その内容に頭を抱え続いて知らされた情報に

目を見開く。

 

「何だそれは?」

「かなりヤバかったりする?」

「確か、管理局でも許可が下りなければ使用を許されない武装だったはずです。

 空間歪曲と反応消滅で、発動地点から百数十キロの範囲を殲滅するとか……」

「意味はよくわかりませんが……」

「とんでもない武装みたいだね」

 

一夏の反応と明の説明を聞いて、箒達は血の気が引くのを感じた。

 

「創生種が絡んでいるわけではないが、どうにもオルガードは俺達が止めなくちゃ

 いけない気がするんだ……」

「ええ、俺も同感です!」

 

拳をぶつけながら一夏は立ち上がり、他の面々もその目に闘志を宿らせる。

 

「じゃあ、私達も……」

「いや場所が密閉空間である以上大勢……ISで行っても上手く連携することは

 できないだろう。オルガードは弾を入れた俺達魔弾戦士が何とかする。

 明達には、俺達が離れている間の創生種の襲撃に備えてほしい。

 それに、管理局は魔法以外の力にうるさいし、顔がわれてない俺達の方が

 何かと動きやすい」

 

カズキの正論に明達は反論できず、悔しそうな声を上げる。

 

「お前達に動いてもらうのは、もう少し先になる。

 だから、今は俺達に任せてくれ」

「ところで、カズキさん。千冬姉は、どうしてますか?

 さっき、カズキさんの所に向かったみたいなんですが……」

「千冬ちゃんなら、横で渋い顔をしてるよ?

 今すぐぶった斬りたいけど、流石にそんな場合じゃないってのはわかってくれたみたい」

「あははは……」

 

姉のそんな顔を思い浮かべて一夏は、苦笑いしか浮かばなかった。

 

「それで、管理局に行く方法だけど……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くそ!まさか、アルカンシェルを搭載した艦が帰還したタイミングで

 襲撃してくるなんて!」

「偶然にしろ狙ってにしろ、急がないとマズい!」

 

警音が鳴り響く艦内をクロノとユーノはバリアジャケットをまとって、全力で駆けて、

艦橋を目指していた。

艦内の通路は入り組んでおり、飛行魔法を用いるより自らの足で駆けた方が早いのだ。

 

「もうすぐ、艦橋だ!」

「でも、多分……」

「くそ!早く開けるんだ!」

「お約束というか、当然だよね……」

 

艦橋にたどり着いたクロノとユーノは、扉の前で立ち往生している局員達と

合流する。わざわざ、自分が立ち籠る場所への扉を開けておく理由など無いのだ。

 

「ハラオウン提督!スクライア司書長!」

「挨拶はいい、状況を!」

「はっ!敵は艦橋に立てこもり、ドアの開閉機能を物理的に破壊したらしく、

 外からも中からも開けることができません!」

「リベリオン・ナイトは、アルカンシェルを起動させていますが、始動キーは

 こちらにあるので今のところは発射の心配はありません!」

 

報告を聞いたクロノとユーノは、渋い表情となる。

 

「立て籠もっただと?逃げ場所の無い、こんな所にわざわざ?」

「普通なら、要求があるものだけど……。

 それにアルカンシェルを撃つには、搭載艦の提督が持つキーが必要なのに

 知らなかった……?

 何を考えt、離れて!!!」

 

オルガードの行動の意図が読めず、これからの行動をどうするか考えた瞬間

凄まじい勢いの爆発によって扉が吹き飛ばされ、

傍にいた局員達もまとめて吹き飛ばされる。

 

「ふん……オーバーSを一人二人消せれば、御の字と思ったが……

 そう上手くはいかないか……」

 

爆発によって生じた煙の中から、オルガードが剣を携えながら歩み出る。

 

「立て籠もったのは、これが狙いか……」

「扉を開けようと集まったところを狙って、守りの要である扉ごと吹き飛ばす……。

 常識の枠から外れた見事な不意打ちだね……」

「その不意打ちから、ほぼ全員を守って見せた貴様もたいがいだがな……。

 こんな裏エースが、隠れていたとは……」

 

苦々しく舌打ちするオルガードの前には、うめき声を上げたり気絶したりしている

局員で埋め尽くされていたが、全員の前には小さなシールドが展開されていた。

このシールドにより、何とか致命傷を回避できたのだ。

それでも、戦闘可能な者は数えるぐらいしか残っていなかった。

 

「大人しく投降しろ!

 間もなく応援も駆け付ける!逃げ場はないぞ!」

「投降?ふっ……それより、自分達の方を心配した方がいいのでないか?」

「何?」

 

よろよろと立ち上がった者が投降を促すが、オルガードはどこ吹く風と涼し気に

逆に忠告を返す。

訝しく思うクロノがオルガードの背後に目をやると、危険を知らせる警告が

端末の画面に浮かび上がっていた。

 

「まさか君は、アルカンシェルのエネルギーを使ってこの艦を爆弾として

 使う気なのか!?」

「なっ!?そんなことをしたら、艦の動力部も誘爆してとんでもない破壊力になるぞ!」

「ああ、この本局を吹き飛ばすぐらいのな……」

 

驚愕するユーノとクロノが叫ぶオルガードの狙いに、そこにいた局員達は絶句する。

それが本当なら、アルカンシェルの始動キーがあってもなくても関係ない。

自分達が今いるこの艦そのものが、自分達を脅かす危険物となったのだ。

今すぐ逃げなければ、文字通り自分の体が塵も残らないほどの……。

 

「ハ、ハッタリだ……!そんなことをしたら、こいつだって!」

「いや、彼は本気だ……。彼の目に、自分の明日は映っていない……!」

 

オルガードが自分の身がどうなろうと本気で、この本局をつぶすつもりなのだと

見抜いたユーノは即座に身柄を拘束しようとバインドをかける。

 

「ふん!」

「甘い!」

 

ユーノのバインドは後方に飛ばれてやすやすとかわされるが、狙ったかのようにクロノの

バインドが襲い掛かる。

 

「ちぃっ!」

「今だ!ユーノ!」

 

クロノのバインドも横っ飛びでかわすオルガードだったが、

着地が悪く体勢を崩してしまう。その隙に、クロノは一気に距離をつめオルガードを押さえ、

ユーノを端末へと向かわせる。

 

「っ!なるほどな……。下手に攻撃魔法を使えば、ここの端末まで破壊してしまい、

 アルカンシェルの起動を止められなくなる……。

 だから、止めるための者を行かせるために足止めに徹するか……!」

「そうさ……。確かに、お前を倒すのは難しいが、あいつが操作するのに必要な

 数分の足止めぐらいなら、僕でも何とかなる……。

 あのフェレットもどきは、攻撃はからきしだが、防御やこういったサポートなら

 右に出る者はいないからな……」

「お前は素直に人を褒められないのか、腹黒!」

 

自身のデバイスであるデュランダルでオルガードの剣と鍔迫り合いながら、軽口を放つ

クロノにユーノは文句を言うが、それに構う余裕は本人にはなかった。

 

「確かに、彼の能力の高さは認めよう……。他人の力を引き出し、

 十二分に力を発揮できるようにできる者は、一流の戦士より厄介な存在だ。

 しかし……悲しいかな……。私の足止めは、貴様には荷が重いようだ!」

「ぐわぁぁぁっ!!!」

 

オルガードの剣から稲妻が走り、クロノは密接していたため避けることができず、

直撃を受け床に沈んでしまう。

 

「クロノ!」

「ふん!」

 

倒れ伏すクロノに目もくれず、オルガードは端末を操作するユーノへためらうことなく

剣を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

だが、ユーノは振り下ろされた剣をシールドで受け止める。

 

「これは……」

「腹黒が言ってただろ?僕は、攻撃魔法はダメダメだけど、防御には

 ちょっと自信があるのさ」

「そのようだな……。エースオブエース以上の硬さだが……いいのか?

 時間をかける余裕が無いのはお前達の方だぞ?」

「それは、どうかな?」

 

自分の攻撃を受け止めたシールドの硬さに驚くオルガードだったが、

そこに焦りはなかった。

確かにユーノの防御力は、相当のものだが時間をかければかけるほど

アルカンシェルの起動解除の時間を削られるユーノ達が不利になるからだ。

しかし、ユーノも負けじと不敵な笑みを浮かべる。

 

「何を狙って……っ!?」

 

オルガードはユーノに詰め寄るが、その言葉は途中で遮られた。

背後から扉を破壊した以上の爆発で、ユーノごと吹き飛ばされたのだ。

 

「ぐっ……何が……!」

 

オルガードが振り向くと、そこには艦橋をつぶさんばかりの大きな何かが刺さっていた。

まるで、“ミサイル”のような……。

あまりの光景にその場にいた者達は、言葉を失う。

唯一、それの正体を察して苦笑いを浮かべるユーノを除いて。

 

「やれやれ……まさか、こんなモノでやってくるなんて……」

「……っと!この姿では、はじめましてだね、オルガード。

 宇宙ファイターXあらため、リュウジンオー……よろしく」

 

突っ込んできたミサイルの様なものの中からリュウジンオーが飛び出し、オルガードに

気さくに挨拶する。

 

「ぜぇ………ぜぇ……あだっ!

 こ、今度ばかりはマジで……死ぬかと思った……」

「お、俺……きれいな川の向こうで手振っている……じいちゃんそっくりなじいさんと

 会った……ガクッ」

『大丈夫か、おい』

『既に戦闘不能状態に近い』

 

リュウジンオーに続いてゴッドリュウケンドーとマグナリュウガンオーが、姿を見せるが

既に息も絶え絶えであった。

 

「……一応聞くが、お前達……何しに来たんだ?」

 

オルガードの呆れ交じりの言葉は、その場にいた者全員の代弁であった。

 

 

 





序盤はデート・ア・ライブでの結婚関連話を持ってきました。
燎子の言う先輩は、その話をする時目から光を消していたとかなんとか(汗)

一夏と千冬の両親は、
父親の太夏はエルドランシリーズのメインパイロット組なイメージです。
子供っぽさもにじませた男の笑顔で、何人もの女の子のハートを打ち抜きましたwww
でも、本人は幼馴染の冬音一筋(爆)
冬音のイメージは「ひなこのーと」の萩野 千秋(はぎの ちあき)です。
ある時、見ていたらガチリとイメージが沸きましたwww
話にあるように、一夏と同じようにフラグをバキバキに折っていきました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偶然が交じり合って、運命となる

お待たせしました(汗)
残業に次ぐ残業と転勤による新しい生活のスタートで、
なかなか執筆できませんでした。

おそらく、次もこれぐらいになるかも・・・。

本当に色々と時間がない。執筆とかガンプラとかゲームとか・・・。

ポケモンだけでなく、メダロットまで新作出るのに!




「それで、カズキさん?」

「行くのはいいですけど、どうやって行くんですか?

 確か、本局ってそう簡単には行けないんですよね?」

 

カズキから連絡を受けた一夏と弾は、自分達の拠点へ急いでやってくると変身して

いつでも出撃できるようにする。

しかし、弾の言うように目的地である時空管理局の本局へ行くのは容易いことでない。

 

「そうさ。仮にも防衛組織の本拠地だからね、警備も半端じゃない。

 だけど、穴はある。敷かれている警備は、魔法を使って攻め入られることを

 前提として考えられているから、魔法以外の警戒レベルはかなり低い。

 例えば、こういうものを使われるなんて夢にも思わないだろうね~♪」

「これは……」

「で、でけぇ……」

 

格納庫へと向かうカズキに続いていくGリュウケンドーとMリュウガンオーは、

そこにあった巨大な“モノ”に言葉を失う。

 

「ふぅ~。何とか、形にできたね……」

「全く、毎度のことながら無茶を言うよね~君も。

 やっと実験段階ができるまでに形になったものを、いきなり使いたいだなんて~。

 調整が大変だったんだよ~」

「でも、できたんだろ?ジェイル、ロイド?」

 

唖然とする二人を置いて、急ピッチでそれの調整をしていた

紫のロングヘヤーのジェイル・スカリエッティと

丸眼鏡をかけおどけた態度のロイド・アスプルンドが姿を見せる。

 

「出力系を強化したから、これで本局の警備網に探知されてもその時には

 もう到着できるぐらいの速度が出せれるよ」

「いや~なかなか面白い作業だったよ~♪」

「あの~……お二人とも……」

「速度が出るとか到着とかって言ってますけど……これ、戦闘機とかじゃなくて……」

『どこからどう見ても、ミサイルだろこれは』

『ロケットでないのは、確かである』

 

肩を回したり首をゴキゴキ鳴らして苦労をアピールするロイドとジェイルに、

魔弾戦士と魔弾龍達は目の前にあるそれにツッコミを入れる。

格納庫にあるのは、誰がどう見ても“ミサイル”という間違っても、誰かを乗せて

移動を行う代物ではない。

 

「これは、前に一夏達を異空間に飛ばしたESミサイルさ。

 空間転移できるこれなら、本局の警備網もすっ飛ばしていくことができる」

「できるって言ったって……ミサイルです……よね?」

「まさか……これに乗って行くんです……か?」

「当たり前だろ?」

『何故、何を言っているんだ?な顔をするんだ……』

『しかし、通常のモノより速いのは事実である』

 

自慢のおもちゃを見せびらかすように胸を張るカズキに、引きつった声で

間違いであってほしい予想を口にするMリュウガンオーだったが、あっさりと

その願いは打ち砕かれる。

 

「当たり前だろって……百歩譲ってこれで行くにしても、試験とかは……

 したんですよね?」

「大丈夫~大丈夫~」

「爆薬は乗せてないし、乗り込む部分は一番頑丈にしているさ♪」

「つまり……何かあっても生き残れそうな俺達で稼働試験をする……と?」

「「…………アハッ♪」」

 

仮面の下で冷や汗を流しながら、開発者二人に安全はどうなっているかを

尋ねるGリュウケンドーとMリュウガンオーは、返ってきた笑顔を

見るや否や回れ右をして格納庫から逃亡しようとする。

 

「おいおい、どこに行くんだい?二人とも?」

「あの二人が作ったものってだけでも不安なのに、あの笑顔は絶対碌なことにならないって!

 てか、あんたも何気に変身しているじゃないか!」

「離してくれぇっ!誰か、助けてぇっ!」

『……つまり、カズキも変身しないと危険だと感じているのか……』

『爆発しなくても、途中で撃墜される可能性もある』

『撃墜される前に、ちゃんと着けれるのかね~。

 下手したら異空間で迷子になるかもな♪』

 

魔弾龍達の不吉な言葉に、GリュウケンドーとMリュウガンオーは、

血の気が引いていく。

 

「その辺りは心配ないよ、諸君!」

「例え迷子になってもちゃ~んと見つけられるように、発信機もつけてるし、食料も

 あるから~♪

 他にも色々な機能を付けたんだけどねぇ~」

「そのおかげで、最後の安全確認の時間が削ってしまったが、まあ大丈夫だろ♪」

「「大丈夫じゃねぇぇぇ!!!!!

 何一番大事なことを削ってんだぁぁぁっっっ!!!」」

「それじゃ、とにもかくにも出~発~」

「「嫌だぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」」

 

抵抗むなしく、リュウジンオーによって無理やりESミサイルに詰め込まれた

二人の悲鳴をかき消しながら、ESミサイルは発射された。

 

「そう言えば、ジェイルく~ん?

 調整している時、なんか大量のネジが余ったんだけど、何か知っている?」

「う~ん……?これは、姿勢制御のネジに似ているような……」

 

幸か不幸か、二人のマッドな科学者のそんなつぶやきは魔弾戦士達の耳に届くことは

なかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何しに来たかって?君を止めに来た以外、何があると思うんだい?」

「ああ……。それは、見ればわかるが、後ろの二人は……」

 

オルガードは視線を、崩れ落ちているGリュウケンドーとMリュウガンオーに

向かわせながら何とも言えない声を出す。

 

「ははは。ここに来るのに、無茶苦茶な方法を使ったからね~。

 なかなか刺激的だったよ♪」

「どうして、あなたはそんなに平気なんですか……?」

「絶叫マシンなんてものじゃなかったっすよ……」

 

よろよろと立ち上がるGリュウケンドーとMリュウガンオーは、

疑問の声を上げる。

そもそもESミサイルは、ミサイルである以上人が乗ることなど想定しているわけがなく、

乗り心地がどうだったかそういったレベルの乗り心地などではなかったのだ。

普通の人間なら数秒で気絶するGに、縦横無尽の回転やスピード。

下手に変身して耐性があっただけに、絶叫マシンなどでは味わえないスリルを

同様に体験したはずなのに、どうしてここまで差が出るのか……。

 

「それは、あれだよ?鍛え方の違い?」

「うっわ~……正論だぁ~」

『不思議と納得してしまうな』

「反論できねぇ……」

『単純明快な回答』

「後は、そうだね~……風を使って自分の体を浮かして

 ESミサイルの動きの影響を受けない様にしていた……とか?」

「「そんなことできるなら、俺達にもしてくれぇっ!!!」」

 

リュウジンオーの答えに再び崩れ落ちそうになる二人だったが、平気だった

本当の理由がわかって、一気に復活する。

 

「ちょっと!あんたら、ここに漫才しに来たのか!?

 そうじゃないなら、そろそろ助けて!切実に!!!」

 

ユーノの必死な声に魔弾戦士の三人が目を向けると、今にもオルガードの剣で

両断されてしまいそうな、ユーノの姿があった。

これ以上は付き合いきれなくなったのか、オルガードは魔弾戦士達を無視して

当初の目的を果たそうとする。

 

「止めろオルガード!」

「ふんっ!」

 

一瞬で戦闘へ気持ちを切り替えたGリュウケンドーが、オルガードに斬りかかるが

その剣はたやすくかわされてしまう。

 

「残念。かわされるのはわかっているよ」

「なっ!?」

 

Gリュウケンドーの攻撃をかわしたオルガードに待っていたのは、リュウジンオーに

よる力任せのタックルだった。

そのままリュウジンオーはオルガードを、突き破ったESミサイルにたたきつける。

 

「おらぁっ!」

「こ、のっ!離せっ!」

 

オルガードは、リュウジンオーを突き離そうと剣を振り下ろそうとするが

剣を持つ腕を今度はGリュウケンドーが押さえつける。

 

「悪いけど、ここから退場してもらうぜ?

 ワープキー!発動!」

 

押さえつけられオルガードの動きが止まった瞬間を狙って、Mリュウガンオーが

魔弾キーを発動させ、艦橋は目もくらむ眩い光に包まれる。

 

「き、消え……た……!?」

 

光が消えるとそこに魔弾戦士達とオルガードの姿は、どこにもなかった――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……っと!」

「おわっ!」

『ひとまず上手くいったな』

『作戦は、ほぼ成功』

 

リュウジンオーとMリュウガンオーは、一面岩だらけの場所へと現れた。

その際、Mリュウガンオーはバランスを崩して着地に失敗する。

 

「オルガードにとってあそこは敵地だから、周りを気にせず戦えるけど

 俺達はそうはいかないからね~。

 彼を止めようと思ったら、俺達も本気を出さないと……」

『だから、ワープキーを使って近くの世界に来たんだよなぁ~』

『通常ならワープキー単体でここまでの移動は不可能だが、

 ESミサイルも使うことで大規模な転移を可能とした』

「だけど、実験段階の合わせ技だったから、精度はまだまだだね。

 予定のポイントと全然違うし、何より……」

「あれ?Gリュウケンドーは?」

 

ザンリュウジンを肩に担ぎながら、ため息をこぼすリュウジンオーに、

Mリュウガンオーはようやく現状を理解する。

 

 

 

「どわぁっ!」

「ぐっ……!」

 

Gリュウケンドーとオルガードは、リュウジンオー達が現れた場所に

よく似た場所へ弾き飛ばされ、転がり出た。

 

「いてて……。ここは……」

『作戦通り近くの世界に来たようだが、別々の場所に飛ばされたようだな』

「……くっ!やってくれたな……!」

 

周囲を見渡すGリュウケンドーに、オルガードは忌々しく苛立ちをぶつける。

 

「これ以上、邪魔をするというのなら容赦はしない!

 障害として、お前達を排除する!」

「本当にこうするしかないのか?

 創生種も絡んでいる以上、確かに

 時空管理局は倒さなきゃいけないのかもしれない……。

 だけど、あんたのやり方は間違っている!」

「今の私は、ただの復讐者……。目的のためなら手段は選ばん!

 奴らを滅ぼさない限り、この胸に燃える怨嗟の炎が消えることはない!!!」

『Gリュウケンドー……決意を固めた者を言葉で止めることはできない』

 

ぶつけ合う想いはどこまでも交わらない平行線であることを互いに、

悟ったのか、Gリュウケンドーとオルガードは剣を向け合う。

 

「「…………はぁぁぁっ!!!」」

 

譲れない想いを剣に込め、二人の戦士がぶつかる。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「こういう偶然を運命と言うんですかね?

 どちらかを優先するべきか、はたまた両方を取るか……」

「どっちも捨てるにはもったいないチャンスだよね~、レグド様~?」

「人間達の言葉に“二兎を追う者は一兎をも得ず”というのがありますが……。

 どの選択にもリスクがあるなら、賭けに出るのも一興でしょう。

 頼まれごとをしてもいいですか?

 デグス・エメル?」

「クリエス・レグドの仰せのままに――」

 

人知れず魔弾戦士と復讐の騎士を見据える創生種は、静かに動き出す……。

小さな波紋がやがて大きな波紋を呼ぶように、無関係な行動の一つ一つが積み重なり

世界の命運をも左右する結果となっていく。

オルガードの復讐、阻もうとする魔弾戦士達、裏で暗躍する創生種。

様々な思惑が交差するこの戦いで、

それぞれの道が大きく変わることをまだ誰も知らない――。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「だぁぁぁっ!一体、何なんだこいつらは!?」

『襲い掛かってきている以上、友好的な存在でないのは確か』

「魔物じゃないみたいだけど、

 どう見ても普通の生き物じゃないから、縄張りに入ったとかそんなんでもないね!」

『てか、進化の過程はどこに置いてきたんだよ、こいつら!』

 

Mリュウガンオーとリュウジンオーは、謎の生物達による襲撃を受けていた。

はぐれてしまったGリュウケンドーを探しに行こうとした矢先に、突如として

襲い掛かってきたのだ。

この程度の不意打ちで、倒される二人ではなかったが襲撃者達の姿には驚きを

隠せなかった。

 

――筋肉隆々で頭部が無い人の形をしたもの

――4本腕のはさみを持つ牛の頭をしたもの

――ドロドロとした体を引きずり、耐え難い腐臭を放つスライムのような生物

 

どこからどう見ても、“普通”の生き物や魔物でないもの達が群れをなして

押し寄せてきているのだ。

 

「これは多分生物兵器の類だね……それも人間が“作った”……」

「はぁっ!?生物兵器!!!?」

「ああ、間違いない。魔物なら魔物らしい魔の理ってものがあるし、

 生き物なら自然の理ってものがある。

 だけど、こいつらはその理ってものを捻じ曲げられている……。

 ここまでセンスの欠片もない捻じ曲げ方をする生き物は、この世には“人間”

 しかいない……さ!」

 

襲撃してくる獣達の正体を見抜いたリュウジンオーは、忌々し気に言葉を吐き捨てながら、

ザンリュウジンや風術を用いて“作られた”敵を薙ぎ払っていく。

 

「そんなの一体誰が!何のため……に!」

「世界が変わっても、人間って奴はロクでもないってことさ!

 兵器っていうのは、高く売れるし……何より量産もできる……。

 で?何か気付かないか?」

『あっ!時空管理局!

 創生種の奴らが仕向けて、万年人手不足で悩んでいるから、まさか……!』

「戦力不足を解消するために、こんな化け物を作ったって言うのか!?」

『あるいは、こんなものを作るというのも創生種が描いたシナリオの可能性もある……』

 

リュウジンオーの問いかけに、Mリュウガンオーと魔弾龍達は襲い掛かる

獣達を“作った”者達の正体と目的に驚きの声を上げる。

 

「まあ、今はこいつらをどうするかが先決だ。

 おとなしく尻尾巻いて逃げてもいいけど、ちょっと向こうに集落が

 あるみたいなんだよね~」

『ってことは、ここで食い止めないとそこが襲われるわけね』

「そうなると思ったよ!」

『確かになかなかの強さだが、我々の敵ではない』

 

取るべき行動が決まるや否や、様子見の戦いから一転してリュウジンオーと

Mリュウガンオーは、反撃に転じる。

 

「烈風――!」

「ダブルショット!」

 

迫りくる敵の群れをリュウジンオーが高速移動で薙ぎ払うと同時に撹乱し、

Mリュウガンオーが正確無比な射撃で撃ち抜いていく。

 

「(さぁ~て……。こいつらを“作った”奴らの相手もしなくちゃ

 いけなくなったから、一夏の奴と合流するのは時間がかかるけど……大丈夫か?

 今までのオルガードとは、何か違う感じがしたけど……)」

 

ザンリュウジンを振るいながら、カズキは一夏を気にかけていた。

そして、その懸念は的中していた――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふんっ!」

「……っ!」

 

Gリュウケンドーとオルガードの戦いは、前回とは変わって

一方的な展開となっていた。

オルガードの剣に押し負け、Gリュウケンドーは吹き飛ばされ、

倒れ伏す。その鎧には、いくつもの斬撃が刻まれていた。

 

『くっ!気付いているか、Gリュウケンドー?

 オルガードの剣には、前と違って迷いが無い……つまり……』

「これが、あいつの本来の力ってことか……。

 でも、何でこんな……?」

 

こちらは前と同じく、何故か戦いたくないと本来の力を出し切れないのに

オルガードの剣はこれが本当の力と言わんばかりに鋭く、重い……。

 

「まあ……こっちが全力を出せなかろうが……相手がどれだけ強かろうが……

 やることは変わらない!」

『ふっ……そうだな!』

「まだ、立ち上がるか……。いいだろう……引導をくれてやる!

(何だ?胸がざわつく……?)」

 

力の差は歴然としていても、Gリュウケンドーは闘志を一層燃やして

立ち上がり、その姿を見てオルガードの心に何かがよぎる。

 

「うおおお!!!」

「はぁぁぁっ!!!」

 

互いの剣がぶつかり合い、凄まじい衝撃が辺りへと広がり鍔迫り合いとなる。

Gリュウケンドーはオルガードに押し負けない様、ありったけの力を込めてこの拮抗を維持する。

 

「貴様も分かっているはずだ……!

 管理局の傲慢がこれ以上、世界に広がる前に奴らは消さなければならないと!

 いずれは、お前の世界も襲われるかもしれないんだぞ!」

「わかっているさ、そんなこと!

 確かに管理局は、どうにかしなくちゃいけないさ!

 でも、手当たり次第に犠牲を生み出していく、あんたのやり方は絶対に間違っている!」

「正論だな……。だが、復讐に正論も綺麗ごともない!

 奴らが存在している限り、この胸の内に燃える復讐の炎が消えることはない!」

「人間、綺麗ごとを言えなくなったら終わりだろうが!

 このまま行ったらあんたは、成り下がるどころか……本当にあんたが憎む管理局と

 同じじゃないか!弟に胸を張れるのかよ!」

「っ!!!」

“にいさーん!”

 

自分の前に立ちはだかるのなら、誰であろうとも容赦等しないオルガード

だったが、Gリュウケンドーの悲痛な叫びに一瞬の動揺が走る。

 

「……例え、弟が誇れる兄でなくなろうともこの復讐は!

 がっ……!」

「ようやく……隙を見せてくれましたね」

「なっ!?」

 

胸に走る動揺をGリュウケンドーごと断ち切ろうとしたオルガードの

背後に、突如として何者かが現れその腕をオルガードの背へと突き刺し、

何かを抜き取る。

その者は、宝石のように緑色に輝く体に銀の装飾が骨のように走り、危うい美しさを

感じさせ顔は、ゴーグルで覆われていた。

 

「ふふふ。素晴らしいマイナスエネルギーですね……」

「お前!何者だ!一体、何をした!」

『気をつけろ!こいつ……かなりできるぞ!』

 

オルガードから距離をとった乱入者の腕には、紫色に輝く球状の結晶が握られていた。

Gリュウケンドーは、崩れ落ちるオルガードをかばうように彼の前に立ち

相手の出方を見る。戦闘中だったとはいえ、自分達に気配を悟られることなく僅かな

隙を突いてきた乱入者に警戒を強める。

 

「私は、デグス・エメル。

 クリエス・レグドの命により、不確定要素であるその者を消すために参上しました。

 先ほどの一撃で仕留めるつもりだったのですが……まあ、

 変わりにその者の上質なマイナスエネルギーを手に入れられたので、

 よしとしましょう。放っておいても直に、その命は尽きるでしょうしね」

「どういうことだ!」

 

上機嫌に結晶を眺めるデグス・エメルに、Gリュウケンドーは焦り交じりの声で

問いかける。今回のような収集方法は見たことないが、理解はできる。

だが、直接的に死の恐怖を与えようとしたのならともかく

マイナスエネルギーの抜き取りが命の危機に直結することなど、

今まで見たことがないのだ。

 

「別に、特別な事などしていません。

 マイナスエネルギーをこうして直接奪う方法も、相手によって質は異なりますし、

 奪った相手はしばらく人形のように無反応となる……、

 何より一人一人からでは効率が悪すぎる……。

 だから、滅多に使うことはないのです。

 その者のように、内に世界を滅ぼさんばかりの怒りと絶望を持った者に

 狙いを定めない限り……」

「…………」

「そもそもマイナスエネルギーといった負の感情は、どんな生物も多かれ少なかれ

 持っているのです。表や裏しかないコインがないようにね。

 あなた達、魔弾戦士達にもマイナスエネルギーは宿っていますし、逆に

 私達のように魔の存在にもプラスエネルギーはある。

 光と闇、正と負、希望と絶望……互いに存在し合うからバランスというものが

 取れているのに、どちらかが消えれば変調をきたすのは、自然なことです。

 ですが、その者の命は元々かなりすり減っていたようなので、

 そこで無理やりマイナスエネルギーを奪えば……ふふふ」

「まさか、オルガード……あんたが本局に攻めたのって!?」

「そうだ……。辛うじて今まで生きながらえてきたが、

 星の大樹の恩恵がないこの体の限界は……近い……。

 その前に何としても、管理局を滅ぼさねばならないんだ!」

 

デグス・エメルが語る言葉に、オルガードの身に起きていることを察した

Gリュウケンドーは、息をのむ。

 

「我が身に変えても目的を達しようとするのは結構ですが、

 あなたは魔弾戦士達とは、また違ったイレギュラー……。

 ここで、消えてもらいます!」

「させるかぁっ!!!」

 

右手の鉄球のような砲門をオルガードへと向ける、デグス・エメルだったが、

その前にGリュウケンドーが地面にゴッドゲキリュウケンを振り下ろし、

土煙を巻き起こす。

 

「くっ……!やってくれますね……」

 

巻き起こる土煙を薙ぎ払うと、そこにGリュウケンドーとオルガードの

姿はなかった。

 

「つい先ほどまで戦っていた相手すら助ける……全く人間というのは、

 理解に苦しむ行動をする……。

 まあ、それ程遠くには行っていないでしょうし、

 じっくり確実に追い詰めていくとしましょう。

 その前に、このマイナスエネルギーはクリエス・レグドの元へ送りましょう」

 

デグス・エメルがマイナスエネルギーの結晶をレグドに転送すると、

ふと顔を別の方へと向ける。

 

「さて……あちらも面白いことになってきましたね――。

 しかし……オルガードから感じたあのプラスエネルギーは一体――――」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くそっ!どんだけいるんだ!次から次に!」

「全く……手こずるほどってもないのに、数だけはいるっていうの……は!」

 

Mリュウガンオーとリュウジンオーは、謎の生物兵器の迎撃を行っていたが、

後から後からと湧いてくる数に手こずっていた。

更に背後にある集落に向かわせないために、一体たりとも自分達を超えさせるわけには

いかないというプレッシャーが彼らの体力と集中力を奪っていた。

 

『このままじゃ、埒が明かないぜ!』

「確かに、これ以上時間をかけるのはね……。

 まあ、そこそこ数も減ってきたし一気に片づけるぞ、Mリュウガンオー!」

「了解!」

「「ファイナルキー!発動!」」

 

リュウジンオーとMリュウガンオーは、距離を取るとザンリュウジンとゴウリュウガンを

構える。

 

『『ファイナルブレイク!』』

「ザンリュウジン――乱舞!」

「マグナドラゴンキャノン――発射!」

 

放たれた必殺の一撃は、生物兵器達を一掃する。

 

「よし!」

「まだ、終わっていないよMリュウガンオー。

 あの出現具合からして、どこかに生産工場があるはずだ。

 俺はそこを叩いてくるから、お前は他に奴らがいないかの確認と集落の方の

 防衛を頼む」

「はい!……って、もういねぇ!だけど、カズキさん何か隠していなかったか?」

『可能性はある。確かに防衛には、射撃ができる我らが向いているが……』

 

リュウジンオーことカズキの様子に疑問を抱きながらも、Mリュウガンオーは

倒し損ねた敵がいないかを確認しつつ、集落へと向かった。

 

『で?わざわざ、一人で向かう理由は何だよ?』

「簡単なことさ。俺達を襲ってきた奴らは、色んな生物が合成されたり、

 改造されていたりした……。まるで、命を作品のようにな……。

 恐らく……いや……ほぼ間違いなくこの先には、見るモノじゃない

 “裏の所業”っていうのがある――!

 本当に人間がやったのかと疑いたくなるような……」

 

リュウジンオーは、直感から自分が向かう先のものを一夏と弾には見せるべき

ではないと感じ取っていた。

嫌な予感程当たってしまうことを考えながら、風で見つけた暗闇の先へと

リュウジンオーは進む――。

 

 

 

「ええい!何なのだ、奴らは!?

 私の合成魔獣達(キメラ)を、ああも容易く!!!

 大体、何故リンカーコアもないのに魔法を使えるのだ!?」

 

とある部屋に設置されたモニターで、Mリュウガンオーとリュウジンオーの

戦いを見ていたある者は金切り声でわめいていた。

 

「ふざけるなよっ……魔法を戦いにしか使えぬ愚か者風情が!!!!!

 愚か者の分際で、この私の邪魔をしたことを後悔させてくれるわ!!!」

 

歳を刻んだ証であるしわのある顔を醜悪に歪ませる者は、未だ気付かない。

自分が戦おうとしている者が、如何なる存在なのか。

今日この日まで自分が、ある者達の手のひらで踊らされていることを……。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁはぁ……」

「おい……放せ……私を置いていけ……」

 

Gリュウケンドーは、フラフラのオルガードに肩を貸しながら

ひたすら歩いていた。

 

「今にも死にそうな奴を置いていけるかよ……」

『諦めろ。こいつのお人よしは筋金入りだ』

「褒めても何も出ないぜ?」

『褒めてなどいない。どうしようもないバカだと言っている』

「ははは……って!バカってなんだ!バカって!」

『事実を言っているだけだ』

 

油断できない状況にも関わらず、いつもの口喧嘩を始める二人に

オルガードは何とも言えなくなる。

 

「……ふん。これで私に、恩でも売るつもりか?

 それとも、私が心を入れ替えるとでも思っているのか?」

「どうして、素直に感謝とか言えないのかな?

 まあ、どうしても理由が必要だっていうんなら、この間助けてくれた借りを

 返すためでいいか?」

「甘いな。

 そんな理由で、敵を助けるなど……いつかその甘さが、お前を滅ぼすぞ……!」

「甘くて結構……!それで、誰かを助けられるならいくらでも甘くなるさ」

「誰かを助けられるなら……か……。

 私が、お前の父である織斑太夏を利用しているとしてもか?」

「……今……何て言った?」

 

差し伸べられた助けを受け取ろうとしないオルガードに、若干呆れながらも

Gリュウケンドーは自分の信念を貫こうとする。

だが、オルガードが告げた言葉を聞いて、Gリュウケンドーは言葉を失った。

 

 

 

夏の日差しが差し込む織斑家のリビングで、机の上に広げられたアルバム――。

その中の一枚の写真には赤ん坊の一夏と、抱き抱える織斑太夏が輝くような満面の

笑みを浮かべていた…………。

 

 





一夏達に協力する科学者コンビは、確かに天才ですがそれだけぶっ飛んだ
発明品も多く、周りは散々な目にあってます。
そこにいずれ、天災ウサギも混ざるので・・・(汗)

リュウジンオー達を襲った怪物は、「トリコ」の灰汁獣のように醜悪な
怪物です。当然、作った者がいます。

最後に、オルガードのモデルはギンガマンの黒騎士というのはバレバレで
この展開も予想されていたでしょうが、ラストはマジレンジャー風にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間の表と裏

2017年最後の更新ですが、
前回と同じくらい遅くなりすいません(汗)
なかなか執筆時間の確保が難しく。

一夏メインの話にするはずが、カズキが中心になってしまった(苦笑)

明日から冬コミのために、東京に行ってきます。



物心がつく頃には、一夏の傍に両親はいなかった。

だからと言って、思うところが無いわけではないが一夏が父と母を恨んだり憎んだり

することはなかった。

そういう感情を持つには、一夏の中にある親との思い出はおぼろげであり、

また姉の千冬共々、吉永雅が親代わりとして愛情を注いでくれたため、

そんなことを考えることもなかった。

だが、一番大きな要因は時々見る夢であった。

夢の中で一夏は赤ん坊であり、大人だけどどこか子供っぽさを感じさせる男に

抱っこされているのだ。

男は、これ以上嬉しいことはないとばかりに笑みを浮かべており、夢の中の一夏も

その笑顔を見ていると嬉しくなって笑うと、男は子供がちょっとしたことに

感動するように心からの笑みを返すのだ。

そして、夢はいつも小さな女の子が男から自分を抱っこするのを奪い、ショックで

崩れ落ちる男をきれいな女の人が慰めるところで終わる。

目が覚めた時、一夏は夢のことをほとんど覚えていないが夢の光景と自分を抱き上げる

男の温かさだけは、心に残っていた。

 

――これが、幼き日の自分達家族の日常だと気付いたのはつい最近のことである…………。

 

 

 

「お前の父、織斑太夏を利用していると言ったんだ。

 リュウケンドー、いや……織斑一夏」

「どういう……ことだ!」

 

肩を貸すGリュウケンドーを突き放し、近くの岩場に腰かけたオルガードに

Gリュウケンドーは動揺を隠せなかった。

 

「時空管理局に故郷を滅ぼされ、戦いの傷と星の大樹の恩恵も失ったことで

 ただ死を待つだけだった当時の私は、とにかく生きることに全てを注いだ……。

 一秒一秒が、十年にも百年にも感じられる時を私は管理局への復讐という執念だけで

 生き延びた……」

「……」

「どれ程の時が流れたか分からないが、私の前に突如としてある男が現れた……

 それが貴様の父、織斑太夏だ……。

 私は最後の力を振り絞り、織斑太夏の体を乗っ取った。

 この男から感じた力を使えば、復活できるかもしれないと直感したからだ。

 結論から言えばその直感は的中し、私は蘇ることができた……。

 織斑太夏が持つ……貴様たちと同じ魔弾龍の力も得て以前以上の強さを持ってな……」

「そ、そんな……こと……が……!」

『落ち着け!一夏!』

 

オルガードが語る事実に、一夏は言葉を失い、体を震わせながら後ずさる。

 

「事実だ……。でなければ、何故私が貴様の父の名やお前の名を知っている?

 体を乗っ取ったことで、織斑太夏の記憶も見ることができるからな……」

『……ということは、一夏がお前に対して全力で戦えなかったのは!』

「ああ。おそらく、本能が戦っている相手が父だと察して拒絶したのだろう。

 そう考えれば、私もお前に対して本気で戦えなかったのも、

 故郷の世界を感じて、地球で上手く戦えなかったのも全て説明がつく……。

 私の中の織斑太夏の意識が、自分の子や自分の世界を守るために

 私の力を抑えたのだろう」

「父さんが……魔弾戦士だって言うのは、知っていた……。

 母さんを助けるために戦って……その中で行方知れずになったのも……。

 それが……こんなとこ、ろで……!」

 

予想だにしない衝撃から、徐々に思考が追いついてきた一夏は、今目の前に

自分の父がいるのだと思い至る。

 

「だが、今の状態を生きていると言えるかな……」

『“今”の状態とはどういうことだ?』

「父さんに……何かしたのか!」

「故郷に戻り、我が子と遭遇したからか、眠っていた奴の意識は覚醒しはじめ、

 私に干渉し始めた。お前のように復讐を止めろと……な。

 今は、その意識を完全に封じ込めている。

 私が死なない限り、織斑太夏が解放されることはないだろう」

「っ!?」

『くっ!』

 

父親を道具のように言うオルガードの非情な物言いに、一夏とゴッドゲキリュウケンは息を呑む。

 

「だが、まだ死ぬわけにはいかん……。復讐を成し遂げるまでは……!」

「…………」

『一夏……』

 

ボロボロになりながらもオルガードはGリュウケンドーに剣を向け、

Gリュウケンドーもまたゴッドゲキリュウケンをオルガードへと構える。

 

「そら見たことか。散々言っていたが、結局貴様も私と同じだ……。

 目的を成すためなら手段など、問わなくなる。

 それが、人間だ!

 デグス・エメルの言葉を借りれば、誰でも簡単に誇りも良心も捨てるんだ!!!」

「……っ」

『お前!?』

「何の真似だっ!!!?」

 

Gリュウケンドーに対して構えていたオルガードだったが、今度は彼が予想もしなかった

Gリュウケンドーの行動に動揺した。

一夏は、ゴッドゲキリュウケンを盾に収めたのだ。

 

「父さんが俺達と同じ魔弾戦士として戦っていたのを知ったのは、カズキさんに

 修行をつけてもらい始めた頃だ……。

 その時は、別に好きでも嫌いでもなかった。物心つく頃にはもういなかったし、

 どう思えばいいのかもよく分からなかった……。

 だけど、俺は知った!

 父さんも俺達と同じように、この世界を!みんなの明日を!

 守るために戦っていたことを……!

 そして、母さんを救う戦いの中で行方知れずになったことを……」

「…………」

「何かを守るために、命を懸けて戦ってきた父さんが……何かを犠牲にして

 助かっても、絶対に喜んだりはしない……!

 ――父さんは、必ず助ける!そして、あんたもだ!」

 

Gリュウケンドーは、オルガードに背を向けるとここまで来た道へと走り出す。

こちらを追いかけに来ているデグス・エメルを迎え撃つために――。

 

「私を……助ける……だと?

 何故、憎むべき相手にそんなことができる……」

 

一人残されたオルガードは、Gリュウケンドーの選択に誰となく問いかけの言葉を

発する。その目に映るGリュウケンドーの背が、何故かオルガードには弟の姿と

かぶって見えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「やっぱり、Mリュウガンオー……弾を連れてこなくて正解だったね」

『ああ。俺にもわかるぜ。この扉からあふれる怨念って言うの?

 とにかく、碌なもんじゃない気配がな……』

 

一人、見つけた生産工場を進むリュウジンオーはたどり着いた扉の前で、

気を引き締めていた。

魔弾戦士のような特別な戦士でなくても、警鐘を感じさせる不穏な空気を

受け止めながら、ゆっくりと扉を開けていく。

 

『何だ、ありゃ?』

 

扉の先には開けた空間が広がっており、明かりもなく薄暗かったが、うっすらと

何かが置かれているのがわかった。

変身し探査に秀でている風術を用いるリュウジンオーには、この程度の薄暗さなど

何の問題もなかったが、置かれていた物体……液体が入ったガラス円筒に浮かんでいる

ものを見て、仮面の下で険しい表情を浮かべる。

 

『な、何だよこれは……』

「何様のつもりなんだろうね、ほんと…………」

 

彼らはガラス円筒の中に浮かんでいる“モノ”に対し、驚愕と吐き捨てるように

言葉を絞り出す。

浮かんでいたのは…………“人間の脳髄”であった。

それも一つや二つではない。部屋の中にあるガラス円筒には、まるで標本のように

――否、実際に標本として並んでいた。

 

「普通の人間が見たら、阿鼻叫喚だね。

 俺も不愉快極まりないけど……」

『“電気変換”、“炎熱変換”、“回復”……これは……』

「どうやら、この犠牲者達は魔力変換資質やレアスキル保持者のようだね。

 そして、ナンバリングに各データ……想像以上にふざけたことをやっているね……」

『どんな神経してたら、こんなことができるんだよ……!』

 

恐ろしさを感じさせる程の冷静な声で、分析をしていくリュウジンオーだったが、

口から出る言葉には隠し切れない嫌悪と怒りが滲んでいた。

 

「どんな神経も何も、自分を選ばれた存在とか神なんかだと勘違いしているんだろうね。

 自分以外は、全部道具ぐらいにしか思っていないんだろう……。

 最も、これは自分にない力を持った妬みってものを感じるけどね」

 

魔力変換資質とレアスキル。

前者は、魔力を直接的な自然エネルギーに変換できる能力であり、

後者は普通の人は持っていないマネのできない稀少スキルである。

その希少さから、様々な特例措置が施されることも多い。

 

『ちっ!余計に自分を惨めにしているって言うのが、わからねえのか!

 ん?おい、カズキ!

 あの奥のガラスの中にいる子!まだ、生きてい、る……ぞ……』

 

ザンリュウジンは、立ち並ぶガラス円筒の中で奥に置かれているものの中に

吊るされていた“もの”が、まだ人の形をしていたのを見つけるが、段々と

声を失っていく。

 

「…………っ!」

 

そのガラス円筒に近づくリュウジンオーは、血が出んばかりに拳を握りしめる。

ガラス円筒の中にいたのは、一夏達とそう歳が変わらない少女だった。

だが、その体には手足が無く全身にチューブが繋がれており、最早

“生きている”とはとても言えない姿であった。

 

「離れたところからの風術じゃ分からなくても、近くまでいって調べれば何とかできる

 かもって億に一つの可能性があったけど……。

 だめだ……。これは、俺にも……ジェイル達にも……どうにもできない……。

 “生きている”けど“死んでいる”と言っていい……」

『この子が……この子が何をしたって言うんだよ……。

 こんな目に合わなくちゃいけないようなことをしたって言うのかよ……』

 

少女が入っているガラス円筒を調べるリュウジンオーは、もうこの少女を救うことが

できない事実に目を背けたくなり、ザンリュウジンは悲痛な声を上げる。

そして、そんな彼らの声が聞こえたのか少女は、虚ろな目を向けて、最後の力を

振り絞るかのように唇を動かした。

声など聞こえるはずがなかったが、ハッキリと彼らには少女の声が耳に届いた。

コ、ロ、シ、テ、と――。

瞬間、カズキは変身を解き、血よりも赤い光が床一面に広がる。

 

『カズキ、何を……』

「君がどういう子かは、俺は知らない……。

 だけど、理不尽への怒りや恨みはわかる。

 ただ普通に家族と過ごしたかった……ただ普通に友達と遊びたかった……

 ただ普通に生きたかった……」

『……っ!』

 

彼女に向って手をかざすカズキが何をしようとしているのかわかった

ザンリュウジンだったが、それを止めることはできなかった。

最早、彼女を救う手段があるとしたら一つしかなかったからだ。

 

「だから、そんな当たり前の日常を奪ったやつや運命を恨むなとも憎むなとも言わない。

 来世の幸せを願うことしかできず、これから君の命を刈り取る俺に

 感謝する必要もない……、

 だけど、その怒りも悲しみも現世(ここ)に置いていくといい。

 それは俺が引き受けよう……。

 じゃあ……!」

 

彼女の視界が真っ赤に染まると――。

 

「どうしたの?ぼ~っとしちゃって?」

「何か悩み事か?」

「え?」

 

彼女は、椅子に座り両親と食事をしていた。

無くなったはずの手で、スプーンを持ち足にはスリッパを履いていた。

 

「お~い~。迎えに来たよ~」

「ほら、お友達が迎えに来ちゃったじゃない。

 早く食べちゃいなさい」

「今日も一日、楽しんできなさい」

「う、うん……」

 

目の前の光景に混乱しながら、少女は家のドアへと向かう。

 

「あ~!やっと来た!もう、遅いよ!」

「ご、ごめん……」

「早く行かないと、遅刻だよ?

 ほら、走る走る!」

「っ!うん……!うん!!!」

 

自分の手を握る友達の手の感触を感じて、少女は自分の身に起こった悪夢より悪夢な

現実が悪い夢だったのだと理解した。

両親との食事も友達の手の温かさも夢じゃない。

そんな幸せを噛みしめ、涙を流しながら、学校へと続く道を走っていく。

少女の意識はそこで途絶えた――――。

 

「…………」

 

カズキは、目を細めながらガラス円筒のパネルに映し出されていた少女の生命データが

死亡を表示するのを無言で見つめた。

 

『……なあ、今何したんだ……?』

「幻覚を見せたんだよ……。

 脳が現実だと錯覚する現実(ほんもの)より現実のように見える……ね。

 本当は、相手が最も恐れる光景を見せて徐々に生命活動を鈍らせ、眠るように

 命を消すものなんだけど、今回は彼女の記憶の中でも最も残っている……

 帰りたいという光景を見せた。

 せめて、最後ぐらいは偽りでも幸せを……ふっ。傲慢だね。

 軽蔑するかい、ザンリュウ?」

『するか、馬鹿。そんな資格なんかねえよ……』

「貴様っ!私の貴重なサンプルに何をしたぁぁぁっ!!!」

 

互いに自分の無力を胸に刻もうとするカズキとザンリュウジンの前に、憤怒の形相の

老人が現れた。

 

「この愚か者がっ!貴様が壊したサンプルがどれ程、貴重かわかっているのかっ!!!

 許さんぞ!

 天に選ばれた私にたてついたことを後悔させてやる!!!」

『……無駄なのは分かっているけど、一応念のため聞いておくぜ?

 ここにいる人達の人生を奪っておいて、罪の意識とかねえのか?』

「ふん!罪だと?何をいっているのだ?

 有象無象の存在がこの私の礎になれたのだ!

 その身を捧げられたこと!涙を流して喜ぶべきことだろがぁっ!!!」

「もういい……喋るな……」

 

自分の行いに罪の意識を一ミリたりとも感じず喚き散らす老人に、カズキは

鋭く細めた目に冷徹な怒りを宿しそれを言葉に乗せて吐き捨てる。

 

「俺も外道だって自覚はあるけど……お前はそれ以下の……

 外道にも劣るクズだ……」

「こ、この私が……ク、クズだとぉぉぉっ!!!?」

「加えて、自分がいいように利用されていることにも気付かない微生物レベルの

 知能……いや、この言い方は失礼だな。微生物に対して。

 お前が、この世界でやらなければならないことがあるとしたら

 ただ一つ……自分の息の根を止めることだけだ。

 少しでも人間としての誇りがあるなら、自分という存在を恥じろ……」

「貴様ぁぁぁっっっ!!!!!」

 

存在すら否定され、怒りの頂点を超える老人は凄まじい目つきをカズキに向けるが、

カズキはどこ吹く風で微塵も揺るがない。

 

「いいだろ……貴様の愚かさを骨の髄まで刻み込んでやる!」

「御託はいいから、早くかかってこい。

 どうせ、ここまでやってできたのものなんて、素質がなくても魔力変換やレアスキル

 を使えるようになる薬とかだろ?」

「なっ!何故、それを!?」

 

自分が今まさに懐から取り出し使おうとした注射器の中身を言い当てられ、

老人は驚愕する。

 

「お前みたいな奴の幼稚な考えなんて、すぐわかる。

 そんな子供の遊びにもならないことのために、殺されたんじゃ彼らも救われないな……」

「ど、どこまで私を虚仮にするつもりだぁぁぁ!!!」

 

どこまでも上から見下すカズキの言葉に、怒りの頂点の頂点が超えた老人は手に持つ

注射器を自分の首へと打ち込む。

数秒とたたず、その体は瞬く間に変化していく。

筋肉が膨れ上がって服を破り、鍛え抜かれたような肉体が顕現し、その体には力が

漲っているのが見て取れた。

 

「……ふふ……はははははっ!

 素晴らしい……!素晴らしいぞぉぉぉっ!

 これが、貴様が幼稚といった力よ!その味をこれからたっぷr……ごがっ!」

 

自分に敵はいないとばかりに、高笑いする老人だったが、突然のどを押さえて苦しみだす。

 

「どうかした?ずいぶん、息苦しそうだね?」

「き、きざ……ま……い、一体なに……を」

「な~に。単純なことさ。風術を使って、お前の周りの酸素を薄くしているだけさ。

 どんな薬を使って強化しても、元が人間の体である以上酸素が無くなれば

 呼吸できないからね~」

 

いつもの人を小馬鹿にしたからかい口調でありながら、心底下らないとばかりに

苦しみ膝をつく老人をカズキは、冷たく見下す。

 

「酸素を……操、る……バカ……な……。

 そんな、こ、とが……」

「信じようが信じまいが、それができる術があるから、

 お前はそうやって無様に這いつくばっているんだろ?

『常識なんてものは、見方一つひっくり返るもんだ。

 研究者の端くれなら、それぐらい知っておけよ』

「風術も魔法の親戚みたいなものだけど、どうだい?

 魔法とか不思議な力でなく、呼吸できないっていう特別でも何でもない

 “普通”に死にかける気分は?」

 

淡々と心底つまらなそうに語るカズキの言葉は、老人の耳には入っていなかった。

状況を打開しようにも、カズキがどうやって酸素の量を減らしているのか皆目見当も

つかない。

その上、自分が開発した薬によって得られた力を使おうにも、こんな呼吸困難な状態では

思考も回らず魔法を使うための術式の計算などできるはずもなかった。

 

「げっ……がっ……!」

「ところで、お前……このまま窒息死なんて“生温い”

 死に方ができるなんて思っていないよな?」

「へ?」

 

カズキの侮蔑を含んだ声に老人が間抜けな声を上げると同時に、

風がその体を浮き上がらせ無防備な態勢をさらす。

そこにいつの間に取り出したのかカズキは、旧式のオートマチックの拳銃を

取り出し、何のためらいもなく銃弾を数発撃ち込む。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

「喚くな、うっとおしい……。空気がもったいないだろう。

 撃ち込んだのは、ただのカプセルだから痛いだけで死にはしない……」

『いや、そうやって空気を使わせてるのお前だから』

「(なん……だ?)」

 

カズキに何かを撃ち込まれた老人は、カズキとザンリュウジンの漫才が

スロー再生のようにゆっくりと聞こえた。

 

『で?こいつに、何を撃ち込んだんだよ?』

「超人薬っていう、体感時間を延長させる薬さ。

 事故にあった人が数秒間の時間を数分間って、何十倍にもゆっくり感じたって

 話を聞いたことないかい?

 これは、それを強制的に引き起こす薬さ」

 

カズキは、拳銃から弾を取り出しながら中身をザンリュウジンに説明する。

その顔は微笑んでいたが、どこか寒気を感じさせるものが含まれていた。

 

「要するに、同じ時間でも普通より思考を長く行えるのさ。

 そして、適切な効果を得るのは、このカプセルに入っている薬一滴分を数万倍に

 薄めたのが適量なんだけど、それをこのまま接種したら一秒が数百年単位で

 感じられるようになるよ……」

『ん?てことは……』

「そう……今、こいつは普通より数百倍に伸ばされた時間を感じているのさ。

 ふふ、こうしている間にもう千年ぐらいの時間を体感しているんじゃないか?」

「…………」

 

カズキは、そうやって先ほどから倒れ伏して何の反応も返さない老人に

手を向けて、再び風で浮き上がらせる。

 

「だから……一秒で感じる痛みも数百年感じるし、

 こうやって……感じる苦しみも恐怖も数百年単位で感じるのさ――」

 

浮き上がらせた老人をカズキは回転させ、地面へと降ろしていきゆっくりと

その体を“すり潰していく”。

 

“あれから、どれだけの時間が流れたのだ……?

 何故、この私がこんな理不尽な目に合わなければならない……。

 私が何をしたと言うのだ……。

 そして、いつになったら……私の体は全てすり潰されるのだ――?

 はやく…………はやくはやくはやくはやくはやく!

 はやく、私を殺してくれぇぇぇぇぇっっっ!!!!!”

 

気の遠くなるほどの時間の中で響く悲痛な叫びは、誰にも届くことはなかった――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一体、どういうつもりですか?」

「どうも何も、お前の邪魔をするつもりだよ」

 

オルガードと別れたGリュウケンドーは、デグス・エメルと対峙していた。

Gリュウケンドーが自分と戦うつもりなのは見てわかるが、

それでもデグス・エメルは呆れた声を出して肩をすくめた。

 

「わかりませんね……オルガードは、あなたにとっても敵なのでは?」

「それがどうした?

 敵だからって、殺されるってわかっている奴を見捨てる

 理由にはならないし、オルガードには助けられた恩もある。

 何より、絶対に守らなきゃいけない理由ができた!」

『気を付けた方がいいぞ?

 このバカは、こうと決めたらとことん一直線で絶対に諦めないぞ?』

 

迷いのないGリュウケンドーの言葉とそれを誇らしげに語るゴッドゲキリュウケンに、

デグス・エメルは戦闘態勢に入る。

 

「やれやれ……私は頭脳派で、直接戦うのは得意ではないのですが……ね!」

「っ!」

 

まずは互いに出方を伺うと見せかけ、デグス・エメルは右手の砲門で奇襲を仕掛けるが、

Gリュウケンドーはそれを紙一重でかわす。

 

「おりぃゃゃゃっっっ!!!」

「くっ!」

 

今度は自分の番とばかりに、Gリュウケンドーはゴッドゲキリュウケンで反撃の隙を

与えないよう連続で斬りかかる。

デグス・エメルは苦悶の声を上げながらも、Gリュウジンオーの猛攻を捌いていき、

両手を交差してゴッドゲキリュウケンの刃を受け止める。

 

「おいおい、どこが直接戦うのは苦手なんだ!」

「嘘は言っていませんよ……他の者達と比べれば――!」

「おわっ!」

 

デグス・エメルの言葉をそのまま受け止めていたわけではなかったが、Gリュウケンドーは

相手の隙を冷静に突いてくるような技巧派と思われた彼の体捌きや自分と力負けしない

パワーに苦言をこぼす。

そして、一瞬だけわざと力を抜いて拮抗状態を崩して隙を作ったデグス・エメルは、

Gリュウケンドーを蹴り飛ばす。

 

「得意ではありませんが、しようと思えばこれぐらい!」

「こ……のっ!」

『強いと言うより、戦いが“巧い”……』

 

どこかカズキに通じる戦い方をする目の前の敵に、

Gリュウケンドーとゴッドゲキリュウケンは、どう戦うべきか思案する。

この手の相手の一番怖い所は、何をしてくるのか“わからない”点にある。

真っ向勝負をしてくると見せかけ相手の意表を突く、散々搦め手を使ったと

思いきやド直球の正攻法を仕掛けてくる等、次の手を読むのが非常に難しいのだ。

 

「だったら、手は一つ!」

『賭けに近いが、お前らしいよ』

「む……」

 

デグス・エメルは、Gリュウケンドーの行動に眉をひそめる。

盾とゴッドゲキリュウケンを合体させ大型剣にすると、それを盾のように悠然と構えて

動きを止めたのだ。

 

「(これは……マズイかもしれませんね……)」

 

Gリュウケンドーの狙いを見抜いたデグス・エメルは、内心で冷や汗を流し始める。

次の一手から、Gリュウケンドー達が考えていたように幻術や目くらましといった

本来の自分の戦い方である搦め手を交えた攻撃をするつもりだったが、Gリュウケンドーはそういったこちらの次の攻撃を読むのを止め、動きを見せたら誘いだろうが何だろうが、

真っ向から打ち破る手段をとったのだ。

 

「(普通なら、出方が分かっている分こちらが有利で、出方がわからない相手は

 賭けになるのですが、彼ならどんな罠も真っ向から打ち破ってくるかもと

 思わせるだけの気迫を感じさせられますね……)」

 

要は気合いという精神論で勝負という子供じみた策とも言えない策なのだが、

あいにく創生種達はその手の計算や論理などを人間は、吹き飛ばすことができる

生き物であることを知っていた。

故に、一端退くのも一つの手だったのだが、デグス・エメルはその策を取ろうとは

しなかった。

 

「(何故でしょうね……引いた瞬間、斬られるという確信めいた予感がある

 のもそうですが……。

 不思議と勝負してみたい気持ちを抑えられない……。

 いいでしょう。真っ向勝負……受けて立ちましょう!)」

 

人間だったら不敵な笑みを見せるであろうデグス・エメルは、右手の

砲門を引くとそこに紫色の光が集まっていく。

 

「(如何なるものであろうと侵しつくす猛毒、“ベノム・ブラスト”。

 例え魔弾戦士の鎧であっても、ただでは済まない私の切り札……受けてみなさい!)」

 

互いにいつでも動ける構えとなった二人の間に、静寂が流れる。

そして一陣の風が吹き、草が揺れる小さな音が、大きく彼らの耳へと入った。

 

「はぁぁぁっ!!!!!」

「ベノム・ブラスト!!!」

 

一直線に自分へと駆け出してくるGリュウケンドーに向けて、デグス・エメルは

紫色の光球を放つ――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「決して逃げられない死の恐怖というのを味わっただろうけど、そんなもの……

 貴様が奪ってきた人達が味わってきたものに比べれば、蚊に刺された程度だろ……」

 

カズキはすり潰されていく老人を何の感慨も感じさせない目で見下ろしながら、

冷たく吐き捨てた。

 

「さて……彼らをこのままにしておいたら、またクズみたいなカスに利用されるかも

 しれないから、跡形もなく焼き尽くして葬るとして……」

『ん?なんだ?』

 

カズキが自分にできるのは、こんなことだけだと部屋の中にあるガラス円筒を見渡し

目を伏せると老人がすり潰された場所から黒い煙のようなものが現れる。

 

「ああ、クズから発生したマイナスエネルギーだね」

『だねって……おい!』

 

怒りのままに行動して自分達がマズイことをしたかもしれないのに、呑気な声を上げる

カズキにザンリュウジンは慌てふためく。

 

「落ち着きなよ、ザンリュウ。回収される前だから、浄化は問題なくできる。

 だけど、これではっきりしたね。

 創生種は、これも見越していたんだ……。

 手に余る力を手にした人間が、人の道を外れることを……っ!」

 

目の前のマイナスエネルギーをザンリュウジンで切り裂きながら、

カズキは鋭く目を細めながら、舌打ちする。

 

「使うことができる者が限られている力を与えて、マイナスエネルギーが

 生まれやすい環境を作っただけじゃない……。

 人間には、自分の為なら平気で他者を踏みにじる面があることを

 知っていたんだ……っ!」

 

人間の強さを警戒する慎重さだけでなく、自らの欲望の為なら容易く

倫理を捨て“道”を外れることを何とも思わない人間の愚かさも理解

している創生種にカズキは、忌々しく顔を歪める――。

 





一夏と千冬の父親、織斑太夏は魔弾戦士でした。
どんな戦士かは、もう少々お待ちを(汗)

今回のカズキの戦闘元ネタは
「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」からです。
そこに、ブリーチのマッドサイエンティスト。
涅マユリが作った超人薬を混ぜました。
今回のクズみたいな奴をジワリジワリと苦しめるのは、
本当に面白い(黒笑)

デグス・エメルの姿は、レグド達と同じく
ミクロマンのデモン三幹部です。

さて、次こそは書きたいところまでいきたいな(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

復讐者(オルガード)の答えと白き龍


2018年最初の更新です。
更新だけでなく、
貯めているガンプラや遊戯王のデッキ作成も頑張っていきたいです!


時間が止まったように、その場所から音が消え……

Gリュウケンドーとデグス・エメルは背中を向けあいながら、立っていた。

 

「『…………』」

「…………がはっ!」

 

無音の静寂を破ったのは、デグス・エメルが崩れ落ちる音だった。

デグス・エメルの切り札は、交差する瞬間にGゲキリュウケンによって、

その体ごと斬り裂かれたのだ。

 

「こ、これが魔弾戦士の……人間の力……ですか。

 全く人間というのは、とるに足らないクズもいれば、あなたのような想像を

 超えた強さを持つ者もいて……本当に嫌になりますよ」

 

振り返って互いに、Gリュウケンドーとデグス・エメルは向かい合う。

致命傷を受けたデグス・エメルは、膝をつき悪態をつくもその声色はどこか喜びを

帯びていた。それは、一人の戦士として強者と戦えたことによるものなのか……。

 

「認めましょう……あなたの強さと私の敗北を……。

 ですが、勝負と勝敗はまた別!!!」

 

ふらつく体で立ち上がり、最後の力を振り絞ってデグス・エメルが右手の砲門からどこかへ

砲撃を放つと大地が揺れ始める。

 

「お前!何をした!」

「この近くには、休眠状態にある火山がありましてね……。

 私に、残ったマイナスエネルギーを火口に撃ち込みました」

『そんなことしたら眠っていた火山が目覚めて、大爆発するぞ!』

「ちょっと待て……確か、この辺りにはいくつか集落が!

 それにオルガードも!」

「悪党は、悪党らしくしませんとね……。

 あなた方なら火山の爆発を防ぐこともできるでしょうが、

 相応の痛手を負うはず。

 逆に、ここから逃れたとしてもオルガードや周囲の人間は葬られ、

 かなりのマイナスエネルギーを得られるでしょう……。

 どちらにしろ、大局的にほぼ私達創生種の筋書き通りとなる。

 それでは、さらばです……」

 

敗れた者とは思えない清々しさで、デグス・エメルは爆発と共に

Gリュウケンドーの前から消え去った。

 

「あの野郎……!

 最後の最後で、めんどくさいことをしやがって!」

『しかも、あの口ぶりからすると私達がどれほど危険でも爆発を

 防ごうとすることを確信しているぞ……!』

 

デグス・エメルの最後の悪あがきとも言える一手に、Gリュウケンドーと

Gゲキリュウケンは焦りを見せる。

火山の爆発から逃れるだけなら、何も問題はない。

そう、“魔弾戦士である自分達だけなら”だ。

作戦前に、オルガードを転送するポイント付近には戦闘には巻き込まれない

だろうが、それでも注意するようにと人が住む町の存在をカズキから

聞かされていた。

今から、そこの人達を全て火山の爆発から避難させるのは、ほぼ不可能である。

自分達の戦いに関係のない人々を一夏達が見捨てることなどしないと確信している

から、デグス・エメルはこの一手を打ったのだろう。

 

「これが……私の復讐の結末か」

 

敵の狙いがわかっていてもその通りに動かざるを得ず、歯嚙みするGリュウケンドーを

オルガードは背後から眺め、近くの岩にその背を預けた。

 

「もう、満足に動くこともできない……。

 奴らの力では、爆発を防ぐことも難しいだろう……。

 ここまでか……っ!」

 

自身の悲願である復讐を果たせぬまま、命がつきてしまう悔しさに

オルガードは地面へ拳をぶつける。

 

「Gリュウケンドー!」

『無事だったみたいだな!』

「おーい!あの変な怪物達は、全部片付いたぜ!」

『全員を確認』

 

刻一刻と爆発が迫る火山を見やりどうするかと頭をひねるGリュウケンドーの元に、

リュウジンオーとMリュウガンオーが合流する。

 

「火山が爆発しそうになっているのは、わかっている。

 何があった?」

「オルガードの命を狙ってきた創生種が、最後の悪あがきで自分の

 マイナスエネルギーを火口に叩き込みやがったんだ!」

「嘘だろっ!?」

 

Gリュウケンドーの説明に、Mリュウガンオーとリュウジンオーは驚愕と舌打ちをもらす。

 

「まずいな……。

 風術で上から見ただけだけど、この火山のマグマ溜りはかなりデカイ。

 それが、幹部級のマイナスエネルギーで活性化されたとなると……」

「一体どうすれば……!」

「マイナスエネルギーを放り込まれたんなら、俺達のプラスエネルギーで

 中和すれば……!」

「それだ!」

 

風術を用いて状況を確認するリュウジンオーは、事態の悪さに頭を抱えていると

Mリュウガンオーが逆転の策を思いつく。

 

「待て、二人とも。確かに俺達魔弾戦士のプラスエネルギーなら、

 マイナスエネルギーを中和して爆発を防げるかもしれないが、そのためには

 火口近くまで行かなきゃ行けない。

 だけど、火口の周りはマイナスエネルギーと火山のエネルギーの嵐だ。

 近づけば、俺達でも無事じゃすまないし、確実に爆発を止められる保証もない。

 それでも、行くのか?」

「何言ってんすか、カズキさん!」

「無事じゃすまない?止められる保証がない?

 だから、どうしたって言うんですか!

 そんなの足を止める理由には、ならないですよ!

 それに、カズキさん?

 最悪、自分一人でもなんとかするつもりなんじゃないんですか?」

「……」

「そうやって自分だけ無茶をすれば、犠牲は最小限で済むとか思っているんですか?

 ふざけんな!

 俺達だって、無茶なことだってわかっているよ!

 けど、今はその無茶をするべき時だろ!」

『一夏の言うとおりだ、カズキ』

『全員で無茶をすれば、それだけ危険も分散される』

『カズキ……こりゃあ、お前の負けだぜ?』

 

仮面越しでもわかる一夏と弾の頑として譲らない今の顔に、

カズキはため息を一つこぼして肩をすくめる。

 

「こうなるとは、思っていたけどね~。

 まあ、いざとなったら前にパワースポットの暴走を止めたみたいに、

 魔弾キーを使って封じればいいか」

「「はは……」」

 

カズキは軽口で代替案を口にすると、一夏と弾は苦笑で返した。

 

「それじゃ……腹くくりなよ、二人とも!」

「「はい!」」

 

迷いのない返事をして、三人の魔弾戦士は火口目指して駆けていくが……。

 

「っ!気をつけろ!」

「うわぁっ!」

「な、何だぁっ!?」

 

火口から吹き出る凄まじい炎に、Gリュウケンドー達は吹き飛ばされる。

 

「想像以上にエネルギーがあふれてるみたいだね……」

『近づくだけでも一苦労の話じゃねえぞ!』

「そうだ!バーニングキーを使って、炎に強くなれば……!」

『よせ!変身時の余波で、更に火山が活性化しかねない!』

「じゃあ、一か八かここからプラスエネルギーを撃ち込んで……!」

『いや、この地点では的確なポイントに撃ち込むのは困難である』

「くそっ!何とかして、近づくしかないってことかよ!」

 

Gリュウケンドー達は、吹き荒れる炎の嵐の中を吹き飛ばれながらも

進んでいく。

 

「うわぁぁぁ!」

「がぁぁぁっ!」

「ちぃっ!」

「何故だ……何故、奴らは立ち上がる?

 ここは、奴らとは関係のない世界だろ……」

 

火山の爆発を防ぐために、何度吹き飛ばされても進んでいく、

Gリュウケンドー達を見ていたオルガードは、その行動の理解に苦しんでいた。

 

「一体、何が奴らを突き動かす……!」

“兄さん”

「っ!クラード!?」

 

拳を震わせ声を荒げるオルガードの前に、死んだはずの弟……クラードが

白い花を持って姿を現した。

 

“兄さん……。兄さんは、わかっているはずだよ。

 あの人達が、諦めない理由を。だって、兄さんもそうだったんだから”

「クラード……」

“みんなを守るために戦って、兄さん”

「だめだ。だめなんだよ、クラード……。

 昔のようには戦えない……もう、私には何も守るものはない……。

 帰る故郷も、共に戦う仲間も、何より……お前がいない」

“守るものは、たくさんあるよ。

 助けを求める人が……。一緒に戦ってくれる仲間も。

 兄さんなら、昔みたいに戦えるよ。

 みんなや僕が大好きだった……星守の騎士(テラナイト)だった兄さんみたいに……”

 

クラードは、持っていた花をオルガードに渡すと彼に背を向ける。

 

“みんなを守って……兄さん”

「クラード!」

 

オルガードは自分の元から去っていく、クラードに手を伸ばすが

炎が彼の前をよぎると、もうクラードの姿はなかった。

果たして、今オルガードの前に現れたのは彼の願望が生んだ幻だったのか……。

それは、彼が握る白い花だけが知っているのかもしれない――。

 

「……」

「まだまだぁっ!!!」

「ぜってぇ、諦めねぇっ!」

「この程度で、止められるとでも!」

 

呆然とするオルガードに、微塵も諦めようとしない魔弾戦士達の姿が目に入った。

 

「…………っ!」

 

何かを決意したオルガードは、立ち上がり胸に手をやると太夏の意識を封じるために

突き刺したクラードの形見である短剣が現れ、それを引き抜く。

すると、短剣を抜いた傷からボロボロの道着を着た一夏によく似た男が現れた。

そして、オルガードの体は至る所がボロボロとなっていく。

 

「ぐっ……。お前には、帰りを待っている家族がいるからな……」

 

オルガードが、男の傍に短剣を突き刺すと男を守るような結界が展開された。

それを確認すると、オルガードはフラフラとGリュウケンドー達の元へと向かった。

 

「くっそ!全然、近づけない!」

『デグス・エメルの執念が炎に宿っているというのか!』

「このままじゃ……!」

『火山内部のエネルギー、尚も上昇』

「ああ、時間はもうあまり残されてない」

『ちくしょう!また、変身の魔弾キーを使って抑え込むしかないのかよ!』

「その必要は、ない」

「オルガード!」

 

思うように火口に近づけないGリュウケンドー達は、最後の手段である魔弾キーによる

制御をしようとした時、オルガードがその姿を現した。

 

「お前達の力は、まだまだこの先必要だ。

 ここは私がやる。爆発のエネルギーを吸収して、私の体内で爆発させる」

「なっ!?そんなことをしたら、あんたは!それに父さんだって!」

「おい。父さんって何だよ!」

『オルガードは、一夏の父親に乗り移って瀕死の状態から復活したんだ』

『ということは、彼が死ねばその父親も……』

『ふざけてんのか、てめぇ!』

「ああ、ふざけてるね……。

 でも、オルガード?その体は、どうした?」

「ふっ……」

 

リュウジンオーの言葉に、頭に血が上っていたGリュウケンドー達は

オルガードの様子がおかしいことに気が付く。

そんな彼らを見て、オルガードは微笑んだ。

 

「安心しろ。織斑太夏は……。一夏、お前の元に帰ってくる……」

「オルガード……」

「ふんっ!」

 

出会ってから初めて聞く、オルガードの穏やかな声に嫌な予感を感じる

Gリュウケンドー達だったが、それを口にする間もなくオルガードは自分の剣を

地面に突き刺し自分と火山を閉じ込める結界を張る。

 

「おい!待て、オルガード!」

「一夏……お前のおかげで、忘れていた……大切なことを思い出すことができた……。

 礼を言う……。

 本当なら生きて、犯してしまった罪を償うべきなのだが……

 もう、私にそんな時間は残されていないからな……。

 さらばだ……魔弾戦士達よ……」

 

オルガードは、別れの言葉をGリュウケンドー達に告げると彼らに背を向け、

火口へと歩んでいく。

 

「オルガード!」

「何だよ、この結界!ユーノのより硬い!?」

「まずいな……。この結界を壊せる威力の技を放ったら、火山を刺激しかねない……」

『黙って見ているしかないのか……!』

『オルガードの生命反応徐々に低下』

『待てよ!この野郎!』

 

あたかもこの世とあの世の境界線の如く、オルガードとGリュウケンドー達を

隔てる結界になす術がないGリュウケンドー達の前でオルガードは、火口から

吹き荒れるエネルギーの嵐にどんどん傷ついていく。

だが、オルガードはその歩みを止めず、一歩……また一歩と進み、

ついに火口へとたどり着く。

 

「はぁ……はぁ……。星守の騎士(テラナイト)とは、命を守る戦士……。

 みんなを守るぞ……クラード!!」

「オルガードぉぉぉっ!!!」

 

持っていた白い花を胸に抱え、オルガードは火口へとその身を投げ出す。

火口のエネルギーは、火口へと落ちていくオルガードへと吸い込まれていき……

彼の体は閃光と共に砕け散った――。

爆発は、彼が張った結界の中に留まったため、その被害は外には出なかった。

爆発が収まり、彼の結界が消えると同時に魔弾戦士達は、変身を解くと

弾は涙を流して崩れ落ちた。

 

「う……あああっっっ!!!」

『……マイナスエネルギーの消滅を確認……』

「復讐者としてじゃなく……戦士としての最後を選んだ。

 それが、君が出した答えか……」

『ばかやろう……オルガード、お前……』

「生きてるよ、オルガードの魂は……ここに」

『一夏……』

 

カズキがオルガードの決断に思いを馳せる傍らで、一夏はオルガードの

剣を手に取り彼の魂がそこにあるのを感じ取る。

そして、一夏はふと感じた気配に目をやるとそこには、岩に手をかけながら

こちらへと近づいてくる男の姿があった。

男はフラフラとした足取りだったが、一歩一歩を確かめるように、一夏達の

元へ歩んでいく。

すぐに、こちらに駆け出したいという思いを醸し出しながら――。

 

「……っ!」

『まさか……っ!?』

「い、一夏……?」

『違う。似ているが、別人である』

「昔、見た写真の人だね。

 雅さんが、見せてくれた子供の頃の千冬ちゃんと一夏と一緒に写っていた……

 二人の父親……」

『……ってことは、あいつが織斑太夏か!』

 

男の正体がわかり、それぞれ言葉を失う中、男……織斑太夏が彼らの元へと

たどり着く。

 

「よぉ……。お前が……一夏だな……。

 はは……俺、そっくりだな……」

「え……あ……そ、その……」

 

太夏は一夏を見ると目に涙をためながら、笑みを浮かべる。

そんな太夏に一夏は、うまくしゃべれなかった。

もしも、会えたら言いたいことが

山のようにあったはずだったのが、それを言葉にすることができない。

 

「本当に……大きく……なったな!」

「っ!…………と、父さんっ!」

 

困惑する一夏の頭をクシャクシャと涙を流して撫でてくる太夏に、一夏は

もう堪えることができず、同じく涙を流して太夏に……父親に抱き着いた。

ただ一言、“父さん”と言って……。

 

「ううううう!!!よがっだなぁっ~。いぢが~」

『ぼんどうになぁ~』

『本人達より、泣いてどうする?

 だが……本当に良かった……』

『感動の再会である』

「そうだね……」

 

父と息子の再会に、弾とザンリュウジンは号泣し、ゲキリュウケンは本人達よりも

泣いていることに呆れるも彼の声にも、涙が滲んで喜んでいた。

ゴウリュウガンとカズキも言葉には出さないが、彼らの再会を心から喜んでいた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「収まったな……」

「先生!大変です!

 例のIEC(集中治療室)の患者さんに、覚醒の兆候が!」

「何っ!?11年間、何の反応も見せなかった、あの患者がか!?」

 

Mリュウガンオーが守り切った集落の、ある病院で火山の揺れによる影響が

収まったと思いきや慌ただしく医者達が駆け回る。

その病棟で眠る女性の中で、静かに目覚めの時が来たのを感じて動き出そうとする

龍がいることを誰も知らない――。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

最初に異変に気が付いたのは、風術で周囲の状況を見ていたカズキだった。

 

「ん?

 やれやれ……親子の感動の再会だっていうのに、それを邪魔するとか、

 クズはどこまでいってもクズだな……」

「へっ?」

 

頭をかいてボヤくカズキにつられて弾が顔を上げ、カズキが見ている方向を見やると

そこには4つの影が現れていた。

一つは、歯車。

一つは、電球やコンセント。

一つは、車のキーやエンジン。

一つは、原子モデル。

を彷彿させる意匠のボディだった。

 

『何だ、ありゃ?』

『先ほどの生物兵器とは違うようだ。生体反応なし?』

『ロボットか……?』

 

現れた敵は、リュウジンオーとMリュウガンオーが倒した生物兵器とは違う

鋼鉄の体をしたロボットであり、魔弾龍達が疑問の声を上げるも彼らは

一夏達を気にかけることなくまっすぐにある方向によろよろと進んでいく。

 

「ん?おかしいな……奴らが現れた場所は、あのクズの研究所からみたいだけど、

 いなくなったから暴走して外に出たとかじゃないのか?」

「どうします?あの先には、集落がありますよ?」

「おいおい、何であいつらが!?」

「父さん、あいつらを知ってるのか?」

 

現れた謎のロボット達が進む先には、人の住む集落があるがまだ距離があるため

カズキはどう対処するか考える余裕があったのだが、太夏はそのロボットを見て

驚きの声を上げる。

 

「知っているも何も……奴らは、俺と相棒が倒した“メタルエンパイア”の四天王だ!」

「何だって!?」

「ああ、間違いない。

 忘れたくても忘れられないぜ、あいつらの顔は……。

 だけど、あいつらは倒したはずだぞ!?」

「……ひょっとして、あのクズが倒したその四天王の残骸とかをたまたま手に入れて

 修復とかしたんじゃ?」

「ちっ!余計なことを!

 でも、待てよ?あいつらがまがいなりにも復活したのなら目的は……っ!

 ここはっ!?」

 

倒した敵と再び相見えることになった太夏は、忌々しく舌打ちするが

パズルが解けるように、カチリと様々なピースが頭の中で噛み合う。

 

「まずい……奴らを止めるぞ!」

「父さん?」

「奴らの目的は、冬音だ!」

「冬音って……」

「千冬ちゃんと一夏の母親だよ。彼と同じように行方不明だって、話だけど……」

「だから、いるんだよ!ここに冬音が!」

『ど、どういうことだよ!』

『説明を求める』

『分かるように話してくれ!』

 

太夏から話されたロボット達の予想もしない目的に、一夏達は混乱する。

 

「本人は知らなかったが元々、冬音は他人の力を増幅できる“目覚めの巫女”って

 呼ばれる存在なんだ。

 メタルエンパイアは、その力を利用して人間サイズしか作れない地球と

 奴らの世界を行き来できる穴を広げようと、いつも冬音を狙っていた……。

 もしも、蘇させられた奴らの行動プログラムがそのままだったら……」

『プログラム通りに、冬音って子を狙う……と』

「それで?ザンリュウの言う通り、奴らの行動目的はわかったけど、

 あなたの妻で、千冬ちゃんと一夏の母親の彼女が

 この世界にいるっていうのは?」

「この世界は、俺が一度倒してもしつこく地獄から這い上がって、

 冬音を連れ去った奴らのボスと……最後に戦った世界だ!

 冬音を相棒に守らせて、俺は一人で奴に最後の一撃を叩き込んで……

 次元の狭間に迷い込んだ」

「そうやって、迷った父さんをオルガードが見つけた……」

「こんな偶然って!」

『世の中に偶然はなく、全てが必然と言うが……』

『信じられない偶然、それを人は運命と呼ぶ』

 

太夏から語られた、冬音に隠された秘密と様々な偶然が重なった今の状況に、

一夏達が困惑していると、ロボ達は空へと浮き上がりその場から移動していく。

 

「やべぇ!あいつら、飛んでいちまったぞ!」

「変身している時間も惜しいな……飛ぶぞ!」

「飛ぶって、俺達の月歩じゃとても追いつけないぃぃぃぃぃ!?」

「うおっ!?」

 

カズキは、風術で自分を含めた全員を浮かして弾丸のように飛ばして、

ロボット達を追いかける。

だが、高速で移動している中で方向感覚を保つような細かな制御にまで

気にかけている余裕はないので、一夏と弾は再び、いやESミサイルで

飛ばされたよりも強烈な方向体感の破壊を嫌と言うほど味わう羽目となった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「見えた……!折角、外に出たところ悪いけど早急に

 退場してもらうよ!」

「おっ!正確にブースターを狙って、町外れに落とした!

 やるな、お前~」

 

ロボット達の後ろ姿が見える距離まで追いついたカズキは、ザンリュウジンの

アーチェリーモードで飛行ユニットを撃ち抜いていく。

その腕前に太夏は、感心する。

傍で洗濯機の中の洗濯ものが見ている光景を絶賛体感中で、顔を真っ青にしている

一夏と弾を華麗にスルーして。

 

「ギギギ……目標確保ノ障害ヲ確認」

「排除スル」

「ハイジョ」

「ハイジョジョジョ!!!」

「奴ら、冬音さんを探す前に俺達を消すつもりみたいだね」

「こ……こ、れ……が、狙いだったんでしょうが……」

「……うぷっ!」

『おいおい、大丈夫か?こんなんで?』

『私も同意見だ。

 乗り物酔い?はともかく、さっきの火山を防ぐためにかなりのダメージを

 受けている』

『長時間の戦闘は、推奨しない』

 

墜落させたロボットの元に降りると、ロボ達はカズキ達を敵と認識し

排除行動に入ろうとする。

迎え撃とうと構える一夏達だったが、デグス・エメルの最後の悪あがきによる

ダメージから魔弾龍達は、懸念の声を上げる。

 

「だったらここは、俺がやるとしますか……」

 

ゲキリュウケン達の懸念に太夏は両の拳をバキバキと鳴らして、一夏達の前に

出ることで答える。

 

「俺がやるって……父さん!」

「相棒を奥さん守らせに行かせたんだったら、今変身できないでしょ!

 いくら、何でもあれを変身しないで一人なんて……!」

「俺達と同じく、あなたのダメージも決して軽くはないはずだ。

 戦うにしても、全員でかかった方がいい」

 

太夏の無茶な案に、一夏達は全員で反論して今打てる最善策を取ろうとする。

 

「俺の心配をするなんて、百年早―よ。

 それにな……敵だったけど、何度もやりあった奴らがこんな風に……

 機械人形の姿にされるのは我慢ならねぇ……!

 機械でも、あいつらにはあいつらなりの魂があった!

 けじめは、俺がつける!

 そもそも……男なら、自分の女は自分で守るもんだろ?

 行くぜ!!!」

 

イタズラ小僧が浮かべるような笑みを浮かべて、ロボット達に素手で向かっていく

太夏に一夏達は唖然とする。

 

『いやはや、何というか……』

『無茶苦茶というか、考えなしというか……』

「噂にたがわぬ、やんちゃぶりだね。

 まあ、惚れた相手を守るっていうのはその通りだね」

「ですね~」

「いや、なんでそんな普通な反応なの!?」

『少女マンガのヒロインのように、顔が真っ赤である』

「何でって……え?父さん、何か変なこと言ったけ?」

「別に、おかしなことは言ってないよ?」

「これ、俺がおかしいの?俺がお子ちゃまなだけなの!?」

 

未だに好きな女子と友達以上恋人未満な自分に、太夏の聞いただけで恥ずかしくなる

大人なセリフは刺激が強いというのに、カズキはともかく一夏も普通にしていることに

弾は空を仰いで叫ぶ。

 

「大丈夫だよ、弾。

 未だに彼女と友達以上恋人未満なお前でも、いつか

 さっきのセリフが似合う男になれるさ♪」

「よく分からないけど、元気出せよ弾♪」

「うるせーよ!

 特に一夏にだけは、そんな上から目線の励ましはされたくねーよ!」

 

弾の肩を優し~く叩きながらカズキは爽やか~な笑顔で励まし、一夏も続いて

同じように励ますが、弾は涙を流して悔し声を上げる。

 

『弾をからかうのはそれぐらいにして、太夏の方を見たらどうだ?』

『弾はからかいがいがある為、仕方ない』

『てか、すげぇなっ!一夏の親父!』

「おりゃあぁぁぁっ!!!」

 

魔弾龍達がどこか諦めを含んで呆れている中、気合いの叫びを上げて

太夏は鋼の人形達を殴り飛ばしていく。

 

「いくらあいつらにそっくりでも、そこに魂がなきゃただの人形!

 あいつらの方が、100倍強かった……ぜ!」

 

流れる水のように、太夏は攻撃をさばき、かわし、偽りの人形に

拳を叩き込んでいく。

 

「おいおい……4対1なのに、押しているぜ、一夏の親父さん!」

「ああ。基本は、俺達と同じ敵の攻撃を受け流す形だけど……

 使いこなしも威力も俺達と桁違いだ!?」

「だけど、このままじゃ勝てない。

 彼の攻撃は、奴らに決定的なダメージを与えられていない」

 

体術で鋼の体を持つ異形達を押している太夏に、弾と一夏は驚くがカズキは

厳しい声を上げる。

確かに、太夏の拳は変身した一夏と弾よりも鋭く重いが、ロボット達を

倒すまでには至っていなかった。

 

「本来の力を出せてないのか、あいつらの体が直接攻撃が効きにくいような

 金属でできているからなのか……どっちにしろ、疲れを知らない機械相手に

 持久戦はまずい。そろそろ、俺達も……」

「ん?」

「何だ?」

『後方より接近反応』

『この気配は……』

『まさか……!?』

 

時間が経つにつれ疲労が蓄積してしまう太夏に手を貸そうとするカズキ達だったが、

背後から近づいてくる存在に、目を向けると――――。

 

「くそっ!人形でも体の硬さは、変わらずかよ!」

 

ロボット達の攻撃を紙一重でかわしながら、自身の攻撃を当てていく太夏だったが、

装甲の硬さに手を振りながら悪態をつく。

 

「けどな……それで勝ったと思ってんじゃねえだろうな?

 俺の準備運動は、万端だぜ?

 さあ!お前も起きる時だぜ……バクリュウケン!!!」

 

太夏が右手を上げるとそこには、龍を模した色あせたブレスレットが巻かれており、

そこに向かって一夏達の後ろから頭上を取り越して、光の龍が飛び込む。

そして、ブレスレットは鮮やかな金色となり生命の息吹を感じさせる。

 

「よっ!遅かったな、相棒。

 寝坊するなんて珍しいじゃないか?」

『ふん。

 お前じゃあるまいし、そんなわけないだろ。

 貴様がいつまで経っても、冬音を迎えに来ないから起きるに起きれなかったのさ』

「ははは!相変わらず、口が減らねぇなお前は!」

『その言葉、そっくりそのままお前に返してやる。

 で?

 なんで、倒したはずのメタルエンパイアの四天王が復活しているんだ?』

「どっかのバカが、こいつらの残骸を回収して直したっぽいぜ?」

『全く、面倒なことを……』

 

ブレスレット……バクリュウケンは、ぶっきらぼうな口調で一夏達と魔弾龍のような

漫才を太夏と繰り広げる。

そして、かつて倒した敵が蘇った理由を聞き、苛立ちを隠せない。

 

「……と言うわけだ、一夏やその仲間もいるんだけど、

 こいつらは、俺“達”の手で倒したい。

 行けるよな?」

『やれやれ、まさかお前の息子も魔弾戦士となるとはな……。

 その息子達の手を借りれば、楽だというのにお前という奴は昔から……。

 まあいい。

 それが織斑太夏という男だというのは、よく知っている。

 ……行くぞ!』

「おお!」

 

バクリュウケンは、光を放つと一瞬でブレスレットから右腕を覆う盾へと

姿を変えた。

 

「バクリュウケンキー!発動!」

『チェンジ!バクリュウケンドー!』

「バクリュウ変身!」

 

太夏が、取り出した魔弾キーをバクリュウケンに差し込むと

光り輝く白い龍が飛び出し、咆哮を上げると太夏へと向かう。

太夏が光に包まれると……

 

「バクリュウケンドー!……ライジン!」

 

右手に盾を構え、白いスーツに白銀の鎧を纏った、リュウケンドーと同じ

出で立ちの戦士が現れた。

 

「バクリュウケンドー……」

「あれが、魔弾戦士としての父さん……!」

「親子っていうか、一夏とそっくりじゃねぇか!」

『てか、何で剣じゃなくて盾?』

『いや……武器に使う力を身体能力に回しているのなら……!』

『動くようだ』

「ぶっ飛べぇぇぇっっっ!」

 

バクリュウケンドーが、素早くロボットの一体の懐に入り込むと

真っ直ぐ右ストレートを叩き込む。

変身前はぐらつかせる程度であったが、今度は部品をまき散らしながら

吹き飛んでいく。

 

「ハイジョスル、ハイジョスル」

「ハイジョハイジョジョジョジョ!!!」

「ハイ……除、排ジョ」

「排除排除って、それしか言えねぇのか!

 アクセルキー、発動!」

『アクセラレーション!』

 

バクリュウケンドーは、魔弾キーを発動させ拳を唸らせる――。

 

 

 





ギンガマンのブルブラックと同じく、オルガードは今回で
退場です・・・。
しかし、その魂は!

そして、帰ってきた一夏と千冬の父親は
一夏を大人にした感じですが、どこかイタズラ小僧の面影を
におわせています。
道着は、太極拳のようなイメージです。

復活させられた四天王は、「熱血最強ゴウザウラー」の
幹部四人です。ですが、自分の意志はなくプログラム通りに
動く魂なき人形です。

太夏とは敵でしたが、敵としての絆というものがあるので
今の姿を太夏は我慢できません。

そんな彼が変身した姿は、原作のマスターリュウケンドーと同様に
リュウケンドーの色違いですが、剣を持たず相棒は
ゴッドリュウケンドーの盾のようになります。
基本形態のこれでサンダーリュウケンドー以上のスペックと
なっております。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ただいま――


今回は、ギャグメインだったからか早くできました。
笑ってもらえれば幸いです。


「バクリュウマシンガン!」

 

魔弾キーを発動させたバクリュウケンドーが、拳を一発放つと

受けたロボットの装甲には拳の跡が10個刻まれ、体からはバチバチと

火花を散らす。

 

「もう一丁!ストームキッッックぅ!!!」

 

バクリュウケンドーは目にも止まらぬスピードでその場で駒のように回転すると

その勢いと熱を殺さぬままエンジンタイプのロボットの胴体に、蹴り込む。

 

「%&$#“@?>!!!」

 

蹴り込まれた後は、熱を帯びているのか赤く変色し空気を焦がしていた。

 

「なるほど。全身じゃなくて“体の一部分”を加速させているのか」

『どういうことだよ?』

「俺達の烈風は、自分自身を加速させて攻撃しているけど、

 バクリュウケンドーは腕や足の一部分を加速させることで、普段と

 変わらない速さの部分と合わさって、速さの差を出しているんだ」

「相手からしたら対応しにくいですね、それ」

「弾丸が、途中で加速するみたいなもんすか」

『太夏の体術も緩急をつけているな』

『それだけではない。

 私達が行っている“連携”を一人で行っている』

 

バクリュウケンドーの戦いを見守っていた一夏達は、

その終わりが近いことを感じていた。

自分達が複数の敵を相手する時に、わざと相手がよけるように技を放って

敵を一か所に集めて倒すように、バクリュウケンドーも4体のロボットを

一か所に集めたのだ。

 

「止めだ!ファイナルキー、発動!」

『ファイナルブレイク!』

「バクリュウケン……無刀――魔弾斬り!!!」

 

バクリュケンドーは、右手を手刀に構え横へ一閃すると4体のロボット達を

真っ二つに切り裂いた。

 

「眠れ……今度こそ、永遠に――」

 

バクリュケンドーは背を向けたまま、ロボット達へ手向けの言葉を贈る。

心なしかロボット達の顔は、一瞬どこか微笑んだように見え、爆散した。

 

「すごい……」

『ああ』

「あれで、本調子じゃねぇのかよ親父さん……」

『私達と同じ更なる変身もできる可能性もある』

『てか、大丈夫なのかよカズキ?

 彼氏にとって彼女の父親っていうのは、世界で一番面倒な相手だろ?』

「う~ん……どうしようか~?」

 

一夏達が、バクリュウケンドーこと太夏の強さに呆然としていると

ザンリュウジンがカズキを茶化してきた。

男にとって恋人の父親ほど、恐ろしい強敵はないのだ。

だが、カズキは大したことじゃないと言いたげに呑気にとぼけるだけであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さて、それじゃみんなの腕前を見せてもらいましょうか♪」

 

何の変哲もない平凡な家庭の台所。

一日中勉強したり、働いたり、遊んだりとしてお腹を空かせた家族のために

お母さんが腕を振るって晩御飯を作る戦場でもあるのだが、織斑家の台所ではまさに

世界大戦並の緊張感が漂っていた。

想い人に手料理を振るうまたとない機会であると同時に、

母親代わりである雅にも見てもらうこともあって、

恋する少女達は火花をこれでもかとバチバチとさせていた。

変わらないのは、食材とにらめっこして何を作ろうかとワクワクしながら

頭をひねっているラウラぐらいである。

 

「雅さん。ここに私がいる意味は、あるんでしょうか?」

「う~ん、私も彼女達の邪魔をしたくないって千冬の気遣いもわかるんだけど、

 カズキ君から絶対に千冬を家にいさせるように頼まれたのよね~」

「カズキの奴が?」

「何でも、と~~~ってもびっくりするサプライズプレゼントを

 用意できたらしいのよ」

「サプライズって、バラしたら意味が無いのでは……?」

「それが、バレていてもすっごく驚くプレゼントだから、寧ろバラしてほしいだって」

「何ですか、それは……」

 

カズキが去った後、たまにはのんびりと時間をつぶすのも悪くないかと

散歩していた千冬は、雅からの電話で家に戻っていた。

その理由を尋ね相も変わらず、騒がしい親友と同じく意図が読めないカズキに

千冬は呆れ交じりのため息を一つこぼす。

 

「中国4千年の技を見せてあげるわ!」

「この材料ですと赤が足りませんわね……」

「だから、見た目より味を気にしろセシリア!」

「ふむ……この“ほうちょう“というものより、ナイフの方が扱いやすいな」

「ラウラ、ちょっと待って!」

「流石にこれだけいると狭いわね、簪ちゃん?」

「準備だけでも一苦労……」

「譲り合う気はなさそうですね、みんな……」

 

そこそこ広い織斑家の台所だが、流石に8人も料理をしようとしたら

ものすごく手狭となり、なかなか料理は進まない。

しかも、中には常識をぶっ飛ばした調理をしようとする者もいるため、

果たして我が家の台所は原型を保っていられるのだろうかと、

若干不安になる千冬だった。

その光景と千冬を雅は、面白そうにニコニコ見ているのであった。

 

ピンポ~ン――。

 

時間と共に混沌としてきた織斑家に来客を知らせる音が鳴り響く。

 

「お客さんみたいね。悪いけど、見てきてくれるかしら千冬?」

「ええ、構いませんよ。どうせ、何か企んでるカズキでしょうが……」

「ふふふ……♪」

 

玄関へと進んでいく千冬の背中を見つめる雅の顔は、仕掛けたイタズラに

はまるのを今か今かと待っているような顔であった。

 

「はい、どなたですk……」

「よっ!ただいま、千冬♪」

「…………」

 

カズキが自分を驚かせるために何を仕掛けてきてもいいように多少身構えていた

千冬だったが、予想外の人物に面食らってしまった。

扉を開けた先で待っていたのは、IS学園の制服を着た一夏?だったのだから。

 

「ははは!感激で声も出ないみたいだな♪って、うごっ!?」

「何の真似だ、貴様……。一夏に変装などして……」

 

気さくに千冬へと声をかけた一夏?は問答無用で、顔面に拳を叩き込まれて

吹っ飛ばされる。

どうやら、カズキが一夏に変装したと千冬は思っているようだ。

 

「い……いい拳を放つようになって、俺はうれしいぞ千冬……」

「だから、いつまでふざけているんだ、カズキ」

「別にふざけちゃいないよ?千冬ちゃん」

「こんなことする意味、あったんですか?」

「一夏と違って、感動の再会とは程遠いっすね~」

 

拳をボキボキ鳴らして一夏?を見下ろす千冬の前に、カズキ、一夏、弾が

その姿を見せ、千冬は目を見開く。

殴り飛ばしたと思ったカズキだけでなく、一夏もいる。

……なら倒れているこの男は?

 

「えっ?何?ひょっとして、俺だってわかってなかったの千冬?」

「千冬ちゃんは、意外とうっかりさんなんですよ~」

「あ~確かに、しっかりしているけど冬音に似てうっかりな所もあったな~」

「冬音……?……まさか!?」

「そうだよ、千冬姉。俺達の父さん、織斑太夏だよ」

「おう!帰ってきたぜ、千冬♪」

 

開いた口が塞がらないとは、このことだろ。

11年間も音信不通であった父親が、何の前触れもなく

旅行から帰ってきたような気軽なノリで現れたのだから、色んなものが通り越して

千冬は言葉も出てこない。

 

「驚くのは、まだ早いぜ?」

「サプライズは、もう一つあるよ千冬ちゃん♪」

「そうだぜ、千冬姉。さあ……」

「なっ!?」

 

一夏が玄関から見えない陰から車いすを押してくると、

千冬は太夏の帰りよりも驚愕する。

車いすに乗ってるのは、ゆったりとした空気を纏った女性で

自分を見て微笑んでおり、その顔は自分とそっくりであった。

当然と言えば当然の可能性である。

父親の太夏が帰ってきたのなら、母親の冬音も帰ってきてもおかしくない

ことは……。

 

「か、母さ……ん?」

「うん、そうだよ千冬」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「さぁ~て。用事も済んだし、冬音を迎えに行きますか~」

『敵の精神汚染から守るために私が憑依していただけだから、

 肉体的には何の問題もないはず。

 もう、目覚めているころだろ』

 

かつての敵の姿を模した人形を破壊し、太夏は体をほぐしながら

一夏達の元に戻ると想い人を迎えに行こうとしていた。

 

「あっ!そうだよ、父さん!ここに、その……か、母さんもいるって!」

『ということは……』

『織斑家、全員集合となる』

「おお!やったな、一夏!」

『ここから町までちょいと離れてるな』

「じゃあ、さっきみたいに風術で……」

「「断る!!!」」

 

冬音がいるであろう町まで、ここに来たように風術で移動しようかと

にこやかに風を手に纏わせたカズキが提案すると、一夏と弾は全力でそれを拒否した。

 

「この病院だな、バクリュウ?」

『ああ、間違いない』

「ここにねぇ~」

「ぜぇ……ぜぇ……。な、何でこの二人はピンピンしてるんだよ……?」

「お、俺達はけっこう、全力で走ってたよな?」

『弾、このままだと天に昇ってしまうのではないのか?』

『呑気に言っている場合か、ゴウリュウガン!』

『戻ってこい!弾!!!』

 

風術での移動をしなかった一行は、徒歩で町まで来たのだが、

とある病院の前で太夏とカズキが平然としているのとは対照的に一夏と弾は、

息も絶え絶えであった。

同じスピードで駆けてきたはずなのに、この差は鍛え方や体力の差なのだろうかと

口から出ている魂のような半透明状態の弾は、相棒に怒鳴るゲキリュウケンや

戻って来いと言うザンリュウジンの言葉を“天に昇る”ような感じで聞き流していた。

 

「……っと!ん?何か、騒がしいな?」

「だから、無理ですって!」

「あなたは、11年間も眠っていたんですよ!

 いきなり、外に出るなんて!」

「ごめんなさい。でも、行かないといけないんです。

 太夏が待って……」

「冬音?」

 

病院に入ると、何やら騒がしい声が彼らを迎えた。

看護婦、もしくは医者が壁伝いにフラフラと頼りない足取りで外へ

行こうとする女性患者を止めようとしているみたいだが、太夏はその患者の

顔を見ると呆けた声を上げる。

つられて一夏も声を失い、天に昇らず戻ってこれた弾も口をアングリと開けて驚く。

魔弾龍達も似たような反応の中、カズキだけがへぇ~と感心していた。

 

「冬音!」

「太夏……!」

 

太夏は、冬音を見ると傍に駆け寄り互いの存在を確かめ合うように

抱き合う。

そこに、言葉は必要なかった。

ただ、一番愛しい人が自分の手の中にいる。

それだけで、今までの離れていた時間が埋まっていくようだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、その後周りにいた俺達や医者なんか目に入らないって感じで

 10分ぐらい抱き合っていたけど、俺や一夏がツッコまなきゃ

 一日中ぐらいやってたんじゃないんすかね、あのお二人?」

「否定できないね、それは。

 一夏と明のイチャイチャなんか、目じゃないんじゃないかな?」

 

冬音の登場に千冬が固まっている傍らで、弾は病院での出来事を

思い出して呆れた目でどこか遠いところを見る。

カズキは、クククと面白そうに笑う。

これから見れるであろうものを思えば、外に出るために必要な最低限の

検査や異世界での転院等の後始末にかかった苦労なんて、些末なことだと

ワクワクが止められなかった。

 

「ただいま、千冬。大きくなったね~」

「え……あ、その……」

「びっくりしたよ~。太夏やバクちゃんから聞いたけど、

 私と太夏がいなくなって11年も経ってたんだね。

 その間、一夏を守ってくれたってことも……」

「そ、そんな私は……べ、別に……。

 み、雅さんがい、いた……から……で」

「よい……しょっ!

 よく頑張ったね、千冬。流石、お姉ちゃんだ♪」

 

にこやかに語り掛ける冬音に、千冬はしどろもどろに返事をする。

一夏のように言いたかったことや文句は山のようにあるのに、あったはずなのに、

言葉が上手く出てこない。

そんな千冬に、冬音は車いすからなんとか立ち上がると手を伸ばして

千冬の頭を撫でる。

頑張った子供を褒めるように。

長い間、傍にいてやれなかった時間を謝罪するように。

 

「あ、あ……か、母さん……!」

 

温かい……。

長い間の憤りや不満が溶けていくように、冬音の手は昔と変わらず温かった。

千冬は自然と涙を流し、冬音に抱き着く。

 

「ふふふ♪何も変わってないようね、二人とも♪」

 

そんな千冬の姿を雅は後ろから温かい目でそっと見守り、彼女に続いて

覗いていた明達も言葉を失っていた。

 

 

 

「じゃあ、改めて紹介ね。

 こっちのイタズラ小僧が大人になった感じの子が、千冬と一夏の父親の……」

「織斑太夏だ♪よろしくな!

 てか、イタズラ小僧って何?」

「それで、こっちが……」

「織斑冬音です♪」

 

このままいつまでも玄関にいてもというわけで、頃合いを見て雅が

千冬達を居間へと移動させた。

昼間、写真を見せた千冬と一夏の両親を紹介される明達がだったが、誰も

声を出さなかった。

それは、想い人の両親の前だからというわけでない。

一夏と弾もこの状況をどうすればいいのかと、オロオロしていた。

 

「あ、あの……か、母さん。そ、そろそろ……///////」

「うん?」

 

あれからず~~~っと、千冬は冬音に頭を撫でられ続けているのだ。

そんな自分の姿を一夏やカズキ、雅だけでなく生徒達や弾にも見られているので

気恥ずかしくて顔を赤らめながら冬音に抗議するも、ただ“どうしたの?”な感じで

首を傾げられるだけであった。

冬音からしたら、頑張ってきたことを褒めているだけのつもりである。

 

「ははは!昔っから、千冬は冬音にそうされるの好きだよな~。

 確か昔、夏にテレビで怪談物の映画をうっかり見ちまった時も

 夜に怖くなって冬音の布団に潜り込んで……」

「余計なことを言うなぁぁぁっっっ//////!!!」

「ぐへっ!?」

 

口は禍の元と言わんばかりに、喉元に千冬の手刀による突きを受けた

太夏は椅子の上から引っ繰り返る。

 

「お、お前……冬音と扱いが違いすぎね?」

「あら、それは太夏だからでしょ?

 全くいくつになっても子供なんだから。

 昔からこんな風に手のかかる弟みたいだったのよ、皆?」

「けっ。何が、弟だよ。

 実際は、一夏や千冬どころか俺や冬音が孫でもおかしくない年増だろうが……」

「…………」

 

太夏が千冬に文句を言うと、その理由を的確に雅が説明した。

それを聞いて、太夏は誰にも聞こえないように小声でボソリと反論すると雅には

バッチリ聞こえていたらしく一瞬、無言の笑顔となり……

太夏の体は宙に浮いて、何度もぶれて床へと沈んだ。

沈めたであろう雅は、やはり笑顔で倒れ伏す太夏を見下ろすのであった。

 

「えっ?何?」

「今何が起きたの?ス〇ートアップのスイッチを押したの?」

「それともマッ〇のカードを使ったの?」

「クロッ〇アップ?

 ポー〇?」

 

目の前で起きた超常現象に、一夏達は目を白黒させ弾、鈴、簪が現象の正体と

思われるものを口にするが、雅はそれに微笑むだけであった。

 

「本当に成長しないわね、太夏は。

 あなたも大変ね、バクリュウケン?」

『ふっ。もう、慣れたよ』

「「って、待たんかい!!!?」」

『な、何を普通に話して!』

『いや、その口調からすると……』

「あ~やっぱり、知っていたみたいですね。

 俺達のこと」

『やっぱりって、カズキ!お前、この人に知られていること

 わかっていたのかよ!』

 

気の置ける知り合いに話しかけるような自然に、バクリュウケンに話しかけた

雅に一夏達は再び驚愕するが、カズキだけは納得していた。

 

「別にわかってなんかなかったよ?

 知られているかもとは、思っていたけど確かめようにも

 俺以上に色々と鋭そうだったから、下手に探りを入れられなかっただけだよ?」

「ま、まあ……要するに“亀の甲より年の劫”って奴だな……」

 

カズキが肩をすくませながら、雅に自分達魔弾戦士のことを知られているかもというのを

確認しなかった理由を言うと、太夏がヨロヨロと立ち上がりながら余計な一言を

口にして、再び雅によって床へと沈められた。

殴られたのか蹴られたのか、どうやって沈められたのかは、誰の目にも捉えられなかった。

 

「と!言うわけで、私も冬音も魔弾戦士のことは知っているから、変に気遣う必要は

 ないわよ?」

「じゃあ、何で知っているって俺達に言わなかったんですか、雅さん?」

「そっちの方が緊張感があったでしょ?」

 

一夏の疑問に答える雅だったが、本当はその方が面白そうだったから♪

ではないのかと、冬音を除く全員が思った。

 

『ところで気になっていたのだが、やたらと女子が多いな?』

『ん?ああ、彼女達は全員、一夏のクラスメートだ』

『弾だけ違う学校である』

『てか、一夏以外の生徒は全員女の学校だけどな~』

「なんだよ、そりゃ?女子高なのか、それ?」

「まあ、ある意味では女子高でしたね」

 

バクリュウケンがふと気になったことを口にして、魔弾龍達の説明を復活した

太夏が聞き返すと、カズキは面白そうにISについての説明を簡単に付け加えていく。

 

「女にしか使えないはずのパワードスーツを動かしたから、女の園に

 入学ってそんなマンガみたいな話がねぇ~」

『それを言ったら、俺達もある意味マンガみたいな話と言うのではないか?』

「そりゃそうだけどよ~。でもよ、そんな男の夢みたいな場所にね~」

「弾達にも言ったけど、そんないいもんじゃないぜ?

 何かと力仕事は押し付けられるし、カズキさんといると目をギラギラ

 させて見てくる子とか何かと落ち着かないんだよ。

 あれ?そう言えば、千冬姉。母さんは?」

「母さんは、私を撫でていると何かに気付いたのか

 自分の部屋に行ったよ……」

「部屋って、雅さんが絶対に入らせてくれなかったあの部屋?」

 

感覚的に弾達に近いのか、太夏は若干羨ましそうに言うが一夏の言葉に

苦笑する。

そんな中、冬音はいつの間にか自分の部屋に戻っていたらしい。

 

「お待たせ、千冬~」

「ぶっ!か、母さん/////!」

「何だよ、その恰好は!」

 

戻ってきた冬音の姿に千冬と一夏は吹き出してしまう。

彼女は、フカフカモフモフなウサギの着ぐるみパジャマを着てきたのだ。

 

「気づけなくて、ごめんね~千冬~。

 さっきから、止めてって言ったのはこっちで撫でてほしかったからなんだよね。

 千冬、昔からウサギさん大好きだもんね♪」

「い、いや!そういうのではなくて!

 だ、だからもう撫でなくていいから//////!!!」

 

冬音は再び千冬の頭をなでなでし始め、さっきまで以上に顔を赤くした千冬が

抗議するも聞く耳持たずといった状態で、ニコニコと千冬を撫で続ける。

 

「カ、カズキ!

 その“わかっているよ。一夏やみんなに見られて恥ずかしいけど、

 本当は久しぶりの感触でちょっとうれしいな////。って思っているのは”

 みたいな温かい目はやめろぉぉぉっ////////!!!!!」

「こんな風に冬音大好きな千冬だけどよ?

 昔、“おとうさんのおよめさんになる~”とか言って、俺のお嫁さんは

 冬音だから無理だなって言われて大泣きしたこともあるんだぜ~」

「何、適当なことを言ってるんだ、このバカ親父!!!」

「また、そんなしょうもない嘘をついて。ね、冬音?」

「そうだよ~太夏?

 千冬が大泣きしたのは、一夏も大きくなったら素敵なお嫁さんを

 もらって自分で歩いていくんだよね~って話した時でしょ?

 ね?雅さん」

「そうそう~」

「かあぁぁぁさぁぁぁぁぁんんんんん////////////////////////////////////////////!!!!!」

 

一夏達は、カズキとはまた違ったベクトルで千冬を翻弄する冬音に唖然としていた。

カズキと違って本人にからかう気が全くないのが、またすごい。

そんな母と娘の微笑ましい?やり取りを、カズキは“温か~~~~~い”目で

見るのであった。

 

「一夏が独り立ちするのが嫌で大泣き……違和感がないな」

「“パパのお嫁さんになる~”より、よっぽど真実味があるし、

 簡単に想像できるわね、それ」

「…………」

 

暴露された千冬の知られたくない過去(ブラコン)に、箒と鈴の二人は

頷きながら納得するのを感情が消えた目で千冬に見られ、太夏のように

頭から煙を出して床に沈められるのであった。

 

「ウサギが大好きって、だから千冬姉は束さんとも気が合うのか」

「あら、他人事のように言っているけど、あなたもよ一夏?」

「俺も?」

「あ~そうだった~そうだった~。

 一夏もこのウサギの格好をした冬音に、抱かれるのが好きだったよな~。

 こいつはよく、ぐずってな~?

 俺があやしてもちっとも泣き止まないのに、冬音や千冬があやすと

 すぐに機嫌がよくなってな……」

「ふ~ん?」

「へ~」

「昔から一夏は一夏……」

「な、なんだよ、その目は」

 

自分よりも妻と娘の方がよかったのかと太夏が遠い目をしていると、

明と楯無はジト目でそんな一夏を見つめ、簪がそれをまとめた。

 

「じゃあ一夏も久しぶりに撫でてあげるね?

 ほら。おいで♪」

「うぇいっ!?い、いや俺は別にいいよ……。

 男だしそんな……」

「恥ずかしがる必要はないぞ、一夏?

 お前も存分に母さんに撫でてもらえ……」

「ち、千冬姉……!?」

 

自分にも飛び火した冬音の天然に仰天する一夏は、遠慮するが

目が据わった千冬に肩をつかまれ逃げ場を失う。

自分が味わった恥辱を弟にも味わせる気のようだ。

 

『これは、腹をくくるしかないぞ一夏』

「ちょっと待てって!みんなも見てるから!

 てか、何カメラ構えてやがるんだあんた!」

「俺やみんなのことは、気にしない~気にしない~♪」

「おいで、一夏♪」

「ちょっ!母さん待って////////!」

 

ゲキリュウケンにも匙を投げられ、冬音に抱かれた一夏は千冬と

同じくよしよしと撫でられる様をこれでもかと見られたり、カズキに

ビデオで撮られるのであった。

 

「ふふ、千冬と一夏のウサギ好きは太夏似よね、冬音」

「はっ?俺似?別に俺は、ウサギ好きって言われるほど好きじゃ……」

「うん。太夏も好きだよね、大人のウサギさん……バニーガール♪」

「ぶふっっっっっ!!!!!」

 

どこに持っていたのか、冬音が取り出したバニーガールの衣装に

太夏は思いっきり吹き出す。

 

「この子ったら、何も知らない冬音を縁日デートで人気のない所に

 連れ込んだり、夜の海辺で……ふふ♪」

「あの時は星がきれいだったよね~太夏?」

「人気のない場所に連れ込んで……」

「夜の海辺……」

「???」

「いやぁぁぁぁぁぁっっっ//////////////////////////////////////!!!!!!

 止めてぇっ!そんな、冷ややかな目で俺を見ないでぇぇぇ!!!!!」

 

千冬と一夏をいじったから、次は太夏の番とばかりに雅は彼をいじり始め、

女性陣は頭に?を浮かべるラウラ以外冷たい目で太夏を見る。

そんな視線に耐えられず、太夏は顔を両手で覆って床をゴロゴロと転がる。

 

「他には、やたら露出の多い服を着せたり、男の子がベッドの下に隠している

 本のようなことを……」

「うぎゃぁぁぁぁぁっっっ/////////////////////!!!!!」

「雅さん、待って/////!親のそういうことは、聞きたくない///////!」

「何で、母さんは平気なの!?」

「うん?」

 

追い打ちをかける雅に太夏は奇声を上げ、千冬は顔を赤くして雅を

止めようとするも雅はただおもしろそうに微笑むだけであった。

もう一人の当事者である冬音は、どうしてここまで太夏が恥ずかしがるのが

わからないのか、ラウラのように首をかしげるだけであった。

 

「いい加減にしろよ、あんた!

 そんなに俺をいじめて楽しいのかっっっ!!!」

「あら、いじめてなんかないわよ?

 太夏をいじるのがすっっっごくおもしろいから、からかうのよ?」

「わかってたけど、何の迷いもなく言い切りやがったよ!

 ちくしょうっっっ!!!」

『諦めろ。お前は、そういうからかわれる星の下に生まれたんだ』

「気の毒にな~。これからもっとからかわれるんだろうな~」

『うむ。カズキが喜々とするのが容易に想像できる』

『ああ、間違いなくな』

『面白れぇことになりそうだ♪』

「いぃぃぃっ!?」

 

太夏の心からの叫びに雅は毛ほども揺るぐことは無く、太夏はただ

悔し涙を流すしかなかった。

そして、魔弾龍達と弾がこれからはカズキにもからかわれるのかと

指摘すると雅と冬音、当の本人であるカズキを覗いて憐みの目を太夏に

送った。

 

「…………」

「やめてよっ!

 もう、俺のライフポイントはゼロなのよ!!!

 これ以上、僕のガラスのハートを傷つけないで!」

 

床に手をついて涙する自分へと無言で近づいてくるカズキに、

太夏は首を横に激しく振りながら来るな来るなと言うが、カズキは止まらず……

無言で太夏の肩を優しく叩いた。

 

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

「ん?」

「あら?」

『へっ?』

『は?』

『む?』

『?』

 

カズキの予想外の行動に、一同は間の抜けた声を上げる。

 

「……お気持ちは、わかります……すごく――。

 俺には、姉弟子というのがいまして……。

 いきつけの酒場に呼び出されたら、ツケを踏み倒したと怖いお姉さん達に

 身ぐるみはがされて、皿洗いさせられたり……。

 修行と言って、極寒の海をシャケと一緒に泳がされたり……っ!」

 

太夏の肩に手を置きながら、過去の思い出したくない記憶を吐露していく

カズキは我慢できなくなったのか口に手を当て涙声になると、

顔を皆から背けて震え出す。

チラリと見える彼の横顔からは涙が頬を伝っていた。

 

『マ、マジ泣きしてるぜ……俺の相棒……』

「ね、ねぇ?何なのよ、その姉弟子って」

「いや、鈴。俺達もそんなに詳しくは知らねぇんだよ。なあ、一夏?」

「ああ。

 俺達が聞いているのは、負けや借りは必ず返すカズキさんが絶対に二度と

 戦いたくないというより関わりたくない人らしいってことだな。

 何でも、人生ワースト2の敗北だったみたいだけど……」

『話している時も苦い顔で、小刻みに震えていたな』

『ゲキリュウケンの言うように、苦虫を嚙み潰したような青い顔であった』

「ね、姉さんや千冬さんを手玉に取れるカズキさんが……」

「関わりたくないだなんて……」

「どんな、とんでもない人なんだろう……?」

「だが、シャルロットよ。兄様さえ恐れるすごい人なら、私は一度会ってみたいぞ!」

「待つんだ、ラウラ!」

「無謀な好奇心は身を滅ぼすわよ!」

「触らぬ神に祟りなし……」

「そうか……お前も苦労したんだな……っ!」

 

ヒソヒソとカズキの姉弟子について意見を述べる一夏達を尻目に、太夏は

カズキと同じようにカズキの肩を優しく叩き涙する。

 

『待てよ?そこのバンダナの少年は一夏の友人みたいだが、

 カズキとやらはどういう関係なんだ?

 お前の娘とも親し気のようだが……?』

「っ/////!」

 

バクリュウケンが発した言葉に、ピシリと何かにヒビが走る音が響き渡り、

千冬は顔を赤くする。

 

「…………そう言えば、千冬のことを“ちゃん”づけしてたよな……お前……」

「ははは。俺と千冬ちゃんの関係は……どう言えばいいんだろうね、千冬?」

 

引きつりながら低い声でドスを利かせてくる太夏に、カズキはいつもと変わらない調子で

千冬に話を振る。

ありのままを自分が言ってもいいが……。

 

「(こんな場面で千冬に振るとか……)」

「「「「「「「「「「(どんだけドSだよっ!)」」」」」」」」」」

『『『(ドSだ……)』』』

 

身内や生徒の前で告白させようとするカズキのSっぷりに、盛大に引きつる

少年少女達と魔弾龍達であった。

 

「カ、カズキは……その……。

 ……です////////」

「ごめんね、千冬。よく聞こえない」

「だから/////////////!!!

 こ……こここここ恋人だよ/////////!私の///////////!!!」

 

逃げ場はないと観念したのか顔を真っ赤にして、千冬は聞き返してきた冬音と

太夏の前で自棄気味に自分とカズキの関係を明かした。

 

「そうなんだ~。よかったね、千冬。素敵な王子様と出会えて♪」

「カズキさんは、王子様って言うより言葉巧みに相手をだまくらかす魔法使いだと

 思うけど……」

「ふふふ…………ハハ……あはははははは!!!!!!!

 上等じゃねえか!

 千冬と付き合いてぇのなら、俺を倒してからにしやがれ!!!

 表に出ろぉぉぉっっっ!!!!!」

 

案の定というかお約束というか、一瞬で怒りのゲージをMAXにした太夏は

カズキと決闘しようとする。

 

「あら?

 11年もほったらかしにしてた父親に、娘の恋路に口を出す権利

 があると思っているの?」

「ぐぎゃぶっ!?」

 

決着は第三者の正論が、急所に当たり一瞬でついてしまった。

効果はバツグンである。

 

 





一夏と千冬の両親を出すと決めてから、父親はいじられ役で母親は
天然と考えていました。
ウサギの着ぐるみパジャマは、今週の食戟のソーマで出てきた
イメージです。

余計な一言で雅の制裁を喰らう太夏ですが、他にも知られたくない
恥ずかしい秘密とか、全部知られております。

ギュグ風で書くのは楽しかったです。
次回もギャグは続くかもwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

修業開始!


やっと、夏休み編のメイン(のはず)となる修業に
入れます(汗)
それでも、半分は前回からの続きでwww
修業は、細かくやる予定はなく、終わった後に回想という形に
なっていくと思います。
龍の戦士たちの日常の方で、その時の様子を上げるかも。

気づけば、投稿を始めて3年がたつのにまだ物語は中盤。
これもひとえに、私の遅い執筆が原因です(苦笑)
しかも、最近は自分に合っていない仕事をやっていくことの
苦しさに悩んでいます・・・。

その度に、皆さんの作品に活力をもらって助けられています。


「ふふ♪いいじゃないの~。

 あなた達と同じで結婚前だから、健全なお付き合いを

 しているみたいだし。

 娘の人生最大の見せ場であるウェディングドレス姿を

 写真や録画じゃなくて、実際に見ることができるんだから♪

 孫の顔もね~」

「雅さん/////////!」

 

あっけからんと笑いながらとんでもないことを口にする雅に、千冬は

顔を真っ赤にして反論し、一夏達は苦笑するしかなかった。

 

「ま、孫の顔はいいけど、あんたには孫って言うか曾曾孫じゃねーの?」

「…………」

 

フラフラと雅からの効果はバツグンな攻撃から起き上がる太夏の余計な一言に、

一夏達は“懲りないな~”と心を一つにしていると雅は無言で笑みを崩さなかった。

 

「な、何だよ……。や、やるって言うのか!」

「太~夏~?あんたって子は、本当に……はぁ~。

 しょうがないわね。

 これだけは、勘弁してあげようと思っていたけど……」

「?」

 

来るであろう制裁に身構える太夏であったが、雅は呆れのため息をこぼすと

誰もが普通に使っている何の変哲もない学習ノートを取り出した。

 

「それじゃあ……こほん。

 “もう間もなくだ。幾度となく繰り返された運命の戦いの幕が開くのは……。

 来るべき戦いに備えてきたが、俺は迷っている。この馬鹿馬鹿しくも

 愛おしい日常と別れねばならないことを……”」

「そ、それはぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!???????」

 

雅がノートの中身を朗読し始めると、太夏はムンクの叫びのようなポーズで

驚愕の声を上げる。

 

「“わかっている。この日常を守るために、戦うのが正解だと……。

 だが、いつの間にか当たり前になっていたこの日常は……!”」

「ああ~。それって、太夏が昔書いていた小説だよね?

 雅さんが持っていたんだ~。懐かしい~」

「ま、待て冬音!待ってください!

 それ以上は、らめぇぇぇぇぇっっっ////////////////////!!!!!」

 

雅が朗読しているモノの正体がわかった冬音は懐かしそうに微笑むが、太夏は

それどころではないと止めてくれるよう懇願する。

 

「なるほど。今、雅さんが読んでいるのは、中学生の頃にかかる病気的な

 “アレ”か~」

 

カズキが、暴露されている太夏の黒歴史の正体を明かすと、

それが分かった面々は苦笑するが、何が何だかわからないと

箒、明、ラウラは頭に?を浮かべ、弾と鈴の二人は頬が引きつっていた。

 

「許してつかぁさい!堪忍してくらぁさい!」

「しょうがないわね~。

 そこまで言うなら……今度は、音楽と友達になろうとギターにハマった時のこれを……」

「ごべんなざいぃぃぃ!

 もう生意気なことを言いませんから、許じてぇぇぇ//////////!!!!!」

「他には、小学生の時にトイレの花子さんに会ってから、怖くて夜にトイレに

 行けなくなったとか♪」

「い…………やぁぁぁぁぁっっっっっ~~~~~///////////////////////////!!!!!」

 

その後、小一時間程かけてたっぷりとタイムマシンや時の電車を見つけたら全力で

止めに行くであろう過去の出来事を一夏達に知られてしまった太夏は、生気の抜けた

搾りカスとなった。

時折、聞き捨てならないことを雅が口にしたがツッコミを入れる勇気のある者は、

一人もいなかった。

 

「……し、死んだ……。あ、あんなのを……娘や息子、その友達に知られたら

 もう生きてけない……」

「ほほほほほ♪」

 

虚ろな目で、現実逃避をしたくても逃げられない太夏を見て優雅な笑いをする雅に、

全員が絶対にこの人を敵に回すまいと固く誓うのであった。

 

「さて、そろそろ夕食の準備を再開しなければな。

 人数が増えたからもう少し待っていてくれ、お兄ちゃん」

「お兄ちゃん?」

 

何とも言えない空気の中、それを読んだのか読んでないのかラウラが

中断していた夕食の準備をしようと声を上げるが、一夏がお兄ちゃんと呼ばれ

冬音が首を傾げた。

 

「うむ!一夏は私のお兄ちゃんなのだ!」

「簡単に説明しますと、妹分と言いますか……」

「つまり……私の新しい娘ってことかな?

 ……ラウラちゃんだっけ?

 じゃあ、おいで♪」

 

ラウラが胸を張って説明するのをカズキが要約すると、冬音はう~んと

何回か首を傾げると何かを納得したのか、膝の上をポンポンと叩いて

ラウラを自分の下に誘って、抱きかかえる。

 

「よ~し~よ~し~」

「ほわっ/////////////!?

 シャ、シャルロット!何か、すごくフワフワするぞ////////!!!」

 

千冬のように冬音に抱かれて頭を撫でられるラウラは、雷に打たれたような

初めての感覚に衝撃を受け、ほわわ~な緩んだ顔を見せる。

 

「ラウラが喜んでいるのは、うれしいけどちょっと複雑……」

『これが、母親というものか』

『全次元世界で、最強に上げられるのも納得である』

『色んな意味で、勝てる気がしねぇ~な~』

『冬音に勝てるのは雅殿ぐらいだろう』

「それよりも、千冬ちゃん?

 自分の席がラウラに取られて嫉妬とかしてない?」

 

ポカポカしているラウラを見て、シャルロットは何とも言い難い感情が沸き、

それを見ながら魔弾龍達は母親という生き物の偉大さを知るのであった。

そんな中、今まで気を伺っていたのか、不意打ち気味にカズキがいつものからかいを

千冬に振り激しい応酬が始まる。

 

「本当に千冬はカズキ君と仲良しね~。

 そう言えば、もしも妹が欲しいって言っていたら、

 妹とカズキ君の取り合いをしたのかしら?」

「妹が欲しいってどういうことですか、雅さん?」

 

IS学園名物の痴話喧嘩も雅にとっては、昔から見慣れたものらしく

止めもせず楽し気に眺める中、雅がこぼした言葉に一夏が疑問の声を上げる。

 

「あら、言ったことなかったっけ?

 昔、千冬の誕生日に太夏が“プレゼントは何が欲しい?“って聞いて、

 弟が欲しいって言ったから、あなたが生まれたのよ?」

「はい?」

「ちょっ/////!」

「だぁぁぁぁぁっっっ!!!

 何でそんなことを知っているんだ!?」

 

サラッと明かされた一夏誕生のきっかけに、全員目が点となり、千冬と太夏は

悲鳴を上げる。

 

「え?だって、弟が欲しいって言う千冬に、太夏と冬音に頼むといいわよって、

 教えたのは私よ?」

「そ、そう言えば、そうだった/////////////////」

「太夏は、女の子の頼みには弱いわよね~。

 赤ちゃんが欲しいって冬音に頼まれたから……♪」

「ひょうぇぇぇぇぇいぃぃぃぃぃっっっ///////////////////////!!!!!」

「ははは//////」

 

最早何語かもわからない言葉で奇妙な悲鳴を上げる太夏を見ながら、冬音は

その時を思い出したのか頬を染めるのであった。

 

「俺……何か間違っていたら千冬姉の弟じゃなくて妹になっていたの?」

「俺としては、そっちの方が蘭的に助かったけどな」

「千冬さんが姉さんのように、シスコンでなくブラコンでよかった」

「そうですわね」

「全く、ブラコンさまさまね」

「それだったら、僕達が逆に男の子だったら……」

「シャルロットちゃん?

 一夏君が女の子で私達が男の子だったら、IS学園で会えないわよ?」

「今が一番ベストな形……」

「そういうIFは、考えるだけにしておきましょう」

 

好き勝手に自分のブラコンに感謝する一夏達を見て、後でどう料理してくれようかと

考える千冬に一夏達は気が付かなかった。

 

「さてと!楽しい昔話は、また次にするとして。

 ラウラちゃんの言ったように、夕飯の準備を再開しましょうか?」

「じゃあ俺はコーヒーの準備を人数分しておくよ……」

「えっ、カズキさん?」

「それぐらい、俺が……」

「いや、いい。多分だけど、大人の味な苦~~~いのが必要になる気がしてね……」

 

大人組だけでなく人数分のコーヒーを準備しようとするカズキに、頭に?を浮かべる

一夏達を雅は意味深な笑みで見つめるのであった。

 

 

 

「……なあ、みんな?

 どれぐらい、砂糖を入れたんだ?」

「甘い方が美味しい♪とか言って、袋ごと入れたりしてないよな?」

 

それぞれの料理が出来上がり、机に並べられたものを食べながら一夏と弾は、

顔をしかめて料理を作った女性陣に尋ねる。

机の上に並んでいるのは……

 

『カレイの煮付け』 by箒

『コゲた鍋』 byセシリア

『肉じゃが』 by鈴

『唐揚げ』 byシャルロット

『おでん』 byラウラ

『夏野菜の揚げびたし』 by楯無

『豚の生姜焼き』 by簪

『かぼちゃと牛肉のバターじょうゆ』 by明

 

一部チョイスがおかしかったり、料理となっていないものもあるがどれも

申し分のない味であり、マンガでよくある“砂糖と塩を間違えた!”的な

問題も起きてはいない。

ISの武装を使って火力を足そうとした者が、一名いるが。

そう、料理手順に落ち度はない(約一名を除いて)。

何の問題も間違いもないのだが…………。

 

「はい、太夏。あ~ん♪」

「あ~ん♪」

 

目の前で繰り広げられるバカップル夫婦が発する桃色オーラによって、

甘味が付け加えられているのだ。

この二人、子供やその学友の前でもお構いなしに食べさせあいっこをしているのだ。

微塵も恥ずかしがらずに。

 

「甘い……」

「何だか、胸やけしてきましたわ……」

「お菓子食べてるどころか、砂糖をそのまま食べてる感じね……」

「見ているこっちが恥ずかしいよ~/////」

「これが、クラリッサが言っていたバカップルがやる、

 伝説のあ~ん♪という奴か……!」

「こうなったら、私達も一夏君にしてもらいましょう!」

「お姉ちゃん……ナイスアイディア!」

「それをするのなら、私が最初です……/////」

『この二人は、昔からこうやって甘い空間を展開して、

 周囲の人達を走らせたり、壁を殴らせたりしていたな……』

「忘れてたよ……。

 父さんと母さんは人目もはばからず、イチャイチャして

 激辛カレーだろうがマーボー豆腐だろうが、砂糖をかけたような

 甘い料理にしていたのを……」

「全く、イチャつくなら時と場所を考えてくれよ~」

『『『……』』』

 

明達が口の中に広がる甘味に苦戦していると、太夏と冬音のイチャつきをこの場で

一番理解しているバクリュウケンと千冬は遠い目をしたり呆れたりした。

それに続いて一夏も二人に呆れるのだが、魔弾龍達が一夏と千冬にジト目を

送り、ラウラを除く女性メンバーと弾はそれぞれハリセンを構えると、

一夏と千冬の頭を思いっきり引っ叩いた。

 

「っ!お前ら、何を……」

「いっ!お、おい!」

『『『「「「「「「「「黙れ」」」」」」」」』』』

「「……はい」」

 

反論しようとする一夏と千冬は、有無を言わさない一言に押し黙るのであった。

 

「???」

「まあ、自分達も同じような空間をよく広げているのにふざけるなって、感じよね~」

「なのはの両親もお二人のように桃色空間を広げるらしいですが……。

 会わせることがあったら、気を付けないと」

 

頭に?を飛ばすラウラの横で、雅とカズキは優雅にコーヒーの苦みを堪能するのであった。

 

「それにしても、この二人のやり取りを告白したばっかりの頃の二人に見せたら

 どんな反応をするのかしらね~。

 付き合い始めた頃は、見ている方がじれったくなるぐらい初々しいかったわよ~」

「そうなんですか?

 ……ああ、そう言えばお二人の告白は、

 とりとめもない会話をしてうっかり一夏が自分の気持ちをこぼしたのと

 そっくりなものだったらしいですね?」

「ええ、そうよ。

 冬音の友達が海外に引っ越すことになって、大好きな友達と

 いつまで一緒にいられるのかって話してたら、

 悩む冬音に同じように“家族になってずっといてやる!”って♪

 告白通り越して、プロポーズをね♪

 まさか、人生の大きな決断を勢いでするなんてね~」

「へぇ~」

「「ぶふぅぅぅぅぅっっっ//////////////////!!!?」」

 

世間話をする気軽さで、消し去りたい過去とは違った自分達の恥ずかしい

出来事を話されて、太夏と一夏は思いっきり吹き出す。

 

『うむ。あの時は、私も目が点となって驚いたぞ。

 プロポーズした太夏もされた冬音も、顔がリンゴのように真っ赤だったよ』

『そこは、親子だな。

 一夏も自然と口にしたのが告白だと気づいたら顔を真っ赤にして……』

「それ以上言うなっ!ゲキリュウケン!」

「お前も何サラっとバラしてんだ、バクリュケン!」

 

しみじみと当時を懐かしむそれぞれの相棒に、声を荒げる一夏と太夏で

あったが時すでに遅く……三度の飯より恋バナというのが好きな生き物である

乙女陣は冬音や雅に色々と話を聞くのであった。

根掘り葉掘り隅から隅まで。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「まさか、新たな魔弾戦士が現れるとは……」

 

とある空間でクリエス・レグドは、一夏達とデグス・エメルの戦闘映像を

眺めて考え込んでいた。

 

「デグス・エメルは敗れましたが、その役目は果たし、

 不確定要素であるオルガードも消えましたが……

 このイレギュラーはあまりにも大きい……」

 

今回の戦いは他所の誤差はあったが、9割方自分達の思惑通りに進み

大局的に見ればこちらの勝ちと見てもよいのだが、最後の最後で

それをひっくり返す存在が現れた。

 

“バクリュウケン……無刀――魔弾斬り!!!”

「新たな魔弾戦士が現れるのを考えなかったわけでは、ありませんが……。

 バクリュウケンドー。

 リュウケンドーこと織斑一夏の父であり、かつて地球を救った魔弾戦士。

 そして、新たな仲間の帰還は、家族の絆の蘇りでもある……」

 

太夏が変身したバクリュウケンドーの戦いとその後の冬音との再会の映像を

見ながらクリエス・レグドは口元に手をやる。

 

「彼らの強さは、絆が増え深まることで大きくなっていく。

 それに、オルガードも消えたとは言っても彼らの心には、新たな決意が

 生まれたようですし……。

 全く……本当にことごとく、私の予想を超えていきますね――」

 

本来の自分を取り戻して逝き、一夏達の心に何かを残したオルガードに

新たな魔弾戦士の参戦、そして一夏の家族の帰還。

今回創生種達が得たモノより、魔弾戦士側が得たモノの方が大きいと言って

いいだろう。

その事実を素直に受け止め、クリエス・レグドは楽しそうに笑うのであった。

 

「ならば、こちらが打つ次の手は……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「――てなわけで!修行だ!」

「待ってました!」

「何喜んでんだよ、一夏!

 どう見ても、ここは今までよりヤバそうな空気がビンビンじゃねぇか!」

 

太夏と冬音が一夏と千冬の元に帰ってきてから数日後、

一夏と弾は本格的な夏休みの修行を行うために、カズキに連れられてある世界の

ある草原へとやってきていた。近くには、森や川もある。

 

「ここに来たのは今回の修行で会得してもらうモノを

 見せるだけだから、心配しなくても大丈夫だよ弾。

 それを身につけない今のお前達じゃ1時間も生き残れないだろうから、ここでの

 修行はまだ先だよ」

「てことは……夏休みの終わりには、こんなヤバそうな場所で修行すると?」

 

今いる場所がどれだけ危険なのかを察した弾は、冷や汗をダラダラ流すが、

カズキから返ってくるのは楽しそうな微笑みであった。

 

『夏の思い出を修行だけにしたくなければ、強くなるしかないということである』

『生き残るためにもな』

「ゴウリュウガンとゲキリュウケンの言う通りだよ。

 ところで、二人とも。

 何で二人は、俺に勝てないかわかるかい?」

「いきなりなんですか。藪から棒に……。

 俺や弾が勝てない理由?」

「そんなのありすぎる気がするけど……

 体力とかスピードとか技とか上げだしたらキリがないぜ」

 

カズキから振られた問いに、一夏と弾は首をかしげる。

改めて考えると自分達がカズキに勝っている点など、無いように思える。

 

「……相手の動きを読んで、戦略を立てる経験かな?」

「う~ん……勝機を見逃さない集中力?」

「確かにどちらも重要だけど、そうじゃない。

 二人が勝てないのは、お前達が会得していないある力を使っているからだ。

 そして、これは鍛錬を積めば誰でもできるんだ……ちょうどいいな」

 

カズキが森の方に目をやると一夏も弾も何が?と森を見て数秒後……。

一夏と弾は反射的にゲキリュウケンとゴウリュウガンを構える。

それと同時に体長50メートルはある、巨大なトラが姿を現す。

 

「デカっ!?」

「デビル大蛇よりヤバそうじゃねぇか!?」

「落ち着きなよ、二人とも。慌てる相手じゃないから、

 そこで見ているといい。それと俺は、風術は使わないから」

 

変身キーを取り出す一夏と弾を止めて、カズキは目隠しをして巨大トラに近づく。

 

「ガラァッ!!!」

「カズキさん!」

「危ねぇっ!」

「左斜め10時方向から、右前足による振り下ろし……」

 

格好の獲物とばかりに目隠しをしたカズキに攻撃を加える巨大トラだったが、

その攻撃は目が見えないはずのカズキに簡単に避けられてしまう。

 

「おい……。カズキさん……避けただけじゃなく、攻撃の方法を言い当ててたよな?」

「ああ……。風術は、使ってないはず……だよな?」

『何かの術を使っている気配もないな』

『音や気配で避けているわけでもないようだ』

 

驚きの声を上げる一夏達の前で、カズキは巨大トラの攻撃を目隠し状態で

軽々と巧みにかわしていく。

 

「これがお前達に習得してもらう“覇気”というの力の一つ、“見聞色の覇気”だ」

『『「「“覇気”?」」』』

「感覚は気合や殺気といったものと同じで、人間ならだれでも潜在するものを

 実践レベルにまで鍛えたモノさ。

 見聞色の覇気は、身に着ければ視界に入らない相手の位置や数を把握したり、

 相手の次の行動を先読みしたりすることができるようになる」

「位置や数がわかって次の行動を読めるって……あっ」

「あっ」

「「あああっ!!!」」

 

カズキからの説明に、一夏と弾はそろって互いを指さす。

今の説明をカズキの戦いや模擬戦に当てはめると、ピッタリと一致するのだ。

 

「そして、覇気にはこういう使い方もある……ふん!」

「ゴベッ!」

 

巨大トラの攻撃を避け続けていたカズキは、一転して攻めに転じて

パンチ一発で巨大トラを気絶させた。

 

『『「「……!?」」』』

「これは、“武装色の覇気”。体の周囲に見えない鎧のような力を作る覇気だ。

 鎧と言っても、今みたいに攻撃に転用することもできるし、自分の体だけでなく

 武器にも纏わせることもできる。

 こんな風に……ね!」

 

口を開けて驚く一夏達に、カズキは目隠しを取りながら面白そうに“武装色の覇気”

の説明をし、足元に落ちていた枝を拾うとやり投げみたいにそれを放る。

円を描いて地面に落下すると落下音と共に大きなクレータを作り出す。

 

「ほとんどの人間は得意などちらかに力が偏るけど、強化していくと

 できることの幅はどんどん広がっていく。

 最後に“覇王色の覇気”。

 これは、他の二つの覇気と違って、使える者が限られている。

 簡単に説明すると、戦うまでもないぐらいの実力差の相手を気絶させることが

 できる。

 俺には使えないし、お前達も使えるかどうかわからないから、

 とりあえずは頭の隅に置いておいておく程度で構わない」

「す、すげぇ……」

「ああ……それしか言葉が浮かんでこねぇよ……」

 

人間は生身でもここまでの強くなれるのかと、一夏と弾は唖然とする。

 

「本来なら“覇気”を使いこなそうとするなら、長い年月が必要だけど

 お前達二人には資質もあるし、今までの修行は下積みでもあったから、

 死ぬ気でやれば何とかなるだろう」

「死ぬ気でやれば……ね~」

「おもしれぇ……やってやろうじゃねぇか!」

 

ニヤリと笑って修行の見込みを話すカズキに、一夏や最初慌てふためいていた

弾も俄然やる気になり、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

『最初にすごさを見せつけて、ガッチリとハートを鷲掴みにするとはね~』

「その方が集中力も違ってくるしね……。

 何とかなるって言ったけど、二人なら習得するのもそんなに難しくないだろう。

 (まあ、その後は涙と鼻水を垂れ流しながら喜ぶ地獄のメニューが、

 待っているんだけど……ね♪)

 さて、まずは……食の礼儀作法を身につけようか♪」

「「……はい?」」

 

カズキが口にした最初の修業内容に、何が来るかとワクワクしていた

一夏と弾は揃って間の抜けた声を上げるのであった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

『こんなことが……!』

「どうなってんだよ、一体……」

『パワー、スピード……総合力ではこちらが上であるが……』

 

最初の修業を行うために再び別世界へと移動した一行は、

美味なる食材であふれているグルメ世界の“食林寺”という寺へと来ていた。

しかし、そこは不思議な寺であった。

深い森の中にあり、そこに向かう際もカズキが先頭を行き、

もしも自分が歩いた道を一歩でも外れたら、永遠にこの森から出ることが

出来なくなると言われて、細心の注意でカズキの後を追ってたどり着いたのだ。

更に、入り口だと言われた場所には何もなく、合掌と一礼をするように言われ、

それを行うことでようやく姿を現したのだ。

何でも、乱暴な生物が近づくと姿をくらませる隠形樹という樹木でできているらしい。

 

そこで、一夏と弾は食林寺師範代のシュウという青年と戦ってみろと

カズキに言われたのだ。しかも、変身してだ。

勝負の決着はどちらかが、“参った”と言うまで。

いきなりのことで戸惑う二人だったが、結果は二人の敗北であった。

ゴッドリュウケンドーの斬撃もマグナリュウガンオーの銃撃も、

全てシュウに容易くかわされてしまったのだ。

反対に、シュウからかすり傷とも言えない細かな傷を気付かない内に

数え切れないほど負わされた。

もしもこの攻撃が、カズキや自分達と変わらない威力であったら、

傷の数だけ自分達の命は消えていただろうという事実に、二人は背筋がゾッとする。

そして、二人が座り込むまで体力を消耗したところで、一夏と弾は

“参った”と自分達の負けを認めたのだ。

 

「二人ともお疲れ様」

「一夏君、弾君。

 お二人ともよく鍛えられています。

 ですが、無駄な動きがまだまだ多いです」

 

座り込む二人にカズキは飲み物を渡し、それを見ながらシュウは

今の戦いの感想を述べる。

 

「無駄な動き……ですか」

「はい。

 そのため、お二人の技や攻撃は本来の威力を出し切れていません。

 もし、これからの修行をこなし……“食義”を会得すれば、

 今の数倍の威力の攻撃を数分の一の消費体力で、より正確に

 出すことができるでしょう」

「いぃっ!?で、でも食義って礼儀作法なんですよね?

 何で、それでそんなことが……」

「食義っていうのは、精神修行だけじゃなくて技術面にも

 生かされるんだ。

 まあ、これ以上は修行を進めていけばわかるさ。

 食義を会得できれば、覇気や色々な他のものを身に着けるのに

 ショートカットすることができる」

「一夏君。弾君。

 お二人には、素晴らしい才を感じました。

 是非とも“食義”を会得してほしいと思えるほどの……!」

「そして、何よりうま~い食べ物が食べれるようになるよ♪」

 

食義に隠された力とシュウの言葉に、一夏と弾は拳を叩きながら

目をランランとやる気で燃やした。

 

「――っしゃぁ!じゃあ、まずはその食義!会得してやろうじゃねぇか!」

「シュウさん!まずは、何をすればいいんですか!」

「ではまず……」

 

早速修業をシュウにお願いする一夏と弾は、最初の修業として……。

 

「「何じゃこりゃぁ!!!?」」

 

5メートルの箸でお椀の豆を食べるという内容だった。

 

「それじゃあ、一夏と弾のことを頼みます」

「はい、お二人に、必ず食義をお伝えします」

「食義を会得しなければ、とても時間が足りないからね。

 “裏のチャンネル”を使おうにも、“ペア”を飲まなきゃいけないし、

 何より“猿舞”ができないと……」

「それらを身に着けた上で、“覇気”も習得しなければならないほどの

 敵なのですか……」

「今、わかっている相手でもまだまだ強さの上限が見えてこないし、

 何よりあいつらが復活させようとしているものは、想像もつかないよ……。

 だからこそ、打てる手は打っておかないと。

 親父さんも癒しの国“ライフ”で、万全の体調に戻れるよう治療してもらっているし、

 他のメンバーの修業も始まっている」

『女性陣は、大丈夫かね~』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ええい!何故、ナイフなのだ!切りにくい!

 どうせなら、刀の方が……」

「それより!シャワーもない、こんな無人島で

 どうやって一月も過ごすんですの!」

「あんた達!

 文句ばっかり言ってないで、さっさと食べ物を探しなさぁぁぁい!」

「これでもかってぐらい、森の背景が似合ってるね、鈴」

「何をしている、シャルロット。

 鈴の言うように、食料だけでなく、日が沈まないうちに水と活動拠点を

 見つけなければならないんだぞ」

「私達もそれなりにサバイバルの訓練はしてきたけど、

 現役軍人には負けるわね、簪ちゃん?」

「うん。だけど、カズキさんからの課題もクリアしないと

 意味が無い。

 “一は全 全は一”って何だろう……?」

 

どこかの無人島で、乙女七人はそれぞれサバイバルナイフ一本を渡されて

一か月の生活をカズキから修行として与えられていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「心配いらないさ。

 彼女達ならきっと答えを見つけられるさ。

 無人島も一夏と弾を放り込んだのと変わらない島だしね」

『いや、俺が心配しているのは修行をクリアできるかより、

 あいつらの命なんだけど……』

「大丈夫さ。

 少なくとも、身体能力だけなら昔の一夏と弾より上なんだし、

 取れる連携も格段に上。

 サバイバル能力に長けたラウラもいるから、食べ物に困ることもないだろう。

 何より、魔法使いの家族に協力してもらって、時間の流れが異なる空間を

 用意してもらったから、修行時間を短縮することができる」

『そんなのあるんだったら、一夏と弾の修業もそこでやればよかったんじゃねぇの?』

「残念ながら、食義の修行に用いる食材は繊細な面がありますので、

 異世界へ持ち込むのは難しいでしょう」

「そういうわけさ」

 

いきなりサバイバル生活を課せられた面々を心配するザンリュウジンだったが、

カズキはそれほど問題とは考えていなかった。

 

「俺が心配なのは、なのは達の方だね。

 世界を救ってきた自信ってのがある分、なかなか自分が

 弱いっていうのを認めないからね……。

 一夏と弾は、何十回と転んで立ち上がって自分の弱さを知っているけど……。

 彼女達に今一番必要なのは――」

 

強さで言うなら、一夏達にも引けをとらないはずのなのは達にカズキは、

懸念を感じていた。

弱さを知り、受け入れて行くことで、人は強さを知っていく。

だが、弱さを知らない強さは慢心となる。

知らず知らずに、自分の中に芽生えていた慢心になのは達は、

気付くことができるだろうか……。

 

 

 

 

 

「うっ……」

「い……っ……」

「性質が悪すぎるで……碓氷先生っ!」

 

それぞれ別の空間でカズキからの課題を受けているなのは、フェイト、はやての三人は、

静寂の闇の中で燃える炎に囲まれながら倒れ伏していた。

――双子のように自分と同じ顔の者に見下ろされながら……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

オ マ ケ 3 ☆

 

「ああ、そうだった~。

 明ちゃん、いつもはお客様用の部屋で寝てもらっているけど、

 今日は私と一緒に寝ましょ♪」

「えっ?」

 

夕食が食べ終わる頃、雅は何の脈絡もないことを言い出し、明はきょとんとなった。

部屋の隅で、色々とばらされた太夏が両手で顔を隠しながらうずくまっているが

誰も気に留めない。

 

「今日はひさしぶりに、冬音と太夏が帰ってきたから千冬も一夏も

 二人と一緒に寝たいでしょうから、寝るまでのおしゃべりに付き合って

 ほしいのよ~」

「「はぁ~~~!?」」

「家族で川の字だね♪

 私達がいなかった間のことをゆっくり教えてね~」

 

驚きの声を上げる千冬と一夏とは逆に、冬音は楽しそうな声を上げる。

 

「じゃあ、ゲキリュウケンとバクリュウケンは俺が預かりますか」

『ああ。

 家族水入らずというのを、久方ぶりに堪能するといい』

『たまには、魔弾龍同士というのもいいだろう』

『では、私も今日はゲキリュウケンの言うようにカズキの家に

 泊まるとしよう』

 

反論をしようとする千冬と一夏の外堀を埋めるかのように、魔弾龍達が

お泊り会を計画していく。

 

「いいじゃねぇか、一夏。家族に存分に甘えちまえよ♪」

「千冬ちゃんもね♪」

「弾……てめぇ……」

「カズキ……」

「そんなに照れても、手遅れだよ?

 冬音さんにいい子いい子されるのは、俺達だけじゃなく……」

 

からかってくる弾とカズキに、一夏と千冬は拳を震わせるが

カズキが意味ありげに窓の方を指さすと……メカニカルなウサ耳だけ

隠し切れていない誰かがこちらを覗いていた。

隠れている誰かはウサ耳を生き物のみたいにビクッ!とさせると、

風よりも早くその場から逃亡した。

 

「ねぇ、箒……今のって、どう考えても……」

「言うな、鈴……っ!」

「…………束ぇぇぇぇぇっっっ/////////////!!!!!!」

 

今までのやり取りを見ていたのは、誰なのかは誰の目にも一目瞭然であり、

鈴が何とも言えない声で箒に尋ねると、箒は頭痛がしてきたのか頭に手をやって

押さえるのであった。

そして、覗き魔を退治するべく、両手に日本刀を構えた千冬が

超スピードで家の外へと飛び出していく。

 

「はやっ!でも、千冬さんなら覗きぐらい気が付くんじゃ……」

「多分、想像以上に母さんに会えたのが嬉しくて、気づかなかったんじゃねぇか?」

 

弾と一夏が、しみじみとどこから聞きつけたのか照れる親友を見に来た天災兎に

千冬が気づけなかった理由を考察していると、女性らしき必死の命乞いと悲鳴が

近所一帯に響き渡った。

 

帰ってきた千冬が握っていた日本刀からは、ピチャ……ピチャと

赤い液体が滴り落ちていた。

 

余談だが、覗き魔が録画していたものは、年齢不詳のご婦人と

暗躍教師Kのコレクションに収められたらしい。

 





言い忘れていましたが、冬音のプロポーションは
所謂”どたぷ~ん”です。
コスプレは、閃乱カグラやハイスクールDxDのソシャゲのカード
のようなものを恥ずかしがらずに(爆)

弾と鈴も太夏のように中学生の頃にかかる病気的なものに
かかったことがあり、当然のようにカズキのノートには
記録されております(笑)

太夏が会ったという花子さんは、”ぬ~べ~”で広が会ったタイプです。
太夏も広のようにwww
虚ろな目は、殺せんせーが夏休みでビデオ鑑賞が終わった時と
同じ感じです(笑)

雅のおしおきでボツとなったのに、冬音にむちを持たせるものが
あったりしました。
冬音がむちを持っているのを見ると、太夏は発狂します。

なのは達を見下ろしているのは、マテリアルではありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

壁を越えろ!


最新話です。
新作も始めましたが、なかなか並行して進めるのは難しい(汗)

やっとこさ、仕事も落ち着きができて終わりも見えてきましたが、
見落としや急なものが出るかもで油断できません(泣)

そろそろ、久しぶりに遊戯王のデッキを組みたい・・・。


「う~ん……。

 確かにカズキさんが言うように、なのは達にはこういう試練が

 必要かもしれないけど……やっぱりというか、予想通り苦戦しているな……」

 

佇みながらユーノは、空中に投影されているディスプレイの映像を見て

渋い表情を浮かべる。

そこには、バリアジャケットの色が影のような黒を基調としたものだけで

それ以外は鏡から抜け出したようにそっくりな自分に苦戦しているなのは達の姿があった。

 

「三人とも苦しいだろうけど、ここはがんばって……。

 力も技も全く同じはずの相手に、勝てない理由……。

 それは……!」

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「ほらほら、どうしたん?

 “私”の実力は、その程度なん?」

 

倒れ伏す自分を嘲笑いながら見下ろす“はやて”に、シュベルトクロイツを杖代わりにして

はやては、何とか立ち上がる。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんも同じように、このドッペルゲンガーみたいなんと

 戦っとるんかな……?

 最大の敵は自分自身とは、よう言うたもんや……」

 

苦悶の表情を浮かべるはやては、この戦いのきっかけを思い出していた。

自分達が信じていた組織の真っ暗な裏の面を知り、未だに途方に暮れていた

はやて達は、ユーノからカズキが決戦に向けての修業をするけど、

自分達もどうだと言う申し出が伝えられたのだ。

一瞬呆ける三人だったが、渡りに船とばかりなこの申し出を受けたのだ。

そして待っていたのは、カズキが用意した相手を1対1で倒すというシンプルな課題。

だが、対戦相手は彼女達の想像を超えていた。

戦闘フィールドに転送されたと思ったら、目の前にいたのはかつて自分達を

元に生まれたマテリアルズのように自分と瓜二つの相手。

どういうことかと戸惑う彼女達を気に留めず、相手は襲い掛かってきた。

使う魔法も戦い方も、自分達と全く同じであったが、戦いは一方的なものとなり、

なのは達は苦戦を強いられた。

自分達の“影”のような相手の攻撃は……

 

「ハハハハハ!

 遅い遅い遅――――い!!!」

「速い……っ!」

 

フェイトよりも速く鋭く――

 

「私の魔法は、どんな防御も貫く……っ!」

「きゃぁぁぁっ!?」

 

なのはよりも重く苛烈であり――

 

「それで、攻撃のつもりなん!」

「うわぁぁぁ!」

 

はやてより圧倒的であった――。

 

「一体、どうなってるんですか!

 相手は、はやてちゃんと互角のはずなんですよね!」

 

悲鳴を上げるようにリインは、ユーノに詰め寄る。

力が互角のはずなら、勝負は拮抗するはずなのに何故ここまで差が出るのか。

 

「確かに三人が戦っているのは、三人の分身……影と言っていいよ。

 力は確かに互角だけど互角じゃない。

 何故なら……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「非殺傷設定を解除しとるんか……」

「やっと気づいたん?いくら何でも、能天気すぎるんとちゃう?」

 

自分と相手の違いに気づき、はやては苦虫を嚙み潰した表情を浮かべる。

デバイスでも未知のスキルでもないのなら、はやて達も同じように非殺傷設定を

解除すれば、最低でも五分五分に持っていくことができるのだが……。

 

「何を、解除するんをためらっとるんかな~?

 そのままで私に勝つつもりなんやったら、ちょいと舐めすぎとちゃうん?

 薄々感づいとると思うけど、私はあんたの影や。

 これは、戦士が自分に欠けているものを見つけるために

 自分自身と向かい合うための試練でな~。

 私らとあんたらの力は、全くの互角なんや。

 つまり……あんたもその気になれば、周りを簡単にこんな風に

 ぶっ壊すことができるんやで?」

「……っ!」

 

はやてが非殺傷設定を解除するのを躊躇するのは、そのためなのだ。

周囲は自分達の魔法の余波で、見る影もなくボロボロでありここで自分まで

鎖を解き放ったら、いくら戦闘のための特殊な空間でもどうなるかは想像に

難くなかった。

 

「ま~だ、わかってないようやな~?

 自分達は世界を壊すこともできるっちゅうことに?」

「そんな……」

「そんなことない!

 この力は、みんなを守るためのものだ!」

 

はやて(影)は創生種がそうなるよう仕向けていた、大半の局員が

いつの間にか忘れてしまっている魔法の力の一面を指摘した同時刻、

フェイトの方も同じことをフェイト(影)から告げられていた。

 

「な~に、怒っているのかな~?

 魔法だって所詮は、ち・か・ら♪

 何かを守るだけでなく、壊すことだってできるんだよ~ん。

 まあ、それはISも魔弾の力も同じなんだけどね~」

「違う……違う違う違う!!!」

「そうやって、否定しても事実は変わらないよ~ん♪

 そんなに……」

「信じたくないのかな?

 ユーノ君がくれた、みんなを守るための魔法が、“壊す”力でも

 あるってこと……」

「間違ってる……魔法は、何かを守るためにあるんだよ!

 壊す力なんかじゃない!」

「だって、魔法でみんなを守れなきゃ自分に存在する価値は無い?」

「っ!!!?」

 

なのは(影)の言葉に、なのはは心臓を掴まれたように全身から血の気が

引き、ガタガタとレイジングハートを握る手が震え出す。

 

「本当は、それが一番怖いんだよね?

 魔法が無くなったら、何も残らない自分が……」

「……て……」

「やっと見つけた自分にできること。

 魔法があればみんなの役に立てる、みんなが自分を見てくれる、

 必要としてくれる、一人ぼっちにならなくてすむ……」

「……めて……!」

「だから、今怖くて怖くて怖くて仕方ないんだよね?

 その魔法が、本当は何の役にも立たないかもしれないってことが。

 自分達が創生種にいいように踊らされて利用されていることが。

 ユーノ君達に、足手まといの邪魔もの扱いされるかもしれないことが!

 自分だけ置いてけぼりにされるのが!」

「やめてっっっ!」

「目を背けて逃げ出す?そうすれば、楽だもんね?

 嫌なことを考えなくて済むもんね?

 見なくて済むよね?

 そうやって……」

「そうやって、守ってきたんだよね~♪

 自分の弱い心をさ~♪」

「うっ!」

 

こちらを小馬鹿にする笑みを浮かべて見下すフェイト(影)に、フェイトは

必死に応戦するが、その動きは精彩さを欠いていた。

 

「その自分の弱い心を見られたくないから……

 知られたくないから、自分の全部見せているようにして隠してるんだよね?

 他人とは、違う力を持っていることに安心してたんでしょ?」

「そ、そんなこと……」

「ないのか……な!」

 

フェイト(影)の言葉を否定しようとするフェイトだが、迷いなく否定することができず、

そのできた隙にフェイト(影)はフェイトを吹き飛ばす。

 

「本の中の物語みたいに、普通の女の子だったのにある日特別な力を

 手にした自分達は選ばれた……特別な存在やと思っとたん?

 助けを求める声は誰でも助けれる、どんな敵や困難も超えていける?

 アホちゃうんか?

 どんな力があろうとなかろうと、人間はどこまでいってもちっぽけな存在や」

「くっ……!」

 

心底呆れ果てた顔で見てくるはやて(影)に、悔しさで言い返そうとするはやて

だったが、何も言葉にすることはできなかった。

否定したくても、納得している自分がいるからだ。

 

「はぁ~~~。しゃ~ないな~……。

 あんたらがそんな風に考えるようになったのも、創生種がそうなるように

 管理局のシステムを整えとったからやし、出血大サービスで教えたるわ。

 あんたらに、今一番欠けとるもんを。

 それは、非殺傷設定を解除して戦う覚悟でも……」

「どうすればいいかを考え続けることでも……」

「自分の弱さから目を逸らさないことでもない……。

 人一人を助けることの難しさ!

 自分が、何の為に魔法を使うと決意したのかを思い出すこと!」

「「「っ!!!?」」」

 

場所は違えど、自分達に欠けているものを突き付けられたなのは達は、

目を見開いて驚愕し、その視界は真っ白に包まれた――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あんた達、生きてる……?」

「ああ……」

「何とか……な……」

 

空を見上げながら寝転がる鈴の空気に消えそうな声の問いかけに、

同じように倒れ伏す箒とラウラが、生気が感じられない声で返事をする。

 

「ここに来て……何日経ちましたっけ……?」

「10日ね……」

 

木に背中を預けたセシリアが俯きながら誰となく質問すると、隣に座り込む

楯無がそれに応えた。

 

「鳥……こっちの気も知らないで、気持ちよさそうに飛んでる……」

「…………っ!

 こんなの……こんなの一体何の意味があるのさ!!!」

 

自分達の頭上を回りながら見下ろしてくる鳥をうらやましそうに簪が見ていると、

たまらなくなったシャルロットが地面に拳をぶつけて叫び声を上げる。

その様子を木の枝に立ち、見ている者がいた。

顔は、口元だけ開いた獣を模した仮面で隠し原住民のような民族服を

着ている何者かは、しばらく箒達を見ていると木から木へ飛び移り姿を消した。

この者こそ、彼女達がここまで憔悴している原因であった。

 

無人島での修行を言い渡された箒達は、拠点となる場所と四苦八苦して食料を

確保して食べようとした瞬間、この謎の人物にそれを奪われたのだ。

腕や足の細さ、体つきから自分達と同じ女だというのはすぐにわかったが、

この人物は相当な実力者であり、彼女達の中でも頭一つ実力が抜けている

楯無も軽くあしらわれてしまった。

その時の動きは、誰もが見惚れてしまう程鮮やかなものであった。

 

襲撃は、それからも毎日行われ、食料は奪われ続けた。

体力と精神力は、比例するように消耗していき、食料調達もままならなくなっていき

思考もマイナス方向に傾いていった。

厳しい訓練をしてきた彼女達でも、ここまでの“食べれない”ということに

直面したことは無い。

 

「おい。このまま、今日を過ごすのか?

 食料を探しに行かないのか?」

 

先ほど姿を消した襲撃者はしゃがんで、倒れ伏す彼女達に

問いかけるが、誰も返事を返そうとはしなかった。

 

「食わなければ、死ぬぞ?」

「…………や……だ」

「嫌……です」

「こんな所で……」

「このまま……」

「終わりたくない……」

「生きたい……」

「死にたくない……死にたくないよぉ……!」

 

倒れたまま彼女達は、涙を流して懇願する。

生きたい、死にたくないと――。

そうやって、何度もつぶやいている内に彼女達の意識は途切れる。

 

「ん……」

 

気を失った簪が、目を覚ますと自分達が並ばせながら寝かされていた。

そこへパチパチと何かが焼ける音が聞こえ、香ばしいにおいが鼻孔をくすぐると、

襲撃者が焚火を起こし、魚を串焼きにして焼いていた。

そして、つられるように箒達も目を覚ましていく。

彼女達の思考は、自分達に何が起きたかより目の前で焼かれる魚に

釘付けとなる。

焼き上がったのか、襲撃者が串を一本手に取ると、彼女達の方を向いて

その魚を差し出してきた。

 

「……っ!」

 

ごくりと誰かが唾をのみながら喉を鳴らすのを合図に、誰かの腹の音も鳴った。

女子として、とても誰かに聞かれたくない音だが、気にする者はおらず、

全員一斉に駆け出して、差し出された魚に手を伸ばす。

すると、初めから渡すつもりだったのか、侵入者は順番に魚を彼女達に渡していった。

10日ぶりの食事を、彼女達は涙を流して噛み締めた。

 

「助かったぁ~。

 一夏や弾がたまに言ってた、生きていることはおいしいっていうことが

 わかったわ……」

「確かにな……。空気がおいしいとはよく言うが、今は本当においしいと

 心から思うよ……」

 

食事を終えると、襲撃者はいつの間にか姿を消していたが、彼女達はそれには

触れず、ただ生き残れたことを喜んでいた。

鈴と箒は、たまに一夏と弾が口にしていたことの意味を実感し、

食べられることのありがたみを感じ取っていた。

 

「そうですわね。

 何もできないまま、終わってしまうのかと思いました」

「僕も同じこと、思ったけど……考えたんだ。

 もしも、僕達がここで死んでいたらどうなっていたんだろうって」

「うむ。確かにここで朽ち果てたら、お兄ちゃん達は悲しむだり、兄様も

 代表候補生を死なせたことで責任を問われるだろうが、

 世界から見たらそれほどな影響はないだろうな……」

「そうね、私達がいなくなっても一夏君や碓氷先生が戦うのを止めるとは

 思えないし……私達がいなくても世界は回り続けるわね」

「お姉ちゃんの言うように、ちっぽけな存在だね。私達」

「おい、簪。今何でこっち見て言った?

 正直に言ってみ?

 全力で拳を叩き込んであげるから……ね?」

 

同じように生き延びることができた一同は、自分達の経験したことを

改めて振り返り、自分達が如何に小さな存在かということを理解する。

何故簪は、鈴を見ながら口にしたかはたまたまであろう。

 

「だが、そんなちっぽけな存在な私達が集まって、世界と言う途方もなく

 大きな存在となっている……」

「食物連鎖。植物は草食動物に食べられて、草食動物は肉食動物に食べられて、

 肉食動物は死んで微生物に分解されて植物の栄養になる……命の循環」

「私達は世界の一部であり、世界は私達自身でもある……」

「それが、“一は全 全は一”」

 

拳をゴキゴキ鳴らす鈴をスルーして、ラウラは簪の言葉に異を唱えるが、

どちらも間違ったことは言っていなかった。

その矛盾を簪が自然の摂理で説明し終わった時、箒は空を見上げながら

かつて一夏と弾が口にしたことを同じことをつぶやき、カズキからの

課題の答えをシャルロットがまとめた。

 

それから、彼女達は残りの無人島生活を全力で過ごした。

当初は捕まえることはできても、食べることにかなり抵抗があった

野ウサギもさばけるようになり、歯が立たなかった食料襲撃者とも

徐々に戦えるようになっていき、連係プレーも自然と身につけていった。

そして――。

 

「さて、まずは一か月の無人島サバイバルお疲れ様。

 それで?“一は全 全は一”の答えを聞こうか?」

「はい!」

「「「一は、命!」」」

「「「全も、命!」」」

「……ぷっ……くははははは!!

 いいだろう。合格だ」

「「「「「「「やったぁぁぁ!」」」」」」」

 

課題の期日にやってきたカズキに、全員で見つけた答えを

口を揃えて言うと、カズキは目をパチクリすると大笑いして合格を言い渡す。

 

「でも、残りの夏休みの修業ってかなりキツそうだよね……」

「そうですわね……。

 これから一夏さん達と肩を並べられるようになるとなれば……」

「ああ、大丈夫だよ。鈴、セシリア。

 ここは時間の流れが違う空間だから、元の世界では一日しか経っていないんだ」

「ええっ!?」

「そうなんですか!」

「びっくり仰天……!」

 

抱き合いながら合格を喜んでいた面々は、一転して残りの夏休みで

行われるだろう修行の密度にげんなりしていると、カズキから驚きの

言葉を聞かされ目を見開いて驚く。

 

「驚いてもらえて、何よりだよ。

 ということは、つ・ま・り♪

 ここでの生活が、天国だと思える修行をみ~~~~~っちりと……

 できるわけだよ♪」

「へっ?」

「ここが……天……国?」

 

夕飯の献立を告げるような気軽さで、カズキが告げた内容に楯無がビシリと

固まり、その一端を知っているラウラはガタガタと震え出す。

無人島生活が天国と思える修行と言えば、カズキは冗談抜きでそう言う

修業を間違いなくすることをラウラは、過去の経験から知っているのだ。

その震えは伝染し、先ほどまでの喜びはどこに行ったのやら、全員ガタガタと

震え出す。

 

「じゃあ、帰る前にもう一人連れて行かないとね。

 お~い~。帰るぞ~」

「……!」

 

彼女達の震え具合を楽しそうに眺めたカズキは、森に向かって

声をかける。

すると、一つの影が彼らの前に舞い降りた。

その正体は彼女達から幾たびも食料を奪った、襲撃者だった。

 

「こいつは!」

「何よ!やろうっての!」

「お待ちください、箒さん、鈴さん」

「うん。

 ここが、碓氷先生が用意した空間だって言うなら……」

「そいつは、無人島に住んでいる者ではなく、お兄ちゃん達の仲間なのでは?」

「うむ、正解だ」

 

襲撃者はラウラの推測に答えながら仮面を脱ぐと、長髪をたなびかせて

その素顔を見せた。

 

「あ、あなたは!」

「確か、アカメさん?」

「うん。初めての奴もいるから、紹介するよ。

 彼女は、アカメ。いざという時の保護要員も兼ねて、

 この課題を手伝ってもらったんだ。ご苦労だったね、アカメ」

「何、大したことはない。

 食事を奪って、基礎戦闘を鍛えただけだからな」

「ちょっと、待ちなさいよ!

 保護要員なら、何で最初からいるって言わないのよ!

 って言うか!鍛えたんじゃなくて、襲ってきたわよそいつ!」

 

呑気に初対面の三人に、アカメを紹介するカズキに鈴が怒鳴り声を上げて、

食ってかかる。

 

「何を言ってるんだい?

 一か月もあれば、人間どれだけ成長できると思っているの?

 時間は有意義に使わないと。

 精神だけでなく、肉体的にも鍛えられたんだ。

 存分に感謝してくれていいよ♪」

 

笑いながら親指をたてるカズキに、鈴達はその場にへなへなと脱力して

座り込む。

 

「まあ、よかったじゃないかお前達。

 もしも、カズキが私でなくエスデスに頼んでいたら、

 こうして生きていなかったかもしれないのだから」

「「「「「「「……はい?」」」」」」」

「ああ。修行には、そのエスデスとの内容もあるからね?」

「「「「「「「……え?」」」」」」」

 

座り込んだ彼女達に、アカメがしゃがみ込んで励ますが、

その口から放たれた言葉に、一同は呆然とする。

更に追い打ちをかけるように、カズキから聞きたくなかったことが

聞かされ、しばしの間彼女達の思考は停止した。

 

「しっかり頑張るんだぞ。でなければ、氷漬けにされるぞ?」

「三途の川から戻ってこれるように救命具の準備もしないとね~。

 これで、IS側の戦力は何とかなるとして、魔法組の方はどうなったかね~」

 

カズキは空を見上げながら、同じく課題を出したなのは達のことを

思い浮かべた――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「…………」

「これで、おしまい?

 あっけないね……」

 

なのは(影)は、仰向けに倒れるなのはをつまらないものを見る目を

しながら止めを刺すべく、手に持つレイジングハートのコピーを構える。

 

「それじゃあね~」

「ここまでみたいやね」

 

時を同じく、フェイト(影)とはやて(影)も倒れているフェイトとはやてに

止めを刺そうとしていた。

 

「(人一人を助けることの難しさ……。

 そうだよ……。人を助けるのは、簡単なことじゃない。

 なのはやユーノ……アルフ、お兄ちゃん、母さん。

 みんなが、私を助けるために手を伸ばしてくれたから、私は今ここにいる……)」

「(そうや……。

 私は、リインフォースが残してくれた力を正しく使うため……。

 誰かの力になれるならって!)」

「(最初は、ジュエルシードを集めてユーノ君の手伝いをするためだった。

 でも、フェイトちゃんや色んな人と出会って変わっていった。

 自分の魔法で、困っていたり涙を流している人の手を握れるなら、

 力になりたいって。

 そうやって、握っていく内に忘れてたんだ。

 握れることが……自分なら助けられるのが当たり前だって……。

 全力で……全開で……伸ばさなきゃ、届かないのに!)」

 

なのは達は、忘れていた自分達が魔法を使っていくと決めた理由を思い出し、

拳を力いっぱい握りしめる。

 

「(助けようとするのに管理局とか魔法があるからとか、関係ない!)」

「(誰かが助けを求めるなら、自分の精一杯で力を貸せばええ!がむしゃらに!)」

「(それで足りないなら、みんなで力を合わせればいい!)」

 

瞳に確固たる意志を宿して立ち上がったなのは達は、止めを刺そうとする

影達にデバイスを向ける。

 

「へぇ~。やぁ~っと、その気になったんだ~」

「ほなら、見せてみ!あんたの思いを!」

「そう来なくっちゃね!」

 

影達は立ち上がったなのは達を見て、待ってましたとばかりの笑みを浮かべて、

立ち塞がる。

 

「「「受けてみて!これが私の全力全開!!!」」」

「「プラズマザンバー……」」

「「響け終焉の笛、ラグナロク……」」

「「スターライト……」」

「「「「「「――ブレイカー!!!」」」」」」

 

制限も手加減もない、文字通りの全力で全開の力がぶつかり合い、

ユーノが見る映像は光しか映せなかった。

 

「はやてちゃん!フェイトさん!なのはさん!」

「うっわぁ!?大丈夫かな、これ……」

 

その映像に、リインは悲鳴を上げユーノも焦った声を上げる。

なのは達自身もただではすまないだろうが、なのは達がいる空間も壊れるかも

しれないほどの一撃であったからだ。

 

「ユ、ユーノさん!早く三人を!」

「ちょっと待って!今調べる!」

 

ユーノが素早く端末を操作して、三人の状態を確認すると映像の光も

収まり徐々に画面が見れるようになっていく。

そこには……。

 

「ああっ!?」

「……!」

 

映し出されたのは、倒れ伏すなのは達三人とその傍で立つ三人の影であった。

 

「そ、そんな……」

「……」

 

信じられない光景にリインは言葉を失い、ユーノは黙ってそれを見つめた。

 

「……いい一撃だったよ。君の思いが籠っていた……」

「せや……。

 そうやって、あーやこーやって考える前に、まずは動くことや……」

「忘れないでね。一人じゃできないことでも、みんなと力を合わせれば

 できる“かも”しれないことになるってことを」

 

影達は、気絶して倒れるなのは達に何をするわけでもなく微笑みながら、

語りかける。

気絶しているから聞こえるわけでもないのに、その声は満足気で……

少しずつ影達の体が薄くなっていく。

 

「課題は、クリアだよ」

「けど、ここからが本番やで?」

「この先に待っているのは、誰にも想像つかない……。

 だけど、忘れないで。

 周りには、力を貸してくれる友達がたくさんいるってことを……。

 ああ、それと……早くユーノ君に返事しないと他の誰かに取られちゃうよ?」

 

与えられた課題を成し遂げたことを告げて、影達はその場から消えた。

なのは(影)が、最後に危機感を煽る言葉を発した瞬間、ビクリとなのはが

反応した。

 

「え~っと……これって、つまり……」

「無事に……とは言えないかもしれないけど、合格ってことだよ」

 

ためらいがちなリインに、ユーノは頷きながらなのは達が課題をクリアできたと

答える。

 

「でも、喜んでばかりもいられないよ?

 本当に大変なのはこれからだ……」

「ですね!なのはさんに、負けないようはやてちゃんをしっかり応援しないとです!」

「……」

 

ユーノの言葉を少し勘違いしたリインはむん!と拳を握って、

ガッツポーズをする。

これからが、大変になるのはユーノも同じようだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『…………!』

「え……え……えええええっっっ!!!!!」

 

食林寺で、ゲキリュウケンを振り下ろした一夏の驚愕の声が轟いた。

その横では、弾が口をあんぐりと開けて言葉を失っていた。

彼らの目の前には、鋭い刃物で斬られたような裂け目が地面に刻まれていた。

 

「一夏……お前、いつから月牙〇衝を撃てるようになったんだよ……!?」

「いやいやいやいや!俺、そんなに力入れてないぞ!

 せいぜい、素振りぐらいのつもりで……!」

 

二人が行っている食義の修業内容は、感謝の念を感じて火を灯すつくしの前で

座禅を組んだり、卵のように割れやすいご飯粒を一粒一粒はしで取ったり、

少し揺らしただけで崩れるプリンを頭にのせて食義の構えを保ったりと、

何の意味があるのかわからないと思えるものばかりだった。

開始してから数日で、普通なら一か月はかかるレベルをできるようになった

二人はシュウから、試しにゲキリュウケンを軽く振り下ろしてみるよう言われ、

予想だにしなかった結果に仰天するのだった。

 

「では、弾君。君は、修行に使っているサボテンの針を

 撃ち落としてみてください」

「へっ?」

「はい!どうぞ!」

「ちょっ!」

 

いきなり自分にも一夏のように、試しをふっってきたシュウに弾は、

身構える暇もなく針を飛ばしてくるサボテンの攻撃にさらされる。

 

「こなくそっ!」

「おいおい……」

 

奇襲に近い攻撃にも関わらず、弾は針まみれになることなく全ての針を

撃ち落とした。今までの弾より遥かに上の精密な早撃ちに、一夏は目を見開く。

 

「マジ……かよ……!

 どこに飛んでくるか、直感的にわかったぞ……あれだけの数、全部が!」

「繰り返し、食への感謝を行うことで……“集中力”が向上しているのです。

 それは、動作の素早さと正確性に繋がります。

 今のお二人は、無駄な動きが削られ最低限の力とフォームによって、

 本来持っている力を発揮できるようになってきています」

『何と!』

『できるようになってきているということは……!』

「ええ。これは、まだ食義の入り口です。

 修行を続ければ、呼吸をするように自然に

 今以上に破壊力のある技を出せるようになりますよ」

「す……すげぇ……」

 

どうしてカズキが、この食義を会得させようとしているのかを

理解してきた一夏と弾は武者震いで体を震わしていく。

 

「よーし!修行を続けて、食義を極めるぞ!

 弾!!」

「おうよ!!」

 

それぞれの課題をこなしていく少年少女達は、その後も修行を続け、

来る決戦に備えて力を着けていった――。

 





ISメンバー以上に、なのは達の部分を書くのが難しかったです。
無理やり感を自分でも感じます(汗)
修業描写は今回で終わり、次回からは夏休み的な感じになるかも
しれません。
異世界に行って修行というのは、”龍の戦士たちの日常”で
載せると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏の思い出を作ろう


最新話です。
もうすぐ、GW。
たまったガンプラを作ったり、遊戯王のデッキを作ったり、
家の片づけと忙しくなりそうwww
ビルドダイバーズやVRAINSを見てるとなおさら♪

後、家族で楽しむために色んなDVDをレンタルしないと。

今回、新キャラ登場!


「太夏も一夏もまだ帰ってきませんね~。雅さん?」

「そうね~。

 よっぽど、すごい修行をしてるんでしょうね。

 束ちゃんのところに行った千冬は、連絡をたまに入れるけど、太夏は

 何してるのかしら?

 一夏の方は、カズキ君が連絡をくれるからいいけど、太夏は一人で

 別行動……。

 ……また、教育が必要か……な?ふふ♪」

「じゃあ、いつ帰ってきてもいいように美味しいものを

 たくさん用意しておかないと♪」

 

夏も中盤に差し掛かってきたある日、織斑家の台所では

洗い物をしながら冬音が、修行に出たきり帰ってこない一夏達が

何をしているのかとふけっていた。

連絡は入っているので、無事だというのは分かっているが、連絡を

寄こさない太夏に雅は“キレイ”な笑顔を浮かべるのであった。

 

ピンポーン。

 

何にしても、くたくたになって帰って来るであろう家族のために

食事を準備しようとする冬音と雅の耳に、家のチャイムの音が届くと

続いて玄関のドアが開く音が聞こえた。

 

「ただいま~」

「噂をすれば、何とやらね?」

「一夏、帰ってきたんだ♪

 太夏も一緒かな?おかえり~」

 

チャイムを鳴らして家に入ってきたのは、息子の一夏だとわかり

冬音は、早足で玄関に向かう。

やけに弱弱しい一夏の声に疑問を持つことなく……。

 

「遅かったね~。あれ?

 みんなも一緒だったの?」

「「「「「「「「お、お邪魔しま~す……」」」」」」」」

「い、生きて帰ってこれた……ガクッ」

『おい、一夏!』

『一夏だけでなく、全員限界のようだ』

 

玄関に向かった冬音が見たのは、ボロボロとはこのことを言うというような

姿の一夏と弾、7人の専用機持ちだった。

そして、糸が切れた人形のように倒れた一夏を合図に、全員がその場に

倒れ伏した。

 

「みんな?そんな所で、寝たら風邪ひくよ?」

「あらあら。しょがないわね~」

 

呑気な声で首を傾げる冬音の傍で、雅は一夏達が

どんな修行をしてきたのかを察したのか、楽しそうに微笑むのであった。

 

「麦茶が……麦茶がうまいな……!」

「生きてる……俺達、生きてるんだよな……!」

「今まで飲んだ、どの麦茶よりもおいしい……くっ」

「ええ……素晴らしいお味ですわ」

「たかが、麦茶で何泣いてんのよ、あんた達」

「そういう鈴だって……」

「体中の細胞が、喜びの声を上げているぞっ!」

「ラウラちゃんの言う通り、本当に私達の体も喜んでいるわ!」

「感謝感激……」

『随分と大げさな……と言いたいが……』

『至極まともな感想である』

 

雅によって、リビングに“運ばれた”一同は、冬音が持ってきた

麦茶を飲むと涙を流して喜んでいた。

 

「みんな、よっぽど喉が渇いていたんだね~。

 どんな修行をしてきたの?」

「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」

 

悪気など一ミリもなく、冬音が何気なく修行の内容を一夏達に聞くと

全員くわっ!という効果音が響きそうなぐらい、目と口を見開いて

固まったかと思ったら、ガタガタと震え出した。

 

「ん~?」

「あらあら」

 

そんな彼らの様子を冬音は不思議そうに頭に?を浮かべ、

雅は苦笑する。

 

『(思い出したくはないだろうな、全員。

 口にしたら、あの地獄が頭の中を駆け巡るのだから……)』

『(毎日聞いただけで吐き気がする内容の基礎体力作りメニューをこなし、

 その後は疲労が最も出るタイミングで、今の彼らがギリギリ勝てない強さあるいは

 戦闘スタイルの相性が最悪な相手との模擬戦をひたすら行う……。

 気絶したら、回復させてそれを一日にできるギリギリの密度、回数になるまで

 やらせる……人はそれを生き地獄と言う……)』

『(他にも様々な事態を想定しての内容も行われたが……よく、あんな

 内容をやらせたものだ)』

 

ゲキリュウケンとゴウリュウガンも共に、地獄の修業を生き抜いてきたが、

彼らも思い出すだけで震えが止まらなかった。

そして、クロノやレジアス中将の元に集まった局員達も同じように

地獄のメニューを受けさせられ、現在進行形で悲鳴を上げていることを

彼らは知らない。

 

「冬音。

 流石にみんな、帰ってきたばかりで疲れているみたいだから、ゆっくりさせてあげましょう。

 ところで、太夏はどうしたの?

 一緒に修行してたんじゃないの?」

「あ~。父さんなら、俺達とは別行動してたんだ。

 俺達と合わせるようなレベルじゃないからって……どこかマンガに出てくるような

 秘境みたいな場所で冒険して楽しんでるんじゃないかな?

 ター〇ンごっこしたり、10秒で千ステップの動きをするダンスを猿の王様

 と踊ったりして」

「あの子は、もう。

 冬音や一夏達をほったらかして、遊んでいるなんて~~~……。

 冬音?帰ってきたら、これを持って迎えてあげなさい♪」

「これって、前に雅さんが貸してくれた……」

『な、何でそんなものを……?』

 

一夏から聞いた太夏の現状に、雅は仕方ないなといった感じで微笑むと

冬音にあるものを渡す。

そのあるものを見て、ゲキリュウケンは引きつった声を上げる。

いや、ゲキリュウケンだけでない。

雅と冬音以外が引きつったり、怪訝な表情をしていた。

どこからどう見ても、それは“鞭”であった。

 

「ああ、これはね?

 前に雅さんが、男の人は女の人に叩かれるのが嬉しいって貸してくれたんだ~。

 太夏もね?

 叩くと止めてー!って言ってたけど、喜んでたよ~。

 泣きながらそう言ってくるときは、嬉しい証拠なんだよね、雅さん?」

「そうよ♪

 特に太夏みたいな素直になれないツンデレさんは、そういう時は

 本心と真逆のことを言うのよね~」

「あの時の太夏は、泣きながらおびえて可愛かったなぁ~」

「「「「「「「「(て、天然のドSだ!)」」」」」」」」

「何故叩かれて喜ぶのだ?」

『(一夏のドSは、彼女からの遺伝だったのか!?)』

 

ごくごく自然に、太夏の泣き顔を褒める冬音とそれを勧めた雅にラウラ以外の全員が

戦慄した。

そんな冬音を見て、ゲキリュウケンは一夏のサドの意外なルーツに驚愕を禁じえなかった。

 

「(真逆のことって……父さん、ガチで怖かったんじゃねえのか?)」

『(と言うか、太夏をイジメて楽しんでいるのは冬音ではなく、雅の方ではないのか?)』

「どうかしたのかしら、二人とも?」

「『いえ!何でもありませんです!』」

 

太夏を楽しませるというより、自分が太夏をイジメて楽しんでいるのではと雅を

訝しむ一夏とゲキリュウケンに、雅が微笑むと二人は背筋を伸ばして何でもないと

答える。冷や汗を流しながら。

 

「それで、みんな?

 修業は終わったから、残りの夏休みはゆっくりできるのかしら?」

「それは……ですね……」

「ゆっくりできるには、できるみたいなんですけど……

 はっきりしないんですよね……」

「碓氷先生が、とりあえずここまでって言って、帰させられたんです」

「ただ、その時の碓氷先生の顔が後ろからだったけど、すごくいい笑みを

 してたのがわかるから不安……」

「簪、その不安はおそらく……いや確実に現実となるぞ」

「そうよね……。

 あのサディスティック星出身のドS教師が、意味もなく私達を休ませるわけがないわ」

「昔からそうだった……。

 計画していた訓練をある程度進めると、成長による修正を訓練に反映させるために

 インターバルを挟む……。

 だが!それが罠なのだ!

 反映後の訓練は、反映する前のものが優しかったと思えるほどになるのだ!」

 

これで修行は終わったのかと疑念を感じる者達に、カズキの本性を知る箒達は

本番はこれからだと直感し遠い目をする。

特にドイツで、それを直に味わったのかラウラの慌てようはただ事ではなかった。

 

「いや……今回のはそれだけじゃ済まないかも……」

「俺達、聞いちゃったんだ……」

「聞いたって……何よ、一夏?」

 

そんなラウラの主張がほんの序の口と言わんばかりに、弾と一夏が口を挟む。

暗い影が差しているのを見えるぐらい落ち込む弾と一夏に、鈴は聞きたくないけど

聞かないわけにはいかないと、意を決して尋ねる。

 

「こっちに帰ってくる前に……ザンリュウジンが

 カズキさんに聞いていたんだよ。

 どうして、ここで休みを入れるのかって。そしたらさ……

 “だって、楽しい思い出があった方がキツ~~~い修行(じごく)

 乗り越える原動力になるだろ?”って……」

「しかも、すっっっごい輝いた笑顔で……」

『あいつは、やると言ったら必ずやる有言実行なタイプだからな……』

『楽しかった思い出と言う原動力がなければ、やりきれない

 修業内容になるのは、確実である』

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

一夏と弾、魔弾龍達から告げられた内容に箒達は言葉を失う。

カズキの訓練を受けてきた彼女達は、一夏達の言葉が脅しでも冗談でもない

ことを察してしまったのだ。同時に、それから逃げることができないことも……。

 

「あは……ははははは!

 そ、そんな先のことを考えてもしょうがないわよ!

 いいい今は精いっぱい、高校生の夏を味わいましょう!」

「そうだよな!先のことより、今を楽しまないとな!」

 

鉛のように重たくなった空気を吹き飛ばすために、夏休みを楽しもうと

盛り上げる鈴と弾だったが、その目からは涙が流れていた。

強がって現実逃避して目を背けるしか、迫りくる恐怖(じごく)

忘れる方法がないのだ。

 

「みんな、楽しそうだねぇ~」

「そうね、冬音。こうやって、苦難を乗り越えていくのも青春よ、みんな♪」

「やあみんな、お待たせ~。

 あれ、なんか空気が重たいね?」

 

引きつった笑いを上げる一夏達をどこか勘違いする冬音と雅が温かく見守っていると、

カズキがすっとぼけた声を上げてリビングに入ってきた。

 

「カ、カズキさん……」

「どうした、みんな?

 オバケを見たような顔をして?」

「「「「「「「「べ、別に…」」」」」」」」

「まあ、いいや。

 さて、突然だが諸君!

 せっかくの夏休み……人里離れた忍者の里へ旅行に行くぞっ!」

『イェ~イ!』

 

何の脈絡もなくカズキから告げられた内容に、一夏達は

呆然となり、思考が全く追い付かなかった――。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「――――っ」

 

広大な屋敷の庭で、白装束の少女が井戸から汲んだ水を

かぶり、禊をしていた。

少女の体には白装束がピタリと張り付いて肌の色が、うっすらと

透けて見えた。

もしも異性が見たら、全力で息を潜めて目に焼き付けることになるだろう。

最もこの屋敷は、少女の家であるためそんな不審者の心配をする必要は

ないのだが、どこからか誰かが気配を殺して近づいてくるのを

少女は感じ取った。

 

「っ!」

 

タイミングを見計らって、少女がその場から飛びのくと少女がいた場所に

クナイが飛んできた。

そして息つく暇もなく、少女へクナイが襲い掛かるが、少女は

鮮やかな体裁きで苦も無くそれを避けていく。

 

「っ!?」

 

しかし、襲い掛かるクナイの動きを見誤ったのか胸元をかすってしまう。

 

「あははは!ちょっとしたあいさつ代わりのつもりだったのに、

 都会暮らしで、腕が落ちたんじゃないの明!」

「虎白(こはく)か」

 

白装束の少女……明の元に鈴のように髪をツインテールにまとめた小柄な

少女が妙に自信に満ちた顔で、現れた。

 

「久しぶりだな、虎白。

 しばらく、見ない間に腕を上げたようだな」

「まぁ~ね~♪

 もう、明を超えちゃったかn……」

 

上機嫌に胸を張る虎白の服に、突然いくつもの切れ筋が走った。

 

「んなっ!?」

「確かに腕を上げたようだが、まだまだだな。

 私に隙ができたと思ったみたいだが、相手を誘うためにわざと隙を

 作るということもある」

 

驚く虎白に、いつの間にどこからか取り出したクナイを手にして

明は先ほどの攻防の解説をする。

先ほど、虎白の攻撃は避けそこなったのではなく、彼女の油断を

作るために避けそこなったように見せたのだ。

その一瞬の隙に、明は電光石火の早業で反撃を行っていたのだ。

 

「過度な自信は、慢心となって自分の足元をすくう……

 気を付けた方がいいぞ」

「くぅ~~~」

 

虎白は、悔しさで目尻に涙をためて明をにらみつける。

その時、クナイがかすった明の胸元から白装束の下に

あるものを目にし、自分のものと見比べる。

言葉に表すなら、明は“ポヨ~ン♪”で、虎白のは“ちんまり……”と表現される。

何がとは敢えて言うまい。

 

「…………っ!!!」

「虎白!?どうした!おい、やめろ!」

「(何なの何なの何なの!

 何で、あんなに大きくなってるのよ!

 同じ歳で、従妹なのに、この差は何なの!?)」

 

原田虎白(こはく)。

明とは、母親が姉妹の従妹であり、幼い頃から明をライバル視

している少女である。

何をとっても明に勝てたことが無い虎白は、今また最大級の敗北感に

自棄となってクナイを投げまくる。

 

「かっかっか!

 相変わらず、仲がいいの~お前達!」

「「おばば様!」」

 

クナイが飛び回る中、どこからともなく声が聞こえ、二人が

顔を向けると、そこには最初からいたかのように一人の老人が笑いながら

立っており、明と虎白はその老人……祖母の元へと駆け寄る。

 

「二人とも共に、腕をあげておるわい。

 特に、明よ。

 魔弾戦士殿達の元に行く前は、ただ硬いだけだったのに、

 硬いだけでないしなやかな強さを手に入れたようじゃな?」

「ええ。彼らのおかげで、色々と」

 

祖母の言葉に、明は苦笑する。

一癖も二癖もある一夏達と関わって、自分もかなり変わったという

自覚はあるようだ。

 

「それに若い頃の儂に似て、ますますぐらまらすになってきたわい♪

 さては、お主……“男”ができたな?」

「なっ///////!」

「明に、男っ!!!?」

 

いやらしくニヤリと笑いながら、明の成長の理由を推察する祖母に

明は図星を突かれて驚く。

それ以上に、虎白は激しく動揺する。

 

「いやいやいやいや!おばば様!

 いくら何でもそれはないよ!

 明は、昔から男キライだったし!」

「わからぬぞ?

 明みたいに、あまり男と関わってこなんだ者ほどコロっと

 簡単に落ちるものじゃからの~。

 それにほれ。揉むと大きくなると言うし、その者に夜な夜な揉ませて……」

「揉ませるわけないでしょ////////////!

 確かに、あいつには事故で揉まれたことはあるけど……」

「揉ま、れ……た?」

「ほう~~~。なるほどの~」

「はっ!」

 

口を滑らせたことに気が付く明だったが、時すでに遅く

祖母はニヤニヤと笑みを浮かべ、虎白は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

 

「そ……そんな……!?

 私なんか、隣の席の子と話すので精一杯なのに……。

 男なんか眼中にないって感じの使命一筋な明が……大人の階段を

 登っているなんて……!?

 うわーーーん!!!

 明のムッツリスケベェェェッ///////////////////!!!」

「虎白っ///////!?」

 

虎白の頭には、朝日が差し込むベッドの上に

生まれたままの姿で男(顔はボヤケている)と抱き合っている明

の姿が映し出され、耐えられないとばかりにその場から駆け出す。

明が呼び止めるもその声は、虎白の耳には届かずあっという間に

その姿は見えなくなる。

 

「これもまた青春よの~。

 虎白のすたいるは明に比べれば、貧弱じゃが何事も

 使いようじゃと言うのに。

 さて、冗談はこれぐらいにして……。

 明よ、支度をせい。まもなく彼の者達……魔弾戦士殿達がやって来るぞい!」

「やって来るって……一夏が!」

 

祖母から一夏達の来訪を知らされた明は、何故?とか走り去った虎白を

追いかけるのを忘れて、すぐさま自室へと戻り着替えの服を探し回るのであった。

 

「うう~。まさか、恋愛方面まで先を越されるなんて……。

 あの堅物委員長にその手で負けるなんて、ショック~。

 負けられない……。

 明の男よりずっとずっとず~~~っっっと素敵な男子と

 大恋愛してやるんだからっ!!!」

 

飛び出した虎白はトボトボと落ち込んだ空気を放ちながら歩いていた。

途中、“明に男ができるなんて……”と何度もつぶやいたことで、大勢の者が

それを耳にし、もう数時間もかからなず村中に知れ渡ることになることを

虎白は気づいていなかった。特に、聞いた瞬間石像になったみたいに

固まった男が大勢いることなど、彼女は知る由もなかった。

 

「ねぇ、そこの彼女~♪

 僕とお茶しない?」

「え?誰?」

 

一人歩く虎白に、今のご時世では滅多に出会えない如何にも軽そうな

男が声をかけた。

金髪に頭にサングラスをのせ、服を少しだけ着崩した男は誰が見ても

チャラそうという印象を抱くだろう。

それ以前に、周りの落ち着いた雰囲気とは合っていない服装に

違和感がバリバリである。

 

「(はっ!これって、いわゆるナンパって奴では!

 ふふふ、どうやら私の魅力は自分で思っている以上のようね!

 だけど……うん。この人は無いかな……。

 なんて言うか、全体的にこう……軽そうだし、弱そうだし……)

 ええ~と、お誘いはうれしいけど、その気は無いから……じゃ!」

「おい!待てよ!」

 

虎白は、人生初のナンパに浮かれるも目の前の男は無いと早々に

断りを入れてその場を去ろうとする。

だが、男はその対応が癇に障ったのか乱暴に虎白の肩を掴む。

 

「痛っ!」

「そんなこと言わずにさ~。

 俺に夏の思い出をあげると思ってさ!」

「ちょっ!だ、誰かぁっ!」

 

まともにやれば、こんなナンパ男等虎白の敵にもならないのだが、

相手の予想外の行動に虎白は恐怖でパニックとなって、助けを求める。

 

「いでっ!?」

「こんな低レベルなナンパって、初めて見たよ」

「へ?」

 

自分の肩を握っていた男の手が離れたかと思うと、続いて男の苦悶の声を

耳にし、虎白が振り向くと見知らぬ男がナンパ男の手を捻っていた。

 

「(何、この人!女の子のピンチに現れるなんて、王子様みたい/////////!)」

「お兄さん?

 嫌がる女の子を無理やり誘うのは、カッコ悪いんじゃないかな?」

「く、くっそ~!覚えてろぉ!!!」

「捨てセリフに覚えてろって」

 

自分を助けてくれた王子様?に虎白が見惚れてる間に、

ナンパ男は退散し、その場には二人が残される。

 

「君、大丈夫だった?」

「は、はい////////!」

「お~い。何やってんだ~」

「悪い、今行く!

 じゃあ、連れが呼んでるからこれで」

 

虎白を助けた王子様?は、彼女の無事を確認するも当の本人は、

少女マンガのような展開に、頭が沸騰寸前であった。

 

「あっ、待って!私、虎白!

 あなたは/////!」

「俺?俺は、織斑一夏」

「織斑……一夏」

『…………』

 

自分の元から去ろうとする王子様?にせめて名前だけでもと

尋ねる虎白に、にっこりと微笑んで自分の名を告げた一夏は、彼を呼ぶ

弾達の元へと駆けていった。

 

「これは……正に運命よ!!!

 あんなカッコイイ人を彼氏にすれば、明もビックリよ!」

 

一夏が去った後しばらく呆けていた虎白は、体中からピンク色な幸せオーラ

を放出して、これから先の未来を妄想もとい想像してウキウキ気分となる。

……この後、人生最大の絶望が待ち受けているなど露も思わずに。

 

 

 

「突然、駆け出してどうしたのだ、お兄ちゃん?」

「あっちで、助けを呼ぶ気配がしたからさ。

 ちょっと人助け」

「助けを呼ぶ……気配?」

 

どうやら、一夏は周りに何も言わずに虎白を助けたようだ。

その中で、箒は疑問の声を上げる。

 

「助けを呼ぶ声とかじゃなくて、気配って何よ。気配って」

「俺達が今修行しているものにさ、気配察知して相手の動きを読む

 っていうのがあるんだよ、鈴。

 それで、俺も一夏も声とか音とかを聞くよりも早く、

 気配に気づけるようになってきたんだ」

「まだ、何となくだけどな」

「何かだんだん一夏が、碓氷先生みたいになってきたような……」

「それは今更だと思うよ?シャルロット」

「そうね。簪ちゃんの言うように、一夏君も碓氷先生と同じイジメっ子属性持ち

 だもんね~」

「嘆かわしいことにな……」

「千冬。一夏が自分じゃなくて、カズキ君に似てきたからって、拗ねないの」

『いや、雅。

 こいつが一番に似てしまったのは、やはりあの男のようだ』

 

一夏がいよいよカズキみたいに人外じみたことをやれるようになってきて、

苦笑する彼女達にゲキリュウケンはある男に顔?を向ける。

彼らの後ろから、背中や両手にいくつもの旅行カバンを持っている(?)

太夏が息を切らしてついてきていた。

 

「ぜぇ~ぜぇ~。

 お、お前ら一体何を入れてんだよ……。

 そもそも、何で俺が全員の荷物を持たされてんだよ!」

「それは、もちろん家族をほったらかしにして、一人で遊んでいた

 罰だからよ?」

「遊んでたって、俺も修行してたんだけど……」

「冬音~。太夏が、また鞭を持って遊んで欲しいそうよ~」

「そんなにコレが好きなの太夏?」

「喜んで、持たせていただきます!」

「それで、ゲキリュウケン?

 一夏は、このいじられる宿命の元に生まれたこの人の何が、似たんだい?」

『今しがた一夏が助けたのは……年頃の女の子だ。

 去り際には、目を潤ませてたよ』

 

太夏が持っているのは、ここにいる全員の荷物のようだが、どうしてこんな

理不尽な目に合うのかと文句を言うと、雅と冬音の言葉に自分から持たせてくれと

懇願する。

そうやって、いつもの姉弟?もしくは親子?のやり取りを見てカズキが

ゲキリュウケンに何が一夏に似ているのかと聞くと、返ってきた答えに

冬音とラウラを覗く全員の視線が、一夏に集まる。

 

「何だよ、みんな……?」

「はいは~い。みんな、言いたいことはわかるけど、

 今は明ちゃんの家に急ぎましょ♪

 帰りの荷物は、一夏に持ってもらうからお土産をたっっっぷり

 買いましょう!」

「「「「「「はい!!!」」」」」」

「何で!?」

 

雅の元、心を一つにする仲間達に一夏が驚きの声を上げるが、誰も助け船を

出さなかった。

 

「何でも何も……なぁ?」

『当然の流れである』

「説明の必要がある?」

『人助けもいいけど、同時に自分の首も絞めてるぜ?一夏』

「一夏よ~。

 そういう、女の子の気持ちは分からないとダメだぜ?」

『お前が言うな。お前が』

「太夏~?後で、“お話”をしましょうね~」

『はぁ~~~』

 

魔弾戦士達とその相棒は、それぞれ呆れた声を上げて

ゲキリュウケンは全く成長しない一夏のそういう所に、ため息をつき、

太夏のきれいな川“いき”が決定した。

そもそも、彼らがこうして明の生まれ故郷にやってきたのは、旅行目的ではない。

この村に、保管されている魔弾戦士の資料を調べることである。

カズキは以前にもこの村の資料を調べたが、その時に調べたものは当時戦っていた

ジャマンガのものだけで、全ての資料に目を通してはいないのだ。

その中に、ひょっとしたら未だ謎の多い創生種達に関するものが少なからず、

あるかもと全員の息抜きと織斑家の家族旅行もかねてやってきたのだ。

 

 

 

「ここが、明の家だよ」

「デカっ!」

 

一度来たことがあるカズキの案内の元、目的地である明の家の前に

やってきた一同を代表して、一夏が感想をもらす。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。

 魔弾戦士殿――」

 

驚く彼らの前に、明の祖母が音もなく現れ歓迎する。

 

「どうぞ、お上がりください」

「これはこれは、ご丁寧にどうも」

「お世話になります」

「大人数でおしかけ、申し訳ありません」

「今回もよろしくお願いします。

 ここにいる者は、全員魔弾戦士のことを知っていますので、

 秘密裏に話すといった気遣いは無用です」

「え、あ、お邪魔しま……す?」

「「「「「「「「「お、お邪魔します……」」」」」」」」」

 

雅達大人組は、丁寧にあいさつし気圧され気味の学生組(太夏を含む)は、

たじろぎながらあいさつをする。

 

「よく来たな、みんな。それに、一夏も//////////」

「久しぶりだな♪」

 

そんなガチガチ状態のメンバーも、明と会って瞬時に二人だけの空間を形成する

一夏を見て、瞬時に真っ黒い炎を背中に燃やすのであった。

 

「ほほう~。これはこれは♪」

「今年の夏は、色々と面白くなりそうだ♪」

 

青春真っ盛りの少年少女達を見て、明の祖母とカズキは“すご~~~く”

楽しそうに笑うのであった。

 

 

 

「なるほど……此度の敵は、そのような者達とは……」

「ええ。底が、知れない相手です」

 

居間に案内されたカズキ達は、先ほどまで遊び的な空気と打って変わって

静かな空気の中、創生種について話していた。

 

「奴らが何人いるかもわからない上、姿を見せている者も

 一人一人の実力もかなりのもの……。

 打てる手は、全て打った方がいいでしょう」

「もとより、我らは魔弾戦士殿の力になるべく技を磨き、力を蓄えてきました。

 今こそ、その真価をお見せしましょうぞ」

「ありがとうございます」

 

手を合わせ頭を下げるおばばに、カズキも頭を下げ、一夏達も

慌てて同じように頭を下げる。

 

「それにしても、明から聞いておりましたが、

 明と同い年の者達が、魔弾戦士となるとは……」

『魔弾戦士になること、つまり私達に選ばれるかに、年齢や力の強さも関係ない』

『必要なのは、恐れに立ち向かい、己の弱さを認める勇気――』

『要するに、“心”って奴さ♪』

『こいつを選んだのも、ちょうど今の一夏と弾と同じくらいの時だったな』

 

実際に一夏達を見て、意外という顔をするおばばに魔弾龍達、それぞれの

相棒を選んだことを何一つ後悔してないことを告げる。

 

「そうでございますか……。

 ところで、明はそちらでどうでしょうか?

 私としては、ひ孫の顔を見れると期待に胸を膨らませているのですが?」

「おばば様////////////!!!」

「そうですね~。

 まだ3か月ぐらいしか過ぎてないのに、

 IS学園のブラックコーヒー消費量が、年間平均の3倍以上になるぐらいには……

 甘い空気を作っていますね~」

『いや、半分以上はお前と千冬の所為だからな?』

 

真面目な顔で、全く関係のないことを聞いてくる祖母に明は、

顔を真っ赤にして抗議するも、カズキはサングラスをかけた司令官のように

両手を組んでニタリと笑みを浮かべて答える。

ザンリュウジンがツッコミを入れるも、何の意味もなかった。

何故なら、慌てふためく明とニコニコと笑みを浮かべる一夏に

全員の視線が集まっていたからだ。

 

「かっかっか!

 灰色の青春を過ごしてないかと心配しておったが、なかなかの

 リア充っぷりよの~。して?

 一体、どの者とイチャイチャな学校生活を送っておるのじゃ?ん?」

「イチャっ////!?」

「ははは。そんなにイチャついてはいませんよ?」

『どの口が言うか。ど・の・口・が!』

 

祖母の言葉に頭から煙を出す明に対し、一夏はいつも通りで何でもないと言うが

ゲキリュウケンが異論をはさむ。それに同意して、恋する乙女達はギロっと

一夏をにらみつける。

 

「ほう~。では、そなたが?」

「はい。俺が、魔弾戦士のリュウケンドー、織斑一夏です。

 それで明と……俺が言っていいのかな?」

「い、いや……じ、自分で言う///////」

 

一夏に言わせたらあることあること言われそうなので、明は自分で口にする

決心をする。

 

「え~~~その……こ、ここここちらの織斑一夏がです……ね?

 わわわわわ私の――」

「おばば様!魔弾戦士の人達が来てるって……」

「付き合っている彼氏です///////////////////!!!!!」

「ほん……と……」

 

家族への紹介という一世一代の告白のタイミングで、虎白が

居間に入ってきて、その場の時が止まった――――。

 





太夏は鞭で叩かれたことがありますが、フェイトと
同じ属性は持っていません(キッパリ)。
一夏が推測したように、ガチのガチで泣いていらぬことを雅から
吹き込まれた冬音に許しを乞いました。
普段と変わらない笑顔で、自分に鞭を振るってくる冬音に(汗)
今までのドS組とはまた違った、ドSですwww

一夏達のクワッ!は、もちろん錬金術兄弟のあの顔です(笑)
でも、今回の休みは次のステップのためのもので・・・(汗)

局員達は、氷を操るドS将軍にしごかれてMと書かれた扉をくぐって
真理にたどり着いてしまった者がいるとかいないとか。

新キャラは明の従妹。
お分かりの人がほとんどでしょうが、後半のネタは
ジャンプのゆらぎ荘からです。

感想・評価、お待ちしてま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の話はちゃんと聞こう


GW連続更新、第三弾です!
一気に、全投稿作品を更新できました。

それにしても、楽しい休みというのはどうして
こんなに早く過ぎるのでしょう(泣)


「えへへ~♪

 あういうのを運命の出会いって言うのかな~」

 

虎白は、軽やかな足取りでスキップしながら屋敷に戻る

道のりを歩いていた。

 

「遠目だったけど、荷物を持ってたから旅行かな?

 てことは~てことは~♪

 しばらくは、ここにいるから探してその間に落としちゃえば!」

 

すっかり緩み切った顔の虎白の頭には、一夏を彼氏として

明とおばばに紹介した時のことが展開されていた。

 

“すごいじゃないか。私の彼氏より、いい男だ”

“かっかっか!虎白もやりおるの~。

若い頃の儂のようじゃわい”

「よ~~~し……このチャンスを絶対モノにするぞぉっ!

 ってあれ?何この靴の数?

 こんなにお客さんが、来てるの?」

「ああ、虎白。どこに行ってたの!

 今、魔弾戦士の方がお仲間さんと一緒に来てるのよ!」

「へ……?えええええ!

 ままま魔弾戦士って、あのっ!?」

 

捕らぬ狸の皮算用の妄想をしながら、屋敷に戻ると

思わぬ来訪者の存在に虎白は、現実へと引き戻された。

魔弾戦士は彼女達にとって、雲の上の存在であり、昔であれば

忍が仕える主君のようなものと言っていい。

それが目と鼻の先にいるとなれば、飛び上がるぐらいの驚きである。

 

「こうしちゃいられない!

 私のすごさを知ってもらわなきゃ!」

 

虎白は、急いで魔弾戦士がいる居間へと向かう。

 

「おばば様!魔弾戦士の人達が来てるって……」

「付き合っている彼氏です///////////////////!!!!!」

「ほん……と……」

 

意気揚々と今の扉を開けた虎白を待ち受けていたのは、ライバル視している

従妹の恋人紹介だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「この者は、私のもう一人の孫娘で虎白と申します。

 ほれ、固まってないであいさつせぬか」

「ハイ、ハラダコハクデス。

 ドウゾヨロシク、オネガイシマス」

 

明が一夏を自分の彼氏だと言った瞬間に入ってきた虎白は、

驚く暇もなく、運命の王子様が儚い幻想だと思い知らされ、ブリキのロボットのように

ぎこちない動きと喋り方で自己紹介をした。

 

「申し訳ありません。才能は明に劣らぬものがあるのですが、

 まだまだ未熟者でして」

「お気になさらずに。未熟と言うことは、伸びしろがあるということですよ」

「それにしても、まさかさっき助けた子が、明の従妹だったなんてな。

 世の中、狭いというかって……何でそんな鋭い目で俺をにらんでいるんだ?」

「「「「「「「自分の胸に聞け!」」」」」」」

「はぁ~」

「ふむふむ。

 これが、クラリッサが言っていた夏休みにお約束な

 鈍感お兄ちゃんの修羅場劇場か……」

 

おばばとカズキが世間話をしている傍らで、明達が一夏をジロリとにらみつける。

何故にらまれるのか、理解できていない一夏に千冬はため息をつき、ラウラは

自分の副官から教えられた(吹き込まれた)恋愛青春模様の醍醐味?にしみじみと

していた。

 

「(何よ何よ何なのよ!どう見ても、明だけじゃなくてこの美人さん達にも

 好かれているじゃないの、一夏は!?

 そりゃあ、一夏はカッコイイけどこんなハーレムに囲まれているなんて聞いてないよ!)」

 

文字通り突き刺す視線を送る明達とそれにたじろいでいる一夏を見て、

虎白は心の中で地面に手をついてうなだれる。

何より、彼女の心に一番突き刺さったのは……。

 

「(……同い歳なのに!同い歳なのに!

 明だけじゃなく、みんな私より大きい!?

 違うもん……!私が小さいんじゃないもん!普通ぐらいだもん!

 ……ん?)」

 

一人は一つ年上なのだが、それでも自分と同じ歳のはずの箒達のとある部分が

自分より遥かに大きく、虎白は悔し涙を堪えられなかったが鈴とラウラが

目に入りじっと見つめる。

 

「うん?」

「何よ?」

「ううん!何でもないよ♪(やった!この二人には、勝ってる!)」

「……ああ~。なるほど、そういうことか」

「何がなるほどだ、コラ。

 あたしの何を見て、元気になって、納得したんだオイ?

 ケンカなら買うぞ、ゴラァッ!!!」

 

この世の終わりを告げられたように絶望していたのに、自分達を見て

笑顔になった虎白にラウラは、どういうことかを冷静に理解したのとは

反対に、鈴は怒りの炎を身に纏う。

 

「おいおい、怒ったところで何も変わらねぇぞ鈴?

 年下の蘭にも負けてんだから、もう望みはなっ!」

「フザケタコトヲヌカスノハ……コノクチカッ!!!」

 

余計なこと言った弾は、鬼神となった鈴により強制的に口をふさがれ、

顔を握りつぶされようとする

 

『痛い目に合うとわかって、何故余計なことを言うのか理解に苦しむ』

『その気持ちはわかるぞ、ゴウリュウガン。

 太夏も何度痛い目を見ても、学習しなかったからな』

「…………っ!!!」

 

口をふさがれているので言葉を発せないが、必死にギブギブ!と訴える弾を

目にしてゴウリュウガンとバクリュウケンは、互いに共感を覚えるのであった。

 

「ところで、カズキ君?

 みんなまだまだ諦めずに、頑張っているみたいだけど一夏のお嫁さんとしては、

 やっぱり明ちゃんが一番の候補なのかしら?」

「ほほう~。あの明が一番の嫁候補とは~」

「そうですね。

 二人とも、学園でも人目のつかない場所でご両親のように

 色々とやっているみたいですし、明も元からそうだったのか予想もしない

 大胆なことをするようになってきましたしね~。

 俺が知らないこともひょっとしたら……♪」

「それって、お風呂で一夏の背中を密着しながら流してあげたり、

 耳元で声を囁いて起こしたりしたことよりも、他人に見せられないことかしら?」

「雅殿雅殿!

 他にも、お姉ちゃんはお兄ちゃんに

 猫のようにあごをナデナデされたり、アツアツの白いどろっと

 したものを顔にかけられたりしたことがあるぞ!」

 

命の瀬戸際に立たされた弾をスルーして、雅やカズキは一夏と明の二人だけの

秘密をこうだろうと推察する。

それに釣られて、ラウラも興奮してクリームパンぶっかけ事件のことを

暴露する。

カズキ達の話を聞いたおばばと太夏はほほう~♪と、冬音はあらあら♪と笑い、

千冬は頭を抱えた。

微笑ましく?笑う大人達と違って、落ち着ていられないのは年頃の若者達である。

明は完熟トマトのように顔を赤くして頭から煙を吹き出し、

恋する乙女達は、呪いを受けたかのようにビシリと固まった。

 

「てめぇ……何一人で、うらやましい青春を送ってやがんだ……っ!」

 

鬼神が手を放してくれたことで開放された弾は、血の涙を流しながら

悔しがり一夏に詰め寄ろうとするが、そこに一夏の姿はなかった。

 

「あっ……さらばっ!」

「逃げたぞ!」

「どこに行きますの!」

「そんなにおっきい方が、いいのか!あ゛あ゛あ゛~ん!」

「一夏~。教えてくれないと、ワカラナイヨ~?」

「一夏く~ん、お姉さん達とオ・ハ・ナ・シしましょう♪」

「追跡開始……!」

「俺は、まだデートもしたことないのにぃぃぃっ!!!」

 

ここにいたら危険と察したのか、一夏は弾達が固まっている間に

その場からこっそり逃げようとするが見つかってしまい、

捕まったら“きれいな川”を泳いでしまうかもしれない鬼ごっこが

開始される。

 

「逃亡役と捕獲役に分かれての訓練か!

 私もやるぞ!待ってくれ~」

「わわわわわ//////////////////。

 一緒にににににおおおおおお風呂って///////////////!」

「っ////////////!!!!!」

 

弾達に遅れる形で、ラウラも訓練と勘違いした鬼ごっこに参加し、

虎白は事態をうまく呑み込めないのか顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

そんな空気に耐えられず、明も逃亡する。

残されたのは、思考停止してしまった虎白と大人組達だった。

 

「かっかっか!青春じゃのぉ!」

「青春ね♪」

「青春だよね~」

「じゃあ、私達も青春しに行こうか、太夏?」

「おう!行きますか」

『二人とも、私もいるということを忘れているだろ?』

「時に、おばばさんや。――薬みたいなものってあったりします?」

「ありますぞ?ですが、それをどうするので?」

「ふふふ……それはですね……♪」

「なんと!おもしろいことを考えますな……♪」

「待って。こうすればもっと……」

「「「ふふふふふふふふふ♪」」」

『うわ~。カズキだけでなく、雅やばーさんまで悪い顔してるぜ』

「……はぁ」

 

一夏達に感化されたのか冬音と太夏も外に出かけ、

カズキはおばばと雅と一緒に、よからぬことを画策する。

彼らの顔は時代劇で見る……

 

“越後屋、お主もワルよのぉ~”

“いえいえ、お代官様ほどでは……♪”

 

そのものであった。

もちろん、三人にはザンリュウジンの楽しそうな声も千冬の

ため息も耳には入っていなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何か、全員でいると走ってばかりだよな俺って!」

『お前が悪いということで、諦めろ』

「何でだよっ!ん?」

 

背中を預けて戦う仲間なのに、たまに本気で自分の息の根を止めに来るのは

何故なのかと考える一夏だったが、相棒から返ってくるのは

冷たいものであった。

そうやって、あてもなくひたすら逃亡を続ける中、自分に向けられる

いくつもの敵意に気が付く。

 

「弾達じゃないな。数が多いし……出てこい!」

「貴様が、明が連れてきたという魔弾戦士だなっ!」

 

一夏の前に現れたのは、忍び装束に身を包んだ者達だった。

覆面から覗かせる目には、ギラギラとした炎が灯されていた。

 

「ざっと見積もって、30人ってとこか……」

「我らは、明と共に修業の日々を送り、技を磨いてきた!」

「全ては、魔弾戦士の力となり、この世界を守るため!」

「そんな我らが、仕えるべき主君と言っていい魔弾戦士の力を

 見せてもらうぞ!」

『で?その本心は?』

 

声からして一夏の前に現れたのは全員男で、自分達が支えるに足りる存在であるか

一夏を試すようだが、ゲキリュウケンは彼らの目的はそうでないことを

見抜いていた。

 

「「「「「明と付き合っているなんて、認められるかっ!!!」」」」」

「うおっ!?」

『やっぱり、そういう類か……。

 つくづく似た者同士だな、お前達は』

 

人を吹き飛ばすような勢いの怒声に一夏は、たじろぎ

ゲキリュウケンは自身の勘が当たってげんなりする。

明自身は気が付いていなかったのだろうが、ゲキリュウケンは明が

一夏のように多くの異性に思いを寄せられていたのではないかと

考えていたのだ。

 

「ほほほ本当なのか、貴様!

 あ……明とつ、つつつ付き合っているって言うのは!」

「うううウソなんだろろろ?

 どうせ、虎白のははははは早とちりなんだろ、オイ!」

「そうに決まっているだろ!

 あの明だぞ!

 わき目も降らずひたすら修行して、恋愛ごとには一切興味を

 持たなかったあの明が!

 眉目秀麗!文武両道!成績優秀な完璧超人の明が!

 そんなマンガみたいに一目惚れとかじゃあるまいし!」

「いや、嘘でも冗談でもなく俺と明は、付き合っている

 恋人同士だけど?」

「「「「「ほきょぉぉぉっっっっっ!!!!!?」」」」」

『無自覚で止めを刺したか……』

 

現実を受け入れたくない男達は、必死に虎白が言っていたことを

早とちりだ間違いだと必死になって現実を否定しようとするが、

一夏(鈍感)の悪意無き一言に容易く現実を突きつけられて奇声を上げる。

 

「おい、しっかりしろ!」

「誰か、救急車……救急車を!」

「息……して、ない!?」

「バッカやろう!

 腹くくっとけって言っただろうが!

 まだ、希望はある!

 こ、い……人って言ったって、きっとキスどころか手をつなぐことも

 まだしてないような……う、初々しいものに違いない!」

 

一夏の一言で半数以上が地面に手を突いたり、呼吸が止まったりするも

残りのメンバーは、まだ自分達にも逆転の目があると鼓舞する。

噛みしめた口や、握ったこぶしから血を流して。

 

「う~ん、キスはもうしたかな~/////」

「「「「「%ぎゃ&ぼ$#@ぬ☆?\^へっっっ!!!!!」」」」」

『(キズでこれなら、それ以上のことを毎日人前で

 やっていると知ったらショック死するんじゃないか、こいつら?

 というか、何故こいつはキスより恥ずかしいことをしているのに

 そんなに恥ずかしそうに言う?)』

 

照れくさそうに話す、一夏(鈍感)の悪意無き一言に男達は

先ほど以上の声にならない奇声を上げる。

そんな彼らを見ながら、ゲキリュウケンは自分が“見させられている”キス以上に

人に言えない桃色空間のことを知ったら、彼らはあの世に

旅立ってしまうのではないかと冗談抜きで考える。

目の前で一人残らず倒れて痙攣する男達を見ると、十二分にそれは

考えられた。

 

「ええい!

 もう、こいつが明と付き合っていようがいまいが関係ねぇっ!

 IS学園なんて、周りが全員女なんて、夢のハーレム天国で

 青春している男に正義の鉄槌をくだせぇぇぇっ!!!」

「「「「「うおおおっっっ!!!!!」」」」」

「ハーレム天国って、こっちの苦労も知らないで……」

 

倒れ伏していた男達は、ゾンビの如く一斉に立ち上がると滅茶苦茶な言葉を

並べて一夏に襲い掛かる。

刀やクナイ、鎖鎌を構えて向かってくる彼らに一夏はため息をこぼしながら

構えを取る……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「「…………」」」

「……死んだか?」

「ご愁傷様……」

「まだ、生きとるわっ!」

「し、しぬ……死んじゃう……」

「勝手に殺さないでよ~。アカメ~、クロメ~」

 

とある世界の川辺で“鎧”を着込んだはやて、なのは、フェイトは息も絶え絶えに

死にかけており、監督役であるアカメとクロメに渾身のツッコミを入れた。

カズキの課題をクリアした3人は、基礎体力作りを行っていた。

 

「少し休憩するか」

「でも、3人とも体力無さすぎ……。

 本当に、戦闘がメインなの?まだ、カズキが作ったメニューの半分もできてないよ?」

「返す言葉もございません」

「というか、こんな鎧着て川を泳ぐなんてこの世界の訓練メニューは、

 色々とすごすぎる……」

「こんなのできる人いんの?」

「私やクロメは違うものをこなしていたが、タツミに一夏、弾も

 できるぞ?」

「何回も溺れてたけどね」

 

体力回復のために一休みするなのは達だったが、クロメの呆れ具合に

ぐぅの音も出なかった。

無表情でとげのあることを言ってくるので、なのは達の心には

グサリと刺さるものがあった。

その間に重たい鎧を着ての水泳という正気を疑う訓練メニューに疑問の

声を上げると、身近にできる人がいて何も言い返せなくなる。

 

「最近では、お前達が着ている鎧に更に重りをつけてユーノが泳いでいたぞ。

 3倍の距離を」

「「「いぃぃ!?」」」

「“人一倍弱いから人の倍以上やらないと強くなれない!”って」

 

自分達が知らないところで強くなる努力をしていたユーノに、なのは達は

唖然とする。

 

「体力作りは、大事だ。ここぞという時に、生かされてくる」

「ありすぎて困るなんてこともないからね」

「訓練はどう?アカメちゃん、クロメちゃん」

「セシル、来てたのか」

「3人ともまだまだだね」

 

基礎体力の大切さをアカメが説いていると、白衣

を着た女性セシル・クルーミーがやってきた。

 

「大変みたいね、3人とも。

 私みたいな技術者は、裏方からサポートしたり、

 こんな差し入れをするぐらいしかできないけど……」

「セシルさんのさ、差し入れっ!?」

「いいですよ!そんな気を使わなくても!」

「そ、そうですよ~!セシルさん達には、色々と十~~~分にお世話に

 なってますし!」

「これ、碓氷さんが作ったリカバ茶を私なりにアレンジしてみたから、

 遠慮しないで飲んでね♪」

 

セシルが用意した差し入れと聞いて、なのは達は慌てふためくがそれに構わず、

セシルは差し入れのドリンクを取り出す。

絵本の魔女が煮込む薬のように、この世のモノとは思えない色をして煙を

吹き出す飲み物?を……。

しかも、一夏とジノを飲んだだけで気絶させたカズキのドリンクを

アレンジしたという、まさに余計なことをして。

 

「さあ、休憩は終わりやで二人とも!」

「そうだね、はやてちゃん!」

「時間が無いもんね!」

 

差し出された飲み物?を無視して、3人はすぐさま立ち上がって

川へと飛び込んで猛スピードで泳いでいく。

 

「しっかり、水分補給しないと危ないわよ~。

 おいしいリカバ茶をもっとおいしくしたのに……もう!

 体を壊したら元も子もないのよ?」

「セシルの料理を食べた方が、体をこw」

「クロメ、しっ」

 

泳いでいくなのは達を心配するセシルだったが、クロメは

セシルが作ったものを食べたりした方が、体に悪いとツッコもうとするが

アカメにやんわりと止められた。

セシルの味覚はなかなか個性的であり、カズキの栄養ドリンクを飲んでも平気

なほどである。

彼女の差し入れを食べたことがあるものは、身をもってそれを知っているのだ。

なのは達もその例にもれず、食べた瞬間仲間の一人、

シャマルの顔が浮かんだとかそうでないとか。

そして、セシルとシャマルを決して二人一緒に厨房に立たせてはいけないと

なのは達は固く決意していた。

 

「せっかくだから、あなた達にあげるわ」

「いや、遠慮しておく」

「のど渇いてないし」

 

セシルの提案を冷や汗をかきながら断るアカメとクロメであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ほう~。これが、人間の町か~。

 なかなか風情があるでないか」

「龍士(りゅうし)さま。我らの目的は、観光ではないことをゆめゆめ忘れぬよう……」

「わかっておる!だが、これぐらいは許してもよかろう。

 それに、我が目に適う女子など早々……」

「どこに行った!」

「逃がしませんわよ!」

「修行の成果を試すから、サンドバックになりなさい!」

「何も怖くないから、出ておいで~♪」

「流石のお姉さんも話してくれなきゃ、プンプンよ~」

「記憶を読み取るメカを作る?そうするには……直接頭に電極を刺して……」

「いたぁぁぁ!!!!!?」

 

一夏が明の親衛隊(?)と激闘している頃、着物を着た若者とその従者らしき者が、

村に現れた。龍士と呼ばれた若者は、細見だが筋肉がついており

面食いの女子が見たら黄色い声を上げそうな美男であった。

そんな彼は、何やら物色しているとその目に、血眼になって一夏を

探す箒達が目に入り、大声を上げる。

 

「そこの者達。喜べ、お前達を我がt……」

 

髪をかきあげながら、箒達を呼び止めようとする龍士だったが、

彼女達は龍士のことなど目にも入れず一夏を探しに走り去っていく。

 

「おい、待てお前達!」

「待つのはあんただ、ダァホ」

 

箒達を呼び止めようとする龍士の頭に、従者の少年が手刀を

叩き込んで止めにかかる。

 

「ぬぉぉぉっ……。

 何をする佐助(さすけ)!」

「もうちっと、考えて行動しろって言ってんだ。

 あの者達は、至って普通の人間。

 龍士さまの妻には、ふさわしくありません」

「しかしだな、佐助。

 そういるものでもないだろう……我らが龍の力を

 宿せる女子など……」

 

 

 

 

「見つけたぞ、お姉ちゃん!」

「ラ、ラウラ……//////////////」

 

ラウラはかくれんぼうで見つけたように、屋敷から逃亡した明を

見つけてムフッ!とした顔をした。

 

「ふっ、どうやらこの訓練は私が一番乗りのようだな♪」

「無邪気なお前が、うらやましいよ」

「うん?」

 

青春の代表格である恋愛鬼ごっこ(命がけ)を何か勘違いしているラウラに、

明は脱力する。

 

「……せっかくだ。この村を案内するよ、ラウラ」

「“でーと”という奴だな!」

「あははは……」

「いやー!!」

「わははは!!

 我が側室になりたいのだろ?遠慮などいらんぞ!」

「「ん?」」

 

毒気が抜かれた明は、ラウラに村を案内しようとすると女性の悲鳴が

耳に入る。目を向けると、高笑いする龍士が女性を抱きかかえていた。

 

「だから、やめろっつーの」

「ぐおお……。佐助、従者の分際で……!」

「お目付け役としての当然の責務だ。

 何度も言っているでしょう。見境なく誘うのは、やめろって……」

「何を言っている!余ではなく、娘の方から……」

「誰がどう見ても誘拐にしか見えんわ!」

「あれは、日本の“まんざい”という奴なのか、お姉ちゃん?」

「違……わない、のか?」

「む……っ!

 う、美しい――」

「また……ん?」

 

 

従者が主に手刀を叩き込んで、暴走を止める光景を目にしたラウラは、

漫才かと尋ねるが明は強く否定することができず、何とも言えない笑みを浮かべる。

そんな二人のやり取りを遠目に見た龍士は、明の横顔に心奪われた。

 

「そこの娘!

 余の名は湖月龍士(こげつりゅうし)。

 オヌシ、名は何と申す?」

「なんだ?ナンパという奴か?」

「違う!オヌシでなく、そっちの女子の方に聞いておるのだ!」

「……どちらにしろ、ナンパに変わりないじゃないか。

 すまないが、急いでいるので……っ!」

 

明とラウラの前に、人間と思えないスピードで移動した龍士は、

上から目線で名前を尋ねてくる。

ナンパかと首を傾げるラウラに、明は何かに気付いたのかここを

離れようとする。

 

「ははは!そう照れるでない!」

「くっ!」

「ほぉ……」

 

立ち去ろうとする明の手を掴もうとする龍士だったが、明はラウラを

抱えて飛びのいて距離を取る。

その手際に、龍士は感心した声を上げる。

 

「どうだ、佐助!?」

「悪くありませんね。龍の因子とも相性が良さそうですし。

 ただ……」

「ようし!ならば、決まりだ!」

「聞けよ、人の話を」

「オヌシを余の妻にしてやる!!!」

「……はぁぁぁっ!!!?」

「何だと!?」

 

明を見て一人納得する龍士は、佐助の言葉を聞かずにとんでもないことを

言いだして、明とラウラを驚愕させる。

 

「簡単に説明しますと、こちらの龍士さまの結婚相手を探していまして。

 どうやら、あなたを気に入ったようです」

「突然何を言っているんだ!

 大体、結婚相手ってあなたは人でなく土地神ではないか!」

「気づいておったのか。

 瞬時に見抜く洞察力、ますます気に入ったぞ!」

「土地神?」

「土地神とは、その名の通り土地を治める神さまのことですよ。

 小さなお嬢さん。

 この方は、仙水湖の土地神にあらせられます」

「心配せずとも、我ら龍族は異種類婚によって栄える一族。

 人だのなんだのとは、些細なことよ」

「そういうことを言っているんじゃない!」

 

龍士が神の一種だと気づいていた明は、深く関わらず彼らに去ってもらおうとするが

明の話が頭に入っていないのか、龍士は上機嫌になっていくだけだった。

 

「とにかく、初対面のよく知らない相手と結婚などできるわけがないだろう!」

「ふははは!いやよいやよも好きのうちという奴だな!

 照れずとも、オヌシの本心は分かっておるぞ」

「お姉ちゃん、あいつは何を言っているんだ?

 結婚なんてできるわけないだろ。

 お姉ちゃんは、お兄ちゃんと結婚するんだから」

「ラウラ/////!?」

 

人の話を聞かないタイプの龍士を、不思議なものを見る目で見る

ラウラは当然のように明に一夏と言う相手がいることを口にする。

 

「お兄ちゃんだと?

 何を言っておるのだ、娘よ。

 血のつながりのある者が結ばれるわけがないだろ?」

「いや、別にお兄ちゃんとお姉ちゃんに血のつながりはないぞ?

 とにかく、お前とお姉ちゃんは結婚できない。

 お姉ちゃんはお兄ちゃんと同じ部屋に住んでいたし、一緒にお風呂に入った

 こともある。

 それに、人には言えない“えっちなこと”というのもやっている……と

 兄様が言っていたぞ!」

「は、裸の付き合いをしているだとっ!?」

「違わないかもしれないけど、言い方っ////////////////!!!」

 

眉をひそめる龍士に構うことなく、ラウラは明と一夏の付き合いを

喋っていく。

その内容に驚く龍士だったが、完全な誤解と言い切れない言い方に

明は顔を羞恥で染めて慌てふためく。

 

「おのれ~!余の妻になんという破廉恥なことを~!!

 こうしてはおれん!一刻も早く城へと連れていき、祝言をあげるぞ!」

「誰が、貴様の妻だ!結婚するなど一言も!」

「すいませんが、一緒に来てもらいます」

「なにっ!?

 (私が後ろを取られただと!?)」

「お姉ちゃん!」

 

思い込みで暴走を加速させていく龍士に、反論する明だったが佐助に背後を

とられ動きを封じられてしまう。

その際に、ラウラは明から離され龍士と佐助は空中に出現した

波紋へと消えていく。

 

「よせ、ラウラ!今のお前では、手に余る!

 私は大丈夫だから、一夏達に知らせてくれ!」

「くっ!お前達、覚悟しておけ!

 お姉ちゃんは、必ずお兄ちゃんが助けに行く!!!」

「いいだろう。その者には用がある……余の妻を辱めた礼を

 してくれる!」

「いい加減、話を聞け!」

 

ラウラは、連れ去られようとする明を追いかけようとするが

この二人の実力を感じ取った明はラウラを呼び止める。

悔しさで顔を歪めるラウラは、一夏と共に助けに行くと約束するが

同じく龍士も一夏に怒りを燃やす。明の言葉を全く耳に入れず。

 

「お嬢さん、悪いことは言わない。余計な事は、しない方がいい。

 こんなんでもこの方は、神霊だからね。

 人間がどうにかできる相手じゃないよ。

 まあ、彼女は悪いようにはしないから……」

 

そう言い残し、彼らは明を連れてラウラの前から姿を消した。

 

 

 

「あれ?」

『どうした、一夏?』

「いや、何かわかんないけど胸騒ぎが……」

 

自棄となって襲い掛かってきた男どもを軽く片づけた一夏は、

山のように積まれた彼らを背に、何か不穏な気配を感じるのであった。

 

『多分、それはあれだろうな……』

 

そうやって考えに耽る一夏を、恋する乙女たちが視界に入れるまで

残り十数秒――。

 

 





なのは達は、アカメ達監修の元、基礎体力つくりをしていました。
そこにカズキのドリンクをセシルがアレンジするという
恐ろしいことを(汗)
原作のように、彼女の味覚は個性的?でカズキの
ドリンクも平気でグイグイと。

後半の部分は、前回と同じくジャンプのゆらぎ荘から。
というわけで次回、一夏が――(ガクブルガクブル)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

言葉は、話し合いの大事な道具だから、大切にしよう


最新話です。

結末は、みなさん大体想像がついていると思います(苦笑)

遊戯王のデッキを組む時間が欲しい・・・


「あの~皆さん?

 何ゆえ、わたくしはこんな罪人のように扱われているのでしょうか?」

 

手足を縛られ、十字架に磔にされた一夏は顔を引きつらせながら、

自分をこんな目に合わせている少女達に問いかける。

 

「何を言っている?

 乙女の純情を弄んでいる大罪人に、相応しい格好ではないか……」

「俺の命を弄んでいるのは、お前らだろ!」

 

目から光を消して妖艶な笑みを浮かべながら箒は、日本刀を一夏の

首筋に添える。

 

「オホホホ……一夏さん?

 あんまり、動きますと当ててしまいますわよ?」

「こんな距離で、外すも何もないよね!」

 

弓矢を構えたセシリアは、優雅に微笑み。

 

「ごちゃごちゃ、うるさいわね!

 男なら潔く諦めて、裁きを受けなさい!」

「諦めたら、ご先祖様に会うことになるだろうが!」

 

トゲつきのグローブをした鈴が、怒りの炎でツインテールを

逆立たせる。

 

「見て~、一夏~?

 ドリルみたいに回転することで貫通力を上げた、

 新しいシールド・ピアース♪」

「うん、すごいね。でも、人間に当たったら風穴開けるどころじゃすまない

 それを何で、俺に向けているのかな!」

 

無慈悲な天使の笑みを浮かべるシャルロットは、新装備を

一夏に向けていつでも放てる態勢をとる。

 

「疑わしきは、罰せよ……」

「その手に持っているたいまつで、何をする気!」

 

表情の抜け落ちた簪は、燃えるたいまつで点火の準備をする。

 

「ねぇ~一夏君~?

 人間の体の水を操れたら、おもしろいと思わない~?」

「すごいでしょうね……俺で練習しようとしてなければ!」

 

楯無は、一夏をできたら恐ろしいことになる新しい技の実験台にしようとする。

 

「みんな、頭を冷やせ!

 勢いで行動したら後で、絶対後悔するから!

 ゲキリュウケンも!

 何か言って止めてくれぇぇぇっ!」

『そうだな……。

 お前達、暴力はよくないぞ。暴力は。

 相手を苦しませるなら、顔を水につけた状態でくすぐるとか、

 小さい頃の作文を読むとかの方が、より長く苦しんで精神にもくるぞ?』

「何で、拷問のアドバイスを送っているのかな!?」

『いい機会だから、一度彼女達の怒りをきっちり受けろ。

 その方が後腐れ無くなって、すっきりするぞ?』

「すっきりするどころか、色んな意味で真っ白になるわ!

 そして、いいかも……って考えないで!?」

 

風前の灯火となる自分の命を守るために、必死に説得を試みる一夏は

ゲキリュウケンにも一緒に止めてくれと懇願するが、思わぬ裏切りに

あってしまう。

ゲキリュウケンの言葉に、血が上った頭が少し冷えたのか、少女達は

思案顔となり、一夏はこのままではマズイと脱出を試みる。

 

「あっ、いた!

 お前ら、何やってるんだよ……」

「弾!心の友よ!助けてくれ!」

「馬鹿やってる場合じゃねぇぞ。大変なんだ!」

 

一夏が十字架からの脱出を図ろうとしていると、弾がやってきて一夏は

歓喜する。

しかし、箒達と同じ目的で一夏を追っていた弾の顔は、深刻なものだった。

 

「明が……さらわれた……!」

「……なんだって――?」

 

弾の言葉を聞いた全員が、信じられないと言った表情を浮かべた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ひっ……ぐ……。ごべん……なざい……。

 おねえぢゃん……ざらわれだのに……なにもでぎ……ひっぐ……」

「ううん。ラウラは、何も悪くないよ。

 だから、泣かな~い、泣かな~い」

 

一夏達は、IS学園名物の青春騒動をとりあえずやめて、明の屋敷に

急いで戻った。

そこに、泣きじゃくるラウラから大まかな事情を聞くと、

冬音にラウラのあやしを任せて、すぐさま対策に入った。

 

「まさか、仙水湖の土地神がこのような……」

「何者かご存じなんですか?」

「はい……。

 あちらにある、山の中にある湖を治めている神霊です。

 数百年に一度、異種族の娘を妻に娶るのですが……

 あくまで双方合意の上で行ってきており、自ら人に敵対することも

 ないので大きな問題にはならなかったのです」

 

おばばが居間の窓から見える山に目をやり、明をさらった一族を説明するが

どうしてこんなことになったか、頭をひねるだけだった。

 

「まあ、今まで問題なかったとか関係ねぇよ!」

「ああ。こんなふざけた真似をして、ただですますかよ!」

「どどどどどどうしよう、おばば様!

 妻に娶るって、つまり明をお嫁さんにして味噌汁を毎日作ってもらったり、

 あああああ赤ちゃんを作ったりするってことだよね////////////!?」

 

とにかく、行動あるのみと弾と太夏がすぐに龍士がいる仙水湖に向かおうとすると

パニックになった虎白がさらわれた明がされてしまうかもなことを口にすると……、

弾と太夏は――――

 

 

 

“赤ん坊の時、母親に最初に抱かれた記憶”

 

 

 

 

が、頭をよぎった。

 

「「っ!!」」

「ん?どうしたんだよ、二人とも」

 

二人は、自分達の間に座っている一夏を反射的に見ると、そこには

普通に難しい顔をしている一夏がいた。

 

「い、いや……べ、別に……(今一瞬……とんでもない殺気が……。気のせい……?)」

「な、何でも……ない……ぞ?(ビビったぁ~!冬音が、怒ったかと思ったぜ……)」

『気のせいではないぞ、弾』

『一夏は、お前だけでなく冬音の血も色濃く受け継いだようだな……』

 

人生の始まりと言っていい記憶を思い起こすほどの殺気を感じた弾と太夏だったが、

発生源と思われた一夏に変わった様子はなく気のせいだと思うことにする。

気のせいだと、自分に言い聞かせて。

だが、ゴウリュウガンとバクリュウケンは、一夏がかなりヤバイ状態だと

感じ取っていた。何故なら……。

 

『あがががががggggggggggggg……』

 

一夏の腕に巻かれているゲキリュウケンが、壊れたスピーカーのような

音を上げていたからだ。

そんなゲキリュウケンを見て、バクリュウケンは冷や汗が止まらなかった。

かつて自分が体験した中でも、ベスト3に入る恐怖を感じさせた怒りに通じるものを

一夏から感じ取ったからだ。

その怒りを発した者は、よしよしと涙を流している女の子をなだめていた。

 

「まあ、心配しなくてもすぐに明がどうこうってことはないさ。

 異種族間で婚姻を結ぶには、魂を繋げるための儀式が必要だからね。

 その準備にも時間がかかるから、今からでも十分に間に合う」

「ならば、全員で乗り込もう!」

「ええ。女性を力づくで、自分のものにしようなんて許せませんわ!」

「ボッコボッコのギッタンギッタンにしてやるわ!」

「ラウラを泣かせた分も、しっかりお礼しないとね!」

「悪に正義の鉄槌を……!」

「こんな形で恋敵がいなくなるのは、本意じゃないしね~!」

「ここまで頭に来るのも久しぶりだな……」

「あらあら、みんなだけじゃなく千冬まで燃えちゃって♪

 普通に考えれば、このまま明ちゃんが土地神さんのものになれば

 都合がいいのに、取り返す気満々なんて……本当に、みんないい子ね~。

 だけど……フフフ。

 その土地神さんは、随分調子に乗ったことをするわね……」

『ん?…………っっっっっ!!!!!!!!!!!』

 

冷静に明を助けるための時間があると言うカズキだったが、その目は

笑っておらず、弾と太夏同様に怒りを感じているのは明白だった。

だが、彼ら以上に女性陣は怒り心頭であり、その様は太陽さえたじろかせると

思えるほど苛烈なものだった。

千冬もまた、彼女達のように鋭い怒りを静かに燃やしていた。

恋のライバルなのに、その救出に一切ためらいが無い彼女達に

雅はうれしそうに微笑むが、だんだんと顔を俯かせ

その声色は低く小さくなっていき……。

 

「どうしたんだ、ザンリュウジン?」

『雅を……おこらせちゃ……マズイ……』

 

声を小さくしていき俯いた雅の顔をたまたま見てしまったザンリュウジンは、

声にならない叫びを上げて真っ白になってしまった――。

雅を怒らせることの恐ろしさなど、誰もが知っているのに

ザンリュウジンは何を言っているのかと、カズキは首をかしげる。

 

「みんな、落ち着けって。

 全員で行ったら目立つし、ここは龍繋がりで魔弾戦士の俺達が行くぜ。

 ねっ、カズキさん?」

「一夏の言う通り。相手は、仮にも一応は土地神。

 人間が戦うには、色々と準備が必要だ。

 だけど、龍の中でも最高位に位置する魔弾龍とそれに選ばれた

 魔弾戦士なら話は別だ」

「そういうことだから、みんなは待っていてくれ。

 その代わり、今夜はおいしい龍料理を……俺がごちそうするからさ♪」

 

怒る乙女達に臆することなく、自分達魔弾戦士で明の救助に行くと

言った一夏に彼女達は反論しようとするが、その理由をカズキから

述べられて渋々了承する。

しかし、それも一瞬。

誰もが見惚れるまぶしい笑顔で、冗談ともそうでないとも取れる

とんでもないことを言った一夏に、雅と冬音以外の全員が言葉を失った。

 

「何だ?

 今の一夏を見ていると、こう……思い出してはいけない何かを

 思い出してしまうような……。

 頭の霧がだんだんと晴れて……

 まるでこの世の終わりを目撃してしまった男が、母さんの前に座り込んで――」

「よせ、千冬!それ以上は、言うなっっっ!

 俺の心の傷が裂けるっ!!!」

 

一夏の笑顔を見て、記憶のカギが呼び起されたのかポツポツと封印した思い出を

語ろうとする千冬に太夏が大慌てで、止めに入る。

 

『太夏の言うとおりだ、千冬。思い出してはいけない。

 それを思い出したら、太夏だけでなくこの場にいる全員に

 トラウマが刻み込まれる……!』

「さっきの君の言葉から大体のことは、想像できるけどさ……。

 そのトラウマって、一夏によって刻まれるんじゃないかな?

 だって、トラウマを刻んだ本人……冬音さんにそっくりなんでしょ?」

『……』

 

バクリュウケンも太夏に続いて、千冬が記憶を思い出すのを止めるが、

カズキは意味が無いかもしれないと危惧する。

彼女が思い出さなくても別の人物によって、太夏に刻まれたのと同じ

トラウマを……一夏が刻むかもしれないと。

 

「ははは……。ふざけてる場合じゃないぜ、父さん?

 時間があるって言っても、早いに越したことは無いからさ♪」

『だ……だれガ……だじげ……』

「カズキさん?なんか、もうアイツだけで行かせた方がいいんじゃないですか?

 普段とあんま変わってないように見えるけど、今のアイツならカズキさんにも

 太夏さんにも勝てる気がする……」

「そうしたいのは、俺もやまやまだけどそれは悪手だ。

 今の一夏は、明をさらったバカ神を消しかねないからね……。

 土地神ってのは、その土地を司っているからもしも消滅とかしたら、

 どんな影響が出るか想像もつかない。

 だから、何とか穏便に落としどころをつけるためにも、一夏を

 一人で行かせるわけにはいかないんだ」

『何をしでかすか予測不能』

 

笑顔を浮かべているのに、手についているゲキリュウケンは息も絶え絶えという

一夏の異様な状態に、弾は逃げたい衝動にかられる。

だが、一夏を一人行かせた場合の危険を考え、カズキは魔弾戦士全員で

行くことを譲らない。

 

「まあ、いざとなったらお前と親父さんを置いて、俺は逃げるから大丈夫♪」

「なるほど、確かに大丈夫……じゃねぇよっ!

 仲間見捨てる気満々じゃねぇかっ!!」

「おい、弾……ふざけている場合じゃ……ないだろ?」

「はい。ふざけてごめんなさい」

『gggggggg……』

 

ゴクリと喉をならすような表情から一転して、ちゃっかり自分だけは

逃げる算段をつけていたカズキに弾は抗議するも、笑顔の一夏によって

黙らせられる。拳に青筋を浮かばせるほど握りしめた一夏に……。

 

「何……?何なのよ~……。あの一夏のぶっ飛び具合は……」

 

笑顔だが、花びらが落ちるような些細な衝撃でも押さえている”何か”を

爆発させそうな今の一夏を見てラウラ以外のIS学園勢と虎白は、顔面蒼白となる。

そんな一夏に虎白は、人生で最大の戦慄を覚えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「この先みたいだね……」

 

明を助けるために出発したカズキ達は、目的地である仙水湖がある山の

ふもとにたどり着いた。

 

「こっからでも、感じられるぐらいの気配を感じますね……」

「じゃあ、さっさと行こうぜ。俺達の精神衛生の為にも……」

『『『うんうん』』』

「……」

『た、頼むから……さっ……気を……お、おさえて、く……れ』

 

最終的に行くべき場所を確認できた一同は、急いで駆け出す。

ニコニコ笑顔で何をするかわからない一夏を、早く何とかするために。

 

『そういやさ~。土地神は、明を嫁にするためにさらったんだよな?』

「らしいね」

『だったら、別に取って食われるとかねぇだろけど……。

 別の目にはあってるんじゃねぇか?』

「別の目って?」

『例えば、肌が大きく露出してるようなえっちぃ服を着させられたりとかさ~』

「っ!馬鹿っ!」

「……」

 

仙水湖に向かう道で、ザンリュウジンがふと思った疑問を

どういうものかと弾が尋ね、何気なしにザンリュウジンが答えた瞬間、

カズキは慌ててその口を塞ぐが既に遅かった……。

彼らは恐る恐る先頭を行く一夏を見るが、ピタリと止まったその姿は

前を向いているため、一夏が今どんな顔をしているかはわからなかった。

 

「…………みんな……先を急ごうか?」

『『『「「「はい……」」」』』』

『…………』

 

グルリと後ろを振り向いた“笑顔”の一夏は淡々と口を開くが、

カズキ達は余計なことを言ったら“きれいな川”を泳がされると直感した。

 

「あんなに怖い笑顔、人生で……ははは、初めて見た……」

「し……心臓が……と、止まるかと思った……。

 あれは、冬音が怒った時と同じ顔じゃねぇか」

「みんな、ここから先は、ザンリュウが言ったみたいに

 明がどういう目にあっているかを口にするのは、

 タブーだ。いいな?」

『聞きたくないが、もし……』

『口にしたら?』

「その時は……地獄絵図が展開される――」

 

弾と太夏が、笑顔だけど間違いなくハラワタが煮えくり返るほど

激怒している一夏の怖さを改めて体感すると、カズキがその原因となった

ザンリュウジンが想像したことを口に出さないように注意する。

そして、バクリュウケンがそれを破った場合に起きることを聞くと……

 

“おらぁ!おらぁ!おらぁ!おらぁ!おらぁ!”

 

高笑いをしたゴッドリュウケンドーが、マグナリュウガンオーを片手で

締め上げ、バクリュウケンドーを地面に踏みつけ、後ろの壁にリュウジンオーが

めり込む光景が全員の頭をよぎった。

 

『ひぃぃぃぃぃっっっ!!!』

「俺達、生きて帰れるんですかね?」

「わからない。

 話を聞く限り、明を誘拐した土地神は

 人の話を聞かないバカみたいだからね……。

 そういうタイプのバカは、何をしでかすか全く想像がつかない」

「なんかさぁ……すっげぇ~~~~~~~~~~嫌な予感がするんだけど、俺」

 

ザンリュウジンが悲鳴を上げるが、弾はそれに構わず、自分達が無事に

生還できるかを本気で心配する。

そして弾同様に太夏もまた、ここから恐ろしいことが起きるのを直感していた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おい!私をすぐに返せ!」

「何を言う?

 お前は、ここで余の妻として暮らすのだ!

 その服も可憐だが、我が妻として相応しいものをくれてやろう。

 ふん!」

 

明を誘拐した龍士は、相も変わらず人の話を全く聞かず、

手に光を集めて明へと放つ。

 

「なっ///////!」

「ははははは!!!

 余の神通力を持ってすれば、服を変えることなど容易いことよ!」

 

光に眩んだ明が目を開けると、自分の服が

まるで竜宮城の乙姫のような煌びやかなものに変わっていて、驚きの声を

上げる。その様は、肩や胸元が大きく見えて扇情的であった。

 

「さて、次はあまりの色気に幻となったものよ!」

「今度は……って。ただのブルマじゃないか……」

 

次に龍士が明に着せたのは、ブルマ姿の体操服だったが、どんな服かと

身構えていた明は拍子抜けした様子だった。

IS学園での体操着が、同じものなのでだから何だと言った感じだった。

 

「いいぞいいぞ!どんどん行くぞ!」

 

脱力する明に構わず、龍士はテンションを上げて次々と明の服を様々なものに

変えていく。

太夏も好きな大人のウサギさんのバニーガール。

深いスリットで美脚を露わにしたチャイナ服。

誰もが一度は想像する眼鏡をかけたスーツ姿のイカンな教師姿。

 

「よーし、次は……!」

「いい加減に……」

「いい加減にしろ、ボケナス」

 

自分の意見を無視して、鼻の下を伸ばして勝手なことをする龍士に

我慢の限界が来そうになった明だったが、彼女ではなく従者であるサスケの

脳天チョップをガツ~ン!と金属を叩いたような重たいを鳴らして叩き込まれる。

 

「ぐぉぉぉ……サスケ、貴様~~~。

 主に向かって何をする……!」

「主だから、止めてんだろうが。

 すいませんね、お嬢さん。

 こいつ、見ての通り散々甘やかされて育ったバカ主でして。

 しかも、無駄に強いもので俺以外、誰もこいつの行いに

 口を挟まないんですよ~」

「は、はぁ……」

 

従者であるにも関わらず、何の遠慮もなしに主の龍士にズバズバと

口を挟むサスケに、毒気を抜かれた明は何とも言えない声を上げる。

 

「今回は、本っっっ当~~~にこのバカがご迷惑をおかけしました。

 すぐにお帰しますので……」

「おい!何を言っているのだ、サスケ!

 この者は、我が妻に……!」

「あんたがうるさいだろうから、彼女には来てもらっただけだよ。

 それに妻も何も、このお嬢さんの話を全く聞いていないでしょうが。

 恋人がいないならともかく、一緒にいた子がいるって言ってたでしょ。

 ねぇ?」

「えっ?あ~~~……た、確かにいる……その、恋……人が///////」

 

サスケは最初から明を龍士の妻にする気はないようで、すぐに

帰そうとするが、当然龍士は噛みつく。

だが、サスケはそれをバッサリと切って捨て、恋人がいることを

明に確認すると、明は頬を染めて指を突っつきながら答える。

 

「なっ――!!!」

「ほらね?

 お嬢さんにはもう相手がいるんだから、諦めて別の子を探しに行きましょう」

 

顎が地面についてしまうんじゃないかぐらいに龍士は、口を大きく

あけて驚愕し、それに構わずサスケは花嫁探しを再開しようとする。

 

「…………おのれぇぇぇっ!!!!!

 我が妻になる者を誑かしよって!

 ただでは、すまさんぞぉぉぉっ!!!」

「ん?」

「あれ?ちょっと。あんた、俺の話聞いてた?

 誑かそうとしているのは、あんただから」

 

何をどう解釈したのか、あろうことか、龍士は一夏が自分から明を

奪おうとしていると怒り狂う。

予想外すぎる行動に、明とサスケは呆然とするがもう龍士に

二人の声は聞こえていなかった。

 

「あ~どうするかな、これ?

 ごめんね。このまま、帰してもこのバカ、何やらかすかわからないから、

 ちょっと待ってね?

 何とか、落ち着かせるから」

「構わないが、あまり時間はないと思うぞ?

 私がさらわれたとなったら、みんなが助けに来るからな」

「助けに来るって……マズイじゃないか!

 こいつは、こんなんでも土地神だぞ!

 人間じゃ、相手にもならないのに……くそっ。

 罪のない人間を傷つけるわけには……」

 

龍士の暴走にサスケは頭を抱えるが、明から一夏達が助けに来ると聞いて

本気で頭に痛みが走る。

向こうは、ただ誘拐された仲間を助けに来るだけで、悪意はないのだが、

怒りに震えている目の前のバカがそれを理解できるとは、サスケは思わなかった。

どうするかと考えるが、もう手遅れであった。

彼らは、気づくべきだったのだ。

明が様々な衣装を着せられる度に、仙水湖の周りの生き物たちが

全力で逃げ出し、動けない木々が恐怖で震えていることに――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ここだね……♪」

『『『「「「……」」」』』』

 

実にイイ笑顔で、目的地の仙水湖につづく洞窟の前に立つ一夏の後ろで

カズキ達は恐々としていた。

彼らの周りには、刀で斬られたような切り口の岩や石がいくつも転がっていた。

 

「我が息子ながら、とんでもねぇな。

 殺気を飛ばして周りのもんを斬っちまうなんて……」

「本人には、自覚はないでしょうね。

 抑え込んでいる殺気が無意識にもれているなら、何かのキッカケで

 爆発したりしたら……」

「ひぇぇぇっ~~~~~!!!」

「さあ、みんな。ここからは、変身して行こうか♪」

『アヒャ……ヒャヒャヒャヒャヒャノッ!ハッ~~~!!!』

 

何かを感じ取ったのか、体から黒いオーラをあふれ出している一夏に

心底おののきながらもカズキ達は、言われるまま変身していく。

一夏の殺気を至近距離でモロに浴びて、おかしな笑い声を上げるゲキリュウケンを

スルーして。

 

「さてと……勢いでここまできたけど、でっけぇなぁ~」

「ぐずぐずしてると、見つかって面倒なことになっちまうしな」

 

変身した彼らは、あっという間に洞窟を進んでいき、湖に浮かぶ城の門の前に

たどり着く。

幸いにも、誰にも見つかることなく進むことができたが、彼らの前に立ちふさがる

門はとてつもない大きさで、マグナリュウガンオーは呆けた声を上げ、

バクリュウケンドーはどうやって開けるか途方に暮れる。

 

「こういう場合は、わざと騒ぎを起こしている間に伏兵が忍び込むのが

 定石だね」

「まどろっこしいですね~。

 めんどくさいから、正面からいっちゃいましょうよ?

 ファイナルキー、発動♪」

『ファいなるぶrrrイくくくくkkkkk♪』

『『『「「「え?」」」』』』

「龍王魔弾斬り♪」

 

リュウジンオーは手堅く攻めようとするが、何を思ったのか

ゴッドリュウケンドーは、ファイナルキーを唐突に使うとためらいなく

ゴッドゲキリュウケンを門へと振り下ろし――

 

ドゴォォォォォッッッン!!!!!

 

「……よし♪」

「「いきなり、何してんのお前っ!?」」

 

跡形もなく巨大な門を吹き飛ばして、満足気に頷くゴッドリュウケンドーに

マグナリュウガンオーとバクリュウケンドーが全力でツッコミを入れる。

 

「だって、こっちの方が手っ取り早いじゃん。

 こうすれば、向こうからやって来るから明を探す手間も省けて

 一石二鳥~♪」

『ケロケロッパ!ケロ~ケロ~パッパッ♪』

 

全く悪びれる様子もなくあっけからと応えるゴッドゲキリュウケンと、

22世紀の子守ロボットが故障したように、変な歌を歌いだすゴッドゲキリュウケンに

一同は何も言えなくなる。

 

「あながち、間違った選択肢をしてないのが、恐ろしいな。

 単純な奴なら、こんな挑発でも……」

「貴~様ら~!!!

 正面から攻めて来るとは、いい度胸だな!

 何奴だ!!!」

「単純な奴だったね……」

 

ゴッドリュウケンドーというより、一夏のぶっ飛び行動に

リュウジンオーが相手のとる行動をいくつか考えていると、目の前に龍士が

城から飛び降りてやってきた。考えていた中でも、一番短絡的な行動に

リュウジンオーはため息をこぼす。

 

「へぇ~お前が、ここの土地神?

 それじゃあ、さっさと明を返せ。

 素直に返すなら九分九里ボコり、抵抗するなら三途の川“いき”ボコりにするよ?」

「どっちにしろ、容赦なくボコるのね……」

「おい、悪いことは言わねえから、早く明ちゃんを返せ。

 後は俺達が何とか、コイツをなだめるから……な?」

 

待ち望んだ相手が現れ、ゴッドリュウケンドーは穏やかな声で、

どっちを選んでもイタイ目という言葉で表現できないような目に合う

問いかけを龍士へと投げる。

もう、誰が見てもキレていると言えるゴッドリュウケンドーに、

マグナリュウガンオーは怯え、バクリュウケンドーはできるだけ穏便に済まそうと

事を勧めようとする。

 

「明……それがあの者の名か。

 だが、余をボコるだと?

 人間風情が随分舐めた口を叩いてくれる……!

 それより、貴様があの娘が言っていた“お兄ちゃん”か?」

「あの娘って、ラウラのこと?

 そうだな。確かにあいつは、俺のことをお兄ちゃんって呼ぶけど?」

「そうか~そうか~……。

 で?貴様、名は何と言う?」

「織斑一夏だけど、そんなのどうでもいいだろ?

 明を返すの?返さないの?どっち?」

「織斑一夏……いいだろう。

 仙水湖を治める土地神、湖月龍士が直々に貴様へ特大の礼をしてくれる……」

「な~んか、微妙にかみ合っていないな」

「あの者達は、まさか……!?

 龍士様、お待ちを!!!」

 

バクリュウケンドーの言葉に耳を貸さず、龍士は怒りに震えるが

ゴッドリュウケンドーとの会話になっていない会話にリュウジンオーは

肩をすくめる。

そんな彼らのやり取りを城より見ていたサスケは、明を取り返しに来た者達が

何者かを察すると慌てて、龍士を止めようとする。

 

 

 

後に、彼はこの決断が遅すぎたと語る……。

 

 

 

「“余の”明を誑かし、散々辱めた礼をたっぷりとな――――!!!」

『「「ど、どアホォォォォォォォっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」』

 

バカを極めた龍士の発言にマグナリュウガンオー、バクリュウケンドー、

ザンリュウジンは涙を流して絶叫する。

 

「あ~~~…………」

 

リュウジンオーは、天を仰いでこれから起きる現実から、目を逸らそうとする。

 

『即時、この場から撤退すべし!』

『急げ!!!』

『ははは~蝶々~蝶々~♪きれいな、蝶々~♪』

 

ゴウリュウガンとバクリュウケンは、大慌てで魔弾戦士達に逃げるように言う。

花畑にいる幻覚を見ている相棒を手にして、俯いている一夏から……。

 

「…………」

「そして、余は明と婚姻の儀を……!」

「オイ……面カセ――」

 

慌てふためく魔弾戦士達と魔弾龍達を気にかけることなく、

龍士はこの後のことを想像するが、一瞬で懐に入り襟をつかんだ

一夏に拳を叩き込まれて、地面へと叩きつけられる。

辺りを陥没させるほどのクレーターを作って。

 

「余の明って、いつから明がお前のものになったのかな?ん?

 明がそう言ったのか?お前に嫁ぐとか、好きって言ったのか?

 言うわけないよな?全部、お前の勝手な思い込みだろ?

 大体、自分が被害者みたいな感じだったけど逆だぞ?

 お前は人の女に手を出そうとしただけでなく、誘拐して

 無理矢理の力づくで自分のモノにしようとしたクソ野郎、

 そこ分かってる?ねぇ?

 ああ~、そんな子供でもわかることもわからないぐらい

 お前の頭は空っぽで、人の話を聞かないような耳と同じ飾りだから、

 こういうことをしたのか~。

 じゃあ、そんな悪党はボコっても無問題だよね~♪

 アハっ♪

 ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「ぐっ!ぎょっ!ごべっ!ちょっ!まっ!ほっ!びょっ!」

 

ゴッドゲキリュウケンを地面に刺して、龍士に殴りかかる一夏は

怒りを感じさせないような明るい声色で笑いながら、龍士の顔面に拳を

何度も叩きつけ周囲を文字通りに震わせる。

 

「ひぃ……ひぃぃぃぃぃ!!!

 ブ、ブラックリュウケンドー……」

「いや、ブラックって言うよりイービルじゃねえか?

 ヒーローがする笑いじゃねえよ、アレは……」

『こういうのを地獄絵図と言うのか』

『どうすんだよ~、リュウジンオー~』

『下手に止めたら私達も巻き込まれて、

 壁にめり込まされるぞ』

『はっ!ここはダレ?私はドコ?』

 

余の明発言に、完全にキレた一夏を見て戦慄するマグナリュウガンオーは

腰が抜けて地面に座り込み、バクリュウケンドーも息子のキレた姿に

ブラックのようなヒーローの色ではなく、イービルと表現する。

完全な自業自得だが、このままにしておくわけにもいかず、魔弾龍達は

どうするかと思案する。

そんな中、一夏から離れたためかゴッドゲキリュウケンが彼方より帰還する。

 

「そうだなぁ~。とりあえず、お~い。

 従者の人~聞こえてたらまず、明を連れてきてくれ~。

 そうでもしないと、あいつを止められそうにない」

「は、はいぃぃぃ!

 お嬢さん、一緒に来て!」

 

一夏が拳を振り下ろす度に地面が揺れて、グシャ!ビチャッ!とか

出てはいけない音が聞こえる中、リュウジンオーは事態を打開するべく

従者に明を連れてくるように呼び掛ける。

 

「――っ!お連れしまたっ!」

「よし、無事だったみたいだねって、どうしたのその格好?」

「これは、その、まあ……」

「ああ、うん。大体わかった」

「この度は、私どものバカ主が大変失礼しました!!!」

「とにかくまずは、笑いながら殴っているアイツを止めようか。

 話はそれからだよ」

 

すぐさまサスケは明を連れ去った空間転移の術で、リュウジンオー達の元に

明を連れてくると頭を地面につけて平謝りをする。

そんな彼は後回しと、リュウジンオーは明を連れて一夏の元に向かう。

 

「お~い、一夏~。

 明はこの通り無事だから、その辺にしておけ。

 土地神を消すと、後が面倒だ」

「う~ん?おっ!明!よかった~無事だったんだな!」

「ああ、何とかな/////////////」

 

リュウジンオーは、内心冷や冷やしながらいつものように気軽に

土地神(笑)をゲンコでボコる一夏に話しかけると、一夏は明の姿を

見た瞬間、纏っていた真っ黒なオーラを霧散させる。

 

「一瞬で元に戻ったよ、あいつ……」

『一夏だからな』

「なんて単純な奴……」

『単純なお前の息子だからな』

『一体、何があったんだ?

 明の屋敷を後にしたあたりから、記憶がないのだが……』

 

一夏の変わりように、マグナリュウガンオーは肩を落とし、

バクリュウケンドーは呆れかえった。

最早、見る影もなく腫れあがった顔になった龍士を

放り投げて、いつもの二人っきりの空間を展開する一夏と明に

口の中が甘くなるのを全員が感じた。

その傍で、数時間の記憶を失ったゴッドゲキリュウケンは説明を求めるのだった。

 

「おい、さっさと起きろ、バカ神」

「ぐべっ!」

『お前も結構、たいがいだよな。今更だけど』

 

イチャつくバカップルを無視して、リュウジンオーは気絶している龍士を

蹴り起こして、目を覚まさせる。

 

「さ~て、土地神君?互いに納得のいくように話し合おうじゃないか~。

 そもそも明は、俺達の大事な仲間なんだ」

「ふへっ?」

「仲間に手を出そうって言うなら、俺達は誰が相手でも容赦はしない。

 だけど、俺達は宿敵と戦うために修行したりと何かと忙しい……。

 そんな忙しい俺達に、まさか土地神が消えた後の後任やら

 決まるまでの土地の管理とかの面倒なことを……させるつもりなんて、

 もちろん無いよね♪」

『どこが、話し合いなんだよ』

『『「「(話し合いじゃあない……。脅迫だ!!!)」」』』

 

龍士を起こしたリュウジンオーは、この誘拐騒動に落としどころを

つけるために話し合いをするが、マスクに影を浮かべ怪しく光らせて

行うそれは、どう聞いても話し合いと呼べるものではなかった。

 

「あれって、要するに

 “これ以上、ごちゃごちゃ言うならめんどくさいけど消すぞ、コラ”

 って、ことっすよね?」

「それ以外に、どう聞こえるんだよ……

 あいつの方がブラックってのが、似合うんじゃねぇか」

 

マスクの下で黒い笑顔を浮かべるカズキの顔を想像して、マグナリュウガンオーと

バクリュウケンドーはそろって、重~~~いため息をつくのであった。

 

 





はい、というわけで一夏ブチキレでした(笑)
イメージとしては、暴走キングフォームやヤベ~イ感じです(汗)

バクリュウケンの言うように、昔太夏は今回の一夏と似たような
殺気を向けられたことが何回かあります。
怒った姿を想像するのが難しい女性から・・・。

真っ白になったザンリュウジンが見た雅の顔は、
どんなものだったのか。

感想・評価、お待ちしてま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏の風物詩


間が空いてしまい申し訳ありません。
資格の勉強やら仕事やらで時間が取れず、
意欲もなかなか出なく(汗)

まあ、書き出せたら筆はのるのですが、それまでがまた。


「おのれ~貴様も余から明を……」

「この度は、本っっっ当にすいませんでしたぁっ!!!」

 

不敵に笑って話し合いという脅迫をするリュウジンオーに、

龍士はボロボロにされてもまだ、状況を理解せず反論しようとするが

サスケによってその頭を地面に叩きつけられる。

 

「このバカには私どもが、よ~~~く言って聞かせますんで!

 何とぞ……何とぞ!!!」

「サスケ……貴様~!」

「いい加減に相手をよく見ろ、このバカっ!

 この方達は、魔弾戦士……つまり魔弾龍様に選ばれた存在なんだぞっ!!!」

「魔……弾りゅ……。な……なにぃぃぃっ!!!?」

 

強制的に土下座のような姿勢をとらされた龍士は、サスケをにらみつけるが

ようやく自分の前にいる者がどういう存在か理解し、驚愕する。

 

「すっげぇ、驚いてますね」

「どうなってんだ、バクリュウケン?」

『カズキが言っていただろ?

 私達、魔弾龍は最高位の龍だと。

 土地神やそういう類の存在は、人間以上に位と言うものに敏感なんだ。

 つまり、奴らにとって私達魔弾龍やお前達魔弾戦士は、雲の上の存在

 と言っていい』

『知らぬ内に、とんでもない相手にケンカを売ったのだと

 ようやく理解した模様』

 

離れた場所から、リュウジンオーの前で行われるコント劇場に

マグナリュウガンオー達は呑気な声をもらす。

 

「それで?返事は?

 大人しく謝るの?

 それとも、俺達にメンドくさいことをさせるの?

 ねぇ、どっち?」

「はいぃぃぃ!

 すいませんでしたぁぁぁっ!!!

 ほら、ぼさっとしてないで、てめぇも頭下げて謝れっ!

 地べたに、グリグリこすりつけて!」

「ず、ずびまぜんでじた……」

 

ザンリュウジンを肩に担いでポンポンと叩きながら、朗らかに

聞いてくるリュウジンオーに、サスケは再び地面に頭を叩きつけて

謝罪し、同じく龍士の頭を地面にこすりつけて謝らせる。

強制的に地面とサスケの手のサンドイッチにされた龍士は、

しぶしぶといった感じで、謝罪を口にする。

 

「やれやれ~、これで終わりだな~」

「ですね~」

『ふと思ったのだが……』

『どうした、ゴウリュウガン?』

 

このバカらしい騒動もようやく終わりかと、バクリュウケンドーと

マグナリュウガンオーが胸を撫でおろすと、ゴウリュウガンが何かに

気が付いたようにつぶやき始める。

 

『将来的にカズキが、千冬と結婚したら一夏達と家族になる……』

『千冬が聞いたら、照れ隠しで吹き飛ばされるが……、

 そうなるな』

『それがどうかしたか?』

『いつか、一夏に子供ができて今回みたいなことが

 起きたらどうなるのだろうな~と……』

「「『『あっ』』」」

 

ゴウリュウガンのつぶやきに、何だと感じるゲキリュウケンとバクリュウケン

だったが、続く言葉に弾と太夏共々ゴウリュウガンが言わんとしていることを

察する。

 

『言うまでもなく確実に親バカになるだろうし、太夏も同様に孫バカになるのも同様。

 息子であれば、相手もろともからかうで済むだろうが、

 娘であったら……まず間違いなく、今回程度では済まない……』

「「『『………』』」」

『一夏が姉離れした反動から千冬も姪っ子のことを一夏に負け劣らず、

 可愛がるだろうし、ましてや子供には何かと甘いカズキも義弟

 と言う身内の子供を可愛がらないはずがない。

 あの土地神みたいな奴に手を出されたりしたら……』

「ちょっと待て、おい。

 もしも、そんなことになったら雅さんも加わるだろうし、下手したら

 冬音も……」

「明の奴だって、黙ってねぇぞ……」

 

ゴウリュウガンが気づいてしまった“もしも”の可能性に、

その場にいる全員が震え上がった。

そんなことになったら、息子と一緒に真っ黒なヤベーイ姿になるであろう

太夏自身でさえ、途中から他の家族の暴走に恐れおののく姿を容易に想像

できてしまった。

 

『一人だけでもキレたら手に負えそうもないのに、全員がそろって

 怒り狂ったら……沈むな、日本』

『バクリュウケンの言葉を否定できる要素を見つけられないな……。

 というか、日本が沈む程度で済むのか?』

「「『『……』』」」

 

ゲキリュウケンの言葉に誰も言葉を発しなかった。

真っ黒な姿で暴れまわるであろう親ばか親父に、纏っている空気だけで全てを斬り裂ける

であろう伯母ばか、あらゆる搦め手で目標を仕留める母親忍者、

エグイ笑みを浮かべながら相手の黒歴史をエグッていく伯父。

更に、怒ったらどんなことになるか全く予想ができない祖母二人(っ!殺気!?)

……ではなく、祖母と優しい“お姉さん”(冷や汗を流して)。

考えただけで、相対したら裸足で逃げ出すか土下座して許しを請うかな相手に

止めたり、戦う等の選択肢はなかった……。

 

『まあ、今回みたいなことでなくても、彼氏ができても

 とんでもないことになりそうではある』

「はは……ははははは!

 やめようぜ、ゴウリュウガン♪」

「そうだぜ!まだ、娘ができるってわけじゃないんだし、

 息子が生まれるのを期待しようぜ!

 そん時は、そん時だ♪」

 

ゴウリュウガンの言葉を弾と太夏は笑い飛ばすが、その声は引きつっており、

誰から見ても現実逃避なのは明白だった。

何故なら、可能性というのを考えるのなら息子と娘の両方が生まれる

かもしれないのだからだ。

 

「お~い~。

 ちゃんと“話し合った”ら、分かってくれたから帰るよ~」

『“話し合い”ね~』

「何、突っ立ってんだよ~」

「「『『『……はぁ』』』」」

 

先のことを考えて頭を悩ませていると言うのに、知ってか知らずか

呑気な声を上げるカズキと一夏に、彼らは深くため息をつくのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(どうして、こんなことになった!?)」

 

織斑一夏は、自分でも人生で一番だというのがわかるぐらい

混乱していた。明を取り返し、後はゆっくり過ごすだけのはずだったのに。

 

「い、一夏……///////////////」

 

頬を赤くして呼吸も興奮気味で早くなっている明は、一夏と向き合いながら

彼の膝の上にまたがっていた。

 

「(そ、そうだ/////////。

 こここここれは、全部おばば様の所為なのだから仕方ないんだ!

 断じて、自分からやっているわけではない////////!!!)」

 

時は、一夏達が明の屋敷に帰ってきた所まで遡る――。

 

彼らが全員無事に帰ってきたことに、待っていた者達は大喜びし、

祝いに夕食で騒ぐ流れとなった。

そして、片づけの中おばばにこっそりと呼び出された明は、

同じく一夏を一人明の部屋に呼び出しているから、二人きりとなって

“男”と“女”になってこいと親指を立てられたのだ。

無論、明は顔どころか体中を真っ赤にして抗議するが、そんな明を見て

おばばはニヤリと笑いながら、もう遅いと告げる。

夕食で、明が飲んだお茶にこっそりと想い人のことを考えると

胸の高鳴りが止められなくなる秘薬を入れたと、イタズラが成功したような

笑みで言われ、明は唖然となる。

たたみかけるように、一夏の暴走の瘴気?に当てられたからとゲキリュウケンも

カズキの元に預けられており、本当に二人っきりになれると教えられ、

混乱したまま明は自分の部屋へと送り出された。

 

「よう、明。おばばさんから、用があるって聞いたけど、

 どうしたんだ?」

「ひ、ひやっ!べ、別に//////////

 (どうしたと言うのだ!心なしか、一夏が煌めいているように見える!?)」

 

部屋に入るなり明は、雷に打たれたような衝撃に襲われる。

いつも通りと変わらないはずなのに、一夏の言葉や笑みに少女マンガの

エフェクトみたいなフィルターがかかっているように感じて、明の体温は

一気に上昇する。

 

「(これが、おばば様の言っていた秘薬の効果か/////!?

 こ、こんなのとても耐えられな……)」

「あれ?なんか、顔が赤いぞ。風邪か?」

 

頭どころか体中から湯気が出そうな程の昂ぶりに、明はこんな状態で一夏に

触れられたりでもしたら正気でいられないと直感する。

だが、当の一夏はそれを知ってか知らずか部屋に入って立ったままの

明の挙動不審を風邪かと心配して、おでこを触って熱を測ろうとする。

 

「ど……どひゃぁぁぁっ/////////!!!!!」

「うおっ!?」

 

どうにかなってしまう所を、何の心構えもせずにいきなり触られたものだから、

明は思わず一夏の足を払いそのまま、馬乗りになる。

流石に意表を突かれたため、一夏も一瞬呆然となるが今の体勢がヤバすぎるもの

だと理解する。

 

回想終了。

 

「おい、明///////!

 早くどいてくれないと色々とマズい/////////////!」

 

何せここには、友人達だけでなく双方の家族もいるのだ。

こんな“子供には見せられないよ~♪”な所を見られたら、

弁解やら何やらがとんでもなく大変なことになる。

 

「私がくっつくのは、そんなに迷惑か////////////?

 (どうせ、この変な気持ちは薬のせいなんだ!

 勢いでやってしまえ//////////!)」

「迷惑なんかじゃないけど……そうじゃなくて!」

「ほ、本当はもっとこうやってお前を感じたいぞ///////////?

 やっぱり、こんな女らしくない女にこんなことされても嫌か?

 一応、女らしい所もあるんだぞ//////////!」

「おいぃぃぃっ///////////!!!」

 

明は一夏に乗ったまま、上着をはだけて下着姿を一夏に見せつける。

当然の如く、一夏も明以上にオーバーヒート寸前となり、顔が真っ赤になる。

 

「どどどうなんだ//////////!」

「どうも何も/////////////!!!

 好きな女にこういうことされて、嫌な男がいるわけねぇだろう!

 それに、明は可愛い女の子だよ////////////////。

 今だって、理性が負けそうでマジでヤバイんだよっ!!!」

「そ、そうか……////////////////////」

 

馬乗りのまま押し合いをしている内に下着がズレて、丸見えになっているのにも

気付かないまま明は黙り込み、二人は無言となる。

明が一夏にまたがったまま……。

ほんの少し開いたドアから、覗かれているのにも気づかずに。

覗いていた者は、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらその場を後にした。

同じように覗いて、二人のやりとりにオーバーヒートして

頭から煙を吹き出している者の声がもれないようにその者の口を塞ぎながら。

 

 

 

「うん?どうしたんだ、二人とも?

 顔が真っ赤だぞ」

「な、何でもないぜ千冬姉////////////」

「そ、そうです!何でもないです///////////////!」

 

しばらく抱き合っていた一夏と明は、時間が経つにつれ頭が冷えたのか

自分達の現状を理解し、服を整えて居間へと戻った。

だが、まだ興奮は冷めきれていなかったのか顔は赤かったようで、

居間でくつろいでいた千冬に気遣われる。

そんな、一夏と明の言葉と反応に、他の者達は目をギラリとキラめかせる。

 

「私達が、目を離した隙に二人っきり……」

「しかもお顔は、これでもかと言うぐらい真っ赤ですわ」

「そんな顔で、何もないって誰が信じるって言うのよね……」

「ほんと、油断も隙もないよね~」

「どうしたのだ、みんな??」

「私達やご両親もいるのに、大胆ね二人とも♪」

「夏……それは、若き青い衝動を開放させる季節。

 あり得ない状況だからこそ、その快感は計り知れない……」

「ラウラ以外、目が笑ってねぇ~」

『関わると危険』

 

目から光を消して影を差した笑みを浮かべながら、IS学園の少女達は

一夏と明に視線を突き刺す。

夕食の片づけの手伝いやお風呂等の準備を手伝っていて、一夏と明が姿を消して

いたことに気が付かなかったのだ。

そんな彼女達にラウラは首を傾げ、弾は爆発寸前な爆弾を解体するようにと

言われたみたいに戦慄するのであった。

 

「で?何かあったのか、とっとと説明しろ。

 そこで笑っている変態宇宙人」

「…………~♪」

「ふふふ♪」

 

生徒達の嫉妬に呆れながら、千冬は全てを企てたと見て間違いない

カズキにこの空気を何とかしろとばかりに説明を投げる。

投げかけられた本人は、さっきからケケケと悪魔の笑みを浮かべており、

心底この状況を楽しんでいるのは誰もが見て取れた。

同じく雅もこの状況を楽しんでいた。

 

「おお、ここにおったか明」

「おばば様/////////!」

「かっかっか!

 そう身構えるでない。いや、実はさっきこっそりお前に飲ませたと

 言った薬だったが……すまん!

 入れたのは、ただの風邪薬じゃったわ~」

「え……?風……邪薬……?」

「うむ。

 健康な者が飲んでも、多少心臓がバクバクするぐらいじゃから

 問題はないじゃろ。

 いや~“うっかり”入れる薬を間違えてしまったわ!

 かっかっか!」

 

イタズラが失敗したのにおばばは笑い声を上げるが、明の耳には

入っていなかった。

 

「ただの風邪……薬?

 えっ?それじゃ、さっきのは薬の所為じゃなくて……」

「明が、素でやったって言うの///////////////////!?」

「~~~~~~~~~~~////////////////////////////////!!!!!!?」

 

おばばの言葉に呆然となった明は、カズキの傍で頭から煙を吹き出して倒れていた

虎白がガバッと顔を上げて口にした言葉で、自分が何をしたかを理解して

頭が沸騰する。

 

「お、おい薬って……」

「~~~/////!!!

 記憶を失えっっっ~~~!!!!!」

「ぼべらばっ!」

「ほう~……。

 つまり、記憶を抹消したくなるようなことをした……と?」

「ああああああんな、恥ずかしいことを……

 やっぱり、明はムッツリスケベェェェッだぁぁぁぁぁっっっ///////////////////!!!」

「「「「「「一夏(さん)?」」」」」」

「かっかっかっ!

 “たまたま”間違えたと言うのに、それ以上に面白いことになったわい♪」

「でしょ♪」

「青春よね~♪」

「いや、こうなるってわかっていたら“たまたま”じゃないんじゃ……」

『言うだけ無駄である』

『そんなことを気にする者達ではない……』

『いいじゃんいいじゃん♪

 面白けりゃよ~♪』

 

どういうことか分からない一夏は、聞く間もなく羞恥で真っ赤になった明に

ぶっ飛ばされ、記憶を(物理的に)消されにかかる。

それだけでなく、千冬と再び頭からやかんのように煙を吹き出した虎白の言葉で、

再び十字架に磔にされるようだ。

若者達のそんな青春の一コマを、画策したであろう元凶達は高みの見物とばかりに

存分に堪能し、弾はツッコミを入れるもゴウリュウガンとゲキリュウケンによって

無駄と諭される。

そして、ザンリュウジンもまた元凶達と共に目の前の青春劇場を堪能するのであった。

 

「兄様兄様。さっきから、父上と母上の姿が見えないのですが?」

「そう言えば、そうだね」

「あの二人なら、自分達の部屋に戻っているわよ」

「実は、さっき母上がこれを飲んだら顔を赤くなって、父上を探しに

 行ったのですが……」

「あっ。

 それは、最初に明に飲ませようとした想い人を見ると興奮する薬じゃな」

 

一人ラウラがキョロキョロと太夏と冬音が、どこに行ったのかと

探すと雅から部屋にいると言われるが、続いてわかったおばばの言葉に

その場にいた全員がビシリと固まる(記憶を消されにかかっている一夏を除く)。

 

「冬音もああ見えて、太夏に負け劣らず……ふふふ」

「二人の部屋ってさ……結界が張ってあるんだよね~。

 部屋の中の音が、外に漏れないようにする風の結界……」

 

雅がポツリとつぶやき

カズキが思い出したように、太夏と冬音の部屋に仕込んだものを言うと、

二人が今しているかもなことを察し、みるみる全員の顔は真っ赤になる。

赤くなっていないのは、あちゃ~となっているカズキとおばば、

変わらず楽し気に微笑む雅に、意識をきれいな河に飛ばされそうになって

何が起きているのかわからない一夏ぐらいである。

 

「試しに結界……解いてみる?」

「「「「「「「「「「解くなっ////////////////////!!!」」」」」」」」」」

『あれ?てことは、バクリュウケンの奴……』

『我々には、どうすることもできないっ!』

『無事を祈るばかりである』

「何故、みんな顔を赤くしているのだ?」

「ラウラちゃんは、気にしなくていいのよ~。

 強いて言えば、千冬が持っている宝物が一夏とラウラにも

 できるかもしれないってことよ♪」

「教官が、持っている宝物?」

 

ポリポリと頬をかきながら、太夏と冬音が何をしているか

確認してみるかと聞くカズキに、年頃の若者達は顔を朱に染め声をそろえて

異を唱えた。

何が起きているのかさっぱりわからず首を傾げるラウラに、雅は

微笑みながらうれしいことが起きるかもしれないと意味ありげに微笑む。

後日、この時何が太夏と冬音の二人が何をしていたのかとラウラから

尋ねられたクラリッサが

素っ頓狂な声を上げ答えに戸惑うのは、ご愛敬である。

 

 

 

『私はただの腕輪私はただの腕輪私はただの腕輪私はただの腕輪

 私はただの――』

 

一方、件の太夏と冬音の部屋でバクリュウケンは、壊れたレコードのように

同じ言葉を一心不乱にボソボソと言い続けて、自分に言い聞かせていた。

そんな自分のつぶやきどころか、存在すら忘れている二人の方に、

意識を向けないようにして。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふ……あああ~。よく寝たぁ~」

「やっぱり、こうやって朝ゆっくりするのはいいよなぁ~」

『二人とも気が抜けすぎだぞ……と言いたいが』

『たまには、良いと思われる』

 

次の日の朝。時刻は7時過ぎ。

目を覚ました一夏と弾は目をこすりながら少々だらしない

顔で居間へと足を運ぶ。

そんな彼らにゲキリュウケンは苦言をもらすが、強く言うことは

なかった。

 

「一夏、明の奴は?」

「朝の訓練だってさ~。

 俺達も朝ごはんを食べたら、軽く走りにでも行くか」

「おお~早起きだね若人達よ~」

『私はただの腕輪私はただの腕輪……』

 

弾と一夏がのんびりと雑談をしていると

そこへ太夏がやって来るが、腕のバクリュウケンは未だにボソボソとつぶやきを

繰り返し、太夏も心なしか昨日よりもやつれて足をガタガタさせていた。

 

「うんうん。夏休みだからと言って、朝寝坊はよくないよな~。

 てなわけで!

 今回の休みを楽しむために、しおりを作っておいたぞ♪」

「何だよ、しおりって……。

 こういうのって、配るにしても昨日じゃん」

「え~っと……何々……。

 何だ、これ?

 朝は6時起床って、こんなのみんな守れるんすか?

 特にカズキさん。俺、同じ部屋だったけど今日は、まだ寝てたし。

 あの人、別に朝に弱いってわけじゃないけど、他人に起こされると

 すっげぇ~~~不機嫌になるんすよ?」

「前に俺達が寝ている傍で、騒いで起こしちゃった時は、

 地獄の鬼もビビるってぐらいの怖い目で睨まれたよな~。

 まさに低血圧魔王って奴?

 あっ。そう言えば、母さんも朝は弱いって言ってたな……」

「うっ!!!

 あ……ぁぁぁ……」

 

何故かテンション高めの太夏に、ちょっと引き気味となる一夏と弾は

渡されたしおりの中の一つの項目に、目が留まる。

かつて、その項目に関係することで恐ろしい目にあった者としては、

二度とゴメンなのだが、それを聞いた太夏は目をハッ!と見開いた。

 

十数分前……。

 

「お~い、冬音~。

 いつまで、寝てるんだ?早く起きて……」

「……っ(低血圧怪獣の目)!」

 

太夏は、低血圧怪獣の不機嫌な目に睨まれひるんで固まった。

 

「うおおおっっっ!!!

 カズキぃぃぃ!!!

 怪獣が!低血圧怪獣がっ!!!」

「…………ッ!

 うっせぇな……寝ているのが見えねぇのか、てめぇは……。

 竹を当ててそのガラクタな目をポン!とほじくり出して、

 虫メガネでも入れてやろうか?

 ……ちっ。バカが……!」

 

たまたま隣の部屋だったカズキの元に突撃した太夏に待っていたのは、

低血圧魔王の怖い目と毒を含んだ予想だにしなかった口撃。

 

恐怖の思い出し、終了。

 

「うっうっ……。

 ぐっ……ううっ……うっ……」

 

太夏はとても怖かったのか、部屋の隅に体育座りで声を押し殺してすすり泣いて

足元に小さな水たまりを作るのであった。

 

「ああ、ごめん父さん……」

「よっぽど……怖い目に合ったんすね……」

 

みっともなくポロポロと涙をこぼす大人に、一夏と弾は暖かい声をかけるのであった。

 

「それにしても、昨日鈴達はよく納得したよな。

 この部屋割りに」

「うん?何か、変なとこってあったけ?」

『そう思っているのは、お前だけだ』

『後は、考えたカズキ本人と雅ぐらいである』

 

すすり泣く太夏を放置して、弾は一歩間違えれば戦争になりかねなかった

昨日の出来事に今更ながらも安堵する。

反対に、全く疑問を感じてない一夏をゲキリュウケンとゴウリュウガンは

斬って捨てる。

その部屋割りとは……。

 

・太夏、冬音

・雅、千冬

・一夏、明

・弾、カズキ

・シャルロット、ラウラ

・楯無、簪

・箒、セシリア、鈴

 

であり、カズキから説明を受けた一夏と雅以外は、当然猛抗議した。

しかしそんな抗議などカズキには、のれんに腕押しの如く、

IS学園で同室だったからとか、布団や部屋の数が足りないからとか

で言いくるめられ、彼女達は言い返せずぐぬぬ……と唸るしかなかった。

気圧されながら虎白もこの争いに、参戦したがこれ以上の人数を泊めるのは

無理とあっさり蹴落とされた。

その後、カズキがヒソヒソと何かを囁き、千冬以外が素直になって従ったのが

少々気がかりだった。

 

「な~んか、嫌な予感がするんだよなぁ~……。

 この爽やかな朝が、嵐の前の静けさ?……みたいな?」

『やめろ、弾。それ以上は、シャレにならん』

『フラグが立つと言う……』

「明達の何を心配しているのかわからないけど、

 カズキさんがいつもみたいに何かを企んでいるかもって言うのは、

 わかった。

 だけど、それってあの人が企んだ時点で手遅れじゃねぇのか?」

 

この後に起きるかもしれない騒動に、弾は現実逃避をしたくなるが、

ゲキリュウケンとゴウリュウガンがそれ以上は、騒動が起きるキッカケに

なりかねないと釘を刺す。

だが、一夏のもっともな指摘に一同は押し黙る。

カズキが何かよからぬことを企んでいるとわかって、

一夏達にどうにかできたことなどないのだ

 

「やあ~おはよう!諸君!」

「ああ、カズキさん」

「おはようございます」

「ひっ!?」

 

何とも言えない空気を気にすることなくカズキが、顔を見せると

挨拶をする一夏と弾と対照的に、太夏は悲鳴を上げガタガタと震える。

 

「おはよう~。

 あれ、太夏。どうしたの、そんなに震えて?」

「い、いや!ななななななんでもにゃいぞ!」

『何でもあるだろ、その反応は……』

「あっ。バクリュウケンが、戻ってきた」

「ふぅ~。あれ?何かあったのか?」

 

カズキに続いて冬音も姿を見せるが、二人の反応はいつも通りだった。

どうやら、それぞれ怪獣と魔王の目をしたことは覚えていないようだ。

そんな二人に必要以上にビビる太夏に、ようやく現実に戻ってきた

バクリュウケンに一夏が、気が付いたところで明が戻ってきた。

 

「何でもねぇよ。ただの織斑家の日常だ……」

「はっ?」

「おはよう、みんな」

「うむ、おはよう!」

「「「「「「お、おはようございます……」」」」」」

 

状況を的確に一言でまとめた弾に、明が疑問の声を上げたところで

千冬以外の残りの面々も顔を見せる。

いつも通りの雅とラウラを除く者達は、若干寝不足みたいに疲れ気味だった。

 

「どうしたんだ、みんな?

 そんな、目の下にクマなんか作って……」

『興奮して、なかなか眠れなかったみたいだな♪』

「ほんとにもう……ねぇ~。

 若いと言うか何というか……。

 まあ、そのおかげで存分におもしろいものが見れるんだよね~♪」

 

首を傾げる一夏の隣でザンリュウジンとカズキが、悪魔がするような

黒い笑みを浮かべているのを見て、弾と太夏はゾゾゾ!と背中を這う

悪寒に襲われた。

 

「では、諸君。

 朝ごはんを食べ終わったら、準備をして行こうか?

 夏の楽園……ウォータヘブンへ!」

 

 

 

「一体、何を企んでいるのかと思ったらプールって……」

「いいじゃねぇか、一夏♪

 夏のプールは、お約束だろ!」

「そうだぜ、一夏!

 こないだの臨海学校では、ほとんどバイトで遊んでいる暇は

 なかったからな!存分に楽しませてもらうぜ!!!」

「そうだね~。“楽しい思い出”を作らないとね♪」

 

身支度を整えて目的地に出発して、約一時間。

先月開いたばかりのプール、ウォータヘブンの

プールサイドで、魔弾戦士陣こと男子組は、各々の水着に着替えて

女性陣を待っていた。

片や十数年ぶりだったり、バイトだったりで、久々に水と戯れることが

できるとテンションが高い太夏と弾だったが、カズキの意味深な

思い出発言に一夏と弾はビシリと固まる……。

 

『そうだな、これが“最後”のプールになるかもしれないしな』

『ついに念願であった、彼女とのアハハ♪ウフフ♪なプールデートは、

 夢となった……か』

『海とは違ったイベントが盛りだくさんで、楽しみだな♪』

「……やだな~、ゲキリュウケン。創生種に勝てば、来年だって来れるじゃねぇか」

「そ、そうだぜ、ゴウリュウガン……ななな何を言っているんだよよよよよ?

 まだ、わからにゃいだろ!」

 

相棒達の不吉な言葉を、一夏と弾は引きつりながら笑い飛ばそうとする。

目を背けて忘れようとしていた、地獄の修業後半戦を考えないようにして。

 

「太夏~。お待たせ~」

「ごめんなさいね。更衣室が、混んでて遅くなったわ」

「……夏とは、素晴らしい季節だな」

「ええ……そうですね」

 

そうこうしている内に、着替えを終えて水着となった女性陣が姿を

見せたが、それを見た太夏と弾は達観した目をして、夏の素晴らしさを

語った。

 

――――っっっ!!!!!!!!!!

 

全員が揃った所で、ひと際大きい歓声がプールサイドに響き渡った。

 

「さっきから、なんか騒がしいな」

「あっちにいる来ている客に、騒いでいるみたいだよ?」

「うっひょっ~!すげぇー美人!」

「モデルか!?」

「あんな人と一日デートできたら、俺もう死んでもいいかも♡」

 

何事かと一夏が気に掛けると、カズキがそのわけを教えるように

周りの客というより、走り回る男達に指を向ける。

プールサイドだというのに、気にも留めず走る男達は

何かに当てられたように目にハートマークを浮かべていた。

 

「はぁ~い♪」

「ん?……はぁ~?」

「へ?」

 

そんな中、一夏達にある女性が声をかけると一夏と弾は口を

開けて間の抜けた顔をさらす。

 

「おい、一夏……何を見……惚れ……て」

 

一夏と弾の反応に、鼻の下を伸ばしたのかと

機嫌が急降下する明は指を向けて後ろ後ろと指す一夏に、振り向くと

二人と同じ、口を開けて間の抜けた顔となる。

それは彼女達だけでなく、カズキ以外のIS学園勢も同じであった。

一夏達の前に現れたのは……

 

「久しぶりね♪」

 

マイクロビキニを身につけた……クリエス・リリスだった――。

 

 

 





ゴウリュウガンが危惧した出来事は、一夏でなくても
弾やカズキでも起きる可能性は十分にありますwww

一夏と明は、少年雑誌で表現できないようなことはしてません。
表現ギリギリなラッキースケベなだけです(キリっ!)

発端の薬は、カズキがおばばにそういうのがあるかと聞いたのが
始まり。飲ませたと思いこませて、実は飲んでいなかったと
したのはカズキの考え。その方が、ばらした時がおもしろいからですwww

だけど、冬音が飲んだのは完全に予想外。
一応、結界は用意してたけど・・・。

低血圧怪獣と低血圧魔王は
”桜蘭高校ホスト部”からです♪
カズキは朝に弱いわけではありませんが、他人に起こされると
超不機嫌となります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プールとは、海に並ぶ乙女の戦場なり

お待たせしました!

残業に次ぐ残業に、引っ越しとなかなか時間を取れず、
気が付いたら前回から約4か月と今までで
一番間が空いてしまいました(汗)

季節が変わって寒くなってきましたが、最近のアニメは
単にアニメにしているだけというのを感じずにはいられない
今日この頃です。

グリッドマンみたいに、昔の作品のリメイクとか復活とか
やってくれないかな?


少女達は、唖然とした。

恋の戦いが本格的となる夏本番に向け、臨海学校の時とは違う新たな戦装束(水着)で、

鈍感な一夏の目をライバル達から自分に釘付けにしようと意気込んでいた。

だが、そんな意気込みなどお子ちゃまレベルだと、言わんばかりに

目の前の人物は圧倒的だった。

色んな意味で。

グラビアモデルも涙を流して悔しがるプロポーションに、

少し動いただけで見えてはいけないものが見えてしまいそうな

少年マンガ掲載ギリギリのワインレッドカラーのマイクロビキニ。

何より、そんなギリギリな自分の姿に恥ずかしさを全く感じていない大胆さ。

以前、フェイトが目覚めさせてはいけないものを目覚めさせるキッカケ

を作った、色々な意味で忘れたくても忘れられない相手……

創生種が一人、クリエス・リリスの姿に。

 

「奇遇ね~。こんな所で会うなんて♪

 フェイトは、元気?」

 

予想外すぎる相手の登場に固まる一夏達に構わず、リリスは気さくに

話しかける。

 

「あれ?どうかした?」

「「どうかした?

 じゃあ、ねぇよっっっ!!!!!

 何やってんだぁっ!!!」」

『気をつけろ。こいつは、どんな戦い方をするかわからん!』

『一瞬も油断するべきでない』

 

反応を見せない一夏達を心底不思議そうに見てくるリリスに、

一夏と弾が心の底からのツッコミを入れる。

続いて、ゲキリュウケンとゴウリュウガンが相手の未知数な力に

警戒をする。

 

「何やってんだって、

 ここはプールなんだから泳ぎに来たに決まっているじゃない?」

「どうして、“何でそんなこと聞くの?”な不思議そうな顔されるの!」

「これ、俺達がおかしいの?聞き方が変だったの?」

「え?何?

 こいつ、知り合いのお姉さんとかじゃなくて、俺達の敵なの?」

 

変な質問をされたみたいに返してくるリリスに、一夏と弾は頭を抱え

太夏も混乱する。

 

「確かに彼女は、俺達の敵だけど……本当にただ遊びに来ただけ

 みたいだね」

『おいおい、そんなバカな……』

「それが、本当に遊びに来ただけなんですよね~」

 

混沌としてきた中、カズキが苦笑いしながらリリスがここにいる理由を

推察し、ザンリュウジンも釣られて苦笑すると後ろから何者かが声を

かけてきた。

 

「あっ。お前も来てたのか」

「ええ~と……カズキさん?」

「まさかと思うけど、こいつって……」

「うん。クリエス・レグドだよ」

『『「「……はぁぁぁっ!?」」』』

 

声の主を見るとカズキは、久しぶりに顔を見た友人にするような反応を。

そして、正体を告げられた一夏達は再度驚きの声を上げるのであった。

 

「我々の計画も最終段階だと言うのに、他の二人は全然仕事を

 してくれなくてね……。

 流石にやってられなくなって、仕事をグムバに押し付けて

 リフレッシュに来たのですが、まさかリリスもいるとは……はぁ」

「なぁ~んだ~。レグドも遊びたかったんじゃない♪」

「創生種も色々大変なんだな……」

「ええ……。本当に……」

「「何であんたは、普通にしてんだぁぁぁっ!!!」」

 

遠い目をして空を眺めるレグドに、カズキがしみじみしていると

一夏と弾のツッコミがプールサイドに響き渡る。

その頃――。

グムバは、レグドに押し付けられた書類の山に肩を落として

ため息をついていた。

 

「おい、こいつも敵なんだ……よな?」

『一夏達の反応からして間違いないが、メタルエンパイアとは

 大分というか、かなり毛色が違う連中だな』

『そうなんだよな~。

 こんな感じだから、こっちも調子が狂いっぱなしでよ~』

「慌てなくても、大丈夫さ。

 本当に何か企んでいるなら、姿を見せるにしても俺達が

 遊んでいる最中に見せるはずだ。

 それに……リリスの能天気ぶりも、レグドの哀愁も本物だよ……」

「能天気って、何よ~。

 私は、遊びでも本気で遊んでいるだけよ?」

「それが、問題なんですよ……」

 

レグドとリリスの何とも言えない会話に、どんな反応をすればいいのか

わからない太夏とバクリュウケンをよそに、リリスの能天気なマイペースに

レグドは頭を押さえた。

 

「なんか、本当にカズキさんの言うように大丈夫そうだな……」

「ああ。

 押し付けられた仕事にズ~ンってなってるグムバの姿も、

 簡単に想像できるぜ」

『となると、ベルブもここにいるのか?』

『可能性は極めて高い』

『いやいや~。案外、山で子供を引き連れて昆虫採集とか

 やってんじゃねぇか?』

『本当に、どういう敵なんだ?

 創生種というのは?』

「いえ、ベルブは山でキャンプを楽しんでますよ?

 ハンモックでの昼寝が最高だとか」

 

自分にも身に覚えがあるのかレグドの気苦労に、少なからずの同情を

しているカズキの姿に、本当に戦いにはならないとわかると

一夏と弾もレグドに同情を覚え始めた。

何せ、自分達や仲間達と似た苦労の気配を醸し出しているのだから。

そんな中ゲキリュウケン達が、

もう一人の創生種であるクリエス・ベルブも同じように、

遊びに来ているのではと勘繰る。

しかし、そんな勘繰りの斜め上をいくレグドの言葉で一夏達は本気でズッコケた。

そんな一夏達を雅と冬音はズッコケることなく、アラアラと微笑んだり、不思議そうに

見るのであった。

 

「まあ、そういうわけだから。

 今日はお互いに遊びに来たってことで、戦闘は無し。

 存分に楽しみましょ♪

 ……ところで、さっきから人の形をやめてるあの子、大丈夫?

 下手な魔物より禍々しいわよ?」

 

ズッコケた一夏達を笑いながら、プールを楽しもうとするリリスだったが

先ほどから妖怪と言われても違和感のない真っ黒い“モノ”になっている

鈴を指差す。

真っ赤な口からもれるケタケタという笑いは、聞く者達の背筋に悪寒を

走らせた。

 

「しょうがねぇんじゃねぇ?

 あんな超弩級な最終兵器を見せられたら、文字通りお子ちゃまレベル兵器

 の鈴じゃ戦いにもならな、どがばばば!!!?」

 

怖いもの知らずというか学習しないというか、余計なことを口にした弾は

黒くなった鈴から、目にも止まらぬ高速拳をその体に叩き込まれる。

 

「すごいですね、彼女。

 ベムードを倒したユーノの拳よりも速いのでは?」

「……ああ~。

 鈴は、お姉ちゃんみたいなこの大きい胸がうらやましいのか」

「ひゃうん!ラ、ラウラ//////////!」

「なるほろ~。

 女の子もうらやましがるぐらい、おっきいのね、これ。

 人間の姿で人前に出るようになったのは、最近だから自分のスタイルって

 よくわからなかったのよね~。

 なんなら、そこの銀髪の子と一緒にあなたも触ってみる?」

 

レグドが鈴の黒化パワーアップに感心する中、ラウラは鈴が何故あれほど怒るのか

合点がいくと明の胸を前から揉み始める。

同じく鈴の黒化の理由を知ったリリスは、わざとなのか天然なのか

前かがみになって胸を強調するように腕を組んで、鈴の嫉妬という黒い炎に

大量のガソリンを注ぎ込む。

 

「GAAAAAA!!!!!」

「ごげばで!な、なんで俺ぇ!?

 蹴るなら、あっち……あああ!!!」

『そういう星の運命だと受け入れるしかない』

 

ヤベーイ!ぐらい真っ黒になった鈴は、怒りの矛先を弾にぶつけて踏みつける。

 

「ふっ。甘いな、リリスとやら。

 今日のプールで一番魅力的な女はお前でなく、俺の冬音だ!

 まあ、変な目を向ける奴はぶっ飛ばすがな!」

「何言ってんだよ、この親父は……。

 一番は、明だ!」

『この馬鹿は……』

『父親と息子と言うのは、変な所が似るものなのだな』

「清々しいほど華麗に、三途の川に送られようとしてる仲間をスルーしてますね。

 というか、彼らは何を張り合っているんですか?」

「あれは、自分の嫁が一番っていう男の意地の張り合いのバカな場合だから、

 気にする必要はないよ」

『って、お前は参加しないの?お前も意外とそういう所は、バカっぽいじゃん』

「千冬ちゃんが一番なのは、言うまでもないだろ?」

 

プールサイドの女王とばかりに、ポーズをとっていくリリスに太夏が反論すると

一夏がそれは違うと待ったをかける。

そんな彼が一番だと主張する背中と脇が開いた競泳水着風の白い水着の冬音と

藍色のビキニの明は、何を言っているのか分からなかったり未だにラウラに

胸を揉まれていた。

一方、仲間を助けようとせず意味の分からない張り合いをする一夏と太夏に

首を傾げるレグドに、カズキがその張り合いについて説明するが

続くザンリュウジンの言葉を皮切りに千冬の飛び蹴りが炸裂する。

 

「……なんて言うか、私にメロメロなあっちの男達もそうだけど、

 魔弾戦士も結構バカよね~」

「あらあら。男なんて基本的に、バカな生き物よ?

 だから、みんなも男のそんなバカな所にいちいち怒ってたらキリがないわよ」

 

バカとしか言い様のないことを繰り広げる男達に、リリスは何とも言えない表情になり

チューブトップタイプの黒いビキニを着る雅はいつもの笑顔で呆れて、グヌヌと

唸る箒達になだめの言葉をかける。

しかし、自分達を無視して明の魅力を太夏に主張する一夏をにらみつける

彼女達の耳に届いているかは、怪しかった。

 

「バカな生き物って言うけどさ~。

 自分の歳とか、考えない水着を着ている人よりはマシっつーの」

「さて、私はあちらにあるここの目玉であるウォータースライダーというのを

 体験するとしますか」

 

これ以上関わると自分にも飛び火すると思ったのか、レグドはその場を

後にした。

弾以上の余計なことを口にし、星座を模した鎧を纏った少年達が

黄金の技を受けたように吹き飛ぶ太夏を気に留めず。

 

 

 

「では!第一回ウォータヘブン水上ペア障害物レースの開催です!」

 

司会の女性が大きくジャンプすると、同時にプールサイドは歓声で爆発した。

具体的には、大胆なビキニに包まれた最終兵器が言葉で表現できない動きを

見た男性陣によるもので。

 

「これが、男の悲しい性というものなんですかね~。

 実に業が深い」

「全くだよ。まあ、どうしようもないんだけどね~」

 

歓声を上げて、隣やレースのスタート地点にいる女性たちから鋭い視線を

送られているのに気付かない男性達を見て、レグドとカズキは呆れた声をもらす。

浮き輪に寝そべったり、抱きかかえてプールの流れに身を任せて。

 

「そもそも何でこんなことになったんだっけ?」

「確か、お前が例の如く全員に引っ張りだこになって、プールを回っている時に

 これの参加アナウンスが流れたからだろ」

『目的は、優勝賞品と思われる』

『気になるのは、明と虎白以外は別段驚くのではなく待っていたとばかり

 目を光らせたことだな』

 

パラソルの下でくつろぎながら、イベントを眺める一夏と弾はあれよあれよと

言うままに進んだ事態に呆然としていた。

 

「十中八九、カズキさんが絡んでいるんだろうけど、いいんじゃね?

 俺達に被害は、なさそうだし」

『『「(いや、お前に一番被害があると思うぞ)」』』

 

他人事のように構える一夏に、ゲキリュウケン達は心の中でそっと

この後ほぼ確実に起きる騒動での憐みをそっとつぶやく。

それを証明するかのように、スタート地点に立つ箒達の目は獲物を

狙う肉食獣の目であった。

 

「優勝賞品は南国の楽園・沖縄五泊六日の旅ペアチケット2セットだ!

 友達と行くもよし!

 恋人や旦那さんと行くもよし!

 南国の海で爆発しろや、リア充どもぉぉぉっっっ!!!!!」

 

レースの商品を紹介する司会のお姉さんだったが、後半になるつれ

涙声となっていく。

 

「翻訳すると、

 “何で、恋人のいない私が人様の恋路を後押しなくちゃいけないんだ!”

 といったところでしょうか?」

「彼女も青春したいんだろうね~」

「それにしても、彼女達のやる気はすごいですね。

 オーラとなって見えるようですよ」

「昨日、このイベントで優勝すれば旅行先で明と同じように

 一夏と同じ部屋で過ごせれるよ~って教えたからね♪」

「なるほど。彼女達にとってこのイベントは、人生の大一番ということですか。

 しかし、商品のチケットを手にしてもペアの者が同じように彼を

 連れて行こうとしてもめるのでは?」

「何を言ってるんだい?

 ……だ・か・ら♪

 おもしろいんじゃないか~。

 今もどうやって相手を出し抜こうかと画策してるかと思うと……くくく」

「表面上は協力しているように見えて、一番の敵は隣にいるペアとは……

 いやはや~。

 しかも、そうなるように仕向けられたのも気づいていないようですし、

 恋は盲目というのは、こういうことを言うのでしょうか?

 ですが、あなたの気持ちはわかりますね。

 確かにこれは、見てるだけでおもしろい」

「へぇ~。君もいける口のようだね~」

『似た者同士だな、お前ら』

 

聞いたら、顔が引きつるのを止められないような会話を

笑ってするカズキとレグドに、ザンリュウジンのツッコミがプールに

流れていった。

 

「何をやっているんだ、あいつは……」

 

その光景を眺めながら、千冬は関われば疲れるだけだとツッコミを放棄して

プールサイドでくつろぐことを決めた。

 

「おい、バクリュウケンよぉ……。

 これ以上、目の前のバカ共が冬音の水着姿を見て騒いだら、

 一秒間に一億発の光速拳を撃てそうだぞ、俺は……ヒヒヒ」

『いや、バカはお前もだからな?』

 

何故か、雅と共に出ている冬音に歓声を上げている男達にギラついた

笑みを浮かべる太夏(バカ)のことも気に留めず、千冬は夏の青空のまぶしさ

を堪能するのであった。

 

「それで……何で私のペアがお前なのだ!!!」

「あぶれちゃったんだから、仕方ないじゃない~」

 

スタート地点で各ペアが準備運動を進める中、箒はどうしてこうなったと

叫び声を上げる。

それをペアである“リリス”が、なだめる。

ちなみに、参加しているメンバーは次のようにペアを組んでいる。

 

・明、虎白

・セシリア、鈴

・シャルロット、ラウラ

・楯無、簪

・雅、冬音

 

この水上レースがペアで行うものだとわかると、

自然な流れで二人一組のペアが組まれていき、気が付いたら自分一人だけ

あぶれている状態になった箒だったが、それならおもしろそうだからとあれよあれよと

同じように参加していたリリスとペアを組むことになったのだ。

勢いというのは、恐ろしいものである。

 

「千冬さんがいてくれれば……」

「まぁまぁ~いいじゃない、別に。

 私と組んで正解だと思うわよ?アレを見ると」

 

頭を抱えてうずくまる箒に、リリスが指さしたのはペアを組んだ

仲間達の姿だったが……。

 

「(これぞ、まさに天から与えられた逆転のチャンス!

 明がいない二人きりとなれば……)

 えへへ……」

「だ、大丈夫か虎白?よだれが垂れてるぞ……?」

「(邪魔者がいない二人きりの旅行ともなれば、夏の解放感も相まって……

 ああ!いけませんわ……///////////////!)」

「(南国の旅行……しかも二人旅なら、いくら唐変木な一夏でも……ヒヒヒ)」

「(恋人の目が届かない場所で、男と女が同じ屋根の下……。

 僕なんだか、ゾクゾクしちゃうよ~)」

「シャ、シャルロット……その笑みは何だか怖いぞ……」

「う~ん。お風呂でバッタリ混浴っていうのは、お約束すぎるし……

 いっそのこと寝ている間に、布団にもぐり込もうかしら?」

「みんな考えていること顔に出すぎ……。

 (こっそり、ペアルックみたいなものを買おう!)」

「みんな、張り切ってるね~。

 私達も負けないよ~」

「ほんと、面白くなりそうね~」

 

一部を除いて、捕らぬ狸の皮算用の例として用いられそうなぐらいの皮算用を

している面々に、箒は何も言えなくなる。

各々の妄想に浸っている中で、優勝したらどうやって相手を出し抜こうかと虎視眈々と

画策しているのが手に取るようにわかった。

 

「ね?

 勝っても、後々出し抜く必要のない私と組んで正解でしょ?

 まあ、あれはあれで見てておもしろいんだけど♪」

「……そうだな」

 

後半の部分は、聞かなかったことにして箒はレースに集中することにした。

 

「では、ルール説明です!

 この巨大プールの中央にある島にペアと協力して渡り、フラッグを

 取れば優勝です!

 島へはコースを渡っていきますが、途中でプールに落下しても

 失格にはなりません。

 ただし、スタート地点からやり直しとなります。

 そして!途中に設置されている障害物は、ペアと協力しなければ

 クリアできないものとなっており、ペアの絆が試されることとなります。

 更に、他ペアへの妨害もアリなので相手の動きにも注意が必要です!」

 

司会のルール説明を聞きながら、各々はコースを観察していた。

ゴールとなる中央の島は、ワイヤー宙づりになっておりショートカットも

簡単にできないようになっていた。

 

「よく考えられているわね~。

 で・も♪

 あなた達や私にとっては、大した問題じゃないんじゃな~い?」

「無論だ……!

 この程度のレースなど、カズキさんの修業に比べればままごとにもならん!」

 

コースを眺めてリリスは箒を煽るが、背後に炎を燃やしたかのように

箒は激しくリリスの言葉に同意した。同じく、明達もうんうんとうなづく。

バランス感覚を鍛えるために、不安定な場所を時には水を入れた桶を持って

駆け抜けるような修行をしてきた彼女達にとって、この程度の障害物コースなど

何の障害にもならなかった。

 

「……とまぁ~、ここまでは全員考えつくだろうね~」

「つまり、彼女達の最大の障害となるのは……」

「それでは、参加者のみなさん!

 位置について……よ~い……スタート!」

 

プールに流れながら、のんびりレースを眺めるカズキとレグドが

呑気に歓談していると競技用のピストルの音が響き、レースが開始された。

二十四名十二組のペアは一斉に――。

 

「はっ!」

「よっ!」

「っそぉ~い!」

「っ!」

「「「「きゃあああっっっ!」」」」

「参加選手そのものということですね」

 

走り出すことなく、足払いとすぐさま妨害を行うが素人の不意打ちなど

明達に通じるはずもなく、容易くかわされた挙句カウンターで逆に

プールへと落とされてしまう。

落下ペアの悲鳴を気に留めず、明達は走り出す。

 

「くっ……」

「待ちなさーい!」

 

妨害を仕掛けてきた面々も遅れながらも、先を行く彼女達を追いかけていく。

 

「さぁさぁ!

 開始直後から波乱のスタートになりましたが、そんな妨害等なんのそのと

 華麗にかわして進んでいく先行グループですが……速い速い!

 ほとんどが女子高生のようですが、その正体は裏社会を暗躍する

 忍者か!スパイなのかぁっ!」

「あながち間違ってないよな~」

「滑りやすい足場に、妨害ありとか、普通じゃしないような訓練をしている

 あいつらに有利すぎだろ」

 

不安定なコースをものともせず、サーカスかと見紛う曲芸じみた動きを

見せる明達に司会のお姉さんの解説も熱を帯びていく。

もっとも、一夏と弾はこれぐらい当然と周りの興奮に流されることなく

観戦する。

 

「落ちなさい、明!」

「甘いぞ、鈴!」

「虎白さん、覚悟!」

「おわっ!?」

 

レースが中盤になると、先頭グループで動きが出始めた。

このまま行くと、アクロバティックな動きが得意な明に持っていかれると

鈴とセシリアのコンビが勝負を仕掛けてきたのだ。

 

「相手してもらうわよ、創生種さん?」

「あら~?

 私、体を動かすのは苦手なんだけどな~」

「この隙に!」

「そうは問屋が卸さない……!」

 

同じく、楯無・簪ペアもリリス・箒ペアに仕掛ける。

特にリリスは実力未知数ということもあり、明に次ぐ強敵と楯無は判断し

ここでプールに落としてしまおうと猛攻する。

しかし、体を動かすのは苦手と言うリリスは、そんな楯無の攻撃を軽々とかわしていく。

先に行こうとする箒もそれを阻む簪も、その光景に目を奪われる。

観客のボルテージも明達の戦いに比例して、グングンと上がっていく。

具体的に説明すると、一部の者達の“あるもの”が激しく揺れ動くのを

見た男性観客達によって。

 

「よし!みんなが足を止めている今がチャンスだよ、ラウラ!」

「チャンスなのは同意だが、こういうおいしい所を狙う奴に限って

 予想だにしない事態に遭うと兄様が言っていたのだが……」

「それは、他にも忘れちゃいけないことを見落としているからじゃないかしら?」

「わっ!雅さん!?」

 

荒れ模様になっている隙にゴールを目指すシャルロット・ラウラのペアは、

背後に突然現れた雅・冬音ペアに驚愕する。

特に、冬音は千冬と違って本音のようにほわ~んとして運動ができるといった

感じがしないのに、訓練した自分達についてこれるとは思っていなかった。

雅に関しては……考えるだけ無駄な気がして、その辺りは雅だからという理由で

シャルロットは無理やり自分を納得させた。

 

「や~ね~、シャルロットちゃん。そんな幽霊を見たような驚き方をして~」

「えっ、あっ……い、いや~。その~」

「がんばろうね、ラウラちゃん♪」

「はい、母上!」

「「「待てぇっっっ!」」」

「おお~っと!

 先行組が勝利のために強敵を落とさんとしている間に、

 初っ端で落とされたペア達が追い付いてきたぞ!」

 

雅の追い付きに、シャルロットが引きつった笑みを浮かべる傍らで

冬音がラウラと呑気な会話をしていると、司会の実況に先行組は

はっ!と後ろに目をやる。

明達もかなりのペースで進んでいたのだが、互いに落とそうとした

タイムロス以上に後方組の執念が怒涛の追い上げとなっていた。

 

「優勝は、私のものだぁぁぁっ!」

「人生の勝ち組への切符をよこせぇっ!」

「南の島で二人っきりの旅行、二人っきりの旅行、二人っきりの旅行、

 二人っきりの旅行、二人っきりの…………旅行!!!」

「こうでもしないと、あいつは手を出してこないのよ!!!」

「追い上げ組は、年齢を気にする年頃なのか!

 凄まじい迫力だっ!!!

 というか、どいつもこいつも勝ち組なのかよ、こんちくしょ!!!」

「約一名は、年頃なんて歳じゃないけどな……」

『おい、太夏。雅がこっちを見ているぞ』

 

明達と同じ、いや。

明達よりも“ちょっと”大人な分、似たような理由で参加しているペア達の意気込みは、

彼女達を一瞬たじろかせる程であった。

そんな彼女達に目をくれず、雅はコースから遠く離れて観戦している

太夏を見ていた。

いつもと変わらない微笑みを浮かべているが、どこか寒気を

感じさせる笑みであった。

念のため補足すると、太夏の現在いる位置は人間の聴覚でレースコースから

言葉が聞こえるような位置ではない。

 

「ふっ……その意気やよし!

 だったら、こっちも勝つために手段は選ばないわ……とおりゃっ!」

 

瞬く間に自分達に追い付き、プールに落とそうとしてくる相手に

鈴は不敵に笑うと猫のようにしなやかに動き、逆に彼女達をプールへと落とす。

 

「甘いわっ、小娘!」

「勝つためなら、何度でも私達は蘇るっ!」

 

プールに落とされたペアは、すぐさまスタート地点に戻るべく素早く水面から

上がるが、妙な解放感を覚える。

 

「勝負に勝つ鉄則は、相手の嫌がることをすることにある……」

「「きゃあああっっっ////////////!!!?」

 

鈴は、相手から奪い取った水着のブラを指で意味ありげな笑みを

浮かべて回すのと同時に、会場は歓声と悲鳴で爆発した。

 

「こういうハプニングもプールならではというか、お約束という奴

 なんですね」

「鈴の奴もやるね~。

 水着の女性相手に、これ以上ないぐらいの有効な攻撃だし、何より

 水着をはぎ取っちゃいけないルールなんてないから反則にもならない」

『てか、これで失格とかにしたら観客が黙ってないだろしなぁ~』

「元々型にはまらない考えのできる子だったけど、一体誰に影響を

 受けたのやら~」

「私の目の前に、影響を与えたと思われる

 こういうゲームで勝利の為なら手段を選ばないような人が一名いますけどね」

『どっからどう見ても、お前の影響じゃねぇか』

 

手に持つはぎ取った水着を観客の方へ放り投げた鈴は、

キラーンと目を輝かせて他の追い上げ組の水着を奪おうとするのを

レグドとカズキは、プールの流れに乗ってまったりと眺める。

ザンリュウジンが言うように、鈴も一夏のように色々とカズキの

影響を受けているのであろう。

 

「へっへっへっ~。

 さぁ~て……次はあんた達の水着を頂コウカァ~?」

「鈴さん!目的が変わってきてませんか!?」

 

あらかた、他のペア達の水着を追いはぎの如く剥ぎ取りプールへと落としていった

鈴は、新たなるターゲットを明達に定めるがその目は異形のモノのように

怪しく輝かせており、セシリアが引き気味に驚愕の声を上げる。

 

「揺レルダケノ無駄ナ脂肪ノ塊ナンテ、別ニ隠ス必要ナンテナイノヨ……

 ヒッヒッヒッ……」

「あららら~。

 大変ね。あれは、“持っている”女性の水着をはぎ取る妖怪“水着剥ぎ取り”。

 嫉妬に支配された持たざる女性がなってしまう、古の妖怪よ~」

「いや、そんな妖怪いるわけないだろ」

 

異形のものと呼んでも差し支えのない姿の鈴に、明達は及び腰となるが

呑気に楽しそうな声で場を茶化すリリスに、箒のツッコミが冷静に入る。

最早、ペアであるセシリアとそうでない者の区別もついていないのでは?と

明達が鈴を警戒していると……。

 

「ゴールゥゥゥ!!!

 優勝は、見た目は全然そんな感じがしない雅・冬音の保護者ペアだぁっ!」

「「「「「「「「「……えっ?」」」」」」」」」

「あら~?」

 

何の前触れもなく、響き渡るレース終了の合図に明達は間の抜けた声を

上げる。

彼女達が目をやると、ゴール地点でフラッグを手に

雅と冬音が慎ましく観客に手を振っていた。

ゴール手前付近下のプールには、マッチョ・ウーマンと表現できる二人の女性が

浮いていた。

後で、その二人がオリンピックでレスリング金メダルと柔道銀メダルの武闘派ペアだと

知って明達は再び驚くこととなる。

 

「結局、優勝は雅さんと冬音さんか」

「ほとんど、雅さん一人でやったようなもんだったけどな。

 母さんは雅さんの後をついていっただけで」

『息切れ一つせず、訓練を受けている彼女達に易々とついていくのものそうだが、

 最後のあれはすごかったな。

 全員が鈴の暴走に釘付けになっている間に、通り抜けた

 オリンピックペアへ一瞬で追い付いた雅が手刀で気絶させたのは』

「それだけどさ……一夏。

 雅さんが手刀を振り下ろしたのって、見えた?

 俺、腕を振ったようにしか見えなかったんだけど」

「う~ん、俺も腕が一瞬ブレたと思ったら、あのオリンピックペアが

 落ちてたから、何をしたのか全然見えなかった……」

『彼女が最初から全力で勝ちに行った場合、参加選手全員がプールに

 落とされていた可能性は極めて高い』

『何度目かわからない今更な疑問なのだが……本当に、彼女はただの一般人なのか?』

「「さ、さぁ……?」」

 

ある意味予想通りの予想を裏切る結果に、一夏と弾は苦笑いを浮かべる。

雅が、最後に明達でも正面からぶつかったら苦戦する武闘派ペアをあっさりと

落とした動きは、人並外れた鍛錬を行っている一夏と弾でも終わってから、

何をしたのか推測するしかないぐらいの速さで、見えなかったも同然であった。

改めて雅の底知れなさに、一夏と弾はこれ以上考えても無駄と引きつった笑みを

するしかなかった。

藪をつついたら蛇というレベルでないとんでもないものが飛び出てくるのは、明白である。

 

「そう言えば、このレースの賞品だけどさ。

 冬音さんは、太夏さんと行くとして雅さんは誰と行くんだ?」

「あっ。言われてみれば、そうだな」

「ふふふ♪」

 

一夏と弾が何を話しているのか聞こえているのか、わかっているのか、

雅はがっくりとうなだれている明達を尻目にいつものように微笑むのであった。

 





ギリギリな姿であるリリスの水着姿は、「ゆらぎ荘の幽奈さん」に登場する
荒覇吐 呑子の水着姿です。
自分のスタイルは破壊力あるんだな~とは、思っていますがあまり自覚はなく。

レグドの人間の姿は、ようやくいい想像ができるキャラが見つかりました~。
「はたらく細胞」の樹状細胞をロン毛にした感じです。
他の細胞の黒歴史をアルバムにしている辺り、カズキと似ていて
気が合いそうなのでwww

太夏が吹き飛ばされた黄金の技は、お好みのものを想像してくださいwww

頭の中のイメージを文章で表現するのは、やはり難しい。
ですが、楽しいです。やっぱり。はい。

これからも、更新速度は、遅めですが完結までがんばっていきます。

感想・評価、お待ちしてま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今、できることを――

何とか、一か月で更新できた(苦笑)

でも、月二回ぐらいはできるようにせねば。

間もなく平成ライダーの最後の映画が公開。
予告見ただけで、色々と鳥肌が立ちましたよ~。

今日のジオウと言い、やはり作品を超えて物語が交わるのは
おもしろい!
グリッドマンもうれしいものが登場してくれて♪
1クールで終わるっぽいけど、2期やってくれないかな~。




「――っ!」

 

攻撃を受けたGリュウケンドーは、勢いに逆らわずそのまま

地面へと倒れ、少しでもダメージを減らすために転がる。

だが、その勢いで地面に積もっていた葉が舞い上がり、悪手だと

打ってしまったと悟る。

ここは、森林の中で障害物も多い。

加えて今、戦っている相手に少しでも視覚を妨げられるのはマズイと

すぐさま立ち上がるが、もうどこにも相手の姿はなかった。

 

「姿を隠された……っ!」

 

Gリュウケンドーは、新しく身につけた見聞色の覇気を使いながら

周囲を警戒し……。

 

「っ!」

 

斜め後方から攻撃の気配を察知し、振り向きざまに

飛んできた何かを叩き落すが、相手は素早く木々の間や枝の上を

移動しているのか四方八方から攻撃を受けてしまう。

 

「くそっ!……そこだ!」

 

絶えぬ攻撃に焦燥に駆られるGリュウケンドーだったが、その攻撃を

何とか読み切り、一瞬の隙をついて左手の盾を相手へとぶん投げる。

 

「どわっ!?」

 

相手もまさか盾を飛び道具として使ってくるとは思わず、木の上から

落とされ……“ふぁさ”と地面に軽いものが落ちる音が響く。

そこにあったのは、人間大の藁人形であった。

 

「か、変わり身!?

 ってことは……!」

「はぁぁぁっ!」

 

自分が攻撃を誘われ罠にかかったと思った瞬間、背後から相手が刀で襲撃を

仕掛ける。

Gリュウケンドーは、何とかその奇襲をゴッドゲキリュウケンで受け止める。

 

「だっ……んのぉっ!」

「おおっ!?」

 

何とか相手の攻撃を押し返し、下段から斬り上げるが、相手はダメージを

受けるどころか“二人”に分裂してしまう。

 

「いぃぃぃっ!?」

「「隙ありだ!」」

 

予想もしない事態にGリュウケンドーは驚いて一瞬動きを止めてしまい、

そこへ相手が銃を抜き撃ち放つ。

 

「うわぁぁぁっ!」

『大丈夫か!』

「……ててて。何とかな。

 だけど、カズキさんも何でもありな攻撃してくるけど、この人は

 なんていうか……本当に変幻自在って言うの?

 やりにくいぜ……」

『だからこそ、これ以上ない相手なのだろうな』

「「どうした?これでおわりか?」」

「まだまだ、これからですよ!

 ニンジャレッド、サスケさん!!!」

 

片手でゴッドゲキリュウケンを構え、Gリュウケンドーは妖怪軍団から人間世界を

守り抜いた忍者戦士の一人、ニンジャレッドに立ち向かう。

 

「「そうこなくっちゃな!」」

 

ニンジャレッドは、分身之術で分身した数の利を生かすべく

Gリュウケンドーを挟むように、二方向から同時に仕掛ける――。

 

 

 

「こ……んのぉっ!」

 

Mリュウガンオーも同じく森の中で、ある戦士と相対していたがこちらは

Gリュウケンドー以上に苦戦を強いられていた。

 

「撃っても撃っても……かわされたり、捌かれたりで全然中てられる気がしねぇっ!

 なんて人だっ!」

『落ち着け。

 焦れば、勝てるものも勝てなくなるぞ』

「その通りだ!」

 

Mリュウガンオーの銃撃を体裁きと両手に持つ鉄扇で、いなしたブルーカラーの戦士は

鉄扇をしまうと瞬時に、Mリュウガンオーの懐に入り込む。

 

「はっ!はっ!」

「うおっ!っと!」

 

青い戦士の拳を捌くMリュウガンオーだったが、相手は肉弾戦のスペシャリストの一人。

接近戦もこなせるとはいえ、Mリュウガンオーは中・遠距離で本領を発揮する戦士であるため

徐々に押されていく。

 

「はぁ~~~っ!」

「どわっ!!!」

 

腹部に強烈な肘打ちを叩き込まれ、Mリュウガンオーは吹き飛ばされる。

 

「っ~~~!」

「距離を詰められた時のために、近接戦闘の術を身につけるのは間違っていない。

 だけど、君が最も得意とするのが銃なら一番必要なのは、相手を自分に

 近づけさせないことだ」

「流石、技が彩る大輪の花“ファンタスティック・テクニック”の

 ゲキブルー、深見レツさん!

 半端な技術じゃない!」

『確かに、小手先の小細工でどうこうできるものではない。

 どうする?』

「技や技術は、引っ繰り返っても“今”の俺じゃ勝てない……だったら!

 絶対負けないっていう気合と根性で勝負だ!!!」

「あまり褒められた考えじゃないけど、嫌いじゃない!」

 

Mリュウガンオーは、ゴウリュウガンとマダンマグナムを手に走りながら

ゲキブルーに弾丸を放っていき、ゲキブルーもまたゲキトンファーを取り出し

応戦する。

 

 

 

『気合入っているな~二人とも~』

「一夏と弾は、まだまだ伸び盛りだからね。

 基礎トレーニングも大事だけど、強敵との戦いが、一番伸びるんだよ」

 

GリュウケンドーとMリュウガンオーの戦いを画面越しに見る、カズキは

楽し気にその様子を見ていた。

 

「覇気を実戦でも使えるレベルにするには、実際に戦いながら身につけるのが

 手っ取り早い。

 相手が予想しづらい攻撃を仕掛けてくる忍者や、負け劣らずの技を

 使ってくる相手なら、考えるだけでなく直感というのも否が応でも鍛えられる」

『まあ、多少スパルタだと思うけど、しゃーねぇか。

 敵さんの準備は、ほとんど終わっているみたいだしな……』

「ああ……」

 

カズキとザンリュウジンは、楽し気な目から一転して厳しい表情となる。

ウォータヘブン水上ペア障害物レースで雅と冬音のペアが優勝した時まで、

時間は遡る――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「だぁぁぁっ!悔しいぃぃぃっ!!!」

「あ~おもしろかった~♪」

「それぞれの反応で、どんな風に参加していたのか丸わかりですね」

「そうだね~」

 

レース終了後、合流した面々であったがレグドの言うように、地団駄を踏んで

賞品を逃したことに悔しがっている鈴をはじめ、明達は意気消沈しているのに対し、

リリスはそれなりに楽しめてご満悦と色んな感情が混ざった混沌な場となっていた。

 

「うむ。海もそうだったが、プールで遊ぶというのは、初めてだったが楽しかったな。

 それに、これなら楽しみながら足腰を鍛えられそうだ」

「ちょっ!ラウラちゃん!?」

「余計なことを言うな!そんなこと言ったら、カズキさんが……!」

「確かちょうど、秋に運動会があったから、元々考えていたのに加えて……ふふふ」

 

何気なく夏休みの思い出となった今日この日をしみじみと語るラウラだったが、

ポツリと漏らした一言に弾と一夏が大慌てで止めようとするが、一歩遅く、聞かれては

ならない人物の代表であるカズキの耳に入ってしまった。

そして、カズキは誰にも聞こえないようでしっかり聞こえるような怪しい声で

笑いを浮かべる。

夏本番だと言うのに、一夏達は体が震えるのが止まらなかった。

 

「しっかし、こいつら本当に何もしてこなかったな」

『ああ。一応、警戒は怠っていなかったが、ホントの本当にただ遊びに来た

 だけのようだ』

 

学生達が、来る秋のイベントに恐怖している傍らで太夏とバクリュウケンは

レグドとリリスがウソを言っていなかったことに驚きを覚える。

自分達が戦ったかつての敵達とのあまりの違いに、どう反応を返せばいいのか

悩んでしまう。

 

「まあ、当然でしょうね。

 こいつらの最終目的を実行する時間である午前零時には、時間があったし、

 今日何かをするってことはないでしょう」

 

さらっと言うには、あまりにも重要なことを口にしたカズキに一夏達はビシリと

固まり、レグドとリリスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「……ほぉ~。

 そのように考える理由を尋ねましょうか……?」

「ジャマンガのように何かを復活させるためにお前達がマイナスエネルギーを

 長い間集めていると仮定すれば、誰だって時間ぐらいは気づくさ」

「どういうことですか?

 何かを復活させるための時間が午前零時って、どうしてそんなに

 正確にわかるんですか?」

 

和気あいあいとした触れ合いから一転しての腹の探り合い、カマのかけあいに

冷や汗を流しながら、一夏が口を挟む。

千冬ですら息をのむ中、平気そうなのは太夏と雅、首をかしげる冬音ぐらいであった。

 

「別に大した理由はないよ。

 絶対じゃないけど、

 異形のモノが復活とかして姿を現すのに、一番適している時間が午前零時なんだ。

 ここで、問題。

 今日の午前零時は、まだ今日か?それとも昨日?それとも明日?

 さぁ。ど~れ~だ?」

「えっ、今日の午前零時って……あれ?」

「午前零時に一日が始まって24時間が一日の長さだから、今日……。

 あれ?でも、その午前零時が明日の始まりだから、明日?

 だけど、明日になるならやっぱり昨日?」

「……っっっ!!!

 ああ、もう!訳が分からん!!!!!」

 

カズキが言った午前零時に関する問いかけに、一夏達は何でそんな簡単なことを聞くのか

と疑問に思うが、いざ答えようとするとだんだん混乱して回答に詰まってしまった。

 

「わかったかい。

 改めて、聞かれるとすぐには答えられないだろ?

 午前零時っていうのは、昨日と今日の狭間。今日と明日の狭間でもある。

 昨日であり、今日であり、明日でもある。

 何時でもあると言えるし、何時でもない、時間という絶対の律が曖昧と

 なる瞬間――。

 世界と異界の境界が曖昧となり、どんなことでも起こりうる時……

 それが午前零時という瞬間なんだ」

「そこまでたどり着いたなら、残された時間もあとどれぐらいなのかも

 わかっているのでは?

 そして、先手を打ちたくても肝心の場所がわからないのが現状だと……」

「ああ。

 強い相手と戦いとか、バトルマニアみたいな趣味は俺達にはない。

 復活する前に潰せれるなら、潰すに越したことは無い。

 てなわけで、今度はこっちがそっちに遊びに行きたいから、お前達の本拠地の

 場所を教えてくんな~い?」

「すいませんね~。

 今、散らかっていて、とても人様を招待できるような場所じゃないんですよ~」

「それもそうだね~。

 だって、グルメワールドの主みたいな奴の住処の更に奥にあるんだからね~。

 ああ、それともペットが散らかしているのかな?」

「さぁ~どうでしょう?

 ただ、私達が片付けできないだけかもしれませんよ?」

「ははは……」

「ふふふ……」

「「はっはっはっ!!!」」

 

爽やかな笑顔と声で会話するカズキとレグドは、傍目には仲の良い友達による

談笑に映るのだろうが、よく見ると笑顔には影が差しており

二人の体からはうっすらと黒いオーラのようなものが出ていて見るものを震え上がらせた。

 

「死んでも、あの二人の間に割って入りたくはないわね……」

「さっきの鈴とは違った黒いオーラが出ているのが見える……気がする」

「簪も見える?僕も見えるんだ……」

「よからぬことを企んでいる時の姉さんに似ているが、濃さ?というものは段違いだ」

「鈴さんのドス黒さが可愛く見えてきましたわ……」

「セシリア、後で顔を貸しなさい……」

「ひぃぃぃ!何なのあの二人の真っ黒オーラは!?」

「虎白、慣れろとは言わないがこの程度で腰を引いていたら、身が持たないぞ?

 あれがこちらに向かうこともあるのだからな……」

「「『『うんうん』』」」

「あらあら~。すっかり、仲良しさんね。

 カズキ君とあの子♪」

「そうだね~、雅さん~」

「レグドもすっごく楽しそうだわ~♪」

「仲良し……なのか?あれ?」

『さ、さぁ……?』

「私に聞かれても困る!」

 

和やかに笑う二人から、少し距離を置いて明達は引きつった感想をもらす。

何回か今の笑顔を向けられたことがある者は、多少の慣れはあるがとても

慣れる類のものではない。

何を勘違いしているのか、微妙にずれた感想を口にする雅や冬音、リリスに

太夏は脱力し、千冬もお手上げとなる。

そんな周りを気にすることなく、カズキとレグドは終始笑みを絶やすことなく、

夏のプールに極寒の寒さを体感できると言う矛盾した空間が出来上がった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その後、旅行から戻ったカズキは予定を前倒しして夏休み後半の修業を

開始したのだった。

 

『創生種の連中の本拠地を探そうにも、転送魔法の痕跡を

 こっちのワープキー以上に消していて、探すのは困難ときた』

「尾行も同じく、実質不可能……。

 怪しげな場所とかをユーノにも調べてもらってしらみつぶしに、

 探してもいるけど、成果はほとんど皆無に等しい……」

『そもそも、管理局を奴らが作ったなら、無限書庫も

 あんまり信用できないんじゃね?』

「人や資材の出入りもあるから、その方面で調べれば

 可能性は全くのゼロってわけじゃない。

 ヒントだけでも、見つかれば御の字さ。

 今は、できることを一つ一つ確実にやっていくしかない」

『でもよ、あいつらの目的が達せられるまでの時間って、ぶっちゃけ

 後どれぐらいあるんだよ?

 地球が太陽の周りを回って、一か所に止まっていないみたいに、次元世界も

 動き回っているんだから、ユーノが言っていた魔法陣ができる時間も

 見当がつくんだろ?』

「それなんだけどね~。

 次元世界の移動とか時間を計算すると魔法陣の形になる時って2回

 あるみたいなんだよ。

 片方はフェイクで、本命なのは2回目なのか。

 はたまた、そう思わせることがフェイクで最初の陣完成でいくのか……。

 決定打に欠いた状況だ」

 

頭の後ろで手を組み背を伸ばして、カズキはため息をつく。

向こうが知っている自分達の情報に比べ、こちらが知っているあちらの情報は

少ない。

 

『間に合うのか?』

「間に合うかじゃない……間に合わせるんだよ――。

 さっきも言ったけど、やれることを一つ一つやって

 0同然かもしれない俺達の勝率を1にも2にもするっきゃないんだ……!

 そのために俺も腹をくくらないとな。

 ……」

『どうかしたのか?』

「多分“あの人達”なら、俺の知らない創生種のことを知っているかもだけど……

 あの人は……見つからないと……いいな……。

 もし、見つかったら何されるか……」

「「どわぁぁぁっ!」」

 

先ほどまでの何があってもその時に間に合わせると揺るがない姿がウソのように、

効果音が聞こえるのではなく

見えそうなぐらいカズキが気落ちするのと、GリュウケンドーとMリュウガンオーが

吹っ飛ばされるのは同時であった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「場所を移動される前に……!」

「狙撃場所がバレて、猛スピードで接近中。

 オマケに射程も威力も向こうが上……私、ピンチ♪」

 

とある次元世界。

なのはは、自分に砲撃を仕掛けてきた敵の居場所を見つけ、すぐさま自分の十八番

である砲撃で確実に仕留められるよう、高速で接近するが相対するピンク色の髪を

ツインテールにまとめた少女、マインは手にした巨大銃を構えて不敵な笑みを浮かべる。

 

「世の中は、まだまだ広いってことを知りなさい!

 いけぇっ!

 浪漫砲台(ろまんほうだい)パンプキン!」

 

パンプキンと呼ばれた銃から巨大な衝撃波がなのはに向かって、放たれる。

目の前に迫る巨大な壁に、なのはは愕然とする。

 

「ちょっ!?」

「あんたも天才って呼ばれているみたいだけど、悪いわね。

 私は“超”天才なのよ♪」

 

落ちていくなのはを見ながら、マインはパンプキンを肩に掲げ、

イタズラが成功したような笑みをする。

浪漫砲台パンプキン。

その特性は、使用者がピンチになるほど威力が増していくという癖のある

ものである。

 

 

「はぁっ!」

「ふん!」

 

二つの黒い影が目にも止まらぬスピードでぶつかり合う。

金色が混じる影は、もう一つの黒い影より数段速いのだが、一向に

勝負がつく気配はなかった。

 

「(私の方が速いはずなのに、決められる気が全然しない……!)」

「お前は、今自分の方が速いはずなのに何故私に勝てないかと考えているだろう。

 理由は簡単だ……お前の攻撃や動きは、素直すぎる!」

「っ!」

 

バルディッシュを振りぬいた一瞬の隙に、相対していた黒髪の少女……アカメに

懐へと潜り込まれたフェイトだったが、持ち前のスピードで距離を取る。

しかし、フェイトが離れるや否やアカメは手にしていた模擬戦用の日本刀を

おろしてしまう。

 

「あ、あれ?どうしたの?」

 

まるでもう戦いは終わったかのようなアカメに、フェイトが首をかしげると

アカメは、フェイトの脇腹を指差す。

 

「?

 ……あっ!」

「気づいたか。

 もしも、この刀が村雨(むらさめ)だったら、お前は今葬られていた……」

 

フェイトの脇腹には、刀による一筋の傷が走っていた。

傷と言っても、薄皮一枚切れた程度のかすり傷にもならないものだったが、

アカメが言うように、この傷が彼女本来の刀……一斬必殺(いちざんひっさつ)村雨

であったら、フェイトの命は消えていた。

村雨は、相手を斬ると傷口から呪毒が流れ込み即座にその命を奪うことができる

恐ろしい妖刀なのである。

その名の通り、フェイトが負ったようなかすり傷一つでもつければ、どんな強者が相手でも

決着がつくのだ。

 

「これは一夏達にも言えるが、お前達は防御をおろそかにしている部分がある。

 状況によっては、小さな傷一つが致命傷に繋がることがある。

 覚えておくといい」

「はい……」

「後、さっきも言ったがお前攻撃も動きも素直すぎる。

 速さがある分、相手に察せられても関係ないと思っているのか、

 フェイントも甘い。

 次は、フェイントのフェイントというのを意識してみろ」

「フェイントのフェイント?」

「見せた方が、速いな。行くぞ!」

「ちょっ、ちょっと待って!

 わっっっ!?」

 

淡々と述べられるアカメからのダメ出しにシュンとなるフェイトだったが、

落ち込んでいる暇はないとばかりに、仕掛けられたアカメの攻撃に悲鳴を上げて

応戦する。

 

 

 

「派手にやっとるなぁ~。

 で?

 何で、私は青空の下で本を片手に勉強しとるんやろな。

 ルルーシュ君?」

「無駄口を叩くな。

 お前は、他の二人と違って全体を見て指示を出す俺と似た指揮官タイプ。

 一対一のような戦闘技術が不要というわけではないが、

 戦術方面での戦い方を学んだ方が確実なプラスになる。

 それにカズキからの戦闘技術用のメニューもこなす必要があるから、

 マルチタスクを鍛える面でもこうやって、他の者の訓練を

 見ておく必要がある」

「わぁ~い。

 碓氷先生の優しさは涙もんやね~……ぐすん」

「はやてちゃん、ファイトですぅ!」

「他人事じゃないぞ、リイン。

 君にもユニゾンデバイスとしての訓練メニューを預かっているぞ?」

「うぇぇぇっ!?」

 

なのはとフェイトの激闘による爆音をBGMに、今日もはやてはルルーシュとの

マンツーマン指導による戦術勉強を行う。

 

「それにしても、マインちゃんの武器……帝具やったっけ?

 使う者は一騎当千にも匹敵するって話は、冗談やないみたいやね。

 あんなのをアカメちゃんや他にも持っている人がいるとか、

 ロストロギアのバーゲンセールかい!っちゅうねん」

「気持ちはわかるが、誰でも使えるものではないと言う点では、

 使い勝手のいいものではないがな。

 それに能力の相性やリスクのあるものも少なからず存在している」

 

帝具。

それは、アカメ達の世界のとある国の最初の皇帝が、国を守るために

作り上げた48の超兵器である。

現代人が聞いたら眉唾物に聞こえる幻の金属や希少な獣を材料とし、

古代の技術や選りすぐりの技術者達によって作られ、その力は

最新技術の塊であるISに勝るとも劣らないモノばかりである。

ただし、ルルーシュの言うように誰にでも使えるというわけではなく、

相性というものが帝具には存在している。

使用者との相性が合わないと十全に力を引き出せないどころか、発狂や即死の

危険もある。

 

「加えて体力や精神力の消耗も激しいからな、

 使おうと手を出すのは、あまりオススメできない代物だ。

 むしろ、こういうロストロギアクラスの武器を相手が使ってくる

 可能性もあるということを頭に入れておけ」

「はぁ~い」

「お前達には、圧倒的に“敗北”というものが足りない。

 敗北=死となる戦闘を繰り返し、何回天国に行ったかを数えるといい。

 後は、マインやアカメといった“暗殺”の戦いを経験することで

 戦闘中での“考える”ことと“直感”を養う」

「向こうの箒ちゃん達もそうなん~?」

 

はやてが視線を向けた空では、多様な色の影が幾たびもぶつかり合っていた。

 

「そうだ。

 お前達もそうだが、彼女達も一夏や弾のように自分と同格以上の

 相手と戦うのが一番伸びる――」

 

ルルーシュが空へと顔を向けると、ちょど彼の幼馴染であるスザクが白式のように

白をメインカラーとする彼専用のKNF(ナイトメアフレーム)、ランスロットで

紅椿を駆る箒を追い込んでいるところだった。

 

「これでっ!」

「何の!」

 

空裂を振りぬき波状攻撃を仕掛ける箒だったが、スザクはランスロットを

巧みに操り、空を縦横無尽に飛翔し容易く全ての攻撃を回避する。

 

「そのランスロットの性能もそうだが、お前の反射神経は本当に人間かっ!?」

「ルルーシュやみんなからはよく体力バカって、言われる……よ!」

 

千冬と同じように人外な自分の反射神経に“ついてこれる”

ランスロットを駆り、スザクは箒を追い込んでいく。

 

 

 

「この距離で、なんて正確な射撃なんですの!?」

「素質は、申し分なし。

 それでいて、現状に満足せず上を目指している努力も垣間見える。

 ティアナと同様、いずれ俺を超えていくだろうけど、

 今はまだ俺の方が上だ!」

 

“自分の狙撃可能距離以上”の距離から、“自分以上の精密射撃”を仕掛けてくる

デュナメスとティーダにセシリアはただただ戦慄する。

距離を詰めようにも、ティーダは予知能力でも使っているのではと

疑いたくなるほどセシリアの動きを先読みして狙撃を行ってくるので、

距離を詰めるどころか回避で精一杯。

しかも、ブルー・ティアーズを出そうものなら、動きを止めたその一瞬で

落とされると直感で感じとっていた。

 

「八方ふさがりとは、まさにこのことですわね……」

 

自分の得意分野をここまで上回れ、セシリアは逆にもう笑うしかなかった。

 

 

 

「おりゃぁぁぁっ!」

「甘い!」

 

気合を入れた声と共に、ウォータランスを突き出す鈴だったが、

ティアナは慌てることなく、ウォータランスを狙い撃っていく。

 

「くっ!このっ!」

「はぁぁぁっ!!!」

 

近づかせてなるものかと、乱れ撃つティアナに鈴は防戦一方となる。

 

「やるわねっ!

 (なんて早撃ちよっ!捌くので精いっぱいだわっ!

 一夏や弾なら、いくつか受けるの覚悟で突っ込むんでしょうけど、

 私のバリアジャケットの防御力はたかがしれてるし……)」

 

どう接近戦に持ち込むかと、思案する鈴だったが、どこかに隙がないかと

ティアナを見た時、その胸が視界に入った。

自分より年下なのに、ちょびっと……ちょびっとだけ自分のものを超え始めている

それを……

 

「――よし……殺ソウ!!!」

「えっ!いきなり、何っ!?」

 

瞬時に殺気が膨れ上がった鈴に、ティアナは驚愕し命の危機を感じ取った。

戦闘中でも相手の戦力を正確に測り取る鈴の観察眼(とある身体特徴、主に女性のあるもの限定)は、確実に成長していた。

 

 

 

「なかなかやるね~君!」

「つ、強いっ!」

 

目にも止まらぬ斧剣による高速突きや、可変機構を駆使したスピードの緩急に

よるジノの変則的な攻撃に、シャルロットは終始翻弄されっぱなしであった。

 

「これでも、通らないのかっ!」

「何て、防御力……!」

「今度は、こっちの番」

 

近くの空域では、ラウラと簪がアーニャのモルドレッドの火力と防御力に四苦八苦していた。

おまけにその見た目に反して、高起動タイプの打鉄弐式と変わらない

機動力を発揮し、本人の技量も合わさって攻撃を当てるのも一苦労に加え、

ラウラ達の攻撃は、ISとは桁違いの防御力に全て防がれてしまう。

 

「逆にこちらに、あちらの攻撃を防ぐ手段はない。

 一発でも当たれば、致命傷だ……!」

「オマケに連携の練度もあっちが上……」

 

当初は、ジノ・アーニャペアに対し、シャルロット・ラウラ・簪の三人で

挑んだのだが早々に、二手に分断されてしまい、連係を崩されてしまったのだ。

更に、彼女達が何とか隙をついて反撃しようとすると、もう一人が的確に

援護をし、カウンターを喰らってしまうのだ。

 

「そろそろ、頃合いかな♪」

「スイッチ……」

「「「なっ!?」」」

 

反撃の糸口を探してたシャルロット達は、突然攻撃の相手を変えてきた

ジノとアーニャに驚きの声を上げる。

 

「突然、変化球を撃たれたら、誰でも驚くよな~」

「ドッキリは、意表を突くのが基本」

 

さっきまでの相手とは、反対の攻撃を仕掛けてくる事態に、三人は

軽いパニックとなり、窮地に立たされる。

 

 

 

「っっっ~~~~~!」

 

滝が流れる水辺で、楯無の悶絶した声が木霊する。

 

「どんなものにも何かしら、もろい部分がある。

 お前が防御に使っている水のヴェールに、薄い箇所があったので

 そこを突かせてもらった」

「言いたいことはわかりますけど、そんなことを生身で……!」

「俺は、元々要人警護用の生物型帝具。

 主の体調管理のため、観察眼が優れていて、そういうことは自然と

 気になるんだ。

 お前なら、すぐにこれぐらいのことは身につけられるだろう」

「ええ。もう一本、お願いします!」

 

自律稼働できる帝具であるスサノオは、楯無の防御の隙をつくと

そのカラクリを説き、再度彼女との戦いを始める。

元々、暗部当主として頭一つ抜きんでた戦闘技術を持っていた楯無だったが、

スサノオという強敵と相対することで、また一つ上のステージへと踏み込み始めた。

 

こうして、少年少女達はそれぞれの夏を過ごしていくのだった。

 





スーパー戦隊の方に登場してもらいましたが、この後も
色んな方に”みっちり”と一夏達はしごかれます。
無論、仮面の戦士達にもwww

カズキが見つからないといいなと言った時の顔は、
ハガレンのエルリック兄弟が当初イズミさんに会いたくないなと
ビビっていたようなものです。

この後、色んな世界でも修行しますが、その話をバトルありに
するか、ただのギャグ回でいくか、どうしようかな(汗)

感想・評価、お待ちしてま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高き壁――


2019年、最初の更新となります。

最近、溜まっていたガンプラやスーパーミニプラをせっせと
作っていますが、現代の技術ってすごいですね~。
スーパーミニプラなんか、昔のおもちゃがサイズが小さくなって、
可動範囲がグッ!と大きくなった感じですしwww

次は、遊戯王のカードを何とか整理して、デッキ作成を(汗)

今年もよろしくお願いしますm(_ _)m


「ははははは!

 久しぶりに、心が躍るぞ!!!」

「ここまで人間をやめている奴が、いるとは……なっ!」

 

IS学園のアリーナよりも広い闘技場で、エスデスとISを纏った千冬は

そこを壊さんばかりの激闘を繰り広げていた。

エスデスは、自分の力を存分にふるえることに歓喜しているが、千冬は

未完成とはいえ、ISを纏った自分と生身で互角以上に戦うエスデスの

戦闘能力に驚愕をもらす。

 

「いや。どっちも人間の身体能力とか色んなものを遥か彼方に、置き去りにしてますよね?」

「素晴らしい!!!

 彼女達にかかれば、高ランクの魔導士も相手にならないだろう!」

 

一方、闘技場の観客席で結界に覆われた箇所で、ジェイルとその助手兼秘書である

ウーノが観戦していたが、その感想は大きく異なっていた。

彼女は、人間って魔法も使わずに、何もない所から氷を出したり、

瞬きする一瞬で数十メートルの距離を詰めたりと特撮ヒーローもビックリな

ことってできたっけ?と自分の中の常識に疑問を持ち、最早苦笑いを浮かべるしかない。

反対に、ジェイルは自分の知る人間の力を大きく上回る二人の戦いに、喜々として

データの解析にいそしむ。

 

「おっしゃるように、お二方の力は高ランク魔導士だけでなく魔弾戦士にも

 勝るとも劣らないでしょうが……これはあくまで千冬さんの訓練を兼ねた

 新しい機体のデータ取りということをあの人達は、忘れていませんか?」

「はっはっはっ!

 可能性は十分、考えられるね~」

「笑いごとではありません!」

 

ウーノの言うように、エスデスと千冬の戦いは、カズキや一夏が何を言おうが

創生種との戦いに参戦するであろう千冬に、実戦の空気が如何なるものを

体感してもらうのと、彼女の新たなISを完成させるためのデータ取りが目的である。

しかし、当の本人達はその目的を忘れてしまったのか、互いに獣が獲物を狩る笑みを

浮かべて激しくぶつかり合い、闘技場の空気を比喩表現などではなく現在進行形で

実際に震わせていた。

 

「では、どうするのかね?

 あの二人の間に割って入って、本来の目的を思い出してもらうかね?」

「そんなことしたら、私は凍らされて切り刻まれますよ……。

 千冬さんの力を限界まで引き出せて、命のやり取りと言う戦場を知れる相手として

 エスデスさんしかいなかったとはいえ、ここまで千冬さんが熱くなりやすい

 というか負けず嫌いだったとは……」

 

呑気に笑うジェイルに、加速的にヒートアップしていく戦いをするエスデスと

千冬にウーノは、激しいめまいと頭痛に襲われた。

これが終わったら、一夏に噂のマッサージでもしてもらおうかと若干現実から

逃避しながら。

 

 

 

「…………」

「これは、驚きですね……」

 

一夏と弾に食義の修業をつけた食林寺師範代のシュウは、感嘆の声をもらす。

彼の眼前には、座禅を組んだ明と感謝の念を感じて火を灯すつくし、

たいまつくしがメラメラと燃えていた。それも、数十本もである。

 

「(上級コースの食義でも、たいまつくし10本を2時間も灯し続ければ

 合格なのですが、彼女は5時間以上も灯している。

 それも、一夏君や弾君よりも短期間で……!

 尋常じゃない集中力だ……)」

「……ふぅ。

 確かに、食義は私と相性が良さそうですね。

 技の多彩さには自信がありますが、一夏達に比べると攻撃力に

 不安があったのですが、食義のおかげで相手の急所を

 今まで以上に狙えそうです」

「ええ。今の明さんなら、針を突き刺すような一撃でも

 相手を倒すことができる攻撃を放つことができるでしょう。

 それこそ、一夏君達のような鎧を着た相手でも……。

 明さん。さらに上に行くために

 寺宝の調理に、チャレンジしてみませんか?」

 

シュウは、食義を身につけた明の更なるステップアップのために、

食義を身につけても難しい食林寺の寺宝の調理を提案する。

 

「調理……ですか?」

「はい。寺宝は、シャボン玉のような繊細な食材で、触れるだけでも

 困難な食材です。

 調理ともなると、食義を極めた者でもできるのは、ほんの一握り……。

 無論、やるかどうかはあなた次第ですが」

「いえ、ぜひやらせてください!」

「わかりました」

 

例え、どれだけ困難であっても止まる理由などない。

明は隣に立つだけでなく寧ろ一夏達、魔弾戦士を超える意気込みで

高みに昇るために自らの研鑽をためらわない――。

 

 

 

「おらっ、どうした!

 もう一丁!!!」

「はい!お願いします!」

「すごいな、彼は……。あれで、何人目だ?」

「ぶっ続けで……!23人目……だ……よ!

 まだまだ……っ!

 ……いけるよ、彼は!」

 

首にかけたタオルで汗を拭い、息を整えてクールダウン中の

クロノは、休むことなく組手を行うウェイブに驚きと称賛を口にする。

その傍らで、ユーノは汗で小さな水たまりを作りながら片腕で腕立てを行い続ける。

 

「彼を見てきたエスデスさんによると……彼の強さは、完成の域にある……

 らしい……!後は、経験を積み重ねての研鑽ぐらいしかないけ……ど!

 カズキさんが……“教える”ことをすれば、まだまだ強くなれるかも……ってさ!」

「教えることで強くなれる?

 ……そうか。

 誰かに、何かを……基本を教えるというのは意外と難しい……。

 そして、基本を教えるということは自身の見直しに繋がり、

 自分の基本を……土台を鍛えることになる!」

「人間……意外と諦めなければっ!

 限界なんて、簡単に崩せれるのさ……。

 実際、彼らも最初に比べて相当に強くなっているよ」

 

ユーノは、ウェイブに投げ飛ばされながらもギラギラと目から闘志を

燃やす局員達を見て、笑みを浮かべる。

彼らは、レジアスやクロノが集めた信頼のおける者達であり、

この組手もカズキ考案の強化メニューの一つであった。

 

「魔法であれ、何であれ……強い力ほど体にかかる負担も反動も大きい……」

「だからこそ、肉体を鍛えることでそれらに耐えられるようにすれば、

 自然と自身が傷つかないよう無意識で抑えられていた力が出せれるようになる

 ……か」

「健全な魂は……健全な肉体に宿るってね……っと!」

「お前の筋トレもそうなのか?」

「まあね。体力は、ありすぎて困るってことはないし……

 土壇場でものを言うのは、結局は基礎体力……。

 何より、守るだけじゃなく戦うのなら、僕にはもう体を鍛えるしかないからね」

 

ユーノは、自身のメニューを終えると自虐的な笑みを浮かべながらも確固とした芯のある顔を

クロノへ向ける。

 

「(こいつ、いつの間にこんなに“強く”なったんだ?

 僕も負けてられないな……っ!)

 ところで、こころなしか少し人数が少ないか?」

「ああ……それは僕も思ってた」

「みなさ~ん」

「あっ、セシルさん」

 

ユーノの言葉を聞いて、自分も強くなろうと改めて決意するクロノだったが、

訓練をしている局員の数が、少ないことに疑問を持つがそこに、セシルが

姿を見せた。その手には、バスケットが握られていた。

 

「お疲れ様、ユーノ君。

 差し入れ♪

 持ってきたわよ~」

「えっ……?」

「いっ!」

 

セシルの言葉に、ユーノは間の抜けた声を上げ、クロノも引きつった声を上げる。

 

「がんばるのはいいけど、一息入れるのも大事よ?

 さっきの人達もよっぽど疲れてたのか、私の作ったおにぎりを

 食べた瞬間寝ちゃったのよ?」

「お、おにぎりです……か?」

「ち、ちなみに……中には……何が?」

 

自分達のことを気遣ってくれているのはわかるが、ユーノは恐ろしくても

聞かなければいけないと恐る恐ると言った感じで、彼女が作ったと言う

おにぎりの中身を尋ねた。

 

「碓氷君お手製の疲労回復ドリンク、リカバ茶をゼリーにしたものよ♪

 加えて、砂糖をたっぷりと加えてみました~♪」

「「うわぁ……」」

 

セシルの料理の腕前は、シャマルと似たり寄ったりと聞いていた二人だったが、

使われた材料(?)に頬が引きつるのを止められなかった。

普通に飲んでも、人を“寝かせられる”ものを更に改良し、おにぎりには

使わないような調味料まで加えられたものの味なんて想像もできなかった。

ちなみに、カズキと知り合っているユーノは言わずもがなだが、訓練メニューに

ノルマを達成できなかった者への回復薬(?)として、リカバ茶が用意されているので、

クロノもリカバ茶の味を知っている。

 

「あっ、セシルさんだ!」

「手に持っているのは、差し入れですか!?」

「うおぉぉぉっ!ありがとうございます!!!」

「はいはい。たくさん、ありますから慌てないでねぇ~」

 

爆弾解体係のように、目の前のものをどうするか考えるユーノとクロノ

だったが、それよりも早くセシルに気付いた局員達が我先にと彼女の元へと

駆け寄ってきた。

彼らも、リカバ茶の味は知っているがおにぎりの具が何か知らないため

笑顔でおにぎりを手に取っていく。

 

「ああっ!そうだった!

 ぼ、僕まだランニングが残っているんだった~。

 じゃあっ!」

「待て、ユーノ!僕も行く!」

「お、俺も走ります!」

 

もう、どうすることもできないとユーノはその場から離脱し、クロノと

セシルを目にしたウェイブもそれに続いてその場を後にする。

 

「なんだ、あれ?」

「ストイックっていうか、すげぇ体力だな~」

「まあ、いいじゃねぇか。それよりも、早く食べようぜ!」

「は~い、どうぞ召し上がれ♪」

「「「「「いただきま~す!」」」」」

 

意気揚々とおにぎりを食べた者達が、大きくてきれいな川を泳いだり、

ご先祖様と対面して追い返されたかどうかは――――ランニングから戻ってきた

三人だけが知るのみである。

 

 

 

「…………ま、参り……ました……」

 

Mリュウガンオーは、対面する相手に降参を口にすると、その場で両手両膝を

地面につけ、激しく息を乱す。

 

「おいおい、こっちは何もしてないのに終わりかよ?」

「いや、十分だよ。はい、約束の報酬」

「ふ~ん?

 まあ、こっちはもらえるもんもらえるなら、文句はねぇけどな」

「今日は、ありがとう。

 まあ、何かあったら依頼させてもらうよ。

 報酬を用意してね♪」

「まいど~」

 

崩れ落ちたMリュウガンオーとは、対照的に相対していた男は拍子抜けしたのか

肩をすくめ、カズキはその男にねぎらいと小切手を入れた封筒を渡し、

男は手をヒラヒラさせて去っていった。

 

「こ、これが……“最強”の……一人。

 マジで……死ぬかと思った……」

『時に引くのもまた勇気だ。

 必要以上に、自分を卑下する必要はない』

「しっかし、話には聞いてたけど、何なんだあの人は……!

 カズキさんが戦いの合図をした瞬間に、

 “あっ。これ、死んだ……”って、なったぜ……」

 

終わったにもかかわらず、弾は変身を解くことも忘れ、戦いにもならなかった

今の戦いを思い返す。

 

「攻撃をしようと……いや。

 何かしようと筋肉を動かそうとしただけでも、やられるってのがわかった。

 それも、殺気のひとかけらも出さずに……!

 庭の雑草を刈るような気軽さで……」

 

時間が経つにつれ、自分が相対した相手が規格外に分類される人間だったと

理解してきたのか、Mリュウガンオーは徐々に恐怖が湧いてくる。

そうやって、恐怖を後から気付くほど今の対戦は危険だったのだ。

 

「彼に依頼した甲斐は、あったみたいだね。

 お前の感想は、間違ってない。

 彼が命を狩ろうと思えば、ポケットに手を入れたままでも、

 できただろう。

 俺達魔弾戦士の鎧だろうが、ISの絶対防御だろうが、魔導士の

 バリアジャケットだろうが……彼の“斬る”という意思の前には、

 紙切れも同然さ」

「それが、自分が望む現象を精霊の力を借りて、現実に起こす精霊術師……。

 揺るがない確固たる“意志”が、強さを決める……か。

 話を聞いて、カズキさんが撮らせてもらったっていうあの人の戦いの

 映像も見せてもらって、とんでもないのはわかっていたつもりだったけど、

 本物は、全然違うな……」

「そりゃそうさ。

 彼は、間違いなく史上最強の風術師。

 超常の存在と契約を交わし、現代に蘇った伝説に載る存在だぞ?」

『見た目は、どこにでもいる兄ちゃんだけどな~』

 

座り込んで、どこか呆然とした感じのMリュウガンオーに、カズキは

彼に勝てなくても問題ないとばかりに、語りかける。

 

「カズキさんでも、勝てないんですか?」

「う~ん、難しい質問だな。

 簡単に負けるつもりはないけど、風術でやりやったら、

 技量や意志の云々関係なく風術師は彼には勝てないしね。

 彼はそういう存在の風術師だ。

 勝負するなら、体術や魔弾の力といった他の面での勝負になるな」

「……はぁ~。俺もまだまだだな……」

『当然である。

 確かに、この短期間で大きく力を付けたが、上には上がいるものだ』

「それを知ってほしかったのと、“最強”って言うのがどういうものか

 今回の目的だよ」

 

気付かない内に、若干慢心していた自分自身にMリュウガンオーは呆れ、

それにカズキは満足気に微笑む。

 

「最も、彼は“最強”の風術師だけど、何よりも強いって意味の最強じゃない。

 実際尻尾まいて逃げるぐらいの敵が、いたって聞くしね」

「あの人が尻尾まいて逃げるって、どんな相手っすか……それ?

 ところで……ひどくないですか?

 俺を戒めるためって言ったって、あの人を相手にするって!

 話に聞く限りあの人、カズキさん以上に敵には容赦しないんでしょう!?

 洗脳されていようが、女子供だろうが!」

「うん、そうだね。

 彼ほど外道って言葉が似合う奴もそうはいないだろうね~。

 だけど、彼に依頼する時に、命は奪わないよう念押しはしてたよ?」

「えっ?あ、ありがとうございま……す?」

 

落ち着いてきた所で、Mリュウガンオーはカズキに文句の声を上げる。

慢心して驕っている者に、強者によって叩きのめされるのはいい薬になるだろう。

しかし、一歩間違っていたらこの世と永遠に別れを告げる羽目になっていたかと思うと

文句の一つも言いたくなる。

そんな彼の文句に、カズキは笑いながら杞憂だったと返す。

 

「最初から、命の危険がないってわかっていたら何の意味もないからね」

『そうそう。実際に体験しなくちゃ、身につかねぇからな』

「ははは……」

「うんうん。治療の当てはあるから、

 命さえ奪わなければ、手足をぶった切ろうが、腹に風穴が

 あいても問題ないってね♪」

「そうですね。確かにグルメ世界には、こっちの常識を超えた治療が

 わんさか……って、ゴラァッ!!!?

 何、おつかい感覚でとんでもないこと言ってんだ、テメェっ!!!!!」

「いいじゃないか。無事に、終わったんだからさ~」

「よかねぇよ!

 じゃあ、一夏の奴もこんなことされてんの!?」

「ああ、最強とは違うかもしれないけど、飛びっきりの相手と

 戦っているよ。

 ある意味、お前よりも厳しいことになっているかもね」

 

聞き捨てならないことを口にしたカズキに、Mリュウガンオーは速攻でブチギレ、

激しく詰め寄るが、笑い話にしようとしているカズキはどこ吹く風とばかりに

受け流される。

そして、一夏も自分みたいにとんでもない相手と戦っているのかと戦慄するが、

カズキは意味深な笑みを浮かべるだけであった。

 

 

 

「うおりゃっ!!!」

「どわぁぁぁっ!!!!!?」

「どうした、一夏!それで、終わりか!」

「ま……だまだぁぁぁ!!!」

 

岩ばかりのとある荒野で、リュウケンドーに変身した一夏は、おそらく彼が

戦ってきた中でも一番の強敵とも言える相手に、苦戦を強いられていた。

どれだけ速く鋭くゲキリュウケンを振るい、技を放っても、相手は容易くそれらを

さばき的確にカウンターを放ち、幾度となくリュウケンドーを吹き飛ばす。

だが、何度吹き飛ばされても、何度地面に叩きつけられてもリュウケンドーは

立ち上がり、相手に向かっていく。

 

「そうだ!何度でも立ち上がってこい!向かってこい!

 諦めさえしなければ、どんな強敵が相手でも勝てる可能性がゼロに

 なることはない!

 俺を超えれるか、一夏!!!」

「言われなくても超えてみせるさ……父さん。

 いや……バクリュウケンドー!

 ゴッドリュウケンキー!発動!」

『チェンジ!ゴッドリュウケンドー!』

「超ゲキリュウ変身――ゴッドリュウケンドー!

 ライジン!」

 

リュウケンドーはGリュウケンドーへと強化変身して、

自分の父である織斑太夏……バクリュウケンドーを超えるべく、奮い立つ。

 

「まさか、自分の息子とこんな風に戦うとは夢にも思わなかったぜ……!

 ライフって国でちゃんと体が治ったか、確かめる必要があるってカズキの奴が

 言ってたけど、まさかそれを確かめるための相手が一夏とはなぁ……。

 だけど、手加減なんてしねぇぞ!」

「させる気もねぇよ!!!」

 

ゴッドゲキリュウケンを盾となっているバクリュウケンで受け止め、両者は

鍔迫り合いとなり、互いに隙をうかがう。

 

「はっ!」

「ぐっ!」

 

均衡は長くは続かず、バクリュウケンドーが一瞬だけわざと力を抜いた瞬間、

Gリュウケンドーが体勢を崩したのを見逃さず、腹部に強烈な拳を叩き込む。

 

「……やるじゃねぇか。

 俺の攻撃をかわせないってわかった瞬間、後ろに飛んで

 オマケに武装色の覇気も使って防御したから

 多少なりにも、ダメージを減らしたな」

「……っ~~~。

 ダメだ……わかってたけど、俺達もやっている力の受け流しの

 技術は俺達の比じゃない……」

『食義や覇気を身につけていなかったら、とっくにやられているな』

「しかも、魔弾龍の強さに差って言うのは、あまり無いんだろ?

 お前とバクリュウケンに差がないなら

 これがそのまんま、俺と父さんの力の差ってことか……」

「さぁ~て……それじゃ、そろそろ本気出していくぞ!」

 

必死に喰らいつくGリュウケンドーだったが、バクリュウケンドーと

ここまで差がつく理由に仮面の下で顔をしかめる。

それを証明するように、いっぱいいっぱいのGリュウケンドーに対し、

バクリュウケンドーは余裕を持って、魔弾キーを取り出す。

 

「デコードキー!発動!」

『デコード・ソード!』

「行くぜ!デコード・ソード!」

「なっ!?」

『やはり、ただの盾ではなかったようだな』

 

Gリュウケンドーは、バクリュウケンが身の丈もある巨大な剣へと

変わり驚き声を上げる。

 

「驚いている暇はないぜ!」

「どわっ!」

 

巨大な武器を持っているにもかかわらず、バクリュウケンドーは無手と

変わらないスピードでGリュウケンドーに接近し、デコード・ソードを振り下ろす。

ゴッドゲキリュウケンと盾を使って、攻撃を受け止めるも、

見た目に違わぬ攻撃の重さに、Gリュウケンドーは後退させられていく。

 

「……りゃっ!!!」

「がっ!」

「次はこいつだ!

 エンコードキー!発動!」

『エンコード・シールド!』

「エンコード・シールド!」

「今度は、でかくなった!?」

 

バクリュウケンドーは、デコード・ソードを振りぬきGリュウケンドーを

吹き飛ばすとバクリュウケンを剣から巨大な盾へと変え、

それを突き出して走り出す。

 

「はぁぁぁ……っ!」

『気を付けろ!おそらく、ただの盾ではない!』

「わかっているよ!」

 

Gリュウケンドーは、ゴッドゲキリュウケンを盾と合体させ、大型剣で

バクリュウケンドーを迎え撃とうとする。

 

「あめぇぞ!」

 

だが、バクリュウケンドーは構えたエンコード・シールドから剣先を伸ばし、

エンコード・シールドを大型剣となったゴッドゲキリュウケンのように構える。

 

「うおおおっ!!!」

「あがっ!?」

 

アッパーを繰り出す要領で、強烈な突きをGリュウケンドーに叩き込む。

 

「どんどん行くぜ?

 エクスコードキー!発動!」

『エクスコード・クロウ!』

「エクスコード・クロウ!」

 

バクリュウケンは、手甲となってバクリュウケンドーの両手に装着され、

そこからハサミのように、鉤爪が現れる。

 

「くらえっ!」

「まだ……だっ!」

 

ふらつくGリュウケンドーに、バクリュウケンドーは追撃を仕掛ける。

振り下ろされるエクスコード・クロウをGリュウケンドーは、

片方をゴッドゲキリュウケンで防ぎ、もう片方をダメージが重なる

体を無理やり捻ってかわそうとするも、かわしきれずに吹き飛ばされる。

 

「パワーコードキー!発動!」

『パワーコード・アーム!』

「パワーコード・アーム!」

 

バクリュウケンを、エクスコード・クロウよりもシャープな手甲へと変えた、

バクリュウケンドーは左腕の手甲を右腕に合体させるとそこから、クワガタの顎の

ような爪を伸ばし、それをGリュウケンドーへ向けて放つ。

 

「別に相手に近づかなきゃ、接近戦ができないわけじゃないぜ?」

「おわぁぁぁっ!」

 

ワイヤーで繋がれた爪は、Gリュウケンドーの足を掴み、バクリュウケンドーは

それを巻き取ることで、Gリュウケンドーを自分の元へと引っ張る。

 

「ふん!!!」

 

更に手甲内に内蔵されたブースターの勢いをプラスして、Gリュウケンドーの

鎧を砕くほどの拳を繰り出す。

 

「っっっっっ!!!???」

 

バクリュウケンドーの一番得意とする攻撃は、武器を用いたモノではなく拳。

それを肺の中の空気を強制的に吐き出されることで、Gリュウケンドーは理解

させられる。

 

「これで終わりじゃねぇぞ?

 トランスコードキー!発動!」

『トランスコード・キャノン!』

「トランスコード・キャノン!」

 

バクリュウケンドーは、追撃の手を緩めることなくバクリュウケンを大型砲へと

変え、吹き飛んだGリュウケンドーへその砲口を向ける。

 

「お前の力は、こんなもんじゃねぇはずだろ?

 なぁ、Gリュウケンドー!!!」

 

数秒でエネルギーチャージを終え、バクリュウケンドーはその引き金を

ためらいなく引く。

 

「あ……ったり前だぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

『踏ん張りどころだぞ、Gリュウケンドー!!!』

 

バクリュウケンドーの叱咤が聞こえたのか、限界に近い体を気合で

奮い立たせ、Gリュウケンドーはトランスコード・キャノンの砲撃を

迎え撃つ。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

Gリュウケンドーの気合の声と共にゴッドゲキリュウケンは、“黒く”染まり、

砲撃に振り下ろされる。

 

「くっ……のっ!」

『ぬおぉぉぉっ!』

 

想像以上の威力に苦悶の声を上げるGリュウケンドーだったが、

ゴッドゲキリュウケンと共に意地で一歩も引かず、

トランスコード・キャノンの砲撃を押しとどめる。

 

「『……っらぁぁぁっ!!!!!!!!!!』」

 

数分にも感じる数秒の均衡は、Gリュウケンドーが砲撃を斬り裂いた

ことで終わりを告げた。

そして、Gリュウケンドーはすかさずバクリュウケンドーに反撃すべく

接近しようと足に力を入れて…………

 

“吹き飛ばされたように視界に空が映った”。

 

「な……に……が?」

 

仰向けに倒れ、何が起きたのか上半身をヨロヨロと起こすGリュウケンドーが目にしたのは、

弓を構えたバクリュウケンドーだった。

 

「シューティングコードキー……シューティング・アーチェリー」

『トランスコード・キャノンを撃って、すぐさま次のキーを発動していたのさ。

 攻撃を退けた直後の隙を突くために……』

 

バクリュウケンの言葉を聞いて、Gリュウケンドーは自分とゴッドゲキリュウケンの

敗北を悟り、そのまま大の字に倒れる。

 

「……あ~。空が青いな~。

 ……ここまで、完璧に負けたのは久しぶりか」

『数え切れないほどの敗北はしてきたが、こんなにも気持ちよく負けたのは

 初めてではないか?』

 

一夏は、変身を解き悔しさを含みながらもどこか清々しい口調で青空を眺める。

ゲキリュウケンと出会ってから、今日までの敗北の数は両手両足の指の数より

遥かに多いが、負けたのにすっきりとした気持ちになるような

敗北は初めてであった。

一夏は、ほぼ全力だったのに対して、太夏には終始余裕があった。

それもカズキとは違った余裕が。

例えるなら、カズキの余裕が霧や雲のようにそこを見せないものなら、

太夏の余裕はどっしりと構えた、山のように堂々としたもの。

多くの戦いを潜り抜けてきた経験と自信、何より何があっても自分の背中に

あるものを守り抜くと言う信念。

どれも、今の一夏ではまだ太夏には及ばない。

 

「修行して、確かに強くなったけど……上には上がいるんだな、やっぱり」

『世界は広いようで狭く……だが、やはり広い……。

 精進あるのみだ』

「ゲキリュウケンの言うとおりだ」

 

ふらつきながら、体を起こす一夏に同じく変身を解いた太夏が近づき

手を差し伸べる。

 

「強くなるのに遠回りはあっても、近道なんてない。

 もし、あっても相応のリスクがあるし、必ずどこかでツケを払うことになる」

「うん……パワースポットの開放なんて、まさにそうだったしね……」

「一歩一歩登っていきゃいいんだし、男は負けた数だけ強くなれるんだ!

 そんなに落ち込むって!」

「それって、父さんの経験談?」

「へっ?あ……それは~~~」

 

新たな力を身につけても、自分より強い者は数え切れないほどいるのだと

改めて実感した一夏の肩を太夏はバシバシ叩いて、励ますが一夏のカウンターに

歯切れが悪くなり、明後日の方向に視線を泳がす。

 

『その通りだ、一夏。

 しかも、こいつはかなり調子に乗りやすいから負けた数は、お前よりも

 多いんじゃないか?』

『つまり、よく左手を開いたり閉じたりしていたと?』

『よく知ってるな』

『今は治っているが、一夏も同じクセを持っていたからな』

『おいおい、マズイんじゃないのか太夏?

 一夏が同じクセを克服してるのなら、お前を超えるのも時間の問題だぞ?』

「うるせーよ!

 てか、何あることないことをベラベラと……!」

『あることあること言ってるんだろ?

 大体、お前のその場しのぎの考えなしにどれだけ苦労したと!』

 

一夏とゲキリュウケンそっちのけで、太夏とバクリュウケンは子供じみた

口喧嘩を始める。

 

「なんか、父さんってさ……子供だよな」

『お前が言うな。お前が……』

 

きっと、昔も今自分が見ているのと変わらない喧嘩をしていたんだろうなと

呆れる一夏に、ゲキリュウケンがツッコミを入れる。

自分の相棒も太夏のように、いい意味で子供じみた大人になるのだろうかと

思いながら。

 

 

 

こうして、各々の修業に日々は過ぎていくのに反比例して、夏の終わりが近づいてきた。

 

 





エスデス対千冬。
互いに、人間辞めてるような身体能力の持ち主なので、ぶつかり合うことで
高め合ってとんでもないことに(汗)
ちなみに、束は千冬の新ISを製作中。

明は、グルメ騎士に近いので食義とは相性よさそうなので。

ユーノサイドは、肉体的な訓練メニューですが、差し入れが(汗)
彼もクロノ、ウェイブもセシルの差し入れを口にしたこと
があります。
更に、彼女はリカバ茶をおいしいと述べてたりします。

弾が相対したのは、最強の風術師。
カズキのモデルの一人でもありますが、やはり私ごときで
彼を描くのは無理とセリフも少なめです。
主人公なのに、外道なダークヒーローで敵対するものは
女子供、洗脳されているだけとか関係なく排除するキャラで
結構好きでした。
彼には相棒となる女性がいますが、後にカズキは彼女の学友と
知り合い、話があったとかないとか。
他には、彼の弟が女の子と間違えられた時は爆笑したともwww

一夏は、父親と激突。ですが、太夏という壁はまだまだ一夏には高く。
バクリュウケンが変形したのは、遊戯王VRAINSでPlaymakerが操る
「コード・トーカー」モンスター達のものです。

長かった夏休み編もやっと終わりが見えてきました。
感想・評価、お待ちしてま~す。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏祭り


なかなか執筆の時間を取ることが難しい(汗)
今回は、タイトルの通りです。


「いや~、みんなと会うのも久しぶりだな~。

 おっ!来た来た♪」

 

修業を終えた一夏は、同じく修業を終えた仲間達と久しぶりに会えると

心待ちにして彼らを待っており、その姿が見えると手を振るが、段々と

姿が見えるにつれて顔が引きつっていった。

 

「久しぶりだな、わが友一夏よ」

「だ、弾……?

 なんか、とんでもなくパワフルになった……なぁ……」

 

どんな鍛え方をしたのか、弾は世紀末な世界にいそうな程、筋肉がついた

体となり、胸には七つの痣がついていた。顔も何故か劇画風であった。

変わり果てたと言っていい親友の姿に呆然となる一夏に追い打ちをかけるように、

底抜けに明るい声で話しかける者がいた。

 

「やっほー!い~ち~か~♪」

「へっ?ほ、ほう……き?」

「そうだよ~♪

 み~~~んなの魔法少女、箒ちゃんだZE☆」

 

姉である束と色違いのエプロンドレスで、魔法のステッキ?を手に持って

束のようなテンションでポーズをとる箒に、一夏は声を失う。

 

「はっ!他の……他のみんなは!?」

 

何が起きたのかと我に返った一夏は、まさかと思い他の面々を見やると……。

 

「さあ、準備はよろしくて?」

「我が右目に封じられし、禁断の力……今こそカイガンの時!」

「行くぞ、豚ども……」

「……(もさもさ)」

「殴り込みよ!」

「ピパポポポ……」

「なんでやねん!!!!!?????」

 

頭にマがつくお仕事をしている女性が来てそうな高級毛皮を着てサングラスを

かけたセシリア。

黒のゴスロリで固めて、体の至る所に包帯を巻いて芝居かかった仕草と

セリフの中二病をわずらったような鈴。

きれいだが、規律に厳しそうな鞭を持った軍服姿のシャルロット。

草を食べている眼帯をつけた十中八九ラウラであろう、黒いウサギ。

さらしを巻き、背中には愛江洲(あいえす)と書かれた特攻服でクサリを

ジャラジャラさせている楯無。

目を光らせて意思表示するロボットな簪。

変わり果てた面々に、思わず普段使わない関西弁で腹の底から声を出した一夏を

誰が責められよう。

 

「はっ!そういえば、明は!

 まさか、明もお前らみたいに!?」

「私はここだ……」

「っ!ああ、よかった!

 お前は、大丈夫だっtへぶっ!」

 

明も、こんな変わり果てた姿になったのかと辺りを見回すと、

いつも通りの明で安心した一夏だったが、突然その顔を両手で押さえられる。

 

「ばべらざん?だにお?(あきらさん?なにを?)」

「お前の唇は……柔らかそうだな……」

「ふぁっ!?」

 

まっすぐ自分を鋭く見つめる暗殺者の目の明に一夏は戦慄し……。

 

「それ、完全に人を“や”る目じゃねぇかっ!!!!!?

 あれ?」

 

ベッドから飛び起きて

自分の視界に入る実家の二階にある自分の部屋に、一夏はしばし呆然となる。

 

「なんだ……夢か……」

 

一夏は、ツッコミ所がありすぎる仲間達の姿が、夢であったことを心から

安堵して、カーテンを開ける。

 

「いい天気だ……♪」

 

どこまでも広がる青い空と羽ばたく鳥達の鳴き声に、改めて

夏の修業を終えて実家に帰ってきたことを実感した一夏は、着替えて

一階に降りていった。

余談だが、同じように修業を終えたユーノもツッコミどころだらけの

なのは達の夢を見ていたりした。

 

 

 

「というわけで、諸君!

 夏祭りだよ~♪」

「「「「「「「「はい?」」」」」」」」

「「「夏祭り?」」」

「はぁ~~~」

 

織斑家のリビングにて、集まった面々はカズキの唐突な言葉に首を傾げていた。

修業メニューは全てこなすことができた一夏達だったが、カズキから最終メニューを

伝えるから織斑家に集合となっていた。

輝く笑顔で言われたので、どんなぶっ飛んだものが出て来るのかと身構えていたのだが

予想の斜め上をぶっ飛ぶ言葉に、一夏達は面食らう。

もっとも千冬は大体の予想がついていたのか、深いため息をもらす。

 

「みんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっているよ?

 な~に、修行の締めとなる最終メニューは、

 “夏祭りでみんなと楽しくどんちゃんだぜ!”だ♪

 イエ~イ!」

「いえ~い♪」

 

頭にハチマキを巻き、法被を着て、どこから見ても夏祭りへ参加準備万端

な格好のカズキと同じくノリノリな冬音に、一夏達は反応に困る。

 

「修業メニューは、全員達成できたからね。

 最後は、リフレッシュも兼ねた夏休みの思い出作りだ」

『っていうのは建前で♪

 とにかくみんなで騒ぎたいってことよ~』

「修行して強くなったと気を抜くのもよくないけど、

 逆に張り詰めすぎるのもよくないからね~。

 ガス抜きできる時にガス抜きしておかないと♪」

「心配しなくても、みんなの分の浴衣の準備はしておいたからね♪」

 

もっともらしいことを言って、カズキ自身が楽しみたいとバレバレであったが、

言っていることがあながち間違いでないので、一夏達は反論しづらかった。

そして、この計画を最初から聞いていたのか雅は、全員の浴衣を準備済みで

あり、これはもう参加するしかないと一夏達は苦笑する。

 

「ああ、そうだった。人気のない場所に行く時は、注意するのよ~?

 こっそりと“子供は見ちゃダメ♡”な愛の育みをしてる人達が、

 いるかもしれないから」

「「にゃっ//////////!!!?」」

「「ぶふっっっ!!!!!」」

「「「「「「「ぴょっ//////////////!」」」」」」」

「うん?」

「ん~~~?……ああっ!」

『おいおい、笑いながら何を言っているんだ、彼女は……』

『ラウラ以外、何を注意されたかわかっている模様』

『こうなっちまったら、しばらくあいつら妄想から帰ってこないぜ?』

『まあ、昔から雅はあんな感じだ』

 

青信号は手を上げてわたりましょうと言うぐらいな軽いノリで、

注意するようなことでないことを言われて、一夏と千冬はなのはが驚いた時の

ような声を上げ、太夏と弾も思いっきり吹き出す。

明達はそろって顔を真っ赤に沸騰させて変な声を上げ、ラウラは雅が何を言っているのか

わからず首をかしげる。

冬音は、少し間を開けて理解してポンと手を叩く。

そんなプチパニックを魔弾龍達とカズキはヤレヤレと、眺める。

 

「カズキ君と千冬は大丈夫だろうけど、一夏と太夏が明ちゃんと冬音と一緒に

 姿を消した時も気を付けないといけないわね。

 探していたらバッタリ……なんてことも……ふふ♪

 特に太夏は、うってつけの場所とか知っているから……」

 

雅の暴露に、太夏へと全員の視線が向かうが太夏は耳まで赤くして顔を逸らせる。

それが雅の言葉が真実だと証明し、一夏達は何とも言い難い空気になる。

 

「それにしても、雅さんが何を言っているのかわかる辺り、

 みんな随分と耳年増だね~」

「仕方ないわよ~。

 そういうことに興味津々なお年頃なんですもの~。

 でも、注意しておかないとバッタリ……肩を寄せ合って耳元で

 愛を囁き合うような場面に遭遇したら互いに気まずいでしょ?」

「「「「「「「「「「「うん?」」」」」」」」」」」

「確かに、自分達の他に誰もいないと思って聞かれたら恥ずかしいセリフを

 言っているのを聞かれたら……相当恥ずかしいでしょうね~」

 

“この二人は何を言っているんだ?”と冬音とラウラ以外の面々が、

カズキと雅に疑念の視線で見ていると、不思議に思ったのか二人ともラウラのように

首を傾げる。

 

「どうしたのかな、みんな?」

「大勢の人がいる中で、コッソリ子供が見るのも味を知るのも早すぎる

 熱々で甘々な恋人の愛のささやきについての注意だったんだけど……」

「何か違うことを思い浮かべたのかな~?」

 

ニタニタと笑うカズキと雅の顔は、まさにしてやったりと言うのは

まさにこういう顔であろうという顔だった。

薄暗い林の中で、浴衣を着はだけて人には聞かせられないような乱れた息を出す

自分と相手を想像した面々は、両手で顔を覆い声にならない羞恥の悲鳴を上げて悶絶した。

 

「ああ、今日の祭りでは箒の神楽舞もあるからね~♪」

「ひゃっ//////////!?」

 

すっかり失念してたのか、カズキの指摘に箒は飛び上がる。

ついでに言うと、その神楽舞を見逃してなるものかと一人のシスコンが撮影機能を

搭載したドローンやビデオカメラを何十台と用意していたりする。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おおお~!」

 

色んな食べ物を売っている色とりどりの屋台の数々に、賑やかな声。

 

「……おおお~~~!!!」

 

どこからともなく漂ってくる食欲をそそらされる香りに、太鼓の音と

ラウラは初めて見る祭りの風景に目をキラキラさせて感嘆の声を上げる。

そしてあっちへフラフラ、こっちへフラフラと、どの屋台から見て回れば

いいのかと右往左往する。

 

「お~い、ラウラ~。

 別に屋台は逃げたりしないから、一人で行かないようにな?」

「完全に気に入ったみたいだな、あれは」

 

目を離したら確実に迷子になりそうなラウラを一夏と弾は、

うちわ片手に微笑ましいものを見る目で見る。

 

『完全に初めての祭りにはしゃぐ妹を見るお兄ちゃんの目になっているぞ、一夏』

「それより、一夏!

 何か言うことないわけ!」

 

妹を見守る兄の眼差しをしている一夏へ、鈴がビシっ!と指を指して

抗議の声を上げる。

浴衣という、夏ならではのおめかしをしたのだから、何か言ってほしいのが乙女心である。

雅が用意したのは、青、ライトイエロー、白百合色、紺鼠、水色、薄紫、藍色の生地に

アクセントとして花等のデザインが少々あしらわれているシンプルなものであった。

それ故、着る者の魅力をより引き出していた。

余談だが、彼女達はサイズを測られた覚えはないのだが、雅が用意した浴衣は

ピッタリであったことを記しておく。

そして何故かラウラの浴衣はフリルがついて、ミニスカタイプであり、髪も鈴のように

ツインテールにまとめられていた。

 

「何かって、言われてもなぁ~?

 みんなが可愛いのは、今更言うまでもないだろ?

 浴衣だって雅さんが、見立てたんだから当たり前に似合っているし……」

「「「「「「…………///////////////////!!!」」」」」」

「おお~!みんな、このりんごアメというのみたいに顔が真っ赤になったぞ!」

『お前は、朴念仁なのにそういうことを言うから……』

 

何の迷いもためらいもなく、一夏は明達をかわいいと言い着物も似合っていると

ほめるという究極の不意打ちをノーガードで受けてしまい、明達は言葉を失う。

突然黙り込む彼女達に首を傾げる一夏と無邪気に笑うラウラに、ゲキリュウケン達は

何と言っていいのか分からない顔を浮かべる。

 

「なんでこいつは……こう……さぁっ!」

『彼女を落とすには、これぐらいのイケメンセリフを

 恥ずかしがらずに言えるようになる必要があると分析する』

「ますます“落とされる”子が増えていくね、こりゃ」

『いつか、今が笑えるぐらいの修羅場が起きそうだな』

「やれやれ。あの女たらしは、誰に似たんだか」

『お前だよ、太夏。

 お・ま・え』

 

妙な敗北感を覚える弾をよそに、カズキと太夏は保護者目線で一夏の

将来を心配するが、太夏は息子と変わらないことをバクリュウケンにツッコまれるの

であった。

 

「お待たせ~みんな~♪」

「うん?また、何かしたのか一夏?」

「ふふ♪ほ~んと、太夏そっくりね~」

 

遅れてやってきた冬音、千冬、雅だったが、頭から煙を上げている

明達を見て、何があったのか瞬時に察して千冬は頭を抱える。

 

「さぁ~て!

 箒ちゃんの神楽舞まで、まだ時間があるし自由行動にしましょうか♪」

「じゃあ、まずは何があるか、軽く見て回るか。

 本格的に回るのは、箒の神楽舞が終わってからにしようぜ。

 みんなで小遣いを出し合えば、結構遊んだり食べたりできるからな。

 千冬姉達は?」

「私達は私達で、酒を飲みながら楽しむから、ガキはガキ同士で

 楽しんで来い」

「そうそう、大人になったらこういう金の使い方ができちまうんだから、

 子供だからこその金の使い方で楽しんで来~い」

 

目当ての一つである箒の神楽舞までの空き時間を利用して、

祭りを見て回ろうと雅が提案すると、一夏が思案して千冬と太夏は

送り出そうとする。

そんな彼らは、飲食スペースの席に座って既に酒を手にしていた。

出店で買ったと思われる大量の食べ物をテーブルに広げて。

 

「いや~大人になってよかったことの一つが、こういう財布の中をあんまり

 気にしないでお金を使えることだよな~。

 ガキの頃から、こんな風にする大人たちがうらやましくてよ~」

『やっていることは、子供と変わらんがな。

 それに、財布は確実に軽くなっているぞ?』

「今日も色んな屋台があるね♪」

「それじゃあ、大人組と子供組でわかれるってことで……っと!

 そうだった。弾、ちょっとおつかいを頼まれてくれないか?

 エビ焼きを買ってきてほしいんだ。

 パンフを見たら、この辺りには売ってないみたいでさぁ~」

「別にいいですけど……って!

 ここから結構離れてるじゃないっすかぁ~」

「そう言わずに頼むよ~。

 おつりは、お駄賃にしていいからさ?」

 

財布の中身を気にしない大人な金の使い方で、子供のようなことをする

太夏に呆れる一夏達だったが、気持ちはわからないでもないし

バクリュウケンがツッコミをしてくれるので何も言わなかった。

そして、自分達もと言う所でカズキが弾を呼び止めておつかいを頼む。

頼まれた店は、ここから離れていたが弾はしぶしぶ引き受ける。

 

「じゃあ、よろしくね~。

 で、楯無隊員?

 首尾は?」

「万全です♪」

「さぁ~て、みんな?

 祭りを楽しもうか♪」

「「「「「「「(あっ。これ、何か企んでるな)」」」」」」」

 

弾がいなくなるのを見計らって、カズキは楯無に含みのある顔を向ける。

楯無も同じような顔をしているので、一夏達は何かあるとわかったが、

とばっちりを受ける危険があるので、あえて何も言わなかった。

 

「ここみたいですね……」

「早く行こうよ~、お姉ちゃ~ん♪」

「ほら、そんなにはしゃがないの本音」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ここだ、ここ。

 昔、箒に教えてもらったんだよな~」

 

一夏達は、適当に屋台を見て回った後、神楽舞を見るために

少々離れているが、人気がほとんどない穴場スポットに移動した。

 

「それにしても、みんな何か顔が赤いぞ?」

「ううううるさい///////!

 何でもないわよ、バカ!」

『触れてやるな、一夏。

 男も女もそういうことへの興味は、変わらないのだろう』

「そういうことへの興味とは、何だ?」

 

人気がなくなっていくにつれて、明達の顔は赤くなっていったが

目的の場所につくとガクリと肩を落として、苦笑いを浮かべる。

理由に見当もつかない、一夏とラウラが首を傾げる中、鈴の叫びが木霊した。

 

「それにしても、色んな人達がいたよなぁ~。

 カズキさんと同じぐらいの技で型抜きを競ってた人とか、

 父さんと一緒に太鼓叩きに参加してた人とか、

 母さんや雅さんと話してたのなんか、花魁みたいだったよな~」

『ああ、本当に色んな者達がいたなぁ……』

「ちょ~っと、現実逃避するには無理があるんじゃないかしら、一夏君?」

「触れたくないのは、わかるがな」

「「ははは……」」

「うむ!創生種達も楽しませるとは、祭りの力とは偉大だ!」

 

一夏とゲキリュウケンは、ここに来るまでに目にした者達を思い返し

少し遠くを見る目をする。

楯無と明のツッコミも耳に入っていなさそうだ。

その理由は、ラウラの言葉から推して知るべし。

 

 

 

「なかなか、やりますね……!」

「ふっ……この程度で驚くのかい?

 親父さん?

 あなたのことだ、まだとっておきがあるんじゃないか?」

「いいぜ、あんちゃん達……。

 だったら、この俺の最高傑作を見せてやる!

 抜けれるもんなら抜いてみやがれってんだぁっ!」

「おもしろい……相手にとって不足なし!」

「じゃあ、尋常に……」

「「勝負!!!」」

 

最早、板ではなく立体から削り出すという彫刻と言っていい

よく分からなくなった型抜きに、法被と浴衣を着た男二人が目にも止まらぬ早業で

挑戦していた。

 

「はっ!」

「ふんっ!」

「ばかな!?基本の叩きで、あそこまで出すなんてベテランでもなかなかできねぇぞ!」

「それだけ、基礎をしっかり鍛えているってことよ……」

「やるじゃねぇか、あの二人」

 

ハチマキを巻き、輝く汗をまき散らして一心不乱に太鼓をたたく

どこかの世界最初のIS操縦者とそっくりな顔をしている者と

部下にジャ〇プを買ってこさせていそうな者は、準備運動は終わりとばかりに

ギアを上げてばちを振るう。

 

「がんばれ~太夏~」

「あらあら、あなたの知り合いもなかなかやるわね~」

「夏の祭りで、おもしろいものがあるからって

 滅茶苦茶練習してたのよね~」

「ははは……」

 

そんな太鼓叩きを冬音と雅は、観覧席に座って眺めていた。

途中で知り合ったトラディショナルな肩と胸元が大きく露出した

浴衣を着た花魁みたいな女性と、乾いた笑いを浮かべる千冬と共に。

知り合った女性は、どこかの金髪な執務官が出会ったら躾けられた犬の如く

言うことを聞きそうである。

彼女だけでなく、他にも自分の知り合いと共に関係者がいるなと直感した

千冬は、現実から逃れるためにビールをグイっと飲むのであった。

 

 

 

「ふぅっ…やはり、風呂はいい……」

 

箒は、温泉宿にも引けを取らない篠ノ之神社の風呂場で神楽舞の前の

禊ぎを行っていた。

風呂場には箒しかいないため、体を伸ばすたびに小さな水音がこだまして、

箒の気分を和らげていく。

 

「……さて!」

 

湯船から上がった箒は、頬を叩いて気合を入れる。

 

「これで準備は、万端ね」

 

純白の衣と袴の舞装束に身を包み、金の飾りを装った箒は普段より

ぐっと大人びていて、神秘的な雰囲気を漂わせる美しさであった。

 

「ああ、口紅は自分で……」

「う~ん、あの小さかった箒ちゃんがこんなに立派になって……。

 私も歳を取るわけよね~」

「雪子叔母さん……」

 

感慨深く自分の成長を喜んでくれる親戚に、箒は気恥ずかしくなるが、

歳の部分に何とも言えなくなる。

この叔母はもう40代後半なのだが、30代と言われても通じてしまいそうな

若々しい外見なのだ。

そこで、ふと思う。

自分の周りには、実年齢と外見が合っていない人物が多くないか?と。

雅は言うに及ばず。冬音も大学生や千冬の姉妹でも通じるほど若々しい。

加えて友人であるなのはの母、桃子も数年間会っていないが、何故だか

最後に会った時から変わった姿を想像することができなかった。

 

「(どうしてこう、私の周りは姉さん然り色々と人間離れした人が多いんだ?

 ……ああ、ダメだ。姉さんも歳をとった姿が想像できない……)」

 

外見でなく、色んなものがぶっ飛んでいると言っていい面々に対して、箒は

考えるのを止めた――。

 

 

 

「キレイだ……」

「うん……」

「そうですわね……」

 

一夏が案内した穴場でラウラ、シャルロット、セシリアの海外組は、

始まった箒の神楽舞に見惚れて呆けた声で感想を述べていた。

 

「確かに、綺麗としか言いようがないわね」

「ええ」

「まさに剣の巫女ね」

「すごく似合ってる……」

 

同じように鈴、明、楯無、簪も言葉少なめに感嘆の声を上げる。

右手に刀、左手に扇。

一刀一閃に由来する篠ノ之剣術の型の一つ、“一刀一扇”の構え。

それは一見すると侍の出で立ちなのだが、箒は手にした刀でそんな思い込みを

両断していく。

 

シャン……

 

扇につけられた鈴が静かにそして厳かに鳴り響く。

それに合わせて刀が空を切っていく。

決して派手やかなものでもない……。大きく素早く動いているわけでもない……。

しかし、その舞を……箒を見ていた者達は目を離せなかった。

まるで、神聖な何かに祈りを……想いを捧げるような巫女の……

一人の女の子の姿に誰もが息をのみ、その後ろに花びらが舞うのを幻視した。

 

「…………」

『(さっきから静かだと思ったが、一夏も彼女達のように見惚れているみたいだな。

 これは、明もうかうかしてたらひょっとするかもな……)』

 

意外などんでん返しもあるかもと、ゲキリュウケンは神楽舞を舞う箒に言葉を失う

一夏に肩をすくめる。

 

 

 

「よっ。おつかれ」

「い、一夏っ!?み、みんなも!?」

 

一夏達は神楽舞を終えて浴衣に着替えた箒と合流するが、何故か箒は

慌てふためく。

 

「み……見たのか……神楽舞……」

「ああ……なんて言うか……すごく様になってた/////」

「お、お世辞などいい//////」

「お世辞なんかじゃないよ!」

「うむ。あれが日本の巫女というものなのだな」

 

自分の晴れ姿を知り合いに見られるのは、照れ屋な箒には言い難い気恥ずかしさが

あるのだが、それを知ってか知らずかシャルロットとラウラは箒ににじりよって

興奮の声を上げる。

 

「ほんと~絵になっていたわ~」

「一夏が見惚れるぐらいだったしね~」

「何言ってるんだよ、鈴!」

「仕方ないさ、あれは誰でも目を奪われる。

 不思議と悔しさは感じないが、あんまり箒にばかり目を行くと……」

「目を行くと何!

 手で遊んでいるくしで何をする気なんだ!?」

「もちろん、一夏の目をブスッ……と」

 

楯無も素直に箒を褒めるが、鈴はどこかジト~っとした目を一夏に送る。

それに焦った声を上げる一夏だったが、静かに笑いかける明に戦慄を覚え、

同じようにくしを持っていた簪がおしおき内容をまとめる。

 

「一夏さん!今度、ぜひとも私のバイオリンを聞いてく……!」

「あれ?一夏さん?」

「「「「「「「「「『ん?』」」」」」」」」」

 

今夜、箒に大きく差をつけられてしまったとセシリアが負けてなるものかと、

自分の晴れ姿を見てもらおうとした時、突然一夏を呼ぶ声に全員がそちらに

目を向ける。

 

「おー、蘭か」

 

祭りの本番はここからのようだ――。

 

「あっ。ユーノやなのは達も祭りに来るって言うの忘れてた」

『お前って、時たま抜けてるよな~』

「うまうま♪

 お姉ちゃんはうまくやってるかな~?」

「それは、彼がヘタレでないかによるわね~」

 

カズキは、テーブルに出店で買った大量の食べ物を囲いながら、しまったと言った声を

上げる。ザンリュウジンの反応からして、本気で忘れていたようだ。

そんなことには気を止めず、傍らで本音がリンゴ飴をペロペロしていた。

雅達と“偶然”出会った露出が大きい浴衣をきた女性の隣に座って。

 

「(本当はフェイトに渡すつもりだったけど、彼女に渡してもおもしろそう

 だったし♪)」

 

実は、この女性。

雅達と出会う前に虚と本音に出会っており、カズキのようにこれはおもしろいことになる

と感じた直感に従い、虚にあるものを手渡していた。

 

「(どどどどど……どうしましょう//////////////!!!

 ここここれって、アレですよね?

 “ナニ”がどうして、“ソウ”なって、ああで、こうするためのアレで……//////!)」

「(うおおおっっっ!!!?

 まさか、眼鏡の知的さが浴衣の美しさがここまでベストマッチするなんて!

 沈まれ~~~俺の理性ぃぃぃ!!!)」

『(初々しいこと、この上ない)』

 

勢いに押され、虚が渡されたのは家でも学校でも見つかったら、家族会議に

職員室呼び出し待ったなしとなるもので、弾が知ったら理性が木っ端微塵に

なるかもしれないものと記しておく。

 

「カズキン先~生~?

 そう言えば、うわさのおりむ~のお父さんとお母さんは、どこですか~?」

「のほほんさんや。

 世の中には、子供が知らない方がいい大人の事情ってのがあるんだよ」

「ひょっとしたら、千冬の弟好きがパワーアップするか、束ちゃんの妹大好きパワー

 が目覚めるかもしれないわね~。

 もちろん、一夏も♪」

「ふぅ……。酒がうまい……」

「ほんと、あなた達っておもしろいわ~♪」

 

いつの間にか姿を消している太夏と冬音に、カズキと雅は意味ありげな笑みを

浮かべるが千冬は、月を眺めながら酒を味わい、その様子を浴衣の女性は

楽しそうに眺めるのであった。

 

 

 

「こっそり、二人っきりにならない?なのは?」

「へ?……ふぇぇぇぇぇ////////////////////////!!!!!?」

「私らもいるのに、えらい大胆やな~?」

「ユ~ノ~~~~」

 

祭り会場のある場所で、一夏達のように遊びに来ていたユーノ達だったが、

なのはへのささやきによりその場は火山の火口のごとき危険地帯に早変わりした。

小声だったにもかかわらず、聞き耳を立てていたのかしっかりとはやて達にも

聞こえていたようで、はやては笑ってはいるが醸し出す空気はしっとりと重く、

アリサは今にも体から炎を爆発させそうである。

 

「冗談だよ、冗談♪

 みんなでちゃんと行くつもりだから」

「「なっ!?」」

「~~~~~~~!!!!!」

「み、みんなといいい一緒に!?

 はぁぅぅぅん~~~~~~~~!!!」

 

ユーノの予想外の言葉に、一転してはやてとアリサは驚愕し、なのははリンゴ飴よりも

顔を真っ赤にして頭から煙を出した。

とろけた表情で、自分の体を抱きしめるフェイトにツッコミを入れる者はいなかった。

 

「何を勘違いしてるか知らないけど、一夏が絶好の花火スポットを知っている

 みたいだから、みんなで見ようって話だからね?

 少年誌で表現できないようなことをするわけじゃないからね?」

「私は、別にみんなと一緒にそういうことをしてもいいけど?」

「「「「……え?」」」」

 

イタズラの種明かしをするような身振りで、説明するユーノだったが、

さらっとぶっ飛んだ発言をしたすずかに、なのは達共々目が点になる。

じっと見られるすずかは、意味深な微笑みを浮かべるだけであった。

 

「明かりが月の光しかない暗がりの中にいる私達を、夜空に咲いた

 花火が照らして……はぁ……はぁ……」

 

ほおを紅潮させ、息を乱して妄想の世界へと旅立っているフェイトを

連れ戻そうとするつわものはその場にはいなかった。

 

 





一夏の夢に出てきた弾は、世紀末に出てきそうな感じになっていました。
他の面々もなんで!?な姿で(笑)
ユーノが見た夢では、なのははギター片手にプリティでキュアキュアな
衣装でイエーイ♪と。
フェイトはへっぽこクルセイダー。
はやては、ラウラと同じく動物化してタヌキにwww
アリサは箒のようにキャピキャピ♪な感じの魔法少女www
すずかは、エスデスの服でドSの笑みを浮かべ(汗)


祭り会場で、カズキ達大人組と一緒にいたのは、
一体〇〇エス達なんだ~(棒読み)?

神楽舞は、もう少し描写したかったんですが、原作でもそんなに
描かれていなかったので、こんな感じに(苦笑)

虚は何をもらったんでしょうね~。

ユーノ達も浴衣ですが、すずかの妖艶さは日に日にパワーアップ
しているようで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜空に咲く花

大変~~~~~遅くなって申し訳ありません。m(_ _)m

後は最後の仕上げってところでなかなか時間が。
ここ一か月は、本っっっ当~~~~っに残業の連続で
時間がありませんでした(汗)

何度目になるか、投稿スピードを何とかせねば・・・。

今回は、いつもより少々短めです。

京アニ放火事件は、犯人のあまりに身勝手な動機に怒りより
先に呆れが出てきます……。


「はぁ~~~。

 何で、中学生活最後の夏を女同士で過ごしてるのかしらね……」

「そりゃあ、みんな女以外で一緒に祭りに行くような相手がいないからですよ、会長。

 ……あれ?変だな?

 視界がぼやけて、前がよく見えないや……」

「自分で核心をついてどうする」

 

弾の妹である蘭は、自分が会長を務める生徒会のメンバーで

秋の学園祭のアイディアを探しに来たのだが、活気にぎわう周囲とは

対称的にテンション低めであった。

理由は、視界がぼやけているからと目をこすっている子から察しあれ。

 

「一夏さんを誘えてたらな……ん?」

 

盛大に自爆を体現したメンバーを無視して、周囲を見回すと自分の願望で

幻が見え始めたのかと目をゴシゴシとこする蘭だったが、こすっても

消えない幻……今見えている光景は現実だと悟る。

 

「あれ?一夏さん?」

「おー、蘭か」

 

夏休みにバッタリなんてマンガみたいなベタな展開が、現実に起きるほど

世の中は甘くないけど、心のどこかで願っていたシチュエーションに蘭は

浮足立つ。

だが、彼女はやっぱり現実とは厳しいことをすぐに知ることになる。

 

「き、奇遇ですね」

「そうだな。弾の奴も来てるんだけど、どこに行ったのかなあいつ?

 あっ、浴衣。似合ってるぜ」

「あああありがとうございまひゅ……」

 

蘭も明達と同じく、浴衣姿であるが思いを寄せている一夏に褒められて

一気にテレ顔になる。

 

「誰ですの、あの方は?」

「弾の妹の蘭よ……」

「ひょっとしなくても、やっぱりと言うか……」

「その通りよ、シャルロットちゃん」

「既に一夏に撃墜済み……」

「撃墜?お兄ちゃんと戦ったことがあるのか?」

「ラウラ、それは違……わないのか?」

「間違ってるような、間違っていないような」

 

蘭と初めて会う面々は、彼女のことを知っている者達に尋ねるが

尋ねなくても大体わかるといった感じであった。

ラウラだけは、簪の言葉に首をかしげるが、その疑問を正すべきか

どうか箒と明は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

一方で、蘭と共に来た者達も興味津々である。

 

「ちょっとちょっと!あの会長がデレましたよ~、みなさ~ん♪」

「噂に聞く、会長の恋のお相手はどんな人かと思ってましたが、

 中々の人たらしのようですね~」

「会長ほどの美少女に思われているのに!って、思ってたけど……。

 くぅ~~~!

 頑張ってください、会長!

 ライバルの人達が持つ胸部装甲は、かなりの攻撃力ですが会長には

 将来性というものがあります!

 攻撃力の差が勝敗を決するわけではありません!」

 

自分達の中心人物で多くの生徒の憧れの生徒会長が、恋焦がれているのに

なびきもしない唐変木はどんな男かと彼女達は常々思っていたようだが、

一夏と共にいる面々を見て驚愕と納得をするのであった。

最後に攻撃力について力説をする者は、どこか自分にも言い聞かせているような

半泣きで蘭に応援を送る。

その直後に、彼女は鈴にサムズアップを送って鈴のこめかみに青筋を

浮かべさせた。

 

「あ、あなた達ね~!」

「きゃー、こわ~い~」

「でも、いつもと違って恥ずかしがってて可愛い~♪」

 

IS学園とはまた違った女子高なノリのじゃれ合いに、一夏はポカーンと

眺めるのであった。

 

「会長って、同じ学校の友達か?」

「は、はい。同じ生徒会のメンバーで……。

 一夏さんもそちらの方達は?

 何か、前にお店にいなかった人もいますけど……。

 そっちの人は、明さんに似てますけど、お姉さんですか?

 それとも親戚の方?」

「いや、お姉さんでも親戚でもなくて、正真正銘お前が

 知っている明だぞ」

「私の知っている明って……だってこの人女……」

「うん。だから、明は女だったんだよ」

「…………へ?」

 

一夏がサラっと告げた言葉に、蘭は驚き方を忘れたように口から間の抜けた声を

出して驚く。

 

同年代とは思えない程、落ち着き払い常に冷静沈着と絵に描いた美男子の明が!

 

ボディーガードや執事になって、自分を守ってほしい乙女の夢ランキングで

一夏とトップを争っていた多くの女子達が憧れ焦がれた明が!

 

時折、一夏と頭に“ふ”がつく女子達に黄色い声を上げさせ燃え上がらせた明が!

 

さり気ない仕草や気遣い、魅惑の笑顔で自分の一夏への想いを怪しく揺らしたあの明が!

 

自分と同じ……女?

 

「その~……黙っていて悪かったですね。

 わけあって、男の格好をしてたんです。ハハハ……」

「男の……格、好を……して……た……って。

 え?

 だって、そんな……。

 ホントに高校生なのってぐらい胸があって……。

 うなじを綺麗に見せて浴衣美人って言葉が似合って……。

 どっからどう見ても、誰もが認める女の人がカッコイイ明さんで……?」

 

あまりの衝撃に、蘭は言語機能がマヒしておかしな言葉遣いでヨロヨロと

混乱する。

 

「そんでもって、俺の恋人だ♪」

「うむ!時と場所に関係なくイチャイチャする、アツアツのバカップルだ♪」

「ほへっ?」

 

とどめとばかりに、一夏とラウラのダブルアタックが決まり、蘭はものすごく

おかしな顔になって完全に思考が停止した。

 

「うぉいっ!お前達は、もう少し考えて発言しろぉぉぉ!!!」

「会長!しっかりして!」

「傷は、浅いぞ!しっかりするんだ!」

「何イッテルノ?

 ワタシ、シッかりしテるYO?

 早ク、た〇むマじーんを呼んデ、今朝のワタシに

 festivalデしえすたしないようにツタエナイト……。

 アハハハハハ」

「会長!!!戻ってきて!!!?」

「この世界に奇跡も、魔法も、ないの!?」

 

能天気な発言をかました一夏とラウラにツッコミを入れる明の傍らで、

どこかの花園に“い”ってしまった蘭を同行者の女子達が必死に、

連れ戻そうとしていた。

 

「大丈夫か?

 どこかでデートをしている弾のお兄ちゃんを呼んだ方が、

 いいか?」

「ちょっと!瀕死状態に追い打ちをかけるな!」

 

完全なる善意で心配するラウラだったが、それは更なるとどめを

もたらし、鈴の全力のツッコミが響き渡るのであった――。

 

 

 

「ほら、一夏!次に行くぞ!」

「明さん?それに皆さん?

 何故にわたくしが、行く先々で奢らされているのでしょうか?」

 

鈴のツッコミが響き渡った後、蘭はバタリと倒れ共に来ていた友人達が

家まで運ぶことになった。

その様子を呆然と見ていた一夏だったが、怒りに燃える明達に

引っ張られ、各出店で全員分の食べ物や遊び代を払わされていた。

 

「当然の報いだ」

「反省してください」

「あんたが悪い!」

「まぁまぁ、落ち着いてみんな。

 あっ、次はかき氷お願いね、一夏♪」

「ただの砂糖のはずなのに、なんだ!このフワフワ感は~!?」

「こんな美少女達とデートできてるんだから、細かいことは気にしない~の」

「乙女心を弄んだ罪は重い……」

『お前の場合、悪気が無いのから余計に性質が悪い』

 

華麗と言えるほど見事なまでに、乙女心を粉砕した一夏と書いてバカと

呼ぶ、この世界朴念仁選手権優勝候補に鉄槌を下すことに明達の心は一つに

なっていた。

元々、祭りに来るにあたって小遣いは多めに持ってきた一夏だったが、

流石に8人分となると瞬く間に財布が軽くなっていく。

しかも、ラウラは出店を全制覇する気かというぐらいの勢いで

買っては食べて遊んでいくので、最早一夏の懐は軽くなりすぎて空に

浮かびそうな程である。

そんな一夏の心中を、初めて見るわたあめに夢中なラウラが知る由はなかった。

 

「とほほ……。それにしても、今日の出店はちゃんとみんな違う人がやってるな」

「そうだな」

「何を言っているんだ、明?」

「あ~前に祭りに来た時に……。

 何か、服とか変えてたけど同じ人が出店を回していたんだ。

 超高速で分身しているかのように、ブレブレの残像で……」

「しかも、何て言いうか顔が丸っこくてタコっぽかったから、人外の存在だったな

 あれは。色も黄色だったし。

 でも、魔物ってわけでもなかったし、悪意とかも感じなかったから

 何もしなかったんだ。

 カズキさんは、妙に笑っていたけど……」

 

出店をやっている人達が、以前見た妙な人?でないことに

一夏と明は苦笑いを浮かべて箒にどういうことか説明した。

色々と記憶に残る光景だったようだ。

 

「さぁ~て、お次は……っと。

 ん?あれは……」

 

次の獲物もとい鉄槌の品を探していた鈴は、ある集団を発見する。

自分達のように、男一人に対し女五人の一団が射的屋に挑戦していた。

 

「っし!

 また、私の勝ちね♪」

「アリサちゃんって、こういうの得意だよね~」

「な~んか、しっくりこないな……」

「そうだね、なのは」

「なのはちゃんとフェイトちゃんの二人もアリサちゃんと同じくらい、お店の人を

 泣かせる勢いで当てといてよく言うわ」

「ははは……」

「お~い、ユーノ~」

 

気軽な声で楽しんでいる声を上げるアリサ達であったが、

はやての言うように、店からしたら景品をごっそり持っていかれているので

楽しむどころではなかった。

遊びにも全力全開な幼馴染達に、ユーノが肩をすくめている所に彼らを

見つけた一夏達が声をかけてきた。

 

「一夏!それにみんなも」

「すごいことになってるな」

 

一夏は、なのは達の傍に積まれた景品の山に引きつった声で驚く。

 

「いや~。アリサちゃんやなのはちゃんの負けず嫌いに火がついてもうて、

 気がついたらこないなことに……」

「これは、どういった遊技なのだ?

 見たところ、的はないようだが?」

「ああ、これはおもちゃの銃で棚に並んでいる景品を落として

 手に入れる遊びなんだ」

「なんだか、おもしろそうだね」

「ふっ……射撃ならこのセシリア・オルコットの出番ですわ!」

「甘いわね、このコルク銃は本物とは勝手が違うのよ?

 夏祭りハンターと言われた鈴ちゃんの実力を見せてあげるわ!」

「これは、お姉さんも参加する流れかしらね~?」

「おじさん、人数分よろしく。

 代金は、この人が払うので」

「おい、簪!」

 

ラウラの興味津々といった発言から、なのは達のようにセシリア達も

勝負することとなり、サラッと簪がその経費を一夏に押し付けてきたので

一夏は悲鳴を上げる。

 

「よし!では、私も……」

「やるのは構いませんが、皆さん程々に。

 簡単だからと調子に乗ると、ああなりますよ?」

 

やる気満々な箒達に、明はあるモノを指差す。

それは、出入り禁止な客の似顔絵だった。

描かれているのは、前髪で目が隠れているギャルゲーの主人公のような少年と

ツンデレっぽい少女。

そして、バンダナを巻いた赤髪の少年……弾の三人であった。

 

「そいつらか~。

 確か、弾並みの腕で次から次に景品をかっさらっていって、いくつも閉店に

 していったっけ?」

「彼らも相当な腕でした……」

 

感慨深く語る一夏と明に、少し頭の冷えた彼女達は程々にしようと思いなおして

コルク銃を構えた。

結果的に、全員一回分で終わりにしたが根こそぎ目玉景品を持っていかれ

店のおじさんは泣きを見る羽目となったのであった。

 

「さてと、せっかくだしこのままお前達も一緒に花火を見ないか?」

『お前ならそう言うよな、やっぱり……』

「なのはと二人っきりって言うのは、どっちみち無理みたいだし、僕はいいよ。

 みんなは?」

 

射的を終え、そろそろ目当ての花火の時間が迫り、一夏は全員で

見に行こうと普~~~通に提案する。

女性陣からしたら、一夏やユーノと二人っきりなのが理想なのだが、

どうあがいても叶いそうにないと、今回は二人っきりというのを諦める。

 

「お前はどうしてそう……」

「大変だね、明ちゃん。

 いっそのこと、みんなで一夏君のお嫁さんになっちゃう?

 私は、なのはちゃん達となら別にいいかな~って思ってるけど♪」

 

がくっ!っと肩を落とす明に、すずかが苦笑いを浮かべて励ますが、

その言葉にラウラ以外の女性陣が目を見開いて彼女に顔を向ける。

だが、すずかは意味ありげに冗談にも本気にも取れるような優雅な笑みを

浮かべるのだった。

 

「す、すず……か?」

「ああああああんた、何を言ってんの!?」

「…………」

「お姉ちゃん?それもありかも……なこと、考えてないよね?」

「お~い、みん~な~。

 置いていっちまうぞ~」

「ん?」

 

すずかの発言に呆然となる者、顔を真っ赤にする者、いい考えかもと

検討する者と反応は様々であったが、先に行く一夏とユーノには聞こえておらず、

早く来るように促した時、通り道のそばの草むらから物音が聞こえた。

 

「何だ?って、弾と……虚さん?」

「一夏!?それに、ユーノ!?」

「ど、どうしてここに!?」

 

物音の正体は、弾と虚であったが二人とも手をアタフタと動かして挙動不審であり、

どうしたのかと一夏とユーノが首を傾げたところで、明達も追い付き何事かと

見ると、弾の手から何かが落ちる。

それは、花魁みたいな女性から虚に渡されたもの。

所謂子供は見ちゃダメ!なことをする際に、使うもの……。

これが意味するのは……。

 

・人目につかない暗がり(話に聞いた花火を見る絶好のスポットを目指して迷っただけ)

 で年頃の男女が二人っきり(ゴウリュウガンもいるので、正確には二人っきりではない)。

 

・弾が落としたもの(虚が落としたのを拾っただけ)を使おうとしていた(ように見える)。

 

弾と虚は、自分達がとんでもない誤解をされる状況だと瞬時に理解したのであった。

 

「ま、待て……待ってくれみんな。

 誤解だ……!話せば……話せばわかる!!!」

「そうです!

 ここここここんなとこで、そそそそんなことするわけないじゃないですか……!」

「こんなとこじゃなければ、するのか?」

 

顔を赤くして、気まずそうにする一夏達に弾と虚は必死に弁明しようとするが、

唯一状況をわかってないラウラが口にした一言で空気が固まった。

 

「そもそも二人は、何をしようとして……」

“お邪魔しましたぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!”

 

弾と虚が何をしようとしていたのか聞こうと開きかけたラウラの口を

シャルロットが塞いでそのまま担ぐと、全員その場から瞬間加速を思わせる速さで

離脱した。

 

 

 

「いや~驚いたね~。

 まさか、弾が……」

「あいつもやる時はやるけど、こんなとこでなんて」

 

大人の階段を上ろうとしていた(早とちりによる誤解だが)友人に、ユーノと一夏は

尊敬と羨望が混ざった声で深く頷く。

 

「いつ人に見られるかわからない外で後ろから……はぅん!」

「いいいいいいけませんわ!そんなすぐそばに人がいるのに!」

「こんなとこでこんな格好させるなんて、一夏はエッチで変態さんだよ……」

「…………フェイトちゃんと同じ素質をセシリアちゃんやシャルロットちゃんも

 持ってるかもとは思っとったけど……三人とも随分、遠くに行ってもうたなぁ~」

「ちょっ!はやて!

 戻ってきて!あたし一人じゃツッコみきれないから!!!」

「アリサちゃん、何だか大変そうだね~。

 でも、月明かりの下でなんて……ふふふ♪」

「すずか!?

 その怖い笑みは、やめてくれ!」

「まさに夜の女王……」

「楯無さん!なのはも!

 落ち着いてください!」

「あわわわわわ。ううううう虚ちゃんがおおおおお大人の道ををををを!!!?」

「ふにゃぁ~~~」

「お兄ちゃん、目的地はまだなのか~?」

 

ある程度の落ち着きを見せる男二人と違って、女性陣は大混乱だった。

妄想の世界に行って、自分がそうなったらと悶える者達に、

どこか悟りを開こうとしているはやてを引き戻そうとするアリサ。

妖艶な笑みで怪しい笑みを浮かべるすずかに驚愕する箒と簪。

明は、そんな彼女達に構うことなくオーバーヒートしている楯無と

なのはを落ち着かせようとする。

一人、空気を読んでか読まずかラウラはいつまで歩くのかと一夏に

尋ねる。

 

「ちょうど、着いたぜ?

 ここだよ」

 

たどり着いたのは、神社の裏手にある林の一角。

ちょうど、天窓を開けたように空が見える場所であった。

子供が探検して迷子になって偶然見つけでもしないと見つからない

隠れた穴場である。

春は朝焼け、夏は花火、秋は満月、冬は雪と四季折々の顔を見ることができる。

 

「時間もちょうどいいみたいだね。

 3、2、1……」

 

ヒュゥゥゥ~~~……ドォォォン!!!!!

 

滑り込みセーフと言わんばかりに、ユーノがカウントダウンをして

空を見やると、夜空に火の花が大きく花開き、人々を照らし出した。

一同は、声を出すのを忘れて次々と咲いては消えていく色とりどりの

火の花に目を奪われる。

 

「月並みだけど、綺麗だな……」

『ああ……。そうだな。

 人間のこういう“創る”力は、誇るべきものだろう』

 

僅か数秒間だけ輝く花に、一夏は思いをはせ、ゲキリュウケンもまた

その輝きを創り出す人間の力を認めるのであった。

 

「来年も……またみんなで見よう……必ず!」

 

意を決するように一夏が口にした言葉の意味を、ユーノ達は理解し静かに

頷いた。

来年も花火を見る…………創生種に必ず勝つということを!

 

 

 

オ マ ケ 4 ☆

 

「確か花火が上がった時は、た~まや~と言うんでしたっけ?」

「それって、どんな意味があるの?」

「昔の花火屋の名前よ。

 その応援の掛け声が今でも続いているのよ~」

「他にも掛け声……つまり、花火屋はあるけど技術が上だからとか

 掛け声の語呂がいいからとかで、た~まや~が有名なんだよ」

「力に溺れやすく浅はかに物事を考えられない愚かな一面もあれば、

 心を震わせるものを生み出すことができる……人間とはやはり面白い」

「いや……だから、何でお前達は普通に馴染んでいるんだ?」

 

一夏達と同じように花火を見ていたカズキ達の知り合い……創生種達は、

極々自然に花火を楽しみ雅とカズキの解説を受けているので、

千冬のツッコミもキレが弱かった。

 

「細かいことは、気にしたら負けだよ?千冬ちゃん」

「……そうだな」

 

あれこれ考えるだけ無駄だと悟った千冬は、花火を堪能しようと

ツッコミを放棄した。

 

「あら?

 帰ってきた、あなたの両親の姿が見えないわね?

 いつの間に……」

「あの二人なら、二人っきりで見てるわよ~。

 人気のない場所で……♪

 一夏もそうだけど、ラウラちゃんも弟や妹を目に入れても痛くないほど

 可愛がりそうだし……ふふふ♪」

 

雅の意味ありげな楽しそうな言葉も千冬は、我関せずで

花火を眺めるのであった。

 





一夏や明が言っていた顔がタコっぽくて分身したり、
射撃が弾並なギャルゲーの主人公やツンデレガンナーは、どこの
暗〇教室の関係者なんだー(棒読み)

弾と虚は、まだ大人の階段は登ってませんよ?
まだ・・・ね?

来年の夏は、関係者一同で赤ん坊の抱っこ争奪戦が
起きるかもしれませんwww
誰の弟(妹)とは敢えて言いませんwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平穏とは学園には無縁なのかもしれない


8月中に一度は更新したかったのですが、なかなか時間を取れず。
何度目だよ、この言い訳は(苦笑)

本当はもっと長かったのですが、次の更新を考えてキリがいい所で
投稿します。

新キャラが登場しますが、本格的な登場はまだ先となります。



2学期。

それは、夏の終わりを意味し新たな季節の幕開けである。

学生にとっては、終わってしまった夏休みを嘆いたり、久々に友達と

会えるのを楽しみにしたり、体育祭や文化祭等のイベントを控えたりと

学生生活の中でも一番動きがある学期と言える。

 

しかし!

 

一部の学生にとって、そんなのは全て些細な事な

出来事が起きていたりもしていた……。

 

「何ぃぃぃっ!!!?」

「別の学校に行った幼馴染に告白されたっ!?」

「憧れのお兄さんと付き合うことになっただと!!!」

「一緒に旅行に行っただぁ!!!?」

「何なんだ!

 その余裕のある大人の笑みは、何なんだ!?」

 

IS学園に響き渡る信じられないといった絶叫。

それは、明確な線引きがされてしまった瞬間であった。

すなわち、勝者と敗sではなく、リア充と負けぐmでもなく……つまり、そう!

いつもと変わらない夏を過ごした者とそうでない者がいるということである!

そして、それは何も青春真っ盛りな学生に限った話ではない――。

 

「何ですってぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!!!!!!」

「田舎にいる幼馴染にプロポーズされたぁぁぁっ!?」

「しかも、年下だとっ!!!?」

「昔からの弟分と付き合うことになっただぁぁぁっ!!!?」

「さささささ産休を取るぅぅぅぅぅっ!!!!!???」

 

職員室からは、教室以上の絶叫が上がりその声には驚愕よりも血涙を流さんばかりの

羨望が込められていた。

 

「それでは、これより“彼氏ができたら互いに紹介しようね☆”

 という女の友情同盟を忘れ、青春という夏を過ごしたリア充組達の

 裁判を執り行います!」

「「「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 

学園全体が揺れんばかりの喝采で、いつもとは違う夏を過ごした者達への

裁判が行われるのも必然なのかもしれない。

 

「とりあえず――――。

 判決……告白から付き合うまでの流れというか

今日までの相手との思い出全部を一切合切嘘偽りなく全て話す!の刑に処す!!!!!」

「「「「「異議なし!!!!!」」」」」

「「「「「異議ありぃぃぃ!!!!!

     弁護士を呼んでぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」」」」」

 

と、まぁ……IS学園は2学期初日からあちこちで騒ぎが起きているわけですが、

そんな騒ぎとは無関係に揺れている場所もあったりした。

 

 

 

「落ちろぉぉぉっ!」

 

気合の声と共に“水”を纏わせた衝撃砲を連射する鈴だったが、

相対する者は空中をまるで海を泳ぐ魚の如く躱していく。

目標に当たることなく進んだ弾は、アリーナの地面にクレーターを

次々に作っていく。

 

「これなら……」

「どうですか!」

 

相手が鈴の攻撃に回避するのに集中している隙を狙って、セシリアは

ブルーティアーズ4機、簪は山嵐によるビームとミサイルを織り交ぜた

同時攻撃を行う。

異なる攻撃である以上、回避も防御も同じやり方で行うのは、難しい。

この攻撃は決まると二人は確信するが……。

その確信は、相手が見せた舞のような華麗な動きで攻撃を回避していく様に

脆く崩れ去っていく。

 

「そんな!?」

「嘘っ!?」

 

相手は速く動いているわけでないのに、攻撃の方が相手を避けていると

見える程自然な動きで弾幕の雨をかいくぐっていく。

 

「飛び道具がダメなら……!」

「接近戦で!」

「でぇぇぇいっっっ!」

 

セシリアと簪の攻撃を躱しきったところを狙ってシャルロット、ラウラ、箒が

三方向から同時に対戦相手……一夏に斬りかかる。

 

「っ!」

 

一夏はその奇襲を雪片と光子反射(フォトン・リフレクション)の盾、そして右足を使って受け止める。

 

「うおおおっ!」

 

あまりにも奇抜な防ぎ方に三人が動きを止めて硬直した隙を逃さず、

一夏は左足を軸にコマの如く自身を回転させ、箒達三人をまとめて吹き飛ばす。

その際に、受け止める力を巧みに崩して一塊になるようにというオマケつきで。

 

「いや、レベルアップしすぎでしょ」

「楯無さん」

 

観客席で模擬戦のデータ取りをしている明の元に、楯無が姿を見せ呆れた声で

模擬戦の感想を口にする。

 

「そうですね。

 1対6の状況で、苦戦どころか押してますからね」

「みんなも連携になった時の自分の役割も理解していているみたいだけど……。

 あああ!

 明日の全校集会の準備なんかほっといて、私も参加すればよかった!」

「虚さんを怒らせても知りませんよ?」

 

夏の修業の成果の確認ということで、早速行われた模擬戦。

その模擬戦で、一夏は何を思ったのか専用機が調整中の明を除いた6人を

一度に相手にすると言いだしたのだ。

最初は鈴を筆頭にカチンときた面々であったが、慢心や冗談で言いだしたので

ないとわかり気を引き締めて挑んだのだが、結果は見ての通り。

一夏が終始押しているのである。

 

「まあ、聞いた話によるとこれよりも不利な状況で歴戦の戦士達と戦った

 みたいですしある意味、当然の結果かもしれません」

 

聞くところによると、修行の総仕上げとしてリュウケンドーのモードチェンジのように

状況によって能力を変えるフォームチェンジの力を持つ仮面の戦士に対し、

基本フォームだけのハンデ戦や逆に相手のフォームチェンジ無しの逆ハンデ戦を

何度も行ったらしい。

 

「中でも一番厄介だったのが、3枚のメダルで変身する欲望の王だったとか。

 今はいない頭脳担当の相方の代理にカズキさんがその役をやった所……

 次から次に姿が変わって、手が付けられなかったとか」

「確か、そのメダルって5種類あったわよね?

 単純に考えても125の姿になれるわけだから、それが次々に変身して

 相手になるとか……考えただけでゾッとするわ」

 

視線を泳がせて語る明に、その光景を想像したのか楯無も頬を引きつる。

自分達なら絶対にごめんこうむりたい組み合わせである。

そこで、ズババッ!と甲高い斬撃音が鳴り響き二人が意識をアリーナに戻すと、

一夏が6人相手に勝利していた。

 

 

 

「う~ん……」

『どうした、一夏?

 彼女達6人同時に相手にして勝ったというのに、不満そうだな』

 

模擬戦を終えた一夏は、ロッカールームで悩まし声を上げて唸りを上げていた。

斬撃と砲撃のコンビネーションで、6人を一か所に集めたところに

白龍光翼(フォトン・ウイング)による超加速の一撃を叩き込むという達人的な試合運びを見せたというのに、

何か問題があるのかとゲキリュウケンが問いかける。

 

「いや。自分でもかなりうまく戦えたと思ってるよ。

 だけど、それを格上相手にもできるかってなると……。

 俺はまだ教えてもらったことを身につけているだけで、

 自分の技って言うか、剣って言うか、自分だけの“もの”で戦えてないんだよ」

 

一夏が思い起こすのは、修行の一環で訪れた並行世界で出会った

二人の少年。

どちらも自分と同年代にも関わらず、自分のものとは比べ物にならない巧みな技と

息をのむほどの揺るがない信念を持っていた。

更に驚くのは、二人が落ちこぼれだの最弱だのと言われていたことだ。

だが、そんな周りの評価など気にも留めず、二人はひたすら鍛錬を重ねた。

剣を振るい続けた。

自分の信念を貫くために――。

 

「上には上がいるって言うのは知ってるし、身をもって叩き込まれたけど、

 自分と同じぐらいであそこまでの奴らがいるってのは考えもしなかったぜ。

 ……もしも、俺が同じ境遇だったらきっと、最初の内にポッキリ折れてる……」

 

拳を強く握りながら語る一夏の声は、静かだが強い意志……対抗心が込められていた。

それが意味するのは……。

 

『(弾やタツミ、なのは達のように一夏と同年代で普通なら考えられない

 経験や強さを持っていることは、珍しいことではないかもしれない。

 だが、同年代であそこまで上をいかれたのはこいつにとって初めてだ。

 やはり、男にとってライバルというのが一番燃え立たせるのかもな……)』

 

自分を追い込むことで彼らのように自分だけの“剣”を模索し始めた一夏に、

ゲキリュウケンは不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「だーれだ~?」

 

そんな時、突然一夏の視界が誰かに塞がれ闇に覆われる。

 

「へっ……?」

 

突然の事態に状況を飲み込めず、素っ頓狂な声を上げる一夏がおかしいのか、

謎の人物はクスクスと笑い声をもらす。

その声はどこかイタズラ好きな……例えるならカズキや楯無を思わせる

感じであった。

しかし、一夏は心中穏やかではなかった。

 

「は~い♪時間切れで~す~」

 

視界を解放された一夏は、即座に背後にいる人物から距離を取り、

いつでもゲキリュウケンを抜けるように構える。

 

「誰だよ、あんた……?」

「へ~……?

 咄嗟に戦闘態勢に入る判断は、悪くないわね」

 

一夏は、目の前の人物を観察しながらどう動くか思案するが、

動けずにいた。

動きを見せた瞬間にやられる、そんな予感がしてならないからだ。

着ているのは学園の制服だが、リボンの色からして上級生。

そして、まるでカズキのように

どうやってからかって遊ぼうかと企むかのように自分を観察してくる。

 

「(何より、この人全く気配を感づかせずに俺の背後を取った。

 敵意や殺意はないけど、その気になれば俺を簡単にどうにかすることだって

 できたはずだ。

 ……くそっ!

 目の前にいるって言うのに、目の前にいないような……

 本当に雲や霧でも相手にしているみたいだぜ……!)」

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ?

 ただ、君の顔を見に来ただけだから

 じゃぁ~ね~♪」

 

謎の先輩?がロッカールームから、完全にいなくなったとわかると、

一夏は大きく息を吐き出した。

ほんの数分間の対峙であったが、体感的には何日もにらみ合っていたような

疲労度だった。

 

「はぁ……はぁ……。

 な……何だったんだ、今の人?」

『わからん。だが、ただ者ではないことだけは確かだ。

 本当に人間か?』

「まさか……新しい創生種!?」

『可能性は、ある。

 ……ところで、一夏。

 時間は、大丈夫なのか?』

「え?時間?」

 

ゲキリュウケンの言葉に時計を見た一夏は、血の気が一気に引き、

先程までとはまた違ったプレッシャーに襲われた。

 

 

 

「それで?

 遅刻の言い訳はそれで全部か?」

 

地獄の鬼さえ、裸足で逃げ出す鋭い眼光を放つIS学園最強教師、織斑千冬が

今まさに一夏に審判を下そうとしていた。

罪状は、遅刻である。

 

「いや、あの、だから……怪しい先輩に絡まれましてね?」

「どういう風に怪しかったんだ?」

「何て言うか、掴みどころがないというか、とても一つ二つ

 違うだけの雰囲気でなかったというか……」

「なるほど。つまり、お前は年上のしかも、初対面の女の色香にやられて

 遅刻したと」

「ちょっと!言い方!」

 

聞く耳持たぬとばかりに、一夏の言い分を間違っているけど間違っていないように

解釈していく千冬を止めようとする者はいなかった。

 

「原田、デュノア。室内戦闘におけるISと非操縦者の連携実演をしろ。

 相手はこの馬鹿者だ」

「“この馬鹿者だ”……じゃなーい!

 何で、そんなに不機嫌なの!?」

 

いつにも増して過激な罰に、ギョッ!としながら二人に視線を向ける。

 

「「…………」」

 

返ってきたのは、見惚れるような笑顔であった。

 

「そ、そうだよな……!分かってくれるよな!

 二人は、そんなヒドイことなんかしないよな……!」

「じゃあ、織斑先生。実演を始めま~す♪」

「久しぶりに捕縛術を使うとしましょう♪」

「おう、やれ」

「いやぁぁぁっ!!!

 慈愛の天使じゃなくて、裁きを下す審判の笑みでしたぁぁぁ!!?」

 

バチバチと電気を走らせる警棒のような武器にリヴァイヴの腕を

展開したシャルロットと、どこから取り出したのか縄を構える明が

ジリジリと一夏ににじり寄っていく。

 

「あ、あの……シャルロットさん?明さん?」

「なぁ~に?織斑く~ん?」

「何だ?ん?」

 

にこやかに微笑みながら、額に青筋を浮かべる二人は哀れな罪人に判決を下した。

ちなみに、千冬が不機嫌だったのは夏休みに一夏があまり構うことが

できなかったためでは決してない。

……ないったら、ないのである。

 

「……で?

 お前は、一体何をしているんだ?」

 

弟の悲鳴を流しながら、千冬は教室で奇怪なことをしているカズキにツッコミを

入れる。

カズキが変わっているのは、周知の事実だが今行っているのは

いつにも増して変なことで指摘してもいいものかと誰もが

口にできずにいたのだ。今、カズキは……。

 

「は~~~ら~い、たま~え~。き・よ・め・たま~え~~~」

 

神主のような白い衣装を着て、焚火の前で怪しげなまじない?をしているのだ。

 

「いや~最近、妙な胸騒ぎを覚えてね……。

 何て言ううかこう……自分がこっそり書いている日記とかポエム的なものを

 知らない内に家族に読まれていたり、掃除してたら返すのを忘れていた

 レンタルDVD、しかも新作を見つけたりみたいな?

 ああ、この火は立体投影機だから大丈夫だよ。

 部屋の中で、キャンプファイヤーの気分をって奴」

「そ、そうか……」

 

カズキがいつになく深刻な顔で、いつもの調子で変なことを言うので

千冬もどう反応すればいいのか困ってしまう。

 

「とりあえず、お祓いはこれでいいとして、後は武器だ……。

 反〇兵器にブ〇スト・ボムはOK。

 後は、ネオ〇キシマ砲にゴル〇ィオン〇ンマーを……」

「待て待て待て待て……っ!」

 

今日の夕食は何を作ろうかみたいな、気軽なノリでとんでも武器を口にする

カズキに千冬は慌てて止めに入る。

 

「……もう!冗談に決まっているじゃないか、千冬ちゃ~ん?

 最後は22世紀の子守ロボットが何故か持っていた地〇破〇爆弾を……」

「戻ってこいこの馬鹿っっっ!!!!!!!!!!」

 

どこかへと旅立とうとしているカズキを千冬は日本刀とハリセンを

手にして引き戻そうとする。

IS学園最強カップルによる痴話げんかによる爆音と男子生徒の悲鳴が、

混在する恐ろしい空間でも、山田先生もクラスメート達も気にすることなく

授業を開始した。

慣れとは恐ろしいものである。

 

「誰か助けてっ!!!」

「くらえ!必殺、隠し撮りした修行中の一夏の写真!!!」

 

助けを求める切実な声は誰にも届かず、カズキが逃げるのにばらまいた写真は

一枚残らず千冬や一部の者達が、ハ〇パーク〇ックアップと見間違えるような

スピードで手中に収めたのであった。

 

「ああ、後来年は熱い夏を過ごしたい人は、なのはに

 色々と聞いてみるといいよ?

 したみたいだからね……“色々”と……♪」

「にゃぁぁぁぁぁっ!!!?

 ししししししてないよ、ユーノ君と色々なんて!

 キ……ぐらいしか……あっ」

 

ついでとばかりに、カズキに投入された爆弾によってなのはが幼馴染4人を

中心に問い詰められたのは当然の結果である。

 





一夏は様々な状況の経験を積むために、仮面ライダー達とハンデ戦や
逆ハンデ戦を何度も行いました。
フォームチェンジを封じたり、相手が封じた状態で等々。

一夏が対抗心を燃やしているのは、「落第騎士(ワーストワン)」とか
「無敗の最弱」と呼ばれる少年達。
でも、その実力は度肝を抜かれるもので!
どのように会ったのかは、日常の方で。ただし、ギャグ風で
行くと思います(笑)

千冬も一夏があまり構わなかったら、ちょっと拗ねるぐらいするんじゃ
ないかと(爆)

カズキの冗談ともとれる武器の用意ですが、本人はいたって
真面目に用意するべきかと悩んでます。
果たして、彼の悪い予感とは!

感想・評価、お待ちしてま~す。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その時、〇〇〇〇が動いた


大~~~~~変長らくお待たせいたしました!!!

活報にもあった試験勉強だけでなく、残業が続きに続きまして。
合間を見て、執筆する時間もなかなか確保できませんでした。

次話は、なるべく間を置かずに更新したかったので
2話分を完成させるのに時間がかかりました。

サブタイの〇〇〇〇に入る文字は日常と同じく、あとがきにて。

それでは!


翌日。

SHRと一限目の半分を使って行われる全校集会のために、全生徒と教師が

体育館に集まっていた。

 

「やあ~やあ~みんな。おはよう。

 各々思い思いの夏を過ごしたと思うけど……」

 

壇上で挨拶するのは生徒会長の楯無だが、急に顔を俯いたと思った瞬間に

クワッと!目を見開いてスタンドからマイクを取り外す。

 

「いつもと同じ夏の思い出しかできなかった奴は、

 恋人とアハハ♪ウフフ♪な思い出がを作った奴が羨ましいかっっっ!!!」

「「「「「羨ましいですっっっっっ!!!!!」」」」」

「自分だって……そんな思い出を作りたかったかっっっ!!!!!」

「「「「「作りたかったですぅぅぅっっっっっ!!!!!!!!!!」」」」」

 

ライブ会場のように場をエキサイトさせていく楯無に、

いつもと変わらない夏を過ごした者達の反応は凄まじかった。

その中には教師もチラホラといて、千冬は頭を抱えた。

最もその原因の一因は、人目もはばからずイチャイチャする弟と

自分(本人は激しく否定するだろうが)であることには気づいていない。

 

「みんなの気持ちは痛いほどわかるわ……。

 しかし、ここIS学園は女子高……出会いなんてもんは

 長期の休みでもなけりゃあるわけがない!

 ……でも、知ってる?

 この学園は、最初は普通の学校と同じで共学だったのよ?

 残念ながら一期生だけで、終わったけど……昨今ISの技術者や整備士

 に男がいるのは当たり前……ならば!

 操縦者育成の場に、いないのはやはりおかしいのではという声が

 上がっている!!!」

「おいおい……」

「まさか……」

 

ドドン!と効果音が付きそうな芝居がかった手振りで熱く語る楯無に、

ひょっとしてという気持ちが聞いている者達に大きくなっていく。

 

「そして!一夏君という実例ができた以上!

 IS学園が女子高である意味は、無いも同然!

 よって!

 IS学園が共学に復活することが決定しましたぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「「「「「うおおおおおっっっ!!!!!」」」」」

「「「「「最高だぜ会長っっっ!!!!!」」」」」

「「「「「お姉さまっっっ!!!!!」」」」」

 

楯無が発表した宣言に、体育館どころか学園の外まで聞こえるんじゃないか

と言うような黄色い声が空気を震わせる。

その何割かは教師なのは、ご愛嬌である。

 

「そのための前段階的な試験として、今年の二学期から……

 男子の編入生と教員がやって来るぞぉぉぉっっっ!!!!!」

「「「「「っっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

「み、耳がっ……!!!」

 

最早声にならない歓声に、一夏は耳を押さえて俯く。

冗談抜きで、何の変哲もないただの声で倒れそうである。

 

「でも、虚ちゃん的には残念なのよね~。

 虚ちゃんの彼氏も候補に挙がってたんだけど、やむにやまれぬ事情で

 できなかったのよ。

 せっかく、彼のために色々と男の子の本とか読んで勉強したりして

 大人の階段を登る準備をしてごべっ……!」

 

盛り上がった場から一転して、残念そうな顔をする楯無は何の前触れもなく

奇声を発して体が浮かび上がった。

正確には、みぞおちに拳を叩き込まれて飛び上がらされた。

そのまま拳を叩き込んだ虚は、楯無が落としたマイクを持つとにっこりと

微笑んだ笑みを浮かべて生徒達に顔を向ける。

ピクリとも動かない楯無を一切に気に留めず。

 

「え~それでは、新任の先生と編入生を紹介します。

 男性だけでなく、女性の方もいますので。

 みなさん、くれぐれも……く・れ・ぐ・れ・も静かに……お願いしますね?

 でないと、終焉をもたらされるかもしれませんよ?」

 

微笑んでいるが笑っていないという奇妙な顔で

司会進行を進め、静かにと強調する虚に、先ほどまで興奮していた面々は

瞬時に沈黙した。

IS学園最強の生徒が楯無なら、虚はIS学園最凶の生徒なのだと

その場にいた者の心がシンクロした瞬間だった。

 

「ではまず、教員のコーネリア・リ・ブリタニア先生お願いします」

「うむ」

 

虚にまず紹介されたのは、千冬によく似た鋭い目つきの女性だった。

千冬を女侍なら、彼女は女騎士とでも言えばいいのだろうか。

如何にも男よりも強い女なといった感じである。

 

「コーネリア・リ・ブリタニアだ

 教員となったばかりの新参者だが、ビシビシと鍛えてやる!

 脆弱な者は特にな!」

「「「「「……きゃあぁぁぁっ!!!お姉さまっっっ!!!」」」」」

 

何度目かわからない、黄色い声が爆発して何人かが音圧で吹き飛ばされそうになる。

 

「千冬様と同じぐらいゾクゾクしちゃった!」

「かっこいい!」

「素敵……憧れちゃう」

「厳しく躾けてぇ!でも、時には甘やかしてぇぇぇっ!」

 

千冬と似たものを感じたのか、瞬時にファンが生まれた。

一部危ない発言をする者もいるが、ここでは大した問題ではない。

 

「続きまして、ギルバート・G・P・ギルフォード先生お願いします」

「はい。

 みなさん、こんにちは。

 ギルバート・G・P・ギルフォードです。

 女性の職場に、男が入ることに思う所があると思いますが、

 よろしくお願いします」

「「「「「正統派眼鏡イケメン来たぁぁぁぁぁっっっ!!!」」」」」

「塞いでるのに、耳がいてぇっ……!?」

 

ギルフォードの登場で、体育館の屋根が吹き飛ぶんじゃないかと言うレベルの

歓声が爆発し、その破壊力に一夏はうずくまる。

 

「眼鏡が似合うクールなイケメンなんて……素敵っ♡」

「教師もいいけど騎士服とか執事服も似合いそうっ!」

「私を全力で守ってぇ~~~♪」

「そして、攫ってぇ~~~!」

 

ブレーキが壊れて暴走する列車の如く、ノンストップで走る乙女の妄想に

ギルフォードもたじろぐ。

無論、黄色い声を上げているのは教師陣も同様である。

獲物を狙う肉食獣の目で。

 

「ギルフォードさんには、ホント頭が下がるよな~。

 教師陣に追加はなかったのに、コーネリアさんも来るって聞かないから、

 ストッパー役として来たんだよな」

『(まあ、彼の苦労はそれだけにはならないだろうがな)』

 

一夏は小声で呟きながら、心の中で何度も頭を下げるのであった。

 

「みなさん、静かに……静かに!

 まだ、紹介は終わっていませんよ。

 次は「とう!」……」

 

場をなだめる虚だったが、ほとんど聞く者はおらず頭を抱えながら

次の教員を紹介しようとすると、彼女の頭上を何者かが回転ジャンプで

通り過ぎ壇上に着地して姿を見せる。

 

「やっほ~!

 二学期から新しくISの技術主任になるプリティラビットだよ~♪

 よっろしくぅ~~~♡」

 

不思議の国のアリスが着るようなエプロンドレスにメカニカルなウサミミと

デフォルメしたウサギの仮面をつけた女性は、横ピースをしてポーズを

決める。

キラッとした音が聞こえてきそうだが、体育館は水をうったように

静寂に包まれた。

どう反応すればいいのかわからない者が大半だったが、

臨海学校に参加した一年生達はその正体を察し引き攣りながら

彼女の妹に目を向けると、顔を俯かせプルプルと震えていた。

 

「は~い~、おめでとう~。

 同じくIS整備担当になるプリン眼鏡だよ~。

 おもしろい改造をしてあげるから、楽しみにしててね♪」

 

そんな静寂な空気を分かっていないのか読めないのか、壇上に

姿を見せたのは、プリンをかたどった眼鏡をかけた白衣を着た

人物であった。

プリティラビットに似た怪しげなにおいをかぎ取ったのか、

皆顔が更に引き攣る。

 

「ふふふ……はっはっはっはっはっ!!!!!

 そしてそして!

 私が謎の天才科学者ドクター~~~Jだぁっ!」

 

どこからどう見ても、特撮に出てくるような悪役にしか見えないあくどい笑いと

サングラスをかけた紫のロングヘヤーの怪しげな人物は、

白衣を翻しこれまた悪の科学者にお約束のような

ポーズを取り、その場を混沌の渦にしていく。

 

「「「三人合わせて、スペシャルブレインスリー!!!」」」

 

役者は揃ったとプリティラビットをセンターにしてポーズを決めた瞬間、

ドドン!と効果音の幻聴がその場にいた全員の耳に聞こえたと言う。

更に同時に、箒が雨月を振りぬき(峰打ちで)プリティラビットを斬り裂き、

どこからともなく現れたセシルが見事なシャイニングウィザードを

プリン眼鏡へと叩き込み、

ドクターJはセシルと同じくどこからともなく現れたウーノのかかと落としに

よって沈められた。

 

「お騒がせしました~」

「失礼しま~す」

 

混沌から一転して静寂に支配された体育館に、何でもないと言わんばかりの

セシルとウーノの明るい声がやけに響き渡り、スペシャルブレインスリーを

回収していった。

突然姿を見せた怪しさしかない謎の3人組や

どうやって箒が一瞬で、壇上に移動したとか華麗な技を決めたお姉さん達は

一体何者なのかと疑問に思う余裕は、誰にもなかった。

 

「……では気を取り直して、編入生の紹介に入ります」

 

数瞬、この何とも言えない空気をどうしようかと悩んだ虚だったが、

どうしようもないと何事もなかったことにするのが一番と、全校集会を

進めるのであった。

 

「編入生のみなさん、お願いします」

「は~い♪

 はじめまして、ミレイ・アッシュフォードです。

 みんなで、色々とおもしろいことして楽しみましょうね♪」

「何だか、更識会長と同じ匂いがする……」

「すっごく、おもしろいことが起きそう!」

 

楯無のようなイタズラ好きというか人たらしを感じ取ったのか、

生徒達はワクワクとなったが、教師陣は反対に学園が更に騒がしく

なっていくと感じ取り頭を痛めるのであった。

 

「紅月カレンです。よろしくお願いします」

「おおっ!今度は原田さんに似た感じの子だ!」

「気が強そうに見えて、実は乙女な感じ?」

「漂う……漂ってくるわ!恋のフレグランスが!!!」

「「「……お姉さま~♪」」」

 

コーネリアのように男よりもカッコイイ女という印象を与えるカレン

であったが、乙女の勘か超能力か。

カレンが明のように恋する乙女だということを、見抜いていた。

何人かはうっとりするような蕩ける表情を浮かべ、周りの者に

戦慄を与えているのは余談である。

 

「シャーリー・フェネットです。みんな、仲良くしてください」

「フェネットさんのあの体、何かスポーツをしてるわね……。

 新戦力として期待できそう!」

「むむ!彼女も恋に恋する乙女と見た!」

 

三人目となっても、彼女達の興味は薄れることなく、シャーリーにも

色んな意味で興味津々である。

 

「は、初めまして……C、C.C.と言います……。

 えっ~と、あの……す、好きな食べ物はピザです!!!」

「C.C.って、イニシャル?」

「照れ屋さんみたいだね~」

 

人見知りなのか、オドオドしながらもあいさつするC.C.に

空気が少し和む。

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアです。

 みなさんと友達になれるのが楽しみです」

「あれ?ユーフェミアさんの名前って、コーネリア先生と一緒?」

「織斑君と同じで、先生の妹かな?」

「何だろう?こう……纏うオーラがただ者じゃないっていうか……ん?」

 

やんよやんと騒がしくなる中で、ユーフェミアがただ者じゃないと

感じた子が見たのは、満足そうに笑っているコーネリアだった。

その顔は、千冬や楯無が見せるブラコン、シスコンの顔と同じであった。

瞬間、ユーフェミアとコーネリアの二人は姉妹であり、

コーネリアは妹命な人だと生徒達は理解した。

 

「ナ、ナナリー・ランペルージです。

 まだ、15歳ですが、よろしくお願いしまひゅっ!

 ……はぅ~」

「アーニャ・アールストレイム。

 趣味は写真撮影。おもしろいものがあったら、教えてくれるとうれしい」

「ナナリーさんとアーニャさんは飛び級で、こちらに編入しました。

 戸惑いもあるでしょうが、どうかよろしくお願いします」

 

どう見てもまだ中学生なナナリーとアーニャの登場に、ざわつくが

虚の冷静な対応で徐々に落ち着いていき、段々その愛らしさについて

口にして行く。

 

「お願いしまひゅって、可愛い~♪」

「アーニャちゃんもお人形みたいで、かわいい♪」

「ラ、ラウラたんと一緒に……おおお着換えさせたいいいいいい!!!!」

「穢れを知らない無垢な肌……じゅるり」

「じゃ、じゃあ次はお待ちかねの男性陣の紹介よ……」

 

お巡りさんへの通報待ったなしの危ない会話が花咲そうになった時、

ヨロヨロと復活した楯無の弱弱しい声が、体育館は水を打ったように

静まり返らせた。

 

「やあ、みんな。

 ジノ・ヴァインベルグだ、よろしく!

 いや~庶民の学校は、楽しそうだね♪」

「見ての通り、いいとこのお坊ちゃまだけど、悪くないでしょ?

 そして、彼は一夏君と違って完全なフリーよ♪」

 

ごくりと息をのむ音さえ、響くような静寂の中でジノが気さくに

あいさつをすると、多少体をふらつかせながら楯無が付け加えるように

言葉を続ける。

手に持って広げた扇子には“玉の輿♪”と言う文字が書かれていた。

 

「「「「「待ってましたぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」」」」」

 

楯無の言葉により、体育館は爆発したかのように震えた(比喩でも何でもなく本当に震えた)。

 

「彼氏いない歴=年齢に終止符を打つ時が来たわっ!!!!!」

「世間のことを色々と教えてあげる~♪」

「「「ジノさま~♡」」」

「ハハハ、やっぱり庶民の学校は楽しいな~」

 

暴動でも起きそなぐらいに興奮する女性達を見て、ジノは呑気な感想を

述べる。そんな彼の能天気さに、一夏は苦笑いを浮かべるのであった。

 

「さあ!まだまだ行くわよ!」

 

興奮が収まらない中で、楯無は次の男子を呼ぶ。

教師も大半が生徒と同じノリでカズキも大笑いしているので、千冬も

色々と諦め気味である。

 

「みなさん、こんにちは。枢木スザクです。

 男だからとか、関係なく仲良くしてください」

「「「「「爽やかイケメンきたぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」」

 

多少緊張しているが、爽やかなスザクの笑みはバッチリと

彼女達のハートを射抜いたようである。

 

「織斑君やヴァインベルグ君とは違った天然っぽさがそそられるっ!!!」

「甘~い声を囁いて、私をとろけさせて~♪」

「お姉さんといいことしましょ~」

 

もう、抜け駆けして壇上に突っ込む者が現れるのは時間の問題なぐらいの

騒ぎようである。

 

「そして、次が最後の男子生徒でスザク君の幼馴染で親友の

 ルルーシュ・ランページ君よ!」

「紹介にあずかりました。

 ルルーシュ・ランペルージです。

 どうぞ、よろしく」

「「「「「ここでミステリアス知的イケメンだぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」」」

 

ギルフォードのように礼儀正しく微笑を浮かべながらルルーシュが

挨拶すると、彼女達は腕を上げて勝どきの歓声をとどろかせる。

 

「碓氷先生みたいに何か企んでる感じがたまらな~い!」

「あふれ出る危険な匂い……でも、近づかずにはいられない~♪」

「スザク君と幼馴染……すぐにルル×スザの作成に取り掛かるわよ!」

「何言ってんのよ!スザ×ルルでしょ!」

「一×ジノのよ!」

「ええい!今年の冬は大忙しじゃ!!!」

 

冬のお祭りのために筆を走らせる面々を筆頭に、体育館は完全に混沌に

飲み込まれ事態の収拾は出来そうもなく、一夏達も我関せずである。

最早、島全体が揺れていると言っても過言ではないだろう。

 

「やれやれ、聞いていた以上に騒がしい学園のようだな」

「みんな、楽しそうで何よりだわ。

 でも、ルルーシュ君とスザク君を狙う子は多いから、みんな頑張ってね♪

 それと、ルルーシュ君?

 これだけは、最初にはっきりさせておくわ……。

 世界一かわいい妹は、簪ちゃん何だからね!

 そこのところ、間違えないように!!!」

「……ふっ。

 何を言うのかと思ったら……。

 違うな……間違っているぞ楯無!!!

 世界一かわいい妹はナナリーだ!!!」

「寝言は寝て言え、愚か者ども!!!

 世界一かわいい妹は、ユフィ以外ありえん!!!」

「ふははははは!何を言っているのかな、ちみ達は!

 世界で一番かわいい妹は、私のラブリー箒ちゃんに決まってるじゃないか!

 このプリティラビットが断言する!!!

 見よ!あんなたわわなナイスボディで、もじもじするという

 反則級ないじらしさを!!!!!!!!!」

 

壇上で肩をすくめていたルルーシュに、楯無が神妙な顔を浮かべたと思ったら

妹命なシスコンとしての宣戦布告をするのであった。

対するルルーシュは、小ばかにするように楯無を嘲笑ったと思ったら同じく

自分の妹であるナナリーこそ一番だと主張する。

更に黙ってられん!とコーネリアと復活したプリティラビットも参戦する。

プリティラビットは自分の妹が箒だと言っている時点で、仮面をしている意味は

完全に無意味である。(最初から無意味だったとは、言ってはいけない。)

無論、自分が世界で一番可愛いと言われているその妹達は、

慣れているのか苦笑いを浮かべるユーフェミア以外は、

羞恥心で悶死寸前である。

特に、箒は超神速の抜刀術もできそうなぐらいワナワナと震えている。

 

「二学期は、ますます楽しそうなことになりそうだね~。

 千冬ちゃん♪」

「これを見て、そんなことが言えるお前を

 心底殴りたい……」

 

今回、IS学園にやってきた面々と知り合いである一夏達を除いて、

お祭り騒ぎで興奮する教師や生徒を見て、愉快に笑うカズキに

千冬が苦虫を嚙み潰した顔で拳を握りしめるのであった。

これから始まる二学期は、一学期以上に騒動が絶えない日々になるのは

疑いようもなく、それを考えるとルルーシュ達を転入させた張本人である

カズキを一発殴るぐらいは許されて当然だと、戦闘態勢に入ろうとする。

 

「みなさん、お静かに。

 編入生はこれで全員ですが、最後に病気で休学していて二学期より復学

 することになった生徒にあいさつしてもらいます」

「うん?休学?」

 

まだ、あいさつする者がいると虚が告げると、耳に聞こえていない生徒達を

尻目にカズキは疑問符を浮かべる。

 

「はい!

 一学期に入ってすぐに、入院していましたが、やっと治ったんですよ~」

「3年になって突然だったからな。色々とフォローしてやらないとな」

 

うれしそうに休学していた子のことを話す麻耶と共に、千冬も

自分を引き締めるようにその子のことを気に掛ける。

だが、それを聞いたカズキは難しい顔をするのであった。

 

「……ねぇ、二人とも?

 その生徒の名前と顔ってわかる?」

「えっ?」

「何を言っているんだ?

 彼女の名は……ん?」

「あれ?名前と顔が、思い出せ……ない?」

 

カズキの突拍子のない変な質問に答えようとする千冬と麻耶だったが、

答えることはできなかった。

それを見たカズキはすぐさま壇上へ向かって駆け出した。

 

「(IS学園に入る前に創生種が紛れていないか教師や用務員、生徒……

 学園内の人間は全部チェックしているけど、休学している生徒なんていなかった!

 つまり、その休学していた生徒って言うのは自分の正体を隠して入り

 込んできたってこと。

 それも最初からこの学園にいたと、思いこませることができる程の力量の!!!)」

 

侵入者が目と鼻の先にいることも驚きだが、カズキはその手口に戦慄を感じずに

いられなかった。

相手に自分がそこにいることのは当たり前だと、違和感を感じさせないというのは、

戦闘中に相手の注意を逸らしたりするのとは違い、相手の意識に“干渉”する

ということである。

しかも、カズキ自身も休学している子がいると聞く今この時まで、気づけなかったことも

考えるとカズキも干渉されている可能性があるのだ。

 

「(そんなことができるなんて、ただ者じゃない!

 また、何かしら干渉される前に叩く!)」

 

再び自分も違和感を感じなくなる前に、決着をつけるべくカズキはザンリュウジンを

取り出し、壇上へ上がった……。

 

 

 

後に、この全校集会のことを生徒達はこう語った――――。

 

「あ……ありのまま今起こったことを話すわよ!

 私はそれを見た時、自分の目がぶっ壊れたと思ったわ。

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、

 私も頭がどうにかなりそうだった……。

 催眠術とかマジックじゃない、この世の神秘って奴の片鱗を見たわ……」

「UFOやUMAを見た人の気持ちを理解しました」

「これを見たって言っても、実際に見ないと信じてもらえないって、

 断言できる」

「これから先、これ以上の驚きの場面には、遭遇しないんじゃないかな~?」

「人生で一番驚いた光景でした」

 

そして、全員が最後は口を揃えて、この集会を締めくくる――――。

 

 

 

「久しぶりの人も、初めましての人もこんにちは♪

 源恋華(みなもとれんか)です」

 

壇上であいさつをしたのは、昨日一夏が遭遇した謎の先輩であり、

男女問わず見惚れる優雅な微笑みを浮かべていた。

だが、誰もそんな彼女の笑みに目を向けていなかった。

 

カラ――――ンと、棒状の金属が落ちる音が体育館に響き渡る。

 

「…………え?」

 

それは、誰が漏らした声かはわからないが、思わず出てしまったその声が

体育館全体に聞こえるんじゃないかと思えるほど、体育館は静まり返り、

全員の目が例外なく壇上に向けられていた。

その視線の先には…………

ザンリュウジンを取り落としたカズキが、呆然として立ち尽くしていた。

 

「な……な……な……」

 

カズキの目は驚愕で見開かれていた。

顔からは瞬く間に血の気が引いていき、表情を青ざめさせていく。

まるで、絶望的な何かを見たように言葉を失い、一歩、二歩と後ずさっていくと

足をもつれさせて転んでしまう。

逸らしたいのに、逸らせないカズキの視線の先には、源恋華が

優雅な笑みを浮かべていた。

 

 

 

そう。

この集会を皆――――“その時、IS学園が動いた”と言う……。

 

 

オ マ ケ 5 (NGシーン 教員紹介) 

 

「お久しぶりどす!カズキはん!

 心の友と書いて心友(しんゆう)と読む、アラシヤマが

 やってきました!!!」

 

ギルフォードの次にオドオドしながら壇上に上がった、少し暗そうな者は

カズキの姿を見るや否や、ハイテンションで突進する。

 

「……っ!」

「ぼへっ!」

 

が。カズキの無言のカウンター飛び蹴りを喰らい、壇上の脇へと

ぶっ飛ばされれ、カズキ共々姿を消す。

そして……

 

ばぎっ!どごっ!ごがっ!べごっ!ぼん!

 

”ちょっ!カズキはん!そこの関節はそっちには曲がりま……”

 

……グチャ!

……ズルズル……どさっ……。

 

「さっ♪

 次は、お待ちかねの編入生だよ~♪」

 

何か硬いものが折れたり、壊れたりする音に、

まるで肉のような柔らかいものが壁にぶつかった音がカズキが姿を

消した方向から響き渡った。

そして、大きななものが引きずられ、ダストシュートに

捨てられる音がした後、カズキが笑顔で現れ全校集会の進行を促した。

……顔に赤い水を浴び、同じく赤い何かに濡れた手を拭きながら。

 




サブタイに入ったのはIS学園でした。

大量のキャラが学園にやってきましたwww
ミレイとかシャーリーは、この世界の人間の目をごまかすための
カムフラージュな意味合いがあります。
最初は、コーネリアは来る予定はなかったですが、ユーフェミアが
来ることになり、自分も行くと聞かず(笑)

最後のNGシーンは、PAPUWAのアラシヤマでやってみました。
ただのNGシーンなので、今後の登場予定はありませんwww

次は、2019年中に更新予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS学園は更に動く

お待たせしました。
2019年最後の更新、全校集会の後編です。

前回登場した謎の人物の正体が明らかに!



IS学園の体育館は、先ほどまでの島全体を揺らさんばかりの騒々しさが

嘘のように静まり返り、多くの者がお口あんぐりなことになっていた。

今、起こっていることが信じられず目を何度もこすったり、思いっきり

自分や隣の者の頬をギュ~~~~~っとつねる者も多数である。

 

「ルルーシュ。

 僕の目、おかしくなったのかな?

 カズキさんが、怯えて腰を抜かしているように見えるんだけど」

「奇遇だな。

 俺も同じものが見えているぞ。

 ……スザク。一夏の奴は、どんな顔をしているか見えるか?」

「え~っと……ああ、いた。

 他のみんなと同じで、ものすごく驚いているって顔をしているよ」

「まあ、あんな顔になるのもわかるけどな」

「ここから、特定の人物を探せて見ることができる

 お前達も大概だがな」

 

壇上の傍らにいたルルーシュ達も目の前の光景が信じられなかったが、

素早く立ち直り現状を分析しながらも、スザクとジノの規格外っぷりに

呆れる。

 

「……見ろ。一夏の姉である彼女も目をパチパチさせて驚いている。

 俺達の中でも特にカズキとの付き合いが長い二人が、あそこまで

 驚くということは、二人もあんなカズキは見たことがないのだろう。

 ならば、導き出される結論は……あの源恋華という女は、カズキが

 この世界に来る前からの知り合いの可能性が高い」

 

そうやって、ルルーシュが分析している間にも事態は、

また新たに動き出した。

 

「やぁ♪」

「あ、えっ…と……ど、どうも……」

 

誰も考えもしなかった恐れおののいている状態のカズキに、源恋華は

知人のように気さくに挨拶をする。

カズキは未だに、目の前の現実を受け入れられないのか

歯切れの悪い返事を返す。

 

「……………………。

 疑問は山のようにありますが…………何で、ここにいらっしゃるんですか?

 貴姉(きし)?」

 

 

 

 

 

カズキは現在進行形で、大混乱していた。

自分がある人達を探していれば、遅かれ早かれ自分のことはこの人の耳に

入るとは分かっていた。

そうならない為に、細心の注意を払いに払ってきたつもりであったが、

それでも知られてしまったようだ。

いや。

この人なら、自分の情報網をかいくぐって密かに近づくことも朝飯前に

やってのけるだろう。

頭では、分かっているのだ。自分が出し抜かれたことは。

しかし。

そんなことは、関係ないと。

すぐにこの場から逃げろと体が……全ての細胞が意見を揃えて叫んでいる。

カズキの心は、恐怖の色一色に染まっていた。

手は汗でぐっしょりと濡れ、体の震えが止まらない……。

心臓はバクバクと動いて、全身に血液を送り出しているというのに、

背筋は氷点下のように冷たい。

決して忘れることができない……そして思い出したくない記憶が、

嫌でも思い起こされる。

目の前で人なつっこそうな笑みを浮かべる“姉弟子”に、

完膚なきまでに叩きのめされた敗北と言う、苦い記憶が…………。

人生最大の敗北が、自分から全てを奪ったあの男とのなら、ワースト2は

間違いなく頭によぎっているものだろう。

だが、敗北にしろ恩にしろ受けた借りは必ず返すカズキであるが、

この人物にはリターンマッチを挑もうとは露ほども思えなかった。

絶対に勝てないと言えるほどの実力差があるとは思っていない。

向こうも腕を上げているだろうが、自分だって昔にはない力がある。

叩きのめされた子供の時とは違うと断言できるが、それでも――――

芸術的なまでに洗練された超絶技巧で身体を破壊され刻みつけられた、

理解すら及ばない力に対する絶対的な恐怖。

必要だったことは分かる。

増長し、慢心していた当時の自分に身の程と世の広さを思い知らせるために、

あの敗北は必要だったと。

力に酔い、天狗になっているガキに極めて有効な手段だったと

自分でも言える。

納得もしている。

だから、カズキはそれをやらせた自分の師に常々思うのだ…………

 

 

 

“いくらなんでも、あれはやりすぎだったんじゃないんでしょうか、師父”と。

 

 

 

「ふふふ♪

 そんなに震えちゃうぐらい、私とまた会えたのがうれしいのかな~?」

「ははは……」

「あの~……お二人は知り合い……何ですか?」

 

まるで、鈴がIS学園で初めてカズキと会った時のようなやり取りをするカズキと

恋華に、虚がおそるおそる尋ねる。

全校生徒と教師陣は、ゴクリと息を飲みながら見ているのがわかっているのか、

恋華はわざとらしく指をあごに当てて考える仕草をする。

 

「知り合いって言えば確かに知り合いって言えるかな~?

 ねぇ?

 色々と知ってるもんね~。

 あ~んなことも、こ~んなことも♪

 熱~い夜に……ね♡」

「「「「「「「「「「えええぇぇぇぇっっっっっ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

意味深な笑みを浮かべて恋華が口にしたことに、カズキを除くその場にいた全員が

驚愕の声を上げて、体育館を揺らした。

 

「えっ!じゃあ、ひょっとして碓氷先生の元カノ!?」

「ちょっと待って!

 碓氷先生がいくつの時の話なの!」

「うおっ!千冬姉が見たことない顔に!?」

 

一瞬で、体育館は先ほどと同じ……否。

それ以上の騒ぎに包まれて、大混乱となる。その中で一夏は、千冬が

大変な顔になっているのを見て、驚きの声を上げる。

 

「この人は……」

 

大騒ぎの中で、カズキは昔と変わらない姉弟子に頬を引くつかせる。

確かに嘘は言ってはないが、真実を言っているわけでもない。

わざと誤解されるように誘導しているのに、恋華は少しも悪びれた様子は

ない。

そして、それはいつもカズキお得意の十八番でもある。

 

「とう!プリティラビット、再び参上!

 ふふふ。

 そこの変態宇宙人と知り合いってことは~?

 人に知られた恥ずかPi!!!なことも知ってるのかな~?」

「モチのロンよ♪」

「厄介なことにね……」

 

復活したプリティラビットは、頭のウサミミをピコピコ動かして、

恋華に接近する。

仮面の下に隠れている顔は、悪~い笑みになっていることだろう。

 

「それじゃあ、余すことなく全~~~部教えてくれるかな?

 答えは聞かないけど♪」

「この子、おもしろそうね~。

 自尊心が高くて、自分が特別って思っているとこが……ふふふ♪

 ねぇ?もらってもいい?」

「どうぞどうぞ。お好きなように」

「ちょっと、何を言って……」

 

にっくきあんちくしょうをギャフンと言わせる日がとうとう来たとばかりに、

プリティラビットはハイなテンションでカズキの弱みを握ろうと恋華に

グイグイ迫るが、詰め寄られる恋華は微塵も自分の優位を疑っていなかった。

そして、新しいおもちゃで遊んでいいかと聞くかのようにカズキに

確認を取るとカズキは少しもためらわず、束を恋華に押し付ける。

自分を無視して話を進めるカズキと恋華に、束が口を挟もうとすると恋華の手が

束の腰へと回され引き寄せられた。

 

「ほへ?」

「それじゃ、いっただきま~す♪」

 

もう片方の手で、引き寄せたプリティラビットの仮面をちょうど二人の顔が

隠れるように外すとちゅっと柔らかいもの同士がくっついたような音が響き渡る。

 

「んんっ!?

 んっ!…っ!んぶ……」

 

プリティラビットが驚きの声をもらし、必死に恋華の手を振りほどこうと

抵抗するが、その様はどこか弱弱しかった。

仮面に隠れて何をされているのかは、いや。

隠れて見えないからこそ、余計に想像が働いてしまい誰もが今起きていることに

思考が停止していた。

くぐもったプリティラビットの声に交じって聞こえる水気をはらんだ音が、

想像に拍車をかけていた。

ただ一人、カズキだけがヤレヤレと言った感じで苦笑い浮かべて肩をすくめた。

 

「~~~っ……ぷはっ!

 ごちそうさま♡」

「はぁ………はぁ……こ、こんにゃにょ……はじ……め、れて……」

 

恋華から解放されたプリティラビットは、その場で崩れ落ち激しく息を

整えるがろれつが回っていなかった。

振りほどこうと思った瞬間、今まで感じたことのない快感が稲妻の如く

口から駆け抜け、体から力を奪っていき、なすがままにされてしまったのだ。

仮面に隠れているが、全員その下の表情は“見せられないよ!”なものに

なっているのを幻視した。

 

「あはは……この人は、男も女も両方いける口だから、気を付けた方が

 いいよ?」

「愛の形は千差万別で、私のはこういう形なだけよ。

 それにしても……成長中の青い果実もいいけど、成長した大人の体というのも

 色んな所がまだまだ柔らかそうで、なかなか♪」

 

呆れ半分で注意を促すカズキだったが、恋華はどこ吹く風であり、

教師陣に目をやりジュルリと舌なめずりをして、彼女達に戦慄を走らせた。

 

「あっ、忘れてた。

 雪にも君のことを伝えておいたから」

「雪って……雪姉さんに!?」

 

唐突に手をポンと叩いてわざとらしく、今思い出したかのように恋華が

伝えたことは、カズキを再び驚愕させた。

それを見払ったかのようにカズキの携帯が震える。

素早く携帯を取り出して、画面を見た瞬間カズキは顔を引きつらせる。

画面には未読メールの知らせが表示されており、その数は37件と

なっていた。

開くべきか放置するか数瞬、考えている間にもどんどんメールが

カズキの携帯に届いていく。

 

「どうしたの?メール、読まないの?」

 

首を傾げて尋ねて来る恋華に、カズキは訝しむ。

この姉弟子がよからぬことを企んでいるのは明白であるが、回避しようにも

判断材料が皆無のため、メールを読まない選択はカズキにはなかった。

 

「うっ……」

 

メールを開いたと同時に、とてつもなく面倒なことになっているとカズキは

理解してしまった。

メールの内容は、相手が照れているのか短いものであったが……。

最初は恋華に自分のことを聞いて、会えるのが楽しみとか近況を尋ねるようなもの

だったが途中から、

 

“ねぇ、恋ちゃんから聞いたけど一つ屋根の下で

女の人と住んでるって聞いたけど、嘘だよね?”

“か、家族ぐるみの付き合いをしているってどういうこと!?”

“ケガをした時にあ~んしてもらったって!?”

“すぐに行くから待ってて!!!”

 

等々、恋華が色々と雪という人物に吹き込んだことが簡単に想像できる内容であった。

誤解しやすいように。

 

「カズちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!」

 

体育館の外から女性の叫び声が聞こえ、全員の目が出口に視線を向けると、

その目の前で出口が“斬り裂かれた”。

 

「「「「「「「「「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!?」」」」」」」」」」

 

何度目になるかわからない驚きの声が、体育館に響き渡る中で姿を現したのは、

黒髪ロングの大和撫子を彷彿とさせる女性であった。

巫女装束に身を包み、手には日本刀、頭には“カズちゃん命!”と書かれた

ハチマキを巻いている。

 

「……いたぁぁぁっ!!!

 お前が、織斑千冬かぁっっっ!!!!!!」

「貴姉……?雪姉さんに何を吹き込んだんですか?」

 

体育館に突撃してきた女性は、千冬の姿を見るや否や親の仇を見るような目で、

日本刀を向ける。

カズキは、知り合いなのかその女性……雪がこんなことをする原因を作ったであろう

恋華に何を言ったのかを聞く。

 

「何って、君と織斑千冬とのことをありのまま~~余すことなく♪」

「どうして知っているのかって聞くのは、聞くだけ無駄ですね」

 

追及したところで現状を好転できるわけではないので、

諦めの表情で早々にカズキは恋華への追及を断念する。

今、優先すべきは頭に血が上って完全に暴走している人物を

何とか止めなければならないからだ。

 

「カズちゃんは、何も悪くいない!

 カズちゃんは騙されているだけだもん!

 この泥棒猫っ!よくも私のカズちゃんを誑かして汚したなっ!!!

 天誅ぅぅぅっ!!!!!!!!!」

「落ち着いてください、雪姉さん!」

 

大変な顔になってピクリとも動かない千冬に向かって、斬りかかろうとする

雪をカズキはザンリュウジンを拾って止めに入る。

 

『だぁぁぁっ!俺を修羅場に巻き込むんじゃねぇ!!!?』

「どいて、カズちゃん!

 その泥棒猫を斬れない!」

「どけるわけないでしょう!」

 

涙を流しながら悲鳴を上げるザンリュウジンを無視して、カズキは

雪の攻撃をさばいていく。

その激しい攻防に、カズキはあの斧をどこから出したのかとか、

斧がしゃべらなかった?とか、空中を飛んでいないとか誰も声を出せなかった。

 

「どうなってんだこれ?

 あのカズキさんが、いつも俺達でからかって遊ぶみたいに、

 恋華って人に遊ばれてるぜ?」

 

信じられないといった声を出して、一夏は見たことのないカズキに

唖然となる。

壇上の恋華は、そのカズキがいつもしている笑顔で心底楽しそうに

笑っており、ますます一夏達を困惑させた。

 

『(私にも何が何だか……)』

「と言うか……カズキさん、押されてね?」

 

何が起きているのか現実に戻ろうとする一夏は、再び信じられない光景に

目を疑う。

自分より強い相手と相対しても、常に余裕な態度を崩さないカズキが必死の

形相で雪の剣をさばき、その上徐々にさばききれなくなっているのだ。

 

「……っ!だ、大体よく考えてください!

 貴姉が俺について変なことを言うのは、俺達をからかう時じゃないですか!

 一つ屋根の下って言うのだって、ここの教員寮にいるんだから言い方の一つ

 として言えるでしょ……っ!」

「えっ?……なぁ~んだ、そうだったんだ~」

 

刀とザンリュウジンが鍔迫り合いになった瞬間、カズキは畳みかけるように

矢継ぎ早に誤解を解こうとする。

それを聞いて、雪は少し考えて安堵の表情を浮かべ落ち着きを取り戻す。

 

「じゃあ、じゃあ、恋ちゃんが言ってたあれもそういう誤解なんだね?」

「あれ?」

「カズちゃんが昔、織斑千冬の放課後の時間を買ってたとか、

 メイドさんの格好で色んな遊びをしたとか……」

「それは、事実ですね」

「ちょっとっ!!!!!

 何で、そこは誤魔化さないの!?

 本当のことだけども!」

「いや、だってこれは誤解じゃなくてホントのことだし」

 

折角、暴走列車みたいな人が落ち着いたというのに、消えかけた火種に

ガソリンどころかニトロをぶっかけるカズキに一夏が声を荒げる。

他の者達が驚きの声を上げる暇もない電光石火の速さである。

一夏のツッコミを受けたカズキは、恥じるところは何もないと言わんばかりに

堂々としているが、今回は悪手だった。

雪は浮かべていた安堵の表情のまま、固まっており、

恋華は腹を抱えて笑い転げていた。

 

「…………アハ……アハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

顔を俯かせた雪は、虚ろな笑い声を上げるとどこに隠し持っていたのか、

大量の暗器をそでから取り出す。

 

「あっ、ヤバイ。完全にR指定だこりゃ」

 

自分の手にも負えない事態にしておきながら、カズキは他人事のように

現実逃避し始める。

 

「ふん!」

「はう!」

 

そんな千冬でもカズキでもどうにもできそうにない

IS学園史上、最大のカオスは起きるのも突然だったが終わるのも突然だった。

雪は、背後からチョップを頭に叩き込まれ、気絶させられた。

小柄で小生意気そうな10歳ぐらいの少年によって。

 

「よう。久しぶりだな、カズキ」

「師兄!

 何で、あなたまで!?」

 

どこからともなく現れた少年は、気軽にカズキに挨拶すると

カズキは驚きの声を上げる。

その声には、目上の者を敬うような敬意も込められていた。

 

「何でも何も、お前が俺達のことを探してたんだろ?

 で、突っ走るこいつを追いかけてきたんだ。

 聞きたいこともあるだろうが、後でな」

「……ありがとうございます、師兄。

 あなたが来てくれなかったら……どうなっていたか……っ!」

 

まるで、弟を諭すように話す少年にカズキは口元を押さえ、涙ぐみながら

感謝を告げる。

 

「……ふっ。

 色々と噂は耳にしてたが、存外元気にやってるみたいだな。

 最後に見た時には考えられないぐらい、いい顔してるぜ」

 

昔のカズキを知っているのか、少年はその変化に微笑を浮かべて

満足すると雪の首根っこを掴んでそのまま立ち去ろうとする。

 

「ああ、師兄。あれも……何とかなりません?」

「……無理だ、頑張れ」

 

去り行く少年に、カズキは言外に恋華も連れてってくれと頼むが、

どうにもならないと断られ肩を落とす。

 

「……はぁ~~~~~。

 どっと疲れた…………この後、どうしよう」

 

嵐が過ぎ去ったとばかりに少年が立ち去った後、

カズキは重い……重~~~いため息を吐くと、周りを見やる。

壇上で、笑いすぎて出てきた涙をぬぐう恋華。

理解が追い付かず、困惑する教師陣と生徒達。

大変な顔になったまま、ピクリとも動かない千冬。

放置されたまま、ビックンビックンしているプリティラビット。

流石にどうしたものかと、カズキは途方にくれるのであった。

 

 

 





新キャラの正体は、カズキの姉弟子でした。
しかし、やってきたのは一人ではなく(笑)

弟子の順としては、
師兄と呼ばれた少年>源恋華>雪>カズキとなっており、カズキは
末っ子の位置です。

師兄と雪姉さんと呼ばれたキャラの名前などについては、また次回。

イメージとしては、
師兄は、BLEACHの日番谷 冬獅郎。
雪姉さんは、緋弾のアリアの星伽 白雪を二十歳ぐらいにした感じです。
お判りでしょうが、雪姉さんは少々(?)危ない人です(汗)

源恋華は、Strawberry Panicの源 千華留です。

それでは、良いお年を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学園祭に向けて


2020年最初の更新です。
4か月もかかってしまった(汗)

世界レベルでコロナウイルスの影響がありますが、
まさか映画のようなことが実際に起きるとは思いもしませんでした。

幸い、私の周りや家族に感染した人はいませんが、
みなさんも十分気を付けてください。


「“一時の夢をあなたに ~織斑一夏のホストクラブ~”、

 “嵐を呼ぶ ~織斑一夏とツイスターゲーム~”、

 “ドキドキ♪ ~織斑一夏とポッキー遊び~”、

 “命令する?されちゃう? ~織斑一夏と王様ゲーム~”

 …………全部、却下」

「「「「「えええええ――!!!」」」」」

 

放課後、一年一組の教室で急遽特別HRが行われていた。

だが、上がった案をまとめた瞬間、一夏は即ダメ出しをしたので

教室にブーイングが響き渡る。

 

「あのな~。こんなのでお客が集まるわけないだろ?

 そもそも、やってきたお客を俺一人で全員対応しろってか?」

「いい~や~!学園で一番の目玉になるね!

 断言する!」

「織斑一夏は一年一組の共有財産である!」

「そうだそうだ!

 どうせ、明ちゃんとはそれ以上のイチャイチャを毎日やってんだろ!」

「二人っきりで、砂糖よりも甘~~~~~いスイート空間を作ってんだろ!」

「私達だって、味わいたいんじゃ!!!」

「目指せ、ハーレム王!!!」

「何だよハーレム王って……」

 

やいのやいのと騒ぐクラスメートに、机に思いっきり頭をぶつけている明を

尻目に、一夏はどうしてこうなったのかと頭を抱えるのであった。

 

現在、彼らは今月行われる一大イベント、学園祭の出し物を決めているのだ。

だが彼女達の熱の入りようから、ただの学園祭でないのは明白である。

その原因はこれが……『各部対抗男子争奪戦!』だからである。

元々学園祭は、各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行い、

上位組は部費に特別助成金が出るものなのだ。

しかし、今年はせっかく一夏をはじめとした男子(イケメン)がそろい踏み

なのだから、これを上手くつかっておもしろくしない手はないとばかりに

一位の部活動に一夏達を強制入部させると、IS学園史上最もカオスとなった

全校集会で楯無が宣言したのだ。

……最も、カズキと兄弟子達のインパクトが強烈すぎて、宣言時には

覇気も勢いもなく、生徒達も楯無の言葉を理解するのに数分以上かかった。

 

閑話休題。

 

そんなわけでの、特別HRなのだが各々の欲望が全開だったり、この様を

楽しんで笑ったりと、なかなか決まらない。

 

「砂糖よりも甘いスイート空間って、どんな味?」

「きっと、ほっぺが落ちてしまうぐらい、おいしいお菓子なんですよ」

 

混沌な空間の中、微妙にわかっていないアーニャとナナリーは

まだ見ぬお菓子を想像して目を輝かせる。

編入してきたルルーシュ達は、元々高校3年生であるミレイを除いて、

残りのメンバーは2年生のクラスに入る形になっている。

誰がどの組になるかは、あらかじめカズキが、

くじで決めたとかないとか。

無論、どのクラスでも出し物を決めるために同じく特別HRが行われているが、

女子達が大興奮していて、一年一組以上に混沌としているのは、言うまでもない。

 

そして、飛び級のアーニャとナナリーは、一夏がいるこのクラスに

入ることになった。

 

「山田先生もダメですよね?こういうおかしな企画は」

「えっ!?わ、私に振るんですか!?」

『(おいこら、副担任)』

「そ、そうですね……わ、私はポッキーゲームなんか……」

「先生もですか」

「ほほぉ~?山田先生は、そういうのが好みなんかぁ~」

 

助言をと、話を振る一夏だったが山田先生もクラスのみんなと大差ないと

肩を落とす。

若干、頬を染める山田先生を見てはやては、怪しく微笑むのであった。

 

「仮にこの中から決めたとして……千冬姉……織斑先生が納得すると思うか?」

 

目を細めて一夏が言葉を発した瞬間、騒がしかった教室は一瞬にして凍り付いた。

 

「報告する俺もだけど、そんな案を出したみんなもどうなるかな……」

 

どこか遠くを見るような目をする一夏を見て、クラスメート達は

ダラダラと冷や汗を流す。

何故、こんな反応をするのか……

それは、今の千冬は何をするかわからないからだ……っ!

 

 

 

全校集会でカズキの兄弟子が、雪を回収した後、カズキ自身も恋華を連れて姿を

消したのだ。

大変な顔になっている千冬を残して……。

呆然としていた者達も我に帰ると、“あれ?ちょっとヤバくね?”と理解した。

千冬が、明に嫉妬する箒達のように怒り狂ったら……ということはなかった。

 

同じく、我に返った千冬は……いつもと変わらない調子だった。

そう……“普段と変わらない様子”なのだ。

不機嫌になるわけでも、内心怒っているけど笑っているというわけでもなく、

いつも通りに過ごして、いつも通りの授業をしたのだ。

それが、一夏達にはとても恐ろしかった。

 

怒り心頭というのを感じれば、余計なことを

口にしたりしないように等、怒りに触れないよう気を付けることができるが、

今の千冬はどういう状態なのか全くわからないのだ。

恋華とカズキがどういう関係なのか気にしていないのか、それとも

顔や空気に出していないだけで、内心は……。

といった感じで、一夏達は何がきっかけで爆発するのか、それともしないのか

わからない重た~~~い時間を過ごしたのだ。

授業中も空気が粘土みたいになった中、ノートを取ったり、教科書をめくる音が

やけに響いたり、消しゴムを落とす音がとてつもなく大きく聞こえた。

聞くところによると、校舎もまるで上から押し付けられているかのように

ミシミシと音を立てたとか。

 

「わかったら、他に普通な案を……」

「では、メイド喫茶なんかどうだ?お兄ちゃん」

 

教室の全員が発言者に目をやる。

一夏をお兄ちゃんと呼ぶ者のなど、IS学園には一人しかいない。

 

「古今東西、メイドが嫌いな人間などいないと言うし、客受けの

 心配はないはずだ。

 それに飲食物だけでなく、ミニゲームも行い勝てば、何か簡単なサービスも

 行うなどすれば、被っていても他との差別化も図れる」

 

ラウラは淡々とした口調で自分の案を述べると、一人納得してうむと

最後に付け加える。

無論、メイド云々の話はドイツにいる副官経由のものである

 

「それ、ええで!ラウラちゃん!

 ミニゲームのサービスを執事服の一夏君にやってもらえれば、

 大繁盛や!!!」

 

グッドアイデアとばかりに、はやては目を輝かせて席から立ち上がる。

 

「なのはちゃんはあの翠屋の娘やから、お菓子作りもお手の物やし、

 すずかちゃんやアリサちゃん、セシリアちゃんはほんまもんのお嬢様で、

 メイドさんの指導もバッチしや!

 箒ちゃんや明ちゃんは、和風メイドが似合いそうやけど、

 フェイトちゃんと一緒にエロメイドでもええなぁ~♪」

「おい、はやて!」

「エロメイドって何ですか!?」

「エロメイド……そ、そんな恥ずかしい格好なんて……」

 

水を得た魚のように次々とラウラの案に追加していくはやてだったが、

最後は自分の欲望駄々洩れで、箒と明が顔を赤くして抗議の声を上げる。

二人とは違う意味で顔を赤くして、荒く呼吸を乱すフェイトを

気に留めることなく。

 

「織斑くんの執事……そうだ!

 だったら、原田さんも男装執事をしてもらおうよ!

 いっその事、メイド喫茶じゃなくて男装執事喫茶とか!」

「それ、おもしろそう!」

「逆に織斑くんが、女装してメイドなんてのもアリじゃ……」

「お帰りなさい、お嬢様♪」

「「「きゃぁぁぁっ!!!」」」

「みんな、ちょっと落ち着け……っ!」

『(ダメだ。誰も聞いちゃいない)』

 

一度走り出すと、ブレーキ―も壊れてしまうのか、なだめようとする一夏の声は

興奮するクラスメート達の耳には届かなかった。

何とか意見は取りまとめられ、メイド服はラウラがあてがあると言うので

一任される運びとなった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねぇ、ちょっと……。あれ、何とかしてよ」

「むむむむむ無理無理無理……!!!」

 

一夏達が教室で話し合いをしてる頃、職員室は重苦し~~~~~い空気に

潰されそうになり、部屋全体から悲鳴が聞こえそうであった。

 

「…………」

 

この重い空気の発生源である千冬は、黙々と“いつも通り”に

仕事をしていた。

カズキの姿は、職員室にはない。

爆発の矛先が向かう者がいないので、職員室は爆発するかどうかわからない爆弾が

ある状態なのである。

 

「対処を間違えたら……」

 

一人の教師が尻すぼみに言いながら、天井からぶら下がっている“者”に

目をやる。

今朝見たことあるワンピースを着た者は、頭が完全に天井に突き刺さっており、

ピクリとも動かなかった。所謂、マ〇る状態という奴である。

 

「全然、見えなかったわよね。

 篠ノじゃなくて、プリティラビットが織斑先生をからかおうとした

 瞬間、天井に!だったもんね……」

 

訂正。爆発するかどうかわからない爆弾がある状態ではなく、

“どれぐらいの規模の爆発をするかわからない”爆弾がある状態であった。

彼女達が言うように、職員室にやってきたプリティラビットは、

喜々とした声で変態宇宙人ことカズキのことを話そうとしたら、

天井へと発射されたのだ。

 

「ああ~もう~!

 元凶の碓氷先生は、どこに行ったのよ」

「今の千冬をどうにかできるとしたら、彼だけなのに……」

「そんなこと言ってないで何とかしてよ、メイザース先生。

 世界最強のライバルでしょ!」

「無茶言わないでください、燎子!

 あんな見たことない千冬の相手なんて、専用機があっても嫌です!」

『みなさん。お茶でも、飲んで落ち着きましょう』

 

爆弾の解体をギャーギャーと押し付け合うエレンと燎子は、

機械音声と共に差し出されたお茶を取り、一息つくと改めてどうしたものかと

他の教師達と共に考える。

背後にお茶を運んできてくれた“人型の何か”を立たせて。

 

「「「「「…………ん???」」」」」

『おかわりをお持ちしますか?』

 

彼女達が振り返ると、そこにいたのは一体のロボットだった。

近年、受付案内やおもちゃとしてもロボットはテレビやマンガの中だけの

存在ではなく身近なものとなってきたが、彼女達が目にしている人間大サイズとなると

話は別である。

しかも、彼?はお盆を手に22世紀の子守ロボットのように自分の意志で

喋っているようなのだ。

 

「「「「「…………」」」」」

「はっはっはっ!!!

 驚いたかね、諸君!!!

 これぞ、私達スペシャルブレインスリーが作り上げた

 人工知能搭載万能ロボット“ナイトメア”だ!」

 

未来へとタイムスリップしてしまったかのような光景に、エレン達が

思考を停止しているのを気に留めず、これまたどこからともなく姿を見せたドクターJが

ナイトメアのことを自信満々に語り出す。

 

「内部フレームとか機体構造は、僕が~♪」

「動力関係はプリティラビット君が担当し、思考ルーチン等のプログラミングは

 このドクターJが担当!

 お茶くみ、書類整理にお掃除等々雑用から、模擬戦相手や護衛まで

 何でもござれ!

 優秀な事務員として、このナイトメア“サザーランド”を

 存分に使ってくれたまえ!!!」

『サザーランド1号機です』

『同じく2号機です』

『3号機です』

 

神出鬼没で現れ、マイペースなハイテンションでサザーランドの説明をする

プリン眼鏡とドクターJに唖然としている彼女達をよそに、3体のサザーランドが

挨拶をする。

そんな、何とも言えない空気の中でも千冬は黙々と仕事をするのであった。

 

「失礼しまーす……失礼しました」

 

職員室の扉を開け、一組の出し物の報告にやってきた一夏だったが職員室に

一歩入った瞬間に回れ右で退出しようとする。

誰がどう見ても、今の職員室にいたら面倒なことになるビジョンしか見えないからだ。

 

「「「待てぇぇぇぇぇっっっ!!!」」」

「よく来てくれたわ、救世主!」

「今、この空気を……織斑先生を何とかできるのは碓氷先生以外に君しかいない!」

「もうこんな空気耐えられないっ!」

 

職員室から去ろうとする一夏を教師陣は、必死に体にしがみつき

何とかしてくれと懇願する。

逃げようと思えば逃げられなくもないが、大の大人が年下の生徒に

懇願してくることに根負けしたのか一夏は重いため息をついて、千冬の元へ

向かった。

 

「で?何をするのか決まったのか?」

「は、はい。メイド喫茶をやることになりました……」

 

一夏は、天井に頭が突き刺さった状態のプリティラビットを気にしないようにして、

千冬に話し合いの結果を報告するが、内容にピクリと反応をする千冬を見て

ゴクリと生唾を飲み込む。

 

「……まあ、特に変なことはしないみたいだし、問題ないだろ……ん?

 メイド服の担当がボーデヴィッヒ?」

 

メイド関係のイベント事は数え切れないほど経験し、更に自分のクラスには

悪ノリする者達もいるが、これといった問題もないので千冬も承認しようとすると

各担当の中にに予想外の名前があって首を傾げる。

 

「この案の発案者だし、当てもあるから任せてくれと……」

「その当てと言うのは、さつきさんか?」

 

ラウラの言う当てを顔見知りと言い当てられた一夏は、冷や汗を流す。

別に隠しているわけでもないが、誰でも昔のことを知られるのは恥ずかしい。

気分は判決を言い渡される囚人と言っても過言ではない。

 

「……わかった。

 これが必要な機材や食材の申請書だ。期限は一週間だが、早めに出すように」

「分かりました」

 

特に何が起きると言うわけでもなく、一夏もそれを見守っていた教師達も

安堵の息をもらす。

しかし、本番はここからだとこのままカズキについて何も言わず帰るべきか、

フォローすべきかと一夏が考えていると……。

 

『よろしいですか、お二方』

「うおっ!何だぁ!?」

 

視界に入っていても気がついていなかったのか、サザーランドに話しかけられた

一夏は驚きの声を上げる。

 

『初めまして、織斑一夏。

 私は、人工知能搭載万能ロボット“ナイトメア”のサザーランド1号機です』

「は、初めまして」

『碓氷カズキから伝言です。

 学園祭の出し物の報告が終わったら、生徒会室に集合してほしいとのことです』

 

カズキからの言伝と聞いて、一夏は千冬の纏う空気が重くなったと感じる。

その傍では、ドクターJとプリン眼鏡が頼まれてたね~と言っているのを

耳にしながら。

 

『織斑一夏、そして皆さん。

 困っているのに何もできず、すいません。

 人間心理、“ヤキモチ”への対処はデータが不足しており、適切な

 フォローができませんでした』

『「「「「「(おいいいぃぃぃっっっ!!!!!)」」」」」』

 

ガソリンの傍で花火をするかの如く、危険な発言をする1号に

一夏やゲキリュウケン、教師達は心の中で絶叫する。

 

「…………」

『男女における恋愛関連の“ヤキモチ”は、数ある人間心理

 の中でも特に慎重さを要するとあります』

『加えて、織斑千冬は自分の心の内をさらすのが人一倍恥ずかしく、

 言葉と心中が真逆になると言う“ツンデレ”という人格タイプと

 データにあります。

 自分の気持ちを素直に口にする必要があると考えます』

 

1号に続いて、2号と3号もそれぞれアドバイスを口にするが、

一夏達は心の中で頬を両手で挟み、ムンクの叫び状態で悲鳴を上げる。

顔を俯かせている千冬を中心に、職員室の空気は最早、極寒がマシな温度である。

 

「ああ、サザーランド達にはこの学園の人間の基本情報が入力されてるよ」

「確かプリティラビット君がやってたよね~?

 織斑千冬くんのデータは、特に力を入れてたね~」

『はい。他の方よりも織斑千冬のデータは、多く入っています』

『特に、弟の織斑一夏が大好きでたまらないブラコンと言うデータが

 重要項目とあります』

 

職員室の空気の冷たさに気がついていないのか、ドクターJとプリン眼鏡の二人は

呑気にしている。加えて、1号と2号が自分達のデータに補足を付け足す。

その言葉を聞いた千冬はぐるりと天井に突き刺したプリティラビット

を見やるとそこに彼女の姿はなく、扉の陰にチラリとプリティラビットの服が見えた。

 

「ふっ……」

 

千冬は穏やかに微笑むと――――。

 

 

 

「ん?」

「どうした、カズキ?」

「いや、なんかどっかのバカがバカなことをしたのがバレて、

 しばかれたような悲鳴が聞こえたような……?」

 

学園のどこかで、師兄と話していたカズキは首を傾げる。

同時刻、多くのものが声にならない悲鳴を耳にしたと言う…………。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うん。全員集まってくれたね」

 

生徒会室には、一夏をはじめなのは達も含めた関係者が全員そろっていて、

人数が人数なため、少し窮屈であった。

しかし、千冬の放つ空気に圧されて文句を口にする者はいなかった。

余談だが、千冬の傍に放置されたウサミミのようなものを生やした

形容しがたい“モノ”を気にする者はいなかった。

 

「本当なら、これからの戦いについて話すはずだったんだけど、

 大分予定が変わっちゃったからね、この人の所為で……」

「ええ~?

 折角、かわいいかわいい弟弟子が私達を探していたから、

 やってきたのに、それはないんじゃなぁ~い?

 プンプン!」

「探していたのは、師兄だけなんですけどね……」

 

今朝の全校集会から半日ほどしか経っていないと言うのに、

カズキは疲れ切った様子でため息をつく。

そんなカズキに恋華は、抗議の声を上げるがかなりワザとらしく

ちょっとウザい感じであり、隣にいるカズキが師兄と呼ぶ少年も

同じようにため息をつく。

 

「取り合えず、この人達のことを紹介しようか。

 この人達は簡単に言うと同じ師父の元修業していた、兄弟子と姉弟子でね。

 まず、この人は日谷透也(ひたにとうや)

 見た目は俺達の中で一番下に見えるけど、一番の古株で実力者だ。

 少なくとも俺は勝ったことがないね。

 後、どこかの錬金術師みたいに背が小さいとか言われて、

 怒ることはないけど気にしているから、注意してね。

 そして、基本お人好しで世話焼きの苦労人」

「……日谷透也だ。

 まあ、よろしく頼む……」

 

カズキの紹介に眉をひそめる透也だったが、ぶっきらぼう気味に

挨拶をする。

 

「次に、この巫女装束の人が煌星雪(きらぼしゆき)

 俺のことを弟のように接してくれた人だ。

 刀を使わせたら右に出る者はいない」

「初めまして。煌星雪です。

 “私”のカズちゃんがお世話になってます♪」

 

強調してカズキのことを私のと雪が言うと、千冬から放たれる空気は

数倍に重く感じられ、一夏達は息をのむ。

 

「ああ、雪姉さん?

 俺の部屋にあった忘れものですよ」

 

そう言ってカズキが、雪の前に出したのは大量のカメラや盗聴器であった。

 

「え?あっ?あ、あの~……こ、これはね?カズちゃん?」

「後、何に使うかわかりませんが男物のシャツが欲しいなら、はい。

 まだ開けてない新品ですよ?

 部屋から持っていったこれは返してくださいね」

「ああ~!そんなぁ~!!!」

 

にっこりと笑いながら語りかけるカズキに、雪はイタズラがバレた子供のように

目をあっちこっちに泳がせてアタフタする。

 

「あの~?

 あれって、ひょっとして……」

「いつものことだ」

 

一夏がおずおずと透也に尋ねると、何が聞きたいのか分かっているのか、

透也は身内の恥を晒すように苦虫を嚙み潰した顔で額を指で押さえる。

 

「……最後が、いつの間にかIS学園を休学していたって言う……」

「源恋華だよ♪

 みんなよろしくね~」

「見た目は人懐っこくて明るそうに見えるけど、人の他人に知られたくない

 恥ずかしい黒歴史をばらしてイジメたりからかったりするのが趣味」

「うん?」

「他人を自分の手のひらの上で転がすのが何より好きで、基本めんどくさがりなのに

 そのためなら手間暇を惜しまない。

 その労力を他のことに注げばいいのに……」

「ねぇ?」

「下は小学生から男女関係なく守備範囲は広く、気に入った相手は

 連れ込んでたっぷりと楽しむ変態で、金遣いも荒い。

 俺の修業時代のアレやコレも

 知っているからたちが悪いことこの上ない」

「な~にを言っているのかな~?き・み・は?」

 

たっぷりとトゲのある説明に、恋華はカズキに笑みを向ける。

一夏達は、二人の間の空気に恐怖を感じ

そろりそろりといつでも逃げれように移動していく。

 

「何って、貴姉のことをありのまま……」

「どうやら、ここのかわいい子達と友達になる前に

 話し合う必要があるようね?」

「確か貴姉の言う友達って、自我を奪って自分の思い通りに動く

 人形のことでしたっけ?」

「ただの話し合いじゃなくて、腹を割って話さなきゃいけないみたいね……」

「すいません。

 貴姉の言葉って、なんか訛りがすごくてよく聞き取れないんですよね~?」

「ふふふ♪」

「あはは♪」

「「……ふはははははは!!!!!!!!」」

 

二人は互いに見惚れるような笑顔で笑っているのに、その空気が

とてつもなく冷たくて重い。

一夏達は、あまりの怖さにガタガタと震えるのであった。

 

 

 

 

 

オ マ ケ 6

 

「……何か喋りなさいよ?」

 

その日、燎子はサザーランド1号機と共に夜の見回りをしていたが、

無言で自分の後ろを付いてくる1号に耐えかねて、何か話すように促す。

 

『…………映りますよ?』

 

1号は、頭部を展開して情報収集用カメラ“ファクトスフィア”を作動させる。

 

「…………」

『…………』

 

暗がりの中、前を向く燎子とその背後にいる1号の間で、

カメラの作動音だけが静かに響き渡る。

 

「…………っ!」

『…………っ』

 

――燎子は、駆け出した!全力で!

――1号は、それを追いかける!

 

『後ろを振り向かないんですか?

 何が映ると思っているんですか?』

 

振り向いたら負けな鬼ごっこは、始まったばかりである――。

 




サザーランド達は、アニメの見た目そのままでサイズが人間サイズに
なっています。
最後のオマケは、ボンボンのSDガンダムフルカラー劇場から(笑)
ロボットを出すならやろうと決めていましたwww

緊急事態宣言で自由な身動きが取れなくなりましたが、
頑張っていきましょう!

感想・評価、お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

似た者同士と昔話


GWを利用して3作品同時に執筆しましたが、
いや~楽しかった楽しかったwww

こんな面白いことはやめられないと、改めて思いました。


「これが……似ているのに仲が悪いと言う……同族嫌悪か」

 

カズキと恋華の間に漂う並ならぬ“圧”に一同が恐怖する中、

ラウラがゴクリと喉を鳴らしながら発した一言で、ピタリとカズキの

笑いが止まった。

 

「ラウラ……ちゃん?

 同族……嫌悪って……。

 似ている?俺が?誰……に?」

「いや、だから姉弟子なだけあって、恋華殿は兄様にそっくりだな……と」

 

カズキは自分が耳にしたことが信じたくなかったのか、ラウラに確認すると

壁に拳を叩きつける。

 

「それは、どういう意味かな?」

「いえいえ、お気になさらず」

 

いきなり壁を殴りつけたカズキに恋華が不思議そうに聞くと、

カズキは頬を盛大に引きつらせながら、何でもないと答える。

 

「なぁ?

 あれってつまり、カズキさんは自分が恋華さんにそっくりって

 自覚がないってことか?」

『だろうな。

 さっきの恋華の紹介は、カズキのことそのままだったと言うのに……』

「はい、そこ黙ろうか?」

 

ヒソヒソと喋る一夏とゲキリュウケンにカズキがストップをかけた。

 

「確かにぃ~?

 俺は他人の黒歴史を探ったりしてからかったり、

 自分の手のひらで躍らせるのは好きだけど……それは鈴ちゃんみたいに

 からかいがある子だけだ!!!

 “他人は全部自分を楽しませるためのお・も・ちゃ♪”とか

 考えているこの人とは全然違う!!!」

「どっちも同じじゃぁぁぁ!!!!!」

「そろそろ、話を元に戻さないか?」

 

真顔で目を見開いて、自分は恋華とは違うと強調するカズキに鈴は全力の

ツッコミを叩き込む。

そんなIS学園のいつもの光景に、透也は疲れが滲む声でつぶやく。

 

「そうですね。

 本来だったら、こっちが修業して力をつけたように、創生種達も

 準備を進めているだろうから、攻めてきた時のこととかを話し合う予定

 だったんですけど、探していた師兄達がやってきたから話は

 大きく変わってくる。

 ここに来たってことは、師兄達も大体のことは分かっているだろうし」

「そもそも、お前の兄弟子達を探していた理由は何だ?」

 

脱線した話を元に戻すとルルーシュが質問を投げかける。

透也はともかく、恋華への反応を見る限り、カズキが彼らを助っ人として

探していたわけではなさそうだ。

 

「理由は、二つ。

 一つは、俺達がジャマンガを倒すのに使った究極の力、

 アルティメットキーに代わる力を

 手に入れるため。

 もう一つは、創生種の正体と目的について」

 

アルティメットキーに代わる力もだが、自分達が戦っている敵の謎に

ついてなど、予想だにしていないカズキの言葉に、全員がハッと息をのむ。

 

「あれ?でも、前に創生種の目的って何かを復活させることって……」

「それは、違うわね簪ちゃん。

 復活させる何かは、あくまで手段であって最終的な目的はその先にあるわ」

「楯無の言うとおりだ。

 だが、侵略や支配というありきたりな狙いでないだろう。

 奴らなら、そんなことは自力でできる」

「実際、時空管理局を作ってある意味で支配してますからね……」

 

ルルーシュの考えに明が付け足すと、なのは達管理局員は苦虫を噛み潰した顔となる。

 

「まあ、時空管理局によって平和が守られているってのも

 あながち間違いとは言えないんだから、お前達が本当の意味で“守る”ってことが

 できる組織に変えればいいんじゃないか?」

「いいこと言うね~、一夏」

「そのためにも、まず創生種に勝たないと」

「うんうん♪青春だね~」

 

一夏の何も考えていないようで、核心を突く言葉にジノとスザクが同意し、

恋華は面白げに笑う。

 

「で、その創生種なんだけど……これを見てくれ」

 

カズキは、プロジェクターを使ってある壁画の画像を映し出す。

壁画には、人々が何者達からか様々なものを授かっているように見えた。

そして、授けている者達は……。

 

「これって……レグドやベルブ?」

『見えなくはないな』

 

一夏とゲキリュウケンがつぶやいたように、壁画に描かれている者は、

創生種ことクリエス・レグド達を描いているように見える。

 

「創生種がどんな世界に手を広げているか調査している時に、たまたま

 見つけたんだけど、奴らに似ていると言うより、何となくこの絵にも

 似てないかな?雰囲気とか」

 

カズキが続いて映し出したのは、龍と共に何かと戦っている戦士の絵だった。

 

「過去の魔弾戦士を描いた壁画……確かにこっちの絵と似てますね」

 

明が言うように、その絵は過去に戦った魔弾戦士と魔弾龍の姿であり、

絵のタッチは全然違うが言葉で表せない似ている“何か”があった。

 

「待ってください、碓氷先生。

 仮に、ここに描かれているのが彼らだとしたらおかしくないですか?」

「そうですわね。これでは彼らが、人間に手を差し伸べているみたいでは

 ないですか?」

 

シャルロットとセシリアから疑問の声が上がるが、他の者達も

同じ考えであった。

壁画に描かれているのが創生種なら、現在と真逆である。

 

「もっともな意見だね。俺も同じことを思ったよ。

 だけど……っ!」

「何だ……これ……」

 

カズキが新たに映し出した壁画は、戦いの絵であった。

それも創生種達と魔弾龍らしきものたちとの――。

魔弾龍らしきものとは、ゲキリュウケン達のような蛇のように長い体ではないが、

龍に見えなくもない姿をしており、彼らと同じ気高い魂が感じ取れた。

描かれている龍は4体。

 

4本足の体で、胸にダイヤのような宝石を輝かせ、咆哮を轟かせている龍。

 

西洋風のドラゴンのように、2本足で両肩に宝石がついている腕で、斬撃を

放っている龍。

 

長い体をくねらせながら、6枚の羽根を羽ばたかせている龍。

 

その三体の後方で、体から光を放ち一際存在感を示している神々しき龍。

 

更に……。

 

「創生種達の後ろにいるのも、別格って感じだね……」

 

カズキの言うように、4体の龍と戦っている創生種達の背後にも、

巨大な1体の龍がいるのだ。

それも、神々しき龍によく似た姿の龍が。

 

「これ!何なのか知らないの!ゲキリュウケン!」

『いや、私にもわからない』

『俺も同じく』

 

鈴がこの壁画について、ゲキリュウケンに詰め寄るもザンリュウジン共々

戸惑いを隠せなかった。

 

「この壁画が正しく当時の何かを描いているとしたら、

 創生種って言うのは、侵略者とかじゃなくて魔弾龍達に近い存在なんじゃないかな。

 だけど、何かがあって決別することになった。

 奴らの後ろにいるのは、復活させようとしている何かって所かな……。

 実際は、どうなんですか?師兄?貴姉?雪姉さん?」

「何で、私達に聞くのかな~?」

 

何の前振りもなく自分達に話を振ってきたカズキに、恋華は首を傾げる。

 

「何でも何も、あなた達はこの創生種達と戦っている魔弾龍らしき

 3体の龍のことは知っているはずだ。

 あなた達が、大技や力を使う時に後ろに現れるあの龍達……。

 あれは、この3体にそっくりだ。

 何も知らない、関係ないって言うのは無理がありますよ」

「あぅぅぅ……。ええっとね、カズちゃん?

 そ、それは……ね?」

 

透也達が何かを知っているのを確信しているとばかりに、言い切るカズキに

雪はしどろもどろになるが、透也は肩に手を置いて落ち着かせる。

 

「いいだろう。教えてやる。

 カズキが言ったこの3体の龍だが、こいつらは魔弾龍神。

 それぞれが、時間、空間、裏世界を創り司る、魔弾龍達の神だ」

「神さま……ですか?」

 

透也の言葉に、全員の驚きを代表するようにナナリーがつぶやく。

 

「そう捉えても間違いじゃないわ。

 私達も知ったのは偶然だけどね。

 修行してた時に、たまたま出会ったのよ」

「もう、80年ぐらい前になるかな?」

「雪さん。今は、そないな冗談をかましている時やないですよ」

 

真面目な話をしていると言うのに、冗談を挟んできた雪にはやてが

苦言を入れる。

小学生に見える程小柄な透也もだが、雪も恋華も弟弟子のカズキよりも

若々しいのだ。

 

「冗談じゃないよ、はやて。

 この人達は、最低でも100年ぐらいは生きている」

「へ?」

 

間の抜けた顔とはこんな顔という見本な顔をはやてだけでなく、全員が

さらして、カズキに顔を向ける。

 

「この人達は、道士。

 仙人を目指している者なんだ」

「まだまだけどね」

 

カズキのしれっとした回答に、雪は苦笑いして頬をかく。

要約すると、自分を天地といった自然と同化することで、それらと等しい

寿命を得ようとする超人思想の一種らしい。

 

「実際、この人達がどれぐらい生きているのか正確な歳は、

 俺も知らない」

「何言ってるのかな?

 私は、永遠の乙女よ☆」

 

ちょっとウザい感じでキメる恋華に、一夏達は乾いた笑みをこぼす。

 

「とにかく、俺達は出会ったんだ。魔弾龍神に。

 奴らは言った。

 自分達は、この世界を創るために“はじまりの神”に生み出された存在だと。

 そして、同じく生み出された者達によってこの世界を滅ぼそうとする

 魔弾龍神が蘇ろうとしていると」

「その同じく生み出された者達って言うのが、今君達が戦っている創生種」

「彼らは、創生の名の通り様々なモノを創生していきました。

 炎や水、土……といった具合に」

「ある程度予想してたけど、一気に話が大きくなってきましたね」

 

透也達が語る、世界の始まりとその出来方について、カズキだけでなく

一夏達も思考が遅れないように、しっかりと理解しようとする。

 

「そんな創生種を生み出したのが、こいつらの後ろにいるこの魔弾龍神。

 命を生み出す神とのことだ」

「命を生み出すってことは……俺達人間も!?」

「うん。そうだよ、一夏君。

 微生物みたいな小さな生き物から生まれて、最後に知恵のある生き物として

 生まれたのが人間。

 だけど……」

「その人間が失敗作だったから、この神は世界を滅ぼすのを決めたそうだ」

 

言葉に詰まる雪に代わり、透也がその先を告げる。

 

「失敗作って……そんな」

「随分、勝手だな。

 自分達で生み出しておきながら滅ぼすとは……流石は、神と言ったところか」

 

あまりの内容にスザクは言葉を失い、ルルーシュは痛烈に皮肉を口にする。

 

「知恵を持って生まれた人間は、知りたがりで好奇心が豊かだった。

 だから、様々なことに興味を持ち、道具や文化を作っていった。

 外部の変化、環境の移り変わりにも対応できるようになったが……

 同時に自分達が万物の頂点と考えるようにもなっていった」

「そうして、他人から略奪し屈服させる残虐さを見せるようになった。

 同じ人間だけでなく、他の生物や自然にもその矛先が向いていったことに、

 その魔弾龍神は人間に見切りをつけたのよ」

「だけど、はじまりの神と3体の魔弾龍神は、人間はまだまだ成長途中の未熟な生き物。

 結論を出すのは、早いと。

 自分達が手を出さずとも滅ぶなら自分達で勝手に滅びると、

 干渉するのに反対しました……」

「神様は言うことが違うね。

 人間が歩んできた何百万年って時間も、彼らからしたら大して気にするような

 ものじゃなかったらそんなこと言えないし、滅びるなら自滅する……か。

 栄えるのも滅びるのも俺達人間の好きにしろってこととは、なんともまぁ……」

 

神達のそれぞれの考えに、カズキは理解に苦しむと肩をすくめる。

 

「じゃあ、創生種達の神に反対したってことは……。

 この壁画は!」

「ああ、これは魔弾龍神達の考えの違いから起こってしまった戦いを描いたものだろう。

 そして、創生種達を封印したんだ」

「待ってください。倒したのではなく、封印?

 創生種達が何かを復活させようとしてるのは、わかってましたけど、

 はじまりの神だけでなく、3体の魔弾龍神が戦って完全に勝つことができなかった?」

 

一夏が、壁画に描かれているものが何なのかを理解すると、

カズキが透也に質問を投げかける。

何かを復活させようとするなら、そこまで追い詰めた者がいたはずだが、

同格の力を持っていたであろう者達に加えて上位の者がいて、押し切ることが

出来なかったとはどういうことなのか……。

 

「その理由は、単純にはじまりの神達の力が強すぎたの原因だ。

 神なだけあって下手に全力を出したら、世界が壊れる。

 何せ、神を生み出した神に、時間や空間といった世界そのものを司っているんだからな」

「だけど、創生種達の神は世界が滅ぼすのが目的だから、全力を出し放題。

 そりゃあ、押し切れないわよ」

「あの……何で、その創生種の神は人間だけでなく

 世界も滅ぼそうとしてるんでしょうか?」

 

明らかになっていく壮大な物語に、簪はおずおずと疑問の声を上げる。

封印された魔弾龍神が滅ぼそうとしているのは人間だけのはずなのに、

世界にもその手を伸ばすのは何故か……。

 

「その理由は、他の生き物達が人間のようになってしまうかもと

 危惧したからなの。

 生き物は互いに関わってきたから、人間の負の面が影響して、

 同じような生き物になってしまうかもと……」

「だったら、いっその事全部滅ぼして、一から作り直そうってしたわけ」

「敵の神様も神様ってわけね……」

 

雪と恋華の説明に創生種達の神もまた、傲慢な面を持つ神なのだと

カズキはため息をつく。

 

「そうやって、創生種達を封印したはじまりの神達は、

 後は世界に生きる者達次第だと、異世界からの侵入者に対する

 守護者として魔弾龍を生み出して、世界を去った」

『ほぇ~。俺達って、そんな風に生まれたのか……』

『改めて聞くと、驚きだな』

「創生種達の目的が、自分達の神の封印を解いて、世界を滅ぼして

 創り直すことはわかりました。

 では、師兄。

 あなた達は、その出会った魔弾龍神達の力を使えると言う認識でいいのでしょうか?」

 

透也の締めくくりに、ザンリュウジンとゲキリュウケンが感嘆の声を上げるそばで、

カズキは新たな問いかけをする。

 

「ちょっと違うな。

 奴らの力を模倣して、俺達の力として昇華していると言った方が正しい」

「自分達の今の力を試すって意味で、戦ったりはしたけどね~」

「強かったよね、恋ちゃん」

「神様と戦って生き残ったんかい、あんたら……」

 

兄弟子達の破天荒ぶりに、カズキは呆れ気味に顔に手を当てる。

一夏達もその意味がだんだん分かってきたのか、戦慄が走った。

 

「別に、負けてないだけで勝ってはいないぞ?

 俺達の力を認めてはくれて、自分達の力が欲しいかとは聞かれたがな」

「でも、断ったんですね?」

「うん」

「自分の力で強くならなきゃ意味ないでしょ?」

 

神様の力をいらないと言う透也達に、カズキ以外の全員が驚く。

彼ら道士は、自分という『個』の完成を追求しているのだ。

数を成して群れるのは“弱い”生き物であり、個体としての能力が

高くなっていくほど他者と協調する必要がなくなっていく。

無論、そんな『個』の完成に途方もない時間を要するのは言うまでもない。

 

「と言うことは、魔弾龍神達の話を聞いても

 あなた達は世界が滅びても問題ないと?」

「俺達に害が出るなら、それは排除するがな」

「それで、死んじゃうようなら私達はそこまでの存在だったってことよ」

「魔弾龍神達もそれが私達の選択ならそれもいいだろうって」

「そもそも世界の滅びを気にするとか、どうしたの?

 変な正義感にでも目覚めた?」

「正義感何てもんじゃありませんよ。

 見ず知らずの人間や世界のために戦うつもりもありません。

 ただ、のんびりと生きていたいのに勝手な都合で滅ぼされるとかごめんなので、

 あらがうだけですよ」

 

人間だけの問題ではないというのに、透也達は自分達が率先して動く気はないようだ。

そして、珍しい生き物でも見るかのような恋華に、カズキもまた

手をヒラヒラさせながら、結局は自分の生活を守るために戦うと気楽に答える。

 

「わー。

 本当なら、色々とツッコまなきゃいけないんだけど、

 やっぱりこの人達はカズキさんの兄弟子だよ~。

 そっくりだよ~」

 

あんまりなカズキ達の言い様に、一夏は棒読み気味にみんなの心情を

代弁する。

 

「まあ、とにもかくにもこれで、アルティメットキーに代わる力の

 目途もついたね。

 その魔弾龍神に勝つ必要もないみたいだし。

 手にするのは、俺と一夏。それに弾だ」

「勝つかどうか云々の前に、戦いになるのかっていうのが問題じゃないんですか?

 少なくとも、カズキさんよりも強い透也さん達でも勝てなかったってことは、

 息を吹かれただけで木っ端微塵になりそうなんですけど?

 どこかの馬の王みたいな息で」

「だから、探してたんだよ師兄を。鍛えてもらうためにね。

 貴姉や雪姉さんまで、見つかったと言うかやってきたのは予想外だったけど。

 そのためにも、やりたいことはやった方がいいよ?

 後、遺書の準備も……」

「遺書……っ!?

 透也さん達の修業って……ど、どのぐらいすごいんですか?」

 

自ら考えていたことなのに冷や汗を流し、あの世に行くことになっても

問題ないようにしておけと言う、一夏は恐る恐る自分達が受ける修行がどれぐらいの

凄まじさになるのか聞く。

夏休みの修業でさえ、きれいな川を何度も見るようなものだったのに、

それを上回るというのかと、一夏は震え上がる。

 

「そうだね……。

 俺達が魔弾龍神に認めてもらうぐらいだから、さじ加減は師兄達次第だけど……。

 仮に師兄達の修業をそのままするとしたら……。

 俺がさせている修業が体育の授業レベルになるかな?

 小学生の……」

「いぃぃぃっ!!!?」

 

カズキが告げた内容に、一夏は冗談と言ってくれと目で訴えるが、カズキは

乾いた声で笑うばかりであった。

 

「まあ、鍛えてくれって言うなら、やってやってもいい」

「楽し~~~くやりましょ♪」

「うん!カズちゃんの弟子なら、私達の弟も同然!

 一緒にがんばろうね!」

 

三者三様の意気込みに、一夏は仲間達に助けを求める視線を向けるが、

みんな揃って顔を背けるのであった。

そして、知らない内にとんでもない修行に参加することが決定された

弾は、体に走った圧倒的イヤな予感に周囲を見渡していた。

 

「なるほど。

 俺達を集めたのは、お前達が修行で不在している時の戦力をカバー

 する面もあるということか」

「流石、ルルーシュ。理解が早くて助かる。

 でも、もう一つ理由がある。

 この世界で創生種が絡んでそうな組織に動きが見られてね?

 今度の学園祭で、仕掛けてきそうなんだ。

 だから、その迎撃も兼ねてる。

 色々と立て込んできたから、これを機に潰しちゃおうと思ってね♪」

「おもしろそうね、それ?

 私も一緒にやろうかな~♪」

 

楽しそうに笑いながら、物騒なことを言うカズキと恋華に、一同は

やっぱりラウラの言うようにそっくりだな~と思うのであった。

 

「はい!恋華殿に質問です!

 クラスの者達が話していたのですが、恋華殿は兄様の元カノという奴なのでしょうか!」

 

話も大方終わってタイミングがいいと思ったのか、ラウラは特大の爆弾を

放り投げ、一夏達を戦慄させる。

 

「兄様って、カズキのこと?」

「はい!

 頼りになる年上の男性で、そう呼ばれて嫌な者はいないと聞きました!」

「ララララウラちゃんだっけ!

 恋ちゃんはカズちゃんの元カノじゃないよ!!!!!

 カズちゃんは、わたしのその……」

 

純粋な目で尋ねるラウラに、雪は慌てて否定するが段々と尻すぼみになっていく。

 

「もう何恥ずかしがっているの、雪?

 私達、週8ぐらいしてた仲じゃない♪」

「あうぅぅぅ~~~」

 

ラウラの十倍以上の破壊力の爆弾を恋華は笑いながら放り投げて、

一夏達は思いっきり吹き出す。

ラウラやナナリー、アーニャはよく分からず、首をかしげ、

透也はため息をついて頭を抱える。

はにわみたいな顔になっている千冬は、誰も視界に入れるのを避けて。

 

「弁明させてもらうけど、そういうことをよく分かっていなかった

 俺を貴姉が無理やりだからね?

 そんでもって、雪姉さんも貴姉が俺を煽ったからだよ?」

「でも、修行してた時には色んなお姉さんとイイことしてたでしょ?」

 

誤魔化さず、事実を言うカズキだったが、恋華が放った二発目の爆弾に

周りから驚愕の目を向けられる。

 

「…………あれは、俺が修業し始めて半年ぐらい経った頃だ」

「カ、カズキさん?」

 

顔の前で手を組み、ゲ〇ドウポーズをして唐突に語り始めたカズキに

一夏は遠慮がちに声をかける。

何故だかわからないが、カズキはどこか遠くを見るような目をしているのだ。

 

「いきなり、貴姉にいきつけの酒場に呼ばれたんだよ。

 そしたら、店のお姉さん達がさ。貴姉がツケを踏み倒したって身ぐるみ

 を剥いできて……。

 で、そんなことが何回かあって……だんだんお姉さん達の目が、獲物を

 狙う肉食獣の目になっていってさ……」

「ちょっと!大丈夫ですか!!!?」

 

独白を続けるカズキに、一夏は呼びかけるが、カズキは帰ってこれなかった。

 

「その時はよく分からなかったけど、このままじゃヤバイって身の危険を感じて

 必死にギャンブル場で技を身につけたよ……。

 金を稼ぐために。

 まあ、そうやって稼いだ金も湯水のごとく消えていったけどね?

 貴姉の酒代とか酒代とか娼館巡りとかで……」

 

最後に妙な単語が出てきたが、誰もカズキに声をかけれなかった。

最早、カズキの目に周りは入っておらず、引きつった笑みを漏らしてて……

ちょっと怖い。

 

「そんなある日、貴姉にある娼館に呼ばれたんだ。金払ってくれって。

 ただ、その時俺はとんでもなく嫌な予感がしたんだ。

 その予感に従って、俺は持てるだけの道具とかを持ってそこに行った……。

 そこは屈強なアマゾネスみたいなお姉さん達がやっててね?

 もう、俺を見る目が完全に肉食獣が品定めする目だったね……っ!

 ……ひっ、ひひひひひ」

 

当時のことを思い出したのか、カズキは狂ったように笑う。

あまりの恐怖に笑うしかないかの如く……。

 

「で……そのお姉さん達の中に、ホントに人類か?な人がいてさ。

 目を付けられちゃったんだよ……自分が一番の美人だと言い張る、ヒキガエルを

 人の形にしたようなお姉さんに……。

 今でも、思うよ。

 あの時、逃げ出すのが0.1秒でも遅れてたら……あの角を逆に曲がって逃げてたら……

 作るのが難しいあの道具を使うのを出し惜しみしてたら!!!

 俺は……碓氷カズキとしてここにいなかったかもしれない――」

『戻ってきてぇぇぇ!!!!!

 カズキくぅぅぅんっっっ!!!!!』

 

虚ろな目をして笑うカズキに、ザンリュウジンが必死に現実に戻そうと叫ぶ。

 

「おかげで、状況を読む力と判断力が養われたんだから、結果オーライオーライ♪」

「いや、遊んだだけだろ?」

「テヘッ☆」

 

元凶の恋華は笑い飛ばすが、透也のジト目に笑ってごまかした。

 

 

 




ラウラの言うように、カズキは恋華と姉弟のようにそっくりですが、
カズキ自身に似ている自覚はないです。
指摘すると、ものすんご~~~い嫌な顔となります(苦笑)

魔弾龍神やはじまりの神は、気づいた人は気づいたかもですが、
ポ〇モンのシ〇オウ地方に出てくる伝説の方々となりますwww

カズキの過去は、グリザイアの迷宮と
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかから。
特に後半部分は、触れたらカズキはどこかに旅立ってしまいます(汗)

感想・評価、お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昔話・その2


梅雨の季節となり、暑くもなってきて、コロナのことも考えた
新しい生活様式になってきました。
マスクが、暑くてしょうがないです(汗)

少しずつ日常が戻ってきましたが、
コロナだけでなく夏バテ等も、みなさん気を付けてください。


「あっ。透也さん。

 皆さんの師匠を呼ぶことは出来ないんですか?」

 

過去の恐怖体験から必死に逃げているカズキを一夏達が、子供を

あやすように慰めていると、スザクがふと思い浮かんだ疑問を口にした。

 

「カズキさんだけでなく、皆さんも鍛えた師匠なら

 もっと鍛えてくれるんじゃ……」

「それは、やめておいた方がいい」

 

スザクの考えに、みんな確かにと思った顔をするや否や、現実に

帰ってこれたカズキがキッパリと否定した。

 

「IS学園、いや……。

 この島が跡形もなく沈められるよ……師父に」

「だな」

「ええ」

「そうだね」

 

どうしてと誰かが聞く前に、カズキは至極真面目な顔で突飛もないこと

を言って、透也達もそれに続いて苦虫を嚙み潰した顔だったり、苦笑して

同意する。

 

「師父は、蒸気機関の発明から人間の堕落は加速したとか言っているから、

 近代技術の塊なここを見たら、

 “てい!”って、かわいらしい掛け声とはかけ離れた威力の拳を

 放つのが簡単に想像できる……」

「確かに、あの人ならやりかね……いや、やるな。ほぼ確実に」

 

頭に浮かんだ光景を否定しきれる要因がないのか、カズキと透也は頭を

抱える。

 

「ど、どんな人何ですか?

 カズキさん達の師匠って?」

『気になる所だな。ものすごく』

「かわいらしい掛け声ということは、女性の方なんですか?」

「いや、甘いで明ちゃん!

 世の中には、女の子よりもかわいい男の娘なんてもんがいるんや。

 透也さんが兄弟子っちゅうことも考えると、そんな意表をついた人かもしれへん!」

 

はやての言葉にどういう意味だと聞きたい透也だったが、ぐっと堪える。

 

「…………ぶっ飛んだ人……か……な?

 色々と……」

「いや、カズキさん達の師匠なんだからカズキさん達以上に

 ぶっ飛んだ人っていうのはわかりますよ?」

「あれ?私達のこと変人とか思ってる、君?」

「えっ!?

 ち、違うんですか!?」

 

絞り出すように答えるカズキに、一夏は率直に自分の考えを述べる。

恋華は、そんな一夏にどういうことかと聞くと、一夏は心底驚いた

表情を見せた。

一夏の天然に、恋華が意味深な笑みを浮かべている傍らで、

カズキは考えにふけっていた。

 

「う~ん……。

 自分でも、こんな説明じゃわからないって思いますけど……ねぇ?」

「だったら、何を説明したものか……だな」

「ありすぎて困るというか、無さすぎて困るというか……。

 いや、説明すればするほど混乱して真実が隠れていくというか……。

 神様をぶちのめしたなんて話もあるくらいだからなぁ~。

 (そもそも、何であの人は俺なんかを助けてくれたのやら――)」

 

自分がこうして生きていられるのは、師父のおかげであると分かっているし、

鍛え上げてくれたことにもカズキは感謝している。

だが、それ以前にどうして出会うことができたのか納得できる答えをカズキは

見つけられていなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

時は、十数年前。

地球とは違うとある世界の小さな村……だった場所。

そこで、“地獄”が現世にあふれ出ていた。

 

「ははは……ハハハハハっ!!!」

 

あふれ出させているのは、一人の少年……カズキであった。

彼を中心として地獄の空気が広がっていき、次々と周囲の植物や地面の

命を奪っていく。

だが、そんなことを気にすることなく、カズキは涙を流して乾いた笑い

を続けた。

この地獄が広がり続ければ、周囲の村まで飲み込まれることも、

二度と命が住めない不毛の地になろうとも……自分の命が消えることに

なることもカズキにはどうでもよかった。

止める者もいなかった……いや、“いなくなっていた”。

カズキ以外の村人は、全て横たわり二度とその目を開くことない……。

 

「ははははは!!!!!」

 

絶え間なく頬に流れるのが、振り続ける雨なのか自分の涙なのかも

どうでもいい。

今、使っている地獄と現世を繋げているこの力もどうでもいい。

もう何の意味もないと、カズキは嗤いつづける。

 

「あはははははっ!!!!!!!!!!!!」

 

このまま力を使いつづければ、自分だけでなく世界も大変なことに

なったとしても、それはカズキには救いに思えた。

もう、世界にも自分にも何の価値もないと力を更に

解放しようとした瞬間――。

何の前触れもなく、“彼女”は現れた。

 

「おやおや、まさかこんな童がこれを起こしていたとは」

「っ!?」

 

淡々としながらも感心をにじませるその声に、カズキは驚愕した。

地獄の空気に満ちているこの空間は、力を行使している自分以外の

生者が生存できるような場所ではないのだ。

だというのに、女性は平然とカズキへと近づいていく。

 

「――ふっ」

 

害はないが煩わしくは思ったのか、彼女が腕を払うと広がっていた

地獄の空気は瞬時に消え去った。

 

「なっ!?」

 

カズキは呆然と立ち尽くした。

彼女が何をしたのかまるで理解できなかった。

そして、理解した。

自分が手にしたこの力は、無意味で、強大で――

わずか一動作で打ち消されるようなちっぽけなものなのだと……。

 

「ちくしょう――」

 

心底悔しく呟いたのを最後に、カズキの意識は途絶えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いいか、カズキ。

 表と裏、どちらしかないコインなどないように、人間が住むこの世界と

 この世非ざる者達の世界は切っても切れぬ関係にある……。

 故に、互いが関わらずにいられないが、関わりすぎるのもよくない。

 大事なのは、バランスだ」

 

道着に身を包み正座するカズキは、向かい合う師の言葉に耳を傾ける。

修業をする前に必ず聞かされる、世界の理である。

 

「だが、怒りや憎しみ、自らの欲望で人間は踏み越えてはならない境界を

 簡単に越えてしまう……その境界の先に何があるのか見もせずに――。

 その者達を待っているのは、自らの破滅だ。

 破滅は周りにも広がる……何の縁もゆかりも無い者達も巻き込み……。

 そして、理不尽に巻き込まれた者達や絆を持つ者達がまた境界を越え……

 破滅は際限なく広がっていく」

「それを防ぐために境界を越えてしまったモノを討ち、破滅を広めぬための境界と

 なる者が私達“境界師”」

 

自分自身にも問いかけるように語る師……父に続いてカズキは、自分達が

何者かを刻むように言葉を紡ぐ。

 

「もう一つ、忘れてはならぬのが境界師も踏み越えてはならぬ境界を簡単に

 越えてしまう人間だということだ。

 いや、境界を見極める分、踏み越えやすい存在でもあると言えるかもしれん……。

 だからこそ、境界師は自分の心と人一倍向き合い続けなければならない。

 怒りや悲しみを持つな、感じるなとは言わん……。

 目を逸らさず見続けるのだ――」

 

師から弟子へと受け継がれ続け、また自らも見続けているのか、カズキは

父の言葉を何度聞いても気圧される。

 

「……見続けて……自分の心なのに自分でも分からない時は……後悔を

 しない選択をしなさい」

 

最後の言葉は師としてなのか、父としてなのかはわからないが、カズキは

修業を始めようと立ち上がり……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、れ……?」

 

カズキが目を開けると、そこに入ってきたのは知らない天井だった。

自分は先ほどまで、父といつものように修行をしようとしていたはずなのに

どういうことだと思う前に、声がかけられる。

 

「おや?起きたようですね、境界師」

 

体を起こして声が聞こえた方に首を回すと、そこにいたのは天女を

思わせる美貌の少女であった。

瞬間、カズキは一気に頭が覚醒し今まで夢を見ていたこと……

父も母も仲間達もみんな既にこの世にいないのは逃れられない現実何だと

理解した。

……理解したくなかった。

 

「っっっ~~~!!!!!」

 

声にならない感情がカズキの体を駆け巡り、爪が食い込むほど拳を強く握りしめる。

頭の中で、どうして?何故?とこの信じられない悪夢のような現実が起きてしまった

疑問が渦を巻く。

何度も……何度も何度も何度も何度も何度も――――。

 

「どうして……俺だけ……」

「おや?何を悲しんでいるのです、童?

 お前は、感謝すべきなのです。

 この武の頂点に座する私と出会い、目に適ったことを」

「感謝……っ!」

 

こちらの気持ちを考えていないにも程がある少女の物言いに、カズキは歯ぎしりして

睨みつける。

本当ならまずは、自分を助けてくれたことに礼を言うべきなのだが、

カズキにそんな余裕などなかった。

 

「そ、んな……武の頂点が……なん、で……あん……な

 とこ、ろに……いたん、だ……?

 何で、みんなを助けてくれなかった!!!」

 

仮にも命の恩人に向かって言うべきではない完全な八つ当たりだったが、

それでも叫ばずにいられない。

頭の中に渦巻く感情を口に出さずにはいられなかった。

 

「私があの場にいたのは、何やら不愉快な儀式が起きる気配がしたため……。

 そして、何故私が下々の者を助けねばならないのです?

 命を失ったのは、私が助けなかったからでなく、あの者達や童の

 力が足りなかったから……分を弁えなさい」

 

欠片も悪びれることなく、少女はカズキに正論を言い放つ。

上から目線の物言いだが少女の言う通り、彼女に非はないのだ。

 

「本来であれば、童とて私の姿と声を見聞きした罪で両目をくり抜き、耳を

 削ぎ落さねばなりませんが、その才に免じて今の無礼と合わせて不問としましょう」

「才……?」

 

カズキは少女が何を言っているのか分からなかったが、一つの単語に引っかかる。

 

「才って……何の才だよ?」

「お前は何を言っているのです?

 この世非ざる世界の一つ……罪人達の逝きつく先、地獄をこの世と繋ぎ、

 その力を行使しながらも精神が崩壊していない……。

 触れれば、発狂してしまう力を使いながら……。

 童……この世非ざる世界への素晴らしい耐性をお前は持っているのです。

 これを才と言わず、何と呼びますか」

 

少女の言葉をカズキは、にわかには信じられなかった。

確かに、気を失う前にとてつもない力を奮っていた気がするが、

いきなりそんな才能があると言われても自覚できなかった。

 

「(才能が……力があるからって……何の意味がある……っ!)」

 

少女が言う才能とは別に、カズキは才あふれる子供であった。

頭もよく、どんなこともそつなくこなし、

教えたことは砂が水を吸うがごとく身につけ、

大人と戦っても負けることはほとんどなかった。

そのためか、カズキはどこか冷めてもいた。

淡々と修業し、淡々と他人と関わり、淡々と日々を過ごしていた……。

 

 

 

だから、この敗北がカズキにとって本当の意味で初めての敗北であり……

初めての挫折であった……。

 

「(くそくそくそくそくそっっっ!!!!!)」

 

カズキは、自分でもわからない制御できない感情に振り回されていた。

淡々と過ごし関わってきたつもりで、カズキは自分で考えている以上に

両親や仲間のことを大切に想っていたのだ。

だからこそ、カズキは怒りと悲しみという感情に振り回されていることに

カズキは気付いていなかった。

そして、頭をよぎる……一人の人間の姿が……。

 

「(あの男……っ!)」

 

全ての元凶、忌むべき敵、許してはならないその男は、ふらりと

何の前触れもなくカズキ達の村に現れた。

自分達に境界師に話があるらしく、父を含めた大人達が話を聞くことになった。

カズキは一人、村から少し離れたところで自主訓練をしていてたいして気にも

止めていなかったが、村に戻った自分を待っていたのは変わり果てた姿となった

村の者達であった――――。

 

「(何が夢だ!何が光だ!

 みんなの命を奪っておいて、どの口が言うっっっ!!!)」

 

何が起こったかわからないカズキに気付くことなく、その男は傲慢に……

わが身が裂けるような痛みに耐えるかのような震える声で呟いた。

 

“我らが夢のため……全ての人々に光を――――”

 

男の顔は愛する家族が、友人が、恋人が死んだかのように悲しみで歪んでいた……

 

 

 

 

 

その手を村の者達の血で真っ赤に染めながら……。

 

「(だけど、負けた……。相手にもならなかった……っ!)」

 

わが身を焼き尽くさんばかりの憎悪の炎は、少しずつ小さくなっていく。

腹の底から沸き上がった怒りに任せて、男に戦いを挑んだカズキだったが

結果は惨敗……ぐずる幼子をあやすかのように軽くあしらわれてしまった。

 

「(ああ、そうか……。この力の意味は……)」

 

一度は、自らの無力さにジリジリと小さくなった憎悪の炎は、再び大きく燻り始める。

今の自分には覚醒した力がある。

何の意味も価値も見いだせなかった、その力の使い道があることにカズキは気づく。

生きていることを!存在を!抱く夢を!

決して許してはならない相手……敵の命を奪う……っ!

この力は、“その程度のこと”のためにある……と。

 

「(すいません、父上。

 どうやら、自分は境界師ではなかったようです。

 越えてはならない境界を踏みとどまれるのが人間なら……

 俺は人間でなくていい……っ!)」

 

境界師の教えに背くことを、カズキはためらわなかった。

あの男を許すことこそ、生涯にわたって後悔することになると

カズキは“境界”を超えることを決意する。

 

「(だけど……できるのか?)」

 

“復讐程度”に、自分の存在全てを注ぐと決めたカズキだったが、

それを成すことができるのかと、冷静に考える。

今の自分は、所詮世界の広さを知らない未熟な子供に過ぎない。

強大な力を手にしたとはいえ、それを十全に使えるかと言えば、答えは否だ。

 

「……自らを武の頂点に座するという、あなたに問いたい。

 あなたが、助けようと思えば村は助かった……

 あの男に勝つことができましたか?」

 

寝かされていた布団の上で、正座をしてカズキは少女に尋ねる。

未熟とはいえ、才あると言った自分の力を何の苦もなく払いのけ、

傲慢でありながら他を寄せ付けない圧倒的な自らへの自信と揺るがぬ存在感。

相対するだけでも、この少女がただものでないことは明白であった。

どれほどの力の差があるのかすら、見当もつかない。

 

「その問いに、私への侮りはありませんね……。

 いいでしょう。

 あの程度の者相手なら万一もありません。

 答えは肯定をもって返しましょう」

 

この少女の万一と自分の万一では、比べるのもおこがましいが、

ほぼ確実にあの男に勝てるのは間違いないとカズキは確信する。

 

「お願いがあります」

「申してみなさい」

「自分をあなたの弟子にしてください」

 

カズキは、布団から降り頭を地面につけて少女に懇願する。

目的は言うまでもなく――。

 

「復讐のために?」

「はい」

「無意味なことのために、力を望むと?」

「はい」

 

無意味?

だから、何だというのだ。

それが、復讐しない理由になるのか?

この力も自分も……“その程度”の存在価値でいいと、

カズキは迷うことなく言い切る。

 

「あの男を殺せる力をください――」

「…………」

 

少女は、無言で自分に頭を下げるカズキをしばし見続けた。

 

「いいでしょう。

 素質は、申し分なし。

 無意味な道を行くのもまた一興――。

 我が性は羅、名は翠蓮、字は濠。

 その名を刻み、精進しなさい」

「わかりました師父。

 以後、よろしくお願いします」

 

こうして、カズキは少女――羅翠蓮の弟子となった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「(今考えてもわからない……。

 あの場に師父がいたのは、師父が言うように本当にたまたまだったとしても、

 何で自暴自棄な俺の願いを聞き入れて弟子にして、鍛えてくれたのか……)」

 

自分の始まりを思い返して、カズキは答えの見つからない問いを自問自答する。

 

「…………うっ」

『おい、どうしたカズキ?

 二日酔いしたみたいに顔色が悪いぞ?』

「ああ、大丈夫。

 ち、ちょっと昔のことを思い出してね。

 それで、師父のとんでもない修業も……。

 我ながら、目的というか復讐のために

 よくあんな修業を乗り越えられたなぁ~……ってね?」

 

あんな修業というのがどんなものか気になる一同だったが、ぐっとその疑問を

口に出すのを堪えた。

カズキがこんなに気分を悪くするような修行など、聞いただけでもゾッとする。

特に一夏は、自分もカズキから思い出しただけで青ざめる修行を受けているから

口元が盛大に引き攣っていた。

 

「…………」

「何だ?」

「ん?」

 

一夏以上に、カズキの気持ちがわかるのか乾いた笑みを浮かべる透也達の

傍らで千冬と一夏は自分達に視線を送るカズキに訝しむ。

 

「いや、別に?

 (そうだった……。こうして、俺が復讐だけで終わらなくて済んでいるのは、

 師父や師兄達だけでなく、この二人のおかげなんだよな……)」

 

先程までの気分を悪くした青い顔はどこに行ったのか、カズキは温かい目をした顔で

“碓氷カズキ”を形成してくれた二人に感謝する。

 

 

 

修業を乗り越え、復讐を果たした後のカズキは目的も夢も何もなく、ただ行く先々で

出会った理不尽を強いる略奪者達を淡々と潰していった。

中には、傲慢な管理局員もいたがカズキの知る所ではなかった。

そんな時に地球へとたどり着き、学校へと通う学生を目にして、雪が学生生活というのを

熱弁していたのを思い出したのだ。

復讐が終わったら、そこに行くのを強く進めていたことも――。

 

 

 

「(で。

 たまたま適当に選んだ学校で千冬と出会って、一夏とも知り合って友達になって……

 あっという間につまんなかった学生生活ってものが楽しくて仕方なくなったんだよね~)」

 

最初は雪が熱弁するほどのものじゃないと決めつけていた学校だったが、

千冬との出会いで文字通り世界が一変したことを思い出してカズキは笑みをこぼす。

 

「ねぇ、千冬ちゃん?」

「何だ?」

「キスしてもいい?」

「……はぁぁぁっっっ!!!!!!!!!?」

 

何の脈絡もなくとんでもないことを聞いてきたカズキに、千冬は

大声を上げて仰天し、他の者も盛大に吹き出す。

唯一、雪だけが石像のようにビシリと固まった。

 

「いや~、昔のことを思い返してたら急に千冬ちゃんと触れ合いたくなってね~?」

「おおおお前は、こんにゃ人みゃえでにゃにを言って!!!」

「誰かに見られながらってのも、なかなかいいものよ~?」

「恋華……お前は黙っていろ。

 後、雪はその斬馬刀をしまえ」

 

一瞬で混沌の嵐を巻き起こしたカズキに、頭を抱えながら透也は

的確に二次被害を抑えるため、恋華や雪をなだめる。

 

「(この戦いが終わったら、師父に会いに行こう)」

 

見方によっては立ててはいけないフラグに見えなくもないが、カズキは

創生種との戦いに決着をつけて、師である羅翠蓮に会いに行くことを決める。

別れた時には無い守るもの、愛するものを持ったことで

弱くなっているのを嘆かれるかもしれないが、それでも

今の“碓氷カズキ”を見てもらおうと、カズキは慌てふためく千冬達を見ながら

思うのであった――。

 




はい。カズキの過去話第二弾でした。

カズキや透也達の師は、その名の通りカンピオーネの羅翠蓮です。
噂では、原作のように神を殺したとか何とか。
仙人なので、透也達より(かなり)年上です。

カズキが地球にたどり着いた当初は、復讐を終えて完全に抜け殻になっており、
無気力、無関心でしたが、千冬のまっすぐさや一夏の純粋さに
人間らしさを取り戻していきました。
一夏のことは、弟分や弟子とかだけでなく友達とも思っています。
口にはしませんがwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。