目指すは超サイヤ人 (ひつまぶし。)
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第一話 その種族の名は


 フリーザ様が復活すると聞いて思わず書いた。取り敢えずは魔人ブウ編まではドラゴンボール世界と絡ませたい。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男なら、目指すは最強。天の頂。なんて考えるのは何人いるだろうか。昔ならバトル漫画に憧れて最強なんて称号を目指す傾向にあるのだが、最近はやれ初めから最強でハーレム作るだのとそんなバトル漫画にあるまじきふんだんに取り入れた恋愛要素のせいで向上心が薄れた。

 それこそ、ドラゴンボールの孫悟空に憧れてかめはめ波の練習をしたり気合を入れて超サイヤ人になろうと無駄な努力をしたものだ。黒歴史と表現するがそれもまた良い経験だろうと思われる。悟って心が広がる、なんてそれらしい事を思ってみる。

 

 まあ、ダラダラと宣ったがこれはもう現実逃避でしかない。そろそろ現実に目を向けなければならない。

 ポツンと自分が立つ場所は超絶爆弾の爆心地と言えるようなクレーターのド真ん中。呆然と思考が定まらぬ頭でいくら考えても現状の答えは出ない。記憶がゴチャゴチャしてどれが本当なのかもわからない。中には人生の中で嘘を吐いた事もあり、嘘か誠かわからぬ状態。

 いかん。これはよっぽど重症と言える。嘘と本当を見分けられないのではイカれているとしか思えない。一体何が起きたのか。宇宙から落下して地面に衝突したのか? 死んどるわ。じゃあ何が起きたのだ。

 

 ざわざわと風が吹く感じがする。木枯らしとも言える冷たい風が体にぶつかり、ブルリと体を震わせると思考が少し定まった。過去の記憶に思いを馳せる以前に周りの事が見えるようになった。クレーターであるのはわかっていたが、どんな場所にクレーターができたのかが何となくわかった。

 どこかの集落、だろうか。残骸がそこら中に落ちている。街と表現しなかったのはその残骸が古めかしく、集落という言葉に合う物体ばかりだからだ。段々と冷静になる頭で判断でき、落ち着いている事がわかってきた。記憶の整理はまだ無理だが周りを見極める事ぐらいはできる。

 ……? 誰か、いる? 気配らしきものを感じる。こちらの様子を覗っていると考えるよりも早くその答えを導き出した。

 ここがどこなのかと聞こうと初めて固まった体の足を動かし、気配が感じる場所へ向かおうとすると膝から力が抜け、意識が暗転した。あまりにも突然だったので顎を強打した。痛い、と思う前に意識がぶっつりと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハグハグマグマグアグアグ。自分でも信じられないほどの食欲が漲り、不思議な味がする食べ物を片っ端から喰らい尽くす俺の姿が。味なんぞ二の次。今は何でも食べて腹を満たすのが大事だ、と“俺”は思っている。

 次々と出される謎の肉に魚を腹の中に放り込んでは更に食す。まだまだ空腹なのもあるが、目の前の光景の非現実から顔を背けたくて食事に集中している。

 

 

「ホボババササ。ロキジュツユユ」

 

 

 日本語でおkと言ってもわからないんだろうな。見た目が完全に日本人どころか人間ですらないもの。

 食事を運んでくれているのは人間ではない。ザ・宇宙人と言える化物みたいな外見で六個の目が食べている俺を見ている。ガン見している。視線で穴が開くのではないかと思われるほどガン見されている。地味に綺麗な瞳をしてやがる……。

 あ。この肉は美味い。そんな事を考えていると、六つ目の宇宙人が何体か集まってコソコソと会話し始めた。何を話しているのだろうか、と持っている知識から考えると思わず食事の手が止まった。

 

 ――太らせて食べる作戦ッ!?

 

 恐ろしい。もし本当なら……そんな事よりも食事だ。腹が減っては戦はできぬ。

 

 

「アストロロボササ。食事はお口に合ったかな?」

 

 

 シャ、シャベッター!? 驚きながらも食事の手は止まらない。リスのように口一杯に頬張って六つ目の宇宙人の言葉に耳を傾ける。返事はせずにグッと親指を立てて返答をする。

 満足そうに? 頷いた宇宙人は四本の腕を組んで2本の足を組む。これは突っ込まない方がいいのだろう。宇宙人だからこれぐらいが普通なんだ。そうなんだ。

 

 

「まずは謝らせて欲しい。盟約に従い、我等は救助に向かったが間に合わなかった。助けられたのは其方だけである」

「モゴモゴ。モガガガ?」

「うむ。他の者は見当たらなかった。おそらくは其方の仕業であろうとは思っておる」

 

 

 普通に会話が成立しているのを突っ込んだ方が良いのだろうか。普通に会話が成立してる上に口にものを含んだ状態でも何を言っているのか理解している。

 

 

「ムゴ、モゴゴゴゴ」

「うむ。それは我等の発明の恩恵である」

 

 

 ビゴーンとペンダントのような首飾りが光を放つ。宇宙人が言うには翻訳機だそう。宇宙どころか銀河規模での言語も通訳可能だとか。ひみつ道具にこんなのがあった気がするようなしないような。

 翻訳機があるからこそ会話が成り立つらしい。言語として成していない言語でさえも翻訳するのだから高性能ってレベルじゃないと思う。

 会話をしていると自然に宇宙人に対する警戒心が薄れてきた。決して、食事で腹が満たされたとか飯が美味いとかで心を許すわけではない。決して。

 

 

「其方は最後の生き残り。野蛮な民族の中にいた嘗ての誇り高き者の志を継ぐ子供」

「?」

「かの盟約を交わした者が言うには何れ現れる驚異に対抗できる手段の器となり得ようとのこと。故に、我等は其方を保護し、見守る役目を担う」

 

 

 ごめん。何を言っているのかよくわからない。何だ、その主人公にありがちな設定は。

 宇宙人の名前はまだわからないが友好的な様子なのは間違いない。わかりやすくまとめると重要な存在だから保護してやるよ、的な?

 

 四本の腕であれこれと説明する宇宙人。ついでにデザートらしきものも出されてかなりの高待遇。食べ物を用意してくれた宇宙人も皆、同じ顔と体をしている。四本の腕は勿論、六個の目が好奇心を宿して俺を見ている。綺麗な目をしてやがる……!

 自分達を銀河一の科学者と言う。研究者でもあり、この宇宙を支える賢者の宇宙人とも言える存在だそうだ。種族名はあるそうだが独特な発音で理解はできなかった。素の発音でさえも理解できなかったのだから無理だという話だ。

 宇宙人である事にも驚いたが、今いる場所がなんと彼等の作った宇宙船だそうだ。驚きのあまりに廊下に飛び出して外の景色を見てしまうほど驚いた。

 

 スゲェェェェェ!! マジスゲェェェェェ!! ガガーリンの言う事も何となくわかる! 思わず星の色を見てあんな事を言いたくもなる!

 

 

「ここは東の宇宙の端っこ。嘗ての惑星プラントから大きく離れている。争いを望まぬ一部の一族の者が離反してここに逃げ込み、我等と盟約を交わした」

 

 

 眼下の星は綺麗なエメラルドグリーンに染まっている。地球の青い星とはまた違った美しさがある。

 隣に来た宇宙人が少し説明をしてくれる。この惑星は離反した一族の一部の人間? が隠れて暮らしていた場所だそうだ。普通と比べても小さい惑星なので探知も引っ掛かりにくく、宇宙人の助けを借りて大元の一族に見つからぬようにしているらしい。

 

 

「我等、科学の力を貸す。我等が盟友、我等を守る。利害関係は一致していた。盟友の子供が其方。希望の象徴と表現し、大切に育てていた」

 

 

 盟約の中にその子供を最優先に守る、といったものがあるらしい。その子供は俺を指すらしく、今回は保護する為に訪れたのだそう。

 少し待って欲しい。だったら俺は何なんだ? そんな大層な存在ではないと自覚しているし、何よりも子供ではないとわかっている。一体、何が起きているのだろうか。意味がわからんってレベルじゃない。これは果たして打ち明けてもいい内容なのだろうか。

 実は俺は俺じゃないのだ。この体は別の誰かで本当の俺は子供ではないんだ、と。

 

 ……駄目だ。この様子からしてこの宇宙人はこの子供を大事にしているのは言われずともわかる。もし真実をぶっちゃければ宇宙人に殺されるかもしれん。

 

 

「結果、盟友は其方に希望を託して逝った。皆、良い奴だった。野蛮なサイヤ人とは思えないほど穏やかで善良な者達であったのに」

「 」

 

 

 眼下の惑星を窓にへばりついて眺め、隠そうと決めた瞬間に宇宙人から衝撃の事実を聞かされた。サイヤ人だって? 馬鹿な。これは何のドッキリだ。

 

 

「我等の目的は宇宙の発展をコントロールすること。豊かな惑星には資源を絞らぬ生き方を授け、貧しき惑星には豊かになれる手を与える。

 だが、それを妨げる者がいる。我等とサイヤ人が討つと決めた一族だ。星を侵略し、暴虐の限りを尽くすフロスト一族を絶滅させる。正義の心を持つサイヤ人の伝説、超サイヤ人になるべく生まれた子を育てるのはその為だ」

「それが、俺?」

「然り。異界の魂を完成させた器に注ぎ込む事で人工的に超サイヤ人に覚醒させるのが最終目的也。こうして生きている事が何よりの成功と言えよう」

「 」

 

 

 今の発言、この宇宙人は知っている? 俺が本来のサイヤ人の子供ではない事を? 馬鹿な。何故わかったのだろうか。いや、よくよく考えればそもそもそれを前提としてこの体を作ったのか?

 

 

「我等は歓迎する。伝説と言われた超サイヤ人になるべく生まれた子を。我等は祝福しよう」

 

 

 意味のわからないまま宇宙人の四本の腕で俺を持ち上げる。まるで選ばれた子供を抱き上げて太陽に翳す民族のように他の宇宙人に見せられる。祈るように四本の俺に向けて膝を付いている姿は見ているだけで恐ろしいものだった。

 ふと、サイヤ人である。と言われて気付いたが今の俺の体、よく見れば尾があるではないか。何で気付かなかったのだろうか。

 

 よくわからぬまま、選ばれたサイヤ人として持ち上げられる事になった。どういうことなの……。

 

 

 

 

 

 

 





 あんまり最初はZ戦士とは絡まない方針。ナメック星編のラストぐらいに悟空と絡ませようかと。

 こうやって書くのは久し振りなので見苦しいのは勘弁してください。努力する次第です。

 感想、お待ちしております。






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第二話 初めの第一歩


 更新は不定期になるかも。一話一話の文字数を増やす事を考えたらこうなりました。

 更新は基本、夜にする予定です。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足を組み、座禅の状態で熟考に入る。一番に覚えた空を飛ぶ術、舞空術を使って宙に浮きながら腕を組んでいるが一向に快方に向かわない。

 

 ――超サイヤ人にどうやってなれるんだっけ?

 

 この一点に尽きない。サイヤ人であるなら目指すのはまず、超サイヤ人。ドラゴンボール世代の人間ならまずそう考えるであろう目的の為に必死に昔の記憶を引っ張り出して思い出そうとしているが芳しくない。

 最初の超サイヤ人である孫悟空は穏やかな心を持ち、激しい怒りによって目覚めたのが超サイヤ人であると言っていたのは覚えている。それ以前の条件というのがどうしても思い出せない。フリーザ戦の孫悟空は界王拳十倍に耐えられる戦闘力を持っていたのは間違いない。

 超サイヤ人になる前には界王拳二十倍なんてものを使ってフリーザを圧倒していたはず。それでもフリーザに劣る戦闘力だった気がする。超サイヤ人になれば圧倒している描写を考えれば界王拳二十倍と超サイヤ人の間の戦闘力にフリーザが入る形になるのではないだろうか。フルパワーになればどっこいどっこいだったような違うような。

 というかドラゴンボールのパワーバランスがインフレし過ぎて詳しい戦闘力なんてわからぬ。後々にはベジータが超サイヤ人のバーゲンセールと言うほど超サイヤ人が伝説である事が眉唾物になってるし。

 

 俺を保護した宇宙人、正確な発音はジッカ人。銀河一の科学力を持っていると言うその種族はフリーザ一味が持っている科学力を大きく超えている気がしてならない。

 サイヤ人育成ツールなる死に戻りマシーンとか恐ろしいものまで生み出す科学力もある。これに合わせ、ドラゴンボールの知識があれば超サイヤ人になんてあっという間だよ、と思っていた時期もありました。

 ジッカ人の感情抑制コントロールシステムで怒りの感情だけを増幅しても一時的に戦闘力が倍加するだけで超サイヤ人にはならん。激しい怒りがトリガーになるのはわかるのだが一向に超サイヤ人になる兆しがない。

 

 どちらかといえばインドア派の俺からすれば体を動かすのはあまり好きではないが、憧れのドラゴンボールの世界に入れた上にサイヤ人という種族になれたのだ。鍛えれば鍛えるほど面白いように強くなれる事が何よりも楽しく思える。

 ジッカ人のトレーニング器具を使って体を鍛える合間の休憩で座禅を組んで超サイヤ人の知識を引っ張り出しているのが今なのだが、後半のドラゴンボールは皆がポンポン超サイヤ人になるものだから超サイヤ人になれる条件だのは記憶にない。

 ジッカ人は気長に超サイヤ人に至るまで待つ、と言うがフロスト一族とかいう宇宙を荒らす種族がこちらに攻め入って来ないとは限らないので早くなれと本心では思っているはずだ。

 

 

「修行は捗っているかね」

「長老? お疲れ様です」

「ふむ。また色々と壊したものだ。すぐに修理させよう」

 

 

 ジッカ人特製トレーニングルームに入ってきたのは俺を保護した宇宙人、ジッカ人の長である長老。六つ目と四本の腕が特徴の宇宙人がゆったりとした歩調でこちらに歩み寄ってきた。舞空術座禅を解いて地面に足を付け、挨拶をする。

 幾分か身長が高くなったとはいえ、ジッカ人長老は今の自分が三人積み重ねた身長を持つ長老が相手だとどうしても首は上を向く。子供の頃は地味に首が痛かった。

 子供の孫悟空が一気に背が伸びた事があった事を考えるとサイヤ人は急成長する体質なのではないか。瀕死の状態から復帰すると戦闘力が一気に増加する体質もサイヤ人の特徴だがまだ知らないものもありそうだ。

 

 

「超サイヤ人にはなれたかな?」

「まだです。激しい怒りがきっかけであるのは間違いないのですがまだ足りない気がして」

 

 

 グッと拳を握って見詰めるが答えは出ない。ポンポンとなれる孫悟天にトランクスが羨ましく思う。超サイヤ人になれればフロスト一族とやらを駆逐できる可能性はグッと高くなるし、ジッカ人に借りを返す事もできる。

 異界の魂、ドラゴンボールを知る俺を引っ張ってサイヤ人の子供の体にぶち込んだのはいただけないが意外と高待遇なので文句は初めの内だけだった。べ、別に飯に釣られたわけじゃねーし。

 

 

「焦らずとも東の宇宙にいる間はフロスト一族は捕捉するのに時間が掛かる。焦らずにじっくりと力を溜めるのです」

「はぁ」

 

 

 優しい長老だが、内心は焦っているのではなかろうか。かなりフロスト一族を恐れているし。

 言われずとも超サイヤ人にはなるように努力はするがこうも停滞すると無駄に素の戦闘力を上げるだけではないか。パワーアップする超サイヤ人化を使えば強くなれるから鍛えて損する事はない。といいのだが。

 

 

「ところで前に提案した事は受け入れるか」

「サイヤ人の特性を生かして瀕死から復活するパワーアップですか?」

「然り。あれならば急激なパワーアップができよう。超サイヤ人の近道にもなろう」

 

 

 死に掛ける、というのがどうしても嫌だ。ドラゴンボールほど命を軽く見ている作品はないだろうと思うんだ。死んだらドラゴンボールで蘇らせれば良い。死に掛けたら仙豆を使えばあっという間に完治。大人になってこの命の重さの矛盾に気付けた。

 フリーザ一味のカプセルだかポッドかわからんあれも仙豆の一種であるのは間違いない。一度だけ使ったが医者いらずのトンデモアイテムだった。

 覚えていないが、子供のサイヤ人の家族が死んだ際にクレーターの惨状を生み出したのはこの体らしく、気というエネルギーが完全に枯渇していた状態だったらしい。治癒する為に治療ポッドに入ったのだと長老から聞いている。死に掛けていたとか笑えねぇ。

 

 言われてみれば孫悟空もベジータも孫悟飯もかなり死に掛けて復活している事が多い気がする。あれが超サイヤ人への道のりだとすれば、これほど嫌な道のりはない。

 死ねと言うか。死に掛けろと言うか。何とも嫌な修行方法だろうか。やるならこっそりとしてくれ。寝ている間とかに。

 

 

「後は戦う相手も大方見つけた。我等が施しを与えた先住民の中に一際強い力を持つ者が数名。我等へ恩を返す為なら其方の相手も喜んでする」

「それはありがたいお話で」

「サイヤ人は戦う度に強くなる。何よりの修行は実戦也。死なぬのであれば我等はいくらでも助けよう」

「ありがとうございます長老。できればすぐにでもお願いしたいのですが」

「承った。惑星間を渡る船は用意してある。付き人と共に向かうと良い」

「どうも……それともう一つの頼みの方は如何です?」

 

 

 ジッカ人と共に暮らした間に友好を深め、頼み事なら不可能でない限り何でも聞いてくれる関係になっているのであらゆる事なら叶えてくれる。

 ドラゴンボールの舞台となる地球、惑星ベジータ、ナメック星。ヤードラット人がいる星も存在するだろうと目星を付け、ジッカ人長老に捜索を頼んでいたがその結果がどうしても気になる。特に地球。孫悟空とかいるなら超サイヤ人のなり方を聞きたい。超サイヤ人3になれる唯一のサイヤ人だし。

 とは言ってもその後のカードダスとかでベジータとかトランクスが3になってると聞いた事があるので意外と誰でもなれるものかもしれない。GTにもなると超サイヤ人4なんてものがあるくらいだから。どちらにしても地球でZ戦士に会う事は良い経験になる。

 

 

「まずは惑星ベジータ。惑星プラントをサイヤ人が侵略した事で名が変わった星だ。今はフロスト一族の者に砕かれて存在しておらん」

「……そう、ですか」

「植民地とはいえ、サイヤ人の故郷。其方の家系もそこで生まれ落ちたのだから思うところはあるのだろう」

 

 

 言われた通り、思うところはある。寧ろあり過ぎて叫びたかったが何とか堪えた。

 フロスト一族って何なのかと思えばフリーザかよっ! コルド大王一家の事だったのかよっ、と叫びたくもなる。ドラゴンボールにそんな一族の名前があっただろうかと考えていた俺がアホみたいではないか。

 となれば映画に出ていたフリーザの兄、クウラもフロスト一族となるのか。フリーザの絶望感も凄まじいものだったが、クウラのメタル化した時の絶望感も半端ではなかったのはよく覚えている。超サイヤ人が出てきてからフリーザがかませ扱いにされていたが現状、最大の脅威なのは明らかだ。

 契約にフロスト一族滅亡に手を貸す、とは約束したがフリーザとかクウラを相手にするのか? 超サイヤ人になってもいないサイヤ人が? ハハッ、マジワロス。無理ゲーだろうが。コルド大王はトランクスの超サイヤ人お披露目のかませっぷりであんまり怖くないがメタルクウラだけは相手にしたくねぇ。孫悟空とベジータに任せるべきなんだ。そうしよう。

 

 

「悪の心に染まるサイヤ人はもう少ない。正義の心に染まるサイヤ人の生き残りは其方だけ。故に伝説に到れるのも最早其方だけ。破壊神の予言に一致するのもおそらくは」

「長老。お話の途中に申し訳ありませんが破壊神とは?」

「この宇宙の破壊を司る神。宇宙最強と言える崇高なる神ぞ。かの界王神ですらも破壊神に逆らえぬ対の存在と言われている」

「そのような存在が……」

 

 

 え。破壊神? 何それ? 状態だ。界王神が無能なのは周知の上だが破壊神なんて名前は今まで聞いた事がないのだが。もしやドラゴンボールの裏設定か何かなのだろうか? 宇宙は広いとは言うがあまりにも広すぎると思うんだが。

 ジッカの賢人と謳われる長老に知らぬものはナシ、と言うが本当に知らないものはないのだろうか。知識とか知恵が凄い。ドラゴンボールに界王神の事も知っているし。魔人ブウ編でようやく出てくるはずなのにフリーザが生きている今頃に出てきていいのか。

 

 

「破壊神は気紛れ。界王神とは違い、気に食わぬ事があればどんなものでも破壊してしまう」

 

 

 なんっつー迷惑な存在だ。子供かよ破壊神。

 

 

「その破壊神が何か? まさかとは思いますが破壊神もぶん殴れと言うのですか?」

「我等、死ぬ」

 

 

 短く簡潔にありがとうございます。若干似合わないキャラになったのは敢えて突っ込まんぞ。つまりは破壊神には手を出すな、って事か。どこにいるかもわからん破壊神をどないせーゆーねん。

 

 

「聞くところによると、北の界王の星は破壊神によって壊されたらしい。縮小、とも言うが」

「北の界王……」

 

 

 どの界王だよ。サイヤ人編とフリーザ編なら界王と聞けば界王拳を教えてくれた界王を思い出すのだが魔人ブウ編で界王神が出てきて東西南北の界王と界王神が出てきてどれがどれだかわからん。

 ただ界王、と言えばわかるのだが北の、と言われれば誰かわからなくなる。取り敢えず北の界王の件は後回しにしておく。

 

 

「原因は北の界王にかくれんぼで負けたから、だそうだ」

「子供かっ!」

 

 

 あまりのくだらなさで思わず口に出して突っ込む。突っ込んだ後に失礼な物言いをしたと片手で口を塞いだ。命を握られている立場だからあんまり失礼なの事は命取りになるかもしれないと今まで口調や態度に気を付けてきたというのに。

 フリーザに従うベジータの如く。反抗的ではなく互いに互いを尊重しているような関係ではあるが。

 

 

「よい。我等も同様の事は感じた。だが、破壊神の前でそれは言ってはならぬ。破壊神は気紛れ。機嫌が悪い時であれば壊される」

「よ、よくわかりました」

「決して、逆らうでないぞ」

「はい、長老」

 

 

 長老は言いたい事は全部言えたらしく、そのままトレーニングルームから退室した。残された俺は休憩もそろそろ終えるか、と準備体操をする。学生の朝に無理矢理参加させられていたラジオ体操の順番を真似ししながら。その間にも超サイヤ人の詳しい解説らしき解説がなかったかを必死で思い出す。

 超サイヤ人を超えた超サイヤ人だとかしか言ってねぇぞカカロットォ……先任者としてもう少し具体的な解説をだな。

 自分で辿り着けって事ですか。そうですか。理不尽への怒りで超サイヤ人化でもしちゃる! それぐらいの気合で修行をしてやる!

 

 第一歩に感謝の正拳突きの如く、拳の一発の正拳突きから修行を再開する事にした。目指すは超サイヤ人!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙時間で何週間か経過した。肉体の成長はもうストップしたらしく、身長が伸びるような事はもうなかった。今は筋肉を付けるべきか絞ってスピードを出せるようにするべきかと迷っている。

 超サイヤ人にはなれていないが、超サイヤ人については少しだけ思い出す事ができた。超サイヤ人2は魔人ブウ編だとスパークが走る描写が真の第二形態となるのだが、人造人間に勝つ為にベジータにトランクス、孫悟空がムキムキの超サイヤ人になった形態を超サイヤ人2と呼んでいた頃があった。

 ムキンクスなんてネーミングがある超サイヤ人第三形態、だったか? あれは使えないと孫悟空とベジータ、挙句には敵のセルが言っていたのを思い出した。超サイヤ人になったら第一形態を穏やかになるまで慣らせと言ってた描写も思い出した。

 

 シュッシュッと風を切る音を立てながらパンチを繰り出す。パンチのスピードも威力も桁違いに上がったな、としみじみに感じながらパンチングマシーンのような物体をボコボコに休みなく殴り続ける。

 あれ? いつの間にドラゴンボールからはじめの一歩になったんだ? 何かデンプシーロールみたいな技も体得できてるし。小刻みにパンチの威力を表す数値が出ては消えている。ジッカ人の基準だから地球で言えばどれほどの威力になるのかはわからない。

 あれ? 超サイヤ人を目指していたはずなのにいつの間にボクシングのベルトを獲得しようとしているんだ? 思考も黄金の右を名乗れるようなパンチを目指す、にすり替わっているし。ムキンクスを思い出した時の腹パンが原因か腹パンが悪いのか。

 

 

「――ぶはっ!」

 

 

 息継ぎなしでパンチを繰り出し続けているとこうなるわな。軽い酸欠状態に陥った。パンチングマシーンに抱き着くように崩れ落ちて肺に必死に空気を送り始める自分の肉体。

 ぜへっ、ぜへっとよくわからない嘔吐き方をしつつパンチングマシーンに背中を向けて寄り掛かる。汗もだくだくで軽い水溜りが床にできているせいで下履きが濡れてしまった。元々汗を出し過ぎたせいでびしょ濡れだからあまり気にもならんがちょっと気持ち悪い。

 

 ――記録は7741回。最大威力は231ヘレン。最小威力との誤差は0.224ヘレン。毎度ながらお見事です。

 

 パンチングマシーンの記録をしていたジッカ人の一人が結果を教えてくれ、褒めてくれる。だけどヘレンって単位はいくつなの? 地球の単位にするといくつぐらいになるの? わからんのだけはどうにかならんのか。

 参考資料って事で岩を砕ける威力が21ヘレンと聞いているがその十倍の威力はどうなのだ。腹パンしたら貫通して内臓ブシャーなんてできるレベルなのか?

 

 ――感知。最小の戦闘力は約120000。最大の戦闘力は130000。戦闘力のコントロールも素晴らしいものです。

 

 今の戦闘力は十三万ぐらいか。前よりは伸びたと思うんだが、サイヤ人の瀕死復活をしたからだろうか。一度だけそれをやってみたが、凄まじい伸び代を見せてくれた。簡単にパワーアップできて、しまった……。

 あれだけの努力は何だったんだと言いたくなるパワーアップ。これからの修行に瀕死復活を入れる事を強いられるではないか。早速長老にお願いしよう。

 

 急激にパワーアップした肉体の調子を確かめる意味合いを考えての修行だが、かなり良い感じに仕上がっている気がする。気がするだけで本当に気のせいだったら良かったのだが、記録をかなり更新したのを見ると完全にパワーアップしてる。

 どの程度動かせるかを確かめたが本気でボクシングの世界一、宇宙一を目指してもいいかも……いやいやちゃうちゃう。超サイヤ人。俺は超サイヤ人を目指してるの。忘れるな。

 

 

「すぅー、はぁー……よっし」

 

 

 体力もある程度回復したので汗だらけの上の服を全て脱ぎ、下履きも蹴り脱いでパン一になる。汗に濡れた体が外気に触れて体が震えた。

 少しだけ舞空術で浮くと気合を入れる。本気モードとか気功波爆発のやり方も何度もやって体得しているのでオーラを纏う事は普通にできる。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 ギリリッと歯を食いしばり、拳を固く握る。自分の内に眠る太陽のようなものに触れ、声を張り上げる。自分が爆発した。

 アホみたいな表現だが、内に眠る気が爆発して漏れ出した事でオーラが全身を包んでいた。オーラを出した途端に体に付着していた汗が蒸発する。簡易タオル扱いにしているがこれも練習なんだ。

 

 ――計測。戦闘力、約750000。素晴らしい。

 

 

「待て。今のこの状態が七十五万なのか?」

 

 

 ――そうです。全力であればその戦闘力が現状、最大になりますが。

 

 

 馬鹿な……あの絶望の戦闘力を超えた、だと……? まあ、その後に変身しまくってそれがプレリュードだったのに更に絶望するんだがそれは置いておこう。

 前に測った時は七十五万以下の確か、三十万かそこらだったはず。瀕死復活したらここまで簡単に戦闘力が上がるのか? マジサイヤ人パネェ。パワーバランスインフレ起こすのも頷けるわ。

 

 ここで少し思い出した。初ベジータ戦からナメック星に向かう途中で自分を追い詰める修行をして仙豆で回復していた。そこからベジータも真っ青の戦闘力アップが起きていた事を考えると、このパワーアップは別に不思議でも何ともないのか?

 ナメック星編で孫悟飯が凄まじいパワーアップをしている、というのも証明になる。寧ろ超サイヤ人にこのパワーアップ方法は不可欠なのかもしれない。

 死に掛けるのかぁ。意図的にそれをすると三途の川というか天国が見えるんだよなぁ。閻魔大王様の女バージョンらしき人物も時々見えるし。多分、あれは東の宇宙の閻魔大王様なのだろう。界王に界王神がいるように閻魔大王様も東西南北に存在するのだと思われる。

 死に掛けてるからってちょいちょいと手招きをするのは本当にやめていただきたい。

 

 にしても七十五万、七十五万か。初期フリーザなら勝てるだろうが最終形態フルパワーだとそれじゃ足りないんだよな。せめて超サイヤ人のパワーアップがなければ。その時の孫悟空の戦闘力は億超なんだっけ? こんな事ならファンブックとか読んどけばよかった。

 フリーザ一味が持つスカウターはポンコツだから多分、ジッカ人特製の戦闘力測定器がないと超サイヤ人の正確な戦闘力は測れない。孫悟空でも連れて来れればいいのだが今がドラゴンボールという作品のどの時系列に当たるのかわからないから下手に連れるわけにもいかない。

 地球の正確な位置はわかっていても移動手段が足りないせいで赴く事もできない。例え、瞬間移動を覚えていたとしても孫悟空の気がわからないのでは宝の持ち腐れ。故に詰んでる。

 

 

 ――お疲れ様です。本日のプログラムはこれにて完遂です。これからどうなさいますか。

 

「座学。長老に呼び出されてる。長老は何処に?」

 

 ――お待ちを。

 

 

 気合で汗を吹っ飛ばした後はトレーニングルーム内に用意された新しい服を身に纏う。ベジータが着ていたようなピチピチのボディスーツじゃないのが幸いした。あれ、股間が盛り上がるから初めて着た時はすぐに嫌いになったのはよーく覚えている。

 こんな感じ、あんな感じ、とジッカ人にワガママを言ってスウェットに似た服を作ってもらった。科学だけではなくファッションも超一流でござった。マジ有能な種族。ドラゴンボール本編で出番があっていいレベル。

 スウェットパンツを履き、スウェットパーカーを着る。完全に実家の日常の服装である。春休みに母親から愚痴を言われたのが遠い記憶だ。

 

 

 ――確認しました。書庫におられます。

 

「わかった。ありがとう」

 

 

 グッと親指を立て、感謝の意を見せる。四本の腕の片手に当たる二本の腕を俺と同じようにすると、中々に様になってるサムズアップを見せてくれた。ノリがいいなぁ。コイツ大好き。

 似たり寄ったりの姿で誰が誰かわからんが多分、モニタリングしてくれているこのジッカ人はずっと俺の修行を見てくれてるジッカ人だと思う。何となくの雰囲気でわかる……といいんだがマジで。これで間違えていたら恥ずかしいってレベルじゃない。

 それなりにジッカ人の長老以外とは友好的な仲は築けているはず。こっちはそう思っているがあっちはどうなのだろうか。少しだけ不安になった。

 

 スウェットパンツのポケットに手を突っ込み、舞空術で浮きながらジッカ人の宇宙船の通路を飛ぶ。大丈夫大丈夫。ジッカ人の身長は高いから寧ろ目線が合って好都合だって。

 ポケットから片手を出して挨拶をすれば気楽に相手も挨拶を返してくれる。二本の腕をヒラヒラしてくれるのだ。何となく愛嬌が沸く。

 

 

「エデゴゲゲ」

「あー、エスペランサ。ゴコテレベ」

「エベレ」

 

 

 途中、ジッカ人の言語で話し掛けてくる者もいるが長老から座学で教わったからか、返事を返せるまでには話す事ができるようになった。ぶっちゃけ英語よりも難しいから修行の大半の時間を使っている気がする。トレーニングルームを使う時は翻訳機は使ってくれるが普通のジッカ人相手だと会話も成り立たんから苦労したもんだ。

 まあ、色々とドラゴンボールの世界観の裏側が見れたのでいいが。フロスト一族が今、どんな感じやらとか今の宇宙の情勢とか。バカンスに行くならこの星、だとか教えてくれる。見た目が恐ろしいが付き合ってみると付き合い易い宇宙人はそうそういないと思う。

 仲良くなるとトレーニングルームのマシーンの整備を真面目にするようになったり、強化とか研究が捗ってパワーアップが容易になるのでできるだけ欠かさずに交流はしている。何だか育成ゲームのようで微妙な気分になった。

 超サイヤ人への育成と考えれば別に変な事でもない。

 

 

「……そろそろ人間みたいな種族に会いたいわー」

 

 

 別にジッカ人に文句はない。だがエイリアンみたいな見た目の種族ばっかりじゃなくて完全に人型の宇宙人の種族に会いたいのだ。ナメック星人ならギリギリ許容範囲。

 色が肌色じゃなくてもエロ同人誌とかでモンスター娘相手に抜いた事があるからよっぽどキモイ色じゃなければオールオーケー。ヤるとなるとまた別問題なんだが。中世が舞台の性奴隷的なのも宇宙には存在するらしいができたらお目にかかりたくないなぁ。

 プレデターみたいな奴とか触手を持った美女とか出てきたらどうしよう。完全に逆レイプされてまうがな。

 

 あー、やめやめ。嫌な想像が次々と出てくる前にさっさと長老の所に行こう。今日はサイヤ人の歴史を教えてもらえるから真面目に座学を受けるとしますか。

 

 

「エンデバーエンデバー」

 

 

 下降気味な気分を変える為にジッカ人に伝わる元気が出る童話を歌う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 





 強くなるための第一歩。流されて超サイヤ人を目指す事になり、修行を始めるの巻。

 戦闘力のインフレはドラゴンボールではよくある事なのであんまり気にしなくても大丈夫だと思います。最終的には超サイヤ人4ゴジータの次に位置する最強になる? ハハッ、マジワロス。最強ではないが最高にさせます。




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第三話 流れる歴史


 三話目にして既に戦闘力がインフレしている件について。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手合わせ、ありがとうございました」

 

 

 片手を片手で包み込んで中国拳法の挨拶みたいにしてから礼をする。地球の人間と同じようにジッカ人にもこのような礼儀がある事に驚いた。この礼はジッカ人の挨拶の中でも最上位に位置する礼法だそうで、ジッカ人を知る者からすれば最大限の敬意を払っている事になるらしい。

 こっちは無傷。あっちはボロボロ。敬意も何もへったくれもあったもんじゃないが一応礼はしておく。

 見た目が完全に宇宙人。触覚があるし腕に至っては十二本もあるタコみたいな種族の中で最も強い者と訓練、手合わせをしたのだが完勝を修める事ができた。手数が多くて厄介だったが流石はサイヤ人のボディ。ちょっと拳を交えればすぐに対応できるようになった。後は見ていて可哀想になるほどボコボコにして戦いは終わった。

 戦う度に、強くなる。というのがサイヤ人のコンセプトだが些か強くなるの幅が大きすぎやせんかね?

 

 

「見事。これが戦闘民族サイヤ人か。長老殿。よくこんな逸材を見つけましたな」

「我等の希望の星。故に経験を積ませたい」

 

 

 一際でかい互いの種族の長。ジッカ人の長老はでかすぎて首がもげるし、タコ宇宙人の長なんか何というかタコが必死に背を伸ばして立っている感じで細長すぎて気持ち悪いんだが。ギャグ漫画に出る宇宙人のイメージがピッタリだぞコイツ。

 なのにサイヤ人よりは劣るものの、東の宇宙では屈指の戦士一族だったりする。確かにあの手数は厄介だった。サイヤ人でなければ死んでいたと言えるレベル。

 

 一通りの体を鍛える修行を終えると、長老はツテとかコネをフル動員して戦う相手を大勢用意した。今回のタコ宇宙人で十八戦目。

 効率を目指すジッカ人は戦いを重ねる度に均等に経験を積めるように決して同じタイプの相手と被らぬように相手を選んでいるのだ。一撃が重いタイプ、数で攻めるタイプ、速さで攻めるタイプ、頑丈なタイプとタイプが被っていないのが凄いと思う。

 一番厄介なのが頑丈な動かないタイプだった。デンプシーロールでバリアーを少しずつ砕く様は楽しいものだったが拳が裂けた。もっと言えば拳の骨が飛び出た。痛くて泣いた。バリアーを砕き切った後に拳が裂けたから良かったものの、殴ってる途中で裂けた場合はどうしようと本気で悩んだのも覚えている。

 

 

「我等は次の星へ行こう。しかし、空腹であろう。この者にご馳走を頼む」

「ハッ。ではサイヤ人殿。こちらへ。我が種族の美味なる食事をご用意しましょうぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 それはそうと、腹ごしらえだ。どんな美味い物が出るか楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何というか、珍味でした」

「そうであろう。オクト一族の馳走は珍味であるが故に、美味である物も多い。中には細胞を活性させる薬味の食事もある」

「……それで妙に苦い珍味もあったんですね。おえっ」

「大半は美味とは言えんが、よくぞ食べ切った。驚嘆に値する」

 

 

 長老が褒めてくれるが絶対に確信犯だな。マズイ事を知った上で食わせたな長老このヤロウ。おかげでリバースしそうなくらい胃がヤベーぞこのヤロウ。

 ゲロらないように口を手で覆いながら長老と小型宇宙船に乗っている。ジッカ人の要塞みたいな宇宙船と違ってスターウォーズの戦闘機みたいに小さく、速く飛べる乗り物だが長老がデカ過ぎて宇宙船も少し大き目なんだよな。ベジータとかナッパのボール型のポッドみたいな位置付けなのだがデカ過ぎやせんかね?

 

 

「オクト一族の目的は達成できた。其方の体も浄化されたであろう」

 

 

 その言い方やめれ。まるで汚い腐った肉体みたいな言い方をしおってからに。これでも人間なら美しい肉体って言われるはずのボディなんだぞ。ムッキムッキやぞ!

 

 

「言われてみると確かにそんな気は」

「そうであろう。オクト一族は戦士一族と言われているが同時に戦士の肉体を育てる術を心得ておる。サイヤ人の特質を生かせるだけの知識と力もある」

「だからオクト一族の所へ? かなりあちらの長とは親しい様子でしたが」

「うむ。言うなれば、我は自然科学寄り。オクトの長は応用科学の医学寄りだ。地球、と呼ばれる星に存在する種類を挙げれば其方もわかるであろう」

「何となくは」

 

 

 すいません。あんまりわかりません。医学なら何となくわかるが自然科学って何ぞ? と言いたい。機械科学とかそんなんじゃないの?

 

 

「珍味であろうと、オクト一族の食事は将来の其方を作る。強くなりたければオクトに頼るのも良かろう」

「心に留めておきます」

 

 

 二度とゴメンだあんなクソマズイ飯。頼まれたら折れるかもしれんが自分から進んでは絶対にせんぞ。

 

 ジッカ人、宇宙の叡智と言われる種族のトップである長老が一人で出歩くのは駄目だって事で普通は護衛の何人かを付ける。それはジッカ人のエリートであったり、他種族の強者であったりする。

 長老曰く、最強の護衛がいるから心配はいらないとのこと。まあ、俺なんだけどね。修行してメキメキ力を付けたもんだからフロスト一族以外には負けるはずはないと信頼を寄せられているのだろうと思う。あんまり期待されても困るが、長老との会話はクセになるので苦痛にはならん。寧ろ二人旅で楽しい。

 自動操縦、オートパイロット機能まである宇宙船の小さな稼動音を打ち消すように会話を続ける俺達。次に戦う宇宙人が誰か、だとか行く惑星の名産物は何か、とか適当な世間話を。

 

 

「其方、地球へは行かぬのか」

「行きたいって気持ちはありますけど長老の頼みを聞いてから行こうとは考えてます」

「ふむ」

 

 

 遥かに高い位置にある長老の頭を見ると、人間が悩むような顎に触れる仕草を見せる。これからの予定をどうするか、俺が地球に行けるだけの時間を挟めるかを計算しているのだろうと仮定。何だかんだで俺の事情を優先してくれる長老マジ好き。

 心の広い宇宙人だなぁ。ドラゴンボールの世界の親父みたいな立場になるんだろうか?

 

 

「少しだけ時間を作ろう。ずっと鍛えていては心も休まらぬ」

「感謝します長老。俺の都合ばかり優先していただいて」

「構わぬ。我等が盟友の息子だ。守るとも誓った。できる限り好きに生きさせよう。我等と違い、サイヤ人は短命である故に」

「……サイヤ人って普通よりは長命では? あの、長老。何年生きてるんです?」

「ジッカの科学力をもってすれば寿命を延ばす事は容易い。我等の同盟一族の力も合わされば千年単位で寿命を延ばす事も可能だ。我等は元々、宇宙の中でも最も長命と謳われる種族なのだ。それと合わせれば、万は軽く越えるであろう」

 

 

 本物の化け物だった。長生きしているんだろうな、とは前から思っていたがまさかの答えに言葉を失った。

 おいおいおいおいよー。その答え方からすると長老は最低でも一万歳ぐらいなんか。どんだけ長生きしているんだよ。下手したら界王神よりも生きてないか? 長命種の中でも最高の数値じゃないか? 吸血鬼の知ってるロリババアだと六百ぐらいなのに。

 

 

「我等、我は見てきた。宇宙の移ろう歴史を。様々な種族が歩んだ軌跡を。その中にサイヤ人の伝説が含まれていた」

「だからジッカ人なのにサイヤ人の事をそんなに知っておられるのですか」

「然り。其方の言う、惑星ベジータもナメック星も一度だけ訪れた事がある。尤も、惑星ベジータは惑星プラントであった頃に、だが。ツフル人に知恵と技術を与えたがサイヤ人に滅ぼされてしまったが」

「ツフル人、ですか」

「元々サイヤ人はツフル人に奴隷として扱われていた。ツフル人からすれば外部から来た者を受け入れ、施しをしただけだが実態は奴隷と変わらぬ。サイヤ人がツフル人を滅ぼしたのにも納得がいくが、奴隷という枠で考えればツフル人の待遇は破格であった。どちらが悪いというのは決めきれん事件であった」

「今でもサイヤ人が奴隷である事は変わりないのでは? フロスト一族のフリーザに生き残りの王子と何名かが従っていると聞きましたが」

 

 

 ベジータ、ナッパ、ラディッツの事だ。ドラゴンボールを知っていればこの三人とフリーザは切っても切れない関係である事も同時に知る事になる。

 映画に孫悟空そっくりのターレスや伝説の超サイヤ人と名高いブロリーもサイヤ人だがあれはまた別だ。ブロリーの父のパラガスも。

 フロスト一族がフリーザであると知った時から色々とフリーザに関する情報をちょいちょいと集めておいた。ジッカ人と同盟関係にある種族からの情報や、俺が覚えているフリーザ一味の情報を合わせて考えてみると色々と面白い事がわかった。

 フリーザ、やっぱり宇宙で最も恐れられた帝王と言われるだけはあるわ。フリーザが出張る事はあまりないが、部下のギニュー特戦隊が超恐れられてる。

 ギニュー特戦隊の評判は恐ろしいほど広まってるぞ。下手したらフリーザよりも。為すすべもなく侵略されている惑星が多い、とジッカ人から聞いた事があるからまずギニュー特戦隊の噂は間違いないはず。同時に、ギニュー特戦隊と孫悟空達がナメック星で戦う事も決まったとも言える。

 更に言えば、まだドラゴンボールのナメック星編は始まっていない事もわかった。もし始まっていたらギニュー特戦隊はフリーザに呼び出されてナメック星に向かっているはずだから。

 

 

「然り。確かにベジータ王の息子がフリーザの下にいる事は確認している」

「下級戦士の二人も確認していると聞きましたが。結構、サイヤ人の生き残りがいるのでは?」

「可能性は高いだろう」

 

 

 もう知っているもの。

 

 

「もしかすると生き残りの中に超サイヤ人がおるかもしれぬな。時期的にも以前の超サイヤ人から千年が経過しておる」

 

 

 寧ろバーゲンセールです。あのベジータがまるで超サイヤ人のバーゲンセールだなと絶句するくらいですから。伝説もへったくれもなくなるくらい超サイヤ人浸透しますから。

 

 

「え。長老、以前の超サイヤ人を見た事があるので?」

「でなければ、超サイヤ人の伝説を知る事もなかった。隠された伝説も」

「……?」

 

 

 隠された伝説? まだサイヤ人に秘密があるのか? まあ、色々と謎が多いもんな。GTも見たけど裏設定に当たる伝説とかがあるのだろうか。

 長老の年齢も驚いたがサイヤ人に謎が多い事も知って更に驚いた。うーむ。ドラゴンボールの裏舞台とも言えるところで動いている俺からするとその裏設定が絡みそうで怖いわ。下手したらブロリー以上の化け物サイヤ人が現れるんじゃないだろうか。考えただけで恐ろしい。

 それよりも超サイヤ人にやけに詳しいかと思いきや実物を見ていたとは。どんな気持ちで金髪になった変身を見ていたのだろうか。超サイヤ人3とか特に。実際になれていたかはわからないが。

 

 超サイヤ人以前にそろそろアレも考えなければならんな……そうっ、ドラゴンボールと言えばかめはめ波。つまりは必殺技だ! 別にかめはめ波でもいいんだが実際に目にするまで封印は決定。亀仙流を修めてもない俺が使うと何か怒りそう。

 よくよく考えるとドラゴンボールのキャラクターって皆、ゲロビ使うよな。かめはめ波を筆頭に。デスボールみたいにシンプルにできないものか。フリーザの技は、技だけは好きなんだが。特にデスビーム。

 

 

「焦らずとも、其方は何れ超サイヤ人に至る。そんな確信を我は持っている。気楽にやるといい」

「頑張ります」

 

 

 激励を最後に、会話は終わる。いつもの流れだが長老はそれほど超サイヤ人に期待してるわけだ。精進しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジッカ人の宇宙船が慌ただしくなる。頻りに報告が飛び交っては大慌ての様子。そんな雰囲気に押されて俺も慌ただしくさせられる。

 最強の布、最後にはボロボロになる法則が定番のドラゴンボールの服装に防具(プロテクター)。下半身の布しか残らない孫悟空の道着と同じように超特製の服を用意され、着替えているが着にくいから時間が掛かる。

 

  フロスト一族のフリーザが動いた。

 

 この情報が届いた瞬間、宇宙は大慌てになり、大方の修行を終えて大幅にパワーアップした俺が駆り出される事になった。フリーザが向かったと思われる星への移動手段も用意され、戦闘服も用意された。万全のサポートがありがたさで身に染みるが大袈裟過ぎる気がしてならない。

 フリーザが動いたという事はナメック星編に入ってるわけか。いや、まだナメック星編じゃなくて本編では語られなかったフリーザの動向を追うだけなのかもしれない。

 どちらにしても、いよいよフリーザと戦う時が来たのか。よりにもよって地球へ行ける休暇が始まる前日に。おのれフリーザ。

 

 

「ゴギガ。ボベンルイ」

「ガガギゴ。ベサツーイ」

 

 

 フリーザの現在地の再確認。ギニュー特戦隊も確認。との報告。やはりナメック星にいるのだろうか。フリーザ一味は。

 手間取っていた着替えも済ませ、視界の邪魔をする長い前の髪の毛をヘアバンドで纏める。これで準備完了、とジッカ人の言語で報告される内容を聞く。総司令である長老は腕を組んで時折指示を出しては指揮を取っている。

 

 

「準備は良いか」

「いつでも。俺はフリーザを倒せばいいのですね」

「然り。可能であればフロスト一族の血を継ぐ者の情報を聞き出すのだ」

「はい」

「船は準備できている。目的地に座標は設定し、自動でその座標に向かうであろう。必ず生きて戻れ」

「わかりました。長老。行ってまいります」

 

 

 少し頭を下げると、浮いて待機している宇宙船に向かう。移動をするにしても生活するにしても舞空術使いっぱだからどうも視線の高い生活に慣れてしまうんだよな。高所恐怖症の反対、低所恐怖症にでもなっている気分だ。

 舞空術を完全にマスターしているからか、気の使い方は自信がある。技もいくつか借りたし、作った。どんどん上がる戦闘力に見合った技を作ろうとしていると自然とイメージができるというか……ベジータタイプなのか俺は。かめはめ波一筋の孫悟空に尊敬の意を抱いたわ。

 

 ドラゴンボールにおける強さの定義。ある者は戦闘力と呼び、ある者は気と呼ぶ。それを上げていると様々な“存在”とも言える気が感じられるようになった。集中すれば遠く離れた気も感じ取れる事から、孫悟空の瞬間移動の原理に通じるものがあるらしい。

 最初は気の大きさ云々よりも清い気、汚い気がわかるようになった。邪気、悪役のキャラが持っていた気が汚い気に分類されると考えている。

 何だか昔に見たインチキ中国拳法にあった気とは万物に通じるというトンデモ理論が真実じゃないかと思えてきたんだが。万物に通じるからこそ、他人の持つ気を感知できるのではないかとも考えたがドラゴンボールだと怒りで気が上昇するなんて事もあるから変に考えない方がいいんだろうと結論を付けた。

 

 

「エレセ。ハガボイクジュ」

「うむ。では発進」

 

 

 宇宙船を見つけ、開いているドアから入った瞬間にアナウンスが聞こえた。誰かと、長老の声だとわかった。だが内容が聞き流せる内容ではない。

 

 

「長老、俺はまだ――」

 

 

 戦闘服に付けてある通信機に手を当て、長老に話し掛けようとした途端に体がスライドした。浮いていた体が慣性の法則に従って後ろへ生き、宇宙船内部の壁に激突したわけだ。いきなり宇宙船を発進させれば普通はそうなる。

 床に足が着いていない。椅子に座ってベルトも締めないとなると吹っ飛ばされるのはわかっているはずなのに長老は問答無用で宇宙船を発進させた。切羽詰っているからしょうがないと思いたいが凄まじいGのせいでそうも思っていられなくなった。

 

 

「――ぼえっぽ!」

 

 

 気を少しだけ解放して体を強化すると宇宙船の飛ぶスピードに合わせて飛行を続ける。その矢先に飛び過ぎて前のコクピットに繋がるドアに頭を強打した。当たってから開くが、頭が痛くて悶絶する。

 長老が一緒の時はこんな事はなかったのに。長老の命令だから仕方がなく、なのか? ええ?

 

 宇宙船のスピードも落ち着き、内部で悶える俺は凹んだ壁にドアはどうなるのだろうかと不安になっていた。宇宙船はかなり気密に、緻密に空気が漏れぬようにする事を第一として航行に問題はないのだろうか。ちょっと壊れただけで大惨事に繋がると脅えている俺だとどうしても不安になるのだ。

 ジッカ人なら大丈夫。ジッカ人の科学力は宇宙一。うん。不安がなくなった。

 自己暗示を終え、コクピットに頭を抱えながら入る。宇宙人の技術の癖して人間の作った宇宙船のコクピットに似ている点は素直にありがたいと思う。言語は読めない事はないが、ジッカ人の四本の腕がなければ操作できない仕様だと詰んでた。

 

 

「長老……恨みますよ」

「時間がない。許せ」

 

 

 いけしゃあしゃあと……でも許してしまうのは恩を感じているからだろうか。どうにも長老だけは弱い。洗脳でもされてるんじゃないかレベルで。されてないよね?

 

 

「其方はこれよりナメック星へ向かってもらう」

「はっ、ナメック星ですか?」

「ドラゴンボールを持つ種族。作れる種族である為、我等は交流がある。ナメック星より救援信号が発せられ、フリーザがドラゴンボールを求めている事がわかった」

 

 

 ナメック星編は確定か。ナメック星人と交流があるって、どんだけジッカ人の交友関係は広いんだ。ドラゴンボールの事も知っているし。

 長老によれば、今までドラゴンボールを隠してきた事を知られたのが痛いそうだ。科学でも証明できない願いを叶える万物の存在を危惧してナメック星の異変には気を配っていたらしい。ナメック星を救う事とフリーザが現れた事でちょうどいい、と俺に出撃命令を出した。フリーザ倒すついでに聞こえてならん。

 

 

「ナメック星人ともコンタクトを取れ。それが可能であれば」

「やる事は山積みですね」

「其方ならば可能であろう?」

 

 

 期待されてます事で。時折、ジッカ人からの報告を聞くわけだがナメック星までは最短で地球時間で十二時間ほど必要になるらしい。暇になるわぁ……。

 

 

 

 

 





 ジッカ人長老とオクト一族長老の科学云々は宇宙の未知科学と考えてください。適当に書いただけです。

 フリーザ登場。オリ主も言うようにフリーザは好きです。特に技が。小学生の時はフリーザ○ねだとか思ってたけど今見直せば魅力的なキャラ。流石はラスボス枠のフリーザ様やで。





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第四話 憧れの存在


 拍子抜けってレベルじゃねーぞ!

 ちょいと原作と違う所があります。遂にヒーロー参上。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく生の超サイヤ人が見れるんか、と内心ワクワクしている。戦闘力は上がるものの、超サイヤ人には覚醒できない現状にやっと打破できる状況がやってきた。

 それよりも生の孫悟空だ孫悟空! 小学生の憧れの存在に生で会えるのはドキドキが止まらん! ゲームだとかで超サイヤ人に変身して戦うのは何度も見たが生は流石に誰も経験していないだろう。ワクワクし過ぎて心臓が破裂しそうだ。

 気功波を放つ独特な音を出しながら掌にエネルギーの塊が出たり消えたりする。ブロリーのような緑色が格好良いと感じるが何故だか俺は赤だ。十倍かめはめ波の色にも似た真紅の色と言えばいいか。エネルギー波を撃てばもれなく全てが赤色のエネルギーになる。かめはめ波でさえも。

 別に赤が嫌いなわけではない。だがドラゴンボールを知っている身からすると青か黄色だろうと突っ込みたいところだ。

 

 宇宙船に搭載された座標3Dマップを見れば、ジッカ人の宇宙船からナメック星までの道のりはようやく半分を切ったところだった。技の開発に時間を割いてもそれでもなお、まだ時間が掛かるようだ。

 確か、孫悟空の使ったサイヤ人ポッドを改造したので地球からナメック星までが六日ほどだからまだ早いのだろう。ジッカ人の知恵を駆使して造られた宇宙船だから当然なのだろうが動力は何なのだろうか。ポッドにしても地球からナメック星までの距離を六日で行けるのだから生半可なエンジンではないはず。

 ブラックホールエンジン? ミノフスキードライブ? 絶対架空作品に使われるトンデモエンジンであるのは間違いない。今度、長老に聞いてみよう。

 

 それにしても戦闘服なんだが一言で言うと……何だろうか。Z戦士が着るような感じじゃない感じ。機能美ではなく見た目を重視している感じがある。ロングコートとか動きにくいだろ。

 浮いて全身を確かめてみるが動かしにくそうに見える。特殊素材でできているから柔軟性は抜群なのだが、こんなにも着丈が長いのか。下手したら地面にくっつくぞ。最低でも膝下だろう。

 ジッカ人、ファッションセンスが良いのか悪いのかわからない。スウェット一式を完璧に再現できる力はあるんだがジッカ人自身のファッションセンスはどうも……。ドラゴンボールだから仕方がないと思わねばならんのか。Z戦士達は道着だとか戦闘服を使っているがよく考えたらドラゴンボールの敵は全裸か半裸だわ。破けたらZ戦士も。裸族?

 もうよそう。これ以上考えるだけ不毛だ。

 

 念の為に孫悟空がフリーザと戦わない場合に備えてフリーザの事を思い出してみよう。フリーザと聞けばまず何が浮かぶか、から始まる。

 第一形態の戦闘力は当時の絶望、五十三万。宇宙の帝王に相応しい冷酷さと強さを持っていた。その五十三万も跳ね上がって最終形態に至るまでに計三回の変身を残している。途中、圧倒する描写を描いた上で変身して絶望を与えるのも凄く印象に残っている。

 超パワーアップしたピッコロさんがボコボコにされるせいでフリーザの強さがハッキリと理解できる。これも鳥山明大先生の表現の上手さによるもの、とも言えるが当時のフリーザはトラウマの塊とも言える存在なのだ。俺の中では。

 おそらく、最終形態のツルツルした頭のフリーザは戦闘力が億超をしているだろう。超サイヤ人孫悟空が億超をしている、と聞いた事があるから互角である事はほぼ間違いないだろう。下手すれば最終形態フルパワーは超サイヤ人よりも少し上、という事もありえる。戦うとなれば気を引き締めなければならない。

 まあ、超サイヤ人に覚醒した孫悟空と共同戦線を張れば負ける事はないだろうが殺さぬように手加減をする必要もある。情報を聞き出すのに二手間は必要になりそうだ。

 ……ここまで考えると、結構ギリギリだったんだな。ナメック星編。クリリンが殺されて超サイヤ人になれなければフリーザに殺されている未来もありえたのだから。ゲームのIFストーリーにフリーザが宇宙征服を成功させるなんて事もあったし。

 

 

「……うあだぁ」

 

 

 頭を抱えるしかなかった。フリーザってある意味ラスボスじゃねーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拍子抜け、とはこの事を言うのだろう。

 

 

「こちらジッカ776489。ナメック星に到着。だが既にナメック星は消滅していた。消滅したナメック星から脱出したであろう者の回収をした。どうやらサイヤ人のようだ。致命傷を負っているので治療ポッドに入れてそちらに帰還する」

 

 

 ジッカ人の本拠地に連絡を入れると、宇宙船に備え付けられた治療ポッドの中に浮かぶ一人の男を見る。目を閉じ、満身傷痍の状態の……孫悟空を。

 

 

「まさか少し歴史が変わるとはね」

 

 

 ナメック星に到着した時に見た景色は崩壊するナメック星だった。崩壊した後ではなく、真っ最中。今まさに崩れんとするナメック星が宇宙船の外に広がっていたのだ。

 最初は最終決戦の時期かー、と他人事のように思っていた。崩壊するナメック星でフリーザと超サイヤ人孫悟空がぶつかり合っているのだろうなとも。ナメック星のドラゴンボールを使ってナメック星人が地球に転移した際に孫悟空が残ってフリーザと決着を付けると言ったシーンを思い出す。あの後の展開がナメック星で繰り広げられているはずだと思う。

 できたらフリーザとの決戦を見たかった。だけどあんなに崩壊しているナメック星を見るとどうしても乗り込む気にはならなかった。

 孫悟空に任せればいいだろう、と帰還しようとした矢先にナメック星が崩壊した。ビッグバンと間違うような爆発でナメック星が消滅したのを目の当たりにする。ナメック星の破片が宇宙船を叩き、衝撃が船内を襲った。凄まじい衝撃で体が浮いたが、元々舞空術で浮いていたからあんまり変わらなかったが。

 

 その後、多分生きているであろうフリーザの回収をしようとしたら孫悟空を見つけた。脱出できなかった孫悟空が超サイヤ人のオーラと同じ色したバリアーに包まれて宇宙空間を漂っていたのだ。思わずあれ、と首を傾げる事になった。

 ドラゴンボールの歴史ではフリーザを倒した後の孫悟空はギニュー特戦隊のポッドを使ってナメック星を脱出したはずだがはて? 限界以上に力を使った孫悟空を放置していては何れ気が枯渇して酸欠になって死ぬだろう、と考えてフリーザの回収を後回しにして孫悟空を回収した。

 フリーザは放置かぁ。メカフリーザになって地球に来る事になるのだろうが、そのフリーザもトランクスにメッタ斬りになるんだろうな。もうフリーザは放置でいいんじゃないかな。地球に行けばメカフリーザにコルド大王がいるからそのタイミングで尋問をしよう。うん。決してめんどくさくなったわけじゃない。

 

 

「しっかし変な髪型してるなぁ、孫悟空」

 

 

 ツンツンとした髪型。重力に逆らう髪の毛の仕組みを知りたくなるが超サイヤ人も似たようなものだから敢えて突っ込まんぞもう。

 孫悟空の状態はポッドに備えられているバイタルで確認はできるから逐一確認を怠らないようにしておこう。ここで死なれると人造人間編の改変未来よりもヤバい未来になってしまう。どんな最悪の結末になるだろうか。想像もしたくない。

 治療をした後は孫悟空をヤードラット星に送る必要も出てくる。瞬間移動を覚えさせなければならない。瞬間移動がなければこの先の孫悟空の戦いが一気に不利になる事は目に見えているし。ヤードラットの連中は知らない仲でもないしな。ついでに他の技も教えてもらおう。

 まあ、取り敢えずナメック星にはもう用はないから離れてしまうか。生命探知機に戦闘力探知機、俺の感知能力でもフリーザは引っ掛からないし。

 

 

「こちらジッカ……めんど。長老。これより超航行モードに入ります。フリーザは見つかりませんでした。期待に応えられずに申し訳ございません」

 

 

 うーむ。今からやる事が増えそうだ。そんな思いと共に、宇宙船のスイッチを押してワープするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……う、うーむ。他人から見たら俺もあんな感じなのだろうか。

 

 

「バクバクバクバクムシャムシャムシャモグモグモグ!」

「……あ、あー。悪いんだけど追加してくれ。まだまだ食べそうだ」

 

 

 戸惑うジッカ人だが、長老に目配せする。長老が首を縦に振ると応えるように新たな食事を用意しに部屋の外に消える。食事を消している原因である張本人は俺達の心情を知らずに暴飲暴食を続けている。生で見るとマジックにしか見えんなコレ。

 生の孫悟空に会えた事を光栄に思うがエンゲル係数がマッハな食べっぷりだな。よく奥さんのチチ、サイヤ人一家を養えたな。孫悟空、孫悟飯、孫悟天。大食らいが三人もいる事に戦慄するが俺も似たようなモンだしねぇ。人のふり見て我がふり直せ、とはこの事だろう。

 

 

「かーっ! うめぇなこれ!」

「そ、それは何より。よければこれも食べます?」

「いいんか!?」

 

 

 嬉しそうに満面の笑みを浮かべる孫悟空。彼の前には大量に積み重ねられた皿、皿、皿。食い散らかした後にしか見えないその光景は俺どころか長老ですらも引く感じになってる。

 長老に顔を向け、ちょいと孫悟空に指を向けて、それから自分に指を向けて首を傾ける。この食べっぷり、俺とおんなじですかね、と。同じサイヤ人だから食べっぷりも同じではないかと考えたのだが長老はどう思っているのだろうか。

 

 

「 …… 」

 

 

 え。何その反応。初めて見るんですけど。

 

 

「ドロボ。ハヤメイルレ」

「え? マジで? 大丈夫か?」

「ヤーポンメメメレイチューイ」

「わかった。取り敢えず今あるのだけでいいから満足するまで食べさせてやってくれ。食糧は後で俺が貰いに行くから」

「ヤンポーヤンポー」

 

 

 長老の初めて見る反応もだが、現状のジッカ人のエンゲル係数もマッハになりかけているらしい。報告に来たジッカ人からメシ、ない。と言われた。孫悟空が食べてる分で“俺が食べる”分までは作れない、とも言われたので後で取りに行く事にした。

 孫悟空、恐るべし。この時点で確実に俺よりも食ってる。食ってやがる孫悟空。

 

 

「ぷはーっ。あーっ、食った食った」

「いえいえ」

「ホントに助かった。ナメック星を脱出しようとしたら宇宙船が全部壊れてて死ぬかと思った」

「……? ギニュー特戦隊のポッドは?」

「フリーザにぶっ壊された。適当に攻撃してたせいで玉みたいな宇宙船は全部使えなかった。フリーザの母船は元々使えなかったからどっちにしても死ぬかと思った」

 

 

 なはははと笑う孫悟空。いやいや笑い事じゃねーだろそれ。生きるか死ぬかの瀬戸際なのに笑って済ませられる状況じゃないだろ。

 豪胆と言うか何と言えばいいか。笑って済ませられる事に何よりも驚いた。今までの孫悟空は世界の命運を決する戦いの時もワクワクして仕方がないと言っていた事から考えると平常がこんなキャラなのだろう。何だかアイドルのイメージを崩された気分だ。

 

 

「オラ、孫悟空だ。助けてくれてサンキューな」

 

 

 スッと笑っていた孫悟空はニカッと笑い方を変え、手を差し出してきた。握手を求められていると判断し、応じる様に手を握る事にした。ゴツゴツとして筋肉質なその手はこれまで、これからも世界を救う手になるのだろうと思うと感慨深くなる。

 

 

「おめぇの名前は?」

「あー……」

 

 

 しっかりと握手をしたところで投げ掛けられた孫悟空の問い。だけど俺はすぐに答えを返す事はできなかった。

 そういえば俺の名前は何だっけ? と唸る。今のサイヤ人の体の名前は知らない、前のドラゴンボールという物語を漫画で読んでいた時の前世の時の名前は何となく思い出せるがそれが本当の俺の名前であるという保証はどこにもない。

 そもそも記憶が混乱しているのだ。どれが本当で嘘なのかがわからない現状、数多ある記憶の名前が自分のものであると自信を持って言えるわけではないのだ。聞いた、見た、読んだ、呼んだ名前とごちゃまぜになっているからどれがどれなんだか。

 

 

「長老、俺の名前は何でしたっけ」

「ん? おめぇ、自分の名前もわかんねぇのか?」

「まあ。ここにいる皆は俺を運命の子としか呼ばないので。この長老も其方、でしか俺を呼びませんし。特に名前を呼ばれなくても大丈夫かなと」

「それでいいんかおめぇ」

「ジッカ人の言語は俺等が使っている言語とはちょいと文法が違うんですよ。ジッカ人それぞれに呼称はありませんので」

「そうなんか? 見た目が違うおめぇはその、じっか? っちゅう奴等とは違うんか?」

「見ればわかるでしょうよ……これも」

 

 

 フリン、と臀部から生える茶色の尻尾をクルリと回して自己アピールする。そうすると、孫悟空は驚いた顔を見せた後に鋭い目付きになる。こちらに敵対するかのような意志がその瞳から覗く。

 ザワザワとその場の雰囲気が変わる感じを誰もが感じ取る。孫悟空が醸し出す殺気にも似た雰囲気が食事をするそれではなくなり、ジッカ人の誰もが怯える。元々戦いを好まない種族だから戦いの気配に敏感に反応し、過剰に怯えているのだ。

 

 

「すいませんね。仲間が怯えてるんでそれぐらいに」

「ッ!?」

 

 

 孫悟空でもわからないような凄まじい速さで後ろに回り、孫悟空の頭と首根っこを掴む。戦いの用意を始めてるであろう気の昂ぶりを押えつけるようにヤードラットの秘術を用いる。

 自分ではない気を操る秘術。理論としては孫悟空の元気玉に近いイメージのはずだ。元々は力の弱い種族が強くなる為に用いる禁術扱いの秘法であり、ヤードラットも教えるのを渋ったが長老の鶴の一声で教えてもらえる事になった。多分、ドラゴンボールの世界観の中でも最高レベルに位置する技じゃなかろうか。

 元気玉は何だかんだでラスボス倒すのに使ってるし。

 

 

「誤解があるようなので先に。孫悟空さん、俺はサイヤ人ですがベジータ王子のように破壊を楽しむ性格ではありません。寧ろ逆にいる感じです。故に、俺はあなたの敵ではありません」

「……そうなんか?」

「ええ。でなければ食事なんか与えませんよ」

 

 

 敵対するなら食事代出せやゴラァ。いくら憧れの孫悟空でもそこは譲歩せんぞオラァ。オォン?

 ニッコリと笑いながら心の内では真っ黒な思考に染まる。仲間のジッカ人を怯えさせると評価に響くだろうが。飯も出されなくなるし技術面でのサポートも劣化するだろうが。万全以上の万全のサポートがあってこそここまで戦闘力を伸ばせたというのに台無しにされて堪るか。

 それはそうと、超サイヤ人に覚醒後の孫悟空に感知されないほどのスピードで動けたな俺。超サイヤ人に変身すれば戦闘力は約五十倍になるはずだから素の状態だとわからなくてもしょうがないか。超サイヤ人に変身すれば俺の動きは読まれたかもしれない。

 

 

「それ、食べてしまってください。おかわりは如何です?」

「もらってもいいんか?」

「残っている食糧を処理してもらう感じになりますが。ツキドイヌーノ? アバージャ? ヤンポー」

「……何を言ってるんだ? それがじっかっちゅー言葉か?」

「ええ。彼等から宜しければデザートも出してくれるそうですが」

「ええんか!? オラ、腹が空きまくってたから助かるぞ!」

「あ、あははは」

 

 

 この大食感め! と言っても綺麗なブーメランになるだろう。食事を続ける事を再開した孫悟空をそっと見守る事にした。

 さっきから黙っている長老の後が怖い。変な反応もだが孫悟空の食事に面食らっているようにも見えるし、食糧を一気に消し去る事に戦慄しているようにも見える。後でご機嫌を伺わねば。長老の好きな酒だとかを献上しなければ。

 

 

「ちょ、長老。彼が食べた分は俺が補充するので」

 

 

 機嫌直してください、とは続けられなかった。今まで見た事のない反応を見せる長老に対してどう対応すればいいのか迷っていると言った方がいいか。呑気に食事を続ける孫悟空が恨めしく思えた。

 孫悟空の食事を見る事も嫌になったのか、長老は何も言わずに食堂を出る。少しだけ張り詰めた空気が緩和したような気がしてホッとする。ついでと言わんばかりに他のジッカ人を追い払うように人払いをした。孫悟空に聞きたい事があり、聞かれるわけにもいかないので秘密の会話にしておきたい。

 

 

「孫悟空さん。ナメック星であなたを救助した際にあなたの見た目は今のあなたの見た目ではありませんでした。同じサイヤ人だからわかる事ですが、あの変化は何なんです? 大猿にしか変身はしないはずだ。サイヤ人は」

 

 

 超サイヤ人に変身する事は知っている。大猿に変身する事も。だけど今の俺は超サイヤ人という名称は知っていても詳細は知らない。あれが超サイヤ人である、と知られればちょいとマズイ。特に長老には。

 

 

「おう。(スーパー)サイヤ人だ。フリーザの野郎と戦えたのもそのおかげだ」

「超サイヤ人……?」

「フリーザが恐れるサイヤ人の伝説らしい。オラはクリリンを殺されて怒り狂ったら変身できたんだ。穏やかな心を持ち、激しい怒りによって目覚める伝説の戦士、それが超サイヤ人だ」

「へぇ。今、その超サイヤ人になれるんで?」

「その前に腹ごしらえだな。超サイヤ人の影響かもしんねぇけど力がどうも入んねぇんだ。後でいくらでも見せてやるから」

 

 

 バクバクと胃の中に食べ物を放り込む孫悟空。話す様子から考察すると、多分いつでも超サイヤ人になれる事ができるのだろう。一度変身してしまえば後は自由自在に変身できるという事なのだろうか? もしそうなら超サイヤ人の変身の安定はできる。2と3も修行次第で変身は可能になるはずだ。

 そこで考えているのは超サイヤ人に至る手段の一つとして、超サイヤ人の気を自分の身に取り込むこと。ヤードラットの術を使えば超サイヤ人のパワーを吸えるだろうし、どんな気質をしているのか体感できれば変身への糸口にできるかもしれない。

 孫悟空を救助した後でフリーザ回収できなかった埋め合わせはないだろうかと考え付いた結果がこれである。

 

 

「ベジータに他のサイヤ人以外の生き残りと戦えるのは楽しみだ。今のオラがどれくらい強くなったのかも知りたいしな。それにおめぇ、強いだろ? さっきの動き、オラでも見えなかった」

「かなり努力しましたので。フリーザと戦える程度には鍛えてあります……多分」

 

 

 実際のフリーザがどれくらい強いのかはわからんが。

 

 

「ま。戦えばわかるか」

「ですね」

 

 

 食事をする様子とは別に、戦える喜びを感じ始める孫悟空。やっぱりサイヤ人だなぁ、ここは。だって、俺も孫悟空と戦える事にワクワクしているのだもの。

 

 

 

 

 

 





 フリーザ様はかなり暴れたようです。ギニュー特戦隊のポッドを破壊した上に自分の母船を壊したので悟空は脱出できませんでした。残った力でナメック星の爆発から身を守り、宇宙に放り出された際にオリ主が回収、救助しました。

 口調合ってんのか悟空は。そこだけが不安だ。




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第五話 憧れと対決


 気が(お気に入りとかが)高まる……(喜びとプレッシャーが)溢れるぅ……!

 何ぞこれ。忙しいからパソコン使えなかったと思いきや上がりすぎィ!

 満足できるように頑張りたいと思います!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳を包み、一礼。特に構えに意味はないが威嚇の意味を込めるように構える。自分よりも実力が上の実力者と戦うのはおそらく初めてではないだろうか。緊張もしているかもしれない。

 対する相手は、“あの”孫悟空。屈伸運動をさっきまでしていた彼は少しだけ足を広げ、拳を固く握っている。ざわざわと雰囲気が変わり始めるのを感じ、それに呼応するように俺の緊張感も高まる。髪の毛も揺らいでいるのが尚更怖い。

 

 ――超サイヤ人ってモンを見せてやる。

 

 腹も膨れ、万全の状態になった孫悟空は組み手の相手をしてくれると申し出てくれた。別にもう少し後でも良かったのだが、食後の運動だと朗らかに笑いながら背中を叩きつつ暴れられる場所はないか、とも聞いてきた。

 俺専用になっているトレーニングルームVer.31に案内する。バージョン数が変なのはパワーアップする戦闘力に合わせてジッカ人が頑張った証拠である。宇宙一の硬度を誇るカッチン鋼を頑張って加工した、とジッカ人から聞いているからかなり頑丈になっているだろう。このトレーニングルームは。

 カッチン鋼……あの伝説(笑)のゼットソードをへし折った宇宙一硬い(意味深)金属だ。加工も難しいとか界王神が言っていた気がするが普通に加工しているのですが……。これは界王神を馬鹿にすればいいのかジッカ人を褒め称えればいいのか迷うところだ。

 そんなトレーニングルームにはドラゴンボールお馴染みの重力制御装置もある。無重力の宇宙で活用するのに必ず使われるそうで、宇宙では別に珍しくなく寧ろ日常品の仲間に入るほど有名なのだそうだ。前に100Gをやったが内臓が潰れそうだった。

 孫悟空も100Gを体験した事があるからわかるわかる、と笑っていたが今は苦痛にもならんだろ。

 

 むむっ!? 他の事を考えていたら孫悟空が白目を剥き始めた。風もないのに揺らぐ髪の毛は黒、金と点滅を繰り返している。白いオーラも金色が混ざり始めているのが見てわかる。

 遂に来るか、とモニタールームにいるお馴染みのジッカ人に指で指示を出す。サムズアップで返事をしてくれるのが何とも頼もしい。

 モニタリングを頼んだ連中には超サイヤ人の戦闘力がいくつなのか、攻撃力は如何程のものかを調べるように言ってある。パンチの威力を調べる為にトレーニングウェアの下には衝撃計測装置を挟んである。インナーにしか見えんが本当に大丈夫なのかと心配する。

 

 

 ――戦闘力上昇中。40000000、50000000。凄まじいスピードで上昇。

 

 

 四千万? いやいや。それよりも戦闘力の上がるスピードが早すぎる。異常ってレベル。恐ろしや。

 ジッカ人の読み上げる戦闘力に緊張しながらも超サイヤ人に変身するのを待つ。段々と点滅も早くなり、トレーニングルームの空間が軋んできた。ゴゴゴゴゴゴと擬音が聞こえてきた。多分幻聴だろう。怖い。

 

 

「ッッだあああああああああああああああッ!!」

 

 

 聞き慣れた今は懐かしい超サイヤ人の変身音。金色のオーラ、逆立った金髪、鋭い緑色の目。初期の荒々しい超サイヤ人孫悟空が変身を終えて立っていた。オーラが眩しすぎて部屋の明るさが一段上がった気がする。

 こ、これが超サイヤ人……生の超サイヤ人ッ! 対面しているだけで感じる凄まじいプレッシャー! 感じ取れる気は戦わずとも相手の心をへし折るほど圧倒的に! 吊り上がった目付きは緑色が神秘さを際立たせ、心の奥底まで見透かされていると錯覚するッ!!

 

 

「これがオレの超サイヤ人だ……フン。何だお前、楽しそうじゃねえか」

 

 

 だが! それ以上に感じるのは心が躍動する感じ! 無垢なる子のように手に入れた新しい玩具を遊びたいと思うワクワクした気持ち! つまり俺は! その圧倒的な存在にワクワクしつつ戦いたいと思っているのだ!!

 

 

「それが超サイヤ人ですか……やっべぇ。すげぇワクワクする」

「ハン。お前もやっぱりサイヤ人だな。質が悪いったらありゃあしねえ」

「ですね。だけどそれがサイヤ人がサイヤ人である理由になる事は変わりませんよ?」

「フッ……」

 

 

 クールに笑う超サイヤ人孫悟空は一拍置くと、舞空術で少しだけ浮いて見覚えのある構えを取る。

 

 

「ホラ。かかって来い。相手をしてやる」

「ええ。孫悟空さん、胸を借りますよ」

「オレの事は悟空でいい。固っ苦しい敬語もいらねえ。お前の本当の姿を見せてくれ」

「……じゃあ悟空……行くぜッ」

 

 

 記憶を探り当て、悟空の構えがベジータと初めて戦った時の構えに酷似している事に気付いた。ああいった構えは孫悟空の代名詞でもあるのだろうか。足を大きく広げ、前屈みになって右半身を前に、左手を高く。フィギュアにもこんな構えがあった事も思い出した。

 構える悟空に挑むように真正面から突っ込んだ。フェイントを入れるようにジグザグと動きながら惑わし、挨拶がわりに浴びせ蹴りを繰り出す。どちらかと言えば、パンチよりもキックが好きだ。キックよりもパンチの方が得意だがキックが好きだ。効率を考えればパンチの方がダメージを与えやすいのだがキックが好きだ。

 それなりに強くなった俺の蹴りは悟空に見切られた上に、難なく防がれる事になった。腕でガードするよりも足首を掴まれるのはメンタルダメージがある。フッと煽るように笑う悟空も煽っているようだ。

 カッチーンと頭に来た俺は掴まれた足首を支点に、体全体を捻って顎を抉るように蹴り切った。それすらも躱されて悟空にジャイアントスイングされる事になってしまったが。

 

 

「だああああありゃっ!!」

「――!!?」

 

 

 目は回る。股関節は痛む。割と有名な孫悟空のジャイアントスイングを受けられて幸せだなんて思うほど俺はマゾではない。トレーニングルームが広い事もあって、すぐに態勢を立て直す事ができた。宇宙一硬いカッチン鋼に頭をぶつけるなんて事にならずにホッとした。

 

 

「考え事をしている場合か?」

「そう見えます?」

 

 

 悟空のパンチを絡み取るように防ぐ。腕に手を交差させて威力を殺しつつ逃げられないように受け止めると、カウンターを狙う。流れるように腕を滑り、肘打ちを悟空の脇腹を穿つ。当たったが完全に入ったわけではなく、少しだけ威力を受け流されてしまったようだ。

 悟空の内に飛び込んでいたからか、俺を攻撃しようと指を組んだ。悟空の背中に手を回し、腕の力だけで後ろに回って振り下ろし攻撃を回避する。背中に回る回転を利用し、肩の上を抜けるように蹴りを放つ。見事に悟空の頬に命中した。スルリと蛇のように悟空から離れ、ついでに食らえと気弾を右手に作って投げておく。

 漫才のツッコミよりも鋭い手捌きで気弾は弾かれ、カッチン鋼の壁にぶつかって爆発を起こす。口を切ったらしい悟空は口の端から血を流しながら頭突きを出してきた。泥臭い技に反応が遅れ、モロに腹に食らってしまう。胃の中のものを吐き出さんばかりに胃液が口から漏れた。

 ぶつかってきた悟空は止まり、ぶつかられた俺は吹き飛ぶ。染み込んだサイヤ人の戦闘本能は思考が一瞬止まったとはいえ、反撃を試みるようになっていた。両手を突き出して圧縮した気弾をグミのようにバラ撒いた。牽制も含めているが意味はないだろう。普通に弾いているし。

 

 

「うらあっ!」

 

 

 何とか持ち直した絶妙なタイミングを狙ってか、悟空は大きな気功波を撃ってきた。黄色のレーザーとも言える気功波が超サイヤ人のオーラを突き破るように悟空の片手から放たれ、牽制の気弾は全て消される。

 だが悟空。ZSA、だ。かめはめ波を撃つような格好を取ると、気功波が手に当たるように位置を調整する。

 

 

「……そうだったな。お前、エネルギーを吸えるのか」

「ゲプッ。あんまり大きすぎると消化不良を起こして自滅するけどな。だがこれで」

 

 

 体に力を込め、気を解放する。僅かに金色が混じったオーラが俺の体から噴き出る。ざわり、ざわり。俺の中で何かが燻るような感触を感じ、もどかしい気持ちだけが募る。

 まるで痒い場所に手が届かないもどかしさが。超サイヤ人の気、エネルギーを吸う事で超サイヤ人覚醒の足掛かりになるはずが、何故か一向に超サイヤ人と言える変化ができないと感じてしまう。少しだけ残念に感じるが、超サイヤ人の気は隠れた俺の力をつついてくれたようだ。

 

 

「だりゃっ!」

「なんのっ!」

 

 

 少しだけ漲った力を振るうように悟空と同時に拳を突き出す。あわやクロスカウンターになるところで二人一緒に首を傾ける事で避ける事に成功していた。

 ドラゴンボール名物、高速の殴り合い。ズガガガやらズババババといった擬音が書かれるあれだ。戦闘力がインフレしている超サイヤ人孫悟空と殴り合うのは自殺行為の気もするがほぼ互角に渡り合えているのは驚いた。いや、もしかすると悟空側が手加減をしているのかもしれない。

 

 

「だだだだだだだだだだだあぁ!!」

「ドラドラドラドラドラドラァ!!」

 

 

 初めての高速肉弾戦に興奮し、ノリノリで叫びながら悟空とパンチとキックの応酬を繰り返す。時々フェイントも仕掛けるから油断はできねぇぜ肉弾戦は……!

 戦いが激化するにつれて悟空の超サイヤ人のオーラが強くなってきている気がする。色が濃くなり、纏うオーラが大きくなっているような? 戦いの興奮によって限界以上の力を引き出している? ありえる。だってサイヤ人だもの。

 しばらく殴り合っていると段々腕やら全身が痛くなる。悟空の攻撃の威力が高いからだろうか。殴られたり蹴られたり防いだ場所がジンジンと痛みが増して行く。痛みが積み重なっているらしい。

 

 

「でりゃあ!」

「ごっばっ!?」

 

 

 一瞬の隙を突かれ、肉弾戦を終わらせると言わんばかりのボディブローが炸裂した。ボゴォ、と嫌な音が人体から聞こえてきた。ボゴォと聞いてエロい事を思える俺って意外と余裕あるのな。

 ボディ、チン、ボディ、左頬右頬と連携を繋げて連撃をしてくる。(チン)を殴られたせいで脳が揺れ、意識が飛びかけるが度重なる痛みに無理矢理意識を覚醒させられる悪循環。今までこのような痛みを感じる戦いを経験していないからか心は大丈夫でも体は痛みに対する恐怖に萎縮する。だが、この戦いを経験してこそ真のサイヤ人なのだ、と心に決めると本当にサイヤ人としての自覚が芽生えたと思えるようになった。

 痛みに堪え、確固たる意識を持ち、悟空を睨む。睨んだと言ってもその顔は満面の笑みになっているからちっとも怖くない……いや、別の意味で怖いだろう。

 こっちが笑うと悟空も釣られるようにニヒルに笑う。超サイヤ人初期の状態だと自分の感情をコントロールできない副作用があるため、別人のように感じるだろう。息子の孫悟飯ですらも腰が引けていた事があったはずだから。

 

 

「はああっ!!」

 

 

 気合を入れ直すように気合を入れ、白いオーラを赤に変化させる。界王拳のような赤ではなく、もっと色の深い真紅とも言える色合いになっていた。

 力がみなぎる。ブロリーのように気が高まる、溢れると言いたい気分だ。ようやく本当の自分の力を引き出せているような、そんな気持ちになる。

 

 

「界王拳……? 何だこの妙な違和感は。超サイヤ人にも似た雰囲気だが何かが根本的に違う……?」

 

 

 先程よりも呼吸が楽になる。思考も安定する。戦いで熱くなっていた頭が段々と冷静になるように研ぎ澄まされていく感覚だ。もしやこれが超サイヤ人に変化する際に生じる感覚なのだろうか?

 訝しげに構えを変える悟空はここ一番、警戒心を強めているようだ。孫悟飯達を逃がした後でフリーザに構える時と似ているようにも思える。かなり警戒しているのだけは間違いない。

 

 

「何が起きてるかわからんが何かが変わったようだな。続きをやるぞ」

「無論」

 

 

 赤い気のオーラを圧縮して小さくすると小さく構える。構えは最小限に、心は穏やかに。さあ、悟空との戦いを続けよう。楽しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、俺は負けた。終わり方は拍子抜けするもので、風船から空気が抜けるが如く、高まった気が抜けた為に悟空のカウンターを受け、敗れた。

 超サイヤ人状態の荒々しい悟空の顔が間抜けに思えるほど滑稽だったのは鮮明に思い出せる。バツが悪そうに仰向けに倒れる俺を眺めていた気がする。力が抜けたのか、呆れた顔をしながら超サイヤ人を解除していたのも見えた。

 悟空……いや、もう呼び捨てにはできない。悟空様とお呼びするべきだろうか。憧れの存在を呼び捨てにする時点で失礼千万だったのだ。身の程を弁えろ、と自分に言いたい。

 

 

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです……」

 

 

 多分、悟空様以上に落ち込んでいるだろう。俺と戦えるのを悟空様は楽しみにしていただろうに、こんな結末になるとは。結局、一瞬だけ超サイヤ人悟空様が警戒した形態も解らず仕舞いだし、拍子抜けだ。

 界王拳ではないか? と言われた。目視できるオーラが赤い事は確かに界王拳に見えるだろうが、あれは別物に思える。色合いも濃いし、自分が纏っているのに全能感を感じてしまうような神聖なパワーも感じた。故に、その状態でいられる事が難しいのかもしれない、とモニタリングしていたジッカ人に言われた。

 

 

「ハハッ。今回は引き分けって事にしてやる。代わりにもっと強くなってオラと戦おうぜ?」

「悟空様……」

「悟空でいい。オラ達、もう知らない仲じゃないだろ?」

 

 

 やだ悟空様マジ天使様……。漫画の絵にある天使の翼を生やした悟空様が見えるでぇ……。やっぱり天使の翼が生えるほど悟空様は高潔で清らかなのか。

 医療ポッドの一種、治癒風呂に共に入りつつ固い握手を交わす。初めてこの風呂を見た時は死神のあれかと思った。ついでに褐色肌の猫美女もセットで来るのかとも。

 治りは遅いが、痣などはすぐに消える性能だ。長老が言うには、ツフル人の嘗ての秘宝の薬を改良したものらしい。フリーザ一味の、悟空様も使っていたポッドの緑色の水の性質を変化させている湯に浸かるだけで回復するのだからボス前の回復ポイントのようだと思う。

 

 

「超サイヤ人、凄かったですね。俺もかなり鍛えたんですが勝てそうにありませんでした」

「オラがなれたんだ。おめぇもなれるさ」

「そうでしょうか」

「間違いねぇ。ベジータみたいな悪い感じはしねぇし根っこは良い奴だってオラはわかる。頑張ればできる」

 

 

 頑張れば、ね。孫悟空が言うのだから努力すれば報われるのだろう。かの超エリート(苦笑)王子でさえも孫悟空は天才と呼べる人種。才能も満ち溢れているから鍛えればそれに応えるように強くなる。戦闘力がインフレするのも頷けるわけだ。

 そんな孫悟空からそう言われると悪い気はしない。寧ろ、嬉しい。憧れの、手の届かない存在に会えて会話もできるだけで天にも登る幸せを感じているのに才能がある、と言われると心臓が止まるほどショックを受ける。というかマジ嬉しい。本当ならこの体の持ち主に言われるべきなのだろうがもう“俺”だからな。すまんね。今はこの喜びに浸らせてくれ。

 

 

「で、だ」

「はい?」

 

 

 ジーンと感動していると、悟空様より有り難きお言葉をいただく……いただ、く? 何か顔が悪戯っ子みたいに楽しそうに歪んでる気がするんだが。嫌な予感がするんだが。

 ニンマリと笑う悟空様はピッと人差し指を立てると、口を開く。まあ、大体予想できる事なんだが。

 

 

「ちょーろーから聞いた。おめぇ、不思議な技をたくさん覚えているらしいじゃねぇか」

「ええ、まあ」

 

 

 ヤードラットの連中にその他の戦闘種族連中に教わった秘技と言える不思議な技は体得しているが。

 

 

「オラに教えてくれ。代わりにおめぇを超サイヤ人になれる手助けをしてやっから」

 

 

 なん……だと……? つまり、孫悟空が修行を着けてくれるのか? 何とも嬉しいイベントだろうか。あの悟空さんが、あの孫悟空が修行を着けてくれる? ドラゴンボールファンなら感動ものだろう。

 孫悟空の修行、と聞くと息子の孫悟飯とブウの生まれ変わりのウーブを思い出す。俺の記憶にある孫悟空の弟子というと、この二人が浮かぶ。武天老師の弟子でもある孫悟空だが、やはり師匠としての孫悟空の腕は凄いと思っている。

 孫悟飯は超サイヤ人に至る事ができ、更に初の超サイヤ人2に変身できる才能を見抜いていた。やり方はどうであれ、目は確かに良い。ウーブもまた、GT編で孫悟空と互角に渡り合うほどの実力を身に付けていた。つまりは孫悟空は師としての指導力は確かである、と言えるのだ。

 孫悟飯を超サイヤ人に覚醒させた点を考えると、超サイヤ人に変身する修行の相手は孫悟空がうってつけだと言える。しかもちょっとした技を教えるだけで手伝ってくれると言うのだ、受けない選択はないだろう。

 

 

「手伝ってくれるのなら何でもしましょう。俺が学んだ技で良ければ」

 

 

 ニカッと笑う孫悟空の笑顔は太陽だった。

 嬉しい誤算、とはこの事だろう。本当であれば彼はヤードラット星に行って瞬間移動を覚えている時期だろう。それが超サイヤ人の先駆者として俺の目の前にいる。願ってもない事だ。

 それとなく超サイヤ人の壁の突破方法を教えてみるのも面白そうだ。パーフェクトセルと戦うのが孫悟空って事になるかもしれないがそれはそれでIFストーリーとして良さそうだ。孫悟空の大ファンとしてはそうなって欲しいと思っているが本人の意思も確認しないと押し付けになる。

 ……まあ、未来の事はわからないから聞かなくとも誘導するだけでもいいんだが。まずは改変未来の分岐点である孫悟空の病死の未来をトランクスではなく、ジッカ人が変える事から始めてみようか?

 

 

「しゃー! 傷も治ったし腹ごしらえしてからまた戦っか!」

「お手柔らかに。悟空さん」

 

 

 ドラゴンボール好きの俺には堪らない一日はこうして終わるのであった。孫悟空の隣で寝る事もしたが緊張しすぎで寝れんかった。

 

 

 

 

 

 

 





 眠れない夜(意味深)

 初の孫悟空との対決は主人公の負け? まさにGTラストのフュージョンが切れた絶望感。変身が解けるとは運のない奴よ。この変身が何かわかっても内緒でお願いします。本編で明かされるまで。

 この時点で超サイヤ人孫悟空より劣る戦闘力の主人公です。修行を着けてくれるので更に戦闘力は上がりますが。できたらかめはめ波教えて欲しいわー。




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第六話 様々な事態


 もう感想でネタバレしてる件について。あとがきを読んでないのだろうとわかるので感想を書く際にはあとがきに注意してくださると嬉しいです。

 今回は一気に流します。悟空のキャラが違うのは目を瞑ってくださいませ。自分でも完全に把握しているわけではないので結構難航しているんです。

 ここから孫悟空が脱出できない小さな綻びが大きなバタフライ効果を引き起こしていきます。多分、セル編までは。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫悟空という心強い味方に付けてから新しい刺激の日常が訪れた。ジッカ人のトレーニングルームを使って体を鍛えたり、惑星間を飛んで別の星に行くのも良いが互角の実力者がいると修行への身の入り方は大きく、まるで違う。

 フリーザという強敵と戦い、勝利して生き残った戦士は更なる強さを身に付けて復活していた。本来の歴史であれば、脱出成功しているはずなのに失敗している事でサイヤ人の死の淵から生還チートが発動してパワーアップしていた。

 孫悟空。悟空と呼んでいるが、今でも慣れずに思わず悟空さんやら敬う感じになってしまう。普通ならありえない出来事だから受け入れきれてない部分があるっぽいな。後は悟空様とか言ったがカカロット様の方がまだマシな気がしてきた。ベジータ? ベジータ様って自分で言ってるから良いと思うんだ。超ベジータ様って連呼するくらいだし。

 

 

「これ、窮屈じゃねぇか?」

「我慢して。それが無いとこの星で活動できないから。ほら、こっちこっち」

 

 

 ベシベシとモコモコの宇宙服を両手で叩く悟空。窮屈そうだと感じるが今いるこの場所だとそれが無いと一発であの世行きなんだよ。我慢してくれ、と悟空の被っているヘルメットに自分のヘルメットをぶつけながら言葉を発する。

 普通であれば宇宙服のジェット噴射機でも使うのだが、舞空術を使える俺達は問題ない。先導するように先に浮いて飛ぶと、悟空も遅れて追ってくる。

 

 

「悟空。会話をする時は左腕のモニターの青いボタンを押せば俺に聞こえるから」

「おう」

「そんなに離れていないからすぐにそれは脱げるよ。この星にいる奴等は存在が希薄だから瞬間移動は使えないんだ。面倒だろうけど我慢な」

「……確かに感じねぇな。気の隠し方が上手なのか?」

「この星に住む食物連鎖の頂点にいる生物から姿を隠すため、って聞いてる。かなり凶暴な奴だから見つかったら問答無用で吹っ飛ばしてもいいぞ。あと、そいつ等の肉は美味いぞ」

 

 

 そうそう、こんなの。と口を大きく開く化け物を指差して悟空に説明しようとすれば先に悟空が化け物の腹を殴っていた。問答無用過ぎる。

 

 

「おほーっ。パオズ山でもこんなのいなかったぞ。うめぇのかコイツ等」

「ステーキにしても良し。だが敢えてしゃぶしゃぶにするのがベスト」

 

 

 見た目は魚なのに食感は肉そのもの。チョウチンアンコウみたいな見た目の化け物魚の提灯みたいな部分を雑巾のように捻りつつ気功波で心臓を撃ち抜いた。食べられる部分は図鑑で見た事があるので大部分は残せている。過酷な環境もあって、腐る前に長老の所に献上できるだろう。悟空も自分が食べる分は確保しているみたいだ。俺よりも大きいのを捕まえている……。

 サイヤ人二人の食欲を賄うのにジッカ人単体の種族だと確保しきれない部分があるのでこうして自分達で狩りをする事が修行の合間にしている。悟空は元々狩りが得意だったので図鑑を見て覚えている俺よりも勘で食えるものを本能的にわかっているように感じる。これが野生児のパワーなのか……!

 

 

「星の環境で腐る事はないからここに放置。共食いやら餌を奪う事もないらしいから用事を済ませて持って帰ろう」

「早く食いてぇな」

「俺もだよ。でもそれは後のお楽しみに」

 

 

 宇宙服の悟空の肩を叩いて向かう方向に指で示す。その先には人工的な洞穴らしきものがある。そこが今回の目的地、悟空の瞬間移動を覚えるのを早くさせる方法を知っている種族に会いに来た。

 本来であればヤードラットの連中に瞬間移動を教わるのに時間が掛かっていた、と描写があったはずだ。今から会う種族の秘術を使えば瞬間移動もあっという間に覚えられるようになる……かもしれない。個人差があるらしいから悟空には効かないかもしれないが。俺にはバリバリ効いていたけど。

 

 悟空と共に修行を共にしてから悟空には驚かされる。フルパワーの超サイヤ人で戦闘力が二億に到達していた上に超サイヤ人状態に慣れ始めている節も見える。これは精神と時の部屋の前で常時超サイヤ人モードができるようになるかもしれない。

 ……フッ。なのに俺は未だに超サイヤ人に変身する事もできないぜ。何か俺に超サイヤ人に変身できる才能がないのではないかと思えてきた頃だ。

 まあ、悟空が超サイヤ人になって戦闘力が二億まで引き出せるのに対して俺は素の状態で一億だからまだ基礎戦闘力は俺の方が上なのだろうか? 超サイヤ人になればかなりパワーアップするらしいからもしも変身できれば悟空を普通に抜く。なのに変身できないこのもどかしさ。

 そんなだから修行方針は悟空主体で俺はそのついでで超サイヤ人の変身を教えてくれる事になったわけだ。本当に俺と悟空の差は何なのだろう。才能? 人柄? それとも不純な心なのか?

 

 ちょっと待て、と悟空に合図を出してから洞穴に入る。気のオーラを纏い、白い光を放って周りを照らした。宇宙服のヘルメットのバイザーを上げ、声を張り上げる。

 

 

「ヘレベ! エンドロイン!」

 

 

 ジッカ人と同盟を結んでいる者は誰でもジッカ人が操る言語を知っている。合わせて、面識のある俺の気を感じ取ってもらえれば客人が誰なのかはわかるはずだ。

 ゾロゾロと普通の成人男性(地球人基準)と同じ背丈の宇宙人が現れる。見た目は普通の人間なのでパッと見ただけではこの種族が宇宙人であるとはわからないだろう。最初に宇宙に旅立った地球人と会ったのかと勘違いするほどに。

 

 

「ホーベ! ホーピキ!」

「ようこそ、運命の子よ。だ」

「駄目だ。わっかんねぇ」

「通訳はするから大丈夫。ハボン。ラレレテユージュ」

 

 

 今日は俺じゃなくて連れにあれをやって欲しい、と伝える。掌を上に向け、悟空を指すと訝しげな顔をするこの星の種族の者。力のある一族の若者と以前に聞いていたが何か老けたな、とどうでもいい事を思う。多分老化が早い種族なのだろうと。実際には老け顔なだけだが。

 大丈夫なのか、と問われる。素性もわからない奴を見ると警戒するのも仕方がないだろう。ジッカ人連盟には悟空がいる事を知らない者もいるから顔も知らないはずだ。何よりもバイザーで顔が見えんし。

 カチッと悟空の宇宙服のボタンを押せば、悟空の顔が見えるようにバイザーが上がる。目線がバッチリと合うとニカッと笑う悟空に戸惑っている様子だ。少しだけ手を上げてよっと挨拶をし始めた。

 

 

「オッス。オラ孫悟空だ」

「レレラ、フレ孫悟空」

「孫悟空? ハベ。カカウイユツ?」

「……悟空。かなり有名になったな。コイツ等、お前さんがフリーザを倒した事を知ってるみたいだぞ」

「そうなんか?」

 

 

 フロスト一族の実力者、宇宙の帝王とまで言われるフリーザを倒したとなると普通はそうなる。フロスト一族に反旗を翻そうとしていた種族にとってはある意味英雄のように見える事だろう。特にフリーザは。

 正体がフリーザを倒した孫悟空であると知ると、何でも協力すると言い出した。フリーザを倒してくれた礼をさせてくれとまで言い出す始末。オイ。試練はどうした。死に掛けた試練を悟空にはさせんつもりか。俺は死に掛けてお前等が嫌いになったんだぞ。

 もう突っ込むのも嫌になったのでジッカ人特製の翻訳機を渡して宇宙服のヘルメットのバイザーを下ろした。和気藹々と仲良くなった悟空とこの星の種族の談話を背中に、外に飛び出した。飯の調達、長老への報告。そしてフロスト一族の支配領域の再確認を悟空の修行の合間に行う事になっているので手早く終わらせる事にした。

 過酷な環境の中でも生きられる宇宙服は宇宙活動も可能なのでオーラを纏いながら宇宙へ一気に飛び上がる。サイヤ人って本当は宇宙活動は難しい種族のはずなのに何だかなぁ……。

 嘗て、フリーザが破壊した惑星ベジータの時は何人かのサイヤ人が宇宙にいた気もするが俺の記憶違いのはずだ。そうに違いない。別にヘルメットを脱ぐのが怖いわけではないのだ。

 

 普通、息のできない宇宙空間でヘルメットを取るなんて事ができるのは頭が狂ってる奴だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じて送り出した友達が化け物になって帰ってきた件について。

 

 

「た、多重残像拳ならぬ多重瞬間移動……! 質量を持った残像とでも言うのか!」

「へっへっへっへ」「頑張ったぞオラ」「こんな事もできるぜ」

「エコーみたいに声を響かせるんじゃねーよ」

 

 

 あのクソ共。自重を放り投げて悟空を大層可愛がったな。俺の時は適当に真面目にやってたのに悟空の時は真剣に真面目にしたのか。

 多重残像拳のように残像を残しながら瞬間移動を繰り返す悟空の声があちらこちらから聞こえてくるのが凄まじいスピードで一定の空間を移動しているのがわかる。悟空の瞬間移動は誰かの気を感じ取れなければできないはずなのに自由に瞬間移動ができている。

 

 

「面白ぇぞ」「他の奴の気の代わりに」「オラの気が」「そこらにあれば」「こんな事もできるんだぜ」

「真面目に教えやがったなあのボケ共!」

「まだフリーザよりも強ぇ奴がいるらしいからな。オラを鍛えて対抗できるようにしたいんだと」

 

 

 シャッと目の前に現れる満面の笑みの悟空。新しい技、おもちゃを得られた子供のように喜んでいるのが一目見るだけでわかる。まあ、新しい世界が切り開かれると言い様のない快感を得てしまうから気持ちはわからんでもない。

 

 

「おめぇはピッコロみてぇな修行をしてんな」

「……ナメック星人か。この格好は俺が集中できる姿勢だからね。舞空術に割ける気をギリギリまで抑えられる事ができれば他の技もギリギリまで使える気を削減できるかもしれないんだ。まだまだ荒いから完成とは程遠い完成度だけどな」

 

 

 座禅を組み、空中に浮きながら舞空術を使っている俺を見て悟空が感心したように声を漏らす。ピッコロと言えば超(笑)ピッコロさんの事か。生き返ってパワーアップしたと言っていたからネイルと融合していると仮定できるからフリーザにボコボコされた頃だ。よくよく考えればピッコロの修行は俺と同じ格好をしているな。

 俺の場合は過去に読んだドラゴンボールを思い出すのに集中したい時に使うから多分、ピッコロとは違う方法になるだろうか。修行のやり方は人それぞれだしねぇ。

 

 

「マスターすればフルパワーを出した時に体を慣らす時間を一気に減らす事ができるらしい。気を操る術に長けているから体中に気を行き渡らせられると言えるんだ。そうすれば超サイヤ人になれるんじゃないかと思ったけど結果はご覧の通りだ」

「超サイヤ人にはなれねぇ、ってか」

「言うんじゃねーよ。落ち込むだろうが」

 

 

 流石優位に立つと煽り芸を見せてくれる戦闘民族サイヤ人。地味に上げて落とす上級煽りをしおってからに。言われなくても自分でもよくわかってるよと何度も声を大にして言いたい。

 だけどね。超サイヤ人じゃない悟空を相手にすれば余裕勝ちできるのよね。超サイヤ人に変身してやっと俺と互角なのよね。それだけが救いなのよね。もし負けていたら立つ瀬がないよ……。

 

 

「前に気を完全解放した時は全力だったのか?」

「そりゃ勿論。データは正確に調べる必要があるから。手加減なんかする必要なんてないんじゃ?」

「んー。けどよ。今の話を聞くとそればっかり気にして全力を出せてないような気がすんだよな。おめぇ、理屈だとか関係なく自分の本気を出した事あんのか?」

「……うーむ」

 

 

 言われてみればそんな気がする。ゴチャゴチャ考えずに全力を出すって事をできていないのではないか、と疑問が浮かんだ。

 

 

「ほれ。ここなら物をぶっ壊して宇宙船まで壊れる心配はねぇだろ? いっちょ何も考えずに自分の力を解放してみろよ」

「でもなー」

「戦ってみたら経験は豊富だけどギリギリの命のやり取りをあんまりしてねぇって感じた。死に掛けるまで全力でぶつかるなんて事は今までした事がねぇんだろ?」

 

 

 戦えばすぐにわかるらしい俺の未熟さ。他種族の強者とはいっても命の危険を脅かされる戦いは今までした事がないのは事実だから言い換えそうにも、できない。超サイヤ人になれないのもそれが原因じゃないだろうかと思っている。

 死に掛ける事はパワーアップする時に経験はある。だけど命の保証はしっかりとした上で行った事だから死の恐怖はそれこそ、最初だけだ。後はジッカ人に任せれば気が付けばパワーアップしているなんて金持ちの坊ちゃんみたいな扱いだった。

 その点、悟空は何度も死に掛けては勝利をもぎ取ってきた真の強者。地球育ちのサイヤ人で、師や友人に恵まれていた事もあって俺なんかとは比べる事が愚かなほど経験は積んでいる。確かな経験が。

 

 

「つまり、おめぇは死闘ってのを経験してねぇから本当のフルパワーを引き出せていねぇんじゃねぇかってオラは思うんだ。あん時の界王拳みてえな変身もオラと完全に互角になっちまったから無理になってんじゃねえかって思ってんだ」

「やっぱりそう思うか?」

「あん時のおめぇはベジータやフリーザと戦う時みてぇに背中がゾワゾワする感じがあった。超サイヤ人のオラでも勝てねえんじゃねぇかって思えるほどだ……くーっ。あんなんを感じちまったらまた戦いたくなっちまったよ!」

「はは」

 

 

 乾いた笑いしか返せなかった。超サイヤ人じゃない妙な変身は初めて超サイヤ人の悟空と戦ってからは変わる兆しがない。悟空と戦ったせいでサイヤ人としての才能が悟空と戦えるように強くしたのだと言われたが、潜在能力が凄まじいのだろうか。俺は。

 確かに、長老は俺を“運命の子”と言った。そして、超サイヤ人になるべきサイヤ人とも。完成させた器と表現していたが、潜在能力が高いのはそれが原因である、とも仮定できる。

 

 

「そんじゃ……ちっと戦るぞ」

「!」

 

 

 ほぼ反射的に積んだ経験が頭で考えるよりも早く体が動いた。バチィッ! と鋭い音を立てて左脚に衝撃が響き渡る。

 くよくよと考えているとオーラを爆発させない自然な変身を遂げた超サイヤ人状態の悟空が右脚を衝撃が響いた左脚にぶつけていた。若干、目の鋭さが柔らかくなった悟空は真剣な表情になってこちらを見据えていた。

 

 

「――考えるな。感じろ、だろ」

「ああ。お前が何にも考えないようにしてやる。本能の赴くままに力を爆発させてみろ」

 

 

 だあありゃっ! と聞き慣れた悟空の気合の一声と共に唐突に何十回目になるかの組み手が始まる事になった。考えたい気持ちを無理矢理切り替えられ、迫る拳と脚の嵐を捌く事に集中せざるを得なかった。

 この日はいつもよりも長く組み手をする事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 ある日、事件(それ)は起きた。

 

 

「どうした?」

 

 

 ほぼ一日の大半を共に行動している悟空が超サイヤ人の金髪を揺らしながらこっちに近付いてきた。黄金のオーラと金髪が消え、元の黒髪の通常に戻った悟空は呆気に取られる俺の隣で肩を叩いてくる。

 

 

「あ。いや、ちょい待て。混乱してる」

 

 

 今、心の中を占めているのは“多重イベント発生”である。というか狙ってもできないフラグの乱立をよくぞここまでできたなと感心すらしているところだ。

 悟空にもわかるように人差し指を立てた手を見せる。まずは一つ目。

 

 

「悟空。まずはお前は地球に帰れ」

「何でだ? もう少しここで修行してぇんだ」

「まだハッキリとそうである、とは言えん情報だがフロスト一族の宇宙船を確認した。その中にフリーザがいるらしい」

「! フリーザがまだ生きてんのか」

「らしい。しかもその宇宙船の航路なんだが……多分、地球にぶつかる可能性が高い。フリーザの目的は地球であると思われる」

 

 

 悟空に説明しながら遂にこの時が来たか、と俺は考えていた。フリーザがまだ生きているのが衝撃的なのか、悟空が厳しい表情を見せている。倒したはずなのに、とも思っているのだろう。

 メカフリーザになって悟空に復讐する為に悟空の台詞にあった地球に向かっているのは間違いないだろう。概ねの歴史に変わりがなければ。クリリンをあの地球人と呼んでいた事も考えると、地球の存在を知っているのは確定だ。

 寧ろこの時を待っていた、と俺は思っている。フリーザだけでなく、フロスト一族トップのコルド大王がいるのだ。フロスト一族の現状を聞き出すのにこれ以上ない好機だ。悟空も本来の歴史よりもパワーアップしているだろうし、ジッカ人に以前から造らせていた最速の宇宙船もできているからまず何が起きても未来から来るトランクスと協力すれば負ける事はないだろう。

 

 

「まずいな。地球には悟飯達がいるけどまず敵わねえだろう。やっぱオラが行かなきゃなんねえな」

「宇宙船は用意しているそれを使えば計算上、フリーザ達が着陸した直後に地球に行けるはずだ……が、問題はそれだけじゃねー」

 

 

 拳を固めてやる気を見せる悟空を止めるように中指、二本目の指を立てる。そう、ある意味厄介なのはここからだ。フリーザの動きだけを知れれば良かったのにこうも問題が出てきては困る。

 

 

「フロスト一族……特にフリーザ一味の配下が南の宇宙で暴れているらしい。ジッカ人連盟のいくつかの種族が救援要請を出した」

「いっ!? って事はオラ達が知ってる奴もその中にいんのか!?」

「いる。俺達に助けてくれ、って名指ししている」

 

 

 まるで陽動を仕掛けていると間違うタイミング。地球のある北の宇宙の反対側で暴れているという点が実に厭らしい。おそらく、フリーザは悟空が生きて地球にいない事を知っている。

 

 

「問題は俺達二人で瞬間移動を使いながら制圧すれば損害を最小限に抑えられるだろうが、そうすると悟空は地球に帰る時間が遅れてフリーザが暴れる時間を増やしてしまう。

 逆に悟空だけ地球に先に帰れば俺一人でフリーザ一味を制圧するのに時間が掛かって防衛力を持たない種族は下手をすれば絶滅するかもしれない。

 まさに究極の二択。戦術としては最高の一手と言えるだろう」

 

 

 実に厭らしい。本当に厭らしい。ジッカ人連盟の種族は危険が及んだ時は必ず助けると盟約を交わしているので助けない選択は決してない。

 

 

「俺は今から瞬間移動で飛ぶ。完全に殲滅させてからここに戻る予定だ……実はまだ厄介事が二つあるんだが今は時間も惜しいから悟空は宇宙船で地球に――」

「いや、オラも手伝う」

「帰れ……は?」

「オラもおめぇを手伝う。地球に帰るのはそれからだ」

「いやいや。話を聞いてたか? 地球に、フリーザが行ってるの。多分、今は地球にフリーザと対抗できるだけの奴はおそらくいない。つまり悟空がいないと地球は滅ぶ。わかってるのか?」

「ああ。でもオラは世話になった奴等を救う事を優先する。もし地球が滅びるかもしれないかもしれねぇけど滅びないかもしれない。もし滅びてもナメック星のドラゴンボールを使えばピッコロと神様が蘇る」

「……あのな。ドラゴンボールを無闇矢鱈に使うなって長老に言われるだろうが。それに地球が滅びて復活できたとしても地球に生きる生き物は復活できないんだぞ? 一年に一回気の遠くなる作業を繰り返して全員を蘇らせるつもりなのか?」

「そういやそうか……くそっ」

「いいからこっちは俺に任せろ。お前は地球に行け。間に合えば俺も地球へお前の気を探り当てて援護に向かうから。ベストとは言えんがベターな選択なんだよ」

「……すまねえ。世話になりっぱなしだ」

「いいって。悟空と修行するのは楽しかったし、超サイヤ人の可能性も知れた。それだけで十分さ」

 

 

 報告を受ける際に使ったトレーニングルームの通信機の受話器に向かって指示を出す。悟空を宇宙船に案内して地球の座標を打ち込め、襲われている近くの星にいる実力のある一族を援護に向かわせろ、本来は長老が出すであろう指示を全て俺が出した。

 

 

「――エリン」

 

 

 いそいそと脱いでいた服を着ていると、ようやく知れたサイヤ人の俺の名前を悟空が呼ぶ。六個の目、四本の腕。見上げるほど背の高い体が特徴のジッカ人に導かれる前に悟空がこちらを見ていた。

 力強い歩きでこちらに来ると、グッと握った拳を突き出してきた。強い意志が宿る黒い目が俺の姿を映しているのが見える。

 

 

「オラはフリーザを倒す」

「なら俺は皆を救わないとな」

「頼んだぞ」

「悟空も。絶対に死ぬなよ」

 

 

 別れの挨拶は濃厚な毎日を過ごしてきたはずなのに、恐ろしいほど簡潔に終えた。コツン、互いの握った拳をぶつけ合うと背中を向けて軽く飛び、瞬間移動を発動して姿を消す。

 次に目の前に広がった景色は以前に教わった、ドラゴンボールで見たフリーザ一味の雑魚で埋め尽くす。問答無用、と一番近くの戦闘員を殺す勢いでぶん殴る事から始めるのであった。

 

 ……本当は、地球にはトランクスがいるから悟空の提案を受け入れても良かったのだ。だけど悟空が脱出できていないほんの少しの歴史の綻びがどんなバタフライ効果を引き起こすのかわからないのだ。これでいい。これでいいのだ。

 

 

「――ここは貴様等のいるべき場所じゃねえ。死にたくないなら消え失せろ。消えないなら……消す!」

 

 

 

 

 

 

 





 この時点で悟空は原作よりも強いです。ついでに組み手の相手をしている主人公こと、エリンも均衡している相手と戦える事でメキメキと実力を付けていきます。

 エリンの名の由来ですがエリンギです。女みたいな名前ですが最初の候補の枝豆からダーマにしようかと考えたんですが感想欄がネタまみれで本作の本編に触れられないカオスになりそうなのでこっちにしました。

  超サイヤ人を目指す男、スパイダーマッ!

 次回からは人造人間編に介入します。トランクスの出番をほとんど奪い始めている事にトランクスが可哀想になってきた……。



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第七話 変わり始める歴史


 【悲報】主人公が悪役な件について

 【悲報】主人公の出番がない

 【悲報】フリーザ親子、良いトコなし

 【悲報】トランクス、最後の見せ場


 【朗報】レイジバースト、トロコン(私情)

 【朗報】悟空無双



 あとがきにも速報アリ。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴギン、と首の骨が折れる音が聞こえ、手に折った感覚が響く。握った手を開けば物言わぬ死体になったフリーザ一味の雑魚戦闘員が宇宙に漂う。白目を剥いているのが生々しい。更にトドメとばかりに死体を消し飛ばす気功波を手に集め、前方に放り投げる。普通は技の名前を言うのだが“吾輩は猫である”、だ。つまりまだ名前はない。

 光の矢のように小さな赤い気功波が何本も宇宙空間に走り、まだ生きている戦闘員を貫いて爆発させる。大きな気功波でもないのに何故爆発するのか未だにわからんが便利だから良しとしよう。

 

 

「俺は忠告はした。逃げないなら死んでも構わないと取ってるから皆殺しだクソ共」

 

 

 かああっ! と体に力を入れて気を解放する。体の肉、皮膚を突き破るように立ち昇るオーラから数多の気功波が辺りにばら撒かれる。以前にこの技をお披露目した際に見直すと、どうしてもブロリーのあれを思い出してしまう必殺技だ。気功波の色は緑じゃなくて赤だが。

 少しの間、気功波を放ち続けているといつの間にやら戦闘員は全滅していた。跡形もないのは気功波に消し飛ばされたからだろう。

 

 ふむ、と溜め息を吐く。宇宙空間にいるのに呼吸ができるのは敢えて突っ込まない。自分の技で宇宙服が壊れた時はどうしようかとテンパったが何とかなるものだ。気合で何とかなるのはどうなのだろうか、と毎度思うがもう悩むのも疲れたよ……。

 悟空のアドバイス通りに難しく事を考えずに成り行きに身を任せてしまうのが良いだろう。今は感情の赴くままにフリーザ一味の雑魚戦闘員を蹴散らして全滅させるのが先だ。

 目を閉じ、意識を集中させる。イメージの仕方はそれぞれだが、俺は長老から繋がる小さな糸をイメージして乱れている気を探る方法をしている。悟空の場合、最初は人差し指と中指をくっつけて気を探る手段を取っていたが今では同じように目を閉じるだけで気を探れるようになってる。

 気を探り、目的の気を見つけると傍に“自分がいる事を強くイメージ”する。自分の存在も、気も全てがそこにあると。そうすれば時間の概念も世界の概念も消え去った亜空間に侵入できるようになる。

 これが悟空も使う瞬間移動の仕組み。共に鍛えたせいで本来の歴史にない瞬間移動の仕方をするようになってしまったが気にしない事にする。

 

 瞬間移動を終え、見た目が同じフリーザ一味の雑魚戦闘員の後ろに回ると後ろから首を持って捻る。ゴキリと音を立てて絶命する。姿が見られる前に瞬間移動を使い、襲われている味方の前に立ち塞がる。

 

 

「お、おお。運命の子よ。助かりました」

「積もる話もあるだろうが今は奴等を片付ける。まだ戦える者は戦えない者を守る事を優先しろ」

「仰せのままに……! 頼みましたぞ!」

 

 

 この場所で十三箇所目。カチカチと宇宙服の残骸である小型モニターの画面を叩くと、ジッカ人本拠地に現在地を知らせる。襲われていると報告を受けている場所に俺がいればその場所は問題ないと判断され、本拠地にあるジッカ人のネットワークによって危機にある種族の安否がわかる。

 呼吸のできない星もあったので宇宙服を急いで取りに行った事もあったが完全に無駄足、時間の無駄使いだったと言える。

 

 

「何だ? 貴様は? ソンゴクウか?」

「残念だが俺は悟空じゃない。俺は貴様等を葬る者だ」

「くっはっ! 貴様が? 俺達を? 笑わせてくれる。たったの200程度の雑魚が!」

 

 

 思わずニタリ、と口が吊り上がる。既に似たようなやり取りを経験しているがこれは中々に癖になる。ググググググッ、と力を入れながら自分の内にある気の源の太陽のような暖かい物に触れる。

 ピピピッと雑魚戦闘員のスカウターが警告音を発しているのが聞こえる。それを見ている戦闘員もどんどん顔が驚愕に彩られるのも見える。戦闘力が凄まじい勢いで上がっているのを見ると誰でもそんな反応をするだろう。

 

 

「馬鹿な……一万、二万、三万……まだ上がるのか!?」

「ぐっ! スカウターがイカれた!」

 

 

 ボボボボン、と戦闘員全員のスカウターがリズム良く壊れる音が響く。ドラゴンボールのフリーザ編、ナメック星編の醍醐味である戦闘力のインフレによるスカウターの故障。体験すると言い様のない気持ち良さを感じてしまう。

 

 ――言っとくが俺は舐めプはしねぇぜ。全力で兎を狩り殺す獅子の如く。

 

 

「ふ、ふふふ。戦闘力が全ての貴様等に絶望の一言を叩き込んでやろう。俺の戦闘力は――」

 

 

 ―― 一億五千万だ。

 

 絶望する戦闘員を追い詰めるようにオーラを纏って高速移動しながら突っ込んだ。……あれ? 悪役はどっちだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴク、ゴク、ゴクとありったけの飲み物を喉を通して腹の中に収める。ぶっ続けで戦い続けてたから空腹感が凄まじい事になっている。

 微妙に臭くなってる自分の体をシャワーで清め、上半身裸体で首にタオルを引っ掛けるスタイルでジッカ人の間を飛び交う報告に耳を傾ける。粗方、大部分の雑魚は掃討したからピンチは一先ず去った。事後処理は別の種族に任せても大丈夫らしいのでじっくりと休んでいる。

 

 

「悟空はどうだ? どこら辺にいる?」

 

 

 飲み物が入っている容器を握り潰しつつ探している悟空の宇宙船のビーコンを調べさせる。自分で探ろうとも思ったが超高速で進んでいる悟空の乗っている宇宙船を感知できない。動いていないのならまだ楽にできるんだがワープしているせいで捕捉できない。

 ビーコンを調べれば位置はすぐにわかるが事後処理で忙しいらしく、手が回っていないようだ。まあ、他に問題を抱えているから無理を言うのも憚れる。

 

 

「何をやってんだよ長老……」

 

 

 こんな非常事態時に。

 

 抱えている問題。悟空には伝えられなかった二つの問題の内の一つが、ジッカ人のトップである長老の失踪だ。誰にも行き先を告げずに姿を消したらしい。攫われたとも考えたが、少なくとも危険な状態ではないようだ。

 長い付き合いなのに今まで教えてくれなかったジッカ人の秘密、ジッカ人の叡智の結晶でもある“ユグドラシルの涙”と呼ばれるマザーコンピューターに分類される端末がある。いや、まあ、ユグドラシル云々は流石に俺が名付けたのだが。ユグドラシルはファンタジーに連なる作品で知識の泉として扱われる事があったような、と曖昧な記憶から地球のアーカイブで調べた。

 ジッカ人のアーカイブの中には神話の真実まで書かれているから驚いたモンだ。そんなアーカイブの中でも重要な情報を集めた、太陽系を含む宇宙の知られてはならない秘密を記している上位アーカイブがそのユグドラシルの涙、というわけだ。見た目が水の雫のようだったので涙と名付けた。

 

 そのユグドラシルの涙には長老のバイタルを記録する機能がある。事細かに記録しているため、どこにいるのかはわからないが今置かれている状況がどんなものかはわかる。

 極めて平静状態。環境も快適な場所に身を置かれている。それ以外はわからない。ぶっちゃけ場所もわかるビーコンを埋めておけよ、と頭を抱えた。

 

 

「……ん。わかった。この調子ならフリーザの三分後には着陸できる。悟空の感知能力を考えるともう少し早く行けるか」

 

 

 トントンと右の米神辺りを人差し指と中指をくっつけた二本の指で叩く。カチリと自分の意識のスイッチも同時に切り替えるように叩くリズムと合わせる。

 自分の感知能力を拡大。普段感知できる範囲を気で広げながら悟空の感じ慣れた気を感知できるよう、徐々に、徐々に素早く拡大する。トントンという音をタイミング良く広げるきっかけにすると、自分の感知能力が宇宙全体に広がっているのでは、と錯覚するほど伸びていく。

 

 

「――見つけた。バイタルに異常はない」

 

 

 トトトトンと人差し指、中指、人差し指、中指と米神を叩く。大体の場所を把握できたので最悪の状態に備えての準備をする時間はできた。

 

 

「ちょいと外す。何かあったらすぐに連絡しろ」

 

 

 オペレーターとして働いているジッカ人が揃ってサムズアップを見せてくれる。ブームになってるのかそのサムズアップは。絶対にトレーニングルームのオペレーターから広がっただろそれ。

 呆れながら首に引っ掛けているタオルを長いのが特徴の黒い髪の毛に乗せる。どれだけ乱暴にしてもすぐに元の形に戻るのだからビックリする。伸びる事はないが、切れば一気に元の長さにありえないスピードで生えてくるのは嫌だ。ラディッツみたいな長さではないのが唯一の救いか。

 

 さて、と悟空が地球に到着するまで調べ物をするか。ユグドラシルの涙のアーカイブにはサイヤ人の伝説や運命の子、俺の体の秘密があるから長老のいない間にちゃちゃっと調べてしまおう。多分、止められるだろうから。

 現在、長老がいない間は長老代理、ジッカ人の代表代理としての権限を与えられている。ジッカ人全員の承認を得られたからこそ貰えた権利だ。ここでジッカ人の好感度稼ぎをしていたツケが回り、好機へと変わった。

 トレーニングルームで使っている服を新しく用意してくれているらしいので舞空術で浮きながら着替える。浮きながらも前に進めるのだから舞空術ってマジ便利。

 

 

「あー、コホン……ランベ。コウユルイレレテテ」

 

 

 合言葉となるジッカの言葉を唱え、アーカイブにアクセスする。SF作品にあるモニターが空中に浮かぶ現象を目の当たりにしつつ、手を翳して指をスライドして画面を操作する。声でも操作できるのに気付いたのはちょっと後だった。

 

 

「検索。キーワード、サイヤ人、運命の子」

 

 

 すると、ズラリと並ぶ検索結果。パチンと指を鳴らせば画面が展開され、詳細情報が開かれる。

 

 ―― 超サイヤ人計画 ・・・ 伝説の復活、性質を“善”に変化させた伝説育成計画

 

 ……何かセルを作るみたいな。これが俺に関係する計画とやらか。超サイヤ人計画と名付けられているのも安直過ぎる気もするが、詳細を見ると色々ととんでもない情報が書かれている。

 性質が“善”、所謂正義の心を持つサイヤ人を数名集めた上で一名にパワーを注ぎ込む。そうする事で隠されたサイヤ人の伝説を復活させる事ができる、とある。ざっと読んでみたが曖昧な情報が多過ぎる。よくもこんな穴だらけの計画を実行しようと思えたな。

 しかも唯一マトモなのがクローン量産計画とは。いや、マトモでも狂ってるんだが。クローン兵士とかスターウォーズか。他にもマシーン化もあるんだがメカサイヤ人とか嫌すぎんぞ。人造人間かっての。

 

 

「永久破棄を決定……ふむ」

 

 

 長老の名によって超サイヤ人計画の延長上にある計画は却下されたようだ。うむ。安心した。もしもこれが実行されるのなら反逆をしようかと思ったよ。だけどちょっと長老とかを見る目が変わるわ。

 

 これで大体の予想ができる。超サイヤ人になれないのはこれが原因かもしれない。変身する前に変な事をしてしまったから変身の妨げになっていると考えるのが超サイヤ人になれない一番の理由だろう……そう思いたいものだ。

 前までは超サイヤ人に変身できる才能がないのでは、と絶望していた頃だから希望に縋っているだけかもしれないが。

 今こそ悟空やベジータは正義のサイヤ人に近い性質を持っているが、悟空もベジータも例外なく野蛮なサイヤ人の悪しき性質を抱えていた。長老もアーカイブも俺が“善”、正義の心を初めから抱えているとすれば性質も超サイヤ人に覚醒する条件に含まれるのではないか、という事だ。あくまでも俺の考え。

 

 

「くっはっ。ちょっと面白くなってきたな。サイヤ人の新たな変身の可能性か」

 

 

 サイヤ人独特の度重なる変身。その新しいステージがある事を知ってしまうと、どうしようもなくワクワクしてしまう。

 逸る気持ちを抑えながらパン、と手を叩いて拍手をすると画面を全て消す。履歴も消そうかと考えたがそのままにしておいてユグドラシルの涙のある部屋から退室する事にした。

 

 超サイヤ人悟空とぶつかった際の一度だけ発現できた赤い気のオーラ。あれが超サイヤ人計画の終着点だろうと思われる。変身できていた時間は凄まじく短く、使えたものではないがあれをモノにできたとすれば……孫悟空という英雄の隣に立つ事を真の意味で許されるはずだ。今の関係も良いが、やっぱり悟空とベジータのような関係が良い。ライバル同士という甘美な響きのある関係が。

 よっし。その為にも頑張ろう。目指すはサイヤ人の変身の新しいステージだ。赤いサイヤ人とも言える変身を目標にすればもっと頑張れる。

 

 

「その前に長老を探すかぁ」

 

 

 まずは長老見つけて指揮を任せないとなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えた。考え抜いた。高い岩山の崖の端っこに足を乗っけながら考えた。これからどうしようか、赤いサイヤ人になれる条件とは何なのか。取り敢えずはあの戦いに加勢をしようかしまいかを考えている。

 眼下に広がる地球の景色。懐かしい気持ちで溢れる胸中は暴力ではなく言葉で交わしている悟空とフリーザによって無理矢理そちらに集中させられる。

 

 

「間に合ったようで幸いだ」

 

 

 場所は地球某所。フリーザ一味、フロスト一族が持つ宇宙船の前で繰り広げられている孫悟空と並んでいる紫髪の青年、未来から来たトランクスは大量に並べているフリーザ一味の雑魚戦闘員とメカ化したフリーザと彼の父であるコルド大王と向き合っている。

 見ていないが多分、トランクスは絶句していただろうな。本来であればもう少し後で悟空が来るはずなのにもう来て共に肩を並べているのだから。すまんトランクス。歴史が変わったのは完全に俺が悪いわ、と若干草を生やしつつ心の中で思う。

 気は完全に隠しているから悟空にトランクス、フリーザ一味は俺に気付いていないだろう。離れた場所で見ているであろうZ戦士一行もだ。ピッコロの目を警戒して場所も考えているからバレないだろう。多分。

 

 あ。悟空が超サイヤ人に変身した。何か追い掛けるようにトランクスも変身してるし。悟空の気合の入った声がここまで聞こえてくる。噴出している黄金のオーラがトランクスのそれよりも純度が高い。大きさも威圧感も次元が違う。トランクスが驚いているのがよく見える。悟空がそこまで強くなっているとは思わなかったと見れる。

 視線をズラし、Z戦士がいる場所を見れば特にベジータが絶句している。直に超サイヤ人を見た子供の孫悟飯もかなり戸惑っているようだ。感じられる気は超サイヤ人じゃないサイヤ人からすれば次元が二次元くらい違うからこその反応なんだろう。

 うむ。宇宙船に食べ物を入れておいて良かった。満腹で力が入っているようで安心だ。

 

 そして繰り出される悟空のフリーザ絶対殴るパンチ。殴られたフリーザは反応すらできずに吹っ飛ばされて宇宙船に突っ込む。え。弱くね? 悟空が超パワーアップしたと言ってもフリーザを簡単に蹂躙できるのだろうか。二億以上ある超サイヤ人であってもメカ化したフリーザと互角になるはずだが……もしや強くなり過ぎたのか?

 残されたトランクスは背中の剣を抜いて戦闘員を八つ裂きにしている。やっぱり未来トランクスは雑魚絶対斬り殺すマンだろ。上下半分よりも左右半分はエグいぞトランクス。中身が見えてる見えてる。

 そしてハブられるコルド大王。漫画では良いトコなしで死んだから扱いも酷い気がする。

 

 

「……フリーザの父親、だよな?」

 

 

 何だろう。何か違和感がある。フリーザとコルド大王が親子なのは姿が似ているからわかる……ん?

 

 

「フリーザの第一形態……ハッ!?」

 

 

 コルド大王の見た目はフリーザの第一形態と似ている。それがわかってしまうともしもの可能性が出てくる事になる。

 もしかすると、コルド大王もフリーザと同様に変身するタイプなのではないだろうか? フリーザの最終形態とコルド大王の今の姿が同等だとすると、変身てしまえばフリーザ以上のラスボスになるのではないだろうか。コルド大王は。

 唸りながらフリーザの戦闘力を覚醒したばかりの超サイヤ人悟空と同等とすれば、それは自動的にコルド大王の第一形態の戦闘力となる。姿の変わる変身を用いれば軽く四倍は上がるはずだ。となれば、六億……? 更に変身すれば……。

 

 

「ヴァァァァァァ」

 

 

 人間に出せないような唸りが口から漏れる。コルド大王殺さなきゃならんじゃん。変身する兆しを見せれば割って入ってでも殺すしかない。本来の歴史であればトランクスが斬った上で気功波で消し飛ばしていたが不測の事態はありえる。注意せねば。

 って悟空ーッ!? フリーザが憎いからってそこまでボコボコにしなくてもーッ! 機械の体がベッコベッコになってるがなーッ!

 

 

「ハアアアアァァァァァァッ!!」

「やめたげてぇ!」

 

 

 更に追い打ちを掛けるように悟空がデカい気功波をぶっぱなした。かめはめ波の手の構えの横バージョンで黄色いエネルギー波がフリーザを消し飛ばした。恐ろしい威力なのがすぐにわかった。

 その傍ら、トランクスがコルド大王を両断、両断!? していた。あれぇ!? コルド大王の変身はないの? 俺の考えすぎだったのか? 呆気なく散ったよパパーザ!

 戦闘が完全に終わり、超サイヤ人を解いた二人は元の黒髪と紫髪に戻った。互いに向き合って頷くと、同時にフリーザの宇宙船に手を向けて気功波を撃ち、跡形もなく破壊し尽くした。余波らしきものが大地を揺らした。

 

 ……え、えぇぇー。俺の出番ないままで良かったのか。すまん悟空。信じきる事ができなかった。

 ぽつねんと崖の上で足を小さな岩の上に乗せたままで固まるしかなかった。Z戦士のはしゃいでいる声が聞こえたがそれでも動く事はなかった。

 

 

「あっ」

 

 

 動けば良かった。位置を変えたからピッコロに見つかった。とても気まずい。

 ピッコロがあそこに誰かがいる、と言ったらしい。一斉に俺を見るZ戦士の一員である俺に気付いた悟空はニカッと笑いながらこっちに親しげに手を振ってきた。これは行かなければならんか。渋々と崖を蹴って悟空達の元に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 あっ。フロスト一族の情報を聞き出すのを忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 【悲報】コルド大王変身できず ・・・ 見た目がフリーザの第一形態だから変身させてエリンに介入させようとしたけど先々の事を考えるとトランクスの見せ場にする為に瞬殺される。

 【朗報】ネタバレ解禁 ・・・ ここまで書いたから感想で好きなだけ書いてしまえい。そうだよ。ゴッドだよ(適当)

 【嬉報】主人公、危機を免れる ・・・ クローン兵士は割とマジで考えた。ターレスの発言から考えれば主人公のクローン軍団が宇宙の平和を守り、後にパルパティーン長老によって支配されるIFも考えた。
 主人公のメカ化は寿命の概念を消す選択肢の一つ。もう既にちょっとだけ伸びてるけど超サイヤ人に変身していないから悟空達よりは長生きする。

 【朗報】トランクス、大活躍 ・・・ 雑魚をぶった斬り、コルド大王の変身を拒むようにぶった斬る。だがこれでトランクスの見せ場は終わる。

 トランクス
   ↓

  (  ゚д゚)
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /

  ( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /

  ( ゚д゚ ) ガタッ
  .r   ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
  \/    /

 ⊂( ゚д゚ )
   ヽ ⊂ )
   (⌒)| ダッ
   三 `J


/  O | ̄| O  ヽ
|    / |     |
ヽ、.  ├ー┤    ノ




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第八話 未来に向けて


 感想が百件を超えました。中には設定の考察といったものを書いてくださる方がいるので大助かりです。

 感想の中にトランクスの気持ちを代弁するものがあるので見ては如何でしょうか?


 トランクス → (´・ω・)

 エリン → (´・ω・)

 ベジータ → (´・ω・)

 悟空 → ( `・ω・´ )

 その他 → (;´゚д)

 何気なくブルマが今回のMVP。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン! 見るからに軟弱な奴がサイヤ人だと? 笑わせるなカカロット! 誇り高き戦闘民族たるサイヤ人は安くないんだ!」

 

 

 ビシッと失礼にも程があるベジータの人差し指と物言い。やけに気合の入った指差しに惚れ惚れするが唯我独尊の態度に思わず顔が歪む。不機嫌そうなのは誰が見てもわかる顔をしているだろう。

 俺がサイヤ人であると悟空が説明した上で証拠の尻尾を見せれば地球の悟空の仲間が身構えていた。流石に戦闘態勢に入りはしなかったが警戒しているとわかる態度をしていた。更にはサイヤ人の王子であるベジータのこの物言い。己はジャイアン精神の持ち主か。

 

 

「ベジータは置いておいて。このエリンはオラの友達だ。ナメック星が爆発した時に脱出できなくて助けてもらった恩がある」

 

 

 ポンと俺の肩を叩きながら親しそうにし、地球の仲間皆に説明する。案の定、悟空の説明に過剰に反応するのは未来から来たと俺だけが知っているベジータの息子、トランクス。動揺を隠そうとしているが隠せていないのが丸わかりである。

 

 

「ちょっと待ってくれ悟空。ただでさえ超サイヤ人がもう一人いるだけでいっぱいいっぱいなのにまたサイヤ人? そっちのエリンって奴は兎も角、そっちのは信用できるのか?」

 

 

 ツルツルして背の低いのが特徴の戦士、クリリン。この場にいる者全員の気持ちを代弁するように言葉を紡ぐ。確かに言えてる。俺でも知らなかったらそう思うわ。

 

 

「大丈夫だ。悪い奴ならフリーザを倒す手助けはしてくれねぇだろ? 邪気は感じねぇから悪い奴じゃねえ」

「……本当なら自己紹介をしなければならないのですが今は事情があって名乗る事はできません」

 

 

 おいトランクス。そこでその言い方だと誤解を招くだろうが。

 

 

「すいません。少しだけ孫悟空さんと二人だけで話させてくれませんか。どうしても孫悟空さんに伝えなければならない事があるんです」

 

 

 俺の思いをよそに、トランクスは話を続ける。これ、暗に脅しているようにも聞こえるんだが。悟空よりは劣るものの、あのフリーザを倒した超サイヤ人に変身できるという事実はそれだけで脅迫材料になるのだから。現に誰も口を挟もうとはしなかった。

 チラッと悟空と目線と合わせる。返事は肯、頭を縦に振って悟空は返答をする。俺が言うまでもなくトランクスと密談をするらしい。

 

 

「いいぞ。ちょっと離れるか」

「ではこちらへ」

 

 

 先にトランクスが飛ぶ。話す場所に向かっているようで悟空も従うように後を追い、見える範囲にはいるものの絶妙に会話が聞こえない場所に着地する。それからペコリとトランクスが悟空に対して頭を下げ、会話が始まったようだ。

 かなり気まずい気持ちで待たされる事になった。スウェットパーカーに付いているポケットに手を突っ込んで悟空とトランクスの会話を“盗み聞く”。ピッコロは素で五感がずば抜けているが、気を操れば五感を強化する事もできるため、ピッコロと同じように二人の会話を聞く事ができる。こっちに突き刺さる視線から逃げるように意識をそっちに集中する。

 

 

「ねえ。あなた、孫くんとベジータと同じサイヤ人なの?」

 

 

 が、すぐに意識を逸らされた。会話は聞こえているが無視するわけにもいかないので話し掛けてきた人間に顔を向ける。向けると、純粋な地球人であるブルマが声を掛けてきていた。後ろでヤムチャとクリリンがブルマを止めようとしていたのかワタワタと手を動かしていた。

 

 

「答えはイエス。名はエリンだ」

「へーっ。孫くんとベジータ以外にもサイヤ人の生き残りがいたんだ」

「広い宇宙、探せばサイヤ人の生き残りはいる。下級戦士は辺境の星に飛ばされていたから無事だったという事があるからな」

 

 

 初対面のブルマは怖い者知らずなのか。まあ、そんなタマならあのベジータと結婚はしないか。微妙な気分に陥りながらベジータを見ればものっそい睨んできた。親の敵と言わんばかりの視線だ。何が気に食わないのか。

 グイグイと質問攻めしては周りの地球人をハラハラさせるブルマ。質問された内容には忠実に正確に返答していると、ピッコロが二人の会話を聞きながら徐々にこちらに意識を向けてくるのがわかった。俺の言葉が気になっているのだろうか。

 

 

「じゃあ、あなたは孫くんみたいに悪いサイヤ人じゃないんだ」

「俺の性質は“善”らしいからな。元々の性質が“悪”のサイヤ人という種族の突然変異とも言える……ま。どこかのサイヤ人みたいに無闇な殺生はしないタイプだ」

 

 

 チラッとベジータを見れば額の青筋が四つくらい増えてた。ストレスがマッハでブチ切れそうになってますがな。ベジータに近かった奴もベジータから少し距離を離しているから殺気が駄々漏れなのだろう。チクチクと刺してくる殺気は確かに感じるが猫が威嚇する程度だな、うん。超サイヤ人でもないベジータだと恐れる意味がない。本人が聞けば怒りそうだから心の中に仕舞って視線に乗っけておこう。

 

 

「最初は悟空には警戒されたよ。胃袋攻めたら簡単に気を許して今では友達関係、なのかね。ライバルとも呼んでくれたよ」

「ふざけるな! その程度の戦闘力でカカロットのライバルを名乗るだと? 調子に乗るな!」

「や。でも最初はあっちだから。悟空をナメック星で救ってからずっと一緒に修行してきたけどほぼ五分五分だぞ俺達。ついでに悟空が超パワーアップしてるのはそれ」

「お父さんの気が強くなったのは……」

「ずっと組み手してたからね。ホラ、今から面白いものが見れるぞ」

 

 

 ベジータとの漫才を終え、いつの間にやら近くにいた悟空の息子である孫悟飯の意識をそっちに向けるように悟空とトランクスを指差す。トランクスの言葉、超サイヤ人になっていただけませんかと聞こえたからちょっとした手合わせをするのだろう。

 ボッと黄金のオーラを纏う見慣れた超サイヤ人形態の悟空になる。感じられる気は戦ってもないのに凄まじい、と考えたらクリリンとヤムチャ、天津飯が考えを読んだように同じ台詞を言う。

 対抗するようにトランクスも超サイヤ人に変身する。悟空の気、オーラほどではないが今の俺と同等の気を感じる。次元が違うと感じている傍観者一同は改めて絶句している。

 

 

「あ、あの超サイヤ人もすげぇけど悟空の気はそれ以上だ……!」

「お父さん、フリーザの時よりもパワーアップしてる……」

 

 

 ああ、君等にとってはまさにヤムチャ視点だわな。もう次元すらも違うもんな。別に責めはしないけど何で俺を睨むのベジータさんや。

 まずはトランクスから攻める。背中の剣を抜いて悟空に斬り掛かると、悟空は人差し指のオーラを強化してから防ぐ……なんて事はせずに手刀の気ブレードを展開して防いだ。あれ、ベジットのスピリッツソードに似ている気がする。

 ここまで聞こえる剣戟音。片や真剣なのにもう片方は気で作った剣。同等に渡り合っているように見えるが悟空はかなり手加減しているらしい。本気を出せばトランクスの剣は折れるどころか両断できるだろうに。お遊びの手合わせだから折る必要がないと考えているのだろうか?

 最後にキィンと一際甲高い音を響かせると手合わせは終わる。ほぼ同時に超サイヤ人を解除し、上に剣を放り投げて納剣する無駄に格好良い事をしたトランクスは冷や汗を流しながら悟空の強さを褒める。しかも底が知れない事にかなり驚いている声色をしている。

 

 

「――クソッ。カカロットの野郎め」

 

 

 ベジータの嫉妬する声を聞こえたのは果たして何人いるだろうか。俺が聞こえたのだから多分、ピッコロは聞こえてるはずだ。

 というかベジータがカカロットこと悟空を嫉妬しているのは周知だから聞こえずとも誰でもわかってしまう。

 

 そこからの会話はトランクスが自分が未来人で人造人間に未来の世界を壊されている事を悟空に語る。更に、悟空がトランクスのいる未来では病気で死んでいる事も語る。その話に悟空が疑問を覚え、素朴な返答をする。

 突き刺さる三つの視線。ニッと笑う悟空、驚くトランクス、これまた驚くピッコロ。この三人からの視線だった。大体予想はしていたし、口止めもしてないからいいか。

 

 

『――じゃあ、俺が知ってる歴史とここまで大きく食い違うのはあの人のせいなんですか?』

『おめぇが言うならそうなんだろうな。もしもおめぇの言うようにオラが死ぬはずの未来があるとすれば、救ってくれたのはエリンだ。悪く言うのはやめてくれ』

『お、俺が来た意味がないじゃないか……』

 

 

 お、落ち込んでやがる。トランクスがブルマから与えられた最重要ミッションを達成しようとやる気を出した矢先にこれだものな。同情するよ。別に謝りはせんけど。

 というかピッコロが見てくる。視線だけで穴が空きそうなほど俺を見てくるよ。今の会話を聞くとそんな反応になるのはわかるがもう少し隠す努力はしようぜ。

 大体の伝えたい事を言い終えたトランクスは直に自分がベジータとブルマの間にできた子供であり、名前をトランクスという事を明かした。その破滅した見たいから来たという事も。普通は自分の素性を明かしてからその事を語るのではないのかね? イレギュラーばっかり起きて気が動転でもしていたのか?

 ほとんどトランクスの役目ないよな。未来で人造人間が暴れる事は大事だが、死ぬはずの悟空はジッカ人の超科学力で病気になる前にウィルスは死滅させてあるし、ジッカ人の科学で予防策も万全だ。しかも本来よりも多分パワーアップしている悟空が生きて、死なないとなると人造人間に対抗できる最強の切り札となる。トランクスのいる、知っている未来が起きる可能性はほぼゼロに近いゼロだしな。悟空がいれば万事大丈夫、って方程式が成り立つな。トランクスなんていらなかったんや。

 そう思うとどうしても哀れに思えてならない。罪悪感が徐々に毒のように俺をジワジワと嬲り殺しにしてくる。こ、これはやり過ぎたな。

 

 

「あっ。アイツがどこかに行くぞ」

 

 

 フイッとトランクスから顔を背けた瞬間を狙ってか、トランクスがどこかへ飛んで行く。残る悟空は腕を組んで悩んだようにこっちに歩いてくる。大方、どうやって人造人間の事をトランクスの事を隠しながら語ろうかと考えているのだろう。

 

 

「悟空! お前、また強くなったな!」

「初めて見たが凄まじかったぞ!」

 

 

 帰って来た悟空を労うようにわらわらと地球のZ戦士達が寄る。寄らないベジータは不機嫌そうに、ピッコロは難しそうな顔をしてむっつり顔で腕を組んでいる。ベジータは相変わらずだなぁ。

 悟空とトランクスの会話を見届ける事はできた。色々と歴史が変わってしまっているが、人造人間の存在という新しい脅威に晒される事はわかったのだから悟空達は再び地球の平和を守る為に己を鍛える事になる。となれば、俺は当分出番はないな。というか悟空の強さが天元突破してヌルゲーになっちまう。

 うむ。帰るか。生の悟空に続いてベジータとかトランクス、クリリンにピッコロとか孫悟飯以下を見れたし、それで満足だ。

 

 

「あれ? どっか行くんか?」

 

 

 帰ろうとすると、悟空が呼び止める。孫悟飯の頭を撫でながら俺を止めているが、そこは息子に再会した愛情を注ぎ続けるべきなのではないだろうか。

 

 

「フリーザとコルド大王は死んだ。フロスト一族の中でも強い奴が消えたからその報告をしに帰る」

「大丈夫なんか? 宇宙にはフリーザよりも強え奴がいるって言ってたろ」

 

 

 和気藹々としていた空気が凍る。悟空、何も爆弾発言をしなくてもいいじゃないか。

 

 

「そっちは俺がやろう。フリーザを倒したんだから次は俺の番だ」

「何言ってんだ! フリーザよりも強えのがいるならオラ、戦いたいぞ!」

「人造人間が来るからそっちで我慢しろ悟空」

「人造、人間?」

「聞こえてたんか」

「彼もだ。このナメック星人が件のピッコロって人だろ? 彼も会話が聞こえていたはずだ」

 

 

 スッと上に引っ張られるようにゆっくりと浮かぶ。パーカーのポケットに手を入れながら浮かべば緊張感が走っているようだ。どうやら俺はまだ警戒されているようで、少しだけ落ち込む。

 

 

「もし説明が難しいなら彼に任せるのも手だぞ。大方、もう一人のサイヤ人の説明が難しいみたいだからな」

「へへっ。やっぱりわかっちまうか」

「あんだけ長くいればお前の性格だとかは何となくわかる」

 

 

 ああ、と思い出した事があるのでそれを渡す事にした。下のスウェットのポケットに入っている小さな物体を取り出すと、悟空ではなくブルマに投げ渡す。投げられたブルマと言えば慌ててキャッチしてこぼれ落ちそうになる小さな物体をしっかりと掴む。

 え? え? と不思議そうにブルマは何故自分にそれを渡したのかわかっていないようだ。まあ、悟空に渡さなかったのは精密機械オンチだから。ブルマはそっちの筋ではジッカ人に負けない力があるのでそちらに任せた方がいいと判断した。

 

 

「お嬢さん。それは通信機みたいなものだ。使い方は何となくわかるだろう?」

「……わかるわ。でもここまでコンパクトになる通信機は見た事がない」

「フッ。銀河一の科学力を持つ種族の作品だからな。良ければ時間がある時に俺達の本拠地に案内しよう」

「ああ、ジッカ人んトコか」

「ま。そこら辺も適当に言っといてくれ」

 

 

 じゃあ、と手を上げながら悟空の乗ってきた宇宙船に向けて飛ぼうとすれば更に悟空が止める。ちょいちょいと手招きをしながら。

 

 

「ベジータ。おめぇ、コイツが弱いと思ってんだろ? ちょっくら力の差を知っとくのもいいんじゃねぇか? 宇宙にはまだまだ強えのがいんだぞ、って事がわかるとやる気も出るだろ?」

「フン。性質が善などという軟弱者にこのベジータ様が負けているとでも?」

 

 

 お? 言ったな? 言ったな? ただのプライドの塊みたいなベジータが言うようですね。見た目に騙されてはならないと地球で悟空と初めて戦った時に学んだろうに、まだ懲りていないらしい。

 目で見せてやれ、と悟空に訴えられる。しょうがない、と溜め息を吐きながら少しだけ高度を上げて止まる。見える距離で尚且つ、余波が届かない距離のはずだ。それを確認してから浮きながら足を少し開き、拳を固く握って腰から少し離して構える。

 気の解放、自分の中にある太陽に触れながら少しずつ目視できる白いオーラを発する。ズゴゴゴゴ、と空中にいるのに大気を震えているのが肌で感じる。立ち昇るオーラ、白いオーラは少しずつ赤に近い色合いが混ざり始めた上で赤に近付いている気がする。あくまでも気がするだけで、もしかしたら赤いサイヤ人の存在を知ったから変身できる兆しが見え始めているのかもしれない。

 ある程度、悟空と戦う時だけに見せる本気レベルのパワーまで上げてから悟空を見て困ったように両手を上げて竦める。

 

 

「超サイヤ人にならないオラよりも強えぞ。超サイヤ人になれば互角以上に渡り合う事もできる」

「……さ、さっきの超サイヤ人と言い、新しいサイヤ人は皆化け物かよ……」

「というか超サイヤ人に変身すれば悟空よりも強いんじゃないか!?」

「残念ながらそれは無理ですねぇ。悟空に教わったけど変身の兆しがない」

 

 

 これだけ距離が離れても声は届くらしい。身に纏うオーラを霧散させ、素の状態に戻ると悟空に手でジェスチャーをする。

 

 ブルマに、渡した、通信機で、電話よろ。

 

 悟空がわかったかはわからないが、ピッコロにわかるように少しだけ声を出したので大丈夫だろう。言いたい事を全部言えたので本来はトランクスがやるはずの軽く手を上げての挨拶を俺がする事になった。ニッと悟空のように愛嬌がある笑いをしてから再び小さなオーラを纏う。

 最後にチラッと見ればベジータが悔しそうに手をプルプルと震わせているのが見えた。俺が気を使ってもベジータのプライドを逆撫でするだけなので何も言わずに去る事にした。バシュッと高速移動をしながら飛び去り、悟空の宇宙船を回収する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンボールの世界観に合わない、どちらかと言えば格好良い系のSFにある戦闘機のデザインの悟空の乗ってきた宇宙船のエンジンに火を入れる。パチパチとスイッチを切り替えながら宇宙を飛ぶのに必要な準備をしながら操縦桿を握る。

 ヴオオオ、とエンジンが唸る音が振動と共に宇宙船を揺らすのを体で感じる。少しだけ薄暗いコクピットの前方に見える地球の光景は、俺の知る田舎や都会の光景とは違う、ドラゴンボールの背景によくある荒野を見納めながら段々大きくなるエンジン音に呼応するように宇宙船の反重力モジュールが起動する。

 少しだけ浮こうとすれば前に広がる光景に新しい光景が割り込む。厳しい表情をした人間が浮かびながらこちらを睨んでいるようだ。

 

 

「トランクス……?」

 

 

 暖まり始めるエンジンをそのままに、シートベルトを外して外に出る事にした。明らかに一人用じゃない宇宙船が広いせいですぐに出れなかったが、紫髪のトランクスは律儀に待ってくれていたようだ。

 スライドするドアから外に出れば、トランクスの視線がこちらに向く。会話をする為に互いの距離を埋めるように俺が近付く。背中の剣に手を伸ばそうとしてないのは幸いだった。そこまで恨まれていないらしい。

 

 

「君は、トランクスだっけ?」

「ええ。やっぱり聞こえていたんですね」

「色んな技を覚えているからな。その中の一つに五感を強化するものがある。それを使えば、あの程度の距離の会話は聞こえる……今から未来に帰るのか?」

「その前にあなたの正体を聞きたい。俺の知っている歴史と大きく変わったのはあなたが原因らしいと孫悟空さんから聞きました」

 

 

 答えない事は許さない、と目が言っている。そんなに睨まなくとも教えてあげるから。

 

 

「俺の名前はエリン。正義の心を持つ異端のサイヤ人の最後の生き残りだ。命を救ってもらったジッカ人という宇宙の種族に世話をしてもらってる身だ」

「サイヤ人の生き残り? 孫悟空さんやベジータさん以外にも」

「あ。お前さんがベジータの息子なのは知ってるから大丈夫。他人行儀じゃなくて父と呼んでやれ」

 

 

 確か、わざわざタイムマシンで過去に戻る理由の一つに自分の父を見たいという気持ちもあったような気がするのだが、そこら辺はかなり曖昧だから本当なのかもわからない。俺なら死んだ父には会いたいと思うな。サイヤ人としての父と母は未だに顔も名前もわからんが。

 トランクスに自分がサイヤ人である事を改めて告げると、驚きはしなかったものの、難しい顔をしていた。まさかサイヤ人の生き残りがいるとは思わなかったのだろう。未来の、トランクスの母であるブルマですら俺という存在は知らないと思うし。

 

 

「俺の母から聞いていた孫悟空さんの強さとは大違いでした。聞けば、あなたと修行をしたから強くなったと言ってましたが」

「事実だ。ナメック星からの脱出に失敗してるのを助けてからずっと一緒に行動していた結果があれだ……何か、正直スマン。同じサイヤ人に会えた興奮でつい」

「つい、で俺の役目を一気に潰されたのか……」

 

 

 orzでもしそうなほど落ち込むトランクス。落ち込む理由が俺だから慰める事もできない。だけど謝るように落ち込んでいるトランクスの肩を叩いてあげた。

 

 

「いえ、でもあれほどの強さなら人造人間に負ける事はないでしょう。一番の不安点だった孫悟空さんの死はもうないんですよね?」

「早期解決している。前に悟空の体をスキャンすればとある星のウィルスが紛れてたからな。早めに治療しておいたから少なくともウィルス性心臓病で死ぬ事はない。今からはどんな病気になるかはわからんがなったらなったらで俺達が彼をサポートする」

 

 

 本来の歴史にある悟空の心臓病はヤードラットで拾ったと思われる。真相は謎のままだが、考えを明かせば瞬間移動で他の星に行ってウィルスを拾ったのかもしれない。しかも遅延性で発見時には手遅れってクソレベルのウィルス。もう発症する事はないが、地味に治せる薬を作る未来ブルマ凄いな。

 ジッカ人の科学力、ジッカ人連盟の治療に長けた種族の手を借りればほとんどの病気は治せるだろう。これは自信を持って言える。

 

 

「……孫悟空さんには渡していませんでしたが、これを」

 

 

 チャプンと音が聞こえるような水の打ち方をするカプセル。トランクスが指で挟みながら俺に渡してくるカプセルは心臓病の特効薬か。まあ、あの話の後だと必要ないわなこれ。取り敢えず疲れ切った様子のトランクスからそれを受け取っておく。

 

 

「もう必要、ありませんから」

 

 

 おいやめろ。見ているだけで心が痛いだろうが。貴様は俺を罪悪感だけで殺すつもりか。

 見たところ、頑丈な仕組みになっているようなので適当にポケットに突っ込んでおく。カプセルを入れた時に指がポケットの中身に当たったのでトランクスへのお詫びに渡しておこうか、と考えに至る。

 水の雫のような形をしている金属を取り出す。トランクスがそれは何だ、と聞きたそうにしているが敢えて無視してから手首に当てる。カシャカシャと音を立てながらSFによくある無駄ギミックを発揮しながら手首に装着される。宇宙服の腕モニターと同じものなので簡単に操作をする。ジッカ人が作ったから超高性能という言葉だけでは足りない高性能っぷりを発揮するガラメカみたいな物だ。もうGショックブーム到来してるな。Gショックと同じレベルでは失礼だが。

 カコカコ、ピッピッと操作すると待機している宇宙船の天井が開く。ペッと吐き出すように物が飛び出すとそれをキャッチした。そのまま呆気に取られるトランクスに手渡す。

 

 

「これをやる」

「え? 何ですか?」

「あー、何だ。この地球にある仙豆のような便利アイテムが幾つか入っている。銀河一の科学力で生み出された物だから性能は保証する。君の母、ブルマに渡せば量産はできるだろう。救急キットもあるから怪我人を治す事もできるはずだ」

「! あの、いいんですか?」

「荒廃した未来だと物資も不足しているだろう? 君に迷惑を掛けたお詫びだ」

 

 

 使い方はブルマに解析させればわかるはず(投げやり)

 

 最初に会話した時よりも親交が深まったらしいトランクスは本来は悟空達にするはずの挨拶をタイムマシンに乗りながら俺だけに見せてくれた。晴れ晴れとしたトランクスの微笑みが何とも痛々しい事か。タイムマシンが消えた瞬間に顔を背けてしまった。

 

 

「……帰ろう。我が家に」

 

 

 この台詞は言う場面によっては感動するんだろうな――メンタルダメージ甚大なフリーザ襲来編、人造人間の前奏曲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 






 エリン、トランクスに苦手意識を持つの巻。罪悪感で死ねるレベルである。物資提供で少しだけ心を癒しました。

 力の差が大きいサイヤ人が三人もいる事でベジータは嫉妬が加速したようです。下手すれば超ベジータ覚醒が早まるかもしれないし、超サイヤ人になれずにトランクスが消失する未来があったり? ないけど。

 ブルマがエリンに話し掛けたおかげで全ての情報を伝える事ができてホッとするエリン。クリリンとかはまだ警戒しているけど悟飯だけはちょっとだけ歩み寄る事ができている感じです。父を救ってくれたと悟空自身が言っているのでそこまで警戒はしていないようです。

 そしてトランクスの扱いに涙不可避。感想のトランクスの扱いにも涙不可避。ベジータ揃って親子は原作でもそんな扱いに不憫過ぎて泣ける。



 クウラを入れてから人造人間に入ります。後はゲロイン(エネルギー波)も出します。




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第九話 過ぎ去りし日々


 すいません。完結まで頑張ろうと思ったのですが、ドラゴンボールの二次はかなり難しくて挫折しそうです。

 なので、今回で打ち切りにさせてください。本当に申し訳ございません。























     *      *
  *     +  
    n ∧_∧  n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *


 エイプリルフールでした。さあ、ブロリストの諸君、トランクスとなって叫ぶんだ!

 「嘘です! まだイケメンサイヤ人の俺がちょっとしか出ていないのに終わるなんて嘘です!」

 今回は所謂、日常パート。クウラじゃなくてゴメンね。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 専ら、最近の仕事と言えばフリーザの残党の捕縛に制圧。または帝王フリーザが消えた事で暴れ始める小悪党の退治だとか地味なものしかしていない気がする。まあ、フリーザだけでなく父親のコルド大王まで死んだんだから次は俺の時代とか考えてるのが多いんだろう。

 更に悪いのは雑魚である事だ。ただの雑魚ではなく、クソが付くほどの雑魚しか当たらないのだ。悟空との組み手に依存(意味深)してしまった俺の今の体では碌に満足(意味深)できないのだ。フラストレーションが溜まる一方で仕事は次から次へとやってくるため、いっその事惑星ごと破壊でもしてやろうかと悪のサイヤ人っぽい思考に染まりつつある。

 

 嗚呼、今日も今日とて仕事はあるよ。ボコボコにして積み重ねた瀕死の屍を見ながら手の埃を払うよ。

 

 

「後は好きなようにしてもいいぞ」

 

 

 わー、と子供のようにはしゃぎ始めるジャンク屋一同。フリーザの傘下にいたからか、充実している装備を剥ぎ取れるまたとないチャンスにハイエナが元気になっている。しかも無傷で確保できるのだから誰も文句は言わない。デパートの主婦のセールの戦争を見ているようだ。

 ハァと溜め息が出る。雑用にもならない雑用のせいでストレスが溜まる。発散の為にフロスト一族の生き残りであるフリーザの兄、クウラを探しているがどこにも見当たらん。劇場版のように地球に降りたという情報もないので宇宙のどこかにいるのは間違いないんだが。

 ドラゴンボールの歴史通りならば人造人間の脅威に立ち向かう為に悟空達はそれぞれ修行をしているはず。その最中にクウラが襲来するはずなのだが、今は何をしているのだろうか。やっぱり修行かね?

 

 これから悟空は超サイヤ人を強化し、ベジータは悟空に負けられないと気合を入れながら超サイヤ人を目指す。かなりパワーアップしている悟空は孫悟飯に超サイヤ人になれる方法を教えているのだろうか。歴史からまた外れるだろうが、もしかしたらセル誕生前に17号と18号を倒せるだけの戦力が揃うかもしれない。クソ、ウス=異本に世話になった18号が殺される未来もありえるのか。クリリンの嫁がいないならヤムチャ並に空気化するじゃないか。更にクソソソと表記される始末になるかもしれん。

 ……悟空に期待しよう。何だかんだでドラゴンボールの主役は孫悟空だし。

 超サイヤ人と言えば、取り敢えず超サイヤ人を目指す事は一旦やめて赤いサイヤ人の正体を究明する事に力を入れる事にした。未だに兆しすらないわけだが、諦めずに変身できるように仕事の合間に試行錯誤している最中だ。

 

 

「エリン様エリン様」

「おう。どした」

 

 

 ビシッとした服装の上着に手を差し入れてボリボリとオッサンのように掻いていると可愛らしい子供特有の高い声が耳に入る。てててっ、と地面を走る音と一緒に視界に飛び込んできた。

 

 

「にぃ、報告します!」

「はい。報告お願いします」

 

 

 子供を見守る近所のお兄さんの気持ちになりながら可愛く敬礼するヒューマン型の子供の宇宙人に向き合う。満面の笑みを浮かべると見える八重歯がとってもキュートです。

 侮る事なかれ。こんな見た目をしていても実力はある。完全エイリアンみたいな見た目のジッカ人とは違ってファンタジーの獣人に近い見た目をしているからジッカ人よりは人によっては付き合い易いだろう。サイヤ人と同じような尻尾もチャーミングです。

 ジッカ人連盟の一員でそれなりの地位を持つ種族の代表と言える立場にいる。だからジッカ人連盟トップにいる長老に並ぶ俺と会話できる権限も持っているのだ。見た目が愛くるしく、猫のアメショを擬人化させたこの子はお気に入りの一人である。

 

 

「調査範囲を広げる指示に従った結果、奴隷斡旋グループを四つ発見しました! 誘拐等を行う卑劣で下劣な×××野郎ですっ!」

「うん。わかってたけど放送禁止用語を吐くのをやめような。ある筋ではご褒美になるけど可愛いんだからやめような」

「可愛いのはわかってますっ!」

「……」

 

 

 が。一番の欠点はこれである。毒舌、下品。俺は放送自重枠のょぅι゙ょって呼んでる。口汚く罵る事に定評がある拷問エキスパートのにぃ(偽名)ちゃんだ。普通に恐ろしい拷問官である。

 ま、まあ功績は確かにある。フリーザ一味のそれなりに地位がある奴を拷問に掛けて情報を吐き出させたりな。何かこう、ヒロイン枠の子が助手に来たと思ったら普通にヒドインでござった。やはりドラゴンボールには恋愛要素は許されんのか。子供がいるサイヤ人が二人いるのに。

 

 

「というわけで生きの良い人をお願いしますっ! お礼はにぃのカ・ラ・ダ!」

「口を閉じてろクソ猫」

 

 

 また仕事だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ。元気そうだな」

「おう。そっちは随分楽しそうだな」

 

 

 宇宙奴隷商人をボコボコにして拷問に掛けたり、宇宙海賊の所持品を全部没収したり、テロを起こしたテロリストをボコボコにしていると流石にストレスが爆発しそうになった。爆発寸前でボイコットして逃げ出した。

 気軽に挨拶をしてくれる悟空に挨拶を返しながら正装のロングコートを脱いで腕に引っ掛けながら悟空に近付いて行くと、休憩中なのか水をゴクゴクと飲んでいた。

 

 

「一人か? 息子はどうした?」

「ピッコロと一緒だ。オラが教えるよりもアイツが教える方が今は良いからな」

「ふーん。息子に超サイヤ人を教えないのか?」

「チチが駄目だって言うからなぁ。不良みたいで駄目だ! って聞かねぇんだ」

「嗚呼」

 

 

 そういえば悟空の妻のチチ、超サイヤ人を不良って言ってたな。懐かしい。悟飯が初めて超サイヤ人になった時も悟飯ちゃんが不良になっちまっただー! って叫んでたような気もする。

 近くにあった木の枝にロングコートを引っ掛けて手放すと、自由になった手で悟空の傍にある果実を一個掠め取り、齧る。

 

 

「こらーっ! それはオラんだ!」

「固い事を言うな。俺とお前の仲だろう」

「駄目だ!」

 

 

 どうしても食事だけは決して譲ろうとしない悟空。わかってはいたが食いしん坊だなぁ。ジャリジャリ、シャリシャリと梨のような味のする果実を一気に齧り尽くす。サイヤ人の歯は多分、鮫よりもヤバイと思うんだ。固い肉もひと齧りで食い千切れるからね。

 不機嫌になりそうな悟空のご機嫌取りに四次元ポケットのようなジッカメカから一個の果実を取り出す。それを見た悟空の機嫌がみるみる上機嫌になって行くのが見ているだけでわかる。

 

 

「ほら。これが好きなんだろ? お詫びにやるから許せ」

「おほーっ!」

 

 

 現金な奴である。何だか可愛い悟空だ。俺のあげた果実に夢中になっている間にまたこっそり悟空の取った果実を盗んで齧る事にした。夢中になっている悟空に気付かないかと思いきや、手を差し出してきた。んっと言いながら出す悟空は催促しているらしい。お前、食ったんだから俺にも寄越せよ、と。

 

 

「はいはい。ほら。訪問の品はまだあるから食え……で、奥さんはどこだ?」

「オラん家。あそこだ」

 

 

 シャクシャクと味わいながら食べる悟空の指差す先には半円の形をしたドラゴンボール特有の家が自然の中に立っていた。田舎らしい斧が刺さった切り株もある。どうやらあれが孫家の家らしい。

 二個目を通り越して三個目に突入した悟空の腕を引っ張り、彼の妻であるチチに挨拶をする事にする。ぶっちゃけ悟空よりもチチに会う事が主な目的だったりする。

 逃げ出す際に備蓄していた幾つかの品を持ち出し、悟空にお世話になりましたと挨拶をする予定だ。面識がないから警戒されるだろうが胃袋を完全に掴んでいる俺に隙はない。渡す物を渡して孫家が得をする提案をするつもりである。一番悟空が喜びそうな提案だと思うんだが、チチはどう思うだろうか。

 

 

「帰ったぞチチ!」

「悟空さ! 今日はすぐに帰ってくるって言ったのに遅いだ!」

 

 

 自分の家にただいまと言った瞬間、間を置かずに悟空の妻であるチチがぬっと奥から出てきた。何気にチチって初期のドラゴンボールと比べたら成長すると同時に凄まじくスリムになった美人だよな。最初に嫁にもらってくれと言ってた時ってかなり太ってなかったか? どちらにせよ、美人である。可愛い。

 ガミガミとチチが悟空を起こるだろう時に彼女は俺を見つけた。少しだけ戸惑った顔をして悟空を見ていると、嗚呼と頭を掻きながら俺の紹介をしてくれる。俺の名前を聞いた途端にパッと顔を明るくして頭を下げてきた。え、何で?

 

 

「話は聞いてるだ。悟空さを助けてくれた人だな!」

「まあ。偶々見つけて」

「あー、良かっただ。おめぇさんが悟空さを助けてくれなかったらおら、未亡人になってただ。ほんっとーに感謝してるだよ!」

「喜んでもらえると嬉しいです。これ、つまらない物ですが、御近付きの印にどうぞ」

 

 

 ススッ、ササッ。他人の家にお邪魔する時の記憶を思い出しながら綺麗に紙袋で包んだお土産を持参してチチに渡す。中身は何故か宇宙のとある星の名産物、饅頭。超美味しい饅頭だから高価だったが、安く貰えたのでついでにお土産にしておいた。

 礼儀正しい人だ、どっかの誰かと違って。と口に出しながら悟空をジト目で見るチチは俺からの土産を受け取った後に奥に案内してくれるのだが、待ったを掛けた。

 

 

「実はお土産はこれだけじゃないんです。できれば食糧を蓄えられる倉庫といったものはあります?」

「裏にあるぞ。ウチの大食らいの影響で補充しても補充してもすぐに空になるけどな」

「その気持ちはわかります。なので、同じサイヤ人として見過ごせないので宇宙の名産物の材料を集めて譲りたいと思うのですが、構いません?」

「願ってもないだ!」

「うほーっ! またあの美味いのが食えんのか!?」

 

 

 チチも喜んでいるがそれ以上に悟空が大喜びしている。宇宙の未知の珍味の中に超美味があるから悟空が夢中になるのもわかる。俺も大好物ですもの。

 良い人だなー、と何だかちょろいチチに褒められながら三人で裏の広い広場に案内される。斧の刺さった切り株の他に、悟空の家と同じデザインの建造物が小さい規模で二つ建っている。これが倉庫になるのだろうか?

 

 悟空と共に星巡りをしている際に悟空が気に入ったと言っていた物を中心に集めた材料をデデン、と見えるように出す。野菜類も忘れずに、最小限の傷に留めて仕留めた獲物の全貌そのままに広場に死体が鎮座する。見ているだけでも美味しそうだ。

 うわー、と同じ反応をする孫夫婦。山のように積み重なる食べ物に感動している様子で何よりです。

 

 

「こ、こここれ、本当に貰っていいだか?」

「どうぞ。悟空の食欲を満たす手助けですから。でも家計が火の車になるのは見てられませんから」

 

 

 ゲシッとそろーっと素のままで食べられる食べ物に手を伸ばそうとしている悟空の尻を蹴る。食欲が刺激されるのはわかるが摘み食いはノーだ。

 主婦のチチにこれらの食材の調理する際に注意しなければならない事を軽く説明する。腐りやすいのは持ってきていないから保存に適した食材ばかりであるとは言っておいた。後は時間が掛かるからジッカメカのタブレットを渡して使い方をレクチャーすると、それはもう、感激していた。ちょくちょく補充は手伝いますと言えば崇められた。

 

 

「おい悟空。お前、もう少し奥さんの事を考えてやれよ。というか働け」

「畑は耕してるぞ。でっかい肉もパオズ山の恐竜を取ってくるし」

「金を稼げって言ってんだよ」

 

 

 このクソニート。今の俺は働き過ぎでやさぐれているのだろうと自分を考察する。時々、ドラゴンボールのサイヤ人パパの事をニートと某掲示板で書かれているのを見た記憶がフラッシュバックで脳裏に浮かんできた為に悟空をニートと罵ってしまうらしい。

 俺の肩書きはジッカ人連盟幹部会幹部長。長老の次に偉い地位にあるので仕事もそれなりにある。しかもサイヤ人の運命の子という立場もあって多忙の身である。代わりに給料は見返り以上に貰えているからいいんだが、ブラックレベルの仕事だぞ。憤怒の怒りで爆発寸前まで――。

 ――しまった。怒りを爆発させれば超サイヤ人に変身できる可能性もあったじゃないか。なんて勿体無い事をしているんだ俺は! あのままやってれば超サイヤ人になれたかもしれないのにっ!

 

 

「何で頭を抱えてんだ?」

「悟空さの不甲斐なさで頭が痛いに決まってるだ」

「半分はそうですが、折角のチャンスを潰した自分の不甲斐なさに頭を痛めている次第です、はい」

 

 

 思えば、何だかんだで自分で変身できるチャンスを潰している気がする。あれか。ドラゴンボールの世界は俺を超サイヤ人にしたくないのか。クソッタレめが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうして会話をするのは初めてだな。エリンだ、よろしく」

 

 

 自分よりも背の低い子供に手を差し伸べれば、困った様子を見せる少年。助けを求めようと、父と師の顔を見遣るが二人共役立たずであった。

 少年こと、孫悟空の息子である孫悟飯。自己紹介をしてはみるが、物凄く戸惑っている様子である。新しい年上の存在にどう反応していいのやら、と困っているのだろうか。

 

 

「そ、孫悟飯です」

「うん。よろしくね」

 

 

 ガシッと悟飯が嫌がる前にしっかりと掴み取ってから握手をする。グッと握る事で悟飯の底知れぬ眠っている力を感じ取れた。まさに底が知れぬ潜在能力と言うべきか。悟空がセル戦を任せたのにもわかる気がした。確かにこれは凄まじい。

 初の超サイヤ人2、そして普通の超サイヤ人とは違う老界王神の力を借りて覚醒したアルティメット悟飯という形態に至る才能とはこれほどなのか、と戦慄する。俺よりも凄いんじゃなかろうか。もしも、孫悟飯が学者を目指す事なく孫悟空のように鍛え続けたとしたら? 考えれば考えるほど主人公が完全に悟飯になってまう。悟飯無双タイムにしかならん。

 俺の赤いサイヤ人とアルティメット形態はどちらが強いのだろうか? 超サイヤ人とは非なる変身であるのはわかるんだが超サイヤ人亜種なんてものはそうそうあるわけないよな。超サイヤ人4は別として。

 

 

「……うん。なるほど。悟空の言う通り、この子は凄い。流石は悟空の息子」

「下手すればオラよりも強くなるかもしんねぇぞ。けど悟飯は学者になりたい夢があるから親としてはなりたいもんにならせるつもりだ」

「まあ、人生はその人の人生だから無理強いするのは駄目だが。学者さんになるのが夢なの?」

「は、はい」

 

 

 結局、悟飯が学者になりたい理由は何だったのだろうか。ドラゴンボールを読んでいてもあんまりわからない気がする。幼少の夢が学者になること、だけしか知らないように思えるのだ。

 

 

「勉強は頑張ってる?」

 

 

 とは聞いてみたが、今の脅威が消えない世の中だとおちおち勉強もしてられないだろう。悟飯の未来について孫夫婦がプチ喧嘩をしていたと悟空自身から聞いてるからかなり悟飯を大事にしてるとわかる。でなければ喧嘩もしないはずだし。あくまでも俺の勝手な持論だが。

 取り敢えず人造人間の脅威が去るまでは修行をするって事でピッコロや悟空に修行を見てもらっているらしい。今もピッコロとの修行の合間の休憩中になるらしく、休憩がてらに俺と会話をする事になった。同じサイヤ人として経験談等を聞かれるかと思えばそんなに聞かれる事もなかった。

 

 

「もし、君が良ければ人造人間との戦いが終わった後に俺達の船に来ないか? 俺のいるトコの種族は宇宙一頭が良いと言っても過言じゃない種族だ。君の勉強も見られるし、宇宙の旅に同行する事もできるぞ」

「本当だぞ。ジッカ人っちゅー奴等だけどフリーザの宇宙船よりも凄いのが沢山あるんだ。見た目はかなり怖ぇけど良い奴等だぞ悟飯」

「今はまだ決めなくても良い。もし、君が行きたいと言うのならいつでも歓迎するよ」

 

 

 ポスポスと低い位置にある悟飯の肩を叩くと、誘いの言葉を切る。サイヤ人と地球人のハーフはそうそういないだろうから長老も興味を抱くだろう。今はいないけど。

 実を言うと、サイヤ人の血が混ざっているハーフってあんまりいないんだよね。王様であるベジータ王の意向なのかわからんが、他の種族と交わる事は禁忌であると謳っていたと記録がある。今までに血が交わった子が生まれると殺した事があるとも聞いた事がある。ベジータのサイヤ人に対する誇りだとかは異常レベルを超えているからそんな事を普通にしでかすだろうとは思う。

 ハーフが生まれた例が少ないのもあって、サイヤ人のハーフは貴重なのである。孫悟飯、孫悟天、トランクスが生まれる事を知っている俺としては複雑な気分になるが。

 

 計画としては、ジッカ人に教授する事によって悟飯の知能レベルを高めて基礎知識を短い時間で覚えさせる。そうする事で修行に割ける時間を作り、強さを錆び付かせないようにするといった事を考えている。

 ジッカ人に教われば宇宙の真理まで知れるぞ。多分。地球の教育よりも遥か先を学習できる事だけは間違いなく保証できる。世紀の発明をして歴史に名を残すほどの偉業を三度くらい達成できるだけの知識を蓄える事が可能にもなるはずだ。

 修行の時間を多く作る事で悟空以上に強くさせる事もできる、という前提の上で考えた計画だがこれが達成されればどうなるだろうか。

 

 

「……げっ」

 

 

 バイブレーションがポケットから響く。ジッカメカの通信機が携帯電話のように出ろと急かしているようである事はすぐにわかった。

 出たくないが、しょうがないと腕に取り付けて応答する。ジッカ人のエイリアン顔がドアップでメカのモニターに映し出される。モニターの中央に顔が映り、右下に指令らしき文字の集まりが表示される。すぐに帰還しろ、だとさ。

 や。逃げ出したのは悪いと思っているがもう少し休暇をだな。あ、駄目? 大事件発生だから手を借りたい? わかったよ。チクショウ。

 

 

「すまん悟空。呼び出されたから帰る。本当はお前の家に泊まらせてもらおうかと思ったんだがそうも言ってられなくなった」

「そうなんか? オラも手伝おうか?」

「一人で大丈夫だ。それよか家族サービスでもしとけパパさんよ」

 

 

 これまた良いタイミングで。悟飯とかピッコロと親交を深めようと思った矢先にこれだよ。ピッコロには服の作り方を教えてもらおうと思ったのに。いざという時に裸になる前に服で隠そうと考えていたのが悪いのだろうか。流石に半裸で戦いたくないぞ俺は。

 服を作る、といった服に使う金を一気に減らせる素晴らしい技を使えるのはピッコロに神様、界王様、界王神に仕えるキビト。他にもいたかもしれないが覚えているのはこれだけだ。もしもサイヤ人という種族でなければ覚えたい技ランキングの上位に食い込むほど欲しいと思える技だ、この服を作る魔法は。

 今度、人造人間との戦いが佳境に入る頃に手助けするついでに教えてもらう事にしよう。今はもう帰らなければならないから大人しく帰るとしよう。納得いかんが。

 

 

「じゃあ悟飯クン、ピッコロさん。ご機嫌よう。また機会があれば」

「さっきのお話、お母さんとも相談します」

「そうしてくれると嬉しいな」

 

 

 多分、良い方に返事は期待しても良いだろう。チチの評価はお土産である程度上がっているし。

 後は少し離れた場所にいるピッコロにも一礼をしておく。彼の聴覚ならこの距離でも聞こえているはずだろうし、今は礼儀正しく接して好感度を稼いでおくのだ。うーむ。今更だが裏の黒幕になれそうに暗躍しているな俺は。

 トン、と人差し指と中指をくっつけた手で米神を叩いて触れると目標を定めて瞬間移動をする。景色は自然溢れるものから人の手がふんだんに入っている景色に変わる。それも、高度な科学によって作られた人工物に。

 

 

「さって、仕事しますかね」

 

 

 ゴキゴキと首の骨を鳴らしながらジッカ人が集う部屋の中央に向かって歩き始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 にぃちゃんですが、一発キャラなので今後の出番はなし。何かの情報が得られたら影で彼女が大活躍したと思ってください。

 悟空の嫁、チチ。最初のふとましい肉体からスレンダーに変化した事で驚いたのは良い思い出です。ついでに土産で好感度を上げようとするエリンは策士。汚い(確信) そしてピッコロにも媚びようとするエリン。プライドとかないの? でした。

 ドラゴンボールは超サイヤ人だとかが目立っているけど魔人ブウとかデンデとか魔法みたいなのを操るタイプって何気にチートな気がする。特に有能な老界王神とか。限界以上って事は超サイヤ人ゴッドみたいなのにもなれる可能性を広げるわけだし。デンデなんか完全に仙豆代わ(ry

 次こそクウラ出す(エイプリルフール)




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第十話 超絶望


 まずはエイプリルフール、騙して申し訳ない。作者の遊びに付き合っていただいてどうもありがとう。
 そして案の定、にぃちゃんの復活を希望する方が。だが出番はもうない(フラグ)

 ここでもう明かしておきます。劇場版のドラゴンボールのオリジナルキャラクターはクウラ以外にも出します。正義のサイヤ人の集大成、ゴッドと来ればやはりあの方の出番でしょう。チートの権化、ブロリストの教祖。

 今回はクウラ戦。劇場版と劇場版を掛け算にすると凄い絶望になるこの理不尽さ。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、終わった終わった」

 

 

 ゴキゴキと軋む肩の骨に首の骨。肩が凝って仕方がない。グルグルと腕を回しながらひと仕事終えた後は少しだけの休憩を挟んでの腕を鈍らせない為の特訓をする。悟空の超サイヤ人を見てから更なる改良を重ねたトレーニングルームは全てがグレードアップしている。

 まるでパワプロだな、と考えながら下半身を意識する修行をしようと心に決める。足腰を鍛えれば基盤を鍛えられるはずだから。

 ちょくちょく地球に遊びに行く際に悟空以外のドラゴンボールのメンバーと交流をして親交を深める事ができ、ちょっとした技を教えてもらったりした。基礎の部分はできていたから本家のアドバイスを加えて改良するだけで完成できた。皆に悟空よりも酷いと言われた時は本当に反応に困った。悪い意味なのか、良い意味なのかわからないんだもの。

 

 カウントダウンを刻む腕時計を見る。デジタル式の時計は刻一刻と時間を減らし、タイムリミットの残りを告げる。地球のカプセルコーポレーションのブルマにもらったものだが、このタイムリミットがゼロになると機能が変わって打ち込まれた座標までの距離を自動的に教えてくれるものに変わるらしい。

 あれ、とどうやって座標を告げるのだろうかと疑問を感じた。地球の軌道衛星上に人工衛星らしきものはあったが覚えている人工衛星とはデザインが異なるものだったので最初は何だろうかと触れたものだ。

 ブルマによればその座標に小さなビーコンを打ち込んであるからそのビーコンが発するパターンを腕時計が感知して座標までの距離を知らせる、という機能らしい。ジッカ人も驚く科学力だった。流石はブルマと言えばいいのだろうか。ドラゴンボールを捜すドラゴンレーダーもジッカ人が唸るほどの発明らしいからな。とある分野ではジッカ人をも凌ぐブルマ凄いわ。

 

 

「人造人間が現れるまでもう時間がないな」

 

 

 そろそろ悟空も修行の仕上げに入っているだろう。決戦の前に彼の体をスキャンして病気になるかを調べなければ。バタフライエフェクトのせいで別の病気になる可能性も捨てきれないからな。

 久しぶりに孫家とも会いたい。他の面々、特にブルマと交流する事が多かったから悟空とはほとんど会っていない。もう少し言えばブルマの子、ベジータの子でもあるトランクスの姿も見れた。未来が変わるって事はないらしい事に少し安心した。

 ブルマと仲良くなったのをきっかけに、ベジータともブルマを通じて目に見えぬ交流をする事になった。それとなくブルマに修行に適している星を教え、ブルマがベジータをそこに誘導する。ナメック星に向かう際にサイヤ人のポッド型宇宙船を改造した事があり、その設計を生かして改良型を造り出した。エンジンが問題だったがジッカ人特製のトンデモエンジンで問題は解決した。

 時々ベジータがわからないようにベジータの使う宇宙船を介してブルマとは連絡している。ジッカ人でのトレーニングメニューを渡したが果たしてベジータはそれを忠実にしてくれるだろうか。

 

 ベジータはおいておいて、俺の修行だ。赤いサイヤ人を課題にしているが未だに変身できない。あれが夢幻かと思ったが、確かに全能感に似たものを感じたから存在はしているはずなんだ。

 赤いサイヤ人になった際に勘違いしたらしい悟空から界王拳は教わっている。界王様直伝の界王拳より少し改良している技にしている。体に負担が掛かるのは良い修行になるがやり過ぎると女閻魔大王が手招きするのを見る羽目になるから御免被りたい。段々と色仕掛けまでしだしたぞあの痴女閻魔。そんなに俺に死ねと言いたいのか。地獄行きかよ畜生。

 赤いサイヤ人を目指しつつ今は体を鍛える事を重点に置いている。下半身と上半身を均等に鍛えて徐々に素の戦闘力を伸ばしていく事にしたわけなんだがトレーニングルームと共に戦闘力を測るスカウターの性能が上がるわ上がる。一億程度しかわからない戦闘力がどんどん詳しく正確に測れるようにバージョンアップしていくもんだからジッカ人の気合の入れようが半端じゃない。

 

 

「お腹が空いたな。腹が減った」

 

 

 そういえば三日くらいメシ食べてないわ。腹ごしらえでもするか。

 

 サイヤ人の欲求に逆らわずに素直に食欲を満たそうと食堂に足を向ける。初めの第一歩を踏み出そうと足を動かした瞬間、凄まじい気を背後から感じた。背後とは言っても遠い距離から感じた。

 

 

「――フリーザ? 悟空が殺したはず――」

 

 

 そこでハッと人造人間と同じぐらい大事な問題がある事を思い出した。凄まじい気はあのフリーザに似たものでフロスト一族の誰かである事はすぐにわかった。そして、その正体も何となく予想はできる。

 劇場版のオリジナルキャラクター、フリーザの兄という最悪な設定を持つクウラだ。フリーザに似て、尚且つフリーザよりも強い気を持つ者といえばクウラ以外に思い当たらない。感じる気から察するに、クウラは誰かと戦っている。多分、悟空だろう。劇場版と同じ展開であれば、だが。

 瞬間移動の準備に行う二本の指をくっつけた手で米神に触れる動作をし、目をゆっくりと閉じる。余計な五感を遮断して第六感とも言える気の探知を行い、現状がどうなのかを探る。

 

 ……クウラの気はフリーザよりも上。戦っている相手の気を探れば超サイヤ人の独特な気を感じる。相手は悟空で間違いないだろう。超サイヤ人に変身してフリーザよりも一つ上の変身をしたクウラと戦っているらしい。

 だが妙だ。悟空は本来の歴史よりも鍛えられて戦闘力も大幅に上がっているはずなのに何故クウラよりも感じる気が小さい? 手加減をしている? 舐めプをするサイヤ人だが、フリーザの兄相手に手加減をする余裕はない事は悟空自身もわかっているはずだ。となると。

 

 

「悟空よりも、クウラが強いのか?」

 

 

 馬鹿な。ありえない。あの悟空だぞ? 劇場版では超サイヤ人になった後は圧倒できるはずなのに負けているのはどう考えてもおかしい。

 何らかの出来事があって、クウラが悟空よりも上の戦闘力を保持するようになった。と考えるのが今の状況では妥当な考えだろう。歴史が変わるのは俺としては喜ばしくない。援護に向かった方がいいだろう。

 悟空の気の近くに飛ぶように瞬間移動を行い、亜空間に突入して場所を移す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ目に飛び込んだ光景に反応し、反射的にかかと落としをお見舞いした。コンバットモード、戦闘形態とも言える刺々しい姿をしているクウラの背後から不意打ちを浴びせるように脳天を狙う。

 下に落ちるクウラを無視し、服がボロボロな悟空の首根っこを掴んで距離を取る。少しだけ持ち上げて米俵を担ぐように悟空を持ち、クウラに見えない場所に隠れた。滝壺の中の洞窟にいれば現状を聞くだけの時間は作れるだろう。

 

 

「おい悟空。大丈夫か悟空」

 

 

 ペシペシと超サイヤ人の悟空の頬を叩く。かなり疲弊している様子で息を荒く繰り返している。頭からも血が流れ、浅くない傷を負っているのがすぐにわかった。

 

 

「わかるか? 俺の声が聞こえるならこれを口の中に入れろ。苦いが痛みがマシになる」

 

 

 偶々、使おうと思って持って来ていた薬を悟空の口に持っていく。仙豆とは違って苦い、不味い、微妙の三拍子が揃う薬だが傷は塞がって体力は回復できるから今はこれを飲ませて話を聞きたい。

 かなりボロボロだ。瞬間移動をしてこっちに来た時に見えた光景も、今の悟空ではありえないものだったから驚いた。クウラに首を掴まれ、トドメをさされるか否かの絶妙な瞬間だったから。これが意味するのはクウラが悟空を蹂躙したということ。悟空よりもクウラが強いと言える何よりの証明だ。

 

 

「ぐぎっ……え、エリンか?」

「ああ。大丈夫か? どこか痛むか?」

「へ、へへっ。これくらい、へっちゃらだ。何度も、経験しているからな」

 

 

 ゴリゴリと奥歯で薬の木の実を削っているらしい悟空は超サイヤ人が解けていた。瞳の目も若干揺れて虚ろになっている事から、かなり頭部にダメージを受けているらしい。

 それにしても信じられん。悟空がここまで反撃を許すとは。どんなに実力に差があっても“負けない”戦いができるはずの悟空が。著しく気も減っているので分け与えて自然回復を促す事を忘れずに、悟空の体の中に気を送れば呼吸が少しだけ楽になったようだ。

 

 

「今の状況を見てもお前は重症だ。まだ戦えると訴えても俺は許さん。あのフリーザに似た奴は俺が相手をする」

「む、無理だ。く、クウラの奴、神精樹の実ってのを食いやがった。まだまだ、強くなっぞ……!」

「 」

 

 

 え? 真性受(難聴)?

 

 

「し、神精樹の実?」

「ああ。クウラが言ってた。一つ食らう毎に星の力が我が身に宿るってよ。悔しいけどオラ一人じゃ相手になんねぇ。エリン、オラと一緒に戦う方が良い。じゃねぇとおめぇまで殺されちまう」

「……よし。少し待て」

 

 

 神精樹の実。ドラゴンボールを見た俺としてはドラゴンボールZ初期でのチートアイテムとも言える一品。星の命を喰らい尽くした大樹が実らせる果実であり、それを食らえば星の命そのものが食った者に宿る。

 これを使ったのは悟空と似た容貌のターレスと呼ばれるサイヤ人の生き残り。ベジータと同じように残酷な性格をしている奴であり、劇場版では地球に神精樹の種を蒔いて実を作ろうとして悟空に討たれた。しかし、悟空はターレスを知らないようである。

 まさか、ターレスは出なくて神精樹だけは出てきているのか? 宇宙の地上げ屋にも似た事をしていたフロスト一族の事を考えれば、神精樹の事を知っていてもおかしくない。悪評を聞くと、かなりの数の神精樹を持っているかもしれない。

 

 クソ。だとすれば最悪だぞ。ただでさえ強い奴が神精樹の実なんてものを使っているとすれば火を見るよりも明らかだ。大きな差は更に大きくなり、立場がひっくり返される。クウラが悟空を圧倒できたのもそのおかげだろう。

 どうする? 超サイヤ人の悟空と互角の俺が戦っても悟空と同じ結末になる。悟空にはない俺だけの技を駆使しても勝てるかどうか。

 

 

「……それでもやるしかない」

 

 

 フロスト一族の駆逐は俺の役目だ。フリーザは悟空、コルド大王はトランクスに倒してもらったがクウラは俺がやらねば。悟空に無理をさせて死なれても困る。

 

 

「俺はクウラの相手をする」

「だ、駄目だ。オラでも勝てないのにおめぇがやっても……!」

「なら早急に回復しろ。その薬を全部砕ききって戦えるのなら援護に来い」

 

 

 それだけを告げると、悟空の居場所がわからないように瞬間移動で外に出る。飛んだ先にはクウラが悟空を探しているらしかった。忙しなく顔を動かして周りを見渡している。

 こっそりと少しでもダメージを与えようと背後に回る。瞬間移動する際に生じる空間の揺らぎらしきものをクウラが察知したらしく、素早く後ろを振り返って俺と目が合う。だがそれでも――!

 

 

「でぃやっ!!」

 

 

 瞬間的に最大の戦闘力まで気を引き上げると、ベジットが使っていたスピリッツソードと同じ原理を用いてキックブレードを繰り出す。薄く、鋭く。大業物のひと振りのように剣士として生涯最高の一撃を意識して横に払う。

 ズバッと何かを切断する音が耳に届く。延長した足の感覚が何かを斬った感覚が残る。クウラの肩パットみたいな部分の一部分が斬り飛ばされているらしい。クウラの一部が重力に従って落ちていくのを確認した後は休まず連撃を加える。

 腰を回転させ、そのままの勢いでクウラに殴りかかる。だが、流石はクウラといったところかその一撃を防がれる。

 

 

「貴様……その尻尾、サイヤ人か」

「貴様こそ。フロスト一族のクウラか」

「ほう? 自己紹介はいらんようだな。我が愚弟を倒した超サイヤ人とやらがどうなのか見に来たがとんだ期待外れだ。確かに強かったが……さて、貴様はどうだ? 名も知らぬサイヤ人」

 

 

 バッとほぼ同時に拳を振るう。流れるように互いにそれぞれの攻撃を繰り出し、ラッシュで応戦し合う。こういう時に備えて動体視力を鍛えて良かったと思う。後は勘があればこのラッシュに有利だろう。

 勘と言っても戦闘経験だな。悟空との経験がここで役に立っている。超サイヤ人の悟空は元々戦闘センスの塊だったのが研ぎ澄まされた存在だからか、ラッシュもかなり得意としている。あれだけ読み切ってもその上を行くのだから厄介だ。でもだからこそ、良い経験になる。

 ラッシュの合間に、右脚をしなやかに動かしてクウラの左腕全体を絡めるように固める。脇の下に爪先を立てて動かせないようにすると、右脚に気と力を込めてへし折ろうと試みる。フリーザとかクウラに骨があるのかはわからんが、折れなくとも関節を外す事はできるはずだ。多分。

 

 

「ほう。人の割には柔らかい体をしている」

「えぇ……」

 

 

 クウラは平然としている。ミシミシと何かが軋む音は聞こえるが、痛そうにはしていない。それどころか飄々とした態度でエネルギー波を溜め始めていた。柔らかい体を生かし、蛇のようにシュルシュルとクウラの腕を這って背後に回る。それと同時にクウラのエネルギー波が放たれて俺がいた空間を通過する。あぶねっ。

 お返しとばかりに背後から気弾を撃つ。クリムゾンレッドと言えるような赤い色の気弾が掌から休みなく解き放たれ、クウラの背中を直撃する。効いているかはわからないがそれでもダメージを、と攻撃を続ける。気弾に使った気は大気に漂う戦闘の余波の気を掻き集めて回復する。実質、MP消費なしの魔法を使っているものだ。

 

 

「痒い。温い。その程度の力か」

「お望み通りに痛いモンをやるよボケ」

 

 

 掻き集めた気は身の中に取り込んでも有り余る。気弾で消費するよりも回復するスピードが上なため、別の手段を用いる事も可能だ。そう、それはまるで――。

 

 

「前倒しだがビックバンかめはめ波だっ」

 

 

 気弾を放つ手とは反対の手で気を留めて掻き集めた気を集中させる。超サイヤ人4ゴジータ、未来の最強のフュージョン戦士の必殺技と見間違う赤い気の太陽がクウラの背後に集まっていた。ゴジータのそれと比べると威力はかなりどころか比べる事も烏滸がましいレベルだがクウラに対しては有効打になるはずだ。

 赤いビックバンかめはめ波の準備もある程度整い、ぶっぱなす時になるとクウラはそれを食い止めようと反撃に出る。裏拳と言えるパンチが俺の顔面スレスレに迫ってきたのを視認すると同時に、瞬間移動を行う。

 

 

「かかったなクウラ!」

 

 

 発射! と地表より少し上で浮きながら赤いビックバンかめはめ波を撃つ。地球に向けて撃つとゲームのように地球に穴が空いてしまう。地球への被害も考えて撃たないと……と考えたところで前から思っていた事を思い出した。

 宇宙に向けて撃った必殺技のせいでどっかの星が爆発してるんじゃなかろうか。特に魔人ブウとかセルの時にどっかの星が消えているんじゃないだろうかと心配になっている。

 まあ、今は気にする必要もないか。今はクウラを倒す事だけを考えよう。

 

 凄まじい音を立てて解放された赤いビックバンかめはめ波は前方の空間の全てを薙ぎ払わんと放たれ、クウラを消し飛ばそうと迫る。超サイヤ人悟空と同等の気、それと悟空が界王様から教わった元気玉と界王拳の上位に位置する技を用いれば悟空よりは良い戦いはできるはずだ。そう思いたいだけかもしれないが。

 だがしかし。元気玉にはラスボス絶対殺すマンの補正があるから似た系統で上と来れば大丈夫だ。多分。

 

 

「どうだオラァ! ……あっ」

 

 

 言い切って気付いた。これはやってないフラグだ。

 

 

「ふ、ふふふふ。今のは効いたぞサイヤ人」

「あちゃー」

 

 

 ナンテコッタイと頭を抱える。フラグが立ったからか、赤いビックバンかめはめ波を受けたクウラはダメージらしいダメージを負いながらも健在だった。漂うクウラは何てことはないフリをしながらも憤怒に満ちた表情をしているようだった。ただ怒らせただけなのかもしれん。

 というかタフ過ぎクウラ。神精樹の実を食ってるからか、凄まじい強さを手に入れているようだ。あれでトドメが差せないようでは万事休す、となるのだろうが今の俺ならやれる。

 ダメージを受けているクウラに向き合うように気を高める。見慣れた気のオーラが体から噴き出し、体を包む。徐々に体に力が漲り、戦闘態勢に入る。クウラも怒りに身を任せるようにフリーザに似たオーラが噴き出し、クウラの怒りがどれほどのものかがわかるほど大きなオーラとなる。

 合図をしたわけでもないのに同時に飛び出してそれぞれ攻撃を仕掛ける。俺は蹴り、クウラは殴る。二人共クリーンヒットしたが、クウラのパンチはラッシュの時と比べると重さが軽くなって痛みも軽減されている。気が弱まって戦闘力が下がっているらしかった。

 

 

「おやおや? クウラ、パンチが軽くなってんぞ?」

「ふんっ。良いハンデだろう」

「負け惜しみか?」

「俺にはまだ神精樹の実がある。食らえばますます貴様の勝ち目が無くなるぞ」

「それを聞いて大人しく食わせるとでも思うのか?」

 

 

 食べる前に瞬間移動で掠め取れば或いは。

 ふんっ、と気合を入れてクウラを殴り飛ばす。海老反りをするように顔が後ろに仰け反り、クウラは苦悶の声を出す。手加減はしないとばかりにラッシュを繰り出す。パンチパンチキックパンチキックキックと流れるようにコンボを繋げ、ダメージを蓄積させる。重点的に顔と腹を狙って。

 更にラッシュを繋げるようにクウラの尻尾を絡め取り、弱ジャブをクウラの顎を浴びせる。ビシビシビシとリズム良く殴ればクウラの顔が段々血に汚れていく。ジャブの合間に肘で頭を揺らすように左に、右に腕を動かして更にダメージを。

 

 

「あの一撃が効いてるようだなクウラ。動きが鈍いぞ」

「くっ、くくくく。面白い。面白いぞサイヤ人。このクウラをここまで追い詰めるとは」

「そんな体たらくで偉そうにできるなクウラ。もう少しで死ぬんだぞ」

「……どうやら貴様はこの俺が“本気を出して”これだと思っているようだな。だが問おう。

 い つ か ら 俺 が 本 気 を 出 し て い る と 言 っ た ?」

 

 

 えっと声を漏らす前に今までにない強烈な痛みが顔面を襲った。鼻から血が流れていると感じたのは一拍置いて体。それから殴られたと自覚した。突然の事で頭が混乱して反応が遅れた。

 

 

「見せてやろう。このクウラの最終変身の真のフルパワーを。超サイヤ人、ソンゴクウですら手も足も出ない圧倒的なパワーを。かあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 ズドンと凄まじいパワーがクウラから放たれる。その余波が思考を無理矢理正常に戻し、現実に引き戻される事になった。

 何だ。この力は。知らない知らない。こんな力は知らない。クウラはここまで強かったのか? 神精樹の実の力はこれほどの――。

 

 

「神精樹の実の力は素晴らしい。ここまでの力を得られたのだからな……さあ、貴様も超サイヤ人のように甚振ってやろう」

 

 

 いつの間にか俺の体は震えていた。何に震えていたのかはわからない。だけど、この戦いは俺に何かを教えてくれる大事な一戦である事をハッキリと認識できた。

 この状況を言うのなら――真の絶望は、始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 





 クウラ × 神精樹の実 = デデーン。

 というわけでクウラ登場に加えて劇場版の設定、神精樹の実の登場。食べた事で悟空は敗れ、クウラはパワーアップ。メタルクウラ並の戦闘力まで引き上がったこの絶望。

 神精樹の実の設定としては、ある程度の戦闘力をノーリスクで引き上げるチートアイテムです。これを食ったターレスという劇場版の悟空似のキャラクターは19万の戦闘力が上がったという推定数値があります。
 しかし、全宇宙の支配者であるフロスト一族の一員であるクウラは神精樹を実らせる条件に適した星を見つけた為に、悟空を圧倒出来るだけの力を得る事ができたというのが今回の神精樹の実の設定です。

 どうやってパワーアップさせよう。と考えたらクソゲー仕様になってしまった。ここからエリンがどのように戦うのかご期待下さい。

 ちなみにビックバンかめはめ波が雑魚いという感想は禁句です。






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第十一話 芽吹く希望


 超サイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人? しかも青髪とな? 界王拳ならぬ界王神拳が出るって言わなかったっけ?

 これで互角ならゴールデンフリーザ、ビルス様に届く戦闘力持ってるんじゃね? 悟空も悟空で色々ぶっ飛びすぎな今回の映画……マジ楽しみっ!



 ……え? 更新遅れた理由?

 クwソwゲwーwでw経w験w値wウwマw過wぎw 女主ちゃん胸揺れ揺れ。心霊写真マジ可愛い。

 月www光www蝶www復www活www

 まあ、サイバースルゥースと天獄編にハマってただけなんですがね。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう駄目だ。おしまいだぁ……。ベジータの気持ちが何となくわかる。圧倒的な差を感じると人は挫折するか絶望するか何かをするのだろうが、俺はそのどちらでもないようだ。

 

 

「……気に食わん。貴様の顔、先程の超サイヤ人のようだ。圧倒的な差を見せつけられてなお、絶望をしないのか」

「生憎だったな。不思議と怖い気持ちよりも腕試しをしたい気分なんだ」

 

 

 震える体は恐怖からではなく、武者震いに似た震えだったようだ。サイヤ人の悪い性というものだろうか、どうしてもゾクゾクと体が震えて自分の力を試したいと感じている。自分よりも遥かに強い相手だと全力を存分に引き出せると本能で感じているからとも考えられる。

 存在感、威圧感とも言えるクウラのそれは一際大きくなって絶対強者のオーラを纏いながらこちらを睨んで見下ろしている。感じなかったクウラの真の力を肌で感じて呼応するように俺の力も段々と引き摺り出される。

 

 

「ふむ。超サイヤ人が二人いる事に警戒して神精樹の実を持ってきて正解だったな。そして更に――」

 

 

 見せびらかすのはモヤっとボールに見える果実。それが神精樹の実だとすぐに理解できた。視界に入れた途端、懸念していた追加で食らう事を阻止しようと体が反射的に動く。

 瞬間移動でその場から姿を消し、クウラの死角に入るように神精樹の実を奪おうとした途端にクウラは動く。クウラ自身の体を守るようにオーラと同色のバリアーが包む。神精樹の実に手を伸ばそうとした矢先に弾かれ、奪う事に失敗した。

 

 

「――これを食べる事でますます貴様が俺に勝てる見込みはなくなる」

 

 

 俺に見せつけるようにクウラは神精樹の実を食べる。舌の上に実を乗せ、ゆっくりと齧るようにエロティックな雰囲気を出しながら食べる。誰得だよ。

 ツッコミを入れる間もなく、神精樹の実を食べたクウラの気は先程よりも明らかに上昇しているのを感じる。威圧感もそれに合わせて。

 

 

「ふっはははははは! この力は素晴らしい。高く売れる星を食い潰した甲斐があったというもの! このクウラが! フロスト一族最強、最後の異端児であるこのクウラこそが! 宇宙最強なのだ!」

 

 

 力に溺れたような発言をするクウラ。神精樹の実を食べた事で大幅にアップした戦闘力をその身で感じれば全能感を感じるだろう。俺があの赤いサイヤ人になった時に似たあの感じをクウラは感じているはずだ。

 これで俺とクウラの差は更に大きくなった。天と地の差があるのではと錯覚するほど大きな隔たりが俺とクウラの間にある事になる。油断をしないように構えているが、クウラはバリアーを張っているし張ってなくても威圧しているせいで隙が見当たらない。どう手を出そうかと考える時間があるのは絶対強者としてのプライドが傲慢と共にワザと俺に時間を与えているのだろう。

 実に厭らしい。この僅かに与えられた時間が蝕んでくる。考えては消える、考えては消える、考えなくても絶望の淵に突き落とさんばかりに追い詰める。額から頬に流れる汗が鬱陶しく感じ、気分が悪くなる。

 

 

「光栄に思えサイヤ人。宇宙最強たるこのクウラが貴様を葬ってやろう」

「ごがっ」

 

 

 気付かぬ間にクウラが懐に飛び込んできた。反応できず、気管を潰すように首を絞めてきた。言葉を発する事も呼吸をする事も困難になるほど強い力で締め付けてくるせいで藻掻く事しかできない。クウラの顔が目の前にあるのに首に意識が行って動かない。

 思考では動けないと思ってもサイヤ人としての本能は諦める事をしなかったようだ。俺の意思と反して体は動いてクウラに反撃を試みる。同時に右脚と左腕を振るい、打撃を加える。鈍い感覚が腕から、脚から伝わってくるがクウラ自身はそこまで痛手ではない。赤子の可愛い抵抗にしか思っていないのだろう。

 

 

「このまま首をへし折ってやろうか? さあ、抵抗してみろ」

「がっ……ごっ」

 

 

 ミシミシと自分の首の骨が軋む音が聞こえる。苦しみを逃れようと選んだ選択肢は、必殺技による自爆覚悟の脱出だった。気を掻き集めて放った赤いビックバンかめはめ波と同じものを撃とうかとも考えたが、掻き集めた気は脚に集まって気のブレードに変わる。

 キッとクウラを睨み返しながら腰を回転させて掴まれている腕を切断しようとする。

 

 

「おっと。一度見たものを躱せないほど俺は馬鹿ではない」

「けほっ。だが解放された。今はそれで十分だっ!」

 

 

 両手を重ね、開きながら気弾を撃つ。クリムゾンレッドのエネルギーが次々に掌から飛び出し、クウラにぶつけるながら態勢を整えようと後退する。この時間を稼ぎ、これからどう動くかを必死に考え抜く。

 もう一度赤いビックバンかめはめ波を撃つ? 集めている間に攻撃されては意味がない。未完成の界王拳・改を使って一気に勝負を付ける? 制限時間を考えると悪手になりかねない。こんな感じの絶望を悟空達は乗り越えてきたのか。

 そうだ。今の事態を最悪ではなく、悟空の圧倒的な戦闘経験を得られる戦いだと考えればいいんだ。何も考えない、難しい事は考えずに体が動くままに戦えばいいじゃないか。そう考えると、少しだけ気持ちが落ち着いた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 ギリリと歯を食いしばりながらクウラの背後に回り、残像を残して側面に回り、更に残像を残しつつ惑わしながらクウラの周りをウロチョロする。時折気弾を混ぜながら牽制をした。

 夏の蚊のように鬱陶しいだろう? 苛々させれば万々歳。そうでなくとも位置を悟らせなければ万歳。多重残像拳を使いながらチャンスを伺う。

 

 

「小賢しいっ!」

 

 

 残像を打ち消すようにクウラがバリアーを張る。移動した軌跡の残像は消し飛ばされ、俺の位置がバレてしまうが構わずに懐に飛び込んで腰だめに拳を固める。

 クウラはそれを見てバリアーを殴るつもりなのだとわかったようだ。特に反撃をしようとはせずにふてぶてしく腕を組んで挑発までしてくる。破れるのならば破ってみろ、と小馬鹿にされている。

 その余裕、焦りに変えたる。以前の修行でバリアーを張る奴直伝のバリアー殺しとも言える必殺技を食らいやがれ!

 

 

「せいっ、はぁっ!!」

 

 

 ズドドン、バキン。擬音で言い表すのであればこれだ。腰だめに構えた拳をそのまま正拳突き、正拳突きをした場所を寸分違わずに肘で撃ち抜き、最初の二撃を加えた側の半身をバリアーギリギリに接近させて上げた腕と脇腹の間を通るように掌底を放った。掌底を浴びせた瞬間に、クウラのバリアーは剥がれる。

 馬鹿な、とクウラの口から漏れるのが聞こえたがその隙を突いて更に追撃をする。最後の攻撃をした腕をそのまま腰の回転に乗せて肘打ちを加える。クウラの顎を殴り、オーバヘッドキックを脳天に叩き込む。

 

 

「貴様ァッ!」

「ははっ」

 

 

 怒るクウラ。思わず笑ってしまい、クウラは更に憤る。肉弾戦を仕掛けようとはせず、フリーザのデスボールに似た圧縮されたエネルギーの塊を人差し指の上に作った。構えているクウラの腹目掛けて気弾を一発。集中を乱されて圧縮が解かれ、第二の太陽とも言える凄まじい大きさのエネルギーの塊に変わる。

 塊に手を掲げ、遠くから気を操る。エネルギー吸収の秘技を発動させて一部を吸い取る。

 

 

「うぎっ!?」

 

 

 いつものように、自分の中の太陽に混ぜるように取り込んだ気を練り込む。途端に全身を激痛が走り、舞空術を保てなくなって墜落するように落下し始める。痛みを堪えるように体を丸めてみるが一向に良くならない。何なんだこの痛みは。

 

 

「? 何があったかは知らんが隙だらけだぞサイヤ人」

 

 

 クウラの声が聞こえる。見えないが残ったエネルギーで攻撃を仕掛けるようにエネルギーの塊を投げたらしいのは何となくチリチリする感じでわかった。激痛に耐えるだけで反撃をしようとしてもできなかった。

 そのままエネルギーの塊に飲み込まれるように攻撃が直撃する。押し潰されるように体を締め上げられ、声にならない悲鳴が口から飛び出ている。そして感じる純粋な悪意。俺を殺そうと怨念が呪ってくる。純粋な悪の心を持つ強者の一撃を食らうのは今回が初めて。とても耐えられそうにない。

 痛い。辛い。死にたい。それだけが自分の中を駆け巡る。何よりもこの世界に来て初めて凄まじい恐怖を感じている。

 

 

「ぎっ、あがっ、ぎあああっ」

「フフフフッ! そうだ。その声が聞きたかった。どうした? さっきまでの挑発は。よく回る舌が乾いたのか」

「あうえっ、ぐげっ、おええっ」

 

 

 気持ちが悪い。口から胃液が出てきそうになるが、胃液は出ずに唾液が口の端からダラダラと漏れているらしいのだが感覚が鈍ってる気がする。

 隙だらけと言われても仕方がない。クウラもそれを逃したりはしない。溢れた唾液が地面に染みを作っている場所に頭を叩き付けられるように踏まれる。頭部と地面がぶつかったような音じゃない音を出しながら地割れを起こしたのではないか。

 ドンドンと俺の頭を何度も踏み付けるようにクウラに蹴られる。顔が地面に埋まるようにめり込んでいく。

 

 

「ふむ? どうした。もう終わりか?」

「ぐぐぐっ」

「……ほう。よく見れば拒絶反応を起こしてるじゃないか。どうやら性質の違うエネルギーを取り込めばそうなる事はわかるだろうに」

 

 

 ……拒絶反応? 性質の違うエネルギーを取り込めば起こる? 気を取り込む秘術には副作用があった事をここで初めて知った。俺は善、クウラは悪。純粋な善のサイヤ人である俺がクウラの悪の帝王の兄である邪悪な気を取り込めばこうなるのは考えればすぐにわかるはずなのに。

 この激痛は善の心が悪に染まり始めている予兆なのだろうか。だとすればこの悪の気を外に出さないとこの現状から脱せない。

 今までは取り込む事をしていた。今度はその逆、クウラの邪気だけを完全に取り出すように体から出す。ざわざわと空気が変わる感じと一緒に少しずつ体からクウラの邪気だけが漏れる。普段のオーラに少しクウラのオーラが混ざりながら放出していく。

 ピタリと止むクウラのストンピング。次にクウラは尻尾を使って首に巻き付き、顔が至近距離で互いに近付く。マスクのようなクウラの口を覆うそれ、僅かに何かが漏れている。吐息、だろうか。

 

 

「面白い。貴様、僅かなエネルギーだけを正確に取り出してるみたいだな。素晴らしい。広い宇宙を探してもそこまで器用な戦士がいるとは思わなんだ。サイヤ人、俺の部下にならんか。高待遇で迎えてやろう」

「……」

 

 

 勧誘してくるクウラ。本気、なのだろうか。動かないのなら一気にこの作業を終わらせなければ。

 血が目に入って逆に好都合だった。強制的に目を閉じさせられ、集中する素振りを悟られないようにする事ができているはずだ。クウラの気だけを抜き出し、その質を覚えてそれを取り込まないように大気に漂う気を掻き集めて取り込んでいく。

 混ぜる。掻き混ぜる。自分の中の太陽と大気の気を混ぜて掻き合せる。

 

 ――ドクン。

 

 

「む」

 

 

 拒絶反応のせいで消えた分の気を補充する。絵の具を混ぜるように、丁寧に。綺麗な色を作るように気を操作して気を高める。

 不思議だ。こうしていると段々と落ち着いてくる。自分が自分でなくなるような、新しい自分へ変わるのではないかと思えるような不思議な感覚が俺を包んでいく。痛みで狂っている思考も冷静になってくるのがわかる。ダラン、と体から力が抜けた。

 

 

「死んだか?」

 

 

 ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパンと間抜けな音が起きるが、音の発生源であるクウラからすれば信じられないものを見るような目をしていた。ジンジンと痛む顎を呆然と抑えながら“それ”を見る。

 

 

「――。――?」

 

 

 “それ”は自分という存在に疑問を持つように両手を眺めている。クウラにぶら下げられる状態から位置を変えずに浮きつつ調子を確かめるように柔軟体操を行っているのをクウラは凄まじい悪寒を感じながら後ろに一歩だけ下がる。

 妙な威圧感を感じていた。感じる威圧感、オーラを全く纏っていないはずなのにそれ以上に今の状態が恐ろしく思えていた。まるで、絶対的な存在を目の前にしたような。

 その感覚を、クウラは“知っていた”。昔に父であるコルド大王、弟であるフリーザと共にフロスト一族の“雇い主”に会った時に感じた絶対的な畏怖にも似た感情を覚えた。覚えた感情を思い出させるほどの雰囲気を、ボロボロになったはずの敵が醸し出している。異常そのものだった。

 

 

「ありえんっ!」

 

 

 唯一、“絶対に勝てない”と思わされた時のクウラのプライドが許さなかった。振り払うようにパンチを繰り出して殴りかかる。そのパンチは敵の顔面を叩き付けるように命中する。クウラの手にも殴った感覚が伝わると、少しだけ劣等感を感じた時の屈辱は晴れた。

 

 

「――」

 

 

 しかし、クウラの渾身の一撃を気にしていない風に突き出された腕をそっと横にどかされる。驚愕の表情を浮かべるクウラが見たのは、無垢な子供のような疑問を感じている表情。痛みを感じているクウラが思っていた表情ではなかった。

 何をした? と仕草をする彼は首を傾ける。そのまま何の前触れもなく手がブレると、クウラの腹部に彼の手が深々と沈んでいた。

 いつ殴られた? 何故殴られている? そんな疑問が後から後からクウラの中に生まれて生まれる。思考よりも先に感覚が殴られたと知覚すると、クウラに激痛が襲う。

 

 

「にっ」

 

 

 子供が玩具で遊ぶが如く、彼は無垢な笑顔を浮かべてクウラを殴る。殴られた、とだけクウラは知覚した。どう殴られたかもわかっていない。もしかしたら蹴られたかもしれない。だけれども、今までのパンチが赤子のパンチと思えるような重い拳が振るわれる。

 笑顔のまま殴る彼は休む間もなく、疲れる様子すら見せずに打撃を続ける。クウラには見えなくても、殴る彼はどこを殴っているかはわかる。今までの訓練の集大成を発揮するかのように、急所を狙うように的確に殴りまくる。

 意識が飛ぶクウラ。あまりもの威力に意識を飛ばしては戻され、また飛ばす。マトモに考える時間も与えられずに殴られるままであった。

 

 

(何故だ何故だ何故だ何故だ!? この力、あの御方と重なるのは何故だ!?)

 

 

 記憶の中にあるあの御方。気に食わないが、それでも超高次元生命体の実力は認めているクウラは彼の攻撃がその存在と重なる事に何よりも恐怖を覚えていた。

 自分の力が一切通じない存在。あまつさえ、赤子を愛でるほど手加減した攻撃で気絶するほどの超高次元生命体が何人もいて堪るか。本能で反撃しようとしても見えない防御で防がれる。一際大きな打撃を加えると、クウラは膝を着いて倒れる。

 

 

「んーっ。案外、よわいね。もう終わろっと」

 

 

 ブブッと脚がブレると、クウラは蹴飛ばされる。蹴飛ばした後は地面に足を着けると彼――エリンは構える。片手を高く上げ、気を集める。掌の上に今までの赤いエネルギーとは一線を越えたような、美しい宝石のような色の気が。至高のルビーとも言える美しさだった。

 バスケットボールほどの大きさが圧縮され、ピンポン玉までに小さくなる。完成したそれを優しく包み込むように手で覆うと、ボールを投げる前の動作を行う。振り被り、動けないクウラに狙いを定める。

 

 

「ばいばい」

 

 

 サイドスロー気味に作った気の塊を放り投げる。赤い軌跡を描きながら放たれると、真っ直ぐにクウラの胸を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれると、クウラはもがき苦しむ。胸を掻き毟り、フリーザの上の変身形態が徐々に解除されるようにマスクや肩のパットが溶ける。興味深そうにエリンはその様子を観察する。自分の放った技がどのように作用するのかを知りたいだけでその技を使った。

 新しい形態、赤いサイヤ人と名付けた変身をいつの間にかできていた事に特に驚かずにクウラを無視して後ろを振り返る。

 

 

「やあ。もう大丈夫かい?」

「どうしたんだエリン」

 

 

 ニコリと笑うエリンに、ある程度回復した悟空が近寄る。戦おうとしているのか、超サイヤ人に変身した状態で臨戦態勢だった。

 ほんのりと全体的に赤いエリンに面食らった悟空はクウラの状態に更に面食らう。ボロボロになり、もがき苦しんでいる様子に何が起きたのかと疑問を抱く。現状、エリンがクウラを倒した事はわかるが何をしたのだろうか。そんな風に考えてみるが様子のおかしいエリンに正常な思考はできていなかった。

 

 

「ああ、これ? 僕がやったよ悟空。凄いだろ? あのクズの中にある神精樹の実の力と懐に隠していた星の力を“浄化”した結果がこれなんだ」

「……おめぇ、エリンか? 様子が変だぞ」

「まあ、気にしないで。この赤いサイヤ人になった副作用みたいなもんさ」

 

 

 大袈裟に肩を竦めるエリン。静電気が起きているような髪の毛の持ち上がり方をするほんの少し赤が混じった黒髪が揺れると、眉を潜める。

 

 

「ちっ。クズ如きがゴキブリ並の生命力か」

「! まだ生きてんのか」

 

 

 彼等の視線の先には苦しみ終えたであろうクウラ。ノロノロと立ち上がろうとしているのが二人の視界に入るとエリンは舌打ちをし、悟空は構える。

 醜悪に顔を歪めるエリンは体から真紅のオーラを噴き出させると陽炎のように揺らめかせながらクウラに向かって手を向ける。

 

 

「よく考えればあの技は星の力を浄化するだけでクウラを殺すわけじゃないな。だがこれで終いだクズ。悪は栄えてはならない。強大なる悪は滅ぶべきなんだ」

 

 

 ポッとエリンの手にソフトボール大の赤い気功波が宿る。隣にいる悟空はエリンの気が小さくなっているのを感じながらも気功波から発せられる得体の知れないナニカを感じていた。

 死ね、とエリンの口から漏れた途端に風船から空気が抜けるような音を立てながらエリンの体から完全に力が抜け、地面に倒れる。

 

 

「…………あれ?」

「エリン?」

「……すまぬ。時間切れだわ」

 

 

 その言葉を最後に、エリンは戦線離脱するのであった。呆れながらも、回復をある程度済ませた悟空が代わりにクウラに挑むのであった。

 

 

「なっさけねぇ」

 

 

 フリーザ絶対ぶっ飛ばすパンチをクウラにぶちかました悟空の活躍を第三者の立場で見る事にした。本当にすまない悟空……。

 

 

 

 

 

 

 





 ゴッド覚醒。変なキャラになっているのは超サイヤ人になった時に気性が荒くなるのと一緒に純粋無垢、正義を過信する性格になってます。悪は許さん。ぶっころレベル。

 これにてクウラは終わり。次は絶望のメタルクウラさん。間にゴッドこと赤いサイヤ人を詳しく調べる日常編をはさんで人造人間に突入。

 映画の超サイヤ人ゴッドSSは考えときます。



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第十二話 招かれざる者


 もう、どうにでもなーれっ✩(AA略

 何度も書き直しては挫折したから酒の酔いに任せた。クソみたいな内容になったが許してくだされ。

 後は忙しかった。映画行きたいのにシフト変更とかクソ食らえよマジ。



 本当に遅れてすみません。時間を見つけて頑張りますよよよ。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドンと響く轟音に、部屋が揺れる。ビリビリと震える空気に突き出した手を唖然と眺める。

 

 

「……どういうことなの?」

 

 

 眼前にあるのは宇宙一硬いと呼ばれるカッチン鋼で作られた壁に大きな凹み。その中心には拳の形があり、普通であれば壊れるであろう拳は完全に健在だった。ジンジンと痛むはずの拳は全く痛くない。

 しかし、壁を殴り付けた拳をゆっくりと開けばパキパキと骨が鳴る音が聞こえる。固く握り締めていたせいで固まっていたのだろうと推測してプラプラと手を振る。もう片手の方でモニタリングしているいつものジッカ人に掌を見せる。

 

 ――変わんねぇな。サムズアップが気に入ってるらしい。回数を重ねる度に様になり、一種の芸術とも言える完成度になっている。これを見るだけで何故か安心する。

 

 

「何か超パワーアップしてるし」

 

 

 パンチの威力、キックの威力、何よりもあらゆる攻撃の威力と重さが段違いに向上している。威力と重さだけではなく、スピードも。十秒間に繰り出せるパンチの回数も明らかに増えているのが何よりの証拠。

 正拳突きの威力はカッチン鋼を破壊するには至らずとも凹ませる。前までは拳が逆に壊れて医療ポッド行きだったのに。その前にやっていたサンドバッグ殴りでサンドバッグ壊したから壁にドン、とやればこうなってしまった。我が身ながら恐ろしい。

 

 クウラ戦は悟空の勝利。神精樹の実の力を完全に失ったクウラではパワーアップした超サイヤ人の悟空を相手に勝てるはずがない。メタルクウラなら兎も角、超サイヤ人になった悟空に蹂躙された映画の事を考えると寧ろその結果は当たり前だろう。

 記憶の中にしっかりと残っているある意味黒歴史の赤いサイヤ人。クウラの神精樹の実を全て浄化する際に使った技もだが、どうにも妙な気分に陥った。悪は殺す、存在すらも許されない、滅殺滅殺、とクウラをボコボコにしたのも覚えている。

 あの時の状態はおかしかった。できない事はないと錯覚し、全てが自分の手の中にあるのだと感じて何もかもが掌の上で踊っているとも思った。神精樹の実、星の力を浄化するのも普通であればできないはずだ。

 

 

「気高き閃光? 赤き閃光。名前がまんますぎて捻りがない」

 

 

 今はあの技は使えない。見た目が同じであっても中身はスッカスッカの赤いピンポン玉しかできないと言った方が正しいか。

 それを放っても普通のエネルギー波の効果しかない。カッチン鋼壁にぶつけても焦げ跡を残すだけで正拳突きよりも威力が弱い事が判明した。必殺技が通常技に負けるって何なの? まあ兎も角、あれの名前は浄化玉と名付けよう。悟空の元気玉に対抗して付けたわけではないぞ。

 後は赤いサイヤ人に変身した事で妙に潜在能力がより引き出せているように感じる。俺の潜在能力がどれほどのものかはわからないが、サイヤ人の死に戻りによるパワーアップよりもパワーアップの幅が異常と言えるものであった。

 軽く気合を入れるだけでクウラ戦前の戦闘力に並ぶパワーを出せる。本気を出せば更に上の戦闘力をたたき出せる。今は想定外の戦闘力で大型スカウターが壊れて正確な戦闘力はわからないままだが凄まじい数値は出ているはず。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 聞き慣れたオーラの顕現の音を聞きながらオーラを纏う。段々とオーラの色が艶やかな赤に変わっていくのは壮観だが白の方が視界が開けて見えるからこれはあんまり嬉しくないんだがね。

 上方向に立ち昇るオーラは全方位に広がり、部屋を一気に覆い尽くす。ある程度のオーラが出た後は、ゆっくりと収束していつものオーラになる。今までよりも頼りになる感じが何とも頼もしい事か。多分だが、赤いサイヤ人の影響でこうなっているかもしれない。

 オーラの色も赤いサイヤ人に近付き、力も赤いサイヤ人に近付いている。俺の本当に力がその赤いサイヤ人で、今はまだ力が抑えられている状態、という事なのだろうか。超サイヤ人に変身できないのもそれが理由なのかもしれない。

 

 と、ここでサムズアップジッカ人が何やら慌てた様子でこっちにジェスチャーを送ってくる。六本の腕でジェスチャーを送ると凄い光景だ。

 えっと……抑えて抑えて? ああ、力を出し過ぎなのか。

 

 

「すまん。これでいいか?」

 

 

 グッとサムズアップ。どうやらこれでいいようだ。

 フッとオーラを消し、息を深く吐き出す。地面に足を置くのも億劫だとばかりにソファの上で横になるポーズを意識して浮かぶ。だりぃ、と日曜日のお父さんの気分になりながら空中でゴロゴロと体を回転させる。

 どうも最近は疲れやすい。というよりは燃え尽き症候群に近い感じだ。クウラとバトルしたせいで普段、鍛える事が退屈になるほど重症らしい。超パワーアップした事もあってか、並の雑魚ではデコピン一発で事足りるせいでフラストレーションが溜まる。

 悟空と組み手でもしようかと思ったが、地形を変えるせいでブルマとチチに怒られる。どこか別の星に行ってやれば時間を忘れて悟空がチチに怒られる。時間も忘れて夢中に慣れないせいで余計にフラストレーションが溜まるせいでそもそもやる事をしない方が一番という結論に落ち着いた。

 一度、カプセルコーポレーションのトレーニングルームを壊したからブルマには頼れないんだよなぁ。ジッカ人のトレーニングルームも改装が追い付かないし、大型スカウターのバージョンアップもあるから使えない。世の中クソだな。

 

 やれやれと思いつつホバー移動の如く、トレーニングルーム(仮)を出て廊下を移動する。日課の鍛錬は終えたので飯を食べながら精神統一でもしようかと考えた。

 

 

「ベベベベ! ホボッ!」

 

 

 食堂が近くなり始めた頃に騒がしくなる。基本、静かなジッカ人の本拠地である母船だが妙に騒ぎが大きくなっている。

 背後から聞こえてくる騒動に振り返りながら観察してみれば、誰かが暴れている。手枷、足枷、首輪。囚人ですと言わんばかりにガチガチに拘束されている人物は暴れながらこっちに向かって来ているようだ。目を凝らして暴れている者をよく見ようとする。

 性別は女性だな。胸がある。原始人と言われても納得ができる服装に、髪の毛がボサボサで体毛もかなりあるように見える。狼人間のイメージが合いそうな女みたいだ。暴れているのは囚人の扱いから逃れる為だろうか。

 

 じっくりと観察していると殴りかかってきた。自分の腕によっぽどの自身があるのか、少し浮いている俺に向かって拳を突き出してきた。思考、体感速度が加速している今、振るわれる拳はスローに見え、周りの景色をゆっくりと眺める時間もあった。これは、呆れ返っているのだろうか。

 気持ちはわからんでもない。スローの女の着弾点に人差し指を添えると、衝撃が後ろに逃げて突き抜ける。簡単に人差し指だけでパンチを受け止められ、女性は驚いた顔をする。まさか受け止められるとは思わなかったと言える表情だった。

 気軽に受け止めた拳を人差し指で少しだけずらして顔がしっかりと見えるようにする。驚いている彼女の顔の上、額の部分に親指で押さえた人差し指を構えてデコピンをする。

 バチィッ! と音がすると女はクルクルと回転しながら後ろに吹き飛んだ。そのまま暴れている彼女を抑えていた者達が再び彼女を抑えると、全員揃って俺に頭を下げてきた。気にしてない、と労うように手を振ると食堂に入る。

 

 

「いつもの」

 

 

 先程の騒動はなかった事に、いつのもの調子で食事を頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほーう。宇宙は広いとは思っていたが面白いのがいたものだ」

 

 

 バリバリボリボリと肉の欠片が残っている骨を歯で砕きながら提出されたデータを流し読みする。データの詳細の当人であるそいつは手枷を付けながらも不便なく食事をしている。だが、ハッキリ言って汚いとしか言えない。

 狼人のハーフ。そこに多種の遺伝子情報、DNAを組み込まれたハイブリッドであるとデータは告げている。様々な遺伝子のせいで外見がコロコロ変わるらしいデメリットを抱えているともある。

 

 

「で、こいつは辺境の惑星で暴れていたのか」

「は、ははっ。エネルギー供給施設に襲撃しまして。その他にも食糧プラントを四つほど破壊されまして。ええ、はい、はい」

 

 

 冷や汗を拭いながら報告をする獣人タイプの宇宙人、とある辺境の惑星と衛星の管理を任されていると言うその宇宙人はビクビクしながら俺の機嫌を窺ってくる。狼人の女が汚く食べているのもあって、かなり恐縮していると見える。

 事情を話せと言えば空腹だから飯を出せ、と要求されたらしく俺と同伴しながらの尋問になった。食事の途中で邪魔したとでも思っている管理職宇宙人は更に小さくなる。データを寄越せと命令形にすれば強そうな見た目に反してかなりオドオドしている。

 

 

「ま、まだ詳しい調査をしていませんが、どうやら彼女にはエリン様と同じサイヤ人の血が混ざっているようでして。極微量ですが」

「ふーん。だとすれば遺伝子を組み込んだ奴は腕が良いんだな」

「……あの、そうではなくてですね。サイヤ人の血、ではなく“エリン様のサイヤ人の血”の遺伝子情報が彼女の螺旋情報にありまして」

「俺の?」

 

 

 それは少し驚きだ。いや、少しどころか大いに驚いた。もしそれが本当であれば俺と彼女の間に血の繋がりがある事になる。血縁上、なのかはわからないが赤の他人とは言えない関係であるのは間違いない。

 口の周りを汚し、口から零してテーブルと自分の体毛を汚す彼女の髪の毛を摘んでみる。食事に夢中な彼女は触られてる事に気付いている様子はなく、少しだけ髪の毛を弄ってみる。

 うむ。似ている。こうして見ると、俺の髪型とどことなく似ている感じがある。

 

 

「彼女をこれからどうするつもりだ?」

「はっ。食糧プラントの破壊、エネルギー供給施設破壊による甚大な被害を考えればコード27に適用されるかと」

「俺からの命令。コード発令は却下。彼女の身は俺が引き受ける」

 

 

 終始オドオドしている宇宙人に命令しながらデータを返す。指をパチパチと鳴らしながら食堂にいるジッカ人の一人、一体? を呼ぶと情報端末を貰ってサインをする。とは言っても、親指を押し付けて文字を入力するだけなんだが。

 彼女の身柄を俺が引き受ける、と書いてジッカネットワークのサーバーに拡散させて命令を下す。これで彼女は一応、俺の所有物という事になる。

 

 

「褒美を取らす。ブレインに連絡はしておくから通達があれば昇進の話も持ち出すようにしておこう」

「こ、これはとても身に余る光栄でございます」

「彼女の名前はあるのか?」

 

 

 データには囚人番号としかない。420987、四十万もの囚人が今までいたとの証明になる凄まじい番号の彼女は名前が表記されていなかった。もしや名無しなのだろうか。

 

 

「研究所にあるデータであれば、検体番号7789とあります」

「名前はないのか」

「検体になる前ですと、ノキですな。検体の中でも研究成果が出ているのもあって完成後の名も用意されているようです」

「……ふむ」

 

 

 検体番号7789、ノキと名付けられた女を改めて見てみる。体毛がフサフサの彼女をボーッと見てみると、どうしても“アレ”の容姿と重なる。色は黒だが、赤に変われば超サイヤ人のナンバリング最終にして最強の形態の格好に。

 

 ――どう見ても超サイヤ人4だよな、この姿。

 

 しかし、女性であるから悟空とベジータの超サイヤ人4の姿とは少々の違いがある。胸、女性であればおっぱいと名が変わる部分は狙ったのかと疑うほど隠されている。体毛ではなく髪の毛でだ。あれだ。髪ブラってやつなのだろう。

 それを除いても女性版超サイヤ人4と言える格好をしている。俺のサイヤ人の遺伝子が混ざっていると言われれば納得もできる。超サイヤ人4に変身できるかは置いておいて、可能性は同じ遺伝子の俺でも可能性はありそうだ。これが超サイヤ人4なのかは甚だ疑問ではあるが。

 

 そこでふと、頭を過ぎるのは行方不明の長老。何故かはわからないが超サイヤ人計画と長老が関係しているのではないかと感じた。

 あの計画は“エリン”というサイヤ人を使って行う実験だった。となれば、クローン技術に似た技術を用いての実験をしているのではないだろうか。そして、その実験で生み出されたのがこのノキという女性だとしたら? あの長老がそんな事をするはずはないと思いたい。

 だけど一旦浮かんだ疑惑は消えない。ハッキリと判明するまでは毒となり、下手すれば一生ものの問題として付き纏う事になる。これは長老の捜索を一層強化する必要があるな。

 

 

「取り敢えずまずは躾をしないとな」

 

 

 いてぇよ、と自分の手を噛み付いてくる野生系女子を引き剥がす事にした。周りがその行為に絶句して言葉を失っているようなので覚醒させる為に同じようにデコピンをする。すると、壁にめり込むオブジェが完成するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノキというキメラの女性を引き取ってから少し体に変化が生じた。見た目こそあまり変わらないが注意してよく見れば俺の目の虹彩が微妙に赤くなっている事に気付いた。隈取のように中心は黒目なのに、その円周上の部分が少し赤くなっているからすぐには気付かなかった。

 超サイヤ人に変身すれば金髪と一緒に瞳の色も変わるが虹彩は変わるものなのだろうか。記憶の中にある超サイヤ人4の目と何となく似ている気がするが悟空は金眼だし、ベジータはエメラルドのような色合いで周りを赤い隈があるのが超サイヤ人4の特徴だったはず。俺の変化はそれに合致しない。

 

 

「がああああああっ!!」

 

 

 バチィッと音が響けば一拍置いて重い物が激突する轟音が響く。躾となりつつあるデコピンで吹き飛んだノキは壁に埋まりながらも抜け出そうともがいている。

 言葉は通じない。教えても人間の部分を消されたのだろうか、動物・獣の部分が強く出て犬のように躾をする事しかできない。犬の相手をする感じで接するのが固定された今、ノキと“じゃれ合っている”のだ。

 サイヤ人以外にも好戦的な種族の遺伝子が混ざっているらしく、一日に最大三回は暴れだす。その度にパワーアップした力を完全にコントロールする名目も含めてノキと遊んでいる。手加減もできるようになったので後は気のコントロールをする事ができれば更に強くなれる。

 

 

「がうがうがうっ!」

 

 

 犬のように吠えながら抜け出したらしいノキが飛び掛かってくる。牙を剥き出しに、爪を尖らせて来た彼女の攻撃に合わせてカウンターを浴びせる。大人が子供を叱るようにゲンコツを落として床に伏せさせる。

 うつぶせになった彼女を動けないように上に乗って座ると両手を後ろに回して拘束する。未だに暴れているが子供の可愛い抵抗にしかならない。力はあるのに力の差のせいで完全に抑えられているのもドラゴンボールのインフレ化の余波なんだ……。

 

 

「ばうっ! ばうばうばうっ!」

「――ノキ、伏せ」

「びくっ! きゅ、きゅーん」

「よしよし。良い子良い子」

 

 

 もっさりしている彼女の髪の毛を沈めるように叩き、撫でる。ここまでの動作を何度繰り返したことか。

 完全に大人しくなったのを確認した後に、トレーニングルームをモニターしているジッカ人に掌を見せて安全を確保した事を知らせる。立ち上がり、ノキの腋に手を差し込んで立たせる。わふわふと犬のように鳴いて俺に手を伸ばしてきた。

 サイヤ人は猿に近い遺伝子のはずなのに、ノキはやたらと犬や狼の面がよく表に出てくる。もっさりしている髪の毛の中身は美人だから犬のようにペロペロと頬を舌で舐めてくるのはどうしても受け入れられない。手を伸ばしているのは首に抱き着いてprprしようとしているのだ。全力で拒む。

 

 

「わんわんっ」

「ステイステイ」

 

 

 ノキとのじゃれあいは決して悪い部分だけじゃない。彼女と遊んでいると悟空と修行してた頃よりもパワーアップするのを実感できる。多分、俺と同じ遺伝子を持っているから何かが噛み合って最高の修行になっているらしいと決め付ける。

 見た目が超サイヤ人4だからそれに準じる気を持っており、それを無意識に吸収する事でもどかしさを埋めてくれるのかもしれない。あの時の赤いサイヤ人はかなり完成度は高いはずなのにまだ何かが足りない気がしてならなかった。

 

 

「きゅーん。きゅーん」

「コラコラ舐めるんじゃない」

 

 

 足りない物の正体を確かめる為に色々と調べてるが、一番の手掛かりは彼女だ。俺にかなり懐いているからそれとなく協力を促して研究をしているわけだが、かなり好調に進んでいる。この調子ならあの赤いサイヤ人を完成させられそうだ。

 

 

「わふわふっ。わふーっ」

「……こりゃ好きにさせるしかないか」

 

 

 ょぅι゙ょprprならぬ野郎prprとか誰得なんだ。ノキは楽しそうに舐めてるが涎やら唾が顔に塗りたくられて気持ち悪い。早く風呂に入りたくなると思うのが最大の難点だな、彼女との付き合い。

 

 

 

 

 

 

 

 





 ゲロインとして書こうと思えば何故かわんこ娘になった。あれだ。おおかみこどもの雨と雪のせいだろう。名前はエノキから。夕食に混ざってたから。もう設定が色々とガバガバだなぁ。

 取り敢えず変な設定は作ったけど壮大なフラグ立てを頑張ったよ。ぼく。原作としてはZまでだけど他にも映画とか絡ませるよ。




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第十三話 押し寄せる異変の波



 久し振りでございます。内容は期待しないでね。

 本当は十月のブルーレイ出るまで投稿しない予定だったけど内緒で。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 構えを取り、動いて再び構えを取る。流れるように拳を突き出し、円を描くように足を回す。この動作において精神を落ち着かせ、気を静める。

 悟空から教わった演舞は亀仙流、昔の亀仙人に弟子入りした際に学んだ舞らしく、不思議と俺に合って精神と荒ぶる気を落ち着かせる効果が望める。何度もそれを繰り返していると、美しき舞に昇華される。以前に見せてくれた悟空の演舞は金を取れるほど美しいと感じたのが何よりの証拠である。

 普通なら気を荒ぶらせ、怒る事で全力を出せる。赤いサイヤ人の場合だとその逆、完全に心を落ち着かせる事で目に見えぬ力を引き出せる形態らしく、最近では日課になっている。

 

 

「わふっわふっ」

 

 

 パタパタとノキが尻尾を揺らしながら合いの手を打つように嬉しそうに鳴く。犬のようにお座りしながら演舞を舞う俺を楽しそうに眺めている。

 相変わらず人の声は発せないが、何となく心は通わせられる。今は演劇を楽しむ気持ちでいる。そろそろ人の言葉を覚えて欲しいんだけどね。テレパシーだけではどうしても会話のやり取りに不便だ。

 

 演舞をしている最中、うっすらとオーラが出てくる。完全な赤色になったと思えば、少しずつ金色のオーラも混ざり始めて綺麗なオーラになってきた。心を落ち着かせる度に美しいオーラへと変わるのは赤いサイヤ人の真の姿に近付いている証拠なのだろうか?

 ババッと片足を上げ、右手を下げて左手を上げる構えをして演舞は終結させる。トトン、とステップを刻んでボクサーのように構える。オーラは消えず、ゆらゆらと陽炎のように揺らめく。

 

 

「ちょあっ」

 

 

 ボビュッと音が立つ。目にも止まらぬ速さで拳を突き出せば轟音と共に、離れた位置にある壁が陥没して中心に拳の形ができる。

 マジか。何度見てもマジか。俺の腕が伸びたわけでもないのに離れた場所を殴れるとは普通は思わんよ。悟空が天下一武道会でチチを吹き飛ばしたみたいに拳撃が飛んだりしたと考えるのが最も考えられる事だろう。

 

 

「ふふっ。凄い凄い。流石はぼくだね……っとと」

 

 

 口を叩き、頭を叩いて正気を取り戻すように調子を整える。どうも赤いサイヤ人になれるが、まだ口調やら性格は矯正できないようだ。

 赤いサイヤ人モードは悪人絶対滅ぼすマンとも言える正義を過信するめんどくさいモードでもある。前に悪人を相手にすると拷問して苦しめるように甚振って消した事がある事が本当にめんどくさい。悟空達の超サイヤ人第一形態に似た副作用なのだろうか。

 悟空と悟飯のように超サイヤ人状態を慣らすのを真似して赤いサイヤ人を慣らそうと考えたが――。

 

 

「いぇぁー」

 

 

 へにょへにょと体から力が抜けてへたり込む。クウラの時と同じようにパワーダウン現象を起こし、欝に似た状態になりながら床にうつ伏せで倒れた。

 その隙を待っていた、とばかりにノキが馬乗りになって顔面をprprしてくる。ペロリストに成り果てた彼女のprテクニックは凄まじく、prprしながら俺の口をこじ開けて舌をprprしてくる。普通の女の子が相手が良かった、と思ったが美人だし、相手も期待できなかったからノキが相手でも良いかーとなされるがままにしておいた。

 

 ……しまった。思い出したが、クウラに時計を壊されていたんだった。これではブルマの作ってくれたビーコンの場所まで行けないではないか。

 赤いサイヤ人へ至る方法を何となくわかっていまったせいで修行の時間を増やしたせいでもあるが、先に連絡をするべきだったか。これでは悟空を馬鹿にはできない。修行に割く時間を増やして家族サービスを怠る悟空のようじゃないか。俺は。

 

 

「わんっ」

「そんなに舐めるのが好きか」

 

 

 舌を出してハッハッと息を繰り返すノキの顔が間近にある。赤いサイヤ人の副作用なのか、変身の最中は力が溢れるのに対して変身が解けると脳からの伝達がカットされているのではないかと思えるくらい一切の力が入らずに脱力状態に陥る。

 つまり、この状態だと赤子でも好きにできるほど抵抗力がなくなる。何をされようとナニをされようと抵抗も許されないのだ。この欠点だけはどうしても改善できない。

 大体は七分ほどで脱力状態から回復する。ゆっくりと力が戻り、元の状態に戻る。それを何度も繰り返していると体が慣れるのか、回復までの時間は変わらずとも脱力の度合いが軽くなるのだ。この調子なら脱力する事はなくなるはずだ。

 

 

「エリン様。準備ができましたが……」

「ふぐにいみゅー」

「はあ。よろしければお助けしましょうか」

 

 

 馬鹿。それはフラグだ……と言う前に忠誠心を示したそいつは、ノキの体に手を付けた瞬間に吹き飛んでしまう。バウバウと威嚇する彼女は四つん這いになりながら彼女から見て邪魔者を排除しようと構えている。何なんだよもう。

 

 

「ノキッ!」

「わうーん」

 

 

 叱り付ければ萎縮して伏せるノキ。尻尾も丸まって小さくなるのを見てしまうと、どうしてもノキを女性としてではなくペットとしてしか見れなくなる。仕草も犬っぽいし。

 様々な遺伝子を組み込んだらしいが絶対犬とかそこら辺の動物の遺伝子だけ組み込まれていないのではないかと思えてならない。俺、エリンの遺伝子も混ざっていると書いてあったが本来の俺はこんな感じなのか、と落ち込むしかない。

 赤いサイヤ人の練度が高くなるのを感じてはいるが、このノキと付き合う事を考えればメリットとデメリットは両立しているよなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、地球に向かう事にした。ノキは無論、お留守番。あんなのを皆に見せれば勘違いどころか地球人組がボコボコにされて仙豆の数を減らす事になるのは目に見えている。

 

 

「じゃあ、もう人造人間は破壊したわけ?」

「そうらしいわ。直接見たわけじゃないからわからないけど悟飯くんはそう、と言ってたわ」

 

 

 確実にいるであろう、カプセルコーポレーションで仕事をしているブルマの所に真っ先に訪れた。ブルマの仕事を手伝いながら会話を弾ませる。話題の内容はもちろん、人造人間について。

 倒された。と彼女は語る。直接見たわけではないが、その一戦を見ていた悟飯が詳しく語ってくれたらしく、ブルマは取り敢えずの経緯を教えてくれた。簡単に言えば、悟空が無双して19号と20号を破壊したらしい。二対一を引っ繰り返す悟空は多分、もうセルにも勝てるんじゃなかろうか。

 

 あれ? 人造人間を破壊したのはいいけど17号と18号は? 16号さんは動いてないの? 稼働阻止してしまったのだろうか?

 

 

「え? まだ他にも人造人間がいるの?」

「ほら。あの未来から来た奴がいたでしょ? 彼から聞いたイメージには合わない気がするのよ。それに未来で暴れている人造人間はエネルギーが無限で吸い取る機能もないと聞いてたんだが」

「……ちょっとベジータ呼んでくるわ」

 

 

 あれ? ベジータいるの? 素朴な疑問を抱いて素っ頓狂な顔をする。今のベジータなら家に帰らずにカカロット打倒だとか言って家庭放棄状態だと勝手に思ってたんだが。

 それよりも超サイヤ人にはなれるのだろうか。本来なら人造人間の片方をベジータが壊したはずだから変身は出来ているはずなのだが、家にいるのならどうなのだろう。

 ベジータ、ベジーター? とブルマが作業をしながらベジータを呼んでいるがベジータは来ない。あれ、と首を傾ければブルマは笑いながら待ってれば来るわよ、と作業を続ける。手伝っているが何を作ってるのだろうか。

 

 

「うるさいぞブルマ」

「ああ、ちょっとベジータ。お願いがあるんだけど大丈夫?」

「あまり面倒な事は頼むんじゃないぞ。暇じゃないんだ」

 

 

 嘘を言えベジータ。家にいる間は修行しかしないニートヒモだろうが。金を稼いでくれ、養ってくれるブルマを少しでも助けるって事をだな。そう思いながらベジータの声が聞こえる場所に首だけを向ければ――。

 

 

「 」

「……ねえ。少しだけ右に動かして」

 

 

 なん、だと? あれがベジータ? 嘘だ。俺が知っているベジータはまだ家族サービスをしないクソ野郎のはずなんだ。となれば、俺の目が腐っているのだろうか?

 俺の目に映るのは、ベジータ。だがベジータの腕の中にはベジータとブルマの子である赤ん坊のトランクスがいる。まるでパパのようだ。間違いない。俺の目が腐ってるんだ。L状に曲げた腕にトランクスが乗ってるはずはないんだ。そうなんだ。

 思考が完全に停止した。そう言えるほど上の空になってしまった。

 

 

「エリンが言ってたんだけど、もしかしたら人造人間がまだあるかもしれないのよ。ドクターゲロの研究所の場所は教えるから調べてくれない?」

「ふざけるな。それよりもトランクスの世話が大事に決まっている」

「……あのベジータ、ロボット? 偽物?」

「どうやら俺に殺されたいらしいなクソガキ」

 

 

 あ。このキレ芸はベジータだ……って事は本物のベジータなのかこいつ。ありえねぇ。俺が知っているベジータはこんなパパじゃない。ラノベみたいに俺の知っているベジータがこんなはずじゃない、とか言えるわ。

 青筋を立てるベジータから目を逸らしてブルマに向き合う。目で訴えかければその思いが通じたのか、苦笑しながら事情を説明してくれる。

 

 

「ベジータ? ちょっと聞いてよ。この人、超サイヤ人に変身できて孫くんに喧嘩を売ったらあっさり負けてチチさんトコの夕飯をご馳走になった時に美味しい料理が気に入って孫くんに八つ当たりしたらまた負けたのよ」

「某掲示板に草が生え乱れるわ」

「で、再戦する時に孫くんが条件を出してね。家に帰って私の言う事を聞けって言われたからとことん命令してあげたのよ」

「俺の腹筋にビックバン・アタック」

「茶化さないの。で、ベジータには育児を頼んだの。後は逆らわないように、って頼んだわ」

 

 

 もう腹筋が捩れそうです。ベジータのこれの裏にそんな事があったとは、と笑いを必死に堪えて声が出ないように二の腕で口を塞ぐ。ブルマの手伝いをして、抑えている手も笑いを堪えているせいで少しだけ震えてしまい、ベジータにも睨まれる。

 あのベジータが、あのベジータが、と思っているとブルマも同じ考えなのか、大笑いしていた。ベジータはそれを見て顔を赤くし、器用に青筋を立てたままトランクスを抱えていない手を震わせる。

 

 

「笑うな貴様等!」

「いいじゃないのベジータ。丸くなって。今の方が好きよ、私は」

「これからパパータと呼ばせてもらいますね。パパータさん」

 

 

 スッと顔を横に傾ければ、ベジータのパンチが通る。トランクスを抱えたまま殴るに来たのだが、トランクスは何だか楽しそうだ。

 青筋ベジータの顔が一気に近付いた。憤怒といった言葉では足りない怒りを見せる表情をしている。どうやらブルマが弄るのはいいが、俺が弄るのは駄目らしい。うーむ。ここからでもベジータが何となく妻のブルマの優先順位を上にしているのがわかる。結婚してトランクスを生んでからは気付かないだけで大事にしてたんかな。

 

 

「ごめんなさいね。ちょっとやり過ぎましたわ」

 

 

 あまり反省はしていない。今の内にベジータで遊んでおく。

 何だかな、と感じる。悟空と相対する時はかなり緊張したのにベジータは悟空の時よりも緊張感が足りない気がしてならない。やはり王子(笑)の運命なのだろうか。サイヤ人の王子と言う割には良いトコないのがベジータだからかもしれない。

 グミ撃ちの開祖。フラグ建築王子。噛ませ犬っぷりを見せつける超ベジータ。更には戦犯認定もある。

 

 あ。これは駄目ですわ。Zのベジータはそんなもんだから、って言葉で済ませられる御方ですわ。

 魔人ブウの元気玉の時と悟空にお前がナンバーワンだ、って言う時だけが輝いているような気がする。後は劇場版のヒルデガーンから市民を守る時がベストなのは間違いない。

 やっぱりなんだかんだでベジータ好きなんだな、俺。

 

 

「お詫びの印です」

「ふんっ。誰が貴様の――いいだろう。それで許してやる」

 

 

 ちょっと態度を変えようと心に決め、第一歩として俺と悟空が好きな果物を献上した。同じサイヤ人だから多分気に入られるだろうと思い、渡したが過剰に反応をしてくる。びっくりした。

 トランクスを抱え、果汁が溢れないように注意してるところが驚きだ。完全にパパしてる。

 

 

「ひとつ聞きたい。小僧、これをどこで手に入れた?」

「え? 栽培してますけど。美味しかったです?」

「……小僧。この実の価値を知らんようだな。まさに宝の持ち腐れだな」

 

 

 鼻を鳴らして齧った果実を見せてくる。外見がアボカドみたいで、中身はオレンジ色の身の甘酸っぱい感じの美味しさが特徴の摩訶不思議果物。ナメック星とかに生えてそうなデザインをしている。

 懐かしそうに手に持つ果実を回して観察する。どうやら俺の知らないこの実をベジータは知ってるらしい。

 

 

「普通はこれを栽培する事は叶わん。俺達サイヤ人王家だけが口にできる至宝の果実だ。名はないがその味はサイヤ人だけではなく、あらゆる種族の舌を魅了すると言われている」

「そんな大層なものなのかこれ」

「だから宝の持ち腐れなんだ。最高の贅沢と言える物を普通にデザートとして食べる貴様は感覚が狂っている」

「孫くんとチチさんの家にある物を簡単に渡せるようなものだからしょうがないわ。宇宙のセレブみたいね」

 

 

 俺ってセレブだったのか。他人から見れば。

 ジッカ人は確かに宇宙の金持ちって印象があるが、長年付き合っていると感覚が麻痺するらしい。色々と麻痺し過ぎな気もするが。

 そんな大層な物ならじっくりと味わうものかと思いきや、ベジータは残った物を一気に丸呑みにして頬を膨らませる。リスみたい、と表現できるがベジータがやると笑いを誘っているとしか思えない。

 

 

「売れ」

「え?」

「聞こえなかったのか? この果実を持っているのなら俺に売れと言っているんだ。言い値で構わん」

「あー、はい? いくつ要るんです?」

「あるだけだ。保存状態は長く続くから貯め込んでおきたい」

 

 

 スッと手を伸ばして催促する。クイクイと手を動かして急かすベジータだが、そこにブルマが待ったを掛ける。

 

 

「待ちなさいベジータ。寄越せと言わないだけまだマシだけど買うだけの金があるわけ? 時々小遣いをあげてるけど足りる?」

「良い事を聞いた。値段を吊り上げてぼったくろう」

「……ぶ、ブルマ。前借りは」

「トランクスの世話期間の延長と庭の雑草刈り」

「ぐぬぬ……」

 

 

 何このベジータ。可愛いと言うかほっこりするんだけど。代名詞でもある腕プルプルを何度も見れた事は嬉しいが馴染み易いベジータに違和感しかない。

 や。別にタダであげてもいいんだけどベジータに見えないようにブルマが人差し指と親指で輪っかを作って身長を測るような仕草で上に上げるからちょっとからかっただけなのに。完全に尻に敷いてるブルマが恐ろしいわ。あのベジータ相手に。

 カプセルコーポレーションの発明品を使えば庭の雑草くらいは簡単にできるんじゃないか? それなのにベジータに頼むって事は何かの思惑があるのか?

 あ。ブルマからの指示が来た。

 

 

「まあ、今回は初めましてって事で無料で分けます。持っている半分を」

「ふ、ふんっ! 感謝はせんぞ!」

「構いません。久方の贅沢をどうぞ」

 

 

 隠しきれてない喜びを見るとちょっと奮発もしたくなる。まあ、未来への投資と思えば安いだろう。なんだかんだでベジータも悟空並に強くなるし。

 戦いのセンスだけはピカイチってフリーザが言ってた気がする。正しい鍛え方をすれば悟空よりも強くなれる可能性もある事になる。なんか起きそうな大きなイレギュラーの為に強くしておかねば。

 って、今からベジータはドクターゲロの研究所を探しに行くのか。俺も付いて行った方がいいだろうか。

 

 

「ブルマ。暫くトランクスを頼むぞ」

「はいはい。頑張りなさいな」

 

 

 うーん。やっぱりこの夫婦は良いキャラしてるなぁ。良い夫婦っていうかなんていうか。

 

 

「あ。悟空さんも一緒にどうです? もしも人造人間がいるならどっちが先に壊せるかを競えばもしかしたら一対一で戦ってくれるかもしれませんよ」

 

 

 方向を変えるベジータであった。ちょろい。

 

 

 

 

 

 

 





 良きパパ、ベジータ。早めの覚醒。何故かほっこりした。




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第十四話 次なる異変


 久方の早期投稿。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の方が早かっただろう!」

「いや、オラだ!」

 

 

 眼前で言い争う超サイヤ人二人。額をぶつけ合ってメンチ切る姿は中々レアではなかろうか。二人って元々仲が悪いから魔人ブウ編が終わるまではすれ違う感じだったはず。

 おーい。お二人さんよ。言葉の殴り合いも良いけど倒れてる二人にトドメは差さないのかい?

 

 

「そんな事よりもカカロットとの勝負が大事だ!」

「勝負の方が大事だ!」

「駄目だこりゃ」

 

 

 二人の喧嘩が止まらない件。倒れている稼働した17号と18号を完全に無視してる。まさかここまで強いとは完全に予想外だった。俺がいない間にも修行はしてたのね。寧ろ休む方が珍しいレベルだけど。

 悟空は元々、俺と修行しているから伸び代と成長速度はベジータよりも上だろうがベジータもここまで強いとは思わなかった。もしかすると、ブルマに渡したトレーニングメニューをこなしていたり?

 悟空が17号を相手にし、18号はベジータが相手にする。二人共ボコボコにする始末だが、人造人間なだけあってまだ動けるようだ。エネルギーが無限だと回復もすぐにできるようなものなのか。16号はいないようだ。

 

 あー、もう(歴史が)滅茶苦茶だよ。ここで人造人間を破壊してしまえばセルとかどうなるんだ。完全体になれずに獅子に飛び込む兎みたいになるじゃないか。悟空とベジータに消される未来しか見えないんだが。

 パワーインフレし過ぎて辛いです。既に魔人ブウに挑めるとまではいかんがバビディ一味涙目だよこれ。超サイヤ人2に近いのも悟飯じゃなくてこの二人な気がするし。

 

 

「埒が明かん。こうなれば奴に勝敗を決めてもらおう」

「それもそうだな。エリン、頼むぞ」

「へ? 何がどうなったわけ?」

「このままではいつまで経っても白黒ハッキリせん。ならば第三者である貴様が決める方が良いだろう」

「オラ達に近い強さを持ってるからな。目も良いだろうし」

「えー」

 

 

 ズズイ、と顔を近付ける二人。取り敢えず金色のオーラが眩しい。

 思わず反射的に二人の後頭部を掴んでごっつんこさせた。ゴチンなんて痛そうな音を出しながら二人は悶絶する。見えていないだろうが、腕を使って×を作ると淡々と告げる。

 

 

「イーブン」

「貴様ァ……!」

「おー、いちち……」

 

 

 こういう時は誰が勝ちだのを決める前に引き分けにした方が良いと思うんだ。ベジータの向上心を煽れるし、悟空もしょうがないと諦めるはずだろうし。

 ようやく二人の超サイヤ人状態は解かれ、冷静になったがベジータは悟空を睨み付けていた。あれだけ18号を女なのにボコボコにしたのにまだ不完全燃焼なのか。戦闘狂なのは変わらんらしい。超サイヤ人に変身できるのならそれで満足すればいいのに。

 俺なんか地味なんだぞ。赤いサイヤ人になれるが超サイヤ人にはなれんのだぞ。

 

 

「界王拳じゃないんだが」

「もしかするとサイヤ人の新しい形なのかもしれん。大猿に変身もできる、伝説の超サイヤ人なんてものがあればまだ何かあると考えるのが普通だろう」

「神聖樹の実を食ったクウラを一方的に叩きのめせるんだからだからよ。超サイヤ人よりも強いのは確かだ」

 

 

 ドラゴンボールファンなら卒倒でもしそうな光景だろう。人造人間編の悟空とベジータの仲が良いなんて光景は珍しいなんてものじゃない。二人だけで会話するのも然りだ。

 トランクスを世話して丸くなったのが早まったとでも言うのだろうか。いちいちキレる事はせずに静かに会話を聞いてる。意見も出してくれる辺り、本性は優しいのだろうか。何だかあざといぞベジータ。

 

 話題は赤いサイヤ人になる。具体的にどんなものかと聞かれたので熟練度が高まったそれを見せる。超サイヤ人のように派手に変身はせず、静かに雰囲気が変化する。

 前まではなれなかったのに今はすんなりと変身できる。まだ仮説の段階だが、悟空が近くにいればこの状態になれるらしい。もう少し言えば、超サイヤ人の悟空が。

 

 

「……パワーアップしているのか?」

「寧ろ気が減っているように感じるぞ」

「そうか? 俺としては全能感を感じてるんだが」

 

 

 怪訝そうな顔をするベジータ。三度目になるこの形態に慣れているであろう、悟空は顎に手を当てて覗き込むように観察してくる。

 手を広げて全体が見えるようにすると、意見を求める。自分ではわからなくとも、同じサイヤ人の二人なら何か気付く事があるかもしれない。超サイヤ人に到れる二人なら何かわかるはずだと思いたい。

 

 

「よく見れば少し痩せてる」

「瞳も少し赤い。全体的に赤くなっているようだな」

「スリムアーップ」

 

 

 ムキッとポーズを取ってみれば悟空が細くなった腕をニギニギしてくる。並べればどれだけ太いか細いかがよくわかる。

 インテリ派のベジータは考え込んでいる。赤いサイヤ人を見て何か思うところがあるのだろうか、深く考えているようだ。

 

 

「おいベジータ。見てみろよ」

「……なるほど」

「何かわかったのか?」

「おそらくだが貴様のその形態は俺達の超サイヤ人に似るところがある。全体的に赤いオーラをしているが少しだけ超サイヤ人のオーラも混ざっている。しっかりと観察しなければわからん事だ」

 

 

 何かしたか? とベジータに聞かれる。超サイヤ人のオーラ? 心当たり? あっ。もしかして。

 そういえば初めて変身した時もそれ以降に変身できた事もそれで何となく納得ができる。悟空が近くにいる事で変身できる理由も。

 

 

「前に超サイヤ人の悟空のパワーを吸い取った事がある」

「オラのエネルギー波を吸収した時の事か」

「つくづく思ったが貴様の技は多彩過ぎる。どれだけの種類があるんだ?」

「まあ、ジッカ人のネットワークは凄まじいですから。コネを使えばこれくらいは容易いもんですよ」

 

 

 悟空やベジータから見ても俺は色々技が使え過ぎるらしい。特に超サイヤ人のエネルギーを吸い取る時点でバグってると言われるレベル。

 これで赤いサイヤ人の変身条件は判明した。回数を重ねる度に練度が上がるのはパワーアップする悟空に合わせるように俺の赤いサイヤ人もパワーアップしてる、って事だろう。超サイヤ人のパワーを吸わなくとも変身できたのは体が慣れたからか、感覚を覚えてしまったからか。僅かに体に残っている悟空の超サイヤ人のエネルギーを利用できたからか。

 どちらにしても、超サイヤ人のパワーがあれば赤いサイヤ人のパワーも上がるというわけなんだろう。これは良い事を知れた。

 

 

「オラだけであれならベジータのパワーも吸えばどうなるんだ?」

「火を見るよりも明らかだな」

「ちょい待ち。この状態でもまだ完全にコントロールできていないのにこれ以上パワーアップすると暴走しそうだから勘弁してくれ」

 

 

 超サイヤ人2の少年悟飯みたく自惚れてとんでもない事をしでかすのがわかる。もう少しだけコントロールできるようになってからだな、それは。

 慎重に呼吸を整えながら赤いサイヤ人を解除する。欝にならないようにゆっくりと体に浸透させるように。

 それでもまだ駄目なのか、膝から崩れそうになる。驚いた悟空が支えてくれるが、少しだけ膝が地面に接触した。

 

 

「……何をしてるんだ」

「ふ、副作用でござりまする。強力な力の反面、鬱みたいなのに陥るみたいなんだ」

「ますます意味がわからん。だが、超サイヤ人以外にもサイヤ人の形態がある事を知れただけでも収穫であると思うべきか」

「あちゃー。戦ってもらおうと思ったんだけどなぁ」

「ちょっと待てば回復するからそん時な」

 

 

 最近は回復が早いから赤いサイヤ人に変身できるはず。一人での修行よりも力がハッキリとしている悟空とベジータと戦えば、赤いサイヤ人がどれほどの強さなのかも知れるはずだ。

 多分、セルさんの出番もないはず……あ。

 

 

「そういえば人造人間は?」

「ありゃ」

「むっ」

 

 

 なんてこったい。赤いサイヤ人雑談してたら人造人間を逃がしてしまったでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人揃って正座で説教を受けるハメになった。いや、ベジータだけは膝を立ててそっぽ向いてる。

 近くの町の山の中で人造人間17号と18号を見つけたのは良い。悟空とベジータが本来の歴史以上のパワーで圧倒したのも良い。問題は油断しすぎて逃がしてしまった事だ。俺が一番悪いんだろうが、人造人間の気が感じれないのが悪いんだ。つまり、人造人間絶対に許さねえ!

 

 

「責任転嫁しても油断したアンタが悪いの」

「はい。すいません」

 

 

 深々ーとブルマに土下座する。呆れたように額に手を当てて溜め息を吐いているのがわかる。そりゃ、人類の脅威になる奴を逃がしたとなれば、ね。

 

 

「オラは悪くねーぞ」

「赤いサイヤ人なんてものを見せた貴様が悪い」

 

 

 こんな時だけ犬猿の仲を忘れて見事なコンビネーションを見せる悟空とベジータ。俺に責任を擦り付ける気満々なのが見え見えだ。そっぽ向いて俺があげたベジータの好物の果実を二人で食べてるし。

 そんな二人にブルマがコラァと怒鳴る。流石に反省しない態度にブルマも我慢ならなかったのだろう。

 

 

「そもそもエリンは地球の人間じゃないでしょうが! 孫くん、あなたは地球育ちのサイヤ人なんでしょう! なら地球の危機は孫くんが救わないでどうするの!」

「あー、たはは」

「そしてベジータ! アンタは小遣いカットよ!」

「!!??」

「こんなに反省して土下座までするエリンを見習いなさいお馬鹿さん達!」

 

 

 結論。やっぱりブルマのヒエラルキーは頂点に位置するらしい。ベジータの顔が公開できないものになってるし。

 人造人間逃がしたのは皆の責任って事に落ち着いた。俺が赤いサイヤ人見せなければ良かったんじゃないの……? と不思議に思ったが喧嘩した悟空とベジータも悪い、って事らしい。確かにどっちが勝ったか負けたか喧嘩してたもんね。

 何かベジータが小遣いカットされて人造人間見つけるまで家に帰ってくんなとか言われてるし。ブロリーでヘタれるベジータのorzと全く同じポーズじゃねーか。

 ごめん。本当にごめんベジータ。飯抜きは辛いよね。悟空と一緒に慰めるよ。

 

 

「アンタ等仲良いわねぇ」

 

 

 爆発したベジータに追い掛けられる事になり、悟空と逃げる。悟空は笑いながら逃げてるが、俺はベジータの攻撃でカプセルコーポレーションが壊れないように慎重に捕まらないように逃げる。ブルマのしみじみとした言葉は敢えて聞かなかった事にした。

 軽くベジータをあしらえるのは人造人間と戦った悟空とベジータのエネルギーの残滓を無意識に吸い込んだからなのか。超サイヤ人のエネルギーが鍵なら二人と一緒にいるだけで簡単にパワーアップできるのかもしれん。

 

 と。ここでカプセルコーポレーションの館内で変な音が聞こえてきた。追い掛けてくるベジータが止まり、視線をブルマに向ける。

 どうやら変な音の正体はチャイム、来客を告げる音だったらしい。ブルマがとあるモニターに近付いて何かを話し込んでいる。一言、二言と言葉を交わすと不思議そうな顔をして俺達に振り返る。

 

 

「ねえ。未来から来たってあの子が来てるんだけど」

「ああ、トラ――」

「迎え入れるのか?」

 

 

 ナチュラルに名前を呼ぼうとする悟空の言葉を被せるように聞けば、ここに案内させてると答えが返ってくる。悟空はやべ、と小さく呟いてる。

 

 

「人造人間の件でしょうね。アンタ等の不手際は黙っておいてあげるわ」

「ありがたい。ってか知られてもいいんだけど」

 

 

 チラッとベジータを見る。悟空もそれに気付いたらしく、一緒にベジータを見る事になった。息子に格好悪い姿を見せるのはどうかと思ったらしい。

 未来からの来訪者がベジータの息子のトランクスであるのを知ってるのは俺と悟空とピッコロだけ。ブルマすら知らない事なんだが、もうトランクスは生まれてるからバラしてもいいんじゃなかろうか。

 

 

「あらー。久し振りね。元気だった?」

「え、ええ。まあ、はい」

 

 

 トランクス現る。ブルマに話し掛けられてタジタジしているのがよーくわかる。母親が若かったら誰でも驚くよね。しかもフランクに接するもんだから。

 すると、未来トランクスの姿にベジータが目敏く反応する。眉がピクッと動くくらいだが、これはもしや。ベジータに引っ張られた。

 

 

「おいエリン。もしかしてあの野郎、トランクスか?」

「……」

「沈黙は肯定と取るぞ。道理で超サイヤ人になれるわけだ。髪の毛の色もよく見ればブルマに似てる」

 

 

 やはりベジータは頭脳派だった。頭が良いというか、頭がよく回るらしい。ドクターゲロを追い掛けた時にトランクスの正体に勘付いたから何れはバレるもんか。

 否定するのもあれだからベジータに改めて名前はトランクス、未来の人造人間に滅ぼされた世界の住人である事も告げた。未来トランクスはブルマと悟空と話し込んでいるからこっちに意識は向けられていないのでじっくりゆっくり説明ができた。

 

 

「……なるほどな。俺達が逃がしたブリキ野郎共がトランクスのいる世界を壊滅に追い込んだ奴等か」

「超サイヤ人になりたてのベジータを殺した奴でもある。違う自分とはいえ、殺した奴は憎い?」

「弱いのが悪い」

 

 

 ひでぇ。自分なのにひでぇ。淡白すぎないかひでぇ。

 未来トランクスの世界のベジータは既に死んでる。多分、このベジータは死んだベジータよりも強いから大丈夫よ。丸くなったら心に余裕ができて視野が広がった的なアレだろう。悟空も付き合いやすいと俺が来る前に模擬戦とか手合わせをしてるらしいし。

 互いに切磋琢磨して腕を磨けば強くもなるよ。悟空の強さに引っ張られるからベジータも強くなるよ。

 

 

「で、どうする? あの逃げた二人の気は感知するのはほぼ不可能だぞ。家を追い出されるなら早めに終わらせたいでしょ」

「前までの俺ならば町ごと吹っ飛ばすと考えただろうが、何か良い手はないか?」

 

 

 発想がテロリスト。ビッグバンアターックと叫びながら町を一つ滅ぼすビジョンが簡単に見えた。高笑いするベジータは本来のベジータの姿なのか。魔人ベジータみたいな所業をしでかしそう。

 俺の知っている地球の日本ならまだしも、全く知らない地球だと瞬間移動の座標が狂う。悟空なら見込みはあるがまだ熟練度が足りないんだよなぁ。

 

 

「どこか町が襲われてるとかってニュースがあればすぐに行けるんだが」

「貴様も大概外道だな」

「別に正義を名乗る気もないし。自分と親しい人間が無事なら何でも、って感じ」

 

 

 魔法の言葉、ドラゴンボール。死んだのなら生き返らせればいいじゃない、と考えればヘーキヘーキ。俺が言うのも何だが、ドラゴンボールの世界の住人って大体こんな思考だからなぁ。

 その前にデンデさん連れて来なきゃ(使命感)

 ってか、ピッコロは神コロ様になる予定なのか? 人造人間にボコボコにされて危機感を覚えたピッコロが神様の所に行って神様がセルを見つけて融合する事になるんだっけか。セルはどうなんだろう。あの声は聞いてみたい気もするが完全体は無理だよな、多分。

 

 

「それに人造人間って悟空を狙ってるんでしょ? 悟空を釣り餌にすれば万事解決だって」

「あれだけ力の差を思い知ればそうそう攻めて来ないと思うがな。カカロットの場合は噛み付く釣り餌だぞ」

「魚を釣るのに鮫を使う的な」

 

 

 言い得て妙である。レッドリボン軍許さねえ! とか叫びながら超サイヤ人パンチしそう。フリーザとか手合わせで何度も見たせいで超サイヤ人での攻撃方法がそれだけにしか思えなくなってしまった。

 

 

「名案だがカカロットはそれを聞くか?」

「頼んでみるよ。飯で釣れば一発でしょ」

「ふんっ。サイヤ人の男は胃袋を落とせと言うくらいだからな」

「ベジータも悟空も奥さんに胃袋を攻められたってわけですかい」

「何事も、食が基本なんだ。疎かにしてはいざという時に力が出ない。他の星を攻める時もその星に住む種族を食べた事もあった」

 

 

 か、カニバリズム……? とは言えんな。魚の形をした種族を食べた事もある俺がベジータをカニバリズムなどと責める事は筋違いだ。生きるには何かを犠牲にするのが生き物だしね。骨とかどうしたんだろう。ネックレスにでもしたのだろうか。

 プレデターみたいに人間の頭蓋骨と脊髄を飾りにしたりはしていないのだろうか。サイヤ人のパワーならプレデターよりも悲惨な事になる気がする。

 

 

「下級戦士なら似たような事はしていたな。皮を剥いで内臓を抉り出した後で飾っていると聞いた事がある」

「うへぇ」

「獣欲に駆られて女を集める奴もいたな。サイヤ人の混血を大量に孕ませている罪で王に断罪されていた」

「ただの種蒔きじゃねーか。奴隷ハーレムですか」

 

 

 正直、美人に囲まれるのは羨ましいです。なんて事は口が裂けても言えないので胸の内に仕舞っておく。美人じゃないかもしれんし。

 それにしてもベジータと話すのは楽しいわー。悟空は戦うのが楽しいけどベジータは会話が弾む。知らないサイヤ人の生態とか教えてくれるから勉強にもなる。ベジータ王からサイヤ人の歴史をちょっとだけ聞いてるかもしれんし、情報を集めるのにもベジータは最適と言える。

 ベジータへの好感度がギュンギュン上がる。ベジータって実はこんなにも魅力的なんだな、と新しい発見ができた。

 

 

「はいはい。仲が良いのは良い事だけどこっちに来て会話に参加しなさいな」

「何だブルマ」

「あ。そっちの話は終わりました?」

「もう信じられない事だらけよ。未来から来たって子が未来の我が子なんだもの」

「何だ。もう知っているのか」

 

 

 どうやら未来トランクスがブルマに自分の正体を明かした……じゃなくて悟空が口を滑らせたに一票。

 なんて事はなく、過去の赤ん坊の自分を見て自分が消える事はもうなくなると判断したトランクスが自分から正体をバラしたらしい。タイムパラドックスとか大丈夫か。

 

 

「兎に角、未来のトランクスはアンタ達に協力するらしいわ。人造人間のクセとかわかってるみたいだから力になれるって」

「ありがたいがぶっちゃけ悟空とベジータだけで十分な気がする」

「同感だ」

「けどオラ達じゃ人造人間の居場所はわかんねーぞ? トランクスなら何となく攻める場所とかわかるんじゃねーか?」

 

 

 というわけで皆で未来トランクスを見る。申し訳なさそうな反応をする辺り、わからないらしい。ここはこう、人造人間が攻めてきた地域のデータを持ってくるとかさぁ。

 データ参照とかして次に襲う場所を予測できるかもしれないじゃないか。どうしてドラゴンボールのキャラは脳筋が多いんだ。俺が言えた事じゃないけど。

 

 

「……その手があったか」

「おい聞こえてんぞトランクス」

 

 

 肝心なところで躓くトランクス。ベジータの家系はあかいあくま並のうっかりスキルとかドジっ子スキルでも備えているのだろうか。

 

 ! これはっ!

 

 

「感じたか?」

「ああ。誰かが戦ってやがる」

「それもかなり大きな気を持つ誰かですね」

 

 

 どうやら三人も感じたらしい。何か大きな力がいきなり現れた。このタイミング、まさかと思い悟空に目配せをする。頷いてくれたので了承したと思っていいだろう。

 近いベジータの肩に手を置く。悟空はトランクスの肩に手を置いて、人差し指と中指をくっつけた指を額に着ける。

 

 

「なん――」

 

 

 ベジータの抗議する声が途切れるようにほぼ同時に瞬間移動を悟空と共にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 冷静だったらベジータは超有能。






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十五話



 久しぶりなんでサブタイなし。エタっててごめんね。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベジータ!」

「わかってる!」

「俺も行きます!」

 

 

 瞬間移動を終え、目の前の光景を確認次第、三人が飛び込む。遅れて俺も飛び出そうとしたが、三人のサポートに回る事にした。

 考えていた通り、大きな力の正体は第二形態のセルだった。第二形態になっているという事は17号は奴に吸い込まれたというのか。歴史の展開が早過ぎる。

 危険だと察知したのはセルから発せられる歪な気の集合体を感じたからだろう。悟空の気、ベジータの気、ピッコロの気、更にはフリーザにコルド大王の気まで感じるのだから敵と判断するには十分な材料だろう。途中で超サイヤ人に変身して突撃する三人は同時に攻撃を仕掛ける。

 

 

「だありゃあああっ!」

「はああああっ!」

「せやああああっ!」

 

 

 最高のタイミングとは言わないが、絶妙なタイミングでの同時攻撃は避けられないだろう。第二形態のセルとはいえ、強くなった悟空とベジータに少しだけ強くなったトランクスが相手なら大丈夫なはずだ。

 だが、そんな予感もすぐに裏切られる。セルの周りを覆うエネルギーフィールドが展開され、三人の攻撃を受け止める。しかもトランクスの剣を折る始末。どれだけ固いのだ。

 これはいかん、とバリア破壊の技の用意をしながら俺も飛び込む。気を集中させて腰を回転させながら歯を食い縛る。

 バリン、といとも簡単にエネルギーフィールドは消え去る。三人の間をすり抜けて蹴り砕いた蹴りはそのまま中のセルにダメージを与える。

 

 

「流石だなエリン」

「ボサッとするなカカロット!」

「うわっ、ちょ、ベジータ!?」

 

 

 伝家の宝刀、グミ撃ち(片手バージョン)。マシンガンのような気弾に驚く。俺まで巻き添えにするつもりかと訴えようとしたが首の横と脇の隙間を抜けて気弾が通り抜け、近くにいるセルを叩く。

 俺も続くのだ、とトランクスが追撃を始め堪らなくなった俺は瞬間移動で悟空の後ろに飛んだ。

 

 

「あっぶねぇ」

「エリン。奴は危険だ。オラ達も続くぞっ!」

「オーバーキルはあんまり好きじゃないがこの場合はしょうがないっ!」

 

 

 早過ぎるセルの成長と覚醒。このまま完全体にさせると厄介な事になる。比較的弱い今の状態を叩いて出オチにしてやろう!

 かめはめ波の格好を悟空と共に構え、気弾を放つ。青と赤の大きな気弾がセルに当たり、大爆発を起こす。ベジータとトランクスの気弾が止みそうにないのはストレス発散だろうか。

 

 

「やれやれ。いきなりご挨拶だな」

 

 

 この独特なボイス。日曜アニメでよく聞いた声に少しだけ体がブルリと震える。日曜日によく聞いた声に感動した。

 煙が晴れ、現れたのは第二形態のセル。不敵の笑みを浮かべ、ボディの埃を払っている。どうやらそんなにダメージは入っていないようだ。

 

 

「孫悟空、ベジータ。そしてトランクス」

 

 

 順番に超サイヤ人の面々を指差し、最後に俺を指で示す。不思議そうな顔をして人差し指を出した手を翻して正体を明かすように迫る。

 

 

「そしてお前だ。その尻尾を考えれば孫悟空達と同じサイヤ人だろう。だが、データはない。何者だ」

「内緒。歪な気をしている奴と友好的に接するとでも?」

「それもそうだな」

 

 

 クックックッと笑いを堪えるようにセルは肩を震わせる。何かやばい。このセルはクウラみたいに強さがダンチのように感じる。感じられる気は色々と感じるが、歪なもの。よくよく探ってみると、更に違和感があった。

 第二形態になった影響か、チグハグな積み木を綺麗に積み立てて自然なものになってる。それによって相互反応を起こして互いの気が互いを高め合っているように思える。

 人造人間を吸収する際に強くなるだけではなく、結合剤の役割も果たしているらしい。

 

 

「17号を吸収できた。18号も吸収したいが三人の強者に未知なる存在を相手にするのは劣勢……」

 

 

 スッとセルは構える。同時に対抗するように悟空、ベジータ、トランクスも構えるが嫌な予感がした。初の神コロ無双の時から逃げ出す時の既視感を覚えたような――。

 

 

「さらばだ」

「! 目を閉じ――」

「太陽拳ッ!!」

 

 

 逃亡用のチート必殺技である天津飯の太陽拳。デコから強烈な光を発して目を眩ませ、その隙に逃げ出す技をセルが使う。忠告をするが三人はそれを逃れる事ができずにモロに目が眩む事になる。

 俺は咄嗟に目を閉じるが、目を閉じても瞼の裏まで光が届いて目にダメージが行く。理論上は気を込めれば発光量を倍増させる事ができるらしいと天津飯から聞いたが、天津飯は正しかったようだ。目が超痛い。

 

 結果、逃げられてしまい、ベジータがかなり荒れる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナゴさん暗躍。ドラゴンボールの本来の歴史よりも暗躍していると言えるだろう。なんたって、人造人間はもういないものだと思われているからこその油断によって、17号はセルに吸収されてしまっているのだから。

 それよりもいくら今の時期とはいえ、かなりのパワーアップをしている超サイヤ人二人に超サイヤ人を相手にしてあそこまで完璧に防げるほどの力がセルにはあったのだろうか、と疑問が浮かぶ。それも第二形態。

 

 

「気持ち悪い気配を持ってやがったな」

「悟空さんの気、他の皆さんの気まで感じられました」

「それにフリーザの野郎もだ」

 

 

 かなり混ざりすぎて気持ち悪くなるぐらいだった。悟空と俺の気の感知能力をもってして、ざっと十人以上の気が混ざっているのがわかった。その中にはフロスト一族の二人もいたが、クウラはなかった。太陽に飛ばしたから採取する間もなかったのだろうと推測。クウラまで取り込まれていたら無理ゲーになってた。

 一旦、セルの捜索は打ち切ってカプセルコーポレーションで会議をしている。超サイヤ人に変身できる三人と輪を作って話すのは何か興奮する。ちょいと前までは悟空達って憧れだったしなぁ。

 

 それにしてもセル、少し強くないか? 人のエネルギーを吸えばパワーアップするのはわかっていたが、僅かな気の乱れを悟空が見逃すだろうか。時期的にもまだ神コロと激突するぐらいなのに。

 これは少し調べないといけないかもしれん。歪んだ歴史の波が新しい歪みを生んでいるかもしれない。クウラが超パワーアップした時のように。

 

 

「17号を吸収したって言ってたな」

「! そいつです。そいつが未来を破壊した奴等なんです」

「ん? じゃあ、オラが壊した連中は違うのか? ちょいと前に逃がした人造人間が未来を壊したっちゅー奴等なんか?」

「それにしては妙に歯応えのない連中だったがな」

 

 

 腕を組んで鼻を鳴らすベジータ。確かに競争できるだけの余裕を持てる感じに戦ってたもんね。悟空も同様。

 トランクスが凄い顔になってる。驚きのあまりにイケメンの顔がとんでもない事になっている。そりゃ、自分があれだけ必死に修行しても勝てない相手をボコボコにするんだから内心、微妙な感じだよね。すまんトランクス。また俺が悪いんだ。

 

 

「18号もいるって事を考えるとアイツはそっちも吸収しようとするだろう。急激な気の爆発を考えると奴はまだまだ強くなるぞ」

「食い止めないとまずいぞ。悟空、ベジータにトランクスの攻撃を防ぐような奴がパワーアップするなら今のままじゃ簡単に未来の再現になる。

 これは仕事云々言ってる場合じゃない。暫くは俺も地球に残ってあの化け物を探すよ」

「エリンがいるなら心強い。オラじゃ、見つけるのは難しいしな」

 

 

 頼られるって素晴らしい。今まで何度も頼られた事はあるが、やはり悟空に頼られると嬉しいものだ。

 

 

「本当にこいつは下級戦士なのか? カカロットといい、下級戦士がエリートを容易く実力で上回るとは普通ありえないんだぞ貴様等」

「努力次第でなんともなるさそりゃ」

「そもそも下級戦士か上級戦士かもわからん」

 

 

 所謂、爪弾き者だし。エリンの家系は。ベジータのように祖先に王族がいるわけでもないと思うんだが、そのルーツもある地点で途切れるようにわからなくなったからな。調べようがない。

 特別なサイヤ人ではあるはず。超サイヤ人にはなれなくても、赤いサイヤ人という特別な変身をするのだから特別な血筋ではあるはずなんだが。それもかなり。もしかすると伝説の超サイヤ人レベルの眉唾物のサイヤ人の歴史の始まりに関係しているかもしれない、と最近は確信を持っている。

 悟空もベジータも王族とか関係なしに特別な血筋である可能性も考えられる。でもバーダックもベジータ王も死んでるしなぁ。調べるのは難しいぞ。

 

 

「俺の家系は普通のサイヤ人一族と違って正義のサイヤ人を名乗る特別なものだから階級は関係ないかもしれん。というかそのエリートの別け方が間違ってるんじゃないの?」

「……」

「ベジータがだんまりになっちまったぞ」

 

 

 図星だったようですな。特に悟空が良い例だし。

 頭が痛い、といった素振りを見せるベジータも考えさせられているのだろう。自分の父、自分の王族が定めたであろうエリートの枠組みが根本的に間違っていたのではないだろうか、と思ってるんだろうな。

 惑星ベジータが滅ぶ時にたった一人で戦ったであろう悟空の父親のバーダックも奮闘してたし。他のエリートさんはどうしたのかは知らんが必死で抵抗していたバーダックは他のサイヤ人よりも誇り高きサイヤ人だったと言えるはず。息子はそれを知っているかはわからんが。

 

 

「ま。そこは追々。気になるのがあの化け物の気なんだが、悟空の超サイヤ人のパワーを僅かに感じられたぞ」

 

 

 サイヤ人の細胞を持つんだから順当にパワーアップすれば超サイヤ人の気くらいは放つようになるが、セルを知ってるのは怪しいからそういう事にしておこう。嘘を言ってるわけじゃないし。

 

 

「奴からカカロットの気を感じた。となれば超サイヤ人の気を感じられるようになるのはなんら不思議ではなかろう。それに17号を吸収したと言っていた。それによって超サイヤ人に変身できる段階に達した、と考えるのが現段階では最も自然だ」

「そもそも超サイヤ人の事もあんまりわかってないんじゃ推測もできないと思いますが」

「オラが初めて変身した時は夢中だったしなぁ」

「超サイヤ人に変身できない仲間外れの俺へのあてつけか」

「変身できない貴様が悪い」

 

 

 ベジータの毒舌は態度が柔らかくなっても健在なようだ。全部俺が悪いみたいに言うんじゃねーよ。そもそも変身できるお前らがおかしいんだろうが。突然変異種と言っても過言じゃないんだぞ。

 代わりに赤いサイヤ人になれる俺の方がもっと特別って事にしておこう。話題をセルに移す事にする。

 

 人造人間がレッドリボン軍のドクターゲロに造られた前提は皆、知っている。頭の良いベジータは人造人間に関係する事から、化け物であるセルもドクターゲロに関連していると見抜いた。そこはかとなく臭わせようとした俺の苦労はしなくてもいいようである。

 というかベジータって名探偵みたいだな。普段のイメージを考えると、ガラッと変わる。有能過ぎて頭が下がるばかりだ。

 更にベジータは人造人間の17号と18号は部品ではないか、とも推理している。鋭すぎて未来を知っているのではないかと疑うレベルだ。セルがパワーアップするのにわざわざ完全な機械体から生物的な要素を混ぜたナンバリング人造人間を設計しているのだからベジータの推理は正しいと言える。

 

 

「当分は動けない。暫くは貴様の探知能力が頼りだ」

「頑張る。取り敢えず衛星軌道上まで上昇して感知範囲を広げてみる」

「えいせいきどうじょう? 食えるのか?」

 

 

 ベジータの有能さが際立つと逆に悟空のポンコツ具合が浮き彫りになるわ。戦いの事になると天才と言えるのに教養とかになると本当にポンコツなんだな。チチは悟空に基本教養を身に付けさせなかったのだろうか?

 やらせてもすぐにめげるのが見えるから無理か。

 

 

「人工衛星が通る宇宙の一定の高度のこと。そこなら星全体を調べられる……要は高い場所にいれば探しやすいってこと」

「そっか。それなら神様んトコに行けば探せるんじゃねえか?」

「ああ、ナメック星人の見た目をした地球の神様のいる場所か」

 

 

 すっかり忘れていた。修行をした場所でもあるのに。確かにあそこなら覗くだけでも見つけられるかも。

 目を強化する、感知能力・第六感を鋭くして探す手段を持つ俺だからこそこんな事ができてしまうわけだが、もしかすると地球の神様も同じ事ができるかもしれない。任せても大丈夫ではなかろうか。

 となると、暫くの間は赤いサイヤ人の練度を上げる作業の続きをするのが最善になるか。セルのパワーが未知数な今、切り札になる赤いサイヤ人は完璧なものにしておきたい。

 

 となると、当分はセルの搜索と精神鍛錬だな。赤いサイヤ人は心の持ちようで変わる上に、明鏡止水の如く静かな心が必要になるだろうとは予想はできるし。

 

 

「連絡は逐次入れる」

 

 

 ピッと人差し指と中指をくっつけた指を悟空、ベジータ、トランクスの順に額に触れる。ベジータが鬱陶しそうにしていたのが印象的だった。何も言わない俺も悪いが。

 目を閉じて触れた指を自分の米神に触れる。精神を落ち着かせ、心を無にするように統一させる。

 

 

『マイクテスト。マイテスマイテス』

 

「! 頭に声が?」

「界王様のと同じか」

 

『そう。テレパシー。少し前に習得した』

 

 

 赤いサイヤ人の制御の過程で他人の気にパスを繋げる術を体得した。瞬間移動の要領で技術を発展させればこのように他人の気を通じて頭の中に入る事は可能になる。それはテレパシーという技になった。

 これなら連絡を機器を中継せずに取れる。着信拒否もできないクソ仕様だからテレパシーを受け取る側はいい迷惑になるだろうが許してくれ、と頼んでおいた。

 

 しかしベジータに腹パンされる始末。どうやら許してくれないらしい。

 

 

「俺はトランクスといる。何かあればあいつから伝言は聞くから俺の頭に入れるんじゃないぞ。すれば殺す」

「い、いえっさー」

「俺も地味に嫌なんですが」

 

 

 一緒に反対する辺り、親子とわかるっぽい。それよりも一緒にいる発言からトランクスがとても嬉しそうにしているのが隠せていないぞ。死んだはずの父親と話せるだけでも十分なのに交流を試みるのだから嬉しくもなるだろう。

 未来のブルマから聞いたベジータの人物像とは違う事はどう思っているだろう。地獄に落ちるようなクソ野郎と聞いていたはず……だと思うんだが。そろそろ記憶が摩耗してきた。

 

 

「揃いにも揃って軟弱者め」

「普通は受け入れないと思いますが」

「電話機とか使わない凄く便利な技だろうに」

「そもそも電話とか使わん」

 

 

 変なところで意地っ張りなベジータである。電話を使わないと言う割にはネコマジン……マナーモード……うっ、頭がっ。

 わけのわからないビジョンが見えた気がしたが疲れが溜まってるのだろうと頭を振って消す。取り敢えずベジータとトランクスはテレパシーは嫌、と。じゃあどうやって連絡をすればいいのだ!

 

 

「オラが聞いたら瞬間移動で迎えに行くぞ。多分、あの変な奴を見つけたらエリンは真っ先に駆け付けるだろ? 気も探りやすいからそっちの方がいいんじゃねえか?」

 

 

 ベジータのほれ見ろ顔がうざったい。嘲笑うかのような顔にイラッとしてきた。

 

 

「ベジータとトランクスは瞬間移動は使えねぇし、そっちの方が早くなんねえか?」

「まったくもって正論です。はい」

「じゃ、そういう事だな。オラは探している間はアレを完成させる修行をすっか」

「アレ、ですか?」

 

 

 にひっと笑う悟空は自信満々に人差し指を立てると、問い掛けるトランクスに答える。その答えは、これからの超サイヤ人の歴史の新しい始まりとも言えるものであろう。

 

 

「超サイヤ人を超えた超サイヤ人だ」

 

 

 ……ベジータのあの笑顔がなければ歴史的な場面だったろうになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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