ONE PIECE 海賊王とソルジャー (黒崎士道)
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○元ソルジャーと海賊

ここは、東の海(イーストブルー)にあるとある島。その海岸で一人の青年が腰を下ろし海を眺めていた。金髪を逆立て、宝石のように青い瞳が美しく非情に整った中世的な顔立ちから女性と見紛うほどの美貌を持った青年。その青年の背には身の丈ほどもある大剣が抜き身の状態で背負われていた。何もない、目の前に広がる海をただ眺めること。それが青年の最近の日課となっていた。彼はこのカーム島で1日の大半をこの海岸で過ごしていた。理由は強いて言うなら、海を眺めていると自分の中のモヤモヤとした気持ちを晴らせるからというべきだろうか。

 

だが、そのささやかな平穏を崩す出来事が起きた。

 

「……なんだおまえらは」

 

青年は目の前にいる二人の男たちに言う。一人は麦わら帽子を頭の上に乗せて、頬になにやら傷痕をこしらえている呑気そうな顔をした男。もう一人は腰に三本の刀を差した腹巻をした緑髪の男だ。

 

「おう!俺はルフィ!海賊王になる男だ!」

 

「俺はロロノア・ゾロだ」

 

ルフィとゾロと名乗った二人組は、唐突に青年の前に現れ自分たちに船をくれと言い出してきたのだ。なんでも二人は海賊らしく、乗っていた小舟が大渦に巻き込まれて沈没。この島にたどり着いたらしい。

 

「おまえ、名前なんてゆーんだ?」

 

麦わら帽子の男、ルフィが笑顔を見せながら尋ねてきた。青年は一瞬訝しげに目を細めるが、名乗ることにした。

 

「……クラウド。クラウド・ストライフ」

 

青年、クラウドは名乗るとルフィはにしし、と笑う。隣にいたゾロは何かを察したのか呆れたようにルフィを見る。そしてルフィが口を開く。

 

「よし、クラウド!俺の仲間になれ!」

 

「興味ないね」

 

突然の海賊勧誘にクラウドは即答だった。それもそうだろう、自ら進んで悪党になるような馬鹿がどこにいようか。クラウドの返答にルフィは不満そうな顔をすると続けて勧誘を試みる。

 

「えー!いいじゃねーかよ!仲間になれよー!」

 

「断る。なんで俺が海賊にならなきゃいけない」

 

「俺がお前を気に入ったからだ!」

 

「理由になっていないぞ」

 

「嫌だ!俺はお前を仲間にする!」

 

「……一応聞くが、俺の意思は?」

 

「聞かん!」

 

「よし、お前がよほどの自己中心的バカだということはよくわかった」

 

この男は諦めるという言葉を知らないのか。それから十分ほど同じようなやり取りをしている。ゾロの方はそのやり取りに飽きたのか、地面に横になり呑気に欠伸をかいている。やがて、何処からか妙に「ギュルルルー」と気の抜けるような音がその場に流れた。ルフィを見ると腹を抑えてその場にへたり込んでいる。

 

「なー、クラウド。ここってどっか飯屋ねーか?さっきから腹減ってよ〜」

 

こいつ、本当に海賊か?さっきからやたらと仲間に勧誘するし、妙に馴れ馴れしいと思っていたがここまで情けないと逆に対応に困る。クラウドはため息をつく。

 

「……俺が住んでいる村にある。連れて行ってやる代わりに飯を食ったらすぐに島から出てもらう」

 

「えー!なんでだよー!いいじゃねーかケチ!」

 

「お前、見ず知らずの海賊にそこまで親しくすると思うか?」

 

「ま、当然だろうな。俺たちは海賊、この島に住むお前には不審者でしかないってことだろ」

 

そこでゾロが体を起こしながらそう言う。その言葉は的を射ていたのかクラウドは頷くと言葉を続ける。

 

「そうだ。村の人たちを危険な目に合わせようとするなら容赦なく斬るからな」

 

クラウドはそう言うと、二人に背を向けそのまま海岸から離れ、巨木が連なる森の中へと入っていく。ゾロもクラウドに続く中、そんなクラウドの背をルフィは目を爛々と輝かせながら見ていた。ルフィはクラウドを見た瞬間、自分の勘で彼の実力が自分よりかなり上だとわかった。そして同時に、クラウドを仲間にしたいと思った。ルフィはクラウドを仲間にするため、ついでに飯屋に行くためにクラウドとゾロの後をついていく。

 

しばらく森の中を歩くと、細い道の先で森が途切れ、あたり一面に麦畑が見えた。風に揺れている麦たちは少し傾いている太陽の光をいっぱい浴びてまるで海のようだ。道は畑の間を蛇行しながら伸び、その先に小高い丘が見えた。その丘をよく見ると建物が幾つも密集していた。あそこが、現在クラウドが暮らしているルーリオ村だ。クラウドたちは狭い水路にかけられた石橋を渡ると村に入るための門の隣にある詰め所にいた衛士たちが見知らぬルフィたちを胡散臭い眼で見ていたが、クラウドがルフィたちを遭難者だと説明するとアッサリとルフィたちを村へと通した。村に入ると村の子供たちや何人かの村人がクラウドを出迎えたが、ルフィたちを見てそいつらは誰だ、と尋ねてくる者たちも少なからずいてクラウドは衛士たちと同じように説明すると、その中で大きな籠を下げた老婆が「かわいそうに」と涙ぐみながらクラウドやルフィたちに林檎をくれたりした。

 

そうして村の中をを歩いているとクラウドはある場所で立ち止まる。その先には一回り大きな一軒の建家。ギシギシと立て付けの悪い木造の階段を上がったクラウドが玄関の戸を開けるとそこにはこの村での憩いの場とでも呼ぶべきか、各種各様の酒瓶が棚に並べられておりささやかな一杯を楽しむ客が集っていた。

 

「へえ、ここ酒場か」

 

「他に何に見える?」

 

店に入り正面のカウンターに座るクラウドにゾロは肩をすくめながらクラウドの左側に、ルフィはクラウドの右側の席に座る。

 

「おかえりなさいクラウド。今日は随分早いのね?」

 

「まあ……いろいろあってな」

 

カウンターから一人の女性が話しかけるとクラウドの口調はこれまでになく柔らかい。カウンター越しの女性は膝まで伸びるロングのストレートの黒髪を束ねており大人びた雰囲気を持っており白のタンクトップにミニスカートと露出の激しい格好だ。

 

「あら、この人たち初めて見るわね?知り合い?」

 

「まさか、一応海賊らしい。飯を食ったらすぐに出て行く」

 

「へえ、そうなんだ?私はティファ・ロックハートよ。よろしくね」

 

明朗快活な女性はティファと名乗る。ここ『セブンスヘブン』という名の酒場を若くして切り盛りしておりクラウドとは同郷の幼馴染だ。数年前にこの島で再会し、クラウドは彼女の要望によってこの島に残ることになったのだ。

 

「俺はルフィだ。なあティファ俺腹へってんだなんか食い物くれ!」

 

「フフッ、はいはい。ちょっと待ってね、そこのあなたとクラウドは何にする?」

 

「ああ、俺も食い物と酒を頼む」

 

「俺はカクテルを頼む」

 

「わかったわ」

 

そう笑ってティファはカクテルを作る姿は様になっておりクラウド、ルフィとゾロをはじめ店内の客の視線を集める。そうして差し出されたカクテルは美しくエメラルドに輝いており、一口飲み干したクラウドは店の雰囲気も手伝ってか少し気分が高揚していく。そんな中、ルフィがバクバクと食べ物を口に入れながらクラウドをまたもや勧誘する。

 

「なあクラウド。一緒に海賊やろーぜ!海賊はおもしれぇんだぞ!」

 

「何度も言わせるな。断る」

 

「海賊はなぁ、歌うし踊るし冒険がいっぱいだぞー!」

 

「だから、興味ない」

 

「よし!クラウドは副船長にしてやるぞ!ししし!」

 

「勝手に決めるな!」

 

ルフィとクラウドの噛み合わない会話にそれを聞いていたティファがカウンターに座りくすくすと笑う。

 

「へー、クラウドったら海賊になるの?」

 

「なるわけないだろ。こいつが勝手に言ってるだけだ」

 

「言っとくが、ルフィは結構しつこいから覚悟しといたほうがいいぜ」

 

「モグモグ…おう!ぜってークラウドは仲間にするからな!」

 

ゾロが酒瓶を口にしながら言うと、ルフィも自信満々に応える。諦める気がない能天気の麦わら帽子にクラウドは本日何度目かのため息を漏らす。

 

 

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「はあ……」

 

「フフ、クラウドも大変ね」

 

ささやかな時間を満喫していたクラウドたちであったがそのひと時は次の瞬間、崩れ去る。

 

突然背後の出入り口が勢いよく開くと、そこにこの店でも顔馴染みとなっている常連客の男がいた。だが、酒を飲みに来た割には何かに焦っているような様子だった。

 

「たいへんだぁ!村にモンスターの群れが来たぞ!」

 

男がそう言うと、店内にいた客たちは一気にざわめきだす。

 

「モンスター?」

 

「なんだそれ?すげーのか?」

 

聞きなれない言葉にルフィとゾロは疑問を口に出すが、クラウドはそれに答えず席から立ち上がり男の方を向く。

 

「モンスターの数は?」

 

「小さいのが五匹とデカイ親玉がいる!衛士たちも応戦してるがデカイ奴に歯が立たないんだ!」

 

クラウドはそれを聞くと、席の近くに立てかけていた自身の大剣を掴み取り背丈ほどの大剣を背中に背負うとカウンターにいるティファに告げる。

 

「俺がいく。ティファ村のみんなを南の森に避難させてくれ」

 

「わかったわ」

 

ティファが応え、クラウドは店から出ようとすると後ろから声がかけられる。

 

「俺もいくぞ!な、ゾロ!」

 

「ああ、モンスターってのも見てみてぇしな」

 

声の主は状況とは裏腹にどこか楽しそうに言う。客たちはルフィたちに驚愕の表情を浮かべる。死ぬ気かと言った者もいたが、ルフィたちは引く様子はなかった。

 

「……わかった。無理だけはするな」

 

一刻でも時間が惜しいため、クラウドは二人の同行を許す。クラウドの答えに客たちだけでなくティファまでもが止めようとした。ルフィは海賊王になると宣言した男だ、もしそれが本気なら多少は戦えるだろう。ゾロの方も少しは腕が立ちそうだ。戦力は多いに越したことはない。クラウドはルフィとゾロを伴い、酒場から駆け出すと店に隣接した厩舎に行き、その中にいた大きな黄色い鳥に跨る。

 

「スッゲー!なんだこの鳥⁉︎食えんのか⁉︎」

 

ルフィが目を輝かせながら口にすると、黄色い鳥たちがビクッと震えた。クラウドはそんなルフィを叱責する。

 

「こいつはチョコボだ。食用じゃない」

 

「こいつがチョコボか、初めて見たぜ」

 

「二人はそのチョコボに乗れ、急いで行くぞ!」

 

クラウドはそう言うとルフィとゾロは一回り大きなチョコボに乗る。クラウドはチョコボに備えられた手綱を引くと、チョコボは駆け出し魔物が侵入してきたであろうルーリオ村の門まで急ぐ。



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旅立つ決意

クラウドたちはチョコボに乗り酒場から駆け出し村の門にたどり着くと、門には木材などを積み上げた防衛線が築かれているが、すでにそこでは衛士隊の者たちが何かと応戦していた。それは一見すれば犬のように見えるが、背中からは赤黒い触手が伸びており、衛士たちの槍や剣に噛み付く牙はナイフのように鋭い。その中でもその後ろにいるのは犬たちより明らかに巨体で巨大な腕と大きな口にある牙が特徴的な獣だった。ルフィもゾロも、こんな生き物は見たことがない。だが、クラウドはこの魔物を知っている。

 

「ちっ、ガードハウンドはともかく、チョコボイーターまで来たか」

 

「チョコボイーター?なんだそれ?」

 

「村のチョコボを食らうこの島の主だ。近頃チョコボが村から出なくて直接食いに来たようだな」

 

クラウドはそう言ってチョコボから降りると、チョコボの尻をぽんと叩く。チョコボは天敵たるチョコボイーターから逃げ出すように村の方へ駆け出していく。そしてクラウドは背に携えた大剣、バスターソードを引き抜く。

 

「いいか、奴らを殲滅する。やれるな」

 

クラウドが言うと、ルフィはおう、と言いながら拳を合わせ、ゾロは腕に巻いていた鉢巻を額に結び刀を引き抜くと一本を口に咥え両手に残りの二本を持った。見込んだ通り、芯は相当強いようだ。

 

「今から一斉に奴ら目掛けて駆け出す。お前たちはガードハウンド、犬の方を頼む。無理に倒そうとしなくていい。俺はチョコボイーターを片付ける」

 

「よし!わかった!」

 

「見せてもらうぜ。お前の実力」

 

「勝手にしろ……行くぞ!」

 

クラウドの合図とともに三人は一斉にモンスターの群れに向かってスタートを切った。クラウドは疾風の如く速さで衛士やガードハウンドたちの間を縫って奥にいるチョコボイーターに向かう。その様子に驚いているのかガードハウンドも衛士隊も動きを止めていた。その隙にルフィとゾロがガードハウンドの群れを拳で殴り、三本の刀で斬った。

 

そしてチョコボイーターの前に立ったクラウドはバスターソードを振るいチョコボイーターを睨む。間合いを詰めてくるクラウドを睨み返しながら、チョコボイーターが吠えた。

 

「グオァァァァァッ‼︎」

 

吠える際に大きな口から血やら涎やらが飛び散り空気が振動する。

 

「ふん、そんなに俺を食いたいか?」

 

クラウドの言葉に肯定するかのようにチョコボイーターがもう一度吠えると、巨大な腕でクラウドを横殴りにする勢いで振り下ろす。クラウドは体を沈めて腕を掻い潜り、敵の横を抜けざま、がら空きとなった脇腹目掛けて水平斬りを放った。手応えはあったが、体を覆う厚い脂肪のせいでチョコボイーターは葬れなかったようだ。ごうっと、頭上から降ってくる反撃を危うく躱す。唯の攻撃では埒があかない。そう判断したクラウドは大剣を片手で持ち、チョコボイーターが腕を振るってきた瞬間、

 

「ソニックレイヴ!」

 

クラウドは剣をチョコボイーターに向けながら凄まじい速度で突進した。振るってきた左腕を斬り落とし、腕を斬り飛ばされたチョコボイーターは咆哮を迸らせながら右腕を振り下ろしてきた。クラウドはそれを跳躍することで回避する。

 

「終わりだ」

 

上空に高く飛んだクラウドは大剣を振り上げ剣に翠色の光を纏うと、落下の勢いを利用しそのままチョコボイーターに向かって剣を振り下ろす。

 

「ブレイバー!」

 

振り下ろしたバスターソードの一閃がチョコボイーター叩き斬る。迫ったチョコボイーターの爪がまるで時間が止まったかのように静止する。首元に一筋の線が見えたと思った瞬間、血しぶきをあげながら胴体から頭部が落ちた。ようやく終わったと思い、剣を背に納めた時だった。

 

「グルァァ!」

 

クラウドの背後から一匹のガードハウンドが飛びかかろうとしてきた。ルフィたちが取りこぼしたのだろうか、クラウドは反応に遅れ、咄嗟に柄を引き抜こうとした時だった。

 

「ゴムゴムの銃!」

 

「ギャイン⁉︎」

 

突然起きたことにクラウドは目を見開いた。クラウドに襲いかかろうとしたガードハウンドが、いきなり伸びた腕に殴り飛ばされたのだ。腕はまるでゴムのように伸び、そのまま伸びたところを戻っていく。クラウドは腕が伸びた腕の方を向くと、そこには腕をぐるぐると回していたルフィがいた。

 

「いやー、わりいわりい。一匹逃しちまった」

 

「お前…今、腕が…」

 

「ああ、俺は“ゴムゴムの実”を食った“ゴム人間”なんだ」

 

クラウドはらしくなく唖然としながら聞くと、ルフィはにしし、と笑いながら答える。『悪魔の実』。世界中に散らばる食した者に特別な能力を与える海の秘宝。その能力者たちにクラウドは何度も出会ったことはある。だが、この東の海で出会うとは思っていなかった。

 

「にしてもやっぱクラウド強いなー、俺の仲間になれよー!」

 

「しつこいぞ」

 

ルフィが笑いながらクラウドにくっついてくるのでクラウドは鬱陶しそうにルフィを退ける。そこで刀を鞘に納めたゾロが口を開く。

 

「とりあえず、酒場に戻ろうぜ。思ったより強くて疲れちまった」

 

「ああ、ありがとう。おかげで助かった」

 

クラウドも柄になく素直に礼を述べると、ゾロは意外だったのか、口をあんぐり開けてこちらを見てきた。ただ礼を言ってやっただけなのに失礼な奴だ。

 

「なあなあいいだろー!仲間になれよー!」

 

「お前もいい加減黙ってろルフィ!」

 

その後、チョコボがいないため歩いて村に戻る道中も、ルフィはクラウドを海賊に勧誘しているが、クラウドはそれを否定。やがて村に着くと、村人たちが歓声とともに三人を出迎えていた。

 

 

「すげーな!この村ってこんなに人いたのか!」

 

ルフィが両手に様々な料理を持ちながら言った。村には赤々とした灯りが幾つも焚かれ、集った村人たちの笑顔を明るく照らしていた。広場では幾つかの楽器を演奏に合わせて踊る人たちがたくさんいる。

 

「いや、俺もここまで村人たちが集まるのは初めて見た」

 

クラウドはそう言うと手にしたジョッキを口にする。ルーリオ村を怯えさせていた島の主、チョコボイーターの討伐は衛士たちから村人にすぐに伝わった。これまで多くの村人やチョコボを喰らってきた魔物の死に村人たちは喜び、泣いていた。だが、今回の襲撃でチョコボが二羽と農家の人が四人殺されてしまっていた。

そして村に平和が訪れた宴を開き、参加したルフィはご覧の通りご馳走を食い荒らし、ゾロは向こう側で村で酒豪の男たちと飲み比べをしている。

 

「ほら、今日の主役がこんなとこでなにしてるの?」

 

甲高い声が降ってきてそちらを見ると両手を腰に当て、クラウドの顔を覗き込むようにティファがこちらを見ていた。

 

「いや、俺踊れないし…」

 

「いいからほら!」

 

「お、おい!」

 

モゴモゴと言い訳するクラウドにティファはクラウドの手を掴みそのまま椅子から引き起こされてしまうと、そのままたちまち踊りの輪に呑み込まれてしまう。幸い、ダンスはどうにかティファがリードをしてくれて見真似で踊れるようになった。するとだんだん、素朴なリズムに乗って体を動かすのが楽しく思えてきて普段表情を顔に出さないクラウドも少し笑顔を浮かべていた。それを見たティファは顔を赤く染め、クラウドの手を握る力が強くなる。

 

「皆、宴もたけなわだが、聞いてくれ!」

 

よく通る声が広場中に響く。演台の方を向くと、ルーリオ村の村長である見事な髭を伸ばした老人が登っていた。村長の言葉に村人たちは沈黙する。

 

「まず、この村を救った英雄ーークラウドと二人の若者よ、ここに!」

 

村長がそう言うと、周りから歓声が送られる。クラウドはティファに押されて演台に登り、その後に続いてルフィとゾロも立つ。今日の功績を称えた三人に最大の歓声が浴びせられる。

 

「三人とも、よくやってくれた。お前たちがいなければこの村はあの忌まわしいチョコボイーターたちに食い荒らされていただろう。だが、お前たちのおかげで島から魔物もいなくなった、なんでも望みを言うがいい」

 

村長の言葉にクラウドはダンスの余韻が急激に冷めるのを感じた。クラウドは困ったように俯く。クラウドはこの村が嫌いなわけではない。むしろ、この村はとても眩しいほど優しさに満ちている。だが、クラウドもこの島から出て色々とやりたいこともあったがティファとの『約束』を守るためにこの村にいた。ここで俺は海へ出る、と叫べば海に出られるかもしれないが、と考えていた時隣から声が響いた。

 

「じゃあ俺たちに船をくれ!あとクラウドを仲間にしたいんだ!」

 

クラウドは隣を見ると、そこには笑顔を浮かべてながらこちらを見ていたルフィがいた。ルフィの申し出にクラウドも反論をする。

 

「勝手に決めるな!俺はこの村から出るつもりはーー」

 

「本当にそれでいいの?クラウド」

 

静かに、はっきりとした声がその場に響いた。人垣を割って台に近づいたのは、クラウドの方をまっすぐ見据えているティファだ。

 

「ティファ…」

 

「クラウド、本当は海に出てやりたいことがあるんでしょ?でも…私との『約束』を気にして村から出られないのよね……」

 

ティファが少し俯き、そう言う。違う。クラウドはティファにそんな顔をさせたいわけじゃない。

 

「違う、ティファ。俺はーー」

 

「のう、クラウドや」

 

ティファに声をかけようとしたクラウドを制したのは、村長だった。村長はクラウドに歩み寄ると皺のある手でクラウドの肩に手を置く。

 

「儂等はお前さんがこの村に来てからずっと魔物から村や畑を守ってもらった。だが、儂等はお前に頼り過ぎていたかもしれん。クラウドよ、どうだ?この若者たちとともに海に出んか?」

 

村長の言葉にクラウドは沈黙を作る。やりたいことは勿論ある。島を出て、五年前の因縁を断ち切ること。そのためにはいつかこの島から出なければならないことはわかっていた。それから少し考え、クラウドは顔を上げ、まず村長を、次いでルフィたちや村人を見回すと、はっきりとした声で伝えた。

 

「……俺はーー海に出る。村を出て“偉大なる航路”で俺のやりたいことをする」

 

しんとした静寂の後、クラウドの宣言に村人達はわっと盛り上がりクラウドの門出を祝った。それを聞いたルフィも同じだった。

 

「よっしゃー!副船長が仲間になったぞー!」

 

「勘違いするな、俺は海賊になるわけじゃない。目的を果たすまでお前らに同行するだけだ」

 

と、クラウドが一応言うが、ルフィはそれを無視。そのまま宴会に戻ってしまい、すぐに音楽が再開された。祭は前以上に盛り上がり、ようやくお開きとなったのは教会の鐘が十時を告げる頃だった。ルフィとゾロはクラウドが借りている教会のベッドに寝ることになり、クラウドは『セブンスヘブン』の借家で寝ることにした。

 

「今日はずいぶん呑んだわねクラウド。はい、お水」

 

ベッドに座り込んでいると、ティファが井戸から汲んだ水をクラウドに差し出す。クラウドはそれを受け取り飲み干すと、やっと頭が冷めてきた。

 

「その……ありがとう」

 

「どうしたの、急に」

 

突然のクラウドの言葉にティファも驚いたのか、聞き返してくる。

 

「……明日には、この村を出ることになるだろ。もしあそこでティファが俺を押してくれなかったら、俺はずっとこの村にい続けてたかもしれない…」

 

クラウドがそう言うと、ティファは深くため息をつき、クラウドの隣に腰を下ろす。

 

「別にいいわよ。私もクラウドに、ルフィについていくことにしたから」

 

「なっ⁉︎なら店はどうする⁉︎」

 

あまりの衝撃発言にクラウドは思わず仰け反りつつ、必死に反対材料を探す。

 

「他の人が引き継いでくれるから大丈夫」

 

時間稼ぎのつもりがあっさり撃沈。水を口に持って行ってから、からであることに気づく。

 

「なんで……」

 

「私も、いつかこの村から出てあの故郷に、ニブルヘイムに戻るって決めてたのよ。だからルフィ達の誘いはいい機会だったわ」

 

正直、クラウドにとって嬉しいことだった。同郷の幼なじみであるティファが一緒に来てくれればクラウドも心強かった。だが、危険な旅にティファを巻き込みたくないというのもあった。

 

「…“偉大なる航路”は危険だぞ」

 

クラウドはそう言うが、ティファは逆に笑みを浮かべていた。

 

「私たちはその“偉大なる航路”の出身者よ。それに私強いし、ピンチになっても守ってくれるんでしょ?」

 

「……わかった」

 

結局、その言葉でクラウドが折れた。それを見たティファはふふんと強気な笑みだった。



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○道化のバギー

さて、クラウドとティファがルフィに同行することになりカーム島を出港した次の日、クラウドはルフィの決定事項で強制的に副船長(仮)、ティファは武道の心得を持っており十分に戦えるということでゾロと同じく戦闘員となった。とはいっても、ルフィもゾロも航海術を持っていないということで結局のところ、クラウドが昔から扱えていた航海術を駆使して船を操縦している。

 

「お前、海賊の船長のくせに航海術も持ってないのか?」

 

船のマストに帆を張りながら、クラウドはゴロンと横たわっている麦わら帽子、ルフィに問いかける。

 

「持ってない!」

 

「自信満々に言うな」

 

はっきり言うと、ルフィは何も出来ない。航海術は皆無と聞いたときはそれなのに海賊をするなんてなんのつもりだとクラウドも呆れていた。料理に関してさクラウドも出来ないということでそこはティファが食料の管理をすることとなった。だが、そんな一行は空腹に苦しめられていた。

 

「にしても、腹減ったな…」

 

「あ〜あ〜俺も腹減った〜」

 

『お前が言うな!』

 

その場にいたルフィ以外の全員の言葉がシンクロした。理由は単純、ティファが旅のために店から持ち込んだ食料をルフィが夜中に皆の目を盗んでこっそり食べていたのだ。結果、大量にあった食料はたったの一晩で姿を消した。

 

「二日分まで貯蓄した食料まで食べちゃうなんて…ルフィのバカ!だいたいね、食べるにしても限度ってものがあるでしょ⁉︎船長なら船員のことも考えて行動してよね!ちょっと、聞いてるのルフィ⁉︎」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

そんな船長のルフィは船員であるティファに正座をさせられ説教をされるという、船長の威厳も何もない光景がクラウドの眼前にある。呆れるクラウドにゾロが肩に手を置き声をかける。

 

「ったく、お互いとんでもない奴について来ちまったな」

 

「同感だ」

 

ティファ以外では唯一の常識人であるゾロとは何かと気が合いそうだ。ゾロの方も剣士としてクラウドといつか勝負をしたいと思っており、意気投合している。とりあえず二人とも船に横になると、偶然にも上空に巨大な鳥が飛んでいるのを見つけた。チョコボより少し大きいくらいだろうか。

 

「わぁ、おっきな鳥……」

 

ティファも説教を終え、上空に飛ぶ巨大な鳥を見上げる。そこでルフィは何かを閃いたように立ち上がった。

 

「食おう!あの鳥!」

 

「え?食べるって、どうやって?」

 

「俺に任せろ!ゴムゴムのロケット!」

 

ルフィはティファにそう言うと、両腕を伸ばしてマストを掴むと、ゴムの性質を利用してそのまま上空に飛ぶ鳥にめがけて飛んでいく。ルフィにしては考えたな、とクラウドが感心しながら上空を見上げると、ルフィが逆に鳥に咥えられた。

 

「ぎゃーっ!助けてーーっ!」

 

『何やってんだあのアホ!』

 

本日二度目のシンクロ。そうしている間に大きな鳥はルフィを咥えたまま、まっすぐと飛んで行ってしまう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「クラウド!ゾロ!このまままっすぐ漕いで!全速前進よ!」

 

「わかった」

 

「なんであいつは面倒ごとばかり!」

 

ティファの指示のもと、クラウドとゾロはそれぞれ左右のオールを手に持ち、全力で船を漕いでいく。男二人が船を漕いでいる中、鳥の向かう方向を確かめていたティファは船の全方に浮かんでいる三つの影を見つけた。

 

「おーい!止まってくれぇ!」

 

「そこの船止まれぇ!」

 

向こうもこちらに気がついたのか、声を張り上げてクラウドたちを呼び止めようとする。ティファも助けてあげたいのは山々だがそうすればルフィを見失う。苦渋の選択だ。

 

「あれって遭難者⁉︎どうしよう二人とも!」

 

ティファは困ってオールを漕ぐクラウドとゾロに問いかけてしまう。

 

「船は止めない!勝手に乗り込め!」

 

クラウドはオールを漕ぎながら遭難者たちに見向きもせずにそれだけ言う。これには遭難者たちだけでなくティファまで目を見開いた。

 

「ちょっとクラウド!何無茶言ってんの!」

 

ティファは反論している中も、船は次第に遭難者たちに近づいていく。そして船が遭難者たちにすれ違う寸前、遭難者たちはなんとか船体にしがみつき船に乗り込めた。それを見たゾロはオールを漕ぎながらへっ、と笑う。

 

「へえ!よく乗り込めたな」

 

『ひき殺す気か!』

 

三人の遭難者たちは揃ってクラウドたちに文句を叫ぶ。すると突然、その中のリーダーのような男が懐からナイフを取り出しクラウドたちに突きつけた。

 

「おい、船を止めろ。俺たちはあの海賊“道化のバギー”様の一味のモンだ」

 

「あァ⁉︎」

 

………数分後、

 

「あっはっはっはっはーっ、あなたが“海賊狩りのゾロ”さんだとはつゆ知らずっ!失礼しました!」

 

船を乗っ取ろうとした遭難者、もとい海賊の一味はゾロによってボコボコに粛正された。そして現在そいつらはゾロとクラウドの代わりにオールを漕がせている。

 

「ったく、テメェらのおかげで仲間を見失っただろうが」

 

ゾロが寛ぎながら文句を垂れる。船は現在あの位置では一番近いオレンジの町と呼ばれる町に向かっている。

 

「ねえ、なんで海賊が海に溺れてたの?」

 

ティファが三人組に尋ねると、三人は海に溺れてた経緯を話し始めた。自分達が襲った商船から奪った金品を、漂流者を装おってある女が騙し取った挙げ句、始めから計算されていたかのようなタイミングで現れた嵐に巻き込まれたらしい。

 

「へー、海を知り尽くしてるのねその女の子。仲間になってくれないかしら?ね、クラウド」

 

「やめておけ、泥棒なんて仲間にしたら最後には宝を持って逃げるに決まってる」

 

ティファの提案にバッサリと切り捨てるクラウド。そうしている間にいつの間にか船は島の船着場に到着していた。クラウドは先に陸地に足をつけるとすぐに船の舫綱を港に付けられた係留柱に掛けておく。

 

「なんだ、がらんとした街だな……人気がねえじゃねーか」

 

陸地に降り立ったゾロが言った。続いてティファも船旅に慣れていないためか少しよろめきながら上陸する。

 

「実はこの街、我々バギー一味が襲撃中でして…」

 

「どうする、バギー船長になんて言う?」

 

「そりゃあった事をそのまま話すしかねぇだろ!どうせあの女は海の彼方だ」

 

三人組の一人が事情説明をしている中、他の二人が口論している。そこでクラウドがため息をつきながら口を開いた。

 

「ならとりあえず、そのバギーというやつのところに案内しろ。うちのバカがそこにいるかもしれないからな」

 

「いくらルフィでもそこまでは…」

 

「いや、あのバカならやりかねないぞ」

 

三人は今日何度目かの深いため息をついた。

 

 

 

「人をおちょくるのも大概にしろ小娘!ハデに殺せ!」

 

クラウドたちはバギー一味が根城としているという酒場の屋上に辿り着いたのだが、状況は最悪だ。ルフィは縛られたまま鉄格子に閉じ込められ、正面には大砲が導火線に火がついた状態だ。大砲の前でオレンジ色の髪の少女が武器と思われる棒で海賊たちに抵抗していたが、導火線が大砲に着火する寸前、少女は戦闘を放棄し両手で導火線の火を消そうとした。そんな火を消そうとする少女の背後を海賊たちが襲っていた。

 

「クラウド!あの子危ないよ⁉︎」

 

「わかってる!」

 

ティファにそう答えると、クラウドは疾風の如き速度で海賊たちの間をすり抜け、少女と海賊の前に立ちはだかる。そして、背に吊るした大剣に手を掛けそのまま振り抜くと剣の風圧で海賊たちは吹き飛ばされていった。

 

「なにーーー⁉︎」

 

「え…」

 

突然目の前で起きたことにバギー一味と少女は唖然としていたが、檻の中にいたルフィはクラウドたちの姿を見つけると歓喜の声を上げた。

 

「クラウドォ‼︎ゾロにティファ!」

 

「大丈夫か?」

 

「…ええ、平気…」

 

「やー、よかった。よくここがわかったなァ‼︎早くこの檻斬ってくれよクラウド!」

 

ルフィが一人騒いでいる中、クラウドは少女に手を差し伸べ立ち上がらせると、そこへ来たゾロとティファがルフィに叱責を浴びせる。

 

「お前なぁ、なに遊んでんだルフィ!鳥に捕まったと思えば今度は檻の中か。アホ!」

 

「本当よ、すごく心配したんだからね!」

 

「あははっ、わりぃわりぃ!」

 

仲間との再会にルフィが喜んでるのを他所にクラウドは手にした大剣を振るい目の前にいる赤い鼻が特徴的な男、バギーを見据える。だが、その一方でバギーはクラウドの碧眼を見ると目を見開いた。

 

「その眼…貴様、まさかソルジャーか⁉︎」

 

「元、だ。今は一応海賊だ」

 

バギーの言葉にクラウドはすぐに訂正をする。ソルジャーという言葉に聞き覚えのないオレンジ髪の少女、ナミは目の前の青年の纏う雰囲気が只者ではないということはわかった。

 

「で、その元ソルジャーが何しに来た?俺の首でも取りに来たか?」

 

「興味ないね。俺たちはそこのバカを迎えに来ただけだ」

 

「俺は興味あるねぇ。ソルジャーと海賊狩りを殺せば名が上がる」

 

バギーはそう言うと、その両手にナイフを持ち器用にクルクルとナイフを回してみせる。クラウドは前に出ようとした時に横から一本の腕がクラウドを遮った。ゾロだ。

 

「やめとけ、死ぬぜ」

 

「本気で来ねえと血ィ見るぞ‼︎ロロノア・ゾロ‼︎」

 

するとバギーはナイフを両手にこちらに駆け出して来た。

 

「……!そっちがその気なら……‼︎」

 

それに対してゾロがそれに応戦。三刀流でバギーの体を斬りにかかると、バギーの体はあっという間にバラバラに斬り裂かれ勝負がついた。

 

「え……?終わり…なの?」

 

「………うそ…」

 

「よえーな、あいつ!」

 

「……」

 

「……なんて手応えのねぇ奴だ…」

 

ルフィたちはあまりの呆気なさに呆然としていた。だが、それに対してバギー一味の面子は先ほどからニヤニヤとした笑みを浮かべていた。間違いなく、何かあるはずだ。

 

「おいみんな!早くここから出してくれ!」

 

「ああ、待ってろ」

 

戦闘を終えたゾロたちは鉄格子に閉じ込められたルフィのもとに向かう。鉄格子は頑丈な鉄で作られており、鍵でもない限り開かないようだ。

 

「ねえ、クラウドならこれくらい斬れるんじゃない?」

 

「任せろ。ルフィ、少し下がっていろ」

 

クラウドが大剣でルフィの鉄格子を斬ろうとしたその瞬間、

 

「ぐ……っ⁉︎」

 

突然、背後にいたゾロがその場に崩れ落ちた。見ると、ゾロの脇腹をナイフが貫いていた。血が溢れ出し、腹巻きが赤く染まっていく。だが、全員が注目したのは、ナイフを持つ『手』だった。

 

「ゾロ⁉︎」

 

「なに、あの手⁉︎」

 

「どうなってるの⁉︎」

 

「ぐっ、くそっ!何だ、こりゃ一体…⁉︎」

 

やはり全員は突然目の前で起きた出来事に理解が追いついていないようだ。だが、クラウドだけはそのありえない現象の正体に気がついた。

 

「まさか、悪魔の実…!」

 

「その通り…!」

 

ゾロに斬られたはずのバギーが、斬られたそれぞれのパーツとともに浮かび上がり、そのまま傷跡も残さず元の体へと合体し復活を遂げた。

 

「バラバラの実……それが俺の食った悪魔の実の名だ!俺は斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!」

 

「ひゃー!船長しびれるー!」

 

「やっちまえーっ!」

 

「斬りきざめー!」

 

不敵な笑みを浮かべながらバギーが告げた。それに合わせてバギーの部下たちも騒ぎ立てる。

 

「バラバラ人間って、あいつバケモンか!」

 

言っておくが、ゴム人間のお前もあいつと同類だぞ。

 

「仕方ない、一旦引くぞ!」

 

クラウドはそう言うと、大剣でルフィの鉄格子をいとも簡単に真っ二つに斬り裂き鉄格子はバラバラになった。ゾロもクラウドの意図を察したのか、迫り来るバギーの猛攻をなんとか凌ぎルフィの方に向いていた大砲の向きを反対側、つまりバギーたちの方に向けた。大砲を向けられたバギー一味はパニックになり、その間にナミが大砲の導火線を点火、砲弾はバギー一味を襲った。その際に起きた爆煙がバギーたちの視界を塞ぐ中、ルフィたち一行はその場を離れた。



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激突、バギー一味

「すまない、世話になって」

 

「なに、気にするな。わしもシュシュにエサをやるついでにここに来ただけだからな」

 

バギー一味からなんとか撤退したルフィたち一行は現在、町の中に佇む一軒のペットフード店に身を隠していた。撤退の最中にこの町の町長であるこの武装をした老人、ブードルと出会いゾロの治療も兼ねてこの老人の世話になっている。ゾロはブードルが避難所で医師に診てもらえと言うが寝れば治ると言ってペットフード店の隣にある彼の家で休養をとっている。ついでにティファもゾロの看護について行った。

 

「こんにゃろー!何すんだ犬っ!」

 

「あんたは犬相手に何してんのよ!」

 

そして向こうではルフィがシュシュと呼ばれる犬相手にムキになり小さな喧嘩が勃発している。それを先ほどの泥棒少女、ナミが諌めている。そんな光景に呆れながらもクラウドはブードルの話を黙って聞いていた。

 

このペットフード店の主人はブードルの親友の老人で、10年前にあの犬、シュシュと一緒に開いた店らしい。この店は二人にとっても思い出のたくさん詰まった大切な店のようで、シュシュの体には海賊たちからこの店を守った証としてなのか、傷跡が多くある。だが、店の主人は三ヶ月前に病気で亡くなったようだ。クラウドはシュシュは今も主人の帰りを待っているのではと思ったが、ブードル曰く、この店はシュシュにとって宝なんだと告げた。大好きだった主人の形見だからこそそれを守り続けているのだと。

 

『撃て!特性バギー玉‼︎』

 

突如、町にバギーの怒りのこもったような怒号が鳴り響いたと同時に、目の前のペットフード店が何かに吹き飛ばされた。いや、それだけではない。その横の家も、建物も、ブードルの家も、みんなまとめて吹き飛ばされ、木っ端微塵となった。

 

「ちょっと!家に腹巻の奴と黒髪の子がいるんじゃないの⁉︎」

 

ナミの言葉でハッとした。そうだ、ブードルの家には休養中のゾロとティファがいるのだ。

 

「ティファ!ゾロ!」

 

クラウドが二人の名を呼ぶと、崩れた瓦礫の中から人影が現れる。

 

「あーー、寝ざめの悪い目覚ましだぜ」

 

「いたた……どうなってるの?」

 

なんとか二人とも無事だったようだ。後ろではナミがなんで無事なのよ…と、呟いている。そんな時、黙っていたブードルが震えながら口を開いた。

 

「胸を抉られるようじゃ…‼︎町長はこのわしじゃ!わしの許しなくこの町で勝手な真似はさせん‼︎」

 

「ちょ、ちょっと待って町長さん!そんなの無謀すぎるわ‼︎」

 

ブードルが槍を片手に駆け出そうとするのをナミが止めに入る。それもそうだ、老人一人が海賊に、しかも悪魔の実の能力者相手に敵うはずもない。みすみす殺されに行くようなものだ。

 

「無謀は承知‼︎」

 

だが、ブードルの涙を溜めた目がそれを邪魔するなというような強い意志と覚悟を持っていた。それを見たナミは思わずブードルの体を離す。

 

「待っておれ!道化のバギー‼︎」

 

拘束から解放されたブードルは叫びながら町を駆けていく。自分の誇りと町のために。

 

「町長さん…泣いてた……‼︎」

 

「そうか?俺には見えなかった」

 

「で、どうするのルフィ?バギーのところに行く?」

 

「おう!俺はあのおっさん好きだ!絶対死なせない!」

 

ルフィが笑いながら叫ぶと、ナミに手を差し伸べる。

 

「ナミ、仲間になってくれ。偉大なる航路の海図も宝もいるんだろ?」

 

「……私は海賊にはならないわ。『手を組む』って言ってくれる?お互いの目的のために!」

 

ナミは差し伸べられた手を叩くことで取り敢えず共闘には応じてくれた。これで取り敢えずは航海士(仮)が仲間になったわけだ。

 

「…決まりだな」

 

「よし、さっさと行こうぜ」

 

壁に背を預け大剣を肩に担いでいるクラウドと額に鉢巻を巻いたゾロは準備万端のようだ。

 

「あんた、お腹の傷大丈夫なの?」

 

「治った」

 

「治るかっ‼︎」

 

そんなゾロとナミの漫才じみたやり取りを見送りながら、一行は再びバギーが根城とする酒場に向かう。そこでクラウドは崩壊した店の前に座り込んでいたシュシュに向かって声をかける。

 

「待ってろ、お前の宝を壊した奴らを倒してくるからな」

 

「ワン!」

 

クラウドの言葉に鳴いて答えるシュシュ。クラウドはふっ、と笑いながらルフィ達の後を追う。

 

 

それからバギーの根城に戻ったルフィたちはバギーに無謀に挑もうとしたブードルをルフィが壁に吹き飛ばしたことでなんとか阻止、逆にそっちの方がブードルには瀕死の状態だった。そしてルフィがバギーに向かってデカッ鼻発言をしたことによりバギーが激怒、大砲をこちらに放つがルフィが体を風船のように膨らませて砲弾を跳ね返した。崩壊した酒場からはバギーと幹部のような男二人、それから子分たちが何十人も這い出てきた。

 

「モージ!テメェは子分と一緒にあのソルジャーと小娘どもをやれ!あの麦わら小僧とロロノアは俺とカバジでやる!」

 

「了解しました!バギー船長!」

 

「…だそうだ」

 

「なに落ち着いてんのよあんた!」

 

落ち着いて現状分析をしているクラウドにナミが叫ぶ。そうしている内にモージの指揮のもとでバギー一味たちが雄叫びを上げながらこちらに向かってくる。隣ではティファが戦闘用グローブを両手に装着しており、クラウドは背負った大剣をゆっくり抜くと集団に向かって駆け出す。

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

クラウドが横に薙ぎ払った剣で海賊たちの体が宙に舞い吹き飛ばされる。クラウドの放った剣の一閃が屈強な男たちを吹き飛ばしたことに驚くナミ。

 

「てめぇら、よくもやってくれたな!覚悟しやがれ!」

 

その中でクラウドの攻撃から逃れた他の男たちがナミに襲いかかろうとした時、ナミの隣にいたティファがその華奢な体に合わないほどの怪力で男の体を回し蹴りで吹き飛ばした。

 

「やあっ!」

 

「ごほっ⁉︎」

 

他にも襲ってくる男たちを次々と殴り飛ばしていくティファ。向こうでは次々と海賊たちを切り捨てていくクラウドに向かって銃を持った男たちが標準をクラウドに合わせて発砲すると、クラウドは巨大な剣を持っているにも関わらず普通の人間ではあり得ないような高さの跳躍を見せた。

 

更に宙に浮くクラウドに放たれた砲弾を体を回転させて真っ二つに斬り裂いた。全員が驚愕する中でクラウドは涼しい顔でもう終わりか、と言いたげなようだった。

 

「くっ!リッチー!あいつを殺せ!」

 

「ガルアアァァァ‼︎」

 

「ライオンは俺がやる。ティファはあの着ぐるみ男を頼む」

 

「わかったわ!」

 

着ぐるみのような変な男、モージを乗せた巨大なライオンはそのままクラウドに突っ込んでくると、そのまま右足をクラウドに振り下ろす。クラウドはそれを剣で受け止め、動きが止まった隙にティファが駆け出す。

 

「サマーソルト!」

 

「ぐぼあっ⁉︎」

 

ティファがライオンの上にいたモージの顎を蹴り上げた。蹴り上げられて宙に浮いたモージは空高く舞い上がり、ティファはライオンの背を踏み台にしモージを追って高く跳躍すると、モージの服を掴み空中で振り回す。

 

「いくわよ!メテオストライク!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎」

 

そのまま地面に叩きつけられたモージは地面にめり込んでいた。その光景に愕然とするライオンにクラウドも決着をつけるべく剣を振り払いライオンの足を浮かせると、剣を肩に担ぎライオンに向けて高速の連続斬りを振るう。

 

「凶斬り!」

 

「ガルゥゥゥゥッ⁉︎」

 

高速で振るった剣閃が「凶」の字を虚空に描き、ライオンはそのまま倒れる。ゾロの方を見ると、バギーにやられた怪我で少し苦戦はしていたようだが、参謀長カバジをなんとか斬り伏せていた。そして、ルフィの方では、

 

「アアッ!テメェナミ!俺のパーツを……!」

 

「ハハハッ、流石泥棒!」

 

ルフィのアシストをしていたのかナミがバラバラになっていたバギーの体のパーツを縄で縛り上げ、あまりのパーツでバギーは頭、手、足のみのバラバラ人間ならぬ二頭身人間となっていた。なんというか、情けない姿だ。

 

ルフィは両腕を限界まで体の後ろに伸ばし、目の前にいるチビバギーを見据える。

 

「吹っ飛べバギー!」

 

「ちょっ、待てーー‼︎」

 

「ゴムゴムのバズーカ!」

 

ルフィのバズーカの如く一撃に吹き飛ばされたバギーは虚しい叫びを残しながら星となって空の彼方へと消えていった。



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嘘つきキャプテン

バギー一味を撃破した一行はあの後、町長を心配してやってきた町の住人たちに町を襲った海賊だと勘違いされて逃げるハメになってしまった。結局、手を組んだこととなったナミも同行することになり、ナミはクラウドたちの船とは別にいつぞやのバギーの子分から盗んだ小船で共に海を渡っている。

 

「はぁ、ひどいわね。バギーから町を守ったのって結局私たちなのに……」

 

手を腰に当てているティファは海を眺めながらぼやいている。どうやら活躍したのに追い出されたことが余程彼女の不満を募らせていたようだ。

 

「一応海賊なんだ。仕方ないさ」

 

甲板にくつろぐクラウドはティファをなんとかなだめようとする。超人的な力を持つクラウドでも、やはりティファには頭が上がらないようだ。

 

「ねえ、そういえばバギーがあんたのこと『ソルジャー』って言ってたけど、それってなんなの?」

 

そこでバギーの小舟にてルフィの麦わら帽子を修繕中のナミが二人の話に入ってきた。先の戦闘でバギーによって穴を開けられたルフィの宝物といえる麦わら帽子をナミが善意で直すことにしたらしい。クラウドはナミの質問に少し黙ると、やがて口を開いた。

 

「……『神羅カンパニー』は知ってるか?」

 

「あ、聞いたことある!確か世界政府公認の巨大企業よね」

 

ーーー神羅カンパニー。ナミが言った通り神羅は世界政府に開発した兵器や技術を提供することで政府に活動を公認されている実質的に国家を超える財力、世界最高戦力である海軍本部と変わらぬ強大な軍事力を持つ巨大機関である。だが、神羅が本社としているのは“偉大なる航路”のため、辺境な海の“東の海”では神羅の名を知る者は大半ぐらいだろう。

 

クラウドは神羅について何も知らぬナミに神羅の実態についてその根本から語った。この世界において生物が死せるときその知識・エネルギーを持って星に還っていきやがて新たな命となって生まれ変わる。それこそが全ての理でありこの世界が繁栄してきた由来である。ライフストリームとはその知識やエネルギーを乗せて星に還るのだ。今や“偉大なる航路”での軍事兵器から生活技術まで手広く活動する神羅であるがその根底に存在する『魔晄』とはこの星の命であるライフストリームに流れていった知識やエネルギーを差す。それらを吸い上げ運用しているというのが神羅の活動その実態であるとクラウドは語る。

 

「ちょっと待ってよ!星の命を吸い上げるって星に還った人の魂も⁉︎」

 

「ああ、魔晄エネルギーとして神羅に利用されている」

 

「………」

 

「………どうした?」

 

クラウドの言葉を聞いたナミは、何故か怒りを抑えるように手を握りしめ小刻みに震えているように見えた。そんなナミの様子にクラウドは少し気になるがそれは置いておこう。クラウドに呼びかけられたナミはハッとすると、先ほどの様子を誤魔化すように話を戻す。

 

「な、なんでもない!で、それとソルジャーがどういう関係があるのよ?」

 

「大まかに言うと、ソルジャーとは神羅が生み出した強化兵だ。ソルジャーになれる者は特別な手術を受けることですべての身体能力が超人的になる」

 

「ふーん、じゃああんたも神羅にいたってことね」

 

「元ソルジャーだ。今は神羅とは関係ない」

 

クラウドはそう言うと、背にした大剣の柄を握りしめる。思えばこの大剣はいつから持っていたのか、クラウドも昔の記憶はあやふやになっているためよくわかっていないのだ。クラウドが知る限り神羅で“あの男”とともに戦場を駆け抜けていた頃にはあったはずなのだが、どのようにして手に入れたのかは全くわからない。それに関してはさほど重要ではないのでまあ気にしてはいない。

 

「なあなあー、まだ次の島つかねーのか?いい加減肉くいてーぞ!」

 

そんなクラウドの思考を邪魔するように船首でくつろいでいたルフィが子供のように騒ぎ始めた。こうなるのはよくあることだが、まだクラウドもルフィの高いテンションに慣れていないのだ。そんなルフィに続くように昼寝をしていたゾロもそれに乗る。

 

「俺も酒が欲しいな」

 

「それよりも、新しい船でしょ。“偉大なる航路”に入るなら船員の数の少なさとこんな小舟じゃすぐに沈んじゃうわ」

 

「それも考えて今から南に向かうと村のある島があるからそこで充分な船を手に入れられたらベストなんだけど…」

 

その後ろでは女性陣二人が今後の予定について会議中だ。こういうのは普通に船長も交えて行うものだが、当の船長があれでは、頼れるのはこの二人しかいないのだ。

 

「よーし!肉食うぞー!」

 

「酒も忘れんなよ!」

 

「あんたらねぇ!」

 

はしゃぐ二人に対してナミが叱責を飛ばす。そんな光景を眺めながらクラウドはこめかみに手を当てると、思わずため息が出る。

 

「……先が思いやられるな」

 

「フフ、でも楽しいじゃない?こうやってみんなで旅をするのも」

 

「……どうかな」

 

隣に立つティファの言葉にクラウドは答えを濁すと、そのまま海を眺める。だが、クラウド自身も自分の中で何かが変わり始めていることにはなんとなく感じ取っていた。

 

それから数分後、一行の船は航海を終え岸壁が立ち並ぶ中に一本の坂道が伸びる海岸に上陸した。長い間海の上に揺られていたからか、陸地に足をつけたクラウドは少し体制がくずれそうになったが、なんとか踏み止まる。

 

「よーし!着いたー!飯屋に行くぞー!」

 

陸地についた途端ルフィは威勢良く飯のことばかり。だがいくらクラウドが航海術を少し持っているとはいえ、ナミの見事な航海術がなければこんなに早くもこの島にたどり着けなかっただろう。

 

「流石は航海士というだけあるな」

 

「はいはい、褒めてもお酒しか買ってあげないわよ」

 

「ナミ……流石だな」

 

クラウドが純粋にナミの航海術に賞賛を送ると、ナミの言葉を聞いたゾロが凛々しい顔でいきなりナミを讃え始めた。手のひらを返すようなゾロの反応ににナミはジト目でゾロを見る。

 

「現金な奴ね……そんなに買ってほしいならもっと私を敬いなさい」

 

ナミはそう言って片手でシッシッ、とゾロを追いやる。そしてそのまま地図を片手にティファとクラウドの元に行き今後の作戦会議を開く。

 

「ナミ、この海岸の奥に村があるの?」

 

「ええ、小さな村みたいだけど…」

 

「なら一先ずそこで情報収集だな」

 

「ならそこに飯屋あるよな!肉!肉!肉!肉!」

 

「少しは肉から離れろ。鬱陶しい」

 

会議中に三人の話に割ってきたルフィはクラウドに駆け寄ると、口からよだれを垂らしたままで肉を連呼する。クラウドそれに顔をしかめながらもルフィを押し退けると、先ほどからクラウド達を見つめている気配に視線を向ける。人数は約四人ほどだろうか。

 

「おい、ゾロ」

 

「ああ、あそこに四人だろ?」

 

ゾロも気配に気づいていたらしく、岸壁の上の茂みに指を指すと、

 

『見つかったーーーーーッ‼︎』

 

「あっ、お前らー!俺を置いてくなーー‼︎」

 

ゾロが示した茂みから三人の少年たちが飛び出し、その場から一目散に逃げ出した。その中で一人の青年だけがその場に取り残され無残な叫びをあげていた。特徴というなら、とにかく鼻が長かった。というかそれしか思いつかない。やがて一人呆然としていた長鼻の青年は突然大声を出し始めた。

 

「お、俺はこの村に君臨する大海賊団を率いるキャプテン・ウソップ!こ、この村を襲うならやめておけ!俺の八千万の部下が……」

 

「丸見えのウソをつくな」

 

青年の必死で考えたらしい嘘はクラウドの指摘でアッサリと終わった。嘘がばれた青年は口を大きく開きながらそのまま固まっている。誰がそんなウソを信じるのか。

 

「ええぇぇぇぇ‼︎嘘なのかーー⁉︎」

 

……前言撤回。うちの馬鹿がその一人だった。

 

「お、お前ら…何しにここに来た?」

 

「安心しろ。俺たちは船を探しにーー」

 

「あと飯屋‼︎」

 

「……ついでに何処か飯屋に案内してくれないか?」

 

おどおどとしながら尋ねてくる青年、ウソップにクラウドは下に来た理由を述べる中、ルフィの強引な要望によって渋々と飯屋への案内を彼に頼んでみた。

 

「いいぞ、ついて来いよ」

 

なんと、アッサリと承諾してくれた。信用してくれたからなのか、それともただ単に無警戒なだけか。どちらにしてもこれで村の中に入れるわけだ。ルフィたちはウソップの案内で彼が住むシロップ村に足を運んだ。

 

 

ウソップが案内してくれたシロップ村はのどかなところだった。その風景はどこかクラウドたちのいたルーリオ村と似ているように見える。そして一行はウソップの案内によってウソップ曰くこの村で一番の飯屋にて食事を取っていた。テーブルの上にはたくさんの食事、ルフィは肉をガツガツ食いながらウソップと楽しく談笑している。なんでも、ルフィは幼い頃に自分の村に訪れた海賊の中にウソップの父親と出会ったということでその息子である彼に昔の話をしていた。ゾロは昼間から酒を飲みご満悦の様子、ナミとティファは女性陣だけで盛り上がり、クラウドはのどかな村の風景を眺めながらコーヒーの入ったカップを口に運んでいた。

 

「ね、ところでこの村で航海術を持っている人と大きな船を調達できないかしら?」

 

「あー、見ての通りここは小さい村だ。残念ながらご希望には添えないな」

 

ナミの言葉にウソップは少し視線をずらしながら決して目を合わせぬようにしているのか少し挙動不審に見えた。そこでクラウドは少し追い討ちをかけてみた。

 

「なら、あの丘の上にある大きな屋敷はどうだ?多分金持ちの家だと思うんだが」

 

「あ、あそこは駄目だ‼︎」

 

クラウドの言葉を聞いたウソップは真剣な表情でクラウドに怒鳴った。それに全員の視線がウソップに集まると、ウソップは突然何かを思い出したような仕草をしだした。

 

「あ、あー!そういえば用事を思い出した!ここは俺の顔がきくから、存分に飲み食いしてってくれ!そんじゃ!」

 

早口にそう言うと、ウソップはそのまま店から駆け出していった。



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誇りのウソップ

「…行っちゃった」

 

「放っておこう。何か外せない用があるみたいだしな」

 

「みほよふあうほ!ほのひふふへーうへーぼ!(見ろよクラウド!この肉ずげーうめーぞ!)」

 

「まずお前は全部飲み込んでから話せ」

 

ティファはウソップが立ち去った際に開けっ放しにした扉を見つめながら呆然としていた。クラウドの方は大して気にすることもなくそのままコーヒーを飲み続ける。ルフィも肉を、ゾロは酒、ティファとナミは定食とウソップが居なくなっても一行の食事は続いていた。そんな時だった、

 

「「「ウソップ海賊団参上!」」」

 

突然飯屋の扉が勢いよく開くと、そこには三人の子供たちがおもちゃの剣を片手に突入してきた。店主は子供たちをチラッと見るだけでそのまま新聞を読み続けていた。子供たちはルフィ達の元に駆け寄るとそこで止まる。クラウドはよく見たらこの子供たちは先ほど海岸で見たウソップを置き去りにした三人だったことを思い出した。三人ともなぜか頭の形が何かの野菜に似ているような気がした。

 

「お、お前ら!キャプテン・ウソップをどこにやった⁉︎」

 

少年の中で頭がピーマンのような形をした少年がビクビクとしながらクラウドたちに叫ぶ。そんな中で食事を終え腹が膨れ上がったルフィが一言。

 

「ふぅ〜、食ったなー肉!」

 

「「「に、肉ッ⁉︎」」」

 

ルフィの一言をキッカケに少年たちは顔色を青くして震え上がった。多分だが、少年たちはクラウドたちがウソップを食ったのではないかと想像しているようだ。子どもらしい発想というか、なんだかいたずらをしたくなるような反応だ。ゾロもそれを察したのか、クラウドに目を合わせ口角を少し上げると、元々から人相の悪い顔がさらに凶悪になりながら少年たちに語りかけた。

 

「ああ、お前らのキャプテンならーーー食っちまった」

 

凶悪な顔をしたゾロの言葉を聞いた少年たちが涙目になり、側にいたティファに向かって、

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎鬼ばばー⁉︎」」」

 

「えぇぇぇぇぇッ⁉︎なんで私を見ていうの⁉︎」

 

完全に誤解をされ、とばっちりを受けたティファは少年たちに言われたことがショックだったのか、少し涙目になり、隣にいたクラウドを振り向いた。

 

「クラウド〜!私そんなに怖い顔してるの〜⁉︎」

 

涙目のティファにそう言われてクラウドは心臓がドキリと跳ね上がるのを感じた。元々ティファは可憐な容姿とスタイルも抜群ではたから見れば美少女の彼女の涙目に上目遣いはどんな男でも簡単に落ちてしまうほどだろう。クラウドは気恥ずかしさからか、ティファから目を逸らし少し頬を赤くしながら精一杯の言葉を出した。

 

「大丈夫だ。ティファはその、綺麗だ……」

 

「えッ⁉︎あ、ありがと…」

 

クラウドの言葉が以外だったのか、ティファも顔を赤くすると二人とも互いに恥ずかしそうに視線を合わせない。はたから見れば恋人にも見えるかもしれない。

 

「ちょっとあんたたち〜?場所を考えてしてくれないかしらそういうのは」

 

二人とも顔を赤くする中でナミのわざとらしい咳払いは意識をはっきりさせるのに充分だったのか、二人ともすぐにナミに向き直りティファが咄嗟に口論する。

 

「えっ、いや、その、違うの!私クラウドとはそういうのじゃなくて……⁉︎」

 

「はいはい。仲がよろしいのね」

 

「もー!ナミちゃんったら!」

 

ナミにからかわれているティファはナミに必死に言い訳をしている中、気を取り直したクラウドの隣にいるゾロが先ほどからニヤニヤとした面でクラウドを横目で見ていた。

 

「……なんだ」

 

「いや、お前もそんな顔するんだなーーってうおっ⁉︎おい!危ねえだろうが!」

 

最後まで言い切ろうとしたゾロにクラウドは隣に立てかけていたバスターソードをゾロ目掛けて振り下ろした。生憎なことに大剣はゾロの頭をギリギリ掠ったようで髪の毛が数本散っており大剣は床に突き刺さる。

 

「………ちっ」

 

「おい今ちっ、って言ったか⁉︎お前絶対ワザとやっただろ⁉︎」

 

「………何も言うなよ。何か言ったら殺すぞ」

 

「お、おう…」

 

クラウドのとにかく何も言わせぬと言わんばかりの絶対零度の視線にゾロは思わず顔から血の気が引いて身震いをした。もしかしたらこの一味で一番怒らせてはならないのはクラウドかもしれない。

 

それから子供たちに先ほどのは冗談だと改めて伝えると、すっかり本気にしていた子供たちに突然飛び出していったウソップの居場所を聞いてみるとそこに案内してくれると言ったのだ。食事も終えたことでルフィたちは子供たちに村の高台に建つ大きな屋敷へと案内された。だが屋敷の門には屈強な体格の門番が門を守っており、ルフィたちは屋敷の裏手に回った。

 

「うほー!でけぇ屋敷だなー!」

 

「キャプテンがこの時間にいないならここですよ」

 

「因みに何をしに来てるんだ?」

 

「嘘つきに来てるんだ!」

 

聞いてみたクラウドに人参のような頭の少年は当然のように答えた。これには流石にクラウドもどういうことかわからない。ウソップはわざわざ門番がいるようなこんな厳重な場所に忍び込んでまで誰かに嘘をつくのだろう。余程の目立ちたがり屋か、何か深い理由があるかのどちらかだろう。

 

「ダメじゃない!そんなの」

 

「ダメじゃないんだ!立派なんだよ!」

 

「うん、立派だ!」

 

「どういうことだそりゃ?」

 

ナミの言葉に少年たちが反論すると、逆にゾロも聞き返すと少年たちはウソップがこの屋敷に来る理由を話してくれた。

この屋敷にいるカヤというお嬢様は病弱で、その上1年前に両親が病気でこの世を去ったことで塞ぎ込んでいたらしい。そこでウソップがお得意の嘘話でお嬢様を笑わせているらしい。おかげでお嬢様の体は随分元気になってきているようだ。

 

「よーし!なら船がもらえないか頼んでみよー!」

 

「ルフィ、お嬢様の病気が治ってるのはウソップのおかげなんだからね!そこ分かってる?」

 

「よし、頼んでみる!ゴムゴムの……!」

 

ティファの言葉など全く聞いていないルフィ。ルフィは柵に登ると腕を伸ばして地面に足をつける。確か以前もこのような光景を見た気がする。あれは確か…そう、ルフィが鳥を捕まえようとして空に吹っ飛んだ技だ。

 

「お、お前まさか!」

 

「「「腕が伸びたー⁉︎」」」

 

ルフィの意図を察したのか、ゾロ、ナミ、ティファはルフィの体に掴まりついでに子供三人組もルフィの体に掴まった。

 

「お邪魔しまーす!」

 

『うわああああああああッ⁉︎』

 

ルフィがゴムの反動を使って掴まっていたみんなと共に空に打ち上げられた。全員の絶叫が木霊する中、唯一ルフィに掴まっていないクラウドは空に消えていったルフィたちを見上げながら一言。

 

「……なにやってるんだ」

 

クラウドはルフィの行動に呆れながら言うと、クラウドは少しかがみ、足元に力を込めると一気にその場から常人ではありえないような高い飛躍力を見せた。大剣を背負っているにも関わらずクラウドの体は屋敷の全高をはるかに超えている。クラウドはそのまま屋敷の上から庭のような場所にルフィたちの姿を確認するとその場に向かって軽やかに着地をした。

 

「うおおおっ⁉︎お前どうして空から降ってきたんだ⁉︎」

 

上空からのクラウドの登場に驚いたのかウソップは口をあんぐりと開けながらクラウドに聞いてきた。

 

「普通にジャンプをしただけだ」

 

「いやありえねぇだろ!お前人間かよ!」

 

失敬な、普通とは違うがこれでも一応人間だ。そう言ってやろうと思ったら、屋敷の方から一人の人影が現れる。

 

「君たち!そこで何をしている!」

 

現れたのはいかにも執事というような男だった。しっかり整えたスーツに黒髪、眼鏡をかけた堅物そうな男だ。

 

「困るね、勝手に屋敷に入られては」

 

「クラハドール!」

 

屋敷の二階の窓から身を乗り出していたお嬢様にクラハドールと呼ばれた男はそう言うとこれはまた奇妙なメガネの上げ方をしていた。だがその眼は明らかに木の上にいたウソップに向けられていた。それを見たカヤがクラハドールを宥めようとする。

 

「あ、あのね、クラハドール。この人たちはーー」

 

「今は結構、理由は後できっちりと聞かせていただきます。さあ君たち、もう帰ってくれ。それとも何か言いたいことがあるのかね?」

 

「あのさ!俺たち船が欲しいんだけどさ!」

 

「ダメだ!」

 

ルフィの頼みをクラハドールは一刀両断。船を手に入れることはこれで出来なくなったようだ。だがクラハドールの目は未だにウソップのみを見据えていた。

 

「ウソップ君、君の噂はよく聞くよ。村で評判だからね。いろいろ冒険をしたそうだね、その若さで大したものだ。ついでに、君の父上についてもね」

 

「クラハドール!やめなさい!」

 

クラハドールが何を言おうとしているのかを察したのか、カヤはクラハドールを諌めるが、クラハドールは言葉を止めずにそのまま続ける。

 

「君は所詮、薄汚い海賊の息子だ!何をやろうと驚きはしないが、うちのお嬢様に近づくのはやめてもらえないかな!」

 

「う、薄汚いだと……!」

 

「君とお嬢様とは住む世界が違うのだよ。目的は金か?いくら欲しい?」

 

「言い過ぎよクラハドール!ウソップさんに謝って!」

 

父を侮辱されたことに体を震わせているウソップを他所にカヤの叱責を受けたクラハドールは未だに反省の色も見せない。

 

「こんな野蛮な男になぜ謝る必要があるのです?私は真実を述べているだけです。君には同情するよ。君も恨んでいることだろう、君たち親子を捨て、村を飛び出した家族より財宝が大好きな大馬鹿親父を!」

 

「てめえ!それ以上親父を馬鹿にするな!」

 

流石に今の言葉は無視できなかったウソップは木から飛び降りてクラハドールの前に降り立つ。

 

「何を熱くなってるんだ?こういう時こそお得意の嘘をつけばいいのに。本当は親父とは血の繋がっていないとかーー」

 

「うるせえッ‼︎」

 

クラハドールが言葉を言い終える前にウソップがそう叫ぶと、クラハドールの体が宙に浮いた。目の前には拳を突き出したウソップの姿、クラハドールがウソップに殴られた光景はその場にいたほとんどの人間にとっては信じられないものだった。殴られた頬を抑えながらクラハドールはウソップを睨みつける。

 

「ほ、ほら見ろ!すぐに暴力だ。親父が親父なら息子も息子というわけだ!」

 

「黙れ!俺は親父が海賊であることを誇りに思ってる!勇敢な海の戦士であることを誇りに思ってる!お前の言う通り、俺はほら吹きだから、親父が海賊であるその誇りだけは偽るわけにはいかないんだ!」

 

ウソップはそう言うと、父を侮辱したクラハドールの胸ぐらを掴み今にも殴りかかりそうだった。そこでカヤがウソップを止めたことで何とか騒動はそこで収まったが、ウソップがしてしまったことは取り返しがつかない。

 

「出て行きたまえ!二度とこの屋敷に近づくな‼︎」

 

クラハドールがウソップを鋭い目つきで睨みつけながら叫ぶ。

 

「……ああ、わかったよ。すぐに出て行ってやる!もう二度とここには来ねえ!」

 

ウソップも鼻息を荒くしながらそのまま屋敷から出て行く。

 

「……行きましょ。船は諦めるしかないよ……クラウド?」

 

若干クラハドールを睨みつけながらティファが出て行こうとしていたが、その場から一歩も動こうとしないクラウドの碧眼はまっすぐクラハドールを捉えていた。

 

「……」

 

「君たちも出て行きたまえ」

 

「あんた……何者だ」

 

「何を言っている。私はお嬢様にお使えする執事のクラハドールだ」

 

「……目は口ほどに物を言うぞ」

 

クラウドはそう告げると、クラハドールは何も言わずに独特の眼鏡の上げ方をしてクラウドを睨みつけた。



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